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[29371] 【ネタ】 水龍になりました 【ゲート二次】 完結! 番外編投下
Name: GAP◆773ede7b ID:62e65a4c
Date: 2011/08/28 14:21
【習作・ネタ】 水龍になりました 【ゲート二次】



 ミケさんが書いてくれたのにちょっと対抗心を燃やしてやっちゃった☆
 どっちが良いかは好みが分かれると思う。











 コンクリートで舗装された道
 その上を行き交う自動車と排ガスの臭い
 見上げれば聳え立つビル郡
 忙しなく道を歩く人々
 そこに紛れる様に暮らす自分
 そして、家に帰れば食卓には美味しい食事が…

 懐かしき、もう戻ってこないであろう日常の姿だった。



 そこまで見てから、眼を覚ます。
 あぁ、また辛く苦しい時間の始まりだ。

 動かず、周りを確認する。
 明かりの一切無い穴倉の中でも、今の自分にはよく見える。
 巨大な尾、翼、爪、鱗……
 どれも嘗ての自分には無かった代物。
 あぁ、やはりこの姿の、この体のままなのか。

 絶望と共に、穴倉を塞いでいた岩山を腕でどかす。
 以前より遥かに強力になった身なら、重機を大量投入するような作業も一分もしない内に終わる。
 穴倉から這い出て、久しぶりの日光に眼を細め、次いで改めて己の身を確認し、叫ぶ。


 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!」


 サファイアの様な鱗を全身に纏った古龍が、慟哭するかの様に咆哮した。






 トラックに轢かれ、気付けば何処かの穴倉にいた。
 傍らには巨大なドラゴン。
 そして己自身もまた幼いドラゴンとなっていた。
 絶望した。ただ絶望した。
 しかし、苦痛は容赦無く降りかかる。
 幼い体は成長するために多くの食料を求め、常に飢えている。
 だが、ドラゴンが持って来るのは常に生の肉。それも人型のそれだ。
 一部は人間と異なる特徴を持つのもあったが、絶対に食べる気にはなれない。

 しかし、幼い体は成長するために多くの食料を求め、常に飢えている。

 我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢し続けた。

 そして飢えと疲労で意識が朦朧となり、天地の区別もつかなくなった時

 自分は人を食べていた。
 親ドラゴンが狩ってきた多くの人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人。
 それを、気付いたら、一心不乱に、貪っていた。

 そこから先は、詳しく覚えていない。
 ただ、自分はそれ以来必要な時には人も食べる様に、おぞましいナニカに成り果てたという事だけだった。
 まるで山月記の李徴だ。
 ただ自分は長きに渡る間未だに人間としての意識を忘れていない。忘れたくない。
 だが、それすらも遠い時の彼方に磨耗しようとしていた。




 穴倉から出て直ぐにオークの集落を襲った。
 肉は硬く不味いが、それでも量は人やエルフよりも多いし、数も一定以上あるので腹ごしらえには丁度良い。
 バリバリバリバリガツガツガツガツグチャグチャグチャグチャ
 男も女も子どもも老人も容赦無く一人も逃さず貪りつくす。
 
逃がさない様にするのは軍勢などの厄介なものを寄り付かせないためだ。
 龍の中でも相当大きい部類に入る自分を討伐するとなれば、この世界の軍勢なら百や二百ではきかない。大軍と言って差し支えない規模を動員する必要がある。
 そのため、動くには何処かの国家が動く必要がある。
 だが、何処からも被害報告が無ければ、どんな国も動く事は無い。
 以前、大量の軍勢に攻撃された経験から学んだ処世術だ。


 まだ足りない。
 オークの集落を全滅させた後、また飛び立つ。
 空を飛ぶ事はこの体になってから唯一人の頃よりも良いと思える点だ。
 青空の中をただ飛ぶ。 
 耳と眼と鼻を駆使して獲物を探すと同時、久しぶりに体が風を切って飛ぶ感触を楽しむ。

 そんな時、十時の方角から何かが近づいて来た。
 羽のある人、亜人という奴だろうか。
 その割には獣としての感覚が相手が尋常ならざる手合いだと告げている。
 間違ってもただの獲物ではない。鋭い爪と牙を持っている。
 接触するのは危険と判断して急いで方向転換、全速でその場を離脱した。
 しかし、件の亜人も迷う事無くこちらを追ってきた。

 こうなれば、後はどちらかが力尽きるかであった。


 結果、追い付かれた自分は一度だけだが亜人の命令を聞く事となった。
 内容も特に自分にとって害となる訳ではな………否、大いに精神的にクルものがったが、友好的ではない手段に訴えられるよりはマシだろう。
 内容は、炎の古龍と番う事。
 子育てはメスの役目であるため、負担がかかる訳ではない。
 しかし、龍相手に脱童貞はしたくなかった。


 やっとこさ前人未到なエベレストもかくやという山の頂にある巣穴に戻れた。
 龍相手だというのについつい励んでしまった自分に自己嫌悪しつつ、休憩を挟んでまたも餌探しに飛び立つ。
 次に狙うのは……どうせだから野生の大型生物でも探すか?
 幸い、この世界には見たことも無い妙ちきりんな生物が多いので、すぐに見つかるだろう。


 そんな事を考えていると、不意にありえない香りを嗅いだ。


 (え?)
 まさかまさかまさかまさか
 いや、有り得る筈が無い。
 この香りはこの世界には無い。
 せめてまともな食事を探し求めて大陸中を探したが、それでもこの香りに該当する料理は見つける事は出来なかった。
 時には隊商を襲い、商船を沈没させ、都市部を強襲しても、この香りには終ぞ出会う事は無かった。
 だがだがだがだがだが!
それでは、今鼻腔を擽るこの香りは何だというのだ!

 疑問は数瞬。しかし、行動に移るのは半瞬も無かった。

 (カレーの香り!)

 懐かしき好物の、故郷の料理の香りに、理性は吹き飛んだ。
 あぁしかもこれ粉から炒めた本格派の香り!
 食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい!!!

 全速力で香りの元へと向かった。




 (カレーカレーカレーカレーカレー!!)

 最早思考はカレー一色。
 年月すらも数える事を忘れた身だが、それでも嘗ての大好物の香りは覚えている。
 香りを辿り、その元へと全速力を出していく。
 そして、見えた。
 緑の野戦服に身を包んだ、明らかに軍事訓練を受けたであろう者達。
 だが、今飢えに飢えている自分には一切関係ない。
 視界にあるのはただ一つ、カレーのみ!!
 




 「くっそ!今日は厄日か!」

 伊丹は愚痴を零しながら走る走る。

 「吉田、下がれ下がれ!」
 「眼を狙え!」
 「パンツァーファースト急げ!」

 折角避難民の住居を立て、昼飯を取ろうという所でいきなり空から青い古龍が飛来してきたのだ。
 自衛隊と避難民は控えめに行ってもパニックになった。
 予め古龍の存在を知っていたためか、自衛隊は混乱しつつも素早く反撃の準備を整えていった。
 しかし、古龍はさっぱり人を襲う様子は無い。
 それどころか人を避け、まっすぐ昼食のカレーに向かう。
 そして一瞬でそれらを全て口に含むと、来た時同様瞬く間に駐屯地から飛び立っていった。
 残ったのは、綺麗に空になった大鍋と古龍の足跡ばかりだった。
 




 (ああ、ああ、確かにこんな味だった!)

 一方、まんまと自衛隊からカレーを食い逃げした青古龍は歓喜の涙を流していた。

 (思い出した思い出した!)

 ああそうだ、カレーとはこんな味だった。
 こんな体になる前は、毎月必ず食べていた味だ。
 カレーを食べて思い出すのは、他の多くの食べ物の事だ。
 カツ丼、寿司、納豆、味噌汁、羊羹、ハンバーガー、ポテトサラダ、ハンバーグ、天ぷら、そば、うどん、餅、秋刀魚の塩焼き……
 涙は止まらない。
 遠い時間の中で霞み続けるしかなかった記憶が、今鮮明に蘇りつつあった。

 (食べたいよぅ…。)

 懐かしくて、恋しくて、愛しくて
 ただただ焦燥だけが募っていく。

 (明日も、行こう。)

 野戦服の軍人達。彼らの容姿から彼らの所属は解っていた。
 自衛隊、嘗ての故郷を守ってくれていた人たち。
 魔法や弓矢、ワイバーンに乗った騎兵よりも、遥かに強力な火器を持った者達。
 次は、死ぬかもしれない。
 当たればこちらの強固な鱗すら貫通する武器を彼らは保有している。
 戦闘機やヘリも出てくるかもしれない。
 もし迎撃網が完成していたら、高確率で死ぬ。


 だが、それがどうした?


 この苦界が終わるなら、あの懐かしい料理を食べられるのなら
 この命、惜しくは無い。






 自衛隊は現地協力者のカトー老師やコダ村の生き残りの証言から、相手が古龍の中でも更に伝承によく登場する程に長命かつ強力な個体だという事が判明した。
 青の古龍。それは大陸中にその姿を知られた災厄の象徴。
 大陸のあちらこちらに出現し、時には同じ古龍すら食い殺すほどの個体だという。

 「だが、駐屯地を襲うからには駆除しなけりゃならん。」

 狭間の声に忌々しさを隠さずに柳田が頷く。

 「装備の申請をしておきます。問題は奴の巣がどこにあるかですね。」

 早々また来るとは思わないが、帝国軍よりも危険な相手となれば確実に退治しなければならないだろう。

 「どうにかやっこさんの居場所を特定できないもんかね…。」
 「発信機というのも手ですね。」


 そして夜
駐屯地ではまたしても青古龍の来襲があった。

 
 「またかよ畜生!」
 「今度は逃がすな!」

 二度目で慣れたのか、自衛隊員たちは素早く体勢を整えて迎撃を開始する。
 パンツァーファーストが、重機関銃が、ロケット砲が、バズーカが、対物ライフルが、地対空ミサイルが、対空砲が狙いを定める。
 帝国軍との戦いで主に相手の竜騎士や重装歩兵に使用される火力がたった一つの生物に向けられるという異常事態。
 だがしかし、それが許される相手が今存在しているという事実。

 「ミサイルと対空砲は奴が飛ぶ瞬間を狙え!歩兵部隊は奴の目と足を狙うんだ!」

 的確な指揮と高い錬度。特地という異常地帯で戦う彼らは上から下まで精鋭ぞろいだ(一部誇張並び例外あり)。
 だが、青の古龍もまた、ただで殺られるつもりはなかった。

 「■■■■ッ!」

 周囲の人間が鼓膜を破裂させかねない程の咆哮。
 思わず耳を押さえる者も出るほどのそれに、照準が僅かだがぶれてしまう。
 直後、青古龍はブレスを吐き出した。

 「んなに!?」
 「凍った!?」

 放たれた氷のブレスが氷壁を展開、体高差からどうしても下から狙う形になる歩兵の視界を遮る。
 更に、設置された大鍋を躊躇うこと無く咥えると、即座に飛び立たずに四肢で猛然と走り出す。
 当初の予定では歩兵部隊の攻撃に逃げ出そうとした所を対空砲と地対空ミサイルで仕留める予定だったのだが、相手はものの見事にこちらの思惑を外れた。
 
 「撃て撃て!足を止めろ!」

 だが、連射されるブレスが作る氷壁越しに撃っては命中率も威力も期待できない。
 いくつかの弾が辛うじて命中したが、角度上有効打は殆ど無いだろう。
 青古龍はまたも逃げおおせたのだ。

 残ったのは足跡と大量の氷、そして近くの森に打ち捨てられた大鍋だけ。

 「あ・の・や・ろ・う~~……ッ!」
 「何か古田のキャラが変わってるな…。」
 「食べ物の恨みを恐ろしいって事ですかね。」

 事実、この二度の襲撃で殺気立ってる隊員は大勢いた。
 それに、多少なりとは言え戦果はあった。

 「けど発信機は取り付けました。これで奴の巣の場所が解ります。」
 「国境越えてなきゃいいんですけどね。」

 どうせ行くのは自分らなんだし。
 今後を考えて憂鬱そうに溜息をつく伊丹だった。






 今回は豚汁と白米、野菜炒めでした。
 ベリーベリーデリシャス!

 自衛隊員たちの思いなぞ露も知らず、青古龍は先程の食事の味を反芻していたのだった。
 





[29371] 【ネタ】 水龍になりました2 【ゲート二次】
Name: GAP◆773ede7b ID:62e65a4c
Date: 2011/08/23 22:59
【習作・ネタ】 水龍になりました② 【ゲート二次】



 「奴の住処が判明しました。」

 奴とは勿論のこと、あの青い古龍である。
 炎龍と勝るとも劣らぬ巨躯を誇り、氷のブレスを吐き、二度も自衛隊駐屯地を襲撃していった龍。
あの龍の背に取り付けられた発信機(怪獣映画でよく弾丸の様に発射されるアレと考えれば解り易いか)からの反応が、遂に移動を止めて一箇所で停止した。

「ギリギリで帝国領内か…。」
「ですが、こちらから仕掛けるには場所が悪すぎますね。」
「やってできん事は無いだろうが、戦闘機やヘリを飛ばしても航空戦力だけでは心許無いな。」
 「「「うーむ……。」」」

 青古龍の住処
 そこは標高4000m級を誇る、帝国内最大の山であるエルメストの頂上付近だったのだ。
 つまり、世界最高峰クラスの場所に陣取っているという事になる。
 年中雪と氷に閉ざされ、特地の人間は殆ど入る事は無いという。
 
 「巣穴を強襲する案はこれで却下ですな。」
 「となると、迎撃になる訳だが…。」
 「あー、また飯でも作って置いときます?」
 
 取り合えず情報収集のために虎の子のF-4が出撃。
 他は罠の準備をして待機と相成った。






 (んん?)

 不意に耳が聞きなれない音を感知した。
 キィィィィィィィィ………という甲高い音。

 (これは……戦闘機か!)

 遠い記憶の彼方から、辛うじてそれに関する知識を引き出す。
 
 (速さじゃ負ける。逃げ切れんが、小回りならいけるか?)

 間も無く2時の方向から3機の戦闘機が現れ、高速で直近を通り過ぎていく。
 武器を使わなかったことから、情報収集だろうか?
 なら、これは挑発か。殺す気なら、今の交差で落とされていた。

 (…のるか。)

 どの道、情報を得ない限りは連中は諦めない可能性がある。
 なら、ちょっと付き合ってお帰り願おう。
 こちらはかつての同郷の人間を殺す気などないのだから。

 
 ぐん、と首を上に向けて上昇を開始する。
 空戦のセオリーとして、上を取った方が有利となる。

 (っ!推進力の差か!)

 だが、先に上昇を開始したのに関わらず、相手に上を取られてしまった。
 もし相手が殺す気だったと思うと、ぞっとする。
 この瞬間にも空対空ミサイルの一斉射でもされたら、こちらには殆ど打つ手が無い。

 そして3機の内の1機が急降下、こちらに猛然と突っ込んできた。

 (っとと。)

 難なく回避するが、それでもやられっ放しに良い気はしない。
 即座に反転、追撃をかける。
 上こそ取れなかったものの、高度は十分に稼いだ。

 (龍ってのはな……)

 頭を下に、翼を折り畳み

 (降下の方が早いんだ!!)

  前を行く戦闘機を超える速さで飛翔した。

 龍は当然ながら生き物だ。
 だから空中で上昇するには翼の羽ばたきが必要だし、機械と違ってデリケート極まりない。
 だが、生物だからこそ危険に対する反応速度、翼や手足を動かす事で得られる運動性、空力特性は航空機にも引けを取らない。
 
 


 

 『うお、こいつ!』

 一機で突っ掛けたF-4のパイロットは驚いた。
 上昇速度ではこちらに圧倒的に劣る相手が降下に転じた途端、急速に追いついてきたのである。
 しかもこちらには近づかれた時に反撃する手段は無い。
 今あるのは機銃と空対空ミサイルのみ。
 それらも後ろから接近してくる古龍を迎撃することはできない。

 『α2、ブレイク!』
 『っ、くっ!』

 何とかブレイクして再度上昇をかけ、距離を取る。
 危なかった。近づかれていたらどうなっていた事やら…。

 『野郎…ッ!』

 大きく旋回し、今度は正面から吶喊する。
 空気を読んだのか、それとも単にこちらへ向かってきているのか。
 青古龍もまた、正面からこちらを睨み付けながら吶喊してくる。


 そして、一瞬を置いて交差した。
 





 「かーっ!肝が冷えた!」
 
 アルヌスの丘にある自衛隊駐屯地。
 そこにある格納庫では退役間近のF-4が整備されていた。
 
 「にしても、よくもまぁ真っ向勝負する気になったな…。」
 「いや、男ならやはりこう正面から…。」

 整備班からのジト目に、パイロットの声は尻すぼみになって消えた。

 「頭は良いし降下速度と運動性ならF-4よりも上だった。こっちじゃ天災呼ばわりされるのも当然だな。」
 「戦車並みの装甲に戦闘機並みの機動性とはまた…。」
 「F-15ならまぁ問題ないだろうし、相手は一匹だ。油断せず、連携組めばF-4でもやれるさ。」
 「にしても、最後の交差には肝が冷えたぜ。」

 最後の一瞬。
 F-4と青古龍は何もせず、衝突する事も無く、双方無事に通り過ぎていった。
 双方ともが戦闘速度であったとは言え、かなりの高速で至近距離であったのにも関わらず交差して被害無しというのは驚きの事だった。
 その刹那とも言える中、F-4のパイロットと青古龍は互いが互いの目を正面から睨み付け、その視線を交わらせていた。
 
 「…やっこさん、もしかすると頭が良い所じゃねぇかもしれねぇな。」

 




 青古龍のアルヌスの丘襲撃の翌々日の朝。
 
 間もなく日が昇るという時間に、青古龍は姿を現さ……なかった。
 
 「発信機の反応はあるのですが……。」
 
 そう、発信機の反応はあるのだ。
 しかし、未だにその姿を確認できていない。

 「あの巨体で飛翔すれば見つからない筈は無い。」

 しかし、生物であるため、殆ど天然のステルスとも言うべき古龍でも、ここまで綺麗にレーダーから反応を消す事はできない。
 現にコダ村を襲撃した炎龍は目視距離以前にレーダーに僅かながら反応があった。
 しかし、今度は全く無いのだ。
 自衛隊員達は疑問符を浮かべながらも周囲の索敵を続けた。

 
 今回の作戦は単純なもので、駐屯地からやや離れている地点に炊飯車を用意(中身は激辛カレー即効性麻酔薬&筋弛緩剤風味、信頼と安全の吉田作)、食いついて暫くした所を捕獲するというものだ。
 
 日没から罠を張って、交替で警戒しながら既に12時間近く。
 如何に精強な自衛隊員と言えども徐々に疲れと油断が出始めていた。

 「んん?」

 その時、哨戒に出ていた一人の隊員が違和感を覚えた。

 「どうした?」
 「今、何か揺れなかったか?」
 「何言って」

 ズン!
 
 「んな!?

 バキバキバキバキッ!!
 途端、森の木々をなぎ倒しながら青古龍が姿を現した。
 標的は既に毎度の事ながら炊飯車一直線だ。
 途端、駐屯地全体に警報が鳴り響いた。

 最初に異変を察知した隊員達は素早く反撃の態勢を整えながらも、驚きを露に司令部に報告した。
 
 「司令部司令部!目標は地上から接近!繰り返す、目標は歩いてきた!」

 今まで古龍を初めとした龍種は帝国軍の新生龍を含めて、その多くが空を飛んでやってきた。
 そのため、相手が二度も空を飛んでやってきた古龍であるからと、自衛隊も無意識のうちに対空レーダーを重要視して、地上の方が隙だらけだったのだ。
 そもそも野生の龍の狩りは当然ながら空中から地上の獲物を襲うというスタイルが主なのだから、一概に自衛隊を責める事もできない。
 何せこんな事をする古龍なぞ、特地全体を見渡してもそれこそこの青古龍一頭のみなのだから。

 まるでレーダーで警戒していたのを嘲笑うかのような目標の行動に、司令部は唖然としながら手筈通りに各所に指示を出していく。
 多少予定と違ったが、しかし、結局する事は変わりない。
 指令を受けた隊員達は照準を付けつつも。息を呑んで事態の推移を見つめていた。






 (カレーカレーカレー!)

 青古龍はと言うと、最早カレーしか眼中に無かった。
 レーダーと連動した早期迎撃網を警戒して地上を慎重かつ静かーに歩いてきた青古龍だが、勿論の事ながら毒物の可能性も考えていた。
 しかし、それはそれで構わないという考えもあった。
 例え殺されたとしても、文字通り畜生道に落ちた状態で長生きしたくはない。
 問題なのはカレーの芳醇な香りを嗅ぎつつも、それを味わう事無くあの世に行く事にある。
 
 (絶対にカレーを食う!!!)

 例え毒殺されようが、蜂の巣にされようが、木っ端微塵にされようが、絶対にカレーを食う。
 絶対とも言える食欲こそが彼を突き動かしていた。


 (やっぱり、毒入り、かなぁ?)

 周囲からは火薬と人と金属と油の匂い。
 カレーの香りに紛れそうなそれを、青古龍は確かに感じ取っていた。
 しかし、しかしである。

 (カレーカレー♪)

 食欲。それに勝るものを彼は持っていなかった。
 炊飯車の釜のみを口で咥えると、あっさりと外れる。
 これで罠の可能性が急上昇した。
 今までしっかりと固定されていたため無理やり外していた釜が、持ち上げただけであっさりと外れる。
 明らかにおかしい。
 おかしいが、目の前のカレーは美味しそうである。
 今度は味わうようにゆっくりと食べていく。
 辛さのためか薬品のせいか、舌がぴりぴりとした刺激を感じたが、どうでも良い。
 数十秒で完食すると、そのまま羽を広げるが……上手く羽ばたけない。

 (あー、筋弛緩剤、かな…?)

 思考もまた鈍くなってきた。
 古龍の中でも大きい全長40m級の青古龍を捕獲するために、カレーにはアフリカゾウ三頭分の麻酔と筋弛緩剤が配合されていた。
 
 (どく、な…いい、け……。)

 ズン、と静かに地面を揺らしながら、青古龍はその身を横たわらせた。






 「危険過ぎます!今すぐ殺処分すべきです!」

 ゲートが収まったドームから現れた特殊合金製の檻に三重に囲まれつつ、各種対戦車兵器に囲まれた青古龍の姿はその日の内にマスコミに流され、全世界を賑わせた。
 同時に翌々日に緊急国会が開催、青古龍の今後の扱いについて凄まじい勢いで議論が成された。

 「今すぐに!殺処分すべきです!特地内でとは言え、この龍は人間を食べたとの情報もあります!何時檻を破って人を襲うとも限りません!」
 「しかしですね。日本初の、いえこの世界初の生きた龍です。小型種の死体は自衛隊が拾って国営研究所に回されていますが、生きた個体、それも大型種は初の事です。殺処分するにはあまりにも惜しい。」
 「では危険な生物を放っておけと言うのですか!税金を使って!それは国民への裏切りではないのですか!?」
 「ライオンだって虎だって、檻から出れば危険です。それに、国民の皆さんからも早く龍を見せてくれという声が既に何万も届いています。食費や専用の施設に関しても寄付を志願する声も大きくなっています。自衛隊の監視を始めとした安全措置は必要ですが、今すぐ殺処分というのはあまりに惜しく、残念な事です。」

 結局、先ずは自衛隊で様子を見る事が決定された。





 
 (腹減ったー……。)

 ギュォーーン、ギュォーーン………。
 檻の中で切なそうな鳴き声を上げる青古龍。
 そこに用意されたドラム缶の中には大量の餌。

 (いただきまー…まー……)

 じっとドラム缶の中を見る。
 入っていたのは、生肉だった。

 (ちゃんと火くらい通せぇぇぇぇぇぇぇええッ!!!)

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
 怒りの咆哮を上げながら、檻の中で暴れる暴れる。

 慌ててドラム缶が下げられ、次に用意されたのは果物の山山山。
 西瓜、林檎、柿、梨、葡萄、蜜柑、メロン、グレープフルーツ、桃……。

 (むーしゃむーしゃ…幸せー♪)

 満足そうに食べる青古龍を見て学者達がメモメモ。
 先ず何を食うかを調べられているらしい。



 一日につき二回の食事を与えられながら、青古龍の受け渡し先の選定が始まった。
 始まった途端、難航した。
 何せ立候補が後を絶たない。
 国内の研究所や動物園ならまだ良い。
 問題は国外、アメリカやロシア、中国などからも声が上がっている事だ。
 そうなれば青古龍の末路は目に見えているし、折角の新素材をただでやる訳が無い。
 取り合えず国内の信用の置ける施設であり、次に青古龍を飼育可能なスペースがある所で市街地から一定の距離がある等を条件に選定が開始された。
 結果として自衛隊駐屯地からそこそこ近く、市街地からそこそこ離れているために周りに土地のあるとある動物園が選ばれた。
 そしてここぞとばかりに寄付を募り、工費の殆どをそれで賄う形で青古龍でも逃げ出せない程に頑強な飼育施設の建設が着工された。
 青古龍が見せた脅威の身体能力から施設は「内向き核シェルター」と揶揄される設計が採用され、国内の有力企業が揃って参加した。
 国民の声の後押しもあり、24時間体制で施設は凡そ2ヶ月程で建設できる予定だ。
 



 

 その頃の青古龍

ギャオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 怒りの咆哮を上げながら、檻の中で暴れる暴れる。
 
 「げ!内側の檻が壊れた!」
 「そんなに動物用団子が嫌なのか…。」

 今回与えられたのはトウモロコシやジャガイモ、シイタケやニンジン、生肉を捏ねて茹でた特製団子だった。
 しかし、動物向けなので、当然ながら味の方は淡白そのものである。

 「お?どったの?」
 「伊丹か、何か食い物持ってないか!?」
 「あー、ここにさっき買った吉牛が」

 ガシッ(お馴染みのロゴの袋を伊丹か奪う)
 バッ(袋から容器を取り出す)
 ポイッ(檻に向かって容器ごと投げる)

 
 「大人しくなった……。」
 「吉牛が異世界にも通じた…。」
 「解っちゃいたが、食費がすごい事になるな…。」
 

 この日から、青古龍の食事は雑でも人間が食べられるものが与えられるようになった。














[29371] 【ネタ】 水龍になりました3 【ゲート二次】
Name: GAP◆773ede7b ID:62e65a4c
Date: 2011/08/23 22:59
【習作・ネタ】 水龍になりました3 【ゲート二次】



 三ヵ月後、人を襲わない事を大前提とした躾を施された後、青古龍は動物園に引き渡された。
 その餌代で防衛費に重圧を強いた大蜥蜴がいなくなった事に自衛隊からは喜びの声が上がり、民間からはそれ以上の大歓声によって青古龍は迎えられた。

 

 (ここが、天国か…。)

 青古龍の新しい住処は直径300m、深さ18m程の巨大な円形の穴だった。
 壁は最新の装甲材と衝撃吸収材の12層構造、天井は通常は鉄骨と金網だけだが緊急時には壁と同じ構造のドーム状の天井が展開する。
 また、暴れだしても即殺処分可能なように通気口を閉じて無味無臭の毒ガスを流す事も可能となっている。
開園時はこちらで過ごす予定で穴の淵から眺めたり、餌を与えたり、監視カメラで観察する構造となっている。
また、サブとして最初から天井のあるやや小ぶりの部屋もあり、こちらは閉園時に睡眠や食事の場となる。
 また、それらが破られたとしても緊急警報を感知した途端、周辺の自衛隊基地から即座にF-15が緊急発進するよう手筈が整っている。
 もし逃げられたとしても、今度は静止衛星上から人工衛星が追跡する。
 
 過剰とも言える安全対策を施した上で、遂に青古龍の動物園デビューが始まった。

 
 周辺地域は大混乱に包まれた。
 国内外を問わず、あらゆる人種が動物園を目指して集まった。
 目指すのはたった一頭、しかし、それだけの価値があった。
 動物園から溢れ出す程の来園者に、動物園側は行列の整理に手一杯となった。
 初日時点で国内有数の動物園である旭川動物園、上野動物園等の一日の最大来園者数を超え、二日目からは整理券が配られる事となった。
 なお、整理券は2ヶ月後も10分で完売となる程このドラゴンブームは続いた。
 


 「お父さん、パン買ってー。」
 「アオちゃーん、えーい!」

 ひゅぅーん……ぱくん

 やや飛距離が短かったものの、青古龍は檻の中から舌を伸ばしてパンをゲットした。

 「すごいすごーい!」
 「あはは、凄いねー。」

 (もっとくれーい。)
 


 青古龍は恙無く優雅な生活を営んでいた。
 
 (うめぇうめぇ♪)

 日々ちゃんと調理された食事が出る。
 それだけで彼には至福だった。

 朝7時、目覚めて朝食(消化の良い野菜・果物中心)を食べる。
 朝9時、開園後、始終餌を与えられる。
 午後6時、閉園。
 午後7時、夕食(肉・魚等のタンパク質中心)を食べる。
 午後8時、消灯(ただし24時間監視体制)

 青古龍の生活は大体こんなものである。
 たまに夕食に睡眠薬を入れて鱗や血液の採取等の調査を行っている。

 「やはり筋繊維あたりの力が地球上のどの生物よりも強いですね。」
 「そして鱗はモース硬度9か。…自衛隊はよく捕獲できたな。」
 「何でも餌を用意したそうですけど…。」
 「知能はチンパンジーやイルカ以上。芸もすぐ覚えたし、人間の挙動をある程度理解している節もある。これ程の研究対象と生涯の内に出会えるとは……クックックック……。」
 「氷や水を吐く能力の方は…やはりまだ解りませんね。」
 「焦る事は無い。解剖や強引な実験はできんが、幸いにも時間はあるんだ。例え政府が外圧に屈したとしても国民がそれを許さない土台が既に出来ている。何も問題は無い。クックック……。」

 という会話が青古龍の枕元で交わされていた。
 


 青古龍が動物園デビューした当日から、「アオちゃん」の愛称で世界各地でドラゴンブームが沸いた。
 ぬいぐるみや玩具等のキャラ商品が大盛況、マスコミも毎日ドラゴン特集を流し、長い不況が続く中で新たな流れが出来始めた。
 映画業界ではドラゴンをテーマにした映画が人気となり、自衛隊からの情報を元にF-4との空戦の再現映像が放送されて視聴率が鰻登りとなった。
 また、その鱗や血液から新素材や酵素の発見が相次ぐと、各業界では益々注目が集まる。
 更には秋頃に珍しい暑いある日、青古龍が氷のブレスを吐いて自身の周辺を凍てつかせると、更にドラゴンブームは加熱した。
 青古龍は今や世界的なVIPと化していた。





 
 そして、年が明けた頃。
 関東を中心に震度6強の地震が発生。
 関東地帯を中心に大きな被害を出した。
 そこにはあの青古龍がいる動物園も含まれていた。






 (んん?何かやばいよーな…?)

 その日、青古龍は朝から何か違和感を持った。
 こう背中がむずむずするような、髪の毛を一本だけ引っ張られるような、そんな感じである。
 そして午後2時過ぎに襲い掛かった地震に、青古龍は違和感の原因に気づいた。

 (あぁ、地震か。そーいや前にも火山が噴火した時にも似た様な感じだったな。)

 あれは何年前だったか、と少々懐かしく思う。
 同時に、2分以上続く地震に違和感を持った。

 (はて、地震ってこんなに続くもんだったかな?)

 はて?と思っていると、不意に周囲を囲む壁の一角に皹が入り、天井の一部が崩落した。

 (……おいおい(汗))

 粉塵が収まった頃、天井に目を凝らす。
 崩落した部分には何とか青古龍の巨体でも通り抜けられそうな穴が開いていた。
 本来なら震度6クラスの地震にも耐えられるし、7クラスでも崩落はしない筈だった。
 しかし、後の調査で判明した事だが、この動物園の真下に活断層が走っており、大地震に触発されてここの活断層も地震を発生させてしまい、施設が耐え切れなかったのだ。
 
 (はてさて、ここは出るべきか出ざるべきか…。)

 うーんと頭を悩ませていると、不意に熊以上の精度を誇る青古龍の鼻が外からある匂いを感知した。

 (こりゃ…煙か?)

 風に流されてきたのか、施設内に煙の匂いが漂ってきた。
 しかも肉が焼けるような匂いではなく、雑多なものが焼ける時に出る嫌な匂いだった。

 (火事だな。動物園じゃない……近くの町か?)

 それは正解だった。
 10km程離れている市外では火災が発生していた。
 しかもこの地震で主要道路が事故車や電柱などで塞がれ、通信網も麻痺しており、消防車は火災現場に辿り着けていなかった。

 (向こうなら兎も角、こっちで人を見捨てるのもなぁ…。)

 はぁ…と非常に人間くさい溜息を吐き、青古龍は穴から久しぶりの外へと出て行った。






 「はっはっはっは……!」

 動物園の飼育員は急いでいた。
 目指すのはドラゴンのいる施設だ。
 他の動物が怯えるため、ある程度距離を離した所に施設は建設されていた。
 しかし、今の地震ではそれが仇となった。
 監視カメラを備えた部屋は地震によって音信不通、中から出ようにもドアが歪んでそれも出来ない。
 そして何より電源が落ちてしまったために天井の閉鎖機構が作動しない。
 発電機はあるものの、電線が断線してそれもできない。
 有体に言ってピンチだった。

 (見えた!あそこだ!)

 見れば、遠くからは解りづらいが、天井の一部が破損している。

 (おいおいおいおいおい!安全管理は万全じゃなかったのかよ!)

 顔から血の気が引いていく。
 動物園では動物、それも肉食獣が逃げ出せば大騒ぎになる。
 増してやあのドラゴンは人肉の味を覚えている。
 妙に舌が肥えているドラゴンが進んで人を襲うかは知らないが、今後発生する可能性のある食料確保の問題もある。安心は出来ない。
 
 「どうなっている!」

 飼育員が穴の縁に近づき
 

  直後、目の前に青い壁が広がった。

 
 「おわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 尻餅をついて、後ろに倒れこむ。
 潰される事は無かったが、腰が抜けてしまった。

 「一体、何が…?」

 不意に、飼育員の顔の上に影がかかる。
 見上げれば、そこにいた。

 太陽を背に、目一杯に翼を広げる青古龍の姿が。
 
 直後、青古龍は久方ぶりの飛翔を開始した。
 目指すのは今も煙を吐き出す市街地だ。





 (んー、やっぱり火事かー。)

 視界に入る市街は明らかに火の手が上がっている場所が幾つもあった。

 (さて、一丁やりますか。)

 今日この日、史上初のドラゴンの消化活動が始まる。





 「早く助け出すんだ!」
 「そう言っても柱が邪魔なんだ!」

 市街では市民が懸命に救助・消火活動を行っていた。
 消防車が何とか道路の障害物をどけようとしている時、頼りになるのはご近所との連携である。
 近くの用水路や側溝から水や泥をバケツで汲み取り、懸命に消火しつつ、瓦礫をどけて人命救助を行う。
 地震という災害に慣れているからこその連携だが、余りの災害の規模、続く余震と延焼に怯えながらでは遅々として作業は進まなかった。

 そんな時、彼らの頭上に影がかかった。





 (消火活動~。)

 青古龍は地上から100m程の低空を飛びながら、口から水のブレスを火や煙にむけて吐いていた。
 
 (おお、消える消える。)

 吐いているのは水ではなく、正確には泡のブレス。
 しかも唾液成分をあえて少し混ぜて粘性を持たせている。
 そのため、最新の科学消化剤(吸着性の高い泡を出す)と同じような効果を発揮し、素早く消火活動をしていく。
 しかも空中から効率よく火災地域を発見・移動して消火するため、消防車が到着した時には既に消火されているという事もあった。
 小一時間もする頃には、視界に入る中では全ての火が消されていた。
 





 二週間後、何とか復興活動が軌道に乗り、ライフラインも大方復活すると、このニュースは大々的に取り上げられ、即座に世界中に発信された。
 このニュースはあまりの内容に「ナイスジョーク!HAHAHA☆」と言われていたのだが、市民によって撮影された映像が公開され、更に消防士達の証言も重なると、更に反響を呼んだ。

 「あれ、本当に爬虫類か!?」

 そんな声があちこちで聞かれるようになった。
 厳重に調査すべし!という声が上がるのも当然の事だった。
 しかし、現在青古龍は動物園にいない。

 あの地震の日から姿を消したままだった。



 あの地震が起きた日から数日後。
 青古龍がいる動物園の付近一帯では食料が不足し始めていた。
 何せ地域一帯は青古龍を一目見んと集まった観光客が大勢おり、外国人も大勢いた。
 一週間程ならもつが、それ以上なら厳しいものがある。
 市議会が頭を悩ませている時、不意に避難所になっている市役所に陰がかかった。
 勿論、青古龍である。
 青古龍の食料は施設に併設された大型冷蔵庫に保存され、食事の度に調理されて出される。
 その量は青古龍が食べる量を考慮して、かなりの量がある。
 具体的には庭付きの一軒家サイズの冷蔵庫一杯の食料があると思ってくれて良い。
 青古龍は飼育施設の崩れた天井の金網部分を籠代わりにして、保存された食料の全てを市役所に持っていったのだ。
 その食料のおかげで市民と観光客は何とか絶食せずに済み、食べつくした頃には他地域からの支援物資が到着した。
 しかし、動物園には青古龍の姿は無い。

食料を運んだ後、何処かへと姿を消して今に至るまで発見されていない。



 その一週間後、遂に青古龍が自衛隊によって発見された。
 報告が成されたのは、何と東京都である。
 東京都なのに何故ここまで発見が遅れたのか?
 その当然の疑問は即座に答えられた。
 
 青古龍がいたのは、北緯20度25分31秒東経136度4分11秒。
太平洋の絶海に孤立して形成された南北約 1.7 km 、東西約 4.5 km 、周囲約 11 km ほどのコメ粒形をしたサンゴ礁の島。

 そう、日本最南端の島、沖の鳥島である。

 正確には沖の鳥島の浅瀬で昼寝している所を人工衛星でたまたま補足、付近に出張っていた海上自衛隊の巡視艇が確認した。
 その巡視艇は捕獲部隊が来るまで青古龍の監視の任につく事となったが、その最中に興味深いものを見る事となる。

 食料の無いこんな場所で、どうして青古龍が生活しているのか?
 動物園で喰っちゃ寝生活しているので忘れがちだが、青古龍は列記とした野生動物であるので、周辺の魚を狩って食べていた事が解った。
 青古龍は島の浅瀬から降りて海に潜ると、翼や手足を折り畳み、尾を使ってイルカや鮫の様に巧みに水中を泳ぎ、大型魚や鮫を捕食する。
 体は大きいものの、それを補って余りあるスピードで見事に海底から海面へと急速上昇、ホホジロザメの様に獲物を空中に押し出して食らいついた。
 その映像は即座にマスコミに齎され、お茶の間で「アオちゃんは今日も逞しく生きています」というテロップが流れる事となった。

 その頃、特地で青古龍を捕獲した経験のある陸上自衛隊から幾人かが青古龍際捕獲に際し、海上自衛隊へ派遣される事が決定された。
最近便利屋扱いされている伊丹を始めとした面々がありったけの食料と共に出発する事となった。






 んで、時間は進んで沖の鳥島近海、DDH護衛艦ひゅうがの甲板上。

 「…で何故船員総出で甲板でカレーを作ってるんだ?」
 「しゃーないですよ、普通の鍋じゃこうするしかないんだし。」

 愚痴をこぼす海上自衛官に、伊丹が宥める様に声をかける。
 現在、ひゅうがの甲板では特大の寸胴鍋が20個、カレーを煮込んでいた。
 同時にこれまた特大の釜20個で米が炊かれていた。

 「あいつカレーライスが大好物ですからね。生半可な量じゃ満足しないんですよ。」
 「ファンタジーって…。」
 
 あまりの事態に海上自衛隊の面々が微妙な表情をする中、徐々にカレーが出来上がっていく。
 


 「ん?」
 「どうした?」
 「ソナーに感あり。大きい……サイズは、約50m!」
 「目標かも知れん……総員第一級厳戒態勢!何が起きるか解らんぞ!」
 


 そしてカレーが丁度完成した頃、ひゅうがから100m地点の海面が急速に盛り上がった。
 気づいた自衛隊の面々が注目する中、遂に水面が弾けた。

 ザッパーン!

 水しぶきと共に、口に2m程のネズミザメを咥えた青古龍がひゅうがの前に現れた。



 「お前さんは相変わらず食欲旺盛だねー。」

 ガツガツとカレーを食べている青古龍を見ての伊丹の一言に、その場の面々も頷く。

 「こいつの味覚ってどうなってんでしょうね?」
 「きっと動物とは思えない程に肥えてるんでしょーよ。」

 自衛隊の呆れの視線も何のその。
 青古龍は今も追加が調理されているカレーを真っ直ぐ見つめながら、カレーを貪るのだった。





 
 「青古龍、動物園に到着!」
 
数日後、お茶の間にこのニュースが流れたその日の内に、件の動物園は更に大盛況となった。
 以前から来ていた国内外を問わない動物学者の他に、今度は心理学者まで大勢来ており、園内では白衣が目立つようになっていた。
 青古龍が見せた高い知性と判断能力、そして特殊能力。
 それらは特地生物の固有の性質なのか?それともあのドラゴン特有のものなのか?
 いや、何にせよ調査は必要には違いない。いっそ解剖してしまえ。その前に雌の固体を捕獲して繁殖をetcetc……。
 学者達は青古龍の姿を内心で舌なめずりしながらじっとりと観察していた。
 

 動物園が大盛況を誇る中、舞台裏でもやはり生臭い状態が続いていた。
 
 「消火活動ができるんだから、是非消防省に!」
 「いや、海で活動可能なのだから是非海上保安庁に!」
 「何を言う!アオくんは我が動物園が責任を持って飼育するに決まっている!」
 
 アオを求める喧々諤々の議論が続いた。
 とは言っても、どこもマスコット扱いを主目的にしている節があるので、最終的には現状と同じく動物園での飼育に決定された。

 で

 「また捕獲しろ、と?」
 「うむ、アオくんは雄だからな。是非とも嫁さんを捕まえてきてくれ。」
 「………まぁ、努力はします。」

 こっちはこっちで忙しいと言っとろーに。

 こうして、陸上自衛隊では炎龍の捕獲も済し崩しに決定されちゃったのである。 









 












[29371] 【ネタ】 水龍になりました4 【ゲート二次】完結!
Name: GAP◆773ede7b ID:62e65a4c
Date: 2011/08/23 23:00
【習作・ネタ】 水龍になりました4 【ゲート二次】




 「で、どーします?」
 「先ずはアオの奴と同じく餌で釣ってみる。」
 「へ、場所解ったんですか?」
 「ダークエルフのヤオって女から救援要請が来てな。帝国領外だったんだが、そこの国のお偉いさんからも許可が出た。」

 と言うわけで炎龍捕獲作戦開始である。
 
 内容は簡単。
 炎龍の巣である火山周辺に炎龍が好みそうな食料(即効性かつ無味無臭麻酔&筋弛緩材入り)を準備、餌に食らいつき、動きが止まった所を捕獲する。
 人員は現地のダークエルフと前回アオを捕獲した陸自の面々、それにもしもの時の自走砲や戦車、F-4などの大盤振る舞いが成されている。
他にも奥の手があり、そちらは伊丹とその部下達が付いている。



 そして当日

 「……喰ってますけど……。」
 「まさか二匹も子供がいるとは……。」
 
 そう、確かに炎龍は罠にかかった。
しかし、2匹いた子供も罠にかかってしまったのである。
 赤と青、炎龍と水龍の子供は餌を食べて暫くすると餌の山に頭を突っ込んだ状態で眠り始めてしまった……子犬や子猫が遊びつかれた時の様である。
 対し、親である炎龍は残り物を食べるだけで、一向に眠り始める様子が無い。

 「これじゃ餌の量が足りませんね。子供は兎も角親の方はどうしようもない。」
 「…仕方ない。おい、伊丹を呼んで来るんだ。」

 
 「あー、出番ですか?」
 『そうだ。目標の他に子供が二匹いる。そいつらは罠にかかって寝ているが、炎龍の方は効きが薄い。何としても捕獲しろ。駄目だったら死体でも良い。』
 「了解しましたーっと。……さてさて、アオー出番だよー。」
 
 グロロロロロロロロロォォ…………。

 通信を切った伊丹の声に応じるように、低い唸り声が響く。
 見上げれば、そこにいるのはアオの愛称で世界に知られる青古龍の姿があった。
 首輪こそ付いているものの、そこには一切の戒めの無い。



 つい先日、明らかに知性を見せたアオはその後の実験(具体的には筆談によるコミュニケーション)で日本語並び特地公共言語を使える事が判明した。
 以下はその時の様子である。

学者「へい、アオくん!カレーを食いたいかい?なら、この特大黒板にチョークで『はい』と書いてくれ!すぐやってくれたら今なら最高級黒毛和牛のビーフカレーをプレゼントさ!」
 アオ「(前足使って器用に柱なみの大きさのチョークで書く)ギャオギャオ!」
 学者「(マジでやりやがった…)すごいね!さぁ、約束のビーフカレーだよ!」

 結果として、アオには人間に劣らぬ高い知性がある事が証明された。
 その後、アオは異例ながら正式に日本国籍を取得、自衛隊の民間協力者として登録され、未だ自衛隊が調査していない特地地域の貴重な情報源となった。
 なにせアオは既に1000年近く生きている。
 その間、帝国建国以前から長い間大陸中を旅して回った。
 そのため大まかな地形は把握しているし、そこに住む生き物の分布なども大まかながら把握している。
 しかも情報が集まり始めている帝国を始めとした人間国家の領域ではなく、前人未到の高山や島などが主であり、中には巣穴を掘った際に発見した鉱脈の情報などもあった。
 例を挙げると、砂漠地帯で水を求めて穴を掘った際に黒い粘性のある液体が出てきた事を話したら、それはもうすごい事となった。
 
 以上の実績と現地での確認を行うため、動物園から出張してきた所に今回の炎龍捕獲作戦の実行が下されると、アオも(筆談で)参加表明をし、一応予備として参加・待機していたのだった。
 以下は参加表明の時の様子

 アオ「グゥゥゥ……。」(襟首を引っ張る)
 伊丹「えーっと、何か用?」(襟首から持ち上げられつつ)
 ア「キューンキューン。」(地面に火を吐く龍の絵を書く)
 伊「あぁ炎龍ね。これがどうしたの?」
 ア「ギュオギュオ。」(地面に字を書く。)
 伊「えーと、特地語で……オレ、の…嫁…?」

 急遽話し合いが持たれました。
 結果、捕獲で餌作戦が失敗した場合かつ怪我をしない範囲で説得が成される事になりました。





 んで冒頭に戻って当日。
 以下、龍の鳴き声を人語に翻訳してお送りします。

 「おーい、アカー。」
 「あら、あんたじゃないの。何処行ってたの?」
 「ちょっと遠い所に。子供たちは元気?」
 「元気元気。毎日たくさん食べるから餌集めが大変よ。」
 「ごめんなー、手伝ってあげられなくて。あの羽の人がいると落ち着けなくてさ。」
 「まぁ、気持ちは解るけど。それで?顔出したからには何か用があるんでしょ?」
 「おぉそうだった。さっき餌集めが大変って言ってたよな?餌がたくさんある場所見つけたんだけど、来る?少し窮屈かもしれんが、餌は豊富で美味しいものがたくさんあるよ。」
 「でも、大丈夫なの?私ってこの有様だし、もし子供達に何かあったら…。」
 「そのためにも来てほしいんだ。今の君じゃ狩りは兎も角、外敵とあった時にもしもの可能性もある。あっちは確実に安全だから、どうか子供達と一緒に来てほしい。」キリッ
 「………………………………解った。あなたに賭けてみるわ。」
 「ごめんね、不安にさせちゃって。」
 「いいのよ、こうしてちゃんと来てくれたんだし。」


 んで、嫌がる嫁さんを説得しながら特製の檻に家族ともども入り、オレ達はゲートを潜るのだった。






 『さぁー本日もやってまいりました○○特別自然保護区!今日も観光客の皆さんで大盛況ですね!原因は皆さんも知っての通り、アオくんとその家族です!』
 『門の向こうの特地から来たアオくんは以前はとある動物園に住んでいました。しかし、あの関東地震で飼育施設が破損したため、彼は住む家を無くしてしまいました…。』
 『更に特地からアオくんの家族3頭が来たために、施設は修理してもかなり手狭となってしまいました。』
 『所が、□□県在住の○山さんが持っていた山を「是非使ってほしい」と名乗りを上げた事から事態は急変しました。』
 『現在、山は周囲を大型のフェンスと壁で囲まれ、自衛隊による厳重な監視下に置かれています。』
 『これはアオくん本人ではなく、その家族の奥さんであるアカさんとその2頭の子供達に配慮したものです。』
 『これはアオくんを除いた3頭が人に慣れていないためであり、現在アオくんが日々教育しているとの事です。』
 『観光客の皆様は山に入る事は許可されていませんが、可能な限り静かにしつつ望遠鏡で観察する事が許可されています。』
 『日に数度はアオくん達は飛行するので、運が良ければ最高の瞬間を見る事もできるかもしれません。』
 『こちら、先日撮影されたアオくんの子供達の飛行練習の様子です。……うわー、本当に飛んでますね。飛び方は鳥に近い感じですねー。あんな大きな体ですごい早いです。』
 『現在は地上で昼食の様子ですので、私も望遠鏡を覗いてみます。……あ!見えました!うわ、すごい!小屋みたいに大きな餌の山が凄い勢いで無くなっていきます!とても美味しそうです!』






 『行ってきまーす。』
 『『『行ってらっしゃーい。』』』

 妻と子供達(男女の双子)に見送られながら出勤する。
 うん、マイホーム?パパって最高。
 
 「おーい、準備はいいかー!」
 
 あ、はーい。今行きまーす。



 アオは今日も空を飛ぶ。
 
たまに檻付きの車に乗る事もあるが、大抵は空を飛ぶ。
 電柱や送電線に気をつける必要はあるが、それに気をつけさえすれば特に問題は無い。
 目的地は実に様々。
浜辺であったり、山であったり、市街地だったりする。
そしてその場所は常に何らかの災害がある、或いは終わった後になる。
火事・津波・豪雨・洪水・地震…etcetc。
 泡ブレスで火事を消し、波や河川を凍らせて塞き止め、時には動物的直感で地震すら予知する。
 アオは既に世界に名だたる大スターだった。

 アオは今日も空を飛ぶ。

 特地では未だに激しい戦闘が続いているそうだが、彼は全く気にしない。
 人助けと仕事と趣味と善意。そのためにまた空を飛ぶ。
 きっと慌てながら火を消したり、壊さないよう慎重に瓦礫を運んだり、必死になって氷のブレスを吐くのだろう。
 そして仕事が終わったら、真っ直ぐ家族の下に帰るのだ。
 美味しい夕飯を家族皆で食べるために。





 『む!炊き出しのカレーの匂い!』
 「ちったぁ見境付けやがれ!」

 




 水龍になりました 完




















 NGシーン

「へぇ!でも私たち全員が一気に移って大丈夫なの?」
「そこらへんも心配ないよ。で、どうする?」
「そうねぇ…でも、ちょっと心配だし、止めておくわ。子供たちがもっと大きくなってからにする。」
 「うーん、出来れば今すぐ移ってもらいたいんだけど…………………………うん、仕方ない。オレも恥ずかしいけど、こうなれば最終手段で。」
 「何言って……って、ちょっと。何でこっちににじり寄って来るのよ?止めなさい!ここには子供達もいるのよ!?」
 「いーただっきっまーす!」
 「ひ、や、きゃぁーーー!!」

 
 暫くお待ちください。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 5時間程経過しました。


 「こ、このケダモノ……きゅぅ…。」
 「やっちまったゼ☆」

 
 直後、疲労困憊で動けなくなった炎龍と子供達は捕獲されました。


 その後のとある自衛官とアオの会話

 「お前…他にやりようはなかったのかよ?」
 「ギャウギャウ。」(動けるだけの体力を無くせばよいかなーと。傷つけるのはやだし、少し恥ずかしかったけど、奥さん殺されるよりも羞恥プレイの方がマシ。)
 「まぁ、良いけどよ…。年頃の娘さんもいるんだから、ちったぁ考えてくれ。」
 「クゥーン……。」(下品で申し訳ない。)

 かくして特地におけるドラゴン騒ぎはこうして幕を閉じたのだった。



 
 理由? いや流石に下品すぎるかなと








[29371] 【習作・ネタ】 水龍になりましたIF 【ゲート二次】
Name: GAP◆773ede7b ID:62e65a4c
Date: 2011/08/28 14:21
【習作・ネタ】 水龍になりましたIF 【ゲート二次】






 その日、自衛隊特地駐屯地は壊滅的な打撃を受けた。




 

 赦せない赦せない許せない許せないゆるせないゆるせないユルセナイユルセナイ
赦せない赦せない許せない許せないゆるせないゆるせないユルセナイユルセナイ
赦せない赦せない許せない許せないゆるせないゆるせないユルセナイユルセナイ
赦せない赦せない許せない許せないゆるせないゆるせないユルセナイユルセナイ
赦せない赦せない許せない許せないゆるせないゆるせないユルセナイユルセナイ
赦せない赦せない許せない許せないゆるせないゆるせないユルセナイユルセナイ


 久しぶり妻子のいる巣に行けば、あったのは崩落した巣穴と子供達のバラバラになった死骸だけだった。
 そして、その場には明らかに戦闘の形跡があった。
 直後、必死に周囲を探索し、途中で例の羽のある人を見つけた。
 苦手な相手だが、この際しのごの言っていられない。

 そして、ことの顛末を聞いた。

 やるべき事が、できた。
 年を数える事さら忘れてしまったこの命で、初めて命を賭してやるべき事ができた。
 相手は、かつての故郷に住む者達。
 しかも多数の火器を装備し、厳しい訓練を受けてきた自衛隊。
 かつての世界でも錬度と装備だけを見れば有数の精鋭達。
 だが、諦める事なんてできない。

 彼らにとってドラゴン殺しは害獣駆除以外の何者でもないだろう。
 当然だ。
 彼らは人間で、こっちはドラゴンなのだ。
 価値観や文化どころか、生態からして全く違う。

 だからと言って、オレは妻子を殺されて退くほどに腐っちゃいない。

 今はただ機会を待とう。
 彼らは精鋭で、装備も優れている。
 いかにこちらがドラゴンであっても、正面から挑めば蜂の巣かミンチになるのが落ちだ。
 だが、直に自衛隊とこちらの国家の連中がまた戦火を交える事だろう。
 その時に基地が手薄になった時に、仕掛ける。
 
 復讐の時を思い、今はただ休息を取ろう。
 そして、確実に自衛隊を討つための手段を整える。






 機会は意外とすぐだった。
 
 帝国正規軍が自衛隊をあまりに多くの戦力の囮を使って必死に時間を稼いでいる時、アルヌスの丘へとゾルザル率いる本隊が奇襲をしかけた。
 そして、帝国皇帝・議会派がなけなしの戦力で必死の防衛戦を始めようという時、不意に人々の頭上に影が差した。

 「古龍だ!逃げろ!」

 誰が言ったかは解らない。
 だが、多くの者がその一言に従ったため、二つの陣営は大混乱に陥った。
 前線から逃げ出そうとする将兵が多く、ゾルザル軍はオプリーチニナが何とか統制を取り戻そうとするが、最早どうしようもない。
 対する皇帝・議会派もまた混乱がひどく、まともな戦闘は期待できそうにない。
 幸いにも双方が混乱状態で激突する事はなかったので防衛側は立て直す時間も得られたが、事態は予想外の方向へと向かっていく。


 古龍はなんと帝国軍将兵の真上を素通りし、自衛隊駐屯地の真上を旋回しながら氷のブレスを乱射した。
 倉庫や滑走路、宿舎、訓練施設。
 施設内では建物ごと氷漬けにされた隊員や現地民間人がそのままの姿で息絶えていた。
施設中を氷漬けする様に手当たり次第にブレスを吐きかけていく古龍の姿には、怨念染みた執着すら見て取れた。
 無論、自衛隊側とてやられっぱなしではない。
 1分としない内に対空砲火が開始される。
 しかし、それはどう見ても満足な弾幕を形成しているとは言えない。
 奇襲されたのと戦力が出払っている事が重なり、どうしても対処できていない。

 やがて5分としない内に古龍は去った。
 後に残ったのは、まるで南極基地のように氷漬けになった駐屯地と未だ混乱冷めやらぬ帝国軍だけだった。






 3ヵ月後、自衛隊駐屯地はようやく基地機能を取り戻していた。
 その間、3度の古龍の襲撃がありながら、何とか基地機能の再建とゾルザル軍の排除は完了した。
 その間、自衛隊と帝国軍の努力の甲斐も無く、アルヌスの丘周辺では多数の犠牲が出た。
 古龍はあの手この手でアルヌスを襲撃し続けたのだ。
 
一回目は夜明けと共に水のブレスをウォーターカッター状に発射し、基地の防壁に大きな切れ目を入れた。
 二回目は日暮れと共に森の中から走り出し、基地の正門を氷漬けにした。
 三回目は近くの川の中から離陸した直後のヘリが氷のブレスで狙い撃たれた。

 しかし、その三回全てにおいて自衛隊は古龍を討ち損ねた。

 理由は簡単、人質を取られたからだ。
 古龍は毎回人質を取っていた。
 最初は特地の人間。
 次は特地の亜人。
 その次は明らかに日本人と解る衣服の人間。

 自衛隊は撃てなかった。
 人命第一とし、専守防衛を旨とする彼らは罪も無い無関係な人間を殺す事ができなかったし、世論もそれを認めなかった。
 また、古龍は攻撃後すぐにその場を飛び立ち、濃霧の立ち込める森林地帯に身を隠すために補足が困難だった。
 レーダーにも殆ど映らないし、エンジン音もしない。
 特地には人工衛星も無いため、追跡はどうしても人の手が必要となる。
 だが、森林地帯に潜入していた偵察隊から遂に古龍の巣を発見したとの報が入った。
 自衛隊は素早く戦力を派遣、森林地帯にある雪が未だ色濃く残る高山周辺へと速やかかつ静粛に布陣した。

 

 
 

 「…やれますかね?」
 「やる、それだけだ。第一、俺達に後は無い。解るな?」
 「はい。」

 自衛隊は、政府は今回の一件でこの世界への認識を改めた。
 世論も敵方なら兎も角、味方側の民間人にまで大きな被害が出ている事に対し、自衛隊を責め、国外からの圧力も日に日に強まっている。
 限界なのだ。
 世論を抑えるのも、外圧に耐えるのも。
 しかし、自衛隊がゾルザル軍を排し、あの古龍の討伐に成功すれば、ある程度は沈静化が期待できる。
 前者は既に成功した。なら、後は後者だけ。
 そのために、増強された特地派遣戦力の4割がこの作戦に投入された。
 失敗は、許されない。
 現場の全員がそれを理解していた






 (来たか。)

 霧のせいで解りづらいが、確かに鉄と油と火薬、人の匂いがする。
 
 (仕掛けは上々、後は結果を…ってね。)

 古龍もまた最後の戦いを開始した。






 当初、異変に気付いたのは山の麓に布陣していた隊員だった。

 「なんか、おかしくない?」
 「何が?」
 「なんかこう、揺れてないか?震度1未満だと思うんだけど…。」
 「そういえば、何か揺れてきたような?」

 そして、10秒としない内に変化が起きた。
 
 「ッ!雪崩だ!退避、退避!!」

 幸いにも巻き込まれた者は極少数だった。
 主に車両の中にいた者が逃げ遅れたのだが、雪の量自体はそれほどでもなく、救助は十分に間に合うだろう。
 しかし、山頂周辺に狙いを定めていた自走砲や戦車はその多くが使い物にならなくなっていた。

 そこに、狙い済ましたように古龍が現れた。






 仕掛けは簡単。
 以前から時間をかけて山肌の氷を分厚くする。
 水龍という種の能力が、ここに来て生きた。
 幸いにもここの山肌は硬いが脆く、崩れやすい。
 龍の巨体で少し暴れただけで崩れ、雪崩を誘発できた。
 これで地上戦力はどうにかなった。なってしまった。
 
 (後は空)

 上空を旋回する戦闘機を睨みつける。
 忌々しい連中だが、向こうにとってもそうれは同じ。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!」


 鉄と雪と風が舞い散る山脈の頂きで、水龍は声高々に舞い上がった。










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