「家出なんぞ、一片にやらかすから大騒ぎになるのだ。一日一時間コツコツとやれば、立派な家出マスターになれることだろう」
「それなんか違う気がするなぁ……」
まず間違いなく違う事を理解しながら言ってるので、気にしない事にしておいてくれ。
「でもまぁ、騒ぎにならないのは確かだね」
「それから、宿題とかの用事を済ませちゃってからのほうが楽しく家出出来るわよ」
私の記憶が確かならば、家出とは楽しくやったりするものではなかったと思う。
「そう言えば、家庭教師が云々の話はどうなったのだね、スネオ」
「あぁ、それ。まぁ、今までどおりになったよ。英語なんか流石に難しいからね。僕、英語なんてPTAくらいしか知らないし」
ほう、かなり先のことまで予習しているのだな。将来は医者になるのだろうか?
「ペアレント・ティーチャー・アソシエーション。まぁ、要するに子供教育に関する団体のことだね」
出来杉くんの言葉を聴くと同時に、私は背後の鉄棒に頭を叩き付けた
PTAで経皮的血管形成術の事を思い浮かべるなんて、流石にありえないだろう……。
相手が医学生とかならまだしも、スネオは小学生なのだぞ……。
「の、のび太さん?」
「……大丈夫だ、問題ない」
ウォォ、グァァ、ヌワァァ、神は言っている……ここで死ぬ運命ではないと……。
……いや、なんでもない。ちょっと某ゲームを思い出しただけだ……。
「そ、そうかい?それで、野比くん。僕は植物採集なんかをしたいんだけど、大丈夫かな?」
「あぁ……アレからドラえもんに色々と聞いたが、余り大規模でなければ問題ないそうだ。
未来では恐竜ハントなる娯楽もあるそうだ。ただ、申請をした上で、許可の出された区域でのみ可能らしい。
加えて、ハントしてはいけないものはマーキングされているらしく、それをハントしてしまえば、禁固数年の実刑だそうだ。
植物採集のほうはそれほど厳しくないそうだ。余り大量に取るのは好ましくないが、一つや二つ程度ならば問題ない」
「そっか。よかったよ」
「それと、現地動物の殺傷も禁止されているが、数匹程度ならば問題ないそうだ。
ただし、正当防衛などの緊急時に限るそうだ。未来人の手によってのみ行われる行為での狩りは禁止だ」
「そうなのか……つまんねぇなぁ」
残念そうにするジャイアンとスネオだが、君達ではヤマネコ相手に何も出来ずに食い殺されるのがオチだ。諦めろ。
さて、そこで私達は会話を終えると教室へと戻った。昼休みはそろそろ終わる頃だしな。
家に帰ると、ドラえもんがいくつかの道具を並べていた。
「何をしているんだ?」
「あ、のび太くん。お帰り。過去の世界で使える道具が何かないかなって思ってたんだ」
「ほう。その電話なぞ、どうやって使うのか非常に気になるところだな」
「これはね、何処でも出前電話って言うんだ。どんな出前でも出来るよ」
「ほ、ほう……過去の世界でも使えるのかね」
「ううん。だから仕舞おうとしてたんだ」
流石にそこまで無茶苦茶ではなかったか。
安心しながら、試しに電話を取ってみる。何の音もしないな。電話をかければいいのか?
……このダイヤルイミテーションじゃないか。動かせないぞ。
「注文する店と、買いたい物を言うと持って来てくれるんだ」
「全体的にどうなってんだほんとに……。
なら、ドイツのゲインベルグ社のワイヤが欲しいな。太さ0.1ミリから0.4ミリまでのと、3ミリくらいのをそれぞれ50メートルずつ欲しいな。
あぁ、伸縮性は低くて、強度が高いタイプが欲しいな。3ミリの奴は、それこそ私の体重を支えられる奴」
そう言って電話を切る。流石にそんなものまで売ってくれんだろう。
そもそも、私が言った会社は架空の会社で存在しないしな。
そんな事を思いつつ、ドラえもんに向けて何か皮肉でも言ってやろうとしたところでチャイムが鳴り響いた。
酷く嫌な予感を感じながら、下へと向かうと、そこでは赤毛の男性の対応に四苦八苦している母が居た。
「母さん……一体どちら様ですか?」
「の、のびちゃん。ママ、外国の言葉は分からないのよ!なんとかしてちょうだい!」
そう言って私を男性へと突き出す母。くっ、この人が何人かわからなくてはどうにもしようがあるまい!
「Excuse me, is there anything that I can do for you ?(こんにちは。私の家に何か御用ですか?)」
取り敢えず英語で尋ねてみる。英語が通じる人だといいが……。
「I have come here sales for wire(ワイヤを売りに来ました)」
通じた。余り英語に慣れていないような雰囲気だから、母語ではないようだが。
「…………Wats the fuck!?(何がどうなってんだ!?)」
「Do you need a wire?(ワイヤ、要りませんか?)」
「How much is it?(お幾らですか?)」
私は未来道具の理不尽さに頭痛を覚えつつも、欲しいと思っていたものなので、迷う事無く値段を聞いた。
提示された金額はかなりの高額だ。全て買うなら10万円に負けると言ってくれたが……。
「I'll take all them.(全部買います)」
今まで溜めに溜めたお年玉を放出して買うことにする。意外と親戚の多い家系なので、お年玉は結構貰っているのだ。
念のために溜めておいたものだったが、今ここで使うべきだろう。使わずしてどうする。
「Yen ok?(円でいいですか?)」
「That's fine.(問題ないよ)」
と言うわけなので、貯金箱に突っ込んでおいたお金を使って購入した。
この時代、10万円と言うと、2010年ごろの物価で30万近い価値だ。我ながらよくそんな金があったものだと感心する。
まぁ、毎年お年玉に2万か3万ほどはもらえるので、それほどおかしくもないのではあるが……実際、貯金箱には少しお金も残ってるし。
「なんだったの?あの人?」
「セールスマン。欲しいものだったから買ったよ」
言って、手の中のワイヤーをお手玉してみせる。
後で、自動で巻き戻し出来るリールを作って、重りも手に入れないとな。
「ドラえもん。工具持ってるかね」
部屋に戻った私はドラえもんに尋ねた。物置から持ってくるのは面倒だ。
「はい」
手渡されたのは手袋だった。まぁ、確かに工具と言えば工具ではあるのだが……。
取り敢えず嵌めてみると、手にピッタリとフィットする。凄い技術だが、サイズの違う手袋を用意したほうが安上がりな気がする。
そんな事を考えるも、私が欲しいのは手袋ではなくて、ドライバーだの鋭いナイフが欲しいのだ。
「…………なんだこれは」
「工作手袋だよ。手が工具の形になるんだ」
貴様等常識に喧嘩を売るのも大概にしろ。
父のつり道具の中から、お釈迦になったリールを頂戴して来て、追加で4つのリールを作った。
「これでだいぶ戦闘力が上がったな」
とは言っても、このワイヤ……鋼糸とでも言うか。そう言えば、さっき言ったゲインベルグ社は某ゲームに登場した会社だが……。
いやいやまさか……あんなチート流派がこの世に存在してなるものか……。
さておき、この鋼糸は消耗品だ。絡まれば使えなくなるし、使ってるうちに切れることもあるだろうし。
そのたびに購入しなくてはならないのだが、金なんぞ早々貯まるものではない。
「はぁ……金が無いな……」
「それならいいものがあるよ」
そう言ってドラえもんがなにやら箱のようなものを取り出す。左右に四角い穴が開いていて、銀行窓口のようだ。
しかも、上の部分には、BANKと英語で書いてある。銀行だろうか。
「これはなんだ?」
「フエール銀行って言ってね。1時間で1割の利子がつくんだよ。1ヶ月契約なら1時間で2割、1年契約なら5割の利子がつくんだ」
「貴様貨幣経済をなんだと思っている。ぶち殺すぞ」
単純に計算してみると、10円を預けたとしても、1週間で9000万まで金が膨れ上がる事になるぞ。
「まぁまぁ、取り敢えず試してみなよ」
「チッ……金が欲しいのは確かだからな……1万円預けるとしよう」
万札を放り込む。ええっと、これで……ダメだな、流石に暗算は無理だ。
「えーっと……1週間預けたら、900億円ほどに膨れ上がるな。1日でも10万円近くになるな。貴様本当に殺されたいのか」
何処にこんなふざけた利子のつく銀行がある。
「で、でも、本当なんだよ、のび太くん」
「うるさい黙れ。何となく可能な気はしてたんだ。ビックライトはどう考えても質量まで増えていたからな。
そこらの金物屋から微量でも金を買って、ビックライトで増やして売り飛ばそうとしてたんだ……ん?」
タイムマシンで一年後に行けば、預金額が恐ろしい事になっているのでは……。
「セワシくん、フエール銀行使えば金持ちになれたんではないのかね……」
「ええっとね、未来の世界は貨幣経済じゃないんだよ。みんな電子マネーって言うのでやるんだ」
「なるほどな……」
貨幣価値が無いならフエール銀行はゴミを増やすだけのものでしかないわけか。
しかし、これ過去に持ってきていいものなのか……?
一ヶ月定期で半年間一円も引き出さなかったとすると、日本の借金全てを楽勝で返して、米国全土の土地を購入出来るんだが……。
「……まぁ、良識に委ねてるんだろう。滅茶苦茶な事をしなければ問題ない……」
まぁ、これで金に困らなくなったわけだ。本も買い放題というわけだな。
そんな邪な事を考えていると、唐突に階下から母の呼ぶ声が聞こえた。
「のびちゃん。冷蔵庫の中身が空っぽなんだけど、知らない?」
「母さん、私一人で冷蔵庫の中身を空っぽに出来るほど胃が大きいと思うかね」
「それもそうよねぇ……とにかく、これじゃあ晩御飯も作れないから、お買い物に行って来て頂戴」
「ドラえもん、出前電話を出したまえ」
「うん。あれ?あれれ?」
「どうした」
「何処に仕舞ったっけ……無いなぁ……無いなぁ……」
そう言ってポケットから大量にものを取り出していくドラえもん。そのどんぶりだのスルメは一体何のつもりで仕舞ったんだ。
「もういい。買い物に行けば済む話だ。それと君が肝心なときに役立たずだという事はよく理解した」
「酷いよのび太くん!」
まぁ、どうでもいい。私は母から買い物籠と財布を受け取ると、買い物に行くのであった。
商店街での買い物。前世では滅多になかった。というか、一回もなかったな。
さておき、ドラえもんも引き連れて、手分けして頼まれた物を購入していく。
頼まれたものの中にブリとダイコンがあったので、恐らく今晩の夕食はブリ大根だろう。
手早く買い物を済ませて家へと帰ると、途中で源さんと出来杉くんと合流した。
二人は勤勉だから真面目に宿題を済ませただろうが、スネオとジャイアンは余り頭がよろしくないので、宿題は適当に済ませただろう。
加えて言うと、二人の家は私の家に近いので、二人は既に家に来ているだろう。
母に頼まれたものを母に渡すと、予想通り、二人は既に来ていたらしい。
そして、私の部屋に向かおうとしたところで、どたんばたんずしん、と二階で騒ぐ音がする。
全く、あの二人は人の家で何をやってるのか。取り敢えず説教をしてやろうと、私の部屋へと急ぐ。
そして、扉を開いた私を出迎えたのは、既にエアコンスーツに着替えた二人と、腰巻だけをした少年だった。
更に、二人はズタボロで、腰巻だけの少年は更にズタボロだった。
「のび太!ひみつだって言っておきながらこんな奴を仲間に入れやがって!」
ジャイアンがショックスティックを手に詰め寄ってくる。
「いや待て、私はこんな奴知らんぞ!」
「じゃあなんでここに居るんだ!いきなりこれで殴られたんだぞ!」
そう言ってジャイアンがショックスティックで殴りかかってくる。
避けると面倒なので、真剣白刃取りの要領で受け止める。
「くくっ……!お、おい!これは本物の石器だぞ!?」
手触りと硬さからして間違いない。ショックスティックはどちらかというと、プラ製に近い質感がする。
「うるせえっ!いいから一発殴らせろ!」
「断固として断る!こんなもので頭を殴られたら頭が割れる!」
全力を持って受け止める。幾ら私が鍛えていても、上から相手が武器を下ろしてくる状況では分が悪い。
しかしながら殴られてなるものかと必死で受け止めると、力が拮抗して動かなくなる。
「のび太!何をドタバタやってんの!二階で騒いじゃいけません!」
階下から母の声が響く。いかんな、この腰巻だけの少年を見られては困る。
「チッ、とりあえず過去の世界に行くぞ!話はそれからだ!」
私達はタイムマシンに飛び乗ると、ドラえもんのナビゲートで過去の世界へと向かう。
「で……落ち着いたかね、ジャイアン」
「お、おう……悪かったな」
「まぁ、別にいい。……やはり、本物の石器だな」
ジャイアンの持っていた石器を受け取ってみると、重いし、硬い。柄の部分も本物の木だ。
「野比くん、こっちの毛皮も本物だよ」
「でも、おかしいじゃないか。どうして20世紀の東京に原始人が居るのさ?」
「確かにな……どう考えてもおかしい」
そんな会話を交わしていると、タイムマシンの動きが止まって、私達の前に丸い穴が現れる。どうやら到着したようだ。
先日と同じ場所にタイムマシンの出口を開いた私達は、洞穴に移動して着替えた後に、エントランスで会議を始めた。
「ところでドラえもん、先程観測気球のようなものを時空間にほうっていたが、あれは?」
「うん。昨日、時空乱流があったよね」
「ああ、アレか。アレがどうしたのだね」
「滅多に無いことなんだけど、時空間の乱れがブラックホールみたいなものを作るんだ。神隠しって聞いた事無い?」
「スキマババァのアレだろう」
「よくわかんないけど違うと思うよ」
ドラえもんが説明をし始める。突然人が消えてしまう話がよくあることを交えて。
2008年にタイムマシンが開発され、それから数十年ほどの研究で時空乱流の発生などが知られるようになったらしい。
時空乱流は既存の時空法則が通用しない不思議な現象らしく、今でも詳しくは解明されていないらしい。
「で、その時空乱流に巻き込まれた人間はどうなってしまうんだね?」
「永久に亜空間……僕達の住んでる空間と、タイムマシンの移動する空間の間にある、僕達じゃいけない空間。そこを永久に漂うか……。
運が良ければ、どこかに出口が開く事もあるらしいんだけど……」
「それじゃあ、この子も原始時代から20世紀に来ちゃったって事なのかい?
確かに、さっきドラえもんが言ったような話には、数ヵ月後に唐突に消えた人が現れたって話もあるけど……」
「たぶんね……。それで、それを調べる為に、時空震カウンターをさっき設置してきたんだ。
僕はこれからそれを見に行く。しずちゃんはこの子を手当てしてあげて。のび太くんはペットの様子を見に行って。
残りの四人は、この近くに人が住んでる村が無いか探してきて」
「おう!任せろ!」
私達は散開すると、それぞれ行動を開始した。
さて、昨日離したペットたちには、余り遠くには行くなと言って置いたが……。
そう考えながら空を飛んでいると、遠くから私のペットたちが飛んで来た。
でかい……でかいな……もはや成体になってるっぽいな……グルメン凄すぎだろう……。
「イクシオン、君、どうやって飛んでるんだね?」
「ヒヒーンッ!」
「生憎と私は馬語は分からん」
翼も無いのに空を飛んでいるイクシオン。足元でバチバチ音がしてるから、電気を使ってるのは分かるんだが……。
まさか、地磁気を反発させて飛んでるとか言わんだろうな……どんな大電力がいると思ってるんだ……。
「まぁいい。トレミー、乗せてくれ。出来杉くんたちと合流する事にする」
「ヒヒーンッ!」
トレミーに乗せてもらうと、私はタケコプターを外す。これは快適だな。
暫く飛び続けると、1キロほど離れたところで出来杉くんと合流した。
「ええっと、ペトルーシュカくん。乗せてくれるかい?」
「グルルッ……」
首を振って頷き、乗れというように出来杉くんをペトルーシュカが促す。
マンティコアライダーか……何故君がツンデレ美少女でなかったのか悔やまれるな……。
「ジャイアンたちは?」
「二人には別のところを探してもらってるよ。反対方向に行ったと思う」
「そうか。では、行くとしよう」
王小竜とイクシオンを引き連れて飛ぶ。さて、すぐに見つかるといいのだが……。
村があるなら川沿いだろうという事で、私達は川沿いに飛んでいた。
そして、その最中にぽつぽつとワニを発見した。これでは川沿いに村を作るのは無理そうだな……。
それでも水場に近いところに村を作っているだろうと考え、私達は川沿いに飛び続けていた。
「野比くん!あそこ!」
「どうした?」
「あそこ!剛田くんと骨川くん!」
そう言って出来杉くんが指差す先を見てみれば、そこにはワニに追いかけられているスネオとジャイアンがいた。
「いかん!王小竜!二人を水から引き上げろ!そしてイクシオン!放電だ!殺すなよ!」
私の命令どおりに王小竜が加速すると、二人を水から引き上げる。
そして、イクシオンが嘶きを上げた後に、その角から紫電の雷光を水面へと放った。
直後、何故か水面で大爆発が起きた。これではワニは木っ端微塵だな……。
「殺すなよといったが……まぁ、手加減が出来なかったのだな。次からは気をつけろ」
しかし、あの大爆発は一体……凄まじい音だったしな……もしや、水素が爆発したのか?
大電力で水が電気分解されて、酸素と水素に分解され、その直後に電気で着火して爆発……。
「一体どれだけの電力だというのか……」
呆れつつも、私は此方へと飛んで来た王小竜の背中に乗っている二人を見て安堵の溜息をつくのだった。
二人を説教しつつも、私達は先程の洞穴へと戻ってきた。
「今後は軽率な行動をするなよ。ワニに友人が食い散らかされる様なぞ見たくも無い」
「うぅ……悪かったからもうやめてくれよ……その話、4回目だぞ……」
「大事な事だから何回でも言うぞ。まぁ、洞穴に到着したから、これでやめてやるとしよう」
洞穴の出口の辺りにいるドラえもんたちを踏み潰さないように言いつつ、私達は岩場に着陸した。
腰巻姿の少年の姿も見える。トレミーたちを見て唖然としているのが印象的だった。
「のび太く~ん!この子が何処から来たのか分かったよ~!」
「そうか。それはよかった」
地面に着地すると、その少年が口を開く。
「マウンガペレ。ボストボスト」
「ドイツ語か英語か日本語で話してくれないと分からない」
何を言ってるんだコイツは。
「この子が亜空間に引き込まれたのは、なんと、北緯31度7分!東経118度2分!」
「そんな数値で言われても分からん。いや、中国の辺りか?」
「うん!和県(ホーシェン)辺りになる!」
『中国から来たの!?』
全員の驚きの声が響く。確かに、かなりの長距離を移動した事になる。
「そこで翻訳コンニャク~」
「ほ、ほう……実に不吉な名前だな……どんな道具なのだ?」
「これを食べるとね、どんな国の言葉も分かるし、どんな国の言葉も話せるようになるんだ」
わたしはもうつっこまない。
それから、その少年……ヒカリ族のククルというらしい。タジカラの息子らしい。誰だよタジカラって。
魚を取って帰る途中に空の穴に吸い込まれたそうだ。ドラえもん曰く、それが時空乱流だそうだ。
そして、吸い込まれたのは彼一人。加えて、彼が帰る前にクラヤミ族とやらに村が襲われていたらしい。
彼の言うクラヤミ族には長い間頭を悩まされていて、襲われそうになるたびに逃げていたらしい。
そのクラヤミ族には、精霊王ギガゾンビなる存在がついていて、そのギガゾンビとやらは恐ろしい力を持っているらしい。
ドラえもんはただの精霊信仰のまじない師だというが……それにしては異様な恐れ方をしていた。
どう考えても、ただそれだけ、とは思えない。なんとも言いようの無い不安を感じる。
そして、私達は明日、ヒカリ族を助ける為に中国大陸へ行く事となった。
私としては彼等のことなんか見捨ててしまうのが人として正しい事だとは思うのだが……。
「バカになると言ったからな……」
もう少しバカに生きてみるべきだろうか。
もっとくつろぎ、もっと肩の力を抜いてみようか。
もっとたくさん好きなものを食べ、野菜はそんなに食べないなんて子供っぽい真似でもしようか。
もっとリラックスし、もっとシンプルに生きてみるべきだろうか。
たまには馬鹿になって、無鉄砲な事をして、人生に潤いや活気を増やしてみようか?
人生は完璧にはいかない、だからこそ、生きがいがある。
誰だったろうか……あぁ、ピーター・ドラッカーの言葉だったはずだ。
人生にやり直しは効かない……だが、私はこうして人生をやり直せている。
だから、今度は後悔の無いように生きて見たいと思っている。
ヒカリ族を見捨てたとすれば、私の心には罪悪感ともなんとも言いがたいシコリが残るだろう。
だから、そのしこりを残さない為に。いってしまえば、私がしこりを感じたくないが為に救われてもらう。
「まだ眠らないのか?」
「ギガゾンビ、来るかもしれない」
ジャイアンが設置した見張り台。そこで私とククルはまんじりともせずに過ごしていた。
「君こそ、眠らない?」
「あぁ、君につき合わせてもらう」
「眠らないと、明日つらい」
「こっちのセリフだバカめが」
彼がどんな無茶をするかも分からん、見張る事にさせてもらおう。
それに、古代の生活について聞きたいこともあるしな……。
5話
2011/12/01 22:56 投稿
6話
2011/12/01 00:39 投稿
2011/12/23 18:53 統合