さて、我が人生を振り返ってみると中々に数奇なものであると思える。
まず、第一の転機は中学卒業時に東京に行ったことだろう。
北海道で生きている俺が秋葉原へ行ってみたいと思ったのが間違いだったのか。
いや、その後の事を考えるのならば正解だったとも言えるが、少なくともその時は失敗だった。
何故かいきなり自衛隊により東京が封鎖され、訳も分からぬまま帰れなくなったのはまだいい。
問題なのはその後『悪魔』なんて非現実的なものがリアルに表れて人を襲いだしたことだ。
逃げ惑った先に、落ちているCOMP(コミュニケーションプレイヤー (Communication Player) の略で、メール・ブラウザ機能を持った携帯ゲーム機)を拾ったのもまずかった。
まさかCOMPから悪魔召喚プログラムなんてものが起動して、出てきた悪魔に襲われるなんて誰が思うのか。
死に物狂いで戦って、倒した悪魔が仲魔になってくれたことだけが唯一の救い。
その後COMPのおかげで表示される余命の恐怖と戦いながら、これまたCOMPの機能のデビルオークションで仲魔を増やし、邪教の館.exeで仲魔を合体させて強化してと兎に角必死に戦った。
悪魔がいるところで封鎖なんてされている現状で、人々の精神が正常に保つわけが無く、COMPを持つ悪魔使いは傍若無人に暴れまわる輩と人々を守ろうと戦う二派にほぼ別れた。
COMPを持たない人は搾取されるか逃げ惑うか、翔門会なんていう怪しい宗教団体の参加に入るかというところ。
かくいう俺は宗教なんか怖くて入らなかったのと、それなりに強いと自負できる仲魔たちのおかげで心に余裕があったので特に人を襲うことも無かった。
逆に、誰かを守って自分も生きるという程には余裕が無かったため、基本的に一人で行動してその日その日を生きていた。
一回だけミスして『あ、これは死んだ』と思った瞬間もあったのだが、その時は黒くてでっかいジャックフロスト(後にジャアクフロストと判明)が何故か助けてくれた。
そんなこんなで日々生きていると、ある日とんでもない力を感じた。
力を感じるなんて言ってる時点で、俺も大分おかしな領域に足を踏み入れているとは思うが、何が起こっているのかと様子見にダッシュ。
辿り着いてみれば、そこには数名の悪魔使い達といつかお世話になったジャアクフロストが一体の悪魔と戦闘中。
力の元はその一体の悪魔らしく、いつかの恩返しと飛び込み参戦したまでは良かった。
正直、甘く見ていたと言っていいだろう。
悪魔使い全員がかなりの実力者なのは一目で分かったし、ジャアクフロストが強いのも知っていた。
どんなに強いと言っても相手は一体。負けることは有り得ないと思って参戦した。
ところがどっこい、この悪魔『大いなる闇』はそんなレベルでは無かった。
もう何をどうしたかなんて覚えてないが、兎に角必死に吸魔とメディアラハンばっか使って死なないように頑張ったことしか覚えてない。
それどころか、猫の耳のような形状のヘッドフォンを付けた少年が最後の一撃を入れた瞬間に緊張の糸が切れて視界はブラックアウト。
意識が戻った時には自衛隊の救助テントの中で、封鎖も終わっていた。
COMPから仲魔も召喚出来ないし、おかしな夢でも見ていたんじゃないかと思ったくらいだ。
世間には違法研究施設のガス漏れが原因の集団催眠による幻覚であったと政府より正式な発表があったのだが、そんな与太話を当事者であるにも関わらず信じたくなるほどには夢みたいな体験だった。
無駄に鍛えられた反射神経と実戦経験が幻じゃなかったと証言しているわけだが、物的証拠も無い以上そんなことを言ってもアホの子かガスにやられたとしか世間様は思わない。
実際、事件から暫くはそういうことを騒いでる人はいたが、ニュースでは脳やら精神の専門家が見当違いの発言をするだけで、それを誰もが信じていた。
時間と共に東京集団ガス幻覚事件はオカルト雑誌の端に乗る程度の扱いとなっていった。
俺としても背中合わせに戦った相棒たちに会えないのは寂しかったが、正直危険なことは御免なので退屈で幸せな毎日を満喫していた。
そんなこんなでそれから三年。
友達から紹介された死に顔動画なんて趣味の悪い者に面白半分に登録したのが失敗だったか。
まあ正確には死に顔動画では無く『ニカイア』という携帯サイトで、登録すると友人の死に様が動画で配信されるなんていう代物だ。
こういうオカルト的なものは信じてなかったんだけど、これがなんと本物だった。
しかもこういう実在するオカルトってのは悪魔と関係があるお決まりなのか、これまた過去のCOMPと同じく悪魔召喚機能を備えていたのだ。
しかし、まあ、今回に関してはこれのおかげで助かった。
模擬試験が終えて友人と帰宅中、ニカイアから友人の死に顔動画が送られてきたのだ。しかも友人にも俺の死に顔動画が。
おまけに場所は現在地で、ビルが倒れてきて潰されているなんて言う悪趣味なもの。
気味悪がる友人と対象に、過去の経験からか嫌な予感がビンビンな俺は今すぐダッシュで移動しようとしたのだが時すでに遅し。
地面がぐらりと揺れたかと思ったら、動画通りにビルが倒れてきやがった。
二度目の死ぬ予感に震える俺にティコりん(ニカイアのナビゲーター。バニーガールっぽい服装の女性でとても可愛い)が『クズっちは生きたい?』なんて聞いてくるんで生きたいと即答。
その瞬間ニカイアから飛び出してきたのは過去の仲魔のモーショボーとジャックフロスト。
マハザンダインでビルを吹き飛ばし、ブフダインで氷の檻を作って瓦礫から助けてくれた。
命が助かった安堵と再会の感動で二体を抱きしめる俺は何も悪くないと思う。
『暑苦しいホー!』とか『なんだろうこの気持ち・・・。殺意?』なんていう二体に心が折れそうになったのも悪くないと思う。
そんな横で友人がオバリオンに追い掛け回されているのを見て、最初から仲魔がいない人はこうなるのね、と妙に懐かしい気持ちになりながらさっくり倒し、友人と二人助かった喜びを分かち合った。
友人には東京での体験を冗談半分に聞かせていたおかげで、実はあれ実話なんです、の一言で仲魔については終わらせて現状把握に移行した。
ここら辺は嬉しくないが経験が生きた形となった。
そして、過去の経験から行くと契約に失敗した悪魔が暴れだすという結論に至るのだが、これが今回はシャレにならん。
前回は一定範囲で広まった改造COMPが原因だったが、今回に至っては携帯サイトである。
悪魔が日本中、最悪世界中で暴れまわっていることは想像に難くない。
しかも今回は地震のせいか交通機関は麻痺。電気ガス水道もヤバいという最悪の状況だ。
これまた過去の経験から速攻で倒壊したコンビニに向かい、悪いとは思うものの食品飲料を持てるだけ確保し、方針も何もないので家へ向かった。
向かったのだが、例の如く自衛隊員につかまり市民はどこどこへ避難しろと言われたので、大人しく従いそこで家族を探した。
友人は家族がいたのだが、俺は見つからず、少々ネガティブな気持ちになりながら二日が経過したときにそれは起こった。
ネビロスとかいう悪魔が人間狩りをしにやって来たのだ。
自衛隊員と黄色い制服の良く分からん奴らが挑んでいくものの悉く返り討ち。
それどころか、死体を操られて周りの人を襲ってくると言う意味不明ぶりである。
正直、真っ先に逃げ出したかったのだが、友人の家族には御年95歳のおじいちゃんがいたため、逃げると言う選択肢は取れず、仲魔を召喚して迎撃に向かった。
俺の他にも挑む人はいるのだが、仲魔も本人も弱すぎた。
まあ、周りの人が弱いと言うよりも過去の戦いを曲がりなりにもソロプレイで生き残った俺と、相手のネビロスが強いのだが。
過去の戦いでもこいつクラスの悪魔はそうそういなかった。
そんなこんなで久々に命を賭して戦って、ヒイヒイ言いながらも撃退に成功。
その時からなんと俺は英雄と呼ばれだした。
同時に人生初のモテ期が来たのだが、俺が鼻の下を伸ばすとモーショボーが背中をゲシゲシ蹴ってくるので大人の階段は登れなかった。
モーショボーが邪魔するのは自身が愛を知らぬまま死んでしまった幼い少女の霊だからと思われる。
悪魔というのは自己中心的であるが、自分が愛を知らないからと言って他人の愛を邪魔するのはやめて欲しい。
まあ、あの環境と状況でのモテに愛があるかは非常に疑問ではあるが。
その後はネビロス程強い奴が現れることも無く、雑魚を蹴散らし誰かが異常事態を解決してくれるのをちやほやされながら待っていた。
そんなこんなで浮かれているのが悪かったのか。
思い返せば東京以来、油断したり調子に乗るというのは悪いことが起きるフラグであったのだろう。
今度はべリアルとかいう悪魔が狩りにやってきた。
ネビロス同様、他の野良悪魔が何それ美味しいの?というレベルの大悪魔である。
当然のように自衛隊員は役に立たず、黄色い制服の人達はべリアルに近づく間もなく灰になっていく。
アホみたいな攻撃射程にビビりまくる俺だが、『大いなる闇』のメギドラダインに比べれば楽勝だと自分に言い聞かせ、炎に強い仲魔と突貫。
近づいてしまえばネビロス同様、攻撃バリエーションは多くない上に対策も取りやすかったため終始有利に進めて撃退に成功。
俺強えーっと内心叫んでガッツポーズ。今回も乗り切ったぜ!!と大いに安堵の息を吐いた。
重ねて言うが、油断や慢心はフラグである。
良い汗かいたと額を拭った俺が見たのは、どこぞから飛んできた極太ビームと、それを喰らって落ちてくる謎の巨大飛行物体であった。
落下地点が俺の真上、ということは無かったのだが、走って一時間もかからないであろう場所にそれは落ちた。
地面が揺れた。巨大な質量の落下による衝撃。立ち続けることなど不可能で、尻餅をついた俺が見たのは落下地点から巻き上がる土埃と、毒々しい赤紫色の煙だった。
何処からどう見ても有害にしか思えない煙が、まるで津波のように押し寄せる様はまさに悪夢と呼ぶにふさわしい。
煙相手に逃げ場は無い。走って逃げれるほど甘くもない。
視界が紫で染まったところで、俺の意識は途切れた。
次に俺が気が付いたときには煙は霧散していた。
どうやら留まるタイプの毒ガスでは無いらしく、しばらく時間が経過すれば人体に影響が出ない程度には薄まるようだ。
ちなみになぜ助かったのかというと、呆然とする俺と違い仲魔は迅速に行動しており、ヒホ君が俺と自身を氷漬けにした為だ。
冷凍冬眠とか映画では見ることがあるが、リアルに体験するとは思わなかった。
普通に冷やして出来るモノとは思わないが、そこは悪魔の業の恐るべきところということか。
ちなみに、俺は基本的に同じ悪魔は一体しか仲魔に居ないし名前は種族名で呼ぶのだが、ヒー君、ホー君、ヒホ君は別である。
最初の頃、兎に角仲魔が欲しかった時にジャックフロストが三体かぶったので名前で呼ぶことにしたのだ。
今なら別にニックネームで呼ぶ必要はないのだが、ずっとそう呼んできたので今更である。
そんなこんなで助かった俺は、ひとしきり命の有難味をかみしめた後、友のいる避難区域がどうなったかと思い至り、全力で駆け抜けた。
そこで目にした光景は……詳しくは語るまい。人生最大のトラウマが爆誕したとだけは言っておく。
誰も居なくなった北海道で、どうしたらいいか分からなくなった俺は、ふらふらとした足取りで、墜落した謎の物体へ向かって行った。
空っぽになった頭には復讐とかといった、具体的な動機は存在していなかったような気がするが、兎に角アレを殲滅してやろうと思ったのだ。
そして辿り着いてみれば、既に何名かの悪魔使いが交戦中だった。
敵、『アリオトコア』は毒素をばら撒いて抵抗するが、寝癖頭の少年が何かを設置するとそれら全てが霧散した。
俺はこれ幸いと乱入し、万魔の乱舞をぶち込んでコアを粉砕した。
戦闘が終了し、彼らと話をするとジプスとかいう国家機関とそれに協力している民間人ということが判明。
今回の事件について自分より情報があると言うことで、自分も東京までついていくこととした。
ちなみに移動方法はターミナルとかいう瞬間移動装置である。科学力パネェっす。
そうして東京で話を聞いてみたところ、敵は北斗七星にちなんだ名前を持つセプテントリオンとかいう謎の物体。
セプテントリオンは日本を守る結界の要である塔を破壊しにやってくる。
世界は『無』に浸食されていっている。
正直、ふぁんたじー過ぎて良く意味が分からないのだが、非常にまずい事態なのは分かった。
ただまあ、彼らはセプテントリオンを何体も倒しているらしく、彼らに協力すればどうになかなるだろうと思って協力することにした。
そして次の日の夜。
此処までにも色々な出来事が滅茶苦茶あったのだがそれはさて置き、大変な状況になった。
セプテントリオンの親玉にポラリスとかいうのがいるらしいのだが、そいつは『天の玉座』とかいういわゆる神様の立場にいるらしい。
天の玉座につく者はあらゆる平行世界を管理する義務と権利を得、アカシックレコードとやらを弄ることも出来るとか。
世界崩壊が始まった最初の衝撃はポラリスの攻撃で、それを結界で防がれたことによりセプテントリオンを送り込んだらしい。
しかしながら、世界を破棄するというポラリスの決定はこのままでは不可避であるため、もうこの世界は終わるのだとか。
そこでポラリスに直談判し、新しい世界の形を示すことによって世界を修正しようと言う方向に行ったのだが問題はそこからだ。
新しい世界をどんな世界にするかで、『力が全て』『人類皆平等』『他の道を考えよう』の三派閥に別れてしまったのだ。
最初に聞いただけなら『人類皆平等』に賛成なのだが、詳しく聞いてみると正し過ぎると言うかなんというか、なんだか少し違うのだ。
『力が全て』なんていうカオスルートも勘弁なので、『他の道を考えよう』に同意したいトコロなのだが、リーダーが頼りなくて勝てる気がしない。
勝ち馬に乗りたいが、息苦しい世界も嫌なので何処に行こうかと悩んでいると、目の前に例の寝癖頭の少年と『憂う者』と名乗るいろんな意味で謎の白髪少年が歩いて行った。
ちなみにこの憂う者の事を俺は心の中でカヲル君と呼んでいる。何故かと言うとポイからだ。
二人を呼びとめて話を聞いてみると、二人はポラリスを倒してカヲル君を天の玉座に据えることでポラリスに関与されない新世界を作るのだとか。
意見としても最高だし、この二人が負ける気もしないので俺もこの二人についていくことにした。
しかしながら、カヲル君は寝癖少年には輝く者と呼ぶくせに、なぜ俺の事は照らす者というのか。
導くような強さは無いが、支え助ける優しい光だ、とかそれは褒めてるのか貶してるのかどっちなのか。
明日に備えて早めの就寝に入る前にカヲル君に聞いときたいことがあったので聞いてみた。
三年前、一緒に大いなる闇と戦った彼らはどうしてるのかと。正直、あれだけの強さを持った彼らがこの場に居ないのが不思議だった。
するとカヲル君はベルの王となりアカシャの輪から外れた彼は、数少ないポラリスの裁定に影響されない存在であり、仲間と仲魔と一緒にポラリスの攻撃から世界を守っているのだとか。
確かに良く考えてみれば、ポラリス自体の攻撃が最初の一回で終わるわけがないのだ。
しかしながらベルの王とかアカシャとか意味不明な単語が出たけど、神様みたいな存在の攻撃を防ぎ続けているってあのネコ耳ヘッドフォンはやはりただ者じゃなかった。
そんなこんなで、他の派閥を倒して説得してを繰り返し振り返ってみれば結局全員いるという状況。
まあ、戦力が多いに越したことは無いのでこちらとしては嬉しい限り。
後はポラリスを倒すだけである…と言いたいトコロだったのだが…。
気晴らしで一人で散歩している時に、べリアルとネビロスを引き連れてアリスとかいう幼女が襲ってきたのだ。
二人から話を聞いて興味が湧いたから友達になってとのことだが、この幼女のいう友達とは死人らしい。マジ勘弁だ。
べリアルもネビロスも一体でヒーヒー言っていたのに、二体いるなんて勝てるわけがない。
これなんて無理ゲーと絶望しかけたところに、俺の死に顔動画を見たらしい寝癖少年が参戦。
なんとたった一人でべリアルとネビロスを抑えてくれて、俺は幼女とタイマンを張ることに。
あの二人さえいなければと意気揚々とヒー君とホー君を召喚し挑んだところ、『死んでくれる?』の一言と同時にヒー君とホー君が戦線離脱、俺も大ダメージを受けた。
―ぅゎょぅι゛ょっょぃ
最悪なのは油断が過ぎて携帯が飛ばされた為に新しい召喚が出来なくなったこと。
死の香り漂う中、妖しい微笑みを浮かべながら近づいてくるアリスを必死に説得。
結局、死んでからも友達だから生きてる内も友達で、という正しく悪魔に魂を売り渡す結果で落ち着いた。
死後の就職先が決まってしまった絶望感と、生きている実感に涙が止まらなかった。
そしてまた色々あったものの、ポラリスの元へ辿り着きラストバトル。
変身してパワーアップはするものの、正直大いなる闇やアリスに比べたら大したことが無い強さだった。
あと少しでハッピーエンド!と調子をこいた。
そう、こいてしまった。フラグである。
正面から殴りかかっていた俺がポラリスの異常に気付いたときには遅かった。
グイングインと明らかにヤバい攻撃をするチャージ音が轟いたので、全力で後退したものの相手の射程は直線無限。
まさかのマップ兵器に驚愕しながらも全ての力を防御に回して、ポラリスの攻撃が終わるのを必死に耐える。
攻撃が収まり、耐えきったと安堵の息を漏らすのと浮遊感を感じたのは同時。
気付けば吹き飛ばされており、足元には何もなく、俺はどことも知れぬ次元の闇へと落ちていった。
そして現在。
暫くぽけーっとした後、周りを見てみるとそこは路地裏。
生きていることは感謝するが、見える景色はなんだかおかしい。
人は皆着物を着ているし、さっきなんて牛車が走って行った。
「ここ、何処よ?てかさ、なんで」
異常事態はそれだけでは終わらない。
「縮んでんの?」
ダボダボになった服を引きづりながら、俺は呟いた。
時は大正8年。
俺の知る歴史では有り得なかった、大正20年での大立ち回りへの始まりであった。