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[32333] 【習作 オリジナル】髑髏の物語
Name: kaku◆4472c945 ID:4f50ce5f
Date: 2012/03/21 20:15
この話を読んで頂くにあたって、以下の点に了承頂ける方のみご覧下さい。

本作の主人公は、多くの方が嫌悪感を抱く可能性があります。

ある程度、残虐な描写があると思われます。度がすぎるようでしたら、ご忠告頂けると幸いです。

登場人物の自殺を示唆する描写がありますが、筆者にそれを推奨する意図はありません。



[32333] 第1話
Name: kaku◆4472c945 ID:4f50ce5f
Date: 2012/03/21 23:46
「本当に死んでしまうつもりなのかい?」

幼年の少年特有の高い調子の声で、少年はそう言った。
白い皺ひとつないシャツの上にベストを羽織り、その下に穿いた暗い色のズボン。
どこか、育ちの良い坊ちゃんのような印象を受ける彼だからこそ、彼の異常さが際だっている。

彼には肉がない。
本来なくてはならない血肉も、臓器も、皮膚も、たった一本の毛髪さえも彼にはない。
生命として活動するのならばなくてはならない様々な要素が彼には欠落しており、ただ一つあるのは、衣類によって隠されていない手や顔の骨だけだった。

まるで、生きている人間の様に振る舞う骸骨。
身長150cm程度の常識外の存在を、青年はこれといった感慨を持つわけでもなく、濁った、生に価値を見いだせない人間の持つ瞳で捉えていた。

「死のうとしているからこんな所にいるんだ」

ため息をつくように、青年は言った。
青年の視界にあるのは、見渡す限りの木々の数々、午前中であるのに、空を覆うような木々の葉によって薄暗い場所。
そんな樹海こそが、彼が自らの人生を終わらせる場所として選らんだ所だった。

「ふ~ん」

髑髏の少年はどこか詰まらそうに適当に相槌を打った。
少年は腰掛けている大樹の枝から青年を見下ろし、パタパタと革靴を履いた両足を揺らしている。

「ならさ」

少年は腰掛けている枝から垂れているロープを見た。
青年によって括られたロープは、今日この場においては、死の象徴として利用されることを物語っている。

「はやく死になよ」

まるで本や音楽でも勧めるかのように、明るさを含んだ口調で少年が言う。
それに対して、青年は俯き、何も言わなかった。
何度も繰り返された遣り取りに、少年は内心の呆れを隠しきれなかった。

「まったく相変わらずの道化だ」
「俺が道化だと?」

少年は髑髏の顔であるために表情こそなかったが、それでも青年が怒ったことが心底意外だという雰囲気を醸し出していた。
「なんと、自覚すらなかったんだ」

そういうと、少年は上下の歯を打ち鳴らしながら笑った。静寂に包まれた樹海に、カタカタと不気味な音が響く。

「そりゃあ、こんだけ無様な終わり方を何度も見せられてるとねぇ、君のことを道化と呼びたくもなるさ」

実際、少年の言うことは純然たる事実に基づいた物だった。

「僕は君の人生を何度も違う形で、違う社会で、違う世界で見てきたわけだけども、一貫して君の終演は自らの手によるものだ。本当に君は進歩のない人間だなぁ」

教師が出来の悪い生徒に苦言を漏らすように、溜息混じりに少年は言った。
少なくとも青年の怒りを完全に鎮火させる程度には、少年の言い分は正しい。

「まぁ、君のことを詰るのはこの位にしておこう。どうせ君のことだ。君が僕の髑髏になっている間に人生に希望を見いだすんだろうよ。毎回のことだしね」

少年は、顔を伏せる青年を見下ろしながらそう言った。

「僕は君がここで死のうとどうでもいいんだ。それこそ君の行動は予定調和、何時も通りの平常運転と言って差し支えない」
だからさ、と少年は言葉をつなげる。

「早く僕と生を交代してくれないか?」
少年の口調から嘲るようなそれが消えた。
青年は顔を上げ、太い枝に腰掛ける小柄な骸骨を見上げる。
青年と少年、彼ら二人の付き合いは長く、それこそ数えきれない程の年月を経ている。
死後、生前の記憶を全く損なうことなく別の人間に生まれるという奇跡を、彼らは共有しているのだ。
そう共有である。
青年と少年、どちらかが生を全うしている間、もう片方は生きている方に魂の存在、わかりやすく言えば幽霊として憑く、そして生を謳歌する側が死ねば、その立場が逆転する。
そういった不可思議なサイクルを、共通の体験として彼らは何度も何度も共有していた。
彼等の誕生する世界はてんでバラバラである。
最初は、転生の度に彼等は前世との常識の隔離に驚愕していたものの、お互いに何回もそれを繰り返す頃には、慣れてしまった。
何せ、前世では小説かお伽噺でしか存在しなかった世界に生まれ変わることなど日常茶飯事なのだ。
当然、彼等は何故自分達にこのような現象が起きているのか究明しようとした。
だが、科学技術が核となる世界に生を受けた時も、自然の理をねじ曲げる魔法が中心となる世界においても、あるいはその両者が高度な融合を誇っている世界ですらも、彼らの不可思議を解明するには至らなかった。
彼らが謎の究明を諦めたことは、誰も責めることができないだろう。
そして、そんな体験を共有してきた青年だからこそ、髑髏の少年が「次の生」で何を成そうとしたか手に取るようにわかった。

「また人の世に地獄を作るつもりか」
「当然」

間髪入れず少年が答える。
そう、青年の目の前の少年は、どの時代、どの世界における人生においても、人の世に地獄を作ることに精力の全てを注ぐことに一貫して生きていた。
あるいは一国の暴君として。
あるいは神の代弁者として。
あるいは純粋な暴力をまき散らす絶対的な個として。
まるで自分の住む社会が不幸に彩られていないと気にくわないと言わんばかりに、徹底して彼は他者に不幸を拡散する。

「何故、人として全うに生きようとしない」
「おいおい、君がそれを言うのか?いまこうしてまともじゃない方法で生の終焉を迎える君が」
青年は言葉に詰まった。実際、彼はこの方法以外で生を終えたことがないのだ。

「まぁ、君の言わんことはわからなくもない。僕自身、狂人だと自覚しているしね。だがね、同族の君にそれを言われたくないな。まぁ、こんな遣り取りはどうでもいい。重要なのは君が生の座を譲る気があるかどうかだ」
またこの悪魔を世に解き放つのか。
今度こそ、苦難を乗り越えて生を全うすべきではないのか?青年の良心がそう訴える。
そして、それと同時に死の甘美な誘惑が青年に囁いていた。
髑髏の少年は、下で葛藤する青年の様子を面白そうに見ていた。
本音では、彼は青年がどう答えを出そうと構わないと思っていた。
死を選び、再び自分が生を謳歌する番になってもよし、青年がとうとう人生を全う仕切る決意をするのなら、それはそれで見てみたい。
数えるのも億劫な転生を経た彼にとって、数十年程度の遅れはどうでもよかった。
どちらに転んでも自分は楽しめる。
そういった青年が持ち合わせていない素質が、彼には根付いている。
一時間、あるいは二時間か。
長い沈黙の中、少年は青年の結論を待った。
音一つない静寂が、少年には心地よかった。
やがて、青年は結論を出す。
結局、何時もと変わらない結論を。
こうして、髑髏の少年は解き放たれ、世に彼の仲間が満ちることになる。
髑髏の物語の始まり始まり。



[32333] 第2話
Name: kaku◆4472c945 ID:c396a58e
Date: 2012/03/22 00:10
ああ、全く持って気にくわない。
かつての髑髏の少年こと、ヨハン・アルベルトは心の底からそう思った。

彼の両眼が移すのは、今生の父にあたるパウル・アルベルトと、その妻であるハンナ・アルベルトの姿だった。
小柄で、肩までかかった金髪が美しい母は、顔に恐怖を張り付け、震えている。
その母を肩を優しく抱きながら、父パウルは厳しい表情のまま、我が子を見据え、今日呼び寄せた老神父に何かを言っている。

「************」
「********」

 転生し、既知の世界に産まれたか、またはまったくもって未知の世界に生を受けたかを知るには、その世界の言葉を知ることが良い指標となる。
両親がまるで聞いたことのない言語で会話している辺り、今回は未知の世界に生を受けたということになる。
 ヨハンは、まだ今生における自分の名程度しか理解していない。
 しかし、目の前で彼等が何について議論しているかを推測するのは容易だった。

 おそらくは自分の「相棒」についてだろう。

 ヨハンは、自分の横に並び立つかつて、自分が憑いていた青年に視線を向けた。
 そこに立つは、身長2メートル近い怪異。
 黒いスーツとズボンを上下に着込んだ彼は、顔の丁度右半分から白骨が露出している。
 反対の左半分は生きた人間と大差ない状態で残っており、それ故に彼が生身の人間と隔絶した存在であることを主張していた。
 髑髏と化した青年の左目からは輝きが失われており、黒色の濁った眼球は、生理的な嫌悪と恐怖を掻き立てて止まない。
 髑髏の青年の周りには、亡者の念がうようよと渦巻く。
 それらは、ぐるぐると形を変えながら青年に対して呪詛の言を吐いている。
 彼等の正体
 それは、青年が前世において死に追いやった人間達だ。
 彼らは、あまりの恨みの深さ故に前いた世界すら越え、青年に憑いてきた怨霊だった。

 怨霊がまき散らす憎しみの念は、生きている人間にも害を及ぼす。
 現に、遠巻きに少年達を見ているヨハンの両親の顔が真っ青なのは、青年を見た恐怖だけが原因ではない。

 そんな、禍々しい怨霊を身に纏わせる青年の在りようが、ヨハンはたまらなく好きだった。
 知らぬ人間が見れば、間違いなく正反対の感情を抱くだろうが。
 現に、目の前の人間は青年を唾棄すべき存在と見ているらしく、ヨハンはそれがひどく不快だった。

「********」
 神父服に身を包んだ老人が、×の字に細い銀の棒を交差させた装飾を掲げ、何かを叫んだ。
 神父の叫び声と共に、白い閃光が発生し、それが光の槍となって青年の体を貫く。
 それと同時に、青年の周囲を漂っていた亡者達が絶叫しながら消滅した。

 光に視界を奪われながら、ヨハンはこの世界には少なくとも破邪の術を行使する人間がいることを記憶する。
 原理の究明が楽しみだ。
 ヨハンはこの世界においての知的興味の対象を発見し、胸を躍らせた。

 視界が戻り、ヨハンは青年を見る。
 まるで心配していなかったが、彼の予想通り、青年は無事にそこにいた。
 もっとも、霊に無事というべきかヨハンは迷ったが。

「*******」

 まるで何事もなかった様に立つ髑髏の青年を、神父は呆然とした表情で見ていた。

(何度似たような光景を見たことか)

 ヨハンは、大した感慨もなくそれを見ていた。
 実際、これは数えるのも億劫になる程繰り返されたやり取りではあった。
 霊魂の存在を人間が感知できない世界も多いので、そう言った意味では今回の世界は面倒だと思わなくもない。
 とはいえ、ヨハンにとって見逃せないこともある。
 一つは相変わらず髑髏と化した青年を消滅させる術がないこと
 二つは神父が何度か口にしたイーリアという名の神が概念として、もしくは実際に存在することである。

(どう対応する?)
(しばらくは放置でいいよ。僕を殺そうとするならその時はお願いね)
(わかった)

 ヨハンと青年は、この奇妙な転生の繰り返しにおいて、いくつか契約を結んでいる。
 それは、転生後、少なくとも自力で生活が可能になるまでの間は髑髏と化した者が生者をフォローすることだ。

 フォローの内容は多岐にわたる。
 多くの場合は生命の危機にあたって、髑髏と化した者が身の安全を守るということだ。
これは、幾度もの転生において無力な赤子の頃に殺害されるケースが両者ともに多かった為に結ばれた。

 人が霊魂の存在を感知できる世界において、髑髏の亡霊に憑かれた赤子は、忌み子として扱われるのに十分ということだ。

 山奥に捨てられるにしろ、生誕後ノータイムで殺しにかかってくるにせよ、抵抗できない赤子の内にそれをやられると完全に詰みで、あっという間に髑髏に逆戻りだ。

 かつては、青年もヨハンも、この契約の履行を無視したことがあった。
 だが、契約の未履行がもたらすのは、次の自分の人生における相手の報復であり、それに抵抗する術はない。

 二つ目は、自活可能になった段階で、相互不干渉を貫くということである。
 例外的に、転生の発生原因の調査に際しては髑髏役も協力を惜しまない。
 だが、それ以外に関してはいかに生者の行動が信条に反したものでも、髑髏役は手出ししない。
 これも、幾度もの転生において、血塗れの報復劇を繰り返した結果産まれたものだ。

(まぁ、今回は手を借りるかね)
両親の態度を見たヨハンは、今生は青年の手を借りることになるだろうと予測した。

「******」
「*******!」
「****!!」

懐から短剣を取り出した神父を母親がすがりつきながら止めようとしている。
父親は神父側らしく、母親を大声で説得しているようだ。

(今回も手を借りるようだね)
(もう処理するか?)
(処理ね、やっぱり君もたいがいだよ。まぁ、もう少し待とうよ)

 返事を返さない青年に、ヨハンは内心で苦笑した。

「****」
「*****!!」

 未だ議論する三人を、ヨハンはじっと見た。
 さぁ、どうする。どう決断する?
 どこかワクワクと子供めいた感情を抱きながら、ヨハンは答えを待ち続けた。

(僕としてはその短剣を使う決断をして欲しいけどね)

 悪魔めいた笑みを浮かべなから、ヨハンはずっと答えを待った。
 


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