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[30548] 根性テトリス
Name: 数札霜月◆0cb3e27c ID:d0be26ce
Date: 2011/11/16 22:23
 この小説は小説家になろうでも連載しています。
 ご意見ご感想お待ちしています。

 あらすじ……?

 誰もが知るあのゲームが、ヴァーチャル世界に帰ってくる。
 落ちてくるブロックを、
 (パシュッ、ギューン)動かして、
 (ヒュルルルルル、ドーン)回転させて、
 (ドゴゴゴォォォォォン)落とせ!!
 このゲームに必要なのは、知性と、決断力と、根性だ!!
 新感覚シューティングパズル、【フロンティア・オブ・TETRIS】!!
 好評発売中。
以上、【フロンティア・オブ・TETRIS】公式CMから音声のみ抜粋。




 一応念のため、テトリスの基礎知識。見づらいとは思いますがこれ以外の方法があれば教えてください。
I□
 □
 □
 □

O□□
 □□

L□■
 □■
 □□

J ■□
  ■□
  □□

T□□□
 ■□■

Z□□■
 ■□□

S ■□□
  □□■

また、作中では便宜上上記の向きを正位置、それとは逆の向きを逆位置、九十度傾いたものをそれぞれ右向き、左向きと表すことにします。



[30548] 根性テトリス(本文)
Name: 数札霜月◆0cb3e27c ID:d0be26ce
Date: 2011/11/16 22:29
 スイッチを入れると途端に体の感覚が消滅する。
 閉じた瞼越しに感じていた部屋の明かりが暗くなっていき、近くの道路を走る車の音もすぐに消えていく。
 時間にして数秒にも満たない僅かな暗転。そしてその暗闇を打ち破る『VPT2』のロゴマーク。そして次の瞬間には白い空間が視界いっぱいに広がり、上空からいくつかのメニューが下りてきて体の周りを衛星のように回り始める。
 四番目に目の前に来たアイコンを迷わずに選択。とたんに切り替わる景色を見ながら、次のタイトル画面が現れるのを待つ。
 現れるタイトルロゴ、そして流れだす壮大な音楽を無視して、陽助(ようすけ)はログイン手続きを開始する。モードは通信プレイ。出現位置は格納庫に設定。視界の端に移る時計を確認すると、すぐさま「スタート」と声に出して設定を完了させた。
 途端に宙に浮いていた体に、重力の感覚が働き始める。
 同時に、現れるのは鉄板に固められた格納庫。初期設定のままいじっていない無機質な部屋の中心には一筋のレールが敷かれ、そのすぐそばには機体設定用のコンソールが置かれている。それだけを確認すると、陽助は腕を振って画面を呼び出し、いつもの二人へとパーティの申し込みを行った。数歩でたどり着けるコンソールにたどり着く前に、片方が受領の返事を送り返し、同時に顔の左側に画面と、その向こうの赤髪の美少女アバターの顔が出現する。

『おそーい。いつまで待たせんのよ陽助。宿題やったらすぐ来るって言うから待ってたのに』

「その宿題に時間かかったんだよ。お前のクラス、数学明日だよな。まじで大変だから覚悟しとけ。それと陽助って呼ぶな。今の俺はツナマヨだ。せめてツナって呼べ」

『あのねぇ、他のVRゲームと違って、このゲームでしかも会話してるの格納庫じゃリアルの名前出したって問題ないでしょう。ファンタジーの町中で話聞かれるのとはわけが違うのよ』

「それでもだよ。こういうのは気分の問題だ。せっかくイケメンのアバター作ったんだから、せめてゲームの中でくらいなりきってもいいだろう」

『それでもアバター名はツナマヨだけどね』

「おまえが決めたんだろうがこの名前!! 綱島陽助(つなしまようすけ)だからツナマヨだって!! その癖お前は自分の名前にU・Starとかカッコいい名前つけやがって。大人しくウメボシにしとけよ」

『いやよそんなしわの多そうな名前。本名の梅宮星乃(うめみやほしの)もそんな変換のされ方をされたら不満持つはずよ』

「名前に人格を設定するなよ……」

 嘆息しながらコンソールを操作し、いつも使っている機体を画面上で呼び出し、設定する。すると目の前のレール上に、コンソールに設定した通りの機体が出現した。
 目の前に出現した、F-1レースのフォーミュラカーの運転席をバイクのそれに変えたような機体を眺め、次に装備する武装を選び始める。するとうるさい左の画面に加えて、右側にも画面が展開された。

『すまん。遅れた』

『もう、覚(かく)遅い。いったい何やってたのよぉ』

『いや、宿題が大変でな。なかなか面倒だったんだ。……そういえば同じ宿題を出されたのに陽助が俺より早いなんて珍しいな』

「今はツナマヨだおかか。なに、俺が早いのは宿題を答えまる写しでこなしたからだよ。解答と問題集がセットなのも考えものだよな」

『……そんなだからお前はテストで地獄を見るんだよ。試験前に泣きついてもほっとくからな』

 右に出現した画面の向こうで、浜岡覚(はまおかかく)ことおかかのアバターが嘆息する。おかかのアバターも、陽助のツナマヨに負けず劣らずの整った顔立ちだが、こちらは初期設定画面の無個性な顔の細部をいじって、追加で現実と同じメガネをかけさせただけの簡素なものだ。髪を赤く染めた星乃や、できるだけいい顔を選んだ陽助とはアバターの設計思想がまるで違う。

『その点私はラッキーだね。宿題も二人より後だから教えてもらえるし。クラス変わっておにぎり三人集とも呼ばれなくなったし』

 星乃の言葉に、陽助も内心でそれに感謝する。三人は小学校からの付き合いのいわゆる幼馴染なのだが、小学校と中学校では何度か同じクラスになり、そのせいでおにぎりの呼び名が定着してしまっていた。高校に入り星乃が別のクラスになったことで、一時的に今はおにぎりの呼び名が表面に出ないでいる。いつまで続くかは分からないが、陽助自身はおにぎりの呼び名を知る人が生まれないことを祈るのみだ。

「そんなことより、今日のポジションはどうするんだ? もう準備し始めちゃってるけど、いつも通りの装備でいいのか?」

『ああ。この前は最高記録出たし、今日も引き続きそれでいこう』

「オッケー、そんじゃあ、今日も俺はドリルとレーザーで破壊専門ね」

『よっしゃあー。今日もバーニアでぶっ飛しちゃうからね!!』

 星乃の雄叫びを画面の向こうに聞きながら、陽助も自分の機体にドリルアームとレーザー砲を二問ずつセットする。セットが終わると、コンソールのメニュー画面を閉じ、発進準備状態にした後で目の前の自分の機体にまたがった。

「んじゃ、先に出てるぜ。お前らもセッティング終わったらすぐ来いよ」

 言いながら、バイクと同じようにアクセルをふかせると目の前のレールの先の鉄の壁が突然開く。その先にある壁も次々と上下左右に解放されていき、最後にどこぞのロボットアニメよろしくレールに光がともった。

「おっしゃあ!! いっくぜぇ!!」

 気合いの入った声と共に、陽助の機体はレールの上を走り、その向こうにある空へと飛び出した。





 二十一世紀も中盤を迎えた頃、ついにゲーム業界においてVRゲームと言うものが現実となった。
 VR、つまりはヴァーチャルリアリティ。人間の脳を機械につなぎ、その感覚と意思を仮想世界にある1と0から成る仮想の体に入れるこの技術は、それまでのゲームのあり方を一変させるには十分な技術的進歩だった。
 最初こそ設備の大掛かりさからゲームセンターの格闘ゲームやレースゲームに使われる程度の普及率だったが、使用する機械の小型化によって普及率も急増。それまでのゲームハードの後継機として様々な機種が発売され、一部の携帯ゲームを除いた、ネットゲームから据え置き型のゲームまでのゲーム機と名のつくものは全てがネットワーク対応とVR化を果たしていった。
 そしてソフトの方もそれは同じだった。むしろソフトの方がこの現象は如実で、一時はどんなゲームでもVR化すれば売れるという迷信があるのではないかと思うほど、猫も杓子もVRゲームに走る有様だった。そしてその風潮は今に至ってもなお根柢のところに残り続けている。
 そしてそんな状況の中で、過去の作品を無理やりVR化するという例も数限りなくあった。大概はヴァーチャル空間の中で画面を見るような、ほとんどVRゲームの意味をなさないものが多かったのだが、

 極まれに、ほとんど別ゲームと化して多くのファンを取り込んでしまったゲームも存在していた。





 格納庫があったと思しき岩棚から飛び出し、陽助はしばし遊覧飛行を楽しむ。肌に当たる風の感覚は現実のそれと同じリアルな感覚だ。ゲームの関係上決められた範囲しか飛ぶことはできないが、それでもこのゲームに使用される円柱状のフィールドは遊覧飛行が楽しめるほどには広い。
 適当に飛んだあとUターンして背後の岩棚を見ると、ちょうど岩の一部が左右に開き、その中の鉄板に覆われた通路から一気の機体が飛び出してくる。
 陽助と同じ、フォーミュラカーとバイクを組み合わせたような機体。【スプリットライダー】と呼ばれるその機体は、しかし本来のフォーミュラカーならばタイヤのある位置に別のものが装着されている。陽助の黄色い機体は前輪二つにレーザーの砲身、後輪にはドリルのついたアームが。そして目の前、追い付いてきた覚の緑色の機体には前輪の位置にミサイルランチャー、後輪の位置にワイヤーガンがそれぞれ装備されている。

「ってあれ? 何でウメボシの奴は出てこないんだ?」

『さあ、出てくるときになにやら騒いでいたようだが……』

 フィールドに出た際にフレンド通信からパーティ通信に切り替わった画面を一瞥し、陽助は覚に疑問の声をぶつける。だが、どうやら彼も自分の設定を終えて早々に出てきてしまったらしい。そうしてしばらく二人で星乃が出てこない理由を適当に話していると、ようやくといった感じで岩棚の扉が開き、そこから星乃の機体が飛び出してきた。

「ってなんだそりゃあ!?」

 出てきた機体は星乃のいつもの装備、前輪部分にブースターアンカーの発射用砲身、後輪部分に加速用のバーニアを装備した二重の意味で速度重視の機体だ。だが、今日のそれはいつもと違い、紅を基調とした機体の表面にキラキラ、ラメラメ、ゴテゴテ、派手派手と言った表現が似合いそうな派手な装飾が大量につけられていたことだ。

『しょうがないでしょ!! 二人が来るの遅いから、機体を手持ちの装飾パーツ使って改造して遊んでたのよ。本当は出撃前に元に戻すつもりだったのに、二人ともさっさと先に出ちゃうんだもん』

「いや、でも、それは……、プッ、ハハハハハ。いや、無いわ。ありえない。めっちゃくちゃ目立ってる。クッ、ブハハハハハ」

『クッ、笑うなよツナ。確かに、周りの雄大な青空とのミスマッチ感はすごいけど、ククッ』

『あーっ、もう、うっさい!! いいでしょ別に!! 見た目はマシンスペックに影響しないんだから!! そんなことより、そろそろ落ちてくるわよ』

 言われて、手元に映し出された画面、バイクならばスピードメーターなどがある場所に視線を移すと、そこには三人がそろったことで始まったカウントが、既に三を刻んでいた。

『よし。それじゃあ各々配置につこうか。今日こそ全国最高記録狙うぞ』

『はいはーい。そんじゃ、ミスらないでよねツナマヨ』

「アホ言うな。そっちこそ、操縦誤ってブロックに特攻かけたりすんなよ」

 軽口を交わし合い三人はそれぞれ自分の担当高度を目指して上下に分かれていく。一番上空を目指す星乃。ここよりも若干下の低空に陣取る陽助。そして二人のちょうど中間あたりに自信を配置するのが覚だ。三人がそれぞれの配置に向かって跳び始めたと同時、手元のカウントダウンがゼロになり、陽助の目指す下方向、その先にある広い荒野にそのラインが現れる。
 ラインが形作るのは横に並ぶ十個の正方形。そしてその正方形は空中にもラインを伸ばしていき、最後にはブロックを十×二十の割合で積み上げたような形を形成する。
 そして、それが済んだ瞬間に遥か上空、学校の校舎を思い出すほどの大きさのそれが、三つ同時にこの世界に出現した。

『お、来た来た。出たのは縦のI、逆位置のT、そんでもう一つはOだね。今スキャンして画面に送るよ』

 星乃の言葉通り、上空にあると思しきブロックが手元の画面に順番に表示され、ゆっくりとマップの下へと落ちている。
 そしてその内の一つ、逆位置のTと呼ばれた、三つ横に並んだブロックの中心の上にさらに一つブロックが乗っている形のそれを目にして、

『あ、どうやら逆位置のTはこぶつきみたいだね。こぶの数は一個。まあ、序盤じゃこんなもんか』

『よし、OとTにブースターを打ち込んでくれ。Oは加速、Tは減速だ。Iはそのままで構わん』

『了解了解~』

 そう返事をすると、星乃の機体は下からTのブロックめがけて前輪部分にあるブースターアンカーを打ちこみ、さらに隣のOの上まで飛ぶと今度は上から同じようにブースターを打ち込んだ。
 打ち込まれた瞬間、ブースターが火を吹いて、Oの落下速度を加速、Tの落下速度を減速させる。
 複数人でプレイするにあたって、出現するブロックの落下速度に差をつけておくことはこのゲームのセオリーだ。フィールドで落下しているブロックの数はプレイヤーの数と常に同数になるように設定されている。そして、ブロックが地面につくとその瞬間に新しいブロックが上空に出現するため、序盤の内にブロックの落下タイミングをずらしておかないと、後になって同時にブロックがいくつも出現して非常に苦しくなるのだ。

『とりあえずOとTはそのまま落とす。Iは少し端に寄せよう。ツナ、Tのこぶ、早めに始末しておけよ』

『言われなくても!!』

 陽助の返事に満足したのか、覚の機体も一気にスピードを上げてIのブロックが落ちてくる場所の、一マス分向こうに駆けつける。空中でいったん静止し、Iのブロックが落ちて背後に来るのを見計らうと、機体の背後に装備されているワイヤーガンから、ワイヤーをIのブロックめがけて打ち込んだ。

『さあ、お前はこっちだ!!』

 画面の向こうでそんな声が聞こえると同時、空中に静止していた覚の機体がエンジンを吹かして進みだし、同時に打ち込まれたワイヤーに引かれるようにIのブロックも横移動を始める。
 Iのブロックは地面から伸びるマス目のいちばん右まで引っ張られていくと、そこでワイヤーを切り離されて、フィールドの端に向かって落ちていく。
 と同時に、下の方で先に落下していたOが轟音と共に地面に落下し、その音で陽助も自分の方に意識を戻した。

「さて、俺も仕事にかかりますか!」

『二人とも、新しいのが出てきたよ。今度のもTだ。今度は正位置』

『了解だ。ツナ、右回転させて先に落ちたTとOの隙間に入れるから、そっちのTのこぶ、ちゃんと始末しておけよ』

「わかってるよ」

 返事を返しながら、陽助は落ちてくる逆位置のTの側面に回り込む。すると上の段に一つだけ乗ったブロックの側面に一つのどす黒いこぶがくっついているのを発見した。

「発見! ファイヤー!!」

 言葉と共に陽助は照準を合わせ、握っていたハンドルについたスイッチを強く押す。すると機体の前方、本来なら前輪があるはすの場所に据えられた砲身が次々に緑色のレーザーを吐き出し始めた。吐き出されたレーザーは視線の先、ロックオンの表示がなされたブロックのこぶに次々にヒットしていく。
 見た目はブロックの四分の一程度の大きさしかないこぶだが、これがなかなかの曲者だ。このこぶを始末しないままにしておくと、他のブロックを上から落としたときなどに、こぶに引っ掛かってブロックが動きを止めてしまう。すると、引っかかって下に落ちなかった分の空白がブロックの下にできてしまい、その段の始末が滞ってしまうのだ。こぶは後からでも破壊することはできるが、こぶに引っ掛かったブロックは引っ掛かった状態のまま固定されてしまうため、その部分は上のブロックを消して新たにブロックをはめることで補うしかない。

「そんなめんどくさいことになる前に、ぶっ壊してやる!!」

 言いながら陽助はレーザーを乱射したままアクセルを吹かすと、レーザーを撃ちながらこぶめがけて突進し始めた。同時に、機体の後ろについたドリルアームを起動させる。

「うち砕け!! ドリルアァァァァァアム!!」

 こぶの手前で急ブレーキを掛け、後ろ両側からドリルアームをこぶめがけて突き込む。前輪部につけたレーザーを撃ち続けることも忘れない。至近距離でのレーザーの乱射と、その両側からのドリル。二種類の攻撃を同時に受けたブロックのこぶは、『たまらず』といった感じで小さなポリゴン片となって砕け散った。

「おっしゃ!!」

『っていうか、いちいちそんなに叫ばないでよ鬱陶しい』

「うるせえスピード狂が。お前だってさっきから意味もなく飛びまわってるくせに」

『おいツナ。終わったんならすぐにそこを退避しろ』

「あぁ、はいはい」

 右手の画面から響く声に従い、陽助がUターンしながら上を見上げると、そこには正位置のTがゆっくりと落ちてきていた。そしてその右側にはブロックをここまで引っ張ってきたらしい覚の姿も見てとれる。

『さて、仕上げといくか』

 そういうと覚はワイヤーを切り離し、Tのブロックの上に回り込む。覚から見て左端にあるブロックに照準を合わせると、ハンドルのスイッチを押して前輪部にあるミサイルを撃ち込んだ。
 T字のブロックの右上で、打ち込まれたミサイルが爆発する。
 だが、ブロック自体には傷一つ付かない。起こるのは破壊ではなく、爆発の衝撃によるブロックの回転だ。それまで下への線が短いTの向きをしていたブロックは、時計回りに九十度回転して鏡文字の『ト』の形をとり、その下の逆位置のTの隙間めがけて落ちていく。

『あとは二つが落ちるに任せておけばいい』

「はいよ。って、Iのブロックがもう落ちてるな。ウメボシィ、新しいブロックはなんだ?」

『Jの右向き。っていうかウメボシとかブロックとか呼ばないでよ!! 私の今の名前はU・Starで、これはブロックじゃなくてテトリミノだってば。一応テトリスなんだよこれ!!』

「そうは言ってもなぁ……」

 星乃の言葉にぼやきながら、陽助は自分のした、落ちていくブロックと周りの景色、ついでに自分達が乗る機体を見て、つぶやく。

「これ、もはやテトリスじゃなくない?」





【フロンティア・オブ・TETRIS】
 そのタイトルが公開された時のユーザーの反応はそれはそれは冷ややかなものだった。
「なんでテトリス?」
「ヴァーチャルって言葉の意味分かってんのか?」
「クソゲー確定すぎる」
 そんな言葉がネット上で大量に囁かれ、タイトル以外ほとんど情報も明かされない、それなのになぜかテレビコマーシャルまで行われるそのゲームは、一部の物好きしかやらない、VRゲームの面汚し扱いとして忘れ去られる、その当時はだれもがそう思っていた。
 だがほんの一部。ほとんどがもの好きと称される人種が、わずかながら発売と同時にそれを買い、プレイし始めたことでその状況は一変する。
 まずゲームを間違えたのではないかと考える者が続出した。
 ゲーム会社に苦情が殺到し、それに対してゲーム会社が用意していた解答を述べるなか、とりあえずプレイしていた者達がようやくそのゲームの内容と面白さを思い知る。
 【スプリットライダー】を操り、空中をかける爽快感。ミサイルやレーザーを打ち込み、こぶを破壊し、ブロックを倒す派手なプレイスタイル。それまで全く明かされず、ろくでもない想像だけで成り立っていたゲームの全貌が、やった人間の証言や新しいコマーシャルなどによって明らかになり、それによってネットなどでの評価は文字通り逆転した。
 最初の発売から二カ月。【フロンティア・オブ・TETRIS】はVRゲームの新たなる形として、多くの人間に愛される作品となったのである。





「砕け、散れぇぇぇえ!!」

 ドリルとレーザーの集中攻撃で目の前のこぶを粉々に砕いてポリゴン片に変え、陽助は手元のマップに視線を向ける。それと同時に右側の画面から覚の声が聞こえてきた。

『よし、右向きのLのこぶは始末したな? それじゃあ次はさっき始末し損ねた八列目のこぶを始末して来い。今二番目に落ちてきてるJはこぶ無しだ。その次のOがそっちにつく前に始末してしまえ』

「あいよ」

 言われたとおり八列目のいちばん上のブロックを目指しながら、陽助はちらりと背後、画面でいう左端の一際ブロックが積み重なり、荒野に高い壁を作っている部分を視界に収める。

(さすがにそろそろきつくなってきたな)

 通常のテトリスがそうであるように、この【フロンティア・オブ・TETRIS】も時間と共に難易度が上がっていく。それは通常のテトリスのようにブロックの落下速度が上がるという形もあるが、それに加えてブロックを積むうえで邪魔になるこぶの出現頻度や、個数の増加と言う形でも行われる。今向かっている八列目のこぶも、一つのブロックに三個もこぶがついているという致命的な事態によって地表に落ちるまでに始末しきれなかった分だ。
 そうこう考えている間に八列目までたどり着き、すかさずこぶめがけてレーザーとドリルを浴びせかける。

(何とかIさえ来てくれれば状況も変わるんだが……)

 そう考えながら、陽助はチラリと、今度は画面の一番右端、そこだけほとんどブロックが入っていない列に視線を向ける。そこにあるのは一列分の空白。先ほどから技と埋めることなく残している、四段消去(テトリス)のための大穴だ。先ほどから陽助は、何かと言うとその穴を見ては「Iはまだか?」と言う疑問を発し続けている。そろそろ画面左端のブロックの山もゲームオーバを告げる赤線(デッドライン)に近づいている。あるいはそろそろLブロックによる二段消去(ダブル)あたりで妥協しておくべきかもしれない。さっきのLはもはや手遅れだが、それでも待つブロックの種類は増やしておいてもいいころだ。
 と、そう思っていたとき、先ほどこぶの始末を行った右向きのLが下のブロックへと着地し、轟音をあげた。
 同時に、遥か上空、画面のちょうど中央あたりに新しいブロックが現れる。

『あっ! 覚っ、来た! 来たよ!! Iが来た!!』

『本当か!? よし、すぐに十番にそいつを落とすぞ!!』

『待って、今ブースター打ち込んでスキャンを……、え?』

「あん? どうしたんだ?」

 陽助の発した言葉に返事が返ってくる前に、陽助の機体が突然がくんと揺れに襲われる。慌てて視線を前に戻すと、どうやらレーザーとドリルで攻撃していたこぶが砕け、ドリルが手ごたえを失ったらしい。
 そして視線を戻した拍子、マップにスキャンを終えた新しいブロックが表示される。待ちに待った縦のI。だが、その右側には縦四つに並ぶ無骨なこぶがくっついていた。

「っ!! こぶ四つだとォ!!」

『陽助!!』

「わかってる。Oのこぶは放棄。今からそっちに向かう!!」

 右側の画面に向かって叫びながら、陽助は機体を上空に真っ直ぐに向け、フルスピードでIブロックめがけて駆けあがる。
 こぶ四つと言うのはこのゲームでもめったに出ない悪条件だ。こぶの最大数であるこの個数は、いつもの陽助たちのプレイスタイルではカバーしきれない。そんなものがよりのもよって待ち望んでいたIブロックに取りついてやってくるとは陽助たちも思いもしなかった。

『ウメボシ!! ブースターはまだ打ち込むな。そのままじゃこぶを破壊するまで十列に持ち込めない。一度百八十度回転させてから牽引する!!』

『わかったけど覚くんまでウメボシって言ったぁ!!』

 画面の向こうで「すまん」と謝る覚の声を聞きながら、陽助はその判断を心中で称賛する。
 こぶは確かにブロックを積むときに邪魔になる代物だが、実は邪魔になる局面はそれだけではない。ブロックをけん引する際に、こぶがけん引する方向に残っていると、一番端の列にブロックを置こうとしたときにこぶが一番端の境界線にぶつかって移動が阻害されてしまうのだ。そうなってしまうとそのブロックを一番端の列におくことができないため、その場合は先にこぶを破壊してから端に寄せなくてはならない。
 だが、今回こぶは四つもありながら片方の面に全て集中していたため、百八十度回転させればブロックを一番隅に寄せることができる。ただしその場合も問題がある。もしも百八十度回転させる前にブースターを下から打ち込んでしまうと、回転した時にそのブースターが逆さまになって落下の速度を加速してしまうのだ。ブースターの効果時間には限りがあるとはいえ、一度打ち込んでしまえばブースターが消えるのを待つか、落下速度の加速を覚悟で回転させるしかない。

(まあ、流石に昔のあだ名を言わないように気を使う余裕はなかったみたいだけど……)

 二発のミサイルがブロックを百八十度回転させ、それをさらに覚が端の列に持ってくる頃、ようやく陽助もブロックのもとまで到達した。どうやら思っていたよりもかなり下の方で破壊活動に順じていたらしい。
 背後を星乃の【スプリットライダー】が駆け抜ける音を感じながら、まずは一番下のこぶめがけてレーザーとドリルを叩き込む。陽助の【スプリットライダー】はブロックに押し返される形で徐々に地表へと落下していくが、その速度は先ほどのブロックの落下速度よりもはるかに遅い。どうやら星乃がブースターを打ち込んで落下速度を緩和したようだ。

『後はツナに任せるしかないな。間に合いそうか?』

「このままいけばなんとかね。それより気を抜くな。そろそろさっきのJが落ちて、次の奴が出てくる頃――」

 その言葉を言いきる直前、案の定地表からブロックの落下する轟音が響いてくる。タイミング的に今言っていたJのブロックだろう。音に反応し、慌てたように下にいた星乃が上空に向けて飛んでいく。その速度は、二人の【スプリットライダー】と比べても二段階上だ。伊達にバーニアを装備していない。
 だが、そんなことを考える心の余裕は次の瞬間には目の前のこぶと共に吹っ飛んだ。

『ヤバいよ覚!! 次の奴が出てきた場所、左の山の真上だ!! 形状は右向きのL!! このままだと山がまた一段高くなっちゃう!!』

『っ!! 今向かってる。星乃はともかくブースターで時間稼ぎを頼む!! できれば横移動も!!』

『了解!!』

 星乃の機体が装備するアンカーブースターは横から打ち込むことでワイヤーガンほどではないにせよ横移動を可能とする。だが、だからと言ってそれだけで山の範囲からLブロックを引き離すのは不可能だ。そして、覚の機体のスピードでは上空にたどり着くまでにまだ時間がかかる。間に合うかどうかは非常に微妙なところだろう。

(もしこれで山が高くなってしまうと、いよいよデッドラインまであと二マス。元より後がない状態ではあったが、このままこいつが山に落ちたら、次に左上にブロックが出てきただけで文字通り積みだな)

 内心で危険性を計算しながら、しかし陽助は目の前のこぶに集中する。というのも、ブロックの移動に関して陽助の機体にできることはないからだ。陽助の【スプリットライダー】は破壊専門。目の前にあるこぶを破壊すること以外は、せいぜいどの機体に持ついているブロックのスキャンくらいしかできない。
 そしてそのことは、今マイナスには働かない。なぜなら目の前のこぶ三つを破壊してこのIブロックを右端の隙間に落としこめば、それだけでフィールド全体のブロックが四段分減るからだ。たとえ山が少し高くなっても、Iのブロックが地表に到達する前に新しいブロックが真上から落ちなければデッドラインから離れられる。そして、ブロックの出現する中心、左上、右上の三か所は、連続で同じ場所からはブロックが出てこない。つまり山にブロックが落ちても次のブロックが出てくる場所は山の真上以外の二か所なのだ。

(もしこれを決めればチーム最高記録か。今日はこのまま全国記録狙うぜ!!)

 見えてきた光明に舌なめずりしながら、陽助は二番目のこぶを破壊する。残るこぶは後二つ。このペースなら地表につく前に残りも破壊できるだろう。
 そう考えながら三つ目のこぶに攻撃を仕掛けていると、ブロックが積み上がる轟音が聞こえてきた。どうやら覚たちでもあのブロックには間に合わなかったらしい。
 だが、ここでもう一つ、計算していなかった音がフィールドに響く。それは陽助が完全に思考の外に放り出していた背後の方向。このフィールドにもう一つ存在していた、落下中だったOブロックの立てる轟音だった。

「しまった!!」

 いやな予感に襲われ、陽助は勢いよく上空を見上げる。今地表に到達したブロックは二つ。その個数はこれから現われるブロックの個数でもあるのだ。一つは左上以外の二か所に現れるから問題ないが、もう一つが現れる可能性のある二か所には、今出現したら間違いなくデッドラインに触れる左上も含まれる。
 そしてその最悪のケースは、予感を裏切ることなく実現した。

『ヤバいよ!! 左上にテトロミノ来た!! 形状は正位置のS!!』

『くぅっ!! よりにもよってSか!!』

 厄介なことに、Sは今の左上の状況において最も悪いブロックだった。IやOと違い横に広く。同じく横に広い他のブロックと違って回転させてギリギリデッドラインに触れないようにはめ込んで落とすこともできない。

「く、そ……!!」

 移動させることは恐らく絶望的に不可能だ。ブースターで落下速度を緩和することを考えても、移動させる距離よりも落ちる距離の方が致命的に短い。そしてそれはこちらのIと比べても同様だ。いくら移動能力のある二人が近くにいると言っても、Sの落下は確実にこちらのIよりも早く山の上に行われる。

「くっそぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

 何かないか。必死でそう願いながら上空を見上げる。これがこのゲームの理不尽なところだ。必ず最後は敗北によって終了する。それを敗北と取らないための方法は、プレイヤーがそのゲームでどこまで目標に近づけるかによって決まるのだ。

(まだだ!! まだ目標には至っちゃいない!!)

 陽助の脳裏に、先ほど見たポイントの表示がよみがえる。目指しているのは全国記録。全国的に見ても三人はかなり高い記録を出している方だが、それでも全国の順位でいえばベストテンにも入れていない。

(まだ終われない!! せめて、もう一度四段消去(テトリス)でポイントを稼ぐまでは!!)

 はるか高みに光る、一位と言う栄光の光。全国で一番の記録を打ち立てるというばかげた夢への道を探すように、陽助は必死で、光明を探す。
 そして見つけた。しかしそれは栄光の光などではない。キラキラ、ゴテゴテ、ラメラメ、派手派手の、それでもかけがえのない光明だった。

「ウゥゥゥゥゥメェェェェェェ!!」

『えっ!?』

『なに!?』

 突然あがった陽助の雄たけびに通信の向こうで二人の驚く声がする。だが、今はそんな二人の心情に構っている暇はない。

「急いでこのIにブースターを打ち込め!!」

『えぇっ!? でも、そんなことしたら――』

「いいからやれ!! このゲームに必要なのはなんだ!!」

『えっ? それは――』

『それは、知性と――』

『――っ、決断力と――』

「そう――根性だ!!」

 一瞬だけ画面の向こうで星乃が息をのむ気配がする。だが次の瞬間には、上空に輝く派手な機体が、こちらの列めがけて猛烈なスピードで向かってきた。

『わかったわよツナ!! 言う通りにしてあげるから、後は根性でなんとかなさい!!』

「上等だぁ!!」

 叫んだ瞬間、目の前のこぶが粉々に砕け散る。ブロックに押し返される形になっていた【スプリットライダー】が解放され、ため込んでいたエネルギーを吐き出すように一気に加速する。目指す先はIブロックのいちばん上。その側面にへばりつく最後のこぶだ。

『受け取れ私の加速力!!』

 そしてそれと同時、Iブロックの頂点にアンカーブースターが突き刺さる。落下速度が加速され、急速に落下するIブロック。このままいけばブロックはこぶを破壊する前にブロックの一番端へと突き刺さるだろう。だが、それではダメなのだ。このブロックがしっかり一番下まで届かないと四段消去(テトリス)は成立しない。
 そしてだからこそ、陽助は手元のカバーのついたスイッチを、カバーごと叩き割って押しつぶす。

「煌け!!  【スプリットライダー】!!」

 言葉に応じるように、陽助の【スプリットライダー】が淡い光に包まれる。同時に前輪部の二つの砲身が切り離され、後輪のドリルアームも背後へと消えていく。
 このゲームにおいて使用される【スプリットライダー】にはパーツが無い状態でも二つの機能が存在する。一つはブロックの形を読み取って手元のマップに表示する【スキャン】。そしてもう一つはこのゲームにおいてプレイヤーにとっての最終手段ともなる機能だ。
 すなわち【特攻】。機体の体とプレイヤーの脱落を引き換えに放たれる一撃は、それだけにレーザーやドリルをはるかに超える高い破壊力を持つ。

「次こそは全国記録だ――」

 激突、そして機体とこぶの同時破壊。空中に投げ出された陽助は、自身のアバターが消えていくのを感じながら、ブロックと境界線の隙間に消えていくIブロックに最後の言葉を投げかけた。

「――首を洗って待っていろ!!」

 その瞬間。陽助のアバターと四十個のブロックは、心地よい破裂音と共に同時に消滅した。
 叩き出した記録はチームベスト。全国記録には届かなかった。






「それにしても、まさか二人まで【特攻】使って終わるとは思わなかったよ」

「しょうが無いでしょ。あんたがいなくなったおかげで、こぶを破壊する手段が無くなっちゃったんだから」

「いや、褒めてるんだって。よくもまあ、二回の特攻をうまく使って、二回もブロック消せたよな」

「だからブロックじゃなくてテトロミノだって。でもそうだよね。流石知性担当の覚は違うわ」

 その言葉を受けて陽助は、ふと視線を目の前の星乃から、隣にいる覚へと向け直した。メガネをかけたもう一人の少年は、こちらの視線から逃げるように顔をそむけ、手元のコーヒーに口をつける。間違いなく照れているときの反応だ。
 現在陽助達は、ゲームのチャット機能によって訪れることができる談話室に集まっている。これは望んだ人間たちと一つの部屋に集まって話すことのできるシステムで、様々な飲み物がセルフサービスで置かれている。もちろん部屋にあるものはすべてデータなのだが、ゲームの後はこうして集まって祝勝会や反省会をやるのがこの三人の習慣だ。

「それにしても、ついにベストテンに入れたわね。見てこれ。現在十位だって。ついにトップが見えてきたんじゃない?」

「まあ、今回もギリギリだったけどね。ホント、陽助の土壇場での根性には毎回感心するよ。俺なんか陽助が叫ぶ直前にもう諦め入ってたし」

「まあ、だからってあのセリフを現実に使うとは思わなかったけどね。あ、ここは現実じゃなくて仮想現実だっけ」

「ほっとけ。あのコマーシャルのセリフ、気にいってたから一度使ってみたかったんだよ」

 『このゲームに必要なのは、知性と、決断力と、根性だ!!』
 これは、【フロンティア・オブ・TETRIS】のテレビコマーシャル内で使われているうたい文句である。それをあの局面で言えた理由は普段から三人が、その三つのどれが誰の適正かを話し合っていたからだ。まさか合い言葉のように使う日が来るとは思っていなかったが。

「さて、それじゃあ明日も学校あるし、そろそろ落ちるとしますか」

「ええ!? なんだよ。もう一戦やってこうぜ」

「あたしパス。本物のテトリスと違って、このゲーム一戦での精神的な疲労が半端ないんだもん」

 実際、星乃の言うとおりこのゲームの一戦での精神的な疲労は本来のテトリスの比ではない。ただ画面を見て手元のボタンを操作するだけでよかった本来のテトリスのアクションが、【スプリットライダー】を操縦して各種装備を操るハイレベルなものに変わっているのだ。簡素なパズルゲームのつもりで始めて、そのボリュームに圧倒されたという話も珍しくない。

「まあ、でも俺は本来のテトリスよりこっちのほうが好きだけどね」

「まあ確かにね。その点に関してはあたしも陽助の意見に賛成だけど」

「そうだな。なにより、テトリスと一番違うところは、お前らと三人でできるってところだ」

「「……」」

 自分たちのセリフに応じて覚が思いのほかくさいセリフを吐いたことで、二人はしばし沈黙する。そして沈黙があけると、三人は誰からと言うこともなく揃って笑いだした。しばらく室内に三人の笑い声が響き、それが止む頃に陽助の口が一つの言葉を紡ぐ。
 それはこのゲームのプレイヤーが、ゲームの後に必ず口をついて出るセリフ。

「やっぱりこれ、テトリスじゃねぇよ」


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