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[29284] 【ネタ】ついカッとなって異世界にトバした【オリジナル?】
Name: 灯火◆5b13208a ID:34a9931b
Date: 2011/08/12 22:36
 知らない天井だ。
 と数十宇年前にヒットしたアニメの名台詞がふと頭に浮かんできた。視線の先には所々欠けていて色褪せている宗教画が見えている。欠けたところからは眩しい日差しが差し込んできていて、埃っぽい室内に乱反射して退廃的な美しさを感じさせてくれる。
 うん、どこだろう、ここ。新マップ……とかではなさそうだなあ。アップデートの話なんて聞いてないし……ていうか、背中に感じるゴツゴツとした痛みとか地面……床?の冷たさがどう考えても現実だ。ほんの少し前にログインしたVRゲームではこんな質感なんて出せるわけがない。
 じゃあこれは現実?いやいや、ヘットギア被って布団にダイブして目をつぶってログインしたんだからゲームの中と思うのが自然だろう。服装も……うん、ゲームの中の私の装備だ。うん、確かに、確かに間違いないけど。なんだろう、この絶妙な使い込んだ感は。着ているロープの裾や袖端が微妙に汚れて解れている。起き上がってグローブとブーツをみると、これも革の部分は柔らかい皺ができてるものの、弱弱しい感じは全くなく、長年に渡って丁寧に手入れされた傷ついた綺麗さがあるのだ。VRゲームの中では有り得ないリアリティ。あの世界ではピカピカの新品か耐久度が減った後のボロボロ感かのどちらかしかない。それもデジタル的なもので、こんな風に自然劣化だとか使い込んだ風情とかのアナログな感じは皆無だ。
 そして、やはり決定的だったのは。

「……やっぱり、臭い、あるなあ。」

 そう、VRゲームでは未だ不完全な「臭い」がここにはあるのだ。年を経た石の、空気に満ちる砂埃の、くたびれたローブの砂と汗の、金属と革の、そして武器と体に染み込んでいる生臭い鉄の臭い。
 これは、やっぱりゲームじゃない。現実だ。それじゃあ結局ここは、どこなんだろう。





「……わぁお」

 とりあえず、室内で何もせずぼけっとしてるのも何なので外にでることにした。半分壊れた大扉を開け……ようとしたら壊れたが、まあ気にしないで外にでた。そしてまあ、驚いた。

「……ふぁんたじーだ」

 この場所は丁度高台になっていたのだろう。高い雲が浮かぶ青い空。空と地を分けるように広がる青々とした山脈。ひときわ高い山の麓には大きな城とがっちりとした城壁に守られた大きな街。街の外には広々とした農村と草原、そして大きな森が見えた。
 そして極めつけに、ギャアという鳴き声。そちらに目をやると……

「……あれって竜騎兵とか言うんだっけ?」

 ワイバーンと言うのだろうか、大きな翼竜に跨がった白銀の騎士がロッテを組んで飛んでいた。
 これはもう信じるしか無いのだろうか。自分が寝ていた、そして出てきた建物を見上げる。
 元は荘厳な佇まいだったのだろう、今は荒れ果てたその建物にはどこかで見たような輪十字が掲げられていて、その寂れっぷりとかそれでも感じる神聖さに、もはや認めるしかなかった。

「……異世界来訪ものってやつなのかなあ」

 今まで多少は夢見たことあれど、あり得るはずがないと当たり前のように思っていたのだが。まさか自分が来てしまう羽目になるとは。でも、まあ、うん。

「……とりあえず、町にいこ」

 ここでぼけっとしてても元の世界に戻れる訳でもなし、しかもどこかわくわくする自分もいたりするので、歩き出すことにした。

「……ふふ、ちょっと、楽しみ」

 さてさて、なにが待つのだろうか、この先には。



 とりあえず、旅立つ前に荷物の確認をすることにした。ボロボロの教会の中に入って、腰につけているポーチ……ゲーム中ではタップすればインベントリが開く優れもの、を開けた。……わぉ。

「……ミニチュアだ」

 ポーチの中は大ポケットと小ポケット4つ、という単純な構造になっていて、その中に爪の大きさほどのポッドやら装備品やらお財布やらが入っている。ごちゃごちゃとまるで統一感がない。と、とりあえず出してみよう。

「……ああ、そういえば、ダンジョン明けだったっけ」

 荷物を床に広げての第一感想である。普段常備してるHPポッドやら完全回復ポッドやら包帯やらの医薬品は中途半端に減ってるし、なめした革や牙や宝石、剣や杖といったモンスタードロップの材料と装備品、予備の武器と服が少々、となかなかのごっちゃりっぷりだ。そしてまあ、極めつけは財布の中身である。

「……ヒュージ、いっぱい出たしなあ」

 モンスターを倒すと時々数百~数千ほどのゴールドがドロップされるのだけれど、それがごくたまに倍、3倍、10倍になるラッキーボーナスがある。その中の最上級であるヒュージラッキーボーナスがダンジョン一回の攻略で何故か5回も出たのだ。クエストの攻略褒賞も併せてざっと30万ほど。手持ち空っぽからまさかの大稼ぎになったのである

「……でも、使えるの、かな」

 そう、それが問題である。財布から一枚取り出してしげしげと眺める。純金なのか、滑らかな金の光沢とずっしりとした重量感。片面にはケルト十字が、もう片面にはエイリフ王国の国章が精緻に刻まれている。ゲーム中と同じデザインの、綺麗な硬貨。そう、そこが問題だ。これはゲームの中のお金なのだ。異世界であろう、この場所で使えるものだとは限らない。もういっそのこと鋳つぶして金塊にしたほうがお金になるんじゃなかろうか。

「……ま、いいか。後で考えよう」

 実際のお金をみてからでも遅くはないだろう。物資はそこそこあるし、レアっぽい……この世界ではわからないけど、結構な材料も持っている。それを売り払えばこっちのお金も手に入る。うん、とりあえず生活はどうにかなりそうだ。

「……さて、出るかな」

 荷物を整理してポーチに詰め込み……明らかにポーチよりでかいものが吸い込まれるのを見ると奇妙な気分になる、わたしは教会から出発した。



 山道をのんびり歩く。ぽかぽかとした陽気で湿度も高くなく、実にいい散歩日和だ。道は荒れてはいるものの、元は教会に続いている場所だからかそこそこに広く、足場もしっかりとしていて歩きにくさは感じない。風のそよぎも気持ちよく、小鳥のさえずりや小動物の気配なんかも心地よさを感じさせてくる。うん、素敵なハイキング気分。
 予備の武器を杖代わりにして、軽鎧のこすれる音をBGMにしながら歩みを進める。この道、どこまで続いてるんだろう。食べ物はポーチに入ってなかったから早めに確保したいんだけど。お腹も空いてきたし。うーん。
 などと取り留めのないことを考えながら歩いていたら。一斉に鳥が飛び立ち、動物の囀りが止んだ。
 足を止めて警戒する。なんだ、熊でも出てきたか。武器を構え、気配を探る。待つこと幾ばくか。10mほど先に2つ、後方に1つの影が飛び出してきた。体を斜に構え、見やる。
 薄汚れた革鎧を纏い、刃こぼれした曲刀を構えた髭面の男たちだ。痩せぎすなのとがっしりした男。ちらと見た背後の男も同様の背格好だった。まさに見たとおりの、山賊であるらしい。

「おい、嬢ちゃんひとりか?」
「けひ、おんなァ、おんなだァ」
「身ぐるみ置いていけ。なぁに、悪いようにはしないさ」

 実に頭の悪そうな言葉だった。こちらを嘗め回すような、下卑た視線。力を抜き、切っ先を敵の鼻先へ向ける。

「おぉ?やんのかぁ?痛い目みんぞぉ?」
「いひぃ、おれ、もう、がまんできね」

 痩せぎすの男が飛び出してくる。刀を振り上げ、血走った表情で。それに続くようにがっしりした男と後ろのやつも突っ込んできた。
 あぁ、あぁ。楽しくなってきた。


   † † †


 圧倒的、だった。
初めは、危険な場所にいた少女を警戒するために。次に、そのような危険な場所を暢気に散歩している少女を観察するために。そして、案の定危険に巻き込まれた少女を救いに行くために。私は王国空挺竜騎師団の団員としての任務と正義感のために少女を見守りそして今その元へと向かう、その最中のことだった。
 悪漢に立ち向かう少女の姿勢は確かな訓練を経た、武人のものであった。しかし、10を僅かに越えたばかりのような幼い容姿と体格では、しかも1対3という人数差では奴らになぶられるだろうことは想像に難くなかった。
 そして、私が間に合うはずもない距離で奴らが襲いかかり、次の瞬間に起こるだろう惨劇に一瞬目を閉じた、その間。
 上がった悲鳴は、野太い、3つのものだった。
 一目見て、なにが起きたのかわからなかった。一人は剣を持った手を切り飛ばされ、一人は片脚を失い、一人は肩から先を落とされていた。そしてうずくまる三者の中央に。地塗られた長柄の曲刀を静かに構えた少女は先程まで備えていた豊かな表情を一切消し、冷徹な眼光で彼らを見据えていた。
 次第に足元に集まってくる血溜まりが靴に触れる刹那、音もなく跳躍し、前方に……男たちに足止めされていなければ一歩先の場所に降り立った。
 私はやっとその場所に着いた。着いた時には片が付いてしまっていた。竜の足下には血を流して呻く男たちの姿。彼らはもう助からないだろう。これほどに血を失えば、強大な魔法でもない限り命は長らえられない。そしてそれらは高位の神官か魔導師のみが遣えるものであり、須く高額な金銭を必要とする。この辺り一帯を支配する盗賊団の幹部ならともかく、火葬であろうこいつらでは、夢でも有り得ない、話だった。
 私個人としても、常に殺し奪い犯し尽くすこれらを助ける気など毛頭ない。眼前に立たれたならば剣の一閃をもって殺すことだろう。そこには躊躇も後悔もない。しかしそれも長年の経験でもってやっと手に入れたもの。私がこの少女の年の頃は殺すことに怯える……どころか、奪われるだけの弱い立場だった。騎士団に入り、初めて人間を斬り殺した時は胃の中身を吐き出し、毎晩も夢に見たものだ。感情を殺せるようになったのは最近のことだ。だというのに、この少女は……。
 風を切る音に、意識を現実に取り戻した。少女が長柄の曲刀に付いた血糊を払い落とした、その音だったらしい。ぬめり、と濡れたように輝く銀色の刃先には一切の血の澱みが残っていない。余程の業物なのだろう。

「……だれ?」

 鈴のような澄んだ声が、私の耳に届いた。囁くような、それでもはっきりと耳に届く綺麗な響きだった。
 その無垢な声にどこか安堵しながらこちらを向いている少女に目を合わせ、背筋が、凍った。
 棗の形の大きな、紅玉が嵌まった瞳。何の感情も写していない……いや、その瞳の奥にどろりと輝くのは……渇望、か。ふわり、と背にたなびく黒髪が、踊る。身体を完全にこちらに向けたようだ。
 遠目で見たときと同様の、幼い、華奢な矮躯。だが、弱々しさは感じない。静かな、威圧感。近付いたら、私も彼らのように切り捨てられるのだろう。
 口の中に溜まる唾液を飲み込む。そして息を一つ吸い込み、愛竜から飛び降りて、彼女に相対した。胸に拳を当てる竜騎師団式の敬礼をする。

「私はアルト王国空挺竜騎師団二番隊副長シルファ・ローグだ。失礼だが、貴殿の出身国、氏名、この国に来た目的を伺いたい」

 私の問いに、少女は暫く考えるようにして、

「……エイリフ王国のアイリス・マハ。……気づいたら、ここにいた。」

 短くそう話し、黙った。静かにこちらを見つめてくる。
 しかし、エイリフ王国、だと? そんな国は聞いたことがない。いや、私はこの大陸にある全ての国々を知ってはいないのだから、遠い異国だ、と言われれば否定などできないのだが。しかし、この少女は流暢にこの地域一帯の言葉を話している。時々やってくる異国の行商隊の話では、遠い国では使われている言語が異なるらしい。彼ら自身の母国語も王国のものとは全く異なっていた。つまり、この少女はこの地域かその周辺出身と考えるのが自然なのだが……。
 などと内心で少女への疑念や考察をふかめていたのだが、くぅ、という可愛らしい微かな音に思考が妨げられた。
 何の音か、と少女の顔を見れば、その頬は桃色に染まり、葉状に長い耳……少女は珍しい黒髪のエルフだった、も赤く染まっていた。無表情に徹したその顔が、どうにも背伸びした子供に見えてきて、緊張感が削がれた。どうやら、腹の鳴る音らしい。もういいや。これが詐欺師の技術なのだとしても、騙されてもいいかな、と思った時点で私の負けだ。何、聞き取りなんて食事しながらでもできるだろうし。

「あー、うん。話の続きは町の中で、どうだ?なんなら食事もだすぞ?」

 と軽く提案。それに少女──アイリスは間髪も入れず頷き、足下の死体を飛び越えて私に近づき、手に持った長柄の曲刀を振り放った。
 刹那、私も剣を抜き、振り抜く。お互いの体の外に向かって。
 甲高い金属音が響く。森の中から私たちに向かって放たれた谷峨一対、地面に落ちた。射線を確認して、私とアイリスは背中合わせに立ち、森の中をにらみつける。

「おいおい、お嬢さん方。この道は有料だぜ?」
「くは、ラグの野郎共死んでやがる!ガキどもにやられたのかよ!」
「なっさけねえ!ざまぁみやがれ!」

 汚らしい笑い声が響く。こいつら……仲間が死んだというのに何で笑っていられるんだ!?その無道さに、剣を握る手に力がこもる。数は……15。アイリスの側に7,私の方に6、弓兵を2人ずつ後方に置き、前衛が私達を取り囲むように立っている。
 うまい配置だ。嬲り、奪うことに慣れている彼らの態度に苛立ちが募る。一人一人は決して敵ではない。一刀の下に斬り伏せられる自信がある。だが、この配置ではこちらも少なくない被害を負うことになるだろう。

「……シルファ」

 アイリスが私を呼んでくる。流石に不安になったのだろうか。その声音はどこか震えていて。しかし、それに続く言葉は私の予想の斜め上だった。

「……手加減、いらないよね」

 言い終わるが早いか、私の背後から暖かな気配が消え、先の攻防と同様の、野太い悲鳴が上がった。
 黒い影が踊る。銀色の軌跡がはしる度、腕が飛び、腹が割かれ、首が落ち、赤い花が咲く。
 少女の姿は目に追えないほど速い、訳ではない。見えてはいる。だが、動きが読めない。剣を振るう、それは見えるのに、いつ動き出したのか、いつ次の行動に移っているのか、わからない。まるで、少女の動きが意識から外されているような、そんな感覚を覚える。
 半数の盗賊が狩られた、そこでやっと私も敵も行動の自由を取り戻した。奴らはもはや、統制されていない。未知の恐怖に怯え、混乱している。逃げるもの、剣をがむしゃらに振るもの、怒鳴り散らすもの、それらが黒い影に刈り取られていく。
 私とて混乱していたが、私に向かってきた盗賊を二人、切り捨てた。顔にかかった返り血に不快感を覚えながら、拭う間もなくアイリスの姿を探し、そして、やはり終わっていた。
 血の池になった大地。そこに倒れ伏すのは幾任もの男たち。事切れる者、呻くものが犇めく中で、立っているのは黒衣の少女だけだった。13人の人間と戦いながらかすかな傷を負うことも、返り血も浴びず、静かに佇んでいる。
 圧倒的、だった。怖気を誘うほどの、暴力、だった。そして、見惚れるほどに、美しかった。
 少女がこちらを向く。紅の瞳が妖しく輝く。少女は、微かに、ほんの微かに微笑み。

「……おなか、すいた」

 と、何事も無かったかのように呟いたのだ。




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某SAOと某マビノギのクロスSS書いてたけど筆が進まないのでついカッとなって書いた後悔していない
気が向いたら続き書く


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