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[35037] 【ネタ】チートでエムブレム(現実→マルスに憑依)【完結】
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2016/06/29 22:55
これは ファイアーエムブレム 紋章の謎(SFC版) の二次創作小説です。
注意事項は下記の通り。

・神様転生
・憑依型オリ主
・???有り
・登場人物はSFC版準拠(リフとか出ない)
・原作にはないSS限定の設定有り
・一部原作キャラの性格が変わってます
・誤字とかありましたら指摘してくださると助かります


・ハーメルン様でも投稿を始めました



1.始まりはテンプレ。



 目覚めると、そこは見たことの無い部屋──洋室だった。
 風でふわりと揺れるカーテン、大人の身長大ほどある本棚、シンプルながらも高級感を感じさせるインテリアの数々。
 ……俺の部屋は右を見ればゲーム用テレビ、左を見ればパソコン、上を見ればクーラーと文明の利器に満ちた部屋であったはずだ。
 であるにも関わらず、いま俺が眺めているこの部屋は創作物などでよく見られる〝おファンタジー〟全開の素敵な部屋。……どういうことだ。

「──ん?」

 もしかして某国に拉致でもされた?などと頭を抱えていたら、パサリという音が聞こえた。音がした方向に視線を向けると、そこには大きなテーブルが。
 そのテーブルの上に何かがあった。音の正体はそれなのだろうか?
 気になったのでベッドから降りて──

「あれ?」

 そこでやっと気付いた。……背が縮んでる!
 プルプルと震える幼い、小さい手で、テーブルの上にあるもの……封筒を手に取り、中身を取り出す。
 封筒には二枚のカードと一枚の手紙が入ってた。カードを横に置き、まずは手紙を読んでみることに。
 ……手紙には日本語で、

『ちょりーッス! 俺、神様。 手違いで君を死なせちゃった☆ めんごめんご。 お詫びに転生させてあげるから許してちょんまげ!』

 そんな内容の謝罪文(?)が書かれていた。

「う、お……!?」

 手紙を読み終えた瞬間、全身に鈍い痛みが走る。10秒にも満たない苦痛の後、この身体の持ち主だった少年の記憶が一斉に蘇った。
 俺はガサッ、と手紙をテーブルの上に乱暴に捨て置き、震える身体を引きずって部屋の隅にある姿見の前へ移動する。
 そこに映っていたのは……

「は、はは……、俺、マルスに憑依しちまった……!」

 鏡に映っていたのは、ファイアーエムブレムの主人公『マルス』その人だった。



2.マルス、立つ。



 かつてアカネイア大陸を力と恐怖で支配していた竜族の王 メディウスが、今より六年前にドルーア地方にて復活。
 メディウスはドルーア帝国を再興すべく、 竜 族 マムクートを集め始める。

 父王を暗殺し実権を握ったマケドニアの新しき王 ミシェイルは、グルニア王国と共にドルーアとの同盟を表明。ドルーア帝国が復活した。

 翌年、ドルーアはアカネイアへ侵攻。後に暗黒戦争と呼ばれる戦いの始まりである。
 その二年後、アカネイアは滅亡。マルスの故郷アリティアは同盟国グラの裏切りを切っ掛けにドルーアに屈した。
 マルスは少ない家臣を連れて東国の島国タリスへと亡命する。
 アカネイア最後の王族ニーナもまた、何者かの手引きによりオレルアンへ逃れた。

 マルスがタリスへ来て二年。彼は老騎士ジェイガンの指導のもと少しずつ成長していった。
 家臣であり兄弟弟子でもあるアベルとカイン 重装騎士ドーガ 弓兵ゴードン等と共に、マルスは修行の日々を送っていた。
 そんなある日、マルスのもとにタリスの王女シーダがやってくる。
 彼女は必死の表情とともにマルスへすがり付く。

『ガルダの海賊が突然襲ってきてお城を占領したの! マルス様お願いします、お父様とお城の皆を助けて!』

 マルスは力強く頷き、戦いの準備を始めるよう家臣に告げる。
 タリス城奪還作戦。これが彼の初陣となる。

 マルスの祖国奪還の旅が、ここタリスから始まろうとしていた。


3.ガルダの盗賊 トッポ


 俺の名前はトッポ。ガルダ海賊団の見習い盗賊だ。いま俺は世話になってる組織の上司 海賊ガザック様の命令で村を襲っているところさ。
 ここタリス島には騎士団が無い。だから俺みたいな見習い盗賊でも簡単に村や町から略奪出来るから楽でいいぜ。

 元々俺はグルニア王国の騎士だった。……なぜグルニアの騎士様がこんな辺境に居て、しかも盗賊にまで落ちぶれたのかって?
 クビだよクビ、ロレンスとかいうクソッタレの上官にグルニアから追い出されたんだよ!
 クビになった理由は「アリティアで略奪行為をしたから」だってよ。
 ハッ、笑っちまうぜ! ドルーアと手を組んで色んな国を滅ぼしたグルニアが奇麗事をぬかすんだからな!

 グルニアを追い出されてから色々あった。そんでまぁ、今はここに落ち着いてるって訳だ。

 ……あー、やめやめ! 昔の話は思い出すだけでもイライラすらぁ!
 さっさと金を奪って本隊と合流するか。


◇◆◇


「……ん? なんだありゃ?」

 金目のものをあらかた袋に詰め込み、さぁ合流地点へ向かおうとした時。
 遠くから砂煙が見える。何者かが廃墟と化したこの村へ向かってきているのだろう。

「……」

 トッポは無言で剣を抜く。向かって来た者が誰か分かったからだ。
 あれはタリスの東の砦に住んでいる者の一人──マルスという名の小僧だ。

 マルスは周囲をキョロキョロと見渡している。まるで何かを探しているかのように。
 そして───

「───!」
「チィッ!」

 マルスとトッポの視線が重なる。どうやら彼はトッポを探していたようである。
 トッポは鉄の剣を構えて、マルス目掛けて駆け出す。増援を呼ばれる前に速やかにあの小僧を排除しなければならない──

「け───じゅ───」
「──え?」

 呟きが聞こえたのか、トッポは思わず足を止める。……今、この小僧はなんて言った?
 マルスは〝ニィッ〟と喜色満面の笑みを浮かべながら一部の傭兵に愛用されている剣──キルソードを構え、同じセリフを繰り返す。





「経験値よんじゅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛?!」




 経験値40。それが騎士から盗賊にまで落ちぶれた男が聞いた最後の言葉だった───





あとがき。
マルスがタリス島の時点でキルソードを持ってる理由は何話か進んだら明かされます。



[35037] マルス「○○バグはまかせろー」 メディウス「やめて!」
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2015/11/19 22:24
1.アカネイア暦595年(憑依から一年後)



 マルスとして目覚め一年経った頃。私は一つの疑問を解消すべく行動を起こそうとしていた。
 ……今はアカネイア暦595年。まだメディウスは復活していないはず。あの疑問を解消するチャンスは戦争前の今しかないのである。

 そんな訳で、いま私は父上──コーネリアス王の下へ訪れている。

「ちちうえ、ちちうえ!」
「ん? おぉマルス、そんなに慌ててどうしたのだ」

 両手をわたわた可愛らしく振りながら駆け寄る私を、父上はニッカリと男臭い笑みを浮かべながら優しく抱き上げ、そのまま肩車へ。
 アリティア王である我が父コーネリアスは、これぞ武人と言わんばかりの筋肉を誇るハイパー・マッチョメンであった。

 そんな父上の目に視線をヒタッとあわせ、私は〝お願い〟する。

「ちちうえ、おねがいをもうしあげます!」
「ん? よいぞ、私に出来ることならばな。……それにしても、ふふ。貴族らしい、丁寧な言い回しをするようになったな。偉いぞマルス」

 頭をグリグリされる。父上の手のひらはゴツゴツしているから優しく撫でてるつもりでも微妙に痛い。
 しかし馬鹿正直に「いたい」と言って不興を買うわけにはいかない。私は痛みに耐えながら、

「ちちうえ、わたしはマケドニアのドラゴンナイトを見てみたいのです!」

 ショタッ気のある女性が見たら鼻血ものの、自分の容姿を最大限活かした極上の笑顔を浮かべながら「マケドニアへ行きたい」とお願いした。



◇◆◇



 それからひと月後、私はジェイガン達家臣一団をお供にマケドニアへと旅立った。
 マケドニアへはカダイン、ラーマン神殿、グルニア王国と陸路で南下し、グルニア港から船でマケドニア港へ、それから首都へ向かうとのこと。
 掛かる日数、実に3週間。 長い、長いよジェイガンさん!(←八つ当たり)

 これだけ時間(と旅費)をかけたからには何としても〝アレ〟が出来るかどうか確認したいところだ。

 そんなこんなで3週間後。我々は無事にマケドニアへと到着した。この国には2週間ほど滞在する予定である。

 初日、二日目は旅の疲れを癒すためひたすら休んだ。
 三日目、マケドニアの国王陛下と、その息子ミシェイル王子の二人とマケドニア城で謁見。堅苦しい会話を一時間(うへぇ…)ほど交わした後、私とミシェイルは部屋から退室。「こちらへどうぞ」と王子に連れられ、ミネルバ王女 マリア王女の居る部屋へ案内された。
 ……まさかここで彼女らと知己を得ることになるとは思ってもいなかった。ミシェイル王子とも友好な関係を結ぶことが出来、僕満足!(もう古い?)

 しかしここで満足している場合じゃねぇ! 私がマケドニアへ出張った目的は、ミシェイルと友情フラグを立てることじゃなく、王女姉妹と恋愛フラグを立てることでもないのだから。



◇◆◇



 ──夜中。もうすぐ春も終わるというのに肌寒いその時間。
 私は家臣のアベル、カインの三人で〝とある場所〟を目指していた。

 目指していた場所はすぐに見つかった。あとはここら一帯を……

「アベル、カイン、シャベルは持った?」
「「ここに!」」

 クールなイケメンヴォイスがシンクロする。腐の字が聞いたら悶絶すること確実である。

「よし……じゃあ、掘るよ!
「「応ッ!」」

 袖を捲くり気合を入れる私と、同じく袖を捲くりシャベルを構えるアベルとカイン。
 今ここに、〝はねばしのかぎ〟を探す戦いが始まった……!



2.財宝バグ



 私がふと疑問に感じたこと。
 それは『宝箱から物を取り出すときに現れる4つのボタンとファンファーレみたいな音』であった。

 私は父上に連れられて砂漠の国カダインへ行くことが多い。
 そのため、カダインへ行く時は必ず全身を覆い隠す専用のマントを持っていく。(砂漠で生肌を晒すなど自殺行為そのもので、マントは必須)

 そのマント、普段は大き目の宝箱に入れて部屋の隅に置いてあるのだが。
 ……以前宝箱からマントを取り出した時、『パパラパパラパパパパー♪』という軽快な音と同時に4つの小さいボタンが出た。
 その音は一秒も経たずに聞こえなくなり、ボタンも10秒ぐらいで消える。
 だから最初は放置していた。特に害は無さそうだったし。

 しかし、ある日ふと思い出す。

「あれ……もしかしてあの音って、アイテム手に入れた時に流れる音じゃね?」

 そう。そうなのだ。
 ファイアーエムブレム紋章の謎(SFC版)で宝箱等からアイテムをGETした時に流れる音なのだ、あれは!
 それを理解すると『4つのボタン』の正体も判明する。

「赤、黄、青、緑……スーファミのコントローラーのボタンか!」

 4つのボタン。それは間違いなくSFCコントローラーのボタンであった。

 これは一体何を意味するのか。私は悩みに悩んだ。知恵熱出してぶっ倒れるという事態になるまで考えた。
 そして出した結論が……

「もしかしたら出来るかもしれない……財宝バグを!」



 財宝バグ。それは『 FE 紋章の謎 第二部 英雄戦争編 』で登場する『かくされたざいほう』を利用して出来る裏技──否、バグ技である。
 これはゲームバランスを著しく崩すバグ技なので|ファイアーエムブレムを愛する者《エムブレマー》には不評だ。
 …が、ストーリーだけを楽しみたい、サクサクプレイをしたい、俺TUEEEをしたいというライトプレイヤーには概ね好評なバグ技だったりする。

 ではこの財宝バグとは何なのか?
 それは──入手した『かくされたざいほう』の使用回数をバグらせるというものである。
 例えば跳ね橋の鍵。これは一度使用すると消滅するという使い捨て仕様のアイテムだ。この鍵をアイテムバグでGETしたとしよう。
 …アイテムバグでGETしたその鍵は使用回数がバグり、何度でも使えるようになるのだ!

 その仕様は売買にも適応される。
 普通の跳ね橋の鍵は500ゴールドでしか売れない。
 しかし財宝バグで使用回数をバグらせた鍵は6万4千ゴールドで売れる。
 これだけ金があれば強力な武器等を沢山購入し、ゲームを有利に進めることが出来る。
 しかも跳ね橋の鍵を使った財宝バグは序盤で行うことが出来るため、ヌルゲーとなるのは確実であろう。

 ここでちょっと思い出して欲しい。
 この財宝バグ、『かくされたざいほう』ならば全てに適用されるということを。

 『 英雄戦争編 』の中盤MAP、マーモトード砂漠──通称 死の砂漠。
 アンリの道とも呼ばれるその砂漠に、大量の『かくされたざいほう』がある。
 そしてそこにある財宝は、ほぼ全てステータスUP用アイテム。

 ……エムブレマーが財宝バグを嫌う理由がここにある。
 マーモトード砂漠で入手出来るステータスUP用アイテムを財宝バグで入手した場合、カンストまで簡単にステータスUPすることが出来るのだ──



◇◆◇



「確かめなきゃ……」

 財宝バグ。もしそれが出来たのならば……
 しかしどこで確かめる? 私の記憶が確かなら、隠し財宝は全て危険な場所に……あ。
 あった、安全かつ確実に出来る場所!

「──マケドニア!」

 そう。マケドニアにある『かくされたざいほう』──跳ね橋の鍵!

 これが私が父上に我侭を言ってマケドニアまで来た理由である。
 財宝バグ。それが出来るか否か。
 答えは、間もなく出るだろう。
 ここ、マケドニアの地で──


◇◆◇



 パパラパパラパパパパー♪

 かくれたざいほう をはっけんした!

 はねばしのかぎ をてにいれた!




◇◆◇



3.諸君。私は財宝バグが好きだ。財宝バグによって得られる資金が好きだ。



 サムスーフ山。いつの頃からか山賊や盗賊が多く巣くう山。
 近くの村々や旅人を襲い、金品を強奪する山賊達が跋扈する地帯。
 人はその山をデビルマウンテンと呼び、恐れた──



【───山賊達の砦】

「おい、聞いたか、例の噂」
「ああ……ガルダの海賊が全滅したってヤツか?」
「ああ。何でも青いマントを着た女顔の小僧が、薄気味悪ィ声を張り上げながら砦に一人で乗り込んで、そこに居た30人を皆殺しにしたって」
「なんだそりゃ? ないない、さすがにそれはないわー。一人で乗り込んで30人を? ないわー。それ完璧作り話だわー。」
「俺もそう思うんだけどよぉ。作り話にしちゃぁちょっと不気味すぎるんだよな……」
「なにがだよ」
「………けいけんち。」
「は?」





「ケイケンチ ヨコセ って叫びながらどこまでも追いかけてくるんだって。」
「なにそれこわい。」






「それとな」
「なんだよ、まだ何かあんのか?」
「そいつがいる組織つーか、軍な?」
「……おう」





「全員、キルソードとサンダーソード持ちらしいんだよ。」
「なぁちょっとここから逃げる準備しようぜ?」





・???有り → バグ技有り

バグ技(事実上のチート)が解禁されました。



[35037] マルス「そろそろデビルマウンテン行こうぜ?」 サムシアン「おねがいです、こないでください。」
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2015/11/19 22:32
1.戦後処理



 ガルダに巣くう海賊団を駆逐した我らアリティア騎士団。
 現在我々は海賊達に荒らされた町の復興……所謂『戦後処理』をしている最中である。
 間借りしている屋敷で食料配給の書類に淡々とサインをしていると、二人の人物が「マルス王子に会いたい」とやってきた。



◇◆◇



【一人目   狩人 カシム】

 一人はなんとあのタリスの狩人カシムである。戦場にいないと思ったらこんなとこで出てきやがった。
 ……原作 第二部のエンディングで<タリスの詐欺師>と表示されショックを受けたのは私だけではないはず。
 初めてそれを見た時に「母親が…とかいうのは演技だったのかよチキショー」と嘆いたものだ。
 どうやらこのカシム君、志願兵……というか傭兵として我が軍に参加したいらしい。


「マルス様……うぅ、母が、母が病気で、病気を治すのにお金が必要なのです。軍に志願いたしますので前払いでクスリ代を……」


ドンッ←金貨袋を置く音


「5万ゴールドある。誠心誠意、私に仕えよ。」
「どこまでもお供しますマルスさまぁッ!」



 所詮世の中金である。



◇◆◇



【二人目   マルスの元教育係り モロドフ】

 二人目は実に二年振りな老人、モロドフ爺だ。
 二年前、アリティアから脱出する際、私は彼と別れた。
 私はジェイガンに連れられ、モロドフは姉上や母上達と共に脱出した。
 父上は我々が安全圏まで脱出するまで囮を務めた後、隙を見てアリティアから脱出したらしい。
 ……ん? ああ、そうそう。父上生きてるから。

 私は財宝バグを利用して資金を量産、アリティア騎士団3000人分の武器を【秘密の店】から購入、第三者経由でアリティア軍に渡した。
 6万4千Gぼっち(跳ね橋の鍵の財宝バグ)で3000人分の武器用意出来るのか、と疑問に思うかもしれない。
 しかしそこは資金を量産という表現に注目していただきたい。……まぁ、長くなるので説明はまたの機会になるが。
 話を戻そう。高性能な【秘密の店】の武器のおかげか、正史では戦死するはずの『メニディ川の戦い』で、父上は見事生き残ることが出来たのだ。
 しかもその戦場にいたグルニアのカミュ(グラ槍持ち)を瀕死の重傷に追い込み、アリティアを裏切り背後から襲い掛かってきたグラを文字通り全滅させたとか。父上パネェ。
 最も、アリティア騎士団も壊滅的大打撃を受けたため撤退。アカネイアを救う為に編成された3000人の騎士団は200人弱まで減らされ、アカネイアに到着する前に自国へ戻らざるを得ない状況に追い込まれてしまった。
 アリティアの宝剣ファルシオンはメニディ川からの撤退戦で紛失。史実なら闇の司祭ガーネフがファルシオンを入手するはずだが……。

 アリティアへと帰還した父上は私達家族を呼び、事情を説明。その後すぐに国から脱出する運びとなった。
 私はジェイガン、アベル、カイン、ドーガ、ゴードンの六人で。母上と姉上はモロドフを中心に10人ほどの人員でカダインへ。父上と縁のある高名な司祭様の下へ落ち延びたようだ。
 父上は私達を逃がすための時間稼ぎとして生き残った軍を率いて囮になった。その後隙を見て戦線離脱、重症を負ったらしいが後遺症はなく、一年ほど前から戦場に出れるようになったらしい。

 さて、そのモロドフ爺だが。彼は私に一つの話しを持ってきた。
 曰く、「アカネイア最後の王族ニーナ王女殿下が、狼騎士団長ハーディン殿 及び 合流したアリティア軍がオレルアンで蜂起する」とのこと。
 蜂起か。正史では私達が合流するまでしなかった気がするが、父上が生きてハーディン殿達と合流するという変化がバタフライ効果となって表れたのかな?
 本来なら私達も合流して共に戦うべきなのだが、戦後処理がなかなか終わらない。ニーナ様達の蜂起に絶対に間に合わないよ……。
 モロドフ爺にそう話したら「御立派になられましたな…」と目元をウルませていた。復興に尽力する私に感動したらしい。嬉しいんだけど素直に喜べない複雑な感じ。だって復興支援は半分以上チート頼りだし……。

 まあ私の気分なんてどうでもよろしい。父上達の蜂起に合流するのは無理だけど支援ならば出来るからそうしとこう。具体的に言えば軍資金の融通だ。
 私はモロドフ爺に「これを持っていって欲しい」とゴールドの入った袋を渡す。



「10万ゴールドある。これを解放軍の軍資金として使って欲しい。」
「えっ。」




◇◆◇



 モロドフ爺との再会から一週間後。私達は一通りの戦後処理を終え、ガルダから旅立とうとしていた。
 移動用の馬の前で待機していると、忠臣であり武芸の師でもあるジェイガンと、ガルダで合流した新しい仲間 オグマがやってきた。

「マルス王子、アリティア騎士団、移動の準備が完了いたしましたぞ」
「同じくタリス傭兵団、準備が完了しました」
「うん。それじゃ、予定通りに行こうか」

 ジェイガンに下から押し上げてもらい馬に跨る(←一人で乗れない)
 ブルル、と鼻息荒くする馬を落ち着かせ、部隊の皆が待機している広場へと移動した。

「マルス様!」「マルス王子!」「マルス殿!」

 そこには私の自慢の家臣であり、部下であり、仲間がいた。
 アベル、カイン、ドーガ、ゴードン。シーダ、バーツ、マジ、サジ。カシム……は敵に金を積まれたら裏切りそうな気がするのでしっかり手綱を握っておかなければ。

 シャンッ! と勢い良く腰のキルソードを抜き、次の目的地を告げる。

「──我々はこれよりガルダから西にあるサムスーフ山を目指す! 目的はサムスーフ山に巣くう山賊、サムシアンの排除である!」



◇◆◇



2.傭兵 ナバール



 夜。焚き火を10人ほどの男が取り囲み、それぞれ酒盛りを楽しんでいる。
 ここはサムスーフ山にある東の砦。この地方で暴虐の限りを尽くす山賊──サムシアン達の仮宿である。
 彼らはこの砦を中心にし、旅人や町を襲っていた。

 その砦の地下牢に一人の女性が囚われている。
 彼女の名はレナ。商隊に紛れてオレルアンに向かっていたところをサムシアンに襲われ、拉致されてしまった。
 サムシアンの頭目曰く、「上物の女は奴隷商人に売るに限る」
 そう、このままだと彼女は間違いなくノルダの奴隷商に売られるだろう。
 そして、そんな外道の行いを止めようとするものはここには居なかった……



◇◆◇



「ぐ、ちっくしょ……」

 軋む体を起こし、意識を無理やり覚醒させ、今自分が居る場所を確認する。
 そこは彼にとって見慣れた地下牢。両手両足は拘束され、全身には鈍い痛みが走る。

「失敗、かよ……!」

 彼の名はジュリアン。少し前まではサムシアンだった男。
 彼はサムシアンに拉致された哀れな少女レナを逃がすため、仲間を裏切った。
 砦に居るサムシアン達が寝静まった夜中、ジュリアンは密かに地下牢へ進入、レナを牢屋から出した。
 そして彼女を連れて砦を脱出、近くの町まで逃げようとした。

 彼にとって不幸だったのは、砦から逃げ出す瞬間を見張りのサムシアンに見つかってしまったことだろう。

 すぐに追撃部隊が編成され、ジュリアンとレナは捕縛されてしまった。
 ジュリアン一人だけなら逃げ切れた。山道に慣れていないレナを連れていたために、彼らは逃げ切れずに捕えられたのだ。
 レナは再び地下牢へ。裏切り者であるジュリアンは元仲間にリンチされた後、身動きが取れないように縛られた状態で地下牢へ放り込まれた。すぐに殺されなかったのは、裏切り者は頭目の手で殺すという掟があったからだ。

「くそ、このままだとレナさんが……」

 手足を縛るロープを歯で器用に食い千切りながら、どうやって脱出するかを考える。
 サムシアンは決して愚かではない。一度脱走を許してしまった以上、二度目は無いよう警備を厳重にしているはずだ。

「見張りのことをきちんと調べておけば……くそ!」

 無計画に動いた自らの迂闊さに怒りを覚えていた時、人影が二つ牢屋の前に現れた。

「チッ、俺の処刑の時間かい?」
「……」

 ジュリアンの問いに人影は答えず、左手に持っていた剣を一閃する。──鉄格子が綺麗に切り落とされた。
 人一人通れるぐらいに鉄格子が切られた後、もう一つの人影がジュリアンの元へ駆け寄る。

「ジュリアン……!」
「れ、レナさん? なんであんたここに……!」

 その人影はレナであった。どうやってかは知らないが、警備が厳重になってる地下牢から脱出してきたらしい。
 もう一つの人影──黒い剣を持った長髪の男が、ジュリアンへと『鉄の剣』を手渡す。
 その男をジュリアンは知っていた。最近サムシアンに雇われた傭兵の、

「あ、あんたは確か…ナバール、だったよな?」
「そうだ」

 男──ナバールは首肯する。
 レナはジュリアンを縛るロープをナイフで切りながら話す。

「聞いてジュリアン。ナバールさんはね、村の人が私を助けるために雇った傭兵の人なの!」
「えっ!?」

 傭兵ナバール。彼はサムシアンに攫われたレナを救う為にサムシーフ山のふもとにある村から雇われた男だった。
 ナバールは懐から地図を取り出し、それをジュリアンへと渡す。

「その地図通りに逃げろ。山に慣れない女の脚でもその地図通りならば逃げ切れる。…噂では〝アリティアの王子〟がふもとまで来ているという。彼等に保護してもらうといい」
「あ、ありがてぇ…!」「ありがとうございます、ナバールさん…!」

 ナバールが背を向け、出て行こうとする。ジュリアンは「アンタも一緒に」と言うが、

「俺はお前達とは行けない。……野暮用がある」

 と、どこか期待に満ちた声でジュリアンの誘いを断った。



◇◆◇



「あの時の決闘から何年経ったかは覚えていないが……奴のことだ、随分腕を上げているだろう」


 見張りの隙を突いて逃げ出すジュリアン達の背を砦の一室から見送りつつ、ナバールは彼らしくもなく呟く。


「私と貴様、今度はどちらが勝つか──楽しみだ」


 戦いの時は近い。勝つのはナバールか、それとも──




次回へ続く!



[35037]      幕間1
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2015/11/19 22:43
1.カシムの真実


 痩せこけた少年がハァハァと激しく息を乱しながらも休む事無く走りつづける。
 少年の名はカシム。彼はマルスの軍に志願兵として雇われた後、一時的に故郷へ戻ってきた。
 いまカシムは実家へ向かって走っている。その背には大きなカゴが。中には多くの物が詰められている。

「リーン!」
「……お兄ちゃん? お兄ちゃんなのね!?」

 古く軋んだ玄関のドアを勢い良く開け中に入るカシムに、やや驚きながらも「お帰りなさい!」と愛する兄を迎える妹のリーン。
 ここはカシムの実家。この家には病気の母が一人と、幼い弟妹達が八人暮らしている。
 貧乏人の子沢山という家だったカシム家は、飲んだ暮れで満足に仕事をしなかった父が居た時から貧乏で、働き手の一人だった母が病気で倒れる、父が失踪と絵に描いたような不幸が続き、母の病気を治すクスリを買う金も出来ず、満足な生活すらままならないほど困窮していた。
 カシムはその家を支えるため、タリス島からガルダまで出稼ぎに出ていたのだ。

 家へ入ってきたのが長兄のカシムだと分かると、部屋の奥に隠れていた他の兄弟達も出てきて、帰ってきた彼を迎えた。

「リーン、聞いてくれ! 俺な、マルス様の軍に志願兵として参加したんだ!」
「えっ……」

 背負っていた荷物を下ろし一息付いた後、カシムはリーンにそう告げる。
 マルス王子が祖国奪還のためタリスから出兵したのは三週間ほど前。彼らの初陣がガルダ海賊団との戦いであり、圧倒的力の差で壊滅させたというのはタリス島に居る者ならば誰もが知っている話だ。貧民層のリーンですら知っている。
 そのマルス王子の軍に兵士として加わるということは、カスムは常に戦場、常に最前線に立つということになるだろう。
 そんな危険な仕事を兄にしてほしくなかった。
 軍を抜けるよう説得しなくてはと口を開きかけたリーンだが、続くカシムの台詞に絶句を覚える。

「俺さ、最初は傭兵として参加しようと思ったんだ。そうすれば前金でお金貰えると思ってさ。前金は多いか少ないかはちょっと分からなかったけど、それでも母さんのクスリ代の足しになるだろうって。でさ、マルス様に……ちょっと情けないけど「母のクスリ代が」って感じで演技してお金を多く貰おうと思ったんだよ。そしたらマルス様、俺に5万ゴールドをポンと渡してくれたんだ。最初はその大金に喜んだりもしたけど、だんだん恐くなってきて……クスリ代だけでいいってお金を返そうとしたんだ。でもさ、マルス様はこう言ってくれたんだ。
『確かな弓の腕を持つ君を雇うんだ。これでも足りないくらいだよ』って。
……嬉しかったな。俺のようなチンケな猟師を、そこまで買ってくれるなんてさ」

 その時のことを思い出したのか涙ぐむカシム。リーンは一瞬思考が停止する。
 兄の弓の腕を買った? 貴族の出でもなく、傭兵でもなく、地方の田舎猟師の一人でしかない兄を……?
 カシムは確かに弓兵としてのレベルは高い。村にいるカシムの元猟師仲間の話を信じるならば、正規兵と比べても遜色無いレベルだろう。
 見る人が見れば雇いたくなるのも道理。だがそれは〝弓兵として動いている光景を確認される〟という前提条件が付いてこそ。
 マルスとカシムはガルダにある軍の駐屯地で初めて出会ったという。だというのに、カシムの話しからはマルスは以前から兄のことを知っていたように感じる。

 リーンの中でマルスに対する不信感が膨れ上がっていく。彼女は兄にマルスのことを問いただそうとして──

「あ……」

 涙で目を充血させた兄が母にクスリを、幼い弟妹達にカゴから取り出した服やお菓子を配っているのを見て、自分はなんて酷い質問をしようとしたのかと情けなくなってしまった。
 そんな俯いているリーンに、カシムは包装された袋を手渡す。

「ほら、リーン。お前の服を買ってきたんだ。気に入ってくれるといいんだけど……」
「お兄ちゃん……」

 その服は、平民でもあまり着ない粗末な服であった。
 彼女はそれを見てクスクス笑う。

「もう、それだけの大金があるんだったらもうちょっとちゃんとした服を買ってきてくれればいいのに」
「え!? あ、ご、ごめんよ! ええと、その、倹約家のリーンのことだから高い服買っていくと『服は着れれば安物でいい、あとは生活費にまわす』って説教されるかもって思って…!」
「ひっどーい! お兄ちゃん、あたしのことそんな目で見てたんだ!」

 リーンの責める言葉にタジタジとなるカシム。幼い弟妹達は兄に貰ったお菓子を食べながらキャッキャとはしゃぎ、病床の母はプレゼントされた服を大事に抱きしめるリーンと、兄の帰りに喜びの声をあげる子供たちを見て静かに涙する。
 父が失踪し、母が病床についた時から常に暗い雰囲気に包まれていたカシム家。
 その日からこの家は、失われていた明るさを取り戻した───



 三日後、カシムは家にお金を全て置いていきマルス軍へと戻る。
 リーンは兄からプレゼントされた服を着て、港から見送ったという。



 マルスは知らない。正史でカシムがガルダの海賊に身を落としていた、その理由を。
 マルスは知らない。正史でカシムが<詐欺師>となった、その理由を。

 カシムは家族を養う為に海賊に加わった。
 カシムは家族を養う為にかつての仲間から蔑まれながらも詐欺師となった。

 正史ではカシムの妹リーンは暗黒戦争後 悲惨な最期を迎えた。母を、家族を養うために自らの身を奴隷商人に売り、その結果身も心もボロボロになり、最後には再会したばかりの兄の腕の中で息絶える。それが正史の彼女の未来だった。
 彼女が自分の身を奴隷商人に売ったのはカシムの仕送りが途絶えてしまったからだ。

 リーンの死が切っ掛けだったのだろう。カシムはかつての仲間から軽蔑、侮蔑されながらも、ひたすら金を稼ぐようになった。自らの本心を隠し、ただ金だけを求め続けた。残った家族を養うために。
 その結果、彼は詐欺師と呼ばれ蔑まれるようになったのだ。

 しかし運命は捻じ曲げられる。マルス(憑依者)の手によって。

 カシムが詐欺師になる未来は、仲間に蔑まれる未来は無くなった。
 そう、マルスの手によってその未来は無くなったのだ。

 家族を救われたカシムは、以後マルスに対し絶対の忠誠を捧げ、そして妹のリーンもマルスに忠誠を誓う。
 ここにまた一つ、マルスの手により歴史は変えられた。



 後にカシムは<忠義の騎士>として、修行を積み兄と同じくハンターとなったリーンは<大陸一の弓兵>としてアカネイアの歴史に名を残すことになる。



◇◆◇



2.タリスの王女 シーダ


 シーダ王女は良くも悪くも箱入り娘である。血生臭い光景を見たのはガルダ海賊が城へと強襲してきた時の一度だけだ。
 彼女は光あふるる世界ばかりを見て育ってきた。蝶よ花よと育てられ、どの国にもある闇の部分は一切見せられなかった。
 その『どの国にも存在する闇』を、シーダはこの日見てしまった。よりにもよって祖国のタリスで。

「………」

 シーダは無言で歩いている。今、自分が歩いている場所の光景一つ一つを心に刻む。
 ここはタリスの城下町にある貧民街。表の通りから外れた場所にあるこの通りを彼女は生まれて初めて歩いていた。

 切っ掛けはカシムとの出会いだった。

 ガルダの海賊を退治した後、マルスに会いに来た者が二人居た。そのうちの一人がかつてタリス島の森で出会ったカシムだった。
 彼女は幼い頃ペガサスに乗る訓練を森でしていた。その時に彼女の訓練に付き合ってもらったのが彼だった。
 いま彼女がペガサスナイトとして活躍出来ているのは彼のおかげと言っていいだろう。

 そのカシムが、マルスの執務室から出てきた時に涙を流していた。
 たまたまそれを見かけたシーダは慌てて「どうしたのか」と訊ねる。
 その時、彼女は初めてカシムの境遇を、そしてタリス島の“裏の世界”を知る。

 カシムと共に一時タリスへ帰国したシーダは、城へ戻ること無く貧民街へと足を運んだ。
 カシムからは「やめたほうがいい」と止められたが、彼女はどうしても確かめたかった。

 そして知った。“タリス島の裏の世界”を。平和で穏やかだと思っていたこのタリスにも、明確な貧富の差があるのだと。

 誰もが笑って暮らしていると思っていた。誰もが困る事無く生活していると思っていた。……それらは全て自分の思い込みであるとシーダは理解した。
 彼女は自身の愚かさに怒りを覚えていると、

「──姫、ここは危険です」
「オグマ……」

 タリスの傭兵オグマが、何時の間にかシーダの隣に立っていた。
 シーダはタリス城の父に会うこともなく、その日のうちにガルダの軍駐屯地へと帰る。……いま彼女は、無性にマルスと話したかった。



「なるほど……君もとうとう知ってしまったか」
「もしかしてマルス様は知っていらっしゃったのですか!?」

 駐屯地へ戻ったあと、シーダは今日タリスで見てきたことを友人であるマルスへと話した。
 彼女の話しを聞き終えたマルスが発した第一声が「知ってしまったか」である。どうやら彼は大分前から知っていたようだ。
 マルスは椅子に背を預け、シーダに問う。

「シーダはどうしたい?」
「……貧民街と呼ばれる場所に住んでいる皆さんに、他の島民と変わらない生活を送られるように働きかけるのがタリスの王女としての役割だと思っています」
「でもそれは無理だよね? 少なくとも今は」
「はい、マルス様の仰る通りです。今すぐに出来ることといったら食料の配給でしょうか。ああでも、その為には国の財源を回さないと……でもそれをお父様や家臣達が認めるかどうか……」
「そこが難しいよね。この問題はどうしても政治が関わってしまう。私もその手の問題を解決するために政(まつりごと)を学ぶべきなんだけど、そういうのはモロドフ爺──ああ、私の昔の教育係のことさ──の担当でね。爺は母上達のところに居るから学ぶことが出来ないんだ。ジェイガンは武道一筋で政治はからっきしだし……本当、困ってるんだよ」

 そう言って本当に残念そうに肩を落とすマルス。シーダはやや脳筋なところがあるジェイガンの姿を思い出しクスッと笑う。マルスも彼女に釣られて笑った。
 お互いひとしきり笑った後、マルスが切り出す。

「とりあえずシーダの考えは分かったよ。私は君の考えを尊重する」
「ありがとうございます。……今すぐに動けないこの身がもどかしいです」
「中央の戦争は東国のタリスにすら少なからず影響を与えるからね。タリス王や重鎮の皆さん達にこの問題をどうするかと問うても『戦争が終わらない限りどうにもならない』と言われるだろう」
「はい……無念です」

 シーダは椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる。

「マルス様、お忙しい中私の話しを聞いてくださりありがとうございました」
「うん。私としても有意義な時間を過ごせて良かったと思ってる。ありがとう、シーダ」
「はい! それでは私はこれで──」

 シーダはもう一度頭を下げ、部屋から退室する。
 それを見送った後、マルスは傍らに置いてある<大きな箱>を開け何かを取り出す。
 取り出した〝何か〟は、跳ね橋の鍵と呼ばれるアイテムだった───



 二日後。タリスから戻ってきたカシムと話しをしたいと思っていた彼女は、駐屯地にあるキャンプへと向かう。
 その途中で港から歩いてきたカシムと出会った。

「シーダ様!」
「カシム、久々の実家はどうだった?」
「とてもリラックス出来ました。母も、弟妹達も喜んでくれて───」

 話しに花を咲かせていた二人だったが、ジェイガンに怒られ(人通りの多い場所だった)、慌てて場所をカシムの部屋へと移す。
 夕方に差し掛かる頃まで話しをし、「そろそろ夕飯の時間だから食堂に行こう」と椅子から立ち上がると、カシムは思い出したかのようにシーダに訊ねる。

「そういえば…昨日の昼だったと思いますけど。タリス城から兵の方が来て貧民街で炊き出ししてたんですよ。何でもどこぞの商人から大量の食料物資の支援があったとか。シーダ様、何か知ってます?」
「えっ───」

 そんなこと、私は知らない。そう言いかけ、彼女はふと先日マルスとした会話の一部を思い出す。

 ───とりあえずシーダの考えは分かったよ。私は君の考えを尊重する

 シーダは戸惑うカシムを背に走り出した。おそらく何かを知っているであろうマルスの元へ。



 全ての戦争終了後、シーダはマルスの支援の下、アカネイア大陸の中央国に勝るとも劣らない大国へとタリスを成長させる。
 後に彼女は<タリスの聖母>と呼ばれ、いつまでもタリスで語り継がれていくことになる。



◇◆◇



3.自重しないチート IN マルス編



「カイン、いつものやつやりたいから付き合ってね」
「了解。……マルス様、以前から疑問に思ってたんですけど、あれって何か意味あるのですか?」

 あるんだよ。少なくとも私にはね。

「それじゃ、はい…跳ね橋の鍵」
「これを埋めればいいんですね?」
「うん」

 私が今カインと共にやろうとしていること。それは『跳ね橋の鍵の財宝バグ』の再現だった。
 これに気付いたのは<秘密の店>で買った〝とある本〟のおかげである。



 私がまだ7歳という幼い時分、マケドニアにある隠れた財宝を『財宝バグ』でGETしたのはすでに知っていると思う。
 その財宝…跳ね橋の鍵をアリティアに帰国後売りに行ったのだが。

「王子、この鍵だと500ゴールドになりますがいいですか?」

 といわれたのだ! も、もしかして財宝バグは出来なかったのか!?
 意気消沈し鍵を売らずに城へ戻る。城へ戻るとお供をつけずに一人で城下町へ行った私をジェイガンは説教するが「これからどうすんべ」と鬱ってる今の私には馬の耳に念仏。
 ジェイガンの説教を右から左に聞き流した後自室へ戻り、そのままベッドに身を沈める。その時の私は「信じて掘りに行ったマケドニアの跳ね橋の鍵が武器屋のおじさんに「500ゴールド」と言われ財宝バグが実は出来なかっただなんて…」などと無意識に呟いてしまうほど精神にダメージを受けていた。
 例えるなら「フルプライスで買ったプレイ中のギャルゲーが恋愛ゲームだと思ったら実は凄惨な寝取られゲーだった」というくらいのショックである。無理もないですよね。

 そんな鬱々とした気分で寝返りをうつと、自室のテーブルの上に置いてあるカードが二枚、私の視線に入った。
 そこにあるカードは憑依時に手に入れた『シルバーカード』と『メンバーカード』である。

「メンバーカード……秘密の店なら高値で売れるのかな……」

 普通の店とは違う、一部の人間しか入れない<秘密の店>。
 そこならば跳ね橋の鍵(財宝バグ)を高値で買い取ってくれるかもしれない。
 一縷の望みを託し、私はアリティア城にある<秘密の店>へと向かった──



【秘密の店】

「この鍵は500ゴールド……あら、これは良く見るとレアものですね。失礼しました、これならば6万4千ゴールドで買取ましょう」
「ききききき、き、きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」



 アリティアの<秘密の店>には何度も来たことがある(サンダーソードの鑑賞目的で)
 その時にこの店で取り扱っている品物は全部把握していたのだが……。

「……なんだこれ」

 ショーケースに見たことも無い本が加わっていた。
 その本の商品名にはアカネイア大陸で使われている文字ではなく、今では懐かしい文字……日本語でこう書かれていた。

『神様の贈り物 IN バグ錬金(はあと) 6万4千ゴールド』

 これ、なに?と店員のお姉さんに聞いても「さあ…いつのまにかそこにあったんですよね」という返事。どうやらお姉さんもよく分かってないらしい。撤去も出来ないし困ってるとも言っていた。
 神様の贈り物……怪しいことこの上ない。しかも値段。6万4千ゴールド。私が財宝バグで跳ね橋の鍵を手に入れることが分かっていたと言わんばかりだ。
 怪しい怪しいと思いつつも、これを無視することが出来なかった。バグ錬金。この言葉がどうにもひっかかる。
 もしかしてこれは私や私の家族がこの世界で無事に生き抜くのに必要なアイテムじゃなかろうか?これを買わなきゃ死ぬほど後悔しそう、そう思わせる何かがこれにはあった。

 結局、私はこの本を買った。そして「買ってよかったマヂで!」と思わず前世の言葉使いに戻るほどに歓喜した。
 この本を手に入れたことにより、私は文字通りのチートを手に入れたのだ。





※バグ錬金の書

効果:一度『財宝バグ』で手に入れた武器・アイテムならば、別の場所で何度でも『財宝バグ』を出来るようになる。

例  :はねばしのかぎ の場合
    マケドニアで跳ね橋の鍵を『財宝バグ』で入手する。
    すると、店売りの跳ね橋の鍵でも『財宝バグ』を行うことが出来るようになる

やり方:『財宝バグ』で隠れた財宝を手に入れる
     同じ武器、またはアイテムを店で購入
     購入した武器(アイテム)を地面に埋める→隠れた財宝の完成
     あとはそれを掘ればおk





 あとは皆さんの知ってのとおりである。
 バグ錬金で金を増やし、高性能な武器を購入する。
 ただし購入するのは<秘密の店>から。普通の店より<秘密の店>の武器の方が性能が良いというのが一つ、普通の店では在庫に限りがあって必要な分を買えないが、<秘密の店>なら何故か在庫が尽きることなく大量に購入出来るというのが一つ。
 <秘密の店>は武器や魔道書、アイテムだけではなく、食料や医療品なども置いてあるから侮れない。使い勝手よすぎである。
 ガルダの復興支援やタリスへの支援は、<秘密の店>から買った品物で行った。バグ錬金+財宝バグ最強すぎ。

 そうそう、私が持っているこのメンバーカード。実は普通のメンバーカードではない。
 このメンバーカードを右手で持ったままそこらにある武器屋・道具屋の入り口に入ると、そのまま<秘密の店>に行けるようになっているのだ。メンバーカード改とでも言えばいいかな?このカードのおかげで私はいつでも<秘密の店>へ行くことが出来る。
 それを意味することは一つ。尽きることの無い装備、食料、医療品、即ち『無限の物資』を確保したということだ。

 …………。チートすぎワロタ。





あとがき。
シーダとの恋愛フラグはありません。どっちかというと忠臣フラグが立ってます。なぜこうなったかは話しを作った自分にも分かりません。
あと上に出てきた「バグ錬金の書」ですが、原作にそんなものはありません。このSSにのみある設定です。



[35037] オ「今こそ決着の時!」 ナ「ゆくぞ、オグマ!」 マ「サンダーソード!」 オ・ナ「」
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2015/11/19 22:49
1.タリスの傭兵 オグマ


「──ナバール?」

 30分ほど前、一人のシスターを連れてマルス軍の駐屯地へ駆け込んできた男 ジュリアンの話しの中に、タリスの傭兵オグマは自分にとって因縁のある男の名前が出てきたことに驚き、話しの途中であるにも関わらず問うてしまった。
 ジェイガンは常に冷静を心がけるオグマが感情らしいものを見せたことに驚き、ジュリアンは「あんたあの人を知ってるのか!?」と詰め寄り、マルスは何かを考えるように眉をひそめていた。
 詰め寄るジュリアンをそっと押しのけ、「昔、少し手合わせしたことがあってな」とだけ言い、話しの続きを促す。
 ジュリアンも今はオグマの過去を詮索している場合ではないと理解したのだろう、それ以上は何も聞かず、サムシアンの頭目の名前、戦力、要注意人物などの説明に戻る。
 オグマはその話を聞きながら、自らの過去を振り返っていた──



 オグマはかつてとあるアカネイア貴族子飼いの剣闘士だった。
 その貴族のもと彼は闘技場にて腕を振るい、連戦連勝、ついには大陸一の剣闘士とまで呼ばれるようになった。
 彼は剣闘士──貴族の奴隷という立場でありながらも、その功績により奴隷とは思えぬ待遇を受けていた。

 そんなある日。彼と対戦を希望する一人の剣士が現れる。
 その剣士こそ後に『死神』という二つ名で恐れられるようになった男、ナバールであった。

 当時のオグマは天狗になっていた。
 今の俺は誰にも負けない。アカネイアの聖騎士だろうと、剣王と名高いアリティアの王だろうと、我が剣の前には……。
 自身こそが最強と強く自負し、それゆえに格下と見下し相手を侮っていたオグマは闘技場に立ち──敗北する。
 気が付けば剣を折られていた。気が付けば地に伏していた。気が付けば、負けていた。

 この敗北を機にオグマは変わる。彼から油断と慢心の二つが無くなり、常に思慮深く行動するようになった。
 そして今まで避けていた彼の剣闘士仲間達は、敗北を切っ掛けに変わっていったオグマのもとに集まるようになった。
 これが後に『オグマ達の脱走劇』、『タリスの王女との出会い』に繋がっていくのだが、それはこの場では割愛する。



 今の自分を形作ることになった原因の男、ナバール。
 そのナバールが現在サムシアンと共に行動しているという。
 ジュリアンの話によれば、元々彼はサムシアンに囚われたシスター・レナを救う為に山賊団へ潜り込んだという話なのだが。

(シスター・レナはすでに脱出した。なのに何故貴様は未だに山賊達と共に行動している……?)

 リターンよりリスクの方が大きい危険な依頼を受けてシスターを救ったナバール。その彼が何故未だに山賊達と共に居るのか。
 どれだけ考えても理由は分からない。分からないが……

(あの時の未熟な俺ではない。……今度は俺がお前を倒す。この俺が、必ず!)

 オグマは自らの愛剣──鋼の剣──の柄を握り締め、ナバールとの闘いを決意する。
 そこにあるのは怒り、憎しみ、悲しみ、失望、といった負の感情ではない。
 一人の剣士として、一人の男として。自らの前に立ちはだかるナバールという『巨大な壁』を越えたいという、ただそれだけの、しかし誰も嘲笑うことは出来ない強い決意をオグマは抱いていた───



◇◆◇



【───現実は非情である】


 「サンダーソード!」「サンダーソード!」「キラーボウ!」「サンダーソード!」「かわいそうだが死「サンダーソード!」「キラーボウ!」え、必殺のぬわぁぁー!」「サンダーソード!」「サンダーソード!」「ておのッ」



 ズドドドドゴキュシュバドゴゥ!ふぉんふぉん。



 マルス軍112名(含む義勇軍100人)によるサンダーソードとキラーボウ(そして申し訳程度の手斧分)の大合唱。
 これにはさすがの『死神』もトホホである。

「な、ナバールゥゥゥゥゥゥ!!!」
「つ、強くなったな、オグマ……ぐふ!」


 サンダーソードの雷撃でコンガリとほどよく焦げた『宿敵』を抱き上げ、オグマは絶叫する。
 その宿敵──ナバールは満足気な笑みを浮かべ、しかしややアフロった自らの頭髪を気にしながら、静かに目を閉じた。

 こうして彼らの宿命の戦いは決着が付いたのでした。めでたしめでたし(?)



◇◆◇



2.マスターソード?


 アフロヘアーになったナバール(生きてた)を背負って、オグマはとぼとぼ歩きながら野営地へと戻ってきた。
 そんな彼の下に一人の兵士が慌しくやってくる。

「で、伝令! 西にある廃城からサムシアンの本隊がやってきました! 数はおよそ60!」
「なんだと!?」

 今この地には10人しか兵士がいない。将に至っては自分とマルスの二人のみ。
 この人数はふもとの村を守る必要最低限の人数であり、他は全て東の砦攻略に回されていた。
 兵士にその場で待機しているよう命じたオグマは、マルスの居るテントへ向かって走り出しかけ──

「話は聞いた! 討って出るぞ、オグマ!」
「ま、マルス王子!?」

 完全武装し馬に乗ったマルスが彼らの前までやってきた。
 オグマは「ここは村に篭り防衛に徹するべきです!」と進言するが、マルスは首を横に振る。

「オグマ、我らの勝利条件は『村に一つの損害も出さずにサムシアンを討伐すること』だと思っている。村に篭り援軍が来るまで防衛に徹する。確かにそうすれば確実にサムシアンを討つことは出来るだろう。しかし、しかしだ。それでは村に少なからず被害が出る。それは駄目だ、それでは駄目なのだ。被害が一つでも出ればその時点で我らの負けだ。我らが完全勝利を収めるためにはここで討って出なければならない。……村に被害を出さずに勝利する。それを人は理想論と言うだろう。甘い考えだと言うだろう。しかし我々はその理想を民に見せ続けなければならない。『解放軍』とは、我らの軍とはつまるとこその理想の表現者、体現者でありつづけなければならないのだ。そしてそんな『解放軍』を見た民は明日への希望を、未来への希望を持つだろう。戦乱の無い世界を。親が子を、子が親を、兄弟が兄弟を殺す必要の無い平和な世界を…」

 マルスの言葉にオグマは何も答えられない。…答えることが出来ない。
 祖国奪還の為、ドルーア打倒の為、彼は『理想論』という名の茨に満ちた道を歩くと断言した。
 自分の知る貴族に、自分の知る反ドルーア組織に、マルスと同じセリフを臆面も無く言える人物は果たしてどれだけいるだろうか。
 茨の道と知りながらもそれを進む、こうも強く断言出来る将が、男が居るだろうか。

 オグマはマルスが持つ覚悟の深さを、ここサムスーフ山で初めて知る。

 馬上にいる主を呆然と見上げるオグマに、マルスは「安心してくれ」と言いながら腰にある剣を取り出す。

「タリス島を出るとき港市でこの剣を買ったんだ。この剣さえあればサムシアンなど敵じゃないさ」
「マルス王子、その剣は……?」

 それは鞘に納められているにも関わらず何やら呪いめいた雰囲気を放っている。
 気になったオグマはその剣の名を訊ねる。マルスはシャンッ!と勢いよく鞘から剣を抜き放ち、

「──マスターソードさ! ふはははははははあぁぁぁ!!!!!」
「マルス王子それマスターソード違う! デビルソードや!」


 「ヒャア!もうガマンできねぇ!」と叫びながら敵軍目掛けて馬を走らせるマルス。オグマは近くに居た兵士にナバールを預けた後「今見たのは誰にも話すなよ!黙っとけよ!」と固く命じ、マルスを追いかけた。



◇◆◇



デビルソード

呪われた剣。この剣には殺された生物の怨念が多数篭められている。
装備すると呪いが身体に侵食し『狂化』される。
『狂化状態』のまま戦場に出ると、敵を見つけ次第わき目を振らず切りかかる。かろうじて敵味方の判別は付く。
『狂化状態』だと脳内麻薬が多量に分泌され痛みに鈍くなる。片腕を切り落とされた程度では動きを止めない。

アカネイア大陸では『禁忌の剣』として恐れられている。封印指定武器。




◇◆◇



 俺の名前はハイマン。サムスーフ山を中心に村や旅人達から略奪行為をしている山賊団『サムシアン』の頭目だ。
 俺達が支配するこの地域に『サムシアン討伐』を掲げて、ガルダの方から軍が来やがったらしい。
 ……やろう、ガルダの海賊をやった程度で調子こきやがったな?
 俺は部下達を呼びつけ命令を下す。

「おう、てめぇら! つい最近ガルダのひよっこ共をやりやがった軍人様が山のふもとまできやがったらしい。
偵察から戻った野郎の話じゃ、どうもそいつらは俺様達をこの山から追い出そうって腹積もりらしい!
……程度の低い、ガルダの雑魚共をやったことで調子に乗ったようだぜぇ?」

 俺の言葉に自慢の部下達は一斉に笑い出す。…そうさ、あんな雑魚を片付けた程度で俺達サムシアンに喧嘩を売りにきたんだからな。俺達にとっちゃぁ笑い話にしかならねぇ。

「つーわけでだ! ガルダ…いや、タリスか? まぁいい、とにかくだ! どこぞの田舎から出張ってきた軍人様達に世の中の厳しさってーもんを教えてやろうじゃねーか! なぁ!?」

 おぉぉぉ! 部下達のおたけびが廃城に響き渡る。士気のほうはバッチリだな。
 さぁて……それじゃ身の程知らずの田舎者達を狩りに行こうかねぇ。



 その時の俺達は自分達の勝利を信じて疑わなかった。
 奴らについて流れてた噂……『盗賊殺しの王子』だの『一人で砦に乗り込んで30人居たガルダ海賊を皆殺しした』だの、そんなものは自分らの力を大きく見せるために流したホラ話だと、そう思ってた。
 そう、思ってたんだ………。



「■■■■■─────ッ!!!!!!」
「く、来るな! 来るんじゃへぶぅッ」

 マルスと名乗った小僧が、ハポイ──俺の部下だ──の首を切り落とす。
 一人、また一人と殺していくたびに、小僧は「ヒィヤァーーーハハハハハッ!」と狂ったように笑い、そしてまた部下を殺していく。
 そいつを止めるために腕を切った。脚を矢で貫いた。目を射った。…でもな、止まらねぇんだ。止まらねぇんだよぉ!

「ふしゅるるるるる………」
「ひぃっ」

 小僧に睨まれた俺達は、腰を抜かしたのか地面に座ってしまった。ビチャリ、と音がする。臭いがするから誰かが──あるいは俺も──小便を漏らしたか。
 しかしそんなことを気にしている余裕は無い。俺達の目の前には俺達の命を奪うために現れた『死神』が立っているのだから。

「た、たすけ、たすけて、たすけてくれぇ……!」

 誇り高きサムシアンとは思えない命乞い。これは誰の声だ? 左に居る部下か、後ろに居る奴か。それとも、俺か───?
 『死神』は左眼に刺さった矢を千切れかけた左手で抜いた後、ニタリと笑いながら言った。




「ろくじゅうにぃぃぃぃぃぃーーーーー!!!!!」
「いやぁぁぁぁぁぶひゅっ」






マルスは62のけいけんちをえた!

たらららたらららら~♪ マルスのレベルが 5になった!

ちからが    1あがった!
わざが     1あがった!
はやさが    1あがった!
こううんが   1あがった!
ぶきが     1あがった!
しゅびが    1あがった!
HPが      1あがった!

ハイマンは  リライブの杖をもっていた
マルスは   リライブの杖をてにいれた




◇◆◇



おまけ。

ジェ「全く、御一人でサムシアンの集団を相手取るなどなんて無茶な真似を!」
オ「(……何故傷薬を飲んだだけで千切れかけた腕が再生するんだ? あ、何時の間にか左眼も再生してる)」
ジェ「王子!聞いておられるのですか!?軍を率いる将たるもの、勝手に最前線に出て、しかもここまでの重症を──」
マ「ジェイガン。私が知る英雄が残した言葉の一つにこんなのがある。名言ともいえる言葉だ」
ジェ「……なんです」
マ「曰く。『死ななきゃ安い』」
ジェ・オ「「そんな名言あってたまりますか!!!」」
マ「(´・ω・`)」



[35037] マルス「文官下さい。」  ハーディン「…すまぬ。」  マルス「いないのですか…orz」
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2015/11/20 20:09
1.マルス、愛剣封印へ。



 サムシアン討伐完了から一ヶ月。ここの戦後処理もそろそろ終わりそうです。
 この一ヶ月は色々ありました。サムシアンの残党狩りに、周辺の村々の復興、自警団の設立、設立された自警団の訓練etc…。
 私は各村からあげられる陳情の処理を、他の皆は残党狩りor自警団との訓練を中心に動いていました。
 陳情の処理は私一人でやっていたのでクソ忙しかった。いや、量はさほど多くはないんだけど、一時間置きに2~3件きたりするんですよ。纏めてドカッとじゃなくて細々とポンポンやってくるから、量は多くないくせに仕事自体は忙しいのなんのって。
 文官が欲しいっすよ文官。こういうのは専用の部署を作って、細々とした案件は現場の彼等に、現場では判断出来ない重要な案件は私がとか、そういうシステムを作るべきだと思います!
 というわけで、ここは一つどうッスかねオグマ先生?

「王子…我が軍には文官適正のある者が居ないのです」

 くそ、この軍には 武 官 のうきんしかいないのかッ!



 そうそう。私のマスターソード「デビルソードです、王子」…オグマさん私の心を読んでツッコミをいれないで下さい。まあ、そのデビルソードなんだけど。封印されちゃいました。
 聞けばあれは封印指定されている危険な武器みたいじゃないですか(原作のも危なかったけど)。まあただ危険なだけってんなら「そんなの関係ねー!」と突っぱねるところだけど、なんかあれを使ってるのを宗教関係の奴らに知られると一発で異端認定されるらしい。マジっすか。
 宗教は敵に回したくない、という訳で泣く泣く封印。あれ装備してる間、妙にテンション上がって凄く気持ちよくなれるから気に入ってたのになぁ…。
 ジェイガンにそう言ったらゲンコツ落とされた。痛いっすよジェイガンさん。

 それにしても。タリスの港市で売ってたマスターソードが実はデビルソードだったとは。これを売ってた商人に、私は見事騙されたという訳だ。……やってくれるじゃないか。
 与えてやらねばなるまい。この私を騙した商人に、しかるべき鉄槌を!



◇◆◇



 某日、ガルダの港街で、大きな街灯の上に一人の商人が全裸の姿で吊し上げられていたという。
 その男は「許して下さい、許して下さい王子」と涙ながらに呟いていた。『王子』とは誰を指すのか最後まで判明しなかったという。



◇◆◇



2.マルス、オレルアンへ。


 一ヶ月という長いとも短いとも言える滞在期間を終え、私達はサムスーフを後にした。我が軍がこれから向かう場所はサムスーフの北西にある国、オレルアンだ。
 オレルアンはすでにアリティア・オレルアン同盟軍によってマケドニアの支配から解放されている。今はオレルアン王ブレナスク様の統治のもと、復興に勤しんでいるらしい。

 サムスーフからオレルアンへは五日ほどかかる。馬に乗って、かつ少人数なら二日でたどり着ける距離らしいが、こちらは100人以上の大所帯。しかも馬に乗ってるのは10人にも満たないという有様だ。だから移動にはとにかく時間がかかる。それはもう仕方の無いものとして諦める。

 オレルアンへの道のりは順調だった。朝から昼までは休憩をはさみながら移動、夕方になるとコテージを組み立てることが出来る適当な場所を見つけ、そこで一晩を過ごす。夜は夜盗、または敵軍の夜襲を警戒するため、5人で一組のチームを作り見張り。翌朝は昨晩見張りをしたチームを馬車に乗せ、その他の者は歩きで移動。
 日が落ち昇りを繰り返し六日後──私達はやっとオレルアンの国境にある砦へとたどり着いた。オレルアンへ入国するためにはここをどうしても通らなければならない。
 その砦の入り口の前に、つい二ヶ月ほど前に会ったばかりの老人──モロドフ爺が居る。どうやら私達が来るのを待っていたらしい。

「王子、御無事で!」
「遅れて済まない。色々と手間取ってしまってね」
「王子の御活躍はすでに存じております。サムスーフを解放したとか。このモロドフ、王子の教育係りとして誇りに思いますぞ!」
「そう言ってくれると嬉しいよ」

 互いに笑う。隣に控えている我が老騎士ジェイガンも優しい笑みを浮かべていた。
 その後モロドフ爺の案内のもと、私、ジェイガン、シーダの三人は用意された馬車に乗りマルス軍の代表としてオレルアン城へ。残りは案内役のオレルアン兵と共に城の近くにある砦へと向かった。そこを駐屯地として貸してくれるらしい。



「王子、もう間もなくオレルアン城ですぞ」
「ん? そうか、そろそろ着くか」

 モロドフ爺の声に顔を上げる。オレルアン城へ近づいたみたいだ。
 私達は軽く身だしなみを整え、馬車から降りる準備をする。

 馬車の中から外を見ると大きな建造物が見えた。あれがオレルアン城なのだろう。

 あの城に父上達がいるのか……!

 馬車はガラゴロと車輪を回しながら進んでいく。父コーネリアスが待っているであろう城へ向かって───



◇◆◇



3.草原の狼


 オレルアン城に着いたマルス一行を出迎えたのは狼騎士団団長ハーディンと、その部下である狼騎士団だった。
 狼騎士団は統率された動きで綺麗に左右へ分かれ道を作る。そしてハーディンの号令の元、一斉に鞘から剣を抜き、天に向かって掲げた。
 己が剣を天に掲げる──それは騎士達にとって最上級にあたる『歓迎の儀式』である。
 それを見たジェイガンは「御見事」と感嘆の声をあげる。シーダは初めて目にする騎士の儀式に感動を覚えていた。
 マルスもまた驚いていた。今この場にいる狼騎士団は200人。その200人がハーディンの指揮のもと、一糸乱れぬ動きを見せた。ならばこの素晴らしい騎士達は戦場でも当然……。
 完璧に統率された正規の騎士団が戦場を駆け抜ける様を想像しただけで興奮してくる。そして、そんな彼らの上に立つハーディンに若干の嫉妬をマルスは覚えた。

 ハーディンの先導のもと城の中庭へ向かう。中庭に着くとマルス達は馬車から降り、そのまま城内へ。
 マルスは装飾された小箱を持っている。シーダは気になったのか小声で訊いてみたのだが、マルスは「あとのお楽しみ」としか答えず、結局その場では中に何が入ってるのか知ることが出来なかった。

 長い廊下を抜け、ハーディンと共に玉座の間へと入るマルス達。
 彼らを迎えたのはオレルアン王を始めとする『アリティア・オレルアン同盟軍』の重鎮達だった。

「マルス王子、貴殿の到着をお待ちしておりましたぞ」
「ありがとうございます、オレルアン王」

 オレルアン王ブレナスク。白髪の初老で、現在のオレルアンを統治する王である。

「マルス、そなたの活躍はモロドフから聞いている。……よくやってくれた。そなたは私の誇りだ」
「アリティアの王子として、貴方の息子として、恥ずべき行いはしてこなかったつもりです」

 アリティア王コーネリアス。正史ではすでに亡くなっているはずの男は、息子の働きにより運命を捻じ曲げられ生存し、今は『アリティア・オレルアン同盟軍』の一員としてこの場に立っている。

「はじめましてマルス王子。私は狼騎士団のロシェであります」
「同じく狼騎士団ビラクであります。王子、私は、私達は貴方にお会いし、直接お礼を申し上げたかった」
「マルスです。狼騎士団の中でハーディン殿に次ぐ高名な御二人にお会いでき光栄だ」

 狼騎士団のロシェ、ビラク。彼らは騎士団の小隊長を務め、自身も剣や槍の腕に覚えのあるオレルアンの若き騎士である。
 彼らが先ほど言った『お礼』とは、モロドフを通じて送った軍資金のことを指している。

 『同盟軍』はかつてない窮地に陥っていた。兆候はコーネリアスと彼に従うアリティア騎士団がハーディン達に合流する前からあった。
 金だ。活動資金が圧倒的に足りなかったのだ。
 軍組織というものはとにかく金がかかる。武器、防具、装備の維持費、医療品、食料物資、兵士達への給料、etcetc......。
 同盟軍の主力はオレルアンの騎馬兵である。騎馬兵=馬。そう、馬だ。馬のエサ代も彼らに深刻な問題として圧し掛かった。
 金、金、金。何をするにしても金が必要。しかし同盟軍にはその金が決定的なまでに不足していた。
 コーネリアスもアリティアから脱出する際に持ち出した財を全て崩し活動資金(約1万ゴールド)へと加えたが、それも食料物資などですぐに消えてしまった。
 このままではオレルアンを取り戻す前に同盟軍は抵抗力を失い崩壊してしまう。そんなところまで彼らは追い詰められていた。

 その同盟軍のもとに現れたのがモロドフである。彼はマルスから10万ゴールドを預かっており、それを全額同盟軍へと手渡した。

 充分な資金を得た彼らは電光石火ともいうべき動きをみせた。ハーディンはまずそれまでの戦いでボロボロになっていた装備を全て新調した。
 その後、兵と馬に充分な食事と休憩を与えた。兵には肉と酒を、馬には高い飼葉を与える。これにより軍全体の士気が高まった。
 気力、体力共に満たした同盟軍は城を占拠しているマケドニア軍へと決戦を仕掛けた。ハーディン、コーネリアスの指揮のもと、充実した補給と装備を持つ同盟軍は圧倒的力をもってマケドニア軍を文字通り蹴散らした。それは敵軍を思わず哀れんでしまうほどの光景だったという。

 同盟軍にとってマルスが行った援助はこれ以上は無いというほどの支援となった。祖国をマケドニアに支配されていたオレルアン兵達は特に彼に感謝している。

 ロシェとビラクはマルスと握手をかわしながら何度も礼を述べた。涙もろいのか、ロシェの目には涙が溜まっている。
 ハーディンは苦笑しながら二人の部下を下がらせた。

「そういえばきちんとした挨拶はまだでしたな。もうすでに御存知かと思われるが、私がハーディンです」
「マルスです。ハーディン殿、草原の狼と呼ばれる貴方に出会えたことを私は光栄に思う」
「それはこちらとて同じこと。ガルダ、サムスーフ。彼の地にあった賊どもを討伐し、かつ速やかにその地を復興させるというその手並み。これから供に歩む戦友として心強く思う」
「ありがとうございます。ですがハーディン殿、それは私一人の力で成したものではありません。家臣達が、部下達が、戦友達が私を支えてくれたからこそなのです」
「うむ。その言葉の意味、十二分に理解出来る。何故なら私達も王子と同じだからだ。コーネリアス殿、アリティア騎士団、我らの狼騎士団。彼らの支えがなければ今の同盟軍は無かった。……誰に見せても恥ずかしくない、自慢の戦友達だ」

 微笑むハーディン。それまでの苦労を思い出したのだろう、オレルアン王が、コーネリアスが、ロシェ、ビラクが彼のセリフに感極まり涙を流していた。もらい泣きしたのか、ジェイガン達の居る方から鼻をすする音が聞こえる(マルスからは見えない)。
 ハーディンもロシェ達と同じくマルスへ礼を述べた後、『彼女』のもとへ行くよう促す。『彼女』はこの部屋の奥にある一番豪華な椅子──すなわち玉座に座っていた。
 国の最高権力者たる王を差し置いて玉座に座る女性。マルスはその女性が誰なのかすぐに理解する。
 マルスは『彼女』の前に跪く。

「お初お目にかかります──殿下」
「はじめまして、マルス王子」

 アカネイア聖王国 王族最後の一人、ニーナ王女は優しく微笑んだ。



◇◆◇



 マルス王子達がオレルアン城へ来たその日の夜、城内にある大広間でパーティーが開かれた。
 これは彼らを歓迎するパーティーであり、同時にオレルアン奪還(解放)の祝賀会を兼ねている。
 そこかしこで絶え間なく木製のコップがかさなる音がなり、その度に『オレルアン万歳!』『アリティア万歳!』『同盟軍万歳!』という合唱が聞こえた。
 パーティーの参加者達は「我が世の春」とばかりにハメをはずしていた。
 無理もない。これまで彼らはマケドニア……ドルーア帝国に苦汁を強いられていたのだから。
 此度の勝利がオレルアンのみで終わることなくアカネイア大陸全体へ広まることを参加者の一人であるハーディンは強く願っていた。

 そんなことを思いながら窓辺で一人酒を嗜んでいると、マルス王子が彼の元へやって来る。

「ハーディン殿、パーティーへのお誘いありがとうございます」
「なんの。貴方達の助力が無ければ我々は負けていたのだ。この祝賀会、充分に楽しんでいただきたい。……それはそうと王子、顔が少し赤いようだが?」
「はは、少しお酒をいただきまして。……狼騎士団の方々と知己を得ることも出来ましたし、今夜はパーティーに参加して本当によかった」
「それはよかった」

 ハーディンはコップを傾けながら考える。知己を得た、か。ロシェとビラクの二人とは玉座で知己を結んだとして、ならば誰だという話になる。……ウルフ、ザガロあたりが濃厚か。

 その後、二人は色々なことを語り合った。王子が過ごしたタリスでの二年間、ガルダ海賊団のタリス城強襲、討伐、サムスーフでの戦い。
 マケドニアの王女と思わしき竜騎士との共闘、コーネリアスとの出会い、ニーナを守りながら戦う日々……。
 ハーディンはマルスとの会話を楽しんだ。この数年間、祖国奪還の為に、ニーナを守る為に戦いの日々を過ごしていた彼にとって、自身と同格であるマルスとの会話は心休まるひと時だった。
 オレルアンの王弟である彼は、上官(兄王、コーネリアス、ニーナ)に弱音を見せるのを良しとせず、部下(狼騎士団他)には騎士の模範たる姿を示さねばならなかった。
 だから彼はマルスと出会うまで大変窮屈な思いをしていたのだ(しかも自分では気付いてはいない)

 ハーディンとマルスは酒を酌み交わし談笑していると──

「オレルアン王国 国王 ブレナスク様の御入室ッ!」
「アカネイア聖王国 王女 ニーナ様の御入室ッ!」

 ニーナ王女がオレルアン王を伴って広場へと現れた。その二人の後ろには盾らしきものを持ったシーダ王女と、装飾が施された小箱を片手に持ったジェイガンが居る。

 彼女達が現れたことで大広間は喧騒から一転、静まりかえる。それを待ってオレルアン王が一歩前へ出た。

「祝賀会を楽しんでもらっているところを申し訳なく思うが、一時この場をお借りしたい。
 ウォッホン! ……ただいまよりアリティア王コーネリアス陛下、ならびに狼騎士団長ハーディン、両名の授与式をとりおこなう!」

 静まり返った大広間は再び沸きあがる。声は熱狂となり、城全体を揺らした。
 このタイミングで授与式。間違いなく兵の士気を上げるためのものだろう。
 ニーナがシーダから盾を受け取り、まずはコーネリアスを呼び出す。

「コーネリアス殿。貴方と貴方の息子アリティア王国王子マルス殿は我ら同盟軍を窮地から救ってくださいました。この国がマケドニアから、ドルーアの支配から解放された一因は貴方達アリティア王家の助力であることは誰もが認めることでしょう。その功績を称え、私、ニーナ・ウォル・アカネイアは貴方にアカネイア一族の家宝の盾『ファイアーエムブレム』を与えます」

 コーネリアスが盾を受け取る。そして大広間に響く拍手喝采。ハーディンもマルスとともに拍手を送っている。
 このファイアーエムブレム、史実ではマルスが受け取っていた。それを見てハーディンは「何故私ではないのだ」と少しの嫉妬を抱き、それが後の『英雄戦争』へと繋がる原因の一つになる。
 しかしこの世界でファイアーエムブレムを受け取ったのはマルスではなくコーネリアスだ。ハーディンは「彼ならばこれぐらい当然だろう」と納得していた。
 ハーディンにとってコーネリアスとは盟友であり、尊敬すべき偉大な騎士であった。その彼がファイアーエムブレムを受け取るのならば嫉妬という感情が湧き出ることもない。
 ……コーネリアスの生存が、また一つ歴史の流れを変えた。

 ニーナは拍手が鳴り止むのを待ってからハーディンを呼ぶ。
 ジェイガンが小箱の中身を取り出し、それをニーナに手渡した。
 ハーディンはニーナの手の中にある物を見て驚愕する。

「ハーディン殿。貴方はコーネリアス殿とともに常に最前線へと立ち、騎士達の、民達の希望としてその剣を振るい続けました。オレルアンの奪還、解放は貴方の尽力があったからこそ成されたのです。その功績を称え、私、ニーナ・ウォル・アカネイアは貴方に『騎士勲章』を与えます───」



 騎士勲章。資格ある騎士がこれを持つと『聖騎士』と呼ばれる騎士の最上位へとクラスチェンジ出来るようになる。
 聖騎士の特徴は、騎士の相棒であり分身でもある愛馬と魔道的繋がりを持ち人馬一体となれることにある。
 馬を半身とする騎士にとって、聖騎士は正しく憧れのクラスであろう。

 ハーディンが驚いているのは聖騎士に成れる機会が出来たからではない。
 彼が驚いているのは〝ニーナから騎士勲章を賜る〟という部分だ。

 アカネイア王家は、大陸に並ぶ者無しと力量を認めた騎士に『大陸一』の称号と共に勲章を授ける。
 大陸一の勇者、大陸一の弓兵、大陸一の将軍等が例として挙げられる。
 アカネイア王家から勲章を授かることとは騎士達にとって最高の誉れなのだ。
 そして今。ハーディンはアカネイアの王女ニーナから騎士勲章を授けられた。それは即ち、名実共に彼は『大陸一の騎士』と認められたことに他ならない。

 ハーディンは涙を堪えるのに必死だった。これほどの名誉を与えられるとは思ってもいなかったのだ───



 授与式が終わった後。ハーディンはマルスを自室へ誘い飲み明かした。酒に飲まれることを嫌う彼にしては珍しく泥酔するほど飲んだ。騎士勲章をニーナから賜ったことがよほど嬉しかったのだろう。
 翌日、二日酔いで少し足元がふらふらしているハーディンが「昨日の夜のことはくれぐれも部下達に話してくださるな…!」と土下座する勢いでマルスに迫ったという。



◇◆◇



4.マルス、オレルアンを発つ。


 いやぁ、昨日は大変でした。ハーディン殿まじ絡み酒。昨日の騎士勲章授与がよほど嬉しかったんだろうね。
 あの騎士勲章、私が用意したのをニーナ様に謙譲して「これをハーディン殿に」とお願いしたものなんだよね。
 私が直接渡してもよかったんだけど……ほら、こういうのは男の私なんかよりもさ、見目麗しいアカネイア王家の王女様から受け取ったほうが嬉しいじゃない? しかも惚れている女性からだし。
 そんなわけで彼は見事聖騎士──パラディンへとクラスチェンジを果たした。レベルという概念が無いから資格さえ満たせば誰でもクラスチェンジ出来るんだということを昨日初めて知った。
 ……やっぱり私だけか、レベルとかそういうのがあるの。うーむ、少し複雑な気分。

 あ、そうそう。母上と姉上、そして幼馴染のマリクと再会しました。
 母上達はマリクとカダインの司祭様の護衛のもと父上の居るオレルアンまで逃れてきたとのこと。
 カダインはドルーアと手を組んだガーネフの支配下に落ちたため安全じゃなくなったからね。いや、ほんと上手くここまで逃げて来てくれて良かったよ。

 そして母上達を護衛してくれたカダインの司祭様──ウェンデル殿と、ジュリアンの弟分のリカード、そして捕虜として捕らえられていたマケドニア兵のマチスが我が軍に加わりました。

 リカードは街で盗みを働いてたところを巡回していたジュリアンに見つかり御用、そのままなし崩しにマルス軍へと入ってしまった。
 ちなみに彼が盗んだものは高そうな赤い宝石である。……これ、絶対『火竜石』だよな。これを見つけるために半日以上町の中を探し回ってたのに実は空回りしてただなんて……うごごご。

 マチスは……うん。レナのお兄ちゃんということでいつの間にか私の軍に入ってた。ちょっと適当すぎる気がしないでもないが本当に〝いつの間にか〟入隊してたのだ。
 彼の入隊を許可したジェイガン曰く「人手が足りないから」。……そんなんでいいのかよヲイ。
 まあジェイガンは人を見る目があるし、私は正史から〝マチスの本質は悪ではない〟と理解してるからいいけどさ。

 ま、文官の仕事をこなせる人が4人も(母上、姉上、マリク、ウェンデル)増えたんだ! ひとまず良しとしとこう!



 時間は飛んで二週間後。我々はアカネイア王都パレスを取り戻すべく軍を編制し、南下を始めた。
 軍は三つの部隊に分けられた。第一軍は父上率いるアリティア軍。第二軍はハーディン殿率いる狼騎士団。第三軍は私率いる義勇軍。

 この三軍を総称して、以後『解放軍』と呼ぶことになる。

 第一軍および第二軍は実戦経験豊富な正規兵で編制されているが、私率いる第三軍は実戦経験があまりない素人の集まり。そのため基本的には補給支援を主とした任務を行う。
 …ここから先は海賊や山賊とは質の違う強さを持った正規軍が相手だ。実戦の経験が少ない我々が前線に出れば味方の足手纏いにしかならないだろう。気をつけなければ。

「伝令! 伝令! もう間もなくレフカンディであります!」

 レフカンディか。正史ではここにミネルバ王女&ペカサス三姉妹が居たはずだが、さてこの世界ではどうなってるのか───


◇◆◇


 マルス軍に新たに六名仲間が加わりました!

 マリクが仲間になった!
 マチスが仲間になった!
 リーザ(マルスの母)が仲間になった!
 エリス(マルスの姉)が仲間になった!
 ウェンデルが仲間になった!
 リカードが仲間になった!






リ「マルス。まさかわたくしも書類仕事を?」
マ「働かざるもの食うべからずですよ母上。」
リ「……魔道の杖で負傷兵を治療することがわたくしの仕事だと思っておりました」←クラスは司祭
マ「あ、そっちも当然やってもらいます」
リ「oh......」



[35037] マルス「自重やめます」  ハーマイン「ちょ」
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2015/11/20 20:17
1.激戦! レフカンディ



 大きな羽音とともにペガサスナイトとドラゴンナイトが空と地上を行き交い、敵軍の情報をそれぞれの指揮官へと報告する。
 報告を聞いた指揮官は、各部隊へ作戦を通達させるために伝令役のソシアルナイトを走らせた。

 ここはレフカンディ。アカネイアへ入るためには、どうしてもここを通らなければならない。
 オレルアンで受けた惜敗の恨みを晴らすべく、マケドニア、そして同盟国であるグルニアは過剰とも言うべき戦力をここへ投入していた。

 まずはグルニア地上軍。歩兵 ソルジャー 1000人。騎馬兵 ソシアルナイト 500人。 ホースメン 500人。
 続いてマケドニア空軍。 竜騎士団 200人。 天馬騎士団 300人。
 2500人にも及ぶ大軍団を彼らはここに投入してきた。いかに本気か理解出来るだろう。

 対するニーナ率いる解放軍。
 コーネリアス軍 300人。 ハーディン軍 500人。 マルス軍 200人。総勢1000人。

 戦力の差は歴然。レフカンディの守りを任されている総司令官ハーマインは可能であればもっと数を揃えたかったが、時間の都合上これが精一杯だった。

 戦争の原則とは大兵力の投入、それも3倍以上が好ましい。そうすればどんな敵が相手であろうとも必ず勝利出来る。
 吟遊詩人が「一騎当千の一人の勇者が居れば兵力差など覆せる」と酒場で詠うことがあるが、それは幻想だ。
 戦争は数だ。数が多いほうが勝つのだ。

 ハーマインはニヤリと笑みを浮かべる。偵察部隊の話によれば山間の町に留まっている解放軍の数は1000人ほど。
 数の上では2.5倍で勝り、そして兵の質でもこちらが勝っているだろう。彼はそう考えており、参謀達も収拾した情報からそのように結論付けている。
 ならば策を弄する必要もあるまい。真正面からの総力戦を挑むとしよう。

「──勝ったな」

 自信を持ってそう断言する。例え敵に英雄コーネリアス、草原の狼ハーディンが居ようと、自分達が敗北することはないと確信していた。
 たかが一人の英雄が、少数の精鋭が、自軍の数を上回る大軍を蹴散らし圧倒的不利な戦況を覆すという、物語の中でしかありえない『戦争』など実在しないということを彼は理解している。戦争とはどこまでいっても『現実的なもの』なのだ。
 そしてそれは彼だけが特別そう思っている訳ではない。戦争を知る者達全員にとっての共通した認識だった。

 そう。『共通した認識だった』のだ───



◇◆◇



 偵察隊の一人、ペガサスナイトのシーダが持ち帰った情報を聞き、解放軍作戦本部となっているコテージ内に沈黙が広がった。
 敵の数、2000から3000。正確な数こそ分からなかったが、少なくとも解放軍を上回る兵力であることは理解出来た。
 コーネリアスが唸る。マルス達を加えた『解放軍』にとって、この地は最初の試練となるだろう。実戦慣れしたコーネリアス軍、ハーディン軍はともかく、マルスの軍は果たしてまともに戦えるのか。いや、そもそも生き残ることが出来るのか……。

「──失礼します」

 重苦しい雰囲気のなか、午前中から姿が見えなかったマルスが老人とともにコテージ内へと入ってくる。老人は全員に見える位置に立ち頭を下げた。マルスが紹介をする。

「竜人族のバヌトゥ殿です。本日付で我が軍へ入っていただくことになりました」
「火竜族のバヌトゥと申す。暫くこちらでお世話になりますぞ」
「バヌトゥ殿は御家族のチキという少女を探しているようでして。その少女の捜索を手伝うことを条件に引き入れました」

 竜人族。それは己の力を封印した秘石──竜石を使いドラゴンへと変身する一族。
 この窮地にあって解放軍に大きな戦力が加わった。
 ハーディンが右手を差し出しバヌトゥと握手を交わす。

「協力に感謝する。御老人、貴方の力を当てにさせていただきますぞ」
「お任せあれ」

 バヌトゥという新たな戦力を得て希望を見出した彼らは、しかしすぐに絶望へと落とされることになる。
 ばたばたと慌しい足音をたてながら、偵察部隊として出ていたはずのビラクが中に入ってくる。

「申し上げます! 敵空軍による奇襲! 敵空軍による奇襲!」
「空軍──ドラゴンナイツにペガサスナイツだな? 被害の方はどうか」
「第一軍、負傷者30名、死者50名! 第二軍、負傷者60名、死者40名! なお敵空軍は損害無く戦闘を継続中!」
「ちぃ、やってくれる!」

 コーネリアスが思わず舌を打つ。ハーディンは敵空軍の指揮官は分かったのかと訊ねる。その問いにビラクは「ルーメル」と答えた。
 竜騎士ルーメル。マケドニア空軍の指揮官として有名な男だ。竜騎士としての強さにも定評がある。
 コーネリアスとハーディンは剣を手に取り立ち上がった。交戦中の部隊に合流する気なのだろう。
 天幕から出る前にコーネリアスが振り返りマルスに言う。

「マルス。そなたは部隊を率いて町の入り口を守って欲しい。……私の予想が正しければレフカンディの歩兵部隊、騎馬部隊が間も無くやってくるはずだ。幸いにしてこの町へ入るためには北にある外壁を通らなければならない。あの堅牢な壁を上手く利用し、時間を稼ぐのだ。
 ……後方部隊であるにも関わらずさっそく危険な前線に出すことになってすまぬと思っている。だが今頼りになるのはそなた達だけなのだ。……任せたぞ、我が息子よ!」

 バサリとマントを翻し駆けていく。その父の背が見えなくなったあと、マルスはニヤリと口元を歪ませた。

 ───あ、この王子まーた何かたくらんでるな

 シーダの後ろに控えていたオグマはその表情を見て胃に痛みを覚える。そして彼のその予想は不幸なことに当たっていた。



◇◆◇



 秘密の店。それは通常の店では購入出来ない武器、アイテム等を購入出来る場所である。
 この店はメンバーカードなるアイテムが無ければ入れない店なのだが、マルスはメンバーカードの上位版『メンバーズカード改』を持っているためどこからでも自由に出入りが可能だ。
 さて、この『メンバーズカード改』で入れる秘密の店。取り扱っている商品は一体何なのか。
 それは───〝アカネイア大陸にある全ての秘密の店の商品〟である。

 マルスはこれまで自重していた。
 サンダーソードなりキルソードなり色々使っていたが、それでも『自重していた』のだ。
 その自重をマルスは止めることを決意する。
 何故なら彼はここで死にたくなかったし、家族や戦友、タリスからここまで着いてきてくれた義勇軍の皆を死なせたくなかったからである。

「という訳でバヌトゥ。これ全部使ってくれない?」
「……なんとまぁ、これほどのアイテムをここまで………」

 あの後、バヌトゥはマルスに案内されてとある部屋に連れてこられた。
 案内された部屋に置かれたアイテムの数々を見て、竜人族の老人は溜息を漏らす。
 その部屋にあったアイテム。それは───

「では、この『天使の衣』から使わせていただきますかの」

 ───それは、ステータスUPアイテムだった!



◇◆◇



 天使の衣
 ステータスUPアイテム。原作でこのアイテムを使用するとHPが7上がる。
 この世界ではスタミナが大幅UP。さらにいくらでも重複(※)が可能で、使えば使うほどスタミナが上がる。
 ただし永続ではなく一分置きに効果が減少し、最終的には元に戻る。魔法防御を上げる『聖水』と同じく時間限定のアイテム。

 他にも使用すれば速さがUPする『スピードリンク』、防御力がUPする『竜の盾』など、ステータスUPアイテムには様々なものがある。

 ※ゲームシステムが適用されるマルスのみ永続効果有り。ただし一種類につき一つまでしか使えない



◇◆◇



バヌトゥは 『天使の衣』×100を つかった!
バヌトゥは 『スピードリング』×100を つかった!
バヌトゥは 『竜の盾』×100を つかった!




◇◆◇



2.激戦! レフカンディ(笑)


 レフカンディ地上軍が山間の町へと続く外壁の前へ到着した。
 指揮官が声を張り上げ命ずる。

「全軍突撃! 全軍突撃! 敵反乱軍を殲滅せよ!」
『おおおぉぉぉ───!』

 ソルジャーが外壁にある門を破壊し、そこから指揮官によって統率された騎兵が突入していく。
 目標の町は近い。ここから少し南に下ればすぐだ───



「──……なんだ? ……音?」

 最初に突入した部隊に所属する兵士の一人が疑問の声をあげた。音だ。音が聞こえる。
 ずどん、ずどんと、大地を震わすその音は、まるで何かの足音のような……。
 そこで別の兵士が気付いた。……町の方角から何かがこちらに向かってきている!

「───竜?」

 それは竜だった。全長は20メートルぐらいあるだろうか。全身が赤く、硬そうな鱗で覆われている。竜を一度も見たことがない者が見ても「あれは竜だ」とはっきり言えるだろう。
 その竜が砂煙を巻き起こしながらこちらに向かってきていて───

「え、ちょ、ちょ!? 竜ってこんなに速い───」
「あ ん ぎ ゃ おー !」
「ふふはははははッ!」






ぱぐしゃあッ!!!!!





 ……哀れにも突入部隊の第一波は、時速200kmのスピードで走る魔改造バヌトゥにひき殺されてしまったのだった。合掌。
 なおバヌトゥの背中にはマルスが乗っている模様。どうやって振り落とされずにバランスを取っているのかは謎である。



◇◆◇



「ななな?! なんだ、なんだあれは?!!」


 レフカンディの砦前まで迫ったバヌトゥ(とマルス)を見て取り乱すハーマイン。
 総司令官の問いに参謀達は誰も答えられなかった。彼らとて〝あれ〟がなんなのか理解できないのだ。

 マルスとバヌトゥは暴れた。これでもかというくらい暴れた。
 ステータスUPアイテムで魔改造されたバヌトゥは走るだけで敵を蹴散らす戦略兵器と化していた。その彼をマルスは上手く操り敵を分断、孤立した敵部隊を後続のマルス軍200人がジェイガンの指揮にあわせ攻撃を繰り出す。


『『『サンダーソード!』』』


 200人が連結して放つサンダーソードの雷撃は、すでに自然現象そのものと化している。敵陣に落ちる雷撃は大きなクレーターを作り、分断された地上軍は各個撃破されていく。
 もう滅茶苦茶である。2000人もいた地上軍がたった200人に敗北する。『戦争の原則』もくそもない、絶対に認めたくない現実がそこにあった。

 戦況は一転し、こちらが圧倒的に不利になった。現状を打破出来る策はないか考えていると──



ズズ──ンッ……!



「う、うぉぉぉ!?」

 突然城が揺れた。ハーマインが窓から身を乗り出し外を見てみると、そこには竜が城門に体当たりをしている光景があった。
 門が壊れないと抗議する竜に対し、その背に乗った剣士の少年は「わが剣にあるのはただ制圧前進のみ!」と高笑いをあげる。その表情はまるでデビルソードに心を侵食されたバーサーカーのような狂喜の笑み。
 ハーマインは戦慄する。私は竜よりも、あの小僧の方が恐ろしい……!

「と、砦を捨てる! アカネイアまで撤退だ!」

 総司令官の決断に参謀、および兵士達は首肯する。彼らもここから一刻も早く脱出したかった。でなければあの少年に我々は───



「フッ……ついに見つけたぞ。ドブネズミの親玉がッ!!」
『ぎゃ、ぎゃぁ───ッ!??』
「このマルスに情けなどないッ! 刃を向ける者には 死 あるのみッ!!」




 ハーマイン達が恐れた少年──マルスは、三階にあるこの部屋へ窓をぶち破って入ってきた! 窓から身を乗り出してこちらを見ていたハーマインをマルスはしっかりと確認しており、バヌトゥに頼んでここに向かって投げてもらったのだ。
 ……それはそうとマルスのセリフ、どうみても正義側に属する人間のセリフじゃないですよね。

「貴様達は降伏すら許さん! 我がレベルアップの糧となるがいい───!」
「は、は、はわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 マルス(狂化)はキルソードを一閃!
 ハーマインの首を切り飛ばした!
 たらららたらららら~ん♪(←レベルアップ)

 その場にいた敵兵は混乱の極みにあったため、マルスはそれほど苦戦せずに殲滅した。
 ルーメル率いる竜騎士団と天馬騎士団には撤退を許してしまったが、それはさしたる問題にはならないだろう。

 とにもかくにも。こうしてこの地での戦争は終わった。終わってみれば解放軍の圧勝である。
 いやあ、レフカンディは激戦区でしたねぇ。



◇◆◇



3.マケドニアの王女 ミネルバ


 砦から少し離れた位置にある山中から戦場を見ていた女性──『竜騎士 ミネルバ』は、直属の部下である『ペガサス三姉妹の次女 カチュア』から「レフカンディが落ちた」と報せを受けたあと、この場からの撤退を決めた。
 同じく直属の部下である『ペガサス三姉妹の長女 パオラ』が「マルス王子にお会いしないのですか?」とミネルバに訊ねる。
 ……確かに彼女はマルスに会うつもりだった。過去に友人関係を結んだ彼に会って、帝国に人質として捕らえられている『妹』を助けるために協力を申し出るつもりだった。
 しかし───

(いや無理。あんなひどい戦場を駆け抜けてマルス王子のところにたどり着くなんて絶対無理。普通に死ぬ。ていうかマルス王子もちょっとおかしい。彼ってあんな人だったかしら……?)

 大地が揺れ、森は焼き払われ、雷撃が飛び交い、「ヒャー!レベルアップゥ!」と王子が笑い、傭兵が胃を抑えながら「王子自重しろ!」と叫び、長髪の傭兵はトラウマを刺激されたのか隅っこでプルプル震え、竜騎士団を撃退しマルスを追いかけてきた解放軍の指揮官二人が「なんぞこれ」と荒れ果てた戦場を眺めて呆然とする。

 カオスだ。この戦場はあまりにもカオスすぎる………!

「か、帰りましょう、皆」

 頬を引きつらせながらそう言ったミネルバは、部下とともにマケドニアへ向かって山中から飛び立つ。彼と話すのは次の機会にしましょう、と心の中で呟いた。





マル「いやぁ、レフカンディは難問でしたねぇ」
バヌ「これが今時の戦争か。時代は変わったのぉ」
ハー「いやいやいや! 違いますから! 今回だけですから! 今回が特殊なだけですから!」
コー「どういうことなの……」
オグ「ナバール……いつまで震えてるんだ……」
ナバ「」プルプルプルプル



[35037]      幕間2
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2015/11/20 20:28
1.ハーディンの憂鬱


「…………」


 ハーディンは割り当てられた室内で、無言のまま紙に羽ペンを走らせる。彼は今、下から挙がってきた陳情の処理を行っていた。
 ここはワーレンの港町にある宿屋。レフカンディで大勝を遂げ、無事アカネイア領内に入った彼ら解放軍は、オレルアンから続く激戦でh疲弊した兵士達を休ませるため、ここワーレンへ立ち寄った。
 ある者は貸し切った酒場で戦友と語り合い、ある者は闘技場で剣闘士達の戦いを観戦し、ある者は港でまったりと釣りを楽しんだ。
 解放軍の兵士達は、与えられた休日を港町でそれぞれ楽しんでいるようだ。

 史実ではこのワーレンにドルーア帝国軍が駐屯していたはずなのだが、この世界では存在していない。
 何故ならここに居た帝国軍──グルニア兵は、レフカンディの戦いで散っていったからだ。
 そう、ハーマインはこの地から兵士を大勢引き抜いてあの大軍を作ったのである。

 よって本来ならこの地で起こるはずだった戦いは無く、解放軍はアカネイア奪還戦前に平和のひと時を楽しむことが出来たのだった。
 もっとも一部の将官には休みなどなく雑務に追われていたが。ハーディンもその中の一人だ。

 そのハーディン、しかめっ面のままに仕事をしている。彼は今、レフカンディで見たマルスの戦いを思い出していた。

「マルス王子は心に闇を抱えている……」

『これぞ天を握る最強の剣!!』←必殺の一撃
『イヤァァァ──げぷっ』←首を跳ねられるソルジャー
『このマルスより真のアカネイアの歴史が始まるのだ!! わーはははははッ!!!』

 一片の慈悲もなく敵を屠り、その身を敵の返り血で染め、修羅のごとき笑みを浮かべる少年。
 彼は、マルス王子は、その心に深い闇を抱えているとハーディンは感じていた。
 ……最も、王子の経歴を考えればそう感じても無理はない。卑劣な手段で祖国を奪われ、家族と離れ離れになり、住み慣れない土地で二年間もの間肩身の狭い思いをしながら過ごしていた。
 16歳という若さも考えれば、自らをそんな境遇へ追いやった帝国軍を憎むのも当然のことだろう。

「コーネリアス殿が倒られた今、私がなんとかせねば……」

 溜息をつく。コーネリアスはバーサーク状態のマルスを見て「私の息子があんなバーサーカーなはずがない」と呟き、卒倒した。現在妻リーザの看病のもと、療養中である。彼のことだ、ここを発つ頃には復活しているだろう。
 それはともかく、今はマルスだ。一軍の将に相応しい堂々とした姿から忘れている者も多いが、彼はまだ16歳の子供。年齢の離れたあの友人は、本来なら守られるべき立場にある若者だ。
 その彼が「ドルーア憎し」の感情で剣を振るっているのならば、なんとしても矯正しなければならない。なぜならばこの戦争、憎しみの感情だけで戦えば必ず死ぬ。ドルーア帝国との戦争とはそういう質の戦争だとハーディンは思っている。感情に振り回された者が戦って勝てる相手ではないのだ。

 幸いなのはハーディンやコーネリアスの部下達がマルスに対して恐れを抱かなかったことか。彼らは全員マルスの境遇を知っているため、レフカンディで見せたマルスの狂行を『帝国軍を見れば狂うほどに憎んでいる』と解釈していた。
 もっとも、これから解放軍に加わるであろう人達が他の部下達のように理解のある者達ばかりとは限らない。最悪、マルスを『第二のメディウス』と恐れる可能性は大いに有り得る。
 よってこの問題は取り返しのつかない大きな問題になる前に早急に解決しなければならないのだが……。

 ピッ!と音をたてて書類にサインを入れる。これが本日最後の陳情報告書だった。
 さてどうしたものか。ハーディンが解決策を考えているところに「失礼します」と、マルスの姉エリスが御盆を持って入ってきた。御盆の上には紅茶とお菓子が乗っている。

「ハーディン様、お茶をお持ちしました。……もし御仕事の最中でしたら申し訳ありません」
「いや、なんの。今しがた最後の報告書にサインを入れ終えましてな。今日はもう仕事は無いのです」
「あら、調度良いタイミングだったみたいですね」

 クスクスと微笑むエリス。そのままテーブルにカップとクッキーの皿を並べる。
 書類を片付けテーブルまで来たハーディンは用意されたカップが二つあることに気付く。一つは彼の分、もう一つはエリスの分だ。
 ハーディンはやや困惑しながらもテーブルの椅子に座り、それを待ってエリスはハーディンの正面に座る。

「少し、お話しませんか?」
「──私でよければ喜んで」

 エリスの誘いに応じるハーディン。二人きりのお茶会が宿屋の一室で開かれた───



◇◆◇



 マルスは特殊スキル【狂化】を身に付けた!
 【狂化】とはデビルソードの呪いに侵食されきった者のみが会得出来る特殊スキル。
 このスキルを持つ者は【狂戦士(バーサーカー)】と呼ばれる存在になる。



◇◆◇



2.アリティアの王女 エリス


 エリスはファザコンである。
 軍を率いては常勝し、剣の腕では並ぶ者なく、善政によってアリティアの民から慕われている父を彼女は好きだった。
 どれぐらい好きかというと、



お父様!お父様!お父様!お父様ぁぁぁあああぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!お父様お父様お父様ぁああぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!お父様の髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
訓練帰りのお父様かっこよかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アカネイアから誉められて良かったねお父様!あぁあああああ!かっこいい!お父様!かっこいい!あっああぁああ!
吟遊詩人の物語にも出てきて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!物語なんて現実じゃない!!!!あ…肖像画も詩もよく考えたら…
お 父 様 は 現 実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!アカネイアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?肖像画のお父様が私を見てる?
肖像画のお父様が私を見てるぞ!お父様が私を見てるぞ!肖像画のお父様が私を見てるぞ!!
肖像画のお父様が私に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!私にはお父様がいる!!やったよマリク!!ひとりでできるもん!!!
あ、お父さまぁぁぁああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあお母様ぁあ!!アンリ様ー!!ニーナ様ぁああああああ!!!ナーガ神様ぁあああ!!
ううっうぅうう!!私の想いよお父様へ届け!!アリティアのお父様へ届け!




 とまぁ、これぐらい好きだ。……大丈夫かこの娘。
 ともかく! 彼女は父コーネリアスが大好きなのだ。
 しかし不満が一つだけある。それは……

「はぁ。お父様のあの筋肉だけはどうにかならないかしら……」

 ……それは、コーネリアスが筋肉ムキムキのマッチョメンであることだった。
 ある日のこと。風呂からあがり姿見の前に裸で立つ父のその姿を彼女は見た。

 ───逞しい上腕二頭筋ッ!
 ───みごとに分断された腹筋ッ!
 ───ピクピクと脈打つ大胸筋ッ!

 暑苦しいまでに盛り上がった自分の筋肉を見て、コーネリアスは呟いた。

『ナーガ神よ わたしは美しい…』

 ナーガ神が聞いたら墓穴から這い出て霧のブレスをぶっ放すようなことを呟いたコーネリアスは、鏡に映る自分の姿を見てウットリ。彼は筋肉フェチでありナルシストだった。よく結婚出来たなこいつ。
 それを見てエリスどん引き。太すぎる筋肉とナルシーなところさえなければお父様は理想の父なのにと何度思ったことか。

 さて。そんなエリスの前に一人の男性が現れる。それは彼女の父の盟友になった男──ハーディン。
 戦(いくさ)では常に最前線に身を置きながら軍の指揮を取り、剣の腕はコーネリアスに勝るとも劣らず、多くの部下や民から慕われる。その姿はコーネリアスを感じさせるものがあった。
 ただし彼はある一点においてコーネリアスとは違う。

 ハーディンはマッスルでもなければナルシストでもない。マッスルでもなければナルシストでもないのだ。大事なことだから二回言いました。
 筋肉は確かにあるが、それはモデルのようにスラッとした機能美を追求した筋肉であり、父のようなモリモリとした筋肉ではないのだ!

 もはや皆さんも理解出来よう。そう……エリスにとってハーディンは『理想の男性』であり、正しく『白馬の王子様』なのである!

 という訳で一目見た時からターゲット・ロック。エリスはハーディンをゲットすべく裏で暗躍し始める。
 彼はニーナ王女に恋心を持っているようだが、幸いなことにそれはまだ自覚に至ってない。ならば幾らでもやりようはあろう。

「ふふふ……待っててね、未来の旦那様♥」

 『暗黒戦争』とはまた別の『女の戦い』が、解放軍の中で始まろうとしていた──!







「ど、どうしたのマリク!?」
「うぐっ……ま、まるすさまぁ……えぐっ……」

 とある酒場で酒に溺れているマリクを見つけたマルスは、事情を聞き戦慄する。
 もし『英雄戦争』がこの世界でも起こるとしたら、間違いなく嫉妬に狂ったマリクがその中心になる──と。



◇◆◇



3.マルス、ディール要塞へ旅立つ。


 ワーレンで身を休めているマルス達の下へ一人のペガサスナイトの少女がやってきた。
 彼女の名前はエスト。マケドニア王女ミネルバの部下であり、『ペガサス三姉妹』の一人としてマケドニア国内でも有名な天馬騎士だ。
 その彼女が親書を持ってワーレンへとやってきた。彼女はマルスとの謁見を求めている。

 マルスは「あれ?ここに来るのってカチュアじゃ……」と自分が持っている情報(原作知識)と違う事態に困惑する。
 確かにここに来るのはカチュアが適当だ。それは三姉妹の中でも彼女が一番交渉術に長けているからである。しかし今回彼女は「何事も経験」として末妹に仕事を押し付けた。
 風邪をひいてたせいでレフカンディ戦に出れなかったエストは、その失点を挽回するために仕事を引き受ける。
 「マルス王子にこの親書を渡せばいいんだよね!」とカチュアに聞くと、何故かばつの悪そうな表情で「え、ええ。お願いね」と答える。不思議に思って周囲を見渡せば、他の人達は揃って明後日の方向を向きエストと視線を合わせようとしなかった。
 皆のその態度に「マルス王子って怖い人なのかな…」と一抹の不安を覚えた彼女だが、マルスと直接会ったことでそれは杞憂だったと安心した。

 親書──ミネルバからの手紙を読み終えたマルスは、エストに訊ねる。

「エストさん、君は手紙の内容は知っているかな?」
「はい、ミネルバ様から直接伺いました! えっと、マリア様を助けるのに力を貸して欲しい、とか……」
「そうか。それを知っているのならいい。では私の返事だが──『応』と、彼女に伝えて欲しい」
「……?(おう? 王? 追う? 負う? ………???)」
「マルス王子はミネルバ殿の妹君の救出を手伝う、ということだ」

 『応』という言葉の意味をいまいち理解出来ていない彼女にハーディンが助け舟を出す。それを聞いてエストの表情が『パァァァッ』と明るくなった。

「ありがとうございますマルス様! それじゃわたし、さっそくミネルバ様に伝えに───」
「ストップストップ! ……私の方でも親書を書くから、それを持っていってほしい」
「え? あっ──ご、ごめんなさい! わたし慌てて……!」
「うん。少しでも早く主に報告したい、それは充分理解出来る。しかし今の君はミネルバ殿の代行だ。君の発言はミネルバ殿の発言、君の行動はミネルバ殿の行動とこの場では受け取られる。彼女を真に想うのならその辺りを重々理解し、恥ずかしくない行動を心がけて欲しい」
「あぅぅぅ……」

 わたわたとするエストを見て、マルスは彼女を安心させるように柔らかな笑みを浮かべた。

「ミネルバ殿は幸せ者だな。ここまで主を思ってくれる家臣は、そう居ない……。姉上、エストさんに飲み物をお願いします。親書を作るのに多少時間が掛かりますので」
「分かったわ、マルス」

 エリスは紅茶を用意するため台所のある部屋へ向かい、ハーディンは雑務を片付けるため自分の部屋へ戻る。
 室内にはマルスとエストの二人だけが残された。

 エリスが部屋へ戻ってくる間、二人は他愛無い会話を交わした。血生臭い戦争の話ではなく、年頃の少年少女が好みそうな俗な話ではあったが、二人は揃って会話を楽しんだ。
 奇妙な空間だった。エストはマケドニア軍、そしてマルスは解放軍。本来なら命を奪い合う敵同士のはずなのに、ここはそれを一切感じさせない優しい世界だった。
 その時間は紅茶を煎れたエリスが戻ってきてからも続き、結局エストが帰ったのは夕方に差し掛かるほど遅い時間帯になった。

 ペガサスに乗り夕焼け空の中をマケドニアの方向へ向かって飛ぶエストは、もう見えなくなったワーレンの方へ一度振り返る。

「マルス様……また、会えるかな」

 脳裏に浮かぶのは自分の話に相槌をうち、そして沢山楽しいお話をしてくれたアリティアの王子の笑顔。
 彼とともに話したあのひと時は、エストにとって大切な思い出となるだろう。

 それにしても、とエストは呟く。思い出すのは彼女を送り出した姉達の表情だ。
 姉さま達、マルス様のこと嫌いなのかな。とっても優しい人だから、会ってくれたらすぐに好きになれると思うんだけど……。



 エストとの出会いから三日後、マルスは自らの軍のみを率いてワーレンから出発した。
 ハーディン達も一緒にと申し出ていたが「今回の戦いは私事によるもの」とし、これを断る。

 こうしてハーディンというストッパーが居ない『自重を一切しなくなったマルス軍』が野に解き放たれたのだった!どうするどうなるディール要塞!
 次回 ディール要塞編 へ続く───!





【エスト出発前】

ミネ「マルス王子に親書を届けて欲しいのだけれど……」
パオ「えっと」チラッ
カチュ「~~~♪」←パオラの視線をスルー
エス「あ、わたし行きます!(前の戦場に出れなくて皆に迷惑かけちゃったからここで挽回しなくちゃ…!)」
パ・カ「「どうぞどうぞ!」」
エス「えっ」
ミネ「……エスト、心を強く持ってね」
エス「えっ」



[35037] マルス「パワーを上げて物理で殴ればいい」  ガーネフ「おま」  前編
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2015/11/20 20:31
1.ジューコフの野望


 エストが持ってきた親書、それはマケドニアの王女ミネルバからのものだった。
 その親書には「人質として監禁されている妹マリアを助けるために手を貸して欲しい」という内容が書かれていた。
 マケドニアの王ミシェイルはドルーアと同盟を結ぶ際に人質として妹マリアを差し出した。その彼女がディール要塞に幽閉されているのだという。
 マルス王子はミネルバの求めに応じ、マリアを救うためディール要塞への攻撃を決意する。
 解放軍の盟友ハーディンが共に行くと申し出たがマルスはこれを拒否。これはあくまで私事、私闘であるとし、マルス軍のみで要塞へと向かった。

 ワーレンから出発して三日後。マルス軍はディール要塞へと到着する───



◇◆◇



 グルニアの将軍ジューコフは、ディール要塞の守りを本国より任された男である。
 彼は自らの境遇を良しとしていなかった。この土地には娯楽が皆無であり、常に時間を持て余していた。出来ることと言えば平民の女を金で買い、その身体を楽しむぐらいなものだ。
 この地で与えられた任務もまた、彼のストレスが溜まる原因となっていた。マケドニアの王女マリアの幽閉、監視。「たかが小娘一人のために何故わしが」、何度そう思ったことか。

 だがこのくだらない生活ももう間も無く終わるだろう。何故ならばもうすぐこの地に反乱軍がやってくるからだ。



 二日前の夜、いつもの通りに女を抱いているとドルーア帝国から一人の男がやってきた。
 その男の名はガーネフ。カダインの支配者にして『闇の魔王』と呼ばれる大司祭。
 ガーネフは挨拶も早々に、懐から資料と思わしき紙の束を取り出しジューコフに渡す。

『先日面白いものを見つけてのぅ……』
「これは……ミネルバの白騎士団の一人が反乱軍と接触!?」

 その資料にはエストと反乱軍──解放軍──が接触したことについて詳細に渡り記されていた。彼らドルーア帝国は秘密裏に動いたはずのミネルバ達の動きを敏感に察知し、悟られないように彼女達を監視していたのだ。
 ジューコフは資料の束を地面に叩きつける。

「ミネルバめ、裏切ったか!」
『あの小娘はいつか必ず我らを裏切る。それは予想していたことじゃろうて。それはともかく資料は最後まで読んだか? これを作った者の予想では反乱軍はここへ来るというらしいぞ?』
「な、なんだと!?」

 散らばった資料を慌てて拾い集め、再び読み始める。そこには確かに「近日中にディール要塞へ来る可能性が高い」と記されていた。
 ぎちり、と歯を鳴らす。国の一軍に相当する数を揃えたレフカンディ。あそこを容易く突破した反乱軍を、ここにある戦力で止められるかどうか。
 答えなど判りきっている。ノーだ。敗北は免れない。ならば撤退しかない。貴重な戦力を無駄に消耗する愚を彼は犯したくなかった。

 ジューコフは「いかに損害を少なくこの地から撤退するべきか」を考えていると、ガーネフは低く笑いながら一つの提案を挙げた。

『ジューコフ殿。人質だ。人質を使うといい』
「人質……?」
『そう、マリア王女をな。あの者らはかの王女を救うためにこの地へ来る。ならばその王女を人質として使い、動きを封じてしまえばよい。
なに、あやつらは「正義の味方」を自称する者達よ。絶対に王女を、人質を見捨てたりはせぬよ、くふふふふ……!』

 ガーネフの甘言に「なるほど」と頷きかけるが、頭を振り否定する。彼の脳裏にとある騎士の顔が浮かんだからだった。

「……ならん。それは騎士道に反する。あの小娘を利用し反乱軍を討つという策だけは使わぬ!」
『ふむ……』

 カダインの魔王は「この男も騎士道などというつまらぬ考えを持った人間か」と溜息をつく。
 ジューコフも、叶うならばガーネフの策を採用したいと思っている。しかし彼にはそれが出来ない理由があった。
 カミュだ。ガーネフの策はグルニア本国にいるカミュの不興を間違いなく買ってしまう。
 仮に先の策が上手くはまり反乱軍を討伐したとしよう。そうすれば彼の元へ帰還命令が来て本国へ呼び戻されるはずだ。
 ただしそれは栄達のための帰還ではない。騎士にあるまじき卑劣な策を用いた賊として裁くための帰還である。

 黒騎士カミュ。その男は騎士道の体現者であり、正々堂々たる戦こそを良しとする。過去にあった『メニディ川の戦い』を経て、より一層その思いは強くなった。
 現在病床に臥せっている王に代わりカミュがグルニアを統治している(本人の意思に関わらず)
 グルニアの貴族や軍人を裁く権利等を王から授かっている彼は、ガーネフの策をとった場合間違いなくジューコフを処罰する。仮に死刑にならなかったとしても、その後グルニア領内で冷遇されるのは間違いない。
 それだけは嫌だった。死刑も、冷遇され惨めな生活を送るのも。それならば敵前逃亡の罪で本国へ強制送還されたほうがまだマシだ。
 いや、罪には問われないだろう。カミュは誠実な男ではあるが現実的な男でもある。レフカンディの大軍団を突破するほどの戦力を持つ反乱軍をこの地にいる少ない兵で倒すことなど不可能、であるならば戦術的撤退も止む無し。そう裁決を下すはずだ。

 思考の波に潜っているジューコフに、ガーネフはもう一つの提案を述べる。

『ではジューコフ将軍。わしがおぬしを手伝うとしよう』
「なんと、ガーネフ殿が!?」
『うむ。手土産もあるぞ?』

 そう言って一枚の紙を渡す。そこに書かれていたのは───

「サンダーソード500本、キラーランス300本、キラーボウ200個──全部希少武器ではないか!? ガーネフ殿、これだけの武器を一体どこで……?」
『なぁに、それらは全て拾い物よ。使い古しではあるが遠慮なく使うといい。ふぉっふぉっふぉっ……』
「こ、これだけの武器があれば策など用いずとも……ふ、は、ははははは──!」

 歓喜に満ちた笑い。期せずして強力な武器が手に入った。これさえあれば反乱軍なぞ……!

 レフカンディ戦からなんとか生還してきた部隊の話を聞き、その情報を整理し推測した軍師、参謀達は『レフカンディの敗北は武器の性能差によるもの』と結論付けた。
 他にも『戦地となった場所が大部隊の軍事行動に不向きだった』等と敗因はあるが、大きな要因は武器の性能に差がありすぎたところだ。参謀達は揃って「戦争のあり方が変わってしまう」と口にしたのが印象深い。

 その武器の差がここに来て無くなった。戦場となる可能性の高い場所はどこも広いため大軍の行動に支障は無く、小細工も出来ない。そして地の利は迎え撃つこちらにある。兵士の質に差はあるかどうか不明なのが気になるところだが……それでも充分、勝機はある。
 ジューコフは確信する。わしは勝てる、いや勝つ!そしてこの辺境の地から本国へ戻り、輝かしい未来をこの手で掴むのだ──!





「将軍! ディール要塞の東に反乱軍が現れました!」

 二日前の夜のことを思い出し、これから訪れるであろう輝かしい未来を夢想していたグルニアの将軍は、偵察に出していた兵士の言葉で我に返る。
 ジューコフはその兵士を下がらせ、隣に立つガーネフに念を押すように言った。

「ガーネフ殿。もう一度申し上げますがマケドニアの王女達を人質にとるという策は御遠慮いただきたい」

 王女『達』。この言葉からも分かるように、マケドニアのもう一人の王女ミネルバも虜囚の身となっていた。帝国にエストの件がばれているとは知らず彼女はマリアが居るこの地へ訪れ、その結果問答無用で捕縛されたのだ。

『わかっておるよ。貴公の立場を悪くするような真似はせん。こちらは気にせず存分に戦いがいい』
「うむ、頼みましたぞ。──誰か! 誰かある!」

 部屋の外に控えさせていた部下を呼び、彼は告げた。

「全軍に通達! この地へ現れた反乱軍を討伐する──!」



◇◆◇



 単独で行動するとジューコフに告げたガーネフは、今や誰もいない城の屋上に立ち、戦場となっている場所を見つめる。
 彼はメディウスの指示によりこの地へ来ていた。反乱軍を代表する三人のうちの一人、マルス王子抹殺のために。

 マルス王子は狡猾だった。逃亡生活を続けていた二年間、重税に苦しみ店を畳んだ商人を拾い上げ子飼いとし、まずは彼らから信頼を得た。
 どこから用意したのかは分からぬ大量の物資を破格の安さで商人達に売り払わせ、次に民達から信頼を得た。
 マルスは商人達を利用し少しずつ流通を支配していく。今では大陸中の主要国に彼の手が入った商会があると推測されていた。
 その結果出来上がったのが信用度の高い『情報網』だ。彼は自由に動かせる商人達を作ることにより、確かな情報網を構築することに成功したのだ。
 マルスは商人達に要請する。「ドルーア帝国、またはその同盟国が商会から購入した物資等の報告をしてほしい」
 ここでもマルスは狡猾に動く。彼は味方となった商人達に危険な仕事はさせなかった。彼等に求めたのは安全に手に入る「情報」だった。
 もっとも、その「安全に手に入る情報」とて受け手が変われば価値が変わる。マルス達は商会から得られる情報から、帝国軍らの動向などを推測し、限りなく真実に近い状態にまで彼らの現状を見抜くことを可能としていた。
 このことが後々『マルスの敵に回った国々』にとって挽回すらできない痛恨の一撃となって襲い掛かる。

 さらにマルスは吟遊詩人も雇っていた。マルスは彼らに命じ、自分達の戦場での活躍を物語として作らせ、酒場などで語らせた。

 この世界、この時代において一般市民が他国の情報を知る機会は限られている。
 一つ目は月に一回発行される情報新聞。これは町の掲示板に貼られる。
 二つ目は商人から。彼ら商人は他国の商人と酒場等で積極的に情報を交換する。それを盗み聞くことでやはり他国で起こったことなどを知ることが出来る。
 そして三つ目。これが吟遊詩人が語る物語だ。彼らは実際に起こった出来事を物語として作り、酒場などで詠う。それによって得られる収入を糧としているのが彼ら吟遊詩人だ。
 マルスはその吟遊詩人を多額の給金で雇い、解放軍にとって都合の良い物語を語らせている。それも帝国の影響が少ない場所を中心にして。
 それによって少しずつ、しかし確実に解放軍の噂が広まっていく。どこもかしこも好意的に受け止められているあたり、雇われた吟遊詩人も上手くやっているのだろう。

 マルスは恐れていた。圧倒的な力で帝国軍を蹴散らし平和を取り戻した解放軍。戦後はまだいい。しかしある程度時間が経つと民は自分達を恐れるようになるのではないか?マルスはそれが怖かった。
 力の無い者は力の有る者を恐れるのが世の理だ。それは避けられるものではない。ならばどうすればいい──

 そこで思いついたのが『情報操作』である。マルスは吟遊詩人達を使い解放軍に対し好印象を持たせる物語を語らせることにより情報操作を行い、『正義の味方』へ仕立て上げようと企てた。
 そしてそれはものの見事に成功する。剣を持って狂乱するマルス(バーサーカーver)は『悲劇を乗り越えた勇者』として、本来なら恐れられる、または蔑まれるはずの竜人族──マムクート──のバヌトゥは『解放軍の守護竜』として民衆に称えられた。
 商人達からその話を聞いたマルスは「金をかけた甲斐がありました」と笑ったという。彼はすでに戦後を見据えて行動していた。

 それらの事実は白騎士団のエストを追跡していた時に偶然知った。そして現状の帝国では絶対に対策がとれないということも理解する。
 商人を、吟遊詩人を皆殺しにするか? ……無理だ、出来ない。そんなことをしてしまえばマケドニア・グルニアの二国に反ドルーア同盟を組む大儀を与えてしまい、帝国に牙を向くだろう。
 彼奴等が同時に攻めようとも最終的に勝つのは帝国だが、無視することの出来ない損害を被ってしまう。最悪、帝国の維持が不可能なレベルの損害を。

「マルス王子……貴様は危険だ。必ずこの地で殺してくれる……」

 絶対の自信を持って言い切るガーネフ。その自信は彼が持つ魔道書マフーにあった。
 マフーの使い手にはあらゆる攻撃が届かない。敵意を持つ者がマフーの効果範囲に入ると、攻撃しようとした瞬間その動きを止めてしまう。それがマフーの効果だった。
 今のガーネフを倒せる者はマフーと対を成す魔法『スターライト』の使い手のみ。そしてその使い手はこの場にはいない。ゆえにガーネフが負ける要素などどこにもなかった。

 魔方陣が現れガーネフの身を包み込む。「ワープ」という呟きとともに光が消え、闇の司祭はその場から姿を消した。



 ジューコフはジューコフの、ガーネフはガーネフの思惑の下、それぞれ動き出す。



 一方その頃、この地へやってきた解放軍はというと───



◇◆◇



「王子。偵察から帰ってきたシーダ王女の報告によると南門に敵軍が集まっているようです。北にも入り口が一つありますが、そこは南から大きく西に周るか近くの崖を登るかで行けます。ですが北門から要塞内に入るというのは現実的とは言えません。ですので南門から入り人質のマリア王女を救出するということになりますが……」
「わざわざ南門から入る必要は無い。作れ。
「すいません王子ちょっと何言ってるかわからないです。」
「すぐそこの壁をぶっ壊してそれを入り口にしようぜってことだよ、言わせんな恥ずかしい。」
「すいません王子ちょっと何言ってるかわからないです。あ、大事なことだから二回言いましたよ?」


 マルスの無茶振りにオグマの苦労は続く。



[35037] マルス「パワーを上げて物理で殴ればいい」  ガーネフ「おま」  後編
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:27bb9a97
Date: 2015/11/20 20:37
2.賢人会議


 ディール要塞から東にある森林地帯。そこにいくつものコテージが並んでいる。
 そのコテージの一つに『彼ら』が集っていた。少年と言える年齢の若者が一人、まだ青年とも言える銀髪の男が一人。白髪が混じった黒髪の老人が一人。金髪の妙齢な女性が一人。
 計4人。彼らは自らを『賢人会議(ワイズメン・グループ)』と名乗っている。

 ちなみにこのグループ名、とあるラノベからパクったやつです。邪気眼的な要素全開だが気にしない!

「───報告を」

 メガネが似合うダンディな某指令のポーズをとっているマルスこと私は正面に座る三人に報告を促す。
 最初に立ち上がったのは銀髪の男──エルンストだった。

「殿下。我ら『風を渡る者』は順調に活動を行っております。帝国の支配力が薄い地域という条件は限定されておりますが効果のほどは劇的と称すべきものがあり、タリス、ガルダ、サムスーフ、オレルアンなど、賊や帝国の支配下から脱した国の民衆からの支持率は目を見張るものがあります。情報操作および印象操作はまず成功と言っていいでしょう」
「民衆、ことに他国民と交流する機会の少ない平民にとって吟遊詩人の語る物語は大きな情報源だからね。よろしい、君達はそのまま活動を続けてくれ」
「はっ──!」

 『風を渡る者』とは子飼いの吟遊詩人達を指す言葉だ。もちろん某ゲームからのパクリだ。
 吟遊詩人達の活動は上手くいっているようだな……いいぞいいぞぉ。

 彼らのこの活動は戦後を見据えてのものだ。
 戦争に勝ちました→民衆は大きな力を持った解放軍を怖れ始めました→民衆達は解放軍を『第二のメディウス』扱いしはじめました。→結果、打倒マルスを掲げ叛乱を起こしました。
 こんな風になっては困る。嫌ですよ人から恐怖の対象扱いされるだなんて。
 そこで私は思いつきました。そうだ、現代世界にあるマスコミの真似をしよう!と。
 民衆に与える情報は真実、しかしその真実は全て解放軍の活動を好意的に解釈したもので占められていたのです──みたいな。
 最初は商人達を使って広めようとしたんだけど、「吟遊詩人達に物語という形で語らせて広めた方が民衆の心に強く印象付けられないか?」と考え直して。
 それで生活に困っている吟遊詩人を雇い、彼等の一部を私達に従軍させ、出した戦果や活動を物語として作らせて、完成した物語を各地で待機している他の詩人達に伝え語らせる。

───これから語る物語 それは一人の王子の物語
───祖国を奪われ、家族と離れた悲劇の王子の物語
───二年という長く短い雌伏の時を経て、彼の者は立ち上がる
───その胸に抱くは祖国の奪還 その瞳に宿すは平和の奪還
───少年の名はマルス 彼こそは大陸の夜明けを告げる光の王子なり

 とまあ、こんなくっそ恥ずかしい前口上とともに彼らは町の広場なり酒場なりで語り始める訳です。
 上では私のことしか書かれてないけど、ちゃんと他の解放軍メンバーを称える物語もありますよ。ジェイガンとか、アベル、カインのこととか。他にも色々ね。
 現在のアカネイア大陸では恐怖の対象である竜人族(マムクートは蔑称であるため言ってはいけない)のバヌトゥが『解放軍の守護竜』として人気があるのは、ひとえに彼ら吟遊詩人達の活動のおかげです。
 うんうん、いいぞいいぞぉ。「お前ら怖いから数揃えて叛乱起こすわ」という、民衆の造反フラグは可能な限り潰さないとね!

 情報操作……というか印象操作はこれからも力を入れていきたい事業の一つだ。

 次に立ち上がったのは白髪が混じった黒髪の老人。名前をオストーという。
 彼は5年前から設立されているアカネイア大陸の商会連合『フォーチュンテラー』の現代表だ。
 私の影の腹心でもある彼は、手に持っていた資料をその場にいる全員に渡す。
 渡された資料に目を落とすと──

「……帝国にフォーチュンの存在を悟られた可能性有り、だって?!」
「はい。ワーレンにあるフォーチュン支部の武器屋に務めていた男が一週間前から行方不明となってたのですが、先日遺体として発見されました。拷問された形跡があります」
「…続きを」
「その遺体が発見される前、正確には遺体の男が行方不明になった直後からですな。帝国の者と思わしき複数の男が各地にある支部店を見張り始めました」
「何故今ごろになって……いや、帝国は決して無能ではない。そう考えたほうがいいか?」
「はい。むしろ今まで気付かれなかったことこそおかしいのです。帝国には優秀な者が多く存在します。一度不審に思えば即座に行動を起こし、情報を集め、やがて答えにたどり着くでしょう。
 殿下、帝国はすでにフォーチュンの存在に気付き、かつ裏で我らと殿下が繋がっていると断定している。これからはそう仮定して行動なさったほうがよろしいかと」
「わかった、そうする。貴重な意見と情報に感謝する。オストー、帝国の同盟、支配下にある国……マケドニア、グルニア、アカネイア、アリティア、グラにあるフォーチュン支部に『暫くの間静観に徹せよ』と伝えてくれ」
「御意!」

 何もかもこちらの都合の良い通りにはいかないか。なるほど、考えてみればあたりまえのことだ。
 吟遊詩人達の動きにも対応されてしまうかもしれないな。何か対策を考えておかないと……。

 報告を終えたオストーが座り、最後に立ったのはカダインから魔法「ワープ」でやってきた妙齢の女性───アリュナだ。
 彼女は魔道組織『ジ・クリエイターズ』の代表を務める女性司祭。この組織は学園都市カダインに秘密裏で設立された、魔道の杖を作ることを専門とした組織である。
 組織設立の資金はフォーチュンテラー経由で私が出した。杖を作ることに至上の悦びを見出す彼女達にとって、高レベルの杖を作るのに必要な費用をポンと出してくれる存在はとてもありがたいらしく、信仰するレベルで私のことを慕ってくれている。
 アリュナも私を慕っているらしく、人目がない場所で二人きりになるとフニャフニャペタリと腕に絡みつき、その大きなオパーイを押し付けてくる。
 く、くそぉ、パツ金ねーちゃんの誘惑になんて負けないぞ! 私はシーダでDTを捨てるって決めてるんだ!(←恋愛フラグ消滅に気付いてない)

 彼女はその大きなオッパイの谷間から(!?)報告書を取り出し、それを私に手渡す。……エルンスト、オストー! 羨ましそうにこっちを見るな! これは絶対にやらんぞ!
 折りたたまれた紙を開き、その内容に目を通す。……ふーん、なるほどねぇ。

「聖水が随分買い込まれてるみたいだけど?」
「はい。わたくし達が経営する店から大量に聖水が買い込まれました」
「そしてそれを買い込んだのが現在カダインの支配者であるガーネフの部下達と」
「付け加えますと、彼らは仲間同士でこのような会話をなさってました。『これを全部ワープでアカネイアまで持っていくのか』と。
 アカネイアに潜伏している同志に確認をとったところ、多数の魔道士がワープで何度もパレスへ出入りしていたとか」
「サンダーソード対策かな」
「間違いなく」

 やっぱりなぁ。そろそろ対策取られると思ってたんだよ。魔法防御を上げる聖水ってさ、高性能なくせに安価で量産しやすいんだよね。
 これで我が軍のサンダーソード無双も終わりかな。だけど……。

「問題ないな。我が軍の力はサンダーソードが全てという訳ではない」
「はい──」

 私の言葉にアリュナは笑みを浮かべる。エルンスト、オストーも同様だ。
 サンダーソード対策なにするものぞ。自重を止めた我が軍はその程度では止められない止まらない。
 この戦(いくさ)より我らマルス軍は真の無双を始めるのだ。

「それとこちらは口頭での報告となります。二ヶ月ほど前に王子がご注文なされた杖……完成のメドがたちました」
「ッ───!」

 そうか、とうとう完成するか───ワープの杖、レスキューの杖が!

「アリュナ、よくやってくれた! 報酬は戦が一通り落ち着いてからになるが必ず渡す!」
「ありがとうございます───」

 いいぞ、いいぞぉ! あの二つの杖があれば戦術・戦略ともに広がる!
 ふはははは、超テンション上がってきた! 今なら誰が来ようと勝つ自信がある! もう なにも こわくない!



 その後、ディール要塞に駐屯している帝国軍が動き出したとの報告を受けたため会議を中断、解散した。
 エルンストとオストーはワープを使えるアリュナの部下とともに去り、アリュナは自分のワープでカダインへと戻っていった。

 さて、そろそろ気持ちを切り替えなくちゃな。マリア王女救出作戦、始めるぞ!



◇◆◇



3.マルス軍 VS ジューコフ軍


 陽は真上に昇り、さんさんと草原を照らしている。その見渡しのいい平原をジューコフ率いる800人の軍集団が列を成して進軍していた。
 彼らの装備は従来の物ではない。ガーネフが持ってきた武器──メニディ川で拾った旧アリティア軍の装備──をそれぞれ装備している。
 ある者はサンダーソード。ある者はキラーランス。ある者はキラーボウ。
 渡された武器は全て手入れされて新品同様になっており、数回の戦争に耐える事が出来る。準備は万全と言えよう。

 進軍は快調に進む。馬の蹄の音が草原に鳴り渡る。もう間も無く報告にあった反乱軍の駐屯地だ───

「報告! 反乱軍がこちらに向かい進軍開始! 反乱軍がこちらに向かい進軍開始!」
「来たか───!」

 偵察に出していたドラゴンナイトからの報告。ジューコフはその報告を受け取り、攻撃命令を意味するラッパを兵士に吹かせる。

「これより我らは反乱軍との交戦にはいる! 全軍前進! 我らが正義を示すのだッ!」
『おおぉぉぉ───ッ!!!!!』





 ディール要塞に配属されたグルニアの兵士トマーは不幸の人である。

 彼は幼い頃からグルニア騎士団、それも花形である『黒騎士団』へ入団することを夢見ていた。そのために彼は剣の腕を磨き、槍の使い方を学んだ。
 腕が伸び悩み挫けそうになった時、故郷の幼馴染イース(当時15歳♀)に「がんばだよ、トマー!」と何度も励まされたものだ。
 入団試験を受けるため首都へ向かう日に、皆から鋼の剣と500ゴールド(平民の年収は900ゴールド~1200ゴールド)を渡されたときは涙が止まらなかったものだ。

 彼の不幸はその入団試験のときから始まる。

 入団試験は受験者同士一対一で決闘を行い勝った者が合格するというものだった。
 トマーはこの試験に挑み───勝った。それも圧倒的力の差を見せ付けて。
 本来なら文句なしの合格だ。しかし、彼の相手が悪かった。
 トマーの試験相手はグルニアでも有数の貴族の息子だった。その息子は負けた腹いせにゴロツキを金で雇いトマーを襲わせたのだ。
 しかしゴロツキ程度にやられるトマーではない。10年間の自己鍛錬は彼を裏切らず、実戦経験が皆無にも関わらず襲ってきたゴロツキ10人全員を返り討ちにした。
 返り討ちにあったという報告を聞いた貴族の息子は憤怒し、しかしすぐに考え方を変える。彼はトマーを「愚かにも首都で殺人を犯した大罪人」へ仕立て上げたのだ。
 トマーは必死に弁明したが金と権力を持つ貴族には適わなかった。結果、彼は死罪こそ逃れたものの騎士団合格は取り消し、下級兵として最前線へ送られることになる。

 送られた場所も最悪だった。そこには下級兵を蔑む貴族出身の騎士が多数存在し、職務中にも関わらず彼らは酒を飲み過ごしていた。
 真面目な性格をしているトマーはそれを注意する。その結果彼は騎士達の反感を買ってしまい、上官の見えない場所で彼をリンチするようになる。

「これが、こんなのがグルニアの貴族なのか。グルニアの騎士なのか」

 彼は貴族に、騎士というものに深い失望を覚えた。これがかつて夢見ていた騎士の現実なのか、と。

 それから数日後、彼が居た最前線に解放軍を名乗る軍が現れ、大きな戦争が始まる。レフカンディの戦いだ。
 トマー達レフカンディ軍は圧倒的戦力差で会戦に望んだにも関わらず敗北を喫した。……完敗だった。
 その戦場の光景は今でも夢に見る。……20メートルにもおよぶドラゴンが目で追いかけるのがやっとのスピードで戦場を駆け巡り味方をひき殺していく光景を。その背に乗る自分とさほど変わらない年齢の男が傲慢に笑う、悪夢そのものの光景を!
 解放軍という言葉を聞いただけで全身が竦む。トマーはあの戦争で強烈なトラウマを植え付けられた。

 その解放軍との戦いがもう間もなく始まろうとしている──

 ズン!という地響き。音がした方向へ視線を移す。
 視線の先には槍を構えた解放軍の歩兵達が隊列を組んで並んでいた。
 トマーは震える身体を無理やり抑え、前方にいる敵軍を強く睨みつける。

「やってやる……やってやる……!」

 その呟きには決意が篭められている。何が何でも生き抜くという強い決意。
 トマーは故郷にいる幼馴染のことを思い出していた。この戦(いくさ)が終わったら軍を辞めて村に帰ろう。そして畑を耕すんだ。アイツと、幼馴染のイースと一緒に……。

 しかし現実は非情だ。彼にとって新しい『悪夢』がこれよりこの地で開演される。

『全体、かまえーっ』

 指揮官と思わしき老人の声。ジャランと槍を構える音が聞こえた。

『全体、突撃ッ!』

 そして彼らは指揮官の号令にあわせて、



ズズン───ッ!



 鈍い音が響くと同時に地面が揺れ、次いで敵反乱軍は跳躍する。
 誰かが「えっ」と呟いた。つい先ほどまで目前に居た反乱軍が影を残して消えたからだ。
 再び誰かが呟く。「上…?」それを近くで聞いたトマーは天を仰ぎ見る。……そこには信じられない光景があった。

 敵反乱軍、およそ200。その敵軍全員が遥か上空まで飛んでいた。それこそペガサスナイトやドラゴンナイトが飛行する高度まで。

 ゆっくりと落ちてくる敵軍は持っていた槍を投擲するように上段に構え──下から見上げれば豆粒ぐらいの大きさにしか見えないのに、何故か分かった──勢いよく腕を振りぬく。



轟───ッ!



 雷鳴を思わせるほどの轟音が戦場に鳴り響く。そして───

「うわ、うわぁぁぁぁぁ!!」
「いてっ、いてぇぇぇ!!」
「くび、お、おれの、くびぁぁぁああああ!」

 槍に貫かれ即死した戦友の名を叫ぶ者、足や手を切り裂かれ絶叫する者。
 ジューコフ軍は一瞬で混乱に包まれた。彼らはいま何が起こったのか理解出来なかった。

 そしてその混乱をよそに後方へ着地する反乱軍。彼らは誰一人負傷していない。
 彼らの行動とその結果起こった現象、それを言葉にすれば実に単純だ。
 敵軍は100メートル近い高度まで跳躍した。その後持っていた槍を投擲した。その槍で200人近い味方が殺された。一方100メートル上空から落下した彼らは誰も負傷せず無事に着地した。
 ……不条理というレベルではない。ジューコフ軍にとって反乱軍という存在は理解の範疇外に在る〝ナニカ〟だった。

 悪夢はどこまでも続く。混乱、錯乱するジューコフ軍に向かい後方に着陸し隊列を整えた敵軍。そして彼らの指揮官は再度突撃の号令を発した。

『全体、かまえーっ! 全体、突撃ッ!』

 腰の剣を抜き放ち突撃の構えを見せた反乱軍。指揮官の命令が響くと同時に揺れる大地。轟音とともに土がめくれ、敵軍はたったの数歩で50メートルはあった距離を駆け抜けジューコフ軍に切りかかる。この一撃でジューコフ軍は200人以下にまで減らされた。

(ああ……やっぱり俺、不幸だぁ……)

 すでに敗戦が確定している戦場の中、トマーはついに恐怖に負け意識を手放す。
 それがグルニア軍に所属していた彼の最後の戦いだった──



◇◆◇



「よっこらしょ、っと……」

 崖をなんとか登りきり、解放軍の戦士ドーガは一息つく。マルスが彼に与えた任務は北の入り口の確保であった。
 部下や兵士達を大事にするマルスが(信頼を置くとはいえ)ドーガ一人で戦地の中を行動させるはずはない。しかし自重を止めたマルスは『あるアイテム』を大量に購入。そしてそれをドーガに使用させたことで彼の単独行動を認めた。
 そのアイテムこそステータスUPアイテム。マルスは全ての部下達にそれぞれアイテムを与えた。

 天使の衣×200でスタミナを大幅に上昇。
 パワーリング×100で圧倒的パワーを。
 スピードリング×150で疾風の速さを。
 竜の盾×200で鉄壁の肉体を。

 これによりマルス軍は人外そのものの軍集団と化している。今の状態だと無名の歩兵ですら鉄の剣で地竜を切る事が出来るのだから恐ろしい。

「ん? あれは……敵の魔道士か?」

 ドーガの視線の先に敵軍の魔道士と思わしき者が一人。どうやらこちらには気付いていないようだ。
 ドーガは持ってきた4本の槍のうち手槍を持ち狙いを定める。距離は100メートル。本来なら絶対に届かない距離だがパワーリング×100で圧倒的パワーを得たドーガならば充分狙える距離だ。

「むんっ──!」

 気合を入れて槍を投擲! 手槍は風を切り裂きながらぐんぐんと迫る!
 音で気付いたのだろう、敵魔道士は魔道書を取り出し迎撃体勢に入った。全身が黒い霧で包まれる。
 しかし勢いのついた手槍は止まらない。手槍はバリアと思わしき黒い霧ごと敵魔道士を貫く!

「仕留めたか──ん? あれはまさか回復魔法か……? 槍で身体を貫かれているのに魔法を使う余裕なんてあるのか!?」

 目を剥いた。あの一撃に耐え、しかも回復魔法を自分自身にかける余裕があるとは誰が想像つくだろう。
 呼吸を一つつき冷静さを取り戻したドーガは、最後の手槍を取り出し先ほどと同じように投擲。狙いは頭部、ここを潰されればさすがに終わりだろう。
 果たして、手槍はドーガの狙い通りに目標の頭部を貫いた。敵魔道士は力無く倒れ、少しの時間を置いて闇の粒子となり消え去る。そしてその場に一振りの剣が残された。

「こいつは見たことが無い剣だな。……あとでマルス様に見せてみるか」

 剣を回収しそのまま崖から移動、要塞の北入り口にいた敵警備兵を蹴散らし制圧した。ドーガは無難に任務を終える。



 たらららたらららら~♪
 ドーガは ガーネフを たおした!
 ドーガは ファルシオンを てにいれた!




◇◆◇



 要塞の壁を破壊しそこから進入した私達突入部隊は、マリア王女を探しながら要塞内の敵と戦っていた。
 もっともそれはお世辞にも戦いと呼べる代物ではない。何故ならば……

「なんで、なんで切れないんだよこいつら!?」
「キラーランスが通用しないとか嘘だろう!?」
「こっちのキラーボウもだ!」
「この武器で傷一つ付かないなんてどうなってやがる!??」

 ナイトのキルソード、アーマーナイトのキラーランス、スナイパーのキラーボウ。その悉くが通用しない。
 攻撃が回避されているという意味での『通用しない』ではない。攻撃が命中しているにも関わらずダメージを与えられないという意味での『通用しない』だ。
 敵兵は私達を「化け物」と罵り逃走する。しかし敵の逃走を許す訳にはいかない、私はナバールに全て討ち取るよう命じた。ここで逃走を許せば生き残った彼らは『解放軍は化け物の集まりだ』と悪い噂を流してしまうだろう。それだけは必ず避ける。

 一階にいた敵兵をすべて片付けた後、二階へ続く階段と地下へ続く階段を発見する。

「ナバール、ジュリアン、カシムは二階へ! 私と残りは地下へ行く!」

 私はオグマ、バーツ、サジ、マジを連れて地下へ下りる。そこはやはりというべきか、地下牢を思わせる部屋が並んでいた。幸いなことに敵兵の気配は無い。周囲を警戒しながら一つずつ慎重に部屋の扉を開けていく。
 そして四つ目の部屋で、私は意外な人物と出会うことになる。

「……マルス王子、ですか?」
「その声、その髪の色──まさか貴方はミネルバ王女か!?」

 そこにいたのは先日エストを通じて救援を求める手紙を送ってきた赤毛の女性、【赤い竜騎士】という異名を持つマケドニアの王女ミネルバだった。なぜ彼女が戦場ではなくこんなところに。……正史(原作)の知識もそろそろあてにならなくなってきたな。

 鎖で手首を縛られ吊るされている彼女は鎧や服を脱がされ下着だけの姿となっており、全身は鞭で打たれたのかいくつものミミズ腫れが出来ていた。
 私はすぐに鎖を外し、自分のマントで彼女の肌を隠す。

「ありがとう王子。……この地を治めるグルニアの将軍に拷問を受けてしまいました。この傷はその時のものです」
「ミネルバ殿……。よくぞ、よくぞ耐えてくれました」
「王子はこちらの無茶な救援を受け入れてくれたのです。これぐらいの拷問、耐えてみせます。……ふふ、女としての尊厳を奪われなかったのがせめてもの救いでしょうか」

 彼女の身は汚されていないということか。それを聞いて一安心だ。

 ミネルバ王女の話によると、先日ワーレンで接触した私とエストのことが帝国にバレたらしい。な、なんということだ……。

 王女の体を支えながら立ち上がり、そのまま歩き出す。地下牢から出て廊下を歩いていると階段の上から聞き覚えのある声がした。
 ドタバタと勢いよく階段を下りて地下へきたのは一人の少女。ミネルバ殿と同じ美しい赤毛から察するに彼女こそ──
 少女は廊下に出たミネルバ殿のもとへ真っ直ぐと駆け寄り、そのまま抱きついた。

「姉さまぁ! ミネルバ姉さまぁ!」
「マリア……ああ、マリア……!」

 涙を流しながら姉の名前を何度も繰り返すマリア王女。ミネルバ殿の目にもうっすらと涙が溜まっているのが見える。
 感動の再会を邪魔するのも無粋。私はオグマにミネルバ王女達の護衛を任せ、ナバールだけを連れて一階へと上がった。

 一階へ上がり南にある入り口へ向かうと、そこに少数の部下を従えたジェイガンの姿があった。彼は私の姿を見つけるとこちらへ駆け寄り、そのまま戦況の報告を始める。

「王子、敵将の戦死、および敵軍の壊滅を確認しました。我が軍の勝利ですぞ!」
「ご苦労様。こちらの損害は? 戦死者はいる?」
「戦死者はゼロ。損害らしい損害はありませぬな。ただ気になる点が一つ……」
「気になる点?」
「はい。敵軍の装備です。彼奴等、我が軍に似た強力な希少武器を装備しておりました。具体的にはサンダーソード、キルソード、キラーランス、キラーボウなどですな」
「……我が軍に似たというか、まんまうちと同じ武装じゃないか。キルソードとかはそれなりの店で購入出来るからともかくとして、サンダーソードまで? ……どうなってるんだ」
「王子、これは私見ですが……今回帝国軍が装備していた武器の数々、メニディ川で回収したものではないかと」

 メニディ川? メニディ川………メニディ川ッ!?
 もしかして二年前にあったアリティア軍vsグルニア・グラ混成軍のあれか! あそこで戦死した旧アリティア軍の装備を回収したってこと? それって火事場泥棒じゃん! あの地に居て生き残ったのって多分グルニアの連中だろ。あの騎士道騎士道うっさい奴らがそんな真似するか?!
 いや、やはりそれは考えられない。グルニアが回収したのではなく、後からやってきたドルーアが全部回収したって言われたら割りと納得出来るけど。
 ……いやでも、例えグルニアであろうとも強力な武器が手に入るなら恥を忍んで火事場泥棒だろうとなんだろうとやる……か?

 ううぅむ、グルニアの情報が欲しい。欲しいんだけど…グルニアにあるフォーチュンの支部は帝国に見張られてるみたいで動かすことは出来ないんだよなぁ。

 うんうんと悩んでいる私のところにがっしゃんがっしゃんと鎧を揺らしながらドーガがやってきた。

「王子、少しよろしいですか?」
「ジェイガン少し待ってて。──うん、大丈夫だよ。なにか問題でも起きた?」
「いえ、北の入り口を制圧する時にこの剣を手に入れましてね」
「剣?」
「はい。敵の魔道士らしき男……老人かな?が持ってた剣です。それ、私は見たことがない剣でして。剣に詳しい王子なら何か知ってるかなーと思って持ってきたのですよ」

 ドーガから受け取った剣を鞘から抜いてみる。おお、なんか凄いぞこれ。見た目完全に聖剣っぽい。こう、心が洗われる神々しさがあるね!
 ……もしかしてこの剣ファルシオンだったりして。なーんてなHAHAHA!(←気付いてません)

「うーん、ちょっと分からないかな。ドーガ、これ預かっていいかな? 時間が出来たら調べてみたい」
「了解です。それではその剣、王子がそのままお持ちください」

 では、と一礼し、再びがっしゃんがっしゃん鎧の音を響かせながら持ち場へ戻るドーガ君。
 ふぅ、と溜息をついたあと、ジェイガンにこれからの方針を話す。

「敵兵の武装についてはとりあえず保留。この件、父上やハーディン殿も交えて話し合おう」
「……それは<秘密の店>についてもお話するということでしょうか」
「いつまでも黙っている訳にもいかないからね。話すべき時期が来たんだと思う」

 私が<秘密の店>に出入り可能なことを知っているのはジェイガン達一部の家臣と『賢人会議(ワイズメン・グループ)』の彼らだけ。父上達にはまだ話していなかった。
 父上達に話さないことに不義理を感じていたが今まで話すタイミングが掴めなかった。……今回の一件は良い機会だ。合流したら思い切って話すとしよう。

 シェイガンは納得したのか敬礼してそのまま下がる。私はそれに答礼し、その後その場に集まっていた部下達に命じた。さぁ、戦後処理のお時間ですぞ!!

「先ほどの戦争で今この地の治安が低下している! まずはそれをどうにかしよう! 各部隊は周囲の巡回を! もし巡回中に敵兵を見つけたら投降を呼びかけるように! 呼びかけに応じ投降してきた敵兵は捕縛、決して殺さないようにすること! それでは行動開始!」

 合図とともにそれぞれの部隊が動き出す。……私も彼らの指揮官として動かなきゃ。
 まずは近くにある町に使者を出して食料や医療品が不足しているかどうかを調べてみるか───





あとがき

ドーガ「超遠距離からの手槍(基礎力+パワーリング×100)でマフーの突破余裕でした」
マルス「どういうことなの……」
ガーネフ「そりゃわしのセリフだ」
ジューコフ「後編の出番は1シーン、セリフは二つしか無ぇ」



[35037]      幕間3
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:9442b7f4
Date: 2015/11/21 19:41
 マルス率いる解放軍はディール要塞の制圧に成功した。
 この地で王子はマケドニアの王女ミネルバとマリアの両名を保護。後に二人はマルス軍へ正式に加入することになる。
 指揮官として、また竜騎士として有能なミネルバを得たことにより、マルス軍の戦力はさらに高まった。

 ディール要塞制圧から三日後、港町ワーレンから出立したコーネリアス軍・ハーディン軍がマルス軍と合流する。
 「いよいよアカネイア奪還か」
 要塞に集結した解放軍を見た者達はそう呟いたという。



◇◆◇



1.辿り着く者達


 森と山に囲まれた古城、ドルーア城。そこは現在アカネイア大陸を支配している地竜王が座する場所。

「……ガーネフが死んだか」

 グラスにそそがれたワインをゆっくり味わいながら、地竜王メディウスは下から上がってきた報告書を流し読みする。
 それには『ガーネフ司祭 ディール要塞で死亡を確認』という内容が記されていた。
 報告書を読み終えたメディウスは紙の束をテーブルの上へ放り、グラスに残っていた酒を一気に呷る。

「マルス、あの小僧め。やっと確信した。あの小僧は間違いなく『奴ら』と繋がっておる……!」

 グシャリ、とグラスを握り潰す。グラスを持っていた左手が負傷するがメディウスは気にすることなく怒りをあらわにする。
 報告書を持ってきた男──ゼムセルは、メディウスが見せた怒りに戸惑いを覚える。あの地竜王に鬼気迫る形相を浮かばせる『奴ら』とは一体……?
 ひとしきり罵詈雑言を述べた後、メディウスは部下を一瞥する。その視線には竜人族を束ねる王としての凄みがあり、常人では耐えられない圧力があった。それは竜人族であっても例外ではない。
 ゼムセルは逃げ出したい衝動に駆られながらも、なんとかその視線を受け止める。

「……そういえばゼムセル。貴様には──他の同胞達もそうだが──教えてなかったな。『奴ら』のことを」
「……王よ、我ら竜人族を束ねる偉大な主よ、よろしければお教え願えまいか。『奴ら』とは一体何者なのです」

 ゼムセルの問いにメディウスは「ふん」と忌々しげに鼻を鳴らす。

「このアカネイア、いや、この世界とは異なる次元に存在する者達。『資格有る者』のみその空間に入ることが許され、資格無き者は干渉することすら許されない。古くは神話の時代から存在し、歴史の節目には必ず現れる謎の集団。その集団こそ──」



◇◆◇



 その頃のマルス様。


「……む、マルスよ。そなた何をしている?」
「あ、父上。今ですね、資料を使ってこの剣について調べてるのですよ」
「この剣? ……!? ま、マルス、その剣をどこでッ!?」
「どこって、ドーガが倒した魔道士から入手したらしいですが。父上、もしかしてこの剣を御存知で?」

「ばっかも~ん! そりゃファルシオンだッ!!」
「ゲゲェー! ふぁ、ファルシオン?!」




◇◆◇



「秘密の店、ですか」

 竜騎士ルーメルはマケドニア王ミシェイルの言葉に乾いた笑みを浮かべる。
 場所は変わってマケドニア。執務室らしき部屋にミシェイルとルーメル、それと文官らしき男が数名。

 <秘密の店>。その名はここアカネイア大陸にとって特別な意味が込められていた。
 時代の節目、さらに言えば戦乱に満ちた世に現れる<秘密の店>。それを味方に引き入れた軍こそが戦争を制すると言われている。
 実際100年前にあった戦争の裏に<秘密の店>がアカネイア側に組していたという事実もある。

「天使の衣、パワーリング、竜の盾……所謂マジックアイテムと呼ばれるアイテムを始め、一流の腕を持つブラックスミスですら製作が困難なサンダーソードなどの希少武器を取り扱っている店──噂話でそう聞いたことがあります」
「その噂ならば俺も知っている。そして反乱軍───いや、マルス軍の様子を見る限りそれは正しかったようだ」

 まるで<秘密の店>とマルス軍が繋がっていることが確定しているかのような態度のミシェイルに、ルーメルは乾いた笑みを浮かべることしか出来なかった。
 ミシェイルとその腹心達は、ディール要塞へ偵察に出ていたルーメルの報告、それとこれまでのマルス軍に関する情報から『マルス軍は<秘密の店>と密接な関係にある』と結論付ける。
 沈んだ表情を見せる家臣達に、しかしマケドニアの王は不遜な笑みを浮かべた。

「ふん。ルーメルよ、何を臆している。この俺が──マケドニアの王ミシェイルが、あの小僧に遅れを取ると思っているのなら大間違いだ。奴らへの対処方法など幾らでもある」

 <秘密の店>へ自由に出入り出来る(と思われる)マルスの暗殺、マジックアイテムの効果が切れるタイミングを狙った電撃作戦、軍資金が無くなるのを待つetc……。

「アイテムの効果が切れるのを待つ、軍資金が無くなるのを待つ。この二つは策として機能することを期待するのは無理だろう。
これまで挙がってきた情報によれば100本単位でサンダーソードを揃え、200人前後の歩兵をマジックアイテムで強化している。
そしてあのガーネフ、忌々しいマフーの守りを“ただの手槍”で貫通し殺したドーガというアーマーナイト。奴もマジックアイテムで強化されていたという事実が確認された。
……これらの武器、アイテムを揃えるのに最低でも100万、いや、200万以上の金が必要になる。国家予算レベルの大金が動いている計算になるな。そしてマルスはどのような方法でかは不明だが金を用意し店から購入、アイテムを揃えた。その金をどうやって用立てたのかはやはり不明だ。
……あるいは、奴は<秘密の店>と何らかの契約を結び、武器やアイテムの購入に金を必要としていないのかもしれん。
まあそれはどちらでも良い。問題はマルス軍がいつでもあの店の装備、アイテムを大量に用意出来るという事実だ。
よって、マルス軍に対する有効な策、一番現実的な策はマルス、あるいはマルス軍に居る<秘密の店>に出入り可能な者の暗殺となるだろう」

 ミシェイルは愛飲している葉巻に火をつけ「もっとも、今はまだこちらも動かんがな」と続ける。

「なぜです? 奴は危険です、それこそあのドルーア以上に。排除が可能でしたらすぐに動くべきでは?」
「……ルーメル、どうやら今の貴公は視野狭窄に陥っているようだ。反乱軍があの店と繋がっている可能性が高いゆえに焦りを覚えるのも無理はない。が、マケドニアの将たる貴公が冷静さを欠き大局を見渡せなくなるような無様は許されんぞ?」

 失望のため息をついた後ミシェイルは語り始める。

「聞け、ルーメル。時代は武力による戦争から新たなステージへと移ろうとしている。……マルスが、あの小僧の勢力がそうさせてしまった。
 いいか。これから我がマケドニアはグルニアと共に──」

 マケドニアの王が語るその言葉は、これから始まるであろう新たな戦のあり方をルーメルに予感させた。



◇◆◇



 その頃のマルス様。


「マルス王子、あれは一体……?」

 竜石を使いドラゴン化したバヌトゥ(ステUPアイテムで魔改造済)が歩兵(ステUPアイテムry)を山に向かってポンポン投げている光景を見て、ミネルバはマルスに訊ねる。
 投げ飛ばされてる兵士達は「飛んでる!飛んでるぜ~!」と嬉しそうに悲鳴(?)をあげながら山の向こうへと消えていく。
 マルスはミネルバの問いに笑顔で答えた。

「ええ、いま新しい戦術を考えていましてね。これはまあ、練習というヤツですよ」
「戦術。戦術ですか──」

 もう一度バヌトゥの方を見る。ヒョイ、ポン。ヒョイ、ポン。まるで作業のようにバヌトゥは兵士を山に向かって投げ飛ばしていた。

 新しい戦術っていったい………いやでもマルス王子にも考えがあって…………だがしかし……………。

 自分が持っていた常識と価値観。それが少しずつ壊されていく、あるいはズレていくことにミネルバは若干の恐怖を覚えた。



◇◆◇



 場所は再び変わり──グラ。

「………」

 グラにある砦の一つ、その廊下を一人の少女が歩いていた。
 年齢はまだ少女とも言うべき10代半ば。美しい曲線を描く眉に、矜持の高そうな瞳。王族のみが着衣を許される軍服を纏った彼女は腰までスラリと伸びる髪を揺らしながら客人が待つ部屋へと向かっている。
 彼女の名はシーマ。『メニディ川の戦い』で負傷した父ジオルが昨年死亡、彼女がグラの女王として即位した。いきなりとも言える彼女の即位に、しかし国民は熱意を持って歓迎した。
 まずシーマは父によって荒らされた国の再建に力を尽くす。そして即位から僅か一年でギリギリ滅亡を免れる程度の軌道修正に成功する。
 帝国の圧政下でなければ完全な再建も夢では無かった、とは国民達の声だ。それほどの偉業をシーマはこの一年で成し遂げた。

 もっとも、その偉業は彼女に協力した者が居たからこそなのだが。
 シーマは今日、その協力者の一人と会う予定だ。



「お待たせした──カミュ殿」
「お久しぶりだ、シーマ殿」

 室内へ入ったシーマを迎え入れたのは大陸最強と目され『黒騎士』という異名を持つグルニアの騎士 カミュその人だった。
 グラ王国再建のためシーマに協力した者、その一人が彼である。

 シーマは控えていた侍女に飲み物を頼み、カミュと向かい合わせになるように座る。
 侍女が一礼し退室する。紅茶を煎れに行ったのだろう。その間に二人は他愛無い世間話をしていた。
 それから数分後、紅茶を煎れた侍女が戻りテーブルに紅茶を並べる。その後彼女は「失礼します」と一礼し、再び退室した。侍女の気配が部屋から完全に遠ざかったのを確認した後、二人の話は本題へと入る。

「……この情報は確かなのでしょうか」
「こちらでも確認した。まず間違いないと思われる」

 シーマは渡された紙にもう一度視線を落とす。その紙には“ある人物名”と“ある組織名”が記されている。
 それを見て、シーマは顔を青ざめさせながら深く息をついた。

「まさか、アリティアのマルス王子とフォーチュンテラーが繋がっているとは……」

 呻くように呟く。彼女にとってそれは青天の霹靂とも言うべき事実だった。フォーチュンテラーはグラ王国復興へ多大な貢献をした組織。今ではフォーチュンの助力が無ければ国家運営が立ち行かなくなるほど深く依存している。
 その組織がアリティアの王子と繋がっているというのだ。王子がその気になれば何時でもグラを崩壊させることが出来ることが可能だ。そして最悪なことにグラはマルス王子に国を滅ぼされても文句を言えない立場にあった。何故ならグラは同盟国であったアリティア軍を卑劣にも裏切り、アリティア王国滅亡の原因となったのだから。
 彼女が頭を抱えたくなるのも当然だった。すでにグラは“詰んでいる”。シーマが愛する祖国グラの滅亡は時間の問題と考えても仕方が無かった。

「……シーマ殿、グラだけではない。我が祖国グルニア、マケドニア、果てはドルーア帝国にまで彼の組織は手を伸ばしている」
「──馬鹿なッ」

 いつの間にか席から立ち上がり窓から外を眺めていたカミュが苦々しくそう語る。彼のその言葉にシーマはまたも強い衝撃を受けた。



 二年前、グルニアとドルーアに深刻な問題が立ちはだかった。それは『食料危機』だ。
 麦を始めとする多くの畑が収穫間際に蝗害でやられてしまったのだ。
 この災害によりグルニアとドルーアの食料事情は悪化の一途を辿る。ドルーアは保管していた備蓄を放出しつつ占領下にあるアリティア・グラから強引に食料を徴収し何とかこの危機を乗り越えることが出来た。しかしグルニアはそうもいかない。グルニアの占領下にはアリティアのような豊かな国は無かった。
 グルニアも備蓄を少しずつ切り崩しながら何とか凌いでいたが、それとて限界がある。持って二ヶ月、それだけしか時間は残されて無かった。

 そんな時だ。『とある商人達』が彼らの前に現れたのは。

 『彼ら』はワーレンの商人達。この時代では珍しい“良心的な値段”で食料物資を売りにやってきた。
 見返りを何も求めず、低価格で食料を売り出す『彼ら』を怪しむ者は多数居た。しかし──

『ククク……とんでもない。窮した歴史ある国家を救済するためこの地で商売を始めた我々が悪党のわけがない。
我々は皆様に“低価格販売”という未曾有のチャンスを与えているのです。
赤字などは元より覚悟のうえ。この未曾有のチャンスを掴むか否かは貴方達次第。
我々の商品は非常にリーズナブル、良心的価格でございます』

 『彼ら』の言う通りこれはチャンスだった。国家の危機を乗り越える最大のチャンス。
 『彼ら』の取引を蹴り、国外追放しようものならグルニアは間違いなく終わっていた。故にこれはグルニアに訪れた未曾有の危機を乗り越える最大の、そして唯一のチャンス──

 最終的にグルニアは『彼ら』との取引を選択、蝗害によって生まれた食料危機を無事に乗り越えることが出来た。
 このことが後々彼らを苦しめることになるとは、その時想像もしていなかっただろう。



「では、……では、マルス王子は軍を率いて蜂起する前から打倒帝国のために動いていたということですか」
「そういうことになる」

 カミュの言葉にシーマはうな垂れる。黒騎士のこれまでの話がすべて正しいとすると、マルス王子の手の者がどれだけグラに、そしてドルーア帝国側に入っているのか。もはや想像するのも恐ろしい。
 カミュは視線を窓の外へ向けたまま話を続ける。

「シーマ殿。フォーチュンを国から排除してはいけない。……理由は分かるね?」
「はい。今この国から彼らを排除、追放したら……暴動が起きてしまう」

 フォーチュンテラーという組織はこの国に深く根ざしてしまっている。一般市民にとっての生活必需品(調味料など)のシェア独占、貴族の嗜好品(酒、葉巻など)のシェア独占。
 フォーチュンを追放するということはそれらを一気に失うことを意味する。その時に生まれる混乱はいかほどか、想像に難くない。
 そしてそれはグラだけではなく、グルニアも同様だった。この二国はすでにマルス王子とその配下の商人達の手によって“詰み”の状態となっている。

「戦争を──」
「え……?」

 カミュの呟き。その呟きにはどんな感情が込められていたのかシーマには分からない。

「──戦争をせずに勝敗が決まる。これが彼の、マルス王子の戦争か……」



◇◆◇



 その頃のマルス様。


 ディール要塞で解放軍全軍が合流してから三日過ぎた。現在彼らはアカネイア奪還のため作戦会議を開いているところだ。

 要塞の中心部にある会議室。そこに解放軍で隊長格の者達が集まっていた。どうやらここで会議が開かれるらしい。
 進行役であるオレルアンの王弟ハーディンが立ち上がり、会議の始まりを告げる。

「ではこれより作戦会議を始める。司会、進行は私ハーディンが務めさせていただく。……それではまずマルス王子」
「はい!」

 ハーディンに呼ばれたマルス王子が元気よく返事をし、すっくと立ち上がる。

「とりあえず三つほど作戦を考えてみました。
 作戦その一、ワープの杖を使い敵軍の食料保管庫へ潜り込み全ての食料を燃やし尽くす。
 さすれば敵軍の士気、抵抗力ともに下がり、我々は最小の被害で勝利が確定する。
 作戦その二、歩兵達にパワーリングを500個ほど使わせ遠距離から手槍で狙撃しアカネイアパレスを徹底的に破壊する。
 さすれば敵軍の士気、抵抗力ともに下がり、我々は最小の被害で勝利が確定する。
 作戦その三、アカネイアパレスの水源がある山をバヌトゥのブレスで残らず蒸発させる。
 さすれば敵軍の士気、抵抗力ともに下がり、我々は最小の被害で勝利が───」



『止めんか外道ッ!』



 ぎゅるるるッ! ぽぐぅ!!



 コーネリアス、ハーディン、ニーナのトライアングルアタック!
 マルスに ひっさつの いちげき!


 だんだんとマルスの扱い方を理解してきた三人でした。



◇◆◇



 ずる……ずる……ずる……

 這いずる音が塔の内部に響く。
 ここはイード砂漠にある古代都市テーベ、その中央にあるテーベの塔。
 その塔内部を、一人の老魔道士が這いずる格好で塔の中心部へ向かって動いていた。

「ぐ、ぐぅ……お、のれぇ……!マルス……あの小僧めぇ……!」

 怨嗟の声をあげながらもぞもぞと動くその老魔道士は、なんとあのカダインの魔王ガーネフである。
 ディール要塞で頭部を手槍で貫かれ殺されたと思われたガーネフは、実は辛うじて生きていたのだ。
 死の直前で『闇のオーブ』の影響力が強いテーベへワープしたのが功を奏した。マフーの書がもたらす超再生能力、そこに『闇のオーブ』の力が加わりガーネフは見事肉体の再生に成功したのだ。
 今は無様に地面を這いずっているが、一週間もすれば完全に回復するだろう。

「マルス……!マルス……!あの小僧、必ずこのわしが、わしの手で殺す……!」

 口を開けば出てくるのはマルスへの憎悪。ディール要塞での敗北は、ガーネフの心に強い陰を落としていた。

 若りし頃のガーネフは正義感の強い若者だったと言われている。しかし、師である大賢者ガトーにはガーネフの心の弱さを見抜かれていた。
 故にガトーはオーラの魔道書と魔道都市カダインをもう一人の弟子ミロアへ委ねる。

 そして、それこそが全ての始まりだった。

 ガトーがオーラとカダインをミロアへ委ねたことを知ったガーネフは嫉妬に狂った。彼はガトーから『闇のオーブ』と闇の魔法『マフー』の生成方法が記された書を盗み出す。マフーを作り出す過程で『闇のオーブ』の影響を強く受けたガーネフは“正義感の強い性格”から“残忍な性格”へと豹変する。
 その後、復活した地竜王メディウスと結託、ミロアを殺害した。怨敵となっていたミロアを害した時、ガーネフは愉悦に顔を歪ませていたという。

 そして今。ガーネフにとってマルスとそれに従う軍はミロア以上の怨敵と認識されていた。
 彼はミロアの時を上回る憎悪をマルス達に抱いていたのである。

「あの小僧を殺せるのならば何もいらぬ……! 闇のオーブよ、わしの全てを持っていけ……! その代わり、力を……! このわしに力をよこせぇぇぇ………ッ!」

 誰も居ない塔の中を、ガーネフの憎悪に満ちた叫びが響く。
 アカネイア歴604年。古代都市テーベにて、暗黒竜メディウスを上回る『真の魔王』が生まれようとしていた──



[35037] マルス「第一部 完!」 ニーナ「第二部は始まるのでしょうね…?」(前編)
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:b899f0d5
Date: 2015/11/20 21:41
 ニーナ、コーネリアス、ハーディン、そしてマルス率いる解放軍は破竹の勢いで連勝を重ね、アカネイアの地へたどり着いた。
 迎え撃つはドルーア軍と旧アカネイア正規軍。その数、実に3万。彼らは今か今かとアカネイアの地にて待ち構えている。

 季節は秋。解放軍は一つの節目を迎えようとしていた───


◇◆◇


1.ノルダ解放


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 ボロの布切れを纏った少女リンダは、押し込められた地下牢でそんなことばかり考えていた。

 ある日のことだ。奴隷商人の男はイラついていた。
 最近ノルダに進出してきた“とある商会”にいいようにしてやられたらしく、鬱憤が溜まっていたようだった。
 男は鬱憤を晴らすかのように周囲に──主に売れ残りの奴隷達に──八つ当たりをしていた。
 その八つ当たりは雑用係りのリンダにまで及んだ結果、彼女が男装していたということがバレてしまう。

「てめぇ!俺をダマしてやがったな!タロスってぇ名前も偽名か!?」

 男装し性別を偽っていたことに激昂した奴隷商人はリンダを徹底的に痛めつけた。それはもう拷問と呼べるレベルだった。
 …もし彼女がそのまま男に犯されていたら、確実に精神が壊れていただろう。そうしなかったのは男がそれを理解していたからだった。

 ある程度痛めつけたところで気分が晴れたのだろう、男は奴隷を呼び、すでに顔の形が変わってしまったリンダを地下牢に閉じ込めるように指示する。
 奴隷に引き摺られていく彼女へ、奴隷商人の男は告げた。

「……お前、なかなかいい顔してたな。決めたぞ、お前は俺専用の奴隷にする」

 その後、リンダは他の奴隷達の手によって治療を施された後 地下牢に監禁された。
 男は顔の形が変わり醜くなったリンダを犯すことが出来なかった。だから態々治療してやったのだ。
 元通りの美しい娘に戻ればそれで良し。戻らなければそのまま奴隷として売り物にすれば良し。
 それが男の下した結論だった。

 リンダが地下牢に監禁されてから一ヵ月後───現在。
 彼女はかつての美しい顔を取り戻していた。
 それは即ち彼女の“少女”としての最後を意味する。
 彼女はこれから人形として生きることを強制されるのだ。ここを支配する奴隷商人を満足させる、ただそれだけの人形として……。

 アカネイアは滅び、父は殺された。
 父を殺した魔王ガーネフに復讐することだけを願い、これまで生きてきた。
 だけど、それももう───

 ギィ、と何かが揺れる音がする。これは牢屋の扉が開く音だ。
 視線を向ける。男が──自分と同じ奴隷──扉の前に立っていた。

「旦那様がお呼びだ。……ついてこい」

 男は死刑宣告ともいうべき言葉を告げる。
 両手両足には拘束具を嵌められてるため逃げることは不可能。
 反抗しようにも魔道書は手元に無い。腕力でも12歳の少女であるリンダでは彼らに適うはずがない。
 全てを悟ったリンダは目の前が真っ暗になったような感覚を覚える。
 それをあえて言葉にするならば───絶望か。

 男に引きずられる様に連れて行かれながら、リンダは小さく呟いた。

「……おとうさま、ごめんなさい……」



 案内された部屋へ入ると、そこにはすでにこの館の主である奴隷商人の男がいた。機嫌が良いのかニヤニヤと笑っている。
 部屋に入ったリンダは先客がいたことに気付く。
 青い髪を腰まで伸ばした美しい女性──いや、女の子。年齢はリンダより二つ三つ上くらいか。
 1サイズ上の服を着ているのか、ややだぶついてるように見える。
 が、袖の先から見える腕やスカートから見えるスラリとした脚は、彼女が細身ながらも均整の取れた身体の持ち主であることが容易に伺えた。
 男はニンマリと粘着質な笑みを浮かべながら二人の少女を眺める。これほどの上玉二人が自分の奴隷になるのかと思うと、笑わずにはいられなかった。
 男が上機嫌な理由は他にもある。それは青髪の女があの忌々しい“フォーチュンテラー”の関係者だったからだ。

 フォーチュンテラー。ここ数年の間に生まれた新興の商会で、現在アカネイア大陸のそこかしこに彼らの支部が存在する。
 ここノルダにも彼らの支部が作られた。そして、その時から男が経営する各店舗が没落し始めたのだ。

 男は奴隷の売買を始め多くの事業を営んでいた。武器、道具、食料、衣料。他にも様々。
 全てが順調だった。これまでノルダの市場は男が全て支配していたと言っていい。

 だがフォーチュンテラーがノルダに来てから全てが変わった。
 まず衣料品を取り扱っている店の売り上げが激減した。男の店の客が全て向こうに流れていったのだ。
 フォーチュンは“特売セール”というこの世界には無かった概念を使い、巧みに客寄せを行なった。
 特売セール。それは他店よりも安い値段で商品を取り扱うする、新しい販売戦略だ。
 フォーチュンの商品は品質が良い。それこそ他店で売られている新品の商品同様に。
 それが他店よりも安い値段で販売されたらどうなるのか───

 結果は火を見るより明らか。ノルダの市民はこぞってフォーチュンへと走った。

 そこから先は詳しく語る必要も無いだろう。
 フォーチュンは同じ手口で他の市場も制圧していった。
 最も何故か奴隷市場には手を出さなかったが。
 男が今なお商人としてこのノルダに居られるのは、奴隷市場を独占し何とか利益を出していたからである。
 もしフォーチュンが奴隷市場にまで介入していたら、男はひと月も待たずにこの町から放逐されていただろう。

 男はフンと鼻息を荒くし、次いで瞳を爛々と輝かせる。
 今、目の前にはあの忌々しいフォーチュンの関係者───それも極上の容姿をした女がいる。
 この女を自分の好きなように出来る。それだけで男は得も知れぬ興奮を覚えていた。
 男は舌なめずりをし、さっそくとばかりに青髪の女に手を───

「待ちなさい!その女性に手を出すのはわたしが許しません!」

 ───出しかけたところを、リンダに制された。
 先ほどまでのリンダは、恐怖に屈し、絶望に落ち、抵抗など無駄だと萎縮していた。
 しかし今は違う。今のリンダは「青髪の女性を守る」という、ただそれだけの為に動いている。

『力なき者の力に』

 それは彼女の父ミロアの言葉。
 青髪の女性の服に男の手が伸びたとき、不意にその言葉を思い出した。
 思い出してしまった以上、動かねばならない。ここで動かなければ父の言葉を否定することになってしまう。
 故に彼女は絶望を、恐怖を押しのけ、女性を救うべく男に挑みかかった。

 ……が、

「うるせぇッ!」

 男は怒声と共にリンダへ拳を振るう。リンダは両手足を拘束されているため避けられず、そのまま顔を殴られ───

「ッ───!」
「な!?」

 ───殴られそうになったが、二人の間に青髪の女性が割って入ったため彼女が変わりに殴られてしまった。
 男は一瞬怯んだが──青髪の女性が男を睨んでいる──相手が抵抗出来ない奴隷であると思い出し、再び激昂する。
 その男を無視し、女性はスカートを捲くりあげ───

「な、て、てめぇ!?」
「それは!?」

 驚くリンダと男。女はニヤリと笑った。
 なんと女はスカートの中からショートソードを取り出したのだ。

「てめぇ、何者───ギャ、ギャァーッ!?」

 女性は黙して語らず、剣を抜いた勢いそのままに男の片腕を切り落とした。男は悲鳴をあげ地面を転がる。
 男の悲鳴を聞き異常を察したのか、子飼いの傭兵達が部屋へとなだれ込んで来た。

「どうした! 一体なにが───こ、これは!?」
「こ、殺せ! このガキどもを殺せぇぇぇ!!」

 片腕を切り落とされた男と、血に濡れた剣を持つ女。少し離れて茶髪の少女が呆然と女を見上げている。

 それだけで何があったのか察した傭兵達は腰から剣を抜き、女へと切りかかった。
 しかし───

「この女、強い……ガッ!?」
「フッ───!」

 傭兵達の斬撃を女は軽くいなし、逆にカウンターで返り討ちにする。
 多対戦に慣れているのか、女はよどみ無くショートソードを振るう。

「ひ、人質だ!そこの茶髪の小娘を人質にとれ!」

 傭兵の数が半数を切ったところでそう命ずる奴隷商人。
 傭兵達も女を殺すにはそれが最善策だと判断し、牽制しつつリンダのもとへと走る。
 そうはさせぬと女もリンダのもとへと走るが───

「隙を見せたな───!」
「ッ───!」

 リンダを守るために走り出した女に僅かな隙が生まれる。その隙を見逃すほど傭兵達は甘くなかった。
 ザン、という肉を切り裂く音の後に、ボトリ、と何か落ちる。それは───女の左手だった。

「いや……いやぁぁぁ!」
「形勢逆転だな…!」
「殺せぇ!殺せぇ!そのガキどもを殺してしまえぇッ!」

 リンダは悲鳴のあげ、商人は二人を殺せと怒声を飛ばす。
 傭兵達は即座に切りかからず、ジリジリと間合いをつめながら機を待っていた。
 勝敗はすでに決している。左手を切り落とされた女には最早勝ち目はない。
 ならば後はいかに被害を押さえ場を終わらせるか───それが彼ら傭兵の考えだった。

 もっとも、彼らのその考えは全て無駄に終わる。
 なぜならば───

「くっ……」
『!?』

 女から漏れる声。それを聞いた傭兵達は一斉に距離をあけた。
 いや、傭兵達だけじゃない。奴隷商人も怒声を止め、歪んだ表情になっている。

 彼らは皆、目の前に悠然と立つ女に対し恐れを見せていた。

 リンダは事態についていけずにいた。それも当然だ、彼女からは女の背中しか見えず、女の表情が分からないのだから。
 リンダからは見えず、しかし彼らからは見える女の表情。それは───狂人が見せる顔だった。
 頬は高揚から赤くなり、両目は恍惚とした光を灯し、半開きの口からは舌が覗き自分の唇をなぞる様にゆっくりとなめている。
 人殺しを生業としている傭兵と、裏の世界を隅々まで知っているはずの奴隷商人はそれを見て恐れを抱く。
 ───アレは、目の前に居る女は……狂人(バーサーカー)と称すべき存在であると男達は理解したのだ。

 女はフッと狂喜に満ちた表情を消し、元通りの美しい顔へと戻す。

「……いけないな、ミネルバ殿に注意されたばかりだというのに」
「───お、男の人…!?」

 女(?)の呟きが聞こえたのか、リンダは思わず驚きの声をあげる。
 女───女装した青年はリンダへ振り返り、微笑む。

「すぐに終わらせる。……そこから動かないようにね」

 落ち着いた声。それは粟立つリンダの心を抑えてくれる、優しさに満ちた声だった。
 青年は傭兵達へと再び振り返り、剣を構える。それを見た傭兵達も自分の獲物を構えるが、切りかかることが出来なかった。
 彼らの脳裏には狂人染みた笑みを浮かべる青年のあの表情が刻まれていた。ある種のトラウマと化していた。
 故に今、そしてリンダへと振り返り大きな隙が生まれていた先ほども青年に攻撃出来なかったのだ。

 青年が足を一歩踏み出し、男達は一歩下がる。それを三回ほど繰り返した後、青年は低く哂った。この場はすでに自分が支配している。それを理解出来たからだ。
 青年は笑みを消し、剣を上段に構える。そして凛とした声とともに、自身の名を明かした。

「我が名はマルス! 解放軍 第三軍 軍団長マルス! 人身売買などという悪行を行いし愚者達よ、今こそ裁きの時だ───!」



 あれからそれほど時間も掛からず奴隷商人と傭兵達はマルスの手によって倒された。

 奴隷商人が倒されたことによって、商品として扱われていた奴隷達が解放された。
 解放された奴隷は口減らしの為に売られた子供達だった。奴隷商人に売られた子供達には帰る場所がない。故郷がどこなのか分かる子供などほとんどいない。極僅かに故郷を覚えている子供もいるが、仮に帰ったとしてもまたどこぞの奴隷商人に売り飛ばされるというのは容易に想像出来る。親は口減らしのために子供を売ったのだ、もう一度売ることに抵抗は無いだろう。
 子供達はこのままでは難民になってしまう。そこに救いの手を差し伸べたのがマルスだった。
 マルスはノルダにあるフォーチュン支部へと掛け合い、彼らからの援助を引き出した。
 とんとん拍子で話は進んでいった。借金の返済のため売り払われた貴族の屋敷をフォーチュンが購入、そこを孤児院として改装。子供達はその孤児院でこれから暮らすことに。
 元貴族の屋敷のため非常に広く、頑丈だ。子供達は不自由なく生活を送れるだろう。

 息子のその働きに感極まったのか、コーネリアスは人目を憚らず涙を流す。妻であるリーザの瞳にも光るものが見えていた。
 他の将軍クラス───ミネルバやオグマも同じだった。コーネリアスとまではいかないものの、それでも涙を禁じえなかった。「これであのバーサークさえなければ」と思うと、また別の涙が出てきてしまう。
 彼等がマルスの働きに感動しているのを横目に、ハーディンは一人思案していた。それは“戦後”のことである。

(この戦争、不測の事態が起こったとしても最後に勝つのは我ら解放軍。“秘密の店”を背後に持つ───それはそういう意味だ)

 ディール要塞でマルス達と合流した彼らは、マルスから「自分は“秘密の店”と繋がっている」と告げられた。
 ハーディンは驚くことなく「なるほど」と納得する。“秘密の店”と繋がりがある、それだけでこれまでのマルス軍の活躍振りが全て説明出来てしまうからだ。
 数百本にも及ぶサンダーソード然り、キルソード然り、キラーランス然り。それら全てを“秘密の店”から購入したのだろう。
 いや、購入ではなく無償の提供なのかもしれない。あれほどの数の希少武器をあっさりと揃えたのだ、ゴールドを支払って購入したというのは無理がある。
 それに、聞けば“メニディ川の戦い”でコーネリアス率いるアリティア軍へ武器を提供したのはマルスだという話ではないか。(それを知らされたコーネリアスはさらに号泣した)
 当時のマルスはまだ子供。子供が軍全体に渡る武器の代金を支払えるとは到底思えない。
 故に、無償。マルスは『“秘密の店”と何らかの契約を結び、無償で商品を受け取っている』とハーディンは予想する。

 “秘密の店”で売っているのは武器道具だけではないとも彼らは聞かされた。食料、衣料、薬……そういったものまであるのだという。
 解放軍がこれまで口にしてきた食料は“秘密の店”から仕入れたもの。解放軍の手によってドルーア帝国から解放された地域で配給した食料も“秘密の店”から仕入れたものだとマルスは語る。

(……マルス王子は私とは違う。コーネリアス殿ともだ)

 ハーディンとコーネリアス。この二人は大陸に覇を唱えることが出来る英傑だ。
 然るべき軍事力を手に入れ、かつ二人が覇道を歩む気になれば、容易く大陸を制圧することが可能だろう。
 英雄とは、覇王になるべくして生まれた人間とはそういうものなのだ。

 しかし彼は、マルスは違う。彼の歩む道は血塗れの覇道ではない。
 虐げられている力無き者に救いの手を差し伸べる弱者の味方。それこそがマルスの正体。

 そう───それはまさしく正義の味方だ。

 正義の味方の歩む道とは“王道”に他ならない。その証拠に、彼はこれまで王道を歩んできた。
 タリス王国、 ガルダの港町、サムスーフ、ディール。帝国軍によって支配されている地域を彼は全て救ってきた。
 ただ救っただけでは終わらない。彼等が自らの足で立ちあがり歩けるよう、復興支援もきっちりと行なってきたのだ。
 弱者を救い、守り、導き、自らの意思で歩ませる。マルスの行いはまさに“王道”そのものだ。

 そして今のアカネイア大陸に必要なのはハーディンやコーネリアスのような覇王ではない。
 そう、今この大陸に必要なのは───

 ハーディンは意を決しコーネリアスへと話す。

「コーネリアス殿、一つ相談があるのですが」
「ふむ。ここで聞けるような内容ですかな?」
「はい。戦後の話しになりますが、戦争で乱れたアカネイア大陸の安定と復興のために、マルス王子とニーナ様の御二人を───」


◇◆◇


 風が木々を揺らし、独特の音を鳴らす。
 月夜が照らすノルダの森を少女───リンダは静かに歩いていた。
 今のリンダは奴隷時代の彼女ではない。垢にまみれた肌やボロボロだった髪は綺麗に整えられ、身に着けている服もボロの布切れから魔道士特有の服へと着替えている。

「………」

 近くにあった切り株の上にそっと座る。でこぼこしていたが彼女は気にしなかった。
 ノルダの周辺はすでにドルーアから解放されている。夜中の森を一人で歩いていても危険は無い。

「………マルス様………」

 ぽつりと呟く。リンダは自分を救ってくれた青年のことを、あの時のことを思い出していた。



 倒した傭兵の返り血で全身は紅く汚れ、切り落とされた左手からは血が絶え間なく零れ落ちる。常人ならばその時のマルスを見ると視線を反らしてしまうだろう。
 そしてリンダという少女は常人だった。最後の傭兵を討ちこちらへと振り返ったマルスを、全身血塗れの青年を見て「ひっ」と声を洩らしてしまった。その様子に、マルスは困ったように笑う。
 苦笑するマルスを見て、リンダは自分は何て残酷なことをしたのだろうと気付く。先ほどのアレは自分を救ってくれた恩人に対してとる態度ではない。

『あの、あの…わたし……あっ』

 錯乱にも似た動揺を見せるリンダを、マルスはそっと抱きしめる。
 マルスに優しく抱きしめられたリンダは一度だけビクンと体を震わせた後、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

『───大丈夫。もう大丈夫だから』

 マルスのその言葉に、リンダは強い衝撃を受ける。嬉しくて、情けなくて、許せなくて……あらゆる感情が今の彼女に渦巻いていた。
 振り返れると、奴隷として捕らえられてから今まで碌な人生ではなかった。
 父は殺され、親しい人達も皆死んでしまった。
 明日の食事を心配しなければならないほどひもじい生活だった。
 雇い主である奴隷商人の気紛れで殴られることも多々あった。
 自分が女であることが奴隷商人にバレた時は、女としての尊厳をも踏みにじられるところだった。
 心が折れ、反抗する意思を失くしていたが、奴隷商人に襲われそうになった女性を見て父の言葉を思い出し、もう一度立ち上がった。
 しかし、まともな食事も摂れず衰弱し、肉体的にもか弱い12歳の少女では抗うことすら出来ず、再び暴力に屈してしまった。
 だけど、その女性は実は男で、そして自分を助けてくれて………。

 父の教えを思い出し、助けたいと願ったのに、それでも憎き奴隷商人に負けたのが情けなかった。
 力及ばず、再び暴力に屈してしまった自分が許せなかった。
 ……地獄のような日々から自分を救ってくれたことが、嬉しかった。

 ありとあらゆる感情が彼女の中で混ざり、凝縮し───爆発した。

『あ──あ──あああぁあぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁあああ!!!!!』

 リンダは泣いた。拷問にも等しい暴力を振るわれても泣かなかった彼女は、マルスの腕の中でただ泣いた。
 幼い少女が歩むには過酷すぎる人生。そんな彼女に泣くという行為は許されなかった。
 しかし今。彼女はやっと、12歳の少女に戻れた。
 『大丈夫』 マルスのその一言が彼女には救いの言葉に聞こえたのだ───



 リンダは立ち上がり、切り株を数回コンコンと叩く。ゴウン、と何かが開く音がした。
 その切り株には魔法的な仕掛けが施されており、特定の行動をすると地下への隠し扉が開く仕掛けになっていた。
 現れた地下への階段を下り、隠し部屋へと入る。部屋の中央にはテーブルがあり、そこに分厚い魔道書が乗っていた。

 その魔道書こそ光の魔法オーラ。父でありアカネイアの大司祭ミロアからリンダが受け継いだ魔道書である。
 魔道書を手に取り、亡き父に語りかけるかのようにリンダは呟く。

「力なき者の力に……。お父様、お父様の言葉の体現者に わたしは出会いました……」

 解放軍に保護された彼女はニーナと再開した。そしてニーナからマルスのことを色々と聞いた。
 ……リンダは、マルスこそがミロアの言っていた“王”であるということを理解する。

「お父様……わたしは戦います。マルス様と一緒に、この大陸に平和を取り戻すために───!」

 魔道書をかかげ、娘は亡き父に誓う。それに答えるかのように魔道書が淡く輝く。

 翌日、光の大魔法の継承者がマルス軍に志願する。マルスは喜んでその魔道士を迎え入れたという───


◇◆◇


2.マルス様の憂鬱。


 やばいやばいマヂやばい。何がやばいって私の恋愛フラグが消滅したことがやばい。
 いやね、ある日ふと気付いたんですよ。シーダとの間に恋愛フラグ立ってねーって。フラグはフラグでも忠誠フラグとかそんなん立ってんの。
 なんかさー、シーダの私を見る目がさー、オレルアン騎士団がハーディン殿を見る目と同じなんだよねー。恋愛感情が一切混じることのない忠義に満ちた目っつーの?
 もうね、ギャフンって感じっすわ。史実じゃ結ばれてたんだしこっちの世界でも大丈夫だべって余裕ぶっこいてたらこのザマですよ。なぜこうなったし。
 ……いや、原因は一応予想出来る。タリス王国に送った大量の食料支援。多分あれが原因だ。あれでシーダにスイッチが入っちゃったんだろう。……どうせ入るなら忠義とか忠誠じゃなくて恋愛の方のスイッチ入ってくれよ(涙)

 忠義といえばカシムも何か凄いことになってる。今のカシムって「貴方のためなら死ねます!」みたいなノリ。いや、死なないでよ。そして死なせるような命令もしないよ? カシムの方は何が原因でここまで変わったのか本気で分からん。
 何かもう私の知ってる“ファイアーエムブレム”とは大きく違っている気がする。特に人間関係。……全部私が原因な気がするけどさ。

 ミネルバ殿とのフラグも残念ながら立ってない。その原因も分かっている。
 どうやら彼女……レフカンディで暴れていた私を見ていたらしい。バーサーク状態の私を。彼女に指摘されたから間違いない。
 あれを見られた以上もうどうしようもねー! 私は泣く泣くミネルバ殿との恋愛フラグを諦めた……。

 シーダやミネルバ殿との恋愛フラグが消滅し意気消沈する私ことマルス。……しかしここで立ち止まる私ではない。彼女達がダメなら他を狙えばよいのだ!
 そう───例えばリンダとか! 都合のいいことに次はノルダ。私が彼女をドラマチックに救出し、そこから「ラブラブチュッチュ☆リンダと幸せ家族計画(はあと)」となるように頑張ればいいのだ!
 マルス様最低すぐるとか聞こえてきそうだが、だから何だというのだ。シーダ達との恋愛フラグが消滅した今、美少女との恋愛フラグを手に入れるためならば何でも利用してくれる!私は欲望のままに生きるぞメディウスー!

 私は父上達を招集し緊急作戦会議を開く。題目は『ノルダの奴隷市場壊滅作戦』。
 父上は正義の人だ。人身売買を行なう奴隷市場など許すような人ではない。他の将軍───ジェイガンやミネルバも同様。
 これに異を唱えたのはハーディンとオグマの二人だった。

『奴隷市場を潰すのは賛成だ。しかし潰すにしても然るべき準備が必要だろう』
『こちらの動きを相手に悟られないように最小限の人数で動くべきですね』

 現実主義者である二人の言うことは最もだった。こちらの行動に気付かれたら相手は逃走するのは確実。大人数で動けば気付かれる可能性が高い。
 軍を動かすのも問題だ。解放軍を動かしノルダに乗り込めば市民に要らぬ不安や不満を与えてしまう。軍属経験の無い市民には近くに軍隊がいるというだけでストレスが溜まるのだ。そのストレスを解放軍が与えることなど問題外である。
 故に行動するのは最小限の人数で。事がスムーズに運ぶように事前の下調べも入念の行なう必要もある。

 ハーディン達の言葉に納得した一同。そこに私は一石を投じる。

『───皆さん、こちらをご覧下さい』

 用意した資料を配る。そこには私が考えた作戦の概要が載っていた。

 私が立てた作戦を簡単に説明すると以下の通りになる。

1.私が数名の人員を引き連れてノルダへ行く
2.ノルダにある伝手を利用し、私自身を奴隷として奴隷商人に売り払う
3.売られる際は軽く化粧をし女装する(女装した私は美少女そのもの)
4.無事買い取られ私を連れて商人が本拠地へ移動し始めたら残った人員で尾行を開始
5.本拠地特定後、私を残し全員撤退。改めて精鋭を選出し、その後本拠地の制圧を始める

 多くの人がこの作戦に反対した。シーダやミネルバなんか「私が売られる役を!」と言って詰め寄ってきた。
 が、私はそれら全てを却下する。この作戦で行くつもりだし、奴隷商人に売られる役を誰かに──それも女性に──やらせるつもりも毛頭無い。
 反対する皆に対し色々と奇麗事を並べてなんとか説得する。私が珍しく見せた熱意に負けたのか、全員最後には(渋々とだが)納得した。

 ……成功の是非はともかく、この作戦ならリンダとのフラグは高確率で立つと思うんだよね!だから私は必死だったのさ。

 そんなこんなでノルダにいる協力者(フォーチュンの人達)の協力の下、作戦は決行。
 私は“フォーチュンと縁のある、破産した元貴族の娘”という設定のもと奴隷商へと売られた。
 奴隷商人の男は嬉々として私を買い取った。あ、ちなみに商人から金を受け取った協力者は、商人が恨んでるフォーチュン・ノルダ支部の代表です。……恨んでるんなら支部代表の顔ぐらい知っとけよ。
 とんとん拍子に事が進み、私はリンダらしき少女と出会う。あまりにも上手く行き過ぎていたため思わずニヤリと笑ってしまったが、ミネルバ殿に指摘されたことを思い出し慌てて表情を元に戻す。……リンダに見られなかったよね?
 奴隷商人と傭兵達はアッサリと倒せた。父上やハーディン殿との剣の稽古が活きてくれたようだ。不覚をとり左手は切断されてしまったが傷薬を飲めば再生するから無問題。だんだん人間というカテゴリーから外れていってるような気がしないでもないが「気にしたら負けかな」とそっち方面の思考を放棄する。
 その後、泣き疲れて眠ってしまったリンダを背負い合流予定地点へと移動。すでにその場所へ来ていたオグマ達と合流する。私は後片付けを彼らに任せリンダと共に駐屯地へと帰還した。

 駐屯地へ戻った私はリンダをシーダに預け、そのまま軍の指揮を執る。全軍、今日のうちにノルダ北の平原へ移動しなければならなかった。
 腕は再生し傷も塞がっているが、血が足りないせいでフラフラだ。が、そんな状態でも苦痛の表情一つ浮かべずに軍の指揮を執らなければならないのが王族──軍の指揮官の辛いところです。

 奴隷市場壊滅作戦から夜が明け、翌日の昼。分厚い魔道書を手に持った一人の美しい少女が「軍に志願したい」と私のテントへと訪れた。間違いない、リンダだ。
 私はリンダの入隊を歓迎するため立ち上がる。

「ようこそ、我が解放軍へ。私は君を歓迎する──」

 頬をほんのり赤く染め、ウットリとした顔で私を見上げるリンダちゃん12歳。くっくっく、計画通り…!
 いょーし! 転生オリ主らしくこの勢いでハーレム作ってくどぉー!


◇◆◇


 マルスが両手を優しく握り、リンダを歓迎する。その時の彼女の胸中は───


(マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルス様マルスさ────)


 ……………………………………………………。






や、病んでるーっ!?






あとがき。

マルス「我が世の春へ向けての第一歩だ!」
リンダ(マルス様……)←ヤンデレ化(弱)
マリク(マルス様……)←女装したマルスを見て目覚めた
オグマ(リンダはまだ戻れる可能性はあるが、マリクが……)
ミネルバ(王子に二人の事を言っておいた方がいいのかしら……)

ニーナ「続きます」



[35037] マルス「第一部 完!」 ニーナ「第二部は始まるのでしょうね…?」(中編)
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:d774c15f
Date: 2015/11/20 22:20
 ニーナ達解放軍がノルダへ到着した日の夕方、一人の男が駐屯地へと訪れマルス達に面会を求めた。
 男の名はジョルジュ。“大陸一の弓兵”と称される一流のスナイパーだ。
 その彼が持ってきた情報が、解放軍の行動を決定付ける事になる。

 ジョルジュが解放軍へと合流し作戦会議が開かれている頃、三人の少女と一人の子供、そして司祭らしき老人の五人が同じくノルダへやってきた。
 その五人はペガサス三姉妹と神竜族の二人である。
 神竜族の二人はノルダにある宿屋で部屋を取り、三姉妹達と別れた。マルス達と合流しないということは、彼らには何か目的があるのだろう。

 それまでほぼ(?)正史の通りに進んでいた歴史は、この時から決定的にずれ始める。


◇◆◇


3.マルス、人質救出作戦を立案す。


 会議室。
 ジョルジュから敵軍の情報を聞き、さて我ら解放軍はどうするかと考えているところです。
 敵軍の将、その中にニーナ様の忠臣“ミディア”とその婚約者“アストリア”の二人が含まれていた。それを聞いたニーナ様は力なく項垂れている。
 彼女にとってミディアはアカネイアから脱出する際に囮になってくれた女性、いわば恩人だ。主従の立場を超えた感情が彼女にはある。
 その彼女を敵として討たねばならないのかと思うと───

 どのような状況にあっても常に笑みを絶やさなかった王女が見せる苦悶の表情。それを見かねたのか父上達は「彼等はこちら側に寝返らせることは出来ないのだろうか?」とジョルジュに訊ねるが、彼は静かに首を振り否定した。

「彼等は、少なくともミディアとアストリアは絶対にこちら側へは来ないでしょう。いえ、来れないでしょう」
「来ないではなく来れないか。何か訳があるとみたが?」
「はい。……ボア司祭が人質として捕らえられているのです」

 コーネリアスの問いに答えた後、ジョルジュは語る。ニーナ様がアカネイアから脱出した後の話を───



 アカネイア暦604年、ニーナはミディア達一部の家臣とオレルアンの王弟ハーディンの手引きによりアカネイアから脱出することに成功する。脱出の際にミディア達が囮を務めた。ニーナ達がアカネイアから無事に脱出した後、ミディア達はドルーア帝国に捕らえられる。

 帝国は“アカネイアの司祭 ボア”に服従を求めた。ボア司祭はエルファイアーやリカバーの杖など高度な魔道アイテムを作ることが出来る司祭だ、帝国にとって利用価値は高い。
 最初は彼らの要求を頑なに拒んでいたボアだったが、帝国軍将軍“ボーゼン”のこの一言に屈してしまう。

「───ミディア将軍がどうなっても良いのか?」

 帝国軍に所属する一部の将兵がミディアを“そういう眼”で見ていたことはボアも気付いていた。ボーゼンは「こちらの要求を断るならば見せしめとして将兵達にミディアを貸し与える」と言っているのだ。
 ……彼らの要求を断れなかった。ボアには彼女を見捨てるという選択肢は選べなかった。故に───屈した。

 以後彼の身はアカネイアパレスを囲む砦の一つに監禁され、そこで魔道書等の製作に尽くすことになる。

 また、帝国はミディア達の身の安全を取引材料に“アカネイアの勇者 アストリア”へも服従を迫った。アストリアはボア司祭同様ミディアを守るため、それに屈する。

 そして最後に───ミディア将軍。帝国は彼女にも服従を求めた。
 「騎士は二君に仕えず」と拒否したが、ボーゼンは嘲笑しながら彼女に告げる。

「ボア司祭、勇者アストリアは我が帝国に忠誠を誓ったぞ?」
「司祭様とアストリアが? な、何故……!?」
「理由が知りたいか?よかろう、聞かせてやろうとも───」

 ボーゼンからボア達のことを聞かされた彼女は、悔しさのあまりに近くの壁を思い切り殴りつけた。
 控えていた兵が抑えようとするが、ボーゼンは「構わん」と止める。帝国軍将軍は真実を知って嘆くミディアを見て下卑た笑みを浮かべていた。

 ミディアは狂いそうになるぐらいの怒りに支配されていた。
 ボアが、アストリアが帝国軍に屈したから?否、そうではない。彼等が帝国軍に服従せねばならない理由が自分にあった、その事実が許せなかったのだ。アカネイアの忠臣たるあの二人が帝国軍へ屈した原因が自分であるというのがミディアには許せなかったのだ。
 そう、彼女は自分が許せなかった。自分が居なければ、自分が“女”でさえなければ、二人は“アカネイアを裏切った賊”にならなかったのだ!

 最終的に彼女はボーゼンの要求を呑んだ。
 ボーゼンはミディアを将軍職へ復帰させ、その後「旧アカネイア軍の指揮」を命じる。
 旧アカネイア軍は家族や恋人を帝国に人質として捕らえられているため、反乱は起こせない。
 ミディア達にとって長い苦悩の日々が始まった───



 ジョルジュの話しを聞いた後、ニーナ様はミディア達の事を想い涙し、父上は「なんと卑劣な…!」と憤る。ハーディンはその瞳の奥に怒りの炎を宿し、ジェイガンやミネルバ、オグマもそれぞれ似たような反応をしていた。

「人質さえなんとか出来ればミディア将軍達はこちら側へ来ると思います?」
「ええ、人質さえどうにか出来れば彼等はこちら側へ寝返るでしょう」

 私の言葉にジョルジュは頷く。「もっとも、それが一番難しいのですが」と彼は悔しそうに唇を噛んだ。
 人質、人質ねぇ。……なんとかならんこともないけど、どうしようかな?
 「うーん」と首を捻りながら考えていると、いつのまにか隣までやってきていた父上が私の肩にポンと手を置く。

「マルスよ、何か策があるのだな?」
「あると言えばあります。策というか手段なんですが。上手くいけば人質を救出し、かつミディア将軍率いる旧アカネイア軍を根こそぎこちら側へ引き入れることが出来るかもしれません」

 おぉ…!と場が沸き立つ。ニーナ様もどことなく嬉しそうな顔をしていた。

「ならばそなたの胸のうちにある手段を申すが良い。有効であるのならば、それを活かす策を皆で考えるとしよう」

 ……うん、父上の言うとおりかもしれない。一人であーだこーだ考えるよりも「こういうのがあるよ!」と手札を出して、それをどう活かすか皆で考えた方が建設的だろう。
 商人達からマケドニア、グラ、グルニアの三国の動きが怪しくなってきたと報告もあがっているし、ここをサクッと片付けてそっちの対応を考えないと!

 私は足元に置いてある宝箱を開け、中から二本の杖を取り出す。

「では説明させていただきます。捕らえられた人質を助ける方法、それはこの“レスキューの杖”を使うのです───」


◇◆◇


レスキューの杖
 離れた位置にいる人物を自身の下へ引き寄せる魔道の杖。
 使用するには下記のうちどちらかの条件を満たさなければならない。

 A.対象の人物を詳細にイメージ可能

 B.杖の先端にあるクリスタルに対象者が登録されている
   ※対象者の登録はクリスタルに血液一滴を染み込ませることで出来る


◇◆◇


 4.人質救出作戦


 日は沈み、夜。
 ノルダの町から西にある山のふもとに、マルス率いる第三軍──総勢200人──が居た。
 彼らの目の前には悠然と聳え立つ山脈。この山脈を超えた先にアカネイア・パレスがある。

「気をつけぇ!」

 第三軍の副官ジェイガンが号令をかける。その場にいる全員が姿勢を正した。
 それを見届けた後、ジェイガンの後ろで控えていた第三軍司令官のマルスが携帯用の壇上へ立ち、告げる。

「皆さん、いくさです。我々が我々であるために避けることが出来ない戦いがこれから始まります」

 我々が我々であるために。マルスが告げるその言葉は『正義の味方』を意味する。

「我が軍へ合流したアカネイアの騎士ジョルジュ殿が持ってきた情報と、とあるツテ(子飼いの商人)を利用して入手した情報を照らし合わせた結果、アカネイアの将軍ミディア殿とその部下達が帝国軍に無理矢理従わされていることが判明しました。
 ニーナ様の忠臣たる彼らが帝国に従う理由。それは人質です。彼等は帝国に家族を、親しい友人を、恩師を人質にとられているのです」

 兵士達の間でどよめきが生じる。「なんと卑劣なっ」「おのれ帝国軍…!」と怒りの声をあげている者が多くいた。
 マルスは片手をサッと挙げる。数秒の間を置いて兵士達のどよめきは収まった。ジェイガンやドーガにきっちりと訓練されている証拠だ。
 挙げた手を下ろし、マルスは続きを語り始める。

「これより一時間後、我々は作戦行動を開始します。目的はアカネイア・パレス周辺にある砦に捕らわれている人質の救出です」

 今度は先ほどとは違った質のどよめきが生じる。兵士達の間に力強い笑みを浮かべていた。

「ここまで言えばもうお分かりでしょう。我々はこの山脈を乗り超え北上し、200人でパレスまで殴りこみに行きます」

 徒歩で超えることが困難なこの山脈を越え、さらに一万人規模の兵がいるパレスへたった200人で乗り込む。正気の沙汰とは思えない暴挙。
 常識で考えれば、この山を越えるだけで何名かの脱落者が生まれ、仮に無事超えることが出来ても疲弊は必須。その状態で数で劣るマルス軍が一万以上もの敵兵で守りを固められている城へと攻めるなど愚かの極みだ。

 そう……あくまでも常識で考えれば、だ。

 マルス達にとって幸運なことに──そして敵軍にとって不幸なことに──彼等は常識を覆すことが可能な“力”を有していた。

「ジェイガン、作戦の詳しい説明を頼む」
「はっ!」

 マルスが壇上から下り、変わるようにジェイガンが壇上へ。そしてそのまま左手に持っていた書類を読み上げる。

「マルス様が先ほど仰ったように、我が軍はこれより一時間後作戦行動へと入る!
 この作戦の成功は一つの奇跡を戦場に生むであろう。
 よって本作戦を“アカネイアの奇跡”作戦と呼称する!」

 マルスの隣で控えていたアベル、カインの両名が壇上へと上がる。アベルの手には大きなサイズの地図があり、壇上へ上がった二人は兵士全員に見えるようそれを広げる。
 ジェイガンは指揮棒を取り出し、地図をパシッと軽く叩く。

「なお“アカネイアの奇跡”作戦は全部で四段階に分かれ行なわれる。我が軍が担当するのは第一段階だ。皆、心するように。
 ではこれより作戦の詳細を伝える───!」





<アカネイアの奇跡>作戦 概要


第一段階
  作戦の第一段階はマルスを指揮官としたマルス隊によって行なわれる
  マルス隊はパレス南の山脈を乗り越え、パレス周辺の砦を強襲、人質の救出を目標とする
  人質救出成功後、速やかに“レスキューの杖”へ血液登録を行うこと
  登録完了後、マルスは空に向かって三発の照明弾(※注)を放つこと
  移送部隊であるペガサスナイト(シーダ)、ドラゴンナイト(ミネルバ)の両名は“レスキューの杖”を持って速やかに前線を離脱、解放軍大将(ニーナ)がいる本隊へと合流すること

※照明弾
 シューターのエレファントが使う爆裂弾を改良したもの。マルス発案。
 照明弾三発=作戦の成功を意味する。


第二段階
  照明弾を確認した場合、この段階へと入る。
  ニーナ率いるコーネリアス軍・ハーディン軍混成軍(以下ニーナ隊)は敵帝国軍が構える北へ向かう準備に入る。
  移送部隊と合流後、ニーナ隊は北上を開始。


第三段階
  敵帝国軍と接敵後、ニーナは“レスキューの杖”を発動、人質を救出し、しかる後ミディア将軍の軍を説得し、こちら側へと寝返らせる。
  ミディア将軍達の説得成功後、ニーナ隊は撤退。作戦は最終段階へと入る。


第四段階
  ニーナ隊の全撤退を確認後、オペレーション・スレッジハンマー発動。
  これを持って作戦名:アカネイアの奇跡の完了とする。





───パレスより南西にある山脈の中腹


「……ルーメル隊長」
「なんだ」
「反乱軍が持ってるあの服?……なんなんでしょうね?」
「私にも分からんよ」

 遠く離れた位置から望遠鏡でマルス隊を監視していたマケドニアの竜騎士の問いに、同じく望遠鏡を覗いて監視している上司のルーメルは淡々と答える。
 数時間前に日は沈み、時刻は深夜。彼らルーメル隊は解放軍を監視していた。
 彼らの主であるミシェイルから「マルスと、マルスが率いる部隊を特に監視せよ」と強く命じられている。
 マルスとその部隊の情報収集。それを徹底的に行なうことが彼らに与えられた任務だった。

「なんであの服、全体に渡って沢山の草を───あっ!」
「動き出したか……!」

 ローブを纏った老人が赤い石をかざし、赤い竜───火竜へと変身する。竜騎士の一人が「あれが反乱軍の味方になったマムクートか」と息を呑んだ。
 だが、彼らの驚愕はこれだけでは終わらない。

「隊長、あのマムクートの前に運ばれた木箱の中身……!」
「ああ、アレが噂に聞くマジックアイテムなのだろうな……」

 火竜の前に次々と運ばれる木箱。その中身を望遠鏡で見ることに成功した彼等はソレが何であるかをすぐに察知した。
 ───身体能力を向上させるマジックアイテム。それがあの木箱の中身なのだろう。

「……何箱あるんだ? 1、2……7……12……嘘だろ、まだ出てくる!」
「中身全てがマジックアイテムだというのか……!?」

 馬車から次々と降ろされてくる木箱を見て、うめき声を洩らすルーメルとその部下達。
 降ろされた木箱は全部で135箱。その木箱の中身全てがマジックアイテムなのだから驚くのも無理はない。

 ───あの木箱一箱で、国が一つ買えるかもしれないな

 ルーメルは顔をやや青ざめさせながらそんな事を考えた。
 彼が益体も無い思考に耽っている間に、マルス隊に小さな動きが起きていた。

「隊長、何か変な光が……!」
「まさか……そうか、あれがマジックアイテムを使った時に生ずる魔道の輝きとやらか」

 パワーリンクや天使の衣等、マジックアイテムを使用すると蒼白い独特の光が発生する。
 それがルーメルが言った“魔道の輝き”である。
 その“魔道の輝き”が約90秒、途切れることなく続いた。

 “輝き”が治まった後、マルス隊にまたもた動きが見られた。
 黒い服の上から全身に草を余す事無く貼り付けた──ギリースーツ──兵士の一人が火竜の前に立つ。
 その兵士を火竜が むんずと片手で掴み……

「一体何を──あっ!?」

 ──兵士を掴み、遠投の要領で ぶぉん!と空へ向かって思い切り投げ飛ばす!
 投げ飛ばされた兵士は「飛んでる!飛んでるぜぇ~!」と何故か嬉しそうに叫びながら夜の空へと消えた。

「あっ、あっ、あっ、」
「なっ、なっ、なっ、」

 ルーメルも、彼の隣に居た部下の若い竜騎士も、マルス隊を監視していた全員が“ソレ”を見て固まった。
 火竜がカタパルトとなり、砲弾(味方兵士)を山脈の向こう側へ飛ばす。言葉にすればたったそれだけのこと。しかしそれが問題だった。
 マルス軍は山脈を越えるためだけにこのような非常識な方法を選んだ。兵士ぶん投げて山越えるとか誰も想像出来ないって!

 例えばこの話を誰かに───この場に居ない者に話したとする。そうしたらどうなるか?

 答えは簡単だ。「ルーメル、貴方疲れてるのよ」である。

 戯言と受け取られるか、侮辱と受け取られるか、精神に異常を来たし幻覚を見るようになったと思われるか。そのいずれかである。そう、こんなのは絶対に誰も信じない話だ。
 その“誰も信じない話”が現実として起こっている。それが問題なのだ。
 呆然とその光景を遠くから見ている竜騎士隊の中で、マルス軍に対する耐性を少しだけ持っていたルーメルがいち早く復活。兵士が投げ飛ばされている方向に何があるのかにやっと気が付く。

「……マルス軍が投げ飛ばされていく方向にあるのはパレス。まさか奴ら、歩兵を遠投で飛ばしてこの山脈を越える気か!?」

 そんな無茶苦茶なと誰かが呟いた。しかし、マルス軍の非常識さを理解している彼だけは核心を持ってそう断言出来た。
 ルーメルは未だに呆然と敵軍を見ている部下達を蹴飛ばし、強引に正気に戻す。

「移動する! 全員ドラゴンへと搭乗!」
「はっ!」

 飛竜へと騎乗した彼等は、敵軍に気付かれないように低空飛行で移動を始める。彼らの任務はこれからが本番だった───





 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!

「たいちょー! あいつ等絶対おかしいって! 200メートル以上の高さから勢いよく地面に衝突してるのに、全員ピンピンしてる!」

 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!(←マルス隊の兵が地面に衝突する音)

「『服が破けちゃった、(・ω<)テヘペロ☆』って笑ってやがる……!」

 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!(←マルス隊の兵が以下略)

「こんなの絶対おかしいよ!」

 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!(←マルス隊ry)

「やかましい! 彼奴等が非常識なイキモノであることぐらいとっくに理解しておるわ!」

 ゴゴゴゴゴ───ドカーンッ!(←ry)



 ……彼等の任務はこれからが本番だ!


◇◆◇


───アカネイア・パレス


 ガチャガチャと軽鎧の金属が擦れる音とブーツの音が、男以外存在しない廊下に響く。
 深夜のパレス。男───アカネイアの将軍 ラングは一人、何かから逃げ出すかのように走っていた。
 いや、逃げ出すかのように、ではない。実際に彼は逃げていた。

「はっ、はっ、」

 走る。走る。目に染みるほどの汗を浮かべ垂らしながら、ラングは緊急脱出用に作られた出口を目指しひたすら走る。
 階段を上り、下り、角を曲がり、出口までもう少し───

「……どこへ行くつもりだ?」
「ひ、ひぃぃぃぃッ!?」

 ───もう少し、というところで“襲撃者”の声がラングの耳を貫いた。

 ヒュッ! ガコォッ!
 鈍い音と共にコンクリートで出来た壁が両断され、生まれた空間から一人の男……いや、少年が現れる。
 少年の名はマルス。“襲撃者”での一人あり、反乱軍を率いる指揮官の一人である男だ。

「き、貴様! アカネイアの大貴族たるこのワシにこのような真似をして───がふッ!?」
「黙れ、このハゲが!」

 唾を撒き散らしながら吠えるラングを、マルスは片手で締め上げる。ラングは必死に抵抗するが、その腕を振りほどくことは出来ない。15、6の若造とは思えない、凄まじい腕力だ───

「ククク……貴様を殺せば私のレベルはカンストだ───ァ!

 ラングの巨体をそのまま壁へ叩き付ける。かなり強い衝撃だったらしく、息もまともに吸えず苦痛に喘ぐ。
 マルスは悶え苦しむ巨漢を見下しながら ニタァ と主人公らしからぬ笑みを浮かべ、一切の躊躇を見せずに抜き身の剣を振り下ろした。

(なぜ……こんなことに……)

 迫り来る刃を前に、ラングは一週間前“前任者”からパレスの指揮権を譲ってもらった日のことを思い出していた。





 一週間前、彼の屋敷へ一人の男がやってきた。
 男の名はボーゼン。ドルーア帝国軍将軍で、メディウスよりアカネイア・パレスを任されている大司祭だ。
 ラングは突然自分の下へ訪れた彼を、失礼の無いように丁重に迎え入れた。

 客間で少しだけ世間話をした後、ある話をボーゼン側から切り出される。

 ───将軍。将軍はアカネイアの王になりたいかね?

 ボーゼンは言った。これからこの地へやってくるであろう反乱軍を討伐することが出来たらアカネイアの王の座を約束すると。ドルーア帝国の王メディウスもそれを認めると。
 メディウス本人の判が押された書類の束を受け取る。ラングは目を血走らせながらそれを読んだ。

「は、はひ、ヒヒヒヒヒ……!」
「では将軍───いえ、次期国王陛下殿。アカネイアをお任せいたしますぞ……?」

 椅子から立ち上がり、そのままその場を後にするボーゼン。唾を撒き散らしながら書類を読みふけるラングは去り際に見せたボーゼンの嘲笑に気付かなかった。

「来た! 来たぞ! わしの時代が! わしの時代がだ!」

 帝国が仕掛けた“罠”に気付かず、ラングは壮大な未来を夢想しながら笑い声をあげていた───



 ボーゼンが出したこの提案。先に述べた通り帝国による“罠”だ。
 ドルーア帝国は反乱軍の情報を得るために“使い捨てにしても問題無い軍”を欲していた。
 その軍───駒として白羽の矢が立ったのはラング将軍、そしてアカネイアの将軍 ミディアである。
 ミディアには『人質の解放』を、ラングには『アカネイア王の椅子』を餌にし、この両者を反乱軍へぶつけるつもりだった。
 目的は情報収集。彼等はミディア達を捨て駒に反乱軍の情報を集めようとしていたのだ。

 ミディアは将軍としての経験から、彼女の副将として同行しているアストリアは生来の勘の鋭さから『自分達は何かに利用されようとしている』と気付いたが、ラングは帝国の思惑についぞ気付くことはなかった。
 アカネイア五大貴族の一つに数えられる名家に生まれたラングは、悪い意味で貴族らしい貴族だった。守るべき民を守らず、圧政を敷き、少しでも逆らえば処刑する。それがラングという男だった。
 こう書くと彼は無能な貴族と思われるかもしれないが、決してそんなことは無い。ラングは権力闘争渦巻くアカネイアという国で侯爵の地位に長年座り続けた男。決して無能では無かった。
 その無能ではない男が何故帝国側の思惑に、策略に気付かなかったのか。それは彼が持つ“上昇志向”の高さのせいだった。
 ラングは若い頃から常々思っていた。伯爵程度の地位では満足出来ない。いずれは一国を、そしてこの大陸の支配者に───。

 そんな野心滾る男の前に“アカネイア王の椅子”という餌をちらつかせたらどうなるか?それは火を見るよりも明らかだ。食いつかないはずがない。

 こうして彼は帝国軍の望んだ通りに“餌”としての役割を演じることとなる。それが破滅への道とも気付かずに。






たらららたらららら~♪ マルスのレベルが 20になった!



「ふぅ。やっとカンストか」

 父上から預かったファルシオンにこびり付いた血をハンカチでふき取り、ポーイと投げる。いかにもそれっぽく。
 足元には死体が一つ。その死体はかつてラングと呼ばれていたハゲ親父である。

「……今って原作で言えば第一部だよな」

 まさか第二部の雑魚ボスがここで出てくるとは思わなかった。原作知識はもう当てにならないとはかつて言ったセリフだが……こういうのが“バタフライ効果”というんだろう。

 シャキン!と格好つけながら剣を鞘へと収める。
 普段の私ならば絶対にこういう中二的なことはしないのだが、ファルシオンを装備してから絶好調でテンションageage。だからついついやっちゃうんだ☆ ……なんでだろ?
 “聖戦の系譜”に出てくる伝説の武器みたく、装備することによってステータスがUPする効果でもあるのだろうか?

「うーん、謎だ───おっとっと!?」

 ズズン!と突然パレス全体が揺れた。
 一体何が起こったのか。それを確かめるべく、私は近くにあった窓から身を乗り出し外を見る。

 どうやらカシムとドーガ率いる小隊が“例の武器”を使っているらしい。
 対象は……なんだあれ。

「あれは……黒い柱?」







 マルス軍による人質救出作戦は順調に進められていた。
 パレスから南にある森林地帯へと着地したマルス軍は全身に草木を貼り付けた服───迷彩服に着替え、部隊を幾つかに分けて移動を開始。
 ルーメルにとってマルス達が着ていた迷彩服(我々の世界ではギリースーツと呼ばれる)を知ることが出来たのが今回一番の収穫であろう。
 あれはまずい。あの服を着た弓兵が森に潜まれたら、竜騎士や天馬騎士はまず気付けない。ルーデルはそう断言出来る。

 迷彩服の効果でパレス軍に全くといって良いほど気付かれず進軍することに成功したマルス軍は、そのままパレス、および周辺の砦へ強襲を仕掛けた。

 200名のチート魔改造部隊(魔防を除く全ステ600オーバー)が1万前後のパレス防衛軍を蹂躙する。帝国軍にとってそれは悪夢以外の何者でもなかった。
 蹂躙、と書くと語弊がある。正確には“制圧と鎮圧”である。驚くことにマルス軍は帝国軍を一人も殺害してはいなかった。(※ただしマルスは除く)

 蹂躙ではなく制圧。皆殺しではなく鎮圧。
 “死”の安売りが約束されている戦場という場所で、彼らマルス軍がやったことがどれほど常軌を逸しているか───

 彼らの“鎮圧”を遠くから監視していた竜騎士の一人が、上官のルーメルに訊ねた。

「た、隊長、もしかして奴らは我々に気付いているのでは……?」
「いや、それは無いな。誰かが監視しているということには気付いていると思うが、我々個人のことには気付いていないだろう。
恐らく奴らは“監視されていることを前提に動いている”のではないか。私はそう思う」

 部下の言葉を半分肯定し、半分否定するルーデル。
 マルス軍がやっていることは「我々が本気を出せばこうなる」という、監視している者達に対するパフォーマンスであり、メッセージなのではないか。
 ……とはいえ、ルーデルには正直理解し難いことだった。何しろ相手は帝国兵、マルスにとっては祖国を滅ぼした憎い仇。年老いた歴戦の将兵ならいざ知らず、彼はまだ精神的に未熟な(と思われる)15歳前後の若者だ。復讐心が先立って当然ではないのか。敵を殺すどころか無力化に留め捕虜とするなど、正直理解し難い。マルス王子は聖人だとでもいうのか?

 200人たらずで1万の敵兵を打倒したという事実はもっと信じられないが、その点に関しての思考は放棄した。マルス軍なら仕方がない。

 さて、上にはどうやって報告するかとルーデルが考えていると、

「……なんだ? マルス軍の連中が西に向かって───な!? あ、アレはなんだ!?」

 パレスの入り口で待機していたマルス軍の一部が、西へ向かって進軍を始めた。彼らが向かうその先には、夜の闇の中でもなお目立つ“天を貫く巨大な闇の柱”が聳え立っていたのである。





 最初に“それ”に気付いたのはマルス護衛隊の一人、カシムだった。
 パレスに向かって放たれる圧倒的な邪気、殺意。最初は自分達“解放軍”に向かって放たれたモノかと思ったが、即座にその考えを否定する。
 物事は常に最悪を想定するべきだ。そして今この場での最悪は仕える主が殺害されることである。
 この殺気はマルス様に向かって放たれている。カシムはそう想定し、動くことにする。

「ドーガ様! 西のあれをごらん下さい!」
「ああ、私もすでに気付いている。……なんて強大な邪気だ、遠くから見ているだけで背筋が凍る」

 パレスの中へ少数の部下と共に突入したマルスの代わりにその場で指揮をとっていたドーガは、西に突如現れた“巨大な闇の柱”を見て顔を青ざめさせていた。

「アレを敵と判断する。意見はあるか?」
「アレは殺害対象と見てよろしいでしょうか?」
「殺害対象とする。アレを捕虜にしようと思うな。責任はこの私が全て負う、全力で討ち取るぞ!」
「はっ!」
「……マルス様の許可はいただいていないが、例の兵器を使う。総員、射出用意!」

 ドーガの命令により、彼らはベルトに付けていた小物袋から鈍い光を放つ球状の物体を取り出し、投擲の構えをとった。
 彼らが取り出した球状の物体。それは、鋼の槍の先端を削って作られた“鋼の弾丸”と言うべきものだった───





「くふ、くふふふふっ、見つけたぞマルゥゥゥスッ!!」

 パレスの西に現れた“巨大な闇の柱”の正体。それは闇の魔道士ガーネフであった。
 強者ではあるがただの人間でしかなかった彼は、マルスへの復讐心だけで闇のオーブの力を全て飲み込み、魔王へと進化した。
 今や彼の力は暗黒竜として覚醒したメディウスをも凌ぐ。大魔王と呼ぶに相応しい、本物の超越者だ。

「ほう──あそこにいるのは小僧の腰巾着 ドーガか。……そういえば貴様には世話になったのぉ!」

 ディール要塞のことをガーネフは決して忘れてはいなかった。全ての元凶はマルスだが、自身に敗北という屈辱を味あわせたドーガのことも彼は憎悪していたのだ。
 あの時の“手槍”のことを思い出したのか、ガーネフを包む闇がより一層強く、大きくなる。

「殺してやる、殺してやるぞ!貴様も、マルスも!必ずここで殺して───」

 自身の絶対的優位を確信しているガーネフの嘲笑は、そこで止まった。







「“鋼の弾丸レール・ガン”、射出用意! ───ってぇぇぇぇぇ!」








ドゴゴゴゴゴゴッ!!!!!




「ぐ、ぬおおおおおおおッ!???」

 ドーガ隊から放たれた“何か”が、ガーネフを包む闇の結界を激しく打つ!
 かつてガーネフはディール要塞でドーガが投げ放った手槍に殺されかけた。だからこそ今回も同じようなことがあると想定し、強固な防御結界を張っていた。
 闇のオーブの力を全て喰らったことにより、結界は以前の数百倍の強さを誇る。ゆえにドーガ達の攻撃を防げるのも当然であった。

「ふ、ふは、はははははッ! ドーガよ、もはや“それ”はこのワシには通じん、通じんのだよぉ!」

 勝利を確信するガーネフ。しかし───





「ドーガ様、どうやら敵は生きているようです!」
「あれを防ぐのか。よし、追加でパワーリングを500個使おう(提案)」


 あ…(察し)





 もしもの話をしよう。


 もしもマルスが憑依者では無かったら。
 彼らの物語は正史(原作)通りに進み、ガーネフとは古代都市テーベで決着をつけていただろう。

 もしもマルスがチート仕様のメンバーカードを持っていなかったら。
 やはり彼らは正史(原作)通りに進み、古代都市テーベで決着をつけていただろう。

 もしもマルスが転生系SSにありがちな「チートを使って歴史に干渉だなんて…」というグダグダな性格をしているタイプだったら。
 マルスはガーネフと対峙することなく、ひっそりとタリス島で暮らしていただろう。

 だがこの世界のマルスは憑依者であり、チート仕様であり、自重も一切せず、ウジウジグダグダと悩まない。
 悩んでもせいぜい「虐殺ヒャッハーで化け物扱いされたくないお…」程度であった。

 ガーネフの強さは本物だ。普通のSSならばチートオリ主に対抗するために生み出されたチートボスとして扱われ、2話~5話ぐらいじっくり時間をかけてやっと倒されるぐらいの強さを持っている、文字通りの大魔王だ。
 だがこのSSは最低系であり蹂躙系でありオリ主TUEEE系アンドSUGEEE系SSであった。

 ガーネフにとっての最大の不幸。それはこの世界では主人公サイドの踏み台でしかなかったことだろう(断言)





 決着はついた。パワーリングでさらに魔改造されたドーガ達のレール・ガン隊によって闇の防御結界もろともガーネフは消し飛ばされた。
 彼が立っていた場所には闇のオーブだけが転がっている。遺体は無かった。ドーガ達は「レール・ガンは肉片すら残さず敵(ガーネフ)を消し飛ばした」と判断し、その場で待機。闇のオーブの監視に勤めた。





 各砦に監禁されていた人質達を解放し、<アカネイアの奇跡>作戦の第一段階を無事に終えたマルスはドーガ達と合流する。

「や、皆お疲れ様」
「マルス様!」
「“鋼の弾丸レール・ガン”、見たよ。……凄い威力だったね」
「はい。マルス様の許可無く使用しました。申し訳ありません」
「いや、いいよ。ドーガの判断に誤りはないと信じてるから。……さて、父上やハーディン殿は『この戦場は各国の間者(スパイ)が監視している』と言ってたけど」
「敵兵の生け捕りやレール・ガンは良いパフォーマンスになったでしょうか?」
「だといいねぇ」

 どうやらこの無茶振りともいうべき作戦を考えたのはコーネリアス達だったようだ。彼らは『他国の間者が我等を遠くから監視していることを想定して動くのだ』と厳命した。
 敵を殺さず、その上で解放軍が持つ圧倒的な力を見せ付ける。マケドニアの竜騎士が想像していた通り、それはパフォーマンスだったのだ。
 『正義の味方』を自称する解放軍にとって、これは自軍の脅威を敵国へ知らしめ、かつ無益な殺生を好まないことを伝える最良の作戦と言えるだろう。情報工作を始めとする多くの仕事が戦争終結後に待っている、という点を除けば最高だ(これをしなければ戦後解放軍の面々が第二のメディウス扱いされるのは確実である)

 最も、作戦の最終段階は第一段階のインパクトを綺麗に吹き飛ばす大規模なものとなるから、上手くいけば情報工作も容易に済むかもしれない。

 ちなみに、作戦を考えたのはコーネリアス達だ。マルス達が担当する第一段階を聞いた時に彼の頭に思い浮かんだ言葉は砲艦外交であった。

「さて、それじゃ私達は撤退を……ん? そこに転がっている黒い水晶球は何?」
「不明です。“黒い闇の柱”が消えた跡にそれがあったのですが……拾おうとすると魔力光が発生して手を弾いてしまい、拾えないのです」
「ふ~ん」

 マルスはしゃがみ、黒い水晶球に手を伸ばした───





 ──────バカメッ

 黒い水晶球、いや、闇のオーブの中に居る“それ”は自分に手を伸ばす男を見て哂う。
 “それ”の名はガーネフ。彼は死んではいなかった。

 ドーガ達の“鋼の弾丸レール・ガン”は易々と防御結界を貫き、ガーネフの肉体を爆散させた。
 だが彼は死ななかった。彼は死の直前、己の肉体を捨て、その魂を持っていた闇のオーブの中へと封じ込めたのだ。
 ガーネフが持つ生への執着、復讐の執念が、反則ともいうべき結果を生み出したのだ。

 ガーネフは機を待っていた。闇のオーブを手にした者の肉体を彼は乗っ取るつもりでいた。
 彼にはそれが出来ると確信していた。事実、それは可能だった。
 彼はマルスがこの場に来ることを知っていた。オーブを監視していたドーガ達がそう話していたからだ。ゆえに彼はマルスの肉体を乗っ取ると決めた。
 若く、強い肉体。勇者アンリの血を引いているため神剣ファルシオンも使えるだろう。そこに闇の力が加わればどれほどの強さになるだろうか。

 ガーネフはこれから訪れるであろう栄光溢れる未来を夢想し、オーブの中で哂う。さあ、マルス王子よ、早くオーブ(ガーネフ)を手に取るのだ───





 そして彼は知る。マルスという男はどこまでも規格外で、非常識な男であったと。




 ──────な、なんだこれは、力が……吸われて、いや、喰われていく!? ワシの力が、ワシの魂がッ!!


 “魂喰い”を行い、マルスの身体を乗っ取る。そのはずだった。しかし現実に喰われているのは……ガーネフの方だ。
 何故ガーネフの魂が喰われるのか。それはマルスが持つ『狂化』スキルのせいである。

 魂喰いは洗脳魔法と同様に『精神力の高い者には通用しない』という一つのルールが存在する。
 マルスは転生者(憑依者)だ。それゆえに他の人間よりも高い精神力を無条件で得ている。その上で彼は精神を高める『狂化』スキルを所持していた。
 マルスが転生者でなければ。あるいは『狂化』スキルを持っていなければ。ガーネフの魂喰いは成功していただろう。
 だがマルスは転生者であり『狂化』スキル所持者だった。その二つが重なったせいなのか、逆にガーネフの魂が喰われるという結果になってしまう。
 ……それはつまり、ガーネフの野望、ガーネフの復讐、ガーネフの人生、その全てがここで終わることを意味していた。



 ──────嫌だ、イヤダ、いやだ! こんなところで死ぬのはイヤだ! こんな死に方はイヤだ! ワシは、ワシは世界を……!


 ──────ワシは………私は…………俺は……………………………………がとぉ、せんせい…………………………………………



 闇のオーブの中にいた“何か”は、こうして消滅した。



◇◆◇




 たらららたらららら~♪

 マルスは ガーネフを たおした!

 マルスは やみのオーブを てにいれた!





◇◆◇



 <アカネイアの奇跡>作戦の第一段階を終えたマルス達は、速やかに人質全員を“レスキューの杖”に登録する。
 全員を登録するのにそれなりに時間がかかってしまったが、第二段階の開始時間までには何とか間に合った。


「シーダ、ミネルバ王女!それでは頼みます!」
「はい!」「了解した!」

 シーダのペガサスが、ミネルバのドラゴンが飛び立つ。彼女達の任務はレスキューの杖の運搬だ。
 作戦は今のところ順調に進んでいる。恐らく最終段階までスムーズに進むだろう。

「さて───私達がやるべきことは終わってしまったが。ジェイガン、後はどうしようか?」
「人質だった皆さんに改めて事情を説明すべきかと。作戦の最終段階は彼らの協力無しに成功は無いでしょう」
「うん、そうだね。それじゃあジェイガン、疲れてるところを悪いけど、皆さんをここに集めてくれるかな」
「はっ!」

 敬礼し、ジャイガンは駆け足で移動する。多くの将兵が疲労で溜息をつく中、彼だけはまだまだ元気いっぱいだ。
 そんな第二の父といっていい老人を見送った後、マルスは夜の空を見上げた。

(……夜明けまで、あと二時間)

 その時に全ての決着がつく。それも彼ら『正義の味方』が望む最良の形で。





 <アカネイアの奇跡>作戦は、間もなく第三段階へと入ろうとしていた。



[35037] マルス「第一部 完!」 ニーナ「第二部は始まるのでしょうね…?」(後編)
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:2d16ecd7
Date: 2015/11/20 22:34
 話はマルス達がパレスへと襲撃を仕掛ける以前に戻る。


 パレスから東にあり、ノルダからは北にある大平原。帝国軍は現在その地点に陣地を布き、反乱軍の進攻に備えていた。
 その陣地の片隅に旧アカネイア軍のテントがある。

「………」

 テントの中に居る二人──アカネイアの騎士ミディアと勇者アストリアは、燃える薪を静かに見つめながらこれから始まるであろう戦を思っていた。
 戦の相手は解放軍……そう、彼女達の主君ニーナが相手となる。
 二人にとっての主君は今でもニーナだ。故に、いかなる理由があろうとも主君が率いる軍に槍を向けるような真似は出来ない。
 ならばどうする。逃走か。……否、却下である。逃走が露見すると人質が殺される。
 降伏はどうか。それも却下だ。帝国軍は『降伏=裏切り』と見なし、やはり人質を殺すだろう。
 主君と敵対することは出来ず、さりとて人質を見捨てるような真似も出来ない。ならばどうすれば良いのか。彼女達は考えた。

 考えて、考えて、考え抜いて──結論を出す。

 討たれるのだ。ニーナ達の手によって。

 主君であるニーナとは戦えない。帝国側から離れることも人質が原因で不可能。
 ならば討たれるしかない。ニーナ達と戦わず、かつ人質の安全を確保出来る方法はこれしかない……と、ミディア達は結論付けた。
 旧アカネイア軍将兵の意思は固い。彼らは全員、この地で主君に討たれることを、自らの死を選択した。

 だが……

「よ、っと……。ちょいとお邪魔するよ。あんたがミディアさんかい?」
「──何者だ!」

 傍に控えていたアストリアが剣の柄に手を置き、将軍であるミディアを庇うように素早く身構える。
 テントの中に入ってきた赤毛の少年は敵対の意思は無いことを示すように両手を頭の上に置いた。

「おいおい、そんなおっかない顔で睨まないでくれよ色男さん。おれ、こう見えても結構臆病なんだからさ。
 まずはこっちの自己紹介──いや、この場合は身分証明が良いかな? えーっと……あったあった。この封筒の右端に押されてる紋章、貴族出身のミディアさんなら何なのか分かるだろ?」

 少年が差し出した一枚の封筒をアストリアがまず受け取り、刃等の暗殺用トラップが仕掛けられていないことを確認した後にミディアへ渡す。
 彼女は受け取った封筒に目を落とし、押されていた“それ”を見て硬直した。

「こ、この紋章は、まさか!」
「やっぱりアカネイアの貴族さんには分かるかい。そうさ、それはガトーからあんたらに宛てた手紙だよ」

 少年は腕を組み事も無げに言う。
 魔道都市国家カダインの創設者。全ての魔道士から大賢者と呼ばれし者。生きる伝説──ガトー。その名を知らぬ者はこの大陸には居ない。
 赤毛の少年はガトーの名を聞き戸惑う二人を見てニッコリと笑いかける。

「おれの名はチェイニー。今はガトーじいさんの使いぱしりをさせられてる哀れな男さ」

 赤毛の少年……チェイニーが持ってきた封筒には数枚の手紙が入っており、その一枚にこう書かれていた。

 ──マルス王子が動いている

 二枚目以降にはマルスのこれまでの軌跡──タリス島での決起からアカネイアへ来るまで──が、詳細に記されていた。





 そして時は戻り──現在。
 ミディア達は出撃の準備をしている。斥候から帰ってきた兵から「反乱軍がこちらへと進軍を始めた」という情報が回ってきたからである。それほど間を置くことも無く戦争へと入るのは間違いない。

 チェイニーが持ってきた密書の中にあるマルスの名を見て、一度だけ共闘したことのあるアリティアの王コーネリアスのことをミディアは思い出していた。
 コーネリアスは、死刑が目前と迫ったニーナを救出すべく、ハーディンと共にかなり無茶な作戦行動をとった。当時虜囚の身であったミディアは、その作戦時にコーネリアスと出会う。その後、獅子奮迅の活躍をみせ、ついにニーナを奪還するコーネリアス。
 その姿はまさしく英雄──そう断言出来るほど、彼は頼もしかった。

 彼らはニーナを脱出させるべく部隊を二つに分けた。
 ニーナの護衛にハーディンと狼騎士団が、おとり 兼 殿しんがりをコーネリアスがそれぞれ受け持つ。ミディアはコーネリアスの指揮のもと戦った。
 殿戦でミディアは敗北し再度捕縛されたが、ニーナは無事に国外へ脱出。作戦自体は成功したと言っていい。
 コーネリアスは捕らわれたミディア達を救うか否かを迷ったが、戦力が低下し、自身も手傷を負った状態では救出不可能と判断し脱出。ニーナ達の後を追いオレルアンへと発った。

 ミディアがコーネリアスと会話した時間は極僅か。しかしその僅かな時間で、コーネリアスという人柄を充分過ぎるほど理解した。
 会話の端々から感じる知性、多対一でも遅れを取ることない武勇、軍を率いる者に必要不可欠な広い視野、感情に流されることのない決断力……。
 英雄に足る素質を持つ勇者──それが彼女がコーネリアスに抱いた印象だった。

 そのコーネリアスの嫡子──マルス。解放軍を代表する将の一人、そしてドルーア帝国に滅ぼされたアリティア王国の王子。
 彼女が知っているマルス王子についての情報は、『タリス島で挙兵、解放軍を名乗り、幾つかの町や村を救った』──これだけだ。
 それ以外の情報を知らない。上から情報が一切下りてこないためだ。敵を知らねば戦えぬと情報を引き出そうと試みたが「貴殿にそれを知る権利は無い」と退けられてしまった。情報を与えるつもりが一切無いのは明白である。
 あのコーネリアス王の子供。意図的に止められている情報。大賢者ガトーからの密書。それに書かれている王子達の活躍。
 ミディアは「もしかしたら」と期待してしまう。彼ならば、マルス王子ならばあるいは……と。
 そしてその思いを抱いているのはミディアだけではない。アストリアや、彼等が率いる旧アカネイア将兵全てが彼女と同じく一縷の望みを抱いていた。



 時刻は夜明け前。
 間もなく戦端が開かれようとしていた。



◇◆◇



5.アカネイアの奇跡


 少女──ニーナはコテージの天井を見上げながら、これまでの人生を振り返っていた。
 彼女は全てをドルーア帝国に奪われた。家族を、家臣を、友人を。全て、全て奪われた。
 失われた命を思い、何度涙を零したことか。奪われた命を思い、何度怒りに我を忘れそうになったことか。

 ──今日、全てを取り戻す

 自分の力だけではここまで来れなかった。しかし彼女には多くの味方が居た。
 ハーディン、コーネリアス、シーダ、ミネルバ、多くの将兵達。そして……マルス。
 彼等がニーナを支えてくれた。だから彼女はここまで来ることが出来た。

 『全てを取り戻す』、それは誓い。支え、守り、導いてくれた多くの仲間達に報いるため、彼女は祖国を取り戻す。
 多くの者がそれを期待し、そしてニーナ自身もその期待に答えたいと願っている。

 ……夜明けは近い。すでにシーダとミネルバの二人が“レスキューの杖”を持ち帰還している。どうやらマルス達の救出作戦は上手くいったようだ。
 全てが順調に行われている。シーダ達も“所定の位置”へ移動し終えている頃だろう。後は……時を待つばかり。

 コテージの中へハーディンとコーネリアスが入ってきた。敬礼後、重々しく口を開く。

「御時間です、ニーナ様」
「準備はよろしいか」

 二人の言葉を受け、ニーナは立ち上がった。

「──参りましょう」

 彼女の瞳に宿る強い光。それは『王』が持つ決意の光であった──





 馬の蹄の音と軍靴の音が地鳴りとなって一帯に響く。
 町に駐留していた反乱軍が北へ向かって進軍を始めた──その報告を受けた帝国軍は、ただちに陣形を整え動き出した。
 先頭に立つのはミディア達 旧アカネイア軍。やや離れて帝国軍が移動している。あからさますぎる陣形。帝国軍は旧アカネイア軍をここで使い潰すつもりだ。
 ミディア達は人質を取られているため抗議など出来ない。現状に甘んじる他は無かった。

(現状に甘んじる、か。フッ……)

 苦笑する。ほんの少し前までは現状に甘んじる、といった不満を感じる余裕すら無かった。主君に槍を向けた賊軍としてここで討たれる──そのつもりだったのだ。
 だが今の彼女達は『もしかしたら』と言う思いを、一欠片の希望を抱いている。
 ほんの少しの、奇跡に等しい僅かな可能性。しかしミディア達はその希望に縋りたかった。

「──む! 全体、止まれ!」

 声を張り上げ、行軍を止める。
 前方に、三つの魔方陣が浮かんでいる。彼女はその魔方陣に心当たりがあった。あれは……ワープの魔方陣だ。
 後方にいた帝国軍もミディア達から少し送れて進軍を停止したその時、



 轟───ッ!



 突如魔方陣が輝きを強め、一帯に大きな光が生まれる!
 光が眼に直撃し、思わず両手で顔を覆う。必然、騎兵や歩兵の足も乱れる。致命的とも言える隙が生まれてしまった。これが普通の戦場であれば、彼女達はすでに何人か死んでいたかもしれない。
 ミディアはその魔方陣に見覚えがあった。かつてパレスに居た高司祭が、これと全く同じ魔法を使っていた記憶がある。

(これは──ワープの魔法か! ならば誰かがこの場にワープして、───!?)

 視界が戻ってきた。興奮した馬を無理やり抑え、前方を見やる。
 すると、その視線の先には──

「ニーナ、様……」

 ──その視線の先に居るのは、三人の騎士と一人の女性。……その女性をミディア達は知っている。
 それは彼女達が待ち望んでいた存在、ミディア達が忠誠を捧げる唯一の主。
 アカネイア王家最後の生存者……ニーナ。彼女がついにこの地へと帰ってきた──





 レナの“ワープの杖”により、ニーナ達は予定の位置まで転移。護衛としてコーネリアス、ハーディン、ジョルジュの三人も同時に転移してきた。
 目前の軍が掲げる旗に見覚えがある。あれはミディア将軍の軍旗だ。ならばあれは彼女が率いる軍なのだろう。
 その軍に並ぶように立つ他の軍旗にも見覚えがある。全て、全てが旧アカネイア軍の軍旗だ。
 旧アカネイア軍から遠く後ろに離れた位置に陣を敷く軍旗にも見覚えがある。忘れたくても忘れられない……ドルーア帝国軍。
 ニーナは──傍らに立つコーネリアス達も──薄く笑みを浮かべる。これはとても、そう、怖すぎるぐらい都合が良い展開だ。より少ない“犠牲”で彼女達の作戦は完遂されるであろう。

「ニーナ様」

 ジョルジュが促す。ニーナがコクリと頷き、持っていた杖を天高くかざす。
 そして彼女は力有る言葉を言い放った。

「レスキュー!」

 その言葉に答えるかのように杖は──レスキューの杖は、黄金の輝きを解き放った。





 マルスには一つ疑問に思っていたことがあった。それはステータスUPアイテム“マニュアル”のことである。
 パワーリングやスピードリング等は分かる。天使の衣はゲームとは少し違うが、それでも使ってみれば「ああ、なるほど」と得心が行く。他のアイテムもまた然り。
 ただ“マニュアル”だけが分からない。ゲームでは武器レベルがUPするアイテムなのだが、その武器レベルがこの現実世界でどのような意味があるのだろうか。
 試しにカインやアベルに一つ二つと使わせてみたが、他のアイテムに比べて効果が何も感じられないとの報告を受けた。
 このアイテムにはどのような効果があるのだろうか? 武器レベルとは? マルスの中でそれは解けない謎として残っていた。
 どのような効果なのかは検証を重ねれば良いのだが、残念ながらマルスにその時間が無かった。
 タリス島に居た間は帝国軍に見つからないように息を潜めて過ごしていたし、解放軍を立ち上げて行動を起こした後も机仕事等で時間が潰されてしまった。
 実際に“マニュアル”の検証を始めたのはディール要塞制圧後だ。必要な戦後処理と細々とした事務を終えた後、ワーレンからコーネリアス達がやってくるまでの極短い間ではあるが、マルスは新戦術の開発とステータスUPアイテムの検証を平行して行った。
 その検証にてマルスは“マニュアル”の効果を、マニュアルを使うことによってUPする“武器レベル”の意味を知ることになる。

 武器レベル。それはUPすればUPするほど“極み”に近付くというものだった。

 剣士ならば剣術、弓兵ならば弓術、魔道士ならば魔法───こう言い返れば理解しやすいだろうか。
 この武器レベルが高くなればなるほど、武器の扱い方、魔道に関する“理解・応用力”が高まっていくのだ。

 つまり“マニュアル”を使い武器レベルをUPさせれば、『実年齢は15歳だが、技能は30年以上修業に費やした武芸の達人』といった超兵士が即席で作れるのである!





 ニーナは戦場へ出る前に100個ほど“マニュアル”を使用した。現在彼女の武器レベルは単純計算で500。魔法に関する技能は(限定された時間ではあるが)この世界にいる誰よりも上を行く。
 彼女は手に持っていたレスキューの杖を振るい、その杖に登録された者全てをこの場に召喚した。
 杖に登録された者───即ち、ミディア将軍達を縛る“人質全員”である。

 あまりにも、あまりにも突然すぎるその展開に、ミディア達は呆然と立ち尽くした。彼女達の思考が、この急展開の事態に着いて来れないのである。
 ニーナの近くに現れた集団。あれは自分達を縛る人質だ。その人質が何故ここにいる? そもそもいつ、どうやって彼らは救出された?

 レスキューの杖──転移系の魔法は『魔道の極み』に近付けば近付くほど様々な応用が利く。
 かの大賢者ガトーが軍団規模の人間達を『A国からB国へ一斉に転移させることが出来る』ように。“マニュアル”を大量に使用したことで魔道の深淵が見える今のニーナにとって、大規模転移は児戯に等しい。
 だがミディア達はそれを知らない。アカネイア王家の血を引いているとはいえ彼女はただの人間。そのただの人間に、あのガトーと同じ御技が出来るとは誰も想像出来なかった。

 驚き戸惑うミディア達に一度だけ微笑み、ニーナは空を見上げた───

「聞きなさい、全ての兵士達よ!」

 光が彼方より見える。夜が、明ける───

「大陸に蔓延する深き闇。それは恐怖であり、絶望。わたくし自身の心にも、その『闇』は宿りました……」

 右手を伸ばす。まるで“何か”を掴もうとするかのように───

「私には、民を、人々を守る力や権威がありませんでした。故に祖国を失った。故に多くの命を失った。それはあまりにも罪深き所業」

 違う、貴女は悪くない。貴女にはなんの罪は無い。悪かったのは、罪深きは貴女を守ることが出来なかった我らの方だ──ミディア達はそう叫びたかった。

「その罪深き私に着いてきてくれた方々がいる。もう一度立ち上がるのだと支えてくれた方々がいる」

 身体が震える。溢れる涙が止まらない。
 ミディア達は、自身でも気付かぬうちに片膝をつき、彼女の言葉に耳を傾けていた。

「故に私は立ち上がった! 明けない夜など無いことを証明するために! 絶望を祓う希望はあるのだと証明するために───!」

 朝日がニーナを照らす。陽の光を纏う彼女の姿は、まるで希望を告げる聖女のように美しい。

「立ちなさい、アカネイアの勇士達! 貴方達の主──ニーナ・ウォル・アカネイアが帰ってきた!」

 ミディアが、アストリアが、旧アカネイアの将兵達が立ち上がる。
 ある者は鞘から剣を抜き、ある者は槍を握り締め、ある者は弓を持つ手に力を入れる。
 忠誠を誓った主君が帰還し、自分達を縛る人質はすでに無く───故に、彼らの心に迷いは無い。
 今の彼らの心にあるのはただ一つ、たった一つの強い決意。

 『全ては我らが主、ニーナ様の為に!』

 怒りを、憎しみを持って戦うのでは無く、主君が掲げる大義のために全霊を賭して戦う。
 ……ニーナは、失ったものの一つをやっと取り戻すことが出来た。誇り高きアカネイア騎士団が彼女の手に戻ったのだ──







 ニーナ達が立つ戦場より遠く離れた山中。その場所より一頭のペガサスとドラゴンが飛び立った。その背に乗るのはシーダとミネルバ。
 彼女達は本作戦<アカネイアの奇跡>の要。二人が放つ“鉄槌”を持って、この作戦は完了する。

 ソニックブームという言葉をご存知だろうか? 物体の移動速度が音速の壁を越えた時に発生する衝撃波のことだ。
 この衝撃波は、いとも容易く破壊する。建造物も、自然も、そして人の命も。

 オペレーション・スレッジハンマー。それはこの世界ではマルス軍にしか使えない、ソニックブームを兵器へと転用した大戦術のことである。

 ステータスUPアイテムをそれぞれ1000個使用したシーダとミネルバ。空気と大地を切り裂きながら飛ぶ彼女たちは、すでに人から戦略級兵器へと転じている。
 哀れにも何も知らない帝国軍本陣の元へ、“二つの凶悪な兵器”が迫りつつあった──







「き、消えた!?」

 あまりにも急すぎる展開に呆然としたのはミディア達だけではない、帝国軍の方も同じであった。
 光の柱と共に突然現れた反乱軍の首謀者達。次いで現れた監禁していたはずの人質。
 反乱軍の首謀者──ニーナのセリフが終わると共に、こちらへと敵意を向けてくる元アカネイア騎士団。

 極めつけはこれだ。こちらへ敵意を向けていた元アカネイア騎士団が“全員揃って消え”、その後すぐに“反乱軍の首謀者達も消えた”。

 魔道に精通している者はすぐに気付いた。あれは転移の魔法であると。
 しかしこの場にいる者の9割は魔道に関する知識は皆無。何がどうなっているのかまるで理解出来ない、というのが現状だ。魔道士が説明しようと必死になっているが、一度広まった混乱はなかなか治まらなかった。
 ……人は理解出来ないモノを本能的に恐れるという。現在はただの混乱に留まっているものの、その感情が恐怖へと変わるのは時間の問題だろう。

 だが彼らは幸運だった。何故なら恐怖を感じる前に──

「おい…あれ、なんだ?」

 帝国軍が見たもの──それは白と赤の閃光。
 だが彼らはそれの正体を見極めることが出来なかった。“それ”はあまりにも速過ぎたため、ただの光の帯としか認識することが出来なかったのだ。

 その二つの閃光が彼らの頭上を通り抜ける。

 あれは一体何だったのか。そう思う間もなく“それ”がやってきた。



 轟───ッ!



 轟く爆音。襲い掛かる衝撃。
 ある者は横に切り裂かれ、ある者は縦から潰され、ある者は地面へと強く叩きつけられ……。
 “二つの閃光”が通った後には、惨状のみが残される。

 “二つの閃光”は旋回し、再度突撃。それがトドメとなった。



 轟───ッ!



 この一撃によりその場にいた帝国軍は全滅。オペレーション・スレッジハンマーは、ここに完遂された──



 彼らは幸運だった。何故なら恐怖を感じる前に死ぬことが出来たからである。







 アカネイア攻略戦、終結。
 解放軍は犠牲者0、帝国軍は重軽傷者・死傷者・行方不明者多数。勝者は解放軍。

 まさに奇跡としか思えないような大勝利である。

 200人の小軍が1万の大軍を圧倒。
 砦に監禁されていた人質の救出。
 戦うことを強制されていた旧アカネイア軍の解放。
 “鉄槌”による敵軍の殲滅。

 誰が聞いても作り話、与太話としか思えない圧倒的大勝利。それを解放軍は真実成し遂げた。

 この勝利は『アカネイアの奇跡』として、後の時代まで語り継がれていくことになる───



◇◆◇



6.マルスの誤算


 やあ。私です、マルス王子です。パレス奪還から一ヶ月。季節は秋から冬へと移り変わりました。
 いかに精強な軍といえど冬将軍には敵いません。帝国軍との戦争再開は春まで待つことになりました。ドルーア軍にも動きは見られないため、春まで休戦状態は続く───かもしれません。これはあくまでも可能性の話。
 この休戦期間を利用して、解放軍は溜まっていた仕事を全部片付けることにしました。市民への食料配給、街道の整備、治安の維持、軍の訓練……正直やること多すぎです。

 解放軍はパレスの近くにある砦の一つを間借りし、そこで暮らしている。私はその砦にある一室を居室とし、新国家建国のため書類仕事に従事していた。
 そう、新国家……新生アカネイア王国である。
 新生アカネイア王国の国王はマルス・ローウェル。つまりこの私。妻はニーナ・ウォル・アカネイア様。……どうしてこうなった。

 いや、こういう結果になるのも当然と言えば当然かもしれない。
 占領した地方の復興作業は必ず行っていたし。
 私が金を出していなければ父上とハーディン殿の同盟軍はオレルアンを取り戻す前に瓦解してたし。
 オレルアン合流以降の戦いで犠牲者が最小限で済んでいるのも私が持ってきた装備やアイテムのおかげだし。
 食料・医療品・軍資金等は全部私が用意したものだし。
 吟遊詩人を利用した情報工作のおかげで解放軍の名声は高まる一方だし。

 こうして一つ一つ並べると……うん。私の活躍に対する報酬は『ニーナ様との婚約以外無い』というのが事の真相ではなかろうか。
 正直悩んだ。ニーナ様は私が夫で良いのか、彼女にはカミュ将軍という想い人がいるのではないか──と。
 だがその悩みはすぐに解消される。

『カミュ将軍? 確か……グルニア王国にお仕えする将軍でしたか。彼がどうされたのです?』
『あれ?』

 はい。“この世界”のニーナ様、どうやらカミュ将軍と会っていないようなのです。何故?(※コーネリアスがカミュのポジションに入ったせい)
 会っていない以上恋心が生まれるはずもなく。だから彼女も私との婚約に納得しているようです。

 気になることがもう一つ。ハーディン殿だ。確か彼はニーナ様に惚れていたはずだが……。
 遠回しにだが事情を聞いてみた。すると予想外の答えが返ってくる。

『ああ、その婚約の件は私がニーナ様とコーネリアス殿に持ちかけたのだ』
『ファ!?』

 真相を聞いてビックリ仰天、なんと彼自らが私とニーナ様をくっつけようと裏で動いていたという!
 ハーディン殿曰く、「戦後、混乱した大陸の統治に必要な人物は、コーネリアス殿や私のような者ではない。マルス王子のような人こそが必要とされているのだ」とのこと。
 ……こうやって持ち上げられると凄く申し訳なく思う。私はただのチート使い、ハーディン殿のような立派な男ではないというのに。
 まあチート云々を話す訳にもいかず。私はただ苦笑しその場を誤魔化すことしか出来なかった。

 『ニーナ様との婚約』 これが一つ目の誤算。二つ目の誤算は──

 <アカネイアの奇跡>作戦終了後、四人の少女が我が軍にやってきた。マケドニアのペガサス三姉妹と、神竜族の少女チキ。……って、ペガサス三姉妹はまだ分かるとして、チキ?! この子がここで出てくるなんて意外にもほどがありますよ!
 そういやこの時期のチキってガーネフに洗脳されて手下やってたっけ。……あ! そういや確かディール要塞でガーネフ死んだんだった!(←前話のガーネフに気付いていません)
 ガーネフの死によってチキにかけられてた洗脳が解除されたってことでいいのかな。……誰がこの子を保護したんだろ。大賢者ガトーかな?

 私達の下へ訪れた彼女達は三つの書状を持っていた。書いたのはマケドニア国王ミシェイル。一つは解放軍宛て、一つは私個人宛て、最後の一つはミネルバ王女宛てである。

 さて、ここでまた一つ誤算が生まれてしまった。私宛ての書状、その内容がまた凄い。ストレートに表現すれば『妹二人側室に送るから講和しようZE☆』である。
 ミネルバ殿宛ての手紙は私のと同じで、解放軍宛ての書状もほぼ同じ内容だ(ただし側室云々書かれてない) ……どうやらマケドニアは我らとの戦争を全力で回避したいようだ。
 講和の申し込みを受けるか否か緊急会議が開かれる。当然のごとく紛糾した。オレルアン側からは『拒絶』の声が、アカネイア・アリティア側からは『講和も止む無し』の声がそれぞれ挙がった。
 オレルアン側はマケドニアとの講和など絶対にイヤだろう。何しろ自分達の国を(彼ら目線で)好き勝手に荒らしていたのだから。マケドニアに対する感情は最悪の一言に尽きる。
 アカネイア・アリティア側にとっては「無駄な戦争を一つ回避出来るのならば」という考えだ。必然会議は平行線を辿り、結論は未だに出ない。

 『ミネルバ、マリア姉妹の側室入り。それによって発生する問題』、これが二つ目の誤算。
 そして誤算は続くよどこまでも。やってきました最後の誤算。それは──

「は? クーデター?」
「はい。グルニア国内にて反カミュ派によるクーデターが発生しました」

 子飼いの商人からの報告に思わず頭を抱え込む。……な・ん・で! ここでクーデターが起こる!?

「……前兆は無かったの?」
「ありました。書状にてですが報告も行いました。今から調度10日前です」
「え゙ッ?」

 備え付けの金庫を開け、中に保管しておいた報告書を確かめる。……ギャース! グルニアの地方貴族が物資を買い占めてるって報告を見逃してたー! これどう考えても軍事行動の前段階じゃないですかー!

「……てっきりわざとスルーしているものかと」
「んなワケないでしょ! この時は色々と忙しかったから──あーもう! フォーチュン(子飼いの商人組織)はカミュ派の貴族と接触、全力で支援したげて!」
「御意」

 カミュ将軍のような優秀な軍人がクーデターなんぞで死ぬのは凄く困る! 戦後にこき使う気マンマンなんだぞこっちは! 全力で彼を支援し、勝ってもらわねば!
 というかなんでクーデター起こったんだ? 確か今のグルニアって、病弱な王に代わってカミュ将軍自ら政治を取り仕切ってるんだよな。商人達からは「カミュは善政を布き、民からの評判も良い」って報告が挙がってるから政治センス皆無ってことは無いだろう。
 ……もしかしてそれが気に入らなかった? 軍事だけでなく内政にも素晴らしい手腕を発揮したカミュ将軍に対し、古参の貴族(老害)連中が「我らを差し置きカミュのような若造が国を取り仕切るとは生意気な!」って感じみたいな。カミュ将軍に欠点があるとしたら年齢ぐらいなものだし。……うわぁ、ありそうな気がしてきたぞぉ。


 『グルニア王国でクーデター発生』、これが最後の誤算。
 出来ればマケドニアのように講和の使者を送って欲しかったのだが、内乱へ突入した今のグルニアじゃそれは無理ってもんだろう。

 クーデター問題に関しては、グルニアへの武器・食料の支援ぐらいしか出来ないだろう。軍を動かすとドルーア側もそれに呼応し動く可能性がある。さすがに冬に軍を動かしたくない。つー訳で、カミュ将軍には自分達の手で内乱を鎮圧してもらおう。
 婚約に関しても、まあいい。これは私個人がどうこう言ってもどうしようもない。……ていうか普通に良い女性だよニーナ様。美人だし、気立ても良いし、スタイルも良いし(←重要) ぶっちゃけ不満なんてどこにも無いっすよ!

 問題はマケドニアとの講和の件ですよ。この問題をどうするか、頭痛を覚えるレベルで悩んでいる。
 講和を受け入れたらオレルアンの反発は必至。受け入れなかったらマケドニアとの戦争は続行だが、その場合『講和を蹴った』という事実が残る。ドルーアはそれを利用して流言工作を行い、解放軍を内部から切り崩しにかかる可能性がある。ていうか私がメディウスなら絶対にやる。
 ……それは困る。凄い困る。何しろほら、私達は『正義の味方』を自称している訳だし。戦争回避の選択肢を得たのにそれを蹴るとか、全然正義の味方じゃないじゃん。正義の味方っぽくないじゃん。
 そういう訳でマケドニアとの講和を拒否するというのは絶対に有り得ない……のだが。同盟国であるオレルアンの意思を無視することも出来ないのも事実。

 あちらを立てればこちらが立たず。どちらを選択しても“しこり”は残る。ぐぬぬ……どうすれば良いというのだ!?

 正義の味方。このフレーズがここに来て足を引っ張り始めてきた。なんてことだ……。
 ……………うん? 正義の味方? 正義の味方………。

 ここで私は『ある方法』を思いついた。正義の味方──そうだ、正義の味方だよ。
 私の経歴、これまで積んできた実績、そして『原作知識』……。これらを使えば、現在抱えている問題を円満に解決出来るかもしれない。

 さっそく私は準備に掛かる。都合が良いことに、行動を起こせる機会はすぐにやってくる。
 一ヵ月後の建国パーティー。その日が決戦の時だ──!





 アカネイア暦604年、冬。
 雪が降り積もり本格的に冬に入り始めたその時期に、我ら解放軍はパレスで建国パーティーを開催した。
 パーティーには多くの人が招待されている。オレルアン王、タリス王、ガルダ市長、ワーレン市長、ノルダ市長etc……とにかく沢山だ。来賓が豪華なのは、このパーティーには私とニーナ様の婚約発表も含まれているからだろう。
 冬という体に厳しい季節に、お年を召されたオレルアン王・タリス王の両名がパレスまで来てくれたのはとても嬉しかった。

 ……さて。そろそろ時間だ。
 パーティーの司会・進行を勤めるジョルジュが私達の婚約発表を行ったあと、用意された壇上へ上がり演説を行う手筈となっている。
 その時を、その演説を最大限利用する。
 私は今日、世界に対しペテンをかける──!

「ではマルス様、壇上へどうぞ」
「あぁ」

 ジョルジュに促される。私は胸を張り、堂々と歩いた。
 壇上に上がり、会場を見渡す。……誰も彼もが私に注目していた。
 この土壇場で心が不安で支配される。上手くいくのかどうか。受け入れてくれるかどうか。……否、やらねば私が望む未来はやってこない。父上では駄目。ハーディン殿でも駄目。これは私でなければならないのだ。
 大きく息を吸い、そしてはく。意を決して私は口を開いた──


◇◆◇



7.英雄王マルス



 パーティ用ドレスで着飾ったミディアは、盛大な拍手の中ゆっくりと壇上へ向かう一人の少年へと視線を置いていた。
 解放軍の“盟主”であり、ニーナの婚約者となった少年──マルス。
 母親に似たのか、女性的な美しい顔立ちをしている。ウィッグを付け、女物の服を纏えば女性と言われても違和感が無いだろう。
 彼を“見た目だけで”判断すれば、解放軍の盟主に相応しくない軟弱者だ。実際、初見で彼を侮る者は多い。王子の功績を知ってもなお……だ。優れた容姿が全てプラスに働く訳ではない良い例と言える。

 ニーナの家臣としてこの場に立てているのは王子のおかげであるということをミディアはきちんと理解し感謝している。また、王子自身が成した功績は計り知れないほど大きいことも理解していた。
 だが──それでも彼がニーナの婚約者に相応しいかどうか。そのことを認めても良いのかどうか。それはまた別な話だった。
 王子を婚約者にと薦めたのはハーディン将軍だ。ミディアからすれば、そのハーディン将軍こそがニーナの夫、そして次代アカネイア王に相応しいと思っている。
 帝国の支配によって乱れた国は、ハーディンのような“雄々しく逞しい男”にこそ纏められる。それがミディア達の考えだった。
 マルス王子も確かに優秀かもしれないが、彼が立てた功績の大部分は『秘密の店』という存在のおかげ。何らかの事情により秘密の店が使えなくなったら、その時点で王子は……。

 手に持っていたワイングラスをあおり、中身を一気に飲み干す。そんな彼女のもとへ恋人のアストリアがやってきた。

「ミディア」
「アストリア、貴方も来たのね?」
「ああ、警備は部下に引き継いでもらった。……マルス王子は?」
「これからよ」

 数日前、彼女達はニーナより『パーティの時、王子から演説がある』と聞かされていた。二人はそれを楽しみにしていた。
 よくよく考えてみれば、ミディアも、アストリアも、マルス王子についてあまりにも知らなすぎる。知っていることといえば彼が立てた功績の数々のみ。性格、口調、趣味、好みなど何一つ知らない。
 個人的に話しをしたいと思ったことはあれど、身分の差や立場の差、それらが邪魔をして面会は適わなかった。彼女達も当然その辺りの事情は理解しているので拗れる事だけはなかった。

 その王子が行う演説で、彼の人となりが多少知ることが出来るかもしれない。

 ミディアが、アストリアが。ニーナ、ハーディン、コーネリアスが。オレルアン王、タリス王が。多くの者が見守る中。

 マルス王子の演説が始まった。







「記念すべき今日という日に、私は皆様にお話しなければならないことがあります。それは“我等が解放軍に置ける正義について”です。

 “正義”について語る前に、まず何故我々が“解放軍”を名乗っているのか、そこからお話しましょう。
 解放軍はアリティア軍、オレルアン軍、タリス義勇軍の三軍によって形成されてます。現在はそこにアカネイア軍も加わりました。
 故に本来ならば“同盟軍”と名乗るのが適切でありましょう。将兵の中にそう思っている者は多いはず。
 しかし、であるならば、なぜ我らは同盟軍ではなく“解放軍”と名乗っているのか。

 その理由は、我らは“過去に生まれ現在に至るまで存在する全ての因果を解放する”ことを目指しているからです」



 ざわり、と会場がざわめく。彼の、マルスの今の言葉には妙な力強さがあった。
 彼が何を言いたいのか分からない、しかし何か、とても重大な“何か”を言うつもりだ───会場にいる全ての者がそう理解する。



「古き神話の時代。“ヒト”がまだその日生きることが精一杯だったほど古い時代。ヒトは“ある種族”と友好な関係を築き、共に暮らしていたと聞きます。
 そのある種族こそ“竜族”。後にマムクートと呼ばれる一族のことです。
 ヒトと竜族は共存共栄を目指していました。しかし、あることが切欠でその関係が破綻しかけます。竜族の人化───竜人族の出現です。
 竜族は自身の力を魔石に封印し人化をしなければ理性を失い獣へ成り下がるという奇病に犯されました。それを恐れた竜族の多くが石に力を封印し、竜人族へとなりました。──二つの種族の関係に小さな亀裂が生まれたのはこの時でした。
 力を封印することを拒み、結果ただの獣へと堕ちてしまった元竜族は、本能のままにヒトを襲い始めました。ヒトに味方した竜人族が野生化した元竜族を倒しましたが、両者の間にある亀裂は少しずつ大きくなっていきます。
 やがてヒトは竜人族を蔑むようになりました。竜人族は魔石を使えば大いなる竜族の力を振るえますが、その魔石が無ければヒトよりも無力だったからです。
 そのような状況下にありながらも、彼ら竜人族はヒトとの共生を望んでいました。どれだけ蔑まれても、どれだけ横暴な振る舞いをされようとも……。

 神竜王ナーガ、その名は皆さんもご存知でしょう。彼はヒト側に立ち、獣へと落ちた元竜族と戦い続けました。
 その彼の指示を受け、竜の祭壇とラーマン神殿を守っていた竜人がいます。
 その竜人こそがメディウス。かつての彼はナーガ神側……即ちヒトと共に生きる道を選んだ竜人族だったのです」



 言葉を切る。マルスは会場をゆっくりと見渡した。
 会場にいる全ての者が壇上に立つマルスを見ている。その視線に動揺や困惑を感じれど、怒りや憎しみは無い。
 マルスは一度深呼吸をし、言葉を続けた。



「彼がナーガ神と袂を分かち敵対した理由。それは……やはり“ヒト”でした。
 ある日のことです。メディウス不在の時を狙い、徒党を組んだ人間の盗賊達が財宝を求めてラーマン神殿へ押しかけました。
 神殿は無残に荒らされ、財宝は奪われ、守りを任されていた竜人族の神官達が皆殺しにされました。
 ……この事件を切欠に、メディウスはヒトに、人間に見切りをつけたのでしょう。現状に不満を抱いている竜人族を集め、国を作ります。
 それがドルーア帝国。我々が知る歴史の始まりです」


 ──分からぬ! 分からぬ! 我には分からぬ!
 ──友を、仲間を、同胞を無惨に殺されて! それでもなおヒトと共に生きなければならぬのか!?
 ──ならば要らぬ! そんなヒトなど、人間など、我らは要らぬ!


 マルスの話を聞いた者全てにマムクートの……竜人族の怨嗟の叫びが聞こえたような気がした。今の話はそれほどの衝撃を彼らに与えた。
 マムクートが人間を憎悪しているのはおぼろげながら理解していた。しかし“なぜ憎悪しているのか”までは今まで分からなかった。分かろうともしなかったのだ。



「人は、民は我らを正義の味方と称えてくれます。
 はて、正義とは、そして悪とは一体何なのでしょう?
 全ての真実を知った今、その質問に答えられる人がいるでしょうか。

 ……私は出来る。正義とは、悪とは何か! 私は答えることが出来る!

 正義とは! 過去から現在いまへと続く憎しみの連鎖を断ち切り未来へと歩むこと!

 悪とは! 真実を知りながらも、なお過去にしがみ付き未来あすを見ないこと!

 その憎しみの因果かこを“解放する者”、それこそが我ら解放軍!

 世界は告げている! 竜を許せと! 悲しみを終わらせよと!

 夜の後には朝が来るように! 冬の後には春が来るように!

 悲しみに満ちた過去を終わらせ、希望にあふれた未来を目指す時が来たのです!」



 この場に居る者のほぼ全てがマムクート……竜人族に対し怒りや憎しみ、あるいは恐れの感情を抱いている。
 故に多くの者が思った。貴方には無いのか。ドルーアに対する怒り、憎しみ、それらが無いのかと。



(……否! 王子は、マルス王子の心の奥底には間違いなく怒り、憎しみはある!)

 ハーディンは、一度だけだがマルスの中にある“憎悪”を確かに見た。
 レフカンディ──今でもあの戦いは鮮明に思い出せる。あの戦場でマルス王子は怒りのままに、憎しみのままに剣を振るい、敵を屠っていた。あの姿こそマルスがドルーア帝国に対し抱いている憎悪の証明だ。
 それを、その憎悪をマルスは捨てようとしている。民のため、国のため、大陸の平和のために自分自身が持つ負の感情を捨てようとしている。
 血が滲むほど強く拳を握り締める。ハーディンの頬をつたう涙は、何に対しての涙なのか───



(マルスよ、私はお前を誇りに思う……)

 コーネリアスは寄り添うように立つ妻の手を取り「大丈夫だ」と気遣うように声をかける。それから愛しき息子を見つめた。壇上に立つその姿からは迷いも後悔も感じられない。
 先ほどのマルスの言葉。それが意味するところは『大陸に住まう全ての人々の未来のために、自身が持つ復讐心を捨てる』ということに他ならない。マルスは、彼らの息子は自らの意思でその道を選択した。その決断を下すのにどれほどの葛藤があったのか───



(王子……わたくしは……)

 聡明な女性であるニーナは、『彼から“復讐”の機会を奪ったのは間違いなく自分である』と気付いてしまった。
 マルスは解放軍の盟主。そこにニーナと婚約し“アカネイアの次期国王”という肩書きが付いてしまったため、彼から“ドルーア帝国への復讐”の機会が永遠に失われてしまった。
 解放軍の盟主にしてアカネイアの次期国王、それほど重い立場にある人物が“復讐”という感情に流されるなどあってはならない。明確な“大儀と正義”が無ければ戦争行動を起こすことが許されない立場になってしまったのだ。



「私、マルス・ローウェルはここに宣言する! 古き時代から現在いまへと続く憎しみの連鎖を断ち切ると!
 それこそが“解放軍”の役割であり、我らが目指す正義なのです───」



 演説が終わった。あとに残ったのはシンと静まり返った会場のみ。
 彼の演説を聞いた者の多くが思った。“何故、貴方がそれを言えるのだ?”と。
 マルスという人物を客観的に見れば“ドルーアに故郷を滅ぼされた亡国の王子”だ。16歳という年齢を考慮すれば、ドルーアに対し憎悪を抱き、感情のまま復讐に走ってもおかしくは無い、あまりにも重すぎる人生を歩んでいる少年だ。

 その少年が“ヒトと竜の共生”を説いている──その先にこそ未来はあるのだと言っている!

 敵を倒せば、ドルーア帝国を倒せば全てが終わる。誰しもがそう思っていた。
 ……終わるはずがないのだ。戦争の原因、その根本をどうにかしない限り戦争は何度だって起こりえる。その当たり前すぎる事実に誰も気付かなかった。
 しかしマルスだけが気付いていた。同時に発生するであろう問題を解決する方法も。

 弱者に手を差し伸べ、進むべき道を示し、共に歩いていく。
 現実感の欠片もない理想論を語り、しかしマルスはそれを現実のものへとしてきた。
 少数の軍を率いて大多数の軍を破る。
 御伽噺の中でしか有り得ないような奇跡を、しかしマルスはそれを現実のものへとしてきた。
 “徳”と“覇”。正道と覇道。その二つを万人にとって分かりやすい形でマルスは実践してきた。

 それは───まさしく“王”ではないか。

 その王が言った。目指すべき正義、そして未来を。
 他の者が言ったのならば鼻で笑われるか、逆に怒りや憎しみを向けられるであろう。
 しかしそれがマルスの言葉ならばどうか。

 その答えは──────



『マルス様 万歳!』

『マルス陛下万歳!』

『アカネイア大陸に真の平和を!』

『人間に、そして竜人族に輝かしい未来を!』



 ニーナが。コーネリアスが。ハーディンが。
 タリス王、オレルアン王、ガルダ市長、ワーレン市長、ノルダ市長が。
 シーダ、ミネルバ、ミディア、アストリアが。
 マルスの、“我らの王”の演説を聞いた全ての者が立ち上がり、一斉に喝采を送った。誰もが、誰もが王の言葉に輝かしい未来を見た。
 その未来を王と共に歩みたい───いや、共に作りたい。そう思わせるほどの“力強さ”がマルスの言葉から感じることが出来た。



 この日よりマルスは 英雄王 と呼ばれるようになる。



 そしてそれは全てマルスの狙い通りの展開であった。



◇◆◇



8.英雄王マルス(笑)


 計 画 通 り !
 拍手喝采に包まれる会場を見渡しつつ、私はたおやかな笑みを崩すことなく心の中でグッとガッツポーズをとる。
 これぞ私が用意した策! 幸が薄い亡国の美少年王子様が同情を引きつつそれっぽい正義論を説いて周りを納得させちゃおう作戦だ!
 耳心地良い言葉を用いた演説。ヒトと竜の確執、ドルーア帝国の始まり、ナーガ神の目指していた未来……という原作知識。そして──オーブの力。

 以前手に入れた黒い水晶球を覚えているだろうか。どうもあれ、闇のオーブだったらしい。そのことに気付いた切欠はペガサス三姉妹とチキが持ってきた四つのオーブ……光・星・大地・命のオーブに触れた時だった。
 彼女達が持ってきたオーブに触れた瞬間、“力”が体の中へと入ってくる感覚がした。そう、黒い水晶球に触れた時と同じように。
 そこで私はやっと察した。あー、あの黒い水晶球、闇のオーブだったのか……と。
 五つのオーブの力を吸収したことによって、私は“オーブ”と“封印の盾”の二つの力を手に入れる。
 そのうちの一つ……“オーブの力”を演説中に私は使ったのだ!
 会場全体を“オーブの力”で覆うことにより、会場にいる全員を擬似的な催眠状態に落とし込み、私の言葉が心強く聞こえるようにし、最終的には全員納得するように誘導する。ぶっちゃけ私がやったことって洗のu(省略)
 これらをフル活用した結果が拍手喝采のマルス様コールである。フー! 最高に気持ち良いぜ!
 演説自体はそれっぽいセリフをそれっぽく言ってるだけなんだけどね!

 私の策が完璧にハマったことにより一つの大きな“流れ”が生まれた。これから我ら解放軍はその“流れ”に乗り、平和へ向けて大きく動き出すだろう。
 オレルアンなどはまさにそれである。彼らはマケドニアとの講和に反対していたが、それを撤回し講和の方向へ話を進めていくつもりみたいだ。
 現在の彼らの心境を表すと「マルス王子が己の心を押し殺し平和を目指しているというのに、我らは個人的な感情で……」といったところ。実直な性格をした人が多いオレルアンには今回取った策が実に効果的だぜ~!
 もともとオレルアン王本人は講和に前向きだった。その彼が講和に反対していたのは、オレルアン国の国民感情に配慮してのことだ。
 それも今日という日を境に変わる。彼らもまた大陸の平和へ向け動き出すだろう。私が作った“流れ”に乗ってね。
 とはいえ、すぐに『国交が回復、関係が正常化される』というわけではない。あくまでも戦争状態が解消されるだけ。二つの国がまともに交流出来るようになるためには、少なくとも100年近くは時間が必要になるだろう。

 とはいえだ。マケドニアに関する問題はこれで解決した。解放軍とマケドニアの講和が確定したのだ。
 それはつまり───私の側室としてミネルバ殿(+マリア)がやってくるということだー!
 うほほwwwいよいよもってハーレムが現実的なものになってきましたなぁwwwww

『マルス様 万歳!』
『マルス陛下万歳!』
『アカネイア大陸に栄光あれ!』


 文字通り熱狂に包まれる会場を最後に一度見渡した後、ゆっくりと壇上を降りる。
 ……さぁ、これで問題はほぼ全て解決した。
 ドルーア帝国よ、私のハーレム・ライフのため、お前達を倒させてもらうぞ───!






マルス「英雄王 爆 誕」キリッ
ギル「は?(威圧)」
シオン「絶対に許さない」

ニーナ「次回、いよいよ最終回です」
ミネルバ「最終回は来年の夏くらいですかね…(諦観)」



[35037] マルス「来ちゃった☆ミ」 メディウス「く、来るなぁ!」
Name: 七誌ちゃん◆c618a2f2 ID:b181fde6
Date: 2016/07/09 20:55
1.決戦前



 アルテミスの定め。
 それは愛する人とは決して結ばれることが叶わないと言われる、悲しい伝説。
 伝説の勇者 アンリ。
 アカネイア聖王国の王女 アルテミス。
 アンリとアルテミスは互いに深く愛し合っていながら、しかし結ばれることは叶わなかった。

 時は流れて現在。
 アンリの子孫 マルス。
 アルテミスの子孫 ニーナ。
 かつて結ばれることが叶わなかったアンリとアルテミス。その二人の子孫が長い時を経て一つとなる。
 アカネイアの民は二人の婚姻を熱狂を持って迎えた。

 “マルスの誓い”と呼ばれる演説は瞬く間に各国へと広まった。
 民衆は自分達に圧政を強いたドルーア帝国を深く憎んでいる。機会を得られたのならば復讐したいとすら思っている。
 故に“マルスの誓い”を知った民衆は「復讐の機会を奪われた」と暴動に走り始める──解放軍そのように考えていた。
 しかし暴動は起きなかった。それどころかマルスを支持する動きが各地で起き始めた。
 何故民衆はマルスを支持するのか。それは彼が積み重ねてきたこれまでの功績に因るところが大きい。
 タリス島での決起。海賊や山賊の討伐。帝国に支配されてきた土地の解放。治安維持に復興作業。

 滅私奉公──マルスという人物を評するのにこれほど相応しい言葉は無い。

 家臣のため。仲間のため。自分を頼り支持してくれた民衆のため。
 僅か16歳の少年は『平和』という大儀のため、ひたすら自分の心を押し殺し動き続けた。少なくとも民衆からはそう見られていた。
 解放軍の盟主、アリティアの王族なのだから、平和の為に行動するのは当たり前。民衆のほとんどはそう思っていた。
 だがその一方で「マルス様だけに負担をかけ続けて、我らはそれで良いのだろうか…」とも思っていた。
 救われているだけ、守られているだけ、与えられているだけの民衆は、恥を感じていたのだ。
 自分達に出来ることは何か。誰もが考え始めた。
 そんな時である。コーネリアス王、オレルアン王、タリス王など、多くの王族・貴族が“マルスの誓い”を強く支持したのは。
 コーネリアス王やタリス王はまだ分かる。コーネリアスはマルスの父で、タリスもまた父と言っていい存在だ。
 オレルアン王がマルスを支持した。それが民衆に強い衝撃を与えたのだ。その証拠として、オレルアン王は不倶戴天の敵と言っていいマケドニアと停戦条約を結んだ。

「大陸の未来のため、我々は一歩踏み出す必要があるのだ!」

 平和のために過去の遺恨を捨てる。それは容易なことではない。
 しかし新たな時代に進むためにはそれこそが必要だとオレルアン王は民衆に対し強く説いた。
 それが功を奏し、多くの民衆がマルスを支持し始めた。
 さらに王都解放により復活した新聞メディアや、吟遊詩人を使った入念な情報工作により、ほぼ全ての民衆がマルスを支持するようになる。

 マルス王子はドルーア帝国との決戦に向け、着々と地盤を固めている。
 一方その頃、他国はどうなっていたのかというと──







【マケドニア王国】

 ミシェイル王。彼は当初、グルニアのカミュと同盟を結び帝国を打倒し、メディウスの首を持って解放軍と和睦しようと計画していた。
 しかしその計画は、グルニアで内乱が始まったせいで頓挫することになる。

「……カミュめ。存外使えぬ男だ」

 葉巻を取り出す。和睦のためにアカネイアへ送った家臣が持ち帰ったもの。マルスから「ミシェイル王へ」と送られた一品だ。
 葉巻に火を着け、軽く吸い込む。芳醇な香りが鼻をくすぐり、至福のひと時をミシェイルに与えた。
 ……カミュならば、あの黒騎士ならば自分同様、挙国一致体勢を作れるだろう。ミシェイルはそう信じていた。
 だが結果はご覧の通り。カミュはグルニアを纏めることが出来ず、遂には謀反──内乱まで許してしまった。
 失望。今のミシェイルはカミュに対して、その感情しか浮かばない。
 とは言え、彼はまだグルニアを見捨てるつもりはない。如何なる理由があれ、マケドニアは一度アカネイアを裏切っている。国際社会に置ける地位は必然低くなる。発言力など無きに等しい。
 自国の地位を上げ大きな発言力を得るためには同盟国が必須。その同盟国になり得るのはカダイン、グラ、グルニアの三つ。そしてその三国の中で最も信頼出来るのがグルニアだとミシェイルは考えている。
 故に彼はまだ期待している。グルニアの黒騎士カミュに。

 グルニアの内乱をいち早く察知したマケドニアは方針を変え、単独でアカネイアとの講和に踏み切った。
 紆余曲折あったものの、アカネイアとは和睦。アリティア・オレルアン・タリスの三国とは停戦条約を結ぶことに成功する。
 それだけではない。マルスの後宮へミネルバ・マリア姉妹が入ることをアカネイアは承諾した。
 家臣から報告を聞いたミシェイルは会心の笑みを浮かべた。ミネルバとマリアの側室入り。それは大陸の覇者たるマルスの血にマケドニアの血が混ざることを意味する。
 つまり──マケドニアの血を引く子が後のアカネイア王になる可能性が生まれたのだ。
 次代では無理だろう。しかし三代目、四代目ともなるとマケドニアの血を引く者が王の椅子に座る可能性が出てくる。

「……カミュよ、さっさと内乱を終わらせろ。でなければ貴様はこれから先の情勢に取り残されてしまうぞ」

 秘蔵のワインを開け祝杯を挙げる。この戦争に置いてミシェイルは間違いなく勝者の一人であった。







【その頃のマルス様】

 ふひひwwwやっべマジやっべ。今からニーナたんとの新婚初夜なんだけど、ニーナたんマジ女神!美しすぐるその裸体に私の【ファルシオン】が【レベルアップ】し【必殺の一撃】を放とうとプルプル震えておりまする!前世DT今世もDTの我輩にはもう……もう……耐えられませぬ!
 おっと落ち着け。落ち着くんだ私!ここで暴走してはいけない。私がこれまで築き上げてきたイメージが崩れてしまう。
 ニーナたんを怖がらせないためにクール・フェイスを維持し、ゆっくりベッドへ入る。私の【レベルアップ】した【ファルシオン】を見てニーナたんは顔を真っ赤にするも視線は【ファルシオン】から決して外さなかった。おっほーーーwwwww
 そんな顔見せられたらもう抑え切れません。私はゆっくり彼女と肌を重ね───【無料公開版はここまでです。続きはweb有料版で!(嘘)】



 この憑依系オリ主、ちょっとヒドすぎませんかね……?







【グルニア王国】

 アカネイアでマルスとニーナの婚約が発表され盛大なパーティーが開かれていたその頃。
 ここグルニアの地は大きな混乱に包まれていた。地方に領土を構える貴族達が謀反を起こしたのである。

 グルニア貴族はレフカンディ、ディール要塞、そしてアカネイアの地の敗戦の責任を全てカミュへと押し付け、将軍の地位から降ろそうと画策した。

「我が軍が敗北したのはカミュの責任である!」
「敗軍の将を排除し、我らの手で国内を統一すべし!」
「彼奴が軍の最高責任者のままだとグルニアは再度アカネイアに飲み込まれてしまうぞ!」

 しかしグルニア国王は貴族達の動きを全て無視し、カミュに対し『引き続き我がグルニアを支えて欲しい』と宰相の地位を与えてしまう。将軍の地位はロレンスに譲られた。
 これにグルニア貴族は激怒した。王はカミュに敗戦の責任を取らせないばかりか、宰相という地位を与えた。自分達の面子を潰されたと彼らは感じたのだ。
 だがグルニア国王にも言い分はある。今彼が信用し信頼出来るのはカミュとロレンスしかいない。他の貴族は隙あらば自分を排し、自らが王を名乗るだろうと彼は思っていた。王はカミュ(とその派閥)とロレンス(とその派閥)以外を全く信用していなかったのだ。

 謀反が起こるのは必然だった。今まで無かったのが不思議なくらいだ。

 しかし彼らの謀反もアッサリと鎮圧される。
 フォーチュン───マルス子飼いの商人達が介入したせいで。

 グルニア国内の流通を全て握っているフォーチュンは、まず謀反を起こした地方領へ赴き大量の武器(はがね製)を貴族・民衆問わず格安で販売した。
 謀反勢力はこれから戦争を始めるつもりだったので、これを根こそぎ購入した。
 金が大量に失われたがグルニア本国を制圧すれば資金面の問題は解決される。故に謀反勢力は金に糸目をつけず武器を買い取った。

 フォーチュンは始めに大量の銭を謀反勢力から回収した。

 大金を支払い武器を購入した謀反軍。彼らから資金が無くなったと確信したフォーチュンは“荷止め”を決行。塩、油、麦などを始め、生活に必要な物資が根こそぎ謀反勢力の領土から消える。
 謀反軍はまだ良い。城にある貯えのおかげで混乱は最小限に留める事が出来たのだから。
 問題は謀反勢力が支配する領土の民衆達だ。大混乱である。それまで当たり前にあったものが突然無くなる。それは言葉に出来ない恐怖を彼らに与えた。

 さて。ここで一つ思い出してもらいたいことがある。
 フォーチュンは『武器を貴族・民衆問わず格安で販売した』
 はがね製の武器を購入したのは謀反勢力の貴族やその兵士達だけではない。民衆もまた武器を買い、所持している。

 生活に必要な物が根こそぎ無くなった。
 タイミング的に謀反を起こした貴族のせいである可能性が高い。
 グルニア王国の誇りとも言えるカミュ将軍が敵になった。
 謀反軍は戦争に向け徴兵を強行し、民衆を苦しめる。
 今、民衆の手には武器がある……。


 アカネイア暦604年! グルニアは乱世の炎につつまれた!


 自分達の生活が脅かされているのは謀反を起こした貴族のせい。民衆の恨みはすぐさま天元突破し、貴族に対し蜂起を起こした。貴族達を倒し、グルニアの英雄カミュが再びこの地の支配者になれば現在の状態は改善される───人々はそう確信し、立ち上がったのだ。

 グルニア国内の内乱はカミュ派vs謀反軍(反カミュ派)から、謀反軍vsグルニア国民へと完全にシフトしてしまった。
 そしてタイミングを見計らっていたかのようにフォーチュンがカミュへ接触。『アカネイアは貴国を全面的に支援したい』とマルスの言葉を告げる。
 カミュは頭をかかえた。現在のグルニアの惨状。それはマルスが裏からコントロールして起こしたものであるとカミュは思っている。ではそれはどこから始まったのか?
 民衆の蜂起? 貴族の謀反? フォーチュンによる流通の独占? あるいはもっと前から?
 ……一つだけ確定していることがある。すでにグルニアはアカネイアの……否、マルスの支配下にあるということだ。

 カミュはフォーチュンの支援を受けながら「これからグルニアはどうなってしまうのか…」と、先の見えない未来に絶望を覚えてしまった。






【その頃のマルス様】

 我が野望、ここの成就せり!
 ミネルバ殿(とマリアちゃん)が側室入りしますた!ドゥフフwwwww
 彼女だけじゃない。ミネルバ殿付き女官としてやってきたペガサス三姉妹も側室入りが濃厚であります。どうも彼女達、ミシェイル殿に「両国の関係をより強固なものへとするために」と命じられてきたみたいだ。ぶっちゃけハニトラみたいなもんだけど、私は 全 力 で 引 っ か か り に い き ま す !
 だってあーた、ペガサス三姉妹ですよ? 超絶美少女三姉妹ですよ? それを貰えるゆーたら遠慮無しに貰ってくのが男でしょう!? 据え膳食わねば男の恥やで!!

 マリアちゃんは───うん。数年後に期待ということで。
 だって見た目完全にJSだもん。ロリ通り越してペドだもん。ペドは私の守備範囲外だもん。
 リンダも側室入りを希望してるみたいだけど。……うん。彼女もちょっとペド寄りなので数年後に期待です(ニッコリ)
 あとバトゥ殿から「チキの世話をお頼みしたい」て彼女の側室入りを求められたんだけど。やはり彼女も数年後に期待ということで。

 ふふふ……ここからだ。ここから私の本当の人生が始まるのだ───ッ!



 憑依系オリ主様は本日も絶好調でした。







【竜の祭壇】

 ドルーア地方に“竜の祭壇”と呼ばれる聖域がある。
 そこに地竜王メディウスと大賢者ガトーの二人が居た。
 メディウスは両膝を地に付け、この地に眠る“同胞達”へ祈りを捧げている。ガトーは傍らでそれを見守っていた。

 祈りを捧げながら、メディウスは傍らに居る古き友人へ語りかけた。

「ガトー。とうとう現れたな」
「うむ。我ら竜族の“良き理解者”が現れてくれた」
「永かったな……」
「ああ、永かった……」

 再び沈黙が流れる。
 遥か昔。かつてメディウスは人間達の守護者として世界を見守っていた。
 しかし一部の傲慢な人間による非道な行いによって、彼は人の世界を見限り、敵対した。
 ガトーもまた人間に失望し、敵対こそしなかったものの人の世界から極力距離を置くようになってしまった。

 あの時から長い年月が経つ。
 神話の時代から生き続けた二人は今、なにを想うのか。

 メディウスが立ち上がる。ガトーへと振り返った地竜王の瞳には某かの決意が込められていた。

「ガトー、マルス王子へ『我ら竜族はこの地にて待つ』と伝言を頼む」
「承知した」

 ガトーが転移魔法を使いその場から小さな魔法音と共に消え去る。
 転移した友を見送った後、メディウスは“祭壇”へ振り返り、その地に眠る“同胞達”へ最後の祈りを捧げる。


───同胞よ。この地に眠る我が兄弟達よ。
───我らの悲願が叶う時が来た。

───我らの怒りを知るニンゲンが現れた。
───我らの憎しみを知るニンゲンが現れた。
───我らの痛みを知るニンゲンが現れた。
───我らの苦しみを知るニンゲンが現れた。
───我らの悲しみを知るニンゲンが現れた。

───我らの全てを理解してくれたニンゲンが現れたのだ。


 メディウスはこれまで『人間憎し』という気持ちだけで戦って来た。
 しかしマルスという少年が現れたことで、メディウスは『憎しみだけで戦ってきた訳ではない』と自覚した。してしまった。
 彼はただ知って欲しかっただけなのだ。真実を。ヒトと竜の争い、その始まりを。
 かつてたった一人で戦いを挑んできた英雄アンリ。メディウスですら英雄と認める彼もとうとう辿り着かなかった真実に、その子孫が至った。
 それはメディウスの脳裏に『和平』の二文字をよぎらせるほど衝撃的なことだった。


───最早我に迷い無し。
───兄弟よ。我ら竜族最後の戦いを、この地より見守って欲しい。


 祈りを終えたメディウスは居城へと帰還する。
 運命の日まであと僅か。
 最後の戦いへ向け、メディウスもまた準備に入った。







2.最後の聖戦


 マルス達の長い戦いもようやく終わりが訪れようとしていた。

 アカネイア解放直後にマケドニアは使者を出し、アカネイアに従属。
 それが引き金になったのか、グラ、カダインの両国も使者を送り降伏。少し遅れて内乱を片付けたグルニアもアカネイアへ降伏した。

 大陸はアカネイアの……いや、マルスの名の下に再び一つになろうとしている。
 その彼らの前に立ちはだかる最後の壁───ドルーア帝国。

 地竜王メディウスが、モーゼス、ゼムセル、ショーゼン、ブルザークの四魔将率いる一万の大軍と共に、竜の祭壇にてマルスを待ち構えている。

 マルス達は戦いを終わらせるべく、大戦力を集結させる。
 アカネイアからはマルス率いる新生アカネイア騎士団四千。
 アリティアからはコーネリアス率いるアリティア騎士団一千。
 オレルアンからはハーディン率いる狼騎士団一千。
 マケドニアからはミシェイル率いる竜騎士団三千。
 グラからはシーマ率いるグラ兵団三百。
 カダインからはウェンデル率いる魔道士隊二百。
 グルニアからはカミュ率いる黒騎士団五百。

 一万にも及ぶ大戦力を持って、マルス達解放軍はメディウスに挑む。

 アカネイア暦605年───春。
 竜の祭壇があるドルーアの地にて、最後の戦いが始まろうとしていた……。







 そして───戦いはアッサリと決着がついた!







3.最後の聖戦(笑)

「レナさん! 例の作戦を!」
「かしこまりましたマルス様!」

 レナはマニュアルを使用した!×1万
 おめでとう! レナは ガトーをはるかにこえる だいまほうつかいになったぞ!

 ※マニュアルを使えば武器レベルが上昇し、武器レベルが上昇すると武器使いや魔法使いとしての格が上昇する。詳しくは前話参照。

「───捕らえた! レスキュー!」

 しゅわしゅわしゅわ~←魔法発動音

「───あれ? ここは……」←地竜に変身する前のメディウス召喚
「死ね、メディウス! マルス・スゥパァナッコォ!!!」



どごぉっ!



「ぐほぉぉぉ!?」デストローイ!
「ハッピーエンドの条件は、主人公ヒーローが勝つことさ!」



チートでエムブレム  完!







4.Q.こんな最終回で大丈夫か?
  A.大丈夫だ、問題ない



「貴方という人は…貴方という人は……!」

 地面に正座しているマルスに向かってニーナが激しく説教している。
 ニーナは激怒した。必ず夫であるマルスに説教せねばと決意した。
 ニーナには戦争は分からぬ。けれども、戦場に赴く兵達の想いには人一倍敏感であった。
 今日、兵達は始めて犠牲を良しとする戦争に臨んでいた。この戦争が『ヒトと竜』の新しい未来を生み出すと確信していた彼らは、自らの命を惜しまず最後の戦争に臨もうと決意していた。
 その彼らの決意をマルスは、こう……ポキッとへし折ってしまったのだ。
 いや、マルスのやり方は何も間違っていないのだ。結果だけ見れば犠牲者を一人も出さずに大将首を獲ったのだから。(メディウスは死んでいない)
 ただ何ていうか、マルスの行動は……そう、 KY だった。自分達の覚悟は何だったのかと、色々納得出来ないのだ。
 コーネリアス達に慰められてるメディウスを横目に、マルスは反論を試みる。

「なるほど。ニーナは今のやり方が気に食わないと。ではプランBを選択すれば良かったか……」
「……イヤな予感がヒシヒシと感じますので一応聞いておきます。プランBとは?」
「うむ。プランB───オペレーション・メテオだ!」
「おぺれーしょん・めてお?」

 全員がマルスの言葉に耳を傾ける。いつの間にかガトーやチェイニーまでその場に居た。

「まずレナさんにマニュアルを大量に使い、ワープの杖を渡します。そしてバヌトゥに“パワーリング”“天使の衣”“竜の盾”をそれぞれ二万個ほど使わせたあと、竜の祭壇から上空一万キロ───大気圏ギリギリまでワープさせます。その後、重力に引かれたバヌトゥは竜の祭壇まで一直線に───」
『大陸が沈むわバカモノォォォォォ!!!』

 メディウス、ガトー、チェイニーの トライアングル・アタック!
 しかし マルスには こうかが ないようだ……。

「大丈夫! ブレス使えば落下地点の調整は出来るから、ちゃんとピンポイントで落ちる場所を狙えますよ!」
「何が大丈夫なのだ! どこも大丈夫ではないわ!」

 グッ!とサムズアップするマルスに激怒するガトー。
 ニーナ達はタイキケン、という言葉あたりから理解が及ばなかったが、どうやらガトー達三人は正しく理解出来ているようだ。そしてその三人が揃って激怒している様子から、プランBとやらが碌でもないものであるということだけは彼女達にも分かった。
 チェイニーは地面に座りこみ、さめざめと泣く。

「俺さぁ……実はさぁ……アカネイアでやったマルスの演説聴いてさぁ……ちょっとだけ泣いたんだぜ……? ああ、やっと俺達竜族の理解者が現れてくれたんだなぁって。それなのにさぁ……へへ、こんなのってないよなぁ。グスッ……」

 チェイニーの嗚咽につられて、いつの間にか来ていたドルーア四魔将も涙を流す。
 なんかもうグダグダである。これ本当に最終回なの?







 ヒトと竜の戦いは終わった。
 両軍ともに大きな犠牲(捏造)を出し、一週間にも及ぶ激戦(捏造)を制したのは解放軍だった。
 戦いが終わったあと、両軍は互いに健闘を称え、手を取り合ったという。
 ヒトと竜は過去から続く『呪縛』より解放された。アカネイア大陸に真の平和が訪れたのだ───






「ニーナ様、事実をありのまま記録に残すのはさすがにまずいのでは……?」
「捏造しましょう。誰も真実を語らないよう戦争に参加した兵士達に緘口令を敷きましょう。メディウス殿、貴方は竜族の方をお願いします」
「承知した」

 戦争終結直後コーネリアス、ニーナ、メディウスの三人が密談したという記録は無い。無いったら無い。







チートでエムブレム エピローグ

 こうして、後に『解放戦争』と呼ばれた壮絶(?)な戦いは集結した。
 その後の彼らを少しだけ皆さんへ御教えしよう……。


アリティアの王 コーネリアス
 戦争終結後、ジェイガン達と共にアリティアへ帰還。祖国復興に全力を注ぐ。
 妻との仲も良好であり、最近三人目の子も出来たとか……。


アリティアの王女 エリス
 戦後、アリティアへと戻る。
 近々オレルアンの新王へと嫁ぐらしい……。


アリティア騎士団団長 ジェイガン
 アリティアに帰還後、カインとアベルに後を託し現役を退く。
 以後はコーネリアスの相談役としてアリティアに貢献していく。

アリティアの騎士 カイン
 ジェイガンの指名により新たなアリティア騎士団団長となる。
 慣れない机仕事に四苦八苦しながらも充実した日々を過ごす。

アリティアの騎士 アベル
 ジェイガンの指名によりアリティア騎士団副団長となる。
 カインを補佐しつつ後輩の指導に努める。

アリティアの騎士 ドーガ
 コーネリアスの命によって辺境の守備隊隊長に就任する。
 ディール要塞でやった単独任務に味を占めたのか、特殊部隊を作りたいと思っているようだ……。

アリティアの弓兵 ゴードン
 戦後、弓の腕を磨くためジョルジュに弟子入り。
 カシムやその妹という良き好敵手達と競り合うように腕を磨く。


タリスの王女 シーダ
 家臣と共にタリス島へ戻り、老いた父に代わり即位、女王となる。
 彼女の指導のもと、タリスは商業都市として大きく発展する。
 最近とある剣士と熱い仲がささやかれているとか……。


タリスの傭兵 オグマ
 戦争終結後、シーダと共にタリスへ戻る。
 タリスへ帰島後、騎士として本格的にシーダへ仕える。
 最近とある少女と熱い仲がささやかれているとか……。


タリスの義勇兵 バーツ
 戦争終結後、タリスへ戻る。後にオグマにスカウトされタリスに仕える。
 タリスの海域を守る海軍の将として活躍し、タリス王国の歴史に名を残す。


タリスの義勇兵 サジ
 戦争終結後、タリスへ戻る。後にオグマにスカウトされタリスに仕える。
 タリス歩兵隊を女王に託され、『タリスの双璧』の一人として歴史に名を残す。


タリスの義勇兵 マジ
 戦争終結後、タリスへ戻る。後にオグマにスカウトされタリスに仕える。
 タリス歩兵隊を女王に託され、『タリスの双璧』の一人として歴史に名を残す。


タリスの猟師 カシム
 戦争終結後もマルスに仕え続ける。
 後にアカネイアへ家族を呼び、共に暮らし始めた。


辺境の聖女 レナ
 祖国であるマケドニアへ戻り孤児院を開く。
 恋人と兄の喧嘩が絶えないことが彼女の悩みらしい……。


ナンパな盗賊 ジュリアン
 盗賊から足を洗いマケドニアで働いている。
 恋人との仲を進展させたいが、義兄が邪魔をしてなかなか上手くいかないらしい……。


謎の剣士 ナバール
 戦争終結後、一度だけオグマと立ち合う。
 それが終わった後、彼は何も語らずに去っていった。


堕ちたアリティアの魔道士 マリク
 ┌(┌^o^)┐


オレルアン国王 ブレナスク
 戦後、弟のハーディンに王位を譲り隠居。
 残りの生涯をオレルアンの発展に捧げた。


オレルアンの王弟 ハーディン
 戦争終結後オレルアンへ戻り、復興に励む。
 近々アリティアから嫁を迎えるとか……。


オレルアンの戦士 ロシェ
 ハーディンの指名により、狼騎士団の団長へ就任する。
 副団長と共にオレルアンの復興、発展に力を尽くした。


オレルアンの戦士 ビラク
 ハーディンの指名により、狼騎士団の副団長へ就任する。
 団長と共にオレルアンの復興、発展に力を尽くした。


マケドニアの貴族 マチス
 戦後、軍を退きマケドニアの実家へと帰った。
 妹の孤児院を手伝いながら、将来の弟の矯正(?)に力を尽くしているらしい。


カダインの高司祭 ウェンデル
 マルスの支援の下カダインの復興に励む。
 最近弟子のマリクが道を踏み外してしまい、悩んでいるらしい……。
 カダイン復興後、『デビルソード』などの封印指定武器を回収するため、もう一人の弟子と共に諸国放浪の旅を始めた


火竜族の末裔 バヌトゥ
 戦後、竜石を封印。
 チキの守役としてアカネイアに残る。


マケドニアの王女 ミネルバ
 戦後、マルスの側室として妹のマリアと共にアカネイアへ向かう。
 色々と思うところはあるが、本人も割りと『側室入り』に対しノリ気になっているようだ。


ミネルバの妹 マリア
 戦後、姉と共にマルスの側室の一人となる。
 ディール要塞で助けられたことで一目惚れしたらしく、本人も納得しているようだ。


大司祭ミロアの娘 リンダ
 戦後、ニーナ専属の女官としてアカネイアに仕える。
 数年後、美しい女性へと成長したリンダはマルスの側室へ入った。


大陸一の弓騎士 ジョルジュ
 戦後、カシムの妹に弓兵としての才能を見出し、自身の技術を全て継承させるべく修行をつける。
 新しい『大陸一の弓騎士』を育て上げた後、文官へと転向した。


アカネイアの騎士 ミディア
 アカネイア騎士団の隊長としてアカネイアに仕える。
 恋人のアストリアと共に生涯アカネイアを支え続けた。


アカネイアの傭兵 アストリア
 アカネイア傭兵隊の隊長としてアカネイアに仕える。
 恋人のミディアと共に生涯アカネイアを支え続けた。


マケドニアの騎士 パオラ
 戦後、ミネルバ付女官としてアカネイアへ向かう。
 最初はマルスを恐れていたが、アカネイアでの演説を知り、心境が変わった。
 後に側室入りする。


マケドニアの騎士 カチュア
 戦後、ミネルバ付女官としてアカネイアへ向かう。
 最初はマルスを恐れていたが、アカネイアでの演説を知り、心境が変わった。
 後に側室入りする。


気ままな天馬騎士 エスト
 戦後、ミネルバ付女官としてアカネイアへ向かう。
 アカネイアの演説以来、マルスに対する反応が変わった姉達を見て複雑な思いを抱く。
 後に側室入りする。


竜人族の少年 チェイニー
 戦後、マルスが無茶をしないかどうか監視するためにアカネイアに残る。
 ある日、マルスが『封印の盾』をその身に宿していると気付いて卒倒した。


大司祭 ガトー
 戦後、メディウスと共に“竜の祭壇”へ移住する。
 チェイニーから「マルスの坊やが『封印の盾』になってる!」と聞き、卒倒した。


神竜族の王女 チキ
 マルス庇護下のもと、穏やかに暮らしている。
 マルスが『封印の盾』そのものとなっているため、マルスの下に居る限り彼女が暴走することは無いだろう……。


グラの王女 シーマ
 戦後、グラをアカネイアへ譲り渡すが、マルスからグラの領主を命じられすぐに戻る。。
 善政を敷く領主として、アカネイアの支援を受けながら少しずつグラを発展させていった。


グルニアの英雄 カミュ
 領主としてグルニア地方の統治をマルスから命じられ、それを受けた。
 内乱中に亡くなったグルニア王の子を、マルスから許可を得て養子として引き取り育てているようだ。


ドルーアの王 メディウス
 戦争終結後、敗戦の責任を取る形で皇位から退いた。
 以後は“竜の祭壇”からマルス達を静かに見守る。


転生憑依オリ主 マルス
 魔王扱いされないように細心の注意を払いつつチートを駆使して俺TUEEEを満喫した。ちゃっかりハーレムも作り、まさにテンプレ的なオリ主となる。
 最終的には五つのオーブの力を吸収し、『封印の盾』と同様の存在となる。
 それに伴い不老の身となりさらなる問題を呼び起こすのだが……それはまた別のお話。





チートでエムブレム これにて完結!






あとがき。



くぅ~疲れましたwこれにて完結です!
小物だけど欲望に忠実なオリ主を書こう!と思ったのがこのSSの始まりでした。
以下オリ主達のみんなへのメッセジをどぞ。

オリ主「みんな、見てくれてありがとう
    ちょっと俺TUEEEしちゃったけど・・・気にしないでね!」

オリ主「いやーありがと!
    私のかわいさ(男の娘的な意味で)は二十分に伝わったかな?」

オリ主「見てくれたのは嬉しいけど(独自設定とか)ちょっと恥ずかしいですね・・・」

オリ主「見てくれありがとな!
    正直、作中で言った私の(ハーレムを作りたい)気持ちは本当だよ!」

オリ主「・・・ありがとう」ニーナとミネルバを抱きつつ

では、

オリ主、オリ主、オリ主、オリ主、オリ主、オリ主「皆さんありがとうございました!」



オリ主、オリ主、オリ主、オリ主、オリ主「って、なんでオリ主君が!?
改めまして、ありがとうございました!」

本当の本当に終わり



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