<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[30780] パワプロ9SS ~暁の軌跡~
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/13 17:16
はじめに。

拙作は表題の通り十年一昔なんて言葉が当て嵌まらんとしている実況パワフルプロ野球9を題材としており、そのヒロイン候補であった四条澄香がオリ主との思い出を淡々と物語ります。(2012.7.18 に発売十周年を迎えています)

なお、実在の地名及びプロ関連の人物名はモデルとしての登場であり、一部に原作と異なる点が有りますが、正にチラ裏(2012.1.4 その他板移設)と言うべき脳内設定ですので誤表記ではございません。また、演出の1つとして顔文字の使用が間々有ります。お目汚し失礼致しました。










 【 …ファールボールにはくれぐれもご注意下さい…ファールボールにはくれぐれもご注意下さい… 】










 ~暁の軌跡~ #1

俊足巧打。守備の名手。バント職人。一般的に二塁手とは大体こんなイメージではないだろうか?

強打のセカンドと問われた時に、貴方はどの選手を思い浮かべるだろうか?

東京都下の或る町に、足も守備も月並で、左投げなのに右打ちで、それでも私好みの原石が転がってたので追ってみた。

もしかしたら、おいおいコイツを忘れてないか?なぁんて言われるぐらいの男になるかもしれない、と。

【影山秀路著・フーテンスカウト回顧録より一部抜粋】



●┃┃
  ━━━  ●  ●  ●
●┃┃



「ちょっ、おまっー…捕ったァァァァァァァァァ?! 」 ∑( ゚ Д ゚ ;)

彼を初めて見たのは入部試験の時だった。

私の母校である暁大學附属学園高等部には、世間一般の私学と同様に広告塔としての付加価値を認められた硬式野球部が存在する。

その情熱たるやスポーツ特待生用の学生寮から夜間用照明付の専用グラウンド、果てはスポーツジム並のトレーニングルームを備えるまでに至る。その為、レギュラーの殆どはセレクションにて選ばれたエリート候補生の集まりであり、他県からの野球留学生も非常に多かった。

一般入試の生徒が入部を希望したとしても入部試験で徹底的に篩に掛けられ、千石監督のお眼鏡に適う人材がホンの一握りだけ、数合わせ程度に入部を許されるのみ。

補欠でも3年間楽しく野球をやりたい人間には、他校への入学を強くお勧めしておく。私はその数少ない一般入部生である兄との縁で、マネージャーとして入部していた。

「ストライク、バッターアウトっー…53番、不合格だ。次!」

強豪・暁大付属の門を叩くだけあって、グラウンドにはそれなりに自信のある人間達が集っていた筈だが、その年の試験は例年と比べても特に辛辣だった。

何しろ実技試験での対戦相手はAA世界野球選手権優勝投手で、打っても4番のスーパーヒーロー。

本人は駆け引きの欠片も無いデモンストレーション用の投球、なんて嘯いてはいたけれど、小気味好く三振の山を築くピッチングは傍で観るギャラリーを魅了する。

翻ってバッターボックスに立てばその豪打で、マウンド上と側らで見守る同級生達のプライドを、粉々に打ち砕いた。

「この男には、一生敵わない」

たった1打席でも、そう痛感するのには充分過ぎる経験。マスコミが勝手に貼り付けた“マウンドの貴公子”なるキャッチコピーは伊達じゃない。

私が球団スカウトなら身も心も故障ナシで卒業してくれれば御の字で、指導者も変な癖を付けさせずに基礎を固めてくれれば万々歳。名伯楽だと賞賛するし、ワシが育てたと吹聴しても咎め立てはしない。猪狩守とはそんな選手だった。

元々基礎能力とメンタル面を視るのが主で、打てる打てないはオマケ程度。だけど長打性の当たりを放ったのは彼が最初で最後で、良いトコロを見せようとダイビングキャッチに失敗した負傷退場者に代わり、急遽センターに入った八嶋中の美技は今も忘れない。

「ちくしょーめぇぇ!空気嫁ねェ中坊なんざ大っ嫌いだバーカァァァ凸 」

姓は十と書いてヨコタテ。名も十と書いてツナシ。実際にフルネームを知ったのはもっと先の話だったが、実に変わった名前なので憶え易かった。

特に大きくも小さくも無い平均的な身長で、痩身でもアンコ型でも筋肉質でも無い。坊主頭に体操着の後ろ姿は他の入部希望者と全く見分けが付かず、中肉中背とは?の答えに打って付けの体格。

ただ、見るに堪えない不格好なバッティングフォームでセンターライナーを放つと一目散に1塁ベースを掛け抜け、セカンドに到達した辺りで悔しそうに叫ぶ姿が強く印象に残っている。

――89番、合格。

ごく平凡な成績ながら監督の琴線に触れた彼は一般入部生1番乗りを果たすと、アッと言う間に2軍メンバーでも中心的存在へと登り詰めて行った。

入部試験の結果が示す通り、特段身体能力がズバ抜けている訳では無い。誰もが舌を巻くほど真摯に野球と向き合ってる訳でも無い。非科学的な表現になるけれど、人蕩しと言うか、神懸かり的に要領が良い。誰とでも時を措かずスグ打ち解けてしまうのだ。

「やぁ、今日もキャッチボールかい?それともノックがご所望かな?」
「押忍!ごっつぁんですキャプテン!!」

「行くぞヨコタ、今日は神社で階段ダッシュだ!」
「サー!イエッサー!」

「…zzz」
「‥‥‥(ウホッ!精神力みwなwぎwっwてwきwたwww )」

具体例を挙げれば先輩後輩関係無しに誰もが煙たがる五十嵐権三とは1軍2軍の垣根を越えて師弟みたいな間柄になっているし、いつも飄々として捉えドコロの無い九十九宇宙からも妙に気に入られてサボリ(本人曰く精神修行)仲間になっている。

周囲の評価はおのずと千石監督の耳にも届き、一般入部者としては異例となる5月末の1軍昇格試験に参加が許されると、アッサリと結果を出して見せた。

それも、監督自身と周囲を納得させる為に送り出された難攻不落のエース・一之瀬塔哉(本名:一般的に広く知られる塔矢は登録名)を相手にしての話だ。

何故?抜群の制球力でコースを突く140km/h超の直球と、多彩な変化球で幻惑する投球術は初見の新入部員が易々と攻略出来る相手では無い。秋には競合必至、特Aランクの大型左腕なのだ。

「オレ、左キラーだし。対左◎みたいな?」

折を見て本人に聞いても不可解な回答しか得られなかった。

感覚的に左投手の方が得意だと言いたかったのかも知れないが、もしかしたら陰で試合VTRを入手し、秘密裏に調査を…何を馬鹿な。仮に昇降システムの内容を知っていたところで、その為だけに自軍のエースを研究して何になる?

通常であれば一般入部の彼が1軍昇格試験のチャンスを掴めるのは早くても3年生の引退後。結果云々より十十の名が呼ばれた事、それ自体がサプライズなのだ。

「1勝1敗だッ、入部試験の時はボクの勝ちだ!」
「ハハっワロス。お前ん中じゃアレも打ち取った内に入るんでちゅかー?」

不意に懐旧の念に駆られた私は暁大付属野球部史上、最も破天荒な時代をつらつらと追懐してみた。



[30780] #2
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/13 18:39
「そ、そんなのインチキ!詐欺じゃないのッ」 「ぇー ( ´・ω ・) 」

十十に接触を試みた最大の理由は、初めて見た時から気になって仕方のない不格好なスイング――野球ゲームでクラウチングなどと形容される、上半身を屈めて極端に頭を突っ込んだ、外国人選手特有のバッティングフォームのせいだった。

もし彼が三本松一のように190センチ超の巨漢であったり、七井アレフトみたいにコーカソイド(白色人種と意訳)とのハーフであったりと恵まれた体躯の持ち主であれば、4番タイプとしての成長を期待して多少の欠陥には目を瞑ろう。

でも、違う。そうでは無い。

背筋群もリストも二の腕も、骨格がスラッガーと呼ばれる人間のソレには当て嵌まらない。そんな彼が猪狩守の豪速球をフェンス際まで運べたのは、ひとえに金属バットの恩恵があってこそだろう。

今でも歴代最強と謳われる暁ナンバーズ。

猪狩世代とまで呼ばれる当たり年の象徴、猪狩守。

その2つの世代が同時に目の前にいたのだから、私の趣味の1つである選手観察は、彼らだけでも十二分に満たされていた筈。

それなのに観察だけでなく育成の真似事もしてみたかった当時の私は、何を血迷ったのか十十を取り組み甲斐のありそうなサンプルだと判断した。

誰よりボールを速く、遠くに運ぶ膂力。自分の脇を擦り抜けんとする白球を捕える、瞬発力・敏捷性・スポーツビジョン――超一流と呼ばれるアスリート達が持って生まれた天賦の才。

それが無いのなら、せめて彼らと同等以上に努力して技術を磨く。誰もが及ばない程の知識を蓄え、頭を使う。バントでも代走でも守備固めでもソツなくこなす、ユーティリティプレイヤーになればいい。

要はどれだけ効率良く経験を積み重ねられるかである、とは兄の弁。だから兄は、もしもの時のスーパーサブとして野手の全ポジションをこなす事が出来る。

草野球程度ならまだしも、甲子園出場が手に届く名門校でレギュラーを目指すのなら、それ相応の身の振り方を考えるべきなのだ、と。

「もし、もしも私の納得の行くスイングが出来たら―」

噴飯物の補足にはなるが、性格やプロポーションはともかく、私の見てくれは満更でもなかったと自負している。

事実、学園祭では他校の生徒や自称OBの大学生にナンパされた事もあるし、野球部のマネージャーとして紅一点の存在であった環境も手伝って、3年の間にアプローチを仕掛けて来る部員は先輩後輩の中にも少なからず存在していた。

彼の言動から察するに堅物とは程遠い存在に見受けられたし、女っ気の無い高校球児を釣るぐらい自分にも容易い。そう踏んだ私は彼のフォームを散々貶しめた上で、自分とのデートを餌にフォーム矯正を画策したのだ。

飴と鞭を使うにしても何とも稚拙で露骨なやり方で、若気の至りにも程がある。もしも過去に戻れるのであれば首根っこを引っ掴んででも押し止め、何を考えているのかと小1時間は問い詰めてやりたい。

とりあえず自分の頭で考えさせ、可能な限り足掻かせようと1週間の猶予を与えたのだが――そんな小賢しい目論見を嘲笑うかの如く、十十はその翌日に満点回答を叩き出し、私の度肝を抜いたのだ。

「ねぇねぇ今どんなキモチ?昨日散々っぱら m9(^Д^)したばっかの奴に想定外の実力見せ付けられてイマどんな気持ち?」

――何故?どうして?

狼狽し、正常な判断を下せない状態にあった私に、十十は自身の約2年半に及ぶ野球人生をチップとした大胆なレイズを仕掛けた。自分が負ければ野球部を引退するまで私のモルモットになる、と言い放ったのだ。

彼の作るポーカー・ハンドと、私が支払うチップは全部で3通り。

1つ目は猪狩守と同じかそれよりも早く1軍昇格を果たす。実現したら指定のシチュエーションでのデート。

2つ目は1軍昇格後、直近の大会でベンチ入りを果たす。実現したらその年のクリスマス・イブまで月1回、先述の条件でデート。途中で2軍落ちしたら無効。

3つ目は公式戦でHRを打ったら、チームメイトが居る前で祝福のキスをする。地方大会であれば時と場所、キスする部位は私の指定。甲子園であれば彼の好きな時に…舌と舌を絡めて。

そして、嫌ならデートなんかしなくても良いからワンコ座りで“出来ません、お許し下さい御主人様”と媚びてみろ。それも出来ないのなら自分にはもう2度と話し掛けるな、とも。

暁大付属の選手層を鑑みれば野手である彼にはどれも実現不可能な内容ばかりに思えたし、信条的に自らのビッドにより始まったゲームをドロップするのは嫌だった。この男に屈する事自体が物凄く嫌だった。

「交渉成立ゥ。んじゃ、ネタバレ行きまーす」 「えっ」

――迂闊。

目の前で披露されたフラミンゴ打法の美しさに驚愕し、型だけじゃ何だからと開始したバッティング練習に見惚れるだけに終始した自分の愚かさが恨めしい。

どうして気付かなかったのか?詐欺だ無効だと抗議する私に彼は悪徳業者さながらにのらりくらりと詭弁を弄す。

「んー?確かデートの条件はお前さんが納得するスイングが出来れば良かった筈だょ?右打ち限定でどうにかしなきゃダメ!なんて約束はしてないょ?サービスでちゃんと打てるトコまで証明したったのに、何が不服なん?」

スイッチヒッターが云々なんて話をしてる訳じゃない、論点を逸らすな。アナタの回答は、こちらの主旨をまるっきり無視しているじゃないか!

そんな私の憤りを彼のブラフが遮った。今でもあのバッティングセンター前を通ると背筋がゾクゾクする。

「んじゃ、右でも同じ水準に出来たらナニしてくれる?弾道が4になるまで特訓に付き合ってくれるんだったら、仕切り直しでもおk」

「くっ‥‥‥もぉいいわよ!あの鼻持ちならない高慢ちきの天狗鼻がヘシ折られるのも一興だし、アナタの化けの皮が剥がれるのならソレで充分だし、どっちも楽しみにしてるんだからっ」

「うへぇ、サドっ気タップリだねー…だがそれがイイ」Σd(゚∀゚d)

一筋縄ではいかない曲者に魅入られて、私は今でも自分が幸せだったのか不幸だったのか良く判らない。

彼に出会わなければ、構わなければ、多分、今とはもう少し違った人生を歩んでいただろう――ただ救いなのは、さほど悪くも無かったと言える事だ。

後に十十が私と2人3脚で完成させた打撃フォームと吹聴し一悶着起こるのだが、それはまた別の機会に。



[30780] #3
Name: 兼久◆6d77000d ID:e5bcd6af
Date: 2013/05/25 01:52
2世代前と同程度。これが猪狩世代入部時に千石監督が下した、彼らへの評価だった。

つまり、一ノ瀬塔哉を除けば軒並み小粒だった3年生らと特段代わり映えがせず、後は指導者の腕の見せ所であったと言うべきか。

チームの完成度は当時の段階で既に芸術の域まで達そうとしていて、むしろ野手レギュラー陣が揃って最高学年となる、翌年にこそ円熟期が控えている。順当に成長してくれるのならば、後は適時軌道修正すれば良いだけ。

指導者としては、さぞ僥倖な日々を送っていたことでしょうね?

名将・千石忠は厳粛な指導をする反面、案に相違して画一的な選手育成より、一芸特化のスペシャリストを好む節が多々見受けられた。

だからこそ十十みたいな選手が一塁や外野に固定されずに喃々と野球を出来た訳なのだが、あの頃の話をすると決まって“俺みたいな器用貧乏が一番苦労したんだよなぁ~”などと兄がボヤくのだ。

こうした状況の中、甲子園優勝を目指す一方で千石監督の目は既に2年後――後釜として充分計算出来る、猪狩守を柱としたチーム作りへと向けられている。

僅か2ヶ月足らずの在籍で2軍の星として送り出された十十の1軍昇格には、こうした事情も少なからず介在していたのであろう。ライバルとして、相棒として切磋琢磨する人材を求めての青田買い。ただ、指揮官の期待した化学反応は片方にだけ劇的に作用した。

本来ならば1軍昇格が許された唯一無二の新入部員。中学時代に築き上げた輝かしい実績は幾許の陰りも無く、評判通りの実力を見せ付け、親がどうのと陰口を叩く隙なぞ微塵も与えない。

それなのに、自分よりも遥かに劣る存在が対等の立場にいる。有り得ない。そんな奴を許せる訳が無い。絶対に蹴落としてやる!…これが当時の彼の行動原理だろう。

天才の思考と問題解決へのモチベーションは、常人のそれと一線を画するらしい。

「莫迦なっ…」
「いぇーい☆」(ゝω・)v

「お前ら遊んでないでサッサと練習に戻れっ」
「ミズくん怖ーぃ」

「いい度胸だヨコタ。オメーちっとツラ貸せ」
「Oh…どうしてこうなった?」

そのせいか、十十が先輩達と練習に励む⇒猪狩守が因縁をつける⇒決闘となるのが毎度お決まりの流れ。

彼らが1軍昇格を果たして数週間が経過した頃には止める人間は誰も居なくなり、中には賭けの対象にするなど好んでギャラリーに徹する者も増えていた。

無論、喧嘩の類いではなく入部試験から続く1打席限定の真剣勝負で決着を付けている。不思議な話だが、何度やっても猪狩守は十十に勝てなかった。

可愛い後輩と憎たらしい後輩が争い、可愛い方が勝つ。実に解りやすい勧善懲悪で、見ている者はさぞ胸のすく思いであったろう。

猪狩本人にも気付かない弱点でもあるのかと幾度か問い質してみたもものの、

「アイツの配球パターンは4年前に見切った。絶好調のアフロ野郎にでもならない限り、奴に勝ち目など無い」

と、いつも無駄に凛々しい顔で言い切るだけだった。その間に猪狩守はストレートを磨き、フォークを習得し、打者心理を掴もうと打撃練習にも励む。

努力する超天才・猪狩守の原点は十十憎しの上に成り立っていたと言っても過言では無いわ。

「次に会う時まで精々腕を磨いておくんだね、ハーッハッハッハ…」

そんな中でのウサ晴らしか実戦経験の一環か、ロードワーク中の河原で他校の野球部員を挑発し、そのまま辻勝負に引き込む様子を何度も目撃している。

誤解を招きかねないので先に断っておくけれど、別に彼を意識していた訳じゃない。可哀想な捨て犬が居て週に5・6回だけ様子を見に行ってたら、たまたま視界に入っただけなのだ。

猪狩守が陰で着々と努力を積み重ねていた頃、そのライバルは中の下程度の実力しか無いクセに臆せず三本松一と七井アレフトの脳筋合戦に飛び込んでみたり、

「ハァハァ 》6さぁーん…チッ、今日も空振りかよ。体育館裏にも居ないとなるとソロソロかねぇ?ぁー優希たんペロペロしてぇぇぇ!」

女でも軽く嫉妬する美貌の遊撃手、六本木優希の尻を延々追い回していた。

「ぅゎぁぁぁ (/// )」
「おぉ?バッティングセンターっスかご両人?お供させて下さいヨ~今日こそ俺の金剛が火を吹くっス~」

十十を追っているとホモセクシャルないしバイセクシャルではないかと疑わしい言動が散見し、約束の手前もあって私は休養日を迎える度に、憂鬱な日々を過ごしていた。

恐れていたXデーはレギュラー発表を間近に控えた土曜日。梅雨入りし連日の雨にぬかるむグラウンドを翌日の練習試合に備えて休ませる為、急遽休みとなった午前に訪れた。

「ハイ、四条ですがー…何の御用かしら?」
「ぐっもーにんぐ!流石に今回のベンチ入りは厳しそうだから今のうちに権利の行使をと思いましてぇ♪ 」

我が家に電話すると言う事は両親は元より、絶対の上下関係にある兄が出る可能性も高い。その辺を考慮してか馬鹿に丁寧な物腰での語り口調だったのが私だと判った途端、態度が一変した。

「フン、どうすれば良いの?」
「ジャージ着用の上、駅前集合でヨロ」

「何よソレ。記念公園でピクニックでもする気?まぁ最初で最後になるでしょうし、お弁当でも御用意して差し上げましょうか?」
「ハハ、参ったねコリャ…せっかくの手料理だけど今日んトコは遠慮しとく。んじゃ、待ってるょ」ノシ

電話を切ると、子供じみてはいるが案外普通のデートプランに内心ホッとしていた。

意表を突くにしても一風変わったレジャースポットに行く程度で、大袈裟な事態にはなるまい。男の子と2人で遊びに行くぐらい、誰だって遅かれ早かれするだろう。

私の場合、たまたまそれが今日だっただけに過ぎない――そんな風に高を括った私が馬鹿だった。



●┃┃
  ━━━  ●  ●  ●
●┃┃



「…なんでフツーの格好してるの」
「流石に休日の立河駅界隈を歩くのにユニフォーム姿じゃ恥ずいし」

多くの人出で賑わう駅前コンコース。1人場違いな格好で憤慨する私を目の前にして、十十がシレっと言って退けた。

「じゃあなんで私にジャージなんか着させてるのよっ、頭オカシイんじゃないの?!」

授業中ですらユニフォーム姿を常とする彼の私服姿を見たのは、その時が初めてだった。

まだ一目で野球部員と判るヘアスタイルを除けばどこにでも居る10代の少年で、時折垣間見せる異様な威圧感は無い。

「うん、とりあえずこの店でコンタクトにしよう。買わなくてもお試しの1dayタイプがあるから大丈夫」
「こっ、コンタクトなんか付けたコト無いし、なんでそんな…」

「ぇー今日はお前さんを俺色に染めます」
「は?アナタが何を言ってるのかサッパリ理解出来なー…離してっ」

私の抗議を聞き流すと何の断りも無く人の手を握り、強引に店内に連れ込むと勝手に店員を充てがう。

根負けした私がこんなコトで気が済むのなら、と悪戦苦闘の末、どうにか装着し終えると…十十は買ったばかりのサングラスを装着し、頭にはバンダナを巻いていた。

一瞥で彼と見抜くのは遠目には難しいだろう、そう思うと少しだけ安心出来た。

曰く、今日の私は同級生の野球部マネージャーではなく、彼の妹である十なぎさ。なぎさちゃんは小学6年生の女の子で、これから兄妹仲良くショッピングをするらしい。

約束だから仕方ないと厭々ながらに同行した私は、せっかくのオフを彼の下らないゴッコ遊びに費やす仕儀と相成った。



[30780] #4
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/13 18:59
「ぅ、嘘でしょ?私、初めてなのに…」 

戸惑う私に、十十が優しく語りかける。

彼のバットを握ると、えも言われぬ高揚感が満ち溢れてくる。

「ふふ、でもスンナリ入っちゃったょ?」

初めての体験に少し戸惑いながらも、私はソレを受け入れた。

激しく突き抜ける快感に身を委ね、次に訪れる衝撃を焦がれつつ乱れた呼吸を整える。

胸や腰、背中の辺りから滴る汗が心地よい。

汗を流すのが爽快だと思ったのは、いつ以来だろうか?

火照ったカラダを鎮める、大っきいのが最後に欲しい。

――その一心で、しっかりと十十のバットを握り締めた。

「ふぅー…凄いのね、この鬼瓦バットって」

バッティングセンター自体には何度か足を運んだ事はあっても、それまでは兄とそのチームメイトの打撃を見守るだけだった。

試しにやってみたらどうか?と誘われた機会も幾度かあったけど、口先だけじゃないかと笑われるのが嫌で固辞していたから。

「気に入って貰えてオニィチャン嬉しいょ。さぁ、そろそろお昼ご飯にしよっか?」

自分の言う通りに振れば大丈夫、と愛用のバットを借り受け半信半疑で打席に立ったのだが、非力な私でも真芯で捉えればホームラン性の当たりを放つ事が出来た。

あの時は凄く嬉しくて、今でもストレス発散や運動不足の解消に、とコッソリ通ったりもしている。

「ぅ゛ ちょっと待ってて。その前にそのー…お化粧室に行かせて欲しいの」
「あぁ、大丈夫だよコインシャワー有るから。汗一杯かいちゃったろ?バスタオルも用意しといたんでデオドラントなんぞ使わんでおk」

「…もう少しデリカシーが欲しいわね、お 兄 ち ゃ ん ?」

ただ、マシン打撃のように始めからゾーンや球種を絞れる状況でなければこのバットの扱いは非常に難しく、ストレートを待ちながら変化球にも対応なんて器用な真似は、極めて困難だと思われる。

こんな得物を使いながら真剣勝負の場で、どうやって両左腕を攻略したのであろうか?興味は尽きない。

不可解な設定付じゃ無ければ申し分ないデート内容で、また誘われたとしても都合さえ合えば断ったりはしないだろう。

割と上機嫌でシャワールームを出ると“コレを着用!”とのメモ用紙が貼り付けられた袋が置いてあり――中には去年、六本木優希がウェイトレスとして着用していた衣装が入っていた。

前言撤回。冗談では無い、こんな服を着れるものか。私に似合う筈が無いじゃないか?

断固拒否せんと抗議したのだが今日の私は十なぎさであると一蹴され、なりきりが出来ないのであれば許しを乞うか、2度と話し掛けるなと再び選択を迫られる。

こんな変態に付き合う義理は無いと即刻後者を選ぼうとしたのだが、十十はもう少しで私の望みを叶えられるのに、と外国人並のオーバーリアククション付きで呟いた。

「…本当に?」
「あぁ、写真集なんかを愛でてるより本物を抱きしめたくないか?説得出来なかったらオレの負けで構わん」

「でも、アナタなんかにそんな事っ」
「いくら見た目がヌイグルミみたいでも、野良なら保健所に通報されちまえば即アウトだろ常考?」

「ぅぅッ‥‥‥その約束、絶対守って貰うわよ?」

ダメ押しの一言に葛藤をする間も無く、私の中で何かが折れた。

覚悟を決めて着替えに取り掛かるが、スポーツブラの替えが無い。ジャージで来たのでストッキングも無い。ヘッドドレスは見逃して欲しいが駄目だった。

「んっんー、まぁ~だ固いなぁ。ウィッグも追加しる」つ爪
「こ、これ以上何をっ‥‥‥もぅ、勝手にしなさいよ莫迦ァ」

要求を甘受し、実在するのかどうかも不明な少女を演じる方を選んだ私にカツラを被せる。これではまるで着せ替え人形だ。

でも仕方が無い。ここで帰宅して怒らせたりしたら、あの仔の身に何が起こるか判ったものでは無い。それにしても、十十が高等部に入学するまで彼との面識は一切無かった筈。

この男は何を求めているのか?私が前世で何か仕出かしたとでも言うのだろうか?当然、この頃の私には知る由も無かった。



●┃┃
  ━━━  ●  ●  ●
●┃┃



「――16番、十!」

祈るような気持ちで臨んだレギュラー発表。あと1人と言うところでなされた千石監督の非情なる宣告により、私は絶望に打ち拉がれた。

1番から9番は不動のメンバーで固定され、猪狩守にも2ケタの背番号が与えられている。後の6人は全て3年生が選出されるものと思い込んでいた所を、またしても十十が信じられないイレギュラーを巻き起こす。

もうイチイチ驚く気も失せる。これでまた月イチで恥辱を味わうのかと思うと、私の心はアノ日よりも意気阻喪となった。

その年の全国高校野球選手権西東京大会は常勝無敗・完全勝利のスローガンに恥じない完璧な内容で幕を閉じている。準々決勝のパワフル高校戦まで全て5回コールドで勝ち進み、準決勝・決勝も難無く勝ち星を挙げていた。

特に決勝は全国の球児が憧れる夢の舞台への最終関門である筈なのに、無安打無失点の好投を続ける一ノ瀬塔哉を途中降板させる余裕振り。今大会、台風の目とも言われた阿畑やすし-石原泰三の自称黄金バッテリーを擁するそよ風工業も、調整相手にしかならなかった。

十十には代打の機会すら無かったが、監督が導入したプロ仕様のバッティングマシーン・球仙人相手に毎日快音を響かせ採点記録を更新し続けていた。

そのせいもあってか彼より一足先に公式戦デビューを果たし、好成績を残した猪狩守も迂闊に挑発出来ずにいた模様。デートの話?正直、その後は記憶が曖昧なのだ。

「かぁいい!超キュート♡ 」(; ゚∀゚)=3
「知らないっ」

「そんな捨て鉢にならんと、嘘偽り無くお前さんは可愛いんだし、後は演技に徹してくりゃりゃんせ♪ 」
「こんなカッコで褒められても、嬉しくなんか‥‥‥ない」

間近で見なければ、恐らく家族ですら私だとは気付くまい。髪の毛の色も長さも全然違うし、小学生の頃から裸眼で過ごした時期の方が圧倒的に短い。そんな姿で外を出歩くなんて、自分でも信じ難いのだから。私のアイデンティティが完全に崩壊している。

そのままファミレスで食事をし、ウィンドウショッピングをしながら夕方遅くまで連れ回されたのだが――何を食べたのか、どんな会話をしたのか、何を見て回ったのかも良く覚えていない。

羞恥に身を捩らせ、好奇の目に晒される自分に煩悶としいているうちにデートは終わった。

着替えた後も帰りのモノレール内で恋人の如く寄り添う十十を拒む気力も失せ、彼の肩に頭を乗せたまま手付代わりに、と贈られた青い子犬のキーホルダーをボンヤリ眺めていた。



[30780] #4.5
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:39
夏、本番――

全国高校野球選手権西東京大会は開催から既に2週間が経過し、お目当ての暁大附属は順当に勝ち上がり、決勝まで駒を進めていた。

「んん~好調好調。結構ケッコーこけこっこーっと。隣り、宜しいかねお嬢さん?」

ダイヤが乱れた影響でプレイボールに間に合わないと言う失態を犯したが、運良く座席を確保出来た。

察するに学校関係者。親族の応援にしては淡々とし過ぎているが、そういえば確か、セカンドの四条君に妹が居て云々と聞いた気がする。風貌も、どことなく似ているしな。

3年生の男子マネージャーが記録員としてベンチ入りしている為、他の部員と一緒に応援に回っていると言ったトコロか。

スタンドにベンチすらない地方球場とは違い此処、神宮の杜にはどちらの応援と言うワケでも無い高校野球ファンも多数集まり、大いに賑いを見せていた。当然、今年の有力ドラフト候補であるエース左腕を目当てに御同業も大集結。

中には“いっちのせさ~~ん、キャー☆”だの“塔哉くんコッチむいてェ!”だのと黄色い声援を送る追っかけも目に付き、対戦相手の中にも今日活躍すれば注目されるでは?などと淡い期待を膨らませている者は1人や2人じゃないだろう。

別に悪いコトじゃない、是非そうあって欲しいモノだ。何しろ、私はその為に足を運んでいるのだからね?

「今日の調子なら完全試合も有り得るぞ…コールドにならなければ、な」

別に話し掛けているつもりは無いが、ついつい声に出してしまう。が、反応はナシ。

まぁこのクソ暑い中、ヨレヨレのジャケットにニット帽の見知らぬ中年オヤジに話し掛けられても迷惑なだけだろう。世の中には平日休みの企業だって数多く存在するが、普通のサラリーマンじゃないのは一目瞭然なのだから。

露骨に席を立たれたり、不審者扱いをされないだけ有難い。

ユニフォーム姿の補欠組や吹奏楽部とは違い、懸命に声援を送ったりはしないが、一心不乱にグラウンドを見詰めつつデータ集計に勤しむ横顔は凛として美しい。ウム、これは将来有望だな。

時折、額に貼り付いた髪を掻き上げる度に汗とシャンプーの匂いが混ざり合った、芳醇な香りが漂って来る。

…良い年をしたオッサンが催すには、余りにも犯罪的な劣情で申し訳無い。縮こまった背筋を伸ばしつつ、ブラウスから透けて見えるブラジャーについつい目が行ってしまうのは男の性なのだ。

「こりゃ争奪戦は必至だな。後はもう怪我さえなければ…本人には悪いが、いっそ甲子園に行かないでくれた方が助かる」

彼ほどの知名度を得てしまった選手では最早手遅れだろうが、思わず本音が出てしまう。高額な契約金で有望選手を買い叩くご時世にあって、私の様な昔気質のスカウトもめっきりと減った。

セ界屈指の大砲、と呼ばれるまでに成長した福家花男や今シーズンの新人王当確左腕、神童裕二郎の如き逸材を下位指名で確保出来れば、向こう5年は枕を高くして眠れる。

一昨年の新人戦から追い続けた逸材の成長は実に喜ばしい。だが、野に埋もれたダイヤの原石の発掘に至上の喜びを憶える私にとって、今の一ノ瀬塔哉には些か興を削がれた感が有るのもまた事実。

そんな独り善がりな苦笑とは裏腹に、試合は周囲の期待を裏切らない快刀乱麻のピッチングショーが演じられた。

「相手の…阿畑君も悪くない。悪くはないが…もう、限界だろうな」
                               
そよ工の項目をチラリと確認し、再びグラウンドに目をやる。彼の力投に対する援護も無いまま、味方のエラー絡みで失点を重ねる悪い流れ。苛立ちから制球を乱しており、自滅寸前だ。

「いや、もう自滅してると言っても差し支えあるまい。仮にこの回を乗り切っても大勢は決しているしな」

それでも彼に替わるピッチャーを送り込めないのが、そよ工の苦しい台所事情を如実に現している。カキーンと言う乾いた金属音と、それに少し遅れて沸き上がる歓声は、本日2本目となる一ノ瀬塔哉のホームランに対する称賛であった。
                                    
「おやおや、随分と気前の良いこった…しかし誰の為のサービスかね?」

7回裏。2アウトながら満塁の場面でクリーンアップの一角を担う二宮瑞穂が三球三振に倒れる。スコアは5-0で暁大附属がリード。残すは2イニングだがあと2点入ればその場で試合は終了していた。

『――続きまして、暁大付属の選手交代をお知らせします。ピッチャー、一ノ瀬くんに代わりまして、猪狩くん』

続く8回表。僅かに手元が狂ったのか、彼の投じた1球は高校球児には不似合いな長髪選手の腕を僅かに掠めた。その直後、未だノーヒットノーランの可能性を残したまま突如告げられた選手交代の報に球場が騒然となる。

                                 
「どうしたんだ一ノ瀬は? 何があったんだクソッ、猪狩って何年の選手だよ、誰か知ってるか?」

「こ、交代の理由は?…誰か医務室を確認して来い!彼の故障歴は?どこかに古傷でも抱えてたのか?! 」

「なんでぇ?どーして代えちゃうのよバ監督!」

「一ノ瀬くんを出せー!出さなきゃ帰っちゃうんだからぁ~」


7回と0/3を投げて被安打ゼロ・四死球1・奪三振11。投球数は百球にも満たない。

完全試合必至かと思われた展開で起こったまさかの交代劇に、故障発生かと慌てふためく未熟者共。ドラフトの目玉投手を相手に、その程度の情報量なのかと思わず鼻が鳴る。

部下だったら馬鹿モン、勉強不足だ!と拳骨を喰らわせるトコロだが商売敵なので大いに歓迎しようではないか。

「しかし、こんな場面でワザワザ秘蔵っ子を送り出すなんて一体ー…あぁ、なるほど」

マウンド上では猪狩守と会話を交わした後に激昂しだした二宮瑞穂を一ノ瀬塔哉が宥めていた。大方はエースを降ろす事で完全試合達成の為にみすみすコールド勝ちをフイにした恋女房に対しての制裁だろう。

彼は一ノ瀬塔哉を実兄の如く慕っている様子だし、猪狩守とは犬猿の仲と言った感じでこれほど当て付けに相応しい人物は居ない。小さなアメと恐ろしいムチを巧みに使い分け、時には冷酷なまでに信賞必罰を徹底する千石采配の真骨頂だ。


「おお、アレが猪狩コンツェルンの御曹司か…リトルシニアの天才児がどう成長したんだかねぇ」

「何だ、初めて見るのかよ? まぁお前んトコにはセ界がひっくり返ったってなびかねーぜ。諦めな」

「なにあのコ?チョー可愛い!」

「あ~~~ん、なんか萌えーっ」

「しかしハイエナの群れにわざわざご馳走を投げ込むとは、千石君も人が悪い…これで面倒な仕事が増えそうだ」


私が渡り歩くのは大抵球団名を出すとガッカリされるBクラスどころばかり。だから、担当エリア内に花形選手が存在しても上からの命令が無い限り、極力接触は持たない事にしている。

特に逆指名権も無い甲子園のアイドル達は経験上、個人的に思い入れのある地元出身選手でもない限り徒労に終わるからだ。

「…その時間を他の逸材探しに充てた方がどれほど有益か。理解のある上司に恵まれない宮仕えとは辛いモノだな」

ノーアウトランナー1塁。阿畑やすしとバッテリーを組む石原泰三はこの点差でもセーフティ気味にバントの構えを見せている。

初球、サイン違いの影響で二宮瑞穂がボールを後ろへ逸らした間に走者が進塁し、ノーアウトランナー2塁。状況が変わり送りバントの構えは無し。

カウント1-1からの3球目、バッターが1-2塁間への進塁打を放つもセカンド四条の好守に阻まれ3塁タッチアウト。

間一髪のところで併殺だけは免れ、場面が1アウトランナー1塁に切り替わると思い出作りの一環か、次の打席には3年生の控え選手が立った。どうやらせめて一矢報いんとする気力も失せたらしい。

僅か2球で追い詰めると三球三振を狙った模様だが、ストレートが気持ち甘く入った。打ち取った当たりにも見える打球はフラフラと二遊間の頭上を越え、センター前へ。所謂ポテンヒット。

だが、ショート六本木は背走しながらこれに追い縋り、ボールは宙を舞う彼の差し出したグラブの中に吸い込まれる。更に目前にまで猛進していたセンター八嶋に絶妙なグラブトスを繰り出すと、彼はそれに呼応し1塁へ好返球。
                                 
一気に本塁まで駆け抜けるつもりだったランナーは帰塁動作に入る事すら許されず6-8-3のダブルプレーが完成。スタンドからは悲鳴と歓声が沸き起こった。
 
「ゲームセット!」

そして8回裏、コールド勝ちを決める猪狩守のサヨナラ2ランホームランが、彼らの夏に終わりを告げた。



[30780] #5
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:29
野球には九つしかポジションは無い。

投手が分業制になろうと、指名打者制度が存在しようと、同時にグラウンドに立てるのは9人のみ。

その時点で最も優れている者が選ばれるのだ。

『皆様おはようございます、桐生楓でぇーす!本日のパワフルスポーツは第78回全国高等学校野球選手権大会1回戦第1試合、暁大付属対帝王実業の試合をお送り致しまぁ~すっ』

真っ白な病室内とは対象的に窓から見上げた空は雲1つ無く、何処までも何処までも青く澄み渡っている。

悲願の緒戦突破を目指す母校の仲間達に、私はブラウン管越しに心の中でソッと声援を送った。

『さぁ今日はイチオシのコーナーから行ってみましょ~…響子の、イチオシのコーナ~~!! 』

もはやお馴染みとなりつつある名物シャウトが響き渡る。

内容はごくありふれた新人女子アナウンサーによる取材リポートなのだが、担当しているのが見るからに冷静沈着・容姿端麗のインテリ美女。

外見的には思いっきりミスキャストな彼女の体当たり取材が予想以上の好評を博し、希保田響子の魅力を存分に引き出す事に成功。

局内では某野球選手との熱愛報道で寿退社が秒読みと噂される、桐生アナの後釜は決まったなどと囁かれているらしい。

『ハイ、私は今まもなく試合開始を迎えようとしている西東京地区代表の暁大學附属学園に来ています!』

彼女の後方では現地入りしなかった生徒達が、我も我もとカメラの前に群がる姿が映し出される。

中にはTVクルーの目を引こうと鳴り物を片手に応援団さながらの出で立ちで馬鹿騒ぎをする、恥さらしな連中も複数見受けられた。

確かに祭りの一種であるかもしれないが、私には崇高な祭事に等しい。

彼らへの侮蔑の思いが自然と高まる中、希保田アナが関係者以外に知る由も無い極秘情報を透っ破抜いた。

『なんと暁大附属は昨日の練習中にレギュラーの六本木優希君が倒れ、緊急入院するという大アクシデントに見舞われてしまいました!既に容態は安定しているそうですが、タダでさえ苦戦を強いられそうな王者・帝王実業相手にこの危機をどう乗り切るのか…』

希保田アナのもたらした悲報に、女子生徒達から悲鳴の声が上がっていた。

チームの正遊撃手である彼は悪ノリしたチームメイトらに強要され、前年に行われていた文化祭のミスコンに飛び入り参加。

そこで当時在学中だった浅田キャピ子を差し置き、満場一致でグランプリを獲得してしまった。

学園内では既に全国区の知名度を誇る一ノ瀬塔哉を凌ぐ人気で、どっかの莫迦も“男の娘は別腹だー”と謎の台詞と共に彼を追い掛け回していたっけ。

『部員の皆さんには夢の舞台を前に無念の涙を呑む形になった彼の分まで、精一杯頑張って欲しいと思います。現場からは以上です』

『はい、ありがとうございましたぁ~…ココで番組スポンサーよりお知らせとプレゼントがあります。間もなくプレイボールです』

試合直前の放送なので情報戦に与える影響は少ないものの、一体誰がマスコミにリークしたのか?部内に密告者が居るなんて考えたくもない。

「テレビって凄いなぁ~…ごめんね四条さん、僕なんかのせいでみんなの応援が出来なくなっちゃって」

「いえ、気にしないで下さいー…もしそれが無理でしたら来年はベンチに入らせてくれると嬉しいです。どの道、今年は入れませんでしたから」

病室の空気が一気に重苦しくなる中、マネージャーである私が重篤な状態を脱したばかりの先輩に気を使わせてしまった。

物憂げな表情も“頑張ってみるよ”と苦笑いする表情もとても儚げで、私なんかよりズッと女らしく見える。

それでいて守備面ではチームの誰よりも篤い信頼を勝ち取っており、練習中に誰かが倒れても“保健室に運べ”と指示するだけで容態を顧みようともしない鬼監督を慌てふためかせ、チームの戦略を大きく転換させた程だ。

決戦前日、千石監督が病院から戻るなり開かれた緊急ミーティング。

本来の主題は帝実側の先発が予想される山口賢投手の攻略についてであったが、開口一番彼の容態に触れると皆一様に安堵した。

「基本的な作戦は以上だ。なお、明日の試合だが六本木に代わってショートは…」

ミーティングルームに緊張が走る。

数日の入院が必要だが、命に別状は無い。だが言い換えれば当面、六本木優希の復帰は無い事を意味する。

本当の病状を知っているのは部内でもごく一部の限られた者だけで、連絡役にと病院待機を命じられていた私にさえ明かされていなかったのだ。

練習中に彼が倒れた時点でこうなるのは半ば規定路線であっても、一体誰がその代役を務めるのかはまだ知らされていない。

正直な話、この入院劇は出場機会を逸していた3年生達にとっては突如出現した最後の光明に等しい。

誰かのピンチは他の誰かのチャンス。彼らの焦点はそこ一点に絞られていて、相手投手の攻略法やライバルの容態など付録程度でしかない。

特に顕著だったのは強肩強打を活かすべくセンバツ後にサードへ転向したばかりだった五十嵐権三とのレギュラー争いに破れ、ベンチウォーマーに成り下がっていた座粉将斗だろう。

彼などは明らかに目の色が違っており、元々の守備位置への未練を再燃させてか病院搬送後は自ら進んでショートに就いていた。

「…四条、お前に任せる。そしてセカンドには十、お前を起用する」

「ぉー四条先パイかぁ~って、自分をスタメンで使うんスかぁぁぁ」 σ(゚◇゚;)!?

『ざわ…ざわ…さ゛…ざゎ‥‥‥ざわ』

監督の視線、とは言ってもサングラスで見えないのだけれども、その視線の先に注目が集まる。

大方の予想であったショート座粉の再臨は物の見事に覆された。

私も含め部員達は皆、監督がセンターラインに求めているのは強固な守備であり、その選手起用から打撃は二の次三の次だと思い込んでいたからだ。

私情が絡むので十十の守備技術をとやかく言うつもりは無い。

が、内野手として致命的な左投げの選手をセンターラインの中心に据えるなんて信じられない暴挙であり、愚策としか評す言葉が無い。

この抜擢には他の部員達は勿論の事、指名された当人ですら信じられない様子だった。

誰もが予想しないサプライズ人事にざわめきは収まるどころか強まる一方で、普段ならミーティング中に監督の許可無く私語を発するなんて有り得ないのだが、皆、興奮が収まらない。

「あの、明日の試合限定のお話っスよね?勝てばその後は》6さんが…」

「こんな時に倒れる奴を使えるか…今大会中、六本木の存在は忘れろ」

鉄壁の~なんて陳腐な言葉では表現し得ない、華麗なる守備。

幾度となく勝敗に関わる痛打をアウトカウントに錬成してきた勝利の錬金術師の存在を忘れるなんて、出来る訳が無い。
  
この失言と捉えられても止む得ない指揮官の檄に、チームの動揺は一気に加速した。

「カントクッ、六本木は本当に只の熱中症なんですか!?」

「監督、ゆーき死んじゃうのか?オイラ絶対イヤだぞっ」

「何度も言わせるんじゃない!…全員グラウンドに出ろ、貴様等は頭よりも体を動かせッ」

誰もが竦む戦慄の一喝にも部員達の狼狽は一向に収まらず、結局この後の練習も浮き足立ったまま誰1人としてまともに集中出来ていなかった。

今にして思えば、六本木優希に誰よりも信頼を寄せていた監督自身の困惑が滲み出た証であったのだ。



[30780] #6
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:30
「最近、笑顔が増えたよね」

TV観戦中に発した六本木優希の何気ない一言に、私は酷く当惑した。

「ぇ‥‥‥そう、ですか?」

多分あの仔のお陰だとは思うが、そのような自覚は毛頭無かった。

彼が言うには四条さんは一生懸命頑張っていて、優秀で、マネージャーとして非の打ち所が無いないのだけれど、私のソレは事務的を通り越して機械的ですらあった、と。

それはそうだろう。努めてそう振舞っていたのだから、そういう人材が求められていたのだから仕方がない。

でも、今は女の子らしい柔らかさがあってとっても素敵だ、とも言ってくれた。顔から火が出る程恥ずかしかったが、お世辞だとしても嬉しかった。

甲子園での一ノ瀬塔哉の活躍を契機に、野球部にはマネージャー志望の女子生徒が度々押し掛けるようになっていた。

しかし野球のルールも知らないミーハーな一ノ瀬ファン達は完全裏方のハードな雑務について行けず、皆押し並べてひと月と持ちはしない。

これが監督の逆鱗に触れ、その後は女子マネージャーの入部は一切禁じられていた。

だが、現2年生には野球推薦で入学したものの怪我で再起不能となった等の都合の良い脱落者がおらず、現3年生の引退を以て雑用係に欠員が生じる。

そうなっては当然困るので、窮余の一策として兄が私を推薦したのだ。妹なら野球にも精通しているし、誰かに言い寄ったり逆に言い寄らせるような真似は断じてさせません、と。

実際に先輩マネージャーからの引継ぎもほぼ完了し、1人でも上手くやっていけるだけの自信はある。

…そう、周囲が求めるいつも通りの私。何事にも理知的に粛然たる態度を以て臨み、正確且つ迅速に対処する有能な人間。

私自身もそう在りたいとは願うけれど、いつの間にか勝手に作り上げられた人物像に心底辟易していた。

不意に、昨夜のやり取りが脳裏を過ぎる。

「眠れないの?」

私の問い掛けに十十は良い膝枕と子守唄があれば、と切り返す。

翌朝から始まる決戦に備えて夜間練習は一切禁止されているにも関わらず、彼は大部屋を抜け出し、何故かシャドウピッチングをしていた。

「そう。子守唄は辞退させて貰うけど、私の膝で良ければ貸してあげてるわよ?借りもあるし」

まだ手探り状態の感は否めないが、先週行った海水浴で彼の扱い方は概ね把握出来そうだった。

他人の領域にズカズカと踏み込んで来る割に危険水域ギリギリの、本当に嫌だと思う事まではしない。まぁ…NGサインその物が相当屈辱的ではあるのだが。

ある程度までは乗ってやり、後は適当に去なすのが正解なのだ。

「借りと来たか。そういやガンダーは元気してる?しかしお前さんがガンオタであったとは読めなかった…海のリハクの目をもってしても!」

「だから、名付け親は私じゃなくて兄さんだって言ってるじゃないの…いつから李白になったのよ」

彼の取り成しで家族の一員になった仔犬の名は、兄である四条賢二が愛好してやまない老舗玩具メーカー・玩多堂のヒット商品に依る。 

重ねて言おう、断じて私の趣味なんかでは無い。

私はこう…みかんとか、もっと可愛らしい名前にしたかったのに、あの恩知らずの浮気者はベッタリと兄に懐いてしまい、もう完全に自分の名前はガンダーであると認識してしまった。

「でもそんなワンコと飼い主がキャッキャウフフしてるzip だけで小生、ご飯3杯はイケます」( ° ▽、° 8)+

「ななな、なにをゆってるのっ」

最近やたら熱心に兄と野球談義を交わしているな、と思ったらそう言う事か。

それでも恥ずかしい格好をさせられるよりはマシだし、彼のお陰で今の生活があるのだから多少は大目に見るけれど…私とあの仔の写真なんかを見て、何が愉しいの?

高が犬っコロ1匹で何を大袈裟なと笑うかも知れないが、十十の影響で私も兄も人生の路線が大きく切り替わってしまった。

この男は時折、その事象を予め知っていたのではないかと思しき行動を執るのだ。



●┃┃
  ━━━  ●  ●  ●
●┃┃



スコアレスドローのまま迎えた7回裏、十十の第3打席。

2アウトランナー無しの場面で山口賢の第1投は内角低め、ストライクゾーンをギリギリ掠めるフォークボールだった。

『ボールは左中間を転々っ!その間ツナシヨコタテがセカンドベースを蹴るっ!』

彼はソレを狙い澄ましたかの如く掬い上げると、浜風に乗った白球は外野陣の守りを突破する。

相手とて同じ高校生、広い甲子園と地方球場では勝手が違う。檜舞台で普段着野球を出来る訳が無いのだ。

『さぁ、そのまま最終コーナーを廻って最後の直線っ…残りあと90ふぃぃぃ~とっ!! 』

打球処理にもたつく内に十十はダイヤモンドを一気に駆け抜け、スコアボードには打者の功績を称える1の数字が刻まれる。

私と入院中の半病人は互いに手を取り合い、昨年まで競馬番組を担当していた女子アナの意味不明な実況も気にならないくらい興奮していた。

『ボールは届かないっ、好投イチノセトーヤを援護する伏兵の一撃ぃぃ!十十のインサイドザパークホームランでアカツキダイフゾクが先制ぇぇッ』

彼の半生において最も光り輝いた瞬間であったと確信させる、価値ある1打。

その活躍が他人である私にさえ暁大付属の生徒である事を誇りに思わせ、我が身に降り掛かる災難も忘れて胸を熱くした。

『エースヤマグチケン、後続をサンキューサンシンで断ち切り残すはあと2イニングっ、巻き返せるのかテイオージツギョー?! 』

全国最強と謳われる帝実打線が為す術なく捻じ伏せられている状況で先制点を得たのはとてつもなく大きい。

未だに僅差ではある事に変わりは無いが、帝王実業に忍び寄る敗戦の重圧は相当な物である筈。

『帝王実業は甲子園出場時、ベスト8以下になった事が無い』

帝実信奉者が我が物顔で語るあの忌まわしのジンクスは、今日破られる為に存在していた。そんな風にさえ思えた。



[30780] #7
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:31
〇帝王実業6-2暁大付属 ×

あとアウトカウント4つで優勝候補筆頭が初戦で姿を消そうとしていた矢先、ここまで完璧なピッチングを積み重ねてきたエースが、突如として乱れた。

勝利を目前にして、張り詰めた緊張の糸が切れてしまったのだろうか?個人的には非常に興味深いが、今なおプロ野球選手として、チームの顔として活躍する偉大なる先輩に、私が当時の状況を聞く術は無い。

ただ、推察するのは充分可能。現在も例え完封ペースであっても百球をメドに降板し、中4日ないし5日での登板するメジャースタイルは、ルーキーイヤーからズッと変わっていないのだから。

強力打線と堅固なセンターラインに支えられた一ノ瀬塔哉の投球は完璧すぎるが故に、常に限界を迎える前に大勢が決していた。スタミナ不足の事実が、あの日初めて露呈したのだ。

それでも逆転を許し3-1で迎えた8回裏、彼は自らのソロホームランでチームを鼓舞。必死に追い縋った。

だが勝ち越しを決め、俄然勢い付く山口賢の力投の前に後続打線は完全に沈黙。限界を越え、球威を失った先発を引っ張り続けた結果、9回には更に3点を追加されてジ・エンド。

終わってみれば本大会№1の呼び声高い本格左腕を粉砕する、痛快なる逆転劇。

これで一ノ瀬塔哉が今後どれだけ大成しようとも、帝実信奉者にとってはその分だけ全国最強を冠する帝王実業の偉功を喧伝する媒体にしかならないのだ。

…もし、西東京大会決勝戦と同じ決断を下していれば、未だ破られぬ帝王ジンクスはあの日終わりを告げていたのかも知れない。

けれどもそれは今の猪狩守を知る人間だからこその見解。当時の猪狩守はまだまだ将来有望な1年生に過ぎず、未完の大器以上の評価を勝ち取るに至らなかった。

それ程までに一ノ瀬塔哉の存在が盤石であり、あの夏の段階での彼の実力は未知数なのだから、所謂タラレバに過ぎない。

敗因を分析しても、各々のプレイに敗戦を決定付ける大きなミスは無かった。機能しなかった打線と、早めの継投策に打って出なかった采配に求めるざるを得ないのだ。結局は総合力の差、力負けね。

さて、7回表まで孤軍奮闘していた一ノ瀬塔哉を援護する貴重な先制ランニングホームランを放ち、打撃では見事に千石監督の期待に応えて見せた十十。では、懸案の左投げ二塁手としての働きは?と言うと、無難の一言に尽きると思う。

帝王実業側もセカンドを守備の穴と見て1-2塁間への打撃を心掛けたようだが返ってこれが仇となり、序盤の帝実打線は凡打の山を築き上げた。結果だけ見れば十十の起用は一定の成果を挙げたと看做せなくもない。

確かに右投げと比較して捕球から送球への流れに遅れが出るのは事実なのだけど、打球を察知しての動き出しが六本木優希に匹敵する速さであり、送球のコントロールも抜群。

十個人が逆手のアドバンテージを覆し、及第点レベルに到達していたのに加え、先輩である他の内野陣にも日頃可愛がっている後輩をフォローしてやらねば、と言う緊張感が良い方に作用したらしい。

下らない与太話だが、もしも野球が進塁を左回りでするスポーツであったのなら、彼は名手の部類に入るかもしれない。

帝王実業の勝利を告げるサイレンが甲子園に鳴り響いた所で私はTVを切ったので、彼らがどんな面持ちで敗戦を受容していたのかは知らない。多分、目の前に居た六本木優希や私自身と同様に涙していたのだろう。

だから帰京後に知ったのだが、ネクストバッターズ・サークルにて最後の瞬間を迎え呆然としている猪狩守が、自分よりも更に小柄な八嶋中に後押しされ整列に加わる様子が印象的な映像として放映され、その姿に心打たれたファンが全国規模で出現する切欠となっていた。

隣りのクラスから『ムアッハー、猪×8!そういうのも有るのか。ですわっっ』と大声で喋っている子の声も聞こえたくらいだ。

それから暫く後――不本意ながら、私は十十との約束を果たした。










 【 ファールボールにはくれぐれもご注意下さい…ファールボールにはくれぐれもご注意下さい… 】










その日、野球部の部室で私は彼との約束を果たし――果たさせられていた。

「そっー…そんなのアナタ以外に誰とッ」
「さぁ?オススメは》6さんだけど病み上がりにゃ心臓に悪いし、白サンが無難カナ。あの人なら事情話せば洒落で済ませてくれると思うょ」

放課後に1人ボール磨きをしている最中に突然現れると、唐突に債務の履行を迫って来たのだ。

「あぁ、ミズきゅんだけは絶対に止めとけ?チームの正妻がテメーの嫁候補にnice boat されるとか全方面的に痛過ぎるし…まさか、お兄ちゃんとするぅ?」

スタンドイン出来なかったので割引サービスと称し、彼が観ている前で別の誰かとキスするのと、誰かが部室のドアを開く瞬間までキスし続けるかの二者択一を突き付ける。要するに、こう言わせたかったのだ。

「よっ…十君とキス、したいです」 「ハイ、良く出来ました♪ 」

言うが早いかカタカタと震える私の肩を抱き寄せ、唇が重なり合うなり口腔を蹂躙する。有無も言わせぬ、とはこう云う状態を指すのだろう。

一応気を使ったつもりなのか、ファーストキスはミントガムの味がした。

彼は絶対に他言しないと誓約したし、後は私がお墓の中まで持って行けば良いだけの秘密。それでも未知の経験に畏怖し、ギュッと閉じた口をこじ開けようと私の歯茎をなぞりながら鼻を軽く摘む。息が出来ない。

「ホラ、早くアーンってして?舌と舌を絡めるって約束じゃないの」
「だっー…だって、こんなの急に言われても、ムードとかが…」

「あのねぇ、ココまで到達するのにオレがどんだけ苦労したと思ってんの?」

絶対に不可能だと思われた大会前の1軍昇格。ベンチ入り。運を味方にしてのスタメン抜擢。その上での先制ランニングホームラン。ついでに言えば、あの仔を家族に迎える仲介役まで買って出てくれた。

私が文句を言える立場じゃないのは理解しているのだけど、おいそれとは受け入れ難い。

「お口が開かないんだったら耳の穴にもキスしちゃうぞぉ♪」 「ひっ」

どうあっても逃れられないと観念して口を開くと彼の舌が私の中に押し入り、歯の裏側を、上顎を、舌の付け根まで強引に、時に優しく舐り尽す。せめて、ホームランを打ったのが翌年だったら心の準備も出来ていたと思う。何にもかもが突然過ぎた。

出会ってからおよそ4ヶ月、それも野球部の部員とマネージャーとしての接点しか無い。それも何十人と居る1・2軍の選手の中の1人であって、一目惚れをしたワケでも無い。

何度かデートはしたけれど、それはあくまでも自分と別の存在を演じただけ。彼には御褒美でも、私には罰ゲームみたいなシチュエーション。付き合っているうちには入らないだろう。

「ね、ねぇ。もぉ充分でしょ?」
「ぃゃ?全然。誰か来たら即ヤメたげるから、もーチョイ我慢してね~」

「だって、こんなの変っ、オカシイわよ絶対ぃぃー…お願い!お願いだから私の唾液を啜らないでってばぁ」
「アルェー?もうじき部活が始まるってぇのに誰も来ないゾ?これじゃあチットモ終わんないねぇ?」 ♪( ゚ε ゚ )

もう相当な時間が経過してると思われるが、部室には誰も入って来ない。それもその筈、ドアには清掃中!と書かれた紙が貼り付けてあったのだから。

この頃の野球部には既に私が清掃中の部室に入る=手伝わされると云う摂理が誕生していた。更に3年生が引退後、新キャプテンには兄である四条賢二が就任した関係上、誰も断れない。

あんな警告文があれば誰も近寄らないだろう。私はまんまと嵌められてしまったのだ。

「そ、そうだわ。私の大切な宝物あげる!だから、だからもぉ許してッ」
「ほほぅ、宝物とな?ソレってこの感触を味わうよりも素敵なん?」

「勿論!絶対野球上手くなるのよ?難しくて解んなかったら私が解るまでちゃーんと教えてアゲルからぁ。ね?ね?」
「…だが断る。オレはこの為にリスクを冒してまでホームに突っ込んだんじゃなイカ」

「んんっ~~!」

懇願する私の申し出を退け、十十が再び私の唇を奪う。校内放送や吹奏楽部の演奏が遠くに聞こえる中、部室には私のくぐもった声と、ちゅぱチュパと絡み付く水音が絶え間無く生じている。

あの好走塁はこんな事をする為に生まれたとでも言うのか?そんなニュアンスが含まれていた彼の台詞が脳裏から離れない。最初は肩だけだったのに、いつの間にか私の頭を抱え込むようにシッカリと抱き締められていた。

柔らかくて。暖かくて。一心不乱に求めらていて。頭の中が真っ白になりそうな、心が痺れそうな感覚に襲われる。

「ハローぉ!ボスからオイーラのロッカールームはヒヤだとヒヤしたでヤーンスよ HA HA HA … Oh,お取り込みチューでヤンースか?」

『‥‥‥誰?』

見られた。ノックも無しに突然入って来たガイジンに、全部…見られちゃった――



[30780] #8
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/08 14:16
3年生の引退により多数の2軍部員達が繰り上げ昇格をして間もなくの頃、その日の私は九十九宇宙に託り十十を連れ戻すべく、彼らが頻繁にサボタージュに使う小高い丘へと足を運んでいた。

チームはキャプテンが投打無双の完璧超人から調整型の兄へと引き継がれる世代交代の過渡期にあり、次代の背番号1を担う猪狩守はバッテリーを組む二宮瑞穂と反目し合いながら互いの投球論をぶつけ合い、いつも最後は実戦形式で決着を付けていたわ。

その一方で打線の主軸を担う4番の座は空位。理由は西東京大会中でのホームラン数勝負を挑み、僅か1本差で一ノ瀬塔哉から禅譲を受けた七井アレフトが、肝心の甲子園で無安打0打点に終わったのを恥として一旦返上した為で、そのライバルである三本松一と鬼気迫る形相でバットを振り込んでいる。

戦力の底上げは着実に進んでいたけれど、明るいニュースと言えば六本木優希の復帰ぐらいかしら?残念だけど十十と猪狩守の2人を除けば、我が校に流石は猪狩世代!と唸らせる程の人材は皆無だったから。

「白い素肌に喰い込むブルーのコントラストが個人的にツボだなぁ、と思いますた」
「だっ、誰も感想なんか聞いてないんだから口に出さないでッ」

甲子園の敗戦以来、十十は表向きは今まで通り愛想を振り撒きながらも苛立ちを隠し切れずにいて、私に対するサディスティックな行為はエスカレート傾向にあった。

「…ふぅ。正直、堪りません」 (*´ Д`)
「~~~っっ」

前の月に引き続いて連れて行かれた海でもソレは遺憾無く発揮され、買い与えられたワンピース型の水着は濡れるとウッスラ透けて見える仕様になっていて、それはそれは恥ずかしい思いさせられたものだ。

部室で行われた、あの日の権利行使もそう。不文律や漢字の理解に乏しい闖入者の登場が無ければ、私は彼の暴走した加虐心の赴くまま欲望の捌け口にされていたかもしれない…或る意味、ファーストキスは一生忘れ得ぬ想い出となっている。

気勢の殺がれた十十が部室を去った後にすぐさま号令が掛かると、千石監督の脇には兄の他に件のガイジンとクラスメイトの男子が立っていた。

「全員集合っー…監督、お願いします」

「あー既知の通り今年度より我が校は交換留学制度を導入し、その第1期生にウチの‥‥‥けいしょう、せんしゅ?も選出される事が決まった。また、正式には新学期からの入学となるが、その留学生も野球部への入部を希望している。2人共、挨拶しろ」

「ハロー、エブリワン!オイーラはヤーベン=ディヤンスで――」

季節外れの新入部員は白人でも珍しい完璧な金髪碧眼で、ソバカスだらけの顔には独特のセンスを醸す眼鏡が一際異彩を放っていた。

ガンダーロボは極東日本が生み出した人類の至宝であり、頑多堂本社の有るサイレントヒルこそ我が心の聖地と豪語する新日家は、日常会話程度なら充分こなせるとの触れ込みであったものの監督の配慮により七井アレフトと同室となった。

正直、初邂逅がアレなだけに余計なサポートの心配が無用となり、恩師が下した裁定の中でも最高峰の英断であったと称賛したい。

特異な見てくれや狂言回しとしか思えない語り口調でも、その実力は一応本場の経験者。そこのお前と名前すら碌に覚えられていない凡庸な2軍投手と比べればソコソコ戦力になる可能性を秘めていて、昇格試験ではハードルの低さも手伝いアッサリ1軍入りを果たしている。

「…見つけたわ」

行き着いた先は九十九宇宙がなるべく他人には教えたくないベストプレイスと大言するだけあって、丘の上からの眺望は絵心の無い私にも絵筆を取らせたくなる程の絶景だった。あの頃の携帯電話にカメラ機能が付いて無かったのが本当に悔やまれるわね。

「‥‥‥。」
「そろそろオシマイにしときなさい、師匠が邪念が籠もってるってオカンムリなんだから」

雑念だらけでコレっぽっちも身が入っていない!と酷評されていたが、私には一心不乱に瞑想に打ち込んでいるように見えるのだから、彼らの定義は本当に理解出来ない。

ただ、留学生の来日以降、十十の雰囲気が一変していた。

誰とでも仲良くやれる人だから取り分け不審には思わなかったのだけれど、余っ程ウマが合ったのか十十とヤーベン=Dの交友はまるで気心の知れた親友同士かと思わせる友誼を結んでいて、部活の時以外にも…それこそ寝食を共にするぐらいの仲だった。

「don't worry スミカ。ニッポン之忍ブ恋、オイーラはバッチリ appreciate でヤンスヨー…アァ、初登校ガ待チ遠Cでヤンース。早ク食パン咥エタ大和撫子ト貝ぁゎ、ノーノー、鉢合ワセ~」
「…えーっと私、急いでるから」

単に私との密会を口外されるのを恐れ、媚を売っていただけとは到底思えないし、そもそもそんな玉でも無いだろう。何と言うか、平凡な日常を打破しようとする思春期特有のギラついた焦燥感と、閉塞した状況に全てを諦観しているかの様なチグハグさが薄れて行ったのだ。

その晩に行った夜祭りでも、どんな目に遭わされるのかと不安だったのに…意外なほど優しかった。初めて普通にデートをした気がする。

古例に則り浴衣の下には肌襦袢しか身に付けていなかったので、いつもの彼ならお尻のラインや…履き慣れない下駄履きのせいで足を挫いてしまった私を負ぶう、意外と逞しい背中にワイヤーの当たりが無い事に触れないなんて、絶対に考えられないもの。

それまでの十十であれば、間違い無くこんな風 ( ゚∀゚)o彡゚ であったろうに。

「邪念とかヒデェwww これでも凡庸なる左投げ内野手が巨人にドラフト1位指名されるには?とか真剣に考えてんのにー」
「…それ、瞑想って言うのかしら」

「別に悟りなんぞ開かぬモン。それにお義兄さんも限られた時間は有効に活用すべきだと仰ってるじゃないのょ」
「そ。名案が浮かんだのなら後学の為にも是非聞かせて欲しいものね」

「そーねー…千葉マリンから福岡ドームに到着するまで打ったホームランの飛距離分だけ移動する球場巡り、とか?」
「凄い。アナタの言ってる意味が全然判らないわ」

「モフフフフフ…」ω・)+

全く以て付き合い切れない。時間の無駄。妄言は一切無視しよう。

現実と部活に連れ戻すべく彼の手を掴むと、その掌は暖かい岩なんて表現がピッタリ当て嵌るぐらいゴツゴツしていて、指先にまで肉刺が出来ていた――



[30780] #9
Name: 兼久◆6d77000d ID:db0ce5a0
Date: 2013/04/01 16:33
11月3日、学園祭――野球部は毎年、喫茶店を出すのが恒例となっている。

喫茶の看板を掲げているにも関わらず九十九宇宙が作るおでんはとても人気があって、本人も“ほなプロ諦めたら居酒屋でも始めよかぁ~”なんてトボけてたっけ。彼の遺した秘伝のレシピは、今でも有効に活用してるわ。

前月の秋季東京都大会では1次予選ブロックにて古豪・都立パワフル高校を下し、本大会でも赤とんぼ高、白鳥学園、極亜久商業、ブロードバンドハイスクールを相手に全て5回コールドゲームを成立。

決勝では再び立ち塞がるそよ風工業を軽々と撃破し、3年生引退の余波を微塵も感じさせずにセンバツ行きの切符をほぼ手中に収めた。

ドラフトを翌週に控える一ノ瀬塔哉には当然非公式ながらセ・パ数球団から指名挨拶もあり、全てが順風満帆。まさに黄金期と呼ぶに相応しい情勢だった。

「オーダーよ。コーヒーセット1、パワリンサワー1、マスターのお任せ1…」
「了解っ!種の捌け具合はどうっスか白さ…ん?どしたん?」

「うぅん、何でも無いわ。アナタってお箸は右手で持つのね」
「ぇ?あー…ぅん、親の躾ってヤツ?鉛筆なんかも右ですのょオホホホ…ヘイお待ち!」つ旦

十十が菜箸でロールキャベツや煮卵等を器用に摘まむと紙皿へと手際良く盛り付ける。毎日野球漬けの生活を送っている筈なのに、2人共まるで何年も経験しているベテラン並の手腕で模擬店を取り仕切っていた。

「あたる~~ぅ、スーパーまで一っ走りしてハンペンとチクワ 「がってん!」 ブ、なんやけど…ま、ええか」

なお、出店に当たっては1年生部員の中で最も器量の良い男子がウェイトレスの格好させられると言う意味不明な鉄の掟があり、これを拒否するのであれば野球部全員がお祭り返上での練習を課せられるので――

「お前が無理矢理こんな格好をさせたんだからな十っ!責任を取れェェ!! 」

「んまっー!十様にひん剥かれてお婿にいけないカラダにされてしまったから、その責任を取れとっ!? …心配御無用ッ、ワタクシが貰って差し上げマッスル!」

「しょうがないにゃあー…ぃぃょ。此処は攻めのみならず、受けでも定評のある十さんに任せろー…バリバリ」

『やめて!』

その年は猪狩守があのエプロンドレスを纏っていて…同じ衣装でもキチンとお化粧をすれば、私なんかよりもズッと可愛かったと思うわ。

男子校だった頃の名残りで単なる遊び心なのかも知れないけれど、一ノ瀬塔哉、六本木優希、猪狩兄弟と4年連続で洒落にならないレベルの女装を見せ付けられる女子マネージャーの身にもなって欲しい。

理性を失い、猪狩守を捕食せんとする勢いで求愛する姫野カレンは今ドキ?の肉食女子なんて単語そのもの。人伝には未だに独身だと聞き及んでいるけど、今は一体どうしているのかしらね。

彼女と彼の貞操を賭けた闘いに割って入った十十は猪狩守の腰に手を回して抱き寄せると、マタドールよろしく姫野カレンを挑発。2人で手と手を取り合い、まるで円舞曲を踊るように華麗に暴れ牛を翻弄し続けた。

最後は疲れ果てて倒れ込み、無様な醜態を晒すピエロの姿を余興の一種と勘違いした衆人が笑ったり拍手を送ったりしていたけれど、私は自分の気持ちにあそこまで素直になれるあの子を少しだけ、ホン僅かながら羨ましく思っていたものよ?

『olé!! 』 ヽ(・ω・)人(・ω・)/     ⊂⌒~⊃。Д。)⊃

学園祭では大車輪の活躍を見せた十十も、秋季大会では再び控えに回っていた。殊にエラーでの懲罰交代を命じられる五十嵐権三に代って途中からサードを守る機会が多く、チャンスの場面での代打起用も度々あった。

何かを起こす意外性の男、そんな認識だったのだろう。大会期間中の全成績は6打数5安打7打点。犠飛2・四死球1となっている。

相手投手の全球種やキャッチャーリードすら完全に把握しているような成績で、唯一打率を下げたフィールダースチョイスも実情はギャンブルスタートどころか、ホームスチールも辞さない覚悟で吶喊させられた八嶋中をアシストするエンドラン。

先の西東京大会及び選手権大会本戦を含めた通算OPSは2.17と収集データが少ない影響で異常な数値を示していて、5安打のうち…コールドを確定させる代打サヨナラ満塁ホームランが1本含まれていた。

個人的には勝敗に関係ない場面だったのだから、大事に備えてスクイズを試みても良かったと思う。いいえ、私が監督なら絶対にスリーバントになってでも経験を積ませている。それ程までに彼の打撃は強引過ぎるのだ。

全打席、初球から徹底してホームラン狙いのプルヒッター。某かのサインが出ない限り、フルカウントになっても決してそのスタイルを崩さないのだから始末に負えない…あんな無茶苦茶な打撃スタイルで結果が出せているのに感嘆すべきなのだろうか?

――約束?既に1度は責務を果たした身、反故にしたりしないわ。

でも、思い出して欲しい。甲子園以外ではどんなキスをするかは私の指定が許されるのだから、次の機会を得られる迄はその時と場所も私に委ねられる筈。

つまり、センバツまでは、もし途中で2軍に落ちるのであればその先まで猶予はある‥‥‥と言う事!そんな感じで焦らし続けていた。

「すいませーん、注文いいですかぁ?」 「ハイ、お決まりで――!」

パワフル高校戦後、無駄に派手な活躍にはしゃぐ周囲とは対照的に“そっか、今はパワ高に居るのか…そりゃ出逢わんさ”と、しみじみと独りごちる声が漏れ聞こえた。

恐らくそれはベンチの最前列に陣取っていたヤーベン=D似のヤジ将軍か、目の前に座るマネージャーと思しきピンク色の可愛らしい女子生徒を指しての発言であろう。その一言に十十の想いが全て集約されているような、そんな響きだった。

「コレってパワリンが…じゃあソレで。あと、このマスターの…おでん?旨そうだな、ソレも1つ。舞は?」

「えっと、コーヒーセット1つおねがいします」

「…承知しました」

どちらの話なのか、どんな関係だったのかを確認するのが怖かった私は一切その話題に触れなかった。何も知らずに訪れた彼女は同席したボーイフレンドと一頻り談笑を済ませると、十十とは顔を遇わす事も無いまま店を後にしている。

‥‥‥別に悪い事はしてない筈。それなのに、私の胸はチクリと痛んだ。



[30780] #10
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:33
師走に入った或る日、散歩帰りの愛犬を執拗に愛撫する兄と、招かれざる客が私を出迎えた。

「流石キャプテン!後輩の目の前で絶対マネ出来ない事を平然とヤッてのけるッ…其処に痺れる!憧れぬゥ!…ぁ、お邪魔してまーす」
「…なんでアナタが家に居るのよ」

勝手に我が家へ上がり込んだ理由を問い質してみると、昼休みに打診した試験勉強のサポートを兄に阻まれたからで、私が彼の家に行くのが駄目なのであれば自分が四条宅に訪問すれば良い、との結論に達したからだそうだ。

「いやぁ、澄香が帰る迄の間にゼヒ秋季大会の総括をと懇願されてね」
「ソーナンス!それにしてもヤーベンの奴、応援はイマイチだけど撮影の方はプロ級っスねぇ」 >w<)ノ

「そう…取り敢えずお茶でも淹れて来るわね、兄さん達も紅茶で良いのかしら?」
「ゴチ。しかし何だってこのピッチャー、オレん時だけストレート1本槍なんスかねー(笑)」

今日の今日で良くもまぁ門前払いされずに済んだものだと感心したが、試合前のミーティングはともかく、その後の分析データを披露する機会に恵まれない兄の自己顕示欲を上手にくすぐったらしい。

彼らが観ていたDVDは秋季東京都大会準決勝の、進学校として有名なBB高(ブロードバンドハイスクール)戦。正直に言ってまさかの快進撃を見せたダークホースで、兄も対戦が決まってから情報収集に着手したくらいだった。

試合内容はBB高の先発投手、中島火暴の独り相撲と評すべきね。

序盤は高速のスライダーとシンカーを織り交ぜながら、低めに集める丁寧なピッチングで3回まではパーフェクト。続く4回も1死3塁の状況に持ち込みながらチグハグな拙攻で無得点に終わったわ。すると暁ナインに焦りが芽生えたのか四球にエラーが絡んでノーヒットのまま先制点を献上し、ベンチ内には不穏な空気が漂い始めたの。

でも、そんな中で代打として送り込まれた十十が嫌な流れをアッサリ断ち切った。

どうした訳か中島火暴は彼を打席に迎えた途端、徹底した直球勝負にこだわり十十が粘りに粘った9球目、チーム初安打となるツーベースヒットでチャンスメークを果たすと、それを足掛りとして一挙に2ケタ得点の猛攻に転じ、終わってみればまたしても5回コールドで幕を閉じている。

この時点でも充分に完成度の高いチームだったけど、強いて言えば練習でも滅多にサードに就かない十十よりもスタメンの五十嵐権三の守備率が低かったのが、今大会最大の課題でしょうね。

「…その本なら貸してあげるから、せめて今晩だけでも勉強に集中したらどうなの?」
「やた☆うれしいのですょにぱー★」

テスト対策を指南し始めてみると彼は拍子抜けするぐらい容易く理解を示し、実際に試験結果は全教科で80点台をマークしていた。

よくよく考えてみれば一般入試で暁に入学出来る程度の学力があるのだから当然と言えば当然なのだけど、本当に教わる必要があったのかどうかさえ疑わしい。

その日は結局10時過ぎまで居座り続けていながら終盤は野球教本の読解に没頭していて…殆ど私の蔵書を読み漁りに来ていたようなものだった。

――この日は兄が心配するような真似は一切されてない。

「そういえば、今月は…いつ頃なの?」 「にゃにが?」

映像を観ている合間合間に十十は兄の膨大な情報集積量及びその解析力を褒め称え、続いて千石監督やチームメイトからの信頼度の高さ、果ては六本木優希との阿吽の呼吸からチームプレイに徹する自己犠牲のバッティングに至るまで、延々と賛辞を贈り続けた。

翌年にはまたしてもスワローズからドラフト1位指名の栄誉を浴する強肩強打の二宮瑞穂、甲子園通算本塁打ランキングに今でもその名を残す三本松一&七井アレフト。そんな同期を押し退け偉大なる一ノ瀬塔哉から引き継いだ、暁大付属野球部キャプテンの座。

一時的ながら、その重責から開放されたばかりの四条賢二は見事に蕩けてたわ…

「その、またどこかに…いっ、行かないのならそれでも全然構わないのよ?ただ年末は何かと忙しいし、ハッキリして貰えると助かるかなって…」

まんまと十十の術中に嵌った兄はホンの数時間前に“嫁入り前の大切な妹を男と2人っきりなんかにさせられるか!”と大喝したのも忘れ、あまり遅くなるなと言い残すと上機嫌で自室に戻ってしまった。

幼い頃から今日に至るまでズッと頼れるお兄さんで在り続ける彼でも、今思えばまだまだ子供だったのね。

「んじゃ26~30日で空有?」 「二十、六?――了解。予定を入れないようにしておくわ」

クリスマス・イヴを、初めて家族以外の人と過ごすかもしれない。

それが単なる思い過ごしであったのに気付かされた時の落胆は、存外大きかったみたいね。笑われてしまうかも知れないけれど、こんなツマラナイ女でもそんな事に胸をときめかせている乙女みたいな時期があったみたいよ?

「ん??? ぁー待ちたまえ、お前さん何ぞ勘違いしとらんかい?」 
「かっ…勘違いって、どういう意味よ…わ、私は別にナニもっ…何も言って…!」

そこに追い打ちを掛ける様に勘違い、の一言だもの。あの時の自分の血の気がスーっと引いて行く感覚は、今でもよーく憶えてるわ‥‥‥そう、私達は恋人同士でもその1歩手前の親しい友人でも腐れ縁の幼馴染でも無い。それを改めて指摘されるのが怖かったの。

「あんな、イブから三箇日まで妹が帰って来るんさ」 「えっと…なぎさちゃん、が?」

だって、普通ならドン引きするレベルのシスコンなのに…自らが些か過保護気味な兄を持つ身であったのが災いして、彼の優しさが、慈愛の深さが何となく理解出来てしまったから。

四条賢二と澄香は年子の兄妹で、1/365 の確率で出生日が重なった妹を、母親はアナタに贈る生涯最高の誕生日プレゼントだと幼い兄に言い聞かせ続けた。

それは正しく事実であると謂われれば至上の喜びであるのだけれど、育児の負担を軽減する為の方便でもあっただろう。でも、幸せな事に兄は刷り込み通り妹を溺愛し、お陰様で仕事の関係上どうしても不在がちな父母が居なくても、私はちっとも寂しくなかった。

当初は空想の産物である可能性すら疑っていた十十の妹は、偶然にも私達の両親が勤務する官僚大病院にて闘病を続けている、実在の少女だった。でも兄妹で仲良く買い物をしたり、海水浴に出掛けたりした事など無いのだろう。

「ぅぃぅぃ。普段は部活で殆ど面会もしてやれんしな、プレゼントも買ってやりたいんで短期バイトもしとるんょ。口止め料に1回オゴるからー…ミンナニハナイショダヨ?」つ◇

そう言いながら、彼は自分の居る店のチラシを差し出した。

私に対して構築して来た優位な関係性を覆しかねない、不用意な行為。嬉しさに惚けた様な、隙だらけの笑顔。学園の承諾も得ずにアルバイトをしてる事実が発覚すれば、理由はどうあれ停学処分は免れない。

勿論そうなれば監督の立場や性格からして、他の部員達への戒めの意を込めて無期限2軍降格等の処罰は検討するでしょうね。

ただただポジティブなだけだったのかも知れないけれど、どこまで相手の気持ちを忖度して生きているのか、まるで判らない人だった。



[30780] #10.5 
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:34
もう何年も昔の話になるけれど、西東京地区でのライバルであったパワフル高校の大波 久監督と当時について話を交える機会があった。

敵対校の指導者から視た暁大付属、他校の猪狩世代の談話は私の知らない色々な側面を垣間見る事が出来、非常に有意義な時間を過ごせたわ…セクハラ紛いの言動だけは頂けないけれど。

一ノ瀬塔哉が率いる暁に西東京大会準々決勝にて敗退し、一足先に新チームへの移行に着手していたパワ高は戦力強化を図り、約1ヶ月に及ぶ夏合宿を敢行していた。

「毎年毎年繰り返されるルーチンワークの1つだけど、15年に1回くらいは半月ばかしの遠征で終わる年があっても良いじゃないか?」

毎度毎度、おたく等には苦汁だの煮え湯だの散々っぱらご馳走になってるんだし、と宣ふ。そんな氏に“断固お断りですから!”と心の中で反論しながら作り笑いを差し向けた。
                                    
夏合宿最後の夜を締め括る、浜辺のキャンプファイヤー。

氏が部員だった頃に提案して以降、代々受け継がれている名物行事で、満天の星空と舞い上がる炎、はしゃぎ回る後輩達を眺めつつ秋の展望を肴にぬるんだ缶ビールを呷るのが、晩夏の嗜みなんだそうで。

「コイツらには悪いが、考えるだけムダだよな…チットも酔えねぇ」

いつもならこの時ぐらいは酒の力を借りずとも甲子園制覇の夢を楽々描けるの筈なのに、その年はネガティブな考えがどうにも止まらなかった、と。それも、期待した成果が出なかったのならともかく、例年から見ても上々の仕上がりであったのに。

「主将と副主将の三遊間コンビにはノンプロレベルなら幾つか声が掛かるだろう」

社会人野球の名門・どすこい酒造のリードオフマンとして活躍した尾崎竜介。するめ大学進学を経てたんぽぽ製作所入りし、毎年のように都市対抗野球大会の補強選手として燻し銀の働きを見せた鮫島粂太郎。

実際2人はアマ球界ではそれ相応の活躍を魅せ、一時はドラフト候補としてスポーツ紙面にその名が載った事もある。それぞれ理由は異なるが、プロ入りの夢は夢のままで終わってしまったそうだ。

「直球の物足りなさと、薔薇を咥える変な癖に目を瞑れば―」

コチラの外野手にも似たようなのが1人居ましたが?と喉まで出掛かった言葉の飲み込んで聞き役に徹する。

氏は3年生引退後、ロクな投手が育ってなかった状況下にあって救世主みたいな存在だったと懐古していたが…ある意味、猪狩2号か3号と呼称するのが妥当と思われるナルシスト・花崎カヲル。良くも悪くもそれなりの投手だったと記憶する。

投げる方の目処は立ったが受ける方が致命的で、どうにか捕球するのが精々の弱肩貧打揃い。走られたりしたら、その時はもうゴメンナサイ。

甲子園級のエースが居ても、キャッチャーの技量が不足していればピッチャーはその力を十二分に発揮する事は出来ない。氏は現役時代、自分がどれだけ恵まれていたのかを監督になって初めて理解するに至った、と。

この点は神童裕二郎を得ながら導き切れなかった、と悔やんでいた千石監督と通ずるモノがあるわね。

「せめてウチの偏差値が俺の時代と同じだったらなぁ~…スポーツ推薦とか普通に反則だから。マジ有り得んって」

氏の現役時代には50をやや下回る程度の偏差値であった筈のパワフル高校は、いつの間にか50代半ばの中堅校になっていたと言う。

本来なら母校の躍進を喜ぶべき話なのだが、本当は親友の息子で中学時代から目を掛けていた山本大和を勧誘していたのに入試で躓き、バス停前に獲られてしまったんだと裏話を披露してくれた。

確かに1勝もするどころかコールド負けを阻止するのが精々だった弱小校の4番にしておくには些か勿体ない捕手で、監督推薦でのスカウトが可能な上に、留学生の受け入れ体制まで万全な私立校への皮肉と恨み節がこの後延々と続く。

「…影山サンが一等好きなタイプだもんな、大事に育てにゃなるまいと心に誓ったモンさ」

折を見て水を向けると、氏の言の葉にようやく真打ちがご登壇となった。

これまで育てた数百人の教え子とはまるで違った想いがフツフツ沸き上がる、ダイヤの原石。拙い技術とは裏腹に何処までも飛ばす垂涎物の打撃センスは研磨の真っ最中で、その成長を見守るだけで胸を熱くしたと――全く以て忌…羨ましい。

暁大付属にセレクションがあるのを知らず、桜散ったお陰で掌中に転がり込んだ奇跡の変わり種。バス停前の主砲の逃した代わりに得た僥倖だとすれば、大波久は野球人生のうち半分以上の運を使い果たしたと言っても過言ではない。

高校時代には千石監督は一体ドコを見ていたのだと思っていたが、戸井鉄男が野球を始めたのは中2の夏。夏休み真っ盛りのある日、自分もTVゲームみたいにホームランを打ってみたいと云うだけの理由で入部し、周囲を呆れ返らせたそうだ。

何しろそれまで草野球の経験すら無いド素人で、正しいバットの握り方から学ぶレベル。軟球と硬球の違いすら理解してなかったそうよ?

それでも数ヶ月後には当たれば本当にホームランを打てるようになったのだけど、内野の連携プレーも満足に覚えられず、外野に置いてもショフトの用意が必要となるお粗末な守備が災いして専ら代打専門。甲子園を目指すと言う彼の言葉には両親でさえ耳を貸さなかったらしい。

一廉の戦力は整ったが、それでもこれからピークを迎える暁レギュラー陣との戦力差は拡大する一方だろう――そんな予測から、気分はまるで冴えない。戦術だの精神論だのではどうしようもない時もある…結末は氏の言葉通りだった。

「なまじ実力があるだけに、現有戦力の育成だけでは超えられない壁を痛感する他なかったよ」

そう語ったところで、氏はウヰスキーのグラスを一気に呷った。



[30780] #11
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:35
新年を迎え、寒さが一段と厳しくなっていた1月某日。

学級閉鎖寸前になっていた私のクラスでは猪狩守でさえ体調不良を訴える状況になっており、1限目終了直後に保健室へ消えた彼は、昼休みが終わってもホームルームの時間になっても戻らなかった。

担任も早退するとの報告は受けておらず、立場的に状況を把握しておく必要があったので様子を見に行くと、ベットに横たわったままだった。

容態を確認しようにも何故か校医は不在で、仕方なく本人に容態を尋ねると“ユニフォームに着替えるから手を貸してくれ”なんて言いながらフラフラ立ち上がる始末。呆れた事に、彼はそんな状態でも部活に参加しようと帰宅せずにいたらしいの。

「…構わないけど、その前にチョット良いかしら」

内心どうしようかと戸惑いながら熱を測ってみれば体温計は39.8度を指していて、私は迷わず緊急連絡網代わりに持ち歩いているPHSを取り出し、猪狩守の邸宅に連絡を入れた。そのまま寝かせておくべきだったと本気で後悔したわ。

「余ヶ…ぃゃ…すまない四条クン…後の事は家の者に任せて…キミは部活…戻ってくれたま…ぇ」

この超人的にストイックな求道者は三井・三菱・住友と居並ぶ日本屈指の大財閥である猪狩コンツェルンの跡取りとして育てられたせいか世間一般とは常識的感覚が乖離していて、混沌の中心には大抵彼か十十(若しくは両方)が存在していた。

何しろ己の力量がどれ程のものかを把握しながら周囲にも相応の実力を求め、ソレが認められない相手は同期どころか先輩ですら仲間として扱わないんだもの。

もしも二宮瑞穂が睨みを利かせていなければ、その慇懃無礼な態度が原因で甲子園出場辞退に発展していたケースが何度あった事か?両手の指どころかダース単位で並べ立てられるわ。

それでも誰もが認める実力が物を言い、野手陣からは頼りになるエースとしてそれなりに信頼を勝ち得ていたけれど、彼がいる限り出番の無い先輩・同期の投手陣からは誇張無しに悪鬼の如く嫌われていた。

マスコミを媒介するか、ファンとの交流イベントでしか彼を観た事の無い人には到底信じられられない話でしょうね。

「大丈夫よ、監督が今日は出席者が少ないからってマラソンに切り替えてるから。だから…」

それを聞いて気が抜けたのか“だから今日は休みなさい”と姉か母親にでもなったつもりで窘めようとした時にはもう寝息を立てていて、結局爺やさんが到着するまで待機する羽目になったわ。

それでも弱って大人しくなっている彼は…うぅん、そうでなくても十十に振り回されっぱなしの私には駄々っ子程度で可愛いものだった。

暁大付属に名物は数あれど、その中でも肉体的に最も過酷だと言われているのが42.195kmを走る地獄マラソン。

アウトオブシーズン中、総じて寒風すさぶ年明け頃に千石監督の気まぐれで開催されるのだけど、通常のフルマラソンとは異なり街⇒公園⇒河原⇒神社とアップダウンの激しい順路を巡る上、給水場も無いからその辺は各自で知恵を絞っていたわね。

その上10位以内に入らなければ後日再出場、再々出場を強制されるサバイバルレース仕様なので賞品の出る1~3位に誰が入るのかどうかなんかより、生死を分かつ壮絶な10位圏争いの方が遥かに見応えがある。

内緒だけど、彼らの必死になって走っている姿を観てるとゾクゾクするの。

ちなみにこの日は1位:五十嵐権三 2位:八嶋中 3位:十十となっていて、その他野手レギュラー陣も無難に10位以内にランクイン。意外だったのがヤーベン=Dの好走で、もし仮に猪狩守が平静を装って参加していたとしても途中で倒れるか11位以下になるのが関の山だった筈よ?

もっとも、その後の再レースでは病み上がりの状態で五十嵐権三を超えるタイムでゴールしているけれど。

後年、猪狩守は“天才は1%の才能と99%の努力~”なんて言葉を残しているけれど、正にその通り。例えどんなに努力を積み重ねても残り1%の、ホンの一握りの選ばれた人間でなければ天才と呼ばれるアスリートには成り得ないのだから。

…そういえば、順風満帆と言ったけれど、その中で唯一の躓きがあったのを忘れていた。あれは予選ブロック最終戦、都立パワフル高校との試合だったわ。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「…何をやってるんだ貴様等は?このまま春季大会の出場権すら掴めんのなら暁で野球をやる資格など無い!レギュラー陣は次が最後のチャンスだと思えッ」

パワ高が誇る尾崎竜介・戸井鉄男・鮫島粂太郎の強力クリーンアップ相手に土壇場で引っくり返された暁は、その後も追い着き追い越されのシーソーゲームを繰り広げていた。

悪戦苦闘の末、どうにか延長15回まで凌ぎ切り再試合に持ち込んだ先に待っていたのは鬼監督の罵倒と、1年生エースに対する批判の嵐。

「いくら素質があっても高校じゃ大した経験も実績も無い1年坊だからなァ」
「ウチのバックなら誰が投げたって勝つだろフツー」

反・猪狩守の急先鋒は暁大學進学後も含め、7年間ズッと控えに甘んじていた2年生投手の洗髪星太と仲次放人。それに、この試合でギリギリの火消し役を務めた1年の抑江久郎左右衛門が追従する。

「ちょっと待って下さい。今日の試合は引き分けだったんです、そもそも彼1人の責任じゃ無いでしょう?」

延長6イニングは懲罰降板だった為に注ぎ込まれた彼ら3人の失点は合計で4。それに対し槍玉に挙げられているエースは9イニングを投げて3。猪狩守個人を糾弾するには、かなり微妙な数字だったと言える。

「だけどな澄香ちゃん。コイツが今日みたいなピッチングを絶対しないなんて、誰が保証出来る?」
「そーそー、監督の言った通りパワ高に負けたら次の公式戦は俺達にとっちゃ最後の夏になるんだぜぇ」

それでも高まる誹謗中傷の声に誰1人として猪狩守を擁護せず、堪り兼ねて兄の方を見遣っても公正な立場である筈のキャプテンでさえ、静観を決め込んでいた。

「それは…だからって彼を責めて何の意味が…」
「いやいや結構、どうぞご自由に。ただ、ボクはロードワークの時間なので愚痴を聞かせたいのでしたら走りながらにして貰えますか?」

周囲の罵詈雑言を他人事の如く聞き流し、部室から猪狩守の姿が消える。誰も彼の後を追おうも呼び止めようともしなかった。

「どうして誰も庇ってあげないの?抑江君は同期じゃない…どうして兄さん?!」
「――澄香の言いたい事は解る。だが、彼自身の態度に問題があるのも事実だ」

こういった話には一切関わろうとしない九十九宇宙が“たしかにまぁ…アカンのちゃうか?”と兄に同調すると、甲子園では猪狩守を気遣い励ました八嶋中も“アイツ、少しダメだぞ”と不満の色を隠さず、五十嵐権三に至っては“奴は気にいらん!”と露骨そのもの。

恐らく3点差で迎えた8回2アウトからの投球がそうさせたのであろう。クリーンアップとの力勝負を楽しもうと云う魂胆が見え見えのフォアボールで打順を調整し、9回も先頭打者をツーナッシングまで追い込みながら二宮瑞穂のサインに逆らい、振り逃げを許したのだ。

「マ、このまま腐るようじゃお話にならないナ」
「…彼が僕らを失望させないでくれる事を祈るよ」

どうだって良いと云う感の七井アレフトの発言に三本松一が“全くだ”と頷き、その遣り取りに六本木優希までもが加わる。一方で常日頃、最も猪狩守と衝突している人物は何も語らなかった。

せめて、何も出来なくても誰か1人ぐらいは。若さ故の独善的な義憤から部室を飛び出すと、私は猪狩守の後を追った。彼の捨てゼリフ通りなら、大体居場所の察しは付いていたから。

「Wait ! Just a Moment, Please でヤンース」
「何?今急いでるんだけど…」

でも、校門を出た付近で待ち構えていたヤーベン=Dに呼び止められてしまった。彼が言うには十十から授けられた秘策が有り、私が追って来たのなら手伝わせる様に言付かっている、と。

応じるべきか迷ったものの、結局は説得する自信の無かった私が言われるままに準備を済ませて現地へ急行すると、球川沿いの土手には案の定、独りで佇む猪狩守と素知らぬ顔で彼に近づく十十の姿があった。

「よぉ、こんな所でイメトレか?暇なら付き合えよ」
「おや、誰かと思えば確か一応ベンチに居た横田手抜だっけ?…ハハっ、同情?哀れみ?それとも本当に愚痴でも聞かせに来たのかな?」

何を言っているかまでは聞こえないが、彼の注意を引くのには成功したらしい。

後は十十の出す合図が待って、私とヤーベン=Dが登場するだけだ。

「ほ…本当にやるの?」
「Exactly でヤンース」

躊躇する私にチアガール姿で恭しく頭を垂れるヤーベン=Dのニヤついた顔を思い出すと、今でも不愉快になる。

「そーそー、勘違い野郎の泣きっ面でも拝んでやろうと思ってなァ~…とでも言って欲しいかマゾ野郎めが щ(゚Д ゚щ)」
「だっ…黙れぇッ!! ベンチウォーマー如きがこのボクに意見する気か?! 」

十十の策とは彼の合図で私達が飛び出し“フレー、フレー、マ・モ・ル!”と、猪狩守が希望したフレーズで応援し、勇気付けると言う至極単純な物。問題なのは、私までヤーベン=Dと同じ格好をさせられている事だった。

通行人に見られたら、もしもソレが学園の関係者だったら恥かしくてもう登校出来ない。タイミング次第では他の運動部が団体で通り掛かる危険性も充分考えられる。合図はまだなのか?誰もこないうちに早く!そんな事ばかり考えていたわ。

「ヲィヲィ、何処に行くんだょ猪狩=」

「何を言っているんだ?休憩が終わったからトレーニングを再開するまでさ…付いて来い十。キミがチームの足を引っ張らないで済む様にボクが直々に練習のやり方を教えてやる」

だけど幸か不幸か十十の呼び掛けだけで持ち直した猪狩守は彼を連れて何処かへと去ってしまい、私達は秋風沁みる河川敷で出待ちのまま作戦は終了した。

それからと言う物、2人は部活後に揃って出掛ける機会が格段に増え、何をしているのかを訊ねても“スマンが今は未だ言えないょ。アイツがオレに心を開くとしたら、こんなパターンぐらいしか無いからなァ”と煙に巻くだけだった。

「ったく、人騒がせなコゾーめ…何が可笑しいんスか?」
「まぁまぁ、無事解決したみたいで良かったじゃないか瑞穂。意外と後輩思いなんだね?」

なお、後日行われた再試合の結果は13-0の5回コールドゲーム。監督に代打出場を直訴した十十のサヨナラ満塁ホームランで幕を閉じている。



[30780] #12
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/15 22:09
2月14日。 

私は休み時間をフルに使い、昨日作った生チョコトリュフを野球部全員に配り歩いていた。一口に“手作り”と言っても市販の板チョコとアーモンドを細かく刻み、温めた生クリームと混ぜ合わせ、冷やして丸めてココアパウダーを塗しただけの代物。義理の塊。

せめて練習後にまとめてバラ撒ければ助かったのに、学年末試験前で部活は休止となっていたから渡すだけでも一苦労。当人達に変な気を起こさせたり、周囲に妙な勘繰りをされても困るので“全員に渡してます”とアピールすべく努めて事務的に、淡々と振舞う。

「ててっ、手作り‥‥‥だと?」 Σ(゚ω ゚ ;)
「…何がおかしいのかしら?何十人も居るんだからイチイチ買ってたらキリが無いじゃない」

千石監督は私の手間暇と士気高揚の労を犒い“レシートを持ってくれば材料費は全て部費で賄おう”と仰せになった。多分、サングラスの鬼監督にチョコを贈った女子生徒なんか過去には誰も居なかったんでしょうね。勿論気持ちで贈る物だから、お申し出は辞退してるわ。

言っておきますけど栄養学に基づき味より健康優先の料理を作るのは食べる人を想っての事であって、メシマズなんて謗りを受ける謂われは断じて無いわよ?…まぁ、ホウレン草と人参の野菜ジュース漬と、豚の牛乳ソース大蒜添えに多少改良の余地が有ったのは認めるけれど。

「あぁ、量産型か」
「当然でしょ?お嫌いでしたら無理に召し上がらなくても結構です」

何だ、と言わんばかりに十十は嘆息を漏らす。ここ2ヶ月の間、無料試写会に当選したからと下らない(スライダーマンのC.Gだけは素晴らしかった)映画をホンの数回観に行っただけの相手から本命チョコを貰える気でいたのだろうか?私の乙女心はそんなに安くは無い。

「ぃゃイヤ、貰ってばかりの十さんでは無いのダヨ‥‥‥ハッピーバレンタイン☆」つ□
「ぁ、ありがと。まさかアナタもチョコを作ったの?」

近年では友チョコだの逆チョコだの割と欧米の風習に近づいて来ているけれど、あの頃はまだまだ女性が男性にチョコレートを贈る日本独自の習慣が色濃く、正直男の子からバレンタインデーにプレゼントを贈られるなんて思ってもみなかったの。

だから、いつも意趣返しにと彼の分だけカカオ90%のビターチョコで作ったのを少しだけ後悔した。

「うんにゃ、チョコ絡みのイベント回避には必携の品を贈らせて貰ったょ。オレのとお揃いなのだー」
「?…そう、せっかく貰ったんだから使ってみるわ」

――後悔する必要なんか、全くなかったのに。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「んぁ‥‥‥ぅ‥‥‥ゃあ」

室内にはヴィィィーンと唸る低いモーター音と、私の口から零れ落ちる雑音だけが響き渡っていた。十十が正しい使用方法の説明と称し、贈り付けたピンク色の異物で私を好き勝手にまさぐり続けているせいだ。

そろそろ兄が散歩から帰る頃の筈、いい加減もう止めにさせないと――そう思うのだがカラダに力が入らない。

「コラコラ、動いちゃメーなのです」

人を強引に自分の膝の上に乗せ、後ろから抱き竦めるような体勢。彼の左手は私の顎しっかりと抑えていて、身動きどころか顔の向きを変える事さえ許さない。

その指先は、滴る私の唾液でビチョビチョになっていた。

ごく一般的な女子高生に護身術の心得なんか有りはしないし、そもそも毎日体を鍛えている高校球児に腕力では敵いっこない。涙目になりながら、もう何度も何度も“兄さんが帰って来ちゃう!”と訴えているのに、まるで聞く耳を持とうとしなかった。

「帰って来たら、ナニ?もう何ヶ月もお預けを喰らった上にウマーなチョコまで貰ったんだからお礼をしなきゃぬ」(# ^ω^)

十十のだいぶ伸びた髪が私の耳に触れる。吐息が熱い。

騙し討ちには成功したものの予想以上の効果があったらしく、スイッチの入った十十の逆襲に全く抗えなかった。

「ドゥフフフ、大切な妹が後輩にイタズラされてるのを目撃したらお義兄さんどーなっちゃうのかなァ?」
「~~っ!! 」

彼からのプレゼントは電動歯ブラシだった。

身動きを取れない私の口の中に歯ブラシを差し挿れると奥歯から順に1本1本、丁寧に磨き上げていく。磨き終わると、彼の掌中にあるビターチョコを口だけで自主回収しろと言われたわ。

「そんなコトしたらアナタだって、てか?だったら早いトコ終わらせちまったらどーだい?」
「‥‥‥ぢゅる」

屈辱のあまりアイツの顔をキッと睨み付けてやったけど、涙や涎でグショグショの小娘が相手じゃ却って嗜虐心を煽るだけだったんでしょうね。

小鳥みたいに啄もうとしても、人差し指と中指の間にギュっと握り込まれたチョコはビクともしない。舌を使って刮ぎ取るには或る程度舐め溶かす必要があって、ベトベトになった指先を1本1本丹念にしゃぶらされるの。

それが済んで、ようやく解放されると思った矢先にまた一から歯磨きが始まった時の絶望感は――上手く表現出来ないわ。

「ただいまー…澄香?居るんだろーっ?」

そうこうしているうちに本当に帰って来た兄がやや大きめな声を上げ、私を呼ぶ。

こんな状況を見られたら、一体どうなってしまうのか?兄の鉄拳制裁で一件落着?0点よ。

自分の妹と付き合っている後輩部員を見咎めた先輩部員が、逆上して暴力に訴えた傷害事件。若しくは野球部部員が強引に同女子マネージャー宅へ押し入った暴行未遂。

どちらも最悪時のシナリオだけど、表沙汰になれば確実にセンバツ出場の道を閉ざす醜聞なんだから、絶対に回避しなくてはならない。

まずリビングを開閉する音、次いで階段を昇る足音が聞こえ始める。1階に私達の姿が無いのを確認し、私の部屋に直行しているのだろう。玄関先に、家族の者以外の靴が有るのに気付かない人じゃない。

「わぁ、オレってば悪役なう。おまわりさんにタイホされたら甲子園いけなくなっちゃうなぁ~…どーしよぉ?」

どんなに身を捩っても十十の束縛から逃れられそうもない。許しを乞うようにフルフルと首を振ろうとしても、それすらままならない。

誰も居ない自宅に招き入れておいて、前例があるのだから今回も大丈夫などとは考えが甘過ぎる。

男の人が怖い生き物なんだと思い知ったのはあの日が初めてで、ソコに野球部の皆に迷惑を及ぼすんじゃないかと云う自責の念がゴチャ混ぜになって渦巻く中“コンコン”とやや控え目なノックが2回。一拍の間を措いて“ドンドン”と少し苛立たしげなノックが1回。

我が家には両親の主寝室以外、部屋の扉に鍵は付いていなかった。

「ハイ、どーぞ♪ 」

と、耳元で囁きながら私の行動に全てを委ねる。

でも歯ブラシを引き抜いただけなので、兄からすれば妹がベットの上で自分の後輩に抱きしめられている訳ね。こう云う時には、なんて弁明すれば良かったのかしら?

「ぁ 開けちゃ駄目っ!…き、着替え中なのっ」
「つまらない嘘を付くのは止すんだ澄香。中に十が居るのは判ってるー…入るぞ」

咄嗟に口を衝いた出任せをバッサリと看破した兄が、徐ろにドアを開く。

この時は普段なら存在すら否定しそうな神様に祈りを捧げるしかなかったわね。

「…何をしている?テスト勉強は終わったのか?」
「これからっス。今はチョコのお礼にゴンさん直伝のデンタルケアを伝授してる真ッ最中っス♪ 」

終わった。そう痛感した。

そんな申し開きが通用するとでも思っているのか?と青ざめる私の脳裏には怒りに燃える兄と、嬉々として火に油を注ぐ十十のカタストロフィが一瞬にして過る。我ながら身から出た錆でしか無い。

「そうか。虫歯は困るからなー…今日はもう寝る。晩ご飯は要らないから、朝になったら起こしてくれ」
「うはwww パネェwww そのご様子だとガッツリ搾り取られたみたいっスねぇwww 」

「お前達もバレンタインデーだからってあまり羽目を外しすぎるなよ?ハハ」
「??? 」

いつから私達は兄から公認を受ける仲になっていたのだろうか?モチロン交際宣言をした憶えは無いし、それとなく関係を探られた事すら無い。第一、お互い“付き合ってくれ”と言った事も言われた事も無いのだ。

「知的メガネ先輩にあんな秘策(笑)が通るとは正直思わんかった」
「ワタクシの事はお姉様と呼びなさい」

彼のバイトと、大型冷蔵庫の段ボールと、姫野カレンの言葉を理解するのには、もう少し時間が必要だったわ。



[30780] #13
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:37
〇ワールド3-1暁大付属×

球春。第69回選抜高等学校野球大会、準決勝第2試合。

順当に選出が決まった暁大學附属学園は紫紺の優勝旗を母校へ持ち帰るべく、行く手を阻む満腹・流星・さわやかなみのり高校を次々と撃破する快進撃を続けたのだが、出場選手全員が外国籍と思しきワールド高校の圧倒的なパワーとスピードに阻まれ、準決勝にて無念の涙を呑んだ。

「むむむ、1回戦を突破すりゃ決勝までトントン拍子に勝ち上がれるってワケでも無いのか」
「もー…そんなの当たり前でしょ?何がムムムよ莫迦」

試合終了後、途中出場ながら自分自身の仕事に満足してか十十は“1回戦敗退がデフォな状況から前進したった”と暢気に語り、別段敗戦の悔しさを滲ませる風でもなく、ベンチで悠然とスポーツドリンクを飲み干す。

「土は要らんのかヨコター!後で分けろと言ってもやらんぞぉー!」
「また今度の機会にしまーっス」

この大会には同じ東京都の代表として秋季大会準優勝のそよ風工業も選出されており、初戦で湯けむり高校との投手戦を僅差で制すと、分校としては史上初の快挙となるセンバツ出場を果たした鬼が島分校を、更には優勝候補の一角と言われた青龍高校までも下し、同じくベスト4まで進出していた。

昇り調子のそよ工は午前中の第1試合にて故障によりエース山口賢を欠いた帝王実業から大金星挙げ、コチラも史上初となるか?と一時話題になっていた東京都決戦が、その先にある悲願の全国制覇が現実味を帯びたが故に、そのプレッシャーに押し潰された格好ね。

ちなみに出場校のうち青竜・滝本 太郎内野手、満腹・飯田 太志捕手、さわやかなみのり・丘 夕日内野手、湯けむり・有馬 紅葉投手、流星・阿久津 赤光投手(2年目に野手転向)は後日プロ入りを果たした猪狩世代を代表する逸材で、甲子園だけでは無く、その先の舞台でも数々の名勝負を繰り広げている。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



センバツでのレギュラー選考も兼ねた1軍昇降試験。

後に暁をモデルにした高校野球のゲームソフトが発売され、それをプレイした人間からよく質問されるのだけど…本当に10球投げて、打って、その結果が全て――なんて極端な代物では無い。

試験自体は当落線上の選手を選別するのが本旨であって、キャプテンやエースが偶々その日に結果が出なかったから、と一々2軍へ落としたしたら戦力的なデメリットが大き過ぎるでしょう?

実際の内容は1-2からのカウントで3打席…あぁ、そう言えばこの年のセンバツからBSO方式が取り入れられたのだから2ボール1ストライクと表現すべきだったかしら?とにかく野手だったら実戦形式で監督に指定された投手と勝負する。

同じピッチャーと3打席続けての時もあるし、3人に対して1打席ずつの場合もあったわ。

「十、キミがどれだけ成長したか楽しみだ(中略)よ」 「はいはい、ワロスワロス」

明確な線引きがあった訳では無さそうだけど概ねレギュラー陣には当落線上か2軍の有望株をぶつけるパターンが多く、エース格との対戦だけを指示される者はその結果如何に因って降格の危機が迫っているのを意味していた。

「よし!(省略)1軍に残っていいぞ!」 「あざーす」

ただ、十十に限っては初回以降の昇格試験には必ず猪狩守との勝負が組まれており――この日は2度の対戦を行い、1打席目はストレートをセンター前に打ち返し、2打席目はカーブをスタンドに叩き込んで1軍残留を通達されている。

「ココで親愛なるマネージャー殿に重大なお知らせがあるとです」
「なっ、何よ改まって…気持ち悪いわね」

その翌日には背番号の発表があり、部活終了後に帰宅しようとした所を十十に呼び止められた。

スタメンこそ逃したけれど再びベンチ入りの公約は果たしたし、てっきりセンバツの準備で忙しくなる前に何処かへ遊びに行く算段なのかと思っていたのに、少々異なる様相を呈していたの。

「実はお前さんとの賭けは去年の12月24日で満了してる件」
「えっ――!? 」

十十の指摘でようやく気付いたのだけど、彼と約束したのは“大会でベンチ入りを果たしたら、1軍在籍中に限りその年のクリスマス・イヴまで月1回デート”であって、彼の指定した暮れ以降の映画鑑賞は…付き合う義務が無い。

拡大解釈をしてもセンバツでのベンチ入りが確定した今月からクリスマスまでが有効期間であって、私は嫌なら行かなければ良いのに“また映画鑑賞?最近ソレばっかり…”などと不平不満を述べていた事になる。

「なんか当たり前のよーに遊んでくれてたケド、今年のX’masまで延長ってコトでおk?」
「っっ…どうしてこのタイミングなの?理由を聞かせて頂戴」

本当はあの日、25日以降を希望すれば私から期限切れを指摘されるだろうから、そのまま契約更改へ持ち込むつもりだった…と。でもスンナリ受理されてしまったので指摘しようと思ったが、私の態度が急変したので妹の一時帰宅にかこつけ誤魔化した、とも。

そして彼は私がどういうつもりで年が明けてもデートの誘いを受けていたのか、真意を知りたいので現状維持の条件を満たした上で確認している、と切り出したの。

「そ、それはその…ただ、何となくで…意味なんか別に無いわよっ」

十十の真摯な問い掛けに、卑怯者の私は正直に答えられなかった。



         ┃┃●
● ● ●  ━━━ 
          ┃┃●
                                                         


9回表――1アウトランナー無し、3点差。

この後に及んでも暁サイドはアレックス=キャブレラ投手攻略の糸口すら掴めていなかった。七井アレフトを始め、数多くの野球特待生を抱えるウチがとやかく言えた義理では無いのだけれど、それにしても身体能力的なハンデが大き過ぎる。

決勝では実績的に劣るそよ風工業が彼らを完膚なきまでに叩き潰し、溜飲を下げてくれたのがせめてもの救いね。

「待って。このまま零封じゃ、あまりにも情けないから…」 「ぬぉ ∑(OД O )」

破れかぶれになった九十九宇宙が普段お遊び程度でしか立たない左打席で悪戦苦闘しているが、恐らく次のバッターが最後の1人になるだろう。その六本木優希の代打としてネクストバッターズサークルへ向かおうとする十十を呼び止め、招き寄せる。

イチ記録員の思いがけない行動に千石監督や兄を含め、ベンチ内の皆が何か秘策でも浮かんだのかと注視する中――私は大きく息を吐いて覚悟を決めると“景気付けに”と彼に報酬の前払いをした。

遅ればせながら卑怯者なりに、精一杯の答えを出したつもりで。

「さ、せめて一泡吹かせてらっしゃい」 「フハハハ、精々頑張るんだな!‥‥‥オレ」

ライナー性の特大アーチは“あと1人コール”の大合唱が鳴り響くレフトスタンド中段に突き刺さった。本人曰く、終盤ビハインドでランナー無しの場面にもう1回代打に送られれば再現可能と豪語していた。根拠は不明。

ただ、この一撃が“暁大付属に十十在り”と球界に広く知らしめるキッカケとなった。



[30780] #14
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:37
準決勝敗退から一夜明け、頂上決戦に沸く甲子園から後ろ髪を引かれる思いで帰路に就いた暁大付属野球部一行。栄光を掴み損ねた敗者達は、そよ風工業-ワールド高校の一戦を、帰りのバス車内で観る破目になった。

試合はそよ工の先頭打者ホームランで幕を明け、先発マウンドに登った阿畑やすしが打者一順をパーフェクトに抑えると、早々と継投策に打って出た。

当初は某かのアクシデントかと思われたが、阿畑やすしが向かった先はベンチでは無く2番手の阿畑きよしが守っていたファースト。そして阿畑きよしが一巡りしたところで再び阿畑やすしにスイッチすると、その後も交互にマウンドに立つ奇策でワールド打線を翻弄する。

無類の変化球マニアとして知られた阿畑やすしが七色の変化球と登板する度に投球モーションを変えて幻惑したの加え、生粋のナックルボーラーである阿畑きよしは秋季大会には無かった戦力。見た目的には瓜二つの人間が見せる別種の投球術は、強力な初見殺しになったらしい。

「おぉ、エエぞーやすきよっ。俺らのカタキ討ちや、今日だけは応援したるわ!」

打線の組み替えも奏功し、リードオフマンの工藤晶が出塁し、阿畑ブラザーズ(従兄弟)が進塁打で繋ぎ、マスクを被る主砲の森里学が返す形で効果的に追加点を積み重ねる。

その反面、後続は全くと言って良いほど機能せず、そよ風工業は1~4番迄で野球をやっているかのようなチームだった。

後に当時のマネージャーだった阿畑婦人から目覚しい躍進を遂げた秘訣を聞いたところ、一心不乱に日本刀でフルスイングをしていただけ、と関西人特有の冗談なのかどうか判別に困る回答が返って来たわ。

もしも真実で有ったとするのなら、私達にとって幸いだったのはセンバツ優勝後に更なる進化を目指した阿畑やすしのキャプテンシーが暴走し、滝行・茶道・エアロビ・ボランティア活動と凡そ野球とは関係無い練習に明け暮れた事でしょうね。

何はともあれ、帰郷した私達を地元の方々が温かく盛大に出迎えてくれた感動は今も記憶に新しい。ソレは2日後に大優勝旗と共に凱旋したそよ工ナインの時と比べても遜色なく、穿った見方をすればソレは猪狩コンツェルンの御曹司に対しての迎合であったのかも知れないわ。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「どうだった?」 「…別に」

私達の住む東京都西東京区は“区”とは呼称されるけど、都内に有るその他の23の特別区とは性質が異なり、埼玉県所澤市と東京都立河市(及び両市の狭間にある武蔵大和市も含)の越境合併により“平成の大合併”に先駆けて誕生した人口約80万の政令指定都市。

その成り立ちは猪狩コンツェルン総帥・猪狩茂の主導であると言われていて、合併に伴い急ピッチで開通が推し進められていた球都市モノレールもKO球センター-髙幡丕動-立河-王川上氷-箱根ヵ崎間を結ぶ当初の構想から西部球場前へと北上する案に改正され、将来的には所澤駅まで路線延長するとの告示が総帥閣下の息が掛かった政治屋からなされていた。

地元住民的には時間の読めない路線バスと、各駅停車しか存在しない南部線を乗り継ぐしか無かった南北間の移動が1本で結ばれたのは実に画期的な出来事で、レオ戦士が黄金時代を築き上げた頃“ライオンズ友の会”の会員だった十十も友人達と自転車で狹山丘陵を越え、西部球場まで応援しに行った小学生当時の思い出を感慨深げに述べていたわ。

「…ぼちぼち」
「おぉ、そろそろだね。んじゃドーム球場w に行きますかァ」

既存球場に二段階の架設工事をする中途にあった西部ドームは観客席のみ屋根が存在し、名称だけが先行してドーム化した為“雨天中止になるドーム”と物笑いの種になったり、完成後も外壁が無い国内唯一のドーム球場は固定資産税でも問題提議されたり、命名権の売却先が不祥事を起こしたりと話題性に事欠かない“名物スタジアム”と言えるわね。

「えーっと “幻の東京都決戦!マウンドの貴公子、一発に泣く…”か。確かにオレのコトもチラっとは書いてあるけどー…小っちぇなぁ」
「殆ど無名の選手なんだから仕方ないわよ。夏の記事なんか暁が1点先制ってだけで名前すら載って無かった紙面もあったんだから」

観客席に腰を据えると、私はプレイボールまでの暇潰しにセンバツでの記事を集めたスクラップブックを広げて見せた。

「おぉ、ワザワザ調べてくれたん?オレ、パワスポしか読んでなかったょ」
「!!――にっ、肉親が甲子園でスタメン出場してるんだから各紙に目を通すのは当たり前でしょ?アナタのはそのついでよっ」

甲子園のアイドルと謳われた荒木太輔をも凌ぐ甘いマスク、1大会でノーヒットノーラン(流星高校戦)に2本塁打と投打に措いてKKコンビ2人分に迫る実力。そして、誰もが羨む華麗なる血統。

マスコミが捏造するまでも無く、扱えば勝手に数字が付いて来る久々のスーパースターの誕生とあってはそのチームメイトが居並ぶなど容易な事ではない。いや、不可能であると断言しよう。

「そっか~ついでかー…でも嬉しいゎ=」(´∇`*)
「…その顔ヤメテ。イラっとする」

巷に溢れる関連記事はどれもこれも暁大付属≒猪狩守であったと言っても差し支え無く、秋のドラフト候補として実力云々が取り上げられたのも彼とバッテリーを組む二宮瑞穂ぐらい。

猪狩守がああも突出した才の持ち主で無ければ、ナンバーズもあと数人プロ野球選手を輩出していたのかも知れない。

「この対戦カードが日本シリーズ以外に無いなんて詐欺だよなァ~NPBも早く交流戦を導入すべきだょ」
「…そうね」

山間にある立地上、開幕直前だろうと観戦にはコートやカイロが手放せない。ビールの売り子達が可哀想になる気温の中、寒さに鈍感な十十は震えながら甘酒で暖を取る私の脇で、喜々として声援を送っている。

往復1時間弱で巨人戦を観れるチケットは彼には想像以上に魅力的だったらしく、折角だからと併設されている遊園地で遊んでいる最中もほとんど上の空。喜んでくれたのは何よりだけど、私の事なんかどうでも良くなっていたみたいで少し寂しくもあった。

――我ながら、知らず知らずのうちに随分と甘ったれた人間になっていたものね。

「寒いの?だったらお前さんが動物ランドの柴犬をしてたみたいにギュッ!てされてればヨイではないか」
「ゎ、解ってるんだったら言われる前にサッサとしなさいよ…」

人気球団が相手でも平日のデーゲーム。周囲には空席が目立ち、生粋の野球ファン以外には私達みたいにデートのついでに来場しているカップルも少なくない。

和気藹々と大きめのブランケットに2人で包ったり、ピッタリと寄り添い睦み合う姿は、ウブなおぼこにとって完全に目の毒だった。

「口に出さなくても気持ちが伝わるのってカッコイイとは思うけど、オレは想いを言葉にして伝えるの、凄くスキだよ?」

――この人は本当にズルイ、つくづくそう思う。

「…ギュってして下さい」

少しだけホワっとした気分になっていたけど、市販の甘酒にはアルコール成分はホンの僅かしか含まれていない。精々お酒に弱いドライバーが摂取を差し控えた方が無難な程度で、どちらかと言えば雰囲気に酔っていたのかも知れないわ。

「それと…私、どうやらアナタの事が好きみたいなの」

――曖昧だ、なんて言わないで。こんなキモチ、生まれて初めてだったんだから仕方が無いじゃない。

「私の想いに‥‥‥応えてくれる?」
「オレと付き合ってくれ、澄香」

彼氏が出来ました。他の男の子と連絡が出来なくなりました。



[30780] #15
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/01 16:38
満開だった桜が散り、徐々に葉桜へと移り変わる。

センバツでの結果に確かな手応えを感じた暁ナンバーズは余韻に浸る間も無く“もう1度、あの場所でプレーを!”を合言葉に更なる高みを目指し、エース・猪狩守も自らに“超一流の投手”への進化を課し、日々研鑽を積み重ねていた。

「どうしたのよ、こんな時間に…」
「急にお前さんの顔が見たくなった。それだけ」

極一般的な野球部の部員とマネージャーの関係から脱却し、恋人同士として付き合い始めたからと言って、私の生活が劇的に変わったりはしなかった。

「仕方の無い人ー…それで?もう気は済んだのかしら」
「んんっ、風呂上がりだったのかい?まだ少し髪が湿ってるゾ」

だってそうでしょう?世代交代を待たずともレギュラーの座に手が届く位置にいるのに、私との関係にうつつを抜かして機を逸するなんて、絶対に許せないもの。

「誰かさんが急に呼び出すんですもの。湯冷めしちゃうから、そろそろ離して貰える?」
「んじゃ、朝まで抱き締めてあげられないお詫びにコレを。心許りの品ですが御笑納下せぇ」 ノ⌒□

だから進級後もクラスが違うので休み時間に話したりもしないし、お昼を一緒に食べるのも…恥ずかしいから、と私が嫌がった。

「…もしかして、誕生日プレゼント?」
「ぃゃぃゃぃゃ、そんな御大層なブツじゃねーさ」

強いて言えば兄と自分のお弁当を作るついでに、もう1人前余計に作るようになっただけ。ましてや部活では特別扱いなんか絶対にしない。

「嬉しいー…けど、なんで同じチョーカーを2本も?」
「ぅん、愛 犬 用。ホラ、この鎖で繋げられるからお散歩の時にも対応出来るょ」

彼も今までのスタンスを守りたいのなら、その意向は尊重すると言ってくれた。部内でも普段からの節度有る行状が幸いし、所謂“生温かい目”で見守られている程度で済んでいる。

「あの、ソレって…」
「女兼?(´・ω・`) 」

「違うの!別に厭ってワケじゃー…待って、今付けるからっー…似合う?」
「ぐうかわ。いつドコで何をしていょーとも、必ず付けといてくれ」

正直に言えば公園や街をブラブラする程度でしかない月1回のデートがやたらと待ち遠しくなったりもしたけど、それだって二宮瑞穂と他校の生徒(後日、一之瀬塔哉の妹と判明)に当てられた彼からこの日みたいに突然呼び出されたりしたのは1度や2度じゃないんだし、私だけが一方的にそんな風になっていた訳じゃない筈よ?



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「――違う、か」
「誰か探してるの?知ってる子が居るんだったら、調べてあげるけど」

入部試験の様子を十十は殊の他熱心に見詰めていて、私の素朴な疑問に少し戸惑った素振りを見せた。

「ぃゃ、後輩共の中にライバルになりそーな奴が居るかな?かな?ってサ」
「そう…」

嘘。流石に私でも簡単に見抜ける。

彷徨う彼の視線は明らかに顔見知りを捜している目であり、新入部員の品定めをしている風には見えなかった。それ以上は追及しなかったけれど、もしかしたら中学時代の後輩が入部する筈だったとか、そんな可能性もある。

その年は新戦力と呼べる人材に乏しく、私の記憶とデータ通りなら一ノ瀬塔哉の入学から栄華を誇った暁黄金時代の近5年間では最低の水準。千石監督も胸中穏やかではなかったでしょうね。

そんな中でも猪狩コンツェルンの次男坊・猪狩進は鶏群の一鶴と評すべき存在で、本来なら5月の昇格試験で1軍に上がるどころかそのままベンチ入りしてもおかしくないレベルの選手だったのに“時期尚早だ”と言わんばかりの実兄が強硬に試験相手になると主張し、昇格を阻まれている。

学校での2人の遣り取り見ている限り兄弟間の確執がある訳でもなさそうなのに、どういうつもりなのか?と不思議に思ったりもしたけど…偉大なる兄としての過剰な演出だったのかも知れないし、単に二宮瑞穂や十十にイイように為て遣られる姿を見せたくなかっただけかも知れない。

二宮瑞穂…A / B / D / A / D(3年) 猪狩進…C / E / B / B / C(1年)

上記は私個人の集計データを指針に当時の彼らの5ツール(巧打 hitting average / 長打 hitting power / 走塁 baserunning skills and speed / 送球 throwing ability / 守備 fielding ability )を独自にA~Gの7段階で評価した物。

総合力で比較すれば、やはり正妻の座は一日の長が有る二宮瑞穂に軍配が上がる。

でも、猪狩守みたいな性質のピッチャーは打棒での援護やリード云々より相性の合う専属捕手を必要とする口だから、その選択がプラスに作用したのかどうか一概には何とも言えないわ。

「ナイスピーYOKOTATE でヤンース!」

この頃になると十十の実力は打撃力では五十嵐権三を凌ぎ、内野なら何処を守らせても兄と比肩するユーティリティプレイヤーへと成長していて、彼の練習パートナーとしてメキメキと実力を付けていたヤーベン=D共々レギュラー陣を脅かす存在と化している。

「ぬぐっ…オイ十っ、なんでワシらにだけチェンジアップを混ぜるんじゃ?! 」
「ハハ、大人げないネ三本松。ソノくらいのハンデ、余裕ネ」

更には今までレギュラー陣との交流に重きを措いていたところを同期もその輪に加える橋渡し役を買って出たり、率先して打撃投手を務めるなど再び人蕩しに腐心。

呉越同舟・水と油みたいな間柄だと思われた猪狩守とも秋季大会の発破を契機に度々猪狩邸に出向いては泊まり込みで特訓するほど親睦を深め、一体どんな仲になったのかと疑うほど彼の良き理解者・好敵手らしき立ち位置にも収まっー…焼き餅なんかじゃありませんっ。

それは次期キャプテンの座を確保する為の布石以外の何物でも無いだろうし、彼が推されてもソレに異を唱える者など誰も居ないだろう。その時は本気でそう思っていた。



[30780] #15.5
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/11 00:24
念願の初戦突破の壁を乗り越え、ベスト4進出を果たしたセンバツから凡そ半月。

このまま1番から9番まで不動のオーダーのまま夏を迎えたとしても、我々はまた甲子園の土を踏めるだろう。

だがチームの勝利を最優先するならば、自分の役割はレギュラーへの固執では無くバックアップに徹する事だ。モチロン判っている。それが、自ら積み重ねてきたデータの導き出した答えなのだから。

代走、守備固め、相手校の戦力分析ー…千石監督では行き届かない、同じチームメイトの立場だからこそ可能なサポートだって有る。グラウンド内外での怪我等、不測の事態にも備えなくてはならない。

長らくコンビを組んでいる六本木の体調と、ココ一番で怪我をする五十嵐からは特に目が離せない。半歩下がって全体を見渡すくらいが、丁度良いのではないだろうか?

それに、途中で負けてしまったらソコで終わりじゃあないしな。

新入部員の中には猪狩守の弟もおり、兄に劣らぬポテンシャルを秘めているのは誰の目にも明らかだ。敢えて言おう、常勝無敗を冠すべき我が暁大付属野球部の歴史は、まだ始まったばかりなのである!ジー…

「あの、兄さん…チョット入らせて貰っても良い?」

入浴中やや盛り上がって来たトコロに、擦りガラスの向こうに立つ妹が遠慮がちに声を掛けて来た。何か置き忘れでも有ったのか、はたまた洗面化粧台で髪を洗うのに自分専用のシャンプーが必要なのか。

一言言ってくれれば手渡すぐらいお安い御用なのだが、声に急いでいる色が見受けられる。

ならば、と湯船に浸かりながら股間の辺りが見えないポジショニングへとシフト。しかる後に了承の意を伝えると、驚いた事に一糸纏わぬ姿で浴室に入って来た。

いや、髪を濡らしたくないのか頭にタオルを巻いた状態だったので、正しい表現とは言えないな。

「なっ?!」

兄妹一緒に入浴していたのは澄香が初潮を迎えた小学4年生まで。

男である自分や父親でも湯上りにバスタオル1枚でリビングをウロウロ、なんて行為が許されない割と厳格な四条家の家風も相俟って、それ以降は彼女の裸体を目にした記憶は一切無い。

自他共に認める良く似た風貌の兄妹ではあるが、地道に野球への取り組み続けた影響で比較的男らしい体つきになった自分と、女性らしく色白で全体的に丸みを帯びた妹の肉体は、たった1歳違いの年齢差とは思えないほど男女の違いが生まれていた。

「どどっ、どうしたんだ一体?」

予想だにしない展開に、動揺を隠し切れない。まさか“久し振りにお兄ちゃんと一緒に…”などと言い出すんじゃないかと泡を食ったが、澄香は手早く全身に泡を滑らすと、直ぐにシャワーを浴び始める。

変に意識しなければ良いだけの話なんだが、どうしたって目のやり場に困る。ウチの紅一点によるシャワーシーンだ、男連中が知れば、さぞや羨ましがられるシュチュエーションなんだろうな。

「急に出掛ける用事が出来ちゃったの!スグ帰るから心配しないでっ」

普段通りの物静かなトーンであればシャワーの音に掻き消されていただろうに、謝意の現れなのか珍しく少し強めに声を張る。その際、コチラへ少し体を向けながら話すのでプルンと揺れる乳房が視界に入った。

大きさこそ少々控え目に映るが、胸元からくびれ、太腿から爪先までのラインは芸術作品を想わせる造詣美だと言えるだろう。

「ほぉ…それなら序でにガンダーの散歩も頼む。今日は疲れ気味で短めのコースを廻ってたから、暴れ足りないだろうし」

急いでいるのなら取り敢えず香水か何かで誤魔化せば良いのではないか?と思ってしまうのだが、それは汗と泥に塗れるのを常とする球児の浅慮であって、花も恥じらう乙女には通用しないらしい。

しかしまぁ、彼氏の為なら実兄に素肌を晒しても構わないとはー…些か矛盾を感じるが仕方が無い。コイツを泣かせりしたら、承知しないぞ十?

「ごめんなさい、ハシタナイ真似をしてー…お母さん達には内緒にしといてね?」

言えるものか。

この程度で問題になるのであれば、俺がカレンと重ねている行為は一体どうなる?下手すれば孫が産まれるぞ…彼女は授かり物なんだから自然の摂理に委ねるべきだと主張するが、学生の分際で背負うには流石に荷が勝ち過ぎる。

故に、自分は何時の間にか童貞を奪われた回(修学旅行先で結ばれたらしいのだが、部屋のド真ん中に鎮座していた巨大な段ボール箱を開けた直後からの記憶が…無い)を除けば、全て避妊具の使用を徹底している。

自室のベットの上でハグをさせるほどの仲だ、2人も一線を越えている可能性は高いだろう。とは言え、ココで喚起を促すのは幾らなんでも度が過ぎるだろうか?

心の奥底から心配なのだが、ソコまで踏み込んでも良い領域であるのか否か、判断に迷う。愚兄の過ぎたる老婆心で、大切な妹の純愛を傷付けたくは無いのだ。あぁ、そうさ。シスコンだとも。笑わば笑え。

自身に恋人が居なければ、こんな風に思考を巡らせる余裕すら無く噛み付いていたんだろうな。

「…ぉ願ぃ」

返答が無いのを気にしてか、澄香は先程とは打って変わって消え入りそうな声で哀願して来る。今にも泣き出しそうな曇り顔だ。この小さな唇が、男の欲望を頬張ったりしているのだろうか?

…すまない。

下卑た発想だが、そんな経験こそが俺を最低な兄貴たらしめるギリギリのラインで踏み止ませているのもまた事実なんだ。それだけでも、大人の階段を登った価値は有ったとしよう。あのバキューム笛…吸引力には筆舌に尽くし難い魅力が溢れているのさ。

「そんな顔をするな。明日も早いんだから、あまり待たせない方が良い」

こんな風にこの子の頭を撫でるのは何年振りだろうか?どんなに大人びても、幾つになろうとも可愛い妹である事に変わりは無いな。

「うん、行って来ます…」

明日は俺達の誕生日。法的には親権者の同意さえ得れば、男である自分も一応結婚が可能な年齢となる。

プロ野球選手、なんて遠望を何時までも追い続ける気は毛頭無いが、せめてあと4年はレベルの高い環境で野球を続けたい。愛する妹が連れて来た仔犬のお陰で、思いがけず人生の目標も定まった。

ただ、今やるべき事は最後の夏を、最強の仲間達と共に、最高の結果で終わらせるだけだ。



[30780] #16
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/24 14:05
第79回全国高校野球選手権西東京大会、聖マリアンヌ恋恋学院戦。

暁大付属 301500005  
恋恋学院 00000069×

歴代最強と謳われる程の体制で臨んだ暁大付属に対し、男女共学化2年目を迎える元お嬢様学校は今大会が初出場。そこはかとなく寄せ集め感の漂うチームで、敵将は4ヶ月前までお世話になっていた加藤理香養護教諭と云う始末だった。

千差万別、十人十色。全国の野球部全てが甲子園を目指してる訳じゃないし、情操教育の一環である部活動なのだから、ディフェンディングチャンピオンに胸を借りるのも良い経験だとは思うけれど――

『フレーェ、フレーッ! あ か つ き ! 』

ベンチ入り出来なかった1軍半や、毎日練習だけで野球そのものをする機会も無い2軍部員で編成された自前の応援団と、甲子園で演奏すべく早晩練習を重ねる吹奏楽部合同の大声援で後押しする暁大付属。

対して恋恋は学業優先らしく、観客席を見渡しても彼等の同胞を認める事は出来なかった。控えがたった1名しか居ない選手層、お飾りの素人監督、他に見た記憶の無いピンク色のユニフォームを纏う球児達に、私は憐憫の情すら憶えたわ。

「早川様ー、キャプテぇ~ん、ファイトれーすぅ♪ 」
「えーっと、初めての共同作業しっかりー!」

それでもナインが守備に就いた後のベンチでは、深窓の令嬢なんて表現がピッタリな亜麻色の髪の乙女と、少女漫画でしか見た覚えのない金髪縦ロールが懸命に声援を送っていて、その姿を例えるのなら2輪の花と言った所かしら?

双方ともにジャージとユニフォーム姿が全然板に付いてなかったけど、私なんかとは比べ物にならない華やかな美人さん。あんな可愛い子達に鼓舞されれば、世の男性諸氏はさぞかしヤル気が高まるんでしょうね…

「やるのぅ七井。だが飛距離では負けんぞ!」
「三本松、オマエは4番なんだから打点に拘れヨ」

プレイボールから僅か10分足らずで三本松一の先制2ラン、2者連続となる七井アレフトのアベックアーチが飛び出すと、その後もライバル同士お互い一歩も譲らぬホームランダービーが幕を開ける。

2人の競演は圧巻の一言に尽き、当時の日本プロフェッショナル野球協約第82条の壁※が無ければアメリカ国籍を理由に七井アレフトの指名が見送られる事も無かっただろう。

彼の後日談では“他球団に指名された場合、ソレを蹴って球団側が用意したスポーツ専門学校に進学すれば2年後に必ず指名する”なんて空手形を切ったスカウトも居たらしい。だが結果としてどの球団からも指名は無く、いつの間にかその話自体も有耶無耶になっていた、とも。

本人は元々指名が無ければ三本松一と共に首都体育大へ進学するつもりであったから構わなかったそうだが、私にはこの1件こそが彼からNPB入りの情熱を失わせるに至らせた遠因ではないかと思えてならない。

※日本国籍を持たない高校生は日本に5年以上居住し3年以上在学していない場合、ドラフト会議を経て入団しても外国人選手扱いになる。現行は3年以上の在学のみ。



●┃┃
  ━━━  ●  ●  ●
●┃┃



「こっからが本番だ、気合入れてこーぜぃ!」 『おーぅ!』

7回裏、恋恋学院側の攻撃。この日初めて円陣を組んだ恋恋ナインが喊声を上げるが、本番も何も事実上の最終回を迎えていた。

1~6番まで兄のデータベースにも無い選手ばかりがスターティングメンバーに名を連ねていた新規参入校は、初めての対外試合とは思えない程ソツ無く守備をこなす一方、高校野球らしい足やバントと言った小技を使うでも無く、淡々とゼロ行進を続けるだけ。

残りの下位打線3人のうち1年生の2人(手塚隆文投手・円谷一義内野手)は地元ではソコソコの選手で、あくまでソコソコの評価でしか無い。特筆すべきはスポーツ紙の3面記事を飾った先発投手・早川あおいの存在だろう。

「ストレート待ちからのカーブ対応余裕ですた。ゴチ」(∀`*)ゞ

女だてらにボーイズリーグで活躍するピッチャーとしてその名は聞き及んではいたものの実像を目にしたのは初めてで、彼女のサブマリンは男性には無い独特のしなやかなさが有った。

この日は2回0/3を投げて4失点1奪三振と今一つの内容に終わったが、何処までも沈み込む様なシンカーのキレと常時130km/h前後を計測する真っ直ぐのコンビネーション、そして低めに集められる制球力は短いイニングであればプロでも充分通用しそうな可能性を垣間見せている。

「…9対6?」 

スコアボードを観て、私は我が目を疑ったわ。

早川あおいの後を受けたソコソコの2番手は、その回には見事な火消しをやってのけたものの翌4回には自ら満塁の危機を招き、三本松一のグランドスラムでアッサリK.O されて9点差。もはや筋書きの無いドラマを織り込む余地も無い、取るに足らない試合であったハズなのに。

円陣の中央に居た恋恋キャプテン・海野八七から始まった攻撃は6者連続本塁打と云う悪夢としか形容しようのないホームラン攻勢により、無四球完封ペースだった猪狩守をマウンドから引き摺り降ろしたのだ。

「チッ、俺達が実質創部1年目の女子校モドキに?冗談じゃねェぞ…」

失意のエースよりその横でリード面の猛省を促されている二宮瑞穂の方が茫然する中で、8回には再び打者一巡の猛攻により遂には逆王手が掛かるまで追い込まれて9対15。

すると、何のつもりか9回のマウンドには1度炎上しながらも人数の都合上によりファーストの守備に就いていたソコソコの2番手が再び登板の準備を開始した。ディフェンディングチャンピオンが聞いて呆れるわよね?

「6人ー…じゃねぇ、6点差か。面白ぇ、オラわくわくすっぞ?」

3回表には三本松を超える場外弾を放った十十が虚勢を張るが、点差が縮まれば再びあの金髪縦ロール・新庄玖遠の出番が待っているだろう。

試合開始時にはベンチでマネージャーと共に声援を送っていた才色兼備の秘密兵器は、ランナーを背負ってもワインドアップポジションのまま投げ続けたり、常時150km/hオーバーの豪速球と90km/h台のスローカーブを駆使して4回途中から8回まで、全て奪三振で牛耳る出鱈目なピッチングを披露。

そんな状況でも肝心の指揮官は何の策も講じようとせず、千石監督がこの試合で指示を出したのは、8回途中にスタメンから外れていた兄にマスクを被れと命じただけ。死に物狂いでの追撃にも一切の差配を兄に委ね、万事休すその瞬間も全く動じる素振りを見せなかった。

「15対14で恋恋学院の勝― 「待って下さい」

歓喜に湧く恋恋ナインを正面に顔面蒼白になっている者、人目を憚らずに嗚咽を漏らす者が並び立つ中で、兄が主審に異議を申し立てた。

「何か?」
「1つ確認を。本日登板した早川さんと新庄さんは“女子生徒”じゃありませんか?僕の記憶では―」

高野連の大会参加資格規定第5条(1)には“その学校に在学する男子生徒で、当該都道府県高等学校野球連盟に登録されている部員のうち、学校長が身体、学業及び人物について選手として適当と認めたもの”とある。

「…恋恋学院キャプテン、どうなのか?暁側の指摘通りならフォーフィッテッドゲームを宣告せねばならない」

同じ女性としては何とも歯痒い気持ちがしなくはないが、ルールはルール。

「今ココで答えなくても構わない。このルールは試合中でも、試合終了後であっても変わりは無いからねー…ただ、違反校の勝利を取り消す場合、遡及するのは最後に試合を行った対戦校になされるから、2回戦が始まってからでは遅過ぎるんだ」

「ええ、ウチのエースは正真正銘オンナですよ。俺はバイでもゲイでも無いんでね、間違いありませんともー…記録にゃ残らんでも、俺達の記憶には今日の勝利を残しても構わんのでしょう?選抜ベスト4(笑) の主将さん」

つまり、暁大付属は野球規則に則る正当な勝利を得て、緒戦を突破したのだ。

西東京大会1回戦(昭嶋市民球場)
〇暁大付属9-0恋恋学院×(没収試合)



[30780] #16.1
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/12 18:22
「貴女、四条さんじゃない?兄妹で野球部に居た」

その日の晩は少し気味が悪いくらい順調に仕事が片付いて、普段よりホンのチョットだけ早く退社出来た。

まだ間に合う。たまにはお弁当や冷凍食品じゃなくって、気の利いた食材を買って何か作ろう。疲れた体を引き摺りながら最大限の速度でスーパーマーケットへ向かう私を、空気の読めない何処かの誰かさんが呼び止めたのだ。

「やっぱり!懐かしいー…ぁ、もしかしてもう旧姓?」

声のハリからして、同級生だろうか?正直やや鬱陶しく思いながら振り返ると――

「ちなみに私は加藤のままなんだけど、憶えてる?」

そこには、あの頃のままの姿で微笑む加藤理香養護教諭が居た。一瞬だけど、学生時代まで時間が巻き戻ったんじゃないかと錯覚するぐらい驚かされたわ。

「――っ! お久しぶりです、お元気ですか?」
「モチロンっ、毎日若い子のエネルギーを一杯貰ってるから♪」

イシシっと白い歯を見せながら悪戯っぽく笑う仕草も、セクシーなボディラインを強調した露出度の高い服装も全く変わらない。白衣を羽織れば数多の男子生徒を魅了した“保健室の女教師”の出来上がり。

そう言えば、彼女にゾッコン惚れ込んでいた五十嵐権三は今頃どうしているのだろう?風の便りでは初志貫徹の末、医師免許を取得したと聞いてはいるが、もう何年もあの暑苦しいダミ声を聞いてない。

「ねぇ!少しお疲れみたいだけど、時間があるならチョット付き合わない?」

少なくともアラフォーと呼ばれる年代の筈なのに、三十路前の私なんかより(連日連夜に渡り終電間際や泊まり込み続きで草臥れ果てているせいだとは思うが)断然瑞々しく、比喩なんかじゃなくて本当に摂取してるんじゃないかと思えてくる。

それはもう、物理的に可能であるのなら私も御相伴に与りたいくらいに。

「アラ、試してみる?」
「――ぇ?」

「冗談よ。で、どうする?貴女にも予定が有るでしょうし、無理にとは言わないわ」

楽しさと辛さの比率で言えば2:8が精々の筈なのに、何もかも全部ひっくるめて懐かしい思い出に変えてしまうのが時の流れの素晴らしさであり、恐ろしい部分で。5分前までなら丁重にお断りしていた筈だろうに、不思議とそんな気分が霧散していた。

連れて来られたのは歓楽街エリアにある会員制のBARで、お酒だけじゃなくてご飯やスイーツもあるのよ?と言いながら加藤先生がカードリーダーにICカードを通す。お誘いに乗らなければ、一生ご縁の無い場所だったでしょうね。

「ぃらっしゃいぁ~↑ しぇ~↓ 」
「飛びっ切りイイ女2名様ごらぁいてーん!さぁ、速やかに饗せぇい」

扉が開くと、大人の空間を雰囲気を醸し出すシックな装いの店内と、凡そ似つかわしくない舌っ足らずで甘ったるい声が店の奥から響く。

カウンター越しに私達を出迎えた声の主は高2の夏、暁大付属をぐうの音も出ないほど完璧に抑え込んだ聖マリアンヌ恋恋学院投手・新庄玖遠。服装からしてバーテンダーらしいが、相変わらず見事な金髪縦ロールはベストと蝶ネクタイなんかより、メイド服の方が余っ程お似合いだった。

今日もビジネスホテルだと割り切る私に、加藤先生はスッとタクシーチケットを差し出す。

「教え子ー…って程の付き合いでもなかったケド、私が誘ったんだから今日は先生にカッコつけさせといてっ」

ね?と目配せする仕草は物凄く自然で、御好意に甘えない方が失礼だと一も二も無く丸め込まれてしまったの。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「うゎ、何そのプレイ?流石におねーさんも引くわー」
「だっ、だから話したく無かったんですッ」

程良く酔いが回れば、幾らか口も軽くなる。先生みたいに夜の営みを赤裸々に語るのには抵抗が有ったけど、酒の肴に何か1つぐらいぶっちゃけろと促されてしまっては、断るに断れなかった。

アノ年の2月14日以来、自称・五十嵐流デンタルケアの伝承者は時々ソレを怠っていないかのチェックと称して人の歯磨きをまじまじと眺め続け、最終的に色々と難癖を付けては直接指導に乗り出して来る。

彼の指が私の口腔押し拡げ、歯茎や親知らずまで1本1本丹念に磨き上げる。真剣なフリをして色々イタズラされるが、それでも構わない。当たり前の様に膝枕をされるのも、体を預けてされるがままになるのも、大好きだから。

「はいはいゴチソーサマ。でも、リ ア 充 滅 び ろ 」
「激しく同意れす ξ゚⊿゚)ξ 」
「えっ」

「もぉ、この子ったら~」
「あはっ☆ よぉし、こぉなったらも=時効れすから語っちゃいますかぁ!」
「はぁ‥‥‥ハァ!? 」

朝まで飲み明かす勢いでガールズトークが続く中、新庄玖遠が俄かには信じ難いカミングアウトをし始めた。高校時代の活躍は、とある医学博士に性同一性障害を治療して貰った副作用であると言う。

普段ならアルコールが入っていた事もあり、酔っ払いの与太話として聞き流すか、目が覚めた頃には綺麗サッパリ忘れ去っていただろう。でも、私の半生の中でも最も大切な時代の話とあって、あれだけへべれけになっていながらも、不思議と記憶に残っていた。

…それにしても立て続けに、同級生にまでオンナとして白旗を上げさせられるなんて。休みが取れたら必ずエステに行こう、と心に堅く誓った夜だったわ。



         ┃┃●
● ● ●  ━━━ 
          ┃┃●



「あの、キャプテぇ~ん?」
「甘ったりぃ声出してんじゃねーよ!」

「ひゃうう、ゴメンナサイれすぅ」
「チッー…サッサと着替えろ」

私とキャプテンの2人だけが居残り練習を続けた放課後の事。

突然見舞われた土砂降りの雨でズブ濡れになりながら、私達は這う這うの体で部室に駆け込みました。

幸い野球部員の私達には着替えも濡れた体を拭く為のタオル有りますし、部室内を探せば誰かの置き傘も調達出来ます。

ただ、問題は男女兼用の部室には衝立1つ無く、目隠し代わりに使えそうなりそうな物も有りません。

「後ろ向いてるから着替えちゃいなよ。風邪引いちゃったら大変だろ?」

悪意の無いスマートな笑顔は、チームの皆から慕われるいつも通りのキャプテンでした。

クルリと背中を向けるキャプテンに言われるがまま、私はイソイソと着替え始めます。疑う余地なんかありません。

「んっ‥‥‥しょっと」

でも…カチャカチャとベルトを外し、腿に張り付いたズボンを脹脛の辺りまで下ろした所で、突然抱きつかれたんです。

「えっ?! 」

上半身はスポーツブラにバスタオルを羽織っただけ。下半身は汗と雨に濡れたショーツとソックスのみ。

最初は何が起こったのか訳も判らず、悲鳴を上げる事すら出来ませんでした。

「ゴメン、やっぱり我慢出来ないや」

そう言いながらキャプテンは肌に張り付いたスポーツブラの隙間に手を滑り込ませます。

「キャキャキャ、きゃぷてんっ?! 何をッ…」

話は簡単、思春期の男子高校生が湧き上るリピドーを抑えきれなくなっただけ。

キャプテンは私の平べったい胸を弄りながら、人の頬や首筋に舐るようなキスの雨を降らせます。

身を捩らせ何とか逃れようと試みたんですが、脱ぎかけで足首に絡まったままのズボンが邪魔します。

終いにはバランスを崩してしまい、半ば押し倒される体勢に。

キャプテンが咄嗟に私を庇うようにして倒れた御陰?で体を直接床に打ち付けずに済みましたので、痛みは少なかったのですが…

「…良いよね?」

何が良いのかサッパリ判りません。ソコは“大丈夫?”なり“ゴメンナサイ”じゃないでしょうか?

事もあろうに、キャプテンは私の返答を待たずにショーツを引き下ろしたんです――

「あの、今日の事は誰にも…」
「言うか!言えるか!? オカマに欲情して押し倒したなんて一体誰に?! 」

「ゎ、私は誰にも言わないって言おうとしただけなのに酷いれすぅ…」
「だぁぁぁ!ナヨっちぃ喋り方すんなッ、男だろテメーは?」

幸い、キャプテンの蛮行は私の下半身を露にする所までで終わりました。ご指摘の通り戸籍上、私は間違い無く男です。

だけど昔から女の子の格好をするのが大好きです。男の子の服を着ると落ち着きません。

友達も、遊びも、喋り方もずっーと回りの女の子と一緒でした。

何度か学校の先生からも生き方を間違っている!なんて指導をされましたが、自分ではそんな風には到底思えません。

憧れの志望校だった聖マリアンヌ恋恋学院が男女共学になると知った時は、神様のお導きだと信じて疑いませんでした。

「俺は先に帰る。授業も部活も絶対にサボるなよ?他の連中に怪しまれちゃ困るからな」
「はぃ‥‥‥お疲れさまれすぅ‥‥‥ぐすっ」

私は恥ずかしさと悔しさでグスグス鼻を鳴らしながらし着替えを済ませると、キャプテンが残してくれた傘を差し、1人で下校しました。

モチロン着ているのは学院指定のセーラー服です。

思い返せば奇跡の様な状況ですが、入学前の面接試験で理事長先生は驚くほど私に理解を示して下さいました。

合格後も幾度となく対話を重ね、最終的には理事長権限で私が女子生徒として学院生活を送れるように、とお取り計い下さったんです。

私にとって、感謝にしてもしきれない程の大恩人。

そんな倉橋理事長から“普通の男子生徒の高校生活も体験してみなさい”なんて勧められてしまえば、断れないじゃないですか?

言われるがままに他の男子生徒が創設した野球愛好会に入部しましたが、想像以上にハードな練習に全然付いて行けません。

最初は女の子も居るから安心だと思ってたんですが、本物の野球少女・早川あおいさんの足元にも及びませんでした。

「ヘイ!じゃぱにーずぼー…」

別にやりたくもないスポーツをやらされて上手く行かず、クサクサしていた私は真っ直ぐ帰宅する気が起こらなくなって、寄り道をしました。

雨の公園だったら人通りも少ない筈ですし、思いっきり泣けるんじゃないかと。そこで、不思議な人に出逢ったんです。



[30780] #17
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/04/24 14:25
1番センター八嶋中、2番セカンド四条賢二、3番キャッチャー二宮瑞穂、4番ファースト三本松一、5番レフト七井アレフト、6番サード五十嵐権三、7番ライト九十九宇宙、8番ショート六本木優希、9番ピッチャー猪狩守。

今でもソラで読み上げられる、暁大付属のベストオーダーに終止符が打たれた。

「お前達に言う事は無いー…以上だ」

怒り心頭の千石監督はその一言だけで球場を去り、試合後に毎回行われる総括ミーティングは、僅か数秒で打ち切りとなった。私の知り得る限りでは、最短最速での解散になるわね。

残された部員達は鎮痛な面持ちのまま帰路に就き、その惨めな有り様は、さながら死者の行軍と言えなくもない。

試合に勝って勝負に負けたとは正にこの事で、これなら誰かが戦犯に祭り上げられて罵倒されていた方が大分マシだったと思う。

――ただ、暁大在学時に文化祭の講演会に招かれた恩師は壇上で“監督業の中で最も辛かった出来事”として当時に触れ“武士の情けと最後まで試合をした挙句、教え子と対戦校に要らぬ恥をかかせた”と、自身の詰めの甘さを悔いていたわ。

「糸色望した!最愛の女性に捧げた大輪の花を華麗にスルーされる現実に絶望したァァァ orz」
「…オカシイわね、今日の試合のドコにアナタの活躍が存在するのかしら?」

1回戦終了後、私は西東京大会で十十がどんな活躍を魅せようとも、何ら見返りが無い旨を通告した。

「大会ルールに救われただけに過ぎない敗者復活校が、本来の勝者の分まで勝ち進むのは当然のコトじゃないかしら?」

――その代わり、アナタの活躍で深紅の大優勝旗を持ち帰れたら、付録としてどんな要望でも1回だけ叶えてアゲルと約束してみたの。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「よめ っ□」 「誓約書でも持って来たの?今まで散々口約束を順守させたクセに、随分と疑り深ー…えっ?!」

それから暫くの間は、会話1つを取っても本当にぎこちない関係になった。何しろ明くる日、妙にぶっきらぼうに手渡されたA3用紙を見開くと、表題部には“婚姻届”の文字が躍っていたんですもの。

貞操を捧げるくらいの覚悟は出来ていたけど、まさか人生丸ごと要求されるとは夢にも思わなかったわ。

「粉砕ッ!玉砕ッ!大喝采ぃぃぃ!」 「\(^ o ^)/」

記録に残らない敗戦の責を負う形で、四条賢二は翌試合から自らのスタメン降格を申し出た。監督には出過ぎた真似をするなと一蹴されたらしいけど、兄はケジメを付ける必要が有ると言って断固として譲らなかった、と。

なお、その際の進言によりリードオフマンには十十が。主砲には猪狩守が抜擢されている。

その効果は如実に現れており、プロ入り後も“最強の2番打者”の代名詞となった二宮瑞穂、そして4番の前後を固める七井アレフトと三本松一の新生クリーンナップトリオの誕生により、暁は爆発的に得点を積み重ねて行った。


西東京大会2回戦(火之玉市一本杉球場)
〇暁大付属 18-0 バス停前×(規定により5回コールドゲーム)
寸評 : 前回登板の雪辱を誓う猪狩守の先発。5イニング15個のアウトカウントを全て奪三振でマーク。

西東京大会3回戦(明治神宮第2球場)
〇暁大付属 12-2 極亜久商×(規定により6回コールドゲーム)
寸評 : 5回2アウトの場面で死球によるランナーを出したところで外藤侠一に2ランを浴び、一旦コールド勝ちを逃したものの6回に代打・五十嵐権三がサヨナラヒットを放ちコールド成立。

西東京大会準々決勝(明治神宮球場)
〇暁大付属 15-0 白鳥学園×(規定により5回コールドゲーム)
寸評 : 参考記録ながら完全試合を達成。自称“最凶のナックルボーラー”冬野枯男との投げ合いで始まるも1回0/3で降板。

西東京大会準決勝(明治神宮球場)
〇暁大附属 11-0 BB高校×(規定により7回コールドゲーム)
寸評 : 十十、NPBでも存在しない4試合連続先頭打者ホームランを記録。参考記録ながら猪狩守が再び完全試合を達成。

西東京大会決勝戦(明治神宮球場)
〇暁大付属 21-3 パワフル×(暁大付属優勝。4年連続5回目)
寸評 : 2回裏、戸井鉄男の同点ソロにて3回戦途中から続いた猪狩守の連続無安打無四球記録が14イニングで途切れる。9回裏に鮫島粂太郎が意地の一振りを搾り出すも追撃はそこまで。控え投手を使い切り、急造でマウンドに上がった1年の松倉宗光が予想外の好投。


         ┃┃●
● ● ●  ━━━ 
          ┃┃●



「以上が明日の先発が予想される山口賢選手の全投球パターンです。次に、打線についてですが…」

チームの勢いは舞台を甲子園に移した後も良好なままで、泣いても笑っても四条キャプテンによる対戦校のデータ解説はその晩がラストとなった。仮に国体に出場したとしても、チームの方針で3年生は出場しないからだ。

「フーム、四条のご高説もこれで聞き納めか。そう思うと少し淋しいな」
「ふふふ、煽てても何もでないぞ三本松?」

彼は当時のレギュラーメンバーの中では数少ない一般入部上がりの人間で、昔語りが始まれば理路整然とした物言いと、その根拠となる参考例の物量、指摘した事項を解り易く体現して見せるその才には、誰しも一目置いたと聞き及ぶ。

「いや、割とマジに感謝してるんだぜ?オメーのお陰で打撃とリードに専念出来たんだからな」
「そう言って貰えると嬉しいよ二宮、明日も頼むぞ」

緒戦の湯けむり高校戦では“球仙人”を使った仮想・有馬紅葉投手攻略練習により易々と大勝を収める事に成功。公式戦初出場から一気にベスト8まで駆け上がった超新星・大東亜学園戦ではエース・鋼毅の弱点を突く的確な助言でチームを勝利に導いた。

また、準決勝のワールド高校戦でも終盤の守備固めからの出場ながらセンバツの雪辱を果たす一助となっており、暁の頭脳としてだけでは無く、プレイヤーとしても遺憾なくその才を発揮している。

――本当に、私の自慢の兄だ。

「なーなーなー、最後ぐらいオイラ達にもホームラン打ったらご褒美のチューはしてくれないのか?」
「なななッ?! 」

「おう、そりゃ一生の思い出になってエエわ。乗った!」
「乗るな莫迦。人の妹を勝手に賞品にするんじゃない」

「そうだよ、僕じゃフェンスに当てるのすら絶対に無理だもん。だけど僕だけタイムリーヒットにオマケしてくれるんだったら…」
「ろろろ、ろっぽんぎせんぱいまでなにをおっしゃってるんですかっっ」

「そら優希かて健全なる青少年やで?暁のマドンナとムチュ~と出来るんやったらラッキーゾーン辺りまでならカッ飛ばすわ」
「アハハ、冗談だから心配すんなょヨコター…あれれ?四条妹の顔が真っ赤っ赤だぞ?逃げろぉ~♪」

「もぉ、八嶋先輩も九十九先輩も怒りますよ!」

全国4093校の頂点まで、あと1勝。彼らには不思議なくらい気負いが無かった。



[30780] #18
Name: 兼久◆6d77000d ID:85041a91
Date: 2013/05/04 13:02
△帝王実業5-5暁大付属△(規定により延長18回引き分け再試合)

8月21日、第79回全国高等学校野球選手権大会決勝戦。暁が標榜する“常勝無敗”を地で行く帝王実業との再戦は、球史に残る大激戦となった。

「こぉーんな綺麗でキメ細やかな肌なのにぃ、手先だけガっサガサだー…ゴメンな、いつもアリガトウ」
「…騾」謚募宛髯蝉クュ縲よ眠隕上せ繝ャ繝・ラ縺ッ1譎る俣莉・荳顔スョ縺九↑縺・→菴懊l縺セ縺帙s縲!」

「うん、日本語でおk」

まず先制したのは帝王実業。

猪狩守は自らが必要としない限り、人の意見に耳を傾けない。どれだけ名を馳せた強打者であろうと、対戦校がどんなチームカラーだろうと、自分のピッチングで勝つスタイルを頑なに崩そうとしないのだ。

本大会でもズッと1人で投げ抜いて来た実績もあるし、ピッチャーはマウンド上では暴君であるぐらいで丁度良いなんて言う人も居るけれど――平素からその状況にある人間がソレ以上になるんだから性質が悪い。

そんなエースに甲子園の魔物が試合開始早々に牙を剥き、立ち上がりから不運な当たりが連発。帝王実業は初回からビッグイニングとなる大量5得点を挙げ、暁をイキナリ絶望の淵まで追い詰めた。

多分、この時点で敗戦を覚悟したのは私だけじゃないでしょうね。

「ば、莫迦言ってないで良い加減何か羽織りなさいよ変態!風邪でも引いたらどうするのよッ」

十十から枕を引っ手繰り、ポフッと彼の顔面に叩き付けた。その際、剥き出しの上半身をチラリと見遣る。

凡百の同期生達と代わり映えしなかった彼の肉体は、私の組んだトレーニングメニューの積み重ねにより、ギリシャ彫刻を彷彿とさせる程の進化を遂げていた。

「ファッ!?」Σ(゚ д ゚ ;)

日々たゆまぬ努力の結晶。貴重な文化財にでも触れるみたいにソッと手を伸ばすと、トクン、トクンと脈打つ心臓の鼓動が掌に伝わって来る。冷たく乾いた大理石とは異なり、温かく、瑞々しく、男の人の匂いがする。

背格好や入部試験時のデータから兄と同質の、金属バットだから誤魔化せる程度の膂力しか身に付かないと思えたのに――思春期の男子高校生の、十十の第2次性徴を見縊り過ぎていた。

「体を冷やすなって言ってるのに聞かないんだもの。仕方ないじゃない」

劣勢の中、リードオフマンがしつこく粘った末に四球を選ぶと、すかさず二盗を成功させチャンスを拡大。5点のビハインドも有って二宮瑞穂にバントのサインは無く、幸運にも強烈なピッチャー返しが野選を誘って無安打のまま無死1・3塁となった。

最悪外野フライでも1点、あわよくば。絶好のチャンスを前にして打ち気に逸った七井アレフトが初球に手を出し、浅めのセンターフライに倒れた瞬間。3塁ランナーは、猛然と本塁へ突進した。

『…セーフ!』

ホームベース上で交錯した十十とキャッチャー。紙一重のクロスプレーを制したのは彼の方だったけれど、ブロックの衝撃で右肩を痛め、担架でベンチ裏へと運ばれている。

それでもこのプレーが呼び水となり、ベンチのムードは一気に“まだやれる”と云う空気に切り変わった。4番に座る猪狩守がタイムリーヒットを放ち、クリーンアップの大トリを務める三本松一がポール際ギリギリの2ランを叩き込むと、忽ち1点差にまで詰め寄ったのだ。

「ぬふぅ。お前さんがマッスルブラザーズをドッキングさせまくってくれた賜物だからなァ~…有能なマネージャー使うと色々と捗るぞ」

私達は球場を離れ、敷地内の救護室に居た。試合はまだ終わってない。反撃の狼煙を上げた切り込み隊長は、応急処置だけでグラウンドに立つのは困難であると判断が下されていた。

「…念の為に聞くけど、何か奇怪しな薬を使ったりはして無いわよね?」

関係者を大いに慌てさせたアクシデントも骨には異常が無く、打撲と診断されアイシングをしながらの様子見。

ベンチに戻ろうと思えば可能な状態であるにも関わらず、彼の中にはその選択は存在しないらしく。

「アナボリックステロイド?紅ヒゲ皇帝錠剤?無縁だね、せーぜーパワリンとお義兄さんのくれた“なんとかジョーブ博士”のサプリくれーだょ。W友情タッグ ( ゜Д ゜)ウマー」

乱打戦の様相を呈していた初回の攻防から一転、2回以降は立ち直った両雄の3塁すら踏ませぬ攻防が延々とスコアボードに刻まれて行く。

猪狩守が日本球界で数々の大記録を打ち立ててなお、猪狩世代最高峰の名投手に推される山口賢。彼がマウンドに君臨する限り、その先に準優勝盾と銀色のメダルが、グッドルーザーであった認定証の授与式が待ち受けているのは自明の理だった。

「次はインハイのストレート、振っちまったら最後にゾーン下ギリギリ一杯のカーブだな。ぁ゛ーまた引っ掛けちまったぃ」

前年のリベンジを期した大一番。本来ならナインの奮闘をベンチで見守っている筈なのに、私は何をしているのだろう?

生涯最高の舞台で途中降板を余儀なくされた高校球児の心情を慮れば、歯痒い気持ちを押し殺した虚勢と受け取れなくも無いのだが――問題なのは、十十がスラスラと論じる山口賢と猪狩守の投球パターンと打者の対応、その顛末が全て的確に言い当てられている点だった。

それでも恋人を置き去りにして戻る訳にも行かないから、と私は自分自身に都合の良い言い訳をしつつ、彼の傍らに寄り添い続けた。幸い、身体より心の傷の深さを気遣ってなのか救護室には私達2人しか居ない。

「それだけ相手の配球パターンが読めるなら、昨日のうちに幾らだって…」
「大丈夫。アイツより野球の神様?に愛されてる男なんてまず居ないょ?せーぜー長嶋英雄がタメ線レベルじゃねーの?」

松井和博と居並ぶ1大会5ホーマーの大記録達成に期待の集まっていた中での、無念のリタイア。そういう事になっていた。ベットに横たわり、私の手を握り締めながらラジオ中継だけでも聴かせて欲しいと懇願する辺りまでは、本気で心配したのに。

「ヒュー!何度観ても痺れるねぇ、同じチームじゃ無いのがめがっさ悔やまれるにょろー…(・ん・)?」
「何故?どうしてそんな他人事でいられるの?」

こうしてTV越しに試合を観ていると、六本木優希が“去年の約束を守れて良かった”と笑顔で私に言ってくれたのが思い出され、無性に腹が立った。

「ナゼナゼどうしてっても、オレん中じゃ今日の試合は終わったも同然だしぃ~~そんな顔しなさんな」
「だって…」

私の髪を撫でながらトラストミーなどと口走る十十の優しい響きの声色に誤魔化されそうになるが、ラストイニングを迎えても山口賢の牙城を崩す気配は一向に見当たらない。

「…ムリな相談だってのは百も承知なんだが、それでも聞いて欲しい」

時が来たら、必ず説明するから。その言葉に少し顔を上向けると、十十のグラスアイみたいな瞳が私を真っ直ぐ見詰めていたわ。

「絶対に“彼氏が厨二病だった、死にたい”とかスレ立てしないよーに!フリぢゃないぞ?フリじゃないからな?大事なコトだから2回…」

「しないって約束するからサッサと話して」
「ぐぬぬ‥‥‥もし破ったらお嫁に行けなくしちゃるッ」



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「明後っ…失礼。明日の再試合も、間違いなく山口賢投手の先発が予想されます。本日の試合傾向を纏めますと…」

十十の言った通り、暁は負けなかった。

9回裏、半ば思い出作りで打席に立った代打の五十嵐権三を塁上に置いた猪狩守は、最後のバッターとなる事を全身全霊で拒んだ。起死回生の同点タイムリーにより土壇場で試合を振り出しに戻すと、以降は互いに延長18回までスコアボード1面にゼロを押し並べている。

「オイ四条ー…お前の妹、大丈夫なのか?」
「ああ。内容の方は先に一通り確認したし、今回ばかりは俺のデータを凌駕してると判断したんだ。心配掛けてスマンな二宮」

「かっ、勘違いしてんじゃねーよ!メンドクセー日か何かなのかと思っただけだっ」
「そうかい。澄香だって俺達と同じくらい必死なのさ、アイツの分まで頑張って貰いたいんだよ」

天候まで言い当てた彼の予言通り再試合は翌々日に行われ、エースと帝実打線を攻略した私達は“VICTORIBUS PALMAE”と織り込まれた錦を手土産に、母校へと凱旋を果たしている。


全国高校野球選手権大会決勝戦(再試合・甲子園球場)
〇暁大付属6-2帝王実業 × (西東京代表・暁大學附属学園初優勝)

大会新記録
完全試合:猪狩守(史上初、対ワールド高校戦)
1試合最多奪三振:猪狩守(20奪三振、対ワールド高校戦)
1試合最多奪三振:山口賢(26奪三振、対暁大學附属学園戦※延長18回参考記録)
連続奪三振:猪狩守(9奪三振、対ワールド高校戦)
大会最多投球イニング:山口賢(71回/7試合)
大会最高打率:十十(.800/5試合30打数24安打)
大会最多安打:十十(24本)
大会最多塁打:十十(53塁打)
大会最多サイクル安打:十十(2回、対湯けむり高校、大東亜学園戦)



[30780] #19
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/04 13:02
「それだけ松井選手が偉大なんだってコトだと思います。来年、もう1度挑戦出来れば望外の喜びです」

幾つかの大会新録を刻みながらも再試合には出場せず、大会最多タイとなる5号、新記録となる6号本塁打の夢は露と消えた十十。

「今回の優勝は先輩方のお陰みたいなものですから。来年は自分の力でこの聖地に舞い戻って見せますよ」

再試合を含め、6試合63イニングを1人で投げ抜いたエース・猪狩守。

2人がマスコミのインタビューに応じた際のコメントで、優勝記念に作成した野球部のDVDに残っている。いかにも万人受けしそうな優等生的模範回答は、彼らを知る者達にさぞかし苦笑失笑をもたらした事でしょうね。

センバツ以上の盛大なる観衆に迎えられ、見事に有終の美を飾っても、キャプテンである兄にはまだ重大な仕事が残っていた。

「十十と猪狩守、どちらが次期キャプテンに相応しいか?」

兄妹で野球論議をしているうち、何度かこのテーマに行き着く事があった。背中で語る孤高の天才タイプの猪狩守と、人蕩術の達人で和を以て尊しと為す十十。

総選挙を行えば十十の圧勝で終わるのかと言えば、案外そうとも言い切れない。

特待生を除けば猪狩コンツェルンが本社を置く土地柄と“次期総帥のご学友”の地位を望む保護者の意向もあって、暁大付属には系列会社や取引企業の社員を親に持つ生徒が、野球部にも相当数在籍しているからだ。

相反する2人のうち、どちらがその任に就いても批判する者は殆ど居ないでしょうけど、そうであったとしても皆に納得のいく説明が必要なのは明白で、非常にデリケートな問題となっていた。

「ぼくと契約して、野球部のキャプテンになってよ!」
「ぇ‥‥‥厭よっ」

「フゥーハハハハ、そう来ると思ったわ!ならばお望み通り先日の用紙にご署名ご捺印の上をハリー!ハリーハリー!」
「…フン、嘘に決まってるでしょう?やらせて。お膳立てヨロシク」

優勝の付録をどうするつもりなのかとドキドキしながら待っていた私に、彼は有り得ない取引を持ち掛けた。大会中には既に兄の腹は決まっていたみたいだけど――まさか空気の読めない当事者が指名を辞退して、私を推そうとしているなんて言えやしないわ。

色々不安要素が満載だけど、望んでなくもない。最後の最後で彼の姿がグラウンドに無かったのは残念だけど、十十の貢献がどれだけ大きなモノだったのかは私が1番良く理解しているつもりだし、将来的にはそうなれれば嬉しいと思う。

彼が来年プロ入り出来れば、引退するまでズッと支え続けるつもりだった。同じ大学に行けば、少なくともあと4年は一緒に居られる。素直にそう伝えれば、若しくはもう役所に提出するだけだと、その場で突き返してやれば良かったのかも知れない。

「いえぃぇ、オレなんぞには到底務まりませんゃ。妹さんの方が適任ですって」
「そうか、では澄ー…おいおい、何を言ってるんだ十?」

引退挨拶が終わり、意を決して発表した後任人事であった筈なのに。信じて大任を託した後輩は、その責務を明後日の方角へ放り投げた。

「正直ガラじゃ無いんスょ。猪狩は自分のピッチングに、俺は1打席1打席に心血を注いだ方がチームの為に尽くせると思います」
「いや、だからってなぁ…」

狼狽える兄や動揺する他の部員達のざわめきを他所に、彼は自分自身を、猪狩守を、私をキャプテンに据えた場合の功罪をその場で滔々と説き始める。

「諸君!どうか私の訴えを聞いて欲しい。暁のキャプテンとは、野球の才に最も秀でた男がなるべきなのか?…否。断じて否である。もし、そうであるべきとするならば、その座は昨年より我らがエース・猪狩守に移譲されるべきであった!…だが現実は違う。一ノ瀬キャプテンが四条キャプテンに託すに至った理由を、是非とも考えて頂きたい。そしてその決断は間違っていたのか?その答えを、諸君等は既に知っている筈なのだッ」

虚構と現実。全てを綯交ぜに、巧妙に織り込まれた彼の演説を聴き入った部員達は熱狂を以て私を迎え入れ、後を任せる諸先輩も千石監督も誰1人として反対しなかった。

「…誠心誠意、皆さんをサポートして行きます。ですから私を、また甲子園に連れて行って下さい」
『応ッ!( ゚∀゚)o彡゚ 』

一介の女子マネージャーがキャプテンになるなんて、絶対に受け入れられないものと信じて疑わなかったのに。再試合前のミーティングによって、部員達の脳裏には四条賢二の残像が色濃く焼き付けられてしまっていた。

私を代弁者に仕立て上げる事で、十十は自らの時間を割いてまでキャプテンシーを発揮する必要が無くなり、自分の意向は私を通して波風立てずに反映させられる、傀儡政権の樹立に成功したのだ。

そうする事で、試合を早く終わらせられるとの話だっだ。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「じゃあオレは猪狩と勝負してるんで、お前さんはスカウトの人とカントクが話し始めたらー…どしたん?」

新体制以降、十十が猪狩邸に入り浸る頻度が週3~4日ペースにまで増加していて、2人っきりで会えるのは休み時間ぐらいになっていた。しかも、その時ですら部員達への育成方針?についての打ち合わせが挟まれる。

猪狩進に神社での階段ダッシュをそれとなく勧めてみたり、重度のジャパニーズアニメ中毒に陥り日本語をマスターした、筋金入りのオタク外人に玩多堂の最新情報を流したり…

彼の役に立ちたい。必要とされたい。自分からじゃなくて、奪う様に、貪る様に、私を求めて欲しい。最初は達成不能と判断して最大限譲歩したご褒美だったのに、スッカリ立場が逆転してしまった。

寂しい。淋しい。恋しい。焦燥感が募る。猜疑心が深まる。切なくて、辛い。

私は恋人同士のつもりだけど、単に利用されているだけなんじゃないかと不安になる。用が済んだら捨てられるんじゃないだろうか?そんな風に考え出すと、夜も眠れなかった。

「…何でも無いわ。いってらっしゃい」



[30780] #20
Name: 兼久◆6d77000d ID:445d9e74
Date: 2013/05/08 22:57
2学期の秋、とある昼休み。

放課後の練習メニューを思案しながら食事を終え、鞄にお弁当箱を仕舞おうとした所でクラスメイトの女子に肩を突っつかれた。彼女が指を差す方向に視線を傾けると、教室の入口付近後輩の男子生徒が遠慮がちに顔を覗かせている。

「キャー…四条先輩。今、宜しいですか?」

目が会うなりNGワードを零しそうになる彼を目で制し“どうぞ”と招き入れる。原則、部活中以外に私をキャプテンと呼ぶのは禁止にしていたの。理由は私自身が好奇の目に晒されるのを嫌ったから。

3年連続甲子園出場の野球部で、プロが注目する逸材を差し置いてキャプテンになった女が一体どんな顔をしているのか。そんな人間が同じ学園内に、近所に、現実に存在すれば、誰だって興味を持つのは道理でしょう?実際、一目拝んでやろうと云う野次馬は後を絶たなかったわ。

私のささやかな抵抗せいで後輩さん達には少々面倒を掛けたかも知れないけど、唯でさえ猪狩兄弟の気を引きたい女子生徒達のやっかみを背負っている身。せめて、これぐらいの我侭は許して欲しい。

「この本をお返しに。凄く勉強になりました、ありがとうございます」

参考になるのであれば当面手元に置いていても構わない旨を伝えても、この勤勉なる後輩は決まって1週間と経たずに返却しに来た。

朝から晩まで練習漬けの毎日で、ザッと目を通すだけでも一苦労の筈。それなのに彼は一通り頭の中に入れたつもりだし、特に重要だと思う部分はノートに纏めてあると言う。

「それより答え合わせと言うか、僕なりの捉え方と先輩のお考えの突き合わせをお願い出来ませんか?…モチロンお時間があれば、ですけど」

猪狩守の1年下の実弟・猪狩進。ポジションは謂わずもがな、よね?

見た目こそ瓜二つだけど傲岸不遜が服を着て歩いている実兄を反面教師にしているせいか、好対照に柔和で品行方正な好青年。頬の絆創膏がトレードマークの、小柄で可愛い男の子だった。

兄弟ならでは息の合ったコンビネーションは、互いの意見を戦わせながら昇華し、遂には全国制覇を成し遂げた二宮瑞穂とのバッテリーをも凌駕していた様にも見える。ハッキリ言って、彼を2軍に置いていた意味が分からない。

「いえ、僕はその場合こう攻めるすべきだと思います」
「そうかしら?じゃあ、もし…」

学ぶ喜びとは違う、教える喜び。正直痴がましいとは思いつつも、彼とのディスカッションは非常に新鮮で私以上に造詣の深い兄や彼氏相手では、決して味わえない感覚に酔いしれる。

私の知識なんかががどれだけ役に立てていたかは知る由も無いけれど、純粋に自分を慕ってくれる後輩にとても好感が持てた。

「それはっー…気付きませんでした。浅慮でしたね」
「うぅん、考え方としては悪く無いと思うの。もしそうするのであれば…」

恋人以外の異性を意識する事に後ろめたさは有ったけれど、そもそも彼の指示が無ければ積極的に接触を持ったりなんかしない。

天才なんて言葉1つで周囲も自身も偽って、それでもソレに気付いてくれる誰かが居なければ、何時か自滅しそうな危うさを孕んでいる猪狩守。そんな長兄を陰に日向にとサポートする健気なまでの献身さを、一欠片でも独占したくなる。

もしも今とは違う出逢い方をしていたら?なんて妄想に耽るだけでも、甘美な背徳感が私を突き動かす。

「一息入れましょう、インスタントだけどコーヒーでも淹れるわ」
「あ、でしたら僕が調理実習で作ったパウンドケーキがありますよ?」

打撃面では二宮瑞穂、三本松一、七井アレフト。守備面では四条賢二、六本木優希、八嶋中。攻守の主軸がゴッソリ入れ替わり、綺羅星の如し暁ナンバーズの後を受ける次世代ナインはあくまでも“それなり”で、偉大なる先輩諸氏には到底及ばなかった。

それでもソレが言い訳にならない程に世間の注目はマウンドの貴公子へと寄せられていて、一地方大会の結果に過ぎない暁大付属の戦果は在京キー局であれば、どのスポーツニュースでも放映されている。

『――以上、パワフルスポーツでした。さぁCMの後はワイルドブルズ対ブルーウェイヴの一戦をお送りします。ワイルドブルズ先発は今季1軍初マウンドとなる鷹野有紀投手、ブルーウェイヴはハーラーダービー単独トップの…』

秋季大会は私がキャプテンになって初めての公式戦で、お飾りの自覚はあっても“女なんかに”なんて陰口を叩かれまいと相当神経を擦り減らしていた頃。十十に上手に踊らされ、少しでも皆の役に立てればと躍起になっていた。

でも、本来であれば練習時の細かいアドバイスは監督の領分であって、頭でっかちな女子高生風情の出る幕なんか無い。

高校球界屈指の名将・千石忠を差し置いて、良くもまぁ出過ぎた振る舞いをしたものだと思い返す度に恥ずかしくなる。野球を知れば知る程ソレを善しとされていた先代キャプテンがどれだけ有能で、どれだけ篤い信頼を勝ち取っていたのかを思い知らされたわ。

「良いんですか先輩、勝手に部室のテレビなんか観たりして…」
「さぁ、どうかしら?監督は今日は戻らないと言ってたけど、予定が変わるかも知れないわね」

「じ、じゃあ止めましょうよぉ」
「もし見つかったら私が独断でした事だもの、アナタは帰って良いわ。私は神童先輩のピッチングを観ておきたいし」

お兄さんとタイプが似てるから参考になるわよ?と、どうにか指図された通りにTV観戦をするように仕向けると――後は本当に何もする必要が無かった。

実際試合が始まると最後まで食い入る様に彼のピッチングを見守り続けていて、思い返してみるとあの時が後に世界一の神童裕二郎マニアを自認する“野球場の妻”が誕生した瞬間だったのかも知れない。

「本当に兄さんみたいー…うぅん、違う。もっと凄い。僕だったら神童さんをどんな風にリード出来るんだろう?ダメだ、今の僕なんかじゃとても…」
「す、進君?」

熱に浮かされた猪狩進をどうにか連れ出した頃にはとっくに門限は過ぎていて、PHSが鳴った時には兄からの着信以外、全く考えられなかった。もしかしたら私の身を案じ、愛犬の散歩も兼ねて近くまで来ているかも知れない。

こんな遅くに男子と2人っきりで居る所を見られたら、何を言い出すか判ったものでは無い。でも出なければもっと心配するだろうし、と急いで通話ボタンを押す。

「ごめんなさいっ、今帰宅中でー…どうしたの、こんな時間に?…別に迷惑なんかじゃ無いわ。要件は?」

矢継ぎ早に逃げ口上を捲し立てようとしたが、電話口の相手は兄では無い事が直ぐに判明。ただの杞憂であった事にホッと胸を撫で下ろした。

また今から逢いたくなったとでも言い出すのか、それともただ単に指令の結果を一刻も早く知りたかっただけなのか――そんな予想を裏切る、信じられない一報が飛び込んで来た。

「…えっ、怪我?複雑骨折?誰がっ?!」



[30780] #21
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/04 13:04
「ぃゃ~~面目ない、つい魔が差したゎ」
「何がどう差すとそんな風になるのよっ?!」

術後間もない左腕をギプスで固定した十十は、あっけんらかんとした様子で私を出迎えた。電話口での余りに他人事な口ぶりに当初は猪狩守が故障したものと思い込んでしまったのだが、実際にはそうでは無かった。

一般的に“複雑骨折”なんて言葉の響きから粉砕骨折と混同する人も時々居るけれど、実際には骨折と共に筋肉や血管等に損傷を与え、骨が外部に飛び出している状態の事で、必ずしも1本の骨が複数箇所離断しているとは限らない。医療用語的には開放骨折と呼ばれているわ。

では状況的にマシなのかと問われれば、一概にそうとも言い切れない。完治するまでの期間は短くとも細菌感染を起こし易い骨が外気に触れる為、骨髄炎や破傷風を発症する危険性も有る。もしそうなれば最悪、死に至るケースも否定出来ない。

「んなコト言ったってお前さん、魔球よ?ねんがんのジャイロボーラーだょ?所詮オレはサブポジ4のセカンドが付いてるだけのピッチャーみたいなモンなんだから、ついっぃ夢見ちゃったワケよ。もしかしたらワンチャンあるんじゃね?ってー…泣くな。オレまで泣きたくなる」

「勝手なコトばかり言わないで!だったら知らせたりしないでよ莫迦ッ」

不幸中の幸いだったのは猪狩邸敷地内での個人練習中であったが故に、感染リスクが抑えられるゴールデンタイムと呼ばれる受傷後6~8時間以内どころか、僅か1時間後には縫合手術が始まっていた点。

それでも猪狩コンツェルンのお抱え医師による診断は全治2ヶ月で、怪我をする時期によってはそのまま高校球児としての野球人生が終わりを告げるレベルの重症だった。

「すまない澄香さん、ボクの判断ミスだ。やはり止めるべきだった」
「んなッー…勝手に謝ってんじゃねーよ!お友達ヤメんぞゴルァ!! (゚Д゚ #) 」

「お前が言うな。何と言おうと治療とリハビリ、復帰に向けてのバックアップには全力を尽す。勘違いするな?これは暁大付属の、この猪狩守の夏春連覇を、その先にある夏春夏連覇の一助と成す為だからな」

ライジングショット。無論テニスにおけるワンバウンドしたボールの跳ね上がり際を打つ事とは別義であり、日本球界を席巻した猪狩守が自らのストレートに名付けた愛称を指す。

USA.Baseball.League のスーパースターであるテリー=マイルマンの“メテオマグナム”と同様に彼の代名詞とも言える存在で、改良を重ねる度に“~キャノン”だの“ソニック~”などとイチイチ名前を変えてるわね。

一部の野球解説者・マスコミ・プロ野球ファンの間ではソレを“ジャイロボール”であると捉える者も多く、本人は(天才である)自分にしか投げられない魔球であると公言していたけれど…当時は完全にマスターしていた訳では無く、失投を痛打される場面もまま有った。

私自身はジャイロボールの存在定義には懐疑的な立場を取っているから、ジャイロボーラー云々については割愛させて頂くわ。

大会中におけるチャンスメーカーの戦線離脱はチームにとって痛恨の極みであり、レギュラーとして再び試合に出場可能な水準にまで回復するのにどれ程の時間を要するのかと思うと、私は目の前が真っ暗になった。

「はぃはぃツンデレ乙。守タソは嫁の鑑だねー…てゆーか空気女家ょ?」
「だっ、誰が嫁だ!ボクに相応しいのは美鈴サンみたいな女性であって、お前みたいなー…澄香くん、ボク達は一足先に失礼する!」

「十先輩とのお話しが終わったら連絡して下さいね、ご自宅までウチの運転手に送らせますから」
「うん‥‥‥ありがとう進君」

「チョイ待ち進きゅん。その美鈴さんについてkwsk」
「あぁ、父さんの専属秘書でして…」

「進ッ!!」
「スイマセン、失礼しまーす」

私の為にも、死ぬ気でセンバツに間に合わせて見せろ。そう言い残して猪狩守は慌ただしく病室を去り、ドラマなんかで出てくる要人専用のホテルみたいな個室には十十と私だけが残された。

十十はフウッと大きな溜息をつくと自由が効く右手でポンポンとマットを叩き、自分の傍らに座る様に私を促す。

「ゴメンな」

ベットの上で彼にギュッと抱き締められるのはこれで2度目だけど、どちらも色気もヘッタクレも無いシチュエーション。なんでこんな男を好きになっちゃったんだろうと後悔する時も沢山あるのだけれど、コレばっかりは仕方が無いと諦める他ないわね。

「アナタ、その腕が治ったらー…また?」
「リスクを考えたら文字通り手が出ねーょ、万全を期してコレだもん‥‥‥信じろって、ホームベースまでボールが届かないとか辛すぎィ」

既に野手として頭角を現し、注目のドラフト候補になりつつあって尚、十十はマウンドへの異様な執着を垣間見せた。

私には計り知れない深謀遠慮があっての事なのかも知れないが、本気で投げても130km/h がやっとの彼にライジングショットをマスターするメリットがどれ程あったと言うのか?

「お前さん達は猪狩守を難攻不落の絶対的存在とか思い込んでいるみてーだが、んなこたぁ無い。割と打てるー…オレ的には慣れ過ぎて絶好調の“そこのお前”の方がヤバイ。あと2つ、何とか勝って欲しいんだが正直厳しいだろうナ」

悪い予感はものの見事に的中し、十十を欠いた暁は準決勝にて球八高校なる無名校相手にまさかの敗北を喫する。心を許した数少ない友人を傷付けたウイニングショットを、自ら封印してしまったのだ。

ただ、その球八が決勝戦を故障に依る選手不足を理由に棄権した事、通算70回目の記念大会として過去最多の出場枠が設定されていた幸運が重なり、センバツ出場には一縷の望みを繋いでいた。



[30780] #22
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/08 17:12
「そろそろ来るころだと思ったょ、ぉ 兄 ち ゃ ん ☆」

十十に伴なわれた私は、両親の勤め先でもある官僚大付属病院に訪れていた。

目的は修学旅行先の海岸で一緒に拾った貝殻を彼の妹にもプレゼントする為で、彼女に対面したのはその時が初めて。病室に着くとちょうど検温を終えたばかりの模様で、担当ナースが久し振りに顔を見せた家族に患者の近況を掻い摘んで説明し始める。

「こんにちは」
「こんちゎー…ぉねーちゃんとはたぶん“はじめまして”だょね?」

形式上、春から地元の中学校に進学した扱いになってはいても、2学期が終わろうとしている段階で登校回数はゼロ。小学校の卒業証書も家族と一緒に春休み中の校長室で受け取ったと言うパジャマ姿の少女は、ランドセルを背負っていても全く違和感の無い幼さだった。

よくよく思い返してみると容姿も性格も、髪の色からサイドテールのヘアスタイルに至るまで、NPB女性プレイヤー第2号となった橘みずきとソックリだったわね。

「スマンなぎさ、やらかした」
「ぅん、しってるょー…座って。クリスちゃん、ドア」

見る者をほっこりとさせる愛くるしい笑顔とは裏腹に、何者とも形容し辛い威圧感を醸し出す。病室内の空気が、ピンと張り詰める。気配を察してか、傍らに居た筈の加藤クリスティなるハーフっぽい名前の看護師は何時の間にやら姿を消していた。

「お兄ちゃん馬鹿でしょ?せめて大会が終わってからとかさぁ~…時期考えたら?」
「めっ、面目ない…」

「ピッチャー十十はとっくの昔にオワコンなの」
「そ、そうだよな~てへぺ」

「じゃあ、なんで未練がましくマウンドにへばり付いてんの?もぉ1回、ダンプカーに撥ね飛ばされてみるぅ?」
「やめてください しんでしまいます」

兄妹の会話に割って入る余地は無かった。

彼は十なぎさに一方的に詰問され、蔑まれ、それでも手を上げるどころか一切反論もせずに陳謝の言葉を述べる。男としては恋人の目の前で忸怩たる思いもあったでしょうに、ジッと耐え続ける姿勢を崩さない。

2人の間にどんな事象が介在するのか未詳のままだったけど、まともな兄妹関係じゃないのは一目瞭然だったわ。

「ぉねーちゃんもぉねーちゃんもだょ?彼氏が馬鹿ヤってんなら止めないと。健気な自分に自己陶酔?完全に監督不行届ですから。リハビリ手伝って内助の功(笑)とかさ~~ 無 い か ら 」

願望を実現するチカラ。猛勉強の末、志望校に入学する。練習に励み、競技会で優秀な成績を納める。甲子園で活躍してドラフト指名を受け、プロ野球選手になる――

人間誰しも、どんな天才であろうとも運に全てが左右されてしまう時が必ず来る。環境であったり、体調であったり、偶然が重なった些細なミスであったりと、原因は様々。取り返しが利くのであればまだしも、そうで無い事も多々有る。

「彼女は関ヶー…ないんじゃないか?あ、あるの?」
「…2度と愚かな過ちを犯させないよう目を光らせておくと約束するわ」

もしも、やり直す事が出来たら?人生を積み重ねていれば、そんな場面は幾らでも存在するだろう。自己に起因しない不可抗力な結末であれば尚更だ。

「だとイイんですけどぉ~…不束な兄ですが、どーぞ末永く見守ったげて下さぃ☆ぁ、でもぉ兄ちゃんって相手のキモチに薄々勘付いてるクセに何年も放置しといて精一杯のラブレター貰ってもスルーする人だからぁ、じゅ~ぶん気を付けてね?ま、3年間のストーキング記録の裏に“スキだよ”とか流石に重すぎだよねっ」

試合で頑張ってた、全打席安打だった、サイクル安打した。兄が自分の願いを叶えれば、必ず病も快方に向かう筈。妹の盲信に対し、十十は応え続けた。無論、これからもその方針に変わりは無いと言う。

「なぎさもフツーに学校行って勉強して部活して友達と遊んだり彼氏と恋愛したりしたいの。将来は球団社長の秘書になったり結婚して赤ちゃん産んで旦那サマと子供の帰りを待ちながらご飯作ったりー…ダメ?身分不相応?」

まるで女帝か神様みたいに振舞う十なぎさに対して、十十は騎士か従僕の如く、人生をやり直してでも必ず遂行して見せると宣誓した。

私と兄の関係がそのまま十兄妹には当て嵌らない事ぐらい、頭の中では理解出来る。育って来た環境も、置かれた境遇も全く異なるし、仕方無いとは思う。でも、こんな歪な兄妹愛が許されるのだろうか?

「そんなコトは無い。ただ教えて欲しい、お兄ちゃんはなぎさのお願いを叶えてやれそうか?出直した方が良かったりするのか?」
「えっーと‥‥‥ぅん、その質問の内容ならダイジョーブ。ぉ兄ちゃんのサクセスがなぎさのハッピーエンドだもん、がんばってネ♪」



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



15年振り、史上5校目。第79回全国高等学校野球選手権大会に続き、第70回選抜高等学校野球大会をも制した暁大付属は、見事夏春連覇の偉業を成し遂げた。

緒戦の雪国高校を順当に下し、橘商業のエース・久万怜との投げ合いを制してセンバツの切符を勝ち取った影浦ロ兄が率いる霊盟社との一戦では、猪狩守が打っては2本の満塁本塁打、投げてはノーヒットノーランの独壇場。

本大会3試合連続ホーマーと波に乗る西部獅子頭の主砲・一文字大悟を4打席連続三振と歯牙にも掛けず、唯一苦戦を強いられた準決勝の大漁水産戦でも、サイクルヒット達成となる猪狩進のランニングホームランで同点。更に兄弟アベックアーチとなるサヨナラホームランで大逆転勝利。

決勝で三たび激突した対帝王実業戦無四球完封劇に至るまで、マウンドの貴公子が魅せた獅子奮迅の活躍は、空前絶後の快挙となる国内全12球団のドラフト1位指名を実現させるのに充分なインパクトを残している。

「希望者全員に優勝記念の猪狩グッズを無償配布ねぇ~…良いのかソレ?まぁ高野連が親父さん(猪狩コンツェルン総帥・猪狩茂氏)に楯突いた日にゃ運営本部上空に裁きの鉄槌が降ってきそうだしなァ」

十十自身はベンチ入りしたものの出場機会は一切無かった。

年の瀬には本格的なリハビリに着手しており、地獄マラソンでは猪狩兄弟を抑えて1位入線。舞台裏を知っていれば鼻白む友情ゴッコで猪狩守の心を開かせ、昇降試験では彼と二人三脚で開発し、自らの左腕を破壊した魔球を“ラwイwジwンwグwショwww”などと一笑に付してスタンドに叩き込んでいる。

「こんな子供騙しのマシンを相手にするくらいならボクが投げてやっても構わないが?」
「ド素人め。球小僧ノ真髄ハ評価点ニ非ズ。AHでもPHでも広角打法でも選り取りみどりではないかッッ」

大会用にリースした球将軍がマシントラブルを起こした際も“小僧様キタ━━━(゚∀゚)━━━!!”と急遽届いた間に合わせ相手に一心不乱に勤しんでいた。傍目には、控え選手に出番を譲る必要が皆無な復調振りを見せていたのだが。

優勝が決定し、校歌斉唱の為にベンチを出る間際に“やっぱ野球は魅せるモンであって観るモンじゃねーょナ”と漏らした寂しげな呟きが、今も耳を離れない。



[30780] #22.5
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/04 20:17
母校を4大会連続で甲子園に導き、絶対王者の金看板を一身に背負う帝王実業のエース・山口賢。

その帝王実業を下し、春夏連覇を果たした暁大付属の黄金左腕・猪狩守。

前人未到の高校通算90ホーマー待った無しと言われる青龍高校の大器・滝本太郎。

当代の“高校BIG3”と言えば、この3人の名が挙げられよう。そもそも私は高校通算〇ホーマーなんぞには参考記録程度の価値しか見い出せないのクチなのだが、滝本君には4番打者としての高い素養を感じ取れた。彼の勝負所で見せる集中力と、状況に応じた対応力はバット・球場・相手投手の複合的要因に由るアマの世界なればこそ、のスラッガータイプとは一味も二味も違う凄味が有る。

山口君にはハマの守護神・伊達団吉に勝るとも劣らないフォークもさることながら、地道な走り込みで培われたスタミナの評価をしたい。キャンプまでサボらずトレーニングを続ければルーキーイヤーから先発ローテの一角を任せられると太鼓判を押せるし、チーム状況によってはリリーフとして使ってみるのも面白いかも知れない。あの村田超治を彷彿とさせる“マサカリ”と相手打者を力で捩じ伏せるマウンド捌きは、いずれナインの士気を大いに盛り立てる精神的支柱となるだろう。

だがスター候補生とスーパースターの違いと言うべきか、投打の活躍において彼らを凌ぎ、興行的な側面でも突出した人気を兼ね備えた甲子園のアイドルを前にしてはその煌きも些か霞んでしまう。惜しくらむは意中の球団と相思相愛の猪狩君が、夢破れれば暁大への進学を臭わせている哀しき現実。正しく手の届かない星の如き存在なのだ。

まぁ、それだけなら何も今に始まった話では無い。盤石の根回しをして一本釣りを狙うのは金満球団の特権として耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぼうじゃないか?イチ個人としては球界の隆盛に寄与する若武者の活躍は慶賀の至りと存する。問題なのは天下の悪法たる逆指名制度を利用し、本来であれば間違い無くドラ1候補足る大学・社会人選手まで2位指名でキープしようとしているジャイアニズム全開の“球界の盟主”側に他ならない。

“みすみす時代の寵児を献上し、ドラフト制度を形骸化させてはならない。ならば公正を期す為にも、球界全体でNoを突き付けようではないか!”

困った事に、NPBと言う伏魔殿では本当にこうした風潮が高まりつつ有るのだ。そうする事で強行指名の果てに“息子の夢と人生を強奪した”との逆恨みを一身に浴びるリスクも軽減されるだろうし、世論を味方に付ける事も出来る!と。確かに頷ける部分が無くも無いが、そんな欺瞞に満ちた正義の為に貴重な戦力補強の手段をドブに捨てるなんてトンデモナイ話だ。不幸にしてその哀れな人身御供になった時の事を、本気で考えているのだろうか?

『暁大學附属学園の栄誉を称え、校歌を斉唱し、校旗の掲揚を行います…』

出場機会の無いままセンバツを終えた十十を見て、私は密かにほくそ笑んだ。世間の注目は兄弟バッテリーでセンバツを制した猪狩兄弟一色に染まり、ベンチを温め続けた彼の存在は僅か数ヶ月でスッカリ色褪せつつある。

顔見知りのブン屋に怪我の情報をやや誇張気味にリークしてやったところ効果覿面。リハビリのつもりか何かは知らないが、たまたま本人が大会前からズッと素人レベルの打撃マシン相手に汗を流していたのも良質のスパイスとなり、ロクに真偽も確かめずに再起不能のレッテルを貼る無能者まで現れるのだから笑いが止まらない。

何にせよ千石君がまんまと私の口ぐー…ゴホン!アドバイスに賛同し、無理をさせない方針を貫いてくれたのも大きい。ナニ、おたくでは生徒に一晩中リハビリに励むよう指導しているのですか?と聖夜に女子マネとホテル街を仲睦まじく歩く写真を1枚提供したに過ぎないのだが。彼と言い、神童君の時と言い、私としては千石監督様々だ。

「十十君ー…だね?私は」

キミの唯一にして最大の理解者だ、そんな顔をしてターゲットに接触を図る。最も多感な青春時代、直向きに野球へ情熱を捧げる若者が相応の実力を持ちながらベンチで干されていれば、腐らない方がおかしい。挙句の果てにチームは自分抜きで頂点を極めているのだから、その口惜しさは一入だろう。

私はキミの実力を高く評価している、我が球団にはキミみたいな将来有望の若手が必要だ、その言葉に嘘偽りは無い。なるべくコストを掛けずに優秀な選手を囲い込みたいのは事実なのだから、コチラも必死なのだよ。あのホテル街を抜ければ、その先にあるバッティングセンターへの近道なのは百も承知だ。

将来的なビジョンの欠片も無いお偉方は、何度ミーティングを開こうとも猪狩守の強行指名を連呼するばかりで全く以てお話しにならない。彼の目にはあの栄光と伝統で塗り固められた巨人軍のユニフォームしか映らないと、あと何回ご説明差し上げればご理解願えるのか?嫌がらせでは無く本気で獲得を目指すなら、タテジマを横縞に変えるレベルの覚悟では到底足りないのだ。

球団名をジャイアンツに変え、背番号18をエースから強奪してまで献上し、優勝してMVP獲ったら無償トレードを取り付けます、と確約してようやく土俵に乗るかどうかの世界だろう。高卒ルーキー相手に本気で5億出せるのならヨソの看板選手を強奪しろとは言わん、せめて生え抜きの流出を食い止めろ。彼の生家は現役メジャーリーガーを球団ごと買い叩けるんだ、金じゃ動くまい。

まかり間違って奇跡を起こせたのならば、かのご高名な御父君は倅達に無益な兄弟喧嘩をさせてはなるまじとウチを買収し、猪狩コンツェルンズにでもして下さるかも知れない。そうなれば占めたモノ、長男坊をプレイングマネージャーにでも祭り上げてしまえば球団の永久欠番に猪狩守の名を刻めるぞ?その時は私も一緒に万歳三唱をしようではないか。

「影山秀路さんっスよね、チワーっス」

なんだ知っているのかと思いつつ、私は名刺を彼に手渡した。考えてみれば当り前か、直接声を掛けるのは初めてでも先輩連中とは何度も顔を合わせているし、上から可愛がられるタイプだから栄養費の一部からご相伴に預かる機会も多かっただろう。正直まだ時期尚早ではないかとの迷いは有ったが、計算違いが起こったのだから仕方が無い。

センバツを制した為に、春季大会を回避していた暁が関東地区高校野球大会の出場基準(選抜大会ベスト4進出)を満してしまったのだ。関東高野連の推薦に対し、千石君はもう禊は済んだとばかりにベストメンバーを組んでこれに臨まんとしている。当然、彼の出番も有るだろう。

「今、時間あるかね?立ち話もなんだし小腹が減ってちゃ頭も回らんだろう、ファミレスにでも行かないか?」

だがソレじゃ困る、復調振りをアピールされては台無しだ。本音としては隠し玉としてドラ6以下に滑り込ませてやりたいのだが、最悪4位辺りで手を打とう。

私は初球を打ち洩らすと寿命が縮む呪いでも懸けられてるのかと勘繰りたくなるほど早打ちをする一方で、イザ追い込まれれば驚異的な粘りを発揮するバットコントロールに魅せられた。逆境を切り開き、大一番に強いクソ度胸に惚れ込んだ。目を見張るほどの速さは無いが、勝機を手繰り寄せる巧みで貪欲な走塁姿勢には大いに好感を持った。

守備でも左投げのクセに専らセカンドを守る異端児は話題性だけのイロモノとは異なり、充分に客からカネの取れるだけのプレーを披露する。抜群の打球反応と正確無比な送球技術は、心臓病のハンデにより獲得を断念した六本木優希に匹敵するだろう。

別にハズレ1位でも惜しくは無い。しかしながら、それでは若干面白味に欠ける。獲るからには、多少卑怯な手を使ってでも徹底的にライバル共を出し抜いてやるのがスカウトの手腕であり醍醐味なのだ。

「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛」

全自動ナントカ風ダシ巻き卵に舌鼓を打つ十君との歓談は、実にスムーズに進んだ。彼は原則12球団OKの稀有な存在で、指名順位に対する拘わりも無い。近いうちにご両親との面談をするアポも取れ、今のところ私の他に粉を掛ける輩も皆無。今のところ取引にも素直に応じてくれている。

毎月栄養費を支給する見返りに、試合に出ても目立った活躍は極力控える。ポジションもファーストに就くなど、以前と比べれば明らかに動けないフリをして貰う。他球団のスカウトが現れたら必ず条件提示を引き出し、その報告をした上で擦り合せを行う等々。

「何か質問はあるかね?」

後は保護者と指導者を丸め込めば一丁上がり。これは久々に良い仕事が出来そうだと浮かれ気味の私は、ついつい気を緩めて煙草に火を付けてしまった。未来ある青少年の前で美味そうにニコチンを吹かし、ウッカリ興味を持たれたりでもしたら商品価値が下落してしまうからな。慎まねばなるまい。

「チョッチュネー…お前さんは何かあんの?」

色々と。そう言いながら私の目の前に現れた女子高生の瞳は、静かに、だが確実に怒りに燃えていた。



[30780] #23
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/13 23:15
第50回春季関東地区高等学校野球大会。

その年はお隣り埼玉県での開催と交通アクセスも良く、東京都から春季大会を制したパワフル高校と準優勝の聖マリアンヌ恋恋学院が。他県からも選手権大会での対戦が予想される海東学院や大東亜学園の他、錚々たる顔ぶれが出揃っていた。

実戦経験を積む点に措いては練習試合を組むより遥かに有益であると判断した千石監督は、出場推薦を受諾。深紅と紫紺の大優勝旗を掲げる母校は並居る強豪を蹴散らし、全国一の実力を誇示したまま勝ち進んで行く。

『プレイボール!』

決勝カードは昨夏の西東京大会以来の顔合わせとなるパワフル高校との一戦で、本番前には願ったり叶ったりの対戦相手。

私も情報収集と解析に全力を注いでいて、例えばパワ高先発は2年の松倉宗光などは外野手としてレギュラーの座を確保しながらもエース的存在だった花崎薫が転校してしまったチーム事情から、止む無くコンバートされた…なんてエピソードが残っているけれど、実際のところ彼はシニア時代の大半をピッチャーとして過ごしていた。

野手転向の理由は、おそらくイップス。中学生の段階で既に180センチを超える高身長から投げ下ろす剛球サウスポーとして期待を集めながら、猪狩兄弟と対戦する度に手酷い敗北を喫している。それはもう、入部時の自己紹介でセカンドをやっていましたと言わしめる程に。

『ストライク、バッターアウトっ』

投手復帰後にはミット目掛けて長い腕を鞭ようにしならせる豪快なフォームがスッカリ鳴りを潜め、制球を重視した変化球ピッチャーへと変貌を遂げていた。ランナーを3塁に置いた場面でも低めへのフォークを多投出来るのは、相棒である香本富久雄との絶対的な信頼関係があってこそだろう。

一文字大悟や半田小鉄など、一部の例外を除けば絶滅危惧種となっているドカベン体型のキャッチャーで、凸凹コンビとなどと揶揄されてはいるがサイン無用の阿吽の呼吸は猪狩兄弟に勝るとも劣らない。凡そプロで通用するとは思えないが、少々の失投など掻き消してしまう壁役として抜群の安定感を誇っている。

その一方で多少深めに守っていても内野安打の心配は無い、と敵にまで安心感を与えてしまう欠点も併せ持つのだが、狙い球を絞って強引にスタンドへと運ぶ長打力は決して侮れない。彼らの他にもガッツでファイトの切り込み隊長・矢部明雄、走攻守3拍子揃ったユーティリティプレイヤー・駒坂瞬と後のNPBプレイヤーや大学・社会人のステージでも好成績を残した実力者がズラリと名を連ねる。

「ヤバい。パワ高ヤバい。まじでヤバいよ、マジヤバイ。98年度版パワフル高校ヤバい。まず4番戸井とか言うぐう畜。もう4番なんてもんじゃない。超4番。アリャ主人公補正とかそういうレベルじゃない。まさかの全真芯。スゲェ!強振多用とかじゃないの。パワー習得済&PH&広角打法とかを超越してる。しかもロックオン。ヤバイよ、ロックオンだよ。だって普通のバッターはロックオンとかしないじゃん?勝手にバットがボールに吸い寄せられたら困るし。ブラッシュボールの時とかどーすんのょ。1年の時はファールチップが精々だった奴に、3年の最後の集大成で全打席被本塁打とか泣くっしょ。だからフツーはロックオンとかしない。話のわかるヤツっーか、根本的にスルシナイの話じゃないんだけど。けど戸井はヤバイ、そんなの全然気にしない。例えるなら皇貞治の御前で56号とか平然と打つタイプ。絶好調キレ4レベル7のアバタボールとかでも一切関係無い。ヤバすぎ。全真芯ったけど、もしかしたらチゲーかもしんない。でもそうなるとじゃあ、全球スタンドインってナニ原理よ?って事になるし、それは誰もわからない。ヤバイ。誰にもわからないなんて凄過ぎる。それと守る方。掟破りの逆ミット移動見せない。ヤバイ、打てな過ぎ。凡打の山。アレは猪狩守との対戦だから許されるんだと思うんだ、オレは全っ然平気だけど。バックの動き自体はオート操作で強い程度だけど絶対落下点表示とかしてる。だってセンターが常にダイビングキャッチ。メガネ飛ばすし。見せろ。素顔を晒せ。見られたら自害しなきゃならん掟でもあるのか?キン肉族ならともかくメガネ一族に惚れるなんて1億と2千年経っても有り得ねーが超絶気になるんだょ。不眠症になるでヤンス。他にも控え投手にむらさわ憑依とかチーム総合評価Aとか色々あるんだけど、とにかく貴女様方はパワ高のヤバさをもっと知るべきだと思います。そんなパワ高を真っ向勝負で捩じ伏せた開幕片反高校とか超凄い。もっと頑張れオレ。超ガンガレ」

2回表。十十が警戒する戸井鉄男が初回から3者連続三振と絶好調の猪狩守からセンターバックスクリーン直撃の先制アーチを描くと、4回と7回にも3打席連続となる場外弾を浴びている。

『ゲームセット!』

救いだったのは彼が打席に立った時にランナーが居なかった事と、4打席目が廻って来なかった事。我彼のパワーバランスは均衡状態に近付いてはいるが、夏春連覇の王者としての面目はどうにか保てた。

「でも、実際に勝てたじゃない。逆転優勝の殊勲者がズイブンと御謙遜なさるのねー…内定を貰って牙が抜け落ちてしまったのかしら?」

戸井鉄男との相性の悪さが際立つ一方で、その他のナインには1度も3塁を踏ませず2ケタ奪三振を記録。相手の4番に仕事をさせず、自軍のエースが普段通りの力を発揮出来れば勝てる相手だと確信出来た。本番へ向けての調整と考えれば、上々の収穫だろう。

「ぁ、ありのままイマ起こった事を話すぜ!2アウト満塁の場面でサヨナラタイムリーを放ったのにキャプテン括 最愛の人 弧に謂れのない侮辱を受けた。ナニを言ってるかワカラネーと思うがー…ちょっ、お願いッ、最後まで言わせてぇぇ」

全試合出場を果たしながら、十十のバットから快音が響いたのは最終打席のみだった。

影山スカウトに口説かれた十十は栄養費代わりに提供されたミゾット社製のプロ仕様の野球道具を仲間内にバラ撒いたり、学園OB名目で練習設備の寄付を取り付けたりしていた。

彼の後暗い後援の影響で、最終学年となった同級生達の底上げが若干有ったのは事実。彼らとて曲りなりも猪狩世代の、暁大付属の1軍メンバーなのだから資質や力量は並の高校球児を凌駕している。あと一押しが欲しい時期でも有り、その助けになったのは否めない。

まだフィールディングに違和感を感じると称してファーストに就く十十が推挙した1年の豆山ヰ反の台頭、冬コミ以降2軍暮らしで長いスランプからようやく脱しつつあるヤーベン=Dの1軍復帰。その状況であってなお、互角なのだ。

「私はキャプテンである前にマネージャーなの。試合が終わったんだから帰り支度をしないとー…アナタもサッサと着替えたら?」
「ぇーと、もしかして昨日遊園地(お化け屋敷)で脅かしたの怒ってらっしゃる?でしたらお詫びに映画でもどう?」

でも私は釈然としなかった。当然、十十の力は怪我を負う以前と同程度まで回復していて、それなのに彼のプレーには随所に緩慢な所作が散見する。指導者もその理由を解した上でスタメン起用をしているのだ。

「違うわよー…手、出して」
「ふぇ?あばばばばばばっ」

ズッと支えて行きたいと願う相手の夢が叶う。喜ばしい事の筈なのに、どうしても受け入れ難かった。汚いオトナの甘言に絆された恋人と、ソレを止められなかった自分が許せなかったのだろう。

「痛くて実力が出し切れて無いみたいだから、ツバでも付けておけば治るんじゃないかと思って」
「口惜しい!でも感じちゃうっー…で、行く?ハロハロウィン(ホラー)ってぇの」

言われた通りの演技をする為に、結果として自身とチームを貶めんとする不慮の事態が訪れる。最愛の人が仲間達の未来を恣意的に踏み躙り、台無しにするかも知れない。その現実に嫌悪の情が募っていた。

「絶っっっ対に厭!私、帰るからっ」
「わけがわからないよー…どうしてお前さんはそんなに魂の在り処に拘るんだい?」

この日の試合の様に、本気にならざるを得ない状況に直面しない限り、十十は本気を出さない。出そうとしない。それならば、その状況を作り出すしかない。そう思った私は、腹いせに彼から預かっていたお守りを猪狩進に渡さなかった。

愛憎入り混じる小娘は、自らの行いによりどういった悲劇が巻き起こるのか、推察する機能すら喪失していたのだ。



[30780] #24
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/05 10:09
――キャッチャーフライ。咆哮にも似た十十の叫びが辺り一帯に木霊する。

西東京大会開幕が目前に迫っていたアノ日は、正午過ぎまで晴天に恵まれたお陰で久々に良好なグラウンドコンディションを保っていた。放課後の空にはどんよりとした雨雲が漂っていたけれど、近数日の練習不足を気にしていた猪狩守が実戦形式での投げ込みを希望したのは、極々自然な流れで。

横流しさせた影山氏のスカウティングレポートに目を通す限り、順当に行けば準々決勝で当る見込みの恋恋学院もパワフル高校と同じか、それ以上に警戒が必要なのは明白。万が一に備えての保険みたいな物、としたり顔で低用量ピルを手渡された時には軽く殺意が芽生えたけれど、本業の眼力は確かだった。

関東大会では登板過多を嫌った加藤先生が2番手投手を先発マウンドに送り出した為に、早い段階で姿を消していたものの新庄玖遠-海野八七の強力バッテリーと終盤3イニングに入ってからの怒涛の猛攻撃は健在なまま。

恋恋ナインの懸命の訴えが世論を、猪狩コンツェルンを、高野連をも揺り動かし、女性選手にも甲子園への門戸が開かれたのは歴史的快挙だと歓迎したいトコロだけど…彼女達を敵に回す身としては、手放しでは喜べなかった。

控えの早川あおいも着実に力を付けていて、見た目と相反する豪腕縦ロールの後を受けて繰り出されるサブマリンの視覚的効果は絶大。他にも女子ソフトボール界ではオリンピック候補生として名前の挙がる高木幸子が、1年では千石監督の誘いを蹴った猿山武が加入し、選手層に厚みが増している。

練習開始から時を置かず降り始めても、せっかく始めたのだから、まだ大丈夫、キリの良い所までもう少し――などとズルズルと継続するうちに、辺りはスッカリ暗くなっていた。幸い練習中の怪我人も無く、そのまま終わっていれば基礎トレーニングばかりで鬱憤の溜まっていた部員達には丁度良い1日となる筈だったのに。

「僕、チョット取りに行って来ますからココで待ってて下さいね」

降り頻りる雨の中、この程度で走り込みを欠かす訳には行かないと普段通りランニングをしながら帰ろうする兄。それを見兼ねた弟が、偶々校内のロッカーにレインコートを置いていたのを思い出した。春先にはエースの革新的進化に技術的にも精神的にも気圧されていた正捕手も、猛特訓の甲斐あって再び巧妙にリードするだけのゆとりを取り戻している。

関東大会優勝後も練習試合ではお忍び高校、大京近工業、得々農業、南港埠楽水産、レインボーハイスクールと他県の強豪相手に連戦連勝。兄弟バッテリーが順調に機能している限り、敗北の2文字は無縁に近かった。

十十の入れ知恵が有ったとは言え、この時からの弛まぬ努力が後に野々村カツノリや吉田淳也と云った日本球界を代表するレジェンド達と肩を並べるだけの礎を築いていたのは間違い無い。優れた選手達の逸話を紐解くと“名投手の影に名捕手在り”なんて格言が散見するけれど、彼等に相応しい賛辞であろう。

ただ、当時の段階で既に一級品とされる高評価が故に名将・千石忠が密かに温めていた構想が、日の目を見ぬまま断念されていたのを書き加えておく。もし仮に歴史のif が存在するのであれば希少価値の高い兄弟投手の、それもトップクラスの競演が見られていたかも知れない。

…この頃の話になると、どうもタラレバの世界を夢想しがちになってしまうわね。

兄の気が変わってしまう前に、そのまま帰らせたりして本番前に体調を崩されたりでもしたら一大事、と傘も差さずに駆け出す猪狩進。その時、専用グラウンドと学園を隔てる横断歩道に、普段なら学園関係者しか通らない道に、ウッカリ迷い込んでしまった地方ドライバーのトラックが通り掛かった。

「進きゅん、キャッチャーフライ!」

チームメイトの発する声に、猪狩進の体は脊髄反射に等しい反応を示す。咄嗟の機転が既の所で彼を危機的状況から救った訳だけど、皮肉にも退けられた厄災は、その矛先を獲物を奪った邪魔者へと変えてしまった。

数十分後、そのトラックが事もあろうに帰宅中の十十を撥ねてしまったのだ。もし、あの時の犠牲者が猪狩進であったのならば、彼が事故に遭う事は無かったのに――あの事故で最も醜く傷付いたのは、私の性根なのだろう。

仮に猪狩進を欠いていたとしたら、猪狩守とバッテリーを組むのは入部以来3年間ズッとブルペン捕手状態だった茂部一剛か、猪狩進を投手に転向させた場合に備えて育成し始めていた2軍上がりの河辺厚志が有力候補だったと言えるでしょうね。

彼等にライジングショットの対応が可能かどうかと問われれば、不可能だと断言せざるを得ない。それは必然的に神童裕二郎の二の舞を意味する。嗚呼、あの時の私は何をやっていたのだろう!

「巫山戯ないで!何が御守よ?こんな、こんな物でッー…?」

連絡を受けた私は何を血迷ったのか財布と共にPHSでは無く、十十から預かっていた御守を手にタクシーに飛び乗っていた。彼の安否は杳として知れず、手術室の前で苛立ちを募らせるばかり。

思わず握りしめていた御守を包む、白い紙袋を引き千切り――その時になって、初めてソレが交通安全では無い事に気が付いた。

手術加護の御守。神社の自動販売機で買い求めると、近々猪狩進が家族でアメリカまで野球観戦をしに行く話をするだろうから、その時になったら贈るようにと彼から手渡された代物。私は何の疑いも無く受け取りながら、自らの思惑の為に放置していたのだ。

意味が判らない。指図通りに渡していても、ソレにどんな神通力が備わっていようとも、交通安全で無いのであれば事故を回避するのは不可能ではないか?事故に遭う前提で渡そうとしていたのであれば、今度は彼が猪狩進を助ける理由が無くなってしまう。

「これってー…何でこんな物が御守の中に?」

幸か不幸か私の掌中に御守が留まっていた為に、人伝てでもその霊験あらたかな御加護が働いたらしい。搬送先に偶然居合わせていた“スポーツ医学の権威”なるドイツ人医師のオペにより十十は一命を取り留め、術後の経過も順調。

事故の後遺症は殆ど無かったみたいだけど、失われたあの夏は永遠に取り返せない。私の掌から滴る血で汚れた御守袋の中身は護符では無く、家庭用ゲーム機のメモリーカードだった。



[30780] #24.5
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/06 00:04
「お安い御用でやんす!あの頃のパワ高を語らせたら、オイラの右に出る者はいないでやんすよ!」

副音声ながら久々に頂いた解説のお仕事の為、猪狩ドームへと足を運んだオイラはこれまたお久し振りとなる影山秀路氏とお会いしたでやんす。影サンと最後にお会いしたのは現役引退を表明したシーズン終盤、クライマックスシリーズに向けて調整を行なっていた頃まで遡るくらいご無沙汰だったモンで本当に懐かしくー…オイラにとっちゃ今でも足を向けて寝れない大恩人でやんす。

何せ“西の阿久津に東の矢部”とまで謳われた猪狩世代屈指のスピードスターだったオイラも、当時は野に埋もれた無名の球児。そんなオイラを見出してくれた、名スカウトでやんすからね。この方の目に止まらなければ、矢部明雄はプロ野球選手では無く週末に草野球を楽しむサラリーマン人生を送っていた筈でやんす。

「さぁ~先ずはオイラ達が入部ー…え?戸井君が旅から戻って来た辺りからで良い?ズイブン端折るんでやんすねぇ?…それでは旅立ちの経緯からダイジェストでお送りするでやんす!」

あれは高2の夏でやんした。当時のパワ高は中の上くらいのチームで、巡り合わせにも依るでやんすが大体べスト16程度の実力は有ったでやんす。でもエースだったダッチャマンがー…あぁ、前年の暮れに親御さんの都合で開幕片反高に転校した花崎カヲル君のコトでやんす。

彼の抜けた穴を塞ぐべく名乗りを上げた戸井君の力投も虚しく、例年通り暁大附属にボッコボコにやられちまったでやんすよー…最後の夏には甲子園にも出場していたダッチャマン程では無いにしろ、戸井君だってそれ相応の実力者だったのは間違いないと思うんでやんす。

でも、あの試合を境に戸井君がマウンドに登るコトは2度と無かったでやんす。あの敗戦はオイラ達にとってムチャクチャ苦ぁ~い経験だったのと同時に、野球人生の転機となる試合でやんした。

『仕方が無いー…じゃあ矢部、引き受けてくれるな?』

その後、オイラ達はパワ高野球部の恒例行事と化している夏合宿を敢行したんでやんすが、なななナント、戸井君が主将就任を辞退した上に、その場でピッチャーを廃業して武者修行の旅に出ると休部宣言をしたんでやんす!

何しろ尾崎主将の熱血スピリットを受け継ぐのは戸井君ただ1人と誰もが信じて疑わなかったでやんすから、その場に居た人間は全員ビックリ仰天。皆挙って引き留めたんでやんすが、戸井君のガッチガチに硬ぁ~い決意は誰にも曲げられなかったでやんす。

普通ならチームの士気がガタガタになってもおかしく無い異常事態でやんしたが、それをアッサリ収めた鮫島先輩の影番としてのカリスマは尋常じゃあ無いでやんす。そんな経緯でオイラにお鉢が回ってキタんでやんすけど、あの時の周囲の落胆っぷりは正直トラウマ物でやんすねー

でも、あの一大決心が無ければ戸井君は打者として大成していたかどうか疑問でやんすし、エースで4番のままチームを引っ張っていたとなると鮫島先輩が松倉を説き伏せずに引退してたかも知れないでやんす。

まぁ実際オイラがしたのは定期的に監督が挙げた候補の中からひたすらボディー&ボディーのスローガンをチョイスしてたぐらいで、初陣となる秋季都大会に至っては阿畑2世に軽く捻られ、まさかの1回戦敗退で終わってるでやんす。

んで、学期末テスト前々日に諸国漫遊ホームランの旅から帰って来た戸井君は3度のメシよりホームランが好きなホームラニストになってたでやんす!その野球狂っぷりは女子マネとロマンスが生まれる隙なんざ微塵も感じさせ無かったでやんすよ。

それからのパワ高は、ホームランくんと渾名される戸井君が親の仇みたいに相手ピッチャーを叩き潰してくれたお陰で春季東京大会優勝、春季関東大会準優勝と大躍進。影サン以外の球団スカウトもチラホラ視察に訪れる程の強豪校として15年振りに脚光を浴びる様になったでやんす。

『捕るなッ!』

最後の公式戦になった西東京大会決勝は因縁の巡り合わせとなる暁大付属戦で、勝機は“いのかりバッティングセンター”状態の戸井君の前に、どれだけランナーを貯められるか?に掛かってたでやんす。ぁ、戸井君はずぅ~~っとイノカリって呼んでいて、猪狩君はそれに対してマジギレしてるんでやんす。2人が永遠のライバル状態に有る所以の1つでやんすね。

さて、話しが少し逸れたでやんすが肝心のパワ高ナインはアフロヘアーで颯爽とマウンドに登る猪狩君相手にキリキリ舞い。実に情けない話でやんすが戸井君以外は手も足も四死球も出ない有り様でやんした。

3番最強説を提唱するオイラの意見がオーダーに反映されていれば、猪狩君対策として考案したオイラの十八番・ボールはトモダチ作戦(右打者をホームベス寄りギリギリに立たせてスライダーを待ち、死球による出塁狙い)を浸透させられていれば、最後の夏だって違う結果になっていたかも知れないでやんしょうにー…それでも最終打席を迎えてようやく努力が実を結んだでやんす。

1点差で迎えた9回表、先頭打者となったオイラの献身により無死1塁。更に決死のスチールを成功させたんでやんすが、駒坂が進塁打を打ち損ねたばっかりに3塁憤死。続く松倉が3球三振に倒れ、2死1塁となったでやんす。

『4番。ファースト、戸井君…』

覚醒後のマウンドの貴公子を最も苦しめた一戦として名を残した名勝負は、最後の最後で球界屈指の千両役者が相見える展開でやんした。この試合も3打席連続本塁打とカモられていた以上、常識的に考えれば敬遠で次に控える香本勝負の一択だった筈でやんす。

でも、監督もバッテリーもソレを善しとはしなったでやんす。初球がアウトコースに外れた時には見せ掛けだけの勝負にも思えたんでやんすが、2球目を豪快に空振ってニヤリと笑った戸井君と猪狩君の顔といったらー…嗚呼、コレはガチなんだなぁと悟ったでやんすよ。

続く3球目。ミート寸前にホップしたライジングショットを僅かに掠めた打球は、バックネット方向に飛びやんした。

神宮の杜に沸き起こった悲鳴と歓声。ファールフライへ果敢に追い縋り、進君が白球目掛けてダイビングキャッチを試みようとした瞬間。周囲の雑音を掻き消す、雷鳴の如き大喝がマウンド上で轟いたでやんす。

キャッチャーミットに収まればジ・エンド。でも、ボールはミットを弾いて転々と転がったでやんす。アレが故意だったかどうかなんて聞くだけ野暮でモンでやんすよ?…でもまぁ、絶対に逆らう事の出来ない姉を持つ身としては、進君の立場は良ぉぉぉく理解出来るでやんす。

『ファール!』

ワンツーからの4球目はボール。続く5球目のカーブはファールラインを割る大飛球がスタンドに飛び込み、溜め息がスタジアムを包んだでやんす。6球目のフォークを見送りフルカウントになると、塁上の駒坂は勝負に水は差さないとばかりに1塁ベースに突っ立ち、実際に7・8球目をファールで粘った時にもスタートを切らんかったでやんす。

最後の1球となった9球目、鋭く振り抜いた打球は弾丸ライナーはバックスクリーン一直線に飛びー…フェンス上段にブチ当るツーベースヒットになりやんした。

オイラ似のイケメン外人がレーザービーム持ちじゃ無ければ試合の流れはどうなっていたか?あの時3塁コーチャーが止めていれば、もしかすればー…なんて言っちゃあイケナイでやんすね。

タラレバ話をするんだったら、あの日オイラが喜連杉君のノートのコピーを戸井君に渡してれば、歴史は全然違ったかも知れないでやんす。お目当ての戸井君がドラフト対象外になったお陰で影山さんがオイラを推してくれたんだから、本当に感謝してもしきれないでやんすよ。人生はホント万事塞翁がウマーでやんすね~



[30780] #25 
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/05/20 18:04
「そぉ言ゃ四条先パイは元気でヤってー…うへぇ、そりゃご愁傷サマ。可哀想なコトしちまったナ」

猪狩守が安藤梅田学園最後のバッターを大会通算最多奪三振記録となる89個目の三振で打ち取り、6試合連続完封勝利を収める瞬間まで、私達は試合とはまるで関係の無い世間話をしていた。

兄・四条賢二は獣医を目指してアニマル大学へ進学し、1人暮らしを開始。遠距離恋愛と愛犬に会えない生活は辛いと嘆いていて、案の定10週間後にフラレていたわ。

その他のメンバーは二宮瑞穂がスワローズに入団し、打撃と将来性を買われて開幕1軍スタート。三本松一と七井アレフトは首都体育大学、五十嵐権三は官僚大学、九十九宇宙は近代学院大学へと進学。

結局暁大學に進んだのは、六本木優希と八嶋中の2人だけだった。しかも、六本木優希は心臓手術を理由に休学・渡米して回復後も現地でUBLプレイヤーを目指し、スペース・レッドエンジェルス傘下のスカイ・イエローイーグルスにプロテストを経て入団。そのまま中退となっている。

一時代を築いた英傑達が一堂に会し、再びグラウンドに立つ日は2度と訪れ無かった。

「夢を見ていたのかもね、私達ー…そして夢の終わりが訪れた、ただそれだけの事。アナタと過ごした時間、忘れないから。本当に」

1998年11月20日。グランドプリンセスホテル新高輪・飛天の間にて行われた新人選手選択会議では、猪狩守の名が都合12回も読み上げられた。抽選の壇上に全球団の代表が居並ぶ姿を目の当たりにするのは、私の人生の中でも恐らく最初で最後になるんでしょうね。

『相思相愛!! トラの真恋人は帝実・山口か?! 』

『ワシが育てる!二刀流育成プラン提唱で猪狩もグラリ?』

『貫く巨人愛。マウンドの貴公子、91.7%の確率で暁大進学へ』

ドラフト直前まで連日センセーショナルな見出しが躍るスポーツ新聞各紙。12球団競合か?1本釣りか?世間の注目は猪狩コンツェルン御曹司の進路へと一心に注がれ、マスコミ各社の予想は真っ二つに割れていた。

「…息子の進路?この私の後を継ぐ他に、どんな選択肢が有るのと言うのかね?進学だろうが、就職だろうが、そんなモノは社会勉強の一環に過ぎんよ」

ただ、実父である猪狩茂氏の威光を恐れてか、ネガティヴなイメージを伴う報道は一切なされていない。アンチファンの間では伝説の12球団指名でさえ、猪狩コンツェルンが仕掛けたパフォーマンスだなんてトンデモ説が飛び出してるわね。

真相はどうあれ、そうした星の下に生まれた者の宿命なんでしょう。契約内容や水面下の駆け引きについてはあくまで選手と球団側の問題であって、プロ野球ファン個人の預かり知る所では無いわ。

『続きまして、第2回・第1位選択希望選手ー…山口賢。18歳、投手、帝王実業高校ー…抽選の結果、ブルーウェイヴが交渉権を獲得しました』

大学・社会人の有力候補達は皆、逆指名によって2位での囲い込みが完了しており、後はリスクの回避を決断するか否か。ただ、ハズレ1位の有力候補として名前が挙がっていた青龍高校の滝本太郎と帝王実業の山口賢の2人は進学希望を口にしていて、指名予想は混迷を極めていた。

今にして思えばプロ志望届と言う至極真っ当な制度が、何故もっと早くに施行されなかったのだろう?そうすれば、あの不幸な事件は起こらなかったのかも知れないのに。

「尊敬する選手はチームのエースである桑田眞澄投手。プロでの目標は、桑田さんから背番号18を継承する事です」

目映いフラッシュを一身に浴びながら、頬を紅潮させた猪狩守が努めて冷静に、力強く答える。天の配剤か、自身と長嶋英雄監督の持つ強運がそうさせるのか、彼との交渉権はギガンテスにもたらされた。

夏春夏3連覇を達成したマウンド上でも一仕事終えた満足感からニコリと微笑むだけだった彼も、あの時は安堵と歓喜を曝け出しそうになる自分を無理矢理押し殺している風に見えたわね。

「インタビュー乙。しっかしアレだけの報道陣の前で完全否定されちまったら猪狩も立場がねーょ、貴公子涙目でマジワロタwww 」

学園側が設けた記者会見の場には千石監督と猪狩守だけでは無く、何故か私まで引っ張り出されていた為、下位指名が始まってからも一向に席から離れられくなってしまった。

歴史的瞬間の1コマに立ち会えたのは実に光栄だと思うけれど、ヤキモキした気持ちのまま臨んだせいで、その時の答弁の内容を陸すっぽう憶えてないの。

会見の途中で“十十も指名されました!”との一報が届くのを、どれだけ待ち焦がれていた事か。ソレが無いまま会見が終了した時の落胆がどれ程の物だったのかは、誰にでも理解出来るコトじゃないわね。

「…駄目だったみたいね」
「ぅん、なんだったら今から乗り換えたって良いんぢゃよ?」(>ω<)ゞ

巨人の猪狩守誕生は一切の回り道をせずに現実のものとなり、その後の活躍はご存知の通り。新人王・村沢賞・大正義太郎賞・シリーズ&シーズンMVP――僅か3年で先発投手が獲れないタイトル以外は総嘗めにしている。

「別れの言葉まで私の口からに言わせる気?…そう」

キャプテンとして、マネージャーとして、エースで4番の猪狩守を陰から支える内助の功。彼との浮名はそれまでにも、その後にも幾度か流されたけれど、私自身にそんな気持ちは毛頭無い。

「夢を見ていたのかもね、私達ー…そして夢の終わりが訪れた、ただそれだけの事。アナタと過ごした時間、忘れないから。本当に」

その栄光の陰で事故の後遺症を懸念された十十の内内定は取り消され、傷モノのレッテルを貼られた球児は、どの球団からも指名されなかった。

「応、お世話になりました。綺麗サッパリ忘れられちまうんだろーけど、コンゴトモヨロシク」

入院以来、スッカリ気の抜けてしまった彼はドラフトが終わるまでゆっくり養生すると宣言。野球部引退後は練習もせずフラフラと遊び歩き、再三プロテストを受ける様にと説得する私の言葉は、彼の耳に、心に届かなかった。

本人曰く、体のドコにも支障は無いが5ツールの全てが私の算出データで表現するところのGランクにまで低下してしまったのだ、と。

「じゃあ、また一から頑張りましょう?…頼まれなくっても、勝手に支えさせて貰うから」
「えっ」 (゚ Д ゚;)

「アナタが私を見捨てても、私はアナタを見捨てたりなんかしないわ。私の心はとっくの昔にアナタだけの物なんだから」
「ゑ?」 ( ゚ Д ゚ ) 

「アナタならきっと夢を勝ち取れるって、信じてるから」
「ぇ゛ー」ヽ(゚∀゚ヽ ≡ ノ゚∀゚)ノ

ありったけの勇気を振り絞って贈った期待のメッセージだったけど、何と言うか、こうして思い返してみると熟々重たいオンナでしかないわね。今でも口論になって旗色が悪くなると、決まってあの時の会話を持ち出して来るし…恥かし過ぎて死にたくなる。

夢を掴み取れ。アナタの目指す未来は必ず、此処から続いているから。諦めないで明日へ繰り出そう、どんなに遠く見える光でも2人でならきっと何時か辿り着ける筈。

そう信じて幾つもの障壁を乗り越えるうちに、月日は駆け足で過ぎて行き――十十は影山スカウトの出版した著書の一章節に、自身の項を記させた。神童裕二郎や福家花男と並び、読者の興味を惹く1コンテンツと成り得る程度には、活躍出来てるんじゃないかしら?

【四条澄香女史寄稿:栄冠ナイン、暁の軌跡より転載】



[30780] 後書きの様なモノ(チラ裏的な何か)
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/06/03 23:42
当初は影山スカウトや四条澄香の他、複数名の関係者からの視点でオリ主を観た群像劇的な作品を想定しておりましたが、紆余曲折を経てこの様な形に収まってしまいました。

特に終盤のオリ主独白部分もカットしてしまいましたので、完結を宣言した当初の状況とは様変わりしてしまったと思います。気に入らないとチマチマと推敲し直す悪癖が有りますので、この文章自体が何時の間にか抹消されているかも知れません。

[1] [2] [4] [5] [7] [8] [9] [10] [11] [14] [15] [20] [23] [36] [37] [38] [40] [41] [42] [46] [47] [51] [52] の皆様、改めまして御感想誠に有難うございました。サクセスオールスターズ編を投稿する前に、今一度御礼申し上げます。

以下、本編にて触れていなかったり消化出来なかった脳内設定の垂れ流しです。ネタバレ要素も多分に含まれます。










 【 …ファールボールにはくれぐれもご注意下さい…ファールボールにはくれぐれもご注意下さい… 】










#1【姓は十と書いてヨコタテ。名も十と書いてツナシ】
所謂オリ主。メタ発言的な説明をすれば、あかつき大附属高校編プレイ時のパワプロ君(ノーマル)で左投げ両打ちの投手兼2塁手。松坂世代。
名前の由来はあかつきレギュラー陣命名の流れを汲みつつ、Tool-Assisted Superplayの略称であるTAS(+)から。仲の良い連中からは“て”抜きをしてヨコタと呼ばれている。実際に作成した場合も横田の音声を当てています。

#1【暁大學附属学園】
幼稚園から大学院まで存在する私立校。略称は暁大付属。中等部と高等部は同じ敷地内に有り、高等部の偏差値は60超。同校を卒業した著名人には猪狩茂(高等部のみ。卒業後は官僚大進学)や神童裕二郎(暁大學進学⇒ブルーウェイヴ逆指名)が居る。
暁ブランドの広告塔として硬式野球部には特に資力を注いでおり、特待生用の寮やナイター照明付の専用グラウンドを完備。千石忠を監督に招聘して以降着実に力を付け、一ノ瀬塔哉がエースとして台頭した1995年から猪狩進の引退する1999年まで5年連続甲子園出場。うち春1回、夏2回優勝。

#1【5月末の1軍昇格試験】
1軍と2軍が存在するあかつき専用イベントで、試合に出場するにはどんなに監督評価が高くても1軍在籍が必須となる。
本来なら新入部員中、猪狩守だけが1軍に昇格する強制イベント。1年目の段階では監督評価が低いので、本来なら昇格試験を受ける事すら出来ない。

#2【高校球児を釣るぐらい自分にも容易い】
あかつき以外のプレイ時では、四条澄香がスイングにダメ出しをする形で登場する。その後ランダムで再登場し、上達が認められばとデートに誘える様になる。行き掛かり上とは言え、パワプロ君が自らデートに誘う条件を満そうとするのは5人の彼女候補中ただ1人。

#2【俺の金剛】 #4【凄いのね、この鬼瓦バットって】
バッティングセンターでのランダムイベントで取得出来る景品の1つ、鬼瓦バット・金剛。
パワーヒッターが付与されるチートアイテムだが、自身の能力に比例した確率で算出されるホームランの飛距離が同センター内の記録を更新した上、複数有る景品の中でもアベレージヒッターが付与される鬼瓦バット・飛燕と並び入手率が低い。サクセス開始初頭で取得するのは天才型選手でダイジョーブ博士の手術を2回成功させるより困難であろうと思われる。

#3【猪狩世代】
1980年4月2日から1981年4月1日生まれの、優秀なベースボールプレイヤーを輩出した世代の総称。代表格は1980年12月24日生まれの猪狩守。その他に山口賢、滝本太郎、戸井鉄男、矢部明雄、早川あおい、大西ハリソン筋金らが居る。
ただし、2000年発売のパワプロ7で猪狩世代が1年目、パワプロ10が4年目なので本来であれば彼等は松坂世代の1コ下になる筈だが、パワプロ10での選手データでは猪狩守が松坂世代である事を示す1980年12月生まれ(超決定版では非表示だがペナントモードでは松坂と同じ22歳)になっている。

#3【せっかくの手料理だけど今日んトコは遠慮しとく】
メニューはホウレン草と人参の野菜ジュース漬と、豚の牛乳ソース大蒜添え。作り手曰く栄養価はベストの構成らしいが、匂いが凄いとの評。味は悪く無い模様で体力が回復する他、パワーやスタミナが微増する。

#4【パワフル高校】
昔から都立の星と名高い古豪。偏差値は50半ば。現在は十十らが入学する15年程前に“マウンドの怪獣”として注目を集めた元エース・大波久が監督を務め、西東京地区では例年ベスト8前後の成績を残す。
猪狩世代の1人で主将としてチームを引っ張る矢部明雄の他、上下の世代にも尾崎竜之介・鮫島粂太郎・松倉宗光・香本富久雄・駒坂瞬と将来性豊かな生徒が集う。
  
#4【そよ風工業】
戦前から親しまれる木造校舎がシンボル的存在の歴史ある工業高校。偏差値は50弱で、地元の中学生が滑り止めの併願や単願で入学するケースが多い。通称・そよ工。野球部の歴史も古く、旧制中学校時代まで遡れるが後にプロ入りを果たした阿畑やすしの入部まで、特筆すべき成績は残せていない。

#4【青い子犬のキーホルダー】
街でデートした場合に派生するキーホルダー購入イベントにて、四条澄香から4段階中最高の評価を得られる組み合わせ。色は赤・ピンク・青・水色・黒。動物は子犬・子猫・狸・小鳥・子豚の全5種。
高評価でムードメーカー・ムード〇・センス〇を取得するチャンスがある反面、組み合わせは自分では選べない為、出現する3択全てが低評価の組み合わせによりセンス×・ムード×を取得する可能性も。

#5【パワフルスポーツ】
西東京区に存在する零細ケーブルTV局の主力番組だったが地元の天才野球少年を取り上げた頃を境に大手スポンサーが付き、日本列島津々浦々にエリア拡大中。
スポーツ番組の充実が目立ち、巨人を除くNPB11球団と関東エリアでの専属放送契約を結んでいる。在京キー局にも匹敵する人気を誇る女子アナ、桐生楓・希保田響子らが所属。

#6【玩多堂】
矢部明雄がこよなく愛するプラモデル、ガンダーロボの製造・販売会社。彼と共にガンダーロボは様々なイベントの鍵となる。
あかつきプレイ時では四条賢二がキャプテンに就任する1年目9月以降、矢部明雄に新商品の購入の為、部活を休むので自分の代わりに連絡を頼まれるランダムイベントが存在する。渋々電話するとの女子マネである妹・四条澄香が応対し、デートが可能に。
この限定イベントの影響で、あかつきプレイ時には1年目9月2週の段階で彼女になっていないと発生しない夏祭りデート(#8)は物理的に不可能となる。許されざる暴挙。

#7【オススメは》6さんだけど病み上がりにゃ心臓に悪いし、白サンが】
十十が勝手に付けた渾名。》6さんは守備職人イベント狙いで尻を追っている六本木優希。白サンは百から一を引いた九十九宇宙を指す。その他、三本松一と七井アレフトはマッスルブラザーズ(力の)1号(技の)2号。四条賢二をお義兄さん、五十嵐権三をゴンさん、八嶋中を中坊と呼ぶ。二宮瑞穂は実際に彼女から呼ばれているミズくん。
なお、#1の【一之瀬塔哉(本名:一般的に広く知られる塔矢は登録名)】はパワプロ11再登場時に漢字が変わっていたのをネタにした創作。

#7【私の大切な宝物】
貴重な野球関連の文献・良くわかる!職人魂の他、強打者の極意、野球超人伝及び巻の2を指す。1年目のクリスマスに野球超人伝を貰った場合、パワー119以下だと対左投手4と初球〇(゚д゚ ;) が付く。パワー120以上の場合だと弾道+1 ( ゚ Д ゚ ) でパワーヒッターが。
拙作では付き合っていないので貰い損ねているが、彼女の家に上がり込み読み漁って(#10)いる。

#8【ワンピース型の水着】
夏の海でデートした場合に分岐する結果の1つ。彼女の白い素肌に喰い込むブルーのコントラストがツボにハマり、安定度2(旧・ムラッ気)に…当人の弁では普通の水着らしいが、もしかしてスク水?クラゲに刺されれば良いのに。

#8【‥‥‥けいしょう、せんしゅ?】
パワプロ9より登場した継承システム。任意で作成した選手が以降のプレイ中、チームメイトとして登場させるかを選べる。選手育成の一助となるイベントが複数用意されているが、怪我等で迂闊に途中放棄すると低能力の継承選手となり、却って足枷となる。1回のプレイで何人も同時に出現する恋恋高校や球八高校の場合、オールAのチームメイトがスタメンに名を連ねる怪物校に。

#8【ヤーベン=ディヤンス】
パワプロ10で野球留学中に登場する、矢部明雄の代替キャラ。
拙作でのカテゴリ的にはあかつき大附属プレイ時に登場する野手継承選手(白人)で、その他2軍群に埋もれていた継承選手が3年生引退後の入れ替えで浮上したイメージ。あかつきプレイ時に矢部明雄(ガンダーライフルを持った人物)が居ないifを想定した場合、猪狩守のライジングショット習得イベントが不成立となるので代役に抜擢。

#9【あのエプロンドレス】
あかつきプレイ時に発生する文化祭イベント。野球部は毎年喫茶店を開き、ウェイターでは無くウェイトレスに1年生の中で最も器量の良い者が選ばれる。
前年は六本木優希が担当し、ランダムで猪狩守、猪狩進に引き継がれる。姫野カレンが登場すると、ブロック〇や逆境〇を取得するイベントに発展。稀に円谷一義と手塚隆文の2人が志願してウェイトレスになる場合も。
猪狩兄弟が選ばれない場合は、制服姿のままの四条澄香が担当。#4の【コレを着用!】は願望の塊。

#10【このピッチャー、オレん時だけストレート1本槍~】
地方大会で対戦校、ブロードバンドハイスクールの固定先発投手・中島は特殊能力・低め〇を持つコントロール重視タイプでHスライダーとHシンカーを持ち球にしているのだが、何故か全打席直球勝負を挑む。

#10.5【戸井(とい)鉄男(てつお)】
パワプロ3で登場する同ポジションのスーパールーキーで、パワプロ5のパワプロ君。
拙作でのカテゴリ的にはパワフル高校プレイ時のパワプロ君(ノーマル)。パワプロ9OPムービーの如き大正義主人公補正付きで、能力は“それいけ!ホームランくん”で“パワ打者”の称号を獲得した状態。

#11【42.195kmを走る地獄マラソン】
あかつきプレイ時、1月2週の練習後に発生する定期イベント。神社・海辺・街・公園・川原の中からランダムで4つのエリアを走る。
30人中11位以下になるともう1回走らされ、1位になった場合、投手なら球速か変化球ポイントが上昇するボールが。野手なら千石監督が現役時代に使っていたバット・クラブ・スパイクがプレゼントされアイテムに応じた経験点と共に高確率で能力が上昇する。通常、1年時は1位五十嵐権三で2位は八嶋中。2年時は猪狩兄弟のワン・ツー。

#12【カカオ90%のビターチョコ】
1年目の2月2週、あかつきプレイ時で四条澄香が彼女じゃない場合、高確率で義理チョコが貰える。彼女の場合だと低確率ながら虫歯や恋の病になる可能性が有るので、クリスマス時に付き合っていなければ告白はバレンタイン以降を推奨。
街でのデートイベントを選択した際、12~2月にケーキ屋に行くとチョコレートフェアを開催しており、チョコケーキセット注文する。甘過ぎず大人っぽい味が彼女の好みらしく春夏秋冬の4種類中、1番高い効果を得られる。相手も自分の好みと同じだと嬉しいのかなー(棒

#12【大型冷蔵庫の段ボール】 #16.5【部屋のド真ん中に鎮座していた巨大な~】
修学旅行でのランダムイベントで、段ボール箱内には夜這い宣言をした姫野カレンがスニーキング中。本来なら矢部明雄が犠牲となり、ショックから彼は数日間無口になってしまう。あきつき大附属の先輩諸氏のうち、実際に彼女が興味を示した描写が有るのは四条賢二のみ。

#14【阿畑(あばた)きよし】
パワプロシリーズ内での統合性を持たせる為、後付けで名付けられた阿畑やすしの従弟。
拙作でのカテゴリ的にはそよ風高校の投手継承選手(ノーマル)で変化球中心付のナックルボーラー。阿畑やすし1人ではライバル校として物足りないと判断し、パワプロ8の森里学・工藤晶らと共に数合わせで登場。脳内では芹沢茜と付き合う⇒サヨナラ、青春の1ページ(固有イベント)の流れ。
センバツ優勝を成し遂げた阿畑やすしとバッテリーを組む森里学は、プロのスカウトからエース以上に高い評価を得ていた。が、最後の夏に捕逸を犯してバス停前高校相手にサヨナラ負けを喫する。それが原因で親友だったチームメイト・工藤晶と不和になった彼は、一時野球を断つ…描写の番外編を妄想するも、本編に関連が無さ過ぎるので御蔵入りに。

#14【日本刀でフルスイング】
そよ風高校プレイ時に阿畑やすしが考案する、阿畑練習の1つ。一旦思い付くと阿畑が飽きるまで筋力・敏捷・技術・精神が1度に大量に得られるボーナスステージと化す。その一方でボランティア活動等、大変効率の悪い練習が無数に存在。

#14【東京都西東京区】
十十が住む街。東京都立河市と埼玉県所澤市、そして両市に接合していた東京都武蔵大和市の合併(後に東京都昭嶋市も併合)により誕生した政令指定都市。区長は猪狩茂の妻、猪狩静。
北部(旧所澤市)は西部池梟線・親宿線を結ぶ所澤駅がある東京のベットタウンであり、西部グループの本拠地で中部(旧武蔵大和市と旧立河市の王川上氷以北)との境には映画“むかいのトト口”の舞台にもなった挟山丘陵や球湖が広がる。また、南部(旧立河市の王川上氷以南と旧昭嶋市)はJR真中本線・蒼梅線・南部線・球都市モノレール線が乗り入れる三多摩地区の中心都市で日本4大財閥の1つ、猪狩コンツェルン本社も此処に。その他、四季折々の花々・夏の花火大会・クリスマスイルミネーションで名を馳せる国営昭和メモリアルパークが有名。

#14【彼氏が出来ました。他の男の子と連絡が出来なくなりました】
彼女が出来た場合に表示されるメッセージの改変。四条澄香からの告白は本来、バレンタインイベントの際に一定以上の評価を得ていた時に行われる。断った場合には“私、泣いてるの…?”と人知れず涙を流す。

#16【聖マリアンヌ恋恋学院】
政財界に強い影響力を持つ倉橋家が経営するミッション系お嬢様学校。学力以外の活動や家柄を重視している為、偏差値では判定し難い。
猪狩世代の入学時より共学制になったが未だに反対意見が根強く、若干名の試験的導入に留まる。結果、初年度は海野八七・新庄玖遠・涼宮一二三・長門一士・朝比奈玉・鶴屋正一の僅か6名。野球部の誕生には翌年の手塚隆文と円谷一義ら新入生の入学を待たねばならなった。
愛好会創立時からのメンバーで女子生徒である早川あおいを公式大会に出場させた為、記念すべき初試合が没収試合となる不名誉な記録が残ったものの学院理事長は没収前の試合記録を刻んだレリーフを作成し、バックネット裏に設置している。
終盤3回に覚醒する奇跡の逆転ファイター。ショッキングピンクデビルと呼ばれる継承選手達の巣窟。

#16【海野(うみの)八七(やしち)】
恋恋高校プレイ時のパワプロ君(ノーマル)でモテモテ・初球〇・キャッチャー◎が付いた弾道4の野手。
早川あおいの評価は“キミのこと大好きだよ。絶対プロ野球選手になろうね!”で、恋人は七瀬はるか。でも、最終的に嫁にするのは別人。

#16【新庄(しんじょう)玖遠(くおん)】
恋恋高校で登場する投手継承選手(白人)。
能力・容姿はパワプロ99開幕版の冥球島編に登場する聖マリアンヌ学院の新庄を仲間にし、ゲームクリアまで育てた状態をイメージ。

#19【松井選手が偉大】
遊びイベントで登場する打者三冠王に輝いたスター選手、松井和博。緑文字曰く、一時期スランプで不振に泣いたが自己大改革で見事復帰。将来メジャー入り確実と噂されている…との事だが、永らくサクセスシリーズには未出演のまま。

#21【美鈴さんについてkwsk】
パワプロ99開幕版でパワフル物産かたんぽぽ製造所勤務時のみ登場する、野球部マネージャーと彼女候補・嵐山美鈴。酒好きで裏工作が得意。猪狩守が惚れているらしく食事やドライブに誘ったり、彼女の見ている前でパワプロ君に野球勝負を挑んだり、と積極的にアプローチを掛けているが全く相手にされない。
拙作では猪狩茂の秘書。愛人関係は無い。綺麗なお姉さんは好きですか?

#22【十 なぎさ】
パワプロ2001に登場する病床の妹。彼女のお願いを叶える“なぎさミッション”を達成すると経験点ボーナスが加算され、完全達成した場合にはレア特殊能力・威圧感が習得出来る。逆に尽く失敗すると国内での治療が困難な程まで病状が悪化し、海外の病院に移されてしまう。
某ラノベヒロイン宜しく願望を実現する能力が備わっており“ぉ兄ちゃん”が自分の課した“お願い”を達成してくれれば自身の難病も必ず治ると信じている。その一方で死期が近いのも本能的に悟っており、せめて自分の代わりに“夢”を叶えて欲しいと願っている。
病状は日々緩やかに悪化していて、本来であれば1998年11月21日に寿命を迎える筈なのだが、生への執着により能力の発現した1996年4月3日に戻る。彼女の本当の夢が普通の子と同じ様に学校に行き、就職し、幸せな家庭を作る事なので十十本人の願望を実現させても必ずやり直しとなる。実兄より猪狩兄弟のファン。
趣味は病院で友達になった年上の男の子が持ち込んだプロ野球ゲームで、リセットボタンを押せば自分の納得が行く結果を出すまで何度でも繰り返せる状況に、強い憧れを抱いた模様。形見となった今では宝物に。

#22【3年間のストーキング記録】
パワ高プレイ時に3年目の全国高校野球選手権大会に優勝すると、マネージャーである栗原舞より“3年間の練習内容・試合成績・健康状態がびっしり書かれたノート”がプレゼントされる。その際、彼女の評価が一定以上で且つ、まだ付き合っていない場合にはノートの隅に“スキだよ”と記載されている。

#22【小僧様キタ━━━(゚∀゚)━━━!!】 #22.5【素人レベルの打撃マシン】
実践打撃練習では条件を満たせばピッチングマシンのレベルに関係無くアベレージヒッター、パワーヒッター、広角打法、粘り打ち、流し打ち、バント〇、内野安打〇を取得出来る。条件が重なれば複数同時取得も。
球小僧は得られる経験点は少ないが130km/hのストレートとレベル2のカーブしか投げない為、ヒットやホームランが狙い易い。スイッチヒッターの場合、途中で打席変更すれば引っ張りによる左本・右本を打ち易いので更に有利に。

#22.5【聖夜に女子マネとホテル街を仲睦まじく~】
四条澄香と2年連続でクリスマスイベントを迎えた場合、心の準備が出来ている2人は徹夜でバッティング練習(もげろ)をする。初球〇は付かない。七瀬はるかと一緒の場合、バッティングセンターはホテル街の先にある。

#23【開幕片反高校】
パワプロ98開幕版のサクセスでは高校名を自分で名付ける為、便宜上で付けた名称。パワ高から転校して来たエース・花崎を筆頭に矢部的相棒・荒井、強打者・鬼頭、サッカー部のストライカー・清水、柔道部主将・権田、頼れる後輩・竹之内、1年時キャプテンの弟・望月とあかつきに序でタレント豊富なチーム。

#23【昨日遊園地(お化け屋敷)で脅かしたの】
デートで遊園地に行った場合、ジェットコースター・ミラーハウス・観覧車・お化け屋敷・動物ランドのうち、アトラクションを1つ選択する事になる。高評価のイベントを狙うのがセオリーだが、一定の確率で混雑しているで断念し、選び直す可能性が出てくる。彼女の評価如何に関わらず、4回目の選択をした結果次第で4番〇か4番×が付く場合も。
お化け屋敷なんか怖く無いし、非科学的な物は信じないと発言するが“背中にさっきの骸骨が”と脅かすと悲鳴を上げて逃げ帰ってしまう。また、ホラー映画(5~6月のハロハロウィン、7~8月のパニックホーム)の場合では感想を聞かれても無視して只管“あれは特撮、怖くない”と自分に言い聞かせている。

#24【手術加護の御守】
七瀬はるか若しくはダイジョーブ博士の強化手術に失敗した継承選手からのプレゼントで入手出来るアイテム・手術御加護のお守り。ダイジョーブ博士の強化手術の成功率が何回目の挑戦であろうと50%固定に。3年目6月4週に発生する猪狩進の交通事故回避に有効なアイテム・交通安全のお守りとは違い、神社では購入出来ない。

#24【家庭用ゲーム機のメモリーカード】
シリーズを通し、幾つかの作品ナンバーには“2枚技”と呼ばれる特殊能力・経験点・チームメイト&監督評価の持ち越しが出来る遊び方が存在する。
それはプレステ2版パワプロ9でも可能であり、拙作では経験点を自分では割り振れない成長タイプ“おまかせ”の縛りプレイ中だった右腕投手が、イベントでサブポジ4取得(その時点で経験点を使ったその他のサブポジションが取得出来なくなる)後に肩or肘爆弾爆発⇒左腕転向な流れを前提にストーリーが展開する。



[30780] サクセスオールスターズ編 #1
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/11/27 21:28
はじめに。

本編は実況パワフルプロ野球10の世界観をベースに、2004年に勃発したプロ野球再編騒動の末、1リーグ10球団制となった球史を想定したifストーリーです。登場選手及び所属球団にモデルは存在しますが、全て架空の物となります。予めご承知おき下さい。

なお、拙作の日本国政府は現行の都道府県制を廃し、道州制を導入しております。










 【 …ファールボールにはくれぐれもご注意下さい…ファールボールにはくれぐれもご注意下さい… 】










『たかが選手― 』

2004年に勃発した、プロ野球再編問題。かの鍋嶋常康オーナーが遺した迷文句は今も記憶に新しい。

あくまでも囲み取材中のインタビュアーによりもたらされた、当時の日本プロ野球選手会会長である吉田淳也氏が“発したとされる要望”に対してのコメントなのだが、この一言が球史の流れを決定付けたのは紛れも無い事実だろう。

事の発端はその年のキャンプイン前日。パシフィック・リーグ全体が極度の経営不振に陥る中、親会社が1兆円超となる有利子負債を抱えるワイルドブルズ仙台が打ち出した苦肉の策ー…球団名のネーミングライツ構想だった。

当然と言えばそれまでだけど、事前に何の示し合わせもせずに行った独断専行に対して他球団は猛反発し、ワイルドブルズは直ちにこれを撤回。進退極まった同球団は売却ないし清算を検討した末、ペナントレースの真っ最中に同一リーグ内のブルーウェイヴ神戸との合併を発表している。

今は敵同士だけど、来シーズンからは一緒にやる仲間と真剣勝負?優勝を争いが激化する終盤に、手心が加わる可能性は?経営者視点では理解出来なくも無いが、1人のプロ野球ファンとしては到底納得出来るものでは無かった。

これに対して最も影響を受ける立場にある選手会は逸早く反応し、本当に合併が最善の選択であるのかを模索する時間的猶予を求め、1年間の合併交渉凍結と、リーグ全体への経営改善策を提案。強硬に合併が進められるのであれば、ストライキも辞さない反対姿勢を強く表明している。

当初は現状維持を望む世論を背景に、業界最大手のIT企業がワイルドブルズ買収に名乗りを上げた時点で事態は終息に向かうと思われていた。しかし、WB側は既にプロ野球実行委員会での承認済である事を理由に、これを頑なに拒否。

NPB及び球団と選手会の間で行われた団体交渉も平行線を辿り、最終的には選手会がNPBを相手取り合併差止を求める法廷闘争に至るも、裁判所は訴訟を棄却。選手会は遂に日本球界史上初となるストライキへと突入する。

『歴史的大暴挙!選手会無期限スト断行へ― 』

『プロ野球終焉のお知らせ?日本シリーズ開催中止も』

『ファンへの冒涜!! NPB暗黒時代到来か?! 』

一部の心無いマスコミにより連日バッシング報道が続いたが、大多数のプロ野球ファンは選手会の決断を支持。ニュース番組に生出演した吉田選手会長には賛同と彼を励ます熱いメッセージが寄せられ、カメラの前で男泣きをするの姿も見受けられた。

互いに一歩も引かない全面抗争の結果、ペナントレースはストライキ決行前日である9月17日の時点を以て全日程を終了した扱いとなり、日本シリーズも開催されないまま2004年のシーズンは幕を閉じている。

こうした一連の騒動の背景には、2球団の合併に乗じてパ・リーグ側がセントラル・リーグ側に求めた救済措置――第2の球団合併を前提にした1リーグ10チーム制への移行要請と、その実現に向けた各球団オーナーの思惑が介在していた。

この頃のプロ野球はまだまだ巨人戦放映権がドル箱と称される程の視聴率を誇っており、東京ギガンテスは刺激的な新カードを組むことに依って、頭打ちに成りつつあるマーケットへの打開策を弄したのだ。

一方、既得権益を害される立場にある他のセ・5球団が1リーグ移行に難色を示すのは極々自然な流れであって、元々ワイルドブルズ-ブルーウェイヴ間及び協議中とされる第2の合併を承認は彼らにとって、セ6:パ4堅守に対する見返りの筈だった。

しかし、業を煮やした球界の盟主が自軍のパ・リーグ移籍を仄めかし、両リーグが5球団となった暁には2リーグ維持の妥協案として提示されていた年間数試合程度の交流戦を、同一リーグ内での対戦カードから溢れた球団同士で行えば良いと恫喝する。

本当にそうなってしまっては本末転倒。2リーグ制を続ける旨味が完全に失われてしまうのだから、何の意味も無い。

丁々発止のせめぎ合いが続く中、球界には更なる混乱の種がバラ蒔かれた。同年のドラフトの目玉であった高校球児・友沢亮への栄養費支給が発覚し、ギガンテス、ライガース、キャットハンズ、ブルーウェイヴの球団オーナーが引責辞任する社会問題へと発展。

続いて証券取引法違反により埼玉レオポンズグループのオーナーに有罪判決が下るなど、1リーグ推進派の中核となる球団関係者が相次いで失脚する事態となった。

その上、第2の合併候補の片割れとされていた福岡スーパーフェニックスの親会社が自力経営再建を断念し、協議中であった幕張マリナーズとの合併を白紙撤回すると一方的に宣言。

追い打ちを掛ける様に大阪ライガースホールディングスが投資ファンドの標的となり、伝統あるタテジマが売却対象に陥ると、最早NPBはリーグ数云々ではなく運営そのものが危うくなっていた。

そして混沌の度合いが頂点を極めたのは、スーパーフェニックスとの交渉決裂から僅か1週間足らずのマリナーズが、これまで1年毎に更新されていた明治神宮球場の使用契約を突如打ち切られたセ・リーグ所属の新宿スワロウズとの電撃合併を発表した、その数時間後。

1リーグ移行に嫌気が差した横浜キャットハンズ母体企業の、球団経営撤退がリークされた時だろう。

球界関係者のみならず、チームを愛する日本中のプロ野球ファンや政財界をも巻き込んだ大きなうねりは、終着点を求めて迷走。そんな未曾有の危機に瀕した日本プロ野球界の救世主となったのが、猪狩コンツェルン総帥・猪狩茂氏であった。

氏は先のIT企業に依るスーパーフェニックス買収の仲立ちを果たすと、ライガースに対しては友好的TOBを。レオポンズに対しては敵対的TOBを断行し、同グループのレクリエーション部門解体に着手。

最終的には自らの手で川崎ユニオンズ以来、実に半世紀振りとなる新球団・西東京カイザースを創設する。

依然球界の盟主として君臨する東京ギガンテス。そのライバルである西の雄・大阪ライガース。本騒動には一貫して静観の立場を保った中京ドジャースと、市民球団・瀬戸内レッドエンジェルスの旧セ4球団。

北の大地に根を下ろしたばかりの北海道プリンスラビッツ。不死鳥の如き再生を目指す福岡スーパーフェニックス。東西ダブルフランチャイズ計画が頓挫し、一躍ヒールと成り果てた陸奥ワイルドブルズ。WBと共に55年振りとなる1リーグ回帰の立役者となった、幕張マリナーズの旧パ4球団。

上記9球団は興行日程や地域保護権等、多くの問題を抱えながらも新生セントラルリーグの船出に漸く漕ぎ着けた。後は身売りor解散問題が急浮上したばかりのキャットハンズを、どう対処するかに焦点が集まる。

当面保有の説得を試みて、来季以降への持ち越しを決断させるのか?新セ界の幕明けに間に合わせるべく、早急に売却交渉を成立させるのか?時代は後者を選択し、その挑戦者として白羽の矢が立ったのが、我々であった。



[30780] サクセスオールスターズ編 #2
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/11/27 21:34
青天の霹靂。

私の薄っぺらい辞書をひっくり返しても、この時の心情を表すのにこれ以上相応しい語彙は他に出て来なかったわ。

「なぎさのぉ願い、叶えてくれる?」
「ハイ、喜んでー!」

彼女の“お願い”とは世間を騒がす球界再編問題最後の1ピースになるであろう、横浜キャットハンズ買収を意味している。それが如何に困難な命題であるのかを、この兄妹はどの程度まで理解しているのだろうか?

明日をも知れぬ病床の少女だったのも、今は昔。

私と十十が将来を誓い合った翌日、突如として行方を晦ました担当ナースが凄い救急箱を遺していた。驚くべき事に、中に入っていたナオールXとタフナルXなる新薬を服用した十なぎさの病状はたちまち快方に向かい、今では念願だった学生生活を謳歌している。

担当医も首を捻るばかりの摩訶不思議な奇跡体験と言えるだろう。

「なぎさもフツーに学校行って勉強して部活して友達と遊んだり彼氏と恋愛したりしたいの。将来は球団社長の秘書になったり― 」

彼女が望む夢の1つである、球団社長の秘書。ソレを現役女子高生のまま実現する方法など他には無いだろう。無いだろうが、推定売却価格が100億円規模の途方も無く高価なおねだりである。

では不可能か?と問われれば、それは相手の出方次第と言ったトコロ。

暁大學進学後、私は野球部のマネージャーにはならなかった。その理由は懸命のリハビリに励むフィアンセのアシストと、十兄妹とのやり取りに着想を得た携帯電話用アプリケーションソフトの開発に専念する為で。

知人の協力を仰ぎ、試行錯誤を積み重ねながら1年余りで完成の日の目を見た“もっと頑張れベイスターズ(通称:モガベー)”は万年最下位のお荷物球団の再建を任されたプレイヤーが球団社長となり、日本一のチームを作り上げて行くプロ野球ゲーム。

基本的に難しい操作は一切不要で、打撃オーダーと先発ローテーションを組み、作戦を設定し、選手育成や状況に応じてトレード等の補強策を講じて結果を待つだけ。育てたチームで全国のプレイヤー達とペナントを競わせる事も出来る。

それだけでは盛り上がりに欠けるから、と母校がモデルの硬式野球部を舞台に新人選手を作成して送り込める“暁の軌跡”モードを搭載したのだが、コレが想定外の好評を博した。

販売流通の為に名義を借りた有限会社は瞬く間に巨万の富を得、その後も順調にヒットを重ね続けた。今ではインターネットショッピングを中心とした事業展開が大成功し、株式上場も果たしている。

ライバル企業とのマネーゲームにならなければ、決して出せない額では無い。それでも、社運を賭けた一大プロジェクトとなるのは必定だった。

「DJB、きっとウチの筆頭株主サマが何とかしてくれるっしょ!」°(´∇`*)
「・・・・・・いい加減、マモール=テンサーイ氏頼みの経営体制から脱却したら?」

自ら切り開いて行く意識に乏しく、誰かの掌の上で踊らされている様な、フワフワとした感覚。

結局、他に名乗りを上げたのは住宅設備機器総合商社・陸汁1社のみ。資本力に雲泥の差が有る筈の一騎打ちに、何故か勝利を収めてしまった我々は横浜の地に作世(さくせ)州オールスターズを誕生させたのである。

「初めまして、球団代表を務める四条澄香です」

時間との戦いとなった為、売店経営・広告物掲出・放映権等あらゆる権利の無い本拠地。そんな理不尽なリスクを回避し切れなかったのが痛恨の極みであり、甚だ遺憾だった。

『横浜から出て行け。ホームレスになれば良い― 』

球場運営会社との確執は非常に根深く、それは前身のキャットハンズがプレイングマネージャーとして招聘を検討していたFA市場の目玉・武蔵雷蔵選手との契約交渉が白紙となり、同ポジションに十十就任確定の報道に対して寄せられた、運営代表のコメントにも良く現れている。

最終的には入場料収入の25%を球場使用料として支払う従前の契約内容を10%まで圧縮し、球場設備の全面改修費用を負担させるのを条件に合意に達したが、本拠地移転は既に秒読みの情勢だった。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



『第1回選択希望選手ー…第1巡目、西東京カイザースー…友沢亮。18歳、内野手、帝王実業高校』

栄養費問題で一躍渦中の人となったスーパールーキーは、一時はプロ入りを断念し帝王大進学も、と懸念されていたがカイザースの一本釣りで決着。会見時には一体どのような声明がなされるか?と、その動向に注目が集まっていた。

「来年の目標は新人王のタイトルを獲り、1億円プレイヤーになる事です」

彼の爽やかなルックスとは裏腹に、後ろめたさを微塵も感じさせない堂々とした物言いは早速物議を醸し、生い立ちから入寮時に持ち込んだ私物の詳細に至るまで、執拗に報道される存在となっている。

ストーブリーグの主役として連日話題を提供し続けるカイザース。ホームタウンの地理上と球団誕生の背景から、世間一般的にレオポンズの後継球団と目されがちだが、球団側は公式に完全否定する姿勢を貫いていた。

その徹頭徹尾の方針により首脳陣にレオポンズOBの姿は誰1人として無く、優先保有権を得ていた生え抜き選手も不均衡なトレードにより一掃されている。

象徴的な事例がワイルドブルズとの間で取り交わされた神童裕二郎・猪狩進選手と酉口史也・一文字大悟・小松稼頭央・亜力士=キャブレラ選手の超大型トレード※であろう。

※更にWB-プリンスラビッツ間で合意に達し、酉口史也・一文字大悟←→番堂長児・半田小鉄・堂城川一朗の三角トレードへと発展。

猪狩進は猪狩茂オーナーの実子であり、獲得が至上命令だったのは心情的に理解出来るが、エース・神童は前年に表明していたポスティングによる海外移籍を球団側に拒絶され、海外FAが確実視されていた存在。

高潔な人物として知られ、金銭で引き留められるとは到底思われなかったのだが、見事に複数年での契約を取り付けている。

監督にはレッドエンジェルスの大エースとして名を馳せた野球解説者・神下怜斗氏が就任し、UBLの現役スーパースター・テリー=マイルマン投手とボーマン=バンガード外野手の獲得も報じられた。

本拠地も自らの主導で球都市モノレール線を延長した西部ドームを2軍専用とし、立河駅北口に新本拠地・猪狩ドームを建設。ユニフォームのベースカラーにレオポンズ・ブルーの痕跡が僅かに残る程度となっている。

翻って我が球団に目を向ければ野々村カツノリ氏以来、実に28年振りとなる選手兼任監督が、優勝請負人から7年前に甲子園で活躍した社会人ルーキーにグレードダウンする最悪の滑り出し。

本拠地問題はどうにか解決させたものの保有選手の厳しい予算上限から、日本球界を代表するクローザーである俺様・伊達団吉選手を筆頭に黒船・T=レックス選手ら主力クラスの流出を食い止められなかった。

唯一の救いは大学時代にもプロ入りの機を逸した十十が、自らの慰みとして設立した社会人野球クラブチームに所属していた選手達の、優先交渉権(2005年7月末日迄)が与えられた点だろう。

休日の趣味程度で参加していた暁大付属OBのうち、体育教師であった三本松一と七井=アレフトの入団交渉は困難を極めたが、暁の韋駄天・八嶋中がいの一番に快諾。更には猪狩守の陰で燻り続けていた永遠の2番手・麻生真嗣の説得にも成功した。

プロの世界では所詮ルーキー達と侮られていたのだが、誰もが想像だにしない奇跡が起こった。

「ぉ兄ちゃん偉ぃ☆大大大だぁ~ぃ好き!ご褒美にキッスしてアゲルね♪ 」

交通事故以来、6年間低迷し続けたままだった十十の大覚醒である。



[30780] サクセスオールスターズ編 #3
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/11/12 00:13
「ぉ女市、じゃなくって社長!守クンからメぇルでぇす」(」・ω・)」
「マモール氏って呼んであげなさい」

採用から早数ヶ月が経過している個人秘書が、ぇ゛~とが不満げな声を上げる。いくら社長室に居るのが雇用主である私と2人きりとは言え、一般常識的には有り得ない言動だ。

例え未成年で時給制のアルバイト社員であろうとも、対外的にはそんな言い訳が通用しない以上、業務のイロハのみならず社会人としてのマナーも教え込まなくてはならない。

有用性云々で言えば余計な仕事が増えるだけだったけど、相手は遠からず義妹となる存在。今のうちにイザと言う時のバックアップを育てておいて損は無いだろう。

「大人の事情、よ。十さんも優秀な秘書なら察してあげないと」
「は=ぃ。ぁ、なぎさのコトゎ苗字ぢゃなくてシ者クンって呼んで☆そのほ=が秘書っぽぃし♪」(/・ω・)/

・・・・・・産休とか、有るかもだし。

「でも自分だけぢゃなくて、家族のチームもぁるのに優勝厳命!とかマゾなの?テンサーイって天災?」

あながち間違いでは無いのかな、と思えてしまうのが恐ろしい。全力で立ち向かって来い、返り討ちにしてやる。多分そう言いたいんだろう。3年以内だのプレーオフ進出云々でお茶を濁さない辺りは本当に彼らしいな、とも思う。

新生セントラルリーグは対9カード15回戦の合計135試合1シーズン制によるペナントレースを行い、シーズン終了後に従来の日本選手権シリーズに代ってアジア球界の頂点を決める、亜細亜倶楽部チャンピオンシップ(通称:アジアシリーズ)の開催を決定。

台湾・朝鮮のプロリーグ優勝球団及びアマチュア最強と呼ばれる赤の軍団・キューバ代表チームを招聘し、優勝球団とプレーオフ(シーズン2位VS3位球団)勝者に対して賞金総額5億円となる同大会出場権を与えると発表していた。

「久々に血が騒ぐぞ‥‥‥ワクワクを百倍にしてパーティの主役になろう!」
「意気込みは結構ですけど、このままじゃ確実に主菜になりそうね」

FA権を持つ選手は皆こぞって横浜を出る喜びを口にし、残ったのはその機を得ない若手か、引退間近のベテラン揃い。

先発ローテーションにホエールズが指名した最後のドラ1選手・松崎トミオ(大漁水産高)と、特例となるドラフト外・麻生真嗣(元・暁大)のルーキー2名が有力候補として数えられ、海外FAで渡米した伊達団吉に代わる新守護神筆頭にテスト生・ジョー=クルゥンゲキが挙げられる脆弱な投手陣。

攻撃面では、やはりドラフト外となる八嶋中(元・暁大)にリードオフマンとしての期待が掛かり、現場はT=レックスの抜けた穴をフロントに丸投げ。全ては新戦力任せの貧打ぶりに、マシンガン打線と謳われた栄光の面影は微塵も無い。前身が手放したくなる理由が、何となく理解出来た。

「ホントにただ座ってりゃあ良いのかい?スーツなんざ着心地が悪くって落ち着かねーぜ」
「お似合いですよお義父さん、同席して下さるだけで充分心強いです」

ゼネラルマゼージャー職も兼務する私に課された責務は大きく、保有枠を空けたまま交渉期限ギリギリまで先輩達の回答を待つつもりだったけど、まさか手前味噌で補強完了と言う訳にもいかない。

国内外のFA選手や代理人からアプローチは引っ切り無しだったが、どれも補強が急務の素人球団と侮り、法外な契約条件を吹っ掛けて来た。

何せ私自身が20代半ばの未熟者。舐められまいと強面の名誉オーナーを交渉の席に引っ張り出したり、ヨソの球団幹部との会合に未来のお姑さんが経営するラウンジを貸切ったりと、体裁を取り繕うのに必死だった。

「それが、アメリカダ!」

最終的に助っ人として絞り込んだのは内外野を守れるユーティリティプレイヤーと、大型扇風機と紙一重の長距離砲。でもミッキー=バーミリオンはカイザースとのマネーゲームに敗れ、オリバー=ドリトンはメディカルチェックまで進みながら後発のギガンテスに既で攫われてしまう。

思えば詰めの段階で急に代理人の動きが鈍くなったり、何度も話し合った筈のインセンティブに見直しを求められたりと、変調の兆しは確かに有った。この世界に浸かっていると金銭感覚がおかしくなるし、契約書こそが絶対正義と化すらしい。

裏切りが発覚した時には愕然として涙が出る程悔しかったけど、そんな惨めな姿を晒すのも癪だし失態を露呈する訳にも行かないので、私はさも当然の如く振舞うしかなかったわ。

「ぐらん、ふぁにーにょデス。私トいっぽんイットキマショウ」

思い余った末に獲得したのはシュアなバッティングが売りの陽気なドミニカンとの触れ込みも、実際に来日したのはプルヒッターの陰気なプエルトリカン。掴まされたと臍を噛んだが後の祭りで、エージェント会社は倒産のアナウンスを繰り返すのみ。担当者もその日を境に音信不通となった。

・・・・・・こうなるともう、笑うしかないわね。

「オイーラはY― 」

そして最後は補強と呼ぶのもおこがましい、御為倒しに走った。

日本の野球に馴染みの有る若手で、内外野を守れるマイナーリーガーを獲得する事で体裁を取り繕う。分の悪い賭けなのは今に始まった事では無いと開き直り、ヤーベン=Dと十十の相乗効果に一縷の望みを託したの。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「ふぇぇぇっ、1ヶ月も離れ離れになってしまうん?!」(´;ω;`)
「球団代表がキャンプ地に張り付いていられるワケ無いじゃない。お姫様のキスで目が覚めたんでしょ?私なんか居なくても問題無いわ」

球団運営もあるが、根幹となる本業だって疎かには出来ない。

現場は高校時代に暁大付属と対戦経験も有るBB高出身・中島火暴に任せておけば問題無いが、経営となれば話は別。こんな時に頼れる身内が居れば申し分無いのだけれど、アニマル大を卒業し、念願の獣医となる予定の兄には言い出し辛かった。

「運命を牛耳る我侭女神とお前さんのを一緒にすんな、視察に来てくれないんなら1ヶ月分まとめてしちゃうぞ?」( ゚ε ゚ )
「フン、勝手にしなさいよ馬っー…莫迦」

キャンプインからオープン戦まで時間は瞬く間に流れ去り、慌しく駆けずり回っているうちに私は本当に視察に赴く暇も無いまま、経営者としての業務に没頭している。

キャンプ地の選定から帯同メンバーの仕分け、1クールの日数まで口煩くしゃしゃり出て来た小娘が肝心のキャンプでは首脳陣から提出されたレポートに対し、幾つか注文を付ける程度なんだからさぞかし拍子抜けだったでしょうね。

我が社と違い、取引先企業の大半が開幕直後の3月末が決算日。オールスターズばかりに感けてばかりはいられないのだ。それでもドコからかこの窮状を聞き付けたヘッドコーチが経営と野球にも精通した人材を紹介してくれたお陰で、どうにか目鼻が付いた。

用意されたオープン戦DVDを観ながら、各コーチ宛に指導プランを作成するゆとりを得られたのは大きい。

「ど=でしたかネ土長、今日のぉ兄?ホレ直しちゃった?ねぇねぇユー正直に言っちゃいなYO!」
「そうね、貴女のお陰でだいぶイメージアップが図れたと思うわ」

「ぶぅ!面白くなぁ~~~ぃ」
「来月分からの時給、期待してて頂戴」

一時ながら甲子園でも活躍した、若きプレイングマネージャー。

多少なりとも野球を聞き齧った者なら鼻で笑う存在だが、世の中そんな人間ばかりでは無い。話題先行でマスコミの注目を集める中、専属広報的な役割も兼ねていた十なぎさのフォローも抜群の効果を発揮して、巷ではソコソコの人気を集めていた。

『キャンプの出来?そーですねぇ~百点満点で― 』

・・・・・・当社比でイケメン度30%増ってトコかしら?モニター越しに彼の姿を観ていると、少しだけ遠い存在になった気がしたわ。



[30780] サクセスオールスターズ編 #4
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/11/12 00:31
2005年3月末日。

陸奥ワイルドブルズとの開幕3連戦を目前に控え、遠征先のホテルでは決起集会を兼ねた細やかな晩餐会が催されていた。

本来なら乗り込むべき敵地は対戦チームが冠するフランチャイズ・東北州の筈なのだけれど、東西ダブルフランチャイズの夢を諦めきれない主催者側のゴリ押しにより、作世州オールスターズの初舞台は近畿州に位置するグリーンスタジアム神戸になっている。

「ウオッホン。まず斉籘隆氏、角蔵建、士肥犠弘、麻生真嗣、松崎トミオの5人には1年間ローテーションをキッチリ守って欲しい。ジョーにはストッパーとして伊達を超える活躍を期待してるぞ?」

会場となったホールにはスタッフや1軍メンバーが全員召集され、世渡好男ヘッドコーチが今季構想を改めて皆に通達し、激励する。

自分は注文を付けるだけで、実務レベルでは全て彼に任させていると公言して憚らない十十は、キャンプの冒頭と変わらずズっとその後ろに立っているだけ。時折肯定する様に頷いたり、促されて二言三言発する程度だった。

玉座に座るだけの幼君と辣腕宰相さながらの構図だが、コーチとしての手腕はもちろん現場の声を取り纏め、若輩者の選手兼任監督を立て、女だてらにGMを気取る生意気な経営者の言を聞き入れられる、柔軟性を持った人材。彼を我が球団に迎え入れられたのは、僥倖の一言に尽きるだろう。

「ウオッホン、それではお待ちかねの開幕スタメンの発表だ。1番センター八嶋中、2番ショート築耳呈一、3番ライト全城辰彦、4番DHファニーニョ、5番サード男木寸田、6番レフト古本阿斗、7番ファースト右井儀、8番キャッチャー相河亮次、9番セカンド十十― 」

たかが1/135、されど彼らプロ野球選手にとって非常に重要な1試合。投打のどちらも現場からのレポートを基に私独自のシミュレーションにより導き出した解で、余程の事態が起こらぬ限り、当面崩すつもりは無い。

‥‥‥例えば開幕スタメン候補に挙がっていた、多濡入志(インフルエンザにより隔離中)みたいな例は別だが。

偉大なる先達からプロを舐めているのかと酷評された十十のセカンドも、目下のライバルが出場機会を求めて挑戦していたに過ぎない男木寸田。送球難が懸案の築耳呈一。トレード先から出戻りの右井儀とあって、左投げの彼の方が数段マシなお寒い状況。

グラウンドでもオフィスでも居場所はドコでも構わないので、冗談抜きで兄が傍に居て欲しい。先輩である五十嵐権三と同様に、人間相手の医者であれば良かったのに。

「ゴホン、そして栄えある開幕投手はー…麻生、お前だ!」

ファンから“ハマの番長”の愛称で親しまれた三浜太輔が去った今、本来ならばその重責を担うのに相応しいのは斉籘隆氏を措いて他に居ない。しかし、来季には海を渡ると公言して憚らない者をチームの顔として送り出す訳にもいかなかった。

完全に名前負けしたチームのタレント不足を物語る、窮余の一策。苦し紛れの大博打過ぎない。

「ふっ、この僕に全て任せて貰おう」
「ぉ、おぅ‥‥‥でも開幕投手には木―」

それでも契約条件により開幕時の先発ローテーション入りが確約されていたとは言え、オープン戦3試合に先発して2勝負け無し、防御率1点台の好投を披露。首脳陣から“右の猪狩”として期待を寄せるのに充分な安定感を見せていた。

劣化コピー・ルイージ・ニセ猪狩と謂われの無い汚名を浴びせられた高等部時代。怪我に泣き、打線の援護に恵まれなかった大学時代。出番無き2番手が、遂に日の目を見る時が来たのだ。

「では+さんからも一言どうぞ」

年長者が殆どとなるチームにあって、監督と呼ばれるのを嫌ったプレイングマネージャーは初頭の挨拶で監督呼称禁止令を出している。だからと言って流石に高校時代の様にヨコタと呼ばせる訳にもいかず若旦那、取締役、ヨコPなど幾つかの候補の中から比較的マトモな呼び方が定着していた。

「ぇ~~明日は麻生君が完封してくれるそぉなんで、後は打線次第っス」
「そーですともそーですとも、イイか皆、ルーキーを見殺しにするなよ?」

「この試合を落とすと最下位が超決定片ー…ゲフン!嫌なヨカーンがするんで景気付けに、チーム第1号を放った人へ世渡ヘッドから3タス賞出させマス」

「ちょっ ∑(゚ Д ゚;) さっ、三十万も?」
「監督命令だ、絶対オレに取らせんじゃねーぞ?!」

『応ッ! ( ゚∀゚)o彡゜( ゚∀゚)o彡゜( ゚∀゚)o彡゜』



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



『皆さんこんばんは。本日は此処GS神戸より1リーグ回帰元年となった2005年プロ野球開幕戦・陸奥ワイルドブルズVS作世州オールスターズの一戦を―』

満員御礼の大阪ドームと比べれば幾分寂しいが、それでもスタジアムには関西方面のプロ野球ファンが大勢詰め掛けている。

ファンを顧みない強引な手法に端を発した一連の流れから、経済の専門家や有識者達は皆一様にプロ野球人気の凋落を予見していた。しかし、それでも人々はプロ野球を愛した。どうしても見捨てられなかったのだ。

『さぁ、球審からプレイボールの声が掛かりました。注目の立ち上がりは―』

WB先発は鷹野有紀。コントロール重視の怜悧な理論派投手だが、ランナーを背負うと途端にメンタル的な弱さが滲み出る。元パ・リーグ所属(カイザース含)の5球団による主催ゲームでは予告先発とDH制が採用される為、徹底的に研究し尽くしたつもりだ。

「1浪して官僚大を目指すも敢え無く桜散り、止むなく入学した仏契大で大豪月監督に気に入られ、1年目から参謀兼エースとしてチームに貢献。お粗末なバックに足を引っ張られて大した成績も残せず仕舞いだったが、それでも抜群の制球力を評価され投手陣が手薄なWBにドラフト7位で入団、か」

『ファーールっ、打球はポールの左脇へと切れて行きます。小兵ルーキー八嶋、見た目とは裏腹に豪快なフルスイング!』

「入団以来1軍2軍を行ったり来たりのエレベーター選手で、打つのと食うのが専門の飯田太志の教育係としてバッテリーを組まされる機会が多い。おぉ、何か結構TVで観てるイメージだけどシーズン通して投げ抜いたのは去年が初めてかょ」

その特徴は昨季の成績にも顕著に現れていて、神童裕二郎不在の合併球団内では勝ち頭となる11勝を挙げながら同時に11敗を喫している。

「いかついイメージを持たせようとヒゲを伸ばしてみたが、薄い上にまばらにしか生えなかった為に断念。肩まで届く前髪パッツンのロン毛はウィッグで眼鏡は伊達。後輩の影浦ロ兄を参考にホラー路線を目指した結果の模様‥‥‥だっておwww」

彼にとっても初の開幕マウンド。緊張していない筈が無い。

『ボール、ボールツー…セーフ!』

初球から積極的に攻めた八嶋中がサード強襲の内野安打で出塁すると、ルーキーには異例となるグリーンライトが生きて早々とプロ初盗塁もマークし、突破口を切り開く。暁の韋駄天が、オールスターズのリードオフマンへと転身した瞬間だった。

「そーだよナ、プロ6年目にしてよぉ~~~やく掴んだ開幕投手の座だもんなぁ。初っ端から失点なんて、そら御免だろーょ?ぁ。世渡ヘッド、チックにフェイクじゃ無くマジバント(のサイン)ね」

続く築耳呈一が危なげ無く送りバントを決め、1死3塁に好機を拡大。

これで制球を乱した鷹野投手は3番全城にストレートのフォアボール与え、4番ファニーニョに簡単に犠飛を許して先制点を献上。さらに今度は5番古本の打球処理に手間取った挙句に野選を犯し、AS側のボルテージは早くもMAXに近付こうとしていた。

『6番、サード男木― 』

の、放った低い弾道がセカンドの頭上を超える。

2アウトの場面だけに、1塁ランナーの生還も!と思われた痛烈な当たりだったがセンター半田の見事なダイビングキャッチにより、犠牲フライの1点止まりでスリーアウトチェンジ。

ビッグイニング到来の予感から一転、UBL帰りのYAZAWA(登録名:本名は矢沢和美)に追われる形で放出された新戦力にチャンスを阻まれ、ファンの歓声が一瞬にして悲鳴と溜息に擦り替わった。

「ぬぅ。GM、明日には仕事で戻っちゃうから今晩勝てないとゴホウビが週末までお預けになっちゃうんだよなぁ‥‥‥ファニー!」

『…3球三振!先程はチームを救う見事なファインプレーを魅せたばかりの半田小鉄でしたが、掠りもしませんッ』

一方、プロ初登板初先発となる麻生真嗣は、立ち上がりから盤石の投球内容で猛牛打線を零封。勝ち投手の権利を得る責任投球回を、キッチリ無失点で切り抜けている。

『打球は力無くレフト方向へっー…古本あーーーっと!』

毎回ランナーを出しながらも要所要所を締めるピッチングで躱す相手先発を打ち崩せぬまま投手戦が続き、試合が動いたのは終盤8回。

プロ初登板初完封勝利が目前まで迫りながら、疲れの見え始めた麻生真嗣がこの試合初めてとなる連打を浴びると、レフト古本がイージーフライを落球。同点に追い付かれてしまった。

続投か、継投か。投手交代のタイミングは全てヘッドコーチに預けている十十は球審にタイムを告げ、ゆっくりとマウンドに歩み寄った。

『作世州オールスターズ、選手交代のお知らせを致します―』

当初は不運な降板に憮然としていたが、ファンの暖かい拍手に迎えられると帽子を取って一礼し、ダグアウトへ。

正直、そのままホテルに戻ってしまうんじゃないかとの懸念が過ぎったが、しばらくすると再びベンチに姿を見せ、アイシングを施しながら静かに戦況を見守っていた。

我が球団では勝ち星より重要な査定基準となるHigh Quality Startを記録した素晴らしい初陣には、職業的な立場よりも同門の徒として、純粋に誇らしく思う。

試合は同点で踏み止まった9回表、十十のヒットを足掛かりにG=ファニーニョの来日第1号となる豪快な勝ち越し3ランで4-1。最後は新守護神J=クルゥンゲキが開幕緒戦から160Km/hをマークする、衝撃の日本デビューで締め括る。

『皆サーン、私ト一緒ニー…イッポンイットクぅ?』

記念すべき球団初試合を、投打が噛み合う理想的な勝利で飾った作世州オールスターズ。話題のプレイングマネージャーも4の4で終える好発進で花を添えていた。

ヒーローに選ばれた助っ人は試合前、私が十十に手渡した栄養ドリンクを“ホームランが打てる魔法のクスリ”と信じ込まされたらしく、製造元からCM依頼が舞い込むほどの愛飲者となって球団に恩恵をもたらしている。

『パワフルスポーツです!アッと言う間に終わった開幕3連戦、皆さんはどうご覧になられましたか?贔屓のチームが勝つのは何より嬉しくて、負けてしまうのはとぉ~~っても辛いコトですが、シーズンはまだ始まったばかり。一喜一憂出来るのがプロ野球観戦の醍醐味では無いでしょうか?以上、希保田響子でした♪ 』


★陸奥WB1-4作世州AS☆(WB0-1AS)
勝利投手:手二一結(1勝0敗)
敗戦投手:鷹野有紀(0勝1敗)
セーブP:クルゥンゲキ(0勝0敗1S)
本塁打:ファニーニョ(第1号) 

△陸奥WB6-6作世州AS△(WB0-1AS)
(規定により延長12回引き分け)
本塁打:飯田太志(第1号)十十(第1号)

★陸奥WB5-9作世州AS☆(WB0-2AS)
勝利投手:松崎トミオ(1勝0敗)
敗戦投手:影浦ロ兄(0勝1敗)
セーブP:クルゥンゲキ(0勝1敗1S)
本塁打:亜力士(第1号)狼主(第1号)ファニーニョ(第2号)十十(第2・3号)



[30780] サクセスオールスターズ編 #5
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/11/20 22:35
開幕3連戦を白星先行(2勝0敗1分)で終えた作世州オールスターズは、その後も勢いそのままにスルスルと快走。

レッドエンジェルスやプリンスラビッツと並び解説者達からはCチーム(8~最下位)と目されていたにも係わらず、優勝候補の一角に数えられている西東京カイザースと同率首位で4月を終え、世間をアッと驚かせた。

今のところリーグ全体の目新しさと好調な滑り出しに対するのファンの期待感も相俟って、興行収益は上々の数字を叩き出している。

球場運営会社の負担で増設させたエキサイティングシートや選手と交流出来る特典付チケットの販売も概ね好評で、特に十十なぎさがデザインしたマスコットキャラクターは野球ファンと全く関係無い層からも絶大な支持を集め、ネットでしか買えない関連グッズが飛ぶように売れる嬉しい誤算のオマケ付き。

‥‥‥ゆるキャラと云うジャンルに属するらしいのだけど、何が魅力なのかが私にはサッパリ理解出来ないわ。

「ですからァ、1度試すだけ試してみたって良いんじゃないンですかァ?」

その日のミーティングルームには世渡HC以下、1軍コーチ陣と2軍監督、球団スコアラーが結集しており、室内には打撃コーチの訴えが響き渡っていた。

善くも悪くも注目を集める新球団にはシーズン終了後に放映するドキュメント番組の企画も持ち上がっており、今も絶賛密着取材中。彼のやや芝居がかった言動も、ソレを意識してかと推察するわ。

「そうですとも、多少の粗さには目を瞑るべきです!」

対戦カードが5球団からほぼ倍となる9球団に増えた今シーズンは、ゴールデンウィークを迎えた段階でようやく一巡するかしないかと云う状態だった。

その対策として組まれた2連戦が6カードも続いたり、旧セ・旧パ(カイザース含)がホームとなるか否かで予告先発と指名打者制度の有無が決まる変則的な日程に適応出来ないチームが調子を落とす等、巡り合わせが味方したと見る専門家も多い。

中には好発進の原動力としてSABR-metricsをベースに私独自の解釈を加えた起用指針が挙げられたりもしているけど、球界関係者からは単なるビギナーズラックと酷評される声の方が遥かに強かった。

‥‥‥私達の戦い方が日本球界の新機軸として立証されるまで、あと何シーズン要するんでしょうね?

「ま、試してみる価値は有るんじゃないかと」

とにかく今は昨年猛威を奮ったギガンテスの“史上最強打線”を凌ぐ勢いで躍進中の我等が“マシンガン打線リローデッド”の調子が低迷する前に、早くも投壊現象の兆しを見せている投手陣の再整備が急務と化していた。

だが自軍ファームを隅々まで見渡しても埋もれたままの逸材は発掘出来ず、海外市場に食指の動く優良助っ人の姿も無い。

こうなれば後は現場の手腕に期待を寄せたいトコロだが、投手出身の世渡HCが提唱するSNT(本人曰くシークレット・ナイト・トレーニング)は、参加した野手陣には効果覿面だった一方で、投手陣には却って悪影響を及ぼしていた。

顕著な例を挙げれば、自ら球界を代表するサウスポーとして育て上げると公言した良見佑治と茄子野匠のフォームを無残なまでに破壊し、2軍に幽閉してしまったのだ。

現状打破の起爆剤として打撃コーチが主張しているのが、今のトコロDH限定起用となっているG=ファニーニョのフル出場。投手陣が4点取られるのならば、5点取れる打線を組めば良いとでも?

「そもそも守り勝つ野球なんて、ウチのカラーじゃありませんしねー…ハハ」

守備走塁コーチの自虐的ネタに、他のコーチ陣がドッと沸く。いや、断じて笑い事では無いのだが。因みにプレイングマネージャーである十十はチーム編成はGMの仕事、戦略を練るのがヘッドコーチの仕事、と丸投げを決め込み顔すら出していない。

オープン戦の頃にファーストとサードで数試合起用された時には“辛うじて試合に出せるレベル”“ムサ苦しい置物”“バミューダ・トラペジアム※”と酷評されていた彼だったが、当たった時の長打力には目を見張る物があった。

他の選手より出場試合数が少ないにも関わらずホームランダービーにその名を刻んでおり、ドジャースに強奪されたT=レックスやギガンテスに攫われたO=ドリトンの2名より遥かに高いコストパフォーマンスを得ている。現時点では怪我の功名と言えるだろう。

でもそれは彼の苦手とする守備のプレッシャーを無くし、適度な休養を与え、コンディショニングコーチの細やかなケアの上に成り立っているからで、リミッターを解除すればどういった結果になるのか判らない。

※古本阿斗・築耳呈一・右井儀の3人と内野陣を形成した際の守備範囲を揶揄して。他に男木寸田と未知数だった左腕・十十が加わる場合も。

「ぅぅぅ=もぉシ者疲れたょ~~珈琲煎れたげるからイ木も!みんなゎその間にテレビでも観ててっ」

喧々諤々の議論が飛び交う中、時間を見計らったかの様なタイミングで十女史が論議を強制中断する。こんな行為がアッサリと見逃され、この子のする事だから仕方が無い、と平然と罷り通るのが彼女の凄いトコロで、その奔放さが大変羨ましい。

‥‥‥6年前まで外の世界を殆ど知らない少女がこんなにも逞しく生きているんだから、私だってもっと頑張らねば。

『皆さんこんばんは、希保田響子です。GWも終盤に入り、全国各地では本格的に帰省ラッシュが起こっている模様です。ドライバーの方々は交通ルールを守り、安全運転を心掛けて下さいー…さて、デーゲームの結果をお伝えする前に4月の月間MVPの発表が有りましたので、ソチラからイッてみましょう。響子の、イチオシのコーナ~~~っ!』

何年経っても相変わらず元気な希保田キャスターの名物シャウト。事前に取材を受けていた人物を把握しているだけに、録画予約をしていてもリアルタイムで観れるのは、少しだけ嬉しかった。

『まずは月間MVPおめでとうございます!』
『あざーっス。まさか頂けるとは思いませんでしたw 』

『…開幕から4月末まで22試合連続安打(継続中)のリーディングヒッターで打率.573。HRも十傑入りの11本。ご謙遜なされる数字じゃ無いと思いますが?』

まるで憑き物が落ちたかの如く打撃が開眼した十十は、出場する度に安打を積み重ねた。

勿論ヒットだけでは無く、勝利至上主義の象徴として採算度外視で招き寄せられたUBLの英雄・B=バンガード、旧パ本塁打王の常連・亜力士=キャブレラとタフィ=狼主の“ハンドレッドパワーズ”を相手に互角の本塁打王争いを演じている。

決して将来を嘱望された選手では無い。高卒・大卒・社会人と彼を獲得するチャンスは再三有った。にも関わらずスルーされ続け、コネ入団と嘲られたルーキーが、だ。

ネット上では“無能”“絶許”と影山スカウトの一押しだった彼の獲得を見送った、当時の所属球団フロントに対する不満の声が高まっていた。そんな話題を見聞きするだけで、私の胸に熱いモノが込み上げて来る。

‥‥‥それだけでも、球団経営に乗り出した甲斐があったと言えるだろう。

『ぃゃ、その他2冠王にウチの投手陣がフルボッコにされてますでしょ?首位っても最終日に追い着かれて翌日には蹴落とされた訳だし』
『ぁ゛ー…いえ、失礼しました。ちなみに御自分の中で1番印象に残ったプレーは何でしょう?』

開幕緒戦を白星で飾り意気揚々と臨んだ2戦目で、オールスターズは早くも躓きを見せる。

セーブの付かない4点リードで迎えた9回、前夜に引き続きマウンドに登ったJ=クルゥンゲキは打者2人をたった4球で片付け、WBファンを絶望の淵に追い遣った。

しかし、3番の亜力士をストレートのフォアボールで歩かせると4番の悪童・番堂長児相手にまさかの危険球退場。幸い乱闘騒ぎにはならなかったが、緊急登板となった手二一結がベンチの指示に従い5番の狼主との勝負を避け、敢えて満塁策を選択。

すると次に控える猪狩世代の1人・飯田太志(満腹高)が起死回生のグランドスラムを夜空に打ち上げ、試合を振り出しに戻してしまった。

その後は決着が付かぬまま延長戦に縺れ込み、規定により12回引き分け。十十が放ったプロ第1号となる先制アーチは空砲となり、お立ち台に上がる彼の姿を待ち侘びた私の期待は完全に裏切られたのだ。

前夜と違い仕事の都合で帰京していたから、何の道一緒に喜び分かち合うのは不可能だったけどー…多分、あの口惜しさは生涯忘れられないだろう。

3者凡退か、一打逆転の大ピンチ。時に波乱を招く守護神のピッチングは、早くも一部のファンやマスコミから“ハラハラドキドキの狂運劇場”と有り難くないフレーズを頂戴しているわ。

『4月14日の両打席本塁打ですね』
『え~っとー…その日は確か2度目の達成で、2ケタ失点の大惨敗でしたよね?』

『えぇ。でも必ず打つってファンのヒトと個人的に約束してたんで』
『なるほど、ソレは素敵ですね。その方がとっても羨ましいですー…では、監督として4月を終え、手応えの方は如何ですか?』

‥‥‥画面をマトモに観れない。それでも周囲の生暖かい目が、私に注がれているのが手に取る様に判った。

『ん~~どっちも弩ルーキーなモンで名将として名高い八木監督の胸を借りるだけでも一杯一杯なのに、球界を代表するスラッガーの松井選手や大先輩の神童選手と同じ舞台で遣り合うんスから、どんだけぇ~?と。HCとGMの力を借りてどーにかこーにかってカンジです』

『なるほど、巨頭体制では無く三位一体ですか』
『えぇ。出来たヨメが2人居る的な (´∇`*) 』

「~~~っ!! 」
「どうでしょう?ファニーの件が難しければ、せめて奥ー…失敬、四条GMから+さんにビシっと言っちゃあ貰えませんかねぇ」

莫迦っ、と叫びたい気持ちを無理矢理押し殺す私に、頃合と見た世渡HCが意見の取り纏めに入った。どうやら潮時と言う事だろう。

GWに入ってようやく全球団との対戦を終え、本格的な戦いがこれから始まる。私がなかなか首を縦に振ろうとしなかったG=ファニーニョの1塁手起用。DH制の無い試合でも9番に座り“最凶のラストバッター”に固執する十十の説得。

チームの舵取りを一任されてはいるが、彼らにも長年この世界で生きて来たプライドが有る。選手だけで無く、スタッフも個人事業主の寄り合い所帯。一蓮托生の運命共同体なのだ。

首位を快走しているならまだしも、最終日に同率に追いつかれ、既にAチーム(3位以上)争いに巻き込まれている現況では、何具体的な対案でも示さない限り納得しないだろう。

「‥・・・・わかりました。それでは丁度DHの無くなる、連休明けのカードからで宜しいですね?」

快く働いて貰わなけれらば、何処かしら支障を来す。例え遠回りになる選択でも、そうせざるを得ない時も有る。

組織とは、そう言う物だ。


【ペナントレース順位表(2005.5.8現在)】
 1位:西東京カイザース(20勝9敗)
 2位:福岡スーパーフェニックス(2.0)
 3位:大阪ライガース(0.5)
 4位:作世州オールスターズ(17勝12敗)
 5位:中京ドジャース(1.0)
 6位:東京ギガンテス(3.5)
 6位:幕張マリナーズ(0.0)
 8位:瀬戸内レッドエンジェルス(12勝17敗)
 9位:陸奥ワイルドブルズ(0.5)
10位:北海道プリンスラビッツ(1.5)



[30780] サクセスオールスターズ編 #6
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/11/27 21:36
『入団以来、ズッとお世話になった横浜の地を離れるのは辛い決断でしたが― 』

生え抜きのタイトルホルダーを、2人も放出する暴挙。

全城辰彦外野手(+小田山鳥仁捕手←→丘島秀樹・木木晶範投手)と錫木尚外野手(+仲嶋聰捕手←→入未祐昨・玉田樹投手)の交換トレードは2人を慕うファンや同僚達にそう映ったらしく、彼らの心情を激しく掻き乱した。

前者は1枚でも2枚でも多く左腕を獲得するのが至上命題だった我が球団と、センター不在のギガンテスとの思惑が一致した結果であり、多少の出血は覚悟の上。八嶋中と多濡人志の存在が有ったあからこそ可能な商談で。

それに対しプリンスラビッツとの間で行われた後者は、半ばロートルと化していた余剰戦力に偶々お声が掛かったに過ぎない。また、両案件成立の肝とも言える捕手2名の放出を可能にしたのは、合併騒動の影響でマリナーズから転がり込んで来た橋元託の存在が大きい。

ここ一番の長打が魅力の後輩と経験豊富なベテランが同時に去り、虎視眈々と正捕手の座を狙うライバルは移籍して来たばかりの同学年。奮起せざるを得ない環境に置かれた相河亮次の進化は、私が期待した以上だった。

「球団事務所への抗議の電話で回線がパンクしましたし、錫木選手が代打に立った際にはどちらがアウェーなのか判らないほどの大声援でー…すいません」

失言だと捉えたのか、コンディショニングコーチの肩書のまま秘書として働く青年が慌てて頭を下げる。所詮はゴッコ遊びで実務的には見習いレベルでしかない未来の義妹とは異なり、本当に頼りになる存在なのが嬉しい。

流石は球界一の世渡り上手と知られ、前球団から引責辞任を迫られた翌月から他球団のユニフォームに袖を通せる男の紹介。人脈が半端じゃないわ。

「紛れも無い事実よ。景西コーチが謝る必要なんて無いわ」

出場機会を求める当人の強い意向もあり、トレードは止む得ない選択だった筈。そうで無ければ、彼は2軍で腐ったまま今シーズンを終えていたかも知れない。多少のバッシングは覚悟していたけど、まさか是程とは。

とは言え再整備に成功した中継ぎ投手陣の防御率は改善の兆しを見せ、チームの勢いが再び上昇傾向にあるのもまた事実。

特に丘島投手は近年の制球重視のフォームから元のダイナミックなスタイルに戻した事で球威が甦り、併せて習得させたカットボールとの相乗効果で6月には自身初となる月間MVPを獲得。右のセットアッパーである区址路(くあとろ)慧(けい)と共に守護神・J=クルゥンゲキへと繋ぐ勝利の方程式を確立していた。

目下の悩みは昨年から行っている三本松一・七井アレフト両先輩との入団交渉が難航している件。契約が纏まれば更に戦力補強を推進出来るのだが、一向に色好い返事が得られぬまま交渉期限が迫っている。

「吸っても構わないかしら?」
「どうぞ。精神的なストレスを考えれば、1本ぐらいなら(健康面のマイナスと)トントンでしょう」

一応断りを入れてからシガレットケースから1本取り出し、ソッと火を付ける。学生時代、モクモクと煙のたちこもる作業場で空気清浄機を傍らにマスクをしてゲーム開発に勤しんでいた私が、今では愛煙家の端くれなんだから不思議なモノね。

ただ、私の恋人は煙草が大嫌いなので吸う機会はあまり多くは無く‥‥‥まぁ、喧嘩でもしている時は別ですけど。

試合が終わり次第、その足で関西方面への遠征が控えているプロ野球選手と朝を迎える可能性は無いからこそ、安心して一服出来る。ゆっくりと少しずつ、僅かに紫煙を吐き出しながら甘い香りを静かに楽しむ。

「クール・スモーキングですか、GMみたいな女性は何をさせても絵になりますね」
「‥‥‥そろそろコンディショニングコーチの肩書きを外した方が良いんじゃないかしら?」

「それが無いと僕のアイデンティティが崩壊します」

困った様な笑顔でスッと携帯灰皿を差し出すさり気なさが心憎い。何処と無く兄に雰囲気が似通っているせいか、異性としてのハードルがどうも低くなってしまいがちでー…これで“大丈夫かい澄香?”などと言われたら、思わず寄り掛かりたくなってしまうだろう。

浮気心を起こすつもりはサラサラ無いけれど、あの早川あおいの心を掴んで離さなかった。なぁんて噂話も素直に頷ける、魅力的な男性だと思う。

『早川あおい。背番号01― 』

聖マリアンヌ恋恋学院から幕張マリナーズにドラフト5位指名で入団した、NPB初の女性プレイヤー。名スカウトと謳われる影山秀路氏をしても、屈指の隠し球的存在。

「ぇ…嘘、本当にカーブなの?この風で?」

その可愛らしいルックスから球界のアイドルとして脚光を浴びた当時18歳の少女も、今年でプロ7年目。入団当初こそ話題性重視の“客寄せパンダ”と誹謗中傷の類は後を絶たなかったが、彼女のサブマリンを苦手とするバッターは決して少なくない。

絶対的な中継ぎエースと呼ぶにはやや物足りないが、営業戦略を含め様々な面での使い勝手の良さから頻繁に起用され、時々勝ち星が転がり込んだり日替クローザーを任されたりもしている。

特に、今シーズンは1リーグ化に伴って初顔合わせとなるバッターが非常に多く、必然的に出番が増していた。

『マリナーズ、選手交代のお知らせを致しますー…ピッチャー右井寿弘に代わりまして― 』

試合は先発の一ノ瀬塔矢が100球を超え、7回1失点で御役御免となるいつも通りの展開。スワロウズ時代であれば“ロケットボーイズ”の継投リレーで凌ぎ切ったであろう8回表、2アウトランナー無し。2点差。

サウスポーに滅法強い十十を相手に続投は躊躇われるが、開幕から怪我で出遅れ、今一つ調子の上がらない拾伍嵐太亮にとって打席に立つ打率部門独走中のバッターは、天敵と呼べるぐらい相性が悪かった。

ラストイニングには旧パ屈指のクローザーである古林雅秀が控えており、とにかく最少失点でこの回を凌げればそれで良い。つまり彼女をマウンドに送り出すのには、これ以上無い条件が揃っていたのだ。

スタジアムが歓声に包まれる中、笑顔で手を振りながら小走りにマウンドへと向かう幕張のマーメイド。どんなに切迫した場面に送り込まれたとしても、そのスタイルはいつも変わらない。

だが、ソレはあくまでもファンサービスの一環。偉大なるUBLプレイヤー、J=ロビソンソを引き合いに出してまで当人にその意識を植え付けたと言う専属広報の、努力の賜物だろう。そして18.44m先の対戦相手と向き合えば、たちまち勝負師の顔になる。

「むぅぅ、たくすサンだったら、吉田さんでも絶対ココはマリンボールなのにっ」

惜しくらむは、自身が永らく正捕手の座を誰にも譲らなかった伊束勉監督には、相手次第でバッテリーをそっくり入れ替える前任監督の柔軟性が無かった事だろうか。

前夜の被弾と、先月の対戦で一之瀬塔矢の勝ち星を消してしまったのが尾を引いているのかー…相棒は切り札のサインを一切出さず、首を振る彼女の要望を頑として撥ね付ける。

そうして投じられたフルカウントからの1球は、さながら西東京大会の再現VTR。打球は場外へと消える代わりに、自身がCMモデルを務める親会社の看板に直撃した。

「投げるゾーンが無い」

とは、試合後に二宮瑞穂が報道陣に向かって吐き捨てたコメント。義兄弟であり、永年連れ添っている恋女房として面白く無いのも理解出来るが、もう少し大人の対応が出来ないものかと首を傾げてしまう。

「なんっーか、こぅ‥‥‥私にも敵(の球種)が視えるッ!的な?」

マリン風と呼ばれる千葉マリンスタジアム特有の強い海陸風を利用した、早川あおいの魔球・マリンボール。彼らの言葉を裏付ける様に、順風満帆とは言い難いプロ生活の中、彼女の地位を確立させたウイニングショットでさえ、十十には全く通用しなかった。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



「他のザコプロ君はともかく、キミは仮にも助っ人なんだろう?逃げちゃダメだ」

騒動の切っ掛けは、2試合連続無援護に終わった麻生真嗣の暴走と聴いている。

試合は自身のソロアーチによる1点を守り抜く見事な完封勝利に終わったのだが、その憤懣遣る方無い怒りの矛先を、自分が登板する時に限って低調な味方打線の象徴へと突き立てたのだ。

1塁スタメンでフル出場を続けた結果、元々低空飛行だったG=ファニーニョのアベレージは下降の一途を辿り、打順は5番に6番にとズルズルと後退。

数字を気にするあまりヒッティングに走ると、今度は本来の持ち味である長打までもが鳴りを潜める悪循環で得点圏打率に至っては1割を切る非常事態。悪夢の予感は残念ながら現実のモノとなってしまった。

もしかしたら本人的にはカンフル剤のつもりだったのかも知れないし、球宴の最終中間報告の結果が芳しくなかった(TOP10圏外)八つ当たりだったのかも知れないわね。

1打席勝負を吹っ掛けられ、3アウト以内に打てれば引き分けだとコーチ陣から助け舟を出され、1本でもホームランを打てればチャラにしてやると弄ばれたが、10打席連続ノーヒットに封じ込めた時点で、居た堪れなさからタオルが投げ込まれた。

「探サナイデ下サ~イ」

屈辱とプレッシャーに耐えきれなくなった彼は、あろうことか無断帰国と言う重大な契約違反を犯している。遠からず何某かのアクシデントは予期していたが、流石に国外逃亡は想定外。

スランプに陥っている現状では戦力とは言い難いが、このままでは水面下の交渉にも悪影響を及ぼしてしまう。説得に応じて帰国すれば情状酌量の余地はあるが、毅然とした態度を内外に示す為にも制限選手としてコミッショナーに申請をするしかなかった。

「ぅはwww 懐いなソレ。採用」(σ゚ ∀゚)σ

報告を受けた十PMは彼を咎め立てるどころかむしろ推奨し、自分を含めて負けた者には“強化指定選手”としてキャンプ中限定だった筈のSNTを復活させ、参加を義務付けている。

「ウオッホン、今日は虎の巻・スイーミングだな」

禍福は糾える縄の如し、と言ったところだろうか。チームは一進一退の攻防を繰り広げながらもプレーオフ戦線から離脱する事無く善戦し、初の球宴を迎えようとしていた。


 【出場選手登録及び登録抹消公示】
 出場選手登録
作世州オールスターズ内野手(背番号99)ヤーベン=ディヤンス
 出場登録抹消
作世州オールスターズ内野手(背番号27)グラン=ファニーニョ

6/11 ★幕張M3-5作世州AS☆(M3-2AS)
勝利投手:松崎トミオ(6勝4敗)
敗戦投手:早川あおい(1勝2敗3S)
セーブP:クルゥンゲキ(1勝4敗15S)
本塁打:李火華(第12号)十十(第19号)

6/12 △幕張M3-3作世州AS△(M3-2AS:引分1)
M:一ノ瀬塔矢⇒右井寿弘⇒早川あおい⇒古宮山惺
AS:角蔵建⇒手二ー結⇒副盛和夫⇒区址路慧⇒丘島秀樹⇒クルゥンゲキ
本塁打:丘夕日(第7号)十十(第20号)紋父角東(第1号)

6/14 ★瀬戸内RA0-1作世州AS☆(RA1-5AS)
勝利投手:麻生真嗣(4勝3敗)
敗戦投手:江崎栗夫(2勝6敗)
本塁打:麻生真嗣(第2号)




[30780] SAS編 備忘録(所謂チラシの裏)
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/11/27 21:06
[58] [59] [60] [62] [64] の皆様、御感想ありがとうございました。前段に引き続き感想返しは行いませんが、大変嬉しく思っております。

完結時には後書きに差し替えますが、以降は愚にも付かない世界観等の設定集となります。ご覧にならなくても何ら影響はございません。よって、予告無く削除する可能性も有ります。悪しからずご了承願います。










 【 …ファールボールにはくれぐれもご注意下さい…ファールボールにはくれぐれもご注意下さい… 】










#0【道州制】
日本の行政区分を現行の47都道府県制から9~13の行政区域へと移行する地方分権構想。
拙作では北海道・東北州・北陸州・関東州・作世州・東海州・近畿州・中国州・四国州・九州府・沖縄特別府・東京都の12都道府州に。

#1【たかが選手】
2004年のプロ野球再編騒動の際、ナベツネが古田選手会長に向けて発したコメント。半ば誘導された感も否めないが、歴史のターニングポイントになった迷文句。
パワプロ7登場の鍋嶋常康は略称こそ同じだが似ても似つかぬ好人物。吉田淳也はモデル人物が実際に使った偽名。作品的には日下部卓也でも良かったのだが、ミスタースワローズとは比肩しようも無いので。

#1【陸奥(みちのく)ワイルドブルズ】WB
モデルは東北ゴールデンイーグルス+大阪バファローズ。東北州所在。ペットマークの牛さん関連の単語をBW(ブルーウェーブ)と引っくり返して命名。山形をディスってる訳では無く。
監督:八木優/主力選手:番堂長児、半田小鉄、鷹野有紀、飯田太志、影浦ロ兄、堂城川一朗…他

#1【東京ギガンテス】G
モデルは球界の盟主?ジャイアンツ。東京都所在。ペットマークと球団ロゴはオレンジ兎では無く、一時期使用されていたG-KINGをイメージ。
監督:堀之内悪太郎/主力選手:猪狩守、松井和博、オリバー=ドリトン…他。

#1【大阪ライガース】L
モデルは大阪-神戸タイガース。近畿州所在。イニシャル的に父がトラで母がライオンのタイゴン(ライガーはその逆)ズにするべきかと逡巡したが、響きの近いコチラに。
監督:鷲野仙一/主力選手:鳴尾たけし、阿久津赤光、阿畑きよし…他。

#1【福岡スーパーフェニックス】SH
モデルは福岡の若高軍団。九州府所在。百打点カルテットを擁する不死鳥軍団。
監督:皇貞治/主力選手:日下部卓也、有馬紅葉、アレックス=ボンバー…他。

#1【幕張マリナーズ】M
モデルは千葉マリーンズ。関東州所在。当初は同じ関東地方で海をイメージさせるベイスターズと合併させ、横浜マリナーズとなる予定だった。
監督:伊束勤/主力選手:早川あおい、一ノ瀬塔矢、二宮瑞穂、丘夕日…他。

#1【新宿スワロウズ】
モデルは東京スワローズ。拙作で合併消失した理由は単純に本拠地絡みで、仮に新潟等へ移転していれば間違いなく単独で登場。

#1【埼玉レオポンズ】
モデルは埼玉ライオンズ。東京都下の準地元民的にはあまり好ましくない名称。レオポンは父がライオンで母がヒョウ。

#1【横浜キャットハンズ】
パワプロ10登場の架空球団・まったりキャットハンズ。
栄養費問題によるオーナーの引責辞任に始まり一連の球界再編騒動に辟易した経営母体。フランチャイズ球場の利権問題もあり、条件面で何某かの譲歩が引き出せればそれで良し、本当に買い手が付けば尚良しとリーグ撤退を表明する。

#1【北海道プリンスラビッツ】PR
モデルは北海道ファイターズ。レオポンズを吸収合併したイメージ。2003年に打ち出した本拠地移転計画が頓挫し、翌年の球界再編を迎えていたら…と。ペットマークは札幌ドーム施工元が当時お抱えのアイスホッケー部より。
監督:ドニー=ブラウン/主力選手:チェリー藤田、矢部明雄、矢沢和美、一文字大悟…他

#1【中京ドジャース】D
モデルは中部日本ドラゴンズ。東海州所在。ロゴマークの意匠と語感の良く似た米球団に肖って。
監督:洛合博満/主力選手:滝本太郎、久方怜、阿畑やすし…他。

#1【瀬戸内レッドエンジェルス】RE
モデルは広島カープ。中国州所在。パワプロSSで主役チームを敵に廻すのも何なので、同じ赤のイメージを持つレッドエンジェルスより。西日本をホームタウンにするチームが減少するのなら、広域フランチャイズを冠するチームにすれば良いじゃない?と安易に発想。
監督:橋森重矢/主力選手:福家花男、古葉良己、館西勉、江崎栗夫、石原泰三…他。

#1【西東京カイザース】K
パワプロ10登場の架空球団・猪狩カイザース。東京都西東京区所在。初期構想段階では猪狩茂から卓越した経営手腕を(息子達の嫁に是非と)見込まれた四条澄香が球団社長を任され、3年以内のペナント制覇と猪狩守に現役引退を決断させるのを条件に、十十の指名を承諾させる所からストーリーが始まっていた。
監督:神下怜斗/主力選手:猪狩進、神童裕二郎、友沢亮、ボーマン=バンガード、テリー=マイルマン、ミッキー=バーミリオン、武蔵雷蔵、パワプロ2000開幕版勢…他。

#2【作世州オールスターズ】AS
モデルは横浜ベイスターズ。事実は小説より奇なり。非常にネタにし易く一躍メイン球団に。近年の買収騒動が無ければ合併の末、早川あおいが在籍する球団でしか無かった。原則として、横浜を出る喜びを知っていそうな選手のみ在籍。
ユニフォームは独立採算制だった2軍・湘南シーモンキーズのデザインをそのまま採用。どこかの球団が北陸辺りに本拠地を移転したら、北陸州の作世洲と云う架空の街をホームタウンにする予定。
首脳陣:四条澄香ゼネラルマネージャー、十十プレイングマネージャー、世渡好男ヘッドコーチ…他。
主力選手:八嶋中、麻生真嗣、グラン=ファニーニョ、ヤーベン=ディヤンス、松崎トミオ…他。

#2【作世(さくせ)州】
道州制導入に伴い、神奈川県・山梨県と東京都下を編入した南関東州制定時に初代州知事である七葉 納(パワプロ12に登場した市長)が“新しい世(時代)を作り出す州”として命名。北関東(埼玉・千葉・茨木・栃木・群馬)は単独で関東州に。

#2【凄い救急箱】【ナオールX・タフナルX】
すごい救急箱はパワプロ10で加藤京子より入手出来るにアイテムで、虫歯と爪割れが治る。ナオールX・タフナルXはパワプロ6で彼女を恋人にした場合、1~2年目の誕生日に貰えるアイテムで、風邪や虫歯が治ったりタフ度が上がったりする。彼女と恋人関係構築した状態で2枚技を使用すると、毎回手術失敗による喪失分を補填されるイベントが起こるので、非常に育て易かった。

#2【横浜から出て行け。ホームレスになれば良い】
ハマのおじさんとの新監督就任交渉が決裂し、銅メダルの絶好調コーチが選出された際、チームを強くする気があるのか?と球場管理会社会長が発したコメント。真意は使用条件の見直しを求める新オーナーへの牽制だと思われ。

#2【モガベー】
モバゲーと言えなかったナベツネのコメントを利用した言葉遊び。
通常BAD ENDを迎えると大抵の場合パワプロ君は普通の大学に進学後、普通の企業に就職して野球とは無縁の人生を送る。一方、四条澄香を彼女にした状態でBAD ENDを迎えると、結婚した事実のみ表示される。
拙作では暁大學進学後も低迷し、卒業後は四条澄香の起こしたモバイルゲーム開発会社で役員待遇のヒモ化。パワプロ10サクセスオールスターズ開始時のパワプロ君と同じ様な境遇に。

#2【友沢亮。18歳】
本来であれば友沢世代は猪狩世代より4学年下の設定なので高卒なら既に入団済、大卒ならSS開始から2年後と中途半端な存在となる為、お話の都合に合わせて改変。

#2【酉口 史也】
モデルはLで長年エースとして活躍した大ベテラン。ミスター準完全試合。

#2【小松 稼頭央】
モデルはNPBが誇る、最高の遊撃手としてMLBでも活躍を期待された二塁手。

#2【亜力士=キャブレラ】
モデルはL⇒Bu⇒Hと渡り歩いたパワーヒッター。パワプロ初登場時の名称+台湾球界登録名。

#2【三浜 太輔】
モデルは生涯横浜エースを貫くであろうリーゼントの方。拙作では“ワシが200勝投手に育てる”と猛烈なアプローチを仕掛ける鷲野監督の熱意に絆され、ライガースに移籍。

#2【T=レックス】
モデルは当時YBからDに移籍した主砲と、既に在籍(後にCへ移籍)していた強肩外野手の2人。黒船の異名を取る強肩強打の外国人外野手。

#2【ご褒美にキッス】
サクセスオールスターズ編で球団秘書になぎさ嬢を選んだ場合、試合後に経験点追加ボーナスか特殊能力を得られる。彼女のキスは、何かを目覚めさせるのだ。

#3【開幕投手には木―】
―各と言うものが有るだろう、と言い掛けた。1996年に、皇監督が対戦相手の園三投手に向って発したコメント。

#3【プレーオフ(シーズン2位VS3位球団)勝者】
後述の亜細亜倶楽部チャンピオンシップ進出権を賭けた、2位球団のホームグラウンドで行われる3回戦2勝先取のプレーオフ制度。
シーズンと同様に延長12回引き分け有。1勝1敗1分けや全試合引き分けの場合は2位球団にワイルドカードが与えられる。順位が同率であったり2~3位球団が3チーム以上存在する場合、1:直接対決での優劣 2:前年度の順位 3:優勝球団との成績順を以て強制的に2チームを選出させる。

#3【亜細亜倶楽部チャンピオンシップ】
2005年から開催されたアジアシリーズ及び2009~10年開催の日韓クラブチャンピオンシップが元ネタ。
国内1リーグでペナントレースを行なった場合、国内球団同士でプレーオフ興行する価値を見い出せないので、日本人にとっては既に花相撲的な扱いになっているアジアシリーズの意義を拡張させてみた。
開催国日本からはペナント優勝球団とワイルドカード枠の2球団。台湾・朝鮮はシーズン優勝球団が各々1球団。マーケット開拓と権威付けを目的にキューバ代表とオーストラリア国内リーグ選抜を招待。優勝球団に賞金3億円、準優勝球団に1億、その他4球団に5千万ずつが贈られる。

#4【High Quality Start】
先発投手の安定感を表す指標。QSが先発投手が6イニング以上を投げ、3自責点以下に抑えた場合に記録されるのに対し、HQSは7イニング以上2自責点以下。仮に敗戦投手となっても一定の評価が与えられるべきハードルになっている。

#5【バミューダ・トラペジアム】
バミューダ諸島・プエルトリコ・フロリダ半島を結ぶ海域は魔の三角形(トライアングル)として世界的に有名であるが、バミューダ諸島~フロリダ半島の海域と、プエルトリコ~フロリダ半島の海域は、同じ半島でも別々の到達点になる。よって各々の到達点同士、バミューダ諸島~プエルトリコ間の海域と繋ぎ合わせると、三角形ではなく台形(トラペジアム)に。
パワプロ10超決定版のYBは1塁:Tウッズ(守備G)2塁:村田(守備G)3塁:古木(守備G)遊撃:内川(守備D…イップス発症前の歴代最高評価)と、既に形成済なのでファニーニョ(守備F)と石井義(守備E…出番が少なく査定が甘かったルーキーイヤーを除けば屈指の高評価)が加わっても何ら変わらない。

#5【SNT(本人曰くシークレット・ナイト・トレーニングの略)】
パワプロ10・キャットハンズ編プレイ時に、世渡監督より強化指定選手に指名されるとランダムで発生する特訓。
効果の度合いが異なる猫の巻と虎の巻の2種類が存在し、更に複数の特訓パターンに別れる。猫と虎の選択権は無く、咳払いの種類により各々ある程度まで特訓の内容を絞る事が可能。

#5【タフィ=狼主】
一時Gにも所属していたミスターBu。愛称そのまま。亜力士と2人でシーズン111本以上のHRを打つと公言し、ハンドレッドパワーズを結成。

#6【J=ロビソンソ】
モデルは近代メジャーリーグ初のアフリカ系アメリカ人選手。背番号42。早川あおいの専属広報に任ぜられた景西明は、偉大なる彼の足跡になぞらえ、共に差別的扱いを乗り越えようと教え諭した。
前例の無い環境下に晒されるストレスを考慮しての対応で有ったが、これには球団側の営業戦略に沿わせるマインドコントロール的要素も多分に含まれており、1年目のオフにはCDデビュー、翌年には写真集の発売と、本人の望まない芸能活動を承諾させるのに一役買っている。

#6【制限選手】
選手が個人的な理由で野球活動を休止した場合、みだりに他球団へ移籍するのを制限する為の制度。
球団がコミッショナーに申請し、審査を経て復帰条件を付記された上で公示がなされる。制限選手名簿(レストリクテッド・リスト)に記載されると1日毎に年俸の1/300が減額され、他国のプロリーグと協定を結んでいる場合(1998年に日米間で締結)にはその国の野球組織への所属も不可能となる。2005年の段階では適用例無し。

#6.5【こんにゃくマットレス】
実際に有るおフランスとは全く関係の無いベットメーカーの商品。寝心地はお値段と共に異常。工場直販の社員割引を以てしてシングルタイプで20万円を切らない優れモノ。

#7【坂崎 累児】
PS1用ソフト・実況パワフルプロ野球2000開幕版のサクセス登場キャラで、同一ポジションを争うチームの後輩。サクセスオールスターズ編では投手。
当サクセスが初出のチームメイトには杉原貴一以外、下の名前(外国人選手のリチャードにはファミリーネーム)が無い。

#7【伊沢 嫌人】
PS1用ソフト・実況パワフルプロ野球2000開幕版のサクセス登場キャラで、同一ポジションを争うチームの先輩。サクセスオールスターズ編では投手。
その他の登場選手に逆井・菊田・村中が居る。杉原と菊田は何故かパワプロ10のご褒美選手として登場。逆井と村中にも愛を。

#7【最高標準額】
12球団の申し合わせにより新人選手の契約上限は契約金1億円、出来高払い5千万円と定められているが、あくまでも目安。2004年当時は違反しても何ら罰則は無かった。
拙作の友沢亮はソレを超える契約金1億7千万円(サクセスオールスターズ編で彼を雇うのに必要な費用)でカイザースに入団。年俸は最高標準額の1千5百万円ながら新人王獲得で来季年俸が1億円となるインセンティブ付。

#7【ウチの両親とやってる事は同じ】
年子の子供が居る点についての話で、四条家にも同じ事が言える。燃えちゃったんだろうね。



[30780] 作世州オールスターズ選手名鑑(チラ裏その3)
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2013/11/27 21:44
≪投手陣≫

【麻生 真嗣(しんじ)】#01⇒1
パワプロ97からサクセスオールスターズ編に再登場した古参。当時は猪狩の名前が変わっただけで見た目も言動も同じだった。名前が未だ無く、猪狩姓はEVAから取ったとの談話が残っているので、由来となった人物の漢字をそのまま。
背番号はエース・三浜太輔のFA宣言により空いた『18』を提示されたが、暁大付属時代には1度も背負う事の無かった『1』を熱望。

【斉籘 隆氏】#11
モデルはベテランの域に達してから渡米し、セットアッパーとして活躍した方。

【副盛 和夫】#15
モデルは日米4球団を渡り歩いた投手。先発も抑えもこなせる万能型。

【松崎 トミオ】#18
パワプロ10超決定版が初出な上に、サクセスオールスターズ編のみ登場。後付で友沢世代で大漁水産高のエースに。
ドラフト終了後に撤退話が持ち上がった横浜ホエールズ最後のドラ1ルーキーとして開幕ローテーション入り。彼の登板時に限って味方打線が好調で、防御率の割りに大量援護に守られ勝ち星が付く。

【木木 晶範】#24
モデルはG⇒F⇒YBと渡り歩く左腕の人。
リリーフ陣再整備の為に四条GMが獲得に乗り出した若手左腕。どちらかと言えば彼の方がトレードの目玉だった。

【士肥 犠弘】#30
モデルはLから移籍したGキラー。貴重な左の先発要員。

【入未 佑昨 】#36
モデルは用具係の人。

【手二 一結】#41
モデルは「ピッチャーデニー」の呼び名で親しまれた方。

【ジョー=クルゥンゲキ】#42
モデルはYBとGを渡り歩いた劇場型クローザー。NPB最速となる162km/hのストレートを武器に、今日もスタジアムに嵐を呼ぶ。

【区址路(くあとろ) 慧(けい)】#43
モデルはYBに在籍した、イニシャルがKで始まる右投げ日本人投手3名分。

【玉田 樹】#61
モデルは新人王を獲得しながら台湾や国内独立リーグを経て日本球界復帰を果たした左腕。

【丘島 秀樹】#62
モデルは帽子が脱げ落ちらんばかりのフォームで投げ下ろすサウスポー。
ハマを出る喜び…の方々ばかりでは足りないのでメジャー&国内球団に所属してない現役選手も借りようかと。などと思っている間に日本球界復帰のお知らせ。

【角蔵 建】#88
モデルは日韓6球団を渡り歩いたアゴの人。先発して10勝した年に10敗以上したのはD時代の1度だけ。



●┃┃
  ━━━ ● ● ●
●┃┃



≪野手陣≫

【全城 辰彦】#1
モデルは今となって希少となる野手の生え抜きタイトルホルダー。拙作では登場選手ルールに則った処置を受ける運命に。

【築耳 呈一】#2
モデルは横浜を出る喜びを知る第一人者。
打撃に光るモノがある一方で送球に難のある若手内野手。アゴタッチはNG。

【古本 阿斗】#3
モデルは攻守に渡り実況を絶叫させる、乾いた瞳のファンタジスタ。

【錫木 尚】#7
モデルは今となって希少となる野手の生え抜きタイトルホルダー。コチラも拙作では登場選手ルールに則った処置を受ける運命に。

【八嶋 中】#8
パワプロ9に登場したあかつき大附属の俊足センター。高卒後の進路が語られぬまま卒業し、パワプロ11で新聞記者になっている事が判明。
拙作では暁大學卒業後に地方新聞社へ就職し、十十が起こした社会人野球クラブチームに趣味レベルで参加。可愛い後輩に請われ、サクセスオールスターズに入団。

【十(よこたて) 十(つなし)】#10
野々村カツノリ氏以来、四半世紀ぶりとなるプレイングマネージャー。球界の常識を覆す左腕のセカンド。
高校・大学・社会人とドラフトでは見向きもされなかったルーキーながら、まるで対戦相手が投じる球種を予め知っていたかの如き神憑り的なバッティングを披露する。

【男木 寸田】#25
モデルは引退試合クラッシャーの異名を取る和製大砲。
ホントはチャンスが大嫌い。心は乙女のHRアーティスト。パワプロ11の黒龍館大一塁手とは無関係。

【小田山 鳥仁】#26
モデルは一発長打が魅力の東海大系捕手。愛称はオダジーニ。

【グラン=ファニーニョ】#27
パワプロ2001に登場したネガティヴな助っ人外人。ファースト兼サード。
個人的にはコストの割りに使い勝手が良かったので、サクセスオールスターズ編プレイ時には好んで獲得した選手。

【紋父 角東】#31
モデルは毎年飛躍が期待されていた若手野手。作世州AS期待度№1の秘蔵っ子。

【橋元 託】#33
モデルはM⇒YBに移籍したキャッチャー。二宮瑞穂はもう1人の併用選手とイメージを被らせてマス。

【仲嶋 聰】#35
モデルは野手実働年数が歴代1位となったコーチ兼抑え捕手の方。

【右井 儀】#53
モデルは打撃は天才、守備は天災の内野手。愛称はジャッキー。
球界再編騒動で帰って来た出戻り組の1人。内野なら何処を守っても同…等の実力を発揮。

【多濡 人志】#55
Mr.スぺランカー。

【相川 亮次】#59
モデルはメジャー入りを希望するも叶わず、ドングリーズを蹴散らしYSの正捕手となったイケメン。
前年に開催されたオリンピック日本代表(の控え捕手)を経験し、素質を開花。出場機会を求めて移籍してきた同学年のライバル相手に正妻の座を競う。

【ヤーベン=ディヤンス】#99
見た目とサクセス上の役割は矢部明雄の同位互換。
初出時はやや強肩なサードだったのにパワメジャ出演以降では多少足の有るセカンドや外野手に。拙作ではA=バルディリス的なイメージ。



         ┃┃●
● ● ●  ━━━ 
          ┃┃●



≪コーチ及び球団関係者≫

【四条 澄香】
パワプロ9に登場する彼女候補。あかつき大附属のレギュラー・四条賢二の妹。拙作のヒロイン。
暁大在学中に旧知の中島火暴(ブロードバンドハイスクール先発投手)と共同開発したゲームの売上利益を元に、ポータルサイトの運営会社を設立。2004年のプロ野球再編問題が勃発した際には横浜キャットハンズを買収し、新球団“作世州オールスターズ”のゼネラルマネージャーとして辣腕を発揮する25歳独身。

【十 なぎさ】
パワプロ10超決定版のサクセスオールスターズ編で再登場した秘書候補。彼女から贈られるごほうびのキッスの効果により経験点のボーナスが追加されたり特殊能力が付与される。
拙作では新球団設立の成功報酬として交通事故以来ズッと凍結されたままだった実兄・十十の野球センスを解放。現役女子高校生(リハビリの関係で高校入学が1年遅れた為)ながら四条GMの秘書兼球団広報(のアルバイト社員)として活躍中。

【世渡 好男】
パワプロ10サクセスの“まったりキャットハンズ”1軍監督。彼に強化指定選手に選ばれるとギャンブル性の高い特殊練習・SNT(シークレット・ナイト・トレーニング)が発生する。
拙作では前代未聞となるプロ未経験の選手兼任監督の誕生により、実質的な監督代行として選手やコーチ陣らのパイプ役を期待されている。

【景西 明】
パワプロ10サクセスの“まったりキャットハンズ”コンディショニングコーチ。経済に明るく、早川あおいが一目置く人物。
拙作では世渡へッドコーチの推薦でコンディショニングコーチの肩書きのまま、オーバーワークに苦しむ四条GMの第2秘書に。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.30806303024292