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[33246] 【一発ネタだったのに】クレイドルオンライン@勘違いモノ【続いた】
Name: わるゐこ◆2980b936 ID:7bf9f147
Date: 2012/05/28 01:14
世の中には不思議な事ってのがある物だ。俺や、身も知らぬ大勢の「クレイドルオンライン」のプレイヤーはそれを思い知ったことだろう。
三年前の事だ。よくあるラノベや変則的なTRPGリプレイのようなジャンルの話になるのだが、俺たちはゲームの世界に取り込まれてしまった。

笑える話だ。いや、笑えないか。

俺たちがプレイしていた「クレイドルオンライン」自体は何の問題もない、只のMMORPGだった。
まあ多少ゲームとしての設定の練りこみが他社より優れていたように感じたが、それ自体はなんら問題なく、むしろ歓迎すべき事柄である。
そして2025年現在の時点で、SFやラノベに昔から良くあるVRRPGなんてものは実用化されていない。

つまり、まぁなんだ。
詰まる所「クレイドルオンライン」は本当になんの変哲も無い只のゲームだったんだ。
パソコンのモニターの向こうで壮麗華美な現実感の無い武器防具を纏った美男美女が、豪華絢爛な殺し合いを演じる極普通のMMO。
何処にも何も、こんな超常現象に繋がるような胡散臭いファクターは無かったのである。

「それが、まぁ不思議なもんだな。」

背もたれのついた座椅子に深く腰掛けながら俺は一人ごちた。
石造りの広い部屋の中に無理矢理木を詰めて和室っぽくした部屋の中、行灯の薄ぼんやりした優しい光の中でまどろむ。
古めかしい廃城の中に居たモンスターを皆殺しにして、勝手に居座った俺はアイテムボックスから取り出した良くわからない酒を煽った。

現在俺はこの良くわからない、中途半端な大きさの城だか砦だか館なんだか解らない建物の主だ。
そしてこの城?・・・まぁ中世の実戦的な城のような建物の中に居たかなり上級のモンスターを単独で倒した腕利きの戦士であると言う事である。

そしてこの城を根城にしていた魔族だか吸血鬼だかは、よしとけばいいのに周辺の村や街を定期的に襲い迷惑をかけていたらしい。
国の派遣した討伐隊も何回か壊滅しており、国境付近に位置しているせいでアグ・テ国のみならず、
お隣さんのドノミ国にとっても眼の上のたんこぶだったようだ。

まぁなんだ。言って見れば俺はそういったアホの集団を単独で叩きのめした勇者として称えられた人間であり、
同時に迂闊に大きすぎる力をひけらかしたせいで周辺国家に取っての新たなる脅威としてマークされた「アホ」なのである。
そして現在はここのモンスターがかつて誇った勢力圏をアグ・テから任された領主でもあるのだった。

そう。聡明な読者諸君はお分かりだろうが一応言っておくと、恐ろしい獣も美味い餌を与えておけば大人しくしているだろう・・・と言う事なのだ。
また、この辺りの地形はかなり険しい山岳が多い地帯で、だからこそアグ・テとドノミの国境線でもある。
内陸を若干長細く走る領地で、一部は海岸線にも接している。だが、現在鉱山も無ければ耕作可能面積も小さい。
天然の城砦と言えば聞こえは良いが、険しすぎてドノミがこの領地のルートを通って進軍してくるとは考えがたい。

ぶっちゃけた話、アグ・テにとっては手放したところで今のところなんの損も無いのだ。
恐ろしいモンスターを単騎で屠る恐ろしい冒険者が、隣国のドノミに対する牽制になれば御の字と言った所だ。

本来ならまともな政治など知る筈の無い、学の無い危険な階級筆頭の冒険者の支配下に置かれる領民はぶっちゃけ生贄であった。

意図が見え見えでしかも先方も隠す気がないのには萎えたものだが、
特に蹴る必要もないのも確かだったのでなし崩し的にここで俺は領主をやっている。

ここでこの話を蹴ると、金や利権で釣る事の出来ない困ったちゃんである。とますます警戒されるのだろう。
仕方なしにこの話を受けた俺は、今日まで極普通に平穏に暮らしている。

いろいろと嫌な噂も耐えない、プレイヤー組の中ではかなり恵まれている方なのだろう。

書類仕事は面倒くさいが、一点を除いて今の俺にはあまり不満は無い。
・・・・唯、一点を除いて。




・・・・・なんで俺は、ネカマなんてやってたんだろうな。
ああ、時を巻き戻せたらなぁ・・・。きっと超絶イケメソアバターでハーレムTUEEEEEが出来たのに・・・・。





★クレイドルオンライン~適当に異世界でネトゲプレイヤー達がTUEEEEEEする小説~★

作った奴:わるゐこ

一話:一話とは何故一番目にこない事が多いのか?プロローグとはつまり一話ではないのか?前書きとは脳汁と言い訳の垂れ流しの間違いではないのか?







古びた洋風の砦の一角、石造りの建物の中にわざわざ拵えられた木造の一角に彼女の執務室はある。
茫洋とした不思議な光と、石と木の落ち着いた調和。
不可思議なオリエンタルな雰囲気の部屋の奥。
香の煙の棚引くその奥に、タタミと呼ばれる草の板の上にザブトンなるクッションを敷いて座る一人の少女が居た。

私は、ゴクリと緊張の面持ちで平伏した。
顔を上げぬまま、緊張で震える手で、書類を読み上げる。

「アンズ様、現在領地内で平行試験されている各種政策の経過報告をお持ちしました。」

「そうか、平伏はいいから早く顔を上げろ。」

湯のみを傾けながら興味なさ気に呟く少女。
あまりに未成熟な体つきでありながら、漂う気品と迫力は正に王者のもの。
でありながら人形のような可愛らしい容姿。
そのアンバランスさに自分が何か禁忌に触れてしまったような背徳感すら感じる。

「どうした、早く読め。」

「・・・は、失礼致しました。」

清楚で凛としたたたずまいに、思わず見とれていた私はすぐに、本来の役目を思い出し奏上を開始した。
まず、アンズ様のお課しになられた政策の内劇的な効果を上げているものを上げる。


「現在、山岳地帯の「棚田」化ですが、かなり上手くいっておりまする。
去年の伸び率を見る限り、今年はさらに3倍以上の増収が見込めますこの分なら増え続ける人口を領内の作物のみで支える事も不可能ではありませぬでしょう。」

「亜人と邪教の前面受け入れですが、これも良い悪いはともかく予想以上に作用し領民は既に元の80倍近くおりまする。」

「海岸線から続く尾根を掘り下げた運河の設立ですが、これは設計段階ですが可能であると試算されています。」

「山間大橋計画ですが、既に2つの主要「都市岳」を結ぶ橋が完成しています。これまで以上に物流が活性する事でしょう。」

「小麦と米の代替政策ですが、来年度にはほぼ比重が入れ替わるでしょう。面積辺りの収穫量も増加傾向にあります。」


亜大陸と大陸の丁度境目の南半分に位置するこのアード・ラビの領地はその所領の9割強を険しい山岳地帯に占められている。
気候は穏やかで過ごしやすく、水資源が豊富でマナ許容量に優れている以外はまともに人が住めた土地ではない。

はっきり言って、ドノミとアグ・テの暴税に苦しむ民が、まさしく苦し紛れに逃げ込んだ土地に過ぎないのだ。
しかもこの地が多少人工と生産力を身に付けたが故に、新たに税は課され、さらには濃いマナを好む魔族に魅入られるなどと言う不幸にさえ見舞われる。
しかし国は税を納めさせはするものの、討伐には適当な形だけの捨て駒を寄越すのみであった。
国は腐っている。
しかし力を持たない我々にはどうしようもない。
涙を呑み、歯を食い縛りながら耐えるほかなかった。
この地の民はこれまで支配者の暴虐にさらされ続けてきたのだ。

だが、異国・・・この地より遥か東に位置すると言う島国からこられた冒険者、アンズ様の出現により全てが変わる。
フラリと現れた一人の少女は曲がった刀身を持つ"カタナ"なる武器を手に瞬く間に魔族の群れを駆逐なさってしまった。

周辺の山村がその事実を知るのは、旧砦に生贄を捧げに来た時、出迎えたのが一人の年端も行かない少女であった時。
すなわち、事件が収束して4日後の事であった。

それからの三年、それは夢の如き日々であった。
アグ・テから領地から国に収める税の大幅な減税を勝ち取ったアンズ様は重税を撤廃した事実と吸血鬼退治の功績で歓声で持って領民に迎えられた。
(アグ・テとしてはその差額分を利権として与えたつもりだったのである。)

それからと言うもの、このアード・ラビはアンズ様と世界各地から召集された精霊の御使い様の手によって大小関わらず様々な発展を遂げた。
今では他の領地の領民から熱烈に羨まれる立場でさえある。
        
アード(苦)・ラビ(界)と呼ばれた地獄のような世界が今や亜大陸の最後の楽園とは。世の中とは解らないものである。


・・・等と考えながらも、全ての奏上を終えた私は再び平伏した。

良い点、悪い点と纏めて読み上げたが、どちらかと言えば良い点の方が圧倒的に多い。
本当に素晴らしい事だ。

アンズ様は顎に手を当て熟考する素振りをすると、すぐにこちらに向けて口をお開きになった。


「・・・ふむ。現住の民と流民の軋轢が増しているか。」

「ハッ!この上は、近頃狼藉を働く流民全てに対しに何らかの法的処罰を与えるほか無いと愚考いたします。」


しかし、そんな希望と光に溢れる地にさえ闇はある。

アンズ様のお慈悲は遍くこの亜大陸に生きる人だけでなく、亜人種、邪教徒の類、大陸の人間にさえ向けられるのだ。
この領地では流民の完全な受け入れを標榜しており、この地に辿りけた者達は等しく領民としてアンズ様の庇護の下に置かれる。
アンズ様は彼らに対し、住む場所を分け与えるだけではなく御自身の召し上がるものを制限されてまで下々にお与えになられるのである。

しかしその慈悲に縋って来る者たちのせいで領地に大小様々な衝突があるのも事実。
審査なしに全ての民を受け入れると言う事は、同時に犯罪者や他国の間諜を呼び込んでしまうと言う事でもある。
実際、治安はだんだんと悪化傾向にある。

今はまだ「アード・ラビの守護天使」のご威光のためか潜在的な脅威に比して犯罪率は異常なほど低い。
だがこれままではこの地が今度は闇と混沌の街と化してしまうのは明白。
これは一体どうして補えばいいものか。

この時、私は愚かにも厳罰と明確な差別化による治安の維持を考えたが、後にそれを正しく愚考であったと知る事になる。

「・・・だめだ。いや、むしろこれまで以上に流民には金と食料を分け与えろ。仕事を与え、文字を教え子はできるだけ保護しろ。
流民でも年寄りは労れ。そうすればその内治安も良くなる。」

この上尚、彼らにも慈悲を分け与えるだけでなく、更なる援助を行おうと言うその寛大なる精神はこの時私にはまさしく神の如く見えた。

「職業斡旋組織をもっと大きくしないとな。流民を効率よく捌いて出切るだけ全員職に付けろ。
幸いな事に、亜人は足腰が強靭な者が多い。棚田の整備を急がせれば食料はこまらないだろ。
どんな小さなことでも年寄りや子供にも無理なく出来る仕事はある。出切るだけ身の丈にあった職に付けられるようにな。」

「・・・・あと、税率はこのままでも問題ないな。」

「ハ、しかし公庫はただでさえ慢性的に空に近いです。それにこれ以上貧しくされるとアンズ様のお体に触るかと・・・。」

「貧しく?いや、私はこれで十分だよ。心配する事は無い。」

その言葉に私は内心臍をかむ気持ちだった。
同時に、雷に撃たれたかのようにその清廉な心に感動していた。

アンズ様はこれと言って贅沢を為さらない。それどころか病的なまでにストイックだ。
賭け事や芸術品の蒐集、その他様々な貴族の娯楽に一切興味を示されないどころか、お食事までも凡そ君主の食べるようなものではない。

毎食、凡そ焼き魚一本に汁物が一つ。それにご飯を一膳。それに菜っ葉の漬物を少々と言った所だ。
これに毎晩果物が申し訳程度に付く。それで仕舞いである。

これはそこそこ働き者の男を持つ家庭なら、この領地のどこの家庭でも食える程度の物に過ぎない。
それなりに大きな商家の人間や、領地内の地方公僕などもっと良い物を食べているだろうに。

酒と茶も多少嗜まれるが、はっきり言って一領主のとるお食事と言うにはあまりにもさもしい。

また着るもの、装飾品や宝石類等にも頓着されないので、進言しなければかなり質素・・・と言うより最早貧相な出で立ちをなさる事になる。

今更それが、君主として示しが付かない等とは言わない。
むしろそうした姿勢が、昨今のぶくぶくと肥え太った貴族達と対比して民にとって輝いて見えている事は解っている。

だが現実はそれほどまでに、公庫には金が無いと言うことなのだろう。
私は、この方に使えるためこの地に来て、まだ二年に過ぎない。
年齢・経歴・種族・宗教に関わらず優秀なものを貪欲に受け入れるこの地に救い上げられた形だ。

他の国、領地では私の身分では決して登用される事は無かった。いわば大恩あるお方である。
私にとっても、領民達にとっても。
それを、下手をすれば君主の方が下々の者よりも貧しい暮らしをしているなど言語道断である。

しかしながら、実際の所このような生活を強いるしかない現状が、私は悔しくてならなかった・・・。

「一国の主の生活の豊かさは、その国の民の豊かさに準ずる」とはアンズ様のお言葉である。

民が貧困に喘いでいる現状に心を痛めておいでなのだろう。

これを期に、私達の部署はこれよりさらに公僕として職務に邁進することを心に誓った。
聞く所によれば、他の部署でも同じように気炎を上げるものたちが大勢居ると言う。
一刻も早くこの国を豊かにし、アンズ様のお心を安んじるためにである。

私は、この国の未来は必ずや明るいものとなるであろう事を、革新していた。








ずずず、とこの地方で最近命じて開発させた緑茶を啜りながら俺は適当に書類を捌いていた。
ぶっちゃけた話公務なんて面倒極まりないので、実質日に三時間くらいしか公務の時間はとっていない。
のんべんだらりと茶を飲んだり、ダチとだらだらしゃべったりが主な生態である。

よく書類の山に埋もれているSSの主人公とかがいるが、あんなものは物好きかマゾがやることとしか思えない。
アレもコレも完璧を求めるから、そういうことになるのだ。
大体適当で良いやと思い定めれば、適当な政策案を適当な技能集団に丸投げしてはい終わりでいいのである。
そして更にその先に行くと、組織のおおまかな方針だけを決めて、政策すら丸投げと言う始末だ。

人間は馬鹿ではない。自分たちの利益のためなら、膨大な間違いの海の中から正解と言う宝をサルベージする苦行を屁とも思わない。
実際に今、この領地はこれほど住み難い山だらけの土地だと言うのに、それを為せるだけの活気に満ちている。

隣に直立不動で控えるメイド(コイツも多分ネカマだ)・・・を極めんとするプレイヤー組の一人からお茶を汲んでもらいながら書類に目を通し決済印を押していく。

すると、コンコンと二回ノックの音が響いた。

───ああ、もうそんな時間だったか。


「ん、入れ。」

「はい。アンズ様、失礼居たします。」


入るなり平伏・・・まあすごく頭を低くする、土下座ではない感じのこの世界特有の最高礼だと思ってくれれば良い。
日本で言うところの土下座みたいなものである。
はっきり言ってオッサンにそんな事をされても凄く居心地が悪いので、俺はさっさと顔を上げさせた。

そしてなにやら、呆けたような顔をしていたので先を促すと弾かれたように喋りだす。
最近はこういう輩が多い。行動パターンが画一化しているというか、先が読みやすいのは結構なのだが少々うざったいものである。
ゴトリと湯飲みを桐の平台に乗せると、書類を受け取りつつ説明を聞く。


「現在、山岳地帯の「棚田」化ですが、かなり上手くいっておりまする。
去年の伸び率を見る限り、今年は3倍以上の増収が見込めますこの分なら増え続ける人口を領内の作物のみで支える事も不可能ではありませぬでしょう。」

「亜人と邪教の全面受け入れですが、これも良い悪いはともかく予想以上に作用し領民は既に元の80倍近くおりまする。」

「海岸線から続く尾根を掘り下げた運河の設立ですが、これは設計段階ですが可能であると試算されています。」

「山間大橋計画ですが、既に2つの主要「都市岳」を結ぶ橋が完成しています。これまで以上に物流が活性する事でしょう。」

「小麦と米の代替政策ですが、来年度にはほぼ比重が入れ替わるでしょう。面積辺りの収穫量も増加傾向にあります。」


うんうん、他のプレイヤー達が出した案は上手く行っている様だ。
まったく事こういうことにかけてはプレイヤーたちの行動力は凄い。

実際まるでどこかのSSの主人公のように書類に埋もれているものも居れば、軍事兵器の開発に延々とかまけている者も居る。
農業改革に、産業革命、蒸気機関の開発、新魔法の開発、経済機関の設立から間諜組織の設置に至るまで彼らのバイタリティには驚かされるばかりだ。

ぶっちゃけ、俺はなにもしなくてもいい。いやむしろやることなんて殆ど無い。
アード・ラビと言う「大国」の一地方。とは言え、小国の総面積に比肩するほどの土地と一定の公権力を手に入れてからは楽なものだった。
転移してきた彼らを大陸・亜大陸中から掻き集めてこの「山」しかないアード・ラビで内政TUEEEEEEをやって頂けばいいだけの話なのだから。

俺に要求されるのは彼らのまとめ役であり、この世界の社会で彼らの代表であると言う肩書きが殆どだ。
あとは、概ねの領地経営の方針さえキチンと示せばあとは勝手にやってくれる。
実に素晴らしいWIN-WINの関係であると言えるな。

ま、俺個人としては、この世界の住人なんて連中はは割りとどうでもいいのだ。
しかしご同輩の中でも実力の低い者(レベルもリアルスキルも低い連中)が不当に泣きをみる体制だけは何ともいただけなかった。
このアード・ラビと言う一つの組織が生まれた理由の一つは、それだ。

このアード・ラビは異世界組・・・つまりクレイドルオンラインのプレイヤーの相互扶助組織と言う性格が強い。
中でもこの亜大陸地方は日本サーバからの来訪者が多いらしく、その殆どが日本人だ。
ならばもしその手に力があったなら助けないわけには行かないのが人情と言う奴であろう。

ただ、その数が少々予想外で、この世界に来ている日本人は現在判明しているだけでも総数5000人に上る。
しかも隣接する大陸地方ではヨーロッパ系・アメリカ系プレイヤーも山と居り、
現在アード・ラビの噂を聞きつけてこの地方に集団で南下中であるとのこと。

つまり、アード・ラビにはそれだけの人間を召抱える事の出来る巨大な市場規模が要求されるのである。
まったく、元はといえば山と森いがいに何も無い地域に無茶を言うものであった。
前世の地球ではまず間違いなく大きく発展などするわけも無い地域であり、人間すらまばらに住むばかりの筈。

だが、このゲーム内の腐った政治事情とパワーバランス、それと世界観が絶妙にマッチしそれらはこの地の大開発に結びついていた。

これらの冒険者の動きは厄介話でもあり、「知的労働力」兼「軍事力」の獲得と言う意味ではまったく歓迎すべき事態であった。
言い方は悪いが、異世界に来て肥大化した野心をもつようになった冒険者は非常に多い。
そして彼らの欲望を満たすためには、彼らの下にこの世界の人間が最低一人当たり100人程度は必要だった。
そしてこの地の経済的・農業的・工業的発展をゴリ押しするためにもその程度の人員は必要なのだ。

つまる所、このアード・ラビの民は膨大な数の冒険者の胃袋と欲望を養うためだけに集められたと言える。
いや、まぁ減税したら勝手に集まってきたのだが。

・・・・。

その後も文官の奏上を聞き続けるにあたり、特に今回の定期報告も目立った変化は無い。
(つまりほぼ全ての部門が指数関数的な上昇を見せている)ようだった。
だが、その中で少々不穏な件が混ざっている事には流石の凡愚たる俺でも気付く。


「・・・ふむ。現住の民と流民の軋轢が増しているか。」

「ハッ!この上は、近頃狼藉を働く流民全てに対しに何らかの法的処罰を与えるほか無いと愚考いたします。」


・・・暗に、この文官は今後入ってくる流民を差別しろ、と言っている訳だ。
まぁそんなつもりではないのだろうが、言っている事は変わらない。
だが、はっきり言ってそれは治安に対しては逆効果も甚だしい。
ありとあらゆる歴史的事実がそれを証明している。

そもそも、我が領では奴隷を認めていない。
むしろ全面的に禁止で犯罪行為として取り締まってさえいる。

で、ある以上は発言力の無い人間層を作る事は不可能だ。
ならばここはいっそ、彼らにはさらなる支援が必要であると思われた。
彼らを安価な労働力(つまり奴隷)として搾取しつくすのも経済のカンフル剤としては有効だろうが後が怖い。

危険な階級の人間や、スラム街を作らないことは膨張を続けるこのアードラビの山岳都市群では最も大事な事だ。

現状ではプレイヤーは設定上、精霊の化身に宿った異世界の戦士の魂であると言うことなので、
もしこの世界の法則がまったくゲームのものであるとしたならば寿命の問題は不可避である。
そして寿命で死ぬ事が無いのなら、ここでアード・ラビ100年の禍根を残すわけには行かないのであった。


「・・・だめだ。いや、むしろこれまで以上に流民には金と食料を分け与えろ。仕事を与え、文字を教え子はできるだけ保護しろ。
流民でも年寄りは労れ。そうすればその内治安も良くなる。」


そんな事は通常、こんな振興の一地域に過ぎない所でで出来るわけが無い。
ないのだが・・・凄まじいまでのチートを連発する頼もしい日本人プレイヤー達のひしめくこの領地ならば、"可能"だ。
経済部の試算では経済が低迷していたのは最初の半年だけで、そこからは増え続ける難民の量にもかかわらず常に経済は上向きである。
この世界特有の成長の早い作物と、農業チートがジョグレスした結果として食料もギリギリ足りる。

人口比が3年前に比べて80倍と言うのも可笑しな数字だが、元が素寒貧のいい所なしの領地だったのだからある意味当然だった。
原住民と流民と言う区分も寒々しいもので、元々の住人が80分の1しかいないのなら、どれが原住民でどれが流民なのやら。
下手をすると一ヶ月前に流れてきた人間がこの地の原住民という事になりかねない。

今世紀最大のジョークである。


「職業斡旋組織をもっと大きくしないとな。流民を効率よく捌き出切るだけ全員を職に付けろ。
幸いな事に、亜人は足腰が強靭な者が多い。棚田の整備を急がせれば食料はこまらないだろ。
どんな小さなことでも年寄りや子供にも無理なく出来る仕事はある。出切るだけ身の丈にあった職に付けられるようにな。」

「・・・あと、税率はこのままでも問題ないな。」


適材適所は重要な事である。爺さんや女子供でも軽工業にくらい関われる。
職があるなら食っていける。あとは福祉がしっかりしていれば危険な階級の総数はぐっと減らせるだろう。

現在アード・ラビの経済形態はフロンティア経済とでも言えばいいか、この領地の経済は棚田の開墾を基本にほぼ領地内だけで回っている。
いずれは大々的に貿易にも乗り出したいところなのだが、プレイヤーの設立した経済戦略研究所の話では、
現在はまだ領地内だけで回した方が効率的らしい。

専門家に言われたのなら仕方が無い。その通りにするのが一番だ。
なので無駄な事はせず考えず、今日も今日とて俺は執務室(と銘打った私室)でまったり茶を啜るのである。


「ハ、しかし公庫はただでさえ慢性的に空に近いです。それにこれ以上貧しくされるとアンズ様のお体に触るかと・・・。」

「貧しく?いや、私はこれで十分だよ。心配する事は無い。」

・・・・?
なにか可笑しな事を言う文官である。いや、近頃プレイヤー組でない文官や武官たちはどうもウチは金が無いと勘違いしている節があるようだ。
確かに書類上は3年前から殆ど公庫の量は増減していないが、実際は領地内で常に循環しているからで、実質的な公庫は唸るほどあるのだが・・・。

まぁ、この手の事をこの世界の連中に理解させるのは難しいのは身に染みて解っている。
コイツはこの世界の人間の中でもかなり先進的な考えをする人間だったのだが、そのコイツでもこのレベルなのである。
義務教育とは如何に素晴らしいものか、最早我々は元の世界に足を向けて寝られないな。どの方角に元の世界があるのか知らないけど。

と言うか、貧しくした覚えなど欠片も無いのだが、本当にこの文官は何を言っているのだろうか?
飯は元の世界では最高級の扱いである無農薬(と言っても無農薬が一概に言い訳でもないのだが)作物に海産物は常に取れたての旬の味。
同郷の有志たちが作った有機味噌の味噌汁に豆腐や漬物。それに美味い米。

それが三食出るのである。日本食をこよなく愛する自分としては夢のような食卓だ。ちなみに調理は横に居るこのメイド。
このメイド、中々味な真似をしよるもので、毎食毎食微妙に味付けや違った趣向をこらした繊細な料理を作ることに定評がある。
盆の中に作られた小さな芸術は、こいつも異世界生活の中で趣味を堪能しているなと思わず唸る一品だ。

服?元々お洒落敗残者の俺に何を期待しろと?ははっ。








「アード・ラビの守護天使」の話を聞いた事があるだろうか?
あるいは、「慈悲の陽光」「山の女神」の名でも知られている彼女を。
おそらく、このガラク・イラ亜大陸及び北海大陸の人間でその名声を聞いた事の無い人間は居ないだろう。
もし知らぬのならば、君はおそらくクレイドルの世界のの外から来た人間なのだろう。

亜人の守護女神であり、奴隷の解放者であり、技術者の守護者である彼女の伝説的逸話は枚挙に暇が無い。

今後はかつて彼女が作り出した最後の楽園の栄光とその伝説的戦果を語っていこうと思う・・・・。


今日の豊かで素晴らしい大国、アグ・テ国を作り出すその礎となる地。
偉大なる伝説の地。多くの精霊の住まう山の国、アード・ラビの地の話を・・・・。









あとがき


USBを掘り出したらなんかあったから晒す。
後悔はしていない。

MMO迷い込み+内政TUEEEE+勘違いモノ+TS+社会風刺+群像劇+作者の脳汁=狂ったオンライン。


・・・・・どうしてこうなったのだろう。




[33246] 第二話:続かないって言ったのにUSBを掘り返してたらまた黒歴史があったから、晒す。
Name: わるゐこ◆2980b936 ID:7bf9f147
Date: 2012/05/28 02:15
苦界山岳地方(アード・ラビ)と言えば、数年前まではこの腐敗と狂気暴力が支配する亜大陸の中でも間違いなく最悪の一角であった。
その名の示すとおり、二重に並行して走る山脈に埋め尽くされたこの地方。
ここは唯でさえ人や亜人にとって住み難い地である上に吸血鬼一派までが根城にしていると言うのである。
何処に言っても恨み言と諦めの目で俯く半死人しかいない亜大陸の中でも、ぶっちぎりの危険地帯。
誰も近づかない狂気の山脈だったはずだ。

だが、それがどうだ。

山の女神が降臨為されてからその全てが嘘のようだ。
おお、見慣れぬ穀物ではあるが、この米とやらを毎日腹いっぱい食えるとはなんたることか。
ここは地獄ではなかったか。
俺のような亜人種でも大手を振って大通りを歩ける。職がある。異教徒とも喜びを分かち合える!
子が当たり前に生きる事が出来、老いた者が当たり前のように敬われる。

なんという地獄だ。なんという苦界だ。

正教会はこの地を穢れた者たちの住まう暗黒の地、苦界山脈だと言うが、最早世界中に隠し立ては出来ないだろう。
ここが暗黒の地だというのなら光などいらぬ。ここが苦しみに溢れていると言うのなら、俺はその苦しみこそを愛そう!

この精霊に愛された地こそが、新たなる聖地だ!

~アード・ラビ大開発期:狗鬼族の若者の日記より。~








★クレイドルオンライン~適当に異世界でネトゲプレイヤー達がTUEEEEEEする小説~★

作った奴:わるゐこ

第二話:続かないって言ったのにUSBを掘り返してたらまた黒歴史があったから、晒す。






■~人種問題ネタばらし編~■



このアード・ラビの地には大きく分けて4つの勢力が存在する。
と言うよりも、我々プレイヤーにとって大きくその4つくらいしか認識出来ないといってもいい。
所詮は外様なのであった。


・・・まず一つ目。言わずもがな我等「プレイヤー」勢である。武力もさることながら知能の面でも優れた面々が多い。
またアード・ラビの最優先保護対象でもアリ、ただプレイヤーであると言うだけでアード・ラビでの衣食住は保障される。
事実上、アード・ラビの貴族層と言ってもいい。


・・・次いで二つ目。「正教徒」である。クレイドルオンライン内の最大宗教組織であり、全ての腐敗の元凶と言って過言ではない。
高僧は大抵腐っているし、政治的にべったべたに癒着している。
奴隷は明確に認めている宗教で、異教徒と亜人を弾圧する典型的なキリ○ト教的な組織でもある。
製作会社がキリスト教圏の会社の割りにアナーキーな設定であった。
この世界の酷い荒廃の原因はほとんどこの宗教であると言えよう。


・・・三つ目。「邪教徒」。こいつらもまぁなんと言うかお約束で、正教に異端と認定された土着の宗教だとかなんだとかで、さまざまに入り乱れている。
この世界の人間にとってはそうでも無いらしいのだが、はっきり言って異世界人の我々には邪教の連中は全員一緒に見える。
主義主張も割と似通っており、正教の弾圧に対抗するため合併した組織も多くそれが余計に話をややこしくしている。
貧民層の代表格とも言える。


・・・四つ目。「亜人」・・・・つまりなんだ。典型的なエルフだとかネコミミだとか狼男だとかそんな感じの連中だ。
また邪教と亜人はかなり重なった部分があるグループで、判別がこれまた難しい。
まぁ自分たちを弾圧する正教にわざわざ所属したがるとは思えないので、亜人で宗教を持っている奴は大抵邪教徒と思えば間違いは無いだろう。

眉目秀麗な者や「もこもこ」した者はプレイヤーのお気に入りで重用される事が多い。だがそれも領内で嫉妬を買うと言う問題を引き起こしている。



・・・・で。

我が領では実質的に彼らはまったく平等な一領民として扱われるのは言うまでも無い。
おそらく世界初のレベルで平等だ。
主にどのような民族も宗派も種族も法の上で機械的に淡々と裁かれると言う意味で。
また全ての国民が職業斡旋を受けられ、福祉の補助を受けられると言う意味でも平等である。

そして今現在、経済的格差が民意に影響を及ぼす致命的なレベルではないという意味でもである。

───この世界の住人にとってこれは実に奇跡的なことだった。

だがこっそりと言うが此処だけの話、その実体とは全ての民族的問題の「総スルー」なのである。
実質的にこの領地を動かしているアンズ卿こと俺と、何名かのプレイヤーは臭いものには蓋ではなく見なかったことにすると決めたのであった。

現状を知らぬものからすれば、俺の事を「山の女神」だの「慈悲の陽光」だのと騒ぎ立てるが、
実際の所はそれを取り締まる我々に彼らの区別が付かないと言う切実な問題からの全スルーなのである。


人種や宗教が平等である国は、実質的に我等が故郷・地球の上のどこにも存在しない。

また長い人類の歴史の上にもまったく存在しなかったであろう事は断言できる。

民族間の軋轢をどこにも角を立てずに解決した指導者などこの世には居ないのだ。

日本では民族問題が凡そ目に付かないのは、その国民の9割9部が"日本民族"であり、それ以外の外国人を入国制限しているからに他ならない。
実に賢い政策であるとも言える。

逆に人種の坩堝であるところのアメリカ等は法の上では自由と平等を謳っていてもその実体は白人の圧倒的優位な社会である。
常に摩擦を抱えた歪な経済構造である。


そして現在のアード・ラビはどちらかと言うと後者のアメリカ型の社会に近い。
絶対数の少ない連中、経済力に乏しい連中は着実に競争の中で蹴落とされ社会的弱者に成り下がる仕組みは避けられない事態と言えた。

そして我々にはそれを取り締まるつもりも否定するつもりも毛頭ない。
「我々」とはつまり「アード・ラビ山脈統括統治本部」である所の我々である。
であるからして表面上、上辺だけの平和は彼らに催されるが真の平等は訪れないであろう。


そもそも、この地は我等の愛した彼の日本の大地では無いのである。

もしも我等が日本のために、尽力する事によって日本が良くなるのならばそうした。
もし、この地が異世界の日本とでも言えるような土地であるならばそうした。

だが、この地は、アード・ラビの大地は違う。

俺にとってはポロッと拾っただけの異世界の不便な領地で、其処に住む人間も見知らぬ異世界人。
愛着はあるにはあるが、愛国心は無いというのが今のところ俺を含めたプレイヤーの総意だろう。

我々の心の拠り所は、この"地"でも"民"でもなく、プレイヤーの相互扶助組織のアード・ラビなのである。

自分たちの住む場所を住みやすいように改造しようとは思うが、民のに殉ずる事の出来る人間の集まりではないのは明白だった。
そういうわけで、実の所この領地は多くの解決できる問題を解っていながらほおって置かれている。
職務怠慢である。

そういった意味ではこのアード・ラビもこの世界の腐った政治体制となんら変わりは無いのであった。
この地を最後の楽園と呼んだり、俺や冒険者を神と崇め奉る連中には悪いのだが、実際の所我々に大それた慈悲など持ち合わせていない。

ただ、たまたま日本人と言う人種そのものが、
「困った人が居たらてを差し伸べよう。でも、なんかめんどくさそうだったら見てみぬフリをしよう」がモットーの偽善者集団であっただけなのだ。

その上我々の認識上彼らは未だに半分以上NPCなのであって、時と場合によっては普通に罪悪感の一つも無く見捨てられる程度の存在に過ぎない。


なにより、俺が一々そんなことを考えるのがメンドクサイ。


つまりこのアード・ラビは《冒険者のために冒険者によって作られた冒険者の絶対優位社会》に他ならないのだ。

冒険者達はこの領地では実質的に貴族階級なのであって、彼らが個人的にこの世界の人間を奴隷にしようがなんだろうが、
そういうケースに置いては今のところアード・ラビ山脈統括統治本部はまったく処罰しない事を決定している。

冒険者が裁かれるのは、他の冒険者に実質的な被害が及んだ時だけだけだ。

結果、彼らの今後の運命は多くの元日本人達の薄っぺらい良心に委ねられてしまう事になる。


合掌。




■~アード・ラビ建国四年目:山脈間運河建設編~■




苦界山脈地方は大陸と亜大陸地方の中間付近にあり、この世界の人間にとっては奇妙な山岳地帯だと思われている。
しかしプレートテクトニクス論など知る良しも無い人間にとっては解らない事だろうが、
そこに皺がよるように山脈があることは異世界の地理学上では極自然なことなのである。

ただこの山脈の面白い所は、平行する複数の山脈が海岸線付近まで突き出しており、その谷間の標高が海抜下にあると言う事だ。
その点は確かに奇妙な点だ。しかし有用でもあった。
つまり、ここに運河を作れば海岸線から海水を内陸部に"呼び込む"事が出来るのである。


そうなれば、この地は山岳地帯でありながら海路で物資の運搬が迅速で出来るようになり、また海に面することで海軍力を得ることも出来る。
大陸と亜大陸には今のところまともに貿易ができる地域は無いが、海の向こうにある暗黒大陸の先住民達相手なら極普通の商取引も可能である。

また、奇形的に発達した棚田や貯水池技術のせいで逆に治水が悪くなってしまったこの土地の水の逃げ場と言う意味もあった。
栄養塩類を多く含む農業廃水と海水が入り混じる事で運河全体が汽水域の漁業地域となる効果も期待できる。

そしてこの地では耕作地からの水は上から下にしか流れないという事もあって塩害の心配も無い。
唯一心配なのが、万が一津波が海岸線を登ってきた場合ソリトン波が運河を登ってこないかと言うことだけだが、そこにも各種対策が施されている。

様々な意味で効果の高い政策だ。

・・・ただし、もし本当にそんな大工事が施工できるのなら。と頭に付くが。

まーしかし、心配は要らない。
結論から先に話すと、この地に居る多くの人間重機こと高レベル冒険者達とその知恵が集まれば、それはなんら不可能ごとではなかった。恐るべき事に。

領内の金と人事を握るアンズ・アード・ラビ卿はあっさりGOサインを出したし、新しい物好きのここの領民はみな喜び勇んで工事に参加した。

実現するだけの膨大なマンパワーは当たり前のようにあったし、頭脳労働級の人間がこの世界でも異常なほどの数を誇るこの領地ならではのゴリ押しだ。
建築など聞きかじりの素人ばかりの冒険者だが、建築学科在学の大学生が10人ほど確保できた事も大きかった。

歴史上でも前例の無い大工事だが、それも各所に安全マージンを多く取る事でなんとかなった。
費用は多くかかったが、幸いな事に「ヒヤリハット」以上の事故は起きなかった。
これは特筆に価するといいえる。


「これが、山脈間運河・・・・。遂に完成ねスズキ君。これは凄い光景だわ・・・・。」

「そうだな、アナスタシア。壮観だよ、巨大な山脈同士の谷間が視界の果てまで続く運河になるなんて。」


アナスタシアと呼ばれた、まるで一国の姫のような美貌と風格を誇る女性は続ける。
海から吹く風に美しい金髪をくゆらせながら、うっとりした顔で運河を眺めた。

対してスズキと呼ばれた冒険者は、異常なほどの美男であった。
時代がかっており、今風の女性的な美男と言うわけではないが、ゴツイながらも繊細な造詣は歴戦の武将を思わせる。
本人も、「だがそれがいい!」等とのたまう某武将をイメージしてデザインしたと言う。

だが中身は歴戦のヘタレであり、こうして二人で微妙にいい雰囲気になった事に内心焦りまくりの小心者であった。
周囲から見ればもう、お前等くっついちゃえよ!むしろくっついてるだろ!と言うレベルなのだが、歴戦のヘタレは伊達ではなかった。

しかし、そんな態度でさえ奥ゆかしい男だと言う評価に繋がるのだからイケメソと言うのがどれだけ得であるかみなさんお分かりであろう。
男も女も、顔で何が決まると言うわけではない。だがお得ではあるのだった。それが真実である。


「いいところね。ここに辿りつくまでの苦労が嘘みたい。本当、こんな地獄みたいな世界にこんな所が出来たなんて信じられない。」

「はは、違いない。俺だってこの地獄の世界観の世界で、こんな楽園を作り出せる人がいるなんて俄かには信じがたいよ。」


アナスタシアは、この亜大陸に点在するアグ・テ国の地方貴族の娘だ。
敬虔な正教徒でもある。

だが、その敬虔さが逆に災いし、彼女は知らなくてもいい箱庭の外の世界の実情を知ってしまう事となる。
そこからの彼女の人生は苦難と絶望の連続だった。
見てみぬ振りをしようにも彼女は知ってしまった。箱庭の外の現実を、世界の真実を。
苦しみに喘ぐ民の姿と、民の苦しみを吸い上げて肥え太る醜い貴族の姿を!

彼女は何度信仰を捨て、自ら命を絶とうとしたことかわからない。

しかし戦乱と腐敗の蔓延するこの地獄のような世界(PvsPが売りのゲームだったのでこんな世界観なのである)の中で徐々に彼女は覚醒していった。

自分の妹と同年代の亜人種の子供が理不尽に虐待され飢え、瞳から光を消しているのを見ていられなくなり、遂に彼女は立ち上がったのだ。
そこからの道のりは正にこの世界の、マリア・テレサやマハトマ・ガンジーと呼ぶに相応しい奮戦振りであった。

そうして今となってはアンズほど有名ではないが、彼女もまたこの亜大陸の女傑として有名な人物となっている。。

何しろ、亜大陸中の亜人種を率いて領主達の追跡を撒き、このアード・ラビにたどり着けたのだから、その功績はいかほどのものか。

もともとアード・ラビの付近に居て、来訪から1ヶ月たたずでアード・ラビ保護された彼として見れば途方も無い話だった。
もっともアード・ラビ開拓労働者指揮を一手に担うチート男も大概のものだが、
本人はそれに気付いていない。


「それにしてもアンズ卿・・・だったかしら?精霊の国からいらして右も左もわからない内から、いきなりこんな組織を創れるなんて信じ難いわ。
貴方や、他の精霊人の方にとっては、いきなりこの世界に放り出されたようなものなのでしょう?
一体彼女には何が見えてらしたのかしら・・・・。」

「はは、確かに。本格的に「冒険者互助組織アード・ラビ」が始動するまで、来訪から3週間の電撃戦だからね。
一体どんな頭の中身をしてるのやら・・・。もともと、唯の理系の大学生だって言われたって信じられないな。
僕はここに来て1ヶ月も何も出来なかったのに・・・。」

「私もまぁ、似たようなものよ。本当だったらもっと沢山の人を助けられたんでしょうね。」


・・・・電撃戦も何も、一連の動きはほぼ偶然の為す所が大きいのだが。

まぁしかし素晴らしい功績である事は変わらない。冒険者の間でもアンズの功績は称えられている。
なにせ腐敗の温床であるアグ・テの上層部からこの地をもぎ取り、あまつさえ納税の義務をほぼ破棄させることに成功した英雄だ。
(とは言っても常識的な額の税は納めているが)

しかも、領内の政治状況はアード・ラビ山脈統括統治本部設置後ほぼパーフェクトゲーム状態。
こんな人の住むには適さない土地で、よくコレだけの人・物・金を支えきれるものだと感心する。

また元々の住民には悪いが、吸血鬼の存在のお陰で政治的にフラットである事も良かったのだろう。
他の領主がこの地とつながりを持とうにも、今まで一切見向きもされなかった土地なので、他の領主達もこの地の事を良く知らないのだ。
そのことが、この政治的空白地帯に汚職の無い官僚体制を敷設する事の成功につながり、ますますアンズ姫の功績は上がっていくという寸法だ。

確かにもしもこの一連の流れを狙って動かしたのだとしたら、アンズなるプレイヤーは相当な切れ者だ。
寒気がするほどに。

・・・・実際には、そんな事は一切無いのだが。


「君は精一杯やったよ。今は、一緒にこの国を良くしていこう。子供たちが、これからも笑って過ごせるように。」

「ええ・・・・。」


二人は轟々と運河・・・と言うよりは最早地中海のように長細い海とさえ呼べる運河に、流れ込んでゆく水を眺める。
これから、この運河がこの険しい地の人・物・金の流通をもっと楽に、そして激しくしていくだろう。

"我々はもっと豊かになり、力を蓄えなければならない。"とは現在のアード・ラビの標語である。

某覇道のお方の名台詞なのだが、この一言だけで如何にこの地方に日本のOTAKUが集結しているかが良くわかると言うものだ。
この世界の人間はお題目どおり、この地の発展を良く思わない外敵に備えるためのモノと思っているが冒険者・・・つまり精霊人の解釈は違う。

彼らにとってはつまり、"我々はもっと豊かになり、OTAKU文化を復活させなければならない"と言う意味である。

またまたこんな所でも彼らと冒険者の意識のすれ違いは起きているが、本人たちはまったく気にしていない。


(ま、それはともかく・・・これで晴れて、私の計画を発動できると言うものだ!)

そしてもちろんこの山脈間運河は冒険者達にとって、
これからも続々とこの地を目指して雪崩れ込んでくるであろう大量の難民を受け入れるためのインフラ設備・・・・などではない。

そうであると勝手に思い込んでスズキに心酔しているアナスタシアをさておき、
スズキはちゃっかりアナスタシアの肩に手を回しつつ内心グフフと暗い笑みを浮かべている。


(くくく・・・水蒸気機関の開発は順調に進んでいるらしい・・・と言うことは、近い内に水蒸気船が実用化できる事になる!
私の研究が遂に役に立つ時が来た!)

この男、前の世界では船舶・海運・貿易に置けるマニアであり、同時にシムシティやその他の成長型戦略シュミレーションが大好きな男であった。
また、内政TUEEEE小説に置ける"貿易"マニアでもある。
その男の構想する山脈間運河計画とは、内陸の首都近郊まで馬鹿正直に運河を繋げる事などと言う大人しい計画では勿論、無い。

この男の構想する山脈間運河計画とは、二次計画として港湾都市計画・軍港整備計画・世界貿易システム構築構想に及ぶ。
その陣頭指揮を執り、この港湾都市区画を好き勝手に弄くり倒し魔☆改造する事こそがこの男の真の目的なのであった。

また、別の場所では精霊人の集団が気炎を上げている。


「遂にこの山の日陰者であった我等に光が!」

「世界最強艦隊か、夢が広がるな・・・・。」

「大和建造計画が遂に開始できる・・・・。お前等!乾ドックの建造を急ぐぞ!タンカー派の連中に負けてなるものか!」

「まてまて、焦るな。まずは漁船・商船を乱造する所から始めるんだ。じっくりと技術を蓄積してから、晴れてワンオフ製品が作れるって物だろうが。」

「乱造つったって、誰が買うんだよ?」

「買い手が付かなきゃ作った端から沈めて漁礁にしちまえ、まずは技術の蓄積が第一だ。」

「って言うかさ、拡大艦載軍艦構想ってもう大砲積んだ空母じゃん。太ましい大和なんて誰得なんだよ・・・・。」

「しょうがねぇだろうが、戦艦は空母にゃ敵わないだからよ。」

「てめぇ!大和ディスッてんのかコラ!」

「ああ!?現実みろテメー!!二次大戦概略読んでねーのかコラ!」


彼らは、海軍力こそが国防の要であるとする精霊人(冒険者)の一派で、今回の運河建設に最も協力的であった派閥の一つだ。
表向きは海軍力の充実が国益に繋がるとするお題目を上げているが、実際はミリオタ派閥の中の海軍派が自分の海軍を持ちたいだけなのである。

だがその技術力は河川用の船舶の乱造によって既に、この世界の人間など遥かに及びも付かないレベルに発達しており、正にHENNTAIの業なのであった。

またある所では別の集団が大規模な塩田の開発に乗り出しており、またある場所では海水を真水に変える為のドーム施設を建造していた。
ちょっとまて、海水を真水にするのと塩の生成は同じような事なのではないか?と思ったあなた。
それは正しい。

だが同一の計画の中で重複する複数の内容の計画がまったく別の手段で平行して実施されるのがこの土地の現在の特徴である。
その上淘汰されずに何らかの形で市場を見出し生き残っていくのだから困ったものである。

本来ならばこれは国家計画としては愚の骨頂であるが、
要不要を問わずこの土地では冒険者が好きなように好きなだけ好きなことをするので仕方が無いのであった。
そのせいで今現在のアード・ラビはまるで技術や施設の歴史を超えた万国博覧会の様相を呈している。

魔法を利用した電車と、蒸気機関車が同じ試験レールに走っていることなど、この土地ではいつもの事なのである。


それもこれも、アンズが良く考えずに提出された書類に決済印を押すからなのだが、今現在大きな問題が起こらずに経済が回っていると言うのも恐ろしい。
計画の乱立による資金力と労働力と市場の食い合いを、冒険者達の個人的な技能と計画を超えた横のつながりで何とか補っている状態である。

傍から見れば、冒険者とはいかなるものでも作り出せる、正に神の使いといった風情だ。





まさに、どうしてこうなった状態だった。



■~6年目のアード・ラビ査察官~■



我が目を疑うとはこのことか。
この世のものとは思えぬ光景にあんぐりと口を空ける小太りの男が、往来の真ん中で立ち止まっていた。


「なんということだ・・・・これが精霊人様の御業か・・・・!?」


ドノミから派遣された大使は、女神の降臨された地として今話題のアード・ラビに訪れてから驚愕のしっぱなしであった。
まず、大陸と亜大陸を隔てる大山脈に踏み入って行軍する事すらおっくうであった彼は出発前にはぶちぶちと文句を言っていた。
なぜ私があのような苦界に!と憤りさえしていたのである。
それもそのはず、この世界の貴族の一般的な認識では彼の地は穢れた民である亜人が多く集まり、
かつては大魔族の吸血鬼が根城としていた恐ろしい地域だ。

好き好んで行きたくなろう筈も無い。
加えて、そもそもこの土地は人が住むのには極めて適さない事ぐらいアホでも解る。
それも、切り立った山壁が遠目に見えるところにすむ人間になら一目瞭然だ。

そう思って暗澹たる思いで足を引きずって来た男は、そこであまりに多くの理解不能な出来事に遭遇し思考を放棄してしまった。

で、冒頭に戻る。


何度も言うが、そこにはこの世界の人間には想像を超える光景が広がっていたのだ。

山を貫くトンネル網に、青々と清流を湛える巨大運河。其処を航行する無数の船舶。
そう、特に船舶群の巨大さと数!これはとなんと言う事か。運河の中腹に出ている船は、最も小さい漁船でさえ全長50mはあるのだ。

山壁に視線を移せばこれはまた凄まじい。
謎の動力で上下する鉄の箱の群れが山頂とふもとの運河を頻繁に往復し、山を階段状に削り取って作られた田畑には見渡す限りの穀物の穂が実っていた。
巨大な工房町では絶えず煙と鉄を打つ音が充満し、山一つが巨大な都市(中世基準)となっている。

山脈と山脈の尾根には巨大な橋が架けられ、その上を煙を吹く鉄の馬車が高速で何機も往復している。


このアード・ラビは横と縦の動きを、徹底的に整備されたインフラにより機械的にサポートされているため、
平野に住むのとなんら変わらぬ経済の様相を呈している。
加えて大陸・亜大陸中から安価な労働力が集まってくることもあり、今やこの地は世界の工場と称してなんら過不足ない発展を見せていた。


「恐ろしい・・・我々はもしやとんでもない連中を敵に回したのでは・・・・!?」


元々、この大使がアード・ラビに派遣された理由こそが、ドノミ領内でレジスタンス活動を続ける精霊人に苦慮しての事だ。
遥か西の小国では悪の精霊人に乗っ取られた国もあれば、周辺のあちこちにも略奪に強姦に大量殺戮にと悪逆非道の限りを尽くす精霊人も多い。

だがこの地の精霊人は違う。
富を導き、文化を育て、弱き人を守り、学を広め、亜人と邪教徒の守護者となった。
今や、正教会の権力がた落ちだった理由が凡庸なこの男にはわからなかったが、この目でしかと見ることによってようやく理解した。

この地の豊かさを最早下々の民は知っているのだ。知らぬは我等だけ。
なんということだ、愚か愚かと蔑んでいた民こそが最も現実をよく理解しており、我等貴族の目はあまりにも曇っていたと言う事か。


「なんとか精霊人と手を組まねば・・・・ドノミはアグ・テに滅ぼされてしまう。」

初めから、精霊人たちと友好的な関係を結べたのならどんなにか良かっただろうか。
だが全ては後の祭り、精霊人たちを異端として狩り立てたのは正教と我等ドノミなのである。


大使は、絶望と祖国の将来に対する重い暗雲の中、何とか打開策を模索しようとする。

「悪の精霊人達は、金と奴隷で釣れる・・・彼らの力を借りればわが国も・・・・!」


かくして、ドノミは精霊人の力と引き換えに、これまで以上の腐敗と薄汚い欲望の混沌の最中に突入してゆく事となる。








あとがき。


予想以上に好評だったので、なんかもう一話発掘したのを晒す事に。

乱筆で申し訳ないのだが、なんとかして解読してちょ。っと作者が申しております。

すいません。












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