My Grandmother's Clock
“親鳥と雛” 5章 新たな日常 前編 なのはの章、無限書庫の司書
新歴66年 10月上旬 魔導師の杖、レイジングハート・エクセリオンの記録より抜粋
「それじゃ、お母さん、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい、今日は6時頃には帰ってこられるのよね?」
「うん! 今日で取りあえず一区切りつくから」
「そう、頑張ってね、はい、お弁当」
「ありがとー、なのは、今日も全力全開です!」
母上からお弁当を受け取りつつ、教わったばかりの教導隊形式の敬礼を返しながら、マスターは今日も元気に学校へ向かわれる。
私は魔導師の杖であり、マスターの鏡たるインテリジェントデバイス、銘をレイジングハート。
マイスターについては記録がない。ユーノ・スクライアという名の彼が、旧暦末期頃の“大崩壊”を運良く免れた遺跡より私を発見してからのことが、私の総てである。
ただ、テスタロッサという名の工学者の家系が、私の設計図らしきものを有しており、そのからの情報もあり、私の命題、成すべきことを今は明確に把握している。
マスターの全てを記録し、マスターの望むもの、進むべき道、それを叶えるために必要な事柄を演算することが、私の使命。
設計図の記述によれば、姉妹機らしきものも存在したらしいが、私自身に関わる事柄はどうでもいい、優先すべきはマスターに関わる事柄である。
『My master, Start the simulation using a multi-task.(マスター、マルチタスクを用いてシミュレーションを開始します)』
「お願いレイジングハート、学校に着くまでにもう一度おさらいしておきたいから」
そして、私は今日も主のためにシミュレーションプログラムを走らせる。
教導隊の方々より様々な教育用のプログラムを入力していただき、私も機能も過去とは比較にならない。
今考えれば、ジュエルシードの案件が終了してよりすぐの頃、マスターと私はとてつもなく無謀な訓練をしてきたのではないだろうか?
マスターへとシミュレーションプログラムを送信する傍ら、現状を把握するために過去との比較検証を行ってみる。
新歴66年10月現在
「おはよう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「なのは、今日も早いな」
「にゃはは、お兄ちゃん達ほどじゃないよ」
起床時間はおよそAM6:00頃。既に家族に秘密にする必要もないため、実家の道場の地下に結界装置が敷設してありおよそ1時間の魔法の訓練を行われます。
それに伴い、兄君の恭也様や姉君の美由希様の訓練時間や場所をずらすこととなり、マスターは遠慮なさいましたが、兄と姉の特権、というもので押し切られたそうです。
「それじゃ、お母さん、行ってきまーす」
学校における生活はほとんど変わらず、ただ、以前は3人で過ごすことが多かったですが、現在は5人で過ごされることが多くなっています。
授業中に並行して行うシミュレーション訓練は私に蓄積された実際の武装局員達のデータであり、9:00~15:00までの勉強時間のうち、45分×5または6の、平均4時間の間で航空戦術の分析が行われ、その結果が当日の教導隊での訓練に反映されます。
「今日は、フェイトがアースラに行ってるのね」
「うん、ちょっと忙しくなりそうだから、午後からは休むって」
「それがええんとちゃうかな、フェイトちゃん人形も、結構操作するの苦労するらしいで」
「バルディッシュとバルニフィカスが上手く同期を取ってるけど、次元を挟んでいる以上、どうしてもタイムラグはでるものね。なのはちゃんのレイジングハートへの通信ならそう難しくもないけど」
「そういえば、この前トールが送ってくれた次元航行中の通信遅れに関する論文に詳しく載ってたわね」
「アリサちゃん、そんな難しいの読んでるんだ。それに、すずかちゃんも凄いね」
「そりゃあね、なのはは放課後は本局にいるけど、フェイトは次元の海のどこを飛んでいるか分からないし、時の庭園のアスガルドの力を借りるにしても色々と調整は必要なんだから」
お昼休みの1時間程は“デバイス同好会”で集まり、お弁当を摘みながらお話しするのが、マスターの楽しみです。
この間は私からの魔力負荷も絶っており、シミュレーションも行いません。マスターにとって、ご友人とゆっくりと話せる貴重なお時間なのでしょう。
「しっかし、小学校4年生とはとても思えん会話や、いったい私らは何時から老けてしもたんやろ?」
「はやてちゃん、お母さんみたいって言われるの、相当気にしてるんだね」
「そりゃそうやってすずかちゃん、管理世界では伝説の密猟犯、地元ではお母さんってなんやねん。私の人生は早くもお局フラグが立ちつつある崖っぷちや」
「そういった意味では、なのはにはユーノという保険がいる分、安泰かしら」
「保険?」
「駄目やでアリサちゃん、なのはちゃんには間接的な表現はまだまだ通じんから」
「ん~、確かに、フェイトあたりなら結構反応するんだけどねぇ」
「???」
「なのはちゃんには、まだ分からなくていいと思うよ」
察するに、恋愛に関する事柄だとは推察できるのですが、機械である私にもよく分かりません。
以前トールに相談したところ、“似たもの主従”という評価をいただきましたが、いったいどういうことなのでしょうか?
「えっと、今日はどっちの転送ポートからだっけ?」
『Haraoun house. Today's PIN data has already been sent to me.(ハラオウン家です。本日の暗証番号のデータは既に私へ送信されています)』
そして放課後、マスターは本局へと向かわれます。
現在、八神家とハラオウン家の二箇所に本局と繋がる転送ポートは設置されており、学校が終わる16:00~18:00の前半2時間と、19:00~21:00の後半、計4時間を、マスターは武装隊との訓練に充てています。
現在の役目は主に高ランク魔導師の敵役としてであり、4人1組の分隊とマスター1人がぶつかるケースが多く。他にも、フロントアタッカーのみしかいなかった場合や、結界魔導師でのみ時間を稼ぐ方法など、状況は多岐に渡る。
「昨日はアクティさんに撃墜されちゃったから、頑張らないとね」
『Yes, my master.』
マスターにとってもまだ武装局員の相手をする経験は浅いですので、教導隊アシスタント最初期の現在は、何かと縁の深いアルクォール、トゥウカ、ウィヌの方々と模擬戦を行っています。
その中でもやはり、アクティ小隊長、オルドー副長、ラム二等空士、リリス二等空士によるウォッカ分隊はバランスが良く、先日もマスターが撃墜されてしまいました。
「AMFって、本来はAAAランクの結界魔法なんだけど………連携次第では展開出来るんだね」
アクティ小隊長はAAランクのセンターガードで治療魔法や転送魔法にも適性があり、オルドー副長は治療・結界・封印などを本領とするAランクのフルバック。
10年来の親友でもある彼らが連携しAMFを展開、こちらの魔力攻撃がかき消されたと同時にフロントアタッカーのリリス二等空士とガードウィングのラム二等空士が肉薄、さらに幾つかの攻防の果てに、AMF内部に閉じ込められ、向こうが勝利条件を満たした。
実に、見事な連携ではありましたが―――
「でも…………あのAMF、元はリリスさんに群がる虫型サーチャーを消滅させるために考案したんだってね」
『Yes.』
その作戦が発案された根源は、サゾドマ虫対策にありました。
確かに、魔力で生成されるサーチャーに対しAMFが極めて有効であるのは事実ですが、蟲を克服するためにAMFという高等結界魔法を身に付けるとは。
彼のジュエルシード実験における中隊長機との邂逅が、余程良い刺激になったのでしょう。
ですがまあ、そのおかげでAMF下の魔法戦というこれまでにない経験をマスターが積むことが出来たのも事実。
相変わらず、彼の管制機の根回しには無駄というものがないようです。
「ただいまあぁ」
「お帰りなのは、お風呂沸いてるから、ご飯の前に入っちゃいなさい」
今日のように後半の訓練がなければ18:00過ぎ、後半がある場合も、既に体力がなく短期決戦を挑んでくるケースが多いため、実質20:30までにマスターの業務は終わり、21:00までには帰宅なさいます。
その後、家族と過ごされたり宿題をなされたりしますが、恭也様と共に夜に訓練されたり山籠りすることもあった美由希様に比べれば余程まともな生活、というのは、高町家の秘密だそうです。
マスターは現在、武装隊士官候補生にして、戦技教導官アシスタントを務めていらっしゃる。
しかし、業務の多くを占める戦術考察や各員のデータを元にした模擬戦の展開などについては学業と並行して進められているため、実質的に本局で就業する時間は実戦時の2~4時間程度のもの。
正直、昨年6月の頃の生活に比べればゆとりがあり、母君であられる桃子様からお菓子作りの手ほどきを受けたり、他のことに使う時間も生じています。
『良いですかレイジングハート、魔法を扱うことだけが、主の幸せであるはずもありません。我々は知恵持つデバイスとして、そのことを常に念頭に置かなければなりません』
以前、先達よりいただいた言葉は、真実でありましょう。
いずれ私を調律するデバイスマイスターになってくださるであろう月村すずか様は、私に星占いやマスターの好きな音楽の編集機能などを付けてはどうかと提案してくださる。
魔導師のためのデバイスとしては無駄極まるそれも、10歳の少女であるマスターのためのデバイスならば、無用とは言い切れない。
私は主のために、如何なる機能を有し、リソースを振り分けるべきか。
考え続けなければ、ならない。
「週末はお休みだから、ユーノ君に会えるね」
『Yes, more homework is that they have a Corps, and is sure to receive his advice.(はい、教導隊より宿題も出ていることですし、彼の助言を受けるのがよろしいかと)』
ですがまずは、目前の課題について。
シリウス・フォルレスター一等空尉より示された教導官となるための最初の課題は、やはり治療魔法の取得。
湖の騎士シャマルを初め、オルドー副長など治療を専門とする方々はいらっしゃいますが、やはり。
「うん、やっぱりユーノ君は、わたしにとって最初の魔法の先生だから」
マスターが治療魔法を習うならば、スクライア司書が最適であると。
私の電脳は、そう、演算しています。
新歴66年 10月上旬 時空管理局本局 無限書庫
「初歩はそんな感じかな、後はレイジングハートと一緒に試しながら、感覚を掴んでいくのが一番だと思うけど」
「そうなんだ…………やっぱり、治療魔法は難しいね」
時空管理局の管理を受けている世界の書籍やデータが全て収められた超巨大データベースにして、幾つもの世界の歴史がまるごと詰まった、言わば、世界の記録を収めた場所。
そのように呼ばれる、現在でも多くの謎を秘めた無限書庫の一角において、少年と少女が小さな魔法講座を開いていた。
「射撃や身体強化、バリアとかと違って、健康な自分だけじゃ成果が分かりにくいからね。僕の場合、魔法学校で基礎を習った後は、スクライアの皆にかけるうちに自然と覚えたけど」
「自然と?」
「簡単な治療魔法は、筋肉痛や肩こりとかに良く効くんだ。だから、発掘チームの疲労をとったり、書籍を調べ続けてる人達の凝りをほぐしたりとか、そんな感じだよ」
「へぇ………じゃあ、私も剣の練習をしてるお兄ちゃんやお姉ちゃん、それに、翠屋のお仕事を頑張ってるお父さんやお母さんにかけてあげるといいのかな?」
「仮に失敗しても、あまり文句を言われない人って意味でも家族が一番いいと思う。結局は、マッサージとか、包帯の巻き方の練習みたいなものだから」
ユーノの説明を聞いていると、何となくだが武装隊の人達で本格的に治療魔法を修めている人が少ない理由が察せられる。
(多分、スポーツチームの選手と、マネージャーさんみたいな感じなのかな?)
自分の家のように、師匠と弟子がほぼ一対一で教えていくのと違って、武装隊の訓練はどちらかというとサッカーやバスケといった集団スポーツに近い。
だから、それぞれが基礎的な怪我や捻挫への対処は知っていても、本格的な治療はチームに一人か二人はいるマネージャーに任せる。程度の差はあっても、大体そんな感じなのだろう。
「でもきっと、なのはとレイジングハートなら、すぐに使えるようになるよ」
「そう、かな」
「少なくとも、僕はそう思うよ。他人にかける治療魔法は外界に作用する魔法だ。そりゃまあ、シャマルさんみたいな例外もいるけど、ミッド式にとってはそれほど難しいことでもないんだ。だから、なのはが“誰かに元気になって欲しい”とレイジングハートに祈るなら、彼女はきっと応えてくれる」
ユーノは、自信を込めてそう語る。
なのはがレイジングハートに祈って治療魔法を使う姿は、きっと奇麗だと、その言葉は咄嗟に口の中で留めつつ。
「でも、ミッドでも治療魔法を使える人はあまり多くないって」
ただ、そういった方面でまだ幼い少女は、そこまでは気付かず、普通に疑問点を尋ね返す。
「それはきっと、応急処置が出来る人とお医者さんの違いだと思うよ。包帯を巻くのは誰にでも出来るけど、素人が投薬するわけにもいかないし、それに、命に関わる武装隊で“治療魔法が使える”といったら、それは医者レベル、ってことなんじゃないかな」
「あ、そっか」
なのはが疑問を持った時は、常にユーノが彼女に分かりやすいように教えてくれる。
それが、出逢った時から変わらぬ、二人の関係だ。
そして、その時はなぜか、ユーノの姿がフェレットであることが多い。
そんなことを、ふと思ったからか。
「ところでユーノ君、今さらな疑問かもしれないけど、何でフェレットの格好なの?」
「うん、ホントに今更だね、正直僕もこの格好で何やってるのかな、って思ってたんだけど」
「あまりにも自然だったから、今の今まで疑問に持てなかったよ」
傍から見れば、少女が椅子に座りながらテーブルの上にいるフェレットに教えを乞うている、という実にシュールな状況だ。
なのはの首に待機状態でぶら下がっていたレイジングハートは何度かツッコミを入れようかと考えたが、なかなか踏ん切りがつかなかった。まだまだ空気を読む修行が必要のようだ。
「………ユーノ君、ちょっと背、伸びたよね」
「僕? まあ、クロノに負けない程度には伸びたいなあ、とは思ってるけど」
ユーノも成長期の少年であり、出逢ってから1年も経っていれば、当然背も伸びる。
だが―――
「でも、フェレットの時は、身長変わらないよね?」
「………ま、まあ」
ギクリ
そんな擬音がどこから聞こえてきそうなほど、ユーノの声が裏返る。
「そういえば、フェレットの時にビスケットとか食べてたけど………体積で考えたら、体の半分以上食べてたような」
ユーノと出逢った当初は、魔法というものについて漠然としたイメージしか持っていなかったなのは。
しかし、ユーノを始めとし、リーゼ姉妹からも魔法戦技の基礎知識を習い、短期間とはいえ陸士訓練校を出た今ではある程度の知識はある。今回の治療魔法のように、把握し切れてない部分もまだまだあるが―――
「リーゼさん達が言ってたけど、使い魔が本来の姿に戻ったりする以外では、体形の全く違う存在に変身するのって、すっごく難しいって」
「う、うん………そうだね」
例えば、“戦王の聖櫃”と呼ばれる、幼年期における王の器が、全盛期への変身を可能とする特異な技能があるように。
“脳内の小人”を騙しきるのは容易ではなく、大抵は他者の認識を歪めるタイプの幻覚系だ。ユーノの変身魔法のように、自己の体重や体積も含めて完璧に変化する魔法はほとんどない。
「でも、ユーノ君の変身魔法は違うよね、どうやってるの?」
「ま、まあ、隠すほどのものじゃないんだけど………」
そして、観念したのか、自己の葛藤に折り合いをつけたのかは定かではないが。
無限書庫の若き司書が、スクライア一族の秘伝でもある変身魔法について語っていく。
「簡単に言えば、僕の魔法は変身じゃなくて、使い魔との契約の一種なんだ」
「使い魔との契約?」
「そう、例えばアルフ。彼女は死にかけていた狼をフェイトが魔力を分け与えて使い魔にしたって聞いてるけど、その自我も、人格も、フェイトとは全くの別物でしょ」
「ザフィーラさんや、リーゼさん達も同じだよね。それに、フェイトちゃんの先生だった、リニスさんも」
「だけど、僕の場合は使い魔が自分自身なんだ。このフェレットは元々僕が飼っていた子で、ユーノ・スクライアの使い魔として、ユーノ・スクライアの精神を宿し、リンカーコアを共有している」
そうして誕生した使い魔は、主の鏡面存在となる。
両方が存在すると矛盾になるため、両者には強い因果関係が存在しつつも必ずどちらかしか現実空間に存在することは出来ず、片方が死ぬと片方も死に、互いに影響し合う関係となる。
「ふぇええ」
「理論的には、デバイスの格納空間と似てるんだ。待機状態のレイジングハートがフェレットの僕で、杖の状態が人間の僕。この契約を結んだ時点で、因果的な制約で片方は必ず5次元的に隔たれた場所にいなきゃならない。まあ、“向こうの僕”は眠ってるから、同時に知覚することは出来ないんだけど」
「あ、だからフェレットさんがたくさん食べても大丈夫なんだね」
「そうなるかな、僕は使い魔と存在を共有する契約を交わしているようなものだから、他の使い魔の人達と同じようにデバイスとの相性が悪くなりやすい。まあ、僕は元々あんまり相性が良くなかったからそれよりはこっちの方が魔法を使いやすいかなって」
ユーノ・スクライアは総合Aランクであり、デバイスを使わないが高速で空戦を行いつつ、転送魔法を準備し、ヴォルケンリッターの一撃を受け止めることを可能とした。
それは一般のミッド式では考えられない事実だが、そもそも彼の戦い方は魔導師よりも守護獣のそれに寄っている。
管理局基準の判定では盾の守護獣ザフィーラもAAランクとなるように、デバイスを使わない特殊な戦いを展開する魔導師であるユーノは、一般の基準で測りにくい。
「それでもユーノ君は、ミッド式なんだよね?」
「そうなるね、元々この魔法は何代か前のスクライアの長老が古代ベルカ時代の遺跡から見つけ出したドルイド僧の契約儀式を、ミッド式にアレンジしたものなんだって。遺跡発掘を生業にするならデバイスの代替になるくらいに便利な能力で、スクライアの秘伝魔法だよ」
それは、古代ベルカの系譜である故に、デバイスとの相性はそれほど良くない。
そもそも、守護獣や魔獣など、自然と一体化することで幻想の力を宿そうとした古代ベルカの術式と、初代の聖王を起源とする人の叡智によるデバイス技術は根本を異にする。
「だから、僕でも何とか使えたデバイスがレイジングハートなんだ。相性の悪さを飛び越えて、持ち主の願いを叶えてくれる、不思議なデバイスだよ」
現在はリインフォースの『書架の魔導書』によって克服されたが、フェレットモードではデバイスを使えない事実は変わらない。
遺跡探索者であったユーノが発見した出自不明のデバイスは、実に不思議な器物であった。
「じゃあひょっとして、アルフさんやザフィーラさんと同じように、フェレットの時のユーノ君って、動物に近くなるの?」
「一応、ね。なのはの頬を舐めちゃった時なんて、人間だったら犯罪ものだし………」
「私は別に、気にしてないよ?」
「うん、それは分かってるけど」
でなくば、正体を知ってからもフェレットと一緒にお風呂に入ったりはしないだろう。
逆にその点を、友人からからかわれることも多いのだが。
「ごめんね、黙ってて」
「ううん、あの頃の私が聞いててもちんぷんかんぷんだっただろうし、ユーノ君がそう考えてたから黙ってたんでしょ」
「まあ、最初は難し過ぎると思ったから話さなかったんだけど、その後の原因の大半はクロノだよ」
「あ、フェレットもどき、って」
「あいつ、スクライアの秘伝魔法やその性質のことを知った上で言ってるんだ。いやまあ、半分くらい事実は事実なんだけどさ、僕にはちゃんとユーノ・スクライアって名前があるんだよ。どっちの僕もユーノなんだから」
「ふふ、ユーノ君とクロノ君って、ほんと仲いいよね」
(男の子同士の親友って、時々羨ましいな)
自分とフェイトが親友になれたように、ユーノとクロノも互いを同じように思っているじゃないかと、なのはは考える。
でも、男の子二人は互いの欠点や良く思っていないところも日常的に言い合って、そのくせ、互いの長所は誰よりも認め合っている。
それは、女の子同士の友情と、男の子同士の友情の違いと言えば、それまでなのかもしれないけれど。
(わたしとフェイトちゃんも、そんな風になれるかな?)
正直、なのははフェイトの駄目なところを言いにくく、フェイトもまた然り。
だから、言い難いことをスバっと言うのはアリサの役目で、はやても時に加わりつつ、すずかがフォローする形で彼女らはバランスが取れている。
だけど、クロノとユーノは、二人だけでもバランスが取れているように思えたから―――
「わたしも、ユーノ君と一緒になりたいなあ」
クロノ君の席にフェイトちゃんを置くなら、わたしが、ユーノ君になれますようにと。
星の光を手にする少女は、心の底から願っていた。
『…………』
なお、ユーノには聞こえなかったらしいその呟きをどう解釈すべきか、彼女の鏡たるデバイスが散々に悩んだのは余談である。
後に、管制機やマイスターとなるすずかの助言を受けつつ、主の春のために彼女が奮闘するのは、また別の話。
あとがき
設定上、総合Aランクのユーノが、StS以降の設定からは信じ難い活躍をしている件について、色んな場所で様々な議論を見かけます。
一応、本作におけるユーノはこのような具合で、原作の情報に独自設定を加えて補完しています。基本は“防衛・補助に長けた守護獣”のイメージで、簡単に言えばシャマルとザフィーラを足して2で割った感じかと。なので、デバイスを用いずになのはの砲撃やヴィータの一撃を防ぐことも出来ますが、やはり攻勢には向きません。ザフィーラに近い要素もあるので、スペックを考えなければGODのように突撃に出ることも可能ではあると思います。