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[32555] 【習作・にじファンより】横島、麻帆良に降り立つ(GS美神×ネギま!)
Name: 靴下を履いた黒猫◆c2b5b9ca ID:650eae7e
Date: 2012/04/09 23:22
この作品はにじファンに掲載していた作品の移転です。にじファンの方の作品は4月7日頃に消去を行う予定です。
移転に伴い本編の推敲を行い、地の文章を増やすなど行っています。
こちらでの投稿は初めてですので、何が気になった点などありましたら教えていただけると嬉しいです。
にじファンで読まれいただいていた方には、推敲を行った感想など(地の文が増えてよかった、あるいは逆にテンポが悪くなったなど)もいただけると嬉しいです。

あと、題名部分に(にじファンより)と書いてあるのは、検索しやすいようにつけてみました。この作品のタイトルを忘れたら『にじファン』で検索をどうぞ。

※注意※

・本作品の主役は横島です。ネギは活躍しません。ネギが活躍しないと嫌だ!という方にはおススメできません。
・横島主役化に関連し、ネギアンチ、魔法使いアンチの描写が含まれることがあります。原作キャラ死亡などはない予定ですが、登場場面が大幅に削られたり一部キャラ崩壊(ギャグ化)などはありえます。
・ハーレム物です。


2011/09/03 移転元・にじファンでの第一話投稿
2012/03/31 Arcadiaに移転・一章~間章、投稿
2012/04/04 間章、一部修正(認識阻害結界の表記を原作に登場していなかったので削除)
2012/04/08 にじファン投稿分を削除



[32555]
Name: 靴下を履いた黒猫◆c2b5b9ca ID:650eae7e
Date: 2012/03/31 14:36
 魔神アシュタロスとの戦い、愛する者との別れをを乗り越え、心身ともに一回り大きくなった横島忠夫。
 彼は高校卒業を機に正式にGS免許を取得し、美神除霊事務所の正社員として多忙な日々を送っていた。

「計算終了なのねー、横島さんの文珠の結界、『防』『御』とかなら無傷で耐えられるはずなのねー」

 朽ち果てた廃工場の地下に隠されていたとは思えないような広大な空間。
 向き出しの岩肌が露になっているその場所に、高さ10メートルほどの巨大な装置が設置されていた。装置の外見は奇妙に生物染みており、臓器のような表面に走るパイプは時折脈打っている。
 その奇怪なオブジェを前に、手元の鞄に内蔵されたモニターに示された計算結果を読み上げるのは女神ヒャクメ。
 今回、美神事務所の面々が受けた依頼はとある廃工場の地下に秘密理に建造された地脈炉の停止、あるいは破壊であった。
 地脈炉には魔族側の関与が予想されるとの報告があり、直接神族が戦闘の参加するわけにはいかなかったのだが、バックアップ要員としてヒャクメが送られていた。
 そして、予想通りに存在していた下級魔族の退治を終え、現在は地脈炉の停止作業に移っているところである。

「やはり破壊するしか方法はないようじゃのう。まあ小僧なら死にはせんじゃろ」

 地脈炉の操作ということで同行していたDr.カオスも、ヒャクメの百の感覚器を用いて得られたデータを検証し、そう結論付ける。
 この地脈炉は外見の通り魔族の創った兵鬼の一種であり、地脈に寄生して恒久的にその力を吸い出すという機能を持っていた。
 強大な地脈の力を制御することに特化した装置自体には戦闘能力は備わっていないのだが、放置すれば関東一円の地脈が枯れ、草一本生えない不毛の大地と化す凶悪な代物である。
 安全な停止方法は核への強力な霊力を纏った一撃による破壊のみ。
 その際に核に溜め込まれた力や地脈から溢れた力が近くのものを巻き込む恐れがあると推測され、ヒャクメとカオスの二人がその被害の程を試算、事務所メンバーのうち横島ならば耐えられるという結果が出たのだ。

「そう、じゃあ横島くん頑張ってね」

 にこやかに横島の背中を押し出す美神。自身はおキヌたちを連れて十分距離をとったところで簡易結界を張り籠るつもりである。

「うう、やれっちゅうならやりますが……あの二人の計算っちゅうのが信用ならん」

 横島は先ほどから妙な胸騒ぎを感じていた。命の危機を覚えるほどではないのだが、何かが横島の霊感を刺激しているような気がするのだ。
 だが、自分よりも霊感が優れている筈の美神が何も感じていないようなので、しぶしぶ指示に従うしかなかった。
 正社員になっても相変わらず、と言うよりむしろ給料が上がった分以前よりこき使われている。

「大丈夫なのねー、絶対横島さんは傷一つ負わないって保証するのね」
「うむ、わしの計算でも同じ結果が出ておる。安心してちゃっちゃと済ませい」
「うるせー、お前らの絶対ほど信用ならんもんはない!」

 これまでの経験からはっきり言い切るが、地脈炉を止めるのに他に方法も思いつかない。

「え~い、やりゃいいんじゃろ、やりゃー!」

 やけくそ気味に霊波刀を振りかざし、左手には『防』『御』の文珠を握り締める。

「このやろーー!!」

 横島が核を切り裂く。
 一瞬地脈炉全体が胎動し、次の瞬間には膨大な量の霊力が溢れ出した。
 押し潰さんばかりの霊力の奔流に文珠の防御結界が自動発動、確かに耐えられそうに見えたのだが。

「な、なななんじゃこりゃーっ?!」

 横島の周囲、霊力の流れの滞っている場所に歪みがいくつも発生した。
 そして。

「う、うわあああぁー、美神さーん……」
「横島くん?!」

 歪みはあっという間に無数の亀裂に成長し、横島は防御結界ごと飲み込まれてしまう。
 横島の姿が消え、一緒に簡易結界の中に避難していたヒャクメとカオスに美神たちが詰め寄った。

「ヒャクメ、何なのよ、これ!」
「よ、横島さんはどこに行っちゃったんですか?!」

 ぶち切れる寸前の美神と、涙を浮かべながらも美神に劣らない迫力を発揮するおキヌ。

「お、落ち着くのね、よ、横島さんの防御結界は完全に霊力流を防いでいたのね。ただ……その……」
「ただ、何なのよ?」
「もったいぶらずに早く言うでござる!」

 タマモも不機嫌そうにヒャクメを睨みつけ、シロは今にも噛み付かんばかりである。

「えーっと……」

 四人を一端押し留めカオスとこそこそ話をしてから、愛想笑いを浮かべるヒャクメ。

「け、結界にぶつかって淀んだ霊力の密度が上がりすぎて、時空の歪みと亀裂が発生……横島さん、別の時空に吸い込まれちゃったのね。
 防御結界の強度計算に目が行っちゃって、ちょ~っとうっかりしちゃったのね」
「はっはっは、まあこのわしもたまには失敗するわい。許せ!」
「こ……このアホコンビ!! さっさと横島君を見つけなさい!!!」

こうして、横島は異世界へと旅立つこととなったのだった。



[32555] 第一章 横島、麻帆良に降り立つ(1)
Name: 靴下を履いた黒猫◆c2b5b9ca ID:650eae7e
Date: 2012/03/31 12:36
 その日、神楽坂明日菜と近衛木乃香の二人は朝から買い物をしていた。夏休みも残り数日となり学校が再開される前に色々と買い揃えるつもりだったのだ。
 涼しいうちに服などを見て回り、昼前には世界樹広場前で早めの昼食を取って、二人はそのまま腹ごなしに広場の中の木陰の小道を歩いていた。

「はぁ、もうすぐ夏休みも終わりかー。宿題とか誰が言い出したのかしら」
「あはは。うちも付きっ切りで教えたげるさかい、帰ったらしっかりやるんやよー?」
「わかってるわよ。別にやらないなんて言ってないし、学校が始まれば高畑先生にも会えるんだからちゃんとやるわよ……」

 夏休み終了間際、毎年交わされる極々普通の会話をしていた二人。
 その二人の『普通』は何の前触れもなく、終わりを迎えることになる。

「あら?」
「どないしたん、アスナ?」
「えっと、何か、変なのが……」
「んー? ……あれ、何やろ?」

 アスナが前方を指差し、木乃香もそこに――何もないはずの空中に妙な歪みが存在していることに気がついた。
 最初は目を凝らさないと気がつかないような小さな歪みだったが、二人が見ているうちにどんどん大きくなっていき、歪みの向こう側の景色がグニャグニャと捩れていく。

「ちょっと、何よこれ?!」
「うわー、何なんやろーな?」

 驚いてその場で固まる二人の目の前で歪みは一気に成長し、中心に亀裂が走ると一人の男を放り出して消えてしまった。
 後に残ったのは、呆然とした顔で見詰め合う二人の少女と一人の男。

「……あー、ちょっとええかな。ここかどこか教えて欲しいんやけど……」

 いち早く驚愕から立ち直った男、横島が二人に声をかけた。
 美少女を前にしてこの男がナンパしないなんて珍しいが、鍛え抜かれた横島の心眼は二人が中学生であると正確に見抜いていたのだ。

(ううむ、あのスタイルで中学生とか……あっちの子も胸は小さいが可愛いし、二年後に会いたかった……!)

 内心で溜息を吐きつつ、見た目はフレンドリーに話しかける横島。元々二枚目ではないが愛嬌のある顔をしているので、人好きのする笑顔が浮かんでいた。

「あ、はい。ここは麻帆良っていうんでけど――って、そうじゃなくて――」
「お、お兄さん、何やの今の?! 魔法? 超能力? それとも、お兄さんは実は宇宙人やったりするんかー?!」

 思わず流されそうになったアスナが突っ込みを入れる前に、オカルトなどが大好きな木乃香が目をキラキラさせて横島に駆け寄ろうとした。

「え、ああ、俺はゴーストスイー……?!」

 守備範囲外だとしても可愛い女の子に迫られて嫌がるような横島ではない。自分はGSで除霊中の事故で飛ばされた、と口を開こうとした瞬間、横島の背中を悪寒が走りぬけた。
 咄嗟に霊気の盾――サイキック・ソーサーを作り出し、直感に従って構える。

 キンッ

 ほぼ同時、物陰から飛び出してきた小柄な影の繰り出した一撃――大太刀の一閃を受け止め、横島は驚嘆の声を上げた。

「お嬢様、お逃げ――」
「な、なんでいきなり刃物持った美少女中学生に切りかかられるんじゃー!? しかもこの妖気、妖怪やないやんけ、ワイが何をしたっていうんやー!」

 横島に切りかかったのはアスナと木乃香の同級生、桜咲刹那だった。ギラギラと殺気を漲らせる彼女は抜き身の刃か狂犬のようで、相変わらず根がヘタレな横島が泣き叫ぶ。
 しかし、横島の豊富な戦闘経験と観察力は大太刀に纏わりついて強化する『何か』――妖気が混じった横島のよく知らないエネルギー――を敏感に感じとっていた。
 咄嗟に受け止めていなければ真っ二つにされていただろうと冷静に判断を下す。
(くう、この子可愛い顔の割りに本気で強いぞ。文珠なしじゃ無傷で取り押さえるのはきついかもしれん)
 意識下から取り出した文珠を一つ左手の中に隠し、隙をつかんと身構える。

「な……ッ?!」

 だが、横島の予想と裏腹に、刹那は先ほどまでの気迫が嘘のように消えうせ、まるで隙だらけで横島から視線を外し、木乃香に目を向けてしまっていた。
 妖怪――正確に言えば半妖だが、自らの正体を木乃香の前で言い当てられた動揺が刹那の意識を占拠していたのだ。
 当然、その隙を見逃すような横島ではない。『眠』の字を入れた文珠を投げつける。

「ッ、しま――」

 光が爆発すると同時に刹那の体から力が抜ける。慌てて駆け寄った横島が支えると、その腕の中で静かに寝息を立て始めた。

「ふう、ビックリした~」
「せ、せっちゃん……? あの、せっちゃん、どうしたん? け、怪我とかしとるん?」
「え? ああ、この子なら寝てるだけだぞ。ほら」
「……あ、ほんまや。よかった~~~」

 幼馴染の突然の乱入、戦闘、そしていきなり動かなくなった刹那を案じて不安そうに尋ねる木乃香。横島が刹那の寝顔を見せると一気に緊張が解けたのかその場にへたり込んでしまった。
 対し、目の前で突然始まった戦闘に呆然とし観客と化していたアスナがようやく起動し始めた。

「ちょ、っちょっと待ってよ! 何であんたいきなり宙から出てきたの? 桜咲さんも刀持って切りかかるし、あんたも変な光る盾みたいの出すし、そうかと思ったら桜咲さんは突然寝ちゃうし! 一体何なのよあんた!!!」

 顔を真っ赤にして食って掛かるアスナの勢いに押され、若干及び腰になりながら横島は言う。

「――俺は横島、ゴーストスイーパー横島忠夫だ。よろしくな!」
「おおー!」

 そういって自分で考えたカッコいいポーズを決め、歯をキラリと輝かせる横島と、何がウケたのか笑顔で拍手を送るを親友に、どうしようもなく脱力してしまうアスナだった。



「――つまり、ゴーストスイーパーってのは依頼をうけて妖怪や悪霊などを退治する職業でな。
 まあ、一概に退治するだけじゃなくて保護とかをすることもあるんだが、プロのGSを名乗るにゃ国家試験受けて合格せにゃならんのだ。
 で、さっき言ったような連中と戦うための力が『霊力』。俺は霊力をこうして収束して盾とか剣とか作って戦うんだ」

 右手に霊波刀状の栄光の手、左手にサイキック・ソーサーを出して説明をする横島。
 場所はアスナたちの住む女子寮の一室である。

 あの騒動の後、横島は眠り続ける刹那やその手に握られていた大太刀の件もあり、どこか落ち着いて話せる場所に移動することを提案した。
 アスナも木乃香もこのままでは警察沙汰になりそうだと思ったので(刹那の銃刀法違反など)横島の提案に応じ、少々揉めたが二人の自室に行くことになった。
 道中は横島が刹那をおぶさったが、流石にスレンダーすぎて煩悩は刺激されず。女子寮も中学生しか住んでいないと聞いては守備範囲外、風呂場を覗くこともせずに素直に二人の部屋にお邪魔した。
 ただし、玄関からではなく眠ったままの刹那を背負って、六階の窓から隠れながらの入室である。
 白昼堂々と身一つで女子寮の壁を登りきり、誰にも見つからないという見事過ぎる陰行に(この人、本当は忍者なんじゃ……)とアスナは思ったりしたが口にはしなかった。

「嘘みたいな話だけど……これ、手品じゃないんですよね。それにさっきの件もあるし……ううん」

 アスナは半信半疑という様子で、サイキック・ソーサーを手に取って軽く叩いてみたり、ベッドに横たえられた刹那のことを振り向いたりしながら呻いている。

「うわー、うわー、いいなー、綺麗な緑色やー。なあなあ横島さん、ウチもその霊能力って覚えられへん?」

 木乃香は玩具を目の前にした子供のようにして、伸びたり縮んだり手甲に変形したりする栄光の手の輝きに見入っている。

「うーん、多分修行とかすれば霊力を使えるようになるかもしれんけど……なあ、木乃香ちゃん、もう一度ここの地名教えてくれないか? あと地図とかあると助かる」
「? 埼玉県麻帆良市やよ。地図は……あ、あったあった。はい、地図帳」
「あー……」

 埼玉県かー、と呟き、木乃香が学校の授業で使っている地図を見て困った顔をする横島。

「どうしたんですか?」
「ん、いやアスナちゃんたちがゴーストスイーパー知らないのは何でだろうかと思ったんだけど……」
「そうや。国家資格とか言われても、ウチ聞いたことあらへんよ?」
「そういえば、こういう話が好きなこのかが知らないっておかしいわよね?」
「あー、まあ、その原因がわかった気がする」
「「原因?」」

 首をかしげる二人に、横島は苦笑しながら推測を告げた。

「この世界と俺のいた世界、別の世界みたいなんだわ」



 横島たちが龍脈炉を止めるために向かった埼玉県××市。横島の記憶の中の位置と麻帆良市の位置はほぼ一致している。
 また、横島は気がつかなかったが、龍脈炉の位置と麻帆良学園の中心に根を張る世界樹の位置も重なっており、その場所は龍脈から自然と霊力が溢れてくる龍穴と呼ばれる場所になっている。
 こちらの世界に来た横島が世界樹の傍に現れたのは偶然ではなく、異世界のほぼ同座標だったからだ。



「……とまあ、どうやら色々と俺の世界と違うみたいだし。時間移動とかもしたことあるけど、今回はたぶん異世界か平行世界であってるんじゃないかな。――って、アスナちゃん? 頭から湯気が出てるけど平気か?」
「……………………無理です」

 霊能力やゴーストスイーパーなどの話だけでなく、異世界間での差異や宇宙のタマゴのような複数の世界の存在についての話も交わり、アスナは途中で撃沈していた。
 横島自身も本来はそこまで頭は良くないのだが、自分が実際に体験したことなのでなんとなくで理解できていたりする。
 そして、そういう話が大好物な約一名は最初から最後まで凄く楽しげに話を聴いていた。何せ神や魔族や幽霊や妖怪が普通に存在する世界である。いくら聞いても興味は尽きない。

「ほへー。横島さん凄いんやなあ。サインもろていいですかー?」
「へ? ま、まあ俺なんかのサインでよけりゃ、いくらでも――」
「だああああぁぁぁ、なんで横島さんは異世界に来たって言うのにそんなにのんびりしてるんですか!? それにこのかも! あっさり受け止め過ぎでしょ、少しは疑ったりしないの!?」

 あまりにのほほんとし過ぎている二人にキレるアスナ。

「んなこと言われても、こういうこと慣れてるしなあ。それにそのうち誰か迎えに来るだろうし」

 しかし、横島はのんびりとお茶をすするだけ。ここに飛ばされたのがヒャクメの失態のせいなのだから神族魔族も動くだろうと、全く危機感を抱いていない。

「まあまあ、アスナ落ち着きい。ウチやてちゃんとびっくりしとるよ」
「このか、でも、異世界とか急に言われても信じられないわよっ!」
「アスナ」

 横島の非常識な話を信じきれないアスナに対し、僅かな間であるがその人柄に触れた木乃香が穏やかな声で言う。

「横島さんは嘘とかつく人に見えへん、ウチは信じられると思うんよ。……それに、せっちゃんにも酷いことしないでくれたしな」
「このか……」

 突然刀で切りかかってきた刹那に対し、横島は霊波刀という武器を持っていたのに怪我をさせないように気をつけてくれた。
 眠ってしまった後、刹那が地面に倒れる前に抱きとめてくれたし、ここまで運んで欲しいと頼んでも嫌な顔一つせず丁寧に運んでくれていた。
 だから木乃香は横島を信じられたし、その親友の態度にアスナもまた考えを改めた。

「……そうね。とんでもない話だけど、横島さんが嘘つくよな人にも見えないか。私も信じるわ」

 ごめんなさい、疑ったりして、とアスナが横島に頭を下げる。その一幕に感動した横島は滝のように涙を流して泣き出した。

「ううう、木乃香ちゃんもアスナちゃんもほんまにええ子やなー。初対面でこんなに信頼されたのはいつ以来やろ。そのままええ子でいてくれな……」
「もう、私達より年上なのにそんなに泣かないでくださいよ」
「いややわぁ、そんな恥ずかしい。はい、横島さん、お茶のおかわりどうぞ」

 自分自身の普段の奇行のせいなのだが、それは棚上げしてべた褒めをする横島に対し、最初は疑っていたアスナはちょっと居心地を悪く感じながら慰める。木乃香はにこにこと笑顔でお茶のおかわりを入れた。

「ん。おう、ありがと。いやあ、木乃香ちゃんの入れるお茶は美味いなあ」
「あ、このか、私にもおかわり頂戴」
「はいはーい」

 ずずず……、と一旦話をやめ、木乃香の入れたお茶を味わう三人。
 まったりした空気が流れたところで、木乃香が口を開いた。

「――でな、横島さん」
「ん?」

「さっき、せっちゃんのこと『妖怪』や言うたんも……本当、なんやろ?」



[32555] (2)
Name: 靴下を履いた黒猫◆c2b5b9ca ID:650eae7e
Date: 2012/04/09 23:21
『せっちゃん』

 陽だまりのように笑う『彼女』が、少女の初めての、ただ一人の友達。

『今日は何して遊ぶん?』

 少女の呪われた身に、分不相応な幸せを与えてくれた大切な人。

『せっちゃん、せっちゃーーん!!』

 幼きあの日。
 その命に代えても護って見せると誓ったはずなのに。


 見たこともない術で突然『彼女』の目の前に現れた男に、
 魔力でも気でもない光り輝く『何か』で容易く刃は受け止められ、
 一目で少女の体に流れる血を見破られ、
 その言葉に動揺し、『彼女』を逃がす時間すら稼ぐこともできず、気を失った――。


 取り返しのつかない失態。何と無様なのだろう。
 力を求め、血の滲むような修練をこなし、ようやく『彼女』を守れるだけの力を手に入れたと思ったのに。
 少女は、本当は、こんなにも無力だった。

『せっちゃーーーん!!』

(――ああ、お願いです、私はどうなってもいい、たとえ死んでしまっても構いません。

 だから、どうか、どうか、お願いですから、『このちゃん』だけは――)



「せっちゃん、泣かんといて」

 うなされながら涙を流す刹那の頬を、木乃香がハンカチを手に拭う。
 その感触で目が覚めたのか、刹那のまぶたがゆっくりと持ち上げられ、木乃香の瞳と目が合った。

「こ、のちゃん……?」
「そうやよ、このちゃんやよー。……またその名前で呼んでくれるんやなー。嬉しいわー」

 満面の笑みを浮かべてぎゅーっと、刹那の体を抱きしめる。中学に上がって再会してから一度もそう呼んでくれなかった幼馴染の言葉に、全身で喜びを示していた。

「こ、このちゃん、急に何を……っ!」

 刹那が恥ずかしそうに頬に染めて、慌てて周囲に目を配った。
 そして、目が合った。テーブルの向こうから優しげな瞳を向けている横島と。

「――ッ!」

 何故そんな目で見られているのか、敵である筈のこの男に木乃香諸共捕まったのか。

『しかもこの妖気、妖怪やないやんけ、ワイが何をしたっていうんやー!』

 自然と戦闘体勢に入りかけたところで、脳裏に横島の言葉が蘇ってきた。
 刹那の体が硬く強張る。
 今抱きしめられている彼女に、自分の正体が知られてしまったのだ。

「お、お嬢様、……わ、私は……」

 何を言おうとしたのか、何を言わなければならないのか。
 気持ちばかりが逸り、上手く形にならない刹那の言葉は柔らかな声に遮られた。

「このちゃん」

「……え?」
「このちゃんやよ、またお嬢様って呼んだら怒るえ?」
「で、でも私は、ずっとお嬢様を――」
「でもも禁止やー! そんなせっちゃんにはお仕置きしちゃる!」

 アタフタと、何とか腕の中から逃げようともがく刹那の頬に、木乃香の魔の手が迫る。

「え、え、待ってください、おじょ――ふがっ!」
「せやから、お嬢様禁止言うとるやん! せっちゃんのアホーー! 反省するまでずっとこのままふがふが言わせちゃる!」
「ほほふははあーー!?」



「……お茶が美味しいわ」
「……本当だなー」

 ベッドの上で組んず解れつ美少女同士の絡み合いが行なわれていたが、幼馴染同士のじゃれあいのようなものとアスナは放置し、横島もまたベッドを視界に入れないようにしながらお茶を味わっていた。

 季節は夏。少女達の衣服も薄着になる残暑厳しい暑い日が続いていて、本日も快晴の真夏日である。
 ベッドの上では少女達のスカートからすらりと伸びた若々しい脚線美や、乱れた服からチラリと見える可愛いお臍などが無防備に晒されていた。

 だが、横島はロリコンではない。
 幼さの残る少女たち相手にドキドキしたりしないし、つい聞き耳を立てたり、無意識のうちにベッドの方を向いてしまいそうになったりなどしない。
 ただひたすら、お茶を口に運ぶだけである。

「……本当にお茶が美味いなあ……」

 中学生に欲情しないために現実逃避をしているわけではない、決して。



「――ですので、正体を知られた以上、掟に従い私はお嬢様の前から姿を消さねばなりません」

 そう言って頑なに木乃香から離れようとする刹那。
 固い決意を浮かべたその表情には取り付く暇もない。

「……横島はん、どないしょ……」

 どうやっても意志を変えない刹那に、木乃香は泣きそうな顔で横島を振り返る。

「う、うーん……掟、なあ……」

 自分の失言が原因なので横島もぽりぽりと頬をかきながら考えるが、どうにも刹那の態度に違和感を覚えていた。
 刹那が木乃香を大切に思っていることは明白だ。先ほどのじゃれ合いでも実に楽しそうにしていた。
 なのに、彼女は中学に入学して再会してからずっと木乃香と距離を取っていた。
 そして、横島が登場した途端に殺気を漲らせて切りかかってきて、その結果、正体を知られたから姿を消すと言う。
 木乃香の祖父からの依頼で影から護衛していたとも言っていたが、なんというか、納得がいかないというか、刹那に対する印象がちぐはぐなのだ。
 そこで疑問点を整理してみることにした。

(そもそも、影から護衛つけるなら木乃香ちゃんと面識ない相手を選んだ方がいいよな?)

 これが一つ目の疑問だ。影から護るというなら、それは襲撃犯の予想もつかない人材でなければならない。
 だが、幼馴染の二人では襲撃犯の方も予想を立てやすいだろう。
 刹那が京都からこの麻帆良にやって来たのも木乃香の護衛の為では?と少し調べれば思いつく。
 それなら最初から護衛対象に張り付いていたほうがいいし、護りやすい。
 存在の知られている遊撃ほど効果の薄いものはない、美神もよく使う手なのでこれは経験から来る確信であった。

(それに、実際に問題が起きたら対処するのはいいとして、それで正体知られたらお別れなら、その後の木乃香ちゃんの護衛はどうなるんだ?
 いついなくなるかわかったもんじゃないし、常に交代要員を確保するくらいなら最初から二人つけといた方がいいだろうな)

 護衛を行う場合、複数人いた方が護衛する側も交代を取って休憩が取れるのでいいというのは言うまでもない。
 人数が多ければ大規模の襲撃でも護りきれるし、その他にも色々利点は多い。
 交代要員を用意しておくくらいなら最初から投入するべきだし、もしも居ないのならこの後木乃香を護衛する人員が居なくなってしまう。
 どちらにせよ問題だらけ、おかしな点ばかりだ。
 それだけのデメリットを覆すだけの理由、あるいはメリットが存在していたと考えると、その理由に当たる物は一つしか思いつかない。

(掟、か……?)

 正体を知られたら姿を消さないといけないという掟。
 木乃香の近くにいればバレやすくなるから距離を置いていた。そうとも考えられる。
 だが。

(そもそも、刹那ちゃんは真面目そうだが、木乃香ちゃんの為なら掟なんて気にしない気がするだよなあ……?)

 それが横島の感じた最大の違和感だった。
 根は真面目そうだが杓子定規で融通が利かないのではなく、自分の護りたいものの為なら何があっても全力を尽くす――横島のよく知っている少女、『犬塚シロに似ている』というのが刹那に抱いた印象だった。

 掟を破り、里から飛び出して父の敵討ちをしようとしたというのが横島とシロとの出会いの切欠だった。
 熱を出したタマモの為に、周りが止めるのも聞かずに天狗に戦いを挑み、我が身も省みずに薬を手に入れようともした。
 時代がかった考え方も、人狼と半妖という人に近いが人ではない種族であるということも、戦いに挑む執念、その意志の強さ、……ついでに現状を把握しきれずに突っ走るところや武器が刀であることも。
 シロと刹那。
 二人はよく似ている。
 どこか思いつめたような瞳の輝きさえ、横島が初めて出会った頃のシロを彷彿とさせた。

(……この子が別人つうのはわかってるんだけどなあ)

 それでも、似ているところを上げれば上げるほど、思考はシロの行動に引きずられ、刹那の行動をおかしく思わせる。
 シロならば一度護衛をすると決めた場合、生半可なことでは途中で辞めたりしないだろう。
 子狼を護る親狼のように、自分の身さえ省みずに護る。
 その意志を『掟だから』という理由で変えるだろうか。

(んー、なんだかな。刹那ちゃんが本当に気にしているのは『掟』じゃないと思うんだが……じゃあ、別の何かか?
 何がこの子をこんなに頑なにしているんだ?)

 いくら悩んでも横島には答えはわからなかった。
 ただ、このまま二人を分かれさせれば悲しい結末しか待っていないだろう。
 彼女はその強固な意志によって、二度と木乃香の前には姿を現すことはない。
 それだけは容易く想像できるのだった。



「――やっぱりわからん」

 横島が白旗を上げた。
 その言葉に刹那は安堵と落胆の混じった溜息を吐き、木乃香は表情を翳らせる。

「桜咲さ……?」

 アスナが口を開いて何か言おうとしたところで、横島が手を出してそれを止めた。

「あー、できればこんなことしたくないんだが――」

 アスナの訝しげな視線に曝されながら、横島は一つの珠を取り出した。

「――刹那ちゃんが何を考えているのかわからんし、でも、木乃香ちゃんもこのままでは納得できないだろうから――」

 淡い緑に輝くそれは、まるで宝石のように美しかったが、また一目見て宝石ではないと誰もが思うもの。

「――本当にすまんが、胸の内を『曝』してもらおうか!」

 珠の中に『曝』という文字が浮かんでいるそれを、横島が刹那に向かって投げつけた。

「な――っ?!」
「「横島さん?!」」

 とっさに避けようとした刹那だったが、狭い室内ではどれだけ速く移動しても文殊の効果範囲からは逃げられない。
 そして、木乃香とアスナの見守る中で、文珠の輝きが刹那を包み込み――。

「い、いったい何を……ッ?!」

 文珠の光が収まった後、部屋の中に現れたのは白。
 純白の翼、色の抜け落ちた髪、そして透き通るような白い肌の――一糸纏わぬ裸体を『曝』す刹那の姿。
 白いキャンパスに紅を垂らしたような双眼は何が起きたのか理解することを拒み、裸の己を無意味に見つめている。
 音を無くしたかのような静寂が破られ。

「ブハーーーッ!」
「「「ええー!?」」」

 横島はやり遂げた男の顔で血の海に沈んだ。

「ちょっと、横島さん!? 何なのコレ、気絶してないでどうにかしなさいよ! 起きろー!」
「え、え、えええーっ!? な、なして、うち、うち……」
「せっちゃん、ベッドや! ベッドに隠れるんや!」

 横島を叩き起こそうとする者、訳がわからず泣きそうになる者、指示を出して隠そうとする者。
 この混乱は横島が復活を果たすまで続くのだった。

「……ワイはロリコンやない、ワイはロリコンやない、ワイは……ワイはーーっ!」



 横島が使った『曝』の文珠。
 本当なら刹那の胸の内を『曝』させるつもりで使ったのだが、そこは煩悩魔人の呼び名も名高い横島の文珠である。
 以前ヌードモデルとして裸を『曝』した経験もあってか、刹那が身に纏っていた物を全て剥ぎ取り、生まれたままの姿を『曝』すという方向で発動してしまった。

 刹那の悩みの根底に位置する『自分への忌避』――『人に在らざる翼と、忌み子として蔑視された白い髪、紅い瞳』を偶然だが木乃香に『曝』す、という結果を伴って。



「すみませんでしたーー!」
「う、うう……嫌や……見んといて……」

 布団の中から涙混じりの刹那の哀願の声が聞こえる。

「大丈夫やよ、せっちゃん。横島さんはもう見とらんよ」
「横島さん、女の子にこんなことして……顔上げたらただじゃ済まさないわよ?」

「悪気はなかったんじゃーっ! ワイはロリやないんやー!!」、と泣きながら美しい土下座を決める横島。あまりにも神がかった見事過ぎる土下座に怒れるアスナもわずかに怯んだりしたが。
 もう見られていない、と安心させようとして、木乃香は切れ切れとした刹那の言葉を聴いた。

「お願いや……見んといて……うちのこと、嫌いにならないで――

――『このちゃん』」

「え……?」
(横島はんやのうて、ウチ……?)



 横島がたどり着けなかった答え。
 シロと刹那の最大の相違点。
 それは女性が生まれにくい人狼族の里で大事に育てられたシロが『人狼である自分に誇りを感じていること』に対して。
 人と妖怪のハーフとして生まれ、その身に纏った色彩もあって忌み子として里を追放された刹那が『自分の生まれに対してコンプレックスを抱いている』こと。

 彼女たちの自分自身に対する無意識にまで刷り込まれた肯定と否定、光と影のように明暗を分けるもの。
 それは、妖怪であるとことを知っても変わらず接してくれる木乃香に、『忌まわく醜い自分の本当の姿』を知られることへの恐怖を一層煽ることとなり、醜い自分が嫌われ、拒否される前に木乃香の前から姿を消そうという刹那の行動へと繋がった。

 オカルトが一般的に開放されている世界に育ち、美女美少女であれば妖怪だけでなく神でも魔族でも気にもしない横島にとって、そうした刹那の心情は想像しがたい。
 それでも、このまま二人を分かれさせたら、もう二度と再会することはないという予感に従い、切り札の文珠を使用したのだ。



「……やっぱりせっちゃんはアホや。ウチがせっちゃんのこと嫌いになるはずないやろー?」

 人ではない、人外の姿を曝した刹那にかける、普段と何も変わらない木乃香の言葉。

「せ、せやかて、うち、醜いから……このちゃんも、うちの姿を見たら、嫌いに……」
「せっちゃんは醜くなんかあらへん! 綺麗な羽は天使様みたいやったし、髪も目もとっても綺麗な色やった! せっちゃんはとっても綺麗や!!」

 布団の上から刹那の体を抱きしめ、木乃香が叫ぶ。
 ウチの大事な親友の悪口を言う奴はみんなウチがぶっとばしたる!と、気炎を吐いて。
 刹那の全てを知って、肯定する。

「この……ちゃ……」
(まだ、うちのこと親友やって……うちの羽も、髪も目も見たのに……)

 感極まったように泣き出した刹那を、木乃香はそっと布団から出して抱きしめた。
 厭うことなく背中の羽を撫で、「うわあ、ふわふわやあ。後でモフモフしてええ?」と陽だまりのような笑顔を刹那に向ける。

「この、ちゃ……う、うわあああぁぁぁ……」

 木乃香の腕の中で、いつまでも刹那は泣き続けた。



「百合は、百合はいか――ぶべらっ」
「見るなーっ! 横島さんはそのまま土下座してなさい!!」
「……りょ、りょうかいっス……」

 感動の名場面の横で、いつまでも夫婦漫才のようなやり取りも行われていた。



[32555] (3)
Name: 靴下を履いた黒猫◆c2b5b9ca ID:650eae7e
Date: 2012/03/31 14:31
「霊能力に異世界、それに文珠、ですか……」

 テーブルの上に置かれたガラス玉の様なそれを見つめ、呆れてものも言えないという表情の刹那。
 先ほど刹那を裸にした能力についての説明を三人から求められた横島が、意図したものではないと必死に謝罪と弁明を行なっていたが、語られる内容はまさに非常識としか言いようがない。
 一応、万能の宝具『文珠』に関しては秘密厳守を約束させられたが、これが世に出たら一波乱どころでは済まないことは明白だった。

「それで、『曝』という字のイメージが発動したんだが……刹那ちゃんを裸にするつもりはなかったんやー! 本当にすまんかった!!」
「は、はだ……いえ、まあ確かにショックでしたが……でも、横島さんのおかげでこのちゃんとも仲直りでいたわけですし……」
「許してくれるんか?! 刹那ちゃんみたいな幼い子を裸にひん剥いてしまった俺なんかを、許してくれると――ぎゃん?! な、なんで……?」
「大声で何度も言わないでください! あと幼いは余計です!!」
「はあ……話だけ聞いてると凄い人なのに……」
「あはは、二人ともすっかり仲良しさんやな~」

 真っ赤になって胸を押さえた刹那が掌打の一撃をくわえる。ぴくぴくと痙攣している横島にアスナは頭を抱え、木乃香は本当に嬉しそうに微笑んでいた。



 刹那が泣き止み、落ち着くのを待ってから、改めて話し合いの場を設けた四人。
 勿論、刹那は既に服を着ているが、髪と目の色はまだ戻っていない。寮室に予備のコンタクト等が置いてあるので後で変装しなおすことにして、今は開き直って堂々としていた。
 アスナも「このかの親友っていうなら桜咲さんじゃなくて刹那さんって呼んでいい?」と全く気にせず接し、お互い名前を呼び合うようになっていた。「異世界から来た霊能力者とかいう変なのが出てきたのに、今更クラスメイトが人間じゃなかったって言われても驚かないわよ」と剛毅な言葉は本人談。
 ちなみに刹那の着替え中は女子寮という場所柄、廊下で待たせるわけに行かず、『変なの』呼ばわりの横島はアスナ監視の下で置物のように静かにしていた。
 出会ってそれほど経っていないにも関わらずスケベ男と認識されているあたり、どこにいっても横島の扱いは変わらないのだろう。

 そんなこんなで横島の話になり、霊能力者であること、異世界から除霊中の事故で紛れ込んだことを改めて刹那に話した後、彼女をひん剥いた上に、隠していた正体すら無理やり曝け出した文珠の説明にいたったのである。

「最初は武装解除の魔法かと思いましたが……隠し事を全部『曝』け出すなんて、とんでもない効果ですね」

 ただの武装時解除の魔法では服は脱げても羽を出させたりすることは不可能だ。染めた髪や、カラーコンタクトを外すことも難しいだろう。
 そういった裏の常識に通じているからこそ、刹那には文珠のデタラメ具合がよく理解できた。
 しかし、横島のインパクトに気が抜けていたのだろう。刹那は大きなミスを犯してしまった。
 掌の上で文珠を転がしながら彼女が何気なくもらした単語に、木乃香がしっかり反応した。

「……せっちゃん?」
「はい? なんですか?」
「『魔法』、ってなんやのかなー?」
「……あ」

 ビキィッツ、と音を立てて刹那が固まる。

「そうやね、横島はんだけやと不公平やし、せっちゃんにも今まで隠しててたこと洗いざらい吐いてもらいましょか?」

 木乃香が微笑がどんどん黒くなっていく。
 そういえば魔法のことは三人とも知らないんだった、と今更ながら自分の失言に青くなる刹那だった。



「ほー、魔法なんてほんまにあるんやなー。しかもウチがお姫様やったなんて不思議な気分や」
「……霊能力とかもあるんだし、魔法もあってもおかしくないのかしら」
「俺の世界じゃ魔法使いって言っても一人しかいなかったしGS免許も持ってたんだが、こっちはちょっと違うみたいだな」

 口の重い刹那を木乃香が無理やり語らせ、裏の事情について説明させた。
 魔法の存在とその秘匿、麻帆良が魔法使いの拠点であること、木乃香も魔法使いの家系の生まれで、父親は西の関西呪術協会の長、祖父は関東魔法協会の長であり、木乃香自身は極東最大の魔力の持ち主であること。
 父の意向で魔法に関係のない一般人の道を進ませられようとしていたことなども知り、木乃香は頬を膨らませてむくれた。

「――私は烏族の里を追放された後、詠春様に引き取られました。
 このちゃんと出会い、麻帆良に来てからはこのちゃんの護衛と魔法について知られないようにするという任務があったのです」
「むー、ウチがそういうの好きやってお父様も知ってとるはずなのに……後で絶対問い詰めたるでえ!」

 今までずっと仲間外れにされていた、と怒りを燃やす木乃香。オカルト関係が大好きなのでけっこう根深そうである。
 自分のミスで魔法の秘密をもらしてしまったので、刹那もアタフタとフォローの言葉を添えるのだが。

「あ、あの、このちゃん、詠春様もこのちゃんのことを思ってのことで……それに裏の世界を知ることは危険ですから……」
「なら尚更や! せっちゃんだけにそんな辛いことさせられへん!」
「こ、このちゃん……ぐすっ」

 と、友情を深め合っている二人は置いといて、横島は悩んでいた。

「しっかし、困ったなぁ……」
「何がですか?」
「いや、こっちでもGSとして活動して生活費稼ごうと思っていたんだけどな?
 オカルト関係をおおっぴらにできないとなるとどうしたもんか、と」
「ああ、なるほど。確かにお金は必要ですよね~」

 うんうんと頷くアスナ。彼女自身も新聞配達のバイトをして学費の足しにしている身である。お金の悩みは身近であり、切実な問題と理解していた。

「でもそうすると、どこか住み込みでアルバイトとかですかね? 私、知り合いに聞いてみましょうか?」

 この時アスナの頭の中に浮かんでいたのはクラスメイトの好敵手こと某ショタコンお嬢と、麻帆良の最高頭脳にして学祭長者、某謎のマッドサイエンティストの二人だった。
 あの二人ならバイトの紹介くらいしてくれるだろう。
 だが、

「うーん、それなんだけど――なあ、刹那ちゃん」
「え? は、はい」
「魔法についてもうちょい詳しく教えてもらっていいか?」
「別に構いませんが……あの、実は私は剣士なので、気ならともかく魔法はあまり詳しくは」
「気? ああ、あの太刀に込められてた力か……」

 剣士と聞いて思い出したのが刹那との出会いの場面。
 横島に切りかかってきた彼女の太刀に霊力ではない別の力が込められていたことを思い出す。あの力が刹那の言う気なのだろう。

「んじゃ、触りでもいいから、その辺も合わせて詳しく教えてくれんか?」
「わかりました。あの、私も霊力は聞いたことがないので、お教えいただいてもよろしいでしょうか?」

 刹那も自分を容易く退けた横島の力、霊力について興味を覚えていた。
 できれば霊力について学び、横島に師事をしたいとも。
 横島の実力は未知数だったが、少なくとも刹那より強いと確信していた。奇襲からの彼女の一撃にも完全に対応していたし、文珠の非常識な能力は彼女にとって衝撃であった。
 横島も別に霊力を隠すつもりなどサラサラなかったので、二つ返事でOKする。

「あ、ウチも聞いてええー?」
「私もちょっと興味あるわね」

 ワイワイとテーブルを囲みながら、刹那・横島による『魔法』『気』『霊力』の講義が始まった。



 『魔法』とは大気に満ちる力を体内に取り込み、取り込んだ魔力を燃料にして周囲の精霊に呼びかけ発動する。
 このとき、必要とされる三要素が『魔力』『呪文』『発動体』の三つ。
 この三つのうち、熟練した魔法使いなら簡単な魔法の呪文詠唱を省略して精霊を使役することも可能であり(無詠唱魔法)、人外の存在だと発動体もいらない場合がある。
 だが魔力を持たないものは絶対に魔法を使うことはできない。
 そして、魔力を貯められる量は個人差が激しく、これは後天的に鍛えることが難しい。生まれつきの才能を重視すると言えるだろう。

 これに対し、『気』は個人の肉体に依存する生命エネルギーのことを指す。
 周囲から取り込んだエネルギーを使う魔法と違い、元々が自分自身の生命力であるため、鍛えられた肉体の持ち主、一流のスポーツ選手などは無意識のうちに気を使っていたりする場合もある。
 また、武道の中には気を扱う方法を教える流派も存在する。
 気の場合は才能よりも、厳しい修練によって鍛え抜かれた肉体、体力を重視する努力の世界である。

 そして、横島の扱う『霊力』とは魂の力。
 霊力を鍛えることで個々の適正に応じた能力が目覚め、その種類は霊波刀や霊力の盾、ヒーリング、ネクロマンシー、精神感応など多種多様。これを『霊能』という。
 霊力は生まれつきの大小はあっても修練で伸び、また生命の危機に瀕した場合、生き残ろうとする強い意思によって大きく霊力が伸びることがある。
 苦境に対面したときの諦めの悪さこそが、霊能力者に一番必要な才能なのかもしれない。

 このように、魔法が自然界に存在するエネルギー、気が個人の肉体に依存するエネルギーに対し、霊力は魂から溢れ出るエネルギーという分類ができる。



「こうして見ると全部違うみたいだな」
「ええ、魂の力ですか……。やはり初めて聞きますね」
「うう、わかったような、わからないような……」

 簡単な図や細かな差異を記した紙を見比べる一同。ただ、アスナは一人頭が煙を出していた。

「んー、これって、要するにウチでも頑張れば魔法や気は使えるようになるんやけど、どんだけ頑張っても適性がなければ横島さんと同じ霊能力――霊波刀や文珠は使えんっちゅうこと?」
「そうみたいだな。俺の文珠とかは霊力の圧縮・収束に特化してないと無理とか言われたことあるし。
 けど、木乃香ちゃんなら別の霊能力に目覚めるんじゃないかな? ぱっと見たところ霊力も多いみたいだし、性格的にヒーリングとか向いてると思うぞ」

 のんびりした性格の癒し系の彼女なら、攻撃的な霊能を無理に覚えるよりより癒し方面で練習した方が向いているのではないか。どこぞのバトルジャンキーみたいな連続霊波砲や霊的格闘はまず無理だろう。
 横島自身も妙神山での修行でなんとかヒーリングは覚えたのだが(修行が厳しすぎて自分で自分にヒーリングをかける為に習得した)、やはり元々その方面に長じていたおキヌ程の効果は期待できなかったりする。

「え、そうなん? ほならウチも覚えてみたいわ~」
「あ、面白そう。私も教えてくれますか?」
「私も是非お願いします!」
「別に構わんが……ん?」

 不意に何か思いついた横島。
 魔法と気と霊能、魔法の秘匿、木乃香と木乃香の父、祖父――そして、刹那。
 あーでもない、こーでもない、と考えた後、突然「ふ、ふははは……俺、天才だわ!」と声を上げ。

「いいこと思いついちまったぜ」

 美神に負けず劣らずの悪人面で、にやりと笑う横島だった。



[32555] (4)
Name: 靴下を履いた黒猫◆c2b5b9ca ID:650eae7e
Date: 2012/03/31 15:31
「横島さん」
「おう、刹那ちゃん。どうした?」
「あなたに一つ、確かめたいことがあるのです」

 木乃香の案内で学園長室に向かう途中、刹那が横島に話しかけた。
 先を歩くアスナと木乃香にも気づかれないよう、認識阻害の結界も張る。

「あなたは元の世界で退魔師をなさっていたのですよね?」
「退魔師……まあ、そんな感じかな」

 ゴーストスイーパーの仕事を言い換えれば退魔師とも言えるだろうと、刹那の言葉を認める。

「……それなら、なぜ……」

 横島が見せたサイキック・ソーサー、霊波刀、そして文珠。

「なぜ、あなたに切りかかった私を退治しなかったのですか?」
(――私が妖怪だと、一目で見抜いたはずなのに)

 最後の言葉は口にしなかったが、そう問いかける刹那の表情は真剣で、横島と出会った時のような警戒心が首をもたげていた。
 もしも刹那が突然妖怪に襲われたなら、そして相手が致命的な隙を見せたとしたら、何も考えず呼吸をするように祓うだろう。なのに、退魔師であり自分以上の力量を持つ横島は文珠を使って刹那を『眠』らせただけ。
 それはなぜなのか、刹那には理解できなかった。

「なぜって、刹那ちゃんが可愛かったからだけど?」
「かわ……?! ふ、ふざけないでください! 私は真剣に聴いているのです!!」
「そんな怒らんでも……」

 顔を赤く染める刹那に、嘘言ってないのになー、とブツブツいう横島。
 美女美少女を相手にするといつもこの調子なのだが、そんなことを知らない刹那はからかわれているのだと思ってしまう。いくら何でもいきなり真剣で切りつけてきた相手にそんなことを考える余裕などないだろう、と。
 はっきり言えば、あの時刹那は横島を行動不能――殺しても構わないつもりで攻撃したのだから。

「じゃ、じゃああなたは相手が可愛ければ、例え殺されかけても気にしないというのですか?!」
「んー、まあ確かにあんまり気にせんなあ」
「な……っ?!」
「今までも(おキヌちゃんに)殺されかけたり、(グーラーに)食われかけたり、(愛子に)食われたりしたが、まあ美人相手だったし終わってしまえば特にどうとかはないな」

 美人だったからの一言でそれを全部許すという横島の言葉に、目眩を覚える刹那。

「だから、刹那ちゃんも将来有望な美少女だから俺は全然気にしていないぞ?」
「わ、私は! 私は妖怪の血を引いているんですよ! 人ではありません! それなのに気にしないのですか!?」
「全く気にならん」
「……」

 堂々として胸を張って答える横島の言葉に一切の嘘も取り繕いも感じられない。この男は本当に心の底から気にしていないのだ。刹那に殺されかけたことも、半妖だということも。

「……私は、あなたが理解できません」

 自分の中の常識が音を立てて崩れ落ちそうになる。
 木乃香ならば、心優しい彼女なら半妖であろうと受け入れてくれるかもしれない。
 アスナのような素人なら、何も知らないが故に偏見を持たないこともあるだろう。

「そう言われてもこれが俺だしなあ。それに相手がいい奴だったら妖怪かどうかなんて関係なく仲良くしたいだろ。美人なら尚更な」

 だが、目の前にいる男は自分と同じ退魔の業を生業とし、自分以上の力量を持ち、実際に多くの異形の相手をしてきた筈なのに、極々当たり前のように『受け入れている』。
 自分は自分の異形を『受け入れられない』というのに。

「それは……夢物語の類の話です……」
「いや? うちの事務所とか普通に人外ばっかりなんだが」
「……は?」
「所長と俺はともかく、事務所のメンバーは元幽霊、人狼、妖狐、あと経理で机妖怪も一人入ったし、事務所そのものも人工幽霊付――九十九神みたいなもんだな」
「……は?」
「俺の元同級生はヴァンパイア・ハーフとか獣人の先祖返りだかなんだかって奴がいたし、知り合いには神様も魔族もいるし、みんないい奴ばっかりだぞ?
 ……イケメンは敵だが」
「……」

(幽霊? 妖怪? 神? 魔族? ……なにを、何を言ってるんだ、この人は……)
 有り得ない。いや、そんなことは、あっていけないのだ。
 人と、人以外が。あるいはそれ以上の者達が、何のわだかまりもなく手を取り合える場所なんて――。

「まあ、こっちの方だとオカルト関係隠してるみたいだしイメージできないか。
 刹那ちゃんがどうしても知りたいっていうなら『伝』えることもできるけど、どうする?」

 そう言って示すのは『伝』の文珠。文珠を使いまくっているが、ストックはまだあるし美少女のためなら惜しくはなかった。
 そして、刹那はその緑の優しい輝きを魅入られた様に見つめ、願った。

「……お願いします」

 あなたの居た場所を、私にも見せてください――、と。



「心霊相談所、じゃと……?!」

 学園長――木乃香の祖父にしてぬらりひょんの異名をとる、学園最強の魔法使い近衛近右衛門は、孫からの相談に顎が外れそうなほど驚いた。
 いきなり連れてきた人の良さそうな――あるいは間抜けそうな――青年、横島を紹介され、彼が異世界から来た霊能力者だと告げられ。
 横島が実際に霊能力を使って見せ、それが魔法とも気とも異なる力であることにも心底たまげたが。
 なんと、木乃香が横島に弟子入りして霊能力者になるとまで言い出したのだ。
 木乃香たちが学園長室を訪れたのも、横島にこれから師事するから彼の住む所をどうにかしてほしいとお願いをしにきた為だ。
 学園長の考えがまとまる前に、今度は横島が霊能力を活かした心霊相談所を開き生活していくつもりだと畳み掛ける。

「フォッフォッフォッフォ、横島くんと言ったかのう。君の気持ちもわかるのじゃが……」

 だが、もちろん学園長の立場からするとそのような要望は飲めない。
 関東の魔法使いの長として、一人の魔法使いとして横島の心霊相談所設立は阻止しなければならないし、孫の木乃香をどういう人間かもわからぬ相手に弟子入りなどさせられない。
 むしろこれを機会に木乃香には魔法の修行でもしてもらおうか、と口を開きかけた近右衛門を、刹那が呼び止めた。

「学園長、この件に関して二人だけで相談したいことがあるのですが」
「む? ワシは構わんが……このかたちには聞かせられんのじゃな?」
「はい」
「そうか……すまんが、このかたちは隣の部屋で待っていてくれぬかのう?」
「ええよー。さ、アスナ、横島さん、こっちやでー」

 固い表情で頷いた刹那に思うところがあったのか、木乃香たちに一度隣室に下がってもらい、防音の魔法をかける。

「それで、話というのは?」
「は、お嬢様のことなのですが――」

――魔法の秘匿については、もちろん守っていただけるのですよね?

「フォオオオオッ?! な、何を言っておるんじゃ、刹那くん? 霊能力とやらをこのかが知ったのじゃし、これを機に……」
「霊能力は霊能力、魔法とは別のものだと学園長ご自身もわかっておいでの筈では?」
「な、なんじゃとおおおお?!」

 まさか、刹那の口からそのような指摘が飛び出してくるとは思わず、学園長が本日最大の驚愕を見せた。

「じゃ、じゃが裏の――」
「あの横島という方、裏のことに関しては何も知っていない様です。
 まあ、異世界から来たというので当然かもしれませんが、魔法についても私たちが喋らなければ知らないでしょう」

 そう、横島は霊能力を使えるだけの一般人にすぎない。
 故に、魔法の秘匿という決まりに従い、横島と木乃香に魔法の存在を明かすことは許されない。
 それが刹那の意見だった。
 実際、刹那のクラスには長瀬楓という忍者がいる。力量は裏の世界でも十分。ルームメイトの二人に忍術を教えているとの話も聞く。
 そんな彼女でも魔法の存在を知らないということから一般人として扱われている。
 ならば、横島の扱いに差をつけるのはおかしいだろう。忍術と霊能力にどれほどの差があるというのか?
 刹那の話に確かに理はある、と思い学園長も反論の余地を探そうとするが見つからず。
 魔法の存在を知らない相手に明かしてはいけない、というのは全ての魔法使いの基本なのだ。

「む、むむむ……」
「ですので、詠春様と取り決めたように、お嬢様に関しては魔法の秘匿を徹底していただきたいのです」
「じゃ、じゃがのう……」
「……学園長、まさか、詠春様との取り決めを破るおつもりなのですか?」

 刹那の目が細まり、気が高ぶっていく。万が一の時は例え木乃香の祖父であり大恩ある相手でも容赦はしないと、全身で示していた。

「ま、待ってくれい、わかった、このかには教えん!」

 木乃香のことに関すると容易く暴走すると知っているからこそ、学園長は慌てて刹那の案を認めた。

(やれやれ、ネギくんの修行も決まったばかりじゃというのに……あの横島という青年がネギ君の成長の為になればいいんじゃがのう)

 隣室に木乃香たちを呼び行く刹那の後姿を見ながら、早速思考を切り替え良からぬことを企み始めるぬらりひょんであった。



「いやー、無事に開業も認めてもらったし、よかったよかった」

 学園長室から出て寮への帰路につく四人。
 あの後、刹那が言ったとおり魔法の件には一切触れられず、横島の霊能力に関しての質問といくつかの確認で話は終わった。
 その結果、横島の住居兼仕事場は学園内のあまり人気のない森の近くのログハウス、と定まり。
 学園長からは開業を認めるに当たって、学園に勤める相談員の仕事も兼任して生徒からの相談には基本無料で応じること、というの条件を課せられた。
 思春期の多感な時期の少年少女が『現実的でない非常識なこと』を相談する為というのが設立の目的であり、『霊能力者』などといううさんくさい相手ならば教師に相談しにくいことも話せるのではないか、というテスト・ケースの一環として対外的に扱われるようである。
 ただし、実際に除霊作業や護符の作成、ヒーリングによる心霊治療などを行った場合は、横島は報酬を要求してもよい、とも定められている。無料なのは『相談だけ』。
 依頼したのが学園の学生相手の場合、学園側から報酬が支払われるという項目も同時に定めていた。
 なお、相談受付時間は朝の十時から夜の七時まで、昼休憩あり、土日は休業。ログハウスは社宅扱いで家賃は取らず、給与は手取りで月18万。戸籍まで用意されていた。
 至れり尽くせりの好待遇である。

「これも刹那ちゃんが説得してくれたからだな。ありがとう」
「っ、い、いえ! お役に立てたなら光栄です!!」

 横島のねぎらいの言葉に緊張し、頬を赤く染めながら刹那が答える。
 その様子を不思議に思いながらアスナは呆れたように言った。

「でも、横島さんってけっこう悪い人だったんですね。まさかGSの仕事の為に刹那さんまで巻き込んで学園長先生を騙すなんて」
「いやいや、俺なんてうちの所長に比べたら全然だぞ。あの人は魔族すら呆れる悪辣さだからな」
「は、はあ。所長さんですか?」
「そうだなー、例えば……」

 GS免許を取得し、一人前のGSになった横島は当然一人での仕事も増えた。
 その為、美神に叩き込まれた美神流交渉術の極意について軽く触れたのだが、簡単に纏めると『相手の弱みにつけこみ、一番触れて欲しくない事実を叩きつけ、反抗する意志を根元から叩き折る』というものだ。
 魔法の秘匿や親の教育方針、可愛い孫からのたっての希望など、交渉材料は豊富に揃っていたので今回の結果に落ち着いたのも当然だろう。
 学園長を騙すということを気にしており、途中で一対一で学園長と対峙しなければならない刹那が唯一の懸念材料だったが、突然やる気を見せて率先して説得に回ったことも勝因だ。

「そういえば、木乃香ちゃんは本当に霊能力でよかったのか? 魔法を教えて欲しいならさっきの爺さんに頼まないと無理だと思うぞ?」

 なぜか最初からノリノリで参加していた木乃香に最終確認の意味を込めて尋ねてみるが。

「いいんや。おじいちゃんもお父様もウチに魔法のこと秘密にしとったんやもん。その罰やよー」

 と、木乃香は笑いながらちょっと黒いことを答える。

「それに、せっちゃんと一緒に学ぼう思たら魔法やのうて霊能力の方がいいしなー」
「わっ、こ、このちゃんっ!?」
「んー、せっちゃーん」

 刹那に抱きつきじゃれつく木乃香だが、確かに彼女の言うとおり、気の使い手であり陰陽術も扱える刹那は魔法の勉強など今更しない。
 横島に弟子入りするのが一番、一緒にいる時間が長いだろう。

「ま、私はこのかがそれでいいって言うなら反対する必要もないしね」

 アスナもそこまでこだわりがあるわけでもないので、横島の計画に参加した、というわけだ。



「……せっちゃん、さっきから横島はんのことチラチラ見とるけど、どうしたん?」
「ええっ?! な、なんでもあらんよ?!」

 こそっと囁かれた内容に、思わず京言葉が出てしまう。

「ふ~ん……意外やなあ」
「な、なんやの?」
「別に~」

 木乃香はそんな刹那の様子を見て楽しそうに笑う。
 白い頬を茹で上がらせた刹那は何とか否定しようとするが暖簾に腕押しという体だ。

(ううう、別に、うち、横島はんのことなんて……)

 否定しようと思っても、脳裏に浮かぶのは横島から『伝』わってきた鮮烈な記憶。

 殺されかけた筈なのにいつの間にか仲良くなり、今では掛け替えのない仲間となった元幽霊の少女。
 八房という刀を巡る戦いの中で出会い、弟子となった人狼の少女。
 依頼を無視して保護し匿い、いつしか妹分となった妖狐の少女。
 学校で出会った机の妖怪に霊山の管理人たる竜神、魔界の軍人の姉弟魔族、蝶の魔族の少女も特に気にかけている。
 そうした人外の存在と共に過ごしたという記憶。
 彼女たちに向ける、一点の曇りすらない想い。

(女性ばかりというのがアレやけど……)

 横島という男は、人であるとかないとか、そういうことを本当に気にしていなかった。
 そしてそんな彼の周りにはいつも暖かい空気が流れていた。
 それは、いつか彼女が欲しかった居場所で――

(なんでやろ、胸の奥が、暖かい……)

――彼から『伝』わった温もりを、そっと抱きしめるのだった。



[32555] 間章 それぞれの夏の終わり(+おまけ)
Name: 靴下を履いた黒猫◆c2b5b9ca ID:650eae7e
Date: 2012/04/04 09:52
『――というわけでのう。名前や風貌で調べさせても一切情報が入らんのじゃ。進入経路も確認できんかった』
「ふん、学園の結界には反応がなかったが……しかし、身元もわからぬ相手を簡単に雇うとは、ジジイも耄碌したものだな」
『いや、ワシも確認しようとしたのじゃが、弾かれてのう』
「ほう? 覗きが趣味の貴様の魔法を防ぐとは……なかなか面白そうだ」
『いやいやいや、別に趣味などでなく、これも孫の為を思って』
「その孫のせいで強気に出れなかったとあっては、最早末期だな。早々に引退することをすすめてやろう」
『うぬぬ……ワシ、悲し――』
「もう話は終わりだな。切るぞ。――ふん、異世界から霊能力者、か。何処までが真実かわからんが、なかなか凝った自己紹介ではないか」
「マスター、今夜の予定は如何しましょうか?」
「ああ、とりあえずは延期だ。私にも気づかせることなく麻帆良の結界に侵入してきたというのが本当なら、かなりの手練れと見た方がいいだろう」
「此方からご挨拶に伺いますか?」
「構わん、向こうから顔を出すまで放っておけ」
「了解しました」
「しかし、ナギの息子とやらの歓迎の準備をしようかと思ったが……」
(このタイミングで私の家の側に配置されたとすると、まさかジジイに今夜から行動を起こすことを知られていたのか?
 いや、それとも私とその霊能力者とやらで相互監視をさせるつもりなのか?)
「……まあいい。ようやくこの退屈な虜囚生活に変化が起きたのだからな……」

――せいぜい私を楽しませてくれよ、レイノウリョクシャ?



 学園長に用意してもらった家だが、当然家財道具などは一切なく、積もった埃や汚れを四人がかりで掃除したらそれで日が暮れてしまった。
 夕食は近くの店で食材を購入して木乃香が料理の腕を披露し、寮住まいの三人はその後自分たちの寮に戻り、横島は屋根があるだけマシだと床にごろ寝して一夜を明かした。
 ちなみに、横島は家の周囲の地面や各部屋に『守』『護』『結』『界』や『防』『諜』の文珠を埋め込んでいたりする。こうすると『護』の文珠を御守りにしていた時のように何かあったときに自動発動してくれるのだ。
 そして、翌日は朝からやってきた三人に案内されて家具や生活用品を揃え、お礼に三人にお昼を奢り、家に戻ってきた。
 途中で美人を見かけるたびに何度もナンパをした横島に、アスナのとび蹴り・このかのとんかち・刹那の掌撃によるツッコミが炸裂したのはお約束である。

「そういえば横島さん」
「んー、どうした?」
「心霊相談所って結局何をするんですか? 『非常識なこと』って言われてもいまいちよくわからなくって……」

 買ってきた荷物の整理を追え、今度は看板を作っている横島にアスナが尋ねる。興味深そうに作業を覗いていた木乃香と刹那も首を向けた。

「んー、心霊相談ってのは、例えば部屋に何かいる気がするから見てくれないかとか、毎晩どこからともなく変な声が聞こえるので調べてほしいとか、そういった相談か?
 ま、何でも相談に来たら受けてやってほしいとは言われたけどな」

 生徒がどこに相談すればいいのかわからない、友達や先生にも話しづらいような相談を持ち込む為の場所を作る、というのが一応の建前であり。
 真面目相手に胡散臭い話をするのは気が引けるが、胡散臭い相手――霊能力者――に胡散臭い相談をするのなら、まだ心理的な障害が減るのではないか、という試みの一環として、実験的に心霊相談所は学園内部でも許可されたのである。
 ちなみに真面目な相談相手として、学校教員以外にスクールカウンセラーなども学園内にはちゃんといる。

「なるほど。確かにそういうのって先生とか友達に相談しにくいですよね」
「だろ? でも、何でこんな所に学校なんか建てたんだかな~」

 横島がここに来て少ししてから感じたことなのだが、麻帆良は『霊地』だ。それも、かなり強力な。
 妙神山のような力を土地が秘めており、それは周囲にも影響を与えている。
 その結果、怪異の類が集まるし、異常な出来事がよく起こるようになる。九十九神や生き人形の類が生まれやすくなったりする。
 また、住んでいる人間にも影響を与えるので特殊な『力』に目覚める下地ができてしまうこともある。
 はっきり言えば霊能力者の類が修行場として篭るような環境になっており、普通の人間が住むのに適した場所ではなかった。

(平安時代の京都並の人外魔境になってもおかしくない場所なんだがなあ……)

 横島からすると不思議でしょうがないが、こうした場所だからこそ心霊相談所を設ければ仕事も多いだろうと思いついた切欠でもあった。

「俺はここに来たばかりだからよく知らないけど、この辺りってよく変なことが起こったりしないか? この地の力のせいで、多分、いろいろと起きていると思うんだが」
「え? 変なことですか? うーん、そう言われても急には……」

 アスナは特に思いつかなかったようだが、木乃香と刹那は思い当たることが合ったようですぐに横島の問いに答えた。

「そうやなー。都市伝説で『魔法オヤジ』っていうんがあるんよ」
「工学部のロボがよく暴走しているのも、もしかしてそのせいなのでしょうか?」
「う、うーん……」
「図書館島も不思議やな。滝が中にあってな、本が水に浸かっとるのに濡れたりせんし」
「夜の警備の際にも世界樹の魔力を狙って妖怪が来たりしますね」
「う、うー……」
「そうや! 確か学校ごとに七不思議もあったりするんや」
「う……」
「こうして考えてみると確かに異常が多い土地ですね……」
「……どうせ、どうせ私なんてバカレッドよ……」

 毎度の如くアスナが味噌っかす扱いだが、そもそも彼女は麻帆良で過ごす以前の記憶がない。
 細かいことを気にしない性格というのもあるが、麻帆良以外の場所を知らないのだから何が普通で何が異常なのか判断するのは常人よりも難しいといえるだろう。
 それに対し木乃香と刹那は幼少期を京都で過ごしていたし、木乃香はオカルトマニアとして、刹那は裏の事情に精通している者としての見解があるので非常識を非常識を認識できていた。

「ま、まあ、そういうことに対する相談所ってことだな」

 隅でのの字を書きだしそうなアスナを気にしながら横島が話を纏めた。
 実際には魔法先生や魔法生徒が日々起こる事件に対処しているのだが、発見が遅れる場合もあり生徒が自分たちで相談できる場所もあったほうがいいだろうという魔法使い側の判断もあって、学園長が開業を許可し学園公認の相談員としたという打算も含まれている。
 まあ、横島本人にはあまり関係のことだが。

「ほいっと、こんなもんかな。どうだ?」

 書き終えた看板を見せる横島。こういった方面では妙な才能を見せるだけあり、とても手作りとは思えない風格漂う本格的な代物に出来上がっていた。

「うわー、横島さん上手いですねえ」
「ほんまやなー。本職の人みたいやわ」
「これは……かなりの出来栄えですね」

 女子三人にも好評のようで、満足げな様子の横島。

「うーし、んじゃ中もそれっぽく仕上げちゃいますか」
「ウチも手伝うえ~」
「おう、ありがとうな、木乃香ちゃん」
「わ、私もお手伝いします!」
「私も力仕事くらいならできるかな?」
「おお、二人ともよろしくな!」

 わいわいと家の中に入る四人。
 『横島心霊相談所』と書かれた看板が、ログハウスの前に置かれていた。

――数日後、二学期の始まりと共に、横島心霊相談所も本格始動となるのだった。


◇ おまけ ◇

~とある夏の終わりの吸血鬼~

「ええい、なぜ来ないのだ! 日本では引越ししてきたらソバを持ってくるのが習慣だろう!! それとも異世界にはそういった風習はないとでも言うのか!!!」
「ああ、マスターがあんなに元気に……」
「この真祖の吸血鬼にして最強の魔法使い、『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』と呼ばれ恐れられた私が待ってやっているというのに――。
さっさと来んか、ヨコシマタダオーーーッ!!」

一人の吸血鬼の機嫌が数日間最悪であったとかなかったとか。

◇ おまけ2 ◇

~とある夏の終わりのデスメガネ~

「学園長!」
「フォッ! た、高畑君か。出張から帰ってきたばかりじゃというのにどうしたのかの?」
「アスナ君が魔法の存在を知ったというのは本当ですか?! それに霊能力者とやらに弟子入りとか!」
「あ、ああ、その件なら魔法に関しては知らないようじゃ。霊能力者に弟子入りしたと言うのは本当のようじゃがの」
「何ですって! その霊能力者というのはどういった人物なのですか。まさかMMの――」
「わからん」
「……は?」
「異世界から迷い込んできたという少年での。調べたが全く経歴がないのじゃ」
「なっ、それでは――」
「じゃが、悪い人物ではないと思うぞい。どうやったのかは知らんが、刹那君も信頼しておるようでのお。うちのこのかも一緒に弟子入りと言い出す始末じゃよ」
「刹那君たちも……学園長」
「なんじゃ?」
「僕に彼を見極める場を与えてくれませんか!!!」
「な、なんじゃとー?!」

 今にも殴りこみに行きそうな過保護男(デスメガネ)を必死に止める哀れなじじいの姿があったとかなんとか。



◇◇◇ 後書き ◇◇◇

今回の投稿はここまで、一章と間章を上げさせてもらいました。

一応横島が学園公認の心霊相談所を建てるというのは珍しいと思うんですが、読者の皆さんの反応がどうなるのか……。
普通に気やや忍術やらがある学園内なので霊能力も許容範囲だと思うんですよね。魔法じゃないですからOKだと私は思っています。

それと、一ページの長さは5000文字くらいがいいと聞いたのでそのくらいで切ってみましたが、読みやすさとかはどうでしょう。
これくらいの長さなら一度に投稿されても大丈夫だぜ!とか何かしら言っていただけると嬉しいです。

あと、作者は作中の横島や木乃香のセリフ、方言が混ざっているところが良くわかりません……。
横島は興奮したときだけ関西弁で普段は標準語だったはず、と考えながら書いていますが。
ここのセリフはこうのはずだ!というご指摘がございましたら是非教えてほしいです。

ではでは、次章が書きあがった時にまたお会いしましょう~。

※4/4 一部修正。認識阻害結界は二次創作らしいので変更しました。
原作では認識阻害魔法(ネギが空を飛ぶときに使う)と学園結界(学園祭などで登場)しか出ていなかったとは。
世界樹の魔力を狙って妖怪が来るというのは原作設定であってましたっけ?
ちょっと不安になってきました。


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