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[33281] 【習作】ほむほむ?でGO!【まどか☆マギカ×fate/zero オリ主トリップ物につきご注意ください】 
Name: ikuzu◆8ffd634e ID:22035bff
Date: 2012/06/26 00:33
◆挨拶
初めまして。ふと膨らませていたネタを投稿させていただきます。
初投稿ゆえ(それを言い訳にしてはいけませんが)不手際をお掛けするかもしれません。
また、この文、正直なところネタと勢いだけで書いたので至らない所ばかりだと思われます。
皆様の時間のほんの小さな暇つぶしにでもなれば幸いです。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●






目を開けたら、そこは・・・・・バケモノ屋敷でした。
目の前に広がる、腐臭と饐えた匂いに満たされた澱んだ暗闇。

・・・WHY?
・・・WHAT?
・・・WHERE?
・・・WHEN?
・・・WHO?
・・・HOW?




混乱してたせいで、この間勉強したばかりの幾つかの英単語が出てきちまったぜ!
イカンイカン。
深呼吸して~落ち着いて~
1、2の、さん、ハイ!



・・・・・・・って。
いや、ここどこよ!?(WHERE)
俺、普通に寝ただけなのにいつこんなところに来たのよ!?(WHEN)
布団に入って寝ただけなのに、どうしてこんなと場所に居るのさ!?(HOW)
あと、視線が低くね!?俺、身長は175くらいはあるのに、それにしちゃやけに視線が低くね!?(WHO)
というか・・・なぜこんな訳解らん状況になっとるんだ!?(WHY)



―うん、混乱しただけだった。
まあ、一言で言ってしまえば。
・・・訳が分からないよ。(WHAT)



とにかく、もう一度クールダウン。
落ち着くために、さしあたって自分のことを再確認してみよう。


俺はどこにでもいる平凡な日本人中学生。
名前も特に珍しくも無い姓名だ。
容姿も、まあごく平均だったと思いたい。
背がやや高かったのが数少ない特徴の1つだ。

格別変わったところの無い、男子中学生。
それが俺だ。

・・けど、今はあきらかにそれとは違う。
何が違うかっていうと、自分の体を見下ろせば一目瞭然。
視線が低いってのは先刻感じた通り。
けど、問題はそんなとこじゃない。



まず、髪。
俺はどちらかというと短めに切ってた方だ。面倒がないから。
けど、今はむっちゃ長くて豊かな黒髪。
滑らかで、艶があって。まるで高級な糸のように真っ直ぐに流れてて。
腰を超えて、まだ伸びてる。

で、次に体。
明らかに華奢になってる。
硬さを感じさせる男のものとは反対の、柔らかさを感じさせる肉体。
その表面の肌も、白くて、繊細で。

最後に、服。
寝る前に来てたジャージでもなく、普段学校にいる時に着てる学ランでもない。
鋭角的なデザインで描かれた上服と。
下に纏っているのは・・その・・・・・スカート。






―結論。
女の子になっちゃった♪




・・・・ってヲィィィ!?
どうなっちゃってんの!?
落ち着くどころじゃないよ!ますます訳分かんないよ!

・・そういえば、このデザインの服、どっかで見たような・・



ってそれどころじゃNeeee!
どうして!?何故!?
誰か、教えてぷりーず!



そんな風に願った俺の願いを遂に神が聞き届けてくれたのか。
近くから声が聞こえたのはその時だった。


「どうやら、とんだハズレを引いたようじゃのう」

聞こえてきたしわがれた響き。
奈落の底から響いてくるような声に振り返れば、そこに居るのは―
―鄙びた肉体と禿頭の矮躯の老人。
落ち窪んだ眼窩と、その奥に爛々と光を放つ酷薄な瞳。
おぞましさと妖しさを一杯にまで詰め込み、そのまま人のカタチを取ったような・・
妖怪と呼ぶのが相応しい怪翁。

その足元に這いずるように詰め寄るもう1つの人影。

「どういうことだ・・!あんたの言う通りにしたじゃないか!?」

血を吐くような叫びを上げているのは・・青年、だろうか?
疑問系になった原因は、彼の容貌。
髪の毛は全て白髪化しており。
至るところに罅が入ったかのような、血色を失った肌。
捩れた筋肉と、白濁した壊死した眼球によって凶相と化した左顔面。

そんな壊れてしまった表情に憤怒を浮かべる青年を、怪翁は煩わしげに見やる。

「お主がその程度であったというだけの話よ。所詮は付け焼刃であったということかの?」

そこで一転、笑い顔を浮かべる。

「確かに大外れの駒を引いてしまったかもしれんなあ」

親意など欠片もない、悪意のみの嗤いを。

「故に。諦めてもワシは一向に構わんのだぞ?・・お主にそんなことができれば、だがな」
「糞ジジイが・・!!」

青年が、唇を噛み締め、今にも飛び掛らんばかりの激情を見せる。

「おやおや。年寄りの心配りを無にするとはのう。まっこと親不孝な息子よ」
その青年の表情を見て。怪翁の顔が哂い、歪む。
他者の苦悶こそを悦楽とする外道。

狂気と外道。
2つの感情がぶつかり合う。


そんな中で、俺は、悟った。
さっきの言葉は、取り消そう。
すなわち・・・神なんて、いなかったんだよ!

Orz
オワタ。



最初に見た時から、どうも見覚えがあると思ってたんだよ。
この場所も、目の前のじじいとオジサンも。
まさかそんな筈があるまいとおもってたんだが。

ああ。そろそろ誤魔化すのはやめようか・・
せーの・・・・




Fate/Zeroぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?



怪翁―間桐臓硯と、青年―間桐雁夜。
臓硯ジジィと雁夜おじさんが出てきた以上、もう間違いない。
信じたくなんてなかったよ・・・
血も容赦もないハードフルストーリーに、なんで降り立たなきゃならんのさ・・。

こんなの絶対おかしいよ・・


と、そこで忘れていたことに気がついた。
そう、今の俺に関すること。
現在の俺の容姿・・これも、見覚えがある。
身に纏っている服を見て、既視感を覚えた先刻。



2次元の世界である筈のFate/Zeroの世界に、今俺はいる。
なら・・・他の2次元の要素も存在しても可笑しくない。
嫌な予感に冷や汗を流しながら、自分の容貌を確認しようとする。
そういえば今更気付いたが、今立ってる足の下は石畳状になってる。
磨かれているわけでは無く、擦り切れて古ぼけている床石。
沈鬱なこの部屋の概観が茫洋に映し出されている。
なら。自分の姿もそこに映っているはず。
雲って判然とはしないだろうが、それでも大まかな概観ならば分かるだろう。
そう思い、ちらりと床に視線を落とした俺は・・・打ちのめされる。



絹糸のように流れる黒い長髪。
涼しげに整っている目元と鼻梁。
凛々しさと可憐さをそのまま形にしたかのような顔の造形。
黒曜石のような瞳・・虚ろ目状態なのが少々気になるが。
そして、それらを彩っているのが。
感情の起伏の無い、無表情という名の仮面。
一分の隙も無い美しさは、けれどそれが故に他者を寄せ付けない。
凍て付くような美貌。
玲瓏なる美少女が、そこに居た。

曇った古石の照り返し上越しなのに、それでも判然としている美。
今は自身の体なのに、思わず胸が高鳴っても可笑しくない・・というより、間違いなくそうなってただろう。



・・通常の状態であれば。

うん、今はそれどころじゃないんDA!


この外見、心当たりがあり過ぎます。
この、クールビューティーな美少女は・・・

この子は・・この娘は・・・





ほむほむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?





―暁美ほむら。
アニメ作品、「まどか☆マギカ」の登場人物。
この作品のもう1人の主人公とも言える少女。

通称まど☆マギと呼ばれたこの作品、かなりの人気を博し、決して少なくないファンを獲得した。
かく言う俺もその1人で、放送時間である深夜には視聴を欠かさなかった。
練られた設定に嵌り、インターネット上の考察を見て回ったり。
最終回まで見たときは、この作品を最後まで見た興奮と、物語が終わってしまう寂しさに包まれていたっけ。

その中で個人的に一番気に入ったのが暁美ほむらだったわけだ。
・・・けど。

断じて、ほむほむに成りたいなどとは思ってねええええ!



ははははHA・・
取りあえずまとめると。
化け物入り乱れるFate/Zeroの世界に。
暁美ほむらの外見で、サーヴァントとして降り立った、と・・。




・・・\(^o^)/オワタ
もう、ど~にでもな~れ♪





なんかの間違いであってくれればよかったんだが。
さっきから頭の中に流れ込んでくる情報が、今この状況が間違いではないことを教えてくれる。
自然と情報が伝わってくるという超常と、人の脳では処理できないほどの膨大なデータを平然と受理してるという現状況。
サーヴァントは現界に際して、必要な情報を聖杯から与えられるんだっけ。

まだ細かいこととか、解らないことは多いが・・
間違いなく、俺はサーヴァントとして顕現しているということに間違いはないらしい。


足掻くな、受け入れろってか・・・

悄然として足元に視線を落とせば、床面に映った美人顔が目に入る。
今の俺の顔が。


・・しっかし。ホントに表情動かないね。
俺、今結構落ち込んでるんだけど。微塵も動かない顔面からは、そんなことを僅かでも推し測ることはできないだろう。
この調子だと、さっきからの俺の動揺や動転も全く外面に表われてないな。
全ては無表情の下に、か。
便利と言えば便利だけどさあ・・。

で。極め付きがこの瞳。
ハイライトが消えたような目―虚ろ目。
原作ほむほむはクールビューティーではあったけど。
決してこんな‘死んだ,目はしてなかった。
―全く、どうなっているのやら。



これから、どうしよう。色んな意味で。
何しろ。
世界観・舞台はFate/Zeroで。自分の外見はまどか☆マギカ。
この2作品。
どちらにも、あのUROBUCHIさんが深く関わっている。

両作品とも道中悲惨さと絶望のオンパレード。
エンディングも素直なハッピーエンドとは言い難い内容と成っている。

その両方の要素の下にいる俺って・・


そんな思考の渦に落ち込んでた俺に、声が掛かる。


「色々と思うところはあるかもしれんが、とりあえずは此方を認識してくれんかの」

声を掛けてきたのは、臓硯ジジィか。
さっきからなんか話しかけてたのかもしれんが、全く認識してなかった。

こっちは一杯一杯なんでござるよ。

そんな煩わしさを感じて、視線を上げる。

できればもう少し放って置いてくれませんかねえ・・・とは言えない。


だって・・怖いでヤンス。
いや、マジで。
皺だらけの妖怪面とか、体から醸し出してる妖気とか・・ハンパなく怖ぇぇぇぇぇ!
体がブルッちゃいそうです。泣きそうです。ヘタリそうです。

しかし、それを微塵も出さないのがほむクオリティ!
全く本心が表に出ません!
外面上は、眉1ミリすら動かさぬ無感情のまま。

・・でも。
いやなものはいやなんじゃぁぁぁ!
無理無理!これ以上こんな妖怪と相対してたら、俺、色々キツイって!
だから。
とっとと去ねやクソじじぃ!

・・。
・・・。
・・・・嘘です。
チキンハートな俺にそんなこと言えるわけがないです。


と、とりあえずだ。
早く、この場を立ち去ってくれると、嬉しいなって・・・
そんな遠回しな要望を視線に込めてみる。


・・すると、臓硯じいさんは一歩下がった。
を?ひょっとして、俺の意思が通じたのか?
伊達に齢食ってないな、ジジイ。
ちょっとした仕草から他者の感情を読み解くことぐらいは造作も無いってことか。
口を開かなくてもこっちの言いたいことを読み取ってくれるのは楽でいい。
やるじゃないか妖怪蟲じじい。
評価を上方修正した俺に対し、爺は聞き捨てならない言葉を放った。

「対話など必要ない、か。腐っても狂戦士のクラスというわけじゃな」



ちょっとマテや。
俺が表情を変えないわ、言葉を発しないわで会話を望めないと判断したか。

いや違うって。話したいんだって。
ずっと口を開こうとしてるんだって。
でも。
口が動かないんだよぉぉぉ!

確かに俺は元々口数の多いほうでは無く、会話も得意ではなかったけど。
ここまで無口ってことはないぞ!
必要最低限のことは話すようにしてた。

けど、このボディはそれすら出来ない。
これもほむスピリットの影響か?
って。
いやいや。いくらほむほむでもここまで無言にはなってなかったぞ。
はてさて。なんでこうなってるんだ?
渦巻く疑問に対する回答を探るため、思考する。



・・そう言えば、何か忘れてるような・・

―腐っても狂戦士のクラスというわけじゃな―

・・・って。
俺、バーサーカーじゃんよ!
原作知識あるんだから、第4次聖杯戦争の間桐陣営に召還されてる時点ですぐ気付けっつーの!
己の抜けっぷりには呆れるが、これで疑問の答えは推測できるな。

バーサーカー。
狂戦士のクラス。文字通り、狂化の属性を付与したサーヴァント。
基礎能力を大幅に底上げする代わりに、理性を失う。
強力ではあるが燃費が非常に悪く、制御も難しい。
運用の負担が尋常では無い、マスター殺しとも通称されるクラス。

一方で、平時は自意識をほとんど露わにしないという特徴があったはず。
徹底した無口っぷりはこれが原因ではないだろうか。

ただ、そうすると別の疑問が浮かぶ。

・・・俺、別に狂ってないよな?
理性を失うのがバーサーカーみたいだけど、出来の良し悪しは別としてさっきから思考はできているし。

・・解らん。
あんまり上出来じゃない俺の頭じゃ、この辺りが限度か。
これ以上考えても深みに嵌るだけな気がする。
思考を切り替えよう。


夢なのか現実なのか解らないが、俺は今、第4次聖杯戦争に立ってる。
そんな中での最優先目標は・・何はともあれ、生存だな。
仮にこれが夢だとしても、死ぬのはいやだし。
さしあたっては自分の能力を確認するとしよう。
あんま変なのが付いてないといいんだが。
そんなことを思いつつ、ステータスを確認する。


=ステータスを表示します=

CLASS:バーサーカー
マスター :間桐雁夜
真 名  :  ?
性 別  :女  性
属 性  :中立・中庸

筋 力  : E     魔 力  : D
耐 久  : A+    幸 運  : E
敏 捷  : D     宝 具  : ?

クラス別能力
狂 化(偽):詳細不明

保有スキル
        夢人の写し身:?
クラスや知名度による補正の影響を受けない。
自身への精神干渉系能力を完全に無効化する。

        死人の瞳  :?
意思という光を灯さぬ瞳。
自身へ向けられた魔眼系能力を完全に遮断する。
また、自身よりも低位の相手を高確率で行動不能にする。
ただし判定に成功しない限り意思疎通が成立しない。

        単独行動  :A+
マスター不在でも行動できる。
このランクになると宝具の多用乱発のような行為を行わなければ単独で戦闘可能。

        心体分離  :B
精神と肉体が何らかの手段で分離状態にあり、身体の耐久性が高い。
被ダメージ軽減能力を大きく高め、HPの減衰を大幅に抑える。

        ????

        ????


宝具
        詳細不明

=ステータス情報以上=


・・。
・・・。
・・・・。


こ れ は ひ ど い !

突っ込みどころ満載ではないか。

まず最初に、基本ステータス低っ!
耐久が極高なのはありがたいが、それ以外がほぼ最低ランクじゃんか。
これじゃ、サーヴァント最弱と呼ばれるキャスターよりひどいんじゃね?
原作でのランスロットさんはあんなに優秀だったというのにorz
というか、バーサーカーって基礎能力を増大させてるはずだよね。
なのにこの数値。
一体なぜ・・と言いたいところだが。
今回は大体の答えの見当は付く。

夢人の写し身とかいう保有スキルの効果。
クラスや知名度による補正の影響を受けない―
多分だけど、コイツの効力のせいだろう。
バーサーカーというクラスの特性―デメリットである理性の消失を受けない代わりに、メリットである能力の底上げも受けない、と。

マスターとしての立場からすれば残念だろうが、俺からすれば有難いスキルだな。
理性を失って暴れまわるなんてごめんである。碌な最期が思いつかないぞ。
おまけに精神干渉完全無効ってことは、操られたりとかは絶対にされないということだ。

で、まあ。それはいい。
問題は・・・詳細不明ってなんだよぉぉぉぉぉぉぉ!?
何だよ狂化(偽)って!?
スキルの情報も幾つか開示されてないし!
肝心の宝具なんて全く解らないじゃん!
ふざくんな!
自分で自分のステータスが解らない(笑)とか。馬鹿なの?死ぬの?


で、最後。

・・・・・・死人の瞳(笑)。


・・・・ウェヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!
・・もう笑うしかねぇ・・
確かに虚ろ目だけどさあ・・スキルとして発現しなくてもいいじゃないか・・
便利な効果ではあるけどさあ・・
何だよ、判定に成功しないと意思疎通ができないってのは・・
そんなに俺をぼっちにしたいのか・・

・・・・泣いちゃうんだからっ!


はあ・・
お先真っ暗な気がしてきた。


ただ、多少の救いはある。

単独行動・・これ、ほんとはアーチャーのクラス別能力じゃなかったっけ。
などという突っ込みは無しにして。
これだけの高ランクのものならば、大抵の行動は1人でこなせるだろう。
マスターからの魔力供給は最低限でいい。
死に掛けの雁夜おじさんに、徒に鞭打つような真似はしなくて済むってことだ。
無論、それでもかなりの負担を強いてしまうことになるだろうが、本来のものに比べれば優しいモンだ。

原作だと、酷かったからな・・・。
魔力供給するだけで激痛を感じるのに、そこにバカみたいに魔力をガバガバ喰らうバーサーカーとは・・アレは拷問以外の何物でもない。
ジジイは最初からそれを狙っていたというんだからマジ外道である。

で。もう1つ。
心体分離・・読んだそのまま、心と体が別々。
間違いなく、このボディの由来―まど☆マギの設定から来てるな。

魔法少女まどか☆マギカ。
この作品で中核-テーマの1つを成しているのは魔法少女という存在である。
響きだけならファンシーで心が和むような微笑ましい魔法少女という言葉。

ただ、この作品においては・・とても重々しい設定。
どんな願いでも1つだけ叶えて貰う代わりに契約を結び、授けられた魔法の力で絶望や呪いから生まれた存在である魔女と戦う・・それが魔法少女。
どのような魔法能力を得るかは千差万別だが、共通なのは非常に高い身体能力を得るということだ。
常人ならば死亡に至るような重傷でも速やかに再起する。極端な話、心臓を撃ち抜かれようが脳を損傷しようが、果ては高層ビルが直撃しようが死なない。
これにはカラクリがあって、契約時に魔法少女は魂を肉体から摘出され、ソウルジェムと呼ばれる物質にシフトされる。
言わば物質化された魂であり、魔法少女の本体。
そして魂を抜かれた肉体は抜け殻と化し、魔力を付随して外付けのハードウエアとなる。
こうしてソウルジェムが無事である限り、理論上は不死身の肉体を得るわけだ。
あくまで肉体はオプション。本体のソウルジェムが無事である限り、どのようなダメージでも蘇る。
端的にいってしまえば、ゾンビのようなものだろう。

このソウルジェムというシステムが、聖杯戦争のスキルとして発現したのが心体分離というスキルなんだろう。
まあ、流石にサーヴァントとして現界している以上、従来通りの不死性は持ってないようだが。
それでも、桁外れの耐久性を所持していることは疑いが無い。

・・・
そういえば、ほむほむは左手の甲にソウルジェムが付いてたはずなんだけど・・
・・・無いね。
同じく、左手に装備しているはずの盾も無い。

どういうこっちゃ?

ひょっとしてではあるが、再現されているのは高い耐久性だけで、ソウルジェムという形態は顕現していないのか?
魔法少女はソウルジェムを物理的に破壊されると死亡する。
そのソウルジェムが無いということは・・・弱点を無くし、その上で凄まじい防御力を所持しているという良いとこどりになるので有難いが・・

あと盾。
これを使ってほむほむは時間を操作してたけど・・
それが無いってことは、盾の使用なしで能力―時間操作を使えるのだろうか?


・・・
・・・・
そういうことにしておこうか!
これ以上考えても解らないし!面倒くさいし!


なによりこれ以上雁夜おじさんをほっとくわけにはいかんし。
そう思い、視線を回す。


・・
・・・
・・・・いや、だいじょぶなの、雁夜おじさん(汗)
雁夜おじさん、床に倒れこんで呻いてるし。
すごい苦悶してて、見てるこっちまで苦しくなってくるわ。
サーヴァントの召喚の儀式ってかなり消耗するらしいからなあ。
まして、身体中を蟲に食い荒らされて衰弱してる雁夜おじさんじゃなおさらだろう。

こんなとこで寝かせとくのは可哀想だし。
ここはサーヴァントとしての務めを果たしますか!

そう思い、雁夜おじさんに近付いていく。

「・・お、前は・・」

こちらを向いて言葉を出そうとしてる雁夜おじさん。
無理しないで、ゆっくり休みましょうね~・・・などとにこやかに笑いかけようとしたのだが・・・



声出ねぇぇぇぇぇ!
表情うごかせねぇぇぇぇ!
こんな時ぐらい解除されろよ、ほむスピリット!
それともバーサーカーだからか!?


人間関係構築の第一歩は、自然でにこやかな表情からだというのに・・orz
ま、まあ後で考えればなんとかなるよね!

とりあえずはおじさんを運ばにゃ・・

「お、おい」

両腕をおじさんの身体の下に回し、そのまま抱え上げる。
俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
性別や年齢を考えれば逆の立場の方が絵的には映えるだろうけど・・
中学生ぐらいの少女に抱き上げられる成人男性、か。
なかなかシュールな眺めかもしれない。

しっかし、さすがはサーヴァントの身。
体格差を全く問題にしていない。
衰弱のために痩せてはいるだろうけど、おじさんを持ち上げても羽のように軽い。
筋力:Eだとしてもそれはサーヴァントとしての枠の中での最低ランクってことで。
やっぱ人間が及びもしない怪物だというのがよく解った。

さて、とりあえずはおじさんを寝かさないと・・
どこで休ませればいいんだろうな。とりあえずジジイに聞くか。


・・あれ?いねえ?
いつの間に消えたんだろう?
全く失礼しちゃうもんである。
何も言わずにいなくなるとは・・


まあ、あの面を見なくて済むのはありがたいけどね!

けど、どうしようか。
こうなったら家中全部回るかな。

そう考えていたら、抱き上げてるおじさんが声を掛けてきた。

「・・あっちに回ってくれ、バーサーカー」

やせ細った腕を上げて、指で方向を示す。
ふむ。あっちに寝室があるのかね?
とりあえず、マスターの指示には従いますよっと。

おじさんを抱えたまま、俺は歩き出した。



これからどうなるんだろうという不安も抱えながら・・




[33281] 2話目
Name: ikuzu◆8ffd634e ID:22035bff
Date: 2012/06/25 22:06
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
[間桐臓硯]
サーヴァント召喚の儀式を行った地下蔵から逃げるように自室に戻り。
精魂尽き果てたかのように怪翁―間桐臓硯は椅子に腰を下ろした。
ようやく人心地つき、先程までどれだけ自分が緊張状態にあったかを実感する。

「バーサーカー……」

漏らした言葉に含まれているのは、紛れもない恐れ。
持ち前の陰惨な笑みも、今は浮かべる余裕すら無い。

どうしてこうなったのか。
やはり当初の考え通り、今回の聖杯戦争は静観しておくべきだったのだろうか。
じわじわと湿った感情が胸中を満たしていく。
ここ何百年かは抱いたことのない、後悔。

そもそもケチが付き始めたのは、雁夜がこの家に戻って来てからだった。
およそ1年余り前。
間桐の苗床にしようと、取引で手に入れた遠坂の次女。
その仕込みを始め、悦に入りかけていたところに雁夜が押し掛けて来たのだ。
間桐の家から逃げ出した半端者。
そのまま逃げ出したままでいれば見逃したものを、突然戻ってきた。

遠坂の次女を解放しろと息を巻いて。

自分の意思で家督の継承を拒み。
自分の足で家を飛び出し。
その厭うはずの家に、他者を救うために戻り。
その為に、自らの身を投げ出す。

例え裏に利己的な目的があろうとも、これは英雄的自己犠牲と言っていいだろう。

かって、間桐の家督の継承を拒んだだけでも癪に障るというのに。
それに加えて今回の英雄的行動。

間桐の血らしからぬ雁夜の気質。
彼が決意の元に起こした一連の行動が、臓硯の逆鱗に触れた。

―ならば、どこまで耐えられるかみせてもらおう―

狡猾にして残忍。
今回のサーヴァント召喚は、そんな間桐臓硯の性質が結実した結果だった。
元より、勝利などは端から眼中に無い。
雁夜に苦悶の響きを上げさせ、それを肴にして悦に浸ることこそ、臓硯の目的だ。
召喚するクラスをバーサーカーにしろと言ったのも、その為。
マスターに多大な負担を掛けるバーサーカークラスを宛がうことで、ただでさえ衰弱している雁夜の身体に筆舌に尽し難い苦しみを与えるためだ。

そうして召喚したバーサーカーは……

臓硯は先程のことを思い返し、唾を飲み込んだ。

―とんだハズレ―
第一印象は、脆弱。
年端も行かぬ少女の姿に、最低ランクのステータス。
オマケに幾つかのスキルと、切り札である筈の宝具の情報の一切が開示されていない。
召喚時に何らかのトラブルがあったのか、それとも元から障害があるのか。
どちらにしろとんだ欠陥サーヴァントである。

そして臓硯にとって忌々しかったのが、スキルとして単独行動を所持していたことだ。
マスター不在、魔力供給なしでも長時間現界することが可能な能力。
有用なスキルの1つであり、その効力はランクが高まるごとに上昇する。

今回召喚されたバーサーカーの単独行動ランクはA+。
取得し得る中では最高峰のレベルと言って差し支えあるまい。
狂戦士らしからぬ能力である単独行動を、何故、このバーサーカーは所持しているのかという疑問はあるが。
それよりも臓硯にとって重要なのが、これで雁夜への負担が格段と減ると言う点だ。

何しろ大抵のことは単独でできてしまうのだ。
魔力供給は最低限で済む。
つまりはそれだけ、雁夜の苦しみは減るということになる。

多大な苦痛を与え、その果てに絶望を植えつけようと画策していた臓硯にとっては望みとは全く逆の方向へ行ってしまったわけだ。
今回の聖杯戦争での愉しみの過半を奪われた。
飾りつけて味わおうしていた肴が、直前になって掻っ攫われた……

憤懣やるかたない心持ちで、臓硯は召喚されたバーサーカーへと声を掛けた。
召喚が済んだ以上、立ち止まっていてもしょうがない。
ハズレとは言ってもサーヴァントはサーヴァント。
まずは誰が主であるのか、狂戦士自身に刻み込もうとして―



先刻の事を思い返し、臓硯は思わず身震いする。
その姿を他の者―特に間桐の者が見れば、これは本当にあの怪爺かと目を疑っただろう。
何時も余裕を持ち、常におぞましさを漂わせた笑みを浮かべているこの妖怪が、普通の人間のように震えているなど…。

そしてそれは、他ならぬ臓硯本人にも信じられないことだった。

間桐臓硯は、すでに数百年を生き抜いている化け物だ。
延命に延命を重ね、身体を蟲に置き換え、人間としての枠をとうに踏み越えた「妖怪」。
どこまでも執念深く聖杯を追い求め、数世紀に渡り生き続けるその存在は、既に怪異の域にある。

気が遠くなるほどの時を生きる中で、飽くほどに修羅場を越え、幾多の絶望を見て。
いつからか、それらを極上の愉悦としてきた。
外道という言葉の体現にして極。
それが、間桐臓硯。




…そんな怪翁が、あの時。紛れも無い恐怖を感じた。
心臓を鷲掴みにされたかのような、言いようの無い悪寒。

狂戦士のサーヴァントとして現界した少女の、あの瞳。

憎悪でも無い。
絶望でも無い。

形容することなどできぬ底知れなさ―
一片の光も見出せない、真っ昏な瞳―


声を掛けた時にゆっくりと振り向いた、あの顔。
向けられた眼差しを思い出し、臓硯は身を竦ませた。
知らず、身を一歩引いて。

所持スキルである死人の瞳とやらの効果のせいもあるだろうが…
それだけでは無い。
スキルや何かではない。
このサーヴァントは、存在自体が例え様も無く―禍々しい。

そして。
最初の見立ては、別の意味で適中していたのを悟った。

―ハズレ―
ああ。確かにハズレだ。

何で、あんなまっとうでないモノがよばれるのか…



ありとあらゆる闇を見てきたと自負し。
事実、外道の極めである間桐臓硯。
その彼を以ってすら、比較すれば赤子以下になってしまうような。

そんな、とてつもない暗黒。




前回の第三次聖杯戦争以来、聖杯は異常をきたしているのではないか。
聖杯戦争の根本のシステムを創り上げた張本人の1人である臓硯は、万能の願望機として機能させるはずの聖杯の機能が歪になりつつあるような気がしていた。

今までは何の裏付けもない憶測に過ぎなかったが―今回のことで、その疑問が正しかったという確信を得た。

そうでなければ、あんなモノが喚ばれるものか。

第三次戦争でアインツベルンが召喚したアンリ・マユのような反英雄か。
それとも、悪霊や怨霊の類か。

―いや。それよりも、もっとおぞましい何かだ、アレは。



「気に喰わん…」

込み上げてくる震えを噛み殺すように臓硯は呟く。
目論見は外れ、とんでもないものを呼び寄せてしまって。

それもこれも、元はと言えば―。

「半端者の分際で……!」

―間桐雁夜。
彼の存在があったからだ。
魔道に背を向けて逃げ出して。
恐怖に震えていれば見逃してやったというのに戻ってきて。
そして、今回は特大の厄介種―バーサーカーを召喚してしまった。

久しく抱いたことの心底からの怒りに身を任せようとした臓硯は…すんでのところで思い留まる。

最初の2つは別だが、最後の1つ―バーサーカーの召喚―に関しては雁夜などの意志の介在する余地も無いこと。
その憤懣を雁夜に向けるのは間違いだろう。
思い、臓硯は気を静める。

別段、庇った訳ではない。
雁夜に原因が無い以上、彼に怒りを抱くのは八つ当たり―無駄なエネルギー発散でしか無いからだ。
そんな益にもならないことでエネルギーを消費したくない。
ただでさえ消耗の早い蟲の身体なのだから。


そこまで思考した時、ふと気付いた。


「莫迦に静かじゃな」


文字通りの臓硯の手足であり、間桐の影の象徴ともなっている蟲。
間桐という家の至る箇所に、そのグロテスクな存在は群れ犇いている。
欲求のみで構築されている奴等は、ことあるごとに我欲を満たそうと喚き立てる。
殊に、これからは「食事」の時間であり。より一層喧しさが増す筈なのだが…


そんな奴等が、鳴き声1つ漏らさない。
隠れるようにして肉体を縮こませ、
泣き叫ぶように震え慄いている。

奴等にとっての全てである欲求すら置き捨てて。


そこにあるのは―恐怖。

考えるまでもなく、その原因に思い至る。


バーサーカー。
形容し難き恐ろしさを持つあの狂戦士は、本能のみで生きる蟲にすら恐怖を植えつけるのか。

いや、逆か。
本能のみで動くからこそ、蟲共はあのサーヴァントの恐ろしさを骨の髄から理解するのだろう。
自分達の存在理由すら放り投げて平伏すほどに。

それを証明するかのような動きが起こったのは、次の瞬間。

「蟲共が、退いて行く?」


移動を開始した雁夜とバーサーカー。
その進路の影に潜んでいた蟲の群れが、2人の視界に入る前に一目散に尻を向けて蠢き去る。
今、蟲共の頭にあるのは恐怖だけだろう。

恐れ慄いて蟲共が開けた道。
そこを進む2人の行き先は―


「―そういうことか、雁夜よ」

歯軋りと共に発された言葉は、明確な怒りに満ちていた。
だが、その怒りを晴らす方法を臓硯は持っていない。

「おのれっ…!」

できたのは、悔しさに身悶えることだけだった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
[間桐雁夜]

「(うまくいったか)」

もう、表情を動かすことすら重労働となった顔で、間桐雁夜はほくそ笑んだ。
先程召喚した己のサーヴァント―バーサーカーを伴って訪れたこの場所。
常ならば蟲どもの耳障りな喚き声に満ちた、悪夢を形にしたかのような部屋。
生理的嫌悪が充満していた―そんなこの部屋は、今。
淀んだ空気こそ多少は残しているものの、それ以外は何の変哲も無い部屋となっている。

その要因となったのが―

「もういい。降ろしてくれ」

部屋の前。
雁夜の発した声に従い、今まで抱え上げられていた体が降ろされる。
力の篭らない足を踏ん張り、よろめく肉体を支えながら、傍らに立つ‘彼女,に視線を向ける。


見目麗しい美少女。
何も言われなければ、まるでどこかの深窓の令嬢のような姿。

だが、それは間違い。
‘彼女,は、人間などという枠内に収まる存在では無い。

ただそこに在るということだけで周囲を圧する、人では在り得ぬ佇まい。
現実離れした存在感と、幻をそのままカタチにしたような幻想感。
現実と幻想を併せ持った、この世ならざる規格外の存在。

サーヴァント。
人知では到底計り切れない、超越存在。
少女の姿こそしているが、‘彼女,もその1人なのだ。


…いや、‘彼女,はその中でも「特別」か。


先刻の臓硯の恐れ様を見れば解る。
憎んでも憎み切れぬ外道の老魔術師が、あそこまでの恐怖を示した―
その事実自体は雁夜にとっては胸のすくような思いだ。
いつも邪悪で陰鬱な笑みを浮かべていた面に、確かに恐怖が浮かんでいたのだ。
今までの下劣な行動とそれによって受けた仕打ちなどで溜まった鬱屈が、少しは晴れた気がした。

まあ。雁夜もひとのことは言えないのだが。



・・・
・・・・・
・・・・・・・



臓硯が場を退散し。
‘彼女,がこちらへと近付いてきた時は、恐怖で潰されるかと思った。
疲労して指1つ動かせぬ自分に、‘彼女,は手を伸ばして―


「(正直、死を覚悟したな)」

そんな雁夜の恐れは結局見当違いで。
‘彼女,は雁夜を運ぼうとしただけだったらしい。

自分をマスターとして認識はしてくれている。
その事実に取りあえず一息つき。

変調に気がついたのは、その時。

「(蟲が、震えている…?)」

雁夜の肉体には魔術回路としての機能を果たすべく、刻印虫と呼ばれる蟲が巣食っている。
擬似的な魔術回路として蠢くこの蟲は、宿主の魔力を産み出す代わりにその肉体を容赦なく貪る。
サーヴァントを召喚して現界させている以上、雁夜は魔力を消費し続けている状態であり。
それに伴い、刻印虫は嬉々として牙を突きたて。
生きながらにして肉体を喰われる、耐え難い苦痛が襲い掛かってくることを覚悟していたのだが…

そんな激痛は一向に襲い掛かってこない。
疼くような鈍痛が微かに全身に感じられるが。
それは間桐の魔術を施されて以来の日夜の苦痛に比べれば、余りに優しい。

理由はと言えば。
己の中に我が物顔で居座る刻印虫が縮こまっているから。
厚顔に雁夜の体を蹂躙していたはずの蟲が、恐怖に震えることしかできない。
本能であり、自身の全てであろう欲求を打ち捨てて。
ただ許しを請うだけ。

…何に対して?
決まっている。

‘彼女,―バーサーカーに対して、だ。

そして、それは雁夜の中に巣食う刻印虫だけではない。
この家全体の蟲が、恐怖に襲われている。


闇を具現化したかのような、狂戦士の少女に対して―。


自らが従えているサーヴァントは、どのような存在なのか。
それを思い起こし、雁夜は唾を飲み込んだ。

あの臓硯すら裸足で逃げ出したほどの禍々しさ。
纏っているのは、形容など到底適わぬ濃密な負の胎動。


生きとし生ける者ならば抗えないであろう恐怖。
雁夜もまた、その例外ではなくて。
危害を加えられなかったことで薄れていた警戒感と恐怖感が再び高まっていく。
ましてや、今は密着している体勢。
より現実感を伴って押し寄せてくる威圧と悪寒は、実体の無い刃となってこちらを削ってくる。


だが、こんなところでへこたれるわけにはいかない。


―あの子を、桜を救うと。誓ったのだから。

そして、その為に現状況は利用できる…!

「-あっちに回ってくれ、バーサーカー」



・・・
・・・・・
・・・・・・・


そうして、今こうして部屋の前に立っている。

蟲共は、狂戦士の少女を恐れている。
ならば‘彼女,の近くに居れば、奴等の動きをある程度、排することができるのでは?

そんな雁夜の推測は、見事に当たった。
相変わらず自分の中に居座っている刻印虫は小さくなっているし。
この部屋に来る途中、いつもならば蟲どもが身を潜ませている影にも気配が全く無かった。

結果に満足しつつ、雁夜は部屋の中に踏み込んだ。
これならば、自分の思惑どおりに事が進むという希望と共に。

「桜ちゃん」

雁夜の呼び掛けに、部屋の隅にうずくまるように座っていた少女が顔を上げる。

「…雁夜、おじさん?」

遠坂―
いや、今は―間桐桜。
大人しさと優しさを内包させていた…はずの整った顔立ち。
誰もが見るだけで思わず顔を綻ばせたような可愛らしさが、今では僅かも感じ取れない。
空虚で無機質で。まるで人形のような…

そうさせたのは、他ならぬ己の血筋。
考えるたびに沸き起こる憤怒を押し隠し、雁夜は努めて柔らかい表情を浮かべて問いかける。

「桜ちゃん。今は体の調子はどうかな?」

桜の体にも蟲が巣食っている。
雁夜に比べれば幾らかはマシであろうが、それでも常に痛みに悩まされる。
さらに、これからの時間は蟲共の最活動期。
いつもであれば、痛みに襲われているはずだが…


問いに、桜は無表情のまま。
けれど自分でも不思議そうな顔をして答えた。

「痛く、ないよ?」

「そう、か」

雁夜は、顔を崩した。
顔の半分が動かせない以上、他人から見れば不気味な表情にしか見えなかっただろうが。

そんな雁夜の表情をよそに、桜は続けた。

「どうして、かな。私、今日はムシグラに行かなくてもいいかわりに、幾つかのチョウキョウを受けるように言われてたのに。私、何かしちゃったのかな。ワタシ…」

「―いいんだよ」

まるで壊れたかのように言葉を続ける姿に耐え切れず、雁夜はそっと桜を抱き締めた。

何かことが起こったら、まず自分に過失があったのではないかと思い込んでしまう―
心優しい少女を、そんな後ろ向きにしてしまったのは、間桐という存在だ。
体も、心も蹂躙されて。
そして、その引き金を間接的にではあるとは言え引いてしまったのは他ならぬ自分。
かって自分が間桐という家を逃げ出したから―それが巡り巡って、桜に降り掛かってしまった。

犯してしまった過ちは取り戻せない。
時間は戻せない。
ならばせめて。
この目の届く間だけは、守ってみせる。

「ねえ、桜ちゃん。さっきは、これから大事な仕事で忙しくなるから余り話していられる時間もなくなるかもって言ったけど」

先刻―サーヴァント召喚の直前。
蟲蔵に向かうまえに、廊下で会ったときに交わした言葉。

「これからも、できるだけ桜ちゃんと一緒にいてもいいかな?」

「いっしょに…?」

雁夜の言葉に、桜は顔を上げる。
いつもと変わらぬ無表情に、僅かに揺らめきが起こった気がした。

「おこられない…?」

「大丈夫だよ。その間は蟲を見なくてもいい」

「ムシグラに行かなくても、チョウキョウをうけなくても、いいの?」

無機質な声で話す疑問の中に、僅かに窺い知れる意思。
それは、希望と呼ぶには小さすぎる、けれど確かな光。

「ああ。もちろんさ」

「…おじいさまに、怒られちゃうよ…」

けれどそれは直ぐに消え、諦観にとって代わられる。
そんな桜を心底安心させるかのように、雁夜は力強く断言する。
壊れた顔でできる、精一杯の笑顔を浮かべて。

「大丈夫。絶対に怒られないよ」

そう確信するだけの理由が雁夜にはあった。


己のサーヴァント―バーサーカー。
‘彼女,が居る限り、臓硯や蟲共は手出しができない。
‘彼女,が居る場所には干渉できない。
いくら数百年の時を生きた妖怪でも、‘彼女,には太刀打ちできない。
召喚時の遣り取りを見ただけでも明らかだし、他ならぬ本人自身が痛感しているはずだ。

つまりは、‘彼女,が桜の近くにいれば。
臓硯は、桜に手出しが出来なくなる。
近付いたら何をされるか解らないし。
仮に調教を行おうとしても、蟲共は恐怖に怯え、固まるばかり。
単純な生物であるが故に、徹底的なまでに刻まれた恐怖は最早拭い去ることはできない。
雁夜が留守にした際に、桜に干渉される可能性も考えたが。
蟲共は‘彼女,の残り香にさえ怯えを抱いており。
例え‘彼女,本人が場に居なくても、気配の残滓だけでも何もできなくなる。

己の手足である蟲が使えないのであれば、臓硯とて恐るるに足らない。

いざとなれば、‘彼女,を使って力尽くでいく手もある。
さすがに臓硯を今殺してしまうと、その力で生き長らえている自分の体がどうなるか解らないので殺害はできないが。
恫喝は十分すぎるほどに可能だ。
仮に臓硯が雁夜を殺す手段を持っており、殺されたとしても。
独立行動を所持している‘彼女,は直ぐには消えない。
マスターという枷から解き放たれた‘彼女,が、何をしでかすか…
少なくとも、臓硯や間桐家はこの世に残らないだろう。


ことここに至って。
雁夜と臓硯の力関係は完全に逆転した。



外を‘彼女,で固め、臓硯の干渉を防ぎ。
中で雁夜は桜とできる限り触れ合う。

これが、雁夜の思惑だった。


幸いなことに、雁夜は桜にさほど警戒されていない。
今までも時間のある限り触れ合ってきた。

―その時間を増やすことで、少しでも桜に感情を取り戻したい。

それで許されるなどとは思っていない。
一生残るであろう傷を負わせた罪は、どうやっても償うことなどできないだろう。

そして何より。
幼い桜は、己を絶望という鎧で守ることによって自身を守ってきた。
そこに希望を与えるのは―下手を打てば、桜をより壊してしまう危険性も孕む。


そう考えれば、これから行おうとしていることは酷いエゴでしかない。


…それでも。
桜の助けになりたいと。
笑顔を取り戻させてやりたいと、思ったから。




とは言え、現在の状態が砂上の楼閣でしかないことは雁夜には解っている。


‘彼女,が消えてしまえば、元の通り。
臓硯は再び欲求のみの塊に返り咲いた蟲共を自在に操り。
溜まった鬱憤を晴らすかのように、今まで以上の残酷な愉悦に浸るだろう。
その時、もし桜が未だ間桐から開放されていなかったとしたら…
考えるだけで寒気がする。

そう考えると、やはり。
桜を開放するには…聖杯を勝ち取るしかない。



「…おじさん」

小さく呟き、弱々しく手を伸ばしてくる桜を壊さぬように、けれどしっかりと抱き締め。
雁夜は改めて決意した。
踏み出したからには。後退も、失敗も許されない。
必ず、聖杯戦争に勝ち残ってみせる。




その為に必須になってくるのが、己のサーヴァントである‘彼女,だ。


正直に言えば、怖くて溜まらない。
底知れない闇と、計り知れない禍々しさ。
サーヴァントという枠の中ですら、忌避されるであろう存在。


だが、‘彼女,無しでは、この聖杯戦争を生き残ることすらできない。
どんな形であれ、協働しなければ…

そう思い、後ろに控えさせていた‘彼女,に向かい振り向いた雁夜は。
目を、驚きで大きく見開いた。




「バーサーカー………?」



わらっているような気がしたのだ。‘彼女,が。


光を灯していない瞳。
感情が抜け落ちた貌。
召喚された時から何ら変わらぬ、機械のような無表情。

そこに、笑顔の片鱗など見るべくもない。



だが。
その唇の端が、ほんの僅かに上向いたような…

緩んだと形容するにも程遠い、ほんの小さな揺らぎ。

けれど、それは。
‘彼女,の確かな温もりに思えて。


それを確かめるべく、我知らず雁夜は言葉を続けようとして。

「…?」

意識を引き戻された。
ギュッとしがみついてきた、幼い手の感触に。

「桜ちゃん…?」

先程まで、弱々しい動きしか見せていなかった桜が。
あらん限りの力で、雁夜の体に腕を回していた。
小刻みに震えながら。

何の起伏も見せない、平坦であったはずの目は。
今、ある感情を宿していた。
その視線が向けられているのは、雁夜の後方。

佇んでいる‘彼女,に向けて、桜は口を開く。


「…こわい……!」


まるで人形のようになってしまっていた桜が、精神の動きを見せたという事態は、喜ばしいことだろう。

…それが、恐怖という感情によるものでなければ。

間桐の仕打ちを身に受けて、消耗し。
心を閉ざし、無反応な人形となった桜にとっても。
‘彼女,は、耐え難い恐怖の対象のようだ。


無理も無い、と雁夜は思う。
サーヴァントという超常の存在が醸し出す比類無い威圧感は、常人に耐えられるものではない。

ましてや‘彼女,は、その中でも「特殊」だ。
ただ在るだけで周囲を圧する。
感受性の強い子供にとっては猛毒に他ならない。


「(桜ちゃんにこれ以上、負担をかけるわけにはいかない)」

幸い、サーヴァントには霊体化という一時的に不可視になる能力がある。
実体を解き、透明と化せば。
桜には‘彼女,を感じ取れなくなり、重圧と恐怖からは解放される。
一方、その状態でも条理から外れた者―魔術師である臓硯や雁夜、人ならざるモノ―蟲共には存在感がひしひしと伝わってくる。
この状態でいれば、桜には心的負担を掛けず、一方で臓硯を封じ込めることができる。

敏感な桜が、それでも霊体化した‘彼女,の存在を朧げに感じ取ってしまうようだったら。
距離を置き、‘彼女,には部屋の扉の前辺りにいてもらうことにしよう。


そう命じようとして―


「―!」

雁夜は再び目を丸くした。


‘彼女,が踵を返し。背を向け、歩き去っていく。
その姿が徐々に薄くなり。宙に溶けるようにして―消えた。


霊体化の命令を下す前に、‘彼女,は自ら実体を解き、己を抑えたのである。



その行動が、こちらを気遣ってくれたと考えるのは…
都合の良い自己解釈に過ぎないのだろうか?

「バーサーカー…」

尋常ならざる己のサーヴァント。
けれど、‘彼女,は或いは不器用なだけかもしれない、と。
そう思いながら、雁夜は今は姿の見えぬその背を見やったのだった。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●



桜ちゃんに嫌われた…orz
泣きそう…


召喚されてからここに来るまでのことを思い起こす。



雁夜おじさんに言われるがままに移動して。
蟲共が何故か姿も見えず、近寄ってもこないので安堵して。
ある部屋に入って。
そして、そこで1人の少女を見た。

その瞬間、俺のテンションは舞い上がった。

原作ヒロインの桜ちゃんキター!


まあ、すぐにそのテンションは急降下。


だってねえ…あまりにも悲惨すぎるわ、桜ちゃん…
人間って、あそこまで人形みたいになっちゃうもんなんだ…

重過ぎて何もいえない。

ふと、現実の世界のことを思い起こす。
中学生というのは多かれ少なかれ、家庭という存在から遠ざかろうとするものだ。
俺や周囲の同級生はそんな感じだった。

親や家族を疎ましく思い。
罵り、反抗している。

…実はそれは、とても贅沢なことではないだろうか。
見方を変えれば、親への甘えではないだろうか。
もし、いざ親や家族がいなくなってしまったら…。

親がいるからこそ、許されている甘え。
けれど、もしそれすら許されなかったら…?
親に会えず、誰からも愛情を向けてもらえなかったら…?



……
そんならしくないことを考えているうちに、雁夜おじさんが桜ちゃんを優しく抱き締め、撫でていた。
その眼差しは、どこまでも優しい。


いやー、癒されるわ。
さすが雁夜おじさん。
なんと素晴らしきお人!


…時臣への憎悪とかジェラシーとか復讐心とかがなければ、だけどな。


ま、けど。
こうして桜ちゃんへと見せている気遣いと優しさは紛れも無い本物だよね。


思わず顔も綻んでしまう。

……相変わらず、表情ほとんど固まったままだけど。

ほんと手強いな、ほむクオリティ。
けど、口をほんの少しだけ緩めることができたような…

それだけの力を、目の前の風景は齎したということだ。
暖かい心は、万物に通じる力がある、ということだろうか…


そんな風に久しく満ち足りていたところに、桜ちゃんの爆弾である。


―「…こわい……!」


……

ムンクの叫び。
俺のその時の内心を描くんだとしたら、そんな感じになる。

桜ちゃんから向けられたのは、明確な拒絶と嫌悪。
隠しもしない、剥き出しの負の感情。
それを、モロにぶつけられたのである。
それも、可愛らしい女の子に。



……
ショックである。
間違うことなく、ショックである。
ハートブロークンである。



思わず、霊体化してその場から逃げ。
今こうして部屋の扉の前で体育座りをして、いじけてしまうぐらいに。

まあ、きっとまたそんな感情も表に出ず。
変わらず、無表情な顔のままなんだろうなあ…
何の表情も浮かべない少女が黙ってぶっ座っているというのは、第三者的に見て、かなり不気味ではないだろうか。

ほむクオリティェ…。


今の自分のコミュ力が壊滅的なことを改めて付き付けられて。
先行きに漂っている暗雲に、早くも心が折れそうになりながら。
この世界での、俺の一日目は終わったのだった。



・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

こうして。夢なのか何なのか解らないこの世界で幾日か時間が過ぎて―

その間の時間?
キンクリキンクリ。
おじさんと桜ちゃんがキャッキャウフフしてて。
おじさんから頼まれた俺が、部屋の外の扉のとこで突っ立ってただけである。

締め出されたようにしか思えないぜい…orz

まあ、とにかく。

今。
俺は。
夜の海岸にいます。


寒々しい闇に覆われた、真っ暗な海。
夜の海って実はかなり怖いな。
日の下では青々とした色で輝く波が、色彩を失っているのはとても不気味なものに映る。
何より、視界が利かない。

何人かの友達とふざけて遊びにいこうとしてたことがあったが、止めといたほうがいいな。
冗談抜きで危なそうだ。


最も。
それは人間の身であった場合の話。
サーヴァントと化した今なら、はっきりと周辺を見通すことができる。


けど。
そのせいでもっと怖い物を存分に見れてしまうわけだが。


今の位置からやや離れた倉庫街。
いつもであればやや不気味でしかなかった、何の変哲も無いような場所は―

今、世界の理から逸脱した超常の発現場になっていた。
それを成しているのは、ヒトの形こそ取りながらも条理を遥かに超えた者達―

サーヴァント。
神話や過去の世界の体現たる英霊。

その対決の幕が、ついに今夜切って落とされた。
第4次聖杯戦争の開幕である。



うん。
やっぱサーヴァントって化物だね。
余りの存在感に空気が悲鳴を上げてるよ。
こりゃ、普通の人なら耐えられないな。

かく言う俺も他ならぬ一般人だ。
とっくに失禁して気絶しててもおかしくないんだが…

精神が波風1つ立たないというか。
もの凄く落ち着いてる。

正直、怖いもんは怖いけどな!

今のこの世界が夢だからなのか。
やっぱり、自分もサーヴァントになってるからなのか。
少しも動揺しない。
正直、ありがたいところである。
ほむほむの姿で花摘みを我慢できなかったらヤバイしね。

それは置いておくとして。
第4次聖杯戦争第1戦である。
開戦から複数騎のサーヴァントが一堂に会するというとんでもない展開でのスタート。

その緊張は、今まさに臨界点に差し掛かりつつあった。
新たに場に現れた、金色のサーヴァントによって。


集った英霊達の中でも一際烈しい輝きと存在感を放つ、そのサーヴァントは…



…我様来ちゃってるよ…


天上天下唯我独尊。
己こそ全ての、最古の王―ギルガメッシュ。
公式チートの最強サーヴァントである。


…ヤバイヤバイヤバイ!
死亡フラグ立ちかけてるって!

原作通りだと、ここで雁夜おじさんはとんでもない命令を下すのである。
その流れでいくと、非常にマズイ。
ランスロットさんなら何とかできたかもしれんが、俺じゃ無理。
なんとか雁夜おじさんが冷静さを保てることを期待するしかない。

幸い、この世界だと、このほむボディが独立行動を所持している為に雁夜おじさんの負担は大分軽くなってる。
それに桜ちゃんとの触れ合いが大幅に増してるおかげで、多少は心が穏やかになってるんじゃないだろうか。

…俺はハブられたけどね!

とにかく、早まった真似だけはしないでくれれば…

「殺せ…」

そんな俺の願いが無駄だったことは、聞こえてきた声を聞いただけで解った。

うん、憎悪でドロッドロの声。

やっぱ、駄目か…
そう簡単に憎しみを消すことはできなかったようだ。



意気消沈する俺に、雁夜おじさんからの指令が届く。

―とんでもない暴令が。


「殺すんだバーサーカー!あのアーチャーを殺し潰せッ!!」


おじさん…
一言だけ言わせてくれ…。




ム   リ   で   す   ♪



[33281] 3話目(外)
Name: ikuzu◆8ffd634e ID:22035bff
Date: 2012/06/25 22:21
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[湾岸倉庫街]
サーヴァント達のバトルフィールドと化した倉庫街。
地が割け、宙が割れ、大気が震える―神話の再現。
人の常識など遥かに超えた、想像の中でしか成し得なかったはずの幻想の体現。
選ばれし者達だけが上がることを許された、究極の闘技場。


―そこに、また新たなる闖入者が参戦する。


張り詰めた緊張感と均衡が張り巡らされた戦場の空気が、突如として変質した。
それまで互いを牽制しあっていた各陣営が。
或いは密かに身を隠していた者達が。
そしてまた、様子をつぶさに観察していた視観者達が。
誰もが、瞠目して視線を転じる。



軋むようにして生じる奔流。
濁流のように渦巻いていく大気の流れ。
束ねられた力が、収束し、具現化していく。
尋常ならざる波動が、やがて人としてのカタチを取る。



やがて。
ゆっくりと霧が晴れてゆくようにして実体を成す人影。

その姿を見た者が、再び目を丸くする。



佇むのは、1人の少女。

淑やかに、柔らかに流れる長い黒髪。
しなやかさと繊細さを併せ持つ、均整の取れた体躯。
身を包むのは鋭角的な構成で編まれた現代的な衣装。
そして。
幼さを未だに残す線で形作られた、凛々しげな美貌。

外見上で言えば―十代半ばか、あるいはそのほんの少し手前か。
大人へと成長する途上の、殻を破り始めた頃合。
年端も行かぬ未成熟な状態ながらも、既に研ぎ澄まされた美麗さは一際際立つ。

そんな少女が。
端的な言葉で言えば―美少女が、そこにいた。

一見、こんな場には似つかわしくない外見。
だが―その華奢な体から漂うのは絶大な存在感。
それが、‘彼女,もまた。人間が遥か及びも付かぬ超越存在―サーヴァントであることを無言で物語る。



戦場へと降り立った‘彼女,は、無表情という仮面で彩った貌を僅かに巡らせる。

聖杯戦争の開幕を告げたセイバーとランサーの激闘。
その火花の間に割り込むようにして常識を覆すような行動を取った、ライダーの破天荒。
揺れ動き始めた場を制圧するように顕れた、傲岸不遜なるアーチャー。

そんな彼らの手によって創り出され。
今なお空気中に漂う、先程までの激動の遣り取りの名残を気にも留めずに。



突如現れた、謎のサーヴァント。
誰もが警戒と緊張によって動けなさそうな空気の中で。
そんなものに頓着せずに動いたのは―やはりこの男だった。

「何ともまあ、2人目の娘っ子の登場とはのう」

愉快そうに破顔し、哄笑する巨漢。
己の欲望のままに進みながらも、周囲を否応なしに引き付ける大いなる英霊。
ライダー―征服王イスカンダル。
豪快で磊落な言動は、こんな状況でも何ら陰ることは無い。

「ふむん。此度の闘争、或いは面白いものになるやもしれん」

満足そうに顎鬚を扱きながら口元を緩める。
そんな、何気無い動作1つにも満ち溢れた貫禄を感じさせる―
英霊というカテゴリーの中でも並外れた格を持つ、征服の王者。


「ら、い、だぁ~…」

その巨体の足元から、か細い、世にも情けないような声が上がる。

「オマエなあ、こんな時に何をのんきな…あいたぁっ!?」

乏しい背丈に、震える声。涙と鼻水に塗れた顔。
…言い方を気にせずバッサリと言い切ってしまえば…
「小市民」がそこに居た。
体の大きさから声の質から、傍らのライダーとは全くの正反対の少年。
ウェイバー・ベルベット。
この巨漢のサーヴァントのマスターである彼の声は、あっという間も無く沈黙させられる。
ライダーの右手中指の高速の動き―いわゆるデコピンによって。

苦痛に悶える己のマスターを、ライダーは嘆息して見下ろす。

「坊主よ。お主も、ちいっとは興というものを理解せいよ。どうにも視点が狭くていかん」

一息吐き、言葉を続ける。

「ま。まだ少し坊主にゃ少し早いか。とりあえず引っ込んでおれ」

荒削りで剥き出しの言葉。
けれど、そこには主を慮る色もあったのだが…

「このっ!バカにするなよっ!」

この時のウェイバーは気付けなかった。
自分を下に見られるのが悔しかったのか。
或いは―
先程、恐怖の対象であった己の師である魔術師から庇ってくれた己のサーヴァントに対し、少しでも報いたかったのか。

「あいつだってサーヴァントなんだろ!なら、能力を見ることぐらい、僕にだって…!」

サーヴァントと契約して聖杯戦争に参加したマスターには、他サーヴァントの能力をある程度《視る》ことのできる透視力を授けられる。
ここで収集した相手の能力値を自陣営の戦力と擦り合わせ、戦略を練っていく―など、聖杯戦争を勝ち抜く上では欠かせない能力だ。

「(これぐらい、僕だって―)」

そんな思いでウェイバーは身を乗り出す。




その征服王と対していた陣営の一角。
槍兵のクラスのサーヴァント―ランサーは、改めて己の得物を握り直し、新たな闖入者に相対する。
整った顔立ちに浮かんでいるのは、一片の緩みも無い警戒感。

つい先刻。
サーヴァント最優のクラスとして名高いセイバーと刃を交え。
一撃を入れたほどの、凄腕の槍騎士。
ケルトの神話で語り継がれるフィオナ騎士団の一員。
豪傑揃いの騎士団において、最強の誉れ高く讃えられた―
「輝く貌」―ディルムッド・オディナ。

幾多もの武勲を立て、戦場を駆け抜けた…そんな彼の本能が、警鐘を鳴らし続けている。

新たに出現したサーヴァント。
外見こそ未成熟な少女のものだが―断じて、油断できる相手では無い。

「(ケイネス殿、ご注意を)」

自らが感じ取った危機感をランサーはパスを通じて念話で主に語りかける。
状況を主に出来る限り詳細に伝え、共有しようという忠節。
騎士としての高潔な行動。
それが、逆効果になってしまうことを知る由も無く―

「(フン。口を挟むな。どうするかは私が決める)」

ランサーの慮る声に、冷たく高慢に返すマスター―ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
声には隠しようも無い憤懣が詰まっている。
それがランサーへの不満であることは明らかだった。

かっての過去の英雄の現界した存在だと言っても、サーヴァントは所詮、聖杯戦争における道具に過ぎない―
そんなケイネスにとってみれば、セイバーとの戦いを愉しんでいたランサーは到底許容できるものではなかった。

「(視界を貸せ、ランサー。私が直に見定める)」

ケイネスは吐き捨て、ランサーと視界を同化させる。

「(いけません!ケイネス殿、どうか―!)」

ランサーの配慮に何ら構うことなく、ケイネスは視線を向けて―




「セイバー?」

征服王と対している陣営のもう一角。
戦場の空気にも負けず、気丈に立ち続けているアイリスフィール・フォン・アインツベルンは、その宝石のように整った瞳を疑問で揺らした。

視界に映るのは、小さくも大きな背中。
厳冬の雪深い城で降り立って以来、少しも翳る事の無い光輝。
貴さと誇りをそのまま具現化したかのような、神々しさに溢れる清廉なる少女。
理想やユメ、希望が人の形を取ったようなその存在には、誰もが憧憬を抱かずには居られない。
悪鬼が蠢く戦を幾度と無く駆抜け。国という重すぎる荷をか細い肩で背負い続け。
人間の善を信じ、気高く在り続けた理想の王。
英霊達の中でも鮮烈に、美しく輝く少女―
「騎士王」―アルトリア。

最優のサーヴァントクラスであるセイバーとして在るに相応しい彼女が、屹立する。
アイリスフィールの視界を塞ぐようにして。


「アイリスフィール、私の後ろに。決して奴とは相対しないように」

引き締まった顔に緊張の色を浮かべ、セイバーは口を開いた。
先程、ランサーとの交錯で負傷しながら、気勢には些かの衰えも無い。
変わらぬ戦意を目に宿しつつ、新たな闖入者を見据える。

相手を射殺さんばかりの眦。
向ける眼差しは、完全に敵対者へ対するモノ。

己と似たような背格好の相手なのに―

いや―
だからこそ、この相手―‘彼女,は油断ならない。

確かにこの相手は、年端も行かぬ少女に見える。
それでもなおサーヴァントとして現界している…
つまり。‘彼女,は生前時にそれだけの戦歴をうち立てたということだ。
まだ未成熟と呼べるような年齢で、である。

或いは。
セイバー自身がそうであったように、何らかの原因で外見年齢が止まっただけで、実際は相当の年齢を重ねていることも在り得る。

ただ、上記どちらの推測が正しいにしても、只者でないことだけは確か。
明らかに、容易い相手では無い。


「解ったわ。―気をつけてね、セイバー」

信頼する己の騎士からの指示に、アイリスフィールは従った。
この騎士王に対して彼女は絶対の信を置いていたし。
何より、自身でも先程から何か圧迫感のようなものを感じていたのだ。

戦闘状態でも自分への気遣いを忘れぬことに礼の気持ちを込め。
アイリスフィールが下がろうとした時だった。



―‘彼女,が、戦場を睥睨した―


視線をゆっくりと巡らせる。
ただ、それだけで―場の空気が硬直した。

凍えた空気は、その場に居たマスター達に襲い掛かる。



「(―ぐぁぁっ!)」

「(ケイネス殿っ!?)」

パスと通じて伝わってきた主の苦鳴に、ランサーは身を固くした。
ケイネスとリンクしていた為に彼の受けた衝撃がいかほどのものであったか、直に感じ取ることができたのだ。
ランサーの視界を通じて透視力を行使しようとしたケイネスの視線が、‘彼女,の瞳と一瞬交錯した際。
脳髄を直接揺さぶるかのように叩き付けられて来た圧力。

単なる眼圧では無い。

「(幻覚か、或いは魔眼に類する能力か…?)」

現代の魔術師として随一の使い手であるケイネスは、外部からの干渉能力に対する知識も耐性もあるはず。
その彼にここまでのダメージを与えている以上、相当な高レベル能力であることは間違いないだろう。

―だが、今はそのような推測をするような時では無い。

「(不覚…!やはり、油断ならぬ相手だったか)」

相手からの能力を受け、主は行動不能。
そんな事態を招いてしまった己の不甲斐無さを呪いつつ。
ランサーは構えを取り直す。
この場を切り抜けるために。




「…あ…う…」

呻き声と化した嗚咽を漏らしながら、ウェイバーは力なくへたり込んだ。
周囲を見回す謎のサーヴァントの目と視線が交錯した瞬間に。
肉体と精神を押し壊すかのように押し寄せてきた怒涛の圧迫感。
あっけないほど簡単にウェイバーの矜持と体の力は奪われて―


「ほれ。しっかりせんか、坊主」

ライダーに吊るし上げられるようにして戦車の御者台に支え直されていなかったら、そのまま崩れ落ちていただろう。

「だから言ったではないか。お主にはまだ早いと」

呆れたような声に、ウェイバーは反駁しようとするものの―そんな気力などありはしない。
身体は瘧に掛かったかのように小刻みに震え続け、歯は噛みあわずにガチガチと耳障りな音を鳴らすばかり。
先程のケイネスから向けられた殺気など、比べるのもおこがましいほどの重圧。

それを前にして何もできずに蹲り、涙と鼻水で汚した恐怖に固まった顔。
第3者が見れば、間違いなく醜態だと断じるだろう有様。
かっての何も知らなかった頃の己が見れば、疑いなく侮蔑したであろう姿を晒して。

ウェイバーの胸にあるのは、自分が無事だという安堵感。
他人から見た自分の姿などどうでもいい。
とにかくこうして生きているだけで十分だ―

それが偽りようもない本心。

これでは駄目だ。
自分のことを鼻で哂い、見下し、認めなかった魔術協会―時計塔の連中を見返してやると決めたではないか。
その為にこんな極東にまで赴き、聖杯戦争に参加したのに―

こんな有様では、奴等の言う凡人そのものではないか。
本当なら、不覚を取った自分の身を恥じ。
けれどより一層に冷静になり、取り乱すことなく、粛々と己の目的へ堂々と歩き出す…
それぐらいでなければいけないのに―

そう思っても、本音は偽れない。

誇りも目的もどうでもいい。
ただ、助かってよかった…そのように自身の命にしがみ付く己の姿。

そんな自分が情けなくて、どうすればいいのか解らなくて―


「ぶべらっ!?」

突如降ってきた頭上からの衝撃に、ウェイバーは喉の潰れたような珍妙な呻き声を上げる。

「辛気臭い面を浮かべるでないわ。これから戦場に酔おうと思っておったのに…台無しではないか」

下手人は傍らのライダー。
その巨体から振り下ろされた手を矮躯のマスターの頭を覆うように叩き付けた。
分厚い掌が、ウェイバーの頭部を掴んで髪を掻き回す。

「お、ま、え、なぁ―!」

マスターに対する態度などどこかに置き忘れてきたかのような狼藉だ、コレは!
…そもそもこの男が、そんなものを持っているのかさえ疑わしいということは置いておいて。

「このっ!離せってば!」

憤懣でウェイバーは何とか逃れようと試みる。

…そうやって夢中でもがくうちに、迷路へと迷いかけていた思考が霧散していた。

そんなマスターを見下ろすライダーの目にどこか満足気な色が浮かんでいたことは、誰も解らなかっただろう。


「だが坊主。その馬鹿さ加減はなかなかに小気味良いぞ」

掛けられた言葉にウェイバーは目を丸くして―すぐ様、気分を害したかのように頬を膨らませてそっぽを向く。

「馬鹿と呼ばれて喜ぶ奴なんているかっつーの!」

「い良し。それだけ言えりゃあ上出来だ」

口元を緩ませてライダーはウェイバーの頭から手を離し。
視線を前方へと向け直す。
そこには、少年マスターに向けていた温かみなどまるで無く。
猛禽のように研ぎ澄まされた目。


「で、坊主よ。サーヴァントとしちゃどの程度のモンだ?アレは」

鋭い眼光で見据えているのは、あの謎のサーヴァント。
問い掛けに慌ててウェイバーは意識を整え直し、先程の記憶を引っ張り出す。
とんだ目にあってしまったが、何とかステータスはある程度読み取れた。

「宝具とか、スキルとかが解らなかったけど…基礎能力は、何とか」

思い起こし、ウェイバーは脂汗を一筋流す。

「基礎能力は、ほとんどDとEだ。耐久は物凄い高いけど…」

能力値でいえば、この謎のサーヴァントは大したことは無い。
というよりむしろ弱い。
耐久値こそ飛び抜けているが。他は下級と最下級。
サーヴァントとしては最低ランクと言って差し支えない。

「けど、アイツは…!」

脂汗がもう一筋。
確かに、このサーヴァントは弱い。

ただ…それなら、この恐ろしさは何だ?

湧き上がってくる混乱と恐れを何とか制御しようとするウェイバー。
ライダーは眉を顰め。己の武器―戦車の手綱に手を伸ばした。

「―ことによると我らも参戦するぞ、坊主よ」

生前。数多に勝利し、制覇し続けてきた征服王イスカンダル。
その彼が。隠していた牙を、剥き出しにしつつあった。




「っう…!」

鋭利な刃物で切り刻まれたような悪寒に、アイリスフィールは声に成らない悲鳴を上げ、足をよろめかせる。
全身の力が…いや、生きるという活力そのものが吸い上げられ、意識が眩んで。

「っ!」

それでも必死に踏み止まったのは驚嘆に値するだろう。
こんなところで倒れるわけにはいかない―
己の責務と強い精神で立ち続けるその姿は、彼女が紛れも無い強い精神を持つことの現れ。

「アイリスフィール!?」

倒れこそしなかったものの、明らかに憔悴したアイリスフィールにセイバーは声を震わせる。
変質した空気に当てられながらも、なお崩れず、凛として在りつづけるその姿。
気品と威厳を備えた姫君たる彼女は、やはり共に戦場に立ってくれる者として相応しい。

セイバーは誇りに思い。だからこそ、現状況が呪わしくてたまらない。

できるものならば直ぐにでもアイリスフィールの元へ駆け寄り、労わってやりたい―
けれど、それはできぬ相談だ。

「おのれっ…!」

奥歯を噛み締め、セイバーは前方へと向ける視線を険しくする。
相も変わらず飄然と立ち続ける、少女の姿をした謎のサーヴァントへ。

アイリスフィールを憔悴させた空気の変質は、目の前の‘彼女,によって成されたものとして相違は無い。
そんな相手に対し、迂闊に動くことはできない。

今の状況にしても、セイバーがアイリスフィールの視界の大部分を塞ぐ形で前方に出たからこそ保っているようなものだ。
もし、セイバーがそのような行動を取らなかったら…
まともに‘彼女,の干渉を受けてしまっていたら…おそらく、アイリスフィールとて無事では済まなかっただろう。


「(しかし、アイリスフィールにすら影響を及ぼすとは…)」

先のランサーとの開戦前。
ランサーの持つ魔貌にすら、アイリスフィールは抗してみせた。
その彼女でも抵抗できないとなると、半端な能力ではない。

下手な手は打てない。

「(-どうする…?)」



「大・・丈夫よ、セイバー。私のことは心配、要らないから」

知らず、焦りに陥りかけていたセイバーを引き戻したのは、アイリスフィールの声。
未だに震えながらも何とか搾り出した声は、騎士王への配慮に満ちていて。

「アイリスフィール!無理をしては―」

「平気、よ…エスコートして来てくれたナイトの前で、無様な姿は、見せられないもの…」

声を乱すセイバーに返される、柔らかな笑顔。
ただ、それは相当な無理を押しての表情であることは明白だ。
滝のように浮かんでいる汗と、血色のほとんど失せた青褪めた頬。
見ているだけで苦痛が伝わってくるような―そんな、痛々しい顔。

それなのに、こちらを気遣ってくれた―

対して、今の自分はどうだろうか。
冷静さを失いかけ、あやうく混乱に陥りそうになり―

「(何という騎士として在るまじき姿かっ…!)」

湧き上がってくる自責の念で胸は張り裂けんばかりで。
己の内で暴れ回っている自らへの墳念で自身を打ち据えてしまいたいという欲を、何とか堪える。

そんなことなど、後で幾らでもやればいい。
この戦闘を、アイリスフィールと共に無事に帰還する―
その為の剣となることが、己の役割であり、責務だ。

「…アイリスフィール。貴女が私と共に在ってくれて、本当によかった」

自身を信じ、引き戻してくれた姫君に心底からの礼を述べ。
セイバーは再び前を見、剣を構える。
澄み渡り、迷いの無い翡翠色の瞳。
迷いを振り払った、攻撃の姿勢。
強さと美しさを兼ね備えた姿は、正に剣の英霊―。


その姿を身近にして、アイリスフィールは限りない安心感に包まれ。
冷静さを幾分かは取り戻した頭脳で、現状況を整理する。

「どうやら、アレもまた厄介な敵みたいね…」

「それだけではない。四人を相手に睨み合いとなっては、もう迂闊には動けません」

アイリスフィールの呟きに、セイバーも頷きながら意見を交える。
多人数が集まった同時戦闘―いわゆるバトルロイヤルは、実は中々に厄介な局面だ。
どのタイミングでどの相手に攻撃するか。
或いは静観の構えを取るか、それとも初手から積極的に動くか。
位置取りが非常に難しく、一手間違えれば集中攻撃に遭ってしまう恐れもある。
そうなればいくらセイバーでも勝ち目は無い。
殊に、今のセイバーは負傷した身。
少しでも隙を見せればあっという間に潰されてしまう―

故に、他陣営の動きには特に敏感にならねばならない…のだが。

「(―しかし…)」

セイバーの見た所、他の者達も動きかねているようだった。


その原因と成っているのは他でもない。
場の中心に成っている‘彼女,―謎のサーヴァントだ。



「…なあ征服王。アイツには誘いをかけんのか?」

「いや。無理だろ、アレは」

滞った空気の中で、口調だけは軽めに投げられたランサーの揶揄を、ライダーは鼻息を吐いて両断した。
ついで混ぜ返すかのようにランサーへと問いを向ける。

「お主こそ、そのイケメン面で誘惑せんのか?」

「正直、コレは俺にとっても煩わしい呪いなんだが…奴に対しては効いていないようだな」

ランサーの容貌―黒子による魅惑は女性を強烈に惹き付ける効果があるのだが…
先程から彼の視線を受け続けているにも関わらず、‘彼女,は毛ほども表情を動かさない。
つまり、全く効果が及んでいないということだ。

だが。それでよかった、とランサーは続けた。

「あんな物騒な奴の相手など、怖くてとてもできんよ」



突然戦場に躍り出てきた、少女の姿をしたサーヴァント。
全く油断できない相手だということは、この場において衆目の一致するところだろう。

そして、徹底した読み難さがそれに拍車を掛けている。

一体、どのような目的で、この場に出てきたのか。
こんな混沌とした局面で出てきても得することなど何もないように思えるが…
何か、狙っているのか。


何とも言えない不気味さが漂う。
そして、それを助長しているのが、‘彼女,の存在そのもの。



この場に集まったサーヴァント達には、それぞれ侵し難い光輝さがある。

セイバー―騎士王アルトリア。
ランサー―輝く貌ディルムッド・オディナ。
ライダー―征服王イスカンダル。
そして、未だ真名の知れぬ金色のアーチャー。

誰も彼もが。
人々の理想や希望、憧憬や信仰が形を取った英霊として相応しい「格」と「華」を有している。




―それが。‘彼女,には全く無い。
在るのは、ただ―
その瞳と同じ、底知れない「昏さ」のみ。


サーヴァント達のど真ん中に出現し。
向けられる視線に昂ることもなく。
さりとて臆しもせず。
静寂と共に佇んでいる―

そんな‘彼女,に、場の空気は留まって―



「―いつまで其処に居座る気だ?雑種」


絶対零度の声質が、滞留していた状況を切り裂いた。
冷酷さと無慈悲さで研ぎ澄まされた、尊大にして傲岸な声。
聞いただけで心身が竦み上がってしまいそうな口調を持つ者は、ただ1人。

集った英雄達の中でも、一際鮮烈な瞬きを放つ金色。
直視するのが躊躇われるほどの輝光は、もはや美という枠には捉え切れず、魔性染みた艶やかさを醸し出している。
見るだけで他者を萎縮させる凄麗なる面貌。
血のような滾りを宿した、神威の具現した真紅の双眸。

自尊と傲慢の極致たる黄金の英霊。
傍若無人という言葉が人の形を取った―金色のアーチャー。

地上10メートルほどの街灯の上から戦地を睥睨していた眼差しが、‘彼女,へと向けられる。
抜き身の刃と見間違うかのように鋭く細められた、赤い双瞳。

「分を弁えることすらできぬのか?狗めが…」

軽蔑も露わに吐き捨てられた口調からは、限りない不愉快感が伝わってくる。
自身が脚を下ろしたこの舞台で、‘彼女,が突然登場して衆目を集めていることが気に喰わぬらしい。

ただの癇癪としか思えないような発言だが、心底からアーチャーは言っているのだろう。

我こそ至高。
我こそ中心。
我以外は全てが有象無象の輩に過ぎない―

余りにも度が過ぎている自己賛美も、アーチャーにとっては至極当然のこと。
己自身への絶対の自信。
全く揺るがぬ言動が、それを完璧なまでに証明している。

そんな彼にとってみれば、場へと乱れ込んでくるようにして姿を現した‘彼女,は度し難い不敬者に他ならない。
切り裂かんばかりに据えられた、眇められた目。

純然たる、憤怒と殺意。
魂すら焼き尽くす視線を受けて、‘彼女,が返したのは―






醒めきった、横目。
ただ、それだけ。



アーチャーの零下の怒りもまるで意に介さず。
相対することもなく、億劫そうに向けただけの視線。
恐れなど―そもそも関心などまるで無い。
道端にでも落ちていそうな石に向けるのと、全くの同質のモノ。

‘彼女,が黄金の英霊に向けているのは―
何も無い。
言葉で言えば…眼中に無い、というところだろうか。
徹底した、無関心の極致。

それが。
憤怒に滾っているアーチャーへの、‘彼女,の返答にもなっていない応えだった。



「-我に拝謁する栄すら解らぬか?雑種…」

沸点を超えた怒りは、かえって冷たさを宿すと言う。

まさに、今のアーチャーはそれを再現したかのような状態になっていた。
先程まで燃え盛っていた真紅の瞳が、凍り付いたように平坦になっている。

貴人である己の眼差しに対し、全くの無視。
もう不躾や不敬という次元ではない。
アーチャーにとって、‘彼女,は畜生そのものであった。
もう、同じ空気を吸っていることすら耐え難い。

「貴様は、我を興じさせる資格すら無い」

極寒を思わせるアーチャーの声音と共に、その背に展開され、浮遊していた宝剣と宝槍が反転し、標的を変える。
切っ先が向けられたのは―‘彼女,。



「とっとと去ね、雑種」

冷徹なる宣告が下された瞬間。
轟音と閃光と共に空気を震わせて、槍と剣が射出された。

音の壁を越え、滑り切るようにして迸る刃が‘彼女,へと牙を突き立てんとして―

鼓膜を破るような破裂音。
爆発と噴煙が視界を揺らした。
巻き上がった夥しい炎粉が飛び散り、宙を焦げ付かせる。

「―ッ!」

瞬きほどの間に開かれた戦端に、誰もが気を取られた。

生じた衝撃によって路面が抉られ、アスファルトが砂塵となって舞い上がる。
凄まじいまでの爆発。



―が。
それに反し、周囲への損害は存外に軽微なものだった。
地には亀裂が走り、路面が幾らかは剥がされてはいるものの、あれほどの爆発があったにしては些か以上に破壊の爪痕に乏しい。
射出された剣と槍は、それこそ爆撃に匹敵するだけのエネルギーの塊だったはず。
それらが着弾していたとしたら、ごっそりと地面が抉られ、クレーター状の陥没痕が残っていそうなものだが…それが全く無い。

つまりは―アーチャーの宝剣と宝槍は、両方とも地に届かなかったということである。

そして。
その標的となっていた者の姿は…忽然と消え失せていて。


「ど、どこに!?」

「上だ、坊主」

動揺と不安に震えるウェイバーの声に、間髪入れずにライダーが答える。
目にも止まらぬ一連の流れを、征服王の目は見逃さなかった。

それは、他のサーヴァントも同様。
セイバー、ランサーの目も同じく1ヶ所を見据えている。

3騎のサーヴァントの視線が向いているのは。
やや後方、うず高く積み上げられたコンテナ郡の最頂地点。


―‘彼女,は、そこに居た。

爆裂によって巻き上がった風に長い髪をなびかせ。
先刻と同じ、何も浮かべていない表情のまま。
無機質な佇まいは全く変わっておらず。


ただ。先程までと異なっているのは。
その足が、僅かに煤けていること。



「え…?」

ウェイバーは呆けたかのように口を開けている。
目まぐるしい状況に、理解がまるで追いつかず。

しかし、それは別に責められるべきことではない。

アイリスフィールも。姿を隠しているケイネスも。
何が起こったのか、全く解らなかったのだから。

―神速の攻防。
瞬きほどの間に行われた交錯は、人間の動体視力で捉えられるようなものではない。



…結論を言えば。
アーチャーが撃ち出した剣と槍。
その初撃として飛来した剣を。

―‘彼女,は、蹴り飛ばしたのだ。
刃先や切面を避け。
下から掬い上げるようにして、剣の裏腹面を強かに。

剣に込められていたエネルギーが爆発しないようにタイミングを計り、刹那の速度で。

しかも、ただ蹴るだけでなく。
次撃として飛んできていた槍の軌道先にぶつけるように。

当然、多大なエネルギー体と化している宝剣と真っ向から接触するわけであるから。
その反動を受け、肉体は後方に流される。
その反発力に逆らわず、身を任せるようにして‘彼女,は体を後ろへ逃がし。
同時に。
自らが蹴り払った剣と、襲い来る槍の衝突を見計らい。
その時に生じた衝撃と風圧に合わせて跳躍し、コンテナ郡へと飛び退った―



「―こりゃあたまげた。この娘っ子、相当にやりおる」

ライダーが唸るようにして呟く。
そこにあるのは驚愕と感嘆。
今の回避行動がどれほどの難行であるか、彼は寸分違わず理解していたのだ。

もし、蹴りを繰り出すのがコンマ1秒遅れていたら―?
蹴る角度が僅かにでもずれ、刃面に接触することになっていたら―?

おそらく、木っ端微塵だったろう。
寸分でもタイミングがずれていたら成し得なかった、精緻の結晶。
未だに正体こそ解らないが、‘彼女,が一級品の技を持つサーヴァントであることに疑いは無い。
セイバー・ランサーの両名も思うところは同じ。
この見解に異論を挟む者はいないだろう。



「-雑種…」

金色のアーチャーを除いては、だが。

見開かれつつある目と、つり上がっている眉。
青筋を額に浮かばせたアーチャーの顔は…怒り一色に染まっていた。


「我が宝物を足蹴にした上に…―ただ1人、天に座るべきこの我を、見下ろすだと…?」


‘彼女,が立っているコンテナ郡の最頂地点。
4つほどのコンテナが積み上げられた其処は、アーチャーの立つ街灯よりやや高い位置。
そこに居る‘彼女,は、現在はこの場で最も高い位置に陣取っている。

とは言え。アーチャーとの高低差はほんの僅かに過ぎないのだが。
それは余人の感覚であり、比類無い自尊を抱く金色の英霊にとっては到底許すころのできぬ大罪。

「-そこまで死に急ぐか、狗っ!!」

憤怒に身を焦がし、激情の化身と化したアーチャーの相貌は。
鬼すら逃げ出すであろう、鬼相と化していて―

その怒りに慄くようにして震える空間が、揺れた。
眩いばかりの輝きと共に、宙を割って顕れる幾つもの武具。

剣が。槍が。斧が。鎌が。はたまた、奇怪な形をした用途も知れぬ刃物が。
ずるり、と姿を覗かせる。
―その数、16挺。
いずれもが見るだけで圧されるような至宝・秘宝。
幻想と神秘の塊。
どれもが…宝具。


「そんな、馬鹿な…」

場に居た者たちの意を代弁するかのようにウェイバーが言った。

英霊を英霊たらしめる宝具。
彼らの分身とも言えるそれらは、者によって所持する数は異なるが。
破格と呼ばれる者達ですらせいぜい3つか4つ。

なのに。それがこれほどまで多く―


そんな当惑と混乱など、金色の弓兵にとってはどうでもいい。

「その小癪な手癖の悪さでもって、どこまで逃れられるか―せいぜい踊ってみせよ!」

先程とは比にもならぬ爆音と衝撃。
主の激情を示すかのように、16挺の宝具が‘彼女,へと殺到した。

轟音と閃光。
まるで落雷のような猛攻。

―それを受けても、‘彼女,は変わらず。
動じない無表情のままに対応した。

目にも止まらぬ身のこなしで、先陣をきって襲い掛かってきた矛を蹴撃。
跳ね返すようにして蹴り飛ばされた矛は、そのまま後続の宝具郡へぶつけるように放り込まれる。
そのまま、幾つかを巻き込んで―

途端、炸裂する閃光と爆破。
先刻の再現ではあるが、より多くの宝具―2、3挺ほどだろうか―を連鎖しての爆発。

引き起こされる爆風圧に乗り、‘彼女,は地を削り滑るようにして後退。
が。
矛を蹴り飛ばした反動の勢いを殺し切れず、コンテナ上から押し出される。

飛来する宝具郡が、その隙を逃す筈も無く。

「-貴様は地の底で串刺しになるのがお似合いだ、雑種!」

主であるアーチャーの激昂に反応するかのように、体勢を立て直す間も与えぬとばかりに襲い掛かる。
一息でコンテナ郡を砕き潰し。
立ち上る粉塵の中、地面に降り立っていた‘彼女,へと我先にと刃を突き立てんとして。
今までのように蹴りを繰り出す間も無く―

翻る光閃。
放たれた剣の1本が、ついに‘彼女,を捉え。


―ボタボタと垂れる、真っ赤な雫。
‘彼女,の白磁のような腕肌が切り裂かれ、血を咲かせる。


後に続けとばかり残りの宝具も突っ込んだ。
振動が大地を揺らし。
建築物は爆ぜ、ひしゃげ、吹き飛ぶ。
まるで絨毯爆撃の如くの大破壊。
濛々と膨れ上がってゆく粉塵が視界を覆って。

それでも未だ攻撃は緩まる気配を見せず。
それどころか、より激しさを増していく。




―何故なら、標的である‘彼女,が未だに健在だから。


誰もが、目を奪われる。
人間達は魔力で視界を強化して。サーヴァント達はそのままで。
垣間見た煙幕の向こうで繰り広げられている光景に。



振り下ろされる宝具の嵐を。
‘彼女,は、紙一重で躱し続けていた。


刃を剥いて切り裂かんとする鎌が頬肌を掠め取り。
そのコンマ秒後の槍が、脚の皮を剥ぐ。
さらに続く斧が首筋に肉薄して。

間断無い猛撃を、‘彼女,は1つとして完璧には避け切れない。
一太刀一撃、その度ごとに負傷し、新たな血が噴き出す。

迫る宝具の悉くが‘彼女,を傷付け。
―けれど。
その悉くが‘彼女,の命を刈り取れない。

あと僅か。
あと数ミリ。
それだけで‘彼女,を死に至らしめることができるのに。
叶わず、幾らかのダメージを与えるだけ。
そのまま通り過ぎ、地へと激突し、爆散していく。

薄氷の如くに薄い、生と死の紙一重。
‘彼女,のその薄壁を、宝具郡は越えそうで…けれど、あと一歩の所で超えられない。
それは運に助けられているからでは無く。
‘彼女,の技巧が成している。



「見事なモンだなあ、うん」

感心の息を吐くライダー。

セイバーとランサーは共に無言。
だが、その瞳の色は雄弁に彼らの胸の内を物語っている。
すなわち、ライダーと同意見。

‘彼女,は明らかに能力に乏しい。
そして、才に欠ける。
動きに、その匂いが全く感じ取れないのだ。
おそらく、生前から才能には恵まれなかったのだろう。

そんな存在なのに。
あの規格外の黄金の英霊に対抗し続けてみせている。


宝具の嵐を完全に避け切るほどの素早さは無い。
纏めて跳ね返せるほどの力は無い。
だけれども。
身を盾にして粘ることならできる。

支障の無いダメージは甘んじて受けて。
その分、致命傷に成り得る攻撃は決して見逃さずに避けて。


識眼と、覚悟。
現領域に来るまでに、いかほどの鍛錬を積んだのか…

正体不明で不気味な謎のサーヴァント。
しかしながら、‘彼女,のこの点に関しては認めざるを得ないだろう。

―乏しい才は、ひたすらに積み上げた業(わざ)によって補う―

1つの、頂のカタチ。




だが。
それだけでは、届かない。
君臨する黄金の英霊―
英霊達の頂点に立つ、最古の王には―


「未だに粘るか…」

アーチャーが小さく呟く。
その傲岸性からは一見想像もつかない静かな声。

これは、この傲慢なサーヴァントも‘彼女,のことを認める気になったのか…

と思いきや、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。

「-我をここまで煩わせるなど、地獄を以ってしても釣り合わぬ大罪だ」

瞳を極寒の激怒で染め。
どこまでもエゴイスチックな宣告を下しつつ、アーチャーはゆっくりと手を動かした。



ますます勢いを増す宝具の飛撃を、身を削って受け流し続ける‘彼女,。

11挺目、12挺目…

終わりが無いかのように思えた落下攻撃もようやく撃ち止めを迎えようとしていた。
残す武器はあと少し。

13挺目、14挺目…

ただし、‘彼女,は、全身傷だらけの満身創痍。
己の身を用いてこの出鱈目な攻撃に抗し続けたための代償。

15挺目…

だが、その甲斐あって。
‘彼女,は猛撃を凌いでみせて。

16挺目。
ひときわ鋭く迫った最後の剣刃に。
‘彼女,は身を捻って対応しようとして―



「っ!?」

驚愕は等しく見守っていた全員のもの。

突然の幕引き。
どこからか現れた一本の鎖が、‘彼女,の足を拘束して―


「-本来、貴様などに触れさせたくなどない無二の品なのだがな…」

下手人は言うまでも無く、アーチャー。
真紅の眼は、癇性で見開かれていた。
瞳奥に燃え上がるのは、形容することすら難い激憤。

「雑兵は雑兵らしく屍を晒しておればよいものを、生き汚く足掻きおって」

繰り出した鎖は、アーチャーの無数の宝具郡の中でも並ぶものの無い至高の品。
それを使わせるに至った‘彼女,への、八つ当たりにも似た怒り。
裏を返せば。
この鎖は、アーチャーにとってそれだけ大切な物であるということ。

彼とて、至宝中の至宝である鎖をこんな所で使ったりしたくない。
なのに、それを敢えて破ったのは―

‘彼女,への殺意。
この1点に尽きる。


突然戦場に現れ。
掛けた言葉に何も返さず、何も応えず。
王たる自分に正対すらせず、顔も向けず。
醜悪な機械の如き瞳で一瞥したのみ。
その上、宝具を蹴り飛ばし。
一時的とは言え、自分を見下ろす位置に陣取り。

‘彼女,の行動は。
極めて低いアーチャーの沸点の許容を、とうに逸脱していた。
―もう、一刻も呼吸すらさせておきたくないほどに。


その彼が切った切り札である鎖。
‘彼女,に対しては特に特別な効果を及ぼす訳ではないが。
それでも、易々と千切られるほどに脆弱なわけもない。
‘彼女,の動きを止めるには十分すぎるほどの一手。

そして、そうなったからには迎える結末は1つ。
本来、避けれていた16挺目の剣を、‘彼女,は回避できずに―

「この鎖を下賜されるという、身に過ぎた栄誉を噛み締めるがいい。そして…」

絶対たる威厳と共にアーチャーは言葉を下し。
厳然と、‘彼女,の結末を宣言する。

「-早々に逝ね、狗が」



ズブリ、と音を立てるようにして。
鮮やかな大輪の花を咲かせるように、血が散って。




‘彼女,は。
胸を、剣で貫かれた。



[33281] 3話目(内)
Name: ikuzu◆8ffd634e ID:22035bff
Date: 2012/06/25 22:30



―拝啓。
お母様、お父様、お祖父様、お祖母様、それに学校の先生や友達の皆。
いかがお過ごしでしょうか。
体などは壊されていないでしょうか。
皆様の存在と大切さを改めて実感しているところです。
今のような状況にあると、それがどれほどありがたく、得難いものだったかを身に染みて感じます。
え、俺?
うん。
俺は今ね…








死地に足を踏み入れています(泣)




遂にやってきました第4次聖杯戦争。
いやー。こうして実際に足を踏み入れてみると、色々と込み上げてくるものがありますねー


…恐怖感とか。
恐怖感とか恐怖感とか。
恐怖感とか恐怖感とか恐怖感とか。


はははha…
込み上げてくるものって言うのはね…
恐怖以外の何モンでもないわぁ!


ヤバイ。
怖い怖い怖すぎる。
サーヴァントヤバ過ぎ。
直に接することで、改めてその凄さが伝わってくる。

歴史や伝承に名を残した超人・偉人達が。
死後、精霊という枠にまで昇格した存在―英霊。
その写し身であるサーヴァント。

圧倒的な存在は、ただ在るだけで大気を震わせる。



…いや、もう帰りたいよ。
割りと切実に。
なんで俺、こんなとこに出て来ちゃってるんだろ。

少しだけ話を遡らせる。








戦場出たくない。

なら命令に従わなければいいんじゃない?

うむ。
理想的な答えだと思うし、俺だってそうしたい。

けど、それは無理な相談だ。

未だにカラクリの仕組みが全く見えてこないが。
今の俺(inほむほむ)は、あの化物共と同じ―サーヴァントになってる。
ということはだ。
外れようが無い首輪を付けられてるってことである。
令呪という、絶対の楔を。

聖杯戦争に参加するマスターとしての証である令呪。
サーヴァントを律する手綱にして、3回限りの絶対命令権。
それによって下された指示には、まず逆らえない。
セイバーさんみたいに並外れた対魔力を持つなら話は別だろうが。
残念ながら、このほむボディには対魔力は宿っていないらしい。
つまり俺に令呪に抗する術は無い。

もし、俺が。
戦場に出たくない~、などとゴネを捏ねようものなら。
間違いなく雁夜おじさんは令呪を使ってでも無理やり参戦させるだろう。
うん。
今のおじさんの真っ黒テンションなら確実に。

さっきから。
撤退しようよ~、ここで戦うのはやめましょうよ~…などと、それとなーく意思を念話を通じて飛ばしているんだが…
返ってくるのはドロドロの憎悪だけである。

うわー。
引くわー。
いや、俺なんかがどうこう言う資格なんかないってのは解ってるんだけどね。
でも。
これはマズイでしょう、雁夜おじさん。
ここまで憎しみを滾らせて、それに酔い痴れて。

ホントに、俺なんかが口を挟める問題じゃないんだけどね。
そんなおじさんを見てると。
何か、こう。
残念っていうか…悲しいっていうか…。

あれだけ桜ちゃんに優しくしてた姿を見てるだけに、余計に「来る」ものがある。

雁夜おじさん。
貴方は、こんな人じゃないでしょう?
本当はとっても優しい人でしょう?
貴方がこんなところで暴走して万が一のことでもあったら、残された桜ちゃんはどうなるの?
貴方が力を振るうのは、こんな場所ではないはず。
もう一度、よく考えて。
さあ。
戻りましょう。
帰ろうよ、おじさん。
今なら、まだ間に合う。














―そう。
今なら、俺もまだ死なずに済む(かも)!!


うん、コレが本音なんだ。
まあ、落ち着いて聞いてほしい。
桜ちゃんや雁夜おじさんのことを考えてるのも嘘じゃない。
嘘じゃないが…


人間、自分の命が一番だよね♪



という訳で。
死亡フラグ満載の戦場になど出たくないんだが。
参戦拒否しようものなら令呪を使われる。
そうなると状況をさらに悪くしちゃうんじゃないかな、と思う。


令呪というのは単なる命令装置というだけでなく。
使いようによってはサーヴァントの補助に使うこともできる。
本来、不可能であることを条理を超えて可能にしたり。
能力のブーストに使ったり。

遠く離れた場所にセイバーを空間転移のように一瞬で移動させた切嗣とか。
最後に意思を完全に通わせ、ライダーのバックアップに使用したウェイバー君とか。

奇跡に近いことまで実行し得る、言うなれば強力アイテムでもあるのだ。

つまり、俺が死にそうな状況になった時でも、おじさん(の令呪)によって助かる可能性がある。
そういうボーナスはたくさんあるに越したことはないんだけど…
令呪は3画。最大でも3回までということだ。

そのうちの貴重な1回をこんな序盤で使わせていいのかという疑問もあるし。
それに何よりもだね…


雁夜おじさんに嫌われる。



ここで俺が戦闘を拒否したら。
雁夜おじさんにとって、俺は。
ハイテンションマックスで下した戦闘指令に従わずに、貴重な令呪まで切らせたサーヴァント、ってことになる。

どう考えてもマイナス感情しか持たれない。
そうなるとマズイのである。

さっきの思惑。
危なくなったら令呪で助けてもらえるかも~、というのは。
双方の信頼関係があってこそ成り立つ仮定だ。
最低でも、利用価値が認められていないと使用してはもらえないだろう。


なのに、雁夜おじさんとの関係が悪化したら…


もっと酷い無理難題を押し付けられかねない。
その行き着く先は、死亡フラグの増大である。

先に進んでも死に満ち溢れた戦場。
場に留まって拒否しても、後の別の場所での死亡フラグ成立。

前門のサーヴァント、後門の雁夜おじさん。


…詰んでないか、コレ?
出口の見えない袋小路ってか…


いや、まだ諦めるのは早い!
まだ、手は残っている。
この(生き残ることに必死に)燃えているハートがあれば!

人間、最後にものを言うのは心ではないか!
一生懸命語りかければ、きっとおじさんも解ってくれる!



……
そう思って。
撤退しようよ~、まだ戦うべきじゃないよ~って感じなことを念話で語りかけてるんだが…
全く反応なし。

最初は無視されてんのかと思ったんだが、どうも様子がおかしい。
全然おじさんからの反応がないのだ。
まるで、最初から聞こえていないかのように。

はて、どういうこっちゃ?
今の俺がバーサーカーだから?と一瞬思ったけど、このほむボディ、クラスの影響は受けないはずなんだがなあ。
だからこそ、バーサーカークラスが持てない理性も思考能力もあるんだし。

=所持スキルを確認します=

夢人の写し身:?
クラスや知名度による補正の影響を受けない。
自身への精神干渉系能力を完全に無効化する。

=           =

と。
何気なく、その続きを見て。


=所持スキルを確認します=


死人の瞳  :?
意思という光を灯さぬ瞳。
自身へ向けられた魔眼系能力を完全に遮断する。
また、自身よりも低位の相手を高確率で行動不能にする。
ただし判定に成功しない限り意思疎通が成立しない。← ← ←


=所持スキルの確認を終了します=



……
………
詰んだorz
そうだった、こんなスキルを持っちゃってたんだった。
前(第1話時点)で確認してたというのに、忘れてた。


つーか、忘れていたかった。

ホントなんだよ、このスキル。
コミュ障そのものじゃんか。

判定に成功しないと意思疎通できないって…(泣)
こりゃさっきからのおじさんへの呼び掛けは間違いなく上手く伝わってない。
というより。
これから先、まともにコミュニケーションが取れるかすら極めて怪しい。


やっべ。
「おじさんに気に入ってもらおう大作戦」は大☆失☆敗!




とほほ…


意思疎通が困難であるということは。
此処で戦闘命令を拒否してしまった場合、その挽回がとても難しくなるということである。
何しろ意思を伝えられないんだから、弁解や言い訳すらまともにできない。
そんな状況で悪感情など抱かれたらおしまいだ。


こうなると、採れる手段としてはもう1つの方に否応なく頼るしかない。
すなわち。
利用価値を示すこと。


[自分はこれだけ使えますよ~、ですから捨てないで下さいね~]
と、こんな感じ。

俺がサーヴァントとしての使い易さ、頼もしさを出していけば。
おじさんとて目的を持って聖杯戦争に参加している以上、最大限に力添えしてくれるはず。

そのためには死地を潜って見せねばならない訳で。
そうなると、前門のサーヴァントは避けられない。

まあ。
この戦場に参戦せざるを得ないんですよね…



ちくせう。



―いいぜ。
こうなったら戦(や)ってやんよ!
ほむボディは伊達じゃない(きっと)!





そんな風に、半ばヤケクソで戦場に乗り込んで…

話は冒頭に戻り。
今、戦地に立ってるわけだが。


―うん。
人って、後悔無しには生きていけない生き物だよね♪


サーヴァント怖すぎ。
あばばばばば。
ヤヴァイヤヴァイヤヴァイ。



と、とりあえずは軽~く周りを見回してみる。

―この時点ですでにチビリそうだが…
相変わらずのほむクオリティのお陰で、全く動揺が外に出ない。



さて。


「何ともまあ、2人目の娘っ子の登場とはのう」

まず目についたのがライダーのサーヴァント―イスカンダル。

何といっても…でけえ!
体が巨躯であるということだけでなく。
内から、というか。
外にまで溢れ出ている器の大きさが見て取れる。

己の欲になすがままに生きながら。
周りの者を惹き付け続けた[征服王]。

さすが、ZERO最大のキーパーソンだ。

…怖いけど。



次に目についたのがFateの顔、セイバー―アルトリア。

清廉さと力強さを併せ持った姿は、正に最優のクラスに相応しい。
ZEROセイバーはヒロインでは無く、ヒーローであるとのことだったが…
なるほど、納得だ。

―これが10年後に腹ペコ大王になるのかと思うと…
何というか、こう…切ない?



そして、最後に。
ある意味、最大の脅威であったランサー―ディルムッド。

何故かって?




―イケメンだからさ。

魔貌ともいうべき端正な顔。
その根本を成している黒子―スキル[愛の黒子]。
女性に対して恋愛感情を強制的に抱かせる…
これの効果のため。
彼と対峙した女性は対魔力で防がない限り、彼にメロメロになっちゃうのである。

で。
俺は今、ほむほむになってる。
つまり、女性。
しかも対魔力無し。

…アレ?
やばいんじゃね?

ここに考えが至った時は、冷や汗が止まらなかったものだ。

体は女になってるが、心は男。
なのに野郎に惚れるのなんかゴメンじゃあー!

が。
どうも、その心配は全くの杞憂だったらしい。



今、もろに黒子の効果の射程範囲内にいるはずなんだが。
これがまた、見事なまでに全く効かない。


これもほむスピリットの賜物だな。

[夢人の写し身]で精神干渉系能力を完全に無効化。
[死人の瞳]で魔眼系能力を完璧に遮断。

ランサーの[愛の黒子]は、正確に言うと魔眼ではないのだが。
それすら[死人の瞳]は封じてしまうらしい。

これらのスキルを持っててよかった~と実感できた、初めての瞬間である。

…後者はコミュ障スキルだけどね!

けど。
たとえこれらのスキルがなかったとしても。
このほむほむボディには効かない気がする。
何となくだけど。





さてさて。
これからどうするよ。
ヤケクソで出てきたはいいが、具体的な展望は何もない。


さしあたってはもう1回戦場を確認するか~と視線を巡らせたら…



ウェイバー君とアイリさんがヘロヘロになって。
3騎のサーヴァントから殺気を向けられました。




…ワケが解らないよ(泣)

俺、何も悪いことしてないぞ(まだ)。
ただ周りを見ただけじゃないか。

なのに、この仕打ち。
気分はもう半ベソである。


…不動のほむフェイスは健在だけどね!
外から見れば、相変わらずの無表情にしか見えないだろう。
それがますます周囲からの警戒心と殺気に拍車をかけてるんだろうな…



ともかく。
ピンチピンチ超ピンチ。
場の皆さんからの総スカンなど喰らったらアウトである。

とにかく、セイバー陣営・ランサー陣営・ライダー陣営の皆さんのお怒りを静めなくては…




……
………え?
誰か忘れてるって?
あと1人残ってるだろって?


はははは。
いやだなぁ。



……

「―いつまで其処に居座る気だ?雑種」


……
………
―もう少しぐらい。
現実逃避させたままでいさせてくださいよ…(大泣)



「分を弁えることすらできぬのか?狗めが…」




ギ ル ガ メ ッ シ ュ !


人類最古の英雄王。
Fate ZERO及び本編を通じての最強キャラ。
自尊と傲慢の塊。
ただ、決して邪悪ではなく。
断じて愚物などではない。
己自身への揺らがぬ誇りと自負を持ち合わせており。
他の英霊とは一線を画す王の中の王。


通称、我様。
この場で…というより、この聖杯戦争を通して最も怒らせてはならないお方である。
敵対した時点で特大死亡フラグ設立。
勘気にでも触れようものなら、殺されるだろう。間違いなく。

言うなれば、超ド級地雷。

んな方に近付きたくなんてなかった。

だから今まで意識から外してたんだが…
そんな誤魔化しが何時までも通る訳も無い。

何より、雁夜おじさんからの暴令があるからな。

〔殺すんだバーサーカー!あのアーチャーを殺し潰せッ!!〕

…いやいや。
戦場に出る前も言ったけどさ、おじさん。
(と言っても、多分通じてなかったんだろうけど)



……
うん、それ無理♪
俺に死ねってか。

いやいやいや。
無理無理、マジで無理。

サーヴァント怖すぎってのはさっき言ったが。

我様は特にやべぇ。
殺気がブスブス刺さって来るんだよ。
全身を串刺しにするかの如く。

ははは。
ほむクォリティが無ければ、即死だった…



とりあえず、ご機嫌伺いでも…と思ったけど。

正面から相対するなんて出来ません。



だって。
怖すぎるから。


まじめな話、失神しかねない。
チキンハートな俺に、英雄王と正面から向かい合う度胸なぞ在りはしないのだ。


……
だから。
横目で伺うだけで精一杯だったんだ♪




「-我に拝謁する栄すら解らぬか?雑種…」


―えへ。
怒らせちゃったよ。
てへぺろ☆


「貴様は、我を興じさせる資格すら無い」

我様の背後に展開してた剣と槍が向きを変えて。



あれあれ?
なんかこっちに向けられてません?

あ、俺を標的にしてるのかな?


いやだなあ、我様ってば。
貴方を興じさせる資格すらないこんなワタクシめなどに、至宝である宝具を向けるなんて。
そんなお手間なんて掛けなくていいですから。
俺のことなんて、捨て置いてくださいよ~。


「とっとと去ね、雑種」

あびゃ。
完全にお怒りだ。

まあ、それも当然か。

唯でさえ同じ場に居る人に対して顔を向けないのは礼を逸した行為だし。
おまけに横目で見るだけなんて、かなりの侮辱行為である。

さらに言えば。
向けた目が、何の感情も篭っていない〔ほむ眼〕だったから。
相手からすれば、ただ無機質な瞳を向けられただけ。

…そりゃあ不愉快にもなる。


ひゃはははは。

にしても。
ほむスピリット、相当なモンである。
あの我様の殺気ですら、全く問題にしてねぇ。
今、まさにその猛烈な殺意を浴びせられながらも。
常と変わらず、平然としてる。
おかげで本来なら泡吹いて気絶してるだろう俺も、意識を保っていられる。

すごいや、ほむスピリット!


……

って。
逃避してる場合じゃねぇぇぇぇ!


何とか、何とかしないと!



ま、まあ落ち着こう。
もう僅かの猶予も無いと思うが、とりあえず落ち着こう。

我様お怒り。
そんで宝具発射体勢。
標的は俺。


さあ。
ここから取り得る手は―?


① 謝る→無理。今さら謝罪したとこで許してもらえないどころか、さらなる不興を買う
     予感しかしない。
     つーより、俺inほむほむ喋れないし。

② 開き直る→さらなるオーバーキルの予感。現状態でもほむほむの無愛想さも相まって
不機嫌にさせてるのに、これ以上余計な仕草見せようものなら確殺される。

③ 宝具に頼る→これしかねえ!…と言いたいとこだけど、1つ問題が・



……
召喚されてから、はや幾日か経った今でも。
未だに、宝具情報が全く開示されないのである。


ふへ?
何の冗談かって?


あはははは。
冗談じゃないんだな、コレが。


何とかならないのかと色々足掻いたが、どうもできず。
宝具使用不能のまま今日に至る。



―何さ、この仕様は。
いい加減、泣いちゃうぞ!

…実は既に泣いてるけどな。
1人の時にこっそりと。

ゲームじゃないんだからさあ。
能力値低い上に宝具も使用不可とか…ふざけてるとしか思えない(泣)


ほむほむ―暁美ほむらの代名詞とも言える能力…〔時間操作〕を使えるなら何とかなると思ったのに…

能力が失われてるのか?
それとも、能力の開示や使用には何らかの条件があるのか?



いやいや、そんな疑問は後回しだ。
この局面!ここを生き延びないと…!

あと、あと残された手段は…









→④現実は非情である。



……

で す よ ね ~



と。ここでタイムリミット。


我様の背後から、唸りを上げて解き放たれた剣と槍。


―俺は、ただ見ているだけしか出来なくて。








静かに、それを受け入れ……たりなんかできるかぁ!

こんな訳の解らない所で。
例えこれが夢だとしても。

死ぬのなんて、いやぁぁぁぁ!



神様、仏様。
どうかお助け…って、そりゃダメだ。

さっきからの仕打ちで思い知ったが。
この世界には神も仏もいないのである。

なら。助けを求めるべきは、一人しかいない。




……
―助けて、ほむほむ様!



自分の肉体にお願いするなんて。
外から見たら余程のナルシストか、狂人かとしか思われないだろうな。

だけど。俺に採れる手段はこれぐらいしかなかったのだ。



果たして、俺のその行動は正しかったのか。
意味のない縋りに過ぎなかったのか。
または只の偶然か。


次の瞬間、ソレは起こった。



音速で飛来した宝剣を蹴り飛ばし、後続の槍にぶつけて。
反動を利用し、後ろへ下がり。
爆発に合わせて10メートル以上の高さを飛び退り、コンテナの上に着地。





―明らかに人外めいた超絶動作。



信じられるかい?
これを俺がやっただなんて。

いや、正確には俺じゃなくて。
何というか、こう。
意識を持ったまま、体だけが自然に動いたというか。


にしても本当に、随分自然な動きだった。
今のような動作が、この肉体にとっては、ごく当たり前であるかのようで。


体と心が別々になったかのような感覚。

未だに驚きは収まらなくて。
目を丸くして。
―まあ、ほむフェイスはそれすらも許してくれず。
表情は固まったままだったから、外見上は相変わらずの仏頂面だったろうけど。



……
いやー、ははは。
人間、理解を超えた出来事に対面すると何も考えられなくなるってのは、ほんとだったんだね~

空白の思考で最初に思いついたのは。



―ほむほむ、サッカーなんてやってたっけ?

などというズレた疑問だった。

いや~、だってさ。
余りにも見事なキックだったから。
ワールドカップ選手顔負けレベルの。



さて。
しょうもない問いは置いて。
今の状況を纏めると。


体が勝手に動いて。
我様が飛ばした剣を蹴り飛ばして、槍にぶつけて、大ジャンプ。
超アクション動作しちゃったぜ!

―以上!


…うん、訳ワカラン。

当事者である俺自身も全く状況を理解してないからな。

というか、ツッコミ所。

宝具を蹴り飛ばすなんて、できるもんなの?
いや、俺inほむほむはサーヴァント扱いだから一応は可能なのか。
どうであれ、簡単なことでは無いことに違いないが。

宝具に宝具をぶつけて爆発なんて起きるの?
映像版ZEROでランスロットさんが同じようなことしてたけど、あくまで弾いてただけだったような…
なんかの仕掛けか、カラクリがあるのだろうか。


とまあ、解らないことだらけだが。
1つ、確かなことがある。



「―こりゃあたまげた。この娘っ子、相当にやりおる」

聞こえてきたライダーの呟きが、その答え。



―ほむほむ、すげえ。

武術とか体術とかにはズブの素人である俺から見ても今の動きはハンパなかった。

英霊としても超一級である征服王様までが感心するほどとなれば。
サーヴァントという枠の中ですら、十分以上な動きであることは疑い無いだろう。


ただ、ちょっと疑問も出てくるが。


―このほむほむ、強すぎね?

ほむほむこと暁美ほむらが凄腕の魔法少女であることは承知している。
魔法少女としての純粋な戦闘力や身体力は極めて劣悪ながら。
それを経験と創意工夫(という名の銃器類強奪)で補い、戦い続けた。

その実力は戦闘者として屈指のものであったろうし。
さらに、現在はサーヴァントと成る事でより相当な強化が成されているんだろう。

でも、それにしても些か強すぎね?
英霊の宝具をあそこまで見事に蹴り飛ばし。
同じく音を超える速さで飛んで来る後続の宝具にジャストミートさせるって…
万に一つの針の穴を通す以上の難業だろう。



なんと言うか、こう………バグほむ?

と色々考えていたら。



=ステータス情報が更新されました=

保有スキル情報が一部開示されます。


        心眼(真) :A++
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、活路を見出す“戦闘論理”。
この域まで来ると修行や鍛錬などではなく、もはや自己拷問でしかない。


=所持スキルの確認を終了します=





……
………
バ グ 決 定 ! !


いや、何ですかコレ?
どーすればこんなの付くの?
バグほむ、一体何したの?


混乱する頭を、一回静める。
とりあえず、詳しく考えるのは後回しだ。
(問題の先送りでしかないような気もするが!)


とにかく、このほむほむ(バグほむ)が相当の実力者であることは判明した。
これなら、助かるかも!


も う 、な に も 怖 く な い !






「我が宝物を足蹴にした上に…―ただ1人、天に座るべきこの我を、見下ろすだと…?」




ってうん、そう簡単に上手く行く筈もないよね。


Oh…
我様怒ってる。

視線で人を殺すって、こういうのを言うのかな。

ははは。
ほむほむフェイスがなければとっくに漏らしてるところだぞ。


「-そこまで死に急ぐか、狗っ!!」


うわ~。
出るわ出るわ宝具の山。
全部で16挺。
こりゃ壮観だね。
我様すご~い。


だから。

それを全部こっちに向けるなんてこと、しないでくださいませんかね(泣)。



「その小癪な手癖の悪さでもって、どこまで逃れられるか―せいぜい踊ってみせよ!」


いやいや、俺踊りなんてできませんから。
貴方様にはその格に相応しいお相手がいるでしょう。
今宵はその方をお相手に…


などと、俺inほむほむの喋れもしない口では要望を伝えることもできず。
(喋れたとしても状況は悪化してた可能性が強いが)
遂に、宝具の嵐が発射されて。

以下、ダイジェスト。


……
1発目にキ~ック。

お、今回も上手くいったか。

あ―反動殺し切れない。戻れん、コンテナから落ちる。

って休む暇もなく追撃ですかぁ!?

ちょっ!そんな一気に…

―いてっ!いてぇっ!

無理!

こんなの避けれっこないって!

バグほむの力のお陰か、何とか踏ん張ってるけど。
能力が低いせいもあるのか、躱せない。
致命傷を避けるので精一杯で…

あたっ!

血が、また血がぁ!

おびゅ!?

く、首が!

首の直ぐ近くをあばばばばば―



……

はい、お楽しみいただけましたでしょうか。


―俺は全く楽しくないけどね(涙)!
一体、何度彼岸を渡りかけたことか!


けど、もう少し。
もう少しでこれを乗り越えられる…!

今、宝具の15挺目を避けて。
次に飛来する16挺目が迫ってる。

最後の1挺。

―大丈夫。
バグほむなら、これぐらいは凌げる。
今まで同様、傷は負うだろうが。
命に比べれば安い安い。


よし、ここで体を捻って―!





……
………
ってアレ?
体が動かん。

感じたのは違和感。
動かすべき肉体が動かせず。
脚肌で感じるのは、冷たい感触。


視線を落とせば―
脚部に、とぐろを巻くようにして絡みつく鎖。


「-本来、貴様などに―」


我様が、何か言ってるみたいだけど、聞こえない。
あたまのなかが、まっしろになって。


「この鎖を下賜されるという、身に過ぎた栄誉を―」


いや、ちょっとまって。

おれ、よけれてたはずだよね。
それなのにあしをしばられちゃったら、よけれないじゃない。
ということは、つまり―


「-早々に逝ね、狗が」


ああ、しぬのか。



ズブリ。

むねにけんがささって。

じわじわと、つらぬかれて。


……
ここで、おわり、か。

なみだをながすひますらなく、いしきがしずんでいって。


そのさいごに、だれかのこえが、きこえたようなきがした。



ほむほむでGO!   完 ・ ・ ・ ・?


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