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[30693] 【ネタ】転生者の憂鬱(ドラえもんの主人公に転生) 旧題【転生者の杞憂】
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/12/23 19:16
私は転生者である。
二十余年の人生を交通事故という詰まらぬ物で幕を閉じ、その果てにあったのは過去への輪廻転生。
テンプレ転生というものは知っている。その点から言うと、私は当て嵌まらないようで、当て嵌まっていた。
私が生まれた体は、極普通の男性。優れた運動能力も無ければ、何か特別な容貌があるわけでもない。
東京都の練馬区の借家に住む、ごくごく普通の両親の間に生まれた男児。優しい祖母に甘やかされるだけの少年。
そう思っていた。だが、そうではない事に気付いた。まず、この体は回復力が高い。
スタミナはそれほどではないが、回復力が高い。つまり、タフネスがある。打たれ強いのだ。
そして尋常ではない空間認識能力に、手先の器用さ。指先が全く震えないのだ。不随意筋を制御出来るのだ。
これがどれほど素晴らしい事かというと、自身の肉体を完全にコントロール出来るのだ。
くだらないことから言えば、裁縫の針に一発で糸を通せる。戦闘面で言えば、指先を全くブレさせない事が出来、正確な射撃が出来る。
他にも、風向きや場の様子から、どうすれば相手に射撃を命中させる事が出来るのかを無意識のうちに理解出来る。天性のガンスリンガーといえる。

私とて普通の人間だ。幼い頃は厳しい両親の元で育ち、テレビすらも無かった家庭ではあった。
その反動の如く、ひとり立ちをした後には様々なサブカルチャー作品を楽しみ、二次創作の世界にものめり込んだ。
であるからして、この体は何かの作品のキャラクターではないのかと想像した。

でなくば、この優れた空間認識能力と手先の器用さの説明がつかない。
フリーハンドで真円を描けるほどに手先が器用なのだ。いや、手先の器用さは肉体のコントロールの上手さが要因なのかもしれないが。
であるからして、優れた射撃能力を持っていることから、将来的には危険な事にかかわるのだろう。
無論、全くの杞憂であるのかも知れない。だが、備えあれば憂いなしと諺もある。
備えをするのは無駄にはならない。寧ろ無駄になったほうがよい。

私は幼稚園の頃には決心をし、体を鍛え始めた。
どちらかといえば運動神経の悪いこの体だが、運動神経は幼少期から体を鍛える事で成長させる事が出来る。
そもそも、意識すれば肉体を自在にコントロール出来るのだ。意識して肉体を上手く動かしさえすれば、体に動きが染み付いて、運動神経もよくなる。
例え運動神経がよくならなくても、いつでも自在に肉体をコントロール出来るように特訓すればいい。
後は間接を柔らかくし、筋肉をつけることだ。余り無理に筋肉をつけては成長の妨げになるが、成長の妨げになるほど筋肉をつけるのは難しい。

とは言っても、幼稚園児の私では出来ることは少ない。今出来るのは、精々幼稚園で出来た友人と共に遊ぶ程度だ。
走り回ることで肉体を鍛えられるし、後は適当に筋力トレーニングをすればいい。

そうして時は過ぎ去り、今でも何か出来る戦闘方法はないかと思案を重ね、糸を操るのを練習する事とした。
糸を使って相手を倒す。はっきり言ってマンガの世界の話ではあるが、この世界だってサブカルチャー作品の類の世界だろう。
ならば不可能ではないはずだ。そう考えて、私は父が趣味にしている釣り具からテグスを頂戴して色々と練習を重ねていた。

流石に軽い糸を自由に誘導するのは不可能ではあったが、先端に重りをつけて、それを自由に操作することはそれなりに慣れた。
今では必殺仕事人の如く、相手の首を絞めたりといった事も出来るようになった。流石に人間の首を絞めたことはないが。
そこらに置いた空き缶に糸を絡め、その空き缶の後ろにある木に重りの周囲の糸を巻きつけて、その空き缶を潰すということが出来るようになったのだ。
ボタンを押すだけで巻き取れるリールを造ったりするのに少々苦労はしたが、今では中々に気に入っている。
そのうち、金属製のワイヤーなどを用意するのも考えるべきだろう。一体いつ戦闘が始まるかは定かではないのだ。

やがて小学校に入学した私は、その優れた学力を教師に絶賛された。
元はといえば大学まで出た成人男性だったのだ。ひらがなを習う小学一年生レベルの勉強が出来ないはずもない。
そもそも自分の名前を漢字で書けるだけで褒められるというのは……そもそも私の名前の漢字は三文字しかないし。

まぁ、学力を褒められて困る事もとくにはない。それに、両親を安心させるという意味では必要な事だろう。
少しばかり悲しい事に、私の事をしきりに心配してくださった父方の祖母が、私の小学校入学を目前に逝去されたことだ。
あの優しい祖母に小学校入学時の晴れ姿を見せてやれなかったのは少しばかり心残りであった。

小学校では狭く深くという交友関係を作った。
というよりは幼稚園の頃から兼ねてよりの付き合いがあった人物と交友関係を継続したというべきか。
それ以外にも、浅く広く、それなりに会話を交わす程度の知人を作りはしたが、友人といえるのは3人か4人程度だ。
金持ちの友人、ガキ大将的な友人、クラスのアイドルのような少女、勉学も運動も出来る優等生の少年。
優等生の少年とは小学校に入ってからの付き合いであるが、人当たりもよく小学生はと思えない精神年齢を持つ彼とはよい交友関係を築いている。
この年齢では読者も余り居ないと思っていた様々な文書の読者であったのも私には嬉しい誤算であった。
ロビンソン漂流記や、エドガー・アラン・ポーの著作についての会話を交わせたのは中々に楽しいものであった。


時が流れるうちに、体を鍛え続けた成果は如実に現れていた。
そもそも、小学生の足が遅いのは運動能力が低いのもあるが、それ以上に体の動かし方を理解していないのもある。
陸上選手がフォームを変えた事によってタイムを大幅に伸ばすように、走り方が悪いのも原因であるのだ。
その点、私は二十余年の人生経験があり、運動神経も悪い方ではなかった。
身体能力も鍛え続けている為に他よりも勝り、結果として私はクラスで一番運動が出来るという評価を貰っていた。
さらには学力も高い為、完全無欠の優等生といえた。ユーモアも解し、ゲームやマンガも読むなど、典型的ながり勉ではないが。

そんな私は先生に気に入られている。まぁ、当然といえば当然だろう。手がかからずに成績優秀な生徒を好まない教師など滅多に居ない。
そしてそんな先生に気に入られている私を先生が嫌いな生徒が妬む事もある。
しかし、あの教師は生徒を贔屓するタイプではない。
厳格ではあるが、生徒を思い遣ってこその厳格さであり、人情家であることもうかがわせる。
例え間違いだらけであろうが、宿題をきちんとやり遂げて持って来て褒められている生徒が居ることも知っている。
優しさが故に厳しい人物といえるだろう。私も好きなタイプの人間だ。

時折思うことがある。それは、私が転生者でなければ、私はどんな人間だったのか。
成績優秀ではあったが、運動神経には恵まれなかった母。
運動神経抜群ではあったが、学力には恵まれなかった父。
二人のいいところを受け継いで生まれたように見られる私だが、私が転生者であるが故だろう。

恐らく、元の運動神経の悪さからすると、運動神経は母から受け継いだのではないかと思われる。
学力に関しては分からない。頭の回転のよさは発想力のよさと同義なので、精神が違う私では推測も出来ない。
顔は父に似ているので、もしかしたら学力は父から受け継いでいたのではなかろうか?
だとすれば、うだつの上がらない少年は、戦いの中でガンスリンガーとしての素質を開花させる、とか言うのではなかったのだろうか。

まぁ、考えても答えが出ないのではあるが。

小学二年生に上がった頃、唐突に視力が落ち始めた。
それこそ、数メートル先がロクに見えないほどにまで視力が落ちてしまった。
ガンスリンガーとして致命的ではないかと言える視力の低下。
私は悩みながらも、どうにかして視力を矯正出来ないかと苦労を重ねていた。
後々になって視力はそもそも矯正出来ないことを思い出し、私は眼鏡を着用する事を決心した。
凛々しい雰囲気があるならまだしも、少々間の抜けた顔に見えてしまうのが少しばかり気に食わなかった。

この時代の外での遊びの定番である野球。私は積極的に運動する方ではないが、時折ピンチヒッターとしてやることもあった。
動体視力を鍛える練習になるので、バッティングセンターに行く事があるのが原因でもあるのだろう。
この年代で時速150やら160の球が打てるのは早々居ない。

小学三年生は特に可も無く不可も無く過ごして行った。
そして、一年の終わりがやって来て、元旦がやって来た。
この時代、正月と言えば家の中でゆっくりするものであり、私も例に漏れず、自身の部屋でゆっくりとしていた。
その最中、唐突に声が響いた。それは私の未来を暗示する不快な言葉。その珍妙な濁声。
ガタリ、と、私の机が揺れた。そして、ゆっくりと、その机の引き出しが開いていく。

私は慄然たる思いで机の引出しから突如現れたその異形の物体を凝視した。
それは大小の球体を組み合わせたとしか言い様の無い姿をしており、目も覚めるような青色が純白の顔と腹部を縁取っていた。
這いずり回るような冒涜的な足音で私に近付くと、何とも名状し難き声で私と私の子孫のおぞましき未来を語るのであった。
また、それは時空を超越した底知れぬ深淵に通じる袋状の器官を有しており、この世の物ならざる奇怪な装置を取り出しては、人々を混迷に陥れるのであった。

「ぼく、ドラえもんです。はじめまして、のび太くん」



――――――――――――――


11月29日 21時前頃投降



[30693] プロローグ 転生者の跳躍
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/11/30 13:29
※注意。野比のび太は完全なる別人です。口調も全く異なります。
      不快感を感じる可能性もありますので、注意ください。



現れたその珍妙なる存在。ドラえもんと名乗ったそれ。
私はそのドラえもんという存在をじっくりと見やった。
身長は恐らく、130センチ前後だろうか。前にも横にも太い。
愛嬌を感じさせる大きな口と、戯画染みた素朴な顔。
自然界には無さそうな、鮮やかな青とくっきりとした白。そしてアクセントに、鼻や尻尾の赤。
トリコロールカラーだというのに、ガンダムとかあたりのメカメカしさを感じさせない。

「あれ?どうしたの?のび太くん」

「……いや、なんでもない。すまないが、君は一体誰だろうか?」

私は混乱から立ち直ると、その存在に向けて尋ねかけた。
この、一歩間違えば狂気すら感じさせそうな存在は一体何者なのか、と。

「よくぞ聞いてくれました!ぼくは未来の世界からやって来たネコ型ロボット!子守ロボットのドラえもんです!
 ダメダメな君を救う為に、未来からやってきたんだ!」

「帰ってくれたまえ」

こんなみょうちきりんな存在に助けられるほど私は落ちぶれては居ない。
冷たく言い放ち、先程まで開いていたマンガを開く。永井豪作品の最新作、デビルマンの最終巻を読んでいたのだ。
この、子供向けとは思えない残虐で凄惨な物語。未来の世界でも滅多にないと感じさせる、この引き込まれる感覚。
著者はこの作品を書いている間、何か巨大なものに、この作品を書かされていると感じたそうだ。
それを納得させるだけの、不思議な魅力がこれにある。私にとっては古臭く感じる絵柄。だと言うのに、酷く面白い。

「ひどいよのび太くぅん!ほ、ほら!これ!君の未来のアルバム!」

そう言って、ドラえもんなる存在は、腹部に備え付けられていた袋……恐らくはポケットだろう。
そこから一冊の大きなアルバムを取り出して、床に置いて広げた。

「ほ、ほら!これ!君の未来の写真だよ!」

「……私には白い毛並みのネコの写真にしか見えんがね」

「あ!間違えた!てへへ……」

そう言ってドラえもんはアルバムのページを捲り、他のページを明示した。
そこにあったのは、私が成長したらこんな青年だろう、と言うような姿の人物。
所々に、白いものが多く混じり始めた髪を蓄えた両親の姿があった。
お説教は長かったり、人の話を聞かなかったり、おっちょこちょいだったりするが、料理が上手く優しい母。
マヌケだったり、やっぱり人の話を聞かなかったりするが、スポーツ万能で、休日には時折キャッチボールに興じたりもする父。
その二人が歳を取った姿。そのすぐ近くにはマヌケ面を晒した、未来の私であろう姿があった。

「ええっと、これがね、君が大学を浪人した時の写真。
 で、こっちが君が就職出来なくて会社を立ち上げた時の写真。
 それから、君が立ち上げた会社を花火で全焼させた時の写真で……」

「やめろ!」

アルバムを開いて、写真ごとの説明をするドラえもんへと私は怒鳴りつけた。
一体コイツはなんなのだ。人の神経を逆撫でする為に未来からやってきたのか!?

「そ、それでね、僕はこんな未来を変える為に未来からやって来たんだよ!
 だから安心して、ぼくにドーンと任せておいてくれよ!」

「君はじつにバカだな。君が一体何者なのかも知らないのに、任せられるわけがないだろう」

私の未来がこうなるとは思えないが、何故見ず知らずの他人にそんな事を任せなくてはならんのだ。
というか、未来の子守ロボットは、こんなことまでやるのか?

「え、えーっと……」

ドラえもんが首を傾げる。どう言い訳したらいいのか、と言うよりは、どう説明したらいいのか分からない、と言う顔だ。
暫く沈黙が部屋を支配した後、唐突に私の机の引き出しが再び揺れだす。また同類が出てくるのか……?
そう思った私の予想は裏切られ、開いた引き出しから現れたのは、私と同年代だろう少年だった。
その全身タイツのような趣味の悪い服装はさておいて、その少年の顔は私に酷く酷似していた。

「やぁ、おじいさん!」

「私は君のような者を孫に持った覚えはない」

「あはは!ごめんごめん、説明してなかったね。
 ええっと、僕は野比セワシ。ええっと、野比のび太さんの、孫の孫が僕なんだ。
 つまり、あなたは僕のおじいさんのおじいさん。えーっと、なんて言うんだっけ?」

「つまり、君は私から数えて五代先の子孫である玄孫と言う事か」

未来の世界から来た、と言うのが本当の事であるならば、ありえない事ではあるまい。
話によると、野比家の直系長男は大体皆同じ顔をしているらしい。実際、私の父の幼少の頃は私そっくりだったらしい。
加えて、祖父の幼馴染であった祖母の話からすると、祖父も同様に私そっくりであったらしい。
つまるところ、直系長男は皆同じ顔をしていると考えて概ね間違いがないようだ。

「そうそう、それ。実は、おじいさんが過去で散々ヘマをやらかして借金をこさえたから、将来は酷い事になってるんだよ」

「今年でようやく10歳になる私に対してそんな事を言って何の意味があるのだね」

「だから!ドラえもんに頼んで、何とかしてもらおうとしてるんだよ!
 信じられるかい!?僕のお年玉は今年50円だったんだよ!?
 クリスマスのご馳走なんてしょぼいものさ!近所のファミレスでごはん食べただけなんだよ!」

「仏教徒ならばクリスマスなど祝うな」

「未来の世界じゃそんなもの関係ないよ!」

うるさい、私だって屁理屈を言ってる自覚はある。少し考えを纏めたいのだ。

「質問させてもらってもいいか?」

私は挙手をしてから尋ねかける。

「うん。何でも答えるよ、おじいさん」

「おじいさんはやめたまえ。君たちは一体西暦何年からやってきたのだ?」

「僕たちは2125年から来たよ」

2125年……150年ほど未来、か。こんな子供が気軽にやってくる、加えて理由は酷く下らないものと言っていい。
タイムマシンは余程普及しているのだろうか。過去を自在に改変してもいいと言う事は、時空の成り立ちはどうなっている?
過去を改変しても、別の要因によって同じ結果が発生するのか、あるいはその時代では変わりはするが、パラレルワールドが発生するだけか。
それとも、過去を変えれば未来も変わるのか。フィクションの世界ではその大別してその三つだ。
恐らくは1か2だろう。3ならば軽々しく過去の世界への渡航など許可されるわけがない。

「まぁ、少しは状況は飲み込めた。仮に君たちが未来から来た存在だとしよう。
 私は子々孫々と影響を残すほどの莫大な借金を作り上げてしまい、君たちはそれを変えようとしているのだな?」

「うん。そうだよ」

「それについて、過去を変える事は……いや、なんでもない。
 ついては、君たちが本当に未来から来た存在だと断定する為に未来へと連れて行って欲しい。ダメだろうか?」

過去を変える事は問題ないのだろうか。そう尋ねようとしたが、セワシは恐らく私と同年齢だ。
彼が私と同様に転生者であるならばまだしも、極普通の小学生の少年が刑法やらを把握しているとは思えない。
ならば、未来へといって警察関係の存在に尋ねるのが最も近道だろう。

「あ、それが一番いいかもしれないね、のび太くん。じゃあ、早速未来に行こうよ!」

「そうだね、ドラえもん。早速行こうか!」

二人はそう言うと、引き出しの中へと飛び込む。
引き出しの中を覗き込むと、そこには常にうねり続ける不可思議な空間があった。
底も奥行きも見えない不可思議な空間。その空間に奇妙な機械があった。
鉄板の上にピカピカ光るコンソールやら、街灯のようなものを取り付けた機械だ。
今の感性で言う未来の道具のようなもの。そんなものの上に、セワシとドラえもんが乗っている。

「のび太くんも早く乗りなよ~!」

ドラえもんが笑顔を浮かべて、そのゴム鞠のような手を振る。
私は溜息を吐くと、覚悟を決めると、いつでも部屋から出れるようにと用意していた靴を手に持って、その不可思議な空間へと飛び込んだ。
タイムマシンらしき機械に着地すると、私は靴を履きながら尋ねた。

「どれほどで未来へと行けるのだ?」

「すぐだよ」

そういいながらドラえもんが機械を操作すると、タイムマシンが動き出す。
慣性を感じさせないというのに、タイムマシンが動いているのは理解出来る。
車とは違う変な酔い方をしそうな動きだ。これも未来の技術だろうか。
慣性制御と言うと、様々な兵器に応用出来そうな技術だ。

「未来の世界に来たら、きっとおじいさんも驚くよ」

「だからおじいさんはやめたまえと言うのに」

セワシの声に反論しつつも、私は高鳴る胸を押さえた。
未来の世界だ。如何に胡散臭くとも、未来の世界。興味が惹かれないわけがなかった。
どんなところなのだろうかと想像を膨らませ始めた頃、タイムマシンが動きを止めた。

「ついたよ、おじいさん」

セワシ君の声と同時に、目の前に穴が浮かぶ。その先には町並みが見えた。
陽光を反射して輝くビル群。街中を行き交う人々はセワシの着ているような服を身に纏っている。
まさに過去の人間が未来の世界と想像するような世界がそこにはあった。
セワシとドラえもんが、その穴に飛び込むのに続き、私もその穴へと飛び込んだ。

すぐに見えた地面に驚き、腕から着地し、腕を折り曲げ、肩から落ち、背中、腰と言う順に着地していく。
咄嗟に受身が取れた事に少しばかり感動しつつも立ち上がり、平然と地面に立っている二人へと目線を向ける。

「ようこそ、おじいさん。ここが2125年の世界だよ」

「Hello Worldとでも言って欲しいものだ」

私は冗談めいて言いつつも、周囲を見渡す。
近未来的な町並みの中には、所々ロボットが混じっている。
明らかにロボットと分かる金属のボディ。人間と全く同じ造詣をしているのが居ないのは、不気味の谷が理由だろうか?

「おじいさん、これで信じてくれた?」

「ああ。信じるほかにあるまい。私が幻覚を見ていると言うのもありえるが、この質感は幻覚とは思えない」

すぅ、と息を吸い込めば、先程の過去の東京とは全く違う大気の匂いを感じさせる。
そこで私は言い表しようのない不思議な違和感を感じた。
一体なんだろうか?そう首を傾げた所で、セワシが私の腕を引っ張り、思考の中断を余儀なくされた。

「おじいさん、取り敢えず僕の家においでよ。ジュースをご馳走するからさ」

「私はコーヒーの方がいいのだが……」

引っ張られるがままに連れられていき、マンションの一室らしい場所へと招かれる。
貧乏だと言うのに、マンションに暮らしているのだろうか。まぁ、この時代ではマンションが一番安いのかもしれないが。
そんな事を思いつつも、低反発素材のようなもので出来たソファーに腰掛けて、私の前に座ったセワシへと尋ねる。

「私の曾孫にあたる、君の両親は在宅ではないのか?」

「父さんと母さんは木星に出張に行ってるよ。それに、元々ここには僕しか住んで無いし」

「ほう。航星間技術も発達しているのだな。それに加えてテラフォーミング技術もだ。
 しかし、君一人で住んでいるとはどういうことだ?」

「ドラミが居るからね。あ、ドラミって言うのはドラえもんの妹の事だよ」

「妹……?ロボットに親等関係などあるのかね」

「ドラミはドラえもんと同じオイルが使われてるんだよ。
 ここだけの話、長期間保存されてた所為で、成分の沈殿してた下側部分を使ったドラミの方が性能がいいんだ」

ロボットの性能とはオイルで決定されるものだったろうか。
機関出力と搭載されている処理装置と知能によって決定されるものではなかろうか。

「おじいさんの時代だと家族みんなで暮らすのが当然みたいだけど、この時代だと一人暮らしとかが当然なんだよ」

「そういうものなのかね。で、それを補う為に子守ロボットや、家事手伝いのロボットが居るのかね」

「うん。それに秘密道具もあるしね」

「君が存在を知っている時点で秘密道具ではないと思うのだがね」

「ドラミとドラえもんのポケットの中の道具は僕しか知らないから秘密道具だよ」

それを屁理屈と言うのだよ。

さて、そんな会話を交わしていると、トレイの上にジュースを載せたドラえもんがやってくる。
そして、そのジュースを私とセワシの前に置くと、私の左斜め前のソファに腰掛ける。

「さぁ、どうぞ召し上がれ」

「頂こう」

ストローを加えて呑んでみると、確かにセワシの言うとおりに美味しい。
しかし、なんだろうか、この味は。呑んだ事のない味だ。

「木星パイナップルのジュースだよ、美味しいでしょ」

「これがパイナップルかね。リンゴのような味がするぞ。
 しかもなんだね、その妙な名前の果物は。腰掛けレンコンだの、タマネギボムだの、砲丸ピーチなどありそうだな」

少なくとも土星ナスは間違いなくありそうだ。

「あはは、そんな変な名前の野菜はないよ」

「そうか……それはよかった……」

正真正銘の宇宙農家など見たくもない。

「ええっと、それでおじいさん。これからドラえもんについてもらって、おじいさんを何とかしてもらおうと思ってるんだけど……」

「特段困る事もない。問題は両親の説得だが、ドラえもんが頑張りたまえ。私は一切関与しない」

「ええっ!?のび太くん手伝ってくれないの!?」

「私は君に手伝ってもらう事など特にない。君たちの語る未来はどうにもおかしいとしか思えんのだ。
 ロボットの頭脳ならばさぞかし素晴らしいのだろう。その頭脳で説得を考えておきたまえ」

「わ、分かったよ……」

しょんぼりとしてヒゲらしきものが垂れ下がるドラえもん。なんとも言いようのない愛嬌がある。
確かに、子守には最適なロボットなのかもしれない。

「私は少しばかり未来の世界を見て回りたい。問題あるだろうか?」

「特にないと思うよ。お金は無いから、殆ど何も出来ないと思うけど」

そう言ってセワシが笑う。まぁ、私はこの世界を見て回りたいだけだから問題はない。
マンションの部屋から出ると、ポケットの中に入れっぱなしだったリールを弄びながら歩き出した。

街中を歩いていると、過去の世界よりも大気が綺麗だと言う事に気付く。
2010年ごろには環境問題がどうのと問題になっていたが、その問題は解決したようだ。
しかし気になるのは、街路樹などが全く見当たらない事だ。もしや、大規模な浄化装置などで大気を浄化しているのだろうか。
タイムマシンまで作れる技術力があるのならば、その程度容易くやってのけてしまいそうだな。

そんな事を考えながら歩いていると、私の目的である交番を発見する。
表には2メートルほどの全長がありそうな、大柄な体躯を持つロボットが立っていた。
警察関係であることを明示しているのか、黒と白のカラーで塗装され、その顔は犯罪者の威嚇目的か随分と厳つい。

「すみません、少々尋ねたいのですが」

私はそのロボットに声をかける。すると、ロボットは膝をついて私に目線を合わせる。親切だな。

「ハイ、ナンデショウカ」

まさにロボットというべきか。平坦な口調の合成音声が響く。

「タイムマシン関連の刑法について尋ねたいのですが。意図的な過去の改竄と言うのは許可されているのでしょうか?」

目的である過去の改竄についての疑問。今ならばまだ未遂の領域にあるだろう。
セワシの将来の為にも、今のうちに止めておくべきではないかと思う。

「ハイ。許可サレテオリマス」

しかし、ロボットの返答は私の全くの予想外だった。
過去を自由に変えられる。それでは、世界は滅茶苦茶になってしまうではないか。
居るべきはずの人間が居なくなり、居ないはずの人間が存在する事となる。
そしてそれを戻す為に誰かが再び過去を変えようとすると繰り返しが起こることとなるだろう。
そうなっては世界に大混乱が招かれるはずだ。

「モチロン、違法デアル事モアリマス。例エバ過去ノ生物ノ意図的ナ捕獲ハ政府ノ許可ガ必要デス。
 モシモ違法ニ行オウトスレバ、24時間時空ヲ監視シテイルタイムパトロールガ急行シマス」

ならば、そのタイムパトロールとやらが現れなかったと言う事は、ドラえもんとセワシの過去の改竄は容認されていると言うのか?
私の未来を変えるということは、下手をすればセワシが生まれない可能性すらもあると言う事になるのだぞ。
そもそも、そんな事をしてしまえば明らかなタイムパラドックスが発生するはずだ。
私の未来が変われば、将来的に結婚する相手も変わる可能性もある。そうなればセワシは生まれない。
ならば、セワシが派遣したドラえもんは現れない。ドラえもんが何処から現れたのかが分からなくなり、矛盾が発生してしまう。
仮に結婚する相手が変わらないにしても、何か大きな矛盾が発生するはずだ。それなのに容認されている?

「すみませんが、そのタイムパトロールの駐屯地や交番のような詰め所は何処にあるか教えていただけませんか?」

「申シ訳アリマセン。タイムパトロール法デ、駐屯地ハ秘密トナッテオリマス」

「そうですか……」

仕方ない。取り敢えずは書店でも探して、時空関係の法律を調べてみよう。会話をするよりは詳細に調べられるはずだ。
子供だと判断して説明を適当にされる可能性も高いからな。私はロボットに礼を言って立ち去ると、書店を探して歩き出す。

だが、この時代既に書店と言うものは存在していなかった。全て電子書籍となっており、紙媒体の書籍は存在しないようだ。
何処からともなく響いてきた案内の人工知能に聞いたのだ。未来と言うのは便利なものだ。
ちなみにだが、ここは私の時代で言うと東京都の練馬区に当たるらしい。トーキョーシティー・ネリマブロック・ススキガハラストリートらしい。

どうしたものかと考え込みながら歩くうちに、気付けば私はどこぞの路地裏に迷い込んでいた。
そして、歩くたびにザリザリと足の裏で砂が擦れる音に気付く。先程の街中では塵一つ見当たらなかったと言うのに。
この先に何があるのだろうかという興味が引かれ、私は歩調を早めていく。

「住民ノ方。コノ先ハ危険デス。通行止メトナッテオリマス」

唐突に私の目の前に、先程の警察のロボットを更に大きくしたような警備用ロボットらしきものが現れた。
手には銃器らしきものまで持っており、実力行使も辞さないのではないかと予想させる。

「この先に何が?」

「コノ先ハ、ロボット生産工場デス。危険物質ナドガ散布サレル場合モアリマスノデ、人間ノ方ハオ帰リクダサイ。
 マタ、整備サレテイナイ地域デモアリマスノデ、砂ナドデ転倒サレル可能性モアリマス」

なるほど。機械管理がされていないのか。幾ら未来の時代と言えど、必要のないところまで整備はしていないと言う事か。
私は納得して踵を返すと、案内にと警備用ロボットがつけてくれた、トンボのようなロボットの誘導で街中へと戻る。
案内ロボットにセワシの家まで案内してもらい、私はようやくセワシの家に帰り着く。

「お帰り、おじいさん。何処まで行ってたの?」

私が出る時と同様の場所から動いていなかったセワシが尋ねてくる。

「少し町を見てきた。驚くほど技術が発達しているのだな」

特にあの案内ロボットなど、どう考えても羽が動いていなかったのに飛んでいたしな。どういう理屈で動いているのだろうか。

「それじゃあ、のび太くん。そろそろ元の時代に戻ろうか?」

「ん、あぁ。そうだな。戻るとしよう」

ドラえもんに促され、今の今まで抱いていた違和感を拭いきれないままに私は元の時代へと帰る事とした。
タイムホールとやらを開いた場所へと戻り、そこからタイムマシンに乗り込む。

「それじゃあドラえもん、おじいさんのこと、頼んだよ」

「うん!任せてよセワシくん!」

ドラえもんの面倒になる事などないような気もするが、口は挟まなかった。わざわざ挟むほどの事でもないと思ったのだ。
そして、私とドラえもんはタイムマシンに乗り、20世紀へと戻っていく。
流れ去る謎の空間を見ながら、私はこの先へと思いを馳せた。

一体、この先何が起こるのかはわからない。
だが、私は既に覚悟を決めていたのだ。どんな未来が待っていようと、乗り越える。乗り越えて見せる。


―――――――――――――――――――――――――

取り敢えず、プロローグを書き上げて見ました。
アイディアを下さったDr.Jさん、ありがとうございます。
誤字脱字などがありましたら、報告してくださると有り難いです。

11/29 12時前後投降
11/30 13;30修正



[30693] 転生者の日常1
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/11/30 03:40
ドラえもんが現れて三日経った。
居候出来る様に頼みに行ったドラえもんは、数十分の交渉の後に、無事に居候出来る様になった。
あのマヌケそうなドラえもんが、どうやって交渉をして来たのかは気になったが……まぁ、些細な事か。

三が日の最中、凧を自作して飛ばしたりしつつ、私は暇を潰していた。
固太りで体格のよい、ガキ大将のような立場の少年、剛田タケシ。
金持ちである事を鼻にかけているが、悪い奴ではない骨川スネオ。
彼等と共に凧を誰が一番高く上げられるかを競いつつ、そのドラえもんの事を話していた。
普通なら黙っているものだろうが、ドラえもんは平然と外を歩き回っているので、話すことにしたのだ。

「で、そのドラえもんって奴は未来から来たのか」

「信じるんだな」

「なんかのび太なら、そんな事もあるかなぁ、なんて思えるからな」

それは貶してるのか褒めてるのか……。

「でも、のび太ってウソは言わないだろ。ねぇ、ジャイアン」

「おう。正々堂々とした奴だからな」

そんなスネオとジャイアンの同意の声に、少しばかり気恥ずかしい思いをする。
この年代の子供と言うのは明け透けで、好意を明確に示す。
そう言えば、タケシ……ジャイアンとこれほどに仲良くなったのは、小学生の頃のケンカが原因だった。
乱暴者だったジャイアンを、私が一方的に打ち負かしたのだ。
体格がいいといっても、訓練などをして得た肉体ではない。対する私は明確な目的を持って体を鍛えていたのだ。
喧嘩で勝つのも当然だろう。そもそも、喧嘩に重要なのは頑強な肉体などではなく意思だ。
要するに、相手に絶対に勝つという意思と、相手に絶対に負けないという意思。その二つが重要だ。
気迫負けと言うように、武術の世界でも、気迫や意思で負けるのが、実際の勝負の命運を分けると言うのだ。
例えば薩摩示現流の猿叫と呼ばれる行為。刀を振り下ろすと同時に叫ぶ、猿の絶叫のような声。
その声で相手を気迫負けさせ、同時に渾身の力を込めて剣を振り下ろす為に必要な行為なのだそうだ。

私はそれを利用して、全力で声を張り上げてジャイアンを気迫負けさせて勝ったのだ。
それがジャイアンには正々堂々としているように見えたのだろう。実際は人間心理を利用した、狡い勝ち方なのだが。

「それで、未来から来た、ドラえもんって奴は何してるんだ?」

「特に何もしていないよ。強いて言うなら、餅を美味い美味いと言って食っていたが」

「なんだそりゃ。うちのかーちゃんと一緒じゃねえか」

本当にあのタヌキ型ロボットは何の為に来たのだろうか。もしや我が家の食費を圧迫する為に来たのだろうか?
そんな事を考えつつも、次の風向きを予測して更に凧の糸を伸ばす。そこで、凧の糸が途切れてしまった事に気付く。

「あ」

私の声と同時に、凧糸は私の手から離れて、それを掴みなおす暇も無く凧は空へと舞い上がって行った。
確か50メートルほどはあったはずだから、それくらいは飛ばしていたと言う事になる。

「あーあ、のび太の勝ちかあ」

スネオの声でルールを思い出す。ルールでは、凧糸が一番最初に途切れた者が勝ちということになっている。
私の凧は空高く舞い上がっていき、そのまま遠くへと飛んでいってしまう。確かに私の勝ちだ。

「さて、次は何をしようか」

「僕んちで双六しようよ。パパが凄い大きいのを買ってくれたんだ」

「おう、それじゃあスネオんちに行こうぜ」

「それがいい。いい加減寒くなって来た所だ」

「それじゃあ、しずちゃんも誘おうよ。3人だけだとつまらないしね」

「ならば出来杉くんも呼ぶとしよう。5人なら丁度いいだろう」

「よぉし、んじゃあ、出来杉んちに寄って、その後しずちゃんちだな」

ジャイアンとスネオが凧を引き戻し始める。それを見つつ、私は冷えた手を擦り合わせる。
この時代、少年と言うのは何時の時期だろうが短パンと言うのが常識だ。
しかしながら、私とて二十余年生きた大人だ。そんな格好で一年中過ごせなど堪ったものではない。
なので、私はスラックスとワイシャツと言う格好で一年を通す。季節感がないのは重々承知しているが、それが楽なのだ。
スラックスのお陰で、短パンよりは圧倒的に暖かいのだが、やはり寒いものは寒い。何故彼等は平気なのか不思議で仕方ない。
一応私はコートを着ているのだが、ジャイアンとスネオはいつものようにシャツと短パンだ。流石にシャツは長袖だが。

「んぎぎぎ……お、重い……!」

ジャイアンはその腕力を生かして何とか凧を引き戻していたが、スネオの腕には少々キツかったようだ。
私は仕方ないと思いながら、懐から紙を取り出す。切れ目を入れてあり、真ん中辺りに小さな穴が開いた紙だ。
それをスネオの凧の糸に通していく。すると、風に乗って紙が上へと上っていく。
何枚も登らせるうちに、糸が重くなって、だんだんと高さが下がってくる。

「ふぅ……助かったよ、のび太」

「まぁ、元々は自分で使う為に持って来たのだが、見ての通りだ」

そう言って遥か彼方まで飛んで行った私の凧を指差す。もう豆粒のようにしか見えない。
ちなみに、これは私の父に教えてもらった物だ。凧は知っていたが、あんなものは知らなかった。
さておいて、二人が凧を引き戻した事でようやく歩き出す。時刻は二時前と言うところか。

暫く歩き、私達の友人である出来杉英才の家へと辿り着く。
彼は成績優秀、眉目秀麗、品行方正と完全に優等生の少年だ。
勤勉で努力家で真面目で、それでいてユーモアを解するセンスもあり、さらには運動神経も抜群だ。
まさに完璧を絵に描いたような少年と言える。未来ならばイケメン死ねといわれるような少年だ。

「失礼します。野比のび太と申しますが、出来杉英才くんはご在宅でしょうか」

出迎えてくれた出来杉くんの母親に、彼がいるかを尋ねるとすぐに呼び出してくれた。

「あ、野比くん。あけましておめでとう。それで、どうしたんだい?」

「あぁ、あけましておめでとう。これからスネオの家でスゴロクをするのだが、君も来ないかと誘った次第だ。どうだろうか?」

年賀の挨拶をして来た出来杉くんに、年賀の挨拶を済ませると、早速用件を告げる。

「うん。それじゃあ僕も行くよ。ちょっと待っててね」

そう言って奥に引っ込むと、コートを身につけた出来杉が靴を履いて家から出てくる。

「君達だけでやるのかい?」

「しずちゃんも誘うつもりだよ。他に誘う相手もあんまり居ないしね」

「それに、なーんか、のび太と出来杉だけだけど、俺達がボロ負けするような気がするしなぁ」

「それは完全に誤解だ。双六は運の要素が多分に絡むからな」

本当にやろうと思えばサイコロで狙った目を出せない事もないのだが、簡単にバレるイカサマだ。

「源さんの家だね。それじゃあ、行こうか」

「おっ、そうだ!ならしずちゃんちまで競争しようぜ!」

名案だとばかりにジャイアンが言う。なるほど、幾らか体も温まる。それはいい案かも知れない。

「えーっ!嫌だよ!だっていつものび太と出来杉が勝つじゃないか!」

「うるっせー!今日は俺様が勝ーつ!」

「僕がいやなんだよ!どーせ僕がビリじゃないか!」

そう言ってスネオが怒鳴る。まぁ、彼は余り運動が得意では無いからな。

「ならばハンデをつけるとしよう。私達はスネオが走り始めた10秒後に走り出すという事にしよう」

「おう!それがいいな!バントつけてやるから、真面目に走れよ!」

「ハンデだ、ハンデ。ハンディキャップ」

一応訂正しておく。

「うぅ……分かったよ!やればいいんだろ!やればぁ!」

そう言ってスネオが走り出す。私は腕時計を見ながら秒数をカウントする。
スネオは運動は余り得意ではないが、不得意と言うほどでもない。足の速度からして、丁度いい具合になるだろう。

「あと5秒だ」

極普通に立ったまま構える二人を尻目に、私は地に膝を着けて両手を地面に置いて構える。
ゴール地点は500メートルほど先にある源家だ。そこまでなら短距離走の走り方で問題ない。
私はこの年代にしては手足が長い。恐らく、将来的には180センチほどの長身になるだろう。
だからか私は歩幅を狭くして走るピッチ走法よりも、歩幅を大きくして走るストライド走法の方が速く走れる。
加えて、柔軟性を重視して体を鍛えて来たからかバネが強く、最初は遅いが、後半は爆発的といえるほどの加速が出せる。

「2、1、0!」

言葉と同時、私は地を蹴って走り出した。二人を軽く追い抜き、更にそのまま加速を続ける。
だが、加速が乗って来たのか、出来杉くんが私を追い越す。少し遅れて、ジャイアンが私を追い抜く。
しかし、地を一歩踏みしめるごとに、私は二人よりも加速していく。
100メートルほど走った所で、順位は再び逆転し、私が二人を追い抜いていた。

そのまま加速を続けていき、途中でスネオを追い抜き、ゴール地点である源家の玄関先へと到達した。
荒くなった息を整えていると、出来杉が到着し、少し遅れてジャイアンが辿り着く。それとほぼ同着でスネオがゴールする。

「私が一位。出来杉くんが二位。ジャイアンが三位。スネオが四位のようだな」

「はぁ、はぁ……さすが野比くん。速いね」

「ちっきしょー!また負けたぜ!」

「僕もうやだよ……疲れた……」

それぞれの反応を見つつも、私はチャイムを鳴らす。
暫く待つと、本人が扉を開いて此方に顔を出す。

「あら、のび太さん!それに出来杉さんも!」

「あけましておめでとう、源さん」

私は簡潔に挨拶を告げる。

「はい、あけましておめでとう、のび太さん。それで、どうしたの?」

「これからスネオの家で双六をするのだが、君もどうだろうかと尋ねに来た」

「ええ、行くわ。ママに言って来るから少し待っててね」

そう言って奥に引っ込んで行った源さんを見送り、軽く体を解して置く。

「やっぱり、あんなに足が速いのは何か秘密があるのかい?」

「カール・ルイスのストライド走法を参考にさせてもらっただけの事だ。
 彼の走りは実に参考になったよ。ピッチ走法よりもストライド走法がむいていると気付かせてくれたからね」

オリンピック放送で彼の動きは幾らでも見れた。後はそれを真似て体に染み付けるだけだ。
今では小学生ながら100メートルで15秒ほどが出せる。ちなみに前世では中学校の頃にようやくこの速度が出せた。

「何いってんのか全然わかんねぇ……」

「要するに、思いっきり足を前に出すのか、素早く足を引っ込めて走るかの違いだ。
 出来杉くんがピッチ走法、ジャイアンがストライド走法に近いものだったな」

「なるほど……つまり、野比くんは自分にあった走り方を練習してるから早いんだね。真面目なんだね」

「真面目というべきかは分からんが、まぁ、それなりに苦労して身につけたからな」

必要に駆られて身につけただけだとも言うのだが。
私が将来どうなるかわからない以上、身につけられるものは身につけていたのだ。
特に走る速度など、逃げるにも追いかけるにも必ず必要なものとなる。だからこそ、練習を重ねている。

「のび太さん、お待たせ」

セーターの上にコートを着て現れた源さんが現れる。
これでようやく揃えるべきメンバーがそろったわけだ。

「それじゃあ、さっそく僕の家に行こうよ」

「おう!そんじゃもう一回競争を……」

「余り体力を使うべきではないと思うのだがね、それに源さんにまで競争を強制するのはよくない」

「それもそうか。んじゃ、仕方ねぇ、歩いていくか」

私達は一塊になって歩き出す。前世では厳格な家庭に生まれた私には、こんな経験は無かった。
だからか、こんな事がとても楽しい。失った青春を取り戻すとでも言うのだろうか?

そんな事を考えながら歩き続け、私達はスネオの家へと向かうのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今回は繋ぎの話です。しかしなんだか筆が乗ります。

さくせん

   からだだいじに
  ニア ガンガンかこうぜ
   いろいろかこうぜ

こんな感じの勢いです。

今話でのび太の友人との接し方や距離感などを掴んでいただけると嬉しいです。
ちなみにですが、劇場版には全くと言っていいほど出てこない出来杉くんですが、本作ではよく出てきます。交友関係の違いですね。



[30693] 転生者の日本誕生1
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/11/30 13:40
「ねぇ、のび太くん」

私に声をかけるドラえもん。
私は本に目を落としたまま返事をする。

「なんだ」

「どうして君の部屋の本棚には漫画が一冊もないんだい?」

「マンガは一度読めば内容を殆ど覚えられるのでな、買って読んだ後は全て古本屋に売る」

買ったばかりなら高く売れるので、節約になるのだ。

「僕の読める本がないよ……」

別にドラえもんに読ませる為に本を買っているわけではない。

「幾らでもあるだろう。私のオススメは緋色の研究だ」

「ヒイロの研究?ええっと、ロボットアニメだっけ?ツンデレデデンの」

「君は何を言っている。アーサー・コナン・ドイル著、シャーロック・ホームズシリーズの第一作だ」

「難しいよ。もっと簡単なのないかな?」

「物置に絵本があるからそれでも読むといい」

というかそれ以外に言いようがない。

「むっ!幾らなんでも僕をバカにしすぎだよ!」

「それはすまなかったな。ならば、トム・ソーヤーの冒険がある。それでも読むといい」

小学校に入学した時に父がくれた本だ。中々の長編作で読み応えがある。

「えーっと、これ?う~ん……やっぱり難しいよ」

「もう手の施しようがないな」

「酷いよ、のび太くん……」

さめざめと泣き始めるドラえもん。私は立ち上がり、ドラえもんの肩に手を置く。
すると、ドラえもんが此方に振り向いて、何かを期待するような目線を向けてくる。

「うるさいから他所で泣いてくれ」

「のび太くんのバカーッ!」

率直な物言いが気に入らなかったのか、涙を撒き散らしながらドラえもんは何処かへと走り去っていった。
私はそれを見送り、読書に戻った。



暫く読書を進めていたのだが、唐突に母が来客だと私に告げてきた。
出迎えてみれば、そこに居たのはジャイアン、スネオ、源さんと、出来杉を除いた私の友人が全員来ていた。

「のび太!探したぞ!なぁ!心の友よ!」

「ほんとだよ!探したんだぞのび太!」

「もうほんとに何処にいるのかと思ったんだから!」

なぜか全員実に嬉しそうに言う。

「私は行方不明になった覚えもなければ、君達と数ヶ月離れていた覚えもないのだが。
 まぁ、取り敢えず上がるといい。その大荷物を担いで立ち話もなんだろう」

そう言って私は三人を招く。

三人を部屋まで招き、取り敢えず事情を聞くことにした。

「もう草むしりから配達から店番から、俺はかーちゃんの奴隷じゃないっつーの!」

まぁ、確かにジャイアンの母親は少々ジャイアンを働かせすぎに思うが、家業を継ぐなら必要なことだろう。

「家庭教師を全部の科目につけるって言うんだよ!朝から晩まで勉強!勉強!もう勉強は嫌だよ!」

将来エリートになるなら必要な事だ。私だとて高等教育の予習は毎日欠かしていない。

「もうお稽古が嫌になっちゃったの……ママは私の事をピアニストにするのが夢なの。
 私はバイオリンの方が好きなのに……暫く、ひとりになって考えてみたいの」

君の殺人的なバイオリンの音色が原因で君の母は君をバイオリニストにするのを諦めたのではなかろうか。

「つまり、総評すると君たちは家出をしたいということでいいのかね」

源さんの方は少々違うような気もするが、まぁ、概ね間違ってはいないだろう。

「そうそう、その通り!流石は心の友だ!」

「そうなんだよ!なんとかしてくれのび太!」

「どうにかならないかしら、のび太さん」

頼られるのは別に嫌ではないのだが、幾らなんでも私に出来る範疇を超えすぎているぞ、それは。
そんな事を考えていると、なぜかドラえもんが窓から入ってくる。

「ただいま、のび太くん」

「お帰り。ドラえもん、衣食住を完全に確保出来る道具はあるかね?」

「え?どうしたのいきなり?」

「家出をするのだそうだ。私としては頼られるのは嫌ではないのだが、流石に私の出来る範疇を超えている。
 未来の秘密道具とか言うのがあっただろう。それに、そんな都合のいい道具はないかね?」

「あるよ」

「あるのか……」

未来道具って凄い。

「グルメテーブルかけ、キャンピングカプセル、着せ替えカメラ」

ドラえもんが三つの道具を取り出す。赤のタータンチェックの小さなテーブルかけ。
球体に杭を取り付けたような奇妙な道具、そしてカメラを取り出す。

「このグルメテーブルかけは注文すると、どんな料理でも出てくるんだ。
 こっちのキャンピングカプセルは地面に突き刺すと大きくなるんだ。シャワーなんかもついてる。
 そして最後に着せ替えカメラ。これに絵を描いて中に入れて、相手に向かって写真を撮ると、絵の写真に着せ替える事ができるんだ」

未来の科学は予想以上だった。一体どんな技術を使えばそんなものが作れるのか。
グルメテーブルかけと着せ替えカメラは原子配列変換技術が使われているのだろうか?
食品となるものは、全て炭素から作られている。旨み成分となるアミノ酸などは酵素を用いれば精製可能だろう。
はっきり言ってどれだけの工程を経て食品が作られるのかは定かではないが、かなり高度な技術が使われているのだろう。
着せ替えカメラはグルメテーブルかけよりは難度が低いだろうか。結局のところ、原子配列変換なんてとんでもない技術ではあるが。
キャンピングカプセルは形状記憶合金だと思えばいい。地面に設置すると同時に地熱によって巨大化する、とか……無茶だな。
どう考えても既存の物理法則を無視しているとしか思えない。それほどまでに凄まじい技術が使われている。

「おお!それさえあれば!」

「家出しても暮らしていけるよ!ドラえもんって凄いんだね!」

大喜びするジャイアンとスネオ。

「だが、問題がある」

水を差すようで悪いが、言っておかなくてはならない。

「そのキャンピングカプセルを何処に使うか、が問題だ。
 いつもの空き地は近々売却されるだろうな。東京都の練馬区など、将来的に発展する場所だろう。
 それに今はバブルの絶頂期だ。恐らく数年後には弾けるだろうが、東京の地価はかなり上昇している。
 空いている土地があろうが、近々売却されるだろうな」

まぁ、一ヶ月や二ヶ月程度ならば問題はないと思うが。
しかしながら、世の中なんてそんな甘いもんじゃないのだ。大人しく家に帰ってもらおう。

「裏山もそうだ。あそこは学校も近く、駅も近く、商店街も近い。住宅地を作るにはもってこいの場所だろう。
 あそこの所有者は既に売るつもりだという噂話も聞いている。すぐにでも工事が始まるだろうな」

「つまり……どゆこと?」

「家出するにしても、土地が無くてはどうにもならんということだ」

「うぅ……だからってそんなのおかしいよ!地球が生まれた時にはそんなものなかったのに!
 後から出てきた人間が勝手に切り分けたりして!そんなの絶対おかしい!」

「そうだな。国境や身分の差など、人間が勝手に線引きをしたに過ぎない。
 地球には国境などない。冷戦、資本主義、社会主義、共産主義、全て愚かなものだ。
 世界のあるべき姿とは何なのかと問われれば私には分からないがな。地球を切り分けるのは愚かな事だと分かる」

「そんな小難しい事言ってないでさ!どうにかならないのかよ!のび太!心の友だろ!?俺達!」

「例え心の友だろうがホモダチだろうが無理なものは無理……いや、出来ない事もない……か?」

「おお!流石は心の友よ~!で、どんな方法なんだ?」

この方法はかなりの反則技だし、彼等を家に帰させる為には、はっきり言ってやりたくはないのだが……。
まぁ、たまには彼等の羽を伸ばさせてやるのもいいだろう、冬休みの小旅行のようなものだとしてな。

「ドラえもん、過去の世界に行く事は可能か?」

「それは出来るけど……どうして?」

「過去の世界ならば、未来、つまりは現在のしがらみには縛られないからな。
 加えて言えば、他に人間は居ない時代に行く事も出来る。恐竜などの居る時代は危険だが……。
 まぁ、数万年程度の過去ならば、危険な動物もそれほど多くは無く、人類も少ない時代だ」

「なるほど!タイムマシンで家出するんだね!冴えてるぅ!」

「そうだ。可能か?」

「うん!大丈夫だよのび太くん!」

「では、君達は家出の準備を整えておくといい。私は出来杉くんの家に行って来る」

そう言って私は立ち上がる。

「のび太は家出しないのか?」

「いや?ついていくつもりだ。だが、移動する年代の決定が重要となるのでな。
 君達は過去の時代についての知識は余りないだろう。彼ならば多少は知ってそうだ。一応、めぼしはつけているのだがな」

「何時なの?」

「凡そ6万から7万年前だ。アフリカ大陸から、イヴの子孫達が拡散し始めたのは凡そ6万年ほど前だからな。
 無論、旧人類のネアンデルタール人などは別の地域にも居ただろうが、現在の人類であるホモ・サピエンスの先祖ではない。
 ホモ・サピエンス・イダルトゥについては分からないが、彼等は恐らくアフリカ大陸の方に居るはずだ。
 であるからして、6~7万年前の日本ならば丁度いい時期といえる。まぁ、問題点はあるのだが……」

「え、あるかなぁ?」

「6万から7万年前といえば、丁度時期的にウィスコンシン氷期が始まったあたりだぞ」

「あ、そっか。ううん、確かに……でも、それ以外に候補があるのかい?」

「一応ある。凡そ20万年ほど前だ。その頃は温暖期の真っ只中でピークの時代にある。
 しかし、酸素濃度などを考えると、余り私達の体によいとは言えない。
 30万から40万も一応候補ではあるのだが、その時代に何の原人が居たのか現代では判明していない。
 不用意に分からない時代に行くのは危険だ。更に遡って50万年ほど前となると北京原人の居る時代も候補だが辞めたほうがいいだろう」

「なんでだ?」

「北京原人には食人の風習があったと思われている。要らん危険を冒すのはバカのやることだ。
 更に遡り70万年ごろとなると、この時代は気候変動が激しく、どんな生物が居たのか、状況がよく分からん。
 極度の飢餓状態にある動物が襲ってこないとも限らない。さらには地磁気の逆転が起きている。
 これが人体にどんな影響を及ぼすのかが分からない。不用意に危険を冒すのはやめた方がいいだろう」

「つまり、殆ど6万年から7万年前に決定してるんだね?」

「そうだ。だが、一応出来杉くんに判断を仰いだ方がいいだろう。それに、彼を誘うのもいいだろう」

「そうね。それじゃあ、私達はドラちゃんと家出した後の事を話しておくから」

「あぁ、頼んだ。行く場所、そして何をするのかなど決めておくといい」

私は部屋から出ると、出来杉くんの家に電話をかける。
彼の部屋には彼専用の電話があるので、彼以外が取る心配がないらしい。

『はい。もしもし。出来杉です』

「野比だ。出来杉英才くんで間違いないだろうか」

『あぁ、野比くん。間違いないよ。どうしたんだい?』

「この間話しただろう?ドラえもんのタイムマシンで過去の時代に行く事になったのだが、君も来ないかね?
 予定では6万から7万年ほど過去の時代に行く事になるのだが、本決まりになっていない。そこで君の意見も仰ぎたいのだが」

『過去に行くのかい!?いくいく!絶対行くよ!すぐ行くから待ってて!』

彼にしては珍しく興奮した声音だ。すぐさま電話が切れてしまう。
そう言えば、彼は学術的好奇心が旺盛な少年だったな。過去に行くと聞いて私も興奮しているのだ、無理もない。
そんな事を考えながら、玄関先で本を読みながら待っていると、チャイムが鳴り響く。
予想通り走って来たのだろうな、などと思いながらもドアを開くと、そこには息を切らしている出来杉くんが居た。

「やぁ、野比くん!つい走って来ちゃったよ!」

「まぁ、取り敢えず上がるといい」

先程の三人と同様に部屋に招き入れる。

「早かったな、のび太」

「出来杉くんが来てくれたのでね。さて、話は纏まったかね」

取り敢えず、先程まで座っていた場所に座る。

「おう!取り敢えず、俺達の楽園を作る事にしたんだ!」

「ゲームセンターやマンガ図書館!」

「レストランに、ケーキ屋!モチロンどっちもタダ!」

「湖のほとりを一面お花畑にするの。昼は虹がかかり、夜はオーロラが照らす……そんな場所を作りたいわ」

「ネズミが居なくて、ドラ焼きとお餅が食べ放題なとこ!」

四人の意見を聞いて頭を抱える。

「余りにも俗物的過ぎるぞ君達……折角過去の世界に行くのだから、過去の世界でしか出来ない事があるだろう。
 地質調査だとか、原生動物の調査だとか……まぁ、そんなもの私以外にやりたがるのは少ないだろうが……。
 源さんの願いはらしくていいな。私も賛成しよう。幻想的な空間は私も作りたいと思っていたところだ」

「のび太さんも?」

「あぁ。一面の鈴蘭が咲き乱れる丘など作りたい所だ。そうなるとヴァルキリーでも作りたい所だ。人間なんぞ作れるものではないが」

「できるよ?」

「出来るのかね!?未来の人道は一体どうなっている!?」

クローン技術がそう簡単にできるとはどうなっている?しかも、出来るということは、今まさにその技術が使える道具があると言う事だ。
作るなら名前はプラチナかレナスにして……でなくてだな、人間を作るのは人としてどうかと思うし……。

「まぁ、取り敢えずは、向かう年代についての考察を重ねなくてはならない。
 君達は作るに当たって、どんなデザインにするのか、どんな場所に作るのか、そう言うイメージでも妄想しておくといい。
 さて、出来杉くん。先程話したとおり、行くのは6万から7万年ほど過去に行く事にしたのだが、意見はあるかね?」

「う~ん……その頃だと、丁度氷河期が始まったあたりだよね?寒くないかな?」

「一概にどうとは言えない。しかし氷河期であるのは事実だ。
 それ以外の年代は不確定要素が多く、余り移動に適さないと判断したのだが」

「僕もそう思うよ。過去に行き過ぎると、原生動物が多くて危険だろうし。
 最初の人類が発生した、300万から500万年前はどうかな?」

「その間に別種の人類が生まれていないとは限らない。不用意に過去に影響を与えるのは危険だ。
 加えて言うと、その人類がどれほど範囲を広げているのかなど、今はまだ詳しく分かっていないからな。
 無用な混乱を招き、人類を絶滅させたなどと言うことがあっては、今の私達が消える可能性もある」

「う~ん……じゃあ、いっそのこと、生物なんか殆ど居なかった古代に行っちゃうとか?」

「酸素濃度が高すぎて酸素中毒になりかねない。却下だ。6550万年前の隕石落下後に気候が現代に近づいた時代はどうだろうか」

「その後に生まれた生物を一匹でも減らしちゃうと、後に何か大きな影響を与える可能性が高いよ。
 かなり生物が減った頃だろうし、地球全体に塩害が広がってるんじゃないかな」

「それもそうだな。馬鹿な事を言った。すまない。やはり、6万から7万年前が丁度いい時期ではないだろうか」

「そうだね。僕としては7万年くらい前を押すよ」

「私もだな。……はっきり言ってこの議論は必要なかった気がする」

「僕もそんな気がするよ」

私と出来杉くんは笑いあうと、目を閉じて空想をしていた四人へと目線を向ける。
ジャイアンの口元からよだれが垂れている……汚い……。
私は手を叩き、四人を空想の世界から引き戻す。

「向かう時代が決定した。7万年前だ。気候については、ドラえもん、何とかしてくれたまえ」

「あはは。分かったよのび太くん」

「それでは、早速7万年前に向かう事としよう。準備はいいか?」

「おう!」

「速く行こうよ!」

「大丈夫よ」

「よろしい。ならば諸君、派手に行こう」

言いつつ、私は机の引き出しを開くと、そのままタイムマシンへと飛び乗る。
私に続いてドラえもんたちがタイムマシンに乗り込む。

「時代設定、7万年前!」

タイムマシンが動き出す。ああ、これから、私達は過去の時代に行くのだ。
胸の高鳴りが抑えきれない。ドラえもんは確かに役立たずも同然だが、私達にこんな素晴らしい夢を与えてくれる。
そんな事を考えた直後、唐突にタイムマシンが揺れる。

「な、なんだ!?何が起きた!?」

ジャイアンが騒ぎ立てる。もしかして、私がドラえもんが夢をくれる、などと考えたからだろうか?
失礼な事を考えていると、タイムマシンが合成音声で私達に、時空乱流とやら発生した事を告げる。

【引キ込マレタラ、二度ト戻レマセン。全速力デ突ッ切リマス。シッカリ捕マッテ居テ下サイ】

合成音声が終わると同時に、タイムマシンが凄まじい速度で加速を始める。
そして、数秒ほどの加速の後にタイムマシンが平時の速度に戻る。

【逃ゲキレマシタ。デスガ、マダ時空間ガ不安定ノヨウデス。時代設定ヲシ、移動ヲ開始シテクダサイ】

「う、うん!7万年前の日本!急いで!」

タイムマシンが再び動き出す。数秒もしないうちにタイムマシンの動きが止まり、私達の目の前に、真っ白い円が現れる。
その先には、何処までも広がる草原と、木々の生い茂る山々。人など何処にも居ない世界。

「ワ~イ!」

「やった!家出だ家出だ!史上最大の家出だ!」

「素敵!緑が凄い鮮やか!空気が美味しいわ!」

「広い日本!僕達の日本だ!さあ!ここに僕達だけのパラダイスを作ろう!」

私達は過去の日本へと降り立った。これは、ユーリ・ガガーリンの言葉でも引用したくなるところだな。
言ってみるならば、過去の日本は若草色のドレスを纏った淑女のようであった……かね。


――――――――――――――――――――――――――――――

どうしよう、書くのが楽しく止まらないぞ。テンソン上がってきた。
とりあえず、物語の根幹となるのは劇場版作品です。
どれほどの数の劇場版作品をやるのかは分かりません。
手元にあるのは、日本誕生、恐竜、鉄人兵団、創生日記だけです。
ですので、少なくともその四つはやると思います。

11/30 07:51投降
11/30 13:41修正



[30693] 転生者の日本誕生2
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/12/23 18:47
「ここが過去の日本!寒い!」

実に嬉しそうに言う出来杉くん。こんなに喜んでもらえるならつれてきた甲斐があるというものだ。
私は周囲を警戒しつつ、そこらに落ちている木を拾い集め、その中からよく乾燥して居るものを選んで、細いものを下に、隙間を作って並べていく。

「焚き木かい?僕も手伝うよ」

「あぁ、頼む。火種は私が持っている」

出来杉くんに手伝ってもらい、私は焚き木をくみ上げる。
枯葉などの燃えやすいものと、火の点き易そうな細い枝を乗せる。そして懐からライターを取り出して擦るが火がつかない。
そう言えば、風に強いからとジッポーライターを買いはしたが、これにオイルを補充したのは何時が最後だったろうか?
いつでも使えるようにしなくてはと反省しながら、私はナイフを取り出す。常にこっそりと持ち歩いているものだ。

「ナイフなんて持ち歩いてるのかい?」

「備えあれば憂いなしと言う」

ちなみに、日本沈没と言うマンガを見て思い出してから持ち歩くようになったものだ。
それまではそう言う道具を持ち歩く事なんて全く考えていなかったからな……。
さておき、ナイフの柄の下側を回すと、そこが外れる。柄が中空になっていて、そこにものを入れられるのだ。
するりと飛び出してきた銀色の棒と、細長い石。そして、銀色の棒に巻きつけられていた麻紐。

「なんだいそれ?」

「マグネシウムを円形に形成したものと、火打ち石だ。そしてこちらは見ての通り麻紐だ」

「なるほど!マグネシウムは燃えやすいし、燃えればかなりの高温になる!
 麻紐は火口にするんだね?例え濡れても、マグネシウムはかなりの高温だから、何度もやれば燃える!」

「その通りだ。問題は私がこれを使うのは初めてだと言う事だな」

「え」

言いながらもマグネシウムをナイフで叩く。まずはこれから直接飛ぶ火花でつけようとしているのだが……難しいな。
私は大人しくマグネシウムをナイフで削って粉状にし、それを枯葉の上に乗せる。
そして、火打ち石をナイフの背で叩き、それから発生した火花を粉状のマグネシウムへと飛ばした。

「おっと」

一気にマグネシウムが燃え上がり、枯葉に着火するどころか小枝にまで着火していた。
その燃えた小枝を、既に組んである焚き木の細い枝に当てて火をつける。

「よしよし……燃えて来たぞ」

「いやぁ、驚いたよ。こんな発想もあるんだね」

いや、極普通に私の前世ではメタルマッチとして商品化されていただけだ。
アウトドア用品店に行けば売っているはずだからな。
そんな事を考えていると、向こうで騒いでいた面々が焚き火がある事に気付いて戻ってくる。

「ふ~、寒いなぁ。どーにかなんないのかよ、ドラえもん」

「うん。ちょっと待ってて。さて、それじゃあ早速、君達の描いた理想の未来を作ろう。
 近くに湖もあるし、お誂え向きに岩肌が出てる山もあるしね!」

確かに、あの岩壁を掘る事が出来れば堅牢な拠点を作ることが出来るだろう。
水質調査をして、あの湖が飲める水ならば完璧だな。

「こう、野性的で冒険的なことがしたいぞ!」

「そうそう!原始的な感じの!」

そう言ってスネオとジャイアンが再び草原の方へと走り始め、ジャンプしたり、胸をドラミングしたりしている。
元気なものだな、などと思っていると、ジャイアンとスネオのすぐ近くに、巨大なサイらしきものが居る事に気付く。

「チッ」

刺激するのは危険だ。身振り手振りで戻ってくるようにしてみるが……ダメだ、気付いていない。
溜息をつくと、こっそりとスネオとジャイアンの方へと足早に移動する。

「のび太!のび太もそう思うよな!」

「そうだろ!こう、野生動物を狩ったりとか!そう言うことをやってみたいと思うだろ!」

「バカ!でかい声を出すな!」

言ってから、もう遅いと直感する。ジャイアンとスネオの背後に居る巨大なサイらしきものが、身を沈め走り出そうとする。

「死にたくなかったら横に飛べぇ!」

全力で叫ぶ。その血気迫る表情で切羽詰った表情だと理解したのか、ジャイアンとスネオが言われたとおりに横方向に走り出す。
そして、二人の背後に居たサイは、二人に掠る事も無く此方へと走り出してくる。
私も二人と同じように横に飛んで逃げ、重りのつけた糸を飛ばし、サイの耳に括りつけようと試みる。

「失敗したか」

まぁ、動くもの相手に練習なんてしてないので当然と言えば当然なのだが。
私は特に落胆する事も無く、此方へと方向転換をして再び走って来たサイの突進を避ける。
速度はそれほどでもない。とは言っても時速50キロほどはあるのだが。
それでも猛スピードの車よりは遅いし、足がすくんで動けなくなったりしなければ、十分に避けられる。
しかし、タイミングが早すぎると、サイに方向転換されてしまい、そのままぶつかられる。タイミングが遅ければ……説明するまでもない。

「中々スリリングだな……!」

しかし、足がすくむ事はない。死ぬかもしれない恐怖に慄くのは、結局のところ死を招く行為だ。
一度死んだ私が言うのだ。間違いない。猛スピードで突っ込むトラック相手に何も出来なかった昔の私は心底馬鹿だったといえよう。
しかし、どうする。こうして避ける為の集中力を保つのも長くは持たない。よくて5分が限界だろう。それ以上は体力を消耗し過ぎて動けなくなる。

速くなった呼吸を自覚する。嫌な汗が背中と首筋を伝う。全く、嫌な気分だ。

その最中、唐突に私の右前方に紅い布を手に持った人形が飛び出してくる。
その人形は大仰な身振りでサイを挑発し、オーレ!などと叫んでみせる。まるで闘牛士だ。
サイはそちらに興味を引かれたのか、その人形を追いかけていってしまう。

命拾いした事を自覚したとたん、足の力が抜けて、そこにへたり込んでしまう。

やれやれ、どんな運命でも乗り超える覚悟を決めたはずなのに、情けないものだと自嘲気味に笑う。
そして、私は此方へと走り寄ってくるドラえもんに手を振るのだった。

一旦場所を移した私達は、軽率な行動を取ったジャイアンたちに説教をしていた。

「いいか、諸君。君達の考える日本とは平和なものかもしれないが、過去のこの時代は違う。
 今のようにサイも居れば、凶暴な野牛も居る。言っておくが時代劇に出てくる柳生十兵衛ではないぞ。
 オオカミやイノシシ、オオヤマネコ、トラ。そんなものが平然と闊歩しているのがこの時代の日本だ」

「他にもワニも居たらしいんだ。サメのことだったか、正真正銘ワニだったかは忘れたけど、危険な動物が水辺に居るのは間違いないよ。
 だからみんな、不用意にあちこち歩き回ったりしちゃダメだよ。いいね?」

「ちょっとの怪我なら治せるけど、幾ら未来の道具でも死人を蘇らせる事は出来ないんだ。分かったらみんな気をつけるんだよ」

私と出来杉くん。そしてドラえもんの説教を聴いて、二人がしゅんとする。

「さてさて、そこでこれ!原始生活セット~!」

そう言ってドラえもんが取り出したのは、獣の皮らしきもので出来た、肩掛けタイプの衣服と、石器で作られた槍だ。
しかし、槍を持ってみるとやたらと軽い。材質は石でははないようだ。毛皮のほうは本物に見えるが……。

「この槍、バカに軽いな。このボタンはなんだ?」

そう言ってジャイアンがスイッチを押すと、バチッ!と言う音がして、光のようなものが発せられ、一番近くに居たスネオに命中した。
それを喰らったスネオはそのまま倒れこむと、白目をむいて気絶する。胸が動いているから、生きてはいるのだろう。

「ショックスティックだよ。気絶させるだけで死んだりはしないから大丈夫。すぐ目を覚ますよ。
 そして毛皮の服はエアコンスーツ。温度調節もしてくれるし、目に見えないバリアーで体の周りを守ってくれるんだ」

「ほう。便利だな。私達はこれを着て生活する事ができるというわけか」

早速服を脱いで、下着だけは脱がずにそれを着用してみる。
着用してみると、確かに暖かい。自分の周囲だけ、ストーブで温められた部屋のようだ。

「確かに暖かいな。君達も着てみるといい」

「不思議だね。これ一体どんな理屈で暖めてるんだい?」

出来杉くんも不思議そうに言いながら着替える。
ジャイアンと、ついさっき起きたばかりのスネオも着替え、源さんは茂みに隠れて着替えたようだ。

「かっこいい!ほんとの原始人みたいだ!」

「ガホガホ!ウホウホッ!」

ふざけて原始人の真似をするジャイアン。

「さて、今日から僕達はここで暮らすわけだけど……まずは家を作らなくちゃね」

「ならあちらの崖際に作るのがいいだろう。太陽の位置からすると、恐らくあちらが南だから、南東向きと言う事になる。
 眺めも恐らくだがよさそうだ。湖の際に花畑を作れば、湖が見えるからいい眺めになるだろう」

「洞穴を作るのがいいね。石器時代らしくていいじゃない」

「岩盤が固そうだが、まぁ、そこらへんは秘密道具でなんとかしてくれるのだろう?」

「フフフ、その通り、のび太くん」

ここぞとばかりに胸を張るドラえもん。

「さて、あそこに移動するのは大変そうだからね。これを頭につけて」

取り出したのは、黄色い竹とんぼの様なもの。これはなんだと思っていると、ドラえもんが頭につけて、空中に飛び上がる。

「スイッチを入れて飛ぼうと思えば飛べるよー!」

全体的にどうなってんだ。

いやいや、本当にあのサイズでどうやって飛ぶんだ!?風を発生させるとしたら、頭の皮が捲れ上がって剥がれるぞ!?
反重力装置?バカを言え!反重力だとしたら首が引っこ抜けるに決まっているだろうが!羽のサイズは頭より小さいんだぞ!
い、いや、慣性制御と反重力装置をあわせれば…………考えても頭が痛くなるだけだ。やめておこう。未来道具は理不尽だ……。

そんな事を考えながらも、恐る恐る竹とんぼを頭につけて、スイッチを押してから飛ぼうと考える。
すると、竹とんぼが軽快な音を立てて回り、私は空中に浮かび上がる。身一つで浮かび上がっていると言うのに、重力に引っ張られる感じはない。
加えて言えば、腰や首などにも全く負担は感じられず、軽快に空中を飛びまわれる。やはり未来道具は理不尽だ。

他の面々は不思議そうな顔をしながらも、空を飛んだことで歓声を上げる。
出来杉くんも同様だ。どうやって飛んでるんだろうと最初は不思議そうにしていたが、今では喜んでいる。

いやまぁ、私だとて、身一つで飛べることに喜んでは居るのだが……幾らなんでもありえないだろう?
……まぁ、未来道具は理不尽だと言う事で一度は納得したのだ。これ以降、未来道具については詳しく考えないようにしよう……。

さて、私達は南東向きの崖の岩場に到着すると、そこに着地する。
竹とんぼ――タケコプターという名前だそうだ――は各自持っているように言われたので、ありがたく懐に納めさせてもらった。

「それじゃあ今度は……らくらくシャベル~!」

自信満々にドラえもんが取り出したのは、極普通のシャベルだ。特に何か違うと言うことはない。
まぁ、理不尽な未来道具の事だ。シャベルが変形してドリルになったり、あまつさえ、天を突くドリルになっても私は驚かない。

「使ってみなよ」

私に手渡されたので、壁に向かって投げてみると、ざっくりと根元まで埋まってしまった。
予想外に普通だったな……いや、十分にありえないのではあるが……高周波ブレードが使われてるとか言わないだろうな?

「なんで投げるのさ……まぁ、いいけど。他にも色々あるよ。らくらくノコギリに、らくらくツルハシ、らくらくオノ」

「面白そう!僕にもやらせて!」

「俺に任せろ!」

挙ってシャベルなどのらくらく道具を手に取るジャイアンとスネオ。
本当に簡単に岩壁を掘りぬき、さらには数百キロはありそうな土砂を背後へと放り投げている。肉体強化機能まであるのか。

「ねぇ、野比くん。未来道具って全体的にどうなってるんだい?」

「出来杉くん。諦めろ。私はもう諦めた」

私に尋ねてきた出来杉くんに、私は諦観の篭った笑顔で答えた。
君よりも未来の知識を知っているのに全く分からんのだ。寧ろ知識があるから余計にワケが分からん。

「力仕事は俺の仕事だ!だから俺がやる!文句あっか!」

ジャイアンが恐怖政治染みた事をやって、力仕事を引き受ける。まぁ、建築関係は私は御免なので有り難い限りだ。

「ならば、ジャイアンには建設大臣をやってもらうとしよう。施工技師も兼任だ」

「おお!何か凄そうだな!任せろ!」

「さて、他の仕事だが……源さんの言っていた花畑やらは、他のものが手を出すよりは本人がやったほうがいいだろう。
 ドラえもん、おあつらえ向きの道具は何かあるかね?」

「うん。あるよ。花園ボンベ!」

取り出したのは確かにボンベだ。側面に花の絵が書いてある、チューリップ、ヒマワリ、キク、タンポポ、スズラン。
色々と種類があるものだな。後でスズランのボンベを使わせてもらおう。私は鈴蘭の丘を作るんだ……。

「ならば源さんは……環境庁大臣……いや、長官だったか。環境庁長官としよう」

「ええ!やらせて!」

源さんは早速ボンベを受け取ると、タケコプターで飛んでいった。

「ねぇドラえもん!僕の仕事は!?」

「農林大臣かな?」

言いながら、今度は大きな缶を取り出すドラえもん。ちなみに、今は水産関係の行政が重要視されていないので、今は農林省と言う名だ。
私の記憶が確かならば、私の前世では1979年に農林水産省に名が変わったはずだ。

「畑のレストラン~!
 料理の種でね、これを蒔いて置けば、一年間何時でも好きな料理が食べられる」

「ほう。素晴らしい道具だな。未来の世界には食糧問題などないと見える」

「これぼく!僕がやる!いいだろ!のび太!」

「あ、あぁ。私は植物の世話は余り好きではないしな」

奪い取るように畑のレストランとやらを手にとって飛んでいくスネオ。

「僕と野比くんは何をすればいいんだい?」

「う~ん……出来杉くんは、みんなのところで指示を出してくれるかな。洞穴の部屋割りとか、花畑の見栄えとか。
 のび太くんは……あ、そうだ、この広い世界に僕達だけって言うのもさびしいし……動物でも作ろうか」

そう言ってドラえもんが取り出したのは数個の黒いプラ製らしき卵と、無色透明の液体が入ったビン。ラベルには動物の絵が描いてある。

「これはもしや遺伝子アンプルかね。そして、こっちの卵で孵化させる……のかね?」

「うん。クローニングエッグと動物の遺伝子アンプルだよ。アンプルを入れるときのイメージで種類が変わるからね。
 犬のアンプルで、フランダースの犬のゴールデンレトリバーとか、ブルドッグとか、色々作れるんだ」

「そうかね。どうでもいいが、フランダースの犬のモデルはゴールデンレトリバーではなくグレートピレニーズだ。
 まぁ、ブービエ・デ・フランドルという犬種と言う説も濃厚だし、私としてはブービエではないかと思っているが」

「そうなの?まぁ、どうでもいいよ。はい」

適当だな。などと思いながらも、様々な種類のアンプルを籠に詰め、同様にクローニングエッグも籠に詰めて移動する。
川辺がいいだろう。生まれたばかりの動物がどんな状況かは分からないが、水が飲める環境がいい。
暫く飛ぶうちに丁度よく川辺を見つけたので、その川辺に着地して、川を体の右側に向けた状態で作業をする事にする。
周囲を常に警戒出来れば、草原側からも、水中からの襲撃にも対応出来るというわけだ。

「さて……どんなものを作るか……まぁ、無難に犬にするとしよう。
 いや、待てよ?別に一種類だけとは言われなかったな……理不尽な未来道具の事だ。適当にやってもどうにかなりそうだ」

鳥類のアンプルと馬のアンプルを取り出すと、それを一つのクローニングエッグに抽入する。
イメージは気高く、雄々しく、それでいて心優しい翼持つ白馬。ペガサスだ。

「うむ……」

ぱちんっ、と言う音がして、クローニングが始まる。三十分ほどで生まれるそうだ。
次にクジラのアンプルを取り出して、それに加えて馬のアンプルと魚類のアンプル。その三つを同時に抽入する。
想像するのは先程と同じだが、それ以上に雄々しく、気高く、誇り高い白馬だ。
再び、ぱちんっ、と言う音がしてクローニングが始まる。

「これは中々面白いな……どんどん行って見るとしようか」

私は様々なアンプルを取り出していくと、新しい生物を造るのに没頭していくのだった。
人道?作ってるのは人間じゃないから関係ない。それに科学の進歩の前には少々の非人道的行為も許されるって、どっかの女子中等部のハカセが言ってた。

――――――――――――――――――――――――――――――

取り敢えず2話と3話を統合

2話

2011/11/30 08:46 投稿

3話

2011/11/30 10:04 投降
2011/11/30 13:24 修正

2011/12/23 18:48 統合



[30693] 転生者の日本誕生3
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/12/23 19:10
「素晴らしい。これこそまさにファンタジーだな」

生まれた様々な動物。鳥類のアンプルと馬のアンプルから生まれた、純白の白馬、
鳥のほうは白鳥。馬のほうは白馬でイメージして、生まれたのは翼を持つ白馬だ。つまりはペガサス。
バッチリと空も飛んでいる。未来道具ってやっぱり凄い。私はそう思った。

「お前の名前は……うむ、お前はトレミーだ」

言いながらトレミーの頭を撫でつつ、その直後に作った馬の頭を撫でる。
クジラのアンプル、魚類のアンプル、馬のアンプル。その三つから生まれたのは馬が主体の動物だ。
クジラのアンプルではイッカクをイメージし、馬では白馬、そして魚類のアンプルではデンキウナギをイメージした。
結果として生まれたのは、体に紫電の電光を走らせる馬。ちなみに名前はイクシオン。

「よしよし……次はどっちが生まれるかな?」

私の目の前に転がる二つのクローニングエッグ。それを見つつ、どっちが先に生まれるのかを心待ちにする。
そして、先に動き出したのは右。こっちはなんだったか……まぁ、生まれれば分かると、開くのを心待ちにする。

ぱかっ、と軽い音を立ててクローニングエッグが開き、その中から、鱗に覆われた細長い胴体を持つ生物が現れた。
魚類、トカゲ、ワニ、シカの四つを使った龍。私のイメージどおりに、体の表面に硬い鱗がビッシリと生えている。

更に続けて残っていたクローニングエッグも動き出す。こちらの中身は予想がついている。
そして、クローニングエッグが開くと、私の予想したとおりに、赤い毛皮に覆われた生物が飛び出した。
ライオン、コウモリ、サソリ、サメ、四種類のアンプルを使用して生まれたマンティコアだ。

「もしや私は天才なのではないか?まさかアンプルをこんな風に使う奴が居るとは予想しまい」

自慢げに言いつつ、生まれてきた生物達の頭を撫でてやる。
私になついてくる四種類の生物。うーむ、名前は一体どうする。悩むな。

「よし、リュウのお前は、王小竜(ワン・シャオロン)だ。今はまだ小さいが、将来は龍の王である天竜になれるように頑張れ。
 けど、うざったい策謀家になって、きっと銀髪の美少女だろう子を自分好みに育てて、王大人(ワン・ターレン)なんて呼ばせるなよ。
 そして、マンティコアのお前は……ペトルーシュカだ。ストラヴィンスキーの三大バレエ音楽の一つ……だったはずだ」

殆ど適当につけたにも等しい名前だが、喜んでいるようなのでよしとしよう。
ちなみに王小竜はACfAというゲームから、ペトルーシュカは人呼んで紫電掌なゲームからとった。
さて、生まれたペット達と遊んでいてやると、此方へとドラえもんがやってきた。

「早速作ったんだね。それで……ええっと、それなに?」

「ペガサスとユニコーン、そして龍とマンティコアだ。マンティコアは三列ある歯をどうやって再現するかで悩んだが、サメの歯で無事再現された」

「うう~ん……この動物、後で空想サファリパークに送らないとね……」

「なに!?なぜだ!?」

「架空の動物でしょ?架空の動物はどの時代にもおいて置けないんだ。だから、空想サファリパークに送らないといけないんだ」

「むぅ……残念だが、仕方ないのか……」

「まぁまぁ、今はまだ一緒に居られるからさ。ほら、これ、ぐんぐん育つ万能ペットフード、グルメン。
 これを食べさせれば、普通の何倍の速度で成長するよ」

「ほうほう、それはそれは。早速食べさせるとしよう」

ドラえもんが去って行くのを見送ると、ペットフードをペット達の前に出してやる。すると喜んで食べ始める。

「どんどん食べろ。そして美少女になって恩返しに来てくれ」

そう言えばこいつらの性別は特に考えていなかったが、性別は何になるのだろうか?
別種の動物を組み合わせたから、ハイブリッドカモやレオポンのように生殖能力はないのだろうか?

「ふむ、まぁ、私としては美少女になって恩返しに来てくれれば文句はないぞ。
 あ、銀髪の美少女で頼む。年齢は12~17がストライクゾーンだが±5くらいなら許す。
 あぁ、体型はスレンダー体型がいいな。ロリ体型でもいいぞ」

私はペットたちに向かって一体何を言っているんだろう。
実にバカな事を言ったと自覚し、4匹が満腹になったのを見計らい、腕に抱えて先程の場所に戻る事にする。
そして、飛び立ったところで、此方へと一人の人影が向かっているのを発見する。

「お~い!野比く~ん!」

やってきたのは出来杉くんだ。何かあったのだろうか。

「君のことだから心配は要らないと思って最後に回しちゃったよ。それで、仕事の方はどう?」

あぁ、そう言えば出来杉くんはアドバイザーのような立場になったのだったな。
そう言えば、バドワイザーが飲みたい。まぁ、この年齢では飲めないのだが……。

「あぁ、滞りなく進んだよ。ほら、先程生まれたペットたちだ」

腕の中に抱えていた四匹のペットたちを指し示してみる。

「わぁ!これはペガサスにユニコーン、それから東洋タイプのドラゴンに、マンティコアだね!」

「流石だな。全て把握していたか」

「ファンタジー小説も好きだからね」

そんな事を話しつつ、出来杉くんと共に先程の岩場へと戻る。
岩場の周囲には大量の土砂が詰まれており、かなり深く掘っただろう事が伺えた。仕事は済んでいるのだろう。
奥へと入っていくと、それなりの広さのエントランスホール。
そこから6つの個室、共用のトイレと、キッチンがあった。

「こっちはなんだろうか」

梯子が備え付けられているところを登ってみると、壁にぽっかりと小さな穴が開いている。

「ははぁ、なるほど。ここはきっと見張り台だよ」

「なるほど。これは確かにロマン溢れているな」

確かに見張り台と言うとロマンがある。見張り台のロマンについて、軽く話していると、エントランスホールのほうで人の声がし始める。
他の面々も戻ってきたのかと思いながら覗いて見ると、私と出来杉くんを除いた面々がそこには集まっていた。

「あ、のび太くん!もう戻ってたのかい?」

「あぁ。ペットたちにエサをやるだけだったからな」

「おう!のび太!どんなペット作ったんだよ!」

私はジャイアンの言葉に応じて、腕の中のペットを見せてやった。

「今はまだ小さいが、そのうち大きく成長するはずだ」

「素敵!ペガサスにユニコーンね!ねぇ、のび太さん、名前はなんていうの?」

「ペガサスがトレミー、ユニコーンがイクシオンだ」

「おお!こっちはドラゴンか!カッコイイな!のび太!こっちはなんていうんだ!?」

「龍は王小竜。此方の赤いのはマンティコア。名前はペトルーシュカだ」

「へ~。のび太、結構いいセンスしてるじゃん」

各々の賞賛の言葉を少々照れくさく感じつつ、私はこれから何をするのかとドラえもんに尋ねた。

「うん。このミニチュア家具で、気に入ったものを部屋に持ってて。それからビッグライトで大きくするから」

「またとんでもなく理不尽なものが出てきたな。未来の世界はいい加減物理法則に喧嘩を売るのはやめてくれ」

そして完勝しないでくれ。

「???」

「頼むから不思議そうな顔をしないでくれ、ドラえもん。私の頭がおかしくなったのかと思う」

「変なのび太くん」

変なのは貴様ら未来人だと声を大にして言いたい。
さておいて、考えない考えないと言いながら突っ込んでしまった自分を恥じつつ、私はミニチュア家具を物色する。
まぁ、机とベッドがあれば他には特に必要なものはあるまい。

それらを部屋に持って行って設置し、やって来たドラえもんがビッグライトとやら大きくする。
本当にもう未来の世界はどうなってんだ。国家で所有すべき核兵器の類を個人で所有していても私はもう驚かんぞ。

さて、それからエントランスホールへと行くと、エントランスホールには長方形のテーブルが置かれていた。
丸太らしきもので出来た椅子があり、これに座るようだ。なるほど、食堂も兼ねた場所にすると言う事か。

「しかし、これはなんだね。私はラーメンを注文したはずだが」

私の目の前に巨大なカブらしきものがあった。何処からどう見てもラーメンには見えない。

「俺はカツ丼を注文したはずだぞ!」

「私はスパゲッティが食べたかったのに……」

「僕はカレーライスを注文したはずなんだけど……」

「こんなでっかいダイコンどうやって食べるんだよ!」

めいめい文句を言う。まぁ、文句も言いたくなる。なにが悲しくてダイコンなんぞ生で食わなくてはならんのか。

「まぁまぁ!ほら、ここから簡単に割れるから」

そう言ってドラえもんがダイコンを真っ二つにする。中空になっていた中には、香ばしい匂いをさせているカレーとごはんが入っていた。

「ドラえもん」

「え?なに?」

「私はもう突っ込まんぞ」

「なにが?」

「いや、分からないならそれでいいんだ」

私は汗を後頭部を掻いた後に、自分の手元にあったダイコンを割る。
私が食べたいと思っていた醤油ラーメンだ。

「このフレンチセット美味しい!こりゃあ美味いココアだ!」

先程までブスくれていたスネオも機嫌を取り戻したようだ。
私達は機嫌を取り戻すと、食事を取りながら談笑を始めるのだった。

「のび太さん、綺麗なお花畑が出来たの。それに、のび太さんが言ってた鈴蘭の丘も作ったのよ」

「それはそれは。後で是非とも見に行こう」

「僕の作った畑はかなり大きいぞ。町の人全員連れてきても食べれるくらいだよ」

「うん。確かにあの畑はかなり大きかったね。骨川くんの努力の賜物だよ」

「ここは住み心地いいだろ!何しろ俺様が作ったからな!」

そんなこんなで食事を終えると、私達は岩場でチェアを敷いて、雄大な自然を眺めながら談笑を続けた。
遠くのほうで雨が降ったのか、遠くのほうで虹がかかっていた。かなり大きな虹で、かなり綺麗に発色している。

「綺麗な虹……」

「ほんとにここは楽園だね」

「しあわせだなあ……」

それぞれが感慨深げに周囲を見渡しながら呟く。

「こうやって大きな自然に包まれると、小さな悩みなんかどうでもよくなっちゃうわね」

「そうだなぁ……この辺で一度家に帰ってみるのもいいかもな。かーちゃんがちょっと怖いけど」

「今のうちならそう酷く怒られないよ。僕、ママのバカって言って飛び出してきちゃったし……謝らないと」

源さんの言葉に私達は同調すると、一度もとの時代へと戻る事となった。
どうせ来たければ、またすぐにでも来られるのだ。

元の時代では既に夕暮れ時となっていた。夕焼けが眩しい。

「うへぇ。排気ガス臭いや」

「まぁ、すぐに慣れるだろう。人間は良くも悪くも適応する生き物だ」

そんな事を言いながら家路へと着いた面々を見送ると、私は家へと戻った。
滞りなく夕食を済ませ、風呂に入り体も清めると、後は寝るだけとなる。

眠る前に少しだけ本を読んでいたところ、唐突に近い所で咆哮が上がった。
犬のような、それでいて、何故か人間のように感じられる咆哮だった。

その咆哮は暫く続いたが、やがて闇に溶けるように聞こえなくなった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

取り敢えず、日本誕生の序章とでも言うべき部分まで書き終えました。
我ながらよく一晩でここまで書けるものだと感心してしまいます。

11/30 11:45投降



[30693] 転生者の日本誕生4
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/12/23 19:11
「家出なんぞ、一片にやらかすから大騒ぎになるのだ。一日一時間コツコツとやれば、立派な家出マスターになれることだろう」

「それなんか違う気がするなぁ……」

まず間違いなく違う事を理解しながら言ってるので、気にしない事にしておいてくれ。

「でもまぁ、騒ぎにならないのは確かだね」

「それから、宿題とかの用事を済ませちゃってからのほうが楽しく家出出来るわよ」

私の記憶が確かならば、家出とは楽しくやったりするものではなかったと思う。

「そう言えば、家庭教師が云々の話はどうなったのだね、スネオ」

「あぁ、それ。まぁ、今までどおりになったよ。英語なんか流石に難しいからね。僕、英語なんてPTAくらいしか知らないし」

ほう、かなり先のことまで予習しているのだな。将来は医者になるのだろうか?

「ペアレント・ティーチャー・アソシエーション。まぁ、要するに子供教育に関する団体のことだね」

出来杉くんの言葉を聴くと同時に、私は背後の鉄棒に頭を叩き付けた
PTAで経皮的血管形成術の事を思い浮かべるなんて、流石にありえないだろう……。
相手が医学生とかならまだしも、スネオは小学生なのだぞ……。

「の、のび太さん?」

「……大丈夫だ、問題ない」

ウォォ、グァァ、ヌワァァ、神は言っている……ここで死ぬ運命ではないと……。
……いや、なんでもない。ちょっと某ゲームを思い出しただけだ……。

「そ、そうかい?それで、野比くん。僕は植物採集なんかをしたいんだけど、大丈夫かな?」

「あぁ……アレからドラえもんに色々と聞いたが、余り大規模でなければ問題ないそうだ。
 未来では恐竜ハントなる娯楽もあるそうだ。ただ、申請をした上で、許可の出された区域でのみ可能らしい。
 加えて、ハントしてはいけないものはマーキングされているらしく、それをハントしてしまえば、禁固数年の実刑だそうだ。
 植物採集のほうはそれほど厳しくないそうだ。余り大量に取るのは好ましくないが、一つや二つ程度ならば問題ない」

「そっか。よかったよ」

「それと、現地動物の殺傷も禁止されているが、数匹程度ならば問題ないそうだ。
 ただし、正当防衛などの緊急時に限るそうだ。未来人の手によってのみ行われる行為での狩りは禁止だ」

「そうなのか……つまんねぇなぁ」

残念そうにするジャイアンとスネオだが、君達ではヤマネコ相手に何も出来ずに食い殺されるのがオチだ。諦めろ。

さて、そこで私達は会話を終えると教室へと戻った。昼休みはそろそろ終わる頃だしな。


家に帰ると、ドラえもんがいくつかの道具を並べていた。

「何をしているんだ?」

「あ、のび太くん。お帰り。過去の世界で使える道具が何かないかなって思ってたんだ」

「ほう。その電話なぞ、どうやって使うのか非常に気になるところだな」

「これはね、何処でも出前電話って言うんだ。どんな出前でも出来るよ」

「ほ、ほう……過去の世界でも使えるのかね」

「ううん。だから仕舞おうとしてたんだ」

流石にそこまで無茶苦茶ではなかったか。
安心しながら、試しに電話を取ってみる。何の音もしないな。電話をかければいいのか?
……このダイヤルイミテーションじゃないか。動かせないぞ。

「注文する店と、買いたい物を言うと持って来てくれるんだ」

「全体的にどうなってんだほんとに……。
 なら、ドイツのゲインベルグ社のワイヤが欲しいな。太さ0.1ミリから0.4ミリまでのと、3ミリくらいのをそれぞれ50メートルずつ欲しいな。
 あぁ、伸縮性は低くて、強度が高いタイプが欲しいな。3ミリの奴は、それこそ私の体重を支えられる奴」

そう言って電話を切る。流石にそんなものまで売ってくれんだろう。
そもそも、私が言った会社は架空の会社で存在しないしな。
そんな事を思いつつ、ドラえもんに向けて何か皮肉でも言ってやろうとしたところでチャイムが鳴り響いた。
酷く嫌な予感を感じながら、下へと向かうと、そこでは赤毛の男性の対応に四苦八苦している母が居た。

「母さん……一体どちら様ですか?」

「の、のびちゃん。ママ、外国の言葉は分からないのよ!なんとかしてちょうだい!」

そう言って私を男性へと突き出す母。くっ、この人が何人かわからなくてはどうにもしようがあるまい!

「Excuse me, is there anything that I can do for you ?(こんにちは。私の家に何か御用ですか?)」

取り敢えず英語で尋ねてみる。英語が通じる人だといいが……。

「I have come here sales for wire(ワイヤを売りに来ました)」

通じた。余り英語に慣れていないような雰囲気だから、母語ではないようだが。

「…………Wats the fuck!?(何がどうなってんだ!?)」

「Do you need a wire?(ワイヤ、要りませんか?)」

「How much is it?(お幾らですか?)」

私は未来道具の理不尽さに頭痛を覚えつつも、欲しいと思っていたものなので、迷う事無く値段を聞いた。
提示された金額はかなりの高額だ。全て買うなら10万円に負けると言ってくれたが……。

「I'll take all them.(全部買います)」

今まで溜めに溜めたお年玉を放出して買うことにする。意外と親戚の多い家系なので、お年玉は結構貰っているのだ。
念のために溜めておいたものだったが、今ここで使うべきだろう。使わずしてどうする。

「Yen ok?(円でいいですか?)」

「That's fine.(問題ないよ)」

と言うわけなので、貯金箱に突っ込んでおいたお金を使って購入した。
この時代、10万円と言うと、2010年ごろの物価で30万近い価値だ。我ながらよくそんな金があったものだと感心する。
まぁ、毎年お年玉に2万か3万ほどはもらえるので、それほどおかしくもないのではあるが……実際、貯金箱には少しお金も残ってるし。

「なんだったの?あの人?」

「セールスマン。欲しいものだったから買ったよ」

言って、手の中のワイヤーをお手玉してみせる。
後で、自動で巻き戻し出来るリールを作って、重りも手に入れないとな。


「ドラえもん。工具持ってるかね」

部屋に戻った私はドラえもんに尋ねた。物置から持ってくるのは面倒だ。

「はい」

手渡されたのは手袋だった。まぁ、確かに工具と言えば工具ではあるのだが……。
取り敢えず嵌めてみると、手にピッタリとフィットする。凄い技術だが、サイズの違う手袋を用意したほうが安上がりな気がする。
そんな事を考えるも、私が欲しいのは手袋ではなくて、ドライバーだの鋭いナイフが欲しいのだ。

「…………なんだこれは」

「工作手袋だよ。手が工具の形になるんだ」

貴様等常識に喧嘩を売るのも大概にしろ。



父のつり道具の中から、お釈迦になったリールを頂戴して来て、追加で4つのリールを作った。

「これでだいぶ戦闘力が上がったな」

とは言っても、このワイヤ……鋼糸とでも言うか。そう言えば、さっき言ったゲインベルグ社は某ゲームに登場した会社だが……。
いやいやまさか……あんなチート流派がこの世に存在してなるものか……。
さておき、この鋼糸は消耗品だ。絡まれば使えなくなるし、使ってるうちに切れることもあるだろうし。
そのたびに購入しなくてはならないのだが、金なんぞ早々貯まるものではない。

「はぁ……金が無いな……」

「それならいいものがあるよ」

そう言ってドラえもんがなにやら箱のようなものを取り出す。左右に四角い穴が開いていて、銀行窓口のようだ。
しかも、上の部分には、BANKと英語で書いてある。銀行だろうか。

「これはなんだ?」

「フエール銀行って言ってね。1時間で1割の利子がつくんだよ。1ヶ月契約なら1時間で2割、1年契約なら5割の利子がつくんだ」

「貴様貨幣経済をなんだと思っている。ぶち殺すぞ」

単純に計算してみると、10円を預けたとしても、1週間で9000万まで金が膨れ上がる事になるぞ。

「まぁまぁ、取り敢えず試してみなよ」

「チッ……金が欲しいのは確かだからな……1万円預けるとしよう」

万札を放り込む。ええっと、これで……ダメだな、流石に暗算は無理だ。

「えーっと……1週間預けたら、900億円ほどに膨れ上がるな。1日でも10万円近くになるな。貴様本当に殺されたいのか」

何処にこんなふざけた利子のつく銀行がある。

「で、でも、本当なんだよ、のび太くん」

「うるさい黙れ。何となく可能な気はしてたんだ。ビックライトはどう考えても質量まで増えていたからな。
 そこらの金物屋から微量でも金を買って、ビックライトで増やして売り飛ばそうとしてたんだ……ん?」

タイムマシンで一年後に行けば、預金額が恐ろしい事になっているのでは……。

「セワシくん、フエール銀行使えば金持ちになれたんではないのかね……」

「ええっとね、未来の世界は貨幣経済じゃないんだよ。みんな電子マネーって言うのでやるんだ」

「なるほどな……」

貨幣価値が無いならフエール銀行はゴミを増やすだけのものでしかないわけか。
しかし、これ過去に持ってきていいものなのか……?
一ヶ月定期で半年間一円も引き出さなかったとすると、日本の借金全てを楽勝で返して、米国全土の土地を購入出来るんだが……。

「……まぁ、良識に委ねてるんだろう。滅茶苦茶な事をしなければ問題ない……」

まぁ、これで金に困らなくなったわけだ。本も買い放題というわけだな。
そんな邪な事を考えていると、唐突に階下から母の呼ぶ声が聞こえた。



「のびちゃん。冷蔵庫の中身が空っぽなんだけど、知らない?」

「母さん、私一人で冷蔵庫の中身を空っぽに出来るほど胃が大きいと思うかね」

「それもそうよねぇ……とにかく、これじゃあ晩御飯も作れないから、お買い物に行って来て頂戴」

「ドラえもん、出前電話を出したまえ」

「うん。あれ?あれれ?」

「どうした」

「何処に仕舞ったっけ……無いなぁ……無いなぁ……」

そう言ってポケットから大量にものを取り出していくドラえもん。そのどんぶりだのスルメは一体何のつもりで仕舞ったんだ。

「もういい。買い物に行けば済む話だ。それと君が肝心なときに役立たずだという事はよく理解した」

「酷いよのび太くん!」

まぁ、どうでもいい。私は母から買い物籠と財布を受け取ると、買い物に行くのであった。



商店街での買い物。前世では滅多になかった。というか、一回もなかったな。
さておき、ドラえもんも引き連れて、手分けして頼まれた物を購入していく。
頼まれたものの中にブリとダイコンがあったので、恐らく今晩の夕食はブリ大根だろう。

手早く買い物を済ませて家へと帰ると、途中で源さんと出来杉くんと合流した。
二人は勤勉だから真面目に宿題を済ませただろうが、スネオとジャイアンは余り頭がよろしくないので、宿題は適当に済ませただろう。
加えて言うと、二人の家は私の家に近いので、二人は既に家に来ているだろう。

母に頼まれたものを母に渡すと、予想通り、二人は既に来ていたらしい。
そして、私の部屋に向かおうとしたところで、どたんばたんずしん、と二階で騒ぐ音がする。
全く、あの二人は人の家で何をやってるのか。取り敢えず説教をしてやろうと、私の部屋へと急ぐ。

そして、扉を開いた私を出迎えたのは、既にエアコンスーツに着替えた二人と、腰巻だけをした少年だった。
更に、二人はズタボロで、腰巻だけの少年は更にズタボロだった。

「のび太!ひみつだって言っておきながらこんな奴を仲間に入れやがって!」

ジャイアンがショックスティックを手に詰め寄ってくる。

「いや待て、私はこんな奴知らんぞ!」

「じゃあなんでここに居るんだ!いきなりこれで殴られたんだぞ!」

そう言ってジャイアンがショックスティックで殴りかかってくる。
避けると面倒なので、真剣白刃取りの要領で受け止める。

「くくっ……!お、おい!これは本物の石器だぞ!?」

手触りと硬さからして間違いない。ショックスティックはどちらかというと、プラ製に近い質感がする。

「うるせえっ!いいから一発殴らせろ!」

「断固として断る!こんなもので頭を殴られたら頭が割れる!」

全力を持って受け止める。幾ら私が鍛えていても、上から相手が武器を下ろしてくる状況では分が悪い。
しかしながら殴られてなるものかと必死で受け止めると、力が拮抗して動かなくなる。

「のび太!何をドタバタやってんの!二階で騒いじゃいけません!」

階下から母の声が響く。いかんな、この腰巻だけの少年を見られては困る。

「チッ、とりあえず過去の世界に行くぞ!話はそれからだ!」

私達はタイムマシンに飛び乗ると、ドラえもんのナビゲートで過去の世界へと向かう。

「で……落ち着いたかね、ジャイアン」

「お、おう……悪かったな」

「まぁ、別にいい。……やはり、本物の石器だな」

ジャイアンの持っていた石器を受け取ってみると、重いし、硬い。柄の部分も本物の木だ。

「野比くん、こっちの毛皮も本物だよ」

「でも、おかしいじゃないか。どうして20世紀の東京に原始人が居るのさ?」

「確かにな……どう考えてもおかしい」

そんな会話を交わしていると、タイムマシンの動きが止まって、私達の前に丸い穴が現れる。どうやら到着したようだ。



先日と同じ場所にタイムマシンの出口を開いた私達は、洞穴に移動して着替えた後に、エントランスで会議を始めた。

「ところでドラえもん、先程観測気球のようなものを時空間にほうっていたが、あれは?」

「うん。昨日、時空乱流があったよね」

「ああ、アレか。アレがどうしたのだね」

「滅多に無いことなんだけど、時空間の乱れがブラックホールみたいなものを作るんだ。神隠しって聞いた事無い?」

「スキマババァのアレだろう」

「よくわかんないけど違うと思うよ」

ドラえもんが説明をし始める。突然人が消えてしまう話がよくあることを交えて。
2008年にタイムマシンが開発され、それから数十年ほどの研究で時空乱流の発生などが知られるようになったらしい。
時空乱流は既存の時空法則が通用しない不思議な現象らしく、今でも詳しくは解明されていないらしい。

「で、その時空乱流に巻き込まれた人間はどうなってしまうんだね?」

「永久に亜空間……僕達の住んでる空間と、タイムマシンの移動する空間の間にある、僕達じゃいけない空間。そこを永久に漂うか……。
 運が良ければ、どこかに出口が開く事もあるらしいんだけど……」

「それじゃあ、この子も原始時代から20世紀に来ちゃったって事なのかい?
 確かに、さっきドラえもんが言ったような話には、数ヵ月後に唐突に消えた人が現れたって話もあるけど……」

「たぶんね……。それで、それを調べる為に、時空震カウンターをさっき設置してきたんだ。
 僕はこれからそれを見に行く。しずちゃんはこの子を手当てしてあげて。のび太くんはペットの様子を見に行って。
 残りの四人は、この近くに人が住んでる村が無いか探してきて」

「おう!任せろ!」

私達は散開すると、それぞれ行動を開始した。



さて、昨日離したペットたちには、余り遠くには行くなと言って置いたが……。
そう考えながら空を飛んでいると、遠くから私のペットたちが飛んで来た。
でかい……でかいな……もはや成体になってるっぽいな……グルメン凄すぎだろう……。

「イクシオン、君、どうやって飛んでるんだね?」

「ヒヒーンッ!」

「生憎と私は馬語は分からん」

翼も無いのに空を飛んでいるイクシオン。足元でバチバチ音がしてるから、電気を使ってるのは分かるんだが……。
まさか、地磁気を反発させて飛んでるとか言わんだろうな……どんな大電力がいると思ってるんだ……。

「まぁいい。トレミー、乗せてくれ。出来杉くんたちと合流する事にする」

「ヒヒーンッ!」

トレミーに乗せてもらうと、私はタケコプターを外す。これは快適だな。



暫く飛び続けると、1キロほど離れたところで出来杉くんと合流した。

「ええっと、ペトルーシュカくん。乗せてくれるかい?」

「グルルッ……」

首を振って頷き、乗れというように出来杉くんをペトルーシュカが促す。
マンティコアライダーか……何故君がツンデレ美少女でなかったのか悔やまれるな……。

「ジャイアンたちは?」

「二人には別のところを探してもらってるよ。反対方向に行ったと思う」

「そうか。では、行くとしよう」

王小竜とイクシオンを引き連れて飛ぶ。さて、すぐに見つかるといいのだが……。



村があるなら川沿いだろうという事で、私達は川沿いに飛んでいた。
そして、その最中にぽつぽつとワニを発見した。これでは川沿いに村を作るのは無理そうだな……。
それでも水場に近いところに村を作っているだろうと考え、私達は川沿いに飛び続けていた。

「野比くん!あそこ!」

「どうした?」

「あそこ!剛田くんと骨川くん!」

そう言って出来杉くんが指差す先を見てみれば、そこにはワニに追いかけられているスネオとジャイアンがいた。

「いかん!王小竜!二人を水から引き上げろ!そしてイクシオン!放電だ!殺すなよ!」

私の命令どおりに王小竜が加速すると、二人を水から引き上げる。
そして、イクシオンが嘶きを上げた後に、その角から紫電の雷光を水面へと放った。

直後、何故か水面で大爆発が起きた。これではワニは木っ端微塵だな……。

「殺すなよといったが……まぁ、手加減が出来なかったのだな。次からは気をつけろ」

しかし、あの大爆発は一体……凄まじい音だったしな……もしや、水素が爆発したのか?
大電力で水が電気分解されて、酸素と水素に分解され、その直後に電気で着火して爆発……。

「一体どれだけの電力だというのか……」

呆れつつも、私は此方へと飛んで来た王小竜の背中に乗っている二人を見て安堵の溜息をつくのだった。



二人を説教しつつも、私達は先程の洞穴へと戻ってきた。

「今後は軽率な行動をするなよ。ワニに友人が食い散らかされる様なぞ見たくも無い」

「うぅ……悪かったからもうやめてくれよ……その話、4回目だぞ……」

「大事な事だから何回でも言うぞ。まぁ、洞穴に到着したから、これでやめてやるとしよう」

洞穴の出口の辺りにいるドラえもんたちを踏み潰さないように言いつつ、私達は岩場に着陸した。
腰巻姿の少年の姿も見える。トレミーたちを見て唖然としているのが印象的だった。

「のび太く~ん!この子が何処から来たのか分かったよ~!」

「そうか。それはよかった」

地面に着地すると、その少年が口を開く。

「マウンガペレ。ボストボスト」

「ドイツ語か英語か日本語で話してくれないと分からない」

何を言ってるんだコイツは。

「この子が亜空間に引き込まれたのは、なんと、北緯31度7分!東経118度2分!」

「そんな数値で言われても分からん。いや、中国の辺りか?」

「うん!和県(ホーシェン)辺りになる!」

『中国から来たの!?』

全員の驚きの声が響く。確かに、かなりの長距離を移動した事になる。

「そこで翻訳コンニャク~」

「ほ、ほう……実に不吉な名前だな……どんな道具なのだ?」

「これを食べるとね、どんな国の言葉も分かるし、どんな国の言葉も話せるようになるんだ」

わたしはもうつっこまない。




それから、その少年……ヒカリ族のククルというらしい。タジカラの息子らしい。誰だよタジカラって。
魚を取って帰る途中に空の穴に吸い込まれたそうだ。ドラえもん曰く、それが時空乱流だそうだ。
そして、吸い込まれたのは彼一人。加えて、彼が帰る前にクラヤミ族とやらに村が襲われていたらしい。

彼の言うクラヤミ族には長い間頭を悩まされていて、襲われそうになるたびに逃げていたらしい。
そのクラヤミ族には、精霊王ギガゾンビなる存在がついていて、そのギガゾンビとやらは恐ろしい力を持っているらしい。

ドラえもんはただの精霊信仰のまじない師だというが……それにしては異様な恐れ方をしていた。
どう考えても、ただそれだけ、とは思えない。なんとも言いようの無い不安を感じる。

そして、私達は明日、ヒカリ族を助ける為に中国大陸へ行く事となった。
私としては彼等のことなんか見捨ててしまうのが人として正しい事だとは思うのだが……。

「バカになると言ったからな……」

もう少しバカに生きてみるべきだろうか。
もっとくつろぎ、もっと肩の力を抜いてみようか。
もっとたくさん好きなものを食べ、野菜はそんなに食べないなんて子供っぽい真似でもしようか。
もっとリラックスし、もっとシンプルに生きてみるべきだろうか。
たまには馬鹿になって、無鉄砲な事をして、人生に潤いや活気を増やしてみようか?

人生は完璧にはいかない、だからこそ、生きがいがある。

誰だったろうか……あぁ、ピーター・ドラッカーの言葉だったはずだ。
人生にやり直しは効かない……だが、私はこうして人生をやり直せている。

だから、今度は後悔の無いように生きて見たいと思っている。
ヒカリ族を見捨てたとすれば、私の心には罪悪感ともなんとも言いがたいシコリが残るだろう。
だから、そのしこりを残さない為に。いってしまえば、私がしこりを感じたくないが為に救われてもらう。

「まだ眠らないのか?」

「ギガゾンビ、来るかもしれない」

ジャイアンが設置した見張り台。そこで私とククルはまんじりともせずに過ごしていた。

「君こそ、眠らない?」

「あぁ、君につき合わせてもらう」

「眠らないと、明日つらい」

「こっちのセリフだバカめが」

彼がどんな無茶をするかも分からん、見張る事にさせてもらおう。
それに、古代の生活について聞きたいこともあるしな……。


5話

2011/12/01 22:56 投稿

6話

2011/12/01 00:39 投稿


2011/12/23 18:53 統合



[30693] 転生者の日本誕生5
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/12/23 19:11
翌朝、私の目の前には白目を向いて転がっているククルが居た。

「野比くん、ククルくんは一体どうしちゃったんだい?」

どうやら一番に目を覚ましたらしい出来杉くんが尋ねてくる。

「いや、空が白み始めた頃に、一人でギガゾンビのところに行くというから、つい締め落としてしまった」

鋼糸の勉強にもなった。1重にしただけでは締め落とせなかったからな。3重か4重くらいにしないと無理なようだ。
加えて、何かに引っ掛けてからの方がよさそうだ。こっちに引っ張られてしまうからな。相手が武器を持っていると危険だ。

「締め落としたって……ま、まぁいいけど」

出来杉くんも苦笑い。いやすまない、つい試したくなってしまって……。

「私は軽く眠らせてもらう。すまないが、1時間半ほどしたら起こしてくれるか?」

丁度ノンレム睡眠からレム睡眠に切り替わる頃だ。その時間だと心地よく目を覚ます事が出来るのだ。
余談だが、ノンレム睡眠とは日本語にすると眼球運動の無い睡眠。レム睡眠は眼球運動のある睡眠のことだ。



眠っていた所を起こされた私は、少しぼやける頭を振りつつもエントランスホールに入った。
そこでは既に全員が集まっており、何故かドラえもんがアッラーの如くククルに崇められていた。

「ドラえもん、君はアッラーにでもなったのかね」

「まじない師ドラゾンビ様だってさ」

スネオが言うが、なんだそれは。

「骨川くん、ちゃんと説明しないと分からないよ。
 ククルくんを納得させる為に、ドラえもんがまじない師だってことにしたんだ。
 タケコプターで空を飛ばせてね。風の精霊に頼んだ、なんていってたよ」

「なるほどな。目には目を、歯に歯を、というわけか」

まぁ、ククルを納得させるにはいい手段だな。

「兎角、そろそろ出発するとしよう。時間を無為にすることはなかろう」

「そうだね、のび太くん!早速出発しよう!」

という訳で、私の可愛いペットたちに乗って移動する事となる。
私とがトレミー、源さんがイクシオン、出来杉くんがペトルーシュカ、残りが王小竜に乗ることになった。

「のび太、のび太」

「なんだね」

平行して飛んでいる王小竜の背中に乗っているククルが声をかけてくる。

「のび太、僕を手を使わずに倒した。のび太はドラゾンビ様の弟子なのか?」

「違う」

「そうなのか……」

「私がドラゾンビの主だ」

「!?」

驚愕して口を開くククル。しかし事実だ。ドラえもんは私の部屋の押入れに居候している立場だからな。

「のび太様……!」

「余り崇めてくれるな。対外的には秘密にしていることだからな。それに普通に接してくれて構わない。年齢も同じくらいだろう」

「分かりま……分かった、のび太」

「さて、ドラえもん。和県まではどれくらいの距離があるんだ?」

「ええっと、そうだね。2000キロくらいかな?」

「だとすると……恐らく時速250キロ近く出ているだろうし、夕方にはつけるだろう」

「そうだね」

そう言ったところで、ジャイアンとスネオがうろたえはじめる。何かあったのだろうか。

「な、なぁ、もしも途中でこいつらが疲れちゃったら……」

「そ、そうだよ!海の真ん中でぽちゃん!なんてことになったら!」

ははぁ、なるほど、それでうろたえていたのか。

「あはは、心配要らないよ。前に野比くんが言ってたろ?今は氷期だって。
 氷期は寒いから、海が凍るんだ。そうすると、海が低くなる。今は中国大陸と日本は地続きになってるはずだよ」

「その通り!念のため、衛星写真を撮っておいたんだ。そしたら、のび太くんの言うように、中国大陸と地続きになってたよ。
 だから、途中で疲れても、降りれるから平気だよ」

「なぁんだ!それなら安心だ!」

納得してくれたようで何より。しかし、問題はこれから数時間、一体何をすればいいかだな……。

「暇になっちゃったな。よし……俺様が歌を歌ってやろう!」

「いやいや待て待て。ここは私に歌わせろ」

「お?のび太も歌うのか?よーし、じゃあ俺様が採点してやろう!」

チッ、ジャイアンを歌わせない為に咄嗟に口から出たでまかせだが、歌わなくてはいけなくなったな……。
一体何を歌えばいいものか……別に何を歌ったって、この過去の時代に某権利会社が出てくるわけは無いと思うが……。

「………………」

「どうした?のび太?」

「ええい!ままよ!」

歌ってやる!歌えばいいんだろう!




歌った……歌ってやったぞ……ハッ、公開羞恥プレイなんて、私にやってどうする……ハハッ……。

「うん……80点!」

意外と好評価だった。

「聞いたこと無い歌だったけど、誰の歌?」

「JAMPro」

「ジャムプロ?何か甘そうだな」

「でも、カッコイイ歌だったわよね」

未来の歌は意外と好評だった。



羞恥プレイをやれやれとうるさいので、私は考える事をやめて事なきを得た。

「事無くなっていない気がするのは気のせいだろうか」

何十曲も歌わされたが、ジャイアンが歌うのは阻止できた。評点するのが気に入ったらしい。

「そろそろ降りて休憩にしようか?」

「そうだな!それがいい!トレミー!君も疲れただろう!そうだろう!?」

休憩を取る事にした私達は、丁度いい場所を見つけてそこに降り立った。
そして、相変わらずのダイコンの形をした食料を開く。出てきたのはハンバーガーにポテト、コーラのセットだった。

「ドラえもん、グルメンを出してくれたまえ」

「うん。用意して来てるよ」

ドラえもんが出したグルメン。それをトレミーたちの前に出してやる。
そして、近くの岩場に腰掛けると、早速食事を始めるのだった。

「そうか!分かったぞ!」

食事中、唐突にスネオが声を上げる。

「日本人の先祖って氷河期にここを通って中国から引っ越して来たんだ!」

「えっ?ほんとかよ、スネオ」

あぁ、なるほど。今日本には人がいないのに、何故未来の日本には人が住んでいるかが気になっていたのか。

「その通りだよ、骨川くん。他にも朝鮮やシベリアからも移住して来てたらしいよ。何万年もかけてね。
 丁度、日本に人類の痕跡が現れ始めるのが4万年位前だからね」

「はー、そうなのか……じゃあ、もしかしてククルは俺達のおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんの……」

「よしてよ!おじいちゃんなんて!」

そう言って笑うククルだが、私はセワシにおじいさんなんていわれたからなぁ……本当に言われるとしゃれにならんものがある。

「でも、先祖を辿れば、世界中の人たちが親戚になるのね」

「その通りだ、源さん。人類の祖先は遡ると、アフリカ大陸の辺りということになる。
 私達ホモ・サピエンスの持つ細胞内小器官、ミトコンドリア。
 これは母系からしか遺伝しないものなのだが、これを辿っていくと、一人の女性に行き着く。
 おおよそ16万から20万年前のアフリカに存在した女性。これをミトコンドリアイヴと称する。
 即ち、現生人類の母系の祖先は、そのミトコンドリアイヴが発祥となるのだよ」

「そうなのかい?野比くん?」

「あぁ、そうだが……」

って、しまった。ミトコンドリアイヴ説は、今の時代には存在しない……。
い、いや、だが10年後くらいには発表されるはずだし、今の時点でも調べてはいるだろう……きっと……。

「まぁ、確実、といえるほどではないが、ほぼ確定している話だからな。それと知っている人間は殆ど居ないだろうから、話さない方がいいだろう」

「そうかい?でも、アフリカ単一起源説がこれでまた一つ有力になったってことだよね」

「そうなるな」

いかんな、要らん知識を公開してしまった。

「どうしたの?のび太くん」

「いやなに、君を見ていたら全てがバカらしくなっただけだ」

そうだな、堂々と未来道具でこんな真似をしているドラえもんに比べたら遥かにマシだ。




タコケプターで飛び続けて数時間が経過した。既に辺りは暗くなり始めている。

「日が暮れ始めたな……ドラえもん、今どの辺りだ?」

「もう和県に入ってるはずだよ。そろそろだと思うんだけど……ククル、ここらへんに見覚えのある場所は無い?」

「う~ん……あ!」

と、ククルが唐突に声を張り上げる。

「あそこ!僕が魚を取っていた川だ!」

「ならば村は近いということになるな」

それから数分もしないうちに、ククルの住んでいただろう村の残骸があった。
周囲に人の気配はしない。しん、と静まり返り、静寂のみが周囲を支配している。

「僕の村……!僕の家、父さんと、母さんと……!」

ククルが猛然と走り出し、私達もそれを追う。
そして、村の中心でククルは失意のままに項垂れていた。

「気を落とすな。私達が何の為にここに来たと思っている。
 責任は最後まで持つ。君の村の人たちも助ける。安心しろ。ここにいるのを誰だと心得る。
 畏れ多くも未来の世界からやって来た、ネコ型ロボットのドファえもんだぞ」

「僕は音階記号じゃないやい。
 とにかく、僕達はスタートラインにようやくついたんだ。
 クラヤミ族との戦いは、世があけてからにしよう」

そう言ってドラえもんがキャンピングカプセルを人数分取り出す。
それを地に突き立てると。ドラえもんがあの時言っていた様に大きくなった。
そしてその根元にあるボタンを押すと昇降機が下りてきて、その中へと私達を迎え入れた。

「シャワーもあるのか。それ以外は照明とベッドだけ。まぁ、十分だろう」

今日は殆ど眠れなかったからな、さっさと眠って英気を養うとしよう。


翌朝、私達は朝食を取ると、早速クラヤミ族を追跡する為に旅立つ事とした。

「尋ね人ステッキ~!これを倒した方向に探し人がいるんだ」

「また変な使い方をする道具だな……」

とにもかくにも、それをドラえもんが倒すと、北の方向へと倒れる。

「進路は北北西。早速行こう!」

「そうだな、全員さっさとトレミーたちに乗って……」

「いや、待って、のび太くん」

「なんだ?」

「トレミーたちは目立ちすぎるよ。ここから先はタケコプターにしよう」

「……それもそうだな。仕方ない……。トレミー、君達はここで待っていてくれ。すぐに迎えに来る。
 君達を連れて行きたいのは山々なのだが……連れて行けないのだ。分かってくれるな?レディ」

そう言ってトレミーたちの頭を撫でる。
一応、グルメンを置いていってやることにする。



泣く泣くトレミーたちと別れた私達はタケコプターで移動を始めていた。

「襲われたのが4日前。クラヤミ族は当然徒歩だろう。加えてかなりの大人数。となると、それほどの距離ではないはずだ。
 精々が時速5キロ程度だ。歩ける時間は一日に多くとも10時間。長くても180キロ程度しか移動していまい」

「そうだね。でも、一応周囲に気を払って」

「分かっている」

私達は木陰や山陰に気を配りつつ飛び続ける。夜営の後でも見つけられるといいんだが……。

「……!」

「どうしたの?」

ククルが何かに気付いたらしく、唐突に方向転換をして移動を始める。
私達もそれについていくと、そこには動物の骨と毛皮。そして血液が飛び散っていた。

「これ、クラヤミ族のヤリだよ。ここで狩りをして獲物を食べたらしい。
 そして、こっちには焚き火の跡がある。夜営したんだよ」

「私達の進路は正しかったようだな。ドラえもん、一応ここでもう一度尋ね人ステッキを」

「うん」

ドラえもんがステッキを倒すと、先程まで私達が進んでいた方向に倒れる。
どうやらだが進路は北北西のままらしい。私達は再び飛び立って移動を開始する。
暫く移動をし続ける木々が増え始め、見通しが利かなくなり始めた。

「森林地帯か……厄介だな」

「仕方ないよ。森の中を進もう。逸れない程度に間隔を上げて、周囲を探りながら移動するしかないよ。
 感覚の鋭いククルくんが一番前がいいね」

「そうしよう。みんな、木にぶつからないよう気をつけて」

見通しの効かない森林での索敵は疲れる。だが、目印を見落としては本末転倒だ。
周囲に気を配り続けながら、私達は移動を続ける。

「あだっ!」

「気をつけろといった本人がぶつかってどうするのだバカ者」

「あはははは!バッカでー!ちゃんと気をつけろよドラえもん!」

そう言ったジャイアンが木に激突する。

「君が先程言った言葉をそっくりそのまま返してやるとしよう」

「うぐぐぐ……」

さておき、それから暫く移動を続けると、2つ目の夜営の後を発見する。
しかし、どうでもいい話なのだが、こういう牛の丸焼きとかはやたらと美味そうな気がする。

そして、それから暫くして再び夜営の後を発見する。3つ目、という事は、昨日のだということだ。

「諸君、近いぞ。見落とさないように注意するんだ」

「おう!任せろのび太!」

「余り高く飛びすぎちゃダメだよ。クラヤミ族に見つかったら大変だ。物陰に隠れながら飛ぶんだ」



山間の細い道。そこを数十人の人々が通っている。
さらには、黒い毛皮を纏った人間と、ククルと同じような色合いの毛皮を纏った人間が争っている。
ククルと同じ色合いの毛皮を纏った人間は、腕を縛られている。彼等がヒカリ族だろう。

「ドラえもん、急ぐぞ」

「うん!準備オッケーだよ!」

それっぽく見えるようにと、半ば悪乗りの勢いでドラえもんは飾り立てられていた。
箒みたいな髪のウィッグに、でかい宝珠のようなものの首飾り、そして鼻輪。確かにまじない師っぽく見える気がする。
さらにはくもの作成セットとやらで、人間が乗れる雲を作ってそれに乗っている。
ヒカリ族の人間に迫り、今凶刃を振り下ろそうとしているクラヤミ族へと、ドラえもんのショックスティックの稲光が走った。

「我こそは精霊王ドラゾンビなるぞ!ただちに捕らえた人々を放すが良い!
 さもなくば、雷の精霊をけしかけて……バ、バーベキューにするぞよ!」

バーベキューって……。

「そら!そら!」

ドラえもんへと石器を投げつけようとしたクラヤミ族に、ドラえもんのショックスティックが炸裂する。
それにクラヤミ族は驚き戸惑い、逃げ惑い始める。

「私達も行くとしよう」

「おう!」

「行こう!」

私達は颯爽と飛び出すと、ショックスティックのスイッチを押して稲光を放った。
それを受けてクラヤミ族は更に混乱して逃げ惑う。

数分の後にはクラヤミ族は殆ど逃げ出していた。直撃を食らって昏倒していたのは仲間が連れて行った。

「一人残らず逃げて行ったな」

「勝った勝った~!」

「余りにあっけなくて拍子抜けしちゃったね」

勝ち鬨を上げる。これでヒカリ族の面々も大丈夫だろう。
そう思ったところで、唸るような声が聞こえた。その声の出所には、クラヤミ族が担いでいた籠があった。
周囲を獣の皮で覆ったもので、入れるとしても赤子が入れるくらいのサイズだろう。そこから声が響いている。

「ギ~ガ~!」

その唸り声と同時、その籠が内側から弾け飛んだ!
そして、その籠から遮光器土偶のようなものが飛び出した!

「遮光器土偶!?」

「遮光器土偶デハナイ!ワレコソハつちだま!!ぎがぞんびサマノシモベデアル」

その言葉と同時、そのツチダマとやらの目が輝いた!
その瞬間、私達は体を打ち付けられるような衝撃を受けて吹っ飛ばされていた。

「くっ……!衝撃波だと!?一体何がどうなっている!?」

「分からない!でも今は戦わないと!」

私達はショックスティックを手に立ち上がり、一斉にそのボタンを押す。
ショックスティックから放たれた稲光はツチダマに直撃するが、ツチダマは小揺るぎもしない。

「オロカモノメ!マダワシノオソロシサガワカラナイヨウダナ」

再びツチダマの目が輝き、衝撃波が私達を襲う。
私達は咄嗟に岩陰に隠れるが、岩がどんどん崩れていく!

「ドラえもん!未来の世界の理不尽道具でなんとかならんのか!?」

「ひみつ道具だよ!これでもない!これでもない!」

「ポケットは整理しておけバカ者!」

全く関係の無い道具を取り出してはあちこちに放り捨てるドラえもん。
なんとかしてくれ、このままでは私はともかく、スネオや源さんのような力の無い者から脱落していくぞ。

「源さん、私にシッカリと捕まっておけ。顔に傷でも残ったらいかん」

「うん。のび太さん」

そう言って源さんが私の背中にしがみつく。クソッ、ドラえもんは何をやっている!

「あったぞ!」

そう言って、ドラえもんが黒いマントを手に飛び出す。

「ヒラリマント!」

言葉と同時にそのマントを振りかぶる。その直後、ツチダマが大きく吹っ飛んだ。
その勢いで地面へと激突すると、粉々に砕け散った。再生したりしないだろうな……。

「一体あの土の塊がどうやって動いていたんだ……?
 というかそのヒラリマントとかいう未来の世界の理不尽道具はなんなんだ?」

「こっちに飛んで来たものを跳ね返せる道具だよ」

ほう、それで服を作れば、一方通行ごっこが出来るな。

そんなくだらないことを考えていると、ククルが走り出す。
その先には、二人の男女が居た。年齢は20代半ばくらいだろうか。

「父さあん!母さあん!」

「ククル!」

ククルの両親だったようだ。感動の再開、というわけだ。

「よかったなぁ……」

「家族が無事に再開出来たのね……」

「俺、こんな場面に弱いんだよ……」

「ハハハ、鬼の目にも涙か」

かく言う私もこういうものには弱いのだ。ほんとに無事に再開できてよかった。


7話

2011/12/02 02:12 投稿

8話

2011/12/02 03:41 投稿



[30693] 転生者の日本誕生6
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/12/23 19:12
その後、事情を説明したらしいククルが何故か私とドラえもんを崇め始めた。
流石にこれには困惑した。何とか説明して、普通に接してくれと頼んだのだが、結局、丁寧語にドラゾンビさま、のび太様と言われるようになってしまった。
ドラゾンビの主なんていわなければよかっただろうか……でも事実だしな……。

さておき、最後まで責任を持つといった以上、居住地を失った彼等に新しい安穏の地を約束しなくてはならない。
流石にサービス過剰かとも思ったが、ここで野垂れ死なれては寝覚めが悪い。私の安眠の為に救われてもらうとしよう。

「さて、問題は何処に招待するかだが」

「私達の居たところでいいんじゃない?」

「う~ん……彼等は僕達とそんなに容姿がかけ離れてる訳じゃないから、ネアンデルタール人じゃなくて、ホモ・サピエンスなんだと思うけど……。
 日本に招いちゃって大丈夫かな?」

「問題ないと思うぞ。私達が居た場所は、現代で言うと東京都の辺りになるからな。後になって流入して来た部族とかち合う事もあるまい」

「実際、昔の日本には中国大陸の方から人が入って来たんだろ?なら、大丈夫なんじゃないの?」

「まぁ、ダメならダメでタイムパトロールがやってくるだろう……そうだろう、ドラえもん?」

「うん。無茶苦茶な事をやると歴史破壊罪って言うので注意を受ける事になるからね。
 意図的にやらない限りは厳重注意で済むし、こういうのが予定調和の場合もあるから大丈夫だよ」

未来から過去への介入も想定のうちに入っているということか?
という事は、遥か未来からの時間軸では全てが予定調和ということか……しかし、過去は常に変動していると聞くし……。
過去を改変すれば未来も変わるのでなくては、歴史破壊罪などという罪が成立するわけがない。
う~む……やはり、タイムマシン関連の事はさっぱり分からんな……。

「問題は移動手段か。全員を輸送出来るほど大型の道具はあるのか?」

「あるけど、もっと便利なものがあるよ。どこでもドア~!」

そう言ってドラえもんが取り出したのはピンク色のドアだった。ドアノブ部分に何か機械がついているな……。

「これはなんだ?」

「どこでもドアって言ってね、どこにでも移動できる道具なんだ。ほんとなら過去の世界では使えないんだけどね。
 でも、ここまでの道順をドアのコンピューターにインプットして来たから使えるよ」

「ほう。それは便利だな」

私が突っ込むと思ったか?甘いな。タイムマシンは時間移動の道具であり、さらには空間移動も同時に出来る道具だ。
時間と空間は密接に関係したものであり、時間を操作出来れば空間を操作出来るにも等しい。
時間を止めて移動して、目的地に到着した後に時間を動かせば瞬間移動したのと同じだしな。
なので、それほど驚くほどのものでもないのだ。時間移動の道具があるんだから、空間移動の道具もあるだろうとよそうしていたし。

「では、さっさと行くとしようか」

「うん。目的地は日本!」

「待てドラえもん。未来の銀髪びしょ……もとい、トレミーたちを迎えに行かなくては」

「あ、そっか。ごめんごめん。まずは和県へ!」

そう言ってドラえもんがドアを開くと、そのドアの先にはククルたちの村があった。
私は全員がくぐるのを見送った後に、地面に転がっていたツチダマの破片を拾い上げた。

「不自然に過ぎるからな……割れ方も妙だった」

土器の割れ方にしては破片が少なすぎる。どちらかというとプラスチックのようなものが割れたように感じる割れ方だった。
これを持っていって何か分かるものがあるとは思えないが、未来の世界の理不尽道具で調べてみれば何か分かるだろう。
私は周囲に取り残しがいないかを確認した後に扉の向こうへと行き、扉を閉めた。

「またアッラーになってるのかね君は」

「こういちいち拝まれちゃやりにくいよ……」

困惑気味のドラえもん。まぁ、仕方なかったのだから諦めるといい。
さて、私はタケコプターを起動すると空へと舞い上がり、トレミーたちを探す事とした。




しかし、全員に手伝ってもらっても、トレミーたちは見つからなかった。

「置き去りになんかするから……迷子になってエサも……」

「五月蝿い黙れ。私が一番後悔しているんだ。トレミー!イクシオーン!シャオローン!ペトルーシュカー!」

大きな声で呼んでみても、意味は無かった。あの時、日本に帰っておけと命令すればよかったのだ……私のバカ……。

「大丈夫だって。あいつらのこと襲える動物なんていないだろ。
 それに、俺様の家のムクだって、どっか行ってもちゃんと帰って来るし」

「幾らなんでも距離がありすぎるだろう……」

「けど、野比くん。動物には強い帰巣本能があるのは有名だよ。
 トレミーくんたちはどれに当てはめたらいいかは分からないけどさ。
 ハトなんかは何百キロの距離も帰って来るしね」

「あぁ……」

そうだな。今ここでクヨクヨしていても始まらない。
それに、ヒカリ族の人たちを何時までも放置してはおけない。

「行こう」

私は座っていた木から飛び降りると、タケコプターを始動させて飛んだ。


私達はヒカリ族の面々の元へと戻ると、彼等を日本へと招待した。
私達が作ったほらあなの近くの丘だ。あそこの湖は既に調査して飲めることが判明している。
ちなみに、ミネラルがだいぶ豊富だった。加えて水温が気温の割りには高い事から周囲に活火山があると思われる。

「おお……なんと美しい……」

「ここが僕らのパラダイスなんです」

「本当にここに住んでもよろしいのですか?」

「どうぞどうぞ。遠慮なく」

族長らしき老人が遠慮がちに尋ねてくるのをドラえもんは快諾する。私達の中からも反対意見は出てこない。

「僕達が調べた限りは誰も住んでません。好きなところに村を作ってくださいな」

そう、この時期の日本は正真正銘誰も住んでいなかった。氷期が始まるまでは海によって隔絶された島国だったのだ。

「こっちの丘の上がよさそうだよ!見晴らしがいいし、湖も近いし!」

周囲から丸見えではあるが、獣が襲ってくるのを即座に察知できる事を考えると、そちらのほうが良いとも言える。
ここら一体には誰一人として住んでいないのだから、丸見えであってもなんら問題はないのだし。



始まった村の建設。私達は各々の得意分野を生かして、それの手伝いをしていた。
源さんは周囲の草を刈り取る手伝い。出来杉くんは調査していた周囲の植生を村人に教えている。
そして私は木材を切断して柱にする手伝いをしていた。ジャイアンとスネオは知らん。

「ふむ……難しいものだな」

一番細い0番鋼糸。0.1ミリの鋼糸は、伸縮性も低く、強度を重視したものなので、緩めに巻いた後に急速に引けば、対象を切断する事も出来る。
試しに家でやった時には花瓶を真っ二つにしてしまったので、木を切断する事は容易かった。
しかしながら、切るべき場所に上手くかけるというのが非常に難しい。ゲームとかのキャラは良くこんな事が出来るものだ。
まぁ、何事も練習だ。マンガみたいにはいかないが、目の前の相手に対して使う事は出来るだろう。
目立たないし携行にも便利。隠し武器にはピッタリだろう。まぁ、私の本分はガンマンだとは思うのだが。

「はっ!」

よし、上手く枝の根元に絡まった。力を込めて引くと、根元から断ち切れる。
しかし、引き切るのに結構な力が要る。もう少し腕の筋力をつけたほうがいいかもしれないな。
筋トレのメニューに腕立て伏せを追加する事を頭の中のメモ帳に書き加えつつも、鋼糸を巻き取って再び投擲する。

「チッ、失敗した。もっと根元にかけなくてはいかんというのに……」

まぁ、根気よくやろう。





ある程度狙った場所にかけられるようになり、毎日練習する事を決意していた私の元に、ククルがやって来た。

「どうした?何か用か?」

「のび太。トレミーたちのことが心配か?」

「当たり前だ」

「そっか。きっと帰って来るよ。僕も昔、ローって言うオオカミの子供を飼ってたんだけどね。
 ある時、狩りの途中に行方不明になっちゃったんだ。でも、一月以上も経って帰ってきた。だから、心配要らないよ」

そうか、トレミーたちと逸れてしまった私を気遣ってくれたのか。
やれやれ、そこまでしょ気ているように見えたのか……しっかりしないとな。

「ありがとう。君の言葉で少し気が楽になったよ」

私はそう言って笑うとククルの肩を叩いた後に、振り向き様に鋼糸を放って、枝を切断した。
狙い通りに枝の根元から切断された木を見てみれば、切断面も非常に滑らかだ。
心の持ち様でこういうのはキレが変わる。釣り糸とは勝手は違えど、同じ種別のものなのだ。
今考えてみればあそこまでヘタクソだったのがおかしいといえる。

「すごい!今のは風の精霊に命令したのか?」

「さてな」

先端についた重りが見えなかったらしい。
後は、両手に物を持った状態でも、鋼糸を自在に操作出来るようにならなくてはならんな。



「天と地に満ち満ちる精霊達よ!我等が新しき村に平安あれ!」

『平安あれ!』

族長の言葉の後に、村人全員が唱和する。
村の中央で燃え盛る巨大な焚き火。それへと向けて、族長が祈りの言葉を上げる。

「村人に幸あれ!子にも孫にも、天と地の栄える限り、大いなる幸あれ!」

私達は村が作られ、命が助かった事に対する宴に招かれていた。
まぁ、断るのも悪かろうという事で招かれる事としたのだ。

「のび太様のお席はこちら。家来の皆さんの席はそっちです」

人当たりのよさそうな青年がそう言って岩の上に獣の毛皮を敷いた場所を指差す。

「いや、私は下でいい。変わりにドラえもんが座りたまえ。今回の立ち役者は君だ」

毛皮があっても岩の上は硬そうだからな……地べたの方がマシだ。
地に座った私は、焚き火を見やる。赤々と燃える焔は天までも焦がさんとばかりにその手を空へと伸ばしている。
広場の中央には、蒸し焼きにされたらしき牛。香辛料での味付けはされておらず、塩だけだろう。しかしやたらと美味そうに見える。
そんな事を考えつつ、切り分けられた肉を一口頬張ってみる。

「うまい!塩味がする!」

まぁ、味付けが塩しかないのだから当然といえば当然なのではあるが。
それでも美味だ。古代ではこれが当然なのだろう。もしも彼等を現代に招待すれば、現代の食事を美味だと思うのだろうか?
益体もない事を考えていると、隣の源さんが肉に手をつけていないことに気付く。そう言えば食器がないのだったな。
私は懐に手を突っ込んで、マルチパーパスツールと十徳ナイフを取り出す。ツールの方にはナイフ、十徳ナイフの方にはフォークとスプーンがついている。

「源さん、これを使うといい」

「ナイフにフォーク?のび太さん、ありがとう」

そう言って源さんが微笑む。考えてみれば源さんは唯一の女性だった。少し配慮が足りなかったな。
しかし、マルチパーパスツールと十徳ナイフの両方を持って来ていてよかった。
使い道が無いから持って来なくてもいいかと思っていたが、予想外に使う事になったしな。



その後、宴は滞りなく進んだ。ジャイアンが歌いだそうとしたり、火山が噴火したりといったハプニングはあったが、問題なく終わった。
そして私達はほらあなへと戻り、ココアを飲みながら会話をしていた。

「いやはや……くたびれたなぁ……」

「しかし、彼等を助ける事が出来たのだ。よしとしようではないか」

「そうね……この2、3日、いろんなことがあったわね」

「思いがけない冒険をしちゃったよ」

「僕も最初はいろんなことを調べに来たつもりだったけど、何時の間にか冒険になっちゃってたよ。楽しかったけどね」

そう言うと同時に沈黙が降りる。本当に色々あったものだと回帰しているのだ。
思えばククルが現れてから、怒涛のような勢いで物事が進んでいったな……。

「そう言えば、ここ2、3日勉強をサボっちゃったなぁ……」

「マンガの新刊も出てるだろうし……」

「お稽古もしなくちゃ……」

そろぞれが懸念事項を言い出し始める。確かに、私も筋トレなどが出来なかったな……

「この辺りでいっぺん帰ってみるか?」

「そうね」

「私も賛成する」

「うんうん。帰ろうよ!」

ジャイアンが帰ることを提案すると、私達が口々にその提案に乗る。
そろそろ私も帰りたいと思っていたところだった。本も途中だったしな。

「それでは、明日の朝に出発することとしよう。諸君、寝過ごすなよ?」

私が冗談めかして告げたのを最後に、その日は解散となったのだった。




翌朝、私達はヒカリ族の集落へとやって来て、一度家へと帰る旨を伝えた。

「トレミーたちの好物でな……帰ってきたら、これをやってくれ。頼む」

「うん。任されたよ、のび太」

私はククルにトレミーたちが帰ってきたら世話をしてくれと頼んだ。
トレミーたちをこの時代に置いて行くのは心残りだ。それに空想サファリに送らなくてはいけないはずなのだし……。

「ドラゾンビさまがいなくなると心細くなりますな……もしまたギガゾンビが来たら……」

「絶対とは言えんが、恐らくは来ないだろう。仮に来たとしても、また助けに来る。
 責任は最後まで持つといったからな。ギガゾンビの事で何かあれば、必ず助ける」

別れを惜しむ族長へとそう言った後に、私達は元の時代へと帰った。


久しぶりの現代は、なんとも言えず新鮮なものがあった。
この排気ガス臭い空気も、ゴミゴミとした町並みも懐かしい。

「さて、それじゃあ解散だな。なんだかラーメンが食いたくなっちまった」

「そう言えば、今日のおやつはメロンだってママが言ってたな……」

食い気が先に立っているジャイアンとスネオに苦笑しつつ、去っていった二人を見送る。

「のび太さん、素敵な冒険をありがとう。それじゃあ、ピアノの練習をするから」

「あぁ、頑張ってくれたまえ。君のピアノは人の心を落ち着かせる力があると私は思っているよ」

特に君のヴァイオリンの音色を聞いた後は強く実感するよ。
さりげなく失礼なことを考えつつも、家へと帰っていった源さんを見送る。

「それじゃあ、野比くん。僕は調べたことを纏めようと思うから。採集した植物も押し花にしようと思うし。
 出来上がったら君にも見せるよ。押し花でしおりを作るから、受け取ってくれると嬉しいよ」

「あぁ、楽しみにしている。私の方も、地質や水質などの環境面の調査をしたからな。そちらの方を君に見せるとしよう。
 押し花のしおりも楽しみにしている。ただのしおりはどうにも味気ないからな」

地質調査だの植生調査だの、小学生らしくないと自覚しながらも私は出来杉くんを見送った。



残った私は、何となく寂しいような思いを感じつつもそれを振り払い、数日振りに読書を再開するのであった。




「のびちゃん、さっきお風呂沸かしたから、お風呂入っちゃいなさいな。なんだか疲れてるみたいよ」

夕食をとった後に、読書を再開する気にもなれず、居間で何とはなしにテレビを眺めていた私に母が言う。
言われて見れば、確かに疲れていることが分かる。私は母の言葉に大人しく従う事にして、風呂場へと向かった。

「風呂は命の洗濯というが、大昔の公衆浴場は死体が浮かんでいるのもザラだったらしいな……」

唐突に思い出したことを言いつつ服を脱いで洗濯機に入れようとしたところで、スラックスの中に何かが入っているのに気付いた。
取り出してみるとそれは素焼きの土のカケラだった。そう言えば、ツチダマのカケラを持ってきていたんだったな。

それをタオルの上に置いておいて、私は風呂に入った。


「あぁ、ドラえもん。少し頼みたいことがあるのだが」

風呂に入って部屋に戻った私は、どこからか出してきたマンガを読んでいるドラえもんへと言った。
ずばり、ツチダマのカケラを持ってきたので、それを調べて欲しいと。

「え?のび太くんもツチダマのカケラを持ってきてたの?」

「も?君も持ってきていたのか?」

「うん。だっておかしかったからね」

そう言ってドラえもんがツチダマの手の部分の破片を取り出す。考えることは同じだったというわけか。

「ならこれも渡しておく。私ではモース硬度が幾つだとか、弾性限界がどの程度かを調べることしか出来んからな」

「うん。任されたよ」

そう言って私が渡した破片をドラえもんがポケットに仕舞う。
そして、その後はとくに何か変わることもなく、私は眠りについたのだった。




翌日は始業式だった。学校が始まったのだ。休みが明けると、行くのが面倒でたまらないな。
そんな事を考えながらも、私は滞りなく始業式を終えた後に、家へと帰っていた。


「う~ん……あ、お帰り、のび太くん」

「ただいま。ツチダマのカケラについて、何か分かったか?」

「うん。大変な事が分かったんだ。これ見てよ」

そう言ってドラえもんが、よく分からない機械を操作する。
すると、数秒の後に、空中にモニターが浮かび上がり、それに図形が表示される。

「これは……分子構造か?見たことの無い分子構造だな……陶器に似ているが……金属にも似ている……。
 金属だとすると合金か……?陶器だとすると、この構造からして硬度は高いな……しかし合金だとすると弾性に非常に富んでいるな。
 この二つの性質を組み合わせて、硬度は高く弾性に富んだ理不尽な素材か、脆くて柔らかいゴミのような素材かは分からんが……。
 ん?なんだこの小さい点は。ゴミ……という割りには小さいしな……微生物でもないだろうし……」

不思議な素材だな……一体どうやって作られた素材なんだ?
この分子構造を持った物質を作る何て不可能としか思えないぞ。

「う~ん……形状記憶セラミックに似てるけど、ちょっと違うような……」

「私の耳はおかしくなった」

なんで陶器類のはずのセラミックが形状記憶になる。どう考えてもおかしいぞ。

「セラミックに合金を合成して、ナノマシンを組み込んだ素材だよ。
 凄く硬くて丈夫で、すぐに元の形状に戻る素材なんだ」

「未来の技術ってやっぱり凄い」

未来の道具だけじゃなくて、素材も凄かった。突っ込みたくて堪らないが、それでも技術力には感心してやる。

「待て、未来の技術?これは7万年前にあったものだぞ?」

「うん……はっきり言えることは……ギガゾンビはただのまじない師なんかじゃなかったってことだ!」

「チッ……!ジャイアンたちにこのことを知らせよう。それからタイムパトロールに連絡だ。
 どう考えても歴史破壊罪が適用される行為だぞ、これは」

「それよりも僕達で助けに行かなきゃだよ!のび太くん!」

そう言って騒ぎ立てるドラえもん。確かに心情は理解できるが、子供の出る幕ではないだろう!

「とにかくタイムパトロールに連絡をしろ!私はジャイアンたちに連絡をする!」

「う、うん……」

私は部屋から飛び出すと、家の電話を使ってジャイアンたちに連絡を入れて家に呼び出した。
そして、数十分の後に集まった面々。ヒカリ族が危険だと言えば、全員がすぐ集まった。
子供の出る幕では無いと説明をしはしたが、やはり、全員を押さえきれるわけもなく、過去へと行く事となった。
まぁ、自覚はしていたのだ。私だとて、子供が出る幕では無いと分かっていても、心情では行きたくて仕方なかったのだから。
言って見れば、彼等に押し切られる形でないと、私は行く為の踏ん切りがつかなかったとでもいう。



私達は過去へと降り立っていた。私達の作ったほらあなの近く。ヒカリ族の新たな村がある場所。
そこにあったのは煙を噴き上げる家々の残骸。人の息吹は一切感じられない、残骸があるだけの場所。

「やられたっ……!」

ギガゾンビはここに来ていたのだ……!


9話

2011/12/02 22:47 投稿



[30693] 転生者の日本誕生7
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/12/23 19:12
「やられたっ!一人も残ってない!」

「ギガゾンビの仕業かしら……」

「それ以外考えられまい……おのれっ……!」

クソッ、考えが浅はかに過ぎた……!
あのツチダマの不可解さの時点で気付いてしかるべきだったのだ……。
だというのに、ドラえもんがいるのだから、過去の世界に魔法があってもおかしくあるまいなどと納得するなど……!
どう考えても未来の世界からの介入を疑うべき事象だったろうに……!

己の浅慮を嘆いていた最中、唐突に、空間に木霊するかのように声が響いた。
腹の底から上げるような笑い声。此方を嘲笑うかのような笑い声だ。

そして、空中に人影が浮かび上がる。

鹿の角だろうもので出来た装飾を頭頂部に取り付け、顔には目鼻口の部位に穴の開いた仮面。
身に纏う衣服は獣の皮だ。肩部にかかっている外套のようなものは恐らくトラの皮だ。

「アレがギガゾンビ!?」

「やいっ!ククルたちを返せ!」

ジャイアンの怒鳴り声が空しく木霊する。ギガゾンビはただ笑うだけだ。

「くははっ……!ドラゾンビとやらよ……よく来たな。新しい奴隷を貰っていくぞ……。
 返して欲しくば、常闇の宮へ来るがよい。ただし……二度と帰れぬ事を覚悟の上でな……わははははっ!」

「黙れ!この似非呪い師が!」

憤りに身を任せ、手に握られていたショックスティックを投げ放った。
だが、そのショックスティックはギガゾンビをすり抜け、遥か遠方で地に落ちた。

「無駄だよ。アレはメッセージを伝える為の幻だろうから……」

「おのれぇっ!ギガゾンビ!」

ギリッ、と拳が鳴った。おのれぇっ……!




怒りに燃えた私達は、タイムパトロールへと通報を行った後、私達もまたギガゾンビの事を調べることとした。
ドラえもん曰く、タイムパトロールは事件に介入するか否かを探査してからでなくては、事件に介入が出来ないらしい。
タイムパトロールの行動もまた未来を変えかねない可能性があるからして仕方ない事ではあろうが……。
また、時間を越えるという特性上、事件発生よりも以前に介入することで事件を防げるのでは?と尋ねてもみた。
だが、その答えはNOだった。未来軸からの介入を行うと、その介入を行った時点より過去に飛ぶことは出来ないらしい。
厳密には飛ぶことは可能であるらしいのだが、それを行うと、発生するはずだった事件が起こらずにタイムパラドックスが発生。
そして大規模な時空震が発生するらしい。つまりは、犯罪者が過去に飛んだ時点で犯罪が発生することは決定されている。
だが、それを防いでしまうとタイムパラドックスが発生する。そして歪んだ時空を復元する為に、大規模な時空震が発生する、ということだそうな。
即ち、タイムパトロールは如何なる時空犯罪に於いても後手に回らざるをえないということだ。
また時空犯罪の特性上、その時点に於いて偶然事件に巻き込まれた、という場合は自由に行動をしてよいらしい。
話によると、その点では未来は決定されていないため、その時に如何なる行動をとってもタイムパラドックスは発生しないからだそうだ。
私達は命の危険があることも承知の上で、彼等ヒカリ族の救出へと向かうこととしたのだ。

「ドラえもん。まずは装備だ。身の安全を確保出来る道具……例えば、バリアを張るような道具はないのか?」

「えーっと……バリヤーポイント!これを使うと半径2メートル以内にバリアーが張られるんだ。
 何も通さないけど、例えばのび太くんなら、ののつくもの入れ!って言うと中に入れるようになるんだ」

また妙な道具だな……。

「次に武器だ。ショックスティックも悪い武器ではないが、遠距離攻撃が出来る様な銃器の類はないのか?」

「え~っと……空気大砲!空気ピストル!」

ただのビニールパイプにしか見えん。

「これを手に嵌めて、ドカン!っていうと、空気の塊を打ち出すんだ」

「ほう。つまりは弾切れがないのか」

「ただし射程は10メートル」

「そんなものは大砲とは言わん」

「な、なら、ジャンボガン!」

そう言って取り出したのは超大型のリボルバータイプの拳銃だ。受け取ってみると、ずっしりと重い。

「戦車を一発で吹っ飛ばせる!」

「そんなものが使えるか」

「な、なら、ウルトラクラッシャー!一瞬でビルを木っ端微塵に出来る!」

「威力が足りんのではなく、威力過多に過ぎると言っておるのだ馬鹿者!戦争するつもりか貴様は!
 暴徒鎮圧用のゴム弾や、ショックスティックのような気絶させるようなものはないのか!」

第一に私達は10歳の子供だぞ!私はまだしも、10歳の子供である彼等にそんなショッキングな光景を見せるつもりか!

「な、なら、ショックガン!これで相手を撃つと気絶させることが出来るんだ」

「射程五メートルとかふざけたことを言わんだろうな」

「大丈夫だよ。もっと長いから」

そう言ってドラえもんがショックガンの引き金を引く。
チュンッ、という音を響かせ、先端の照射口らしき場所から、白い光線が飛び、命中した細い木をへし折った。

「なるほどな。これならば十分に使えるだろう……幾つある?」

「15個あるよ」

なんでそんなにあるんだ……護身用にしたって多すぎるだろう?
まぁ、別にいいか……1人に2つずつ配布し、残った3つは予備としてドラえもんに預けた。
あっても困らんという判断で、空気ピストルも借り受けた。射程10メートルで相手を気絶させるのが限界でも、ないよりはマシだ。

「最後に衣服、だな……バリヤーがあろうが、しっかりとした衣服があったほうがよい」

「そうだね。確かに、これを着てるとあったかいけど、風とかが吹くと寒いもん」

「着せ替えカメラがあったろう。それで衣服を作ろう。エアコンスーツは脱いでおけ」

まずはどのような衣服かだが、少なくとも防刃、防弾機能があるような衣服がよい。となると軍服か。
軍服ならば、防刃、防弾機能も普通の服よりはある。タクティカルベストの類よりは遥かに劣るが、ないよりはマシだ。
普通の衣服よりも高い防寒機能もあろうだろうし、その下にエアコンスーツを着ればいいだろう。

「服の図案は私が用意する。少し待ってくれ」

ドラえもんのポケットに入っていたスケッチブックを借り受けると、それに手早く図案を描く。
何でも、最低限の図案さえ描いていれば、後は写真を取る人物の思考を読み取って、ある程度の補正を行ってくれるらしい。
まぁ、細部まで完璧な絵が描けるわけも無いから、搭載されて当然の機能だろう。どうやって思考を読み取っているかは聞かない。
脳波とかいったら私は発狂してやる。脳波はあくまでも脳の活動状況を示すもので、思考が読み取れるわけではないのだから。

「のび太、まだかよ?速くヒカリ族のみんなを助けに行こうぜ!」

ジャイアンの催促の声を聞きながらも、私は手早く絵を描き終える。
そして、その絵を描いた部分を破り取ると、それを着せ替えカメラの中に放り込んだ。

「出来た。撮るぞ」

「んじゃ、俺様から!」

真っ先に名乗り出てきたジャイアンにピントを合わせ、表示されている服のサイズを調整した後にシャッターを押す。
その瞬間に、ジャイアンの服装が置き換わる。……ほんとにどうなってんだか、未来の道具は。

「おぉ!カッコイイじゃん!」

「米国陸軍の野戦服だ。機能性に優れる」

何故軍服かだと?私の趣味以外に他あるか。
日本人なら日本軍のにもしようかと思ったが……ダサイから却下だ。

「次々と行くぞ」

源さん、スネオ、出来杉くん、ドラえもんの順に着替えさせる。ドラえもんは軍服への冒涜だと思うのだが私だけだろうか。
さておき、構造なんかもすぐさま把握してくれた出来杉くんが私にも同様に着替えさせてくれた。

「さて……往くぞ、諸君」






どこでもドアでヒカリ族の面々を助けた場所へと移動した私達は、そこからタケコプターで移動を開始した。
的中率70%という曖昧な確率の尋ね人ステッキとやらで進路を確定し、私達は北北東へと進んだ。
例え的中率が70%だろうが、10回も繰り返して使えば、どの方向かは簡単に特定出来る。

「飛んでも飛んでも似たような景色……日本とは桁違いの広さなのね」

「中国大陸は世界でも3番目の広さがあるからね。それにこの時代は、台湾なんかも大陸にくっ付いてるしね」

野戦服を身に纏った少年少女たちと、タヌキが空を飛んでいるのはなんともシュールな光景だな……。

「のび太くん、変なこと考えなかった?」

「変な言いがかりをつけられても困るぞ、タヌえもん」

「それならいいんだけど……」

「しかし、ギガゾンビは如何なる方法を用いてヒカリ族の面々の居場所を探し当てたのだろうな……?」

「さぁ……それよりも、常闇の宮を探し当てられるかが問題だよ」

尋ね人ステッキで分かるのは方角だけだ。それ以外は何一つとして分からない。
他にも探索用の道具はあるらしいが、それもこれも相手をマークしてから使用するようなものばかりらしい。

「ここらへんで一度タケコプターの点検をしようか」

どうにかしてギガゾンビの居場所を探る方法がないかと思案していたところ、唐突にドラえもんが地に降りる。
私達もそれに続いて降りると、身につけていたタケコプターをドラえもんへと渡した。

「これは大丈夫。こっちも大丈夫……うん。全部大丈夫だよ。今のとこ故障は無さそう」

「こんな所で故障されては困るのだがな……四時間毎の小休止もじれったい。
 体力の温存も考えれば、必要なことだというのはわかるのだが」

言いながら尋ね人ステッキを倒し、方向を確認する。方向は依然、北北東のままか。

「しょうがないよ、これしかないもの」

言いながら空へと飛び上がったドラえもんへと続き、私達も空へと舞い上がる。
ドラえもんへと尋ね人ステッキを手渡しながら、今まで抱え続けていた疑問をぶちまける事にする。

「しかし、ギガゾンビは一体どのような方法を用いて大人数を移動させたのだろうな。
 現代の技術をもってしても、全員を一日で連れて行くなど不可能に等しい」

旅客機を使えば不可能ではないだろうが……。

「超能力者かな……オバケかな……?」

「馬鹿言うなスネオ!怖気づいたのかよ!そんなこたぁギガゾンビに会えば分かることだ!」

そう言って発破をかけるジャイアン。こういった牽引力は彼の魅力だろう。
些か横暴ではあるものの、彼には人を率いるカリスマといった物がある。

「ジャイアンの言うとおりだ。全ては会って見れば分かる……とりあえず、私は会ったら一発殴る」

「俺様もだ!一発ぶん殴ってやる!」

そんなことを言って笑いあうと、私達は再び進むのであった。
何時間と飛び続けた頃……タケコプターの巡航速度は時速80キロであるからして、既に500キロは移動しただろうか。
気温が低くなったのが周囲の環境で目に見え、更には標高の高い山でもないのに雪が積もっているのが見えた。

「なんだか寒いわ……」

「私もだ。気のせいとは思えんが……」

エアコンスーツの効果で気温は調節されているはずなのだが……。

「気のせいじゃないみたい……温度計を見てみると……なんと、氷点下50度!」

「ひえ~!エアコンスーツでもカバーしきれないわけだ……」

エアコンスーツにも限界はあるということか。まぁ、耐え切れん寒さではない。
私達は寒さに震えながらも飛び続けた。

「そろそろ四時間だ……みんな、降りて」

「またぁ~?こんなことじゃ、何時になったら目的地につけるか……」

「仕方ないよ。でも、ドラえもん。もっと速く移動できる道具なんかないのかい?」

「う~ん……ないことないけど……」

出来杉君の疑問の声に、ドラえもんがポケットをまさぐる。
そして、取り出されたのは球状の機械が取り付けられているロープだった。

「こんなでこぼこの地形で使うと危ないんだけど……それに危ないし……。リニアモーターカーごっこ~!」

「ええ~!?電車ごっこ~!?」

全員の嫌そうな声が響く。だが私はそんなことを気にしていられる心理状況ではない。

「もう天に還ってしまえ」

わけの分からん盛大な技術の無駄遣いは勘弁してくれ……!
リニアモーターの原理を知ってるなら疑問が山のように出てくるぞ……。
一体何をどうやって、この地上で地面の磁極を変化させるのか教えてくれ……。

「地磁気を利用して走るんだ。最高時速380キロまで出る。って、のび太くん、死んだ魚のような目をしてどうしたの?」

「うるさい。おまえなんかだいっきらいだ」

私の常識はもう……死んでいる……あべしっ……。
ばんばんばーン……ぶっぶーびゅびゅんびゅーン……おいらはトラック野郎サ、イカス男サ……。
もう一回……?もう二回……?それとも三回……?三回欲しいのか……いやしんぼめ……。
よしよし……立派な轢死体……人間絨毯いっちょ上がりィ……ははは……楽しいなぁ……。
来週のサザエさんは、腐り姫のクロスオーバー『名状し難き花沢』をお届けいたします……。

「この歳になって電車ごっこなんて……」

「誰も見てないだけいいようなものを……」

「ま、まぁ、仕方ないよ。タケコプターは使えないんだしね」

「グズグズ言わないで出発進行!」

ははっ……あ~……アル・アジフは可愛いなぁ……アナザーブラッドも可愛いなぁ……。
エロ本っていわれるのが分かるくらいエロに挑戦してるなぁ……あはっ……あはは……。
マスター・オブ・ネクロロリコンはいいなぁ……あんな美幼女を嫁さんにして……

「うわっ!わっ!」

「は、速い!目が回る!息が出来ない!」

――――遅い……とかギー先生はカッコイイなぁ……私も奇械欲しいなぁ……。
我が奇械ポルシオン……僕は、君にこう言おう……とかカッコイイじゃないか……。
漆黒のシャルノスも面白かったなぁ……まぁ、結局最後までクリア出来ないうちに死んだけどね……。

「止めて止めてぇ!」

「た、ただいま300キロ!喋ったら舌噛むよ!ロープをしっかり握って!」

沙耶の唄は純愛だよね……異論は認めない……私のところにも沙耶が来ないかなぁ……。
あぁ、でも、そうなるとカニバリズムを受容しないといけないんだっけなぁ……。
まぁ……あんなグロく見える世界でなら……平然と受容出来る気がするけど……。

「わ!わ!わ!わぁぁぁぁぁ!!!」

「ひ、ひえーっ!じ、ジェットコースター!」

いあいあ、はすたあ……かゆ……うま……。

11話

2011/12/23 02:00頃 投稿

12話

2011/12/23 02:59 投稿

2011/12/23 19:05 統合



[30693] 転生者の日本誕生8
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2011/12/23 19:13
「ぶえーっくしっ!」

私は山全体に轟かんというほどに盛大にクシャミをした。

「くそっ……寒いし眠い……!私だけ置いてけぼりにするとは何事か……!」

気付けば猛吹雪の雪山の中に私だけが取り残されていたのだ。
このままでは死んでしまうぞ……全く……!

「くっ……手が冷たい……凍傷が起き始めているな……もう一ふん張りだ……!
 カマクラさえ出来れば、最低でも凍死は免れる事が出来る……!」

水分を多量に含む雪でよかった……パウダースノーならカマクラさえ作れなかったに違いあるまい。

「と、とりあえず、山は出来た……後は掘り出すだけだ……身も切れるほどの冷たさとはこのことか……!」

カマクラを手で掘り出していくのは凄まじい重労働だった。だが、座して死を待つよりは遥かにマシだ。
必死の体でカマクラを掘り出し、内部に入れば風が遮られ、先程よりも遥かに暖かく感じる。

「蝋燭……蝋燭……は、ないか……。ジッポーライターで代用するしかあるまい……オイルが切れなければよいが……」

ジッポーライターの火をつけ、それを壁に触れないように置いておく。
カマクラ内部で火をつけておくことで、内部気温を0度以下にする事を防ぐことが出来る……らしい。
この極寒の環境で0度以下にすることが出来るかは分からないが、火が必要なのは確実だ。

「はー……はー……くそっ、暑くなって来た……!」

体温が低下し、それを暖める為に発熱し始めた証拠だ。ここで服を脱いでは間違いなく凍死する。
だが、このままではまともな判断力さえ失われてしまうはずだ……気合で堪えるほかないが……できるのか……?

「そう言えば、固形スープがあったな……クソッ、カップが無くては片手落ちではないか……!」

カップも持ってきていたはずだが、落としてしまったらしい……。
それもこれもドラえもんがリニアモーターカーごっこなぞという意味不明な道具をだすからだ……。

「他人を恨んでも仕方あるまい……何か、何か方法はないか…………ふわぁ……一眠りしてから考えるか……いや、寝たら死ぬんだって」

手持ちの荷物を確認してみるも、この状況を打破出来る様なものはない。
とりあえず、メモ帳を燃やして少しでも気温を上げる。入り口も狭くしよう……。

「……少しはマシになってきたか……?……ふわぁ……はぁ……動物でもいれば抱き締めて暖まれるのだが……おぉ、何故こんなところに猫が……?」

しかも人間みたいだな……しかも女の子で美少女だ……これが猫耳美少女か……。

「……幻覚だな」

冷静に判断できるだけ、まだ何とかなる領域のようだ。
暫く待ち続けていると、少しずつ内部の気温が上がってきたのか、暖かくなり始めた。

「気温は……氷点下24度か。温度計が割れていなくてよかった……」

エアコンスーツの効果で何とか問題ないレベルか……。
一眠りしよう……この状況なら凍死せずに眠れるはずだ……寒くて目が覚めるだろうがな……。



口内に何かが流れ込んでくる。熱いが、飲めない程ではない液体。
肉汁の旨みと野菜の旨みが渾然一体となって、私の体へと染み込んで来る。
体の芯から熱くなり始めてるような感覚を覚える。疲れた体が回復していくのが理解出来る。

「…………なんだこれは?」

閉じていた瞳を開き、口にくわえさせられていたホースのようなものを取る。
ホースの伸びている先を辿ってみれば、そこにはタンクがあった。一昔前の雪山救助犬が首から下げてるような奴だ。
しかし、でかい。私の頭よりも大きい。中身が救助犬と同じくブランデーだとしたら、大酒飲みがたっぷり飲めるくらいだろう。
そして、それがぶら下がっている先は、長く湾曲した白亜の牙。それが生えているのは、全身が長い毛に覆われた動物だった。

「ほう。過去の世界はマンモスが救助犬をやっているのか。いや、象の近種だから、救助象か。ハンッ……幻覚か」

鼻で笑う。やれやれ、こんな幻覚を見てしまうとは……。

「気がついたかね、よかった」

「マンモスが喋るとは。幻聴までついているのかね。過去の世界は豪気なものだ。
 さて、もう一眠りするか。この調子ならもう少し寝ても大丈夫そうだ」

下手に行動しては死ぬからな。ドラえもんたちが助けてくれるのを待ったほうがよいだろう。

「君に飲ませた飲み物は、百薬混合、栄養満点、体力増強、気力充実と様々な効果がある。
 すぐに元気になるだろう……。……そこで君に頼みが……」

「幻なら幻らしく黙りたまえ。全く……出てくるなら美少女の幻影でも出せというものだ……」

「この辺りにあるのは確か!だが、奴等は中々尻尾をつかませない……もし君が……発見……成功……」

「私に頼みごとをするなら美少女を出せと言っているだろう。無論、銀髪美少女だぞ」

「この小箱を。蓋を……中の赤いボタンを……」

私の頭に何かが落下してくる。目を開いてみると、掌に収まるほどの白い箱だった。
この吹雪で吹っ飛んで行っては困るので、とりあえず懐に収めておく。

「全く……うるさい幻だ……幻ならさっさと消えろ。私は体力を温存する為に眠らなくてはならんのだ」

「その元気なら、もう大丈夫だろう……幸運を祈る……」

「うるさい。さっさと消えろ。まったく……最後の最後まで銀髪美少女を出さんとは……頑固な奴だ……」

「ふっ……欲望に……無事戻れたら……銀髪美少女……してやろう……」

「年齢は9歳くらいで頼む!エターナルロリータだぞ、エターナルロリータ!要するに歳とらんのだ!
 目の色は細かく指定はせんが、青か赤で頼む!肌の色も当然雪のように真っ白だぞ!
 誰もがうらやむような美少女だぞ!いいな!私の要求は五月蝿いぞ!って……いない……そうか、幻覚だったな」

全く、幻覚にまで銀髪美少女を要求してしまうとはな……。
やれやれ……もう一眠りしたら、何とかしてスープを作ってみよう……。



目が覚めたと同時に見えたのは、燦々ときらめく太陽だった。
周囲を見渡してみても、私が作ったはずのカマクラは影も形も見えない。
とりあえず足はあるので、死んでしまって幽霊になったわけではないようだが……。

「まぁ、いい。洞穴でも探そう。無ければまたカマクラを作らねばな」

しかし、やたらと活力が漲っている。食事をした覚えもないのだが……。
まぁ、考えることは後回しにして、まずはこの状況を何とかしなくてはならない。
そう思って歩き出した所で、唐突に、私の足元に複数の影が映った。

上を見上げた私の目に、私が気を揉み続けていた彼女達が映っていた。

「トレミー!イクシオン!王小竜!ペトルーシュカ!無事だったのだな!」

私の声にトレミーたちが鳴き声を上げて私へと擦り寄ってくる。

「ヒヒヒーンッ!」

「グルルッ……!」

「ヒヒーン!ヒヒヒーン!」

「ゴオ~~~ンッ!」

私はトレミーたちを撫でてやる。彼女達の毛皮の感触が、確かに彼女達がここに存在すると実感させる。
私はトレミーの背へと跨らせてもらうと、ドラえもんたちを探すべく移動を開始する。

「ドラえもんたちとはぐれてしまったのだが、何とか君達で探せはしないか?
 匂いを辿る……のは、ペトルーシュカ、君なら出来るのではないか?」

「グルル……?」

「君達の鳴き声は分からん……」

ムツゴロウさん呼んで来い。

「ヒヒーンッ!」

「うん?どうした?」

唐突にトレミーが鳴き声を上げて方向転換して移動を始める。
そしてすぐさま地面に降り立つと、雪上に落ちていた紙片を拾い上げた。

「これは……私の欲望の丈をぶちまけたメモ帳の紙片ではないか」

私の愛する銀髪美少女で、特にドストライクな感じのキャラクターの容姿、性格を纏めたものだったのだが。
我ながら下らんことをやったと思いながらもそれを懐に収め、何故それが転がっていたのかを考える。

「このメモ帳は家に置いて来たと思ったが……ドラえもんが持っていたのか?だとしたら、何故?」

ドラえもんにも銀髪美少女のよさが分かったのか?

「いや、それは今はどうでもいい。これがここにあったとすると、ドラえもんが近くに居るということだろう。
 だとすれば……ペトルーシュカ。なんらかの人為的な匂いを感じ取れはしないか?
 何かものの燃える匂い……ここら一体の中で、異質な匂いのする場所だ」

「グルルッ!」

ついてこい、と言わんばかりにペトルーシュカが先陣を切って飛び始める。
トレミーたちがそれに追随していき、私達はペトルーシュカが案内してくれるであろう、ドラえもんの居場所へと向かうのだった。





トレミーたちの誘導で私は洞窟の内部へと突入していた。
時折現れるクラヤミ族をショックガンで気絶させながらも進み続ける。
どうやらだが、ここがギガゾンビの本拠地である常闇の宮であるらしい。
恐らくだが、ドラえもんたちは捕らえられてしまったのだろう。私一人で救出出来るといいのだが……。
そう思った矢先、唐突に広い場所へと出る。そして、私の目線の先にはギガゾンビが居た。
意向返しと言わんばかりにショックガンをギガゾンビへと放ってやり、瞬時にドラえもんたちを今まさに襲わんとしているトラへとショックガンを放った。
やはり、私はガンスリンガーであると、そう自覚させる。初めて銃を握ると言うのに、この精度。素晴らしい。

「ぬぅっ!貴様!何者だ!」

「22世紀の未来からやって来たドラえもんに子守をされる小学生さ」

ショックガンを喰らっても気絶しないとは丈夫だなと思いながら、ショックガンを連射する。

「22世紀だと!?何故22世紀のロボットがここにいる!」

「ハンッ!貴様こそ、おおかた未来の世界からやって来た時空犯罪者だろうが!ギガゾンビ!」

それ以上は聞く耳持たんとばかりに、ドラえもんたちをトレミーたちに回収させ、先程私が通ってきた道を戻り始める。

「のび太くん!無事だったんだね!」

「ああ。だが、私を放り出して行った件はたっぷりと謝礼させてもらおう」

「あ、あはは……野比くん、今はここから逃げることだけを考えなくちゃ!」

「最もな意見ではあるが、私は忘れんぞ」

まぁ、出来杉くんの言葉に同意するところもある。私は追いかけるものがないかと背後を見やる。

「ドラえもん!ツチダマの集団だ!」

私の視線の先には、あの時と同じ遮光器土偶のような形をしたツチダマの集団。
あの時と違って1体ではなく、4体もいる。下手をすれば命にかかわりかねん。

「あいつら幾ら壊しても無駄なんだ!同じ失敗は繰り返さないぞ!瞬間接着銃~!」

「道具の名前を言ってる暇があったら撃たんか馬鹿者!」

ショックガンを先程から撃ってはいるが、全く効果がないのだ。
まぁ、相手に衝撃を与えるのではなく、ショックスティックと同じ、電撃のようなものを与えるからそうだとは思ったが。

「喰らえ!」

ドラえもんの放つ瞬間接着銃とやら。飛び出した白い粘液がツチダマに命中すると、身動きが取れなくなったのかそのまま地へと落ちる。
そして地面へと接着されたらしく、ツチダマは動かなくなる。倒せない相手は動けないようにすればいい、まるでマンガだな。
そんなことを考えながらも、トレミーたちに更に速度を上げるように頼む。さっさと抜け出さなくては。
そう思った瞬間、唐突に私達の目の前の天井が崩れ落ちた。当然の帰結で前方は土砂で塞がれ通れなくなる。

「いかん!すぐに引き帰すんだ!」

「ヒヒーンッ!」

トレミーが私の願いに応えようと翼をはためかせるが、その直後、私達の背後の天井もまた崩れ落ちた。
明らかにおかしい、ギガゾンビがここを崩したとしか考えられない……!

「おのれぇっ!ドラえもん!抜け出すような道具はないのか!」

「通り抜けフープがあるんだけど、さっきつかっちゃった!」

「なんか代わりのものがあるだろ!速く出してくれよドラえもん!」

ジャイアンの言葉にドラえもんがポケットを漁り始めるが、マンガやら剣玉やらが飛び出してくる。

「ポケットくらいきちんと整理しておけ!私はいつ何時でもすぐさま取り出せるように整理整頓しているぞ!」

言葉と同時に懐に手を突っ込むと、入れた覚えのないものが懐に入っている事に気付いた。
それを取り出してみるとは、それは幻覚の中で見たはずの白い箱だった。

「幻覚ではなかったのか……?」

「え?ど、どうしたの?のび太くん?」

「いやな、マンモスが私にこの箱を渡して、ボタンを押せと言っていたのだが……」

「へー……中のボタンを押せ、か……不思議な話もあるもんだね。だとすると、何か不思議な力があるかもしれないよ」

「そうそう!地上に一瞬でテレポートするとか!」

そう上手く行くものではないと思うが……そう思いながら、蓋を開けて中のボタンを押す。

「…………ピコピコ鳴ってるだけだな」

「世の中そう上手く行くものではないということだ。さて、これからどうするか……」

手の中の箱を放り投げ、床に座り込んで思案に耽る。

「みんな、姿勢を楽にして。こういう状況だと酸素が少なくなっていくから、少しでも酸素を温存しないと。
 大きな声を出すと、それだけ寿命が縮まるって事だからね」

出来杉くんの言葉に従い、各々が楽な姿勢を取り始める。
本当に、これからどうするべきか……考えても、答えは出ない。
ドラえもんも何とか打開策を得るべく、ポケットの中を探り続けているが……。

「……うん?」

唐突に天井が光った。一体何事かと思っていると、円筒状の物体が4本生えた謎の物体が壁を突き抜けて現れた。
やがて、それが完全に通り抜けて全容を現すと、ドラえもんが飛び上がって喜んだ。

「やった!タイムパトロールだ!」

「彼等がタイムパトロール?つまり、ギガゾンビを逮捕しに来てくれたわけか!」

助かる事を理解して、私達が喜びに打ち震えていると、船の出入り口らしき場所が開き、そこから男性が現れる。
特に特筆することもない、私達と同じ黄色人種らしき男性だ。

「やあ、お手柄だったね。おかげでギガゾンビを捕まえる事が出来たよ。もちろん、ヒカリ族もみんな助け出した」

そう言えば、銀髪美少女云々と思いっきりぶちまけてしまったが……。
男性は私に特別何か反応するわけでもない。胸の中に収めておいてくれるということだろうか……そうだとしたらありがたい……。

「この基地は歴史に残さないように破壊する事になった。さ、みんなも速く乗り込んで。脱出するよ」

その男性の言葉に従い、私達はタイムパトロールの船の中へと乗り込んだ。
内部の内装は、如何にも未来的な感じだ。あちこちでコンソールがカチカチと光っていた目に悪い。
目に悪いといえば、ドラえもんは私の目をよくすることは出来るのだろうか……後で聞いてみよう。

「お前等の所為だ!お前等の所為で私の計画が台無しだ!」

「誰だお前は」

そして、中に入った私達へと、檻の中らしき場所から、鉤鼻の壮年の男性が罵倒した。
もしや、彼がギガゾンビだろうか……?

「貴様は知らんのだろうな!22世紀は航次法がもっとも厳しかった時代だ!
 そして、このタイムパトロールは22世紀のタイムパトロールだ!私はもうおしまいだ!私は――――――!――――!」

ギガゾンビの怒鳴り声が途中で聞こえなくなり、さらには彼が入っていた檻が外からは見えなくなった。

「いや、すまないね」

そう言ってタイムパトロールの男性がコンソールから離れながら言った。
どうやらだが、彼が何らかの操作をしてギガゾンビの声を遮断したようだった。

「さて、それじゃ、脱出するよ!出発進行!」

タイムパトロールの男性がコンソールを操作すると、船が移動を開始する。
基地を抜け出し、山肌を舐めるように移動し始めた頃、基地が盛大な爆発を上げた。

「……これで終わったのだな」

「うん!これで終わったんだ!」

私の胸の裡に安堵が駆け抜ける。全員、無事に生還させることが出来た。
やがて来るだろうと思っていた苦難。その苦難の第一歩だろうか。それを乗り越えたのだ。



ヒカリ族の面々を私達が案内した新天地へと連れて行き、そこで彼等を解放した。
ギガゾンビに過酷な労働を強要された彼等ではあったが、すぐに助け出した事もあり、死人は一人もいないようだ。

「あなた達を襲う者は正真正銘、最早誰も居ない。
 ここで、新たな村を作ってください。私達は共に居ることは出来ませんが、応援しています」

「ありがとうございます……ほんとにお世話になりました。今度こそ、立派な村を作って見せます」

ククルの父、タジカラと固い握手を交わす。
ここから、新たな歴史が紡がれていく。その歴史的な瞬間に私は立ち会っている。

「日本という国が作られる、第一歩なんだね……僕、感動だよ!こんな歴史的な瞬間に立ち会えるなんて!」

出来杉くんも私と同じ気持ちのようだ。いや、誰もがそうなのか、首肯し、記念すべき瞬間だと言っている。
彼等の残す子孫たち。その子孫達こそが繁栄し、日本という国を作り上げていくのだ。
数千年に渡って受け継がれる彼等の血脈もまた、私達の体に脈々と流れているのだ。

「頑張ってください……」

「ええ!頑張ります!」

私と彼等は別れた。再び会うことは出来ない。彼等の紡ぐ歴史に影響を与えぬ為に。
だが、彼等との出会いが消え去ることはない。私の中に確かに存在している。



「トレミーたちを空想サファリパークに、ですか」

「ああ……架空の動物達は、どんな時代にも置いておくことが出来ないんだ」

ドラえもんには既に聞いている。架空の動物は空想サファリパークに送るしかないのだと。

「……仕方のないこと……か。私はそれに抗わんが為に体を鍛えていたのだがな……。
 だが、それでも抗ええぬ物がある……悲しいものだな……」

未来に巻き起こるであろう事態に対処する為に鍛えた体。
だが、所詮は一人の人間であり10歳の子供。巨大な権力に抗う事は出来ない。
私はトレミーたちの頭を撫でてやり、強く抱き締めた。

「未来の世界でも元気でな……必ず、会いに行くからな」

トレミーたちを放し、タイムパトロール船に乗り込ませる。

「元気でな!」

別れは辛い。だが、二度と会えぬわけではない。
トレミーたちと再び会う機会も必ずある。だから、笑って送り出してやる。
きっと、再開する機会があると信じて。


元の時代へと帰った私達は、日常へと戻った。
あの激動の数日間が嘘のような平穏な生活。
その生活の中で、彼等――クルルが一体どうなったのか――それが気になった私達は、タイムテレビで彼等を見た。

ククルは厳しい大自然の中で逞しく成長し、ヒカリ族の族長となっていた。
彼はウンバホ……日の国の勇者と呼ばれ、村人達に尊敬されていた。

やはり、彼等が来る以前の日本にも人間は居たようだ。だが、それは旧人の類。
彼ら旧人は絶滅し、今の時代の人間には血の繋がりはない。
だから……あの時、ククルたち新人が住み着いた時こそが、真の日本誕生の瞬間だったのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――

日本誕生編終了です。日本誕生は完全な原作沿い。
変更点は幾つかありましたが、大きな違いはありませんでした。
幾つか、劇場版作品ではない話をした後に、再び劇場版に移行します。

未来の世界についての伏線は、今までにも幾つか張られています。
ですが、特に分かりやすい形としてギガゾンビの発言がありました。
何となく分かりましても、感想での展開予想は遠慮して頂けると助かります。

全話統合しました。まぁ、これでも短いかもしれませんが……。

13話

2011/12/23 04:33 投稿

14話

2011/12/23 18:28 投稿



[30693] 転生者の日常2
Name: ライス◆8338b650 ID:7cbbff90
Date: 2012/01/01 19:53
私は戦っている。銃を手に、戦っている。敵の砲火を潜り抜け、戦っている。
耳に取り付けてあるヘッドセットタイプの通信機から、仲間達の断末魔、悲鳴が聞こえてくる。
息が荒い。呼吸を整えなくてはならない。息が乱れては、正確な狙いがつけられない。

『機密通信です。世界各地で、一斉に戦闘が始まりました。
 世界中、至る所EDFの旗が掲げられているとの事です』

ヘッドセットに本部のオペレーターの通信が流れ込む。
一体、どういうことだ。残っているEDF隊員は、ここに居る私達だけだ。
疲労で朦朧とし始めた頭。乱れた息を整えながらも、通信に疑問を抱く。

『どういうことだ?各地のEDFは既に全滅したはずだ』

本部司令官の疑問の声が響く。そうだ、私達の疑問の代弁をしてくれ。
一体、どういうことだ。EDFはまだ生き残っているのか。まだ、戦えるのか。希望は……まだ残っているのか。

『旗を掲げているのは市民たちです!生き残った市民たちが、EDFの旗を掲げ、世界中で戦闘を開始したようです。
 恐らく、マザーシップを孤立させる為の陽動作戦と思われます』

その言葉に、私は深い感動を覚えた。今、世界は一致団結して戦っている。
つい数ヶ月前まで、世界中の国々は争い続けていたと言うのに。
目の前に現れた、絶対的な悪。人類滅亡の危機。それに抗う為に、人類は団結している。

『我々を……助ける為……?』

本部司令官の感動に打ち震えたような言葉が耳に届いた。

『各地から続々と通信が入っています。すべて内容は同じ……“幸運を祈る”以上です』

そうだ、私達は世界の希望を背負って戦っている。ここで諦められるわけがない。
体に力が漲ってくる。私達は負けられないのだ。神でも、悪魔でもいい、私達に、勝利を。
思考が冴え渡る。疲労による震えが嘘のように消えていく。まだ、戦える。

狙うは、ただ一点。敵の弱点。そこのみ。

当たる、と、分かった。だからこそ、引き金を引いた。
銃口から飛び出した銃弾が空を切り裂き飛翔した。私の放った銃弾は、敵の弱点を的確に貫いた。
敵が黒煙を上げる。やれる。私達の攻撃は通用する。ならば、倒せる。

『こちらスカウト04!誰かが敵の弱点を攻撃しています!』

そうだ、私が……私達が希望を背負っている。ならば、死ねない。まだ死ねん。
私には、帰るべき家が。私を育ててくれた両親が。私を愛してくれた彼女が。私の帰りを待ってくれている人が居る。

『信じられん……!敵の猛攻の中、生き延びた者が居るのか!?一体誰だというのだ!?』

だから……ここで死ねない。私は勝って、帰るのだ。愛すべき家族の下へと。
私の帰りを待ってくれている人を悲しませない為に。私が生き残ることを信じてくれている者の為に。

『俺は……見たぞ……!ストーム1だ……げほっ、げほっ……!ストーム1が戦っているんだ……!たった一人で……!』

そして、全人類の希望がこの戦いにかかっているのだ。ならば、私達EDF隊員は最後の最後まで戦いぬく。
全人類が、私達の為に戦っている。私達が守るべきはずの市民が、戦っているのだ……。
ならば、私達が最後まで戦わずしてどうすると言うのか。骨が砕け、肉が削げ落ちても戦うのだ。

『ストーム1だ!ストーム1が戦っているぞ!あの伝説の隊長が戦っている!』

そうだ、私を、私の事を信じてくれているものが居る。その期待に答える為に……戦うのだ。
体が軽い。私を信じてくれる、こんな幸せな事はない。こんな気持ちで戦うのは、初めてだ。

――――もう、何も怖くない。

次の瞬間、私は敵の砲撃で死んだ。



「死亡フラグを立てたらそうなるわな!」

「わぁっ!」

私は怒鳴りながら飛び起きた。何故か私のすぐ近くに立っていたドラえもんが驚きの声を上げる。

「はー……全く……」

先程のとんでもない内容の夢。恐らくだが、ギガゾンビとの戦いが原因だろう。戦いで精神が昂ぶったのが原因ではないだろうか。
そしてだが、先程の夢の内容は、私がもっともよく考えていた未来予想図だ。
当然、様々な予想をしていたのだが、私が主人公として活躍しそうな舞台が地球防衛軍の世界だったのだ。
あの世界には魔法とかの類は無いし、銃器とかの扱いに長けている方が活躍できる。
もしかしたら私は主人公ではなく脇役の類なのかも知れないが……とも思ったが、そう言うのは考えないようにして体を鍛えていた。
もしもこの世界がFateの世界だったら、イリヤスフィールに交際を申し込んで……もとい、私はキャスターの魔力蒐集でぶっ倒れる脇役だ。
そういう予想は非常に私のやる気を削いでくれたので、私が主人公として無双するという未来を予想して鍛えていたのだ。
そう言う未来を予想してやる気を養わなければ、体を可能な限り鍛えるなんて苦行が一般人に出来るわけなかろう。

「しかし、私がストーム1か」

実に夢があるな。しかし、そうだとすると確か地球防衛軍の時代は2017年なので、1960年生まれの私は57歳と言うことになるな。
いやいや、ストーム1は様々な伝説があるらしく、伝説の隊長なんて言われてたから、きっとそれなりの歳だろう。
うむ、ならば私がストーム1でもおかしくないな。……こういう思考を中二病というのだったか。
……今の私は10歳だ。ならば、中二ではないが、中二病になったって誰も文句は言わんだろう。
誰かに迷惑かけてるわけではないのだしな。孤高のヒーロー気取ったって私の勝手である。

「うむ、自己弁護完了」

さて、起きるかと布団から抜け出して時計を見やる。
8時11分。朝のHRの開始時間は8時15分。登校にかかる時間は徒歩で20分前後。朝の眠りの時間、プライスレス。

「……遅刻だ!」

布団を畳んでいる暇などない!パジャマを脱ぎ捨て、枕元に用意してあった服を着込む。
何度も起こしたんだけど、と言っているドラえもんを無視して、ランドセルを背負って家を飛び出す。
全力疾走だ。間に合わないとかそう言うことは考えない。とにかく走るのだ!





当然間に合わなかった。

「野比くんが遅刻するとは珍しい。何かあったのかね?」

「昨日は大変疲れることがありまして。速めに就寝はしたのですが……。
 とは言いましても、遅刻したことは私の不注意が原因です。申し訳ありません。
 今後、このような事はないように気をつけるつもりです」

私は素直に先生に頭を下げる。私が遅刻したのは事実なのだから。
しかし、遅刻か。私が遅刻するなど、前世も今世も初めての経験ではなかろうか。
少なくとも、野比のび太として生まれ育って遅刻したのは始めての経験だ。

「いや、素直でよろしい。それに普段は大変真面目ですからな。たまにはそういうこともあるでしょう。座ってよろしい」

「はい。ありがとうございます」

もう一度頭を下げると私は席に着き、ランドセルの中に入っている教科書を机の中に放り込む。
忘れ物がないかを確認しながら、なんとはなしに斜め前方の出来杉くんの席へと目線を向けてみれば、そこにはあくびをしている出来杉くんが居た。
源さんの席にも目を向けてみれば、源さんはあくびこそしていないが眠たげだ。やはり、二人とも疲れているようだ。
ジャイアンとスネオの席にも目を向けてみるが、そこは空席だ。どうやら遅刻しているようだ。
朝のHRを話半分に聞きながら、HRとは最も多くの時間を過ごす教室の事を指すから、この時間をHRと呼ぶのは間違いではないかと考えたりする。
まぁ、ぶっちゃけどうでもいい話ではあるが。なんと呼ぼうとも意味が通じさえすればいいのだからな。
……まぁ、HRと言っても大抵誰も分からんのだが。横文字、あんまり浸透してないしな……。朝の会って言うし……。

「時代の壁って厚いな……」

そんなことを考えていると、ドタドタと誰かが廊下を走る音がする事に気付く。
そして、その直後に教室の扉が開き、ジャイアンとスネオが飛び込んできた。

「剛田くん!骨川くん!また遅刻ですか!廊下に立ってなさい!」

この時代は体罰も普通にある。あぁ、嫌だ嫌だ。怖いなあ。だから私は真面目なんだ。
ゆとり教育で育った私にとっては、体罰なんて嫌で仕方ないからな。



その後、朝のHRが終わるまで二人は立たされ、一時間目の授業が入る頃に許されていた。
一時間目、二時間目と授業が続き、それが終わると、20分の休み時間となる。
その時間になると、ジャイアン達が私の席へとやって来て、ギガゾンビたちとの戦いの話になった。
互いの苦労を称えあい、昨日詳しく聞けなかった経緯を互いに報告しあう。

「それにしても、疲れがあったのは分かるけど、野比くんが遅刻するなんて初めてじゃないかな?」

「そうだな。少なくとも、私の把握する限りは初めてだ。かく言う君も遅刻したことなかろう」

「うん。毎日早起きしてるからね。流石に今日は起きれなくて、起きたら遅刻ギリギリでさ。慌てて走ってきちゃったよ」

そう言って出来杉くんは朗らかに笑う。
彼は優秀ではあるが、それを嫌味に感じさせない不思議な魅力がある。
そして天才タイプだが努力を欠かさず、スポーツ万能、眉目秀麗と言う、おおよそ完璧な人物だ。
天は二物を与えずと言うが、アレは真っ赤な嘘ではなかろうか。彼は二物も三物も持っていそうだ。
どこかで大きな挫折をして、そのまま腐ってしまわないとよいのだが……。

「私はいつも通りの時間に来たんだけど、眠くて眠くて……居眠りしそうになっちゃったわ」

そう言って源さんが苦笑する。彼女もまた優秀な人物だ。とは言っても、秀才タイプだと思われるが。
彼女は予習復習を欠かさないし、分からないことがあれば他人に聞きに来る勤勉な少女だ。
ちなみに私も同様に秀才タイプだ。とは言っても、努力して秀才になった口だが。
前世で厳しい両親の元に生まれなければ、凡才かそれ以下のままに終わっただろうと言う程度。
思えばあの厳しさも、大人になった頃には親心だったのだろうな、とは分かったが、孝行することも出来なかったな……。
孝行したい時分に親はなしとは言うが、孝行したい時分に自身はなし、と言うのは滅多にないのではなかろうか?というか普通はないか。

「俺達は見ての通り遅刻しちまったぜ」

ジャイアンが平然と言う。寧ろどこか誇らしげだ。誇るなよ……。

「ギガゾンビとの戦いがよほど堪えたのだろうな。君達はギガゾンビに捕らえられてしまったのだろう。
 その心中察するに余りある。遅刻してしまっても、仕方のなかろう事だろう」

「そう言う野比くんだって、あの酷い猛吹雪の中で遭難しちゃったんだから。
 一体どれほどの苦境か、想像するだに恐ろしいよ。僕なら凍死しちゃってたんじゃないかな」

「謙遜することはないさ。私のしたことなど大したことではない。
 風雪を耐えるにカマクラを作り、持ち込んでいたライターが暖を取るのに役立った程度だ」

「でも、そういう準備と知識が君の命を救ったんだよ。
 君の用心深さのお陰で僕達の命は救われたんだからね」

そう言って出来杉くんが笑う。彼はこうして人を自然に持ち上げてくれるのだ。
そう言うのが、彼が上手く立ち回れている要因の一つであろう。

「お前等なに言ってんだかわかんねーよ。想像するダニ恐ろしいとかどういう意味か全然わかんねーし」

ジャイアンが眉を顰めながらそう言う。私は別に難しい事を言っているつもりはないんだが。

「そう言えば、のび太さんって自分の事を私って言うわよね。テレビに出てる大人みたいだけど、どうして?」

「そう言えばそうだね。のび太が子供の頃からそう言ってるから、気になってなかったけど、改めて言われると……」

源さんとスネオが疑問を呈する。彼らとは幼稚園に入る前からの付き合いだからな。

「特に意味は無いが、強いて言うなら癖だろう」

そうとしか言いようがない。私という一人称は前世で両親に仕込まれたものだ。
30年以上も私という一人称を使い続けてきたのだから、それ以外はどうにもしっくり来ない。

「試しに俺って言ってみろよ、のび太。あと、言葉遣いも荒くして」

唐突にそんなことを言われても困る。

「お、俺を誰だと思っていやがる!」

咄嗟に出て来たのは兄貴な人の言葉だった。アニキ、ごめん。

「……似合わないね」

「じゃあさ、次は僕って言ってみてよ」

まぁ、俺と言わされたのだから、次はそう来ると思っていた。

「僕が僕である事を証明するのは難しい。かのデカルトも、我思う故に我ありと言った。
 ならば確固たる意思もなく、自身の一人称を僕と変えた僕と言う存在は不確かなのだ。
 僕と言う存在は私という存在だったのだから。つまり、野比のび太とは、私なのである」

わけが分からんことを言ったような気がする。
私としてはちゃんと意味があって言ったのだが、それを相手に伝えるのは難しいな。
つまりなにが言いたいかと言うと、私は私という一人称こそが一番しっくり来ると言いたいのだ。

「なにが言いたいのかよくわかんねーけど、なんか変だな」

「やっぱり何時も通りが一番じゃないかしら?」

なら私に羞恥プレイをさせないでくれ。
そう思っていた所で、チャイムが鳴り響いた。
これで羞恥プレイから解放されると思いながら、私は集まった面々に席に戻るように促す。
その後は、特に恙無く授業も進んで行き、昼休みは教室で昼寝をして過ごした。

そして授業が終わり、放課後となる。

その日は特に誘われることも無く、私は家路へと着いた。
共に帰路についていた出来杉くんと共に会話を交わしながら。

「それで、僕としてはやっぱり、神か、あるいはそれに準ずる存在はいると思うんだ。
 多種多様な人種に千変の環境の中で、似たような信仰を得たりするのはおかしいと思うんだよ。
 だからこそ、人間に信仰を与える神は存在する、ってね」

「ふむ。実に難しいテーマだな。神の存在は如何なる方法を用いても、証明することも出来なければ否定も出来ない。
 なぜならば、未だに観測したものが居ないのだからね。いや、観測したものが居たとしても、その存在は既に死んでいる。
 ならば、箱の中の猫は未だに生きているのか、それとも死んでいるのか。そもそも箱の中に猫が居るのかすらも分からない。
 しかし、私としては神とはまた違うような存在が故に、その信仰は生まれたのではないか、と考える」

「へぇ?どんな考えだい?」

「人類の知恵とはそもそも、積み重ねで生まれたものではなく、とある場所から流れ出したものではないか。と考えている。
 そこから流れ出したのは無色の知識だ。こうであるがゆえにこうである。言い方を変えればAだからBというような。
 人々はその知識に、自身が理解し易いように色づけをした。それが宗教として存在するものだ。
 AだからBというのではなく、CがあるとAがありBとなる。というようなな。言い方を変えれば、Cが神で、Aが宗教であり、Bが救いだ。
 もしくは科学的に言ってしまえば、Cが始点でありAが過程でありBが結果である。というような言い方も出来る。
 もっと言い方を変えると、炎が発生するから物が燃える、ではなく、火をつけると炎が発生するから物が燃える、とな。
 宗教に置き換えると、Aが宗教における善い事。Bがその善い事の結果。Cが神という存在となる。神が言ったから、善い事をすると、天国に行ける。とな。
 つまり、神と言うのは人間の考えによって生まれたものであって、そこには事実としてあるものは何も無いということだ」

「けれど、その知識は一体何処から流れ出したんだい?
 それこそ、神様でも持ってこないと説明がつかないよ」

「寧ろ逆に考えるんだ。それは元々、人間が持っていたものだとね。
 1億人が集まり、1人1人の言葉がしっかりと届き、人々の話す言葉が全て理解出来、更には人々の言葉を推察出来る。
 そう言うような状況であれば、本来必要であったはずの何万分の1にも満たない時間で新たな結論を得られるかもしれない」

「つまり、人類の集合無意識の存在があって、その集合無意識の中で全人類は対話を行い続けている。
 だけれども、それをきちんと認識出来る者が居ない。けれど、稀にそれを認識出来るものが居る。
 そうして、拾い上げられた知識によって宗教というものは作り上げられた……そう言うことかい?」

「そう言うことだ。この答えすらもまた推察でしかなく、何の根拠も無いものだ」

「まぁ、僕の言ったことも何の根拠も無いからね」

まぁ、私達の会話は小学生がするには余り相応しいとは思えないが。



途中、名残惜しそうにしている出来杉くんと別れ、私は家へと辿り着く。
さて、家に入ろうか、そう思った瞬間、まるで戦争でもしているかのような凄まじい銃撃音が響き渡った。
そして、私の目の前の、私の自宅の壁に無数の穴が開き、そこから大量の光弾が飛び出していった。

「…………」

とりあえず、扉に耳を当ててみる。
……母とドラえもんの声が聞こえるな。ドラえもんはやたら切羽詰った声。母は困惑気味だ。
泥棒が居る、とかそう言うことではなさそうだ。仮に居たとしたら既に蜂の巣だろう。
そう思いながら、ドアから横に数メートル離れた上で、ドアを棒で叩いて見る。
一瞬の後に、凄まじい銃撃音が響き、ドアが蜂の巣となって倒れた。

「さて、一体何が起きているやら」

なにやら狂気すらも感じさせそうなドラえもんの声が聞こえる。
私はとりあえず、自身が野比のび太であることを告げてから、家の中へと入った。

「フーッ……フーッ……!の、のび太くん……!」

目が血走っていた。ロボットなのになんで目が血走るんだとか、なんで涎が出るんだとか、聞きたいことは多々ある。
だがしかし、それよりも気になるのは、ドラえもんが手に持っている突撃銃のようなものだ。

「君は一体誰と戦争をしているのだね」

「ネズミ!ネズミが、家に居るんだよ!のび太くん!」

「はぁ?」

ネズミがどうしたというのだ。確かに初めて見たときは驚いたが、対して珍しくも無い。
というかそもそも、お前は狸に見えるネコ型ロボットだろうに。捕まえて見せろよ。

「の、のの、のび太くんにはこれ!ギガンティックブラスター!戦車でも一瞬で蜂の巣に出来る!
 ママにはこっち!熱線銃!ビルでも一発で瓦礫の山に出来る!」

熱線銃なのに、何故ビルが瓦礫の山になるのか。巨大な突風って名前の銃は一体どういう銃なんだとか。
色々と疑問は沢山ある。だが、私はドラえもんの差し出す軽機関銃のようなものを受け取る。案外軽い。
そして、ドラえもんに軽く使い方をレクチャーしてもらった後、背後からギガンティックブラスターとやらでドラえもんを殴り倒した。

「……動かんな」

動かなくなったので気絶させることは出来たようだ。とりあえず、恐れ戦く母に手伝ってもらいながら、ドラえもんをビニール紐で縛った。
そのドラえもんを押入れに放り込んだ後に、つっかえ棒をしておいて、押入れを開けられないようにしておく。

「ふぅ……」

重労働だったな。そう言えばドラえもんは何キログラムあるのだろう。結構軽かったのだが。
そんなことを思いながら、私は学校でやろうと思っていた目的を行う為に、机の扉を開いた。

「……行くか」

タイムマシンへと飛び乗ると。タイムマシンへと音声で行き先を指定する。
手動操作も出来るらしいが、教えてもらっていないので私は出来ないのだ。
まぁ、ドラえもんが元来た時代に行く、くらいだったら、コンピューターに記録されているらしいので、音声指定でも問題ないらしい。
奇妙にうねる空間。その空間の中で、私は一抹の不安を感じながら、未来の世界へと旅立っていくのだった。



タイムマシンの置かれる奇妙な空間。そこにぽっかりと空いた穴の先には未来の世界と、空に燦々と輝く太陽。

「……やはり、妙だ」

とん、と、未来の世界へと降り立つ。見慣れない、全身タイツのような衣服を着た往来を行き交う人々。
その中に時折混じって見えるロボット達。そして、大気汚染などを全く感じさせない乾いた空気。
すぅ、と鼻から息を吸い込み、肺腑に大気を満たす。乾いた空気の臭いが嫌に癇に障った。

「だが、何が分からないのかが分からない」

言いながら、ポケットからタケコプターを取り出すと、それを頭に装着して空へと舞い上がった。
乱立するビル群を追い越すように上昇していき、ビル群が視界から消え、地平線が見え――ようとした瞬間、私は何かに激突した。

「ぐっ……!っ~……一体、なんだ?」

ぶつかった何か。それに手を触れてみると、ガラスのような質感でいながら、冷たさなどが存在していない壁があった。
未来の世界の理不尽道具の力だろうか、と思いながら、周囲を見渡す。やはり、周囲はビル群に囲まれて、ビル以外は何も見えない。

「ならば下か」

私はタケコプターを用いたまま飛翔し、この町から出るべく移動を開始した。





「やはり、妙だ」

とん、と持って来ていた紙をペンで叩きながら、紙に記した図形を観察する。
所々のズレはあろうが、この図形は、町の外に出ようとした所で警備員に止められた地点を線で結んだものだ。
毎回、中心部であるというモニュメントから移動を開始し、巡航速度80キロを維持して可能な限りの直線飛行を続けていた。
そして、止められる度に、1センチを1キロとして点を描画していたのだが、どれもが40~50キロ地点で引き止められる。
点を線で結べば、それはそれは綺麗に12角形が出来上がる。12箇所も引き止められるというのは幾ら何でもおかしい。

「ふ、む……」

近くの自販機で購入……というよりは、タダで出てきたよく冷えた清涼飲料を口に含みながら考える。
さておき、一体なぜこの町から出られないのか。推測は幾らでも立てられる。立て放題だ。
しかし、可能性の高いものを考えると、どうにもこうにも、この世界の実情が理解出来ないとわからない。

「ふむ……調べてみるか」

図書館に類するものがあるといいのだがと思いながら、その場で図書館の場所は?と声に出す。
すると、何処からとも無く声が響いてきて、私に図書館の場所をアナウンスしてくれる。
便利なものだと感心しながら、そのアナウンスに従って図書館へと移動を開始した。





「ふむ……タイムマシンは2008年に発明。そして、世界初の秘密道具に認定された何処でもドアが2001年の開発、か」

とりあえず、前世の私の世界とは全く違う時代を追ったんだろうということは納得しておく。
目の前の端末を操作して、秘密道具に類する情報を閉じて、今度は世界の辿った歴史を追っていく。
1970年からの歴史を調べていく事にすると、そこにはやはり私の知らない歴史があった。

「1971年、マクドナルドの一号店が日本上陸。1972年、ビートルズ解散。1973年、足尾銅山閉山。
 1974年、アメダス運用開始。1975年、ベトナム戦争終結。1980年、イラン・イラク戦争開戦。
 ふむ……あまり、私の知る歴史とは変わらんな……所々ズレている気はするが……」

ざっ、と画面を何度かスクロールして、流し読みをする。

「ふ、む……1994年、死者300とも3000とも言われる火元不明の火災が、日本の長野県で発生。生き延びたものも奇妙な後遺症で苦しみ、一時期伝染病が疑われた。
 1995年、イギリスにて総被害者数10万を越す未曾有のテロが発生。テロ集団は英国騎士団を含むイギリス軍によって鎮圧される。
 1996年、日本全土を未曾有の台風が襲う。記録的な犠牲者を出した台風は、数時間後に嘘のように消滅した。直後、空を飛ぶものを見たという噂が広まり、宇宙人の来訪かと騒がれた。
 1998年、世界規模のテロが発生。テロリストは、全世界の核ミサイルをジャックし、それを全世界へ向けて発射。
 それらは迎撃されたが、それ以降、核関連技術は更に厳重に取り締まられるようになり、21世紀半ばまで再研究の殆どが成されなかった。
 ……1990年から2000年にかけての事件が随分と多いな。簡単な事柄しか書いていないのに、十数ページにも及ぶとは」

この世界の人間は恐怖の大王なんかをまともに信じて、やけっぱちに行動してしまったんだろうか。
まぁ、そんなことを考えても分かるわけは無い。とにもかくにも見ていく他はないということだろう。
とりあえず、事件が多すぎるので、世界ではなく日本で起きた事件のみをピックアップしてみる。

「2003年、日本の埼玉県で奇妙な発光現象が起こり、日本各地でそれが観測され、宇宙人の襲来かと騒がれたが、事実は判明せず。
 2003年、総死者数、総被害者数が最低でも300万を超える未曾有の大地震が東京都直下にて発生。
 炎の鳥が空を飛んでいた、空で狼と竜が戦っていた、天使が降りてきた、等という噂が広まり、世界終焉の前触れだと判断した民衆が暴徒と化した。
 この災害による二次被害などを含めると、総被害者数は1000万に届くのではないかというほどの大災害となった。
 2004年、日本の長野県で一晩にして山が崩れるという異常事態が発生。調査の結果、大規模な地下空洞があったと判明し、急遽全国の地下空洞の調査が行われた。
 2004年、東京都の往来の中で、突如として少年が消え去るという超常現象が発生した。多数の衆人環視の中で消え去った為、世界的に有名となった。
 2006年、黄志摩博士によって新素粒子が発見され、日本はこれに対する研究を進めることで失った国力を回復しようと試みた。
 2007年、岐阜県山中の集落が火山ガスによって全滅するという大災害が起きた。死者数は2000に及んだ。……幾らなんでも災害が起こりすぎていないか?」

おかしい。それでも読み進めていくと、他にも災害が多々ある。
2010年には建設された地下都市が集中豪雨で水没し、数十万人の被害者を。
2011年には東日本で大震災が……これは私の前世でもあった大災害だ。
2012年には突如として身元不明の人物が数千人以上埼玉県に出没し、不法入国に使用されるルートの存在が疑われた。
2013年には第三次世界大戦が勃発。日本はこれに対し、2006年に発見された新素粒子を用いた兵器を使用。各国を制圧し勝利。なんで攻め込んでるんだ?
2014年には新素粒子を用いた兵器が完成を見せ、全世界に対しての販売が開始される……。
2015年には神奈川県で謎の災害が発生。芦ノ湖を中心として周囲の住民全てが全滅した。全滅!?どれだけの住民が死んだんだ!?
2016年は……特に何もなし。何もないと逆に不気味だな……。
2017年には、謎のネットワークトラブルが発生し、数日間全世界のネットワーク利用が不可能となった。これによる被害は天文学的な数字に昇る。
天文学的で済むのか……?下手をしたら人類滅亡の危機だったんじゃないのか、それは……。
更に読み進めようとしたところで、唐突に鳴り響いた時計の音が耳に届いた。そして、それと同時に目の前の端末の電源が落ちる。

「閉館時間か?」

ぽつりと呟くと、その通りだと言わんばかりに端末の備え付けてあるテーブルの上に置いてあった電光板が光り、閉館と表示された。
仕方ない、と嘆息すると、私は座っていたイスから立ち上がって背を伸ばす。

「あー……」

バキボキバキといい音を立てて背骨が鳴る。それに心地よさを感じつつも、私は図書館から出る。
余り明るくはない図書館から出た為か、一瞬視界が眩む。そして、視界が眩んだと同じだけの時間、酷い違和感を感じた。
それが何か、というのが分からない。改めて考えてみれば、何に違和感を感じたのかすらも分からない。

「チッ……イライラする」

この町がおかしいことにはとっくの昔に気付いている。
だが、何がおかしいのかが分からない。分からないようにされている。
ただ分かるのは、私はこの町に閉じ込められているということだ。

「……後はセワシくんに聞いて見るか」

彼の家の場所は覚えている。記憶を頼りに歩いていくと、彼の住んでいるマンションが見えてくる。
部屋を確認しながら、彼の部屋まで辿り着くと、チャイムを鳴らす。すると、目の前のモニターが浮かび上がる。

『あれ?おじいさん?』

「おじいさんはやめたまえと言っただろう。聞きたいことがあるので来たのだが、いいかね?」

『うん。いいよ。鍵を開けたから入ってきてよ』

その言葉と同時にモニターが消える。私は扉を開いて中に入らせてもらう。
部屋の中では、セワシくんが以前と同じ服に身を包み、ソファーに腰掛けていた。

「やぁ、おじいさん、久しぶり」

「あぁ、久しぶりだな。とは言っても、一ヶ月も経っていないが」

「そうだっけ?なんだか長い間あってない気がしたよ。それで、聞きたいことってなんだい?」

その言葉に、私は少しばかり質問すべき項目を頭の中で整理した後に口を開く。

「まず、この世界の上空には何やら巨大なバリアーのようなものがあった。アレはなんだ?」

「あぁ、あれね。あれは確か……紫外線、だっけ?ソレを防ぐ為にあるらしいよ。
 それで、タケコプターとかで外に出ちゃうと危ないから、出れないようにしてあるんだって」

紫外線を防ぐ為にある?何故そこまでする必要があるというのだ?

「他にも何か理由はあったと思うけど、よく覚えてないや」

「そうか……ならば、22世紀は航時法が最も厳しかったと聞いたが、何故ドラえもんはこっちに来れた?」

「えーっと……それは確か……21世紀に沢山の人が過去の世界に旅行に行ったから……だったと思う。
 あんまりにも沢山の人が行ったから、釣り合いが取れなくなっちゃうくらい未来が変わったんだってさ。
 タイムパトロールがそれを時空震の発生を覚悟してでも修正したから、らしいよ。
 それで、22世紀には大分航時法が厳しくなっちゃった……だったっけ?」

「私に聞かれても困る」

セワシくんは余り頭の方はよろしくないようだ。

「次だ。私は町から出ようとした。だが、出れなかった。何故だ?ここから先は危険だ、としか言われなかったが」

何故危険なのかを尋ねても、警備ロボット達は一言も話してはくれなかった。

「えっと、ごめん、それは言えないんだ。ただ、過去の世界から来た人はみんなそうなんだよ。理由を言うと怒るから言っちゃだめなんだ」

それは半ば言っているようなものだと思うのだが……。
要するに……危険人物を、監視出来ない状況にするつもりはない、ということか?
この町に多々ある監視カメラや警備カメラ、それを用いて私を監視している。
だが、この町から出ると、私を監視出来なくなるから……?
……22世紀が航時法に厳しいということは聞いたが、そこまでするのか……?

「……他にも聞きたいことはあるはずなのだが、どう疑問にしたらいいのかが分からない」

ただ、漠然と、この町はおかしい、というのが分かるだけだ。
何か根本的な間違いなどがあるはずなのだ。なのに、ソレが分からない。
私は暫くの間悩み続けたが、結局、答えは出ることはなかった。



その後、セワシくんにドラえもんの近況はどうか、や、時空犯罪者との戦いに巻き込まれた件について詳しく聞かれた。
ドラえもんについては可も無く不可も無くと嘘っぱちを伝え、ギガゾンビとの戦いについてはあるがままに話してやった。
一時間ほど拘束された後に、私は元の時代へと帰ることにして、セワシくんの家を後にした。

「……やはり、何かがおかしい」

セワシくんの家を出る時にも酷い違和感を感じた。だというのに、ソレが何か分からない。
私はそれを考え続けるが、頭は煮立つばかりで、煮詰まってくることは無い。
頭が煮立ち続けるままにタイムマシンへと乗り込み、私は音声設定で元の時代へと帰還する事とする。

「また、来るか……」

この疑問が解消するまでは、また来なくてはならない……。
空間に空いた穴の中に浮かぶ未来の世界へと目線を向けて、私は戦慄した。

「…………そう、か」

今まで感じていた最も大きな違和感。それらが全て氷解したのだ。ありえない事が起きている。
それを理解した瞬間、感じていた違和感の正体、そして、ありえないはずのことが次々と分かってくる。
未来の世界へと戻ろうとした瞬間、穴が閉じ、タイムマシンが動き始める。

「ま、待て!私は確かめなくてはならないことがあるのだ!」

『申シ訳アリマセンガ、時空乱流ガ発生シテオリマス。危険デスノデ、最大速度デ突ッ切リマス』

まるで狙ったかのようなタイミングで発生する時空乱流。何故、何故このタイミングで発生する!?
確実に、あの世界には私を陥れ様とする何かがある。まるで、私をコマか何かのように見ている存在が。

「くっ……!おのれぇっ……!必ず、突き止めてやるっ……!」

私は必ずや、あの世界に存在するありえない事を突き止めてやると確固たる決意を固めたのだった。






「それで、のびちゃん。何処に行ってたのかしら?」

「のび太くん!僕の事を殴るなんて酷いじゃないか!」

「のび太!一体今まで何処に行ってたんだ!?」

「はぁ、いえ、その、少しばかり青春が暴走しまして……」

帰った後に、家族に怒られたのは余談である。





――――――――――――――――――――――

片手だけだと打ち辛すぎて死ねます。
痛み止めの所為で死ぬほど眠いです。
そしてですが、この話はまだ途中です。この後、家に帰り、騒動が起こって……という感じで、今の三倍ほどの分量になる予定です。
片手打ちダルすぎて、どれだけの時間がかかるやら……痛み止め切れたら痛いだろうし……。

1月1日 文を追加しました。

片手打ちだと、面倒臭くてモチベが落ちるわなんやらで大変です。
でっかく伏線をぶち込みました。もっとも上手い事さりげなく伏線を入れられるようになりたいものです。

しかし、次話が投稿出来るのは一体何時になるでしょうか……。

あけましておめでとうございます。みなさま、よいお年を。


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