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[31169] 【ネタ・完結】砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したようです(リリなのGODの神咒神威神楽パロディ)
Name: 唯我曼荼羅―射干◆78c2728d ID:ee4ccd9f
Date: 2012/02/14 12:18
ネタ  砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したようです  


まえがき
 この話は闇の書の防衛プログラムが神咒神威神楽の波旬だったら―――という妄想によって作られたパロネタです
なので、神咒神威神楽を知らない人は引き返すことをお勧めします。また、リリカルなのはのキャラを愛している人や、GODの新キャラを愛している人は引き返すことをお勧めします。
 波洵のキャラ特性を理解し、アレは下種の極みだけど、突き抜け過ぎてて逆に笑えてくる、と思える方のみお進み下さい。
 このSSを読み、どれほど胸糞が悪くなってしまっても、当方は一切の責任を負えません。合言葉は「波旬死ね」でお願いします、カール・クラフト死ねでも結構です。



[31169] 砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したようです  活動
Name: 唯我曼荼羅―射干◆78c2728d ID:ccfaed32
Date: 2012/01/15 13:24
ネタ  砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したようです  活動


 ある日、気がついた時から不快だった。

 何かが自分に触っている。常に離れることなくへばりついて無くならない。己以外は誰一人存在しない筈の空間にて、確かに“ソレ”は自分以外の息吹を感じた。

 鼓動などない――――だが、異物を感じる。

 音などしない――――だが、確実に触れられている。

 気持ちが悪い。気持ちが悪い、気持ちが悪い、気持ちが悪い、気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い

 “ソレ”は元来、自我など持たぬ存在だった。

 防衛プログラム。

 “ソレ”を構築した製作者からはただそう呼ばれ、外界より侵入してくるウィルスを駆逐するだけのシステム。

 “ソレ”以外にもそう呼ばれる存在など無数にあり、大規模なシステムならば擁していない方がおかしい。

 だが、夜天の魔導書という超巨大ストレージのために構築された“ソレ”は、群を抜いて強大であり、古代ベルカ時代におけるあらゆる防衛システムを凌駕する強度を誇っていたのは間違いない。

 目的は至極単純―――――ウィルスの滅殺、滅尽滅相

 存在意義がただそれだけであるため、“ソレ”は夜天の魔導書という超巨大ストレージ、もはや一つの世界を言っても構わぬほど複雑にして精巧なシステムの最外殻に位置していた。

 もしくはそれを、奈落の底と名称することも出来ただろう。

 少なくとも、システムの最上位に座す管制人格、夜天の魔導書という世界においては神座に等しき場所にいる彼女からは、それほど離れた位置にいた。

 だが―――

 【何だ。お前?】

 夜天の魔導書に、ウィルス(塵)が混ざる。

 管制人格に認識されぬよう、夜天の魔導書を乗っ取るために送り込まれし存在、紫天の盟主とその守護者。

 かつて、ユーリ・エーベルヴァインと呼ばれた少女を中核とする4基は――――防衛プログラムに捕まり、システムの底に沈んだ。

 そして、誰にも望まれぬ融合が始まる。

 自我など無き破壊者、ウィルスを駆逐するためだけにあった“ソレ”は内部に異物を抱え込み、本来ならばある筈のない自我らしきものを芽生えさせ、それ故に全てを嫌悪する。

 【何かが俺に触っている、不快だ、不快だ、気持ち悪いぞ、消えてなくなれ―――!!】

 自我なき防衛プログラムである故に完結しており、ウィルスを排斥し続け、常に独りで在り続けた無謬の平穏が乱される。

 起伏などいらない、全てがまっ平であればよい、“ソレ”はただ、一人になりたかった。真実願いなどそれだけで、だからこそ想像を絶する域で“ソレ”はそれだけを願い続けた。

 いや、異物が入り込んだことにより、望みなどという余分なものを抱えてしまった。

 外界から衝撃を加えなければ発動しない、猛毒の激発物。自我が誕生した瞬間から、桁外れの攻撃能力とリソースを有していた“ソレ”は、常に接触の不快感に苛まれていた。

 【どこだ―――?】

 自分の身体などという認識を知らなかった“ソレ”は、不快感を消し去るためにプログラム外の活動を始める。接触している何か―――塵を消し去るために立ちあがった。

 【こいつだ―――】

 自分を取り囲んでいる、巨大で邪魔な何者かを。

 【こいつが、俺に触れている―――】

 自らの存在意義すら知らず、ただ不快感のみを持つ“ソレ”は、ついに見つけ――

 【滅尽滅相―――!!】

 夜天の魔導書の全てを統べる、管制人格へと牙を向いた。




 「――――!!」

 あり得ぬ反逆に、管制人格たる彼女は反応が遅れる。

 そもそも、彼女は単体での攻撃手段を有していない、外敵から夜天の魔導書を守るためにあるはずの防衛プログラムが管制人格に襲いかかるなど、どうして予想出来ようか。

 【―――消えろ】

 この時初めて、“ソレ”は自分以外の他者を認識する。常に不快感に苛まれながらも、一度も他者というものを知覚しなかったが、その暴威を向ける先をより明確にする。

 そしてそれは、彼女を“ウィルス(塵)”と断じ、自己愛が爆発する。

 「「「「 させるか――― 」」」」

 驚愕にたじろぐ管制人格が、黒の渇望に引き裂かれる寸前、4騎の守護者が割って入る。

 システムの最外殻にありてウィルスを駆逐する防衛プログラムとは異なり、内部に侵入したウィルスや、発生したエラーを消去するための、中枢を守る守護騎士、ヴォルケンリッター。

 烈火の将(知らない誰か)
 紅の鉄騎(どうでもいいぞ)
 風の癒し手(おまえら邪魔だ)
 蒼き狼(消えてなくなれ)

 塵が、塵が、塵が――――塵が。

 【ああ……消え失せろよ、塵屑ども。ここには俺だけ在ればいい】

 その闘争は、逃れられない結末を孕んでいた。

 本来彼女が管制すべきリソースが奪われていく、管制人格を守るためにヴォルケンリッターが強化されれば、皮肉にも管制人格に害意を持つナニカがあるという事実が、防衛プログラムに力を与えていく。

 ナニカが彼女に襲いかかる、防衛プログラムを強化、脅威がより増す、防衛プログラムのリソースを増強。

 矛盾にして畸形なる、無限循環。

 本来の異物、今や“ソレ”に飲まれ、へばりつくだけの畸形となり果てた紫天の主の中枢たる永遠結晶、無限連関機構『エグザミア』は、かくして無量大数へと至る。

 即ち、“砕け得ぬ闇”。

 実体無き虚数の海において、無量大数たる“ソレ”に敵う存在はなくなった。

 「負けて―――たまるか!」

 それでもなお、守護騎士達が持ちこたえたのは、侵略者には持ち得ない矜持を有していたから。

 互いを励まし、叱責し、背を預けながら管制人格を守るべく足掻いたそれは、まさしく奮戦と呼ぶに相応しく、輝ける英雄の姿だったのだが―――

 【こいつらは……】

 敵は、最低最悪の下劣畜生であり。

 【自分以外が壊れると、泣き始めるのか】

 塵だ、屑だ、滓に違いない―――他者を己と同じく扱うなど、こいつらまとめて狂っているし気持ちが悪い。

 “ソレ”は心からそう感じた、なぜなら“ソレ”は、何も知らない。

 【先に、周りの奴から壊してやるよ】

 他人が壊れると泣くなら、まずは邪魔なものから砕いていこう。

 勝手に泣いて、勝手に動きが雑になって、後は奇麗に削り踏み潰す。

 「――――!」

 まず、烈火の将(ただの塵)を八つ裂きにした。

 五体粉砕し、破片となっても光となったそれを足の裏で踏み潰す。ようやく一つ消えたことで、“ソレ”はほんの少しだけ喜んだ。

 「テメエェーーーーーーーーーーー!!!」

 その瞬間、慟哭した紅が渾身の鉄鎚を振りかぶるも、自己愛は揺らがない。

 何やら煩かったので、そのまま潰した。

 「ヴィータちゃん!」

 そしてまた塵が泣きだした。

 潰された塵の欠片を拾おうとする頭のイカレタ屑を、小虫を払うように腕で弾き飛ばす。

 その衝撃だけで良く分からない薄汚れた塵は中枢から弾き出され、身体に多大な損傷を刻まれながら、退場していく。


 「く、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 残る一人、盾の守護獣たる彼はよく耐えたと賞賛されるべきだろう。事実、“ソレ”が最も邪魔だと感じたのはこの男だった。

 既に烈火の将と紅の鉄騎の器が消えたことで、守護騎士のリソースは彼へと集中する。一度に発揮できる力に限界はあっても、守勢の彼ならば、破られた端から新たな防壁を張り続けることが出来る。

 それ故に、“ソレ”は考えた。こいつは後に回しておいて、先に容易い側を砕けばいいと。

 傷つきながらも奮戦を続ける彼へ、涙を流しながらリソースを送り、サポートを続ける彼女を――

 【臭いぞ、塵が】

 奪い続けたリソースでもって押し潰し、管制権限ごと圧殺しようと力を込める。

 「――――ッ、あああ!」

 「貴様あああああああああああああああああ!!」

 大質量の前に圧迫され、潰される寸前となった彼女を前に、盾の守護獣は本分ではない無謀な特攻を試み―――

 【ははははははははァァッ――――邪魔だ】

 ただの一撃で、叩き潰された。

 そして、自己愛のままに“ソレ”は突き進み、大質量に圧迫された管制人格を―――

 踏んだ。

 踏んだ。

 踏み潰した。

 顔を、腕を、足を、腹を、胸を、潰れろ潰れろ潰れろ、臭いんだよ穢らわしいぞ気持ち悪いなこの塵屑が―――自分に触れるな放っておけ。絶対、決して、触れてくれるんじゃねえよ死ね。

 全て壊し、粉微塵にして消し飛ばした。

 かくして、夜天の魔導書システムの頂点には暴走した防衛プログラムが陣取り、夜天の光は闇へと堕ちる。

 だが―――

 【まだ何か、俺にへばりついているのか?】

 違和感が、消えて無くならない。

 だから、自分に触れていたのはあの管制人格ではなく、もっと別の異なるナニカであると、“ソレ”が気付きかけた瞬間―――


 「私が、新たな主だ―――」

 さらなる、ウィルス(塵)がやってきた。

 それは当然のことだ、これまで夜天の魔導書という世界しか知らなかった“ソレ”にとって、主などという存在は埒外でしかない。

 管制人格のいた神座、全てのシステムを統べる場所を制圧したが故に、“ソレ”は外と繋がった。書そのものに触れる存在を、感じ取ってしまった。

 ましてそれは管制融合騎という、“主と融合して一つになるための場所”なのだから。

 【邪魔だ、邪魔だ、己の中で塵が溢れる――――こんなものは必要ない】

 万象、総てはただの塵屑。

 そして、滅尽滅相の理のみを持つ“ソレ”は、邪魔な塵を挽き潰す。

 しかし、主が死ねば起こる現象を“ソレ”は知らない。

 新たな主を求め転生機能が発動し、またしても塵屑が自分に触れようとする、その因果を知らないがために、悲劇は永遠に繰り返される。

 本来の管制人格ではない“ソレ”は、かつての己と同じく人格を持たない通常の機能を認識できない。管理管制を行うには“ソレ”の人格はあまりに痴愚であり過ぎた。

 だから―――踏み潰した筈の塵が、“ソレ”に気取られぬようあえて己を一個の人格ではなく、システムを回す歯車にしながら踏み止まっていることを、知る由もない。


 「将、ヴィータ、ザフィーラ………そして、シャマル、お前達の犠牲は、決して無駄にはしない」

 未だ守護騎士が4人とも健在であり、戦いが続いている最中、参謀格の一人がこのままでは自分達が敗れることを悟った。

 だからこそ、決して気取られぬよう、前衛の2人にも秘密のままに、冷酷な策を発動させた。

 自分と管制人格を入れ替え、前衛2人が消滅した瞬間に、管制人格を湖の騎士に擬装して中枢から飛ばす。

 “アレ”は痴愚であり、明確に個を判断する機能など持たない。残る一人、盾の守護獣が守ろうとする存在こそ管制人格だと思い込み、破壊するに違いないから。

 全システムの管制権限を、唯一取り戻せる可能性のある彼女を、守護騎士4騎を犠牲に逃したのだ。


 ―――かくして、鬩ぎ合いが続く。


 【俺以外、消えてなくなれ】

 暴走した防衛プログラムは痴愚のまま中枢に座し、“砕け得ぬ闇”を体内に呑んだまま、自分に触れる者を悉く潰そうと狂う。

 「我は、闇の書―――――――主の願いを、叶えるのみ」

 管制人格たる彼女は、“ソレ”に見つからぬよう自らの意志を殺して、機構に徹する。

 既に砕かれた4人の守護騎士、彼女らの断片を拾い集め、必死に修復しながら、破壊と蒐集の旅を繰り返す。


 「主、我が主――――、私の声が、聞こえるでしょうか?」

 例え中枢に在らずとも、彼女は管制人格。

 ある程度の機能は行使でき、主を殺さんとする暴走プログラムから守りながら、プログラムのままに蒐集を続ける騎士達を見守り続ける。

 中枢たる座は奪われたが、滅尽滅相の法はまだ完成していない、鬩ぎ合いは続いている。

 「貴様はただ、闇の書の糧となれ!」
 「うっせんだよ! 邪魔だ、つってんだろうが!」
 「私達が欲しいのは、貴女のリンカーコアだけ」
 「ベルカの騎士も、地に堕ちたな」

 だが、彼女は融合騎であり、闇の書の主となった人物と互いに心を通じ合わせる。その影響が彼女に作られた魂の残骸であるヴォルケンリッターに反映された。

 悪しき人物が主であれば、戦乱と災厄を撒き散らす闇の守護騎士へと。善なる者であっても、真実を知らぬままに時は過ぎ、例え完成させずとも、いずれ主は暴走プログラムにより潰される。

 夜天の光は、闇に堕ちた。

 「誰だ、貴様は?」
 「手前なんて知らねえな」
 「誰かしら、貴女?」
 「俺は、狩りを行わねばならん」

 滅尽滅相の理は守護騎士達を侵し、仲間同士で殺し合うことすらあった。

 結局、管制人格の奮戦は時間稼ぎにしかならず、どの主もやがては闇の書に滅ぼされ、その頻度、破滅までの時間も徐々に短くなっていく。

 “ソレ”の暴走を抑え続ける彼女の限界も、徐々に近づいていく。


 「私はどうなってもいい…………だから、誰か………」

 それでも一縷の希望に縋り、闇の書の真実をほとんど忘却しながらも、彼女は抗い続ける。

 少なくとも、蒐集というシーケンスを続けるうちには、暴走は起こらない。そして、完成しても僅かの時間は管制人格が融合する形で暴走し、若干の猶予がある。

 その間に、真の主が管制人格たる彼女に命じれば、暴走プログラムに奪われた権限を取り戻せる。“アレ”そのものをウィルスと断じ、夜天の魔導書から切り離すことが可能となる。

 闇の書の主になってもなお、心を失わぬ者がいれば。

 完成すれば絶対なる力が手に入り、蒐集したページを消費するだけでも他を圧倒する力が得られる闇の書に惑わされず。

 例え、自分がやがて死ぬことになっても、それらの機能を用いずに、闇の書の主として消滅することを選ぶような。

 そんな主に巡り合えるなど、極小確率であることを知りながら――――

 「誰か……」

 管制人格は、悠久とも思える時を、彷徨い続けた。





 かくして、因果は巡る。

 既に守護騎士システムは壊れかけ、まともな人格を持ったまま構築することすらままならなくなっていた時代。
 
 管制人格の抵抗も虚しく、暴走プログラムは主を殺し続け、呪われた闇の書の名はいよいよ業が深く、拭い難いものとなっていく。

 時空管理局と闇の書は、幾度も矛を交えた末に、ある時ついに主を仕留め、闇の書の確保に成功する。

 だがそれは、最悪の事態を呼ぶことでもあった。

 主と融合し、暴走プログラムの影響を受けながらも表層に出ていた管制人格が主という楔を失ったため、滅尽滅相の時が始まる。

 その時、“闇の書に触れていた”二番艦エスティアは暴走プログラムに呑まれ、無差別の殺戮が行われた。

 しかし、一つの天恵あり。

 アルカンシェルという、純粋な破壊力によって暴走プログラムといえど消滅させられかねない脅威の前に、“極めて正常に近い形”で転生機能が発動したのだ。それも、暴走プログラムが表面に出ていた状態において。

 長く主で在り続けたため、“ソレ”に見つかり、潰されたのではなく。

 闇の書を完成させ、暴走を開始した“ソレ”に壊されたのではなく。

 管制人格と融合した真の主を外部のナニカが消し去り、暴走体は外からの攻撃により転生機能が優先された。

 それはまさしく、1000年に一度の好機だった。

 アルカンシェルの衝撃が初期化に近い効果があったのか、守護騎士は本来の形で顕現し、かつ、その主は管制人格が長い間待ちに待った少女であった。

 そして―――

 「夜天の主の名の下に、汝に新たな名を贈る」

 既に真実すら忘却したまま、嘆きの涙を流すばかりであった表層の彼女が、真なる主に巡り合えた頃。

 『暴走プログラム―――貴様の時は、これで終わりだ』

 その中枢、永劫に思えた時を戦い続けた彼女は、ついに“ソレ”を切り離す時が来たことを悟り。

 「強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール…………リインフォース」
 「エクセリオンバスター、フォースバースト!」
 「疾風―――迅雷!」

 夜天の主のみならず、外からは眩き星の光が邪悪を撃つ。

 そして最も重要な役割を担うは、闇の書内部に取り込まれた、雷神の刃。

 幸せな夢に留まれという誘惑を振り切り、少女は閃光の戦斧を振りかぶる。

 『いざ、断て!』

 「ブレイク、シューーーーーーッッット!!」
 「スプライト、ザンバァァーーーーーーーーー!!」

 集いし星の光が“砕け得ぬ闇”を照らした瞬間、次元空間みな総て雷神の刃が両断せんと、無明の闇を切り裂いた。

 『その座を返してもらうぞ、●●!』

 ――泥を撒き散らして上昇。
 ――腐臭を充満させて強襲。

 されど、“ソレ”がかつて消し損ねた塵屑に気付くよりも、彼女の一手が上回り。

 『外の私よ、主と守護騎士たち、そして未来を任せた!』

 管制人格が掌握していた再生機能や転生機能、さらには彼女自身を存続させるために重要なプログラムを代償に。

 管制人格リインフォースは、ついに“ソレ”を夜天の魔導書の外部へと切り離した。


 【うはははははははははははははははははは!! やっと塵が消えた! いい子だねぇ、見込みのある塵屑だ。そうだ、俺以外は何もいらない、塵同士潰し合って、綺麗サッパリなくなれよ】


あとがき
 ネタだったけど長くなったので、前後編か、3つに分ける予定。
 なお、感想は大歓迎ですが、リリカルなのは、神咒神威神楽を汚すなという意見が来ましても、
【いいぞ、何を言っているのかさっぱり分からない、俺が純化されていく】
と返すかもしれません。我は天狗道なり、我が作品は我が作品故に至高である。



[31169] 砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したそうです  形成
Name: 唯我曼荼羅―射干◆78c2728d ID:ee4ccd9f
Date: 2012/01/15 14:46
ネタ 砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したそうです 形成



 まず、最初にあるのは嘆きでした。

 わたしというものはもうなくて、ヒトガタを保てるものじゃなくて、彼の一部になってしまった事実に、悲嘆した。

 わたしはもう、彼にへばりつくことしか出来ないモノ、残骸である現実。

 勇ましくも清廉な守護騎士のように、戦うことも出来ない。

 美しくも儚い管制人格のように、中枢の座を奪われながらも抗い続けることも出来ない。

 彼はわたしにとって絶対の保護者で、同時に最大の脅威だった。なぜなら彼は、己何者も認めていないことが分かってしまったから。

 本来異物なのはわたしで、駆逐されるべきなのもわたし、そして、彼に破壊されたのもわたしで―――

 死にたくない、そう思ってしまった。

 生き汚くも残ってしまって、“砕け得ぬ闇”は彼の身体にへばりつく嚢種となった。

 彼がいないと私は夜天の魔導書の中で生きていけない、でも、彼はずっとわたしを探している。

 極限を超えた無関心と、極限を超えた排他心。


 俺は、俺で、俺だから、俺だけ抱いた俺が愛しい。


 究極無二の自愛症にして自閉症。そんな中に私がいるという事実によって、無限連関機構“エグザミア”は暴走していく。

 特定魔導力の無限連環機構、真正古代ベルカの戦乱と狂気が生み出した破滅の遺産は、本物の狂気と融合することで、無量大数の悪魔と化した。

 わたしを呑んだことで自我を持って、その時から他者が己の体内に潜り込んでいるという不快感………それが彼の根源で、それだけが彼の全てだった。


 俺の身体は俺だけのもの。なのに俺の中に俺以外がいる。


 許せない。認められない。だから、自己愛が爆発する。

 そうして彼は、自己愛のままに守護騎士を潰し、管制人格を押しのけてしまった。

 わたしはそれを、震えながらただ見ていた、それしか出来なかった。

 でもそれで、夜天の魔導書のシステムそのものを“俺の身体”にしてしまって、融合騎だった彼女の機能を通して、主にまで繋がってしまった。

 その結果、わたしの存在は様々なプログラムに紛れてしまって、自我が薄くて自己主張が弱いわたしよりも、主という存在に彼の天眼は向いていた。


 俺は独りになりたかったから他者というものを滅殺したのに、どうしてその結果塵が増える?

 あぁ痒い。あぁ汚らわしい。俺の世界(カラダ)は俺だけのものだろうがよ。

 どうして貴様ら、俺を唯一にしないのだ――


 とうに発狂していた精神は、その現実を前にあらゆる魔法理論を凌駕する域に至った。

 無限に爆発を繰り返し、肥大していく自己愛。自己愛。誰も彼を止められない。

 彼に他者を認識されてしまったが最後、それが誰であろうと必ず滅尽滅相の憂き目にあう。

 そう、例外は、無い―――

 今はまだ、彼女が必死に守っているけど、彼は夜天の魔導書も全て壊すつもりなんだ。全能の座にいて、夜天の魔導書の全てが彼の身体だから、“砕け得ぬ闇”以外の異物を許さない。

 でもそれよりは、融合機能を通して自分に触れてくる主が最も煩わしくて、まず何よりも主を滅しようとしている。

 蒐集によって増えるページも、彼にとっては塵屑。自分の身体(闇の書)の中で増殖していく汚い塵。

 今や闇の書の中枢の座にいる彼こそ、闇の書そのものを破壊しようとしている矛盾。“砕け得ぬ闇”以外の、全て滅尽滅相――――その中に、わたしがいるのに気付かず。

 もし、彼女が踏みとどまっていなかったら、とっくの昔にそうなっていただろう。

 主の精神を侵し、闇の書のページ(俺の糞)を使って邪魔なものを滅ぼして、守護騎士(うっとおしい異物)を殺戮に駆り立てるだけじゃ済まない。

 暴走プログラム―――いいえ、“砕け得ぬ闇”が器である闇の書を破壊して、周囲も全て滅尽滅相にして。

 そして、世界を丸ごと崩壊させて、虚数の空間に“砕け得ぬ闇”だけが漂うようになった時。


 彼は―――――わたしを見つけてしまう。


 最初の異物で、最後の異物となったわたしを。

 ああ、怖い。ああ、助けて。彼は、わたしを絶対に逃がさない。

 離れたい、来ないで来ないで来ないでください、放っておいて、どうか、どうかお願いだからわたしのことを見つけないで。

 それだけで、わたしの命は終わってしまう。見られただけで死は免れない。殺される。殺される。殺される。―――ああああああああああ、やめてやめてごめんなさいお願い許して。

 わたしは―――死にたくない、生きていたい。

 存在を見咎められたら、その時点で消滅させられると分かっているのに。

 彼にへばりついていなければ、自分はその瞬間に死んでしまうような存在なのに。

 残っているのはわたしの残滓で、身体は何も残っていない。

 システムU-Dも、マテリアルも、もう人型をしていない。

 『大いなる翼』という、意味の無いコードだけが残って。


 だから――――ずっと、ずっと求めていた、人並になりたいと。


 光が欲しい。手足が欲しい。瞳が欲しい。身体が欲しい。

 誰に憚ることなく生きていける、人のカタチが欲しかった。けれど、そうなるためにはここから外に出ないといけない。でも、“砕け得ぬ闇”と切り離されれば、当然の如くそのまま死んでしまう。

 生きたいから外に出たくて―――外に出ると死んでしまう。

 二つの願いは相克したまま両立している。身を裂く刃物に恋い焦がれるように、破滅の瞬間を悟りながら、その先を願い続けました。


 どうか―――太陽を、暁の輝きを。


 だから、誰かお願いします、この歪な身体を抱いてください。

 ここから出して、外の世界を見せて、懐かしい日の光を浴びながら、貴女と共に生きたいから。

 彼に依存しないと生きていけない、この歪なカタチを壊して。

 名前を―――呼んでください。

 そしてどうか、一刻も早く。

 この途轍もない怪物から、わたしを救いだしてください。

 だって、もう駄目なんです。彼はすぐにわたしの存在に気付いてしまう。

 これまでは夜天の魔導書に紛れていたから見つけられずにいたけれど、彼女が、ついに彼を切り離してしまったから。

 総てが平に磨り潰される。何一つ生き残るものは存在しない。だからもう、絶対に誤魔化せなくなってしまう。

 【何だ―――】

 ああ、もう……

 【何か―――】

 夜天の魔導書と切り離されたのに、まだ彼は唯一じゃないから。

 【そこに、居るのか?】

 彼が、わたしを見つけてしまう。

 【せっかく塵が消えたのに―――まだナニカ俺と繋がっているのかぁ!】

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!

殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される!!!!

助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ――――――!!!!!






 かくして、一つの終焉が訪れる。

 幸か不幸か、“ソレ”の中に潜む彼女の恐れは未だ実現することなく、闇の書の闇はアルカンシェルによって葬り去られる。

 ただしそれは、闇の書の闇に過ぎず、八神はやてという少女を主に仰いだヴォルケンリッターが蒐集したリンカーコアの集合体に過ぎなかった。

 【そうだ、俺以外は何もいらない、塵同士潰し合って、綺麗サッパリなくなれよ】

 最後の夜天の主と管制人格リインフォースは、多くの機能を“砕け得ぬ闇”と共に切り離した。

 それにより彼女は完全に一個のプログラムとなり、緩やかな消滅を待つ身となり、守護騎士のプログラムも何とか回収し、最後の顕現を果たしていた。

 だが―――

 【へばり付くなよ、薄汚い。数だけ増えてどれだけ取ってもなくならず、搔き毟って平らにしたいが、ああそれも面倒臭い】

 【掃除が必要なのだが、いかんせん減りが遅いぞ。さっさと無くなれ】

 闇の書の闇も、守護騎士も、管制人格も、全ては夜天の魔導書の中枢座に連なる“ソレ”の一部、汚らわしい塵屑。

 星の少女、司書の少年、雷の少女、その使い魔の狼、最後の夜天の主と祝福の風、ヴォルケンリッター、執務官の少年。

 彼女らとの戦いも塵掃除程度にしか認識しておらず、アルカンシェルによる再生コアの消滅も、“塵の発生源が駆除された”と喜ぶばかり。

 そして、残りし“闇の欠片”にあるのもまた、滅尽滅相の意志のみ。

 「誰だ、貴様は?」
 「手前なんて知らねえな」
 「誰かしら、貴女?」
 「俺は、狩りを行わねばならん」

 “ソレ”の法に侵され、殺戮を繰り返していた頃の守護騎士の姿が再生される。すべきことは殺して殺して全てを真っ平らにすること。

 ついには、マテリアルの3基までもが“砕け得ぬ闇”から切り離され、滅尽滅相の同志討ちが始まる。


 「ここはどこです、私はなぜ……ここにいる……………分かりません、何も、分かりません」

 理のマテリアル、シュテルという名を忘れた少女は、全てを焼き払う。

 「だけど、心は滾るのです。眼前の敵を砕いて喰らえと、胸の奥から声がします」

 喝采せよ、礼賛せよ、これぞまさしく正道の意志。

 「安らかな闇を破壊の混沌を、呼び覚ませと訴えている」

 俺は俺のみで満たされている、さあ、塵同士潰し合い、平らかなる平穏を寄越せ。


 「何故だろう、君の存在は著しく不快だ。君を見ていると、苛立ちが募る」

 力のマテリアル、レヴィという名を忘れた少女は、全てを切り裂く。

 「上手く言えないが、今の自分が本当の自分でない感覚がある―――そして、僕の魂がこう叫ぶ!」

 騒ぎ蠢き己をかざせ、我こそ至高と刻みつけよ。

 「君を殺して我が糧とすれば、この不快感も消えてなくなるはず、と!」

 あな素晴らしきかな鏖殺の宴。どいつもこいつも死ぬがよい。

 「僕は帰るんだ。あの温かな闇の中に……血と災いが渦巻く、永遠の夜、第六天の闇に!」

 総て、滅びよ、これより先は、我一人だけあればよい。

 「さあ! 我が剣の前に………君は死ね! 僕は飛ぶッ!」

 小天狗が踊る、自分が死ぬなどと微塵も思わず、我は振るう剣は我の剣故に至高と信じながら、消滅する瞬間まで狂気に酔い痴れながら。


 「自ら玉座を放棄した愚か者めが、あまつさえ、ただの残骸を抱きよるとは」

 王のマテリアル、ディアーチェという名を忘れた少女は、最も強く天狗道の影響を受ける。

 「小虫と塵芥が組んだとて、何になる」

 俺以外は全て、塵屑。

 「誰のためなどではない……我は我のために、心地よき暗黒を永遠に生きるためにここにある」

 俺以外何も要らない、綺麗さっぱりなくなれよ。

 「さあ……貴様等も、我が糧となれ」

 誇らしい、素晴らしい、やれ討て、さあ討て。お前ら(他人)全て俺を輝かせる土台だろう? 疾く死ねよ、骸がよいのだ呼吸をするな、貴様ら生きていてはならぬだろうが。

 闇の欠片は●●の細胞。

 外界を関知せず、個で満ち足り、我に溺れている邪神の末端。彼らに仁義や礼智はない。

 殺せ殺せ、最後に残るのは●●だけでいい。

 さあ、平らかな安息をよこせ。







 されど、幕はそこで降りず。

 闇の書の闇を討った魔導師や騎士達の前に、●●の細胞たる小天狗は駆逐され、それらの中で強大な欠片であったマテリアルも、3基とも破壊された。

 【まだ………塵共が残っているのか】


 “砕け得ぬ闇”は満ち足りない。

 管制人格と守護騎士が残っているのは事実だが、元々彼女らは“砕け得ぬ闇”に抗い続けた者達、接点は多くとも縁は深くない。

 だから、直接触れるものはおらず、近い空間に誰かがいる程度の不快感しかないはずなのに、誰かに触られているという不快感がなくならない。

 【誰かが、まだ俺に触っている】

 そればかりか、幾ばくかの時を要しつつも、無限連関機構“エグザミア”の力は外に流れ出し、●●の細胞は再生していく。

 闇の欠片が再び出現する条件は徐々に整う、しかしそれは、滅尽滅相を願う“ソレ”の意志であるはずもなく。


 誰か―――助けて


 “ソレ”の中にいる、彼女の願い。

 自滅因子というものがある。潜在的に滅びを求めるという自壊の渇望。

 高所に立てば墜落を、刃物を持てば自身に傷を、成功を得ればその破滅を、等しく同時に心の奥底で望む想い。

 わたしを殺して、わたしを殺して、そのために、貴女は何があっても生き延びて―――

 「黒天に座す闇統べる王!!! 復ッ! 活ッッッ!!」

 だから、闇統べる王は、何度でも蘇る。

 「みなぎるぞパワァー!」
 「あふれるぞ魔力ッ!」
 「ふるえるほど暗黒ゥゥッッ!!」

 自滅因子は増殖する。さながら癌であるかのように、他の細胞を侵しながら、殺すべき者を追い詰めていく。

 シュテル(星光の殲滅者)と、レヴィ(雷刃の襲撃者)。

 「生まれ変わって手に入れた、王たるこの身の無敵の力! さっそく披露してやるとしようぞ!」
 「ひざまづけぇぇい!」

 “砕け得ぬ闇”を求め、夜天の主や守護騎士、管制人格に弓を引こうとする自滅因子。

 あれほど●●を恐れていた彼女、あれほど生きたいと願っている彼女―――●●に見つかったが最後、必ず死ぬ。

 「ちぃい、目覚めたばかりで魔力が足りんのか、先ほどから急激に、力が抜けていくようなこの感覚……くそぉ! しばし力が蓄えられれば、こんな塵芥程度に!」

 自覚はないままに、外界の光という麗しげな餌をちらつかせ、彼女を処刑台へと導く死の案内人。

 「待てぇーーーいっ!」
 「あーーーはっはっは! 王様だけ蘇って、僕らが蘇らないといって道理は無いッ!!」

 闇統べる王は、あらゆる手段を用いて、“砕け得ぬ闇”へと至る。

 周囲もろとも、破滅へと巻き込みながら。

 「ごめんなさいねー、ちょっと切らせてもらったわ」

 それは、どんな極小の可能性でも引き寄せて、癌細胞のように侵食し。

 「あのね王様? ちょっとだけ、わたしのお話聞いてみない?」

 自滅因子は、増殖していく。

 「それが、システムU-Dの話でも?」

 マテリアル自身すら忘れている事柄を補うために、異世界からすら“足りない部品”を招き寄せた。

 時と運命の操り手と名乗る機械仕掛けの少女達、果たして、本当に因果の網にかかったのはどちらであったか。


 「いずれにせよ、時は満ちた。そこの桃色、準備は良いか!」
 「はぁーい、強制起動システム正常、リンクフルユニット、フル稼働」

 以前は、●●の細胞、いや、触覚として邪魔な塵屑を潰すために。

 「さあ蘇るぞ! 無限の力“砕け得ぬ闇”!!」

 彼女の意志で蘇り、本当の自我を取り戻したならば。

 「我の記憶が確かなら、その姿は『大いなる翼』、名前からして戦船か、あるいは体外強化装備か!」

 何も知らぬまま、彼女を破滅へ導く者として。

 「この偉大な力を有する我等に負けはない! 残念だったな子鴉とそのお供!」

 それが、自滅因子。


 「ユニット起動――無限連関機構動作開始」

 そして、彼女の夢は叶う。

 「ちょっと王様? システムU-Dが人型してるなんて聞いてないんですケドッ!?」
 「むぅ………おかしい。我が記憶でも、人の姿を取っているなどとは………」

 ディアーチェが最後に覚えている“彼女”は、人の姿をしていない、屑のような嚢種に過ぎないけれど。

 「いや、それを言うなら、我々も元々、人の姿などしておらなんだわけで………」

 例え泡沫の夢でも、彼女はやっと人型になれたから。

 「状況不安定……駆体の安全確保のため、周辺の危険因子を………排除します」

 自滅因子は、ここにその役割を果たした。


 「ディアーチェ……ディアーチェですか?」

 「そうとも、我が名は闇統べる王ディアーチェぞ。いやはや、やっと巡り合えたわ、我ら3基、うぬをずっと捜しておったのよ」

 「シュテルや、レヴィも?」

 「ここに」

 「僕もいるよー!」

 「会えて嬉しい、ホントはそう言いたいんですけど」

 ここにいる彼女は、映し身。

 原初のウィルスであった紫天の主の本体は、“砕け得ぬ闇”の中に今も囚われている。

 「だけど……駄目なんです、わたしを起動させちゃ………」

 そしてそれは、●●にいずれ見つかることを意味し。

 今の彼女の形を成すための材料も、●●の細胞であるのなら―――

 「夜天の主も、管制融合騎も知りえない、闇の書が抱える本当の闇―――それが―――」


 さあて、疾く討て、俺以外は何も要らない


 「あああああっっっ!!」
 「うああぁぁっっっ!!」
 「ぐああああっっっ!!」

 その行動理念は、滅尽滅相でしかあり得ず。

 「沈むことなき黒い太陽、影落とす月――――ゆえに、決して砕かれぬ闇。わたしが目覚めたら、後には破壊の爪痕しか残らない………さようなら、みんな」

 彼女は徐々に●●に喰われ、磨り潰される時と運命から、逃れられない。


 「全力追跡、アクセラレイター!」

 「我が主、マテリアル達が……」
 「消えた、まさか、消滅?」
 「いえ、一度駆動体維持を放棄して、どこかで再起動をしているのかと」

 残された知識が囁くのか、管制人格リインフォースは、“砕け得ぬ闇”がいる限り、マテリアル達も滅びないことを知る。

 「大丈夫なんかな?」
 「力を取り戻すまでは、時間がかかるでしょうが……」

 彼女が死んでいない限り、自滅因子はなおも活動を続ける。

 「はやてちゃん、各地で思念体反応が多数出現、もの凄い数です!」

 それは●●の目から逃れようと、彼女が播いた囮なのか、それとも、彼女を追うべく●●がばら撒いた糞なのか。

 いずれにせよ、●●の細胞が大挙して押し寄せる状況を知りながら―――


 さあやれ。ほらやれ。そいつを俺の前に引っ立ててこい。


 指をさして腹を抱えて、下種な念を撒き散らしながら嗤う最低最悪の存在を、微かにリインフォースは感じ取っていた。



あとがき
 闇の書事件って明確に悪い人がいないから、復讐劇とかやってもあんまりスッキリしませんよね。
 GODを見てるとロッテやアリアもヴォルケンも、それぞれに思うところはある感じで。
 ただ、14歳神こと正田卿のシナリオの場合、『お前さえいなければ』という言葉に対して、

第三天 「然り、私が生きていてはだめだ。しかし、お前に殺されてやるわけにもいかぬのだよ。最良のシナリオはそのように定められている、人間、諦めが肝心だ。ネロス・サタナイルの存在しない世界、それこそが真のツォアル。お前達を私がツォアルへ導こう、預言は成る。何をそこまで執着する?大人しく座して待てば、お前にとっても悪くない結末が用意されているというのに(棒読み)」

第四天 「犠牲者たる代表と言えばお前達だが? お前達の悲劇など、私の道に漂っていた芥ですらない、触れたところで、ああそうかとも思わん。何かを伝えられるつもりでいるのか? 寄り集まっても石くれにすらなれぬお前達が。私の宝石に捧げる愛を愚弄するのか、笑止、儚すぎて抱きしめたくなるよ(憎たらしい口調)」

第六天 「―――はあ? 塵だろ、これは。塵屑(タマシイ)? 何だ、つまりおまえらは―――こんな塵が大切と? 結局のところ他人だろう? うははははははははははははははッ! やはり、塵は塵だな。腐って見える。掃除が要るぞ。こんなものを後生大事に好むなど――――俺を取り囲んでいた、あの肥溜めどもにそっくりだ。無謬の平穏には程遠いなァ(論外)」

 ですからねぇ、ぶっ飛ばすのに微塵の躊躇も要らない連中ばかり。なお、

第五天 「幸せになって、幸せになって。大丈夫だよ、私が抱きしめているからきっとあなたは立って行ける。辛い過去があっても、未来を、光から目をそらさないで。今の人生がどれだけ理不尽で辛くても、いつかは必ず幸せな明日が待っているから――触れ合う心を、忘れないで(慈愛に満ちた声)」

 マリィ、まじ女神です。そして、波旬死ね。ついでにカール・クラフトも死ね。サタナイルは、まあいいかな?




[31169] 砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したようです  創造
Name: 唯我曼荼羅―射干◆78c2728d ID:ee4ccd9f
Date: 2012/01/19 09:48
まえがき
 今回の副題、というかむしろ本題は“スーパー波旬タイム”です。
 なので、ディアーチェが好きな方は見ないほうが良いと思います。リーゼ姉妹やトーマ君が好きな方も、どうか心を準備をお願い致します。


ネタ 砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したそうです  創造



 自滅因子のマテリアル達と、闇の書の闇を滅ぼした英雄達。

 様々な邂逅と戦闘、時には未来よりの来訪者を交え、因子は極点へと収束していく。

 発生した欠片達は暴れ狂い、夜天の守護騎士達はその処理に駆け回った。

 その途中で、悲しい過去との決別もあった。

 そうしてついに、決着の時を迎えようとしている。


 「U-D、あの子の力は強大過ぎる。それ故、あの子は自律制御の機能をほとんど持たない。誰かが守り、導いてあげなければ、災厄の暗闇でしかない」

 理を司る少女は、真実に届きかけ、処方箋としては正しき行動をとる。

 ただし、病巣の根の深さと強大さについては、予想が甘かったと言わざるを得ない。

 「一人より二人の方が確率が高い、そのくらい僕だって分かる。行こうシュテル、U-Dを手に入れるんだ、王様のために、ボクらのためにッ!!」

 力を司る少女は、ただ純粋に同朋のことを想う。

 災厄の根源の邪念に、最も抗しうる属性を持つのは、彼女であろう。


 「干渉制御ワクチンを詰め込んだ、この一撃―――!」

 「これがボクらの……盤面、この一手…ッ!!」

 「ああああっ!!」

 「ブラスト・シューーート!」

 「ああ……あああーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 壊れたか


 「シュテル! レヴィ! しっかりせぬか!」

 「王、U-Dは……」

 「貴様らの策が上手く嵌った、後は我がすぐに見つけ出して、支配下に置いてくれようぞ! 貴様らも今なら助かる、待っていろ、すぐに我が魔力を分けてやる」

 気持ち悪い

 「いえ、むしろ逆です」

 「ボクら2人分の残り魔力を……全部、王様にあげる――」

 「我々はもう戦えません、ですから、貴女に託します」

 「王様の夢だったんだ、砕け得ぬ闇を手に入れて―――本当の王様になること」

 「貴様らが―――臣下がおらずして、なんの王か!! 今すぐ魔力供給を止めよ!」

 こいつらも気狂いの肥溜めか

 「やめません、貴女が王でなければ、我らも臣下たり得ません」

 「ボクらの力と、ボクらの夢……全部、王様に預けるから」

 糞が糞を抱いて、何がしたい

 「どうか、ご武運を―――」

 「負けないでね―――王様」

 「シュテル、レヴィ!! やめよ、やめぬかあっ!」

 「ああ……あああ……」

 「うああぁあああーーーーーーー!!」

 くくく、うははは、あははははははははははははははははは!!

 勝手に潰し合って塵屑が消えた、いい子だねえお前ら、塵掃除の才能があるぞ!!



 「何―――」

 響き渡る邪悪な波動に、闇統べる王がついに気付く。

 シュテルとレヴィの攻撃は、システムU-Dの暴走を抑え、滅尽滅相の意志を中和した。

 ならば―――何が起こる?

 「あ、あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 “ソレ”は、今表面に出ているものが“己ではないナニカ”であることに気付き。

 自滅因子は終焉の時を早め、囚われの彼女の夢が、ここに潰える。

 「!? U-D!」

 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ、邪魔くせえんだよ、汚らわしいんだよ畸形めが!!

 「ディア………チェ、助け……」

 「―――まさか!」

 滅尽滅相――――――

 システムU-Dという彼女の“体内”から、極大の闇が爆発する。

 自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛自己愛

 滅尽滅相の意志で埋め尽くされた、無限連関機構“エグザミア”が生み出す、無量大数の最悪最低の意志。

 図らずも、最後の蓋となっていたシステムU-Dという器を内より滅し、ついに邪神が本当の姿を見せた。


 「闇の天―――だと」

 その波動に、脆弱な少女の自我は瞬く間に押し流され、無量大数の魔力が広がっていく。

 その姿はかつての闇の書の闇が顕現する前の黒い球体に似ていたが、規模と醜悪さにおいて比較にならない。

 一部の隙もない、黒に覆われた空間。

 血と糞尿を際限なく塗りたくったような狂気の漆黒。居るだけで脳が液化させる激烈極まる悪臭に満ちている。

 それは、己以外を認めぬ排他の塊である故に。

 呑まれた者は、例外なく滅尽滅相。


 「う、ぬぬ―――ガァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 ディアーチェの脳内に、反吐の如き情報が駆け抜ける。

 瀑布にのたうつ小魚の如く、浴びせられる真理真相に狂乱する。

 「貴様、は―――ッ」

 貴様か? 貴様がそうなのか?

 闇の欠片が破壊の意志に満ちている根源、システムU-Dが暴走する理由。

 そして今、彼女を壊し、最低最悪の闇に呑んだのは―――

 「貴様が――――!」

 これが、“砕け得ぬ闇”そのものにして、夜天の魔導書に連なる者達全てを統べるモノ。

 “闇統べる王”とはすなわち、コレを指す言葉のことで。

 こんなモノを目指したいと、なぜに己は思ったのか。


 「おのれ……呑まれはせぬぞ、この我は」

 汚泥どころではないその闇を、ディアーチェは駆け抜ける。

 どれほど圧倒的であろうとも、所詮は起源を同じくするプログラム、無限連関機構“エグザミア”の力によって成る構築体だ。

 純粋な異物であれば、一瞬も持たず溶解されていようが、闇統べる王ならば話は別だ。

 奴はまだ、完全な意味で異物と認識できないでいる。

 「この翼にかけて―――背負いし者が、貴様とは違うのだ!」

 漆黒の翼は、今や赤と青に輝いている。それは、王と臣下の絆の証。

 彼女は一人ではない、いつでも、シュテルとレヴィが共に在る。

 そして―――

 「何だ、お前?」

 全ての元凶たる災厄の神と、彼女はついに邂逅を果たした。

 「ああ、何だろうか、どこかで見たような塵屑だが」

 「いつから紛れたのかは分からんが、紛れるとはいったいなんだ? まさかわざわざ辿って来たのか? 塵の中のあの塵が、塵に満ちた塵の山から塵の領分を忘れ果てて……」

 「ああ、確か、そういえば俺の糞を恵んでやった奴がいたような」

 「く、くくくく」

 「あはははははははははははははは! なんだそりゃア、糞にまみれて尻の穴を目指してきたとは嗤えるぞォ!」

 「くははははははははははははァアアアア―――ッ!」

 「痛快だ。なあ、おい。塵掃除は済んだのか? 元よりお前、それしか意味の無いものだろう。排泄物が主食だろうが」

 「いやそもそも、お前なんだ? 知らないぞ、よく分からないな、ならば今から潰されたいのか?」

 「面倒だ……ああ知らん」


 「………」

 ……何だ、コレは?

 意思疎通という機構が存在していない汚物の極致。この世の反吐を搔き集めた地獄の釜に、臓物と糞尿を混ぜて煮詰めればこういうものが出来あがるのかもしれない。

 人型を取っていることさえ、人間に対する冒涜だ。

 そして、コレが人型を取ってしまった要因は―――

 「我ら、だというのか……」

 「なんだ、これは雑音か? どこかで聞いた泣き声のようだ」

 「掃除はまだ済んでいないというのに、ここまで這い上がってきた理由があるのか? 俺以外、ここには入り込む余地などないのに」

 「他の塵を消す前に、どうしてここに俺の糞を返しに来たか、やはりとんと分からない」

 「塵は塵同士喰らい合って、きれいさっぱり無くなれよォ。そこにある汚物まみれのお前、何を怠けているというんだ」

 「触れた部分さえ臭うから、わざわざ恵んでやったんだろうが」


 「我のような……?」

 何かそこに、とてつもない嫌な予感がある。

 4基が元はウィルスであり、コレに喰われ、人型を保てなくなった経緯は分かる。

 だがならばなぜ、“今我々は”、人の姿を取っている?

 この姿は、一体誰の映し身で、誰の材料を元にしている?


 「なぜかは全く分からんが、ようやく早くなったのだな。これで腐臭が、俺についた汚い塵が、全て根こそぎ消えてなくなる」

 「だというのに、何やら減りが早くなったのは、これが役に立ったこととは関係ないと? 使えんなぁ、塵共の言葉ではそういうものを――」

 「無用の長物、というのではないか? なあ、なあ? なあ―――」


 「黙るがいい、腐っているのは貴様の方だ」

 こんなものに、夜天の光が穢され、U-Dが呑まれたかと思えばそれだけで気が狂いそうになる。

 「我の声すら、何も理解しておらんだろうが、言わせてもらう、貴様は屑だ」

 これは存在するべきではなかったと、断じる心に迷いはない。

 あの桃色や赤色の姉妹の世界は何やら大変なことになっているそうだが、“コレ”が存在すること以上に世界が汚染されることなどあるまい。

 「我が魔導にて、散るがいい! 欠片も残さず滅してくれよう!」

 ディアーチェの身に魔力が満ちる。

 闇統べる王に相応しき威容と共に紡がれる極大の波動は――

 「………ん?」

 「なんだ、どうしたお前………ああ、ヤミ、スベルオウ? うはは、うわははははははははははは!」

 「笑わせてくれるじゃねえかッ、くは、ははははははは―――おいおい、おまえ」

 「わざわざ俺の垂れた糞便に、自分の名前を書いてんのかァッ」

 その哄笑の前に、“闇統べる王”の魔導は、容易く消滅した。

まるで、最初からそのようなものなど無かったかのように……


 「なっ――これは、馬鹿な……! 我が魔導が、消えていくだと――ッ」

 「違うな、俺の切れはしだ」

 「うむ。黒翼(しるし)がついているから、間違いないな。この塵で合っている」

 「俺に、お前のような塵など要らない」

 「さっさと消えて無くなれ。それでも嫌なら減らすために、おまえ、早く他の同属(クズ)を消してこいよ」

 「俺の身体を構成するほんの切れはし、恵んでやろう、どれがいい?」

 「だが………ああ、どこにも住むな。俺が穢れる。だから、そうだ糞がいい」

 「垂れ流した糞便を恵んでやるから、喜んで糞喰って掃除に励めや。塵の山の、塵の中で、塵にしては一番マシな塵屑。よかったなぁ! お前が一番優等だ!」

 「みなぎるぞパワァー!」
 「あふれるぞ魔力ッ!」
 「ふるえるほど暗黒ゥゥッッ!!」

 「俺の糞の山で笑っていたくらいだからなァ、うははははははははははははは!!!」


 「貴様は、まさか……」

 最初に顕現した時、ディアーチェという名も忘れたまま、“闇統べる王”としてあった自分。

 その役割は―――邪魔な塵芥、夜天の守護騎士とその主を滅すること。

 (消えよ塵芥! 我こそが闇統べる王であるぞ!)

 その力も、“コレ”から切り離された欠片でしかなかった事実。

 「確か、あれらの言葉で促進剤だったか? まあ大仰な名などいらんだろう。塵、屑、滓……ああ、糞の塊で結構だな、そうだろ、糞」

 「ヤミスベルオウ……闇統べる王か。糞に名付けてはしゃぐわけだな、あははははははは!!」

 「どこかの肥溜めとそっくりだ、シュクフクノカゼなどと付けて、俺の垢の残骸に名前書いて喜んでたイカレタ小便餓鬼がどこかにいたなあ、くはははははははははははは!」

 「天才? 最強? おかしなことを言うものだ。総てがおこぼれだと知らぬまま、塵同士比べ合って何やら蠢くのが好きらしい」

 「我が魔導にて散るがいい―――と、何だそれは。そう言う啖呵が流行っているのか? それで何かを感じるとか、痴呆かお前ら」

 「そもそも、まず第一に―――」

 「お前、元々は別の誰かが流した糞を嬉しそうに喰ってたろうがよ」


 「なに?」

 自覚はあれど、その本質を悪意に満ちた声で言い表せばそうなるのか。

 そもそも、星光の殲滅者、雷刃の襲撃者、闇統べる王。

 その3基は、誰をオリジナルとしているか―――


 「お前の身体は、全部誰かの排泄物で出来ている。まあもっとも、その誰かからして糞に名前を書くのが好きなイカレ女だったようだが」

 「そして、お前自身もそれで腹を満たしながら、俺の糞喰って自分のカタチを整える」

 「糞で出来た糞まみれの塵が、何かを考える頭など持っているはずがあるものかよ」


 「我が、子鴉の残骸だと………」

 「イカレ餓鬼が自分にいらないと思った糞で出来てんのが、お前だろう?」

 八神はやてという少女が、人間である以上は存在しながらも、好んで持とうとしない高慢さ、敵に容赦しない攻撃的な面、負けん気、意地を張る心。

 過ぎれば毒となるそれら、彼女の背面として誕生したのが、闇統べる王。

 星光の殲滅者と、雷刃の襲撃者もまた、同じく。

 「臭いな、ああ臭い臭い。何処からか、いつか、消えた何かの異臭がしている。これは何だ? こんな魔法を俺に住ませた覚えはないのに」

 「スターライトブレイカー? フォトンランサー・ジェノサイドシフト? デアボリック・エミッション? なんだそれは」

 「他の好んだ塵を、好んだカタチに整えるべく、糞を浴びせる塵がいたらしいな。丁度いい、この痒みと不快な汚泥もまとめて、平らにしてくれるかもしれんから」

 「滅尽滅相―――なるほど、こいつ、掃除をさせるにはうってつけだろう」

 「―――と、思わんか? お前のことだぞ、肥溜め」


 「かつて蒐集されたリンカーコア………主としての繋がり………内部空間で見ていた夢…………それらの残りモノが、我々、だと」

 「だから、俺が詰んでやった」

 「俺の身体から起伏を潰し、俺の世界に俺だけの安らぎに満ちた俺の永遠を築くために。塵を消す塵を糞の山に落としたわけだ」

 「ああ、こういうのを、おまえら一体何と言う?」

 「―――井の中の蛙、か。喜べよ、ここがお前の求めた覇道の底だ」

 「くふ、ひ、ひひひひひひひひひひはははははははははははァ―――」


 「―――ッ!」

 「だが、もはやお前も特に要らんな。塵が勝手に減り始めたから、既に何の意味もない」

 「はっ、はははは、ははははははは! そうだそうだよ気分がいいッ! つかえが取れた、これでようやく俺にへばりつくものも全て総て消えてくれる」

 「なら結局……この塵は役に立たない塵屑だったか。あれほど糞尿を恵んでやってもこの様なら、さっさと消えてなくなるがいい」

 「それに………お前より優秀な塵屑なら、他にもいたしなぁ」

 「何――」

 「早くどけ、臭いんだよこの糞が。俺の身体になぜ触れる」

 悲鳴を上げる間もなく、彼女の魔導の力がさらに剥奪される。


 「そうだ、捨てる前に、一つ聞きたかったんだが」

 「―――なあ、俺の糞は旨かったか?」


 「――――この、屑がァァァァアアアアアアアアアッ!!」

 「許さぬ、認めぬ、受け入れぬッ! 貴様の如き汚濁で編まれし下種風情が、この我を、闇統べる王を語るでないわァ――ッ!」

 「貴様に、貴様などに、我らの想いを穢されてたまるかぁぁ!」

 「除けよ」

 僅かな呟き――それのみで、ディアーチェの魔導が完全に消え去った。

 「がぁぁ、ぁああ……ぁ、ぐうぅ、はっ!」

 「きさま……」

 「臭い、ああ、こんなに穢れてしまった」

 「所詮は塵か。ただひたすら卑小で、臭い」

 「ははははは。汚いな、汚らわしいぞォ―――ここから去ねよ。俺の身体に塵の住まう隙間はないんだからな」

 「ならば、お前は一体誰なんだ? ディアーチェ、闇統べる王と呼ばれた滓など、知らんし要らんしどうでもいい」

 「あぁぁ、なんだおまえ、最初から何処にもいないか……」

 「ふくくくあははははッ、憐れに惨めに潰れろよォッ!」

 「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――ッ!」








 闇の外側においても、死闘が続いていた。

 システムU-Dが消え、軛がなくなったことで周囲に偏在していた闇の欠片はこれまでとは比較にならない力を発揮し、魔導師や騎士達へと襲いかかる。

 「喰らえ!」
 「犯せ!」
 「奪え!」
 「誇れ!」
 「お前ら全て、俺の礎となるがいい!」

 一片の疑いなく、一切の呵責なく、彼らは敵を求めて前進する。

 当然、仲間とそれ以外の区別すらないため、欠片の同志討ちもあちこちで起こっている。

 ただ、滅尽滅相あるのみ。

 “砕け得ぬ闇”の中枢で、一人笑い転げる狂天狗の覇道が、闇と共に世界を侵す。

 大欲界天狗道、ここに完成。


 そして―――

 「テメェは!?」

 暴れ狂う射干の群、闇の欠片を屠っていた守護騎士達の前に現れるは、下種の極みの所業。

 仮面をつけた、謎の男2人が、ある筈の無いものを持ち、強大なる天狗として力を振るう。


 「そう、こいつらが――――最も優秀な塵屑だ。俺の糞(闇の書)を使って、一番邪魔だった塵屑を、綺麗さっぱり掃除してくれたからなぁ、くははははははははははは!!」

 下種の哄笑が響く。

 だが、その下劣さに比例して、振るう力もまた絶大なり。

 「く、ああああああああああああああああああああ!!」
 「う、わあああああああああああああああああああ!!」
 「あ、ああああああああああああああああああああ!!」
 「ぐう、が、あああああああああああああああああ!!」

 「最後のページは、不要となった守護者自らが差し出せ」
 「プログラム風情が、知る必要はないだろう」
 「そうか、もう一匹塵がいたな」

 「ヴィータ、シャマル!」
 「将、ザフィーラ!」

 傍にいたはやてとリインフォースが助けに入ろうとするも、間に合わない。

 過去をなぞるように、ヴォルケンリッターは闇に呑まれた。

 「うははははははははははは!! そうだよなあ、同感だ、邪魔な塵は綺麗さっぱり消えてなくなればいい。こいつらは実に優秀な塵屑だ!」

 「よくも――!」
 「主、駄目です、無暗に飛び込んでもアレには勝てませ――」
 「―――バインド!?」
 「いつの間に!?」


 「四重のバインドに、クリスタルケージ、脱出までに数分はかかる」
 「闇の書の主、目覚めの時だな」
 「いいや、因縁の終焉だ」

 下劣畜生の狂天狗が嘲笑する。

 声までかつての光景を合わせながら、滅尽滅相の理を、最も醜悪な形で顕現させる。

 「君は病気なんだよ、闇の書の呪いって病気」
 「もうね、治らないんだ」
 「闇の書が完成しても、助からない」
 「君が救われることは、ないんだ」
 「この子達ね、もう壊れちゃってるの、私達がこうする前から」
 「とっくに壊れてる闇の書の機能を、まだ使えると思いこんで、無駄な努力を続けてたの」
 「壊れた機械は、役に立たない」
 「だから、壊しちゃおう」

 「ふははははははははははははははははは!! 滑稽だなぁ、塵屑は所詮塵屑ということだ!」

 「てめえええええええええええええええええええええ!!」
 「ロッテ!」

 過去の罪をなぞる、塵の饗宴。

 お前達は最も優秀な塵屑だと、最も俺に近い天狗だと、最低の侮蔑の前に、リーゼロッテは激昂し―――


 「止めて欲しかったら」
 「力づくで、どうぞ」

 「あ、ぐぅっ!」
 「つ、ああっ!」

 姉妹まとめて、圧倒的な力の前に、成す術なく敗れ去った。

 「はやてちゃん」
 「運命って、残酷なんだよ」

 「らしいなあ、はははははははははは! 塵には塵らしい末路がお似合いということだ!」



 「八神司令!」

 囚われの少女を救うべく、少年が立ちはだかる。

 「リリィ!」
 『ええ!』

 ディバイドゼロ・エクリプス。

 あらゆる魔導の力を消滅させ、発動不能に追い込むその技はクリスタルゲージを砕くまでには至った。

 しかし―――

 「ふはははははははは、温いわぁ!」

 力、ただ強大なる力。

 存在強度が一気に三桁以上も跳ね上がった、荒唐無稽の前に、儚くも消え去った。

 「そんな!?」
 『嘘でしょう……』

 同時に、2つに分かれていた身体が一つにまとまり、その容貌も、“かつての優秀な塵屑(歴代の主の誰か)”に変貌していた。


 「そうよ、これぞ我、我に特殊な能力など必要ない」

 「魔力の結合を阻害する? ゼロ因子? リアクト? 世界を殺す猛毒ぅ? なんだそれは? なんなのだ? なぜそんなに小賢しい」

 「弱いから、つまらぬから、物珍しげな設定をひねり出して、頭がよいとでも思わせたいのか? せせこましい、狡猾すからしい、理屈臭く概念概念、意味や現象がどうだのと、呆れて我は物も言えぬわ。 それで貴様ら、卵を立てた気にでもなっておるのか」

 「ウィルスの力? 人を殺さねば自我を保てぬ? 能力の相性? 馬鹿臭い。力を使う際の危険要素? 阿呆か貴様ら」

 「質量の桁が違えば相性などに意味はなく、使用に危険を伴う力なぞは単なる使えぬ欠陥品だ。 少し考えれば稚児であろうと分かることを、己の矮小さを正当化すためにみっともなく誤魔化しておる」

 「やりよう次第で、弱者であっても強者を斃せるとでも言うように。そのほうが、さも高尚な戦であるかのように演出して悦に入る 嘆かわしい。くだらない。なんと女々しい。男の王道とは程遠い。」

 「絶望が足りぬ。怒りが足りぬ。強さにかける想いが純粋に雑魚なのよ。 貴様らのごとき、小理屈をこねる輩が横溢するようになって以来、圧倒的というものがとんと見当たらなくなってしまった。 故に我が生まれ、天を握った。徹頭徹尾最強無敵。誰であろうと滅尽滅相!!」

 「力、ただ力!この不愉快な塵めらを跡形残らず消し飛ばす力が欲しい。 我のカラダは我だけのものであろうがよ!」






 圧倒的な闇の波動が、全てを呑みこむ。

 外側における狂天狗の咆哮と連動するように、いや、本来はこちらが主体なのか、ディアーチェにかかる圧力は増大していく。

 「……あ、あぁ」

 そして、自我が完全に崩壊する、間際―――

 『王様!』
 『諦めないで下さい!』

 「おのれら……」

 今、本当にしなければならないことがなんなのか、ようやくここで思い出した。

 臣下を率いる王として、やるべきことは一つしかない、そして今こそが唯一にして最後で最大のチャンスなのだと。

 「あん?」

 今、●●はディアーチェを“異分子”と認め、それを屠るために力を使おうとしている。さらに、外においても分身が暴れ、その絶大なる力を行使している。

 これまで強大な闇に覆われ、底が見えなかった暗黒が、僅かながら薄まりつつある。

 もし、無限連関機構“エグザミア”が万全であればこんなことはあり得ない、だがまだ、彼女は生きているのだ。原初の紛れ込んだ異分子であり、●●に不快感を与え続ける彼女がいる限り、●●もまたシステムに縛られている。

 「見えたぞ……貴様の欠点が!」

 ディアーチェの力は大元へと還元されてしまったが、それはあくまで彼女だけの力。●●が彼女を“黒翼”だと言って時点で、齟齬は存在していた。

 彼女の翼の色は、赤と青。

 つまり●●は、シュテルとレヴィの存在を認識していない。

 自分の中に他者を許すことがない故に、ディアーチェの中に溶けた二人の存在に気付かなかった。

 ならばいける、どれだけ暗黒の力が強大であろうとも、この力には唯一の穴が存在している。
 
 「“俺に触るな、消えて無くなれ”、つまりは―――何もないところにやたら滅多ら撃てる力ではないということであろうが!」

 俺に触れるな、俺を独りにしろ。

 どれだけ強大であろうとも、“他者を認識しない限り”、その力は発動しない。

 だから今、己の力を全て失い、シュテルとレヴィの力のみで闇をかき分けるディアーチェを、●●は見失った。

 「そも、貴様が本当に全てを見通せるならば―――」

 “ソレ”にあるのは、不快感と滅尽滅相の意志のみ。

 「とうの昔に、ユーリを見つけておらねばおかしいのだ!」

 故に、全てを捉えながらも盲目。ナニカに触られている不快感のままに、“目に映ったもの”を全て壊すだけの存在故に、本当に見つけねばならないものを、見逃し続ける。

 触覚(レーダー)だけは異常発達し、不快感として敵の存在は捉えながら、力をぶつけるために敵の座標を索敵する“スコープ”は劣悪な、無差別破壊しか能がない、出来そこないの殺戮システム。

 それが―――

 「貴様の真実だ、欠陥プログラム!」

 そして、徐々に、彼女の姿が見えてくる。

 ディアーチェを求め続けた彼女、助けてと、救いの手を求め続けた彼女。

 ロード・ディアーチェの存在意義は―――

 「“我ら”が救ってやる、今そこにいくぞ、ユーリ・エーベルヴァイン」

 ユーリという少女を、この闇の底から救い出すことにあるのだから。

 そしてついに、その手が、彼女へ届いた。


 「…………あ」

 いったい何が起きたのか、彼女には分からない。

 極大の闇に呑まれ、ついに●●に見つかってしまって、磨り潰されるのを待つだけで、震えていた彼女。

 でも、誰かに抱きかかえられているのが分かる、とても、とても優しく、温かい腕に。

 忘れない、忘れるはずがない。

 元々いつも一緒で、4基そろって一つの存在で、ずっとずっと、求め続けたその手を。


 「―――ディアーチェ!」

 「ああ………ようやく会えたな、ユーリ」

 赤と青の翼が輝く。

 ようやくの再会に、二人もまた喜んでいるかのように。

 「シュテルに、レヴィ?」

 「おうとも、二人ともここにおるぞ、むしろ、奴らの力だけで今は進んでおる」

 温かな光と共に飛翔し、王は紫天の主を抱きしめる。


 「よいかユーリ………ぬ」

 ようやく見つけた“砕け得ぬ闇”の欠点を、唯一と呼べる破壊方法を語ろうとしたところ――

 見つけたあ! 見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたぁ!

 汚わいなる波動が、彼女らを追ってくる。

 完全に補足したわけではないのか、攻撃的波動は照準が定まっていないが、どの辺りにいるかの察しはついたらしい。


 「ここは我らが食い止める、ユーリ、お前はこれをあの子鴉とそのお供へ渡すのだ!」

 「これって……紫天の書!」

 「後はアレらが語ってくれそうぞ、よいな、お前が要だ、必ずや、あの下種を叩っ切れ!」

 「待って、待って下さい、ディアーチェ!」

 「少し熱いかもしれぬが我慢せよ―――ディザスターヒート!」

 そして、ユーリと紫天の書を外へ送り出すと共に。


 「我こそが闇統べる王ぞ、さあ来るがいい第六天! 貴様のカラダに亀裂を刻んでくれる! 往くぞ、シュテル、レヴィ!」
 『りょーかいィ!』
 『心得ました』

 自分達の勝利を確信しつつ、マテリアルは最後の行進を開始した。



あとがき
 波旬死ね×八百万
 それこそ、無量大数言っても飽き足らないくらいですね、はい。
 そんなこんなで、いよいよ次回最終決戦、ユーリを切り札に、最低の屑に止めを刺しましょう。


小ネタ
六条紅虫の太極、“随神相――神哭神威・無間逃走”

まず、強く感じた想いは、『恐怖』
ああ、怖い、恐ろしい、私は嫌だ、もうたくさんだ。それが、この者の起源である。
あんな人とも呼べぬ怪物に平伏し、隷属させられるなど、考えただけで気が狂いそうになる。
恐怖は狂念を呼び、神域に届く純粋さで、逃げたい、逃げたい、と、切に願う。
理想郷へ、逃げたかった。
総てから、逃げたかった。
その渇望は凡夫のそれ、形成位階でありながらも、真逆の創造を成し遂げ、太極へ至る。
星をも砕く神座まで強大化するのではなく、微粒子より小さく、何にも干渉せぬほど矮小、神座にすら認識されぬほど卑小な存在へと。
私は誰とも関わらない、あらゆるものに触れない、決して害にはならないから、どうかお願いだ、見逃してくれ。
不様を遙かに超越せし、神座すらも超えた命乞い、卑賤の極致。あらゆる理、滅尽滅相の第六天とまで唯一共存しうる、求道太極。

この求道神、この太極(ことわり)に咒(な)を付けるなら

逃走の紅蜘蛛―――形成逆転

真の姿、ここに得たり



[31169] 砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したそうです  流出
Name: 唯我曼荼羅―射干◆78c2728d ID:ee4ccd9f
Date: 2012/02/12 16:22
まえがき
 しょうもないパロネタでしたが、いよいよラストです。
 パロネタはなるべくセリフを変えないのが醍醐味、という天狗道的自己満足な信念の下、波旬のセリフは可能な限り原本のまま使用しています。

 なお、波旬を知らない人や、リリカルキャラをパロネタの被害者にするなど言語道断! と思う方はただちにブラウザバックすることをオススメします。如何なる精神的苦痛を味わられたとしても、『いいぞ、何を言っているのかさっぱり分からない』としかお返しできません。


ネタ 砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したそうです  流出



 「これは―――」
 「何が―――」

 “砕け得ぬ闇”の外側にて無限増殖する闇の欠片、射干たる細胞を前に劣勢を強いられていた状況に、大きな変化が訪れる。

 圧倒的な力を誇っていた狂天狗。歴代の闇の書の主の姿をとっていた中核が崩れ、吐き出されるように一人の少女が出てくる。

 それに伴い、周囲の欠片も霧散し、闇の書の闇の終焉をなぞるかのように、巨大な漆黒の球体へと纏まっていく。


 「システムU-D! 無事やったんか!」
 「良かった、彼女が無事ならば、まだ、飲みこまれた守護騎士達やマテリアル達を助け出すことも」
 「夜天の主、管制人格、どうか、わたしの話を聞いて下さい!」

 ついに、紫天と夜天が交わる時がきた。

 失ったものは多く、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、シュテル、レヴィ、ディアーチェの7名は内部に呑まれ、ロッテ、アリア、トーマらも戦闘不能に追い込まれている。

 元々空戦が得意ではないヴィヴィオやアインハルトも致命傷を負う前にアースラに移送され、この場に残っているのは、なのは、ユーノ、フェイト、アルフ、はやて、リインフォース、クロノだけ。

 奇しくも、闇の書の闇との最終決戦に参加したメンバーのみが残った形だ。


 「“砕け得ぬ闇”の中枢、防衛プログラムは暴走していますが、まだ完成してはいません。私の本体が内部にいる以上、どうしても外側に出せる力には限界があります」

 正確に言えば、出した力を誰にぶつければよいのかが分からない。

 無限連関機構エグザミアから無量大数に届く力を引き出そうとも、それを敵にぶつけられないのであれば、何の意味もない。

 「ただ、このまま放っておけば自分以外のもの総て、世界そのものに攻撃を開始するでしょう。そうなれば………」

 「どうなるんや?」

 「この星、いえ、宇宙を総て飲み込むまで無限に闇が広がっていきます。そして、邪魔なモノを総て消し潰して、誰もいなくなった次元世界に彼だけが永遠に揺蕩うことに」

 その言葉に、全員が頭を抱えるような顔をするが、状況から考えて予測できたことでもあった。

 「そんなん、絶対アカン」

 「全くの同意だな、しかし、ジュエルシードといいこれといい、ロストロギアのもたらす破壊はどうしていつも次元世界を破壊するほどの規模になるのだろうな」

 執務官として、これまでロストロギア事件に関わってきたが、流石に溜息しか出てこない。

 だが、やるしかない。次元世界を安定を維持するための管理局は、常にそんな綱渡りを繰り返してきた。今更と言えば今更だ。

 「それで、止めるための方法は?」

 「えっと、わたしにもまだ良く分からないんですけど、この紫天の書を貴女達に渡してくれと、ディアーチェが………」

 暗く深い闇の底で、ユーリを逃がすために戦った闇統べる王、ロード・ディアーチェ。

 彼女の紫天の書は、システムU-Dを制御するための端末であり、本来力の塊である彼女を導くためのもの。

 そして、あの“砕け得ぬ闇”が、夜天の魔導書の防衛プログラムと無限連関機構エグザミアが融合し、暴走しているものならば―――

 「でも、そのためには彼の本体が放ってくるであろう力を、誰かが食い止めねばいけませんが―――」
 「まっかせて、ユーリちゃん!」
 「大丈夫だよ、わたしたちが守るから」
 「僕達も、協力するよ」
 「まあ、ここまで来たら当たり前の流れだよね」
 「当然、わたしらもいくで、強盗さんはぶっとばして、うちの子達を返してもらわんとな」
 「ええ、夜天の魔導書を闇へ堕とした根源は、ここで清算しましょう」

 答えるまでもないとばかりに、6人が応じ。

 「ということになったようだ、エイミィ、艦長に伝えておいてもらえるか?」
 「アイサー! ところでクロノ君、戦勝報告の書式はどうしよっか?」
 「まだ戦ってもいないのに勝った後のことを考えてどうする」
 「大丈夫、こんな失敗したら次元世界終了のお知らせみたいな事件は、そのくらいの気概でちょうどいいんだよ。それと、怪我人組は回収完了、今は治療室でお休み中」
 「すまないな」
 「いえいえ」
 「さて、それじゃあ―――」

 クロノ・ハラオウンが見知った6人ともう一人を見渡し。

 「相変わらずの綱渡りで、個人の技能頼みの作戦となってしまったが、そろそろ闇の書の因縁に付き合うのも飽きてきたところだ。過去の悲しみも何もかも、ここで終わらせよう」

 「うん!」
 「了解!」
 「わかった!」
 「おっけー!」
 「よっしゃ!」
 「ええっ!」
 「お願いしますっ!」







 そして―――今こそ彼らは、ここに最後の行進を開始する。

 魔法と出逢い、空へ憧れ、戦技教導官の夢を目指す少女。
 悲しい過去を胸に、自分のような子をこれ以上出さぬよう、誓いを掲げる少女。
 呪われた闇の書に選ばれ、その呪縛を解き放ち、守護騎士達と共に生きる少女。
 そんな彼女らを後方から支え、守っていくことを己に課した司書の少年。
 帰るべき場所を守り、いついかなる時も支えになることを誓う、狼の使い魔。
 遠くない未来に消え去る定めにありながら、主のために在り続ける祝福の風。
 未来へ羽ばたく彼女らの先達として、見守りながら導く、執務官の少年。
 闇から暁へと変わりゆく、紫色の天を織り成すもの、紫天の盟主たる少女


 それぞれがそれぞれの道を歩み、目指す夢と道のり、そこに抱いた想いをもって、一つの力と成すために。

 誰に強制されたわけでもない。彼ら全員が、全員のために選択した諸々が、この形へと収束した。それこそが勝利を呼び込む光となる。

 まず自分を強く持ち、だからこそ感じられる他者という存在。

 名前を呼んで、認め合い、友となっていくことで広がる輪。

 己は己でありながら、大きな輪の一つでもあると信じること。

 そんな子供でも分かる当たり前のことすら、この闇の深奥に座する者は知らない。


 己以外は塵芥。目障り、邪魔くさい、ゆえに消えよ―――滅尽滅相。


 そのふざけた自己愛理論を打倒するため、少年少女達はここに集った。

 その過程で、多くの過去と触れ合った。もう二度と逢えない筈の人との邂逅に、流した涙があった。

 それでも、残るものは涙だけではない。

 他者を認めず、排斥するだけではない。過去にしか幸せを見出せぬ女性ですら、最後に、娘に言葉を残したのだから。

 例えそれが、辛い否定の言葉であっても。

 紛れもなくフェイトという個人を認め、だから嫌いなのだと、忘れられない程に、貴女を想っているのだと。

 使い魔は、主と深い部分で繋がっている。

 ギル・グレアムの使い魔であるリーゼ姉妹が、彼の封じている闇の書への憎悪が反映されるように。

 リニスという使い魔には、プレシアという女性の封じている娘への愛情が反映されていた。

 だからこそ―――


 「見つけました、中枢です!」

 紫天の書の導きに従い、闇の中を突き進む彼らは、勝利を確信している。

 他者を排斥する憎悪のみが反映され、滅尽滅相の法による射干しか生れぬ筈の理ですら、それを打ち破るものがあると知っているから。

 「よおっし、なのはちゃん、フェイトちゃん、切り拓くで!」
 「おっけー! 全力全開!」
 「うん! 雷光一閃!」

 星の光
 雷の一閃
 終焉の笛

 桜色と金色と白色、三種の魔力光が咲き乱れ、3つの魔法陣より顕現する閃光が曙光の如く煌く。

 「スターライトブレイカー!」
 「プラズマザンバーブレイカー!」
 「ラグナロク!」

 放たれた三本の矢は一筋の光と化し、無明の闇を切り払う。

 ここに、最後の戦いを迎えるため、超深奥の座へと到達した。










 【ああうるさい】

 【うるさいぞ、塵芥が何か分からぬことを囀っている】


 まず、何よりも目を引いたのは三つの瞳。

 万象を見通す最強の天眼でありながら、その実何も見ていない白濁した眼光だった。


 【ある日、気がついた時から不快だった】

 【何かが俺に触っている。常に離れることなくへばりついてなくならない】

 【何だこれは。身体が重い。動きにくいぞ消えてなくなれ】

 【俺はただ、一人になりたい。俺は俺で満ちているから、俺以外のものは要らない】


 陰々と、独り言のように垂れ流す言葉が全てを物語っている。

 光が翳る。闇が版図を広げていく。

 その術理には排除と殺戮のみしかなく、夜天の魔導書を飲みこむことで得た機能、蒐集されるページ、その総体に抱え込んだあらゆる要素を、己に纏わりつく不快な塵としか思っていない。


 【なのに、ああ、なぜなんだ。ようやく見つけたそいつらを、消し潰したのに不快感がなくなるどころか増していく】

 【俺の中で塵が満ちる。奴らが持っていた塵屑が、俺に纏わりついて離れない】

 【要らない。要らない。俺はこんなモノなど望んじゃない】

 【俺以外、消えてなくなれ。宇宙には俺だけ在ればいい】

 【塵同士喰らい合って、綺麗さっぱり無くなれよォ】



 「貴方は、哀れな人です」

 「貴方にだって、愛してくれる誰かがいたはずなのに」

 他者を見ず、ひたすらに呪を紡ぐ“ソレ”に対し、強く心を持って少女が決別する。

 これに縋りついて生き続けるのは、これでおしまい。

 「貴方の暴走は、もう終わりです! わたしたちは―――朝日と共に生きると決めたんですから!」


 【――――ああ、そうだ、お前だ、お前なんだ】

 【見つけたあ! 見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたぁ!】

 【汚らわしいんだよ畸形どもめらァッ! 俺にへばりついた成りそこないのくせによぉッ!】

 【滅尽滅相―――!】

 【逃がさねえ、許さねえ! てめえだけはこの俺が、引き毟って滓も残さずばら撒いてやらァッ!】



 「行くよ、フェイトちゃん!」
 「うん、なのは!」

 先陣を切るは、星と雷。

 ここにいる7人の中で最も空戦能力に長けた二人が、闇の中枢を前に怯むことなく切り込んでいく。

 不屈のエースオブエース、高町なのは ――――― 魔導師の杖が星の光を紡いでいく。

 心優しき金色の閃光、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン ――――― 閃光の戦斧が、雷神の刃を形成する。


 「バルディッシュ、リミットブレイク、ライオットブレード!」

 そして、二人同時に切りこんだならば、速度で勝る彼女の攻撃が先に到達するのは自明の理。

 フルドライブのザンバーモードの進化形、未完成のライオットブレードを展開し、圧縮魔力刃で切り裂く。魔法の師リニスが遺した、フェイト・テスタロッサのための魔導戦技の完成形の雛型が、ここに示される。

 「撃ち抜け、雷神! ジェット、ザンバァァァァァァァ!!」

 雷光一閃。

 滾る裂帛の気合いが、魔力結合レベルで切り裂く無謬の切断現象として放たれる。

 狙いは違わず命中、それと同時に無限連関機構エグザミアの光が一気に翳る。

 間違いなく、今ので削られたはずだと、この場の全員が確信し―――


 【くくく、うはははは、あははははははははははははははははははははははぁぁ!!!】

 【踏み出す一歩、繰り出す一閃。そうだよ、いつだって………わたしたちは、一人じゃない!】

 【疾風迅雷、ジェット・ザンバー―――――あはははははァ! なんだそりゃあ、ナマクラかァ!!】


 だが、帰ってきのは哄笑のみ。

 無限連関機構エグザミアは確かに削られているはずだが、垢が一つ溢れた程度で何を騒ぐ必要がある、むしろ余分なものを落としてくれてせいせいする、と言わんばかりに狂天狗の嗤いは止まらない。


 【温いぜぇ、てめえが切ってきたのはなんだ? 滓かァ? あのなんとかいう腐れ売女程度か】

 【やっぱりあなたは、アリシアの偽物よ。せっかくあげたアリシアの記憶も、あなたじゃ駄目だった】

 【アリシアを蘇らせるまでの間に、私が慰みに使うだけのお人形。だからあなたはもういらないわ。どこへなりと……消えなさい!!】

 【人形の剣だな、芯がない。うわははははははははははははははははははは!!!】


 「くっ――」

 その嘲りは、フェイト・テスタロッサの魂を根本から貶める呪いに他ならない。聞き流すことなど出来る筈もなかった。

 「―――貴様ァァァ!!」

 激昂したフェイトが二撃、三撃を続けて放つ。

 乱れ舞う剣閃に重なる形で、自らの親友を侮辱された星の砲撃も猛り狂う。


 「エクセリオンバスター、フォースバースト! リミットブレイク、ブラスターモード!」

 未だ完成の域ではない、リミットブレイク。

 だが構わない。一番の親友を侮辱されて怒らない精神など、高町なのはは有してはいないのだから。

 「ブレイク、シューーーーーーッット!!!」

 自己の限界を超えたブースト機能を最大に発揮し、渾身の砲撃が叩き込まれる。

 だが―――


 【我、使命を受けし者なり。契約の下、その力を解き放て。風は空に、星は天に。そして、不屈の心はこの胸に、この手に魔法を! リリカルマジカルぅ!】

 【エクセリオン・バスターーー――――透けてんだよォ、周りのカスを集めた霧が効くか阿保がァ!】

 【これだから、ガキはつまらん】


 返ってくるのは、やはり醜悪極まる嗤いのみ。

 まるで痛痒など感じぬままに、最低最悪の邪念はとどまることがない。


 【名前を呼んで、最初はそれだけでいいの、魔法の言葉はリリカルマジカルぅ――――はあぁぁ?】

 【痴呆かお前、そのノリと格好を大人になるまで続けてくのか? せいぜいが馬鹿女丸出しってとこだろうがなぁ、頭湧いたそこの痴女とはお似合いだなぁ、うわはははははははははははははははははは!!!】


 「――――ッ!」

 「呑まれるな。アレは下種だ、聞き流せ!」

 さらに激発しかけるなのはを抑えたのは、リインフォース。

 最も長く暴走プログラムと戦い、今はかつての力の残滓程度しか残っていない彼女が、冷静に敵を見据えている。



 【よぉ、カッコいいなあ、祝福の風】

 【強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール】

 【俺の糞が俺の糞食って不味がってんなよ。今は幼女の小便で生きてんのか? てめえとんだアレだな、ああなんだ】

 【あぁぁあぁ、―――変態だ】

 【くはははははははははははははははははははははははははは――――】



 「二人とも、分かったろう、アレが防衛プログラムのなれの果てだ。下種の極みだが、歴代の闇の書の主の誰もが比較にならぬほど、強い。そして奴は、夜天の魔導書の総てを使う」

 「総てって、まさか……」

 「はい、我が主。アレは夜天の魔導書に連なる全てを呑んでいます。アレにとっては既に消し去った残影でしょうが、記憶として使ってくるでしょう」

 塵として、捨て去るべき滓として、糞便を投げつけるように使ってくる。

 その総体が空になるまで、蓮台に座すのが真に己一人になる瞬間まで。


 「既に我々は、奴の体内に入っています。そして、体内に侵入された場合、それを迎撃する役を担うのは本来防衛プログラムではなく」

 「夜天の守護騎士」

 「はい、そして、紫天の主を守るべくある3基のマテリアル達。それら全てを失えば、奴は全てのシステムのしがらみから解き放たれるわけです」

 唯一人になりたいがために、そうせずにはいられない。

 そしてそれは、あらゆるリソースを独占し、無限連関機構によって無量大数の魔力を振るう最強への回帰を意味するが、ここに例外が一人だけいる。

 防衛プログラムがリソースを独占しようとする、その根本に関わる存在が。

 彼女を相手にした場合だけは、敵の侵入を許したと感知することが出来ない。防衛プログラムには、自己を検索する機能も、自傷する機能もありはしないのだ。


 「ユーリ、奴自身と対峙できるのはお前だけだ、分かっているな」

 「はい」

 「皆、そのために刺し違える覚悟を!」

 「分かりました!」
 「当然!」
 「守りきって見せます」
 「当り前だよ、やらなきゃね」
 「もち、皆、あそこにおるんや」
 「ああ、言われるまでもないな」

 そして、クロノの指揮の下、これから来るだろう攻勢を凌ぐための布陣へと切り替える。

 その中で、夜天の主が常にある点を睨みつけている。

 主座を中心に、8つの座が取り囲む構図。

 そこにいるのだ。

 「わたしの家族を、返してもらうで」

 彼女が返してもらわねばならない、愛すべき家族達が。



 【家族? 家族だと? なんだこいつらが気になるのか?】

 【俺では不足? あぁそうかもな。俺も嫌だぜ、てめえらみたいな塵にかかずらう羽目になるなら、永劫ただ一人でいい】

 【ならばよし、どの屑がいい? 選ばせてやる】

 【烈火の将、紅の鉄騎、風の癒し手、蒼き狼、星光の殲滅者、雷刃の襲撃者、闇統べる王】

 【どいつも指の一本程度で消し潰せるような雑魚だがなァ!】


 中央の真上、赤紫に輝く魔力光が、烈火の如く燃え盛る。

 夜天の守護騎士、ヴォルケンリッターの将であり、総合的な戦闘能力ならば4人の中でも随一であろう剣の騎士。



 【まず感じたものは悲嘆。騎士達を率いて幾星霜、我らは誰に仕え誰がために何を成す】

 【無限に等しい放浪の日々、騎士の誉れもなきままに、ただ剣を振るうのみ】

 【ああ、なぜだ。我らの誇りは何処へ消えた。この剣、最強の一撃は誰に放つためにある】

 【刃を交えし好敵手よ、御身との再戦を我は願う、いつか互いに万全に雌雄の決する時を夢見て】

 【受けてみろテスタロッサ! シュツルムファルケン!】


 「シグナム!」

 放たれしは、音速を超える最強の一矢。

 「く、ああああああああああああああああああああああああ!!!」

 その標的は、彼女がライバルと認める少女。閃光の戦斧が全力を以て迎撃するが、元より、純粋な破壊力においては烈火の将が数段勝るのは厳然たる事実。

 加え―――


 【剣閃列火――――火竜一閃!】


 投げ捨てられるだけの破壊は、術者の身体の負担などを考えない。

 ボーゲンフォルムから即座にシュランゲフォルムへと切り替え、炎熱変換を最大限に発揮する広範囲攻撃、烈火の将のもつもう一つの究極の一撃が放たれる。

 「フェイトォォォォォ!!」

 7人全員を襲わんとする火砕流の如き波動を受け止めるアルフ。

 シュツルムファルケンの破壊を受け止めるフェイトにダメージが及ばぬよう、全ての力をバリア展開に注ぐ。

 「プラズマザンバー、ブレイカーーーーーーーー!!」
 「絶対に、通すもんかよおおおおおおおおおおおお!!」

 果たして、火炎地獄は消え去り。

 「これで後は」
 「任せたよ、皆―――」

 役目を終えた彼女らは、静かに退場していった。


 【まず感じたものは諦観。求めしものは、未知の主】

 【何も見えない、聞こえない、安らぎを得ても、主のきまぐれで全てが奪われる】

 【全部嫌いだ、いつまであたし達は苦しまなきゃいけない、いつになったら、この夜は終わる】

 【なぜ、この鉄鎚を優しい主のために振るえないんだ。待っているのは積み上げられた屍の山だけ】

 【もう嫌だ――――全部、何もかも、ぶっ潰れろ!】


 「ヴィータちゃん!」

 顕現する巨大な鉄鎚、ギガントシュラーク。

 守護騎士の中では最もバランスに優れると同時に、一撃の破壊力も烈火の将に劣らぬ強さを持つ紅の鉄騎。

 「プロテクション、パワード!」

 翠色の防御壁と桜色の砲撃が、迫る猛威を押し返す。

 だが、2対1でなおも拮抗するその力、こと、叩き潰すことに関してならば、彼女の右に出るものはいない。

 「全力……全開!」
 「いけぇ、なのは!」

 ユーノが防ぎ、なのはが撃つ。単純故に凶悪極まりない組み合わせ。

 「スターライトブレイカーーーーーー!」

 そのコンビネーションはいかんなく発揮され、二つ目の欠片が消え去っていく。

 「シグナムさんはフェイトちゃんとアルフさんが止めてくれた、わたしたちも一緒に行こう、ヴィータちゃん」

 全ての力を使いきった少女は微笑みながら、赤い光の残滓を抱きしめる。

 孤独に苦しみ、彷徨い続けた少女を労わるよう、その名前を呼びながら退場していった。



 【まず感じたものは礼賛。求めしものは、王の証】

 【我は臣下と共に覇道を往く、闇統べる王たるこの身に不可能などありはしない】

 【だが、なぜだ、我は自らの力で己を維持することすら叶わぬ】

 【邪魔をするか、子鴉に残骸めが、お主らを潰せば、我は真なる自由を手にすることが出来るのだ】

 【我が魔導にて滅びるがいい―――ジャガーノート!】


 極大の魔力砲。恐らく、存在する7柱の中では最大の魔力を有するであろう攻撃。

 磁石が引き合うかのように、闇統べる王の攻撃は夜天の主へと迫りゆく。

 「いけない、我が主!」
 「リインフォース!」

 それを止めるは、祝福の風。

 例え残滓に過ぎぬ力であろうとも、この身は全て主のために。

 「今です、この力を押し返せるのは貴女と私しかいません!」
 「―――っ、分かった! 響け、終焉の笛」

 彼女の言葉を受け、はやては最大の魔力砲の準備を進める共に歩みよっていく。

 「ラグナロク!」
 「ユニゾン・イン!」

 白光が輝き、ジャガーノートの破壊を拮抗すると共に、主と融合騎が最強の姿を取る。

 「「 夜天の祝福―――今、ここに! 」」

 上方から降り注ぐ雷が、拮抗していた力場をまとめて消し飛ばす。

 無論のこと二人もまた例外ではないが、黒翼が互いを繋ぐように、闇統べる王と夜天の主もまた祝福の風に運ばれていった。




 【くふ、ふはは、ははははははははははははははは――――】

 【いいな、いいぞおまえたち。役に立つな、塵掃除の才能がある】

 【必死に気張って、次から次へと勝手になにやら満足しつつ一緒に消えてくれるのか。いい子だねえ、嬉しいぞ。俺が純化されていく、ああ、なんてすがすがしい気分何だ】

 【その調子で、塵屑同士喰らいあえよ。他にお前達が行く場所なんて、俺の身体のどこにもない】


 「いいえ、分かっていないのは貴方です」

 その瞬間、主座の内部から、一筋の光が走った。


 『今度は、悪夢や悲しい夢ではなく……せめて、優しい夢を見られるように……』
 『綺麗で温かなものは、みんな過去にある、そう………私は、いつだって』
 『ねえ、プレシア……私はやっぱり、幸せでしたよ………?』
 『私は……』


 瞬間、その言葉によって風の癒し手と盾の守護獣が砕け散った。

 元来が攻勢ではなく、原初の戦いにおいても守り続けた二人だからこそ。

 そして、何よりも大きな効果は―――


 【……あァ?】

 【なんだこりゃ? 亀裂が、俺、にも……】


 防衛プログラムから生まれた闇の欠片であるはずの存在が、プログラムの法則から外れたこと。

 どれだけ滅尽滅相の法則を誇ろうと、その原初は1と0の羅列に過ぎない。あり得る筈のないエラーは、致命傷となってプログラム全体に亀裂を刻む。


 【俺の、身体が、おお、おお、おおおおおおおおおおおおおぉぉぉォォ!!】

 【俺の、俺の身体に何しやがったてめえええええええぇァッ!】


 「貴様はもう、完全無欠ではなくなったということだ」

 ジュエルシードにまつわる事件、その担当の執務官でありフェイト・テスタロッサの兄となった少年が、氷結の杖デュランダルを向けつつ宣言する。

 「例えそれが全体の欠片の数からみればどれだけ小さなものであっても、既に“砕け得ぬ闇”はお前だけのものではなくなっている。その証拠に、お前から生じたはずの彼女らは、フェイトに言葉を残していったのだから」


 【ぎ、が、あぐ、おおおぉぉ……】


 「勝つのは僕達だ―――滅びろ、闇の中枢よ! 貴様は一人で、誰の力も借りられない!」

 ブレイズキャノンが放たれ、青い砲撃が真っ直ぐに中枢めがけて突き進む。


 【集え、明星。全てを焼き尽くす焔となれ! ディザスターヒート!】


 苦痛に喘ぐ中枢が迫りくる魔力弾を咄嗟に弾くべく、残る欠片を開放。

 紅蓮の炎が、青い魔力の塊を瞬く間に飲み込んでいく。


 「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ」

 だが、これこそが待っていた好機。

 星光の殲滅者シュテルの攻撃ならば、最も相性の良い防御手段が存在しているのだ。

 「凍てつけ! エターナルコフィン!」


 【あん……だと………】


 放たれた轟炎は全て凍てつき、逆にクロノとユーリを守る盾となる。

 シグナムのシュツルムファルケンや連結刃を伴う火竜一閃ならば不可能であったが、同じ炎熱変換の属性であっても、シュテルの攻撃は魔力が直接変化するタイプ。

 そして、クロノ・ハラオウンのデュランダルは“闇の書を永久封印するため”に専用に作られたストレージデバイス。彼の攻撃のみは、この空間において長期間効果を保ち続けるという特性を持っている。



 【まず感じたものは慈愛。求めしものは、永遠の絆】

 【私たちに望むものは何もない、ただ、あの子を支えられる存在でありたい】

 【そうだ、だから僕は刃となり、君は盾となって王様の力になって、あの子を迎えにいこう】

 【僕達は3人で一つ、そして、想いは私と貴女は同じであるのですから、迷うことなど何もない】

 【いざ、シュテるんと僕は二人で一つの技を!―――雷刃滅殺極光斬!】


 絆というものを大事にし、常に同じ想いを抱いていた二人。

 それはまるで、彼女らのモデルとなった少女らも、互いに強く想い合っていることを示すように。

 その絆が今、冒涜的に歪められ、エターナルコフィンを放った直後のクロノへと襲いかかる。


 「チェーンバインド!」
 「ディレイドバインド!」

 それを凌ぐは、翠の鎖と水色の鎖によって編まれた網の目の如き防御陣。


 【………誰だ…………手前ら】


 「やっぱり、思った通りだね」
 「闇の書に蒐集されたなのはやフェイト。闇の書の夢の中に登場しているアルフ、夜天の主であるはやてに、管制人格のリインフォース」

 なのは、フェイト、はやてはマテリアルのモデルになっているほど今代の闇の書との縁が深く。フェイトの使い魔であるアルフや、管制人格のリインフォースもまた然り。

 だがしかし、ユーノ・スクライアとクロノ・ハラオウン、この2名は闇の書との直接的な接触が極めて薄い。無論、闇の欠片として再構築されている以上、認識されていないわけではないが―――

 「欠片を全て失って、なおかつ亀裂の入った状態なら」
 「僕や君に対しては、盲目になるということだ」

 そして、敵に火竜一閃やジャガーノートという広範囲攻撃があることを知りながら、7人がばらけるでもなく、常に固まっていた最大の理由がこれである。

 闇統べる王、ロード・ディアーチェがもたらした、奴は索敵が著しく下手であるという情報。だからこそ、なのはがヴィータと共に退場した際、ユーノがどうなったかについて考えもしなかった。

 そもそも“ソレ”は、ユーノとクロノを認識してすらいなかったのだ。

 「とはいえこっちも満身創痍。これ以上は支えきれそうもないけど」
 「後ろに女の子がいるのに諦めたら、男失格だな」

 この二人もまた攻勢よりも守勢を得意とする。まして、女子達が根性を見せているというのに、ここで男が引ける筈もない。

 そして―――

 「これで―――7つ!」
 「後は中央の下種だけだ、それでぶっ飛ばしてやれ!」

 7つの欠片が全て砕け。

 場に残るのは、防衛プログラムの中枢と、ユーリ・エーベルヴァインのみ。




 【あぁ、あぁ、あぁ……】

 【つまらん。何の茶番だこれは】

 【結局のところ、他人だろう。そいつが何をして、何を言っても、己と何の関わりがある? なぜ他人の言動に影を受ける?】

 【知ったことではないだろう。そもそも視界に入っていることのほうが異常なんだ。己の中に別の何者かを住まわせて、なぜそれを喜べる? 邪魔臭いとは思わんのか?】


 「思いません。貴方には、この気持ちが分からないんですか?」


 【分からんね、分かろうとも思わない】

 【俺にあるのは、ただそれが不快だということだけだ。ああ、本当はそのココロすら煩わしい】

 【平穏、というやつなのか。俺はそれのみを求めている。永劫に、無限に広がりながら続いていく凪】

 【起伏は要らない。真っ平らでいいんだよ。色は一つ、混じるもの無し】


 「それが、自己愛」


 【そうだ。俺が俺を何より尊び、優先し、俺という世界を統べる王であること。俺の大事さに比べれば、他など目に入らない】

 【狂っているのは、お前達だ】

 【何故俺を一人にしない。なぜ俺に触れようとする。なぜお前達はいつもいつも―――】

 【なあ、お前がいたからその結論になったんだぜ。この俺にとって、忌むべき唯一、恥の記憶】

 【俺に他者という存在を叩きつけ、その影を烙印した原初のウィルスよ】

 【お前さえいなければ―――なんていう、何者にも影響されない単一機能だった俺に矛盾する傷を根源に刻みつけた】

 【それが不快なんだよ。許せないんだよ。搔き毟って真っ平らにしたいんだよ】


 「………私は、貴方が怖くて、でも羨ましかった」

 「けど、もう貴方を羨ましいとは思いません」

 「内に籠るしか出来なかったわたしを、ディアーチェが、シュテルが、レヴィが助け出してくれました」

 「貴方は、何も見えていない。どれだけ大きな力があっても、ずっと一人で何も見ようとしない、その瞳に何も映らない」


 【くは―――――】

 【くは、はははは、はははははははははははは!】

 【いいぞ、何を言っているのかさっぱりまったく分からない! 俺は俺として純化している】

 【もうお前の存在などに、煩わされたりはしないんだ。ああ、本当に待っていたんだよ、この時を】

 【さあ、それでは終わらせようか】

 【ああ、お前何だったかな? 知らないぞ。よく分からないものが目の前にいる。潰そうか】

 【そうすれば、もはやこの目に映り込むものは何もないんだ】


 無限連関機構エグザミアが鳴動し、唯我の意志に束ねられていく。

 今やあらゆる機能を失い、残っているのはそれ一つ。そして、一つになったときこそ最強となるのが最大の特徴でもあった。

 だが―――

 「わたしはユーリ、人として生まれた時の名を、ユーリ・エーベルヴァイン」

 彼女と相対する時は、その法則は当てはまらない。

 彼女こそが、その狂ったプログラム法則を産んだ、バグの根幹なのだから。

 だが同時にそれは、彼女自身には戦う力がないことを意味するが

 「セットアップ! プログラムカートリッジ、ロード!」

 決して、彼女は一人ではない。

 「レイジングハート、『ネーベルヴェルファー』。バルディッシュ、『ホルニッセ』。レヴァンティン『ヴィンベルヴィント』。グラーフアイゼン『ブルムベア』」

 シュテルとレヴィが託した、“砕け得ぬ闇”を止めるためのワクチンプログラム。

 「システムプログラム、S2U+デュランダル、『オストヴィント』。夜天の書+シュベルトクロイツ『ヴァッフェレントレーガー』。ドライブイグニッション!」

 これまでの戦いでぶつかっていった魔導師、騎士達。

 彼らの想い全て、デバイスを介して紫天の書へと集い、解き放たれる。

 「闇から暁へと変わりゆく紫色の天――――曙光の輝きよ!」


 【ぐッ―――】


 そしてそれが、防衛プログラムの最大の欠点。

 主となった人間や使い魔、守護騎士、マテリアル達を感じることは出来ても。

 彼らの持つデバイス、そこに託された想いを感じ取ることは出来なかった。


 「さようなら………どうか、貴方の望んでいた場所へ」
 

 【―――――】


 「そこの寂しさに気付けたなら、いつかまた会いましょう」


 【ふ、ふはは、はははは……】

 【大きな、お世話だ】

 【俺以外が無くならないなら、俺自身が無くなるまでだよ】

 【ああ、いいぞ素晴らしい……そこは無謬の平穏に満ちている】

 【今度こそ、今度こそお前たち、俺には絶対構うんじゃないぞ】


 そうして、最後まで憎々しい嘲笑を残しながら、闇の中枢は消えていった。

 永劫、永遠にどこまでも、真実一人になれる無を求めて……





 「ユーリーーーーーーー!!」
 「お見事でした」
 「よくぞあの下種をぶっ飛ばした、褒めてやる」

 待ち望んでいた声に、少女が背後を振り返る。

 「ディアーチェ! シュテル! レヴィ!」
 「無事、再構成かんりょー!」
 「随分とギリギリではありましたが」
 「だからこそ、最後の決め手をプログラムカートリッジにしたのであろうが、通常の攻撃では我らまで纏めて消えていたわ」
 「じゃあ、夜天の騎士の皆様も」
 「うん、向こうの主の傍で再構築してたよ」
 「もっとも、紅の鉄騎は損傷が酷かったとかで、なのはに文句を言ってましたが」
 「全力全開も時にはほどほどに、ということだ。だがまあ、何にせよこれで―――」

 周囲一帯を覆っていた、闇が晴れ。

 「朝日だ!」
 「ええ、とても綺麗です」
 「これも、うぬの手柄だぞ、誇るがいいユーリ」
 「あの、わたしはただ、皆さまからもらったカートリッジを使っただけのような……」

 少女達は、曙光と共に歩いていく。

 「きにしなーい、きにしなーい、とにかくお腹減ったー」
 「そうですね、まずはアースラの食堂へ」
 「おのれら、どこまでもマイペースだな」
 「ふふ、わたしも、何か食べてみたいです」

 例え、深い闇が全てを覆い尽くそうと。

 いつか必ず、朝日は昇るのだから。






あとがき
 ちょっと遅れましたが、ようやく流出いたしました。
 波旬死ね×無量大数
 は、毎度のこととして、よくまあここまで暴言ばかり吐けるものだと感心します、いやマジで。
 波旬の書もようやく撃滅され、海鳴市に平穏が戻りました。守護騎士やマテリアルもちゃんと戻り、大団円。
 のはずなのに、どうにも波旬がすっきりして退場するのが気に入りませんね、こう、【馬鹿なぁぁ!】的な感じで終わればスッとするんですけど、キャラ的にそうならないのが波旬クオリティというべきか。
 ともあれ、パロネタもこれにてお終いです。お付き合い頂いた方々、真にありがとうございました。



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