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[35334] 【ネタ】幻殺【とある魔術の禁書目録×ニンジャスレイヤー】
Name: パンツメンポ◆1cab6a1a ID:2f83f702
Date: 2012/10/20 00:01
第1巻「禁書目録崩壊」より 「ヨタモノ・プレイド・イン・ジ・アシッド・レイン」#1




 科学的な脳開発に邁進し、人工的な超能力開発技術が普遍化した未来空間。神様の頭脳など稚気じみた夢。生徒達は灰色のドミトリィに棲み、夜な夜なパーソナルリアリティに逃避する。政府よりも力を持つ行政機関が、首都の只中にて非倫理的な人体実験を敢行する。ここはネオ学園都市。東京都の三分の一を占有する鎖国都市だ。



 ネオ学園都市第七学区。深夜。


 重金属酸性雨の降り注ぐ路地裏を、一人の男子高校生が駆けていた。PVCアマガッパも身に着けず走る男子高校生のカッターシャツは濡れそぼり、跳ね上げた水溜りの飛沫が学生ズボンの裾とスニーカーを汚している。「外出厳禁」「アブナイ」「実際危険な」などという文字が浮かび上がったネオン広告板からの雨垂れが男子高校生の頬を打つが、しかし黒くウニめいたヘアスタイルだけは豪雨の中にあってもその尖り具合を失うことは無い。

「何処だ!」「路地に逃げたぞ!」「捕まえたら囲んで棒で殴打重点!」男子高校生が走り抜けた道の向こうから暴力的な文言が木霊する。彼らはこの第七学区の各所にたむろするヨタモノ集団、スキルアウトのメンバーだ。ファミリーレストランで見つけた女子中学生に粉を掛け、あわよくば路地裏に連れ込んで前後しようとしていたところ、妙に刺々しいヘアスタイルの男子高校生に邪魔をされ、気付けば雨の中で逃げ出したそいつを追いかけている。折角の前後機会を邪魔されて、実際彼らは業腹だった。ズバリとバリキもキメて実際楽しい夜になる筈だったのに、どうして雨の中を防水コートも無しに走り回らなければならないのか。先頭を走るスキルアウトが、重金属酸性雨によって左右に崩れてしまったモヒカン・ヘアーを手直しする。「これじゃ実際オチムシャ・ヘアーだ……」

 その時である!逃げ続ける男子高校生の背中を追って曲がり角を曲がったモヒカン・ヘアーは、路地の前方、道の中央に仁王立ちする小さな人影を目にした。ついに観念したのかと思い、スキルアウトたちは嗜虐的な笑みを浮かべた。しかし、その人影はなんと、先程彼らがファミリーレストランで絡んだ女子中学生ではないか!「ナンデ?」「女子中学生ナンデ?」「ウニ・ヘッドは?」スキルアウトたちは口々に疑問の声を上げ、スバリやバリキ等の麻薬成分に犯された頭で彼女が此処にいる理由について考え始めた。しかし、その答えの出現を待たぬうち、短めの茶髪をヘアピンで留めた女子中学生が口を開いた。

「ドーモ。スキルアウト=サン。レールガンです」レールガンと名乗った女子中学生は、半目に開いた瞳でヨタモノ集団を睥睨した。降雨の中にあって何故か、彼女の服装には濡れた箇所が全く無い。その不思議な少女は、再度口を開く。「私の名前、知ってる?」「ナンデ?」モヒカン・ヘアーが訊ね返した。彼の煤けたニューロンは女子中学生が仁王立ちしている理由の糾明に忙しく、彼女がわざわざ自らの名乗った意味にまでは意識が向かわないのだ。「……そ。じゃあいいわ。仕方ないから、相手したげる」

「前後ー!」スキルアウトの一人がレールガンに飛び掛った。彼女の言葉を最大限淫靡的に解釈したのだろう、無防備な体勢でのチャージを敢行!しかし!「イヤーッ!」「アバーッ!」瞬間、レールガンの体がにわかに発光した!同時に無防備なスキルアウトが一瞬で黒焦げとなる!これは一体!?

「アイエエエエエ!」眼前で謎の発光現象を見せ付けられたスキルアウトたちは恐怖により失禁する!「レ、レ、レ、レールガン=サン!思い出した!」モヒカン・ヘアーの背後で誰かが叫んだ!「ヤツは、ニ、ニ、ニ、ニンジャだ!」

「ニンジャ!?」「ニンジャナンデ!?」スキルアウトたちは驚愕の事実に対し再失禁し泣き叫ぶ!ナンパした女子中学生がニンジャ!なんたる不運!「おい」レールガンが狂乱するスキルアウトたちに対して高圧的に呼びかけた。「アイエエ!アイエーエエ!」「おい!」「アイエッ!?」レールガンのシャウトによって、モヒカン・ヘアーは強制的に正気へ戻される。「あんたら、もう私にナンパしてきたりしないよね?」「アッハイ」「エート、んで、もう他の女の子にも悪さしたりしないよね?」「アッハイ」「よし」実際犬のシツケめいた光景である。女子中学生に見下ろされて失禁するヨタモノ集団。なんと退廃的な光景か!しかしそれも仕方の無いことなのだろう。一般人がニンジャの言葉に反抗することなど、ましてやその威光を目の前にして萎縮せずにいられることなど、そう無いのだ。それほどまでに、ニンジャとは強大な存在なのである。

 このネオ学園都市に住まう生徒達は、人体に対する科学的コンタクトによって様々な超能力ジツを開発される運命にある。しかし、血管への薬物注射や電極を用いた大脳への直接作用を経てもスプーン一つ曲げられない者たちは無能力者と呼ばれ、ネオ学園都市二百三十万の人口を構成する六割のマケグミとして扱われる。

 一方で能力開発に成功した他四割の生徒はカチグミと呼ばれる。しかしカチグミ内部にも序列が存在し、上位存在へとクラスアップするには血を吐くようなトレーニングを行い、センタ試験と呼ばれる難解な能力開発テストに合格せねばならぬイバラの道である。下から順に、低能力者、異能力者、強能力者、大能力者と呼称され、そしてさらにその上――あらゆるヒエラルキーの頂点に立つ者こそが即ち――ニンジャと呼ばれるのである。

「じゃあ散っていいわよ」「ヨ、ヨロコンデー!」スキルアウトたちはその言葉にほっと胸を撫で下ろした。ニンジャと言えばこの広いネオ学園都市にも七人しかいない半神的存在である。そんな相手に喧嘩を売って、五体満足で帰れるなど実際奇跡だ。降雨と失禁で湿ったズボンを袖で拭いながら、スキルアウトたちはもと来た道を帰ろうとする。その時、モヒカン・ヘアーの背中に声が掛かった。「あ、そうだ。あんた、さっきの男を知らない?」「男?」「あんたらが追いかけていった、ウニめいたヘアスタイルの男よ。そいつに用があるの」

 モヒカン・ヘアーは思い出した。そういえば自分たちはその男を囲んで棒で叩くために雨の中を走っていたのだった。「この路地の先に走っていきました。レールガン=サンが立ちふさがらなければ、追いつけていたんですが」「……ナニ?」レールガンの表情がにわかに曇った。マズい!相手に非があるようなもの言いは奥ゆかしさに欠け、実際シツレイだ!機嫌を損ねたか!?「アイエエ!決してレールガン=サンを糾弾する意図は無いんです!言葉の綾で……!」

「ザッケンナコラー!」レールガンが叫び、にわかに発光した!雨粒が空中で弾けたように吹き飛び、モヒカン・ヘアーに降りかかる!「アイエエ!」そのとき、彼は見た!レールガンの周囲で球体めいて発光する光の膜を……ゴウランガ!これはレールガンの行使するエレキ・ジツの応用!彼女の体表から発される電気がエネルギー・バリアめいて重金属酸性雨を弾いているのだ。それが今、極度の興奮によって発光している!「シャッコラー!また逃げられたオラー!入れ違いかコラー!」「アイエエエエ!」激昂する彼女のシャウトに萎縮し、周囲のスキルアウトはまたも恐慌状態に!「スッゾコラー!」「アイエッ……アバババーッ!」電気膜から無差別に放たれた電流がスキルアウトの一人に直撃!感電して気絶!周囲の者たちは泣き叫びながら腰を抜かすしか無い!おお……まるで古事記に記されたマッポーの世の一側面だ!コワイ!

「私を……」レールガンの纏う光は次第に強くなり、そして……!「無視すんなやゴラァァァァ!」薄暗い路地裏は一瞬、太陽が地に落ちてきたかのような光に包まれた!カブーム!爆発!雷の筋が四方に散り、スキルアウトたちが吹き飛ばされる!

 衝撃から壁に叩きつけられ意識を失う直前、モヒカン・ヘアーは目前に繰り広げられる自分の半生を見た。死の直前に見るという幻覚……ソーマト・リコールだ。ろくでもない人生。挫折と停滞……開発を逃げ出して、ズバリに逃避する日々。薄れ行く意識の中、彼はブッダに祈った。もしもう一度眼を覚ますことが出来たのなら、もう一度センタ試験に挑戦してみます……開発も受けます。だから自分もいつか、こんな強い能力者に……。彼は古い自分に決別を告げるべく、即興のハイクを詠んだ。


「レールガン/実際コワイ/インガオホー」




――――――――




 都市を少し離れた場所にある河川部にて、鉄橋の上に座る一人の男子高校生の姿があった。鉄橋を構成する曲形の鉄骨の真上、ゆうに十数メートルはあろうかという高所にて彼はアグラ・メディテーションを行なっていた。白いカッターシャツに学生ズボン、ウニめいた刺々しいヘアスタイルを月夜に晒してザゼンを組み、眼を瞑り、規則正しい呼吸を繰り返す。「スゥーッ!ハァーッ!」カブーム!どこか遠くで光が迸り、巨大な爆発音が!しかし、彼はアグラ・メディテーションを崩すことは無い。凄まじい集中力である。「スゥーッ!ハァーッ!」

 そのまま数十分程が経過しただろうか。ザゼンを続ける男子高校生の背中に……不意に、亜音速で飛び来る謎の小物体が!ナムサン!しかし接触の寸前で彼は眼を開くと、掛け声と共に即座に空中へ飛び上がって回避!「Wasshoi!」身を捻った彼の背中を掠めるようにして亜音速の物体が通過!数メートル先で消滅した!これは一体!?

「アンブッシュを回避する、その身のこなし……」鉄橋の入り口に立つのは……レールガンだ!サムズアップめいた形に握られた彼女の右手は、青白い火花を纏い帯電していた。先ほどの亜音速弾は、彼女の持つ何らかのジツであろう!彼女は手を振って火花を払うと、慇懃な態度でオジギした。「やはり只者じゃないみたいね……ドーモ。レールガンです。今日こそ決着を付けるわよ、今度は逃がさない」

「……」鉄橋の下部、道路上へと降り立った男子高校生は、レールガンの挑戦的な瞳に対し、刃物めいた鋭い視線を返す。その禍々しい色を秘めた瞳に、レールガンは気圧されたように後ずさった。彼の顔面の下半分は鋼鉄のメンポで覆われ、その表情の全てを読み取ることは出来ない。しかし、そのメンポの両頬に当たる部位には、禍々しい書体でレリーフが施されている。その文字とは……「幻」「殺」!

「ドーモ。レールガン=サン。イマジンブレイカーです」ウニ・ヘッドの男子高校生――イマジンブレイカーは素早くオジギすると、鋼鉄メンポのスリットから蒸気のような息を吐き出しつつ、厳かに告げるのだった。「ゲンソウ殺すべし」


「ヨタモノ・プレイド・イン・ジ・アシッド・レイン」#1終わり #2に続く……?



――――――――



※忍殺書籍化記念に一筆。実際オメデタイ。
※二日酔いで指痛い中で書いたので誤字報告でケジメ重点。
※続きは書きたいけどスシが切れたのでまた今度。オタッシャデー!



[35334] 「インデックス・フォール・イン・ケオス」
Name: パンツメンポ◆1cab6a1a ID:2f83f702
Date: 2012/10/20 00:00
第1巻「禁書目録崩壊」より 「インデックス・フォール・イン・ケオス」#1


(あらすじ)鉄橋の上でザゼンを組む謎の男、イマジンブレイカーにアンブッシュを仕掛けたレールガン。彼に何らかの因縁を持っているらしい彼女は変幻自在のエレキ・ジツで猛攻を仕掛けるが、それらは全てイマジンブレイカーの持つ謎のジツによって無効化されてしまう。その禍々しい姿に圧倒されたレールガンはあまりのブザマから危うくセプクに及びそうになるが、紙一重でその致死的な腕の動きを止めたのは敵であるはずのイマジンブレイカーであった。メンポの隙間から覗く瞳の中に宿るセンコ花火めいた光に充てられて放心するレールガン。彼は無言のまま不思議なアトモスフィアのみをその場に残し、夜の闇の中へと消えていくのだった。


 ――――――――


 早朝。ネオ学園都市第七学区の端に位置するムコセイ・ストリートでは、いつ降り出すとも知れない重金属酸性雨を湛えた曇り空の下で、学生達の朝の営みが行なわれている。朝のミルクデリバリーサービスを受け取りに来た寝ぼけ眼の学生達が、公道の周辺に整然と配置されたマンション郡のそこかしこから顔を出してはアイサツを交わしている。「オハヨ!」「オハヨ!」「そろそろ時間ですね」「急ぎましょう。遅れたら大変です」少年少女達は皆一息に瓶のミルクを飲み干すと、夢遊病患者めいた足取りで近所の運動公園に集まり始めた。彼らは公園中央のトーテム周辺に設置されたバイオバンブーのシシオドシ・ギミックの奥ゆかしい音の元へと集まると、街頭スピーカーから発される合成マイコ音声のストレッチ・レクチュアルに従い、カタと呼ばれる奇妙なトレーニング・ポーズを取り始める。

『左右に首を振るドスエ』『最低120度ドスエ』ブンブーブブブブブブンブーブブブブブブブブブブンイヨォー。催眠音波めいたリリックと共に機械的なストレッチを行なう学生達。このストレッチは人間工学に基づいた健康トレーニングという触れ込みで学園統括理事会から発表され、この地区に住まうほぼ全ての学生に強制カリキュラムとして早朝の遂行が義務付けられている。しかしその実体は、合成マイコ音声の背後に隠された音波的サブリミナルによる、無軌道学生抑制のための大衆洗脳プログラムであるのだ。コワイ!

「イチニィー、サンシー」『両手を前に……実際服従的な……回転させるドスエ』「ゴーロク、シーチハ」『両手を後ろに……教師に反抗すればケジメ……伸ばすドスエ』マグロめいた目で催眠的ポーズを取り続ける学生達の集団。しかしとあるウニめいたヘアスタイルの学生……カミジョウ・トウマだけは違った。彼の持つ非人間的とまでいえる聴力は隠された催眠音波の文言を看破し、精神集中効果のある呼吸法によって脳へのサブリミナルの一切を遮断している!

「スゥーッ! ハァーッ!」『足を曲げて……為せば成る……ラビットのポーズドスエ』「スゥーッ! ハァーッ!」『本日はこれで終了ドスエ。オツカレサマドスエ』やがてストレッチは終了し、学生達は各々の寮内へと戻っていく。カミジョウも自身の寮部屋へと帰宅し、電灯のスイッチを入れる。しかし、何故か部屋は薄暗いままだ。カミジョウは訝しんだ。停電か、あるいは――。

 キャバーン! 突然の電子音は、カミジョウのズボンのポケットにしまわれた携帯無線IRC装置によるものだ。発信者はツクヨミ・コモエ。カミジョウの通うハイスクールの教師だ。カミジョウは受信した電子文の閲覧操作を行ないながら、部屋の隅に設置された冷蔵庫の元へ向かう。寝起きのチャを飲むためだ。しかし冷蔵庫の戸を開けた途端に漂ってきた異臭を嗅いだことで、カミジョウは己の部屋が今どのような状況にあるのかを理解した。思わず逸らした目線の先には、携帯IRC装置のディスプレイ上で踊る緑色の電子文言。

『カミジョウ=サンは知能に劣るので一週間は補習重点です。備えよう』「ヌゥー……」ディスプレイ上に表示された担任の言葉を受け、カミジョウは苦悶の声を上げた。その視線は次いで眼前の冷蔵庫へ向かう。開け放たれた扉の中には、夏場の熱気によって醗酵したマグロ・スシや激安トーフが、タッパーの中で黒々とした色を湛えている。……冷蔵機能が壊れているのだ。

「ヌゥゥー……」カミジョウは昨夜の出来事を思い返し、再度唸った。深夜の大橋上で起こったある出来事……学園都市擁する七人のニンジャことガクエン・レベルファイブの一員であるレールガンと、そのアンブッシュを回避するワザマエを持つ謎の男、イマジンブレイカーとのイクサの余波は、近隣の地区に存在する電子機器に甚大な影響を及ぼしていたのだ。その範囲にはもちろん、カミジョウの住まう学生寮も含まれていたのだろう……その惨状がこの腐海めいた光景、電灯を含めた電子機器の損傷なのであろう。

 ガクエン・レベルファイブの第三位だけあり、彼女は中々のワザマエを持ったサイキッカーでもあった。大出力のエレキ・ジツを応用した多彩な遠距離攻撃に、砂鉄から生成したカタナを用いたエレキ・イアイド。そして彼女のニンジャネームの由来でもある、一撃必殺の威力を誇るヒサツ・ワザ……コイン・レールガン! 弾道上の物体をネギトロめいて粉砕し、射線一帯をツキジめいた惨状へと変貌させる恐ろしいジツである。もしも一般人がその禍々しい雷光を目にすることがあれば、ニンジャリアリティショック症状を起こしてほぼ確実に気絶し、場合によっては発狂や記憶喪失に陥る可能性もある。

 しかしタタミの上でザゼンを組むカミジョウのニューロンでは、昨夜起こったレールガンとイマジンブレイカーのイクサの内容が、事細かにゆっくりと反芻されていた。周囲に目撃者たる一般人の存在しない夜の鉄橋で、いったいこのカミジョウ・トウマという男子高校生は、いかなる方法によって壮絶なイクサの内容を目撃するに至ったのか!? なおかつ彼はそのイクサを目撃しても正気を保ったまま、禁止された夜間外出からの朝帰りを行い、誰にも悟られること無く一般生徒の集団に紛れ、洗脳ストレッチの催眠音波に耐え抜き、何食わぬ顔で自分の寮部屋へと帰宅したのだ!

 その真相、彼の正体は……未だ語るまい。謎めいた男子高校生は一人瞑目し、アグラ・メディテーションの中で本日の予定を組み立てている。家財道具の修理、食糧の確保、補習カリキュラムの遂行……山積みとなった課題を前にした、ほんの僅かな精神集中の時間である。ゼンの崇高な精神を前に、低俗なミステリに関するサプライズは無粋というものだろう。「スゥーッ!ハァーッ!」規則正しい呼吸音だけが、薄暗い部屋に響いていた。

 それから数十分。やがて朝日が昇ろうかという頃合であった。「……何?」鋭敏な感度を持つカミジョウの聴覚が、静寂に包まれた空間を侵す、ある音を捉えた。「銃声だと?」数瞬後、ショウジ戸の向こうにあるベランダのほうから、鈍い落下音が聞こえた。カミジョウは、またかといったような表情で立ち上がった。ネオ学園都市においてヨタモノによる銃乱射事件はそう珍しいことでは無い。比較的治安の良いこの区域で起こるのは珍しいことだが、恐らくは酔っ払いかジャンキーが違法購入した銃器で上空のバイオスズメを打ち落としたのであろう。放置するわけにもいかず、不幸にも自宅のベランダへ落下して来たそれをどうにかすべくショウジ戸を開いた。息があれば動物病院へ。無ければヤキトリで食糧確保重点だ。

 しかし、ベランダにバイオスズメはいなかった。手すりに白いフートンが干してあるだけだ。ふと、カミジョウは背後を振り返った。薄暗い部屋の隅には、使い込んで黄ばんだフートンが折りたたまれて設置されている。夜間は家を空けることの多いカミジョウは、たまにしかフートンを干さぬし、ひとつしか持ち合わせていない。では、この白いフートンはいったい……? カミジョウは再度ベランダに目をやった。白いフートンの継ぎ目からは、銀色の流麗な長髪が流れて……長髪!?

「これは」表情に乏しいカミジョウも、流石に眼を見開いた。「ガイジンか」白いフートンだと誤認したのは、キリスト教系のシスター服だ。つまるところ、ベランダに引っ掛かっている先程の落下物は……少女!

 アングロサクソン系のシスターらしき少女は、ゆっくりと顔を上げた。カミジョウと目が合うと、その小さな唇が震え、か細い声を発する。「ォ、――――」カミジョウは咄嗟に身構えた。銃声、落下した少女、衰弱した様子。その小動物めいた矮躯に事件性の垣間見えるアトモスフィアを纏った少女に、何らかの危険を感じたのだ。彼女本人でなく、その周囲へ! ……そして、少女が口を開いた。

「おなかへった」「……」「おなかへった」「……」「おなかへった、って言ってるんだよ?」「ヌゥ……」数十秒間、マンション周囲へと感覚を張り巡らせて警戒していたカミジョウだったが、特に脅威らしき脅威は確認出来なかった。ただでさえ猥雑なネオ学園都市は、様々な音や臭いに溢れている。強盗や殺人もチャメシ・インシデントで、胡散臭い物品や薬物の流通は後を絶たない。そのようなケオスの只中において、道行く人間の十人が十人、口を揃えて明らかに異質と断言するような何かというのは、そうそう見つかるものでは無い……目の前のシスターを除いて。

「ねえ、聞いてる?」「……」カミジョウは部屋の中に引っ込むと、壊れた冷蔵庫の中を漁った。醗酵した食品類の中に、薄っすらとカビの生えたモチが混じっている。表面を削って煮れば、二人分の食事くらいにはなるだろう。再度ベランダに顔を出す。「オヌシ、一人で歩けるか」「ご飯……」「オーゾニくらいならば、作ってやる」「お雑煮!?」少女の表情がにわかに綻んだ。そして、あるいは無表情であったカミジョウの口元も、僅かに。


「インデックス・フォール・イン・ケオス」#1終わり #2に続く……?



――――――――


※続いちゃったネタ二段目。原作アトモスフィアの再現が大変。実際綻びがボロボロと。
※あまり長く続けるものでも無いのであらすじ交えて駆け足気味に行きます。
※一巻以降の予定は未定。決して禁書原作を最初らへんの巻しか読んだことがないとかではない。いいね?




[35334] 「エレクトリック・ペイバック」
Name: パンツメンポ◆1cab6a1a ID:2f83f702
Date: 2012/12/07 23:54
第1巻「禁書目録崩壊」より 「エレクトリック・ペイバック」#1

(あらすじ)「オミヤゲにサスマタでもくれてやろうか」「……いい、いらない」カミジョウ宅にて修道服型霊装『歩く教会』を偶発的な事故によって破壊されたインデックスは、その状況を察知した追っ手の襲撃を恐れてカミジョウ宅を後にする。彼を騒動にを巻き込まないために出奔した彼女であったが、土地勘の皆無な彼女にとって猥雑なネオ学園都市の街並みはあらゆる堕落と理不尽に満ちた、まさに魔境であったのだった。

 ――――――――


 ネオ学園都市第七学区、イキオイ・ストリートにて。

 『いよいよ執行されんとする磔刑の前夜』タダーン! 扇情的効果音。『晩餐の席にて真実が語られる!』タダオーン! 学園都市上空を飛行するマグロ・ツェッペリンの機体側面巨大液晶スクリーンでは、近日公開予定の最新娯楽映画のトレイラーが映し出されていた。『この中に一人』液晶内部では精悍な長髪を蓄えたあの男を中心に、懐疑的な顔つきで食卓へ付く十二人の使徒達の姿。『裏切り者がいる!』タダーン! どよめく使徒達と、それを見渡すあの男。『しかし』トレイラーのラスト、ナレーションが意味深に呟いた。『彼らはまだ、気付いていない……』天井裏から覗く竹筒が暗闇の中へ消えていく。先端から滴り落ちる雫の色は……毒々しい紫だ!

『ジーザスⅢ、ついに公開』「YEAAAA!」「ウィーピピー!」路上からトレイラーを見上げていた通行人達が歓喜の雄たけびを上げる。『君達はまだ、本当の真実を知らない』「新作ヤッター!」「エキサイティン!」「実際楽しみ! ……ン?」夏休み初日で浮かれ気分の学生の一人が、群集の中に紛れた異質な存在に気付く。「シスター? シスターナンデ?」彼が目にしたもの、それは映画トレイラーを見上げながら放心するシスター服の少女……インデックスだ。ブディズムが主流のネオ学園都市の街中で、実際彼女は目立ちすぎる。「……」「ンー? 本物?」「……にも……」「?」

「罰当たりにもホドがあるよっ!」トレイラーの何が気に入らなかったのか、インデックスが激昂して叫ぶ! どよめく周囲! 「偶像崇拝が禁止されてるわけじゃないけど、これはあまりにも誇張が……」「アー……お嬢ちゃんも本当はブッダが好きなの?」その時だ。おもむろに近付いてきたパンチパーマのブディズム・パンクスの二人組が場違いなシスターに声を掛ける。「え?」困惑した様子でインデックスが振り返った。

「ブッダが好きなんでしょ?」「一緒に禅問答しない?」「え? え?」馴れ馴れしく話しかけてくるパンクスたちだが、対するインデックスは彼らの質問に狼狽した様子である。異教徒の風習に不慣れであるからだろうか、その物腰に不安を感じている様子だ。「ブッダがある男をジゴクから助け出すため、切れやすい蜘蛛の糸を垂らした。ナンデ?」「慈悲の心で……」「不正解です」「そうなの?」インデックスは不思議そうに問い返す。「じゃあなんで……」

 その時! 「ちょっとやめないか」突如として先ほどの学生が威圧的な文言を発して禅問答を打ち切った。彼はインデックスとパンクスたちの間に分け入ると、怪訝そうにするパンクスたちに侮蔑的な視線を向ける。「街中でスカム禅問答はやめろよ。これだからヨタモノは!」「ア?」「ナニ? ケンカ売ってんノ?」「マケグミは黙ってろって言ってんだ! 僕は強能力者だぞ!」「アー? カチグミ?」「ヤッチャウ? ヤッチャウノ?」一触即発の空気に周囲は騒然! カチグミ学生とヨタモノたちを中心に人が離れていく!

「あの、その、ケンカはいけないと思うよ?」しどろもどろのインデックスが仲裁に入ろうとするが、誰も話を聞こうとしない! ブッダ! なんという無軌道学生たちか! 実のところ、彼らはただ暴れたいだけなのだ! それに気付かないインデックスは彼らの諍いに責任を感じ、説法を始めようとする。「慈悲と寛容の心を持って……」「ちょっと!」その時、背後からインデックスに向けて投げかけられる声が! 「ちょっとアンタ! シスター!」「うん?」「こっち来なさい、急いで!」インデックスが振り返ると、周囲を囲む人ごみの中から手招きする少女がいた。不安げなインデックスがそろそろと近付くと、少女はその腕を急に腕を掴んで人ごみの中へ引き込んだ。「ほら、さっさとここから離れるわよ」「でもケンカが……」「アンタ観光客? あんな騒ぎこの街じゃチャメシ・インシデントよ。ウカツに近付いて怪我しちゃ馬鹿らしいし、悪いこと言わないから走んなさい!」

 人ごみを掻き分けるように進む少女。彼女に手を引かれながらインデックスが振り返ると、「治安がいい」「健全」「ヤサシイ」などといった電子カンバンが目に入った。この地区のキャッチコピーなのだろうが、彼女の瞳には疑いの色が浮かんでいる。「嫌な街……」「それに気付けたんなら上等よ!」目的地も定かでなく、人ゴミを避けるように二人は走った。背後から聞こえる打擲音と悲鳴、ショーウインドウを叩き割る甲高い破砕音。「御用! 御用!」けたたましいサイレンが響き渡り、ケンドー装甲服に身を包んだアンチスキルたちが駆けつける。諍いはやがて周囲の野次馬を巻き込み、暴動にまで発展していたのだった。


 ――――――――


 やがて二人が大通りを抜けて商店の並ぶ小路に差し掛かると、都市上空で常に停滞する黒雲が重金属酸性雨をしめやかに滴らせ始めた。「アー、降ってきちゃった」手を引いていた少女は足を止め、学生鞄の中から折りたたまれたPVCアマガッパを取り出す。「そのシスター服、防水?」「うん……あ」答えかけてから、インデックスはふと思い当たった。彼女の纏う『歩く教会』は事故によって破壊されてしまっているのだ。「ううん」「そ。じゃあこれ着てなさい。私は別の買ってくるから」少女はアマガッパをインデックスに手渡すと、近所の雑貨店に駆け込んでいった。その背を見送りながら、ふとインデックスは彼のことを思い返す。

(あの右手……それが異能の力であるなら、神様の奇跡さえ……)カミジョウ・トウマ。そう名乗っていたか。(……一般人? ほんとうに? でも……)アマガッパを抱えたままインデックスが思索に耽っていると、「お待たせーって、アーほら、着てなさいっていったじゃない」買ったばかりの防水コートを纏った少女がいつの間にか背後に立ち、濡れそぼったインデックスの頭に手を置いた。「髪に悪いなんてもんじゃないわよ。浴び続けてたら死ぬ可能性もあるんだから」「う、うん」少女の手伝いの元、アマガッパを着込んでいく。「ほら、急いで急いで……フードも、ほら」

 目元までしっかりと被せられたフード。その先から滴る雫を見て、インデックスは声を上げた。「……フード!」そう、彼女は学園の清掃ロボットに持ち去られた『歩く教会』の純白のフードを探している最中であったのだった。少女が聞き返す。「フード?」「白いフードなんだけど、電動使い魔に持ち去られちゃって……」「電動……アレのこと?」少女の指差す先には、舗装された路上を疾走する小型清掃ロボットの姿があった。『重点! 重点!』時速四十キロの速度で路上に捨て去られた煙草を回収していた小型清掃ロボットは、その勢いのまま道の端にたむろしていたヨタモノ学生と衝突。そのまま吹き飛ばした。「アイエエエエ!」『ドーモ、モータードラムです! 通路上の障害を回避しないのは仕様であり問題ありません! 重点! 重点!』

 のたうち回るヨタモノを眺めながら、少女はインデックスの肩に手を置いた。「アレに何か攫われたら、たぶん返って来ないと思うけど」「そんな……」「アーでも、本当にアレに持ってかれたの? 大きいゴミとかはアレ、基本吹き飛ばすから。勘違いの可能性も重点?」「えっと……」インデックスは思い返した。彼女の持つ完全記憶能力にも、勘違いというインシデントは有り得るものだ。歩く教会を破壊されて、その後はどうした? 毛布の中で着替えて、安全ピンで服を留めて……。「……あ」なんと、この時点でもう彼女はフードを被っていない!

 ということは、目的の物は恐らくカミジョウ・トウマの寮部屋にあるのであろう。ウカツ! なんたる徒労! 「む、むだあし……」インデックスは脱力してその場に膝を突いた。少女がその肩を持ち上げながら尋ねる。「まあまあ。で、場所は分かるの? 心当たりが?」「とうま……」あの少年の名を口にしたところで、インデックスの脳裏を通り過ぎるのは彼から喰らった説教の記憶! 「……さん、の部屋、の中だね、きっと」冷や汗を浮かべながら取って付けたように敬称を加えるインデックス。というのも、海外出身の彼女はネオ学園都市内の文化に疎く、そのためにカミジョウとの自己紹介の折に敬称を省略してしまったせいで、彼からひどい説教を受けているのだ。インデックスはその時の様子を思い返し、身震いした。まるで有名なあのモタロ伝説に出てくる人食いのオーガのような形相で行なわれる説教……もしも問答の最中に『歩く教会』が壊れなければ、説教はまだまだ続いていただろう。あるいは、日の暮れるまで!

 読者諸君は彼の行った行いを……日本文化に無知ないたいけな少女に対してトラウマを植え付けるほどの説教をどう思うであろうか? 無体? やり過ぎ? しかしあえて補足するならば、この猥雑たるネオ学園都市にも礼儀というものは存在する。たとえ親子であっても公衆の面前で名前を呼び合う際は敬称を付けるのが常識である。もしもこのシスターが無知を無知なままに初対面の人間を呼び捨てにしようものなら、被害者や目撃者に通報された場合は即座に近隣のジャッジメントが駆けつけ、最低でも厳重注意、相手の身分によっては検挙や拘留、民事においては告訴される可能性すら有り得るのだ! ナムアミダブツ! なんたる抑圧的礼儀制度! しかしその点を鑑みるならば、予め苛烈な説教によって呼び捨てによるスゴイ・シツレイを行なわないための釘を刺しておくカミジョウの対応は、ある意味では無垢なる者に対する優しさと慈悲に満ち溢れていると言えよう!

「トウマ=サン? 保護者?」「ううん。私にご飯を食べさせてくれた、優しい……いや、ええと、まあ親切な人かな」「フーン?」「ちょっとぶっきらぼうなところはあるけど、うん、きっといい人だよ」「じゃあその人のところに戻るの?」「それは……」インデックスが口ごもった。彼女は自らの脳内に蓄えられた十万三千冊の魔道書に関する知識を守るため、世界各国の魔術結社の追っ手から逃げ続けている最中の身だ。何度も同じような場所へ入り浸っていると、そこが拠点であると敵の魔術師に誤認させてしまうやも知れない。そうすれば、あの少年が巻き込まれてしまうことになる。一般人の少年……不思議な右手を持ってこそいるが、本来無関係であるはずの少年を。

「どうしよう……」「会い辛いの?」「うん、ちょっと……」「そう? なら、私が代わりに受け取ってきてあげよっか?」少女からの突然の申し出に、インデックスが戸惑いながら問い返す。「いいの? 本来なら、あなたは無関係なのに」「フードをひとつ受け取ってくるだけでしょ? それより、その後はどうするの? 予定とか決まってるの? 行くところは?」「ええと……英国式の教会があれば、そこに行きたいかな」「教会? それならまあ、第十二学区にいくつかあったかな。でもどうして? お使い?」インデックスは少しだけ逡巡すると、言った。「……匿ってもらいに行くの」少女の顔が流石に少し険しくなった。

「何かあったの?」「その……追われてて、それで」「通報した方がいいんじゃないの?」「……意味無いよ」意味が無い。その言葉にただならぬ気配を感じ取ったのか、少女はしかめ面でため息を吐いた。「アー……」「やっぱり、もういいよ。あとは私一人で」「ちょい待ち」伏せ目がちとなったインデックスに対し、少女は膝を突いて目線を同じ高さに持ってくる……膝とコートの裾が濡れて汚れるのも構わずに。「アー、確認だけど、そこに辿り着きさえすれば、本当に問題無いの? 本当に?」「う、うん」

「じゃあ決まりね!」少女がインデックスの目の前で手を叩いた。「十二学区までは……エート、バスか何か出てるかな……まあ、まずはそのトウマ=サンとやらの寮だかアパートだかに行くのが先ね。近い? 案内頼める?」呆然とするインデックスの顔を覗きこんでくる少女。「エート、そう言えば自己紹介がまだだったよね。ドーモ、ミ……」「……んで」「ン?」

「なんでそんなに親切にしてくれるの?」あまりにもいたれり尽くせりな対応に、インデックスは疑問を浮かべずにはいられない。「なんで、って」「とうま……さんもそう。なんで見ず知らずの人間に、そんなに親身になってくれるの? こんな、明らかに厄介事を抱えたって分かるような人間を」シスター服の裾を握りながらインデックスは言う。それも仕方の無いことだろう。彼女は優に一年もの間、四面楚歌の状態でひたすら追っ手から逃げ続けてきたのだ。島国である日本に来てからも同じことだ。味方などいなかった。危ない目にも何度も遭った。さらにネオ学園都市の治安は最悪だ。こんな状態で二度にも渡って降って湧いたような他人の親切。ブッダ! 誰しも疑わずにはいられないであろう! 「なんで、そんなに……」「ンー、そう言われると……」そのまま口をつぐんでしまったインデックスに対し、少女は困ったように頬を掻いた。「そうねえ……」「……」

「情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームへ流される」「え?」「知ってる?」少女の言葉に、インデックスが首を横に振った。「コトワザでね、あるのよ、そんなのが。要するに人助けなんて損だから止めろってことなんだけど」「……」「一方でね、こうも言うのよ……困っている人を助けないのは腰抜け、ってね」

 これら二つは平安時代の武人にして哲学者、ミヤモト・マサシの詠んだコトワザである。「確かにアンタをエスコートして、それで何か面倒なことになったとしたら、それはまあ損と言えるかも知れないけど。でもアンタだって目の前に溺れてもがいている人がいれば、とりあえず手を差し伸べるでしょ? いちいち損得なんか考えないでしょ?」「それは、そうだけど」「それだけのことなのよ、つまりは。まあ私は別に、腰抜けでも無いつもりだしね」照れくさそうに笑いながら、少女が手を差し出した。「じゃ、いこ?」

 ポエット! 何と達観した思考形態か! 少女は暗に、メイルストロームへ流され行くインデックスを見捨てるつもりは無いと告げているのだ。ハイクこそ用いていないものの、実に奥ゆかしい感情表現! 「あ……」インデックスの頬に暖かいものが流れ落ちた。PVCアマガッパから滴る重金属酸性雨? チガウ! それは涙だ! 少女の優しさに触れて零れた涙であり、そしてあの少年の言葉の意味を理解したことによる涙だ!

『……、じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?』去り際、自分を引き止めるカミジョウに対してインデックスが言い放った言葉だ。笑顔で告げたその質問は、隠すことの無い拒絶の意思をしたためていた。それを受けて、彼は何と言った? 何と答えた? 『サンズ・リバーの流れは速かろうな』『……?』『オミヤゲにサスマタでもくれてやろうか』ナムアミダブツ! 何たる迂遠な比喩表現か! 不器用な少年の、あれは精一杯の意思表明!

「……って、いいのかな?」「ン?」「本当に……頼っても、いいのかな……?」気が付けば、インデックスは号泣していた。廃棄されたオリガミめいて歪んだその表情の上に、つもりつもった苦難が涙となってあふれ出る。「いいのかなあ……?」「……いいに、決まってるでしょ」少女が慈愛の瞳を持って答える。「いこ?」「うん……うん……」目元を拭うと、インデックスは右手を持ち上げた。差し出された少女の手を握ろうとして……その時!

「インデックス?」突然、背後から彼女の名を呼ぶ声。しかし、この街に来て彼女が名乗った相手はカミジョウ・トウマただ一人。一方、投げかけられた声は女性のものだ。……ブッダ! 要するにこの声の主は、ネオ学園都市の外部より来りて、インデックスを知る者……即ち、敵!

 インデックスが振り返った先には、ブルネットの長髪を後頭部で纏めた女がいた。降りしきる重金属酸性雨の中で傘を差そうとすらしないその女は、白いTシャツを雨に濡らし、片足を大胆にカットしたジーンズから見える生足に雨露を滴らせている。腰には拳銃のホルスターめいて鞘に納まった長いカタナが差してあり、その胸は豊満だった。「そんな」インデックスは絶望に再度表情を歪めた。「こんな街中で……」瞬間、インデックスの第六感が周辺地域に対する魔術の発動を探知! 「人払い……!」「ステイルがルーンを刻んだようですね。皆引き上げて行きます」女が言った途端、通行人や店先の呼び子、路上で転がっていたヨタモノまでもが建物内や路地裏へと消えていく……やがて一分もしないうちに、インデックスのいる路地から通行人の気配は消え失せる。

「……くっ」インデックスは身構えると、真剣な目つきで言葉を返す。「どうやってこの場所を? 『歩く教会』の探知は、もう不可能なはずだけれど」「ただの偶然ですよ。『歩く教会』の反応が弱まったので、様子を見に行こうとしていたところでの偶然の邂逅です。驚きましたね。そんな偽装手段があったのなら、もっと早いうちに使っていれば私たちを撒くことも出来たでしょうに」

「な……!」インデックスはその一言で自身の失態を悟った。『歩く教会』のフードはカミジョウ宅に置いて来た。そのフードは着替えの最中に落っことしたものであり、カミジョウの右手は触れていない。つまり、カミジョウ宅に存在するフードの防護機能はまだ生きている。……即ち、魔術師はその魔力反応を探知できる! ナムサン! 敵魔術師のレーダー上では、インデックスはまだカミジョウ宅に居ることになっているのだ! ウカツ! 徒労どころではない、大失態だ! 巻きこまないと誓ったはずの少年に、いつ危険が及んでもおかしくない状態!

「わ、たし……」インデックスが絶望の言葉を漏らした瞬間だった。突如としてその頭部に激痛が走り、彼女は膝を突いた! ストレスによる頭痛か? 「あ……ぎ……」「そろそろ限界ですね」女はつかつかとインデックスに近付くと、彼女をキャプチャーすべく手を伸ばす。意識の朦朧とするインデックスは、それに抗えるはずも無かった……が!

「ヘイ!」突如として上がったその声に、女の動きが止まる! 「エート、話が見えないんだけどさあー」声を上げたのは……先程までインデックスと会話していた少女だ! 周辺住民は確かに消えうせていたが、しかしインデックスの傍らのこの少女だけは何故か平然としている。インデックスと女の間に割って入ると、周囲の光景を不可解そうに眺めながら様子を伺っている。ちなみにその胸は平坦だ。「アンタ……その、アー、この子の知り合い?」

「その少女は誰です? 現地協力者ですか?」少女の言葉を無視し、女がインデックスに訊ねる。「一般人……ではありませんね。その顔、服装……記憶に間違いなければ、もしや」「アー……? アンタ、私のこと知ってんの?」「インデックス。貴方にしては、胡乱な判断であると言わざるを得ない。どうやって話を付けたかは知りませんが、事が大きくなるだけですよ」「ちょっと……」「それに、人払いの結界も効いていないところを見ると、貴方の傍にいることに相当意識を裂いているようですが」「私を……」「まったく……もしかして、今度のパートナーはそこのレー」

「無視すんなやゴラァァァァ!」 その時だ! 無視され続けた少女が怒りのシャウト! 同時にその身体から紫電が発され、女を襲った! 「おっと」台詞を中断された女はバックステップでそれを回避! タタミ五枚分ほどの距離を取ると、腰のカタナに手を添えた。「血の気が多いのですね」「ナンオラー!」少女の威圧的シャウト! 彼女の周囲に雷光が渦巻き、バリアめいて降り続ける重金属を弾き飛ばす! 「この子……エート、インデックス? とにかくこの子の言う追っ手っていうのは、つまりアンタで間違いないのね!?」「だったらどうだというのです」女の両眼がにわかに細まった。少女を敵対者と認識したのだ! 「神裂火織、と申します。諸般の事情をご存知であるなら、魔法名を名乗る前に彼女を保護したいものですが」

「魔法? エート、まあそっちの事情はよく解んないけどさぁ!」少女が右手を頭上に突き上げると、一層強く雷光が周囲へ奔った! 衝撃で防水コートの裾がはためき、路地全体が微細に振動すらし始める! 「あんなこっ恥ずかしい啖呵切った直後に、ハイそうですかってこの子を差し出すワケにも行かないでしょーが!」少女が右手を振り下ろすと、壁に設置された排水パイプやゴミ捨て場に廃棄された錆び付いた金属類から、煙めいた黒い粒子が浮き出し、少女の下へ殺到する! これは一体!?

「うう……なに、が……」頭痛でダウン中のインデックスが目を開けた先には、雷光を纏った防水コートをはためかせながら、口元を黒い覆面のような物で覆った少女……チガウ! 覆面だと思われたものは、微量の鉄粉や砂鉄を混ぜ合わせて編まれた漆黒のメンポだ! 強力な磁力によって生成された砂鉄メンポは首筋にまで及び、マフラーめいた形に成形されて彼女の後方に揺らめいている! 「川べりならもうちょっと量が集まるんだけど、ここじゃこれが限界かなぁ!」前傾姿勢で身構える異様な姿の少女に、インデックスが疑問の声を上げる! 「あ、あなた、いったい……」「あ、ダイジョブ?」少女はその声に気付くと、小さくウインク! 「ドーモ、ミサカ・ミコトです。もっと早く名乗るべきだったけど、私は……」即座に対面の女に向き直ると、少女ことミサカ・ミコトは、自身の持つもうひとつの名を、威勢よく告げる!

「ドーモ、カンザキ=サン。レールガンです!」ミサカ・ミコト……ガクエン・レベルファイブの第三位である少女は、電撃的な速度でオジギした。「私は……ニンジャだ!」


「エレクトリック・ペイバック」#1終わり #2に続く……?



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※口調とか思考形態とかアトモスフィアとか。キャラに関して違和感あったらすみません。二次は色々大変ね。
※と言っといてなんですが、気にし過ぎても先が書けないので、これはこういうものだと納得頂ければ嬉しいです。
※言い訳終了。次回はあらすじ挟まず戦闘の予定だけなので短くなりそう。イヤーッ!



[35334] 「エレクトリック・ペイバック#2」
Name: パンツメンポ◆1cab6a1a ID:2f83f702
Date: 2012/12/08 00:12
第1巻「禁書目録崩壊」より 「エレクトリック・ペイバック」#2


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(「ドーモ、カンザキ=サン。レールガンです!」ミサカ・ミコト……ガクエン・レベルファイブの第三位である少女は、電撃的な速度でオジギした。「私は……ニンジャだ!」)

 威圧的なアイサツを受けたカンザキは、わずかにたじろいだ風に聞き返した。「……忍者?」然もあらん! ネオ学園都市という街の存在意義たる学生能力者たちの存在は世界的な知名度を誇る。いわんや、その頂点に立つガクエン・レベルファイブの戦闘能力は個人で軍隊を相手に出来るという程のポテンシャルを持つとの噂だ。アイサツされた時点で失禁しないだけ大したものである。

 それどころか、カンザキはにわかに眦を引き締めるとカタナに手を添えて臨戦態勢を取った。非ニンジャでありながらなんという胆力! すなわちそれは、カンザキがとてつもないワザマエを誇る強大な戦闘者であることを示している! 「……とにかく。無用な戦闘は、こちらも望むところではありません。貴方が、かの『超能力者』であるというのなら、尚更」「イヤーッ!」 ZAP! 対手の口上を遮るように、レールガンの頭部から紫電が飛ぶ! 敵対者を黒焦げにする光速の一撃が、カンザキの意識を刈り取らんと豪雨の中を奔った!

 カンザキはそれを素早いサイドステップで難なく回避すると、諦めたように零した。「……好戦的な」「小さい子追い回すような狂人が何言ってんノ? 雨避けくらい用意してあげるから、さっさと眠るのね」傲岸不遜に言い放ったレールガンは、回避不可能レベルの電撃の雨を降らせるべく、ゆったりとした動作で掌を前に突き出した。持ち前のニンジャ観察力によって、相手の武装を腰のカタナ一本のみと分析済みが故の余裕の態度だ。いくらイアイドに長けた相手だろうと、所詮は非ニンジャ。小手調べの電撃を避けた身体能力は大したものだが、本気を出せば制圧は容易いはずだ。

 帯電した右腕が球状の電磁バリアと干渉し、絶えず変化する磁界に反応して砂鉄メンポのマフラーがはためく。対手は相変わらずイアイドの構えを解かず、距離を詰めようともしない。そのスケアクロウめいた姿勢に若干の薄気味悪さを感じながらも、レールガンは右腕に溜めた電力を放出すべくニンジャシャウト!

「イヤーッ!」洪水めいた電撃の奔流が放射状に拡散! そう広くもない路地に光芒が満ち、曇天の下の薄暗闇をなぎ払うかのような光量が発生した! ナムサン! 最早体捌きのみでの回避が不可能なレベルの圧倒的範囲攻撃! 範囲に比例して威力は落ちるが、感電すればアフロめいた髪型となって失神することは必死! しかし、その奔流を向けられたカンザキの表情に恐れや絶望の色は無い。彼女はわずかに視線を伏せると手元のカタナをワン・インチだけ抜き出し、呟く。

「七閃」瞬間、電撃の奔流が割れた。モーゼが海を割ったが如く光芒が縦に分断され、その隙間の空間を通してレールガンとカンザキの視線が交錯する。(……インシデント!?)レールガンは持ち前のニンジャ判断力によって電撃の放出を中断し、ニュートラル姿勢で敵対者の行動を見極めようとする。瞬間、彼女が常に索敵用に放出する電磁波に感有り! (線……糸!) ナムサン! 電撃の奔流を引き裂きながら彼女の眼前へと迫るのは、肉眼での視認が困難なほど細い、鋭利な殺人ワイヤー!

「イヤーッ!」接触直前、レールガンは側転を打つことで致命的な一撃を回避! だが彼女のニンジャ索敵能力は次なる攻撃の到来を告げている! 「イヤーッ!」目視不可能な二撃目のワイヤーを側転回避! 「イヤーッ!」三撃目をサイドステップで回避! 紙一重!

「イヤーッ!」四撃五撃六撃……回避困難な同時攻撃をブリッジで回避! しかし七撃目……ナムアミダブツ! もう回避は間に合わない! ……だが! 「イイイヤアアアーッ!」ゴウランガ! 進退窮まったレールガンがとっさに繰り出したのは、ブリッジ状態からのメイアルーアジコンパッソ! 両手を軸にした強烈な回し蹴りで最後のワイヤーを蹴り飛ばす! 明後日の方向へ弾かれたワイヤーは路地裏に走る鉄パイプ群を容易く両断! ……無論、それほどの威力のワイヤーを蹴り飛ばしたレールガンの右脚もただでは済まない! 「ンアーッ!」ソックスが引き裂かれ、膝下から出血!

 ナムアミダ・ブッダ! ニンジャとは常人など及びも付かぬ半神的存在であり、武装したヨタモノ程度なら数百人単位が相手でも鼻歌交じりに殲滅出来る程の戦闘能力を持っている。異常なのは、そのニンジャの攻撃を真っ向から切り裂き、そのまま相手に傷を負わせるほどのカンザキのワザマエだ。(ジツを使わず、カラテのみでのこのワザマエ。侮れば……)殺人的ナナツワイヤー・ドーを前に、レールガンも己の意識を戦闘用のそれへ切り替える。(……実際死ぬ!)

「よくもまあ、反応が追いつくものです」カンザキは感嘆するように告げると、カタナの鞘から伸びるワイヤーに指を這わせた。ナナ・セン! 「イ……イヤーッ!」レールガンは即座に後方へバック転することで致死糸を回避! SLAAAAASH! 先ほどまで立っていた地面に七つの斬撃痕が出現! 「ンアーッ!」倒れ伏すインデックスの真横に着地したレールガンだが、膝下の痛みは如何ともし難い。右脚を庇う様に構えると、カンザキに対して油断無き視線を送り、問うた。「アンタいったい……何者?」「必要悪の教会所属の魔術師――――そこに倒れるインデックスと同じ、魔術関係者ですよ」「マ・ジツ?」「違います。魔術……」はた、とカンザキが何かに思い当たったかのように眉を顰めた。怪訝そうな表情を浮かべると、「インデックスから話を聞いていないのですか? 禁書目録と呼ばれる理由――――彼女の頭の中の十万三千冊の意味。それらを理解した上で立ちはだかっているものとばかり思っていましたが」「エート……?」

「もしそうでないならば――――立ち去るべきです、少女。これは私たち、魔術師の間での問題だ。科学側である貴方が関わらなければならない道理は何処にも無い」「ザッケンナコラー! 目の前の犯罪をみすみす見逃す道理なんて、あるわけ……」「あるのですよ」レールガンの言葉を遮り、カンザキは威圧的に続けた。「貴方の実力では私には勝てない。私は貴方を瞬き程の間に制圧することが可能であり、人目に触れることなくこの都市から離脱する用意がある。であれば、今この場においての道理の定義とはすべて、私の指先ひとつで自由に出来るということです。文字通りに」カンザキはこれみよがしにカタナを掲げて見せた。指先が鞘を撫でると同時、路地に張り巡らされた極細ワイヤーが振動して雨露を滴らせる。

「インデックスは私が保護し、貴方は何も見なかった。後ろへ振り向き、そのまま日常へ帰りなさい。それがこの場での、あるべき道理です」何と言う傲慢な主張! しかしその言葉は本人のワザマエと合わさり、凄まじい重圧となってレールガンを襲った。街中でふと目にした、危なげな様子の少女シスター。彼女に対してほんの僅かな親切心を発揮した結果が、鈍痛を発する右脚の怪我に、今にも殺されるのではないかという恐怖。レールガン自身も気づいていた。インデックスやカンザキが、何か己の知らないまったく未知の世界に属する者達であるということを。であれば、ニンジャとはいえ善良な市民であるところのミサカ・ミコトが関わる必要は、本当は無いのではないか……? 「あ、ぁ……」ふと、身じろぎするインデックスの声が、レールガンの耳に飛び込んでくる。

 逡巡を続けながら、レールガンは荒い息のインデックスを横目で確認した。額を押さえ、苦しそうな息遣い。苦悶に歪んだ表情……ふと、眼が合った。苦しげな様子であるのに、彼女の瞳に映る色は後悔のそれだった。「は、……く、」濡れた地面のせいで汚れた顔は熱によるものか紅潮し、泥に汚れた唇が、乾いた舌が、それでも何かをレールガンに伝えようと動いている。「、……げ、」ほんの数秒その様を眺めると、レールガンはインデックスから視線を切り、カンザキへ向き直った。インデックスが何を言おうとしたのか、声に出さずとも、目を合わせただけで伝わる意思があった。逡巡は消え、闘志だけが残った。最早言葉すらも必要とは思えなかった……無言のまま、彼女は目の前の脅威を打倒することに決めた。

 レールガンは双眸を引き締めると、ニューロン内でイマジナリー・カラテを行い、持ち前のニンジャ観察力とニンジャ演算能力をもって勝利条件を導こうとする。……カンザキとの距離はおおよそタタミ五枚分。攻撃を当てれば打倒する自信はあるが、生半可な遠距離攻撃では、避けられるか、でなければ殺人ワイヤーに迎撃されてしまう。かといってヤバレカバレにワン・インチ距離まで近づこうとすれば、あの腰のカタナを用いたイアイドによって迎撃されるだろう。必要なのはある程度の射程距離を持ち、なおかつワイヤーによるインタラプトが不可能な特性を持つ武器。……レールガンは僅かに視線を下げると、己の首元に巻かれたマフラー型メンポを観察した。その構成物質は鉄片と、黒々とした粒状の磁性体……そう、砂鉄だ。

 サテツ・イアイド。レールガンを起点とした磁力によって操作されるカタナは、例えワイヤーによって半ばから寸断されようと、結合が解除された箇所から順にすぐさま再結合するため、その電磁的結合状態が崩されることは無い。すなわち、インターラプトは不可能! だが、問題は射程距離だ。ただでさえメンポと僅かなマフラーを生成するのがやっとの砂鉄量だ。カタナを形成したとしても、射程距離はおそらく……タタミ二枚分に届くかどうか。……だが! (踏み込むしかない)レールガンは決断的に思考した。(タタミ三枚分距離を詰める。それだけ考えろ、それだけ……)

「イヤーッ!」レールガンは身に纏う防水コートを脱ぎ去りながら駆け出す! その行動を受けて威圧的説得が不可能と判断したのか、カンザキも迎撃行動に移る! 「……ふッ!」ナナ・セン! 極細のワイヤーが七本、レールガンの前方からすさまじい速度で襲い掛かる。その即死領域にあえて踏み込んだレールガンは、ニンジャ反射神経によるダッキングで一本目を回避! タタミ一枚分前進し、同時に脱ぎ去った防水コートを前方へ放り投げる。

「……!」二本目のワイヤーが防水コートを寸断! しかし大き目の寸法が少女の華奢な肢体を覆い隠し、目測を誤らせる。コートの陰に隠れる形でレールガンは身を屈め、頭上を通りすぎるワイヤーをやり過ごした。しかし間髪置かず三本目が到来し、低姿勢状態の彼女をスライスせんと唸りを上げる。「イヤーッ!」それを見越していたレールガンは即座に地面に手を付き、腕力のみを用いた前方宙返りを敢行! 掌に掠るワイヤーの感触に冷や汗を覚えながらも回避に成功し、さらにタタミ一枚分前進! しかしその体は一瞬のみ宙に浮かび、無防備な背中を敵に晒す形となる。

「悪手を!」カンザキがその無謀を罵った。呼応するように四本目と五本目のワイヤーが空を裂き、レールガンの無防備な背中を襲……わない! 「イヤーッ!」レールガンは己の両足を起点に強力な磁力を発し、路地裏へ無数に張り巡らされた金属パイプ群へと己の身体を引き付けることでワイヤーを回避。身を翻して金属パイプ上に足裏で吸着すると、踏み切りによる逆跳躍でさらなる前進を狙った。「アブハチトラズ! これで届……!」しかし、幾多の急激な回避動作に耐え切れず、レールガンの手負いの右脚がここに来て激痛を発する! 「ンアーッ!」踏み切りに失敗し、前進しながらも緩慢な速度で落下するレールガン。そこに六本目のワイヤーが迫る。ナムアミダブツ! 回避不可能だ!

「イ……イヤーッ!」レールガンは咄嗟に磁力の反発を用いてマフラーの一部を射出。鉄片を核に砂鉄で編まれたエレキスリケンがワイヤーを迎撃し、その軌道を逸らさんとする。しかし、一枚では足りぬ! 「イヤーッ!」射出! 「イヤーッ!」射出! 「イヤーッ!」射出! 四枚目のスリケンでようやくワイヤーが明後日の方向へ逸れる! しかし、代償にレールガンの纏うマフラーとメンポの砂鉄量は大幅減! 最早イアイドの射程距離はタタミ一枚分程度が関の山だ! 現在の彼我の距離はタタミ二枚分。しかし、ブザマに落下中のレールガンにこれ以上の前進は到底望めない。この一瞬の接近機会を逃せば、おそらく次は無い。体勢を立て直してから接近しようなどと考える間に、新たなナナ・センが襲い来るだろう。そうすればニンジャとはいえ手負いの少女など、なすすべなくネギトロに変わってしまうことは火を見るより明らかだ!

「う……イヤーッ!」ZAP! レールガンは落下しながら電撃を放つが、カンザキは僅かに半身を傾けるだけでそれを回避する。「よくぞここまで」落下するレールガンに向かう七撃目のワイヤーを操作しながら、カンザキが呟いた。「せめて、一瞬で終わらせてあげましょう」張り詰めた殺人ワイヤーの進行方向は……ナムサン! レールガンの華奢な首筋に向かっている! このままでは次の瞬間にもレールガンは首を落とされ、ゴアめいた死体となって路地に血の雨を降らせる残虐スプリンクラー装置と化してしまう! 無論、ワイヤーの進行方向が己の急所に向かっていることを、反射波によってレールガンも察知している。しかし、彼女は何らアクションを起こそうとしない。ただ重力に任せて落下していくのみだ。ヤバレカバレが通じず、絶望して脱力したのか!?

 ……否! 彼女の両目は未だしっかりと開かれている。落下する少女とカンザキの視点が再度交錯し……その瞬間、カンザキは彼女のノーリアクションの理由を知った。燃えるような戦闘意欲を湛えた瞳が映していたのは、敵対者であるカンザキ……の背後に迫る、モータードラムの姿! 「な……!」カンザキが咄嗟に振り向こうとするが、間に合わない。『ドドドド-モモモ! 重点!』「ぐぅっ!?」レールガンが放ち、カンザキが避け、そしてその背後の路地で掃除を続けていたモータードラムへ命中した電撃は、モータードラム内部の制御UNIXシステムを一瞬で掌握! リミッターを解除した八十キロオーバーのチャージをカンザキの背中へと見舞ったのだ!

『障害物を回避しないのは……ガガ……仕様であり問題……ガガガガ!』衝撃によってカンザキの身体は突き飛ばされ、ワイヤーを操作する手元が狂った。その隙を突いてレールガンは空中で回し蹴りによる迎撃行動! 「イヤーッ!」無事な左足でワイヤーを弾き飛ばし、そのまま地面へと着地! ゴウランガ! 何というフーリンカザン! しかしヒサツ・ワザの威力もさることながら、彼女の本当の実力とは即ち、この変幻自在のエレキカラテにある! 『ノーカラテ・ノーニンジャ』の格言のとおり、今も昔もニンジャはカラテを極めた奴が上を行くのだ!

 そして……突き飛ばされたカンザキの身体は、レールガンに向かってタタミ一枚分だけ前進! 射程範囲内! 「しまっ……」「イイイヤアアアーッ!」砂鉄マフラーはその形状をカタナめいた形に変化させると、一直線にカンザキへと伸びる! カンザキもワイヤーを再度操作して迎撃しようとするが、虚を突いた分明らかにサテツ・イアイドが速い! 振動するチェーンソウめいた黒い刃が、カンザキの身体へと……届いた!

 ……その瞬間、レールガンの視界が一瞬で赤色に染まった。カンザキの身体を切り裂いたことによる返り血? ……チガウ! レールガンとカンザキの間に存在するタタミ一枚分の空間に、人の形をした赤い炎のようなシルエットが躍り出たのだ! いや……これはシルエットでは無い。溶鉱炉の目前に身を晒しているかのような熱気を感じ、レールガンは戦慄した。咄嗟にサテツ・イアイドを解除し、バク転による緊急退避!

 その判断は正しかった。炎を纏う人型のシルエット……黒い重油めいた塊は、その赤色の五体で触れるだけで、宙にバラ撒かれた砂鉄群を跡形も無く蒸発させる! コワイ! しかもサテツ・イアイドをインタラプトしたということは、このブッダデーモンめいた重油の塊も敵の一味!

「ステイル!」途端、カンザキが慌てたように叫んだ。「殺すのは……!」言い終わらぬうち、路地の中に何処からか紙巻煙草が投げ入れられた。火のついた煙草はバク転退避を終えたレールガンの前方へ一本、後方へ一本、水溜りを避けるように落ち、転がった。彼女が訝しんでいると、何の前兆も無くその煙草が爆発を起こしたかのように燃え上がった!

 KABOOM! 一瞬で炎が燃え広がり、レールガンとカンザキの間に摂氏三千度の炎の壁を作った。背後でも同じく炎が燃え広がり、彼女の退路を阻むように燃え盛っている。「カトン・ジツ!? 何が……!」新手の敵の登場に警戒するレールガンは、電磁波のソナー探知によって頭上に迫る三本目の煙草を発見! 回避場所を限定されたこの状況では回避不可能だ! 「……ブッダ!」吐き捨てるレールガンの頭上で爆発する煙草! おお、ナムアミダブツ! 一瞬で彼女の身体は炎に包まれ、外部からは見えなくなる!

「そんな……」背後で戦闘の趨勢を見守っていたインデックスが、絶望に濡れた声を上げる。「みことーッ!」どさくさに紛れての呼び捨てはスゴイ・シツレイ! ああ……しかし、最早それを糾弾する人物はこの世から失われてしまったのだ!

「……ステイル、貴方は」燃え盛る炎を睨みながら、カンザキはザンシンを続けていた。その背後から歩いてくるのは、漆黒の修道服を身に纏った、身長七フィートにも届こうかという大男だ。若々しい顔立ちはまだ十台半ばのそれであるが、煙草を咥え、目元にバーコードのタトゥーを入れたその姿は、とても聖職者には見えない。彼がカンザキの言うところの『魔術師』の仲間であることは、誰の目にも明らかだ。「ふん」彼は周辺で暴走を続けるモータードラムに炎を放ち、無造作に破壊した。

「殺しちゃいないさ。一般人なら兎も角、こんなビッグネームを殺せば政治問題になる。……炎の壁に閉じ込めて、酸素を奪っているだけさ。数分もこうしていれば、それだけで無力化できるだろう」大男……ステイルは、つまらなさそうに口を開いた。「しかし、お前ともあろうものが無様だな? それとも、日本のカラテカってのは皆あんなに強いのか?」「……不覚を取ったことは認めます。しかし訂正するなら、あれは私の知る世間一般で言うところの空手では無い」「……ニンジャ、か?」「本人はそう言っていましたが……しかし、大した少女でした。最後の攻撃は……あの絶体絶命の状況においてもなお、彼女は私を殺さないつもりでいた」

 カンザキが鞘へと視線を落とすと、その口元に微量の砂鉄が付着していることが見て取れた。レールガンが狙っていたのは、鞘とカタナの破壊によってカンザキの戦闘能力を喪失させることであったのだ。そして、実はカンザキも同じ考えであった。七撃目のワイヤーによってレールガンの首元を狙ったのは、繊細きわまる糸操作によって首の頚動脈を圧迫し、一瞬で意識を刈り取り、無力化するため。「そうすると、お前たちは……互いに殺意も持たず、あれだけの戦闘を行っていたのか」ステイルが呆れたように言った。「そう、なりますね」「まったく……僕には真似出来る気がしないよ」

 ステイルは咥えた煙草を一息に吸うと、炎の壁の前で警戒を続けるブッダデーモンめいた巨人に向かって放り投げた。一瞬で蒸発する煙草。「なんにせよ、痕跡はあまり残すな。情報封鎖の度合いが酷く、アレイスターとのコンタクトどころか、土御門とも連絡が取れない状況が続いている」ステイルは路地裏を見上げた。パイプ群や室外機の陰などの目立たぬ場所に、ルーン文字の刻まれた大量のコピー用紙が貼り付けられている。これらは雨露を避けて予めステイルが設置したものであり、ブッダデーモンめいた巨人――――イノケンティウスを操るためのものだ。これらも、後で回収しなくてはならない。「長居は無用。記憶を消した後はすぐに街から離脱するぞ」カンザキは悲しげに目を伏せた。「……ええ。彼女ももう、限界のようですし」「ふん……インデックスも、厄介な場所へ逃げ込んでくれたもんだよ。本当に……厄介な……」ステイルも面白く無さげな表情で、苦々しげに呟いた。彼らとインデックスの間には、何かしら複雑な事情があるらしかった。しかし、彼らが感傷に意識を散らした、その瞬間!

「イヤーッ!」路地一帯に響き渡るカラテシャウト。同時、摂氏三千度の炎の壁を突き破って謎の小物体がカンザキたちへ接近! イノケンティウスが咄嗟にインターラプトするが、小物体と接触した瞬間、その身体は爆発四散! 「ゲホッゲホーッ!」吹き散らされた炎の中から現れたのは……レールガンだ! 彼女は執念によって己の意識を繋ぎ止めると、ヒサツ・ワザであるコイン・レールガンの威力によって前後の炎の包囲を破ったのだ!
 音速の三倍で撃ち出される超威力のカラテキャノンは、ソニックブームにより周辺を破壊しながら二人の魔術師へと迫る!

 しかし、それまでであった。打ち出されたコインは魔術師二人の立つ場所のちょうど真横を素通りし、路地の向こうへと消えていった。なぜなら、炎に包囲された時点でレールガンは既に満身創痍であったのだ。ジツの連続行使に加え、集中力を削るようなカラテの打ち合いの直後、敵を直接目視不可能なうえ、酸欠寸前の状態で放ったヒサツ・ワザがそうそう当たるわけもない。しかしそれでも、彼女は未だ戦闘体勢を解こうとしなかった。己の背後で泣き続けている少女……インデックスを守るために! 「……貴方は」カンザキは驚愕の感情を露にすると、静かに尋ねた。「何故、そんなにも、その子を……」「あの子……」それを受けて、レールガンがぽつりと呟いた。「助け……求めなかった……から……」

『なんでそんなに親切にしてくれるの?』朦朧とするレールガンの脳裏に、ソーマト・リコールめいて、インデックスが己に向けて言った言葉が思い出される。『本当に……頼っても、いいのかな……?』涙を流しながら、本当に……本当に嬉しそうに、そして縋るような言葉だった。あの感情は真実だと思った。この子に何かをしてあげたいと、レールガンは……ミサカ・ミコトは理屈では無く、心でそう思ったのだ。

 だというのに、あの時、カンザキの圧倒的カラテにミコトが恐怖を覚えた時。『は、……く、』苦しそうな表情で重金属酸性雨の水溜りに蹲りながら、インデックスはこう言ったのだ。『、……げ、』言葉にもならぬほどの小さな囁き。しかしレールガンのニンジャ直観力は、彼女の意図するところを正確に把握していた。即ち……『ハヤク ニゲテ!』

 一番恐怖を感じているのは彼女のはずだ。あんな恐ろしいジツを使う非モータルが、朝を問わず夜を問わず追いかけてきたら? ……ミコトには耐えられない。もしも己がニンジャで無ければ。ガクエン・レベルファイブの第三位という強さと誇りを持つレールガンで無かったとしたら。ただのか弱い中学生、ミサカ・ミコトであったとしたら……きっと、耐えられない。『タスケテ』ではなく、『ニゲテ』と叫び、そのままあの魔術師達に己の身を差し出す恐怖に、きっとミコトは耐えられないだろう。

『皆が無事ならば、それで何も問題は無い』数日前に起きたとある事件の折。デパート内で起きた爆発事件を人知れず食い止めた少年……あのウニめいたヘアスタイルの男子高校生は、目撃者であるミコトにこう告げていた。『誰が助けたかは、肝要では無かろう』その言葉を頼りに今、ミコトは朦朧とする意識を繋ぎ止めている。

 カンザキの言うとおり、確かにミコトはこの件に無関係だ。たが、この小さく無力なシスターは……例え本人が求めようとしなかったとしても……助けが必要だ。誰かの、誰でもいい、誰かの行う、心からの助けが。ならば、それを行うのが自分でも問題はあるまい。必要な時、必要な場所に自分が居たのであれば、そんな小さな彼女を助けようと、ミサカ・ミコトが頑張ることに……罪は、無い。

「怖かったよね……辛かったよね……」ミサカ・ミコトは……レールガンは、水溜りの中で泣きじゃくるシスターに向けて、か細く届かぬ声小さな声を呟いた。「お姉さんが、守って」次の瞬間、痛ましげな表情を浮かべるカンザキの放ったワイヤーが、レールガンの顎先を掠った。軽く触れるような一撃。それだけ彼女の脳はシェイクされ、強制的に意識を飛ばされる。「あ……」自分の傷ついた膝が崩れていく様子を視認し、揺れる視界の中でレールガンは己の無力を噛み締めた。ショッギョ・ムッジョ! 少女の切ない願いを無慈悲な現実によって手折るこの仕打ち! おお! ブッダよ! まだ寝ているのですか!?

(……あ)しかし、意識を失う直前。宙に浮いたレールガンの視線は、奇妙な赤い光を捉えた。路地の彼方、重金属酸性雨の向こう側に浮かぶ、センコ花火めいた不思議な灯火。(……そっか)見覚えのあるその輝きに、レールガンは安堵した。(アイツ……今度は、こんなところで、ひと、だ、す……け……)

「ドーモ。ハジメマシテ。イマジンブレイカーです」ショーユめいた黒い闇の中に落ち行く意識の狭間。レールガンの鋭敏なニンジャ聴覚は、確かにその声を捉えた。「……ゲンソウ殺すべし」


「エレクトリック・ペイバック」#2終わり



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 ※そういや忍殺SSなのにカラテという言葉を全然使ってなかったなあ、ということでやたらとカラテプッシュが入る回。
 ※しかし電気ビリビリで敵を倒した奴は歴史上存在しない。
 ※そしてカトン・ジツはデスノボリ重点。みんな知ってるね。


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