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[32038] 【習作】零の飛空士 (ゼロ魔×架空戦記) 新話投稿
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2013/02/18 13:29
にじファンに投稿した蒼龍です。

ゼロ魔は、NGワードに入っていませんが、こちらも何時削除対象になりそうで、こちらにも投稿させていただきます。

厳しい言葉にも耐えますので、どうぞよろしくお願いいます。


7/4追加 やはり、にじファンは閉鎖の方向に進むようです。

外伝の零のウィッチーズもここにまとめて掲載したいと思います。

零の飛空士の52話に関しては、文章を増やしてから掲載したいと思います。

では、応援よろしくお願いします。



[32038] プロローグ とあるアメリカ兵が見た光景
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 09:43
1943年前期に日本軍がガダルカナルから撤退して以来日本軍は受け身にならなければならなかった。
ラエからはすでに撤退し最後のソロモンの要ともいえるラバウルに猛攻さらされていた。
それでも残された海軍航空隊は時には連合軍が驚くような反撃を見せた。





「ハァハァッ・・・・。」




――俺は、海兵隊のF4U乗りのジム。撃墜スコア3・5機を持つベテランだ。





「ハァハァッ・・・・。」
今日もいつもの様にポートモレスビーから出撃してのんびりと狩りができると思っていたのに
ラバウルまで後30分の所で状況が変わった。



「ハァハァッ・・・、クソッたれ・・・。」
――ちくちょう、いつもと同じラバウル攻撃だと思っていたのに
今日ばかりはベテランパイロットばかりで固めていやがる。





まず、飛行している俺たちの上空から、1機のジーク(零戦)が急降下してきて、リーダーを一撃で落とした。
敵ながら見事な射撃で、機首・コクピット・主翼の付け根と戦闘機の弱点を集中的に狙われた。
リーダーはバラバラになりながら落ちて行った。



動揺する俺たちに複数の零戦が上空・下方と様々な方位からジークがやってきて、俺たちは散り散りにならざるを得なかった。
いまだ混乱から立ち直る兆しは見えなかった。


と、後方から1機のF4Uがやってきて、俺の横に並ぶ。
『ジム、無事だったか。』
――相棒のアルだ。さすが、そこらのパイロットには簡単に落とされやしないぜ。



「ああ、無事だ。それにしても今日はひでぇ空戦だ。」
『それなんだが、今日のやっこさんたちは妙に手際が良かったな』
「ああ・・・・まさか奴がきている『左に逃げろジム、後ろにジークが尾けられている!』



ハッと、後ろを振り返ればそう遠くない所に、先ほどリーダーを落としたジークが射撃ポジションを占位しようとしていた。
「クソっ!」


俺はアルの言うとおりに操縦棹を左に倒す。アルは右に避けたようだ。


しかし、俺の操縦のタイミングが遅かったのか、ジークは俺を目標に定めたようで、ぴったり付いてくる。


「クソったれ!!俺のケツに食いつきやがった!!」
この距離で急降下するのは自殺行為ともいえた。ならば、自分の腕を駆使して、ジークを振り切るほかしかなかった。



まず、左に高速旋回する。しかし、ジークはまだついて来る。
バレルロールではぐらかしてみるも、これも見破られてしまう。




「なら、これでどうだ!!」
右に切り返すと見せかけて、機首を持ち上げて急上昇する。



「ぐうううぅぅぅ。」
6000メートル付近で機首を水平に持ってきて、機体を立て直す。



――これで、大分引き離せたはず。
そう思って、後ろに振り替えってみて背筋が凍ってしまう。




ジークがまだついて来ていたのだ。




「うわああああぁぁぁぁ!!」
俺は絶叫の声をあげた。

――なぜだ。今までのジークなら振り切ることができたのに、なぜ振り切れない。
俺は恐怖心によって、体を動かせない自分がいた。
ジークは接近しており、今にも発砲しそうだった。




『ジム、今すぐ助けてやるぞ!』
そんな俺を救ったのは、先ほど別れたアルだった。



アルは両翼の機銃を瞬きながらジークに突っ込む。撃墜確実かと思われたが、ジークはその直前でヒラリとかわしてしまった。
しかし、目標を逸らすことは成功したようで、逃げるジークをアルが追う。


「ハァハァッ。助かったぜアル。」
その間に離脱することができた俺は、アルにお礼を言いながら空戦を見学した。


アルが、ジークの後ろに付き機銃が瞬きその機銃はジークに吸い込まれて・・・・。
「何っ!」
その機銃はジークに吸い込まなかった。ただ、虚空にまき散らしただけだった。

慌てて、周りを見ればそのジークはどう操縦したのかいつの間にかアルの後ろにいた。



「逃げろー!アルー!」
俺の叫び声にもむなしくジークは機銃が吠え、その弾はアルの機体を次々に穴だらけにされていく。プロペラがはじけ飛び、風防が潰れ、翼が折れていく。
無線からアルの断末魔が聞こえた。無線からアルの断末魔が聞こえなくなった頃には、アルの機体は焔を上げながら海に落ちていった。


「くそっ。」
俺は、スロットルを全開にして、例のジークとすれ違うようにして離脱していった。




すれ違う瞬間、ジークの胴体に黒い狼のイラストがあるのが見えた。




俺はそれに目を開き、心のどこかに納得する自分があった。
――ああっ、奴だったのか。それじゃ俺たちにはかなわないわけだ。





――俺達は奴の事をこう呼んでいた。空に出会ったら生きて帰れない死神






『フェンリル』(魔狼)と。――




結局、この日出撃して行ったF4U44機の内27機が撃墜され、ジークの撃墜を確認できたのはたったの3機であった。
完全な敗北であった。特にフェンリルというコードはF4Uを単独で4機も撃墜したという。





――日本軍のエース、連合軍の災厄である『フェンリル』




そのパイロットの名は平賀才人。
紆余曲折を経て、60年後の未来から来た、青年であった。――



あとがき

ゼロの使い魔とうたっていますが、今のところゼロの使い魔設定はガンダルーヴと才人だけです。

また、この作品を上げるに山口多聞先生のアドバイスがありました。これからもよろしくお願いします。

友人に見せたところ誤字とアドバイスをくれたので、修正しました。



[32038] ここは?
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 06:46
バーン










倉庫に乾いた音が、響いた。
この世界のジュリオは、よほど短気だったのかせっかちだったのかワールド・ドアの前で撃たれた。


――くそっ、いてえじゃないか
自分の脇腹に熱いものを感じつつ、前に倒れようとしながらも後ろに振り向いた。
そこに、見えたのはにこやかに立つ教皇ヴィットーリオと拳銃を持つジュリオが見えた。



――ま・・・て・・。
才人は手を伸ばしたが、そのままワールド・ドアの向こうに落ちて行った。




「せっかちですね、ジュリオ。もしかしたら聖戦に協力できたかもしれないのに。」
「いいえ、ここで戸惑うようなら聖戦はおぼつかないです。
それなら、ヴァリエールが新しい使い魔を呼べば済むことです。
それに、新しい使い魔が必要となるのは“死”なんですから。」
「まあ、いいでしょう。」
こうして、教皇とジュリオの会話は終わった。









だが、ワールド・ドアに入った才人の運命は大きく変動していた。。



























「ハァハァッ・・・。」
才人は雨に打たれていた。

才人が飛ばされた場所は才人自身でも分からない場所であった。



「ハァハァッ・・・・。」
とにかく少しでも歩いてみれば分かると思い歩こうとするが、
雨の上、脇腹の傷により才人の意識はもうろうとしていて辺りは
よく分からなかった。



「ハァ・・・ハ・・・ァ・・・。」
しばらくしてどれほど歩いただろうが、とうとう地面の上に倒れ出した。




――冷めてぇ。俺はここで死ぬのかな。
ルイズにも別れを言えず。母さんにも会えずに。

才人はぼんやりする意識でそんなことを考えていた。



――思えば後悔することが多かった人生じゃないか。
突然使い魔になれと言われたり、決闘を申し込まれたり
7万の軍隊に突っ込んだり、エルフと対決したりと様々なことがあったな。

才人は今までの人生を振り返るかのように走馬頭がよぎった。











――それでも
だが、才人は








――ルイズとともに居たかったな。
それだけは確信持って言える事だった。





――ふぅ、そ・・の・・物語・・の果・・・てが・・・これ「あなた、あそこに人が倒れています。」だ・・れ・・。
すると才人の耳に他人の声が聞こえた。



「おお、君シッカリしなさい。」
「とにかく急ぎましょう。」
――あ・・・な・・た・・・・が・・・・た・・・は・・・。
それっきり才人の意識は失った。













ちゅんちゅん
「う・・・・ん・・・。」
周りに聞こえる鳥の声に才人の意識は目が覚めることができた。


目を開けた才人はまず、視界に入ったのは木の天井であった。
「知らない天井だ。」
そして、ゆっくりと体を起こすとそこは、何も知らない民家の部屋の様だった。


――ここは一体どこ何だろう
ぼんやりした様子で考えていると、一枚の襖が開いた。

「あっ、目が覚めましたか。あなたーお客様の目が覚めましたよ。」
そこに入ってきたのは一人の女であった。年齢はおよそ40代だろう。


「おお、目を覚めましたか。」
続いて入ってきたのは50代過ぎた男であったが
その眼の奥にある輝きは鋭いものであった。


「体の具合はどうかな。」
才人が茫然としていると、先ほどの男から声掛けられた。



「あっ・・・。は・はい、大丈夫です。すっかり具合は良くなりました。」
才人は慌てながらも返事をする事ができた。
「あのぅ、どうして俺は此処にいるのでしょうか?」
才人が気になったことを聞く


「ん?おお、そうだ、君が私の家の前に倒れていたからな。
近寄ってみたら、傷があるわ、血が出てるわ、熱があるわで、大変だったぞ。
君は一週間も眠っていたぞ。」
男が返事した。



「そうですか。ありがとうございました。」
才人は感謝の言葉を出す。そして、大事なことを思い出した。
「すいません、名前は何ですか?」
そう、名前をまだ、聞いていなかったのだ。



「わしの名前か?わしの名前は冬木昭三じゃよ。そして、女房の」
「照子です。」
それぞれの男と女の名前が分かった。



「俺の名前は平賀才人です。」


こうして、才人がこれからお世話になる冬木家の邂逅が終わった。












「さてっと、これにて一見落着したところで軍令部にいこうかの。」
「あなた、これから行くのですか?」

才人の耳にそんな会話が入ってきた。

――軍令部だって?
聞き慣れない単語だった。


しばらくすると、会話の続きが入ってきた。


「ああ、政府は支那事変を終わらせたいようだが、陸のアホどもが拡大する一方だ。
その時に備えて軍令部に行かねばならん。」
「そうですか。お気をつけて。」


――し・・な・・・事変だって・・・?
才人は信じたくないという思いから、照子に質問した。


支那という名称は、昔の中国の呼び方で、現代はあまり呼ばれなくなったはずだ。
更に支那事変は日中戦争の別の呼び方だったはずだ。



「すいません、照子さん」
「うん?なんです?」
返事をする照子。


「こ・・・こと・・今年は・・何年ですか?」
才人は“聞くな聞くな”と頭の警鐘から振り切るとかろうじて聞くことができた。


「変なことを聞くね?今年は昭和11年だよ。」
照子から絶望的なことを言い出した。





「しょ・・う・・わ・・・だ・・・と・・・・。」




そう才人は、自分の世界に帰ることなく、自分の愛した人がいる世界ではなく
自分の過去の世界である昭和に飛ばされたのである。





才人がこの世界に導き出されたのは、運命か・偶然か・必然かそれは誰にも分らなかった。



[32038] 誓い
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 10:50
あれから一カ月が経った。才人は相変わらず冬木家に居た。
これは、冬木達が此処に居てもいいと言われたのではなく、
才人の様子がおかしいから此処にいるといった感じが適切かもしれない。


才人は、あの衝撃的な言葉を聞いてから、心ここにあらずといった感じで、
一日中家にいたかと思うとふらっと外に何処に出かけてしまう。
それでも時がくれば、また、才人は戻ってくるのであった。


「才人はどうしようかしらね。」
これは、忙しい夫の家の留守をする照子の言葉だった。


しかし、才人は明かしていないとはいえ、自分の愛する人と離れ離れになった上
たどり着いた先は自分の世界ではなかったのだから
その衝撃は余人にも。想像できないだろう。



「ほんと、一日も早く才人の正気に返らせてほしいんだけどね」。
照子もほとほと困っている様子だった。





今日もまた、才人は何処かにふら付きながら歩いて行く
目的地は何一つも考えていない。

ただ、文字通りふら付き歩いて行くのだった。



何時間たったのだろう。才人は川の土手に腰かけていた。ぼんやりと見つめている先は川が流れていた。
今、才人の考えている事はただ一つしかない。ルイズのいない世界で生きる意味はない。



やがて、考えが纏まったのか立ち上がろうとした瞬間に頭上から爆音が響いた。
才人が、かって乗った零戦よりも、低いながらも力強い音だった。




才人がその爆音に気づいて、空を仰ぎ見た。そこには、訓練だろうか、複葉機が空を飛ぶところだった。
複数機で編成された複葉機は、直進したり、旋回したり、宙返りしたりと様々な機動を行っていく。



才人は、それを見ながら、いつの間にか自分が零戦に乗りながら、ドラゴンと格闘した様子を思い出していた。
その時に響くルイズの声に懐かしさで、涙が出そうになった。

やがて、想像の零戦はやがて、一つの戦艦の頭上に来た時光に輝いて、白昼夢が終わった。



白昼夢が終わった時、才人の頬は涙をこぼしていた。
「うっ・・・うっ・・・会いてえよ・・・ルイズ・・・・。」
才人は涙を流しながら、昔を思い出す。




やがて、一つの事柄にたどり着くと忽然と頭が回り出した。





『そうですね、ひいおじいちゃんは、太陽が暗くなった時に飛んできました。』
『太陽が、暗くなった時?それって、日食の時にか?』
『はい、ひいおじいちゃんは、いつも、遠い目をしながら八月の暑い日だったと言ってましたよ。』

これは、才人とシエスタとの会話であった。




何気ない会話であったが、今の才人には天祐のように聞こえた。
なぜなら、日食を通り抜けることができたならば、ハルケギニアに行くことができるかもしれないのである。



――だが、しかし、俺の時代に帰れるのか?
そう、日食に入って、ハルケギニアに行けたとしてもそこが、自分の愛したルイズが居るとは限らないのだ。
佐々木武雄みたいに60年以上前のハルケギニアにくるかもしれないのだ。



――それでも、やらないよりはましだ。
そう、才人は考え決意を新たにすると勢いよく立ちあがった。
ふと、左手を見れば、そこには、ガンダルーヴのルーンが輝いていた。


――これは、いまだに消えていなかったか。
ふと、才人は思い出した。

――確かルーンが消える条件は、召喚側と使い魔側の“死”であったはず。そのルーンが消えていないということは
ルイズはまだ死んでいないということだろう。




そして、才人は向こうの世界であろう方向に向けて、誓った。



――待っていろ、ルイズお前の使い魔であり、騎士であるサイト・シュバリエ・ド・ヒラガはいつかお前の下に帰ってくる。



その上空には先ほどの複葉機が見事な編成しながら飛行していた。






「海軍航空隊に入りたいですって?」
「はい、そうです。」




あの誓いの後、才人は、冬木家に戻って行った。
照子は、正気に返った才人をみて、驚きそして、喜んだ。
才人も色々と迷惑かけた事をすみませんと、言った感じで謝罪し
その後で、昭三が帰ってきたところで、夕食となりその夕食の席で
冒頭のような会話に入った。



「なぜ、海軍航空隊に入りたいのです?」
「自分の為すべき事があるのです。」
あの後、自分がハルケギニアに帰れるには飛行機に乗っていた方がよいと考え
海軍航空隊に入隊と考えていた。なぜ、陸軍じゃなくて
海軍へと考えていたのかは昭三が、軍令部に居るため
海軍へのコネがあると思ったからだ。



「どうして、入りたいのか教えてくれないの?」
「・・・・すいません、どうしても言えません。」
才人は専門家よりは詳しくないとはいえ、この先の日本の様子は一般常識としてしっているのだった。そう、アメリカと戦争となって、敗戦するのだ。
その間に日本は様々な、悲劇的戦争行為を体験するのだ。
玉砕に始まり、各種の特攻、本土空襲、沖縄上陸を経て、多くの命を散らし
原爆が落とされて、ようやく終戦となるのだ。


その間の軍・民間人の死者の数は膨大な物となった。



――その事を冬木さんたちに知らせる訳にはいかない。
才人は一人ごちた。



その様子を静かに、見ていた昭三だが、ややあって、才人に目を向けた。


「才人君、君に出会ってから、一か月それでもまだ分からない事はまだある。」
「・・・・・。」
これには、才人も何も言えなかった。


「正直、なぜ、才人君が海軍航空隊に入りたいのかは分からない。」
「・・・・・。」
才人は俯くばかりで何も言わない。



「だが、海軍航空隊に入りたいなら手助けはしてやろう。」
「・・・!」
才人は勢いよく顔を上げた。



「あなた、そんな事を言ってもよいのですか?」
「ああ、才人君が、言うのだからな、入らせよう。それに才人君は」
そこでいったん言葉を切ると、こちらを見て、



「いい眼を持っている。覚悟を知る眼だ。」

と言った。



鋭い眼で才人を見る。



才人はおじけづかずに見つめ返す。



「ふぅ。海軍航空隊のことはまあ、わしに任せなさい。ところで、君の家はどこかね?」
「・・・・すいません。・・・・自分の家は・・・・・ありません。」
才人の返事は当然だ。才人の実家は未来の平成だ。
未来から来たなんて言ったところで、信じてもらえる訳がない。


「ならば、此処に居てもいいぞ、と言っても、君はずっとここにおったんだがな。」
昭三は呆れ気味にいった。


「ほ・・本当ですか。此処に居てもよろしいのですか?」
才人は驚き気味に言った。


「ああ、ワシらはついぞ、子供を宿す事は出来なんだ。お前を息子として迎えたいと思っている。」
「わたしも、かまいません。息子ができた時はこんな感じであっただろうと思っています。」
冬木家の返事は暖かかった。



「ありがとうございます。あり・・・が・・とう・・ござ・・・い・・ま・・・す・・。」
才人は涙を流していた。




こうして、才人は海軍航空隊へと入隊する切っ掛けを手に入れた。



[32038] 霞ヶ浦飛行場
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 21:11

数日後、才人は予科練の一つである、霞ヶ浦飛行場に来ていた。
今日試験を受けるというのだ。


本来ならば、第一次の学科試験、第二次の身体検査をしなければいけないのだが、昭三はどうやったのか、
それらの試験を受けることなく、いきなり本試験へと挑むのだった。

後に才人はこの事を聞くと、昭三は“ニヤリと”笑うだけなので、怖くて聞けなかった。


閑話休題


才人の帰還計画の一環である海軍航空隊入隊であるが、霞ヶ浦航空隊は全国から
第一次・第二次の試験を経て、集めただけあって屈強な者たちが多くいた。

彼らは、これからの先の事をしのばせているであろう希望にあふれた顔をしていた。


――俺でも採用する事が出来るのだろうか?
才人は不安に思った。


――しかし、俺にも目的がある。ルイズの下に戻るという目的が。
その為には絶対合格しなければと決意を新たにした。

と、不意に才人は誰かとついぶつかってしまった。

「あっすいません。」
「いや、こちらこそ。」
才人と青年は互いに謝っていた。


「いや、こっちもちゃんと周りを見ていなくて。」
「いやいや、俺もきちんと見ていなかったからな。」
「いや、俺がわ「よそう、いつまでも同じ事をするのはやめよう。
ところで、君も予科練受けに来たのか。」
青年は言った。


「ああ、俺は絶対受かると信じているぞ。」
「どこから来るんだ。その根拠のない自信は?」
青年は呆れ気味に言った。



ふと、才人は名前をまだ聞いていない事を思い出した。



「ところで、君の名前を教えてくれないか?俺の名前は平賀才人だよ。」
そういって、お辞儀する。






「おお、そういえばまだ、名前を聞いていなかったな。俺の名前は」












後に才人はこの時の出会いを後にも先にも驚いた事はないと、手記に書いた。















「佐々木武雄だ。よろしく平賀。」


才人は、シエスタの祖祖父である、佐々木武雄に出会ってしまった。

本来ならば、出会わなかったであろう2人であるが、この世界では出会ってしまった。
未来から来た才人と将来異世界に行く武雄の出会いは何を意味するのか誰にも分らなかった。







そんなこんな事があり、翌日から様々な身体検査を受けた。厳しい検査が多かったが、才人はつつがなく検査を通過してきた。


才人は、視力検査を終えて、次の検査へと移動中にもうすでに終わった肺活量の検査で何度もやり直す青年を目撃した。

――なんだ、肺活量の規格が足りないのか可哀そうだが、あいつは落第だな。


才人は気にも止めずに移動して行った。

だが、この時の落第するであろう青年は後の日本を代表するエースになろうとは、居なくなった才人は知らない。




翌日の適性検査も難なく合格する事が出来た。こうして、100人以上が集まっただろう飛行適性者の内、80人が選抜された。




才人は周りを見回した。佐々木は当然合格しており、様々な青年たちがいた。
以外にも思ったのは、昨日肺活量の処に居た青年が合格していた事であった。


――これが、俺達と闘う仲間たちか。
才人は感慨深げに呟いた。


合格する事が出来た才人たちは残る空中適性検査のため、霞ヶ浦航空隊友部分遣隊に移動するためトラックに乗り
30キロかけて移動した。



才人たちは、ここで初歩練習機の教程を受けることとなっていた。



「いやー平賀、本当に受かっていて俺も心強いよ。」
「お前も受かっていてよかったな。」
初日に意気投合した佐々木と才人であった。





「これで、飛行機に乗れるな。」
「試験にへまをかまして、落ちるなよ佐々木。」
「お前もな平賀。」
こう言い合った後、2人は可笑しくて大声出して笑い合ってしまった。





ようやく着いた飛行場で降りて、兵舎に入っていく才人たち。そこに教官たちの説明があり、飛行服まで用意されていた。


「もしもサイズの合わないものがあったら、遠慮なく申し出るように・・・」


これには才人にはありがたかった。なぜなら才人の身長172センチは今の日本(2009年)では普通であると思うが
この当時の日本人にしてみたら長身に入るのだった。この当時の日本人の平均身長は155センチぐらいなのである。


もちろん、皆が低かったわけではない。零戦のパイロットを代表する西沢氏などは180センチもあったという。




とにかく、才人は最初の飛行服は皆小さかったので、これを大きめに取り替えてくれた。
才人たちは皆、飛行服で身を固め飛行場を見学し、簡単な飛行機の操縦座学を受け、その夜は、床に入った。




後に、興奮してなかなか寝つけれなかったと懐古する多くのパイロットがいたが
才人はそんなことかまいなしに、スッと寝ていた。



翌日、才人たちは飛行服に着替えて隊伍を組んで、駆け足で飛行場へ向かった。


飛行場にはすでに、練習機が運ばれており、列線を作っていた。
練習機は三式初歩練習機であった。



分隊長小林大尉の指揮によって、テストが開始された。練習生予定者は順番にしたがって
指定された練習機の後席に乗って、次々と離陸して行った。上空でテストが行われているであろうか
今まで直進した練習機が、突然ふらついたり、旋回したりと様々な事があった。

終わった仲間たちも誰もが、芝生の上に倒れこんだ。



「次、平賀操縦練習予定生!」


いよいよ才人の番がきた。


しっかりとした足取りで練習機の後席に乗り、整備員が、腰バンド、肩バンドを締めていく。
前席と後席をつなぐ伝声管が連結する。やがて、エンジン始動が駆けられた。


零戦と比べれば小さいものの心地よい爆音であった。



――ああ、やはり飛行機はいいものだ。
ガンダルーヴによって次々と入ってくる情報を捌きながら、心の片隅はそう思う。



やがて、その時が来た

「出発する!」
伝声管から伝わる教官の声、機体はゴトゴトと前に進み
やがて出発地点に到着した。



「これより、離陸する!操縦装置は絶対触るな!」
伝声管から大きな声。一拍置いてエンジンの音が大きくなったかと思うと、機体はスピードを上げて滑走していく。

才人は、興奮する事もなく冷静に見ており、やがて、フワッとした感覚がしたと同時に練習機は空へと上昇して行った。


「いま100メートル・・・・・いま200メートル・・・・・いま300メートル・・・・。」
伝声管から教官の落ち着いた説明。



「いま400メートル・・・・・・いま高度は何メートルか?」
教官から質問が来た。



普通のパイロットなら初飛行で何が何やらといった状態で、大抵は慌てるものである。

しかし、才人は落ちついていたので、
「600メートルです。」
すぐに、答える事が出来た。



やがて、高度計が800メートルを指したところで、水平飛行に入ったのが分かった。
「手足を操縦装置に添えろ!」
教官からの指示だ。



才人は手足を操縦装置に添えながらも、次の指示を待った。
「これが水平飛行の姿勢だ。よく、覚えとけ!」
操縦棹とフットバーが微妙に修正されているのがよく分かった。数十秒が経った。


「教官が手足を離すから、一人で水平飛行をやってみろ!」
教官の新たな指示が来た。


突然、操縦棹が軽くなったのを感じた。教官が手足を離したのである。

才人は、ぐらつかない様に微妙に舵を取りながら飛行して行く。才人の練習機はほぼ、真っ直ぐに飛んでいた。



「よーし、はなせー!」
教官からの指示だ。才人はふうっと、息づきながらも手足を離した。
ガンダルーヴのルーンが見えるからといって
力は使えないと思っていたのである。


「貴様、少しやった事があるんじゃないのか?」
教官からの質問だ。


才人は、少しドキッとした。本当のことは言えないので
「いえ、ありません!」
と言うほかなかった。


「そうか、それにしてもうまかったぞ。まるで、飛んだ事があるかのようだったぞ。」
才人は冷や汗で一杯一杯だった。



こうして、この世界の初飛行を終えて、着陸した時仲間たちは揃いも揃って俺の顔を見て唖然としていた。

なぜなら、彼らは皆真っ直ぐに水平飛行が出来なかったのに、才人は綺麗に飛んだのである。



才人は居心地が悪そうに離れて座った。そこに同じ頃に飛び終わった佐々木も腰かけてきた。



「平賀、俺ちゃんと質問に答えれたり操縦できたかな?」
「何だよそんなに自信がないのかよ?」
「ああ、自信がない。もうだめだ。」
というと頭を抱えた。才人は言う言葉がなく、その日は終わった。






一週間が経った。緩旋回、教官だけの特殊飛行などと様々な空中テストを受けて、いよいよ最後の「断」を下す日が来た。



才人は落ち着き払っていたが、隣に座っていた佐々木はこの世の終わりが来たような顔をしていた。
「もうだめだー、俺は絶対受からないー。」


才人はもはや掛ける言葉はなかった。



次々に名前が、呼ばれる。呼ばれた者は「はいっ!」と返事して、指定された場所に移動していく。


才人は未だ呼ばれていなかった。これには才人も焦り、まだか、まだか、と不安になってきた。やがて、「以上!」という言葉が掛ってきた。


才人はとうとう呼ばれなかった。佐々木も呼ばれなかった。



――俺は駄目だったのか?


才人たち呼ばれなかった者たちも、重たい足取りで指定された場所に移動する。


一瞬水を打ったかのように静かになった。


次の瞬間意外な事が起きた。








「いま、呼ばれた者は、残念ながら適性検査に合格しなかった者である。」




才人は耳を疑った。
――俺の聞き間違いじゃ。



聞き間違いではなかった。今、名前を呼ばれた連中たちの顔色が変わった。
唖ぜんするもの、青ざめるもの、うなだれて目に涙を浮かべるものと様々であった。


一方、合格とされた才人たちは喜びの声は上がらなかった。ここまで一緒に来た友の悲運に対する同情が強かったのである。



こうして、才人は予科練に入隊する事が出来た。しかし、予想もしなかった出会いは後に何をもたらすのか才人自身も分からなかった。



あとがき

才人は第一次・二次試験を受けなかった理由はこの世界の学問や常識を知らないので省きました。

佐々木の出会いは後々重大になるはず。次は飛行訓練です。



[32038] 訓練
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 09:53
才人が入隊してから一カ月が過ぎた。才人はまだ、教官達にしごかれていた。
どうやら、うまく飛ばせても、教官達からみたらひょっこのようで
徹底的に基礎から学んでいた。


飛行訓練には教員一人に対し二人ないし三人の練習生でマンツー訓練であった。才人は二人組の方で彼のペアは矢野であった。
彼らの教官は艦上攻撃機専修の東二空曹であった。

東教員はガッチリとした体格で、落ち着いた、見るからに雷撃機乗りといった威圧感を持っていた。


「あすからの初練期間中、俺がお前たちを受け持つことになった。厳選に厳選されてきたお前たちに
言う事はないが、空中で、地上で、俺の教えることを素直に聞いて、それを体得して
初練教程をみごとパスするんだな。他の組に負けないよう頑張っていこうぜ。」
東教官のあいさつであった。


この一ヶ月の間は激動の続きであった。飛行中に突然教官が操縦棹を離したり、他の教官と同乗となって
ボロクソ言われたり、他のペアがミスすれば連帯責任として罰を受けたりなどとあった。


この日は、入隊してからの初めての上陸日であった。(注 海軍用語で休暇の事)
才人はペアの矢野とともに街に繰り出そうとしたところ、佐々木と出会った。


「おお、佐々木じゃないかこれから街に行くのか?」
「そうだ平賀もか。なら、俺と共にいかんか?人を待っているんだ。
ところでそいつは誰だ?」
佐々木はそういって、才人の隣の人に聞いた


「ああ紹介するぞ、こいつはペアの矢野浩二だ。」
「よろしく、矢野だ!」
そう大きな声で言った。


他愛もない事を話していると、佐々木の待ち人がやってきた。

「遅れてすまなかったな、佐々木。」
「おう構わんてこった。そういえば、平賀は知らなかったな紹介するぜ。
こいつは」
そういって、青年を紹介する。青年は入隊試験の時
肺活量検査にいた青年だった。


「ペアの坂井三郎だ。」






街に行って、映画を見た後、今後のことをどうしようかと近くの喫茶店に入った。

最初は、とりとめない会話だったが、彼らは飛行機乗りの卵。自然と訓練の話となった。

誰かが、苦労話をしたり、笑い話をしたりと大いに盛り上がっていた。


そして、彼らは近々に行われるであろう単独飛行の噂話に入った。彼らは未だに教官と共に飛んでおり
単独飛行は許されていなかった。


「やはり、玉井教官のところにいる木曽が一番飛行するんじゃないのか?」
「そうだな、あいつも俺からも見てうまいもんな。」
「いや、俺がいの一番に単独飛行する。これは必ずだ!」
そう佐々木が熱狂すれば、才人は呆れたような眼で見た。


「佐々木・・・。お前が単独飛行を一番に許可できると思っているのか?
入隊試験の時も自信がなかったり、訓練もどこかでケアレミスを犯すし。
このメンバーの中で飛ぶのに一番ひどいのはお前じゃないのか?」
「うっ・・・。成せば為る。」
そういって、再び佐々木は振い上がった。

その様子を見た才人たち3人は疲れたように息をついた。


「坂井、なんというか頑張れ。」
「ああ、いつかきっといい事はある。」
「ありがとう。お前たちの励みは身に染みいるよ。」
坂井は佐々木のとばっちりを受け慣れたであろう、疲れた老人のような声だった。

それを見た平賀たちは憐みの眼で坂井を向けた。



それから数日後、噂どおりに単独飛行が始まった。それは、全員が単独飛行を許されたわけではなく
その日の状態が良いものから許可が出された。

許可が出されたものは噂どおりの木曽と5人の練習生と才人であった。
佐々木は予想通り許可は降りなかった。



「平賀練習生、離着陸単独。出発します!」
才人は指揮所の前でそう報告する。才人は今では大声を出す事は慣れたが
最初のころは大声が出せていなかったため、何度もやり直しを受けた。
指揮所から答礼するのを見て、砂袋を積んだ単独機に乗る。
なおなぜ、砂袋が積んでいるかといえば、教官の代わりのバラストであった。


東教官からアドバイスをもらいながら、離陸準備を進める。実際に計器を見たり
ガンダルーヴの情報に頼ったりすることで、事故の可能性を減らそうと努力する。


――エンジン温度、回転、異常なし、操縦棹、フットバー異常なし、燃料異常なし。全て異常なし。離陸準備よし。
才人は、そう判断するとチョークはらえする。

練習機に付いていた整備士が次々と脚に付いていたチョークをはらっていく。



才人は操縦棹を前に倒し、機体を操りながら出発点に来る周りを見て、上空に機体や障害物がないかどうかを確認する。
それもないことを確認して、スロットルを全開に開いて前へと進んでいく。

高速で滑走しながら、速度が十分になったところで操縦棹を引く。ゆっくりと機体は上昇して行く。

才人は何かをしたかったが、あくまで訓練であるため、すぐに着陸するため、旋回へともっていく。



離陸に向けながらも、周りを見回していく。どこまでも澄み切った青い空、所々に広がる野原。

民家や鉄道がなければ、シエスタが案内してくれたダルブの野原に似ていた。




――嗚呼、世界が違っても大空はこんなにもやさしい世界なんだ。
才人は着陸態勢に入りながらそう思った。





だが、このやさしい世界は数年後、血みどろの世界となり、世界は破壊されるが
この破壊される前の世界を見られた事は、才人にとってプラスに働いた。

未だどこか荒れていた才人の心を癒していたのだから。





才人が単独飛行をしてから数カ月が経った。


才人たちは初歩練習機を卒業し、中間練習機で飛行訓練していた。もちろん、全員が中間に上がれたわけでもなく
何人かは首になったが、幸いにも才人の親友である、佐々木たちは首にはならなかった。


ある日のこと、その日はやや強風であったが、注意すれば大丈夫ということで、飛行訓練が行われていた。

もちろん、才人たちもきちんとすれば何事もなかったであろうが、一人の事を注意払わなかった事に悲劇が起きた。



――風が強いが、ちゃんと飛べるな。
才人はそう考えていた。才人は後半組で前半組の飛行ぶりを見学していた。みんな、時折来る強風でふら付くもののきちんと飛べていた。


――いよいよ、着陸の時か。
才人の眼の前で、一機ずつ着陸する練習機を見る。強風の合間に次々と着陸していく。だが、一機の練習機が着陸しようとした時に状況が変わった。


その練習機の搭乗者は、同期生で初の単独飛行を果たした木曽であった。木曽は何を焦っていたのか、強風が吹いている最中でも着陸を強行しようとしていた。



――あっ、あぶない失速する!
才人は思わず立ち上がった。その練習機は失速し、強風をまともに受けて、機体が転覆した。

転覆した後でも慣性でずるずると引きずっていく。やがて、漏れ出したガソリンにショートした電気系統の火花で引火したのか、猛烈に燃え出した。




「何をしておる、早く消化の手伝いせんか!」
才人練習生たちはこの事態に茫然するも、この光景はもはや見慣れたであろう
教官たちの叱咤により、正気にかえり消火器やバケツを持って
消化に急ぐのであった。



結論から言おう。残念ながら木曽練習生は死亡していた。

転覆していた際に首を骨折しており即死に近い状況だったという。
生き永らえて、炎に焼かれる苦しみを味わなかったというのは幸いというべきか。



なぜ、木曽練習生が着陸に急いでいたかといえば、今朝から体調が優れておらず
一刻も早く着陸したいという焦りから来たのではないかという結論であった。



部隊葬式が終わり、教官たちも今後体調が悪い時は申し出るようにと言った。

才人たち練習生は事故や死は身近なところにあり、俺たちも二度と事故を起こさない様にと誓い合った。



だが、この後も事故は続き、二人重傷、三人死亡という痛ましいものであった。






やがて中間教練も、あと二週間となった時に専修機種選定のうわさが流れだした。

すなわち、将来の機種を選択するのである。それが、分かっているのか当直教員がそれぞれの機種の話をするのだ。

ある雷撃専攻の魚雷を持って敵艦に突っ込む勇ましい話や、艦爆専攻の急降下のスリル話などとあった。

だが、才人は最初から戦闘機に乗ると決めており、その話には参考程度であった。



やがてある夜、各人の希望機種に対するアンケート用紙が配られ
それぞれ第一志望と第二志望を記すこととなっていた。


選定機種は艦上戦闘機・艦上爆撃機・艦上攻撃機の3機種であった。



才人は迷わず、第一志望に艦上戦闘機、第二志望に艦上爆撃機と記し提出した。
上司も志望通り100パーセント受かるわけではないが、参考にするという。



数日後、専修機種の発表が行われた。才人は希望通り戦闘機専修となった。
ペアであった、矢野は艦上爆撃機を希望し、希望通り爆撃機専修となった。

かれらは、これからは別々の道を進んでいくのだった。



「頑張れよ、矢野。海軍一の爆撃乗りになれよ。」
「ああ、才人も戦闘機頑張れよ、俺も海軍一の爆撃乗りになるから
お前も海軍一の戦闘機乗りになれ。」
そう言って、握手をがっちりと組んだ。

彼らは同じ飛行場に居ながら戦闘機専修・艦爆専修に分かれて
専門的な練習するため、別々になるのだ。




「にしても、まさかお前が戦闘機乗りになるなんて・・・・。」
才人は苦笑と共に振り向いた。


そこに居たのは、同じく戦闘機専修となった、坂井と

「うるせー、おれが戦闘機乗りなったらおかしいのか?」
佐々木がいた。



佐々木は何度か首になりそうな危機があったのにするするとパスしていまい。
俺達同期から、奇跡の佐々木とあだ名にされた。


「いや、可笑しくないよ。まあ、これから頑張ろうや!」

「おう!」

「そうだな!」

「そっちもな!」


才人たちは、それぞれの道を定め、その道の先に何が待ち構えているのか
その時はまだ分からなかった。





[32038] 空の侍
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/17 22:54
時は流れ、十二月末
戦闘機専修を選んだ才人たちは、今汽車に乗っていた。
これから九州の佐伯海軍航空隊へと向かう途中であった。


ほんの数日前には操縦練習教程の卒業式があり、才人たち二十六名の同期生は左の腕にトンビマーク(操縦教程修了者の印)が付けられた。

なお、今期の主席は坂井であった。才人は次席であった。これは、才人は実技が最優秀であったが
学力が悪かったため、総合的に坂井が優秀であったので坂井が主席となったのである。

なお余談をつけるなら今期のビリは佐々木であった。戦闘機専修はほぼ優秀な者が最優先となれるのだが
なぜ佐々木が戦闘機専修になれたのか同期生達から不思議がられた。


閑話休題


才人たちは卒業した。それは、間違いではない。しかし、霞ヶ浦では飛行機の操縦技術と知識の基本とを身につけただけであって
海軍の操縦者としては、まだ一人前ではないのだ。これからは、専門の戦闘技術を学んでいくため
九州の佐伯海軍航空隊へと移動するのだ。


才人たちは盛り上がっていた。これからの生活をはせている事もあるが、花札で賭け事をしていたのだ。

才人はまずまず稼げたが、ここで強運を見せたのは佐々木であった。

連続勝利するのを見てある同僚がイカサマをしても佐々木は勝利したのをみて、才人たちは何となく納得した。


それぐらい強運を見せねば予科練に生き延びれないと。



そんなこんな事があり、才人たちは佐伯飛行場に到着した。

才人たちは一通りの身体検査を受けた後、第一分隊に配属を命じられた。海軍航空隊では第一分隊は戦闘機隊の事である。

司令へのあいさつを済ませて翌日から早速訓練が始まった。才人たちの使用機は90式艦上戦闘機であった。
その日は慣熟飛行であった。慣熟飛行とは、飛行機に慣れる事はもちろんだが、不時着に備えて
飛行場周辺の地形、地物を観察するのが目的であった。


――佐伯もなかなかのどかでいいところだ。
飛行機を操縦しながら呟く才人だった。




次に編隊飛行訓練となった。才人は分隊長大島大尉の2番機となり、3番機には佐々木がついていた。
才人は心を楽に構えていたが、佐々木は分隊長の列機になるという事ですさまじく緊張していた。

リーダーにはそれぞれ個性があり、列機はそのリーダーの個性や癖を飲み込んでどこまでもついて行く心構えを示さなければならない。

分隊長は3番機が出発点に着くや否やすかさず、エンジンを入れてきた。才人は分隊長を観察していたため
遅れる事はなかったが、3番機の佐々木はスロットルを入れるのが遅く遅れだした。


やがて、高度100メートルになったが、分隊長がスロットルを緩んでくるのが気配で感じ取れたため
すかさず才人もスロットルを緩める事が出来たが、それが読めなかった佐々木は分隊長を追い越してしまった。

佐々木が慌てて、スロットルを絞り定位置に付こうと悪戦奮闘する様子が分かった。

佐々木の目は一番機だけを向けていたため、編隊が旋回している事さえ気づかなかった様子だ。


着陸してからの分隊長の批評は才人にはおおむねよろしいであったが、佐々木にはさんざんこってり搾り取られた。






正月は佐伯で迎え、二月に入った。
訓練は、戦闘機同士の単機空戦の過程に入った。戦闘機は最終的には敵を落とさねばならない。

そのために機首を敵の方向に持っていくのだが、敵も落とされてはなるものかと操縦するから、ぐるぐると回るように動くのだ。

それが俗に言う空戦であり、ドッグファイトなのだ。


才人は大丈夫だろうと考えていた。なぜならガンダルーヴがあるからだ。だが、それがどれだけ傲慢であったかはこれからの空戦で判明した。



最初の相手はベテランパイロットの一人である黒岩一空曹であった。諸注意を聞いた後、2人は上空に居た。

高度を1500メートルに持ってきて、手を振ったのを合図に左右に分かれた。互いに旋回しながら食いつこうと操縦棹を引き続ける。


やがて、才人はまもなく射点に付けると言った感じで食い付けたが、突然、黒岩機が上昇してきた。
才人も逃がしてたまるかといった感じで上昇する。やがて、もうすぐといったところで、黒岩機が忽然と姿を消した。



才人は一瞬唖然とするもすかさず周りを見るも、左右上下にも黒岩機が見えず
ハッと何か気づいて後ろを顧みれば、黒岩機が射撃ポジションに付いていた。

才人は悔しく思った。二人は並列に並び、再び合図があり左右にまた分かれた。

垂直上昇旋回を互いにやってみるも、才人はずるずると真後ろに付かれていく。


――このままでは俺が負ける!
才人は決心した。一度、ハルケギニアでワルドを撃墜する事が出来たあの秘妓を。
才人は一瞬水平に持ってきてわざと食いつかせるようにして、上昇に持ってきた。




「ほおっ、なかなかやるな」
黒岩は感心していた。他のひょっこパイロットならとっくの昔撃墜しているだろうが、この平賀はなかなかどうして、いい操縦センスをしている。

ベテランの自分でさえ、ヒャヒャっとする事が何度かあった。現に今も宙返りに持ってこようとしている。


「どうやるのかな、あの平賀は?」
あの平賀はどうして面白い事をする。



宙返りの頂点で操縦棹とフットバーを深く倒す。すっとそのまま落ちるように旋回した。
通所の宙返りよりも小さい半径で周った。


――どうだ!
才人の目論見通りなら目の前には無防備の黒岩機があるはずだった。
だが、才人の目の前には何もない虚空だった。



――えっ?
才人はそのまま後ろに振り返った。後ろには依然と黒岩機が付いていた。

――そんな、効かないなんて・・・。
才人は茫然とするも黒岩機が並列にやってきて訓練は終わりだという合図をして、着陸に持ってきた。



才人は着陸した機体から降りると黒岩一空曹に向かった。
「どうして・・・。どこがいけなかったんでしょうか?俺の操縦方法は間違っていたんですか?」
才人は自信があった。なのに負けた。これはどういうことであろうか?すると黒岩一空曹は言った。

「勝ち、負けなど、まだお前たちが論ずる時ではない。当分の間絶対に勝てんのだ!
格闘訓練を度重ねていくうちに、飛行機の動きというものが、だんだんわかってくるものだ。
おれたちも初めは同じだった。あの手、この手と研究して、初めて飛行機が手に入ってくるものだ。
どこでどうする、ということはなかなか教える事はできん、盗むんだよ!俺達の古参者を盗みとるんだよ!それにお前は」

ここでいったん言葉を切りまっすぐ才人を見る。

「お前心のどこかで天狗になっておるんじゃないか?」

才人はこの言葉に頭にハンマーを打たれたかのような衝撃を受けた。

「もちろん、お前がうまい事は事実だ。だが、俺達からみればまだひょっこだ。
ただうまい事を胡坐座に組んだだけでは、いつまでも先には進まないぞ。
お前がそんなんなら予科練に落ちた連中が浮かばれないぞ。
よく考えるんだな」

黒岩一空曹の訓示はここで終わった。


残された、才人は項垂れて黒岩一空曹の言葉を考えた。

確かに才人はガンダルーヴがある。それは他の人よりも優れている事もある。

だが、そこに専門的な人がやってきたらたちまちにかなわない。なによりもガンダルーヴが最強なら
だれとでも勝てるではないかと思うかもしれないが、ワルドにも負けているのだ。基本なら勝てるかもしれないが、応用には負けるのだ。

才人は無意識にガンダルーヴの力を笠にしていたのではないかと思った。これからもガンダルーヴの力だけでなく自分も鍛えねば。

と心を新たに決意した。









「にしても、やるなあの平賀という男は」
平賀と別れた後の黒岩はそう思った。あの宙返りの時もそうだ。まさか左ひねりこみもどきを披露するなんて。
もちろん、ベテランである黒岩は引っからなかったが、思わず賞賛しそうになった。

「あいつは化けるな」


その言葉は、才人の本質だろうか?それとも予言だろうか?それには誰にも分らなかった。


あとがき

才人にガンダルーヴを持っても無敵ではないということを明言したかったのです。



[32038] 初陣
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 10:32
昭和13年初夏


あれから才人はガンダルーヴの力に頼らず自分の力でできることをやろうと決意し
仲間との研究や先輩たちの体験談を今まで以上に真剣に聞きやっていた。



――あのめんどくさがりの平賀が真剣にやっている。何があったのだ?
これが、先輩・仲間の感想であった。



そう、才人は仲間たちとは一歩離れたところに居たのである。これは、才人の目的の事もあるが
自分が未来人であるという意識があったため、何となく混ざりにくかったのである。

今回の敗北で歩み寄ったかと思えば、完全に混ざりきれなく、一匹狼の様な雰囲気が出来て、のちにエースの由来となる。


また、空戦練習も、極力ガンダルーヴの力に頼るなと自己暗示し、訓練に挑んだ。

「最初にあった巧さは消えたが、今の平賀は憑きものが落ちたかのように、最初になかったモノを持っている。」
これは後に空戦練習相手となった。黒岩一空曹の言葉であった。



こうして、才人は延長教育を終え三空曹として任命され、大村空、高雄空を経て
中国で作戦中の第12航空隊に配属された。

ここまでに来る間、仲間たちはバラバラになり、才人と共に来たのは3人であった。


「坂井、頑張って初陣しようぜ!」
「ああ、お前も一緒にだぜ!」
坂井は才人と共に12航空隊に配属されていた。


「しかし・・・・。いらんな・・・・。」
「ああ・・・・。いらんな・・・・。」
その言葉と共に横に振り向いた。そこにいたのは

「うるせー!俺をいらん扱いすんな!」
佐々木であった。

そう、才人と坂井だけでなく佐々木も配属されたのである。

前述した大村空や高雄空も共に配属されたので、これも腐れ縁と言うべきだろう。

「まあまあ、そんなにクサるなよ佐々木。」
そう佐々木を宥めたのが、高雄空から来た宮崎儀太郎三空曹であった。


「ぐぐっ、しかし・・・。」
「そんなに悔しいなら実績を上げたら、あいつらも認めてくれるだろうよ。
幸いにもここは前線だしな。」
これは高雄空から見慣れた光景だった。


数日後、才人たちは何回か出撃したが、空戦の機会がなく基地哨戒か地上銃撃だけであった。
これには戦地であるが古参兵たちが敵を消耗させたからであった。


ある日の午後だった。分隊長荒井大尉が指揮所の黒板に何かを書いていた
。その様子にあちこち散らばっていた搭乗員たちが集まってきた。
才人たちもその一人である。

漢口空襲搭乗割 黒板にはそう書かれており、続けて
指揮官荒井大尉 二番機は古参の搭乗員が書かれ
3番機に坂井の名前が書かれた。

「やったな坂井、空戦できるぞ!」
「ああ・・待て、まだ名前が書いているぞ。」


その後つらつらと書き第4小隊の3番機に平賀が記された。


「平賀、お前もいけるぞ!」
「ああ、今度こそ敵にあって初陣飾ろうぜ!」
才人は互いに励ましあった。なお、宮崎と佐々木は今回の搭乗割は外れた。


才人の搭乗機は96式艦戦であった。

96式艦上戦闘機は海軍初の全金属単葉戦闘機で、ほぼ同時期に設計・採用された96式陸上攻撃機と並んで
欧米各国の模倣を脱して、日本独自の設計思想の下制作された最初の機体であった。

また、艦上機でありながら、陸上戦闘機と同等以上の性能を有りする機体となった。


後の零戦の設計技師にもなった堀越技師いわく快心の作であったという。


出撃する機は才人と坂井を入れて15機であった。1小隊に3機ずつ編体し、進撃する。
やがて、漢口の上空にやってきた。才人は訓練通りに機銃に弾丸を装填する。飛行場が見えてきた。

飛行場の上には機体がない。空中退避していなくなったのであろうか?

ふと、才人はある方向から何かを感じ取った。

――何だ?この感じは
才人は疑問を感じた瞬間

先頭の指揮官がバンクを振り、大きく右に旋回して行くと同時に増槽を落としていった。
もちろん才人も増槽を落とすと同時に右へと旋回した。それは先ほど才人が違和感を感じ取った方向であった。
すると、向こうから20機ほどの敵がやってくるのが見えた。


――敵?
才人はドラゴンと空戦した事があるとはいえ、飛行機とドラゴンではもともと同じ土台にいるわけではないので
実戦をしたことにはならない。実質上、初空戦となるのだ。


――落ちつけ・・・。落ち着け・・・。あの時と違って、みんな俺と同じ土俵に居る。敵も同じ数だ。

才人の脳裏に浮かべるのは、アルビオン上空での囮作戦だ。ルイズの虚無の魔法の一つであるイリュージョンを発動させるために
ルネたちと共に飛行した事がある。そこに待ち構えていたのは無数のアルビオンのドラゴン騎士だった。
ルネたちは才人が乗る零戦を逃すために文字通り肉壁となり全滅した。


後日、テファの治療によりルネたちは全員生還したが、才人にとってあの出来事は数多くあるトラウマの一つだった。


――もう、あんな思いをしないためにも、もう仲間をやらせはしない!
才人がそう決意すると同時に敵機が突っ込み、味方が散開するのと同時だった。


才人がフットバーを蹴り、横滑りをすると同時に操縦棹を引き旋回する。その一瞬火線が通り過ぎた。
才人は大きく旋回しやり過ごす。その後にずんぐりした敵が通り過ぎる。才人は敵機を見極める事が出来た。

それはソ連製のイ―16であった。


すかさず、才人に機銃を放った敵機を追跡する。

敵は水平飛行したが、才人を認めるとすかさず反攻し、旋回しようとする、もちろん才人も旋回する。

どれほど旋回しただろう5回?10回?いやそれよりも多くぐるぐると回ったに違いない。

そう思わせるほどの旋回であり、実戦の空気は重たかった。


――まだ・・・。まだ!俺はできる!
才人は歯を食いしばっていた。


やがて、競り勝ったのは才人であった。敵が耐えきれずに敵が水平飛行して離脱しようとする。

その隙を逃さず自機も水平飛行し、距離を詰める。


――これが、俺が落とす機体か。
望遠鏡を覗きながらつぶやく。望遠鏡には敵機と完璧に軸が合い、敵機ははみ出さんばかりであった。


後ろを向く敵の搭乗員の顔は恐怖に染まっていた。


――悪く思うなよ。
機銃の把柄を握り機銃を放つ。最初の1連射は外れた。
だが、もう1連射は敵に当たり、敵は黒煙を上げつつ落ちていく。

才人はそれを見送る。


才人はハッとして周りを見渡した。1対1の時はともかく、今は空中戦である。

それに推定とはいえ5機ほど敵は多かったのである。
才人たちが1機ずつ相手していれば、5機余るのは道理である。


案の定であった。才人の後ろにイ―16があり、距離は近かった。


――どうする?ここで終わるのか?
才人の脳裏に様々な事が走馬頭の様に流れる。


――サイト・・・。死んじゃ・・・。駄目だから・・・。
ルイズの声が聞こえたような気がした。


――ここで・・・。ここで・・・!死んでたまるかー!
才人には見えなかったが左手のルーンが力強く輝いた。






――東洋鬼めこれでおしまいだ。
イ―16を操るパイロットはそう嘲笑った。

――中国の空は俺達の物だと教えてやる。
彼は敵機を照準に入れて機銃を放そうとした。

「なに!?」
放そうとした瞬間敵機の姿がかき消えた。






「いかん!平賀があぶない!」
彼は後悔していた。
いかに敵機が突っ込んだとはいえ3番機の平賀を見失うなんて、なんて無様な!

彼は目の前にフラフラとやってきた、敵を1機落としつつ平賀を捜していた。
やがて、平賀を見つける事が出来た。後ろに敵機が付いていた状態で。

――このままでは間に合わない!
彼はそう思いつつ、その敵機を落とすために機動しようと瞬間

「何だー!ありゃ?」
平賀は信じられない機動をした。





「あああああ

才人は敵機の後ろに付ける事が出来た。

     あああああ

どうやってできたかは分からない。

         あああああ」


ただ、分かる事は敵機を落とせる事であった。望遠鏡をのぞく必要なんてなかった。
それほど敵機と近かった。

把柄を握った。折れるほど、強く握った。弾丸が次々と敵機に当たるのが見えた。

やがて、敵機が火炎を上げるのが見えた。敵機は錐もみつつ落ちてゆく。
その時になってようやく落ち着く事が出来た。



「フゥ・・・ハァ・・・・。」
短いだが、長い空戦であった。


――俺は・・・。今・・・何を・・・?
才人がどう操縦したかは覚えていなかった。ただ、分かるのは才人の機体が機首を大仰角にもってきて高速失速させて
敵機が通り過ぎた後に水平に持ってきただけだった。


才人が茫然としていると96式艦戦がやってきて才人に大丈夫かと手信号をやる。
才人もハッと気づき大丈夫だと返信する。


周りを見渡した時、いつの間にか空戦が終わっており、来る前と同じような静けさがあった。

ただ、空戦があった証拠に幾筋の黒煙があった。

――終わったのか?
才人が信じられない気持でいると、横にいる友軍機がついて来いとバンクする。


空戦を終えた96式艦戦が集まり編隊する。やがて、自分の基地へと帰っていく。奇跡的にも1機も被撃墜機はでなかった。


自分たちの基地が見えてきた。被弾した機体から順番に降り、指揮官が最後に着陸した。
帰還したパイロットたちが指揮所に集まり報告して行く。

今回の才人たちの出撃戦果は11機撃墜・4機不確実であった。
才人が撃墜した2機は司令部より公認とされた。坂井も1機撃墜しこれも公認とした。


司令部より初陣祝いとして、酒を一升褒美を出されたので
これを兵舎に持って帰ってみんなで飲むことにした。


「坂井やったな!」
「ああ、平賀の方がすごいよ。2機だって。」
「どうやって敵を落としたか教えろよ!」
才人と坂井と宮崎はワイワイと騒げていたが佐々木は

「ふん、俺はいらない扱いですよー。」
拗ねていた。

「まあまあ、次はお前の番だってよ。」
「そうそう、落とせば認めてくれるかも。」
「そうか・・・!俺が平賀よりも多く落とせば俺を認めてくれるんだな!
そうだろ!」
佐々木はそう言って振い上がる様子を才人たちはやれやれと見て、酒盛りの続きをやった。





後日、宮崎と佐々木も初陣を飾るも、宮崎が1機撃墜する事が出来たのに対し、佐々木は無駄弾を出した揚句、1機も落とせず、燃料も無駄に消費したので不時着しての帰還だった。



昭和14年初秋の頃


才人たちは漢口飛行場にいた。才人が経験した初陣から数週間後に
陸軍が漢口を占領し才人たちはそこにあった飛行場へと移動していた。


初夏には南昌攻略戦があり才人たち96式艦戦も援護に出て、ここも攻略することとなった。
補給のため後方に下がったとたん、敵が南昌奪還のため大軍を持って、逆襲し、ついに
南昌飛行場も一時的に、完全に奪還される事態となった。

才人たちも急遽出撃し、飛行場の上空に来てみた。飛行場内には幾筋の塹壕が掘られて
敵味方が互いに撃ち合いが行われていた。上空からでは敵味方の識別がはっきりできなかった。

才人は低空に降りて塹壕を覗こうとしたが、一方の塹壕から、機銃・小銃の火線が飛んできたので慌てて上昇してやり過ごした。

改めて、敵の塹壕が分かったのでその塹壕に向けて機銃を加えた。狭い塹壕の上を塹壕沿いに機銃掃射する。

敵の手足がちぎれたり、頭がはじけるのが見えたが、飛行機の速度は速いので一瞬でしか見えなかった。

もう一度掃射を行おうとすると60人ほどの敵が塹壕伝いに窪地へと走り出すのが見えた。

才人は近かった方の敵を目標に銃撃を加えた。近かった3人の内1人が倒れた。残った2人は
1人は窪地へと逃げ、1人は倒れた人を担いで逃げようとした。


才人はその二人に目標にいれ、銃撃した。二人は銃撃を受けたのか倒れた。


――悪く、思うなよ。これは戦争だ。
才人は、そうつぶやいた。


その後、南昌はふたたび日本軍の手に帰り、才人たちも南昌飛行場へと進駐した。

才人は過ぐる日の事を思い出したのか、銃撃を行ったところを行ってみた。そこには、やはり2人の折り重なった死体があった。
腐乱が始まっていたが、顔は、まだ腐乱が始まっていなかったので、識別ができた。

顔が似ていたので、兄弟だったかもしれなかった。


倒れた、兄か弟を助けるために自分の身を顧みずに。


――やはり、戦い慣れしても殺し慣れねえな。
才人は顔をしかめて後にした。そして、こちらに来てから覚えた煙草を吸った。


「すう・・・。はぁ・・・。」
勢いよく吸って、煙を吐き出した。

――ルイズに帰る頃には肺はニコチンでまみれてるかな?
才人は苦笑と共に戻って行った。





そして、冒頭の様に漢口に戻るのであった。

漢口飛行場は次期作戦のために陸海軍の飛行機が集まっており
その数はおよそ200機ほどで、大規模となっていた。


才人は親友の佐々木たちと交えてトランプをやっていた。

「くそー。なんで賭け事になると、何で佐々木は強いんだよー。」
「絶対、可笑しいでしょ。お前イカサマしたのか?」
「ふっはははは!空では負けても、他の事には負けん!」
どうやら、賭け事で佐々木が連勝していたようだ。その様子に宮崎と坂井は悔しそうだ。


「やれやれ。」
才人は苦笑するしかなかった。


――ここ、しばらく空戦もなかったからな。佐々木がリベンジを果たせない気持ちは分かるんだがな。
そう思い、箱から煙草を取り出し、火をつけようとしたところで
違和感を感じた。

――っ!何だ?初陣の時と同じような感じは?
その答えは、すぐに分かった。見張所から叫び声がしたかと思うと
ガラガラっと鳴る音がした。

才人たちは総立ちになるも状況がのみ込めていなかった。


しかし、さすがに戦場慣れした先任下士官はすぐに状況が分かった。


「空襲だ!速く避難しろ!」


――空襲だって?
才人たちはそれでも、状況がのみこめなかった。なぜなら空襲がほとんどなく、これが初めてであったといっていい。

事態がのみ込めてきた才人たちは慌てて、避難するように逃げていく。ふと、才人は空を仰ぎみれば
複数機でできた双発機が飛行場の上空に来て、爆弾をポロポロと落とす様子が見えた。

「危ない、伏せろ!」
才人は大声でそう言い、頭をかばうようにそのまま伏せる。佐々木たちも伏せる。


やがて、数秒後に、空気を裂くような音が聞こえて

同時に腹にズシーンとこたえるような地響きが起こり、鼓膜が破れるほどの大音響が響いた。

やがて、熱い風を感じたところで顔を上げると、そこにあった風景は、数秒前と比べて大きく変わった。

あちこちに助けを呼ぶ声とうめき声が聞こえてくる。

そして、戦友たちも倒れ伏ししていた。何よりも最大の変化が飛行場であろう。

何十機も並んでいた戦闘機がほとんど被爆していて、次々に燃え出していた。
陸海軍が集めた機体のほとんどがやられていた。


才人は茫然とするも、すぐに走りだした。

消化の手伝い?

否!この惨劇を引き起こした敵機へと復讐するために、戦闘機に乗って撃墜をするのだ。


やがて、列機にたどり着いた。ほとんどがやられていたが、その中で無傷の96式艦戦を見つける事が出来たので
それに乗り、エンジンをかけてみると、うまくかかったので、すぐに降りて、チョークを取っ払うとすぐさま再び乗り、離陸して行った。


ちらっと見れば、坂井たちもやってきて離陸しようとするのが見えた。佐々木は残念ながら機体が見つからず、お留守番となった。



敵の双発機は高度6000メートルを取っているらしく、才人たちは懸命に上昇しようとする。
やがて、敵機が近くに見えて、初めて正体が分かった。それは、ソ連製のSB-2爆撃機であった。

才人たちはエスベー爆撃機と呼んでおり、当時はやった高速爆撃機の一種であった。

高速爆撃機に恥じない、高速ぶりで、本来なら戦闘機の方が優位であるにも関わらず、引き離されそうになった。


――クソッたれ!逃がしてたまるか!
才人は必死に追い続けた。


やがて、敵機との距離が1000メートルに詰める事が出来た。と、突然、敵機の後部に黒煙が上がるのが見えた。才人たちは機銃を発射していない。
ということは、敵の防御機銃であるだろう。

才人は慌てる事はなかった。距離が1000メートル離れているので、めったに当たりはしない。

旋回機銃がもっとも当たりやすいといわれている、真後ろに行かないように注意しながら、距離を詰める。
やがて、敵機が大きく見えたところで、機銃を放つ。


――喰らえ!堕ちろ!
才人の放った機銃は敵機へと命中するものと思った。だが、


――あれ、垂れこみやがった!
そう、まだ、遠くて機銃が垂れこんだのだ。

実は、才人はまだ、中攻や爆撃機への襲撃訓練は、まだやっていなかったのだ。
後、数日後に行われる訓練だったが、その矢先に空襲されたのだ。

今までは単発機しか訓練をやっていなかったので、大きさを見誤ったのだ。


――当たらねえなら、距離詰めりゃええんだろ!
才人はそう思い、ますます距離を詰めようとする。

やがて、ぐんぐん大きくなるが、機銃を放したいのを我慢して距離をもっと詰める。


――まだだ・・・まだだ・・・。
心に自制心を掛けながら距離を詰める。

やがて、敵機は大きくはみ出すほど膨れ上がった。

――今だ!
機銃を放つ。敵機にも近くなったので、旋回機銃が無視できるほどになったので、手ごたえありと感じてからは離脱した。

離脱しながら、戦果を確認する。すると、1機が煙を上げるのを確認した。

――おし、撃墜確実!
才人は喜びでそう思った。だが、その爆撃機は煙を上げつつも墜落する気配がなかった。才人は唖然とした。

――あれだけ、喰らいながらも落ちないのかよ。
才人は燃料不足により、追撃する余裕もなかった。一緒に上がった坂井も戦果はなかったようだ。


しょんぼりしながら、漢口飛行場へと帰っていく。やがて、飛行場が見えたが未だに燃えていた。あちこちでメラメラと燃えていて、爆撃痕も見えた。

邪魔にならないようなところへと着陸し、才人たちも後片付けを手伝う。戦友たちも負傷者が多くいて
司令部にも爆弾が落ちて、長官が片腕ちきぢられ、参謀たちも多く戦死した。

また、最悪なのは、約200機の陸海軍機が置いてあったがその大半は使い物にならなかった。

才人たちは混乱しながらも事件終結へと進めていく。

後日、再び空襲があったが、味方は二度と再び、そんな大被害を繰り返す事はなかった。





[32038] 出会い
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 21:14

昭和15年元旦


才人は冬木家で新年を迎えた。才人は横須賀航空隊に配属されていた。例の佐々木たちも同じくである。
なお、内地に帰るのに一番ごねたのは佐々木であった。なぜなら


敵機を1機も撃墜する事ができなかったからだ。


あの空襲から数日後、才人たちは空戦をやる機会があったので、それぞれ1機ずつ落とせたのに対し
佐々木は進撃途中でまたエンジントラブルに遭い、泣く泣く引き揚げたという。


とまあ、佐々木の駄目駄目伝説は置いといて、我らの主人公才人はというと


「あけましておめでとうございます。昭三さん・照子さん」
「うむ、新年おめでとうだな。才人君」
「おめでとう。才人君」
にこやかに元旦のあいさつを行っているようだった。


「これからは、どうするのかね?才人君」
「はい、佐々木が近くに来ているので、一緒に初詣に行こうかと思っています」
「そうか、これからは、軍令部たちの関係者がたくさん来るので、心細いだろうなと思っていたところなんだよ」
そんな会話があり、才人は待ち合わせした神社に向かった。







才人が、神社に向かっていくとさすがに元旦であるから、人だかりができていた。

「さすがに人がいっぱいだな。佐々木はどこにいるんだが」
才人はきょろきょろと探していると後ろから声が聞こえてきた。

「おーい、平賀!こっちだこっちだ!」
「お、あの声は佐々木だな。新年あけま・・・・・。どうしたんだそれ?」
才人は振り返り、新年のあいさつをしようとしたんだが、途中で止まってしまった。


なぜなら、佐々木の服は明らかにズタボロに汚れていたからだ。

「いやー待っていたら、突然、猫にひっかけられたり、犬にかまれたり、こけたところで
団体さんがやってきて、俺を踏んで行ったよ。はっはっはっ」
と、佐々木は何事もなかったかのように話した。


「そ、そうか・・」
才人はひきつった顔で言うのが精一杯だった。


初詣をつつがなく終えたところで、これからどうしようかと話していた。

「これからどうすんだ佐々木?」
「うむ、実は人と会うや「ここに居たのですか?兄さん」
後ろからかわいらしい声が聞こえた。


才人は後ろに振り返って、固まってしまった。なぜなら彼女は



「おお、来ていたのか。紹介するぜ、こちらは戦友の平賀才人だ」
「兄さんがお世話になっています。平賀さんの事は兄さんからいつも聞いています。
あ、申し遅れました。私は佐々木紫苑です。よろしく」



シエスタとよく似ていた。








「まあ、そんな事があったのですか兄さん」
「はっはっ、そうだ、俺が華麗に敵を落としてやったんだ」
ここは近くの喫茶店である。今は佐々木の自慢話をしていた。もちろん嘘話だ。


「本当に落としたんですか?平賀さん」
紫苑はかわいらしく尋ねる。


「あ・・・。ああ、本当の事だ」
才人はというと上の空であった。なぜなら、シエスタと本当によく似ていて
仕草などもそっくりだった。双子じゃないかと言った方が納得いく方だ。


――ただ、一か所だけ違うんだよね。
と、才人はある部分を見ながら思う。




「平賀さん?何か考えていらっしゃるのでしょうか?」
「い・・!い、いやいやそんなことないぞ、紫苑さん」
なぜか紫苑から黒い何かを感じて慌ててそう言った。


「そうですか。ところで平賀さんの武勇伝聞かせてください」
「あ、ああ。いいよ、話をするよ。後、才人でいいよ」


こうして、才人の武勇伝を聞かせて、途中で佐々木の嘘がばれて、佐々木が大いに慌てるということもあった。時間が来たので別れることとなった。


「才人さん今日はありがとうございました」
「くそー、今度戦地に行ったら、絶対戦果を上げて自慢話をするんだからな!」
佐々木兄妹はまっすぐ帰って行った。

「やれやれ、騒がしい兄妹だったな」
才人は苦笑と共に煙草を取り出し、火をつけて、吸いながら冬木家に戻っていく。


――にしても、シエスタそっくりと出会うなんて。
才人はその点の事を思うと気が重くなるのを感じた。


――もしも、ルイズそっくりと出会ったらどうなるんだろうか。
そう、シエスタそっくりと出会ったのだ。ルイズそっくりと出会って、残ると思いかねない。


――その時には、行く決意ができるのだろうか?
才人の呟きは誰にも答えなかった。







正月休暇が終わり、横須賀航空隊に戻って行った。そこで、司令官よりの訓示があった。

「正月休暇で、骨休みができた者もおると思われるが、諸君にはますます働いてもらいたい。
中国の戦況を聞いた事があるものもおると思うが、膠着状態である。諸君がここに来てもらったのは他でもない
今度配属される新鋭機を使って、戦況を変えてもらいたい。諸君は栄ある新鋭機の部隊となる。
一刻も早く新鋭機に慣れるよう諸君に期待する。」

そう訓示し、格納庫に並べられている、新鋭機と対面した。


その戦闘機は96式艦戦よりも一回り大きく、そして美しい戦闘機だった。

この戦闘機こそが後に世界にとどろく零式艦上戦闘機であった。この当時は、まだ正式採用前だったため
12試艦上戦闘機と呼ばれていた。それでも、今年中に正式採用する見込みで、先行量産型が才人たちの前に並んでいた。

――よろしくな、俺の相棒。
才人は目の前にある零戦を撫でながら、そうつぶやく。才人の知っている
零戦とは微妙に違うものの零戦の面影があった。

だが、中身は微妙どころが、大きく変わっていた。




[32038] 零の初陣
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 10:04
96式艦上戦闘機が採用された昭和12年には早くも次期戦闘機設計が要求された。これが十二試艦上戦闘機である。


十二試艦上戦闘機要求

機種 艦上戦闘機
用途 1.敵攻撃機の阻止
   2.敵観測機の掃射
特性 速力及び上昇力優秀にして敵高速機の撃墜に適し、且つ戦闘機との空戦に優越すること
航続力 6時間以上
武装 20ミリ1丁ないし2丁 7,7ミリ2丁
実用高度 3000メートル乃至6000メートル


これが、海軍から三菱・中島に出された十二試艦上戦闘機の要求であった。中島は設計陣が多忙であるという理由で固辞し
事実上三菱との単独開発であった。海軍コ-ドはA6Mであった。

要求から分かるように、後に俗説となる「長距離飛行する陸攻の護衛」と「96式艦戦よりも格闘性能が優越である事」などとは書いていなかった。


三菱は96式艦戦の設計陣である堀越技師が中心となって開発に取り組んだ。


いよいよ設計を始めようかという時に、一人の男が強弁に主張したことから座礁に乗りかけた。
その男は源田実少佐(当時)であった。源田少佐は十二試の要求はおおむね満足していたが、一点だけ譲れないものがあった。


それは格闘性能であった。海軍上層部は格闘性能は96式艦戦には劣るでも妥協したが、現場屋と自称する源田少佐はこう主張した
「新型機は96式艦戦よりもあらゆる点で優越しなければならない。よって、格闘性能でも優越しなければならない。」


設計陣は頭を抱えたい気分だった。戦闘機の性能のなかで最も重要なパラメーターである速度と格闘性能は、実は両立できそうで両立できない事であった。


速度を重視すれば、翼面荷重値が高くなり、格闘性能が低下する。
逆に格闘性能を重視すれば、翼面荷重値が低くなり、速度が低下する。

なお翼面荷重とは、その面積あたりにかかる重さであり、翼面荷重値が低ければ低いほどサイズは大きくなるのである。

設計陣や軍はその妥協点をはかるのだが、源田少佐は格闘性能だけをひたすら要求した。
頭の痛い事に格闘性能を要求しながらも、他の性能も満たせという。


だが、設計陣と海軍はこれからは高速の時代であると認識しており、格闘性能だけをこだわる理由はなかった。
源田少佐を駐イギリス大使館武官補佐官という名目で、イギリスへと追いやり、源田少佐の意見をパージした。
だが、源田少佐の意見はそのまま現場のパイロットの意見でもあった。


設計陣は高速性を目指しながらも格闘性能もある程度確保しなければならなかった。


次に問題となったのは、武装であった。今度、採用される戦闘機に20ミリを搭載しようとしたんだが、その20ミリが曲者であった。


20ミリ機銃は96式陸攻の防御火器としてエリコン社から、エリコンFFをライセンスして97式20ミリ機銃として採用され、固定機銃も同時期に採用した。

だが、20ミリ機銃を96式艦戦に搭載して、実戦テストを行ったが結果は散々たるものであった。

20ミリ機銃は威力に関しては素晴らしかったが
初速が遅い上ションベン弾になりやすいため命中率が低く、また携行弾が少なかったため弾切れやすかった。


そのため、問題のある20ミリではなく12ミリで採用してみてはと設計陣が主張したが、海軍は難色を示した。

もし、今度採用されるのが、唯の戦闘機だったら12ミリでも十分であろう。
だが、今度採用される戦闘機は”艦上“戦闘機であるのだ。


陸上の戦闘機なら、制空戦闘機は戦闘機へ、邀撃戦闘機は爆撃機へと分担して闘う事が出来るだが、味方の支援がなくただ一人敵地へと進む空母はそういかない。


艦上戦闘機はあらゆる敵と戦わねばならない。また、飛行機の宿命である降り立つ場所も必要である。
艦上機は空母から発艦するため降りたつ場所は空母である。

その大事な空母を守るために爆撃機・攻撃機を最優先で落とす必要がある。


そのために20ミリが最低限の必要な要求であった。20ミリであれば、手早く敵を撃墜する事が出来るだろう。

以前、才人がエスベー爆撃機を狙い撃ちし命中したにもかかわらず、撃墜できなかった事があった。

7ミリでは不十分でも20ミリでは十分撃墜できるだろう。だが、海軍も20ミリ機銃の問題を聞いていた。


悩む、両陣に光命を示したのは、エリコンFFを生産していた、富岡兵器製作所であった。

その会社は以前からエリコンFFを基に新型機銃を研究しており、小口径機関銃の高初速性能と大口径機関銃の火力の両立を目標に開発を始めた。
それが、後の99式15ミリ機関銃であった。そのカタログスッペクは素晴らしいものであった。

97式と合わせて表を示しておく

97式20ミリ一号機銃
全長 133.1cm
重量 23kg
砲口初速 600m/s
発射速度 約520発/分
給弾方式 60発ドラム弾倉

99式15ミリ一号機銃
全長 154.4cm
重量 32kg
砲口初速 800m/s
発射速度 約640発/分
給弾方式 金属ベルト250~350発

99式は12ミリ並みに弾道が低伸し、威力は20ミリにも勝るとも劣らない威力であった。

また、99式の大発明はベルト給弾を実用したことであった。原型エリコンFFシリーズは弾倉が機銃の構造の一部であったため
ベルト給弾化は困難といわれており、本家スイスのみならず技術先進国といわれたドイツでも実施されておらず
97式・99式が唯一の例であった。(後に97式シリーズもベルト化)


99式なら爆撃機を手早く撃墜することができ、対戦闘機でも十分戦える事が出来る機銃であった。


両陣は諸手に大喜びし、早速15ミリ機銃を機首・主翼に2丁ずつ搭載し、計4丁とした。
だが、99式の緊急増産が間に合わず、一部は20ミリ機銃搭載で出撃したという。


武装問題は済んだが、戦闘機のパラメーターの一つである、防弾力については1000馬力級で施すのは難しいとして
両陣とも防御は無視し、エンジンが向上している後期の零戦には防弾を施すことにした。


また、空戦における重要な能力の一つとしては急降下性能が挙げられるのだが、十二試では計算上では960kmまでは急降下できるとされていたが
2号機が急降下テスト中に空中分解していまい、改めて慎重なテストをした結果680kmまでしかできなかった。
それ以上は無理すれば700kmまではできたが、空中分解の危機があった。


この事については堀越技師は設計上高い急降下性能があるはずの零戦にこのような事態が発生した原因として
設計の根拠となる理論の進歩が実機の進歩に追い付いていなかったと回想している。


そして、機体設計がいかに名作であろうとそれを動かすためのエンジンがマッチしなければ、たちまちのうちに駄作機になってしまう。

この当時は単発機用としては、栄・瑞星・金星の3種類があった。両陣は話し合いをした結果金星はボツとなった。

理由は直径が大きい上この当時はまだ1000馬力しかなかった。残るエンジンは瑞星と栄となったが、瑞星は馬力不足を理由に栄エンジンを採用した。

瑞星エンジンは先が見えており、馬力向上が難しいとされ、栄エンジンは将来、馬力向上ができるというのも理由の一つのようだ。

また、速度向上策として、推力式単排気管として高速化を目指した。


こうして、様々な技術的要素を盛り込んでいき、12試艦上戦闘機の性能所元は以下のとおりとなった。


十二試艦上戦闘機(零式艦上戦闘機11型)
全幅   12m
全長   9、118m
全高   3,75m
最高速度 542,4km
上昇力  6000mまで7分10秒
発動機  栄12型(離昇出力950馬力)
航続距離 3240km
降下制限速度 685km
武装  99式1号機銃15ミリ機銃×4(機首と主翼に2丁ずつ)
爆装  30kg爆弾2発又は60kg爆弾2発


これが、終戦まで海軍の主力戦闘機となった零戦であり、開発物語であった。
才人がどう活躍するかは、まだ誰にも知らなかった。





昭和15年7月

才人たちは正式採用されたばかりの零戦と共に漢口飛行場に来ていた。

なぜ、漢口に居るかと言えば、新鋭機の実戦テストである事と陸攻の護衛であった。


当時、中国は日本軍が南京に樹立した汪兆銘政権と中国国民党が重慶に遷都した国民政府に二分されていた。

そこで、重慶に大規模な爆撃を行うと決定したが、当時の重慶は遠く戦闘機は護衛に付く事は出来ず、爆撃機が単独空襲を行わなければいけなかった。


重慶には、有力な対空砲と迎撃機により、多くの陸攻・爆撃機が散って行ったという。
漢口から出撃するが、いつも帰還した爆撃機たちはボロボロだったという。

そこで、新鋭機の性能を聞きつけた現場が配属を望む声が大きくなり、まだ少改修が必要とする零戦であるが
才人たち2個小隊16機は才人の古巣、第12航空隊に配属された。


「坂井、零戦で凱旋しようぜ!」
「ああ、零戦はすごい機体である事を見せてやるぞ!」
才人と坂井は盛り上がっていた。


零戦部隊は才人だけでなく、横山保大尉を初めとする、当時海軍航空隊で有力な若手で集まっていた。
この若手たちは後の太平洋戦争で活躍し、多くが散って行った。


「しかし・・・「ああ、先まで言うな。平賀、この後言う言葉は分かる。」
坂井はそう言うと、二人は横を向いた。そこにいたのは


「ふふ、見ているか!紫苑。この武雄がこの新鋭機で立派な戦果を上げるから、自慢話を楽しみに待っていろよ!」
零戦の前で顔を二ヤケながら何か誓いを立てる佐々木がいた。

ここにいるメンバーの中で恐らく最も実戦経験が少ないであろう、佐々木が零戦の先行部隊に入れたのは謎だ。


「見事にニヤケているな。まあ、妹がいるから自慢したい気持ちが分かるんだがな。」
「おい、平賀!佐々木に妹なんていたのか?初耳だぞ!」
とまあ、こんな感じで盛りあがっていた。


零戦は確かにまだ、改修を必要とする機体であった。
代表的な例は、エンジンの気筒異常、ピストリングの焼損、機銃不調、脚が引っ込まない、増槽が落ちないなどなどと不備が出ていた。

現場に来てもあい変わらずで、テストをしながら改修を行うという並行作業だった。


そんなこんなで、粗方不備が解消したところで、第1回目零戦の出撃となった。

陸攻を護衛しながら、敵機が来たら空中戦を行うつもりだったが、敵は戦闘機を察していたのか戦闘機はいなかった。

これは2回目も同じくであり、ようやく零戦との初陣となったのは3回目であった。



この日、才人は出撃していた。坂井も出撃していた。才人たち14機は重慶に向けて陸攻を護衛しながら進撃していた。

やがて、重慶が見えてくると同時に才人が前にも感じた違和感を感じた。(以後、殺気と称します。)


――っ!来るな戦闘機が!
才人はそう判断すると殺気を感じた方向に目を向ける。


するとそこには、およそ30機ほどだろうか敵機がいた。


――敵機発見!
才人は素早く先頭を見た。指揮官は敵機にまだ気づいていなかった。
才人はそれを確認するや否な、前に出てバンクを振る。


指揮官も敵機に気付いたであろう、バンクを振ると増槽を落とし、敵機に突っ込んでいく。列機もそれに付いていく。

敵機も突っ込んでくる。ここに空戦史に残る戦いが始まった。


才人はすれ違いざま1機に照準にいれて、機銃を撃った。その機は左主翼に集中して命中したであろう。
左主翼がちぎれ飛びながら墜落して行った。


――撃墜とは、容易く成せる事なのか?
才人は驚いた。敵機はイ-16で7,7ミリでも撃墜する事は出来るが、ある程度の弾を必要としたのだ。
それを短時間で撃墜できたのだ。これは15ミリ機銃の威力に付する事が大であった。


才人は操縦棹を左に回し、左旋回し、敵機を素早く探す。機体の反応は良い。

やがて、空戦の渦から少し離れた1機を発見し、素早く接近する。敵機に気付かれないように近づく
やがてあと150mというところで敵が気付き、何か行動しようとしているのが分かったが、すでに照準に入れていた。


才人はちらっと後ろを確認した。才人の初陣で危うく撃墜しかけた事を戦訓としていたのだ。
幸いにも後ろには敵機はいなかった。改めて前を向き、左旋回で逃げようとする敵機に照準を入れ撃つ。


15ミリは敵機の後部に直撃し、尾部・尾翼・胴体がちぎれ飛び、きりきり舞いながら墜落して行った。これで撃墜2機であった。

才人は目を細めた。

2時方向に1機の敵を撃墜させようとする零戦があった。

その零戦は、前方の敵機に夢中になっているであろう
後ろに忍び寄る敵機に気付いていない様子だった。


才人はその敵機を撃墜する事を決意すると
注意をそらすために敵機に向けて威嚇機銃を発射する。


敵機も才人を認めたであろう、猛然と機首を翻って突っ込んでくるのが見えた。
才人はそれを避けながら、旋回へともってくる。敵機も乗ってきた。

1回・・2回・・。まだ決まらない。まだ周る、空戦という名のワルツはまだ終わらない。


――ここで、勝負をかける!


旋回中に宙返りをする。敵機も宙返りに追随する。
才人は宙返りの頂点で操縦棹とフットバーの操作を行い、小さい半径で周っていく。
水平に持ってきた時、敵はふらつきながらも前に出ていた。


――・・・・・。
才人は無言で照準に入れ機銃を撃つ。機銃弾がパイロットに直撃したのか煙を吐かずに真っすぐに地面へと墜ちていく。


やがて、いつの間にか空戦が終わっていたであろう。周りには味方しかいなかった。

陸攻も爆撃を終えて帰還しようといている。零戦もそれに付いていく。


ふと、才人が気付いて横向けば、坂井がニコニコ顔で指を2本差していた。
これは、“おれは2機撃墜したぜ”という意味であろう。
才人も笑いながら指を3本差した。




この日が零戦の初陣であった。戦果は撃墜32機で敵機を全て落としながらも
味方は2機被弾したのみで被撃墜無しという、見事な戦果であった。


ここに、零戦伝説が始まったのである。






余談  この日は15機出撃予定であったが、彼は初期トラブルで出撃出来なかった。

「何でじゃー。」

誰とは言いません。決して頭文字がSとは言いません。



[32038] 奥地
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 21:27

昭和16年初夏

零戦の劇的な初陣を皮切りに重慶空襲の頻度は多くなったように思えた。
後半には99式艦爆・97式艦攻も空襲に参加している。

もちろん、迎撃機はいたが、零戦がほぼ撃墜させた。

日本側の報告だけでも120機も撃墜しており、わが方の被撃墜は2機それも対空砲によるものだけだった。

ここに「零戦の神話」が始まった。




「しかし、空戦の機会が減って、暇だな。」パチッ
「ああ、敵さんも奥地に引っ込んでしまったからな。」パチッ
才人と坂井は将棋をやっていた。


才人と坂井の会話で分かるように、中国航空隊は重慶を捨てて、さらに奥地の成都に後退して行った。
しかし、奥地に追い込まれつつも隙を見ては日本軍に攻撃を仕掛けてきた。


「だけどな、こっちから空襲してきても、敵がいなければ意味がないじゃないか」パチッ
「敵さんが事前通報で逃げるからな。」パチッ


そう、彼らは宣昌を中継基地に成都に戦闘機隊のみで叩いてはいるのだが、多くの場合は事前通報で
いち早く逃げてしまうため、地上はもちろん空中で補足する事は容易ではなかった。

「だからといって、陸さんを無視するわけにもいかん。」パチッ
「ああ、連日、分隊長と指揮官が研究をしているんだがな。」パチッ


しかし、敵の戦闘機隊を是が非でも補足しなければいけない。彼らはいろいろと研究し、その方法を工夫した。

その結果次の案がきまった。


「そろそろ、結論が出てもいいころじゃないか?」パチッ
「そうだな。・・・・王手。」パチッ



その方法とは、戦闘機だけによる夜間空襲――つまり黎明空襲という手であった。

だが、海軍は陸軍と違い、単座戦闘機による夜間作戦の訓練はあまり行われていなかった。

そこで、進撃の航法は大型の陸攻で誘導し進撃することとなった。


作戦決行日――才人たちは前日の内に敵地に最も近い飛行場に進撃し、夜間を待った。
やがて、日が落ち夜の闇となった。大空には満月が見えて、ほのかに明るかった。


――満月か。・・・ハルケギニアの二つの月は奇妙に思えたが
帰ってくるともう一度見たくなるのは何故なんだろうな?
才人は内心から来る可笑しさに笑ってしまった。


やがて、上空に爆音が響いた。誘導の陸攻がやってきたのである。その時に滑走路の両脇に待機した
整備士が次々にカンテラでドラム缶に火をつけて、道しるべを浮かび上がらせる。


そのドラム缶の火の間に零戦が3機ずつ離陸して行く。離陸した零戦は陸攻の間に入っていく。

やがて、零戦18機、誘導の陸攻7機による25機は闇夜の中を進んでいく。
陸攻の排気管から出る青い炎を目標に、零戦が編隊を組んで進む。

暗闇の中で、排気管の青い炎と翼端灯の赤色が輝いてみえて、幻想的な光景だった。

――なんとも綺麗な光景じゃないか。
才人は操りながら呟く。


1分が1時間でも2時間でも感じられるほどの長い盲目飛行であった。
周りには月の明かりが見えるが何も見えない状態であった。
その中で、陸攻隊の誘導を信じて進んでいく。


やがて、夜が明けた。東の空がぼんやりと明るくなる頃に才人たちは成都飛行場にたどり着く事が出来た。
上空に敵機の気配がない。地上を見れば、多数の戦闘機が並んでいた。


――奇襲に成功したのだ。
指揮官がバンクを振り、急降下する。列機も付いてくる。


ぐんぐんと地面に近づくにつれ、地面の様子が分かってくるようになった。
戦闘機に張り付いた整備士が必死にエンジンを掛けようとしたり
機銃弾をもった兵士が必死の形相で運んで行くのが見えた。

彼らも、黎明の奇襲に泡を食いながらも、反撃を行おうとしたのだろう。



だが、全ては手遅れだった。




指揮官が機銃を吠え、その後を列機が次々と目標を定め、狙い撃ちする。狙われた戦闘機は次々と炎上する。

才人も1機狙い、炎上させた。

一通り通り過ぎるとすかさず、反転しもう一度、地上に銃撃を行う。その頃には準備が整ったのか、周りから対空機銃による火線がとんできた。


だが、零戦隊はその機銃に気もとめず、次々に戦闘機を炎上させる。


何機かは離陸に成功したようで、零戦に空戦を挑んでくる。才人もそれに応える。


その機は複葉機で速度は遅いのだが、身軽さを利用して、なかなか照準を定めてくれない。

だが、才人は右に来ると予測し、右の方向に狙いをつけ、機銃を撃つ。
すると、敵機が自分から入ってきた格好となり、弾が次々と命中し墜ちていった。

坂井もうまい事1機落としたようだ。


やがて、粗方つぶしたところで、帰還時間となった。指揮官が零戦をまとめ、上空待機した陸攻に集まっていく。


被撃墜された機体はなかった。何機かは被弾したようだが、飛行に影響はないようだ。
やがて、一つの編隊となりながらも、宣昌に帰っていく。


途中で、空模様がおかしくなり、大雨となり、大雨の中宣昌に着陸して行く。

前の機体が、雨にとらわれて、1機がひっくり返り、1機が片脚を折った。

才人は最後であったが、ぬかるみに取られながらも、着陸する事が出来た。


この日の戦果は、撃墜6機、地上炎上14機、地上撃破8機であった。再び、中国の制空権は日本が握ったのである。

中国の戦線は順調であるかの様に見えた。だが、その日本に太平洋を挟んだ国からの戦争の予兆が聞こえてきた。




[32038] 開戦準備
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 21:18
昭和16年9月


海軍1等飛曹長(昭和16年6月1日より改正)に昇進した、才人は高雄空に戻って行った。
これは、坂井も同じくであった。


高雄には、新品の零戦21型があった。零戦21型は零戦11型にはなかった、艦上戦闘機には
必要な着艦フックなど装備を追加し、翼端の50cmほどを折り畳められる様になっていた。


それから1カ月の間は、目の回るような忙しい毎日だった。新しい飛行機の整備、兵員の補充
武装整備、などと忙しかった。こうして、1カ月が過ぎた後、高雄基地の近くに台南基地ができあがった。


高雄航空隊の部隊員全員が台南基地に移住し、司令斎藤正久大佐、副長兼飛行長小園安名中佐
零戦108機に98式陸上偵察機12機を加えて
新しい大戦闘機航空隊『台南航空隊』がここに編成されたのである。


その隊員の中に才人や坂井・宮崎の姿があった。そして、なぜか佐々木もいた。前話の佐々木は教官として内地に呼び戻されて
彼の悲願である初撃墜は達成できなかった。このたび、台南航空隊に呼ばれたのである。


才人たちは連日猛訓練が行われていた。訓練は黎明、午前、午後、夜と四回に分けて訓練が行われていた。
戦闘訓練はもちろん、航法、編隊訓練が行われ、海軍お家芸である、着艦訓練も行われていた。


着艦訓練は当初は空母に積んで攻撃する事も考慮されたが、零戦の航続力によりボツとなった。

この中で、最も重視されたのが、渡洋作戦準備訓練で、燃費を節約するために気化器のAMC(自動混合気調整装置)を
ほとんど爆発不調の寸前まできかせて、飛行するのだが、平均80リットルで飛行するのができた。


最初は少数の編隊で、やがて大多数の編隊で飛行訓練するようになった。できるだけ、早く離陸し、早く編隊を組むのだ。
早ければ早いほど、消費する燃費の量が少なくて済む。


編隊を組むのに最初は40分だったが、やがて35分、30分と早くなり
最後の総仕上げでは編隊を組むのに15分で済んだ。


隊員のほとんどが、なぜ、このような激しい訓練が行われるか分からなかったが、才人は分かっていた。

アメリカと戦争するのだ。

もうすぐ、12月8日の真珠湾奇襲攻撃の時間がきているのだ。


――俺の歴史では成功したようだが、この世界でも成功するのかな?
才人は、ミリタリー知識についてあまり詳しくはなかった。
だが、テレビなどのドキュメント番組などで、真珠湾攻撃がいかに大変だったかは知っていた。


――俺が、心配してもどうにもならない。俺は出来ることをやるだけだ。
才人は改めて、そう思った。


カンのいい隊員は今作戦が何であるかは、理解しているようだった。アメリカと戦争が行われると噂話が立った。
その噂話に気合が入ったであろうか、より一層訓練に熱を入れるようになった。




才人は大空を仰いで見ていた。大空には2機の零戦があった。戦闘訓練が行われているようだったが
1機の零戦は常に劣戦を強いられているようだった。やがて、訓練が終わったのか、2機は着陸して行く。


才人はその内の1機のパイロットに近づいていく。

「おい、坂井。新任の中尉はどうだったか?」
「おー、平賀か。いや見ての通りまだまだってことだな」
そう、彼らは新任の中尉に空中戦の訓練をやっていた。

彼だけでなく他にも4名いるのである。彼らは、近い将来リーダーとなって、小隊長、中隊長となるのだが
彼らは戦闘機教程を終えたばかりで、腕前はお粗末な限りだった。


「ふむ、この様子だと、他の物も望めんか」
「いや、あいつだけは凄いぞ。他の中尉達は変わらんが、彼だけが並々さを持っているぞ。
粗削りだが、磨けば、将来凄いエースとなるかもしれん」
「ほう、坂井がそこまで評価するのか。あの中尉は誰だ?」
「ああ、笹井、笹井醇一中尉だ」
これで、才人と坂井の笹井の評価は終わった。


笹井は後に海軍兵学校出身でありながら、零戦の撃墜王の一人となる。





11月末のある日、各小隊対抗の地上的掃射競技会が行われた。

海岸に零戦大の布板が張られ、小隊毎に日頃の猛訓練の手並みを競おうというのである。
優勝した小隊には司令賞がかけられた。

才人の小隊は、坂井と同じく下士官だけの小隊であった。

「他の士官組みなんぞに負けるな!」
「「はい!」」
2番機の中田2飛曹長、3番機の藤村3飛曹長に発破をかける。


競技が始まり、前の小隊が次々と舞い上がり、次々と地上的に向かって降下しながら機銃弾を浴びせかける。


やがて、才人小隊の番が来た。才人たちは離陸しながら高度を500mに取る。そして
機首をひるがえして左へ切り返し、たちまち一列の縦陣となる。


照準機にはたちまち、大きく膨れる大地と標的があった。才人はその標的に向けて機銃を撃ち、2番機、3番機も続く。

才人は手ごたえを感じた。2番機の中田が近づいてきて、「どうですか」と手信号をしてきた。
才人は「大丈夫だ」と返礼した。


着陸し、成績発表があった。残念ながら、優勝は坂井小隊であったが、第二位は才人小隊であった。
これは、快挙であった。司令部より賞品として、坂井小隊にビール2ダース、副賞として、才人の小隊に半ダースプレゼントした。


才人たちは、ビールを分け合いながら戦友たちと騒いだ。






余談 この競技会で一番ビリであったのは、やはり佐々木が所属している小隊であった。

彼らの命中率が酷いということで、罰として、飛行場周囲走り込みをやらされた。




[32038] 開戦
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 10:18
昭和16年12月

12月に入った。台南基地は文字通り嵐の前の静けさに包まれていた。
戦闘機隊は全弾装備して燃料を満載し、即時出動の態勢をとって待機していた。


基地はまったく静まり返り、たまに飛び立っていく試飛行のエンジン音が
印象に残るほどひっそりしていた。


搭乗員たちの様子は様々だった。顔を固く緊張させるもの、にやりと、わが意を得たりと笑うもの
顔色を変えない無表情のもの、戦友たちと話し合うものと様々だった。

ただ、一つ、共通している事は、いつでも戦争してもいいように荷物を整理し
遺書を書いたことであり、対米戦に覚悟していたことだ。



7日の夜、いよいよ明朝出撃という前夜、才人たち出撃戦闘機隊搭乗員45名は司令室に集合を命ぜられた。
そして、全員が北の方の日本の空に向かって別れの敬礼をした。

司令斎藤大佐はいろいろと注意を伝えられた後に、
「いよいよ、明早朝、わが戦闘機隊は、マニラ周辺の敵空軍撃滅に向かって出撃することとなった。
いままでの猛訓練で鍛え上げられた腕前で発揮してもらいたい。今夜ここに集まった45人の全員が
明晩、もう一度揃う事はまずないだろう。この内の何人かは永久に帰ってこないことになるかもしれない。
みんな、よくよくお互いに顔を見合わせておくようにな・・・・・・。」
司令の言葉に、さすがの強者ぞろいの才人たちも
一瞬、しーんとなりを静めて、お互いの顔を見合わせた。


才人も部下の中田2飛曹・藤村3飛曹を見た後、戦友たちも見ていく。
宮崎・坂井を見る。彼らも才人を見る。

佐々木を視界に入れかけた処で、
――いや、あいつはたぶん死なんから見なくて大丈夫だろう。
才人は薄情にも佐々木は見なかった。

これは才人だけでなく、周りの隊員も同じ気持であったらしいと後に判明した。


これは素晴らしい信頼ぶりだ。
「何でじゃー!誰か俺の心配してくれ―!」

いや、これは皆が信頼しているからなんですよ。



その晩は、お赤飯が配られ、少量の酒で明日への出陣を祝った後に
才人たちは宿舎に戻って行った。


才人はベッドの上で思った。
――いよいよ、対米戦が始まる。この世界でも、避けれない事であったか。
この内の何人は戦死し、何人が生きて終戦を迎える事が出来るだろうか。


才人は歴史の教科書から思い出した。真珠湾空襲で燃える戦艦、玉砕により戦死した兵
サイパンで崖に飛び降りた女性、特攻により突っ込む戦闘機、本土空襲により焦土した街
沖縄戦で白旗を掲げた子供、原爆により焼け野原と化した広島と様々な写真の様子が思い出される。

――こんな、悲劇行為を起こさせない。
才人はそう決意した。


才人の決意果たす事ができるかどうかは神のみぞである。




才人はパチッと眼が覚めた。周りはあわただしく準備をしているところだった。
才人も真新しい下着に着替え、洗顔して、戦友たちと飛行場へと向かった。


朝は、静まり返っていた。風は無風に近く、深い星空が満天を覆っている。
足もとも分からぬほどの暗さだが、通い慣れた飛行場の道を急ぐ。
緊張しているせいか、いつもよりも遠く感じる。


機体の周りには整備士が忙しく駆け回っていた。整備士は前夜からの徹夜らしく、闇の中で
懐中電灯の灯がめまぐるしく交錯し、あちこちと呼びかわしている緊張した声が聞こえてくる。


指揮所に集まった搭乗員の顔は、誰もが緊張しているが
なんとなく晴ればれとしていて、輝いていて見えた。


簡単な戦闘食おにぎりを食べる才人。



やがて、出撃時間が近づいた。辺りはまだ、夜であったが、到着する頃は明け方である。
指揮所から発信命令が下された。

才人たちは顔を見合わせると、言葉無く愛機に向かって言った。
才人は愛機にたどり着くと、零戦の周りを点検していく。
ガンダルーヴの能力と合わせながら、点検していく。


やがて、異常がない事を確認すると、零戦に乗る。零戦に乗りながら、操縦棹、フットバーの操作をする。
これも異常がない事を確認する。すでに、エンジンは掛っている。静かに発進の時を待つ。


発進の時が来た。重たい新鋭機の1式陸攻から離陸して行く。54機という数の陸攻は圧巻であった。
無風状態で滑走路一杯に使わねば離陸できなかったが、幸いにも1機も事故を起こすことなく離陸する事が出来た。


次は戦闘機隊の番だ。1機ずつ離陸し、上空に上がると3機ずつ編隊を組んでいく。
才人の番が来た、上空は先に離陸した陸攻が編隊を組んでフィリピンに向かい、すでに離陸した零戦が
編隊を組みながら旋回し待っていた。

才人はちらっと横を向いた。指揮所周辺に司令部と今回出撃出来なかった搭乗員が帽ふれを行っていた。
才人は彼らに敬礼を行い、そのまま発進地点に着き、離陸して行く。

才人は制空隊の第4小隊長であった。才人は後ろを向いた。部下の中田2飛曹や藤村3飛曹も付いていっているようだ。


15分かけて、全機が離陸を終えて、一路、陸攻を追いかけて護衛に付く。
才人制空隊は爆撃隊に先行して、爆撃10分前に目標クラーク・フィールド基地上空に達し
敵の邀撃戦闘機があれば、これを一掃するのが任務であった。


黎明時で辺りは闇に包まれていたが、やがて、陽が昇って行った。
朝日の光を浴びて、輝く戦爆編体。まさに銀翼連ねてであった。


やがて、ルソン島上空に差し掛かった。才人は酸素マスクを付けて、敵戦闘機に備えて
各中隊、各小隊と順を追って整然と距離を開き、高度も6000メートルにとる。


才人は目を開いた。目前にクラーク・フィールドが見えてきたが、その上空に少なからずの数の戦闘機が舞っていた。

数は目算で30機ほどだが、1機でも取り残すと陸攻に妨害をするかもしれない。全機落とさねばならないのだ。

幸いにもこちらに気付いた様子はまだ無い。先頭の指揮官がバンクを振ると同時に急降下して行く。列機も先頭に従う。


才人は、急降下しつつ1機を目標にする。だんだんと近づいてくると、敵の詳細が分かってきた。

機首を大きくパックリ開いたような液冷機P-40であった。この機が、零戦とアメリカ機と初空戦相手であった。

敵は、零戦に気付いたであろう、機首をひるがえすもの、機首をこちらに向けるもの、急降下しようと腹を見せるものと様々であった。

だが、初撃のイニシアブは完全に才人たち零戦が握っていた。

零戦たちの機銃が吠える。主翼が折れる機、機首に命中しエンジンが弾け飛ぶ機
パイロットに直撃した機と様々な機体が撃墜されていった。

才人も命中する事ができ、敵を炎上させた。
中田2飛曹もうまいこと1機落とす事が出来たようだ。


この初撃で、9機が落とし、6機を損傷させる事が出来た。


才人たちは急降下から、機首を起こし、左旋回しながら、残存機に向かっていく。
P-40も一部は遁走させながらもこちらに向かってくる。

才人は敵弾をかわすために大きく左に滑りさせる。敵がすれ違う。ちらっと後ろを見る。
列機は無事だ。グッと操縦桿を後ろに引いて、旋回戦にもってくる。敵も旋回に乗る。


1回、2回周った。これが、数年前だったら、才人は音を上げたであろう。
だが、あの初陣から、もう何回も空戦を経験し、これぐらいの旋回のGにも物ともしなかった。


才人は旋回中にフットバーを蹴って、操縦桿を引く、旋回の幅がさらに縮む。
P-40は諦めたかのように直進し、離脱しようとする。

才人はすかさず、その隙を逃さず、直進に持ってきて、2秒間射撃し、上昇離脱する。
下を見れば、先ほどのP-40が左主翼を折られ、炎上しながら墜ち行くところだった。


才人は部下の様子を見る。ちょうど、藤村機が敵を追い詰めているところだった。才人は周りを見る。幸いにも敵の姿はない。

視線を藤村3飛曹に戻すと、射点に着き射撃を開始したばかりだ。
初陣によくありがちなオーバーシュートと射撃時間が長い事もあわせて
ようやく敵が炎に包まれ墜ちていった。


藤村3飛曹はコクピット内で笑顔で才人を見ていた。

いつの間にか敵機を全て落としたであろう。敵機の姿はなかった。才人は飛行場の様子を見た。
飛行場には大きな4発機であるB-17や小型機がきしめいていた。


何があったかわからないが、ほとんどの機が地上にあった。

何機かが離陸しようとするのが見えたので機銃掃射を行おうとしたが、ちょうど陸攻隊が到着した。

陸攻隊はクラーク・フィールド飛行場上空に来ると1機60kg爆弾12発ずつ落としていく。

それが、第1派だけでも27機合計324発の爆弾がばら撒かれるのだ。

飛行場が次々と爆発し、並べられた機体が炎上したり、爆発していく。

第2派も爆弾を投下し終えた後は、飛行場全体が燃えていた。数年前に漢口での様子がここに再現された。


才人は攻撃終了したと判断し、列機に帰還の合図を行おうとした時、殺気を感じた。


――っ!下から?避けろ!
才人は声を出して言いたかったが、この当時の無線電話は性能が低く、雑音だらけだった。


このときに、無線電話が使えたらと願ったほどであった。


才人はフットバーを勢いよく蹴り、操縦桿も勢いよく倒し、後ろを見る。
中田機は戸惑いながらも着いてきているが、初陣の藤村機はついてこれない。

――逃げろ―!藤村ー!
だが、彼は逃げる事はできなかった。下からの射弾をまともに受けた。風防内で藤村3飛曹がのけぞり、赤く染まるのが見えた。
やがて、炎が上がり、地面に向かって錐もみになりやがて、途中で分解して行った。


藤村3飛曹を撃墜させた敵はP-40で、ここら辺の戦域では片付いたため
恐らく他の飛行場から出撃した機だろう。

才人が行動するよりも早く、中田機が前に出て、追いかけていく。
我を忘れているような感じで、慌てて才人はサポートに回らなければいけなかった。

藤村3飛曹を撃墜したP-40は中田機を認め、格闘戦となった。
やがて、気迫に勝る中田2飛曹が競り勝ち、見事にP-40を撃墜させることに成功し、復讐を遂げたのだ。


才人が中田機と並び、コクピットの様子を見ると中田2飛曹は男泣きをしていた。
中田2飛曹と藤村3飛曹は同郷で弟の様に可愛がっていたのだ。
それが、今回の初陣で無惨にも死んでしまったのだ。


才人は慰めたかったが、無線が通じないのだ。バンクを振って、帰還するぞと合図をするほかなかった。




この日開戦1日目のクラーク・フィールドの空襲は成功を収めたと言ってもいいだろう。
撃墜24機確実・6機不確実 撃破8機 地上炎上84機 


ほぼ、制空権を握った格好となったが、この戦果の陰には6機の尊い未帰還機があった。この中に藤村3飛曹も含まれていた。
また、未帰還にならなくても、被弾したり、燃料が足りなくて途中で不時着した機が多かった。



エンジンが回る。下面には台南飛行場が見えていた。才人は注意を払いながら着陸する。列機の中田2飛曹も着陸する事が出来た。
あれから、藤村3飛曹を撃墜した機に復讐戦を行ったせいで、燃料不足で不時着危機に遭いながらも
かろうじて台南基地に着陸する事が出来た。


才人は指揮所で報告を行い。搭乗員室に戻る。搭乗員室は坂井が先に帰還していた。

「おー!平賀、帰ってきたか。」
「ああ、お前も無事だったか。」
「まあな、ところで何があったんだ?暗い顔しているぞ。」
「ああ。」


坂井に質問されて、先ほどの部下が撃墜された様子を説明する。

「それは、気の毒だな。俺達は列機とも無事だったが素直に喜べんな。」
「ああ、これからも死んでいく戦友は増えていくだろうな。
ところで、佐々木はどうしたんだ?」


佐々木の姿が見かけない事に才人は質問した。すると佐々木の行方を知っているかこう言った。


「ああ、佐々木は敵を追いかけ続けて、帰還する途中で燃料不足になって、たまたま近くを漁していた漁船に拾われた。」
「なんとまあ、あいつらしいというか。で、戦果はあるのか?」
「ああ、戦果はな・・・・。射点について射撃開始の所で機銃が故障して撃墜無しだ。」


才人はそれを聞いて、ああいつも通りかと思った。


こうして、開戦1日目が過ぎた。




昭和16年12月9日

昨日、アメリカに宣戦布告し、日本軍は電源的な軍事作戦が行われた。
南方の資源確保のためのマレー半島に上陸するマレー作戦・制海権確保のための真珠湾攻撃。


どうやら、この世界でも、真珠湾攻撃に成功したようで、ラジオなどで大々的に報道された。(才人もラジオで知った。)
戦果も史実通りであった。(戦艦撃沈4隻・大破4隻 航空機250機撃破 日本側報告)

だが、残念ながら、空母をとり逃し、乾ドック・燃料タンクなどの港湾施設などの施設を破壊しなかった。



そして、もう一つの作戦であるアメリカの極東拠点であるフィリピンに才人は参加していた。

フィリピンは地図を見たら分かるように、日本本土と南方のほぼ中間にある。かの地を速やかに占領しなければ
資源を積んだ輸送船がフィリピンからの航空機及び潜水艦で撃沈されて、日本本土に資源が届かないだろう。

日本が対米戦を決意した理由の一つとして、資源確保の一つにあった。

この当時の石油の残存量がわずか2年分しかなかった。南方にある膨大な資源を妨害なく日本本土に届けなければならない。

よって、本間雅晴中将を指揮官とするフィリピンに上陸作戦が立てられた。この作戦は「M作戦」と名付けられた。





飛行場はエンジンの爆音に満ちていた。昨日は制空権確保ができたとはいえ、有力な戦闘機集団とぶつかり合い
三分の一強が被弾及び喪失となった。それでも、整備士の努力により24機を揃えることができた。


高雄航空隊はフィリピン攻撃に参加するが、台南航空隊は上陸船団の上空直掩任務であった。

この任務には坂井や才人も参加した。佐々木は漁船に拾われたもののすぐには帰る事が出来ず、才人たちが出撃してから帰還した。



台南飛行場から出撃して、3時間後、才人たちは上陸船団の上空哨戒を行っていた。

敵機の姿はなく、ただひたすら、穏やかな海面が広がるのみであった。


船団上空を旋回させながら、辺りを見回す。だが、敵機の姿はない。
やはり、昨日の空襲で、消耗し尽くしてしまったのだろうか?

かれこれ、30分が経った頃にちりちりと首筋が焼けるような感覚、殺気を感じて、辺りを見回す。
蒼空に敵機の姿は見えない。ふと、上空を仰ぎみれば、自機よりも高い上空に発動機が4発付いている機体が見えた。


――B-17!
才人は戦慄を覚えた。アメリカ軍が「空の要塞」と称し、絶対不落と言われたB-17が3機で船団攻撃をしようとしているのである。
たかが、3機とはいえ、攻撃如何では船団に大打撃を喰らう可能性があった。


――攻撃を阻止しなければ。
才人はそう判断すると、列機である中田2飛曹と戦死した藤村3飛曹の代わりに編入した北条3飛曹に合図をして、上昇する。
列機も付いてくる。他にも2小隊が付いてくるが、他の小隊は動かないままだった。他の敵に備えて動けないのだ。


ぐんぐん、上昇を掛けようとする才人。だが、日本機の弱点の一つとして上げられる、高高度性の低さが災いした。
6000mまでは7分半で上昇する事ができるが、そこからより上は上昇速度が落ちるのだ。

――ぐっ頑張れ、零戦!
やがて、敵機と同高度に取る事が出来た。空気が希薄で、舵は重たかった。
だが、爆撃機が攻撃する前に追いつくことができた。


才人が射撃ポジションに着く前に他の小隊が爆撃機に近づきながら撃墜させようとする。
だが、弾が命中したようには感じ取れなかった。

これは才人も、経験した事があるが、爆撃機が大きすぎるので、目測距離を誤り、有効射距離よりもはるか遠くに撃ってしまったのである。


――これは、俺がやらねば!
才人はそう決意すると、前に進み出た。列機は付いてこれず後落していた。
なるべく直進しないように小きざなみに進みながら距離を詰める。

直進すると進路予測ができるので、空戦ではあまり使用できないのだ。


ぐんぐんと距離を詰める。才人の機体を認めたのか、周りに曳光弾が飛ぶのが見えた。
それでも、才人は当たるとは思わず、グイッと距離を詰める。


照準機には大きくなる爆撃機があったが、漢口の経験や他の機の攻撃結果からまだ遠いと判断し、ますます詰め寄る。


やがて、照準機に大きくはみ出た爆撃機が映った。
才人はそのまま撃っては効果が小さいと思い、わずかに右に横滑りさせると
右側の主翼に向けて撃っていく。


――ドドドドッ
コクピット内はエンジン音と機銃音で満たされていた。
才人はその轟音に耐えながら前を見ている


機銃に何発で一発の割合で混ぜられた、曳光弾が主翼に吸い込まれ、主翼がミシン縫いの様にささくれ
曳光弾がエンジンに直撃したかと思うと、エンジンが爆ぜた。

エンジンは基部からゴロリと擬音が聞こえてくるほど、主翼から落ちて行った。
だが、それでも爆撃機は落ちない。まだ、エンジンは3発残っているから。


ますます、激しくなる、敵の旋回機銃。それでも、才人はかまわず、右に横滑りし
右主翼に残された、エンジンに向けて機銃を撃つ。

機銃の曳光弾はエンジンの前を過ぎたが、修正をしてエンジンに集中して、残された一基を落とす。


さしものの空の要塞といえども片側のエンジンが一挙に失ったことで、バランスが崩れ、クルクルと錐もみ降下する。

残された、爆撃機は難攻不落神話が崩れ去ったことで、爆弾を投棄し、遁走させようとする。

爆弾は船団よりも遠くに落ちて行ったので、被害はないだろう。

残った零戦が追撃しようとするも、落とせなかったようだ。才人は燃料を消費したようで、追いついた列機と共に先に帰還した。





台南基地が見えてくると、周りの様子がおかしいと感じた。あちこちで、爆撃の後の様なものがあったり
炎上しているようなものがあった。それでも、基地には損害がないようなので、着陸する。


指揮所に報告を済ませて、搭乗員室に移動しようとすると、1機の零戦と男がいた。

男は佐々木で、零戦はなんと、垂直尾翼がなかった。


「おー、平賀か。戻るのが早かったな。」
「ああ、ところで、あれはどうしたんだ?」
「ああ、あれか。」
残された搭乗員の話によればこうだ。




才人たちが、出撃した後で、迎えの陸攻で帰還した佐々木は修理が完了した、零戦で、飛行試験を行っていた。

そんな時に才人とは別のB―17が台南に空襲してきて、佐々木が迎撃にかけてきた。


そこまでは良かった。問題はそこからだった。反航態勢撃ちまくりながら、避けそこなったのか
故意なのか、佐々木は爆撃機が迫ってきても避けようともせず
垂直尾翼で、敵の主翼に体当たりをしてしまったのだ。


佐々木は帰還する事が出来たが、敵の爆撃機は主翼が切断されたことにより、バランスを崩し、きりきり舞いながら墜落したという。




「それで、初撃墜ができたので、あんなにニヤケているのさ。」
才人はその話を聞いて、改めて、佐々木を見た。
佐々木はものすごい笑顔でニヤケていた。


才人はその様子を見て、空を仰ぎ見て、涙を流さずにいられなかった。
――よかったな、佐々木・・・。初陣から3年・・・・。長い初撃墜だったな。



佐々木の初撃墜は成し遂げられた。だが、公式にB-17・空の要塞の初撃墜を認めたのは佐々木ではなく、才人であった。
それは、目撃者が多くいたためであり、坂井が戦後著した大空のサムライから一般民衆は才人が初撃墜したと思っているのだ。

むしろ、専門家から佐々木が撃墜した事に疑問を感じている有様であった。

時系列からは、佐々木が先に撃墜したが、佐々木の戦功は誰にも認めてもらえなかった。




[32038] 進撃
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 10:42
年が明けて、昭和17年

私、北条はバリックパパン飛行場に来ていた。フィリピン作戦も一段落し
次の作戦目標であるジャワ攻略に参加することとなった。

私は、次こそ戦果を上げたいと考えていた。開戦日は搭乗員から漏れて参加できず
開戦初日に戦死した小隊の穴埋めとして、2日目には参加する事が出来た。

しかし、この日は爆撃機がやってきたものの、私の腕が未熟であるがゆえに、爆撃機に追いつくこともできず
結局、小隊長である平賀1飛曹が爆撃機を1機撃墜できた事に留まった。


あ、紹介が遅れました。私の小隊長は平賀才人1飛曹長で
坂井1飛曹と同じく下士官だけの小隊で組んでいます。

平賀1飛曹は、小隊に組むまで同じ隊にいながら、あまり会話をした事がありませんでした。

平賀1飛曹は、どっちかというと寡黙な人で、いざ、戦闘になったら闘魂魂があふれている人だと思います。
訓練や実戦でも、彼は神腕のごとく発揮し、敵をひねりこんでいます。

けど、私たち下士官にとって、近づきにくい人物でした。坂井1飛曹などの親友たち以外と会話したり
笑ったりするところは見た事がありません。なぜか分からないけど、一歩引いたところに居る感じで、孤狼な雰囲気がします。


そして、2番機は、中田昭二2飛曹です。中田2飛曹は、私たち下士官にとっては頼れる兄貴です。

中田2飛曹は、私をかわいがってくれます。そして、宴会では、いの一番に大騒ぎをして場を盛り上げてくれます。
実戦では、平賀1飛曹には及ばないものの、鋭い勘で敵の隙を突いて敵を落とします。

これが、私の小隊です。



初陣は、落とす事が出来なかったものの、まだ先があると思い、次こそはと誓ったがフィリピンでは、粗方敵を潰してしまったのか
敵機の姿が無く、私たちの任務は、輸船団の上空直掩か地上銃撃などの地味な作戦しかありませんでした。

開戦から幾分経ったある日、上空直掩任務を終えて、基地に帰還した私は、ラジオの前に人だかりができている事に気付いた。


「あのぅ、何かあったのですか?」
気になった、私は、人だかりに近づいて、戦友に声を掛けた。

「おう、北条か。朗報だ!マレー沖で、わが海軍航空隊がイギリスの誇る戦艦2隻を撃沈させたぞ!」
そう、私も後になって詳細を知ったのだが、マレー沖で、輸送船団を撃滅させようとした、
最新鋭艦プリンス・オブ・ウェールズを旗艦とする東洋艦隊が出撃し、輸送船団の捕捉に失敗し、
帰投する途中で、潜水艦が東洋艦隊を発見し、雷撃を加えたものの、失敗した。


しかし、東洋艦隊を発見したという情報は回った。

この当時、マレー沖周辺の海域では、金剛級戦艦2隻が中心としていたものの、
彼女たちは、プリンス・オブ・ウェールズと同じく、36cm砲を搭載していましたが、1915年竣工の老嬢です。

逆にキングジョージ5世の2番艦として、就役したプリンス・オブ・ウェールズは1941年1月に就役したばかりの最新鋭戦艦です。

同じ36cm砲ながらも、4連装砲を積むという奇抜な方法で、4連装2基・連装1基で10門で打撃力を稼ぎ、
防御力も排水量の40パーセント近くを割いた。

イギリス首長チャーチルいわく、不沈艦であると豪語した。

アジアの情景がきな臭くなった事により、東洋艦隊にプリンス・オブ・ウェールズが配属されることとなった。

輸送船団攻撃に出撃したと前に書いたが、空振りに終わり、潜水艦に発見されたことにより
プリンス・オブ・ウェールズの命は尽きたと言ってもよい。

この当時の東洋艦隊はプリンス・オブ・ウェールズとレパルスの2隻の戦艦を擁し他に駆逐艦4隻が属していた。


潜水艦に発見されてから翌日、サイゴン基地から、偵察機が発進し、その偵察機の一つである
帆足正音予備少尉を機長とする96式陸攻が東洋艦隊を発見し、位置を打電した。


ここに戦史に残る戦いが始まった。


雷撃と爆撃で編成された、96式陸攻と1式陸攻の混成部隊は12時から攻撃を始め

プリンス・オブ・ウェールズに魚雷7本・爆弾2発命中させ、レパルスには魚雷13本・爆弾1発命中させた。前者は14時50分に後者は14時3分に沈没した。

沈没後、救援のバッファロー戦闘機が到着したが、全ては後の祭りであった。


この海戦は「作戦行動中の戦艦は航空攻撃で沈める事はできない」という常識を覆した出来事であった。

これは、真珠湾攻撃の戦果と合わせて、今までの大艦巨砲主義を古いものとなり、航空主義という新しい戦略が世界で常識となるのだ。


だが、世界最強である大和が竣工したのは、皮肉にもこの海戦から一週間後の12月16日であった。
世界最強の戦艦として生み出された彼女は、時代が彼女の運命を変えたのだ。




私は、ジャワ作戦の一角として、先制空襲を仕掛けて、ジャワ空軍を撃滅し制空権を握るという作戦に参加することとなりました。

開戦以来あちこちに転戦するのでバリックパパンにあった零戦は24機しかありませんでした。それでも、私は負けるという気はしませんでした。


司令部より訓示が終わり、私たちもいよいよ出撃の時間となりました。平賀1飛曹は何も気負った感じが無く、
黙々と零戦に座乗しました。逆に中田2飛曹は、注意の声を掛けてくれました。


「今日の出撃は、いつもとは違うぞ。気い付けて頑張れよ。」
ありがとうございます。中田2飛曹のためにも頑張って敵を撃墜させます。


私たちは離陸し、一路、スラバヤに向かいました。24機の編隊は1機の故障機もなくジャワ海の上を飛行していました。

やがて、ジャワ島の上に差し掛かり、私は今か今かと周りを見回していました。
チラッと平賀1飛曹機を見れば、彼は黙々と飛行しているようでした。


――私は急過ぎたのでしょうか?
私は恥ずかしさから、身が縮まる思いでした。


いよいよスラバヤの上空に差し掛かりました。

と、見るや先頭の指揮官機がいきなりバンクを振り、増槽を落として行きました。


私は、その事に一瞬、事態が飲み込めませんでした。やがて、事態が分かりました。敵機を発見したのです。


私は、まだ敵機の姿が見えません。どうしたら良いのか一人パニックっていました。

それでも、他の列機は敵機の姿を確認する事が出来たのか次々と増槽を落としていきます。私も慌てて、増槽を落としました。
ゴッと振動があり、増槽が落ちた事が分かりました。慌てて、列機に付いていくと、前方に黒い芥子粒が見えました。
私は一瞬、頭が真っ白になったように感じました。敵機の数は私たちよりも多く感じたのです。


――こ・・・こんなに・・・。勝てるのですか?
私の気持ちの裏腹に、機体は前進を続け、列機は臆した様子もなく、敵機へと突っ込んでいく。

――えい、くそ!おじけづいてもどうにもならん、男ならしっかりせんかい!
私は、覚悟を決めると敵機の中へと突っ込んでいった。

やがて、どちらかが被弾したのかぽぅぽっと黒煙が上がってきた。



私は、必死に逃げ回っていた。平賀1飛曹や中田2飛曹は空戦開始早々はぐれてしまった。
私は、たまたま目の前に躍り出た、敵機1機に射撃する事が出来たが、撃墜できたかどうかは分からなかった。

むしろ、今は後ろに敵機が2機付かれていた。

敵は代わる代わる射撃してくる。それでも、撃墜されていないのは私の必死の回避が功し、致命的な一撃を避けているのだった。


それでも、いつまでも避け続ける事が出来ると思わず、だんだんと射撃が近づくのが感じ取れた。


――ああ、私もここで撃墜されるのか。お母さんごめんなさい。
私はもう、すっかり諦めていました。運命の射撃を待っていたのです。



運命の射撃が来ました。



撃墜されたのは、私ではなく、後ろの1機でした。

その機は右主翼に機銃が集中されたのか右主翼の半ばから折れ曲がっていました。

もう1機も逃げようと機首をひるがえしていましたが、コクピット上部からの射撃を受けて
風防が潰れ、敵機が墜落して行った。


私が、茫然としていると、1機の零戦が近づいてきました。どうやらその機が後ろにいた敵を落としてくれた模様です。
やがて、顔が見えるまで近づいた時、私は大変驚きました。


なぜなら、彼は平賀1飛曹だったのです。
私は知らず知らずの内に胸から込み上げそうになりました。

――平賀1飛曹は私を見捨ててくれなかった。
私がそう思っていると、手信号がありました。私は慌てて、大丈夫ですと返信した。
私はその時になってようやく、空戦が終わったことに気付きました。
周りに敵機の姿が見えず、ただ、味方の零戦だけが舞っていました。


平賀1飛曹が帰るぞとバンクを振り、私もそれに従いました。今日の空戦は一生の記憶に残るものとなるでしょう。



空戦結果 撃墜確実26機不確実8機 被撃墜2機

私の射撃した戦闘機の撃墜を確認した戦友があった事もあり、私は撃墜1を記録しました。

それでも、すごいのは平賀1飛曹です。
私を救うために2機を落としたほかに2機も落としたため撃墜4を記録しました。

私は、初めて、平賀1飛曹を小隊長にして良かったと感じました。
平賀1飛曹に負けないように立派な撃墜王になりたいと思いました。





昭和17年3月

あれから数日が経った。才人は数回空戦を経験した。最近ではアメリカ軍がオランダ軍に供給した
アメリカ海軍初の全金属単葉戦闘機バッファローと空戦したが
才人はP-40の方が手ごたえあったと感じた。


台南航空隊はジャワ本島との完全攻略が目前に達したため、次の作戦準備のために
フィリピン・ボルネオ・ジャワの広大な地域に散らばっていた零戦隊を
バリ島に集結させた。


隊員たちは久しぶりの顔もあったが、姿が見えなくなった隊員もあった。
それが、一層戦争である事を実感させられる。

「おー!平賀久しぶりだな!」
大声を出して才人を呼んだのは佐々木であった。
才人とは別の戦区で戦っていたのだ。


「くっくっく、今までの佐々木であると思うなよ。」
「はいはい、今までの佐々木とはどう違うんだ?」
才人はこれから続くセリフは分かっていたが、あえて聞く。


「そうだ、俺はエースだ!5機撃墜したぞ。はーはっはっ。」
そう宣言したとたん笑いだした。

一方、才人は居た堪れない気分であった。
才人は、人殺しは慣れていないが、戦友を落とさせないために敵を落とすのだ。
それでも大小合わせて、28機撃墜させているのだ。

これは日中戦争からのスコアである。けれど才人は撃墜スコアを誇りに思わない。

才人は何人かの戦友を救う事は出来なかった。その中には才人の部下も含まれている。
もちろん戦争であるし、仕方ない面もある。全てを救えるのは傲慢である。それでも才人は後悔し続けるのだ。


「どうしたんだ?平賀?」
「あ・・・ああ、いや何でもないよ。紫苑にいい土産話が出来たな。」
「おうよ、たーっぷり話してやるからな。」
佐々木は少年の様に無邪気な声で答え、才人は苦笑した。


それから数日、才人たちは戦塵を払うためにバリ島で休養し寛いでいた。

その間に、なぜかB―17がバリ島に着陸してきた。

唖然とする才人たちの前にエンジンを切った爆撃機からタラップが下された。
才人たちが鹵獲機かなと注目したが降りてきた人は白人であった。

これには才人たちも予想できず、ポカーンとてしまった。それは相手も同じ事でポカーンとしてしまった。

数秒が経った、我に返った才人たちが各々武器を取り出し相手に照準を向けた。
相手側は事情が飲み込めたのか両手を上げて投降した。


何でも、日本軍のバリ島進出があまりにも速かったのでそれを知らずに
バリ島飛行場はまだ自軍が確保されているものだと思って
着陸してしまったという。


才人たちは相手の爆撃機を生け捕りできたことで笑い話が出来た事に喜んだ。



バリ島の休養にそろそろ飽きてきて、若い元気な搭乗員たちが退屈を感じ始めた頃に
内地帰還の噂が流れだした。そのせいか隊員たちがどことなく浮かれた顔をしていた。

佐々木も浮かれた連中の一人で、知らせを今か今かと待ち構えていた。


その様子を才人たちは苦笑する他なかった。

「佐々木・・・。妹に自慢話したいからと言ってもあれほど浮かれてはな。」
「ああ・・・。さすがにあれは親友の俺でも引くわ。」
「ところで、宮崎。佐々木のスコアは全て本当か?」
と才人は佐々木と共に戦区を回った宮崎に聞く。


「ああ、本当だ。台湾で1機、スマトラで2機、ジャワで2機撃墜した。俺も撃墜するとこ見た事あるぞ。」
「ホントかよ。あの外れの佐々木だぞ。」
「ホントだ・・・。事実は覆らない・・・。」
そこで会話が途切れて佐々木を見た。佐々木はまだ浮かれていた。


その様子を見た才人たちは一斉にため息を吐き
―――ベテランパイロットならもう少し貫録を見せろ
と同じ事を考えていた。


やがて、山下政雄少佐が新郷大尉の後任として、内地から到着し
才人たちの新飛行隊長になった事を告げた。

「新郷大尉は転属となった。いまから内地に帰還する者の名を呼ぶ。」
隊員たちはそれを聞いて歓声を上げた。

山下少佐は少し落ちついた頃をみはらかって内地帰還組の名を呼び始めた。皆は黙って耳を傾けた。


何人か読み上げた後、才人の名前が呼ばれた。才人は「はい。」と返事した。佐々木も呼ばれた。


残念ながら、坂井や宮崎は呼ばれなかった。


「坂井、一足先に内地に戻るぞ。」
「ああ・・・。十分娑婆の空気を吸って来い。」
坂井は内地帰還を楽しみにしていたのか、やや覇気が無い様子だった。


「すまん・・。お前も楽しみにしていたのに俺だけ戻る形になってしまって。」
「ああ、かまわないよ。俺達台南空はこれからラバウルに向かうが、俺が残るという事は
台南空が俺を必要としている証しだから満足しているさ。それにお前も東京を守ってくれよ。」
そう、才人たち内地帰還組は東京防衛の名目で帰還することとなっていた。


「ああ、まかせとけ・・と言いたいところだが、東京まで来るやつはいないだろう。」
「そうだな。まあ、十分内地を楽しめ。」
才人との会話はこれで終わった。だが、ありえないと思っていた事は1ヶ月後に破られることとなった。

そして、彼らは運命を目撃者となったのだった。



[32038] 本土空襲
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 21:33
昭和17年3月

才人たちは零式輸送機に乗って台湾を経由し本土に戻った。

才人たちの東京防空隊として第6航空艦隊で木更津に編成され、4月1日より開隊された。
6空は台南空・3空出身者を基軸に飛練を卒業したばかりの若手で配置されていた。

さて、東京防空隊として開隊された6空であるが、保有機が零戦4機・96戦2機と僅か6機しかなかった。
才人たちが6空としての初任務は機材集めであった。


しかし、零戦は各地各隊から引っ張り凧で、なかなか揃わない。

それでも、1機ずつ1機ずつ領収する事が出来た。才人には三菱工場に出張した時、今までの零戦とは違う型が充てられた。

才人は気になったので工場主任に質問した。

「この零戦は何ですか?」
「ああ、この零戦は21型甲です。」
エンジンも変わっていない、機体も変わっていない。だが、武装は違っていた。

21型は機首・主翼合わせて15ミリ機銃が搭載されていたが、主翼は20ミリ機銃へと換装されていた。
20ミリ機銃は97式であるが、零戦開発時の97式1号機銃と違い97式2号機銃であった。

2号機銃は1号機銃に見られた低初速・弾数・弾道性の不具合を解消するために開発された機銃であった。
機銃の銃身を長身化させ、低初速・弾道性を改善させ、弾数はベルト給弾化で弾数アップさせた。

零戦21型甲は20ミリの反動に耐えるために主翼に補強されており
若干の速度低下されたものの問題ないとされた。


97式2号機銃は未だ試作品であるので、実戦テストを防空隊である才人の6空に依頼したのである。

「まあ・・・。東京防衛ですからたぶん実戦は無いと思いますが。」
「とはいっても、現在の工場ではこの機しかないので受け取って下さいよ。」
しぶしぶ、才人はその機を受領し木更津に帰還した。


翌日、才人は21型甲で基地上空にて各種試験を行い、射撃試験も行った。
20ミリ機銃は改良されたとはいえ15ミリ機銃よりも
若干初速が遅い物の問題は無かった。

才人は21型甲についておおむね問題無しと報告した。


数日後、才人は列機と共に洋上編成飛行訓練と哨戒飛行を兼ねて朝から太平洋上にあった。

才人小隊は中田2飛曹が抜け代わりに北条3飛曹が入り
3番機に飛練を卒業したばかりの柴田1飛(飛行兵)が入った。


才人は正午近くになり、そろそろ基地に帰還しようかと思案していた時、馴染みとなった殺気を感じた。


――っ!敵が日本の近くまで来ているということか?
才人は辺りの周りと上空を見回した。だが、敵機の姿は見えない。

ふと、下を見れば、高度100m付近で飛行する双発機の姿があった。
その数は13機であった。


味方の陸攻かと一瞬考えたが、その機は味方の陸攻と違い、スリムな葉巻姿ではなく
腹が大きく膨れていた。そして何よりも星条旗のマークが見えた。


――敵機!
才人は備えられた無線で敵機発見を知らせるヒ連を打ち、そして位置を知らせた。

一連の作業をすばやく終わらせた才人は列機にバンクを振ると同時に敵機に向かった。






――もうすぐ日本だ!パールハーバの復讐もできるし、我がアメリカの低下した士気を高揚させる事ができる。
爆撃機に乗っていた機長はそう思っていた。


2月から始められた厳しい訓練とここまで運んでくれた海軍は全て此処にあった。

発艦するのはもっと後であったが、母艦が日本の哨戒艇に発見されたのだ。それを繰り上げて発艦したが
ここまで敵機に発見された様子もなく、後30分で日本に着く事が出来た。機長は奇襲成功を確信した。


――日本に空襲すれば俺も英雄にな「敵機です!真後ろ」くそ!そう簡単にはいかないということか
機長は改めて怒鳴り返した。

「敵機は何機だ!」
「3機です!」

俺は咄嗟に大丈夫だと考えた。現在のB-25は空母を発艦したり、長距離飛行するために軽量化されているのだ。
軽量化の関係で防御火器は機体上面の12,7ミリ連装砲塔1基と機首の7,7ミリ1丁しかなかった。


だからこそ、大勢に襲われたら危ういが、3機なら振り切れると判断した。


「安心しろ!密集隊形で弾幕を張れ!」
俺はそう怒鳴り、列機に先ほどの命令が行き渡り
やがて機体内は機銃の喧騒に満ちた。


俺は、機首の側面の窓から外を見た。敵機は報告通り3機であった。

1機は実戦経験がよほど無いのか大した事のない機銃の火線で泡ふためいているが、残りの2機は姿勢を崩す様子もない。


俺は舌打ちしたい気分だった。残り2機はよほどのベテランだ。
その2機は1機の爆撃機の陰に隠れた。


「10番機墜ちまーす!」
聞きたくない報告が後部銃座から聞こえた。
軽量化されたとはいえこうも鮮やかに撃墜されるとは予想外だった。


「とにかく踏ん張れ!日本はもうすぐだ!」


だが、待てど敵機撃墜の朗報が無く、ただ、自軍の損害ばかりが聞こえていた。
1機ずつ櫛の歯が欠けるように落とされていった。


特に1機の敵は他の2機と比べて敵ながらも鮮やかな飛行し、すでに5機も落とされていた。
すでに編隊は自機を入れて4機に減っていた。やがて日本本土が見えてきた。


だが、機首席から絶望的な報告が上がった。
「前方に敵機!敵機の数・・・複数!」
機首の見張員の報告通りに日本本土の前には10機以上の敵機が見えた。


――任務失敗だな。
俺は、静かにそう考えていた。全てがうまくいくと思ったのに
一つのイレギュラーが入り込んだがゆえに全滅しようとしていた。


――ここが俺の墓標か。出撃前はそんなことかんが「敵機、直上!」
俺は報告につられて、直上を見た。


直上に俺たちの爆撃機を5機撃墜した奴がいた。


奴は、機首をまっすぐこちらに向けていて、いまにも発砲しそうだった。


俺はいろんな意味を込めて呟いた。


「悪魔め。」


その直後、激しい衝撃を感じて、俺ことジェームズ・H・ドーリットルの意識は永遠の闇に落ちた。



――敵機撃墜!
才人は自分の射撃で燃える爆撃機の脇を通り抜けながらそう思った。


敵機は何かの改造をしていたのか、アメリカ機らしくないほど燃えやすかった。
お陰で才人は15ミリよりも弾数が少ない20ミリでも僅かの射撃で落とす事が出来た。


才人は6機・北条3飛曹は3機落とし、初陣の柴田は1機落とす事が出来た。
全機弾切れになったが、ちょうど基地から応援がやってきて
残った3機も間もなく落とされた。


才人は首都である東京爆撃を阻止する事が出来た。だが、敵の目的である本土空襲を阻止する事はできなかった。

最初から関西方面に向かった3機の別働隊は名古屋・神戸・四日市とそれぞれ別に現れ、爆弾が投下された。

焼夷弾は民家に被害を出し、死傷者20名余りを出し、迎撃を受けずに大陸に遁走された。

敵機の内の1機はウラジオストックに着陸し、2機は中国大陸に辿り着いたものの1機は日本勢力圏内に墜ち
中国軍の基地に辿り着いたものは僅かに1機しかなかった。



大本営は関西方面の空襲を阻止することができなかった責任を避けるために、首都空襲を阻止した
才人小隊を英雄として祭り上げ、特に単独で6機撃墜した平賀才人1飛曹の名前を大々的に取り上げられた。



だが、この時の空襲が後の日本の運命を決定づけたと説が名乗り上がるほど、今回の空襲の衝撃は大きく


才人でも歴史の流れを抗うことはできなかった。



[32038] 次期作戦へ
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 07:45
昭和17年5月上旬


才人は空母から双発機を発艦させ帝都空襲を目論んだドーリットル空襲を阻止する事ができ
才人は防空の英雄として、新聞で大いに騒がせ、ここ数日は落ち着かない日々だったが

5月に入ると下火になり、猛訓練に励んでいた。



6空の隊員も才人に負けてなるものかと、一層訓練に熱が入るようになった。
また、才人が爆撃機撃墜の貢献させた、21型甲は試作機である事と弾薬の補給を考慮した事から

今は横須賀空に渡され、21型となった。


才人たちは猛訓練の傍ら、着艦訓練が重視されるようになった。

これには隊員誰もが困惑した。なぜなら、基地航空隊には狭い基地こそ有るものの
基本的には空母が無いため空母には着艦する必要が無いのだ。

むしろ、着艦訓練をする時間があるならば、戦闘訓練を行った方が効率的である。
その事についての上司の答えは、空母の積み込みの時間の短縮としか聞いていなかった。
隊員たちは釈然としない気持ちを抱えながらも訓練に励んだ。


だが、この時の隊員誰もが、太平洋戦争の転換となった作戦に参加するなどとは一人も予想していなかった。



あくる日、才人は上陸日として街に繰り出していた。


才人の親友である佐々木は上陸日ではなく、他に知り合いもいないため、一人で街にぶらぶらとしていた。


――さて、どうしようか?
才人は煙草を咥えながら思案していると後ろから声がかけられた。


「才人さん?才人さんじゃないですか?」
「はい?」
その声に後ろを振り返ってみれば


「ああ、やっぱり才人さんでした。お久しぶりです。」
「ああ・・・。久しぶりだね、紫苑さん。」
そこに居たのは佐々木の妹、紫苑だった。



立ち話はどうかということで、近くの喫茶店で話すこととなった。


「才人さん、新聞を見ましたよ。帝都に空襲をもたらそうとした敵を落としたんですって!」
「ああ、そうだよ。哨戒飛行して、たまたま遭遇できたからね。
それに俺だけでなく他の皆もいたからだよ。」
「それでも、6機も落とすなんてすごいです。」
と紫苑は輝いた瞳で才人を憧れの人であるかのように見つめるから
才人は苦笑するほかなかった。


それから取りとめのない会話が続いた時、紫苑が質問してきた。


「才人さん、質問があるのですが。」
「うん?何か?軍機にかかわらない範囲だったら答えれるけど。」
と前置きし、コーヒー飲みながら紫苑の質問を待つ。


すると紫苑から衝撃的な質問が来た。


「才人さん、今度の作戦はミッドウェーに行くんですって。」
「ぶっ、ごほごほ・・・。」
才人は衝撃のあまり飲んでいたコーヒーが肺に入ってむせてしまった。


「ごほっごほっ・・・・。紫苑さん、それをどうして知っているのですか?」
「どうしてって、町中が噂になっていますよ。
海軍がミッドウェーをやるって、才人さんもミッドウェーに行かれるのですか?」

町中が作戦の事で噂になっているとは、さしものの才人もうっすらと背筋が冷える思いだった。
もし、作戦が本当にミッドウェーだったらアメリカ軍は察している事となる。


だけど


「残念だけど、俺達の部隊は南方に行く予定なんだよ。だからミッドウェーは行かないと思うよ。」
そう、才人の上司からそう聞いている。
だが、あくまで予定であって、突然、内容が変わることもあり得るのである。


「そうなんですか。残念です、才人さんの雄姿が見たかったのですが。」
紫苑は残念そうにつぶやく。


時間が来たことで、二人は別れ、才人も真っ直ぐ基地に帰り休暇を終えた。




18日となり先遣部隊が移動し、1日遅れて才人たち本隊は一端
岩国基地に落ち着いたのち、23日に積み込みが始まった。

積み込む空母は当時、世界最強の機動部隊と謳われていた第1艦隊こと南雲機動部隊であった。


南雲機動部隊は先月の珊瑚海海戦により、翔鶴・瑞鶴が抜けたが
それでも最強の部隊に変わりはなかった。


才人たちは岩国基地で、次期作戦内容の詳細を知った。

ハワイ攻略作戦の一環として、ミッドウェー攻略すると同時に
救援に向かう敵機動隊の撃滅である事を知った。


才人たち6空はミッドウェー占領後に防空隊として任務に着くが
それまでに南雲機動部隊の一員として
空母の上空直掩として参加することとなった。


才人は蒼龍に積み込む事が決まった。佐々木は赤城であった。


技量が覚束ない者は直接乗りこんだが、技量がある才人たちは直接空母に着艦した。


最初は疑似着艦し、有る程度慣れてきた頃に着艦を開始した。


才人はハルケギニアの世界で竜母艦という空母に似たような艦に着艦した事があるが
ハルケギニアのはロープを何本も横に伸ばしただけのものという原始的なものであった。
誘導等も何一つもなかった。そのような経験がある才人にとっては今回の着艦は易しかった。


才人は座イスを最大に上げ、風防を開け、赤青の指導橙を横目に見ながら
機首を艦尾に持ってくる。


遠目では、海に浮かぶ小さなかまぼこ板しか見えなかったものが
徐々に、大きな甲板が見えてくる。


だんだん大きくなる艦体を見ながら、艦尾を超えた瞬間
機首を起こして三点姿勢に持ってきて、ワイヤーを引っかけた。

ワイヤーは理想的な着艦点といわれる3番に止まった。

機体を艦前部に持ってきてエンジンを切る。
才人が艦に降り立って艦橋に行き、後続の搭乗員を待って
蒼龍艦長柳本柳作大佐に着任報告する。


着任報告を終え、柳本大佐は艦橋に消え
やがて指示が出されたのか艦は大きく右に傾いた。


艦が傾く様子を体感で感じながら才人は思った。

――ミッドウェーか。紫苑の時は何一つも感じていなかったが、今改めてこの場にいると、とんでもないこととなったな。


才人は苦笑と共に艦内に入ろうとしたが、ここで凄まじい悪寒を感じた。

――っ!この先で何か良くない事でも起きるのか?この作戦は何事もなければいいのだが。
だが、才人の予感は悪い方向に当たってしまった。



蒼龍は日が暮れる夕日に赤く輝いていた。その夕日は凋落か英光を意味しているのか誰にも分らなかった。





昭和17年5月

呉にはAF作戦と名付けられた一連の作戦に参加する艦艇であふれていた。
まず、ミッドウェー島空襲と敵機動部隊撃滅の任務を担った南雲機動部隊

最新鋭戦艦大和を加えた連合長管山本五十六大将直率の主力部隊

ここには姿はないがダッチハーバー空襲の陽動作戦を担った角田部隊

サイパンから上陸部隊を積んだ輸送部隊を中心とする攻略部隊があった。



参加艦艇350隻・航空機約500機・参加将兵10万と膨大な兵力で
この当時の人々は勝つと信じて疑わなかった。負ける要素が見当たらないからだ。


この作戦の主役である、南雲機動部隊の1空母蒼龍に才人の姿があった。

才人は先ほど岩国基地から蒼龍に着艦し、艦長柳本大佐に着任報告を終えて
搭乗員室に移動している途中だった。
乗員の案内で何本もラッタルを降りて、隔壁も何本か潜りぬけてようやく搭乗員室に到着した。


搭乗員室にはベッドに寝転がる人、将棋をしている人、本を読んでいる人と様々な人がいたが
彼らは開戦日の真珠湾空襲を初めとする南方の作戦に潜りぬけてきた歴戦の搭乗員だからか、彼らの眼は鋭かった。


才人は怖気づかず入ろうとした時、

「おおー!平賀じゃないか!久しぶりだな。」
懐かしい声が聞こえた。才人はその声の方向に向けると
霞ヶ浦飛行場で才人の教官を務めてくれた、東教官がいた。


「あ・・・東教官!お久しぶりです。」
才人はそう言ってお辞儀をした。


「おう、平賀も元気そうだな。ラジオで貴様の活躍は聞いたぞ。お陰で俺の鼻も高いよ。」
と、ここでニヤリと笑う。才人は恩師から褒めてくれた事により、照れくさそうに笑っていた。

「東、こいつが噂の平賀か?」
「そうだ、俺が今まで受け持って生徒の中で一番優秀な奴だったぞ。」
「ほお、あの東がそう言うなら、こいつの腕前は相当なものだな。」
とわいわいガヤガヤとなり、才人はミッドウェー占領までとはいえ、蒼龍搭乗員に認めてもらえたようだ。


5月27日出港日が来た。蒼龍は前進微速をかけながら、ゆっくりと岸を離れていく。
前方には巡洋艦長良を旗艦とする駆逐艦で形成された警戒部隊が先頭になっていた。


その後に戦艦榛名・霧島 巡洋艦利根・筑摩が続く。


そして、空母4隻も後に続く。南雲中将が指揮する第1航空戦隊赤城・加賀 
山口少将が指揮する第2航空戦隊飛龍・蒼龍である。


これが南雲機動部隊の全てであった。


出港するのは彼女たちだけであって、主力部隊は後から出港することになっていた。

戦艦の艦上で乗員が帽振れを行っていた。才人も飛行甲板に上がって帽振れを返していた。


ゆっくりと遠ざかる艦艇を見ながら才人はある戦艦を見つめていた。
その戦艦は戦後の日本人なら誰でも知っている大和であった。



戦争に詳しくない人でも、大和は世界で一番大きく、強く、そして悲劇的な最期を遂げているのを知っていた。

また、沈没した後に活躍する宇宙戦艦ヤマトを見た事があり、大和に対しては憧れ意識が強かった。


目の前にある大和は大きく、塗装に塗られている黒色と合わさって、まさに海に浮かぶ黒金城と錯覚するほどだった。


「凄く大きい艦ですね平賀1飛曹。」
才人と同じく蒼龍に乗り込んだ北条3飛曹が声を掛けた。

「ああ、すごく大きいな・・。おそらく世界一だろう。」
「そうでしょう。あれは海軍が創りだした至高の一つです。
この戦争は私たちの勝ちに終わりますよ。」

と無邪気な声で返された。才人は本当の事を言えないため何とも言えない表情をする他なかった。



やがて、豊後水道に入ってきた時、海の上で漁師たちが漁をしており、彼らはこちらに向けて手を振っていた。

今が戦時下である事を忘れさせそうになる光景であった。



やがて、全艦艇が太平洋上に抜けた時、南雲機動部隊は潜水艦警戒態勢で一路、東に向けて進撃を開始した。


ここに戦史に残るミッドウェー海戦の主役が移動を始めた。


才人という異邦人はミッドウェー海戦にどの様な結果をもたらすのか誰にも分らなかった。





[32038] ミッドウェー海戦 開幕
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 21:42
昭和17年6月5日


霧中航行などで艦艇が一時行方不明になるなどのアクシデントがあったものの
南雲機動部隊は予定通りにミッドウェー島の作戦域に到着した。


攻撃準備は前日の内にすでに済ませており、今は各飛甲板にミッドウェー島空襲用の第1次攻撃隊が上げられていた。

攻撃機内訳は第1航空戦隊が99式艦爆36機と零戦18機
第2航空戦隊が97式艦攻36機と零戦18機
計108機で実施されることとなった。


才人が搭乗している蒼龍も喧騒に満ちていた。


整備士が格納庫から次々と上げられてくる零戦と97式艦攻を飛行甲板に並べていく。
零戦を先頭に97式艦攻を最後部にする。


程なくして、エンジン暖気運転が始まった。零戦と97式艦攻の栄エンジンが咆哮し、他空母からのエンジンと合わさって
夜明け前の海上に一種のオーケストラが奏でた。


やがて、発艦時間が来た。搭乗員たちが駆け出し、割り振られた機に次々と乗り組んでいく。艦首が風上に向かい
ほどなく「発艦始め!」の合図が掛り、甲板員が短くホイッスルを吹き鳴らし、両手の旗を振る。


整備士が次々と機体に取り付けられたチョークを払っていく。


甲板員の旗が大きく振りかぶった。先頭の零戦がフルスロットルのエンジン音を轟かせ、尾部を持ち上げ、するすると滑り出す。


危なげのない様子で蒼龍の甲板上を駆け抜け、前縁を蹴って虚空に飛びだす。
2番機、3番機が先頭機に続いて滑走を始め、先頭機と同様、見事な動作で舞い上がっていく。


才人は空母直掩任務のため、手空き乗組員と一緒になって、帽振れを送っていた。

才人の前には零戦が発艦を終えて、97式艦攻が発艦を始めるところだった。
18機の艦攻の内1機は才人の教官、東特務少尉が搭乗していた。

才人は東特務少尉を激励するかのように力強く帽子を振っていく。
東特務少尉もまた、才人に向けて敬礼を交わし、するすると発艦して行く。




最終的に全機が発艦を終えた。今回が初陣となる若年搭乗員の機体も、落艦することなく、上空へと舞い上がった。

発艦直後、2、3機ずつバラバラになっていた零戦・99式艦爆・97式艦攻が、
艦隊上空の集合地点に上昇し、編隊を組み上げていく。

東の空が急速に明るさを増しており、機動部隊と攻撃隊に曙光が投げかけられる。明け染めていく空に
第1次攻撃隊108機の零戦・99式艦爆・97式艦攻が編隊を組む。


全機の発艦完了を告げ知らせるように、艦体上空を一巡してミッドウェーに進路をとり、各機の爆音を轟かせて進撃して行く。




才人たち蒼龍の乗組員は攻撃隊発艦の余韻に浸かっている余裕はなかった。

格納庫から敵空母発見に備えた第2次攻撃隊と上空直掩機が並べられる。機体に暖気運転が掛けられ
第1次攻撃隊と同様、轟音が轟いた。


間もなく、艦橋から直掩機発艦の命令が下り、才人は上空直掩機の1機に乗り
艦首が風上に立ち甲板員の合図により、発艦して行く。


才人は母艦搭乗員でも劣らぬほどの綺麗な発艦を見せつけて上空へと舞い上がった。
2番機の北条3飛曹・3番機の柴田1飛も後に続く。柴田は飛練を卒業したばかりであるが
着艦訓練は優秀だったため、上空直掩機の一員に加えられた。

才人が乗る蒼龍から3機、第2航空戦隊の司令部である飛龍から3機、赤城から6機
加賀から9機発艦され、計21機が第6空の零戦であった。




発艦から数時間後、才人は4空母の上空で円を描くように旋回していた時、
ミッドウェー島の方から黒い芥子粒が見えた。帰還する味方機かと考えたが
艦載機としては大きい機影が見えたので、才人は理解した。

――敵機!
才人は寮機にバンクを振ると、その機影に向けて突っ込んだ。


敵機は1式陸攻と勘違いしそうなスリムな双発機とやたらと大きい単発機であった。

後に知った事であったが、双発機はB-26で単発機はTBFであった。この2機種はミッドウェーからの出撃機であった。


ただ、才人はこの当時は知らなかったので、新型機と勘違いしていた。そのまま覆い被さるように攻撃して行く。

敵機から旋回機銃の火線が飛んでくる。才人はフットバーを蹴り、かわすと単発機に照準を定めて撃つ。

曳光弾が機体に吸い込まれるが、変わった様子が見えなかった。才人は飛んでくる火線をやり過ごしながらも
照準をコクピットに定めて撃つ。曳光弾がコクピットに吸い込まれたと見るや、風防が潰され、そのまま墜落した。

才人はチラッと後ろを見た。柴田1飛は落とせてないようだが、北条3飛曹はきっちり落とせていたようだ。


それでもなお、敵機は怖気づく様子もなく、我武者羅に南雲機動部隊に突撃して行く。
才人はその様子を見て舌打ちした。


――やらせはしない。蒼龍には。
才人は数日前の事を思い出す。東特務少尉の歓迎。蒼龍搭乗員の気さくな様子。
彼らはミッドウェー島攻撃に行った者も多い。

彼らの帰る場所を守るためにも蒼龍を守り通す必要があった。


――絶対にだ!
才人は眼を開くと、操縦桿に力を込める。


才人機は少し上昇すると、双発機に狙いをつけた。双発機から火線が飛ぶが、才人は無視し
エンジンに照準を入れて、撃つ。片側のエンジンが簡単に燃えて回転が止まり、それを確認した後
横滑りし、残った片側のエンジンも同じように落とす。両側のエンジンを止められた双発機はそのまま海面に落ち
高速で激突しバラバラになってしまった。


才人は少しロールし、もう1機の双発機の後上部に占位し、コクピット上部に向けて猛連射した。
コクピット上部が潰れ、双発機はクルリと腹を見せて海面に激突した。


才人が出来る事はここまでであった。なぜなら敵機は南雲機動部隊の輸形陣に迫っており、対空砲火が飛んできたからだ。
敵の旋回機銃が児戯に思えるほどの激しい対空砲火であった。

才人もさすがに味方の対空砲火をくぐりぬけて、敵機を落とす器量は持っていなかった。

才人は離脱して行った。列機も離脱する。

才人たちにより、数機に減らされた敵機は低空を這って、雷撃を行うつもりのようだ。
だが、狙ったのは空母であるが、いずれも射点が遠く、各空母は余裕を持ってかわすことができた。


才人は上昇しながらも、周りの様子を見た。どうやら才人の方だけでなく、他の方角からも
敵機は来たようで、あちこちに黒煙が浮かぶのが見えた。


零戦の直掩機を突破し、対空砲火の壁をくぐり抜け、攻撃した機もいるようだったが、4空母に損傷した様子もなかった。



しかし、この時に南雲司令部に一通の無電が入った。


それは「第2次攻撃隊の要あり」


すなわち、ミッドウェー島攻撃隊の指揮管からの無電で、ミッドウェー攻撃が不十分であることを伝えていた。
南雲司令部も偵察機からの報告が無いため、空母は居ないと判断され、現在最も脅威である
ミッドウェーからの攻撃を排除するために、待機攻撃隊の兵装を陸用に換装せよと命令が下った。


4隻の空母はたちまち騒然となった。艦攻の腹にくくりつけられた魚雷を下し、陸用爆弾に換装していく。
もちろん、積んで終わりだけでなく、投下テストも行われ、無事投下できる事を確認すると急いで
もう一度、腹にくくりつける。艦爆はすぐに作業がはかどるが、艦攻は時間がかかるようだ。

そんな、喧騒をよそに、もう一通の無電が入った。


「敵ラシキモノ10隻ミユ」

これは今朝放った偵察機の報告電だった。この報告機は今朝放った偵察機で特に30分発進が遅れた利根4号機であった。

司令部はたちまち騒然となった。居ないだろうと判断された敵空母に発見されたかもしれないのだ。
敵の詳細が分からないので、もう少し詳しい詳細を待っていると、


「敵は巡洋艦5隻駆逐艦5隻ナリ」


敵空母ではなかった。しかし、この海域で巡洋艦だけが単独行動をしているのではないだろうと判断し
周りには彼らの目指すべき空母がいる。そこで、換装命令を撤回し

「敵艦隊攻撃準備。艦攻、雷装そのまま」

と新たな命令が下った。先ほどの換装命令から僅か30分しかたっていなかった。


この命令に一番茫然としたのは格納庫に居る整備士たちであった。艦攻全機の魚雷を外し終えており
爆弾も3分の1は換装をすでに終えており、これからという時に換装命令だ。


整備士たちは一瞬茫然とするも、たちまち怒鳴り声が響き合った。先ほど外した魚雷を再び艦攻の腹にくくり付け、陸用爆弾を外していく。

それでも、敵攻撃をかわすごとに艦は大きく傾くので、その度に作業を一時停止しなければいけなかった。
陸用爆弾を戻す時間が無いために、格納庫の片隅に固まって、転ばないように係留した。

それでも、不気味に黒く光らせて、整備士を不安がらせたが、目の前の作業に集中して忘れることにした。



また、この時に第2航空戦隊の司令艦である山口少将は陸用爆弾でも敵艦隊に攻撃できるので、ただちに発艦させよと具申したが
南雲司令部は以下の理由で却下されたという。


まず、陸用爆弾では効果不十分である事。

次に護衛の零戦がいない事。零戦は敵爆撃機の迎撃戦のため全機が発艦しており、
このまま発艦する事は攻撃隊は裸のまま行かなければならないこと。


なによりも最大の理由はミッドウェー攻撃隊がまもなく戻ってくる事である。

彼らは被弾機が多く、燃料不足や負傷者が大勢いるので、このまま発艦を行う事は彼らを見殺しするということとなる。


彼らが帰還したとき、機動部隊は対空戦闘の真っ最中であった。4隻の空母や2隻ずつの戦艦や重巡洋艦
軽巡洋艦と駆逐艦がさかんに発射炎を明滅させ、上空に黒煙の花を咲かせる。


その合間に敵機が攻撃して空母に水柱を立たせる。それを見た搭乗員は不安になるが、
次の瞬間、疾走する無事な母艦を見て搭乗員は安堵の息を吐く。

やがて彼らの攻撃が一段落した時に次々と着艦して行く、それでも被弾して燃料が足りなかったり
脚が出ない機が出て、駆逐艦のそばに不時着した機も多かった。


才人が蒼龍に着艦したのは彼らの収容を終えてからであった。

才人は燃料と弾薬補給のために着艦し、柳本大佐に空戦報告を行う。
才人小隊は9機撃墜4機撃破と報告した。


「空戦の様子は此処からでも見えたぞ。この調子で頼むぞ。」
と柳本大佐はねぎらってくれた。


才人は艦橋を後にし、飛行甲板に出た。飛行甲板には才人たちが
着艦した零戦に整備士たちが纏わりついて
弾薬・燃料の補給を行っていた。


そこに簡単な戦闘食おにぎりをもらって食べながら、北条3飛曹に行く。

「あっ平賀1飛曹。ききましたか?」
「何だ、北条?」
才人はおにぎりを食べながら聞く。


「格納庫では爆装から雷装転換で修羅場状態だそうですが大丈夫ですかね?」
才人はそれで、皆が切羽詰まっている様子が分かった。
確かに不安に思う事は当然だ。


しかし、

「俺達の任務は空母の直掩だ!余計な事を考えるな!俺達が守り通せば済む話だ。」
「あ・・・は、はい!平賀1飛曹のおっしゃる通りです。」
会話はそこで終わった。


やがて、補給が終わり、才人たちは発艦し始めた。


――――コチッ


才人の腕に巻き付けていた航空時計は9時半を指した。




[32038] ミッドウェー海戦 運命
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 21:55
『そうですね。平賀1飛曹は(当時の階級)不思議な人でした。
私は各地の戦場を駆け巡り、様々な撃墜王と出会い、共に戦ったこともありますが、
平賀1飛曹ほどの強烈な印象を持った人はいなかった。


平賀1飛曹は、我々が持っていない何かを持っていた。

私はある日に平賀1飛曹に質問をした事があるが、答えはこうであった。

「俺は敏感で、離れていても敵からの殺気が分かる。」

私も、何度か殺気を読もうとしましたができませんでした。こうしてみると与太話に思われるかもしれないが、
この後に続く空戦の結果を見ると彼の話を信じるほかなかった。

そして、あの日も彼が敵の殺気を感じ取れたから、阻止できた。

・・・もしも、平賀1飛曹が居なかったら、ミッドウェー海戦の結果は変わったのだろうと思います。
そう、あの時に平賀1飛曹がいなかったら・・・。』

ミッドウェー戦記より  北条3飛曹(当時の階級)の回想






昭和17年6月5日


ミッドウェー攻略として、夜明け前からミッドウェー空襲機を発艦させたが、効果不十分で
空母攻撃に備えて対艦用を搭載した、第2次攻撃隊の装備を陸用に換装する命令が下ったが
その直後に偵察機から空母を発見するという報告が入り、再び対艦用に戻すという2度手間をかけ
更にミッドウェーからの攻撃隊も戻り、格納庫の整備士はより一層混乱を招いた。


その混乱で、弾薬庫から上げられた陸用の爆弾は格納庫の隅に放置された。


その情勢の下、蒼龍から2式艦偵が空母確認のため発艦し、才人が2度目の直掩任務に発艦した。




才人が発艦して間もなく、蒼龍の左舷側の高角砲が発砲するのが見えた。左を見れば
まだ、距離は遠いが単発機が魚雷を抱えて、蒼龍に突撃するところだった。

先ほどの単発機を比べて、小型で貧弱に見えたが、識別表の中で見た事がある機体だった。

それはダグラスTBD“テバスター”であった。
艦上攻撃機というジャンルで世界初の引き込み脚を持った機であった。(97式艦攻は2番目)

1936年の時点では高性能機であったが、1942年では空を飛ぶカモでしかなかった。


それを証明するかのように才人はそのTBDの前方上部に占位し、1機に照準を合わせて撃つ。
最初の1連射は外し、その機は狙う事は出来なくなったが、後続の1機にずらし撃ちし、
曳光弾が機体に吸い込まれたと見るや簡単に炎上した。先ほどの単発機と比べると大違いだった。


才人はTBDの群れを突破し、才人は機首を翻しTBDの後方から襲いかかる。

TBDの後部から旋回機銃がささやかな反撃し、横滑りし何とかかわそうともがくのが見えた。

だが、才人たちの戦闘機乗りから見ても、緩慢で遅かった。

才人は1機に狙いをつけ、機銃を放つと同時に操縦桿とフットバーを勢いよく倒し、機体を右に横滑りさせる。

狙われたTBDと右のTBDは偶然にも接近していて、2機とも炎に包まれて落ちた。
才人は一度の攻撃で2機も落としたことになる。


才人が2機落としたところで、他の零戦たちがやってきて、残されたTBDは蒼龍を目指しながらも
1機すつ櫛の歯が抜け落ちるかのように零戦が叩き落とされてゆく


蒼龍の目前で最後のTBDが燃えながらも近づいたが力尽きたかのように墜落した。


蒼龍の脅威を排除を確認したのか他の零戦隊はすぐさま、他の空母の所に移動した。
どうやら多方向から敵はやって来ているようで、加賀の右舷側が黒煙に彩られていた。


3番機の柴田1飛が速く行きましょうと急かしている様子が零戦の様子から分かった。


才人は苦笑しながら移動をしようかと考えた時、突然背筋が冷えるような殺気を感じた。


――っ!・・・・どこから感じる。
才人はしばらく呆けたかのような表情をし、すぐさま周りを見た。


先ほどの加賀からの方には感じなかった。ここでは何も見えなかった。



ただ・・・。


才人が殺気を感じたのは上空の方に感じたのである。

列機がいぶかしげな表情をするなか、才人は突然急上昇を始めた。列機は慌てながらも
何とか付いてこようと機首を上がるのが見えるが、才人はそれを無視するかのように急上昇を続ける。

先ほどの殺気は今まで感じた中で最大の冷たさであった。

数日前に感じた予感と合わさって、急がねばならないという焦燥感に囚われていたのである。


ただ、才人はひたすら上昇を続けた。







蒼龍艦長柳本大佐は満足していた。柳本大佐は着任以来操鑑訓練を重ね、蒼龍の運動特徴を十二分に把握していた。
急降下爆撃機だろうと、雷撃だろうと、蒼龍の機敏さを生かして、ことごとくかわしてやろうと身構えていた。

だが、TBD相手に操艦の腕を発揮する前に直掩の零戦が全て叩き落としてしまった。

だが、柳本大佐は極力操艦しないなら、これでいいと思った。


「新たな敵機!右60度!」
見張員から新たな報告だ。柳本大佐が反射的に操艦を下令しょうとしたところで、

「敵全機、加賀に向かう!」
詳しい状況が入り、柳本大佐は回頭命令を止め、双眼鏡を加賀に向ける。


確かに加賀の右舷側に黒煙が上がっているのが見え、先ほど蒼龍を守った零戦たちが加賀に向かうのが見えた。


柳本大佐の意識がそちらに向かう寸前

「零戦1小隊!急上昇しています!」
「何?」
柳本大佐はその見張員の報告につられて、双眼鏡で上空を見た。

確かに零戦の1小隊が急上昇するのが確認でき、先頭の零戦の尾翼の番号を見る事が出来た。

それは先ほど、蒼龍に着艦した平賀1飛曹である事が分かった。柳本大佐は彼が何故、急上昇するのか分からなかったが
報告した見張員にその零戦の小隊の動きを見張るように命令を下した。


柳本大佐はラジオや新聞で平賀1飛曹の事を知っていた。その彼が何かをしている事は何かがあるのだろうと注意を引いた。







才人は急上昇をやめたのは5000mの高度をとった後であった。

才人は荒くなる息を整え、酸素マスクすることで火照った口が急速に冷やされるのが分かった。


5000mの上空は時折、雲が見えるものの真下は空母に丸見えであった。

空母から光が伸びるのが見え、その空母に向けて黒い点が突撃するのが見えた。
時折、黒い点から赤い光が見え、海に落ちるのが見えた。


2番機も3番機も何とか付いて来れているようだった。才人は先ほどの殺気を確認するために周りを見ていく。


才人は眼を細めた。前方1万mの下方に約30機の単発機が見えた。

先ほどの攻撃が艦載機の雷撃機である事を考えれば、次の攻撃は爆撃機だろうと才人がそこまで思案した時
背筋が氷の剣にさされるような感触を感じた。


現在の空母の状況を思い出したのだ。4空母は敵機動部隊を撃沈するために対艦用に換装中で
今だに攻撃隊は発艦していないのだ。今や4空母は海に浮かべる爆弾庫になっているのだ。


もしも、爆撃を許せば、想像を絶する事が起きるであろう。


才人はあの爆撃機を落とさねばという焦燥感にかわれ、バンクを振るのも忘れ、ただひたすら、愚直に真っ直ぐ、敵に突っ込んでいった。



――我々はツイている!
エンタープライズから発艦した爆撃機の総指揮管マクラスキー少佐は思った。

最初は雷撃機と戦闘機とひと固まりとなって、攻撃させる予定が雲に阻まれて散り散りとなり
気がつけば我々急降下爆撃隊SBDだけが飛行していた。


燃料も後5分で引きかえしなければいけないという状況となり、せっぱ詰まった心境に追い込まれていた。


マクラスキー少佐は戦果無しで帰還しなければいけないという絶望感に包まれた時
眼下に一筋の航跡が見えた。それは駆逐艦のようで高速で走っているのが見えた。


マクラスキー少佐はその駆逐艦の先に南雲機動部隊がいると思い
藁にすがる思いで駆逐艦の先を飛行した。


その先には空母があった、艦上に黄色い塗装が塗られて大きい赤い円が見えた。
雷撃機の攻撃をかわしているようで大きく回頭しているのが見えた。

それでも、自分たちの所に硝煙が来る様子もなく、戦闘機の姿も見えなかった


マクラスキー少佐は奇襲を確信し列機に合図を送ろうとしたところ
後部から悲鳴が聞こえた。


「隊長!左からジークです!!」
「何!」
マクラスキー少佐が左を見れば、黒い影が高速で通り過ぎるところだった。

黒い影は自機ではなく後続機を狙っていたようで、バックミラーに赤い光が見えた。

「旋回機銃を出せ!敵は何機だ!」
マクラスキー少佐は後続の零戦を警戒するかのように周りを見ながら怒鳴った。

「今のところ!3機です!」
「とにかく目標はすぐそこだ!俺に続け!」






――くっ。2機撃墜するつもりが焦って1機しか落とせなかった。
才人はコクピットの中で舌打ちした。

才人ははやる気持ちを抑えて、上昇しながら下方からすくいあげるように撃つ。

爆撃機を通り過ぎ後ろを振り返れば、狙われた爆撃機は左主翼半ばから折れて落ちるところだった。



才人は、上昇反転すると、再び先頭機を狙う。



先頭機は、横滑りで再びかわされるが、後ろにいた1機に命中し爆散する


その後、才人の僚機たちもやってきて、阻止にかかる



才人たちはそれぞれ超人的な活躍を見せて、才人が6機、北条が4機、柴田が2機落とした。


だが、惜らむは零戦の数が少なかったことである。才人の活躍が無駄だったのではない。

敵機の数が多すぎたのだ。




「隊長!敵空母の真上です!」
「行くぞ!俺の後に続け!」


生き残ったSBD20機が急降下する。狙われた空母は2隻で、2隻とも艦橋は右側に見えた。





「面舵一杯―!」
蒼龍艦橋で柳本大佐が声をからしながら操舵命令を下した。

才人の様子を見る様に命令を下していたおかげで、急降下爆撃機が来るのを備えるる事が出来た。
蒼龍は対空機銃を乱射しながら、柳本大佐の命令で大きく右に傾いた。


柳本大佐は衝撃に備えた。やがて、次々と急降下爆撃機がやってきて、次々と爆弾を落としていったが
いずれも当たる様子もなく、艦の近くに大きな水柱が立っていくのみであった。


柳本大佐は新たな操舵命令を下そうとしたところで大音響を聞いた。
見れば、加賀が大爆発と共に燃えていた。



マクラスキー少佐のSBDが狙った空母は蒼龍・加賀で前者は6機、後者は14機狙われた。
蒼龍は大きく転舵し直撃弾を得る事が出来なかったが、加賀は2発の至近弾と3発の直撃弾を得た。

加賀は前部・中部・後部とまんべんなく1発づつの爆弾を喰らい、特に後部に直撃した爆弾は
魚雷を抱いた97式艦攻に命中し、爆弾がさく裂した瞬間、魚雷が誘爆した。


その瞬間97式艦攻の周りにいた整備士や手空きの乗組員は大量の破片と熱を喰らい、
ほとんどが悲鳴を上げるも間もなく即死した。

誘爆は誘爆を呼び、97式艦攻が次々と爆発した。

やがて、漏れ出したガソリンに火が付き、火の蛇は格納庫の隅に片付けておいた
爆弾に及び赤く熱せられ、次の瞬間、閃光が発生した。


次々と爆弾が誘爆が起こり、もはや手がつけれない状態となった。


だが、攻撃は終わったわけではなかった。



男は上機嫌だった。今朝からの迎撃戦で4機も落としており、今は赤城に燃料と弾薬を補給していた。

赤城に着艦中に雷撃機が来て、他の零戦が次々と落としていく様子に羨ましがっていた。

やがて、補給が終わり、先頭機が発艦を始めた時、大音響が聞こえた。


男が何事かと見れば、先ほど赤城と航行していた加賀が大爆発と共に燃えていた。


男が茫然としていると、艦橋から叫び声が聞こえた。反射的に上を仰ぎみれば
敵機が突っ込むのが見えた。


「何てこった。」
次の瞬間男が、気付いた時には、零戦から飛び降り、機銃座に向かって走っていた。


衝撃を感じたのは男が機銃座に転げ落ちるように飛びこむのと同時だった。

男は揺さぶられ、背中に熱い物が感じられた瞬間、佐々木武雄の意識は失ってしまった。



赤城を襲ったのはヨークタウンのSBDであった。彼らの何機かは整備不良で爆弾を失ったものの全機が急降下し

赤城に1発の至近弾、2発の直撃弾をこうむった。


加賀と同じように魚雷と爆弾の誘爆が起こり、赤城の後部は赤々と燃えあがっていた。


飛龍は離れたところにいたため、急降下爆撃を免れたのだ。



南雲機動部隊はSBDの奇襲により、赤城・加賀がやられ、戦力が半減された。
南雲中将の生死は不明であった。


残された戦力は飛龍・蒼龍2隻のみであった。飛龍に座乗する山口多聞少将は
赤城・加賀の被爆する様子を見て、すぐさま全艦に打電するよう命令した。


「我、今ヨリ航空戦ノ指揮ヲ執ル」


龍の反撃の狼煙が上げられた。





[32038] ミッドウェー海戦 龍の反撃
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 22:02
辺りは暗くなっており、夕闇が迫ってきた事を実感できる。空は大きな月が見えて、海は綺麗に凪いでいて静かだった。


その海上に赤々と照らされる存在があった。


それは、炎上する空母だった。





昭和17年6月5日


ハワイ攻略作戦の前哨として始められたミッドウェー作戦。日本海軍の作戦はのっけから躓いた。
ミッドウェー島の無力化に失敗し、雷装から爆装に転換中に敵艦隊発見電が入り、再び爆装から雷装に戻すという
二度手間を犯した。

そんな中で、空母の攻撃隊が来襲し、最初にやってきた雷撃機の攻撃に対しては、
直掩隊の零戦の働きや各艦長の操艦もあってかわされた。


だが、この時が転換となった。


誰もが、雷撃機に注目して、いつの間にか視点が下に下にとなってしまい。上空ががら空きとなってしまったのだ。
才人小隊と蒼龍以外は上空からの死神に気付かなかったのだ。


その上空から、死神、アメリカ海軍の急降下爆撃機SBDが急降下してきたのだ。まさに奇襲であった。
各艦は雷撃機に注目し、低空に眼をやっていたのだ。機銃や高角砲は水平に並べていた。


だから、気付いた時はもう遅かった。


蒼龍はいち早く危機を察し、操艦で何とかかわす事が出来たが、赤城・加賀はSBDに気付く事が出来ず。
直撃弾を喰らってしまった。


赤城・加賀は後部に直撃した爆弾により、格納庫におかれた魚雷・爆弾が誘爆し、後部が何かも吹っ飛んでしまった格好であった。

各艦は混乱しながらも、燃え盛る炎を消そうと消火ポンプを運ぶが、水が出なかった。

爆発の衝撃で故障してしまったのだ。結局、各艦はバケツに海水を汲んで投げかけるほかなかった。


赤城にいた南雲中将は混乱しながらも、燃える赤城から脱出し、今は軽巡洋艦長良に旗艦を据えた。



だが航空戦の指揮は山口少将が掌握しており、結局、彼が出来る事は空母の救助と空母の援護を命令するほかなかった。




才人は茫然とした。


目の前で、赤城と加賀の上部に地獄絵図が映されていた。この世とも思えない業火が艦上に発生し、轟々と炎が渦巻いていた。

時折、航空機の残骸か人体か炎から黒っぽい物が巻き上げられていた。

才人が茫然としている間に、残された蒼龍は第2航空戦隊司令部飛龍から命令を受け取ったのか
エレベーターから零戦と99式艦爆が上げられ、発艦して行った。

その数は零戦7機、99式艦爆18機であった。離れた所で飛龍から発艦した飛龍隊と合流し
零戦13機、99式艦爆36機となって、一路、敵機動部隊に向かった。


才人は彼らに頑張れよと応援するほかなかった。






才人は蒼龍に着艦体制に入っていた。

あれから、飛龍・蒼龍のたった2隻となった空母に上空直掩した零戦が殺到してきた。

雷撃機を追いかけまわしたり、爆撃した後の爆撃機を復讐させたり
艦上戦闘機と空戦したりなどでそれぞれが、弾薬と燃料が無かった。


才人小隊が始めに着艦し前部に持ってきて、エレベーターで下したかと思うと次々と着艦し
格納庫に収容できるものは収容し、修理不能・がいると判断された機は海に投棄された。

それでも収容しきれない機が出て、駆逐艦のそばに不時着した機も多かった。


才人は搭乗員室で、一時の休息を味わっていた。朝から空戦の連続で
さしもの才人でも疲れていたのである。

才人が横になって寝ていると、人が来る気配を感じた。


才人が薄目になって確認すると、目に入ったのは東特務少尉であった。


才人は驚き慌てながらも、立ちあがって敬礼をしようとすると、

「ああ、お前も空戦で疲れているだろうからそのままでな。」
と言われて、また、座り込んだ。東特務少尉も座りながら才人に言う。

「平賀、今の状況は分かっていると思うが、俺達はこれから第3次攻撃隊として出撃する。」
「はい。」
そう、今朝ミッドウェー攻撃に行った97式艦攻が第3次攻撃隊として、今、雷装に準備をしていた。


才人はそれを理解していたが、次の瞬間、告がれた言葉には絶句した。

「そこで、第3次攻撃隊の零戦の一員にお前も入る。」

無茶なと才人は思った。第6空は上空直掩として編成されているし、何よりも航法が違うのだ。

基地航空隊の帰還する場所は、動かぬ基地であるから、目印に沿って帰るだけで済む。

だが、空母艦隊はそうもいかない。

何の目印もない海の上でもあるし、空母も動いているのだ。
搭乗員は動いている空母の未来位置を予想して帰還しなければならない。


単座機は空戦をしながら帰還するルートを覚えるのは困難だと言ってもよい。帰還するなら、複座機や3座機がのる偵察員の航法に従うのが確実である。

だからこそ、一時的にせよ複座戦闘機というゲテモノが誕生したのである。


「ど・・・どうして俺なんですか?」
「数が足りない。護衛の零戦の数が足りないんだよ。先ほどの迎撃戦で少なからずの零戦が損傷してしまったし
これから出撃するのは敵機動部隊だ。戦力は1機でも多いほどいい。お前もいくぞ。」
「し・・・しかし・・・。航法とかはどうするのですか?」

才人はなおも言うが、


「航法は俺達が案内する。帰りもな。だからな平賀。」

と東特務少尉はここで言葉を切ると才人を見てにやりと


「俺達をしっかり守ってくれよ。でないと迷子の子猫ちゃんになるぞ。」
「ぶっ・・・わーははははっ!」
才人はツボにはまったのか、大声を出して笑い声を上げた。


その時、艦内スピーカーが入った。


『第2次攻撃隊ヨリ、打電。我、敵空母1隻ヲ攻撃セリ。現在、敵空母大破炎上ナリ』

その瞬間、艦内は大歓声が上げられた。万歳する乗組員もいた。


才人も喜びの表情が上げられたが、次の瞬間には東特務少尉に向けられた。東特務少尉も才人を見る。

「俺達を守ってくれよ。撃墜王。」
「はい。教官。」

二人は互いに敬礼を交わし合った。





蒼龍は第3次攻撃隊の準備が始められた。攻撃隊の内訳は、零戦8機・97式艦攻12機であった。

艦攻隊の隊長は第1次攻撃隊と同じ指揮管であるが、ミッドウェー攻撃で負傷したり
戦死したりなどで士官組が足らず、東特務少尉が第2中隊長となった。


才人たちは赤城所属の大尉の訓令を聞いていた。

「いいか、何があっても攻撃隊から離れるな!敵の直掩から艦攻を守る役目に徹しろ!
1機でも多く敵空母に攻撃さすのだ!」
才人はその言葉に頷くと敬礼を交わした。

柳本大佐も飛行甲板に降り立ち、今から出撃する攻撃隊に一人ずつ握手を交わしながら激励する。


やがて、発艦の刻がきた。

先ほどの大尉が一番に発艦し、つづけさま零戦が発艦していく。
才人も発艦する。今日3度目の発艦である。


97式艦攻も発艦していく。1機も事故機を出さずに全機が発艦する事が出来た。
傍に並行で航行していた飛龍も攻撃隊を発艦する。

飛龍は零戦6機・97式艦攻10機であった。蒼龍・飛龍を合わせて、零戦14機
97式艦攻22機、計36機であった。正規空母の3分の1でしかなかった。


それでも彼らは逝く。ただ、ひたすら敵のところへ。



進撃途中で前方に黒煙が上がるのが見えた。もっと近づいてみると、炎上する敵空母だった。
前から後ろ一面が炎に包まれていて、前部と中部に大きな破孔が見えた。傾いているものの、まだ、沈む気配が見えない。


だが、彼らの目標は違う。敵空母の止めをさすのではなく、無傷の空母の撃破である。彼らは、無視し、進んでいく。


すると、前方の海面上に幾つかの航跡が見えて、その後を見れば、敵艦隊があり、中央に空母が見えた。俺達の目標だ。


指揮官がト連送を打ち、バンクを振ってその目標に向かって突撃した。






第2中隊長として任せられた、東特務少尉は列機の6機を伴って、低空へと這っていた。

敵艦隊は戦艦が無く、艦艇の数も少なかったものの隙間が無いほどにびっしりと詰めていた。


どうしたものかと思案していると、機銃員から悲鳴が上がった。

「7時方向にF4F!来ます!」
「何!」
首を動かせば1機のF4Fがあった。ミッドウェー攻撃の時にも見えた機である。見た目はビア樽だが、今は獰猛な機体に見える。

「隊形を密集に旋回機銃で応戦しろ!」
その時、旋回機銃が応戦する音が聞こえたが、撃墜報告の代わりに、

「3番機、4番機被弾!」
機銃員から悲痛な叫びが聞こえた。

「くそっ!」
俺は罵声をもらした。1機でも貴重な艦攻が、一瞬で2機も失われた。

なおもF4Fは敵機を撃墜しようと躍起になっているのが分かった。
周りに火線が飛んでいるからだ。

それでも微妙な横滑りでかわしているのだ。


もう一度攻撃しようとしたF4Fであるが、横から零戦が来て
F4Fをたたき落とす。

F4Fを落とした零戦が東機に並んだ。搭乗員の顔が分かった。平賀だ。俺は驚きながらも感謝の礼をした。

平賀はバンクを振り、離脱して行った。


その様子を見た俺は呟いた。

「さすが、撃墜王。」
新聞の噂は伊達ではなかったということだ。


やがて、敵の輸形陣に近づいた。駆逐艦・巡洋艦が発砲するのが見えた。
今まで経験したこともないくらいの熾烈な対空砲火であった。

俺は慌てず、対空砲火の密度が薄いところを探す。

「あそこだ!」
俺は小さく叫ぶと駆逐艦の間を抜ける。機銃員が慌てて機銃を旋回するのが見えたが間に合わない。



輸形陣の内側に突破するとより一層対空砲火が増す。

特に1隻の巡洋艦は前部・後部の主砲からまるで速射砲のように、次々と弾丸を発砲するのが見え
俺の左を飛んでいた、2番機がいきなり吹き飛ぶのが見えた。

2番機はバラバラに砕け散り、人体のようなものも見えた。



だが、俺は気にする暇はなかった。


敵空母が目の前に迫ってきたからだ。


俺は対空砲火に当たらないように注意しながら、慎重に位置を探る。
やがて、好位置を見つける事が出来たので、そこに向かって進む。


敵空母に近づくほど、対空砲火が熾烈になる。敵空母の舷側が赤くともし
海面は機銃と高角砲の水柱が立ち、上空は高角砲の黒煙と機銃の曳光弾が彩る。

揺さぶる機の中で距離を詰める。


敵が転舵しようともがくが、その前に俺達3機の艦攻達は位置に辿り着くことができた。



俺は、徐々に大きくなる艦体を睨みながら、慎重に射点を定める。


「ようそろ、ようそろー。ヨ―イ・・・テーッ!」
俺は叫び声と共に足下にあるレバーを上げる。


レバーを上げた瞬間、魚雷が投下され、機体が軽くなるのを感じた。
800kgものの重量が離れたのだ。俺は急いで離脱しようとした。



衝撃を感じたのはその時だ。機体が大きく振動し、絶鳴がコクピットに響く。


「ぐおっ・・・。だいじょ・・うぶ・・か?」
俺は聞くが返事の声は無い。ただ、うめき声だけが聞こえる。


俺は激痛が走る体を押さえながらも、左を見た。そこには、主翼が燃えていた。
俺は帰れない事を悟ると、浮きあげかけた機首を敵の艦体に向ける。


大きく膨れ上がる艦体を見つつも、俺は平賀の事を考えた。平賀は俺が今まで受け持った生徒の中で一番、異色だった。

他人よりもうまくできていながら、他人よりも知らなかった事が多かった。

それでも、俺が教えた生徒の中で一番になるだろうと予感めいた直感があった。


その予感は当たった。首都防衛や空母上空直掩などで平賀は大活躍をしていた。先のF4Fもそうだ。


あれほど、うまく飛べて、あれほど綺麗に落とせる奴は平賀以外知らない。



敵空母が間近に迫ってきた。機銃員の顔が見えるほどだ。俺はにやりと笑うと、

――平賀・・・・。お前は・・・・俺の・・・自慢の・・・・せ・・・い・・・と・・・だ。


次の瞬間、東特務少尉が乗った97式艦攻は炎を上げながらも、舷側に体当たりした。

その時、魚雷が命中した。





才人がそれを見たのは偶然だった。敵空母の左舷から3本・右舷から2本の水柱が上がるのを目撃したのは。

水柱は、まず左舷から中部に2本立ち、遅れて右舷から前部・中部に1本ずつ立ち
最後に左舷後部に一本の水柱が立った。

才人は艦攻を狙おうとするF4Fを2機落とし、上空で1機落としたところであった。

周りに敵機が無いかを確認した時に先ほどのシーンとなったのだ。

敵空母は黒煙を上げながら、左舷に傾いていた。


才人がそれを確認すると集合地点へと急ぐ。集合地点では数機の艦攻があったが、どの機もボロボロであった。
才人は追いすがるF4Fを牽制しながら、帰還する。


才人は彼らと並んだ時、東機が見えない事に気付いた。才人は嫌な予感がしたが、頭を振りはらって否定した。


やがて、蒼龍が見えてきた。飛龍も無事であることが確認でき、負傷機から着艦してく。
才人が着艦した後、東特務少尉と列機になった、艦攻隊に聞きに行く。


「おい。東特務少尉はどうした?」
平賀が尋ねるが、搭乗員はうなずくばかり。やがて、言葉が紡ぎだされた。


「東特務少尉は・・・・。少尉は・・・・。戦死です・・・。」
「何。」
俺は体から何かが抜けるのを感じた。


「東特務少尉は・・・雷撃した後、被弾し・・・炎上しながら
敵空母に体当たりしました。」
搭乗員はもう泣きたそうな顔で言っていた。



「ああ・・・・。ありがとう・・・。」
才人はお礼を言うとその場を離れた。才人の恩師が戦死したのが認めたくないのだ。


だが、事実は覆らない。戦死した人は2度と戻らない・・・・。




第2次攻撃隊、戦果 空母1隻大破炎上 損害 撃墜零戦5機・99式艦爆12機

第3次攻撃隊、戦果 空母1隻大破炎上駆逐艦1隻中破 損害 撃墜零戦4機・97式艦攻13機



[32038] ミッドウェー海戦 龍力尽きる時
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 22:11
アメリカ海軍、エンタープライズの乗組員の士気は沈んでいた。


世界最強だった南雲機動部隊に打撃を上げて、歓声を上げたのがほんの数時間前だった。

彼らは、南雲機動部隊を打ち破った英雄を待ち構えた。


彼らは、帰ってきた。


帰ってきた数が非常に少なく、どの機もボロボロだった。

乗組員は茫然とするほかなかった。TBDは1機も帰らず、全滅し、今回の主役である
SBDも今朝33機出撃したのに、帰ってきたのはたったの4機であった。

才人たちの奮闘もあるが、急降下爆撃した後に残された零戦が寄ったかって、次々に落とされたのだ。



アメリカ軍も数時間の間に、次々と驚愕する出来事があった。

約40機のヴァル(99式艦爆)がヨークタウンを狙い、14発の命中弾と4発の至近弾をこうむり
同艦は廃艦状態の様にボロボロになった。最悪だったのが、ある1機が投弾した爆弾であった。

その機は投弾直後に撃墜されたが、爆弾は吸い込まれるかのように煙突の中に突入した。
薄い装甲をぶち抜き、機関部に到達し、1つのボイラーの直上で爆発した。

ボイラ―は衝撃と爆発により、大爆発し熱せられた高圧水蒸気が勢い良く噴き出し
機関部の機材・人員を殺傷して行く。

それにより、残ったボイラー全てが停止に追い込んだ。

やがて、火災が発生し、もはや手が救えないと知るや総員退艦命令が出された。



次に襲われたのは、ホーネットであった。ホーネットには約20機のケイト(97式艦攻)が襲撃した。
ケイトは次々に落とされながらも、左舷に3発、右舷に2発の魚雷を受けた。


一度に5発の魚雷を受けながらも、かろうじて、沈没の危機を逃れ、駆逐艦に曳航されながら真珠湾に帰港することになった。


彼らは数時間の間に一挙に2隻の空母を無力化され、当初は3対4で始まったミッドウェー海戦が
3対2に好転しながらも、1対2という最悪な状態に追い込まれた。


それでも、彼らは諦めなかった。エンタープライズの格納庫にあった予備機のSBDを引っぱり出したり
ヨークタウンに着艦する寸前に爆撃されて、エンタープライズに着艦したヨークタウンのSBDや
空母会敵失敗しミッドウェーに着陸したホーネットのSBDもかき集めて、数を揃えようとした。


彼らの努力はエンタープライズの飛行甲板に並べられたSBD36機という形で実った。

やがて、彼らは発艦して行った。誰もが悲痛な表情で・・・。それを見た乗組員は黙って見送るほかなかった。











才人は疲れた体を押して、この日4度目の発艦をしていた。任務は上空直掩であった。


飛龍・蒼龍の反撃により2隻の空母を撃沈破させたが、彼らの犠牲も大きかった。

第2次攻撃隊として蒼龍から出撃した攻撃隊は、99式艦爆5機、零戦3機撃墜され
第3次攻撃隊は97式艦攻7機、零戦2機撃墜された。

撃墜されないまでも、損傷により、再出撃不能の機体が出てくるので、最終的に蒼龍の稼働機は
99式艦爆9機、97式艦攻3機に落ち込んだ。

飛龍も似たような状況で、このまま白昼攻撃は難しいとして、薄暮攻撃として、時間をずらすことになった。

その間の守りとして、才人たち零戦が直掩として発艦されたのだ。蒼龍は度重なる迎撃・空戦により
零戦は4機しか発艦出来なかった。柴田1飛は蒼龍に着艦できず、駆逐艦に拾われ
第3次攻撃隊に出撃した赤城の大尉は97式艦攻を狙うF4Fからかばって、戦死した。

他にも似たような理由で零戦は消耗してきた。


それでも才人は発艦した。第4次攻撃は薄暮となるので、迎撃戦闘機は無いと案断され
爆撃機だけが行くので、これが最後の発艦となるのだ。


直掩機は飛龍と蒼龍合わせても零戦は9機しかなかった。その数少ない直掩機も、疲労がたまっている搭乗員がいるのか
時折ふらついていた。才人たちはSBDを警戒して高度5000mで哨戒していた。


やがて、誰かがバンクを振った。それは緩慢な動きであった。やがて、彼らは遠くから黒粒が見えてきた

才人たちは気付かれないように、彼らの上を占位し待ち伏せする。


時を見計らって次々と急降下する。SBDが驚き慌てる様子が見えたが、遅かった。

才人は照準機に大きく膨れるSBDを照準に入れて、撃つ。狙ったSBDが胴体から炎を上げて墜ち行くのが見えた。

才人たちは初撃で6機落とす事が出来た。だが、機首を上げて2撃を掛ける事は出来なかった。

なぜなら彼らにはF4Fが護衛機としてついていたからだ。


数は6機と少なかったが、才人たちの行動を妨害するのに十分な数であった。


才人たちがF4Fに拘束されて動けない事をしり目に、SBDは次々と急降下する。

才人はその様子に歯噛みする他なかった。


――逃げろ!蒼龍!
才人は蒼龍が逃げ切れる事を祈った。









蒼龍の乗組員は遅い昼食を食べていた。彼らは朝食を食べて以来、敵が波状攻撃に迫ってくるため
ろくに食事が取れなかったのである。


彼らは疲れっきた体で黙々と握り飯を食っていた。


ある機銃座の配置の男が慌てて食べたのかのどを詰まらせた。それを見た周りの戦友が笑う。
男が胸を叩きながら空を見たとき、男の表情が凍った。


上空から、敵機が突っ込んでくるのだ。


「敵機―!直上!急降下―!」
男は声をからしながら叫んだ。周りの戦友たちも固まるのが気配で感じた。

だが、男はそれを無視し、機銃に飛び付き、慌てて旋回する。
じれったいほど遅い速度で機銃が回転する。

やがて、旋回が終わった時に機銃を発砲始めるが、敵機はもう間近に迫っていた。

――だめだ。間に合わない。
男がそう思った時、艦が傾いて回頭するのが感じ取れた。
だが、男が予想した通り、間に合わなかった。




急降下爆撃機は金属音を奏でながら、次々と爆弾を投弾する。1発目は遠弾になり
蒼龍から離れたところで水柱が上げられた。

2、3、4機目も同じ結果で、蒼龍から離れたところで水柱を上げたのみであった。
5,6,7機目はやや艦に近づき、至近弾となったが艦に命中する気配がない。

しかし、8機目はかわせなかった。男は急降下爆撃機から爆弾が離れて
その爆弾が前部に吸い込まれる様子をスローモーションのように見ていた。

爆弾が飛行甲板から姿を消すと、衝撃を感じた。男は機銃座に身を投げ出された。苦痛をあえぐ間もなく
もう一度衝撃を感じ、周りから絶叫が聞こえてくる。


男が意識を取り戻すと、何かがのしかかるような感じがして重たかった。男は声を掛けるが動く気配がない。

しょうがないとばかりに体をどけると、首から上が無い死体があった。


男は、ひゅっと息を飲み、悲鳴を上げると、機銃座から飛行甲板に起き上がった。


そこには


たくさんの戦友が折り重なって倒れて、飛行甲板の前部が燃えていた。
蒼龍から離れたところにいた飛龍が炎上していた。


男は一瞬茫然となるも、我に帰り、すでに消化を始めている戦友の手伝いに駆け付けた。




蒼龍を襲ったのは12機のSBDであった。SBDの攻撃をごととくかわすも、かわしきれず被弾してしまい
2発命中弾を喰らった。しかし、蒼龍は幸運であった。


2発とも飛行甲板の前部で、戦闘機もない空の格納庫であったため
火災が発生したものの被弾から30分で消火する事が出来た。

飛行甲板前部に大穴ができたものの、後部を使って着艦する事は可能だった。




だが、飛龍は蒼龍ほど幸運ではなかった。



飛龍は18機のSBDに襲われた。飛龍も回頭でかわすも、6発も直撃弾を喰らってしまった。
前部に4発・中部に2発と前部に集中したため、エレベータが吹っ飛び艦橋にのしかかるような形となった。

また、中部の直撃弾は煙路をぶち抜いて炸裂し、飛龍のボイラーを瞬時に停止させ
火災が発生したため、機関部に熱をこもった空気が流れ込んだ。
その高熱を浴びて次々と機関員が倒れ出した。

機関部が壊滅したため、飛龍の動力がなくなり、間もなく洋上に漂流する艦だけとなった。



飛龍の損害はこれだけではなかった。あるSBDが爆弾投下後、離脱する時、後部旋回機銃が機銃をばらまいていった。

その機銃が艦橋に入り込んで、跳弾となり、ある人物の胸部に命中した。

その人物は胸部を抑えてよろけるように倒れ、人が掛け寄るのを感じた。その人物は山口多聞少将であった。



山口少将はどくどく流れる血を抑えながら、衛生兵を呼ぶが、医療室は火災で通行が不可能だということだ。そして山口少将は意識を失ってしまった。

そこで、飛龍艦長、加来止男大佐は、司令部を間もなく消火が完了する蒼龍に移ってはどうかと具申し
司令部は具申を受け、搭乗員と共に蒼龍に移った。

加来止男大佐は、窓ガラスが割れた艦橋で彼らを敬礼で見送った。


これが第2航空戦隊司令部と加来止男大佐の別れであった。



炎上する飛龍は残された乗組員と呼び寄せた駆逐艦が協力して、消火作業に従事した。
やがて、夜になり、火災も下火になり、消火完了だと誰もが安堵した時


突然、飛龍が大音響と共に、大爆発が起こった。


飛龍は火災を起こしながら大傾斜し、ゆっくりと傾きながら後部から沈んでいった。


飛龍の周りには総員退艦命令が出されたのか、脱出する乗組員があった。


飛龍の沈没原因は、火災が弾薬庫を誘爆したとも、ガソリン庫に引火して大爆発したとも伝えられている。
近年ではアメリカ潜水艦が炎上する飛龍に魚雷攻撃したという証言が上がっているが、真実は未だに分かっていない。



才人は、その景色を蒼龍飛行甲板で目撃していた。才人はSBDが爆撃された後にも燃料ギリギリまで直掩し
空襲しに来たB-17を追い払い、蒼龍の無事な後部を使って着艦する事が出来た。


才人は茫然として、眺めるほかなかった。才人の働きにより、蒼龍が助かった。だが、その分他の艦に不幸を
まき散らしてしまったのではないかとすら、考えてしまうほどだった。

才人の周りには飛龍から脱出した搭乗員が蹲って、涙を流していた。


やがて、飛龍が波間に消えた時、別れを告げるかのように最期の爆発音が轟いた。


その時、どこからともかく

「飛龍――!バンザ―イ!」

という声が聞こえてきて、その声が続くうちに一人、二人と続くようになり
やがて、乗員全員が万歳をしていた。





ミッドウェー作戦は失敗に終わった。

加賀は被弾後、乗員が消火に努めたが消火できず、総員退艦命令が出され
午後4時に大爆発を起こし、沈没して行った。


赤城は、誘爆を起こし消火が不可能となるも、今だに沈没せず、赤城艦長青木大佐は赤城は救えるではないかと考え
一度総員退艦をだすも、もう一度赤城に乗り込み消火作業を行う。

しかし、火災を消す事が出来ず、飛龍・蒼龍が被弾したため連合艦隊司令部より、作戦中止命令が下り
午前2時に赤城の処分命令が出された。


青木大佐は退艦を拒むも、部下に説得されて、一緒に赤城を退艦した。

駆逐艦から魚雷が発射し、3本の水柱が立ち、赤城は急速に傾いて沈没した。
青木大佐は涙を流しながら赤城に別れを告げていた。



確かにミッドウェー海戦は敗れた。多くの犠牲も出た。だが、多くの犠牲の中で、幾つかの希望が残された。

蒼龍が生き残り、蒼龍に積まれた13試艦爆も日本に持ち帰る事が出来た。

これは、開発が遅延していた事も相まって13試艦爆の貴重な実戦データにより
艦爆化への実戦配備を早める事が出来た。

また、意識不明とはいえ、山口少将が生還したことも希望の一つであろう。

蒼龍に移った後、一命を取り留め、日本に帰還してからは、しばらく病養していたが、太平洋戦争後期には大活躍をする。


本来ならば、勝利者として名乗り上げるアメリカ海軍であるが、彼らもまた犠牲が大きかった。

ヨークタウンを失い、ホーネットを大破させられ、しばらく戦線に出てくる事はなかった。


そして、何より彼らの大きな問題となったのは搭乗員であった。ミッドウェー機や南雲機動部隊の攻撃に行った
空母搭乗員の大半が戦死したのだ。特に雷撃隊は全滅であるといってもいい大損害を喰らい
主役SBDも半数は帰らなかった。

エンタープライズに残された艦載機の数は少なかった。


これは、翌日のミッドウェー海戦追撃戦でも影響を及ぼした。

昨日の夜、衝突した日本の巡洋艦最上・三隈にエンタープライズの艦載機が襲撃したが
機数が少なく、彼女らは直撃弾を喰らいながらも日本に帰還する事が出来た。


この時にも、少なからずの数のSBDが落とされたため、しばらく作戦行動不能となった。

これには、後の南太平洋に大きな影響を及ぼした。



ミッドウェー海戦は終焉した。だが、そこには勝利者の姿は無く、日本側に不利な痛み分けであった。
日本の攻勢はここで止まった。後の歴史家はここが太平洋戦争ターニングポイントであったという。



[32038] ミッドウェー海戦の後始末
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 15:29
――木津更基地

才人達は修理のために横須賀に寄港した蒼龍から退艦し木更津基地へ行く汽車に乗っていた。
才人達は疲労困憊の表情で言葉を交わすこともなく、ただ、黙々と座っていた。
数人の戦友と木更津基地に帰ってきた才人達を待ち構えていたのは大勢の記者たちであった。



6月上旬に行われた海軍が全力を挙げた決戦、AF作戦は正規空母3隻喪失・1隻大破という大敗北を経験した。

日本海軍もヨークタウンを葬り、ホーネットを大破させたので一見、日本海軍に不利な引き分けと見えるが
基礎工業力が違いすぎるため、正規空母喪失は日本海軍にとっては大きな痛手であった。


上層部は敗報に右往左往しながらもいくつかの対策を立てた。

・空母及び航空機の増長に努める
 海軍の建艦計画はどちらかというと戦艦を中心とする艦隊決戦主義であったが、今戦争は空母・航空機が活躍したので
この計画を取りやめ新たな建艦計画を立てた。それが改マル5計画である。
 これは、戦艦・超甲巡の建造を取りやめ、空母の建造を優先とするものであった。それを受けて建造中であった
大和型3号艦は空母へと改装が決まった。また、ミッドウェー海戦から帰還した最上・三隅は航空巡洋艦へと改修された。
 さらにミッドウェー海戦で喪失した空母の穴埋めのために改飛龍型である雲竜型を15隻という大量建造が決定された。
しかし、終戦までに起工できたのは6隻で竣工したのはたったの3隻であった。

・主力艦に電探を装備する
 これは、空母の喪失の原因の一つである、上空からの奇襲を防ぐためであった。あの時誰もが低空から
やってくる雷撃機に注目して、上空からやってくる敵に気付かなかったのである。
 そこで、ミッドウェー海戦から帰還した、蒼龍艦長柳本大佐が「電探があれば奇襲は未然に防げれた」と主張し電探が注目されたのである。
 海軍上層部は全空母に電探を装備する工事が行われた。それに合わせて、戦闘機隊と連絡がスムーズに行えるように無線電話の整備も力を入れるようになった。


こうして、敗北しながらもより良くしようと努力が行われた一方で、悪しきの影があった。

まず、国民にはミッドウェー海戦の敗北を隠したことであった。国民に厭戦気分を起こさせないという
もっともな理由をつけて損害をひた隠ししたのである。

次に、沈没した空母の乗組員・搭乗員は各基地に隔離された。これも敗戦を隠すための一策であった。


そして、上層部は敗戦を隠すためには大きな派手な戦果がほしかった。

その戦果はあった。


平賀才人一飛曹であった。

平賀一飛曹は4月の本土防空戦に活躍したし、今海戦の直掩も大活躍している。彼らは再び
才人の戦果を大々的に発表し、新聞記者に平賀一飛曹という餌を与えて、敗北からそらし続け、責任を取らなかったのである。


上層部にとって才人は都合のいい駒であった。


そんなわけで才人の前に大勢の記者たちが群がってきて、戦場の感想や武勇伝を聞きたがっていたのだ。

才人は、その様子に内心苦々しく思っていた。
――ここに来る前に司令から詳しくしゃべるなと訓示していたが、こういう事かよ。

記者たちは、才人の内心のことを知らないのか
「今海戦はどうですか?」
「あなたはどのように敵を落としたのですか?」
「どの様に勝利に貢献しましたか?」

ここにいる記者たちはミッドウェー海戦の真実を知らない。ただ、勝利をしたという事だけしか知らない。

赤城・加賀・飛龍が沈んだことも知らない。大勢の戦友たちが戦死したことも知らない。才人の恩師が戦死したことも知らない。
それどころが敗れたことすら知らない。ただ、歪曲された勝利と戦果だけが伝えられていた。

才人は、悪意を持たずに話しかけてくる記者たちに
「この海戦は負けだった。大勢の戦友たちが死んだんだ」と大声を出して叫びたかった。

それでもなお、多くの記者たちは群がってくる。

しかし、それは才人だけであった。ほかの隊員は見向きもせずに才人だけ質問を掛けてくる。

それは、才人に注目していることに他ならないのだが、才人は元の世界のある友人を思い出した。

その友人の親と妹が飲酒運転による交通事故で亡くなったが、それからというのも大勢のマスコミ関係者が、
連日のようにTVで取り上げられたり、自宅や学校までも押しかけられて多大な迷惑をかけてきた。
連日あることないことを書かされて、友人はつらい思いをした。それなのに、熱がさめたら謝罪もせずに帰って行った。

それからというのも友人はマスコミ嫌いとなった。

―――過去の世界であっても、マスコミの迷惑さは変わらないか。
才人は目の前にいる記者たちが嫌いになりそうだった。

―――4月の俺はバカだったな。
東京湾海戦の時も大勢の記者たちが、集まってきたが、あの時は大勢の記者たちが囲まれるのは
初めての経験だったため、浮かれて、調子に乗っていたんだ。

そのツケがこれであった。

彼らはあの時のように、すぐに何でもインタビューできると思っているのだ。

「ほかの隊員には聞かないのですか?」
才人が質問するとこんな返事が返ってきた。

「いえ、あなたが一番に活躍したと聞いたのです。ほかの隊員の話を聞いてもつまらないです。」

才人はその記者に殴りたそうになった。

戦争は一人で勝てると思っているのなら、それは大間違いである。零戦を戦場までに運んでくれた艦船や人員がいる。
燃料や弾薬を補給してくれる整備員がいる。才人をサポートしてくれる仲間がいる。
才人の援護の元、安心して攻撃に向かえる艦攻・艦爆乗りがいる。大勢の人々がいる。

そんな、彼らと合わせることによって、初めて戦果が生まれるのである。

それなのに、目の前にいる記者はそんな彼らを蔑にする様な発言をしたのである。

才人は殴りたくなる衝動をグッと堪えて
「話すことはありません。急いでいますので」

その場から記者を押しのけて、足早に基地に向かった。才人の後方からざわめく声が聞こえてくるが、才人は無視して進んだ。




数日後

才人達の6空は補充に奔走していた。本隊の零戦はミッドウェー海戦により空母もろとも喪失した機体が多く
僅かに蒼龍に着艦できた6機だけであった。分遣隊の隼鷹の零戦はそのまま隼鷹部隊に譲渡したため
零戦は前述の6機だけであった。

才人達は手分けしながら零戦の補充に駆り出され、その合間を縫って補充員に対しての厳しい訓練も行われた。
部隊の零戦は「東京湾海戦」(ドーリットル空襲の日本名)で活躍し、晴れて正式採用された零戦21型甲が半数を占めた。

才人はその厳しい訓練の合間にある病院に訪れた。

病院独自の雰囲気の中を歩きながら、時々すれ違う入院患者や看護婦さんに会釈しながら
目的地の病室の前に立ち止まりノックする。


コンコン

「おう、入れ」
「失礼するぞ」

才人は声をかけながら扉を開けて中に入る。

そこには、ベッドの上に体中を包帯でぐるぐる巻きになっていたミイラ男がいた。

「体の加減はどうだ?佐々木」
「おう、大丈夫だ。」

そう、この部屋で入院しているのは佐々木であった。

佐々木は、あの時、爆撃により背中に破片をもらい、その後に続いた大火災によって全身大やけどを負ってのである。

佐々木は意識もうろうとし、生命の危機であったが、近くにいた乗組員が救助をしてくれたおかげで
何とか一命を取り留め赤城から退艦することができた。

その後、主隊と合流し戦艦長門に収容して、治療を受けることができた。

それでも重傷に変わりなく、1年間入院とリハビリを余儀なくさせられていた。

「佐々木・・・。本当に大丈夫か・・・?」
「俺が大丈夫ったら、大丈夫だ!」
佐々木本人は気にもとめてないようだ。

「まあ、元気そうだからいいか。それでも俺は訓練で忙しいからな。」
「ああ、それは、飛行場から聞こえてくる爆音で分かるぜ。」
佐々木は音だけで察しているようだ。

「佐々木・・・。すまんな。俺が五体無事でお前が重傷を負ってしまうなんて
なんか悪いことをしてしまった気になってしまうよ。」
「ああ、それは構んってこった。それはある意味俺の運が悪かったからだしな。それよりも訓練で忙しいという事は
近くお前たちも戦場に行く日が近いぞ。お前も俺のような大けがをするんじゃないぞ。」

佐々木は真剣な目で才人をみる。

「ああ・・・。分かっている。」
才人も真剣な表情で言う。

二人はその後、世間話をして時間が迫ってきたので才人は基地に戻って行った。






8月

才人は今日も厳しい訓練を終了させて、宿舎に戻ろうとするとき、司令部に呼び出された。

才人は疑問を持ちながら司令部に行くとそこには数人の隊員と司令官がいた。
才人は何事かと思うと司令官から、訓示が行われた。

それは、海軍が次期作戦である米豪遮断作戦を立てており、そこで前進基地を建設した。
そこで、才人達は基地航空隊として進出することが決定した。

だが、一つ問題が起きた。乗せるべき空母と船がその当時なかったことである。戦況でのんびりと待っていられないので
この当時は、まだ未開発である空路による日本本土からその目的地へと進出することが決定した。

そこで、開戦当初に行われた渡洋作戦の経験があるものを中心に集められた。彼らを先遣隊とし、後から来る本隊は船で輸送することが決められた。

才人たち18名は準備のために退出した。

残された司令官は才人達に目的地を示すために広げられた地図を見ながら、ある1点をじっと見つめていた。



その目的地はガダルカナル島であった。



[32038] 渡洋
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 11:00
――翌日


才人は早朝に起きだし、才人に割り当てられた機体の整備に出かけた。今回は長距離飛行となるので
万が一の不備が出ないようにするためだ。

なお、機体は蒼龍時代から乗り続けた機体で、番号はF―011であった。才人は整備士と一緒に機体の点検をしていく。

ガンダルーブを使っても特に問題もなかったため、朝食をとるため、食堂に移動するが
才人はそこで飛行隊長からあることを知ったのだ。


「えっ、大垣大尉が盲腸炎で入院?」
「ああ、昨晩突然痛み出してな、診察したところ、盲腸炎だったという事で緊急手術を行った」


大垣大尉は才人の小隊の小隊長であるはずだった。柴田1飛がミッドウェー海戦で被弾し
駆逐艦のそばで着水するときに、着水の衝撃で顔を強打し、3か月の怪我で入院することになった。

また、長らく下士官だけの小隊が続いたという事で、普通の小隊に戻すために
長距離移動任務という事で渡洋作戦の参加者であった
大尉が小隊長という事で参加する手はずだったが
入院で取りやめになってしまった。

「では、北条3飛曹と二人だけで移動することになるのでしょうか?」
「いや、3機で行ってもらう事にする。今は戦時なので、何が起きるか分からん。
そんな不安定要素を少なくするために1機でも多いほうがよい」
上官はそう答えた。

「では、誰と共に行かれるのですか?」
才人の質問は当然のことであった。


なぜなら、ミッドウェー海戦で多くの空戦経験者の士官組が戦死や負傷などで少なくなったのである。
この移動任務も士官組はギリギリの数であった。


「そこなんだが、技量に不安があるが中尉と行ってもらう」
「はあ、やはりそうなりますか。新米中尉のお守りなんて承服しかねますよ」
才人は落胆したような声を挙げる。

中尉というのはミッドウェー海戦後に補充してきた、士官であるが、彼らは海兵学校を卒業したばかりであった。
当然のことなら、技量は圧倒的に不足でもあるし、彼らと才人の仲は一人を除いてとても悪かったのである。


「まあ、そんなに腐るな平賀1飛曹。君の小隊に入るのは君も知っている中尉だ。その中尉なら君も納得いくはずだ」
「そうだ。俺じゃ役不足か?」

才人は後ろから聞こえてきた声に驚き慌てながら振り返る。そこには件の中尉がいた。

「す・・鈴木中尉、おはようございます。いえ、そんなことありません!」
「ああ、おはよう。飛行隊長からすでに聞いていると思うが
平賀1飛曹の小隊の小隊長になった。よろしくな平賀1飛曹」

そう、才人と仲が良好だったのは鈴木中尉であったのである。



なぜ、才人と中尉達の仲が悪かったと言えば、模擬空戦にあった。

他のベテラン搭乗員は少々手加減して、中尉と空戦するのだが、才人は手加減一切なしの
本気の空戦で中尉と訓練していたのである。

他の搭乗員が注意しても、才人は
「戦場での戦死者を少なくするために必要なことだ!」
と言って、手加減を行わなかったのである。

更に、地上に降りてからも問題があった。それは、模擬空戦が終わった後にアドバイスをするが
才人は良い所を言わずに悪い所ばかりを述べたのである。

それも容赦なく論理的に、経験的に叩き伏せたのであった。

それも才人は戦死者を出して欲しくないという思いからであったが、海兵に出たばかりの新米中尉達にとって
下階級の者から言われることは愉快なはずもなく

訓練以外では一切に関わらず無視したり、お礼参りと称して、鉄拳制裁を行った中尉もいた。

そのような状態であったから、殆どの中尉は遠ざかったが、1人だけは近づいてきた。

その人物が鈴木中尉であった。


鈴木中尉もまた、才人の容赦のない攻撃・口撃を受けた一人であるが、鈴木中尉は腹を立てることもなく
しっかりと受け止め、自由時間の時にもう一度教えを請いに来たのである。


鈴木中尉は自分の腕は未熟であると自覚していたので、変に江田島出のプライドを持つことなく接したのである。


才人も驚いたものの、鈴木中尉に操縦のやり方、戦場での役立つ方法・空戦の極意などを教えたのである。

このようなやり取りが数回続き、やがて、二人には師匠と弟子のような関係が出来上がったのだ。

才人の教えを守った、鈴木中尉の技量はメキメキと上がり、鈴木の同期と行った模擬空戦では
鈴木中尉が一番勝ち残り、ベテラン搭乗員相手にも最後まで食いつかせ、他のベテラン搭乗員を感心させたのである。


だから、鈴木中尉は平賀才人が認めた数少ない人であった。




「というわけで、よろしく頼みますよ、平賀1飛曹。いえ、師匠」
「勘弁してください。鈴木中尉のほうが階級が上なんですから
そのような呼び方はやめてくださいよ」
才人は無茶をできるが、公私の判断ができるようだ。


「はっはっ、それもそうか。まあ北条3飛曹もあいさつして準備にとりかかろうか」
才人と鈴木中尉はそのような会話を続け、北条3飛曹にも大垣大尉の事を伝える。


才人は、その後、入院している大垣大尉に一言あいさつをしてきて、飛行場に出かけた。

飛行場には才人の愛機も含む18機の零戦が有った。零戦の周りには整備士がせわしなく駆け回り
暖気運転の為かどの機のプロペラは回っていた。


才人はそれを横目に見ながら、鈴木中尉に長距離飛行のコツを教える。
「いいですか。栄エンジンは滅多に停止しないエンジンですので、エンジンの出力をギリギリまで絞ってください。
絞らないと燃費が上がって、途中で燃料が足りなく、海にドボンです」
「うん、エンジンの出力をギリギリまで絞るのがコツと。他には?」
「そうですね、できるだけ揺すらないで、真っ直ぐに綺麗に飛んでください。
揺するとこれまた燃料を消費する原因となるので」
才人はできるだけのコツを教え続けた。



――午前9時
才人を含む18機の先遣隊は木津更基地から離陸した。彼らの最終移動目標は昨日教えたばかりの
ガダルカナル島であるが、途中で補給と休息のためにいくつかの基地に着陸する必要があった。

最初の補給地は硫黄島であった。





新基地ガダルカナル島へと移動するために零戦18機と誘導役の1式陸攻2機で飛行し始めた才人達。

どの機の零戦は快調にプロペラを回し続け、異常がないように感じられた。
天候は快晴で誘導役の1式陸攻も異常なく飛行しており
まさに最高のコンデイション状態であった。


だが、才人の心は晴れなかった。なぜなら



――っ!早すぎる。やはり絞りきれてない。
そう、鈴木中尉であった。


鈴木中尉の零戦は他の機体と比べて、明らかにエンジンの回転速度が速く
巡航速度も多少速かった。訓練不足であることが隠しきれなかった。


それでも、鈴木中尉は卒業したばかりの海兵学校出身者にしては、エンジンの回転をよく絞れた方であろう。

事実、彼の同期と比べても、訓練終了後の機体燃料の残量が一番多く残っていたのは彼であった。

また、移動任務に当たっては、経験者にコツを聞きまわっており、それなりに努力をしている。


しかし、開戦数カ月前から燃費の消耗を抑える訓練をやり続け、渡洋作戦をやり遂げた搭乗員と比べると
どうしても鈴木中尉は陰って見えるのである。


最初は、比較的近い硫黄島であるから、燃料は十分にある。


しかし、今後の目的地を考えると燃料が足りないのである。燃料が足りなくなると途中不時着もありうるのである。


洋上での不時着は、運がよければ救助の可能性はあるが、大半は鮫によって喰われてなくなる搭乗員が多いのだ。

ある、ベテランパイロットは「鮫に食われて死ぬくらいなら、体当たりを選ぶよ」と言った。
それほど、鮫に対して恐れを抱いていたのである。


鈴木中尉もありうる可能性であった。

「だけど、きちんと目的地までは引っ張ってやりますよ。中尉」
才人は一人そうつぶやく。



才人達の零戦は1機の事故もなく硫黄島にようやくたどり着いた。

この時期の硫黄島は、飛行場はまだ拡張されてない時期だったので
狭かったものの、全機すんなりと着陸することができた。


誘導役の1式陸攻は硫黄島に着陸することができないので、一足先にサイパンに行き
翌日空中で合流する手はずとなっていた。


駐留場に零戦を止めて、エンジンを切った才人はコクピットから降りると
向こうから一足先に飛行場に降り立った、鈴木がやってきた。

「平賀1飛曹、どうですか俺の飛行ぶりは?」
先ほどの移動についての感想を求めているようだ。

才人は口ごもってしまった。


才人個人としては褒めてあげたい。だが、平賀1飛曹としては厳しく接しなければならない。
戦場での燃料切れは致命的なことであり、重要なことであるので叩き込まねばならない。


「いえ、いけません。あの調子では、燃料がいくつあっても足りません。中尉はもっとエンジンを絞る努力を続けてください」
と、エンジンの絞るコツを長々と話す。


「うーん、そうか・・・。参考になったぞ。ありがとう平賀1飛曹」
来る前とは打って変わってしょんぼりした態度で、離れていく。


才人は厳しくしすぎたかと思ったが、心を鬼にしなければならない。


飛行場の脇に立っている貧素な兵舎に足を向けながらも才人はこれからのことを思う。


――本当に遠いところまできてしまったなぁ。
そこには様々な複雑な思いがこめられていた。




――翌日

才人達の先遣隊の零戦18機はエンジンを回し、暖機運転を行っていた。

硫黄島は大掛かりな整備が行えないので、何機かは残されると
予想されたが幸いにもそのような事態はなかった。


しばらく待っていると、誘導役の一式陸攻がやってきたので
空へと旅立っていった。


彼らは、次の中継地サイパンへと向かうが、天候も良好で何事もなくつくだろうと予想したが・・・。



――おや?スコールか。
才人は前方に大きな雨雲が発生しているのを認めた。
雨雲は黒く、雨が降っている下の部分は豪雨で見えなかった。


もちろん、そのまま突っ切ることなく、誘導の一式陸攻は大きく迂回するように進路をとる。
後続する零戦も後に続く。



異常事態が発生したのはそのときだった。


――なっ!スコールが目に前に来た!?
そう、突如スコールが進路を変えて、才人の零戦達の前に立ちふさがり
どうしょうもなく、そのまますっぽりと入ってしまった。


――止むを得んな。そのままスコールが終わるのを飛び続けるしかないか。
雲中飛行の際はなるべく、進路を変えずにまっすぐ飛行するほかないのである。

なぜなら、不用意に進路を変えると空中衝突が多くなるからだ。特にこういう
視界零の世界は一瞬の事故はあの世行きである。


――だけど、鈴木中尉がそれができるかどうか。
才人は前方に飛ぶ、鈴木中尉の零戦の翼灯に付いていきながら思う。




やがて、長いスコールを抜け出すことができたが、そこで、また驚愕すべきことが判明する。

何と、一式陸攻や鈴木中尉以外の零戦の姿を見ることがなかった。そう、才人達ははぐれてしまったのだ。


――これはまずい事態だな。さて、どうするかな?
才人は考えるが、その前に鈴木中尉がスピードを上げるのが見えてしまった。



才人は長い経験があるので落ち着けるが、何かもが初めての経験であり、極度の緊張状態であった鈴木中尉は
このような事態に対処できるはずもなくパニック状態であった。

当てもなく、スピードを上げて機体を上下左右に揺さぶる。
まるで、そうすれば事態が解決できると信じているかのように。



才人はそれを痛ましげに見た後、スピードを上げて、鈴木中尉の零戦と横並びし、機体を傾け

「落ち着けーーー!!」

無線が通じないから届くはずがないのだが、大声を出しながら、乱暴に翼と翼をぶつけ合った。




それで、鈴木中尉も正気に返り、あちこちをキョロキョロした後に、不安そうに顔を向け、手信号で

「ドウスル」

と合図した。



才人も「オチツイテクダサイ ダイジョウブデス」と合図を行うと、まず、航空時計で経過した時間を見
そして、燃料計、地図を見て、更に風防をあけ、海を見て風向き、空を見上げ太陽の位置を確認する。



「・・・・・・・」
空をにらみながら、才人の頭にはさまざまな要素を複合的に組み合わせて考える。



やがて、大まかな現在地が割り切ることができた。


才人は、鈴木中尉を案内させるために、バンクを振りながら、誘導を開始する。
鈴木中尉もそれに従う。







天気は憎たらしいほど快晴で、海面には何もない青だけが広がっていた。
その中を2機は飛び続ける。








何事もない平時なら、空を楽しめただろうが、今の事態では、島一つすら見えない
青が続く世界を飛び続けることは苦痛でしかなかった。








時間が立てばたつほど、才人の焦りが増し、自分の計算が間違えたのかと
悶々とした気持ちを抱えながら飛ぶ。







どれほどたったのだろうか。ふと、右の視界の隅に何かが見えた様な気がした。

才人はそれが何なのか確認できなかったが、あそこに行けばとかなると確信めいた直感で、バンクを振りながら、機体を右に傾ける。






彼らの表情は暗かった。

スコールに入る前までは、全機そろっていたのだが、スコールを抜けだすと、2機が不明になっていた。

それも、期待の新米中尉と部隊の至宝であるエースであった。

彼らはあわてると共に、2機ある誘導役の一式陸攻のうち1機が捜索に出かけ
サイパンや硫黄島に捜索願を出したが、サイパンに着いた後にも連絡がなく
墜死かと諦めかけたその時、彼らの耳に爆音が響いた。
それも聞きなれた爆音であった。

彼らはまさかと思うと、同時に外へと飛び出した。


飛行場のはるか向こうに広がる大空、その上空に浮かぶ2機の零戦、それはまさしく、はぐれた2人であった。彼らは歓喜の声を上げた。



才人は、安堵していた。

眼下には島があり、飛行場があり、そして、仲間の姿が見えた。
横を見れば、泣きたそうな表情を浮かべていた鈴木中尉があった。


才人は、安堵のため息をつくとともに、指を一本飛行場へと向け、降りましょうと合図をした。


零戦は1機ずつ降り立ち、駐留場に止めると、仲間たちが駆け寄るの見え、「よくやった」と褒め称えた。

才人がもみくちゃされていると、人並みから、鈴木中尉が掻き分けてはいるの見え、才人のそばに駆け寄ると、何度も何度も感謝された。


才人はそれを照れくさそうだった。





[32038] 渡洋 終わり
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/17 22:57
――昭和17年8月


才人達はガダルカナル島へと渡洋しているところだった。

途中、才人は遭難しかけるが、無事に合流することができた。

サイパンで一日がかりで整備を行い、トラック諸島を経由し、ラバウルへとたどり着くことができた。

才人はそこで、古い戦友と再会する。




「うひょー。なんとも不気味な場所だぜ」
ラバウルの飛行場に降り立ちながら、そうつぶやく才人。


実際に、ラバウルの飛行場は火山の近くにあり、上空から見ても、火山灰が何度も吹き上げられていて、地獄のようあった。

また、飛行場は火山灰の土でできており、零戦が着陸や移動するたびに白い土が巻き上げられるのである。

飛行作業を行う場所としては、最低な方だろう。


「まあ、しばらくの間だしな」
最終目的地である、ガダルカナルへはラバウルから1000kmで、移送には十分ではあるが
ガダルカナルでは、最終ピッチ状態で受け入れ準備がまだ済ませてないため、最寄の基地ラバウルでしばらく待機となっていた。


一同は、基地所に集合し、司令官に到着報告と滞在報告を済ませて、兵舎へと移動中に声がかけられた。


「平賀?平賀じゃないか!」
声がかかったほうに振り返ると

「坂井?坂井じゃないか!」
そこには、戦友であった坂井が駆けつけていた。


「いやー、久しぶりだなー。元気そうでよかった」
「ああ、お前も元気そうだな」
二人は、近寄るとがっしりと握手しながら、挨拶を交わす。


「お前さんは、東京で派手に暴れまわったって?辺境地のラバウルでも轟いとるぞ」
「やめてくれよ。あのときの話は。今から思い返すと俺が馬鹿に見えるから」
才人は、記者に対応した、過去の自分を思いながら言う。


「それでも、撃墜したのは事実なんだろ?その上で東京を守れたことは誇っていいじゃないか?」
「まあな・・・・。そうなんだけどな」
その後の、ミッドウェー海戦の時も含めた、上層部の対応を語った。


「それは酷いな。自分達の不手際を、下の者に尻拭いさせるなんて」
「そう、今の俺は、軍の狗だよ」
才人は自嘲気味に言った。


才人が、語るようにどこ行っても、記者に追いかけられたり、何かしらよからぬ視線を感じ取れたりなどと様々であった。
東京湾海戦後も度々あったが、ミッドウェー海戦後にそれが顕著となる。

上陸日に町へと繰り出しても落ち着くことができず、むしろ基地で過ごしたほうが落ち着くことができたという有様であった。


才人が望む・望まざるえないに軍・民から結果を出し続けねばならなかった。


「そうか・・・」
坂井もそれ以上聞かなかった。


その場に、気まずい空気が流れ出したが、話題をうまく転換させて、ラバウルでの話となった。



「ここはいいぞ。敵基地に近い分何度も空戦ができる。まあ、俺は十分食ったから、撃墜スコアは若手に譲り渡しているんだがな」
坂井は常々に個人の力量を伸ばすのではなく、若手に撃墜スコアを譲ってでも、隊員全体の力量を伸ばすべきだと考えており
個人で撃墜させたがる搭乗員においては例外的な人物であった。


「お前さんらしいな。所で中田はどうした?」
才人の開戦時からの部下で、ラバウルへと別れた中田2飛曹を尋ねる。


「ああ・・・。中田か」
坂井は表情を暗くすると、語りだした。



1ヶ月前、敵基地ポートモレスビーへと空襲しに坂井たちが行ったが、その中に中田2飛曹も含まれていた。


空戦も終えて、その時までは、被害もなかったが、弾が空になった機も多く、帰り出そうとした時に
上空からP-40の奇襲を受けて、散り散りにされ、坂井達ベテランが再び纏め上げた時に
この日、初陣となる搭乗員がいて、その後ろにP-40の姿があった。


坂井達は、慌てて援護に出ようとしたが、誰もが弾切れで、躊躇した時に1機の零戦が躍り出て、P-40に体当たりをしたという。


件の零戦が中田2飛曹であり、P-40の胴体へと体当たりし、衝突した零戦とP-40はもつれ合うように落ちて行った。


坂井が墜ち行く零戦に近づきながら風防内を覗いたら、そこには穏やかな笑みを浮かべた中田2飛曹がいた。



その2機はやがてジャングル内へと消えて行った。



「あの馬鹿野郎が・・・」
才人は、低い声で呟いた。



中田2飛曹は若手の前では、明るく振舞っていたが、才人達の古参の前では、いつも思いつめていた。
彼は、開戦初日に遼機を失った。それも、彼と同郷の者で弟の様に可愛がっていて、その日が初陣だった。
きちんとした初陣を味わせてあげたかっただろうが、目の前で無惨に散ったのだ。

何とも残酷な運命だろう。

中田は、この事をずっと引きずっていて、「こうすればよかった。ああすればよかった」と後悔の話を何度も聞いた事があった。

そんな彼からすれば、自分の命を引きかえに初陣の搭乗員を守りきれた事が、彼にとっては満足な事だっただろう。



だから才人はもう一度呟いた。


「あいつはホントに大馬鹿野郎だ」
坂井も同じく思ったのか、小さくうなずいた。


会話も、そこそこに宿舎へと移動し、台南空時代の戦友達と再会し、その晩にはちょっとした宴で彼らは大いに盛り上がった。


しかし、彼らの休息は唐突に終わりを告げた。



翌日、才人が飛行場に行くと、多くの整備士達があちこちへと右往左往しており、怒鳴り声も聞こえてくる。

これは、ただ事ではないと才人は思い、指揮所に移動すると、他の隊員たちも集まっており、一同は戸惑いの表情を見せていた。

やがて、司令が姿を現し発言する。


「本日、未明にツラギ基地の水上航空隊から連絡が届いた。敵機動部隊が上陸船団を伴っているのを発見した。
目標は、ガダルカナルとツラギの占領と思われる。諸君は、これより台南航空隊と合同でガダルカナルへと移動し
敵機動部隊の殲滅に当たれ」


これが、約半年間ソロモン海をめぐって血みどろの戦場となる戦いの幕開けだった。

あとがき
ガダルカナル戦いの幕開けです。この小説ではガダルカナルが日本に最初から保持したまま、敵機動部隊の補足に早期発見に成功しています。

史実では、敵機動部隊の接近に察しすることができず、奇襲となったらしいです。

これから、才人たちがどう戦うかは楽しみください。



[32038] ガダルカナルの戦い 開幕
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/17 23:01
――昭和17年8月

ラバウルに移動した才人達は、そこで戦友と再会し、ガダルカナルへと移動待機の所に米軍の機動部隊の接近を知る。

そこで、台南航空隊と合同でガダルカナルへと至急移動し、迎え撃つことになった。

今、ここに半年間も及ぶ激戦が始まろうとしていた。





ガダルカナル島、それはソロモンの海に浮かぶ、小さな島であった。

かっては、探検家がソロモンの財宝を探し求めて、この島はソロモンの財宝が隠されているに違いないと注目されたが
違うとわかるや興味をなくし、イギリスの保護領となっても依然と注目を浴びることはなかった。
この忘れ去られた島に、才人達の零戦が着陸しようとしていた。


ガダルカナルの飛行場、ルンガ飛行場は滑走路が1本できているだけで、後は何もできていなかったが
陸攻が楽々と離着陸ができるほど立派なものであった。


才人は危なげなく着陸し、そのまま、ジャングルの中に隠すとエンジンのスイッチを切る。
上空から見ると木に隠れて零戦を発見するのは困難であった。


「うーん、ラバウルは何もなかったが、ここではますます何もない」
もうすぐ、機動部隊がやってくるというのにのんびりとそんなことをつぶやく才人。

才人は、即席のバラックへと移動しながら、台南航空隊の若い連中が「決戦だ!決戦だ!」と興奮しあっているのを目撃する。


才人は若いなーと、思いながら呟く。

「しかし、あの連中は本当に理解しているのかねぇ」

なぜなら、ガダルカナル基地は、一応できているとはいえ、未完成である。



と言う事は



「ここには、部品や燃料、弾薬が無いんだよな。」


そう、敵機動部隊が来襲してきたので、防衛線を繰り広げて待ち構えていたのだが
対岸のツラギや一式陸攻の空いているスペースに燃料や部品を積みいれていたが
それでも足らず、数会戦の分しか確保できなかった。

長期戦に入ると、つらい戦いとなるだろう。


才人は、歩きながら向こうからやってきた、鈴木中尉と合流する。

「鈴木中尉、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。しかし、武者震いするか足の震えが止まらん」
チラッと、足を見れば本当にがくがく震えていた。そして、顔色も悪かった。


才人は、これはいけないと思い発破をかける。

「中尉、しっかりしてください。あなたは、技量が抜群と認めてもらえたから
こそ、ここにいるのでしょう。戦闘機乗りとして、もっと自信を持ってください」
「そうだったな・・・。俺も戦闘機乗りだったな。ありがとう、平賀」
顔色も先ほどよりも、ましになっていた。


「いえ、礼には及びません。今日はじっくり睡眠をとって明日の決戦に備えましょう」
才人と鈴木中尉は、その後も言葉もなく歩いていく。





―――翌日


飛行場は、準備に掛かりきりだった。あちこちに整備士が走り回り、ツラギからも応援が来て、準備を進める。

飛行場には、第6空の18機の零戦と台南航空隊の一式陸攻33機、99式艦爆9機、戦闘機18機と
戦闘機36機、爆撃機42機と計78機がガダルカナルにあるすべての機体であった。

ツラギにあった、水上機部隊は索敵に勤め、其の内の1機が敵機動部隊を捕捉することに成功し、後はその目標に向かって攻撃するだけだった。


搭乗員一同が、飛行場の前に集合する。皆、決戦であると覚悟を決めているのか表情は硬かった。

指揮官が、前に出て、顔を動かして、搭乗員を見渡した後。
「諸君。いよいよ、米機動部隊と決戦だ!この中には初陣・経験が浅い者もいるだろうが
今まで培ってきた、技術を活用し、運を信じて全身粉砕に当たれ!1番機が撃墜されたら2番機
2番機が撃墜されたら3番機と先頭機に絶対に続け!」


その言葉に、搭乗員たちはビシッと身が引き締まる感が出された。


そこで、一旦きると、ニヤッとしながら、
「飛行場を盗みに来る、ミ○キーの小僧を俺たちが懲らしめてやろうぜ」

その言葉に搭乗員たちは、ドッと笑う。

ミ○キーは、あの有名なネズミのキャラで、江戸時代の大泥棒、鼠の小僧とかけたのだ。


搭乗員たちは大笑いしながら、緊張が程よく取れたことを感じていた。


指揮官はそれを見ながら
「よーし、いい声だ。これより出撃する。掛れ!」


その声と共に、バッと散らばり、自分の割り当てられた零戦・陸攻・艦爆へと駆け足で駆け付ける。


才人も、自分の機体へと駆け付け、整備士にお礼を言いながら、乗組み、点検を行う。


エンジン音・油温・フットバー・ブレーキ・フラップ・エルロンと点検するがどこにも異常は見られなかった。



才人は、それを確認しながら、前方に並ぶ鈴木中尉を見る。


鈴木中尉も準備ができたようで、ぎこちない笑顔で親指を立てる。才人も返事しながら思う。


――中尉、あなたは俺が絶対に死なせませんから。


才人は、今までの戦闘で多くの戦友を無くしていたが、ミッドウェー海戦で才人の恩師であった東特務少尉を死なせた事が、大変ショックであった。


そのような思いを二度とごめんだった。



だからこそ
「俺が守りますから・・・・」
その声は、周りの喧騒でかき消えた。



やがて、陸攻が先頭になって、離陸を始めた。



あとがき

いよいよ、始まりましたガダルカナルの戦いです。

この戦いは消耗戦でアメリカ軍が得意とする物量が活かされた戦いで、日本海軍は半年の間に軍用機が4千機以上も消耗し、他にも艦艇、輸送艦、陸軍なども多く消耗していった戦いであった。

この世界ではどのように変わるかお楽しみください。



[32038] ガダルカナルの戦い 攻撃開始
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/17 23:08
私は、震えていた。


私は、まだ空戦という戦場を知らないのに、これから敵機動部隊へと殴りこみに行くのだ。



これで平常心を保つことができたら、化け物であるだろうと私は思う。



私は、ふと辺りを見回した。


前方には台南航空隊の零戦が飛び、その後に私たち、爆撃機という順序になっており
台南航空隊が、なぜ先行しているかといえば、私たちは到着したばかりで、錬度も十分ではないということから
熟練者たちがそろっている、台南航空隊が制空権確保の任務を請け負ったからだ。



正直、この話を聞いたときは憤った共に、心のどこかでホッとしていたのも事実だった。



多少遅くなるとはいえ、すぐに空戦をやるわけないのだから。





ふと、前方を進む台南航空隊が、不意にバンクを打ったかと思うといっせいに増槽を捨てて、増速して行った。


私が必死に目を凝らしていくと、台南航空部隊の前部にごつい黒い粒が見え、台南航空隊ともつれ合うかのように、交じり合った。



そして、はるか向こうに、航跡がいくつも見えた。始めて見る大艦隊であった。



私は、唾を飲み込んだ。

――いよいよだ・・・。



そして、先頭に飛ぶ指揮官がバンクを打ち、増槽が落ちるのが見え、私も落ち着いて増槽を落とした。


ゴッと振動とともに増槽が落ちて行った。増槽の中にわずかなガソリンが残っていて、周りにまき散らすとともに虹ができてきた。


これから、四方八方に注意を向けなければ、後ろに飛ぶ爆撃機達に損害が出てしまうだろう。


前方の空戦はいまだもつれ合っており、こちらに来る気配がない。黒煙がいくつも発生しているようだが、どちらが勝っているかは判別できなかった。



ふと空を仰ぎ見て、「あっ!」と声を出してしまった。

いつの間に忍び寄ってきたのだろう。黒い影が上空から急降下してきた。


私は慌てて、操縦桿を引こうとしたが、間に合わなかった。



急降下してきた機体は、アメリカ海軍の艦載機F4F4機で先に急降下してきた3機は外したが
最後の1機は見事に一式陸攻を捉えられた。


主翼から胴体へと舐めるかのように機銃が命中し、ボッと火災を発生させた。

火災を発生させた陸攻は、編成に付いていこうと必死についてきたが
力尽きたかのようにガクッと機首を下にして、海面へと突入していった。



私は、その様子を一部始終見せつけられて、カーッと血が昇ってしまった。


――くそう。あいつを絶対落としてやる。

私は、先ほど陸攻を落とした、F4Fを追いかけた。

F4Fは丁度急降下から、機首を起こしていたところであり、その頭上から、迫った。


照準環にすっぽりとF4Fが映し出され、それに向けて

「喰らえ!!」
銃把を握り、機銃を撃つ。

轟音とともに、撃ち出された弾は、エンジンから胴体へと満遍なく命中し
空中で力いっぱいもぎ取られたかのように両翼が吹き飛んで行った。


両翼をもぎ取られたF4Fは、機首を軸にコマのように回りながら、落ちて行った。


「ざまあみやがれ!」
私は、一瞬勝利の余韻に浸かっていました。

それがいけなかっただろう。


風防の上に赤い火線が通り過ぎた。
「っ!しまった!!」



気を取られた隙に、別の敵が忍び寄ってきたのだろう。

私は、咄嗟に左に倒した。同じ空間に機銃の曳光弾が通り過ぎる。もしも、直進したままであったなら、撃墜されたであろう。


左に旋回しながら、後ろを見る。案の定F4Fがいた。それも2機であった。


F4Fは、旋回力には零戦より劣るのだが、それは熟練搭乗員が操った場合であって、私の様な未熟搭乗員には、追従することができていた。

私は、追従してくるF4Fに嫌な予感を覚え、フットバーを蹴り倒し横滑りをかける。
すると、同じ様に機銃が流れ込んできたが、また避わすことができた。


その後に、轟音と共にF4F1機が過ぎ去っていった。


だが、F4Fはもう1機ある。私は直感で操縦桿を右に深く倒す。


機体がロールし、天と地がひっくり返る。


ひっくり返った、零戦の腹の上を機銃が掠める。ビリビリと衝撃は来るが、命中した様子もない。


ロールの巻き終わりに近づき、天と地が戻りつつあるころに、機銃を撃ちかけてきた
F4Fが前に出てきて、咄嗟に銃把を握る。


轟音と共に機銃弾が出てきて、いくつか命中したが、致命傷にならなかったのか、そのまま飛び去ってしまった。


「くそっ!」
思わず、罵声が出る。


私は、何が何でも撃墜させねばという思いにかられていた。

ふと、左を見れば、陸攻に襲いかかろうとするF4Fが2機見えた。
その機体を目標に追随する。


F4Fは陸攻の旋回機銃を避けるために左右に揺れながら接近しており
そのロスをつけるかのように、後ろにつくことができた。


私は、陸攻に今にも襲いかかろうと見えたから、照準に入ったことをろくに確かめもせず。機銃を撃つ。

当然、機銃弾は2機の間を凪いだだけだが、2機いたF4Fの内、1機を慌てて離脱させることに成功させ
残った1機に対して、しっかりと照準を定めて、撃つ。


機銃弾は、左翼に集中命中し、エルロン、フラップといった、主翼の部品を吹き飛ばしながら、そのまま大きく弾け飛んだ。


一息をつく間もなく、また、別のF4Fが右からやってくる。
私は、操縦桿を右に倒しながら、狙いをつけようとしたが、相手のほうが一足早かった。


両翼を発射炎で赤く染めながら、飛び出した機銃は私が先ほど救済出来たはずの陸攻に突き刺さった。

側面の機銃座のガラスが砕け、赤く染まるのが見えた。恐らく機銃座に就いていた人は戦死しただろう。
だが、幸いなことに先ほどの陸攻のように火災は発生することはなかった。


先ほどのF4Fは、陸攻の腹の下を通り過ぎるつもりのようだ。


私が追いかけようとすると、別の方角から零戦がやってきて、鮮やかに撃墜させた。


その零戦はF4Fの上方を占めるや否や、たった1連射でパイロットに直撃させたのだ。
撃墜された敵機は錐もみしながら墜ちていく。


私は、その鮮やかさに思わず見とれていた。


その零戦が横並びになった時に、平賀1飛曹だと分かって、あの鮮やかな撃墜を納得できた。


平賀が手振りで離脱しましょうと合図するのが見えた。


私はその時になって、いつの間にか敵機動部隊の間近まで接近していたことに気づかなかった。


魚雷を抱えた陸攻が低空、爆弾を抱えた陸攻・艦爆が上へと、移動するの見えた。


私はそれを見ながら、大きく手を振りかぶった。
―――頑張れよと







陸攻と艦爆は、敵の直掩隊との戦闘で陸攻が4機、艦爆が1機と被害が出たが
零戦達の奮闘により、26機も墜とすことができた。



この日の出撃に先立って、魚雷を抱えた陸攻が21機・80番爆弾を抱えた陸攻が12機であった。
それぞれ2機ずつが、先ほどの戦闘機によって落とされてしまった。


第一次攻撃隊による敵空母の攻撃は苛烈に極まった。

敵機動部隊は大型空母2隻を基幹とする大艦隊であった。


雷撃の為に低く這う陸攻に先立って、艦爆が先に急降下する。
空母を守らんとする、周囲の対空砲火により、3機がバラバラに砕け散ったが、残りは、爆弾を投下する。

5発のうち、3発は外れたが、2発とも空母の1隻に命中することができた。
うっすらと火災を上げる空母に陸攻が突撃する。


低空を這う陸攻に熾烈な対空砲火が舞い上がる。

図体の大きな機体であるために、何機かが火を噴きあげて落ちるが、それでも残った機体は魚雷を投下することができた。

その場にいた、日本軍の誰もが当たれと念じたが、無傷の空母は残念ながら外してしまった。
しかし、もう1隻のほうは2本命中することができた。

舷側に高々と舞い上がる水柱に歓喜の声を上げる。


最後に80番爆弾を抱えた水平爆撃であった。そこは無傷の空母へと思ったが
確実性を持って、損傷を負っている空母へと攻撃を開始した。


ここでも対空砲火により2機が落とされたが、残った機体は全機投下する事に成功した。


落下した爆弾は空母の周囲に6本の水柱を上げ、2発命中させることに成功する。
命中させた空母は大きな火柱を上げ、どす黒い黒煙を巻き上げながら大きく傾いていった。


空母撃沈確実に誰もが歓喜の声をあげ、涙を流した。


その後に復讐心に燃えるF4Fにより2機落とされ、その後はまっしぐらにガダルカナルへと帰還した。


こうして、第一次攻撃隊は空母1隻に撃沈確実と思われる戦果をあげたが、犠牲も大きかった。

直掩隊として行動した零戦は36機中3機だけしか落ちなかったが、攻撃隊の被害は甚大なものであった。

特に、雷撃した陸攻21機中15機が落とされるという甚大な被害となった。


しかし、この日のガダルカナル島を巡る戦いは終わりの鐘は、まだ告げてはなかった。


あとがき

いよいよ攻撃開始と相成ったのですが、このように甚大な被害をこうむってしまいました。最後に書いているようにまだこの日の戦いは終わりではありません。

このような激戦に才人はどう戦うのかお楽しみください。



[32038] ガダルカナルの戦い 空襲
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/17 23:13
アメリカ海軍は対日反攻作戦のために、ミッドウェー海戦を無傷で生還した
エンタープライズとサラトガを中心に機動部隊を繰り出してきた。

本当は、8月上旬でも出撃することができたが、ミッドウェー海戦で多くの搭乗員が
戦死及び戦線復帰ができなかった。

そのため、補充員の錬度を上げることが急務とされたため、8月中旬にまでずれ込む結果となった。

その結果、日本海軍の基地部隊の到着を許す結果となった。

また、アメリカ海軍にも油断はあった。エスピリットサントから飛行した偵察機の報告によれば
まだ基地航空隊が展開する前の状態を報告して来たため、相手は無戦力状態と信じ切っていた。


現実には、すでに基地航空隊が展開しており、しかも先制攻撃を受けた。


F4Fを42機直掩として上げたが、22機が撃墜され、3機が着艦後廃棄されるという
大打撃を喰らい、更には大きくて目立ったであろうか、サラトガが集中攻撃を受けた。


サラトガはまず、ヴァルによる250kg爆弾の2発による被弾から始まった。

これは飛行甲板に穴をあけただけで被害はなかったが、わずかに行き足が遅くなった。


そこを付けられたのか雷装したベティ(一式陸上攻撃)が突撃してきた。
双発機ながら単発機並みの海面スレスレの低空飛行をしかけてきたが
図体の大きな機体だ。


全艦が両用砲・機銃を持って全力で阻止にかかる。
ベティは次々と撃墜していくが、臆した様子もなく突撃していく。


死を恐れぬその姿に機銃座にいた兵士は、
「クレイジー・・・。クレイジーだ・・・」
と呟き魚雷を投雷し、飛行甲板ギリギリフライパスする姿を呆然と見送る他なかった。


比較的身軽なエンタープライズは魚雷をかわすことに成功するが
舵の鈍いサラトガは回避することができなかった。


魚雷は2本命中し、1本は中央部に命中し、機関部を半壊させ、もう1本は前部に命中する。

前部に命中した魚雷は多大な浸水を招いたが、二次的なことも招いた。
すなわち、ガソリンタンクにひびが入り、気化したガソリンが漏れ出したことだ。

ここまでなら、ダメージコントロールさえすれば、助かっただろう。
だが、最後の水平爆撃隊がサラトガの命運を断き切った。

最後の水平爆撃機が投下した爆弾は1t爆弾であった。


投下した爆弾は8発であったが、そのうちが2発命中した。1発は前部に命中し
上甲板を貫通させ、艦低部近くで起爆し、ガソリンを誘爆させる。
もう1発は中央部に命中し、弾薬庫の近くで起爆させる。


どちらも、致命傷であった。


次の瞬間、サラトガは大爆発を起こし、火災がサラトガ全体を包み
その場に大きな火の鳥が誕生したようにも見えた。


周りの僚艦の将兵はこの様子を信じられない思いで見ていた。



サラトガはあちこちで誘爆をおこしながら数時間後には前部から静かに沈んでいった。



呆然とした彼らであったが、立ち直りは早かった。


炎上したサラトガに駆逐艦による救助艦をさし向け、エンタープライズは出撃準備をかける。


エンタープライズにいたパイロット達は、口々に「ジャップに復讐してやる!」
「薄汚いイエローモンキーどもに俺たちを怒らせたらどうなるか
思い知らせてやるぜ!」と怒鳴りあった。


彼らの士気は高かった。


やがて、出撃準備の整った、F4FとSBDの混成部隊32機が出撃していった。








ギャギャッーーー!!


爆音と間高い金属音が飛行場に響き渡る。


1機の陸攻の脚部が出ず、胴体不時着した音だった。


「消火急げーー!」
「負傷者もいるぞ!早く担架を持ってこい!」
「ここでは、飛行作業の邪魔になる!片付けを急がせろ!」
と負傷者を救助する場面もあれば。



「急げ!燃料と弾薬の積み込みを完了させろ!」
「戦闘機が最優先だ!攻撃機は損傷が少ない機体から優先的に補給しろ!」
「馬鹿やろう!その部品じゃねえ!あっちの部品だ!早く持ってこい!」
1秒でも早く、戦闘準備完了させようと奮闘していた。


飛行場は整備士たちの戦場であった。



手空きの者も四方周囲を監視したり、対空機銃座について即座の奇襲にも
対応できるようになっていた。



その様子を才人は離れた所から見ていた。そばには鈴木中尉がへたりこんだ状態でいた。


「鈴木中尉、大丈夫ですか?」
「はははっ・・・。情けねえよな。今頃になって恐怖がやって来ているんだぜ。
足が震えて立てねえよ」
鈴木中尉は先ほど命が狙われた所を思い出していた。

あの弾が、どこかずれていたら自分がやられていた。
戦闘中の意識はハイになっていたが、冷静になるとそれが恐怖となって帰ってくる。


陸攻から、体の一部がない負傷者や戦死者を降ろすところを見て、その思いはますます増加していた。


「平賀のような撃墜王はこの恐怖は分からないだろうな」
どこか羨むような声で聞いてきた。


「・・・・・・・・」
才人は黙って聞いていた。



やがて、口が開く。
「いえ、鈴木中尉。それは間違いです」
「えっ?」
才人の言葉が意外だったのかきょとんとした声が帰ってくる


「俺も、死ぬのが怖いんです。自分よりもベテランパイロットたちが
前日まで何事もなかったのに、突然ぽっかりと空いてしまったかのように、
死んでいくのを何人も見たことがあります」
そう言って、手を見つめる。


「俺は、本当は臆病者なのです。自信ありな態度を取っていますが、取らなければ、
気が狂いそうな世界から帰れそうもないのです。だからこそ続けているのです」


鈴木中尉は、しばし絶句した後に尋ねてくる。
「では、平賀。お前は、なぜ戦い続けれる?」


その質問に、才人は微笑を浮かべながら答える。

「仲間がいるからです。自分と同じように恐怖心と戦い続ける仲間がいると
知っているから戦えるのです。貴方も一人じゃないのです。それに」


手を、拳に作り、前に出しながら

「俺は、待っている人がいるんです。泣かせてしまった彼女を。
彼女との最後の思い出が、涙じゃ後味が悪い。
彼女は、泣き顔なんて似合わない。笑顔のほうが似合っている。
だからこそ、俺は生きて帰り、迎えにいきたいです。彼女を笑顔にさせるためにも」


鈴木中尉はその言葉の迫力に飲み込まれたのか無言になる。


お互いに言葉を交わさない。その空気は唐突に破られた。




甲高い、サイレンの音が響き渡る。全員一瞬止まったが、バッと一斉に走り出す。


才人も駆け出す。鈴木中尉も分けも分からない表情しながら走り出し、走りながら才人に尋ねる。


「何が起こったんだ!」

鳴り響いているのはサイレン。それを意味するのは一つでしかない。


「敵の空襲です!まわせーー!まわせーー!」


才人は走り出しながら、自分の機体へと駆け出す。機体にいた整備士にお礼を言いながら乗り込み発進準備に取り掛かる。

整備士も手伝いながら申告する
「平賀一飛曹!燃料と弾薬は満載です!ご無事で!」
「ありがとう!」

才人は、発進準備が完了したと判断し、大声を出す。

「チョーク外せ!」


整備士がチョークを外し、一目散に退避するのを確認し、滑走路へと向け、猛然とエンジンを掛ける。








ガダルカナルの上空には、急ぎ補給をした零戦2機とツラギから来た、零戦を水上機化させた2式水上戦闘機6機が上空直掩していた。

そこに、アメリカ海軍の艦載機が襲撃して来た。

数機が零戦と格闘しているのを尻目に飛行場へと殺到してきた。



すでに、零戦の大部分は発進に成功していたが、数機が滑走路で発進中だった。

F4Fは発進中の零戦の上空からかぶるように迫り、銃弾を撃つ。発進中の機体は一瞬で松明と化した。



SBDが猛然と急降下し、F4Fが機銃を撃つ。急造の対空機銃座から、機銃を放つが、命中する様子はない。逆に銃撃によって破壊される始末だった。

飛行場の上空はアメリカの艦載機が乱舞していた。



しかし、その乱舞は長続きしなかった。十分に高度をとった零戦達が反撃してきたからだ。


雲からの一撃離脱を仕掛け、F4FやSBDを数機撃墜させると、猛烈な空中戦となった。

格闘戦は、やはり零戦が一日長あり、徐々に零戦が有利となり、
不利と見たかアメリカ海軍の指揮官は撤退の信号を出しながら、撤退していた。



飛行場は、ひどい有様だった。1式陸攻の数機が被弾し、周囲の施設も銃撃で
バラバラにされたのも多かった。機銃掃射により、人員に被害が続出した。

滑走路も多少穴だらけにされたが、かろうじて爆撃穴をよけながらの離着陸は可能だった。


これから日本海軍による、この日最後の攻撃を仕掛けようとしていた。



[32038] ガダルカナルの戦い 終わり
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/17 23:17
――空襲後

飛行場に、何とか着陸した、才人は出撃準備を進めて行ったが、一式陸攻は、攻撃及び空襲により、稼動機は6機まで減少した。

更に対艦攻撃に有効な魚雷は使い果たし、80番の大型爆弾もわずか1発のみとなり
後は、50番や25番、6番の混載となり、ある1機は6番のみしか積めなかった。


才人たちの零戦も26機残存していたが、とあるSBDが投下した爆弾が弾薬庫を直撃させ弾薬不足だった。



「すみません。機銃の弾が通常の6割しか積めませんでした」
才人の前に顔を青ざめながら、申告する整備士。

どの機も弾薬が何割しかつめず、中には1割も切る機もあった。その機体は別のものを積んだが。


「仕方がない。あれだけの空襲だ。自分の機体に6割も積めれただけでも御の字だ。
整備ありがとうな」
「いえ、これが自分の仕事です」
敬礼し、駆け出す。



出撃時間はまだ先だ。


才人は、何ともなしにぶらぶらと歩くと、向こうから坂井がやってくるのが見えた。

「おう、坂井!生きとったか。死んだかと思ったぞ」
「あ、そりゃひでぇな。この野郎」

軽口を叩き合いながら、近づき、冗談を言い合うがやがて、無言となる。


長い沈黙の末に出た言葉は、

「ひどい戦いだったな」
「ああ。今まで、陸攻が何機か落ちるのを見たことがあるが、今日はひどすぎる」
くそっとばかりに足を蹴る。土ぼこりがむなしく舞う。


「今日だけでも、何人が戦死したことか」
「ならば、これ以上死なせないためにも、俺たちががんばろうぜ」
とニカッと笑う。


坂井はしばし見て、フッと笑う。

「ああ、その通りだな。無力な陸攻を守るのは俺たちだもんな」
拳を作り、拳を付き合う。


やがて、出撃時間となり、彼らは大空へと旅立った。



大空はどこまでも青かった。この地域で戦闘が起きているとは思えないほど青かった。


才人は、零戦を操りながら陸攻を見る。

陸攻は、どの機も穴だらけで、無事な機体は1機も無く、中には風防ガラスが割れたままのもあった。

それでも、エンジンが回り続け、飛び続けれるなら、どこまでも戦い続けるという無言の迫力があった。


それを見て才人は、心の中でつぶやく。
――俺たちが絶対守りますから。



やがて、敵機動部隊に達した。午前中に見たときと同じように艦艇が多くあった。


F4Fが襲い掛かってきたがその数は少なかった。


零戦が多く叩き落したからだ。



と、零戦部隊の一部が分離し、F4Fに向かわず、まっしぐらに急降下する。

その様子を見ていた、アメリカ海軍の将兵は疑問を浮かべていたが、
敵の狙いに気づいたときには、すでに投下した後だった。

その零戦隊は6番爆弾を抱えていた。


さすがに、本職の艦爆よりも命中精度は劣るもの、数撃ちゃあたる理論で
いくつか命中していく。

次々と爆発する艦艇。だが、船体には被害はなかった。しかし、彼らの狙いは
撃沈では無く、船上に展開する対空兵器が狙いだった。


両用砲に直撃すれば沈黙し、爆風は機銃員をなぎ払う。


更に彼らの攻撃はまだ終わらず、何度も反転しながら機銃を乱射していく。
機銃は将兵を死傷させ、機銃を破壊していく。
零戦達は敵艦隊の上空を舞う。


もちろん、艦艇の対空員も黙ってみている筈も無く、撃墜させようと機銃・両用砲が集中する。



とある零戦の機首が砕け、機体がバラバラになりながら堕ちていく。



別の零戦は片翼をもぎ取られ、グルグルと横転しながら海面へ突入する。



ある零戦は、翼内燃料を打ち抜かれ、炎を身にまとう。それを見ていた駆逐艦の機銃員は汚い言葉を
発しながら歓喜を上げるものの、表情が凍りついた。


零戦が、小さく宙返りをうつと同時に、こちらに向かって突入してくるのが見えた。

「退避――!退避――!」
声を張り上げるものの一足遅く、彼らは炎を身に纏った零戦と爆炎に消えた。





このように、大空を散華する零戦も多かった。


しかし、彼らの捨て身の攻撃により、陸攻を1機も撃墜されずに攻撃を行えた。

陸攻の水平爆撃は、80番は残念ながら外してしまったが、小型爆弾は山ほど積んでいる。


戦後、アメリカ海軍の調査によれば、少なくとも18発以上は命中しているのではないかと推測された。

それほどの数だった。空母の飛行甲板が次々と炸裂していくのが、上空からでもわかった。


しかし、小型爆弾や陸用爆弾が中心だったため、船体へのダメージは少なかった。

だが、飛行甲板は完全に破壊することに成功し、迅速に離着陸ができるほどの応急修理は不可能な状態となった。

攻撃隊は、目標を果たした。すなわちガダルカナル攻撃阻止という目標を。





才人も、上空でその様子を一部始終見ていた。飛行甲板が破壊されていく様を。

F4Fは襲い掛かってきたが、その数は少なく、撃退をすることはできた。


高速で退避していく陸攻を尻目に、周囲を見る。一部の零戦は陸攻に着いていったが、多くは、いまだに空戦中であった。

ふと、近くにSBDが編隊飛行するのが見え、爆撃機も直掩しなければならないほど
敵も苦しいんだなと思ったら、1機の零戦が見えてきた。

その零戦はあろうことか、対爆撃機ではやってはいけない真後ろ上空から接近しているではないか。


才人は、慌ててその零戦の前に、バッと踊り出て翼を振る。

零戦は、その姿を認め、離脱してくれた。


才人は、ホッとしながらその零戦の横に着く。



その零戦に乗っていたのは坂井だった。

坂井は怒ったように、手を振りながら「ナニシヤガル」と手信号を出した。

才人もその怒りは当然だと思いながら「バカ ヨクミロ」と返し指を指す。

坂井はその返事に先ほどの機体を見て、サッと青ざめるのが見えた。
もし、あのまま突っ込んだらどうなるかが分かったからだ。


才人は、その様子を見て、横から突っ込むぞと合図し、坂井も追随する。


哀れ。SBD8機はそれぞれ半分ずつ落とされた。



こうして、ガダルカナルの戦いは集結した。


空母が撃沈大破による航空戦力の喪失により、目標を達することは困難と見て、作戦中止が出され、撤退した。

この輸送部隊に海軍の追撃は出せなかった。攻撃機が全機修理を必要とし、弾薬・燃料も不足だった。

とある歴史家は言う。もしも、この輸送部隊を攻撃し、壊滅させることができたら、
ソロモンしいては、太平洋戦争は日本の勝利に終わっただろうと主張する。



アメリカ海軍の失敗はこの状態を知らずに撤退したことであった。指揮官はこの日の被害に有力な航空戦力があると誤認したからだ。

もしも知っていて、強行上陸していたらガダルカナル島はアメリカのものだっただろう。


ソロモンの海はまだ血に染め続けるだろう。

あとがき

ガダルカナルの戦いは終わりました。しかし、これは同時に始まりなのです。

すなわちソロモン全域にわたる消耗戦の始まりです。

この消耗戦に才人はどう戦うのかお楽しみください。

おまけ 坂井の負傷フラグを叩き折りましたが、別の死亡フラグが立ったのではないかと戦々恐々な状態です。



[32038] 悪夢 (グロ表現注意)
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 10:13
アメリカ合衆国の対日反攻作戦であった、ガダルカナル島を攻略する
ウォッチタワー作戦が実施されたが、日本海軍基地航空隊の攻撃により頓挫した。


海軍は、ガダルカナル島を無視する意向だったが
そこでアメリカ陸軍の猛反対にあった。



この当時、対日反攻作戦の主要ルートは2つあった。



ニミッツ大将を中心に海軍が、真珠湾を基点にマーシャル諸島を攻略し
マリアナ諸島を占領し、長距離重爆撃機で日本本土を攻撃する中部太平洋ルート


マッカーサー大将を中心に陸軍が、オーストラリアを基点に
ニュージニアを陸伝いにフィリピンを占領、
日本本土を攻撃する南太平洋ルート

の2つがあった。



マッカーサーが主張するには、ガダルカナル基地から
日本の爆撃機が通商破壊を行い

オーストラリアが連合軍から脱落したらどうするのかと主張する。


事実、ガダルカナル基地から、戦力を立て直した陸攻が長い航続距離を活用して、
輸送船を狩りまくる通商破壊戦が行われており、潜水艦のも合わせて
オーストリアには物資が滞り、厭戦気運が出ているそうだ。


オーストラリアを拠点とするマッカーサーは降伏だけは避けたい自体だった。


海軍もまた、オーストラリアを脱退させるのは得策でないと気づいたため
ガダルカナルを最優先攻略目標に変えた。



日本軍もまた、航空戦力を増強させ、陸軍の部隊も応援を呼び
一歩も退かないという構えを見せる。




日米の憎しみの炎は消えそうにもなかった。











――昭和17年10月


ガダルカナルに来てから2ヶ月が経った。


才人たちは、しばらくは台南航空隊と共同であったが、6空の本隊が来てからは、6空のみとなった。

また、第6航空隊という名称も204空へと改められた。


才人たちは、エスピリットサント島から来襲してくる
B-17や時折やってくる、機動部隊との迎撃で忙しかった。


2度目に機動部隊が来襲してきたときには、空母に戦闘機を大量に積み
周囲に対空能力を向上させた艦艇を囲んでいたため、陸攻隊は成果を挙げられずに全滅し
何度も繰り返しても同じ結果だったため、それ以後、陸攻による攻撃は無くなってしまった。


現在は零戦隊と少数の艦爆しかなかったが、ラバウルでポートモレスビーからの攻勢が盛んになっており
ガダルカナルへの補充は厳しくなっており、潜水艦による通商破壊戦により、補給も途絶えがちだった。














燃えている・・・・・・。








            何かが燃えている・・・・・。






 
                           何かが赤く燃えている・・・・・。









それは炎の中で崩れようとしているトリスタニア城だった。





トリスタニア城下にあるブンドネル街道は何かで赤く染まっていた。



それは血だった。



老若男女が血の池に倒れていた。



中には見知った顔の人もいた。



スカロンさんやジェスタも倒れていた。




――――――な・・・・・なん・・・・・・・何だ?・・・・・この景色は


後ろから声が聞こえた



「それは、あなたが逃げたせい」

振り返れば、血まみれのシャルロットが

「あなたが逃げたせいでこうなった」



――――違う!俺は逃げたんじゃない!

「そうかもしれない。しかし、信じることはできない」


また、声が聞こえたそこにはコルベール先生がやはり血まみれでいた。


「君自身はそう思っても、結果的には逃げたことには変わらないんだよ」




――――せ・・・・先生まで・・・・


「君は、私達の信頼を裏切ったのだよ」



その言葉と同時に才人の周囲を囲むように人が現れる。



シェスタがテファがアニエスがアンリエッタが学園のメイドが学校の生徒が水霊騎士が才人を見る




「ねぇ、どうして裏切ったの?」「どうして逃げたの?」「どうして生きているの?」「私たちを守ってくれなかったの?」
「私、憧れてたのに」「どうしていなくなったの?」「私信じていたのに」「良いところあったのに」
「やはり平民なんか信用すんじゃなかった」「裏切り者」「偽善者」「臆病者」




―――――あ・・・・ああっ・・・。


よろける才人に何かがぶつかる。


見れば、小さい子供がいた。



「ねぇ、パパとママはどうして死んじゃったの?どうしてパパとママを守ってくれなかったの?どうして逃げたの?どうして?
どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?
どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして??どうして?
どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?
どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?
どうして??どうして?どうして?どうして?どうして?
どうして?どうして?どうして?どうして?
どうして?どうして?どうして?
どうして?どうして?
どうして?」

ゴトッと子供の首が転げ落ちた。




――――うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!


頭を抱えうずくまる才人



――――俺は・・・・。俺は・・・・逃げたんじゃない・・・・逃げたんじゃないんだ!




体を丸めて子供のように震える才人。どこから自分を呼ぶ声が聞こえた。







頭を上げてみれば









十字架に縛られた




             体中が剣や槍などで貫かれた





                                 ルイズがいた



―――――あああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼亜亜亜亜―――――!!!!!









「ルイズ!!」


がばっと起き上がる。そこにはどす黒く塗られた空ではなく、木の天井だった



「はぁっ・・・はぁっ・・・・。」


才人はしばし深呼吸を行うとそのまま倒れる。


「はぁ・・・・。久しぶりに見たぜあの夢は」


才人は、海軍航空隊に入ってから、しばしばハルケギニアにいたときの夢を見ることがあった。


最初のころは単なる思い出だったが、時間が過ぎ去るごとに、だんだんと夢の内容が変化して
今のようにひどい夢となってくる



「みんな元気かな・・・・。」


才人はこちらの世界に来てからは、もう6年近くになる。


最初のころは日食ができたら入ればいいやと考えていたが、なかなかその機会がなくずるずると延びてしまった。



この世界とあっちの世界の時間の流れはどうなっているのだろうかと気になってしまう。



「もしも・・・・。この世界と同じように時が流れていたら・・・・。」



先ほどの夢のようにみんなが死んでしまうのだろうか。みんな俺を恨んでいるだろうか。


「俺は・・・・・。俺は・・・・・。どうすればいいんだ・・・。」




手を顔に押し付けながらつぶやく。



「ルイズ・・・・・・・・。」

その答えは、出せそうにもなかった。




あとがき
悪夢です。才人の心を表現し少し折れかかっていますが、いかがでしょうか?帰れないことに対する焦燥感というものを表現してみました。

悪夢は山口多聞さんのアイデアからいただきました。山口さんありがとうございました。

対日反攻作戦は史実どおりです。

普通2正面作戦は命取りのはずですが、アメリカは両方をやってのけた上でドイツとの戦争を完遂させています。アメリカの工業力マジッパネェ。



[32038] 不安の影
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/16 08:05
――昭和17年10月 ガダルカナル基地


才人が、悪夢を見てから翌日、才人の顔色は悪かった。


実は、才人は数日前から体調を崩しており
今も微熱が続いていて体がふらついていた。



「平賀大丈夫か?」
「平賀さん、ご加減はどうですか?」
鈴木中尉や北条3飛曹が心配かけてくる。


「ああ、大丈夫だ。俺よりも体調の悪い奴が空に上がっているんだ。
俺も泣き言入れてる場合じゃないしな」
才人は強がって言う。



「そうか・・・・。空戦には気をつけろよ。お前は俺の大事な部下だ。
俺を置いて先に逝くのは許さん!まだまだ教えてもらうことはあるからな!いいな!」
「はい!」
こういうやり取りがあった後に指揮所に行く。




指揮所で司令官が上り、声を張り上げる


「先日、エスピリットサントから出撃する機動部隊をわが潜水艦が発見した。
敵機動部隊はガダルカナル基地を攻撃しに来ると思われる。」



その声を聞いた後に隊員たちは思わず交し合った。

「またかよ」
「アメさんも性も懲りないな」
「いい加減あきらめたらどうなんだろうな」

空襲し慣れた隊員であった。







8月のガダルカナルの防衛戦の結果
太平洋戦域におけるアメリカ海軍の稼動する空母はワスプただ一隻だけとなった。


残るホーネットとエンタープライズは修理中
レンジャーは大西洋で活動中であった。



ワスプは、護衛空母ロングアイランドやエスピリットサントから
艦載機を補充しながら度々ガダルカナルへとゲリラ的に
空襲を繰り返していったが9月の終わりごろに
木梨艦長が指揮する伊―19の雷撃により撃沈に成功した。


これにて終わりだと思われたが、丁度修理が完了したエンタープライズと
ホーネットが南太平洋に到着しており
日本海軍に安寧の時を与えてくれなかった。




連合艦隊司令部も直接的な脅威を排除すべく
エスピリットサント攻略を持ちかけるも陸軍や軍令部が
ミッドウェー海戦前後の強引さや戦訓から、猛反対し攻略作戦は行われなかった。








「まあ、落ち着け。今回は我々だけでなく機動部隊も応援にやってきた」

その言葉に隊員たちの間にざわめきが出てくる。


「ホントかよ」
「こんどこそ宛てになるんやろな」
「臆病者の連中だぞ。相手にすんな。頼るだけ無駄だよ」








なぜなら以前、敵機動部隊が襲撃してきた時に、慌てて駆け付けるも結局空振りに終わり
数日間張り付くも燃料が問題となって、ずごずごと引き返す他なかった。


そして、燃料やメンテナス問題もあり、出撃することはなく
トラックにずっと引きこもってしまう。


また、ガダルカナルへと航空機輸送中だった龍驤が
アメリカ潜水艦によって撃沈されてからは、ますます消極的となってしまう。



しかし、今回は早く発見できたため、機動部隊も重い腰を上げて出撃と相成った。




「そこで、われわれの任務は敵艦隊上空の制空確保である。後からやってくる
我が機動部隊の攻撃隊の安全を確保するために、戦闘機を撃滅してほしい。
以上、解散!」




隊員たちは、口々に不満を言いながら自分の搭載機へと向かう。


このころのガダルカナル基地の搭載機は陸攻や艦爆などの
攻撃機は少数であり零戦が大半を占めていた。
 

また、零戦も大半が21型・21型甲であるが、新型機の22型も見られた。


22型は栄エンジンを12型から21型へと換装したうえで、機体の燃料などに簡易防弾タンクが施されており
速度はさしたる変化は無いものの総合的に見ればより強くなったといえるだろう。



しかし、才人はその新型機には乗らずに、未だに蒼龍時代から乗り続けてきた
21型を使用していた。

他の隊員たちの零戦が被弾・故障などで搭載機が交換されるのが多い中で
才人の機体は一切そういうことがなく乗り続けており
ほかの隊員たちからも珍しがられていた。




「おはようございます、平賀1飛曹」
「ああ、おはよう。俺の零戦に異常はないか?」
才人は整備士に挨拶しながら尋ねる。


「はい、異常はありません。むしろ今までよりも快調です。
今日の戦果報告楽しみしています」
「そりゃ良かった。期待して待っててくれ」

ポンと肩をたたくとそのまま乗り組む。



いつもと変わらない座席の光景。計器がたくさんあり上に照準器のパネルがある。

その向こうには整備士が忙しく駆け回っていた。



しかし、その光景がいつもと違うようにも見えた。言葉にはっきりと表せないが何かが違っていた。








それはまるで








自分が本当にここにいてもいいだろうかという違和感が・・・・・




――――っ!何を考えている
頭をぶんぶんと振る才人





――――朝のことは夢だ!ルイズはあんな簡単にくたばるはずがない。それに

才人は、左手の甲をなでる。今は手袋がかぶさって見えないが
そこにはガンダルーヴのルーンが輝いているはずだ。





――――このルーンが輝き続ける限り、俺は帰ってくると誓ったんだ。



才人は、そう喝を入れて不安を取り払う。




しかし、その時に感じた小さな不安と体調が大きな失敗になるとは
神ならぬ才人には知らなかった。





やがて、彼らは大空へと出撃していった。


あとがき

ということで、史実の南太平洋海戦が近づいてきました。

零戦も32型ではなく22型を登場させたのも理由がありますが、それは後日に語られることとなるでしょう。

才人の不調も出ましたが、才人はその当時の人と比べて予防接種などしているから頑丈なはずですよね?

あと、ベテランパイロットが撃墜される原因が空戦の他に体調を崩して無理した結果なくなったパイロットが多いそうです。

アメリカは数回空戦したら、後方に下がって休養させたそうで予備兵力のない日本は無理な相談でした。


これから才人はどうなるかお楽しみください。



[32038] 油断
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/17 23:20
――――昭和17年10月

ソロモン海の制海・空権をめぐって日米の機動部隊がぶつかり合う海戦
後に南太平洋海戦と名づけられた決戦が今始まろうとしていた。




才人の零戦隊は決戦の尖兵者として米機動艦隊上空の制空権を確保するため翔んでいた。


彼らの前に誘導役の1式陸攻が3機飛んでおり、不遇の事態に備えていた。





コクッ・・・・・コクッ・・・・・コクッ・・・・・・

――――・・・・・はっ! いかん、ふらつく
才人は、上空に上がってから、しばらくは大丈夫だったが、時間が過ぎるごとに
頭がふらつくようになって来た。

また、上空6000mという環境は常人であっても寒い世界で体調を悪化させていた。



――――敵はまだ見えないのか・・・・?
才人はそう思ったが、前を飛んでいた、鈴木中尉が何か発見したのか前に飛び出てバンクを振る。


と、そのとき前方を飛んでいた一式陸攻が炎に包まれた。


―――っ!もう敵がいるのか!!
才人は咄嗟に燃料コックを切り替え、増槽を捨てると同時に操縦桿とを左に倒す。


すると、機体が左のほうへと横滑りし右のほうにヒューーーッと風切る音と共に
赤い機銃弾が滝のように流れてきてその後に青い機体が急降下していた。


よく、周りを見れば青い機体があちこちにあり、眼下にはいつの間にか敵機動部隊がいた。


「くそったっれ!敵の釜の中に入っちまったぜ!!」

機体を立て直し、右のほうへと旋回すれば、左側に2機のF4Fが近づいてきていた。

才人は少し直進すると交差するすこし前に向けて機銃を撃ち機体を反転させる。


撃った機銃弾はF4Fに吸い込まれるように命中し、胴体が大きくさけて墜落開始する。
もう1機残ったF4Fは慌てて逃げだす。


―――――1機撃墜!
才人はそう思うが、先ほどとは、また別のF4Fが右斜めうえから襲いかかる。
その角度はそれほど深くはなく浅い角度で急降下してくる。


才人はそれを見て逃げるのではなく、機首を上げて真正面に向けてヘッドオンの体形に持ってくる。




お互い速度が速いから見る見る距離が縮まり、機銃がお互いに同時に撃ち合う。



才人が放った弾はF4Fの上を通り過ぎ、F4Fが放った弾は才人の零戦の腹の下を通り過ぎる。


一瞬、交差するときF4Fのパイロットがニヤリするのが見えた。


機首を水平に持ってきて、周りを見渡すがあちこちで空戦によって起こる飛行機雲があり時折黒雲があったが
どちらの物か判別できなかった。


しかし、一つだけわかることは


「くそっ!数が多い」
そう、敵機動部隊は2隻の空母を伴っている。単純計算で2倍の戦闘機を持っているということだ。

現に、4機のF4Fが才人の零戦の後ろに取りつかれているのだ。

F4Fはつかず離れずの位置に取りついている。



しかし、才人は慌てずに左旋回に持ってくる。体が引っ張る感覚がするがそれを無視して旋回を続ける。


後ろのF4Fが付いてくるのが見えてくる。


栄エンジンの爆音が操縦席に木霊する。左手には海が見え、右手には空が見える。
それは猛烈なスピードで流れていく。ぐるぐると周り続ける。



時折、機銃を放ってくるF4Fもいるが、それはすべて後ろにそれる。


それでも、才人は彼らはまだ周り続ける。目が少し霞んでくるがこのロンド(舞踏)は終わらない。



―――――ここで・・・・ここでーー決める!

それまで、左旋回を続けた才人の零戦を急激に右旋回に持ってくる。


普通は、失速し敵に背面をさらす危険性があったが、零戦の類いまれなる安定性と
才人の神がかりな操縦により、失速することはなかった。

その急激な変化にF4Fは無理に付いてこようとし、3機が弾かれ、1機がふらつく。


そのふらついた1機に対し、後ろに取りつき

「喰らえ!!」
機銃弾を撃つ。機銃弾は右主翼にミシン縫いのように命中し、燃料か機銃に命中したのか大きく弾け飛ぶ。

F4Fは機首を下にグルグルと回りながら墜落する。


残った、3機は蜘蛛の子をちらすかのように遁走する。



しかし、才人はその様子に喜んでいる暇は無かった。


「はぁ・・・・。はぁ・・・・・。いかん・・・体が疲れてきた。」

もともと体調不良にあの大旋回だ。体力は恐ろしいほどに消耗していた。



「まだ・・・・。まだ来ないのか?空母の攻撃隊は?」


別のF4Fの集団がやってきた時には覚悟を決めていたが、才人には一眼もくれずどこかへと飛び去った。


それは、敵機動部隊のほうでもなく、ほかの零戦の場所でもなかった。


それを意味するのは
「来てくれたのか!攻撃隊が!」

そう、ようやく彼らの本命機動艦隊の攻撃隊がやってきたのだ。先ほどのF4Fは迎撃に出かけて行ったのだろう。



「やれやれ、俺達の仕事が終わったぜ」
才人は安心しきった声を出す。



しかし、それがいけなかった。空戦とは1秒前には何もなかった空間から
敵が出て来ることがよくある。

現在のフライトシューテイングゲームのようにレーダーが無い世界では
見張りが重要であり、坂井も何度も後ろを見ても見すぎではないと言及している。

それほど空戦とは怖い場なのだ。





才人は体調不良による索敵能力の低下、安心感から油断が出来ていた。

そのツケはすぐ来た。





風切る音ともに零戦の周りに赤い光が流れてくる。

すぐさま、後ろを見れば、1機のF4Fがあった。


「しまっ・・・・」
衝撃と共に才人の視界は赤く染まった。


あとがき

才人の運命は如何に・・・?

ということで空戦となりました。しかし、この作戦というものは実は危ないもので
時間がずれていたら、各個撃破される危険性があったのです。

ちょうどミッドウェー海戦のように。しかし、ミッドウェー海戦は結果的に直掩隊を消耗させ
攻撃隊の発艦を妨げ4空母を撃破できたことから、一定の効果はあったでしょう。

才人が最初のF4Fを撃破する時にやった技は見越し射撃で、敵の未来位置を予測して射撃するもので
見越し射撃の名人は「アフリカの星」ハンス・ヨアヒム・マルセイユが最も有名だろう。

彼は旋回しながら撃つという偏差射撃の名人で隊内では彼がもっとも弾の消費量が少なく
158機という撃墜スコアは西部(東部はソ連など)ではトップスコアであった。



[32038] 堕ちる
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/17 23:22
「聖戦に失敗してしまいましたね。―――――」
「申し訳ありません。―――――」


どこか薄暗い場所で、男2人が話し合っている。


どうやら、何かをやって失敗した模様だった。


「虎街道の奪還できませんでした。――――――のせいです」
「あれは、痛かったですね。――――――の召喚によって
勝利・士気向上などを予定していたんですがね」


彼らの予定は――――――が使い魔を召喚させ、勝利することで聖戦の正当性を掲げるつもりだったが


「まさか、土壇場で失敗してしまうとは」


そう、失敗してしまったのだ。衆人の前で使い魔を召還し奇跡を演じるつもりが
召還の門すら発動しなかった。

―――――――は周囲の援護によりかろうじて生還することができた。

使い魔は、サモンサーヴァントにより呼び出せれるが
前の使い魔がいると呼び出せれず、召喚門すら発動できない。

で、今回は発動できなかった。それを意味するのは。


「まさか―――――が生きていようとは想像だにできませんでした」


―――――が生きているのだ。手を下そうにも―――――がいるのは、異世界だ。


次の召還は、―――――が死ぬまで呼び出せない。


それは、自分たちの状況が不利であるということを物語っていた。



「いえ――――、あれは私にも責任があります。
私もきちんと想定がなされていなかった。
あなただけの責任ではありません」


誰もが想像できようか。撃たれてもなお生きているということを。


「では、―――――――を消しますか?」

――――――の能力は魅力的だ。
しかし、使い魔を召喚できないなら役立たずでしかない。


それなら殺して、次の虚無者を出せればいい。



「いえ、ここで消しては怪しまれる。しばらく様子を見るほかありません」


今は、ガリアが侵攻中で、聖女である―――――――を殺してしまっては
国中が不信感が出て、聖戦どころが自分の国も危機にさらされる。


だが、こんなことで諦める彼らではなかった。



「では、急ぎますよ。ジュリオ」
「はい、ヴィットリーオ様」


聖エイジス32世 ヴィットーリオ・セレヴァレと彼の使い魔ジュリオ・チェザーレの会話であった。















墜ちる・・・・・











体が・・・・機体が・・・・・









墜ちていく・・・・・・・・・・・・・・











――――――・・・・!












瞼は重たく光は黒かったり、赤かったりと入れ混じっているが気にもならなかった














――――――・・・・ォ!













空戦に強烈なGで体が引っ張られることはあるが、今の感覚は心地よい感覚だった












――――ぉ・・・・・ィ・!











少し風が入ってきて、寒いのが欠点だろうか













―――――おき・・・・・!・・・・・イト!













自分は、少し前まで何をしていたのだろう?















―――――お・・・・なさ・・・!サ・・・!











もう、何も考えられない。ああ、いつまでもこの世界に浸かりたい







そう思っていた矢先だった。
















――――目を開けなさい!バカ犬ーー!




ハッと目が開かれ、目の前に入る光景は零戦の機首が海に突入しようとしている所だった。




「グウウゥゥゥゥーーーーーーー」



才人はすぐさま状況を理解すると操縦桿を渾身の力で引っ張っていく。




機首は少しずつ上がり始め、海面スレスレになりながらも
かろうじて海への突入は避けられた。




「俺は・・・・。」




左半身が痺れていて、左目の視界は真っ赤で、風防が砕けて風が勢いよく吹き込んでおり

見回せば機体のあちこちがささくれていて、満身創痍な状態になっていて、今にも落ちそうだった




だけど、俺は不安に思わなかった。




なぜなら





―――――ほら、しっかりと目を開ける。寝たら許さないからね。



「ル・・・・ルイズなのか・・・」
忘れようもない、俺が聞きたかった愛おしい人の声が聞こえてくるからだ。




――――ええ、そうよ。あんたみたいな、バカな使い魔のご主人様よ




「ハハ・・・。そうだな、俺はバカだよな」


過去に飛ばされて数年たっても、ルイズのことを思い続けているんだからな。




――――そうよ。あんたみたいなバカな使い魔は私がいないと
ゼーーーッタイ駄目なんだからね



やはりルイズは、いつまでもルイズらしかった。だからこそ思ってしまう。



「なあ、ルイズ・・・・。俺は帰りてぇよ・・・・。皆の所へ・・・。」



この世界でも、何人か繋がりができたが、やはり自分はハルケギニアしかない。




「帰ってもいいかな・・・・?ルイズ・・・・」




その返答は

――――何、バカ言ってんのよ。そんなの許すわけないでしょ




「えっ・・・?」


その返事が意外だったのか、機体が少し傾いてしまう



―――ほらほら、進路が右にずれているわ。左に修正しなさい



「ああ・・・」




航法が分かってんのかという疑問に思うことはあるがとりあえず修正が先だ


ルイズの言うことだ。間違いはない




操縦桿を少し倒し左に修正していく



―――そうそう、そこでまっすぐ飛べば、あんたが降りられるところよ



修正を終えると聞きたかったことを聞いてみる

「なあ・・・・何で帰っちゃ駄目なんだ・・・・?」



――――あんたねぇ、この戦争を中途半端に放り投げるつもり?



ドキッとさせられた。ここで戦争をやっているんだと今忘れていたからだ。



――――あんたは、この戦争の悲劇を少しでも減らしたいと思ったんでしょ。
なら、逃げ出さずに最後までやりなさいよ!
中途半端な結果を残して帰ってきたらゼーーーーッタイ許さないんだからね!



「そうか・・・・。そうだよな、ここで逃げ出したら・・・・俺らしくねぇや・・・・」



零戦は、海原の上を飛び続ける。周りには1機も機体が無い青空が広がり続ける。




「なあ、ルイズ・・・・。そっちは・・・大丈夫なのか・・・・・?
来る前には大変なことがあったはずだが・・・?」



――――あんたねぇ、あたしを誰だと思っているのよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
そしてあなたのご主人様よ。あんたが心配される筋合いなんてないのよ




「そうだな・・・・。それでこそ・・・・ゼロのルイズだぜ・・・・」
才人は嬉しそうな声を上げる。





――――あんたにも分かってもらえた所で、前をよく見なさい





薄目でしっかりと見てはいなかったが、目を大きく見開いてみれば
前方に大きな島、ガダルカナル島が見え、飛行場が見えた。






――――ほら、とっと脚を出しなさいよ。降りるんでしょ?




「分かってるよ・・・・」




痺れる体を無視しながらも、脚出しのレバーを押す。
幸いにも両脚とも正常に降りた。


次にフラップを目いっぱい下ろし、スロットルを絞り、慎重に飛行場に降りてゆく。




才人の視界は悪く、よく見えていなかったが、ルイズが誘導してくれる。

――――翼が左に傾きすぎ、進路をチョイ右、よしそのまま進みなさい。





次の瞬間、才人の零戦は着陸の衝撃に見舞われた。
才人は着陸した瞬間に本能的にブレーキを絶妙な加減でかける。




零戦は、数百mそのまま進んだが、尾部が振られると同時に止まった。




才人は、座席でぐったりしながら聞いていた


―――――サイト、さっきはああ言ったけれど、あたしだって本当はすぐに会いたいのよ。
だから、必ず・・・・必ず!帰ってきてよね!





「ああ、もちろんだ。なんせ俺はゼロの使い魔だからな」



周りの喧噪の声を聞きながらも、意識は闇に落ちた。














才人が、帰ってきたのは制空隊が帰ってきてから、1時間以上過ぎていた時だった。

隊員たちは、才人が戦死したものと思っていたので、帰ってきてびっくりし、喜んだものと伝えられている。



才人の怪我は深く、ラバウルに後送された後に、本土へと帰還されている。


ガダルカナルから航空隊が撤退する2カ月以上前のことだった。
































「聖戦に失敗しちゃった」


どこか、薄暗い聖堂のような場所で一人の少女がいた。



「せっかく、ヴィットリーオ様から、聖女に認めてもらえたのに聖戦に失敗しては
ブリミル様にも申し訳ないわ」


少女は顔をあげると


「次こそ、ブリミル様の教えを背く異端者を処罰しなきゃ」



と、こぶしを握りながら立ち上がろうとすると




――――誰って・・・・・。俺は―――――――


「!」



――――下げたくない頭は、下げられねえ



――――貴族のプライドがどうした!死んだら終わりじゃねえか!



――――俺はこの世界の人間じゃない。どうなろうと知ったこっちゃない。
でも、せめて優しくしてくれた人は守りたい



――――俺はお前が好きだよ。ルイズ





「知らない・・・・。こんな記憶は・・・知らない」



少女はイヤイヤっと頭を抱え振るが、胸の奥にできた何かを消すことはできなかった。



そして、少女は名前をつぶやいてしまう。



「サイ・・・・ト・・・・」




少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
は両頬を濡れ続ける涙を止める術を知らなかった。



あとがき

墜ちるです。ここにあるルイズは秘密ということでお願いします。

後、サイトがやられたのはブローニング機銃ですが、実は人を両断するほどの威力があり、被弾した人のなかには、腕とか足とかが吹き飛んだという人が大勢います。

より、詳しい威力を知りたかったら、戦争映画プライベートライアンでご覧ください。
冒頭のノルマンディーもすごいですが、この後の戦車戦で20ミリ機関砲が人体に向けて発砲するシーンがありますので
その威力について納得がいくかと。

ここは悩みに悩みましたが、小説独自のご都合主義で無視していただければ幸いです。


このように、被弾し、意識朦朧とする中、誰かの声が聞こえたという逸話は数多くあります。
一番著名なのは大空のサムライだろう。あのシーンはすごく感動した記憶があります。



[32038] 外伝 爆龍隊始動
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 10:20
才人が負傷した南太平洋海戦よりも少し遡ります

――――昭和17年8月

改装空母隼鷹で艦爆の乗組員をやっていた俺は、隼鷹から退艦の上で横須賀航空隊へ
転属を命ぜられた。

俺は疑問に思いながらも、命令どおり、退艦した上で、横須賀へと移動したら
そこで懐かしい人物に出会った。

「おう、矢野久しぶりだな」

俺が、蒼龍の乗組員時代に勤務した時の艦爆隊長の江草隆繁少佐であった。
開戦時の真珠湾奇襲攻撃も一緒に出撃した。

その後、インド洋までは、一緒であったが4月に隼鷹の乗組員に命ぜられてそれっきりだった。

「はい、隊長も変わらないようで、ご安心しました。ところでなぜ、私が呼ばれたのでしょうか?」

俺は、疑問に思っていたことを尋ねる。転属理由も説明されていなかったからである。

「うむ、その疑問はあるだろうが、説明するよりも実物を見たほうが早いだろう。俺に着いて来い」

俺は、江草少佐に着いて行き、とある格納庫に到着し、機体が現れた。

「これは・・・」

それは、液冷エンジンを積んだ流麗な機体で、冷却器がP-40と同じように
発動機の下に取り付けられながらもP-40よりも美しかった。

「隊長、これは・・・。ドイツ機なんでしょうか?」

日本機にはなじみのない液冷エンジンが積んでいるのだ。ド
イツ機からの輸入機だろう。

しかし、それは江草少佐が否定した。

「違うな。エンジンこそドイツ製だが、機体の設計は日本独自のものだぞ。
これは、まだ未採用だが、13試艦爆と呼ばれる機体だ」

江草少佐の言葉に改めてみれば、確かに日本機らしい丸みなどがあった。

「隊長、私の任務はこれの試験なのでしょうか?自慢ではありませんが
丁寧に飛ばし、他の人に伝えれるほど頭はよくありません」

この仕事は、俺には絶対不向きだと自覚している。

江草少佐は笑いながら言う。

「わははははは。そうだな、お前さんはテストパイロットにゃ向いとらん」

しかし、そこで改めてこっちを見る

「だが、ある意味試験だな。それも飛行試験ではなく、実戦テストだな。この試作機の
実戦テストは済ましたが、艦爆としての実戦は済ましとらん。そこで」

江草少佐がギロッと睨む。

「貴様を呼んだ。急降下に関しては、俺よりも貴様のほうがうまい。
だから、この艦爆に乗って実戦をやってほしい。

やれるか、矢野!」

俺は、いろいろと聞きたいことがあったが、新鋭機の実戦テストという
心弾む任務や江草少佐が俺を頼りにしていることから、
一二もなく引き受けることにした。






翌日から、座学を受け、ある程度、完熟したところで、飛ぶこととなった。

その時に驚いたのは、水平速度が時速500kmを超えたことだった。
この速度は今まで急降下時しか体験したことなかった。

当然、急降下速度は速くなり、700kmを近い速度を出すことができた。

また、99式艦爆よりも小型にまとめられているから、運動性能もよかった。
それでいて、爆弾も前機の倍である500kgを積むことができた。

しかし、その高速性を代償するかのように着陸性能は悪かった。

着陸時の速度が140km以上を超えており、零戦や99式艦爆の100km未満と比べると一段と速くなっていた。

また、液冷エンジンが前方を見えにくくする原因となった。

液冷エンジンは後に故障が多発するがこの試作機は1基1基丁寧な造りと
なっていたため、故障は起きなかった。


また、隊員も矢野だけでなく、他の隊員も集められており、江草少佐や矢野も入れてペアは12組で
この当時、最強の艦爆隊と期待されていた。

後席に付く俺のペアは、大野泰三3飛曹長で、南方作戦に参加したことがあるそうだ。







訓練が進み、機材の数が増えると、いよいよ母艦へと移動することとなった。

母艦は、工廠が不断の努力で修理を完了させた、蒼龍であった。

なぜ、蒼龍が選ばれたかというと、ミッドウェー海戦前まで13試艦爆の偵察型の
運用テストを行っており
整備士も何たるものかが分かっているものと判断したからだ。


矢野にとって、数か月ぶりの母艦への里帰りである。江草少佐が何も問題なく
着艦を決めており、よし俺もという気持ちとなった。

第2、第3旋回を終え、そして最後の旋回である第4旋回を終え、徐々に大きくなる、母艦の艦尾を睨みながら
艦の横に設置されている、赤と青の着艦指導灯を合わせながら、フライパスする。

艦尾を超えた瞬間、後席に座っていた大野が「艦尾、かわった」と大声が聞こえた瞬間にスロットルを絞り
操縦桿をグイっと上げ、機尾に付いている着艦フックで、着艦ワイヤーを捉える。

ドンっと衝撃はあったものの、何も問題はなく、前部エレベータのところへ運ぶとスイッチを切り、降りる。

蒼龍は、ミッドウェー海戦で被弾したと聞いていたが、何も変わった様子もなく、ホッと安心したような
つまらなさそうな感情が混じり合っていた。

と、相棒である大野が話しかけてきた。
「矢野さん、これからどうするのですか?」

大野は南方での経験はあるものの、母艦に乗り組むのは初めてだという。

「ん?まあ、色々とあるが、まずは、他の奴らの着艦を見学しようぜ」



こうして、他の隊員が着艦をしてきたが、前機よりも着艦速度は速くなっているものの
腕の1流のある彼らが集まった部隊であるから、1機も事故なく着艦できた。


こうして、蒼龍は零戦や他の機材を受け入れ、一路トラックへと目指した。


また、13試作艦上爆撃機の名前はこの当時はなく、後に「彗星」と名付けられるが
この時に集められた艦爆のパイロットからは、爆龍と名づけられており、このことから
彼らは非公式に爆龍隊と名乗るようになった。


あとがき

南太平洋海戦の結末まで書きたかったですが、長くなりそうだったので、いったんここで切ります。

ここの主役は才人の同期生であった、矢野です。才人とはニアミスして再会していません。

13試艦爆こと彗星ですが、この当時、数が少なかったのは、事故や戦場での喪失の原因もあるのですが
空技廠から愛知へと生産転換されており、その規格合わせに遅れたからなのです。

しかし、同じDBエンジンを積みながら、川崎のエンジンよりも愛知のエンジンはよく動かせており
きちんと整備すれば、45年であっても80パーセント以上の稼働率を出せたそうです。

また、機体自身もいいですね。爆撃型や偵察型、夜戦型などや陸軍も襲撃機として候補に挙がったこともあるそうです。
この汎用性の高さも評価できますね。

この機体も大活躍できればと思います。




[32038] 外伝 爆龍隊の長い一日 前編
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 10:30
―――昭和17年10月

トラック諸島へと移動した蒼龍及び爆龍隊は、しばらく訓練に従事していた。

彼らの訓練の様子を他の母艦の艦爆隊は羨望の目で見ており、一刻早く自分の機材を
新鋭機へと交換を望む声が大きくなっていた。


また、赤軍・青軍と分かれた模擬戦でも、赤軍の零戦の直掩を振り切り
赤軍の空母を大破させるという活躍ぶりを示し、機動部隊から大いに期待された。




そして、遂に、彼らの活躍するときが来た。

エスピリットサント島に張り付いていた潜水艦からの報告で、敵機動部隊が出撃したことを知る。

彼らは、今まで肩透かしを食わされた分、意気軒昂と出撃と相成った。

まず、南雲中将が率いる翔鶴・瑞鶴・蒼龍の大型空母に、小型空母の瑞鳳を中心とした第1機動部隊が出港し
続いて角田中将が率いる隼鷹に竜鳳を中心とする第2機動部隊が出港する。

彼らは二手に分かれて出撃する。



出港してから、数日が経った。搭乗員室はすさまじく殺気立っており
誰かが声をかけしたらすぐさま全員が怒鳴られそうな位、殺気立っていた。

不意にその空気を破るかのように

「搭乗員、艦橋前に集合」

その放送が聞こえた途端、彼らは一斉に立ち上がり、駆け足で艦橋前に集合する。

艦橋に出た矢野達は、しばし飛行甲板を見る。

飛行甲板には、艦載機が並んでいるが、蒼龍は異例の編成を取っていた。

通常の編成は戦闘機・爆撃機・攻撃機が1対1対1の割合で搭載されるが、
今回の蒼龍は零戦48機に爆龍が12機という編成を取っている。

これは、ミッドウェー海戦の戦訓から、攻撃隊や母艦への防空能力を向上させるための
措置であった。

また、爆龍も今朝、索敵に2機出かけ、更に1機が発見報告の確認にでており
爆龍は9機で出撃することになった。

集合した搭乗員前で江草少佐がぐるっと見回りながら訓令する。

「いよいよ、我が試験隊爆龍の初陣のときがきた。我々は、最強の艦爆小隊として期待されているから、ヘマだけはするな!
敵空母はミッドウェー海戦に出撃した空母だ。赤城・加賀・飛龍を撃沈させた、憎き敵だ。
我々は赤穂浪士のように、忍耐の日々が続いた。今日までの厳しい訓練は今日のためにあった。」

そこで言葉を切り、睨みながら言う。

「いいか!今日はミッドウェーの弔い合戦だ!ミッドウェーで無念にも戦死し靖国へと
旅立った、戦友の為にも、今日は絶対負けられん・・・・。

一撃必中の信念を持って挑め!いいな!」


「「「「はいっ!!!」」」」


「よーし、いい返事だ。これより出撃する。解散!」

その声と共に、搭乗員が各々割り当てられた爆龍に向かう。

爆龍は液冷エンジン独自の轟音を出しながら、暖機運転を行っていた。

整備士からの報告を聞きながら、相棒の大野も乗り組む。

「大野、小便は済ませたか!」
「はい!大丈夫です。袋が無くなるまで出しました」

矢野はその返事に満足そうに頷き、しばし発艦の刻を待つ。

蒼龍は、前述のように異例の編成を取っているが、今回発艦する攻撃隊は
零戦24機・爆龍9機と搭載機の半数以上を出撃することとなった。

やがて、発艦の刻が来た。24機の零戦が1機も事故なく発艦でき、爆龍隊の指揮官である江草少佐が先頭に発艦を始め
危なげなく発艦に成功し、続いて2番機も成功し、3番機である矢野の番が来た。

矢野は、甲板員が旗を振り下ろすと同時に、滑走を始める。

機体は、前機と比べて、重くなっているが、真珠湾でのひどい揺れと比べたら
まだ簡単であった。

矢野は、猛スピードで滑走し艦橋を通り過ぎる。一瞬、帽子を振る人が見えたが高速で見えなかった。

やがて、前方が不意に木甲板が消え、海原が見えてくる。

その時には、十分速度がついており、引き起こししながら脚を引き込む。

後ろを振り返れば、あれほど大きかった蒼龍が遠ざかるほど、小さくなっていく。

矢野は、俺たちが帰ってくるまで無事でいてくれと祈った。


やがて、爆龍隊は1機も事故なく全機成功することができた。

また、並行で航行していた翔鶴からは、97式艦攻20機・零戦4機、瑞鶴からは99式艦爆21機・零戦8機
瑞鳳からは零戦9機・99式艦爆1機と、計95機が第一次攻撃隊であった。

彼らは、隊列を組むと一路東へと進路をとる。







どれほど、時間が経っただろうか。

敵艦隊の姿はまだ見えない。

俺たちは零戦並みの高速性を発揮するが、今までの艦爆や艦攻のスピードに合わせて落としていて
高速性が発揮できないでいた。


先頭に飛ぶ江草少佐は、風防を空けて、座椅子を目一杯上げて、仁王立ちをしていた。
これは、少しでも早く敵機を発見しようと行為であり、真珠湾の時も行っていた。

不意に後席の大野から報告が届いた。
「敵編隊!近付きます!」

この報告に前方をよく目を凝らす。確かに前方から黒い粒が近づいてくる

敵直掩隊が来たかと身構えたが、それは、戦闘機だけではなく
雷撃機や爆撃機を従えた編隊だった。


――――これは、奴らも我々の母艦を発見したということか

じりじりとした思いがわいてくる。

左手はいつでも撃てるように銃把を握る。後ろの大野も旋回機銃を用意する。

やがて、彼らはすれ違った。戦闘機も向ってはこなかった。

敵編隊が遠ざかると、大きくため息をついた。

――――ドンパチやらなくてよかった

ところが、その思いはすぐ破られた。

「瑞鳳隊!離反します!」
「何!」


後ろを見れば、確かに瑞鳳隊の零戦部隊が離反するのが見えた。

「馬鹿野郎!!」

大事な決戦時に1機でも護衛戦闘機が欲しい時に、何ということをしでかすのか。

しかし、どうにもならなかった。彼らを見送る他なかった。






いよいよ、会敵予想時間になった。

これまでやってきた見張りを一層厳にする。

しばらく、経つと1機の艦爆がバンクを振り誘導する。

その、艦爆についていくと、前方の海原に黒い粒と青白い航跡がいくつも見えた。

―――――いよいよか・・・。

真珠湾の時は、奇襲攻撃ということもあって、動く艦はなかったし、インド洋でも空母攻撃に参加したこともあったが
敵直掩がいない、まるで演習のような戦いだった。

しかし、今度は違う。今度は動く艦だし、直掩もいる。自分にとって初めて戦争に
参加するのだ。

江草少佐が小さくバンクを振ると同時に、両翼の増槽が捨てられる。

自分も増槽を捨てると同時に、通信が入った。




横須賀航空隊は、別名、実験航空隊とも呼ばれ、各種装備の試験も行われる。

その中に、無線電話があり、ウェーキやガダルカナルで撃墜された航空機を
回収し搭載された無線電話を研究していた。

ミッドウェー海戦の戦訓から、実用化が急がれていたが、アース線を交換するだけで
いいと気づき、江草少佐は自分の爆龍隊だけでも搭載してくれと要望が出され

その要望どおり、試験を兼ねて爆龍隊は無線電話が充実していた。



「こちら、エグサ。まもなく、ドラ猫(F4F)がやってくるが、構うな。俺の合図と同時に増速し
ドラ猫を振り切れ」

「リョーカイ」
小さくつぶやくと、何時でも開けるようにスロットルレバーを構える。

やがて、右方向から、ゴマ粒のようなF4Fがやってくるが、まだ命令は出ない。

少し、はっきりと見えてきたところで命令がきた

「今だ!増速しろ!」

その命令に、反射的にスロットルを開く。

爆龍は、それまでの低速が嘘のように快速しだした。

増速する爆龍の中で、後席の大野から、興奮したような声が聞こえてきた。

「すごいですよ。矢野さん。ドラ猫が追いつきません。
置いてけぼりになっています」

その報告に後ろを見れば、確かにF4Fが追いすがろうと、こっちにやってくるのが見えたが
その距離はぜんぜん縮まることはなかった。

500kg爆弾を抱いてもなお、500km以上発揮できる、韋駄天振りが証明された。



敵の直掩、F4Fは突如爆龍が増速したことにより、戸惑い、たたらを踏むかのように乱れ
一部は爆龍を追いかけたが、そのまま護衛戦闘機の零戦との空戦に巻き込まれた。




敵艦隊に近づくと対空砲火が上がってくるようになった。

輪型陣の中央に空母を2隻置き、周囲に戦艦や巡洋艦・駆逐艦で固められていた。

その上空で、爆龍隊は飛んでおり、指揮官者の江草少佐の命令を待っていた。

敵艦隊の様子をつぶさに見ていた、江草少佐から命令が来た。

「全機、一斉に左の空母をやる。爆弾投下後は南から離脱せよ。そこが、対空砲火が薄い」

さすが、急降下の神様である。部下の安全と確実性を伝えてくれる。

「では、いくぞ!皆無事に帰って来い!」

その言葉と同時に、江草少佐は反転、急降下する。



2番機も後に続き、3番機である俺の番が来た。

「大野!行くぞ!」
「はいっ!高度5000」

機体が反転し、機首は空母のほうへと向ける。

前方に1番機、2番機が急降下しており、その周囲に高角砲の黒煙や機銃の
アイスキャンデーが飛んでくる。



「・・・4000・・・・・・・・3500・・・・・・・3000・・・・・・・」



後席の大野は冷静に高度を読み上げる。

ますます、激しくなる対空砲火。空母自身のみならず周囲の戦艦・巡洋艦からも打ち上げてくる。

風切る音がすさまじく、機銃弾がすべて自分のほうへと
向かってくるかのように錯覚する。

ビリビリと急降下や機銃の衝撃で操縦桿が震えるが、まだ被弾する様子はない。

と、先頭に急降下した江草少佐は、ついに爆弾を投下し、その爆弾は空母の
ど真ん中のエレベーターに直撃した。

エレベーターが逆ハの字に折れながら、吹き飛ぶのが見えた。


「さすが、隊長」
急降下中で、歯を食いしばりながら呟くような声が漏れる。

2番機は残念ながら外してしまったが、弦側を掠めるように落下したので
至近弾相当の被害が出るだろう。


いよいよ自分の番だ。

照準機には空母が大きく膨れ上がっており、狙いは完璧だった。

大野がそれまで高度を500m単位で報告してきたのを高度1500mから
150m単位で読み上げる。

「1350・・・・1200・・・・1050・・・・・900・・・・」

その声を聞きながら、座席の下にある投下レバーを握る
「よーーーーい・・・・・」

いよいよ、その時がやってきた。

「750・・・・600・・・・450「てーーーーっ!!」」

投下レバーを引くと同時に、渾身の力をかけて操縦桿を引く。


その瞬間、すさまじいGと共に視界がブラックアウトし、何も見えなくなる。

それでも、操縦桿を引き続け、やがて、視界が正常になったときに
大野から弾むような声が聞こえた。

「やった!矢野さんのが命中しました。敵空母の前方部に命中しました」

その報告を聞いて、チラッと後ろを見たが、確かに前方部に黒煙が上がっていた。

後続機の報告が大野からもたらされる。

「4番機、命中。5番機、外れ。ああ・・・!6番機空母に激突しました!」



だが、俺はその報告に返事をする余裕はなかった。

なぜなら、辺りはすさまじい火の嵐であるからだ。


駆逐艦・巡洋艦・戦艦など艦種問わず、全ての艦艇からの対空砲火が
自分の機を包むように四方八方から飛んでくるのだ。

俺は、その網目が少しでも薄い所へと左右に揺り動かしながら
必死に操縦桿を動かしていた。

戦艦が主砲でも撃ったのか、前方に100m以上の水柱がたったが
これ幸いと、水柱の間を潜り抜ける。

潜り抜けたら、ようやく輪型陣を突破することができた。

上空を見ても、敵機の姿はなかった。

後ろを振り返れば、空母が黒煙を噴き上げて燃えていた。

その周囲には、他の母艦航空隊が攻撃を始めたであろう
凄まじい対空砲火の花が咲き開いていた。


「ああっ・・・・俺は、やり遂げたんだ」

知らず、その言葉が漏れだした。

爆龍隊の集合地点に集まってみれば、江草少佐は当然健在としても
その機数は俺を入れても7機しかなかった。

つまり、さっき空母に激突した6番機以外でも撃墜された機が出てきたということだ。

撃墜者が出たことは仕方ないが、これは戦争である。

むしろ、あれほどの対空砲火の中7機が生還できたことを喜ばしく思おう。


がっちり、7機で組むと、その場から高速離脱していった。

あとがき

南太平洋海戦です。蒼龍以外の出撃数は史実通りですが
この少ない零戦隊が瑞鳳隊がいなくなってしまったら
ますます少なくなってしまいますよね。

南太平洋海戦で多くの日本機が撃墜されたそうですが、これは、対空砲火が向上したことと
零戦の数が足りなかったからだと思います。

また、本来なら竜鳳は参加していないのですが、史実ではディーゼルエンジンの不調やドーリットル空襲で
被害が出たため竣工が昭和17年11月にずれ込んでしまったのですが
才人がドーリットル空襲を防げれたため、早期に竣工できました。

代わりに隼鷹と同型艦である、飛鷹が機関不調で参加していません。

そして、江草少佐は艦爆の神様で、村田少佐の雷爆撃同時攻撃ができることを夢見ていたのですが
史実では終ぞありませんでした。



[32038] 外伝 爆龍隊の長い一日 後編
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 10:38
『爆龍?ああ、実験十三試艦爆小隊のことですね。懐かしい響きですね。

私も艦爆の神様江草少佐と最新鋭艦爆小隊を率いる一員でしたから
鼻が高かったですね。

爆龍の由来ですか?ああ、それはですね、この機体を乗りこなしてから、ある日突然誰かがですね

「なあ、この機体は13試艦爆と呼ぶんやけど、なんとなく呼びにくく語呂が悪うないか?」

それは、他の隊員も同じ気持ちだったので、それじゃいっちょあだ名をつけようぜという話になりまして
ああでもないこうでもないと議論が交わされたんですよ。
他の候補としては、金剛とか雪崩とか秋水とかありましたね。

すったもんだあげくに、艦爆の爆と、母艦であった蒼龍の龍から一字ずつ取って
爆龍となったんですよね。

あの機体は名前に恥じない活躍を示してくれました。
私も海戦を生き延びることができたのは、あの機体の性能のおかげだと
思っちょります。

あの機体は、後に正式採用された際に彗星と名付けられたそうですが
私は爆龍のほうが勇ましくかっこ良いと思うんですよね』

元爆龍隊員 大野泰三3飛曹のインタビューより





ソロモンの制海・空権を懸けた南太平洋海戦が始まった。

ガダルカナル基地から204空の零戦隊が敵直掩隊のF4Fと空戦を行って大いに数を減らすと
そこに機動艦隊から出撃した攻撃隊が殺到した。

機動艦隊の一部には13試艦爆こと爆龍を率いた部隊があったが
従来の部隊に先立って、敵空母に強襲し、見事飛行甲板を破壊させるという
快挙を成し遂げ、高速で退避していった。

その隊員の一人に矢野1飛曹の姿があった。




「大野、無事か?」

「はい、大丈夫です。それにしても、アメさんの対空砲火は凄まじかったですね。
もし、乗機が爆龍でなかったら、お陀仏だったかもしれませんね。」

「ああ、今までの機体に乗っている、戦友たちが心配だな」

それ以後無言になった。




やがて、機動艦隊に到着していたが、出撃した時よりも様子が変わっていた。

まず、輪形陣が乱れており、旗艦の翔鶴が黒煙を上げていた。
その周りを駆逐艦が忙しそうに走り回っていた。

どうやら、先ほどすれ違った敵攻撃隊がやった模様だ。

沈没する様子がないのは、不幸中の幸いか・・・。


やがて、スコールの中から現れた、蒼龍に着艦していく。

まず、燃料に余裕のない者や負傷しているものから着艦し
江草少佐が最後に着艦された。

俺たちは、艦橋前で集合し、戦果のすり合わせをして、以下の戦果が判明した。

ヨークタウン型に5発命中、1機体当たり、大破確実が確実された。

撃墜された機体は、8番機と判明した。8番機は爆弾投下後、機首を起こし
水平飛行したところ、対空砲火で撃墜されたとのことだ。

また、それとは別に、殿の9番機が対空砲火により、機体がボロボロになっていて
よく帰ってこれたなという状態となっていた。

普通は海上投棄するのだが、試作機の頑丈さを調査する、貴重な実戦データ機ということで
そのまま格納庫へ仕舞われた。

俺たちは、江草少佐が、艦長に向かって報告をしている所を一部始終聞き終えると
食堂に行き、昼食をとる。

今は、戦闘状態であるので、おはぎしか無かったが、それでもありがたかった。

食堂には、午前中偵察に回された隊員がいて、俺たちを羨ましそうに見ていた。

俺たちは、あの激戦からの休息を取っていると、なにやら騒がしい声と共に、団員さんが食堂に入ってきた。

聞けば、翔鶴の搭乗員だったようで、母艦の翔鶴が被弾、離着不能になったことによって
蒼龍に降りたという。

そちらの、武勇伝はどうかと聞けば、敵直掩隊は、爆龍が引きつけたり、護衛の零戦隊の活躍によって
それほど大きな被害は出なかったが、やはりあの凄まじい対空砲火に被害がたくさん出たそうだ。

99式艦爆は、無傷の空母へと攻撃し、少なくとも3発命中するのが見えたという。

彼らは、艦攻乗りで、半数に分かれて、それぞれ攻撃しに行ったが
雷撃する前に撃墜された機体が多かったそうだ。

それでも、彼らは諦めることなく雷撃を敢行し、俺たちを攻撃した空母に
2本命中できたそうだ。

俺たちは、彼らの勇気に頭が下がる思いだった。




しばらく他愛もない話をしていると、放送が入った。

「爆龍搭乗員、艦橋前に集合」

その放送で、俺たちはすっと立ち上がると、ラッタルを駆け出す。

飛行甲板にはやはり、午前中と同じように、零戦と爆龍が並んでいたが
零戦の数は午前中より少なかった。

艦橋前に江草少佐が待ち構えており、俺たちの到着を持って口が開かれた。

「貴様ら、午前中の働きは見事だった。しかし、敵空母はまだ沈んでおらん。
疲れておるだろうが、もう一度出撃する。今度は全機、攻撃に参加する。
やられず帰って来い。以上解散!」

その言葉に、隊員たちは口々に「あの閻魔の釜にまた突っ込むのかよ」「敵さんもしぶといなあ」
「いい加減沈んでくれへんかな」「今度は当てるぞ!」「俺は帰ったら結婚するんだ」などと口々に言い合った。


矢野も、ぶつくさ文句を言いながら、相棒の大野に問いかける。

「大野、2度目の出撃だが・・・・昼飯済んだか?」

「はい、大丈夫です!おなかが膨れるまで食べました!」

「ばーか、そんなに食ってるとおなか壊すぜ。調子は大丈夫だな、行くぞ!」

「了解であります!」

矢野はその返事に満足そうに頷くと、暖気運転をする自機に寄る。

矢野の爆龍は、午前中と変わり無く、力強くプロペラを回していた。

「矢野一飛曹!爆龍の整備完了です!主翼に少し開いた、穴を防いだ以外異常はありません!」

「ありがとう、いつも丁寧にやってくれて」

と返し、そのまま乗り組む。フットバー、操縦桿をいじっても然したる異常はなかった。

しばらく待っていると、発艦の刻が来た。

零戦11機と爆龍9機は、大空へと旅立った。







周りには、瑞鶴から発艦した艦攻と零戦に囲まれながら進撃していた。

艦攻は、魚雷が間に合わず、爆装していた。

俺たちは、どこからでも奇襲に対応できるように、辺り四方をぐるぐると見張りを行っていた。

所々、雲は浮かんでいるものの敵機の姿はない。

やがて、敵艦隊がいると思われる、海域に到着したが、敵機の姿が見られない。

しばらく警戒しながら進むと、前方に黒煙が見えた。

その煙に向かって進むと、1隻の空母が火災を起こしながら、傾いていた。


更に、周りには護衛艦すらなかった。

その状況に誰もが困惑し、指揮官である江草少佐の指示を求める

「隊長!どうしますか?」


しばらくして、返答があった。

「この辺りに、ほかの空母がいるはずだ。全員散らばって探せ」

その命令と共に、散らばって探すが、ほかの艦艇の姿すらない。

探し尽くしたところで、先ほどの場所に戻り、集合する。
そして、江草少佐からの命令が来た。

「あの空母は、間もなく沈むかもしれないが、万が一助かって、曳航されたら厄介だ。
杞憂をなくすためにも、あの空母を沈める!」

その命令と共に、爆龍は、単縦陣を取り、1機ずつ急降下する。

自分の番が来る。


「大野、今度も頼む!」
「はい!高度5000・・・・」

機首を空母に向ける。午前中の激しい対空砲火が嘘のように、ぐんぐん急降下する。


「4000・・・・・3500・・・・3000・・・・」


大野もそれが分かっているのか、軽い調子だった。

と、江草少佐の爆弾が投下された。やはり、艦中央部に命中し、爆炎を上げる。

2番機も同じように命中する。

そして高度が細刻なみになる。

「1200・・・1050・・・・900・・・」
「よーーーい・・・・」

投下レバーを握る。

「750・・・600・・・「てーーーーっ」」

投下レバーを引くと同時に、操縦桿を引く。


午前中と同じ様に、ブラックアウトするが、今度は大丈夫だ。

そして、報告が来た。

「命中!艦後方部に命中しました」

みれば、やはり、艦後方が燃えていた。


しばらく、旋回しながら、他の隊員たちが投下する様を見る。

やはり、ベテランたちが集められた部隊であるのか、爆弾は面白いように次々と命中し、最後の1機が惜しくも外した所で
なんと9機中8機が命中するという脅威の命中率をあげることができた。


そして、最後に艦攻が水平爆撃して、2発命中する。

その攻撃が止めだったのか、空母は先ほどよりも大きく傾斜し、水泡をかき立てながら
ゆっくりと、後部から沈み始め、やがてその艦影が消えるのはそれほど時間が
かからなかった。

矢野達は、その空母の最後の様子を上空で旋回しながら、見続ける・・・・。

敬礼しながら見届ける・・・・・。

矢野も敬礼しながら呟く
「海の揺り籠に揺れながら静かに眠ってくれ・・・・」

その艦影が没した後、最後の火柱が立ったところで
江草少佐からの通信が入った。

「これより全機、帰投する」

簡素な命令。だが、いろんな思いが詰まった命令に、誰も言わず江草少佐の後に続ける。

南太平洋海戦は、日本軍の勝利に終わった。

沈めた空母は、後にエンタープライズと判明した。もう1隻の空母ホーネットは
艦載機により
爆弾4発、魚雷3発命中するも、修理中に行った、水雷防御向上が効して真珠湾に帰ることができた。

また、日本軍もまた、翔鶴が被弾していて、他にも数隻、駆逐艦や巡洋艦に被害が出ていたが沈んだ船はなかった。

しかし、本当の被害は乗せるべき艦載機にあった。被害が少なかった爆龍を除くと、他の艦載機は多大な被害をこうむっており
出撃した99式艦爆の60パーセントが未帰還となる大被害をこうむっていた。

これは、予想以上に多かった直掩と対空砲火が凄まじかった事が被害を大きくしたものと思われる。

真珠湾の英雄たちの多くが帰ってこなかった・・・・。



こうして、日本海軍は機動艦隊の再建を目指さなければならなかった。

あとがき

爆龍の名前は、13試艦爆を書くのがめんどくさかったからで、命名の由来は本文の通りです。

本当は、ガダルカナルの顛末まで書こうかと思ったのですが、力尽きました。

この海戦は悲惨でしたね。出撃した艦爆や艦攻の60パーセントが帰ってこなかったです。

その戦死者はマリアナについで高いです。(ミッドウェーは3番目)



[32038] 外伝 ガダルカナルの結末
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 10:42
南太平洋海戦に敗北した米海軍は、稼働空母ゼロという事態に落ち込んでいた。

ガダルカナルを無視するのも止む無しかと思われた時、ある者が奇抜な作戦を提案された。

すなわち、戦艦部隊を夜間ガダルカナルに接近し、艦砲射撃を行い
そのまま退避する作戦であった。

幸いにも高速戦艦は数隻無事であった。

その提案はそのまま受け入れられて、作戦が行われた。





結果は

大成功であった。

まさか、夜間に艦砲射撃を行うことを夢にも思っていなかった海軍基地部隊は、
奇襲を受け、戦力の40パーセントが焼き払われた。

その効果は翌日のエスピリットサントからの爆撃機が被害無しで
帰れたことから窺えよう。

その戦果を拡大するべく、彼らを再び出撃させたが、日本海軍も黙って指をくわえているはずもなく
比叡・霧島を中心とする艦隊が立ち塞がった。



しかし


彼女たちは、戦艦籍にあるとはいえ、元は装甲の薄い巡洋戦艦で
米軍の戦艦よりも劣っていた。


駆逐艦綾波が単艦で駆逐艦4隻・巡洋艦1隻を撃沈破、戦艦と巡洋艦が共同で
戦艦1隻を大破させるなど大活躍したが

戦艦比叡が撃沈、霧島が大破するなど大損害をこうむり、更に、目標であった
ガダルカナル艦砲射撃を阻止することはできなかった。

こうして、ガダルカナルの航空機のほとんどが破壊され
ガダルカナルの基地の能力を失った。


この戦果により、ヌーメアから、上陸部隊が移動開始したことを察した海軍は会議で紛糾された。

この時、機動艦隊は最悪にも、戦力再編成中だったり、メンテナス中で、すぐに動ける
空母が1隻も無かったのである。



輸送艦を撃沈させるだの、もう一度決戦を行うだの、ガダルカナルを死守するだの様々な意見が交わされたが、


結局、航空要員はそのまま撤退させて、残りの陸・海軍陸戦隊は
そのままガダルカナルを死守することとなった。


本当は、航空要員も陸戦隊へ編入する案もあったが、搭乗員を大切にする
山本五十六大将がその案を却下されたとも言われている。


こうして、飛べる零戦の数機はそのままラバウルへと下がり
航空要員は、補給にやってきた、駆逐艦に便乗される形で下がることとなった。


彼らは、複雑な表情で遠ざかるガダルカナル島を見送ったとも言われている。






1942年を年末に差し掛かった、12月7日にガダルカナル島の上陸が始まった。

奇しくも、その日は太平洋開戦日であった。

パールハーバーの懺劇を知っていた海兵の彼らの士気は高く
「パールハーバーの復讐だ!!」と叫んだとも言われている。

ガダルカナル島を守備するのは、陸海合わせても6千人しかなかった。

そこに、米軍の2万人が上陸が開始された。

絶望的な戦力差であった。



しかし、陸海の彼らは、最後の一兵まで諦めなかった。

ある機銃小隊は、米軍部隊を3日間足止めさせたり、ある歩兵隊は夜襲をもって戦線を僅かに押し上げたり
ある戦車部隊は上陸した直後に強襲し、上陸第1波を失敗させるという大戦果を挙げるなどそれぞれが活躍した。

特に、砲兵隊が装備していた、10センチ加農砲や75ミリ野砲は低弾道性を利用して
砲位置を特定されないようゲリラ射撃を繰り返し、戦車を8両破壊するなど大活躍された。


だが、絶望的な戦力差を覆すには至らず、じりじりと戦力を減らされ

上陸されて1ヶ月過ぎた1943年1月についに最後の総攻撃が敢行され、彼らは全滅した。


大本営も彼らの全滅をもって、玉砕されたと発表し、以後続く玉砕という言葉が
初めて使われだした。

だが、彼らは最終的に玉砕されたとはいえ、1か月以上も戦い続けるという大激戦を繰り広げ
米軍も4千人以上の死傷者を出すという、少なくない被害を出していた。


また、ごく少数の生き延びた日本軍はゲリラ攻撃を続け、最後の日本兵が降伏したのは
終戦から2年後だった・・・。


しかしながら、彼らの活躍は無駄だったわけでない。

防衛戦の貴重な戦訓を送り続け、この戦訓はサイパン・ペリュリュー・硫黄島で活躍される事になる。

また、彼らが奮闘したことによって、1か月以上ガダルカナル基地が使えなかったことによって
航空部隊の補充の時間稼ぎを行うことができた。




ジャングルや 名も無き兵士どもが 眠りつく

戦後、ある詩人が訪れた際に詠まれた歌であった。

あとがき

いかかでしょうか?ここがおかしいと言う、意見があれば遠慮なく申し上げてください。

私は、空戦物をよく読んだことありますが、陸戦物はよく読んだことないので描写不足かもしれません。
よって、こうして欲しいと言うことがあれば述べてもらって構いません。

ガダルカナルは最終的に陥落しましたが、史実では無意味に2万人以上が戦死したことを比べれば、まだ救えた方でしょう。

また、ソロモンの航空戦の損害は史実よりも抑えていて、将来の助けとなるでしょう。

1943年が始まります。大規模な海戦は無いのですが、大規模な航空戦や消耗戦が繰り広げられます。
この戦いを才人はどう生き延びるでしょうかお楽しみください。



[32038] 内地
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 10:46
―――昭和17年

ソロモン海戦で不覚にも負傷した才人は、かろうじてガダルカナルへと
帰還することができた。

しかし、左腕が骨折・裂傷、頭部や顔面に破片を受けるなど重傷であった。

すぐさま、ラバウルへ送り出され、そこで破片を摘出し、処置を施した後に
内地に送り返された。

本格的な治療を行うと同時に、上層部が才人に用事があったためであった。





――――1ヶ月以上が過ぎた

年の瀬が近づき、年末の準備でみんなが忙しい横須海軍賀病院に才人の姿があった。

頭の包帯は取れたが、頬に傷跡がつき、左手にも付いていた。左腕のギプスは取れたが
まだ満足にも動けなかった。

だが、立って歩き回ることはできたので、ぶらぶらと歩き回りながら
屋上でタバコを吸っていた。


―――内地は平和でいい・・・。

タバコを吸いながらそう思う。服装も質素な服に変えられて皆忙しそうだったが
生き生きとしていた。

戦地では、今もどこかで命が散っていくのに、ここは嘘のように平和であった。

―――――その平和も後数年で終わってしまう・・・・。

才人は表情を暗くした。

この平和でのどかな日本が、空襲によって焼け野原にされ、原爆なども
併せて多くの命が奪われていくことを知っているからだ・・・。

ぶんぶんと頭を振る才人

――――何を思っているんだ。この世界でもそうなるとは限らないだろ。

そして、空を見上げる。空は雲ひとつもなく、ただ青空が広がるばかりであった。

――――ルイズと約束したんじゃないか。この悲劇を少なくする!変えて見せると!

ルイズの前に改めて誓う才人であった。




取り留めなく、時間が過ぎたある日、海軍上層部に呼び出され、指定された場所に行くと勲章をぶら下げた
お偉いさん方がたくさん並んでいた。

聞けば、東京防空戦やミッドウェー海戦で多くの敵機を落とし
防衛できたことに対する感状及び勲章の授与であった。

それを聞いた才人は、内心呆れていた。すでに戦況は厳しいものと聞いている。
それなのにお偉いさん方は、過去の栄光を引っ張り出してまでも
国民に真実を伝える気がないということがよく分かったからだ。

しかも、ご丁寧に新聞屋も呼び出されており、隠しだす気満々であった。

才人は色々と思う所があったが、顔には出さず、もらえるものは貰い
新聞のインタビューは適当に済ました。


恩賜の日本刀と金なんちゃらの勲章を貰ったが、空戦には役立たないので
微妙に扱いに困るものだった。

また、功績によって、少尉に(昭和17年11月から階級が改定されて特務が取り除けられた)2階級特進した。

元々、飛曹長の昇進が予定されていたため、1階級進級を早めるのは何も問題なかった。

こうして、お偉いさん方に適当にご機嫌取りを行い、さっさと帰ることにした。

才人は、タバコをくゆらせながら、内心

――――これじゃ、日本が負けたり、戦後に軍隊嫌いにもなるのは当然だな。

暗くなった夜道に、タバコの白煙が白く立ち昇る。


――――本当に、日本を守れるのだろうか・・・・。

空を仰ぎ見る。


現代の都会では考えられないほど、夜空には星がたくさん瞬いていて、儚く消えてゆく。






それから、また数日が過ぎた。

新聞でまたもや大々的に報道されたため、ますます外出がやりづらくなった。

しかし、この日は違った。

才人より先に退院した、佐々木から来いという連絡があったためである。

才人も会いたかったので、サングラスを懸け、帽子を深心にかぶって町を歩く。
今のところ、ばれてはいないようだ。

とある、うなぎ屋に到着し、入る。

そこには、佐々木がいた。

「おう、こっちだ!!早く来いよ!」

才人も向い側に座り、帽子とサングラスを外す。

「やれやれ、窮屈でかなわん」
「似合ってるぜ、その顔」
「やめてくれよ。その冗談は」

ははははっと和気あいと話し合う。


しばらくすると、声がかかった。

「才人さん、お久しぶりです」

その声を見れば、佐々木の妹である紫苑だった。

数か月ぶりであったが、変わらぬ姿で安心だった。しかし、なぜかおめかしをしていた。

「久しぶりだね。しかし、なぜ紫苑がここにいるんだ?」

タバコに火をつけながら尋ねる才人。

「おう、それはだな・・・・・」

タバコの煙が肺に来たところで衝撃発言が来た。

「お前とお見合いするためだ」

あとがき

と、こうなりました。

お偉いさんとの絡みはきちんと調べていないので突っ込みどころが多いと思いますがどうかご勘弁を。


また、佐々木を再び登場させました。今は、傷も癒えて家で病養中と思ってください。

次回は佐々木の発言の真相となります。

このアイデアは山口多聞さんからです。山口さんありがとうございました。



[32038] お見合い
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 10:58
「ぶっ!がふっがふっ」

肺に入っていたタバコの煙でむせる才人

その光景はどこかデジャブを感じ取れるものだった。

――――なんで、この兄妹は揃いも揃って俺を脅かすのが得意なんだよ

「がふっ・・・・がふっ・・・・・あー、佐々木ちょっと聞きたいことあるんだが」

落ち着くことができた才人は、佐々木に質問する。


「俺の聞き間違いでなければ、俺に見合いしろと言うたんだな?」
「そうだ」


才人は、手を顔に置き、天井を仰ぎ見る。

――――なんだそれ?

「あー・・・・・どうしてそういう話になったんだ?」

そういうと、佐々木は腕を組みながら言う。

「ふむ、いくつか理由があるが、まずはお前のためだ」
「俺の?」

才人の為だといわれても心当たりはない。

「お見合いが何で俺のためになるんだよ?」
「お前、有名人になってから、見合い話が増えたんだろ。それこそ全国各地から」

その言葉に、ギクッとなる才人。

確かに、見合い話が急増していて、断るのも苦労が耐えなかった。

「それに、お前さんは少尉になったうえで、いい齢になってるだろ。
この先でも苦労するぜ。」

才人は、この後が想像できた。どこかのお偉いさん方のブスな娘とか親戚とか無理やり結婚させられ
自分の出世道具に利用されるとか想像できた。

だからといって

「いや、結婚とか早すぎるんじゃないのか?」
「いや、遅すぎるぞ。俺たちは、戦闘機乗りだ。つまりほかの兵と違って戦死率が高い。
その後のことを考えれば、家庭を持って子供をもうけたほうがよい」


なるほど、その理屈はわかる。

だが、しかし

「紫苑の気持ちはどうすんだよ?紫苑の気持ちを無視して結婚なんて
不幸を呼ぶだけだぞ?」


才人は、紫苑が断ればと思ったが・・・・・

「いえ・・・・。嫌じゃないと言いますか・・・・」
顔を赤くして、もじもじとしていた。


万事休す、四面楚歌であった。


やがて、佐々木が口を開く
「平賀・・・俺たちは兵隊であり、戦闘機乗りだ。俺は、死ぬのが怖いとは思わないが本当にいつ死ぬかわからん。
その前に、紫苑の・・・・妹の・・・・晴れ姿を一目でも・・・写真であっても見たいんだよ。
その点、平賀・・・・お前なら、俺よりも生き延びることできるだろうし
お前なら絶対紫苑を幸せにできると思っている」

「佐々木・・・・・」
才人は何も言えなかった。










「というか、かわいい妹をどこの骨とも知らんやつに渡せるかー!」
「それが本音かよ!」

いい話の後だっただけに台無しであった。

「こ・・・・この・・・・兄馬鹿が・・・・・」
「わははははは!兄馬鹿で結構!紫苑は可愛いからな。ああそれと」

そういうと、いきなり肩をガシっと鷲掴みした。

「い?」
「どのような結果になるか知らんが・・・・・紫苑を泣かせたら命はないと思え・・・・・」
ギリギリと肩を強く掴む

その迫力に才人はコクコクと頷く他なかった。

「そうかそうか、そりゃよかった」

と言いながら肩をポンポンたたく。

才人としては生きた心地はなかった。


「よーし、後は若いもんだけがやれよ。俺のようなお年寄りは退散するからな!
なんならやっちゃってもいいんだぞ」
「って、お前何を口走っとるんだ!」
「はーはっはっ!聞こえんなー?それじゃあな」

と言って、本当に消えて行ってしまった。





残るは、紫苑と才人の2人である。

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

どちらも会話がなく、ただ沈黙が流れる。

――――あー、佐々木のやつ御代を置いていかずにいったな。あとで毟りとらな
それは現実逃避である。

「あのー・・・才人さん」
「うん?どうしたの?」

紫苑を見れば、不安そうな顔をしていた。

「すいません・・・迷惑だったでしょうか・・・?」

「あー、いやいや迷惑だとは思っていないよ。少なくとも紫苑のような可愛い娘から
好かれるのはそんなに悪いことでもないしね」

それは本心である。

「そうだったんですか。安心しました」
紫苑はかなりホッとした顔をしていた。

「まあ、いつまでここにいるのも何だしな、とっと外に出ようぜ」
「はい!」

才人と紫苑は立ち上がって、会計を済まし、外に出た。







二人は歩く・・・。

空は、丁度雪が降っていて、古い屋根が並ぶ町には幻想的で美しかった。
そのため、外を歩く人は少なかったが、小数ながらもチラホラ歩く人もいた。

その人たちは、例外なく、才人たちを見て、

「見て見て、あの海軍さん、かっこいいわね」
「あーん、隣の女性がいなかったら、私もお話できたのにー」

と、才人のことを言う人もいれば、

「隣にいる女性の人、綺麗だねー」
「悔しいほど、お似合いな二人さんね」
「私も、後10年若ければ・・・・」

紫苑の事も言う人もいた。

確かに、紫苑はシエスタとそっくりで、現代人の才人から見ても
美人だと間違いなく言い切れる。

シエスタ譲りの美貌な顔と艶のある髪、気配りもできた彼女だ。

もしも、数ヶ月前にお見合いをしていたら、そのままゴールインをしていただろう。



だが、今はそんな気にもならなかった。才人を脳裏に思う女性はただ一人


――――ルイズ・・・・・

そう、1ヶ月前に再会した彼女だ。それは、才人の妄想かもしれないし、痛みから来る幻覚かもしれない。

だが、才人は、紛れもなく彼女だと分かっていた。彼女のおかげで
自分はこうして立っていられる。


そして、別れ際に再び会う約束もした。

だからこそ、紫苑とのお見合いを素直に受け止めることはできなかった。


――――どうしたものか・・・・。
才人が、あれこれと悩んでいると

「すいません・・・・」
「うん?」

紫苑が突然謝ってきた。才人としては紫苑が謝るようなことは
一切していなかったので疑問に思った。

「どうしたの?突然、謝ってきて」
「いえ、兄のことなんです・・・。才人さんに突然お見合いを申したことに対して
なのです。
才人さんのことも聞かずに・・・・」

ああ、そのことか

「いや、気にしなくてもいいんだぞ。俺も、佐々木や紫苑に会いたいと思っていたところだしな。
君たちが元気そうで本当によかった」

それは、本心である。戦場という気の狂いそうな場所において、心が癒されそうな拠り所を
人というものは無意識に求めるものである。


あるものは故郷を、あるものは金を、あるものは女と、千差万別である。

才人は友人であった。いつしか、ハルケギニアへと帰ると決意している才人は
それほど多くの友人は作らなかった。


その数少ない友人の一人が、佐々木と紫苑であった。

だから、彼女たちが元気そうで本当によかったと思っているのである。


「そうだったんですか。よかった、怒っていなくて・・・」
ホッとため息をつく紫苑。

それからしばらくして、紫苑が話し出した。

「いえ、兄さんのことは悪く思わないでください・・・。
私と兄さんには両親がいないのです・・・」


聞けば、母は紫苑を生んですぐに病気で亡くなり、父もその後を追うように
事故で死んだそうだ。

佐々木と紫苑には祖母がいたそうだが病気がちであった。

そんな、紫苑を一生懸命育ててくれたのは佐々木だそうで、生活を楽にするために
海軍に入り
更に給料が良いからということだけで、飛行機乗りになったそうだと。


才人は、航空乗りの理由が、憧れからだと陳腐な理由ではなく
とてつもなく現実的な理由で頭が痛くなってきた。

だが、それでも妹を苦労させまいという兄の気遣いが伝わってくる。


「私は兄さんに苦労をかけさせ過ぎたのです。だからこそ私は兄さんを楽にさせたいのです。
ですから、私と添い遂げさせてください」

紫苑の想いもわかる・・・・・。





けれども

「ごめん・・・・。この縁は無かったことにしてくれないかな・・・・」

断るほかなかった。


「ど・・・・どうしてですか!私のことが嫌いなのですか!」
紫苑が慌てふためき、肩を掴んで揺する。


「いや・・・・好きか嫌いかと聞けば嫌いじゃないが・・・・」

「なおさら・・・どうしてですか!?」


才人は、腹をくくったかのように話し出す。

「佐々木も言うたけど、俺たちは軍人で戦闘機乗りだ。戦場には、上手い下手も無い。
生き延びるにはただ、運が味方するほかない」

才人は、思い出す。戦場では、才人よりも先輩の人やベテランの人たちが
ある日、ポッカリと座席が空いたかのように戦死していく様を

「俺自身生き延びることが出来るかどうか分からん。だからこそ、お前を不幸にもさせないためにも添い遂げることはできない」

それでも、紫苑は諦めきれない様子だった。

「才人さんは、誰よりも上手いんですよね!新聞にも載るほど!」
「それは、運が良かっただけだ。俺も佐々木も戦場で負傷した。
これからも絶対負傷しないとは言い切れん」


あの時もそうだ。あの弾が僅かにでもずれていたら死んでいた。
こうして生きていられるのも、一重に運である。


「それに、詳しくは言えないが、生まれも育ちも明かせない
自分にお前を幸せにやれることができるとは思えない」


これも、本当のことだ。今は、冬木さんのお世話になっているとはいえ、細かいところは白紙のままである。

これほど、怪しい人はいないだろう。

「・・・・・・・・・・・」

紫苑は無言でこちらを見る。



やがて、口を開く。

「才人さん、本当のことを言ってください」

唐突な言葉であった。


「本当のこと?これがほんと「いいえ、違います。それは私に対して言い訳をしているだけです。
才人さんは、本当は好きな人がいるんじゃないですか?」・・・・・・」

才人は、何も言えなくなる。

「やはり、才人さんは本当に優しい人です。優しすぎる・・・・・。
才人さん、優しすぎると時には苦痛でしかないんですよ。
だから、本当のことを教えてください・・・。踏ん切りが利きません・・・・」

お互いが無言になる・・・・・・。

やがて、覚悟を決めたのか才人の口が開く。

「ああ・・・いるよ・・・・。好きな人が・・・」
「やはり、そうでしたか・・・。できれば教えていただけないでしょうか?」


才人は、空を見上げる。

「やはり、詳しくは言えないが、彼女はヨーロッパにいる人だ。
彼女の名前はルイズというのだが、それなりに大きな家のお嬢さんだ」

「るいずと言う人ですか・・・。彼女はどのような人でしょうか?」

「あいつは・・・・、我が儘な女の子で・・・・・


――――あんた、誰?


生きざまを誇り高く持っていて・・・・


――――敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!


孤高な女の子で・・・


――――私のことを誰も見てくれない。私をゼロとしか見てくれない


優しい女の子で・・・・・


――――治してあげたんだから感謝しなさい!


寂しがりやな女の子だよ


―――――サイトォ・・・死んじゃいやよ 」

懐かしむような声で言う。



紫苑はそれを聞いて尋ねる。

「才人さんは、その人を愛しているんですね・・・・」
「もちろんだとも」

才人は、きっぱりと言う

「彼女は、今どうなっているかは、分からない・・・・。もしかしたら死んでいるかもしれない。
だけれどもこの戦争が終わったら彼女を迎えに行きたいと思っている・・・・。だからごめん」

頭を下げる才人。


「いえいえ・・・。才人さんの気持ちを確かめもせずお願いしたのは、
こちらなのですから気にもなさらずしてください」

紫苑も頭を下げる。

「それでも、本当にごめん・・・・」


お互いに頭を下げあう。

「もう、これでおしまいにしましょうよ。この縁はなかったということで」
「そうですね・・・・。才人さんまた会っていただけますか?」
「ええ、あなたが望むならいつでも・・・・・」

やがて、別れの時

「ここでお別れしましょう・・・・今日は申し訳ありませんでした」
「いえいえ、残念に思うところもありましたが、私も楽しかったですよ」
「そう、思っていただけるとありがたいです。では、これにて」



紫苑を背中に向けて歩き出す、才人



しばらく歩いていると、後ろから嗚咽の声が聞こえてくるが振り返ることはなかった。

なぜなら、そうした結果を生みだしたのは才人自身だ。

振り返って、慰めれば、その優しさは女性にとっては残酷なことである。

だから、振り返らず、まっすぐ歩くほかなかった・・・・・・・・。

あとがき


いかがでしょうか?紫苑ファンの人からバッシング食わされそうで怖いです。

後、給料は高いんでしょうか?そこのところは詳しく調べたことありません。



[32038] 教官
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 13:08
年が明けて昭和18年になった。

戦線では、未だ予断を許さないものの、内地はまだ平和であり
ちらほらと新年を祝う家庭が多かった。

その元旦の余韻が漂う中、戦傷を癒えた才人は佐々木と共に霞ヶ浦飛行場にいた。

ただ、才人の表情はひどくやつれていた。

なぜなら

「やれやれ、この前は佐々木にひどい目にあったわ」
「ふん!可愛い妹の一世一代の告白を断るからだ!」

たしかに原因の一理はあると才人は思ったが

―――半分はお前のせいじゃないか・・・・・



才人が、紫苑の求婚を断った数日後の事だった

佐々木に、そのことが知って、一晩中追い掛け回されたからだ。
普通に殴られて済めばよいではないかと、思う話だが

その時の佐々木は、鬼すら殺せるだろうという表情をした上に、軍刀を持っていたので
止まったら、殺されるという生命の危機を感じ取って逃げ回ったのである。

だが、その事は口には出さない。

「そりゃ、悪ざんございました。しかし、俺たちはこれから教官をやることになるとはな
感慨深いものだよな・・・・」
「ああ・・・。俺も、霞ヶ浦に戻って教官をやれるとは思わなかったな・・・・」

なぜ、彼らがそこにいるかといえば、このたび新しく入ってくる
飛行学生の教官を任じられたからだ。

霞ヶ浦から、海軍航空隊の生活を始めた彼らにとって
ここは第2の故郷であった。

だが、彼らのテンションは限りなく低いものだった。


なぜなら

「だけど、練習生を教官一人当たり、十人教えろとはきついんじゃないか?」
「ああ、それにできるだけ、略せるものは略せなんて・・・・・・・
こんな教育でまともに戦争できるか!」

この戦争は、総力戦であり凄まじい消耗戦で、多くの航空機と共に搭乗員を失った。

航空機は工場がどうにもなるが、失った搭乗員はどうにもならない。


その搭乗員の穴埋めを何とかしようと、海軍上層部は、それまで少数精鋭主義をとって
数を減らしていたが、開戦後に予科練募集員の人数を増やしたが、少数精鋭主義をとった海軍航空隊に教官を渡す余裕なんぞあるはずもなく
才人の予科練時代では、教官一人当たり二人ないし三人だったが、今は、教官一人で十人以上も教えるという異常事態となっていた。


更に

「それにな、練習生に対して、練習機の数が足りん」

そう、それまでは、消耗機だけで生産してもよかった練習機だが、急に数を増やした
練習生に対して、すぐにその数の分だけ練習機を用意するなんぞ出来ようもなく、
練習生が増えた分だけ
一人当たりの飛行練習時間が減るという結果となった。

「まあまあ、上の連中のことを言ってもどうにもならん。俺達が工夫するしかないんだよ」
「そうだな」

彼らの不安な教官生活が始まった。








教官生活が始まって1ヶ月が過ぎた。

最初、才人に配属された、練習生たちは、新聞などでたびたび見かける、英雄だったことでキラキラの目で見ていたが
才人のスパルタ教育と容赦ない口撃で、たちまち嫌いな鬼教官へと変わってしまった。

才人は、他人の教官のように決して、無闇に殴ることは無かったが、重大な操縦ミスや
命にかかわるミスを犯した時だけ殴ったのである。


才人自身は現代人感覚であるため、無闇に暴力を振舞わなかっただけであるが、
受ける練習生にとっては
殴られた方がすっきりとするため、ひどくこたえられるものであった。

そのため、才人の受け持つ練習生たちは、他の練習生たちと比べて非常に練度が高かったのである。





そんな、日々が続いたある日のことだった。

朝食を済ませて、飛行場に行く時後ろから声が掛けられた。

「おい、そこの少尉さんよー」

後ろを振り返ってみれば、そこには大尉がいた。

その大尉は、実戦経験が碌にも無いくせに、海兵に出たというだけで態度が大きく、
暴力も無闇に振舞っていたので、隊員の中で嫌われ者であった。

「何でしょうか?大尉?」

才人自身も好きではなかったので、さっさと切り上げたかった。

「貴様は、勲章をもらった上に、少尉に昇進したんだよな?」
と、ニヤニヤしながら聞く

「ええ、そうです。それが何か?」
ムカムカする気持ちを顔に出さずに尋ねる。

「聞けば、貴様は負傷をして帰ってきたそうじゃないか。そんな貴様が勲章をもらった
なんて、馬鹿げている。その勲章を飾るにふさわしいのは俺様だ。だから、勲章をよこせ」

少尉に昇進し、勲章を貰ったからといって全てが良くなったと言う訳はない。

練習生や国民の大勢のように、尊敬されることもあれば、目の前にある大尉のように
妬みや嫉妬をする人も大勢いた。

才人のような英雄は、その二つを背負わねばならなかった。


「そうですか。ですがそのままハイっとあなたに渡すわけにもいきません」
断固たる態度で貫き通す。

「おう、俺もそのまま貰えるとは思ってない。しかし、貴様の実力は皆を騙しているんだ。
その化けの皮を剥がして、貴様の腕の無さを証明するには、戦闘機乗りらしく勝負しようじゃないか」
どうやら、才人の体調が全快でないことを、いいことに勝負を持ちかけられたらしい。

しかし、才人は

「いいでしょう、やりましょう」
その勝負を受け取った。

「いいぜ、その勝負から逃げんなよ」
とニヤニヤしながら去った。






数時間後、この決闘騒ぎに司令官も何を血迷ったのか許可が出され
練習生も将来の参考になれるとして、本日の練習を休講とし
その決闘を見学することとなった。


使用する機材は、霞ヶ浦に置かれている零戦を使うが、なぜか22型が大尉が使う機体を除いて
故障中だったり修理中だったりと使用できず、21型が才人の使用機体だった。

だが、才人は気にも留めなかった。
22型よりも使い慣れた21型の方が良いと思っていたからだ。

大尉は離れた飛行場にいて、姿は見えなかった。

準備を進める才人に、佐々木が近寄ってきた。

「平賀、腕は大丈夫か?」
どうやら、負傷したところを心配してくれるらしい。

「ああ、僅かに力が入らないが大丈夫だ。あの大尉に対してのハンデだと思ってるよ」
「そうか・・・。俺もあの大尉はいけ好かない野郎と思っていたから
徹底的にやっちまえよ!」

「おうよ、それじゃ行ってくるぜ!」
と才人は親指を立てる。佐々木も親指を立てて、その場から離れる。

才人は、コンタークと前離れの合図を行い、飛行場から離陸し、3000mの上空にいた。

決闘のルールは、霞ヶ浦飛行場の3000mで試合を行い、搭載されたガンカメラに
姿を映せれば勝ちと決められていた。



――――どこからやってくるものかな?
左右を見ながら探る。

上空は、ちらほらと雲は見えるが基本は快晴であった。

ゆっくりと、フットバーを噛み締めながら探すが、大尉の零戦の姿を
見つけることができない。

――――おかしい、そろそろ姿が現れても可笑しくないのだが
そこまで考えて、大尉がまじめに約束を守る人物であったかを
ハッと思い出し辺り一面を見まわす。


すると、やはり、上空に零戦の姿があった。

それを確認するや否や、操縦桿を引く








――――貰った!!
それが大尉の偽らざる心境であった。

生意気な少尉は、愚直にも約束を守り続けているようだが
約束なんぞは糞喰らえだ。

決闘は、勝ったもんが正義だ。

相手が飛んでいる高度よりも、有利な高度をとって落とす。

更に、何mの高度で交戦すると約束すれば、それは勝ったも同然であった。

このような戦法をとり続けて、何度も成功させた手口だ。

相手が文句を言おうにも、負ける方が悪いし、なによりも階級があったので文句が
言いだせず
そのままズルズルと続いた。


――――テメェは生意気だったんだよ!!
一目を見てから、気に入らなかった。何もかも気に入らなかった。

勲章をもらっているくせに、威張らないし、殴りもしない。
なにもかもが相いれない存在だった。

だから、この決闘を起こして、恥さらしをしたかった。


だが、あいつはあと一歩のところで回避しやがった。

軽くフワッと舞い上がったかと思うと、軸線からずらしやがった。

急降下から引き起こし、探せば、あいつは、緩く旋回していた。


まるで、こちらのことなんか意にもないといった態度だ


「ふざけんな!!」


操縦棹を引き猛然と突っ込むが、スローロールでかわされる。

ロールした後、背面のまま雲に隠れやがった。


「雲に隠れるな!出てこい臆病者!!」
俺は叫びながら雲の中へと入った。

しばらく、真白い世界が続き、雲を抜け出せれば、あいつの姿は無かった。

「な!どこにいやがる!隠れてないで出て来い!」
そう叫ぶが、見えない。

「後ろにいますよ。大尉」

何いとばかりに後ろを振り返れば、確かにあいつの零戦の姿がった。

その時に俺は悟った。この決闘に負けたことに








才人が飛行場に降りてみれば、歓喜の声で呼ばれてもみくちゃにされた。

そんな状態がしばらく続いた後に

「貴様!!逃げやがって!!卑怯な戦法で勝ちおって!!
それで恥ずかしくないのか!!」
先ほどの大尉が叫びながら、やってきた。


それを聞いた皆が白けた顔をして、才人も呆れながら言う。

「卑怯な戦法って、あれも立派な戦術ですよ。それに先に破ったのは大尉でしょ」

それを聞いた大尉は、顔を真っ赤にしてワナワナと体を震えたかと思うと

「黙れ!!貴様は黙って飛んだら良かったんだ!!」
と叫びながら、拳が飛ぶ。

才人も黙って受ける理由も無く、その拳の勢いを利用して、一本背負い投げを決める。

背負い投げが決まると周囲から、惜しげもない拍手がとんできた。

大尉は、この決闘騒ぎを起こした上に、問題行動を起こしたので、そのまま最前線送りとなり
行方知らずとなった。










数ヶ月が過ぎた。


桜の花が散って、涼しい季節となったころに才人と佐々木の転属命令が来た。

「転属か・・・・。人を教えるのも楽しかったが、やはり前線のほうがいい」
「そうだな、ところで平賀の転属先はどこだ?」

そう尋ねる佐々木に才人は返す。

「俺は、ラバウルだ。古巣の所に戻るよ」
「そうかおれは、クェゼリンだから離れ離れになるな」
佐々木は寂しそうにつぶやく

「まあ、2度と会えないという訳でもないさ。そっちでも頑張れよ」
「おう!そっちこそもな!」
お互いに健闘しあう2人だった。

才人は再び戦場へと向かう 懐かしきソロモンの空へ

あとがき

今回は、教官というテーマでしたが、ほんの数行しか書いていません(汗)

ですが、練習機に関しては事実です。やはり、総力戦とは何たるものかを理解していなかったでしょうね。

また、嫉妬する大尉も登場しましたが、あれだけ新聞に出たら妬む人も確実に出るでしょうし。

前話のラストに冒頭の佐々木のシーンが入っていましたが、友人のアドバイスによって削りました。

ですが、微妙に死亡フラグが漂う島へ配属になりました。生きて帰れますかね(笑)



[32038] 地獄への航路
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 13:12
――――昭和18年5月

才人は、南方へと航空機を輸送する、大鷹に便乗していた。

大鷹は、戦前に決戦海戦での正規空母の補完のために、海軍が何割か支援金を出す代わりに
いざという時に空母へと改造してもいいという、補助空母であった。

大鷹は、春日丸という客船で、戦前に改造を終えており、第一艦隊に配属された。

しばらくは、春日丸の艦名であったが、ミッドウェー海戦での敗戦で
軍艦籍へと編入されて、大鷹へと改名された。

同級艦としては、沖鷹・運鷹などがある。



この時期には、南方で急増する、航空機の損害を補充するために
航空機輸送の任務に就いていた。

大鷹は、飛行甲板ぎりぎりまでフルに積もうと思ったら
50機近くも積むことができた。

なお、これらの補助空母たちは、ラバウル撤退までに、陸海軍機合わせて
実に2千機近くも運び出されており、南方を支える原動力として
彼女たちの戦功を大いに評価してもいいだろう。


なお、運び出される機材は、零戦22型と33型であった。

零戦33型は、数奇な運命にあった機体であった。








―――――昭和15年

零戦21型の設計を終えた三菱の設計者たちや、航空本部は零戦の改良計画に入っていた。

当初は、2号零戦と呼ばれ、後に零戦32型と呼ばれた機体であった。

大まかな改良点は、御覧の通りだった。

・空母の運用や速度向上を狙って、翼端を50センチずつ切り落とす。
・推力単排気管をやめて、集合排気管に戻す。
・栄21型に換装する。

1は、空母のエレベータでの制限をなくすため、折り畳み翼を切り落としたもので
抵抗軽減による速度向上やロール率の改善を狙った。

2は、推力単排気管は、確かに速度向上にもなれたが、成形技術の未熟により、
胴体塗料やタイヤのゴムが熔けるという
事故が多発したため、集合排気管に戻された。

栄21型の換装や翼端成形によって、損失分は補えると考えられた。

このように、大きな期待をかけられた、零戦32型であったが、
ロール率は大いに改善され、上昇能力は上がったが

しかし、肝心の速度はさほど変わらず、格闘能力は低下し航続距離も大きく減った。

設計陣は、多大な努力をしたが、なかなか、改善できず、
成形技術の進歩により、推力単排気管を再び採用された零戦21型に栄21型を換装した
零戦22型が後から飛行し、その性能の良さに上層部に気に入られ、開発中止お蔵入りした。


そのまま、陽の目を見ないまま、忘れ去られると思われたが、ガダルカナルが
彼女の運命を変えた。

ガダルカナルでは、少しでも長い航続距離や格闘能力よりも、1秒でも早くたどり着ける
速度と上昇能力を重視する局戦能力が求められていた。

当時の海軍機の試作機状況は、一四試局戦は、三菱から川西へと移されていたが
未だに戦力化されておらず、三菱の一七試艦戦はまだ、基礎設計段階。

焦る航空本部に陸軍に頭を下げねばならないのかと、悩んだところ零戦32型を思い出した。

翼端を切り落とした零戦32型は、速度を重視する局戦にうてつけではないかと考えられ
改良設計を空技術廠が引き取り独自設計が始められた。

しかし、航空本部は3か月以内に戦力化させることという、無茶な要求も出された。

空技術廠の設計陣は、彼らの要求に悩み、悩みぬき、一つの英断を出した。

速度性能を向上させるために、エンジンを金星54型に換装させると共に、
設計時間を短縮するために、愛知で飛行試験中だった、99式艦爆22型の機首を
そのまま零戦32型の機首へと持ってきた。

もちろん反対意見も、多かったが、そのまま押し通し、昭和17年11月には初飛行した。

とにかく、性能を見るため、そのまま換装したため、空力の無駄が多かったが
性能は素晴らしかった。


高度6千メートルにおいて、最大速度552kmを発揮し上昇能力も
高度6千メートルまで6分30秒を切る上昇能力を発揮した。

この性能は、機首や胴体の空力改善や推力単排気気管によって、最大速度568kmまで上昇した。

航続距離性能は、かなり低くなったが、局戦として求められたため
必要犠牲と割り切られた。

むしろ、搭載する燃料が減ったため、間接防御能力が向上したのは
設計陣の嬉しい誤算であろう。

また、機首が太くなったことで、胴体銃は廃止され、翼内に搭載することになったが
機首設計を急いだため、極最初期には、ガンポッド式に収められ

翼に20ミリ機銃・ガンポッドに15ミリ機銃が収められたが

後に15ミリ機銃を翼内に収めた甲型、15ミリ機銃を20ミリ機銃に換装した乙型、
内側にあった20ミリ機銃を30ミリ機銃に換装した丙型などが登場した。


彼らの最大限の努力が払われ、昭和17年12月に採用されたが、ガダルカナルには
間に合わなかった。

しかし、ラバウルでの迎撃戦が多くなっており、ラバウルで運用される運びとなった。


なお、格闘能力が低いという理由で採用するのを反対した某大佐がいたが
彼の意見は誰も取り入れられることはなかった。








才人は、ホケーッと目の前に広がる海を見ていた。

海は、広々としていて、時折イルカが跳ねていてのどかな光景だった。

だが、この海域は敵潜水艦が紛れ込んでいて、今にも雷撃されるのではないかと
乗組員たちはぴりぴりとしていて、あちこちで見張りをしていた。

もちろん、才人も見張りをしている人の一人であるが、それほどやる気を出さず
イルカを眺めていてはあることを考えていた。


――――俺はこの空にまた戻ってきたか・・・・。俺は生きて帰れるのだろうか・・・
才人は、負傷した様子を思い出したのか、頬と左手の古傷が疼くのを感じた。

――――俺はルイズに生きて帰ると誓ったじゃないか。あの空で・・・・
だから俺は生きて帰る!

才人は新たな決意を胸に刻み、前を見つめるのだった・・・・・。

あとがき

航路です。しかし、零戦33型の説明が中心になってしまいました。

戦闘を期待した人には申し訳ありませんがしばらく待っていただけると幸いです。

大鷹は、決戦兵力には成り得なかったことで、批判が多いですが、航空機輸送を褒め称える本が少ないのが不思議です。

やはり、日本の国民性ゆえなのかなと思ってしまいます。



[32038] ただいま 相棒
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/20 13:15
――――昭和18年6月

トラック諸島に到着した才人は、数日掛かりで零戦の整備を終えると
他の補充兵と共にラバウルへと移動した。

久しぶりに戻ったラバウルは、相変わらず不気味な花吹き山があり
飛行場には多くの零戦が並べられていた。

才人は、粉塵が舞う飛行場で、危なげなく着地し、エンジンを切り地面に立つ。

熱帯地の環境のせいか、上半身裸の男たちが汗だくになりながら
零戦を整備していた。

才人は、彼らに労うと共に、零戦の整備をお願いする。

それを済んだ後に、指揮所へと移動するが、その途中で長椅子にもたれて
眠る人物を発見した。


その人の階級は、大尉であったが、才人は顔を綻ばせながら、その人物の前に立つ。

「大尉!本日より戦闘204航空隊に配属されました少尉です!よろしくお願いします!」
「ああ、ごくろ・・・・」

大尉は、寝起きしながら、敬礼したが、その敬礼は途中で止まった。

「ひ・・・平賀なのか?」
「はい、平賀才人少尉です。また、会えて嬉しいです。鈴木大尉」

鈴木大尉は、敬礼を途中で止めており、口も大きく開いていた。

「ひ・・・平賀!よくぞ帰ってきてくれた!左腕は大丈夫か?」
鈴木大尉は、肩を掴みながら尋ねてくる。


「左腕は、御覧の通り繋がっていますよ。鈴木大尉の元でまた戦えることが嬉しいですよ」
「俺もだ。お前が優秀だから、俺は無茶な指揮を安心して出せるんだ」
「ひどいですよ。大尉」

和やかに話しながら、歩いていると或る零戦を通り過ぎようとした時に足をとめた。

「この零戦は・・・・」

その零戦は、21型で機体のあちこちに補修の跡が付けられていた。

しかし、才人は気にも留めなかった。なぜなら

「俺の零戦だ・・・」
そう、才人が数ヶ月前から乗ってきた零戦だったからだ。

尾翼の番号も「F-011」と昔のままであり、数ヶ月前に去るときには
傷だらけだった零戦には、その傷を見出すことはできなかった。

鈴木大尉も得心が得たのか
「おう、その零戦はなやはり幸運機だったぞ」




聞けば、才人が去った後に、必死に修理を行ったそうで、もう少しで完了するという時に
敵戦艦の艦砲射撃の攻撃に見舞われたそうだ。

その、砲撃の激しさは凄まじいの一言で、あの零戦の周囲にも落下してきたそうで
駄目かと思われたが
敵艦が去った後に調べて見れば無傷だった。

ネジが数本緩んだだけで、爆圧や爆風による損傷らしい損傷は無かったそうだ。


これは、運がいいと喜んでいると、再び艦砲射撃に見舞われた。

ジャングル周囲にも艦砲射撃させられて、隠した零戦のほとんどが破壊され
飛行場に置かれたあの零戦も、今度こそ駄目かと思われたが
不思議なことに、飛行場が釈迦目茶に破壊されたのに
零戦は破壊されていなかったのだ。

もちろん損傷はなかった。

これは運がいいぞと、隊員たちは喜び、飛行場を離陸できる範囲に修理すると
その零戦をラバウルへと運ばれた。

この時、ガダルカナル周囲には敵戦闘機が大量に跳梁していたが
彼らに発見されずに下がることができた。



ラバウルで本修理を行い、戦闘204航空隊に配属された。

204航空隊の所有機が、既に零戦22型に置き換わっている中で
ただ1機だけの21型は目立っていた。

だが、他の人が乗っても幸運はまだ続いた。

他の零戦が空戦を行うと、大なり小なり損傷するものであるが
この零戦は、損傷をすることなく、撃墜を遂げていた。

これは、ベテランだけでなく初陣のパイロットも、同じことが起きたので
幸運の零戦と呼ばれた。




「というわけさ」
「なるほど・・・・。お前さんは、大した機体だよ」
コンと機体をなでる。長く戦い続けたのか、塗装がはげて落ちていたが
日の丸だけは輝いていた。


「それで、お前の機体はどうする?22型や32型でも良いんだぞ」
答えは既に分かっているのか、にやにやしながら尋ねる。

才人は苦笑しながら
「いえ、いいですよ。この零戦で構いません。俺の相棒を務められるのは、
こいつしかいませんよ」

胴体を撫でながら言う。
「また、よろしくな。相棒」

あとがき

再会です。未だに戦闘に入れません。

機体に愛着というものは、誰しもが持っていることでしょう。

しかし、専用機というものは、基本的に海軍には存在していません。細かな機微を要求する母艦機以外は
回し乗りを行なっていたそうで、大空のサムライの坂井さんも3機の機体を回し乗りしていたそうです。

また、迎撃戦の時は、近くの機体なら何でも乗っても構わないそうで
下士官が隊長機に乗って迎撃を行なった人がいるそうです。



[32038] 幽鬼な男
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/03/21 19:17
――――昭和18年6月

ラバウルで204航空隊に配属された才人は、隊員と再会していた。

やはり、数カ月離れている間に何人か見知った顔がいなくなっていたが
才人の僚機であった北条1飛曹が無事であったことは喜ばしいことだろう。


彼らは、新しく入ってきた補充員と入れて、宴会をやっていた時にふと
あたりを見回した時に、団体から離れて一人酒を飲む男がいた。

その男は、頬がこけ落ち、やつれはてた表情をしていていたが
眼は誰よりも鋭かった。

その人は、黙々と一升瓶から酒をくどくどと飲んでいた。

――――あいつは?

才人は、気になってはいたが、周りからの酒宴騒乱に巻き込まれ
意識の外に外された。





――――翌日

さすがは、実戦部隊の搭乗員達で、二日酔いを起こした者は一人もいなかった。

本日の目標は、ポートモレスビーへの空襲で、制空確保と陸攻の護衛であった。
飛行場を攻撃に参加する陸攻は34機であった

それに対して、護衛の零戦は、才人の部隊のみならず、他の部隊も
共同で出撃し全部で84機にも上る。

緒戦時には、考えられない程の数だが、今はその数で出撃しないと
犠牲ばかりで戦果が少なくないという。

連合軍も徐々に、数と質で零戦を凌駕しつつあった・・・・。


飛行場では、各々の零戦が暖気運転を行い、エンジンを咆哮していた。

零戦が、22型や33型へと交換が進む中で、部隊唯一である
21型の才人の零戦は、他の零戦よりも目立っていた。

才人は、指揮所に集まり、ブリフィーングを行っていた。

204航空隊は、ガダルカナルなどで、アメリカ海軍の最新の戦術である
サッチウィーブなどの2機編隊の、攻撃を経験した部隊であったから
その利点を取り入れようと

3機編隊から、4機編隊を組み変えていた。

才人は、鈴木大尉の2番機で、3番機には新しく入った飯野上飛曹
4番機には北条1飛曹であった。

これは、少しでも昔組んであった、ペアと組んで戦場に慣れさせようという
鈴木大尉の配慮であろう。

才人には、それはありがたかった。

なにせ、半年間も実戦から離れているのだ。カンなどが鈍っているのも否めない。
少なくとも、気心が知られている奴と組めて機がだいぶ楽になった。

「平賀!お前にとって久々の実戦だが、心配するこたーない!
お前にとって頼れる、上司と部下が付いているんだ!気負わず戦え!」
「了解」

理解のある上司でよかったとつくづく思う才人だった。

これが、数ヶ月前の大尉だったら、いびられて戦う処ではなかっただろう。

飛行場を歩きながら、自分の零戦に近づく。

零戦は、数カ月の間、離れ離れになっていたが、使用者や整備兵が
丁寧にしてくれたおかげか、綺麗だった。

乗り込みながら、出発の刻を待っている間に辺りを見回していると
1機の零戦が気にかかった。

その零戦は、表面は塗装が激しく落ちており、零戦の表皮が見えていた。
さらに、コクピットに座る男は、うつむき加減にぶつぶつと何かを呟いていた。

――――あいつは昨日の?
気になる才人だが、出発の刻となり、意識の外に追いやられた。





轟音がとどろく

空は、澄み切った青空をしていた。

その中を戦爆連合が進む。

この時期の零戦の塗装は、灰色ではなく、緑色に塗装されていて
一般人が零戦の塗装をイメージする物となっていた。

海を越えて、ニューギニア島に近づいていて、間もなく
敵軍の勢力圏内に入り込もうとしていた。

全員が四方八方を注意深く見る。

チリヂリとした太陽の光と所々に浮かぶ雲から敵機がやってくるのでは?
こんな思いから探りを続ける。


その時、才人は懐かしい感覚、殺気の様なものを感じ取った。


その方角を見れば、遥か遠くの彼方で黒い小さな点がいくつものも見つかった。

才人は、無線電話に通信をONにすると
「鈴木大尉、10時と11時の間の方向から、黒い点を発見しました。
恐らく、戦闘機のようで、こちらに気づいた様子はありません」
と通信する。

この頃には、無線電話が充足してきて、ほぼ全機搭載することができた。

しばらくして、返事が返ってきた。
「平賀、よくやった。こちらも確認できた。敵機はいったんやり過ごして
後方より攻撃を仕掛ける。第1、2中隊はこれより攻撃を仕掛ける!
第3、4中隊は、引き続き陸攻を護衛せよ!

第1、 2中隊は我に続け!」

バンクを振るや否や、増槽を落とし、加速する。
才人たちも、鈴木大尉の後に続く。


ちょうど、雲があったので、それを隠れ蓑に接近を図る。

「「「「・・・・・・・・・・」」」」

誰もが喋らない。



雲が切れた途端、鈴木大尉は、右斜めに切り込むかのように上昇する。
もちろん才人達も後に続く。

敵機はと見れば、才人達の前にあり、しかも後下方という、敵機からは
見えにくく反撃しにくいという、絶好のポジションを占めることができた。



「全機!我々は絶好のポジションを占めた!最低1人1機喰え!
これより突撃を開始する!」

鈴木大尉の零戦が加速する。
その後を35機の侍が続く。

敵機は、才人達の奇襲に気づいていない様子で、前を向きっぱなしだった。

才人は、照準環に入った液冷の戦闘機に狙いを定め、銃把を握る。
轟音と共に、赤い火線が延びる。

赤い火線は、主翼・胴体を舐めるかのように命中し
戦闘機の中央部が巨人の拳で握られたかのように爆散した。

この空のあちらこちらで、主翼が裂けたり、胴体が裂けて落ちる戦闘機が相次いだ。

この混乱の隙を突いて、才人達は、すり抜けるかのように、上方へと抜けた。

「第1中隊は左!第2中隊は右へ分かれて、各個に攻撃せよ!」

才人達は、左右分かれる。ある者は上へ、ある者は下方へと移動する。

これも、敵軍の混乱に拍車をかけた。
零戦が一斉にバラけたため、どの敵に向かえば良いのか分らなかったからだ。

戸惑う敵に、射点に付くことができた、零戦が落としてゆく。

才人も、鈴木大尉と共に旋回しながら、敵編隊を観察する。
敵機は、混乱中で、そこを零戦が面白い様に落としてゆく。


そこに、ある零戦が気にかかった。
その零戦は、ペアを作らず単独で行動をしていた。

零戦は、瞬く間に2機撃墜させるが、その戦い方はどこか危ういもので
まるで、死に急いでいるかのような戦い方だった。

次の瞬間、目を見開かされた。


件の零戦が、体当たりしたのだ。弾はまだあるはずなのに。


主翼の端を、敵機の垂直尾翼を斬り裂くかのように体当たりしたのだ。
体当たりされた、敵機は海にへと墜落開始する。

体当たりした、零戦も無事では済まず、主翼の一部が破損した。

幸いにも、墜落する様子はない様だが、ただ、命を落とすのを
厭わない行動に才人は、呆然とするほかなかった。

気が付けば、敵機の姿はなかった。

第3、4中隊の力を頼ることなく、敵機を撃退させることを成功したのだ。

鈴木大尉は、第3中隊にいた先任士官に、今後の指揮権を譲ると
第1、 第2中隊を引き連れて、ラバウルへと帰投することとなった。

才人が体当たりを行った零戦のコクピットを覗ければ
昨日の男が、うつむき加減で、何かを呟いていた。

――――あいつ、いったい何があったんだ?
気になる才人だった。




ラバウルに降り立つ。

やはり空戦を行った後の、地面の感覚はひとしおなものだった。

件の零戦のとこに向ければ、男が幽鬼な表情で、人を睨み殺せるのでは
という暗い目をしながら、前を歩く。

その前に立つ人たちは、その眼光に怯えて、その人を避けるかのように
人垣ができて、モーゼの滝のように分かれだした。

才人は、その様子に、行くのは無理かと思い
近くにやってきた、鈴木大尉に尋ねる。

「あの男は何があったのですか?」
「ああ・・・・・。あいつか・・・・」

尋ねられた、鈴木大尉は悲しそうな眼をして言う。

「あいつは、杉田庄一だ。」


あとがき

杉田庄一に何があったのか?

次回は、その話の主役になるでしょう。

感想で、様々な意見や感想を上げてくれました。

順次改定していきたいので、どうぞよろしくお願いします。



[32038] 杉田庄一
Name: 蒼龍◆fbabc090 ID:a9e5d299
Date: 2013/02/18 13:27
始まりは、今年4月に行われたい号作戦であるという。

い号作戦とは、日々ソロモンで強まってくる連合軍の圧力を打開するために
基地航空隊と機動艦隊の艦載機を用いて行われた航空作戦である。


機動艦隊の艦載機が、陸揚げされてラバウルで基地航空隊と共同し
連合軍に向かって一斉に攻撃した


と書けば聞こえは良いが、彼らの合同訓練を行わずに強行した為に
それぞれ別行動を余儀なくされ、戦果はそれほど上がらなかったとされる。


問題は、い号作戦終盤にあった。


連合艦隊司令長官山本五十六大将は、い号作戦開始時からラバウルにて直接指揮を行い
出撃者を見送っていた。

そして、最前線基地であるブーゲンヒルでの視察の予定が立てられた。

護衛戦闘機はたった6機であった。


周りにいた者は、口々に「護衛の零戦の数が少なすぎる」「前線での安全は確保されてないので視察を止めてください」というが、

山本大将は彼らの懸念を杞憂だと笑い、護衛の零戦もい号作戦の参加者が多く、
疲労しているものが多いのでこれ以上はいらないという。


こうも言われては、引き下がるほかなかった・・・・・。




しかし、彼らの懸念は最悪の形で当たってしまう。


――――4月18日

2機の陸攻と6機の零戦は、ラバウルを出発しブーゲンヒルへと向かう。


行路は、何事もなく晴天であった。


もうすぐ、飛行場に降りようかという時に事態は変化した。





護衛の零戦は、慌てるかのように増槽を捨て陸攻の機銃座が慌しく旋回する。


そんな彼らの上から、大きな影が覆う。



その影のロッキードP-38であった。

P―38は、液冷エンジン・双発双胴という、珍しい機体構造をしており、
排気タービン過給機を採用していて高高度性能はよかった。

最大速度がL型で667km、20m機関砲×1、12.7m機関銃×4を機首に
集中配備させていて、重火力であった。

また、第二次世界大戦の陸軍のエースパイロット、ボングとマクガイアがいるが
彼らは、P-38のパイロットでそれぞれ1位・2位を占めていた。

日本では、ペロハチというありがたくないあだ名を付けられたが大戦末期には疾風と
空戦し勝利する事例もあった


このようにP-38は油断ならない戦闘機であることがわかる。



戦後になって、初めて知らされたことだが、アメリカ軍はこの時期
ほぼ完璧に日本軍の暗号解読に成功しており、その暗号から山本五十六大将の
前線視察をキャッチし、待ち伏せされたということだ。

間抜けなことに、日本海軍は終戦までに暗号解読されたことに気づくことはなかった。



P―38は、16機を率いて慌てる彼らに襲い掛かった。

一方零戦達は、日本軍勢力圏内であったので、ここまで来ないだろうなという
油断があったので一泊遅れた。



空戦の結果、護衛の零戦達はP-38を6機撃墜させるが、最も重要な任務である
連合艦隊司令部の護衛は失敗に終わる。


陸攻が2機とも撃墜されて、生存者は2番機に乗っていた宇垣参謀長以下3名という有様で、山本大将が乗っていた1番機は総員戦死した。


皮肉にも、護衛の零戦6機は1機も被撃墜機は出なかった。




海軍上層部は大いに荒れに荒れた。


安全だったはずの後方戦域で撃墜された上に、連合艦隊司令部の人員の大半が戦死したものだから、その衝撃は大きかった。

知らない秘密基地が出来たとか、裏切り者がいるのではないかという疑心暗鬼に
陥る者など、その混乱ぶりは凄まじかった。

後任の連合艦隊司令長官を早急に決めなければならなかった。


事件原因調査も行われたが、結果は何一つも得ることはできなかった。

アメリカ軍が徹底的に情報漏れを隠蔽したうえに、翌日にはブーゲンヒルへの通常爆撃も行われており、作戦行動の一環であるかのように日本軍に誤認させたからだ。


何一つも解決できなかった上層部は、八つ当たり気味にその責任を現場に求めたが
現場の司令部は、当時居合わせた護衛の零戦の搭乗員たちに押し付け
自分らは責任を取ることはなかった。



それから、彼らは過酷な出撃を連日のように繰り返した。
彼らの安寧の時は昼も夜も無かった。


彼らは、そんな上層部の仕打ちに腹を立てるものの誰一人たりとも死ぬものかと
誓い合ったが、運命とは残酷なものだ


まず、日高上飛曹が大空に散華した。彼は複数の戦闘機に囲まれて
空戦した末だった。


それからタガが外れたかのように、次々と戦死してゆき
7月には隊長であった森崎中尉も戦死し

とうとう、杉田が最後に残ったそうだ。




彼は、自分だけが生きていることが許されないらしく死に急いでいて
今日の空戦のように、命を削るかのような戦い方をするそうだ。









「それで、あの男は荒れているんだ」
鈴木大尉が哀しい目で見る。

連合艦隊司令官を戦死させた、責任を彼一人背負っているのだからだ・・・・。



「ま、話はこれぐらいにして、どうだ、久々の実戦は?」
「ええ、カンが鈍っているかと心配していましたが大丈夫で何よりです」
「そりゃ良かった。ラバウルはガダルカナル以上に、お客さんはたくさん来てくれるぞ」
「物騒な、お客さんですね」

二人して、はっはっはっはっはと笑うと宿舎へと移動する。









――――夜

日がとっぷりと暮れ、周りのヤシ林から、鳥の鳴き声が聞こえてくる。

その暗闇の中、2人の人影が飛行場に立っていた。

人影は、才人と杉田であった。

「で、ここまで呼んできて、俺に何の用事でしょうか?少尉さんよ」
やさぐれているのか、口調がどことなく馴れ馴れしい


やがて、才人は口を開く
「単刀直入で言う。お前、海軍航空隊を辞めろ」


「―――っ!」
息を呑む杉田。


「お前の戦い方は、いつか死ぬぞ」
「だから、何です!?あなたには関係ない話でしょう!」
「関係あるさ」


才人は言葉を切り、睨みつけながら言う


「お前がこのまま戦い続けたら、周りに迷惑を懸ける。それも死と言う形で
払わされるんだぞ。お前一人の為に周りが死なれたら困るんでな」


才人はため息つきたそうに言う


「お前の独りよがりに周りは付き合って入られんだよ。お前一人で死にたければ
周りに迷惑をかけない方法で死ねば?」
「・・・なたに・・・る・・・」


そこまで言った時、杉田が低い声で何かを言い始めた。
それに気付いた才人は黙る


「・・・たに・・・あなたに何が分かる!」
杉田は突然激高した


「山本長官を守れなかったあの日から俺達は後悔しないできたと思っているのか!」
あの日の壮絶な後悔


「上層部は本気で守れたと考えたのか!本気で襲われないと思ったのか!」
容赦ない罵詈雑言を浴びせられた日々


「山本長官の弔い合戦も考えた!」
燃え上がる復讐心

それなのに

「俺達に死ねというような出撃!」
毎日、休みを与える暇も無く出撃した


「みんな・・・皆死んだんだぞ!」
一人一人櫛の歯が欠けるように戦死して逝った。


「森崎中尉も・・・辻さんも・・・日高さんも・・・
皆・・・皆・・・死んじまったんですよ・・・・」
思い浮かべるはあの日、たった6人で護衛した人達

それが、杉田を除いて皆戦死してしまった。


「うおおおおおお!!!!」
そこまで語ったのが限界なのか男泣きをする杉田。



辺りは、杉田の泣き声以外は何も聞こえない・・・・


やがて、才人の口が開かれる
「杉田、山本長官の弔いを本気で考えているなら」
才人は一端言葉を切り、杉田の目を見るように言う




「生きろ!何があっても生きろ!」
「――――!」
その言葉に驚かされたのか、目も見開く杉田

それを無視し、才人は質問する
「なあ、杉田。この戦争はどうなると思う?」
「え?えっと・・・・日本が勝つと思います」
「違う」
その言葉にはっきりと否定する。

才人に脳裏に浮かぶは、歴史の授業で習った、空襲で丸焼けとなった日本
そして、道端に無造作に転がる死体・・・・

才人は、それを回避するために戦い続けたが、日本が勝つ所が日々悪くなっているのを
実感していた。

「いまでこそ、何とか拮抗しているが、いつしか破られる。その後はズルズルと
日本は負け続け、日本中あちこちで大量の爆撃機によって、焼け野原にされるだろうな」
「そんな・・・馬鹿な!」
杉田は、否定するかのように叫ぶ


「日本が負ける?そんな馬鹿な事あるわけがない!」
「なら杉田。今ここでは勝っているのか?今日はたまたま勝利することが出来た。
だが、俺達の誰かが死んだり、負傷したりしたら、その補充はすぐできるのか?
すごく時間がかかるだろう。それに対して敵はすぐさま補充ができる。
つまり、同じ土俵で戦い続けたら徐々に消耗戦になり、俺達は負けてしまう。
どうあがいても、日本が今すぐ降伏しない限り、日本が焼け野原になる事は避けられないだろうな」
「・・・な・・なら!俺はどうすればいいんだ!日本が破滅の未来を歩むことを止められないなら、俺が戦い続ける意味があるのか!」
「そこだ」

才人はもったいぶるかのように言う

「杉田は何としてでも生きろ。泥をすすろうが、無様な戦いを見せようが、卑怯な戦いを振舞おうが生きろ。終戦までに生き続けろ」
「だから!」
「そして、日本を復興しろ」


続けて話された言葉に、息をのむ杉田。


「方法は何でもいい。教育でも商売でも技術家になるのでも良い。とにかく、日本を復興しろ。見事日本を復興させて、日本が世界No1に輝く事が出来たら、山本長官や亡くなった仲間達の最高の供養だと思わないか?」
「少尉・・・・」
杉田が呆けたかのように言う



才人は、話は終わったと言わんばかりに背を向き、兵舎へと歩きながら言う。
「とにかく、命は粗末にするな」














この後の杉田庄一


数日後に撃墜され、大やけどを負うも辛うじて生還する。


内地に送還され、治療に専念し、教官を経て実戦部隊に復帰する



パラオ・フィリピン諸島などの激戦地を歴戦しながらも生還する。


司令部より、特攻出撃の命令が出るも杉田が「否!」と拒否し大喧嘩に発展したこともあった。


その後は、横浜空の試製雷電改のテストパイロットとなり
まもなく334空に転属命令が出される。


その部隊で、大胆な空戦をとりながらも、自分と部下の命を守るという慎重な戦いぶりを見せつける


ある日、敵機動艦隊の空襲が迫った時に司令部から上がれという命令に対し
間に合わないと判断し、部下と共に防空壕に入った


結果的に杉田の判断が正しかったが、司令部の長官は なぜ!すぐさま上がらなかった!と、杉田の判断をなじるかのように言った時、杉田は あなたは犬死させるつもりですか!と怒鳴り返した。

結局その喧嘩が元で、地方の航空部隊に飛ばされ、その地で終戦を迎えた。



杉田は、復員した後に、すぐさまに行った行動は人員集めであった。
焼け野原になった日本を再興させる!という理念のもと、元仲間や部下などを中心に電気技術の会社を興す。


最初の数年は、なかなか軌道は乗らなかったがテレビの改良が大当たりし、
そこから会社が大きくなり、世界中から注文が来るほどとなった。

杉田は、その過程で社長となり、儲かったお金で孤児の為に孤児院を立てたり
教育を支援するなど、日本の為になる事を奉仕続けた。


「もし、あの時に平賀少尉に出会わなければ、私はとっくに死んでいたでしょうね
あの人は、私の恩人ですよ。」
戦後30周年のインタビューの会話より


晩年の杉田庄一は自分の伝記を書いた。その本は山本五十六元帥の最期の模様を書いた本として大ヒットし、印税で儲かった資金は、世界中で貧困にあえぐ人たちのために寄付し続けたという。


1994年、胃がんで亡くなる。享年70歳であった・・・・・



あとがき

お待たせしました。楽しみにしていただいた方々遅れて申しわけありません。

やはり、説得力のある語りを作るのは難しいですね。

ここを乗り越えればサクサク進むことができるでしょう。

一言感想意見をお願いします。



[32038] 超外伝 才人がストライクウィッチーズの世界に突っ込まれたらこうなる
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:a9e5d299
Date: 2012/04/30 23:02
にじファンのまほかにさんからのリクエストで作りました。まほかにさんありがとうございます。




とある世界

ここの空は、青く澄んでいて、どこまでも綺麗だった。

下を見れば、木に覆われた島と海があり、穏やかな雰囲気が漂っていた。


だが、その木の上に。影が差し掛かると、何かが轟音と共に高速で飛び去った。

飛び去ると同時に、赤い火線が飛んできて、木をなぎ払う。

その後を、複数の影が轟音と共に飛び去る。

ここは、1945年、瀬戸内海上空で、日本本土防衛中であった。





「くそったれ!俺を狙いやがって!」
コクピットの中にいる才人が毒付く。

離陸した時には、数十機いた、味方機の姿はなく、周りに見えるのは敵機ばかりだ。
太っちょの戦闘機F6Fと折れ曲がった翼を持つF4Uだ。

どちらも、時速600kmを超えていた。これらは、1943年から零戦キラーとして
登場した、アメリカ海軍の艦載機であり、現在日本各地で暴れまわっている暴君者だ。

「どちらとも何とかなるが、これだけ数が多いとなると、骨が折れるな」
才人が乗る機体は、零戦であり、1941年に採用して以来、度々改良を重ねてはいたが、老いは隠せれなかった。

しかし、極一部のベテランパイロットは、老いだした零戦であろうと、連合軍の最新機と互角に戦うことはできた・・・。

「どらあ!!」
才人は、フットバーを思い切り蹴り、零戦を斜めに滑らす。

すると、目の前に、赤い火線が通り過ぎる。

才人が、方向転換したものと錯覚し、その予想位置に射撃したが
才人は斜め前にずらされていたので、かわされた。

その後を折れ曲がった翼を持つ、F4Uが通り過ぎようとしたが、才人がその機体に向けて機銃を放つ。

轟音とともに放たれた機銃弾は、エンジン・胴体・主翼と命中し、そのF4Uは
大きく裂けて、墜落を開始する。


だが、才人は、その機体の結末を見届けることなく、フットバーをすかさず踏みなおし
操縦桿を倒し、機体を斜めに傾け、高速旋回を開始する。

その旋回中の零戦を狙って、F6F・F4Uが次々と機銃を放ってくるが、才人は微妙に
揺することで、狙いをごととく外していく。

と、正面にF6Fが現れ、ヘッドオン体勢に持ってきた。そして、両主翼の機銃を赤く
染めながら突っ込んでくる。

「狙いはいい。だが、照準が甘い」
だが、才人は操縦桿を深く倒して、機体をロールさせて避ける。

天と地がひっくり返った時に、頭の上に赤い火線が通り過ぎ、目の前に躍り出た
F6Fに向けて、機銃を撃つ。

機銃は、吸い込まれるかのようにF6Fの真正面に向かい、機首・コクピットに命中し
エンジンが爆発し、コクピットが潰れるのが見えた。

F6Fが二度と上がることのない、海への旅を開始していた時、才人はロールを戻し
上昇させていく。

上昇しながら周りを見れば、わらわらと敵機が追いかけてくる。

どうやら、敵機は何が何でも、才人を撃墜させたいようで、撤退する様子もない。

「あーあ、敵さんも自分ばっか狙わんと、他の所飛んでくれへんかな。
呉にいったらもっと楽しいだろうし」
ある意味、不敬ともいえるセリフを呟きながら、丁度浮かんでいた雲の中に隠れる。

雲の中で、体勢を立て直そうとした矢先、視界が白い光に染まった。

「うわっ!!」
光の眩しさに思わず目をつむってしまう才人。



平賀才人中尉

大日本帝国海軍戦闘機搭乗員で、日中戦争から太平洋戦争に活躍したエースであり、各地で転戦とした。
最終階級は中尉である。1945年、日本本土に来襲した米艦載機との迎撃戦中に行方不明となる。死後中尉に昇進する。

零戦の胴体に有名な、狼のエンブレムが施されたことから連合軍パイロットの間から
「フェンリル」と呼ばれて恐れていた。

撃墜スコアは、彼は常に過小に報告するため、正確なところは判明していないが、戦友の証言やアメリカからの記録から
約150機撃墜したのではないかと推測される。






「う・・・・ん・・・・・」
視界のまぶゆさが消えたため、ゆっくりと目を開いていく。

まず、視界に入ったのは、多くある計器で、次に両手足と操縦桿とフットバーが
入った。

更に、その奥に咆哮を続けるプロペラが見えた。

そして、左右を見れば、驚愕するべき事実が分かった。

先ほどまでは、陸地に近い処で空戦していたのに、周りは陸地も見えない、海の上だったからだ。



「何処なんだ・・・・・。此処は・・・・・」
辺り周囲を見回しても、海しか見えない。

「戻れたんだよな・・・・」
ハルケギニアの世界に戻れたのだろうか。

海しか見えない、此処では分らない。

「何にせよ、此処がどこか分らんが、陸地を目指す他ないな」

そう呟くと、空や粗末なコンパスを見て、大体の見当を付けて、西の方に陸地が
あるだろうと推測し、舵を取る。





進めど進めど、青空と海しか見えない。

刻一刻・刻一刻燃料が減っていく。されど、陸地は見えない。

「まいったな、あと1時間しか飛べない。それまでにどこか、降りればいいのだが・・・」
操縦桿とフットバーを動かしながらぼやく。




その時、背筋が凍りついた。今まで、受けたことのある何かだが、この何かは獣のようなものではなく、無機質で冷たいものだった。

――――な・・・何だ・・・?
しばらく、その方角を向けていたが、突如、才人は操縦桿を前に倒す。

機首が落ちた途端に、赤い光が通り過ぎた。

――――赤い光!ビーム兵器か?
才人は、光から元の世界でよくアニメで見た兵器であると推測した。

――――どこから来る?
才人は、油断なく辺りを見回すと、雲の中から、それは現れた。

まるで、ジェット機の様なデルタ翼に、黒い体、そして体中にある赤いもの
航空機のようで航空機ではなかった。


――――な・・・・なん・・・・何だ、あれは。UFOか?
才人は、しばらく呆れていると、勢いよくフットバーを蹴る。

あの黒い物が、赤く光ったと思うとビームが飛んできたからだ。
滑りこむことでかわすことができた。


「あー、もー、こっちはこっちで、一杯一杯なのに、こんな不思議なUFOが現れて
攻撃してくるし。
こんな事になったのは、あいつの所為だ!落とす!絶対落としてやる!」

才人の八つ当たりとも取れる、セリフを吐きながら、UFOらしきものに突撃する。

UFOは零戦並みの大きさで、3機が離れて飛んでいた。
才人は、近くにいた、UFOに向ける。

UFOは向かってくるとは、思っていなかったのか、慌てて発光させようとしていたが
それよりも前に、照準に入れて撃つ方が早かった。

「喰らえ!!」
機首と主翼から発砲した、機銃弾は、UFOの主翼らしきものから胴体にかけて命中し
大きく穴が穿ったかと思うと、空中で爆散した。

「1つ!」
残った、2機のUFOから、ビームが飛んでくるが、大きく旋回することでかわす。


次々とビームの奔流が来るが、自機に掠めることはない。
と、機首を持ちあげて急上昇する。

もちろん、UFOも逃がしてたまるものかと、ビームを撃ってくるが
才人は、螺旋を描くように、左右に揺れながらかわしていく。

――――タイミングは・・・・・ここ!

才人は、ワザとエンジンの出力を絞る。

エンジンの出力の落ちた零戦は、空中で止まり、しばらく浮いたかのように見えた後
機体が反転し、機首を下に急降下する。

衝撃で揺さぶる機体の中で、まず照準に入った1機に機銃を撃ち
勢いよくフットバーを蹴り、続いて入ってきたもう1機に向けて撃つ。

通り過ぎた後に、後ろを振り返ってみれば、2機とも爆散するところだった。


「ざまあみやがれ!宇宙人か何か知らんが、俺の前に出やがって!」
口汚く、罵る才人。

まあ、心細い状況で、攻撃されたら切れてしまうだろう・・・。

あらん限り、罵詈荘厳を続けた才人だが、徐々に落ち着いてくると
ようやく罵ることを辞めた。


そうやっても、今の状況に何の改善にもならないことに気付いたからだ

「あの、UFOはいったい『ヴォオオオオオォォォォォォンンンンン!!!』」
才人の目が驚愕に開かれた。

なぜなら、雲の中から、先ほどのUFOと同じものが出てきたからだ。

ただし、大きさは、B-29並みの巨大なものだった。

「な・・・・で・・・・でか『カッ!!!!』」
才人の目の前に、先ほどと比べ物にならない数の光の奔流に染まった・・・・・











「――さん!甲板掃除がおわりました!」
「うむ、――ごくろう。掃除大変だっただろう」
とある場所、軍艦に似合わない2人の少女がいた。

「えへへへへ、大変でしたが、兵隊さんの皆さんが手伝ってくれました」
「そうか、後でお礼を「航空機!1機接近してきます」何だと、何処だ!」
一人の少女が、驚いて辺りを見回せば、確かに後方に1機接近していた。

しかも、それは、煙を吐いていて、フラフラとしていて危なげだった。

「――さん、どうしたんでしょうね」
「――、此処は危ない!離れるんだ!後、治癒の用意もしとけ!必要かも知れんぞ!」






「ヒューーー・・・・・ヒューーーー・・・・・」
才人は、あれから巨大なUFOの攻撃をかわすことに成功した。

しかし、無傷とはいかなかった。主翼の端や垂直尾翼の一部が吹き飛ばされ
満身創痍だった。

なによりも、問題なのは、ビームの一部が機首を掠め、中に残った機銃弾の弾薬が暴発し
操縦席にも、爆風が来て、才人を負傷させたことであった。

この状態で、エンジンが回り続けれるのは、奇跡であったが、才人の状態はヤバかった。



――――いかん・・・・ガダルカナルの時よりもやばいかも・・・・
フラフラと飛び続けていたが、不意に機体が、グルっと回ってしまう。

――――あ・・・・戻さないと・・・・
戻そうとした才人に、何気なく上を見る。

天地が反転しているのだから、海が見えてくるのは当然の事だが、その海の一部に何かがみえた。

それは、箱の様なものを抱えた船だ。

――――あれは?
才人は、機体を戻すと、その方角に向ける。

その方角へと、進んでいくと、不鮮明だったそれが、徐々に鮮明となっていく。
それは、海の航空基地、空母だった。

――――助かった・・・・
才人は、バンクを振ると、同時に脚部の降ろしにかかる。

機体が、横に不用意に揺れながら、艦尾へと近づいていく。
艦尾を超えたかと思うと、衝撃で降ろされ止められた。


才人は、その事を確認すると、ぐったりとしながら、急速に意識が閉じられていく

「・・・・です・・・・。・・・・・さん・・・・ましょ・・・・・」
「・・・・。・・・・・・にはこ・・・・そげ・・・・・」
誰かの声が聞こえたが、気にすることは無かった。









「う・・・・・うん・・・・・」
地面が揺れる感覚に、才人は徐々に意識が戻ってくるのを感じた。

目が開けられて、目の前に入った光景は、鋼鉄の天井だった。
「知らない天井だ」

体を起こし、見回すと何処かの医務室のようだ。
――――此処は、何処だ?

才人がそう考えていると、医務室に誰かが入ってきた。

「あ、目覚めたんですか。よかったー。坂本さーん、彼が目を覚ましてくれました」
「そうか、体は大丈夫か?」

入ってきたのは、二人の少女だ。一人は、片目を眼帯しており、凛とした少女だ。
もう一人は、背が低く、可愛い少女だ。

「あ・・はい、助けていただき、ありがとうございます。体は大丈夫です」
「そうでしたかー。よかった。私の治療がうまくいって。あ、私の名前は宮藤芳佳です」
「うむ、私の名は坂本美緒だ」

それぞれの少女が名前を言ってくる。

「俺の名前は、平賀才人です。此処はどこでしょうか?」
「此処は、扶桑海軍派遣「えっ・・・」どうした?」
「いえ・・・・先ほど扶桑と仰いましたが・・・・」
「うむ?確かに扶桑といったが、それがどうした?」

才人は、震える意識の中で尋ねる。

「すいません・・・・・。日本か第日本帝国の国を・・・聞いたことありませんか?」
「日本?すまんな、聞き覚えのない国だがどうかしたか?」

それが、どうしたかではない。また、帰れなかったのだ。

すなわち、才人の頑張りが無意味だったことを意味しているのだから・・・・


「う・・・・うわわああああーーー!!」
「「!」

才人は、驚く少女の前に、両手を大きく振りかぶり、医療品・薬剤瓶を床に投げ落すと、その中から、鋭利な器具を掴み、喉へと突っ込もうとする。

「俺は、此処で死んでやるー!」
そのまま、突き刺すかと思われたが、横から伸びた手によって止められた。

「駄目ですよ!平賀さん!」
宮藤だ。

「離せ!宮藤!俺は、何も生きる価値の無い、人間なんだよ、此処で死なせてくれ!」
「そんな悲しい事、言わないでください。人は誰だって、無意味に生きている訳じゃないんです!
意味があってこそ、生まれてくるものです!」
そう言って、絶対に手を離さない。

「なら、数年間頑張ってきたことが、無駄になってしまった、俺はどうすればいい!」
「それは・・・・・証明することです」
「えっ」
才人は、その言葉が意外だったのか動きが止まる。

「無駄でなかったことを、これから証明していけばいいんです。
その頑張りが無駄ではなかった事を。私もお手伝いしますから
もう2度と自殺の事を考えないでください。
だから・・・・」

そういって、宮藤は才人を抱きしめる。

「今まで、よく頑張ったね」
「あ・・ああ・・・・う・・・・・・うわあああああああ!!!!」
宮藤の腕の中で、涙を流す才人。その才人の頭を優しくなでる宮藤・・・・・・・



しばらく経って、才人は落ち着きだした。

「すいません・・・お見苦しい処を見せてしまって」
「いいんですよ。泣ける時に泣かないと、溜め込むばかりでは体に悪いですよ」
そういって、宮藤は笑顔を見せる。

その笑顔は今までのどの女性の笑顔よりも綺麗だった。

才人も、思わず見とれてしまい、ポロっと呟いてしまう。
「綺麗だ・・・」
「えっ」

宮藤はそのセリフを聞いて顔を赤くする。言った才人も気付いたのか顔は赤かった。

どれほどたっただろうか、どちらともなく口が開かれる。
「「あの「うおっほん」!!」」

その咳払いに聞こえ、その方向に向けると、呆れた顔をした坂本がいた。

「なんとまあ、突然暴れたかと思うと、ラブコメをやってないか。正直、私はどうして
良いのか分らんかったぞ」

その発言に気まずくなる、2人

「いや・・・すいません・・・」
「えと・・・・坂本さん・・・」

「私は酒の摘みができて良かったがな、はーはっはっはっ!」
縮こまる2人

「まあ良い、ようやく落ち着いてくれた所で、聞きたい所があるのだが構わんか?」
「ええ、お騒がせしました」

と、頭を下げた所である所に気づく。

才人は、最初目を大きく見開き、次いで顔が赤くなるのを感じた。
「さ・・・坂本さん!何て恰好をしているんですか!」
「うん?」

坂本は、自分の服装を見るが、何がおかしいのか分らない

「別段、変わった様子はないのだが」
「いや・・・・変わっていますよ。坂本さん・・・何で・・・・」

才人の元の世界やあちこちの異世界でも絶対しなかった恰好をしていたからだ





「何で・・・・・何で!!パンツ!丸出し何ですかーーーー!」








「ここが格納庫だ。」
「おお、96式艦上戦闘機じゃないか。懐かしいな」
才人、懐かしき機体にであう。


「な・・・何故、男なのに、戦闘脚が反応している!」
――――頭の中に使い方が入ってくる
目覚めるガンダルーヴの力


「坂本さん、これは何ですか?」
「ネウロイの襲撃だ!非戦闘員は部屋の中に入れ!」
ネウロイの襲撃


「坂本少佐!お手伝いします!」
「平賀!お前は魔力を使えるのか?」
ウィッチとして舞い上がる才人


「皆さん、新しく仲間になった人たちよ」
「み・・・宮藤芳佳ですぅ」
「平賀才人少尉です」
新しい仲間たち


「リーネ!落ち着いていれば、大丈夫だ!」
「あ・・・はいっ!(今、私の事を名前で・・・・)」
狙撃のアドバイスする才人


「認めませんわ、男なんて汚らわしい存在ですわ」
「そんな事ありません!平賀さんはそんな男ではありません」
衝突する仲間


「平賀さーん、この水着はどうですか」
「あー、うん。可愛いよ」
きゃっ、うふふふな水着会


「なかなか強いじゃないか。平賀」
「いや、俺の教えてくれた、師匠の教え方が上手だっただけですよ」
同じ剣術仲間として認めあう


「どうですか、私が作った肉じゃがは?」
「うん、おいしいよ。今まで食べた肉じゃがの中で一番だ」
惹かれあう2人


「ウィッチーズが解散というのは、どういうことなんですか!」
「仕方ないわ。上の命令だもの」
突如の解散命令


「それで、私に何をしろというのでしょうか?」
「なーに、大した事ではない」
巻き込まれる陰謀


「オマエガノゾメバモトノセカイニカエセレルゾ」
「・・・・・・・」
協力を呼び掛けるネウロイ


「平賀さん!赤城が!」
「くそっ!ネウロイに乗っ取られたな!」
ネウロイの暴走を止められるか


「好きだよ。芳佳」
「えっ・・・」
二人の運命は?



ストライクウィッチーズ×零の飛空士

零のウィッチーズ

近日公開予定、お楽しみに



あとがき

続くわけがない

前半は、本編にリンクするかもしれないし、しないかもしれません。

Wikiにストライクの零戦が小型ネウロイなら倒せるという、記述がありましたので、才人は倒して見せました。

最初の案は、小型ネウロイではなく、大型ネウロイと対決させて絶望させようと思いましたが、やめました。

また、魔法な所もガンダルーヴから出ていると解釈していただきたい。

後、本編をしっかり見ていませんので、所々間違いがあるかもしれませんがご容赦を。

意見や感想をお願いします。



[32038] 零のウィッチーズ 1
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:4d9a0cc1
Date: 2012/07/04 18:13
「なるほど……、光に包まれたと思ったらこちらに来たと」
「ええ。まず、最初に入った光景が先ほどまであった、陸地の近くではなく海上だった事には焦りましたよ」

才人は、眼帯の少女、坂本美緒と話をしていた。

それは、自分が乗ってきた、航空機が坂本には見覚えがないし
更にどこからやってきたのかを尋ねたかった。

だが、起きだしてから聞いたことのない国の名前や、行動によって
この世界の者ではないと直感的に判った。


なお、坂本美緒は、大人よりも若い少女であるが、階級は少佐である。

「それで、扶桑はどこにある国なのですか?」
「ん?ああ、そういえば、大日本帝国とかいうてたな。世界地図を持ってくるから
それを見れば判るだろう。少し待っていろ」

そういうと、部屋から出て、一枚の紙を持ってきて、机の上で広げる。

それが世界地図のようだ。

「ここが、私たちの国、扶桑皇国だ」
そういって、指を刺す。


その国の形は……

「って、どう見ても日本じゃないですか!」
「なに?ここが、大日本帝国だと?扶桑なのだが」
不思議そうな顔をする、坂本少佐を尻目に、地図をよくよく見る。

すると、地図に載っている、大陸や島は元の世界とほぼ変わらない形をしていた。

ただし、載っている国の名前が違っていた。


「坂本さん、ここの地域の名前は何ですか?」
「ここは、ヨーロッパだな」
その名前は一緒でよかった。

だが、イギリスに似た島を指差すと
「ここは何ですか?」
「ブリタニア連邦だな」

違う名前が出てきた。

「ここは?」
「帝政カールスラントだな」

「ここは?」
「オストマルクだな」

「こ(ry)」
「(ry)」





「なるほど、ここまで違うとは……」
才人は、頭を抱えていた。ここまで名前が違うと何がなにやらわからなくなる。

ただ、ガリアやロマ―ニャの名前があって、あの世界と繋がりがある様な感じがしてほっとしたような気持ちとなった。


「うむ、ここまで判っただろう」
教えた、坂本少佐はなぜか胸を張っていた。

「お疲れ様でしたー。お茶いかがですか?」
宮藤は、お茶を入れてくれた。

「ああ、ありがとう……。ところで、坂本さん質問したいことあるのですが」
お茶をずるずる飲みながら尋ねる。

「ん?何が知りたい?」
坂本少佐もお茶をずるずる飲みながら尋ねる。

「ここに来る前に、黒い航空機と戦ったのですが、あれはUFOか何かですか?」

それを聞いた、坂本少佐は険しい顔をして言う。

「UFOは何か知らぬが、黒い奴は恐らくネウロイだろうな」
「ネウロイ……?」







そこで、才人はこの世界の事情を知る。

1930年代後半にヨーロッパ上空に突如現れた、異形の怪物・ネウロイと住処としている
ネウロイの巣が現れてから、ヨーロッパ各地で侵略され、国の大半がネウロイの勢力下に
落ちていて、ブリタニアで反攻作戦を伺っており、坂本少佐達もブリタニアへと移動している途中だという。

ネウロイは、様々な形はすれど、正体は今だ不明であり、倒すには、内蔵されている
コアを砕かねばならないなど、才人は知った。

また、ネウロイと共に発生する、瘴気は草木を枯れさせ、大地を破壊し、生命を死滅させる事ことも


「なるほど……。この世界は、人類の敵が現れて、全世界が一致団結で戦っていると」
「うむ、おおむねそんな感じだ。どころで、先ほどの口ぶりから、お前の世界には
ネウロイは現れたことなかったという口ぶりだが」
坂本少佐が疑問を上げる。

「ええ、ネウロイはいませんでしたね」
お茶を飲みながら言う。

「そうなんですか、平賀さんの世界は平和なんですね」
「平和か……」
才人は、声のトーンを落とす。

「平和だったら、どんなに良かったことか。宮藤、残念ながら違うよ」
「えー、どうしてですか」
宮藤が疑問の声を上げる。

「人類の敵が現れなかった世界は、人間同士が戦争を起こしていたよ」
「「!!」」
坂本少佐と宮藤の目が驚愕に開かれる。

「俺の乗った、戦闘機を見ただろ?あれが、数百機・数千機となって戦い、あれよりも
大きな爆撃機が、爆弾をたくさん積んで都市を空襲する。海も陸上も人がたくさん死んだ。
世界中のあちこちで争っていて、死者は、1億も届いたんじゃないかな」
才人は、淡々と語る。

「「……」」
二人とも言葉が出ない。人間同士が争う所を想像出来なかったからだ。




沈黙が続く・・・・・



才人が固まる二人を尻目に、煙草をとりだし吸い始める。

煙草が真ん中ほどまで来たとき、フリーズが終わった二人が尋ねる。

「なあ……。怖くなかったのか?」
「さあな。もう忘れちまった」
その表情からは、何も読み取れない。

「あのぅ、長いこと戦争をやっているのですか?」
「そうだな、もう7年近く戦っているな」
感慨深げに呟く才人


そう、7年だ。7年近く戦い続けた。いつしか帰れるかもしれないという希望を抱えてだ。

多くの戦友がたくさん死に、多くの敵を殺し、多くの民間人が死ぬのを見続けた。

死ねというような作戦や酷い作戦も参加した事もあった。

それでも戦い続けた。


だが、その結果が今だ。もう、あの楽しい時は帰れないだろう。

「もう、疲れたな…………」
才人が呟く。


坂本少佐と宮藤は掛ける言葉はなかった。






「大日本帝国海軍少尉 平賀才人であります。
申告が遅れて申し訳ありません。また、救助していただきありがとうございます」

「うむ、赤城艦長 杉田淳三郎大佐だ。詳しい事情は、坂本少佐から聞いた。
何も無い船だが、しばらく船旅を楽しんでほしい」

才人は、艦橋にて報告を行っていた、



これには、坂本少佐が、艦長に報告をするのと、ブルーな気分になっている
才人の気分転換のためであった。

才人は、この空母の名前が赤城と知り、大層驚くと共に、懐かしい気分となった。

才人は、以前赤城の搭乗員になったこともあり、レイテ沖海戦で囮となった
赤城の最後も見届けた事もあった。

なんだか、故郷へと里帰りした気分であった。




面倒くせえ報告を済ませると、飛行甲板に降り立つ。

カラッとした天気に目に入ってくる太陽の光は眩しく、時折吹く風が気持ちよい。
戦前でも最大の空母らしく、広々とした飛行甲板が懐かしい。


と、そこに坂本少佐がやってきた

「平賀、気分はどうだ?」
「ええ、よくなりましたよ。やはり、海の上はいい物だなと思いますよ」
「はーはっはっはっ!そりゃ良かった」
坂本少佐は朗らかに笑う。

「そういえば、平賀は医務室以外は知らなかったな。私が案内をしてやろう」
「ああ、言われてみればそうでしたね。お願いします」
そういって、二人は艦内を巡る。


あちこちの部署などを移動し、昼時で丁度いい時なので食堂へと移動する。

やはり、昼時なのか、人がたくさんいた。

「人がたくさんですね」
「うむ、曲がりなりにも大艦だからな。下手な戦艦よりも多く人を乗せるしな」

丁度、二人分の席が空いていたので、着席すると、一人の少女が食事を運びにやってきた。

「あ、坂本さん平賀さん、今から昼御飯ですか」
「うむ、今日の献立は何だ?」
「あ、はい。ご飯に、焼き魚に、おひたしです」
「ほう、なかなか旨そうな組み合わせじゃないか。」
「えへへへへ。あ、平賀さんも食べてみますか」
宮藤が人懐こそうな顔をしながら、尋ねてくる。

「ああ、頂こうか。宮藤が作っているのか?」
「ええ、料理は得意ですし、皆さんの役に立ちたかったのです」
「宮藤の料理は旨いぞ。叫ばぬよう注意しろ」
「そんなことしませんよ。坂本少佐がそれほど言うなら期待もてそうですね」
そういって、魚をほぐしご飯の上に載せる。

そして、一口食べると、衝撃が走った。



ご飯の程よい硬さに、甘み、艶やさ。更に、魚から来る塩っ気が、微妙にコラボして
旨みを一層増やしてくる。


坂本少佐が予め、釘を刺さなかったら、思わず上手いぞーと叫んだかもしれない。

それほどおいしかった。



「う……うまいです……坂本さん」
「それは良かった。だが、その言葉を言うのは宮藤じゃないのか?」
「ああ、美味しいよ。宮藤」
「良かったー。私は少しでも平賀さんが元気になればと思っていました。元気になって
嬉しいです」
そう言って、笑顔を見せる。


才人は、その笑顔の眩しさから思わず顔を背け、ご飯をかきこんで誤魔化した。



食後、再び艦内探検へと出かける。宮藤は甲板掃除があるからと断られた。

「ここが、格納庫だ」
そういって、ハッチをあける。

その中には

「おおー、96式艦上戦闘機じゃないか」
固定脚で、風防無しで、レザーファウストと、どことなく古臭く懐かしい機体が
目の前に鎮座していた。

だが、坂本少佐は怪訝な表現をして
「96式?この機体は99式艦上戦闘機だぞ?」
「えっ?ああ、そうかここは別世界でしたね。しかし、懐かしいですね」
才人は、言いながら胴体に触る。ひんやりとした金属の感触が何とも言えない。

「お前にとっては、思い出のある機体だったのだな」
「ええ……。俺の初陣がこの機体だったのですよ」
懐かしそうにつぶやく才人

「そうか……。ああ、そうだ、もう一つお前に見せたいものがある。付いてこい」
そう言いながら移動する。


しばらく、歩いていると、坂本少佐の口が開く。
「ところで、お前は戦闘機でネウロイを落としたそうだが、それは例外中の例外だ。
たいていの場合は、何もできずに撃墜される事が多い。やつらは、厄介なビームとか
持っているからな。奴らを落とすには、遠距離攻撃か魔力を使った魔法攻撃しかない」
「魔力ですか?」
いきなり、ファンタジーな要素が入りだした。


「うむ、この世界はなウィッチ(魔女)と呼ばれる、魔法少女がいる。その少女達が使う魔力はな
ネウロイから発生する瘴気でも物ともせず、武器に魔力を纏わせてネウロイを落とすことができるんだ。
ただ、問題点はな、その魔力を使えるのは、女性それも20代よりも若い少女しかいないんだ」
その言葉に驚く才人

「なっ!大人にもなれない少女達が、戦場で戦っているのですか!」
「うむ、それを言われると耳が痛いのだが、現状ではどうしようもないのだ」
坂本少佐は振り返らず、歩き続ける。

「もちろん、亡くなるウィッチ達も多い。しかし、私たちが戦わねば、より多くの人達が死ぬんだ。
理解してくれとは言わんが、分かってくれ」
この言葉には、異人である才人には何も言えなかった。


しばらく歩いて、ある扉の前に立つ。

「先ほども言ったが、魔力を効率よく引き出すためには、機械装置が必要だ。もちろん
自前で引き出せる者もいるが、大抵は機械装置から引き出している。

その、機械装置がこれだ!」

そういって、空けた扉の向こうには、奇怪な機械が置いてあった。


ロボットのようなパワードスーツのように、胴体・手があるわけでもなく
まるで義足装置のようなものが置いてあった。

ただ、その大きさが、普通の人間のサイズではなく、それよりも大きかった。


「坂本さん……、これは何の機械なんですか?」
「うむ、これが先ほど言った、魔力を引き出す機械装置、ストライカーユニットだ。
説明するよりも見てもらった方が早いだろう」
そういうと、部屋に備え付けた電話をとると、艦長に許可を貰うと同時に
甲板にいる宮藤の連絡をする。

「良し、許可がもらえた。平賀、ストライカーユニットの傍に立ってくれ
直接飛行甲板に行くからな」
才人は言われたとおりに傍に立つと、エレベーターが上がるのを感じた。


薄暗い艦内を歩き回ったせいか、太陽の光が眩しかったが、それはすぐに慣れる。

横を見れば、裸足となった坂本少佐が、義足のようなストライカーユニットを
まるで、靴を履くかのように気軽に履いて、目を閉じたかと思うと
頭と尻から犬耳としっぽが生えた。

「は?」
才人が顎をカコーンと落としているのを尻目に、坂本少佐は何事も無かったかのように

「坂本美緒!発進する!」
と、号令をだし、ストライカーユニットの下部から、光のようなプロペラが出てきたかと思うと
少しずつ回転しだし、すぐに大回転し出す。


そして、足に魔法陣が発生し、前のめりになり少しずつ速度を挙げたかと思うと、そのまま大空へ飛び去った。


「すげぇ……!」
その、光景には才人を感動させた。

飛行機が最も鳥に近いと思っていたのに、ストライカーユニットを履いた坂本少佐は
まるで鳥のように奇麗だった。

旋回・宙返りと基本的な動作を行うと、急上昇し、ある高度に達したかと思うと
ゆっくりと止まり、そのまま反転し、急降下してくる。

ぐんぐんと、速度を上げ続けており、そのまま甲板に激突するかとも思われたが

甲板すれすれに、引き起こされ、そのまま宮藤の頭上に去った。

「やるな」
坂本少佐のいたずら心に感心する才人だった。


「すごーい!すごーい!坂本さん、まるで鳥みたいでしたよ!」
飛行甲板に降り立った、坂本少佐に宮藤が駆け寄ってくる。

才人もそれは、同意であった。

「はーはっはっ!鳥みたいか。鳥に例えられるのは光栄であるが、私たちは鳥じゃない。
大空を駆け巡る魔女、ストライクウィッチーズだ!」

「ストライク……ウィッチーズ……」
宮藤は反芻するかのように呟く

「これが、私たちの魔女の箒だ。この箒を作り上げたのは、宮藤博士、お前の父だ」
「えっ?私の父が作り上げたのですか」
それは興味深いことである。

「へえ、そうなんですか。宮藤、このことは知っていたのか?」
「いえ、ここ数年会ったことないですし、それに死んでるかもしれないんです」
宮藤は暗い顔をして言う。

「そ・・・・それは知らなかった。すまん」
「いえ、いいんです。それに手紙も届いたのですから、きっとどこかで生きていると
信じているんです」
と元気な声で言う。宮藤は才人の想像以上に強い子だった。


「宮藤博士は、ストライカーユニットを発明し、ネウロイと互角に戦える力を手にいれ
多くの魔女の命を救った恩人だ。ところで、宮藤乗ってみるか?」
「えっ?」
驚く宮藤

「お前の父上の開発したものだ、興味があるだろう。心配するな
わたしは偉いんだ、多少の軍紀違反は多めにみられるさ」
そういう坂本少佐

宮藤は改めて、ストライカーユニットを見る。

この機械を作り上げたのは父であり、触りたい魅力に駆られそうになる。



それでも

「ありがとうございます。でもやめときます」
「そうか……」
きっぱりと拒否する宮藤

「私の父がどんな仕事をしたのかよく分かりました。そして、たくさんの人を救ったんだということも分かりました。
ですが、これは戦争の道具で……私は戦争が嫌いです」
真っ直ぐの目でみる宮藤

才人は横で聞きながら、それで良いと思った。

いかに戦えようとも、子供を戦場に駆り出すなど、正気の沙汰じゃないと
思っていたからだ。

願わくば、このまま戦争に参加しないでくれ。


才人はそう思いながら、坂本少佐に尋ねる。

「坂本さん、このユニットを触ってもよいですか?」
「うん?ああ、良いぞ。壊さなかったら。まあ、生半可に扱わない限り壊れないがな」
坂本少佐の許可を貰い、触ろうとする。

普通の男性が触っても、ストライカーユニットはなにも反応することはない。


そう、反応することは無いのだ



才人が、ストライカーユニットを触れた途端、左手が勢いよく光ったかと思うと
ストライカーユニットが光り輝きに包まれた。


「なっ!これは魔力?なぜ、男が魔力を使える!?」
「坂本さーん、どうしたら?」
驚く少女二人に返事を返すことはできなかった。

左手から発する、力が才人の体中に拡散して、激痛が走ると同時に
頭に入ってくる膨大な情報を処理しなければならなかったからだ。

――――があ……ああああ……こ、これはガンダルーヴの力なのか?
激痛に耐えながら、処理を続けると、不意に光が止むと同時に、激痛が止まった。


才人は、そのまま甲板に倒れ出す。

「はあっ……はあっ……」
才人は深く呼吸をする。

「ひ……平賀さん!大丈夫ですか?」
「はあっ……ああ、もう大丈夫だ」
そういうと体を起こす。


二人を見れば、心配そうな宮藤と難しい顔をする坂本少佐がいた。

「坂本さん?」
才人が声をかけると、坂本少佐から返事が返ってきた。



「平賀、お前ストライカーユニットを乗ってみろ」

才人の運命をかえた一言だった。


あとがき

子供が戦場に参加するなんて、少なくとも終わっていますよね。

悲しいことに今でも少年兵という10歳の子供たちが銃を持って戦場に出ています。日本でも少年兵が復活しないことを願います。

ネウロイやストライカーユニットの設定はこれで良かったでしょうか?少なくともあやふやな処があるかもしれません。

才人の心は本心です。

意見や感想をお願いします。



[32038] 零のウィッチーズ 2―初飛行―
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:4d9a0cc1
Date: 2012/07/04 18:19
才人は、目を精一杯それに向けていた。

周りの景色は、猛烈な勢いで流れており、そいつは時折、太陽や雲に隠れては
姿が眩みそうになる。

高速機動中に相手を見失ってしまいそうになるからだ。



必死に、歯を食いしばっていると耳に付けたインカムから通信が入った。

『ほら、どうした、どうした、遅れているぞ。そんな様子では、ネウロイに落とされるぞ』

―――言われなくても・・・!
そう、言いたくなるのをこらえて

「了解。追いついて見せます」
と、返した。

才人は、坂本少佐と高速機動訓練を行っていた。





――――数日前に遡る。

坂本少佐が、零式戦闘脚を用いた訓練を終了したのちに、才人が零式戦闘脚に触れたのが
きっかけだった。


才人は、男性なのに、あろうことか、零式戦闘脚が反応し、魔力も出せれることが
判明した。

そこで、坂本少佐が乗ってみろと、命令が出た。


「俺が、乗るのですか?」
「うむ、本来なら、女性しか反応しないはずのストライカーユニットが反応したんだ。
なぜ反応したのか知らないが、反応したということは、相当優秀な魔力使いのはずだ。
この時勢優秀な兵士は一人でも欲しい。それに」

そういうと、坂本少佐は頭を下げる。

「お前が、協力してくれたら、他の男でも使えるようになり、歳半端もいかない子供達が
戦場に行かなくて済むんだ。死ぬ人も大幅に減るんだ。だから、お願いだ」
坂本少佐は、頭を下げ続ける。


才人は、しばらく無言でいると、口を開く。

「自分は、この世界のことはよく分かりません。そして、これが動けることが
どんな意味をもたらすか知りません。ですが」

戦闘脚を見ながら言う。

「目の前にある、困っている人をほっておくことはできません」
「……!では!」
「ええ、乗ってみます」


それから、準備を進める。


裸足にしたうえで、半ズボンに履き替える。

「ここに、足を入れればいいんですね?」
「うむ、後は感覚で分かるはずだ。空母からの発艦経験は?」
「航空機なら、何度もある」
「よし、戦闘脚も同じような感覚でいけば、発艦出来る!やってみろ!」
そういって、坂本少佐は離れる。

才人は、目の前にある、戦闘脚の穴をしばし見つめると、覚悟を決めたのか
頷きながら、足を差し入れる。

すると、また、左手が光り、戦闘脚が反応する。
頭に情報が入ってくるが先ほどではない。

目を閉じて、左手からあふれ出る力を、両脚に流れるようにイメージする。

そのイメージが良かったのか、足元から振動が伝わってくる。

目を開けてみれば、戦闘脚から、先ほどの坂本少佐のように
光のようなプロペラが回っていた。

それに、魔力を込めるようにイメージすれば、より高速回転しだし
坂本少佐よりも、激しい轟音が響きわたる。

飛行甲板の両端には、手空きの乗員たちが興味深そうに見ており、立っていた。

「頑張ってー!」
宮藤は、坂本少佐の傍に立って応援していた。


才人は、宮藤に少し頷くと、前に傾ける。


戦闘脚を固定していた台座からのロックが自動で解除されて、自由の身となる。

滑走を続けながら、より魔力を込める。

一段と、振動と轟音が大きくなり、速度が速くなる。


景色がどんどん流れていくが、才人の経験から、離れるのは、まだだと考える。


―――まだ……まだ……

やがて、端までもう少しという所で、勢いよく上昇するイメージを描く。


戦闘脚が、爆発したような音を出しながら、勢いよく大空へと飛び立つ。
脇目もふらず、大空へ一直線であった。

それを見た乗員組は「すげえ」「あいつ飛んだぞ」とざわざわしていた。

そして、宮藤は
「平賀さん、すごい!すごーい!」
目を輝かせていた。



だが、才人は大空への喜びを噛み締めていなかった。

予想以上に強いトルクや、魔力を注ぎ続けないというイメージの問題があった。

―――これは……雷電以上にじゃじゃ馬だぞ。
才人は、以前に乗ったことのある、雷電のような癖のある操縦に苦労していた。

過去の事を思い出したのがまずかったのか、集中力が途切れてしまう。

「しまっ、うわああああーーーーー!!」
不意に、魔力のイメージをつかみ損ね、左右の回転速度が不規則になり
不規則な空中ダンスを開始する。

才人は、何とかしようとするが、焦れば焦るほど、ダンスはひどくなる。
そして、才人は海に墜落を開始する。


艦隊の乗組員の、ざわめきがひどくなり、駆逐艦が墜落予想位置へと
移動開始しようとする。

才人の墜落速度はますます速くなり、もう少しで、激突しそうになるが
海面ギリギリで体を捻ったかと思うと、海面擦れ擦れを水平に飛びついていた。

才人はふらついているようだが、先ほどのと比べたらマシなふらつき方であった。

それを見ていた、乗組員たちは安堵のため息をつく。

才人もここら辺で、潮時と考え、空母へと着艦しようとする。



戦闘脚であろうと、航空機であろうと、地面に着くためには
十分な減速が必要であるが、才人には難しかった。

魔力を過給しすぎたり、減給しぎたりと苦労しながら艦尾へと持ってくるが

―――だめだ!速度が速すぎる!

案の定、空母の甲板に激突しそうな勢いで戦闘脚が触れ、その勢いのまま、前に倒れ
倒れながら、ぐるぐると回る。

やがて、回転が止まった時には、才人は横向きに倒れていたが
そのままゴロリとあおむけに倒れる。

「はー……はー……」
才人は深呼吸を繰り返す。

そこに坂本少佐がやってくる。
「大空の旅はどうだ?平賀?」

才人も呼吸を整えると返事する。
「ええ、なかなか快適で、じゃじゃ馬でしたよ。それを自由自在に操れる
坂本さんはすごいと思いましたよ」

「うむ、簡単に乗りこなせれたら、私達のベテランの立場がないからな。
平賀も初めてにしては上手かったぞ」
「それはどうも」
才人は笑う。

そこに
「平賀さーん、大丈夫ですか?」
宮藤がやってきた。

甲板に激突したことが心配に見えただろう。

「大丈夫だよ、宮藤。そんなに大したことないよ」
「で…でも……」

やはり優しい子だ・

「ふぇっ」
「心配かけてすまなかったな。大丈夫だから」
だから、頭をぽんぽんと撫でたのである。


宮藤は、顔を赤くしていた。



そんな二人の空気を破るかのように声が響き渡る。
「では、平賀明日から、毎日飛行訓練を行ってもらう」
「えっ、毎日ですか?」
航空機であっても、毎日はきついのだ。これがストライカーになれば
どれほどになるか、想像もつかない。

「うむ、ネウロイは今すぐ待ってくれるわけでもないからな。
早急に戦闘に役に立つ兵士にならなければならない。
なーに、毎日、牛乳を飲んでいれば大丈夫だ。

明日から覚悟しとけよ!はーはっはっはっ!」

そう言って、笑い去った。


その場には、顔が赤いままの宮藤と明日からの訓練に顔を青くする才人が残された。



こうして、現在。

坂本少佐によるスパルタ訓練により、何とか戦闘が出来る状態となった。

「ぜーはー、ぜーはー」
飛行甲板に倒れる才人

「情けないぞ、男なら余裕を見せんか」
余裕のある坂本少佐

「訓練お疲れ様です。お茶持ってきました」
二人の世話をする宮藤

「ああ、ありがとう宮藤」
そういって、お茶をぐびぐび飲む才人

「私も頂こうか」
坂本少佐も飲む

「ところで、坂本さん。まだ、ブリタニアには着かないのですか?」
「ん?ああ、あと半日はかかるな」
事も無げに言う坂本少佐

「えー、まだかかるんですか?」
「そうせかすな。半日ということは今日中に着く」
「そういうことだ。慌てても、なに……」
ふいに言葉を止める才人


才人に、数日前に感じたことのある、アレ(・・)を感じたからだ。

――――まさか、ここでか?


隣にいる、坂本少佐も何かを感じたのか、眼帯を上げて、ある方角を見る。


才人も見ていたその方角の先には


「「敵だ(ネウロイ)!!」」

艦隊中にけたましく、警報が鳴り響く…………


あとがき

いかがでしょうか?やはり、最初は下手っぴな表現をしたかったのですが、難しかったです。

次はネウロイ襲撃です。宮藤の飛び立ちはあるのでしょうか?

お楽しみに

意見や感想をお願いします。



没ネタ

「いけーーー!」
勢い良く飛び立つ才人

才人がそのまま飛び立つかと思われたその時


戦闘脚のプロペラの回転が止まり、そのまま海にポチャしてしまった。

「「「「「・・・・・・・・・・」」」」

艦上にいる将兵の沈黙が痛い

「私は艦長に報告しなければ」
坂本少佐が離れたのを皮切りに

「おい、借金を返せよ」「えーもう少し待ってくれよ」
「今度こそ、将棋で勝ってやるわ」「ふっ、返り討ちだ」
「さーちゃんと整備しないとな」

皆、見て見ぬふりをしたようだ。

「平賀さーーーーん!」
宮藤の声が悲しく響き渡る。


才人は、駆逐艦に釣られました。



[32038] 零のウィッチーズ 3―約束―
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:4d9a0cc1
Date: 2012/07/04 18:28
辺り一面、喧騒に包まれていた。

空母の側面には、機銃や高角砲を大空に向けており、飛行甲板の後半には
戦闘機が慌ただしく準備をしていた。

その時、不意に影がよぎる。


上を見上げてみれば、坂本少佐が言った、人類の敵ネウロイがいた。


それも、空母全体を覆いそうなほどの巨大なものであった。
そのネウロイは、空母を攻撃するわけでもなく、ただ通り過ぎるだけ。


通り過ぎた後に、風が頬をなでる。

ゆっくりと、胸から煙草を取り出し、付けようとするもなかなか火がつかない。

その時、後ろから声が聞こえてきた。
「おい、空母の中では火遊び禁止だぞ」

才人は、その声に嘆息すると、返事を返す

「少しぐらいなら、見逃してくださいよ。坂本さん
それと、宮藤はきちんと避難させましたか?」
「ああ、あいつは医務室にいてもらった。インカムを宮藤に渡したから
何か言いたい事があったらインカムを使え」

才人は頷くと、耳を当てて通信を始める。
『聞こえるか、宮藤………聞こえているなら、返事をしろ宮藤』
『ふぇ…あ、はい。聞こえます。平賀さんも行かれるんですか?』
心配そうな声を出す宮藤

『ああ、俺も行くよ。それにストライカーも使えるしな』
『で、でも……危ないんじゃ』
宮藤の返事に笑い飛ばす

『大丈夫だ。俺は、何度も死にそうな目にあったり、撃墜されそうになったがこうして生きている。
絶対に死なないよ』
『だ…だけど『なあ、宮藤』ふぇっ?』

『お前が、戦争が嫌いだから、軍人が嫌いなのも分かる。だが、軍人は何のためにあると思う?』
『…………』
宮藤は答えない

『俺達、軍人はな、相手の国を侵略するためにあるんじゃなくて、弱き者を守るためにあるんだ。
戦えない老人や子供、そして生活を営む場所を守るためにな。
そして、愛おしい人や故郷も
だから』
そこで言葉を切り、告げる。

『俺が、戦う理由は、お前を守りたいじゃ駄目かな?』
『えっ……?』
驚く、宮藤の声

『俺は、何もない状態でここにやって来た。そして、自殺もやろうとした。だけど、宮藤は止めてくれた。
肯定してくれた。だから、俺はお前を守りたいと思っている。それじゃだめかな?』
『い…いえ、駄目という訳じゃありませんけど、びっくりしたといいますか』
才人は笑みを浮かべる。

『だから、帰って来た時に迎えに来てくれ。お前の笑顔は可愛いからな』
『―――――っ!』
向こうで息をのんでいるのが分かる。

しばらく、無言の時が続くと、インカムから返事が聞こえてくる
『わかりました。私からは何も言いません。でも、死んじゃ嫌ですよ。
ですから、気を付けて行ってらっしゃい』
『ああ、行ってくる』
その会話を最後に、通信を切る。

その様子に坂本少佐が話しかけてくる。
「平賀、宮藤との会話は終わったようだな」
「ええ、あの子の為にも絶対に、帰ってくると誓いましたからね」

その時、二人の頭上に影がさしこみ、ネウロイが通り過ぎ去る。
何もせず、悠々と

その様子に、坂本少佐は呆れたように言う。
「あの、ネウロイは律義かどうか知らんが、我々が出てくるまで、攻撃してこなかったな」
「そうですね。あのネウロイは、我々には取りに足らぬ相手でも思っているのでしょうね」

その言葉に、ピクッとなる坂本少佐
「ほほう、舐められたものですな、平賀」
「ええ、我々がどのような存在か教育してやりましょう。坂本少佐」
2人とも笑みを浮かぶ。ただし、獰猛な笑みである。

坂本少佐はしばらく笑みを浮かべていたが、艦首をキッと見るや否な
「全機!これより、我々はネウロイ撃墜作戦を開始する!全機、発艦開始せよ!」
そう言うや、否や、坂本少佐は、魔法陣を発生させて、前進を開始し、見事に発艦する。


その後も、才人が続き、才人も見事に成功させ、99式艦上戦闘機群が発艦する。


後に、ウィザードの異名を轟かす、平賀才人の戦いが、今始まろうとしていた。


あとがき

すいません。短くてネウロイとの戦闘に入りませんでした。キリが良いので切ってしまいました。

軍人とは、何かは考えさせられそうですが、個人的には守るためにある組織だと思います。

日本も古くは防人とかがありますし、武士も初期は朝廷を守るための集団でした。


意見や感想をお願いします。



[32038] 零のウィッチーズ 4―私にできること―
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:4d9a0cc1
Date: 2012/07/04 18:38

一人の少女が、部屋の中で震えていた。

外から聞こえてくる、轟音・怒声・爆発音という、戦場独特の空気に怯えていた。

「坂本さん、平賀さんは大丈夫かな?………きゃあ!」
その時、艦体が大きく振動し、少女は床に投げ出された。

少女は、体を擦りながら立ち上がりながら思う。

――――怖い…。やはり戦争は嫌だ。だけど、何もできないのは、もっと嫌だ!

少女は、ふと床に散乱する医療器具を、数瞬見つめて、やがて決意したかのように
顔を上げる。


少女、宮藤芳佳の戦争が今始まろうとしていた。







――――くそっ!そう簡単には、落ちてくれないのか!
才人は、目の前にある、ネウロイを見ながら毒づく。

坂本少佐と共同で攻撃したり、艦隊からの対空援護や艦載機の攻撃も行っているが
ネウロイの強固な装甲は破れず
奴からのビームにより、じりじりと数を減らされる状態であった。


今もまた、光ったかと思うと、99式艦上戦闘機の主翼が切断されて墜落する。
そして、海上に水柱が走ったかと思うと、閃光と共に、駆逐艦が爆沈する。

多くの人が死んでいく。

「やっかいだな。このネウロイは」
隣に坂本少佐がやってくる。

「ええ、ネウロイとの戦闘経験はそれほどありませんが装甲が硬くてコアが出てきませんね」
「だが、いずれ出てくる!来るぞ、散開!」


バッと離れる、二人。その間にビームが走る。

才人は、機銃の引き金を引きながら、クルクルとロールしながら飛んでいると
耳のインカムから通信が入った

『坂本さん!平賀さん!大丈夫ですか!』
その、声に赤城の方をみれば、通路に宮藤が、かばんを持って立っていた。

「なんで、ここに?」

坂本少佐も同じ気持ちだったのか通信を入れる。
『そこで、何をしている!宮藤!部屋から出るなと言ったはずだ!部屋に戻れ!』
『坂本さん、無事だったんですね』
『宮藤!戻れと言ったはずだ!聞こえなかったのか!ここにはお前の居場所ではない!
ここにいては、邪魔なだけだ!』
『坂本さん、私にできることは無いのですか?』
『今は、お前に出来る事なぞない!部屋に戻れ!』
『それでも……出来ることはしたいんです!坂本さん!』
『……ふん、勝手にしろ』
そう言って、坂本少佐は通信を切る。


その坂本少佐に才人が近づく。

「宮藤め、あれだけ部屋にでるなと言ったのに、出てくるとはな」
「誰かさんに、似たんでしょうね」
「まったくだ、あの馬鹿に負けてはいられんな。平賀!付いてこい!」
「了解!」

そういって、坂本少佐は、使えなくなった、機銃を捨てて、背中に背負った
刀を抜刀し突撃開始する。

才人もその後についていく。


ビームの光の奔流がくるが、2人は見事な軌道を描きながら、ネウロイに近づいていく
そして、坂本少佐が、ネウロイの近くまで迫る


「はああああああーーーーー!!」
坂本少佐が、刀に魔力を纏わせて、突っ込む。

刀が、ネウロイの翼に触れた瞬間、スパークを起こすが
やがてバリバリと切り裂いていく

坂本少佐が、一航過した後には、大きく切断された、ネウロイの姿があった。
姿勢を崩した、ネウロイに、才人が突撃する。


再生を開始するネウロイの表面近くまで、近づきながら、機銃をバリバリと連射する。

ネウロイは、再生を優先としているのか反撃は無い。
機銃は、ネウロイの表面に面白いように命中し、次々と穴が穿かれる。

背中の鰭のような、小山に命中した時、大きく破裂し、そこから光るコアを露出した。

「坂本さん!コアを発見しました」

止めを刺すべく、機銃を向けるも、ビームの反撃が来たので、回避に専念する。


避けても避けても、次々と、ビームが襲い掛かり、息をつく暇もない。

――――こ……これは、やばいか?
螺旋上昇しながら、冷や汗が流れるのを感じる。

「しまっ…!」
油断したせいか、目の前にビームが迫ってくるのが見える。

才人は、純粋なウィッチとは違い、シールドを張ることが出来ない。
すなわち、被弾は死を意味している。

スローモーションのように、死の光が迫ってくる。

才人は、凍りついたように、瞬きもせず、見つめ続けていた。やがて、目を紡ぐ。



光が、広がった。しかし、体に痛みは無い。

目を開けてみれば、目の前には、坂本少佐がシールドを張っていた。
「坂本さん!?」
「平賀!諦めるのは、まだ早い!私が受けている間に、奴に止めを!」
シールドで受け続ける、坂本少佐は苦しそうだ。

「で……ですが、坂本さんは、受け続けたら、危ないのでは?」
「男だろ!男なら、根性を見せんか!早く!」
坂本少佐の激励に、才人は目を閉じて、カッと見開くと、スルーッと落ち加速する

すると、坂本少佐に、集中していた、ビームの一部が、こちらにもやってきたが
先ほどの勢いは無い。


左右に、凄まじい機動を描きながら迫る。


機銃を両手に構えて、前に掲げる。狙いはもちろん光り輝くコア

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
才人は、雄叫びをしながら、ただひたすら、突っ込んでいく。

ネウロイも、才人の接近に気付いたのか、全力のビームを発射するも遅かった。

才人は、ビームをかわしながら、コアの真上に、宙返りを打つ。

才人の真上には、光り輝く人類の敵のコアが。細かく照準を付ける必要は無かった。


「これで、止めだー!!」
才人は、叫びながら機銃の引き金を引く!銃身が赤くなるほど撃つ!


コアの表面から細かい破片が剥がれだし、コアの表面に大きくひびが入ったかと思うと
ガラスの様に砕け散った。

すると、連鎖するかのように、ネウロイの体が、ガラスのように砕け散った。


場違いな、幻想的な光景に、才人はぼうっと見ていた。

――――奇麗だな……。航空機の撃墜は醜いのに、何故こんなにも奇麗なんだろうな

才人は、しばらく呆けていると、体に衝撃が走った。
「うわっ?」
「よくやった、平賀!あのネウロイを倒したんだ!」
肩に抱きついてきたのは、坂本少佐だった。

先ほどの幻想的な光景で、実感がなかったが、じんわりと実感が湧いてきた。
「本当に俺が倒したのですか?」
「ああ、見ろ、お前が救ったんだ」
辺りを見れば、救命ボートや空母の甲板上に人が歓声を上げながら
手を振っていた。

その中に、宮藤の姿もあった。
「そうか……。宮藤を守ることができたか」
仰ぎ見る。

太陽が眩しく、輝いていた。






「これで、もう大丈夫です。安心してください」
宮藤は、甲板上で、次々と負傷者の治療をしていた。

持ち前の治癒魔法や、治療所による経験で包帯を巻いていく。
だが、負傷者の数は、増えるばかりだ。

それでも、宮藤は諦めなかった。

――――みんな、頑張っているから、私に出来ることをしなきゃ
こうして、無我夢中で治療を続けていくと、いつしか静かになったことに気付いた。

――――あれ、どうしたんだろう
宮藤が疑問に思っていると、周りからの歓声と声が聞こえた

「やったぞ!ネウロイを倒したぞ!」
「さすが、坂本少佐だ!」

――――えっ?ほんとに?
空を見上げれば、あのネウロイの姿がなく、空に浮かぶ二人の姿が見えた。

本当に倒したんだ!あのネウロイを

「坂本さーん!平賀さーん!」
両手を大きく二人に向かって手を振る。

あとがき

どうでしょうか?宮藤の初陣が延びました。

この展開に納得がいかなければ、宮藤の初陣ありバーションを作ります。

個人的には、宮藤はウィッチ専門の衛生兵として活躍してほしかったかなと思います。優しい宮藤ならば。

ところで、アンケートを取りたいのですが、才人と絡みたいヒロインは誰がいいのでしょうか。

宮藤は決定として、後は誰かいますか?

感想や意見をお願いします。



[32038] 零のウィッチーズ 5-自己紹介ー
Name: 蒼龍◆419c5873 ID:4d9a0cc1
Date: 2012/07/16 22:08

――――扶桑派遣艦隊のネウロイ襲撃事件から数日後

才人と宮藤は学校の教室のような場所にいた

「はーい、皆さん、新しく入ってきた仲間たちよ。仲良くしてね」
隊長である、ミーナ中佐が言う

「俺は、平賀才人少尉だ。よろしく」
「み……宮藤芳佳ですぅ」
才人はいつも通り、宮藤は噛みまくっていた



宮藤は、ブリタニアに着いてから、手紙が届けられたという住所に行ってみたが更地になっていて
宮藤博士は、やはり亡なっていたという。

だけど、宮藤は坂本少佐に恨むのではなく、連れてきたことに感謝し、人を助けるために
ストライクウィッチーズ隊に入りたいと言い出したそうだ。

ただ、潜在的な能力はあれど、実際能力は未知数なところもあるため
訓練生そして、衛生兵扱いとなった。

赤城での、救護活動を買われてのことだった。

才人が異世界人であることは、ほんの一握りの上層部にしか知らされず
後方の場所で研究などを行いたかったが、才人が人体実験を嫌い
更には、軍人気質から自分一人安全な後方に行けるわけないとゴネた。


すったもんだあげく、前線で実戦データや実験を数回提出することで、妥協された。

ただ、いつでも、後方に下げられるように、ブリタニアと強制的に決められたが
宮藤や坂本少佐と同じ部隊だったから、良しとしよう。


才人の前には、様々な少女がいた。オドオドする少女、楽しそうに笑う少女
キッと睨み付ける少女、眠たそうな少女

――――女子校にきた、男性の気分ってこういうことなんだろな
才人がぼんやりと思っていると、金髪で見るからにきつそうな少女が噛み付いてきた

「ミーナ中佐!男がなぜここにいらっしゃるのです?」

それを、聞いたミーナ中佐は、困ったような顔をしながら

「この人は、確かに男だけれども、魔力が使えるのよ。そこで、私たちが実戦データを
集めなければなららないの。それに」

そこで、一旦切るとキリッとしながら

「これは、軍の命令よ」
「ぐっ!」

軍の命令といわれて、金髪の女性の反論仕様がなかった

「ふん!それなら勝手にするがよいですわ!」
そういって、ズカズカと部屋から出る。

それをみたミーナ中佐は困ったように笑い
「あらあら、しょうがない子ね。これ以上は無理ね。それではこれより解散いたします」

語調を変えると、目の前の少女隊は一斉に立ち上がった。才人は、軍隊生活で見慣れたものであるが
始めてみる、宮藤は、えっ、ちょっ、と慌てていた。

「宜しい、自由行動始め」
ミーナ中佐は、そう言うと少女達は各々の行動を取り始める。

宮藤は、この展開に付いていけなくって、あわあわしていた。
「え?あ、あの、ど…‥どうすればいいのですか?」


なんというか、捨てられた子犬のようで、見ていて和む


そんな、宮藤の背後から魔の手が襲い掛かる
「うひゃー」
「へっへーーん、この大きさは残念賞だね」
ツインテールの少女が胸をモミモミしていた

「や…やめてくださーい」
そんな、少女達のじゃれあいとは別に一人の女性が近づいてきた。

「私の名前は、シャーロット・E・イェーガ―だ。シャーリーと呼んでくれ」
「ああ、よろしく」
そういって、握手をして、ギリギリと締め付けてきたが
操縦桿で慣れている才人には痛くもかゆくもなかった。

「へえ、あたしの握手を耐えられるなんて、堅物以外いなかったよ」
「それはどうも。それはそうと、堅物って誰のことだ?」
「あ、そうだった。バルクホルンのことだよ。眼鏡をかけた人とは別に部屋から
出て行った規則にうるさそうなやつがいただろ」
才人の脳裏に一人の少女が浮かび上がる。

「あいつは、バルクホルンなのか。ちゃんと、自己紹介したかったんだがな」
「ま、いずれできるさ」
そういって、ニカッと笑う。


その時、才人の腰に衝撃が走った。
「おっと」
才人が見れば、先ほどまで宮藤とじゃれあっていた、小さな少女が腰から背によじ登っていた。

「おいおい」
才人が呆れ果てていると、件の少女は、ついに肩まで上り詰めた

「おー!!やはり、でかいと、見える視点が高くていい!」
少女は、大層喜んでいるようだ。

「こらこら、迷惑を懸けるんじゃないぞ、ルッキーニ」
シャーリーが少女の名を言う。

「ルッキーニというのか、この子は?」
「そうだよ。まあ、迷惑じゃなかったら、肩組んでやってくれないかな」
「別にかまわん。子供は、我が儘を許されてもいい歳だ」
「そうか、それは良かった」
そういう、シャーリーの表情は、非常に


そんなシャーリーの顔をじっと見ていた才人であったが
シャーリーがその視線に気づいた。

「ん?なんだ、私をじっと見て、もしかして、この胸が気になったのかな?」
そういって、ドーンと突き出すシャーリー

「シャーリーの胸は大きいけれど、この胸は私の物なんだよ」
頭の上からのルッキーニが言ってくる。


その行動に才人の反応は
「ん?普通だろ?」
そっけなかった

ピシッとなぜかガラスに罅が入るような音をその場にいた女性から聞こえた

「何だと……?」
シャーリーがありえない目で才人を見ていた

「あのー平賀さん、シャーリーさんのは、私達よりも大きいですよね」
宮藤が、消え入りそうな声で尋ねる。

言ってしまえば、女性として敗北した気分になってしまうからだ。


だが

「ああ、シャーリーは皆よりも大きいが、普通だろ」
やはり、聞き間違いではなかった。




その時、才人の脳裏に浮かぶのは

ハルケギニアにあった、女性達だ。キュルケ・シェスタ・アンリエッタと普通よりも
でかい巨乳たちもいたが、それよりもでかい神がいた。





乳神テファだ


あの、乳は、ビッグという言葉では収めきれない。メガやギガと付けられても
納得がいくでかさだ。

あれこそ神乳だろう


――――みんなデカかったなー
才人がそう思っていると、目の前のシャーリーがorzの体形で床に倒れていた。 

「そ・・わた・・つう・・・だ・・・わた・・・・き・・・いる・・・か」
なんかブツブツ呟いていて怖かった。


「私は……私は……わたしは……ヒック」
とうとう泣き出してしまった。

「あーなんか、スマン」
才人が謝るが、シャーリーは止まらない。


「わ、私は、エイラなんダナ」
この微妙な空気を何とかしようと、エイラと眠さそうな少女サーニャが紹介された。






「よ……良かった。普通なんだ」
一人の内気な少女が呟いていたとか、呟いていなかったとか


そんな、微妙な空気を破るかのように、坂本少佐の声が響き渡る。

「よーし、自己紹介は済んだな!リーネ、この二人に基地を案内してやってくれ」
「あ……はい」
消え入りそうな声で呟く。


宮藤と才人がリーネに近づく。ちなみにルッキーニはすでに降りている。
「リネット・ビジョップ軍曹です。よろしく、お願いします」
「よろしくね!リネットちゃん」
「よろしく、ビジョップ」
三人は、部屋から出た。


その後は、各々が部屋から出た。








「ヒック……ヒック……」
部屋には未だに泣き続けているシャーリーと懸命に慰めているルッキーニだけが残された。



あとがき

乳を書きたかった。それだけだ。本編を期待していた方申し訳ありません。

まあ、あの胸をみた後では、こういう反応もありかもしれません。

意見や感想をお願いします。


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