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[33160] 【ネタ】検証結果が運ゲーだった。【二次】【ごちゃまぜMMO】
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9
Date: 2012/05/25 17:30
「これで……ラストッ!」

 その声と同時に、ウィンドチャイムの響く音と半透明の白い羽を持つ女性が現れる。
 その女性は俺を見て微笑み、音と共にその色みを薄くし、空へと消えていった。
 今まで幾度と無く見てきた効果音とエフェクトだが、今この時ばかりは本当に天使の祝福を受けたかの様な気分だ。

「感動してるのは分かったから、さっさと【帰還スクロール】使いなさい! 私がわざわざ囮役になってるのよ!」

 そう言うのは緑の髪で赤い瞳。そして赤いチェックのスカートと同じ柄のベストっぽい服を着た女性。今は比較的切羽詰った状態だからか、何時もの日傘はしまってスキル【格闘】と魔法系スキルをフル活用している。

「おいおい、こんな時ぐらいゆっくり浸らせてくれよ。今は本当に最高の気分なんだぜ? この気分ならゆうかりんの罵倒も完全笑顔で歓迎できちゃうぜ!」

「……良く分かったわ、『死の罰』でも受けて、その浮かれきった間抜け顔を少しは見れる顔にしてきなさい。【帰還スクロール】」

「ちょ、おま、置いてくなって! 此処は俺一人じゃ、ええい【帰還スクロール】!」

 †    †    †

 あの後、うっかり時間差でMOBにタコ殴りにされる直前に【帰還スクロール】が発動。何とか【ホーム】に帰ってこれた。
 そして今。レベルアップのボーナスポイントをステータスに振り分けようとしている。
 計算式は……うん、間違ってないな。俺の計算式が間違ってなきゃ、大丈夫だ。後はステ振り。うわぁ、指が震える。
 計算式、本当に間違ってないよな? やっぱもう一度データの見直しから……

「何時までそうしてるつもり? 決められないなら【知識神ラーダの神殿】にでも行ってきなさい。ありがたいご信託があるかもしれないわよ、1年くらいお祈りしてれば」

 そんな目標直前で最後の見直しを3回くらい繰り返してる所で、情緒もへったくれもない声を掛けてくるゆうかりん。
 ……どうでも良いんだろうけどさ。ゆうかりんが帰還場所を俺の【ホーム】に設定してるのは可笑しくないか? 自分の【ホーム】を帰還場所にしろよ。いやまぁ、お前がトンでもなく不便な場所に【ホーム】持ってるのは知ってるけど。だからってわざわざ俺の【ホーム】にしなくても、お前のお気に入りである【黄金の花畑】とかあるだろ。あそこ戦闘MAPだから帰還場所に設定するのどうかと思うけど。

「お前には分からないだろうよ、『なりきり勢トップ』の【四季のフラワーマスター】さん。俺ら『検証勢』はな、数値が1ズレるだけでも――――」
「――――何度でも言うけど、『なりきり』とか、口に出さないでくれない? 私は【私】。【四季のフラワーマスター】。【風見幽香】よ」

 俺の言葉を遮り、畳んだ日傘の先端をこちらに向けるゆうかりん……いや、茶化すのはそろそろ止めよう。俺の相棒、風見幽香。
 彼女はこのゲームでも古参メンバーの一人で、俺と同じくβテスター――要は相当のヘビィプレイヤー――である。俺も彼女もソロ――いわゆる単独攻略を行うプレイヤー――なのだが、とあるイベントで組んだことが切欠で、今だにコンビで活動することもしばしば、と言ったところだ。ちなみに、お互いがお互い以外に【フレンド】が居ないというぼっち状態。いやまぁ、これには訳があるんだけどね?
 俺はまぁ、そういう群れないタイプの人間である、ってだけなんだが、彼女はそれ以上に彼女のプレイスタイル『なりきり』が原因である。まぁ、彼女も好きでやっているのだろうからそれはそれで本望なのだろうが。

「あーハイハイ。そうだったな、ゆうかりん」

「……なるほど。余程『死の罰』が恋しいのね。分かったわ――――死ぬまで虐めてあげる」

 直後、彼女の頭上にゲージが現れる。しかも、ゲージ長ッ!? え、うそ、大魔法?

「うそウソ嘘です。ごめんなさい。だからね、うん。詠唱やめて? 詠唱ゲージ増えてるの見えるからね? ちょ、おま、そんなんだから何時まで経ってもレッドネームが直らな――――」
「――――は破滅の光、生命の極光!」

 俺がそうやってぐだぐだ言ってる間に詠唱ゲージは最大に。同時に(システム的には全く無意味な)詠唱を終えるゆうかりん。

「無様に這い蹲りなさい。【マスタースパーク】」

「ぎゃああああ!」

 本当に撃ちやがった! 彼女は俺監修のステータス配分と装備バランスしてるため、ぶっちゃけ古参メンバーの中でもトップクラス。そんなPCの大魔法を俺のこの貧弱PCボディでは回避も防御も不可能――――!
 とも言い切れないのがゆうかりんお得意の手加減である。
 【マスタースパーク】は俺が地面にへばりつくように伏せれば、ギリギリ攻撃判定から外れる高さで5秒ほど照射された。当然、彼女がその日傘をほんの少し下方に向けるだけで俺は消し飛ぶのだが、彼女はそれをしない。

「ふふ。良い眺めね。貴方、いつもそうして這い蹲って私を見上げてれば良いのに」

 本当に愉しそうに笑うゆうかりん。ドS(サド)だと思う奴はゆうかりん初心者だ。ドS(親切)だと思う奴はよく訓練されたゆうかりん初心者だ。全くゆうかりんとの漫才は疲れるぜフゥハハー!
 このように、ゆうかりんは冗談のやり取りならば、ちゃんと事前に正しい避け方を教えてくれるのだ。
 もっとも、それに気づかず簡単にキルされる人間はいくらでもいるし、結果レッドネームが何時まで経っても直らないから余計相手はゆうかりんの言葉なんて聞いちゃ居ないのだろうが。

「……その『俺は分かってるぜ』的な表情、不愉快だから止めてくれない? あと何時まで床に寝てるつもりかしら。さっさと起きなさい、汚らしい」

「這い蹲れって言ったのは幽香じゃないか……」

 ぶつくさ言いながらも俺は起き上がる。別に俺だって好き好んで床に這い蹲ってる訳じゃないからな。
 そして一応【マスタースパーク】が照射されていた壁を確認。ホームの壁は破壊不可能オブジェクトなので確認するまでもないのだが、まぁ、気分だ気分。
 ……ゆうかりんのなりきりプレイに俺も影響されてるんだろうか。

「それで? まだ『成長』は終わらないの?」

「はいはい、さっさとステ振りを終えろって言ってるんだろ。計算間違いはやっぱり無さそうだし、手早く終えますよー。全く。少しは感慨に耽りながらでも……」

「私に何か言いたいなら『成長』を終えてからにしなさい。それまでは一切受け付けないわ」

 そう言いながら『冷蔵庫』――実際の所はただの【共用倉庫】。ただしゆうかりんの意向に従い食品以外はしまうことを許されてない――から適当に【ホットドック】と【ハーブティー】を取り出し、我が物顔で飲み食いを始める。
 ともあれ、寄り道もやめてそろそろ本題と向かい合うことにする。というかこれ以上引っ張るとゆうかりんに本当に殺されかねないのでさっさとボーナスポイントを割り振っちゃおう。そぉい!

 †    †    †
Lv 38 残BP 5

Str 5 Def 3
Dex 7 Agi 2
Int 103 Luc 251

対木 100 対火 100 対土 0 対金 -50 対水 -50
対日 40 対月 30 対星 20
対春 100 対夏 100 対秋 -70 対冬 -70
 †    †    †

 うむ。見事に狂った様なステータスである。あ、耐性の欄は装備品とか所持スキルで調整可能である。今は先ほどまで狩ってたMOBの関係で木火と春夏が限界値にしてある。
 ともあれ、このステータス値になったら後は検証を行うだけである。まぁ、結果は恐らく――――

「これで全数値0の自動失敗。全ラック補正値0のバグ状態、って形かな。いやぁ、検証勢としては心躍るパラメータだぜ……!」

「……何それ」

 ゆうかりんが食いついてきた。今まで食べてた【ホットドック】を一旦テーブルに置き、こちらに視線を向ける。

「いやぁ、俺の計算式が正しいとさ、今の俺のステータスだとラック補正値が256になって振り切れて0になる筈なんだ。その検証だな。計算式があってれば、の話だが。もっとも、違ったらまた新しい検証式出してリトライするだけだが」

「貴方、そんなことの為にわざわざ私を呼んで『成長』してたの? 貴方の『計算式』ってのに興味は無いけど、聞いた限りだと理論上最弱になるって聴こえたのだけど?」

「その通り! もっとも、現段階では仕様だが、俺が検証して【GMメール】で報告すればバグとして扱われるだろうな。特定ステータスが特定値だと補正値が0になるとか。何それマジ美味しいです!」

 ゆうかりんがすげぇ微妙そうな顔をする。いやまぁ、そういう顔になるとは思ってたけどね!

「……呆れた。そうだと知ってたら手伝いなんてしなかったのに」

「そういうと思ったから言わなかったんだよ。でも本当に助かったぜ。何せこのステータスじゃレベル上げもマトモに出来ないし、かといって野良パーティに寄生するわけにもいかないし。頼れる【フレンド】はお前だけだったんだ。今度何か奢るから許してくれって」

 両手を合わせ、頭を下げ拝み倒す。が、どうやらダメだったらしい。

「…………貴方に施しを受けるほど落ちぶれたつもりもないし、恩に着せるつもりも無いわ。でも2度と下らない事で私に頼らないことね。その時は古い付き合いの貴方とは言え容赦はしないわ」

 そう言って飲み食い途中だったアイテムを、ゆうかりんにしては珍しく【使う】ことによって光の粒子に変換。体内に取り込む。
 そして立て掛けてあった日傘を持って玄関に向かう。

「あ、何処行くんだ? もし【日食の森】に行くなら【ドンケル――――」
「最低でも半月は此処に立ち寄らないわ。じゃあね」

 俺の頼みを遮って颯爽と出て行ってしまう。
 こっちで半月っていうと、大体リアルで1日ってところ。ゆうかりん初心者には分かり難いが要はまた明日ってことである。
 その頃には『幽香』も機嫌直してるだろうし、一応明日の3限で中の人にもお礼言っておくか。

「さて、お待ちかねの検証タイムだ。見せてもらおうか。ラック補正値オーバーフローの結果とやらを!」

 †    †    †

「なぁにこれぇ。どうしてこうなった。世界はいつだってこんな筈じゃない事ばっかりだ」

 結論から言おう。
 ラック補正値256=数値無限大=バグチート。

「今までダメージ2桁だったパンチがクリティカル率100%! ダメージがカンストの9999! こんなの絶対可笑しいよ。全く訳が分からないよ!」

 ガシッ! ボカッ! MOBは死んだ。バグチート(笑)
 ……何コレ怖い。とりあえず運営にGMメールだな。

 †    †    †

 今日の検証結果――――このゲームは運ゲー。ラック補正値バグ的な意味で。



================================================================

Str=a Def=b Dex=c Agi=d Int=e Luc=f

a/5=A b/3=B c/7=C d/2=D e/103=E f/251=F

1+255*(0.9+A/10)*(0.9+B/10)*(0.9+C/10)*(0.9+D/10)*(0.5+E/2)*F=L

ABCDEFがそれぞれ1より大きいとき、それぞれの逆数を値とする。
Lは算出された後、小数点以下を全て切り捨てる。
Lをラック補正値(仮)とする。
Lは与ダメージ計算、非ダメージ計算、命中計算、回避計算、その他多くの計算式に影響を出す。

以上がL=ラック補正値(仮)に関する検証結果である。

================================================================

【帰還スクロール】
元ネタ:多種MMO
概要:大概のMMOにおいて存在するMOBとの戦闘を行うMAPから商店などの存在する町中などのセーフMAPに移動するアイテム。使い捨てアイテムの場合『石』や『紙』として存在する。

【風見幽香】
元ネタ:東方project
概要:花の妖怪。弱いものいじめが趣味。ドS(親切)でドS(サディスト)。よく妖怪最強などと言われるが、実際は非公式。旧作で神社周辺での最強クラスと書かれていたことと、花映塚ストーリーにおける自称、この2点をソースとして、上記のように言われるようになったのであろう。(東方Wiki-東方スレ的キャラ紹介より)

【知識神ラーダ】
元ネタ:ソード・ワールド(無印)
概要:五大神の一柱。知識を司る神。死んだらお星様になると信じてる。信仰してる人は魔法使いや学者など、勉学に励むものが多い。

【黄金の花畑】
元ネタ:東方projectより【太陽の畑】
概要:風見幽香が好んで居座っている場所。太陽の畑と呼ばれている。向日葵が一面に咲いている。

【四季のフラワーマスター】
元ネタ:東方project
概要:風見幽香の二つ名。

【マスタースパーク】
元ネタ:東方projectより【恋符『マスタースパーク』】
概要:画面の8割を埋め尽くすレーザー。使用者は霧雨魔理沙。しかし、ほぼ同じ弾幕を魔理沙よりも以前に風見幽香が使っていたため風見幽香のそのレーザーを指して『元祖マスタースパーク』と言うことも。

【這い蹲れ→何時まで寝ている】
元ネタ:テイルズオブディスティニー(ディレクターズカット版)。通称TODDC。
概要:我等が英雄バルバトス・ゲーティアの理不尽なセリフ。『這い蹲れ』という言葉と共にダウン時間の長い攻撃を。ダウンしていると『何時まで寝てんだ』という言葉と共にスタンピングを食らう。ちなみに無印ディスティニーのディスクシステムは良いシステムだった。DC版のチェインシステムも良いが、リオンが性格変わってて何だかなぁ……

【レッドネーム】
元ネタ:ソード・アート・オンライン
概要:他のPC等、本来は友好的な存在をPKしたPCに付けられるデメリットの一つ。PCネームが赤くなる、という物。他にも様々な面でペナルティがある場合が多い。NPC商店を利用できなくなるとか。

【属性】
元ネタ:東方project
概要:東方project内の設定では『木火土金水』の五行、『日月星』の三精、『春夏秋冬』の四季。これらを根幹におき、一巡りさせ3*4*5=60で一つの周期としている。

【ドンケルハイト】
元ネタ:アトリエシリーズ
概要:高ランク植物の代表格。日食の日にしか咲かなかったり、極悪エルフの住んでる森の奥にしか咲かなかったり、自分の家で栽培できたりと、入手し難いのか、し易いのか、正直ぜんぜん分からない。

【時間】
元ネタ:Master of Epic
概要:ネット内時間は時間が取れない人や、決まった時間にしかプレイできない人が、ゲーム内時間準拠のイベント・NPCに遭遇出来る様に、現実の時間とは異なる速度で進む。MOEではリアルタイム24時間でゲーム内時間は16日16時間(400時間)進む。

【見せてもらおうか。~~~~の――とやらを!】
元ネタ:機動戦士ガンダム
概要:赤い彗星シャア・アズナブルの名言の一つ。元ネタでは『見せてもらおうか。モビルスーツの性能とやらを!』と言った。

【なぁにこれぇ】
元ネタ:遊戯王
概要:実際どの場面で使われたのか俺にも分からない。とある遊戯王MADにて、どうしようもない大惨事(手札事故)に見舞われたときに使われていた。

【世界はいつだってこんな筈じゃない事ばっかりだ】
元ネタ:魔法少女リリカルなのは
概要:執務官 クロノ・ハラオウンがプレシア・テスタロッサに言ったセリフ。リリカルなのは自体がとらいあんぐるハートと言うエロゲのスピンオフだからか、低年齢向けに作られてる割には結構シビア。それを良く表してるセリフだと個人的には思う。

【こんなの絶対可笑しいよ】
元ネタ:魔法少女まどか☆マギカ
概要:主人公 鹿目まどかが言ったセリフ。奇跡や魔法が絶望に変わるといったシステムを聞き、否定した。

【全く訳が分からないよ】
元ネタ:魔法少女まどか☆マギカ
概要:地球外生命体であるインキュベーターが言ったセリフ。(性別は無さそうだが、便宜上)彼らには感情が無く、人間の感情のままに動く姿が理解できないようだ。

【ガシッ! ボカッ! ○○は死んだ。~~~~(笑)】
元ネタ:2chコピペ
概要:まだ目新しかった『ケータイ小説』を書く女性たちを稚拙であると揶揄したコピペ。この部分の原文は『ガシッ! ボカッ! 私は死んだ。スイーツ(笑)』。

おまけ。
【ハーブティー】【ホットドック】
元ネタ:特に無し
概要:実在する飲食物である。今更ながらに何か目新しいものにすべきだったかなとちょっとだけ反省。でも後悔はしない。



[33160] 検証結果が『なりきり勢トップ』だった。
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9
Date: 2012/05/25 17:31
「ふぅ……これであらかたの確認は終わったかな」

 俺がやってたのは計算式にラック補正値が含まれるか否かの確認である。
 現在、このPCのラック補正値は(恐らく)無限大。検証において、極端な数値が存在するというのはその数値が影響を及ぼすか否かといった判定では非常に有用である。
 よって、いち早く運営に報告を終えた俺は現状ステータスが修正を食らう前に、このラック修正値を含む計算式を調べまわったのだ。
 結果、『検証出来たほぼ全て』がラック修正値無限大の恩恵を受けるという結果に終わった。
 ……個人的には、問題は検証勢の俺が、一部とは言え検証できなかったことである。
 ちなみに検証できなかったのは非ダメージ計算式(回避計算で数値無限大だからか必ず避ける)、被Buffにおける上昇値(検証可能な計算がBuff前から数値無限大)などである。
 ……あらかた検証終わったら、このPCボディはこのまま放置で、新しいPCボディに切替かな……あ、でもそうしたらまた『幽香』とは初対面か。PCボディ切替の度に『初めまして』から、ってのは面倒なんだよなぁ……初期から愛用してるPCボディなら、『幽香』とも仲が良い……良い? ……まぁ、仲が良いから問題ないんだが。
 ともあれ、今日は終わりにするか。

 †    †    †

 突然だが『風見幽香』が、『なりきり勢トップ』と言われる理由は主に4つある。
 まずは、その言動。彼女はまるでNPCの様に『この世界で生きる風見幽香』の言動をする。飲食は食料アイテムの【使用】で済ませることは殆どないし、NPC商店ではウィンドウからの【売買】ではなく口頭での購入・売却。リアルタイムではなく、ゲーム内時間に準拠した行動様式など、様々な場面で自然に振舞う。
 次に、高い戦闘能力。このゲームでは戦闘以外にも様々なことは出来るが、やはりそのメインは戦闘にある。その戦闘をメインとする『攻略勢』にすら、戦闘という舞台で勝るとも劣らない。『なりきり勢』は傾向として、生産スキルや生活スキルに余力を割いている傾向があるのだが、彼女はその余力を戦闘能力に割いている。
 そして、二つ名。『グランドクエスト』のクリアPTや、一部イベントの功労者。また、サーバー全体に大きい貢献をしたものなどが運営から直接与えられるものである。彼女の場合は『グランドクエスト』の【モンスターの聖王都襲撃イベント】にて運営から与えられた【四季のフラワーマスター】がそれにあたる。二つ名授与は大抵ユニークスキル(そのPCに与えられた専用スキル。大抵トンデモ性能)やユニークアイテム(そのPCに与えられた専用アイテム。大抵トンデモ性能)の授与に繋がるため、二つ名持ちというのは、それだけ特別な存在なのだ。
 しかし、上記した3つは、あくまで『トップと言われる為の下地』に過ぎない。事実、上記3つを満たすPCは(僅かながら)彼女以外にも居るだろう。
 では、そんな彼・彼女らを差し置いて『トップ』と断言されるに至った、最後の理由は何かと言うと。
 通称『風見幽香の聖王都襲撃』と『風見幽香討伐PT』の存在である。

 †    †    †

「『風見幽香討伐PT』ぼしゅ~ちゅ~@3人。現在火魔2とパラ2。平均レベ76」

 俺がホームに向かう途中、町中の野良PT募集広場でそんな声が聞こえた。ちらっと見てみると、猫耳頭巾を被り、杖を持った魔法使いだった。
 ちなみに一応補足しておくと『@3人』はその読みから「あと(残り)3人」ってことで、『火魔2』は「火属性攻撃魔法を主体とするPCが2人」、『パラ2』は「防御・回復・支援能力を主とする前衛職(パラディン)のPCが2人」、『平均レベ76』は「前記4人の平均Lvが76」ということである。
 さて、その募集内容やPT編成については特に問題ない。今回問題、というか俺が気に留めたのはその討伐対象。
 ……そういや『PCのドロップにもキルしたPCのラック補正値が計算式に含まれている』って話もあったな。確かめてみるか。
 なお、モンスターのドロップにはキルしたPCのラック補正値が含まれていることは以前から判明しており、確認した所、今の俺はレアドロップ率100%となっていた。マジバランスブレイカーなバグチートだ。レアドロップ品は即座に【ゴミ箱】へと突っ込んで削除したが。

「こんばんは、『風見幽香討伐PT』の募集を聞いたんだけど」

「お~こんばんは~。PT加入してくれるのかな~?」

 募集を叫んでた猫耳頭巾さんが愛想良く返事をくれる。

「そのことなんだけど、俺はいわゆる『検証勢』でね。今、かなり特殊なステータスしてて、PC間キルのドロップ率で検証したいことがあるんだ。Lv38と低いんだけど、もし良ければ入れてくれないか?」

「お~『検証勢』さんか~。初めて見たよ~。今PTメンバーに確認とってみるからちょっと待ってねぇ~」

 そう言って猫耳頭巾さんはちょっと離れた所で座ってた3人と何事か相談し、すぐに戻ってきた。

「聞いてみたけど~、話を聞く限りLvも低くて、特殊なステータスらしいから戦力として数えられないし、護衛は難しいんだ~。だから死んでも良いなら同行OKだって~」

「俺はそれで問題ない。野良PTには不慣れだから、いくらか至らないこともあると思うがよろしく」

 †    †    †

 やって来ました【黄金の花畑】!
 辺りに広がるのは黄色が主体の様々な花。リアルにもある向日葵や、たんぽぽに始まり、黄色い桜っぽい木や、黄色いバラ。加えて、発生するMOBも黄色い花を持つ植物しかいない。そんな場所。
 今回討伐に来たのは風見幽香。彼女は対木・対日・対春・対夏・対秋・対冬に100%の耐性を持ち、逆に対火・対金に-100%の弱点を抱えている。というのも、このMAPに居る時だけなのだが。
 普段はこの弱点もスキルや装備で補っている。ただ、このMAPでは討伐PTの為にわざとそうしているのだ。

「う~ん。このMAPのMOBの平均Lvは55だし~、正直道中で死ぬんじゃないかとヒヤヒヤしてたけど、うっかり敵の攻撃食らっても絶対避けるね~。検証君の装備やステータスはどうなってるの~?」

 猫耳頭巾さんが聞いてくる。あの後、15分ほどでアーチャーとガンナーが加入し、メンバーも揃った。
 全員気を抜かず適度に立ち回っているのだが、どうやら何だかんだ俺の護衛要員にこの猫耳頭巾さんが振り分けられたらしい。この人だけ俺の隣で暇してる。
 討伐対象はこのMAPの最奥のMOB沸きスポットで待っているため、道中どうしてもMOBとの戦闘が入るのだが、猫耳頭巾さんはMOBを難無く捌く俺が気になって話かけてきたのだろう。

「それは、秘密です」

 対して俺はにこやかに笑いつつ、顔の前に立てた人差し指を振りながら言う。

「え~。良~じゃん。教えてくれても~」

「いやぁ、『検証勢』は『検証勢』なりの情報秘匿が必要なんだ。考え無しにゲームの内部ソースを公開するのは、ゲームの死期を早めるだけだからね」

 っていう嘘。というか方便。それっぽい事をそれらしく言ってるだけである。
 まぁ、『検証勢』もやっぱり人間で、苦労して得たアドバンテージをあまり無作為にバラまくと『検証勢』の中でハブられるのだ。それは良くない。

「む~、難しい話するなぁ~。でも教えてくれないのは分かった。無理言ってごめんね~」

「いや、お互い様さね。PT組んでる相手にステータスすら教えないんだから」

 それにしてもこの猫耳頭巾さん。好感の持てる性格している。こういった人ばかりなら野良PTも悪くないんだが。

 †    †    †

「【黄金の花畑】へようこそ団体さん。植物を大切にしない悪い子にはお仕置きが必要だと思うのだけど、貴方たちはどう思う?」

 アクティブの植物MOBに囲まれているにも関わらず、そのMOBから一切狙われない幽香が、威厳を持って言い放つ。
 彼女がアクティブの植物MOBに襲われないのは彼女の持つスキル【自然化】の恩恵であるが、それは置いておこう。

「全員、今の内にMOBを倒して~。それで、え~と、何て聞かれたっけ?」

 【黄金の花畑】の最奥。いつも幽香が待ち受ける場所にて、(この慣れっぷりから考えるに)お馴染みと化しているだろう台詞をさらりと聞き流し、猫耳頭巾さんは戦闘の指示を飛ばす。
 幽香も幽香で流されるのはいつものことなのだろう。特に気にした風もなく、言葉を続けようとする。が、その前に俺が猫耳頭巾さんの質問に答える。

「『おんどらぁ! ウチのシマをなに勝手に荒らしてくれるんじゃワレェ! いてかましたろか!』って言われたんだよ猫耳頭巾さん」

「あれ、そうだっけ~?」

「違うわよ、そんな事は言ってない……というか、ちょっと貴方。何で討伐隊に居るのよ。私に何か恨みでもあるわけ?」

 と、そこでようやく俺に気づいたゆうかりん。おお、珍しく焦っている。
 そしてそれに意外そうな顔をしたのは猫耳頭巾さん。

「あれ、風見さんがいつもと違う反応した?」

「いやまぁ、幽香もNPCじゃないからな」

「私の質問に答えなさい。消し炭にするわよ」

「おお、こわいこわい」

 完全にいつもの漫才ペースであるが、周囲はMOBを殲滅中だったりする。MOB沸き地点であり、植物型MOBの多いスペースのため、討伐隊としてはまずMOB殲滅を行えると幽香戦で非常に楽なのである。沸き地点と言ってもリポップに時間が掛かるため、一度殲滅すれば十分だし。

「え~と……検証君は、風見さんと仲が良いの~? もしかして、1stキャラは二つ名持ちだったり~?」

「いや、二つ名は無いな。βテスターではあったけど、そういったイベントは完全スルーだったからなぁ」

「私の質問に答える気は無いようね。分かったわ。貴方たち全員消し炭にしてあげる」

 あ、ゆうかりんが戦闘態勢に入った。
 ちなみに、風見幽香討伐戦において、幽香はある程度手加減している。
 一つ、MOB沸きスポットから離れない。つまり、逃げたPCは追わない。
 一つ、会話が続いている間は、周囲で戦闘行為があろうとも、自身で戦闘は行わない。
 一つ、回復アイテムは使わない。
 一つ、装備の変更は行わない。
 こうした手加減をした上で、この討伐戦は行われるのだが――――

「生命と共にするものよ。希望を与える眩きものよ――――」

「うわぁ、開幕マスパかよ」

 幾度と無く聞いた詠唱とその詠唱バーの長さから【マスタースパーク】と断定。食らったら……全員、それなりに幽香対策はしてきたのだろうが、下手したら前衛の2人以外は落ちる。

「【ファイアーボルト】!」

 猫耳頭巾さんが即座に詠唱キャンセルを狙って火属性攻撃魔法を飛ばす。小魔法だが、弱点であるし、上手く当たれば止まるだろう。
 ――――上手く当たれば、の話だが。

「あ~、やっぱり避けるよね~。本当に風見さんのそれチートスキルだって~。おかしいよ~」

 幽香目掛けて飛んでいった炎の弾丸は、一直線に彼女を目指し――――彼女が胴体一つ分、横にずれることで避けられた。
 風見幽香と戦闘する時、何よりも厄介なのが【キャストアクション】というユニークスキル。その効果は、簡単に言えば『詠唱デメリットの軽減である』。
 本来、詠唱中は『移動不可』『他のスキルの使用不可』『通常攻撃の不可』といったものがある。代わりに、その魔法の威力に応じた防御結界の展開があるのだが。
 しかし、この【キャストアクション】の効果によって、幽香は魔法の詠唱中、その魔法威力に応じた防御結界の展開と同時に、格闘スキルなどで物理攻撃を加えてくる。何それこわい。
 ちなみに【キャストアクション】中のデメリットは『全行動の速度20%減』『他の魔法スキルの使用不可』である。デメリット軽すぎである。

「――――はなむけは、太陽の方角へ伸びる花――――」

 詠唱を止めることなく、俺と猫耳頭巾さんへ接近する幽香。
 狙いは、物理攻撃に弱い魔法使い。猫耳頭巾さんだ。

「こっち来た。パラディンさんヘルプヘルプ! 猫耳頭巾さん落とされちゃう!」

「あいよ! 【カバーリング】!」

 俺の声に応じて即座のスキル発動。野良PTはこういったプレイヤースキル(中の人の腕前。咄嗟の判断とか、スキルの難しい運用とかの能力)が高い人が多いから良いね。

「あら、私の攻撃を真正面から受け止めるなんて良い度胸じゃない」

 そのパラディンに(分かりづらいが)賞賛の声を上げる幽香。
 って、ことは。

「詠唱終わってやがる。みんなー。にげてー」

「【マスタースパーク】」

 幽香の目の前に居たパラディンさん。その影に居た猫耳頭巾さん。その隣に居た俺。その3人が【マスタースパーク】に飲み込まれた。

 †    †    †

「……え~、と~?」

 マスパを食らわなかった方のパラディンさんのスキルで生き返らせた猫耳頭巾さんが困惑したような声を上げる。

「検証終了。皆さんお疲れ様でした、と」

「……え? あれ? 今ダメージ値がカンストだったような、あれ?」

「ドロップは、【向日葵】に、【うにゅう】に、【ヤドリギ】に、【世界樹の花】か。あとはお金が500k。いつもこんな感じ?」

 戸惑ってる猫耳頭巾さんを無視して幽香がドロップした品を確認する。
 ――――あの【マスタースパーク】直後、非ダメージが1だった俺が、その結果に唖然としてる幽香を殴り殺したのだ。ガシッ ボカッ 幽香は死んだ。スイーツ(笑)

「あ、ああ。うん。ドロップ品は毎回3~6個で、お金は500k固定だね。ドロップ品自体の内容は高ランクの植物アイテムが殆ど。ただ、【向日葵】だけは低ランクの植物だけど、たまに落とす。多分幽香さんなりの外れドロップ枠だと思う」

 一般的に流れてる情報では『レッドネームPCのドロップは、手持ちの装備品以外のアイテムをランダムに3~6個選ばれ、所持金の半分を落とす』となっている。
 『検証勢』では『所持金の半分』は確定としても、『ランダムに3~6』では無いと色々精査して『ラック補正値(仮)が計算式に含まれているだろう』とされていた。最も、ラック補正値(仮)を求める計算式は(今の所)俺しか知らないため、検証されていなかったのだが。
 ともあれ、この検証結果から見るに、キル側のラック補正値(仮)は関係無さそうだなぁ。一応検証結果は残しておくけど。

「ん、了解。あとの詳細は幽香に直接聞いてみる。今日はありがとうな」

「ああ、いえ、こちらこそ……?」

「じゃあ、俺は行くな。ドロップ品やお金は討伐PTで分配してくれ。機会があったらまた何処かで。【帰還スクロール】」

 †    †    †

 そして帰ってきましたマイ【ホーム】。と、そこでリビングに人影が。俺の【ホーム】に立ち入り出来るのは俺以外には(悲しいことに)一人しか居ない。

「あれ、幽香じゃないか」

 幽香が呼んでもないのに俺の【ホーム】に来るなんて珍しい。何かあったのか?

「……さっきはよくもやってくれたわね……!」

「おいおい、『風見幽香討伐PT』はいつもの事だろ? たまたま其処に俺が居たってだけで。そんなお礼参りは【風見幽香】らしくないぜ?」

 一応、『風見幽香討伐PT』だけは『待ち構える風見幽香を正面切って打ち破った』という理由で【風見幽香】から恨みを買わない、という事になってる筈だ。
 というか、そうでもなきゃ気楽に討伐PTなんざ組めない。

「……それはそうだけど、まさか貴方が来るとは思わなかったのよ」

 そして、何だか居心地悪そうに【ハーブティー】に口をつけ、俺を見て、ふいっと視線をそらし、【ハーブティー】に口をつけ、俺が同じテーブルに着こうとイスを引いた音にビクッとして、それでも視線を合わせず、かと思えばこっちを見て、口を開くも声を出さず、また【ハーブティー】に口をつけ。
 ――――どこからどう見ても挙動不審です本当にありがとうございました。

「それで、何かしたのか? 何か言いたいことがあって此処に居たんじゃないのか?」

 このままキョドってるゆうかりんを見てても良いんだが、何時まで経っても話が進みそうに無いので仕方なくこっちから振ってみる。
 そして、少しの間の後、ゆうかりんがようやく口を開く。

「その、戦う前も聞いたけど。私、貴方に何か恨まれることしたかしら? もしそうなら、その、参考までに聞きたいのだけれど?」

「……うん? 何でその話に? また俺に恨まれるような何かしたのか?」

 覚えがない……マスパ撃たれるの何ざ日常茶飯事だし、冷蔵庫の中の食品アイテムが何時の間にか無くなるのも普段通りだし。

「いえね、そのね……ああ、もう! この愚図!」

「えぇ? 何で罵られたの?」

 全く訳が分からないよ。

「貴方から見た私がどういう存在か私は知ってるつもりよ。だから私から見た貴方の存在をもう一度良く考えなさい! それが分かるまでは顔を合わせる度に極大魔法撃ってあげるわ!」

「お前から見た俺……? ああ! つまりあれか! 『唯一の【フレンド】が私を殺しに来た! 私は悲しい!』ってことか!」

「死ね! 60回は死ね! というか、60回は殺す! あと唯一じゃないわよ自惚れるな! 貴方以外にもう一人居るわよ!」

「もう一人ってつまり俺の1stキャラだろ? やっぱり俺一人じゃ」「【七花八裂】!」

 俺の言葉を遮るように幽香の奥義スキルが飛んでくるが、当然全回避。流石バグチート(笑)

「どうなってるのよ貴方! 何で当たらないの!」

「いやぁ、ラック補正値(仮)が0になると思ったんだが無限大になってるっぽくてな。ぶっちゃけバグチート」

「もう嫌だコイツ私帰る!」

 もはやキャラ崩壊を起こしたゆうかりんは半泣きで出て行った。帰るって言ってたから多分自分の【ホーム】に行くのだろう。
 ……さて、騒々しいのは行ったし、この良く分からない喧嘩もどきも時々あることだ。特に気にせず、今日の検証結果を纏めるか。

 †    †    †

 今日の検証結果――――風見幽香は『なりきり勢トップ』。ツンデレロール的な意味で。



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D=(Int*魔法威力)/10

Dは防御結界の耐久値とする。
魔法威力はスキルに設定された数値。
Dが0になった場合、詠唱中断に加え、Dの半分の数値がHPダメージとして与えられる。

以上がD=防御結界の耐久値に関する検証結果である。

================================================================

【グランドクエスト】
元ネタ:ソード・アート・オンライン
概要:そのMMOにおいて世界観・物語の骨子となる最重要クエスト。個人に進行を依存する通常のクエストと違い、サーバー全体でその進行度を共有するのが特徴。元ネタでは『ダンジョン全踏破』であった。

【聖王都】
元ネタ:サモンナイトシリーズより【聖王都ゼラム】
概要:聖王の治める都。とっても大きい。

【それは、秘密です】
元ネタ:スレイヤーズ
概要:主人公リナ・インバースに付きまとうゴキブリ魔族こと獣神官ゼロスの常套句。何かと重要なことは黙っておく。聞かれても隠す辺り、どこぞの契約を迫る地球外生命体より性質が悪い。

【おおこわいこわい】
元ネタ:遊戯王
概要:顔芸ことマリク・イシュタール(裏)のセリフ。とりあえず敵を挑発するときには便利。

【ファイアーボルト】
元ネタ:ソード・ワールドシリーズ
概要:炎の弾丸。初期魔法の一つ。たいまつから撃つならともかく、ランタンから撃つとランタン壊れるから気をつけて!

【魔法詠唱中の防御結界】
元ネタ:スレイヤーズ
概要:魔法詠唱中に発生する防御結界。自分の魔法で自分が傷つかない理由である。実際MMOでこんなシステムが取り入れられたらソロの魔法使いは歓喜である。攻城戦なんかとんでもないことになりそうだ。

【はなむけは、太陽の方角へ伸びる花】
元ネタ:東方projectの幽夢 ~ Inanimate Dreamを原曲とした、サークル:岸田教団&The明星ロケッツによるアレンジYU-MUより
概要:歌詞の一部。

【カバーリング】
元ネタ:TRPG全般
概要:味方を庇うこと。また、そのスキル。

【うにゅう】
元ネタ:アトリエシリーズ
概要:森で取れる【うに】。その上位版が【うにゅう】である。

【七花八裂】
元ネタ:刀語
概要:四字熟語的には『花びらが細かく分かれているように、バラバラにちぎれる様子。』(四字熟語データバンクより)。元ネタ的には一の奥義『鏡花水月』、二の奥義『花鳥風月』、三の奥義『百花繚乱』、 四の奥義『柳緑花紅』、五の奥義『飛花落葉』、六の奥義『錦上添花』、七の奥義『落花狼藉』の 7つの奥義を繰り出す最終奥義(又は超必殺技)。



[33160] 検証結果が二つ名持ちレベルだった。
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9
Date: 2012/05/25 17:31
「あなたの心のお道具箱、スマイリーGMです! バグと聞いて歩いて来ました」

「貴方が神か。歩いてお帰り」

「えっ」

 珍しくマイ【ホーム】の呼び鈴が鳴ったから誰かと思って出てみたら(ある意味プレイヤーにとっての)神が居た。
 神様が歩いて来たら「歩いてお帰り」って言うのが礼儀だってゆうかりんが言ってたからそうしてみた。でも、本当にコレが礼儀なんだろうか?

 †    †    †

「ようこそマイ【ホーム】へ。この【テキーラ】はサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。うん、『また』なんだ。済まない。仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。でも、俺のバグ報告を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない『ときめき』みたいなものを感じてくれたと思う。殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。そう思って、あの検証結果を送信したんだ。じゃあ、注文を聞こうか。」

 とりあえずGMさんをマイホームに招き入れ、リビングのイスに座って貰ったところで例の長台詞を言いながら【テキーラ】をテーブルの上に置く。
 そして、GMさんはこう言った。

「自重してください」

「絶対にノゥ!!」

「なん……だと……!」

 それにしてもこのGMさん、ノリノリである。
 いやまぁ、何でこんなに親しげなのかって言うと、例の長台詞にもある様に『また』だからなんだけどね!
 GM的に一般プレイヤーと個人的な交友関係を結ぶのはよろしくないらしいが、ノリの良い人がノリの良い会話をするくらいならモウマンタイ。

「おいおっさん。分かってんのか? 俺は『検証勢』だぜ? ノーとしか言わない男さ」

「フッ……ならば、君の心変わりを誘発しよう!」

「ムッ!?」

 このネタに応じれるだと……!?
 本当に幅広いネタを知ってる人だな。いや、もしかしたら俺の日常の会話ログから元ネタを検索してたり……無いな。

「『二つ名』『ユニークスキル』『ユニークアイテム』!! この三つを同時に授与すると言っても君は断れるのかね?」

「イエス」

「ッ!? ノーとしか言わない筈……!?」

 ちなみに此処までテンプレ。しかし突っ込み不在だと話が進まないのでもうちょっと真面目に話そうと思う。

「それで、GMさんは何しに来たんですか? 漫才ですか?」

「いや、貴方と会話してると楽しくて。つい本題よりも優先してしまうのですよ。いやはや、悪い癖です」

 GMさん本来の話し方に戻ってようやくマトモな会話が行われる。しかし、飲んでいるのは【バーボン】。実際にアルコールが回ることはないのだが、どうも飲み会のノリに感じる。

「直す気が無い様に思えますが、きっと気のせいですね」

「ええ、気のせいですよ。それじゃあ、本題に入りましょう」

 †    †    †

「――――にご同意いただいたものとみなします。長くなりましたが、以上です。よろしいですか?」

 長々とした説明を終え、こちらに確認を取るGMさん。

「つまり、あれだ」

 話を纏めると。

「ラック補正値の修正入れないから、代わりに色んな分野で目立つようにざっと発破をかけて盛り上げてこい、と。サーバー全体のゲームバランスを崩さないように」

「ざっくり言うとそんな感じです。ゲームバランスについての配慮は、ここ数日の貴方のプレイログを見る限り、わざわざ言う必要は無さそうですし」

 何か良く分からないが、依頼された。運営側から特定のプレイヤーにそういうの良いのか?

「その発破行為って、どんなメリットがあるんです?」

「先日『グランドクエスト』の最終クエスト『魔王決戦』が【救国の英雄】を筆頭とするトッププレイヤー達にクリアされましたので、次の大型アップデートまでの場繋ぎとしての賑わいですね。今までに無い目立ち方をするPCが居れば、話題のタネにもなるでしょう。一時的な物で良いのです、大型アップデートまでの」

 語られた理由は、納得するには非常に弱い。

「だからと言って、流石にこの待遇は可笑し過ぎでしょう。レアドロップは出したい放題。戦闘では正に無敵。生産、精錬では失敗しない。こんなPC、害悪以外の何者でもない。それを使えと?」

 その言葉を聞き、苦笑しながらGMさんは続ける。

「その『誰もが望む結果を出せるPC』を『害悪』だと断言できる貴方がプレイヤーだからこその対応です。後は『攻略勢』『なりきり勢』『生産勢』『生活勢』果ては『マッタリ勢』までが二つ名持ちのPCが居るにも関わらず『検証勢』には二つ名持ちのPCが居ないことが一つ。あらゆる楽しみ方を推奨してるにも関わらず『特定の楽しみ方だけを評価できない』というのは、私たち運営にとって不本意な状況でした。そんな時に、『他のプレイヤーから見て非常に目立つ』偉業を達成した良識あるプレイヤーが現れれば、こうなります」

 どうやら本格的にこのPCボディを二つ名持ちにしたいらしい。というか、さっきの賑わい云々より、今言った理由の方が本音に近いな?

「残念だが、俺は根っからの『検証勢』でね。正直、このPCボディで調べられることは終わった。後はもうこのPCボディは廃棄して次の新しいPCを「作って――――」」

「「作って――――」検証式の正誤検証をして、終わりでしょう? 既に貴方は、現状ゲーム内で用いられてる全ての検証式が求められる状態の筈です。ラック補正値の計算式が確定した今、各計算式の乱数範囲を調べる程度しか出来ません。そうでしょう?」

 俺の言葉に被せて、GMさんが続ける。
 ……実際、そうなのだ。俺は、このゲームの事を調べ尽くした。GMさんの言うとおり、俺の楽しみ(としている検証)はもはや終わりが見えている。

「ラック補正値を算出できる程のヘヴィプレイヤーは、以後現れない可能性も有りえます。そして、このゲームは『グランドクエスト』が終了したとは言え、まだまだ発展します。情報秘匿の為、具体的な内容はお教え出来ませんが、今後追加される新しいスキルと共に、貴方が検証したくなるようなダメージ計算、成否判定なども増えてくるでしょう。貴方が今、この段階でこのゲームから手を引くことは、ゲーム全体の損失に繋がる。そう考える人が当社には少なからず居ます。もっとも、既にこのゲーム自体に魅力を感じていない、リアルの事情でゲームプレイが困難だ、という事なら我々も引き止めはしないのですが……そういう訳でないのなら。私たち運営に、時間的猶予をくれませんか?」

「……何度も言うようですが、流石にこの待遇は可笑し過ぎでしょう? ただの一プレイヤーの影響が其処まであるとは思えませんが」

 流石に困惑しているから、どう答えれば良いのか分からない。
 どう考えても、運営が俺というプレイヤーの引退を引き止めている。

「じゃあ、考えてみてください。今このタイミングで『攻略勢』の【救国の英雄】や【Summon Knight】が、『なりきり勢』の【四季のフラワーマスター】や【ブルームーン第五王女】が、 『生産勢』の【ブラウニー】や【錬金術師】が、『生活勢』の【ビッグダディ】や【マスター・マスター】が、『マッタリ勢』の【ダンシングわっしょい】が。そう言った人たちが引退するという状況を」

 今挙げられた二つ名持ちは、それぞれの主な二つ名持ちである。このゲームのプレイヤーのほぼ全てが、一度は名前を聞いたことがあるレベルの。
 どうでも良いけど、このシリアスな雰囲気で【ダンシングわっしょい】だけが何か凄い違和感だな。

「そうしたハイエンドは特殊な例でしょう。俺と比べるのが、そもそもの間違いです」

「将来的に、いえ、既にそうしたハイエンドのPCたちと肩を並べる存在だ、と私は言っているのですよ。貴方にないのは、一般PCたちに対する知名度だけです」

 GMさんの目を見る。0と1で作られたデジタルなPCボディではあるが、その声や口調、その表情からは本心で話しているのが分かった。
 正直、そこまで自分の評価が高いとは思っていなかったが。

「……分かりました。そこまで仰るのでしたら、俺の趣味からは外れますが、目立つように発破をかけて回るというお願い、受けましょう。その代わり、あくまで善意の協力です。強制力は一切ありませんよ?」

「ええ、もちろんです。貴方がこのゲームを続けること。それ自体がお願いの趣旨みたいなものですからね」

 そして真面目な表情を崩し、笑顔になるGMさん。
 ……なんか、どっと疲れた気がする。というか、GMとこんなに長々と話したのは初めてだ。

「いやぁ、実はですね、貴方そこらのデバッガーよりよっぽど腕が良いんですよ。貴方のバグ報告は内部データ方面に偏っていますが、グラフィックバグなんかは一般プレイヤーでもすぐ報告が来ますからね。そういう方面でも助かってます。『命中計算にステータスAgi値は含まれているのに、装備のAgi値が含まれてないのは仕様ですか?』ってメールが一般プレイヤーの貴方から来た時は結構本気で頭抱えましたからね、私」

「おぉい! 職務怠慢を朗らかに話すな!」

「やっちゃったZE☆」

「『やっちゃったZE☆』じゃないですよぉ!  真面目に仕事してくださいよぉ!」

「おや。仕事した結果、魔王のAIが勝手に魔王城に情け容赦ない罠を増やして『運営仕事し過ぎだろぉ!』って書き込みが【掲示板】に殺到した覚えがあるのですが」

「あれは苦情じゃなくて賞賛みたいなもんです。トップクラスの攻略勢以外には全く関係ないですし。良いぞもっとやれ」

 †    †    †

 あの後、適度に雑談をしてGMさんはログアウトした。
 中々(ネタ的な意味で)有意義な会話を楽しめたので俺としては満足。あと、GMさんはゆうかりんに会えなかったのを残念がってた。彼女のなりきりプレイ的にGMってどんな存在なのか気になってるらしい。今度ゆうかりんに聞いてみよう。
 あと、授与される二つ名は特に希望が無ければ【検証者】になるって言ってた。GMさん個人では【ムテキング】が良いって言ってたけど。確かにバグで無敵だからぴったりって言えばぴったりだが、当たり判定はあるし、道行く人に「あ、【ムテキング】だ!」とか言われるのは凄い嫌なので止めた。
 まぁ、俺も自分のことじゃなかったら【ラッキーマン】とか推してただろうしね。そういった方向性に 走るのは仕方ないと思うけど。
 【ユニークスキル】については、このステータスがその代わりとして無し。【ユニークアイテム】については、使用前ディレイが30秒と長めだが、指定MAPに制限無くワープできる【ワープスクロール】(使用回数制限無し)を授与となった。
 明日にはアイテムと二つ名のデータをこのPCに加えておくとのこと。ついでに公式HPでの二つ名授与の告知も。
 とりあえず、今日のところは終えるか。さ、検証結果を纏めよう。

 †    †    †

 今日の検証結果――――俺は二つ名持ちレベル。ネトゲ廃人的な意味で。



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命中率=50+(H-D) 変域は100≧命中率≧0
H=Dex+Agi*0.5+Dex修正値*3+Agi修正値*1.5+L*0.2+スキル命中補正値
D=Agi+Dex*0.4+Agi修正値*3+Dex修正値*1.2+L*0.2

Hは命中値とする。
Dは回避値とする。
Dex・Agi修正値は装備品による修正値。
Lはラック補正値とする。
スキル命中補正値はスキルに設定された数値。通常攻撃を0とする。

以上が命中率に関する検証結果である。

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【あなたの心のお道具箱、スマイリー~~です】
元ネタ:聖剣伝説 LEGEND OF MANA
概要:悪徳商人ニキータの台詞。語尾が「にゃ」のくせにウサ耳という容姿も相まって凄く胡散臭い。

【~~と聞いて歩いて来ました→歩いてお帰り】
元ネタ:東方project二次ネタ
概要:元ネタでは「神と聞いて歩いて来ました→歩いてお帰り」である。神と聞けば歩いてくる神綺に対し一蹴する流れである。

【貴方が神か】
元ネタ:DEATH NOTE
概要:新世界の神を自称した主人公 夜神月の信者 魅上照が夜神月と会った時に言った台詞。

【ようこそ~~~~~~~~。じゃあ、注文を聞こうか。】
元ネタ:2chコピペ
概要:釣りと言われる『興味を引くスレッドタイトルにして、本文を確認するとそのスレッドタイトルの内容ではない』という行為がある。その時、このバーボンハウスのコピペを見るとちょっとだけ心が安らぐ。

【絶対にノゥ!→おいおっさん。分かって~~~~→フッ……→ムッ!?→君は断れるのかね?→イエス→ノーとしか言わない筈】
元ネタ:スクライド(漫画)
概要:反逆者 カズマがホーリー隊長 マーティン・ジグマールに勧誘された時のやり取り。

【なん……だと……!】
元ネタ:BLEACH
概要:驚いた時に言う台詞。元ネタでは一時期、どいつもこいつも1ページごとに言うような状況に陥っていた。結果、大人気ネタに。

【Summon Knight】
元ネタ:Summon Nightシリーズ
概要:直訳すると『召喚騎士』。意味合いとしては『召喚された騎士』と『召喚術を使う騎士』の二つがある。

【ブルームーン第五王女】
元ネタ:Sonata
概要:PSゲーム『Sonata』のヒロインの一人、アオイ・サウス・ブルームーンのこと。ちなみに第一王女から第四王女までは全員嫁いでいる。家事が出来ない可哀想な子。

【やっちゃったZE☆→やっちゃったZE☆じゃないですよ!】
元ネタ:ギャグマンガ日和
概要:作中作 ソードマスターヤマトの誤植を連発した編集者 小島と作者 夢野カケラ
のやり取り。

【運営仕事し過ぎだろぉ!】
元ネタ:.hack//Quantum
概要:巨大モンスターから逃げたところ、モンスターがMAP破壊しながら追いかけてきた。そんなトンデモなさと芸の細かさに叫んだ台詞。元ネタでは『CC社仕事し過ぎだろぉ!』と叫んでいた。CC社(シーシーしゃ)とは作中ゲーム『The World』の運営会社である。

【ムテキング】
元ネタ:AC北斗の拳
概要:バグゲーとして名高い元ネタにおいても2大バグとして扱われるバグ。コマンド入力であらゆる打撃が当たらなくなる。しかし投げと当て身は防げず、一部攻撃を使用すると解除されてしまうため、ネタの域を出なかった。

【ラッキーマン】
元ネタ:ラッキーマン
概要:あまりにラッキー過ぎてそれだけで全てを乗り越えられる主人公 ラッキーマン。Luc補正値だけでやりたい放題という状況から。



[33160] 検証結果が二人目だった。
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9
Date: 2012/05/25 17:31
「【ログイン】したら【wis】が止まらなくて怖い」

 次の日にInをすると、頭上から降り注ぎ続ける複数人の勝手気ままな言葉と、知らない奴の発言で埋め尽くされ、高速で流れるチャット欄という怪奇現象に見舞われた。何これ怖い。
 とりあえずそうした万感の想いを込めて俺の【ホーム】でくつろいでるゆうかりんに言ってみる。

「あら、二つ名を名乗るようになったの。【検証者】か……的確すぎて遊びが無いわね。あと『ささやき』は『友人だと共に認めた相手』以外の交信を弾くことをオススメするわ。【メニュー】の【オプション】から【環境設定】を開いて、下のほうに【wis拒否】があるから、それの【フレンド以外】にチェック入れれば弾ける筈よ」

 中の人には今日の4限に報告して驚かれ、問い詰められ、祝われたのだが、『風見幽香』はそんな出来事とは関係ないらしい。初めて知ったかのような言葉と、今更な助言を貰う。
 そういう助言はリアルで話した段階でしてくれよ! 言われるまで忘れてたよそんな機能!

「……そうだな、どうせ【wis】してくる奴なんて居ないし。というか、だからゆうかりんは【wis】じゃなくて【フレンドメール】を送ってくるのか。一々【メニュー】開かなきゃいけなくて面倒だと思ってたけど」

「別に。ただ顔も見えない相手と声だけで会話するのが嫌いなのよ。それだったらまだ文字だけの方がマシ、というだけ」

「さいですか。んじゃあ『幽香』にはまだ言ってないから簡単に経緯を説明したいんだが――――」

 †    †    †

「――――というわけで、適当に盛り上げようと思うんだが、どうすれば良い?」

 かくかくしかじか四角いムーブ。と説明をサックリと終え、幽香の意見を仰ぐ。

「手始めに【聖王都】に居る人間を皆殺しにしたら?」

「お前は【聖王都】の住人に何の恨みがどんだけあるんだ」

 ニヤニヤと笑いながら恐ろしいことを言ってくれる。
 ちなみにコイツの言う『人間』はPC・NPC問わずである。NPCが死ねばゲーム内時間で1年(リアルタイム22日程度)の間、ゲーム内から居なくなる。幽香が二つ名を授与された時、【聖王都】はシャッター街どころか人っ子一人居ないゴーストタウンと化していた。商店は当然利用不可だし、そのNPCが関わるクエストの進行も不可となるため、多くのプレイヤーが困ったことだろう。
 まぁ、そんな思い出話は置いておいて。

「あと言っておくと、レッドネームはなにかと不便だから嫌だ」

「そう、残念ね。なら【救国の英雄】や【Summon Knight】あたりに『戦いごっこ』でも挑んでくれば? アレでなら殺しても問題ないでしょう?」

「【決闘】か。確かにそれはアリだが」

 【決闘】は互いの同意の元、【デスペナルティ】の無いPKフィールドを展開し、その中で戦闘を行うシステムである。このPKフィールド内ではあらゆる成長が無い代わりに、PKフィールド内から出れば戦闘前の状態まで回復できる代物である。ただしMOBの居ない町中MAPでしか使えないのでMOB無限狩り等と甘いことは出来ない。

「ただ、受けてくれるかね。相手だって時間の都合があるだろうに」

「受ける気があるなら時間を作るし、受ける気がないなら何したって断られる。つまり貴方が考えるだけ時間の無駄よ」

 サクサク答える幽香。確かに幽香の言う通りか。馬鹿の考え休むに似たり、って奴か?

「良し。じゃあ早速……と思ったけど、絶対【wis】は拒否設定だよな。【フレンドアドレス】は当然知らないから【フレンドメール】も送れないし……【掲示板】か? いや、流石にそれはな……」

 【掲示板】で【決闘】を申し込むとかちょっと熱血思考すぎる。熱血といえば、ブラ坊やは元気でやってるだろうか? 最近顔見てないし、久々に会いに行くのも良さそうだ。

「じゃあ【闘争都市】の【アリーナ】はどう? Lv制限が無いのは【紅魔宮】――――いえ、【竜賢宮】だったかしら」

「あー。【アリーナ】は確かに目立つし、適度に暴れればそれなりに盛り上がるかな? でも俺、パフォーマンスとかファンサービスとか全然分からないぞ」

 あと【アリーナ】は3vs3のチーム戦だった筈だ。俺じゃ人数を揃えられない。
 そんな事を考えてると、俺の言葉に返答しただけなのか、それとも俺の思考が分かったのか知らないが、幽香が言った。

「そんなの要らないわ。強者は弱者を蹴散らすだけよ」

 おっと、どうやらこの点では俺と幽香の考えは合わないらしい。
 珍しいこともあるもんだと思いながら反論する。

「キングのデュエルはエンターテイメントでなければならないという名セリフを知らないのかよ。そんなんじゃ【闘争都市】の人間を敵に回すだけで俺の寿命がストレスでマッハなのは確定的に明らか」

「……? ごめんなさい。ちょっと意味が分からなかったわ。人間の言葉を話してくれる?」

 困ったような顔してさらりと俺を貶しながらお願いしてくるゆうかりん。そこにシビれる! あこがれるゥ!

「人類の言葉として最低限の体裁すら成してないと申したか。今のは素なのかワザとなのか分かり難くて余計に傷つくぜ。このドSめ。それと、付け加えるなら――――会話はネタで出来ている」

「あれも嫌だこれも嫌だとわがままな奴ね。そうやって選り好みしながら無為に過ごしなさい。付き合ってられないし、私はもう行くわ」

 うむ。スルースキルも着実に上がっているらしい。俺の発言になんら反応も示さず立て掛けてあった日傘を持って玄関へ向かう。

「あ、何処行くんだ? もし【ジャック・モキートの館】に行くなら【きいろいはね】拾って来てくれない?」

「見つけたら拾ってあげる。探しはしないわ」

 そう言い残して出て行くゆうかりん。まぁ、あの言い回しなら多分拾ってきてくれるだろう。
 ……このやり取りなんかデジャブだな。
 ともあれ、じゃあ本当にどうするべきかな。ブラ坊やとか、ポニテ君あたりを誘って【アリーナ】か? それとも【救国の英雄】や【Summon Knight】とも顔の聞きそうな【マスター・マスター】か【ダンシングわっしょい】に頼ってどうにか【決闘】に持ち込むか? ワンオフで高ランク精錬品作って【オークション】にかければ性格的に【錬金術師】あたりがアクション起こしそうではあるけど、それも不確実。かと言って【ビッグダディ】や【ブラウニー】はあんまり面倒な事に巻き込むのは俺の気が引ける。あの人たちは善人だからか常に忙しそうだし。
 ……と、ここまで考えて、意外に俺が現状を楽しむ気だと言うことに気づいた。
 随分と前の話だが、検証うんぬんとか考えずに、ただゲームを楽しむためにやってた時期が俺にもあったなぁ。いやまぁ、検証も楽しんでやってるんだけどね。
 折角の公認バグチート――――公認だからバグじゃなくて仕様か?――――なのだから、このキャラでしか出来ない遊び方をしてみるのも悪くない。ちょっとだけ気分が良いし。
 だからと言って、他人に迷惑掛ける気はないが――――
 シャランシャラン、と呼び鈴の音がする。
 ――――誰かが来たようだ。GMさんか? 俺の【ホーム】に訪ねてくるのは幽香を除くとGMさん位しかいない。
 そういえば、二つ名貰ったのに、祝ってくれたのはゆうかりんの中の人と、付き合いのあった一部の検証勢くらいだ。ゲーム内に至っては一人も祝ってくれてない。友達少ないな俺。

「ほいほい、っと。どちら様ですかぁー?」

 そして気軽に出て、ちょっとだけ後悔した。

「――――初めまして」

 そこに居たのは青い服に水色のスカート。そして白い大きなマントと腰に差した金色の剣。長い青がかった黒髪を左右でまとめて、前に持ってきている女性。
 実は――――恐らく相手側も――――意識的に避けてきたトッププレイヤーの一人。

「私は【ブルームーン第五王女】アオイ。貴方が【検証者】ですか?」

 『なりきり勢』トップ【四季のフラワーマスター】の(いろんな意味で)ライバルと言うべき存在。【ブルームーン第五王女】がそこに居た。

 †    †    †

「少し、意外ですね」

「うん? 何がだ?」

 あの後、【検証者】か否かの問いにYesと答え、玄関で立ち話も何だから、良かったらどうぞと家に上げた所、そう呟かれた。
 その呟きについて聞くと、少し慌てた様子でこう言った。

「いえ……そう、随分と辺鄙な場所に建ってますから、内装に期待していなかったのですが」

「あぁ、思った以上にマトモで驚いたってか。まぁ、姫さんから見たら大したものじゃないだろうが、最低限のお眼鏡に適ったなら幸いだ」

 もっとも『なりきり勢』から見たら本当に最低限のものしか揃ってないらしい。その最低限のものにしても、ゆうかりんに言われて揃えたものだ。個人的には、物なんて無ければ無いほど良い。家が散らかるのは物があるからだ。
 ともあれ、さっさとリビングのイスに姫さんを座らせて冷蔵庫を漁る。にしても……

「……悪いな姫さん。今は『冷蔵庫』の中には【ハーブティー】と【ホットドッグ】しか無いんだ。【ハーブティー】だけで良いか?」

 失敗した。二つ名授与から人付き合いが増えかねないことは予想できた筈だ。なら、仮に家に上げた時にも出せる飲食系のアイテムを用意しておくべきだった。
 しかし、反省しても遅い。客はもう居るし、しかもよりによって『なりきり勢』だ。しかもしかも相手は筋金入りの『なりきり勢』である【ブルームーン第五王女】だ。これは彼女の逆鱗に触れるんじゃあ……いや、でも、元ネタ的にはそんなに短気じゃない……とは言い切れないな。召喚した勇者が魔王退治に失敗したら、手の平を返して偽勇者呼ばわりするくらいだし。
 そんな考えが脳内を駆け巡ってたが、返事はそれとはもっと別のところにあった。

「【冷蔵庫】……ですか?」

 不思議そうな顔をして訪ねてくる姫さん。中の人は期待してるかも知れないが【冷蔵庫】なんてアイテムは残念ながら無い。

「あー……何か勘違いされたらアレだから言っておくが、別に【冷蔵庫】ってアイテムは無いからな? 【共用倉庫】を『冷蔵庫』として扱ってるだけだ」

「ああ……なるほど。いえ、お気になさらずに。初めて聞いた名前に興味が沸いただけです。それと【ハーブティー】だけで構いません、手ぶらで訪問するのも気が引けたので【クッキー】を持ってきています。もし良ければ一緒にどうですか?」

 ……これは元ネタ的な警戒をすべきか? 相手は筋金入りの『なりきり勢』。それなら乗った方が『アオイ』的には評価低下しても、中の人的には評価上昇のチャンス……!

「……姫さんの手料理じゃないですよね? 姫さん的に一番得意なのが料理とは言え、もしそうなら好意だけ受け取っておきます」

「あのですね! 確かに私は家事全般が出来ませんが、こういう時に持ってくる物は考えて……」

 イスから立ち上がり、ナイスツッコミ! って感じだったのだが、途中で止まる。

「え? あれ?」

「どうした?」

 動揺した様子を見せるので確認とってみる。とりあえずこの【ハーブティー】二つはテーブルに置こう。

「……私が家事全般を出来ないのは、私に近しい人は知っています。ですが、家事の中では料理が得意なのは、私は誰にも話してません」

「姫さん。一応ツッコむが、作れる料理が黒いナニカだけなのに得意とか言うもんじゃないぞ」

「ですから言ってないんですって! それに、スキル値的にも料理だけは他のスキルと違って0.1上がってるんですからね!」

 話してて分かったが。
 コイツ……ゆうかりんよりよっぽどイジりがいのあるキャラしてるぞ!

「……コホン。今はその話は良いのです。それより……」

「ああ、うん、この話は止めとこう。俺が迂闊に喋りすぎたってことで。話し込んでもお互い不幸になるだけさね」

 多分、相手も『Sonata』なんて化石みたいなゲームの元ネタに対応できると思ってなかったのだろう。ネットで検索してもマトモに残ってないし、そもそもあのゲームが出たときってネットが普及してなかった気がしないでもない。
 それに、『なりきり勢』的にも元ネタ関係の過度な会話はタブーの一つである。その辺の会話はそれとなく避けるのがマナーみたいなもの。
 なんだか不服そうな顔をしているが、姫さんもそれ以上何も言わず、お互いに【ハーブティー】を飲みながら【クッキー】を食べ、一息ついたところで俺が口を開く。

「それで、何でまた高名な【ブルームーン第五王女】が俺の【ホーム】へ? 流石に【検証者】の顔を見に来ただけ、って訳ではないのでしょう?」

「……そう、そうですね。本題に入りましょう。まずは二つ名の授与、おめでとうございます。何をしたのか、参考までにお聞きしても?」

「悪いが、具体的には秘密だ。分類で言うなら『サーバーに大きく貢献した』系のだな。【ダンシングわっしょい】の奴みたいな特例じゃあない」

 俺の二つ名が【検証者】であることから二つ名授与の理由は何となく推測は立つだろうが、俺の行動により発生する異常な数値がユニークスキルによるものか、ユニークアイテムによるものか、それとも素のステータスによるものか、それすら一部の『検証勢』でもなきゃ分からないだろう。
 ステータスだと推測した『検証勢』でも、ラック補正値の算出が出来なければ、それも推測止まりだ。
 ともあれ、俺はヒントを出すつもりは毛頭ない。悪いが秘密で通させて貰おう。

「そうですか。残念ですが、それに関しては別に構いません。あくまでお祝いが目的ですから」

 ……ゲーム内で初めて祝われたのが、初対面の人間だった。どうしよう。軽く欝だ。

「……あの、どうかしましたか?」

「いや、何でもない。続けて」

 どうやら、表情に出てたらしい。俺にしては珍しい失態だが、まぁ、仕方ないよね。この場合。

「……ではお言葉に甘えて続けますね。次は【四季のフラワーマスター】との関係についてです」

 あー、やっぱりそうなるよね。これがあるから(多分お互いに)意識的に避けてたんだよ。

「彼女は【聖王都】の人間を皆殺しにするような存在です。そんな彼女が『友人』であると言う人、それが貴方だと聞きました」

「そうだな。俺は幽香の【フレンド】で、幽香は俺の【フレンド】だ。あと、幽香は言うほど悪い奴じゃないぞ? ちょっとバイオレンスなだけで」

 予想通りの質問に、事前に考えておいた返答を返す。
 ここで注意すべきは、『アオイ』が『幽香』を嫌っているとしても、アオイの中の人が『幽香』や幽香の中の人を嫌っている可能性は低いということである。

「貴方は二つ名を授けられる程の人間でしょう? それなのに何故、彼女と行動を共にするのです」

 ――――鋭く目を細め、彼女は俺に問う。
 『なりきり勢』と『なりきり勢』の組み合わせは、互いのロールを強調しやすい。
 『【四季のフラワーマスター】風見幽香』のアライメントは『混沌・悪』であり、『【ブルームーン第五王女】アオイ』のアライメントは『秩序・善』である。
 そうした対比により、互いが互いの特徴や魅力を表現しやすくしているのである。

「何故かって? そんな簡単なことも分からないのか?」

 ――――俺は哂いながら答える。
 例え話になるが――――『名探偵』と『怪盗』の様なものだ。『怪盗』は手の込んだ手法で鮮やかに宝を盗み、『名探偵』はその手法を暴き、先を読み、犯人を捕まえる。
 『怪盗』は『名探偵』が居なければ、ただの泥棒になり魅力は減るし、『名探偵』も『怪盗』がいなければただの探偵になり魅力は減る。両者が揃うことで、本当の魅力が表現できるのだ。

「ええ、分かりません。ですから、答えなさい。返答によっては、彼女を斬り捨てるより前に。今ここで、貴方を斬り捨てます」

 ――――彼女はイスから立ち、腰の剣を抜き、俺の首に向ける。
 『なりきり勢』のトップが『悪』であった以上、追随し、双璧をなす『なりきり勢』は『善』になるのは必然だったのだろう。
 ともあれ、そうした『なりきり』の関係で非常に敵対的ではあるのだが、トッププレイヤーともなればお互いのそうした立場を分かっている可能性が高い。お互い分かってるという暗黙の了解があれば、お互い敵対関係になるのも心持ち気軽になる。

「気が合って、信頼できる。友となるのに、それ以上の理由は要らないな」

 ――――この答えで不満なら好きに斬るが良い。
 ……だが、言わば敵対関係にあるPCと特に親しいPCが一人だけ居る、となると、放って置く筈がないのだ。放っておく理由が無いと言っても良い。ならば、より『自然』な行動を信条とする彼女は、その特に親しいPCが『なりきり勢』ではないとしても、場合によっては敵対関係――――ケンカを売りに行かなければならない。『風見幽香』の友人だから、という理由で。

「――――」

 ――――彼女は、驚いたような顔をした。言葉は無い。ただ、そのまま、数秒見つめあう。
 そういや、『魔王決戦』ではゆうかりんと姫さんでコンビ組んだ場面があったって言ってたな。お互いノリノリだし、姫さんは前衛寄りの万能キャラ、ゆうかりんは前衛も出来る火力魔法キャラだからもう最高だったって中の人が興奮しながら騒いでたな。ソロ専門だったからPT戦とか協力プレイとかに飢えてるのかもしれない。

「本当に、彼女は良い友人を持ってますね。正直、羨ましい限りですよ」

 ――――笑顔で、そう言った。
 俺の首に向けていた剣を鞘に収め「失礼しました」と謝罪しながらイスに座りなおす。

「何、構わないさ。幽香との付き合いは長いから、この位は慣れたもんだ」

「そう言って下さると助かります。それと最後に、これを」

 その言葉と共に差し出される右手。見ても、その手には何も持っていないが、直後に響く『ポーン』という電子音。
 ……これは。

「私の【フレンドアドレス】です。何か困ったことがあれば、【フレンドメール】で連絡をください。私に出来ることがあれば、力になりましょう」

「……驚きだな。まさか姫さんが、二つ名持ちとは言え『幽香の友人』に【フレンドアドレス】を渡すとは。最初からそのつもりで?」

 【フレンドリスト】を確認すれば、今まで『風見幽香』の文字しかなかった画面に『アオイ』の文字が追加されている。

「はい。ですが、貴方が良識ある人なら、という前提がつきますし……それに最初は『渡しても良い』程度でしたが、今は『受け取って欲しい』と思っていますよ」

 苦笑しながら姫さんは答える。
 まぁ、『なりきり勢』は特にとっつき難いからなぁ。拒否反応を示す人だって居るし。そういう意味では、自然な会話が出来る俺は貴重な人間か。

「そうか。んじゃ、ま。ほれ」

 アオイに対してターゲティング、えーと……あった。普段使わない機能までは流石に覚えてないなぁ。

「俺の【フレンドアドレス】だ。幽香と姫さんの立場的にも、お互いに共通の【フレンド】が居た方が何かと便利だろ? 俺は幽香と同じく【フレンドアドレス】は渡さないんだが……ま、別に拘りがあってそうしてるわけじゃないからな。渡した方が姫さんたちに都合が良いなら渡すさ」

 そして姫さんを見る。そこにあったのは笑顔……ではなく、どこか不満げな表情。
 あれ? なんかミスった?

「『私』としてはそう言った理由でなく、純粋に友人として渡して欲しかったところです」

 あー。まぁ、確かに。わざわざ打算を含むってことを言わない方が良かったか。
 いや、でも理由を言ったほうが、相手も幽香関連の出来事に俺を巻き込みやすいじゃん? そういうつもりで渡しましたよー。って言われてれば、『幽香と【聖王都】で殴り合ってる! 緊急で至急にカマン! そして止めて!』とかって呼んでも良心が咎めないじゃん。

「それと、ずっと気になってたのですが、その『姫さん』という呼び方、どうにかしてください」

「ああ。まぁ、【フレンド】になったことだし、さんづけも変か」

「敬称のつもりだったのですか? というか、そういう意味では……いえ、まぁ、構いません」

 何だか何処となく疲れた様子の姫さん。そういや、幽香もこんな感じでうな垂れること多いような気がする。
 『なりきり』ってのはそんなに精神力使うのか。大変だな。
 ともあれ、どうするか考える。ああ、そろそろ真面目な話も終わったし、こういう時に丁度良いセリフもあった。

「それではアオイと。……ああ、この響きは実に君に似合っている」

「貴方、さらりと……いえ、いえ。何でもないです」

 ニックネームはアオアオだな。良し。今度ゆうかりんに殺されかかった時は「アオアオ! 君に決めた!」とか言いながらけしかけてみよう。多分二人にボッコボコにされるだろうけど。

 †    †    †

「……もうこんな時間ですか。随分話し込んでしまいました」

 【フレンドアドレス】を交換した後、折角だからと雑談に興じてみれば、時間はあっという間に過ぎた。
 互いに『幽香』という共通点もあるから、会話は弾んだ。お互いに彼女と初めて会ったのは、というところから、最近では『魔王決戦』での共闘まで。アオイが未だに幽香をキルできたことがないと言えば、俺が幽香のステータス・スキル監修してるから同レベル同装備帯じゃ簡単に勝てないぞと言い、そんなのズルいと文句を言われ、人脈も力だバーローと返す。話すことはいくらでもあったので、そんな感じでぐだぐだと時間が過ぎた。
 ゲーム内時間では、アオイが来たのは朝だったのに今や既に夜。ざっと、リアルタイムで1時間は話してたことになる。まるで『マッタリ勢』みたいだ。幽香とだってこんなに長話したことない。

「全くだ。お蔭様で今日のゲーム時間はただのトークタイムと化したよ」

「貴方は皮肉が過ぎますね。貴方だって楽しんでいたでしょう?」

「否定する気はないな。中々有意義な時間だった」

 今日は検証する気も起きないし、丁度良いから今日はもう寝るかな。

「じゃあ、今日のところは【ログアウト】するよ。アオアオは?」

「アオアオって呼ばないでください。私は……そうですね、スキル構成の見直しでもしておきます。貴方の話を聞いて、少し思うところがありましたので」

 そう言い、イスから立ち玄関まで向かう。イスもしまい、テーブルの上を確認して片付け忘れがないか確認するあたり、好感が持てる。大切だよな、そういうの。

「まぁ、行き詰ったら助言くらいならしてやるよ」

 俺も玄関まで向かい、彼女を見送る。

「それじゃ、またな」

「ええ、また会いましょう」

 別れの言葉を交わし、玄関を閉める。
 とりあえず、今日のところは寝るか。纏める検証結果もないし。

 †    †    †

 今日の検証結果――――アオイは二人目。俺のフレンド的な意味で。



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検証式はお休み。というか、この検証式最初はラック計算式だけのつもりだったし以降は気が向かなきゃやらないぜよ。

オマケ~ゆうかりん的にGMって?~

「GM? ……ああ、八雲の連中みたいな奴らね。私の邪魔をしない限りは、管理ご苦労としか思わないわ」
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【かくかくしかじか四角いムーブ】
元ネタ:ダイハツ ムーブのCM
概要:かくかくしかじか四角いムーブ。車のCMである。

【闘争都市】【アリーナ】【紅魔宮】【竜賢宮】
元ネタ:.hack//G.U.
概要:元ネタの作中ゲーム The World内にあるPC間対戦専用のサーバー(タウン)『Ωサーバー闘争都市 ルミナ・クロス』である。アリーナは三つあり、Lv50以下が参加できる紅魔宮、Lv100以下が参加できる碧聖宮、Lv制限の無い竜賢宮の三つである。

【キングのデュエルはエンターテイメントでなければならない】
元ネタ:遊戯王5D’s
概要:デュエルキング(作中ゲームでのチャンピオンみたいなもの)であるジャック・アトラスが言ったセリフ。個人的には自分の中だけで完結している人と違い、自分に出来ることを通して観客に何かを伝えようとするその姿勢はとても大切だと思う。

【~~~~という名セリフを知らないのかよ】【俺の寿命がストレスでマッハ】【確定的に明らか】
元ネタ:FF11のプレイヤーBrontより
概要:個性的な考え方と天才的な言語センス持つ彼の迷言の一つ。元ネタでは『仏の顔を三度までという名セリフを知らないのかよ』と『このままでは俺の寿命がストレスでマッハなんだが・・』と『火を見るより確定的に明らか』。

【そこにシビれる! あこがれるゥ!】
元ネタ:ジョジョの奇妙な冒険
概要:俺たちに出来ないことを平然とやってのけたディオに対して子分が言った言葉。

【会話はネタで出来ている】
元ネタ:Fate/stay night
概要:元ネタ公式ページのトップにある文章の冒頭。元ネタでは『体は剣で出来ている。』。一人の青年の生き様を語った一文。

【ジャック・モキートの館】【きいろいはね】
元ネタ:FFCC(クリスタルクロニクル)
概要:ミルラの木と呼ばれる特別な木を、自分の家の庭に持つギガースロード ジャック・モキートをBOSSとするMAP、それが【ジャック・モキートの館】である。なお、【きいろいはね】はそのMAPでしか入手できない素材アイテムの一つであり、最強の盾【チョコボシールド】を作るのに必要となる。

【アライメント】
元ネタ:D&D(ダンジョン&ドラゴンズ)
概要:そのキャラクターの性格を現すもの。『秩序・中立・混沌』は簡単に言えば『規則を重要視するか』であり、『善・中庸・悪』は『一般道徳を重要視するか』である。例として『海賊となり、自分の夢を追い続けながら、仁義や人の笑顔の為に命を賭けられる』というルフィ(ONE PIECEより)は『混沌・善』であり『多くの部下を引き連れ、原住民を皆殺しにして星の地上げ屋をしていた』フリーザ(ドラゴンボールより)は『秩序・悪』である。

【『名探偵』と『怪盗』】
元ネタ:まじっく快斗
概要:主人公 黒羽快斗が怪盗、ライバル 白馬探が名探偵である。知っている人は知っていると思うが、名探偵コナンに登場する怪盗キッドは彼である。自作品と自作品でクロスするのは漫画家のロマンの一つなんだろうか。

【それでは~~と。……ああ、この響きは実に君に似合っている】
元ネタ:Fate/stay night
概要:ヒロイン 遠坂凛とそのサーヴァント アーチャーが互いに自己紹介した時に、アーチャーが言ったセリフ。元ネタでは「それでは凛と。……ああ、この響きは実に君に似合っている」と言った。どう見ても口説き文句である。

【ニックネーム】【~~! 君に決めた!】
元ネタ:ポケモン
概要:ゲーム ポケットモンスターでは捕まえたポケモンにニックネームを着けるか毎回選択する。また、アニメ ポケモンにて主人公 サトシが手持ちポケモンを出す時の掛け声が【(ポケモンの名前)! 君に決めた!】である。

【バーロー】
元ネタ:名探偵コナン
概要:相手をバカにするコナンの台詞。「馬鹿野郎」を混ぜて短縮したんだバーロー。ちなみに、最初に言ったのは元太くんであり、「バーロー」ではなく「バーロゥ」だった。

【アオアオ】
元ネタ:月姫
概要:主人公 遠野志貴が先生と慕う人物 青崎青子がフルネームで呼ばれることを嫌う理由。アオの後にアオが続くのが気に食わないらしい。まぁ、気持ちは分かる。

【八雲】
元ネタ:東方project
概要:東方projectの舞台 幻想郷を管理する妖怪の賢者 八雲紫とその式神 八雲藍のこと。場合によっては八雲藍の式神 橙を含むこともある。ともあれ、彼らはその幻想郷を囲っている結界の修復などが仕事らしい。他にも幻想郷全体の危機になり得る大事にも関わったりしてる。



[33160] 検証結果が俺以上だった。
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9
Date: 2012/05/27 22:28
「よう、久しぶりだなポニテく……ん……」

「……どうも」

 いつも通りの低い声に、比較的ゆっくりした話し方。ヒツジとかヤギとかが喋ってる気分になれる。まぁ、人によっちゃあ暗いと思うんだろうが、俺的には落ち着きがあって良い。
 ともあれ、そんな付き合いの長いポニテ君を誘って【アリーナ】に出ようと思ったのだが、其処には、変わり果てたポニテ君の姿がっ!

「ポニテじゃ……ない……ッ!?」

 彼はそれに対して困ったような感じではあるが、爽やかな笑顔で応える。
 そう。彼の髪型は(俺が認定した)トレードマークであるポニテではなく、オールバックなデコ君になっていた。それでも髪の長さは結構な長さのまま保たれているのが幸いか。
 装備はDefやAgiなどのステータス上昇より、属性耐性上昇を重視したシリーズの黒いローブで纏まっているが、そのローブはノースリーブで肩を露出し、アームウォーマーみたいなのを腕に着けてる形で、動きを阻害しない感じになっている。持ってる槍は……見覚えがあるってことは、高ランク武器だな。結構やってるんだな、デコ君。

「いやー。パッと見の雰囲気変わるなー。うんうん、イケメンだ。危うく気づかないところだったぜ」

「……でも、気づいたね」

「おいおい、俺の数ある魅力の一つが記憶力だってのはお前も知ってるだろ? 当然だぜ」

 俺の軽口に曖昧な笑顔をし、首を縦に振るポニテ君改めデコ君。
 今の笑顔は「あぁ~、また調子の良い事言ってるよこの人」的な何かだ。絶対そうだ。俺が決めた今決めた。ってことで言いがかりつけながらヘッドロックを決める。

「テメこらこのヤロー。今バカにしたなっ」

「わ、わ、わ。やめ、止めて」

 それにしてもデコ君は完全に弄られキャラだなぁ。流されやすい上に頼みごと断れないって疲れないんだろうか。疲れないんだろうなぁ。クラゲみたいだな。もしくは海草的な何か。

「って訳でワカメデコ君な」

「……?」

 どうしてそうなるの? とでも言いたそうな顔でこちらを見るワカメデコ君。

「デコは見た目で、ワカメは何となく。ところで海草が髪に良いって本当か?」

「どうなんだろう……?」

「しかしストレートな髪だからやっぱワカメは無しだな。デコ君だわ。よろしくデコ君!」

「……よろしく。いつも通りだね」

 そういう訳で、本人の了承も得たしデコ君と呼ぶことにしよう。
 ともあれ、さっさと本題に……と考えたところでデコ君が俺にスキルを使った。
 白い羽を持つ女性が現れ、手を振ると同時に、その手から零れ落ちた光の粒が俺に降り注ぐ。確かデフォルトスキル名は【アストライアの星の加護】。効果は一時的な対星の上昇。そして――――

「【検証者】の二つ名。おめでとう」

 ――――そのエフェクトの綺麗さから、何かとお祝いの時に振りまかれるスキルでもある。

「【wis】したんだけど、拒否設定になってて。お祝い、遅れた」

 言いながら爽やかに笑うデコ君。ゲーム内で祝われたのはコレで二人目である。
 そして、もう、何ていうか。

「本当にイケメンだぜお前! 祝ってくれてありがとな!」

 今の俺の姿がPCボディなのが悔やまれる。生身の俺だったらもっとこの喜びが伝わったかもしれないのに。
 デコ君の背中を思いっきりバンバン叩いてやる。俺は笑ってたし、デコ君も笑ってた。

 †    †    †

「さて、最初からクライマックスで、もう何か『あれがエンディングでも良いんじゃないか?』とか頭を過ぎったが、流石に意味不明すぎる。ラスボスが姫様になるくらい訳が分からない」

 あの後、とりあえず【wis拒否】の理由を説明し、今後連絡取りやすい様に【フレンドアドレス】を交換して、互いに連絡が付けられる様にした。
 ちなみに今回、どうやって待ち合わせしたかと言うと俺が一方的に【wis】で「【アリーナ】に参加するつもりだから【闘争都市】の前に来るように。来ないとぶるぅぁあああぁぁ!」って送ってやった。そしたら来た。本当にデコ君は良い奴である。
 そんな良い奴だからデコ君は俺のどうでもいい発言に一々律儀に反応する。

「……アレは、不思議な気持ちになったね」

 いつもの様に笑っているデコ君だが、言葉の選び方から考えると、多分苦笑いなんだろう。

「率直に言えよ。訳が分からなかったって」

「でも……言いたいことは、何となく分かったから」

「お前、感受性良すぎだろ。アレで分かるとか、とんでもないな」

 そんな感じでぐだぐだと話をして居たが、不意に転機は訪れる。

「ゴメンよ~遅れた~。それにしてもおでこ君が頼みごとなんて珍しいね~。どうしたの~」

 そんな聞き覚えのある声がする。デコ君と一緒にそちらを見る。今来た相手と目が合い、お互いに驚いた。何故なら、予想しなかった見覚えのある人が居るからだ。

「猫耳頭巾さんじゃないか。また会ったな。というか、デコ君知り合い?」

「【フレンド】。……【アリーナ】は、3人だから」

「おでこ君が【アリーナ】に用があるなんてどういうことかと思ったけど~。検証君絡みだったのか~。あと、また会ったね検証君~。その節はどうも~」

 何と言うか、合縁奇縁って奴か? そんな感じでお互いにこやかに挨拶を交わしたら不思議そうな顔でデコ君が聞いてくる。

「……二人は、知り合い?」

「あー。知り合いって程じゃないが……この前ゆうかりん討伐PTで一緒になったんだ」

「いや~、公式HP見たら驚いたよ~。野良PT組んだ相手が二つ名授与されてるんだもの~。それはそうと二つ名おめでとうね~。【お祝い】~」

 先ほどの様に羽の着いた女性が星を振りまく。うん。気分良いね。

「祝ってくれてありがとう。それにしても二人が【フレンド】とはなぁ。世の中狭いというか、何と言うか……まぁ、確かに二人とも、何だか似てるしな」

 ヤギとかカバとかネコとかイヌとか、そういうのが日向ぼっこしてるような。
 なんかそういう長閑な雰囲気しかしてこない。

「気があった、から」

「馬が合ったとも言うね~。会話してて疲れない相手って大切だよね~」

 それにしても、本当にこのメンツだと話が進まないな。俺は人の事言えないけど、半分以上わざとだから、こういう天然さんたちを見ると凄い心が和む。このいわば和みフィールドが他のメンバーからやる気とかそういう何かを奪って満足感で満たしていくんだと思うんだ。しかしこれじゃ駄目だ。また俺の貴重なゲーム時間がトークタイムと化してしまう!

「んじゃまぁ、本題に入るとして……気を利かしてもう一人呼んだってことは、デコ君は俺の【アリーナ】の誘い、受けてくれるって感じで良いのかな? 猫耳頭巾さんはどうする?」

「嫌だな~。二つ名持ちのPCを一撃で倒すような人と一緒に【アリーナ】に出れるなら断らないよ~」

 それじゃあ早速、とPTを組む。
 俺は色々やったから、この前からLvは2上がって40に。猫耳頭巾さんはLv78。デコ君はLv81だった。

「お~、おでこ君もまたLv上がってるね。この間までLv79だったのに」

「……【検証者】授与の話を聞いて、やる気出た」

「ああ、デコ君、見た目に似合わず負けず嫌いだからな」

 ニマニマ笑いながらデコ君の顔を見る。デコ君は苦笑いしながら槍の石突の部分で俺をツンツンしてくる。何だこの野郎やるってのか。
 さっきと同じ様に言いがかりをつけながらヘッドロックする。即座に降参するデコ君。素直でよろしい。

「ん~。二人とも仲良いね~」

「そうだろ良いだろ猫耳頭巾さん。だがこのポジションはやらないぜ。俺の唯一の癒しだからなっ!」

「だってさ~、そこん所どうなの? おでこ君」

 俺の実は結構本気な発言に、ふざけながら話をデコ君に振る猫耳頭巾さん。デコ君は予想通り曖昧に笑って俺の頭を石突で小突く。

「怒られたぜよ」

「怒らせた~」

「……怒ってない」

 しかし完全に男子中高生のノリである。嗚呼、懐かしき哉あの青春の日々。

 †    †    †

 ブー、というあの映画とかが始まる時に鳴る低めのサイレンというか、警告音というか。まぁ、そんな感じの音とともに、ワァッと歓声が沸く。

「さあ、先ほどの試合の熱気も冷めぬまま! 選手、入☆場★です! 観客の中には【掲示板】の書き込みを見て、急いでこの人たちを見に来た人も居るのではないでしょうか!? チーム【検証デコ頭巾】! 全く持って意味の分からないチーム名かと思いきや見たままそのままだったー! あんたらのセンスはもう死んでいるー!」

「ド喧しいわ実況さん! 俺のつけたチーム名だぞ!」

「あーっと! 試合前から既にヒートアップしているようです! これは実況である私も身の危険を感じます!」

 実況さんが目立つ位置でクルクル回りながらそう言う。
 途端観客が「マナー悪いぞー!」「二つ名持ちカッケー!」「応援してるぜー!」「さっさと始めろー!」と思い思いの言葉を叫び始める。

「では、登録データ紹介と行きましょう! チーム【検証デコ頭巾】の平均Lvはなんと66.3! 【竜賢宮】の登録チームではぶっちぎり最低の平均Lvです! リーダーであり、チーム名の『検証』担当。今を生きる時の人、注目の【検証者】はLv40の【ディレッタント】! 色々突っ込みどころ満載ですが、とりあえず【紅魔宮】に出れるLvでLv無制限の此処、【竜賢宮】に居るのは完全に場違いです! 来る場所間違えてねーかー!?」

「Lvの違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる!」

「熱いコメントありがとうございます! そしてチーム名の『デコ』担当、このチームでは最大であるLv81の【アクセルランサー】! 目立つのはやはりその武器【神槍ヴォータン】か! 私、実はアイテムコレクトが趣味なのですが、この武器は中々手に入れるのが大変だった覚えがあります! それでは意気込みの方を、コメントどうぞ!」

 実況から突然振られて、観客席の方をきょろきょろと見回していたデコ君が驚き、あわあわしながら何とかコメントを返す。

「あ……その、勝ちます」

「初々しいコメントありがとうございます! 慣れてない様子なりに、頑張るうんぬんではなく勝つと宣言した辺り、何か必勝の策があるのか!?」

 自分のコメントを受けての実況さんの言葉に、更に慌てながらブンブン槍を振ったりしてるデコ君。ふははは、負けず嫌いの性格は隠さないと大変なことになるぜ。今みたいに。
 周りからの歓声が更に大きくなる。どうやら大人気のようだ。気持ちは分かる。

「最後はチーム名の『頭巾』担当、Lv78の【ウィザードリィ】! PT編成的にその仕事はダメージディーラーか!? しかし、そうなると全体的に防御力不足が目立ちそうです! その辺について、このPTで一番落ち着きのあるご様子のこの人はどう考えてるのでしょう!?」

「検証君が何とかしてくれるよ~」

「仲間を信頼するコメントありがとうございます! コレが投げっぱなしジャーマンだとか無茶振りじゃないことを祈るばかりです! では、対戦相手の入★場☆です! こちらはアリーナ常連チーム【三本の矢】! 平均Lvは――――」

 俺らの紹介も終わり、相手チームの紹介に入る。実況さんも大変だなぁ。多分好きでやってるだろうから苦には思ってないだろうけど。

「さて、戦闘プランはさっき話した通りだ。二人とも、準備は良いな?」

「おっけーだよ~」「…………」

 猫耳頭巾さんは気軽に答え、デコ君は頷くことで了解の意を伝える。

「それでは! 試合! 開始ぃぃ!」

 実況さんの言葉と共に試合開始のブザーが鳴った。

 †    †    †

 突然の話だが、俺は随分と前に、幽香に『最強の攻撃を実現させろ』と言われたことがある。
 俺はあくまで『与えられた結果から、それに関わる要素を探しつつ、その要素がどれだけ結果に影響を出すかを逆算する』という『検証』が本業であるが、反面、デジタルデータから成り立つこの世界では、リアルにおける物理学者にも近い『世界の構成要素からその法則、成り立ちを理解する』存在であると自負してる。
 だから、考えたのだ。『最強の攻撃』を。

 †    †    †

「さあ、俺にやられたい奴は掛かって来い! って言ってるそばから3人キター! お前ら! 最初にLv40の敵を3人で落とそうとか、セコイ考え方してんじゃねぇ!」

「勝てば官軍!」

 試合開始のブザーと共に、敵が2人接近。もう1人の敵は後ろで銃を構えているが、どう見ても俺を狙ってます本当にありがとうございました!
 ちなみに、猫耳頭巾さんとデコ君は当初の予定通り、開始と同時に左右に散開している為、俺のフォローなんざ出来ない。相手は完全にしめた、と思ってるだろう。

「「まずは一人!」」

「こっちの、セリフだっての!」

 俺に迫る敵の剣2本と、ついでに弾丸を無視して、俺は油断してるリーダーの顔面をぶん殴った。

 †    †    †

 まず真っ先に思いついた要素が『必殺』。
 敵HPを0にすることを目的とした要素。一般的な即死技や、防御無視でHP上限値を超える攻撃、そして、単純明快な大火力。
 『最強の攻撃』は、その攻撃で戦況を左右する決定力が求められる。

 †    †    †

「【検証者】のカウンターが決まったぁー! ダメージ値はカンストの9999! 9999です! 何だお前バグってんのかー!?」

「実況さん本当に俺の事好きだなオイ!」

「私、ネタになる人は大好きです!」

 相手の攻撃は全てミス。加えて、敵リーダーである【ソードマスター】を落とした事で、接近していたもう一人の敵は即座に警戒の為、後退した。
 俺は当然追撃。腕を振るう、が。

「そんな見え見えの攻撃、当たるかっ!」

「対戦相手も【アリーナ】常連の意地を見せる! 【検証者】の攻撃は当たらなーい! やはり【検証者】は戦闘を専門とはしてないようです!」

 相手も必死。というか、まぁ、【アリーナ】常連の前衛に攻撃を当てる事が可能なほどのプレイヤースキルが俺には無い。何度も攻撃するが、全て掠りもせず避けられる。
 相手の反撃はミスだし、こちらの攻撃が当たれば9999ダメージ出せるのだが、如何せんその判定すら発生しないようでは勝てない。
 ……これが【検証者】である俺の限界。ステータスの絶対的優位性があるにも関わらず、戦闘を専門とする相手の舞台では、一歩劣るのを認めざるを得ない理由である。

「なら、専門にしてる舞台で勝負するだけさね」

 ――――【スキルメイキング】開始。

「デコ君! 猫耳頭巾さん! 少しの間任せた!」

 †    †    †

 次に必要に迫られた要素が『必中』。
 ダメージを発生させるのに必要な要素。命中判定をしない攻撃魔法、命中率100%となる高命中値。そして、そもそも判定を行う為に必要な相手のPCボディに攻撃を当てる、ということ。
 『最強の攻撃』は、絶対とも言える確実性が求められる。

 †    †    †

「【検証者】が突如【メニュー】を開き、動きを止めたー! 戦況は前衛が【アクセルランサー】と【ツインブレード】、後衛が【ラストガンナー】と【ウィザードリィ】という展開になっている! 【検証者】は何をしているんだー!」

 さて、サクサク作らなきゃな。
 分類は、攻撃魔法。ランクは小魔法。魔法威力は最低の1。銃口補正も最低の0%。代わりにホーミング性能を100%。属性は噛み合い難い夏・冬・土。種別はブリッド。単発ヒット。貫通無し。射程10m。ヒット硬直は0で良いや、当たれば死ぬし。MP消費はデフォ。あとの細々したのはデフォで……ポイント余ったな……射程に全振りで良いや。名前もデフォルトっと。

 ――――【スキルメイキング】完了。掛かった時間は5.6秒か。

「【ホーミングブリッド】」

 狙ったのは後衛の【ラストガンナー】。相手は俺の攻撃は『必殺』だと直感したのだろう。即座に射線から体をずらすが、ホーミング性能100%だからそれに合わせて弾丸もずれる。驚いた顔をし、しかしそれでもバックステップで射程外へ出ようとするが――――残念。射程とホーミングが特徴の射撃になったからな。当たってダメージ9999。

「攻撃も魔法もダメージカンスト!? おま、ふざけんな!」

「ふあははははは! 勝てば官軍! 良い言葉だ!」

「悪役! 悪役が居ます! 【検証者】は悪役だったー! 大切な事なので何度でも言いますが、【検証者】、どう見ても悪役です! 本当にありがとうございました! 私、対戦相手に同情を禁じえません!」

 対戦相手の【ツインブレード】が、デコ君の攻撃をなんとか裁きながら必死のツッコミを入れてくる。俺はさっきの言葉をそのまま返してやるが、実況が俺を悪役呼ばわりし、観客が盛大にブーイングしてくる。
 まぁ、俺だってこんなトンデモキャラが居たら文句言う。だが、これはラック補正値による仕様に基づいた結果。俺の実力なのだっ。

「さあ、足掻いて魅せろ。【ホーミングブレッド】!」

「検証君、本当に悪役ちっくだよ~……」

 脇では既に仕事を放棄している猫耳頭巾さん。お前まで俺にツッコミ入れてくるか。何だ俺は。別にボケてるつもりは無いぜ。
 そして俺の放った弾丸は、【ツインブレード】に迫り――――

「っ!? 死ねるかぁっ!」

 ――――左手の武器でパリィング。左の武器は即座に【壊れた武器】となるが、右手の武器だけでデコ君の武器を大きく弾き、その一瞬の隙に【壊れた武器】を収納、即座に別の武器を左手に持って、更なるデコ君の追撃を両手の武器で捌き続ける。そのスーパープレイにワァッと歓声が沸く。

「凄い! 【ツインブレード】単独で今の攻撃を無傷で捌いたぁー! 魔法見てからパリィの判断も、【アクセルランサー】相手の弾き返しも、武器換装も完璧! 本当に魅せてくれたぁ!」

「……うわぁ。【アリーナ】常連、舐めてたな。カッコイイなぁ」

 ――――【スキルメイキング】開始。

 †    †    †

 最後の要素が『常時』。
 いわば『汎用性』である。『デメリット無く』『場面・状況に左右されず』『行使が容易』。そういったこと。
 例えば、今の俺の【ホーミングブリッド】はパリィを初めとした『一度限りの攻撃無効』で防がれる。そういった『特定の状況では無力』という事である。
 『最強の攻撃』は、『何時如何なる場合でも』『必殺』『必中』を求められる。

 †    †    †

 ――――【スキルメイキング】完了。

「2番煎じとか、印象悪いとか、色々と思う所はあったんだが……ま、仕方ないよな。相手が悪かったんだ」

 今度は、油断も手抜きもしない。詠唱は既に始まっている。ランクは大魔法の為、それなりに詠唱時間が必要なのだが。仕方ない。

「俺が『最強の攻撃』を考えた時、一つの完成形として考え付いた魔法。それを俺用に合わせて調節したもの」

「【検証者】が動いたー! というかコイツ、戦闘中に【スキルメイキング】してたみたいだー! 事前に作ってこい、とは言えないのがこのトンデモステータスっぷり! 本当にLv40なのかー!?」

 実況が何か言ってるが、今は応じるつもりは無い。俺はこれでもデコ君に負けず劣らずの負けず嫌いだ。
 スキルネームはデフォルトじゃあない。流石にこれをデフォルトネームで使ったら、怒られそうだ。

「さあ、今度は俺が魅せる番だ」

 発動と同時に、扇子の骨の様に散る様に発射される5発のレーザー。そのレーザーはホーミング性能頼みで弧を描きながら敵を狙う。そのホーミング性能は言うほど高くない。コレなら回避も可能だろう。
 俺の魔法に気づいたデコ君はバックステップを踏み、その射線を邪魔しないように後退する。
 対して敵は、避け、右手武器で弾き、避け、左手武器で弾き、避け――――

「【絡め取るマスタースパーク】!」

 ――――最後は俺の手から放たれる極太のレーザーに飲み込まれた。
 しかし、飲み込まれる直前、魔法発動が見えた。防御結界で防ぎ、結界破りの固定ダメージのみで凌ごうという判断だろう。この魔法に対して初見にも関わらず、正直トンでもない反応速度と判断力だ。が、それも無駄だ。
 何故ならこの魔法は。

「残念ながら、この本命のレーザーだけは多段ヒットだ。ま、お前は頑張ったよ」

 極太レーザーの照射が終わった頃には、既にPCボディの消滅エフェクトすら終わっており、敵は居なくなっていた。

「試合☆終★了!! 勝ったのはチーム【検証デコ頭巾】! というか最後のはどうみても風見幽香の【マスタースパーク】! 色々と良いのかー!? 私、風見幽香が【闘争都市】を襲撃するのではないかという不安でいっぱいです! ともあれ、観客の皆さん、この良い勝負を見せてくれた選手たちに盛大な拍手をお願いします!」

 そして、今までに無いほどの歓声が響く。いやぁ、今日も良い仕事した。

 †    †    †

 結論を言うと、俺は『最強の攻撃』を実現できなかった。
 ただ、『最強に近い攻撃』として成立させたのが、幽香の【マスタースパーク】である。
 敵を捕捉し続けるだけの銃口補正と、PCボディによる回避をほぼ不可能とする広範囲攻撃、そして5秒間の最大10回にも及ぶ多段ヒットと幽香の高Intと魔法威力に依存したオーバーキルにも等しい火力。
 幽香には、【格闘】を行いながら、口では『詠唱』などと無意味なことをしつつ、【格闘】スキルを意志発動し、【マスタースパーク】発動に合わせ敵を狙う。などと言うトッププレイヤー必須の戦闘センスと【キャストアクション】があったため、それで一つの完成とした。
 だが、俺にはそうしたセンスがない。そのため、相手の動きを阻害する5つの誘導レーザーと、本命の広範囲レーザーでトドメとした。

 †    †    †

「いや~。やっぱり検証君は大活躍だったね~」

「いやいや、俺一人じゃ何だかんだ勝てなかったと思うなぁ。ラストの【絡め取るマスタースパーク】だって銃口補正は低めだから、実は距離を詰められたら避けきれる魔法だし、大魔法は詠唱が長すぎる その点、前衛のデコ君には負担掛けたなぁ、ありがとなデコ君」

 猫耳頭巾さんの言葉を受けて、謙遜……というか、事実をネタバレし、今回の本当の功労者に話を振る。
 その功労者は、照れた様に笑ってるだけだが。

「本当にお前は、笑ってればそれで済むと思ってるなぁ。大体あってるけど」

 ともあれ、初出場で全員死なずに勝利を収めたことだし、簡単なお祝いでもして、今日は終わりかな。

 †    †    †

 今日の検証結果――――【アリーナ】常連は俺以上。プレイヤースキル的な意味で。



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オマケ~観戦してた中の人~

「【マスタースパーク】ってパクられる運命なの……? いえ、でも此処では寧ろ本来の考案者はあいつの方だし、パクられたとは言い難い……いやいや、でも【マスタースパーク】は【風見幽香】の魔法だって一般的に知られてる訳だし、使い手は【風見幽香】だから……あー、もう。別にこっちだってケンカを売りたいわけじゃないのに、どうしてこう、ケンカ売らざるをえないことを……いや、逆に考えるべきか。これを引き換え条件に【実りやすいマスタースパーク】とかを考えさせれば……!」
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【ラスボスが姫様になる】
元ネタ:シャーマンキング
概要:打ち切りの結果。ラスボスが救いを望むお姫様という展開で『プリンセス・ハオ』という終わり方をした。アレを読んだ大半の人が笑ったか困惑したかのどちらかだっただろう。

【ぶるぅぁあああぁぁ!】
元ネタ:テイルズオブディスティニー2
概要:我等が英雄 バルバトス・ゲーティアのセリフ。というか、その中の若本さんの掛け声。漢らしい良い声である。

【あんたらのセンスはもう死んでいる】
元ネタ:北斗の拳
概要:必殺の暗殺拳を食らい、既に死んでいることに気づかない敵(たち)に主人公 ケンシロウが親切にも死んでいることを教えるセリフ。元ネタでは『お前はもう、死んでいる』という言葉と共に敵が「たわばっ」とか「あーだーもーすーてー!」とか言いながら死んで行く。

【Lvの違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる!】
元ネタ:機動戦士ガンダム
概要:いわゆる強さの指標が、決定的な戦力差である、という概念を突き破るセリフ。元ネタでは『モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる!』と言った。

【神槍ヴォータン】
元ネタ:.hack//AI buster
概要:作中作The WorldでGMの持つデバッグウェポン。武器に敵対者をデリートするスキルが付けられており、元ネタでは、とある存在をデリートしようとした際、破壊され、ゲーム内より失われた。(後に運営が復元したが、その復元したものも似たような末路を辿っている)



[33160] 検証結果が小説よりも奇なりだった。【本編1】
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9
Date: 2012/06/01 20:25
いわゆる本編。ギャグ少なめ。
8割が東方成分で出来てきます。
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感想読んでいくらかの助言に従って

・風見幽香が登場しなければならなかった理由。
・作中ゲーム内での著作権関係。
・作中時代と使われている会話ネタの関係。

を主体に完結までのプロットを構築。
現段階では後6話で完結。7割くらいが東方成分。幽香が主役。
そんな感じになりそうです。

ただ方向性の急転換と、後付設定乱舞の結果、本編の雰囲気は今までと異なる感じになりそうです。下手したら別作品じゃね? って程度に。

ともあれ、本編進行中も、合間に今まで通りネタ傾向の話も投稿する(つもりな)ので今までのを楽しんでくれてた方も次回投稿をお待ちくださいな。
幽香が本編で主役な分、幽香の登場は少なめで、他のキャラが優遇されそうです。あと東方成分も少なめ予定。
(上記は感想板に書いておいたんだけど、良く考えたら此処に書かなきゃ駄目じゃんってなったので追記。あと本編読まなくても合間のネタ話では何も困らないので本編避けてネタだけ読んでもおk)
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 それを見つけたのは偶然だった。
 【アリーナ】に行った帰りにたまたまアオイと会って、そのままアオイとスキル関連について話がてら、適当に狩りをし、調節したスキルの様子を見るために、適当なエリアボスを狩ろうという話になったのだ。
 そして、向かったのは【博麗神社】。このMAPではMOBは24時間に1回のポップしかしない【ハクレイのミコ】のみの特殊なMAPである。エリアボス1匹であるため、横槍が入る心配がなく、新しく調節したスキル試しには丁度良い、と考えてのことだ。
 この特殊なMAPは他にも【グリーマレーヴ大聖堂】、【無限回廊第一層】、【エアフォルクの塔1F】、【瘴気ストリーム『?』】、【堕ちた都市レックス】など、似たようなMAPが存在する。それらに共通する点は『リポップが24時間のエリアボスのみが存在し、その奥に質問が書かれている』こと。

「先客が居るのか? 珍しいな」

「本当ですね。こんな辺鄙な場所に一体誰が?」

 しかし、そういった特別なクエストに関係しそうな気配は非常にするものの、ボスを倒してもドロップは何も無く、奥にある質問にはヒントが一切無く、一時期は攻略勢が調べまわったのだがそれでも一切のクエストやイベントに無関係であり『今後追加されるクエストの前倒しMAP公開だろう。今は無意味なMAP』という結論が出て随分と経つ。
 そのため、そうそう人など居ないのだが……まぁ、俺たちみたいな考えの人間が来てもおかしくない。もしくは観光かもしれんし。どちらにしても物好きである。折角なので顔でも拝んで、さっさとさほど遠くない【グリーマレーヴ大聖堂】にでも――――

「――――【四季のフラワーマスター】? どうしてこんな場所で」

 アオイが俺の疑問を口に出してくれた。
 そこに居たのは幽香だった。【ハクレイのミコ】と戦っており、こちらに気づいた様子は無い。アオイが反射的に身を隠し、俺も一緒に隠れたのが原因であるような気もするが。
 ともあれ、俺もアオイと同じ疑問を抱いている。正直、ここには寂れた神社とそのミコ(っぽい奴)くらいしかない。幽香が好む綺麗な植物があるMAPではないため、わざわざ来ないと思うのだが……
 そんなことを思ってるうちに、幽香は危なげなく【ハクレイのミコ】を倒した。そして奥の寂れた神社に向かう。多分、質問を確認しに言ったのだろうが……攻略勢が総出で掛かって投げたのだ。質問に答えることなど出来ない、と思うのだが。
 そして、【賽銭箱】の前で立ち止まる。確か【博麗神社】の質問は【賽銭箱】に刃物か何かで刻まれた様に書かれてるんだっけ。

「……***」

 幽香が何事かを言った。
 直後、転送のエフェクトと共に幽香が消えた。

「……うん?」

 即座にチャット欄を確認。この距離なら耳で聞き取れなくても、チャット欄には書かれる筈。
 そこには、風見幽香の名前と、その発言として「れいむ」という単語が書かれていた。

「『れいむ』ですか……?」

「……行くぞ。これ、もしかしたら此処の質問の解答かもしれん」

「解答って、あの質問はヒントも無しに解けるようなものじゃ……」

「詳しくは俺も知らないよ」

 ともあれ、質問文を確認すること自体は別に構わないだろう。
 そう思い、アオイを置いてさっさと【賽銭箱】を確認しにいく。アオイも置いていかれては堪らないとすぐに後を着いて来たが。

「質問文は……あった。これか」

 【賽銭箱】に刻まれた文字は『博麗の巫女の名前を答えよ』と書かれている。
 博麗の巫女。【ハクレイのミコ】、か。あのMOBには名前があるらしい。となると、それが『れいむ』なのか?

「……これは、答えたら転送されるのでしょうか?」

「多分な」

 さっきのワードが正解の解答なのだろう。だとして、追うべきか? 幽香はどうやったか知らないが、どうにかこのクエストだかイベントだかの答えを探してきたんだ。PTに誘われたならともかく、そうでもなく後を追うのはな……

「…………な、何ですか?」

 ……かと言って、この隣で行きたそうにウズウズしてるアオアオが居るようじゃなぁ。下手したら一人で行きそうだ。いや、まぁ、最近の言動を見るに、お互い中の人的には仲が良いみたいだから、もしかしたら幽香も大して怒らない気もするけど……
 ――――うっかり幽香が怒るようなら矛先が俺に向いた方が後々を考えると楽か。

「良し。とりあえずは答えてみよう。それが転送のトリガーならトリガーだ。その先に幽香が居ても不可抗力。ってことにしよう」

「え、ええ。そうですよね! それに、【四季のフラワーマスター】が一人でこんな所に居たなんて、また悪巧みを考えていると言ってるも同然。私が見逃す道理は無いのです!」

 道理が云々言ってるが、そう言うのは無理で道理を押し通すって言うんだ。まぁ、別に良いけどさ。幽香とはまた違ったベクトルでこの人も大概アレだよなぁ。

「じゃあ試すから合わせろよ? せーのっ」

「「れいむ」」

 転送エフェクトと共に、視界が歪んだ。

 †    †    †

「――――此処、は……?」

 転送されて出てきた場所は、ドーム状の建物の中だった。周囲には空中を漂う複数の『少女祈祷中……』の文字。そして、床や壁には花の模様。これは、蓮の花か?

「【四季のフラワーマスター】は居ない様ですね。多分、あの扉のどれかを進んだのでしょうが……【立て札】がありますね。見てきます」

 俺とほぼ同時に転送を終え、周囲を確認したアオイが口に出す。アオイが言っている扉は……全部で11。【立て札】は、壁際に立ってるアレ1つだけか。
 アオイが【立て札】を見るなら……【メニュー】を開いてMAP名の確認でもしておくか。

「え、っと。【東方の間】……? つまり、あれか。【西方の間】とか類似した場が存在する可能性は高いな。【博麗神社】に似た特殊性のある【グリーマレーヴ大聖堂】や【無限回廊第一層】なんかを考えると、まず間違いは無い、か」

 東方。十二支では卯。八卦では震。五行では木。四季では春。四神では青竜。四象では少陰。両儀では陽。
 重要そうなのは五行と四季と三精だろうが、残念ながら、三精だけはいくら調べても出てこなかったので、多分独自設定だと思う。
 ともあれ、東という情報から出てくるのはこの程度。対木と対春だけは装備変えて100%にしておこう。どちらも対応した属性だから両方を100%にするのは簡単だし。
 三精は……四象と両義から、対日を比較的高めにしておけば良いかな。

「これは……なるほど、本気でかかる必要がありそうですね」

 ちょっと来てください、とアオイに呼ばれ、【立て札】を読んでみれば、なるほど。アオイの言うことも分かる。
 その【立て札】には、題目として一行目に太字で『ゲームとリアルの境界』と書かれており、この先のMAPでは死ぬ=キャラロストとなっている旨が書かれている。『コンティニューなど出来ませんわ』とか、中々にえげつない。というか、PC死亡=キャラロストとか見たこと無いぞ。マジか? マジなんだろうなぁ。わざわざ注意書きされてるってことは。ウィザードリィかっての。
 また、『夢と現の境界を知りたいのなら、全作の証を集めなさい。証は6ボスが持っているわ』とも書かれている。何だよ6ボスって。連続ボスバトルか? 『魔王決戦』ではあったらしいが、逆に言うなら連続ボスバトルなぞ『魔王決戦』だけだった筈。だとしたら、難易度は最高クラス。いや、キャラロストの危険性を含めるなら、難易度は最高、か。

「どうしますか? 流石に事前情報無しに、ましてや準備も無しに『死』の危険性を冒すのは抵抗がありますが、【四季のフラワーマスター】は進んでいるようですし……」

「擦れ違うのも怖いし、幽香がいつから此処に来てるのかは知らないが【ハクレイのミコ】撃破からこの【東方の間】に来るまでの迷いの無さ。俺らがすぐに追いかけたのに、その時にはもう進んでるっていう手馴れた感じ。この二つから考えるに、多分、幽香は俺たちより此処について情報を持ってる。お前の言う『死』……つまり、キャラロストのリスクを考えるなら、合流しない手は無いな。つまり、待つぞ」

 その間に調べることもあるし、と言いながら既に調べ始めている。
 物理系スキルの発動の確認。問題無く発動。消費MPも変化無し。魔法系スキルの発動の確認。物理系スキルと変わりなく問題無し。回復アイテムの使用の確認。回復量含めて問題なし。ディレイも変わらず。転送系アイテムの確認。……発動不可。
 面倒な。と思ったら、【ワープスクロール】ならMAP内移動は問題無し。MAP外を試してみたが『別サーバーへの移動は出来ません』となるようだ。この【東方の間】を含めた特殊なMAPは、俺の【ホーム】や通常のタウンなどが在るMAPとは別サーバーで動いてるらしい。多分、特殊なイベントMAPなどに分類されているのだろう。
 他にも色々な確認を行った。アイテムの使用確認は当然。自然回復速度の確認や空腹度の低下速度、スキル値上昇。果てには【壁】や【少女祈祷中……】を攻撃し、破壊不能オブジェクトか否かの確認。一応言っておくと、破壊不能オブジェクトだった。残念。
 アオイは最初の内は俺を興味深そうに見ていたが、途中で飽きたのか、本来の目的であるスキル調整を細々としていた。時々、俺にデータ面での助言を求め、あーでもないこーでもないとブツブツ言いながら自分の【メニュー】とにらめっこしてた。

 †    †    †

 さて、どの程度時間が経ったかしらないが、正直、今日の所は諦めて、明日にでも中の人に聞いてみるか、とか思ったころ。
 バンッ! という大きな音と共に扉が開き、幽香が倒れるように飛び込んできた。何事かと驚いてるアオイは硬直してるし、俺だって驚いてる。
 幽香の様子は、パッと見でこれ以上ないくらい切羽詰っている。このゲームではどれだけ走っても疲れなど感じないが、幽香は四つん這いになりながら、左手で日傘を握りしめ、右手は苦しそうに胸を押さえ、息を切らしながら毒づいた。

「この、根性、無しがっ! ルーミア、程度に……無様に、逃げてぇっ!!」

 何と言うか、尋常じゃない。何だ? どうした? 何が起きた? 別にコイツに『実は心臓が弱い』なんて病弱設定はないからリアル側で問題が起きたわけじゃないだろ。それに、この声を荒げる感じは、『幽香』というより、素に近い。いくら人が居ないと思ってる場所でも、コイツが『風見幽香』のPCボディでこんなことするのは変だ。

「どうしたんだ『幽香』。お前らしくない」

「なっ!?」

 俺が声を掛けると、体を跳ね起こし、俺を見る。そこには驚愕のみ。

「アンタ。どうして、何で? 嘘。アンタは『東方』を知らない筈で」

「落ち着け。深呼吸をしろ。それから、お互い話を」
「黙ってよ!」

 怒鳴り、俺の言葉を遮る幽香。
 ヤバイ。
 ヒスってる。
 どうすれば良い?
 リアルじゃなくて助かった。
 俺の思考が支離滅裂に。ああ、俺も動揺してるらしい。幽香に胸倉を捕まれた。何すんだよ。

「アンタ、お仲間だったワケ? ねぇ、何で黙ってたの? 私、死ぬ気で。死ぬかもしれないって思いながら、此処に来て。何なのよ、この世界。変でしょ? 変よね? ヴァーチャルリアリティーって、どこのSFよ。今何年だと思ってるの? 西暦2012年よ! 俺は死んだの? アンタは死んでこっちに来たワケ? 答えてよ。答えなさい!」

 訳が分からない。何を言っている? 発狂したか? メンヘラ? ゲーム脳?
 『お仲間』? 何のだ? 『黙ってた』? 知らんわ。
 『変』って何がさ。VRのことか? 別に、確かに新しい技術だけど、変じゃない。たった2、30年前は電卓一個が十万だったんだぞ? ましてや、VRは元々軍用に開発された(らしい)代物だ。普通だ。SFでも何でも無い。
 『俺は死んだの?』ってどういう意味だ。お前は生きてる。俺だって生きてる。死んでない。『こっち』って何処だ。どういう意味だ。
 とりあえず。

「質問に答える。だから、離してくれ」

「――――っ!? ご、ごめんなさい」

 言うと、多少は冷静になったのか胸倉を掴んでいた右手を離してくれる。

「まず、俺にはお前の言ってる事が殆ど分からなかった。だからお前の質問には『分からない』とか『知らない』とかしか返答できない。だから、詳しく説明して欲しい。後――――アオイ。いつまで固まってる」

 俺の返答にふざけるな、と叫びそうな気配が幽香からしたのでアオイに振って、その機を逃す。言われるまでアオイの存在に気づいてなかった様で幽香は驚きが怒りを上回ったようだし、1対1の会話ではなく、アオイを含めた3人での会話なら、感情的な発言も多少は減るだろう。

「悪いなアオイ。お前の主義には反するだろうが、今は『なりきり』関係の煩わしい話は無しだ。幽香がこの調子だしな。それと幽香。俺に質問をぶつけるのは構わないが、事情が分かってないアオイにも分かるように説明してくれ。そうすれば、俺も分かりやすい」

 要は、アオイをダシに幽香に冷静になってもらおうって考えである。我ながらセコいと思うが、それで幽香が落ち着くなら万々歳。俺はいくらでもセコくなる。

「なに。アオイはお仲間じゃないってワケ? じゃあ何で此処に居るの? 連れて来たの?」

「そんな感じだ。だから、アオイに説明頼む」

 とりあえず、否定はしない。コイツのこの様子じゃ、今は何を言っても言い訳程度にしか聞かないだろう。
 今は俺が如何に幽香の言ってることを理解できるかという点と、幽香がどれだけ冷静になれるかという点。この2点が重要だ。

「……分かったわ、説明してあげるわアオイ。嘘みたいな本当の話よ。黙って聞きなさい」

 †    †    †

 幽香曰く、前世は男だったらしい。あと、本人の名誉のため言っておくがネカマじゃない。リアルは女だ。
 で、その前世ってのが、平安時代だとか、そういう昔じゃなく、今――――つまり、西暦2000年前後だという話だ。
 ただ、その前世と今世の違いは様々な所に多々あり、サブカルチャーな面であったり、歴史であったり、科学技術であったり。それが酷く気味が悪いらしい。別にVRがあっても良いと思うし、明智光秀が織田信長を討つって何の冗談だと思う。幽香曰く『私からしてみれば蘭丸なんて小姓が信長を討ってる方が意味分からない。どっちも結局秀吉に負けてるから変わらないけど』だそうだ。
 ともあれ、そうした違いを気持ち悪いながら受け入れていたら、このMMOを見つけ、前世で存在した『東方project』という物や他にも『この世界では存在しない聞き覚えの有る物』をいくらか見つけた結果、自分の『お仲間』。すなわち、前世の世界を知る人間が製作陣にいると考え、他の『お仲間』探しも含めて、分かる人には分かる『風見幽香』として活動したらしい。『風見幽香』には元ネタがあったのか。道理で『なりきり』キャラにしても設定細かいと思った。『私の黒歴史ノートの結集作』とかじゃなかったのか。

「――――そういう訳で、このMAP【東方の間】に来れるのは私が俺だった世界……前世の世界を知る人しか入れないの。そこに居たのが、貴方たち」

「……な、なるほ、ど? その、私は前世とか信用してませんが……う~ん……」

「OKだ。分かり易く説明してくれて助かった。それで、さっきの質問の返答だが」

「別に、答えなくても分かるわよ。私の勘違いでしょ? 大方、私の後を着いてきたってところね」

 さっきとは打って変わって冷静に物が考えられるようになってる。うん。助かる。

「アオイの方はともかく、アンタは付き合いが何だかんだ長いもの。その間ずっと私を騙せる様な演技派じゃないわよアンタは」

「さっきの取り乱し様とは打って変わってこの仕打ち。俺が一体何をした」

「……私が男の時は気づかなかったから、言ってあげるわ。『男のチラ見は女のガン見』よ」

「何それ怖い」

 いや、結構マジで。俺は比較的性欲が無い人間だって自他共に認めてるけど、それでもバレテーラなの? 女って怖い。しかも中身は元男。結構本気で怖い。色んな意味で。

「安心しなさい。私の意識としては女100%よ。『男の記憶』を持ってる、程度の感覚だから」

「……【検証者】も所詮は男という訳ですね。男ってどうしてこう、下半身直結で物を考えるのか」

「アオイがどことなくお嬢っぽいのは把握した。お前リアルが綺麗だったら許される発言だが、ブスだったら『自意識過剰乙ww』ってなるから気をつけろよ」

「なっ!? し、失礼なっ!!」

「む。悪いな。今のは善意の助言だったんだ。気を悪くしたなら謝る。すまん」

 何だか何時もの雰囲気になってきた。うん。やっぱこうじゃなきゃな。ゲームは楽しんでやるものだ。さっきまでの幽香は絶対楽しんでなんか居なかった。これは確実だ。

「それで、幽香はどうしてあんなに取り乱してたのか、聞いても良いか?」

「……【立て札】は読んだわね? なら、分かるでしょ?」

 【立て札】に書かれていたこと……? 確か。

「このMAPで死んだらキャラロスト食らうって事か?」

「え?」

 俺が言うと、ぽかん、と口を開けて俺をみる幽香。俺、何か変なこと言ったか? とアオイを見てみれば、アオイにも分からない様子。

「あとは、証を集めればどうとかって」

「ちょ、ちょっと待って。今から【立て札】読み直すからっ!」

 アオイの言葉を遮り、【立て札】を確認に行く幽香。食い入るように見つめ。見つめ。見つめ――――

「――――ほ、本当だ。キャラロストだとも読める。な、何だ、もう。あ、あはは、はは、あはは……」

 乾いた笑いをしながら帰ってくる幽香。意気消沈してる。というか。

「それ以外にどういう意味だと思ったんだ?」

「……そう、そうね。キャラロストで済む可能性があるとはいえ、私の予想を否定する材料にはなってないもの。言っておいた方が無難ね」

 幽香は少し悩む素振りを見せたものの、自分なりに納得し、俺らに言うことにした様だ。

「私が【立て札】を読んで予想した結果は『このMAPでのPCでの死はリアルでの肉体の死と同義である』よ。つまり、『風見幽香の死』は、そのままの意味で『リアルの私の死』に繋がる、ということ」

「……ゲームで死んだらリアルで死ぬなんて「ありえない」」
「「ありえない」、なんてありえない。アンタの気に入ってる台詞の一つでしょ?」

 俺の言葉に被せるように幽香が繋げる。
 ……確かに、仮定から求められる結果に拘り、実際の結果を否定するのは、俺の主義に反する。結果を受けて、その結果を求めうる仮定を算出するのが、【検証者】である俺だ。

「それに、私がそう考えた理由の一つに、前世の世界ではVRMMOは何かとプレイヤーの命を脅かす物だったから、っていうのもあるわ。PCが死ぬのをトリガーに、超音波で脳を破壊したり、安全装置のバイタルコンディショナーをめちゃくちゃに動かしたりとか、そういうのでリアル側が死ぬ」

 聞いてて、なんというか、悪用された場合の危険性が凄い分かった。常識的に考えてそれは一発でお陀仏だ。だが。

「そんなことして何になる? メリットが何処にもないぞ」

「大抵はただの『娯楽』よ。そこにメリットデメリットの打算なんて一切ないもの」

 聞いてるだけで頭が痛くなってきた。そんな気楽に殺人されるのは流石にたまったものじゃない。こちとら平和な日本で生きてきた人間だ。そんな世界はお断りだ。幽香も中々辛い世界を生きてきたんだな。

「あと、もう一つの理由が……この【立て札】の書き手が『八雲紫』、または彼女を模してるから、って言う理由ね。詳しい説明は省くけど、PCの死をリアルの死だと脳に勘違いさせて殺す、とか出来そうな超能力を持ってるのよ、その『八雲紫』ってのは。だから警戒した」

「ちょっと待った。お前の言う『八雲紫』ってのも『風見幽香』と同じ、フィクションの登場人物だろ? 流石にそんな超能力を持った存在がこの世に居るなんて」

 ……ありえない、なんてありえない? 待て。常識で考えろ。可能性が0の物は否定しなければいけない。検証をする上で消去法を用いる必要がある場面なんざ山ほどある。可能性が0の物まで否定しないのは、逆の意味で思考停止だ。

「私だって、流石にその可能性は低いとは思うけど、無いとは言い切れない。私は『転生』か、それに類したオカルトの何かを経験してる。だから否定し切れない」

「じゃあ、仮に此処でのPCの死がリアルでの死に繋がる、という最悪の場合を想定して……何故貴方は此処に? 正直、そんな危険を冒す理由が分からないのですが」

 アオイが訪ねる。そうだ。こんなゲームのクエストの一つや二つ、命を掛けるに値しない。何故、そこまで拘る?

「訳も分からず人生やり直し食らって、違う世界を生かされて、その答えかも知れない何かが、目の前にあるの。それこそ、命を掛けてでもやらないと一生後悔するって直感できるほどの重大事よ。一般的な感覚で言うなら……そうね、就職活動クラスの」

 何か良く分からないが、重大性は良く分かった。というか、マジその話題止めて就活こわい。

「……分かりました。どうやら止めても無駄な様ですね。では、これを」

 そう言ってアオイは幽香に向けて手を向けて……ってオイ。それって。

「私の【フレンドアドレス】です。此処に来る時は、私を誘ってください。力になります」

「……今の話、別に冗談でも、なりきりでも、何でもないのよ? 分かる? 本気なの。命が掛かってるかもしれないの」

「だからこそ、です。私は貴方と気が合って、信頼できる。『友となるのにそれ以上の理由は要らない』と、ある人に言われました。なら私は貴方の友人で、友人が命を掛けているなら、手助けするのは当然です」

 ……歯の浮くような台詞だ。なんというか、素で言えてるアオイは凄いな。俺が女だったら惚れてるぜ。イケメン過ぎだろアオアオ。ゆうかりんのあの顔を見てみろよ。これは間違いなくオトされたね。ただし百合は俺の見えない所でやってくれ。

「……ありがと。これ、私の【フレンドアドレス】」

「ええ、確かに受け取りました」

 俺、このままフェードアウトが正しい選択じゃね? 邪魔しちゃワルイヨナー。

 †    †    †

「ちょっと。何いじけてるのよ」

「いじけてなんかぬぇーよ」

「どう見てもいじけてるじゃないですか。良い年した男がそんな事しててもキモいだけです」

「ぐぅ……」

 ゆうかりんとアオアオに虐められてる俺。どうしてこうなった。俺は親切で邪魔しないように隅っこで座ってただけなのに。

「じゃ、じゃあ一応纏めるが、一つ。此処の攻略は諦めない。二つ。攻略の際は出来る限り万全の状態で行う。三つ。此処に来る場合、絶対に単独では来ないこと。四つ。此処の情報は外部に一切漏らさない。これで良いのか?」

「ええ。それで良いわ」

 幽香に確認をとる。とりあえず簡単な口約束だからガチガチに固める必要は無い。それこそ、要点さえしっかり抑えれば後はどうでも良い。

「つまり、攻略はまた今度ってことだ。お互いそれなりにメールで情報交換して、万全の状態で攻略するぞ。下手したら命が掛かってるわけだから、もし仮に戦力になりそうな人間を誘うとしても、その説明は絶対にすること。その説明を鼻で笑って信じられない様な奴は、何時もの感覚で戦って死ぬだけだから絶対に此処には連れて来ない様に。下手したらそいつ一人のせいでPT全滅だってありえるんだからな」

「私が誰か誘うわけ無いでしょ。アンタだって誘わなかったんだから」

「だな。主にアオイに言わせて貰うよ。【救国の英雄】や【Summon Knight】クラスが力を貸してくれれば、とか。確かに助かるが、逆に言うならゲームを普通に楽しんでる連中に命掛けで戦えっていう様なものだ。誘う場合はそのつもりで誘え」

「う……わ、分かってますよ」

 分かってなかったなコイツ。

「じゃあ、今日は解散。俺もいくつかやらなきゃいけないことが出来たし、何よりもう良い時間だしな。幽香、此処から帰るには?」

「【ログアウト】をすれば、次に【ログイン】した時は帰還場所に居るわ。それ以外では出れないみたい」

「なるほど。じゃあ、お疲れ様だ」

 そして、挨拶を交わし、【ログアウト】の待機時間30秒が過ぎアオイは【ログアウト】した。
 ……案の定、幽香は【ログアウト】してないわけだが。俺もしてないけどね。

「……【ログアウト】しないの?」

「ブーメランだな。そっくりそのままお前に返す」

「全く。そこまで警戒しなくても、アンタが居なくなったら一人でここの攻略しよう、とか思ってないわよ。安心しなさい」

「死ぬかもしれないって思いながら一人で攻略してた奴が何をほざくか。信憑性皆無だぜ」

「アンタと少し話をしようと思って【ログアウト】しなかっただけよ。他意はないわ」

「さて、どうだか」

 俺も幽香も苦笑いしながら言葉を交わす。まぁ、多分この言い回しなら幽香の言ってることは本当だろうが。

「んで、話って何だよ。散々アオイ含めて話はしたし、何もアオイが居なくなってから話す理由も無いだろ?」

「その……アオイもそうだけど、アンタにもお礼を言おうと思ってね。ありがと。色々と」

「別に感謝されるようなことはまだ何もしてないぞ。攻略が終わったらお礼してくれればそれで良い」

 協力するとは言ったが、まだ協力はしてないのだ。それでお礼を言われてもこちらとしても気にするなとしか言えない。

「それじゃないわよ。アオイは最後の方はともかく、私の説明だけじゃ半信半疑だったし。アンタに私が掴みかかった時だって、アンタは冷静だったもの。ああじゃなかったら勝手に誤解して、友達を一人無くすところだったわ」

「冷静じゃなかったさ。だから落ち着きたくて説明しろって言ったんだ」

「そこで落ち着こうって思える奴が冷静って言うのよ」

 何と言うか、ベタ褒めだ。なんだ突然。この後に何か無茶振りのお願い(と言う名の命令)が飛んできそうな気さえしてくる。

「それに、アオイと違ってアンタは私の話を最初から信じてたみたいだし。何でか聞いても良い?」

「何でって言われてもな……誰も知らない筈の『博麗の巫女の名前』をお前は知ってた。これがお前の妄想だと断定できない証拠で、俺はお前の発言を否定できる証拠を持ってない。なら、お前のいう事は一定の信用が出来る。そういう論理的思考、じゃないか? 後は単純に、お前のことを信用してるから、っていう」

 前者は跡付けのこじつけ。後者は、まぁ、俺の本心。

「……ああ、まぁ、確かに『博麗の巫女の名前』は証拠になるのね。なるほど。もっと早く言ってよ。前世の話云々でどれだけ時間使ったか」

「いや、まぁ、良いじゃないか。過ぎたことだ」

 言えない。今考えた適当な理由だって。

「……ともあれ、私が言いたかったのはこのお礼だけ。もう寝るわ。お休み」

「ああ、お休み。また明日」

 そして、今度こそ幽香は【ログアウト】した。
 ……今日は、疲れたなぁ……ともあれ、何だかんだ此処での検証結果は後々大切なことになりそうだ。サボらず今日の検証結果を纏めるか。

 †    †    †

 今日の検証結果――――事実は小説よりも奇なり。トンデモ体験的な意味で。



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オマケ~自意識過剰乙wwって言われた中の人~
「わ、私の思考は自意識過剰なのでしょうか……いえ、別にそんなことは……でも、それってつまり私が美人だと自分で決めるようなもので……やっぱりそれも自意識過剰に……いえいえ、でも男は狼って良く母さんから聞いてるし、その、う~ん……」
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【博麗神社】
元ネタ:東方project
概要:主人公 博麗霊夢の住む神社。神様は居ないらしい。それで神社と言えるのか。

【ハクレイのミコ】
元ネタ:ラクガキ王国
概要:HP表示が999のクセに内部データ的には1500とかHP持ってる。何故ダメージ受けてもHP減らないし。って感じに最初はなる。隠しボス。

【グリーマレーヴ大聖堂】
元ネタ:.hackシリーズ
概要:.hackシリーズでは何かとキーポイントとなる『ロストグラウンド』の代表。『ロストグラウンド』はシステム管理者すら手が出せない特殊なMAPのこと。

【無限回廊】
元ネタ:サモンナイトシリーズ
概要:永遠と敵が出続ける試練・修練の道。ゲーム的にはレベル上げやアイテム収集のマップである。

【エアフォルクの塔】
元ネタ:アトリエシリーズ
概要:意味も無く魔王っぽい何かが居たり、とても重要なレシピの書かれた本が落ちてたり、何も無かったり。何か良く分からない塔。イロイロな所に建ってる。

【瘴気ストリーム『?』】
元ネタ:FFCC(クリスタルクロニクル)
概要:瘴気に覆われた世界においても特に瘴気濃度の濃い場所であり、その瘴気の属性にあったクリスタルでなければ通行すら出来ない場所。その属性は地水火風の4属性なのだが、『?』とは一体……

【堕ちた都市レックス】
元ネタ:ソード・ワールド(無印)
概要:アレクラスト大陸の東方に存在する古代遺跡。元々は浮遊の魔力で空に浮かんでいたが、古代王国の滅亡時に墜落した。ラピュタのパクリと思った奴はIDの数だけ腹筋な。

【VRで死ぬとリアルで死ぬ】
元ネタ:ソードアートオンライン
概要:デスゲームオンラインで有名。ちなみに作者は小さい頃、結構本気でラ・ヴォスに世界を滅ぼされると信じてた。クロノ頑張って!

【ありえない、なんてありえない】
元ネタ:鋼の錬金術師
概要:強欲 グリードが言ったセリフ。つまり『可能性0%が存在する可能性は0%である』
ということ。まるで『僕は嘘吐きです』と言われたときのような言葉の理不尽さを覚える。

【八雲紫】
元ネタ:東方project
概要:妖怪の賢者 八雲紫。その能力は境界を操る程度の能力。昼と夜の境界を区切って線の向こう側は昼。こっち側は夜とか変なことも出来るし、頑張れば常識と非常識の境界とかも弄れる。物理的なものから概念的なものまで汎用性は高いようだが、それも限界はある様子。西行妖を単独で完全封印できなかったりとか。

【PC死亡でキャラロスト】
元ネタ:ウィザードリィやTRPG全般
概要:死んだら生き返るはずありません。という当然の設定。素直に新規キャラを作りましょう。

【少女祈祷中……】
元ネタ:東方project
概要:いわゆる『Now loading』。



オマケ
【男のチラ見は女のガン見】
元ネタ:俺の姉
概要:他にも『売られたケンカは3倍買い取り』『買ったケンカは返品不可』『酒に溺れて溺死したい(死体?)』『部屋から出て行け。話はそれからだ』と言った良く分からないことを言っている。多分元ネタはあるんだろうが、俺には分からん。もしかしたら元ネタないかも知れん。俺には分からん。



[33160] 検証結果がインチキだった。
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9
Date: 2012/06/06 17:02
「うあー! 負けた! ちくしょう!」

「う~ん……結構悔しいね~。まぁ、検証君を抑えられたら僕らじゃ地力が足りないって事だね~」

 【アリーナ】通いを初めて既に4度目。勝って、勝って、勝って。
 今日、負けた。

「うがー。何だよあのスキル明らか俺対策じゃねぇか! 良いのかよあれ」

「……ワンパターンだったから。対策されるのも当然、かな」

 デコ君が言う。
 ……実際、相手がしたことは簡単である。【カウンター】スキルの【反】で受けたダメージを反射した。ただそれだけ。
 不可避の固定ダメージによって俺が受けたダメージは――――当然9999。
 あとは2vs2に持ち込み、後衛の猫耳頭巾さんが落とされ、奮戦するもデコ君が落とされて負けた。
 敗因は主に、俺のプレイヤースキル不足と、デコ君と猫耳頭巾さんのステータス不足。さて、一番どうにかなるのは……

「装備品だな。だからと言って俺のPC性能でゴリ押して作るのはゲームバランス上よろしくない……」

「……? なにかんがえてるの?」

 デコ君が俺をじっと見つめながらそう訪ねる。何かスポットライトが当たって俺の考えがデコ君に筒抜けになるんじゃないかって思うセリフだ。
 いや、それはどうでも良いんだ。ゲームバランスを崩さず、常識的な方法で強力な装備品を手に入れる手段は――――

「検証君がまた悪巧みしてそうだね~。今度は何するんだろ~」

 ――――あったな。だけど、これはギリギリライン……俺が個人使用する分には、セーフだ。そのためのユニークアイテムとユニークスキル代わりのステータス。だが、その恩恵を他人に与えるとなると……見極めラインは物価変動を起こすか否か、か?

「良し、決めた。今から【ミセス夫人の珍獣発見】クエストやるぞ」

 言った瞬間、デコ君の笑顔が引きつる。ついでに猫耳頭巾さんがう~ん、と唸る。

「それってあれだよね~。確か『イライラ世界一周クエスト』だよね~」

「ああ。あのどうやっても馬鹿みたいに時間の掛かるあれだ」

 クエストの内容そのものは単純である。ミセス夫人というNPCが「~~に居るという――という珍獣が見たい」と言うので、その言葉に従って特定のMAPに行き、特定のMOBにミセス夫人から受け取った【珍獣転送の石】をぶつけるだけである。
 ただし、厄介な事に【珍獣転送の石】を持っていると移動速度が2分の1になり、【帰還スクロール】を初めとした転送系アイテム・スキルの使用不可というデメリットが発生する。
 その上、一応『珍獣』と銘打たれているからか、指定されるMOBが何かと僻地にしか居ないMOBで、とにかく行くのが面倒くさい。それを何度も繰り返すので非常に時間が掛かるのだ。具体的に言うと、クエスト開始からクエスト終了し、その報酬をもらえるまでリアルタイムでだいたい4時間かかる程度に。
 そしてこの【ミセス夫人の珍獣発見】クエストは何度も繰り返す度に報酬が良くなっていく。しかし、その報酬はトレード不可かつ売却不可。
 結果、このクエストをやるくらいなら普通にMOB狩りでお金貯めてレベル上げて、流通してる装備を手に入れたほうが良い、と一般的には言われているのだ。

「でもさ~検証君。流石に効率悪すぎるんじゃないかな~、って思うんだ~」

「……何か、考えがあるの?」

「【ワープスクロール】がある」

 †    †    †

 【ワープスクロール】は、ユニークアイテムであり、その効果は『制限無く』指定MAPにワープできるというものである。
 よって、このアイテムだけは転移系のアイテムでありながら【珍獣転送の石】を持っていても使えるのだ!
 単にGMさんが転送系アイテムとして【ワープスクロール】を関連付けしなかったからかもしれないが、俺専用アイテムだから仕様だと思う。多分。

「あははははは! 単調作業TA☆NO★SHIIIIIIIIIII!」

「……ねぇおでこ君。検証君って前からこんな感じだったの?」

 俺が最高にハイって奴だ! って気分で叫んだら猫耳頭巾さんが呆れた様にデコ君に何か聞いてた。デコ君も苦笑いしながらコクコク頭を振っているが知ったことか。

「HAHAHA! お前ら何つまらなそうな顔してるんだよ。こんな楽しいことそんな冷めた気分でやってちゃ勿体無いZE」

「検証君。そのノリウザイ」

「我が道を爆走せずして何が『検証勢』か! ……という冗談は置いておいて」

 猫耳頭巾さんの目が冷ややかになってきたので仕方なしに自重する。いやまぁ、ああいう目は見慣れてるんだけどね。ゆうかりんのおかげで。

「でもこういうの楽しくないか? こう、ずっと同じことをし続ける中でも1サイクルの時間を1秒縮めて『俺SUGEEE』とか。こう、自分の中の壁を越えてやるぜ的な」

「そういう人種も居るのは知ってるけど~。永遠とカチカチクリックしたりするゲームが好きな人たちね~」

 不服そうな顔をして猫耳頭巾さんが言う。どうやら猫耳頭巾さん的にはお気に召さないらしい。

「いやぁ。ブラウザゲーとか一時期ハマったわ。あと、家に帰ってきたらマインスイーパを5時間くらいぶっ続けでやって寝て。早起きして家を出る前にマインスイーパを2時間くらいやって、また帰ってきてから4時間くらいやって、って生活とか。そこそこ満足する結果も出たから2週間くらいで止めたけど」

「……検証君はあれだよね~。娯楽に困ることって無さそう~。暇潰しが得意って意味で~」

「なぁデコ君。これって褒められてるのか?」

「う~……ん。褒めてると思う」

 デコ君は俺の質問に曖昧に笑いながら答える。これはあれだな。多分面倒だから適当に返事したな。

「こういう作業してると眠くなるんだよ~……むしろ何でそんなに活き活きと出来るのか分からない~」

「楽しいからに決まってるだろ。これが分からないようじゃ『検証勢』は出来ないぜ」

「なる気も予定もありませ~ん」

 ちなみに、こうやってぐだぐだ言いながらもクエストは順調に進行中である。
 俺がサクサクワープして、珍獣を見つけ次第【珍獣転送の石】を投げ当て、さっさとマダム夫人の所へ帰り、また【珍獣転送の石】を受け取り、ワープして……と言った感じ。
 猫耳頭巾さんも愚痴を言ってはいるものの、何だかんだこうやって話し相手が一緒にやってれば問題ないらしい。デコ君は時々俺がこういったクエストに誘ってたから慣れたものだし、俺は純粋に楽しんでる。何だ全く中毒性は無いなもう2時間経ったけど! たった120分じゃないか。

「それで~。これで【アリーナ】で勝てるようになるの~?」

「そう慌てなさるな。良い機会だから言わせて貰うが――――」

 俺らが【アリーナ】で勝っていた理由は大きい所で3つある。
 1つ目は当然、俺のステータス。通常の戦闘法では俺を倒すのはほぼ不可能と言っても良いほどに、通常のPCにとっては脅威である。また、俺の攻撃はPCボディを用いた回避――此処では分かりやすく行動回避とする――では避けやすいものの、PCステータスを用いた計算式による回避――計算回避とする――では不可避であり、ダメージ値は特殊な状況を除いて9999。文句無しのフィニッシャーである。
 2つ目は、猫耳頭巾さんが【ウィザードリィ】であること。その役目はダメージディーラーであり、PCと比べれば膨大なHPを大きく減らすことを目的としたステータスとなっている。そのため、Lv差さえも容易に覆す大きなダメージを出し、俺に気を取られ過ぎた結果、猫耳頭巾さんの魔法で消し炭にされたPCも少なくない。
 3つ目は、デコ君が【アリーナ】のトッププレイヤーに劣らぬ程のプレイヤースキルを持っていることである。その戦闘スタイルから、ハイエンドとは言えないまでも一線級の【格闘】スキルを駆使する幽香を目の当たりにしてる俺だが、恐らく近接戦闘だけの勝負なら、デコ君は幽香を上回るんじゃないかと最近は思ってる。尋常じゃない反射速度と、死角は無いんじゃないかってくらいの乱戦での対応能力。加えて、システムアシストの無い状態での槍捌きと体捌きが見惚れるくらい鋭い。コイツきっと無双ゲーとかに混ざっても何とかできるぞ。

「――――と、この3つが、俺らがLv低いなりに【アリーナ】で勝ち進めてた理由だ」

 ……でもまぁ、そうだよなぁ。俺と猫耳頭巾さんが後衛だから、1人で槍なんて大獲物を振り回して敵3人を引き付けて、俺らの魔法に巻き込まれない様にタイミングを合わせて下がるなんて真似を毎回してるんだもんなぁ。

「デコ君。いつも悪いねぇ」

「……? それは言わない約束だよおとっちゃん」

「惜しい。そこは『おとっつぁん』だ」

 俺の言葉に首を傾げながらも返事をする辺りノリが良いのだが、こう、ちょっとだけ違うと、ついツッコミが!

「ともあれ、そうした勝因があるにも拘らず、俺らは負けた! 何故だ!? はい猫耳頭巾さん答えて」

「坊やだからさ~、とでも言って欲しいのかな~?」

「違う。いや、違わないけど。よく言ってくれた猫耳頭巾さん。でも俺は真面目にだね?」

「分かってるよ~。で、敗因はズバリ?」

「うむ。ズバリ言わせて貰うとだな――――」

 それは2つ。
 1つ目は、フィニッシャーである俺のプレイヤースキル不足。幾らかはスキルの恩恵に頼ってシステムアシストや小魔法での小細工、大魔法なんかの行動回避が困難なもので誤魔化してはいるが、やはり技量の差は埋め難い。まぁ、相手からしてみればステータス差も技量では埋め難いのだろうが。
 2つ目はデコ君と猫耳頭巾さんのステータス不足。Lv差が如実に現れる部分であるが、猫耳頭巾さんは【ウィザードリィ】故に、デコ君が【アリーナ】屈指のプレイヤースキルがある故になんとかなっていたが、それは如何ともし難い差である。俺みたいな木偶の坊が何だかんだ【アリーナ】で強者として存在できるのもステータスが物を言う所が大きいからだ。

「――――以上、2点が敗因だと俺は考える。まぁ、もしかしたら対人戦のセオリーだとか細かいところがあるのかもしれないが、俺はそうした戦闘を専門に扱ってないから分からん。管轄外だ。だが、このステータス差って部分。実はLvだけが原因じゃない。むしろ、場合によってはLv以上に影響がある」

「Lv以外がステータス差を開けるの? って。ああ。なるほど」

「猫耳頭巾さんは気づいたみたいだな。デコ君は?」

 納得言った様子の猫耳頭巾さんに対してデコ君は分からないのか、困った様子で笑って誤魔化す。

「装備だよ装備。詳しい計算式を知りたいなら事細かに教えるが――――興味無さそうだな。残念だが、今は省くよ。ともあれ、装備数値はステータス数値のほぼ3~4倍程度の影響力がある。つまり、装備のAgi値が+13のものから+16のものになるだけで、Lv1上げる程の影響を出す。Lv99に近づけば近づくほどLvは上がり難くなるから、それこそLvを上げるより高性能装備を手に入れたほうが強くなりやすいんだ」

「へぇ~。今のは15へぇ~くらいあげられるよ。噂程度にステータスより装備数値の方が重要って聞いてたけど、そんなに違うんだ」

「この程度なら『検証勢』も必死に秘匿するレベルじゃないから、噂程度にはなってたか……ともあれ、そうした理由からトッププレイヤーは高性能装備を必死に手に入れる。Lvが高い奴は高ランクMOBを狩ってそのレアドロップを入手できるし、財力もある。結果、トッププレイヤーは更に強くなる、って流れなわけだ」

 デコ君もウンウンと頷いて理解を示す。

「さて、じゃあ俺たちは、というと……まぁ、俺は例外として、デコ君は【神槍ヴォータン】は良いが、他はそうしたトッププレイヤーの装備と比べると貧弱だと言わざるをえない。猫耳頭巾さんは、キャラ方向性的にInt以外は重要性が低いとは言え、敵3人の攻撃1発ずつで殺されるか、1発ずつなら耐えられるか、の違いは大きい。となれば、防具を充実させない理由はない。そこで『時間を掛ければ誰でも簡単に手に入れられる高性能防具』を手に入れようって寸法さ」

「え~。おでこ君とおそろいの装備で【アリーナ】に行くのは嫌だ~」

 ちょ、おま、デコ君地味にショック受けてるからな、その発言。

「いや、別におでこ君が嫌いってわけじゃないよ? でも隣の人と同じ装備って、何か嫌じゃない? こう、芸が無いというか」

「ふふん。そんなこともあろうかと、既に知り合いの腕の良い『生産勢』に連絡は取っておいてある。残念ながら予定が空くのは一週間後になりそうだが、3日以内に大体の希望を言って置けばその希望に合わせて装備デザインの変更をしてくれるそうだ。マジゆうかりん周りの人脈ってスゲー」

 『なりきり勢トップ』は伊達じゃない! と言っても、ゆうかりんがその『生産勢』の人と知り合ったのはそう言われる前だったらしいが。その人曰く『デザインに拘るのは『なりきり勢』の方が多いし、そういうやりがいのある仕事ならどんな客でもドンと来い!』だと。レッドネームな上にトッププレイヤーで、多少足元を見ても誰も何も言わない幽香にすら通常価格なんだから、まぁ、何と言うか、職人さんだよなぁ。

「おお~。検証君って風見さんとおでこ君以外に知り合い居たんだね!」

「驚く所ソコかよっ。もっと『気が利くね~』とか『やれば出来る子だって信じてた~』
とかあるだろ?」

 ナイスツッコミと言わんばかりに親指立ててキラキラ笑顔をこっちに向けるな猫耳頭巾さん。
 あとデコ君。何時までそんなショボくれた顔してるんだ。さっさと【珍獣転送の石】をぶつけなさい。そこに目標のMOB居るから。

「ともあれ、そういうわけだ。じゃあ【ミセス婦人の珍獣発見】クエスト10回目の報酬を貰いに行くぞ。それがお目当ての防具だ」

 という訳で楽しい作業ゲー2時間は終わり。これ、俺の【ワープスクロール】が無かったら40時間は世界を移動速度2分の1で回らなきゃいけないんだよなぁ。俺はそれでも何だかんだ楽しめるだろうけど、普通は不愉快だろうなぁ。こんなんだから『イライラ世界一周クエスト』って言われるんだ。せめて移動速度2分の1が無ければ、まだ観光気分で散歩を楽しむプレイヤーも居ただろうに。
 ……それにしてもリアルタイム4時間*10はアレか。

 †    †    †

 歓声が響く。デコ君も、猫耳頭巾さんも、当然俺も。今や慣れたもので緊張の様子はない。

「さあさあさあ! 奴らがやって来ました! 我等が【竜賢宮】にLv50以下のPCが名乗り出た!  にも拘らずキャラ性能では恐らく最強! お前のステータスはどうなっている!? 【検証者】! そして彼が率いるチーム【検証デコ頭巾】! 前回負けたリベンジか、今日は随分とやる気で! 選手、入☆場★です!」

「我らは滅びぬ! 何度でも蘇るさ! 『検証勢』の力こそ人類の夢だからだ!」

「大佐の名言ありがとうございます! 初登場の時も大佐でしたし、どうやら【検証者】は大佐の名言が好きなようです!」

 大佐は滅びぬ! 何度でも蘇るさ!

「ともあれ、既に【アリーナ】の常連と化した貴方たちの紹介は多くは要りませんね! では対戦相手の入★場☆です! ……あれ?」

 何か実況さんが慌てた様子で裏側に引っ込んだ。どうした?
 何時もなら実況さんの言葉に合わせて出てくるはずの相手チームが出てこない。
 歓声も止み、観客もいささか戸惑っているようだ。

「え、何で? どういうこと? ……ああ、なるほど。う~ん……ま、良っか。【検証者】なら何が起きても面白くしてくれるよ。オーケー。私が許す」

 なんか不穏な言葉が聞こえた。
 実況さんマイク入ってるから! 聴こえてるからね!
 しかも何さ。俺なら面白くしてくれるって。お前本当に俺のこと大好きだな!

「あーあー。うん、良し……あ、マイク入ってた……ゴホン! 失礼しました! どうやら待機選手が『全員』『【アリーナ】の受付前で』『キルされた』様なので、唯一残った待機選手が一人でチーム【検証デコ頭巾】の相手をするようです!」

「はぁ?」

 いや、意味が分からないぞ。不意を着いたとしても、【アリーナ】に居る様なPCは全員トップクラスのPCだ。
 そいつらが全員キルされたって、何の冗談だ? しかも待機中って、対人専用の準備終えた状態ってことだろ?

「という訳で、前代未聞の【竜賢宮】にたった一人の殴り込み! 私、実はこうなることをドキドキしながら期待してました! 本当に【検証者】は良いネタになります! 選手、入☆場★です!」

 そして、その言葉と共に【アリーナ】に降り立つ一人の女。
 癖のある緑の髪、真紅の瞳。白のカッターシャツとチェックが入った赤のロングスカート。スカートと同じ柄のベストを羽織っていて、日傘を開き、ふわりと舞う。
 観客席でもざわざわと何時もの歓声とは違ったものが広がる。

「ぅぁ……」

 デコ君が怯み、一歩後ずさる。そういや、デコ君は凄い苦手意識持ってたよね。
 ああ……こりゃ駄目だ。折角装備新調したのに、そのデビュー戦がこれかー。結構アレだな……うん……連敗記録伸びただけか……

「立てば芍薬、座れば牡丹! 歩く姿は血染めの薔薇か! この【竜賢宮】にすらたった一人で乗り込む様は威風堂々、王者の風格! 最強最悪! 【四季のフラワーマスター】!」

「【マスタースパーク】を借りたお代。今此処で出して貰うわね」

 我が相棒。風見幽香が現れた!
 ……どうやら本気らしい。

「いやー。わざわざチーム【検証デコ頭巾】とやりあうために順番待ちしてる外の人たちを一掃するとは流石に私も予想しておりませんでした! ちなみに……【四季のフラワーマスター】さん!」

 実況さんが幽香に呼びかける。

「何かしら、実況の」

 幽香も、何だかんだ話を振られれば答える。
 というか、実は好意的に接してくる相手を無造作にキルしたりしないのだが、まぁ、レッドネーム故そこらは知られてない。
 ……にも関わらず、声を掛ける実況さんは、神経図太いというか何と言うか。
 そして、互いの視線が合い、数泊の間。

「準備は?」

「万端」

「覚悟は!?」

「十全」

「油断は!!」

「皆無」

 阿吽の呼吸で問答をする実況さんと幽香。
 お前ら、打ち合わせでもしてるのか。いや、してないだろうけどさ。分かってるけどさ。
 そして、幽香も、実況さんもニヤリと笑う。

「良く言った! これぞ誰もが認める『トップ』の姿! ヤローども! 全員その目に焼き付けろ!」

 途端、歓声が鳴り響く。さっきまでざわざわしてたくせに、調子の良い奴らだぜ本当に。

「それでは! チーム【検証デコ頭巾】Vs【四季のフラワーマスター】! 試合! 開始ぃぃ!」

 †    †    †

「咲かせ、咲かせ、裂かせましょう――――」

「ちょ、デコ君! 何固まってるんだ早く行って!」

「……ッ!」

 開幕、詠唱を始めた幽香に対し、完全に気おされてたデコ君の動きが遅れる。開始地点がある程度距離が離れているため、如何にデコ君と言えどその距離を詰めた上で、幽香の防護結界を貫くだけのダメージを与えるのは……無理か。だが、諦めてたまるか。あいにく、俺も試合開始と同時に詠唱はしている。魔法選択の関係で、俺の方が早く詠唱を終えるはず――――!
 幽香はただ哂うだけ。まるで、唯一の勝機を逃したな、と言いたげな表情で。

「――――貴方が立ち入るは、私が望む花開く世界――――」

「まだだ! 諦めて、たまるか! 【ホーミングブリッド】!」

 俺が放つ魔法は、デコ君が遅れた結果、先制の一撃となる。
 ……が、本来これはデコ君の連撃に混ぜ込む本命の一撃。これが牽制になったのは、正直かなり痛い。
 案の定、なんの問題もなく、幽香の日傘でパリィングされる。幽香の日傘は他のPCの武器のように【壊れた装飾品】となる――――ことはない。
 あの日傘は彼女のユニークアイテム【唯一枯れない花】。その効果は、複数の属性耐性の上昇と、耐久が減少しないというもの。
 しかし、俺の攻撃は無駄ではない。それを防いだ時には、デコ君が距離を詰めている。

「【ガイア】!」

 スキル発動。初撃。両足を狙った鋭い2発の突きと、両足を刈り払う横薙ぎの一閃。
 2段突きはゆったりとした、それで居てかすりもしない足捌きで回避。最後の一閃は日傘で止める。

「【ゼウス】!」

 スキル発動。続く連撃。今度は眉間・喉・両肩を狙う4段突き。
 眉間は首を傾げることで回避。喉への突きは当てた。防護結界に傷をつける。しかし両肩を狙った2段付きは横に掲げた日傘に防がれる。

「ッ! 【ハーデス】!」

 スキル発動。〆の終撃。【神槍ヴォータン】を大きく引き込み、柄の中ごろを持ち、バトンか何かのように槍を回転させる。
 石突側で日傘を大きく上に弾き、パリィブレイク。その遠心力を利用し、勢いをそのままにこじ開けた胴体へ突き入れる。防護結界は――――

「――――それはきっと、美しくも残酷なことなのだから」

 ――――防護結界は、破れなかった。詠唱が終わる。
 叩き込んだ攻撃は、結界を破るに足らなかったか。

「さあ、足掻いて魅せなさい……【幻想郷の開花】」

 発動と同時に、バトルステージ全体が向日葵に埋め尽くされる。
 発動した魔法は、フィールドオブエフェクトという種類の魔法。術者を中心とした射程圏内に居る存在に様々な効果を及ぼす魔法。そして、【幻想郷の開花】が持つ効果は――――

「この魔法の効果は、術者の継続回復と敵への継続ダメージよ。花の栄養になりなさい」

「てめぇ幽香少しは手加減しやがれ! こちとら戦闘は専門じゃないんだぞ!」

 この魔法の厄介な点はいくらでも上げられるが、今の所問題なのは……こういった場に展開される継続ダメージは、ダメージ値が固定であり、キャラクターステータスに左右されないことである。
 つまり、あとは幽香が避け続けるだけで俺がすぐに死ぬということだ。メンツ的に回復要員が居ないのが仇になった。回復要員さえ居れば死ぬ前に回復できるから問題ないのに!

「あら? 十分手加減してるつもりだけど……さて、時間稼ぎはもう良いでしょう? そっちの【ウィザードリィ】。詠唱は終わった?」

「バレテーラ……さあ、猫耳頭巾の旦那ぁ! やっちまってくだせー!」

「本当に検証君はノリノリだよね~……ともあれ、行くよ。極大魔法【エンシェント・フレア】」

 大魔法の更に上位。極大魔法。その詠唱時間は非常に長いため、何かと使い勝手は悪いが、決まれば最強。
 そして、幽香は猫耳頭巾さんの極大魔法に飲み込まれ、大きな火柱が上がる。
 ……それを見て、俺はこの勝負の行方をはっきりと理解した。

「そういえば、貴方の好きな言葉にこんなのが有ったわね……『降伏は無駄よ。抵抗なさい』」

 †    †    †

「ね~検証君。何で先に言わなかったの~?」

「あ~……あれだ。失念してたと言うか、何と言うか」

「風見さんが対火100%なの知ってれば~、流石にあれは撃たなかったな~」

「うがー。俺が全部悪いよ何だよ何だよ猫耳頭巾さん意地悪だぜっ」

 意地の悪そうな顔してやがる!
 ……あの後、当然の様に極大魔法を耐え切った幽香に猫耳頭巾さんは消し飛ばされ、俺は勝手に力尽き、デコ君は善戦するも殴り殺された。
 あとついでに聞いてみたら【アリーナ】の外で待機してた選手連中は不意打ちで幽香の極大魔法で大半が消し飛ばされたらしい。ご愁傷様。運良く耐え凌いだ連中は各個殴り殺されたり消し炭にされたりだった様だ。どう見ても単独テロです本当にありがとうございました!
 いやもう本当にアイツ何なんだ。魔王か何かか。

「幽香の【唯一枯れない花】は対金・対月・対星以外を+100%だからなぁ」

 しかも壊れない。

「ユニークアイテムってさ~。大概インチキだよね~」

 デコ君もコクコクと頷いて同意を示す。
 まぁ、方向性が防御系のアイテムだし、穴が有る分むしろ常識的なんだろうなぁ。

「まぁ、今日は嫌な夢を見たってことにして、また今度頑張ろうさ。今日はもう解散! 時間的にも精神的にも今日は無理っ」

 いつも通り、俺が解散宣言をする。
 二人ともそれに異論は無いらしく、別れの挨拶となる。

「分かった~。それじゃ、また今度ね~」

「……また今度」

「あいあい。お疲れ様でしたー」

 あ~……今日はゆうかりんとの勝負で無駄に疲れたなぁ……明日辺り、仕返ししてやる。
 とりあえず俺の【ホーム】にある【ホットドック】は全部【おにぎり】にしてやろう。あと【ハーブティー】も【緑茶】にしてやる。ふははは。たまには和の良さを思いしれ!
 
 †    †    †

 今日の検証結果――――ユニークアイテムはインチキ。性能的な意味で。



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オマケ~次の日「【検証者】ですが、【ホーム】内の空気が最悪です」~
「ちょっと、『冷蔵庫』の中身が変わってるんだけど」
「【ホットドック】飽きた。【ハーブティー】も。だから無いわー。0だわー。ごめーん」
「承知したわ。貴方、私にケンカを売っているのね。そのケンカ買った。表に出なさい」
「【四季のフラワーマスター】は短気でいけませんね。それか『私の友人』である【検証者】を小間使いか何かと勘違いしているか。どちらにしても、こうなってはお終いですね」
 …………
「どうやら、自殺志願者は1人じゃなくて2人だったみたい。折角だから2人とも一緒で良いわ。『私の友人』としての大サービスよ」
「あら、サービス精神旺盛ですね。ですが私は結構。不快でしたらお一人で【黄金の花畑】にお帰りなさってはどうですか? あそこ、貴方の巣でしょう?」
「……な、なあ、その、何だ。もしアレだったら俺、買ってくるから」
「「貴方は黙って」」
「はい」
 …………
「そういえばさっき『私の友人』とか言ってたけど、貴方にとってみれば、所詮『大勢の友人の一人』でしょう? 私、これでも彼の『相棒』なのだから、少しくらい我侭言うの、当然なのよ。『私たちくらいの仲になれば』。貴方はどうだか知らないけど」
「戯言を。貴方の場合、『友人をやってあげられる』程の人格者が【検証者】くらいだったというだけでしょう。他に友人なんて居ないのですから。これでは【検証者】が可哀想ですね」
 …………
「そもそも、誰の許可があって貴方は此処に居られるのか分かってないようね。此処は『私と彼の』【ホーム】なのよ? なんだったら、立ち入り許可を取り消しても良いのだけど」
「あらあら、【四季のフラワーマスター】は物忘れが激しいようで。此処は『【検証者】の』【ホーム】です。当然、彼の許可さえあれば入れます。貴方こそ、あまり我侭を言って【検証者】に愛想を尽かされない様、精々気をつけてはいかがですか? 無駄でしょうけど。ああ、貴方がこの【ホーム】に居られるのも、あと幾日か。指折り数えで足りそうですね」
 …………
「【検証者】ですが、【ホーム】内の空気が最悪です」
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【反】
元ネタ:Tales Weaver
概要:プレイアブルキャラ ボリス・ジンネマンの持つカウンタースキル。擬似的なHPを持ち、ダメージを肩代わりする『クレイアーマー』という防御魔法と合わせることで、強力なMOBを容易に倒しうる、通称『神殺し』と言われるスキルセットに変貌する。

【なにかんがえてるの】
元ネタ:スーパーマリオRPG
概要:ゲーム的には敵一体の現在HPを知ることが出来る技。しかし、その真価はタイミング良くボタンを押したときに出てくる「敵が考えていることが分かる」というネタ的な要素。色々な意味でアウトな内容が出てくる。

【最高にハイって奴だ!】
元ネタ:JOJOの奇妙な冒険
概要:今までに無いくらいテンションが上がった時に言うセリフ。DIOは戦ってる途中に鼻歌を歌ったり、ポーズを取って時間を止めて、階段に立った相手を一段だけ下ろして元の位置でポーズを取ったりとお茶目さんだなぁ。

【我が道を爆走せずして何が『検証勢』か!】
元ネタ:Fate/stay night
概要:金ぴかAUOこと世界最古の英雄王 ギルガメッシュのセリフ改変。元ネタでは『慢心せずして何が王か!』と言っていた。傍若無人で悪逆非道の王に思えるが、彼は彼なりの王の理想像というものが有る様である。

【我らは負けた! 何故だ!? →坊やだからさ~】
元ネタ:機動戦士ガンダム
概要:シャア・アズナブル大佐の名言の一つ。元ネタでは『私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。何故だ!? →坊やだからさ……』という流れである。

【我らは滅びぬ! 何度でも蘇るさ! 『検証勢』の力こそ人類の夢だからだ!】
元ネタ:天空の城ラピュタ
概要:我らがメガネ ムスカ大佐の名言の一つ。本名はロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。元ネタでは『ラピュタは滅びぬ、何度でもよみがえるさ、ラピュタの力こそ人類の夢だからだ!』と言っている。

【唯一枯れない花】
元ネタ:東方project
概要:風見幽香が持つ日傘について、元ネタにて幽香が言ったセリフ。『これは、幻想郷で唯一枯れない花なのよ』とのこと。実際に花なのかは解釈によって違う。幽香が負けない為、その傘は幻想郷に咲き続ける、と言う解釈もある。

【幻想郷の開花】
元ネタ:東方project
概要:風見幽香が持つ、たった二つのスペルカードの一つ。 本来の名前は『花符「幻想郷の開花」』。

【降伏は無駄よ。抵抗なさい】
元ネタ:パワプロクンポケット8
概要:誤字や誤用ではない。サイボーグ対策室(CCR)の作戦実行隊長 灰原が、とある相手に言ったセリフ。元ネタでは『降伏は無駄だ。抵抗しろ』と言った。しかし、元ネタを知らなければサイボーグ対策室という存在が野球の何に関係するのか分からないだろう。ちなみに、CCRは野球とは全く関係が無い。

【「【検証者】ですが、【ホーム】内の空気が最悪です」】
元ネタ:2ch(ドラゴンクエスト4)
概要:『ライアンですが、場車内の空気が最悪です』というスレッドタイトルの日記調の物語のタイトル。勇者に同行する仲間(ベンチウォーマー)の不遇さを表した作品。



[33160] 検証結果がアオイが主役だった。【本編2】
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9
Date: 2012/06/12 02:02
 【東方の間】には【立て札】と11の扉があった。
 その扉にはそれぞれ名が振り分けてあり、『東方~~~』、と東方+3文字の漢字、という名前になっている。
 そして、現状では10の扉にカギが掛かっていて開けることが出来ず、入ることが出来るのは【東方紅魔郷】と書かれた扉だけだった。
 幽香が言うには、恐らく作品の年代順を追っていく必要があるのだろう、とのことだ。
 そして、この『紅魔郷』。MAP全体を通して赤い霧が出ており、如何なる時間でも夜となっている。確認してみたところ、このMAPでは日属性の効果が-80%となっていた。
 これが幽香にとってはネックの一つであり、幽香の主軸である【マスタースパーク】が弱体化することを意味した。もっとも、【マスタースパーク】は木・日・星・夏の複数属性であるため、その低下割合は-20%程度ではあるのだが。

 †    †    †

「しかし、なんだな。死んだらヤバイMAPっていう精神的負担さえなければ、どうということはないMAPだな。正直拍子抜けだ」

 ここまでで既にエリアボスを2匹、【宵闇の妖怪】と【湖上の氷精】を倒した。
 どちらもHPは標準的なエリアボス程度のHPはあったが、どちらも単調な攻撃のみだった。強いて言うなら、前者は周囲を暗くするため、初戦の相手とするには何かと精神的負担が強かったが、戦ってみればどうということはなかった。

「貴方が言える台詞じゃないわね。まずはその鈍臭い動きを如何にかしてから囀りなさい。貴方、あの二人相手に何度攻撃を食らったかしら?」

「何度も食らったが、HPは100も削れてないしな。魔法は全部ダメージ1だし、物理は全部ミスだ」

「【四季のフラワーマスター】に味方するわけではありませんが、貴方は私たちの中では群を抜いて弱いのです。その『打たれ強さ』と『一撃の重さ』は評価しますが、それ以外の技術面では足元に及びません。それを理解して、油断だけはなさらぬ様にお願いします」

 俺の軽口に幽香とアオイの二人が応答する。
 確かに二人の言うことは最もだ。最初こそ多少の緊張か、動きに精彩が欠けて多少の攻撃がカスっていた様だが、俺が敵の攻撃(ダメージ1)を食らいながら「ワハハハー。強いぞー。カッコイイぞー」と棒読みで言いながら【宵闇の妖怪】を殴った辺りからギアが入り、それ以降二人は無傷なのだ。
 対して俺は避けようと考えてないというのもあるが、避けようとしても避けれなかったりしたのも幾つかある。当たってもダメージ1だけど。

「それと、何度か話したと思うけど、次からは今までの野良妖怪相手とは違って『紅魔館』に入るわ。まずは門番相手になるだろうけど……」

 そこで、ふと良い事を思いついた、と言わんばかりの……こう、何と言うか、酷く嫌な予感のする笑い方をして、幽香が俺に言う。

「貴方だけで彼女と戦いましょうよ。貴方が無様に殴られ続ける様、たまには見てみたいもの」

「ゆうかりんが怖いよ、助けてアオえもん!」

 何時ものノリで何時もの怖い顔をこっちに向けてきた為、即座にアオイに話を振って回避!

「アオえもんって呼ばないでください。というか【四季のフラワーマスター】。今はふざけている場合ではないでしょう」

「あら、私はふざけてなんか無いわよ。本当に不味くなったら貴方がフォローに入るのでしょう?」

 呆れた顔をしながらアオイが幽香を窘める。返答した幽香の言葉は、信頼なのか何なのか。

「ちなみにゆうかりんは?」

「私は……そうね。倒れ付した貴方をマットにお茶でも飲んで見学、なんてどうかしら?」

「我々の業界ではご褒美です! って人は居るかも知れないが、俺は断固拒否しよう」

 どうやらS心から来る言葉だったらしい。

「貴方たちは本当に……ああ、頭が痛くなってきました……」

「大丈夫かアオアオ。何処か悪いのか? 頭か?」

「なるほど。頭が悪いのね。可哀想な子」

「頭は悪くありません!」

 右手を米神あたりに添えてため息を着くアオアオを心配して声を掛けてみれば怒鳴り返される。全く、最近の若い奴は礼儀がなってないぜよ。これがキレる若者って奴か。
 そしてそんなグダグダしてるとでっかい真っ赤な館と見事な門が見えてきた。ついでに、その前に立ち塞がる中華風の人影も。ターゲットしてみれば【華人小娘】の文字。え~と、ホワレンシャオニャン、かな? 中国語分からないぜ。ニングイジャオ? だ。まぁ、返事は返ってこないだろうけど。

「あれが門番か。んじゃ行ってくるわー。俺の雄姿を見るが良いっ」

 †    †    †

 その後、俺の攻撃が当たらず、相手にバカスカ殴られ続けた結果、俺が大人気なく【絡め取るマスタースパーク】でゴリ押したのは言うまでも無い。所詮はAI、ハメ殺せばこんなものよ!
 ちなみに幽香とアオイはのんびり観戦してた。確かに俺が負ける心配は何処にも無かったけどさ。手伝ってくれても良かったんじゃないかと思う。

 †    †    †

 門番を倒し、館に入ってみれば、例の赤い霧は無くなった。どうやら外のMAPだけらしい。一応日の魔法も確認してみたが、通常威力に戻っていた。
 それはともかく。

「さて、館に乗り込んだのは良いけど、次はどこだっけ。図書館? ってか、この【妖精メイド】結構うざったいな。俺はダメージ1だからもう完全に避けるの諦めたけど、お前らはそれなりにダメージ入るだろ」

「私は傘を開けば大丈夫。アオイは大変そうだけど」

「【四季のフラワーマスター】! 見てる位なら手を貸してくださいよっ!」

 館に入ると無限沸きかって位、そこかしこに【妖精メイド】がうろついていた。
 俺らを見つけると遠距離から魔法の弾丸を飛ばしてくるため、結構うざい。
 もっとも、幽香は【唯一枯れない花】でパリィングしており、俺は殆どダメージにならないので問題ない。大変なのはアオイで、弾幕を掻い潜りながら【妖精メイド】を切り伏せて回っている。館の中でバタバタ走り回って、はしたないザマス。

「もっとお淑やかにしないと駄目だぜアオイ。そんなんだから何時まで経っても嫁の貰い手も居ないし、花嫁修業を強制させられるんだ」

「確かに姉は嫁ぎましたが私はまだ嫁ぎ遅れって歳ではありません! それに、私が家事出来ないのと今の現状にどういった関連性があるというのですかっ」

「幽香を見てみろ。あの余裕そうな表情、ゆったりとした足取り、無駄の無い傘捌き。心なしか、【妖精メイド】も幽香を避けて俺らを優先して攻撃している様に……って明らか幽香に対する弾幕密度が薄いじゃねぇか、なんでさ?」

「原作設定では、妖精は自然の化身みたいなものだった筈だから、多分【自然化】の影響じゃないかしらね? それでも完全ではないようだけど」

 それにしても今更気づくなんてね、と続けながら此方を小バカにしたような眼差しで見てくる幽香。
 こういう攻略情報は致命的じゃない段階で先に言ってくれると助かるんだぜ? 後で『あの時言ってれば良かった!』とか後悔しながらキャラロスト(ないしリアル死亡)とか嫌だぜ。

「何か言いたそうだけど、敢えて言っておくわ。この程度、自分で気づかないとこの先やってられないわ。そうよねアオイ?」

「え……? え、ええ。その通りですよ【検証者】。私たちに技術で追いつけないのですから、努々気を抜かず励んでください」

「「…………」」 

 幽香と顔を見合わせる。
 何と言うか、うん。お前の考えてることは分かるぜ相棒。あれだよ。これもアオイの魅力の一つと思おうぜ?

「何ですか二人して顔を見合わせて! 何か言いたいことがあるなら仰ってください!」

「何でもないぜ。なあ相棒?」

「ええ、何でもないわ。そうでしょう相棒?」

「もー! 何なんですか!」

 †    †    †

「おー、見つけた。アイツが此処のエリアボスだな」

 【知識と日陰の少女】か。
 ……ちょっとだけ俺と気が合いそうだと思ったのは秘密だ。あの根暗そうな顔といい、眠いんだか不機嫌なんだか分からない目つきといい、図書館をパジャマでうろつく神経の図太さといい。
 もっとああいう『如何にも引き篭もりのネトゲ廃人ですどうぞヨロシク』みたいな奴と仲良くなりたかった。どうして幽香と相棒なんてやってるんだろう。別に不満は無いけど。

「どうかしたの? 私の顔をじっと見て。私がいかに美人とは言え、羨んだ所で貴方のそのパッとしない顔は直らないわよ?」

「PCボディの顔が美人なのは当zウボァー」
「お黙りなさい」

 俺の言葉を遮るようにワンハンドネックハンギングツリー。
 PCボディーだから別に苦しくはないんだが怖い怖い。つい言葉を止めて断末魔を叫んじゃうくらい。
 ってか地味にダメージ入ってるってば。

「漫才はそこまでです……来ますよ!」

 と、騒いでいたらどうやら【知識と日陰の少女】に補足されたらしい。全くゆうかりんが騒ぐから。
 そして眼前に迫る複数の炎の弾丸。ホーミング性能は、結構良いな。発動も早い。というか、通常攻撃の類か、コレ。弾速は比較的遅めだから幽香もアオイも心配する必要は無さそうだが。
 と、冷静に分析してた直後だ。
 景色が、ブレた。

「うおおええええ!?」

 何が起きたのか確認してみれば、理由は単純明快。幽香が俺を振り回したのだ。幽香に迫っていた炎弾はバットか何かの様に振り回された俺に当たり、炎弾は弾け飛ぶ。俺に1ダメージ。ついでに言うと幽香にはノーダメージ。

「オイこら相棒。なんばしよっと?」

「右手に日傘。左手に貴方。コレって結構便利だと思わない?」

「ちょっとだけ同意するけど勘弁してくれ。景色はトンデモな速さで流れるし、視点が定まらないし、足は地面に着かないから不安だし。何より三半規管がヤバイ。気持ち悪くなる」

「全自動魔法射出機能付き、耐久損傷を気にしなくて良い、そんな盾が手に入ったと思ったのに。残念だわ」

 本当に残念そうに……は聴こえない軽い口調で言う幽香。チラっと顔見ればニマニマ笑っている。
 そして俺を離すことなく左手を大きく振りかぶった。何考えてやがるオイコラバカ止めろ。

「仕方ないから投擲アイテムとして使いましょうね」

「飛んで飛んで飛んで飛んで飛んでーってか。パジャマさん避けてー」

 俺はブン投げられながら【知識と日陰の少女】に言う。だが当然ながらAIが俺の言葉に反応することはなく、俺という弾丸を避け損ねた。
 どうやらゲーム内部的な判定では俺の【体当たり】と認定されたらしい。防護結界を展開して詠唱していた【知識と日陰の少女】に9999ダメージを出し、防護結界を破る。結界破りで固定ダメージが入り、詠唱も止まる。
 俺のPCボディを上手く使った、俺のプレイヤースキルに因らない攻撃か。攻撃手段の一つとして考えておこう。
 折角の接触距離に居る機会なので【組み合い】をしておく。判定結果は当然成功。後はマウントポジションから動かず、魔法打つ暇も与えず殴り倒すだけか。

 †    †    †

「それにしてもアレだなー。敵弱いなー」

 今は図書館MAPを抜け、長い廊下のMAPに居る。ちなみに、【妖精メイド】が邪魔なのは既に諦め、今は【キャストアクション】を持つ幽香が【マスタースパーク】を歩きながら撃って進んでいる。一直線の長いMAPだと便利だな【マスタースパーク】。

「……勘違いされると困るから言いますが」

 俺のなんとなく呟いた言葉に対してアオイが応じる。

「今まで出合った主要な敵である彼女たちは、決して弱くはありません。此処にたどり着くにはまず【ハクレイのミコ】の撃破を前提としていますが、【ハクレイのミコ】より数段強い敵ですよ」

 【ハクレイのミコ】は、標準的な強さのエリアボスである。つまり、そう考えると【宵闇の妖怪】からずっと強めのエリアボスを相手としてきたわけだが。

「特にあの門番と魔女は段違いでした。此処まで容易に進めているのも、相性の良い【検証者】が居るからでしょう。私と【四季のフラワーマスター】だけでは……そうですね、【知識と日陰の少女】を倒すのは苦労したと思います。倒せない、とまでは言いませんが」

 そうなのか。
 ……つまり、何だ。幽香の奴、俺が一番相性の良い敵を狙って俺を使ってるのか。気付かなかったが、唯のゴリ押しじゃないのか。

「……と、ようやく見つけたわよ、悪魔の狗」

 地味に俺の中で幽香の評価を上方修正していたら、幽香が詠唱を止めて呟いた。
 その目線の先には、メイド服を着た銀髪の少女が。ターゲットして名前を見る。

「んー? あの【紅魔館のメイド】って奴が?」

「そう。恐らく、貴方が役に立たない相手の一人。言ったと思うけど、彼女の能力は」

 幽香の言葉の途中で敵の詠唱が始まる。妨害しようにも、チャージが早い。詠唱終了まで1秒に満たないか。詠唱が終わる。
 目の前にナイフ。刺さる。ミス表示が20発程度。
 周囲確認。幽香はギリギリで大魔法の防護結界が間に合ったのか詠唱中。アオイは直撃か、HPバーが4分の1程度減ってる。
 【紅魔館のメイド】は、アオイの近く!?

「アオイ!」
「【鏡花水月】!」

 俺の言葉に反応してか、【紅魔館のメイド】がアオイにナイフを振りかぶるのと、アオイが回避行動に移るの、そして幽香の持つ最速の【格闘】スキルが【紅魔館のメイド】を襲うのは、ほぼ同時だった。
 幽香の攻撃は、ダメージを出した。が、詠唱ペナルティ鈍い身体で追撃は追いつかず、【紅魔館のメイド】の後退が間に合う。アオイは【紅魔館のメイド】のナイフをパリィしながら、俺のところまで後退に成功。俺は即座に【生命のかけら】でアオイを回復。

「これが『時間を操る程度の能力』って奴か」

 幽香が語った要注意能力の一つ。どの程度再現してくるかと思ったが、なるほど、なかなか。

「アオイ。あの詠唱を見てから止められるか?」

「あれだけ隙が大きいですから。先ほどの様に距離が開いてなければ、なんとか」

 すげぇ。精々0.8秒程度の詠唱時間を『隙が大きい』とか言えるのか。お前ら、俺と別のゲームでもしてるのか?
 ともあれ、こんなこと言える心強い味方がいるのだ。これなら勝てる。

「幽香! マスパ撃ったら戦線交代だ。アオイを前に出す!」

「我が放つは破滅の光、生命の極光――――【マスタースパーク】!」

 恐らく俺の声は幽香に届いた。返事は無いが、幽香が後ろに下がる体制に入る。
 そしてマスパが終わるタイミングでアオイと幽香がスイッチ。
 【紅魔館のメイド】はマスパのヒット硬直で移動が出来ず、アオイとの白兵戦を余儀なくされる。

「ふん。攻めにしか能力は使えないようね。回避に使われたら大変だったけど、まぁ、こんなものかしら」

 俺の近くまで下がった幽香が呟く。俺は返事代わりに【マナのかけら】で幽香のMPを回復。

「咲かせ、咲かせ、裂かせましょう――――」

 そして詠唱開始。なるほど。この魔法ならアオイの邪魔にはならない。
 【紅魔館のメイド】は詠唱に反応し、ナイフを投擲する。が、そのナイフを幽香は容易にパリィ。

「余所見とは。随分余裕ですね」

 当然、アオイがその隙を見逃す訳無く苛烈な攻めが始まる。あのタイミングで手抜きは、どう考えても悪手だぜ【紅魔館のメイド】。
 そして、防戦一方となった【紅魔館のメイド】は起死回生の一手か、アオイの剣を大きく弾き、後ろにバックステップ。詠唱を開始。高速で伸びる詠唱バー。そして。

「無駄です。【ソニックスラスト】」

 即座に距離を詰めたアオイのスキルにより、防護結界は破られ、詠唱中断に加え、結界破りの固定ダメージ。当然追撃の手は休まらず。

「それはきっと、美しくも残酷なことなのだから――――【幻想郷の開花】」

 幽香のフィールドオブエフェクトが発動。これで【紅魔館のメイド】は継続ダメージを受け続けながらアオイと戦うことになった。
 あとは油断しなければどうという事もなさそうだ。

 †    †    †

 そして【紅魔館のメイド】を撃破し、ついに最奥のMAPにやってきた。
 窓から見える空に浮かぶのは、真っ赤な満月。そして今まで無かった赤い霧がまた出てきた。

「……館の中に入れば無くなったから安心してたけど、此処に来てまた赤い霧、か。厄介ね」

 幽香が呟く。確かに、幽香が言うにはここのエリアボスは吸血鬼。マスパが良く効くだろうから楽できる、と考えていたのだが……そう上手くはいかないらしい。
 そして、恐らくボスが待ち構えているであろう大きな扉を開く。
 中はとても広く、立派な騎士鎧が左右に立っており、豪勢なイスと、見事なレッドカーペット。
 そして、主の風格を漂わせる黒い羽を持つ幼女。ターゲットすれば【永遠に紅い幼き月】という名前が浮かび上がる。

「やっぱり、人間って使えないわね。貴方たち、殺人犯ね」

 その部屋に響いた少女の声に驚いたのは、俺だけじゃないだろう。

「あら、咲夜が人間だったのがそんなに意外?」

 悪戯好きな小悪魔の様な笑みで笑う。

「それとも、私が喋るのがそんなに意外? 確かに私はこのMAPから出れないし、咲夜たちがこのMAPに来る事は無い」

 俺らが絶句する中、世間話でもするように言葉を続けるのは、【永遠に紅い幼き月】。

「でもね、このゲームには唯の店の店主にすら高性能AIを積んでいるのよ? 貴方たちも会話するMOBくらい、知ってるはずだけど?」

 確かに、現段階で最高レベルのAIが積まれたMOBとして、魔王が確認されている。
 今までMOBに会話出来るレベルのAIが積まれたのは魔王のみだったが、魔王に積める以上、他のMOBに積めない理由は無い。

「……レミリア・スカーレット。貴方は、随分とメタな思考が出来るのね。此処がゲームだということ。自身の思考がAIであるということ。この『世界』では、NPCにとってタブーである筈なのに」

 幽香が言う。確かに、この【永遠に紅い幼き月】が言う様なメタ発言は、普通のNPCにとっては禁じられたワードの筈だが。

「ふん、こんな場所で、会話できるのも唯一人。そんな場所に通常のAIを入れても矛盾が発生するわよ」

 ……ふむ。特殊な条件下で存在するNPC故に、メタな思考を理解するAIを積んである、のか?

「それより、お喋りするためにこんな所まで来た訳じゃないんだろう? 盛大に戦おうよ。誰が来るか予想してたんだけど、風見幽香が来るとは思って無かったんだ」

 私にも見えない運命があったとはな。そう言い、イスから降りて確かめるように手足を振ったり握ったりする。

「おいおい、完全に幽香をご指名かよ。俺らだって居るんだぜ?」

「え~と……【検証者】っていうの? パッとしない顔ね。もっと男前になって出直してきなさい」

「そこで顔について突っ込むのかよお前は」

 どうやら戦闘ルーチンだけが取り柄のAIではないらしい。これは本当に魔王クラスのAIが積まれてるか。いや、メタ思考が盛り込まれている分、魔王よりも場合によっては厄介か?

「それより、ボス戦前の口上を続けてくれないかしら? あのやり取りをしないと、どうにも調子が出ないのよね」

「口上って……ああ、さっきのですね。殺人犯がどうとか」

 アオイが油断なく構えながら応じる。

「そうよ、まったく。冴えない男に冴えない女。こんなの連れてちゃ程度が知れるわよ、風見幽香」

「顔が冴えない代わりに頭は冴えてるんだ。お蔭様で、吸血鬼の一人や二人は問題なく処理できる程度に」

 俺の言葉を聞き、【永遠に紅い幼き月】が笑う。口上に応じろって、多分こう言う事だろう?

「頭が冴えても所詮は人間。脳なんて単純で化学的な思考中枢で考えてるんじゃ脳の無い私に勝てはしない」

「カラッポ頭の割には頭でっかちね。そんなに頭スカスカで、夢を詰め込む以外に用途がなさそうね」

 今度は幽香が応じる。それにしても会話する気ないな俺ら。

「つまり貴方たちには夢も希望もないの。運命を操る私が言うわ。貴方たちに、未来は無い」

「夢は掴むもの、希望は持つもの。無いなら手に入れるまでです。民を導く私が言います。未来は、切り開くものです」

 順番的にアオイの番で、気の利いた台詞が言えるか心配になったが大丈夫だったらしい。まぁ、俺ももうちょっとカッコイイ言い回しが良かったが、その場で思いつく台詞にしちゃ上々か。

「ふふ、こんなに月も紅いから」
「ええ、こんなに月も紅いから」

「美しい夜になりそうね」「恐ろしい夜になりそうね」

 †    †    †

 あの言葉の直後からの【永遠に紅い幼き月】は、それはもう悪魔の如き戦いぶりだ。
 空中を蹴ってるのかというぐらい鋭い静と動の激しい移動。壁を足場に自身を弾丸とするタックル。コウモリを模した魔法弾による弾幕。そして鋭い爪による強力な物理攻撃。

「ちょこまかと、鬱陶しいな。大人しく俺の攻撃に当たれっての。【ホーミングブリッド】」

「幽香もだけど、貴方はそれにも増して鈍重なんだもの。欠伸が出ちゃうわ」

 俺の軽口に答えながら、追尾する弾を背負いながらその弾丸以上の速度で俺らの傍を駆け跳ね抜ける。ついでとばかりに切り裂かれて幽香のHPが減り、そして、【永遠に紅い幼き月】を追尾する弾は幽香に当たり、掻き消える。
 ……うっかり射線に味方が入って魔法が当たらない、って事は経験有ったけど。敵が追尾弾を振り切って無理やり味方に当てるとか初めてだぜ。
 幽香も今は詠唱を止め、通常の速度で【格闘】スキルを振っている。にも関わらず、有効打はあまり無い。つまり、現状でまともに戦闘が行えるのは――――

「【ソニックスラスト】!」

「おっと。や、るわねっ!!」

 今も【片手剣】スキルを直撃させた、アオイだけということになる。
 ……というか、あの空間だけなんか変だ。あいつら格ゲーか何かやってるし。俺らと幽香はそんな事無いのに。あ、そういやデコ君も格ゲー気味だったな。

「と見てる間にアオイのHPガリガリ減ってるよ。ほら【生命のかけら】」

「本当にプレイヤーってのはずるいわね」

「逆にお前らNPCは俺らのHPと比べ物にならないHPがあるじゃないか」

 ちなみに、少なくない時間を掛けて漸く【永遠に紅い幼き月】のHPバーは僅かに残す状態となり、赤く染まって瀕死状態を示している。

「あと其処。危ないぜ?」

 俺の言葉に【永遠に紅い幼き月】が気付くが、遅い。戦い始めて直ぐに気付いたが、アイツが空中を蹴って移動出来る回数は一度に2回が限度。そして、その2回目の空中ダッシュを終えた。
 そして、今、その着地の隙を狙って。

「【鏡花水月】」

 幽香の持つ最速の【格闘】スキルが、綺麗に決まる。
 呻き声を出す【永遠に紅い幼き月】。もしかしたら、俺らと違ってこの吸血鬼には痛覚が備わってるのかもしれない、とか思考が他所に反れる。そして、そのヒット硬直を逃すアオイではなく――――

「トドメッ! 【月光斬】!」

 アオイの奥義スキルが直撃。【永遠に紅い幼き月】のHPは0となった。

 †    †    †

 【永遠に紅い幼き月】の身体が、力無く倒れる。
 そして、PCと同じ様に、【永遠に紅い幼き月】の身体は、足元から光の粒子になって消失していく。

「……やれやれ、私は貴方たちに負けるために作られた存在とは言え、流石に死ぬのは気分悪いわね」

「おお、HP0でも喋れるんだな。てっきり喋れないと思ってたが」

「【検証者】、それと幽香。貴方たちは黙ってなさい」

 どうやら俺はお呼びじゃないらしい。しかも幽香に至っては口を挟んでいないにも関わらず釘を刺された。幽香涙目ぷぎゃー。

「私はレミリア。レミリア・スカーレット。【永遠に紅い幼き月】。幼きデーモンロード。スカーレットデビル。私を討った、か弱き人よ。貴様の名前は?」

 どうやら、今更の自己紹介らしい。あれか。冥土の土産って奴か。言い出すのが逆だが。

「……私は、アオイ。アオイ・サウス・ブルームーン。【ブルームーン第五王女】。この世界にて魔王を討った人間の一人です」

「……フン。私を討った者の名が、よりにもよって『青い月』か。これが私の運命か。面白いじゃないか」

 【永遠に紅い幼き月】は満足そうに笑いながら、虚空から紅い宝石を取り出し、アオイに投げつける。

「くれてやるよ。【紅魔郷の証】だ」

 そして、もう既に半分程が光の粒子に変わった【永遠に紅い幼き月】が続ける。

「ついでに、【東方の間】まで送ってあげるわ。道中の雑魚共の相手も疲れるでしょう。サービスよ」

 言葉と共に右手を掲げ、辺りが光に包まれる。どうやら強制転送らしい。
 アオイが何か言いたそうだったが、そんなのお構いなしで、転送は止まることなく、俺らを【東方の間】へと送った。

 †    †    †

 その後、積もる話はまた今度、と解散。
 消費した回復アイテムや、損傷した装備の修復。次のステージの攻略に関する話し合いなどの関係で、次の攻略は1週間後となった。
 あと、予想通り【紅魔郷の証】を手に入れたことで次の扉【東方妖々夢】が開くようになった。次は此処の攻略となるだろう。

 †    †    †

 で、1週間経った訳ですが。

「お前ら何してくれちゃってんの? ねえ?」

 集合時間に着てみれば、既に【東方妖々夢】はクリアしたとの言葉と、【妖々夢の証】という桜色の宝石を見せられた。

「【検証者】が足手纏いと判断したまでです」

「……そのね、あの、アオイに悪気はないのよ」

 アオイはドヤ顔で俺に言う。言い訳しないのは高評価だ。幽香は言い訳してるがな。

「俺はな。怒ってるんだぜ? 分かるか? なあ。……そっちは分かってるみたいだな。いーや。お前は後でじっくり話そーな。んでさ、アオイ。お前、何を開き直ってんの? お前、態々しなくて良い危険を背負ったの分かってる?」

「な、何をそんなに怒ってるんですか。良いじゃないですか。貴方を危険に晒した訳でもなく、私たちは何の問題も無く【妖々夢の証】を手に入れてきた。何か問題が」

「そういう問題じゃないんだよ……何で俺を連れて行かなかった?」

 幽香に訪ねる。

「その、怒らないで聞いて欲しいんだけど、『妖々夢』の6ボスは『死を操る程度の能力』を持っててね。当たったら即死の攻撃をしてくると思って。実際してきたのだけども、貴方、避けるの苦手じゃない? だから、居ない方が良いかなってアオイと話して……」

「そういうのは俺も交えて話してくれ。そうした方が合理的なら俺だって無茶は言わない。それで、他には? それだけの理由なら、それより前の5人まで着いて行って、最後のエリアボス戦だけ俺が離脱すれば良いよな?」

「それは、確かに、そうなんですが……」

 だんだんと尻すぼみになっていくアオイの言葉。
 俺は、大きくため息を吐いた。
 過ぎたことだ。落ち着け。こいつらなりの気遣いだと思え。怒る必要はない。感謝しろ。

「まったく……言いたい事はいくらでもあるが、まぁ、ありがとうよ。でもお願いだからこんな真似はしないでくれ。俺が行かない方が良いって納得すれば、俺は行かないからさ」

 俺の機嫌を伺うような表情をした二人にそう言う。

「まったく、折角準備してきたのに、完全な肩透かしだよ。今日はもー解散だっ。次回にはちゃんと呼べよ!」

 そう言い残してさっさとログアウト。
 次に会うときにでもアオイや幽香はしょぼくれた顔してるだろうから、その時に「何の話だ?」とでもすっ呆ければ良いだろ。
 さて、今日も検証結果を纏めて寝よう。

 †    †    †

 今日の検証結果――――『紅魔郷』はアオイが主役。活躍的な意味で。



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オマケはお休みです。
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【ワハハハー。強いぞー。カッコイイぞー】
元ネタ:遊戯王
概要:主人公 武藤遊戯の永遠のライバル 海馬瀬人(初期・キャベツ頭・緑川光)のセリフ。完全にキャラ違うけど良いのか?

【助けてアオえもん】
元ネタ:ドラえもん
概要:いじめられた時に言う魔法の言葉。未来からきた猫型ロボットが助けてくれるかもしれない。あと、どう見てもジャイアンとのびたは仲の良い友達である。

【ウボァー】
元ネタ:FF2
概要:ラスボス 皇帝の断末魔である。

【飛んで飛んで飛んで飛んで飛んでー】
元ネタ:歌手 円広志による夢想花より
概要:誰もが一生の内に一回は聞くであろう曲の歌詞の一部。

【組み合い】
元ネタ:ソード・ワールド(無印)
概要:戦闘オプションの一つ。この場合は『押さえ込み』を指す。ファイターなどの筋力に優れるキャラがソーサラーなどを容易に封殺し、生け捕りにする際に役立つ。

【鏡花水月】
元ネタ:刀語
概要:四字熟語的には『はかない幻影のたとえです。また、作品から感じられる、言葉でいつくせない深い味わいです。鏡に映る花と水に映る月の意味で、目には見えるが手に取ることができないものです。』(四字熟語辞典より)。元ネタ的には虚刀流の鈴蘭の構えから繰り出される、奥義。 下半身を地面にどっしりと構え、 腰のひねりを加え、掌底を繰り出す。

【カラッポ頭の割には頭でっかちね。そんなに頭スカスカで、夢を詰め込む以外に用途がなさそうね】
元ネタ:歌手 影山ヒロノブによるCHA-LA HEAD-CHA-LAより
概要:歌詞の一部。



[33160] 検証結果の登場人物
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9
Date: 2012/06/11 16:54
『【検証者】・検証君・主人公・俺』

 『検証勢』。この作品の主人公。学生。風見幽香の中の人とはリアルで顔見知り。男。
 この作品は彼の一人称となっている。彼の間違いや、彼の勘違い、彼の知らない事はそのままの表現で読者に伝わる。極論すると『リンゴが落ちてきた』と地の文に書いてあっても、落ちてきた物が本当にリンゴである保障は一切ない。
 作中ゲームはβテストからやってるヘヴィプレイヤー。基本ソロで、時々幽香とのコンビ。ただし、【検証者】の二つ名を貰ってからはそうでもない。
 作業ゲーは好物。でもデータ検証とか好んでやるくらいだし、別に変ではないのかもしれない。2週間くらいマインスイーパ中毒患者と化した経験有り。
 口だけは達者なタイプ。記憶力が良いのは数ある魅力の一つ。(本人談)
 幽香とアオイが同時に【ホーム】に来たときのギスギス感が地味に堪えてる様子。自分と無関係なら全く問題ないのだが、自分の発言が元で諍いが始まるとついつい口を出してしまうようだ。最初から放っておけば良いのに。
 PC性能最強の筈なのにプレイヤースキルの関係で足手纏い認定くらって、本編2では置いてけぼり食らった。でも頑張っても二流だろうから仕方ないと最初から諦めてるダメな子。

 †    †    †

『【四季のフラワーマスター】・風見幽香・主役・魔王か何か』

 『なりきり勢』。しかも『なりきり勢トップ』。学生。【検証者】とはリアルで顔見知り。女。
 どうやら『なりきり』は彼女なりに必要に迫られてやっていたらしい。その割には楽しんでやっていた様だが。
 作中ゲームはβテストからやってるヘヴィプレイヤー。基本ソロで、時々【検証者】とのコンビ。
 二つ名を貰ったイベントは『グランドクエスト』の【モンスターの聖王都襲撃イベント】である。なお、幽香が二つ名を授与された時、【聖王都】のNPCは全員キルされており存在しなかった。
 『風見幽香の聖王都襲撃』と『風見幽香討伐PT』という物が作中ゲーム内で一般的に認知されている。討伐PTについては 検証結果が『なりきり勢トップ』だった。 を参照。
 転生(?)したらしく、前世は男だった模様。ただし、意識的には女100%。(本人談)
 どうやら【検証者】の【ホーム】に置いてある【ホットドック】と【ハーブティー】は彼女の好みで置いてあるらしい。【検証者】のちょっとした反逆として無くされることがしばしば。そうすると彼女は胃袋的な意味で【検証者】に弱みを握られてるのか。NPCから気軽に購入できないというのはレッドネーム故の悩みなのかもしれない。
 最近は極大魔法一発で【アリーナ】周りのPCを消し飛ばした。
 【永遠に紅い幼き月】戦では、超一流には一歩及ばない白兵能力がネックとなり、あまり活躍できなかった。主役の座がアオイに脅かされてる気がする。

 †    †    †

『【ブルームーン第五王女】・アオイ・主役のライバル』

 『なりきり勢』。幽香とは色々な意味でライバル的な立ち位置。女。
 前衛寄りの万能キャラ。『アオイ』としては『風見幽香』は倒すべき悪の様だが、中の人的には仲が良いっぽい。
 『グランドクエスト』の最終クエスト『魔王決戦』では幽香とコンビを組む場面があった様である。また、【救国の英雄】や【Summon Knight】とも面識がある様子。
 最近はそれなりに頻度で【検証者】のホームで幽香のことについて【検証者】と話をしている様だ。話し込むと長いので、幽香と鉢合わせることもしばしば。そうした時はお互いに憎まれ口を叩くのだが、それでもやっぱり幽香のことを話に【検証者】のホームを訪ねる。
 【永遠に紅い幼き月】戦では大活躍。他の二人と違い白兵能力は超一流のため、【永遠に紅い幼き月】に善戦。それ以来、【検証者】のホームで幽香と鉢合わせた時、【永遠に紅い幼き月】がどういった人物だったのかを聞くこともしばしば。

 †    †    †

『デコ君・おでこ君・元ポニテ君・超反応前衛・メイン脇役』

 【検証者】とは以前からの知り合い。いわゆる一般PC枠。と思ってたら超人PC枠だった。【アクセルランサー】。【神槍ヴォータン】。PCボディは男。
 元々はポニテだったらしいが、今はオールバック。その結果、彼はデコ君と呼ばれることになる。
 【アリーナ】でのチーム【検証デコ頭巾】のデコ担当。何かと笑ってる。でも表情が変わらない営業スマイルじゃなく、表情豊かに色々な笑い方する。無口。実は負けず嫌い。(【検証者】談)
 あと、喋るのが面倒なのか、何か聞かれた際に良く考えた上で、適当に返事することも多い。大して考えもせず適当な事を言う【検証者】と比べ、どちらの方が、より性質が悪いのかは判断に悩むところである。
 今や【アリーナ】でもトッププレイヤーに劣らぬ程のプレイヤースキルを持っている。近接戦闘だけの勝負ならは幽香を上回るんじゃないか。(【検証者】談)

 †    †    †

『猫耳頭巾さん・サブ脇役』

 デコ君の【フレンド】。いわゆる一般PC枠。【ウィザードリィ】。
 猫耳の頭巾を被っている。その結果、猫耳頭巾と呼ばれることに。
 風見幽香討伐PTに好んで行ったり、作業ゲーがあまり好きじゃなかったり、どことなくゆるいイメージとは裏腹に、好みや気性は激しいというかアクティブというか。
 【アリーナ】でのチーム【検証デコ頭巾】の頭巾担当。何かと語尾を伸ばす~。
 デコ君が超人PCと化したため、貴方が唯一の一般PCの希望の星だ。頑張れ猫耳頭巾さん。

 †    †    †

以下は一行のみの紹介。

「あいよ! 【カバーリング】!」 パラディンさん
「あなたの心のお道具箱、スマイリーGMです!」 GMさん
「私、ネタになる人は大好きです!」 実況さん
「っ!? 死ねるかぁっ!」 【ツインブレード】



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