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[34386] 【ネタ】どきどき魔女神判2~スケベな男の魔女探し~【主人公変更、男子高校生の欲望】
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/23 00:12
 かつて世界には魔法が存在し――――

 ほんの少しだけ魔女がいました――――

 これは現代に生きる、忘れられたはずの魔女たちと、エッチでスケベな少年のお話です。


**

「あーっと……? ここはどこだ?」

 俺は目の前に広がる光景に首を傾げた。規則的に立っている白い柱。ドーリア式だかコリント式だか知らないが、畏敬の念を感じさせる紋様。
 自分が立っている床は一本道で、幅は人が二人通るのがやっと。壁はなく、抜けるような青空が広がっていた。

 何だ、このパルテノン神殿みたいな空間は。一体、ここはドコなんだ。

《ここは天使界》
「ッ!」

 今の声は!
 辺りを見回しても俺以外には誰もいない。絶対に、今のは美人さんの声だったのに……って、そうじゃねえ!

「声が、頭の中に直接響き渡ってきやがっただと……?」
《頼みたい事があって、あなたの意識をここに呼ばせてもらいました。詳しい話は、クローディアにお聞き下さい》

 まただ。何なんだ、一体。絶対ナイスバディなお姉さんの声だろ。
 それはそれとして、天使界だって? ひょっとして俺は夢を見ているのか?

 現実離れした状況に、俺が頭を悩ませていると、柱の後ろに何か影がサッと動いたのが目に入った。

「今、何かいなかったか?」
「あのう、キョウシュクではございますが、長瀬ユキトさんとはアナタのことでございましょうか」

 後ろから弱々しい声がかけられた。けれど、それは頭の中に響いてきた声ではなかった。振り返って見てみるとそこには。

「悪魔……?」

 二等身くらいのデフォルメ悪魔がもじもじと指をつつきながら、ふよふよと浮かんで俺を見ていた。

「い、いえウチは悪魔ではなく天使でございますのです!」
「天使ぃ?」

 まじまじと自称天使を見る。
 髪の毛は角みたいに二本のアホ毛がピンとたっていて、耳もエルフみたいに尖っている。全体的に褐色肌だし悪魔みたいな羽も生えているし、どこからどうみても悪魔じゃねえか。つか、コイツを見て一発で天使って分かる奴はいないだろうって位に悪魔のポイントを抑えてんだけど?

「悪魔以外の何者にも見えないんだけど……?」
「センエツながら、見た目で差別するのは悪人の始まりでございますのです」

 自称天使は額に汗をビッシリと掻き、少し怒ったかのように口を尖らせる。

「天使界にとらわれ、改宗してから四百年……今のウチは、身も心もすっかり天使になりましてございますのです」

 ……元悪魔かよ。
 心は分かんないけど、体は全然天使になりきれてないぜ?
 まあ、それは些細な事か。

「で、その天使サマが一体何の用?」
「まずは自己紹介を。ウチの名前は、クローディア・リバルディアと申しますのです」
「クローディアねえ……長いからクロちゃんで良い?」
「そ、そんな安田な大サーカスの一人みたいなあだ名は……ウチはクローディ……」
「じゃあ、クロで」
「うっ……それでいいでございますのです」

 クロはさめざめと涙を流した。

「ウチは一応はナビ天使というものでございまして……」
「ナビ天使?」
「はい。ナビ天使とは、魔女探しをするニンゲンを手伝うための天使でございますのです」
「は?」

 思わず、間の抜けた声が出てしまった俺を責められる者はいないだろう。

 魔女探しって、一体いつの時代だよ。

 現代日本……いや、地球に魔女なんて大それた存在はいない。いたとしてもそれは紛い物か、占いをしてる人だろう。魔法をバンバン使う魔女なんて居るわけ無い。

「疑問をもたれるのももっともでございます。しかし、魔女は実際に存在するのでございますのですよ? 現代にも、魔女はアナタ方ニンゲンのそばに適応して、目立たないようにヒッソリと」

 クロの言っていることは信じらない。けれど、俺は何故かコイツの話をもっと聞きだいと思ってしまった。

「ちなみに、センエツではございますが、これは天使評議会で決められてしまったことでして」

 クロはそこで言葉を途切れさせると、重々しく告げた。

「もはや、アナタに拒否権はございませんです」
「は、はぁ」
「キョウシュクではございますが、ウチのシモベとして頑張っていただければと」
「シモベ!?」

 いや、まあ多分ナビ天使って位だし俺のサポートをする存在だとは思うんだが、シモベってのは無いだろう。コイツみたいにロリ体型では無くて、ボンキュボンなお姉さんに言われたら即刻頷いていただろうけど。詐欺だったとしても契約しちゃう!

「ヒィィィ! すみませんでございますのです!」

 俺が声を張り上げたからか、クロは慌てて何度も頭を下げた。……何か申し訳ない気持ちになるな、コレ。

「……お、お気に召しませんですか……。では、センエツながら……シモベ様というのはいかがでございましょうか」

 シモベ様……。何ら変わっていないように見えるけど。

「これを断られてさまうと、今後はウチはシモベ様をなんとお呼びすればいいか」

 涙目でチラッチラッと見られては、何も言えない。

「……名前は別に構わんよ。で、聞くけど魔女探しってやつを俺が断ったりしたらどうなんの?」
「その時は、アルティメット・グッドマンになっていただきます」

 和訳すると究極の善人、か。

「シモベ様。説明を致しますので、こちらの画面を見てください」

 クロはどこから取り出したのか、大型のテレビを取り出すと電源をつけた。ブォンという音とともに、画面には汚い金髪のおっさんのズームが映し出される。

「な、なんじゃこのおっさんは!」
「四十年前に魔女探しに失敗し、あえなく善人にされたフランシス・ザビモンドさん、四八歳。アメリカ在住のフランス国籍でドイツ人とインド人のハーフでございますのです」
「なんつー複雑な奴だ……」
「この方こそが、天使界も認めるアルティメット・グッドマンでして……」

 画面が移り変わり、パーティー会場が映し出される。

「善人ザビモンドさんの朝は早い。出勤前、近所の人々との親睦を深めるための立食パーティー」

 何とも和やかな動画だ。大人から子供、様々な人種の人々みんなニコニコと談笑していて……。

『おはよう、ザビモンドさん』
『おはよう、皆さん。さて、今日も遠慮なく食べてくださいね』
『うへへ。すみませんね……もう私たちコレガナイトイキラレナイ……』
「って、オイィィ! なんだかこのパーティー違くね!? みんな目が逝っちゃってるよ? つか、あのうねうねした物体は食べ物なのか? 安全なんだろうなァ! コレじゃあ洗脳……」
「映像を切り替えますのです。次はザビモンドさんの出勤風景でございまして」
 アメリカの人通りの多い街路が映し出され、パンツ一丁のザビモンドさんが歩いていた。

「これは、ツッコンでいいのか? いいんだよな!?」
「センエツながら、ザビモンドさんは貧しい人々のために毎朝、自分の服を寄付して歩いているようでございますのです」
「いらねえよ! 汚いおっさんの服なんて!」

 ザビモンドさんの前に、ボロボロの服を来た子供が歩いてきている。……嫌な予感が。

『ん? 君、服がボロボロじゃないか。オジサンのパンツを……』
「脱ぐなァ! バカじゃねえのこのおっさん!」
「まさに善人のカガミと言える行為かと」
「言えねえよ! ただの変態だよ! ん? 警察が来たな。まあ当たり前……って、ザビモンドォォ! 裸で全力疾走すんな! お前のいなりが……うげえっ、何で汚いおっさんの汚い所見せられなきゃいけないんだ! 美女の裸を見せろ! 美女の裸を!」
「えー、ザビモンドさんの趣味としてはハイキングが有名でして」

 また映像が切り替わり、雪山の頂上でザビモンドさんが天使の羽みたいなマークの旗を立てていた。

「週に一度はエベレストに登り、天使界の神プルマージュ様を称える端を立てているのでございますのです」
『私の一歩は人類にとって、とても大きなものだ』

 ザビモンドさんはそう言いながら、他に立っていた国旗をぽいぽいと捨てて、天使の旗を立てていく。

「かっこいい! かっこいいこといってるけど、やってること最悪だよ!」

 また映像が切り替わり、パーティー会場が映し出される。

「そして夜もまた、パーティー。人々の目は素敵に輝きますのです」
『さあ、皆さんお食べになって』
『かゆ……うま……』
『ニク……ヤサイ』
「逃げてえ! そこにいる人たち逃げてえっっ!」

 ようやく映像が止まり、クロがテレビを消した。い、色々とショックだよ。俺は大きなため息をついた。

「このように、失敗した場合は少しでも天使界の役にたつため、アルティメット・グッドマンとしての人生を歩んでいただきますのです」
「絶対に嫌だ!」

 誰がこんな変態になってやるものかっ! 天使界のためにはなっても人間界のためにならないじゃないか!

 そう怒鳴ると、クロは怯えた声で謝ってきた。

「ヒィィィィ! う、ウチは知らないでございますのです! とにかく、ウチに言えるのはシモベ様が言うことを聞かないと」
「アルティメット・グッドマンになる?」
「そうでございますのです」

 じ、冗談じゃねえ。

《あなたなら大丈夫です》
「そうですよね! あなたのような美しい方に頼まれたらやるしかないでしょ!」
「センエツながら、シモベ様。この声は大天使様からのメッセージ……録音ボイスでございますのです」
「畜生! お役所仕事か……天使界といっても夢も希望もないな!」

 だーっと涙を流す。

「では、シモベ様。新しい街でも頑張ってくださいませです」
「は、新しい街?」
「はいでございますのです。転校の手続きや荷造りはシモベ様がこうしてはなしている今も他の天使たちが済ませておりますし、慌てることはございませんのです」
「なっ、か、勝手に!?」
「ご安心くださいでございますのです。ちゃんと必要の無い物……エッチな本やらDVDは捨てて、シモベ様が生活しやすいようにしておりますのです」
「バカじゃねえの!? お前、まさか俺の秘蔵映像……ドキッ☆女子高生の着替え動画隠し撮り☆まで捨てたのか!? お前、あれ撮影すんのにどれだけ俺が労力を使い果たしたと思ってんだ!」

 地面に手と膝をつき、おいおいと涙を流す俺を見て、クロは額に大粒の汗を浮かべた。

「センエツながら……シモベ様、それは犯罪でございますのです」
「うるせえ! お前は、男の子の内に燃えたぎる小宇宙を知らねえのか! 鬼悪魔人でなしぃ!」
「そんな泣かれましても……ああ、シモベ様。これは本来後で伝える筈でしたのですが、シモベ様は天桜守学園という中学校三年に転入することになっていますのです」

 クロの言葉に俺は衝撃を受けた。中学だって? 俺は高校生だぞ……?

「その辺の問題は、何とかしておきますので問題ないのでございますのです」
「何とかするって言われてもな」
「その学園で魔女を探していただくのですが、その学園の女生徒はみな美少女……」

 スタッと立ち上がり、俺はクロに爽やかな笑みを見せる。今の俺は肌男ですとか言ってるCMの俳優よりも爽やかだろう。

「はっは。クローディア君。さっさと魔女探しとやらをしに行こうじゃないか。はりーはりー!」
「……シモベ様、欲望丸出しになってございますのです」

 ソンナコトナイヨ? 何を言ってるんだか。

「でも、魔女探しって具体的に何をするんだ?」
「それは……っと。時間でございますのです。また後ほどお教えしますのでございますのです」

 クロの言葉を最後に、急に意識が無くなって…………。



はじめまして、ししめいです。
どき魔女のssがなかなか見つからない……ならいっそのこと書いてしまえ! と見切り発車してしまったのがこの作品になります。
処女作なので至らない点があると思いますが、本作を書いていって成長していければと思っています。

今回は原作とそんなに変わらないぷろろーぐでした。

また、この作品は、アクジ君(原作主人公)の代わりにオリジナル主人公をぶちこんだものです。
ちょい悪以外認めないという方は、ご注意ください。



[34386] 第一話 羽織くれは編 その1 ~会長は魔女なのか!?~
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/06 18:19
 あの変な夢から数日が経った。
 高校生になってから一人暮らししていたアパートを、大家に理不尽な理由(自分の曾孫をアパートに入れたいから)で追い出されて、ポケットには天桜守学園の中学三年の生徒手帳があったことから、ああ、あれは夢じゃなかったのかと思う羽目になった。

 早計だったか? 魔女探しとやらを引き受けたのは。

 一応天桜守学園の近くは昔住んでいた場所だったので、昔馴染みの喫茶店のマスターの別宅を無理を言ってお借りして生活することになった。
 それで、色々と手続きを済ませて今日引っ越してきたのだった。

「別宅って言ってもなぁ……こんな何十年も使ってないような所に押し込まれて……感謝してない訳じゃないけど」

 これから俺が住む家は、一言で表すとお化け屋敷のような洋館だった。
 外壁にはツタが這っていて不気味だし、中は中で蜘蛛の巣やら埃やらで汚い。
 これじゃあ女の子も家に呼べやしない。

 で、今は少しでも住みよい環境にしようと今はバンダナにマスクをして、右手には箒左手には雑巾の入ったバケツを持って掃除をしている最中だ。
 こういうのって、あらかじめやっておいてくれるもんじゃないのか? しかもあのマスターめ、掃除が終わり次第喫茶店の仕事を手伝ってくれだって?

「こんなの一日中かかっても終わらんぞ」

 そう呟いて、小さく肩を落とす。グチグチ言っても仕方ないか。さっさと掃除を終わらせよう。

「むぎゅ」
「ん、何か踏んだか?」

 ぬいぐるみを踏んだときのような感覚を感じて、下を見るとクロが俺の足に踏まれていた。

「おわ! 悪いクロ!」
「いえ、踏まれるのはなれていますので……」

 足をすぐに退けると、クロはよろよろと飛び上がった。そしてキョロキョロと首を動かすと、目を爛々と輝かせた。

「……はっ!」
「どうした、クロ」
「シモベ様! 何ですかこの素敵空間は!」
「素敵空間?」
「はいでございますのです! この埃っぽさ、カビ臭さ、じめっとした空気、思い思いに広がったクモの巣……ウチの大好物ばっかりでございますのです!」

 すんすんと部屋の空気を嗅いでは、うっとりとだらしなく口を開け、悦の入った表情になるクロ。 ……コイツ、本当に天使だよな?

「シモベ様、シモベ様! ここで暮らすのでございますのですよね?」
「ああ、一応な」
「だったら、この素敵空間はこのまま」
「ならん。俺が生活できん」

 バッサリとクロの意見を却下すると、クロはよよよと泣きながら崩れ落ちた。
 ったく、どこまで面倒くさいんだコイツは。

『ユキト君。ボクはいい加減待ちくたびれたよ。早くしないと晩御飯が無しになってしまうよ?』

 扉の向こうからマスターの声がする。どいつもこいつも……。仕方ない、やるしか無いか。

「おらっ、クロ退け! 掃除ができないだろ!」
「はうっ! 申し訳ありませんシモベ様! かくなる上は死んでお詫びを!」
「せんでええ! つか、どっから取り出したその鎌は!?」


 この日は結局掃除が終わらなく、晩御飯抜きになったのは言うまでもないことだろう。

**

「……きて」

 声がする。女の子の声だ。

「起きて……起きて!」

 むぅ……まだ、眠いんだけどな。

「ねえ! ユキちゃんってば!」

 腹の上に暖かい感触。ふにふにとしていて、柔らかかった。うっすらと目を開けると、見慣れない女の子が腹の上に座っていた。
 ボブカットの空のように青い髪に、くりっと大きな目が特徴の美少女。俺は、迷わずその女の子を抱きしめてベッドの中に引きずり込む。

「うわっ、ゆ、ユキちゃん!」
「ぐへへ……美少女美少女」
「ふにゃ、ユキちゃん……もう、相変わらずなんだから! ひゃん! どこさわってんの~!」

 もみもみと柔肌を弄っていたら、頭に強烈な痛みが走った。それがチョップだったことに気がついたのは、美少女の拘束を解いてしまってからだ。頭を手で押さえながら、ベッドの上をのたうち回る。

「もう、ユキちゃんってば。むかしっからエッチなんだから!」
「このチョップの痛み……もしかして、お前は」

 少し痛む頭を無視して、改めて美少女を見る。僅かに頬を桜色に染めて、肩を上下させている少女の顔は昔よく遊んでいた幼なじみの女の子の面影があった。

「ころん、か?」

 俺がそう呼ぶと、少女はぱーっと明るい笑顔になり、何度も何度も頷いた。

「うん、久しぶりだねユキちゃん!」

 聖花ころん。
 マスターの娘さんで、俺の幼なじみ。
 いや、まさかあのちんちくりんがこんな美少女に成長しているなんて……!

「ころーんッ! 好きだーッ!」
「わわっ! ユキちゃん! テイッ」

 ころんにルパンダイブを仕掛けるが、あえなくチョップで撃沈。俺は床にめり込んだ。

「相変わらずだね……ユキちゃんの女の子好きは」

 そういうお前のチョップも相変わらずだな……。そう心の中で呟いて、あえなく俺は意識を手放した。



 復活してから、ころんが持ってきてくれた朝飯を二人で食べる。

「もぐもぐ……そういやころん。鍵かかってたはずなんだけどどうやって入ってきたんだ?」
「へ? んーとね」
「あのぅ……センエツながら、ウチが開けさせていただきましたのです」

 どこからともなくクロがふよふよと浮いて現れた。

「クロ、グッジョブ」

 キラーンと顔を輝かせて、俺は親指を立てる。いやあ、クロのおかげで良い感触を得られましたからな。
 朝から俺は気分が良かった。

「もう、ユキちゃん。それより、なんなのこの子? どうしてユキちゃんの部屋にいるの?」
「それはな……って、クロ。正体をコイツにバラしても良いのか?」

 俺の疑問にクロは冷や汗をかきながら答えた。

「じ、助手としてなら」

 ……考えなしの行動だったか。ため息をついて、首を傾げてるころんに向き直る。

「コイツは悪魔のクロだよ。俺がここに来た理由の魔女探しっつー奴のナビゲーターだってさ」
「シモベ様と一緒に魔女探しの使命を与えられたナビ天使と言うわけでございますのです」

 クロはぺこりと頭を下げた。

「ふーん、大変みたいだね」
「はい、特にシモベ様は失敗致しますとアルティメット・グッドマンに……」
「嫌なことを思い出させんなっ!」

 クロが取り出したザビモンドさんの写真をはたき落とす。

「ユキちゃん、失敗するとさらに変態になっちゃうの? すごすぎる!」
「さらにってなんだよ……っていうか、ころん? お前悪魔を見ても驚かないのか?」
「ん? だってクロちゃん可愛いし、ユキちゃんは昔から変わり者だもん。悪魔とお友達でもびっくりしないよ」
「……俺の評価はどうなってんだ」
「女の子好きのスケベさん」

 否定はしない!

「あのぅ、ころん様には魔女探しの手伝いをしていただきたいのでございますが」
「いいよ! 面白そうだしね!」

 ころんはそう言って、満面の笑みを見せた。



「ユキちゃん! ここが天桜守学園の何もない屋上だよ」
「……だからどうした?」

 朝飯を食べ終えると、俺は通うことになる天桜守学園に来ていた。クロ曰わく、魔女探しの説明をするので誰も居ない場所に連れて行ってくださいという話になり、ころんに連れられてやってきたのがこの屋上という訳だ。

「フェンスとかは、まあ他の学校と変わりないが、何だろうかこの魔法陣は」

 幾科学的な紋様の魔法陣が所狭しとかかれている。……オカルトチックな学園だな。

「で、クロ。魔女探しって何なんだ」
「センエツながら、説明させていただきますと、魔女探しとは天使界が把握していない現代に生きる魔女を探し出して、管理することでございますのです」

 管理……。あまり良い言葉じゃ無いな。俺が少し顔しかめたからか、クロが慌てて説明を加えた。

「管理とは言っても、みだりに魔法を使わないだとか、魔法を悪用して現代社会をいたずらに混乱させないといった事を約束させるだけでございますのです」
「そっか……んで、魔女探しってのはどうやってやんだ? 虱潰しに探せとか?」
「いえいえ。天使界から魔女の容疑者リストが送られてくるので、それを元に魔女かどうかを調べるのでございますのです」

 クロは壁に、おどろおどろしい魔法陣を書き上げた。

「ククク、後はイケニエを……」

 俺はクロが本当に天使なのか疑問に思った。

「それでは……は~あああぁぁぁ! ウンジャロウゲロッパ~ゲホダベドベドベニャアア~」

 これは、呪文か? しかし、何も起こらない。MP切れか?
 クロは手をピンと上げて、目を血走らせて必死に呪文を繰り返した。

「ウンジャロウゲロッパ~ゲホダベドベドベニャアア~!!」
「ころんも手伝う! ジンジャーペッパ、シュガーソルトコショシチミャ~!!」
「全然違うぞ、ころん」
「あ、ユキちゃん。なにか出てきたよ」
「嘘だろっ!?」

 ころんの言うとおり、魔法陣が紫色に輝き、顔の書かれた四角い石がズズッとはいでてきた。

「魔女判定機マーローくんー!」
「わあ! かわいい!」
「気色悪いだろ……」

 マーローくんと呼ばれた石は挨拶をするかのように、口をパクパクと動かした。

「シモベ様。この魔女判定機ですが、魔女容疑者の証拠品を集め、このマーローくんの口に魔女容疑者の証拠品を入れていくと、マーローくんが反応し、天使界から魔女容疑者への魔女神判の許可がおりるのでございますのです」
「つまり、マーロー君が認めたら魔女裁判開始って訳か」
「魔女裁判ではなく、魔女神判でございますのです。別に裁く訳では無いので……また、このような面倒な手続きをとるのも、魔女ではないただのニンゲンをチェックしすぎては天使界の権威に影響がでるためでして……」

 俺は軽く頷いた。ころんは話が難しいのか、頭にはてなマークを沢山浮かべていた。そんなころんをほっといて、俺はクロに質問を重ねる。

「で、証拠品ってのは何を集めりゃいいんだ」
「なるべく魔女に関係があるものを……容疑者の身近なものが好ましいです」

 それを集めろと。

「よくわかんないけどころんたちが魔女探しをして、マーロー君に証拠品を食べさせればいいんだよね! クロちゃんすごすぎる~!」

 ……ころんの奴、外見は成長しても中身は全然成長してないじゃないか。俺はころんの元気な姿に苦笑いを隠せなかった。

「ね、ユキちゃんさっそくなにか入れてみよう!」
「それでは、センエツながら……ころんさんの持ち物を入れて魔女かどうかを調べてみては?」
「おっけー! ねっ、ユキちゃん! 何が良いかな?」
「そうだなぁ」

 身近なものだろ? なら、アレしかあるまい。

「パンツだ!」
「えっ、パンツ……?」

 ころんは顔を真っ赤にさせながら、引いた目でこちらを見た。やっぱり、ダメだよな。がっくしと肩を落とす。

「べつに、いい、けど」
「なぬっ! 本当かいころんさんや!」

 鼻息荒く尋ねると、ころんは小さく頷いた。
 キターー! 美少女の生パンツ!
 ころんがスカートに手をかける。俺は見逃すまいと目をくわっと開けた。

「……っ! やっぱりダメ! 今日はダメだよ~!」
「ころん! お前は純粋な少年の気持ちを裏切るのか!?」
「ダメなの! だって今日は……忘れたから」

 後半は声が小さかったが、エロに関しては全ての能力が大幅にアップする俺にとってころんの声を聞き取るのは難しいことではなかった。

「なにぃ!? 履き忘れた!? ひゃっほーいっ! いざ理想の桃源郷へっ!」
「ユキちゃんのバカ~ッ!」

 顔を真っ赤に染めたころんの手によって、俺の意識は刈り取られた。






まだ会長様は出ず。しばらくお待ちください。



[34386] 第一話 羽織くれは編 その2 ~会長は魔女なのか!?~
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/19 20:59
「……無難に、生徒手帳なんてどうだ」
「シモベ様。先程とはテンションが大違いでございますのです」

 数分で復活した俺は、未だに顔が赤いころんにそう声をかける。ころんもそれには納得したようで、生徒手帳をマーロー君の口に入れた。

『聖花ころん……魔力反応……ゼロ。……ごみめ』
「あーん、残念」

 マーロー君口が悪すぎるだろ。思わず口元が引きつる。

「クックック……ゴミ虫……ヤムチャ以下」
「お前も訳の分からんことを言うな」

 ぺしとクロを叩く。

「申し訳ありません! ここは死んでお詫びを!」
「だから、せんでええ!」

 今度は鎌をはたき落とす。全く失敗する度に自殺しようとするなんて、面倒な悪魔だ。クロをジト目で見やると、クロは冷や汗を浮かべ咳払いをして話題を元に戻す。

「まあ、ころん様が魔女という可能性はなくなりましたのです。遠慮なく協力していただるということでございますのです」
「うーん、魔女じゃなかったのは残念だけど、魔女探しは頑張るよ! ユキト隊長!」

 ビシッと敬礼を決めるころんの頭を俺は撫でてやる。

「えへへ……って時間がまずすぎる! ユキちゃん、そろそろ教室にいかないと!」

 あらら、もうそんな時間か。

「俺はこのマーロー君を片づけるから、先に行ってろ……ってか学年が違うか」
「分かった! じゃ、ユキちゃんまた後で!」

 そう言い残して、ころんはぴゅーっと屋上を後にした。はえーな、アイツ。
 俺も転校初日の貴重なイベント、女の子からの質問責めタイムを遅刻によって減らしたくないし、さっさと片付けよう。

「って、なんかマーロー君の顔が青ざめてないか」

片づけようとマーロー君を見ると、彼(?)は気持ち悪そうにうぷっと呻きながら痙攣していた。き、気持ち悪い……。

『うげええええ……ゲロッ!』
「うわぁ! きったね! なんか吐きやがった!」

 ゴトッと粘液塗れの石板が落ちてきた。クロはそれを見ると、やっと来たかとばかりの表情になった。

「天使界からのモノリス通信……魔女の情報が書いてありますのです」
「へえ、って石版って何時代だよ」
「スミマセン、ウチの天使としての力が弱いばかりに……ここは死んでお詫びを!」
「で、その板には何て?」
「スルーでございますか」

 クロと一緒に石版を覗き込む。

「かい……ちょうと書かれていますのです」
「かいちょう……会長か。妥当に考えれば、生徒会長だけど」

 俺は、右上の魔女容疑者の写真を見る。その瞬間、股間のセンサーが熱く脈動し体中の臓器から血液、細胞に至るまでが歓喜の雄叫びをあげ震えた。

「完璧な美少女じゃねえか! くぅ、燃えてきた!」
「シモベ様は欲望に忠実でございますのですね」

 そんなこんなしている内に、始業の鐘が鳴り響いた。あぁ、やっべえ教室に急がないと!



**

 急げ急げっ!
 廊下を全力疾走で駆け抜ける。貴重な質問タイムが、女の子との語らいを減らしてたまるものか!

「シモベ様、センエツでございますのですが」
「何だ?」
「ご自分のクラスは分かっているのでしょうか」

 …………。

「やべっ、忘れてた! 俺クラス分かんないじゃん!」
「……シモベ様」

 呆れた目で見てくるクロの視線が痛い。クソッ、こうなりゃ教室一つ毎に顔出してみるか?

「ちょっとそこのあなた! 始業のチャイムはなったわよ! こんな所で騒いでないで、さっさと教室に戻りなさい」

 振り返ると、そこには美少女がいた。
 ピンク色の髪を腰まで下げ、チャーミングな太眉を寄せて子どもを叱るように腕を組んでいる。俺は、そんな彼女に目を奪われていた。
 な、なんて殺人的なスタイルなんだ。ボンキュボン、功守ともに素晴らしいスタイル。ただでさえ大きいおっぱいが、腕を組むことによってさらに強調されている。
 これは……たまらん!

「ずっとまえから好きでした! 俺と付き合ってくださーい!」
「えっ、ちょっ」

 美少女に飛びかかるが、さっと避けられてしまい俺は壁に激突した。

「ふぎゅ」
「な、なんて破廉恥な! あなた、学年とクラスと名前は!?」
「……分からないっす。今日転校してきたばかりなんで」
「……じゃあ、あなたが長瀬ユキトくん……? な、なんてこと。こんな破廉恥な人と同じクラスになるなんて」

 美少女は目に涙を浮かべ、固めた拳をフルフルと震わせていた。そして、ビシッと俺に指を突き立てると、声を大きく張り上げた。

「長瀬くん! 生徒会長として命令しますっ! このような破廉恥な行動は控えること!」

 なっ、この美少女なんてことを言いやがるんだ!

「そんな、あなたは俺に死ねと言うのですか!」
「バカ言わないでちょうだい! こんな破廉恥な行為認められないわ!」
「かわいい女の子に襲いかかるのは男の子の性じゃないか! あんたは男の子の煮えたぎるエロスに蓋を閉められると思ってんのか!?」
「か、かわいい……」

 美少女は顔を少し顔を赤らめたが、すぐに頭を振って素面に戻った。

「とにかく、長瀬くん! 破廉恥な行為は謹むように!」
「ん……? そういや何であんた俺の名前知ってんだ」
「それは、わたしがあなたと同じクラスだからよ」
「同じクラス?」
「ええ。わたしは羽織くれは。あなたと同じクラスで、この学校の生徒会長よ」


 俺とくれはの初会合は、このようにして行われたのだった。




会長のwikiを見てみて唖然とした。
『セクハラな行動をとってばかりいると、嫌われるどころか泣かれる』

…………。
どうしよう……?



[34386] 第一話 羽織くれは編 その3 ~会長は魔女なのか!?~
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/11 14:11
「えー! 三年生の羽織くれはさんが魔女なの!?」
「しっ! 声がデカい」

 放課後。授業も終わり、俺はころんと合流すると天使界から得た情報を告げる。すると、ころんは驚いたように声を上げた。全く、人が全くいない訳じゃないんだから、迂闊にしゃべんなよ。

「で、ユキちゃん。くれはさんと同じクラスになったんだって? どうだった?」
「ん……? まあ、第一印象は最悪に思われただろうな」
「えーなんで!?」

 ころんの問いかけに、俺の肩にちょこんと座っていたクロが変わりに答える。

「センエツながら……シモベ様が、くれは様を見た瞬間に飛びついたからでございますのです」
「ユ・キちゃん?」

 笑顔なのに、威圧感を放出するころんに、俺は情けなくも平謝りを繰り返す。

「全く、ユキちゃんはどうして女の子を見ると飛びかかるの!」
「愚問だな、ころん。そこに美少女がいるからさ」

 フッとカッコつけてみるが、ころんには理解できなかったようで呆れたように肩を落としていた。

「じゃあ、ユキちゃんどうすんの魔女探しは」
「問題ないよ。まずは、彼女の周辺を調べる」

 確か情報によると、今日はくれはは新体操部の練習で体育館に行っているらしい。クフフ、これは確実に見に行かなければ! くれはのレオタード姿、乳を見て拝まないと!

「何だかユキちゃんが変なこと考えてる」
「……シモベ様で大丈夫でございますのでしょうか」

 問題ないさ!



「やってきました体育館!」

 バンと扉を開けて体育館の中に入る。体育館はサッカーコート二面分は入るんじゃないかと思ってしまうほど広かった。バスケ部やらバレーボール部やらが練習に励む中、一際目立つ人溜まりを発見した。

「ころん、ありゃなんだ」
「たぶん、くれはさんのファンじゃないかな」

 その人溜まりに突撃し、人垣をクロールするようにかき分けながら一番前に顔を出す。 そして、俺は目を輝かせた。

「フォォォォ! ここが天国か!」

 目の前で、可憐な妖精が舞っていた。中学生離れした素晴らしいボディが、レオタード越しにもかかわらず手に取るように分かる。乳が尻が太ももが、汗で輝いてまるで宝石のよう。脳内HDに映像を必死に焼き付ける。
 しばらくして、演技が終わるとくれははフゥとため息をついた。その瞬間、ファンたちがズドドという音を立ててくれはに駆け寄る。俺は成すすべなく踏まれまくり、潰されたゴキブリのように四肢を地面に投げて痙攣してしまう。

「ユキちゃん、大丈夫……?」
「も、問題ない。というか、くれはの周りはいつもああなのか?」
「そうだよ? くれはさんは美人だしスタイル良いしカレーだし」
「華麗だろ……っと」

 よろよろと立ち上がって前を見ると、ファンの奴らはもう散り散りになって帰る最中だった。

「……なんだ? 誰かに話を聞いてみるか」

 てくてくと近づいて、一人の男子生徒に話しかける。

「なあ、なんかいきなりみんな帰ったんだけどどうしたんだ?」
「ウワッツ? ああ、肝心な会長が帰ってしまいましたからね。今日はもう、お開きデース」
(やべっ、変な奴に話しかけちまった)

 その男子生徒は帰国子女なのか、金髪アフロでルー○柴のような喋り方で答えてきた。似非外人かよ……。変な奴に話しかけてしまったことを後悔しつつ、質問を続ける。

「帰ったって……そんな気配無かったぞ? ころんは気づいたか?」
「ううん。ころん、全然気づかなかったよ」
「エブリデイ! いつも毎日誰にも気付かれないうちにゲタウェイ……ミステーリアス。ノンノ、そこがキュート、僕のハートを掴んで離さないデース」

 男子生徒は人差し指を突き立てて力説した。だが、誰にも気づかれないように帰るって忍者じゃないんだし、不可能だろ。俺の視線に気付いたのか、男子生徒はオーゥと言いながら肩を落とす。

「疑ってるね? スィンクしてご覧? くれはサンは絵に描いたようなお嬢様。ファンの追求を振り切るため、変装して颯爽と窓からアウト。ウェイトさせてあったカーに飛び乗って、次の舞台に行ったんダヨ!」
「もしそうなら、ジャッキーもビックリなお嬢様だな」

 激しく脱力して、ため息をつく。今日はもう得られる情報は無いだろうし、帰ろう。



**

「やあ、ユキト君。契約通り、君にはウチでバイトをして貰うからね」
「うぃっす」

 学校から帰ってきた俺を向かえてくれたのは、喫茶パタータのマスターでころんのお父さんだった。別宅に俺が住む代わりに、パタータの仕事を手伝うという条件のもと契約していたのだ。
 マスターは眼鏡をクイッと上げると、皿洗いをするように指示してくる。裏の更衣室まで向かい、パタータの制服である執事服に着替える。姿鏡で自分の姿をチェックする。うん、いつも通りのナイスガイだ。
 その時、ふと視線を感じた。

「クロ。見られて減るもんじゃないが、あまりジロジロと見るな」
「はうっ、申し訳ございません! ここは死んでお詫びを!」
「お前な……死ぬ気もないくせに」

 はあとため息をつき調理室に向かった。

「な、何だこの皿の量は」

 流しには、積み上げられた皿皿皿。皿の摩天楼がそこにはあった。ぽかんと口を開けてそれを眺めていると、接客担当のマスターの呑気な声が聞こえてきた。

『ユキト君。やっぱり、若い頃は苦労しないといけないからね。君のためを思って今日は皿を洗わずに営業していたんだよ。いやあ、あと少し遅かったら使いまわせる皿がなくなっていたよ。ささ、早い所皿を洗っちゃって』

 い、嫌がらせかオイ。額に青筋を浮かべて頬を引き攣らせる。仕方ねえ、一人暮らしで授かった皿洗いのスキルを存分に発揮する時がやってきたようだな。腕まくりして、皿を一枚一枚取り出し洗っていく。

「クロ、お前も少し手伝え」
「センエツながら……シモベ様。ウチはこの皿で誰を呪えば良いのですか?」
「誰がそんなこと頼むかっ! 洗うだけで良いんだよ!」


 十分経過。

「畜生、全然終わりが見えねえ!」
「シモベ様~ウチに水はダメでございますのです~! あっ洗剤が! 洗剤がウチを消毒する~!」
「バイキンかっ! 曲がりなりにも天使なんだろお前は!」

 二十分経過。

「ようやく、半分って所か」
「フキフキ……皿拭き具合はウチにも出来ますのです……あっ」
「また割ったのか!? お前三枚目だぞ!」
『はっはっは。ユキト君、割った皿は君の給料から差し引くからね』
「ド畜生がっ!」


 三十分後。

「よ、ようやく終わった」
「一四枚~一五枚~ヒィィ! 十枚足りないでございますのです!」
「割りすぎだ!」

 何とか自分の体をフル酷使して、三十分で皿洗いを終わらせたのだが、代償は軽い物では無かった。手はふやけて感覚を失い、上腕二等筋上腕三等筋の兄弟は揃って悲鳴を上げている。……予想以上にクロが使えなかったため、余計な労力を使ってしまった。もしかして、クロに手伝わせなかった方が良かったか?
壁にもたれ掛かるようにして、俺は休憩する。あー、俺は裏方じゃなくて接客やりたかった。美人なお姉さんとか美少女とかとお近づきになれるかもしれないし。
洗剤にまみれて白目をむいて気絶しているクロを尻目に、俺はせめてもとばかりに聴覚を喫茶へと向ける。

『ねえ、聞いた? 会長さんの話し』
『ああ、くれは様? あの方は本当に素晴らしいですわよね。羽織グループの社長令嬢で、文武両道容姿淡麗……非の打ち所がありませんわ』

 美少女イヤーがキャッチした女の子の声で、気になる会話があった。くれはのことか。より集中して、耳を傾ける。

『会長さん、本当に人気よねえ。ファンもあるんだし』
『そうですわね……非公式だけどファンクラブもあるらしいですし』
『ファンクラブ?』
『ええ。でも、そのファンクラブに入るにはファンクラブの隊長を見つけないといけないらしく……ハァ、私も入りたいですのに。何でも“過激”な特典が貰えるらしく……』

 そこまで聞いて集中力が途切れた。むむ、羽織くれはファンクラブか……過激な特典が貰え……ゲフン、有力な情報があるかもしれん。明日は、ファンクラブの隊長を探して情報を聞き出すか。

「ユキちゃん! お疲れ様!」
「ん、ころんか。どうした?」
「晩御飯、お父さんがユキちゃん呼んできてって」
「へえ、マスターが作ったのか?」
「え? 私だよ?」

 ピシリ、と俺の中で時が止まった。それはさながらメデューサの目を直視してしまったように。い、今ころんは何て言った……?

「ころんが作ったのか?」

 ふと蘇る古い記憶。俺の記憶の奥底に何重も鎖をかけて封印していたはずの悪夢(おもいで)。

「そうだよ?」

 ……神は死んだっ! がっくしと肩を落とし、その場にへたり込む。

「ゆ、ユキちゃん! 大丈夫!?」
「心配ないさ……はは」

 ぎこちない笑みを浮かべて立ち上がる。
 聖花ころん。コイツは、マスターの娘のくせに壊滅的に飯が不味い。いや、あれは不味いなんてものではない。三途の川にまで飛ばされてしまうほどの味といえば分かるだろうか。昔、コイツの飯を食べて何度俺が死にそうになったことか。おかげで三途の川の船をこぐオッチャンと顔見知りになってしまった。ちなみにオッチャンはロリコンです。日本じゃないから犯罪じゃないらしい。うらやまし……けしからんな!
 と、ともかく何とかして逃げよう。でないと、俺の人生が終了する。

「あ、摘めるようにちょっと持ってきたんだ。はい、ユキちゃん!」

 ジーザス! 神も仏もいないのか! ころんから差し出された皿には、何か蠢く食材Xがあった。これは、食べ物なのか? 捕獲レベルはいくつなのだろうか。
ころんは満面の笑みを浮かべて、俺がこれを食すのを待っている。俺が食べなければ、たちまちこの笑顔は絶えてしまうだろう。クッ、男長瀬ユキト。命にかえても美少女は傷つけない!
 箸を受け取り、物体Xを掴む。すると、どうだろうか。箸の先端が煙を上げて消滅したではないか。

(いや、コレは無理だから!)

 金属製だぜ? 
 金属製の箸が何で溶けるんだ! ダメだ。やっていいことと悪いことがある。これは、その悪い例だ。ころん、すまない。けれど、俺はここで死ぬわけには……。

「ん? おいしそうですね。シモベ様、ウチが食べてもよろしいでございますのでしょうか?」
「あ、ちょっ、まっ」

 制止の声をかける暇もなく、クロはそれを口にしてそして。

「ぶくぶくぶく」

 泡を吐いて倒れた。背中から薄いクロが出てきている。

「えっ、クロちゃん? どうしたの?」
「あー、寝不足じゃないか!? まったくーだから昨日早く寝ろっていたダロ? アハハ」

 色素の薄いクロが身体からでかけていたので、必死に身体に押し戻し、俺は乾いた笑いを漏らす。

「でも……」
「俺がクロを寝かせてくるから、ころんは先に飯を食べててな!」

 ほなさいなら~とクロを抱えて別宅に戻る。クロ、君のことは忘れないぞ!


**

 次の日、俺はころんと学校に登校してからフラフラと校舎内を歩いていた。

「シモベ様、どちらに?」
「ん……ああ、なんか羽織くれはファンクラブって団体に入ろうとしてるんだが、隊長が居ないんだよな……」
「ファンクラブ、ですか」
「そ。別の言い方をすると親衛隊?」

 俺の中のイメージでは、親衛隊隊長はすごく奇怪な格好をしているのだが……そんな人は学園では見あたらなかった。こりゃ見つけるのが大変そうだな。

「あのぅ、シモベ様? なぜ羽織くれはのファンクラブに入ろうとするのでございますのですか」
「そんなの、過激な特典……じゃなくて魔女探しの為だよ!」

 危く欲望を口走る所だった。何とかハンドルを切ったが、誤魔化せたか……?

「おお、シモベ様! その熱意に感服致しましたのです!」

 クロは目から滝のように涙を流していた。……単純な奴で良かった、本当に。

「でもなぁ、肝心の隊長が……」

 と、階段の前に顔見知りを発見した。あれは、くれはのファンの似非外人じゃないか。あまりお近づきにはなりたくない人種だが、仕方ない。俺は似非外人に話しかけた。

「なあ、ちょっと」
「おぉう。ユーはいつぞやの僕に何か用デスか?」
「大したことじゃないんだけどさ……お前、羽織くれはファンクラブって知ってる?」

 羽織くれはファンクラブ、その名前を出した瞬間に似非外人の目が鋭く尖り、異様に輝きだした。

「アハン? 君、もしかしてファンクラブに入りたいのデスか?」

 ふざけた口調で顔は笑っていたが、目だけは研いだ刃のように鋭く鋭利に光っている。その目は、嘘は許さないと語っていた。
 ま、まさかコイツが……っ!?



[34386] 第一話 羽織くれは編 その4 ~会長は魔女なのか!?~
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/19 21:02
 雰囲気に押され、俺はコクリと頷く。眼光が更に鋭さを増した。

「よく僕がファンクラブの隊長であることをアンダースタンしたね」

 コイツ、ファンクラブの隊長だったのか。ちょうど探していたので完全に棚から牡丹餅だ。このチャンスを逃すわけにはいかない。

「君をファンクラブに入れる前に聞きたい。ユーは会長のどこに惹かれた?」

 ……どこに惹かれた、か。考えろ俺。これはいわば入団テストのようなものだ。全て、なんて陳腐な答えでは無いだろう。だとしたら、無難に性格と答えるべきか? うむ……確か昔雑誌でモテる男は性格を見る! って特集があった筈だ。なら、俺の答えに抜かりは無いだろう。
 似非外人の目をしっかりと見据えて、俺は言葉を紡いだ。

「乳・尻・太もも」
「……」

 し、しまったぁぁ!
 考えていた言葉と全く違うのが出てきてしまった! まあ、くれはの性格なんてまだ付き合いは深くないから知らないし、乳・尻・太ももに惹かれたのは事実だけど! でも今出てきちゃだめでしょ、俺の煩悩っ! でもそんな俺が嫌いじゃない!
 ほら、似非外人だって黙り込んでる。うわぁ、終わった! せっかくの過激な特典……もとい、魔女情報がっ!

「オウマイガッ! 君がそんな男だったとは……邪道だ」

 くっ、やっぱりか。悔しさから唇を噛み締める。今の気持ちは甲子園出場を後一歩で逃したピッチャーの気分。
 だが、そんな俺を見て似非外人は柔らかく微笑んだ。

「しかし、それもまたトゥルー」
「えっ」
「彼女を目の当たりにして、あの乳尻太もも、そして眉に目が行かない男などいません。ソウビューティフル! ソウルブラザー、キミは罪深くも正しい」
「それじゃあ……!」
「オーケー! キミも羽織くれは様ファンクラブの一員だ。僕は、名誉会長兼親衛隊隊長のトム。君は?」
「長瀬ユキトだ」

 俺とトムはがっしりと手を握りあった。変な奴だが、心根は俺と同じようだ。

「なお、君の会員番号は440番だ。これが会員証。こっちの封筒は特典ダヨ」

 440って……数が多いな。

「ウチの会長は他校にもファンクラブ会員がいるからね」
「なるほど」

 あれだけの美少女だ。世間がほっとくはずがない。テレビに出てるアイドルと比べても見劣りしないし。

「それじゃあ、僕はいつも消える会長の跡を追跡しなきゃいけないから!」

 ばびゅーんとトムは走り去る。

「と、とにかく、これで目的は果たしたな」

 心拍数が上がっていく。周りに誰もいないことを確認して、茶色い封筒の中身を取り出す。コレは、あくまでも魔女探しだからな! 決してやましい気持ちは……!

「フォォ! 流石は名誉会長だ。こんなそそる写真が沢山入ってるなんて!」

 あまり他の人には見せたくないので、概要だけ言うとギリギリチラリズム最高って訳だ。これは家に持ち帰って家宝にしなければ……! 自家発電の燃料にもしばらく困らなさそうだ。クックッと笑っていると、クロが微妙な目を向けてきていた。

「シモベ様……?」
「ん? 何だクロ居たのか」
「はうっ、ウチはもしかして影が薄いのでございますのですか?」

 悪かった。悪かったから涙目で睨むのは止めてくれ。こう、良心にチクチク刺さるから。

「そうだ、クロ。魔女の証拠って状況証拠じゃダメなのか?」
「状況証拠でございますか」
「そう。あんな熱烈なファンにも見つからないように姿を消すなんて、普通に考えれば有り得ない」

 外国のパパラッチと同じ臭いがトムからはした。獲物を逃さない、狩人の臭いが。そんな奴に追いかけられて一度も捕まらないなんておかしいだろう? 俺がそう言うと、クロは腕を組み答えた。

「センエツながら……情報をメモしてマーロー君の口に入れれば可能でございますのです。マーロー君は写真や事実をメモした紙にも柔軟に対応するのです」

 クロの言葉を受け、メモ帳に聞いた情報をさらさらと書く。そして、クロにマーロー君を呼び出して貰い口の中に入れた。

『魔力反応アリ! 魔力反応アリ!!』
「おっ、何か反応した!」
「しかし、シモベ様。まだこれだけでは魔女神判の許可は下りないでございますのです。もっと証拠を集めて、決定的にしないと……」

 ふむぅ……そういうものなのか。ということは。しばらくは、くれはの尻を追っかけられるって事か。
 ムフフ、ラッキー!

「シモベ様のように煩悩丸出しのニンゲンは、今まで見たことありません」
「そう褒めるな」

 ワッハハと笑うと、後ろからスタッと誰かが立った音がした。クロは素早く姿を消した。
 振り返ると、羽織くれはがその場に立ってキョロキョロと辺りを見回していた。

「誰もいないみた……い?」

 俺とくれはの目が合ったので、ようと片手で挨拶をする。
 くれはは、まるでメドゥーサに石にされてしまったかのように固まった。

「くれは?」

 名前を呼んでも返事はない。立ったまま固まっている。「返事がない。ただの巨乳のようだ」とかいうインフォメーションが頭の中に鳴り響く。
 これは、チャンスだな。にしし、と笑ってくれはに近づいてそのホルスタインのような乳に一礼してから揉みしだく。
 もにゅんもにゅん。

 おぉう、揉みごたえ抜群じゃないですか。 しばらく、俺が女の子の感触を楽しんでいるとくれはがようやく瞳に理性の光を灯した。

「おう、くれは。どうしたんだ」
「名前で呼ばれるほど親しくなったつもりは無いわよ、長瀬君……って、何やってんのよっっ!」
「へぶっ……!」

 右頬に強烈な一撃を喰らって、俺は壁に叩きつけられた。

「ははは、破廉恥なっ! あなたは常識というものが欠けているの!? この変態っ!」
「何を。美少女を前にして、欲望をさらけ出さない阿呆がどこにいる!」
「開き直るなっ!」

 ガツンとかかと落としを頭に決められる。おぅ……意識が……。

「だいたいあなたは……って、長瀬君!? いけない、本気で頭蹴っちゃったから!」

 薄れゆく意識の中、最後に見たのはピンク色の布地と、不自然に一枚だけ開いていた窓だった。



「……うっ、ここは」

 ズキズキとした頭の痛みで目が覚める。
 あっと、ここは保健室か? 俺は寝かされてたみたいだけど。

「良かった。目が覚めたのね」
「くれは?」

 ベッドの隣では、くれはが椅子に腰掛けて俺を心配そうに見ていた。何でくれはがここに?

「ごめんなさい。思わず、頭を蹴っちゃって……」

 ああ、そういや俺はくれはにセクハラをかまして、反撃されて意識を失ったんだっけ。

「あー、何でくれはが謝ってんだよ。俺が悪いことしたから、それくらい正当防衛の範疇だろ」
「まあ、そうだけど……あなたを傷つけたことには変わりはないもの」

 ……調子が狂うぜ。女の子からこう謝られるのに慣れていない俺は困ってポリポリと頭を掻いた。すると、くれはがくすくすと笑った。

「あなたにも、ちゃんと悪いことをしているって意識はあったのね」
「……一応はな」
「それじゃあ、何であんなことするのよ。わたしは確か言った筈よね、破廉恥な行動は控えるようにって」

 ジト目でくれはが睨んでくる。うっ……可愛いじゃなくて! 何でセクハラをするか、か。そんなの決まってるじゃないか。

「そこに美少女がいるからさ。美少女を前にして何もやらないのは男じゃない!」
「……もう一度気絶してみる?」
「ごめんなさい」

 くれはの目は本気だった。すぐさま、ベッドの上で土下座を敢行する。
 くれはが、呆れたようにため息をついた音が聞こえた。

「まあ、今日はわたしも悪いことをしちゃったし、お説教はここまでにしとくわ。でもね、長瀬君。あなた、わたしにやったのと同じようなことを他の子にもやってるでしょ。生徒会に女の子から沢山苦情が来てるわよ?」

 はうっ、マジですか。確かに、可愛い女の子を見かける度に告白したりナンパしたりしている。しかし、まさか生徒会に苦情が行っているとは。いやでも俺は悪くない。悪いのは女の子のレベルが高いこの学校だ。

「これ以上問題を起こされると……生徒会として、あなたに何らかの処置をしなければならなくなるわ」
「……むむ、なるたけ控えるようにするよ」

 停学とかになったら、マスターに迷惑がかかるしな。

「完全に止めるとは言わないのね……全く」

 まあ、俺が美女に近づくのは反射反応みたいなものだし。食べ物を食べると睡液が出るのと一緒だ。
 くれはは腕時計を見て、顔をしかめた。

「もうこんな時間か。ごめんなさい、わたしはもう帰るわ」
「ん……? もしかして、俺の目が覚めるまで待っててくれたの?」
「ええ。放置したままってのは可哀想だったし」

 優しいなぁ、くれはは。自分は忙しいはずなのに、粗相を働いた相手の面倒を見てくれるなんて。

「ありがとな」
「いえ、それじゃあね」

 少し小走りでくれはは保健室の扉に手をかけて。

「長瀬君、もしかして見た?」
「見たって……何を?」

 ピンク色のパンツか? 大変かわいらしかったです、とでも言えばいいのか? しかし、どうもそれは違う気がする。

「……そう。変なこと言ってごめんなさい。それじゃ、お大事に」

 最後にくれははそう言うと、保健室を後にした。

「シモベ様」
「うわっ、クロお前どこにいたんだ」
「魔女容疑者に気がつかれないように、ベッドの下で待機していたのでございますのです」

 そっか。でも、急に声をかけるのは止めてくれよ、心臓に悪いから。お化けとか苦手なんだよ。

「それにしても、羽織くれは様の最後の意味深なセリフは一体何だったのでございますのでしょうか」
「さぁな。全く持って……」

 うん? ちょっと待てよ。

「トムが消えて、俺以外誰もいなかったはずの廊下に、どうしてくれはが居たんだろうか」

 おかしい。
 階段を降りてきたにしても、向の廊下から歩いたにしても、くれはの足音は聞こえなかった。
 しかし、くれははそこにいた。まるで、瞬間移動をしてきたかのように。
 そして、一枚だけ開いていた窓。あれがどうにも引っかかる。くれはがあの窓から入ってきた? いや、それは無い。あそこは三階だったし、くれはは壁をよじ登って窓から入るなんてはしたないことはしないだろう。

(ダメだ。訳分からん。ただ一つ言えるのは)

 くれはは、限りなく黒に近いということだ。





[34386] 第一話 羽織くれは編 その5 ~会長は魔女なのか!?~
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/19 21:03
「ぐぉぉ……全身が筋肉痛だ」
「大丈夫でございますのですか? シモベ様」
「これが大丈夫に見えるか……?」

 うめき声を上げながら、俺は廊下を歩く。後少しで、自分の教室である3Aにつくのだが、睡眠不足の上、腕足腰は筋肉痛でまともに動かせなく、ダルい。
 畜生、あの鬼畜マスターめ。あんな仕打ちはあんまりだ。
 昨日、くれはの蹴りで気絶していた俺はものの見事に喫茶店パタータのバイトをサボることになってしまった。そのことにマスターが静かに怒ってしまい、『今日は店の掃除をしてもらおうか。オープンした当時のようにフローリングがピカピカになるまでね。あ、時間外手当てはでないから』と言いつけられてしまった。そのせいで、夜遅くから朝日が登までピカピカに店を掃除するはめになったのだ。しかも、時間外手当ては出ないそうだから、金は一銭も入らない。骨折り損のくたびれもうけとはまさにこの事だろう。

 下を見ながら、一歩一歩教室にと向かう。その時、俺は気になるものを発見した。

「なあ、クロあればなんだと思う?」
「センエツながら……ウチにはコンクリに青いゴム的な塗装を施したものかと」
「それは床だ! 俺が言いたいのは、その床の上に落ちてるコレだよ」

 ヒョイと問題の物を取り上げる。
 それは、鳥の羽根のようなものだった。しかし、俺はこんな綺麗な桃色の羽根を持つ鳥を知らない。

「何でこんな所に落ちてんだ?」
「さあ? そんな時にこそ、考えるな感じろと天使界の方々には教わりましたのですが」
「ふむ。じゃあ匂いでも嗅いでみるか?」

 羽根を鼻に近づけて、くんかくんかと匂いを嗅ぐ。うむむ……? 解せん。女の子みたいな香りがするぞ?
 何で鳥の羽根からこんな匂いが……?

「ハッ……! もしかして」
「どうしましたのですか?」
「この鳥の飼い主はハイパー美女だ! 俺の勘がそう告げている!」
「はぁ……よく分かりませんが、その羽根からはただならぬ気配を感じますのです」
「あ、ユキちゃーん!」

 ころんが、俺の姿を見つけるなり駆け寄ってきた。随分と慌ててるが、どうしたのだろうか。

「ユキちゃん、実はね、マーロー君がお腹すいたって嘆いてるの!」

 そういや、朝からマーロー君見ないと思ったら、ころんに着いてったのか。しかし、マーロー君がお腹すいただと? アイツ、ただの判定機じゃないのか? クロに目をやると、訳が分からないと肩をすくめていた。

「さっきから虚ろな目でころんを見つめて、体も冷たくなってるし」
「虚ろな目って……」

 ころんの隣に浮かぶ石顔を指差す。

「もともとこんな顔だろ? しかも、冷たいってそりゃ石だからな」
「う〜でもでも! 可哀想だよ、マーロー君が!」
「そう言われてもなぁ……」

 マーロー君何が好物なのか検討もつかんし。

「オソレナガラ……シモベ様、その羽根をマーロー君の口に入れてみればいかがでございますのでしょうか」
「なっ……ざけんなっ! せっかくの美女の香りがマーロー君の口の匂いで消されたらどう責任とってくれんだっ!」
「ヒィィ、しかし、魔女の証拠かもしれませんのです!」

 ぐっ……た、確かに。けれど美女の匂いつきの羽根を手放すのは……ぐぬぬ。
 心の中で葛藤していると、ころんがてくてくと近づいて来た。そして、「えい」という可愛らしいかけ声と共に俺の手から羽根を奪うと、俺が止める暇なく無慈悲にもマーロー君の口の中に入れてしまう。

「ああ! ころん何てことをっ!」
「マーロー君、これで大丈夫?」
「お前、お前なあ……!」

 ころんが男だったら容赦なくコブラツイストを決めている所だったが、美少女に手を出すこと(ただしセクハラは除く)を良しとしない俺はただ血涙を流すことしかできなかった。

『魔力反応アリ! 魔力反応アリ!!』
「おおっ、シモベ様! やはりこの羽根には魔力反応がありましたでございますのです!」

 クロが何やら喜んでいたが、俺は気分が萎えきってしまっていた。ああ……美少女飼い主の羽根……。

「シモベ様から、家庭と仕事に疲れ果てた四十代のサラリーマンと同じ哀愁がただよってますのです」
「もう、ユキちゃんったら……えい」

 むぎゅ。そんな音とともに、体に柔らかい感覚が押しつけられた。
 これは……見なくても分かる。ころんが自分の胸を、俺の腕に押し付けているのだ。くれはよりはちっさいが、適度な大きさを保ったおっぱいは、俺の腕をまるで聖母のように暖かく包んでいた。

「こここ、ころん!?」
「えへへ。ユキちゃん、コレで元気になった?」

 俺より背が低いころんは、意図せずして上目ずかいになっている。それに加え、桜色にほんのりと染まる頬……。何という可愛らしさ。俺の胸キュンポイントを正確無比についてきてやがる……!

「何というラヴコメ。砂糖を吐きそうでございますのです」

 クロの言葉は耳に入ってはこなかった。何故なら、俺はころんの唇に目を奪われてしまってたから。
 血色がよく、みずみずしい柔らかそうな唇。あれに、貪りつきたい。
 思考回路は麻痺……もとい活性化していた。据え膳食わずは男に非ず。いただきまーす! 俺はころんに唇を近づけて……。

「ははは破廉恥なっ!」
「へぶりんちょ!!」

 突然右頬に衝撃が襲ってきたと思えば、いつの間にか俺は床とキスしていた。な、何が起こったんだ一体。何故俺は床たんとキスする羽目に!?

「この色情魔! 神聖な学校で、後輩になななんてことを!」

 この張りのある声は……。

「くれは!?」

 ばっと立ち上がると、魔女容疑者でスタイル抜群な羽織くれはが顔を真っ赤にして、まるで親の仇と言わんばかりに俺を睨んでいた。

「どうしてここに……」
「どうもこうもここは私のクラスの前でしょ! それより、長瀬君! あなた一体ここで何をしようとしてた訳!?」
「何って……ナニ?」
「馬鹿なこと言わないでちょうだい! 下級生に無理やり迫るなんて……」
「お、おい別に俺は無理やりなんかじゃ……」
「黙らっしゃい!」

 反論はピシャリと封じられた。うう……今回は別に無理やりって訳じゃないのに。

 くれはは、ころんの肩をつかんで顔を覗き込んだ。

「あなた、大丈夫? この変態に何もされてない?」
「別に、何も……」
「弱みを握られてるの? それとも彼を庇ってるのかしら?」
「ううん……別にユキちゃんは……」
「安心して。わたしが何とかするから」

 ……何だか酷い言われようだ。ムカッとは来るが、今までの自分の行動を省みると何にも言えなくなる。

「長瀬君。昨日言ったわよね。破廉恥な行動は慎むようにって」

 キッとくれはに睨まれる。
 確かに言われたけど……どうしてくれははこんなに怒ってるんだよ。そう考えた時、一つの仮説が生まれた。

「ははん。もしかして、くれは」
「何よ」
「焼きモチ焼いてんのか?」
「なっ……!」

 くれはは言葉を無くしたように口をぽかんと開けた。おっ、図星か? 

「あれだろ? ころんにだけキスしようとして、拗ねちまったんだよな。でも大丈夫だよ。俺は女の子は平等に愛す主義だから」
「……」

 パクパクと口を開けたり閉めたりしたままくれはは何もいわない。
 ふっふ……くれはもいじらしい所があるじゃん。俺はラノベなどで良く見る展開を好機と見て、くれはにルパンダイブで襲いかかろうとする。

「うひょー……ぶるぁ!」
「何をバカなことを」

 くれはのストレートが今度は左に入った。それは、腰の入った世界を狙える拳だった。

「長瀬君! あなたには今日の放課後に学校中のトイレ掃除を命じます!」
「ふぁい……」

 ビシッと指を突き立ててきたくれはに、俺は冷たい床に慰められながら、小さい返事を出すことしか出来なかった。


**

 放課後。
 俺はくれはから押しつけられた掃除道具を片手に、屋上にとやってきていた。

「ぎゃああああ!」
「ど、どうしたクロ?」
「ウチらアクマは太陽に近いところは苦手でして……」
「お前、本当に天使に改宗したんだよなぁ?」

 クロとのバカなやり取りも最近はなれてきた。

「シモベ様? トイレ掃除はよろしいのでございますのですか?」
「いいんだよ。何で俺が野郎のトイレを磨かなきゃいけねえんだ。だったら、バイトの時間までサボった方がマシだ」

 くれはから罰として言いつけられたトイレ掃除は、なんと男子トイレのみと後から条件が付け足された。
 女子トイレに合法的に侵入できると思っていたのに、何たる仕打ちか。くれはめ、見てくれは良いけど男の子のリビドーを理解してくれないところはマイナスポイントだぞ。

 ため息をついて、壁に寄りかかるように座る。クロは最近定位置と化した俺の右肩にちょこんと座って、一緒にぼーっと屋上を眺めていた。

「しかし、不思議だな。この学園は」
「センエツながら……ここは元々魔法使いたちが作った建物を利用している学園のようなのです」

 魔法使い、ねえ。万年桜や屋上の魔法陣も彼らが作ったものなのだろうか。
 だとしたら、一体何のために?
 まだ見ぬ魔女に思いを馳せていると、フェンスの上で優雅に羽やすめをしているピンク色のハトを発見した。

 あの羽根の色……まさか!

「クロ、お前カメラ持ってるか?」
「あ、あるにはありますが……ウチのオススメはこのエンゼルス日光カメラ! 対象を五分間動かさないようよろしくお願い申し上げますのです」

 ……コイツはなんでわざわざ日光カメラをチョイスしたのだろうか。

「普通のカメラは?」
「はぁ……ありますが、ウチの性分にはあわないのですが」
「んなもん、今はどうでも良いわい! さっさと撮れ!」

 クロのケツを叩いて、カメラで写真をとらせる。フラッシュが焚かれ、カシャという音が鳴った。

「ひぃぃ……魂が、魂が吸われる〜」
「迷信だ」

 クロの戯れ言を切り捨てて、俺は写真が現像されるのを待つ。三分後に出来上がるらしいので、それまではぼーっとハトを眺めた。

 ハトは少し経ってから、可憐に羽根を広げて大空へと旅立つとその姿を消した。


「シモベ様。現像が終わりましたのでございますのです」
「おお。後はこの写真を」

 写真をマーロー君の口の中に入れた。


『魔力反応アリ! 魔力反応アリ!! 魔女のカクリツ五〇パーセント! ソコソコですな』

 ……マーロー君のキャラがいまいち掴めない。

 まあ、どうでも良いことなので置いておくとして、今までの証拠を繋げて分かった事を整理してみよう。

 一、くれはは練習の後いつの間にか姿を消している。それも、熱烈なファンの追跡をも振り切って。
 二、廊下に落ちていた桃色の羽根は今さっきフェンスで休んでいたハトのもの。立ち振る舞いを見る限り、誰かに飼われている?


 むぅ……恐らく、あのハトはくれはの使い魔的なものだと思う。あの羽根の匂いは、思い返せばくれはの匂いに似ていたし。
 しかし、そう考えるとどうも引っかかりを覚えるんだけど……よう分からんな。

「だいたい、俺は頭が悪いんだ。こんな探偵もどきの推理するよか、魔法を使ってる決定的瞬間を抑えた方が早いかもな」

 今度は生徒会室にでも凸してみようか。
 今日は無理だが、証拠が見つかるかもしれんし。


**

「ふぅ……」

 キュッキュッと皿洗いをする。
 この裏方バイトも慣れてきた。初日のように山のように積み重なっていた皿は、おれあと少しで終わりそうだった。
 今日はころんが手伝ってくれたからな。
 曰わく、「ころんのせいでユキちゃんが怒られちゃったからそのお詫びだよ」らしい。別に俺は構わなかったのだが……。

「ユキちゃん。お皿洗い終わったよー」
「お、サンキュー」
「シモベ様、ウチは本日九枚しか割らなかったでございますのです」
「クロも進歩して……ないな。なんで二桁近くまで割ってんだよ」

 うぅ……俺の給料が。

「あ、ユキちゃん。魔女探しの件はどうなったの?」
「ん……ああ、そろそろ終わらせるよ」
「そっか。ころんに手伝えることがあったら言ってね?」

 ころんの優しさが身に染みた、放課後のバイトだった。



[34386] 第一話 羽織くれは編 その6 ~会長は魔女なのか!?~
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/19 21:04
「こちらスネーク。無事目的地に到達した」
「センエツながらシモベ様。なぜダンボール箱を被っていらっしゃるので?」
「潜入任務にダンボール箱はつきものだろう」
「流石シモベ様! 博識でございますのですね!」

 翌日の昼休み、人のいない時間を見計らって生徒会室前までやってきた。ここなら、くれはが魔女である証拠が見つかるかもしれない。
 首を回して辺りに人がいないかを確認する。右良し、左良し。

「霊的な存在もこの辺りにはいないですのです。呪縛霊、呪い……ククク」
「怖いこと言うなよ……。んじゃ、入りますか」

 生徒会室のドアノブを押してみるが、扉はビクともしなかった。あれ、おかしいな? 今度は力を入れて押してみるも開かず。引き戸かと思い引いてみてもやはり開かなかった。

「何でだ……?」
「シモベ様、シモベ様。この扉の横にあるのはどのようなものでしょうか?」

 クロの指差す場所には円形の装置が設置されていた。どことなくドラゴ○ボールレーダーに似ている気もするが……。

「長瀬くん?」
「ゲェ、くれはぁ!?」

 マジマジとその装置を観察していると、後ろからくれはに声をかけられ俺はズサッと飛び退く。おう……まさか鉢合わせしてしまうとは。

 くれはは怪訝そうな目を俺に向けてきた。これがジト目か。実にそそる表情だが……今の俺には楽しむ余裕が無い。背中にはいやな汗がびっしりと張り付いていることだろう。

「……生徒会室に何かご用かしら?」
「えっと、そのー……」

 いかん、何か理由を考えなければ。ここで魔女探しのためあなたを調べてました、って事がバレたら今までの苦労が水の泡だ。

「長瀬くん?」
「そうだ! くれはを探してたんだよ!」
「わたしを?」
「そうそう! 昨日トイレ掃除サボっちゃったから謝ろうと思って」
「なっ、長瀬くん!?」

 しまった! くれはがちょっとお怒り気味だ。選択肢を間違えたかも。

「どういうことかしら?」
「いやいやコレには深い訳が!」
「……話してみなさい」
「俺は住み込みで喫茶店の手伝いをしてるんだけど、それに遅れそうだったんだ! 手伝いをサボると住むとこを追い出されるから、悪いとは思ったけど帰ったんだよ」

 ナイス、俺の口! よくこんな台詞をスラスラと思いつけたもんだ。心の中で安堵のため息をつく。コレなら情状酌量の余地があるだろう。
 予想通りくれはは顎に手を当てて、何かを考える仕草をみせていた。

「事情は分かったわ。確かに、昨日いきなり言ったわたしにも落ち度があった」
「あはは、そう言って貰えると気が楽だ」
「でもね、長瀬君にはちゃんと罰を受けてもらうわ」
「はぅあ!?」

 な、なんてことだ。今の流れは普通は無罪放免だろうに。くれはは腰に手を当て俺に人差し指を立てると、ニヤリと笑った。
 そのポーズはなかなか様になっていて、思わず俺は唾を飲み込む。
『ふふっ、悪い子ね。お仕置きが必要かしら?』

 なんて言っているように聞こえて……。

「はい! 喜んで罰を受けます!」
「そう。じゃあ、このプリントを職員室までお願いね」
「のわっ!?」

 いきなり腕にかけられた重いダンボール箱に俺は悲鳴を上げる。

「く、くれはさん……? お仕置きしてくれるんじゃないんですか?(性的な意味で)」
「なっ! なにバカなこと言ってるのよ! さっさと職員室まで運びなさい!」
「サー! イエス、マム!」

 なんか滅茶苦茶怒ってるようだし、俺は素直にくれはに従うことにした。


 **

 職員室にブツを届け、凝った肩をぐるぐると回す。


「ったく、骨折り損のくたびれもうけだ」

 お仕置きしてもらえないなんて、くれははやっぱり男心が分かってない。はっ、もしかして焦らしプレイか!?

「シモベ様。その考えは違うと思いますのです」
「なんだ、声に出してたか?」
「イエ……センエツながら申し上げますと、表情がだらしなく弛んでいたのでなんとなく想像がつきましたのでございますのです」
「それほどでもない」

 まったく……。しかし本当にどうすっかなー。生徒会に何か重要なヒントがあるかもしれないのに、入れないなんて。

「生徒会室の窓から侵入するか?」
「シモベ様。その件なのですが」
「どうした?」
「開け方が分かりましたのですが」

 …………。

「なにぃぃぃぃ!?」

 い、一体いつの間に!? 驚いてクロを見ると、クロは無い胸を張って答えた。

「シモベ様が妄想にふけっている間に、羽織くれは様が生徒会室に入ったのでございます」
「ふむふむ。それで?」
「羽織くれは様は、特殊なペンのようなもので、扉横についていた装置に何か模様を書き込むように描くと、生徒会室が開いたのでございますのです」
「どんな高度なセキュリティーだ。もしかして、この学校が魔法にゆかりがあるからそんなビックリドッキリメカが開発されたのか?」
「それは分かりませんが……。このナビ天使クローディア、シモベ様のためにきちんと模様を覚えたのでございますのです」
「でかしたぞ、クロ!」

 ぎゅーと強く抱きしめてやるとクロは苦しそうな息を上げた。

「それじゃ、あとはその鍵をどうやって手に入れるかだが……」

 その瞬間、俺の脳裏に電撃が走る。ほう……これはこれは。なるほど、そうすればいいわけだな。

「シモベ様……悪い顔をしてますのです」
「わっはは! 我が世の春がキターっっ!!」


 **

「し、シモベ様? 腹痛で保健室に行かれるのでは?」
「そんなもん嘘に決まってるだろ、嘘に」
「嘘でございますか……ではどちらに?」
「女子更衣室だよ」
「ついに犯罪に手を染めてしまうのですね……」
「違うわっ! くれはの持ってる鍵を手に入れるんだよ!」
「ひぃっ! スミマセンスミマセン! ここは死んでお詫びを!!」

 クロの戯れ言を回避しつつ、俺は女子更衣室の扉に手をかける。幸いなことに鍵はかかっておらず、すんなりと侵入することができた。
 ふぉぉ! ここが更衣室か! 大きく深呼吸すると、女の子特有の甘い匂いが鼻をくすぐった。
 くんかくんかと目を閉じて匂いを堪能してから改めて女子更衣室を見渡す。大きな部屋の中には女子生徒が使うであろうロッカーに、身だしなみをチェックするための横長の鏡、中央には長椅子が置いてあり、少し奥にはシャワールームが見えた。可愛い女の子たちがここであられもない姿になってる所を想像すると、俺の股間のライトセイバーの出力が最大になってしまい思わず前かがみになる。

「シモベ様、どうされたのですか?」
「気にするな。男の生理現象だ」
「はぁ……」

 納得出来なかったのかこてんと首を傾げるクロ。罪悪感を覚えたが、この状況を詳細に語っても男以外には分からないだろう。
 俺はよたよたと老人のようにゆっくりな足取りでくれはのロッカーを探す。
 ……よく考えたらロッカーって番号で分けられてるから、くれはのロッカー分からないじゃん。ええい、仕方ない。適当に開けていこう。べ、べつにロッカーの中身に興味があるわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!
 軽くツンデレった所で、さっそくオープン!! 

「こ、これは!」

 きわどい水着を発見した。な、なんということだ。初っぱなからウルトラレアを引き当ててしまうとは……自分の運の良さに恐怖を感じたぜ。きわどい水着をもって帰りたかったが、足がつくのもいやなので頬ずりするだけにしておく。ぐへへ……良い肌触りじゃのう。ロッカーに鍵をかけていない君が悪いのだぞ、うへへ。
 堪能したところで次のロッカーに移る。さて……次は……?

「どわっ!!」

 開けた瞬間に額に衝撃が走った。な、なぜだ……なぜスイカが飛び出してくるのだ……。クッ、トラップを仕掛けるとはなかなかの策士だ。仕返しとしてこのロッカーの持ち主のことを想像して今夜は自家発電してやる……! そう決意をした。
 イテテ、と額を押さえているとロッカーの下に置かれている黒いバックが目についた。これはくれはがいつも使っているのじゃないか。
 中身をゴソゴソと探っていると、鍵らしきものが見つかった。残念なことにパンツやブラはなかった……悔しいぜ。

「クロ、任せたぞ」
「ではこの鍵を、謎のネバネバとした白い液体に入れ」

 クロに鍵を投げ渡すと、どこからとりだしたのか液体の入った瓶の中にぽちゃんと落とした。え、エロチックだぜ……。
 そしてクロは天高く両腕をあげると、徐に呪文を唱え始めた。

「ゲルゲルゲゲロッパ〜ナホバゲホダベニルクベニアタ〜!!」

 毎度ながら意味の分からない呪文だ。いや、呪文だから仕方ないのか?
 クロの呪文が終わると、瓶の液体が紫に変わりコピーした鍵が現れる。おお、すげえ!

「でも、なんか違うぞ?」

 オリジナルの方は立派な鳩の飾りがついていたが、コピーの方は潰れたカエルの飾りがついていた。

「うぅぅ……ウチの魔力が足りないばかりに」
「気にすんな。使えるならいいよ。お疲れさん!」

 グリグリと頭を撫でてやる。
 さて、と。用は済んだしサッサと撤退するか。時計を見ると終業時間五分前だった。そろそろ女子も更衣室に着替えにやってくるだろうし……。
 そんな時、廊下の方から女子の話し声を美少女イヤーがキャッチした。これは、ウチのクラスの本郷彩花と三船ハルの声!? ば、バカな! こんなに早く戻ってくるとは!
 や、ヤバいぞこれは。今ここで彼女たちと対面したら退学なんて事態に陥ってしまうかもしれない。隠れようにも、女子更衣室のどこに隠れればいいんだ! 掃除ロッカーを開けてみる。ダメだ! 俺の入れるスペースはない。シャワールーム? ダメだ、確実にバレる。
 慌てる間にも彼女たちの声はどんどん近づいてくる。ここまで、か? 血の気がさぁと引いた。そんな俺の頬を温かい風が殴りつけた。まるで、正気に戻れと言っているように。
 風の入ってきた方向を見ると、換気のためか窓が開いていた。身を屈めればあそこから飛び降りて出られるかもしれない! だが問題は高さだ。ここ二階だっけ? 三階だっけ? 
 もう声はすぐそこまで迫ってきていた。迷ってる暇はないか。男ユキト、逝くぜぇ!

「し、シモベ様!? 投身自殺をするのでございますか!? 魂はウチがいただいてもいいですよね!?」

 クロのふざけた言葉を無視し、俺は身を屈め窓の外に飛び出した。時間が止まった感じがした直後、重力に従って俺は落ちていく。

 うおわぁぁぁぁぁ! 股がひゅんひゅんするぅぅぅ!

 数秒もしない内に、俺は地面に背中から叩きつけられた。ぐふっ、と肺から息が強制的に吐き出され一瞬目の前が真っ暗になる。

「はぁはぁ……生きてる、よな?」

 死んだ、と思ったがどうやら生きているようだ。キョロキョロと辺りを見渡す。ここは中庭か? どうやら芝生がクッションになって最悪の事態を免れたようだ。俺の悪運の良さに感謝し、よいしょと立ち上がるとズキッと胸が痛んだ。あちゃあ、どこか痛めたか? でも、早く教室に戻らないと。
 顔をしかめ、俺は痛みを我慢しながら教室にもどるのであった。



[34386] 第一話 羽織くれは編 その7 ~会長は魔女なのか!?~
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/20 03:07
 授業が終わり学生としての一日が終わった。部活に行く女子生徒のケツなどを眺めつつ、俺は生徒会室に向かう。くれはに聞いた所、今日は生徒会活動は無いようで安心して物色できるぜ。

「あーっと、で扉はどうすりゃいいんだ?」
「ウチにお任せください!」

 クロは無い胸を張ると、不気味なコピー鍵を手にふよふよと飛んでいく。そして何やらゴソゴソと書き込むと、生徒会室の扉が開かれた。

「よし、ナイスだクロ!」

 中に入り扉がしまると自動的に鍵がかかった。オートロックか、ハイテクだな。
 生徒会室は教室と同じくらいの広さで、円卓の机が中央に置かれてあった。おそらくここに座り会議をするのだろう。天井にはシャンデリアが吊されていた。オイオイ……金持ちの部屋かここは。俺の今借りてる部屋なんて一日中虫が飛ぶは電球はチカチカするわで大変なんだぞ!

「さてと、めぼしい証拠が見つかるといいが……」

 物色を始めようとした時、外から足音が聞こえてきた。この足音はくれはだな。俺の美少女イヤーがそう言っている……ってくれはだと!? 今日は生徒会活動は無いんじゃないのか!?

 慌てて俺は手頃なロッカーの中に隠れた。くそ、ころんをつれてこれば良かった。そうしたらこの密閉された空間で、あんなことやこんなことが出来たのに……。そう後悔しているとやはりくれはが生徒会に入ってきた。

「シモベ様、チャンスです。愚かな人間が一人だと安心してボロを出す可能性が……」

 クロがコソコソと耳元で話しかけてくる。オウフ……この距離だと息が耳にダイレクトに当たって、俺はゾワゾワとした快感に身を撃たれた。耳は俺弱いんだよ……もっとやってくれ。

「シモベ様?」

 っ! いかんいかん。今はくれはが先だ。僅かな隙間からくれはの様子を窺う。
 くれははキョロキョロと辺りを注意深く見回すと、笑みを浮かべて窓を開けた。そして一言何かを呟くと……。

「なん……だと……?」
「鳥に変身して飛んでいってしまいましたね……あのような美しい鳥はイケニエには最適でして」

 そう、くれははいつか屋上でみた鳩に姿を変え外に飛び出したのだ。魔女がいるなんて今に至るまで半信半疑だったが、目の前で見せつけられると信じるしかない。
 ロッカーから出ると、くれはが置いたバックをクロに写真でとるように指示を出す。
 その間に俺は開かれ風が入ってくる窓に近づき、遠くの空に視線をやった。そして、ポツリと呟く。

「……変身するとき、普通はサービスシーンがあるだろう。なぜ無いんだ」
「シモベ様、写真をとりおわりましたのです」
「ん? おお」

 クロから写真を受け取り、マーローくんの口にぶち込む。すると、マーローくんはブルブルと震えだした。

「マリョクハンノウアリ! マリョクハンノウアリ! マジョのカクリツ九十五パーセント! マジョノカノウセイキワメテタカシ!」

 そう言うと、マーローくんは急に光り出した。眩い光に思わず目を腕で覆う。なんだ、いつもと違うぞ!?

「ショーソ! ジョウキョウショウコヨリ、テンシカイガダンテイシマシタ!!」
「マジョシンパンガショーニンサレマシタ!!」
「魔女神判?」
「シモベ様の持つ証拠が魔女だと認定できるレベルに達したのでございますのです。これで魔女神判の承認を得られ、魔女を問い詰めることができますのです」

 なるほどな。つまり、今の俺たちは水戸のご老公が紋所を出す直前ってワケか。あとはくれはが魔女だと認めれば任務完了、いやあ長かったぜ。

「シモベ様、これで終わったと勘違いしてらっしゃいますか?」
「え? あとは話し合いで終了じゃないのか?」
「センエツながら……腹黒く卑怯でゲスな魔女どもはそう簡単に正体を認めたりすることはないと思われるのでございます」
「つまり?」
「戦闘が予想されます」
「女の子に手をあげたくないんだが?」

 美少女が傷ついてる姿を見て喜ぶやつがいるか? 否! ましてや自分が傷つけるなどあってはならないことだ! 美少女は愛でるものであって、傷つけるものではない!
 いや、まあ確かに、アニメとかで傷つけられた美少女の際どいところしか隠していないボロボロの服を見ると興奮するけど、それとはまた話が違う。


「センエツですが、相手は魔女でございますのです。そんな甘いことを言っていると、こちらが怪我をしますのです」

 クロは真剣な目つきで俺をたしなめた。だが、俺にも譲れないモノがある。話し合いで解決できるかもしれないし、出来なければ怪我をさせないように立ち回ろう。

「最終的にはシモベ様が容疑者を弱らせ、魔女の印を探すことになるかと。魔女の印は、魔女たちにとって魔女であることを示す動かぬ証拠」

 つまりその印を見つければいいのね。

「あ、忘れる所でした。シモベ様には天使剣イビルブレードをお渡しさせていただきますのです」

 天使か悪魔か紛らわしい名前だ。クロは木刀の半分くらいの剣を渡してきた。ギラリと光るその剣は切れ味がよさそうだ。って……ちょっと待て。

「おい、まさかこれでくれはを斬れとかいうのか?」
「はいでございますのです」
「ふざけんな! こんなんで斬りつけたらくれはが傷つくだろ! 他に武器はないのか!」
「ひぃっ! あとは魔封印ハリセンダーしかありませんのでございますのです。しかし見た目がダサいのであまり好まれて使われていません」

 クロが怯えながら差し出してきたのは、漫画でしか見たことの無いような大きなハリセン。……これならくれはを傷つけないで済むだろう。

「これでいい」
「へっ? シモベ様? 今なんと」
「これでいいって言ったんだ。これなら戦った時くれはを傷つけない」
「は、はあ。シモベ様が良いというのであれば」

 さて、と。あとはくれはを呼び出して終わりだ。明日の部活が終わって少し時間が経った辺りでいいだろう。場所は体育館で決定だ。

 **

 翌日の放課後、俺ところんは人のいなくなった体育館でくれはを待っていた。昨日の話をころんにすると「ユキちゃんだけズルい! 私も一緒にいきたかった!」と拗ねられてご機嫌を取るのに時間がかかった。結局、パタータでパフェを奢ることになってしまったのだが、機嫌が直ってくれて良かったぜ。まだ春なのに、懐だけ冬を迎えそうだけどな!
 と、そんなこんなでくれはを待ち続けている俺たちはしりとりをして時間を潰しているのだが。

「ラップ」
「ぷ、ぷ……ぷりん!」
「ころん、んがついたぞ。俺の勝ちだ」
「あーんまた負けた。ユキちゃん強すぎる」
「センエツながら、ころん様が弱すぎるのでございますのです」

 クロの言うとおりだ。なんでしりとりのラリーが毎回三回も続かないで終わるのだろう……。まあバカな所も可愛いけど。

「ユキちゃん、もう一回!」
「終わってからだ。……来たみたいだぜ」

 体育館の入口からレオタード姿のくれはがやってきた。部活が終わってからそんなに時間が経っていないのか、しっとりと汗をかいていていつも以上にボディが強調されている。ぐへへ、眼福じゃ。

「ユ・キ・ちゃん?」
「あで、あでで! 耳を引っ張るな」
「長瀬くんと……たしか聖花さんだったかしら。こんな所に呼び出して一体なんの用かしら」
「用があるのはユキちゃんだよ。ころんは見習いで見物人さんです」
「長瀬くんが?」

 訝しげな目線を寄越してくるくれは。そんな見つめられると、照れちまうぜ。

「で、用件はなに?」
「俺はくれはが好きだ! 付き合ってくれ!」
「一昨日出直してきなさい」

 ガクリとひざを突く。ば、ばかな……ふられるなんて……想定外だ。まさかくれはは狼狽えることもなく、バッサリと切り捨てられるとは……。

「あのね、毎朝毎朝そんな冗談言われたら慣れるわよ」
「本気なんだけどな」
「言葉が軽いわ。はぁ、でそれだけかしら? だったらもう帰るけど?」
「あ、待て待て。さっきのは冗談じゃないけど、今日は別件だ」

 俺は一度言葉を切り、すうっと息を吸う。腰に手を当てくれはに指を突き出し、腹に力をこめて言った。

「羽織くれは! お前魔女だろ!」

 くれはの目が、わずかに見開かれたような気がした。



[34386] 第一話 羽織くれは編 その8 ~会長は魔女なのか!?~
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/20 17:34
「羽織くれは! お前、魔女だろ!」

 ズビシッと言い放つ。おお、今の俺最高にイカしてねえか? 絶対これくれは惚れただろ。そんなことを考えていると、くれはは表情を変えず、可愛そうな子を見る目で俺を見た。

「はぁ……魔女探しごっこかしら? ちょっと前に隣町で流行ったらしいわね。けど長瀬くん。あなたは魔女がいるなんて本当に信じてるの?」
「……」
「ふふっ、意外とかわいい趣味ね」

 くれははくすくすと可愛らしく笑い、思わず見とれてしまう。ああ可愛いなぁ……本当に。ってそうじゃない!

「聞いた話によるとさ、この学園は大昔に魔女たちが作ったらしいぜ?」
「都市伝説ね。学園の七不思議でしょ? そんなのは証拠にならないわ。たとえ都市伝説でなくても、わたしが魔女だってことにはならないわ」
「確かに。ユキちゃん、どうしよう!」

 なにくれはの言葉に簡単に流されてるんだよ。俺はため息をついてコツンところんの額を小突くと、ころんはうーと唸った。

「証拠はこれだ」

 マーローくんを取り出しくれはに見せたところ、くれはの眉が少し動いた。

「ターゲットはマジョ! テンシカイがダンテイシマシタ! ショウコヒンノマリョクトモイッチ! マジョカクテイ!」

 マーローくんはうぼぁと証拠の品を吐き出した。……相変わらず汚い道具だ。

「な、なんのことかしら? そんな魔女判定機で……」
「あれ? 俺これが魔女判定機だって言ったか?」
「くっ、さっきあなたたちが言ってたから!」

 くれはは誤魔化すように視線を落とし、証拠品を見た。

「生徒会室の写真……? 長瀬くん、これは問題になるわよ?」
「話を逸らさないでくれよ。今はくれはの話だ」
「ユキちゃんの言うとおりだよ! あとユキちゃんは生徒会室だけじゃなくて、女子更衣室にも忍び込んだんだから!」
「おい、お前それは言うな!」

 まったく、お前はどっちの味方なんだか。くれははキッと俺を睨みつけると証拠品をかき集めた。

「これは生徒会が没収します。魔女の証拠にはならないけど、あなたの問題を先生方に提出する資料になるわ」
「くれは、隠さなくていいじゃんか。べつにくれはが魔女でも何もしないし」
「なにを言ってるか分からないわ。とにかく、話は終わりね!」

 背を向け帰ろうとするくれはに俺は声をかけた。

「ハトに変身して帰るのか?」

 くれははびくりと肩を震わせ、ゆっくりと振り返る。驚いたような表情を見せ、ため息をつくと、諦めに近い穏やかな笑みを浮かべていた。

「見たのね?」
「ああ、バッチリと。な、くれは魔女だって認めて……」
「ダメよ、認めないわ長瀬くん。わたしは魔法なんて認めないの」

 くれはは思い詰めたように眉をひそめ、顔をうつむかせた。魔法を認めない……くれはの過去に何かあったのだろうか。いや、今はそれを詮索する時じゃない。穏便に説得しないと。

「なあ、くれは」
「……長瀬くん。人間って強い衝撃を受けると記憶を失うらしいのよ?」
「くれは?」

 どうもくれはの様子がおかしい。気のせいだろうか、くれはの周囲の空気がゆらゆらと歪んでいるように見えた。ただならぬ雰囲気に俺はたじろいだ。

「ごめんなさい、長瀬くん。少し痛いかもしれないけど我慢してね?」

 くれはが小さく何かを呟くと、サッカーボールほどのピンク色の光の玉が俺の頭めがけて飛んできた。

「うわっ!? アブねえ!」

 それをしゃがんで避けると、くれはは再び光弾を打ち出した。いやいやいや! 待て待て待て!

「待ってくれ、くれは!」
「待たないわ! 眠りなさい! 長瀬くん!」

 光弾は一定のリズムで次々と休む暇なく打ち出され、襲いかかってくる。俺はそれを不器用によけていく。あぶね、うおっ! 今、制服に掠った! 

「止めてくれ、くれは!」

 だが、くれはが攻撃を止める気配はない。くそっ、話を聞いてくれよ!

「シモベ様!」

 やがて、苛烈な弾幕攻撃が止む時がきた。さすがにそう何度も連射出来ないのか、くれはは息を切らして膝に手をついていた。その隙をついてクロが近づいくると、魔封印ハリセンダーを手渡してくる。

「シモベ様、やるしかありませんでございますのです」
「チッ……」

 あまり使いたくない手だったが仕方ない。これで頭を一発叩いて、くれはを冷静にさせよう。話はそれからだ。

「それっ!」

 光弾が再び襲いかかる。幸い、速度はあまり早くないし一直線にしか飛ばないようだ。これならば、まだ見切れる。弾幕ゲーで鍛えた動態視力をなめんなよ!

 ホップステップジャンプと、心の中で唱えつつ地面を這いつくばって転がって、無様に光弾を避ける。避けながらも少しずつくれはとの距離を詰めていく。へへっ、この調子なら!

「っ」

 突如としてズキッと胸に痛みが走り、思わず体が硬直してしまう。客観的にみてもこれは大きな隙だ。ヤバい、と思ったときには遅かった。

「そこね!」
「ぐおっ!!」

 三つの光弾がうなりをあげて、遠慮なしに俺の体にぶちあたる。サッカー部のエースのシュートを食らったような痛みのあと、俺は吹き飛ばされ床に叩きつけられた。

「シモベ様!」
「ユキちゃん!」

 クロところんの悲痛な叫び声。俺は大丈夫だ、となんとか声に出してよろよろと立ち上がる。すると、胸に激痛が走った。これは、飛び降りたときのダメージが残ってたか? あばら骨にヒビが入っていたのかもしれない。ズキズキとした痛みは治るどころか、加速度的に増していく。倒れそうになるのを根性で耐える。我慢できない痛みじゃない……俺はまだやれる。自分の心を鼓舞して、気張る。

「長瀬くん。提案なんだけど」
「なんだよ?」
「あなたがわたしを魔女だって追求するのを止めてくれれば、もう攻撃はしないわ。あなたを傷つけるのは本意じゃない」
「……」
「ね、長瀬くん。もう止めましょう?」

 息を切らしながら、くれはは本当に心配そうにしていた。短いつきあいだけど分かる。くれはは優しいから、俺を傷つけたくないんだろう。それでも魔女だと認めないのは、くれはにはくれはの意地があるからだろう。

 最低だな、俺って。人の隠していた秘密を暴こうとしているのだから。ふと思った。俺がもし魔女探しなんて関係なく、くれはの秘密……魔女であることを知ってしまったらどうするのだろうか。そのまま心の中でとどめておいて、気にせずに学園生活を送るのか? 
 ……いや、ちがうな。間違いなく同じように俺はこうやって暴こうとしたに違いない。クロの助けがなくても、魔女探しっていう大義名分がなくても、くれはに嫌がられようと。なぜか? 決まってる、それは。

「……くれは。俺はお前のことがもっと知りたいんだ」
「っ」
「自己中心的な考え方だけどさ、俺は好きになった女の子の全部が知りたい」
「な、なによ、それ。あなたが好きな女の子はたくさんいるでしょ?」

 頬を赤く染め恥じらうくれはの姿に萌えつつ、俺は頷いた。

「そうだな。基本的に美少女は全員好きだ。だからその子たちのことも知りたい」

 あ、くれはの視線がブリザードのように冷たくなった。

「……最低」
「最低でございますのです」
「ユキちゃん、それ最低だよ」
「うっさい! 最低だってことは分かってるわい!」

 でも、と俺は付け加えた。

「俺は本当にくれはの全部が知りたい。魔女探しとか関係なく、心からそう思ってる。くれはが何かに悩んでるなら心の支えになってやりたいし、くれはが困ってるなら俺は全力で助けたいと思ってる」

 言葉を区切り、俺はくれはの目を見る。気持ちが伝わるように、真剣な思いが伝わるように。

「最低で自己中な俺だけど! この気持ちに嘘はない!」

 伝わったか? 俺の思いは。
 じっとくれはと見つめ合う。奇妙な沈黙が続き、そして突然くれはがぶっと吹き出した。

「あは、あははは!」

 そしてそのまま腹を押さえて笑い始めた。

「な、なんだよ! 人が真剣に思いを伝えたって言うのに!」
「ご、ごめんなさい。でも最低だって開き直ってあんなこと言うとは思わなくて……あははは!」
「〜〜っ!」

 あーもう恥ずかしいわい! 盛大に笑われるなんて!
 ひとしきり笑って満足したのか、くれはが目尻の涙を拭ってひぃひぃと息を整えていた。

「ごめんなさいね、笑っちゃって」
「……」
「あら、怒らせちゃったかしら」
「……別に」

 俺は尖っていた頃のとある女優のような言葉をぶっきらぼうに呟いて、そっぽを向いた。

「長瀬くん。でも、嬉しかったわ。そんなことを言ってくれて」

 くれはの顔を見ると、優しい笑みを浮かべていた。

「でも、ダメなの。わたしは魔女だって認めるわけにはいかないわ」
「そうか……じゃあ、遠慮はしないぜ。美少女を傷つけるのは信念に反するけど、俺は俺のやりたいことをやるぜ」
「ふふっ……最低ね。残念だけど、勝つのはわたしよ」

 お互いに笑いあう。
 さて、状況は最悪に近い。だがここで耐えなきゃ男が廃る。俺はくれはのことが知りたいってかっこよく啖呵を切ったんだ。だったら、あとはそれを実行するだけ!

「いくわよ」
「イクなんて卑猥なこというなよ」
「破廉恥な! やっぱり最低ね!」

 くれはの背後には無数の光弾。百は確実に越えている。お、おいおい。こんな数があるなんて聞いてねえよ……もしかして、くれは俺とはなしている間にずっと呪文を唱えてたのか? 頬をピクピクとひきつらせながらくれはを見ると、ニヤリと挑発的に笑っていた。

「これが私の全魔力を使った一撃よ。そうね、これに耐えて私に一撃を入れたら長瀬くんの勝ち。耐えられるなんて思ってないけど」
「へっ、上等だ!」
「そう……じゃあ眠りなさい、長瀬くん!」


 くれはが手を振りあげると一斉に光弾が迫り来る。

「うおおおおおおおおおお!!」

 俺はハリセンを振り上げ、避けることも逃げることもせず、光弾の壁にぶつかりにいった。


 **

 雷が落ちたかのような轟音が鳴り響き、体育館が揺れた。わたしの全魔力を使った無数の光弾の一斉射撃。今、わたしが出せる全力。それをたった一人の男の子にぶち当てた。
 長瀬ユキト。
 不思議な男の子。会う度にセクハラばかりしてくる破廉恥な奴。わたしに好きだと言っておいて他の女の子にも同じようなことを言う最低な男。
 わたしの一番嫌いな人種のはずなのに、どうしてか私は嫌いになりきれなかった。それがどうしてかは今まで分からなかったけど、さっきの彼の言葉を聞いて分かった。
 彼は『良い最低』なのだ。矛盾しているようだけど、それが彼の本質。女の子を平等に愛するなんて馬鹿げたことを本気で実行するアホ。彼はいつも本気でわたしを好いていて、他の女の子のことも本当に好きなのだろう。それに気づいたとき、わたしの胸のつかえがとれた気がした。
 わたしは芯のある人は嫌いになれない。彼は最低だけど、大木の幹のようにしっかりとしてブレない芯があるのだ。ただ、向けるベクトルが違うと思うけど。

「まあ、だからといって好きってわけじゃないわ」

 そう、嫌いじゃないだけで積極的に好きってワケじゃない。彼がわたしに向ける感情がLOVEだとしても、わたしが彼に向けるのはよくてLIKE。友達としての親愛の念に過ぎない。というか、あんな最低な男を誰が恋人にしたいって思うのかしら。

「まったく、本当に最低ね」

 そう呟くが、言葉に反してわたしは自分の口がつり上がるのを自覚していた。

「最低で悪かったな」

 煙の中から出てきたのは、ボロボロな姿の長瀬くん。制服は破れかぶれで、青あざががたくさんできているようだった。絶対、耐えきれないと思ったんだけど……。
 長瀬くんはゆっくりとわたしに近づく。魔力がすっからかんのわたしはこの場から動けない。離れていた距離がだんだんと近づいて、長瀬くんは大きなハリセンを振り上げた。痛そうね、アレ。
 これから来るだろう衝撃に備えて思わず目をつむる。
 だけど予想に反してぺちりと弱い音が頭の上から響くだけだった。ゆっくりと目を開ける。長瀬くんがいたずらが成功したような子供のように笑っていた。


「俺の勝ち、でいいな?」
「そうね」

 ……私の負けよ。



[34386] 第一話 羽織くれは編 その9・完  ~会長は魔女なのか!?~ 
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/20 22:13
 体中が痛い。もう痛くない場所を探す方が難しいくらい痛い。満身創痍って言葉を身を持って体験した。
 くれはとの勝負には勝ったが、俺の方がボロボロである。くれはが仰向けで倒れているので、その横によっこらせと腰掛ける。大きな二つのお山が呼吸する度に上下に揺れていて、思わずむしゃぶりつきそうになった。満身創痍でなければむしゃぶりついていた自信がある。

「さて、と。それで魔女だってことを認めるよな?」
「いやよ」

 ……はい? いやいやいや、何を言ってらっしゃるのですかこの方は。俺が何のためにボロボロになったと思ってるんだ。

「確かに私は勝負に負けたわ。でも、魔女だって認めるなんて言ってないわよ?」

 そう言ってくれはは意地悪く笑った。どんな屁理屈だ。

「魔女なんだろ?」
「違うわ」
「魔女なんだろ?」
「違うわ」
「魔女なんだろ?」
「違うわ」

 まるで、RPGで重要なイベントなのに「はい」を選ばない勇者とのやりとりを連想させる。畜生、ループさせる気か! だが、確かにこれは有効な手だ。魔女だと本人が認めなければ、魔女の証明にならない。うむう、どうしたものか。

「シモベ様。往生際の悪い魔女には、魔女の印を見つけて差し上げれば良いかと」

 困り果てていた俺に、ふよふよと浮いていたクロがそう進言してきた。魔女の印、たしか魔女しか持たない痣で魔女を証明するモノだったか? くれはの体を舐めるように観察しても痣なんて見つからない。

「魔女の印なんてどこにもないぞ?」
「普段は隠れているのです。それを顕著させるために、魔女神判を行うのでございますのです」
「戦うことが魔女神判じゃないのか?」
「いえいえ。ここからが本当の魔女神判だ! でございますのです」

 どこかで聞いたことのあるようなキャッチフレーズを言うと、クロは黒く無骨な腕輪を差し出してきた。

「それをつけるのでございますのです」
「こうか?」

 俺は腕輪をつけてみる。

「ククッ、これでシモベ様は呪われてしまいました。その装備は外れませんよ?」
「てい」
「みぎゃああああ!!」

 バカなことを言うクロの頭をハリセンダーで叩くと、オーバーリアクションが返ってきた。まったく、そんな痛くないだろうに。

「長瀬くん……その子の頭から煙が出てるわよ」
「……そういやコイツの名前は魔封印ハリセンダーだっけ?」

 名前の通り、魔の類に強いのか? というか、クロは本当に天使なんだよな?


「ううっ、死ぬかと思いましたのです」
「知るか。さっさと使い方を教えろ」

 涙目のクロを急かす。こっちは体力が限界なんだよ。

「使い方は簡単でございますのです。その腕輪を装備したシモベ様がくれは様を弄り、ドキドキさせればいいのです」

 クロの言葉に俺とくれはは同時に吹き出した。

「ちょ、ちょっと! どういうことよ!」
「フォォォ! ご褒美だな! 頑張った俺に対するご褒美なんだな!」
「理由はちゃんとありまして。魔女であるならば感情が高ぶった時、魔女の印が浮かび上がるのです」
「なるほどなるほど。では、これは仕方ない行為なのだね?」
「ええ。ご自身で魔女だと認めていないようなので。ただしお互いにまだ未成年の身ゆえ、深い所まではなさらぬように」


 くれはがこちらを睨んでくるが、こればかりは致し方ない。俺は動けないくれはを足を伸ばした状態で座らせると、後ろに抱きつくように座った。
 くれはの柔らかい体が心地よい。汗まじりのいい匂いが俺を興奮させる。白くきめ細かい肌が俺を魅了する。

「な、長瀬くん? 本当にやるの?」
「当たり前だろ。くれはが魔女だって認めないんだから」
「くっ……それはそうだけど」
「だから、くれは諦めろ」

 俺がにっこりと笑うと、くれははもぞもぞと体を動かした。本人は必死に抵抗しているつもりなのだろうが、疲れで思うように体が動かないとみた。

「それでは、魔女神判スタートでございますのです!」


 さて、どこから攻めようか。童貞である俺はここですぐ胸にかぶりつきたいのだが、それは早計であるとネットのエロい方々が教えてくれた。まずはドキドキさせるための土台をつくらなければいけない。だからまずは様々な場所を触って弱点を見つけ、そこを重点的に責める。焦りは禁物、くれはがドキドキできるように心がけて。

 ふうっと耳に息を吹きかける。くれははびくりと体を震わせたものの声を我慢したのか、んぅと呻いた。なかなか好感触と見ていいだろう。
 今度はむちむちの太ももに優しくタッチを繰り返す。触れているのか分からない強さを心がけて繰り返していくと、んっんっと熱い吐息がくれはの口から漏れだしてきていた。くれはの頬も染まってきていて、声を出すまいとキュッと口を結んでいるのが可愛らしい。
 ヤバいです。俺の息子も立ち上がってきた。調子に乗ってきた俺は、つつーと膝のあたりから太ももにかけて指を這わせる。ゆっくりと、なぶるように。

「あぁ……長瀬くん、ダメぇ……」

 ついに我慢できなくなったのか色っぽい声をくれはが上げた。辛抱たまらんね! 思わず胸を鷲づかみもにゅもにゅと揉んでしまった。

「変態! ちょっと、やめなさい!」
「ご、ごめん」

 返ってきたのは甘い吐息ではなく、キツい言葉。いかんいかん! 焦りは禁物だ。長く美しい髪の毛を撫でてみる。おぉ……さらさらだ。

「綺麗な髪だよなぁ……」
「あ、当たり前よ。毎日手入れしてるんだから……ひゃあ!」

 不意打ち気味に耳を触ってみると、なんとも可愛らしい声が聞けた。涙目で睨まれても、俺はニヤニヤとしかできないよ?
 グイッとくれはの体を胸に抱き寄せ、目を覗き込む。何も言わずじっと見つめながら、再び太ももに指を這わせる。

「や、やめて……」

 弱々しい声が吐き出された。うむ、もっと触れと? 空いている方の手でくれはの手を握ったり、手の甲をさわさわと撫でる。それを繰り返すと、くれはの体温が上昇してきたのを感じた。ドキドキしているのだろう。額や首筋にうっすらと汗をかいていた。

「ハァ……ハァ」

 悩ましげ息づかいで、大きく肩を上下させるくれは。そろそろお胸様を味見してもいいだろう。ぐへへと心の中で笑って、胸に手をかけようとすると、くれはの右太股に淡く光る痣が浮かび上がっていた。なんだよ、コレ。

「だ、ダメぇ! 長瀬くんそれは触らないでぇ……」

 触るなと言われたら触りたくなるのが男の性。ためらいなくそれに触ると。

「ダメぇぇぇぇぇ!」
「マジョノシルシ、ハッケン!」


 くれはの絶叫と、マーローくんの低い声が重なった。……重ねんなよ、石ころ。びくんびくんと震えるくれはを抱きしめながら、マーローくんを睨みつけるがマーローくんの表情は変わらない。うぜえ。
 さてと、気勢が殺がれたけどこのたわわな果実をいただきますか。

「シモベ様、終了でございますのです」
「は?」
「ですから魔女の印を発見したので、これ以上触れてはいけないのです。ころん様、シモベ様をくれは様から離してくださいませ」
「了解であります」
「な、なんだとぉぉぉ!? や、やめろぉぉぉころんぅぅ」

 無慈悲にもくれはから離された俺は、やりきれない思いを隠せずにいた。それに同調するように、息子も萎れていく。

「はぁ、はぁ……。私は魔女じゃない……」
「そう言われましても、立派な証拠が出てますので。シモベ様のシモベとしての、魔女契約をさせていただきますのです」

 クロがぶつぶつと呪文を唱えながらの右手がくれはの額にかざすと、クロの手のひらから青く光る文字のようなものがくれはの額の中に入っていく。

「な、なにを……」
「魔女を捉え従わせる魔女契約を完了しましたのです。天使界の決まりで魔女を管理しなければなりませんので」

 まだ息が整っていないくれはにクロがつげた。

「別に正体をバラして回ることはございませんのです。これ以上なにもしませんし」
「信じられないわ」

 ようやく呼吸が正常に戻ったのか、くれははクロに言った。

「あなたどう見てもアクマだし、信じろという方が無理よ」
「うぐっ、ウチはこれでも天使なのです。ウチがさっき言ったことは信じるも信じないもあなたの自由でございますのです」
「だそうだ。なあ、くれは。ここは俺に免じて信じてやってくれ」
「……余計に信じられないんだけど」

 酷くないか!?
 あ、そうだ。くれはにまだ聞いてないことが。

「くれは。お前どうして魔法が嫌いなんだよ」
「……いいわ。話してあげる」

 観念したのか、ふぅとため息をつくと立ち上がった。

「でも、その前に着替えさせてもらうわ。屋上で待っててもらえるかしら? そこで話をするわ」
「そう言って逃げるつもりでは?」
「あ、じゃあころんがくれはさんと一緒にいるよ! それでいいでしょ?」
「そうだな……じゃあ、屋上で待ってるか」

 **

 屋上についたくれはところんとベンチに座って談笑していると、太陽がが地平線の彼方に隠れようとしているのが目に入った。俺はしゃべるのを止め、夕日が沈むのを眺めた。くれはもころんも同じようにその風景を眺める。
 やがて太陽が完全に沈むと、今度は空を見上げる。真っ暗な夜空には、目を凝らせばうっすらと星が見えた。都会で星は見れないと言われて久しいが、星は見れないわけではないのだ。この景色を素直に美しいと思った。

「私は羽織家にふさわしい人間になるためにずっと努力してきたの」

 ポツリと、くれはが言葉を漏らした。チラッと彼女を見ると、夜空を見上げていた。意識しないで出た言葉なのかもしれない。

「誰よりもってわけじゃないけど、努力は惜しまなかったわ」
「知ってるよ。くれはさん、いつも遅くまで部活を頑張ってるもん!」
「でも魔法が使えるって知られたら、私の頑張りはみんな魔法のおかげだって思われるわ!」

 なんとなく、くれはの言いたいことが分かった。世間からしたら魔法は万能なモノだと思われている。魔法がバレたら、どんなことをしてもどうせ魔法(ズル)をしたんだろと思われるだろう。それは、くれはの努力(積み重ね)を打ち砕くことに等しい。どんなに頑張っても、魔法が使えるから出来たんだと言われてしまうから。

「だから、魔法が使えるって分かってからずっと隠し通していたのよ。まあ、窮屈に感じたときは鳥になって空を飛んでたの。……他に方法が無かったし」
「そうだったのか」

 ガス抜きとしてくれはは魔法を使い、空を飛んでいた。鳥のように、しがらみなく自由な時間を求めて。思わず笑ってしまう。

「なにがおかしいのかしら」
「いやあ、案外普通の理由だったなって。やっぱり可愛いな、くれは」
「な、な、な」

 俺は立ち上がり、くれはの前に立つ。

「な、くれは。今度遊びにいこうぜ」
「え?」
「空を飛ぶことしか退屈を紛らわせる方法を知らないんだろ? なら、俺が他の方法を教えてやるよ。空を飛ぶ以外にも楽しいことが沢山あるんだって」

 ゲーセンとかカラオケとかボーリングとか。お嬢様なくれはには知らないことが多いだろう。くれはは一瞬呆けたようにきょとんとすると、満面の笑みになった。

「期待しておくわ」


「あのぅ……くれはさん。くれはさんには出来ましたら魔女探しにご協力下さいませんか?」

 クロの申し出に、くれはは頷いた。

「いいわよ。わたしのことを黙ってもらう訳だし、会長として学園の魔女を把握する必要があることだし」
「いいのか? くれはの負担が増えるぞ?」

 その言葉に、くれはは意地悪く笑って答えた。

「あら? わたしが疲れたら、遊びに連れて行ってストレスを発散させてくれるんじゃなくて?」

 ニヤニヤと俺の顔を覗き込むくれは。その姿が凄く俺の心を揺さぶって、俺も思わずニヤリとしてしまう。

「そうだったな。よろしく頼むぜ、くれは」
「ええ。これからもよろしくね、長瀬くん」


 こうして、俺は一人目の魔女を見つけることが出来た。
 これから先、どんな可愛い女の子との出会いが待っているのだろう。そう遠くない未来のことに思いを馳せ、俺は遠足を待つ子供のように胸を高鳴らせるのだった。


第一話・完

――――――――――

あとがき

 無事、羽織くれは編が終了しました。いかがでしたでしょうか? 話に整合性を持たせるため、ところどころに原作にはない展開を散りばめました。
 さて、次の第二話はみんな大好きメイドさんのソフィがメインの話になります。原作2(デュオと読む)では、ソフィの話から前作のヒロインたちが登場して重要なイベントを担っていくのですが、このお話は主人公が違うため出てきません。そのため、原作にはない展開になってしまうのをご了承ください。

 また、このSSを読んで原作に興味を持つ方が増えてくれたら幸いです。

                                       ししめい



[34386] 第一話 エクストラエピソード 「くれはとデート」
Name: ししめい◆e5009ad3 ID:c95f0cbc
Date: 2012/08/22 17:30
 
 担任の連絡も済んで、ホームルームが終わると教室の中が一気に騒がしくなる。
 気の合う友人と話し込む者や部活にいくために早々と席を外す者、掃除道具を取り出し教室の掃除を始める者と様々。俺はそんなクラスメートを横目で眺めつつ大きな欠伸を漏らし、ぐっと体を伸ばす。
 今日は喫茶パタータでのバイトは休みだ。部活に所属していない俺は、放課後の時間を持て余して仕方がない。あ、あと性欲も。

「ころんでも誘って遊びに出かけようかな……」

 一人で入るのは寂しいし、美少女が一人隣にいるだけで気分が違う。
 放課後の予定を組み立てていると、今までずっと黙って浮かんでいたクロが口を開いた。

「シモベ様シモベ様」
「どうした?」
「センエツながら……お暇でしたら、イケニエのための用品を買って下さいませんか?」
「……具体的には?」
「成人男性の髑髏にトカゲの心臓、黒猫の耳にウーパールーパーの足……それから」
「却下だ」

 黒魔術にしか使えないようなピンポイントな物品がどこに売っているんだよ。あったとしても買わん。そう伝えると、クロは残念そうな顔をしていた。そんな顔をされても、買わないものは買わない。
 立ち上がり、とりあえず教室をあとにしようとすると鞄に教科書を片づけているくれはの姿が目に入った。そういえば、くれはを遊びに連れて行く約束をしていたっけ。

「くれは」
「……? どうしたの、長瀬くん」
「今日暇なら遊びに行かないか?」

 そう言うと、くれはは指を顎に当てて考えるような仕草をとった。え、なにこの男を悩殺するポーズは。これを無意識でやってると言うのだから、くれは、恐ろしい子……!

「そうね……。いいわ、行きましょう。せっかくのお誘いを断るのも失礼だし」
「やったぜ! それじゃあ商店街に行くかー。エスコートはお任せください」

 役者っぽく気取った挨拶をすると、くれははふふっと笑った。

「そうね。あまりいかない場所だから新鮮かもしれないわ。期待してるわよ、長瀬くん」



「まずは学生の御用達、ボーリングだ」

 ボーリング場は学生の遊び場の定番ともいえる場所だろう。俺も中学時代はよく友達を誘って遊びに来ていた。カラオケ、ゲーセン、ボーリングは学生の三種の神器として認定されているほどだ。

「ボーリングねえ……」
「来るの初めてだったりするのか?」
「ええ。噂には聞いたことあるけど……ふーん、こうなってるのね」

 興味深そうに首を忙しなく動かすくれはに苦笑いをしつつ、さっそくレクチャーに入る。

「ボーリングは球を使って十本のピンを倒すゲームだ。一人二回投げたら交代、それを繰り返していって最終的なスコアを競う」
「へぇ、思ったより簡単そうね」
「簡単に見えて奥が深いんだよ。くれは、先やってみるか?」
「ええ」

 くれはは頷くとボールを両手で持った。そしてとことこと歩いていき、ファウルゾーンギリギリでしゃがむとコロコロとボールを転がした。投げ方をしらない子供がよくやるパターンだ。勢いのないボールはゆっくりと転がっていくが、やがて右に逸れてピンにあたることなくガターに落ちてしまった。くれははこてんと首を傾げ、戻ってくる。

「あたらなかったわ」

 そして、しゅんとうなだれた。くれはの一連の動作を見て俺はポツリと呟く。

「萌え殺す気か……?」
「長瀬くん?」

 ハッ! いかんいかん。余りにもくれはの行動が可愛すぎてぼーっとしてたぜ。

「もう一度投げてくるわ! 今度こそ!」

 と、闘志を燃やすくれはに声をかける。

「待て待て。言い忘れてたけど、ボーリングには投げ方があってさ」
「投げ方?」
「ほら、球に三つの穴があるだろう? まずそこに人差し指、中指、親指を入れるんだ」

 くれはの手を掴み、指を入れてやる。くれはは俺の説明に頷いた。
 賢明なる男子諸君はお気づきだろうか。普段はボディタッチをしただけで怒るくれはが、手を触ったのに怒らないでいるのを。
 ふっふっふこれぞ名付けて、ボーリングを教えるフリをして体を触る大作戦! 教えるために触っているだけだからくれはは気にしていないっぽいが、俺はナチュラルに手に触れることが出来て心の中で喜びのサンバを踊っていた。うぉぉぉ! 柔らけぇぇ! ボーリングに来て良かった!

「長瀬くん?」
「あ、悪い悪いぼーっとしてた。次は投げ方なんだけど」

 くれはの腰を掴み俺の方へと引き寄せる。それには流石にくれはも顔を赤くして抗議の声を上げた。

「ちょ、ちょっと!」
「どうした、くれは? 顔赤いけど」
「ち、近すぎないかしら?」
「え? 教えるんだから当然だろ?」

 下心を感じさせないようにあっさりと言うと、くれはは顔を赤くしたまま「それもそうね……」と頷いた。
 本当は教えるだけなら俺のフォームを見てもらった方が早いんだけど、こっちの方が俺が楽しめるからな。くれはの柔らかさが制服越しに伝わって頬が緩んでしまう。役得役得っと。
 くれはに正しい投げ方を教えている間、俺は至福の時間を味わった。



 ボーリングでひとしきり遊んだ俺たちは、小腹がすいたのでファミレスへと足を運んでいた。店員に案内されて禁煙席に二人で座ると、話題は先ほどのボーリングの話へと自然に移る。

「悔しいわ! 結局、長瀬くんに勝てなかった!」
「そりゃな。俺は昔からやってるし、生まれて初めて遊んだくれはには負けないさ」
「そうだけど」

 ぷくっと頬を膨らませてくれははそっぽを向いた。くれはには負けない、と言った俺だが内心は実はヒヤヒヤしていたりする。初めこそ目も当てられないようなスコアだったくれはだが、回を重ねるごとにどんどん上手くなっていき、最後には俺と僅差まで持ち込んだのだ。運動神経抜群だとは知っていたが、ここまで上達が早いのは驚きである。

「だけどさ、まさか十ゲームもやるとは思わなかった」
「しょうがないじゃない! 悔しかったんだから……」

 バツの悪そうな表情のくれはに、俺は気にしてないと告げる。いやはや、くれはの負けず嫌いには脱帽である。おかげでもうそろそろ夕飯時の時間帯だった。


「さっさと食っちまおうぜ、腹減ったし。注文決まったか?」
「ええ」

 メニューをパラパラとめくっていたくれはは、視線をメニューに固定したまま肯定する。ボタンを押して店員を呼ぶと、店員はほどなくしてやってきた。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「俺はハンバーグセット。くれはは?」
「ミートソーススパゲティ、明太子スパゲティ、デミグラスソースのハンバーグにエビフライセット……あとはドリアとチャーハンにカレーライス、緑野菜のサラダ、コーンスープ……食後にパフェをお願いできるかしら?」

 ……はい?
 明らかに女の子が食べる量じゃないけど、マジ?

「それ、食べきれるのか?」
「ええ。これでも少し足りないくらいよ」
「いつもはもっと食べるのか?」
「そうね。倍は食べるかしら」

 フードファイターでもそこまで食べないだろう。というか、いつもそんなに食べているのにどうして太っていないのだれう。まじまじとくれはを観察して、ああと納得する。

「胸に栄養がいってるのか」
「は、は、破廉恥な! どこを見ているのよ!」

 胸を両腕で隠し、くれはは涙目で睨んできた。その表情、実にそそるぜ……。


 食事もつつがなく終了してファミレスから出る。

「さてと、そろそろ帰ろうかしらね」

 くれはの言うとおりもう遅い時間だ。

「もう遅いしなぁ……あ、そうだ。まだあれやってなかった。最後にあそこいこうぜ」
「あれ? ちょ、ちょっとどこに行くのよ!」

 くれはの手を引き、俺は走る。善は急げって言うしな!

 最後にやってきたのはゲーセンである。入り口の自動ドアから入ると、コインゲームやらなんやらの騒がしい音が襲いかかってくる。慣れていないくれはは、眉をひそめ耳を押さえていた。

「ここがゲームセンター? やかましいところね」
「慣れてないとそう思うよな。とと、ゲームで時間潰す暇もないし、さっさと終わらせるか」
「ここで何をするのかしら?」
「プリクラだよ。記念撮影みたいなもんだ」

 女の子と二人で遊びに来たらプリクラをとらなきゃだめだろう。
 さっそく機体の中に入り、お金を投入し設定を終わらせる。

「四回写真とるからなー」
「よく分からないから任せるわ」
『それじゃあ、一枚目。ニコッと可愛く笑って』

 アナウンスの声が聞こえてくると、くれはは「え、え?」と慌てていた。

「真正面のレンズに向かって笑うんだよ」
「こ、こうかしら?」

 カシャとシャッターが切られ、画面にブイサインをした俺とぎこちない笑みを浮かべたくれはが映る。

「くれはー緊張するなよー」
「だ、だって!」
『それじゃあ、二枚目! キュートなポーズで』
「え、え!? もう撮るの!?」
「プリクラは早いからなー」
『三枚目は変顔! 3、2、1!』
「〜〜っ!」

 くれはが悶えてる。食べちゃいたいくらいに、可愛いんですけど。

『最後は恋人ショットだよ! 二人でくっついて撮ろう!』
「こ、こ、恋人!?」

 お、キタキタ。メインイベント。これがやりたいがためにプリクラを撮りにきたと言っても過言ではない。

「アナウンスされたんだから仕方ないよな。ほら、くれは笑ってねー」

 くれはの肩を抱き寄せ俺はニヤニヤと笑いながらブイサイン。シャッター音のあとに、映った確認画面の画像には恋人のように寄り添って、恥ずかしげな笑みを浮かべるくれはの姿があった。


「色々と疲れたわ」

 プリクラも撮り終わり、出てきた写真を二等分に切り分けて渡すとくれははすぐにそれをバックの中に押し込んだ。よっぽど恥ずかしかったんだろう。

「まあまあ、俺は満足だよ」

 そう言うと、ジト目で睨まれたので自重する。

「はぁ、それじゃあ長瀬くん。私は帰るわね」
「送っていこうか?」
「いいわ。すぐそこに車を呼んだから」
 くれはの指差した方を見ると黒塗りの大きな車が止まっていて、モノクルをかけら老紳士がぺこりと頭を下げていた。さ、流石はお嬢様だ。

「じゃあね、長瀬くん。また明日」
「おう」

 くれははたったったと走っていくと、途中で振り返った。何だ? 忘れ物か?

「長瀬くん! そ、そのね……」
「どうした? 告白ならいつでもOKだぞ?」
「違うわよ! 今日は楽しかったわ。また次も期待してるわね!」

 にっこりと笑って、そう言うとくれはは今度こそ車の中に入っていく。車が遠くに走り去っていくのを見送りながら、俺はニヤニヤと緩んでしまった顔を抑えられずにいた。

「うぐぅ……またウチの存在が忘れられているのでございますのです……」


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