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[34965] 【絶チル・勘違い】絶対遵守☆ザ・メイデン【ネタ】
Name: 立春◆460bf551 ID:870f574a
Date: 2012/09/04 17:20

大分前に読ませていただいた作品に感銘を受けて、つい










B.A.B.E.L.の無駄に長い廊下を、1人の男と年端もいかない少女が歩いていた。

男の名前を村雨 理介。

少女の名前を有木 陸。

2人は同じ歩調で、速度を合わせ、当然のように寄り添い歩く。

しかし、周りから注がれる視線は、嫌悪か、同情のそれだった

村雨は黒いスーツに同色のロングコート。ネクタイ、ワイシャツ、靴に至るまで完全に黒一色の衣装を身にまとい、酷く痩せた、目の下に分厚い隈をもつ不気味な男だ

中途半端な長さでざんばらに切られた髪の毛が、そして口にくわえた煙草――もとい、電子煙草がさらにその不気味さを煽る。

対して有木 陸。彼女はいっそ笑い出してしまいそうな程に可憐な少女だった。

ふわふわした明るい茶色い髪。微笑を浮かべた薄い唇。大きな青い瞳はきらきらと輝き、まだ12歳という若さながら、すらりと伸びた手足と膨らみかけた胸。

名前こそやや男の子のような印象を煽るが、ドレスを着せれば絵本のお姫様のような少女。それが、彼女だった。

しかし――彼女は当然のように、不気味な男、村雨に付き従う。

身にまとうのは藍色の実用性重視のエプロンドレスにヘッドレス。――所謂メイド服と呼ばれる衣装に、両手で抱えた村雨のアタッシュ・ケース。首には無骨な首輪が填められ、手足にも金属製の錠前が填められている。

不気味な男が可憐な少女を奴隷の如く扱う様に、嫌悪感を催さない人間はいない。しかし、そんな視線をないもののように扱いながら、村雨は局長室へと足を踏み入れた

「…コードネーム、ザ・メイデン。及びその管理官村雨。出頭しました」

傲岸不遜。机に座ったまま相対する桐壺は薄ら寒いその態度に苛立ちすら覚えた

「…うむ。何故呼ばれたのかわかるかね?」

「…問題行動は起こしておりませんが?」

しれっと答える村雨に井桁を浮かべる桐壺だが、それより早く彼の秘書たる柏木が数枚の書類を提出する

「確かに、村雨さんとザ・メイデンが出動した任務の遂行率は現在100%…現地では警察組織との連絡もしっかりとっており、事後処理のしやすさにも定評があります。また、必要な書類をその日のうちに制作していただけるのはとてもありがたいことです。ですが…」

柏木の"タメ"の間に書類に目を通した村雨は、ふむ、と鼻を鳴らして陸に書類を手渡す。じゃらり、と両手を拘束する鎖を鳴らしながら片手を伸ばして受け取った陸は、「…あら」と小さく声を漏らした

「あなたのせいでB.A.B.E.L.は…B.A.B.E.L.は…っ!

年端もいかない少女を拘束調教する変態組織だって妙な噂がたっているんですっ!!」

「あながち間違いでもないだろう」

「全然違ァあああああうっ!!B.A.B.E.L.は健全極まりないヨ君ぃっ!!」

間髪いれずに返された言葉に思わず机を蹴り倒して怒鳴る桐壺。当の被害者(仮)たる陸は困ったように笑うだけ

「…ザ・チルドレンに行われていた電気ショックによる行動の強制は、調教ではなかった…ということか。日本は恐ろしい場所だな」

「ぬぐぅ…!?み、皆本くんに変わってからは一度も電気ショックなんか使われとらん!あれは管理官とザ・チルドレンの相性が悪かっただけだ!」

皮肉げな笑みを交えて返された言葉に、顔を真っ赤にして怒る桐壺。最も、一際ザ・チルドレンを…エスパーの子供を溺愛している桐壺のことだから、その怒りの矛先はそんな管理官をザ・チルドレンに付けてしまった自分なのだろうが

「…それと、この枷は必要だ。こいつの場合は電気ショックなど効果がないのだからな」

ぽふっ、と陸の頭に手をおいて答える村雨。――確かに、言っていることに間違いはない

未だにエスパーに対する根強い恐怖や忌避感は民衆の中に色濃く残っている。取り分け強力なエスパーは恐怖の対象だ。そんな彼、彼女等を災害の現場に出すということは、ともすれば事故現場に猛獣を放し飼いにするのに等しい印象を与えてしまいかねない

勿論エスパーは人間だ。だから話し合えばわかりあえるし、そんなことないと理解できる。だが、初めて超レベルエスパーと出会った一般人は、その強大な超能力を前に恐怖を抱いてしまう

だから、B.A.B.E.L.はそんな人間たちのために『首輪』をアピールしなければならないのだ

暴れたら電気ショックがあるから大丈夫ですよ

リミッターで力を使えなくなってるから大丈夫ですよ

あなたに危害なんかくわえませんよ、と

しかし――こと有木 陸の場合は、そのアピールが難しい

一目で分かる強力な電気ショックが、彼女には効かないからだ

彼女は、電子操作の暫定超度6――エレクトロマスターなのだ

彼女に対する電子ショックなど、食事と大差ない。どころか、高圧電流を長時間流そうが、原発空母並みの発電、送電が可能な彼女にとってはちょっと胃もたれするかな?程度の効果しかない、という実験結果まで出ている

それ故に、いざというとき即座に彼女を拘束する手段として手枷、足枷をしている――という理屈は分かっていても、納得できないのが人の情だ

「ぐぬぬぬ…ならばせめて服装はどうなんダネッ!?有木くんも12歳!思春期といってもいい年齢ダヨッ!?もっと可愛い服とか綺麗な服とか着せてあげたらどうなんダネッ!?」

「お言葉ですが…」

ここでようやく、ひたすら沈黙していた陸が自発的に口を開く。

彼女は嬉しそうに、どこか陶酔したようにメイド服を撫でながら、微笑を浮かべて言う。

「わたしは…村雨さまからいただいたこの服、大好きです。他の服なんかより、ずっと」

桐壺。轟沈。

『彼女の事情』を知っている者は思わず涙してしまいそうな台詞に、四肢を投げ出して号泣する桐壺。そんな桐壺に「なか、泣かないでくださっ…!わ、わたしまで…っ!」と涙を溜めながらすがりつく柏木

カオスな光景にため息を吐いた村雨は、踵を返す

「ま、待ちたまえ村雨クン!まだ話は」

「すまないが、疲れている。中身のない話を続けるくらいならば、研究も進めたいしな」

「ぬぐっ…!?」

鬼のような形相で自分を睨みつける桐壺の視線を真っ向から受けながら、しかし村雨は平然と去っていく。陸もまた、少し悩んだような素振りをみせたものの、「し、失礼します!」と鎖をじゃらじゃら鳴らしながら退室していった

「……さて、君達はどう見るかネ?」

桐壺の言葉と共に、隣の部屋で隠れて見ていた数人――ザ・チルドレンの三人と、その管理官である皆本が入室してきた

中でも興奮状態の薫が喜色満面で桐壺に詰め寄る

「なになになにあれ誰誰誰っ!?めっちゃくちゃ美少女じゃんっ!まだ若いけどあれは確実に大成する器っ!現時点でもBないし限りなくCに近いBっ!!期待が止まらんっ!」

「阿保言いなやっ!んなことよりあれ絶対あかんパターンのやつちゃうのっ!?毒牙っちゅうか紫穂の喜びそうなやつやん!不潔ーーーーっ!!」

「葵ちゃんそれどういう意味?…それよりも、皆本さん、あの男の人の心が読めなかったんだけど…心当たりある?」

姦しい2人はともかく、事態を重く見ている残り2人の表情は堅い

「…資料によると、村雨 理介はザ・メイデンがその能力を制御できるようになるまで何度も感電しているらしい。それを警戒して対エレクトロマスター用のコートを纏っているそうだ。常にコート表面上を電子が流動し、足下に逃がすアースとして機能しているらしい。それが原因で思念波が散ってしまうんだろう。紫穂の超度なら、直接接触すれば読むことは可能だろうが…」

「幼児性愛者に接触するのは避けたいわ」

「僕も出来ればザ・チルドレンに彼に近づいてほしくない」

もしザ・チルドレンにまで村雨の魔の手が伸びたら…と想像するだけで拳を握り締めてしまう皆本。そんな皆本の様子に薄く微笑みつつ、紫穂は姦しい2人に声をかけた

「薫ちゃーん、皆本さんが一丁前に焼き餅焼いてるみたいよー」

「あ?…み、皆本までそういう趣味に目覚めたのかっ!?仕方ねぇやつだぜ全く…」

「イヤーッ!皆本はん不潔ーーーーっ!!」

「どうしてそうなるっ!?僕はお前らのことを心配してだなぁっ!!」

「いっつも子供子供って言いながら、私達が彼の手込めにされるんじゃないか、って普通に想像しちゃったんでしょ?子供相手でもそういうことが可能だって想像しちゃったんでしょ?それって皆本さんが深層心理でそういう欲求をもっているからで痛いっ!」

「サイコメトラーが真顔でそういうこと言うな!本気にされたらどうするっ!」

茶番はともかく

「一番困るのはだね、陸クンが村雨クンに嫌悪感を覚えていないことなのだよ」

「あー、確かにむしろどんとこい。いつでもウィルコム。って感じの顔してたなー」

「薫、Welcomeやウェルカム」

空中で胡座を掻く親友のスカートを引っ張って注意しつつ

「…まぁ、彼女の事情を顧みると理解出来ないわけではない…ガネ」

…沈黙が降りる。この場にいる者は知っているからだ。有木 陸の短いながらも壮絶な半生を







――とある家。夫婦2人しか住んでいない、極々普通のどこにでもある家庭。

しかし、平凡ながらも暖かい夫婦の生活は、奥さんの妊娠を契機にがらがらと音を立てて崩壊してしまう

奥さんの身ごもった子供は、胎児時点で超度1に認定されるエスパーだったのです

胎児のころなら問題ありませんでした。しかし、彼女の出産後、エスパーですが赤ん坊である娘は癇癪と共に放電し、手が着けられなくなってしまいます

両親はノイローゼになり、娘は1歳にも満たない年齢で特務機関B.A.B.E.L.に引き取られます

しかし、彼女の悲劇はそこで終わりません

彼女が2歳になるころ、彼女の超度は暫定5にまで上昇していました

当然、幼児にそんな強大な力が制御できる訳もなく――彼女は程なくして、全身麻痺状態になってしまいます。脳から肉体に指令を出す、微弱な生体電流すら彼女のコントロールを離れてしまったのです

身体の成長と共に上が超度は、一時期彼女こそが4人目の超度7なのではないか、と噂になるほどでした

最も、予知能力によって彼女が10歳になるころ、自身の能力によって身体を焼かれて死亡する、という未来が見られてからは、その噂はぱったりと消えましたが

彼女が生まれて8年間。彼女はずっとベッドの上で、空の青さは勿論食事の美味しさすら知らずに育ちました。指一本動かせなかった彼女に、五感があるはずもありません

――そこに、ふらりと現れたのが村雨理介という専門科でした

彼は所謂天才児で、幼少の頃に外国の専門機関に留学したエリートでした

彼の専門分野は脳科学――取り分けESP能力開発制御を専攻していました

そんな彼が、あと2年で死ぬ、と言われた少女に手を差し出したのです

ただしそれは――悪魔の誘いでした

しかし、彼女にはその手に縋るしか道は残されていませんでした

彼女は自由と引き換えに、命を得たのでした










「だが…。村雨は間違っている。確かに彼女の命を救ったのはすばらしい。けど、臨床実験すらしないで開頭手術までして、あまつさえその後は奴隷扱い…っ!あんな衣装まで着せて…っ!」

「まったくだ!いくら似合うからって、本人が嫌がってないからってあんなうらやまけしからん…っ!いいぞもっとやれっ!」

「あんたは一体どっちの味方やねんっ!」

「…とにかく、私達はもちろん皆本さんも、あの人達のやり方には言いたいことがたくさんあるの。だから、受けても良いわよ?局長」

反応は様々だが、皆一様にやる気を漲らせるザ・チルドレンのメンバーを見て、感動に涙を浮かべながら桐壺は大きく頷く

「ウム。…では頼むぞ諸君!

題して!『ザ・メイデン更正計画』!!いまこのときよりスタートだっ!」

『おーっ!!』















…などと。勝手に盛り上がられていることを知らないザ・メイデンたちは、のほほん、と廊下を歩いていた

「いい天気ですねー」

「……」

「あ、今他人いないから喋っても大丈夫だと思いますよ?」

「…そうか。そうだな。日本男児は余計なことを喋らない。背中で語る…というのは、友人間では必要ない決まりだったな」

「ええ、私も知らないでぺらぺらお喋りする時代は終わりました。大和撫子は3歩下がって殿方の後を追うんですものね」

うんうん、と深く頷く2人

「…でも、普通にお喋りしたいですねぇ」

「仕方ない。日本人は結果主義の完璧主義。未熟なうちは叱られる」

「ですね。早く同期のエスパーの方々のお友達になりたいです。そして語り合います。メイド大戦DXについて」

「…ああ、それなんだが」

「はい?」

「お前の娯楽のために買ったものだったが、もしかしたらお前の年代の流行りのゲームじゃなかったかもしれない」

「…はいっ!?」

「あれ、18禁ゲームだった」

「……はぁっ!?」

「いや、ほら。違うんだ。お前の年齢近いのがザ・チルドレンだっただろう?だからこっそり調べたんだがな?
明石薫が好きなもの
ゲーム、及び若い女性
野上葵が好きなもの
金。及び若年層向け遊具
三宮紫穂が好きなもの
どす黒いストーリー性のある猟奇趣味な後味の悪い話
だったんだ。その全てをかねそろえていたのがお前に与えた「借金メイド〜私は今日もアナタの玩具〜」だったわけだが、どうもザ・チルドレン以外の同年代の少女はそういったゲームに嫌悪感をもつ、という統計がだな…」

「…つまり、あれですか?私がメイド服とか着て露骨に話題ふってくれちゃってもかまいませんよ?とアピールしていたのは…」

「無意味だったんだろうな。つまり、私達はまだまだ世間知らずということだ」

「…嗚呼、学校というところに行っていない管理官に、私はいま絶望しています」

「……すまん」

「…いいですけどね。別に。でもあとで軽くビリビリします。低周波マッサージ機くらいで」

「地味に痛いんだが。ああ、荷物もういいぞ。そろそろ充電終わるだろ」

「んー…。パソコンの充電は終わりましたけど、携帯とリミッターがまだですね。もうちょっと持ってますよ。…というか、いい加減買い替えたらどうですか?フル充電でも一時間保たないってどうかと思います」

「…気に入っているんだ。そう言わないでくれ。…とりあえず、まず用意するべきは話題だな。私は皆本管理官の友人になりたい。彼の作り上げた理論、論文は畑違いの私が見ても美しいと感じる素晴らしい数式だった。是非とも討論してみたいのだ」

「相変わらずの研究おバカですね。別にそれはいいんですけど…。論文にかかりきりで私のこと放置したりしたら、すねますよ、私。いじけますよ。HD流出させますよ」

「恐ろしいことを言うな。お前にとっても悪い話じゃないだろう。前々からザ・チルドレンの友達になりたいと言っていたんだし。…それはともかく、ほぼ初対面の我々が彼らに接触するに当たり、必要な前準備はわかっているな?」

「ハッキングして監視カメラの映像でストーキングですね!「ヤンデレ冥土」に出てたから間違いないです!」

「…そうなのか?…食事に誘う、とかではないのか。ふむ、そうか、なら、任せた。しかしあれだな、やはり日本は怖い土地だな。盗撮が容認されているとは…」

「お任せください!ギャルゲーは嘘を吐きません!だから大丈夫ですよ!色んな作品で容認されてますし!」

にっこり笑顔で答える陸に、村雨もまたうっすらと笑った













村雨理介
幼い頃から海外、しかもほとんど人と関わらない生活を送ってきたのでコミュ力0。また、ナチュラルに天然で口が悪い
天然。しかも常識がない。見た目が病的なのもマイナス要素
本人は寡黙で漢らしい日本男児を演じているつもり

陸との仲は良好。親、あるいは兄として接する。また、一人暮らし歴が長いため家事は万能

天才的な頭脳の持ち主だが基本的に常識がないのでフリーダムに阿保

具体的に年齢制限みないで9歳の無垢な女の子に調教系のエロゲを買い与えちゃうレベル



有木 陸
エレクトロマスターの暫定超度6。発電量を考えれば超度7といっても過言ではないが、自力での制御が出来ないため超度6
現在は村雨が脳に埋め込んだチップ&制御装置により能力の制御が可能となっている。無骨な首輪はこれらの装置の安全管理のためのものであるため、風呂に入るときも外せない

ベッドの上に縛り付けられて育ったため、常識0。また、美的センスもおかしい。味覚もおかしい。外見以外は色々残念

エロゲやギャルゲーのイベントが現実にも本当に実在していると確信している。そのため、天然系のお姉さんキャラを必死で演じている。じゃないと友達が一人もいない、背景でぼーっとしている人間になると本気で考えている

村雨のことをあらゆる意味で慕っており、村雨にだったら身体の中刻まれようと頭に怪しい機械ぶち込まれようと笑顔で許す脳みそ緩い娘。実は最初に与えられたゲームにより、「村雨メイド好き疑惑」が彼女の中で根強く育っている。しゃべり方、及び服装、行動がナチュラルに奴隷なのは、メイド(調教後)を演じているから

実際のところ、頭の中身は4歳くらいの幼児と大差ない。頭も悪い。ただし電子制御されている機械ならば自由に動かせる




[34965] 善性勘違いと悪性勘違い
Name: 立春◆460bf551 ID:ec8f6a96
Date: 2012/09/05 11:53

「陸。分かっているな」

「勿論です!ザ・チルドレンとの合同演習!これを取っ掛かりに仲良くなるチャンスですよねっ!」

「その通りだ。日本人を相手にする時は自身の有能さを如何にアピールするかによって評価が変わる。努々油断などしてくれるなよ」

「はい!気合いもやる気もMAXですっ!今なら知らないおじさんにスカートの中をまさぐられても文句言いませんっ!」

「おいやめろ。意味がわからん」

「えっ?りょーじょくものの登竜門でしょう?」

「…………なんて恐ろしい国だ、日本…っ!!」










『ザ・メイデン更正計画』

概要としては、ザ・メイデンこと有木 陸に、彼女の管理官たる村雨 理介の異常性を理解させ、彼女の意志で村雨から離れさせる、というのが目標だ

村雨は良くも悪くも彼女の恩人であり、権力や暴力といった後ろ暗い手段で村雨を排除した場合、彼女の精神に与えるダメージは決して軽いものではない、と判断されたためである

現状こそ超度6で落ち着いているが、彼女の実力を省みれば超度7…ザ・チルドレンと同レベルの危険な能力を持つエスパーであることに間違いない。今までは彼女の事情もあって軽視されていたが、彼女もまた予知された最悪の未来…エスパーVSノーマルの、最悪の戦争の引き金になりかねない存在なのである

言い方は悪いが、例えその関係が歪であろうとも、有木 陸がノーマルである村雨 理介に隷属しているのは、決してデメリットではないのだ。むしろ、将来のことを考えるとプラスになりかねない

――とはいえ、燃える局長。エスパーの少年少女への(親)愛を貫くマッスル&ラブユーな憎まれ役、桐壺は、現状を打破する気満々だった

真っ当な教育こそが、よりよい未来を掴むのだよキミぃ、ってな訳である

そしてその『真っ当な教育』を彼女に施すために選ばれたのは、やはり年齢、超度共に近いザ・チルドレンの三名だった

「今回の合同演習は、連携の強化やエスパー間の交流を目的にしたものではない。先日開発された軍用ECMの改良型…今回はECM乙型、及び甲型という名称で呼ぶ。乙型の起動実験だ」

という建て前であり、同時に改良型ECMの検査も兼ねている、というのも事実である。皆本の言葉に目を輝かせながらちらちらと隣に立つ陸の様子を伺うザ・チルドレンと、にこにこと微笑を浮かべたまま、皆本の隣に立つ村雨を見つめる陸

「軍用ECMは日本で開発した段階で、フルパワーならば超度7の超能力も減退させられることが確認されている。乙型はコメリカの指示によって作製されたものであり、バッテリー及び装置の大型化に伴い、出力、効果範囲、ESPキャンセルの幅を広げたものである。また、甲型は逆に出力を現状維持した状態で装置の小型化を目指したものだ。どちらも最大出力で実験を行う。目標値はザ・チルドレン3名の超能力を完全無効化するレベルだ。質問等はあるか?」

資料から目を離した皆本が周りを見渡せば、元気に上がる小さな手。目をきらきら輝かせた薫が元気に声を張り上げる

「それってこー型とおつ型が合体して巨大ロボになったりすんのかっ!?」

「ならんわっ!…あー、有木くんは大丈夫か?」

「はい。…あ、いえ。質問が」

控えめながらもしっかりと自分の意見を言える。それだけのことに妙なほどに安堵しつつ、皆本は目を細めて「なんだい?」問うた

「はい。…その、わたし、ECMは効果がないのですが…何故わたしが呼ばれたのでしょうか?」

心底困った。と言わんばかりに眉尻を下げる陸に、皆本は薄く笑った

彼女の超能力は電子操作。対して、ECMとは電波を介してエスパーの脳に作用し、超能力の使用を禁止する、という作りの機械である。電波とは即ち電子の波であり、彼女がそのつもりになればECMから投射される電波を無力化するどころか、自由にECMの電源をON、OFFすることが出来る。だからこそ彼女はリミッター以外にも、物理的な拘束が可能な鎖付きの手枷、足枷を填めているのだ。…尤も、それは管理官である村雨の趣味が反映されているのかもしれないが

「だから、だよ。もしECMが誤作動したり、なんらかの緊急事態に陥った場合、大事故に繋がる可能性もある。ザ・チルドレンは超能力を封じられている可能性が高いし、そんな状況になればノーマルの僕達は救助が遅れるかもしれない。そんな危機的状況になる前に、有木さんにECMの電源を落とす、あるいはザ・チルドレンの救助を任せたいんだ」

「…なるほど。理解しました。浅慮でしたね、申し訳ありません」

深々と頭を下げる陸。まだ12歳の少女だというのに、どこまでも子供らしくない彼女の姿に嫌なものがこみ上げる皆本。…これが必要に応じて身につけなければならなかった処世術ならば…村雨を許せそうにないな、と熱い息を吐く

「…では、早速起動実験を始めよう。ECMは大型トレーラーで設置済みだ。野上の超能力で4人纏めてテレポート。その後指示を待て」

「…村雨管理官。指示は僕が出します。計器類の記録をお願いします」

「…くっ、余計な口を挟んでしまったようだな。謝罪しよう」

どこか皮肉げな笑み。見下すような視線。大袈裟な動作で肩をすくめる村雨に、眉根を寄せる皆本

「…すいません。村雨さまも緊張しているんです。気を悪くしないでください」

「余計なことを言うな」

村雨の無礼を詫びる陸に、その心遣いを無碍にする村雨。…見ていて気持ちのいいものではない光景に顔をしかめながら、皆本は「じゃあ葵。『手はず通り』に頼む」と不適な笑みを浮かべた

ぱちんっ、とウインクして「りょーかいや。まかせときっ」と親指を立てる葵と、静かに頷く紫穂、大胆不敵に笑う薫を頼もしく思いながら、皆本は自身の戦いを前に気合いを入れ直す

作戦は、各個撃破。皆本が村雨の気を引いている内に、ザ・チルドレンがザ・メイデンに常識を叩き込む。あるいは、次回の作戦のための『渡り』を付ける

有木 陸と村雨 理介は同じマンションの同部屋で同居している。つまり、陸にプライベートな時間…1人になる時間はほとんどないはずだ。B.A.B.E.L.内でも陸と村雨が別行動しているところは全く見られない。つまり――四六時中監視されている

ならば、ザ・チルドレンを介して陸を村雨から引き離すことから始めるべきだ。陸も思春期の少女である以上、友人や他人との交流を求めているはず――ならば、ザ・チルドレンを餌にすることで、こちらのホームに陸を引き入れることが出来るかもしれない

打算に満ちた作戦だが、陸のことを心配する気持ちは同じ。どこまでもプラスの感情を持ちながら、皆本は一瞬で消えた4人の少女の姿を見送った

さあ、ここからは僕の仕事だ

村雨を、引き止める。陸の監視よりも皆本光一という人間を優先させる。そのために――

「…村雨、僕は――」

「皆本光一」

――出だしを、挫かれた。

「9月18日生まれの20歳。乙女座のB型。身長は181cmに体重は67kg。小学5年生のころフェルマーの最終定理を解き明かしたことにより、その頭脳を認められコメリカに留学。18歳の時点で学位を2つもつ天才児…。帰国後はECMやESPリミッターの開発に着手し、その能力、人柄を認められて特務機関B.A.B.E.L.の最強エスパーザ・チルドレンの担当官に抜擢される。家族構成は両親のみ。愛犬の名はトルテ。現在ザ・チルドレンの少女三名と同居中…」

――流れるような口調で吐き出された皆本の個人情報に、皆本の表情が引きつった

対して村雨は、どこか誇らしげに、にたりと笑みを浮かべた

「…これから『世話になる』かもしれないからな。色々調べさせてもらった」

「…っ!」

脅迫するつもりかっ!?いや、まさか、ザ・メイデン更正計画に気付いてそれの妨害をしようと…っ!?

「…しかし、そうか。両親と別居していて、犬を飼っているのか」

「…だから、なんだ?」

嫌な汗が、止まらない。濁りかけた村雨の視線に、怖気が走る

「…いや、心配にならないのか、と思ってな。だって…」

すぅ…と不気味な視線が、皆本を――皆本を通して、その背中を貫いた

「事故にあったりしないか、心配だろう?」

「…っ!!」

ギリッ、と拳を握りしめる。…人質を、とったつもりなのかっ!?

「私の家族、と言えるのは陸だけだが…あいつから目を離すのは、とても怖いぞ?…放っておいたら死んでしまうんじゃないか、と思うとな」

「どういう、意味だ…っ!?」

「…なに、大したことじゃない。アレの脳に埋めてあるチップやESP制御装置は、私以外にはいじれない…どころか、下手に介入しようとすれば、アレは確実に死ぬ。だから心配なんだ。別におかしいところはあるまい?」

…どの口が…っ!!悪意に満ちた言葉に、視界が真っ赤に染まったような気すらした。村雨のにやけた顔に拳を叩き込みそうな衝動を、必死に我慢する

「…君も、ザ・チルドレンが大切なんだろう?」

「あたり、まえだ…っ!」

「ああ、そうか。ふむ、やはり、君はいい奴だ。今度食事にでも行こうか。君とは今後、長い付き合いになりそうだ」

心底嬉しそうに笑う村雨の悪意に、皆本は憎々しげに歯を食いしばった

















対して、ザ・チルドレンとザ・メイデン。大型トレーラーを前に目を輝かせる薫を、にこにこと見守る陸の隣、こっそりと近づく紫穂

確かに、高超度エスパーを相手にした場合、サイコメトリーの能力は大きく低下する

だが、三宮紫穂は世界にたった三名しかいない超度7。肉体的な接触を伴えば、表層意識くらいなら読めないことはない。ならば、彼女が村雨をどういう風に認識しているのか、くらいは確認しておくべきだ、という判断だった

「ねぇ、有木さん」

「…はい、なにかご用事ですか?三宮さま」

当たり前のように年下の自分に敬語を使う陸に面食らいつつ、さり気なくその手を握る。陸は少し驚いたが、頬を桜色に染めて嬉しそうに笑った

(…あたたかい…うれしい…やわらかい…うれしい…)

ノイズ混じりだし、断片的にしか分からないが…確かに読める。それに手応えを感じながら、紫穂は陸に笑顔を向ける

「有木さんや村雨さんと会うのは初めてよね?だから、仲良くしたいなって」

「…光栄です」
(うれしい!うれしい!うれしい!)

素直な反応に…いやさ、素直すぎる反応に、少しばかり対応に困りつつ、紫穂は作り笑顔で問う

「だから、あなたたちのこと教えてくれないかしら?…村雨さんとは、どういう関係なの?」

表面上は、ちょっとマセた子供の会話。しかしその実、歪んだ大人から無垢な少女を助けるための救出劇。動揺を出さないよう、紫穂は笑顔の仮面を被る

「村雨さまは…わたしの、ご主人様です」
(頭撫でてくれる。うれしい。やさしい。ご飯食べれる。うれしい。あたたかいのがすき。村雨のことがすき。やさしい。うれしい。すき)

――成る程、と紫穂は1つ頷いた

これは、『刷り込み』に近い感情なのだろう

ずっと放置され、1人ぼっちに慣れてしまった少女が、初めて手をさしのべてくれた、という理由で悪人について行ってしまう…よくある話だが、それ故に救われない

きっとこんなエスパーが世界中にいるんだろうな…とどこか悲しいものを胸に抱きながら、紫穂は笑う

「そう、わたしにはよくわからないけど…多分、素敵ね。良かったら携帯番号交換しない?もっとお話聞きたいわ」

「はいっ!是非とも!」

笑顔で返事する陸に、どこか痛ましいものを感じて――紫穂はそっと、目を伏せた



















「友情の第一歩は、相手を理解することからだ、というの本当でしたね!」

「ああ、全くだ」

「いきなり心を読まれたのには驚きましたが、村雨のいいところもいっぱいアピールしておきました!きっと三宮さんもすぐ村雨のこと大好きになってくれますよ!」

「私はまだ仲良く、というレベルではないな。だが、彼は素晴らしい男だな。それに強い。私は家族を残して一人暮らしなんかできる気がしない。恐いだろう」

「…あれ?村雨も留学してたんじゃ…」

「私は施設の出だからな。家族はいない。施設でも浮いていたし、だから家族はお前くらいだ」

「…はぅ」

「どうした」

「…照れました。あの、あのあの、お父さん、とか呼びます?」

「やめろ不気味だ」

「ひどすぎます!」

「ともかく、私は彼を十分理解しているぞ、というアピールはしてきた。次は私のことを知ってもらうばんだな」

「あ、じゃあファイヤーウォール解除しておきますね?皆本さんが村雨のことを調べやすいように」

「ああ、頼む。そうだ、今日は外食しよう。いずれ皆本氏を誘うためにも、いい店を探しておきたい」

「ならわたし、ワニが食べたいです!」

「うむ、わかっ…えっ、ワニ?クロコダイル?」

「美味しいらしいですよ?『捕らわれの女軍曹〜連続ア○メ10日間。絶対白濁主義〜』で食べてましたし」

「…む、むぅ。ワニを食うのか…恐いな…」













村雨
→天然で悪人



→天然の天然



[34965] 普通に両方とも駄目っていう
Name: 立春◆460bf551 ID:cc32c781
Date: 2012/09/14 15:09

「…ふむ。ハッキングの形跡はなし…。個人情報ではなくB.A.B.E.L.に登録されているデータを洗ったか…?だがそれでは経歴しか分からないだろうに…。む、兵部京介の脱獄…?高超度の犯罪者、か…早急に確保するべきだな…。……ふむ。ふむ、ザ・チルドレンに異常な執着を持っている…ということか…。ならば彼女たちの近くに張り込めば…」

「村雨ー、ご飯出来ましたよー。今日のお昼は前に教わったパエリア作ってみました!」

「昼からパエリアか…」

「村雨はもっと肉食系になるべきかと思いまして!」

「肉は嫌いだ。…いや、まて、陸」

「はい?」

「これはパエリアじゃない。肉丼だ。肉炒飯だ。いや米が…米が…米、か?なんだこれ…お粥…?山盛りの肉に、べっちゃべちゃの粥…?」

「はい!甘くて辛くて酸っぱくて苦くてしょっぱいです!」

「……はぁ。胃薬を用意しておいてくれ…」

「はい、わかりました!村雨はお薬大好きで困りますね…。お薬は苦いだけでつまらないです」

「…飲むことを強いられているんだ」



















皆本光一は端的に言って追い詰められていた

垣間見せられた村雨 理介の異常性。そして兵部 京介というロリコ…性犯ざ…ザ・チルドレンのストーカ…ではなく、高超度の犯罪エスパーの脱獄…立て続けに襲いかかる『大人』の事情に振り回されるエスパーの少女たちに対する罪悪感でどうにも思考が煮詰まってきているのを自覚してきた

――ところに、『コレ』である

特務エスパー『キティ・キャット』現場運用主任、谷崎 一郎 一尉

「ナオミは私の理想の女性として育て上げ云々かんぬん」

素直に思った

こいつ最低だっ!
この国ロリコン多すぎだろっ!



同時に思った

(これは――チャンスじゃないかっ!?)

この谷崎という男。一見すると紳士的な対応をする大人の男、と言わんばかりの外見をしているが、ことキティ・キャット――彼の担当エスパーである梅枝ナオミのことを語るときは――その、なんだ。暴走時薫というか…端的に言ってどうみても変態スケベオヤジにしか見えない。男性である皆本視点で見てもそう思うのだから、幼いとはいえ年頃の女性であるザ・メイデン――有木 陸から見れば…その印象は想像に難くない

(イケる…っ!いや、待て…っ!村雨も外見だけを見れば相応に不気味だ。となると外見ではなく行動に生理的嫌悪感を覚えるようになれば…っ!)

「…皆本くん、聞いているのかね?全く、君がそんなんだからザ・チルドレンも人の話を聞かない生意気な性格に………ぴぃぁ0」

へっ?とどや顔で持論(笑)を語っていたはずの谷崎に視線を向ける皆本。同時に鼻につくイオン臭…高圧電流によってぷすぷすと煙を発する谷崎の腰の辺りに手を当てて、いつの間にやらザ・メイデン…陸が入室していることに驚愕する

「あ、有木くんっ!?何故ここに…!?」

対する陸はにこりと皆本に笑いかけると、ごく自然な動作で谷崎の両手を背中に回し、当然のように手錠を掛ける。次いでメイド服のエプロンポケットから取り出された荒縄で両足を拘束、手錠に縛り付けて手足を拘束する

「挨拶もなしに申し訳ありません。村雨さまの命令により、ザ・チルドレン及び皆本主任の身辺警護をさせていただいておりました。引いては、不審な言動をしていた谷崎主任を拘束させていただきました。犯罪エスパーによるヒュプノによって、催眠をかけられている疑いがあります」

「村雨が…!?いや、それより谷崎主任に催眠だと…!?」

立て続けにぶつけられる新しい情報に混乱しかける皆本。しかし、疑問は投げ捨てまずは陸に確認をとる

「…事情は分かった。じゃあ、谷崎主任を起こして事情聴取をする。有木くんは念の為局長に連絡しておいてくれ」

「承知しました」

言って目を閉じる陸。外見では分からないが、彼女自身が通信機となり、局長へのホットラインとなる通信機に電波を飛ばしているのだ。周囲との情報の共有、という意味では通信機を使った方が早いが、機密情報のやり取りや緊急時の連絡等は余程こちらの方が都合がいい

「谷崎主任、大丈夫ですか?」

「うっ…ぐぅ…?なんだ、今の衝撃は…まだ手足がおかしいぞ…」

顔をしかめながら目を開けた谷崎―――の、顔面に陸の靴底がめり込んだ

皆本、硬直

「ぐ、ぐぅおおおおおおおおおおおっ!?す、すまんナオミぃいいいいっ!開いてはいけない扉がいま如実に開閉作業されているぅーっ!!」

「汚い顔で汚い声を発しないでください」

「アッ!意外とイイんッ!」

手首と足首を繋がれ、不自然に仰け反った体勢のままびくんびくんと飛び跳ねる谷崎。それを養豚場の豚を見るような目で見下ろす陸。絶句する皆本

「さぁ、吐きなさい。善良なB.A.B.E.L.の職員が、担当エスパーに対して性的な視線を向けるはずがありません。どういう意図によるものかは分かりませんが、梅枝ナオミさんに対する心理的圧迫もそれに類するものでしょう?どこの犯罪組織によるものですか?あるいは、犯罪エスパーの特徴を吐きなさい」

「えっ」「えっ」

「…えっ?」

ちゃうねん

そのおっさんただの痛い人やねん

リアル光源氏しようとしていたただの痛々しい人やねん

「えっ、あっ、いえ、その…だ、だって20歳も離れていますし、エロゲ…もとい、とある参考資料には親娘同然の生活をしていた場合、親側にあたる男性が娘側にあたる女性に劣情を催すのはおかしな行為であると…だからこそ背徳感をあおり、異常に興奮するともありましたが、善良なB.A.B.E.L.の職員がそんな下劣な行為に及ぶはずがないと判断したのですが…」

ぺこぺこと頭を下げる陸に、拘束から解放されたものの、微妙な表情で肩をすくめる谷崎

「下劣とは人聞きが悪いな…。私はあくまで合意の上でしか行為に及ぼうなどと考えてはいない。実際、ナオミも嫌がってなんかいないぞ」

「そうは仰いますが、拒絶しない、ということは合意、と考えるのは余りに浅慮ではありませんか?………痴漢もののエロゲのテンプレは信じちゃいけないそうですし(ボソッ」

「やれやれ、有木くんには見所があると考えていたのだが…どうやら考えを改めなければならないようだ。私がそんな人間に見えるかね?間違っても私がナオミに拒絶されるなんて有り得ない」

(どっからくる自信だよ…)

(これがナルシストというものですね。初めて見ました!…ということはナルシストでロリータ・コンプレックス?…犯罪者にあたるかどうかは微妙なラインですし、確保するかは保留ですね)

どっから来るのか分からない謎の自信を胸に、どや顔で語る谷崎に呆れ顔の皆本。困ったように笑いながら、体内で電気を貯蓄する陸。意外とこの娘、犯罪者に対する対応がキツい。エロゲ脳…もとい二次元脳だからか、正義は勝つ、悪は死ね!が基本なのだ。普段は村雨が適度なところでストップをかけるのだが、生憎と彼は地下の兵部 京介が捕らわれていた収容施設の設備の確認に向かっているため、陸にとってB.A.B.E.L.の特務エスパーとして働くようになってから、おおよそ初めての単独行動である。だからか、本日は余計に張り切って空回っております

ちなみに村雨が陸に単独行動を許したのは、前話で皆本と会話したことが起因しているのだが、それはどうでもいい。決して「皆本くんカッケー、よおし俺だって陸(家族)と離れても大丈夫だってこと証明しちゃるもんねー」などという対抗心から来るものではない。多分。きっと

自身に死亡フラグが二本、三本とぷすぷす突き刺さっているのにも気付かず、谷崎は大いに気持ちよさそうに語り続ける

「もし、万が一ナオミが私を拒絶するようなことがあれば…そうだね、私の私財を投げ売って幼い少女エスパーの保護にあたろうじゃないか。最も、まず有り得ないことだが――」『――へぇ、いいこと聞いちゃった。ね、ナオミさん?』

――唐突に響いた幼い少女の声。皆本のポケット――の中の通信機から響いた大人びた少女の声に、皆がきょとん、とする中

―――轟音と共に天井を破壊して現れた黒髪の美少女――梅枝ナオミは、目に涙を浮かべて心から嬉しそうに笑った

「主任…!」

「おおナオミっ!どうやら不調も快復したようだな!さすが私の担当エス―――――パぁあああああああんっ!?」

言い終わるより早く、ナオミの放った念動力は見事に谷崎をプレスした

「ロリコンで腐れ人間でヤニくせぇエロおやじでも、最後の最後で人の役に立つことってあるんですねっ!私感動しました!さり気なく少女エスパーしか助けないと公言してる全力全開の気持ち悪さは脇に置きつつ辞世の句を読んでさらっと逝ってくださいお疲れ様でしたぁあああああああああああっ!!!」

「ぐぅおおおおお何故だナオミぃいいいいいっ!せっかく閉めることが出来た新世界への扉を何故破壊開放しようとするぅうううううっ!!」

……なんだこの茶番

ポカーンと口を半笑いで固定したまま疲れたように笑う皆本と、普通人である谷崎に暴行を働くエスパーであるナオミに攻撃するべきか、セクシャルハラスメントの加害者である谷崎に攻撃するべきか悩む陸

そんな彼らの下にザ・チルドレンが駆けつけ、「ナオミの不調の原因は谷崎の加齢臭とセクハラだったんだよーっ!」「な、なんだっ…やっぱりねー」という茶番をしつつ、撤収準備を整えるザ・チルドレンと皆本

そこでようやく所在なさげにうろうろしていた陸に話題が向いた

「有木くん、村雨が君を僕らの護衛につけたそうだが…詳しい話を聞いても良いかい?」

「あっ、はい。構いません。出来るだけ皆本さんたちやザ・チルドレン、殲滅対象には知られないように、という命令でしたが、場合によっては情報を開示せよ、とも命令されてますので」

普通のやり取りにも聞こえるが、どうしても村雨の影がチラつく会話に苛立ちを覚えつつ、背後で行われる阿鼻叫喚を見ないようにしながら全員でB.A.B.E.L.の食堂に移動する。本来ならば高超度エスパーであるザ・チルドレンやザ・メイデンは、普通人が圧倒的に多い場所…食堂などには出来るだけいかない方がいいのだが…今回ばかりは仕方がない、と腹をくくることにした

周囲から注がれる不躾な視線に苛立ちつつ、せっかく食堂に来たんだし〜♪とメニューを選び始めるザ・チルドレンメンバー。ギャーギャーとやかましくも姦しいが、子供らしいその姿に目を細める皆本

と、そこで皆本は陸もまた、微笑ましいものを見るかのように目を細めているのに気がついた。…彼女もまた、12歳の子供だというのに

「よかったら、有木くんもどうだい?奢らせてもらうよ?」

「んじゃあたしステーキとカツ丼と天丼と豚丼牛丼天津丼中華丼とあとチョコパフェとフルーツパフェとショートケーキと」
「あんま食べ過ぎると成長期言うても太るで?ここはカロリーをちゃんと見てヘルシーなメニューをやな…」
「それより局長に頼んでもっと美味しいもの出前してもらったら?」

「お前らは今食ったら晩飯食えなくなるだろうが!食べるならデザートを一個だけにしろっ!」

「「「はーい」」」

くすくす…と上品な笑い声。心の底から楽しそうな微笑を浮かべる陸に、顔を見合わせて照れ臭そうに笑うザ・チルドレン

「な、なんだよー有木…ちゃん?んー、なんか呼びづれーな…」

「陸、で構いませんよ。なんならりっちゃん、でも構いません。親しみさえこもっていれば雌豚と呼んでくださっても構いません」

「いやいやいやそれはあかんやろ陸さん。えっ、なに?陸さん流のジョーク?」

「いえ、本気です」

「…えっと、陸さん。本当に本気で言ってる?ちょっと読ませて…やだ、本気じゃない…」

「この娘、出来る…っ!」

「光栄の極み」


「なんの茶番やねん」

…瞬く間に仲良くなる少女たちに驚き半分感心半分。当初予定していたザ・メイデンとザ・チルドレンの距離を詰める、という作戦は上手く機能しているらしい、と悟った皆本は、ご褒美の意味も込めてケーキを人数分購入する。ザ・チルドレンは局長を上手くたらしこんで…もとい頼み込んでもっと高級なスイーツを食べ漁っているが、普通のお菓子も人並みに好きだし、問題ないはずだ

目の前に置かれたケーキに驚き、戸惑ったように食堂のアシスタントと皆本を交互に見る陸。そんな彼女にほほえみながら、「気にしなくていい。大人の見栄だから、好きに食べてくれ」と言えば、彼女は頬を赤くしながら「…ありがとうございます。いただきます…」と礼を言う

「…やーらしーんだ、皆本さん。いたいけな少女をお菓子でつるだなんて」

「でれでれしやがって…。乳か?やっぱ乳なのか?あたしたちだってあと2年も経ちゃあ…あ、ごめん葵…あたしが無神経だった」

「よっしゃ薫、表出ぇや。久々にキレてもうたわ…」

「君達はもっと綺麗な目でこの光景が見れないのか」

頭を抱えて呆れつつ

ただのケーキに目を輝かせる陸に和もうと思ったら、彼女はフォークを握ったままはた、となにかに気付いたかのように動きを止め、皆本の顔をちらちらと伺い始める。なんぞ?と首を傾げれば、頬を真っ赤に染めた陸がおずおずと口を開いた

「えっと…出来れば、食べているところはみないでもらえませんか?村雨さまに、人前で食事するなと命じられていまして…」

ま た 村 雨 か

どこまでチラつく悪漢の影に形容しがたい感情を抱える皆本と、面白くもなさそうに唇を尖らせる薫

「いーじゃんかよべつに。ちょっとくらいのやんちゃは許されるだろ?ってかりっちゃんならこう、涙目上目遣いで「ごめんなさい…」とか言えば大抵の男は許してくれるって!」

「それなんてエロ…じゃ、なくてですね。命令は…」

「…いいんじゃないか?ザ・チルドレンなんか毎日のように命令違反している。少しくらいなら村雨も大目に見るさ」

本来ならば諫める立場の皆本だが、まずは陸の村雨への絶対服従を礎とする精神構造に綻びを与えるべきだ、と判断し、薫の言葉に追従する。村雨と同じ立場である皆本に許可されたからか、陸もまた曖昧な表情だったが、小さく頷いた

「あーっと、それじゃ食べながらでいいから教えてもらえるかい?村雨の命令で………なっ」

「えっ」「ちょっ」「……あら」

ザ・チルドレン、そして皆本の動きが、思考が、止まった

陸は何を思ったのか、ケーキに刺そうとしていた銀のフォークを置いたのだ。そこまではいい。そこまではいいのだが…次に、手に取ったのは、机の端。おおよそケーキを食べるのにはまったく必要のない――調味料の数々

タバスコ。

お酢。

塩。

そして――蜂蜜。

(えっ!?ちょっ!?なにするんっ!?なにするんっ!?)

(お、落ち着いて葵ちゃん。きっと何か考えが、考えが…いやっ!今彼女がなに考えてるのか読みたくない!)

(おおおおちつけお前らっ!そ、素数だ!素数を数えて落ち着くんだ!素数はどんな数字でも割り切れない孤独な数字!僕らを優しく慰めてくれる!)

(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10っ!!落ち着かない!不思議!)

(薫ちゃん!)(それはっ!)(整数や!)

など等緊急ザ・チルドレン会議を視線で行う彼らの前で

タバスコの蓋が、開かれた

((((あ、あ、ああああ…っ!))))

ケーキが、ケーキが…

((((ああああああああああああ赤く染まっていくぅうううううううっ!!))))

更にそれだけでは終わらない

どばどばっとお酢

(あかんっ!あかんて!それタバスコケーキの酢漬けやんか!)

バサバサと塩

(成人病とか味覚障害ってレベルじゃないっ!もっと恐ろしいものが目の前で作戦されていく!なにを言っているのかわからねーと思うが僕にもわからない!)
(皆本さん落ち着いて!)

そして―――たっぷりの、蜂蜜

(……、あ、あははは…し、新感覚スイーツ女子ってりっちゃんみたいな人を言うのカナ〜………)

好みの女の子が目の前でゲテモノを作り出す光景に、燃え尽きた少女が1人

誰も口を開けない状況で、最早ケーキの制作者が兵部京介でも助走を付けて殴るレベルのゲテモノを平然と口に運び、にっこりと陸は笑った

「んっ、甘くてしょっぱくてすっぱくて辛くて素敵です!」

「「「「………ヨカッタネ」」」」













「わ、わからない!何故有木くんはあんな…あんな…っ!!村雨かっ!村雨が全部悪いのか!」

「落ち着いて皆本さん!か、仮にあの人の差し金でもメリットがないじゃない!」

「せやせや!なんでわざわざ担当エスパーをゲテモノ食いにすんねん!」

「戦えよ皆本!現実とっ!多分りっちゃん素だよあれっ!?」

「だが…っ!だがっ…!!はっ!わかったつまりあれだそういうことだ!あんなもの食べてたら他の人と食事にいく機会がなくなる!つまり他者との交流が減る!=より村雨に依存する!そういうことか!」

「落ち着いて皆本さん!論理の飛躍が過ぎるわよ!」

「あと微妙に筋が通ってるんが怖いわ!…えっ、いやさすがにそれはないやろ?それじゃ完全に悪人やん…」

「不気味なおっさんだったけど、わりぃ奴には見えなかったんだけど…」

「いいや奴ならやりかねないっ!奴なら有木くんの脳を弄り、味覚を改造するくらいなら可能だっ!」

「…皆本、お前疲れてるんだよ」

「最近、私たちもちょっとやりすぎたかなって…」

「…添い寝したるから、ゆっくりやすも?なっ?」

「僕は正気だーっ!!」















「…いい加減普通に食事したらどうだ?」

「もう少し…味覚を刺激するの楽しいんですよ。ほら、私9歳くらいまで全身麻痺で食事出来ませんでしたから」

「だったらせめて一度の食事で五味を味わおうとするのを止めろ」

「えー。つまんないです…」

「端から見てる常人には、君が狂人にしか見えないんだ。周りに不快感を与えるからやめたまえ」

「…嫌です。どうしてもと言うなら、村雨の手料理を毎回準備することを要求します!村雨の料理には調味料足したりしませんしね、わたしっ!」

「それは遠回りな家事ボイコット宣言と受け取るが」

「…だってわたし家事の才能ないんですもん」

「…こんなものは慣れだ。教えてやるから早く上達してくれ」

「………うん、がんばる…」














実は原作3巻あたりっていう

そしてうやむやになるむらだめさんの命令云々かんぬん


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