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[34830] 【ネタ】MTG転生物【TS転生物注意】
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2015/02/01 13:26
はじめに

この作品は、昔MTG(マジックザギャザリング)をやっていた作者が、最近再びやり始めて、はまり、思わずMTGの世界観をみんなに伝えたく、ノリで書いたという作品です。

なお、この作品は
・TS転生
・原作の独自解釈及び改変
・最強物の可能性あり

という地雷要素が多数含まれています。
それでも読んでやっていいという、心の広い方は気軽に読んでください。



8/28  一部セリフ修正
10/2  感想からのアドバイスに従い、カード説明を一部の話に追加+マナ表記追加 
10/6  感想より重大な誤字を発見
      
      ←誤字なのか商会の息子の名前がベン、ゲン、デンとなっていたのが気になりました。

      ははっ何を馬鹿な→(チェック中)→( _。д゜)アウアウアー
      ご指摘に本当に感謝です。本当にピンチでしたww

11/1 色々修正+《スカースタグ》→《スカースダグ》に修正
     教団の名前を間違えてしまうとは……私って本当にry)

2015/2/1 話を上げるも冷静に見返すとあまりにあれだったので消しました。
         ……もう少し修正してからあげなおすかもしれません。
      



[34830] プロローグ
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2012/10/06 17:37
―――人は誰でも死を恐れている。

例え聖人であっても、大悪人であってもそこにそこまで違いはないだろう。
いや、年々増える自殺者の人数を見ると、そうは思えないかもしれないが、それは死よりも恐ろしいものがこの世にはあるというだけで、「死」そのものが恐ろしいものであることには違いないのであろう。

それ故に人は、古来から「死」を避けてきている。

ある時は、不死の霊薬として水銀を飲み、ある時は神へ免罪符として自らのすべての資材を投げ出し、はてには神との交信と言う名で自ら命を絶つことさえある。
まさしく「死に物狂い」で、というやつだ。

まあ、何が言いたいかというと、死にかけな人間ほど騙されやすい奴はいないということだ。


――――――ハッ……ハッ……ハッ……。


その時、俺は死にかけていた。
理由はわからない。
簡単に言えば、ある日突然一人ぼっちの時に、目には見えない何かが腹部にぶつかり、凄まじい衝撃が走り、そのまま腹に大穴が開いた。

それだけを聞けば、なんだそりゃというかもしれないが、未だにそれがなんだったのか、俺にもよくわからない。
超スピードや催眠術など、推測や考察ならいくらでもできようがそれによって結果が変わるわけでもない。

その時の俺は、普通に考えれば即死なのだろうが、最後に意識だけ加速していたからなのかはわからないが意識はあった。
しかし、その時俺が考えていたのは「死にたくない」。ただそれだけであった。

だが、詰んでいる。
ぼっちの時に腹部に大穴があいている状態。
助けを呼ぼうにも指一本動かず、声も出ない。
自室にいる状態なので偶然にも助けが来る可能性はないに等しい。
いや、今すぐに救急車が来ても、この傷の大きさでは間に合わないであろう。

まさに絶体絶命の状態。
だからこそ自分普通なら絶対に信用しようともしない胡散臭い声を聴いてしまったのだろう。


――――――■■な■■よ。貴■の魂の叫■我が聞き届けた。
――――――貴様■私を■えよ。
――――――そうす■ば、死■免れ■永遠の■を約束■■う。


まあ、真に冷静な精神であったなら、それを幻聴として無視するか、厨二乙とでも言っていたんだろう。
しかし、死にかけていた俺はその提案に対して異を唱えるというのは酷なことであり、答えは決まっているようなものであった。
たとえそれが《不浄の契約》だとしてもだ。


―――――しよう。俺をこの死の恐■から逃れるこ■ができるのなら、喜ん■貴■を■しよう。


かすむ意識の中その返答に満足したのか騒々しい高笑いと共にその声が聞こえてきた。


―――――よろ■い。貴様■私を■る限り我は■を与■よう。
―――――私が貴様の献身を歓迎しよう。
―――――我が力とくとその身に味わうがよい!!


薄れ行く意識が唐突に鮮明になり、ボロボロのはずの体に力がわく。
それと共の頭に浮かぶ大量の不定ながらも力ある『知りえないはずの邪悪な知恵』、体に浮かぶ『怪しい紋章』。


体が軽いの!
こんな気持ちで目覚めるのは初めて……!
もう何も怖くな……!


――――――――――パンっ!!


綾小路彰 男 
死体は自宅で、体の内部から破裂したような状態で発見。
死因不明
大学二年生の春の出来事であった



「と、いうわけで出量間違えて、殺しちゃった! 御免ね。てへ、ペロ!」

「Fuck you! ごめんで殺しが許されたら、警察はいらない!!」



こうして、おれの一回目の人生は幕を閉じた。

……この時まだ彼はこれから起こる出来事に予想さえついていなかった。



★★★★★★★★★★

《不浄の契約》 (2)(黒)

エンチャントされているクリーチャーが死亡したとき、そのカードをあなたのコントロール下で戦場に戻す。

悪魔との契約が墓場で終わることはめったにない。

★★★★★★★★★★ 



[34830] 1-1
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2012/10/21 02:28
多次元世界―それは様々な異なる世界が広がる空間。
そして、それらの世界は次元と呼ばれ、その世界独自の形態をしている。
ある次元では、火に覆われ、神話に出てくるかのようなドラゴンが飛び交う世界。
またある次元では、緑にあふれ、そこでエルフと人が穏やかに暮らしている。
またある次元では、神と人間と物の怪どもがもつれ合う世界などまさしく千差万別と言えよう。


……さて、今回舞台となる次元の名は、【イニストラード】。
恐ろしいほどに美しい銀色の月とそれに導かれた残虐な種族が数多く暮らすことが特徴の次元である。
ここに住む人々の多くは人間である。
が、ここに住む人々は日々、まるでB級ホラー映画に出てきそうな化け物たちの恐怖にさらされている。
夜の街には吸血鬼が人間の生き血を求めて歩き回り、山からは狼男の鳴き声が聞こえる。
隣人が怨霊に呪われて変質し、死者はグールとなり墓場を歩き回る。
心弱きものの所に悪魔が現れ彼らをたぶらかし、生贄を欲し、怪しき黒魔術を広げ、彼らが更なる悪しきものを生み出す術を覚える。
すべての人々は彼らの獲物と成り果て、常に闇夜を恐れて生活していた。

しかし、このような世界にも救いは訪れた。
天使『アヴァシン』率いるアヴァシン教会である。
彼らこそまさしくこの世界の真の宗教であり、協会の教える祈りは人々を守護し、その教えを受けた信徒たちは邪悪なるものを退ける。
アヴァシンの元に集いし天使たちは、その聖なる力を持って日々悪魔たちを封印している。

―――――そして現在、この世界では、日夜悪魔率いる闇の軍勢と天使率いる聖職者たちが日常の水面下で争っているのであった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



あるステンシアの山腹にその集団はいた。
馬車一つほどしかおおれなさそうな狭い山道に馬車が一つ。

さて、この世界において、馬車で旅をするのは危険行為である。
前述した通りこの世界には、様々な邪悪なる種族がいるので、夜に教会の加護の無い、町から離れた路上であると、まさしく彼らの格好に的になるのが眼に見えている。

特にここ、ステンシアは【イニストラード】の四つの州のうち最も教会の加護が薄いとも言われている地域。
そして、この山道は、日夜『マルコフ』一派の吸血鬼が見張っている。
さらに山道には、禿鷲、蝙蝠、はぐれ吸血鬼、そして他の巨大クリーチャーなどがいる。
ゆえに、ただの人間がこの道を通ろうとするのは強力な僧侶や傭兵を伴わねばならないであろう。

さて、馬車の方に視線を戻そう。
馬車には夜番として、馬車の前には焚火が一つに茶色の鎧が一つ。
焚火を囲う様に二人の人間が座っていた。
そのうち一人は、十代後半の男。その身には、少し汚れてはいるものの革と一部銀でできた鎧を身に付けていて、腰には剣がついている。首からはアヴァシン協会の首飾りがついていることから、彼がアヴァシン教の信徒だということが伺えるだろう。


「おい、起きろ。交替の時間だ」


……その声を聞いて、焚火の座るもう一人の方、その女性は起きた。
見た目の年齢は、20よりは若く、まあ、十代後半と言ったところであろうか?
その髪はほんのり茶色みがかった赤い色の髪であり、伸ばした部分を後ろで縛っている。
その容貌は異常と思えるほど美しく、おそらく街中を歩いていたのなら、男女問わず振り返ってしまうほどであろう。
今、この場は山道という路上であるが故、そのような人物がここにいるというのが違和感を覚える。


「ん、もうそんな時間か……」


件の女性は眠そうながらも目を覚まし、自分に掛けてあった毛布を外し、立ち上がる。
こちらの女性は、男性のと同じような、革と一部銀でできた鎧を着てはいて、腰にはこの世界では珍しい武器《刃のブーメラン》がついていた。


「大丈夫だった?何かに襲われなかった。」

「いや、一回何か怪しい人影が現れたが、あの鎧を見たら逃げて行ったよ。」


男の方がさっきから、微動だにしていないが威圧感を放って立っている『鎧』を指さして言った。


「お~。今回も《よっちゃん》おつかれ~」


女の方はそういって、鎧にゆるい口調で話しかける。
その言葉に対して、『鎧』は首だけこちらに向け軽く会釈するとまた小道の先の方を見て、『警戒』を続けた。


「相変わらず、変な名前だよな。その『鎧』。」

「《ヨーティアの兵》。略して《よっちゃん》。いい名前だと思うんだけどな~」

「いや、ぶっちゃけだせえ。
まあ、俺はこれから寝るから、夜明けまでの警戒頼むぞ。」


男の方はそう言うと、体に毛布を巻きつける。
その後男の方から、静かな寝息が出始めた頃らへんに女の方がぽつりと言った。


「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざりってか。
よりにもよって、《マジック》の世界に転生とはなあ……。
せめて、日本にいたときの半分くらい生活が楽だったからなあ……。」


そう、この女性、前世は日本人であったのに、なぜか悪鬼悪霊はびこる世界へと生れてしまったあわれ人間であった。




【ネタ】MTG転生物 【TS転生物】  1-1 イニストラード編




彼、いや、ここでは彼女と言おう
では、なぜ彼女がこのようになってしまったかの概要を言おう。

彼女はその時は知らなかったが、日本で彼女が死の間際にしたことは、わかりやすく言うなら悪魔との契約。
さらに詳しく言うなら、いったん彼女を蘇生したのちに、『不老』の肉体を得る代わりに死後の魂をその契約した悪魔に譲渡するという物であった。

……まあ、もし現代日本において、彼女と悪魔との《不浄の契約》が成功していた場合どのようなことになるか、非常に気になるところだが、今回は割愛しておこう。

でだ。しかしながら今回の場合、問題が発生したのだ。
そう。悪魔がミスをしたのか、彼女の方が何か普通とは違ったからかはわからないが、彼女は蘇生しなかった。
その上この悪魔は、この地球という世界においてはまだそこまで力をふるえる能力を持っていなかったので、彼女をそのまま蘇生させるということはできなかったのだ。
その後、契約の失敗を恐れた悪魔は彼女に対して、代案となる契約をすることで契約の失敗をなかったことにしてほしいと交渉をした。

一方彼女は自分が死んだこととか、契約がどうなど、いっぱいいっぱいではあった。
しかし、なんとか多数の条件と引き換えにその要求を受け入れた。
彼女としては、この得体のしれない自称『悪魔』とやらがいうには、自分は死んでしまったが、今回は生まれ変わるのができるということは大まかに理解した。
そしてそれが異世界だとしても、ここで死んでしまうよりはましだと考えていたのである。

その契約内容を大まかに話すとこうなる。

《1、 甲(悪魔)は乙(彼女)に対し、新しい肉体を授ける。》
《2、 乙が新しい肉体の入る際、記憶を引き継ぐようにする。》
《3、 甲は乙に対して、魔導及び錬金術に関する知識を提供する。》
《4、 甲は乙の潜在能力を覚醒させる。》
《5、 甲は乙が新しい肉体に入ってから、ある程度人生を手助けする。》
《6、 乙は甲からの初めの契約を無効とする。》

まあ、これ以外も、肉体は若くて健康な物だとか、むやみに危害を加えないとかその他細かい条件がたくさんあったが、まあ、ここでは割愛しておこう。

ともあれ、彼女は前の肉体と契約ミスの事実を対価に、新しい肉体を手に入れた。
自分の知らない《魔導》という物に対しての一種の憧れの為か、彼女は第二の人生を別の世界で歩むということにOKしてしまったのである。

……彼女の最大の苦難は生まれ変わった世界が【イニストラード】という、魑魅魍魎はびこる世界であったことだろう。


場面を山中に戻す。
件の彼女は焚火を見ながらぽつりとつぶやいた。


「はあ、それにしてもせっかく《魔導》に知識を手に入れて生まれ変わったのに、それをおいそれと使っちゃいけない世界なんてなあ……。」

「またその話か。
そうはいうが、契約自体は間違っていないだろう?
それに俺がお前に授けた魔導の知識は、なかなかのものであると自負している。」


彼女の肩にのったネズミが彼女の声にこたえた。
このネズミは彼女の黒魔術によって召喚した『チフスネズミ』。
彼女はいつもこのネズミを、彼女と初めに契約した『悪魔』との交信の媒体として、よびだしているのである。


「だから、もっと生きるのが楽な世界にしてくれって私は言いたかったんだよ。
日常的に人が化け物に襲われているのに、それの敵対組織である教会にも狙われるって冗談にもなんねえよ。」


彼女が契約によって得た知識は、一言でいうなら『黒魔術』であった。
そして、この世界において、黒魔術の使用は教会によって禁止されている。
まあ、黒魔術で呼び出すクリーチャーの代表例が、ゾンビやグール、そして悪魔だと言えば禁止されるのも分かるという物だ。
さらに彼女の体内にある魔力が『黒』のマナとよばれる、『黒魔導』か、またはどんなマナでもよい魔術にしか使えない魔力であったことも追い打ちをかけている。


「そのせいで、わざわざ身を守るのにも、アーティファクト作るなんて二度手間をしなきゃなんなかったじゃねーか。
黒魔術なんて、家の中みたいな人目につかないところでしかできねーじゃん。」


彼女はそう悪態付きながら、自身の作った『鎧』《ヨーティアの兵》を指差した。
その後しばらく彼女は、ネズミに向かって悪態付いていたが、やがて落ち着いたのか、溜息を一つはいた。


「結局、前の人生並に楽に生きるには、まだまだ金が足りないってことか。
金もない。
時間もない。
性別も変えたいが、そのための魔術の知恵がない。
それらすべてを覆せるほどの金もないと来たもんだ。
あー、早く楽に生きたい。」


まあ、彼女の前世については深くは書かないが、結局彼女は生まれ変わっても、魔導の知識を手に入れてもそこまで大きく性格が変わることはなかった。
そして、彼女は魔導の知識を手に入れてからも、それを使うのは、権力欲や支配欲ではなく、ただ面白楽に生きたいという欲の為であった。


「ならもっと黒魔術を使って、俺に生贄をささげるがいい。
そろそろ、生贄がニワトリか、ネズミだけというのは飽きてきてね。」


ネズミが放ったその言葉に対して、彼女はでこピンという形で返答した。



★★★★★★★★★★

《ヨーティアの兵》  (3)

アーティファクト クリーチャー — 兵士
警戒
1/4

詩人は他の世界の物語の一節を夢見る。 工匠は他の次元のアーティファクトの青写真を夢見る。

★★★★★★★★★★


★★★★★★★★★★

《チフス鼠》  (黒)

クリーチャー — ネズミ(Rat)
接死(これが何らかのダメージをクリーチャーに与えた場合、それだけで破壊される。)
1/1

ヘイヴングルで捕まった人さらいには、二つの選択肢が与えられる。投獄されるか、鼠取りになるかだ。 賢い奴は牢屋に行く。

★★★★★★★★★★




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あとがき

とりあえず、試験的に投稿してみました。
まあ、かなり前にやっていたMTGに最近復活したので、その記念に書いてみました。
そのため、MTGの知識が、かなりにわかレベルでいろいろ間違いがあるかもしれないのでそこのところご注意ください。
まあ、一応長編として描くつもりですが、多分更新は亀です。
感想やご意見がありましたら、どしどし気軽にお願いします。



[34830] 1-2
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2012/11/01 17:30
「おい、そろそろ目的地に着くぞ。準備しろ。」


今回の依頼主の声がし、目を覚ます。
今は収穫月の昼間であり、やや気温は低いものの日は出ている。
護衛が昼寝は少々変かもしれない。
しかし、ここイニストラードで出てくる化け物、いや、クリーチャーは吸血鬼、幽霊、スピリットと、ほとんどが夜行性であるので、夜間さえ気を付けとけばわりと安全である。
さらにいえば、今の警戒を、彼女の作ったアーティファクト・クリーチャー《ヨーティアの兵》と救貧館時代から友達である男、名前は《デア》、に任せていたので怒られるということはない。
……ひどい場合になると、昼間は護衛が全員寝ているなんてこともあるらしい。
もちろん、ステンシアの山道には、通常のクリーチャーに加え巨大生物や小悪魔も出没する、イニストラード屈指の超危険地帯であるのでそんなことはできないが。


「ん……そろそろ、目的の町ですか。
で、これからの目標は?」


彼女は目をこすりながら依頼主に尋ねる。


「ああ、町に着いたら、そこで俺の知り合いに、この馬車に積んでるすべての荷物を売り、そのあと商品を仕入れてから、帰還することになる。
そして、その間、しばらくは町に宿泊することになるから、町につき次第、報酬をだす。
その後は自由行動。観光もよし、休むもよしだ。
三日の早朝に町の門で待ち合わせということになるな。」

「了解しました。
ところで、興味本位で聞きますが、何を仕入れるつもりで?」

「ああ、まあ、そりゃついた時に安く売っているものとしか言いようがねえよ。
だが、あえて言うならばだなあ、ステンシアと言えば、羊毛と思われがちだが、俺はそうは思わねえ。
時代は、オオカミの皮だな。最近じゃあ羊毛より安いのに、負けないぐらい上質なのがステンシアにはあふれてる。
羊なんかより狼の方が百倍かっこいいしな。
偉い人にはそれがわからんのですよってなあ。」


依頼主の男が大笑いしながら、馬車が進む。
ちょうどその頃、小さいながら少し遠くに、大きな門が見えたのであった。



【ネタ】MTG転生物【TS転生物】 1-2



「いや~。今回の依頼主はいいね!
払いも奮発してくれたし、うまい飯屋まで紹介してくれた。」

「だからといって、昼間っから酒を渇喰らうのはどうかと思うぞ?」


ココは先ほど見つけた村の酒屋兼飯どころである。
そこでテーブルの上には、焼き立てのパンにサラダ。そして、真ん中には大きな肉の塊とワインボトルという、間違いなく食べきれないであろう程に食べ物がずらりと並んでいた。
まあ、彼女たちはおのおの表情は違う物の、どちらも間違いなく機嫌がよかった。
なぜなら、今回の仕事は彼女たちがめったにありつけないほど支払いがよいものだったからである。
今回は、彼女たちは旅の護衛として雇われてこの町にきたのであるが、普通は自分たちのような若い者は、教会からの正式な『僧侶』とかでないかぎり、護衛として雇ってもらえないのである。
まあ、大概は大きな商隊が大量に護衛を雇う時などに雇われるなどキャリアを積んで名を広めてからや、教会で修行し《アヴァシン教会》から認められた正式な『僧侶』や『聖戦士』になるなどが一般的である。

しかし、今回彼女たちは、とある商会からの口コミしてくれたので実力を認められて護衛として認めてくれたのだ。
もちろん今回は護衛は我々だけであるので、払いは良い。
しかも、途中でオオカミの群れを狩った礼として、追加料金までくれたのである。


「しかし、今回はなぜお前まで護衛としてきたんだ?
おとなしく、かかしでも量産していればいいじゃないか。」

「いや、今回は別の目的のために上質な羊毛がほしいからね。
それに、《クグリ商会》のオッチャンから別の用事も頼まれたし、
おお、このソースおいしい!」


彼女はそう言いながら、羊肉のステーキの解体に勤しんでいた。
彼の言うとおり、彼女は普段は魔力を込めた道具を売る道具屋を勤しんでいる。
しかし、この世界において、魔力を込めた武器は、大概が『アヴァシン教』の《祝福》を受けた道具が一般的であり、《祝福》を武器に込められる人を《月鍛冶》、《祝福》を道具に込められる人を《ルーン唱え》と称し、教会から聖戦士と呼ばれる集団であることが一般的である。
それ以外は胡散臭い怪しい錬金術師扱いや、下手したら邪教の信者とされて捕まってしまう場合さえある。
そして、彼女はまさに悪魔の力を使っている黒魔術師。(彼女はもちろんこれを隠しているし、世間的には彼女は胡散臭い錬金術師ということになっている。)
彼女に作品制作に、悪魔の力を利用しているのがばれたらアヴァシン教に捕まえられてしまう。
そんな彼女が作っている物が売れていないのは当然と言えるであろう。
そのため彼女は普段は道具屋をやる傍ら、ある時は材料の確保のため、ある時は金のために護衛などで金を稼ぐのである。

彼女は追加注文するために近くにいた若い男の店員に笑顔で声をかけた。


「そこのかっこいいお兄さん。
ワイン追加でおねがい。」

「……!は、はい。かしこまりました。」


彼女は軽口のつもりで言ったであろうが、彼女の麗しい見た目のおかげでその店員は少々どもってしまい、赤面しながら厨房へと向かった。
その店員の反応を見て、彼女の相方デアはわずかに顔をしかめた後、溜息を吐く。
それら一連の様子を見ていた、大柄の短いひげを蓄えた壮年の男、この店の店主が薄笑いを浮かべながら、彼女たちに向かって話しかけた。


「おいおい、そこの若い姉ちゃん。
ベンはまだひよっこの童貞なんだ。あんまりからかってくれるなよ!」

「ん?いや、イケメンなのは確かだろ。まあ、私のタイプではないが。」

「……いや、嬢ちゃんも天然か。こりゃあ、たちが悪いことで。」


店主は彼女のすっとぼけている様子を見て、思わずあきれてしまった。
その彼女らの様子を見ていた他の客もつられて微笑し、店内の空気が穏やかになっていた。
そんな店内の様子を不思議そうに見ながら彼女は尋ねる。


「店主、貴方はこの店の他の商店について詳しいか?
もしよかったら、《アモス商店》についてなにか知らないか?」


彼女のその言葉を放った瞬間、店内の空気が凍った。
今までは、店内は穏やかながら明るい空気であったが、今は違う。
明らかに何かまずいことを言ったと彼女でもわかった。
彼女の相棒もこの異様な空気に腰にある剣に少し手を伸ばし、《ヨーティアの兵》も少し腰を落としている。


「……嬢ちゃんどうしてそれを?」


店主が声を低くしながら訪ねる。
彼女は、店主の豹変ぶりにわずかに動揺しながら店主に言った。


「いやあ、今回私たちは《ガヴォニー》にある《クグリ商会》って所から、『うちは前々から《アモス商店》から羊毛を仕入れていたがここ数年音沙汰がない、もし何かあったら困るから様子を見てきてくれ』って頼まれたんだ。
……もしかして聞いちゃいけなかった?」


彼女の言葉を聞いて、その店主はわずかに安堵と悲壮の混じったような表情を浮かべ、ため息をついた。


「……そうか、あいつの親御さんの知り合いからか。
疑ってすまんかったなあ。
……《アモス商店》から連絡がなくなった理由だっけか?
その理由は簡単だ。あそこはつぶれちまったんだ。」

「…軽率なことを聞いちまったみたいだな。」

「いや、いい。知らなかったんだろ?
別にあんたは悪くねえよ。」


そして店主は非礼をわびた。
この世界において、店がつぶれる原因は大抵は経営不振なんかではない、化け物による殺害である。
店主は話を進めた。


「……実はなあ、あそこはとある一家が経営していたんだ。
家族構成は母親のメリーに父親のギャザ、そして、ドラ息子のゲンといった感だった。
メリーとギャザは良い奴らだったよ。二人共もともと孤児であったが、小さいころから二人で頑張って色々なところで商会との伝手を作り、誰からも好かれる努力家そんな感じのやつらだった。
俺も、小さいころから奴らを見守っていたが……。」


そうして、店主は時々涙ぐみながら、メリーとギャザの二人の生い立ちを放していった。
周りの客もどこか話を静かに聞いているように思える。
店主が彼らについて話すたび、様々な表情を浮かべているも、どの話にも共通していることは『ギャザとメリーは良い奴だ』ということであった。
しかし、彼女は彼らの生い立ちについて聞きにきたわけではない。
いいかげん《アモス商店》がどうなったかが気になるところであって、話を切り替えた。


「話は大体わかったよ。
けど、ところでどうして《アモス商店》から、音沙汰がなくなったか知ってるのかい?」


彼女のその言葉に対して、顔を暗くするも、店主が苦虫をつぶしたような顔でいった。


「……ゲンだ。
あそこの店はゲンがついでから変わっちまった。」


店主は一気にゲンについて話し始めた。
そして、その内容のほとんどがゲンの悪口についてであった。


「そうだ!あいつは親の財産を食いつぶしてやがる!
メリーとギャザが、一生懸命に稼いだ金を怪しい本、巻物のために食いつぶしてやがる!
そのうえ、店の経営や家の手入れもせずに引きこもって何か怪しい事ばかりしていやがる。
だいたい、メリーとギャザが死んだのはアイツのせいに決まってやがる!!
俺は聞いたんだ!メリーとギャザが死んでしまった夜に、あいつらの悲鳴が!!
なにが、『吸血鬼にやられた』だ!!そしたら、何でてめぇは笑ってやがる!!
どうしてまともな葬式を上げない!!
アイツらが貯めた財産なら『ガヴォニー』で葬式を上げる金ぐらい楽にあるだろう!!
あいつらが亡霊やゾンビになっちまったら俺は悔やみきれねえ……」


店主は顔を赤くして、大声で彼について愚痴り続けていた。

イニストラードの住人は死の状態に重きを置いている。
良い人生の終着点は永遠の生を探し求めることではなく、安らぎに満ちた「眠り」を死後に得ることとされている。
祝福されし眠りは永遠に続く平穏な忘却であり、イニストラードではしばしば起こるような、苛まれしスピリットや切断された屍、もしくは不死の忌まわしきものと化す恥辱よりも遥かに望ましいものである。祝福されし眠りは高潔で用心深い人生の報酬であると考えられている。
それを表す言葉として、「貴方が大地で永遠を過ごしますように」という祝福の言葉があるほどである。

ようするにこの店主はゲンが両親をきっちり埋葬せず、彼らの残した店と金を食いつぶしていることに腹が立っているのだ。

彼女の相棒である、《デア》もどこか悲しげであり、そして尋ねた。


「ところで、そいつ、ゲンという奴か?
そんなに怪しい奴なら、教会からの審問官がきたりはしなかったのか?」

「……あんた、その恰好アヴァシン教の者か?」


店主は、デアを服装を見ながら尋ねた。
彼の首にある、『アヴァシン教』のシンボルを付けた銀の首飾り《アヴァシンの首飾り》。
そして、腰につけている剣にも、アヴァシンのシンボルがついているのでそう思っても仕方がないであろう。
デアは苦笑しながら答えた。


「いや、もともと《アヴァシン教》の《聖戦士》になりたくて入ったが、才能がなくて途中で脱落した。
それでも教えを捨てたわけではなく、こうしてアヴァシン教の信者を続けている。
まあ、簡単に言えば、ただの《モンク》みたいな者だ。」


アヴァシン教において、いくつか階級という物がある。
たとえば、トップの《月皇》、最高位の《司教》、教会の監督役の《司祭》などである。
しかし、その中で《モンク》というのは、あえて階級を付けるなら最下位。
幾人かは教会から正確に階級として認知され、荒野を歩き回り孤独に生きる人々に教えを広めることを目的としている人々である。
しかし、ほとんどの自称《モンク》は教会から認められていない僧侶の人々のあつまりである。
その多くは、不適切な発言や誤った教義の強制などのよって追放された狂信者たちのことである。


「……まあ、あんた達なら信用できそうだな。」


デアと彼女の二人の顔を見ながら店主は言った。


「……ここだけの話、そろそろアイツの家に審問官が訪れるって噂だ。
最近奴の家から、夜な夜な怪しい叫び声がするという報告が多くてな。
その上、やつが『黒魔術』の巻物を買ったとか言う話もある。
……実は初めにあんたらを一瞬疑ったのは、あんたらがゲンに怪しい品物を売ってるやつらの仲間じゃないかと思っちまったからだ。
すまねえな。」


店主は声を潜めて彼らに行った。
その言葉を聞いて彼女は言った。


「じゃあ、実際に《アモス商店》を訪ねるのはやめた方がいいか……。」

「……っつ!あったりまえだ!
あんたみたいな可愛い嬢ちゃんがあそこに行ったら、どんなことされるかわかったもんじゃねえ。
悪いこと言わねえ、あそこに関わるのはやめときな。」

「ははは、冗談でもうれしいよオッチャン!!
ありがとう。」

「うっせ、どうせ礼を言うなら『お兄さん』って言ってくれや。」

「おい店主。流石に50超えて『お兄さん』はねえよ。」

「うるせえ!」

店長の言葉に別の客が野次を飛ばした。
そして店内は先ほどまでの空気が嘘のように、明るい雰囲気に包まれていた。
その後、なあなあで彼女を中心に店全体で宴会もどきのようなものが催された。
……ステンシアの人々は無愛想で冷たい人が多いというが、必ずしもそうではないようだ。
そして、その宴会は日が傾くまで続けられた。
その宴会で、べろんべろんによったデアと、たくさん食べた彼女は日が暮れる前に依頼主に紹介された宿に向かい、泊まった。
当然ながら(?)部屋は別々である。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・





さて、草木も眠る丑三つ時。
イニストラードは日本に比べて日が低いので、夜が長く、昼は短い。
イニストラードの法には地域差こそあれ、基本深夜の外出は禁止されているし、勿論彼女らが宿泊しているこの町も例外ではない。
しかし、今この町で歩いている影が1つ。

その影は小柄で姿を悟らせないためか、頭まですっぽりと覆うフードをかぶっている。

辺りには幾つかの不気味なスピリットが漂う。
上を見上げれば、空には身の丈ほどの巨大な蝙蝠が空を舞う。
遠くからは人の悲鳴らしき甲高い声が聞こえる。
もしあなたが非力な常人であれば、絶対に出歩こうとは思わないであろう。

もちろん、この小さな人影がこの夜の町中を無防備に歩いているのをあたりの化け物達が見逃すわけがない。
辺りに飛んでいた、青白い色をして、聞くに堪えない怨嗟の声を発している亡霊《叫び霊》の集団が獲物を求め、その人影に向かって押し寄せた。

……とも思えば、数メートル近くまで近づいたかと思えば、そこでそれらは止まってしまった。
さらに、その人影が《叫び霊》達に近づけば、その霊は蜘蛛の子を散らすかのように逃げて行った。

結局その人影は、途中で何度か亡霊に見つかり、接近されることはあっても襲われることは一度もなかった。
結局、その人影は目的地につくまで、被害らしい被害に一度も会うことはなかった。

さて、目的地に着いたわけであるが、そこは少し古く汚くなっている建物であった。
庭先は雑草が生い茂り、外装や塀に苔が生えている。
窓や壁を掃除した様子もなく汚れている。
その建物の看板には《アモス商店》と書いている。
昼間に会話に出てきた、曰く付きとされる商店である。

その人影はその不気味な雰囲気の店の前に臆することなく立ち、門を叩く。
普通の家ならば、夜に訪ねてくる人物など怪しすぎて相手にすらしないであろう。
しかし、この家は違うようで、門がうっすら開き、そこから顔色の悪い若年の男が顔を覗かせた。

そして、その男はその深夜の来訪者に向かって険しい剣幕で尋ねた。


「おい。貴様は何物だ。
用件をいえ。」


その言葉に対して、その来訪者はフードを外しつつ、懐から取り出した赤黒い便箋を見せて言った。
その人物の髪は赤いが、その瞳は飲み込まれるかのように黒い。ある種攻撃的な美しさが伺える女性であった。


「私の名前はニウ。今回はスカースダグ教団からの使いでここにきた。」


そう、彼女の名前はニウ。
この話の主役にして、昼間に酒屋で酒を飲んでいた少女であった。




★★★★★★★★★★

《アヴァシンの巡礼者》  (緑)

クリーチャー — 人間(Human) モンク(Monk)
(T):あなたのマナ・プールに(白)を加える。
1/1

「アヴァシンの守護はどこにでもあります。 神聖な教会から聖なる地まで、見る物全ては彼女の祝福の監視下にあるのです。」

★★★★★★★★★★


★★★★★★★★★★

《叫び霊》  (1)(青)

クリーチャー — スピリット(Spirit)

飛行

叫び霊がいずれかのプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーは自分のライブラリーの一番上から2枚のカードを自分の墓地に置く。

1/1

肉体の傷は安易く癒える。精神の傷は取り返しがつかない

★★★★★★★★★★




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

更新が遅れてすいません。
正直、ここまで反応があったのがびっくりです。
リアルの都合でこれからも亀更新だと思いますがどうか許してください。
次回はもっと早く更新できるはずです。

あといくつかの感想についてですが、たとえバレバレであってもネタバレを考えて深くは言いません。
主人公は少なくとも今はプレインズウォーカーではありません。
そして『1ー○』はイニストラード編だと言っときます。





・おまけ


友1「MTGのドラフトしようぜ~。
   一人三パック、M13、帰還、隆盛で。」
俺「おk」


つ《原初のうねり》
つ《全知》



  ( ゚д゚)    え……?
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
  \/    /
     ̄ ̄ ̄



  ( ゚д゚ )    ぇ?
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
  \/    /
     ̄ ̄ ̄






[34830] 1-3 前半
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2012/11/01 17:35
「ガッ……!ハア、ハア……」

「くくっ、もうしまいか?」


女の肩にのっている《チフス鼠》が毒舌を吐き、男の方は口から血を吐き、肩からも血を流していた。
アモス商店店内、今そこは先ほどとは違う意味であれていた。
椅子やテーブルは倒れて、壊れてしまっている。
部屋の隅はいくつか小さな火がついており、このままほっておけば、この家は火事になってしまうであろう。
何より特徴的なのは、部屋の真ん中で倒れている異形。
成人男性より少し小さい体格、長い耳、双角、赤い体表、そして、未だ燃え続けている三又の尻尾。
この世界で《デビル(小悪魔)》と呼ばれる存在であった。
一般的に、《デーモン(悪魔)》の手下、使いっぱしりと呼ばれる彼らも、恐ろしい異形の一種。
並な人間では手も足も出ず、悪魔の手足として人間に危害を加える、おそらく、人生で最も出会いたくない異形の一種であろう。

しかし、件の《小悪魔》はいま、胴と首が離れ、大の字のうつ伏せおなり、その身を床に預けている。
そのような、無様な姿をさらす《小悪魔》をみながらネズミは言う。


「それにしても、やけに弱い奴だな。
ふむう、あまりこの世界の魔術には詳しくはないが……。
赤のマナで呼び出される《小悪魔》、燃えている尻尾、こいつのような未熟者の《刃のブーメラン》の一撃で死ぬとなると……。」

「多分、《煮えたぎりの小悪魔》。
あの脆さからして、数値化するとしたら《タフネス1》前後だろうし、前に教団に見せてもらった奴とそっくりだしな。
それと、未熟は余計だ。」

「そのセリフは、空を飛んでいる鳥を《刃のブーメラン》で撃ち落とす事ができるようになってから言うのだな。」

「……くそっ!ごちゃごちゃと!!」


ネズミと女が軽口を叩いている間、件の小悪魔を呼び出した男、ゲンはクリーチャーを呼び出すために呪文の詠唱を始めた。
ゲンが必死に詠唱している間、件の女、ニウは呪文の詠唱を妨害するでもなく、手に持つ《刃のブーメラン》をいじりながら、静かに男の様子を観察していた。
その余裕すら見れる態度に苛立ちを覚えつつ、自分のマナ(魔力)と秘蔵のアーティファクト《終わりなき休息の器》のマナ(魔力)を集める。
ゲンはとうとう呪文を完成させ、そのクリーチャーを呼び出した。


「わが呼び声にこたえよ!!その灼熱を持って奴を焼き尽くせ!!《灰口の猟犬》」


燃える四肢に鞭のように長い尾、わずかに光る赤い眼、口からは灼熱が漏れ、その背には揺らめき立つ立派な毛と共に屋根をも焦がす業火がもれる。
おおよそこの世の生き物とは違う、しいて言うなら犬に似た、火をまとう赤と黒の化け物がそこにはいた。

《灰口の猟犬》
《ステンシア》の山脈奥地に点在する《灰口》と呼ばれる、地獄への入り口。
そこから現れる地獄の使いである。
その口から放たれる業火は、すべてを燃やし尽くし、ステンシアの山脈で出会ってはいけないとされる化け物の一つである。
幸い、もし旅の途中で出会ったとしても、その口と燃えるし四肢ゆえに、遠くからでもそれの姿がわかるため、逃げることは安い。

しかし、今は室内のような目の前で現れたのなら、一般人ならその口から放たれる灼熱で一撃である。

召喚に成功したことに安心し、力が抜けたのか、膝を床に付けるゲン。
一日に複数回、しかもこんな緊張する状態で呪文を唱えたで、ゲンはマナ不足の疲労を起こしていた。
そして、彼は高らかに言う。


「……っつ!くくく、これで貴様もおしまいだあ!」


その顔に自信を浮かべた笑みで彼はニウの方を見やった。
彼は予想していた、彼女の絶望した顔を、そして、恐怖に満ちた顔を。
しかし彼の予想に反し、彼女は《灰口の猟犬》を興味なさげな目で見つめていた。
そして、とても短い詠唱ともいえない呪文をつぶやくように唱えた。


「…………《突き刺す苦痛》」


彼女の放ったその一言で、突如、《灰口の猟犬》が大きな声で吠えた。
その声は、明らかな苦悶が感じとられ、聞く者の恐怖をあおる。
そして、《灰口の猟犬》の体を見ると、その腹の一部が不自然に膨れ上がり、ぼこぼこと蠢いているのがわかる。
この化け物がどのような体内構造をしているか、もしくはそのような物があるかはわからないが、おそらく今この化け物が感じている苦痛は、文字道理『内臓を掻き回される』ような苦痛であるのだろう。

そして、最後にひときわ大きな声を上げた後、口から黒い油状の何かを吐いたの最後にその身から火が消え、《灰口の猟犬》は倒れ、再び立ち上がることはなかった。


「……やっぱり、《インスタント》の《コモン》呪文は使い勝手が抜群にいいなあ。」

「あまり、楽をしていては魔術師として大成しないぞ?
もっと難しい呪文を使うことの慣れておけ、いざ、実戦で出なくなるぞ
まあ、今も実戦と言えば実戦だが。」


彼女と鼠は、《灰口の猟犬》を倒したのにそれを当然、いや《灰口の猟犬》を何の脅威にも感じていないのが眼に見えてわかった。

ゲンはおそらく彼女が放ったと思われる呪文が自分の呼び出したクリーチャーを一撃で仕留めたことだけはわかった。
しかし、ほとんどつぶやくだけの詠唱で、さらに言うなら、見た限り、マナ使い過ぎによる疲労などみじんもなさそうな涼しい顔で、自分の呼び出したクリーチャーを一発で葬ることができるという事実があまりにも彼にとって残酷すぎた。

彼は知らないがこの《突き刺す苦痛》の呪文は、《インスタント》と呼ばれる、何時どんな時でも唱えられるような、詠唱の短い呪文。
そして、この効果は、《弱点への攻撃と激しい痛みによる、足止め(タップ)及び弱体化(マイナス一・一修正)》というものである。そして、一般人や体がもろい異形ならこの呪文だけでも死んでしまうというものである。
その上消費マナも、ほとんどなく、《灰口の猟犬》のそれよりもはるかに少ない。
そして、本来この世界に存在しない呪文でもある。

自分はいっぱいいっぱいであるのに、彼女は汗ひとつ掻いていない。
彼女が本気を出せば、先ほどの呪文で自分が一撃で殺されてしまうだろうことも、彼は大体察しが付いていた。

ゲンは思わずこうつぶやいた。


「……!化け物め」


それを聞いた、ニウは嘲笑を浮かべながら言った。


「この程度で?
ずいぶんと安い言葉だね。」




【ネタ】MTG転生物【TS転生物】 1-3 前半




時はニウがこの店に訪れた時までさかのぼる

店内の応接間。
テーブルに向かい合って座る二人。
ゲンは手紙の内容を確認しつつ、目の前の女を観察する。
見た目は、相当の美人ではある。赤い髪に、闇のように黒い目。まるで富裕層のようにきれいな肌。世間や女性にそこまで関心があるとは言えないゲンでも目が惹かれてしまう。
しかし、声をかける気にはなれない。
なぜなら……。


「きさまも《スカースダグ教団》の一員か?」

「さあ、どうだろうねえ。」


ニウはゲンの質問に対して、くすくす笑いながら、はっきりとした回答を言わずはぐらかした。
そう言いながら、彼女の着ていた上着の影からネズミが顔を出して、そのまま肩へと昇っていく。

《スカースダグ教団》
古代の悪魔崇拝から生まれたスカースダグ教団。
今やスレイベンの高地都市を本拠地とする秘密の悪魔崇拝教団である。
この秘密結社にはあらゆる階層の聖職者、貴族、商人達からなる人間のメンバーが所属していて、小さいながらも、何世代にもわたってそれは続いてきた。
彼らのたたえる《悪魔》の名は《グリセルブランド》。
かつて、かの悪魔は他の《悪魔》の失落と自身によるイニストラードの実質的支配をもくらんでいたが、《大天使アヴァシン》が現れてから、彼らの立場は弱くなった。
現在、かの集団は《黒魔術》の流布及び支援。そして、アヴァシン教会への間接的妨害工作に勤しんでいる。

改めて、ゲンがニウの方を見る。
彼女の肩におった鼠もこちらを観察しているのか、こちらの方を見つめ返してくる。
おそらくあの鼠は、彼女が使役しているものであろう。
そして、ニウが黒魔術師であることがゲンにはわかった。
さらにこれから彼女が話す内容も察しがついた。


「ところで、部屋の奥隅にある灯り、名前は確か、《終わりなき休息の器》だっけ?
おもったよりきれいだな。」

「……。」


ニウは、部屋の奥隅にある、中に火がついている金属製の器《終わりなき休息の器》を見ながらそう言った。

《終わりなき休息の器》
これはゲンが《スカースダグ教団》から買い取ったアーティファクトである。
《終わりなき休息の器》はそれ自身が魔力を発生させるアーティファクトであり、所有者は魔術を使用する際、これからマナを引き出すことでより多くのマナを使用することができるといった、珍しい道具なのである。

そして、おそらくは今回彼女が訪ねてきたこともこれが原因だろう。
ゲンの顔を見ながら、ニウは彼に話しかける。


「……その顔を見るに、用事はすでにわかっているみたいだな?
じゃ、要件を言うよ。

《終わりなき休息の器》の料金を払ってもらおうか。今すぐに。」

「……何の事だかわからないな。
私はその品をもらった際に、すでに料金を払い済みだが?」

「それだけじゃない。
ここに《終わりなき休息の器》を運びに来た男はどこにやった?」

「ふむ。
私にそんなことを言っても分からないが、おそらく、そいつが私が払った金を持ち逃げしたのではないのか?
もしくは、ここから《ガヴォニー》へ帰る際に山道で吸血鬼か狼に襲われたのでは?
《ガヴォニー》のような、お気楽な地域とは違い、ここ《ステンシア》では化け物共による殺人が日常茶飯事でね。
平和なところに住んでいる貴様らが本当にうらやましいよ。」


そういいながら、ゲンは薄ら笑いを浮かべながらニウを見る。

要するに話はこうだ。
ゲンは、悪魔崇拝をしている魔術師のひとりである。
しかし、この世界では悪魔崇拝は禁止されているので、悪魔崇拝に関する本や道具は原則手に入らない。
そのためにゲンは必要となる魔導書や道具その他さまざまな物を《スカースダグ教団》から仕入れていたのであった。
今回彼は、どうしても《終わりなき休息の器》がほしくなり、それを購入したわけである。
が、彼に《終わりなき休息の器》を運んだ配達人がどうも帰ってこないというのが今回の顛末である。

そのようなゲンの様子を見ながら、ニウは何やら呪文を呟き始め、彼女の指先に紫電のようなマナの光が見え始めた。
もっとごねたり、話し合いを始めると思っていたゲンは、彼女が突然呪文を唱えたことに困惑を覚えた。


「それは脅しのつもりか?
状況からして、私を疑っているのかもしれないが私を脅しても何もしらないぞ?
それに、わたしは一流の魔術師。
貴様が私に呪文を撃つことがどういうことか理解しているのだろうなあ。」


ゲンは自分で言うのもなんだが、《スカースダグ教団》から結構金を使ってきた。
《スカースダグ教団》は悪魔崇拝の集団と言えども、ある程度は理性的な集団であり、金を払えば対価をくれるし、証拠もない罪でいきなり客を殺しに来たりはしない程度の常識はある。
さらに、今回の件では仮に自分が料金をごまかした証拠や証言が出たのなら別だが、そのような証拠などどこにもない。
いきなり攻撃される覚えはないのだ。
ゲンが、ニウを睨みつけている間、彼女は呪文を完成させたのか、その手には紫の光弾が出来上がっていた。
それは見るものを不安にさせるような色であり、ゲンもその光弾の色に若干の恐怖を抱いた。
そして、ニウはその光弾をゲンの方に向けていった。


「まあ、あんたが本当に無実なら大丈夫だ。
それとそういえばこれを脅しと言ったっけ?

……おしいね。《強迫》だ!」


その言葉と共に、彼女の指先にあった光弾がはじけて、紫色の雷のようになりゲンに直撃した。
そして、それに直撃したゲンは思わず椅子から転げ落ちてしまった。
ゲンの頭に一瞬、様々な記憶が思い浮かび、渦巻いていくような気持ち悪い感覚に襲われる。
不思議とそれによる痛みや怪我はないものの、彼女がゲンに向かって呪文を放ったのは事実。
彼は彼女を睨みつけ、そして言った。


「貴様ァ!自分が何をしたのか……!!」


しかし、彼がセリフを言い終わらないうちに、彼の肩に《刃のブーメラン》が当り、彼の肩から鮮血が飛び散る。
そして、今まで座っていたニウが立ち上がり、倒れた彼の腹を力強く踏みつけた。


「……ゴホッ!」


そのあまりの強い踏み付けで、御世辞にも屈強と言えないゲンの体は易く傷付き、肋骨でも折れたのだろうか、彼はむせて吐血した。
そして、ゲンを踏みつけたまま、ニウが言う。


「……へーえ。
あんたが料金をごまかすために配達人を殺して、《終わりなき休息の器》を奪ったと。
ご丁寧に、その死体をゾンビに変えて、山中に放つことで証拠の隠滅まで。
なかなか用意周到なことで。」


彼女のセリフを聞き、ゲンは驚きを覚えた。
なぜなら、それが事実であったからだ。

ゲンは、自らが一流の魔術師であると考えていたが、そんな自身にも弱点があることを知っていた。
それはマナ不足である。
魔術を使うさい、絶対必要となるマナ。強い呪文であればあるほどそれは必要となる。
そして、彼が呼び出したいかの《悪魔》は自身のマナではとても足りないことが明白であった。

魔術を使いたくてもマナが足りない場合、解決方法はいくつかあるが、その多くは、彼がするには厳しいものが多かった。
時間をかけてマナを練ることはそもそも元々のマナが足りない彼にはあまり意味がない。
多人数で協力して呪文を唱えるには、彼には仲間がいない。ボッチである。
(彼曰く、自分に合うレベルの人間は早々存在く、こんな田舎町でいるなどあり得ないとのこと。)

そのため自然とマナが出て、魔術の使用を助けてくれるアーティファクト《終わりなき休息の器》を彼は欲した。
しかし、親を殺してまで奪った店にあった金は、数年間黒魔術のために目減りしてしまい、《終わりなき休息の器》を買うほどは残っていない。
そこで彼は、《終わりなき休息の器》をただで手に入れるため、一芝居打ったのだ。
そう、《終わりなき休息の器》を手に入れ、教団の配達員を殺し、その死体を隠蔽し、知らぬ存ぜぬと徹する作戦をである。
彼はこの作戦を実行するのに準備を怠ることはしなかったし、へまをしたつもりもない。
それがなぜばれたのか?


「貴様ァ!な、なにをでたらめなことを……!
証拠があるのか!!」


彼はあわてながらも彼女に尋ね、怒鳴りつけた。
そして、彼女は彼を踏みつける力を強くしながら言う。


「さっきの紫色の光弾の呪文な。
あれはお前の頭の中を覗く呪文なんだよ。
それであんたがどんなことをしたか見せてもらったよ。」


彼女はこちらを冷めた目で見ながらそう言った。
彼はその事実に驚きながら、ただただわめきたてる。
彼はその言葉を信じられなかったし、例えへ真実だとしても素直に肯定する気は全くと言っていいほどなかった。
そう、自身が綿密に立てた計画が、こんな小娘に、あんな一瞬の間に、呪文ひとつで、崩れてしまってはならないのだ!!

ゲンの怒りでゆがんだ顔を見ながら、ニウは彼から足を離た。
彼は素早く立ち上がり彼女から距離を取り、静かに息を整え始めた。
その様子を見ながら彼女は言う。


「……《教団》からは、あんたが料金の10倍払えば、今回の件を問わないそうだ。
でなきゃ今から私があんたを殺すことのなるけどどうする?
私は正式な《スカースダグ教団》の団員ではないから、特にあんたに恨みはない。
出すものを出せば、殺すつもりはないがどうする?」


彼女の言葉を聞いたゲンはただただ激昂した。
自分が彼女のような小娘に舐められたこと。
そして、《スカースダグ教団》も自分より彼女の方が強いと思っていること。
自分が知らない呪文を悠々と使う彼女、そしてその自分を歯牙にも掛けない態度。
その他もろもろ、彼のプライドに火をつけてしまった。


「ふざけるなああああああ!!!」


男は激昂して、彼女を殺すために、自らの僕を呼び出す呪文を唱え始める。
そして、そのような彼の様子を見つつ、彼女はあわてる様子でもなく溜息を吐きつつゲンの方を見据えた。


「……しゃーない。
ちょっともんでやるから、こいよ。」


そうして、黒魔術師ニウとはぐれ魔術師ゲンの戦いの火ぶたが切られた。




★★★★★★★★★★

《強迫》  (黒)

ソーサリー

対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分の手札を公開する。あなたはその中からクリーチャーでも土地でもないカードを1枚選ぶ。そのプレイヤーは、そのカードを捨てる。


「心配しなくていいよ。お前の秘密を全部奪うつもりはない。一番大事なやつだけさ。」
                ―――リリアナ・ヴェス


★★★★★★★★★★



★★★★★★★★★★

《灰口の猟犬》  (1)(赤)

クリーチャー — エレメンタル(Elemental) 猟犬(Hound)

灰口の猟犬がいずれかのクリーチャーをブロックするかいずれかのクリーチャーにブロックされた状態になるたび、灰口の猟犬はそのクリーチャーに1点のダメージを与える。

2/1

その燃える足を見つけることは容易く、真逆の方向に進むためにはこれほど役立つものは無い。

★★★★★★★★★★





――――――――――――――――――――――――――



ういっす。
早速追加で更新をしました。
さっそくですが、あやまっときます。


MTG赤使いの皆さんマジですいませんでした!!
この話は、主人公の特性上、《黒》が活躍することが多いストーリーです。
その上、少なくとも初めの方は、イニストラードブロックのカードが多めです。
もちろんできるだけ、いろいろなカードを出そうと心掛けますが、どうかご了承ください。


あと、簡単にアンケートです。
今回の話には、いくつかカードの解説もどきが多めとなっていますが、ストーリーやカードの解説は話中にあったほうがよいでしょうか?
もっと言えば、《マナ》とか《タップ》とか《クリーチャー》レベルで詳しい説明をした方がいいでしょうか?
ご意見をよろしくお願いします。



[34830] 1-3 後半
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2012/10/21 02:29
「はあ、はあ……。」

「はあ、さっさと降参してくれない?
私は黒魔術師だけど、無用な殺生はしない主義なんだよ。
……そうだ、今なら《終わりなき休息の器》と料金の5倍、いや3倍くれたら、私がお前のことを殺したって嘘の報告を教団にしといてあげるよ。
どうだ?」

「っつ!
何処まで俺を侮るつもりだ!!」

「って、いってもなあ。
ぱっと、頭を覗いた限りじゃ……。」

「くくっ、それ以上言うな。
今のこいつは、お前の言葉で揺れ動くような状態ではない。」


ニウはゲンの激昂している様子に、あきれつつなだめようとするもゲンの様子はかたくなに変わらない。
その様子をみて、肩にいる《チフス鼠》があざ笑う。

無論ゲンは降伏する気などさらさらなく、頭にあるのはいかに目の前にいる強敵、ニウを打倒すことである。

ゲンの頭は怒りに燃えながら同時に、自身の取れうる戦略を冷静に考えていた。
そして、勝つために、今までの状況を整理する。
自分が呼び出した、小悪魔、《煮えたぎりの小悪魔》は確かに強いとは言えない。
しかし、それはあくまで、小悪魔の中でということ。
それこそ、相手が女子供であったら何人相手にしても勝てるであろうし、相手が魔術師であっても、(自分のような)一流の魔術師でもない限りそう簡単には対処できないはずだ。

そして、そんな《煮えたぎりの小悪魔》よりも強い《灰口の猟犬》。
特に《灰口の猟犬》は、戦闘の際にその口から出される火球は、たとえ鎧を着てようと、相手を一撃で火だるまにし、殺害することができるのだ。

どちらも一撃で倒すこの女は、おそらく強さで言えば、アヴァシン教の《聖戦士》しかも《審問官》クラス、いや、下手をしたらそれ以上。
先ほどつかった、鉄製の投擲武器――彼はそれの正しい名称を知らないが――おそらく『アーティファクト』の武器に、それを悠々と使いこなす技量。
そして、自分の呼び出した異形を一撃で仕留めるような、呪文も使える。
その上、あの女の言うことが嘘でなければ、そう、自分の頭を覗かれたのなら、自身の取れる戦法がすでにばれてしまっているかもしれない。

明らかにこの女は、こんな田舎の町にいていいような強さではない。
つけ入るすきと言えば、あいつがいつでも自分のことを殺せるのに、それをせず、油断をしているということくらいである。

……いずれにせよ、そうなると取るべき戦法は一つ。
自身の最大火力で、あの女がわかってても防げないような攻撃であの女を倒すこと。
そう、自身の呼べる最大の《クリーチャー》を呼び出すこと。
しかも、今まで呼び出したことのない、あのお方、あの《悪魔》を呼び出すしかない!!
《悪魔》は強力な力を持つ(らしい)が、それを呼び出す術式、必要となるマナの量、どれも規格外である。
できれば、こんな機会ではなく、長期間かけてじっくり呼び出すつもりであったが、致し方がない。

ゲンはそう覚悟を決めると、立ち上がり、ニウの顔を強く睨みつける。


「……何考えているかは知らないけど、決まった?」


ニウの方は相変わらずやる気のない顔で、ゲンを見ている。
その態度に苛立ちを感じながら、ゲンはニウに向かって高らかに叫ぶ。


「ああ、きまった!



……貴様を殺す算段がなあ!!」



【ネタ】MTG転生物【TS転生物】 1-3 後半



「はああ……!!」


突然、雄たけびをあげ、そのまま力強く詠唱を始めるゲン。
その様子をニウはゲンの闘志がなえていないことを悟り、溜息をつく。
先ほどまでは、ニウの様子を観察しながら詠唱を唱えていたゲンだが、詠唱に集中しているのか、ニウの方を見向きもしない。
やけに力の入った言霊で、その詠唱が完成する。


「わが名に従いいでよ!暴虐なる悪魔の手足たちよ!!《暴動の小悪魔》」


その詠唱が終わるとともに、激しい爆音と共にそれは現れた。
彼らは、理性を持たぬ邪悪の化身。
それの笑い声は人々を不快にさせ、その行いに生産的なものは何一つとしてない、それが《小悪魔》という存在である。

彼らの容姿は赤い体表に長い耳、双角と《煮えたぎりの小悪魔》に似通っているものが多い。
しかし、彼らは明らかに《煮えたぎりの小悪魔》の小悪魔とは違うことが一目瞭然である。
その体格は《小悪魔》という名に反し、成人男性のそれよりも大きく、筋肉質。
口には鋭い牙がずらりと並び、頭には牛の物より、そして、《煮えたぎりの小悪魔》よりもはるかに立派な角が見える。
そして、最大の違いは、その《小悪魔》が『三匹』であることであろう。
そう、《暴動の小悪魔》は《一にして三》という《小悪魔》。
この《暴動の小悪魔》はゲンが今まで呼び出したことがあるクリーチャー中では、最も強い者なのである。

彼らは《煮えたぎりの小悪魔》や《灰口の猟犬》とは違い、炎を生みだしたり、火を吐くといった特殊な能力は持たない。
かわりに彼らの持つ武器はその強靭な肉体と、あふれんばかりの残虐性である。
呼び出された小悪魔らというには少々大きすぎる彼らは、あるものは叫び、あるものは手に持った棍棒を素振りして、暴れだせる時を今か今かと待ち構えていた。


「……へえ。」


《暴動の小悪魔》の召喚を見ていた、ニウは興味深そうにそれを見つめた。
そして、それらを打倒すための呪文を唱えはじめたが、ニウの肩にのっていた鼠がそれを遮った。


「……おい、契約主よ。
そう簡単に呪文ひとつで奴ら殺してしまうのは、少々もったいなくないか?
ここは、黒魔術の先輩として、目の前にいる男に格の違いを見せてやろう。
それに、どうせ《小悪魔》というのは、図体ばかりでかくて弱い奴らなのだ。
ならば、あいつらの生餌にはちょうどよくはないか?」


肩にのった鼠は、イイ笑顔でニウにそう言った。
その顔は、人とは違う顔でありながら、明らかに良くないことを考えているのが丸わかりである。
ネズミの言葉を聞きニウは、今まで唱えていた呪文の詠唱を止め、思い出したかのような顔をする。
そして、ニウは困った顔をしながら言った。


「……それもそうか。
となると下準備のため、別の呪文が必要だなあ。……めんどくせえ。」

「まあ、そういうな。
そういう細かい手間暇や配慮が、召喚主と被召喚者の良好な関係を築くのだよ。」

「へえ、初めての契約の時、真っ先に騙そうとしたお前が言うんだ。
まったく、どの口がそういうんだか。」


鼠の言葉に反発しながらも、先ほどとは違う呪文を唱え始めるニウ。
そのニウの様子は、まるで目の前に呼び出された《小悪魔》達が見えていないかのように、焦りなどは一切が見受けられなかった。

一方ゲンは、床に座り込み、できるだけニウから遠い位置の壁に背中を預け、息も絶え絶えである。
今か今かとゲンからの指令を待つ《暴動の小悪魔》の活発なさまとは対照的に、ゲンの顔は青白く、いつ倒れても不思議ではなかった。

それもそうである。この《暴動の小悪魔》はゲンが今まで呼び出したどの異形よりも、召喚に必要なマナが多いのだ。
これの召喚の困難さときたら、ゲンが初めてこれを召喚したときは、召喚までに約半年をかけ、実際に召喚をしたときはマナ浪費からの疲労から数日間寝込んだほどである。
いくら今回、マナ補助用アーティファクト《終わりなき休息の器》があったとはいえ、すでに今日唱えた呪文は三つ目。
彼のマナはとっくに切れかけており、倒れない方が不思議なのである。

しかし、それほどの疲労であろうと、ゲンは倒れない。
そう、今まではこの強力なクリーチャーである《暴動の小悪魔》をよびだし、使役できただけで満足だったが、今回は違う。
おそらく、目の前にいるこの女には、この《暴動の小悪魔》でさえ敵わないであろう事をゲンは悟っていた。
そして、ゲンは、あらんかぎりの力を込めて叫ぶ


「《暴動の小悪魔》たちよ!!
目の前にいる女を殺せ!!俺に近づけるな!!

今から俺はかの御方を呼び出す!!奴の指一本俺に触れさせるなぁぁぁ!!!!」


その声が発せられるや否や、《暴動の小悪魔》は一斉にニウに向かって突撃していった。
あるものはその爪を振り上げ、あるものは床に落ちていた椅子を振り上げ、人とは違うその荒々しい鳴き声を上げてである。

そう、ゲンにとって一見恐ろしくも頼もしいこの《小悪魔》、今回ばかりは壁で囮、
いわば、『時間稼ぎ』である。

ゲンが考え、召喚したことがあるクリーチャーの中で最も時間稼ぎに適したのがこいつである。
彼が推理するに、目の前にいる女―ニウが得意とする魔術は、おそらくは『衰弱』の魔術であろう。
ゲンは文献でしか読んだことがないので実際にどのような物かは今回見たのが初めてである。

本によると、衰弱の魔術は黒魔術ではわりと一般的であり、物理的攻撃では殺しにくい、《再生》力のウーズやスライム、スケルトンであっても相手を腐らせたり、病気にさせることにより殺し尽くすことができるらしい。
その反面、ドラゴンや狼男と言った元から強い生命力を持つクリーチャーには効果が薄く、殺しきれないという欠点を持つそうだ。
そういう場合、その黒魔術師は、衰弱の魔術で弱った敵を殺すため、とどめに別の手段を持っていることが多いらしい。

以上の情報から、ゲンは推測する。
目の前にいる女は『衰弱』の魔術を使い、とどめに《刃のブーメラン》を使うといった戦闘スタイルだと考えるのが妥当だ。

その点《暴動の小悪魔》は特殊な能力は持っていないが、その生命力の高さはかなりの物。
こいつらなら、あの女の『衰弱』の呪文に耐えきれるはず!!

そう、そうして稼いだ時間でこの呪文を完成させ、あの《悪魔》を呼び出せばいい。
《悪魔》は《小悪魔》とは比べ物にならないほど強力な生命力の持ち主。
彼ならば、あの小娘の使う《衰弱》の魔術など歯牙にも掛けず、一方的にあの小娘を殺すことができるはずである!!

ゲンの考えがまとまったその瞬間、ちょうど《暴動の小悪魔》達が彼らの獲物に向けて攻撃をふるう。
そして、運命の瞬間、《暴動の小悪魔》の攻撃がニウに届くか届かないかの瞬間、ニウの呪文は完成する。


「……《死の重み》」


その呪文により、ニウの体から放たれた紫色の魔力が《暴動の小悪魔》の体に纏いつく。
ニウの呪文の効果により、《小悪魔》は眼には見えない何かに押しつぶされるかのように、皆倒れ伏してしまった。
そう、《小悪魔》の爪はニウには届かなかった。


「(……っつ、やはりこうなるか。
だが、目的は達成したぞ!!)」


《暴動の小悪魔》は《死の重み》の呪文により、その身を床に預けていたが、彼らは何と、再び立ち上がったのだ。
その顔は未だ闘志にあふれ、ニウを殺さんとギイギイと喚き立てている。
そう、《小悪魔》達はニウに攻撃はできなかったものの、ニウの呪文を耐えきったのである。


「(よし、これでこちらからは攻撃できないものの肉壁は残った。
こいつらで時間を稼ぎ、呪文を完成させる。)」


ゲンの考えている通り、《小悪魔》達の足取りは、病人のようにふらふらしており、今彼らが攻撃しても、ニウに傷を与えられないどころか、まともに当てる事すら厳しいであろう。

しかし、かれらの大きい体は壁になり、このような狭い室内に、三体もいるのでゲンに向かって直接《刃のブーメラン》を当てるのは困難。
ゆえに彼女は《暴動の小悪魔》を殺してからでないと彼には攻撃できない。
だが、ゲンが考えるに、ニウが《小悪魔》達を殺すには、もう衰弱の呪文を《暴動の小悪魔》に唱えるか、三度《刃のブーメラン》を投げる必要がある。
いくら彼女が強大な魔術師と言えども、もう一度呪文を唱えたのなら、マナ不足による疲労を見せるはず。
仮に《刃のブーメラン》でとどめにさすにしても、あのような近距離で、しかも三体同時に仕留めるのは至難の業。

どちらにせよ、自分が唱えようとしている呪文の時間は十分に稼げる!!
そう、ゲンは考えていた。

だがしかし、現実はとことんゲンにとって厳しかったようだ。


「……《貪欲なるネズミ》に《チフス鼠》達。さあ出ておいで。
餌の時間だ。」


何時の間にやら別の呪文を唱え始めていた、ニウの呪文によりそれは現れた。
彼女の右手からは発せられる黒いマナにより、そのからは人の靴ほどの大きさの灰色のネズミがぼとぼとと落ち出ていく。
反対に彼女の左手から発する紫のマナは、右手のそれより小さい浅黒いネズミが、右のそれとは比較にならない速度で召喚されてゆく。
そう、ゲンの予想に反し、彼女は再び『衰弱の呪文』を唱えるのではなく、《鼠の召喚の呪文》を唱えたのであった。

わざわざ黒魔術を使って呼び出したクリーチャーが《鼠》というのは、《吸血鬼》、《狼男》、《ゾンビ》と化け物ぞろいの【イニストラード】では、一見心もとなく感じられるだろう。

ゲンも彼女が《鼠》を召喚し始めたのを見て、多少彼の予想とは違ったものの、彼の中で【彼女は衰弱の呪文以外にまともな呪文を唱えられないで】という仮説を立てて、時間稼ぎの成功を確信し笑みを浮かべた。


ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと


……しかし、その仮説は間違いであることをすぐに彼は悟った。
その鼠の数は、初めは、彼女の足元をうろつく程度の数であったそれは、瞬く間に彼女の腰あたりの高さまで山を作るほどになった。
そのあまりの鼠の量に、彼は一瞬我を忘れていて、彼が《悪魔》を呼ぶ詠唱を止めなかったのは奇跡であった。
そのあまりの光景に、彼の意識は薄れかけ、召喚した小悪魔達も、その鳴き声を止めてしまっている。


「……ん。これくらいでいいか。」


彼女がそう言うと、彼女の両手からマナの光が途絶え、ネズミの召喚が止まった。
ゲンが我に返った頃には、部屋の半分はその二種類の鼠で覆い尽くされていた。
それらは一様に、ウゾウゾと動き回り、そこかしこから甲高いチューチューという鳴き声が聞こえる。
それらの眼は、彼女の肩にのっている《鼠》とはちがい、理性の光の感じられない野生の眼をしていた。

ニウが咳払いをすると、今までばらばらに動いていた鼠が一様に動きを止め、いっせいにゲンたちの方を見る。
何千何百もの《鼠》も瞳にさらされたゲンは、自分の背中に冷や汗がたれているのを感じる、手にも今まで掻いたことがないくらいの汗が握られていた。

しかし、ゲンにとって、その鼠以上に恐ろしいのが、これ程の大量の《鼠》達を召喚しながら汗ひとつ掻いていないニウであった。

彼女は動くことすらままならない《小悪魔》達とゲンを指差し、肩にのっている《鼠》と共に言う。


「「さあ、いけ。」」


そして、その掛け声とともに、その黒い絨毯となっていた鼠の集団が、《暴動の小悪魔》達を襲いかかる。
ネズミたちが《小悪魔》達の足元まで来たかと思ったら、あっという間に三匹とも転倒させられ、その身は《鼠》の群れの中へと埋もれてしまった。

その中から聞こえるのは、ネズミの歓喜の声、肉の千切れ、骨が削れる音。
そして、あれほど頼もしく聞こえた《小悪魔》の咆哮は、今やくぐもり、悲鳴に変わり、それさえも弱くか細いものになっていった。
もし仮に《小悪魔》たちが万全の状態であったら話は違ったであろうが、今彼らは《死の重み》の呪文を喰らい、まともに反撃、いや、逃走すらできない状態である。
あえて彼らの抵抗する力を取り除き、生きたままネズミに貪り食わせるさまは、いっそ殺してからネズミの餌にした方がまだ慈悲深く見えるほどえぐいものであった。

ネズミに埋もれた《小悪魔》の体積が半分になるころには、《小悪魔》の声が消え、もはやネズミが発する音のみとなり、数分もしないうちに小悪魔がいた痕跡はなくなってしまった。


「さて、これでいいか。」


ニウがそういうと、今まで小悪魔がいたあたりに固まっていた鼠たちが、一斉に次の獲物へと視線を向けた。
あらゆる意味で追い詰められたゲン。
目の前で起こった悲劇への恐怖の為か、彼が《悪魔》召喚のために唱えている呪文の声は、初めは力強いものであったのに、今ではか弱く、頼りないものとなっている。
自分の状態と彼女の余裕ぶりに、ゲンの心は折れかけ、呪文に込めるマナも尽き掛けていた。
ニウはゲンの方を見やり、今までとは違う力強く、はっきりとした声で言った。


「最後の警告だ。

あきらめろ。

お前では私に勝てないよ。」


ニウの言葉はどこか諭すような口調であり、その眼は今迄のゲンを侮るような眼とはまた違っていた。
ゲンはこのような目で見られたことが過去にあった。
そうだ、あの時の眼だ。


「(違う、ちがう。
そうじゃない。
俺は天才なんだ。憐れまれるような人間ではない!!)」


ゲンはニウの眼を見て思い出す。


「(そうだ!あの時だ!
初めて黒魔術が成功したとき!両親が俺に向かってバカなことを言った時に眼だ!!)」


ゲンは幼い時から、いつも両親と比較されて育った。
周りから言われることは、大抵『両親ように立派になれ。』『君の両親は素晴らしい人だ。』『もっと両親を見習え』というようなことであった。
彼自身あまり商才がなかったのも、原因であろう。
彼は次第にどんどん周りから馬鹿にされていった。
それ故、彼はほかの人との交流を嫌っていった、『なぜもっと自分を見てくれないのか』、『自分は両親の付属品ではないのに』。
そのような中、彼を認めてくれるのは、皮肉にも原因である彼の両親だけであった。
両親だけがいつもこういってくれた。
『あなたはあなた。』『あなたはもっと私達にはないような、別の才能を持っているはず』『自分の好きなように生きなさい。』
その言葉を支えにして、彼は生きていった。

そんなある日、彼は父が取引をしている商店が変わった本を手に入れたので、それを両親に売ろうとしているのを見つけた。
両親はその内容を理解できなかったらしく、単に汚らわしい内容の本だとして、突き返していた。
しかし、こっそりとその本の内容を覗いていたゲンは、その本がただのおぞましい内容の本だとは思えず、両親に秘密でこっそりとその本を購入した。

そして、彼は理解した。この本が魔導書であることを。

彼は喜んだ。
そう、これだったのか。これこそが自分の持ちうる才能。
両親はこの本を理解することができず、自分のみがこの本の内容を正確に理解することができた。
この本に書いてある魔導を熟知することができれば、今まで自分を侮っていたやつ全員見返してやることができる、そして、両親にも……。
それからという物、彼は日夜その本について研究を重ねた。
その必死な様子は、両親を不安にさせたようだが、彼自身特に気にしていなかった。

そして、研究がひと段落したとき、彼は自身の研究成果として《小悪魔》の召喚をして、それ親に見せた。
もちろん彼は両親にそれを見せるかどうかは大きな葛藤があった。
もしかしたら自分という存在を親に恐れられるかもしれない、黒魔術に手を染めた自分を汚らわしく思われるかもしれない。
しかし、結果として彼は《煮えたぎりの小悪魔》を両親の目の前で召喚した。
だが、彼の行動に対する両親の反応は彼の予想に反した者であった。


「(……よくも思い出させたなあ!!)」


ゲンの脳裏に、はっきりと彼が両親を殺した時の興奮がよみがえる。
それと共に、今まで枯れかけていた彼女への闘志がよみがえり、呪文も力強いものへと変わった。
今まで壁に寄りかかっていた体を起こし、震えた足で立ち上がる。
彼に呼応するかのように《終わりなき休息の器》の灯火が高く燃え上がり、体にマナがあふれるのを感じる。
今までに感じたことがないほどのマナを感じる、いまならどんな魔術でも行使できると確信する。
そして、あらんかぎりの力を込めて叫ぶ


「我は汝を力を欲する者!!犠牲を払いて召喚する!!《灰口》に潜みし《小悪魔》達の主、《灰口の悪魔王》!!」


彼の後ろの空間が割れ、そこからは赤い灼熱の光景が見え、強い硫黄のにおいが漂う。
その空間のふちに手を掛け、火の粉と共に、大人の胴ほどもある腕が伸びる。
家の柱ほどある鉄斧をその手に携え、その背に生えるは薄く焦げたかのような煤けた黒い翼。
その身を灰で汚れた黄金の鎧で纏い、その頭は牛頭骨のような形をしており鋭い角と焼け焦げた鬣が見える。
《灰口の悪魔王》。
ゲンの呪文によって呼び出された《悪魔》である。

《悪魔》はこのイニストラードにおいてですら、めったに見れるクリーチャーではない。
それこそ多くの人々は彼らのことを《おとぎ話》の存在だと思っているだろう。
しかし、当然それは間違い。
彼らはこの世界の地下奥底に存在し、《灰口》と呼ばれる火山の火口のような、火に覆われた地獄との出入り口を利用し、太古から人々と秘密裏に交流してきた。
その強さは、《小悪魔》などの比にはならず、その賢さを持って《黒魔術》を流布し、人間の堕落と衰退に大きく貢献してきた。

呼び出された《灰口の悪魔王》のその威圧感は凄まじく、召喚主であるゲンでさえ思わず平伏してしまいそうになる。
実際にその威圧感を受けてしまっている《鼠》どもはさっきまでの騒ぎっぷりはどこえやら、皆一様に静まりかえ、わずかに震えているのが分かる。


「くっくっくっ……、はっはっはっ
クーハッハッハ!!
できたぞ!できたぞ!
やはり俺は天才!とうとう俺は≪灰口の悪魔王≫の召喚に成功したぞお!?」


デンは上を向きながら、そう高らかに叫んだ。
そう、彼は心の何処かで自らの力では、≪灰口の悪魔王≫を呼び出すことが不可能ではないかと疑っていた。
彼は一族代々魔術師という訳ではない、単に偶然黒魔道書を読めただけの人間である。
体内に存在するマナも足りない、特別なアーティフアクトも持っていない、金もなければ、捏ねもない。

もしかしたら自分は[井の中の蛙]なのではないか。
自分はとるに足らない、[残念な子]なのかもしれない。
いや、《黒魔術》に踊らされて『親殺し』までさせられた、ただの愚か者なのではないかと。

しかし、ゲンのそのような後ろ向きな考えは《灰口の悪魔王》のその威圧感を肌に感じればわかる。
そんなことはないんだと。
なぜなら、自分はこのような力強い《悪魔》を召喚することができるのだから。

彼は《灰口の悪魔王》の召喚の成功による、昂揚感をそのままに、それに命令を下す。


「さあ、いけ!《灰口の悪魔王》よ。
貴様の力を見せつけろォォォォ!!」


そう言いながら、ゲンは意気揚々にニウを指差す。
だが、彼の高揚感は彼女の眼を見た瞬間、溶けて消えてしまった。
その眼に浮かんでいるものは、《灰口の悪魔王》への恐怖ではないし、人を嘲り笑うような微笑でもない、そして両親が自分に向けたような眼ですらない。
悲しいような、こちらを慈しむような……。
刹那の間、ゲンには時間がゆっくりに感じられ、ニウの口が動くのがはっきりと分かる。


【バイバイ。】


それは親友を見送るかのような、別れを惜しむかのような短くもはっきりとした言葉。


「(美しい……。)」


それがゲンの脳裏に浮かんだ最後の言葉であった。








室内に、ぼりぼりという咀嚼音がし、床には大きな血だまりができている。
ニウの右手には紫色の魔力光が見え、彼女は先ほどゲンによって呼び出された《灰口の悪魔王》をじっと見据えていた。
その《灰口の悪魔王》というと、その口にはやせ形の男の姿、そう、ゲンの亡骸がその口には合った。
自らを召喚した召喚主を食べ終え、《灰口の悪魔王》はニウの方を向く。


「……ほお。
その顔を見るに、おぬしは儂の召喚に生贄が必要なことを知っていたな。
ならば、何故こやつには教えてやらんかったのか?」


そう言いながら、《灰口の悪魔王》は口を開け、自分の口内を指差す。
その口内は、まるで闇が広がっているかのように、漆黒であり、一切のものが見えなかった。
ニウは、油断なく《灰口の魔王》を見据え、右手を向けながら言う。


「どうして、自分を殺そうとする奴にそこまで教えてやる必要が?
それに、教えてやってもそれを信用したとは到底思えなかったし。」

「ふむ。それもそうか。」


その答えを聞いた《灰口の悪魔王》とニウの肩にのっていた《鼠》が大きな笑い声をあげた。
あまりの五月蠅さにニウは《鼠》に「うるさい」というものの、どちらも止まる気配がなかった。

黒魔術の多くは強い効果を持つ反面、その使用者に何か犠牲を求めるものが多い。
たとえば血、たとえば記憶、果てには魂までもである。
その中でも最も一般的であるのが《生贄》である。
そう、《灰口の悪魔王》の召喚には《生贄》が必須であり、ゲンはそれを用意していないがゆえに喰われた。
彼がそれを知らなかったのは彼が魔導書を理解しきれるほど賢くなかったからか、もしくはその魔導書にそこまで書いていなかったからなのか、今となっては不明である。


「それでこれからどうするつもり?
おとなしく、元いた場所に変えるのなら何もしないけど、殺すつもりならこちらにも考えがある。」

「ふむ、この程度の音でギブアップか?
軟弱だぞ。我が契約者よ。」


一通り《悪魔》達が笑い終えた後、ニウは静かにそう言った。
しかし、その反面《鼠》はニウのまじめな様子に茶々を入れ、一方の《悪魔王》も笑いながら顎に手を当て、二種類の鼠の群れを見た後、ニウの方を、そしてその《呪文》を見据えながら軽い口調で言った。


「ふむ。お前のような強気な女を殺すというのは、なかなか興が乗るが……。

ふむ、今回は分が悪そうだ。やめておこう。」

「まあ、こいつ、実は男女だがな。」


度重なる《鼠》の茶々入れに業を煮やしたニウが、空いた手で肩にいる《鼠》を叩き落とそうとするも、するりと躱された。
それと共に、ニウはひそかにほっと息を吐いた。

《悪魔》と言う種族は隙あらば人をだますため油断ならないが、ひとまず殺り合う事はなさそうだと。
彼女の右手にある呪文は、彼女が使える呪文の中でもことさら強力な物である。
とはいえ、彼女は目の前にいる《灰口の悪魔王》が《不死》であることを前世の知識で知っている。
もし前世の知識すべてが正しいのなら、《不死》と言えども、その実二回連続で殺せば完全に殺しきることができるのだが、いまここでそれが真実であるかどうかを試す気は到底ないというのが彼女の本音であった。
しかし、そう言ってからも《悪魔王》は一向に消える気配を見せず、ニウを見つめながら、何やらぶつぶつと独り言を言っている。


「……帰らないのか?」


ニウは《灰口の悪魔王》に向かっていぶかしげに尋ねた。
声を掛けられた《灰口の悪魔王》はその場で大きく手を叩く。
そしてその顔は、骨であるのになぜか楽しげに見える。


「うむ!決まった。
既に別の悪魔とも契約しているようだが、ここで出会ったのも何かの縁。
どうだ、わしと《契約》しないか?」

「はあ?」


そして、やけに間の抜けた声が《アモス商店》内にコダマした。





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・・・・・・・・
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・・・・
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日は進み、三日後の早朝。
ニウとデアは再び、初日に来た酒場兼飯どころの店に来ていた。


「いや~、まさかここ以外どこも閉まっているなんてねえ。
まあ、ここの飯はうまいから全然文句はないけど」

「そもそも、こんな早朝にあいてる店の方が珍しいだろう。」

「ははは、今日は仕込が早く終わっていてな。
運がよかったなあ、嬢ちゃんたち。」


店内では、店主とニウの話しが盛り上がる
この村に滞在する最終日、事前に宿屋の方ではなく、せっかくの旅先なのだから、どこかの店で食べようとニウは提案した。
が、出発は早朝、そのため開いている店はほとんどなく、偶然この店がだけが運よく空いていたのだ。


「せっかく、また来てくれたのにベンのやつも運がねえなあ。
後で話してやろう。
きっと悔しがるだろうな。」

「いやあ、さすがに今回は前回みたいに宴会を開くつもりはないし、酒をおごってあげる事もないよ~。
こんな朝から、しかも旅立ち前にお酒を飲むほど図太くないしね。」

「……あいかわらず、この嬢ちゃんは。
まあ、いっか。」


どこか的外れなニウの答えに、微笑する店主。
会話の一連の流れを、なぜかむっつり顔をして聞いていたデアは、流れが一段落付いた時にニウに向かって話しかけた。


「そういえば、結局ニウは《アモス商店》を訪ねたのか?
四六時中、街中を巡ってたようだが。」

「……ん~。
それが初日の昼間に一度訪ねたけど、無視された。
居留守だか、本当にいなかったかはわからんが。」

「って、嬢ちゃん、あんた俺の忠告を無視したのかよ。
まったく、いい根性してるぜ……。」


食事を食べながら、一瞬答えに詰まったものの、いつもと変わらない調子で答えるニウ。
そして、店主は忠告をしたのに無視されたことに対して、怒りよりもむしろ呆れが浮かんでしまった。
しかし、それもつかの間、店主は突如真剣な顔になり、宙を見ながら静かに語った。


「……昨日、奴の家に《アヴァシン教会》の《審問官》が訪ねたらしい。」


彼はニウ達の方とは逆の方を向きながら、淡々としゃべり続ける。


「結局、ゲンのやつは見つからなかった。
だが、店の中は、それはひどいものだったらしい。
燃え焦げた室内に、壊れた家具。
残りわずかな資産に、多数の血だまり。
そして、大量の《ネズミ》に食い荒らされたかのようなびりびりの書籍、怪しい魔導書、不浄なアーティファクト。
とどめに倉庫にあったのは、ギャザとメリーの亡骸だそうだ。
明らかに何かあったのはわかるが、ゲンが黒魔術を行使した証拠やゲンの行方は分からなかいそうだ。
幸い、ギャザとメリーの亡骸はきれいなままで、《アヴァシン教会》の《審問官》が直々に《司祭》に頼んで、立派な墓を作ってくれるらしい。」


店主の体が震えているのが分かる。


「けど、けど、どうしてこうなっちまったんだ!!
ギャザとメリーは立派ないい奴らだった!
ゲンだって、商才はなかったが、親にべっとりだったが、それでも根はよく、親思いの奴だった!
何がおかしくてこうなっちまったんだ!!」


店主の眼から涙がこぼれ、その手は強く握られ、小刻みに震えてるのが分かった。
口は強く閉じられ、その顔には無念の表情が浮かび上がっている。
デアは、その店主の悲しげな背中を見ながら静かに言う。


「……祈ろう。」


デアは首元にある《アヴァシンの首飾り》を握り、ニウも食事の手を止める。


「ギャザとメリーの両名が《祝福されし眠り》につけることを。
そして、ゲンに《大天使アヴァシン》の加護があらんことを。」


デアはそう言うと、静かに手を組み、目をつぶり、静かに呟く。


「どうか、彼らが大地で永遠を過ごしますように……。」


彼が《イニストラード》特有の祝福の言葉を言い、静かに祈った。
それに従い店主が、そして、ニウも静かに手を組んだ。


……どうか、貴方がたが大地で永遠を過ごしますように


次元世界【イニストラード】
銀の月が浮かぶ、恐ろしき夜の狩人たちが住まう世界。
心弱きものから消え、真の強者のみが生き残る美しくも残酷な世界。
そして、この世界では、このような事件、日々起こっている在り来りな悲劇の一つにすぎないのであった。





★★★★★★★★★★

貪欲なるネズミ  (1)(黒)

クリーチャー — ネズミ(Rat)
貪欲なるネズミが戦場に出たとき、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを1枚捨てる。
1/1

このネズミらにとって敬意を表すべきものなんか何もない。 何を見てもエサだと思うんだから。

★★★★★★★★★★


★★★★★★★★★★

灰口の悪魔王  (2)(黒)(黒)

クリーチャー — デーモン(Demon)
飛行
灰口の悪魔王が戦場に出たとき、あなたが他のクリーチャーを1体生け贄に捧げないかぎり、それを追放する。
不死(このクリーチャーが死亡したとき、それの上に+1/+1カウンターが置かれていなかった場合、それを+1/+1カウンターが1個置かれた状態でオーナーのコントロール下で戦場に戻す。)
5/4

★★★★★★★★★★




――――――――――――――――――――――――――――


真エキスパッション『ラヴニカへの回帰』が販売されましたね。
先日、それで対戦しました。
早速更新しました作者です。

多くの感想、実にありがとうございました。
感想はすべて読ませていただいてますし、アドバイスも参考にしていきたいと思っています。

正直、この小説を読んでる人の多さにびっくり。
そして、なにより[MTG]を知らないのに、わざわざ読んでくださる方の多さに二重にびっくりしております。

この小説の目標の一つとして、「MTGの面白さをもっといろんな人に広げたい。」「知ってる人、知らない人どちらも楽しめる物を書きたい。」という物があるので、この事実をとてもうれしく思いました。
少しでも《MTG》について、興味を持った方は公式サイトなどを調べてみてください。
カードの絵とテキストを確認するだけでも結構時間がつぶせます^^


さて、次回は間幕、いわば日常+解説回になる……
まえに、MTGが分からない人向けの、もっと簡単な解説になると思います。


おそばせながら、今回の文章には独自解釈やオリジナルな要素、最強物要素等が含まれています。
以上の要素が嫌いな人はご注意ください。




『おまけ』


俺「6パックシールド戦やろうぜ。(その場で開けた6パックだけデッキを組み、で対戦する遊び方)」

友1、2「「おk」」

友1「あ、神話レア出た。」友2「俺も。」
(神話レア=レアの中のレア、1パックにつき1つ入っている、ただのレアとは違いめったに入っていないレアカード。だいたい6,7パックに一個出る)

俺「マジ?」

友1「あ、レアfoilでた。」友2「あ、俺は神話foilだ。」
(foil=通常とは違って光ってるカード。やっぱり1パックにつき一個入ってるとはry。そして、6,7パックにry。foilはカードの内容は完全ランダムの為、それでレアが出るのはすげえ珍しい。ましてや、有用で神話レアのfoilとなると……。)

俺「oh……。」←どれも普通のパック+決定打のカードなし。





[34830] 1ー4 幕間
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2012/11/01 17:40
《ガヴォニー》


そこは【イニストラード】にある四つの州のうち、最も安全とされる地域。
《アヴァシン教会》の巨大な聖堂が鎮座する世界の信仰の中心地であり、偉大なる《大天使アヴァシン》が統括している、この世界で最大の都市《スレイベン》がある。
そして、州の最北に位置する《スレイべン》、そこから放射状にほかの都市や村、岩が多めの荒野が広がっている。

さて、その《スレイベン》から南西に位置する地域、教区《ウィタール》、そこの存在する小さな都市『タジイ・エムオト』。
都市の横には大きな森林が広がっているため、《ガヴォニー》において珍しく、ゾンビやスピリットの被害よりも狼男による脅威の方が強いという変わった地域である。
都市の周囲には狼男対策のアヴァシン教司祭の保護呪文が掛けられた木製の砦、彼らを見張るための高見矢倉が存在する。
住民の多くは商人と職人、次に農民という風体であり、わずかに他の職業がいる。
さて、そんな都市にある、少し古い一軒家に彼女らは住んでいた。

今、その家は一見ほかの家同様、明かりが消え、中の住人は寝静まっているかのように思えるかもしれない。
しかし、今現在、中にある部屋の一室に彼女は座っていた。
その部屋は、周りを木と石畳でできており、所々の壁に土が見える。
部屋にあるのは、大きな鍋、さびた鉄製の護符、机の上にある大きな水晶玉。
ここまでは良い。
しかし、これら以外に、青色の灯を上げる《終わりなき休息の器》、机の上の黒い表紙の魔導書、がたがたと動く木箱、天井の柱の上にいる大きなネズミ、赤く黒く染まった祭壇、とこの部屋には間違いなく『何か』ある、誰だってそう思うだろう。
さて、そんな不気味な部屋の隅に位置する、大きなかごの前に彼女はいた。

先日身に付けていた黒いローブを身にまとい、その右手にはナイフを持ちながら、その顔を部屋の中央へと向ける、表情からは冷たい印象を受ける。

彼女は表情を一切変えないまま、目の前にある、赤黒く染まった祭壇に近づいていく。
そして、その祭壇は、明らかにまっとうな物でない。
祭壇の横には何かの頭骨が飾られた杖、それの囲むかのように、床には見たことのない、不気味な文字が羅列されら円、魔法陣がある。
祭壇の上の左右の端には蝋燭。
それだけではない、右に縁が黒曜石でできた鏡を、左には先の鋭く太い角、《悪魔の角》。
そして、その祭壇の中央には、なぜかピクリとも動かないウサギが横たわっていた。
眼が開いているため、寝ているわけではないだろうし、呼吸をしていることから死んでいるわけでもないだろう。


「………力を、知力を、混沌を」


そう言いながら彼女は、彼女はそう言いながらナイフを両手で握り直し、頭上へと振り上げる。


「……ん。」


彼女は手に握っているナイフへと力を込め、同時にナイフが薄暗く発光をする。
彼女が放つ言葉が増すごとに、その光は、初めは薄明り程度であったが、次第に部屋を照らすほどに強くなり、ついには部屋のどの灯りよりも明るくなった。


「我、汝にこれを捧ぐ!《祭壇の刈取り》

……ごめんね。」


その言葉と共に、彼女は手に持った怪しく輝くナイフを動かないウサギに向けて振り落した。
それは一瞬の出来事であり、そのナイフをウサギの頭と銅の間、つまりは首に向かって真っすぐ着き刺した。
その一撃により、ウサギの声なき悲鳴が発せられ、たった一刀のもとでその首は切断された。
最後に一度大きく体が跳ね、そのウサギの魂は2度々帰らぬ物となった。
ウサギの血を吸ったナイフは、より一層その光を強め、それに共鳴するかのように祭壇の横にある、《悪魔の角》が微かに震え、光を放つ。
その光はどちらも強くなり、《悪魔の角》の震えは祭壇の上から落ちんばかりの勢いだ。

だが、この光景の異様さが増すのはこれからであった。
なんと、ナイフが突き刺さっているウサギの亡骸は、まるでナイフに飲み込まれるかのように、その身を干からびさせて、パキパキと骨の砕ける音と共に、その身を委縮させていく。
初めは、人が抱えるほどの大きさだったウサギは、今ではその身を半分にまで減らし、とうとう血の一滴すら残さずにこの世にいた痕跡を消し去った。

そして、ウサギの亡骸が消えたと同時に、《悪魔の角》から放たれる光が、最高潮に達し、そこから黒い靄が現れる。

はじめは亡霊のように、ただただ中を浮かぶだけであったそれは、次第に形を変えて特定の形をかたどっていく。
煤けた巨大な羽、巨木の如き腕、立派な牛頭骨、そう、それは先日ニウが対面した悪魔、《灰口の悪魔王》であった。
しかし、あくまでそれは形だけであり、靄でできた体、形のはっきりしない下半身、なによりその威圧感は、以前現れた時よりもかなり弱いことが分かるだろう。
そう、まるで《悪魔》の亡霊であるかのようにだ。


「……汝、我に何を求む?」


その黒い靄でできた《灰口の悪魔王》はその低い声で、ニウに尋ねる。


「黒魔導の知識を。更なる黒き力を。」


ニウはそう黒い靄に向かって力強く叫んだ。
結局あの後、かなり限定的ながら、彼女はこの悪魔とも契約をした。
彼女がこの決断に対して、様々な葛藤があったのは確かであろうが。
彼女の言葉を《灰口の悪魔王》は言う。


「………。つまらん。」

「はあ?」


その言葉によって先ほどまで室内に漂っていた、緊迫した雰囲気はどこへやら。
あんまりな一言に、ニウは思わず呆然としてしまった。


「正直、あまりに無難すぎる。
しかも、儀式一つ間違えていないとはどういうことだ。
最小限のリスクに、最大限のメリット。あまりに無難すぎる!
せっかく一つでも儀式を間違えれば、腕一本でも持っていこうと思っていたのに、これでは計画が台無しではないか!!」

「っつ、たく……。」


《灰口の悪魔王》は「つまらん、つまらん」と愚痴をこぼし、天井でこちら見つめていた《ネズミ》、いや、彼女と一番初めに契約していた《悪魔》が笑う。
ニウはあまりの《灰口の悪魔王》の言いぶりと、天井にいる《ネズミ》に、頭が痛くなるのを感じる。
そう、悪魔とは元来こういうやつなのだと自らに言い聞かせる。

黒魔術は、他の魔術と違い、容易に力が手に入ると思われているが、無論そんなことはない。
悪魔との交渉は面倒くさく、失敗したときのリスクは馬鹿にならないほど高い。
さらに、この世界において、黒魔術は禁止されているせいでそのための媒体や材料となるものが一般の市場にはまず流通しない。
さらに言えば、この部屋の異様ともいえる、不気味さ。
これは部屋にある、悪趣味な小道具や不気味な雰囲気は、すべて、室内に集まるマナを【黒のマナ】にするためのものである。
彼女は、不完全ながらも魔術を使う際に自身のマナだけではなく、大気に漂う土地のマナを使うことができる。
ゆえに、本当なら、【黒マナ】が自然発生しやすい【沼地】で魔術を行使するのが最も効率良い方法だろうが、さすがに自宅の一部を沼地にする気はない。
この部屋はせめてものというために、このような悪趣味な部屋となってしまったのだ。
(そもそもニウは、この部屋の内装からしてあまり好きではない。)

そう、今回の呪文である、《祭壇の刈取り》という魔術もそうだ。
この呪文は、それを成功させる事自体は詠唱も短く簡単ではある、効果もで契約している《悪魔》から、その力の一端を分けてもらうという儀式である。
そして、その力の一端とは、悪魔から魔導の知識、または道具等をもらえるというもの。
この儀式魔術に要求されるマナの量も少ない、この世界の黒魔術の中ではわりと使いやすい物と言えるであろう。
しかし、この呪文には『生贄』が必須という条件があり、しかも、この呪文で『体力回復』や『不老不死』と言ったものを頼むのは不可能と、思った以上に制約が多い魔術なのである。


「いいから、さっさと魔術の知識をよこせ。
紙媒体でも、頭の中に直接叩き込むでもいいから。
ただし、それ以外のことや、変に難解にすることはやめろよ。」


それにこの呪文において、最大のネックは悪魔との交渉の難しさだ。
一応、事前の契約である程度、様々なことを決めているとはいえ、できるだけ悪魔に付け入る隙は与えてはならない。
これは、ニウが長年悪魔と付き合ってきて学んだことの一つであった。
もしここで、最後の一言が抜けていたら、魔導書と称して、部屋いっぱいに卑猥で無駄なことが大量に描かれた紙屑が置かれる可能性すらあるからだ。
まあ、事前契約のおかげで、彼女が多少のミスをしたとしても、そのような嫌がらせで済むと言えば安いものだが。


「ふむ、ならば儂おすすめの魔術を教えてやろう。
この魔術を使えば、おぬしは万人に恐れられる存在となれる。
どうだ?今ならその魔術の実戦として、おぬしにかけてやるというサービスまでするぞ?」


《灰口の悪魔王》はそう言いながら、指を立てて提案する。
しかし、今目の前の悪魔が話す、その魔術に心当たりのあったニウは嫌そうな顔をしながら答える。


「そのサービスは結構だ。
私の予想じゃ、その魔法は誰からも避けられるようなすっごい醜い容姿になる魔法な気がするんだが。」


その答えに《灰口の悪魔王》、《鼠》双方から感心するような声が漏れる。
そして、やけに嬉しそうな声で《灰口の悪魔王》が言う。


「ほう。よう知っとるなあ。
正解も正解。
その名も《陰惨な醜さ》という魔法じゃ!
この魔法をかけられたものは、皆が見ただけで恐怖におののくような、恐ろしく醜い貌へとなれる物だ。
どうだ?だれからも一目置かれる、すんばらしい見た目に大変身できるぞ?」

「そりゃそうだ契約主よ!
こいつは《万人》に恐れられると言ってるんだ!
使った本人もビビんなきゃ、《嘘》ついたことになっちまうだろう!」


デビルいや、デーモンジョークというべきか、この一連の会話にどのような笑いのツボがあったのかわからないが大爆笑している、二柱の悪魔。
その様子を見てニウは、本日何度目になるかわからない溜息を吐いた。





【ネタ】MTG転生物【TS転生物】 1-5 




イニストラードの人々の朝は早い。
なぜなら、この世界では深夜の危険率が高すぎるが故に、基本的に深夜に郊外を歩くことは禁止されているからだ。
そのため、町の外に畑を持つ多くの農民達は、朝早くから田畑へと仕事をしに行く必要があるのだ。
それに合わせるかのように、多くの店も日中のみ営業をしている店が大半であり、深夜になると化け物どもの危険性から町は静かになるからだ。

しかし、どこであれ、例外という物は存在する。
たとえば《アヴァシン教》の信徒たちは、深夜に町に異常がないか、見回りをしている。
彼らが家に帰れるのは日が昇ってからであり、そのような日は、彼らが家に帰るとすぐに寝ってしまうのは当然だろう。
また、一部の研究者やシャーマン、硬派な職人や鍛冶屋、《風呂屋》、《金貸し》(以上の二つはこの町にはないが)などは、朝から活動する必要がない商売であったり、朝にやるには適切でないような店は、昼ごろから行動を始める場合もある。

そして、それは自称『はぐれ錬金術師』であるニウもそう。
その日は、昼の少し前頃にニアは目覚めた。
昨夜の出来事のせいで、ニウの頭は未だに鈍痛がするが、それに耐えて部屋から出る。
そして、彼女の寝室から出るとそのまま居間へと向かい、暖炉に薪をくべているデアに挨拶をする。


「ん~。おはようデア。
今日のご飯は何?」

「ああ、おはよう。
今日は、黒パンに、玉ねぎとジャガイモの……。
ってなんだ、やけに辛そうだな。どうした?」

「いや、単に《粘土象》の製作が遅れてるから遅くまで頑張っただけ。
あと、夢見もよくなかったしなあ。」

「……そうか。
よくわからんが、無茶だけはするなよ。」


デアはそういうと、暖炉に火をつけ、そこに遅い朝食のためのスープが入った鍋を置く。
もちろんニウの言葉は嘘だ。
ニウが体調が悪いのは、昨夜の黒魔術の儀式が原因である。
結局あの後、ニウは《灰口の悪魔王》から《陰惨な醜さ》の魔術について習うこととなり、呪文についての知識を、直接頭に刷り込まれたのだ。

……多数の無駄知識と、激しい頭痛のおまけつきで。
その激しい激痛のせいで、彼女はしばらく部屋を転げまわっていたのを覚えている。
その時の悪魔二柱の笑い声を思い出し、ニウはまた頭痛が感じてきた。
それらの思い出を頭から流すために、強引に話題を変えるニウ。


「ところで、今日がデアの夜の見回りの当番の日だっけ?
晩御飯はどうする?早めにする?」

「ああ、今日は俺が夜の見回りの当番だ。
最近は、この近くの町でも連続殺人が起きたらしいからなあ。
……っ、たく、胸くそ悪い。」


そう、『デア』はまだ『見習い』の域を出ていないとはいえ、アヴァシン教の聖職者、いや、『聖戦士(予定)』なのである。
そのため、彼は定期的に《アヴァシン教徒》達が行う、都市内の夜の見回りをするのである。
機嫌の悪そうなデアにニウは尋ねる。


「あ~、犯人の予想とか立ってるの?
やっぱり、短期間に連続殺人となると、はぐれの吸血鬼とか?
それとも、新しいスピリッツあたりとか。」

「いや、そうではないらしい。
どうやら、死骸が何かに見せつけるかのように放置されている事や、血が残っていること、それに傷口から、『人間』か、『スカーブ』それに『狼男』のどれからしい。」


ここ様々な化け物あふれるイニストラードにおいてさえ、人間同士の殺人はやはりありふれたものである。
いや、何時隣人が『狼男』や《ゾンビ》と言った化け物に変わるかわからないこの世界では、より一層疑心暗鬼になりやすいのかもしれないが。
そして、デアは思い出したかのようにニウに言う。


「そういえば、最近教会に行っていないだろう。」

「う……。
いやあ、そんなことないよお。
けっこう最近いったはず。覚えている、覚えている。」


ニウは明らかにデアから視線をずらし、言葉を濁した。
しかし、さすがのデアと言えどそれでは騙されなかった。


「じゃあ、何時行ったか言ってみろよ。」

「……いや~、確か『聖戦士トラフト』様がこの町に来た時だっけな?
一緒にいた天使とか超美人だったし、はっきり覚えている。」

「……それって、一か月以上も前じゃねえかよ!
しかもすっごく、自己中心的な理由じゃねえか!ちゃんと礼拝のために行け!
お前このまま引きこもっていると、吸血鬼かなにかと勘違いされてしょっ引かれるぞ!!」

「うっさいな~!
あそこの私を見る眼、好きになれないんだよ。
しかも、司教も司教で、なにが『今の職業をやめて、アヴァシン教の聖戦士の修行やってみないか?』だ。
今の私が作ってるものがそんなに怪しいか!
ならば、ちゃんと証拠を出しやがれってんだ!!」

「……っ、たくもお。」


デアはニウの教会の嫌いっぷりに思わずため息を吐いた。
しかしながら、彼も彼女の気持ちが分かるのでそれ以上は強くは言えなかった。

そもそも、この魔術が実現する世界において、『錬金術』というのは【黒魔術】以上に胡散臭いもののひとつなのである。

この世界の『錬金術』は、科学者をイメージしてもらえば問題はない。
彼らの多くは、日夜、《アヴァシン教》の力を借りずに、多くの物の開発や研究を進めることを目的としている。
たとえば、人工的な『発電』の仕方、たとえば効率よく燃える『油』や『薬』の開発、そして、今までのどの魔術とも違う方法での『アーティファクト』(魔法の道具)の製作などである。
一見ココだけを聞くと、ただの偏屈な集団にしか見えないであろう。

……しかしながら、彼らの裏の姿の多くは、『屍錬金術師』、『スカーブ師』とよばれる、【アンデット】である『スカーブ』の製作者であると言えば話は変わる。
もちろん《アヴァシン教》はその危険性や倫理観から、一般人の『スカーブ』及び『ゾンビ』の製作及び使役を禁止している。
さらに言えば、仮に彼らが『スカーブ師』でなくとも、『錬金術師』の多くは実験のための燃料として、『スピリット』を使っている場合が多い。
(それで作るのが、戦車や二足歩行のロボット風ゴーレムであるあたり、どの世界でもマッドサイエンティストというのは変わらないと言ったところか。)
そして、《アヴァシン教》は『霊魂』の無許可での捕縛を認めていなく、錬金術師の多くは違法者の別名であるのだ。

それ故、『錬金術』そのものが禁止されているわけではないが、その職業自体、ここ《ガヴォニー》、そして、教会から良い目で見られないのである。
また、この世界に魔術の才が眼に見えるくらい、持っているとわかる場合、貧民であっても無料でアヴァシン教会で『聖戦士』になるための訓練を受けられる。
そして、アヴァシン教会の『聖戦士』や『司教』は貧民のそれとは、生活のグレード、平均寿命、装備と様々な点で貧民の上を行く。
それなのに、彼女は明らかに魔法の才があるのに、それを受けず、師もいないのに『錬金術』などという怪しい術に手を染めている。
世間、いや、教会から見ればこれ上無く、彼女は怪しい存在なのだ。


「あ~、けどまた新しい商品ができるかなあ。
商品の査定のためにも、一度教会に行く必要があるな。
めんどくせえ。」

「……予約は俺がしといてやるから、査定のついでに簡単な祝福を受けておけ。
でないと、いい加減何かに呪われるぞ?」


この世界の常識として、普通の人は、正式な信徒であるかないかに関わらず、定期的に『教会』に礼拝へと向かうのが一般的である。
なぜなら、この世界の《教会》の加護の力は、真に退魔の力が強く、定期的に教会へと礼拝しに行くだけで、その身の《退魔》の力が増す。
それは、悪霊に呪われにくくなり、吸血鬼を避け、例え、人狼化の呪いがかけられた人間であろうと、その変身を抑制するという加護である。

また、定期的に教会へ通うことが、その人が真に人間であることを証明する手段でもある。
教会で使われている、《銀製》の道具には、強い退魔の力が込められている。
そして、それは、もし参拝者が《スピリット》など呪われていた場合はその呪いを解除することができ、また、人間と吸血鬼の識別も可能である。
(ただし、教会でも人間と狼男の正確な判別は不可能だが。)
それ故に、あまり参拝に来ない人=不審者の公式が成りたつのだ。

昔、教会から眼を着けられている彼女は、その発明品であるアーティファクトが何らかのスピリットを利用しているような『悪性の呪い』により制作されたものではないかと疑われたのであった。
当然彼女自身、そのような技術で製作したものではないので、すぐにこれを《アヴァシン教会》に提出し、その発明品の安全性を証明することに成功したのであった。
皮肉にも、今まで無名でただただ怪しいとされてきた彼女の作品は、彼女が毛嫌いしている『教会に公認』されたことにより、その売り上げを伸ばしたのであった。
以降、その味を占めた彼女は、彼女が作品を作るごとに、それの査定のために『教会』へと赴くようになったのだ。


「あ~、思い出したら腹が立ってきた。
さっさと飯にしよう。そうしよう。」

「あ、こら。
まだ俺の話は終わってねえ!
ちょっとそこに座れ!」


しかしながら、デアはニウに対して口げんかで勝てないのはいつものことであり、結局彼のセリフは彼女に丸め込まれてしまった。

どうやら昼食は、保存の利く《黒パン》に玉ねぎとジャガイモと干し肉の《スープ》のようだ。
なお、この世界では、玉ねぎをはじめとした香辛料野菜は多数存在している。
そして、吸血鬼の弱点として、『木の杭』や『聖水』が苦手と言ったいくつかの弱点を持つ。
しかし、これらの野菜、たとえばニンニクや玉ねぎは吸血鬼に対して有効打にならないことを明記しておく。

その後、つつがなく会話が続けられ、昼食を食べ終えると、デウは早々に席を立ち、身だしなみを整え、首に《アヴァシンの首飾り》を付け、腰に剣を掛ける。
その忙しない様子をニウはじっくりと観察して言った。


「こんな時間から教会に行くのか?
熱心だこと。よくそんなに真面目に修行を続けられるよね。」

「……俺はお前と違ってほとんど魔術の才がないからな。
人一倍修行しなきゃ、早く『聖戦士』になれないだろ。
それに、そろそろ《ヨーティアの兵》から一本取れる位にはなりたい。」

「へ~、へ~。
その頃には、私はもっと強い『アーティファクト』を作れるようになっていると思うけど、せいぜい頑張ってね。」


ニウは、夜に悪魔からからかわれ続けた鬱憤を晴らすかのように、デアをからかっていた。
そして、デアが準備が終わり、教会へと出かけるのを見送った後、彼女は居間から移動し、店の方へと向かう。
彼女は昼の仕事、そう錬金術師としての仕事を始めるのだ。


「……とは言っても、ほとんどすることはないけどなあ。」


彼女は一人ごとを言いつつ、店の鍵を開け、『開業中』の看板を出した。
そして、そとに見張り兼、宣伝用に《ヨーティアの兵》を店の外に設置する。
それだけで彼女の開店準備は終わりである。
後は店のレジへと座り、適当な『アーティファクトクリーチャー』に店の掃除をするように命令し、本人は机の上にある本を読みながら客を待つだけであった。
彼女の態度は店へのやる気がない店員そのものに見えるが、それには訳がある。

彼女が実際に『アーティファクト』を作る日は決まっている。
作るときは、元錬金術師の家であるこの家にあった工房で、彼女の魔力の調子が良くなる夜間にて行われる。
(そして、時々、夜中にアーティファクトを作ると称して、製作工房の地下にある地下室で、黒魔術を行使しているわけだが。)
店内に置かれている『アーティファクト』のほとんどは、《ヨーティアの兵》のような『アーティファクトクリーチャー』であるのでよっぽどのことがない限り壊れないし、メンテナンスは不要。
しかも、多くの『アーティファクト』、特に《ヨーティアの兵》のような金属製は、高価。
彼女はそこまで裕福でないので、量産することが不可能であり、そのほとんどが借用として商売をしている。
アーティファクトそのものの販売に関しては、基本予約形式であり、今すぐ新しい客が来て商品を購入するといったことは少ない店なのだ。

さらに、この店に来る客は、多くが農民であり、これらを夜の農園の《案山子》として求めてくる。
しかも、《アヴァシン教徒》が正式な《案山子》を作ってくれるまでの繋ぎや、貧乏でアヴァシン教から《案山子》を買えない人たちようのものなのである。
そのような農家の人々が、この店に訪れるのは、農作業が終わった午後からが大半。
よって、この時間に客が来るとすれば、冷やかし目的の客や興味本位の子供、一部の口うるさいアヴァシンニアンくらいのものだ。

しかし、今日はめずらしく、上位の物以外の例外が来たようだ。


「失礼する。」

「いらっしゃい。
……って、なんだあんたか。そういえば今日だっけ?」


彼女はそういうと、本を読むのをやめ、来た客に向かって挨拶をした。
その口調は一見雑多ではあるものの、それなりに丁寧な対応だった。
なぜなら、今来た客は、《クグリ商会スレイベン外壁の支部》のとある『雑貨屋』からの使いであるからだ。
そこの商店の主人は彼女が幼い時、そう、救貧院時代からの知り合いであり、恩人であるからだ。
そして、今来た使いの人も知り合ってからそれなりに長い。


「お兄さんも元気そうで何より。
《ジーグ》のオッチャンとその嫁は元気にしてる?」

「ああ、ちょうど二人から、手紙を預かってきた所だ。読むか?」


そうして彼から渡された手紙を開くニウ。
そこに書かれていたのは、まるで親のようにこちらの様子を案じるかのような内容に、向こうの現在の状況、そして、今売れている商品についてなどが書かれていた。
『雑貨屋』に彼女が接触した当時、そこは嫁さんが流行の病にかかっており、《ジーグ》と今来ている使いの人だけと、人手が足りなくなっていた時であった。
当時、いくら計算ができ、なおかつ錬金術の知識を持っているものの、救貧院出身しかも、まだ10歳もいかない彼女を雇ってくれた、《ジーグ》には頭が上がらないのであった。


「どうやら、おっちゃんも嫁さんも元気そうだな。」

「おおよ。
嫁さんの方も以前に比べてますます容姿に磨きがかかってやがるし、旦那の方もますますパワフルだ。
ありゃあ、殺そうとしても死なねえよ。」


そうして、手紙を微笑ましい笑みで読み上げていくニウ。
ニウのためにか、そこには、もともと住んでいた地元の様子や救貧院の様子まで事細かに書かれていて、ニウは終始手紙を楽しんでいた。
しかし、ニウのその表情は最後の紙を見て、目を薄めて何やら真面目な顔へと変わった。


「あちゃ、今回はやけに前よりも《霊薬》の需要が減ったなあ。
やっぱり、クスリの製造法をばらしたのはよくなかったかなあ?
逆に、巻物の数は増量か……。
これじゃあ、収入が減って作業時間が増すばかりじゃん。
やっぱり、製造法の流布は逆効果だったかなあ……。」


ニウは手紙の最後に書いてあった注文票を見て、愚痴をこぼした。
そう、最後の紙は《ジーグ》からの商品の注文票であり、彼女が『雑貨屋』へと搬入している商品が書いてあるリストであった。

そして、今回の《霊薬》もニウが取り扱う商品の一つである。
この霊薬、見た目や飲用法は一種のお茶に近いものがある。
液体の見た目は紅茶のような、薄いオレンジ色、しかし味はそこまで美味でなく、むしろ味気ないものである。
形状は、まるで漢方のお茶のように、袋に入った茶色の粉末、乾燥した花といった複数の乾物からできている。
用途は簡単、これらを水に入れて数日煮出すだけ、それ故、数回にかけて使えるという利点もある。
《アヴァシン教》の聖水とは違い《退魔》の力こそないものの、その効能は凄まじい。
『老化防止及び若返り』、『体力上昇』、『怪我、病気の治癒』と言った在り来りながら非常に稀有な物である。
《ジーグ》の嫁が過去に病気にかかった時に直したのも、この《霊薬》だ。

ニウ自身もこの《霊薬》を開発できたとき、まさに億万長者になれると思ったものだ。
……当然ながら世の中そんなに甘くない。
これの材料はどれも珍しく、バカ高い物であり、作るまでにかかる時間も決して短いものではない上に結構な《マナ》を消費する。
いくら効能が確かとはいえ、救貧館育ちのニウでは『錬金術師』としての信用も足りないので売り上げも伸びない。

それに彼女としては、この薬、もともとの《悪魔》から教わった《アーティファクト》、《不死の霊薬》をこちらの世界で再現しようとして、失敗、曰く『粗悪品』。
彼女が失敗した理由は明白、元々のこの《アーティファクト》の材料の多くがこの世界に存在せず、大量の代用品で作ったからだ。
当然、元の《不死の霊薬》に比べ、効能、値段、保存期間すべてにおいて劣る作品になるのは当然である。

話は変わるが、これが彼女が《灰口の悪魔王》と契約したかの理由にもつながる。
彼女が初めに契約した悪魔、どうやらこの次元の悪魔では無いようで、この次元の魔法についてはそこまで詳しくない。(全く知らないわけではないが)
そして、得た知識も、この《不死の霊薬》のように再現するのが難しい魔術や製作困難な『アーティファクト』が数多くあるのだ。
それゆえ、彼女がこの世界で、この世界の魔術を習うのは、この世界の黒魔導師などから法外なほどの値段のする魔導書を買い、なおかつ非常に長い時間をかけて翻訳をする作業が必要となる。
そして、ニウはこの世界の黒魔術を効率よく学ぶべく、《灰口の悪魔王》と契約をするデメリットより、術を学ぶ時間や金に対するメリットを優先させたということだ。

さて、話を戻すと、結局この《霊薬》、コストと時間のわりにあまり儲けにならない上に、(彼女の中では)胸を張って商品化できるほど効能もよくはない。
それ故、彼女はこの《霊薬》をメインにする商売をあきらめ、さらに言えば他の研究に時間をかけてもいいように、《霊薬》のレシピをばらすという荒業にまで出たのだ。
まあ、さすがに《霊薬》の需要が減り、製造法の巻物についての注文が増えてしまい、《霊薬》を作る時間を減らすための策が、むしろ製造法の巻物を書くための時間に費やされてしまっているというのは予想外であったが。
彼女としては、こんな胡散臭い物、誰も気にしないだろうと軽い気持ちで策を実行したが、現状を見るに少し安直すぎたかもしれないと後悔した。
彼女の不満そうな顔を見て、使いの人は声をかけた。


「……そう文句を言うな。
おまえと同じ元孤児である俺から言うなら、お前は恵まれすぎている。
お前が孤児の中で、文字が読める上に計算ができるほど賢い奴だというのは知っている。
しかし、お前はすでに1人だけで生きていける生活能力を持ち、一軒家、さらに開業に成功。
果てには、大手商会ともつながりを持っているときたもんだ。
これ以上何を望むというのだ?」


使いの人の言うことは最もである。
一般的に《救貧院》で仕事ができるまで育った子供や貧乏人は、アヴァシン教会の支援により定期的に港へと連れて行く「キャラバン」へと同行できる。
そこでは表面上、彼らはより容易く簡単に雇用や商いの仕事を見つけることができるとされている。
が、実際学がない彼らはそこまでいい仕事が得られない者が大半であり、安全な宿に泊まれるかも不明。
海に近いことにより、牛をも襲うほどの巨大な海鳥の餌になることや、そうして死んだ人の怨念の塊であるスピリットの同胞となることも少なくない。
もちろん賢い孤児は、この使いの人のように、地元の店などで確実な店などに伝手を作り、そこで就職したり、戦闘や魔導の才があるものは《デア》のようにアヴァシン教会で修業をする者もいる。
そういった中で、ニウのように、自身で開業及び営業の道を選ぶものはとても珍く、成功するものはもっと少なくなる。
しかも、そういった状況でもまだ満足していない彼女は世間一般から見て異常と言えるだろう。
使いの人の視線を知ってか知らないか、彼女は軽い口調で話を続ける。


「ん~。いや、別にそこまで大きな望みは持ってないよ。
ただ、この家には風呂がないからそれを増設したいし、キッチンがないから、それもほしい。
そろそろ、暖炉とテーブルだけで料理をするのは嫌だし、ちゃんとした料理用のオーブンがほしい。
ああ、あと、もっと本を読みたいし、料理にはもうちょっとでいいから自由に香辛料を使えたりなって思う程度の庶民的な願いだ。」


しかし、彼女は、前世の生活基盤を基準に判断しているせいで少々価値観がおかしいことがある。
当然彼女もこの世界の困難さ、常識は知っているがそれでもなおである。
一度でも現代日本社会にまれてしまったら、やはり色々と不便に感じてしまうのは仕方ない。
多数の調味料や甘味はよっぽどの資産家であっても日常的入手は困難であるし、風呂は『大人の店』にあるくらい、キッチンを家に作るくらいなら人を雇った方が安いくらいだ。
しかし、彼女の考えは使いの人にとって見れば、やはり彼女は変に、又はすごく強欲な人間に見えるだけであった。


「……おまえ、それがどれだけ贅沢なことを言っているかわかっているのか?
それは、地主や大商人になりたいと言ってるのと同じだぞ?」

「やっぱり、そう受け止められるかあ……。
別にそこまで高望みはしてないんだけどなあ……。」


まあ、ニウは別に自分の考えが理解されるとは思っていない、又されたいとも思わないから全く問題はないが。
彼女は、手紙の最後の書かれていた注文票を読みながら、今まで部屋の掃除をしていた『アーティファクトクリーチャー』である《粘土像》を連れて店の奥へ、注文の品を取りに行こうとした。
が、その前に使いの人に呼び止められた。


「あ、ちょっと待て。
もう一つお前あてに手紙がある。」

「?……もしや!」


一瞬何事かと思った彼女だが、心当たりがあったのかすぐに苦虫を噛潰したかのような顔になった。
その顔を見ながら使いの人は言う。


「そう。《スカースダグ教団》からだ。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・




「あ~、やっと3枚目か。
あと何枚だっけ?」

「そうだな。後9枚だな。
くっくっく、もっと単調な文章で書いてやればいいものの。」

「どうやって、これ以上単純にしろと?
私が《スカースダグ教団》と《アヴァシニアン》の両方に追われるか、お前らの餌が増えるかの二択になっちまうだろう。」

「だから、いいのではないか。」


現在、深夜、ニウは《ネズミ》に冷やかされながら地下室で昼間に頼まれた注文された巻物を書いていた。
とは言っても、『雑貨屋』ではない、スカースダグ教団の方だ。
しかも、呪文の内容は昨晩使った呪文《祭壇の刈取り》の呪文である。
そう、ニウは『雑貨屋』単体だけではなく、それを囲う商会、《クグリ商会》いや、そこが裏でつながっている組織《スカースダグ教団》とも商業契約を行っているからだ。

具体的には、ニウが《教団》に対して黒魔導師にしかできない仕事や教団内の魔導師がやるには難しい仕事をするかわりに、資金面や権力面でいろいろと援助をしてもらっているのだ。
たとえば、前回の護衛任務のように割のいい仕事を受けることができるようになる。(ただし、厄介な任務付きだが)
今ニウが住んでいる家は《スカースダグ教団》から紹介された物件である。(ただし、前に住んでいた錬金術師が昆虫の研究をし続けた末に、昆虫人間になってしまったという、曰付き物件だが)
それいがいにも、様々な黒魔術の道具も提供してくれる。(それ以上の生産をこちら側に求めてくるが。)

まあ、ニウとしては最近教団からの雑用の注文が多く、やきもきしているのだが。


「私個人に、アイツらを押さえつけるほどの力があったら別なんだろがな。
……まあ、この仕事に手を抜いて、黒魔術の失敗が起きて無駄な犠牲者が増えたとしたら、結局のところ一番喜ぶのはお前らだろ。」

「くくく、これは手厳しいな。
疲れたらいつでも言え、俺が変わりの素晴らしくわかりやすい短い文章を考えてやるぞ……!」


机の上にいた《鼠》いや悪魔がニウの書きかけの巻物を見つめながらそう言った。

ニウがこの巻物を《スカースダグ教団》への協力として、この巻物を書かせているのにはわけがある。
今ニウが書いている巻物の『呪文』は、ここ【イニストラード】において、わりとポピュラーな黒魔術の呪文であり、特別な権力者や黒魔導師などに伝手がない庶民であってもがんばれば、この『呪文』の魔導書を見つけることができるだろう。
(ただし、その人に黒魔術の才能がなければ、彼にそれを見つけてもそれが魔導書だと気付かないだろうが)

しかし、それほどにありふれている呪文であろうとも、この呪文の【正確】な魔導書は稀有である。
そもそもこの世界、【黒魔術】が禁止されているのはすでにご存じであろう。
それのせいで、【黒魔術】に関する本は見つけ次第即処分となり、所有しているだけで罰せられる場合すらある。
そのため、大抵の【黒魔術】に関する本は、暗号化されているのが基本であり、かつ分かりにくい物が多いうえ、大抵のものが黒魔導が使えない人が書いた『写本』、いや、『写本』の『写本』レベルの物ばかりだ。
その上、現在この世界《アヴァシン教》が広がっているせいで、熟練した黒魔導師が捕まってしまい、黒魔導師の人数が減っているのが現状。
たとえば、先ほどの『呪文』の場合、この呪文の代償として生贄が必要だが、別に生贄は『人間』でないくとも良い、別に生き物に準ずるものなら、ただの家畜や害獣、極端に言えばほとんど生き物でないような、ゴーレムやゾンビでもよいのだ。
しかし、多くの若く文字がうまく読めない黒魔導師は、生贄と言ったら人間というイメージだけでいらなくていい手間をかけてしまい、黒魔術に失敗すると言ったことが多いのだ。
そのせいで、さらに黒魔術の使い手が減るという悪循環。

悪魔は古来からこの世界を裏から操り支配してきた種族。
それこそ、この世界にまだ《アヴァシン教会》がなく、闇に対抗するには、『シャーマニズム』か『闇魔術』ぐらいしかなかった頃からだ。
しかし、その性格は、残忍にして非道、人間など、自分に対するおもちゃか、家畜くらいにしか見えてないだろう。
もちろん術に失敗した黒魔術師という格好の餌食を見逃すほどは優しくない、例えそれが間接的に自分たちの首を絞めようともだ。
その黒魔術の衰退ぶりは、元々他の悪魔信仰を否定し、自分達以外の黒魔導師の撲滅に努めていたていた《スカースダグ教団》が、『敵の敵は味方』の理論で無差別にグループ外の黒魔導師をも支援しているというところからも分かるだろう。

結局なぜ彼女がこんな在り来りな呪文の《魔導書》を書かされているかと言えば、要するに《魔導書》の書き手がいないのだ。
魔導書の絶対数とベテランの《黒魔術師》が大量に教会によってしょっ引かれてしまった現在、彼女のような20に行かない者でさえ、その履歴や腕前から《教団》内では『凄腕』扱いである。
黒魔導の腕に対して一定の信頼が置かれて更に、《魔導書》を書かせると言っためんどくさい作業を頼める地位にいる、それが現在の彼女の状態なのである。

なお、この魔導書書きに故意の嘘や手抜きがあった場合、『商会』によって《アヴァシン教》に黒魔導師だと密告されてしまうわけだ。
(ただし、その文章の間違いが悪魔の琴線に触れれば、むしろ間違えて書くことを推奨される場合もあるが。)
なかなかよくできたシステムである。


「というか、《霊薬》の改良、生贄の確保、魔術の改良、開発。
やらにゃきゃいけないことが多すぎるよ、ほんと。
しかも、近々《教団》に呼び出しと来たもんだ。
………っと、もうこんな時間か。」


彼女はそう言いながら、目の前の鼠の額を小突くと大きな欠伸をし、書類作業で固まった腕を伸ばす。
体の節々からぽきぽきという音が聞こえ、一時的だが爽快感が得られた。
羽ペンを机の上に置き、インク瓶の蓋を閉め、机から立ち上がる。


「おや、もう時間か、契約主よ。」

「ん、そろそろデアが帰ってくる時間だから、テキトーに料理作って出迎えの準備をしとくよ。
あー、残りの作業は《粘土象》に任せてみるか、成功するか著しく不安だけど。
……あ、くれぐれも巻物に落書きしたり、《粘土象》の邪魔したりするなよ!!」

「くくく、了解だ契約主よ。」


彼女はそういうと、今まで地下室の入り口にいた《粘土像》に声をかけ、地下に来るように命令する。
詳しい命令を下すと、彼女は陰鬱な雰囲気の地下部屋から出で、食事の準備のために居間へと向かった。
そこで彼女は廊下で、微かに焼き立てパンのにおいがするのに気付いた。
そして、その予想は正しく、机の上には焼き立てのバゲットが、そして暖炉にはこの家の物ではないシチューポッド、そして、椅子の上には出かけていたはずのデアが座っていた。


「……もう帰っていたの?
というか、その食事は何?そんなおいしそうな物があるなら、別に先に食べてくれててもよかったのに。」


ニウはシチューポッドの中身を確認しながらデアに尋ねる。
どうやら中身は、ジャガイモやニンジン、鶏肉などをふんだんに使った《ミルクシチュー》のようであり、きれいに切られた野菜やデアが嫌いなニンジンが入っているあたり、明らかにデアが作ったものでないことが分かる。
ニアの答えに、デアは少し舟を漕ぎながらではあるが、ぼそぼそとした声で答えた。


「今日は、見回りの交代が早く来たから、早番だった。
そのパンとシチューは、帰る途中に、隊長の奥さんが差し入れを持ってきてくれた。
……ったく、研究の時、部屋を《アーティファクト》の鍵で施錠したうえで、さらに見張りまでつけるのをやめろよ。
お前は呼んでも全く反応しねえから、ここで待つ破目になっちまったじゃねえか。」


デアはその言葉を言うと見回りの疲れと眠さの限界が来たのか、座ったままいびきをかき始めてしまった。
ニウはその光景を見てクスリと笑い、パンに蚊帳をかけて、デアの体に毛布を掛ける。


「……おつかれさま。」


ニウは暖炉の薪を追加すると、デアの反対側に椅子に座った。
ニウは食事をとるのは、デアが起きてからにすると決めたのであった。

……結局、ニウも夜間ずっと巻物を書いていた疲労で、すぐに眠ってしまい、お互いが食事をとり始めたのは、パンを暖炉で再び温め直さなくてはならなくなっていたとだけ言っておこう。







★★★★★★★★★★

祭壇の刈り取り  (1)(黒)

インスタント

祭壇の刈り取りを唱えるための追加コストとして、クリーチャーを1体生け贄に捧げる。
カードを2枚引く。

「悪魔は我々の語る細かい部分や儀式を気にしておらぬ。 とにかく奴を殺せ。」
――グリセルブランドの下僕、ヴォルパグ僧正


★★★★★★★★★★



★★★★★★★★★★

不死の霊薬  (1)

アーティファクト

(2),(T):あなたは5点のライフを得る。不死の霊薬とあなたの墓地をオーナーのライブラリーに加えて切り直す。

「瓶詰めの生命だ。かつてほど美味ではないし、むしろ味気ないが、効果は変わらぬ。」――センギア男爵

★★★★★★★★★★





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

うむ、結構難産になりました。
どうも作者です。

もっと説明したかったり、詳しい解説を入れたいことが多かったですが、とりあえず今回はこのようになりました。
説明不足に感じられる所が多数あると思いますが、それは後々本編や別の番外編で明かしていきたいと思います。
……まあ、もしかしたら後程修正する可能性があります。

次回の更新は遅くなりそうですが、どうかご了承ください。

では、また次回!


《おまけ》

友C「おまえってゾンビ系好きなん?」

俺「いや、そんなことないけど、なんで?」

友C「だってお前
   遊戯王・アンデットシンクロ
   MTG・黒単ゾンビ
   ヴァンガ・グランブルー
   じゃん」

俺「oh」



[34830] 1-5
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2012/11/05 18:19
高地都市スレイベン

岩山の間を流れた水が集まり、巨大な滝として流れ出す白鷺湖の中央に位置するどっしりとした台地の上に鎮座し、その周囲には何重にも霊的防御の施された城壁が囲む。
ガヴォニーに住んでいる人、いや、イニストラード中の人が住みたいと願う憧れの地。
また都市には、この世界最大のアヴァシン教の聖堂があり、そこの統治により、この町は、他の町には到底比較にならないほどの、潔癖さと秩序を維持していると言えるだろう。
毎年、多くの《アヴァシニアン》達がこの地を巡礼のために尋ね、その身の信仰心と退魔の力を上げてゆく。
そして、この町の住民は他の町の状況を彼らから聞き知ることによって、自らの身の安全に感謝し、中には自分たちは選ばれた存在だという一種の選民思想を持つこともある。

しかし、このような最高に神聖な都市であってもやはり闇の部分という物は存在している。


「ぎゃははははははは!!」

「殺せえ!崇めろ!狂えぇぇ!」


品の無い叫びと、腹の底からのどす黒い笑い声が部屋一面を覆う。
そこはスレべインにある教会の地下に存在する一室である。
しかし、本来神聖であろうはずのそこに存在するのは、壁につりさげられた無数の多種多様な死体、人骨でできた食器、怪しき食糧に血濡れの装飾が付いた長机。
このイカレタ空間に存在するのは動物は、多種多様な息せぬ者(アンデッド)の群れに、汚れた仮面に黒いローブの集団。
その集団の騒ぎを煽り、指揮するは一匹の巨大な禍々しき異形。
すべての人が憧れ、羨む神聖都市、だがその地下はと言えば、まさしく邪教の温床になっているのだ。

そう、彼らこそが《スカースダグ教団》。
大天使が降臨する以前からこの世界の闇を牛耳る集団。
古代から彼らは悪魔《グリセルブランド》を讃え、崇拝し、悪魔《グリセルブランド》は彼らの献身に対して対価を与えるかわりに、信者を玩具のように扱う。
現在の彼らの目標はアヴァシン教の撲滅であり、そのために日夜計画を立て、また全国各地の黒魔術師の支援を行っているのだ。

さて、そのような狂気に満ちた一団から少し離れた壁際に、少し小柄な黒いローブをかぶった人物、そう、ニウがいた。
彼女は、彼女の黒魔術用の地下室とは比較にならないほどの、この醜悪な光景を冷めた目で見ていた。


「……訳の分からないほど無駄に高いテンション、狂ったような行動、何よりゾンビ特有のこのひどい臭い。
相変わらず、ひっでえ所だな。」


ニウは幼いころから何度か、この教会地下に訪れ、ここで行われる『黒ミサ』いや《暗黒の儀式》に参加したこともある。
しかし、彼女は結局この邪悪な宴の雰囲気を好きになることはなかった。
はっきりとした理由はない。
しかし、彼らの気の高まり、狂声、特にアンデッドのにおい、どれもが黒魔術師の醜い所を集めたもののように思え、又彼らの余裕のなさがはっきりと感じられるからかもしれない。
そして、彼らによって行われる《暗黒の儀式》で放出され高まっている『黒のマナ』から強い死の気配を感じるからかもしれない。

この世界では一般に知られていないが、魔術に必要となる《マナ》には5つの色とそれぞれを象徴する事象という物がある。
例えば、《アヴァシニアン》達が唱える《信仰の魔法》に必要な《白マナ》は正義と秩序を表し、土着の《シャーマン》達が唱える《シャーマニズム》に必要な《緑マナ》は自然と進化を象徴する。

さて、黒魔術で扱う《黒マナ》はというと、それは死や悲哀、狂気・野望の色なのである。
《黒マナ》はその地の死の香りが濃ければ濃いほどより多く集まり、狂気と恐怖を求めるものに力を貸す。
よって、生まれつきの才を別とすれば、《黒魔術》の使い手はその身に『狂気』を宿している、危険人物であることが多い。
もちろんこれは大げさな話ではあるが、彼らのうち大半が『利己主義』であるのは間違いないであろう。

……まあ、今彼女の目の前で行われている黒ミサも、その身に《黒マナ》をより多く集めるための、黒魔術を効率的に使えるようにするように、その身の『狂気』を高める修行だと考えれば悪くないものであるかもしれない。


「けど、教会の下なのにこれほどの狂気に、周囲の《黒のマナ》の高まりよう。
下手したら、いや、下手しなくても教会にばれるかもしれないだろ。馬鹿なの?」

「くくく。黒魔術を使う物ならば、このような行動や部屋の外装も、この黒マナの高まりも全然普通ではないか。
それにお前が黒魔術を使っているときに行っている行動も似たようなものだぞ。
内心に感じている、その嫌悪感、おそらくは『同族嫌悪』であろうな。」


ニウの呟きに対して彼女の胸元にいたネズミが声を発す。
ネズミの発言を聞き、少し心当たりがあったニウは、ここに来てから下がりっぱなしのテンションがさらに下がるのであった。




【ネタ】MTG転生物【TS転生物】 1-6 




ニウが壁に手をつきながら気持ちを静めている中、彼女に向かって一人の人物が近づいてきた。


「相変わらず辛辣だな、同士『N』よ。
……彼らも目の前で本物の《悪魔》様を拝見できて感動し、はしゃいでいるのだ。
あまりひどいことは言ってやるな。」

「……あんたか、《バーグ司祭》。
あんたはあの集団に混じんなくていいのかい?」

「なに、私は若い者とは違い、すでに何度か《悪魔》様、しかも主を見たこともあるのだ。
今更彼らのように感動することはない。
今は彼らの喜びぶりをじっくり眺めることにしておくよ。」


彼はここでは通称《司祭》と呼ばれる人物。
今ここにいる《教団》メンバー内で一番偉いとされる人物であり、《スカースダグ教団本部》でも、かなり高い位置にいるという話だ。
さらに言えば、この場所を提供している人物でもある。
そう、彼の表の顔は《アヴァシン教会》の『司祭』であり、今この場では『邪教』の司祭も務めるという男なのである。
本来なら、今のニウが『N』と呼ばれているように、教団内の多くの人が偽名でやり取りする中、彼だけが本名その他もろもろの個人情報を完全にこの場の全員に公開しているという珍しい人物だ。


「……今回、《悪魔》様の完全召喚の成功、感謝と祝福の言葉を贈ろう。
貴様の教団への助力、うれしく思う。」


司祭はニウに対して、自分の方がはるかに年上であるのに、まるで同格のモノに話しかけるような丁寧な口調でねぎらいの言葉を掛けた。
しかし、ニウの司祭に対する態度は、少し冷たいものであった。


「……まさか、そんなことを言うだけのために呼び出したわけじゃないよな?
私としては、早い所こんなひどい臭いのするところから出て行って風呂にでも入りたいんだが。」


今回ニウがこちらに訪れた表面上の理由は、『昔お世話になった雑貨屋夫婦に呼ばれたから』ということになっている。
そして、実際彼女はこの狂宴が終わり次第、すぐさま夫婦の家へと向かうつもりである。
しかし、今回彼女がここに訪れた真の理由は、彼女のこの前の依頼の詳しい報告であり、さらに証拠として、彼女にこの前契約した悪魔、《灰口の悪魔王》を召喚するように頼まれたのだ。

そう、今教団員の目の前にいる大きな異形とは、彼女が証拠として呼び出した《灰口の悪魔王》のことであった。
件の悪魔は、パフォーマンスのつもりだろうか、巨大な牡牛や動くズタ袋(中身については考えない方がよいのだろう)をその魔術を使い、宙に浮かせながら食べていた。
そして、さらにサービスのつもりか、周囲にはいつの間にか、《灰口の悪魔王》の部下と思われる小悪魔達が騒ぎ喚いている。
その悪魔の超常的身姿と喚く小悪魔達をみて、周りにいる教団員がざっとざわめき、歓喜していた。
その様子を冷ややかな目で見ているニウに向かって、バーグ司祭は返答する。


「もちろん、そんな訳はない。
しかし、今この時代に貴様のような、《悪魔》を召喚できるほどの腕の魔術師はめったにいないのだ。
しかも、あの悪魔様は我らが主《グリセルブランド》の盟友と聞く。
これほどの奇跡、そうはないだろう。」


バーグはそう言うと《灰口の悪魔王》を見つめた。
さきほど、そこまで喜んでいないとは言ったものの、その眼には明らかに《悪魔》を見れたことへの歓喜の様子が見え隠れしている。
そして、司祭が教団員達を見つめる眼はまるで愛しい我が子を見つめるような眼であった。
しかし、ニウは司祭の感情が(少し)理解はできても共感はできず、少し冷ややかな目で見てしまうのは仕方がない事であった。


「……あっそ。
でも、あんたもこいつではなくとも、別種類の《悪魔》を召喚できるって聞いたぞ?
そんなに悪魔がどうこう言うならあんたが日頃から召喚すればいいじゃないか。」

「……よく知っているなあ、確かにそれができれば楽ではあるのだろうが、そう簡単にはいかないのだ。
私の実力は『主』を召喚できるほどの力量はない上、対話すら困難だ。
それに、私が呼び出すことができる《悪魔》様は強力無比ではあるが、その契約はなかなか厳しいものがあるので、おいそれとは呼び出せなくてな。」


バーグの話す様子は少し物憂げであり、なんとなくではあるが《司祭》が契約している悪魔に心当たりがあるニウは、少し司祭を気の毒にも感じた。

さて、すでにお分かりであろうと思うが《ニウ》と《ジーグ夫婦》は《スカースダグ教団》の関係者である。

さて、ここで両者がどのように彼らと知り合ったか補足しておこう。
彼女が《スカースダグ教団》と知り合ったのは、《ジーグ》の雑貨屋が《クグリ商会》に入会したときである。
少し話がそれるが、実は《ジーグ》が、ニウを雇ったのは彼女が胡散臭いながらも効果ある、錬金術の知識を持っていたからというのが大きい。
昔、《ジーグ》は嫁が病気で倒れた際、その病気を治すために、藁をもすがる思いで様々な手を尽くした。
町中の医者の場所に行き、教会の司祭にも頼み込み、果てはこの世界に古くから存在する魔法、シャーマニズムにも頼り始めた。
しかし、町の医師やシャーマンでは手が付けられる状況ではなく、教会の司祭で病気を治せるもの腕を持つ者は希少、一介の商人である彼には到底手が届かない金額の《寄付金》が必要となってしまった。
(これは決して、アヴァシン教徒の腕が悪いというわけではない。しかし、アヴァシン教の本質は《退魔》であり、『化け物』の退治や『結界製作』を専門としているのだ。
《治癒》の力、特に怪我ではなく病気を治すような《治癒》の力を持つ者はそこまで多いわけではないのである。)
その時に《ジーグ》は《スカースダグ教団》、そう、黒魔術の力に頼ろうともした。
……しかし、彼自身一介の商人にしかすぎず、以上の試みはすべて失敗に終わった。

《ジーグ》の心が絶望に染まろうとした時、ニウが金と材料さえ渡せば、その病気を治せると言ってきたのだ。
嫁を溺愛する《ジーグ》はニウの言葉に藁をもすがる思いで信用した。
その材料は世間ではあまり手が入らず、《ジーグ》は《スカースダグ教団》からの伝手で手に入れ、結果的に《ジーグ》の嫁の病気は1年かけて完治するまでに至ったのだ。

その後、《ジーグ夫婦》と《ニウ》は表は《クグリ商会》の一員、裏としては《スカースダグ教団》の協力者として行動しているのだ。
そして、《スカースダグ教団》は昔からそのニウの黒魔術の才能を感知しており、幾度となく《協力者》ではなく《教団員》になってくれるように、ニウの事を勧誘しているのであった。

ニウはなんとなく教団との出会いを思い出していたが、そんなニウを見ながらバーグは話を続けた。


「しかし、いくら我らの知らぬ異界の悪魔と契約しているとはいえ、その若さでそれほどの実力。
貴様のような一流の人間には、ぜひ我が主に仕えてほしいと思うのだが……。」


そう、そして《スカースダグ教団》からニウへの勧誘は、現在でも続いているのであった。
しかし、彼女としては《アヴァシン教会》からも誘われている身としては、ここでまで勧誘されるのは勘弁というのが本音である。


「それって、嫌味か?
今回私があいつを呼び出すのに、軽く1時間くらいかけてるんだぞ?
それで一流なんて言われても信じられるかよ。」

「そんなつもりは……。」

「なら、あんたと私が戦ってみるか、たぶん、十回中八回くらい私が負けちゃうだろうけどな。
そんなわたしが一流なんて言えるわけないだろう?
反論あるか?」


そして、ニウの言葉に対して、司祭はため息をつき、ネズミは薄ら笑みを浮かべていた。

そう、ニウにとって今の自身はまだまだ発展途上であり、今の自分の実量ではこの世界で名をあげるとか言う以前に、一人で生きぬくことすら難しい《少民》であると確信している。
……ニウ自身が持つマナの量はこの世界の一般人のそれに比べてはるかに多いし、土地からマナを引き出す術もそこそこ上達した。
ニウ自身もこと黒マナを扱う技術に関してはそれなりの自信がある。
けど、彼女はそれができるだけでこの世界を完全に1人で生きていけると思うほどうぬぼれてはいない。

そう、強い魔術が使えるようになったからと言って、戦闘が強いとは限らないのは自明の理だ。

この前のゲンとの決闘。
あれは向こうが完全に魔術師らしい魔術師が相手であったため、単純な呪文合戦で勝負がついたが、実際の生死を賭けた決闘というのは違う。

例えば、熟練の吸血鬼の場合、多数の部下を連れながら、隼よりもはやい速度でこちらに接近し、魔法まで使ってこちらを襲ってくる。
一流の『シャーマン』は、目にもとまらぬ速度で家よりも大きい獣を呼び出し、本人も熟練の狩人であるという。
今の彼女では、彼らに対し手が出せないとまでは言えないが、正面から戦かって勝てるかと聞いたら、厳しいと言わざる得ない。

ニウは自身の弱点はいくつかあるが、その中でネックとなるのは肉体の速度と反応の鈍さであると思っている。
確かに今の彼女は町一つ、大混乱を起こせるような魔法を覚えている。
この世界において、多人数で行うような、いわば大魔術の域にあたるマナを大量に使う呪文であっても、時間さえあれば彼女は自分一人で成功させることができる。
しかし、そんな彼女も所詮はただの人間、ナイフで切られれば血が出るし、息ができないと死んでしまう。
そして、別に『兵士』や『聖戦士』でもないので肉体を鍛えているわけでもない、いわば普通の女子供と同じ肉体のスペックである。(単純な筋力なら強化呪文で上げることができるとはいえ)
この世界の、強力無比な化け物相手では、軽く撫でられただけで吹き飛んでしまうだろう。
さて、そんな彼女が、戦闘と称してそんな化け物たちと接近戦を繰り広げながら呪文をすらすらと唱えることができるどうかは、容易に想像できるであろう。

しかし、彼女の横にいる《バーグ司祭》、彼はこの世界でも珍しい、単身でこの世界中を渡り歩くことができる人物と言えるであろう。
彼は悪魔を召喚できるほどの黒魔術師であるのに、同時に《ガヴォニー》屈指の腕を持つ『聖戦士』でもある。
彼の前では、狼男、ゾンビ、吸血鬼が襲ってきたとしても、《アヴァシン教の秘術》を持って一撃で粉砕でき、戦士としても一流。
更に対人戦では、黒魔術を使い、さらには黒魔術の腕前はと言えば、すでに不老は手に入れているとまで噂されている。
彼のようなものこそが真の強者であり、それに比べれば自身は何と弱い事か。
ニウの頭によぎったその現実、それによりニウはため息を吐いてしまい、そして、気持ちを切り替えたかのようにバーグへと話した。


「……確かにあんたの言う通り、正式に《教団》に入ったほうがいろいろと楽なんだろうが、すでに私は別の悪魔とぶっとい契約している。
その上、私が目指すのは、この世界で平和に1人でも生きられるほどの力だ。
地位とか名誉とか入らないし、集団を背負うほどの面倒事は勘弁だね。」

「くくく、それに我が契約主が真に実力を着ければ、おまえらもこいつを良くも悪くも無視できなくなるだろうなあ。
そうだ、今のうちに殺しておいた方がお得だぞ?」


《鼠》はわざわざ声を大きくしてまで会話に割り込み、二人に対してからかいを入れようとした。
初め、まだ鼠と知り合ったばかりのころの司祭は、《鼠》の軽口を真摯に受け止めようとしたり、それによって困惑させられたりもしていた。
しかし《鼠》の性格をすでに知っている現在の司祭は、その言葉に対し、ただ困ったように《鼠》に向けて作り笑いを向けるだけであった。
一方ニウはネズミを踏みつけようと足を振り上げた。
しかし、ネズミの方は「おお、怖い怖い」などと惚けながら、彼女の足撃をかわすだけであった。
そして、鼠は其のまま狂気の宴の中へと消えていった。
ニウが《鼠》を見送ったのを見届けた時、バーグは彼女に話しかける。


「さて、早速本題に入りたいと思う。
つい最近ステンシアまで行っておいてもらい恐縮だが、今ここに2つ貴様にやってほしい依頼がある。」

「……本当に急だな。
また遠出するのは、さすがに嫌だぞ。
あんたらからの依頼のせいで、教会から捕まったら冗談じゃ済まないんだぞ?
できればすぐに終わる類のモノだとうれしいんだが……。」

「ふむ、……残念だが片方の依頼は確実に長期間かかる任務だ。
済まないがね。」


ニウはわかっていながらも、その答えに渋い顔をした。

そう、大抵教団がニウに対して出す依頼は、すごく長期間かかるものか、高難易度のもの、又はどちらでもあるかだ。

良くやらされる依頼としては、裏切り者の始末や高難易度の魔導書の製作などがある。
前者の任務がなぜニウにやらせるかといえば、これらはいわば高難易度な任務であり、そして、同じ教団員同士がやると色々といざこざがあることが多いからだ。
さらに言えば、裏切り者の始末といっても、実際に殺すことはそこまで多いわけではない。
実際に裏切り者や脱教団者が出るたびに殺しに行こうとすると、その人の交流などからこの教団の存在がばれてしまうかもしれないからだ。
(また、どうしても殺されなければならないほどの派手な悪行を繰り返している奴は、大抵アヴァシン教の僧侶によってすでに殺されている。)
その点ニウはこの世界では珍しい《黒魔導師》であり、かつ《精神魔術》の使い手でもある。
洗脳や催眠は不得手ではあるが《記憶消去》や《記憶の探知》を得意としている。
それゆえ、彼女は教団の裏切者や教団から抜けたいと思っている者の所へ行き、物的消去、いや記憶の証拠すらも根こそぎ奪うことができるのだ、このような任務にふさわしいと言える。
しかも、この任務、大抵この町『スレべイン』ではないことが多く、いや下手したら、前回の任務のように《ガヴォニー》ですらない《ステンシア》や《ネフェリア》という、別の州にまで行かなければならないことがあるのだ。

さて、彼女がこの任務を今回いやがっているのには理由がある。
この世界の住人にとって、旅や旅行はあまり一般的とは言えない。
彼女は前回『まとまった金が欲しい』という言い訳で別の州に行ってきたばかりである。
それなのに、連続で遠出をするとなると彼女に対する疑いの目はますます強くなるのは自明の理だ。
できれば、楽な任務、そう、引きこもったままでもできる任務がいいと思っていたがどうやらうまくいかないらしい。

そんなニウの考えを察してか、司祭は話を続けた。


「安心したまえ。
今回の任務は別に遠出しなくてもよいものだ。
ただ少し面倒なのと、実力に似合う者が君ぐらいしかいなかったからという理由だ。
報酬も弾む。
今回の成功報酬は、以前から貴様が欲していたものだぞ?
それにもう一つ任務は簡単だ。すぐに済む。

……貴様が死ななければだがな。」


司祭がそういったか否かの瞬間、今まで騒いでいた集団の一角から、大柄の人型が飛び出してきた。


―――――!!!!!!


その人型は、大きく口をあけながらも、何もしゃべらずにこちらに向かって走りこんできた。
その体、まるで熊のように大きいが、その足の速さはまるで狼のように早い
それの頭、いや体中には多数の縫い跡があり、その肌の色は真っ青であり生気を感じさせない。
その両手には金属の手甲がしてあり、首の周りにも首輪を何倍にも大きくしたような金具がついている。
そしてその金板や体表には多数の《ルーン文字》が刻まれているのが分かる。

そう、これがゾンビでありながら、人の手によってつくられた創造物、不格好な生命、『スカーブ』である。
この世界のゾンビには二つ種類がある。
片方は『グール』、時折「神聖を汚す者」と呼ばれる、屍術的に動かされている屍であり、もう一つは『スカーブ』で、死体から錬金術的に構築された存在である。
『スカーブ』は『グール』とは違い、それを創ったり、使役するにはかなりの技術が必要となる。
しかし、その強さは『グール』に比べ頭一つとびぬけたものであり、グールを使役する『グール呼び』がその腕をゾンビの数で勝負するのならば、『スカーブ師』の腕は自身が使役する『スカーブ』の質でわかるというのだ。


「……!っち」


彼女スカーブが自分の方向に向かって突撃してきていると知ると、すぐさまそれに向かって腰に下げていた《刃のブーメラン》を投げつけた。
しかし、件のスカーブは飛んでくる《刃のブーメラン》の方向に腕を伸ばし、その手についている手甲であっさりとそれをはじいた。

そして今の一連の動作で、こちらに迫ってきている『スカーブ』、ニウははっきりと確信したわけではないが、おそらく一流の者の手によってつくられたのだろうと推測した。

『スカーブ』はその死体の質や臓液の純度など材料の良しあし、そして、ルーン刻みや修繕などの製作した人の腕の二つによって大きくその強さが変わる。
そして、今回のスカーブはその体に刻まれたルーンの量とそこから発せられる魔力光の輝きの強さ、あっさりと《刃のブーメラン》を止めれるだけの固さ。
なにより、手甲を使い防御したという、『ゾンビ』にあるまじき頭の良さと反射神経。
おそらく夜道でいきなり至近距離から奇襲をかけられたら、あっという間に挽肉へと変えられていたかもしれない。
しかし、それほどの強敵がこちらへ襲ってこようとも、ニウは全く動じずにその『スカーブ』を見据えながら呟いた。


「……けど、残念だったね。
今回ここは私にとって、絶好の環境。
影よ、わが怨敵の身の自由、絶対に許すな。《闇の掌握》」


彼女が呪文ともいえないくらい、短い詠唱をする。
すると、スカーブの下にある、石の床の隙間から、黒い影が伸びてきた。
その影は『スカーブ』と方へと延びてゆき、そして、まるでヘドロのように地面から黒いゲル状に何かが湧き上がる。
それらはあっという間に、スカーブの体へと絡みつきスカーブの進行は止まった。
スカーブも何とかそのしがらみから抜け出そうとするも、どうやら力が足りないらしい、振りほどけないようだ。


「やっぱり相当強いな、あのゾンビ。」


ニウはそう言いながらスカーブの様子を余裕をもって観察していた。
なぜなら、ここは教会地下の《黒ミサ》、いや、《暗黒の儀式》の最中。
周囲には大量の《黒マナ》が漂っており、彼女が呪文を唱えるには絶好の環境。
その上『スカーブ』はご丁寧に目立つように遠くから現れてくれたという、好条件が彼女の心に余裕を生んだのだ。

そうこうしている間に、ニウの目の前でその黒い影は、何かの呪いであろうか、元々死体からできているはずのスカーブの身をさらに腐らせていき、スカーブの体はどんどんボロボロの穴あきとなっていった。
呪文の効果が切れ、呪文により立体化していた影が地面へと帰っていく頃には、スカーブの体は地面へと倒れこみ、体にはたくさんの穴があり、四肢などのいくつかの部位は完全に腐りきって千切れて落ちていた。

ニウはその『スカーブ』が動かなくなったのを確認するとニウは司祭の方を睨みつけた。


「ったく、いきなり何してくれるんだ。
どう云う事か説明してくれるよな?」

「ふむ、説明してやってもいいが……。
それはその《スカーブ》を殺しきってからだな。」


司祭の言葉を聞いたニウが、再びスカーブの方を振り返る。
すると、なんということだろう、スカーブの体に刻まれていたルーン文字が青白く光り輝いていた。
その体についていた腐った部位は、体から零れ落ち、さらに体の穴が増えた。
もぎ取れていた四肢は体から出てきた青い体液がそれらを胴体へと繋ぎとめる。
さらには、体の中に隠されていたのだろう、体表部には、多数の鋼の刃やトゲなどが皮膚から突き破り、むしろ外見だけで言うならば、そのスカーブはそれ以前よりも凶悪になったように感じられる。
そうして、そのスカーブはその身に多数の穴をあけながらもその二つの足で立ち上がり、むしろ倒す前よりも強くなって、復活してしまった。


「げっ、あそこまで壊してもと通りに復活できるのか。
……衰弱系の呪文で復活するってことは《再生》能力とかじゃないな。
まさか《不死》能力持ちのスカーブ?
これは文字通り『執拗なスカーブ』ってことか。」


彼女は焦りながら、そう呟いた。
目の前にいるスカーブは先ほどの傷などなかったかのようにこちらへ向かって走ってきている。

ニウの得意とする衰弱の呪文の弱点、それは前述した通り、純粋な体力が高すぎて効かない場合であるが、それ以外にもう一つ弱点がある。
それは、どんなに致死の傷を負ったとしても、瞬時にその傷を治せる《再生》能力持ちは殺すことができっても、一度死んでからもよみがえることができる《頑丈》や《不死》能力持ちには、効果が薄いという物である。

さて、以上のことを踏まえて、改めて情報を整理しよう。
そのスカーブと自分との距離は結構縮まってしまい、その走行速度は先ほどよりも早い。
流暢に長い詠唱の呪文を唱えられるほどの暇はないだろしう、詠唱がほとんどないような呪文であっても、3いや、2回が限度。
その身の強さは、ぱっと見でも大型の獣よりは確実に強い、殴られたら一撃で殺される。
この前ゲンが召喚したような小悪魔レベルのクリーチャーでは、一瞬で跳ね飛ばされてしまうのが眼に見えているし、《ネズミ》などでは壁にすらならないだろう。
さらに《不死》性を有しているので、もう一回倒してもさらに強くなって復活するかもしれない、いや、何度殺せば死んでくれるかもわからない。
その上、奴に対して衰弱の呪文は決定打となりえない。
奴を完殺するには、復活できなくなるまで殺し尽くすか、倒れたところで死体を焼くなどで焼却処分するしかない。
当然、ニウは火の魔法は使えない。


「(あれ、これってもしかしなくても、本当にやばくない?)」


ニウは若干の生命の危機を感じながらも冷静に目の前の障害を倒す方法を考える。

いくつか候補の案は考え付くも、どれもあまり採用したくない物ばかりだ。

まず一つ目は、眼の前にいる奴同様に《不死》であり、奴よりも強い力を持つと思われる、《灰口の悪魔王》に倒してもらうように命令することだ。
既にこの黒ミサの主賓として《灰口の悪魔王》は呼びだしているので、呪文の詠唱も必要ない。
流石に契約しているので、命令一つですぐさま真っ直ぐこっちまで駆け寄り、あのにっくきスカーブを殺し尽くしてくれるであろう。
……そう、あの悪魔絶対に文字通り、そう目の前にいる《教団員》など気にせず、『まっすぐ』突っ切ってこちらまでくるであろう。
一瞬、こんなことに巻き込んだ原因が教団員達であるのなら、この策は術師とスカーブどっちも葬れるので一石二鳥であるとか頭に浮かんだが、さすがに《スカースタグ教団》を敵に回してしまうだろう、この方法は却下。
二つ目は《突き刺す苦痛》の呪文で『スカーブ』を足止めした後、その間にこいつに勝てるだけの強いクリーチャーを呼び出すこと。
これも却下、このスカーブ、本当に《突き刺す苦痛》の呪文の効果で止まってくれるのか?
痛覚があるかどうか不明だし、あったとしても弱点を攻撃した苦痛ぐらいでは止まりそうもない。
逃げる、司祭に泣き付く、論外。
弱みを見せたら、骨までしゃぶりつかれるぞ。

結局いくつか案は浮かんだものの、最終的に採用できそうな戦法は一つだけであった。
それであるなら、万が一この策を失敗しても、すぐに別の策へと変更することができると考え、ニウは心は決まり、迫りくるスカーブへと眼をやり、呪文を唱える。


「息が詰まるなら吸い取ってやろう、《最後の喘ぎ》」


ニウの放った呪文の効果だろうか、《執拗なスカーブ》の後方の空間が歪み、そこから何者かの手がはいでてきた。
そして、その腕は紫色にうっすらと発光しながらは《スカーブ》の体へと巻き付いた。
その手は明らかに人間のモノではなく、長い爪、青い色、不気味な刺青とあまりいい予感をさせない物であった。
しかし、そのような腕に掴まれても、スカーブの進行は止まらず、多少は歩みが遅くなった程度のモノ。
依然真っ直ぐニウの方へ向かっており、すでにスカーブとニウの距離はもう目と鼻の先であった。


「やっぱ、このくらいじゃ止まらないか。
まあ、さっきの呪文よりも弱いから当たり前か。」


ニウはそのスカーブの依然変わらず活発な様子を忌々しげに見ながら、今回の作戦の要となるクリーチャーを呼び出した。


「気が進まないけど、しゃーないか……。
我が呼びかけに答えよ。塵山の精霊《屑嗅ぎ鼻》」


ニウが詠唱が完了すると同時に、ニウの体からスカーブの方へと浅黒い魔力が飛び出し、その黒い靄状の物体が、次第に姿を変え、体を形成する。
そして、ニウとスカーブの騒ぎに気づき、こちらの様子をうかがっていた《教団員》達はニウが呼び出した『精霊』を見て、思わず声を上げた。

その顔は豚。
この世界においても豚は一般的な動物であり、愛嬌のある顔で知られている動物である。
しかし、ニウが呼び出したその化け物の顔は『豚』でありながら、一片の生気も感じさせず、白い眼をむき、なぜか頭に生えているそのピンクの触覚はただただ不気味としか思えない。
その体は、蠕虫。
その背は紫色の体表をしており、節に分かれている。
そこに並ぶ丸い斑点、多数の細長い突起物が気持ち悪さを助長させる。。
体長は成人男性ほどもあり、いやにでかい。
さらには、足なのだろうか、その腹には一面のピンク色の触手、間接や規則性が見つからない。
イソギンチャクのようにびっしりと生えていながら、やけに太くうねうねと動いていた。
《屑嗅ぎ鼻》、それはまるで醜いという言葉をそのまま体現させたかのような精霊であった。

普通の人間なら、見ただけで逃げ出したくなるような化け物ではあるが、今回の相手はスカーブ。
そう、『ゾンビ』は『知性』はあったとしても『理性』はない。
《執拗なスカーブ》はニウへの進行を邪魔する障害、そう《屑嗅ぎ鼻》に向かって攻撃をした。
それに対して、《屑嗅ぎ鼻》も黙ってやられるわけではない、足代わりの触手を器用に使い、《執拗なスカーブ》に突撃した。
《執拗なスカーブ》はその腕力を持って、《屑嗅ぎ鼻》はその体の触手を使い、両者を攻撃する。
《執拗なスカーブ》の腕が《屑嗅ぎ鼻》の背をつぶし、《屑嗅ぎ鼻》の触手が《執拗なスカーブ》の体により多くの穴をあける。
そして、二匹の衝突が止まった。


「……相打ち?」


誰の言葉かはわからないが、その頃場が部屋の静寂にやけにはっきりと響いた。
《スカーブ》は膝をついた後に地面に倒れ、《屑嗅ぎ鼻》はその半身をつぶしながら横たわった。


「どうした、このままいたちごっこを続けるつもりか?」


両者が倒れたのを見計らい、司祭がニウに向かいそう挑発的に話しかける。
《屑嗅ぎ鼻》はどう見ても背中から体がつぶれてしまい、再起不能であろう、その体はぼろぼろと崩れ、《黒マナ》へと還って行っているのが素人目で見てわかる。
一方スカーブの方は、その体のルーン文字が光っており、このままであるとまた復活してしまうのが眼に見えている。
しかも、死ぬたびにニウの『衰弱』に呪文の効果が解除され、不死性によってより強くなって甦ってしまう。
しかし、ニウはそのような状態を知ってか知らないか、スカーブや司祭の方には目を向けず、《屑嗅ぎ鼻》へと最後の命令を下す。


「さあ、今だ!喰らえ《屑嗅ぎ鼻》」


―――ピギイイイイィィィ!!


ニウの命を受けた《屑嗅ぎ鼻》は、最後の一声とばかりに大きな鳴き声を上げ、その身を崩しながらも、スカーブの上へとのしかかる。
そして、その豚の顔の口を大きく開け、スカーブの頭にかみついた。


―――ガリッガリッ、ボリッボリッ


《屑嗅ぎ鼻》の咀嚼音が部屋に響く。
《屑嗅ぎ鼻》の体はつぶれた部分からどんどん魔力へと戻っていき、黒い煙のようにその身が消えていく。
しかし、その食べる勢いは一向に衰える様子を見せることなく、スカーブの体はみるみるなくなっていく。
初めは、それぞれ歓喜の声やら悲鳴やらを上げていた《教団員》達であったが、今や静かになり、全員が《屑嗅ぎ鼻》のおぞましき食事風景をただただ呆然と眺めていた。
……そう、《屑嗅ぎ鼻》は力はそれほどないものの、その死に際、辺りにある塵や死体を喰らってから消えるという性質を持っているのである。

そう、これがニウが出した答え。
《執拗なスカーブ》が何度も復活してしまうなら、死んでる間に《屑嗅ぎ鼻》に喰わせてしまおうという物であった。


―――ガツガツ、ゴリリ!


《スカーブ》の体を大方食べつくしてしまった頃には、《屑嗅ぎ鼻》の身もすでに頭しか残っていなかった。
そして、最後の一噛みと言わんばかりに、大きく口を開き《スカーブ》にかみつき、《屑嗅ぎ鼻》の体は完全に消え去り、《スカーブ》の体もいくつかの金属片を残して、この世から姿を消してしまった。
あまりの光景の異様さに、《教団員》達はただ呆然とするばかり、《悪魔》と《小悪魔》は歓声を送り、《司祭》は感心した様子でニウに話しかけた。


「ほう、まさかこのような方法で倒すとは。
おそらく貴様なら倒せるとは思っていたが、まさかこんな短時間で、しかもこのような方法で倒すとは。
私の予想をはるかに超えていたぞ!さすがと言っておこう。」

「その褒め言葉、火や信仰の魔法を使えない私への嫌味にも聞こえないこともないけど、今回はその言葉、素直に受け取っておくよ。
……で、結局今のこれはなんだったわけ?
私にこいつを仕留めさせたいのはなんとなく察した。
しかしこの依頼とやらはどういう意味があったんだ?
あんたは何がしたかったんだ?」


ニウはそう言いながら、司祭を睨みつけた。
もし教団が真面目に彼女を殺したいのなら、彼女はすでに《司祭》に殺されているだろうし、それはない。
あの《スカーブ》がニウでなければ倒せなかったからこのような依頼を頼んだのか?
彼女の横にいる《司祭》は悪魔を召喚できるほどの黒魔術師であると同時に《ガヴォニー》屈指の腕を持つ『聖戦士』。
そんな《退魔》専門者がこの程度のやつを殺せないわけがない。

以上の事からニウ自身、何を目的に司祭がこのようなことをしたかは、なんとなく予想はついていたがそれでも聞かずにはいられなかった。


「……すまないな。こんな実力を試すようなことをして。
私自身、貴様がこいつを倒せるくらいの実力があることはわかっていた。
しかし、依頼主が『こいつを倒せるくらいの実力がなければ、我が依頼を受ける資格がない』の一点張りであってな。
さっ、出てこい。」


司祭がこちらの様子をおどおどと見つめている《教団員》達に向かって呼びかける。
すると、その中から小柄な人影が歩み出してきた。
その大きさはニウよりも小さく、おそらくまだ10もいっていないであろうことが分かる。
ほかの団員同様に黒いフードとマントに覆われているため詳しい容姿は不明ではある。
その子供は司祭の横に立ち、ニウの方をじっと見つめた。


「……その子は?」

「ああ、もう一つの依頼として、君にはしばらくこの子を君の家で預かってほしいのだよ。
なお、拒否権はないものとする。」


わけがわからない。
正直、どこの親が子供を黒魔導師に預けるのか?
そもそもどんな任務なのか?様々な思いが交差する中、とりあえず、ニウは曖昧に言葉を返す。


「……ハア、私は救貧院や託児所になった覚えはないぞ?
子守りの依頼なら別の所に頼んでくれ。」


ニウは司祭にそう呆れたかのように言った。
しかし、子供の方はニウの言葉が気に入らなかったのだろう、強く反論した。


「俺はもう10は超えている、ガキじゃない。
それにお前だって、アイツを倒せるくらいには腕が立つようだけど、それでもガキじゃないか。」

「……はいはい、私が悪かった。ごめんごめん。
で、結局どういうことだ?本気で私に子守りをさせるつもりじゃないよな?」


子供の言葉に適当に対応し、司祭へと話しかけるニウ。
子供の方は自分がぞんざいに扱われていることに腹を立てるが、ニウは一向に対応する気配を見せなかった。


「詳しいことは後程話すが、そいつは実は、若手の《スカーブ師》だ。
とは言っても、未だ《スカーブ》一匹作れない未熟者だがな。
さて、君には彼と協力して、やってほしい任務がある。
何、短期の小遣い稼ぎのようなものだ、頼めるか?」

「……いったいどんな内容な事やら。
まあ、聞くだけ聞くよ。」


その後、ニウと司祭はその任務の大まかな概要を話し合い、結局しばらくこの子供をニウの家で預かることに決まった。
ニウは、しばらく無視されたからだろうか、少しすねた感じの子供に向かって話しかけた。


「……さて、紹介が遅れたな。
私の名前は「N]、偽名だ。
本名は後程教えるが、君をしばらく預かることになった者だ。
しばらくの間よろしく頼むぞ、ぼうず。」


「……ポール、偽名だ、よろしく。
後俺はもう10を超えた、子供扱いはするな、女。」


その子供は不愛想にニウに向かって挨拶をした。
どうやら彼は、ニウに子ども扱いされたのがよほど苛立ったらしく、懲りずに訂正してきた。
彼のその言動が、より彼を子供っぽく感じさせられるのは言わぬが花というやつであろう。
さて、今回司祭から言われた任務、断れないからやるとはいえ相当めんどくさい任務であった。
やっぱり今回は無理をしてでも、この集会に来ない方がよかったかなあと後悔し始めているニウであった。







★★★★★★★★★★

暗黒の儀式  (黒)

インスタント

あなたのマナ・プールに(黒)(黒)(黒)を加える。

儀式は影からの声で終わりを迎えた。不吉な力を持つ、大きな声で。
――― 祭影師ギルドの魔道士、ケフィームボウ.


★★★★★★★★★★



★★★★★★★★★★

執拗なスカーブ  (3)(青)(青)

クリーチャー — ゾンビ(Zombie)

執拗なスカーブを唱えるための追加コストとして、あなたの墓地にあるクリーチャー・カードを1枚追放する。

不死(このクリーチャーが死亡したとき、それの上に+1/+1カウンターが置かれていなかった場合、それを+1/+1カウンターが1個置かれた状態でオーナーのコントロール下で戦場に戻す。)

4/4

★★★★★★★★★★



★★★★★★★★★★

屑嗅ぎ鼻  (2)(黒)

クリーチャー — エレメンタル(Elemental)

瞬速

屑嗅ぎ鼻が戦場を離れたとき、いずれかの墓地にあるカード1枚を対象とし、それを追放する。

想起(黒)(あなたはこの呪文を、その想起コストを支払うことで唱えてもよい。そうした場合、戦場に出たときにこれを生け贄に捧げる。)

2/2

★★★★★★★★★★





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うい、どくいもです。
前回は更新が遅くなると言いいましたが、予想よりも早く投稿できました。
とりあえず近くの店に「ラヴニカ」を再入荷してくれたおかげでモチベもモリモリです。

……はい、正直ここまで沢山いただいた感想にビビり、急いで書き上げました。
しかも、自分のお気に入りサイトで、自分のこのssが紹介されていて2度びっくりしました。

ここでお礼を申し上げておきますが、誤字脱字の指摘や感想、実にありがとうございます。
自分の文章のレベルは決して高いとは言い難いですが、精一杯面白いと思われる文章を書けるよう、精進していきたいです。


さて、次回の更新ですがかなり遅くなることが予想されます。
個人的な事情により遅れることが予想されます。
早くても11月の真ん中、遅いと1月初め位になるかもしれません。
まあ、予定はry)

では、また次の更新で会いましょう!では




おまけ


自分がMTGを始めたのは、部活の先輩、同学の友達両人に勧められたからでした。
その時は、自分のカードを持っておらず、友達や先輩にカードを借りて遊んでいました。
しかし、親切な先輩が40枚デッキ一個ぽんと私にくれたのを覚えています。
そして、その内容を一枚漏らさず覚えています。


ありがたい老修道士×20枚
平地×20枚


……本当にウレシカッタデス。
ウソジャナイヨ、ホントダヨ。



[34830] 1-6
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2012/12/04 08:43
時間は深夜。
彼女に任務が告げられてから、すでに一月ぐらいが経ち、すでに季節も《収穫の月》から《狩人月》へと移行していた。
しかし、外が寒くなろうが今日も今日とて、ニウは錬金術の実験室で彼女は発明と実験を繰り返していた。

彼女の錬金部屋。
初め、この家をスカースタグ教団に紹介されたばかりのころは、彼女はこの部屋を地下室を隠すためのダミー程度にしか思っていなかった。
しかし、実際ここに住み始めてから悪魔から得た知識を運用するためには、地下室は《黒魔術の儀式》ようにしなければならず、それ以外の本格的な錬金術の実験や発明はこの錬金部屋でやったほうが効率がいい事に気が付いたのだ。
ここに入った当初は、量の虫の標本と虫かごが散乱し、訳の分からない冒涜的な文章で散らかっているという怪しげな部屋であり、この部屋を使うのもいやであったのだが。
(まあ、地下室も巨大な昆虫の繭や不気味な蜘蛛の巣などまともな環境ではなかったが。)
しかし、彼女が数年にわたる努力の結果、現在のこの部屋は大量のビーカーや怪しげな機械、多数の薬瓶とそれらが散乱している大型の机と椅子、そして本棚と薬棚がある程度の普通の部屋というまだましな見た目な普通の錬金術師の部屋と変わったのだ。
そして、それを成し遂げた件の人物は、現在その部屋の椅子に座っており、机の上で何か作業をしている。


「……っん、ここはこう書いてっと。
おい、ネズコウ。次のページをめくるから本の上からどきやがれ。」

「ふうん、やはりこの世界の錬金術とやらは興味深い。
この世界に満ちている、《マナ》の質、吸血鬼の生態、狼男の呪い。
これ程にこの世界は悪意に満ちている、これでアヴァシン教徒とやらがなければ最高なのにな。」


《鼠》はニウが読もうとしている本から降りながらそう呟く。
ニウはその鼠の言葉を聞き流しながら、本のページをめくり、作業を続ける。
ニウは一見だけ本を確認すると、すぐに彼女の手元に視線を戻し彼女の握る筆の先を凝視する。
ニウの手にある筆は一見只の羽ペンのように見える。
しかし、そのペンの先端についているのはただの墨では無いようで、その筆先が薄緑色に発光している。
何より彼女がそのペンで書きこんでいるのは物は、紙でも羊皮紙でもない。
それは金属片であり、彼女がその金属片の上に筆を走らせるとそこが緑白色に輝き、その軌跡は何かの文字のようにであった。
さらにいえば、その金属片がくっついているのも普通のモノではない、机いっぱいよりも少々でかい物であり、よく見るとそれが動物の胴の一部であることがわかるだろう。
そう、今彼女が作業をしている机の上には《大きな蛇の胴体》が横たわっていた。
しかも、その蛇の様子はどう見ても死体であり、胴体の一部には大きな穴が開いており、、その顔にはいくつかの縫い跡が見られる。
何より特徴的なのが、その口内や胴の一部には、現在ニウが文字を書き込んでいる金属片同様、いくつかの金属でできた部品がくっついていることだ。


「……ったく。
ああ、今日は調子がよくないなあ、ルーン文字がガタガタだし、集中力も全然だめだね。
やっぱり《スカーブ》は薬品よりの死臭っぽい臭いが強し、何より値段のことを考えると憂鬱になるしなあ。
これなら、同じ労力や値段でも違法じゃない《ゴーレム》作ったほうが効率がいいだろうとか考えるあたり、私は《スカーブ師》、いや今はやりの言い方は《縫い師》だっけか?
とにかくそれには向いてないのかねえ。」

「くくく、手間を掛けずに成果を得たいのなら、我との契約をもっと深くやらないか?
時間も一瞬、手間もなし、この世界のアヴァシン教の奴らにはばれない素晴らしい力をあたえるぞ?」

「やだよ。
お前の場合、その為の対価が取り返しがつかない物ばっかりなんだろ?
せいぜい今は、ニワトリとかネズミで我慢しろ。
ていうか、この前の契約では結構奮発しただろ?」


そう言いながらも、ニウが金属片に走らせる筆の動きはよどみがない。
そう、今彼女が製作しているのは錬金術師の作り師、不格好な生命こと《スカーブ》である。
スカーブはこの世界での錬金術師の主流戦闘法ともいえる、錬金術師ならば作り方を知らなければもぐりとも言えるレベルの物である。
しかし、それを創る手順や材料はどれも手間がかかるモノであり、そう簡単に一般人が手を出せるものではない。
手順としては大まかに4段階あると言える。
まずは『死体修繕』別名『身体製作』。
これは文字通り、生き物の死体を調達し形になるように部品を集めることである。
《スカーブ》はスケルトンやグールとは違い、できるだけ体の部位が多くそろっている方がよい。
もちろん通常なら人間の体の部位を集められるのが基本だが、別にそれに限る必要はない。
力を求めて、熊や馬の死骸の腕を使ってもよいし、ドラゴンやグリフォンの翼を繋げて空を飛ばせるのもよい。
そして、その集めた体の部品を繋げる作業を「ルーン繋げ」と呼び、別名「板金合ワセ」という。
それは「繋ぎの金属板」を使用して様々な解剖学的組織を繋ぎ合わせる工程である。
そしてこれこそが今彼女がやっている作業であり、彼女はその手に持つ筆で猫の体を各部と繋げている金属片にルーン文字を刻んでいるのだ。
これらはルーンが刻まれている銅や青銅の板で、死体修繕によって集められた異種の部位間を(神経の代わりに)繋ぐ秘術的な橋の役割を提供する。
これのおかげでスカーブは、自身の体に貴金属の凶器や生前持っていなかった羽などの部位が仕込んであったとしても、それを己が体の一部のように扱うことができるのだ。
その後に続く作業として、第三工程「臓液注入」、最終工程「静カナル呪文」と続くわけであるだが、今ここでは割愛しておこう。


「くくく、確かにお前の血は私の契約者の中ではなかなかうまい方であることは認めよう。
そうだな、《祭壇の刈取り》でくだらない生き物の命をいただく位なら、《血の署名》で貴様の血をもらった方が我としてはうれしいな。」


《鼠》は笑いながら呟く。
その言葉を聞き、ニウはピクリと眉を動かし《鼠》に尋ねる。


「それは私がもしや『魔術師』として魔力が多いからとかだからか?
なんか特別な理由があるからか?」


ニウは《鼠》の言う自身の血の価値とやらを少し気になり、《鼠》に尋ねてみる。
彼女はなぜ件の悪魔が、自分に対して契約を申し込んできたか未だに知らず、彼女としては早くなぜ自分がこの悪魔の眼に適ったかが知りたかったのである。
もしこれが、何か特別な血ならよし、なくても自身の契約の発端を知ることができるかもと思って尋ねたが、返ってきた言葉は彼女の期待に反した物であった。


「いや、特にそういうものはない、貴様の血の味はなかなか我好みであるからだな。
あえて言うなら、黒魔術師なのにただの人間、しかもそこそこ若い処女っていうのは珍しいからだな。
おお、できれば貴様が性行する時は我に知らせろよ。
その時に流れる血はとても美味だろうからなあ!」


その言葉言い切ると《鼠》は高笑いをし、ニウは手を止めて額に手を当てる。
《悪魔を信用してはならない、嘘はつかないが》これがこの悪魔との会話の基本である。
それにより、この悪魔が自分の血を欲したのはあくまで嗜好品程度なのだろうとわかり、結局質問が無駄骨だと知った上に要らんことまで言われ、ニウの心はさらに重くなった。


「……はあ、今の私はあんまりお前の冗談に付き合ってやれる余裕はないんだよ。
分かったら、とっとと地下室の様子でも見に行ってくれ。
そろそろアイツも集中力が切れる頃だろうから。」

「おお、怖い怖い。
叱られる前に、あの餓鬼の様子でも見に行こうか。」


ニウは《鼠》に向かってそう新た命令を下す。
ここ最近ニウの心は重くなっている、その原因は多々あるが現在一番重くのしかかっているのは《スカースタグ教団》からの指令である、《ポールの保護》及び《修行》と言うものであったという事だ。
ニウにとって初めは訳が分からない任務であったが、内容は一見簡単な物であった。
それは、《教団員》であった《ポール》の両親が《教団》や《黒魔導師》に恨みを持つと思われる者から殺されたらしい。
しかも、そいつはここの所《教団員》やそれにつながりがある《黒魔導師》を探しては殺すという大悪党(?)でありながら、未だ《スカースタグ教団》と《アヴァシン教会》のどちらも未だにそいつは捕まえることができていない。
それ故、今は別の州に住んでいる彼の親せきであるほかの《教団員》が見つかるまでは、教団とはつながりが薄いニウが《ポール》を預かり、ついでにその子供を『錬金術師』、いや正確に言えば《スカーブ師》の弟子として役に立つレベルまで修行をしてくれと言うものであった。
その時はどうせ断れない類の任務であろうし、命にもかかわらない任務のようであったからなんとなくで流し聞きにしてしまった。
が、今現在は、もし過去に戻れるのなら過去の自分に言ってやりたいことがあった。
どうして、二つ目を断らなかったのだ。
一方《鼠》は地下室の入り口前まで近づくが、突然ぴたりとその足を止める。
その突然の《鼠》の様子の変化に、ニウは尋ねた。


「ん?どうした?
なにかあったか?」

「ふむ、契約者よ。
どうやら、少し遅かったようだぞ。」


鼠がそう言った瞬間、地下室の入り口付近から、〈ポンッ〉という小さな破裂音が漏れる。
それと共に、その入り口から洩れる光の量がまし、どたどたという複数の物音まで聞こえてきた。
もし、これが初めて遭遇することであったらニウも驚いていただろう。
しかし、これはすでにここ数日の間でニウが数回経験したこと、いやな意味で彼女の中ではお約束ともなっていた。


「……またかよ。
はあ、ちょっと地下室行ってくる。」

「くくく、わざわざご苦労なことだ。」


ニウはそう鼠に言うと椅子から立ち上がり、地下室へと向かう。
彼女が地下室を見ると、まず眼に入ったのが床にはいくつかのガラス片。
それと忙しそうに動き回る2体のアーティファクトクリーチャーと先日ニウが作った動物のスカーブである《黒猫》が一匹。
そして、床に広がっている多数の燃えている液体、もしここが木製の床であったら火事になっていたことであろう。
ニウはこのような惨状を見て、以前はこの地下室にあった木製の本棚や赤いカーペットという燃えやすい物や、水晶玉や生贄用の動物籠と云ったものが壊れやすいもこの部屋から事前に運び出しておいて正解だったなと、内心安堵する。
彼女が視線を部屋の中央に向けるとその目に飛び込んで切るのは、机の前にいるむくれ顔をした、小柄の体に赤いローブをしている者である。
その人物こそがこの惨状を作り出した原因だということをニウは理解しており、そして、その人物に向けて何度目になるかわからない同じ言葉を吐く。


「おまえ、《臓液》に魔力を注ぐときは最大限注意を払えって言ったよな。
それには《天使の血》が入っているため安くないし、その上失敗したら死ぬかもしれんから細心の注意を払えって、何回私が説明したと思ってんだ?
なのに、このような同じ間違い何度も繰り返しているようじゃ《スカーブ師》になるどころか、スカーブ一匹作れるようになれないぞ。
……いや、ほんとうにわかってるのか?」


ニウは件の人物にそう説教交じりに話しかけるが、その人物は全く反省の色が見えずむしろニウに向かって強気に反論する。


「ふん。別に一回や二回の失敗でガタガタいうなよ。
俺は偉大な錬金術師になる男だ、むしろ指導できることを誇らしく思え。」

「一回や二回じゃないから文句を言ってんだよ、ガキん子。」

「俺はガキじゃない!」


叱られているはずなのにやけに偉そうなのが、今回《スカースタグ教会》より預けられた少年、《ポール》である
そして、自称錬金術師であり、同時に『反抗期』まっさかりの少年でもあった。




【ネタ】MTG転生物【TS転生物】 1-7




「ん?まだあの子は起きていないのか?」


その翌日、昼の少し前位にニウは遅めの朝食をとっていた時に彼女はそう、デアの話しかけられた。


「あ~、ポールのこと?
昨日の夜、私の実験につき合わせていたからとりあえず昼過ぎまでは寝かせてあげてよ。
大人びているけどまだ子供なんだし。」


デアはそう一人で納得しながら、部屋の掃除をしている。
ちょうど、ニウが首都から帰ってきた当初、彼女が前触れもなしにポールを預かるとデアに伝えたのだ。
デアがニウから聞いた話は、『ポール』は自分が世話になった雑貨屋の知り合いの子供であり、その両親が流行の病で亡くなったから、しばらく預かることとなったという事だ。
デアは突然の話に驚いたものの、その事に対して別段反対の意見は出なかった。
デアはもともと孤児、子供が一人で生きていく厳しさを知っている。
仮に今回もしポールが《救貧館》に預けられるとしたら、元々両親がいたある程度育った子供が親を亡くして入館する場合、その子供は《救貧館》内の空気になじめず、院内で孤立ことがよくあるからだ。
《救貧館》内でグループにあぶれるという事は、それだけで居心地が悪くなるのは当然であり、下手をしなくてもいじめに発展することも多い。
元孤児出身として、子供にそのような道へと進んでほしくはない。
今回子供を預かることで問題があるとしたら、それは料金面位ではある。
しかし、それはどうやらある程度は向こうが出してくれるようで、聞けば、今回ポールを預かるのはあくまで一時的な物であり、この子には親せきがいるとのこと。
で、そちらに連絡がつき次第そちらに行くとのことらしい。
まあ、それならこの時々家を外したりするような変わった家ではあるものの預かることができ、また、それまでの間そのような心象が複雑になっている子供を何とかしたいという親切心からも、彼はその話を承諾したのだ。
そして、そんな彼の思いやりからか、毎回とあることについてニウへ訴えていることがあった。


「で、結局ポールには『錬金術師』としての技術を教える意味はあるのか?
そのせいで、ここんところポールはほぼ毎日夜更しとはいかないものの日が沈んでからもかなり起きてるじゃないか。
俺としてはまだアイツは子供なんだから、下手な無理はさせずに、何かを学ばせるとしても家事手伝いとかもっと別の技術にしたほうがいいんじゃないかと思うんだ。」


意外と子供好きなデアは、ポールがここの所毎晩夜更しし、錬金術の修行をしていることに対して反対の姿勢なのである。
確かにニウもデアの意見がポールを思っていっていることは理解しているし、それが《教育》の面ではおそらくだが、正しいということはわかる。
《ポール》ぐらいの年齢の子供に夜更しは相当きついであろうし、今の時期の子供は、下手に専門的なことをさせるよりも《数学》や《家事》といったことを学んだ方が将来役に立つであろう。
彼や彼女が《救貧館》にいた頃も子供たちの多くがやらされていたことは、『読み書きの練習』や《数学》など、いわゆる前世で言う《小学校》みたいなことをやっていた記憶があった。
しかし、ニウにとってそのことは耳にタコができるほど聞かされていることであり、うんざりしているのが本音であった。


「……それに関しては、何度も説明しただろう。
彼の両親の遺言で≪彼が立派な錬金術師になる様に錬金術師の所で修業させてくれ≫って書いてあったらしいから、さすがにそれを無視するわけにはいかないだろう。
それにあの子自身も『錬金術』の修行にかなりのやる気を見せている。」


ニウはそうデアに毎回説明をしているが、デアの表情は思わしくない。
もちろんポールの両親は突如不審者に殺された故に、遺言など残す暇がかったので、この理由の前半部は嘘である。
ニウが、ポールに『錬金術師』、しかもその中でも彼女が不得手としている《スカーブ師》としての修行をしているのはあくまで《教団》からの任務だからだ。
まあ、だからと言って手を抜かずに修行の指導をしているのは本人の生来の凝り性からか、それとも教団からのいちゃもんが怖いからかは不明ではあるが。
しかし、デアは諦め切れずに再度ニウに対して訴え続ける。


「けどなあ、ならせめてその頻度を減らすやら、もっとゆるくするとかいろいろ方法はあるだろう。」

「しつこいなあ~。
なら、ポール本人に言ってよ。
一応、彼の頼みでこの修行を着けているんだから、あの子が無理って言ったら私はやらないよ。」

「それができたら、お前に言わねえよ。」


結局またこの流れになるのかあ、両者ともひそかにそう思い、ポールについての会話を続けていった。
ニウは思う、デアは将来子供ができたら絶対に子煩悩になる典型だろうなと。
結局二人の公論は日が天の頂点に来るくらいまで続けられ、デアが教会へと出かける時間となったので、ひとまずその話題は打ち切りとなった。


「いいか、できるだけ頑張ってくれよ!」

「はい、はい。
ポールの事は良いから、今は自分のことに集中しろよ~。」


結局、なぜか毎回『ニウがポールを《錬金術》以外の特訓もやるよう説得する』という方向に話は収束してしまっている。
無論、ニウはそんな面倒くさいことを尽力を尽くす気は全くないが。
そして、ニウはデアが部屋から出て行き足音が遠ざかったのを確認すると、彼女は後ろを振り向きそれに向かって声をかける。


「で、今までの話を聞いてたとは思うけど、どう?
いったん《スカーブ師》の修行、あきらめる気ある?」

「断る。
これは俺から言いはじめたことだ。
今ここであきらめる気は全くない。」


ニウが声をかけた方から、実は数刻前からひそかに隠れていた、さっきまでの話題に上がっていた少年、ポールが現れる。
その横には体の一部が金属ででき、体表には複数の継接ぎがある猫のスカーブ《黒猫》をつれており、まだ眠いのか、眼をこすり大きな欠伸をしている。
ニウはポールの横にいる《黒猫》の動きを見てふと気が付いた。


「おお~。
眠くても、ちゃんと《スカーブ》の制御ができるようになったな、関心関心。」


ポールは現在、ニウの元で様々な《スカーブ師》として必須な技術を学んでいる。
そして、現在《ポール》が行っているのは《スカーブ》の制御と操作というある意味最も《スカーブ師》にとって《基本》でありながら、大事な魔法である。
錬金術師の手によって生み出される《スカーブ》は、生者への恨みにより復活する《グール》とは違い、その性質は『純粋無垢』、アンデットというよりは『ホムンクルス』に近いと言えるだろう。
作ったばかりのその精神はまさに赤子の状態であり、生まれつき《残虐性》の強い《グール》とは違い、学習自体でどのような性質にもなりうるのがスカーブである。
しかし、そのような状態である《スカーブ》を一から教育したり、口頭による指示だけですべてを行うのは難しい。
(そもそも耳が機能していないスカーブも多いし、動物の脳で作ったスカーブの場合、人間の言語が理解できるほど賢いかも怪しい。)
そのため必要となるのが《精神制御》という魔法。
とは言ってもこれは近くでしか使えない『テレパシー』レベルの簡単な魔法であり、まさしく『呪文』の必要すらないような魔法である。
現在これが《ポール》が唯一まともに使える《スカーブ師》としての技術であり、逆にこれ以外の《スカーブ》に関する技術はちょっと……といった具合である。
ニウとしては、《ポール》には、もっと《スカーブ師》として大事な《創造的》な技術、たとえばスカーブとして使える死骸かどうかを見極める『死体鑑定』やスカーブの体液である《臓液》の製作などの技術をきちんと学んでほしいという気持ちがあった。


「ふん。
俺は一流の《縫い師》になる男だ。
これくらいできて朝飯前だ。」


しかし、ポールはニウの言葉を純粋にニウの褒め言葉として受け止め、若干眠そうながらも、誇らしげな顔でポールは答える。
余裕と言いつつも、その声のトーンが若干高いのご愛嬌というやつであろう。
そんな若干、テンションが高くなっているポール少年の様子を見つつ、ニウは考える。

ニウから見て、ポールが錬金術師として才能があるかと言われれば難しい所だと答えるであろう。
現在彼は未だに《スカーブ》一匹も作れず、かといって正式な『錬金術師』としての腕もほとんどない。

確かにポールは錬金術師としての魔力的、いや先天的な素質はそこそこはある。
まず《魔術師》として最も重要である、体内に秘めるマナの量はかなりのものである。
デアでは比較にならないほど多いし、もしかしたら自分より多いかもしれない。
そして、次に彼の体内に秘めるマナの性質である。
《教団》によると父親が元《グール呼び》の《スカーブ師》でもう片方《錬金術師兼スカーブ師》であったらしく、腕はどちらも一流と言って過言ではないらしい。(まあ、その一流とやらがどこまで信用できるかは不明だが。)
彼らが本当に一流なら、彼の父親のマナの性質は《黒》、母親は《青》マナ、もしくは《赤》のマナといったところであろうし、それゆえ彼は両親どちらかのマナの質に似ていると考えられる。
最も《スカーブ師》に向いているマナはおそらく《青》のマナの持ち主であろう。
多くのスカーブは《青》のマナの生き物であり、またそれを呪文として唱える場合も《青》の呪文になるからだ。
次点で《黒》はもう、云わずともわかるであろうが、《黒》の呪文は『死』の呪文、《アンデッド》に関する呪文は得意中の得意である。
まあ、一応《赤》のマナは《錬金術師》としては有用であり《スカーブ》製作途中で必要となある《臓液》の製作に向いているので一応《スカーブ師》の才能があると言えるかもせれない。
いずれにせよ彼の身に秘めるマナの性質は《スカーブ師》に向いているであろう。
その上、彼は頭もこの年代の子供にしては良い方であろうし、すでに読み書きや簡単な計算ならできるほどである。

しかし、ポール少年に肉体的に《スカーブ師》の適性があったとしても、本人の性格があまりにも《スカーブ師》のそれとはあっていなさすぎるのである。
ポール少年の性格はいい意味では意志が強くて積極性があり、悪い意味では意地っ張りで短気。
正直、《錬金術師》や《スカーブ師》が必要とされる、繊細さや計算高さなどの俗に言う「科学的思考」とは真逆の人間である。
まあ、性格の問題は彼が子供だからと言われてしまえばそれまでだが、それにしたっていろいろやる事がおおざっぱであり、正直これが生来の性格なら《錬金術師》としては致命的であろう。
しかも、普通の子供であるなら、ここで自分とあっていないと思ったり、投げ出すのであろうが、なまじやる気があるだけ面倒くさい。
聞けば彼は、両親が生きていた頃からこの技術を学び始めかれこれ数年が経っているというのが驚きだ。
正直、ニウにはなぜポール少年がそんなに《スカーブ師》にこだわるか、わからなかった。
彼位の年頃の少年であるなら、大抵は『錬金術師』=陰気な性格というネガティブなイメージとして扱われることが多い。
(まあ、彼の場合両親がそれなのでそうとは限らないが。)
彼みたいなある意味典型的な『少年』のような性格の人が目指すものではない。

……ちょうどいい機会だし、聞いてみるか。
そう思いニウは褒められたからか、やけに饒舌になっているポールに向かってその疑問を尋ねる。


「そう言えば聞いてなかったが、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「ん、なんだ仮師匠?」


ポールは突然ニウに真顔で話しかけられ、少し不思議に思いながらも聞き返した。
なお、ポールはニウが彼が親戚の所に行くまでの一時的な師匠でると言ったら、かってにこう呼び始めた。
ニウとしても面倒くさいので特にこの呼び名について訂正はしていない。


「いやあ、さあ。
そう言えばなんでお前がスカーブ師を目指すか聞いてなかったなあって思ってな。
お前くらいの年ごろのやつらは、大概《アヴァシン教》の聖戦士を目指してるだろう?
やっぱりあれか?親の仕事にあこがれたからとかか?」


ニウは自分が考えるなかで最も確率が高そうなことを口に出し、ポールに尋ねてみる。
ニウの予想としては、おそらくは『親の仕事』に憧れたからや、『両親が馬鹿にされたのを見返したいから』とかを予想していた。
多くの子供は小さい子供が変身ヒーローに憧れるように、この世界の子供も《アヴァシン教》の聖戦士を憧れる子供は多い。
その理論で行けば、ある意味典型的な子供っぽい性格であるポールも《アヴァシン教》の聖戦士を目指すのが普通かなと考えた。
しかし、現在錬金術師をやっているニウは、『錬金術師』と《アヴァシン教》の関係がすごい悪いのがよくわかる。
正直、デアという緩衝剤があるおかげで大分ましではあるが、それでも《アヴァシン教》が自分、いや《錬金術師》という存在を嫌っているのが眼に見えてわかるほどだ。
ポールが『錬金術師』の家で育ち、且つ親思いであったとしたら、と考えるのがポールが錬金術師になる理由として妥当、そうニウは考えた。
まあ、特に彼の場合、両親への思いが特別強くなくとも、殺されたという悲劇、習い途中というシチュエーション、いろいろとなんかこうベタなシチュエーションが固まっているので、『俺が両親の思いを継ぐ』とか思っても不思議ではない。

しかし、このようなニウの予想は次のポールのセリフで大きく外れることになる。


「はっ。
おれの様な天才がそんな理由で錬金術師になろうとするわけないだろう。」

「……さよか。」


どんな根拠があるかはわからないが、ポールのセリフはやけに自信にあふれていた。
そのセリフにいろいろ突っ込みどころがあるが、ニウはあえてスルーした。
ニウの反応を知ってか知らないか、ポールは話を続ける。


「そもそも俺は、どんなことでも数回やれば、できるようになる天才だ。
その俺が今、錬金術を勉強しているのはあくまで通過点に過ぎない。
確かに親父と御袋がなくなったのは残念だが、それだってわりかし周りじゃあありふれているし俺としてはな。
今迄みたいに、おれはこれを学ぶことを通してもっと新しい物を見つけてやるんだ。
そして、真の天才の俺でしかわからない何かを調べつくしてやる。
そんな俺が《スカーブ師》になることぐらいで挫折していちゃいけないんだ。」


うん、訳が分からない。
それがニウの頭に浮かんだ率直な感想であった。
ニウはポールの余りの自信と訳の分からない超理論が若さゆえなのか、それとも本人の基質か、もしくはどっちもか、到底判別できなかった。
しかし、一応彼なりの《錬金術》を学ぶ情熱とやらは本物のだろうという事でニウは自身の中で決着をつけておいた。
これ以上言及するのが面倒くさかったというのが本音である。
一瞬、ニウの脳裏に黒魔術による《精神魔法》でポールの頭の中を覗こうかと思ったが流石にやめておいた。
彼女の数少ない良心であったのだろう。


「まあ、とりあえずお前は《錬金術》とか《スカーブ師》についての勉強をやめるつもりはなく、やる気万端ってことでOK?」

「ああ、もちろんだ。
なんなら、親戚の家に行く前に仮師匠の腕を超えちまうかもな。」

「まだ、スカーブ用の《精神制御》の魔法しか使えないくせによくそんなこと言う。
せめて、死体の『目利き』と《臓液》の作り方がわかってやっと見習いレベルだ。
それすらできないお前はまだ、『お客さん』レベルだよ。」


ポールの余りのテンションの高さに、ニウは少しあきれつつも何か力強いものを感じた。
まあ、案外こういう変人が大成するのかもなあとか頭に浮かんだが、とりあえず今はこの図に乗った小僧に少し現実と言うものをわからせねばいけない。
そう思いニウは魔法を行使し、ポールの制御下にあった《黒猫》を奪い、それでポールの顔をひっぱたいた。








「ああ、今回もダメだったよ。
アイツは人の話を聞かないからな。」

「……おい、本当に真面目に聞いたんだろうな。」

「ん?私を疑うのか?」

「……お前だから疑うんだよ。」


時は夜。
食卓を囲みながら、デアとニウはやっぱりポールについて話し合っていた。
そして、この話題の到達点は今回もニウの《ポールの説得は不可能》という結末で締めくくられるのであった。

今晩のメニューは日持ちのいい黒パンと鳥肉と野菜の串焼き、それに目玉焼きである。
つい最近、ようやくニウは念願フライパンを買うことができるようになったゆえの目玉焼きである。
この世界では、鉄製品は基本どれも高い。
その中で、鍋や鉄串はどこの家庭でもある一般の調理具ではあるが、フライパンは比較的高級品なのである。
彼女としては今までちょうどいい『フライパン』的な物が売ってなく、つい先日オーダーメイドで鍛冶屋に頼んでしまったが彼女は後悔はしていなかった。
もちろん、デアには無駄使いだと怒られたが、彼女にしては珍しく聞き流すわけではなく、全力で反論したことを追記しておく。


「まあ、あの子の強情っぷりは私じゃ説得するのは無理だわ。
物覚えはそこまでよくないけどな。」

「俺としては、せっかく親戚の家に連絡がつくかもしれないんだから、『礼儀』とか《家事手伝い》とか学んだ方がいいと思うんだがなあ。」

「ホントそればっかりだねえお前は。
それらこそ本人のやる気がなきゃ無理でしょ。
まあ、とりあえず《礼儀》とかは、時々だけど学ばせてるから大丈夫だよ、元々両親が教えていたらしいし最低限の《礼儀》がないわけじゃないしな。
今、アイツが別の家に泊めてみているのもそれの一環だ。」

「そういえば、今は《錬金術》の材料を売ってくれる店とやらに泊りに行っているんだったな。
本当に大丈夫か?正直、いろいろと不安なんだが。」

「……まあ、デアが言わんとすることはわかるけどね。
たぶん大丈夫でしょう、多分。」


ニウはニウの渋い表情を気が付きながらも、眼をそらしつつ言う。
デアが心配なのは、まず一つ目にあのような性格のポールが件の店に迷惑をかけていないかどうか、もう2つ目の意味はその店の評判が、(ニウの店同様)あまりいい評判をしていない事だろう。
件の店は、薬やシャマニズムの魔法の材料専門店と称して、『ワームの死骸』や『異臭を放つ植物の乾物』、『天使の血』などのわけのわからん商品を取り扱っている『雑貨屋』もどきであり、世間の評判がよくないのだ。
しかも、その店、デアは知らないが実はそこ『死体売り』という裏の顔を持つ、違法取引所である。
今回、デアがポールをその店に送ったのも、ポールに《墓暴き》を経験させるためである。
通常《スカーブ師》が《スカーブ》創造に必要な材料、いわゆる『死体』を集める場合、《墓暴き》やホムンクルス、または彼の弟子がこれを引きうけて行う。
そこで今回ニウには《墓暴き》に同行させてもらい、その《スカーブ製作》のための死体の目利き及びその方法を学んでもらうつもりで送ったのだ。
今頃はきっと、ポールは多数の墓暴き達と共に、近場の墓場で墓を掘っていることであろう。
もちろん、夜のイニストラードの墓場に子供を歩かせるというのは飢えた狼男の前に怪我人を歩かせるくらい危険なことだとは重々承知している。
しかし、今回ポールには護衛のための《黒猫》を同行させているうえ、今回ポールに同行している《墓暴き》達も《スカースタグ教団》出身のプロである。
墓場に現れる野生の『スピリット』や野生の巨大動物にやられることや、巡回中の《アヴァシン教徒》に捕まるというヘマを犯さないであろう。

そんなことを考えつつ、ニウは食事を続けていた。


「そう言えばまだ云っていなかったが、明日は俺は朝早く家を出るから。」

「ん?どうしてだ。」

「ああ、流れの《モンク》の方が今教会に来ているんだ。
まあ、今日は教会に泊っていくらしい。
だから俺が町を案内することになったんだ。」


デアからなんとなくかけられた言葉に対し、ふと頭に考えがよぎる。

ここ、ガヴォニーにはイニストラードの他のどこよりも多くの墓所が存在する。
何故ならイニストラード中から人々が死体を持ちこみ、もっとも安全な場所で埋葬したいと思うからである。
特に首都スレイベンには死者のアーチと呼ばれる門があり、そこを通って巡礼者たちは愛する者の身体を都市へと運びこむほどだ。

さて、厄介なのはこれからであり、この州ではどこの州よりも多き死体があるせいで最も《墓暴き》が多い州でもある。
そのため、『教会』の方も、《墓暴き》が墓を荒らさないように《墓場》の警護を徹底しているのである。
それゆえ、《墓暴き》が墓場に侵入するためには、その警備時間の隙を突いたり抜け道を使ったりしているわけだ。
しかし、今日に限っては教会に流れの《モンク》が来たせいで、デア達《アヴァシン教徒》の日程が変わっている。
もしかしたら、今晩の『墓の見張り』のスケジュールもいつもと違うのではないだろうか?
それを《墓暴き》達は知っているのか?


「(……嫌な予感がする)」

「ん?
難しい顔をして、どうした。」


ニウの食事の手が止まったことを察し、デアがニウに声をかける。
話しかけられたことに気が付いたニウは、表情を戻す。


「いやな、もともとこの町に住んでいない人、特に《モンク》みたいな熱狂的な《アヴァシン教》の方が来ると、私みたいな《錬金術師》を目の敵にする人が多いからさ。
ちょっと不安になって。」


ニウはそう苦笑しつつ、デアに平然と嘘をつく。
しかし、ニウの言うことは今現在考えている事ではないものの、的外れなことは言っていないつもりである。
以前少し説明したが、《モンク》とは本来、文字道理《僧》であって《僧》でない者たちを指す隠語である。
《アヴァシン教》内にもいくつかの《宗派》はあるらしいが、その根幹の考えは同じである。
しかしながら、《モンク》は《アヴァシン教》の教徒でありながら、不適切な言動や誤った教義の強制によって追放された狂信者たちだ。
中には、《錬金術師》=《教敵》として、襲ってくるようなものまでいるらしい。
デアはニウの言葉を真に受け、その不安を和らげようとこう言った。


「ああ、それに関しては安心しろ。
明日、町を案内はするものの、その人はこの町に長期滞在するつもりはないらしい。
だから、お前が《錬金術師》だからというだけで、この店に文句を言ったり《異端審判》にかけられる事はないだろう。
そんなことは司祭様がそれを許さないだろう、いざとなったら、おれもきちんと反論する。」


デアのちょっと見当違いな台詞にニウは一瞬きょとんとした顔をするが、その真剣な顔を見てニウは思わず笑ってしまった。


「ぷっ、くふふ。
あはははは。」

「な、おま、こっちは真剣なつもりで言ったのに!
いいから、笑うなよ!」


ニウが笑ってしまったことに、デアは赤面しつつ怒った。
その様子に、ニウの笑いがさらに加速し、笑い終わる頃には顔を真っ赤にしつつ顔を机に伏せたデアと笑い過ぎからか目端の涙をぬぐうニウがいた。


「ごめんごめん。
せっかく真剣に励ましてくれたのに、笑っちゃったことは悪かったから、どうかそんなに拗ねないで。」

「……別に拗ねてない。」

「そういうのが拗ねてるっていうんだよ。
まあ、ありがとね。」

「……どういたしまして。」


伏せたまま、お礼を言うデアに思わず笑顔になるニウ。
ニウは思う、デアはこんな化け物跋扈する恐ろしい世界において、すごく珍しいと。
彼は孤児であるので、一部の首都に住む、『首都から一歩も出たことのない』お坊ちゃんとは違いこの世の恐ろしさと言うものを知っている。
しかし、それでも彼は未だにこのような善人でありながら、自分の様な《錬金術師》という怪しげなものですら受け入れている。
まあ、だから自分みたいな《教敵》がのざばってしまうわけだが……、それは言わぬが華と言うやつか。
そんなことを考えつつ、ニウはデアをいじるネタができたと思うのであった。

その後一通りデアをいじったニウは食事を終え、食器を洗いなどの残った家事を始めた、
デアの方はというと、ニウを手伝おうとはしたが明日朝が早いだろうと諭され、早々に寝ることを進められ、デアはすでに寝室へと向かっていったのだった。
しかし、食器を洗いながらも、ニウの心の中は未だに嫌な予感がうずうずと残っていた。
そして、一通り家事が終わると彼女は決心する


「……こい。《チフス鼠》」


そういうと、彼女は突然『呪文』を唱えて、《チフス鼠》を一匹召喚する。
呼び出された鼠は一見普通の《鼠》のようだった。
それは呼び出されてしばらくは普通の鼠のように辺りをちょろちょろしていたが、突然何かに取りつかれたかのように動きを止めた。
そして、すぐにまた動きを開始するものの、先ほどまでの統率の無い動きとは違い、それはまるで意志を持つ者のように、真っ直ぐにニウの方を方へ向かってきて、上方へと頭を向ける。


「……こんなところで突然呼び出して、いったいどうした我が契約主様よ。
せっかく今日は『研究なし』だから、久々にぐっすり寝るとか言っていなかったか」


この《鼠》いや、《悪魔》はいやらしい笑みを浮かべながらニウに向かって話す。
こいつは今のニウに呼び出されたという事だけで、ニウに予想外のことがあったことが分かったのだろう。
《他人の不幸は蜜の味》とばかりに《鼠》のテンションはうなぎのぼりであった。
そんな《鼠》の心理を知ってか知らないか、ニウはこの《悪魔》に舐められないためにも軽い口調で《鼠》に話しかけた。


「まあ、ちょっと嫌な予感がするからな。
今から夜の墓場に行くから、ちょっちエスコートを頼もうかと思って。」

「くくく、了解だ。
我が契約者よ。」


こうして、急遽ニウの今晩の予定が、ぐっすり睡眠から深夜の墓場ツアーへと変更されたのであった。





★★★★★★★★★★

墓暴き (黒)

ソーサリー

あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す

「いつも腐れ落ちた亡骸ばかり扱うものだから、新鮮な死体に出くわすと……何だか、誕生日が早く来たみたいだ。」
――屍術師ネビニラル


★★★★★★★★★★



★★★★★★★★★★

黒猫 (1)(黒)

クリーチャー — ゾンビ(Zombie) 猫(Cat)

黒猫が死亡したとき、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを1枚無作為に選んで捨てる。

最後の命は、お前の夢を苦しめるために費やされる。

1/1

★★★★★★★★★★



★★★★★★★★★★

錬金術師の弟子 (1)(青)

クリーチャー — 人間(Human) ウィザード(Wizard)

錬金術師の弟子を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。

副作用には、悪臭、蒸気の噴出、および不随意の消滅が含まれます。

1/1

★★★★★★★★★★




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


どうも、リアル事情でまだまだ亀更新になりそうな作者です。
とりあえず、まあいろいろと不格好な感じなってしまった、第8回目です。

今回はと言うか今回もかなりの難産なため、いろいろと納得のいかない展開が多いかもしれませんがとりあえずご了承を。

とりあえず、次の更新もあまり早くはないでしょうが、次回はできるだけ早く仕上げられるようにしたいと思います。

さて、今回も感想や誤字脱字がありましたらどしどしお願いします。
では次回の更新でまた。



おまけ


俺「ドラフト(その場で開けたパックを一枚ずつ交代で回し、その場でデッキを作って勝負する)やろうぜ。」

友1、2「おk。」

俺「(おお、『もぎ取り』、これはいけそうだ。)」

友1「お、ジェイス」

俺「え」

友2「お、リリアナ」

俺 「なにこれこわい。」


……自分が毎度パックを買ってくるんですが、どうして自分で開封すると欲しいカードが出ないんですかねえ。
教えて、エロい人。



[34830] 【おまけ的な何か】そもそもMTGとは?
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031
Date: 2012/10/13 14:39


この文章は「そもそもMTGってなあに?」って人や、「文末にあるカードの意味が解らない」という人のために解説を入れておこうと思い、書いたものです。

【一応、この文章はおまけ的な物であり、本文の方で雰囲気を保ちつつ、できるだけちゃんと説明するつもりではあります。】

【もちろん、この文章を読まずとも、本編は万人向けに書いていくため、ご安心ください。】

もしかしたら、ここを呼んでしまうと本編の雰囲気が壊されてしまうかもしれません。
が、それでも単語がわからない方が嫌だと思った方や、MTGの詳しい情報に興味を持たれた方のために書いてみました。
そのために、すでにMTGに堪能な方は読みとばしてもらって結構です。


しかしながら、あくまでここでは
【すごく『簡単』に、『雰囲気』メインの解説をしたいと思います。】

そのため、『説明不足』感が否めないかもしれません。
さらに作者自体いかんせん軽く昔やっていて、最近復活しただけの新参者、知識に誤りや偏りがあるのは確かです。
しかしながら、せっかくMTGを知らなくても呼んでくれた方々が数多くいるのです。
なので、ぱっと見だけでこの作品、さらには[MTG]自体の雰囲気をつかみやすくできるようには、精一杯書たつもりなので、それでも良いという方はぜひ見てやってください。



【さて、まずそもそもMTGとは?】

MTG、正式名はマジック:ザ・ギャザリング (Magic: The Gathering)。
【遊戯王】などに並ぶ、対戦型カードゲームの一種です。
一般的に、《マジック》や《ギャザ》という呼ばれ方をされています。
しかしながら、[MTG]で出てくるカードは、一般的なカードゲームのカードとは違い、一定の傾向があるものの、売られてくるパックごとに詳しい背景世界が設定さえており、一度に発売されるパック段ごとにストーリーの起承転結がなされています。
それこそ、カードの舞台設定だけでも、ssが書けるほどであり、実際に商業誌として[MTG」の小説は存在し(英語だけど)、一時期『電撃マ王』で小説をもとにした漫画が(萌えキャラ化してたけど)連載されていまいた。
公式サイトではアメコミ風のMTGの漫画が無料公開されています。
カード一つ一つにドラマがあり、逸話があり、解説があります。
まあ、詳しく知りたい場合は、実際にカードを見た方が早いので、これはこの辺にしておきます。





【どうやって遊ぶの?】

≪あなたは、とある次元に住む『魔法使い』または、それに準ずるものです。
というのも、貴方は魔法だけでなく剣も使える『騎士』であるかもしれませんし、魔術的なことを使えるというだけに過ぎない『一般人』であるかもしれませんし、日々人を襲うことを生業にしている『盗賊』という可能性もおおいにありえます。
果ては、もしかしたら、貴方は洞窟で静かに過ごす『エルダードラゴン』や、その世界最後の『救世主』であるかもしれません。≫

≪今あなたの目の前には、貴方同様に『魔法』を使うものが現れました。
もしかしたら、彼はあなたを殺す目的で来たのかもしれませんし、単に腕試しできたのかもしれません。
そもそも、相手に戦う意思はなかったかもしれません。≫

≪しかし、今はもう彼と貴方は戦闘が避けられない状態にあります。
さあ、あなたが生き残るには、貴方の呪文をもって『彼』を打ちのめすしかありません。
あなたは自分の用いることのできる《呪文》を最大限に有効活用し、敵を打ちのめしましょう!!≫


というのが概要です。
ようするに

・『カード=呪文そのもの。またはそれについて書いている魔導書やその知識っぽいなにか』
・『カード=呪文の塊である『デッキ』を用意し、それを使って遊ぶ』

ということをわかってくれれば十分です。





【もうちょっとくわしい遊び方は? どうやったら勝てるの?】

≪さて、あなたは今どうしても成し遂げなくてはいけないことがあり、その目標の為、邪魔となる敵対者がいる。
説得や譲り合いなどという状況はとうに過ぎ去り、今あるのは互いに譲れぬ信念のみ。
ここで引けば、貴方の目標は2度と達成されないだろう。
さて、あなたはどうする?≫

≪貴方は魔術師。
その魔術を持って倒せばいい。≫

≪もっとも一般的になのは、『クリーチャー』と称される、生き物を呼び、彼らに命令して敵を倒させるというものである。
呼び出すのは、山をも越える巨大な『ワーム』でもよいし、屈強な『兵士』団を呼んでもよい。
中には、伝説に残る『大天使』や、『神』と称される者を呼び出すものもいる。≫

≪しかし、別段、これが絶対の方法というわけではない。≫

≪『炎弾や雷光、呪術』といった魔術を用い、直接的に敵と戦闘を行っていくのもよいでしょう。
貴方が直接魔術を使うわけではなく、知り合いの高位の魔術師である《プレインズウォーカ―》に助命を頼んでもよい。
さらに言えば、彼を物理的に傷つけるのではなく、精神魔術や洗脳を使い、記憶喪失にさせてもよし。
あいての呪文の源である、魔導書を燃やし尽くし無力化させるのもよし。
果ては、誰も行った事のないような秘術を成功させたり、出しただけで世界が滅ぶような呪文を使い解決してもよい。
究極的には、政治的手法で、相手を社会的に倒すという方法もできる。≫

≪そう、貴方が得意とする魔術で目の前にいるを打ち負かすのだ!!≫


……という感じでどうでしょうか?
短くすると

・『あらかじめ、両者の体力(ライフ)が設定させており、お互いにカード(呪文)を使って、先に相手のライフをゼロにしたら勝ち。』
・『それ以外にも、相手のデッキをゼロにしたり、〈〇〇に成功したらあなたはゲームに勝利する〉と書かれているカードを使用するといった勝ち方もある。』

こんなところでしょうか?





【で、結局いつも文末にあるカードの意味は?】


まず〈MTG〉には大きく二種類のカードがあります。
それは、貴方が魔術を使用する際に唱えるであろう『呪文カード』、そして、貴方が呪文を唱える際に、使用する魔力の源である『土地カード』の2種類である。

・まずは《土地カード》について。
〈MTG〉には、様々な呪文が存在し、それの背景の世界ごとの呪文に特徴や違いがあるものの、基本どの呪文もマナ(魔力)を有するという特徴がある。
そして、貴方が呪文を唱える際、何もそのマナ(魔力)を自分の体内からひねり出すだけでは能がない。
足りないものは周りから、そう、自分の周りに漂う大地やその大気からマナを吸収すればいい。

それを象徴するのがこの《土地カード》。
《土地カード》を多く展開することは、すなわち、マナがたくさんあることを表す。
しかし、《火》の呪文を《水辺》のマナで唱えるなんてことは無理だ。
土地にはいくつか種類があるので、それに対応する《マナ》を生み出す《土地》、先ほどの場合だと、《火》の魔術に必要な《赤》のマナを生み出す土地、そう、《火山》に準ずる土地カードなどがよい。

もちろん《水没した地下墓地》のような場所では、《青》マナを生み出す水辺、《黒》マナを生み出す沼地、どちらも生み出すこともが可能であろう。
《ミシュラの工廠》は、マナを生み出す土地でありながら、いざという時は工廠内から《作業員》が出てきて、一緒に戦ってくれるような特別な地形も数多く存在している。

何?土地をいっぱい出しても呪文を使ってしまっては、マナがなくなってしまうとな?
大丈夫、一度呪文を唱えても、しばらくすれば、自身のマナも土地のマナもすぐに甦る。
あえていうなら、いったん枯渇した土地の《マナ》が回復するまでの間が、一段落ついた、そう『1ターン』経過したというところだろう。




・つぎは『呪文』カードであるが、これは実際に例を挙げて説明したいと思う。


★★★★★★★★★★

Scalding Devil / 煮えたぎりの小悪魔 ←①   (1)(赤)←②

クリーチャー — デビル(Devil)←③

(2)(赤):プレイヤー1人を対象とする。煮えたぎりの小悪魔はそのプレイヤーに1点のダメージを与える。←④

1/1←⑤

悪魔はおっかない。 小悪魔はうざったい。←⑥

★★★★★★★★★★


① 名前
その呪文の名称。
それ以上でもないが、この世界の住人達が、その呪文をそのような名称で使っているとは限らない。
多くの世界の中には、理性無き怪物や、言葉も分からぬ悪鬼共が、無意識的に魔術を使っている場合がある。
そして、貴方はその魔術を模倣、または学習し使えるようになった呪文も存在するだろう。
そういった呪文には、元々正式な名前が存在しない。
だが、あえて呼び名を付けるとしたら、というのがこの『名前』の欄にあたる言葉なのだろう。


② マナコスト
貴方がその呪文を唱える時に必要とするマナ(魔力)の量。
マナには大きく5種類あり、火山などから生み出される《赤》マナ、島で生み出される《青》マナ、森で生み出される《緑》マナ、沼で生み出される《黒》マナ、平地で生み出される《白》マナである。
この呪文の場合、要求されるマナは2マナであり、そのうち一つは《赤マナ》でなければならないというわけだ。(つまり(1)(赤)=(1)+(赤)というわけだ。)
もちろん、マナが多く必要な呪文であるほど、大魔術であり、それを唱えるには大きな苦労が伴うであろう。


③ カードタイプ
その呪文の種類であり、いくつか種類が存在するがここでは大まかに2つ説明しておく。

一つ目は、一般的に召喚魔術と呼ばれる『クリーチャー』、『アーティファクト』そして、『プレインズウォーカ―』の呪文。
貴方の主力とする呪文であろう、『クリーチャー』呪文はその名の通り、『化け物』を呼び出し使役する呪文。
これで呼び出される生き物は、呼び出すために必要となるマナの種類に大きく関係する。
火を象徴する『赤のマナ』ならば、火の精霊やドラゴン、森や自然を象徴する『緑のマナ』ならば、エルフや昆虫と言ったぐわいにである。
『アーティファクト』呪文は魔法の道具を呼び出す呪文。それには武器や、護符と言った装備から、薬瓶や鏡と言った置物などがある。
中には、ゴーレムやロボットといった、魔法の道具でありながら、生き物である『アーティファクトクリーチャー』といわれる物が存在する。
最後の『プレインズウォーカ―』呪文は『クリーチャー』などの召喚獣とは一線を超える、次元を渡る力を持つ強力な魔術師を呼び寄せる呪文である。
彼らは世界を股にかけるほどの強大な力を持つ魔術師であり、彼らを呼びだすと相手は同時に二人の強大な魔術師と戦うことになるのだろう

2つめは召喚術でない魔法、『ソーサリー』、『インスタント』、『エンチャント』と言った呪文。
一般的な魔術といわれイメージであろう呪文、雷をおこしたり、相手の記憶を読んだり、肉体を強化したり、様々なことができる。
それぞれの違いは存在し、『ソーサリー』は一般的な呪文で詠唱が長く、貴方が攻勢、そう、『あなたのターン』のときでなければ唱えることができないだろう。
『インスタント』は、詠唱時間がほとんどなく、『いつでも』使えるであろう呪文、打消しや足止めの魔術が多く、相手の呪文や攻撃を妨害するものが多いのも特徴である
『エンチャント』は、一度唱えたら、解呪されるまで半永続的に続く『結界』や『強化』、そして『呪い』と言った呪文の総称である。

もちろんこれら以外の呪文も存在はするが、それは自分の眼でぜひ確かめてほしい。


④  能力
『ソーサリー』、『インスタント』、『エンチャント』などの呪文であれば、単純のその呪文の効果を表している。
そして、『クリーチャー』の場合は、その生き物が持っている特別な力を表している。
それは様々な物があり、空を飛べる【飛行】、致命傷を負ってもすぐに直すことのできる【再生】、こちらから攻撃してもすぐに別の行動へ移せる【警戒】など、そのクリーチャーによって複数持っていることもある。
もちろんそのような力を持っていない生き物は数多く存在するが、そのような場合、そのクリーチャーは能力がない代わりに、強い肉体を持っている場合が多い。
今回、この小悪魔の場合『(2)(赤)分のマナをこの小悪魔に払えば、敵対している魔術師一人に、煮えたぎりの小悪魔が1点分の小さな火球をぶつける。』というような能力を持っているようだ。


⑤  パワー/タフネス
このクリーチャーの持つ、力の強さと耐久力を表す。
簡単に言えば『攻撃力/HP』と言ったところ。(タフネスは防御力ではないので注意)
もちろん、これら数値が高ければ高いほど物理的な意味で強いクリーチャーである。
しかし、言葉だけでは、わかりにくいであろう。
そこでここでは簡単な例を示しておこう。


パワー0 殴っても相手が全く傷つかない。動けない。壁。  
例・壁そのもの。ウイルス。子ヤギ。
なお、タフネス0=HP0 つまりは生命力がほとんどない状態、ほぼ死んでいるということになる。

パワー1 これで攻撃したら、一般人相手なら致命打を与えられるレベル。武装した一般人や中小動物レベル。
タフネス1 とりあえず一般的な刃物で切られたらやられてしまうレベル。せいぜい革やただの鉄でできた薄皮鎧を着けている程度。
例、中世あたり兵士(剣と鎧)。攻撃的なリスや猫、鳥などの小型動物。普通の幽霊。

パワー2 大型動物クラス。熊パンチ。とりあえず木製の壁ならやすやすと壊すことができる。一般的な大きさの火球、火炎放射機のレベル。
タフネス2 大型動物クラス。ただの剣による一撃だけでは死なない。木でできた壁よりかたく、一般人なら何かしらの準備をしなくては、倒すのが困難。
例、ホッキョクグマ、大型の熊、サイ、訓練された大型犬。一流の兵士。一般人が一人で勝つには困難な存在

パワー3 地球上の生物限界クラス。家も壊せる。
タフネス3 同上。これを倒すには、ただの武装では無理。専用の道具が必要となってくる。
例、訓練された象、クジラ。選ばれた人間クラス。


これ以上となると、地球上の生き物で例えるのは困難であるのでここまでにしておこう。
しかし、これ以上の力を持つ生き物、たとえば【パワー10/タフネス10】以上の生き物は、その世界の一角を支配できるほどの強大な力を持った存在になれることは間違いない。

しかし、これは【あくまでイメージであり、この数値はあくまで目安、すごく振れ幅の大きいあいまいな数値であること。】

それは、リスと兵士がどちらも『パワー1/タフネス1』と表現されていることから察してほしい。
そして、人が持つ最高の力、知力はこのような数値では測りにくいということも忘れないでほしい。


⑥  フレーバーテキスト
彼らや彼らの世界に関する説明が書かれた文章。
これを読めば彼らの力の一端を見ることができるであろう。
……もちろん関係ないことが書かれているように見える場合もあるが、それもきっと私たちの理解を超えた何かであるのだろう。





【いくつかわからない単語があったんだが。】


・【デッキ】
山札であり、カード、いや呪文の塊のことである。
一般的には、その術者の《記憶》や《魔導書》としてあらわされることが多いが必ずしもそうとは限らない。
呪文一つ一つを魔導書に置き換え『図書館』のようなおおきな書庫を指す場合もあるし、デッキ中には、土地とクリーチャーが入っていることから、『世界』を指す場合もある。
そして、青の魔術が得意とする《精神攻撃の魔術》は、このデッキである《記憶》を削ることで相手を戦闘不能にするといった恐ろしい魔術である。

・【手札】
文字道理の意味であり、今現在貴方が使うことができる呪文のことでもある。
そのため、それらは『現在のあなたの思考』であり、『あなたが今持っている武器』でもあり、『戦略、方法』、『手持ちの魔導書』でもある。
これらを相手に知られることは、もちろん『頭の中』を覗かれるに等しい事であり、黒魔導が得意とする《洗脳や精神汚染》の魔術は、手札を捨てさせ、相手に《思考》をすることができなくするという魔術である。

・【タップ】
クリーチャ―が攻撃したり、敵のクリーチャーの攻撃をブロックしたりしたとき、そのクリーチャーの行動を完了したことを示すためにカードを横に傾けること。
また、そのクリーチャーやアーティファクトが特別な能力を発動させる際に、必要になる場合もある。
つまり、それをタップさせるという意味は、【そのクリーチャ―やアーティファクトが何かしらの行動をし終えた】、そして【タップしたクリーチャーは、一定時間(一ターン)経つまで、守ったり攻撃するという行動ができない】ということ。
例を挙げると

★★★★★★★★★★

終わりなき休息の器  (3)
アーティファクト
終わりなき休息の器が戦場に出たとき、いずれかの墓地にあるカード1枚を対象とし、それをオーナーのライブラリーの一番下に置く。
(T):あなたのマナ・プールに好きな色1色のマナ1点を加える。

★★★★★★★★★★

そう、本編で出てきた《終わりなき休息の器》である。
このアーティファクトは何も無制限に無限のマナ(魔力)を生み出すという人知を超えた代物ではない。
そう、『一定時間(一ターン)に一定量(1マナ)の好きな色の魔力を生み出す』といった道具である。
そして、あなたがこのアーティファクトから、マナを抽出した際、それを完了したことを示すためこれを『タップ=(T)』するという訳である。

とはいえ、もちろんこれが魔術師眉唾物の強力なアーティファクトであることには変わりないのだが。

白や青魔導が得意とする、『封印』魔術や『氷結』の魔法はこれらから分岐する魔導であり、相手のクリーチャーやアーティファクトを強制的にタップさせ、行動不能にする魔法である。

そして、【アンタップ】とは、行動し終えてタップしたクリーチャーや、マナを出し終えた土地が、再びその力を使う事できるようになったという意味である。
通常は一定時間経つ(一ターン経過)ことで【タップ】していたものが、【アンタップ】するが、クリーチャーが凍らされている場合などには、いくら時間が経過しても【アンタップ】しない場合もある。

そういう場合には、緑の魔法が得意である『活性』、『強化』の呪文により、素早く目にもとまらぬ行動、そう、【タップ】していてもいつでも好きな時に【アンタップ】して、凍っていても、それを突き破る動きで行動をとることができるだろう。

また、能力に【警戒】を持っているクリーチャーは、いったん攻撃したとしても【タップ】をしない、隙のない行動をとれるのである。





【最後に】

いかがだったでしょうか?
いくつかの言葉は、先の本編で説明するつもりですので、あえて説明していません。
それ故に説明不足に感じられるかもしれません。
さらに言えば、この文章は私の個人的な解釈+蛇足感が激しく感じられる文章です。

そして、ここまで読んでもらい恐縮ですが
【MTGについての説明は、wikiや公式、ファンサイトの方が分かりやすくて、詳しいですwww】

それ故に、ここに書いてあることが絶対というわけではないので、もっと詳しいことを知りたい方、興味を持ってくれた方は、ぜひ公式サイトや小説版などを読んでみてください。
そして、実際にMTGを遊んでみてくれるとうれしいです。
(そして、ssを書いてくれればなおry。)
では、また本編で。





《おまけ》


俺「ラヴニカへの回帰の箱買したお。

  ……けど、爆死してしまったお。(36枚中、神話2枚)
  
だからもう一箱買うお!」

店員「すいません売り切れです。
   入荷は、早くとも10月の末になります。」

俺「oh……」


《おまけ2》


俺「別の店探したけど、結局2パックしかたったお……。
  これだけじゃ、ほしいカードなんて早々に出ないお。」


 【神話ドラゴン】【ジェイス様】


(; ・`ω・´)ナン…ダト!? 



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