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[30401] 【ネタ短編】魔法学院の愉快な人々【ゼロの使い魔】
Name: 尼寺浦 雨月◆f017e48a ID:bdb2158c
Date: 2011/11/04 22:08


※オリキャラ注意。
※名のある原作キャラそんなに出番ない。
※ネタ。あくまでもネタ。





[30401] その1:目覚めた男
Name: 尼寺浦 雨月◆f017e48a ID:bdb2158c
Date: 2011/11/04 22:09

 ぬるり、と生温かいものに全身を包まれる。
それは死の恐怖に直結したおぞましいものであるはずなのだが、
胸の内の高揚ととある一点の昂ぶりを抑えることができない。
このまま『飲まれて』死ぬことが出来る自分は、どれほど幸福なのだろうか。
「……またか……」
 下着のぬめりを感じて途方に暮れながら、少年は目を覚ました。
そうして目を覚ましてから、少年――名を、イジドール・モーリス・ド・ゲドロン――は、
今日が何の日であったのかを思い出した。
「しまった、今日は使い魔再召喚の日じゃないか!」
慌ててクロゼットから下着を取り出す。今まで履いていたもので、とてもではないが人前には出られない。
ひょい、と杖を一振りして部屋の隅の籠へと放り込む。
洗濯は自分でやるか、さもなくばメイドに押し付けるというのがこの学園での規則であり、
普通の着替えであればいくらでもメイドに洗わせることが出来た。
だが、いくら平民のメイドであっても相手は女性だ。
『夢魔の悪戯の成果(思春期以降の男性特有の汚れの婉曲表現)』のついた下着を洗わせられない、という男子が大半であった。
そこで用意されたのがこの籠である。
特殊な魔法によって匂いを抑える機能がついた籠は、学院勤めのメイド達が触ることを固く禁じられている。
これで悠々と、夜中にこっそり洗濯場に出て『夢魔の悪戯の成果(婉曲表現)』のついた下着を洗えるのだ。
閑話休題。
 風の力を使ったことからも解るように、彼は風のメイジである。
学力でいえば中の下、他の一年生と同じくドットクラスのメイジ。
そんな彼が、何故使い魔召喚を再び行うことになったのかと言えば――話は三日前に遡る。
といっても難しい話ではない。彼の使い魔である一羽のカラスが死んでしまっただけのことである。


 『ゼロ』と揶揄される少女がいる。彼女の魔法はいつも必ず『爆発』というカタチで失敗する。
初めて使い魔を連れて望んだ講義においても、常の通り爆発が起きた。
人間たちはいい。おおよそがその結果を予想して防御策を取れたのだから。
だが、そうはいかなかったのが使い魔達である。
強大な爆発によって混乱した彼らはパニックを起こし、教室の内外を暴れ回った。
彼はその時、自らの使い魔であるカラス――ラッキーと名付けた――を見失ってしまった。
ラッキーを探すために、彼は『感覚の共有』を試みた。
このハルケギニアで使い魔とメイジが一身同体とされる理由こそがこの『感覚の共有』である。
メイジは使い魔の視覚と聴覚を共有し、偵察などに使うことが出来る。
ごくごく一般的なメイジであったイジドールがそれを行ったのは当然であった
ただ一つ悲劇があったとすれば、共有した感覚が視覚と聴覚のみではなかったことである。
 その異変に最初に気がついたのは、隣でうろたえる使い魔(スキュア)をなだめていた少年だった。
「イジー、どうかしたのか?」
少年、メレディスは隣で呆然とする友人の異変に気づいて声をかけた。
「俺、の」
空ろな目をしてイジドールは呟いた。
「俺の、ラッキーが蛇に食われた」
「なんだって、えーっと、ど、どれだ!?」
友人の使い魔を探し、辺りを見回しながら問うが、返事はない。
「……おい、イジー?」
「ぬめぬめ、ぬるぬる、あは、あはははは」
口元からダラダラとヨダレをこぼして笑いながら、イジドールはそのまま床に倒れた。


 イジドールが介抱されている間に、哀れなラッキーは消化された。
蛇を召喚した同級生の少女が賠償を申し出てきたが、上の空のままイジドールは断りを入れた。
とはいえ、さすがに召喚翌日に使い魔を無くしたというのはいささか問題であった。
そのためコルベール教諭監督のもと、今一度イジドールには使い魔召喚の機会が与えられたのである。

「さて、不幸な事故はあったが君にはもう一度チャンスがある。一度出来たことだ。今度もきっと成功する」
「はい」

 イジドールは杖をしっかと握った。召喚したい使い魔を彼はこの三日で決意している。
彼の素質。彼の望み。両方の観点から彼はある生物の召喚を渇望した。

「五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ」

 銀の鏡が宙に浮かび上がる。ボゥ、と光輝いたそこから姿を見せたのは。
「……クエ?」
馬程はあろうかと言う巨大な鳥であった。
「ほぉ、ロック鳥ですか!」
コルベールは賛嘆の声を上げた。使い魔にランク付けをするならば、
先日彼が召喚したカラスに比べてロック鳥はずいぶんと高位にあたる。
しかし、彼は賛嘆の声が耳に入っていないのかのように、フラフラと鳥に近づいた。
「五つの力を司るペンタゴン。かのものに祝福を与え、我が使い魔となせ」
クチバシに口付ける。足の辺りにルーンが刻まれ、光輝く。
「クエ」
その痛みに不快そうな声を上げる新しい使い魔を、イジドールは恍惚とした眼差しで見ていた。
 ともすれば人間さえ食べるという巨大な鳥。この三日望み続けていた彼の使い魔。
思ったより少々小さいが、自分の『望み』を叶えるには十分だろう。
「お前は今日から俺の使い魔だ。名前はそうだな、前任がラッキーだったからハッピーにしよう」
よしよし、とそのクチバシを撫でながらイジドールは微笑む。
「最初の命令だ」
そのまま、クチバシをこじ開けた。

「俺を頭から思い切り飲み込んでくれぇえええええ!!」

「何を言ってるんですかあなたはー!!!」



 その日。何となく嫌な予感がして友人の再召喚の儀を見に行ったメレディスが見たものは、
ロック鳥のクチバシの中でケタケタウフフと笑っている友人と、パニックを起こした一羽のロック鳥と、
どうやらナニカおかしなものに目覚めたらしい生徒を必死に引きずり出そうとしている頭の寂しい教諭の姿だった。

 数日後には『(ナニかアブナイものに)目覚めた男』としてイジドールは学院中の話題となっていた。
だが本人は実に晴れやかな気分で、今日もハッピーの口の中に首を突っ込んでいる。
突っ込まれているハッピーの方は、酷く迷惑そうな顔をしている、とは
最早唯一の友人となってしまったメレディスの談である。



[30401] その2:前略、タコ娘
Name: 尼寺浦 雨月◆f017e48a ID:bdb2158c
Date: 2011/11/05 16:50

 「我が名はメレディス・エイルマー・イヴォン・ド・フィーユ……」
少年があげた名乗りは、トリステインでは少々珍しい響きであった。
何故なら、彼の名の大半はアルビオン風の名前であるから。
ではどうしてそんな名前なのか、といえば話は単純。
彼の祖父がアルビオン出身なのである。
 この祖父、という人が中々型破りな人生を送っている。
まだ極々若い頃に両親が相次いで亡くなり、当主を継いだ。
元より家に居るよりも屋外での狩りを好むような人物だった彼は、
引き継ぎの仕事が一段落した後トリステインへと旅行に出かけた。
目的地は空に浮かぶアルビオンからもっとも縁遠い場所――すなわち、海。
 初めて見た海。豊かな水をたたえ、心躍るような潮の香り。彼はたちまち虜となった。
手元にあった金の半分を使ってメイジを雇い、海辺に小屋を立てると
彼は城に戻ろうともせずそこで暮らし始めた。
 そんな彼の姿を見初めたのがその海辺一帯を治めていた伯爵の末娘である。
二人は互いに自らが貴族であることを隠し、交際を続けた。
暇さえあれば一日中海を眺めてる男と、暇さえあれば一日中海に潜っていかねない女が
互いを貴族である、などとは一瞬足りとて考えなかったのだが。
それ故、二人の付き合いが彼女の親に知れてから、それぞれの出自を知り仰天したほどである。
 かくして結ばれ、親に頼みこんで海に近い区画に分家してもらった二人は、
仕事を終えたら即海! 何はなくとも即海! 子の産湯も孫の産湯も海水!
社交パーティー? そんなことより海だ! 漁師が困ってる? よし援助だ!
といった感じの『海狂い』と化して、社交界からは距離をおかれるようなことになっていた。


閑話休題。
 そんな海狂いのフィーユ家の当主の末息子であるメレディスも、海狂いであった。
といっても、彼は海そのものよりそこに住むある種の生物に酷く魅せられていたのだが。
「五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ」
杖を振るう。宙に浮かび上がる銀の鏡。その鏡が光り、ぬるり、と何かが這い出てきた。
「いやほおお! おいでませ僕のタコちゃああああん!」
少年メレディス。学力は中の中。水のドット。
比較的常識人の彼であったが、海と『タコ』のことになると、
少々思考のタガが外れてしまう残念な少年であった。
 思い切り飛び込んだ先。彼の予想ではぬるりとしたタコの体に激突するはずであった。
だが、彼の感じた柔らかさはタコのそれとは異なっていた。
特有のぬめりも、皮の張った感じもしない。どちらかと言えば――人の体に近い柔らかさ。
「……え?」
開いた目に飛び込んできたのは、顔を真っ赤にした黒髪の美少女。
「え?」
「~~~~~~~ッ!」
ベチン、と物凄い力で頬を張り飛ばされて、地面に落ちる。
「あいたたた」
頬を押さえ、地面から身を起こす。
 彼は改めて、自分が召喚したものを見た。
腰まで伸びた波打つ黒髪の合間から覗く、ツンと尖った耳。
どういった理由からか真っ赤に染まっている、青白い肌。
恨めしげに彼を睨みつける、爛々と輝く黄金色の瞳。
そして、その下半身では真黒な八本のタコ足が、うねうねと蠢いていた。
あと、胸元を手で覆い隠している。
この生物がスキュア、という人魚の一種であることを彼は図鑑で知っていた。
美しい上半身と、タコの下半身を持つ、人によってはグロテスクに見える生物。
 ――だが、彼にとっては。
つかつかと歩み寄る。警戒心も露わに喉から唸り声を発している。口元には鋭い牙が覗く。
「お友達から初めてください!!」
思い切り叫ぶと、両手でしっかりとその手を握りしめた。
スキュアの顔から怒りが消える。顔が赤いことに変わりはないが。
「使い魔! それ使い魔ですよ!!」
事態の推移を見守っていた監督の教諭が、さすがに声を荒げた。
「はっ。そ、そうでした。すいません、コルベール先生」
どうにか正気を取り戻したらしい生徒に、ホッと息を吐いた。
「お友達じゃなくて、人生のパートナーでした!」
「……それでは、次はコントラクト・サーヴァントに移ってください」
もう何を言っても無駄だ、とコルベールは投げた。
彼の後にも召喚の儀式を行う生徒は残っている。
手早く進めねば時間がなくなってしまう。
「はい。えーっと、ちょっと目を閉じてもらえる、かな。わかる?」
顔を近づけると、察したのだろうかスキュアがまぶたを下ろした。
「……五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我が使い魔となせ」
メレディス・エイルマー・イヴォン・ド・フィーユのファーストキスは、潮の味がした。


 部屋に戻ったメレディスは自らの使い魔と相対していた。
彼女は今、彼が元から用意していた水槽の縁からひょっこり上半身を出している。
「えっと、改めまして。僕はメレディス。君のことはなんて呼んだらいいかな?」
声をかけてみる。しばらく首を傾げ、うー、とかぐーとか呻き始めた。
何か特定の音を出したいのか、四苦八苦している。
「……ワタシ、ナマエ、ニンゲン、ムズカシイ、オト」
諦めたように、そう告げてしょんぼりした表情を見せる。
「じゃあ、僕が名前を付けてもいいかい?」
「エ、ト……」
彼女が困ったような顔をしているのに、彼は気付かない。
 机の上から手帳を取り、パラパラと捲る。びっしりと書き溜めていた使い魔の名前候補から一つを選び出す。
「色々考えてたけど、ミュリエルってどうかな。古い言葉で、『海は輝く』って意味らしいんだ」
「ア、ウ……」
「……気に入らなかった?」
心配になって覗きこむと、何故か彼女の顔は再び赤くなっていた。
「ど、どうしたの? 塩分濃かった? それとも温度高かった?」
あわあわと水槽を確認する彼に向かって、彼女はふるふると首を横に振った。
「ス、スキュア、アタラシイ、ナマエ、ツケル、ツガイ、ヤクソク」
「え」
パサリ、と手帳が床に落ちる。
「……デ、デモ、××××、ツカイマ。ダカラ、アタラシイ、ナマエ、シカタナイ」
「あー、うん、えーっと……」
「ク、クチヅケ、ハジメテ、デモ、ソノ、ツカイマ、ダカラ……」
「ああいや、うん、なんか、その、ごめん……」
「アナタ、キニスル、ナイ。ワタシ、ノゾンダ、キタ」
一般的に使い魔召喚のゲートを通るのは、使い魔になってもいいと思っている生き物だけである。
(もっとも、彼らの年度においては約一名例外がいるが)
だから、責任は自分にあると言わんばかりの彼女の笑みに、心が大きく揺さぶられた。
 「……いやその、ぼ、僕は、いいよ?」
そうしてしばしの沈黙の後、告げる。
「エ?」
「家は兄さんが継いだから問題ないし、今のとこ好きな人もいないし……」
居心地悪そうに顔を赤くして、ごにょごにょと呟く。
「っていうか、その、君みたいに可愛い子なら、その、大歓迎、っていうか」
「カ、カワイイ……!? デモ、ワタシ、スキュア。アシ、タコ」
「そういうところも僕は大歓迎です!」
「……ウレシイ!」
ばしゃん、と水槽から大きく跳ね上がり、彼女は彼にのしかかる。
「わっぷ」
「ワタシ、ミュリエル! メレディス! ゴシュジン! ツガイ!」
両腕とタコの足で彼を抱きしめて、ミュリエルはゴロゴロと床を転げ回る。
メレディスよりも少々大きいので、すっぽりと彼を包み込む形で。

 
 「おーいメレディス、使い魔関係の書類早く書いちま……メレディース!?」
友人をからかうつもりで部屋を訪れたイジドールが見たものは、
タコ娘に全身に絡みつかせたまま至福の笑みを見せて床を転がるメレディスの姿であった。
「止まれー! 死んじゃう、そのままじゃ死んじゃうからー! おーい!」
必死に声をかけるが、彼の声はメレディスにもミュリエルにも届いていない。
カァ、と呆れたようにイジドールの肩でカラスが鳴いた。
 彼は知らない。数日後には、彼もまたこのおかしな友人の類友となってしまうことを。
さすがにその趣味は……、と男女共に二人から離れていくことを。



────────────────────────

 タコ人魚とか可愛いのに。何で本編で絡んでこないんですか。
あと前回ヘビの主を『少女』って書いてましたが、原作では男子でしたね。
でもいいです。拙作では女子という設定にします。多分。
次はバシリスクを召喚した子かバグベアーを召喚した子の話になる。きっと。





[30401] その3:夢見るお年頃
Name: 尼寺浦 雨月◆f017e48a ID:bdb2158c
Date: 2011/11/06 13:48

 バグベアー、という生物がハルケギニアには存在する。
見た目は『人の頭ほどもある毛むくじゃらの目玉お化け』で、不気味さには定評がある。
その不気味な姿から、『夜寝てる子供をとって食う』という民間伝承が存在しており、
『早く寝ないとバグベアーが来るよ』と親に脅されて、
慌ててベッドに潜りこんだ経験を持たない者はおそらくいない。
 そんなバグベアーであったが、実際はもっと穏やかな生き物である。
そもそも、彼らの主食は花の蜜や果汁の類であって、肉を食うことはない。
毛むくじゃらのそれは触手であり、器用に動かして手足代わりとする。
知能はイヌやネコ程度の高さで、主人が躾ければきちんと命令を聞くようになる。
発声器官こそないが、接し続けていればそこから感情を読み取ることも出来るため、
想像よりもすばらしいモフモフ具合と相まって、虜になるものも少なくない。
『バグベアーたんをモフモフする会』の会員は、トリステインだけで三百人を越えるとの専らの噂である。
 そして、会員番号357番(仮)になりそうな少女が、ここ魔法学院に居た。


 少女の名はノエル・ド・ヴァノという。
彼女の名前をクラスメイトに問うと、しばらく考え込んだ後でどうにか思い出し
「ああ、あのなんか地味な子」と言うに違いない。
彼女には取り立てて誇るようなものがないため、その反応も当然であった。
実家の爵位は高くない。特技もない。学力は中の上くらいだが、それも親しい友達がいないので、
休み時間に勉強くらいしかやることがないから、等の理由による。
一応趣味こそあるが、その趣味は誰かに言う類のものでもないため、
課題が出ればとっとと終わらせて、その趣味にのめり込む。友達の出来ようはずもない。
クラスは風のドット。余りの目立たなさに、二つ名は『空気』であった。
 親しい友達こそいないが、問われれば返事はするし、話題にはついていけるはずだ、と
彼女は常日頃から考えている。しかし、何しろ話しかけられるのを待っているか、
さもなくば話しかけても声が小さすぎて聞いてもらえないかの二択。
今日もまた、真ん中辺りの席に座っているにも関わらず、彼女の傍には誰もいない。
 いや、違った。今日からはそうではなかった、と彼女は己の隣に浮かぶ大目玉に小さく微笑んだ。
大目玉――先述したバグベアー――は、ちらりと主の方を見やる。
『大丈夫、私がついてる。がんばって、ノエルおねえちゃん!』
うん、私頑張る。使い魔をきっかけにして、今度こそお友達を作るよ。
口には出さずにそう返事をして、ウキウキと黒板に向き直った。
 しばらくの後、ぼそぼそと背後から私語が聞えてきて眉をしかめた。
授業中におしゃべりをするなんて、まったく馬鹿げているなぁ、と少々のイラツキを覚える。
決して、喋る相手がいないことをやっかんでいるわけではない。多分。
「授業中の私語は慎みなさい!」
ほら怒られた、と呆れて息を吐く。
「おしゃべりをする暇があるなら、あなたにやってもらいましょう!」
錬金の実践か。あれ、結構難しいのよね。私なんか風だし特に、と考えながら
指名されたのが誰かを確認しようと後ろを振り向いて、思考が停止した。
黒髪の平民に声をかけられているのは、『ゼロのルイズ』であった。
「先生、やめといた方がいいと思いますけど」
ゲルマニア出身のクラスメイトの声に、ノエルも正面も向き直り頷く。
彼女にこんな狭い教室で魔法を使わせるなんて、馬鹿じゃないかしら、と。
「お願い、やめてルイズ」
「……やります」
意を決したかのように、ルイズが石段を降りるのを確認して、ノエルは慌ててバグベアーを抱えた。
そのまま、机の下に潜りこむ。じたじたと暴れるバグベアー。
今からちょっと怖いことが起きるけど、我慢してね、と念を送った。
 かくして、教室は爆発した。抱きしめていた彼女のバグベアーこそ無事だったが、
マンティコアは外へ飛び出し、カラスは喰われ、スキュアはパニックを起こして主に抱きつき、と
教室は阿鼻叫喚の大惨事の現場と化している。
「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」
「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」
「俺の……ラッキーが……ヘビに……喰われ……ウフフ……」
「ミュリエル、落ち着いて、怖くないから。……おいイジー、どうした、イジー!?」
 これだから魔法の使えないゼロって迷惑なのよ、と心中で呟いて嘆息した。
腕の中ではまだ、じたじたとバグベアーが暴れている。


 その日の授業は午前午後ともにほとんど中止になった。
昼食の時間に男子生徒が決闘騒ぎを起こし、騒ぎを落ち着けるために
各自自室で待機、ということになった、らしい。
一刻も早くバグベアーに会いたかった彼女は早々に食事を済ませたためその騒ぎの場に居なかったから、
詳しいことは知らない。隣室の少女が何やらぼーっとした表情のまま、それでも必要事項だからと
連絡してくれなかったら、多分誰もいない教室に向かっていたことだろう。
「……はーっ、男の子達ったらどうしてあんなにケンカが好きなのかしら。野蛮ったらないわ!」
バグベアーを抱きかかえ、顔を埋めてモフモフしながらノエルは独りごちる。
「それにしても残念よねえ、フワフワ。あなたと一緒にお友達を作ろうと思ったのに!
 誰一人として、私に話しかけてくれないんだもの。あなたの顔がちょっと怖いからいけないのかしら?
 触ってみれば、こぉんなにモフモフでフワフワで、おまけにお花の匂いがして!
 こぉんなに可愛い生き物って他にいないんじゃないかしらってくらいなのに!」
ごろんごろんと少々大き目のベッドの上で転がる。
「え? いいえ、気にしなくていいのよ、フワフワ。『ごめんねおねえちゃん』なあんて言わなくても、
 私は……ううん、ノエルお姉ちゃんはぜーんっぜん気にしてないんだからねっ」
わしわしと頭を撫でる。フワフワ――彼女のバグベアー――はなすがままにされている。
彼女はお花の匂いと言ったが、単に昼食の蜂蜜が触手にこびりついているだけであるとか、
彼女が言うようなことをちっとも思ってないとか、否定の意を示すことはない。
「はぁー、それにしても可愛いなぁ。あなたを召喚出来て本当に嬉しいなぁ」
少なくとも、彼女が今口にした言葉は本音であるし、食いっぱぐれることもないのだから、
好きにやらせておけばいい、とフワフワが思っているかどうかは定かではない。
おそらく、似たようなことを考えている気はする。
「あのゼロのルイズみたいに、平民を召喚しちゃったら大変だったでしょうねえ。
 あっ、でも、男の子を召喚するっていうのはいいかも。それでそれで、
 その男の子が実は遠い昔に悪いメイジに封印されていた王子様で、
 彼は私のキスで目を覚ますの。そんで彼は言うのよ。
 『助けてくれてありがとう、美しい人。僕と結婚してください』って。
 結婚! 結婚ですって! まあ、まあどうしましょうフワフワ! ウフフフフ!」
口元から涎を垂らす様を見たら、その王子様も多分どんびきする。
生憎、それを彼女に指摘してくれるような相手はいないのであった。
あとで念入りに毛づくろいをしよう、とフワフワが思ったかどうかは定かではない。
「でもでも、王子様の復活を知った悪いメイジが姿を見せるんだけど、彼は私を見て驚くの。
 何故って、実は遠い昔に悪いメイジが恋をした王子様の婚約者のお姫様の魂が、
 私に生まれ変わっていることを見抜いたからなのね!
 今度こそ愛する人を手に入れたいって、悪いメイジはあらゆる手を使ってくるの。
 それで、浚われた私は悪いメイジの正体を見るんだけど、これもまたとびきりかっこいい人で……」


 日が暮れ出し、夕日が彼女の部屋の本棚の『イーヴァルディの勇者』や
『バタフライ夫人シリーズ』を始めとする物語の数々を照らし出す頃になっても、
『私と王子様と悪いメイジのイケナイ三角関係』の妄想は、彼女の口から止まることを知らなかった。
『私を犠牲にして愛しい人を復活させる手段を悪魔に伝えられて、王子様が戸惑いながらも、
 今の私に恋をしていることに気が付いてその呼びかけを跳ねのける』辺りで、
フワフワは目を閉じてぐっすりと眠っていた。高速でモフモフされて毛並みの乱れた部分が、
禿げませんように、と考えていたかどうかは定かではない。
 ノエル・ド・ヴァン。彼女は声こそ出さないが、案外おしゃべりであった。
そして少々――そう、少々。あくまでも少々、常人より想像力が豊かであった。
トリップした彼女がこちらの世界に戻ってきて、夕食を食べ損ねたことに気が付くまでには、
今しばらくの時間を必要とする。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

多分、五年後くらいにこの時期のことを思い出したら、
フワフワに顔をうずめて足をじたばたさせてると思います。




[30401] その4:動悸・息切れ・めまい
Name: 尼寺浦 雨月◆f017e48a ID:bdb2158c
Date: 2011/11/07 21:05

 「はぁ……」
少女は一人、自室で使い魔の頭を撫でていた。
「ミスタ・ゲドロン……」
数日前までは、なんとも思っていなかった人物の名を口にする。
途端に、きゅん、と胸が高鳴った。
「ミスタ・ゲドロン」
きゅん
「ミスタ・イジドール」
きゅん
「……い、愛しの、イジー……」 
きゅぅううううううん。
「はあああああ! どうしましょう、これって恋ですわよね、アダー!?」
抱き締められそうになるのを、アダーと呼ばれた蛇は一メイル程の体をくねらせて避ける。
「んもう! アダーったらいじわるですこと! お酒に漬けてしまいますわよ!?」
ぷぅ、と頬を膨らませた少女はジュリ・ド・ネルヴァル。『耕土』の二つ名を持つ土のドットメイジである。
 耕土、とは作物を植える土地のことである。
彼女の実家は貴族としての側面よりも農業人としての側面が強い、珍しい貴族であった。
『海狂いのフィーユ』と並び、『泥まみれのネルヴァル』と揶揄されることも少なくない。
他家から嫁いできた母親はそんな『田舎貴族』を嫌がり、彼女と弟を作ったとはトリスタニア別宅を作り、社交に精を出している。
そんな母親の教育の結果、言葉遣いこそ淑女らしいものであったが、発想の面においては、
一緒に泥まみれになった平民達のものに近くなっている。
 だからこそ、先ほど、自分の使い魔が同級生の男子の使い魔を食べてしまった時も一人の人間として謝罪をし、
一人の貴族として相手に与えた不利益を賠償しようとしたのであった。
「でも、ミスタ・ゲドロンは、微笑を浮かべておっしゃったのよ……『いいよ』と。たった一言」
使い魔を抱き締めることを諦め、代わりに枕を腕の中に引き寄せたまま、彼女はうっとりと呟いた。
実際のところ当該少年が言った『いいよ』という言葉は
『(新しい性癖に気がついたから、いなくなったラッキーに関することはどうでも)いいよ』と解釈するのが正しい。
けれど、それを彼女は知らない。彼女の中で『いいよ』という言葉は、
『(責任はこちらにあって君みたいな可愛い子はそんなこと考えなくても)いいよ』であった。
「はぁああ、ミスタ・ゲドロン……」
下着姿のままベッドの上でゴロゴロ転がる彼女は、もうすっかり恋の病に罹患して。
余談だが、隣室でバグベアーを抱えた少女が似たような動きをしている。
今まで親しい付き合いをしていないが、多分この二人は仲良くなれるであろう。


 さて、己の恋心を自覚したとは言ってもジュリの行動は普段と大して変わらなかった。
母親から『淑女は己の想いを自ら伝えるようなことをしてはならない』と教育を受けていたためである。
その教えに従って、向こうがこちらの意図を察してくれるよう、授業中に視線を送ったり、
教室移動のたびにすぐ側を歩いたり、と少しだけアプローチをしていた。
 その効果があったのか、彼も時折ちらちらと彼女の方を見ていた。
そして、その日の放課後、彼女は彼に声をかけた。
「ミ、ミス・ネルヴァル」
「はい、なんでしょうか?」
告白されるのか、と思いジッと彼を見つめる。その視線に困ったように彼は目をそらした。
「あの、ですね。えーっと、き、君の使い魔についてのことなんだが」
「まあ、アダーのことですか?」
くすり、と口元を歪める。きっと、彼は女子とあまり話をしないに違いない。
でなければ、話しかけるきっかけに使い魔のことを選んだりしないだろう。
「そ、そう。そのアダーなんだが、えーっと、食べ物はナニを食べるんだい?」
「そうですわね、ト……こほん。スズメですとか、ネズミですとか。あと、タマゴも好物ですわ」
「それらの、餌は生きたまま食わせるのかい?」
女の子相手にする会話じゃない、と思いながらもジュリは何となく愉快な心持になる。
女の子に慣れていないらしいこの同級生の、初めての恋人の座を射止められる優越感から来たものだ。
「ええ。よかったら、ご覧になります? 今からこの子に夕食を与えに行くところですの」
「ぜ、是非!」
 その後の三十分ほど、彼女はとても楽しい時間を過ごした。
彼女の問いかけに、イジドールは「ああ」とか「そうだね」とか優しく答えてくれる。
目を合わせるのが恥ずかしいらしく、視線をアダーの方へ送ったままだ。
かっこいい、と思っていた彼の可愛らしいところを見つけて、嬉しくなった。
「ありがとう、ミス・ネルヴァル。今日はとても素晴らしい時間を過ごせたよ」
「私もですわ、ミスタ・ゲドロン。明日の使い魔召喚、頑張ってくださいませ」
「ああ。君のアダーにも負けない、素晴らしい使い魔を呼んでみせるよ。ふふふ」
ジュリは気がつかなかった。イジドールの口の端に、ヨダレが垂れていたことに。
彼の瞳がアダーが餌を丸呑みにするたびに爛々と輝いていたことに。
何しろ、恋は盲目と申しますから。


 翌日。ジュリはいつもより少し早起きをすると、こっそり部屋を出た。
イジドールが使い魔を再召喚するのを見るために。
「ミスタ・ゲドロンの色んな姿、しっかり目に焼き付けておきたいものですわ」
到着した広場で、呪文を唱えて人一人入るくらいの穴を空ける。
その中に潜り、上の部分を半分ほど土で塞げば傍目には見つからない。
故郷の平民達とかくれんぼをするときによく使った方法だ。
「……五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ」
しばらくの後、儀式が始まる。イジドールは澱むことなく呪文を詠唱し、
銀の鏡の中からは大きなロック鳥が現れる。
「まあ。ミスタ・ゲドロンに相応しい素敵な使い魔ですわ」
うっとりと眺めていた彼女は、次の瞬間大きく目を剥いた。
「俺を頭から思い切り飲み込んでくれぇえええええ!!」
そう叫んだかと思うと、イジドールはロック鳥のクチバシの中に頭を突っ込んだのだから。
「え……っ」
呆然とする目前で、監督役のコルベールが慌てて彼を引きずり出そうとし、イジドールはそれを拒み
「これが幸せなんだー! これが俺の幸福なんだー!」
とぎゃあぎゃあ騒いでいる。どこからか、彼の友人がやってきてコルベールに加勢している。
「目を覚ませイジー!」
「目なら覚めている!」
彼は高らかに言い放つ。
「丸呑みこそ最高! 丸呑みこそ至高! それが世界の真理だということにな!」
「訂正ー! 目覚めるなー! 戻ってこーい!!」
バサバサと大きな羽音に紛れて、高笑いが聞こえる。
「……帰り、ましょう」
のっそり土から這い出ると、フライを唱えて学院の自分の部屋へと戻っていく。
なんだか疲れた。今日はもう泥のように眠っていたい。


  「はぁ……」
少女は一人、自室で使い魔の頭を撫でていた。
「ミスタ・ゲドロン……」
またこのパターンか、とアダーは思ったかもしれない。生憎と彼にそれを伝えるための発声器官はなかった。
「ねえ、どうしましょう、アダー」
ほぉ、と切なげにため息をこぼした。
「私、ミスタ・ゲドロンのお姿から目が離せないんですの」
機会さえあれば、ロック鳥に頭を突っ込んでいるイジドール。
他人の巨大な使い魔に、飲み込んでもらおうとして逃げられているイジドール。
体中をロック鳥のヨダレでべたべたにしているイジドール。
その姿を見るたびに、きゅんきゅんと胸が高鳴るのだ。
「うぅ……でも、これが恋かはわかりませんの」
がっくりと肩を落とす。
「私……『丸呑みされている殿方』にときめいているのか、
 それともミスタ・ゲドロンにときめいているのか……」
両手で顔を覆う。
「どっちなんだかわからないんですのぉおおおおお!!」
わあわあと声を上げて泣き出した主から、アダーは全力で目をそらした。
先日まで野生動物だった彼は、過去を振り返って後悔したりするほどの知恵はなかった。
今はその頃が懐かしい、と思っている。
どうしてこうなった、と。
エサと安全を目的に、銀の鏡などくぐらねばよかった。
パニックになった拍子に、カラスなど食わねばよかった。
「えーん、どうしたらいいんですのーっ」
擦り寄ってめそめそと泣く主に向かって、
泣きたいのはこっちの方だ、とアダーは言ってやりたかった。


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丸呑みは特殊性癖です。用法容量を守って正しくお楽しみください。




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