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[31713] ケダモノ一直線 (鋼殻のレギオス) ネタ リハビリ R15
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:d980e6b9
Date: 2012/03/30 00:32
「え……?」

背筋に走る鋭い痛み。
レイフォンは未だに現状を理解できぬまま、驚愕に瞳を見開いていた。

「レイフォンが悪いんだからね……私の気持ちをわかってくれない、レイフォンが悪いんだから!」

泣き崩れ、張り裂けるような叫びを上げる幼馴染、リーリン。
彼女の手には血まみれのナイフが握られていた。

「りー、りん……」

わけがわからない。どうしてこのようなことになったのだろう?
レイフォンは薄れる意識の中、幼馴染の名を呼ぶが彼女は何も答えてはくれない。
暗く染まっていく視界。レイフォンには抗う術などなく、そのまま意識を失うことしかできなかった。


†††


「ヤッホー! レイフォン、生きてる?」

目が覚めた。その直後に聞いたのは、グレンダン最強の武芸者、女王アルシェイラ・アルモニス。
彼女に逆らえる存在など、ここグレンダンには存在しない。それは天剣授受者であるレイフォンも例外ではなく、むしろ天剣授受者だからこそアルシェイラに逆らうことなど出来なかった。

「陛下……はい、一応は」

「天剣授受者が一般人の女の子に刺されて重傷なんて笑えないわね。あんた、天剣としての自覚を持ってるの?」

「はぁ……」

笑えないといいつつ、アルシェイラは爆笑していた。ケラケラと笑い、ニヤニヤした表情でレイフォンを見詰めている。
ここは病院の一室。仮にも天剣授受者であるレイフォンが入院しているため、個室でそれなりに豪華だった。

「で、刺された原因は何? 痴情のもつれ? 痴話喧嘩? どうせあんたが原因なんでしょう」

「さあ、どうなんでしょう?」

問われても、レイフォンには首をかしげることしか出来なかった。
わからないのだ。何故、リーリンがあんなことをしたのか。
同じ孤児院で育ち、兄弟として、家族として過ごした少女。とても優しい彼女がどうしてレイフォンをナイフなんかで刺したのだろう?

「帰るのが遅くなっちゃったからかな? でも、その日はクララのところに寄るってちゃんと言ってたし……この間内緒でルナと映画に行ったことを怒っているのかな? でも、その埋め合わせとしてお土産はちゃんと買ってきたし。ならシェル? それともロウ? う~ん、なんなんでしょう?」

「レイフォン、あんたもげちゃいなさい」

その心当たりを語るレイフォンに、アルシェイラはとてもステキな笑顔で言い放った。
次々と出て来る女性の名前。原因は間違いなくそれだと確信し、アルシェイラは呆れたようにため息を吐いた。

「まったく、あんたは……いつの間に女の味を覚えたのよ?」

「僕も年頃の男ですし、いくら陛下とはいえプライベートに口を挟まれる覚えはありませんが」

「そりゃそうなんだろうけどね……はぁ、まさかトロイアット二号が現れるとは」

レイフォン・アルセイフ。彼はもてた。
史上最年少、十歳で天剣授受者となった武芸の天才。容姿にも恵まれ、女性受けはかなりいい。
また、レイフォン本人も女好き、アルシェイラ曰くトロイアット二号という性格をしていたため、近寄る女性には積極的にアプローチをかけていた。
それが災いし、レイフォンは天剣の中でトロイアットに匹敵するほど女遊びが激しく、今回のような事件に発展してしまったのだ。
つまり、レイフォンに好意を寄せる幼馴染が嫉妬に狂って刺してしまったのである。

「でも、それっておかしくないですか? 僕は一度もリーリンに手を出した覚えはないんですよ」

「え?」

「いや、だって、リーリンは家族のような存在ですから。異性としてみることが出来ないって言うか、女性としてみるのは違うなって感じで……それに、リーリンとは遊びじゃ済まない気がしましたから」

「……………」

レイフォンの言い分に、アルシェイラはむしろそれが原因ではないかと突っ込みたかった。だが、ここはあえて黙殺する。
言っても無駄だと悟ったのだろう。

「それはそうとレイフォン。今回、わざわざ私がここに来た理由なんだけどね……」

「はい?」

「ちょっと、六年くらいグレンダンの外に行ってきなさい」

「はィィ!?」

ここで話題が変わる。レイフォンが驚愕の声を上げるが、対するアルシェイラは平然と言葉を続けた。

「これもあんたの身から出た錆よ。むしろ少しの間グレンダンから姿を消すだけでいいんだから、ちゃっちゃと承諾しなさい」

「いや、待ってください。ちょっと待ってください! 身から出た錆ってなんですか? 僕が何をしたって言うんですか!?」

「心当たりは腐るほどあるでしょうに」

戸惑うレイフォンを見て、アルシェイラはもう一度ため息を吐いた。

「あんたの女遊びが激しいからでしょうが。痴情のもつれで天剣授受者が刺されたってグレンダンじゃ大騒ぎなのよ。それに、さっきあんたが出した名前、クララ」

「え、えーっと、クララがどうしましたか?」

「孫娘を汚されたってティグじいが物凄い形相で怒ってんのよ。このままじゃ天剣同士の潰し合いに発展するほどに」

「う、うわあ……」

レイフォンは自分の胸に手を当て、今での行いを振り返ってみた。
確かに、これはまずいかもしれない。トロイアットの紹介でクラリーベル・ロンスマイアことクララに手を出したが、彼女はグレンダン三王家のひとつ、ロンスマイア家のお姫様だ。
その上不動の天剣と呼ばれるティグリスの孫娘であり、そのティグリスご本人はレイフォンに対して大層ご立腹なようだ。
同じ天剣授受者という立場にいるレイフォンだが、それでも進んで天剣同士で争おうとは思えない。回避できる騒動は回避した方がいいに決まっている。

「そんなわけで、学園都市にでも行ってみる? 少しの間グレンダンから姿を消して、ほとぼりが冷めるのを待ちなさい」

「わかりました」

「素直でよろしい」

レイフォンはアルシェイラの言葉にあっさりと頷いた。レイフォンの返答も聞いたので、アルシェイラはそのまま病室をあとにしようとする。
だが、レイフォンはそんなアルシェイラに声をかける。

「あ、ちょっと待ってください、陛下」

「なによ?」

「ただ寝てるってのは暇なので、どうせなら一緒に寝ませんか?」

その言葉に、流石のアルシェイラも言葉を失った。けれど、すぐに立ち直る。

「あんたねえ、あたしの言ったことまるで理解してないでしょう」

「身を隠すことには賛成ですが、それでこの遊びをやめようとは思いません」

「一国の女王を遊び感覚で抱くつもり? レイフォン、あんた最低の男ね」

「自覚はあります」

「流石のトロイアットでもあたしに手を出そうとは思わないわよ」

「それはおかしいですよ。陛下はこんなにも美しいのに」

もはや爆笑だった。腹の底から声を上げて笑い、王家の気品なんてものはまるでない。
それに対してレイフォンも笑みを浮かべ、アルシェイラとの会話を交わす。
アルシェイラは笑いが一旦収まると、今度は妖艶な笑みを浮かべてレイフォンに言った。

「いいわよ。それなら一晩だけ遊んであげる。レイフォン、一滴残らず搾り取られる覚悟はあるかしら?」

「大歓迎ですよ」

それに呼応するように、レイフォンの笑みも深くなった。

























あとがき
ちょっとしたリハビリを兼ねた一発ネタです。このリハビリという単語が洒落になってないこのごろ。
先日、2月の14日。アルバイトに行くため原付を走らせていたのですが、その時に停車していたトラックに激突。
雨でスリップし、その上眼鏡がくもったり、雨粒でよく見えなかったのが原因かと。
原付は廃車となり、その破片で左足の筋肉を断裂させるほどの怪我を負いました。そのために入院し、退院したのが昨日のこと。
この作品はその入院中に考えた妄想をSSとしたものです。

もしもレイフォンが肉食系だったら、的な。
レイフォンは元々へたれですし、自分の書くSSのフォンフォンはまぁ、肉食系でも一途ですし、クララはレイフォン未だにへたれです。
そんなわけで肉食系、イケメンで天才なのを自覚して女性を喰いまくるようなレイフォンを書いてみました。わかりやすく言うとトロイアットですね。
このレイフォンがツェルニに行くと、真っ先に被害にあうのはメイシェンでしょうね。こういってはなんですが、なんだか彼女はちょろそう(汗
ちなみにこのレイフォン、闇試合には出ていません。天剣授受者としての報酬で、自身の孤児院を潤して後は女遊びに没頭といった感じです。なのでガハルドとは一切関係なかったり。
その代わりリーリンには一切手を出さなかったので、彼女に刺されてしまいましたが……
このレイフォン、続くとしたらどうなるんでしょうね?

さて、最後におまけです。学園都市ツェルニへの移動中。








おまけ

「陛下、凄かったなあ……未だに勃起が収まらないや」

諸事情により学園都市へと行くことになったレイフォン。
現在は放浪バスの車内におり、交通都市ヨルテムを経由して学園都市ツェルニへと行く予定だった。
その道中、思い出すのはアルシェイラを抱いた感触。年齢不詳、最強無敵の女王だが、彼女は類稀なる美貌の持ち主でもある。
スタイルも良く、肉感的なエロさを存分に堪能したレイフォンは未だに余韻に浸っていた。

「むう……私がいるのにあの人の話ばかりというのは酷いです」

「いや、だって、クララも可愛いけど胸は陛下が圧勝だし」

「んっ……レイフォン様の意地悪」

「ごめん」

ふっと、レイフォンは思考を今へと戻す。そこにはクラリーベルがおり、レイフォンは彼女の胸を後ろから揉んでいた。

「あっ、んん!」

「あまり大きな声は上げない方がいいよ。外に声が聞こえるかもしれないから」

「で、ですが……」

「仕方ないなあ」

放浪バスの車内でも、ここはトイレの個室。狭いが隠蔽された空間なのをいいことに、レイフォンは共に学園都市に行くことになったクララに欲望を吐き出していた。
レイフォンはクララの胸を揉み続け、クララは熱っぽい呻きを上げる。その声が外に漏れることを懸念したレイフォンは、そのまま自分の口でクララの口を塞ぐ。

「ん、んむっ……ん!?」

「じゃあ、人が来るかもしれないからさっさと済ませちゃおうか」

クララの口から口を離し、レイフォンはにやりと笑った。

























あとがき2
続くとしたらこんな感じで、直接的なXXX描写は書かないと思います。XXXシーンを書くのって本当に大変なんですよね(汗
ってか、これはセーフなのだろうか?
内容的にやばくなりそうだったら言ってください。XXX板へ移動します。



[31713] 入学式
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:d980e6b9
Date: 2012/03/31 16:16
さて、どうしてこうなったのだろうか?
レイフォンは入学式初日にして生徒会長室へ呼び出され、その原因を考える。
レイフォンの正面にはこの都市の長である生徒会長、カリアン・ロスがいる。
彼は大きな執務机を前に腰掛けており、レイフォンに感謝の言葉を伝えた。
今日は入学式当日。だが、その入学式はある騒ぎによって中止となってしまった。そのことについて、レイフォンは呼び出されたのだ。

「君のおかげで新入生達に怪我人が出ることはなかったよ」

騒ぎを起こしたのは武芸科の新入生達だ。レイフォンも武芸科の生徒ではあるが、別にその騒ぎに関係はしていない。むしろそれを治めたのだ。
どうにも敵対都市同士の生徒達が鉢合わせしたらしく、軽い視線のやり取りが舌戦に替わり、それが更に悪化して乱闘へと替わったのだ。
武芸科とは、超人的な力を持つ武芸者によって構成された学科だ。もし武芸者同士が本気でぶつかり合えば、最悪、一般生徒に死傷者が出たことだろう。カリアンはそれを止めてくれたレイフォンに感謝していた。

「新入生の帯剣許可を入学半年後にしているのは、こういう、自分がどこにいるかをまだ理解できていない生徒がいるためなのだけど……やれやれ、毎年の事ながら苦労させられるよ」

「はぁ……」

何を考えているのかわからないカリアンの笑顔。それを見て。レイフォンはどうでも良さそうな相槌を打った。

「それにしても、新入生とはいえ武芸者二人をああも簡単にあしらうとは、なかなか腕が立つようだね」

「まぁ、確かに腕に多少の自信はありますけど」

「本当に多少かな? レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ君」

「へえ……」

カリアンの言葉に、レイフォンは目を細めた。ヴォルフシュテイン。その名を知り、ここで言ってくるということはカリアンはレイフォンの正体を知っているということだ。

「僕のことを、天剣授受者を知っているんですか?」

「君も、当然放浪バスを経由してこの都市に来たんだろう? その時私は、槍殻都市グレンダンに寄る機会があってね。偶然、天剣授受者を決定する試合を観戦したんだよ」

つまり、それがレイフォンの試合だった。
今から五年ほど前、十歳ののころにレイフォンが戦った試合。若干十歳の子供が、武芸の盛んなグレンダンで他者を、大人達を圧倒する姿をカリアンは目撃したのだ。だからレイフォンの正体を、実力を知っている。


「それで、一体僕に何の用なんですか?」

そんなカリアンは、一体レイフォンにどんな用があるのだろう?

「単刀直入に言うよ。君には小隊に入って欲しい」

「小隊?」

レイフォンは首をかしげた。聞き慣れない単語だったからだ。名から察するに何らかの部隊だということは理解できる。だが、これだけでは情報が不足しているのも事実。

「小隊と言うのはね」

そんなレイフォンを察してか、カリアンが詳しく説明してくれた。
要は武芸科のエリート集団であり、都市戦や汚染獣戦などで中枢となる存在らしい。最も汚染獣との遭遇はグレンダンとは比べ物にならないほど少なく、カリアンの在学中はおろか、ここ十数年一度もなかったそうだ。
グレンダンの外の都市は平和だと聞いてはいたが、まさかここまでだとは思わなかった。

「僕は新入生ですよ?」

カリアンはそのエリート集団に、一年生であるレイフォンに入れと言うのだ。

「君の実力なら十分だと思うけど?」

「まぁ、否定はしませんけどね」

別に驕るつもりはないが、レイフォンは自分のことを天才であり、それ相応の実力があると理解している。そうでなければ天剣授受者になどなれないし、他者の力量を把握するのは大事だが、それ以上に自分の力量がどれほどのものなのかと把握することも大事だった。

「名誉はもちろん、小隊員と言うだけでそれ相応の報奨金なども出るし、決して悪い話ではないと思うけどね」

「そうですね。けど、お断りさせていただきます」

「……一応、理由を聞いてもいいかな?」

だが、それとこれとは話が別。小隊員としてやっていける自信はあるが、だからと言ってレイフォンが小隊に入るというわけではない。

「小隊に入ったら、放課後の自由な時間が減るじゃないですか」

せっかく学園都市に来たのだ。ならばグレンダンでは出来なかったことをやってみたい。様々な経験をしてみたい。特に女性の絡むイベント。恋や恋愛もまた青春。
天剣授受者という地位にいるレイフォンにとって、ツェルニでの名誉にそこまでの関心を持てない。お金に関してもグレンダンからの仕送りで困ってはおらず、報奨金に興味はない。
肝心の武芸に関しても、まだツェルニの武芸者のレベルを知らないが、学生武芸者に混じって得られるものがあるとは思えない。だからレイフォンは、小隊入りを断った。

「確かにそれは由々しき問題だね。学生の本分は勉強だが、君の言うとおり遊びたいという気持ちもわかる。けどね、このままじゃこの学園都市がなくなってしまう可能性もあるんだ」

「どういうことです?」

カリアンの言葉の切り返しに、流石のレイフォンも首を捻った。僅かにだが興味が出たようだ。

「君は、学園都市対抗の武芸大会を知っているかな?」

「いえ、知りません」

カリアンの問いかけにレイフォンは首を振る。初めて聞いた言葉だ。そんな返答にカリアンは失望する様子もなく、武芸大会について説明した。

「簡単に言えば、二年ごとに訪れるアレだよ」

つまりはレギオスによる縄張り争いだ。都市の動力源、セルニウムを懸けた戦争。
武芸大会と銘打っているだけあり、学園都市同士の戦争では学生らしく健全な戦いを目指している。出来るだけ死人が出ないように配慮されているのだ。
だが、それでも都市が敗北すれば失うものは同じだ。失われるのは都市の命。動力源を失ったレギオスには、滅びしか待っていない。

「ツェルニが保有していた鉱山は、私が入学した当初は三つだった。それが今ではたった一つだよ」

そして瀬戸際。ツェルニは現在追い詰められており、滅びの一歩手前だということだ。三つあった鉱山が一つに……それはツェルニが負け続け、近隣の学園都市と比べてレベルが低いと言うことだ。

「つまり、次で負ければ後はないと?」

「そう言う事だよ。今季の武芸大会で一体何戦することになるのかは都市しだいだが、一戦もしないというのはありえない」

「それで僕にですか」

つまり、ツェルニが生き残るには勝つしかない。近隣の学園都市よりレベルが低いと言うのなら、その分のレベルを、戦力を補充すればいい。武芸者として圧倒的力を持つレイフォンを加入し、この都市を救おうというのがカリアンの企みなのだろう。

「……………」

レイフォンは暫し考え込む。確かにレイフォンの実力からすれば造作もなく、容易いことだ。
別に戦うことは構わない。この都市、ツェルニを勝利に導くことも簡単だ。レイフォンが単身で敵地に乗り込み、存分に暴れれば良いのだから。

「わかりました。この都市が生き残れるよう、協力させていただきます。ですが、小隊には入りません」

けれど、やはりそれとこれとは話が別だ。ツェルニを勝利に導くために尽力はするが、だからと言って小隊に入るつもりはない。正直、めんどくさかった。

「そこまで拒否されては仕方がない。非常に残念だが、今回はこの話を見送ることにしよう。けどね、レイフォン君。私は決して諦めないよ」

「どうぞご勝手に」

これで話は終わった。レイフォンは退室するためにカリアンに背を向け、その背中をカリアンはニヒルな笑みで見送る。
天剣授受者と生徒会長。この二人の初遭遇は、特に何事もなく終わった。


†††


「あ、レイフォン様!」

「お、やっと来たね。待ちくたびれたよ」

レイフォンが教室に戻ると、そこにはクララがいた。いや、彼女がいることはある意味当然だった。生徒会長に呼び出され、時間がかかるかもしれないから先に教室に行って待ってるように伝えていた。
だが、彼女以外の人物、同じように教室で待っていた三人の少女の存在にレイフォンは首をかしげる。ツェルニに来て間もないから当然のことだが、見覚えのない少女達だった。

「クララ、誰ですか? このかわいい子達は」

「レイフォン様……ここでも誰彼構わず手を出す気ですか?」

その少女達を見て、レイフォンは彼女達には聞こえないようにクララに耳打ちした。
明るい栗色の髪をしたツインテールの少女と、赤毛で長身の褐色の肌をした少女、その二人の少女の後ろに隠れている隠れている小柄な黒髪の少女。それぞれタイプは違うが、三人が三人ともレイフォンの食指を刺激する美少女だった。

「あれ、ひょっとして妬いてるんですか?」

「いいえ、別にレイフォン様の気が多いのは今に始まったことじゃありませんし。ですが、ちゃんと私の相手もしてくれなくちゃダメですよ」

「わかってますよ。それで、誰なんですか?」

再びレイフォンは彼女達について問いかける。だが、クララが答える必要はなく、彼女達の方から語りかけてきた。

「なになに、私達を無視してなんの話をしてるの?」

「あ、いえ、あなた達が誰なのかなって……」

「それなら私達に直接聞いてよ。私はミィフィ・ロッテン。こっちがメイっちで、こっちがナッキね」

「あだ名で自己紹介をするな。ちゃんとしろ。すまない、私はナルキ・ゲルニでこっちがメイシェン・トリンデンだ」

「……………」

ツインテールの少女が三人を代表するように自己紹介をするが、赤毛の少女がそれを咎めつつ補足する。
黒髪の少女は未だに後ろに隠れて黙っていることから、おそらくは人見知りをしやすいのだろう。レイフォンがいた孤児院にもそんな子供が何人かいた。

「そうなんだ。僕はレイフォン・アルセイフ。よろしくね」

レイフォンはミィフィ達に優しく微笑みかける。内面には獣のように荒々しい欲望を隠した微笑み。けれどそれは巧妙に隠されており、ミィフィ達が気づくことはなかった。
気づかぬまま、先ほどと同じようにミィフィが率先してレイフォンに話しかけてくる。

「実はね、この子がレイとんにお礼を言いたいって」

「お礼? なんのこと? いや、それよりちょっと待って。レイとんって誰のこと?」

「私が考えた呼び名。呼びやすいでしょ?」

黒髪の少女、メイシェンを指して言うミィフィだったが、その前に聞き逃せない言葉があったので突っ込みを入れる。
グレンダンでは仮にも天剣授受者であるレイフォンを、レイとんなんて珍妙な名で呼ぶ人物はいなかった。レイフォンの後ろでは、クララが必死に笑いを堪えている。

「すまないな、ミィは人の呼び名を考えるのが趣味なんだ。一応言っとくが、ミィとはこいつのことだ」

「そ、そうなんだ……それで、お礼ってなんのことかな?」

赤毛の少女、ナルキのフォローを受け、とりあえずは気を取り直すレイフォン。先ほどから疑問に思っていたこと、お礼について問いかける。

「実は入学式の時、メイがレイとんに助けられてな。そのお礼がしたいって」

「あの、ありがとう……ございました」

縮こまって言葉を発するメイシェン。レイフォンにはまったく覚えがないが、入学式のあの騒ぎが原因で周囲はざわついていた。
それを制したレイフォンは、並んでいた列になだれ込もうとした人の波を掻き分けて騒ぎの中心へと行ったので、たぶんその時に助けたのだろう。その程度のことしか思い出せない。こんなことになるんだったら、もう少し回りに意識を配るべきだったと後悔する。

「そうだったんだ。大丈夫だった。怪我とかしていないかな?」

「あ、あうう……」

レイフォンはもう一度笑顔を、今度はメイシェンだけに向けた。それはとてもさわやかな笑みで、それに当てられてメイシェンの顔は一瞬で赤く染まってしまう。
レイフォンは今まで、この笑顔で何人もの女性を落としてきた。

「お、お、これはひょっとして脈有り?」

「しかしな……あの笑みはどうにも信用できない」

「え~、そうかな?」

レイフォンの笑みを見て、首をかしげるミィフィと訝しむナルキ。
いい勘をしているとレイフォンはナルキのことを内心で褒め称え、ひとつの提案をした。

「それよりもどうかな? 立ち話もなんだし、お腹が空いたから何か食べに行かない? そんなに高くないものだったら奢るよ」

「え、ホント? いくいく、もちろん行くよ~!」

「おい、ミィ……」

クララと共に教室にいたということは、おそらく同じクラスなのだろう。ならばクラスメートとして親睦を深め、できるなら好感度を稼いでおこうと企てるレイフォン。
幸い、グレンダンからの仕送りなどでお金には余裕がある。贅沢三昧な暮らしをしなければ、ツェルニで生活するには十分すぎる額だ。
ミィフィ達からしても、まだツェルニに来て間もなく、就労もしていないことからこの話は悪いことではないはずだ。ただ、レイフォンを怪しんでいたナルキは少しだけ渋っていたが。

「それじゃ、行こうか。ナルキもいいよね?」

「あ、ああ……」

それでも結局は、ナルキも交えて全員一緒に昼食に行くことになった。


†††


ツェルニのとある喫茶店。ギリギリランチタイムに間に合うことが出来、それぞれ好きな注文をする。
今は料理が来るまで、会話をしながら暇を潰していた。

「レイとんにクララもグレンダンの出身なんだよね。なるほど、だからレイとんはあんなに強かったんだ」

「別にグレンダン出身だとか、そんなことは関係ないと思いますよ。確かにグレンダンは武芸のレベルは全体的に高いですが、レイフォン様はその中でも別格でしたから」

「へぇ、そうなんだ?」

その話題となるのは、やはりレイフォンのことだった。あの騒ぎをあっさりと治めたのだから、ミィフィ達の興味が行くのも仕方のない話だ。

「まぁ、それなりに大きな武芸の大会で何回も優勝したことがあるし、女王から特別な称号を貰ったこともあるからね」

レイフォンは一応、現役の天剣授受者であることは隠してクララの言葉に賛同する。別に隠す意味はないかもしれないが、一応、念のためにだ。

「え、レイとんってそんなに凄い人だったの!?」

「なら、なんでわざわざ学園都市に来たんだ? 勉強なら自分の都市でも出来るだろうし、そんなに強いなら都市も外には出したがらないはずだろ」

「う~ん、それはね……」

ナルキの問いを受け、これなら全部隠すべきだったと少しだけ後悔する。
通常、都市は強い武芸者を外には出したがらない。それは当然だろう。戦争で勝利するため、または汚染獣の脅威から都市を護るためには強い武芸者の存在は必要不可欠なのだから。つまり、学園都市にくる武芸者は実力が未熟で、都市が外に出しても構わないと判断した者がほとんどだ。なのに、何故レイフォンほどの実力者が都市の外に出ているのか?
まさか女性関係が原因で、幼馴染に刺されましたなんて口が裂けてもいえない。さらには王女(クララ)に手を出し、その親族に恨みを買っているなど。そんなこと、言えるわけがなかった。

「実は、レイフォン様は救いようがないほどの馬鹿で、グレンダンの教師はみんな匙を投げたんですよ。それで、藁をも縋るような思いでツェルニに来ました」

「ちょ、クララ!?」

「へ~、そうだったんだ」

「……どれほどの馬鹿なんだ?」

クララのフォローとも言えぬフォローに、レイフォンは飲んでいた水を噴出す。
ちょうどその時、頼んでいた料理が運ばれてきた。

「そうですね……一度学んだことをいつまでたっても学習しないで、同じ失敗を何度も繰り返すんです。案外、子供より性質が悪いかもしれません」

「うわあ……」

クララは料理を受け取りながら話を続け、ミィフィはかわいそうな人を見るような目でレイフォンを見ている。
その視線を受けたレイフォンは、ぼそりとミィフィ達には聞こえないようにクララに耳打ちした。

「クララ……今日の夜は容赦しませんからね」

「望むところ……と言いたいですが、少しだけ容赦してください」

「いやです」

この言葉を最後に、一旦会話を打ち切ることにした。料理が来たので、とりあえずはそれを食べることにする。
ここは学園都市なので、この喫茶店を経営するのも当然学生だった。なのでメニューにはあまり期待していなかったが、思ったよりしっかりした食事が出てきたので驚いた。

「学園都市って言うぐらいだから、来るまで学生食堂しかないかもって心配してたけど、そんなことなくてよかった」

味も満足のいくものであり、ミィフィは美味しそうに料理を頬張る。レイフォンは既に料理を平らげ、今度はデザートを食べる。

「マップの作り甲斐がありそう」

「お前はここでもマップを作るつもりか?」

「当たり前じゃない。美味しいものマップ、オシャレマップ、勢力マップ……作れるものは何でも作るわよ。六年もあるんだから、作らなきゃ損じゃないの。あ、情報集めが私の趣味だから。なんか知らないことがあったら私に聞いてね。わかんなくても、絶対に調べてきてあげるから」

ミィフィ達の出身都市は交通都市ヨルテムだそうだ。そこは全ての放浪バスが通る場所であり、グレンダンから来たレイフォンとクララは必然的にそこを通ってきた。
活気のある良い都市で、グレンダン出身の自分達からすれば毎日がお祭りをやっているようなところだった。そんな場所なら、さぞかしマップも作り甲斐があることだろう。

「それはそうと、学生のみの都市運営ってどんなものかと思ってたが、しっかりとしてるんだな」

ナルキが感心したようにつぶやいた。彼女の言うとおり、都市の経営はしっかりとしていた。
都市は都市でも学園と言うだけあり、授業時間中には開店していない店が殆どのようだが、それでも店はたくさん並んでおり、授業時間を過ぎれば活気に満ち溢れる。
商業科の生徒達が各店舗を統括し、そこに他の学生達が店員として働く形で成り立っているようだ。学園都市とはいえ自給自足が出来なければ都市は成り立たないので、それも当然だろう。この料理にしたって、調理関係に進路を定めた上級生がコックを務め、作ったらしい。
要するに学園都市と言うのは学習するための都市だ。学費や生活費を稼ぐために就労する場合もあるが、将来の予行練習として実際にその仕事を体験してみたり、企業を立ち上げることも出来るのだ。あらゆる可能性を秘めた若者達の都市、それが学園都市である。

「警察機関も、裁判所もあるみたいだしな。そうだな、警察に就労届けを出してみようかな?」

「ナッキは警官になるのが夢だもんねぇ」

「ああ」

ナルキもまた、夢を追いかける若者である。いや、それは彼女達もだろう。

「私は、新聞社かなぁ。出版関係もあるみたいだから、情報系の雑誌作ってるところ探してみようかな? メイっちはどうする?」

「……お菓子、作ってるとこ」

ミィフィやメイシェンだって夢を持っている。自分の目標へ向け少しずつ歩み、前に進もうとしている。

「やっぱり? じゃあ、美味しいところ探さないとねぇ。あ~、でもお菓子食べ歩き……太らないように気をつけないと」

「お前は体温高いから大丈夫だろ」

「え、そうなんですか? どれどれ? うわ、本当に温かいです」

「ちょ、クララ!?」

ナルキの言葉に、悪乗りしたクラリーベルがミィフィをぎゅっと抱きしめ、体温を確認していた。その姿を微笑ましそうに見て、レイフォンもミィフィに手を伸ばす。

「あ、ホントですね」

「ちょ、ちょっとレイとん!?」

流石のミィフィも慌てたように顔を真っ赤にする。
レイフォンは両手を伸ばし、その手でミィフィの頬をつかんだのだ。顔を固定し、真っ直ぐミィフィの顔を覗き込む。レイフォンの表情は人懐っこそうな笑みを浮かべており、必然的にそれを正面から見ることになったミィフィはかなりの衝撃を受けていた。
そんな光景を見ていたナルキは、ゴホンとわざとらしく咳払いをする。

「あ~、レイとん。そう易々と女性に触れるのはどうかと思うぞ」

「え、ああ、ごめんねミィフィ。ついやっちゃった」

「え、ああ、ううん、別にいいけど……」

ナルキに言われ、レイフォンは特に悪いと思わず、形だけの謝罪をしてミィフィから手を放す。
解放されたミィフィは顔を真っ赤にしたまま、あたふたと首を振っていた。

「あの、ちょっとよろしいですか?」

「え?」

そんな中、この一同に声がかけられる。第三者からの言葉。それに反応して、全員が声のした方に視線を向けた。
そこにいたのは、一人の少女だった。メイシェンにも負けないほどの小柄な体躯。長い銀髪と雪のように白い肌が特徴的だった。彼女は武芸科の制服に身を通し、リボンの色から二年生、レイフォン達の先輩であることが伺える。
だが、その小柄な体躯と幼い顔つきから年下だと言われても違和感がない。笑えばとても似合いそうなのだが、彼女の表情は笑顔とは程遠い無表情。それは人形のようであり、けれどとても美しい。
今まで多くの女性に手を出してきたレイフォンでも、これほどの美女には早々お目にかかれなかった。匹敵するのはアルシェイラとクラリーベル、または手を出してはいないがリーリンくらいなものだろう。

「レイフォン・アルセイフさんですね」

「えっと、僕に何か御用でしょうか?」

「話があります。一緒に来ていただけますか?」

何故、少女がレイフォンの名を知っているのか? そのことを疑問に思ったが、レイフォンが美女の誘いに首を振るわけがない。
二つ返事で承諾し、レイフォンはクララ達に席を外すと伝えて彼女についていくことにした。


†††


レイフォンが連れてこられたのは一年校舎より更に奥にある、少し古びた感じの会館だった。広いはずのその会館は大きな壁に仕切られ、レイフォンが入った部屋には教室2つ分のスペースくらいしかない。それでも十分広いかもしれないが、ここで行うことを考えれば少し狭い気もする。

「レイフォン・アルセイフだな」

「そうですけど、あなたのお名前は?」

「私はニーナ・アントーク。第十七小隊の隊長を務めている」

「はぁ……」

先ほどの少女とは別の女性。おそらく、さっきの少女はこの女性にレイフォンを呼んでくるように言われたのだろう。
レイフォンに用があるのはこの女性、ニーナの方らしい。もっともその用件は、小隊という単語から簡単に想像できるが。

「レイフォン・アルセイフ。貴様を第十七小隊の隊員に任命する」

カリアンと同様、ニーナもレイフォンを小隊にスカウトする気なのだろう。

「小隊とは武芸大会の際に、中核を担う重要な部隊だ。小隊員に選ばれると言う事は、武芸科に所属する学生の中で、特に優れた武芸者と認められた証だ。大変、栄誉な事と思っていい」

「そんなこと知りませんよ。それに、僕は小隊に入るつもりはさらさらないんですけど」

「拒否は許されん! これは既に、生徒会長の承認を得た、正式な申し出だからだ」

「その生徒会長にも、ちゃんと断りを入れたはずなんですけどね……」

話は平行線だった。小隊に入る気のないレイフォンと、なんとしてもレイフォンを小隊に入れようとするニーナ。
レイフォンはカリアンに小隊に入るつもりはないとちゃんと告げているのに、ニーナの話では生徒会長が許可を出したようになっている。
あの陰険そうな眼鏡の顔を思い出し、少しだけ頭に来た。

「何より武芸科に在籍する者が、小隊員になれる栄誉を拒否するなどと言う軟弱な行為を許すはずがない」

「だからそんなこと知りませんって。僕はこのツェルニに充実した学生生活を送りに来たんです。小隊の訓練なんかに付き合っている暇はありません」

「貴様……」

ニーナの表情が怒りで歪んだ。正直、もったいないとレイフォンは思う。
肩口で揃えられた綺麗な金髪と整った顔立ち。笑っていればとても魅力的だろうが、ニーナの固そうな考えと表情がそれを台無しにしている。

「まぁまぁ、ニーナも落ち着けって。嫌がる相手に無理やり自分の考えを押し付けても、反発するだけだぜ」

「シャーニッド。しかし……」

そんな中、割って入ったのはシャーニッドと呼ばれる青年。ここ、錬武館と呼ばれる場所でニーナと共にレイフォンを待っていた人物だ。
長い髪を後ろで束ね、レイフォンに負けないほどの整った顔立ち。とても女性にもてそうだが、どこか軽薄そうな感じがした。

「しかしもかかしもねえって。ほら、言うだろ、押して駄目なら引いてみなって。とりあえず俺に任せろよ」

そう言って、シャーニッドはレイフォンに視線を向ける。

「さて、新入生。お前の言うことはごもっともだ。せっかく学園都市に来たんだ。なら、思う存分に青春を楽しまなきゃな。お前の気持ちもわかるぜ。だが、小隊に入ることによって大きな利点がある」

「それはなんですか?」

たいして興味がなさそうに、レイフォンはシャーニッドに問いかけた。
シャーニッドはシャーニッドで、きりりと真剣な表情をする。

「女にもてる」

「この痴れ者が!!」

だが、その真剣な顔つきから放たれた言葉は物凄く邪だった。ニーナの突っ込みがびしりと入る。

「そんな理由で小隊に入るのは貴様くらいなものだ!」

「わかりました。この不肖、レイフォン・アルセイフ。第十七小隊に入らせていただきます」

「なにィィィ!?」

だが、シャーニッドの言葉を切欠にあっさりと意見を翻したレイフォン。これには流石のニーナも唖然とする。

「な、引いてみるもんだろ」

「ぐっ……」

シャーニッドの言葉に、ニーナは苦虫を噛み潰したような表情をする。彼女は模範的な武芸者というのだろうか。武芸を神聖視しており、武芸者とは清く正しくあるべきだと思っている。
なのでこのような邪な理由で小隊に入るなど認められるわけがなかった。認めるわけにはいかなかった。レイフォンにキッっと睨みつけるような視線を送り、苛立ちを隠そうともせずに宣言する。

「これより試験を行う。どのポジションが最適か? また貴様が本当に我が隊に相応しいのか? それを確認すると同時に、その腐った性根を叩きなおしてやる!」

「えっと、とりあえず戦えばいいんですか?」

「そうだ。好きな武器を取れ!」

いきり立つニーナに苦笑して、ツナギを着た少年がレイフォンに多数の錬金鋼を差し出す。
剣に刀、鉄鞭に銃に、槍や弓など、様々な武器を差し出し、どれがいいかと尋ねてきた。

「ならばこれで」

レイフォンが手に取ったのは刀。長年愛用し、慣れ親しんできた武器だ。
レイフォンが本来使うものと比べれば少し刀身が短い気がするが、この程度学生武芸者を相手取るのにさしたる問題はないだろう。

「本気で行くぞ」

レイフォンが構えるのと同時に、ニーナは間合いも図ることもせずに飛び込んできた。

「ならば、こっちも本気で行きます。ダラダラやっても時間の無駄なので」

「え……?」

レイフォンはひらり攻撃をかわし、ニーナの耳元でそう言った。
それと同時にニーナを襲う衝撃。刀で斬られたのだが、ニーナがそれに気づくことはなかった。
学園都市の武器はそのほとんどが安全装置をかけられ、刃物などの武器には刃引きがされている。なので血が流れることはなく、ニーナはバタリとその場に倒れる。

「……………」

唖然とするシャーニッド。ツナギを着た少年も同様に言葉を失う。唯一、レイフォンをここに招いた少女だけが無表情で考えを読むことが出来ない。
けれど、そんなことなどレイフォンにはどうでもよかった。

「えっと、とりあえずこれで、僕は晴れて第十七小隊の一員なんですよね?」

確認するように問うレイフォン。だけど、その問いかけにすぐさま答えることの出来る者はいなかった。




















あとがき
入院中に思いついた一発ネタだったんですけどね……なんでこうなったのかな?
それにしてもここのレイフォン、原作の面影がない(汗
まぁ、それがコンセプトといってしまえばそれまでですが。
それはそうと、ここはチラシ裏なので当然過度な描写はご法度ですが、今回のレイフォンほとんど女性と絡んでない。ならば、当然おまけで補完です。












おまけ

「あの、レイフォン様……」

「ん、んむっ……」

「起きてください。起きないと今日が入学式初日なのに遅刻しちゃいますよ」

「ん、んん……」

朝。今日は新生活の始まり、学園都市の第一歩、入学式。けれどレイフォンは未だに、クララと共に布団の中にいた。
クララを抱き枕のように抱きしめ、未だに眠り続けている。

「うぅ、私もちょっと辛いです。このまま眠っていたいですが、流石に入学式初日から休むのは……」

これは明らかに昨夜の営みが原因だった。昨夜は遅くまで交わり、その影響を存分に引きずってしまった。
レイフォンは夢の中であり、クララは気だるさによって起き上がることも億劫だった。

「というか、起き上がりたくても起きられないんですけど……レイフォン様、起きてください」

クララはレイフォンの胸の中で悶えながら抗議をする。

「……あと五時間」

「それ終わってます。終わってますから入学式!」

その甲斐あってか、レイフォンは夢の中から引き戻されたようだ。だけど起きるつもりはさらさらなく、再び眠りに付こうとしていた。

「別にいいですよ、入学式くらい。今はこうして、クララと一緒に寝ていたいです」

「あう……レイフォン様がそう言うなら。ちょ、ああっ、どこ触っているんですか!?」

「どこって、胸ですけど」

入学式だというのに、サボることを即決するレイフォン。彼は目を閉じつつも、同じ布団で眠るクララの胸に手を伸ばす。

「いや、目が覚めちゃいましたから、せっかくですしもう一回してから寝ようかなと」

「そんな元気があるなら、入学式に行ったらどうですか?」

「めんどくさいです」

学園都市の第一歩。その歩みを早々に諦め、レイフォンは欲望に忠実な行動をすることにした。














あとがき2
入学式をふけるボツ案です。だって、入学式サボっちゃうとメイシェン達にフラグ建たないので。
しかしここのレイフォン(以下略
それはそうと、今更ですが聖戦のレギオス3巻を読んで思ったこと。
ディックとカリバーンのやり取りについて。ナノセルロイドは必要性を感じないけど、人間の真似をすることは可能なようです。
食う、寝る、交わるなどなど。『交わる』? それが可能。ほうほう、ならばもちろんヴァティも……
ここのレイフォンならナノセルロイドだろうと構わず落としそうですね。そして世界は平和になるのさw
しかし、聖戦読んで思ったんですが、なんかラスボスってディックになるんじゃないかと思うこのごろ。まさか、ねえ……
あ、次回はちゃんとクララ以外の女性ともやっちゃう予定ですので。続けば、ねえ……



[31713] レイフォン・アルセイフ
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:d980e6b9
Date: 2012/10/31 18:37
「なんなんですかあれは!?」

ニーナは生徒会長室に飛び込むように入り、部屋の主であるカリアンに向けて怒鳴りつけるように言った。
対するカリアンは、イスに座ったまま新聞を読んでいる。カリアンは新聞の文字を目で追いかけつつ、ちらりとニーナの方を見た。

「なんのことかな?」

「レイフォン・アルセイフのことです」

「ああ、その話なら聞いてるよ。彼は君達の説得で第十七小隊に入ったんだってね。私もそれとなく説得してみたんだが、こうもあっさり入隊するとは思わなかったよ」

カリアンの白々しい台詞にニーナは眉を吊り上げ、表情が引き攣っていく。次第に熱くなっていき、言葉にはさらに熱がこもっていった。

「レイフォン・アルセイフは会長からの推薦です。確かに私も入学式の一件で目を付け、訓練すれば小隊員として使えると思ってました。だが、その考えは甘かった」

使える、どころではない。レイフォンは強すぎるのだ。訓練など必要ないほどに。
試験と称して直接戦ったニーナだからこそわかる。彼は、学生武芸者のレベルを大きく逸脱していた。

「推薦とは言っても、私は彼の承諾が得られるのなら小隊に入れてもいいと言っただけなんだけどね」

「そんなことはどうでもいいです。私が言いたいのは……会長、あなたはレイフォン・アルセイフのことを知っていましたね?」

第十七小隊は結成したはいいものの、隊員の数が足りなかった。小隊としてやっていくためには最低でも四人必要であり、今までは三人しかいなかった。
そんな中、カリアンに呼び出され、隊員として紹介された人物。それがレイフォン・アルセイフだった。
ツェルニの長であり、普段から陰謀を張り巡らせているカリアンが、見ず知らずの人物を小隊員として推薦するはずがない。おそらくはレイフォンがどんな人物か事前に知っていたのだろう。

「彼はグレンダンの出身でね。本来なら他所の都市の情報など、そうそう手に入るものではないんだが……」

カリアンは新聞から目を上げ、言葉を選ぶように言う。

「だから、彼のことを知ったのは偶然だ」

カリアンは吐息を吐き、完全に新聞から視線を逸らしてニーナを見る。

「君は、この学校にどうやって来た?」

「放浪バスに決まっています」

何を今更と、疑問を抱きながらも即答するニーナ。だがその答えを、カリアンは首を振ることで否定する。

「放浪バスなのは当たり前だよ。この汚染された大地を唯一移動する方法が放浪バスなのだから。私が言いたいのは経路だ」

「経路?」

「そうだ。放浪バスの全ては交通都市ヨルテムへと帰り、ヨルテムから出発する。異動する全ての都市の場所を把握しているのはヨルテムの意識だけだからだ。しかし、ヨルテムからすぐここに来られるとは限らない。いくつかの都市を経由しなければいけない場合もある」

そういわれてニーナも思い出した。彼女もツェルニに来る時、三つの都市を経由したのだ。

「では、会長はグレンダンに?」

「ああ、そうだ」

ニーナの問いにカリアンは頷く。

「私はツェルニに来るのに三ヶ月かかった。その途中だ。グレンダンにはバスを待つために二週間ほど逗留した。グレンダンでは武芸の試合が頻繁に行われる。退屈という言葉とは無縁でいられたな。そして私は運良く、天剣授受者を決定する大きな試合を見ることが出来た」

「天剣授受者?」

「武芸の本場と呼ばれるグレンダンで、最も武芸に優れた十二人に与えられる称号……だけではなく、何か特別なものもあるようだが、それは余所者の私にはわからないことだったな」

「まさか、その試合にレイフォンが出ていたというのですか!?」

「そういうことだよ。しかし早いものだね。あれからもう、五年の月日が流れている」

「五年……まさか!?」

グレンダンで最も武芸に優れたもの十二人を決める大事な試合。レイフォンがそれに参加していたことも驚きだが、カリアンの言う五年前という言葉にニーナはさらに驚いた。
レイフォンは今年は言ったばかりの新入生。つまりはまだ十五歳であり、その五年前ということは十歳のはずだ。年齢がやっと二桁に達したばかりの子供が、武芸の本場であるグレンダンで最強を決める試合に参加していたというのだ。

「天才というものを私は知っている。だが、あれには私も感動した。そして絶句させられたよ。私には武芸の素養はないが、それでもあの凄まじさは万人に理解できるものだと確信できる」

しかも、参加しただけではない。レイフォンは勝ち抜いたのだ。それも僅差での勝利や苦戦などではなく、圧倒的な力で、武芸の本場であるグレンダンの武芸者、大人達を薙ぎ払っていった。

「私だけではなく、会場にいた全ての人々がその事実に驚かされた。それだけ異例のことだった。それはそうだろう。あんな子供が、武芸が最も栄えていると言うグレンダンで高位の存在として君臨するというのだから」

その出来事があまりにも衝撃的で、だからカリアンはその名前を忘れることが出来なかった。否、忘れられるはずがなかった。
ツェルニにはもう後がなく、崖っぷちとなったこの状況。そんな時に見た、入学志望者の書類に載っていた彼の名前。それをカリアンが見逃すはずがなかった。

「まさに救世主が現れたと思ったよ。彼ならばツェルニを救ってくれるとね。だが、それと同時に疑問を抱いたのも事実。何故、彼ほどの武芸者がわざわざツェルニに来たのかとね」

通常、都市は武芸者を外には出したがらない。武芸者は都市を護るために重要な人材であるため、それも当然だろう。
ましてや、レイフォンはグレンダンで最強の十二人の一人。そんな彼が、どうしてこんな未熟者の揃う学園都市に来たのか?

「それで……」

ニーナの疑問に対し、カリアンは今まで読んでいた新聞を差し出した。

「私も今知ったばかりさ。これはグレンダンから取り寄せたばかりの新聞だ。これに事の詳細は載っている」

ニーナはカリアンから新聞を受け取る。まず目に入ったのが一面記事。そこにはでかでかと、こう書かれていた。

『天剣授受者、ヴォルフシュテイン卿。痴情のもつれで刺される』

その記事を、ニーナは無言で読み始めた。


†††


「……………」

ニーナは考える。昨日、生徒会長室で知った事実。レイフォン・アルセイフという人物について。

「あいつは……グレンダンであんなことがあったというのに懲りていないのか?」

独り言が漏れた。幸いにもここはニーナの暮らす寮であり、自分の部屋。だからこの独り言を他に聴くものはいないだろう。
ここにいるのは、ニーナの他には故郷から持ち込んだ親友のぬいぐるみくらいなものだ。
カーテンの隙間から朝日が入り込む。ニーナは昨夜からずっと物思いにふけっており、一睡もしていなかった。
レイフォンのことでも悩んでいたが、なんだかんだでこれで小隊として活動するための、最低限の人数が揃った。これからの方針や訓練メニューなど、考えなければならないことがたくさんある。

「その活力を、武芸にのみ活かせればいいんだがな……」

だが、そんなニーナの思考の大部分を占めているのは、やはりレイフォンのことだった。
グレンダンで最強の一角と呼ばれるほどの腕前。そんな彼が武芸のみに専念したら、果たしてどれほどのものになっていたのか?
そう考えると同時に、ニーナは悔しさを抱いていた。レイフォンは武芸よりも女遊びの方に真剣だった。武芸を疎かにしていると言うのに、その実力は大きくニーナを上回る。それが理不尽だと思った。
ニーナは強くなりたい。強くなって、自分の力でツェルニを護りたいと思っている。そのために小隊まで立ち上げたのだ。

「決めた。あいつの性根はこの私が叩きなおす!!」

加えて、ニーナは熱血でもある。勝手にレイフォンを不良生徒のように判断し、それを正す教師にでもなったかのように決意する。
それがどれだけレイフォンにとって余計なお世話なのかも知らず、また、前回も似たようなことを言ってレイフォンに完膚なきまでに敗北したことを忘れて、ニーナはそう決意した。

「ね、眠いな……」

結果的には徹夜をしてしまい、ニーナは重い瞼を擦りながら食堂へと向かった。
食堂では朝食の準備が行われているのか、空きっ腹を刺激する良い匂いが漂っていた。

「おはようございます」

「ああ、おはよう……って、レイフォン!? ここで何をしている?」

食堂に入ったニーナに挨拶が飛んできた。反射的に挨拶を返すニーナだったが、挨拶をしてきた人物がだれなのかを知って驚愕する。
何を隠そう、その人物とはレイフォンだったのだから。

「何をしているって、見てわかりませんか? 朝食を作っています」

「違う! 私が言いたいのはどうして貴様がここにいるのかということだ!」

レイフォンはキッチンに立ち、フライパンで目玉焼きを焼いていた。彼の言うとおり、朝食の準備をしているのだろう。
だが、ニーナが言いたいのはそこではない。どうしてここにレイフォンがいるのかということだ。
ここはニーナ達が暮らす女子寮。そう、『女子』寮なのである。
当然男子は禁制で、レイフォンが入ることなど許されるはずがない。とはいえ、ここは学園都市。学園でもあるが、都市でもある。個人のプライベートもあるので、禁止事項の境界線が緩いということも否めないが。

「どうしてって、昨日、ここに泊まりましたから」

「なっ……」

「ここの寮長、セリナさんの部屋に泊ったんですよ。で、セリナさんがまだ寝てるので、仕方なく僕が朝食を作ってるわけです」

だが、だからといって、こうも堂々と宣言するのはどうなのだろうか?
あまりのことにニーナは何も言えず、呆然としていた。
ちなみに、セリナとはニーナの暮らすこの寮の寮長だ。セリナ・ビーン。錬金科の四年生。
この寮の住人で唯一まともに料理が出来るのがセリナだけであり、本来朝食はセリナが作っているはずだった。

「とりあえず、座ったらどうですか? もうできますから」

「あ、ああ……」

そのまま押し切られ、ニーナは食堂の席に腰掛けた。レイフォンは淡々と朝食の準備をしていく。

「あ~、ごめんねー、レイ君。お客さんなのに朝ごはんの準備をさせちゃって」

そのセリナは、今、やっと起きてきたのかドタバタと食堂に入ってきた。

「いえ、いいんですよ。セリナさんは疲れていたみたいですから」

「うん、その……あんなに激しいのは初めてだったから」

「あんなのまだまだ序の口ですよ。そのうち、もっと気持ちよくしてあげますから」

「やだ~、レイ君ったら」

ニーナは思う。昨日、何をやったのかと。そもそもレイ君とはなんだ? レイフォンのことか?
いろいろと聞きたいことがあったが、ニーナは怖くって聞くことが出来なかった。

「おはよー、ってあれ? なんでここに男がいるんですか?」

次に現れたのは、この寮の数少ない住人であるレウ。ニーナの同級生だ。
ニーナとセリナとレウ。現在、この寮で暮らしているのはこの三人だけだった。

「おはよう、レウちゃん。この子はレイ君、私のお客さんよー」

「あ、どうも、レイフォン・アルセイフです」

「ふーん、ま、よろしく」

レウは特に動じず、それだけ言うとさっさとイスに座ってしまった。
朝食の準備を終え、レイフォンとセリナも席に付く。

「そういえばレイ君、もうすぐ対抗試合なんでしょう?」

「はい」

「応援に行くからがんばってね」

「ありがとうございます。セリナさんのためにも絶対勝ちますね」

「あらあら~」

ニーナとレウの存在をまったく気にせずに交わされる、レイフォンとセリナの会話。
レウは鬱陶しそうだが、素知らぬ顔をしていた。対するニーナは、非常に居心地が悪そうだ。ニーナのした決意は、早々に挫けてしまいそうだった。


†††


対抗試合当日。第十七小隊初陣の日。相手は第十六小隊。
下馬評では第十六小隊が有利とされ、新設されたばかりの第十七小隊は敗北するだろうというのが大半の予想。
とはいえ、ニーナがその予想をよしとするはずがない。当然勝つ気であり、意気込み、気合を入れていた。ツェルニを護るのは自分だと決意を固める。
だが、そんな決意を固めたところで、試合は拍子抜けするほどにあっさりと終わってしまった。

「大活躍だったな、おい。俺の分も残しとけよ」

「すいません。次の試合では考えておきます」

当然、第十七小隊の勝利。レイフォンはもちろん大活躍。無論、ある程度の手加減はしていたが、それでもレイフォンの実力は学生武芸者のレベルを大幅に超えていた。
試合に勝利した。けれど、何故だかニーナの機嫌が悪い。

「おぃおぃ、どうしたニーナ? せっかく勝ったってのに浮かない顔して」

「シャーニッドか……別になんでもない」

「なんでもないって顔じゃねえだろ」

ニーナの表情に突っ込みを入れるシャーニッドだったが、ニーナはむすっとふくれっ面をしたままで何も語ろうとはしない。

「ったく、今日はせっかくの祝勝会だってのに」

「シャーニッド先輩。こっちで飲みませんか?」

「おう、レイフォン。ってか、お前も酒飲むんだな」

「まぁ、たしなむ程度ですが」

「おい、ちょっと待て。まだ酒精解禁の学年じゃないだろう!」

「今日くらい固いこと言うなっての」

対抗試合が終わり、夜も深まっていく。第十七小隊は初戦を勝利で収めたため、幸先のいいスタートを切ったと言える。
何はともあれ、ニーナもほんの少しだけ表情を緩めた。第十七小隊にまだ問題は多々あるものの、これでツェルニを護れると、そう思っていた。

「な、なんだ!?」

「これは……都震」

そんなさ中、突如都市を襲う激しい揺れ。祝勝会に訪れた者達から悲鳴が上がり、動揺が走る。
だが、揺れは以外にもすぐに治まった。

「最悪だ……」

けれどレイフォンは苦々しい表情で呟いた。
ニーナは知る。己の無力さを。そして、レイフォン・アルセイフの本当の実力を。
















あとがき
今回、クララをまったく出せませんでした。クララ成分が不足している!!
まぁ、そんなわけでレイフォンがはじめてツェルニに来て喰ったのはセリナさん。個人的にはセリナ、レギオスでも結構好きなモブキャラ?だったり。
でも、彼女って怒らせると怖そうだな……それとフェリ、前回ちょろっと登場していますが、今棚も出ていない始末。
このレイフォンでどうやってフェリとフラグを立てるべきか、今、非常に悩んでいます。ってか、このレイフォンにフェリが惚れるのか!?
非常に難しいですね……
まぁ、あれこれいっても仕方ないので、今回もちょっとしたおまけを。








おまけ

「よう、レイフォン。調子はどうだ?」

「トロイアットさん。まぁ、そこそこですかね。そっちはどうです?」

「俺もそこそこだ」

グレンダンの王宮。その廊下で二人の男が鉢合わせをする。
一人はレイフォン。そしてもう一人はトロイアット。レイフォンの同僚、天剣授受者の一人だった。

「これから飲みに行かねえか? 綺麗な姉ちゃんが相手してくれる店を紹介するぜ」

「いいですね。行きましょうか。もちろん奢りですよね?」

「んなわけねえだろ」

二人は気の会う友人だった。こうして一緒に飲みに行ったり、女性を紹介してもらったり。
ちなみに、レイフォンにクララを紹介したのもトロイアットだったりする。

「ちなみにレイフォン、お前って意中の相手とかいるのか?」

「意中の相手ですか……そうですね、特に意識したことはないですけど、一番それに近いのはクララでしょうか?」

「おっ!」

酒場に行く道中、何気なく振られた会話。レイフォンのその答えに、トロイアットは興味深そうな顔をする。

「僕が求めればいつでもヤらせてくれますし、かわいいですし、一緒にいてて楽しいですし」

「ベタ褒めだな。そこまで気に入ってくれたなら、紹介したこっちとしても嬉しい話だ」

「ちょっと、サヴァリスさんと似た気質なのがマイナスといえばマイナスですけど」

「そこは武芸者なんだから、ある程度大目に見てやれよ」

「そうですね」

向上心があるのはいいことだ。武芸者は強さを求める。グレンダンではそれが自然なのだから。

「でも、クララのことは本当に気に入ってるんですよ。孤児院の子とも仲良くしてくれていますし」

「なら、いっそのこと結婚しちまえよ」

「結婚ですか……それもいいですね」

「冗談だったんだがな……」

クララを褒めるレイフォンに、トロイアットが言った一言の冗談。
けれどレイフォンはまんざらでもなさそうで、トロイアットは意外そうな表情をする。

「僕は孤児なんで、家族というものに憧れているかもしれません。お嫁さんを貰って、子供も欲しいと思ってますし。それに、武芸者の子供は都市としても大歓迎でしょうしね」

「俺達天剣授受者の子供は特にな。そういえば知ってるか? ルイメイの旦那に子供が出来たんだとよ」

「ええ、知ってますよ。けれど、僕の前でその話はしないでいただけますか?」

「なんだよ。お前、ルイメイの旦那のことが嫌いなのか?」

「ええ、まぁ……」

トロイアットは首を傾げるが、特に追求はしなかった。

「話は戻りますけど、クララとの子なら欲しいと思ってるんですよ。彼女も武芸者ですし、相手が一般人なら子供を生む時に危険もあるから基本的には避妊をしてるんですけど、クララにはその必要がありませんし。だから毎回中に出してるんですけど、なかなか妊娠してくれないんですよね。僕って種無しなのかな?」

「あ~、クララか。あいつの場合な、薬呑んでるんだよ」

「え?」

今度はレイフォンが首をかしげる番だった。そんなレイフォンに、トロイアットはちゃんと説明をしてくれる。

「確か、経口避妊薬だっけか? お前が避妊してくれないからって、それを呑みだしたて言ってたな。クララは武芸者だしな。妊娠したら戦えないとかぼやいてたぞ」

「そうなんですか……」

「まぁ、なんだ。そのうちだよ、そのうち。クララもお前のことは気に入ってるし、そのうちお前の子供を生んでもいいなんて思うかもしれないしな。そもそも、そんなにあせって人生の墓場に足を突っ込む必要もねえだろ。まぁ、結婚してもティグリスのじいさまみたいに側室とか囲えばいい話だがな」

「あの人も子沢山ですからね」

レイフォンとトロイアットは笑う。そのうち、目的の酒場に着く。
中に入り、二人は複数の美女達と共に酒を楽しむのだった。













あとがき2
ここのレイフォンなら、トロイアットと仲良くなれそうだと思って書きました。
そして既にお気づきだと思われますが、この作品のメインヒロインはクララです。クララ一直線とはまるで別物なんですけどね。
とはいえ、クララがメインヒロインでもここのレイフォン、構わず女性を喰っちゃいますが。
最後にどうでもいい話。リトバスがアニメ化だと!?
えっ、これマジの情報なの!? これが本当だったら非常に楽しみです。



[31713] ツェルニ攻防戦
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:2a03c4f9
Date: 2013/06/13 01:19
「状況は?」

慌しい会議室に、この都市の長の声が響く。
生徒会長のカリアンを筆頭に、この場には武芸長のヴァンゼや、各学科の幹部達が集まっている。
そんな中でかわされる議題は、今、この都市を襲っている脅威についてだ。

「ツェルニは陥没した地面に足の三割を取られて、身動きが不可能な状態です」

「脱出は?」

「ええ……通常時ならば独力での脱出は可能ですが、現在は……その、取り付かれていますので」

現在、自立型移動都市(レギオス)が移動できない事態に陥っている。
地盤の弱いところを都市の脚が踏み抜いて都震が起こることは稀にあるが、今回はその先に汚染獣の巣があり、汚染獣が脚を上ってきたために脱出が出来ないでいた。

「生徒の避難は?」

「都市警を中心にシェルターへの誘導を行っているが、混乱している」

「仕方ないでしょう。実戦の経験者など、殆どいない」

今まで、こんな事態など想定していなかった。その上ここは学園都市だ。実戦を経験したことがある者はまずいない。
そもそも汚染獣との遭遇自体が稀なことだ。通常の都市では数年に一度遭遇するかしないかの頻度。グレンダンでは毎月のペースで汚染獣に遭遇するらしいが、それは明らかに異常だ。
また、ツェルニが汚染獣に遭遇したのは十数年ぶり。絶対に遭遇しないというわけでもないが、これまで平和に過ごしてきた学生達がパニックを起こすのは当然だった。

「全武芸科生徒の錬金鋼の安全装置の解除を。各小隊の隊員をすぐに集めてきてください。彼らには中心になってもらわねば」

カリアンの師事にヴァンゼは頷く。頷くが、その表情には明らかに不安が含まれていた。

「出来ると思うか?」

「出来なければ死ぬだけです」

ヴァンゼの問いかけに、カリアンは冷たく言い放つ。
この場にいる全員に言い聞かせるように、あとを続けた。


「ツェルニで生きる私達全員が、全ての人の……いや、自分自身の未来のために、自らの立場に沿った行動を取ってください」


ここに集まった全ての者達が頷く。もはや学生だとか、実戦経験がないとか、そんなことは関係なかった。
生き残るには戦わねばならない。自分に出来ることをやり、やり遂げられなければ未来はない。
そのことを全員が認識し、彼らは生き残るために自分のやるべきことを始めた。


†††


「今回都市を襲った汚染獣は幼生体。おそらくは母体がこの近くにいるはずなので、念威繰者を総動員して探してください。あと、都市外装備の準備を」

「わかった、すぐに手配しよう」

「おい、カリアン」

場所は変わって汚染獣対策本部。こう名付けられてはいるが、生徒会室に主要メンバーを集めているだけだ。
その主要メンバーというのは、生徒会長のカリアン。武芸長のヴァンゼ。そしてレイフォン。あとは数名の武芸者だけ。

「なんだい、ヴァンゼ」

「これから各小隊を集め、状況を説明せねばならんというのにここでなにをしている? そもそもそいつは一年だろう」

あからさまに納得していないヴァンゼに対し、カリアンは丁寧に説明した。

「既に小隊は集めているよ。ただ、彼らに話す前にまずはこちらの方針を、作戦を決めておくべきだと思ってね」

「ならばなおさら、何故一年なんかに意見を求める?」

「そうは言うがヴァンゼ、おそらくこのツェルニで、彼以上に実戦を経験している者はいないよ」

「なに?」

訝しげな表情をするヴァンゼに対し、カリアンはニヤリと笑った。

「彼はグレンダンの出身でね。実戦経験も豊富で、何度も汚染獣の討伐を成し遂げたことがあるそうだ」

「なんだと!?」

ヴァンゼの表情が驚きに染まる。確かに相手が一年生ということで、侮りや思うところはあるが、それでも少しは耳を傾けようという気になった。
実戦経験の少ない学生武芸者にとって、レイフォンのような存在はとても貴重だった。

「えっと、いいですか?」

「ああ、すまない。話を続けてくれないかな」

「はい」

そんなわけで作戦の立案はレイフォンがすることとなった。正直、学のないレイフォンはそんなことが出来るのかと不安だったが、要は幼生体を殲滅し、母体を仕留めればいいだけなので、グレンダンの経験を元に説明する。

「さっきも言いましたが、まずは優先的に母体の探索を。母体は幼生体の数が少なくなると救援を呼びます。その救援が来るまで三十分ほどの時間がありますから、それまでに倒せれば問題ありませんけど」

「ちなみに、もし救援が来たらどうなるんだい?」

「都市が滅びるかもしれませんね。今の僕には天剣がないので、もし老生体が来たらかなりやばいですよ」

はははと、小さく笑ってみせるレイフォンだが、カリアンからすればちっとも笑えなかった。

「母体を発見したら、そっちはクララに任せようと思います。僕は都市の防衛に回りますね。そして配置ですが……」

レイフォンはない頭をフルに使い、小隊の配置を指示して行く。その配置は独創的で、けれども無造作に配置しているように思えた。
なんの意図があってこの配置にしたのかわからないカリアンは、直接尋ねてみることにした。

「レイフォン君、このような配置にした理由を聞いてもいいかな?」

「だって、可愛い子は近くにいた方が護りやすいですから。試合の時に見ましたが、第十六小隊はむさい男ばっかりだったので最前線で。あとは第一小隊も男ばかりだからここに配置しましょうか」

つまり、完璧にレイフォンの独断だった。女性隊員を有している小隊を後方に置き、男ばかりの小隊を前線に置く。
明らかな選り好みの配置に、カリアンは頭を抱えてため息を吐いた。

「とりあえず、それはボツだね」

「え?」

結局小隊の配置はヴァンゼが決め、まとめられた作戦と配置が小隊員達に告げられた。
そして、生き残るための戦いが始まる。


†††


「ああ、くそっ! 数が多い」

レイフォンは思わず舌打ちを打つ。
たかが幼生体。グレンダンではなんの脅威にもならない、いわゆる雑魚。それでも数だけは多く、過去に数万を超える幼生体に囲まれたことがあったが、その時はリンテンスが出撃して瞬殺していた。
今回、ツェルニを襲っている幼生体はそれよりも圧倒的に少ない。母体が一体なら、大体千体前後だろう。詳しい幼生体の数はわからないが、リンテンスに鋼糸の技を教わったレイフォンなら十分に瞬殺出来る数だ。
問題は念威繰者。汚染獣との戦闘が始まってしばらく経つというのに、未だに幼生体の正確な数すら割り出せない後方支援に問題があった。

「入ってくる情報が少なすぎる! これじゃ活剄で強化した方がマシだ」

当然だが、見えない者は倒すことが出来ない。広大な戦場では念威繰者による支援が必要不可欠なのだが、レイフォンの支援をする念威繰者の能力が低すぎる。
念威繰者に頼るよりも、自身で視力を、聴力を活剄で強化した方がより遠くを見渡せるという、もはや居て邪魔になるほどのレベルだった。
リンテンスが数万の幼生体を相手取れたのも、グレンダン最高の念威繰者、デルボネの支援があってこそだ。

「ああ、使えない。その上相手は男だし。どうせならロス先輩みたいな可愛い念威繰者ならこっちもやる気が出るのに。ロス先輩はどうしたんですか? ロス先輩は!」

レイフォンは苛立っていた。現在、レイフォンの支援をしているのは第一小隊の念威繰者。肝心の性別は男。
これが女性で、しかも美人だったらいいところを見せようとレイフォンのやる気も上がるのだが、男なためにレイフォンのやる気はまったく上がらない。
ちなみに、レイフォンの言うロス先輩とはレイフォンの所属する第十七小隊の念威繰者。生徒会長、カリアン・ロスの妹であり、ミス・ツェルニに選ばれるほどの美人。
彼女が支援をしていれば、レイフォンはこうも苛立ったなかっただろう。だが、何の因果か今のレイフォンを支援しているのはむさい男だ。

『すまない、レイフォン君。この緊急時だ。当然フェリにも協力するように言ったんだが、どこかに行ってしまってね……』

「妹さんと仲が悪いんですか?」

『そうだね……きっと、あの子は私を恨んでいるだろうね』

念威端子からカリアンの声が聞こえた。どうやらカリアンとその妹、フェリの間には確執があるらしいが、戦闘中のレイフォンに今はそんなことを考えている余裕はなかった。

「とりあえず、この周辺の汚染獣は一掃しました。次はどこに行けばいいですか?」

『そうだね。では、第十一小隊と合流してくれるかな? 少々前線が押され気味でね』

「わかりました。資料で見ましたけど、第十一小隊にはネルア・オーランドさんがいるんですよね。いいところを見せるために頑張ります」

『そうかい……がんばってくれ』

「はい!」

レイフォンの邪な発言に呆れるカリアンだったが、当のレイフォンは戦場で目覚しい戦果を上げていた。
今回、レイフォンの取った戦闘スタイルは遊撃。鋼糸を満足に使えないこの状況。しかも未だ母体が見つからない現状、今は守りに徹することしか出来なかった。
都市の外縁部ではそれぞれの小隊が一般の武芸科生徒達を率い、防衛線を張って幼生体を迎え撃っている。
幼生体一体の戦闘力はそこまで高くないが、厄介なのはその数。また、学生武芸者達の攻撃では汚染獣の甲殻を破ることは困難だった。幼生体は汚染獣としては最弱、つまり最低限の防御力しか持っていないということだが、それに苦戦してしまうほどに今のツェルニは弱い。グレンダンならばまず考えられないことだった。
要するに、守りに徹するのではなくそれしか出来ないということだ。攻めに転じられない。だからと言ってこのまま消耗戦のような戦いを続けていけば、次第に無理が出てくる。現に何度か防衛線が破られ、都市内に幼生体の侵入を許しそうになった。
それを抑えるのがレイフォンだ。縦横無尽に都市を駆け巡り、防衛線を破って侵入してきた幼生体を殲滅する。こういった戦闘法で既に数十を越える幼生体を屠っていた。

『なに!? 待て、レイフォン君。やはりいい! 今はそちらに行かなくていい!!』

「どうしたんですか?」

そう言った訳で第十一小隊に合流しようとしたレイフォンだが、それは焦りに満ちたカリアンの言葉で止められた。
いつものカリアンからは想像出来ない取り乱しように、流石のレイフォンも何事かと気になった。

『防衛線が破られ、都市内に侵入を許してしまった。その上、経験不足からか伝達も遅れている』

「なにをしているんですか?」

『はぁ』っとため息を吐き、レイフォンは呆れを見せる。このような事態、グレンダンではまずありえないことだ。念威繰者は何をしていたのだろうと思わずにいられない。
だが、今はそんなことを思ったり、責めたりしている場合ではない。

『今、シェルターが襲われている。流石にすぐに壊されるほど脆くはないが、このままじゃまずい。すぐに現場に向かって欲しい』

「わかりました」

カリアンの指示に従い、レイフォンは幼生体の襲撃を受けているシェルターに向かおうとする。
念威繰者からはシェルターの場所が示され、それを見たレイフォンはさっと表情が青ざめた。

「くそっ!」

その瞬間、地面が爆発した。そう思わせるほどの威力で、レイフォンが地面を蹴ったのだ。
地面がはじけ、土煙が舞う。その中心からは銃弾の様な速度でレイフォンが飛び出し、シェルターがある方へと向かった。
広い都市。当然だが、シェルターはいくつも存在する。今いる場所から最も近い場所に避難する。それは当然のことだ。

「セリナさん!」

そして、問題のシェルター。そこはレイフォンのツェルニでの女一号、セリナ・ビーンズが住んでいる寮の近くだった。
一時は祝勝会で一緒にいて、勝利を祝ってくれたのだが、明日は早いからと早々に帰ってしまった。そしてこの騒ぎだ。避難しているとしたら、このシェルターに避難している可能性が高い。

「間に合え、間に合え、間に合えぇぇッ!」

更に地面を蹴り、または鋼糸を移動の補助に使って現場へと急ぐ。


†††


「おい、本当に大丈夫なのかよ!? 俺達助かるのか?」

シェルター内に男子生徒の悲痛な叫びが響く。この叫びは、シェルター内にいる全ての学生の代弁とも言えるだろう。
シェルター内でも聞こえる外の音。戦いの音。これらはシェルター内の人々を不安に陥れるには十分なものを持っていた。
なにせ、汚染獣の襲撃などほとんどの者が未体験、初めてなのだ。レギオスに住む人々が決して逃れられない脅威、汚染獣。一般人に抗う術はなく、こうしてシェルターに隠れながら武芸者に守ってもらうことしか出来ない。だからこそ、この世界では武芸者が優遇される。
一般人は何もすることが出来ず、シェルター内で待つことしか出来ない。都市を守る武芸者達の勝利を信じることしか出来ない。武芸者達の敗北は都市の死、自分達の死だ。
誰だって死にたくはない。けれど、自分達にできることは何もない。この事実と状況が、シェルターという暗く、閉塞感を感じさせる場所にいる人々を不安にさせる。

「レウちゃん、大丈夫? 顔色が悪いわよ~」

「大丈夫です……ただ、ちょっと喉が渇いて」

彼女達もまた、不安を感じていた。
ニーナの暮らす寮の同居者、セリナとレウ。彼女達は寮から近いこのシェルターに避難し、いつ終わるのかわからない戦闘が終了するのを待っていた。
この終わりの見えない待機状態は、確実に人々の心を蝕んでいく。

「あらあら、じゃあ、お水をもらってきてあげるわね~」

「別に大丈夫ですよ……」

「駄目よー、無理しちゃ。水分はちゃんと取らないとね~」

「はい……」

セリナは錬金科に席を置いている。それも薬学を専門にやっているため、人の体調には気を使う面がある。小まめな水分摂取は重要で、取れる時には取っておいた方がいい。
今はただでさえ、この緊張感の中で喉が渇くだろう。実を言うとセリナも喉が渇いていた。

「はい、レウちゃん」

「ありがとうございます」

紙コップに入った水を、自分の分とレウの分で取ってくるセリナ。レウはそれを受け取ると、よほど喉が渇いていたのか一気に飲み干した。

「よっぽど喉が渇いていたのね~。おかわりいる?」

「いえ……自分で取ってきます」

今まで強がってはいたが、このまま意地を張っても無駄だと悟ったのだろう。未だ癒えない喉の渇きを潤すため、レウは自分で水を取りに行った。
そして考える。この状況があとどれだけ続くのかを。汚染獣の襲撃、戦闘が始まってまだ数時間ほどだろう。だが、それだけの時間で既に何日も経ったような感覚を感じていた。
シェルター内には水を始め、食料なども十分に貯蓄してある。暫くの間ならここで暮らすことも可能だ。だが、このような状況が長引けば長引くほど、身体よりもまずは先に心が折れてしまう。
早く終わって欲しい。そう思うのはレウだけではないはずだ。誰だって早く日常に、元の生活サイクルに戻りたい。そう思いつつ、レウは二杯目の水を飲み干した。

「それにしても、本当に騒がしいわね~。外で一体、何が起こっているのかしら?」

不意に、セリナが言う。そしてレウも気づいた。外から聞こえる異音。それはガンガンと、壁を打ち付ける様な音だった。それがだんだん、次第に大きくなっていく。

「本当に、なにが起こっているんでしょう……」

大きくなった異音に気づく者も出てきた。その表情は焦燥感に染まり、キョロキョロと落ち着かないように首を振って視線をさ迷わせている。

「セリナさ……」

レウが不安を紛らわすようにセリナの名を呼ぼうとした。だが、その呼びかけは遮られる。最悪の形によって。

「へ……?」

そこにいた誰もが、すぐには状況を理解できなかった。暫し唖然とし、言葉を失って固まっていた。
シェルターの出入り口が破裂する。ドアがひしゃげ、轟音と共に侵入してくるものがあった。
それがなにか? それは人類の天敵。絶望を与える存在。シェルター内の人々は、表情が次第に恐怖へと染まっていった。

「お、汚染獣だ!」

シェルターが汚染獣によっては介されたのだ。そして、誰かが叫んだ。その叫びと共に恐怖は一瞬で伝播する。もはやシェルター内に冷静な人物は誰もおらず、全員が脅威に怯え、または我先にと逃げ出そうとしていた。

「どけよ!」

「早く行け!!」

「無茶言うな!」

「急げ!!」

シェルターは地下通路で、都市の大抵の場所とつながっている。それは他のシェルターともであり、この状況ではここのシェルター、区画を廃棄して他のシェルターに避難するしかない。
だが、それはシェルターが破壊されるより前にしないと意味がない。前線が崩壊し、念威繰者の伝達が遅れ、シェルターが破壊された今更に非難しても遅すぎる。
また、そのような状況で冷静で、安全で、迅速な避難が出来るはずがなく、シェルターの通路は人でごった返し、我先に逃れようとする人々で詰まった。

「うわあああああっ!?」

汚染獣が迫る。そのたびに悲鳴と怒声が上がる。
今更ながらに緊急時のシャッターが下がり、汚染獣の進行を防ごうとする。だが、シャッターなんてものはその場しのぎにもならず、汚染獣はシャッターをこじ開けてさらに侵入してきた。

「セリナさん!」

レウが叫ぶ。彼女は人ごみの津波に呑まれ、シェルターの奥へと押しやられていく。それに対してセリナは反対側に、汚染獣の付近へと流されてしまった。

「あ……」

気がつけば、汚染獣はもう目の前。その巨体が、複眼の様な目がセリナを捉えた。

「う、あ……」

セリナの表情に、いつもの余裕は見られなかった。初めて感じる死の恐怖。戦う術を持たない一般人が、汚染獣と言う脅威の前に晒されれば当然の反応だろう。
まさに蛇に睨まれた蛙。セリナは身動きひとつ取る事も出来ずに、これから起こることを眺めることしか出来なかった。

「僕の女に……」

「え?」

セリナには、これから蹂躙される汚染獣を眺めることしか出来ない。

「手を出すなあああああ!!」

セリナに迫っていた汚染獣が真っ二つに割れる。中心から叩き切られ、辺りには簡易な作りの臓物と、青臭い体液が飛び散った。
状況が飲み込めず、唖然とするセリナはそのまま引き寄せられ、胸板に押し付けられるように抱きしめられた。

「大丈夫でしたか、セリナさん」

「レイ君……」

逞しい胸板を持ち、セリナを抱きしめたのはレイフォンだった。彼は右手に刀を持ち、左手でセリナの頭を撫でるように抱き寄せる。
そして耳元で、セリナを安心させるように囁いた。

「ちょっと待っててくださいね。すぐに終わりますから」

そういって、レイフォンはセリナから距離を取る。
先ほど両断した汚染獣の死骸を掻き分け、新たな汚染獣が内部に侵入してきた。

「邪魔」

その汚染獣も、すぐさまレイフォンの手によって両断される。
更にその奥、三体目の汚染獣も両断された。そして瞬く間にシェルターと通路内にいた汚染獣は殲滅され、レイフォンはシェルターの外に飛び出す。

「ひい、ふう、みい……大体三十体くらいかな?」

シェルターの前に群がる汚染獣達。彼らはレイフォンの後ろにいる人間(餌)を求め、殺到しようとしていた。
だが、それを許すレイフォンではない。ここから先は通行止め。殺到する汚染獣に対し、逆にレイフォンの鋼糸が汚染獣に向け殺到した。
刀の刀身がいくつにも分かれ、細く、長い糸が戦場を舞う。髪より細いそれは見た目以上の力強さを宿しており、幼生体の甲殻など一瞬で切り裂いていく。
まさに一掃。汚染獣三十余りを殲滅するのに三秒とかからなかった。



「お、俺達、助かったのか?」

「ああ……」

あまりにも衝撃的すぎる光景に、シェルター内にいたほとんどの人は何も行動できずに呆然としていた。
先ほどまでに我先に逃げ出そうとしていたのが嘘のようであり、今は時間が止まったかのように静寂した雰囲気が場を満たしていた。

「こちらに迫っていた汚染獣は殲滅しました。だから落ち着いて、誘導員に従って迅速な避難をしてください」

その雰囲気を作った当人、レイフォンはひょっこりとシェルター内に戻ってくる。
既に遅れていた伝達は回復し、生徒会役員が誘導員となって避難を促していた。レイフォンはそのことをシェルター内の人々に告げると、シェルターは歓喜で沸いた。

「すげえ、すげえよ!」

「一人で汚染獣を倒しやがった!!」

「第十七小隊の一年生だろ? こんなに強かったのか!」

助かったことに対する喜び。レイフォンへの賞賛。様々な歓喜の声が入り乱れる中、レイフォンは平然とセリナの元へ歩み寄る。

「一旦は終わりましたけど、まだ汚染獣は残っていますので」

「うん……がんばってね、レイ君。それから、ありがとう」

「はい」

レイフォンはまだ戦わなければならなかった。セリナの安否を確認することはできたが、すぐにまた戦場に戻らなければならない。
だから、用件は手短に済ませる。

「あ……」

短く、触れるだけの軽いキス。周囲の視線など気にせずに、レイフォンは呆けるセリナに向け悪戯っぽく笑った。

「それじゃあ、がんばってきます」

周囲からは好奇の視線と、茶化すような視線が向けられる。誰かがピューッと口笛を吹いた。中には嫉妬に満ちた視線なども向けられる。
けれど、それら全てを無視しレイフォンは戦場に舞い戻る。いつもの日常、平和なツェルニ、女性あさりの日々を取り戻すためにレイフォンは戦う。


†††


「よっと」

レイフォンの戦う理由は、わかりやすく言えば女性を守ること。正直、男はどうなっても構わなかった。
男ならばいかなる危険も自分の器量で払って当然。女性ならば、いい男にそれをやらせるのが当然。
これはレイフォンが最も尊敬する武芸者、トロイアットの言葉でもある。そしていい男、レイフォン・アルセイフは女性を守るために戦う。

「大丈夫ですか?」

「別に助けてくれなんて言ってません」

今回、レイフォンが助けたのは同じ第十七小隊所属の念威繰者、フェリだった。
既に前線はボロボロで、市街地にまで幼生体の進入を許してしまっている。これは例えこの戦いに勝利したとしても、復旧などが大変そうだ。
もっともそんなこと、戦うことしか出来ないレイフォンにはどうでもいい。都市の復旧や再考について考えるのは上層部の仕事だ。

「ところで、ロス先輩はどうしてここにいたんですか?」

「……なんでもいいじゃないですか」

レイフォンの問いかけに対し、フェリは明らかに不機嫌そうに言う。表情の変化はほとんどなく、無表情なのだが、それが逆に今のフェリの心境を表しているように見えた。

「ロス先輩は念威繰者ですよね?」

フェリは念威繰者だ。そして第十七小隊所属の小隊員でもある。ならば戦場に出て、念威を使うのが当然だ。なのにフェリはシェルターにも避難せず、こんな場所に一人でいた。
レイフォンが来なければ汚染獣に襲われ、死んでいたのかもしれないのに。現に先ほど、フェリは汚染獣に襲われそうになっていた。

「あなたも、私に念威を使わせたいんですか?」

そのことを指摘すると、明らかにフェリの表情が引き攣る。相変わらずの無表情だが、それで感情の動きが手に取るようにわかるようだった。

「この力は、好きで手に入れたわけではありません。私は、こんな力はいらないんです。誰かが欲しいのなら上げたいくらいです」

「ロス先輩?」

「今が……わがままの言えない状況だということは分かっています。それでも、利用されるのは嫌なんです。どうしても嫌なんです」

「えっと……」

フェリの悲痛な叫びに対し、レイフォンは困ったように頬を掻く。事情は飲み込めないが、フェリは念威を使うことに抵抗を持っているようだった。

「ロス先輩は、念威を使うことが嫌なんですよね?」

「はい……例え死ぬことになろうと嫌です」

「死なせませんよ」

「え……?」

それでも、これだけは確かなことだ。フェリは女性であり、つまりはレイフォンの守るべき対象。
しかも彼女、フェリ・ロスはミス・ツェルニの称号を得るほどの美人。むしろフェリのために戦わない理由が見つからない。
レイフォンはにっこりと、優しそうでその裏には獣が潜んだ笑みをうかべ、フェリに語りかけた。

「何故なら、あなたは僕が守りますから」

「は?」

フェリは無表情だった。その視線には、『なにを言ってるんだこいつ』という想いがありありと含まれていた。
それにも構わず、レイフォンは芝居がかったしぐさで続ける。

「念威を使いたくないというのならそれでも構いません。あなたは、あなたの好きなようにすればいいんです。その邪魔になるものは、僕が斬り捨てます」

レイフォンは跪き、フェリの手を取る。そして手の甲に、軽い口付けをした。

「今宵、僕はあなたを守る騎士(ナイト)になりましょう」

「キモ……」

今度は無表情ではない。フェリは明らかに嫌悪に染まった表情をしており、レイフォンを見下すような視線を向けた。

「あなたはなにを言っているんですか? 正直キモいです」

「はは、酷いですね」

レイフォンは笑っているが、フェリは明らかに嫌そうだった。
ポケットから取り出したハンカチでごしごしと手の甲を拭い、拭ったハンカチはそのまま地面に投げ捨てる。

「あなたのような輩に借りを作るのは、死んでもごめんです」

「酷すぎませんか?」

「なので今回だけ、今回だけは力を貸してあげますから、とっとと汚染獣を倒してきてください」

「へ?」

呆けるレイフォンに対し、フェリは有無を言わせずに言った。


†††


「はは、凄いですね」

『それは嫌味ですか?』

「本心ですよ。ロス先輩、あなたは本当に凄い。惚れちゃいそうです」

『やめてください、気持ち悪い』

汚染獣は次々と駆逐されていく。レイフォンがリンテンスに学んだ鋼糸の技で、広範囲の汚染獣を一気に殲滅していった。
それを可能にするのがフェリの念威だ。レイフォンが先ほどまで念威繰者の質の低さに困っていたと言うのに、フェリにはそんな不満を一切感じない。これほどの支援は、グレンダンの戦場以来だ。
経験、その他様々な要因からグレンダン最高、いや、おそらくは世界最高の念威繰者であるデルボネに劣るが、それでも才能だけならばデルボネに匹敵、もしくは凌駕しているかもしれない。
これがフェリの才能。周りが彼女に念威を使うように強い、本人は嫌悪する才能。正直、もったいないと思うこともあった。だが、どんな理由があるにしても、レイフォンにとってフェリは守るべき対象だ。一夜を共にしたいと思っている。
ならば彼女の意思は尊重するし、無理強いはしたくない。だが、フェリは言ってくれた。今回だけは力を貸してくれると。それでいい。それで、この危機は乗り越えられる。

『母体を発見しました』

「流石ですね。じゃあ、クララをそっちに向かわせてください。僕は残りの汚染獣を一掃します」

『わかりました』

レイフォンは言葉どおり、残りの汚染獣を一掃した。もうツェルニには、一匹も汚染獣はいない。
それから時間を置かず、フェリの念威からクラリーベルが母体を倒したという連絡が入った。
危機は去った。汚染獣がいなくなり、ツェルニには日常が戻ってくる。
そしてレイフォンは、今日も明日も女性をあさり続けることだろう。
























あとがき
一巻編終了ー!
いやはや、怪我して入院した時、リハビリとして書いた一発ねたでしたが、まさかここまで続くとは。
ってか、前の更新からだいぶ時間が経ちましたね……少し反省です。
今回はフェリとのフラグ関連で色々オリジナル展開を入れ、こんな形となりました。正直、今まで書いた外伝って執筆時間短縮のために使い回しをしてた部分があったので(滝汗
なので今回は執筆するのにかなり時間がかかりました。それでもなんとかやり遂げられたので、達成感があります。
では、最後におまけを載せて今回はお別れと使用と思います。ではでは~




















おまけ

『同居』





「困ったわねえ……」

セリナは困っていた。先日の汚染獣襲撃。ツェルニはなんとか撃退に成功したものの、その被害はかなり大きい。市街地にも侵入を許しており、様々な建物や施設が破壊された。
現在、生徒会が先陣を切って復興作業をしているものの、まだまだ時間がかかるのが現状である。
そして、セリナが困っているのは今まで自分の住んでいた女子寮が汚染獣によって破壊されたからだ。セリナの住んでいた場所は中心部の学校から遠く、外縁部の近くにあったために真っ先に被害に遭った。
他にも破壊された寮は何件かあるようで、そこに住む生徒達には生徒会側から仮設住宅が与えられることとなっている。そこに引っ越すために、寮の瓦礫の中から使えそうなものを見繕い、荷物をまとめている最中なのだが、女性の身で瓦礫を動かすのは一苦労だった。

「ニーナちゃんは入院してるし、本当に困ったわ……」

こういった力仕事は武芸者が得意だろう。だが、この寮の住人であるニーナは先日の戦いで負傷し、現在入院中。もう一人の同居者レウは一般人であり、こういった力仕事には向かない。
また、現在は所用で外している。ツェルニの学生が総動員で復興作業が行われている今、暇な者などどこにもいないと言ってもいいだろう。

「セリナさん」

「あ、レイ君」

武芸者の場合は先の戦闘のため、生徒会から公認で休暇を与えられている。大戦果を上げたレイフォンもその一人だ。

「大丈夫ですか?」

「う~ん……怪我がなかったのは良かったけど、これからがちょっと大変なのよね~」

「そうですよね。ところでセリナさんは、これからどうするんですか?」

「生徒会が用意してくれる仮設住宅に移ろうと思っているんだけど……」

セリナの心配をして訪れたレイフォンは、困り果てている彼女に向けにっこりと笑顔を向ける。

「じゃあ、僕と一緒に暮らしませんか?」

「え?」

「僕の住んでいる寮は被害に遭いませんでしたし、部屋も開いているから大歓迎ですよ」

「え、でも、それって……迷惑じゃない?」

「なんでですか? 僕はセリナさんと一緒に暮らせるなら、とっても嬉しいですけど」

「レイ君……」

レイフォンの言葉に、セリナの頬は紅葉する。こう言われたのが嬉しくって、セリナはとても嬉しそうに返答を返した。

「じゃあ、お願いできる?」

「はい。これからよろしくお願いします」

レイフォンの手伝いもあって、使えそうなものは全て運び、また必要なものを購入し、セリナはレイフォンと共に暮らすこととなった。


†††


「えっと……レイ君?」

「なんですか?」

セリナはレイフォンと暮らすことを承諾した。だが、これは聞いてない。聞かされていない。

「この子は誰?」

「クララです」

「クラリーベル・ロンスマイアです。よろしくお願いします」

ここにはもう一人同居者がいた。レイフォンがグレンダンから連れて来た女、クラリーベル。
彼女の存在に、セリナは表情を引き攣らせる。

「レイ君って、そういう人だったんだ」

「そうですよ」

レイフォンは笑う。背後からセリナを抱きしめ、獣のように攻撃的な笑みを浮かべていた。

「でも、手を出した女性にはちゃんと優しくしますからね。責任は取りますし、絶対に捨てたりはしません。女性が悲しむと、自分のこと以上に心が痛いですから」

「レイく……んんっ!?」

まだ何か言いかけるセリナに対し、レイフォンは自分の口でセリナの口を塞いだ。
右腕をセリナの胸に這わせ、左腕を制服のスカートの中に入れる。

「あ、レイフォン様ずるいです! 私にもしてください」

「じゃあ、寝室に行きましょうか。二人まとめて相手してあげますから」

セリナは思った。自分は早まったかもしれないと。



[31713] ヤりたい
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:981b079b
Date: 2013/06/13 15:57
「今回も勝ったな」

「ま、当然ですね。なにせ僕がいますから」

「お前さん、嫌なやつだな。とはいえ、悔しいけど言ってることは間違ってねぇ」

汚染獣の傷跡が未だに残っている中、対抗試合は若干遅れつつも予定通りに行われていた。
ある程度の被害を受けたとはいえ、曲がりなりにも汚染獣を撃退することができたのだ。力を過信するのはよくないが、それでも士気が上がっているのは事実。それを維持しようと、対抗試合にはよりいっそう力が入れられていた。
そんなわけで第十七小隊と第十四小隊の試合。隊長であるニーナはしばしの入院をしたが、怪我自体は軽くすぐに復帰していた。もちろん今回の試合にも出て、見事勝利を収めたわけなのだが、なぜだか非常に機嫌が悪かった。

「おい、レイフォン」

「なんですか、隊長」

「なんですか、じゃない。お前の仕事は陽動だろ。そして、第十四小隊の隊長、シン先輩は私に任せろと言ったはずだ。なのになぜお前が、シン先輩を討った!?」

「えっ……いや、今回はこっちが守りでしたので、相手の指揮官を倒せば勝利が確定するじゃないですか。だから僕が討ちました。それに目立てますし」

それはレイフォンの命令違反。確かに試合のルール上、守りである第十七小隊が敵の指揮官を倒せば、第十七小隊の勝利だ。現に、今日の試合はその方法で勝った。
だが、ニーナの作戦ではレイフォンが陽動を仕掛け、その間に自分がシンと戦うというプランを立てていた。シンはニーナが第十四小隊にいた時に世話になり、尊敬する先輩だった。だから彼に一騎打ちを挑み、成長した自分を見て欲しいという気持ちがあった。それを、レイフォンが邪魔した。

「目立つだと? 貴様、相変わらずそんな不純な動機で武芸をやっているのか!?」

「まぁ、不純な動機というのに否定はしませんよ。僕はもてたいがために小隊に入りましたから。でも、一応それだけでもないんですよ」

「なに?」

レイフォンはシャーニッドに劣らず、不純な動機で小隊に入った。そのことに良い顔をしないニーナだが、何も、レイフォンは武芸自体に不真面目というわけではない。

「うちは人数が少ないじゃないですか。だから、守りだとどうしても不利になってしまうんですよ。現に、狙撃手がフラッグに近づいていたみたいですし、ならば早く試合を決めてしまおうと、敵の指揮官を叩いたわけです」

「そういう判断は隊長である私がする」

「お言葉ですが、隊長。僕の方が実力的にも、経験的にも、あなたより優れているんですけど」

レイフォンは強い、強すぎるのだ。天剣授受者という特別な境遇から、団体戦を不得意としているものの、彼個人は圧倒的な力を有している。
一対一で汚染獣、それも老生体を倒せるほど。そんなことができる人物は、ツェルニではレイフォンを置いて他にいない。

「それはなにか。お前は、私に隊長が向いていないといいたいのか!?」

「いいえ。ただ僕は、自分よりも弱い者の命令は聞きたくないと言っているんです。隊長が僕よりも経験があるなら別ですが、その経験も僕の方が上ですし」

「貴様!」

あまりにもあっさりと逆鱗に触れるレイフォンに対し、ニーナは今にもつかみかからん勢いで怒鳴った。

「まぁまぁ、落ち着けよニーナ」

それを止めようとするシャーニッド。フェリはいつの間にか、というか最初からいなかった。試合が終わるなり、早々と帰ってしまったのだろう。

「止めるなシャーニッド!」

「熱くなりすぎなんだよ。けどな、レイフォン。お前も言いすぎだぞ」

「そうですね。少し言い過ぎました、すいません」

シャーニッドの忠告を受け、意外と素直に謝罪をするレイフォン。
確かにレイフォンは言い過ぎたが、彼はグレンダンでは天剣授受者だったのだ。命令できるのは女王だけ、我侭の許された環境。ここはグレンダンではなく学園都市だと言ってしまえばそれまでだが、そんなレイフォンが、素直に実力の劣る相手の言うことを聞けるはずがない。実際に戦うのは自分なのだから、自分で状況を判断するのは、決して間違いではない。
それでも、ここでのレイフォンは一学生。上級生、それも隊長相手にあまりにも失礼な物言いだった。そのこと自体には謝罪をする。

「けど、考えを改める気はありませんよ」

「っ……~~~~~!」

「だから煽るなっつの!!」

だが、考え自体を改める気はなかった。もはや声にならない叫びを上げて激怒するニーナと、そんなニーナを抑えるシャーニッド。
武芸者はプライドの塊だ。ニーナには意地があるし、レイフォンだって自分よりも弱い人物に従いたくはないのだろう。いや、レイフォンの場合はひとつだけ、あっさりと考えを変える方法があった。

「あ、じゃあ、お願いがあるんですけど。それを聞いてくださるのなら、どんな命令でも隊長に従います」

「……言ってみろ」

何かが非常に間違っている気がした。それでも、一応話だけは聞こうとニーナは耳を傾ける。この三秒後、それは間違いだったと思い知らされることも知らずに。

「一発ヤらせてください」

「……なに?」

「だから、ヤらせてくださいよ隊長。隊長は顔だけは美人ですし、前々から興味はあったんですよね」

「……………」

あまりにも最低なことを言うレイフォン。ニーナはおろか、シャーニッドまでも白い目でレイフォンを見ている。
だが、それだけで天剣授受者を支配下におけると考えれば、決して悪い話ではないかもしれない。グレンダンでは女王の次に権力があるといっても過言ではない。レイフォンはグレンダンでもこのような取引を持ちかけ、上官に手を出したことがあった。相手は快く引き受けてくれたものだ。
だが、何度も言うが、ここはグレンダンではなくツェルニなのだ。

「この、痴れ者がァァ!!」

ニーナが激怒するのも無理なからぬことだった。そして、シャーニッドももう止める気はなかった。
とはいっても、相手はレイフォンだ。止める気があろうとなかろうと、ニーナの実力では傷ひとつつけることができない。
まさに暖簾に腕押し。ニーナの怒鳴りや実力行使をひょいひょいとかわし、煙に巻くようにその場を後にするのだった。


†††


「んっ、んむ……」

レイフォンの朝は遅い。なぜならば、夜遅くまでクララとハッスルしていたからだ。たいてい、ほぼ毎日ハッスルする。
なので朝は遅く、朝食なんて食べている時間はない。それどころか午前中の授業をサボることもざらだった。
そんなレイフォンだったが、ここ最近は強制的に起こされる。

「うわあっ!?」

直接頭に響くような轟音。フライパンが激しく打ち付けられ、非常に耳障りな音が響いた。
もはや雑音。そんな音の中で眠っていることなどできるはずがなく、レイフォンは耳を押さえながらベットから起き上がった。

「起きました、起きましたから! その音をやめてください、セリナさん!」

「おはよ~、レイ君。相変わらずお寝坊さんね」

音の発生源は、新たな同居人であるセリナだった。
彼女は愛用のフライパンを手に、激しい音でレイフォンを起こす。幸い、この寮は防音対策もしっかりしているのだが、それでも隣人への迷惑が気になるような音だった。もはや一種の音響兵器と言ってもいい。セリナのいた女子寮では、この音響兵器の音にやられてノイローゼとなった者がいるらしい。

「それ、やめてくださいよ。ご近所さんにも迷惑になりますし」

「レイ君が早起きすれば問題ないのよ~。それに、朝ごはんが冷めちゃうから」

未だに音響兵器のダメージは抜けず、レイフォンは頭を押さえながらダイニングに座る。そこにはおいしそうな朝食が並んでいた。
レイフォンは料理ができるし、たまに自炊をすることもあるが、基本は朝食を抜く。前にセリナにアピールするために朝食を作ったこともあったが、それは例外中の例外だった。
レイフォンはいまだに寝ぼけ眼をこすりながら、トーストを口に運ぼうとする。

「いただきますは?」

「……いただきます」

セリナに言われていったんトーストを置き、手を合わせていただきますという。そして今度こそ、トーストを口にした。

「飲み物は何がいい~? オレンジジュースと~、ミルク」

「じゃあ、オレンジジュースで」

セリナに飲み物を用意してもらい、それを一気に飲み干した。コップを置き、そういえばとレイフォンはあたりを見渡す。

「クララはどうしたんですか?」

「ゴミを出しに行ってもらったわ~。だから、すぐに戻ると思うけど」

「そうですか」

そういえば、今日は燃えるゴミの日だった。レイフォンは家事も万能ではあるが、ここ最近はめんどくさいという理由から部屋の掃除をサボっていたかもしれない。だから、セリナが来たことは正直ありがたかった。

「ただいま帰りました。あ、起きてますね、レイフォン様」

「起こされたんだよ。あの音はホントに酷いね」

「ああ……確かにあれは、二度と聞きたくありませんね」

ちょうど、話題となったクラリーベルが帰ってきた。彼女とともに、あの音響兵器について愚痴る。セリナの存在はありがたかったが、どうもあれだけは苦手だった。

「はい、じゃあこれ、レイ君とクララちゃんのお弁当ね~。今日は私、錬金科の集まりがあるから、一緒にお昼は食べられないの~」

そんなセリナ本人はどこ吹く風で、平然と弁当の準備をしていた。一緒に昼食を食べられないのは残念だが、ここまでしてくれると感謝の言葉しか出てこない。

「ありがとうございます。セリナさんもがんばってくださいね」

「うん~、がんばるわ。ところでレイ君、そろそろ学校に行かなくていいの? 私は今日、午前中は授業ないんだけど」

「あ、いいんですよ。午前中はサボりますから」

「ちょっとちょっと~」

けど、これでは弁当を作る必要はなかったかもしれない。まったくやる気のないレイフォンに、セリナは呆れていた。

「レイフォン様、あなたはいったい、何のためにツェルニに来たんですか?」

「ほとぼりが冷めるまでの一時的な避難と、新しい出会いを求めて。現にセリナさんと会えたし」

「その言葉はうれしいけど~、相変わらず最低ね、レイ君」

レイフォンは最低だが、イケメンで、もてるのだから性質が悪い。その上かなりのスケベだった。
そんなレイフォンではあるが、そんな最低の人物に惹かれたクラリーベルとセリナは、困ったような笑みを浮かべるだけだった。

「セリナさん、午前中の授業がないなら、今は暇ですよね? ヤりませんか?」

「レイ君って、普段はそればかりよね~」

「ホントですね。戦っている時はかっこいいんですけど、普段はすごくエッチなんですよ」

「それをクララが言うのかな? 君だって、ここ最近エッチになってきたんじゃないの?」

「わひゃっ!? ちょ、レイフォン様……」

先ほどから生意気な発言をするクラリーベルに、レイフォンは報復もとい、いたずらをすることにした。
背後から抱きつき、両手で小ぶりな胸を揉む。うな垂れかかるように体重を乗せ、クラリーベルの耳に舌を這わせた。

「ちょ、やめ……やめてください! そもそも私は、昨日あんなに……」

「うん、昨日はいきっぱなしだったよね。そんなに気持ちよかったのか、漏らして……」

「わ~! わ~わ~!!」

昨夜の失態を思い出し、顔を真っ赤にして叫ぶクラリーベル。レイフォンはにやけながら、セリナにお願いをした。

「あ、セリナさん。よければあとで、シーツを変えてもらえますか? もっとも、またすぐに汚れてしまうかもしれませんが」

「別にいいけど~、あんまりクララちゃんをいじめちゃだめよ~」

「はは、クララがかわいすぎるんですよ」

「う~……」

恥ずかしさで泣いてしまいそうな顔で、背後にいるレイフォンを睨もうとするクラリーベル。だけど、後ろから押さえられているのでそれはできない。
レイフォンは相変わらずいやらしい笑みを浮かべながら、クラリーベルを寝室へと連行した。


†††


気づけば夕方だった。結局、この日は完全に学校をサボってしまった。
けれど、そんなことをまったく気にしないレイフォンは現在、意外な訪問者と対面していた。

「やあ、レイフォン君。少しいいかな?」

「会長……何の用ですか?」

生徒会長のカリアン。お隣さんではあるが、そんなに親しい間柄ではない。グレンダンでのレイフォンを、その実力を知っている彼がお隣とはいえわざわざ訪れたので、何か厄介ごとを持ってきたのではないかと容易に想像ができる。

「そう、あからさまに嫌な顔をしないでくれ。傷つくだろう」

「心にもないことを言いますね。フェリ先輩がご一緒ならこちらも歓迎したんですが、野郎相手に気を使ってもですね」

「君はあっさりと本音を言うね。そういうわかりやすい性格は嫌いじゃないよ。ただね……フェリに手を出したら、そのときは私の全権力を持ってして、君を……潰すよ」

「できるのならどうぞ」

カリアン的には友好な関係を築きたいのだろうが、この二人が友好的な姿は想像できそうにない。

「まぁ、とにかく本題だ」

「そうですね、無駄に時間を浪費しても意味がありませんし。あ、食べながらでもいいですか?」

ここはレイフォンの部屋でも、ましてやカリアンの部屋でもない。カリアンが行きつけのあるレストランだった。
夕方とはいえ、錬金科でそれなりの地位にいるセリナは学校に用があり、クラリーベルはレイフォンが少し無茶をしすぎたせいで、疲れ果てて部屋で寝ている。本来ならレイフォンも眠っていたかったが、カリアンが用があり、夕食をご馳走するというので付いてきたわけだ。
レストランというが、ここは小さな客間をいくつか設けてある。密談をするには最適な環境だった。

「この間の汚染獣襲撃から、遅まきながらも都市外の警戒に予算を割かなくてはいけないと思い知らされてね」

「いいことだと思います」

運ばれた料理を口にし、レイフォンはどうでもよさそうにうなずく。
実際はどうでもよい話ではない。通常の都市なら、それは当然のことだ。汚染獣はそれほどの脅威なのだから。
今までのツェルニが平和すぎたのだ。悪く言えば平和ボケ。それが改善されるのは悪いことではない。

「ありがとう。それで、これは試験的に飛ばした無人探査機が送ってよこした映像なんだが……」

食事を続けるレイフォンに、カリアンはかばんから一枚の写真を取り出して差し出す。すべてがぼやけ、ハッキリ写っていない最悪の写真だった。
これは大気中に広がる汚染物質のせいだ。汚染物質によって阻害されるのはカメラだけではない。無線の類も阻害され、まったく役に立たないのだ。だからこそ念威繰者がいるのだが、だからといって都市と都市をつなぐのには無理がある。
だから現状で、唯一の移動手段が放浪バスであり、唯一の連絡手段が手紙なのだ。

「わかりづらいが、これはツェルニの進行方向500キルメルほどのところにある山だ」

この写真には念威繰者が関わってないのか、非常にわかりづらい。地形すらわからず、カリアンに言われてこれが山だと理解できたほどだ。
だが、ある一部分。そこに写ったものは、見間違えようのない存在だった。

「気になるのは、山のこの部分」

そこをカリアンが指差す。レイフォンは口の中の物を飲み込み、食事を中断して写真を見入った。

「どう思う?」

「ご懸念のとおりではないかと」

「ふむ……」

カリアンは渋い表情をするが、レイフォンはあくまで冷静だった。

「つまり、これを何とかしろということですね?」

「ああ……君にしかできないのではないかと思っている」

「確かに……」

レイフォンと、クラリーベルにしかできないことだろう。他の者では実力が足りなさ過ぎる。

「おそらくは雄性体でしょう。何期の雄性体かわかりませんけど、この山と比較する分には一期や二期というわけではなさそうです」

「雄性体? 一期や二期とはなんだね? なにせ、私の生まれた都市も汚染獣との交戦記録は長い間なかったものだから、知識がね……」

写真は汚染獣を写したもの。この間ツェルニを襲った脅威が、再び迫ろうとしていた。
ちなみに、汚染獣には生まれ付いての雌雄の別がない。母体から生まれた幼生はまず、一度目の脱皮で雄性となり、汚染物質を吸収しながらそれ以外の餌、人間を求めて地上を飛び回る。
その脱皮の数を一期、二期と数え、脱皮するほどに汚染獣は強力なものへとなっていくのだ。
その上で繁殖期を向かえた雄性体は次の脱皮で雌性体へと変わり、腹に卵を抱えて地下へと潜り、孵化まで眠り続ける。先日のツェルニは、その雌性体に遭遇したわけだ。

「一期や二期ならそれほど恐れることはないと思いますよ。被害を恐れないのであれば、ですけどね」

「なら、楽な相手ということでいいんだね?」

「いいえ。おそらくこの写真からすれば、この汚染獣は三期以降です。ここからは強力になってきますので、一般の武芸者ならかなり危険ですね。ツェルニの小隊全てが当たっても倒せるかどうかといったところでしょうか?」

「それほどか……」

レイフォンの話を聞き、カリアンはとても苦々しい表情を作った。

「それにほとんどの汚染獣は、三期から五期の間に繁殖期を迎えます。本当に怖いのは、繁殖することを放棄した老性体です。これは歳を経るごとに強くなっていくんですよ」

「倒したことがあるのかい? その、老生体というものを?」

「三人がかりで。あの時は死ぬかと思いましたね」

真っ青な顔をするカリアンに、レイフォンは平然と食事を再開して言った。
あの時、レイフォンが戦った汚染獣は老生体の中でも特別な存在だったのだが、それを知らないカリアンからすれば悪夢でしかない。

「そ、それで、この件なんだが、一体どう処理すればいいのかな?」

「僕かクララじゃないと、まず倒すのは無理ですね。あ、でも、今は天剣がないんだった。雄性体なら何とかなると思うんですけど、少しめんどくさいですねえ……」

カリアンに問われ、レイフォンは口をもぐもぐ動かしながら考え事をする。

「それに、都市外での戦闘となると移動に時間がかかりますし、クララやセリナさんとしばらく会えないし、何よりめんどくさいし……ここは都市への多少の被害は目をつぶって、外縁部で迎え撃つべきかな?」

「できることなら、都市への被害は最小限に抑えてほしいのだけど……」

カリアンの言うことはもっともだが、都市外よりも都市内部の方が戦闘がやりやすいのは事実だ。
移動する手間が省ける。また、都市外部の戦闘ではちょっとしたかすり傷でも致命傷になりかねない。汚染物質の舞う大地。そんな場所で汚染物質遮断スーツが破れれば、戦闘どころではなくなってしまう。汚染物質に長い間さらされ続ければ、最悪死に至るのだ。都市外での戦闘は、必然的に無傷での勝利を要求される。
もっともレイフォンほどの実力者となると、汚染獣相手に無傷で勝利することも不可能ではないが。だが、だからといって、そんな綱渡りのような戦闘に身を投じたくないというのも事実。

「そういえば、あそこってまだ復旧が終わってないんですよね? 工業科の実習地でしたっけ? 女子寮があった場所」

「ん、ああ、あそこは都市の中心部から離れているし、必然的に復旧作業も後回しとなってしまったからね」

「なら、さらに壊れても問題ありませんよね?」

「まぁ……少しくらいなら、ね」

楽で、安全策な道を選んでも、決してレイフォンを攻められないだろう。なぜなら、汚染獣を相手取ることができるのはレイフォンだけなのだから。

「確か、クララって伏剄を使えたはずだし、ここは僕が囮になって……」

「なにやら、いい作戦を思いついたようだね」

「はい、任せてください。ところで生徒会長、汚染獣を殲滅するにあたって報酬の話なんですけど」

汚染獣を倒す算段はついたが、今度は生々しい話となる。
確かに汚染獣と戦う、都市の危機を守るのは武芸者の務めだ。だが、無償というわけではない。その分、武芸者は都市から優遇され、活躍すれば報酬が出る。グレンダンでも汚染獣を討伐すれば、いくらかの賞金が出ていた。

「お金は要りません。ただ、フェリ先輩とヤらせてさえくれれば」

「潰すよ」

「まぁ、冗談は置いておいてですね」

まったく冗談ではなかった。レイフォンの最低の要求に、カリアンはそう思う。

「女の子を紹介してください。生徒会にもかわいい女の子がいますよね」

「結局それなのかい?」

やっぱり、冗談ではなかったのだろう。グレンダンであんなことがあったというのに、レイフォンはまったく懲りた様子がない。

「私としては、生徒を、それも生徒会のメンバーを売るような真似はしたくないのだけどね」

「でも、僕がやらないとツェルニは滅びますよ」

「だがねえ……」

「そういえば、サラミヤ先輩ってかわいかったですね。生徒会長から口を利いてくれませんか?」

ニヤニヤと、いやらしい笑みでカリアンを脅迫してくるレイフォン。武芸の腕は認めるが、相変わらず最低の男だった。

「他に方法がないのは理解している。君をサラミヤ君に紹介するのは約束しよう」

「さすが生徒会長!」

それでもカリアンは、その最低な男に媚びるしか道はなかった。

「だが、決して無理やりはしないこと。サラミヤ君を悲しませないこと。この二つは約束してもらおう。いいね?」

「もちろんですよ! 自慢じゃないですが、僕は女性を悲しませたことは一度もないんですよ。無理やりは……まぁ、何度かしましたが」

何はともあれ、これでレイフォンのやる気が上がった。
ツェルニの運命は遺憾にも、最低なこの男が握っているのだった。



















あとがき
ちょっとした息抜きに、久しぶりにケダモノを書いてみました。クララとセリナさんを書きたかったのでこんなお話に。
今現在は史上最強の弟子イチカを執筆中ですので、フォンフォンの方はもう少し先になりそうです。
そういえば、レギオスの最終巻がついに発売されるらしいですね。ここまで長かった。本当に、ついにですね。発売が楽しみです。
問題なのは誰がヒロインとして終わるのかです。ここまでフラグはフェリですけど、まさかニーナじゃないですよね?
フラグ建ってないですし、前巻であんなフラグを建てたフェリを差し置いてニーナがヒロインになった日には……レギオス全巻投げ捨てる覚悟があります。
ニーナ、見た目は美人なんですけどね。ただ最近は、ヒロインキャラというより主人公キャラでしたのでどうも違和感が……ホントに、本当にニーナがヒロインなんてことはないですよね?
まぁ、ぐちってもしょうがないんで、今回もおまけをひとつ書いてお別れとしたいと思います。
























ルックンの記者

「うわぁ……レイとん最低」

レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフはやりすぎた。確かに彼はイケメンだ。実力もある。人当たりもよい。
だが、女癖が非常に悪かった。ツェルニに来てからもとっかえひっかえ、数多くの女性を毒牙にかけている。そんなことをすれば噂になるのは道理で、招かざる者を引き寄せてしまうのは当然だった。

「クララの他に、確かセリナって人とも同棲してんだよね。なのにうわぁ……記事にはなるけど、レイとん本当に最低。メイっちを近づけないようにしなきゃ」

ここは宿泊施設が並ぶホテル街。放浪バスの停留所付近には、旅人のためにこのような施設が並んでいる。もっとも、別の用途で使用される場合もあるが。ルックンの記者であるミィフィが愛用のカメラに収めた人物は、まさにそれだった。
レイフォンは、ホテルの出入り口から女性連れで出てきた。あれは確か、第十七小隊のファンクラブの会員だったはずだ。

「人は見かけによらないものだね」

第十七小隊のエースのスキャンダル。これは売れるだろうなと思い、ミィフィはさらにレイフォンの観察を続ける。
女性とは別れ、レイフォンはそのまま一人で歩いていた。さらに追うべきか、それともここまで撮れたら満足して帰るか、正直悩みどころだった。

「どうしようかな? さすがにもう、レイとんも帰るよね? なら、もうスクープは期待できないかな」

ミィフィが悩んでいると、もう既にレイフォンの姿はなかった。見失ったのだろうか?
ならば、もう悩む必要はない。ミィフィは帰ろうと、踵を返そうとしたのだが……

「いいカメラだね。高かったんじゃないの?」

「……………」

その背後には、いつの間にかレイフォンがいた。ミィフィからカメラを取り上げ、何かをいじっている。

「れ、レイとん!?」

「だめだよミィ。記者なら尾行は、もう少しうまくやらないと」

目線は向けず、カメラを操作しながらレイフォンが言う。証拠となる写真を消しているのだろう。
抗議の視線を向けるミィフィだったが、レイフォンは意に介さない。

「さて……見られちゃったわけだけど、黙っててと言っても黙ってはくれないよね?」

「そ、そうかな? ほら、私たち友達じゃない。その点はわきまえてるよ」

ミィフィをじろりと逆に睨み、睨まれたミィフィは明らかに視線が泳いでいた。

「ん~、まぁ、いつかヤろうとは思ってたし、遅いか早いだけの違いか」

「え、レイとん? ちょ、何する気!?」

ミィフィはレイフォンを尾行するため、物陰に隠れていた。つまりは大通りから離れた、人気のない場所。そんな場所でレイフォンと、ケダモノと一緒にいればどうなるのか、言うまでもない。

「や、やだ、やめて! 嘘だよね、レイとん!?」

「大丈夫だって。怖くないよ」

「私達、友達でしょ?」

「うん、だから痛くはしないよ。優しくしてあげるから」

一般人であるミィフィが、武芸者であるレイフォンに抵抗できるはずがない。
服を脱がされ、ケダモノが本性を現した。


†††


「ひどい……酷いよ」

ミィフィは泣いていた。レイフォンはカメラをいじっている。ミィフィの恥ずかしい写真が、あのカメラによってたくさん撮られていた。

「ホントにいいカメラだよね。ねえ、ミィ、このカメラ売ってくれない?」

そういって、レイフォンは財布から紙幣を取り出してミィフィに握らせた。明らかに、カメラ一個の値段より多い大金だ。
だからと言って嬉しいはずがなく、ミィフィは悲しんでいた。大切なものを失い、泣いていた。

「このことを誰かに言えば、わかるよね?」

「……………」

レイフォンはカメラをちらつかせ、ミィフィに言った。ミィフィは無言でこくんとうなずく。

「ところで大丈夫? ごめんね、少しヤりすぎたよ。家まで送ろうか?」

レイフォンの問いかけに、今度は首を横に振ることで答えるミィフィ。

「そう? 大丈夫ならいいんだけど……気持ちよかったよ、ミィ。またヤろうね」

そう言って、レイフォンは去っていった。乱れた衣服を整え、ミィフィもとぼとぼと歩いていく。
その背中はとても小さく、儚げだった。

















あとがき2
やりすぎました(汗
ここのレイフォンは最低のケダモノです。けど、ポイはしませんよ。ここからゆっくり、じっくり、ねっとりとミィフィを落としていきます。まさか三人娘で真っ先にミィフィが喰われるとはなぁ……
ミィフィは原作でいたらんこと言ってましたが、イラストのビジュアルでは結構かわいいんで好きなキャラです。


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