小説家になろうにも投稿しております。
一発限りのネタのつもりでしたが、意外に構想が出てきたので、調子に乗って連載してみる事にしました。
※始めに
・東方Projectの二次創作です。
・可能な限り下調べはしていますが、キャラクターその他諸々がイメージと合わない場合があります。
・名前は出ませんが、男のオリ主です。
・バトル、恋愛などの要素はほとんどありません。いわゆる日常物を目指したい。
・今作品は常識をかなぐり捨てて書いております。お読みになる際も、是非常識をかなぐり捨ててお読みください。
感想、批評などありましたら、是非。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
氷の妖精とワタクシ
私は氷妖精を捕まえようと思って、袋を持って湖へと赴いた。
家を出て、森の脇の小道をすたすた歩いて行った。
森の反対側は竹が鬱蒼と茂っており、空には夏雲がもこもこ浮かんでいた。湖に近づくにつれ、ひやりとした空気が私の頬を撫ぜた。
湖は昼間だけれども、霧が立ちこめていて日の光が容易に届かぬ。妙に薄暗いその中を、私は袋を片手に歩き回った。湖に落ちないように注意していたつもりだったが、何度か水に足を突っ込んで、冷たい思いをした。
数刻歩きまわると、何処からか「さいきょう、さいきょう」と妙な歌声が聞こえた。これは氷妖精も近いに相違あるまいと、私は近くに落ちていた棒っきれを拾い上げた。
歌声を辿って行くと思った通りに氷妖精がいた。えらくご機嫌でふはふは飛びまわっている。間の抜けた「さいきょう、さいきょう」が湖に響いている。
私は氷妖精の後ろからそっと近づくと、手に持った棒っきれでポカリとやった。氷妖精は「ぎゃふん」と言って地面に落ちて目を回した。私はそれを袋に詰めて元来た道を走って家まで帰った。
家まで帰った私は氷妖精を袋から出して、引っ張り出した座布団に置いた。氷妖精はちょこんと座布団におさまった。
「あたいを捕まえてどうするつもり!」
氷妖精は目に見えて不機嫌そうであった。機嫌良く歌っていた所をポカリとやられて機嫌の良くなる者はそういない。
「夏は暑い」私は言った。
「暑くないよ?」氷妖精が言った。
そりゃお前は暑くなかろう、と私は思ったが口には出さず、別の言葉を咀嚼して吐き出した。
「人間は暑いのが苦手だ。おれもその例に漏れん。だからお前を氷嚢にして眠ることに決めた」
「ひょーのーってなに」
氷妖精は首を傾げた。妖精はあまりものを知らないのである。
私は口を開いた。「氷嚢とはお前のことだ」
「あたい、ひょーのーだったの!?」
氷妖精は驚愕の表情を浮かべた。風が吹いて、家の外の草がざわざわいった。私がすました顔をして頷くと、氷妖精はもじもじし始めた。
「あたい……、あたいがひょーのーだなんて知らなかった」
「気にするな。誰だって自分が氷嚢だなんて知らないもんだ」
「あんたはひょーのーじゃないの?」
「残念ながらそうではないのだ。だから氷嚢であるお前に力を借りたいのだ」
私がそう言うと、氷妖精は途端に自慢げに胸を張った。
「ならしょーがないわねっ。さいきょーのひょーのーであるあたいが力を貸してあげるのもやぶさかでないっ」
変に難しい言葉を使おうとする辺りが氷妖精らしい。というか、氷嚢の意味が分かっているのか甚だ怪しい。
とにかく丸めこむことができたので、私はしめしめと思った。これで寝苦しい夜とはおさらばである。
しかしいざ氷嚢にしようと思った所で、これをどうやって氷嚢にすべきか悩んだ。いかんせん人型であるから、普通の氷嚢の如く額に乗せるわけにもいかぬ。顔に抱きつかれては呼吸もままならぬから、そのまま朝を迎えることができるかも怪しくなってしまう。
妖精というのは子供の形をしているから、母親が子供に添い寝するような形になるのが一番自然であろうと考えた。
布団を敷き、ちょいちょいと氷妖精を手招くと素直にぽてぽてやってきた。
「どーすればいいの」
「どうすればいいと思う?」
聞き返すと氷妖精は腕を組んで唸りだした。聞かれて答えられないのは、彼女の沽券にかかわる問題であるらしい。
「じゃあ、こーする!」
しばらく考えた後、氷妖精はやにわに私の腹のあたりに抱きついた。行為は正解であったが、場所がよろしくない。
「待て待て」私は氷妖精を引きはがした。「腹はいかん」
「なんで?」氷妖精が聞き返した。
「腹が冷えるとゴロゴロになるだろう」
「ならないよ?」
「氷嚢であるお前はならないかもしれん。しかしか弱い人間であるおれは腹が冷えるとゴロゴロになる。それはいかん。もう少し上に来い」
私がそう言うと、氷妖精は胸辺りにしがみついた。ひんやりとして実に爽快である。接触している部分だけでなく、氷妖精から発される冷気が家じゅうを包み込み、今が夏であることすら忘れるほどだった。これならば快適に眠れよう。私は氷妖精を胸の上に乗せたまま、布団に横たわった。
しかし、段々と身体の感覚がなくなってきた。眠りに落ちる時とはまた違った意識の遠のき方を感じた。
これはいかんと身体を起こそうとしても、肩から先、腿から下の感覚はすでに失われて久しい。口を開こうにも氷妖精が胸に接触しているものだから、呼吸器が凍りついて声すら出ない。氷妖精はいつの間にか眠っている。
ほどなくして私は氷の彫像へと変化し、瞬き出来ぬ二つの目でむなしく天井を見上げるのみとなってしまった。氷妖精の能力を甘く見たがゆえの失策である。しばらくして目を覚ました氷妖精が私を見て「英吉利牛!」と叫んだ。
しかし私は転んでもただでは起きない。否、凍ってもただでは溶けない。
私は自らを『生きた氷の彫像』として見世物にすることで小金を稼ぎ、それでちゃんとした氷枕を購入することに成功した。
そういうわけで、その年の夏はそれなりに快適な睡眠をとることができたのであった。