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[29127] 【完結】サテライトウィッチーズ (機動新世紀ガンダムX×ストライクウィッチーズ)
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2014/02/17 11:47
※この作品は平成ガンダム三部作の第三作目“機動新世紀ガンダムX”と、人気アニメ“ストライクウィッチーズ”のクロス作品でございます。(他のガンダム作品のキャラ、MSもチョロっと出てきます)

※時系列はガンダムX側は最終回中、ストパンは第一期の1話の最中からスタートです。

※クロスカプ要素、ハーレム要素ありの予定

※二部編成の予定。→三部編成に変更になりました。

※オリ主はいませんがオリ敵はいます(出番は2部になってから)


それでもおkな人はどうぞ楽しんでいってください。


2011/9/4 第一部完結
2011/9/8 指摘された箇所を中心に修正しました。
2012/1/5 第二部開始、タイトルをサテライトウィッチーズ2に変更しました。

2013/9/9 ぼちぼち再開&名前を三振王からokura1986に変えました。
2014/1/13 最終章開始、タイトルをサテライトウィッチーズ ~月光の魔女~ に変えました。
2014/2/11 最終章完結







[その他のアルカディア投稿作品]

【ガンダム系】
○Lyical GENERATION(ガンダムSEED DESTINY他×リリカルなのはシリーズ)

【特撮系】
○汽笛が鳴る頃に(仮面ライダー電王×ひぐらしのなく頃に)

【短編】
○リリカルなのは×スイートプリキュア短編



[29127] プロローグ「消失」 Ver2.00
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2013/09/09 12:43
FU another episode 01





 かつて、戦争があった。


 ひとつのスペースコロニーが起こした独立戦争が発端となった紛争は、地球連邦側とスペースコロニー側の全面戦争にまで拡大し、宇宙革命軍がコロニー落とし作戦を盾に地球連邦に降伏を迫ったことに対して、連邦軍が徹底抗戦の姿勢を崩すことなく決戦兵器“ガンダム”を投入し戦闘を泥沼化させたため、ついに最悪の結果を迎えてしまう。コロニー落としにより地球は壊滅的な被害を受け、100億を誇った人口はそのほとんどを失った。そして15年の時が流れた。

 A.W.0015、地球環境がようやく安定期に入った地上では少ない物資を勝ち取るため人々の争いが絶えず、略奪者が跋扈する混乱の時代を迎えていた……。

 そんな折、この世界に生きる戦災孤児の少年ガロード・ランはある日、不思議な力……ニュータイプ能力を持つティファ・アデイールと、伝説のMS“ガンダムX”と運命的な出会いを果たす。
 彼はティファを保護しに現れたジャミル・ニート率いるフリーデン隊と共に旅に出て、その先で“力を持たないもの”としてティファを守りながら様々な出会いと別れを繰り返し、再び動き出した宇宙革命軍と新連邦軍との争いに巻き込まれていった。


 そしてガロードは今、宇宙革命軍と新連邦軍の司令官をサテライトランチャーで葬り去り、15年前の悪夢を再現してこの世界の滅亡を目論むフロスト兄弟を倒す為、仲間達と共に月面上で最後の決戦に臨んでいた……。


 宇宙革命軍と新連邦軍が激しい戦闘を繰り広げている場所から大分離れた位置、そこにガンダムヴァサーゴCBがMA形態に変形したガンダムアシュタロンHCに乗り、サテライトランチャーの標準をその二つの軍に定めていた。

『さあやろう兄さん、僕達の時代の幕開けだ』
『マイクロウェーブ……照射』

月のマイクロウェーブ送電施設から照射されたマイクロウェーブを受けてサテライトランチャーの発射態勢に入るヴァサーゴ、その時……。

「まてぇ!」

ガロード・ランの駆るガンダムDXが二人の前に立ちふさがった。

『あれは……DX!』
「過ちは繰り返させない!」

ガロードはDXに装備されているツインサテライトキャノンの標準をヴァサーゴとアシュタロンに向けた。そして月基地からマイクロウェーブを受けて背中の翼を光らせる。

『バカな!? 送電システムはこちらの手中にあるはず!?』
『兄さん!』
『……! DXを討つ!』
『でもチャージが!』
『かまわん!』

DXの存在に焦ったシャギアは、チャージが不十分なままサテライトランチャーの引き金を引いた。グォォォォン! と紫炎の光の奔流がガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクの可変した腹部から発射される。

「させるかー!!!」

対してガロードはツインサテライトキャノンの引き金を引きく。DXの肩の二対の砲身から青白い光の奔流が発射される。
二つの光は激しくぶつかり合い、そのまま三機と月面を飲み込むほどのエネルギーの大爆発を起こす。

「うぉぉぉぉぉ!!!」
『ぐううううう!!!』

衝撃波に飲み込まれ、ガロード達はそのまま吹き飛ばされてしまう。

「し、死んでたまるか! 生き延びて……ティファの元に帰るんだー!!!」

その時、ガロードは何かガラスがパリンと割れたような音を聞いた。そして周りに、光を放つガラス片のような物がコックピットやガロードの体をすり抜けて舞い落ちてきた。

「な、なんだコレ?」

 重力の無い、宇宙空間で舞い落ちてくるその不自然なガラス片に戸惑うガロード、その時……突然発生した強い光によって、ガロードは視界を奪われ、その光に飲み込まれた……。



☆ ☆ ☆



同時刻、先ほどの戦闘宙域から少し離れた場所に戦闘用宇宙戦艦……フリーデンⅡがやってきた。

「ガンダムX,エアマスター、レオパルド、Gファルコン、ジェニス、ベルティゴ収容完了! あとはガロードのガンダムDXだけよ!」
「急がないと……!」

ブリッジではオペレーターのトニヤ・マームが艦長代理のサラ・タイレルに状況を報告していた。

「さっきの爆発はサテライトキャノンのだよな? ガロード、無事だといいけど」
「無事に決まってんでしょ! あの子が簡単に死ぬわけないじゃない!」

その時、ブリッジに一人の少女が入ってくる。

「ガロードは見つかりましたか?」
「ティファ? 部屋で待っていた方が……」
操舵主のシンゴ・モリはガロードの行方を聞きに来たティファに安全な場所に避難するよう指示する。

「戦闘はもう終わっています、私もガロードを探すのを手伝わせてください」
「まったく、アンタ達はホントラブラブね、私達がちゃんと見つけてあげるからアンタは大人しく部屋で……?」

その時、トニヤはレーダーが進行方向に妙なエネルギー反応を示している事に気が付く。

「どうしたのトニヤ?」
「い、いや、なんかガロードがいる先に妙な反応を見つけて……」

その時、ブリッジクルー達は頭上から光を放つガラス片のような物が舞い落ちてきている事に気が付く。

「ん? 何だ?」
「ガラス……?」

 戸惑うブリッジクルーをよそに、ティファは手に取ろうとしてすり抜けるガラス片を見て、ぽつりとつぶやいた。

「世界が……割れる」



 ガロードの乗るDXとフリーデンⅡ、そしてフロスト兄弟の乗る二機のガンダムがこの世界から消失したのは、その直後の事だった。





プロローグ「消失」





それは、何の力を持たない少年が、大切な人を救う為、“自分に出来ること”を見付けていく物語。

それは、魔女としての力を持つ少女達が、自分達の世界を守る為新たなる力を得る“決意”をする物語。

月の光が二つの世界を繋ぐ時、魔女と機械人形は新たなる守る力を得る……。










 プロローグはここまで、という訳でアルカディアでの三作目のガンダムクロス作品はガンダムXとストライクウィッチーズになります。
 芳佳達の出番は次回から、リリジェネと同様原作に沿う展開にするつもりなのでお楽しみに。


※2013年8月追記プロローグと第一話の内容を大幅に修正してみました。今この作品読み返すと……内容の酷さに恥ずかしくて死にそうになる……残りの話は時間見つけて修正しようと思っています。



[29127] 第一話「俺にもできる事がある」 Ver2.00
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2013/09/09 12:43
 第一話「俺にも出来る事がある」



地球とよく似ているが、魔力が存在する世界、その世界は今戦乱の中にあった。
1939年。突如として襲来した異形の敵『ネウロイ』の前に、人類は多くの版図を失った。瘴気をまき散らし金属を吸いつくすネウロイに通常の軍隊は歯が立たず、唯一対抗できる存在は、新兵器ストライカーユニットで空を駆け、魔力を身にまとうウィッチのみ。
だが彼女たちの奮闘もむなしく大国カールスラントは陥落し、人類の命運は風前の灯火に思えた。

そんな1944年の夏、はるか東方の島国扶桑で、ひとりのウィッチが戦いに身を投じようとしていた……。










「ん……んん……?」

ガロードはDXのコックピットの中で目を覚ました。

「あ、あれ? ここは……」

消えていたモニターを再び点けると、そこにはどこまでも広がる青空が広がっていた

「? なんで俺地球に戻ってきているんだ? さっきまで宇宙にいたのに」

ガロードはコックピットのハッチを開いて外に出てみる、そしてヘルメットを脱いで辺りを見回す。

「ここは無人島か? よく見るとMSの残骸が落ちてる」

DXは小さな島に着陸しており、周辺には地球軍や革命軍が使っていたMSの残骸が散らばっていた。

「あ! そうだフリーデン!」

ふと、ガロードはフリーデンの事を思い出し、コックピットの通信を繋げようとする、しかし……。

「な、なんで通じないんだ……!? 俺どこに来ちゃったんだよ!?」

どこにも繋がらず、いよいよ混乱してくるガロード。

「お、落ち着け、慌ててもどうにもならねえ、まずはここがどこか調べないと」

そう言ってガロードはDXを動かそうとする、しかしコックピットの画面にはいくつかエラーの文字が浮かび上がっていた。

「そっか、さっきの戦いでいくつか壊れたんだな、しょうがない修理すっか」

ガロードはため息交じりにパイロットスーツを半分脱ぎながらコックピットから降り、工具箱を手にDXの修理を始めた……。



☆ ☆ ☆



それから一時間後、応急処置を済ませたガロードは再びコックピットに乗り込み、レーダーで周辺の状況を確認する。

「うーん、周辺にはMSどころか人っ子一人いないのか、通信も繋がらないし……マジでどうなってんだ?」

そう言ってガロードはお手上げといった様子で天を仰ぐ、その時……彼はコックピットのカメラのモニターに、森林を挟んだ先にある海辺に、ボロボロのまま座礁している戦艦のような物が映っている事に気が付く。

「ん? アレは……取り敢えず行ってみっか」

 ガロードは取り敢えずDXに乗ったまま、戦艦の残骸がある方向へ行ってみた。



☆ ☆ ☆



数分後……ガロードは木陰に自分と同い年ぐらいの金髪の少年が、血まみれの状態で倒れている所を発見する。

「アレは……」

 ガロードはコックピットから降りてその少年の元に駆け寄った。

「おいアンタ! 大丈夫か!?」
「う、ううう……」

 少年はまだ生きているようだったが、体の至る所から出血しており完全に虫の息だった。

「どうしたんだ!? 一体何が……」
「ね、ネウロイが……ネウロイが襲ってきて……」
「ネウロイ?」

 初めて聞く単語に首を傾げるガロード、その時……少年は突然大量の血を吐いて顔を青白くして震えはじめた。

「お、おい!?」

 よく見ると少年の脇腹に、鉄片が深々と突き刺さっており、隙間から血がダラダラと流れている。誰の目から見ても少年はもう助からない様に見えていた。

「さ、寒い……痛みも感じない……僕はもう駄目だ……」
「そんなこと言うなよ! 助けはきっと来る! だから頑張れ!」

 その時……血まみれの少年はポケットの中から一枚のボロボロの写真を取り出した。そして右目から一筋の涙を流す。

「これを母さんに……帰る事が出来なくてゴメンって……」
「おい!!」

 少年はそのままカクンと力尽きてしまった。手から離れた写真には少年と、彼の母親らしき優しげな女性が映っていた。

「クソ……馬鹿野郎……!!」

 ガロードは助けることが出来なかった少年の亡骸の前で、憤りの籠った拳を地面に叩きつけた。



☆ ☆ ☆



 数十分後……ガロードは少年の亡骸を地面に埋め、彼の持っていたドッグタグと写真をポケットの中に仕舞った。

「一体何があったんだ? ネウロイって一体……」

 ガロードはそのままDXのコックピットに戻り、座礁している戦艦を調べようとする、その時……DXのレーダーに新たな反応が示される。

「なんだ、また何か来るのか? アレは……ええ!?」

ガロードはモニターに映し出される光景を見て驚愕する。

「お、女の子が空を飛んでいる!?」

 モニターには赤い髪の少女を先頭に、9人の少女達が銃を手に持ち足にはプロペラの付いた巨大なブーツのようなものを履いてこちらに向かって飛んできている様子が映し出されていた。

「え!? ちょ!? なんだアレ!? 戦わないといけないのか!?」

ガロードは流石に生身の人間にMSで戦うのは躊躇いを感じるらしく、エネルギーも切れかけてこれ以上戦えるかどうか判らないのでビームライフルを構えたまま動けないでいた。対して少女たちもガロードと一定の距離まで接近すると銃を構えたままこちらの様子を窺っていた。

(まさかあの子達があの戦艦を潰した訳じゃないよな? とにかく探りを入れてみるか……)

ガロードはライフルをしまい、DXに手を上げさせマイクの音量を目一杯上げた。

「撃つなー! 俺は敵じゃない!」

少女達はDXから声が聞こえた事に驚いたのか、互いに顔を見合わせて話し合いを始めた。

「お、どうやら向こうも戦うつもりはなさそうだな……ん?」

すると9人の少女達のうち、戦闘を飛んでいた赤い髪の少女と、黒いリボンで結んだ深緑色の軍服を着た少女、そして白いリボンでツインテールの幼さが残る少女が接近してきた。

「こっちに近づいてくる、話がしたいのか?」

ガロードは念の為安全装置を外した銃を懐に忍ばせた後、コックピットのハッチを開け放った。

「やあやあお迎えご苦労さん、とりあえずその銃をしまってくれよ」

するとコックピットの中のガロードを見て、接近してきた三人の少女は驚愕していた。

「うわー! このネウロイ人が乗ってるー!!」
「これはネウロイじゃない!? 兵器なのか!?」

 すると赤い髪の少女が抱えていた銃を降ろしてガロードに声を掛けてきた。

「何者なの貴方? どこの軍の所属?」
「いや、軍隊には入ってないよ、フリーデンっていうバルチャーに所属していて……」
「ふりーでん? ばるちゃー? なにそれ?」

ガロードの話を聞いて首を傾げる隣のツインテールの少女、どうやらフリーデンはおろかバルチャーの存在すら知らないようだった。

「とにかく私達の基地に来てもらいます、詳しい事情はそこで聞かせてもらうわ」
「わかった、それじゃ案内頼むよ」


 こうしてガロードは少女達に誘導され、無人島を後にした……。



☆ ☆ ☆



「で、俺は何故か監獄に入れられてしまった」

数時間後、ガロードは青い海に浮かぶ島に建設された基地に着いた早々DXから降ろされ、そのまま独房らしき場所に入れられてしまった。

「おい! 俺は敵じゃないって言ったろう!? アンタ等新連邦なの!? それとも革命軍!?」
「ったくやかましいな~、サーニャが起きちゃうじゃないか」

するとそこに白い長髪をなびかせた白い肌の少女がやってきた。

「お前、さっき空を飛んでいた子達の中にいた……」
「エイラ・イルマタル・ユーティライネン、お前の監視を任されたモンだ」
「なあおいここから出してくれよ、俺はお前らと戦うつもりはないんだ、ていうかここどこ? 何者なんだお前ら?」

 次々質問してくるガロードに対し、白い長髪の少女はやれやれと一度溜息をつく。

「質問は一個ずつにしろよ、ていうかまずはお前の事教えろ」
「そ、そうだな、俺は……」

ガロードはエイラと名乗った少女に自分の名前、経歴、そして仲間達や自分の過ごしてきた世界について余すことなく説明した。

「第七次宇宙戦争? MS? ニュータイプ? どれも聞いたことのない単語ばかりダナ」
「そんな筈は無いんだけどな、15年前のコロニー落としで地球全体が大変な事になったのに……」
「お前の話を聞くと、ウィッチやネウロイの事は知らなさそうダナ」
「ネウロイ……!?」

ネウロイという単語に反応するガロード、そんな彼にエイラはネウロイや自分達ウィッチの事を数分で簡単に説明した。

「てことはお前もウィッチってやつで、数年前からこの星を荒らしているネウロイって奴と戦っているのか、あの島の戦艦もそれにやられて……」
「多分な、しっかしお前スゴイのに乗っていたな、どうやって作ったんだアレ?」
「作ったっていうかアレは奪った物っていうか……それより俺のDXはどこにやったんだよ?」
「格納庫で今ミーナ隊長達が色々調べ回っている、まあ悪いようにはしないようミーナ隊長は努力するってさ、まあのんびり待っていろ」

そう言い残し、エイラは独房から出て行った。
 そして一人取り残されたガロードは、深くため息をつきながらポケットの中を弄った。

「ヤバい感じだな……とりあえず逃げるか」



☆ ☆ ☆



一方エイラは外で待っていた同僚のウィッチであるミーナ・ディートリンゲ・ヴィルケとゲルトルート・バルクホルンに先程のガロードの話の内容を伝えた。

「とまあ、そんな感じでべらべらと喋ってくれたぞ、宇宙で戦争してたとかホラばっかだったけど」

エイラはガロードの言っている事が到底信じられず、彼が嘘を言っていると思い込んでいた。

「そうか、奴がどこの軍の者か解ればよかったのだが」
「仕方ないわね、私達でこの白いネウロイの事を調べないと、何か判った?」

そう言ってミーナは寝かせられているDXのコックピットの中を調べていた整備兵達に話しかけた。

「ダメです、操縦桿らしきものを操作してみたのですがウンともスンとも言いません」
「これだけの大きさの物を魔力無し動かすなんて出来る筈ないのだけれど」

ミーナもまたDXがある意味遥か未来の技術で作られたことに気付けず、魔力で動いているものだと信じ切っていた。

「ちょっと私達ウィッチの魔力で動かせないか試してみましょう、エイラさん……他のウィッチも呼んできてくれる?」
「へーい」

 ミーナの指示に従い去って行くエイラ、その時……軍服を着た男がミーナの元に近寄って来た。

「中佐、あの無人島に漂着していたブリタニア艦ですが……生存者は発見されませんでした」
「そう、やはりネウロイに……」

 報告を聞いて、ミーナは視線を落とし、横で聞いていたバルクホルンは悔しそうにギリリと歯噛みをしていた。

「くそっ! 我々がもっと早く到着していれば……!」
「とにかく警戒態勢を維持しないと、もうすぐ来る美緒のいる扶桑艦隊も襲撃されるかもしれないわ」



☆ ☆ ☆



その頃ガロードは独房の扉のカギ穴に、懐にしまっていた針金を突っ込んで開けようとしていた。

「もーちょい、もーちょい……お! いける!?」

するとガロードの手元でガチンという音が鳴った。

「よっしゃ! それじゃこんな所とはガンダムに乗っておさらばおさらば!」

ガロードは牢屋からこっそり出ると、DXがある格納庫に向かおうとした……が、ある事を思い出し立ち止まってしまう。

「あ、そう言えば格納庫ってどこだ?」



☆ ☆ ☆



そう言う訳でガロードは格納庫を探して基地の中を見つからないように移動していた。

「どこだどこだ~? 俺のガンダムはどこだ~? おっと」

すると彼の近くを基地にいる整備兵が通り過ぎて行った、対してガロードはすぐさま物陰に隠れて見つからないようやり過ごした。

「ふう、あぶねえあぶねえ、見つかる所だった……(チョンチョン)ああ? なんだよ」

ガロードは自分の背中を誰かが突っついている事に気付き、自分の手でそれを払おうとする。

「今見つかったらやべえんだよ、だから要件は後で……(チョンチョン)だあもう!! しつこいな! なんだよ!?」

耐えかねたガロードは後ろを振り向く、するとそこには白い髪に白い肌の美少女が眠そうな目でガロードを見ていた。

「あ」
「……」

ガロードはその時初めて自分が見つかった事に気付く。するとそこに先程ガロードと独房で出会ったエイラがやってきた。

「サーニャー、ミーナ隊長が格納庫に集まれって……あ!? だ、脱走だ~!! 捕虜が脱走したぞ~!!」
「うげ!? にっげろ~!」

エイラに大声を出され、ガロードはスタコラサッサとその場から逃げ出した。するとエイラの大声に呼応して基地にいた兵達が集まってきた。

「いたぞ! 捕虜だ!」
「待てー!」

兵達は逃げるガロードを見るや否や銃を構えて追いかける。一方エイラと彼女にサーニャと呼ばれた少女はガロードの行方をタロットカードを使って占っていた。

「エイラ、あの人どこに行きそう?」
「このカードは……どうやら外に行くみたいダナ」

 一方、ガロードは案の定エイラの占い通り基地の外らしき場所に出ていた。


「あれ!? ここ外!?」
「待て―!」

すると彼の後ろから兵達が追いかけてきた。

「やべ!」

ガロードは兵達から逃げるため、自分が出てきた扉とは別の扉に入ろうとする。すると……。

「おいおい、なんの騒ぎだ~?」

茶髪の少女がガロードの入ろうとした扉から突然出てきた。

「うわ!?」
「うひゃ!?」

突然現れた少女にガロードは対処しきれず、そのまま彼女とぶつかり勢いで押し倒してしまう。

「いたたた……急に出てく(ふにゅ)あれ? なんだこれ?」
ガロードは起きあがろうとして床に手を付けようとしたが、代わりに何か柔らかいものを掴んでしまう。

「おいおい誰だお前? いきなり大胆だな~」
「え? うわー!?」

ガロードは押し倒した少女の胸をわしづかみにしている事に気付き、顔を真っ赤にして飛び退いた。ついでに補足すると少女、格好はビキニパンツ一丁である。

「っておまえ! なんで裸なんだよ!?」
「いや日光浴でもしようと思って水着に着替えようとしたら外が騒がしくて……」
「あー!!? さっきの白いネウロイに乗ってた人―!?」

するとそこに先程ガロードとDXのコックピットを開け放った際に顔を合わせたツインテールの少し色黒の少女が水着姿で現れた。

「お前はさっきの!?」
「何してんのシャーリー!? プロレスごっこ!?」
「いやいやいや!? コレはなんというか……」

ガロードが必死に弁解しようとすると、シャーリーと呼ばれた少女は舌をぺロリと出した。

「いきなり押し倒された上に胸揉まれちった」
「うひゃー!!? チカンだー!!」

すると追いかけてきた兵士達が追いついてきた。

「中尉が襲われているぞ!」
「不届きな野郎だ! ぶち殺せ!!」
「わああああ!? 誤解だって!?」

ガロードは殺気立つ兵士達に驚きその場を逃げ出した……と思いきや、突然バックして戻ってきた。

「そう言えば格納庫ってドコ!?」
「「あっち」」

ガロードの質問に格納庫の方向を指差して答えるルッキーニとシャーリー。

「サンキュー!」

そう言ってガロードは再びその場から駆け出した。


「なんだか面白そう! 私達も追いかけよう!」
「いや、その前にブラ付けさせて」

そう言ってシャーリーは赤い水着のブラを自分の胸に付ける。
一方ガロードは再び基地の中を逃げ回っていた。

「とりあえず兵士達は撒いたな」

そう言ってガロードは後ろを向いていた顔を前に向かせる。すると……。

「もう、何の騒ぎですの……ってきゃ!?」
「うわ!?」

角から現れたメガネを掛けた金髪の少女と衝突し、押し倒してしまった。

「ててて……またかよ」
「ど、どこに顔を埋めて……!」

 ガロードはメガネの少女の胸のあたりに顔を埋める形で倒れ込んでしまう。メガネの少女は恥ずかしさで顔を赤らめる。

「いったぁ……なんで目の前に壁が?」

 そしてガロードの一言で今度は怒りで顔をさらに真っ赤にする。

「壁!? 人の胸揉んどいて何という暴言! 許せませんわ!」

ガロードの壁発言に怒り心頭のメガネの少女はガロードにビンタを放つ。

「のわ!?」

ガロードはその攻撃を起きあがる事で紙一重で回避する。

「ご、ごめんよー! 俺格納庫に急いでいるから!」
「待ちなさいこの変態!」

そう言って逃げ出すガロードを、メガネの少女は頭から汽笛のように湯気を噴出させながら追いかけて行った。
そしてガロード達が先程までいた場所に、今度は金髪のショートヘアの少女が眠そうな目で現れた。

「ん? なんか楽しそうな事やってる」

するとそこにガロードを追いかけていたシャーリーとルッキーニと呼ばれた少女が現れる。

「エーリカ、さっき黒髪の男の子が来なかったか?」
「さっき向こうに行ったよー、ペリーヌも追いかけていった」
「さんきゅー!」

二人はエーリカと呼んだ少女に一言礼を言ってその場から去っていった。

「あ、私も行く~!」



☆ ☆ ☆



数分後、ガロードはメガネの少女に追いかけられながらようやく格納庫に辿り着いた

「あった! DX……!」
「え!? ちょっと貴方は!?」

格納庫に入ると、そこにはDXの周りで話し合いをしているミーナとバルクホルンがいた、すると後ろからメガネの少女……ペリーヌとエーリカ、そしてシャーリーとルッキーニが追いかけてきた。

「隊長! その山猿を捕まえてくださいまし!」
「ねえねえ! 皆何してんの!?」
「さっきそいつ着替え中のシャーリーを襲ったんだよ!」

 ルッキーニの一言に、ガロードはズッコケそうになりすぐさまツッコミを入れる。

「だからそういう誤解を招く言い方すんな!」
「き、貴様~! ウィッチを襲うとは! 成敗してくれる!」

するとバルクホルンは体を発光させると頭から犬耳を、尻からは尻尾を生やしてガロードに殴りかかる。

「うわ!!?」

ガロードはバルクホルンのパンチを回避する、すると行き場を失った彼女の拳はそのままコンクリートの地面にたたきつけられた。

「げえ!? 地面が!?」

コンクリートの地面が粉々になっているのを見てガロードは戦慄する。

「ちっ! 外したか!」
「こ、殺す気かバカ野郎! こんな所もうこりごりだー!」

そう言ってガロードはDXのコックピットに向かう。

「逃げるぞ! 誰か捕まえろ!」
「ま、待ちなさい!」
「へへん! 捕まってたまるかよ!」

ガロードはミーナ達の手を掻い潜りDXのコックピットに向かう、するとそんな格納庫にエイラとサーニャが遅れてやってくる。

「中尉! 回り込んで捕まえろ!」
「おっしゃ!」

エイラの指示に従い、バルクホルンらに行く手を塞がれてもたついているガロードの進行方向に回り込むシャーリー。

「もう邪魔すんなよ! とりゃ!」
「きゃ!?」

一方ガロードは止めようとしたミーナを押しのけてDXのコックピットに向かう、すると目の前にシャーリーが立ちふさがった。

「捕まえた!」
「わぷっ!?」

シャーリーはそのまま突進して止まれなかったガロードを自分の胸に埋めるようにして捕えた。

「よくやったシャーロット! そのまま逃がすなよ!」
「あーんそこ私のポジション~!」

そう言ってシャーリーに捕えられたガロードにジリジリとにじり寄るバルクホルン達。

「むが! もがもがっ!(な、何だコレ息が出来ないんだけど!?)」

割と本気で息が出来ずに命を危機を感じたガロードは彼女の胸の中で必死にもがいた。

「ちょ! あんまり暴れんなって!」
「もが!(あ、そうだ! そりゃ!)」

そしてガロードは腰を落としてシャーリーのホールドからすり抜け、彼女の股の下から抜け出してコックピットに向かった。

「うわわわわ!?」
「くぅ~!? 何をやっているのだ!?」
「まずい! あの子が乗り込むわ! あの中には……!」

慌てるミーナ達をよそに、ガロードはようやくハッチが開けっ放しのコックピットの元に辿り着いた。

「よっし! 入っちまえばこっちのもんだ……え!?」
「はい?」

しかしコックピットの中には、髪を一本の三つ編みで纏めた少女がコックピットの中にいた。ミーナに指示されてDXが動かせないか調べていたようである。

「リーネ! そいつを追い出せ!」
「え!? え!? 急にそんな事言われても!?」

シャーリーの突然の指示に戸惑うリーネと呼ばれた少女。一方ガロードもどうしたらいいか解らなかった。

「えっと、とりあえずそこから出てくれな「隙有り! スゥゥゥゥゥパァァァァァァルッキーニキィィィィック!!!」ほげ!?」

するとガロードの後頭部にルッキーニの飛び蹴りがさく裂し、彼はそのままコックピットに入ってしまった。

「きゃあ!?」
「うわ!?」

そしてその拍子にコックピットのハッチが閉まってしまう。

「あ、はいっちった」
「な、何をしてますの~!!?」

 コックピットの中に転がるように入ったガロードは中でリーネともみくちゃになっていた。

「いや~!! 離れて~!! どこ触っているんですか~!?」
「ちょ!? こんな狭い所で暴れな! おぶっ!?」

暴れまわるリーネを落ち着かせるのに四苦八苦するガロード、その拍子で彼女の胸に顔埋めたりお尻を触ってしまっている。その時……基地に警報のサイレンが鳴り響いた。

「!? なんだ!?」
「この警報……ネウロイ!?」

ガロードはすぐさま懐にしまっていた操縦桿……DXを動かす為のGコンを取り出し、計器に差し込んで起動させる。

「まさか……その操縦桿で動かしていたの!?」
「内緒にしておいてくれよ!」

そう言ってガロードはレーダーを操作し周辺の様子を確認する。レーダーには戦艦らしき反応の他に、正体不明の反応が一つ示されていた

「何だこの反応……アンノウン?」
「扶桑海軍の人達がネウロイに襲われているんだ! 坂本少佐が乗っているのに……!」
「ネウロイ……!?」

 ネウロイという単語を聞いてガロードはあの無人島で出会った今は亡きあの少年兵の事を思い出す。
 そして同時に、かつてこのDXを手に入れた時に出会ったあの男の言葉が脳裏に浮かび上がった。



 “過ちを……繰り返すな”



「は、早く助けに行かないと……!」

リーネは不安そうな顔で下を向いてしまう。ガロードはそんな彼女を見てしばらく考え込んだ後、決意に満ちた表情で操縦桿を握りしめる

「よし、俺に任せろ!」
「え?」

一方外のミーナ達も警報を聞いて慌てて準備を始める。

「おいおいまたネウロイかよ!? さっきの奴がまた出て来たのか!?」
「文句を言っている暇があったらストライカーユニットを履け! ブリタニア艦の仇を討つぞ!!」

 そうしてバルクホルンたちが慌しく出撃準備をする中、エイラがミーナに話し掛ける。

「リーネとアイツはどうするんダ!?」
「しょうがないけど基地の兵達に任せるしか……」

その時、突如DXからガロードの声がマイクを通じて大きめに発せられた。

『おいお前ら! DXから降りろ! 発進させるぞ!』
「え!? 何なに!?」

するとDXはズズズと腕を使って起きあがり始め、周りにいたミーナ達は慌ててその場から離れていった。

「お、起きあがりましたわ!?」
「すんごーい! かっちょいいー!」


 そしてDXは起きあがり、歩いて格納庫の外にある滑走路にやって来た。

「ど、どうするつもりですか!?」
「俺がそのネウロイって奴を、このDXでやっつけてやるよ」
「な、なんで……? 私達は貴方を……」

 ガロードの行動に困惑するリーネ、一方ガロードは少年から預かった写真を取出し、少し悲しそうな目をして語り始める。

「過ちは繰り返させない……俺はあの男とそう約束したんだ。もうこれ以上、この写真の持ち主のような事は繰り返しちゃいけないんだ」
「貴方は……」

リーネはガロードのまっすぐな瞳を見て思わず黙り込んでしまう。

(何となくだけど……この人は悪い人じゃない……)
「だから俺は……俺にもできる事があるならする! 出撃するぞ!!」
「え!? あ、はい!」

ガロードに言われるがまま、リーネはシートの後ろに回り込みそれをしっかりと掴む。

「ガロード・ラン……ガンダムダブルエックス、行くぜ!」

そしてガンダムDXはそのまま勢いよく蒼い空へ飛び立っていった……。



☆ ☆ ☆



「目標は……あそこか!」

数分後、ガロード達を乗せたDXは何隻もの軍艦が煙を上げて破壊されている海域にやってくる、そして空では……二人のウィッチが黒くて巨大なガラスの塊のような物体……ネウロイと戦っていた。

(アレが……ネウロイ!? 兵器っぽいけど生き物なのか!?)

 ガロードはネウロイが放つ特異な存在感に、何とも言えない恐怖心を感じるが、すぐにそれを打ち払った。

「まあいいや! どんな奴だろうとぶっ飛ばすだけだ!!」

一方リーネは二人のウィッチの姿を確認するや否や、イヤホンのようなものを取り出し、それを耳に装着する。

「坂本少佐! 私です、リネット・ビショップです!」

するとリーネの耳にネウロイと戦っているウィッチの一人、坂本美緒から返信が来た。

『リーネ……!? それに乗っているのか!? なんだその兵器は!?』
「説明は後でします! それより戦況を教えてください!」
『あ、ああ……今私が囮になりながらあのネウロイのコアがある場所に宮藤が攻撃を仕掛けている、だが中々露出しなくて苦戦している』

よくよく見るとネウロイに接近しながら銃撃しているウィッチ……宮藤芳佳は、どこか苦しそうに不安定な軌道で飛びながら、ネウロイに機関銃の弾を撃ち込んでいた。

「あんま持ちそうにないな、早く助太刀しないと」
「あ! 待ってください! コアが!」

すると宮藤の銃撃がネウロイのコアを露出させる事に成功する、しかし彼女は力尽きてそのまま海面へと落ちそうになっていた。

「そこか!」

ガロードは露出したコアをDXのバスターライフルのビームで撃ち抜いた。するとコアを破壊されたネウロイはガラス片のようにバラバラと散って行った。

「ビンゴォ! 次はあの子だ!」

ネウロイの破壊を確認したガロードはDXを海面へと落ちていく宮藤の元に向かわせる。そしてDXは見事宮藤を空中でキャッチした。

「やった! やりましたよ少佐!」
『ああ、見事な手際だ』

そう言って美緒はDXの手の中で疲れて眠っている宮藤の元に向かう。

「ふいー、なんとか終わったな……ん?」

戦闘が終わりシートに背を凭れ掛らせるガロード、するとモニターにこちらに接近してくるストライカーユニットを履いたミーナ達の姿を確認した。

「あちゃー……もうDXのエネルギーも残っていないし、牢屋に逆戻りって訳ね」

ガロードはこれからどれだけいるかも判らない異世界での生活を想像してやれやれとため息をついた……。










本日はここまで、微妙にガロードのキャラが変わっている? でもストパン世界はエッチいハプニングが多いわけだし、これぐらいしないと順応しないかなーなんて思いながら書きました。
次回はガロードが501に協力する事になる経緯と、ストパン一期第三話をベースにした話を描きます。



早く劇場版の情報こないかなー、一期での謎が二期では全然明かされなかったし、(つーか劇場版で完結するの?)はやくスクリーンで飛び回る彼女達を見たいです。
それとバンダイさん、DXのHG(Gファルコン付き)が出るのずっと待ってます。



※2013年8月追記 

10月にHGAWのDX発売きたあああああああ!!! 2年掛かってようやく!! YES YES YES!



[29127] 第二話「一人なんかじゃない!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/08/08 22:09
 第二話「一人なんかじゃない!」


ネウロイと戦った後、ガロードは再び501の基地に収容され、次の日に取り調べ室のような場所でミーナ達の尋問を受けていた。
「だからー、俺はどこの軍にも所属していないって、信じてくれよー」
「信じろって言われてもね……あのような兵器を個人で作れる訳がないでしょう? 一体何なのあの兵器は?」
「だからガンダムだって、もうめんどくさいなー」
そう言ってガロードは机の上に突っ伏する。
「はあ、どうしたもんかしらね……」
「苦戦しているようだなミーナ」
そこに美緒が取調室に現れる。
「美緒……」
「あ、アンタ確か黒いの……ネウロイと戦っていた人?」
「坂本美緒だ、あの時は助けてくれてありがとう、おかげで私達も扶桑海軍の皆も大した被害が出なくてすんだ」
「いやあ、自然に体が動いただけさ、あのリーネって子がサポートしてくれたおかげでもあるし……」
そう言ってガロードは照れ笑いを浮かべ、頭をぼりぼり掻いた。
「ふふふ、面白い奴だ……それとミーナ、あの白い機体を調べていた整備兵達から報告が来たぞ」
「そう、それで結果は?」
「正直さっぱりだそうだ、魔法力どころかこの世の技術すら使われていないんじゃないかと言っていたぞ、私も見させてもらったがあんな物この世界で作るのは不可能だと思うぞ」
「そう……」
「あー、やっぱ俺異世界に来ちゃったのかなー、地球軍も革命軍も無いし、ネウロイなんて化け物がいるし、アンタ達は空飛ぶし……」
その時ふと、ガロードはミーナ達の格好を見てある事に気付く。
「ところでアンタ達、なんでスカートなりズボンなり履かないの? 正直目のやり場に困るんだけど……」
「「は?」」
ガロードはミーナ達がズボンを履かずにパンツ丸出しの状態でいる事を指摘する、対してミーナ達は首を傾げた。
「ズボンならもう履いているだろ、なあミーナ?」
「そうよねえ」
「え、いやだってパンツ丸見え……」
「これはズボンよ」
「ズボンな訳ないだ「ズボンよ」そ、そうですか」
ガロードは何かこれ以上詮索するとヤバいと思い口を噤んだ。


「中佐、少佐、少しよろしいでしょうか?」
その時、取調室に美緒の部下らしき扶桑軍人が現れた。
「どうした? 今我々は取り調べ中なのだが?」
「それが基地に軍の上層部の方々が御出でに……そこの少年と話がしたいと」
「なんですって?」





数十分後、ガロードは兵達に連れられて会議室のような所に連れてこられた、そこには坂本達のとは違って高級そうな軍服と、いくつもの勲章を取り付けた中年の男たちが座っていた。
(成程、こいつらがあいつらの上司って訳ね)
ガロードはかつて出会った革命軍や地球軍の身勝手な上層部の人間と目の前にいる軍人たちが重なって見えて苦い顔をする。
「君の事とあの機体の事は報告書で読んでいる、素晴らしい戦闘力だな」
「そりゃどうも」
「でだ……君の力を我々に貸してほしい、それとあれをどうやって作ったのか我々にも教えてくれないか? アレが量産できればウィッチを必要とせずともネウロイを殲滅できるのだ」
「まあ、確かにねえ」
頷いてみせたガロードであったが、彼は目の前の軍人たちがDXを良からぬ事に使う気満々だと言う事を見抜いていた。
(もしネウロイとの戦いが終わったら今度は人類同士でってか、どこの軍のお偉いさんも考えることは一緒な訳ね)
ガロードの頭の中にこの世界が自分の世界のように、戦争の果てに死体で溢れかえる死の世界に変わる様子を想像する。
(そんなことはさせない……過ちは繰り返させない)
自分に大切な事を教えて死んでいった男の事を思い出し、ガロードはこの世界で自分のすべきことを決めた。
「解った……俺はアンタ達に協力する、ただし条件がある」
「条件? なんだね言ってみたまえ」
「アンタ達の希望通り、俺はガンダムDXでネウロイと戦ってやる、その代わり衣食住はちゃんと用意してくれ、それとDXの整備は俺自身がやる、あれは結構デリケートだから知識の無い奴が動かすと壊れるからな、そして最後……俺が一番最初に流された島に他のMSの残骸があるからこの基地に持ってきてくれ、残ったエネルギーをDXに移す為にな、俺からの要望は以上だ」
ガロードの要望を聞き、軍人たちは互いに顔を見合わせて話し合い、再びガロードの方を向いた。
「すぐに兵達に伝えよう、君はこの基地に留まり第501統合戦闘航空団と共にネウロイの迎撃に当たってくれ」
「商談は成立って訳ね、んじゃ後はよろしく」
そう言い残してガロードは会議室から出て行った……。



「よろしいのですかマロニー大将? あんな少年を信用して……しかも501の連中と一緒になさるのですか?」
「無論、信用はしておらんさ、まずはしばらく泳がせて奴が何者か、あの兵器がどこで作られた物かを徹底的に調べるのだ、それに501の基地は最前線だ、あの機体の戦闘データも沢山取れよう、もし不都合な事があれば……」



一方会議室から出たガロードは、懐にしまっていたGコンを取り出し、それを上に投げてお手玉した。
「さて……当分の間はここにいて元の世界に帰る方法を見つけないと、ぐずぐずしていると俺消されちゃうしな~」
ガロードはこの世界の軍にDXを調べさせる気はさらさらなかった、そして元の世界に帰る方法を見つけ、タイミングを見計らってこの基地から逃げるという計画を立てていたのだ。
「問題は帰る方法があるのかどうかだ、この辺に資料ってないかな~」



それから一時間後、ガロードはミーナによって他のウィッチ達が集まるブリーフィングルームに案内された。
「という訳で、今日からこの基地で私達と一緒に戦ってくれるガロード・ラン君よ、皆仲良くしてね」
「えーっと、皆よろしくな」
そう言ってガロードは目の前にいるウィッチ達に挨拶する、対してウィッチ達はそれぞれガロードを好奇の目で注目していた。
(ひゃー、皆女の子じゃん、おまけにパンツ丸見えだし……ていうか昨日会った子ばかりだ)
その時、前の方に座っていたメガネの少女……ペリーヌ・クロステルマンが不満そうにガタリと立ちあがった。
「中佐! 私は認めませんわ! 私達の部隊にこのような山猿を入れるなんて!」
「山猿って……失礼な奴だなお前」
悪口を言われてむっとくるガロード、しかしペリーヌは彼に対する罵声をやめない。
「第一彼は男でしょう!? ワタクシ達と共同生活なんかしたらいつ男の本性を剥き出しにして襲いかかってくるか!」
「大丈夫、俺はそういうことしない(そんなことしたらティファに嫌われるじゃん)」
「これは上層部の命令だ、従うんだペリーヌ」
「く! 坂本少佐が言うのでしたら……!」
ガロードの隣にいた美緒の一言で、ペリーヌは口を噤み座る。
「では各々ガロードに自己紹介しろ、まずは……」
するとペリーヌの後ろにいたツインテールの少女が手を上げる。
「私フランチェスカ・ルッキーニ! よろしくねガロード! 私の隣にいるのは……」
「シャーロット・E・イェーガーだ、シャーリーって呼んでくれ」
そう言ってオレンジ髪の少女……シャーリーは大きな胸をブルンと揺らして挨拶する。
次に、通路を挟んだ隣の席に座っていた金髪の少女と黒髪の少女が自己紹介を始める。
「私、エーリカ・ハルトマン! こっちの仏頂面がゲルトルート・バルクホルンだよ!」
「……よろしく」
次に、彼女達の前に座っている二人の白髪の少女が自己紹介を始める。
「私は昨日独房で会ったな、エイラ・イルマタル・ユーティライネンだ」
「私はサーニャ・リトヴャク……ふあああ」
最後に、前の方に座っていた2人のウィッチが自己紹介した。
「ふん! ペリーヌ・クロステルマンですわ!」
「リネット・ビショップです、昨日はどうも……」
そしてセーラー服を着た黒髪の少女が元気よく挨拶した。
「私……宮藤芳佳です! よろしくガロードさん! 私も今日入隊したばっかりなんです!」
「あ、お前昨日ネウロイと戦っていた……」
ガロードは宮藤が、昨日自分が助けたウィッチだという事に気付く。
「覚えていてくれたんですね! あの時は本当に助かりました!」
「ほう、仲がいいなお前達……よしリーネ、自己紹介も終わったことだし二人に基地の中を案内してやれ」
「は、はい! 判りました!」


そしてガロードと芳佳はリーネによって基地の至る所を案内されながら、互いの身の上について話の花を咲かせていた。
「へえ、じゃあガロード君って私の一個上なんだ、なんだか親近感が沸くなー」
「そうなのか? 俺も周りに同世代の奴はあんまりいなかったからなー、お前はいくつなの?」
「え? わ、私も15です」
「おー同学年だー、なんか共学の学校みたいだねー」
「俺学校行った事ねえから判んねえやー、あはははー」
「うふふふー」
「……」
ガロードと芳佳がにこやかに笑う中、リネットはただただ黙り込んでいた、それを見た二人は堪らず彼女の背後でコソコソと話し合いを始める。
「んー、なんかリーネはノリが悪いなー」
「私ももっと仲良くしたいと思っているんですけどね」

そして三人は基地で一番高い場所……管制塔にやってきた。
「うわ~! すご~い!」
「ここは基地で一番高い場所なんです」
「島全体が基地になっているんだな」
「はい、ドーバー海峡に突き出した島、それがウィッチーズ基地、そしてあれがヨーロッパ大陸、でも大半は敵の手に落ちて……」
「こんなに静かなのに、ここも戦争しているのか」
「ここも?」
宮藤はガロードの“ここも”という発言に食いつく。
「俺のいた世界もつい最近、人類同士で戦争してたのさ、俺はその真っ只中にいてさ……生き延びるのに必死だったよ」
「へえ、すごいんだねー」
「……」
リーネはそんなガロードの顔を見て何故か俯いてしまった……。





その日の午後、ガロードは格納庫でDXの整備を行っていた。
「えーっと、あと一回飛ぶぐらいのエネルギーは残っているか、バスターライフルの方は弾切れか」
そう言ってガロードは使っていたプラスドライバーを床に置き、そのままレンチを手に取ろうとする。
「レンチ、レンチはっと」
「ほい」
「お、サンキュー……って」
ガロードはその時初めて、エーリカが自分の傍で整備の様子をしゃがみながら観察している事に気付く。
「……何?」
「観察してるの、珍しいじゃんこの機体、あーあ、私も動かしてみたいなー」
そう言ってエーリカはじりじりとガロードの距離を詰める。
(う……)
ガロードはそれを見て思わずエーリカから顔を反らす、なぜなら自分の視界にしゃがんでいるエーリカが履くパンツのようなズボンが入ってしまったからだ。
「ふっふーん、なんで目を反らすのかなー?」
「て、てめえ! わざとやってるな!?」
そう、エーリカはガロードの反応を楽しむ為にわざと彼と距離を縮めたのだ。

「おーいガロードー」
「あ! ハルトマン中尉もいるー!」
するとそこに、様子を見に来たシャーリーとルッキーニが現れた。
「お、二人も観察―?」
「おう! メカ好きとして是非ともこれの中身がどんなふうになっているのか調べたくてさー」
「私もコレ乗りたーい!」
するとルッキーニはピョンピョンと跳ねてDXの中に入っていった。
「あコラ! 勝手に入っちゃダメだろ!? 何かの拍子で動き出したらどうするんだ!?」
「あー、その辺は大丈夫だよ」
注意しようとするシャーリーをガロードは止める、そして数分後、コックピットからつまらなそうにしているルッキーニが這い出てきた。
「にゅー! どこ押しても動かないからつまんなーい!」
「ははは、お前達にDXは動かせねえよ、これに乗るには特別な資格ってもんが必要なんだよ」
「何それ!? 教えてー!」
「私も知りたーい!」
「いやあ! こればかりは教えられねえなあ!」
「「ぶー!!」」
拒否されたルッキーニとエーリカは不満そうに頬を膨らませる。

その時、基地の外からパアンと銃弾が放たれる音が鳴り響いた。
「ん? なんだ今の銃声?」
「きっと坂本少佐が芳佳とリーネをしごいているんだよ、ちょっと見にいこーぜ」
そしてガロードはシャーリー達と共に、滑走路先端で狙撃訓練を行っている芳佳、リーネ、美緒の元にやってきた。
「おーやってんなー」
「あ、ガロード君、それに皆も……」
「今リーネが訓練中なのか?」
「はい、海の上にある的に当てる訓練なんですけど、的が遠すぎて全然見えないんです」
「へー、どれどれ……ぶっ!!?」
ガロードは後ろからリーネの狙撃している態勢を見て、思わず顔を真っ赤にする、なぜなら今の彼女の格好はうつ伏せになったままライフルを構えている態勢なのだが、ガロード達の位置からだとちょうど尻、というかパンツ(ズボン)に纏われた股が丸見えなのだ。
(いかんいかんいかん! 邪な事考えるな俺!)
「おや~ガロード君? リーネの尻見てなんで顔赤くしてるのかなー?」
「ガロードのエッチ~」
「ウブだねぇ~」
「ええええ!? ち、違う! 誤解だ!」
「お前達静かにしろ、訓練中だぞ」
「「「はーい」」」
美緒に注意され黙りこくるガロード達、そして辺りが静まりかえった時……リーネはライフルの引き金を引いた。

放たれた銃弾が海面を駆け遥か先の的に向かう、その様子を美緒は右目の眼帯を避けて観察する。
「うーん、右にずれたな、もっと風を読め」
「はいっ!」

(ええ!? 今の見えたのかよ!? 俺には遠すぎて判らなかったぜ!?)
美緒が遥か彼方の的の様子を把握しているのを知って、ガロードは驚いていた。
(ウィッチは魔法使いだからな、坂本少佐は魔眼っていう固有魔法が使えるんだ、ちなみにリーネは弾道安定、私は超加速、ルッキーニは光熱攻撃、エーリカは疾風だな)
(そーいやリーネの頭にネコ耳みたいなのと尻に尻尾みたいなのが生えているけど何?)
(アレは使い魔だよー、私達ウィッチは使い魔を憑依させて魔法を使うんだー)
(ふーん……)
シャーリーとルッキーニのウィッチに関する解説にウンウンと頷くガロード、するとその様子に気付いた美緒はにやりと笑った。
「ガロード、お前もやってみるか?」
「え? 俺が? へへへしょうがないな~、俺の実力見せちゃうよ~」
そう言ってガロードはリーネからライフルを受け取って、先ほどの彼女と同じ態勢でライフルを構える。覗き込むスコープの先には遥か彼方に立てられているオレンジ色の的が映っていた。
(えっと、風の具合とこの銃の弾道、後は……)
ガロードは集中力を高めて引き金を引く、そして弾は遥か彼方の水平線に吸い込まれていった。
「どう!? 当たったか!?」
「ほぉ……角にかすったか、一発目でコレとは見事なものだ」
「えええ!? ガロード君スゴイ!」
直撃とは行かないまでも、ガロードの中々の射撃センスに一同は驚く。
「いやあ、こんなもん勘だよ勘、リーネには遠く及ばないって」
「は、はあ」
そう言ってガロードはリーネにライフルを返し、そのままDXの整備の続きをするため格納庫に戻っていった。

「すごいなーガロード君……」
「よし、次は宮藤、お前が撃ってみろ」
「え? は、はい……」
ガロードの射撃のセンスに関心する芳佳だったが、自分の番が回ってきたことに気づき暗い顔をする……。





その日の夜、ガロードは与えられた寝室で寝ていたが、中々寝付けず基地の周りを散歩していた。
「ったくよ~、こう暑いと寝れないよ」
ふと、ガロードは空を見上げる、空には満天の星空と、美しく輝く月が浮かんでいた。
「綺麗な空だ……ティファにも見せたかったなあ」
ガロードは離れ離れになった自分の大切な少女の、優しく微笑む顔を思い浮かべていた。
「……絶対にお前の元に帰るからな、待っていてくれよ……ん?」
その時、ガロードは自分の元に誰かが近寄ってくる事に気付く。
「リーネ……?」
「あ、ガロード……さん……?」
それはリーネだった、彼女は何故か眼に涙を浮かべていた。
「お、おいどうしたんだよ? 泣いてんのか?」
「……! なんでもないです……!」
リーネは涙を拭ってそのまま走り去って行った。
「どうしたってんだアイツ……?」
するとリーネと入れ替わりで、今度は芳佳がガロードの前に現れた。
「あ、ガロード君……」
「芳佳か? 今リーネが走っていったけど……何かあったのか? もしかして喧嘩?」
「あ、あの実は……」
そして芳佳は先程、リーネを励ますつもりが逆に怒らせた事をガロードに話す。
「リネットさん、自信が持てていないみたいだから励ましてあげようと思ったんだけど、『最初から飛べたアナタとは違う!』って言われちゃって……私、そんなつもりで言ったんじゃないのに……」
そう言って芳佳は落ち込んで俯いてしまう。
「うーん、難しいよなそういうの……今はそっとしておいたほうがいいかもな、もしかしたら何かがきっかけであいつも変わるかもしれないし……」
「“あいつも”?」
「こっちの話さ、それじゃ俺はもう眠いからいくぜ、ふあああ……」
「あ、私も行くよ、一緒に帰ろう」
ガロードは大きなあくびをするとそのまま芳佳と共に基地の方へ歩いて行った……。





次の日の明朝、501の基地にネウロイの襲撃を告げる警報が鳴り響いた。
「監視所から報告が入ったわ、敵、グリット東114地区に侵入、今回はフォーメーションを変えます」
「バルクホルン、ハルトマンが前衛、シャーリーとルッキーニは後衛、ペリーヌは私とペアを組め!」
「残りの人は私と基地で待機です」
「了解~」
「了解」
そう言って美緒達はストライカーユニットを履いてネウロイと戦いに出撃していった。
そしてその様子を芳佳とリーネ、そしてガロードは見送った。
「いっちゃったね」
「……そうですね」
「いやー、俺のDXが弾切れを起こさなきゃ手伝えたのになー」
「今私達に出来る事ってなんだろう?」
「足手まといの私に出来る事なんて……!」
リーネはそう言って芳佳達の元を走り去って行った。
「お、おいリーネ!?」
「リネットさん……!」
すると芳佳とガロードの元に、先ほどのやり取りを見ていたミーナがやってくる。
「二人とも……ちょっといいかしら?」
「あ、はい……」

二人はミーナから、リーネが戦えない理由を聞いていた。
「リーネさんは……このブリタニアが故郷なの」
「え……!?」
「ヨーロッパ大陸はネウロイの手に落ちているんだろう? それじゃリーネは……」
「欧州最後の砦、そして……故郷であるブリタニアを守る、リーネさんはそのプレッシャーで、実戦になるとダメになっちゃうの」
「リネットさん……」
「宮藤さん……貴方はどうしてウィッチーズ隊に入ろうと思ったの?」
「はい、困っている人達の力になりたくて……」
「リーネさんが入隊した時も同じ事を言っていたわ、その気持ちを忘れないで、そうすればきっとみんなの力になれるわ」
そう言ってミーナは二人の元から去っていった。
「……」
「リーネ……」


それから数分後、二人はリーネのいる部屋の前にやって来ていた。
「リネットさん……私、魔法もへたっぴで叱られてばっかりだし、ちゃんと飛べないし、銃も満足に使えないし……ネウロイとだって本当は戦いたくない、でも私はウィッチーズに居たい、私の魔法でも誰かを救えるのなら、何か出来る事があるなら……やりたいの、そして……皆を守れたらって」
『……』
「だから私は頑張る、だからリネットさんも……」
芳佳はリーネに語りかけるが、反応がない。
「芳佳……ちょっと俺、リーネに話したい事があるから、ちょっとミーナ中佐んとこ行っててくれ」
「う、うん、よろしくね」
芳佳はガロードの言葉に素直に従い、ブリーフィングルームに向かって行った……。
そしてガロードはリーネの部屋の扉に背を凭れ掛らせる。
「あのさ……お前もうちょっと肩の力を抜いたらどうだ? そう重く考えないで気楽にさ……」
『……! 簡単に言わないでください! 人の命が掛かっているのに……特別な力を持っているガロードさんには解らない!』
「……」
しばらく二人の間に沈黙が流れる、するとガロードはポツリポツリと自分の身の上話を始めた。
「……俺に特別な力なんてないよ、むしろ俺の周りには……スゴイ奴が沢山いた、技術も、経験も、能力も……俺が一生かかっても追いつきそうにない奴ばかりでさ、DXに乗ってなきゃ、もしかしたら俺は一番弱かったかもしれない」
『え……?』
ガロードの話に驚くリーネ、そして彼女は自分から質問をぶつけてみた。
「ガロードさんはどうして戦っていたんですか? その、向こうの世界で……」
「うーん、始めは生き延びる為にかな? 両親も一緒に育った同年代の子達も次々死んでいったし、MS盗んで売ったり強盗やっつけて報奨金もらったりと色々やったなあ、でも……」
「でも?」
「ある日……俺はティファに出会った、あの子はすごく特別な力を持っていて、色んな奴らに狙われていたんだ、だから俺は……ティファを守る為にガンダムに乗って戦った」
『たった一人を守るために……』
「あのさ……リーネも国とか世界とかそんな大仰なものじゃなくて、もっと自分の身近な物を守るつもりで戦えばいいんじゃないか?」
『でも、それだと……』
「大丈夫、リーネには芳佳やウィッチーズの皆がいるじゃないか、一人じゃちょっとしか守れないけど、皆一緒ならもっと多くの物を守れると思うんだ、コレ、経験者が語るんだから間違いないぞ?」
『ガロード……さん……』
リーネはガロードの言葉を聞いて、何か胸の奥の突っ掛りが取れていく気持ちになっていた。

「リーネは……一人なんかじゃない! だからもっと自信持っていけ!」





その時、ウィッチーズ基地に再び警報が鳴り響く。
「なんだ!? またネウロイが!?」
「ガロードさん!」
すると部屋の中からリーネが出てくる、彼女の顔は先ほどの自信なさげなのとは打って変わって、少し決意に満ちた表情に変わっていた。
「ブリーフィングルームにいくぞ!」
「はい!」
そして二人は頷きあい、ブリーフィングルームに向かって駆けていった……。


ブリーフィングルームではミーナが基地に残っていたエイラ相手に作戦内容を説明していた。
「先程美緒達から報告があったわ、新たなネウロイがこちらに向かっているそうよ」
「始めにでたのは囮か……」
「出られるのは私とエイラさんだけね、サーニャさんは?」
「夜間哨戒で魔力を使いはたしている、ムリダナ」
そう言って両手の人差し指で×マークを作るエイラ。
「そう……じゃあ二人で行きましょう」
「私も行きます!」
するとそこに芳佳が息を切らして駆けこんできた。
「まだ貴女が実戦に出るのは早すぎるわ」
「足手纏いにならないよう、精一杯頑張ります!」
「訓練が十分じゃ無い人を戦場に出すわけにはいかないわ、それにあなたは撃つ事に躊躇いがあるの」
芳佳に対しあくまで厳しい言葉を投げかけるミーナ、しかし芳佳も負けじと食い下がる。
「撃てます! 守る為なら!」

「俺達も出るぜ、なあリーネ」
「はい!」
するとようやくガロードとリーネがやって来て、ミーナに出撃させてもらえるよう懇願する。
「ガロード君はともかく、貴女達はまだ半人前なの」
「二人合わせれば一人分くらいにはなれます!」
「なあ俺からも頼むよ中佐さん、俺もフォローするからさ」
三人の懇願に、ミーナはついに折れた。
「……90秒で支度なさい」
「「はい!!」」
「さすが隊長! 話がわかるぅ!」
そう言って皆は自分達の武器がある格納庫に向かう、その途中でエイラがガロードに話しかけた。
「やるじゃんお前、リーネにあそこまで自信付けさせるなんてさ」
「なあに、俺はただ自分が言われた事をあの子に言ってあげただけさ、それに……」
「それに?」
「別に俺が何も言う必要は無かったかもな、芳佳の言葉もちゃんと届いていたみたいだし」
「そっか」


そして90秒後、ミーナ、エイラ、芳佳、リーネはそれそれストライカーユニットと銃器を装備し、ガロードはDXに乗り込んで、急速接近するネウロイに向かって飛行していた、「敵は三時の方角からこちらに向かっているわ、私とエイラさんが先行するから、三人はここでバックアップをお願いね」
「はい!」
「はい!」
『はいはい』
「じゃあ頼んだわよ」
そう言ってミーナとエイラは先にネウロイの方へ向かって行った。
するとミーナは、一緒に飛んでいる芳佳とガロードに語りかける。
「宮藤さん……ガロードさん……」
「うん?」
『なんだ?』
「本当は私……怖かったんです、戦うのが……」
「私は今も怖いよ、でも……うまく言えないんだけど、何もしないでじっとしている方が怖かったの」
「何もしない方が……」
『あー、なんか判るかもなそれ、ん……!?』
その時ガロードは、ネウロイがこちらに向かってきているのをモニターで確認する。
『二人とも! 敵が近づいてくるぞ!』
「え!? あ、はい!」
リーネは慌てて持っていたボーイズMkⅠ対装甲ライフルを構える。


一方ミーナたちは逃げる飛行機型のネウロイを、銃撃しながら追っていた。
「早い……!」
するとミーナ達の放った銃弾がネウロイのエンジン部分らしき場所を破壊する、しかしネウロイはその部分だけ分離し加速しミーナ達を振り切った。
「加速した!?」
「早すぎる!? まずいわね……!」



一方リーネは向かってくるネウロイを狙撃するが、弾が中々当たらず焦っていた。
「ダメ……全然当てられない!」
「大丈夫! 訓練であんなに上手だったんだから!」
「私……飛ぶのに精いっぱいで、射撃で魔法をコントロールできないんです……!」
『それなら俺が支えちゃうぜ!』
「え? きゃ!?」
ガロードが半ば強引にリーネをDXの掌に乗せる。リーネはDXの指に跨るような格好になっていた。
『これなら足元を気にせずに撃てる筈だ!』
「あ……はい」
すると皆の元にミーナから通信が入ってきた。
『三人とも、敵がそちらに向かっているわ、貴方達だけが頼りなの、お願い!』
「はい!」
リーネはライフルの標準をネウロイに定めようとする、そして彼女はある事を思いついた。
(西北西の風、風力3……敵即、位置を……そうだ! 敵の避ける未来位置を予測して、そこに……!)
そしてリーネは隣で飛んでいた芳佳にある指示を出す。
「宮藤さん! 私と一緒に撃って!」
「うん! わかった!」
『頑張れよ二人とも……!』
緊迫した状況に、ガロードは思わず操縦桿を強く握りしめる。
そしてリーネは接近してくるネウロイに標準を定めた。
「今です!」
次の瞬間、芳佳の持つ九九式二号の銃口から銃弾が連射され、隣ではリーネが引き金を引いてはリロード、引き金を引いてはリロードを5回繰り返した。
彼女達の放った銃弾はまっすぐネウロイに向かって行く、そして芳佳が放った銃弾を上に飛んで避けたネウロイは、そのままリーネの放ったライフルの弾の直撃を受け、最後の五発目でコアを破壊されバラバラと砕け散った。
「「きゃあああ!!?」」
『うおっと!?』

その様子を遠くから見ていたミーナ達は安心してふうっと息を吐いた。
「リーネさん……出来たのね」

「すごーい! やったねリネットさん!」
「やった! やったよ宮藤さん! ガロードさん! 私初めて皆の役にたてた!」
駆けよってきた芳佳を、リーネは喜びのあまり彼女に胸を圧しつけるように抱きついた。
「ふああああ!? リネットさん苦しい!?」
「二人のおかげよ! ありがとう!」
『なあに、俺達はアドバイスしただけさ、あとはお前の力だよ』
「それでもありがとう! あはははは!」


こうしてリーネはこの日、ウィッチとして初めての戦果をあげた……。


次の日、501基地の中にて……。
「芳佳ちゃんガロード君、おはよー」
「おはようリーネちゃーん」
リーネは廊下で会った芳佳とガロードに挨拶する。そしてその様子を美緒とミーナは優しく見守っていた。
「どうやらミーナさん、宮藤さんと仲良くなれたみたいね、名前で呼び合うなんて……」
「ふ、まあ仲良くなることはいいことだ、戦場で背中を預けられるのは信頼し合う者同士のほうがいいしな」


「ん? リーネちゃんリボンの柄変えたの?」
「う、うん、似合うかなガロード君……」
「似合うんじゃないの? にしてもなんでリボン変えたの?」
「そ、それはその……」
そう言ってミーナは何故か顔を赤くして俯いてしまった。


「……仲良くなりすぎるのも考えものね、これからどうなることやら……」
「あっはっはっは! まあいいじゃないか!」
美緒とミーナはリーネのガロードに対する感情の変化に気付き、この先のこの部隊の未来に思いをはせていた……。










本日はここまで、次回はバルクホルン回になります。
しかしストパンのBD、DVDはガンダムやなのはのと比べて付属する資料集の分厚さが半端ないですね、おかげで色々と助かります。



[29127] 第三話「そんなの絶対に許さない!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/08/08 22:13
 第三話「そんなの絶対に許さない!」


今日も夢を見た、ネウロイが私達の故郷に侵攻してきて、街も人もすべて焼き尽くしてしまったあの忌まわしい日を。

私はこれまでエースと周りの人間に持てはやされながらも、ネウロイの前では何も守れなかった、故郷と、友人の大切な恋人、そして……世界で一番大切な自分の妹を。

もう何も出来ない私には生きている意味がない、でも消えてしまう前にせめて一匹でも多くネウロイを葬り去ろう、それが何も守れなかった私に出来る唯一の償いだから……命なんて惜しくない。





前回のネウロイ襲撃から数日後、芳佳とリーネは食堂で朝食の支度をしていた、ウィッチーズ隊では度々、こうやって隊員達がたまに食事を作り、自分達の故郷の料理を他の隊員達に振舞うのだ。
「ねえ芳佳ちゃん聞いた? カイハバ基地が迷子になった子供の為に出動したんだって~」
「へえ! そんな活動もするんだ、すごいね~」
「うん!たった一人の為にねー」
「でもそうやって一人一人を助けられないと皆を助けるなんて無理だからねー」
「そうだね!」

「皆を助ける……そんな事は夢物語だ……」
「「え?」」
その時、二人は食事を取りに来ていたバルクホルンが何か言っている事に気付く。
「え? なんですか?」
「すまん、独り言だ」
そう言ってバルクホルンは浮かない顔で自分の席に歩いていく。そして芳佳とリーネはそんなおかしい様子の彼女を見て顔を見合わせた。

「おー、なんかいい匂いするなー」
するとそこに料理の匂いに釣られたガロードがやってきた。
「あ、ガロード君おはよー、今から朝ごはんなんだー」
「よかったら食べていきます? 今日は二人で扶桑の料理を作ったんですよー」
「え!? いいの!? やった~!」
こうしてガロードは芳佳達と朝食を取る事になった(普段は男子職員達と食べている)

「おかわりー!」
「俺もー!」
数分後、501の隊員達が皆集まって朝食を取る中、ルッキーニとガロードは空になったスープの皿を上げて芳佳にオカワリを要求した。
「はいはーい、ちょっと待ってくださいねー」
「ルッキーニはともかく、ガロードもよく食べるなー」
ルッキーニの隣にいたシャーリーは二人の食いっぷりに半ば呆れ気味に関心する。
「ま、食べれるときに食べないとねー! それに俺、こんなうまい料理食べるの初めてだよ!(ティファにも食べさせてあげたいなー)」
「そ、そうなんですか? 私が作ったんですそのスープ……」
そう言ってリーネがもじもじしながらトレイで顔を隠す。
「すごいじゃんリーネ! 将来は料理人かお嫁さんで決まりだな! いい嫁になるぜ!」
「へっ!?」
これが芳佳等に言われたならなんともないのだろうが、ガロードに言われたせいかリーネはつま先から頭のてっぺんまで赤くなり、頭から湯気が出ていた。
「ん? どうしたんだリーネ?」
「な、なんでもありませ~ん!」
そんな二人のやり取りを見て殆どの隊員は苦笑いをしていた、するとバルクホルンは食事を残したまま席を立とうとしていた。
「あれバルクホルンさん? お口に合いませんでした?」
「食欲がなくてな……ガロード、食べていいぞ」
「マジで!? やりぃ! でもちゃんと食べないとダメだぞ? 人間いつ何が起こるかわからねえからな」
「ああ……」
バルクホルンはそのまま食堂から出てしまい、芳佳は自分達の料理がおいしくなかったのかなと思い不安を感じていた、するとその時、おかわりを要求していたルッキーニが催促してきた。
「おかわり早く~!」
「あ、はいはい! ちょっとまってね~!」
すると今度はペリーヌが、スプーンの上に納豆を乗せて芳佳に文句を言う。
「まったく、バルクホルン大尉じゃなくても、こんな腐った豆なんてとてもとても食べられたもんじゃありませんわ」
それに対し芳佳は反論する。
「でも納豆は体にいいし、坂本さんも好きだって……」
「だよなー、俺は好きだぜ」
「さ、坂本“さん”ですって!?」
ペリーヌは芳佳が美緒の事をさん付けで呼んでいる事を知り、物凄い形相で芳佳に詰め寄った。
「しょ、少佐とお呼びなさい! ワタクシだって少佐をさん付けで……ごにょごにょ……」
しかし途中で顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「ともかく、いくら少佐がお好きでも! この匂いだけは絶対に我慢ができませんわ!」
「おかわり~!!」
すると放置され気味だったルッキーニは涙目で芳佳に再三おかわりを要求した。
「ああ! はいはい!」
「ふん!」
ペリーヌはそのまま自分の席に座り、芳佳からそっぽを向いてしまう、ガロードはそんなペリーヌに話しかける。
「んじゃそれも俺が食べていい?」
「好きにしなさいこの野良犬!」



それから一時間後、ガロードは扶桑海軍によって運び込まれたMSの残骸からビームライフルのエネルギーを抜き取っていた。
「よしよし、バッテリーは残ってたな、でもそんなにたくさんは撃てないか……節約しないとなー」
「ようガロード! やってるな!」
「おー! なんか面白そうな事やってるー!」
するとそこにシャーリーとルッキーニが見学しにやってくる。
「あれーお前ら、訓練じゃねーの?」
「今はバルクホルンとエーリカが飛んでんの、アタシ等はその後さ」
「ふーん、そういやバルクホルン、随分と元気なかったけど何かあったの?」
「うーん……私には判らないなあ、隊長やエーリカなら何か知ってんじゃないのか? あの三人出身が同じカールスラントだし」
「きっとお腹痛いんだよ! だから朝ごはん食べられなかったんだ!」
「ははは……まあそう単純だったらいいんだけどなあ」
そしてシャーリーは整備されているDXをまじまじと見つめる。
「それにしてもいいなあコレ……どれぐらいの早さで飛ぶんだ?」
「んー、エアマスター程じゃないけど結構早いと思うぞ」
「そっかー、いいなー、いつか私にこれを操縦させてくれ! いいだろ!?」
「お、おう」
目を輝かせるシャーリーを見て、ガロードはある人物達の事を思い出していた。
(シャーリーってあれだな……パーラに似ているな)
「ん? どうしたガロード、私の顔に何か付いているか?」
「いや、俺の知り合いにシャーリーと似ている子がいるんだ、多分気が合うんだろうなーって」
「へー! そうなのか!?」
「ねえガロード!? その人胸おっきい!?」
「あー、大きいっちゃ大きいか」
「おお~!」
ルッキーニはそう言って期待に胸を躍らせて目を輝かせていた。
「なんだルッキーニ、鞍替えかこの薄情者~!」
そう言ってシャーリーはルッキーニをぎゅーっと抱きしめる。
「あー、やっぱりシャーリーのおっぱいは心地いい~」
(相変わらずでけえよな、もしティファにあんなの付いていたら……いやいや! ティファはちっぱいだろうとボインだろうと可愛いぜ!)
仲の良いシャーリーとルッキーニを見てガロードは頭の中で妄想を巡らせる、するとそこに飛行訓練を終えたバルクホルンとエーリカがストライカーユニットを履いてやってきた。
「お、訓練終わったのか、おつかれさーん」
「どもどもー」
「……」
エーリカが返事をする一方、バルクホルンは何も言わず通り過ぎていった。
「あー、バルクホルンの奴、最近元気無いなー」
「喧嘩友達が元気無くて寂しいのシャーリー?」
「おー、お前生意気な事言う様になったなー」
「はうーん」
そう言ってシャーリーは拳をルッキーニの頭にぐりぐりと押しつける。
「でもホントトゥルーデ元気無いんだよね、宮藤が来てから……」
「宮藤が来てから? どういうことだ?」
エーリカの何気ない一言に食いつくガロード。

「宮藤ってね……似ているんだよクリスに」


ガロード達はエーリカからバルクホルンに妹がいる事、その子がネウロイによって大けがを負い意識不明で、今はブリタニアの病院に収容されている事、そして宮藤が……何となくクリスに似ている事を……。
「成程ねえ、バルクホルンにそんなことが……」
「なんかそれで最近しょっちゅう昔の夢見てうなされているみたいでさ……少し心配なんだよね」
(大切な人を守れなかったのか……だからあんなに悲しそうな顔していたんだな)
ふと、ガロードの頭の中にフリーデンとの旅の中で出会った人達の顔が浮かび上がる。

「なんか……放っておけないよな」



次の日、ガロードは基地の外でシャーリーとルッキーニと共に芳佳、リーネ、美緒、そしてバルクホルンの編隊飛行の訓練を見学していた。
「へー、芳佳最初の頃と比べて飛ぶのがうまくなったよな」
「そうなんだよー、まだウィッチになってまだ日が経ってないのにすごいよな」
「でもスピードはシャーリーが一番だもんね!」
その時、ガロード達の背後からペリーヌが現れ、飛行訓練を行う芳佳を睨みつけていた。
「あの豆狸……! また坂本少佐と……!」
「なんだぁ? 急に現れたと思ったら……」
「んー? なんでペリーヌ芳佳の事嫌いなのー? 私は芳佳好きなのにー」
「あの豆狸! 坂本少佐にべたべたしすぎなのですわ! おまけに私の頭にモップをぶつけたり坂本少佐と一緒にお風呂に入ったりして……!」
「お前ほんとうにもっさん好きだな」
「もっさん?」
「俺が付けた仇名、坂本さんを縮めたんだ」
「も、もっさん!!?」
ガロードの美緒の呼び方に、ペリーヌは堪忍袋の緒が切れてしまった。
「あ、貴方! その呼び方はいくらなんでも失礼でしょう!? 坂本少佐は貴方の上官で……!」
「いや、俺軍属じゃないし……ていうかもっさんもわっはっは言いながら気に入ってくれたぞ」
「そういう問題じゃありませんわこの野良犬」
「んだとう、お前も犬みたいなもんじゃないか、ほらぺリ犬」
「「ぶー!!」」
シャーリーとルッキーニはガロードが付けたペリーヌの名前を聞いて思わず噴き出してしまう。
「こここここここの野良犬! もう我慢なりません!! ここで消し墨にして……!」
そう言ってペリーヌが使い魔を憑依させガロードを攻撃しようとした時、突如基地中に警報が鳴り響いた。
「警報!? ネウロイか!?」
「いくぞ皆!」


数分後、ガロードはDXに乗ってストライカーユニットを履いたシャーリー、ルッキーニ、ペリーヌ、そして途中で合流したミーナと共にネウロイが出現した空域に向かった、そして先行していた芳佳達とも合流しネウロイの元に向かった。
「最近、やつらの出撃サイクルにブレが多いな……!」
「カールスラント領で動きがあったらしいけど、詳しくは……」
「カールスラント……!」
美緒とミーナの話を聞いていたバルクホルンは、ハッと目を見開く。
「どうした?」
「いや、なんでもない……」
「よし、隊列変更だ、ペリーヌはバルクホルンの二番機に、宮藤は私のところに入れ」
(また……!)
ペリーヌは美緒と組むことになった芳佳に対し嫉妬していた。
『もっさん! 俺達はどうするんだ!?』
「ガロードはシャーリーとルッキーニと組んでネウロイに当たってくれ」
「りょーかい!」
「んじゃパパッとやっつけちゃおう!」

そして彼女達の元にネウロイが接近してくる。
「敵発見! 宮藤! ついてこい!」
「あ、はい!」
「バルクホルン隊、シャーロット隊突入! 私は少佐の援護に!」
「了解!」
先行するバルクホルンは、二丁の機関銃の銃弾をネウロイに撃ち込んでいく、続いてシャーリー、ルッキーニ、ガロードもそれに続いて攻撃する。
『お前ら! 巻き込まれるんじゃねえぞ!』
「判ってるって!」
「そんなヘマしないよーん!」
余裕たっぷりのシャーリー隊、対してバルクホルン隊はペリーヌがバルクホルンの動きについていけないでいた。
(ワタクシがついていけないだなんて……!)
ふと、ペリーヌの視界に美緒と一緒に飛ぶ芳佳が入ってくる。
「あの豆狸……! 坂本少佐と一緒に……!」
そう言ってペリーヌはバルクホルンについて行こうと必死に加速する、それをリーネと一緒に飛びながら見ていたミーナは彼女の動きがいつもと違う事に気付く。
「やっぱりおかしいわ……!」
「えっ?」
「バルクホルンよ! あの子はいつでも視界に二番機を入れているのよ、なのに今日は一人で突込みすぎる……!」

そして別の位置にいたシャーリーもその事に気付き、彼女に警告する。
「近づきすぎだぞバルクホルン!」
「大丈夫だ! これくらい……!」


その時、芳佳達の攻撃によってネウロイの装甲が少し薄くなった。
「あそこよ! あそこを狙って!」
「はい!」
ミーナの指示でリーネはその個所を狙撃する、するとネウロイはガラス片を散ばせながら小規模の爆発を起こし、そのままレーザーで反撃してきた。
「うわっ!?」
「くっ……」
皆避けたり魔力シールドで防いだりしてレーザー攻撃を凌いだ、
「! 近付きすぎだバルクホルン!」
美緒の警告でレーザーを回避するバルクホルン、そして彼女の後ろにいたペリーヌは魔力シールドでそのレーザーを防いだ。
「は!?」
「うっ!?」
すると押された勢いで、ペリーヌは移動していたバルクホルンとぶつかってしまう。そしてネウロイのレーザーが怯んだバルクホルンに襲いかかる。
「あああああ!!?」
バルクホルンが張った魔力シールドは間に合わず、レーザーは二丁あった銃のうち片方を爆散させ、その破片がバルクホルンの胸に突き刺さった。
「大尉!?」
「バルクホルンさん!!」
そのまま近くの小島に墜落していくバルクホルン、それを見た芳佳とペリーヌはすぐさま彼女を追いかけていった。

「バルクホルン!! くっ……!」
その様子を見ていたシャーリーも追いかけようとするが、ネウロイのレーザー攻撃に阻まれてしまう。
『俺が行く! シャーリー達はネウロイを!』
「わかった! あいつを頼む!」
ガロードはシャーリーの代わりにバルクホルンを助けに小島に降りて行った……。


一方、負傷したバルクホルンを空中で受け止めた芳佳とペリーヌは、彼女を一旦地上に降ろし上着を脱がして怪我の状態を確認する。
「ワタクシのせいだ……! どうしよう……!」
「出血がひどい……! 動かせばもっとひどくなる、ここで治療しなきゃ!」
「お願い……大尉を助けて……!」
芳佳は血に染まるバルクホルンのシャツを見て事は一刻を争うと判断し、治癒魔法を発動させ彼女の治療を試みる。
「焦らない……! ゆっくりと……! 集中して……!」
そして芳佳の手から青白い光が放たれ、バルクホルンを包み込む。
「そんな力が……くっ!」
そうしている間にも、ネウロイの猛攻は止むことなく、ペリーヌは芳佳達を守る様に魔力シールドを張った。
「うっ……」
「今治しますから……!」
「私に張り付いていては、お前達も危険だ……! 離れろ、私なんかに構わずその力を敵に使え」
「嫌です、必ず助けます……! 仲間じゃないですか!」
「敵を倒せ……! 私の命など捨て駒でいいんだ……!」
「あなたが生きていれば、私なんかよりもっと大勢の人を助けられます……!」
「無理だ……皆を守る事なんて出来やしない……私はたった一人でさえ……! もう行け、私に構うな……!」
バルクホルンはあくまで芳佳達を逃がそうとする、するとペリーヌが芳佳達に話しかける。
「早く! もう持たない!」
「ど、どうしよう、早くしないと……!」
ペリーヌの限界が近い事を知り芳佳は焦り始める、そしてネウロイの無数のビームが彼女に向かって放たれた。
(だ、ダメ……!)
自分の魔力シールドでは防げないと思い、ペリーヌは覚悟を決めて目をギュっと瞑る、しかしその時……。
『させるかー!!!』
ペリーヌの前にDXが覆いかぶさるように割り込み、その身を呈して彼女をビームから守った。
「ガロード……さん!?」
『おいバルクホルン……ふざけるなよ! 捨て駒でいいってなんだよ!!』
「え……?」
先程までの芳佳達のやり取りを聞いていたガロードは声に怒りを込めてバルクホルンを叱咤する。
『この世界には……生きたくてもそれが叶わなかった奴が大勢いるんだ! それなのに死にたいだなんて……! そんなの絶対に許さない!』
「だが私は……たった一人でさえ守れなかったのに……!」
『バカ野郎! 一人で無理なら皆で守ればいいだろうが! ここには芳佳もいる! ペリーヌも! シャーリーも! リーネも! もっさん達だって! 俺だっている! 一人で何でも抱え込むんじゃねえ!!』
「ガロード……ラン……!」
ガロードの魂の籠った言葉が、バルクホルンの心に力を注いでいく、
その時、DXの胸部にネウロイのビームが直撃し、中にいたガロードに大きな衝撃が襲う。
「ガロード君!」
『へ、へへへへ……大丈夫だ、このくらい……俺は誰も死なせない、死なせるもんか……!』
「死なせない……そうだな……!」
するとバルクホルンは起きあがり、武器を手にストライカーユニットを履いて浮かび上がった。
「クリス……今度こそ守ってみせる!」
「バルクホルンさん……!」
「大尉……!」
体力の限界が来てその場にへたり込んだ芳佳とペリーヌは、回復したバルクホルンのその心強い頬笑みに笑顔で答えた。
「うおおおおおお!!!」
そしてバルクホルンはミーナ達を掻い潜り銃を乱射しながらネウロイに向かって飛んでいく、彼女の気迫の籠った攻撃はそのまま露出したままのコアに当たり、ネウロイはガラス片となって砕け散った。
「おー……やったじゃんバルクホルン!」
ガロードはコックピットから降り、完全復活したバルクホルンの雄姿をその目で直に焼き付けた……。





その後、無茶をしたバルクホルンはあとでミーナにこってりと怒られた後、休暇届けを出して妹のクリスの見舞いに行ったそうな。





その次の日の事……ガロードは先日ネウロイの攻撃で損傷したDXの修理を行っていた。
「やっぱ一人でやると手間かかるな……でも基地の人間に触らせると何されるか判らねえし……」
そう言って機体の下に潜り込み修理を続けるガロード、その時彼は誰かの足音が近づいて来ることに気付いた。
「ん? シャーリーか?」
「あ、あのガロードさん……」
「あれ? ペリーヌ?」
自分の予想とは違う意外な訪問者にガロードは驚く、そのペリーヌの手にはいくつものコッペパンが入ったバスケットがあった。
「ん? 何それ?」
「そ、その……先日のお礼もまだでしたし、よろしければ昼食にいかがかと……」
「へー! ペリーヌが焼いたの!? すげーじゃん!」
そう言ってガロードはペリーヌからバスケットを受け取り、中のパンをがつがつと食べ始めた。
「あ、あの……あの時は助けていただきありがとうございます……」
「モグモグ……いいっていいって、俺は当然のことをしたまでだよ」
「ま、まあその……あの時の貴方はカッコよかったですわ、一番は少佐ですけど……ワタクシ少しキュンと来ちゃいましたわ……」
「ふぇ? ふぁに? ふぃふぉふぇふぁい」(訳:え? 何? 聞こえない)
食べる事に夢中でペリーヌの最後の方の言葉を聞いていなかったガロード、するとペリーヌは顔を真っ赤にぷんぷんと怒り始めた。
「な、なんでもありませんわ!」
そしてペリーヌはそのまま走り去っていった。
「ゴクッ……何なんだアイツ?」


「ガロード……少しいいか?」
するとペリーヌと入れ替わる様に今度はバルクホルンが現れた。
「お? もう帰ってきたのかバルクホルン、妹さんの見舞いはどうだった?」
「ああ……医者の話ではもう目を覚ますだろうと言っていた」
「そっか、妹さん早く良くなるといいな」
エーリカからクリスの事を聞かされていたガロードは何気に彼女の事を心配しており、もうすぐ良くなると知ってほっと胸を撫で下ろす。
「ガロード……ありがとう、お前と宮藤のおかげで私はまた戦うことが出来た……」
「いんやあ、俺はただ放ってはおけなかっただけさ……もう簡単に死にたいなんて思うなよ」
「肝に銘じておく」
そう言ってバルクホルンは頭をぺこりと下げた。
「にしてもあの時の戦っているバルクホルン、すごかったなー、クリスもバルクホルンみたいなお姉ちゃんもって幸せもんだろ」
「そ、そうか?」
突然ガロードに褒められ、バルクホルンは照れながら頬をポリポリと掻く。
「俺さー、小さい頃両親が死んで家族とかいなかったからさ、兄弟とかに憧れてんだよねー」
「そうだったのか……それじゃ私の事、姉と呼んでもいいんだぞ?」
ガロードの事を哀れに思い、バルクホルンは冗談交じりにそう提案する。


そ れ が い け な か っ た


「そう? それじゃ……お姉ちゃん!」
「!!!?」
“その時、バルクホルンに電流が走る……!”というナレーションが聞こえてきそうなほど、バルクホルンの心臓に言いようの無いインパクトが襲いかかり、そのまま後ろに吹き飛んでいった。
「え!? なんだ!? どうしたバルクホルン!?」
「い、いやなんでもない!!!(なんだ今のは……!? この気持ちは何だ!?)」
そしてバルクホルンは息も絶え絶えに必死に起きあがり、ガロードに再び提案する。
「す、すまないがもう一度私をお姉ちゃんと呼んでくれないか?」
「え? あ……お姉ちゃん?」
「はぐ!!?」
再びバルクホルンの心臓がキュンとし、彼女はそのまま仰向けに大の字で倒れた。
「な、なあマジでどうしたんだおい!?」
「し、静まれい! 私はなんともない! これで失礼する!」
バルクホルンはそのまま飛び起き、格納庫から猛スピードで去っていった。
「なんだアイツ……?」


一方バルクホルンは走りながら、機関車の如く脈打つ心臓の鼓動を必死に抑えようとしていた。
(な、なんだこのクリスにお姉ちゃんと言われた時の幸せな気分にも似た、この……あの……なんだコレは!?)
自分の今の気持ちを言葉で表現することが出来ず、バルクホルンはそのまま自室に駆け込みベッドの上で悶えていた……。


生粋のシスコンのバルクホルン、真逆の何かにも目覚める……。










本日はここまで二人目、三人目も陥落……(笑)
ガロードってWみたいに5人組の美少年の一人としてデザインされたらしいですよね、芳佳達から見たらガロードは美少年なんでしょうか?
次回は水着回ですよー。



[29127] 第四話「はやくて!? おおきくて!? やわらかい……」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/08/12 22:20
 第四話「はやくて!? おおきくて!? やわらかい……」


その日、ガロードはDXの整備を終えた後、置いてあった芳佳達のストライカーを眺めていた。
「それにしてもスゲー作りだよなストライカーユニットって、キッドに見せたら喜んで改造しそうだな……」
「んー? 私のストライカーユニットに何か用かガロード?」
するとそこにシャーリーが現れる。
「いやなんでも、お前こそどうしたんだ? 今ブリーフィングじゃ……」
「私のストライカーの慣らし運転をしに来たのさ」
「へー、熱心なもんだな」
そしてシャーリーは台に固定されたままの自分のストライカーユニットを履き、自分の使い魔であるウサギを憑依させエンジンを起動した。

――ドォンッ!!

するとストライカーから鼓膜を揺さぶるような爆音が発せられる。
「ぎゃ!? お、おいおい、でかい音出すなら先に言ってくれよ!」
「あーわりいわりい」
シャーリーはてへへと笑いながら耳を押さえているガロードに謝罪する。

「シャーリーさん!」
「ガロード君!」
すると今度は芳佳とリーネが現れガロード達の元に駆け寄る、どうやら先程の爆音で何事かと思ったようだ。
「お? よう二人とも! どうしたんだ二人して?」
そう言ってシャーリーは呑気に芳佳とリーネに手を振った。
「あ、あの……さっきの音は?」
「ああ、シャーリーがストライカーを起動させた音だよ、俺もびっくりしちまった」
「なんならもう一回やってやろうか?」
シャーリーはそのままもう一度ストライカーのエンジンを起動させ辺りに爆音を響かせる。
「うおおおお!? だからいきなりやんなって!?」
再び響く爆音に、ガロード達は反射的に耳を塞ぐ。そして芳佳は音の元のエンジンを止めてもらいため、シャーリーに大声で話しかける。
「も、もういいです! わかりましたからー!」
しかし芳佳の言葉は爆音によって掻き消され、シャーリーはその事に気付かないまま隣にあった計器を操作する。
「ふん……いい感じだ、もう少しシールドとの傾斜回路を……ところで何言ってんだ宮藤?」
「音止めてくれってさー! このままじゃ会話もできねーよ!」
「ああ、すまんすまん」
代わりに話しかけてきたガロードによってシャーリーはようやくエンジンを止めた。

「う~るさいな~」
その時、ガロード達のいる格納庫の天井からルッキーニの声がしてきた、ルッキーニは天井を支える骨組みの上で昼寝をしていたのである。
「「ルッキーニちゃん!?」」
「お前そんな所にいたのか!? 全然気付かなかった……」
「ふぁ~! 折角いい気持で寝てたのに~、ガロードの声で起きちゃったよ~」
そう言ってルッキーニは天井から飛び降りてそのまま華麗に着地した。
「ネコかお前は」
「ルッキーニちゃん、今の音平気だったの?」
リーネの質問にルッキーニはあっけらかんに応える。
「うん! だっていつもの事だし」
「いつも……? シャーリーさんいつもこんな轟音立てて……」
「ストライカーのエンジンを改造しただけだよ」
「エンジンの改造って……どういうことです?」
「ふ……おいで、見せてあげる」

芳佳達はストライカーユニットを履いて台から降りたシャーリーに連れられて外にやってくる。
「あの、改造って……」
「魔導エンジンのエネルギーの割り振りをいじったんだよ」
「割り振りって……攻撃や防御に使う分のエネルギーを変えているんですか?」
「そういうこと」
「一体何を強化したんですか?」
「もちろん速度!」
「シャーリー!」
その時、速度計測機を抱えたルッキーニからシャーリーに相図が送られる、するとシャーリーの足元の魔法陣がさらに大きくなる。
「GO!」
そしてルッキーニのGOサインと共に、シャーリーは勢いよく空へ飛び出していった。
「いっけーシャーリー!!」
「すごい……! なんて加速……!」
「MSでもあれだけの速度を出せるのはそうそういないぜー」
「まだまだ!」
するとシャーリーはそのまま物凄いスピードで雲に届きそうな位置まで上昇した。
「おお、一気に上がった……1000メートルぐらいを一分もかからずに上昇するなんて……」



一方飛び続けているシャーリーはさらに飛行スピードを上げた。
「いくよマーリン、魔導エンジン出力最大!」
シャーリーは自分の体を魔法で輝かせながら飛行スピードをさらに上げた。
「シャーリーさんまだ加速している……!」
「時速770キロ! 780! 785! 790! 795! ……800キロ! 記録更新だよ!」
そしてシャーリーはそのままガロード達の横を光速で横切っていった。
「うわっ!?」
「あんにゃろう……こっちをおちょくってんのか!?」

「もっとだ……もっとだ!」
しかしシャーリーのストライカーユニットはそれ以上加速することが出来ず、ガタガタときしみ始めた。

「あー、800を超えたあたりで減速してきたな」
「もうちょっとで音速だったのに~!」
ルッキーニはまるで自分の事のように悔しがる、そして彼女達のもとにシャーリーが戻ってきた。
「シャーリー記録更新だよ!」
「「すごかったです!!」」
「おお! やった~!」
そう言ってシャーリーは嬉しさのあまりガッツポーズした。





そして地上に降りたシャーリーが一言。
「あ~! お腹減った~!」



数分後、格納庫に戻ったガロード達はストライカーの整備をしているシャーリーからある雑誌を見せてもらっていた。
「これなんですか?」
「『グラマラスシャーリー新記録』って……バイクの記録ですか?」
「シャーリーはパイロットになる前はバイク乗りだったんだって!」
「ボンネビルフラッツって知ってるかい? リベリオンの真ん中にある、見渡す限りすべて塩でできた平原さ」
「そんなところがあるんですかー」
「そこは私らスピードマニアの聖地なんだ……」
シャーリーは瞳を閉じながらその時の様子を思い浮かべていた。
「そこで記録を破った日に耳にしたのさ、魔導エンジンを操って空を舞う世界最速の魔女の話をね……その日に私は軍に志願して入隊、今ここでこうやっているってわけ」
「それで任務の無い日にこうやってスピードの限界に挑戦しているんですね?」
「最速かあ……スゴイなあ……!」
リーネと芳佳は様々なチャレンジをしてきたスケールの大きいシャーリーを尊敬の眼差しで見る。
「でもそれってどこまで行けば満足するんですか?」
「そうだなあ……いつか音速、マッハを超える事かな?」
「ふえ? 音速ってなんですか?」
「音が伝わる速度だよ、大体時速1200キロメートルぐらいさ」
「ほあああ……」
「そんな速度を出すなんて、本当に可能なんですか?」
「さてね……でも、夢を追わなくなったらおしまいさ、今日はここまでっと」
そう言って整備を終えるシャーリー、そしてある事を思い出し芳佳達に質問する。
「ところで……二人は何か用かい?」
「ふえ?」
「ん?」
「「ああ~!!? 忘れてた~!?」」
芳佳達はようやく本来の目的を思い出し顔を見合わせる。
「あ、明日明朝1000時に海に行くことになんたんです! 水着持参で……」
「ガロード君も来てほしいってミーナ隊長が……」
「それってつまり……海水浴?」
「ほお! それは楽しみだな!」
「え? 何がです?」
「二人の水着姿が見れるじゃん? ついでにガロードの」
「「えええ~!!?」」
シャーリーにそう言われ、二人は恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
「俺はついでかよ!?」
「まあまあ、そんじゃ持っていく水着選ばないとな~」

そう言ってシャーリー達は格納庫から去っていった。そして誰もいなくなった格納庫に一人昼寝して残っていたルッキーニは、大きなあくびをしながら目を覚ます。
「ふあ~……ん?」
その時ルッキーニはシャーリーのストライカーに引っ掛かっていた彼女のゴーグルを発見する。
「いっただき~!」
ルッキーニはゴーグルを自分の頭に掛けようと引っ張る、するとゴーグルのゴムがストライカーの翼に引っ掛かっていたので、ストライカーはそのままガタンと地面に倒れてしまった。
「へ? うきゃー!?」
オイルが漏れてパーツがバラバラになったストライカーを見て、ルッキーニは事の重大さを認識し思わず叫んでしまう。
「どどどどどうしようどうしよう!? え、えーっとこの部品どこだっけ? こっち? こっちだっけか?」
ルッキーニは自分で修理を試み、あいまいな記憶でストライカーの部品をはめていった……。

数分後……オイルまみれになりながらルッキーニはストライカーの修理を完了した。
「ふう! これで元通り! ……だよね?」
ルッキーニは自分の修理に不安を感じながらも、とりあえずお腹がすいたので格納庫から出ていった……。





次の日、水着姿の501の面々は海岸に到着し、まずシャーリーとルッキーニが真っ先に海に飛び込んでいったいった。
「「やっほぉー!!」」

「ほ! ふ!」
「ふんふーん」
一方バルクホルンとエーリカは泳ぎの練習を始める、もっともバルクホルンは綺麗なクロールのフォームに対し、エーリカはどう見ても犬かきなのだが。(アニメでは泳いでいる時海面に突き出したお尻が可愛いので是非そちらもチェック)

「肌がひりひりする……」
「腹へったなー」
サーニャとエイラは泳ごうとはせず、砂浜で二人仲良く並んで座り、皆が泳いでいる様子を眺めていた。

そして芳佳達はというと……。
「な、なんでこんなの履くんですか~!!?」
芳佳とリーネは水着姿のまま訓練用のストライカーユニットを履いていた。
「何度も言わすな、万が一海上に落ちた時の為だ」
「他の人達もちゃんと訓練したのよ? あとはあなた達だけ」
「つべこべ言わずにさっさと飛びこめ!」
「ふえええー!!?」
「きゃあああ!!?」
美緒に催促され芳佳とリーネは慌てて海に飛び込んだ。

「……浮いて来ないな」
「ええ……」
しばらくした後、美緒とミーナは芳佳達が浮いて来ない事に焦り始める。
「やっぱり飛ぶようにはいかんか……」
「そろそろ限界かしら……」
その時、突如海面に芳佳とリーネが浮かび上がってきた。
「ぶはぁ!」
「ぷはぁ!!」
「あら、上がってきた」
「いつまで犬かきやっとるかー、ほら、ペリーヌを見習わんかー」
溺れかけている芳佳とリーネの後ろでは、ペリーヌが悠々自適に平泳ぎをしていた。
「まったくですわ……」
ペリーヌは溺れかけている二人を見て、やれやれとため息をつきながらそのまま横切っていった。
「そんな……いきなり……無理……」
そして芳佳とリーネはついに力尽き、ぶくぶくと海の底に沈んでいった……。
「あらあら……仕方ないわね、ガロード君頼める?」
『オッケーだぜミーナさん!』
すると海面から何故かDXがグモモモモと浮かび上がってきた、ちなみにその手にはぜーぜー言ってる芳佳とリーネが乗っていた。
「ライフセーバー役ご苦労だなガロード」
『いやいや、お役に立てて何よりだぜ!』
「それにしてもMSって水中も入れるのね、高性能ね……」
『まあレオパルド程じゃないけどね! MSにも水中用ってのがあるし……』
「ふむ……もしもの時の為に水中用の装備の開発を上申したほうがいいかもな……それはそうと皆、休憩時間だー」

美緒に言われてそれぞれ海で泳いでいた隊員達が一斉に砂浜に上がってくる、そして最後にストライカーユニットを抱えた芳佳とリーネが満身創痍と言った様子で陸に上がってきた。
「はぁ……はぁ……もう動けない……」
「私も……」
そして力尽き砂の上に倒れ込む二人。
「あ、遊べるって言ったのに……ミーナ中佐の嘘吐き……」
「ありゃりゃ、大分お疲れのようで」
するとそこに様子を見に来たガロードとシャーリーが現れた。ちなみにガロードは軍から支給された長ズボン状の海パンを履いている。
「なあにすぐ慣れるさ、それにこうやって寝てるだけだって悪くない……」
「は、はあ……」
そう言って芳佳、リーネ、シャーリーは仰向けに寝て日光浴を楽しむ、そしてガロードは彼女達の隣に座り込む。
「お日様……あったかい……」
「うん、気持ちいい……」
「だろ?」
「平和だなあ……」
「あれ?」
その時、芳佳は太陽を見て異変に気付き、身を起こした。
「? どうしたの?」
「今……太陽のとこ、何か横切った」
「何が……?」
シャーリーとリーネ、そしてガロードも目を細めて太陽を見る。そしてシャーリーはその物体の正体を察知した。
「……! 敵だ!」
「ふぇ!?」
「ネウロイ!」
「こんな時にかよ!?」
「……!」
シャーリーはすぐさま自分のストライカーが置いてある格納庫に向かって駆けていき、芳佳とリーネも彼女を追いかけていく。
「「シャーリーさん!」」
「やべっ! 俺も行かなきゃ!」
すると島全体に敵の襲来を告げる警報が鳴り響く。それを聞いた501の面々も格納庫に向かって行った。

一方美緒とミーナは近くにあった連絡用電話で管制室から状況の確認を行っていた。
「敵は一機、レーダー網を掻い潜って侵入した模様」
「もう……また予定より二日早いわ」
「だれがいく?」
「すでにシャーリーさん達が動いているわ」


一方格納庫に一番乗りで着いたシャーリーは自分用の武器であるBAR、M1911A1を抱えストライカーを履いた。
「イェーガー機……出る!」
そしてシャーリーは勢いよく空へ飛び出していった。
「シャーリーさん……きゃあ!?」
「あいたた……私達も行こう!」
シャーリーが飛んでいく様子を目の当たりにした芳佳とリーネもすぐさま格納庫に向かった。

ネウロイに向かって高速で飛翔するシャーリー、すると彼女が耳に装備しているインカムにミーナからの通信が入ってきた。
『シャーリーさん聞こえる?』
「中佐?」
『敵は一機、超高速型よ、すでに内陸に入られている』
「敵の進路は?」
『ここから西北西、目標はこのまま進むと……ロンドン!』
『ロンドンだ! 直ちに単騎先行せよ! シャーリー……お前のスピードを見せてやれ!』
「了解!」
美緒の言葉を聞いて気合を入れたシャーリーは、ゴーグルを付けて加速する。
「「うわぁあ!?」」
その衝撃波は後ろを飛んでいた芳佳とリーネにも襲いかかり、彼女達の飛行バランスを大きく狂わせた。
「も、もうあんなところに!」
「リーネちゃん急ごう! ガロード君も来てくれる!」
そう言って芳佳とリーネはシャーリーの後を一生懸命追いかけていった。


「シャーリーさん……」
一方基地では美緒とミーナがシャーリー達の戦いぶりを見守っていた、そこに……。
「あああ~! シャーリー行っちゃった……まさかあのままなのかな?」
「何があのままなんだ?」
「えっとね、夕べ私シャーリーのストライカーをね……ひっ!?」
その時ルッキーニは自分の背後から物凄い殺気を感じ、錆びたロボットのようにギギギと後ろを向いた。
「あ、あの……なんでも無いです」
「続けなさい……フランチェスカ・ルッキーニ少尉……うふふふふ!!」
「あわわわわわわわわわ」
ルッキーニは恐怖のあまり、体から大量の冷や汗を流していた……。


ルッキーニから事情を聞いた美緒はすぐさまシャーリーに帰還するよう指示を出す。
『大……! 帰……! ただち……!』
(なんだ? 加速が止まらない……今日はエンジンの調子がいいのか?)
しかし計器の不調で美緒の指示は届かず、シャーリーはいつもと調子が違うストライカーを気にかけていた。
(この感じ……似てる……似てる! あの時と!)
シャーリーの脳裏にモンデビルフラッツで記録を破った時の記憶が浮かび上がる。
『ただ……せよ!……尉!……!』
「いっっっっけぇーーーーー!!!」
シャーリーはそのまま超加速の魔法を発動させ、空気の壁を切りながら加速していった。



「……はっ!?」
気がつくとシャーリーは自分が未踏の領域にいる事に気がつく……そう、彼女は今音速を超えた世界の中にいたのだ。
「あ、あたし……マッハを超えたの? これが超音速の世界……! すごい! すごいぞ! やった! わたしやったんだ!」
『聞こえるか大尉!? 返事しろ!』
するとようやくインカムの調子が戻り、シャーリーの耳に美緒の言葉が届いた。
「少佐やりました! あたし音速を超えたんです!」
『止まれー! 敵に突っ込むぞー!』
「へ?」
するとシャーリーの正面にネウロイが高速で接近してくる、シャーリーは加速する事に夢中でネウロイの事をすっかり忘れていたのだ。
「へ? ……ふええええええ!!!?」
シャーリーは反射的に自分の目の前に魔力シールドを展開する、するとシャーリーの体は高速で放たれた銃弾のように、ネウロイをコアごと突き抜いてしまった。

「……! 敵撃墜です!」
同じころ、シャーリーを追っていた芳佳とリーネはネウロイが爆散した事を美緒達に伝える。
『シャーリーさんは!?』
「えっと……あ! 大丈夫です!」
すると芳佳は、ネウロイの爆煙の中からシャーリーが上空に向かって飛び出してきたのを確認した。
「無事です! シャーリーさんは無事です!」
そう言って二人はシャーリーの元に向かう、すると彼女達はシャーリーの異変に気付く。
「あれ……?」
シャーリーはどうやら気を失っているようで、(顔は笑ったままで)音速を超えたことで燃え尽きた自分の水着の燃えカスを撒き散らしながら上昇する、そして魔力が切れてストライカーユニットが脱げると、彼女はそのまま海へ真っ逆さまに落ちていった。
「わああああ!?」
「全然無事じゃなーい!」
慌てて助けに向かおうとする芳佳とリーネ、すると彼女達の横を追いかけてきたガロードのDXが横切った。
『俺に任せろ!』
「「ガロードくん!」」
ガロードはDXを海上まで先まわらせ、そのままシャーリーを空中でキャッチする。
『おっしゃ! シャーリー無事か!?』
ガロードはシャーリーの無事を確認するため、手元にMSのカメラを向ける。
「!!!? ぶー!!!!」
そして豪勢に鼻血をコックピットの中にぶちまけた、そりゃそうですよ、だって部隊一どころか世界レベルのナイスバディを持つ少女がMSの手の上で全裸で眠っているんですよ? 思春期真っ盛りの15の少年でガンダムシリーズで1,2を争う純情ボーイにはきついってもんがありまっせ。

「はやくて! おおきくて! やわらかい……」ガクッ
それがガロードの遺言だった。

「わあ~!? DXが沈んでる!? なんでぇ!!?」
「が、ガロードくーん!」
数分後、残りのウィッチ全員によって引き上げられたDXのコックピットの中には、鼻血で真っ赤に染まったガロードが発見された……。










その日の夜、ガロードは基地の外で涼しい夜風に当たっていた。
「はあ……今日はエライ目にあった……」
「ようガロード!」
するとそこに、そのエライ目に合わせた張本人が現れた。
「シャーリー? もう体はいいのか?」
「へーきへーき! 魔力は減っていたけど寝て食ったら治っちまった!」
「単純な体しているなお前……今日は大活躍だったじゃん」
「おうよ! でもまだまだ私は記録更新を目指すぜ~! 音速の次は光速だ!」
手をぎゅっと握りしめて熱く語るシャーリー、ガロードはそんな彼女を羨ましいそうに見つめていた。
「いいなシャーリーは……輝いているって感じだぜ」
「あん? なんだ急に……」
「俺ってさー、その日を生きる事に精一杯でそう言った夢中になれる事を持った事無いんだよ、だから夢を持っているシャーリーが羨ましいぜ」
「はっはっは! どんだけ過酷な環境にいたんだよお前は!?」
少し元気のない様子のガロードの背中を、シャーリーはバンバンと叩く。
「たはは……だから今日の飛んでいるシャーリーの姿はカッコ良くて綺麗だったぜ、ただそれだけさ」
「お!?」
シャーリーはガロードに褒められて思わず顔を赤くする。
「どうした?」
「い、いやー……綺麗なんて言われたの初めてだからさ……ちょっとドキッとしたというか……」
「ふーん? 俺はただ率直な感想を言っただけだぞ?」
「そ、そうか……私が綺麗……」

(ティファ……俺、お前と離れ離れになっちゃったけど、今は元気でやってるよ、もしまた会えたら……ここの皆を紹介するよ、きっとティファもこいつらと仲良くなれると思うから……)
そしてガロードは離れ離れになった想い人の事を想い、月と星が輝く夜空を見上げた……。










そのガロードの視線の遥か先に、バイザーのような仮面を付けた、黒いレオタードを着て芳佳達のとは違う何かゴツゴツとしていくつもの砲台が付いたストライカーを履いたウィッチが、501基地を見下ろしていた。

「目標確認……ターゲット、ストライクウィッチーズ隊及びガンダムダブルエックス……」










本日はここまで、仮面を付けたウィッチ……なんかガンダムっぽくていいなって書いて思いました。

さあて次回のサテライトウィッチーズはサーニャ&エイラ回です、エイラはストパンの中で一番好きなんでさらに気合入れて書こうと思います。



[29127] 第五話「俺も一緒だ!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/08/15 07:51
 第五話「俺も一緒だ!」


8月16日夜、ガロードは芳佳、美緒、ミーナと共にブリタニアの上層部の元から501基地へ輸送機に乗って帰還途中だった。
「むう~……」
「なんだもっさん? 随分と機嫌悪いじゃねえか」
「上層部の奴らが態々呼び出しておいて何かと思えば、予算の削減だなんて聞かされたんだ、顔にもでるさ」
そう言って美緒は腕組みをしながら不機嫌そうにムスッとしていた。
「俺もさりげなくDXよこせって言われちゃったぜ」
「でもすごいよねガロード君、言葉巧みに誤魔化してDXを守るなんて……」
「まあね! 交渉術には自信があるのさ!」
「彼らも焦っているのよ、いつも私達に戦果をあげられてはね、自分達でも操縦できるかもしれないDXを是非とも欲しいと思っているのよ」
(無理だと思うけどね……アレがなけりゃ)
そして美緒は激昂しながら話を続ける。
「連中が見ているのは自分達の足元だけだ!」
「戦争屋なんてあんなものよ、もしネウロイが現れていなかったら、あの人達……今頃は人間同士で戦い合っていたのかもね」
「さながら世界大戦だな」
そう言って美緒は上層部への侮蔑をこめた笑みを浮かべる、それを見ていたガロードは自分の世界で起こった戦争の事を思い出す。
(そっか、ここにはネウロイがいるから人間同士で戦うことは無いんだ、じゃあ俺達の世界のような事は起こらないのか……? まるでネウロイが人間同士の戦争を阻止しているみたいだ)
「ガロード君? どうしたの?」
「いや、なんでもない」
芳佳に話しかけられ思考を中断するガロード、そして彼は何気に輸送機の窓から外を眺めた。その時……。
『ララーララー……』
突如機内に少女の歌声が響き渡った
「……? 歌声……?」
「坂本さん、何か聞こえませんか?」
「ん? ああ、これはサーニャの歌だ、基地に近づいたな」
「私達を迎えに来てくれたのね」
芳佳とガロードは外にいるサーニャの姿を確認すると、彼女に向かって手を振った。
「ありがとうサーニャちゃん!」
「すげえな! 歌上手いじゃん!」
『……! ラ……ララーララー……』
するとサーニャは頬を赤く染めて、そのまま雲の中に潜りこんでいった。
「あらら、雲の中に入っちゃったよ」
「サーニャちゃんって照れ屋さんですよね」
「うふふ、とってもいい子よ、歌も上手でしょ……あら?」
その時ミーナはサーニャの歌が中断したことに気付き、彼女に確認を取る。
「どうしたサーニャ?」
『誰かこっちを見ています……』
「報告は明瞭に、あと大きな声でな」
『すみません、シリウスの方角に所属不明の飛行体、接近しています』
「ネウロイかしら……?」
『はい、間違いないと思われます、通常の航空機の速度ではありません』
「私には何も見えないが……」
美緒は右目の魔眼でネウロイの位置を確認しようとするが、うまくいかなかった。
『雲の中です、目標を肉眼で確認できません』
「そう言うことか……」
「おいおいこれってかなりやばいんじゃないの!? 俺達戦えないしサーニャだけ戦わせるのは……!」
「ど、どうすればいいんですか!?」
敵が近付いている事を知り動揺するガロードと芳佳、対して美緒は至って冷静だった。
「どうしようもないな」
「そんな!」
「悔しいけどストライカーが無いから仕方がないわ……は!? まさかそれを狙って!?」
「ネウロイがそんな回りくどいことなどしないさ」
『目標は依然、高速で接近しています、接触まで約三分』
「サーニャさん、援護がくるまで時間を稼げればいいわ、交戦はできるだけ避けて」
『はい』
そう言ってサーニャは自分の武器であるフリーガーハマーを構え、そのままネウロイがいる方角に向かって飛んでいった。
『目標を引き離します!』
「無理しないでね!」
「よく見ておけよ」
「は、はい……サーニャちゃんにはネウロイがどこにいるか判るんですか!?」
「ああ、あいつには地平線の向こう側にあるものだって見えている筈だ」
「へえー……」
「それでいつも夜間の哨戒任務に就いてもらっているのよ」
「お前の治癒魔法みたいなもんさ、さっき歌を聴いただろう? あれもその魔法の一つだ」
「歌声でこの輸送機を誘導していたのよ」
(まるでニュータイプみたいだな……もしかしてサーニャ、サテライトシステムを動かせたりして?)



一方サーニャはネウロイの位置を特定しフリーガーハマーの引き金を引いた。
「……!」
フリーガーハマーから放たれた数発の弾はそのまま雲の中にいると思われるネウロイの予想位置に着弾し、大きな爆発を起こす、しかし……。
「反撃して……こない?」
弾が当たっていないのか、ネウロイが撃墜された様子はなかった。
『サーニャ、もういい戻ってくれ』
「でも……まだ……」
息も絶え絶えにまだ戦える事をアピールするサーニャ、しかしミーナ達はそれを聞き入れなかった。
『ありがとう、一人でよく守ってくれたわ』
「はい……」
そしてサーニャはネウロイ撃墜をあきらめ、美緒達の指示に従い輸送機と共に戻っていった……。

すると彼女達の前方から、援護にやってきた他のウィッチ達が飛んできた。
「サーニャ!」
「エイラ……」
そしてエイラが真っ先にサーニャの元に駆けつけ、彼女の身の安全を確認する。
「大丈夫か? どこも怪我していないか?」
「うん、平気……」
『おうおう、仲いいじゃん二人とも』
「うっせ、からかうなよ」
茶化してくるガロードに対し、エイラは舌をべーっと出して反撃した……。
『ガロード君、エイラさんと仲いいね』
『まあな、基地に来た時初めて会話したのがエイラだったから……』
「鉄格子越しだったけどな~」



それから一時間後、ブリーフィングルームに集まった芳佳達ストライクウィッチーズ全員とガロードは、先ほどサーニャが撃墜しそこねたネウロイについて話し合っていた。
「それじゃあ今回のネウロイはサーニャ以外誰も見ていないのか?」
「ずっと雲に隠れて出てこなかったからな」
「けど、何も反撃してこなかったっていうけど、そんな事あるのかな? それ本当にネウロイだったのか?」
「……」
エーリカの指摘にサーニャは俯いてしまう。
「恥ずかしがり屋のネウロイ……なんて事ないですよね、ごめんなさい……」
「だとしたら、ちょうど似た者同士気でもあったんじゃなくて?」
「……べー」
リーネの言葉を使ってサーニャを皮肉ったペリーヌに対し、エイラはちょっとむっとしたのか彼女に対して舌をべーっと出した。
「ネウロイとは何か……それがまだ明確に判っていない以上、この先どんなネウロイが出ても不思議ではないわ」
「仕損じたネウロイが連続して出現する確率は極めて高い」
「そうね、そこでしばらくは夜間戦闘を想定したシフトを組もうと思うの、サーニャさん」
「はい」
「宮藤さん」
「は、はい!」
「それとガロード君……ガロード君?」
ミーナに名前を呼ばれて返事をする芳佳とサーニャ、しかしガロードの返事が返ってこず、一同は部屋の隅でしゃがみ込んでいる彼に視線を集中させる。
「しっかりしろガロード・ラン……! 正気を保つんだ……!」
実は芳佳達の殆どは風呂上がりでかなりラフな格好……つまり薄着であり、ガロードはそんな桃源郷を気恥ずかしさから直視できず、必死に冷静を保とうとしていたのだ。
「おいおい、本当にウブだなガロードは……それ!」
そんなガロードを見て、シャーリーは後ろから抱きつき、自分の豊満な乳房を彼の頭に載せた。
「のわああああああ!!? やめろってー!!」
「なんだこのぐらい~? この前私の生まれたままの姿見たくせに~?」
「ぶっ!!?」
ガロードはこの前の作戦の(第四話参照)どこぞのラッキースケベも真っ青なハプニングを思い出し、大量の鼻血を噴出した。
「こらリベリアン! ガロードに何をしておるか!」
「そそそそうですわ! そんなの卑怯ですわ!」
その様子を見てバルクホルンとペリーヌが止めに入る。ちなみにルッキーニは現在爆睡中なのでいつものように文句を言ったりはしない。
「ああん? 別にいいだろ、なんでお前らが文句言うんだよ?」
「そ、それは私がガロードの姉代わりだからだ!」
「いつのまに姉になったのトゥルーデ!?」
バルクホルンとガロードの意外な関係に驚くエーリカ。
「わ、わたくしはただその……ガロードさんが他の女性といちゃいちゃしているところ見たくないというかその……ごにょごにょ……」
(ペリーヌさん……いつの間にガロード君をさん付けで呼ぶようになったんだ……)
芳佳はあれだけ喧嘩していたペリーヌとガロードが仲良くなっている事に驚いた。
そして三人はガロードを巡って言い争いを始める。
「とにかく! ガロードをたぶらかすのはやめろ!」
「別にいいだろ~、それにガロードは堅物なカールスラント軍人より私の柔らかい胸のほうが好みなんだよ」
「きぃー! 女性の魅力は胸では決まりませんわ! やはり気品と上品さを兼ねそろえているワタクシが……!」

「な、なんだかとんでもないことになっているね……あれ? リーネちゃん?」
三人のやり取りを距離を置いて見ていた芳佳は隣にいたリーネに話しかけようとしたが、彼女がいつの間にか居なくなっている事に気付く。

「ふにゃあ~」
「うふふ、大丈夫ガロード君?」
リーネはいつの間にか鼻血を出して倒れていたガロードを膝枕で介抱していた。俗に言う漁夫の利って奴である。
((((く、黒い……!!))))
芳佳、サーニャ、エイラ、エーリカはそんなリーネの抜け目の無さに戦慄する。
「あ! こらリーネ!」
「抜け駆けはゆるしませんわ!」
「というか私にもやらせろ!」
そして始まる4人のウィッチによるガロードの屍争奪戦。
「……我々は何の話をしていたんだっけ?」
「四人とも……後でちょっと廊下に来なさい」ユラァ……

結局その日の作戦会議はグデグデのまま終了し、はしゃぎすぎたリーネ達はその後水の入ったバケツを持って廊下に立たされた……。

次の日の朝、微妙に低血圧なガロードはウィッチ達の食堂に足を運んだ。
「お! 何このおいしそうな果物?」
そしてテーブルの上に乗ったボールの中にある大量の青い粒状の果実を発見する。
「ブルーベリーだよ、私の実家から送られてきたの、目にいいんだよー」
するとそこに大量のブルーベリーが入ったボールを持ったエプロン姿のリーネがやってくる。
「へー、旨そうだ、ひとつもらっていい?」
「ふふふ……どうぞ」
ガロードは許可をもらってブルーベリーを一つ手に取り、それを自分の口の中に運んだ。
「うんめぇ~! 新鮮な果物なんて久しぶりだ~!」
「沢山あるからもっと食べていいよー」

「あ! ガロードだ! ねえねえ!」
するとそこにルッキーニがガロードの元に駆けよって来る。
「お、どうしたルッキーニ?」
「コレ見て! べー」
そう言ってルッキーニは自分の舌を見せる、彼女の舌はブルーベリーを食べた事により青くなっていた。
「はははは! 面白いなそれ!」
「でしょでしょー! 今度はあの二人に見せよーっと!」
ルッキーニはそのまま、バルクホルンと一緒のテーブルで食べているエーリカの元に向かった……。
「そーいやなんで皆でブルーベリーなんて食べてんだ?」
「そうか、昨日お前は途中で気絶してたな」
するとそこに美緒が現れ、ガロードに対し説明を始める。
「これからしばらくの間、夜間哨戒任務の人員を増やすことになってな……ガロード、お前にも宮藤とエイラとサーニャと一緒に出撃してもらうぞ」
「ん? 別にいーけどなんで俺?」
「輸送機でお前はあの戦闘を目撃している……それと上層部がDXの夜間戦闘のデータを欲しがっているのだ」
「成程ねえ……」
軍の上層部がらみだと知り、ガロードは憂鬱そうにため息をつく。
(すっかり忘れていたけど、俺そのうちここから逃げ出さないといけないんだよな……それまでにアレの隠し場所をなんとかしないと……)



そして朝食が終わり、美緒は芳佳とエイラとサーニャ、そしてガロードを自分の元に集める。
「さて、朝食も済んだ所で、お前達は夜に備えて……寝ろ!」
「へ?」



その数分後、“四人”は日光を遮って暗くしてあるサーニャの部屋兼・臨時夜間専従員詰め所に集められていた。
「はいはいはい! 異議ありだぜもっさん!」
「どうしたガロード?」
「いや! 女三人と男一人が一緒に寝るって流石にそれはねえんじゃねえの!? 芳佳達だって気を使うだろうし……!」
「これもチームワークの向上を図るためだ、それに……お前はそういう間違いをする度胸が無いことぐらい重々承知だ」
「いや! 否定できないけどさ!?」
「宮藤、万が一ガロードが襲いかかってきたら、こう握って……ブチッと引っこ抜いてやれ」
「「「「何を!!?」」」」


という訳でガロードは半ば強引に芳佳、サーニャ、エイラと一緒の部屋で寝る事になった。
「ごめんねガロード君、ベッドは私達が占領しちゃって……」
「別にいいぜ、むしろ野宿で雑魚寝の方が多かったからな俺、屋根の下で寝れるのはありがたい」
「どんだけ過酷な世界で生きてきたんだよお前……」
そう言ってエイラはタロットカードをペラペラとめくり始める。
「なんだかコレお札みたい……」
「お札?」
「お化けとか幽霊とかが入ってきませんようにっておまじない」
「私……よく幽霊と間違われる」
「へー、夜飛んでいるとありそうだよね」
「ううん、飛んでなくても言われる、いるのか居ないのか判らないって……」
「あはは……」
サーニャの話に芳佳は思わず苦笑いをする。恐らくペリーヌに言われたのであろうというのは想像するのに難しく無かった。そしてガロードは幽霊と聞いて、ある人の事を思い出す。
「幽霊か……なんかルチルさんを思い出すなー」
「ルチル? 誰だそれ?」
「正真正銘、本物の幽霊さ、その人に俺達助けてもらったことがあってさ……その人がいた海は皆に“ローレライの海”って呼ばれていたんだ」
「ガロード君本物の幽霊に会ったの!? すっごーい!」
「その幽霊……どんな人だったの……?」
ガロードの話に興味を抱く芳佳達。



それから数分後、ガロードの話を聞き終えた皆は次にタロット占いに興じていた。
「エイラすげーな、未来予知の魔法が使えるのか、まるでニュータイプだな」
「ほんのちょっと先の未来しか見れないけどな……ていうかなんだよニュータイプって?」
そう言いながらエイラはタロットで芳佳の未来を占う、そして彼女が手に取ったカードを見せてもらう。
「どれどれ……おおよかったな、今一番会いたい人ともうすぐ会えるって」
「え!? そうなの? でも……それは無理だよ」
占いの結果を聞いて芳佳は喜ぶが、すぐに暗い顔をする。
「なんで?」
「だって私の会いたい人……」
エイラは何となく、芳佳の会いたい人が恐らく遠い世界に行ってしまった事を察知し、苦い顔をする。
「そっか……うう~ん、そう言われてもなー」
「まあ未来なんて誰にも判らないさ、俺が言うんだから間違いない」
「ちぇー、なんだよガロードまで……」
そう言ってエイラはベッドにごろんと寝転がった。
「……あれ?」
その時芳佳は部屋に掛けてあったカレンダーの8月18日の欄が赤いペンで○を付けられてチェックされている事に気付く。
(あの日……確か……)





その日の夕方、それなりに睡眠をとった四人は再び食堂に足を運ぶ。
「ん? なんか暗いね……」
「暗い環境に目を合わせる訓練なんだって」
「へー、で何このお茶?」
ガロード達はテーブルの上に置かれていたティーカップをまじまじと見つめる、するとペリーヌが声高らかに説明を始めた。
「マリーゴールドのハーブティーですわ、これも目の働きを良くすると言われていますわ」
「あら? それって民間伝承じゃ……」
そう指摘するリーネに対し、ペリーヌは猛犬のように噛みつく。
「失敬な! コレはおばあさまのおばあさまのそのまたおばあさまから伝わるものでしてよ! がるるる……!」
「ご、ごめんなさい……」

そして他の隊員達も、ペリーヌが出したハーブティーをそれぞれ口にする。
「サンショウみたいなにおいだね」
「サンショウ?」
「芳佳、リーネ、もっかいべーってしてみて」
そう言ってルッキーニは自分の舌を見せる、舌はブルーベリーの時と違い何も色が付いていなかった。
「「べー」」
ルッキーニの言うとおり見せた芳佳達の舌も同じだった。
「うう~! つまんなーい!」

「く……!」
「どっちらけ……」
ルッキーニの反応を見て悔しそうにするペリーヌに、エイラはフッとバカにしたような笑みを浮かべる。
「べ、別にウケを狙ったわけではなくてよ!?」

「うーん、お茶の味はよく解んねえや、全部同じ味がする」
「まずい……」
ハーブティーをがぶがぶ飲むガロードとは対照的に、サーニャはまずそうにちびちびと飲んでいた……。



その日の夜、芳佳、エイラ、サーニャはストライカーユニットを履いてライトが照らす滑走路に立っていた。
「ふ、震えが止まらないよ……!」
「なんで?」
「夜の空がこんなに暗いなんて思わなかった……!」
芳佳は夜の闇の予想以上の暗さに全身を震わせていた。
「夜間飛行初めてなのか?」
「無理ならやめる?」
芳佳を気遣うサーニャとエイラ、しかし芳佳は首を横に振った。
「て……手を繋いでもいい? サーニャちゃんが手を繋いでくれたらきっと大丈夫だから……」
「……わかった……」
そう言ってサーニャは芳佳の右手を掴む、するとエイラも面白くなさそうな顔で芳佳の左手を掴んだ。
「エイラさん……?」
「さっさといくぞ!」
「え!? ちょ! 心の準備が~! う、う、うわ~!」
そしてサーニャとエイラは芳佳の言葉も聞かず手を繋いだまま空へ飛翔した。
「手え離しちゃダメだよ! 絶対離さないでね!」
「もう少し我慢して……雲の上に出るから……」
ドンドン上昇する三人、そして三人は雲の上の月と星の光に照らされた空域にやってくる。
「すごいなー! 私一人じゃ絶対にこんな所まで来れなかったよ~!」
芳佳は先程とは打って変わって嬉しそうに飛びまわる。
「ありがとう! サーニャちゃん! エイラさん!」
「ふふ……」
「いいえ……任務だから……」

『おおーいお前らー、俺を置いていくな~!』
するとそこにDXに乗ったガロードが芳佳達の後ろに現れる。
「あ……ガロードさん……」
「おおー、ようやく来たか~、早く来ないと置いて行っちゃうぞー」
「あははは……」





次の日の朝、食堂にある飲み物が置かれていた。
「な、なんですのコレ……」
「肝油です、ヤツメウナギの、ビタミンたっぷりで目にいいんですよー」
「すんすん……なんか生臭いぞ」
「魚の油だからな、栄養があるなら味など関係無い」
どうやら隊員達の間では肝油の評判は悪いようだ。そしてペリーヌは芳佳に対しバカにしたような高笑いを上げる。
「おーっほっほっほ! いかにも宮藤さんらしい野暮ったいチョイスですこと!」
「いや、持ってきたのは私だが?」
「ありがたく頂きますわ!」
そう美緒に指摘され、ペリーヌは慌てて肝油を一気飲みし、あまりの不味さに顔を青く変色させる。
「べぇー!? なにこでー!?」
「エンジンオイルにこんなのがあったな……」
「ぺっ! ぺっ!」
「ううう……」
そして他の隊員達も肝油を飲んで不味そうなリアクションを取っていた。それを見た美緒はやはりかといった様子で頭をポリポリ掻いた。
「新米の頃は無理やり飲まされて往生したもんだ、あっはっは!」
「心中おざっじしまずわ……」

しかしそんな中! 肝油を飲みほす兵(つわもの)が二人!
「美緒、おかわりもらっていい?」
「おいおい残すなよ、もったいないな~」
鉄の舌を持っていると噂されているミーナと、食べられるものは何でも食べておく習慣が身に付いているガロードはちゃんと飲んでいた……。



それから数時間後、芳佳、エイラ、サーニャ、そしてガロードは夜間哨戒任務の為寝ようとするが……。
「あづー、全然寝れねえー」
気温が高く眠れないでいた。そこで芳佳は気を紛らわすためエイラとサーニャに話しかける。
「ね、ねえ、サーニャちゃんとエイラさんの故郷ってドコ?」
「私スオムス」
「オラーシャ……」
「えっと……それってどこだっけ?」
「スオムスはヨーロッパの北の方、オラーシャは東」
「そっか……ヨーロッパって確かほとんどがネウロイに襲われたって……」
「うん、私のいた街もずっと前に陥落したの」
「じゃあ家族の人達は?」
「皆街を捨ててもっと東に避難したの、ウラルの山々を超えてもっともっと……ずっと向こうまで……」
「そっか……よかった」
「家族は無事なんだな」
「何がいいんだよ、話聞いてないのかお前ら」
そう言ってエイラは頬を膨らませながら芳佳とガロードに言い放つ。
「だって、今は離れ離れでもいつかまた皆と会えるってことでしょ?」
「あのな、オラーシャは広いんだぞ、ウラルの向こうったって扶桑の何十倍もあるんだ、人探しなんて簡単じゃないぞ、大体その間にはネウロイの巣だってあるんだ」
「そっか……そうだよね、それでも私は羨ましいな」
「強情だなお前……」
「だってサーニャちゃんは早く家族に会いたいって思っているでしょ? だったらサーニャちゃんの家族だって絶対早くサーニャちゃんと会いたいって思っている筈だよ、そうやってどっちもあきらめないでいれば、きっといつかは会えるよ、そんな風に思えるのって素敵な事だよ」
「だよなあ、俺なんてもう家族は皆死んじまったし、サーニャ達が羨ましいぜ」
「……」



その日の夕方、寝汗でびっしょりの芳佳達はこれからどうするか話し合っていた。
「ガロード、お前はこれからどうすんだ?」
「へっへっへ……実はこの前、いい穴場を見つけたからそこに行ってくるぜ、ここの大浴場は男は使えないからな」
そう言ってガロードは芳佳達と別れ、そのまま外に出かけていった……。
「んじゃ私達はサウナにでも行くか、その後は水浴びだなー」
「サウナ? 何ですかそれ?」
「へっへー、付いてくれば判るさ」



数分後、ガロードは基地から大分離れた場所にある湖にやってきた。
「いやー、この前散歩してたらこんなにきれいな湖見つけちまったんだよなー、行水には最適だぜ」
そう言ってガロードはおもむろに服を脱いで海パン一丁(この前海に行った時に支給された奴)で湖の中に飛び込んだ。
「はぁー! 冷たくて気持ちいいぜ! お……!」
そしてガロードは水に浸かりながら水平線に沈んでいく夕陽を眺める。
「おお、絶景絶景、それにしても皆今頃なにしているのかな……」
ガロードは離れ離れになったかつての仲間達の事を思い出す。
(あの戦争の後、皆ちゃんと生き延びたのかな……? 激しい戦闘だったけど、まさか誰かやられたりしていないよな……)
頭の中にドンドンと悪い考えが巡って行き、ガロードはそれを振り払うかのように頬をパンパンとたたく。
「いかんいかん! 悪い風に考えちゃ……! きっとあいつらは大丈夫! うん! きっとそうだ!」
そう言ってガロードはざぶんと湖の中に潜り込んだ、その時……。
「ららーららー……」
「ん? この歌……」
湖の奥の方から歌声が聞こえてきた事に気付き、ザブザブと声のする方角に向かって行った。

「ららーららー……ん?」
するとそこには、生まれたままの姿のサーニャが岩の上で歌を歌っていた。
「うっ……!?」
ガロードは思わず叫びそうになりながらも言葉を飲み込み、その場で身を隠した。
(あ、あぶねー、見つかるところだった……というかサーニャ、なんでこんな所に……)

「サーニャちゃーん」
「おーいサーニャー」
すると今度は芳佳とエイラも現れる、もちろん二人は何も着ていないすっぽんぽんの状態である。
「あ、宮藤さん、エイラ……」
(げえー!? 今度は芳佳達まで!? は、早く逃げないと……!)
ガロードは芳佳達に見つからないようにその場から去ろうとするが……。
「!? 誰だそこにいるのは!?」
エイラがガロードの気配に気付き、近くに会ったゴルフボール大の石ころを拾い、ガロードのいる方角に投げた、すると石ころは見事カツンとガロードの脳天を直撃した。
「いってー!!? 何しやがる!?」
あまりの痛さにガロードはエイラ達の前に飛び出す。
「「「「あ」」」」
そしてガロードは芳佳達三人の生まれたままの姿を直視してしまった。
「うわわわ!!?」
「ひゃ……!」
芳佳とサーニャはすぐさま水の中に体を沈めて自分の体を隠す、そしてエイラは……。
「ガロードお前! なんでここにいるんだよ!?」
一切隠そうとはせず、逃げようとしたガロードを捕まえて芳佳達の元に引き摺ってきた。
「あ、あの……この前この水場を見つけて水浴びしようかなーって思って……」
「ここは私とサーニャの水浴び場だ! それで!? お前見たのか!?」
「み、見ていない! 三人の綺麗な水水しい肌なんて見て無い!」
「見てんじゃねえかあああああ!!!」
怒り心頭のエイラはそのままガロードの首にアームロックを決める。
「ぐえええええ!! 苦しい! それと当たってる!」
ガロードは首が締まる感覚と背中のやわらか~い感触で脳味噌が沸騰しそうになっていた。
「うっせ! おいこいつどうする!? 隊長に引き渡すか!?」
「そ、それは可哀そうだよエイラさん……」
「ガロードさんは悪気があって見たわけじゃないんだし……」
水に浸かったせいか意外と冷静な芳佳とサーニャ。
「うーん、まあサーニャが言うなら……」
そう言ってエイラはガロードを解放する、そしてガロードはすぐに岩場の影に隠れてしまった。
「はー! はー! いや悪かったな、今度から気を付けるよ」
「わかりゃいいんだよ、たく……」
「あはは……私お父さん以外の人に裸見られたの初めてだよ」
「私も……そう言えば昔お父様に言われた事がある、裸を見せていいのは家族と友達、それと結婚する相手だけだって……」
「「何!!?」」
サーニャの言葉に目を見開いて驚くエイラとガロード、そしてサーニャは頬を赤く染めながらガロードに語りかける。
「ガロードさん……私と結婚する?」
「えええええ~!!?」
サーニャの大胆発言に仰天する芳佳、するとサーニャとガロードの間に立ちふさがるようにエイラが仁王立ちした。
「だ、ダメだそんなの! サーニャを渡すくらいなら……渡すくらいなら……! 私がガロードと結婚する!!!」
「「えええええええええええ!!!?」」
エイラは大分混乱しているようで、自分が随分と的外れな事を言っている事に気付いていなかった。
「エイラ……ガロードさんと結婚するの?」
「はっ!? いやいやいやそういう意味じゃないというか、私が結婚したいのはサーニャ……うあああああ!! 何言ってんだ私~!!?」
頭の中がぐちゃぐちゃになり顔をばしゃんと水に沈めるエイラ。そしてガロードは……。
「ご、ご、ごめんなさーい! 俺には……俺にはー!!」
そのまま物凄い勢いで泳いで行ってしまった……。
「ああガロード君……いっちゃった」
「違うんだ、違うんだよサーニャ~!」
「よしよし……」


その日の夜、芳佳達は夜間哨戒任務の為夜空を飛行いていた。
『そーいえばさ、サーニャがいつも歌っている歌って何だ? すげー綺麗だよな』
「これは……昔お父様が私の為に作ってくれた曲なの、小さい頃、雨の日が続いていて、私が退屈して雨粒を数えていたらお父様がそれを曲にしてくれて……」
「サーニャの家は音楽一家でさ、サーニャ自身もお父さんの薦めでウィーンで音楽の勉強をしていたんだ」
「素敵なお父さんだね」
「宮藤さんのお父さんだって素敵よ、あなたのストライカーは博士がお前の為に作ってくれたんだろう?」
『え!? そうなの!? すげえじゃん!』
「えへへ……だけど折角ならもっと可愛いのがよかったかも……」
「贅沢いうなよ、高いんだぞアレー」
そして楽しくなって笑い合う四人、すると芳佳は少しストライカーを加速させ皆より一歩前に突き出た。
「ねえ聞いて、今日私誕生日なんだ!」
『へえ! おめでとう芳佳!』
「なんで黙ってたんだよー」
「私の誕生日はお父さんの命日でもあるの、なんだかややこしくて皆に言いそびれちゃった」
「バカだなあお前、こういう時は楽しい事を優先したっていいんだぞ?」
「ええー? そういうものかなー?」
『そういうもんじゃねえの? 俺はよくわからないけどさー』
するとサーニャは広域探査の魔法を強め、芳佳に語りかける。
「宮藤さん……耳をすませて」
「え?」
すると芳佳の耳に装着してあるインカムに、音楽らしき音が流れてきた。
「あれ? 何か聞こえてきたよ?」
『こっちも傍受したぜ、これは……』
「ラジオの音……」
「夜になると空が静まるから、ずっと遠くの山や地平線からの電波も聞こえるようになるの」
「ええ~!? すごいすごい! こんな事できるなんて!」
「うん、夜飛ぶ時はいつも聴いてるの」
「二人だけの秘密じゃなかったのかよ」
そう言ってエイラは不満そうにサーニャに語りかける。
「ごめんね、でも今夜だけは特別……」
「ちぇ、しょうがないなー」
エイラはまあいっかといった感じで芳佳とサーニャの周りをぐるぐると飛んだ。
「え? どうしたの?」
「あのね……」
「あのな、今日はサーニャも……!」
その時、広域魔法に何か引っかかったのか、サーニャは突如会話を中断する。
『ん? どうしたサーニャ?』
そして辺りにこの世のものとは思えない、曇った声の歌声らしきものが響き渡った。
「ん!? なんだ!?」
「これ、もしかして歌……!?」
『お、おい皆! 雲の中から何かがこっちに近付いてくるぞ! スゴイスピードだ!』
するとDXのレーダーはその“何か”が近付いてくることを察知する。
「ネウロイだよきっと!」
『くそ……! まさか俺達だけのところを狙ってきたのか!? 通信も繋がらねえ!』
「……! 皆避難して!」
『お、おい!?』
するとサーニャはある事に気がついたのか、突然急上昇して芳佳達から離れた。
「サーニャちゃん!?」
するとネウロイは突如赤い光線をサーニャに向かって放つ、そのビームはサーニャの左足を掠めた。
『サーニャ!』
バランスを崩して落下しそうになるサーニャ、そんな彼女をガロードはDXで空中で受け止める。
『バカ! いきなりなんて無茶するんだ!?』
「一人でどうするつもりだよ!?」
「敵の狙いは私……! 間違いないわ、私から離れて……一緒にいたら……!」
サーニャはネウロイが自分を狙っている事に気付き、芳佳達を危険な目に遭わせないよう自分から離れていったのだ。
「バカ! 何言ってんだ!」
「そんなことできるわけないよ!」
「だって……!」
サーニャは涙目になりながら二人に訴える、するとガロードはDXの手の上にいたサーニャを芳佳に抱えさせた。
『そんなことしなくても……俺達がパパッとやっつければいいんだよなぁ?』
「……! ああ、その通りだ!」
そう言ってエイラはサーニャの武器、フリーガーハマーを肩に抱えてガロードのDXと共に迫ってくるネウロイに対し向かい合った。
「サーニャは敵の動きを私に教えてくれ、大丈夫……私は敵の動きを先読みできるから、やられたりしないよ」
『俺も一緒だ! 皆がいればあんな奴怖くねえぜ! 俺達は絶対負けない!』
「あ……うん」
サーニャはエイラとガロードの力強い言葉にコクンと頷いた。
「ネウロイはベガとアルタイルを結ぶ線の上をまっすぐこっちに向かっている、距離……約3200」
「こうか?」
「加速している、もっと手前を狙って、そう……あと三秒」
『わかった!』
サーニャは広域魔法を駆使してエイラとガロードに敵の現在位置を伝える。
「今だガロード!」
『当たれえー!』
そしてネウロイが標準内に入った時、二人は一斉に持っていた武器の引き金を引いた。
飛んでいくフリーガーハマーの砲弾とバスターライフルのビーム、すると入れ替わりでネウロイから放たれた赤い光線が芳佳達を襲った。
『おっと!!』
皆はそれを上昇することで回避する、そして下にある雲の中に大きな物体が通り過ぎていくことに気付いた。
『仕留めそこなった!?』
「ううん、速度が落ちてる……ダメージがあったんだ、あ! 戻ってくる!」
「戻ってくんな!」
そう言ってサーニャは雲の中を駆けるネウロイに向かってフリーガーハマーの弾を撃ち込んでいく、しかしネウロイはそれを悠々と回避してしまった。
「避けられた!?」
『畜生お前! ちょろちょろすんな!』
ガロードはDXのビームだけでなく、体に装備されているバルカン砲も駆使してネウロイを攻撃する、するとネウロイは雲の中から飛び出し、まっすぐガロード達に向かって飛んできた。
『エイラ!』
「判ってる! うりゃー!」
エイラは持っていた自分の銃で迫ってくるネウロイの先端をガリガリと削る。そしてついにコアが露出した。
「ガロード!」
『おうよ! 俺の射撃技術見て度肝抜かすなよ!』
そう言ってガロードは一度深く深呼吸し、ビームライフルの標準を露出したネウロイのコアに定め、そのまま引き金を引いた。
放たれたビームはそのままコアを撃ち抜き、ネウロイはガラス片になってバラバラと崩れ、慣性の法則で破片は下の雲をすべて払ってしまった。
『よっしゃ一発必中……ってうわ!』
「ガロードくん!」
ガラス片はそのままガロード達を飲み込もうとしたが、芳佳がとっさに魔力シールドを張ったことで大事には至らなかった。
「気がきくな宮藤」
「えへへ……あれ? 歌がまだ聞こえる……」
『これって……ピアノの音……お父様のだ!』
そう言ってサーニャは芳佳の手から離れ、月に向かって舞う様に飛んだ。
「そっかラジオだ! この空のどこかから届いているんだ! すごいよー奇跡だよ!」
「いや、そうでもないかも」
「え?」
「今日はサーニャの誕生日だったんだ、正確には昨日かな……」
『え!? じゃあ芳佳と同じ日なのか!?』
「サーニャの事が大好きな人なら誕生日を祝うのは当たり前だろ? 世界のどこかにそんな人がいるなら、こんな事だって起こるんだ、奇跡なんかじゃない……」
『そっか……そうだよな』
「エイラさん優しいね」
「そんなんじゃねえよ……バカ」
そう言ってエイラは芳佳達から顔を反らす、彼女の顔は気恥ずかしさで真っ赤になっていた。

そしてサーニャは涙を舞い散らしながら父と母を想い夜空を見上げた。
「お父様、お母様……サーニャはここにいます……ここにいます」
そんな彼女に対し、芳佳はお祝いの言葉を捧げる。
「お誕生日おめでとう、サーニャちゃん」
「貴女もでしょう? お誕生日おめでとう宮藤さん」
「おめでとな……」
『二人ともおめでとう!』
「あ……ありがとう!」





その時、ガロードのコックピットに501基地の指令室から通信が入った。
『ガロード君! 皆! 聞こえてる!?』
「お、ミーナさん、こっちは終わったぜー」
『そうじゃない! もう一つ近付いて来ているぞ!』
「え?」

すると雲の向こうからキラリと光り、そこから一つの影が猛スピードで接近してきた。
「なんだアレ……?」
「まさか……ウィッチ!?」
芳佳達は急接近してくる物体が仮面を被り白鳥のような羽を頭から生やしたウィッチだという事に気付く。
そしてそのウィッチは持っていた銃の銃口を芳佳達に向けた。
「! 宮藤! シールドだ!」
「え!? あ、はい!」
エイラは危機を察知して芳佳にシールドを出させる。すると仮面のウィッチは銃の引き金を引き、銃口からビーム弾を1、2、3発と放った。
「きゃ!!」
「私達に向けて撃った……!?」
「反撃するぞ宮藤!」
芳佳にビーム弾を防いでもらい、相手に敵意があると判り反撃しようとするエイラ。
「そ、そんな私……人を撃つなんて……!」
しかし芳佳は手が震えて銃を構える事が出来なかった。
(くっ……宮藤はビビっちゃってるし、サーニャはストライカーが片っぽ壊れてる、DXじゃ小回りが利くウィッチ相手は不利だ……なら!)
覚悟を決めたエイラはガロードと芳佳に指示を出す。
「私があいつを引きつける! 宮藤はサーニャを頼む! ガロードはそれとなく援護してくれ!」
「エイラ!?」
「エイラさん!」
エイラはそのまま仮面のウィッチに向かってストライカーを加速させ、持っていた銃の引き金を引く。しかし仮面のウィッチはそこから放たれた銃弾を難なく回避した。
「読まれたか!? くっ……!」
エイラはそのまま仮面のウィッチを追いかけるが、相手はそのままエイラの後ろに回り込もうとする。
「んな?! くそ!」
有利な位置に移動しようとしても、相手に動きを読まれて思う様にいかないエイラ。
(なんでだ!? 相手の動きが読めない! まるで向こうも私の力を使っているみたいだ……!)
その時、エイラのインカムにガロードのうろたえる声が聞こえてきた。
『あの動き……まさか……!』
「ああん!? なんだよガロード! あのウィッチの事知っているのか!?」
『い、いや……でもそんなバカな……!』
ガロードの脳裏に、かつて味方として、そして敵として戦ったある特殊能力をもった戦士達の戦う姿が浮かんでくる。
(あのウィッチの動き、ジャミルやカリスの……!)
『気を付けろエイラ! そいつニュータイプだ!』
「にゅー……!? またそれかよ!?」
『とにかく援護する!』
そう言ってガロードはブレストバルカンを仮面のウィッチの進行方向に向かって放ち、動きを一瞬だけ止めた。
「今だ!」
その隙を見逃さなかったエイラは銃で反撃する、しかし仮面のウィッチはシールドを張ろうともせずに、上体を捻らせ銃弾を回避し、その勢いで背中を向けたままエイラに向かってビーム弾を放った。
「くっ……!?」
ビーム弾はエイラのストライカーを翳めた。
「そんな!? エイラが被弾するなんて!!」
「こ、この!」
エイラは反撃を試みようとする、しかし……。

―――ピリリリリリ!

「うっ!?」
「な、何これ……!?」
「息苦しい……!」
戦っているエイラだけでなく、芳佳とサーニャも頭に電流が流れる感覚で苦しみ出す。
(まさか……ウィッチとニュータイプが共鳴しているのか!?)
「データ収集完了……帰還します」
仮面のウィッチはエイラの被弾を確認すると、そのまま猛スピードでその場から去っていった……。
「逃げた……?」
「何だったんだアイツ……?」
芳佳達は追いかける余力が無く、去って行く仮面のウィッチを呆然と見送った……。










次の日、美緒とミーナは芳佳の父、宮藤博士の墓がある丘に赴き、花を添えていた。
「今回のネウロイは明らかにサーニャに拘っていた、行動を真似してまで……」
「ネウロイに対する認識を改める必要があるのは確かなようね」
「上の連中……このことをどこまで知っていると思う?」
「さあ? もしかしたら私達よりもっと多くの事を掴んでいるのかも……」
「うかうかしてはいられないか……それにあの仮面のウィッチの事もある」
「そうね、一体何者なのかしら……ガロード君は何か知っている様子だったけど……」
「ん?」
すると美緒達は墓に一枚の写真が添えられている事に気付き、それを見て思わず笑みをこぼした。


写真には芳佳とサーニャがガロード達に囲まれながら、バースデーケーキを持って笑顔を向けている姿が映っていた……。










今回はここまで、次回は原作7話を大幅改編してお送りいたします。新キャラもでるかも?
今のところエイラが一番Xのニュータイプっぽい能力を持っていますね、ただティファの方が見渡せる未来が長いっぽいのかな?

明日は終戦記念日ということで本日は予定を早めて投下させていただきました。
過去を忘れるのはいけない事だけど、それに囚われ過ぎて未来が見えなくなることはもっと不幸なことなんだなと、最近のネットのニュースを見て思います。



[29127] 第六話「何がスースーするんだ?」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/08/18 23:55
 第六話「何がスースーするんだ?」


ある日の朝、ガロードは熱くて早く目が覚めてしまい、いつもの湖で行水した後基地の周辺を散歩していた。
「ったく……最近あっちいんだよ、もっと涼しくならないのかな……うわっと!!?」
その時、ガロードの足元を何か灰色の小さいものが通り、それは近くの草むらに入っていった。
「なんだなんだ? 今のは……」
ガロードは気になってその影を追って草むらに入る、するとその先で……。
「ふんっ! ふんっ!……ん? ガロードじゃないか?」
木刀で素振りをしている美緒がいた。
「おはようもっさん、こっちに何か小さいのが来なかったか?」
「小さいの……? ここには何も来なかったが?」
「そっか、見失ったかー」
「それにしても起きるのが早いなガロード、どうだ、私と一緒に訓練でも……ってもういない!?」
美緒はガロードを訓練に誘うが、そのガロードはいつの間にか逃げていた。
「逃げ足が速いな……流石は私が見込んだ男!」


数分後、ガロードは朝食をたかりにウィッチの食堂に向かっていた。
「あぶねーあぶねー……さて、今日の料理は誰が担当なのかな~っと」
「あ! ガロードじゃんおはよー!」
するとそこにエーリカが手すりを滑りながら階段を下りてきた。
「おーエーリカじゃん、おはよー」
そう言ってガロードは立ち止まり、エーリカに挨拶する。
「あースースーするー」
「ん? 何がスースーするんだ?」
エーリカは勢いよく降りた後ガロードの目の前に着地する、その拍子で彼女のカールスラントの軍服がぺらりとめくれた。
「ん……? んん!?」
ガロードはそんなエーリカの姿を見て顔を真っ赤にして驚いた。なぜなら彼女はパン……じゃなくてズボンを履いていなく尻が丸出しだったのだ!
「おまっ、お前!? ズボンどうしたんだよ!?」
「いやー、実はいくら探しても見つからなくてさー、代えが無いか探していたんだよー」
するとガロード達のところに窓から風が吹いてきて、エーリカの軍服をめくった。
「ば、バカ野郎! 少しは隠せ!」
「あはははー、ごめんねー」
そう言ってエーリカは大浴場の更衣室に向かった。
「どこ行くんだエーリカ?」
「いやー、こうなったら誰かのズボンを借りて履くしかないじゃん」
「いやいやいや! その理屈はおかしいんじゃないの!? 普通に探せよ!」
ガロードは浴室に向かおうとするエーリカの腕を取る、その時……。
「あれー!!?」
更衣室からルッキーニの叫び声が響いた。
「ん? あの声は……」
「ルッキーニか?」
何事かと思い、ガロードとエーリカは更衣室を覗きこむ。そこにはノーパン姿で頭を抱えているルッキーニの姿があった。
「うおっと!」
ルッキーニの姿を見て思わず視線を反らすガロード。
「どうしたの? そんな大声出して……」
「あのねあのね、脱衣籠置いてあった私のズボンが無くなっているの」
「ルッキーニもなのか?」
するとそこに、風呂から上がって体にバスタオルを巻いただけの姿の芳佳、ペリーヌ、美緒が現れた。
「ん? どうしたのだルッキーニ、ハルトマン、それにガロード?」
「ふえええええ!!? が、ガロード君なんで更衣室にいるの!?」
「へ!? いやこれは違うんだ!」
「も、もう……いくらお年頃とはいえやりすぎですわ……」
隠そうとしない美緒、そんな彼女の後ろに隠れる芳佳、そして最初は戸惑いつつもまんざらではない様子のペリーヌ、三人のリアクションはバラバラだった。
「あのね、私のズボンが無くなってて……」
「まったく、整理整頓をちゃんとしないからそう言う事になるんですわ」
ペリーヌはため息混じりにルッキーニを見ながら自分の脱衣籠に手を伸ばす。そしてある事に気付いた。
「あ……あら? ワタクシのズボンがありませんわ」
すると同じく脱衣籠に手を伸ばしていた芳佳と美緒も首を傾げた。
「あれ? 私のスーツも無い!」
「む、私のもだ……一体どうなっている?」



数十分後、基地にいるウィッチ全員(ミーナとリーネは買い出しの為不在)+ガロードは食堂に集められていた。
「つまり……少佐達も何者かにズボンを盗られたっていうの?」
「“も”ということは……」
「ああ、我々のズボンも盗られた」
そう言ってバルクホルン、シャーリー、エイラ、サーニャ、エイラは一斉に頷いた。
「起きたらタンスの中を荒らされていたんだ」
「今は代えのズボンを履いているからいいけど……これもネウロイの仕業なのか?」
「んな訳あるかい」
シャーリーのボケか本気かどうかも分からない一言に突っ込みを入れるエイラ、その一方でガロードはほっと胸を撫で下ろしていた。
(よ、よかった……てっきり皆何も穿いていなかったのかと……)
「むう、ネウロイではないとなると、やはりドロボーなのか?」
「ウィッチの基地に忍び込むとはいい度胸だな……よし、まだ遠くに行っていないかもしれない、皆で手分けして探そう」
「異議なーし!」
美緒とバルクホルンの提案に、ルッキーニが元気よく両手を上げて返事をする(ノーパンのまま)。

こうして9人のウィッチと一人の炎のMS乗りによるパン……ズボン泥棒探しが始まった。



そしてガロードはエーリカとルッキーニと一緒に、まずエーリカの部屋を調べにやってきた。
「うわ! なんだこの汚い部屋!?」
「なんかゴチャゴチャしてる~」
二人は物が散乱しているエーリカの部屋を見て驚く。
「しょーがないじゃん、私片付けるの苦手なんだよー、それより早くズボン泥棒の手がかりを探そう」
三人はズボン泥棒の手がかりを探す為、物が散乱する部屋の中を捜索し始める。
「しっかし汚い部屋だねー、あ、キノコ生えてる」
「おいおい、なんか勲章っぽいの落ちてたぞ、コレ大事な物じゃないのか?」
「んー? 別にどうでも……その辺に置いといて」
(なんつー奴だ……ここの基地にいる軍人ってやっぱ変わっているなあ)
ガロードは自分の世界で出会った軍人たちの事を思い出し、改めて501小隊の異質さを認識する。
(まあしょうがないのか、普通なら学校に行っててもおかしくない歳だしな……ん?)
その時ガロードは、ばら撒かれた本の下から一枚の白い布を見つける。
「何だコレ? ハンカチ?」
「あ! 私のズボン! そんなところに!」
「うぉわ!?」
それは盗まれたと思われたエーリカのズボンだった、それに気付いたガロードは思わず顔を赤くしてズボンを放り投げた。
「なーんだ、ズボンここにあったんじゃん」
「いやーごめんごめん、余計な手間を掛けさせちゃったねー」
そう言ってエーリカは放り投げられたズボンを拾い上げ、そのまま穿いた。
「た、たく簡便してくれよ……」
「んじゃ今度は脱衣所に行ってみよっか」
「れっつらご~!」



数分後、三人はルッキーニ達のズボンが無くなった脱衣所にやってきた。
「手がかり手がかり~、犯人の手掛かりないかな~?」
ルッキーニは犯人の手掛かりがないか、地面をハムスターのように四本足でうろちょろし始めた。
「だから! なんか履けー!」
ただノーパンなのでもう尻が丸見えで、エーリカはともかくガロードはもう恥ずかしさで顔で茶が沸かせそうになっていた。
「えー、別にこのままでいいよー」
「ガロード、気にしすぎなんじゃなーい?」
「なんで俺お前らと行動しているんだろ……ええい! ちょっと待ってろ!」
そう言ってガロードは一旦脱衣所から出て、5分くらいしてある物を持って現れた。
「ほら! コレ履いとけ!」
「んー? 何これ?」
「俺の海パン! しばらくはこれで我慢しろ!」
「おー! さんきゅー♪」
ルッキーニはガロードから海パンを受け取ると、そのままずいっと履いた。
「うりゅ~、なんかゴツゴツする~」
「我慢しろよ、ノーパンのままだとこっちの身が持たないんだから……」

「あ! ねえ二人とも! こっちきて!」
するとエーリカが何かを発見し、ガロードとルッキーニを呼ぶ。
「どしたの!? なんか見つけた!?」
「コレ見てコレ!」
エーリカの指差す先には、何か薄い黒い斑点のようなものがいくつもあり、それは脱衣所の外まで続いていた。
「なんだコレ? 足跡……?」
「きっと犯人のだよ! 追いかけてみよう!」
三人は外まで続く足跡を追っていった……。


数十分後、三人は足跡を追跡して基地の外にある森にやってきた。
「まだ足跡続いてる……どこまで行ったのかなー?」
「あれ? この辺って確か朝に変なのが通り過ぎた……」
その時、近くの草むらで何かガサガサと何かが動く音が聞こえた。
「何かいるよ!」
「ここか……!」
代表してガロードがその音がした草むらをかき分ける、すると……。
「ワン!」
「うわっ!?」
灰色の物体がガロードの顔に覆いかぶさり、彼の視界を防いだ。
「うわああああ!? なんだコレ!? 生臭いんだけど!?」
「こいつ……犬?」
ガロードの顔にへばりついているのは、釣り目で灰色の小さい豆柴だった。
「あ! 見て見て!」
するとルッキーニは草むらの中で、一か所に敷き詰められている大量のズボンや美緒と芳佳のスーツを発見する。。
「ここにあるのみんなのズボンじゃない!?」
「ホントだ―! それじゃ、みんなのズボンを盗んだのは……」
そう言ってエーリカとルッキーニは顔にへばりついた子犬に悪戦苦闘するガロードを見た。
「ワンワン! ワン!」
「だぁー! 誰か取ってくれ~!」



一時間後、三人はブリーフィングルームに皆を集めて、連れてきた豆柴の子供と盗まれたズボンを皆に見せた。
「よ、よかった~! 私のスーツが返ってきた~!」
「しっかし、ズボン泥棒の正体がこんな子犬だったとはねー」
そう言ってシャーリーは机の上で大人しく座っている豆柴の頭を撫でる。
「寝床を作るためにその豆柴が私達のズボンを盗んでいたのか」
「まったく、人騒がせな犬ですわ」
「あの少佐……この子どうするんですか?」
不安そうなサーニャの質問に、美緒は難しそうな顔で首を傾げた。
「うーん……このまま逃がしても同じ悪さをするだろうし、この基地に害を及ぼすなら最悪……」
「そ、それはちょっと可哀そうだろ少佐!」
シャーリーは美緒が何を言いたいのか察知し必死に反対する。するとエーリカが何かを思いついたのか手をポンと叩く。
「そーだ! 折角だしうちの基地で飼っちゃえば!?」
「何を言っているのだハルトマン中尉、そんなことできる訳……」
「そこら辺はさー、ウィッチ達の心のケアが目的―とか適当な理由付けてミーナに説得してもらおうよ!」
「これは簡単な問題では……」
「でも坂本さん、この子とってもかわいいですよ?」
「可愛いければいいという問題では……」
その時、美緒は芳佳が抱きあげた豆柴と視線が合う。
「くぅ~ん……?」
「うっ!?」
その瞬間、美緒は何故か自分とその子犬が浜辺で追いかけっこをしている幻影を見た。一昔前の某CMみたいに。
「お、おのれ……私の心をここまで揺さぶるとは……!」
(あの犬、意外と世渡り上手だなー)
ガロードは何となく自分とその子犬の同じところを感じった。
「あらみんな? こんな所に集まって何をしているの……? ていうかその犬何?」
「わあ~子犬だ~、芳佳ちゃん私も触っていい?」
するとそこに買い出しから帰ってきたミーナとリーネが現れた。
「おおミーナ、実はな……」

~美緒、事情を説明中~

「なるほどね……皆はこの子をどうしたいの?」
ミーナは皆の意見を聞く事にした。
「私はこの子飼いたいです……」
「私もです!」
「そ、その……私も……」
「私は別に構わないぜー」
「もちろんおっけー!」
「私は別にどちらでも……」
「まあ拾ってきた以上、最後まで責任は持つよ~」
「噛まないなら……」
「ま、別にいいと思うけどー?」
隊員達は皆豆柴を飼うことに反対しなかった。
「私も特に反対する理由はないぞ」
「判りました……では私のほうから上に伝えておくわ、その代わり……餌代とかは皆で出し合いましょうね」
ミーナの条件に芳佳達は首を縦に振った。
こうして豆柴は501基地で飼われる事が決定した……と思いきや、エーリカが突然何かを思い出し手を上げて意見を出してきた。
「そーいや大事な事忘れてた! その子の名前どうすんの!?」
「名前か……豆柴は扶桑の犬種だし、扶桑の名前がいいか……」
「あれ? 皆見てください」
その時、芳佳は抱えている豆柴の首に何かが掛かっている事に気付き、近くにいた美緒とミーナに見せる。
「これは首輪? もしかしてこの子捨て犬だったのかしら?」
「名前のようなものが彫られているな、“九字兼定(くじ かねさだ)”……ほう、立派な名前じゃないか」
「じゃあ君は兼定だね、よろしく兼定」
「ワン!」ニヤリ
「ん?」
兼定と名前を付けられた豆柴は嬉しそうに芳佳のボリューム少なめの胸に顔を埋めた。
「あはは、くすぐったいよ兼定~!」
「あーん宮藤ずるい~!」
「私もさわりたーい!」
ガロードは芳佳の胸に顔を埋める兼定が何故かスケベ親父のように笑ったところを目撃する、しかしエーリカとルッキーニを始めとした他のウィッチ達にもみくちゃにされる兼定を見て、自分の見たものは幻だろうと無理やり納得した。
(まあ……そんなわけないか、さっきのは気のせいだよ気のせい)
こうして501にまた新たなる仲間が加わったのだった……。









本日はここまで、前回の半分以下の長さだったなあ……今回出した豆柴の九字兼定はストパン一期以前に発表されたOVA版や漫画の天空の乙女に登場したキャラです、リリジェネのもふもふ久遠みたいにこっちでも別次元のキャラを登場させたいなーと思って登場させました。

次回はミーナさんのお話です。



追記
すっかり忘れてた、芳佳&サーニャ誕生日おめでとう!



[29127] 第七話「忘れたりなんかしない」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/08/22 21:44
 第七話「忘れたりなんかしない」


ある日の朝、芳佳は格納庫にいる整備兵達にお茶と扶桑のお菓子を差し入れにやってきた。
「あの……コレ扶桑のお菓子なんですけど、よかったらみなさんで食べてください」
「……」
しかし整備兵達は何も言わず、ストライカーの整備を続けていた。
「あの……」
「すみません、ミーナ隊長から必要最低限はウィッチ隊との会話を禁じられていますので……」
「え?」
「おーい芳佳、何してんだー?」
するとそこに、ガロードがDXの整備にやってきた。
「あ、ガロード君……私扶桑のお菓子持って来たんだけど……」
「マジで!? うっはー超うまそうじゃん! 一個もらい!」
「あ……」
ガロードは芳佳が持っていたかりんとうをそのまま口に運ぶ。
「おーなんだこれ? 甘いんだなー!」
「ふふふ……よかったら後で沢山あげるよ、実家から沢山送られてきたんだ」
「マジで! やっほーい!」
そして芳佳はそのまま格納庫の外へ去っていった。
「さーって、DXの整備を始めるかなーっと……あん?」
「「「「「…………」」」」」
その時ガロードは、格納庫にいた整備兵全員が自分を見ている事に気付く。
「え、ちょ? 何あんたら? 俺の顔に何か付いてる?」
すると一番近くにいた整備兵が急に立ち上がり、つかつかとガロードの前に立った。
「な、なんだ!? やんのかコラ!? 俺の中の人は元暴走族の高校教師の役をやってた事があるんだぞ!?」
訳が判らない事を言って身構えるガロード、すると整備兵はガロードの両肩に自分の両手をバンッと置くと……。
「お願いします! ウィッチの子達の事……教えてください!」
血涙を流してガロードに懇願していた。そしてよく見ると後ろにいた他の整備兵達は皆ガロードに向かって土下座していた。
「へ?」



数分後、ガロードは整備兵達に囲まれながら彼らの事情を聴いていた。
「成程ね、ミーナ中佐がウィッチと男の交流を禁止していると……」
「はい、おかげで我々は彼女達と話すどころか、さっきのように芳佳さんの好意を受け取る事が出来ないのです……!」
そう言って整備兵Aは流れる涙を豪快に腕で拭きとった。
「何? アンタ達芳佳達と話したいの?」
「それどころかもう……彼女にしたいぐらいですよ!」
整備兵Bがガロードにグイッと顔を近づけ、後ろでは他の整備兵達がウンウンと頷いていた。
「ガロードさん……ウィッチはその魔力を扱う影響で自然と美人になるんです、男としてそりゃあ……気にならない訳ないでしょう!? ああ、俺も芳佳さんの手作りの料理食べたいなあ」
「俺はリネットさんに膝枕してもらいたい!」
「ペリーヌさんツンツンしてるけど、デレたらきっと可愛いんだろうなあ!」
「シャーリーさんの豊満な胸……一度でいいから顔を埋めたい! いや! 頭に乗せたい!」
「ルッキーニちゃんは最高だぜ! 12歳的な意味で!」
「バルクホルンさんをお姉ちゃんと呼びたい……」
「エーリカちゃんはマジ天使!」
「一度でいい……一度でいいからサーニャさんの歌を間近で聴きたい!」
「エイラさんに占いしてもらいながらキャッキャウフフなんていいなあ」
整備兵達がそれぞれ自分の溢れそうな欲望をガロードにさらけ出す、ガロードはそんな彼らを見て圧倒されていた。
(ていうか俺、こいつらの願いの殆どを達成しているな……言ったら殺されそう……ん?)
その時ガロードはある事に気がつく、それは今までの自分に対するミーナの態度だ。
「そう言えば俺、あんまりミーナ中佐にくっつきすぎるな~とか言われた事ないなあ、基本的芳佳達の周りをブラブラしてても何も言われないし……」
「それに関しては自分! 噂で聞いた事があります!」
すると整備兵Jが元気よく手を上げてガロードに説明する。
「ミーナ中佐が貴方を注意しないのは上層部の命令だと噂されています、あのDXの技術を何が何でも手に入れるため、ウィッチ達を使って貴方を取り込むつもりだとか……」
「使う? どういうこった?」
「その……解りやすく言えばハニートラップみたいなもので……」
「ああ、成程……俺のご機嫌取りってわけか」
つまり上層部はウィッチを犠牲にしてでも色香で自分を籠絡し、DXの技術を得ようとしているんだとガロードは考えた。
「まあ無駄だと思うけどな、俺の心はとっくにティファの虜にされているぜ」
「とにかく俺達、このままじゃいやなんですよぉ……女ッ気が無いままいつ死ぬかもわからない戦場に駆り出されて、野郎どもと抱き合ったまま天に召されると思うと……」
辺りに整備兵達のすすりなく声が響く、ガロードはそんな彼らのうち一人の肩に手をポンと置いた。
「泣くんじゃねえよ、まあ皆の気持ちは分かった。俺もミーナ中佐とそれなりに話してみるよ」
「おお! ありがとうございますガロードさん!」
「この御恩は一生忘れませんっ!!」
ガロードは整備兵全員から感謝と称賛の言葉を浴び続けた……。





数時間後、DXの整備を終えて格納庫から出たガロードは、暇つぶしに散歩でもしようと兼定と一緒に基地の外に出ていた。
「今日は天気がいいなあ、兼定」
「ワン!」
拾われてから兼定は特に芳佳と、自分と同じ雄に分類されているガロードになついていた。
そして兼定は尻尾を振りながらガロードの先を走って行った。
「あ、おい待てよ兼定―……ん?」
「え? うわ、なんだこの犬……?」
その時、兼定は何か手紙のような物を持って俯いている扶桑の軍服を着た少年を発見する。
「ようアンタ、扶桑の人か?」
「あ、貴方はもしかして……ガロード・ラン?」
「おろ? 俺の名前を知っているのか?」
「俺、貴方が助けてくれた赤城って戦艦に乗っていたんです、あの時はその……助けてくれてありがとうございました」
「赤城? ああ! あの時の……」
ガロードはこの基地に初めて来た時に初めて遭遇した戦闘で、扶桑海軍の艦隊を助けた事を思い出した。
「なあに、俺はただ当然のことをしたまでさ、それにしてもどうしたんだ? 元気無さそうだったけど……」
「じ、実はその……この手紙を宮藤さんに渡したかったのですが、ミーナ中佐に付き返されて……」
「あちゃー、またあの人か……それラブレター?」
「え、ええまあ……」
するとガロードは顔を赤くする少年兵から手紙を奪い取った。
「え? ちょ!?」
「なんなら俺が芳佳に渡しておいてやるよ! 俺ならウィッチに近付いても平気だしさ!」
「い、いいんですか!?」
ガロードの提案に少年兵の顔がぱあっと明るくなる。
「あんたみたいな人放っておけねえんだよ、鏡見ているみたいでさ……まあ任せてくれって!」
「ワン!」
兼定も“任せておけ!”と言わんばかりにワンと吠えた。
「あ、ありがとうございますガロードさん!」
そう言って少年兵は去って行くガロードと兼定に何度もお礼を言った……。





その日の夜、ガロードと兼定は芳佳の部屋に赴き、先ほど少年兵から預かった手紙を渡した。
「おーい芳佳、郵便だぜー」
「あ! これさっきの……ありがとうガロード君!」
手紙を受け取ってガロードに礼を言う芳佳、ふと、ガロードは芳佳の傍らにあるウィッチの人形に気付く。
「おろ? どうしたんだその人形? 可愛いじゃん」
「扶桑人形だよ、赤城の人がくれたんだ」
「へぇー、よく出来てるな」
「ちゃんとお礼が言いたいんだけど……ミーナ中佐にダメだって言われちゃった」
「うーん、あの人もなんでそこまで禁止するのかなー? ちょっと気になってきた……よし、芳佳よー、さっきのお菓子まだ残ってんのか?」
「うん残ってるよ? どうするの?」
「へへへ、まあ見てなって」



数分後、ガロード芳佳から貰ったお菓子を持ってエーリカの部屋にやってきた。
「相変わらず汚いなこの部屋……」
「んで? 態々お菓子持ってきてまで私に聞きたい事って何?」
そう言ってエーリカは芳佳のお菓子をぼりぼりと食べる。
「ミーナ中佐について聞きたいんだ、あの人ウィッチと男の関わりを極端に禁止しているだろ? なんでかなって思って」
「ああ、成程……別にうちの部隊に限った話じゃないけどね、面白くない話するけどいい?」
無言でコクコクと頷き了承するガロード。
「ミーナってさ……昔恋人がいたんだよね、クルトっていう音楽の道に進もうとしてた時に仲良くなった人でさ……でもネウロイと戦うため二人とも軍人になって、そのままネウロイとの戦争で……」
「……そっか、やっぱりそう言う訳か」
「あらま、意外な反応だね」
「俺の仲間にはそんな思いしている奴が結構いたから、ミーナ中佐もそんな感じかなーって思っててさ……」
「へえ、で……これからどうすんの?」
「話す機会があれば話してみるさ、あの人にはあの人なりの考えがあるんだろうけど、俺の考えも知ってほしいかなって……」
「そっか、まあ頑張りなよ」





次の日、基地にネウロイ襲撃を告げるサイレンが鳴り響き、ガロードとストライクウィッチーズはネウロイが出現したカールスラント付近の海域に出撃した。(シャーリー、ルッキーニ、サーニャ、エイラは待機)
『アレか!』
目的の海域に着いたガロード達は四角い箱状のネウロイを発見する。
「300m級か……いつものフォーメーションか?」
「そうね」
「よし、突撃!」
美緒の相図と共に、まずバルクホルンとエーリカが先行し、その後ろからリーネとペリーヌが続いていく。
「え!?」
するとネウロイは突然いくつもの小さな個体となって分裂し、ガロード達に襲いかかってきた。
「分裂しただと……!?」
「右下方80、中央100、左30」
「総勢210機分か、勲章の大盤振る舞いになるな」
「美緒はコアを探して、バルクホルン隊は中央、ペリーヌ隊は右を迎撃、宮藤さんは坂本少佐の直衛に入りなさい」
「「「了解!」」」
『ミーナさーん、俺は?』
「ガロード君も宮藤さんと一緒に坂本少佐のフォローに入って、コアを探している坂本少佐に敵を近づけさせないで」
『よっしゃ! 頑張ろうぜ芳佳!』
「うん!」
そしてウィッチ達は襲いかかるネウロイに対し迎撃を開始した。

「これで10機!」
「こっちは12機だ!」

「いいこと! 貴女の銃では速射は無理だわ、退いて狙いなさい」
「はい!」
「わたくしの背中は任せましたわよ!」


それぞれ迫ってくるネウロイを次々落としていく、それを少し離れた場所で見ていた芳佳とガロードは感嘆の声を上げる。
「皆……すごい……!」
『おっと! 感心している場合じゃないな! こっちにきた!』
すると約10機程のネウロイが芳佳達の方に向かってきた。
「くっ……!」
『当たれぇ!』
二人はその向かってくるネウロイをすべて銃弾で落としていく。
「いいわその調子よ!」
『まだコアは見つからないのか!?』
「ダメだ……見つからん」
「……! もしかしてまた陽動!?」
ミーナは以前戦ったネウロイ(二話に出てきたもの)の事を思い出す。しかし美緒はその意見を否定した。
「いや、コアの反応はする、しかしあの群れの中にはいないようだ」
『どっかに逃げちまったのか?』
「戦場は移動しつつあるわね」
その時、芳佳はふと上から何かが襲ってくる気配を感じ取った。
「……! 上です!」
そこには太陽を背に襲いかかる数体のネウロイがいた。
「くそ! 見えない……!」
『任せろ!』
ガロードはビームライフルの標準をネウロイの集団に合わせ引き金を引く、するとネウロイは一つを残して破壊された。
「! 見つけた!」
美緒はその最後の一個にコアがある事を見抜く。
「全隊員に通告、敵コアを発見、私達が叩くから他を近づけさせないで!」
「「「「了解!」」」」
ミーナはすぐさま他の隊員達に指示を出し、自分は美緒、芳佳、ガロードと共に雲の中に逃げていったコアを持つネウロイを追いかけていった。

「いた!」
そして雲を抜けてネウロイを発見したミーナ達は、そのまま一斉に銃撃を開始する。すると放たれた銃弾はネウロイに数発当たった。
「宮藤逃がすな!」
「はい!」
美緒に言われ芳佳はネウロイにトドメの一発をお見舞いする。その一発は見事コアに命中し、ネウロイはガラス片となって芳佳達に振りそそいだ。
「くっ……!」
「美緒!」
『ん?』
芳佳達は魔力シールドで、ガロードはDXのシールドでガラス片を凌いだ、そしてガロードは魔力シールドを張っている筈の美緒の顔にガラス片が掠ったのを目撃する。
『もっさん大丈夫か? 今……』
「大丈夫だ、心配するな」
「美緒……」
するとそこに、別の場所で戦っていたリーネ達が合流してきた。
「芳佳ちゃんすっごーい!」
「ふん! あんなのまぐれですわよ」
「いや、不規則な軌道の敵機に命中させるのは中々難しいんだ」
「宮藤やるじゃ~ん!」
「えへへへ……そうかな?」
皆に褒められて照れる芳佳、そして皆は戦火で廃墟になったカールスラントの街に降り注ぐネウロイの破片を見つめる。
「綺麗……」
「ああ、こうなってしまえばな」
「綺麗な花には棘が……とはよくいいますわね」
「自分の事か~?」
「な!? 失礼ですわね! ま、まあ綺麗なところは認めて差し上げてもよくってよ」
戦闘が終わり芳佳達の間に和やかな空気が流れる。
「……」
その時、ミーナは何かを見つけたのか近くの海岸に降りていった。
「あ、あれミーナ?」
「そうか。ここはカレー基地か……」
『……』
するとガロードもミーナの後を追う様にDXを海岸の方へ向かわせた。
「おいガロード?」
「少佐、ここはガロードに行かせてあげて」
「ハルトマン……?」
美緒はガロードを引きとめようとするが、エーリカにその必要はないと言われ、とりあえず様子を見ることにした……。





地上に降りたミーナは一台のボロボロの車に近付き、運転席のドアを開ける。
「あ……!」
そして助手席に赤いリボンで梱包された布袋を発見し、目を見開いた。
「ミーナさん」
するとそこにガロードが現れ、ミーナは布袋を持って彼の方を向く。
「……どうしたのガロード君?」
「うん、少し気になって……その車知り合いのか?」
「ええ、恋人の……この基地は彼が死んだ場所だから……」
「……そっか」
そしてガロードはボンネットに座り、ミーナに話しかける。
「皆に聞いたよ、規律の事とか、ミーナさんの昔の事とか……」
「そう……貴方もおかしいと思う? 軍の規律の事……」
「どうかなあ? 俺はここの軍人じゃないからよくわからない、ミーナさんはどう思うんだ?」
ガロードの問いかけに、ミーナはまっすぐな瞳で即答する。
「もちろん正しい事よ、いつ死ぬかも判らない戦場で、恋愛なんて……辛い想いしかしないわ」
「辛い、ねえ……」
ガロードはボンネットから降り、お尻の汚れをパンパンと払った後、ミーナの瞳をじっと見つめて問いかけた。
「その人との楽しかった思い出を思い出すのも……辛いのか? 好きになった事を後悔しているのか?」
「え……?」
ガロードの問いかけにハッと顔を上げるミーナ。
「俺だって嫌だぜ、大切な子と死に別れるのは……でも大切な人がいるからこそ、人は守る為に戦えるんじゃないのか? それにいつ死ぬかも判らないって……それじゃ死ぬつもりで戦っているみたいじゃん」
「そ、そんな事……!」
「俺はこの世界の人間じゃないから、ちょっと離れた場所で様子を見ることが出来るからさ、なんかミーナさんの事がそういう風に見えちゃうんだよね」
そしてガロードはどこまでも広がる青空を見上げる、まるで遠く離れた想い人を想う様に。
「俺は生きるために戦うぜ、大切な子と一緒に未来を掴む為に……それが俺の信念だ」
「生きるために……信念……」
「ミーナさんもさ、あんまり後悔ばかりしないでスカッと忘れてもっと楽に考えたらどう? そんなツンツンしていると天国の元彼も心配しちゃうぜ」
すると、ミーナは目からぽろぽろと涙を流し自分の想いをさらけ出した。
「後悔なんか……! 忘れたりなんかしない! クルトとの大切な思い出を忘れたりなんか……! 失った事がない貴方には何も判らないわ!」
ガロードはそれに対し、臆することなく自分の考えをぶつけた。
「ああ、判らないし、できれば一生判らないでいたい、そうならないように俺は強くなるんだ、ここの人達にだってきっとそれが出来るよ」
「……! 本当にできると思う? 皆に……一度大切な物を失った私なんかに?」
「できるじゃなくてやるんだよ、あんまり重く考えないほうがいいんじゃねえの?」


するとそこに、様子を見に来た美緒が降りてきた。
「話は終わったか……ん? ミーナお前……まさか泣いて……」
「え、えっとその……」
「なんでもないさ、早く帰ろうぜもっさん」
「お、おい……」
そう言ってガロードは美緒の背中を押し、ミーナの元を去って行った。

「ガロード君……」





次の日、501の基地の中を歩いていた整備兵AとBは、サーニャとエイラとすれ違った。
「あ、おはようございます」
「おはようさーん、毎日ご苦労さん」
「え!?」
そしてすれ違いざまにサーニャとエイラに挨拶され、整備兵Aは目をパチクリさせる。
「お、おい! 俺ウィッチに話しかけられちまったよ! 一体どうなってんの!?」
「ああお前知らなかったんだよな、規則が改定されてウィッチとあいさつとちょっとのコミュニケーションぐらいはしてもいいって事になったんだ」
「まままままマジで!!? ねえマジで!?」





同時刻、ウィッチ基地から赤城が出港し、その船上にガロードに芳佳への手紙を渡した少年兵が、少しずつ遠くなっていく501の基地を見続けていた。
「宮藤さん……やっぱり結局来てくれなかったなあ」
その時、彼の周りにいた扶桑兵達が空を見て騒ぎ出した。
「お、おいアレ見ろ! ウィッチだ!」
「え?」
すると彼らの元に、ストライカーを履いた芳佳、美緒、リーネが編隊を組んで飛んできた。
「みんなありがとー! 頑張ってねー! 私も頑張るからー!」
「芳佳ちゃん、よかったね」
「うん、ちゃんとお礼言えた……!」
「世話になったからな」
「はい!」
そう言ってリーネと美緒に向かって嬉しそうにほほ笑む芳佳、そして船上の扶桑兵達も手を振りながら、精一杯の笑顔で芳佳達にお礼の言葉を送った。



一方赤城の艦橋では、通信兵が501基地からの通信を傍受していた。
「艦長、基地から通信が入っています」
「繋げ」
すると通信機から美しい歌声が流れてくる、曲はリリーマルレーンだ。
「これは……全艦に繋げ」
美しい歌声が、赤城に乗る乗員全員の耳に癒しを運んだ。



その歌声の主はミーナだった、彼女はあの車の中に入っていた袋の中に入っていたドレスを着て、基地の広間でサーニャのピアノ伴奏に合わせてマイクに向かってリリーマルレーンを唄っていたのだ。
そして彼女の周りではバルクホルンら他のウィッチ達が心地よさそうに彼女の歌を聞いていた。しかしその場に……ガロードはいなかった。





「ミーナさんの歌……綺麗だな」
ガロードはミーナの歌を、DXのコックピットの中で一人のんびりと聞いていた。
(それにしても……そろそろここに留まるのもヤバいかもな)
ガロードは軍の上層部の最近の動きを見て、少なからず自身の身の危険を感じていた。
(このDXを渡すわけににもいかないし、芳佳達に迷惑は掛けられない……そろそろここから出る必要があるな、でも……)
ガロードには一つ気になる事があった、それは先日、サーニャやエイラ、芳佳と一緒の任務に就いた時に遭遇した仮面のウィッチの事だった。
(あのウィッチがどうしてニュータイプ能力を持っていたのか、少し調べないとな……)
そうしてガロードは今後の方針について一人であれこれ思案する。

「くぅーん……」
そんなガロードが乗っているDXを、兼定は一匹で見つめ続けていた……。










今回はここまで。
ガロードってミーナとは恋愛に対する考えが正反対の人間だから、自分の意見を言い合う場面を書きたかったんですけど……なんかうまくいかなかったような気がする。

次回は芳佳と美緒メインでオリジナル話を書く予定です、ガンダムシリーズではよくあるあのシチュエーションでお送りいたします。



[29127] 第八話「死なせるもんか!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/08/25 21:54
 第八話「死なせるもんか!」


ある日の朝、ガロードはいつものようにウィッチ達の食堂に赴いて彼女達が作るおいしい朝食を食べようと廊下を歩いていた。
「今日の当番は誰なのかなーっと……ん?」
するとガロードは一人でふらふらと廊下を歩く芳佳を発見する。
「おーい芳佳、おはよー……ん? ずいぶんとフラフラじゃねえか」
「あ、ガロード君……くしゅんっ!!」
芳佳はガロードの方を向いた瞬間くしゃみをした。
「おいおいどーした? もしかして風邪でもひいたのか?」
「うーん、昨日訓練の途中で夕立に当たっちゃって……熱はないみたいなんだけどね」
「そっか……あんまり無理すんなよ、せっかくだし飯食ったら薬もらいに医務室行こうぜ」
「うん、ありがとうガロード君……」

そして二人は一緒に食堂に向かった、するとそこではシャーリーとエーリカが厨房に立って朝食を作っていた。
「お、芳佳とガロードだー、おはよー!」
「おいおい、今日は芳佳と一緒なのかー? お前ずいぶんと他の奴らとも仲いいよなー」
そう言ってシャーリーは人参を切りながらつまらなさそうに口を尖らせる。
「あんまりいちゃいちゃするとー! 隊長が頭に角生やして怒っちゃうよー?」
「私は鬼じゃありませんよ、フランチェスカ・ルッキーニ少尉?」
「ひっ!?」
ミーナを使ってからかっていたらご本人がいつの間にか背後にいて飛び上がるほど驚くルッキーニ。
「ミーナさんも朝食―?」
「ええ、どうせなら一緒にどう? ガロード君」
「あはは、それじゃー」



それから数分後、食堂にウィッチ全員が集まり朝食を食べ始める、ちなみにガロードの右隣には芳佳が、左隣にはミーナが座っている。
「今日はボンゴレとスープだよーん!」
「ロマーニャ料理ですか……おいしいですー」
シャーリーとルッキーニが作った料理に舌鼓を打つウィッチ達、そんな中ミーナはガロードの頬にボンゴレの食べカスが付いていることに気付く。
「あらガロード君、頬についているわよ」
ミーナは食べかすを指で取ると、それをペロリと舌で食べてしまう。
「あ、サンキューミーナさん」
「うふふ、慌てなくてもいいのよ、しっかり噛んで食べなさい」
その様子をエーリカはにやにやしながら見つめていた。
「おいおい、なんか恋人みたいだな二人とも、姉さん女房に世話を焼かれる年下みたいな」
「へっ!!?」
するとミーナはボンッと頭上から煙を吹き出しながら顔を真っ赤にした。
「おー照れてる照れてる!」
「あれー? ウィッチと男の人って恋愛禁止じゃなかったのー?」
エーリカとルッキーニは一緒になってミーナをからかい出す、それを美緒はわっはっはと笑っていた。
「はっはっはっは! ミーナ……新しい恋に目覚めたか!」
「そそそそそそんな訳ないでしょう美緒!? わわわわわわわ私がそんなガロード君と恋人同士だなんて!」
「でも悪い気はしないだろう?」
「そりゃあまあガロード君はイケメンだし、この前も正直ドキッとして……って何言わせるの!!?」
目をぐるぐる回し手と顔をぶんぶん振って否定するミーナをにやにやしながら見つめるエーリカ、ルッキーニ、美緒、しかし彼女達は気付いていなかった、そのすぐ傍でリーネとペリーヌが並々ならぬ殺気を放っている事を……。
「ヤダナアサカモトショウサ、ガロードクントミーナチュウサガツキアッテイルワケナイジャナイデスカ……」
「え? ちょ、なんだリーネ? 目が怖いんだが」
「オフタリノジョークモワラエマセンワ……トネールデヤキキリマスワヨ?」
「あ、あれ!!? なんか私まずい事言った!?」
「びえー!? 殺されるー!」
人殺しの目をしている二人に心底ビビる三人、だがそんな中シャーリーは余裕の表情で皆に言い放った。
「まあ私はガロードに裸見られたからなー、そういう意味では一歩リードしてるな!」
「「「えっ!!?」」」
ウィッチ達の視線がシャーリーに集中する、しかしリーネはすぐさま気を取り直して胸を張ってシャーリーに言い放つ。
「わ、私なんてガロード君に胸を揉まれました!(第一話参照)そういう方面では私が一歩リードしています!」
「な、なんだと!? 私だって揉まれた事あるぞ! しかも生で!」
「わ、わたくしもですわ!(第一話参照)」
「揉みすぎだろガロード……」
顔を真っ赤にして言い合いをする三人、そんな中エーリカとルッキーニは何かを思い出したかのように手をポンとたたいた。
「あ、そういえば私、ガロードにズボンの中を見られたことがある(第六話参照)」
「そういえば私もだ!(第六話参照)」
すると二人は挑発するように体をもじもじさせ始めた。
「つまりぃ、私はガロードに責任を取ってもらわなきゃいけないね!」
「そうだね!」
エーリカはともかく、ルッキーニは責任の意味がよく分からずノリで言っていた。すると二人の発言にリーネとペリーヌが噛みつく。
「お二人とも……次の任務の時は気を付けてください、私間違って撃っちゃうかも」
「トネール使うとき巻き込んじゃうかもしれませんが、まあ不幸な事故だと思って……」
「へ、へん! 脅そうったってそうはいかないぞ! 私だってガロードのこと結構気にっているんだから!」
今度は臆することなく反論するエーリカ、そんな中サーニャはぼそりと隣にいたエイラに話しかける。
「ねえエイラ……私たちもガロード君に裸見られているよね……?(第五話参照)」
「またソレか、言っとくけど私はサーニャを渡すつもりはない、サーニャは私のy……ゲフンゲフン!」
ゴニョゴニョと言葉を詰まらせながら人差し指の先端同士をぐりぐりさせるエイラ。
「エイラ!」
するとサーニャは突然エイラの肩をガシッと掴み、いつもの眠そうな目とは打って変わってキリッとした目で彼女を見つめる。
「さ、サーニャ!?」
「エイラ聞いて……私はエイラとずっと一緒にいたいけど、お父様達に孫の顔も見せてあげたいの、そこで知ってる? この世界には“妻妾同衾(さいしょうどうきん)”というのがあるの」
「さい……なんだって?」
「妻と愛人が夫と一緒のお布団で寝る、妻公認の不倫で三人一緒に暮らすこと……つまり私とエイラが結婚して、ガロード君が愛人になれば私たちは女としての幸せを手に入れられるうえにいつまでも一緒でいられるのよ! これで一石二鳥よね!」
なんかもうツッコミ所が多すぎてツッコミきれないのだが、エイラはサーニャの謎の説得力に圧されて思考能力が低下していた。
「な、成程……それなら三人一緒に幸せになれるな!」
「でしょう? だから私たちもガロード君に責任とって愛人になってもらいましょう」
こうしてサーニャとエイラもガロード争奪戦に加わることになった。

「あ、あのみんな落ち着いて……」
事の発端になったミーナは必死になって今にも血の雨を降らせそうなウィッチ達を宥めようとする。
「なあミーナ、少し聞きたいことがある」
すると両肘をテーブルについて両手で頬杖をついていたバルクホルンがミーナに語りかけた。
「な、何トゥルーデ!? 何かいい方法を思いついたの!?」
「お前がガロードの恋人になるということは……ガロードの姉である私はお前のことを義姉さんと呼ばなければいけないのか?」
「かんっっっけいないわよね今ソレ!!!!?」
ゲルトルート・バルクホルン、この状況で一人フリーダムだった。おまけに本人は本気の本気なので始末に負えない、そしてどんどん収拾がつかなくなる食堂、そんな時ルッキーニがある提案を出す。
「よおーっし! こうなったらガロードに誰がいいか直接聞いてみよう!」
「ルッキーニナイスアイディアだ!」
すごくいい笑顔でウィンクしながら親指を立てるシャーリー。
「ガロード君! 私たちの中で一番好きなのは誰!?」
目を血走せながらガロードの方を向くウィッチ達、はたしてガロードの答えは……!?


「あ、ごめん……聞いてなかった」
「わふーん」
いつの間にかテーブルの下にいた兼定にパンを与えていて、「あ、サンキューミーナさん」というセリフの後のウィッチ達の会話を聞いていなかった。


「「「「「「「「「「ズコーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」
一斉にひっくり返るウィッチ達、ついでに天井のシャンデリアがテーブルの上にガシャンと落ちたり、たまたま近くを通りかかった整備兵が窓を突き破って激しくズッコケたり、外にいたカモメが落下したり、四方のハリボテチックな壁が外に向かって一斉に倒れたり、最後に501基地が島ごとズモモモモと海に沈んでいくという見事なオチがついた。
20年後ぐらいにそのエピソードを聞いた扶桑の放送作家が、それを元に5人のコメディアンを用いた土曜8時の超国民的長寿コント番組を作るのだが、詳しい内容はいずれ機会があったら語るかもしれないし語らないかもしれない。





そんな騒動があったその日の昼、外は激しい雷雨に見舞われていた。
「うわー、ひでえ嵐」
「珍しいな、扶桑の台風並みじゃないか」
格納庫の入り口でガロードと美緒は外を眺めながら語り合う。
「リーネも洗濯物が乾かないとか言って困っていたな」
「この状況でネウロイが来たら苦戦は必至だな」
「おいおい、そういうこと言うと……」
その時、基地全体にネウロイ襲撃を告げる警報が鳴り響いた。
「ほら見ろ! フラグ立てたから来ちゃったじゃん!」
「わ、私のせいか!? すまん!」
珍しく慌てる美緒、するとそこに警報を聞きつけた芳佳とリーネが格納庫にやってくる。
「ネウロイが出たんですか!? 出撃します!」
「他のみんなも後から来るそうです!」
「よし……なら我々で先行しよう、ガロードも一緒に来てくれ」


数分後、芳佳、美緒、リーネ、ガロードは嵐の中ネウロイが出現した空域に向かっていた。
「もうすぐ目的地に着くぞ、皆気合を入れろ!」
『りょーかい!』
「はい!」
「……」
元気よく返事をするリーネとガロード、しかし芳佳だけは返事をしなかった。
「ん? どうした宮藤? 聞こえていないのか?」
「え? あ! はい! すみません……!」
「大丈夫芳佳ちゃん? 今朝から風邪気味だったよね?」
『あんまり無茶するなよ? ダメそうだったら下がったほうが……』
心配して声を掛けるリーネとガロードに対し、芳佳は無理やり笑顔を作って答える。
「へ、平気平気! なんともないから心配しないで!」
それを見た美緒は嬉しそうにいつものような大笑いをする。
「はっはっは! よくぞ言った宮藤! 病は気から! 気合で乗り切れ!」
「はい!」


そして四人はネウロイが到着した空域に到着する。
「いたぞ! ネウロイだ!」
「あれってこの前の300m級!? どうしてまた……!?」
するとネウロイは以前と同じように数十個の個体に分裂し、芳佳達に襲いかかる。
「来たぞ! 各機散開!」
「「はい!」」
『よっしゃ! 暴れちゃうぜ!』
美緒の指示で他の三人は分散してネウロイを各個撃破していく、その中でも特にガロードの動きは格段に目立っていた。
『へっへーん! こう広いとやりやすくていいぜ!』
ガロードはDXの機動力を最大限に利用し、MSにとって小さくて当てにくいネウロイをビームライフルで次々と破壊していく。
(スゴイ! ガロード君次々とネウロイを落としている……もしかして私達を攻撃に巻き込まないように今まで手加減していたのかな?)
離れた場所で狙撃をしていたリーネは、いつもより動きのいいDXを見て驚く、その時……すぐ傍で戦っていた芳佳の動きがおかしい事に気付いた。
「……!? どうしたの芳佳ちゃん!? ふらふら飛んでいたら落とされちゃうよ!」
「ハァハァ……ご、ゴメン……!」
芳佳はふらふら飛行しているうえ、いつもは当てられるような銃撃も全然当てられていなかった。
「……!? 宮藤どうした!? しっかりしないと……!」
「は、はい……!」
しかしその時、芳佳の後ろにいたネウロイの一体がビームを放つ、そのビームはそのまま芳佳のストライカーのプロペラ部分を撃ち抜いた。
「あ……!」
「宮藤!?」
間髪いれず二射目を放とうとするネウロイ、それに気付いた美緒はすぐに芳佳の前に立ってシールドを張った。
すると放たれた二射目のビームは美緒のシールドを撃ち抜き、彼女のストライカーを破壊した。
「うっ……」
「ああああああ!!?」
そして宮藤は力尽きるように、美緒は破壊されたストライカーの制御が出来ずに、近くの無人島に落下していった。
「芳佳ちゃん! 少佐!」
『く……!』
ガロードはすぐさま落下していく芳佳と美緒を追いかけていく。
「ガロード君!」
『リーネは撤退してシャーリー達と合流しろ! 二人は俺が連れて帰る!』
「そんな……! きゃ!!」
リーネは自分も付いて行こうとするが、大量のネウロイに行く手を阻まれてしまい、そのまま口惜しそうにその場から撤退していった。










「はあっ……はあっ……」
「おいどうした宮藤!? しっかりしろ!!」
数分後、空中で芳佳と美緒を受け止めたガロードは、そのまま無人島に着陸し二人を地面に降ろす。
「もっさん! 芳佳はどうしたんだ!?」
「そ、それが……さっきから呼吸が荒いんだ、それにどうやら熱が……!」
ガロードは試しに芳佳のおでこを触ってみる、すると芳佳のおでこは通常のより明らかに熱くなっていた。
「スゴイ熱じゃないか! どうしてこうなるまで……!」
「だって……私はウィッチだし……休んでいられないと思って……」
熱で顔を真っ赤にし、息も絶え絶えに芳佳は語る。彼女は風邪の症状が悪化していくにも関わらず、皆に迷惑をかけまいとやせ我慢をしていたのだ。
「とにかくコックピットで休ませよう、ここじゃ病状が余計に悪化する」
そう言ってガロードは芳佳を背負い、美緒と共にDXのコックピットに入った。



一方援護に来たミーナ達と合流したリーネは、彼女達と共に悪化していく状況に絶望を感じていた。
「そ、そんな……! ネウロイが増えている……!」
ガロード達が着陸した無人島の周りに、もう一体同じ形のネウロイが現れ、最初に現れたネウロイと同じように分裂し無人島を囲っていたのだ。
「こ。これだけの数じゃ近付けない……!」
「おい少佐! 宮藤! ガロード! ……ダメだ! 通信も妨害されている!」
そう言って悔しそうに歯噛みするバルクホルンとシャーリー、そしてミーナは心苦しそうにある辛い決断を下す。
「……ここでこうしていても仕方がないわ、一度基地に帰還して作戦を考えましょう」
「ミーナ! 三人を見捨てるの!?」
ミーナの決断にエーリカが珍しく声を荒げ反論する。そんな彼女をバルクホルンが宥める。
「よせハルトマン、ミーナだってよく考えて決断したんだ」
「くっ……判っているけどさ……!」
エーリカはまだ納得していない様子だったが、とりあえずミーナの指示に従う事にしたのか、彼女に背を向けた。それを見ていたペリーヌは少し自嘲めいた笑みを浮かべた。
「というか……ワタクシより先にエーリカさんが噛みつくなんて以外でしたわ」
「仲間を心配するのは当たり前じゃん……それよりも早く基地に戻って作戦を立てよう」



一方DXのコックピットの中に避難した美緒とガロードは、モニターで外のネウロイの様子を監視しながらシートに寝かせている芳佳の額に濡れタオルを乗せていた。
「やつら、どうして俺達を襲わないんだ? 何にせよ助かるけど……」
ふと、ガロードはすぐ傍にいる美緒を見る、彼女のいつもの豪快な雰囲気は陰っており手をぎゅっと握りしめて歯ぎしりしていた。
「情けない……! 隊長なのに隊員の異常にも気付かなかった! それどころか気合でなんとかしろなどと……!」
自分の先程の発言と行動を思い出し激しく後悔する美緒、そんな彼女をガロードは優しく励ます。
「もっさんだけのせいじゃねえよ、傍にいた俺やリーネだって気付けなかったんだし、こいつが変に我慢しすぎたせいでもあるんだ、だからあまり自分を責めるのは……」
「それでも……それでも私は……!」
「う……ううう……!」
その時、芳佳は突然震えだした。
「ん!? 芳佳どうした!?」
「いかん、体温が下がってきている、クソ! 私にも治癒魔法が使えれば!」
「使える本人がこれじゃあなあ」
「……よし!」
すると美緒は何か思いついたのか、徐に軍服を脱ぎ捨て、さらにスク水風スーツの上だけを脱ぎ始めた。
「わあああああ!!? いきなり何してんだもっさん!?」
美緒の行動に驚いたガロードは慌てて美緒から視線を反らした。
「体温が落ちたのなら人肌で温め合うのが一番だ! む……それだと宮藤も脱がせる必要があるな」
「ううぅ……」
そう言って美緒は今度は熱で苦しむ芳佳の服を脱がし始める。
「だから~! なんで俺がいる時にするかなあ~!? しょうがないから俺は外へ……」
そう言ってコックピットから出ようとするガロードの手を美緒はガシッと掴んだ。
「どこへ行くガロード?  お ま え も ぬ ぐ ん だ 」
「簡便してください! 俺には……! 俺には心に決めた人が!」
「はぁーはっはっは! 問答無用!」
美緒はなんか悪役っぽい笑顔で嫌がるガロードの服を無理やりはぎ取った。
「いやあああああ!!! もっさんのケダモノおおおおお!!!」
雨が降りしきる曇り空に、絞め殺された鶏のようなガロードの悲鳴が響き渡った……。

「ううう……ティファにも見せた事ないのに……!」
数分後、そこにはコックピットの端っこでパンツ一丁で大切な物を散らしてしまった乙女のようにさめざめと泣くガロードの姿があった。
「泣いている暇はないぞ! 早く宮藤を温めるのだ!」
そう言って上半身裸の美緒は上半身裸の芳佳にピトッと抱きついた。
「あ、あの……ホントにやらなきゃダメ?」
「お前! 宮藤を助けたくないのか!?」
「判りました……」
美緒に怒られガロードは渋々、そして顔を真っ赤にしたまま芳佳に抱きつく。
(あああ~……! 柔らかい、そしていい匂い……ティファゴメンよ! ゴメンよぉ~!)
ガロードは芳佳の温もりを直に感じながら、心の中でティファに何度も謝った、その時……芳佳がうつろな声で美緒とガロードに話しかける。
「ごめんなさい……二人とも……私のせいで……迷惑かけて……」
「な、何気にするな、お前はゆっくり休んで……」
「坂本さん……私死んじゃうんでしょうか……? こんなに苦しいの生まれて初めて……」
「そ、そんな事……」
高熱でうなされる芳佳は、今まで吐いた事の無いような弱気を吐いてしまう。それに対して美緒はうろたえて何も言えなかった、すると……ガロードは芳佳の手をギュッと握りしめて彼女に優しく語りかける。
「大丈夫だ……芳佳は死なない、俺達が死なせるもんか、だから安心して眠っていろ」
「う、うん……」
すると芳佳はすうっと目を閉じて眠ってしまった。
「眠ったか……震えも収まったみたいだな」
「ああ、何か掛けてしばらく寝かせよう」



数分後、二人の上着を掛けた芳佳の容体が安定したのを確認したガロードは、コックピットの外で体育座りで項垂れている美緒の元に向かった。
「はぁぁ~……」
「どうしたんだもっさん? ため息なんてらしくないじゃん」
「……私だってため息ぐらいつくさ、今日ほど自分の無力さを呪った日は無い……」
「そんな気にするなよ、誰だってミスはあるだろう?」
「いや……私の場合そう言う訳にはいかない、宮藤の事ならなおさらだ」
「あん? どういうこった?」
ガロードは美緒の隣に座って彼女の話を聞く態勢にはいった。
「ガロード、お前は……我々ウィッチの“あがり”の事は知っているか?」
ガロードは首を横に振る。
「我々ウィッチは一部の例外を除いて、20歳を過ぎると魔力を失って飛べなくなるんだ、私ももうすぐ飛べなくなる……」
「ええっ!? そうだったのか!?」
初めて聞くウィッチの真実にガロードは一度は驚くが、そう言えば自分が会ったウィッチは皆20歳以下だったなと思いすぐに納得した。
「だから私は、私の代わりに世界を守るウィッチを育てなくてはならない」
(だからもっさん……特に芳佳に目をかけていたのか)
「だが今回のような事になるとは……私の今までしてきたことは一体なんだったんだ!?」
そう言って美緒は自分に対する不甲斐なさへの怒りで、地面に自分の拳をガンッと打ち付けた。
そんな彼女の手を、ガロードはそっと握った。
「もっさん……あんまり自分を責めんなよ、人間誰だってミスはあるんだ、俺だって昔……自分のミスで仲間に大けが負わせたことあるしよ」
「……? お前にもそんなことがあったのか?」
「ああ、俺がまだフリーデンの一員になったばっかりの頃だったかな、その時の俺、ちょっと考え事しながら作業していたせいで仲間を危うく下敷きにしちゃいそうになってさ、おまけにそのあと、名誉挽回しようとMS工場の機材を持ち出そうとしたら敵に襲われて、そこにあった動力炉が暴走して大爆発を起こしたんだ、幸い俺は無事だったけど助けようとしてくれたジャミルに大けがを負わせちゃってさ……ははは、あの時の俺ってホントかっこ悪かったんだよな」
「お前にそんなことが……」
美緒は初めて聞くガロードの昔話に真剣に耳を傾ける、そしてガロードはすっかり暗くなった空を見上げながら再び語り出した。
「もっさん……あんまり焦るのはよくないぜ? じゃないと俺みたいにとんでもないバカやっちまうぞ、もっとこう……リラックスした方がいいぜ」
「リラックスか……そうだな、お前の言うとおりかもしれん……」
美緒は先ほどまでの落ち込んだ表情はどこへいったのか、今はすっかり優しい微笑をガロードに向けていた。
「いやーしっかし、もっさんのあんな様子初めてみたぜ、いっつも豪快に笑うか厳しく怒鳴るかのどっちかだからさ……」
「ひ、人をなんだと思っているんだ……これでも昔は宮藤みたいにオドオドしてばかりだったんだぞ」
「ぶっーー!!?」
美緒の言葉を聞いて、笑いのツボが刺激され思わず吹き出すガロード。
「貴様! 笑うとは何事だ!?」
それにむっと来た美緒はガロードにヘッドロックを決める。
「だ、だって芳佳みたいなもっさんなんて想像できないぜ!!? だははははは!!」
「わ、笑うなあ~!!!」
ガロードがあまりにも笑うので、美緒はムキになって怒り顔を真っ赤にしていた。

そして数分後、ようやく落ち着いてきたガロードは息を切らしながら美緒に謝罪していた。
「はーはー……いやあ悪いもっさん、あまりにも面白くてよー」
「まったく……次に笑ったら刀の錆にしてやるからな、それにしても……こうやってふざけあうのは久しぶりだ、醇子や徹子と一緒にいた頃を思い出す」
そういって美緒は昔を懐かしむように空を見上げる。
「その人たちって……もしかしてもっさんが新人だった頃の仲間?」
「ああ……今は別の場所でネウロイと戦っている、しばらく会っていないがな……」
「んじゃ、ネウロイ全滅させたら同窓会でも開いたら? 芳佳やエイラ達も誘ってさ」
「それはいい! また一つネウロイを倒した後の目標ができたな! はっはっはっは!」
(ははっ、ようやくいつものもっさんに戻ってきたな、よかったよかった)
ガロードはいつものように豪快に笑う美緒を見て一安心していた……。





その頃無人島周辺では、基地に戻り作戦を立て直したミーナ達が再び戻ってきた。
「これより私たちは三人の救出作戦を行います、まずはペリーヌ機とルッキーニ機、そしてハルトマン機が先行し、他の隊員は彼女達の援護を」
「どこか一点でもネウロイの集団に穴を開けて、そこから少佐達を救出する」
「ここに少佐がいればコアを狙い撃ちできるんだけどね……」
「それでは作戦開……!!?」
その時、ミーナ達は上空から何かが近づいてくる事に気づく。
「あれは……あの時の!?」
エイラはその何かが先日自分たちに襲いかかった仮面のウィッチということに気付く。
「……」
仮面のウィッチはそのままネウロイの集団にビーム弾を撃ち込んでいく、するとネウロイの集団の一部はそのまま仮面のウィッチに向かっていった。
「あのウィッチ……まさか私達を助けてくれるの?」
「なんにせよ有難い! 我々も続くぞ!」



一方その様子に気付いたガロード達もすぐさま出撃の準備を始めようとする。
「皆が助けに来てくれたのか! もっさん! 飛べるか!?」
「いや……さっきの攻撃でストライカーが……! 宮藤もダメだ!」
「しょうがねえ、DXに乗れ!」
ガロードは美緒をDXに乗せてコックピットハッチを閉じ、外の様子をモニターで見る。
「皆苦戦しているな……この前の倍の数だからな」
「くそ! 一体どうすれば……! そうだ!」
突如美緒は何かを思いついたのか、突如シートに座っているガロードに抱き寄った。
「うおっと!? なんだよいきなり!?」
「私がコアの位置を指示する、お前はそれをビームライフルで撃ち抜いてくれ」
「成程ね……判ったぜ!」
美緒は眼帯を取り捨てて自分の右頬をガロードの左頬にぺったりとくっつけ、左手は操縦桿を握る彼の手の上に乗せる。
「頼むぜもっさん……!」
「任せろ!」
ガロードは魔力で光る美緒の右目の光を感じながら、操縦桿を握る左手の力を強める。
「くそ! どこにあるんだコアは……!」



一方空で戦っているミーナ達も、コアを見つけようと必死にネウロイと戦っていた。
「うにゅ~! 数が多すぎる~!」
「泣きごと言うなルッキーニ! 敵は待ってはくれないぞ!」
「もう! 勲章はお腹一杯だよ!」
「弾も無くなってきた……コレは本格的にきついな」
そう言って冷や汗をかきながら戦うウィッチ達、その時エイラと小隊を組んで戦っていたサーニャが仮面のウィッチの様子に気付いた。
「……!? サーニャあの人……!」
「あん? なんだあいつ……ここから離れていくぞ」
「……!? まさか!」



仮面のウィッチは群れから離れていたネウロイの一団に向かってビームを放つ、するとその一つがネウロイの個体に命中し、次の瞬間半数近くのネウロイがガラス片になって砕け散った。
「きゃ! まさかあの方、コアの居場所が判っていましたの!?」
「一体どんな魔法を……!」
底の見えない仮面のウィッチの能力にペリーヌとリーネは驚愕する。

「……」
一方仮面のウィッチはそのまま動きを止めてDXの方を見た。まるで何かを伝えるように……。


―――キィィィィン!

「うっ!?」
同じころ、ネウロイのコアの位置を探っていた美緒は、突然頭の中に何者かの声が響くのを感じた。
「どうしたもっさん!?」
「い、いや……何でもない、ん?」
ふと、美緒はモニターに映るネウロイの集団の中に、コアを持つネウロイを発見する。
「いたぞ! 標準を右30度ずらせ!」
「わかった!」
そしてモニターに映る標準がコア持ちのネウロイをロックオンする。
「今だ! 撃てー!!!」
「うおおおお!!!」
美緒の言葉でガロードは勢いよく引き金を引く、するとビームライフルから放たれたビームは見事コアを持つネウロイを貫き、残りの他のネウロイもすべてガラス片になって砕け散った。
「やった……!」
「ああ……」
美緒はそう答えながらモニターに映る仮面のウィッチを見る、すると仮面のウィッチはそのまま何処かに去っていった。
(先程の感覚……まさか奴が……?)



その後、ガロード達はミーナ達に無事保護され、医務室に運ばれた芳佳の体調も次の日には回復に向かっていた……。


その次の日の昼、ガロードはリーネとペリーヌ、そして美緒と共に芳佳のお見舞いをしに医務室に足を運んでいた。
「芳佳ちゃん、もう大丈夫なの?」
「うん、もう平気……心配掛けてごめんね」
「ふ、ふん! わたくしは別に心配なんてしていませんわ! これからはちゃんと体調管理に気を付けるように!」
そういってペリーヌは芳佳からプイッと目をそらした。
「そんなこと言って……ペリーヌも結構心配していたよな」
「が、ガロードさん、からかわないでくださいまし……」
ガロードに褒められ頬を赤く染めるペリーヌ、その時……美緒は芳佳の毛布で何かもぞもぞ動いていることに気付く。
「ん? 宮藤……毛布の中に何かいるぞ」
「ああ、兼定ですよ、ホラ」
芳佳が毛布をめくると、そこには芳佳の膝の上でちょこんと丸まっている兼定がいた。
「ははは……兼定は本当に宮藤が好きなんだな」
「使っている使い魔が同じ豆柴だからでしょうか?」
「くぅーん」ウヘヘ
(なんかこいつ怪しいな……)
芳佳達の見えないところでいやらしく笑う兼定を見て怪しむガロード。そして彼はそのまま芳佳に話しかける。
「何にせよもう無茶してみんなに心配かけんなよ、お前だってここの一員なんだからさ」
「う、うん……」
すると芳佳は顔を真っ赤にして毛布の中にもぐりこんだ。
「どうしたの芳佳ちゃん?」
「な、なんでもない、多分熱がまだ残っているんだよ」
「そう……?」

リーネの心配する声に答えながら、芳佳は毛布の中で昨日のガロードの言葉を思い出していた。

――死なせるもんか!

(ガロード君の手……暖かかった……お父さんみたいに……)
芳佳は自分の手の中に残るガロードの温もりを思い出す、すると胸がチクチクと痛みだし、彼女は胸をぎゅっと手で掴んだ。
(なんだろうこの気持ち……私どうしちゃったんだろう……?)
芳佳は自分の中に芽生えたガロードに対するある感情に戸惑いながら、静かに目を閉じた……。









本日はここまで、これで大体のウィッチとフラグが立ちましたね。(ちょっと違う人が何人かいますが)

そして次回は原作第九話と  正  妻  降  臨  の話になります。
ガロードは生き延びる事が出来るか……!?



[29127] 第九話「手を出すな!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/08/29 21:30
 第九話「手を出すな!」


芳佳達との一件があった数日後、ガロードはバルクホルンとエーリカと共にロンドンにある病院に向かっていた。
「走れハルトマン! クリスの待つ病院へー!」
「はいはい……」
「落ち着けよバルクホルン、そんなに急がなくたって病院もクリスも逃げないぜ」
「う、うむ……」
興奮するバルクホルンを半ば呆れ気味に宥めるガロードとエーリカ。
「にしてもよかったな、クリスちゃんの意識戻ったんだって?」
「ああ、良かった……」
ガロード達が何故ロンドンの病院に向かっているのかというと、そこに収容されている意識不明のバルクホルンの妹クリスがつい先日目を覚ましたとの連絡が入ったので、そのお見舞いに向かっていたのだ。
「でもなんで俺も連れて来させたの?」
「いやー、実はトゥルーデがクリスにってお土産沢山買い込んじゃってさ~、荷物持ちが欲しかったんだよー」
「あはは、成程ね……しっかしこいつ本当に姉バカだよな、クリスが目を覚ましたと聞いてストライカー履いて勝手に出撃しようとしていたし……」
「あれは大変だったね止めるのー」
「ああ、早く着かないかな……!」
和気藹々と会話するエーリカとガロードの脇で、バルクホルンは貧乏ゆすりをしながらソワソワしていた……。


数十分後、ロンドンの病院に着いたガロード達、そしてバルクホルンは勢いよくクリスのいる病室に掛け込んだ。
「クリス!」
「ちょ、ちょっと!? ここは病院ですよ!?」
すると病室でシーツを取り替えていたナースがバルクホルンを注意する。
「あ……す、すみません、急いでいたもので……」
「ふふふ……!」
厳しい視線を向けるナースに平謝りするバルクホルン、するとそれをベッドの上で見ていた少女……クリスティアーネ・バルクホルンはクスクスと笑いだした。
「クリス……!? クリス!」
目を覚ましている妹の姿を確認したバルクホルンは、その事実をしっかりと確認するかのように彼女の手をギュッと握った。その様子を、部屋にいたナースと後から病室に入ってきたエーリカとガロードはほほえましく見守っていた。
「あ、エーリカさんと……誰?」
クリスは初対面であるガロードの存在に気がつく。
「彼はガロード・ラン……私達の大切な仲間さ」
「あはは……なんかムズ痒いな」
そう言ってガロードは照れくさそうに頬をポリポリ掻く。
「お姉ちゃん、私がいない間大丈夫だった?」
「何を言う、大丈夫に決まっているだろう、私を誰だと……」
そう言ってクリスの質問に対しエヘンと胸を張るバルクホルン、しかしすぐ傍で椅子に腰かけたエーリカとガロードが肩をすくめる。
「ああもう全然ダメ、このあいだまでひどいもんだったよ、やけっぱちになって無茶な戦いばっかりして……」
「あの時は本当に肝が冷えたぜ、芳佳がいなきゃどうなっていたことか……」
「お、お前ら!? 無い無いそんな事はないぞ! 私はいつだって冷静だ!」
拳を振り上げて二人を黙らせようとするバルクホルン。そんな彼女を見てクリスはふふっと笑った。
「お姉ちゃん……なんだか楽しそう」
「そうだなー、ここにいるガロードと宮藤が来てから変わったよなトゥルーデ」
「宮藤……?」
「入ったばかりの新人さ、そう言えばガロードが来たのも同じ時期だったな」
「そんなこともあったなあ……もう大分昔の事に感じるぜ」
「宮藤さんかー、私友達になれるかな?」
「きっとなれるさ、お前達少し似ているし……でもお前の方が何倍も美人だがな!」



そんな感じで和気藹々と過ごすうちに、あっという間に帰る時間がやってきて、ガロード達は外に止めてあった車の元に戻ってきた。
「いやー楽しかったな、俺質問攻めに遭っちゃったよ」
「まあ昔っから私達の周りって同年代の男の知り合い少なかったからねー、珍しかったんでしょ」
「ん……?」
するとそこに、伸ばした白い眉毛で目が隠れていて、口元も白いひげで隠れている生まれたてのヤギみたいな老人が近づいてきた。
「そ、そ、そこのお若い方~」
「お、おいおい大丈夫かじいさん?」
あまりにもおぼつかない老人の足取りに、ガロードは思わず手を貸そうとする。
「おっとっと!」
すると案の定老人は前のめりに転びそうになる……のだが、何故か老人はガロードを避けるように後ろにいたエーリカのうっすい胸に飛び込んだ。
「だ、大丈夫おじいさん?」
「ああ……優しいのうお嬢さん(チッ、目測を誤ったか、どうせなら後ろの子のデカイ胸に飛びこみたかったのに)」
「じいさんなんか言ったか?」
ガロードはその老人の怪しい一言といやらしい眼つきを見逃さなかった。すると老人はすぐさま弱々しい雰囲気に戻った。
「何もいっとらんよ~? それより貴女方、この手紙が風でこの車から飛んでいくのを見て回収したんじゃが……」
「手紙?」
バルクホルンは老人から差し出された手紙を受け取る。
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ……ミーナ宛の手紙だ」
「どうして私達の車に……とりあえずありがとうおじいさん」
エーリカ達はそう言って老人にお礼を言い車に向かって行く。その時……。


「ガロード・ラン」
老人は後ろを歩いていたガロードを呼びとめた。
「……!? アンタどうして俺の名前を!?」
「まあそう警戒なさるな、ワシはお前さんの味方じゃ」
老人は伸ばした眉毛の隙間から覗かせるエメラルドグリーンの瞳で、ガロードの瞳をじっと見つめる。
「ガロード……お前さんはそのうち、信じられないほど過酷な真実に遭遇するじゃろう……だが負けてはならんぞ、お前さんにはこの世界とお前さんの世界でできた仲間がいるんじゃからな」
「……? それってどういう……?」
その時、老人のすぐ傍を美人が通り過ぎた。
「お! そ、そこのお嬢さん! ワシと一緒にお茶でもどう~!?」
「え!? きゃー何このジジイ!?」
老人はそのまま驚いて逃げる美人を追いかけていった、先ほどのよぼよぼな足取りとはうって変わってとても軽快なステップで。
「な、なんだったんだあのじいさん……?」
「おーいガロード! 置いてくぞー!」
「お、おうー!」
ガロードは謎の老人に首を傾げながらも、エーリカに呼ばれて車の元に走っていった……。


一時間後、基地に戻ってきたガロード達は先程受け取った手紙を執務室にいたミーナと美緒に見せた。
「悪いが先に中身を見させてもらったぞ」
「なんて書いてあったんだ?」
「『深入りは禁物、これ以上知りすぎるな』……だってさ、二人とも何したの?」
「悪いが我々は何もしていない、しいていえばネウロイの事を調べていただけだ」
ガロードの質問に、美緒は淡々と答える。
「では何故こんなものが……?」
「もしかしてさー、そのネウロイ関係でなんか調べられたら不味い事でもあるんじゃない? その手紙の送り主?」
「おお! ガロードあったまいいー!」
「いやー、それほどでも! んで……差出人に心当たりは?」
ガロードはエーリカに褒められて照れ笑いを浮かべた後、すぐに表情を引き締めてミーナと美緒に質問する。
「心当たりがありすぎるぐらいだ、が……こんな品の無い真似をする奴の見当はつく、あの男はこの戦いの核心に触れる何かをすでに握っている、私達はそれに触れたんだ」
「あの男……?」
その場にいた人間すべてが美緒の方を向く。
「トレヴァー・マロニー……空軍大将さ」
「ああ、あの人か」
ガロードはこの世界に来たばかりの頃、その男にDXの事をしつこく聞かれた事を思い出した。
「とにかく……この件は私達に任せて、他の隊員達にもあまり軽々しく喋らないように」



数分後、執務室を出てバルクホルンらと別れたガロードは、今後の自分の身の振り方について考え始めた。
(さて、向こうもそろそろ本腰を入れてDXを手に入れてこようとするだろうな……そろそろこの基地ともオサバラするかなあ)
ガロードは思考を巡らせながら、格納庫に歩みを進める。
(問題はDXをどうするかだ、いまだに元の世界に帰る方法が見つからないし、このままここに置いといてもあのマロニーって人は戦争に利用するだろうし……ここの月には“アレ”がないとはいえ、万が一使われたりしたら大変な事になるだろうしな……)
ガロードはいまだにミーナ達の上司である軍上層部の事を信用していなかった、彼は私利私欲のために戦争を起こした自分の世界の大人達とこの世界のマロニー達を重ね合わせていた。
(でも逃げたあとどうする? 寝床は無いし補給も出来ないし……いっその事DXをバラして売っちゃうか?)

そうこう考えているうちに、ガロードは格納庫にやってきた、するとそこで……ストライカーユニットを履いて出撃しようとしている芳佳とペリーヌを発見する。
「ん? おーいお前らどうしたんだ? 今日ってストライカーの訓練が無い日じゃ……」
「あ、ガロード君……」
芳佳はガロードの姿を確認するやいなや、少し気恥ずかしそうに目を反らした。
「……? どうしたんだ芳佳? お前ここのところ変だぞ?」
「う、うん……なんでもない」
「宮藤さん、早く参りましょう」
するとペリーヌが二人の会話に割って入り、芳佳に出撃するよう促す。
「お、おいペリーヌ、どうなってんだよコレ?」
ガロードは状況を飲み込めず、とりあえずペリーヌを呼びとめた。
「実はワタクシ達……これから決闘を行いますの」
「決闘!?」
ペリーヌの想定外の返答に度肝を抜くガロード。
「ここ最近宮藤さんは生意気ですわ、坂本少佐と仲がよく、私を差し置いて左捻り込みをマスターして、最近はガロードさんに色目……コホン、そんなわけで先輩であるワタクシが一度喝を入れてあげようかと……」
最後の言葉を言いかける前に飲み込み、軽く咳払いをするペリーヌ、そして彼女はある事を思いついた。
「そうですわガロードさん! アナタ決闘の立会人になっていただけます?」
「俺が……? べつにいいけど、暇だし……」
「決まりですわ、ではワタクシは先に参ります」
そう言ってペリーヌはストライカーを履いてそのまま空に飛び立って云った。
「さて……じゃあ俺もDX乗りますか」
「う、うん!」



それから数十分後、ガロードはDXに乗って、芳佳はストライカーユニットを履いてペリーヌのいる空域にやってきた。
「10秒以上後ろを取ったほうが勝ち、それならよいでしょう宮藤さん?」
「……」
芳佳はいまだに釈然としないといった感じで持っている銃器の安全装置の有無を確認した。
「うん、掛かってる……」
『大丈夫か二人とも? 怪我だけはすんなよ』
ガロードの問いに二人はコクリと頷くと、一斉に飛び出して決闘をスタートさせる。

「取りますわよ……!」
「……!」
まずはペリーヌが低高度から上昇して芳佳の背後を取ろうとする、しかし芳佳もペリーヌの存在に気が付き振り切ろうとする。
「あん! まったくもう……ちょこまかちょこまかと!」

その二人の戦いを見ていたガロードは素直に感心していた。
(すげえなあ芳佳、新人だってのにニュータイプみたいな動きしやがる……元から才能があるのかもなあ)

―――ウウウウウウウウウ~!!!!

その時、辺りにネウロイ襲撃を告げるサイレンが鳴り響いた。
「警報……!? ネウロイか!?」
ガロードと芳佳、ペリーヌは一斉に基地の方角を見た……。



数分後、三人は先行してネウロイが出現した空域に向かっていた。
『もっさんとミーナさんには連絡入れといた! すぐに向かうってよ!』
「わかりましたわ!」
ふと、ガロードは先日の美緒との会話を思い出す。
(そう言えばもっさん、この前魔力が無くなりかけているって言ってたけど大丈夫なのか。……? それっぽい現象ちょくちょく見てるし……)
その時、突如芳佳がガロード達の前にでた。
「……!? 宮藤さん! 一体何を!?」
「このまま待ってても逃げられちゃう……! 先に行って足止めしてきます!」
「ちょ! 自分勝手に行動するのもいいかげんに……!」
芳佳は止めようとするペリーヌを振り切ってネウロイの出現地点に向かって行った。
『しょうがねえ……! 俺が芳佳のフォローに向かうからペリーヌはここでミーナさん達と合流してくれ!』
「が、ガロードさんまで!? まったくもう!」
そのまま置いて行かれたペリーヌは、勝手に行動する二人に憤慨した……。



数分後、芳佳と後から追いかけてきたガロードは全長1mほどのネウロイを発見する。
『あれか……? 随分と小さいな』
「これなら私一人で倒せるかも……よし!」
そう言って芳佳は銃の標準をネウロイに定め、そのまま引き金を引く……が、弾が発射されることはなかった。
『芳佳! 安全装置!』
「あ!」
芳佳はガロードに言われて慌てて安全装置を外そうとするが、少しもたついてしまう、するとそれを見ていたネウロイがグニャリと変形を始めた。
『ん? なんだあいつ……』
そしてネウロイはそのまま芳佳の隣に向かって行き、そのまま黒い人間の姿に変形した。
『……!? ネウロイが人に!?』
「え? きゃ!?」
芳佳は隣で自分と並ぶように飛んでいるネウロイに気付き驚愕する。
「ね、ネウロイがどうして人の姿に……?」
『まさかこの前のサーニャの歌みたいに人間の真似をしているのか……?』
すると人型ネウロイはダンスを踊る様に芳佳の周りをぐるぐると飛びまわった。
(まるで人間みたいだ……)
ガロードは人型ネウロイから敵意が感じられず、攻撃しようという思考に辿り着かなかった。
そして人型ネウロイは両手を広げ、芳佳に近づこうとする。
「え!? ちょ! ちょっとまって~!」
芳佳は思わず両手を前に突き出す、すると人型ネウロイは芳佳から1,2mほどの距離を保って停止した。
「あ、あれ……?」
芳佳はネウロイの行動に拍子抜けしながらも、意を決してネウロイに語りかけた。
「は……初めまして、あなたは誰なの……ってネウロイっていうのは判っているんだけど……」
するとガロードも芳佳の真似をして人型ネウロイに話しかける。
『お、俺ガロード! お前ら一体何者なんだ!? 俺達の敵なのか!?』
するとネウロイはDXに近づいて行き、DXの顔のエメラルドグリーンの瞳をじっと見つめる。
『……?』
ガロードは思わずDXの手でネウロイを包もうとする、するとネウロイはまるで蝶のようにDXの手からすり抜けていった。
『あ、あれ?』
「あはははは、嫌われちゃったね……あれ?」
芳佳はガロードとネウロイのやり取りを見て笑っている自分自身に驚く、そして意を決して、先ほどガロードがした質問を自分でしてみる。
「ねえ……あなた達は本当に私達の敵なの?」
するとネウロイは自分の胸を開き、その中にあった自分のコアを見せる。
「これは……」
芳佳は思わず手を伸ばす、まるで触れる事により何かが判るのか知っているように……。


その時、突如上空からビームの雨が降り注ぎ、芳佳とガロード……そしてネウロイを襲った。
「!! 何!?」
『あいつは……!?』
ガロードはビームが放たれた方角を見る、するとそこには先日からガロード達にちょっかいを掛けてくる仮面のウィッチがいた。
「またあのウィッチ!?」
『くそ! 何なんだよお前!? 一体何が目的で……!』
すると一緒に襲われた人型ネウロイはコアをしまうと、両手から仮面のウィッチに向かってビームを放った。
「……!」
仮面のウィッチはそれをかろうじて回避する、すると人型ネウロイはそのまま仮面のウィッチに向かって飛んで行った。
「あ、あなた……!」
仮面のウィッチと人型ネウロイは芳佳達より少し高い高度で激しい空中戦を繰り広げる、それを芳佳とガロードはただただ呆然と見つめていた。
『あのネウロイ……俺達を助けてくれるのか?』
「どうして……!?」

「くっ……!」
仮面のウィッチは人型ネウロイに追いかけられながら、不利な状況を打開するため一気に後ろを向いてビームライフルを構える、しかしネウロイはその振り向いた瞬間を狙ってビームを放った。
「っ……!」
仮面のウィッチは顔面に向かって発射されるビームを身を捻って回避しようとする……が、コンマ1秒ほど反応が遅れてしまい、顔につけていた仮面を落とされてしまった。

「当たった!?」
『あれは……!』
その様子を見ていた芳佳とガロードは、仮面のウィッチの素顔を見ようと彼女に注目する。


仮面が取れたウィッチはリボンで一本にまとめた長い髪をなびかせながら、その素顔を芳佳とガロード達の前に晒した。
『っっっっっ!!!?』
ガロードは謎のウィッチの素顔を見た途端、全身を何かハンマーのようなもので打ち付けられたような衝撃に襲われた。


―――お前さんはそのうち、信じられないほど過酷な真実に遭遇するじゃろう―――


先程出会った老人の言葉がガロードの脳裏によぎる、彼の言った“過酷な真実”が、今彼の目の前に存在していた。
『あ……あ……』
「ガロード君、私はどっちに加勢したらいいんだろう……ガロード君?」
芳佳はその時になって初めてガロードの様子に気付く。
「ど、どうしたのガロード君?」
『あ……な、なんで……』
するとネウロイは最後のトドメにと、両手のビームを仮面のウィッチに向けて放った。
『っっ!!! やめろおおおおおお!!!!!』
するとガロードは尋常じゃない程の反応速度でネウロイと謎のウィッチの間に割って入り、DXを盾にビームから謎のウィッチを守った。
「ガロード君!? 何を……!」
『手を……出すな……!』
「え?」
ガロードは震える声で、ネウロイと芳佳に向かって叫んだ。





『ティファに……ティファに手を出すなあああああああああ!!!!!!』

謎のウィッチは正真正銘、彼が守ると約束したティファ・アディール本人だった。





「ティファ……?」
芳佳はガロードの行動と言っている事が判らず混乱していた。そして当のガロードはストライカーユニットを履いたティファの方を見る。
『ティファ! 俺だ! ガロード……ガロード・ランだ! 判るだろおい!』
「ガロ……ド……」
ガロードの言葉を聞き、ティファはピタッと動きを止める。
『そうだティファ! なんでこんな事になったのかさっぱりだけど、俺達が戦うことは……!』

―――キィィィィン!

「う、うわあああああ!!!」
するとティファは突然胸を押さえて苦しみ出しそのままビームライフルの銃口をDXに向けて引き金を引いた。
『ティ、ティファあああああ!!!?』
ビームの直撃を受けながらもティファに迫るガロード。
「う、うううう……!」
するとティファは苦しみながらもガロードから距離を取る。
『なんで逃げるんだティファ!? ティファあああああ!!!』
「ちょ! ガロード君落ち着いて!」
芳佳はガロードの取り乱しように少し戸惑いながらも彼を宥めようとする。


「宮藤! ガロード!」
するとそこに美緒、ペリーヌ、リーネ、バルクホルン、エーリカ、シャーリー、ルッキーニがやってきた。
「さ、坂本さん……!」
「あ! あの時のウィッチ! あんな顔していたんだ!」
「ちょうどいい……ふん捕まえて正体を暴いてやる!」
そう言ってルッキーニとシャーリーがティファの元に向かおうとするが……。
『待ってくれえええええ!!!』
彼女達の目の前にDXが立ちふさがる。
「どわ!? なんだよガロード!?」
『お願いだからティファを傷つけないでくれー!!』
「ティファ? ガロードあの子と知り合いなの?」

「……戦況は不利……一時帰還します……」
するとティファは現れた美緒達を見てその場を高速で去っていった。
「あ! アイツ逃げ『ま、待ってくれティファァァー!!!』
エーリカの言葉を遮ってティファを追おうとするガロード、しかしティファは雲の中に入って姿をくらましてしまった。
『そ、そんな……ティファ! ティファァァァァ!』
「さっきからティファティファうるさいぞ! なんだというのだ一体!?」
ガロードのあまりの取り乱しように呆れるバルクホルン。

「……」
するとネウロイもそのまま芳佳達の元から去って行く。
「あ! 待って!」
芳佳はネウロイを追おうとするが、追いつけず見失ってしまった。

『ティファ……どうして……』
仮面のウィッチの正体がティファだったという事実に打ちのめされるガロード、そんな彼を心配そうに見つめるウィッチ達。
「……とにかく基地に帰還するぞ、話は帰ってから聞こう」
「は、はい……」
『ティファ……』
そして芳佳とガロードは美緒の言葉に素直に従い、基地に帰還していった……。










本日はここまで、次回は10話をベースにした話を投稿いたします。
ティファがウィッチになった理由、魔力をもった理由などは次回以降やんわりと説明します。

それにしても今回の話は特に怒られそうだなぁ……他の自分の作品みたくガンダムキャラにクロス先のキャラの能力を持たせるなんて、受け入れてくれる人がどれだけいるのか……。



[29127] 第十話「信じてくれ!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/09/08 09:10
 第十話「信じてくれ!」


人型ネウロイと仮面のウィッチ……ティファとの戦いから戻ってきたガロードは、すぐさま自分の部屋に閉じこもってしまった。
「ガロード、一体どうしたんだろう……?」
「あのウィッチ、知り合いだったのかな……?」
ガロードの部屋の前ではシャーリーとルッキーニ、そしてエイラとサーニャが彼の様子を見に集まっていた。
「ガロード君……あの子の事ティファって呼んでいた……」
「何が何だか私にはサッパリだ、でも……大切な子なんだなぁとは思う」
「だよなあ……はあ……」
そう言ってルッキーニを除く三人は深くため息をついた。

一方ガロードは部屋の隅であれこれと思考を巡らせていた。
(どうして!? どうしてティファがウィッチに!? なんで俺や芳佳を攻撃したんだ……! 訳が判らねえよ……!)
ガロードは頭をぐしゃぐしゃと掻きながらベッドの上でのた打ち回っていた。そこに……。
「くぅーん……」
兼定が不安そうな顔でガロードの元に近寄ってきた。
「兼定……?」
ガロードはベッドにとび乗ってきた兼定を撫でる、すると不思議と心に落ち着きを取り戻してきた。
「……そうだな、ここでジタバタ悩んでもしょうがないか、まずはどうしてこうなったのか調べないと……」
そう言ってガロードはこれまでの事を頭の中で整理し始めた。
(これまでティファは三回、俺達の前に現れた、一回目はサーニャとエイラ、芳佳と一緒の時、二回目は皆といた時、三回目は……芳佳と一緒の時か、三回とも俺と芳佳がいた時に来たのか……俺とあいつに何かあるのか?)
そしてガロードは次に先程遭遇した人型ネウロイの事を思い出す。
(あのネウロイ、芳佳に何か伝えようとしていたのかな? ちょっと相談してみるか……)

ガロードは意を決っして兼定と一緒に芳佳に会いに部屋を出る、するとそこでシャーリー達と遭遇する。
「あ! ガロード出てきた!」
「ようやくか……心配させんなよ」
「悪い、でも俺はもう大丈夫だから、ところで芳佳は?」
「あいつは今謹慎中だよ」
「ええ!? なんで!?」
エイラの思いがけない答えに、ガロードは思わず彼女に詰め寄る、すると代わりにサーニャが答えた。
「宮藤さん……指示なしで勝手にネウロイと戦ったから軍紀違反で……」
「そうだったのか、まったく軍っていうのは融通が利かないんだよなあ」
するとシャーリーとエイラは同意するようにうんうんと頷いた。
「よし、それじゃ俺……芳佳と話があるから行くな、心配してくれてありがとさん」
ガロードは四人にお礼を言うとそのまま去っていった。

その時、サーニャがハッとある事を思い出した。
「あ、ティファって誰なのか聞くの忘れてた……」
「まあそのうちわかるだろ」


数分後、ガロードは芳佳のいる独房の前にやってきた。しかし……。
「あれ? 誰もいない……」
独房はもぬけの殻になっていた。
「ここじゃないのか? まさか……」
「わん!」
すると兼定は「ついてこい!」と言いたげに吠えて格納庫の方に向かっていった。
「あ! 待てよ兼定!」
ガロードは走っていく兼定を追いかけていく。

そして数分後、ガロードと兼定は格納庫に辿り着く、するとそこには……。
「あ……ガロード君?」
「どうしてここに……?」
ストライカーユニットを履いた芳佳と、それを見送ろうとするリーネがいた。
「お前……謹慎してなきゃいけないんじゃなかったのかよ?」
「そ、それは……」
ガロードの質問に対し答えようとするリーネ、そんな彼女を芳佳は手で制する。
「……私、あのネウロイにもう一度会って確かめたいの、あのネウロイ……私に何か伝えようとしていたから……」
「いいのかよ? 下手したら銃殺刑モノだぜ?」
「……」
ガロードの質問に、芳佳は決意に満ちた表情で無言で頷いた。
「そっか……んじゃさ、俺にいい考えがあるんだ」
「「いい考え?」」
ガロードは悪い事を考えているような笑顔で芳佳とリーネに自分のある考えを話した……。



数分後、501の基地全体に警報が鳴り響いた。
「DXが……ガロード君が脱走した!?」
「は、はい……芳佳ちゃんと兼定を人質に“身の危険を感じてきたから脱走するぜ!”って言って……ネウロイの巣に向かっているみたいです」
ブリーフィングルームでリーネの報告を聞いていたミーナ達は度肝を抜いていた。
「はっはっは! ガロードめ……大それたことをする!」
「笑いごとじゃないぞ少佐! 急いで追撃隊の編成を……」
いつものように豪快に笑う美緒を諌めるバルクホルン、その時指令室にある電話が鳴り響き、ミーナが受話器をとった。
「はいこちら501……閣下? はい……ですが……いえ、了解しました」
ミーナは通話を終えて受話器を置くと、隊員達に指令を出した。
「先程司令部からDXを捕獲せよと指令があったわ、中のパイロットと人質の生死は問わないそうよ」
「な、なんですって!?」
「穏やかじゃないね……!」
司令部の対応の速さと指令の内容に驚くペリーヌとエーリカ、他の隊員達も同じような反応をしていた。
「対応が早すぎるな、まるで内部にこちらの情報を流している者がいるみたいだな」
「今はそんな事を考えている暇はないわ、上層部も援軍を出してくれるみたい……とにかく出撃するわよ!」





一方その頃海上では、DXが人型ネウロイが現れた空域に向かっていた。
「ガロード君ごめんね……私のわがままに付き合わせちゃって」
「いいんだよ、そろそろ基地から出ていかなきゃなーとは思っていたし、あのネウロイも気になるし、あのままお前を出撃させていたら後々大変だったろう?」
“芳佳はガロードの人質になっている”というのはガロードが芳佳に罪を被せない為にリーネに言わせた嘘だった、もしあのまま芳佳だけを行かせたら軍の法律で重い罪に被せられてしまう……なら基地を去るつもりの自分がすべての罪を被ろうと考えていたのだ。
「ワン!」
「兼定も付いて来ちゃったね……」
「こいついつの間に潜り込んでいるんだもんな~!」

そしてDXでしばらく飛んだ後、芳佳はある疑問をガロードにぶつける。
「ねえガロード君、あの仮面のウィッチ……ティファっていったい誰なの?」
「ティファか……あの子は俺の大切な子さ」
きっぱりと言い放つガロード、そんな彼を見て芳佳は質問を続ける。
「大切って……どのくらい?」
「どのくらい……そうだなあ、ずっと一緒にいるって約束したぐらいかな、俺はティファの為ならなんだってできるぜ!」
「そう……なんだ……」
芳佳は胸がちくちく痛むのを感じながら、ガロードの話に耳を傾け続けた。一方のガロードは嬉しそうにティファの話を続けていたが、急に暗い顔をする。
「……それなのにどうしてティファは俺や皆を……ティファは確かに色んな奴に狙われるような特別な力を持っているけど、あんな風に武器を持って戦う子じゃないんだ! 一体誰がティファをあんな風に……!」
自然とレバーを握るガロードの手に力が入る。
「……行こう、あのネウロイはガロード君にも何か伝えようとしていた……!」
「ああ、確かめに行くぞ……!」
「ワン!」


それから数分後、DXは人型ネウロイが出現した空域に辿り着いた。
「ここか……」
「あ! 見てガロード君!」
すると芳佳はモニターに映る人型ネウロイの姿を発見する。
『……』
人型ネウロイはDXの目の前でホバリングすると、ふっと背中を向けて移動を始める。
「ついてこい……って言っているのかな?」
「とりあえず行こうぜ」
ガロードは迷うことなくDXでネウロイの後を付いて行った。
その前方には巨大な渦のような黒い雲がそびえていた。
「あれは……!?」
「ネウロイの巣だよ!」
そしてDXはネウロイに案内されながら巣の中に真下から入って行った……。



「うわあ……まるで雲の廊下だぁ」
巣の中を進みながら芳佳は場違いな事を言っていた。そしてDXは巣の中心に到達し、そのまま光に包まれた。
「……っ! ここは……」
ガロード達が辺りを見回すと、DXの目の前にネウロイが透明な十二面体をバックに立っている事に気付く。
「これは……?」
「教えてくれ! お前は一体俺達に何を伝えようとしているんだ!?」
するとDXの目の前にいくつものスクリーンが展開され、そのすべてに青い地球が映し出されていた。
「地球……?」
するとスクリーンの一つの画面が、空から突然現れ街を火の海にするネウロイと、それを迎撃している美緒を映し出していた。
「坂本さん!?」
思わず芳佳が声を掛ける、すると画面は今度は墜落したネウロイのコアを、それを取り囲む研究者らしき者達の様子を映し出した。
「ネウロイの……破片?」
次に画面は研究室らしき場所を映し出す、そこにはぼんやりと人型の機械が置かれているのがわかる。
「ネウロイの破片とロボット……どういう関係なんだろう?」

「なあネウロイ! お前はティファがあんな風になった原因を知っているのか!?」
ガロードの問いに応えるように、今度は隣にあったスクリーンがある様子を映し出す。
そこにはガロードが戦っていた月面での地球軍と革命軍の様子が映っていた。
「これは……!」
「あそこで戦っているの……DXだよね!?」
芳佳はヴァウサーゴとアシュタロンとサテライトキャノンを撃ちあっている様子を見て目を見開く。
「どうしてお前達があの戦いを……!?」
スクリーンは次に戦闘が終わりMSや戦艦の残骸が浮かぶ宇宙を映し出す、するとそこに一隻の白い戦艦が現れた。
「フリーデン……!」
「え? ガロード君あの戦艦と知り合いなの?」
「知り合いも何もあそこにティファが乗って……!?」
その時、フリーデンは突然出現した黒い渦に飲み込まれ、その場から姿を消した。
「フリーデンが……消えた!?」

次にスクリーンは巨大な試験管のようなものに入れられたティファと、ネウロイのコアを持ったガロードと同い年ぐらいの少年が映し出されていた。
「ティファ……!? おいお前ティファに何するんだ!? やめろ!」
「が、ガロード君、多分聞こえてないよ……」
少年は妖しく微笑むと、手に持ったコアをティファの体の中に入れてしまった。
「あいつが……! あいつがティファをウィッチに!!」
「あれ……?」
激怒するガロードの隣で芳佳は、ティファの後ろにいくつものネウロイのコアが試験管の中に収められていた。
(あんなに沢山のコアが……あの人が捕まえたのかな?)

そしてスクリーンが消え、再びネウロイがDXの前に立った。
「何にせよありがとう、おかげで色んな事が判った」
ガロードは自分達をここまで導いてくれたネウロイにお礼を言う。
『……!』
するとネウロイは何かを察知してその場から消え去ってしまった。
「! どこへいくの!?」
「外で何かあったのか……!?」

数分後、DXが外に出るとそこには美緒達ウィッチ、海上には赤城を始めとした扶桑海軍がネウロイの巣を取り囲んでいた。
「坂本さん!? 皆!?」
『ガロード、聞こえるか?』
DXのコックピットに美緒から通信が入る。
「もっさん、これは一体どういうこった?」
『上層部がお前“達”を敵性勢力として排除いろと命令してきた、ただし……DXだけはなるべく無傷で回収しろとな』
「……色々と無茶苦茶だな、もっさんどころか扶桑海軍まで引っ張り出すなんて」
「坂本さん聞いてください! あのネウロイは……!」
その時、ガロードと美緒達の通信に割って入ってくる者が現れた。
『坂本少佐、裏切り者に何を躊躇っている、早く攻撃を始めるんだ』
『マロニー中将!? しかし……!』
(マロニー……あいつか)
ガロードはこの包囲網がマロニーの指示だという事が判り歯ぎしりする。
『やつらは我々を裏切り、誰も入る事が出来なかったネウロイの巣に丁重に案内されながら入ったのだ……いわば人類の敵になったのだ、躊躇わずに攻撃するんだ!』
「そんな! 私達そんなつもりじゃ……!」
「よせ芳佳、何を言っても無駄だ」
弁明しようとする芳佳をガロードは手で制する。彼は無茶苦茶な理由で自分達を攻撃しようとするマロニーに何を言っても無駄だと思ったのだ。
「で、でもガロード! このままじゃ私達……!」
「とりあえずここから逃げるぞ、まあ俺を信じてくれ」
そう言ってガロードは芳佳にウィンクすると、美緒達に向かって大声で叫んだ。
『おいお前ら! そんな事言っていいのか~? このDXにはお前らを一気に吹き飛ばすほどのおっそろしい兵器が搭載されているんだ!』
『何!? 聞いてないぞそんなの!?』
初めて聞くDXの秘密に美緒を始めとしたウィッチの殆どの面々は動揺する。しかしその中でミーナは冷静に判断を下していた。
『落ち着いて皆、ガロード君のはったりって可能性だってあるのよ?』
しかしそれもガロードの計算のうちだった。
『どうかな? そんな事言うと本当に撃っちゃうよ!』
そういってガロードはDXの背中の翼を可変させ、二本のキャノンの銃口をウィッチ達や扶桑海軍に向ける。
『変形した……!? まさか本当に!?』
「判ったら俺達をこのまま逃がしてくれ、一緒に戦った仲間を撃ちたくないからな」
すると芳佳がガロードに小声で話しかける。
(ガロード君!? まさか本当に……!?)
(安心しろ、脅しだ脅し、第一サテライトキャノンは……)

だがその時、マロニーの口から予想外の言葉が放たれた。
『その兵器は……マイクロウェーブを受けないと撃てないのではないのかね?』
「!!!!?」
「マイクロウェーブ?」
ガロードはこの世界では自分しか知らない筈の事実をマロニーが知っている事に驚愕する。
「な、なんでアンタがその事を……!?」
『ふん! 見くびってもらっては困る……今から我々の力を見せよう!』



するとウィッチ達の遥か後方から三つの戦闘機らしきものが高速で接近してくる。
「うわ! なんだ!?」
「今のは……!?」
美緒達は自分達の横を通り過ぎて行った戦闘機に驚愕する。

そして三つの戦闘機はそれぞれ人型に変形し、両腕を胸で合わせて赤いビームを一斉に発射した。
「うわあ!」
「きゃ!」
赤いビームのうち一つは隣にいた人型ネウロイを消滅させ、もう二つはDXの足と腕に直撃した。
「あのネウロイが!」
「な、なんだあのスピード……!?」
『はっはっは! 見たか我々のウォーロックの力は!? 大人しくDXを引き渡せば命は取らないでやるぞ……!』
マロニーはガロードを脅迫しながらウォーロック三機にDXを包囲させる。
「が、ガロード君……!」
「大丈夫だ芳佳、俺を信じてくれ……! ここで死ぬつもりも死なせるつもりはない!」
ガロードは覚悟を決めてバスターライフルのビームをウォーロックの一つに向けて発射する、しかし狙われたウォーロックは凄まじい機動力で回避し、他の二機と共にDXに反撃し始めた。
「うわっとと!!? 掴まれ芳佳!」
「うん!」
ガロードはウォーロック三機の攻撃を逃げるように回避し、そのままそこから逃げようとする……しかしウォーロックは猛スピードでDXの背後をぴたりとくっついて離れなかった。
「くそ!」
逃げながらバスターライフルで反撃するも回避されてしまい、ガロードの心の中に自然と焦りが見えてきた。
「ガロード君……!」
「このままじゃヤバい……! まだティファも取り戻していないのに……!」

一方DXとウォーロックとの戦いを見守っていた美緒達は、自分達はどうすればいいか迷いに迷っていた。
『どうしたミーナ中佐? 早く君達も加勢に向かいたまえ!』
「で、ですが中将……!」
『元はと言えば君があの裏切り者を野放しにしていたからこんな事になったのだぞ? 尻拭いは君達でしたまえ』
「くっ……!」
マロニーの言うことは軍人としては正しいのだろう、しかしミーナはその命令に素直に従うことが出来なかった。
「ミーナ! 我々は……!」
「ガロード君と宮藤さんと戦うなんて、そんな……!」
「あれ?」
その時、エーリカはDXの後ろから何かが接近してくる事に気付く。
「ん? どうしたハルトマン?」
「向こうから何か近付いてくるよ! 青いのと赤いのと白いの!」
「まさかまたウォーロック? それともネウロイ?」
「いや……あれは!?」


するとDXのコックピットに新たな通信が入る。
『ガロード! 高度を下げてください!』
「!!」
ガロードはその声に反射的に反応してDXの高度を下げた。
するとウォーロック三機に向かってビームやミサイル、銃弾の雨が降り注いだ。
「今の攻撃は!?」
「まさか……!」
ガロードは攻撃が来た方角を見る、そこには彼がよく知っている三機のMSの姿があった。
「エアマスター! レオパルド! ベルティゴ!」

『おらおら! スピードならエアマスターも負けてねえぜ!』
可変型MSであるガンダムエアマスターバーストのパイロット、ウィッツ・スーは可変して攻撃から逃げようとしたウォーロックを猛スピードで追撃し、ノーズビームキャノンでエンジン部分を破壊し墜落させる。

『いけ! ビット!』
カリス・ノーティラスが駆るニュータイプ専用MS……ベルティゴは、残り二機に対してビットを放出し、四方からビームを浴びせ二機ともを撃墜する。


「な、何あれ……!」
「DXと色が違うけど……顔は似てるね!」
「感心している場合か! アレは一体……」
ミーナや美緒は突然現れた三機の巨人に動揺し、逆にルッキーニは興奮気味に喜んでいた。するとミーナの元に再びマロニーから通信が入る。
『な、何をしている! 君達もウォーロックと共に戦うんだ!』
「で、ですが……」
DXと同等、もしくはそれ以上の戦闘力を持っているかもしれない巨人と戦うのはあまりにも分が悪く、ミーナは先程以上に戦う事を躊躇っていた。
そしてそうこうしているうちに、海上にいた扶桑海軍がDXらに向かって砲撃を始めた。



「ふ、扶桑海軍まで攻撃してきた!?」
芳佳はDXの中でかつて味方だった者達からの攻撃が激しくなっていく事に動揺する。するとGファルコンと合体しているレオパルドデストロイから通信が入ってきた。
『おいおいガロード、ティファというものがありながら彼女連れか~?』
「ロアビィ……ティファが……」
『おっと、詳しい話は後にして、そろそろフリーデンに逃げるぞ』
そう言ってレオパルドに乗るロアビィ・ロイは扶桑艦隊やウィッチ達の手前に向かってミサイルやビーム、ガトリングの弾をありったけ撃ち込み、巨大な水しぶきを上げさせる。
『よし! 逃げるぞガロード!』
「皆……!」
「リーネちゃん、坂本さん、皆……」
ガロードと芳佳は美緒達ウィッチを一瞥した後、ウィッツ達と共にその場から去っていった……。


「ふにゃー!!? ちべたー!!?」
「目くらましか!?」
「海軍の人達も船の制御が出来ないみたいですわね……!」
リーネらウィッチ達は波に揺られて舵が効かなくなっている扶桑海軍の艦隊を見ながら、高速で去っていくDXらを見送った。



数分後、ガロードは久しぶりに再会したウィッツ達に色々と通信で質問していた。
「ウィッツ、ロアビィ、カリス……お前達もこの世界に来ていたんだな」
『俺らだけじゃねえよ、フリーデンの皆全員がここに来ている、ティファを除いてな……』
『僕達は数週間前、この世界のアフリカ大陸にいつの間にか来ていたんです、そして現地のウィッチの部隊にガロードと501の事を聞いてここに来たんです』
『驚いたぜ~! DXの反応を見つけたと思ったらお前ら軍に取り囲まれているんだもん!』
「そうだったのか……ありがとう皆」
久しぶりに仲間達と話し、ガロードの顔は自然と綻んでいた。するとそんな彼に芳佳は話しかける。
「ガロード君、この人達は一体……?」
「こいつら? こいつらは……」
するとDXらの行く手に、白くて巨大な戦艦……フリーデンが見えてきた。


「お前らと同じで、俺の大切な仲間さ」










その頃501基地の司令室では、マロニーが先程の戦闘結果に不満を漏らしていた。
「なんということだ……! ウォーロックが三機ともやられてしまうとは……!」
すると隣にいたマロニーの副官が彼を宥める。
「技術部はまだウォーロックは調整不足と言っていました。やはり早すぎたのでは……?」
「判っている、そもそもあの扶桑の小娘がネウロイと接触などしなければ、我々はこんなに早く動かなかったのだ、だがしかし……慌てることはない」
その時、彼の背後から一つの影が現れた。
「マロニー中将、ウォーロック小隊の戦闘配備、終了しました」
「うむ、中々の手際だ」
マロニーはそう言って外の滑走路を見る、そこにはざっと20機程のウォーロックが隊列を組んで並んでいた。
「いえいえ、僕達は“彼”からコアを預かってきただけですよ」
「いやいや、君達のおかげでウォーロックの量産が可能になったのだ……」
マロニーはそう言ってその謎の青年の方を向く。



「感謝しているぞ……オルバ・フロスト」









次回予告
共に戦ってきた仲間との離別、そしてかつての仲間達との再会を経て、ガロードはマロニー達の陰謀を阻止するため、そしてこの世界を守る為に再び戦場に赴く。
「この世界をお前達の好きにはさせない!」


自分が想いを寄せている人の、一番大切な人を救う為、芳佳は仲間達と共に叫ぶ。
「私達の声を聞いて! ティファちゃん!」


二人は戦う、自分達にできる事を一つずつ叶えながら、離さず、あきらめずに、信じ続けながら。
そして二人は仲間達と共に未来を作りだす、それが新たなる苦難の始まりだとしても。



最終話「DREAMS ~みんなでできる事~」
さあ飛ぼう! 光の翼を広げて!










本日はここまで、次回は第一部最終話でストパン原作11話と最終話をベースにした話をまとめてお送りするつもりなのでちょっと長いかもです。
フリーデンがアフリカからガリアに来る経緯は最終話後に外伝として投稿します。(一応その話は書き終わっています)

第一部も残りわずか、はたしてガロードはティファを救う事が出来るのか!? ウィッチに不可能はない! 頑張って書きますのでみなさん楽しみにお待ちください!



[29127] 最終話「DREAMS ~みんなでできること~」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2012/01/05 22:55
フリーデンに着艦しDXから降りたガロードを出迎えたのは、キッドやパーラ、そして整備班の面々だった。
「ガロード! 生きてやがったかこのやろう!」
「たくぅ! 心配掛けさせやがって!」
「ははは……ただいま、皆!」
ガロードは手荒い祝福を受けながら、かつての居場所に帰ってきたことを心の中で噛み締めていた。
「が、ガロード君……」
「わん!」
するとガロードの背後から芳佳と兼定が声を掛けてくる。
「おっと、紹介が遅れて悪かったな、こいつはキッド、このフリーデンの整備を担当していて……」
「! おいおいガロード! ティファというものがありながらこんな可愛い子連れてんのか!? かぁ~! この色男!」
キッドは芳佳の姿を見るや否や、肘でガロードの脇腹をつつく、いつものガロードならこれで反撃に転じるのだが、今回は少し違っており、少し思いつめた様子で俯いてしまう。
「ティファ……ティファは……」
「? どうした? ティファに何かあったのか?」
キッドら整備班達もガロードの深刻な様子に気づき顔を引き締める、するとそこにそれぞれのMSから降りてきたウィッツ、ロアビィ、パーラ、そしてカリスがやってきた。
「ガロード……どうやら君は僕たちと別れている間に色々あったようだね」
「ああ……」
「……とにかく私達とブリッジに行こう、そこの嬢ちゃん……えーっと」
「芳佳です、宮藤芳佳……この子は兼定です」
「ワンワン!」
「よっしゃ芳佳、あんたも一緒にブリッジに来てくれ、案内するからさ」


数分後、ガロード達はウィッツらに案内されてブリッジにやってくる、そこには……。
「ガロード……よく無事だったな」
「まったく、皆心配していたのよ」
フリーデンの艦長ジャミル、副長のサラ、オペレーターのトニヤ、操舵手のシンゴ、そして船医のテクス、そして先ほど出撃していなかったMS乗りのエニル……フリーデンの主要メンバー全員が欠けることなく揃っていた。
「ジャミル! それにみんな……また会えてうれしいよ! でもどうしてこの世界に?」
「月での戦いの後、お前を探してフリーデンで彷徨っていたら突然現れた黒い渦に巻き込まれてな……気が付いたらこの世界に来ていたのだ、壊れたはずのこのフリーデンⅠと一緒にな」
「大変だったのよ、現状を把握する前にあのネウロイとかいう怪物に襲われるわ、資材や食糧集めに苦労するわで……」
「そんな時アフリカでウィッチの加藤圭子っていう人に会って、その人に501の基地にいるガロードのことを教えて貰ったんだ」
「でももうすぐ501の基地に着くと思ったら、DXが軍隊に取り囲まれているのを見て……慌ててロアビィ達が助けに行ったのよ」
「そうだったのか……」
ジャミルとトニヤとシンゴとエニルの説明を受けてこれまでのことを頭の中で整理するガロード。そして今度はジャミルがガロードに質問する。
「ガロード……いったい何があったのだ? ティファは……」
「ティファは……」

ガロードはこれまでのことを順番に説明していった、成行きで芳佳達ストライクウィッチーズに協力した事、軍がDXを狙っている事、襲いかかってきた仮面のウィッチがティファだった事、ネウロイが人間の姿になってティファのことを教えてくれた事、芳佳と共に軍に敵として追われる身になってしまった事を……。
「ティファがウィッチに……!? しかもお前を攻撃しただと!?」
「呼びかけに反応したってことは、他人の空似じゃないのは確かだと思う……でも……」
するとフリーデンのメンバーの話を後ろで聞いていた芳佳が意見を言ってくる。
「ウィッチは魔力を持った子じゃないとなれないんです、ガロード君の話じゃティファちゃんって子は普通の女の子みたいですけど……」
「ニュータイプはフラッシュシステムを使えば特定の物を動かせる、しかし自分で空を飛ぶなんて聞いたことがないぞ……」
芳佳の話を聞いて、ジャミルは頬杖をついて悩み始める、するとガロードはあることを思い出した。
「そうだ……! あのネウロイが見せてくれた画像! ティファは体にネウロイのコアを取り込んでいた! まさかそれで……!?」
「魔女がいる世界だしね……そういう魔法もあるの?」
トニヤの質問に、芳佳は首を横に振る。
「私は知りません……もっと詳しい人なら知っているかも……」
「ふむ……とりあえず今後の行動方針が決まるまでこの場で待機しよう、何か決まり次第またここに集まってくれ」
一通り話を終え、ジャミルはガロードを休ませるため皆に一時解散を言い渡した……。





数分後、ガロードは芳佳を連れてフリーデンのレクリエーションルームにやってきた。
「お、ここも直っていたのか」
「ああ、誰がやってくれたかはわからないけど親切な人もいたもんだねえ」
カウンターにはロアビィがおり、ガロードと芳佳、そして兼定にそれぞれミルクを出した。
「すごい……戦艦の中にこんな場所が……」
芳佳はミルクをちびちび飲みながら物珍しそうにレクリエーションルームを見渡した。
「ロアビィが息抜きにってみんなの為に作ったんだよ、いいところだろ?」
「ガロード君はずっとこの艦で旅をしていたんだ……すごいなあ」
「ああ、俺にとって大切な場所だよ、ところで芳佳」
ガロードはあることが気になっており、芳佳に質問する。
「お前これからどうするんだ? 軍に逆らったらもう帰れないんじゃ……」
「そうだね……今帰ったらいろんな人に迷惑かけちゃう、もう私はどこにも帰れないんだ……」
するとガロードは励ますように芳佳の肩をポンと叩いた。
「なんなら俺がジャミルに頼んでフリーデンに乗せてもらうか? お前炊事洗濯得意だし歓迎してくれると思うぜ」
「え? でも迷惑じゃ……」
「そんなことないって! 遠慮することないさ!」
「う、うん……」
芳佳はそんなガロードの優しさに触れて、赤くなった顔を牛乳の入ったコップで隠した。
するとそんな芳佳を見たロアビィはガロードをからかい出した。
「おいおいガロード、そんなんじゃティファが嫉妬するぜ?」
「え? なんで?」
「なんでってお前……はあ、お前そういうところは天然なんだな」
「まったくよねえ」
するとそこにエニルが現れ、芳佳の隣の席にスッと座った。
(うわ、この人派手な格好……胸も大きい!?)
芳佳はエニルのヘソだしで谷間が見える露出度の高い派手な服装を見て思わず生唾を飲み込む。すると彼女は芳佳の耳に小声で耳打ちした。
(ねえあなた……もしかしてガロードに気がある?)
(うええええ!? いったい何を!?)
いきなり本心を見透かされ、芳佳は大いにうろたえる。
(……言っとくけどガロードは手強いわよ? はっきり言ってティファの代わりにあいつの隣に入り込むのは無理ね、経験者が語るんだから間違いないわ)
(え……?)
エニルの意外な言葉に呆気にとられる芳佳。
(ま、大変だとは思うけど……後悔はしないようにね?)
(は、はい……)
するとテーブルの下にいた兼定と遊んでいたガロードは、芳佳とエニルが小声で話し合っていることに気付いた。
「? 二人で何の話してんの?」
「秘密、アンタには絶対話せない話よ」
「あははは……ごめんねガロード君」



次の日の朝、フリーデンの格納庫ではキッド達整備班の面々がDXの整備を行っていた。
「たくガロードの野郎、こんな滅茶苦茶な整備をしやがって……」
「しょうがないッスよ、この世界では物資を手に入れる手段が限られているんですから……むしろよくここまでやったと思いますよ?」
キッドの独り言に、部下の面々がフォローを入れる。
「まあこっちもカツカツなのは変わりないんだけどよー」
「おーいキッドー」
するとそこに整備の手伝いに来たパーラがやってきた。
「ようパーラ、どうしたんだい?」
「どうしたもこうしたもないだろ! 私のGファルコンの追加エネルギーパックは直ったのか!?」
すると部下の整備兵がキッドの代わりに応える。
「この前のネウロイとの戦いで破損した部分ッスか? すみません……他に優先して直さなきゃいけない部分があってまだなんスよ」
「マジかよ~!? せっかくDXと合流できたからサテライトキャノンが撃てると思ったのに~!」
「え? だってこの世界にマイクロウェーブ送信施設は……」
「お前知らないのか、DXとGファルコンが合体してエネルギーが十分溜まっているならすぐにサテライトキャノンが撃てるんだぞ。連射だってできるんだ」
「へー!? そうだったんですか!」
自分の知らないDXとGファルコンの機能を知って感心するキッドの部下。
「サテライトキャノンが撃てればネウロイなんて巣ごと吹き飛ばせるのにな~、まあしょうがな……?」
ふと、パーラはMS発進口から見える青い空に、一機のプロペラ機が飛んでいるのを発見する。
「なんだあの飛行機……? こっちに飛んでくるぜ」
「え? うわホントだ、しかもエンジンから煙出てんじゃん」
「チーフ、あれこっちに来てません?」

その時、飛んでくるプロペラ機から少女の声が聞こえてきた。
「どどどどどどいてくれ~!!! 墜落する~!!!」

「わー、墜落するってよー」
「どいてくれって事はこっちに突っ込むってことですかねー」
「現実逃避してる場合か! 皆逃げろー!」
パーラの叫びで格納庫にいた整備班の面々は慌てて逃げ出す。
そしてプロペラ機はそのまま格納庫に突っ込み、胴体着陸して滑る様に格納庫の床を進んでいき、最後に機材の山に突っ込んで停止した。
「あ、危ねー! なんだアレ!?」
「くぉらー!! どこのエンデュミオンの鷹だテメーら!!!?」
格納庫を滅茶苦茶にされて怒り心頭のキッドはどかどかとプロペラ機に向かう。
「はにゃ~……」
「あ、あのジジイ共……こんなポンコツ使わせやがって……!」
プロペラ機のコックピットには、ヒビが入ったゴーグルを付けたオレンジ髪のグラマラスな少女と、褐色のツインテールの少女がのびていた。

「な、なんだ今の音―!?」
「まさかネウロイですかー!!?」
するとそこに騒ぎを聞きつけたガロードと芳佳がキッド達の元にやってくる。
「ああ二人とも見てくれよ、格納庫にプロペラ機で突っ込んできたバカがいてよー」
「ああん? どこのバカだよそんなことするの……」
そう言ってガロードはプロペラ機に乗る二人を見る、そして再びキッドを見た。
「ゴメン、あのバカ俺の知り合いだわ」
「シャーリーさん!? ルッキーニちゃん!? 一体何しているの!?」



数分後、シャーリーとルッキーニはガロードらによってブリッジに連れてこられた。
「いやあすんません、リベリオンに帰る途中であのポンコツのエンジンが壊れてちゃって……」
「ここがガロードのいた戦艦なんだ! すっごーい!」
そう言ってルッキーニは初めて入るブリッジに興味深々だった。そんな彼女達にジャミルは紳士的な態度で応対した。
「君達……どうしてこの海域を飛行機で飛んでいたのだ?」
「なんか帰るって言ってたけど……」
「ああ、実は私達501は解散になったんだ」
「「えええ!!?」」
シャーリーの答えにガロードと芳佳は驚愕する。するとルッキーニが不満そうに話を続けた。
「あのマロニーってやな奴がね! “ウォーロックの量産は済んだからお前達は用済みだー!”って言って無理やり解散させたの!」
「まあ私達があの時命令に従わなかったのもあるんだけどな、そんで私達はそれぞれ本国勤務の為にバラバラになったってわけ」
すると話を聞いていた芳佳は涙をポタポタと流し、シャーリーとルッキーニに謝った。
「ごめんなさい二人とも……! 私が勝手な事をしたせいで……!」
「そ、そんな! お前だけのせいじゃないぞ!」
「芳佳! 元気だして!」
それを見たシャーリーとルッキーニは慌てて芳佳を励ます。
その時ふと、ガロードはシャーリーの話を聞いてある事に気付く。
「おいシャーリー、ウォーロックってあれか、昨日俺に襲いかかってきた奴か」
「あ、うん……それがどうした?」
すると芳佳もある事を思い出した。
「そうだ……! あのネウロイが見せてくれた映像にもウォーロックが映っていた! 軍の人とネウロイのコアと一緒に!」
「まさかアレ……ネウロイのコアで作られているのか?」
「その可能性は高いでしょう」
その時、ブリッジにカリスが入ってきた。
「カリス? どうかしたのか?」
「先程……501基地の方角にいくつもの無機質な敵意のようなものを感じました、ネウロイと同じものです」
「敵意? アンタ何を言って……」
「もしかしてこの人も魔法が使えるの!?」
カリスの言っている事が判らず首を傾げるシャーリーと、興味深そうにするルッキーニ。するとガロードがカリスの代わりに説明してあげた。
「カリスはニュータイプなんだよ、まあ……エイラとサーニャの能力を合わせたのが使えるのさ」
「へえ! すごいんだね! ところでニュータイプって何?」
カリスの力を知り興味深そうにするシャーリーとルッキーニ、しかし当のカリスは真剣な面持ちでジャミルに話しかけた。
「何か嫌な予感がします……あそこにはティファの思念も……」





その頃501基地では、マロニーがガリアに巣食うネウロイの巣を壊滅させるため、ウォーロック20機すべてを出撃させていた。
「ウォーロック3号機から22号機、すべて発進準備は整いました」
「よし! これよりウォーロックによるネウロイ殲滅作戦を開始する!」
司令部にいるマロニーの号令の元、ウォーロックは飛行形態に変形して高速で飛び立っていった。





「始まったか……」
その様子を、美緒はペリーヌと共に扶桑に帰る赤城の上で見ていた。
「あれだけの戦力をマロニー中将が所有していたなんて……」
「確かにあんな物があったら私達ウィッチは用済みだな……アレにはアガリなんてものはないだろうし……」





一方501基地付近にある廃墟では、ミーナ、バルクホルン、エーリカがウォーロック小隊の様子を観察していた。
「始まったようね」
「うひゃー! ウォーロックがあんなに! 私達だけじゃ勝てないだろうねー!」
「あれだけあればガリアを奪回することはたやすいだろうな」
「もう……私達は用済みなのかしらね……」





その頃ロンドンに向かう貨物列車に乗ったエイラとサーニャは、眠い目をこすりながら別れた仲間達に想いを馳せていた。
「宮藤さんとガロード君……今頃どうしているんだろう?」
「だな、部隊も解散して宮藤の罪はあやふやになったけど、ガロードの方は相変わらずお尋ね者だしなぁ、まあ去って行く私達には関係ないんだろうけど……」





そしてリーネは、ビショップ家からの迎えの車に乗って501の基地から離れていった。
(芳佳ちゃん……ガロード君……もう一度会いたかった……)
リーネは大切な人を想い、瞳に涙をにじませていた。
「お嬢様? いかがいたしました?」
そんなリーネの様子を見て、運転手の男は気遣いの言葉を掛ける。
「大丈夫です……早く行きましょう」
リーネはすぐに涙をぬぐい、再び窓の外を見る。



―――助けて……!―――



「!!?」
その時、リーネの脳裏に女の子の声が聞こえてきた。
「どうしました?」
「今、女の子声が……!」
「私には聞こえませんでしたが……」
どうやら少女の声はリーネにしか聞こえていないようだ。否……。



―――助けて……!―――



「! エイラ……!」
「サーニャにも聞こえたのか!?」



―――助けて……!―――



「あん? トゥルーデなんか言った?」
「ミーナじゃないのか?」
「これは……! 私達の頭の中に……!」



―――皆を……助けて!―――



「この感じ……! あの時の!?」
「少佐にも聞こえていますの!? これは一体誰の……!」





一方フリーデンにいる芳佳、シャーリー、ルッキーニ、そしてカリスとジャミルにもその声が聞こえていた。
「うえ!? 何今の!?」
「ルッキーニ? お前にも聞こえたのか?」
「なんだろう、この感じ……」
芳佳達ウィッチが動揺する一方、ジャミルやカリスはその声の主が誰かすぐに判り、ガロードに伝える。
「ガロード! 今ティファの助けを求める声が……! ネウロイ達と同じ方角です!」
「ティファが!? 501基地に現れるのか……!」
「こうしてはいられない、我々は501基地に向かいティファを助け出す!」
ジャミルの指示にブリッジクルー達は一斉にコクリと頷く。
「ちょ、ちょっとまってガロード君!」
すると芳佳がガロードの目の前に立って主張する。
「ガロード君はお尋ね者になっているんだよ! それなのに基地に戻るなんて……!」
「それでも俺は行くぜ! そこにはティファが待っているんだからな!」
ガロードはまっすぐな瞳で迷うことなく言い切った。するとその様子を見ていたシャーリーがガロードの肩をポンと叩いた。
「しょうがねえ……この艦に墜落したのも何かの縁だ、私達も協力するよ」
「さっきの声……すごく苦しそうだった、私も手伝う!」
「お前ら……!」
自分達の立場が危うくなることもいとわず協力を申し出てくれるシャーリー達の懐の広さにガロードは感激する。そして最後に芳佳もガロードに言い放った。
「わ、私も手伝う! あのウォーロックって兵器の事、確かめたいんだ!」
「よっしゃ! それじゃ俺達で基地に殴り込みだ!」
「「「おー!!」」」
ガロードの号令で高く拳を上げる芳佳、シャーリー、ルッキーニ、それをジャミルは暖かい目で見守っていた。
(ガロード……どうやらこの世界でもいい仲間に恵まれたようだな)





その頃ネウロイの巣ではウォーロック小隊によるネウロイの巣の殲滅作戦が展開されていた。
まず10機のウォーロックは一列に並び、腕から出したビームで巣から出てきたネウロイの大群を一斉に落としていく、そして取り逃がした個体は残りのウォーロックが追跡しながら落としていった。

「中々の成果ですね、ウォーロックは」
「ははははは! 我々はネウロイの力を超えたのだ!」
その様子をマロニーと部下達は管制室で誇らしげに見守っていた。
モニターにはネウロイを示す赤い光が次々と消えていく、そして……。
「ネウロイの殲滅! 完了しました!」
オペレーターが報告を終えると、管制室の兵達が歓声とため息のような声を上げた。

しかし次の瞬間、うまく行っていた状況に急な変化が起こった。
「!? これは……!?」
「どうした?」
「ウォーロックがこちらからの制御を遮断しました!」





一方赤城に乗っていた美緒とペリーヌもウォーロックらの異変に気付いた。
「むっ、一機がこちらに近づいて来る」
「作戦は終わったのでしょうか?」
すると近付いてきたウォーロックは突如、美緒達が乗る赤城にビームで攻撃してきた。
「きゃあ!」
「ウォーロックが赤城を……!?」
辺りに警報が鳴り響き、船員達が慌てて対処を始める、そうこうしているうちに他のウォーロック達も赤城や他の扶桑の戦艦を攻撃し始めた。
「何が起こっているんだ……!?」



一方司令部のマロニー達もウォーロックの突然の暴走に驚愕していた。
「ウォーロック13番機が赤城を攻撃し始めました! 他の機も続々と……!」
「ダメです! こちらからの制御を受け付けません!」
「な、なんだと!?」
兵士達の報告に顔色を変えるマロニー、彼の脳裏にはある男の顔が浮かんでいた。
(もしやオルバ・フロスト……! 我々を謀ったのか!?)
そして様子を見ていた副官が彼に進言する。
「閣下、ウォーロック全機停止の指示を! このままでは扶桑海軍が……!」
「ならん! 我々がどれほどの苦労を掛けてあれの量産にこぎつけたと……!」
「味方を攻撃しているのです! ご決断を!」
「くっ……!」
マロニーは万感の思いで兵士達に指示を出す。
「ウォーロック強制停止システムを発動させろ! 急げ!」
「はっ!」
マロニーの指示を受け緊急停止のレバーを引く兵士達、しかしネウロイは一瞬止まったかと思うと再び動き出し、そのまま司令部に向かってビームを一斉発射した。
「うおおおおお!!?」
「だ、ダメです! 停止しません!」
ネウロイのビームは司令部の横をギリギリ掠め、そのまま基地を大きく抉った。



「基地が……!」
その様子を離れた廃屋から見ていたミーナ達も、事態が深刻な状況に陥っている事を察する。
「……行きましょう、このままにしてはおけないわ!」
そう言ってミーナ達は基地へ急行することにした。



「右舷後部デッキ被弾!」
「第二、第三高角砲大破!」
赤城は暴走したウォーロックの猛攻によりもはや航行不能に近い状況に陥っていた、それを察知した艦長はすぐに他の乗員達に指示を出す。
「総員退艦準備! 我々は赤城を放棄し……」
その時、ブリッジにいた兵士がレーダーを見て叫んだ。
「敵機がこちらに向かってきます!」
「!!」
艦長らブリッジクルーの目には、赤城の対空砲火を掻い潜ったウォーロックがビームを放とうとしている姿が映っていた。
「う、うわああああ!!」
「くっ……!」
それを見てブリッジから逃げ出そうとするもの、椅子から転ぶ者、その場でうずくまる者がいる中、艦長だけは覚悟を決めたようにウォーロックを見据えていた。
「ここまでか……!」
そしてウォーロックの腕に赤いエネルギーが収束していく、赤城のブリッジクルーの命を奪うために……。



『させるかーーーー!!!!』
その時、ウォーロックの横っぱらにエメラルドグリーンの光を放つ剣が刺さった。
「あれは……!?」
赤城のクルーは一斉に剣が飛んできた方角を見る、そこには……ガロードの駆るDXが向かって来ていた。
『炎のMS乗り……ガロード・ラン参上!』
『赤城のみなさん! 早く逃げてください!』
「……!? 今の声は宮藤さん!?」
DXはそのままウォーロックに刺さった剣……ビームソードを引き抜くと、ウォーロックを蹴り飛ばして海中に沈めさせた。
『まず一機!』
DXはそのまま飛びあがり、赤城を攻撃していた二機のウォーロックを追いかけていった。
「あれはDX……!?」
「艦長! この艦に通信が入っています! フリーデンという艦から……!」
「フリーデン?」
すると水平線の彼方から、数機のMSを引き連れたフリーデンが向かってきた。
「『我々が時間を稼いでいる間、貴艦は早急に撤退すべし』……だそうです」
「な、何にせよ有難い!」
艦長は突然現れたフリーデンに感謝しつつ、船員達に迅速な退艦を指示した……。



「あの艦の周りにいるのは、ガロードの……!」
赤城の艦板にいた美緒とペリーヌも、こちらに接近してくるフリーデンを視認する、するとフリーデンを守る様に飛んでいた青いMS……エアマスターバーストが美緒達の元に近づいてきた。
「あー! 少佐とペリーヌだ!」
「二人ともこんな所で何してんだー?」
そこから出てきたのはなんと、シャーリーとルッキーニだった。
「しゃ、シャーリーさん!? ルッキーニさん!?」
「お前達!? そんな所で何を……!?」



その頃、ストライカーが収納されている格納庫の前では、戻ってきたエイラとサーニャが立ち往生していた。
「あーあ、こりゃ入れそうにないな~」
「うん……」
彼女達の目の前には鉄骨で入り口が塞がれており、格納庫の中に入ることが出来なかった。
「あ! 二人も来ていたんだ!」
するとそこに、ミーナらカールスラント三人組みがやってくる。
「お、もしかしてお前らもあの声を聞いたのか?」
「あの声……? ああアレね、確かにそれもあるけど、その前に司令部に行っていたんだ」



同時刻、司令部にはバルクホルンによってぼこぼこにされた兵士数人と、エーリカによってコードで縛りあげられたマロニーらの姿があった。
「お、おのれ~! 小娘共めえ~!!」



「あの人、事実を捻じ曲げて官邸に嘘の報告書を出したり、私達ウィッチを陥れる為に色々とやっていたみたい」
「そしてウィッチを超える力を手に入れるため、ネウロイのテクノロジーを利用した……戦後、自分達がこの世界の主導権を握る為にな、まったく呆れて物も言えん」
ミーナとバルクホルンはため息混じりにエイラとサーニャにマロニーらの陰謀を説明する。
「ま、何にせよ今は暴走したっぽいあいつらをどうにかしないと……」
「この鉄骨、どうにかならないかな……?」
そう言ってエイラ達は高くそびえる鉄骨を見上げた……。


「お~い! 皆~!」
するとそこに、エアマスターに乗ったシャーリー、ペリーヌ、ルッキーニ、美緒がやってきた。
「美緒!? よく無事で……!」
「ああ、ガロードの仲間が助けてくれたんだ」
「ていうか……なんでお前達までいるんだよ」
「ま、成り行きって奴だ、ありがとうなウィッツー!」
そう言ってシャーリーはエアマスターに乗るウィッツに手を振る、するとそこに……。
「皆~!」
実家へ帰る道をUターンして戻ってきたリーネがやってきた。
「おお~! リーネも来た!」
「これで宮藤さん以外は集合ね」
「この鉄骨を避けさえすれば、あいつらと戦う事が出来るのに……」
するとエアマスターに乗るウィッツが美緒達に声を掛けてくる。
『おいどうした!? この鉄骨をよければいいのか?』
そう言ってウィッツはエアマスターで鉄骨を引っこ抜いて人どころかトラックが通れそうな程の隙間を作る。
「おおお~! エアマスターかっちょいい~!」
「よし! これなら!」



その頃ガロードはフリーデンの援護を受けながらDXで数機のウォーロック相手に奮戦していた。
「ガロード君! 後ろから来ているよ!」
「く……!」
DXの後ろからぴたりとくっついて離れない可変したウォーロック、するとどこからか数発のビーム弾が飛んできて、ウォーロックは破壊され海に落ちていった。
『ガロード! 大丈夫か!』
「ああ! サンキュージャミル!」
DXの窮地を救ったのはガンダムXディバイダー……パイロットはフリーデンの艦長であるジャミルだった。
『ここは我々に任せてお前はティファを!』
「わかった!」
ガロードはそう言ってジャミル達にウォーロックの相手を任せて、自分はDXを少し高殿高い場所に移動させた。
「芳佳、ここなのか?」
「うん、私達を呼ぶ声がここから……」

その時、DXの頭上から数発のビームが降り注ぐ。
「くっ……アレは!?」
ガロード達の視線の先には、仮面を付けたウィッチ……ティファが高速で接近してきた。
「来た! ティファちゃん!」
「ティファ! 俺だ! 返事をしてくれ!」
『……!』
ティファはガロードの声を聞いて一瞬動きを止めるが、すぐにDXの攻撃を再開する。
「うわあああ!?」
「お願いティファちゃん! 私達の声を聞いて!」
ティファは芳佳の言葉を聞くことなく、DXに向かってビームを放った、その時……。
『させませんわー!!』
DXの目の前に突然ペリーヌが現れ、魔力シールドでビームを防いだ。
「ペリーヌさん!?」
「お前! どうしてここに……!?」
『わたくしだけではありませんわ!』

するとDXの後ろから、ストライカーユニットを履いた美緒達がやってきた。
「ガロード!」
「ガロード君!」
『皆……! どうしてここに!?』
ガロードの質問にエイラが答える。
「マロニーの悪だくみが全部あからさまになったんだよ、お前の撃墜命令も取り下げられた!」
『そ、そうか……!』
『よかったねガロード君!』
ふと、芳佳がDXに乗っていると気付いたバルクホルンは、持っていた芳佳のストライカーを彼女の前に差し出した。
「宮藤! お前のストライカーもここにある! 一緒に飛ぶぞ!」
『は……はい!』

芳佳はDXから出ると、バルクホルンからストライカーを受け取って履き、エーリカからは武器を預かった。
そしてウィッチ達はティファの方を見る、その中で美緒は魔眼でティファの様子を確認した。
「やはりな……あの少女の中に僅かながらネウロイの反応がする」
「まさか……!? ネウロイのコアが人間の中に!?」
ミーナは信じられないといった様子で戦況分析の為動きを止めているティファを見る。
「あのネウロイが見せてくれた映像は本当だったんだ……」
『そんな……一体どうすれば!』
『あきらめてはダメです、ガロード』
するとそこにカリスの駆るベルティゴが現れ、通信を入れてくる。
『ティファは僕達に助けを求めていました……まだ完全には乗っ取られていない筈です。君が僕を助けてくれた時みたいに彼女に語り続ければあるいは……』
「なるほど……聞いていたな皆」
カリスの説明を横から聞いていた美緒は、芳佳達ウィッチーズの方を向く。
「カリス君……だっけ? つまり私達があの子に呼びかけ続ければいいのね?」
『ええそうです、ティファの声を聞くことが出来たあなた達ならきっと……』
「なあんだ! それぐらいお安い御用だよ!」
「弟のガールフレンドを守るのも姉の役目だ!」
『皆……』
協力を申し出るミーナ達にガロードは感謝の感情を抱いていた、するとそれに気付いた芳佳とリーネとペリーヌは彼に優しく語りかけた。
「ガロード君……私達ガロード君にいっぱい助けてもらったんだよ?」
「だから今度は私達が助ける番!」
「わたくし達にお任せください!」

そしてウィッチ達は横一列に並んでティファの方を見て、真ん中にいた美緒が号令をかける。
「皆行くぞ……作戦開始!」
それと同時に一斉に飛びだすウィッチ達、対してティファは彼女達に対してビームを放っていく。
「ティファちゃん! 私達の声を聞いて!」
「こんな事すんなよ! ガロードが困ってるだろー!」
ウィッチ達は反撃することなく、魔力シールドや回避でビーム攻撃を凌ぎながらティファに根気よく語りかける。
「目え覚ませ! 私達はお前と戦いたくない!」
「そうだよ! 私達は敵じゃないよ!」

するとティファはサーニャやエイラ、シャーリーやルッキーニの声を聞き、攻撃の手を緩め頭を抱えて苦しみ出した。
「うう……ううう!」

『……! 通じてます! 皆さんの声がティファに通じています!』
『皆! 頼む……!』

芳佳達ウィッチは引き続きティファに語りかけ続ける。
「しっかりしろ! ネウロイなんかに負けるんじゃない!」
「ガロードを悲しませるなよ……! 早く戻ってこい!」
「私達に手を伸ばして! 大丈夫だから!」

「う……うわああああー!!!」
するとティファはビームライフルを滅茶苦茶の方向に撃ち始める。
『ティファもネウロイに抵抗している……! もう少しですみなさん!』
皆は降り注ぐビームの雨を防ぎながら、ティファに声を掛け続ける。
「お願い! 元に戻って!」
「貴女の帰りを待っている方がいますのよ!」

「ううう……!」
「ん……!?」
その時、美緒はティファの胸が赤く光っていることに気づき、魔眼でその正体を確認する。
「見つけた……コアだ!」
それはティファの体の中に入っているネウロイのコアだった。皆の呼びかけにより奥底にあったものが体の外に出てきていたのだ。
「宮藤! あの子を抑えてくれ! 私がコアを破壊する!」
「はい!」
美緒は一番大きな魔力シールドを張ることができる芳佳にティファに突っ込むよう指示をする。
「こな……いで……!」
ティファは近づいてくる芳佳にビームを放っていくが、芳佳はそれをシールドで防ぎながら接近する、そして……。
「捕まえた!」
「くっ!?」
芳佳はついにティファを後ろから羽交い絞めにすることに成功する。
「坂本さぁん!」
「はあああああ!!」
芳佳の声に呼応するように美緒は刀を持ってティファに高速で接近していく、対してティファは美緒を落とそうとビームライフルの銃口を彼女に向けた。
「!! やめろティファあああああ!!!」
その様子を見ていたガロードは美緒がシールドが張れなくなってきているのを思い出し、力の限りティファに向かって叫んだ。
「!! ガロー……ド……」
するとティファはガロードの声に反応して体をビクンと震わせる、そのスキを美緒は見逃さなかった。
「はあああああああ!!!」
美緒はティファの胸に剣先を浅く当てるように突き立てた。するとティファの胸からパリンとガラス片が飛び散った。
「おっとっと!?」
芳佳と美緒は急に力が抜けたティファの体を支える、そしてそこにDXがやってきた。
『もっさん! ティファは!?』
「大丈夫、気絶しているだけだ……一旦降りるぞ」
『ならばフリーデンに行きましょう、テクスさんも待機している筈です。



数分後、フリーデンのMSデッキにウィッチ達やカリスと共に降りてきたガロードは、DXから降りて芳佳に治療させながら意識を失っているティファに必死に声を掛けた。
「ティファ! お願いだ……目を覚ましてくれ!」
周りの皆もその様子を固唾を飲んで見守っている、すると……ティファは目をうっすらと開けて意識を取り戻した。
「……ガロード……」
「ティファ! 俺がわかるか!?」
「ええ……ごめんなさい、私あなたを……きゃ!?」
するとガロードは目にうっすらと涙を浮かべながら、ティファを力いっぱい抱きしめた。
「よかった……! もう会えないかと思った……! もう離さないからな!!」
「が、ガロード……苦しい……」
ティファは顔を赤らめながらも、生きて最愛の人と再会できた喜びを、その人のぬくもりを感じながら噛みしめていた。

その様子を、ウィッチ達は様々なリアクションで見守っていた。
「も、もしかしてお二人は……やはりそういうご関係で……?」
「そ、そんなあ、ガロード君に彼女がいたなんて……家族か何かだと信じていたのに……」

「ちぇー、なんかいいシーンなのに胸がムカムカするー」
「あー? シャーリー嫉妬してるのー?」
「うるせーやい!」

(ま、まあそうよね……ガロード君かっこいいし、彼女がいても不思議じゃないわよね……)
「なるほど、弟の彼女ならば私の義妹ということになるな」
「ダメだこのトゥルーデ……早くなんとかしないと」

(そっか、あれがガロード君の彼女……それじゃ私とエイラは二号さんに甘んじるしかないわね)
「わーん! なんかサーニャが私を巻き込んでアブノーマルな事考えてる~!?」

(よかったな、ガロード……ん?)
その時、美緒はまだティファの中に魔力のようなものがあることに気づき、魔眼で確認する。
(なんだこれは……ネウロイのコアじゃない?)
ティファの体の中には、ネウロイのコアとは別の、ローマ数字の“Ⅷ”という文字が刻まれた石が存在していた。

そして芳佳はガロードとティファが無事再会できたことを喜びながらも、少し悲しそうな顔で二人の様子を一番近くで見守っていた。
(……そっか、あの子はガロード君の一番の子なんだ……)
そう思った瞬間、芳佳は胸はキュンと締め付けられるのを感じ、それを紛らわすように服をぎゅっと掴む。
「芳佳さん……」
するとその時、ティファは芳佳とウィッチ達に語りかける。
「ありがとう、私の声を聞いてくれて……おかげで私はガロードとまた会うことができました」
「そんな、私たちは……ガロード君の仲間として当然のことをしたまでだよ!」
芳佳の答えに、ほかのウィッチ達もうんうんと頷いた。
「それでも俺からも言わせてくれ、ありがとうみんな……!」
そう言ってガロードは芳佳達に精一杯の感謝の言葉を贈った、するとそこにカリスが話しかけてくる。
『ガロード、なにやらウォーロックの様子がおかしいです!』
「何!?」



20機いた暴走したウォーロックの数はフリーデン隊の活躍により一桁台まで減っていた、しかしそのうちの一機が沈んでいく無人の赤城に取りついた。
「あれは……!?」
脱出した赤城の船員たちはその光景を目の当たりにして驚愕する。
そして沈んでいくはずの赤城は再び海面に上昇し、そのまま空へ浮かび上がった。



「ウォーロックが……赤城に取りついた!?」
DXにティファと共に乗り込んだガロードは、赤城の様子を見て驚愕する。
「ガロード……あの艦から無機質な敵意を感じます、この世界を丸々と消し飛ばしてしまうような……」
『つまり……とっとと倒したほうがいいってわけね』
フリーデンの上で戦っていたロアビィのレオパルドデストロイから通信が入る。それと同時にほかのウォーロックと戦っていたエアマスター、Gファルコン、ジェニス、そしてGXディバイダーもDXの元に集結した。
『このままアレが暴れだしたら多大な被害が……なんとしてでも止めるぞ』
『ああ、これ以上ネウロイに好き勝手させたくねえからな』
『えーっと、坂本さんだっけ? あんたネウロイの弱点がわかるんだろ? どこにあるか教えてくれよ』
『わかった』
パーラに言われ美緒は魔眼で赤城に取りついたウォーロックのコアの位置を探る。
『艦の中心部……そこにコアがあるようだ』
『中に入って直接攻撃するか、外から無理矢理破壊するか……』
そう言ってミーナが作戦を考えていたとき、サーニャが広域探査の魔法を発動させてあることに気づいた。
『待って! ネウロイの巣から……!』
サーニャの指差す方向には、巣の中から次々と湧き出てくるネウロイの姿があった。
『げげげげ!? またうじゃうじゃ出てきたぞ!?』
『まるでゴキブリだな……やつらも黒いし』
『ちょ!? やめてよウィッツ! 想像しちゃったじゃない!』
『おいおいどーすんだキャプテン? あんな数俺らだけじゃ対処しきれないぜ?』
フリーデン組らは最悪の事態にジャミルからの指示を仰ぐ。
『仕方ない……被害は出ると思うがあの大軍を突破してあの指揮官機を破壊するしか道はない』
『異議なし……ですね』
ジャミルの作戦にミーナは同意する。


『ちょぉぉぉっと待った!!!』
その時、DXのコックピットに何者かが通信を割り込ませてきた。
「だ、誰だ!?」
ガロードはモニターに映る通信の送り主の顔を見る、そこには……。
「あ、あの時のじいさん!?」
『ほっほっほ、元気にしとったかガロード・ラン!』
数日前、バルクホルンらと共にクリスの見舞いに行った際に出会った怪しさ満開のスケベ老人が映っていた。
「ガロード? この人は……」
「いや、俺もよく判んないんだよ、会ったこともないのに俺の名前知っているし……」
『ほっほっほ! お前さんが知らなくてもワシは知っておるぞ、生まれる前からな! それよりもお前さん困っておるらしいの!』
「う、うん、まあ……」
ガロードは老人とどう接したらいいか解らず、歯切れの悪い返事をする。
『ふむ、どうやら創造主が作っておいたものが無駄にならなくて済みそうじゃ、ガロード……お前さんに力をやろう』
「力……?」
「!!」
その時、ティファは何かに気付いたのか急に空を見上げた。
『どうしたティファ……む!? これは!?』
『この感じ……!』
ジャミルとカリスも空の様子に気付いたようだ。そしてティファはある事をガロードに指示する。
「ガロード……サテライトキャノンの準備を!」
「え? サテライトキャノンって……ここにはマイクロウェーブ送電施設も無いし、第一今は昼間……」
するとティファはガロードの手をギュッと握り、彼の瞳をじっと見つめる。
「ガロード、私を……あのおじいさんを信じて」
「……そうだな、ティファの言う事に間違いはないよな!」
そしてガロードはフリーデンの面々、そして芳佳達ストライクウィッチーズにある指示を出す。
『皆聞いてくれ! 今からサテライトキャノンのチャージを始める……それまで皆はなるべくネウロイを一か所に集めてくれ!』
『サテライトキャノン!!? お前それ……!』
『この前もその名前を言っていたわね、一体何なのそれ?』
「へへへ……そのうち判るよ、それより時間が無い! 早く始めるぞ!」
『判った……やるぞミーナ』
『ま、信じるしかないわね……』

ミーナは隊長としてガロードを信じる覚悟を決め、隊員達に号令を下す。
『これより私達はサテライトキャノンの発射を援護します、DXに敵を近づけさせないように!』
『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』

一方フリーデンの面々は501の気合に刺激されていた。
『あいつら気合入ってんな!』
『こりゃこっちも負けてられないんじゃない?』
『MS乗りの戦い方……見せてあげようじゃない』
『ジャミルキャプテン、ご指示を』
『わかった……これより我々は501と共同戦線を張る』

『ガロード!』
その時、Gファルコンに乗るパーラがDXに通信を入れてきた。
「どうしたパーラ?」
『この際次いでだ、DXとGファルコンをドッキングさせよう! Gファルコンの武装ならあいつらが襲ってきても大丈夫だ!』
「わかった……!」



そして一同は赤城とネウロイの大軍に向かって行く。その先頭に立つのは……芳佳だった。
「私もやるんだ……! 皆でできる事、一つずつ叶えるために!」
芳佳はこの世界を守る為に飛ぶ、大切な仲間と、想いを寄せる人の大切な人と共に……。





最終話「DREAMS ~みんなでできること~」



向かってくる芳佳達とMS隊に向かってネウロイ達は一斉にビームを放つ、対して芳佳達は散開して回避した。

『野郎! うじゃうじゃと鬱陶しいんだよ! 落ちやがれ!』
MA形態に変形させたエアマスターを駆りながらネウロイを次々と落としていくウィッツ。
「お!? 面白そうあれ!」
それを見ていたルッキーニは何を考えたのか、可変したエアマスターの先端にぴったりと張り付いた。
『おま!? 一体何してやがる!?』
「いーからいーから! このまま突っ込んで!」
そう言ってルッキーニはエアマスターの先端に多重シールドを張る、それはまるで剣先のように尖っていた。
『よ、よおーっし! 行くぜ!』
ウィッツは覚悟を決めて最大加速でネウロイの大軍に突っ込んでいく、そしてルッキーニの光熱魔法で次々とネウロイは撃破されていった。
「ほにゃ~! やった~!」
『てめえ……なんて無茶しやがる……』
ウィッツはルッキーニの無邪気さと無謀さに呆れていた、そしてそれを見ていたシャーリーは目を輝かせてウィッツに話しかけた。
「すげー! 次私がやりたい!」
『アホか! 何度もできるかあんなもん!』



一方フリーデンでは、迫ってくるネウロイの大軍を対空砲火やロアビィのレオパルドデストロイとエニルのジェニスカスタムで次々と落としていった。
「こ、この野郎! フリーデンは落とさせやしないぞ!」
「右舷弾幕薄いわ! 誰か援護を!」
『私が行く!』
そう言ってエニルはジェニスを右舷に移動させる。
「気を付けて、キャプテン達やウィッチの子達に当てないようにね」
これだけの大混戦の中、艦長代理でフリーデンの指揮を執っているサラは冷静だった。その時……。
『面舵だ!』
「!!?」
突然入ってきた声に思わず操舵手のシンゴは反応し面舵を取る、すると先程までフリーデンがいた場所にネウロイのビームが直撃した。
「あ、危な~! 今の声がなきゃやられていたわね!」
『ぼーっとしてんな! 前進しろ前進!』
「お、おう!」
シンゴは通信に従いフリーデンを前進させる、するとダメージを負ったウォーロックが先程までフリーデンがいた場所に墜落した。
「あれは……!」
その時通信士のトニヤは艦外にタロットカードを持ったウィッチ……エイラがいる事に気付いた。

「へへへ……私の占いはよく当たるんだ」
エイラは未来予知の魔法を使ってフリーデンを攻撃や事故から守っていた、その時……。
「ん……不味いな」
タロットカードがフリーデンに回避不能の未来を表示する。
「前と後ろから! 同時に来るぞ!」
するとフリーデンの前方と後方から高速移動型のネウロイが同時に襲ってくる。フリーデンでは回避できない速度だ。
『おっと! ここは俺様にお任せぇ!』
するとエイラの通信を聞いていたロアビィが前から来るネウロイをミサイルで撃墜した、一方後ろから来るネウロイは……。
「やらせない……!」
いつの間にかフリーデンの上に来ていたサーニャがフリーガーハマーの弾で撃墜した。
『ひゅ~! やるねお嬢さん!』
「そっちも……」
「私達って組むともしかしたら無敵なんじゃね?」



その頃ミーナ達カールスラント三人組は大量のネウロイに取り囲まれていた。
「く……やはり数が多い!」
「勲章はこんなにいらないよ~!」
「まだなのガロード君……!」
残りの弾も少なくなり焦り出すミーナ達、その時彼女達の元にGXディバイダーが援護に駆けつける。
『今助ける! そこを動くな!』
そう言ってジャミルはGXディバイダーにハモニカ砲を構えさせ、数発のビームを一斉に放って大半のネウロイを撃墜した。
「すっげー! さすがDXと色が似てるだけの事はあるね!」
「いや、色は関係ないと思うが……」
「ありがとうございます、ええっと……」
『ジャミル……ジャミル・ニートだ、共に戦おうミーナ中佐』
ジャミルは簡単な自己紹介を済ませ、そのままミーナ達と共にネウロイの大軍に向かっていった……。



一方、コンビを組んで戦っていたリーネとペリーヌは、大型のネウロイが救命ボートに乗る赤城の乗員達の方に向かっている事に気付く。
「あ! ペリーヌさんあそこ!」
「いけない! あのままでは……!」
その時、大型ネウロイの体に数発のビームが直撃し、本体に大きなヒビを入れる。
「今のは!?」
「あの巨人からですわ!」
ペリーヌの視線の先には、カリスの乗るベルティゴの姿があった。
『今です! あのネウロイを!』
「はい!」
カリスの言葉で反射的にライフルを構えるリーネ、そして数発の銃弾を直撃させコアを露出させる。
「トドメですわ! トネール!!!」
ペリーヌはコアに向かって固有魔法の電撃を全身に纏いながら突っ込んでいく、そして見事にコアを破壊した。
「やったあペリーヌさん!!」
「ふん! これぐらいワタクシにかかれば……そこのアナタ、援護感謝いたしますわ」
貴族の娘らしく威厳を見せながらも、援護してくれたカリスに礼を言う事を忘れないペリーヌ。それに対しカリスは苦笑しながら答えた。
『いえいえ、共に戦う仲間として当然のことをしただけです……では僕はあの人達を避難させます』
そう言ってカリスは赤城の船員達の元に向かっていった。
「そういえばガロード君、まだ準備できないのかな?」
「もう、何をしていますの……!」





そんな時、ウィッチとフリーデンの戦いぶりを見ていた赤城の若い船員がぽつりと呟いた。
「すごい……あの巨人たち、まるで悪魔のような強さだ……!」
自分達が苦渋を舐めさせ続けられているネウロイを互角以上の戦いで圧倒するMS達が、若い船員には畏怖の意味も込めてそう見えていた。するとそれを聞いていた赤城の艦長は半ば自嘲気味に笑った。
「ふふふ……“魔女”と“悪魔”が一緒に戦っているのか、聞こえは恐ろしいがそれはネウロイにとってはだな」
「まったくです」
艦長の皮肉に隣にいた副長が微笑で答えた……。


戦闘が始まって数分後、フリーデンのカタパルトデッキからGファルコンとドッキングしたDXが出てきた。
「ガロード……来ます!」
ティファはそう言って空を見上げた。


その遥か視線の先の衛星軌道上、そこに一基の人工衛星が浮いており、その中心から一筋の光が放たれた。


「!! 来た! マイクロウェーブ!」
ガロードはその光をDXの胸で受け止め、展開していた翼を輝かせながら驚いていた、すると再びあの老人から通信が入る。
『ワシの創造主が作ったマイクロウェーブ送電衛星「BATEN」の模造品じゃ、月のものより出力は落ちるが、その代わり夜とかそういうの関係なくサテライトキャノンがぶっ放せるんじゃ!』
「へえー! 便利なモン作ったな、その……あんたの創造主? 一体何者なの?」
『ほっほっほ、いずれ判るわい、それよりもホレ、仲間が待ちくたびれておるぞ』
「おっとそうだった……皆! サテライトキャノンの射程範囲から離れてくれ!」
ガロードの号令に従い、501の面々やフリーデンの面々は戦場から離脱していく、その時……。
『ガロード! 一匹こっちに来るぞ!』
「!」
ネウロイの一匹がGファルコンと合体したDXに向かってビームを放つ、すると……。
『やらせない!!!』
芳佳が魔力シールドを張ってDXを守った。
『ガロードの邪魔はさせん!』
そして美緒がビームを放ったネウロイを一閃して撃墜する。
『ガロード君今だよ!』
『どんとキツイのをお見舞いしてやれ!』
「ありがとう芳佳、もっさん、みんな!」
芳佳や美緒達が射程範囲内から撤退したのを確認するガロード。
「よし! エネルギー充填100%……!」
そして操縦桿を握りしめながらツインサテライトキャノンの標準をネウロイや赤城に定める。
「お前達にこの世界を好きにさせない……!」
この世界で出会った仲間達を守るためガロードは引き金を引いた。

「ツインサテライトキャノン!! いっけぇーーーーー!!!」


―――グォォォォォン!!


次の瞬間、DXの肩の二本のキャノンから膨大なエネルギーが解放され、ネウロイの大軍と赤城を丸ごと飲み込み、そのまま後ろにあったネウロイの巣を貫いた。
「ひゃああああ!?」
「な、な、な……!? なんだアレは!?」
ツインサテライトキャノンを初めてみた芳佳達は予想を遥かに上回るその威力に驚愕する。
「DXにあんな恐ろしい機能が積まれていたなんて……!」
「心底……味方でよかったと思うな」



DXはすべてのエネルギーを解放し終え、そのままフリーデンの上に着艦する。
ネウロイと赤城はツインサテライトキャノンで完全消滅し、辺りに一瞬の静寂が訪れる、そして……。
「わ、私達勝ったの……?」
「勝ったんだよ芳佳ちゃん! 私達勝ったんだ!」
次の瞬間、辺りに赤城や基地に残っていた兵士、そしてウィッチ達とフリーデンのクルーの歓声が響き渡った。
『終わりましたねガロード……』
するとそこにカリスを始めとした仲間のMSらが集まってくる。
「ああ、これでネウロイは……」
「! 見てガロード! 巣が……!」
その時ティファはツインサテライトキャノンに巻き込まれたネウロイの巣が少しずつ消えていく事に気付いた。
『ネウロイの巣が消えたってことは……! ガリアが解放されたってことじゃねえの!?』
「そうか! これでこのあたりに平和が戻るのか……!」



それから数分後、半壊した501基地に寄港したフリーデンのクルー達は、赤城ら扶桑艦隊のクルー達、基地に残っていた軍人たち、そしてウィッチ達の熱烈な歓迎を受けていた。
「ガロードさん!!」
「うぉ!? ペリーヌ!?」
ペリーヌはDXから降りてきたガロードを見るや否や、感無量といった様子で彼に抱きついた。
「ありがとうございます! ガロードさんのおかげでワタクシの故郷が……ガリアが解放されました!」
「わ、わかったから落ち着け! ティファが見ている……!」
ガロードはこの光景がティファに浮気だと思われないか懸念していた、そこに……。
「あ! ペリーヌずりい! 私も!」
「んじゃ私もシャーリーと!」
「弟をねぎらうのは姉の役目だー!!」
「面白そうなんで私も!」
「エイラ、あなたは右から、私は左から攻めるわ」
「はーい……」
(うふふ……後ろから抱きつけば私の柔らかいのがガロード君の背中に……そうすれば……!)
他のウィッチ達も様々な思惑でガロードに抱きついた。
「ちょちょちょちょ!? お前ら何!?」

その様子を見ていた芳佳は戸惑いながらも……。
「わ、私も……!」
ガロードに抱きつこうとペリーヌ達の間に入っていった。


一方その様子を見ていたティファは呆気にとられていた。
「これは……」
するとその様子を見ていたパーラがティファを後押しする。
「おいおいティファ、ぼーっとしてていいのか? ガロードがあの子達に取られるぜ」
「え……!?」
ティファはしばらく考えた後、はっと顔を上げ……。
「それは……ダメ!」
芳佳達と一緒にガロードに抱きついた。
「おまっ! ちょっ! 重い……わあああああ!!」
ガロードはティファや芳佳達の体重を支えきれず、彼女達と一緒にそのまま将棋倒しのように倒れた。

「なにやってんだか……」
「すみません、うちの子達が……」
「はっはっは! 命短しなんとやらだ!」
ミーナがウィッチ達の醜態についてサラに謝罪している横で、美緒は相変わらず豪快に笑い飛ばしていた……。





その日、ガリアはネウロイの手から解放され、世界中にそのニュースが知れ渡った。
そして新聞にはDXの写真と共にある大きな見出しが書かれていた。


“異世界から来た白い機械人形、世界を救う”と……。










はい、これで最終話は投下終了です、普段よりちょっぴり拡大してお送りいたしました、エピローグは明日投稿しますので感想の返事はそのときに。



[29127] エピローグ「ブックマークアヘッド」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/09/04 21:19
ガリアでのネウロイとの戦いが終わった後、第501戦闘航空団は解散となった。
ミーナ、バルクホルン、エーリカの三人は祖国カールスラントの防衛戦線に復帰。
エイラとサーニャは東部戦線へ。
シャーリーとルッキーニはアフリカ戦線。
ペリーヌとリーネは荒廃したガリアの復興に努め。
美緒は扶桑に戻り教官となって新人をしごいた。
そしてガロード達フリーデンの面々は……。


 エピローグ「ブックマークアヘッド」


戦いから一カ月後、扶桑の芳佳の実家である診療所にティファはテクスの付き添いで今日も検査を受けにやって来ていた。
「先生、こんにちは」
「おお、よく来たねえティファちゃん、それにテクス先生も……」
「芳佳~! ティファちゃん達が来たわよ~!」
「はーい! こんにちはティファちゃん! テクス先生も!」
芳佳は母親に呼ばれて診療所の奥から出てくる、親友である山川美千子と共に。
「芳佳、美千子……こんにちは」
「ワンワン!」
すると兼定も現れ、ティファの周りをぐるぐると駆けまわった。
「ふふふ……兼定もこんにちは」
「ティファちゃん、最近具合はどう……?」
美千子は一週間に一度この診療所に来るティファの体の心配をする。それに対しティファは笑顔で答えた。
「ええ、芳佳のお母さんとおばあさん、それに扶桑の人達が頑張ってくれたおかげで元気よ」
「でもウィッチとしての力は残るんだよね……」
「うん、坂本少佐の話じゃ私の中にネウロイのコアとは別の、魔力の塊みたいなものが埋め込まれているらしいの、それを取り出さないかぎり私は……」
「とにかく今日も診てもらおう、テクス先生も……おいしいお茶を用意してありますよ」
「ありがとう芳佳、いただくとしよう」



その頃、扶桑の横須賀基地では、停泊しているフリーデンにいくつもの資材が積み込まれていた。
「オーライオーライ! よし……これで物資の搬入は終わりか」
作業員に指示を出し終えて一息つくキッド、するとそこにパーラがやってくる。
「私達がここに来てもう一カ月かー、早いもんだな」
「ああ、赤城を失った戦力を補う為に俺達は扶桑軍の預かりになったんだもんな、まあ食いもんは旨いし軍の人達も俺達が元の世界に帰る方法を探してくれているし悪かあねえな、ジャミルもよく決断してくれたぜ、ウィッツなんて今後の勉強の為にって扶桑の農家で働いているしよ」
そう言ってキッドは徐に設計図を描きだす。
「ん? 何描いてんだ?」
「いやさ、軍の人達にウィッチ達の新しい武器を考えてくれないかって依頼されてよー、メカマンの血が騒いでつい引き受けちまった」
「おまえ……ストライカーを滅茶苦茶に改造すんじゃねえぞ?」
しかしそのパーラの言葉はキッドの耳に届いていなかった。
「ふふん、ここをああして……しかしおもしれえなウィッチの武装は……今度DXに取り付けてみっか」



同じころ、カールスラントの某所にあるアパート……その一室である青年が一枚の新聞の記事を見ていた。
「“マロニー中将、ウォーロックの事件の責任をとって更迭”か……やはり彼があれを扱うのは少々荷が重かったか、仕方ない……」
そう言って青年は隣にあったベッドを見る、そこには青年と顔立が似ている男が眠っていた。

「兄さん……待っていてね、もうすぐ目を覚まさせてあげるから……!」
そう言って青年……オルバ・フロストは、目を覚まさない兄を見ながら新聞を握りしめた。





~???~
ある世界のとある庭園らしき場所、そこであの老人は杖をついた険しい表情の老人とコーヒーを飲みながら談笑をしていた。
「そうか、アレを届けてくれたのか……」
「ええ創造主様、彼らも大層喜んでおられました」
「ガロード・ランがあの世界に来た以上、彼にあの力は必要だ……君達のもな」
「ほっほっほ、ワシはこういう体です故……黒坊主達みたいに主にべったりという訳にはいかんですよ」
「とにかく引き続きガロード・ランへのサポートを頼む、彼らの苦難はまだ始まったばかりだからな」
「心得ております創造主……来るべき宇宙の運命の日の為に」




その頃、横須賀基地近海では、ガロードがDXでのパトロールから基地に帰ろうとしていた。
「おっし、今日はそろそろ帰るか、ティファの検診も終わった頃だろうし……ん?」
ふと、ガロードはモニターに自分の元に向かってくるウィッチの姿を確認する、それは……。
「芳佳? どうしたんだお前?」
ストライカーを履いて飛んできた芳佳だった。
『うん、ガロード君を迎えに来たんだ、みっちゃんのおじいちゃんがスイカ持ってきてくれて、ティファちゃん達と一緒に食べようと思って……』
「マジ!? ひゃっほーい! ならとっとと帰ろうぜ!」
『うん!』
そう言って芳佳はDXと並ぶように飛ぶ。
『ガロード君、あの……』
「ん? どうした芳佳?」
芳佳は何かを伝えようとガロードに話しかけるが、そのまま口ごもってしまった。
『……ううん、なんでもない』
「……? そっか」



芳佳はどこか切なそうにDXに乗るガロードを見る。
(ガロード君……やっぱり今もティファちゃんの事が大好きなんだよね、私の想いを伝えても、きっと……)

そして一機と一人は自分達の帰る場所に帰って行く、つかの間である平穏を大切な人達と過ごす為に……。





サテライトウィッチーズ 完










サテライトウィッチーズ2に続く










はい、という訳でサテライトウィッチーズの第一部、完結と相成りました。最後のほうで一時除隊?したはずの芳佳がストライカーを履いていたのは……演出みたいなもんです。
コレ書きながらかないみかさんがブックマークアヘッド唄っている所想像したらスゲー合いそうだと思った。

プロローグを書き始めたのは7月下旬、小遣いはたいて買った新古品のストライクウィッチーズのBDボックスを再生しながら、ガンダムXのWIKIや公式サイトとにらめっこしながら書いたこの作品もようやく折り返し地点に着きました。

思えばこの作品、自分の今までの作品よりもPVが多くつき、感想を書いてくださる方も沢山いて幸せな作品になったと思います。

ガロードや芳佳達の苦難は2に続きます、2ではオリキャラ多め、また荒れそうな展開が多いかもですが、みなさんどうか彼らの物語を最後まで見届けてあげてください。



では次に以前感想板で話したようにこの作品を書いた意図を説明したいと思ったのですが……あんまり書くとネタばれになるんで言だけ。

恋をする女の子って本当に可愛くなるよね。

この一つに尽きると思います、つまりストライクウィッチーズ原作にないドラマを描きたかったんですよ、(公認同人誌ではありましたが)そしてそのクロス相手にガンダムXは最適だったというわけです。まあ詳しくは2のあとがきで。





さて今後の予定は……一か月ROMって書き貯めするつもりです、そしてこのままサテライトウィッチーズ2を書くのもいいんですが、劇場版や外伝の情報が溜まってからでいいかなと思い、その前に他に考えていたいくつかのクロス(某ガンダムか某ライダーか某戦隊とヒロイン系のどれか)のうちどれかを書くのもいいかなと思って迷っています。
とりあえずそれぞれ何話か書いて、一番ノッた物を投稿しようと思います。



それでは最後に、この作品を見てくださったすべての方々、機動新世紀ガンダムXとストライクウィッチーズの製作者、関係者の方々、そしてアルカディアの管理者である舞さんに精一杯の感謝の気持ちを送りたいと思います、ありがとうございました!!



[29127] 外伝1「アフリカの悪魔」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:3f309a96
Date: 2011/09/08 09:17
 外伝1「アフリカの悪魔」


※この話は本編9話の数日前に起ったある出来事の話になります。


1944年アフリカ、ここでも人類とネウロイによる激しい戦闘が行われていた、そして人類側には501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」のようなエース部隊が存在していた、その部隊の名は……第31統合戦闘飛行隊「ストームウィッチーズ」!


砂漠のとある場所にあるストームウィッチーズの基地、そこに建てられたいくつものテントのうち一つの中で、ストームウィッチーズの隊長加藤圭子は机の上である報告書を読みながらふうっとため息をついていた。
「最近ネウロイとの戦いが厳しくなっていくけど……まさかこんなことがあったなんて……」
圭子の手元には二種類の報告書があった、一つはストライクウィッチーズが遭遇した巨大な機動兵器「ガンダムDX」のこと、そしてもう一つはスオムスで起こったあるウィッチの襲撃事件について事記されていた。
「『8月20日……ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長が仮面を付けた所属不明のウィッチに襲われる、曹長は負傷しつつも仮面のウィッチを撃退して難を逃れる、なおその仮面のウィッチは2日前に501で襲撃が報告された仮面のウィッチと酷似しており、上層部は関連性を調べている』……か、ウィッチがウィッチを襲撃するなんて、世の中も変わってきているわねえ」
そう言って圭子は体をうんと伸ばし、カメラを持ってテントの外へ出て行った。すると次の瞬間、基地中にネウロイ襲撃を告げるサイレンが鳴り響いた。
「ネウロイ!? 出撃しないと……!」



数分後、圭子はカメラを手に出撃した三人の隊員の後ろに付いていくように飛んでいた。
圭子は現在25歳でウィッチとしてのあがりを迎えており、普通に戦うことはできなくなっていた、そして今はかろうじて残っている魔力で空を飛び、ストームウィッチーズの隊長として指揮を行っているのだ。
「この辺なんですか? 第10小隊の人たちが行方不明になったのって……」
「ええ、司令部が10小隊の救援要請の通信を受けた直後、彼らと連絡が取れなくなった……おそらくもう……」
ストームウィッチーズの一員で同じ扶桑出身のウィッチ、扶桑猫を使い魔とする稲垣真美の質問に圭子は少し悲観気味に答える。
「なあに、彼らの仇は私がとってやるさ!」
そう言って加速して前に出たのは大鷲を使い魔にしているハンナ・ユスティーナ・マルセイユ、通称「アフリカの星」と呼ばれるカールスラントのウルトラエースである。
「マルセイユ! 隊列を乱さないで! まだどんなネウロイかはわかっていないのよ!」
「はいはい、ケイは真面目だな」
そう言ってマルセイユは元の位置に戻っていった。



数分後、圭子たちは行方をくらませた第10小隊がいたと思われる地点に着陸する、そこには破壊された戦車や銃器の残骸が散らばっていた。
「ひどい……」
「こりゃ手ひどくやられたな、でも遺体がないのはどういうことだ?」
「まさかネウロイに食べられたとか……」
「こ、怖い事言わないでくださいよペットゲン少尉!」
真美はマルセイユの従卒、ライーサ・ペットゲンの冗談とも本気ともとれる言葉に恐怖する。

「何にせよまだネウロイが近くにいるかもしれないわ、警戒は怠らずに……」
「シッ! 静かに」
その時、マルセイユは何かを感じ取ったのか他の隊員たちを黙らせる。
「ど、どうしたんですか中尉?」
「何か聞こえてくる……下だ!」

その瞬間、マルセイユ達は一斉に空へ飛び上がる、すると約コンマ1秒遅れで地面の中から役30体ほどの小型ネウロイが飛び出してきた。
「まさか待ち伏せしていたの!?」
「第10小隊は餌、私達はまんまとそれに食いついた魚ってわけか……最近のネウロイは頭を使うんだな!」
そう言ってマルセイユはMG34の標準をネウロイに向け、引き金を引いた。それに呼応するかのようにペットゲンと真美も向かってくるネウロイを次々と落していく。
「数が多い! 密集して互いの背中を守るのよ!」
圭子の指示で三人は圭子を背中で囲むような隊列を組み、迫ってくるネウロイの大群を一機ずつ落していく。
「このままじゃ数で押し切られる……!」
「ならば!」
戦況はこちら側が不利だと判断したマルセイユは、ペットゲンと共に隊列を離れてネウロイの大群に突っ込んでいく。
「大尉!? 何を!?」
「私達が敵を引き付ける! その間に二人は援軍を呼んできてくれ!」
「で、でもお二人を残しては……!」
「ふん……私はエースだぞ、簡単にやられたりしない」
そう言ってマルセイユはペットゲンと共に次々とネウロイを落としていく、するとサッカーボールほどの大きさのネウロイが一匹、マルセイユに向かって突進してきた。
「ふん、そんな攻撃に当たる訳……」
だがその時、マルセイユの背中にシールド越しに大きな衝撃が走る。彼女の背後からもう一匹、先ほどのネウロイより一回り大きい個体が彼女にぶつかってきたのだ。
「く……!?」
「大尉!」
マルセイユは衝撃に顔を顰めながらも体当たりしてきたネウロイを押し出そうとする、しかし相手ネウロイは予想外のパワーを発揮し、逆にマルセイユを押し出していた。
「大尉!」
「ハンナさん!」
「早く行け! ここは任せろといっただろう!」
自分を心配する圭子と真美を突き放そうとするマルセイユ、そうしているうちにもネウロイのパワーは徐々に上がっていく。
(こ、これは少しまずいか……!)
マルセイユは久しぶりに感じる命の危機に冷や汗をかいていた……。


『いけ! ビット!』
その時、マルセイユの周りにビームの雨が降り注ぎ、すべてのネウロイがそれに巻き込まれて落とされていった。
「!? なんだ!?」
「このビーム……ネウロイのじゃない!?」
その様子を見ていた圭子は、ビームが放たれた上空を見る、そこには数基のポットのようなものが浮いていた。
「何でしょうアレ……軍の新兵器とか?」
「いや、あんな物開発されているなんて聞いたこと無いわよ」
「……! アレは!?」
ふと、ペットゲンが何かを発見して指をさす、その先には砂漠を走る巨大な戦艦と、一機の白くて巨大な人型兵器がこちらに向かっていた。
「な、なんでしょうアレ……!?」
「あの巨人、まさか報告にあったDX……?」
その時、白い巨大兵器から声が発せられた。
『すみません、あなた達はストームウィッチーズの方達でしょうか?』
「……そうだけど何か?」
圭子は隊長として代表して白い巨人の質問に答える。
『僕達は負傷した第10小隊の人達を保護しています、できれば引き取っていただきたいのですが……』
「「「「へ?」」」」
予想外の返答にストームウィッチーズの四人は顔を見合わせた……。



数分後、四人はその戦艦の中にある医務室に案内された、そこには……。
「た、隊長! ご無事で!」
「あなた達……!」
負傷した第10小隊の隊員達が一人の医師による治療を受けていた。
「君達が彼らの上司かい? 偶然彼らがネウロイに襲われている所に遭遇してね……成り行きで助けたのさ」
「あ、ありがとうございます……」
「所でここまでの戦闘で疲れているだろう……どうだい? コーヒーでも?」
「え? そ、その……」
医師の勧めに戸惑う圭子達、そこに、15歳ぐらいの金髪の少年が医師の元にやってきた。
「テクスさん、その前に艦長が彼女達と話があるそうです」
「だ、そうだ、私達の事についてはジャミルから聞いてくれ」
「は、はい……」

そして圭子達がその場から去ろうとした際、マルセイユは自分たちを呼びに来た少年にある質問をする。
「おいお前……もしかしてさっきの巨人に乗っていたのか?」
「はい、カリス・ノーティラスといいます」
(こんな少年が……あれだけのネウロイを一瞬で……)
マルセイユはカリスの圧倒的な戦闘力に、少し対抗意識を燃やしていた。
「ふん、あの時は余計な世話を……あの程度の数の敵、私にとってはピンチでもなんでもなかったんだ」
「ふふふ……そうですか」
カリスはマルセイユの挑発に対し、余裕そうに微笑であしらった。その態度がマルセイユの心を刺激する。
「なっ……! なんだその余裕は!? ほ、本当だからな!」
「はいはい、とっとと行くわよ」
その様子を見ていた圭子は呆れた様子でマルセイユの首根っこをつかみ、ずるずると引っ張っていった。
「は、離せケイ! こいつにはまだ話がー!」
「先方を待たせるわけにはいかないでしょ? 早く行くわよ」



数分後、圭子達は他の乗員によって今度はブリッジに連れてこられた、そこには黒いサングラスを掛け、青いコートを着た30代程の男がシートに座っていた。
「あなたが艦長ですか?」
「ああ、私はジャミル・ニート……このフリーデンの艦長をしている、君が隊長かね?」
「はい、第31統合戦闘飛行隊ストームウィッチーズの隊長、加藤圭子です……あの、一体あなた達は何者ですか?」
「あの白い巨人は何ですかー?」
圭子や真美は自身の中の疑問を次々とジャミルにぶつけていく、するとジャミルはやはりかといった様子で深くため息をついた。
「MSを知らない……やはりここは我々のいた世界では……」
「我々の世界?」
「こちらの話だ、残念だが君達の質問には答えられない、いや……答えても信じてもらえないだろう」
「そうですか……」
圭子はジャミルの考えを理解し、それ以上の詮索をすることはなかった。するとジャミルはおもむろにコートから二枚の写真を取り出した
「次いでで悪いのだが……我々は人を探している、この二人を見たことはないか?」
その写真には15歳ぐらいの少年が、もう一枚には同い年ぐらいの少女が映っていた。
「ガロード・ランとティファ・アディールという……ここに来る際、はぐれてしまったのだ」
「ガロード・ラン……?」
圭子はガロードという名前を聞いて、先ほど読んだ報告書にそんな名前が載っていたのを思い出した。
「もしかしてあなた達は……DXのパイロットの関係者なんですか?」
「!! ガロードの事を知っているのか!?」
「え、ええ……ブリタニアにいる第501戦闘航空団が白い巨人を保護したという報告が……」
するとブリッジにいた操舵手らしき男と、オペレーターらしき金髪にウェーブがかかった女がジャミルに嬉しそうに声をかける。
「やった! ようやく手がかりが掴めましたね艦長!」
「そうか……あの子もここに来ていたのね……」
そしてジャミルは改めて圭子達にお礼を言った。
「すまない、貴重な情報をありがとう……お礼にこのまま君達の基地まで送ってあげよう」
「そ、そんな! こちらこそ仲間を助けてくださったのに……!」
「何、遠慮することはない……けが人だって多いしな」
こうして圭子達は保護した第10小隊の隊員達と共に白い戦艦……フリーデンに乗って無事基地に帰還することができた……。



そして基地に着きフリーデンから降りた第10小隊の面々は、去っていくフリーデンに手を振っていた。
「ありがとー!」
「今度礼はたっぷりするからなー!」

一方一緒に降りた圭子は他の隊員達と共に手を振りながら、はあっとため息をついた。
「はあ……報告書になんて書こうかしら……“巨大な白い戦艦と巨人に助けられた”なんて上層部が信じてくれるかしら……」
そう言って圭子は去っていくフリーデンの勇姿を、持っていたカメラのバインダーの中に収めた……。





一方フリーデンのブリッジでは、主要のメンバーが集まって今後について話し合っていた。
「我々の次の目的地は決まった……ブリタニアの第501戦闘航空団の基地だ」
「あの圭子って人から地図も貰ったしな!」
「ネウロイの巣に近付かずに最短ルートを通れば一週間ぐらいで付くはずだ!」
フリーデンの整備兵キッド・サルミサルとパイロットのパーラ・シスは圭子から貰った地図をジャミル達の目の前で広げながら今後のフリーデンの航海ルートをペンで描いていく。
「そこにガロードが……あんにゃろう、心配かけやがって!」
「DXまで一緒とはね、できればティファも一緒にいてくれればありがたいんだけど……」
そう言ってフリーデンの雇われMS乗りのウィッツ・スーとロアビィ・ロイは楽観的な憶測を立てる。
「それはまだわからないだろう、この世界にはウィッチやネウロイといった我々にとって未知の存在があるのだから……何が起こっても不思議じゃない」
そんな二人の憶測を戒めるように、フリーデンの船医テクス・ファーゼンバーグはコーヒーを啜りながら自分なりの意見を言う。
「キャプテン……ガロードとティファは大丈夫でしょうか……?」
フリーデンの副艦長、サラ・タイレルは不安そうにジャミルに話しかける。
「私にもわからん、なぜ我々が破壊された筈のフリーデンに乗っていつの間にかこの世界に来たのかもわからないのだから……」


そしてフリーデンは進んでいく、仲間がいるというブリタニアに向かって……。









今回はここまで、先日メロンブックスで買ったアフリカの魔女(総集編)の影響でこの外伝を書きました。ただ手元の資料がそれしかないのでもし呼び方等で間違っている箇所があればどんどん指摘してください。そのうちスフィンクスの魔女も買いたいなあ、高いけど。

ストパンってホントMSV並みに外伝の設定が多いですよね、ストライクウィッチーズのスタッフにガンダム作らせたらきっと面白いものが作れると思うんですよ。




[29127] 外伝2「ティファの決意」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2011/12/30 09:29
 外伝2「ティファの決意」


ガロードらフリーデンの面々が扶桑に来てから3か月、横須賀基地のとある部屋でジャミルとテクスは扶桑の研究員たちからティファの体についての報告を受けていた。

「では……ティファの体の中にある魔石とやらを取り出すのは不可能だと?」
「はい、我々の今の技術では……」

三か月前、ティファは何者かによって浚われネウロイのコアと魔石を体に埋め込まれ、操られたままガロードと芳佳らストライクウィッチーズに襲い掛かった、ネウロイのコアは美緒が破壊したが魔石のほうはまだティファの体の中に残っていたのだ。

「下手に取り出そうとすると何が起こるかわかりません、今は様子を見るしかないのです……すみません」
「うむむ……専門家であるあなた達が言うのなら間違いないのでしょう、むしろここまで力を貸していただきありがとうございました」



数十分後、ジャミルとテクスはフリーデンの中にあるティファの部屋に赴き、先ほどの研究員たちの報告内容を伝えた。

「そうですか……それなら仕方ないですね」
「扶桑軍は引き続き調査を続けてくれるそうだ、ティファ……お前は何も心配することはないぞ」
「……はい」

ティファはそう言って自分の胸をぎゅっと握りしめた。





そしてジャミルとテクスが部屋を去って数分後、ティファは真っ白なキャンパスの前で筆を握りながら考え事をしていた。
(私……この世界に来てからみんなに迷惑ばかりかけている……)

ティファは操られていたとはいえ芳佳達に迷惑をかけたこと、そして今こうやって自分のために大勢の人が力を貸してくれていることに後ろめたさを感じていた。

(私にも……何かできることがあればいいのに……もっと皆の力になりたい)



ティファはじっとしていられず、部屋から出て格納庫に向かう、するとそこで格納庫でDXで物資搬入の手伝いをしているガロードを発見する。

「あ、ガロー……」
「おーいガロードくーん!」

そう言って駆け寄ろうとしたとき、ガロードの元に反対側から芳佳と美千子がやってきて、ティファは思わず近くに積んであったコンテナに隠れてしまう。

「お、芳佳どうしたー?」
「あのねー、おばあちゃんがおはぎを作ってくれたから一緒に食べようと思って……みなさんの分もありますよー」
「やったあ! 芳佳姉ちゃんありがとう! 野郎ども集まれー!」

芳佳の言葉を聞いてキッドら整備班の面々も集まってくる、その中にティファは何故か入れないでいた。

(芳佳……)


「はいガロード君、これね……芳佳ちゃんが作ったんだよ」
「み、みっちゃん! 内緒にしてって言ったのに~!?」
「おお! 一回り大きいじゃん! いただきま~す!」
「あ! ずりいぞガロード! 俺にもよこせ!」


(ガロード……芳佳と仲が良さそう……)
ティファはガロードと仲良く話す芳佳を見て、心の中で焦りが生まれているのを感じていた。

(芳佳……ずっとガロードと一緒に戦っていたんだよね、それにあの子はきっとガロードの事を……)

ティファは芳佳のガロードに対する想いをなんとなく感じ取り、自分が彼女に嫉妬しているのを感じていた。

(私最低だ、芳佳に嫉妬している……でもこのままじゃガロードが遠くに行っちゃう……)

ティファはガロードとの間に距離が広がった(そう思っているだけで本当はそんなことないのだが)ことを歯痒く感じていた……。



「ティファ……? 何をコソコソとしているのだ?」
「!!」

その時、ティファの背後に何者かが現れて、彼女は驚いて後ろを振り向いた、そこには……。

「坂本……さん」
「ああ、久しぶりだな」

三か月前、何者かに操られていた自分を救ってくれた、命の恩人でもある美緒が立っていた。
美緒はガロード達の輪に加わらずコソコソしているティファの挙動を、首を傾げて不思議がった。


「どうした? お前もあそこに行けばいいじゃないか、あそこには……」

そう言って美緒はガロード達の方を見て、ガロードと芳佳が仲睦まじく話しているところを目撃する。

「……なるほど、入り辛いのか……一緒に行くか?」
「……」

ティファは無言で首を横に振り、代わりに美緒にある提案をしてきた。

「坂本さん……実は相談したいことがあるんです」



数分後、ティファは美緒を自分の部屋に招き、最近抱えている悩みを彼女に打ち明ける。

「ふむ……つまり皆に迷惑かけっぱなしのままじゃ嫌だというのだなお前は?」
「はい、私……ガロードや助けてくれた皆の力になりたいんです、でも……」

ティファの特技である予知夢も最近発動せず、最近はフリーデンと宮藤家の診療所、そして軍基地の研究室を行ったり来たりして検査を受けるだけの生活を送っていた。
それ故にガロードと過ごす時間が以前より減っていることに、ティファは危機感と寂しさを感じていた。

「このままじゃ……みんなの重荷になってガロードが遠くに行っちゃう気がして……」
(あいつはそんなこと考えるような男ではないと思うがな)

美緒は客観的に見てガロードとティファの絆がそんな簡単に壊れるものではないと感じていた。

(必要以上に不安になっているのだな……まあ仕方ないか、ガロードは宮藤他大勢に惚れられているし……まあかくいう私もだが)

美緒はちょっと顔を赤らめて小さく咳払いする。

(だがこのままにしておくのも可哀そうだ……よし!)

美緒はあることを思いつき、ティファの肩をがしっとつかむ。

「それならティファ……私にいい考えがある」
「考え……?」



「お前……ウィッチにならないか?」





その日の夜、ティファはフリーデンの主要メンバーを集めて、美緒と話し合った末に導き出したある自分の決意を話した。

「「「「「ええええええ!!? ウィッチになるうううううう!!?」」」」」

ブリッジにいたほとんどの者が声を揃えて驚きの声をあげ、そうじゃない者も目を見開いて驚いていた。

「本当なのかティファ? ウィッチになるなどと……」

普段冷静なジャミルもまた、ティファの思いがけない発言に仰天しつつも、真意を確か目るために彼女に質問する。

「はい、私決めました……私も皆の未来を守りたい、私に今できることをしたいと……守られてばかりでは嫌なのです」
「ダメダメダメ!! そんなの絶対ダメだー!!!」

案の定、ガロードは反対の声を上げる。

「ガロード、どうして……?」
「だ、だってそんな! ティファを危険な目に遭わせるわけにはいかないよ! 魔力シールド張れるとはいえウィッチは命がけなんだぞ!」

ガロードはもっともな意見でティファがウィッチになることを反対する、しかしティファも負けてはいない。

「ガロード……私もガロードが命を懸けて戦うのは嫌よ?」
「え……?」

ティファの意外な言葉に、ガロードは思わず言葉を失う。

「私……ずっと、ガロードやフリーデンの皆と出会ってから守られてばかりだった、みんなが危険な目に遭っても私はただ見ていることしかできなかった、でも今の私には皆を守る力がある……それなら今度は私にガロード達を守らせて」
「ティファ……」

ティファのこれまで秘めていた自分に対する思いに、ガロードはどう言葉を掛ければいいのか解らなくなっていた、すると後ろにいたトニヤがガロードの肩をポンと叩いた。

「いいんじゃない? ティファが決めたことなら……あんたも幸せよねガロード、ここまで思ってくれる彼女がいるなんて……あの子の想いを否定しちゃダメだと思うわよ?」
「う……」

他のフリーデンのメンバー達も、うろたえつつもティファの決意に無言で賛成していた。
そしてガロードもついに折れる。

「わかった……ティファがそう決意するならこれ以上何も言わない、でも無茶はするなよ?」
「うん……ありがとうガロード」


その時、パーラが何か思い出したかのようにティファに問いかける。

「あ、そういえばティファ、大丈夫なのか?」
「ええ、無茶はしません」
「いやそうじゃなくて……ウィッチになるってことは、あの恰好になるって事だろ? 平気なのか?」
「あの恰好? あ……!」





数日後、フリーデンのブリッジにジャミルらメインクルーだけでなく美緒と芳佳も集まっていた。

「坂本さん、今日はどうしたんですか一体?」
「ああ、お前にも見てもらいたいものがあってな……」
「ティファ……まだかな……」

「お待たせー! 着替え終わったわよー!」

するとブリッジにトニヤが誰かを引き連れて現れる。

「ほら、隠れてないで見せてあげなさい」
「は、はい……」

トニヤはドアの影に隠れているその人物の手を引く、その人物は……芳佳と同じ水兵の上着にスクール水着型のボディスーツを着たティファだった。

「おおお……!?」
(改めて見るとすげえ格好だな……)
「あ、あの……」

ウィッツやロアビィら男性陣の視線を感じもじもじするティファ。するとまず最初に芳佳と美緒がティファの格好について感想を述べた。

「すごいよティファちゃん! 似合ってる!」
「そ、そう……?」
「ああ、見事な着こなしだ、ガロード、お前も何か言ってやれ」
「え、あ、ああ」

いきなり美緒に振られ動揺するガロード、そして顔を真っ赤にしながらティファに話しかけた。

「す、すごく似合っているぞティファ……可愛いよ」
「ありがとう……ガロード……」

ティファは気恥ずかしさと嬉しさのあまり顔が真っ赤になっていた。そしてジャミルは改めて美緒に話しかける。

「では坂本少佐……ティファの事、よろしくお願いします」
「はい、この子は私が責任をもってお預かりいたします」

ティファは一人前のウィッチになるため、しばらくの間美緒が教官をしている学校で訓練を受ける事になっていた。

「も、もっさん……あんまりティファをいじめないでくれよ?」
「はっはっは! それはティファ次第だ……それとも一緒に訓練を受けるか?」
「ガロード……私は大丈夫、もっともっと強くなって戻ってくるから……」

そう言ってティファは芳佳の方をちらりと見る。

(芳佳にも……皆にも負けたくないから……)
「ん? どうしたのティファちゃん?」
「ううん、何でも無い……」



こうしてティファはしばらくフリーデンを離れ、美緒の元で厳しい訓練を受ける事になった。その彼女の訓練の成果が見せられるのはそれから数カ月後の事だった……。










おまけTIPS:ティファの使い魔

訓練学校での初日、ティファはグラウンドで美緒の前で訓練用のストライカーを履いて魔法を発動させていた。

「ふむ、ガリアの時は解析している暇は無かったが、お前の使い魔はどうやら白鳥のようだな」
「白鳥……」

ティファは自分の頭から生える二本の白い鳥の羽根のようなものを撫でる。ちなみにお尻からは白鳥のシッポらしきものが生えている。

「鳥系の使い魔はエースが多いから期待ができるな……だが甘やかすつもりはない! これからビシビシしごいてやるからな!」
「はい……お願いします……」





(ああ、大丈夫かなティファ……!)

ティファ達のいるグラウンドの隅に生えている草むら……その陰でガロードは木の枝を握りしめながら彼女達の様子を観察していた。どうやら心配になって見に来たようだ。

(け、怪我とかしなきゃいけど……! もし何かあったら俺が……!)

その時、ポニーテールヘアの少女を先頭にグラウンドを走っていた訓練生達が、隠れていたガロードの姿を発見する。

「あ! 覗き! 先生呼ばなきゃ!」
「いーや! どうせなら私達で捕まえちゃいましょう!」
「え!? いやちょっと待って!!?」

ガロードの事を覗きと勘違い(間違ってはいない)した訓練生達は仲間達を呼んで逃げ出した彼を追いかけ回した。

「「「待て~! 覗き魔~!!!」」」
「ご、ご、誤解だあ~!!!」



「ん? 向こうが騒がしいが……まあいい、それじゃ早速腕立て500回!」
「ごひゃ……!? は、はい……」

そんなガロードの様子は露知らず、ティファはウィッチになる事を早速ちょっぴり後悔しつつも、美緒に言われた通りの訓練を開始するのだった……。










最初ティファの使い魔はイルカにしようと思ったんですけど、流石に海の生き物は……と思い、ニュータイプに馴染みの深い生き物と言えばやっぱり白鳥でしょと思って現在の形になりました。

第二部の予定ではティファは原作にはいなかったストライクウィッチーズ2での12人目のウィッチとして活躍してもらう予定ですが……全然できてない状態です。

というかこの展開は否定意見が多そう……。



[29127] サテライトウィッチーズ2 プロローグ「手紙」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2012/01/05 22:57
サテライトウィッチーズ2(機動新世紀ガンダムX×ストライクウィッチーズ2 他)


※前作、サテライトウィッチーズの続編になります。

※物語の都合上、オリキャラが多めだったり、ガンダムキャラがウィッチとして戦ったりその逆があったりします。

※クロスカプ? 要素あり。

※ゲストとして他のガンダム作品のMSが出るかも……。



それでもおkな人、ダメな人も出来れば、どうぞご覧になって行ってください。





















プロローグ「手紙」


ガリアでのネウロイの戦いから半年後、芳佳は実家である診療所の居間で、死んだ父の手紙を封筒から出し一字一句じっくりと読んでいた。半年前経験した数々の思い出を思い浮かべながら。

「ここからすべてが始まったんだよね……」

半年前、死んだはずの父から手紙が届き、芳佳は真意を確かめるため美緒と共にガリアに渡り、そこでウィッチとなってネウロイと戦った。
彼女はそこで何物にも代えられないほどの大切な出会いを経験した、無二の親友、恩師、背中を預けるに値する仲間たち、そして……。


「おーい芳佳―!」

すると玄関のほうから芳佳を呼ぶ少年の声が聞こえてきた。

「あの声は……」

芳佳ははっとなりすぐさま玄関に向かうと、そこには芳佳が密かに想いを寄せている少年……ガロード・ランと、彼と相思相愛の関係である芳佳と同じ水着型スーツにセーラー服という格好のティファ・アディールがいた。

「どうしたの二人とも?」
「この子……」

そう言ってティファは自分の手のひらの中にいる、翼を怪我をした青い羽毛の小鳥を見せた。

「この子、怪我をしているみたいで……」
「ここに来る途中に見つけてさ……何とか治してやってくれないか?」
「わかった、貸して」

芳佳はティファから怪我をした小鳥を受け取り、使い魔である豆芝を憑依させ、頭から獣耳、お尻からはふさふさなしっぽを生やし、体をうっすらと発光させて治癒魔法を発動する。
しばらくすると小鳥はむくっと起き上がった。芳佳の治癒魔法により翼の怪我は完治していた。

「はい、もう大丈夫だよ」
「よかった……」
「へへへ……もう怪我するんじゃないぞ」

そして三人は外に出て小鳥を大空に放し飛び立たせる、その様子を三人は一緒に小鳥が遠くまで飛んで見えなくなるまで一緒に見守った。



「ん……?」

その時ガロードとティファは、空から鳥ではない何かが近づいてくることに気づいた。

「……! 何か来ます」
「あれって……」


「うわ! うわ! うわわわわわー!!」

その物体は大きな悲鳴を上げながら、ヒョロヒョロ三人のすぐ近くに生えていた雑木林に真っ逆さまに墜落した。

「な、なんだろう一体……!?」
「まて! 俺が確かめてくる!」

ガロードはこの場にいる唯一の男の子として、落下してきた物の正体を確かめに恐る恐る雑木林に歩みを進める。

「うう~ん……」
「な、なんだコレ?」

雑木林に入った彼がまず目にしたものは、人間のものらしき生足に銀色の筒状のものに対になる翼を付けたもの……芳佳ら魔力を持つ少女にしか穿けない兵器「ストライカーユニット」が、足の裏を天に向けて突き出したまま地面に生えていたガロードの腰辺りの大きさの草木に突き刺さっていた。
そしてガロードが視線を少し下に落とすと、そこには白い布……多分いくつもの世界の人間ならパンティーというが、この世界ではズボンと呼ばれるものを穿いた女の子の股があった。

「ぶぶふっ!?」

ガロードはその時ようやく、空から落ちてきたのが芳佳と同じウィッチである事に気付き、驚きのあまり顔から色々吹き出しながら慌てて目線を横にそらした。純情な少年であるガロードにとって、落ちてきたウィッチのちょっとえっちい恰好は刺激が強いようだ。

「ガロード……」

そんな彼の様子を見てティファは体から黒いオーラを発する。ガロードが偶然とはいえセクハラ紛いの事をして、両想いの身として怒りを露わにしていた。

「ちちちちち違うんだティファ! ここここれは!」
「そこの人! 大丈夫ですか!!?」

慌てて弁明するガロードをよそに、芳佳はすぐさま墜落したウィッチの元に駆け寄り治癒魔法をかけようとする、するとウィッチは体に墜落した時に付いた葉っぱを付けたまま、痛そうに目に涙を浮かべながら起きあがった。

「あいたたた……あ! あなた達は!」

そう言ってそのウィッチは(よく見るとメガネを掛けて黒い長髪の可愛い子だということが判る)飛びあがる様に起きて、芳佳達に向かって姿勢を正し右手をビンと伸ばして敬礼する。

「私、扶桑皇国陸軍飛行第47中隊 諏訪天姫であります!」
「ど、どうも……」

天姫と名乗った少女に芳佳は思わず頭をぺこりと下げた、そして天姫は呆気にとられているガロードとティファを見て彼らに質問した。

「あの……宮藤芳佳さんはどちらで?」
「なんで俺も含まれてるの?」
「芳佳は……」
「あ、私です」

そう言って芳佳は小さく手を上げて返事をする、すると天姫は嬉しそうな顔で一通の手紙を芳佳に差し出した。

「宮藤芳佳さん、宮藤博士からお手紙です!」
「へ?」

芳佳は天姫が何を言っているのか解らず、しばらく思考し……。


「え、えええええええええええええ!!!?」


雲を抜けたその先まで届くような、悲鳴にも似た叫び声を上げた……。










プロローグはここまで、第一話は近いうちに投稿します。



[29127] 第一話「皆が待っている!!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2012/01/08 20:46
 第一話「皆が待っている!!」


芳佳は自分の死んだはずの父の手紙をもって空からやってきた天姫を縁側に休ませ、その傍らでガロードとティファと共に便箋の内容を確認していた。

「芳佳の親父さんって死んだ筈なんだよな? それなのにどうして……」
「何が入っていたの?」
「これ……」

芳佳は便箋の中身をガロードとティファに見せる、便箋の中身はストライカーの図面が引かれた設計図らしき物だった。

「ストライカー……? なんでこんなものが?」
「あなた、これを誰から預かったのですか?」

ティファは手紙を運んできた天姫に事情を聞くが、当の彼女はホカホカと湯気を立てるお茶を手にうーんと首を傾げていた。

「さあ……? 私はただ軍の命令でその手紙を運んできただけなので……」
「そうですか……」
「とりあえずさ、この手紙を軍基地に持って行ってみようぜ、もっさんやジャミルならなにか解るかもしれないぜ」

ガロードの提案に、ティファと芳佳は了承の返事の代わりに無言でコクリと頷いた。


それから数時間後、ガロード、ティファ、芳佳は、フリーデンが停泊しMSらも格納されている横須賀基地にやってきた。

ガロードら異世界から来た者たちは現在、カールスラント軍のマロニー大佐が秘密裏に開発を進めていたウォーロックが起こした暴走事故により、扶桑軍の戦艦赤城を撃沈してしまったその埋め合わせとして扶桑軍の預かりとなっていた。
彼の母艦であるフリーデンは、横須賀基地を拠点にMS等の様々な技術を軍に提供し対ネウロイ用の新型兵器開発の手伝いをし、その見返りとして自分たちが元の世界に戻る方法を魔導の方面からの調査を行ってもらっていた。
ただし次元の移動などという前例はガロードとフリーデンの面々以外は確認されておらず、完全に手詰まりなのが今の現状だった。


「さあて、ジャミル達はどこかな……」

顔パスによりすんなり基地の中に入ったガロード達はそのまま格納庫に向かう、そしてそこでフリーデンの整備班のチーフであるキッド・サミルと、支援MS「Gファルコン」のパイロットであるパーラが、白くて遠目で見ると“へ”の字に見える形の兵器らしきものに、工具で色々と手を加えている所に遭遇した。

「キッド! パーラ! 何してんだ?」
「ああガロードじゃん、それにティファと芳佳も一緒か」
「ちょっとな、ウィッチのための新型兵器を作っている最中なのさ」

ガロードはその兵器がサイズこそ人が背負える程に縮小されつつも、かつて自分の愛機の装備として使っていたものとよく似ている事に気付く。

「これってもしかして……GXのサテライトキャノンか?」
「ピンポンピンポーン! 正解だ!」
「GX……? GXにサテライトキャノンが装備されていたの?」

芳佳はディバイダーを装備したGXしか見たことがなく、サテライトキャノンがGXにも装備されていた事に驚いていた。そんな彼女にキッドが鼻高々に説明を始める。

「元々GXはサテライトキャノンを装備したガンダムだったんだよ、でも前に大破しちまってな……代わりに俺様がジャンク品でチョチョイと作ったディバイダーを取り付けたんだ」
「ふーん、でもなんでMSの兵器がここまで小さく……?」
「いやさ、扶桑のお偉いさんたちに頼まれたんだよ、自分達にもサテライトキャノンが使えないかなって」

キッドの話によると、扶桑を始めとした各国家は半年前のガリアの戦いの際に目撃したDXが放ったツインサテライトキャノンの威力を見て、対ネウロイ用の兵器として自分達にも運用できないかと考えていた、そこでまず扶桑がジャミルに“ウィッチが使用できるサテライトキャノン”を作れないかを依頼し、現在試作機を作成している段階なのだという。

「で、これが試作機第一号って訳だ、壊れたGXのパーツを使って作ったんだ」
「へえ、じゃあこれから動かすのか?」

ガロードの質問にキッドは難しそうな顔でうーんと首を捻って答える。

「んー……どうだろ、色々とまずい欠陥はあるし、実はジャミルにコレの開発は遅らせるように言いつけられているんだ」
「どうして? こんなにすごい兵器なのに……」
「いやだってよ……サテライトキャノンはアレだろ、色々といわくつきじゃねえか」
「あ、なるほど」

そう言ってガロード、キッド、ティファ、パーラら異世界から来たメンツは、自分たちの人生にも大きく関わっているサテライトキャノンが背負う過去の“業”を思い出し、憂鬱そうにため息をついた。

「ど、どうしたの皆?」

一方事情を知らない芳佳は、何故彼らが憂鬱そうにするか解らずオロオロしていた。
対してガロードは、あははと笑いながら適当に誤魔化した。

「いやあ、話しても面白い事じゃないし……あれ? そう言えば俺達どうしてここに来たんだっけ?」
「ガロード、ジャミルに会いに来たんじゃない」

芳佳の質問を適当にはぐらかしたガロードは、ティファの指摘でようやく本来の目的を思い出し、傍にいたパーラに質問した。

「なあ、ジャミルやもっさんは今どこにいるんだ?」
「ああ、ジャミルは……」

「おや? 宮藤さん……それにガロードさんにティファさんじゃないですか」

するとそこに、扶桑軍の短パンにYシャツスタイルの軍服を着た、美緒の部下でもある土方圭助軍曹がやってきた。
ちなみに芳佳は半年前ガリアに出発する前に、ガロード達はこの半年扶桑で過ごしていたため、土方とは顔見知りである。

「土方さん! ちょうどよかった……さっきこの父からの手紙が私の家に届けられたんです、中身は設計図らしくて」
「宮藤博士から……?」

土方は芳佳から手紙を受け取り、中身を確認して首を傾げる。

「変ですね、博士から手紙が届くなんて」
「だから調べてもらおうと思って……」
「わかりました、この手紙は我々が預かっておきましょう」

そう言って土方は手紙を自分の懐にしまう。

するとその直後、土方の元に別の扶桑軍人の恰好をした青年が何やら慌てた様子で駆け寄って来た。

「大変です土方軍曹! ガリア軍令部から緊急の入電です!」
「ガリア……? なんでガリアから?」

話を横から聞いていたガロード達は、ガリアにはリーネとペリーヌがいることを思い出し、嫌な予感に駆られる。
そしてキッドが駆け寄って来た軍人に声を掛けた。

「おい、ガリアで何かあったのか?」
「欧州のネウロイに何か異変が起きたようです、すぐに電信室に来てください!」

一同は軍人に促されるまま、ガリアからの通信を受信した電信室に急いで向かった。



辿り着いた電信室では、通信兵達がガリアから受信した通信を解析し、それを土方達に対して読み上げた。

「どうやらヴェネツィア上空に新たなネウロイの巣が出現したようで、交戦した第504戦闘航空団は奮戦むなしく壊滅してしまったようです」
「もっさんの友達が隊長の隊か、確か扶桑のウィッチも何人かいるんだよな、それがやられたとなると相当強いネウロイだな」
「リーネ……ペリーヌ……無事だといいけど」

仲間や知り合いの身を案じるガロード達、そして土方はこちらからの通信をを試みようと、手に取った通信機に呼びかけ続けた。

「こちら扶桑海軍の土方です! ロマーニャの504の状況を教えてください!」

その時、通信機からノイズ混じりの少女の声が聞こえてきた。

『こちら……ガリア軍令部……私はブリタニア空軍の……リネット・ビショップ曹長……』
「!! リーネちゃん!?」

芳佳達は息を呑む、通信機から流れてきた声はリーネの物だったのだ。
そんな彼らをよそに、土方はリーネとの通信を続ける。

『詳しい戦況はわかりません……ウィッチの援軍要請はこちらにも入っているのですが……派遣しようにもウィッチの数が不足していて実行できないんです』
「そんな……いくらウィッチが不足しているとはいえ……!」

リーネから伝えられるロマーニャの絶望的な状況に、土方はただただ絶句するしかなかった。

『それで……私たちが……』
「!? もしもし!? リネット軍曹!?」

その時、リーネからの通信は雑音と共に断ち切られてしまう、土方は必死に呼びかけようとするが、キッドに肩をポンと叩かれ止められてしまう。

「やめとけ、多分通信妨害が入ったんだろ、しばらくは話できねえよ」
「そんな……!」

芳佳はリーネと通信する手段を失い、顔を真っ青にする、その時……。


「何をしている宮藤」


突如電信室に、黒いマントを羽織った美緒が現れた。

「大変です坂本さん! 欧州にネウロイが! リーネちゃんが……!」
「それは軍人ではないお前には関係ない!」

リーネを心配する芳佳に対し、美緒は厳しい言葉を投げかける、しかし芳佳も引き下がらない。

「関係あります! リーネちゃんは私の友達です!」
「ふっ、相変わらずだな……だがネウロイの事は我ら扶桑海軍に任せてもらおう」

そう言って美緒は呆然としているガロード達の方を向いた。

「お前達、ジャミル殿が呼んでいる……私と共に来てくれ」
「お、おう」



ガロード達はそのまま電信室に芳佳を残し、美緒と共にフリーデンに向かった。
その道中、パーラは先ほどの美緒の芳佳に対する態度に苦言を呈する。

「なあもっさん、何もあそこまできつく言う事ねえじゃねえか、芳佳だって友達の事を想って……」
「仕方がないだろう、あいつはもう軍人ではないのだから、危険な事に態々巻き込むことはない」

芳佳は一年前の戦いの後、軍を除隊して普通の生活を送っていた、そんな彼女を態々戦いの輪に引き戻す必要はないだろうと美緒は考えていた。

(ま、言いたい事は解るんだけどねえ……あいつが大人しくしているとは思えないな)

後ろから話を聞いていたガロードは、そんな美緒の考えを理解しつつも、芳佳の性格を考慮したある予感を感じていた……。





数分後、ガロード達は美緒に連れられて、横須賀基地に停泊していたフリーデンのブリッジにやってきていた。
そしてそこにいたジャミル達から今後の予定を聞かされた。

「じゃあフリーデンは……これからロマーニャに向かうのか?」
「ああ、欧州の各国家から要請があった、我々フリーデンは坂本少佐と共にロマーニャへ援軍に向かう、出港は明日早朝だ」
「急な話だねえまた」

ガロード達はジャミルの決定の速さに驚きつつも、人に仇なすネウロイと戦えると解り、内心うずうずしていた。
そんな時……ティファは不安そうな顔で、ガロードの服をくいくいっと引っ張った。

「ん? どうしたティファ?」
「ガロード……なんだか私、嫌な予感がする……」
「ははは、大丈夫……俺がティファを守るからさ」

ガロードはいつものように未来が見えたのかと、ティファを安心させるために笑って見せる、しかしティファは首をブンブンと横に振った。

「違う、何かガロードと芳佳達によくない事が起こりそうなの、ロマーニャには何か激しい敵意のようなものが……」
「禍々しいもの……? わかった、取りあえず気を付けるよ」

ガロード達はティファの必死そうな顔を見て少し不安になるが、今からジタバタしても仕方がないと思い、取りあえず明日出発する準備を進める為その場で解散した……。



その頃、芳佳は美緒に追い出される形で基地を出て、落ち込んだ様子でとぼとぼと田圃道を歩いて家路についていた。

「はあ、そうだよね、私はもう軍人じゃないんだもんね……」

芳佳はそう言って自分に言い聞かせる……が、内心ではやはりロマーニャに行ってリーネ達を助けたいと考えていた。

「……何とかしてフリーデンに乗せてもらえないかなあ……」

芳佳はアレコレとロマーニャに行く方法を頭の中で考えるが、中々いい案は浮かばないでいた。
その時……彼女の進路上に一匹の豆柴の子犬が駆け寄って来た。

「ワン!!」
「あ、兼定……迎えに来てくれたの?」

芳佳はそう言って兼定を抱きかかえる、半年前のガリアでの戦いの際に501に拾われた兼定は、彼女達の厳正なる話し合いの末、戦後芳佳の元に預けられていた。

「ワン! ワンワン!」
「あ! 兼定!?」

その時、兼定は芳佳の腕からすり抜けると、一目散にその場から去って行った。

「待って! どこ行くの兼定!」

芳佳は慌てて兼定の後を追いかけていく、そして彼女は古びた納屋の前でちょこんと座っている兼定を発見する。

「もう、いきなりどうしたの?」
「へっへっへ」

兼定は悪びれる様子もなくへっへと舌を出して芳佳を見つめていた。
そして芳佳はふと……兼定の後ろにある、自分がすっぽり入れそうな大き目の木箱を発見する。

「コレ……木箱? ああそうだ!!」

その時、芳佳の頭の中にロマーニャへ行く最適のアイディアが浮かんでいた……。




次の日の朝、フリーデンは十分な物資を積んで横須賀基地を出港し、海路と陸路でリべリオン大陸を横断するルートを使ってロマーニャに向かった。

その日の午後、ガロードとティファは食堂に赴き、そこで出くわしたウィッツやロアビィ、そしてエニルやカリスと共に、テーブルを囲って何気ない会話を交わしていた。

「しっかし、しばらく扶桑に戻れないと思うと名残惜しいよなあ」
「お前、山川の爺様に農業教わっていたもんな」

自身はMS乗りであるが実家は農業を営んでいるウィッツは、扶桑にいた半年間に芳佳の親友である山川美千子(愛称みっちゃん)の祖父から、後学の為に扶桑流の農業(田植えのやり方やスイカ等の育て方)を教わっていた。

「まあな、いつか元の世界に帰れた時に、お袋達のお土産代わりになればいいんだがな」
「元の世界ねえ……本当に帰れるのかしら? 軍の人たちの研究も進んでいないんでしょ?」

エニルは不安そうに呟く。この半年間各国家の軍の研究機関がガロード達の世界へのアクセス方法を探っているのだが、成果を得られたという報告はされていなかった。
するとエニルの言葉を聞いていたカリスが、不安を払拭させるための補足を加える。

「ですがこの世界でも、過去に突然人や物が消える事象は起こっているようです。扶桑海海域も数百年前までは大陸があったそうですが……」
「大陸がいきなり消えたっていうの? 怖いわねえ」
「それと俺達がここに来たのと何か関係しているのかねえ?」

そう言って一同は、窓の外に広がる青空を映し出す広大な太平洋を眺める。
この世界では数千年前から突如大陸や島が国ごと消失するという謎の事象に見舞われており、世界地図はまるで虫食いのようにあちこちに空間が広がっている大陸が描かれていた。
ガロード達はその得体のしれない事象に対し、次は自分たちの身に降りかかるかもと少しばかり不安と恐怖を感じずにはいられなかった。


その時……ガロード達の元にキッドがトコトコと歩いてきた。

「おーいお前ら、ちょっとブリッジに来てくれ」
「ん? どうしたんだキッド? 何かあったのか?」
「いや実は……格納庫で密航者が見つかったんだ」

キッドの言葉に、ガロードとティファ以外は目を見開いて驚いていた。

「おいおい密航者って……まさか亡命か?」
「いや、密航者っていうかよ……」

そんな彼らをよそに、ガロードとティファは微笑しながら互いに目を合わせた。

「まあ、やっぱりというか……」
「付いてきちゃうわよね」





そしてガロード達はキッドに連れられてブリッジにやってくる、するとそこにはジャミルらブリッジクルーと美緒、そして……。

「あ、ガロード君、ティファちゃん……」

何故か扶桑にいるはずの芳佳と、彼女に抱えられている兼定が、しゅんとしょげた様子で縮こまっていた。恐らく先ほどまで美緒に叱られていたのだろう。

「やっぱりついてきちゃったのね」
「う、うん……」
「まったく! 基地にあったストライカーを持って食糧コンテナの中に潜り込むとは……! 我々はもう引き返すことはできんのだぞ!?」

美緒は尚も勝手に付いてきた芳佳を叱る、しかし芳佳は必死に自分の思いを訴えかけてきた。

「でも……でも私も皆を守りたいんです!」
「だがお前には扶桑でやるべきことが……!」

尚も芳佳を突き放そうとする美緒、そんな彼女に対し、ガロードとティファは口をフォローを入れてきた。

「いいじゃねえかもっさん、芳佳の好きにやらせてやろうぜ」
「多分何を言っても芳佳は付いてくる……そういう子だから」
「だがな……!」

すると後ろで話を聞いていたジャミルも、苦い顔をする美緒に意見を出す。

「少佐、我々は引き返すことができない以上、彼女を連れて行くしかないでしょう、それに……彼女の眼は本気だ」
「ジャミル殿まで……うむむ……」

美緒は反対意見を出しているのが自分だけだという事に気付き、右手を顎に当てて思考を巡らせる。
やがて……観念したかのように、いつものようにわっはっはと豪快に笑いだした。

「はっはっは! しょうがない……ついてきてしまった以上、ビシビシしごいてやるから覚悟しておけ!!」
「は、はい!!」

対して芳佳も背筋をピンと伸ばして大きな声で返事をする。


「さあ行こう! 皆が待っている!!」


こうして芳佳を道中に加えたフリーデンは、戦乱の中のロマーニャに進み続けるのだった……。





その頃、大西洋の海中深く……太陽の光も届かない深度に、一隻の黒い潜水艦が航行していた。
そしてその中にある灰色の壁と天井に覆われた部屋があった。
そして部屋の中央には、肩まで伸ばした銀髪を部屋の明かりで美しく輝かせている顔立ちの整った美青年が、目の前に置かれている巨大なモニターをソファーに丸裸で寝転がりながら見ていた。

「ふうん……彼女達が動き出したのか」
『はっ、ガリア軍の情報によりますと501はロマーニャに集まるそうです、フリーデンと共に……』

モニターにはウェーブのかかった黒髪の美青年が映し出されており、銀髪の青年に何かの報告をしていた。

「それじゃあ君は引き続き彼女達の監視を頼む、行動してほしい時はこちらから連絡するよ、“コア持ち”もそちらに送る」
『わかりましたカウフマン様、では……』

そしてモニターはプツンと途切れ、画面にはカウフマンと呼ばれた銀髪の青年が反射でうっすらと映し出されていた。

「美しい兄弟愛だ、それが幻想だとしらず……だからこそ利用しやすい」


カウフマンはソファーから立ち上がると、そのままいくつもの写真が貼ってある壁に歩み寄っていく。

11枚貼ってある写真にはそれぞれ、501の隊員達の顔が映し出されていた。

「坂本美緒、リネット・ビショップ、ペリーヌ・クロステルマン、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、ゲルトルート・バルクホルン、エーリカ・ハルトマン、フランチェスカ・ルッキーニ、シャーロット・E・イェガー、サーニャ・V・リトヴャク、どの娘も魅力的だ、しかし……」

カウフマンは一枚の写真を手に取り、それに優しく口づけをした。

「僕の妻にはやはり君が相応しい、宮藤芳佳……」

写真にはネウロイと戦っている時の芳佳の姿が映っており、先ほどの口づけで薄らと赤い口紅が付着していた。

「ああ、早く君と一つになりたい……そしてガロード・ランを倒し、僕はなるんだ、ふふふ……ははははは!!!」

無機質な部屋に青年の笑い声が鳴り響く、その声はまるで……心臓を凍りつかせてしまいそうな、強大な恐怖という冷気を含んでいた……。









本日はここまで、ここからちょくちょくオリキャラが本格的に混じってくる事になります。
次回はSW二期の第二話の話になります。



[29127] 第二話「みんなが来てくれた!!」 ※ちょっと内容修正
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2013/10/09 21:15
 第二話「みんなが来てくれた!!」


ネウロイの襲撃を受けたヨーロッパへの救援の為、フリーデンが扶桑を出発して一週間が経っていた。
フリーデンは現在大西洋を航海しており、目的地であるロマーニャへは今日中には辿り着くという所まで来ていた。

そしてそのフリーデンのMS発射口付近……そこで芳佳とティファは美緒の同伴の元、自分達のストライカーの試運転を行っていた。

「魔導エンジン、出力良好です」
「ふむ……宮藤、腕は鈍っていないようだな、よしティファ、次はお前だ」
「はい」

ティファは美緒の指示に従い、固定されたストライカー……芳佳の履いている物と同じA6M3a零式艦上戦闘脚二二型甲を履いた、すると彼女は全身から青白い光を放ち、頭から一対の白鳥の羽のようなものが生え、お尻のスーツの切れ目からは鳥の尾が生えてきた。

「んぁ……!」

ストライカーを履いた瞬間、ティファは例えがたい感触を感じて一瞬顔を昂揚させ、色っぽい声を漏らす。
ウィッチはストライカーユニットを履いて使い魔を憑依させる際、何らかの作用が働いて性的な刺激を受けるのだ。

「ははは……ストライカーを履く瞬間ってなんかくすぐったいよね」
「う、うん……」

隣で見ていた芳佳の意見に、フルフル震えながらコクリと頷いて同意するティファ、すると美緒はわっはっはと二人の話を笑い飛ばした。

「はっはっは! 私も未だにストライカーを履く瞬間は慣れんなあ! まあこればかりは仕方のない事だ!」
「はい」

そう言ってティファ達が訓練を続ける一方、その数十メートル後方ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

「うわー!!? ガロードが倒れてるー!!?」
「な!? どうしたんだおい!?」

キッド達整備班の手伝いをしていたガロードが、床を自身の鼻血で真っ赤に染めてうつ伏せに倒れていたのだ。恐らくティファ達の訓練を何気なく眺めていた際、色っぽいティファの喘ぎ声を耳にしたのだろう。
キスまで行っているとはいえ流石に好きな子の喘ぎ声は、ガンダムシリーズで一、二を争う純情ボーイには刺激が強すぎたらしい。





そして後ろがそんなことになっているとはつゆ知らず訓練を続ける芳佳達。

「よし、次は武器を持ってみろ」

そう言って美緒はティファに芳佳と同じ機関銃……九九式二号二型改13mm機関銃を持たせる。

「んしょ……!」
「えへへ、お揃いだねティファちゃん」
「扶桑軍で支給されている物だからな、しばらくはこれを使え」
「はい」

そう言ってティファは手に取った機関銃を構え、自身のフォームが崩れていないか確認する。
そしてそれを見ていた美緒は、以前技術部から受けたティファの体の中にある魔石についての報告を思い出していた。

(しかし……恐ろしいほどの魔力量だな、この世界に存在しない物だという説も信じるに値する)

様々な文献を調べた扶桑の科学者達は、ティファの体の中にある魔石がこの世界に存在しない、異世界から持ち込まれた物だと仮説を立てていた。
普通ならそこで一笑に伏されるところだが、この世界には人間に魔力を持たせる魔石は存在していないうえ、明らかにオーバーテクノロジーであるMSという兵器が現れた以上、信じないという方が無理があるのかもしれない。

(魔石、か……もしそれがあれば私は……)

美緒はその魔石に対し、少しばかりの魅力を感じていた。
しかしすぐに顔をブンブンと振ってその思いを断ち切った。

(いかんいかん! そのような怪しい物に頼るなんて……私には烈風丸があるじゃないか!)
「どうかしたんですか坂本さん?」
「な、なんでもない、それじゃ二人とも、ためしに飛んで……」

芳佳に心配され、慌てて笑顔を作る美緒、その時……辺りに敵襲を告げる警報が鳴り響いた。


『総員に次ぐ! 前方よりネウロイと思われる敵影が接近中! 至急戦闘態勢に入れ!』

「ネウロイ!!?」
「なんと間の悪い……! 早く出撃準備を!」
「! ちょっと待ってください! あれを!」

ふと、ティファはロマーニャ側からやってくる大型ネウロイの後ろに付いてくる艦隊を指差した。

「あれはヴェネツィア艦隊! 救援に来てくれたのか!」



一方フリーデンのブリッジでは、トニヤがヴェネツィア艦隊から受けた通信をジャミル達に報告していた。

「レオナルド艦長からの通信です、我々の救援に来てくれたそうです」
「ものすごい艦の数ね、あれだけあれば……」
「いや」

サラ達が大艦隊に感心する声を上げる中、ジャミルはある予感を感じていた。


案の定、ヴェネツィア艦隊の一斉砲撃はネウロイに効いておらず、反撃によって次々と艦を沈められていった。

「やはり攻撃が効いていないのか!」
「艦長! はやくこちらもMSを出しましょう!」
「ああ……」

その時、ブリッジにカタパルトにいる美緒から通信が入る。

『ジャミル艦長! MS隊はまずヴェネツィア艦隊の救援に向かわせてくれ! ネウロイは我々に任せてくれ! ウィッチの救援隊も直に来る!』
「坂本少佐……? 大丈夫なのか?」
『ああ、見ていてくれ!』



場所は戻ってMS発射口……ジャミルとの通信を終えた美緒は、改めてストライカーを装備している芳佳とティファを見る。

「ティファ、早速だがこれがお前の初陣になる、救援が来るまでの間ネウロイをヴェネツィア艦隊から引き離すんだ」
「は、はい」
「宮藤、ブランクはあるかも知れないがティファと一緒に飛んでサポートしてやれ」
「はい!」

そして芳佳とティファは美緒達がMS発射口から退避したのを確認すると、魔力を開放してストライカーのエンジンを起動させる。
するとそこに鼻の穴に血が染みこんだティッシュを詰め込んだガロードが近づいてきた。

「ティファ! 無茶はすんなよ! 芳佳もな!」
「ありがとうガロード君! いくよティファちゃん……!」
「うん……!」

「「行きます!!」」

二人は互いに頷きあうと、発射口から一気に空へ飛びだした。

その様子を見ていた美緒は、後ろで作業をしていた扶桑軍の整備兵達に話しかける。

「私の紫電改は!?」
「調整がまだ終わっていません! もう少し時間をください!」
「急いでくれ! 私も出なくては……ん?」

その時、美緒はGファルコンに乗り込もうとしているパーラを発見し、ある事を思いつく。




一方、上空では……。

「ふあ!? とと……!」
「大丈夫ティファちゃん!?」

初めての実戦での飛行で緊張したのか、ティファは途中でバランスを崩すが、なんとか持ちこたえる。

「だ、大丈夫……! それよりもネウロイを……!」

その時、ネウロイのビームが発射され、二人はそれを散開して回避する。

「あわわわわ!!?」
「くっ……!」

二人は動揺しつつも、持っていた機関銃で反撃を試みる、しかし放たれた銃弾はネウロイの装甲を削ることはできても、コアを露出させるまでには至らなかった。

「ああん! 硬い!」
「これが戦い……!」

ティファは初めて敵に向かって引き金を引き、心が恐怖で冷え切って行くのを感じていた、しかしすぐに自分を奮い立たせる。

(怖がってなんかいられない……! ガロードや芳佳達はもっと怖い思いをしてきたんだ、私も……!)

そして二人はネウロイがヴェネツィア艦隊と救助活動を行っているフリーデンに向けてビームを放とうとしていることに気付き、急いで射線上に立ち塞がる。

「「危ない!!」」

二人は両手をかざして巨大なシールドを張り、ネウロイが放ったビームを弾いてみせた。

「やった! ティファちゃんすごい!」
「芳佳も……!」

予想以上のシールドの頑丈さに、出した本人達は互いに称賛の言葉を贈った。
するとヴェネツィア艦隊は海域からの撤退を始め、それと同時に二人が耳に装着しているインカムから美緒の通信が入った。

『二人ともよくやった! ヴェネツィア艦隊は撤退を始めた!』
「そうですか! じゃあ後はこのネウロイを倒すだけですね……!」
『ああ、今私も行く、だからもう少し持ちこたえろ!』
「「え?」」

その時、フリーデンから一機の戦闘機……Gファルコンが発進し、芳佳達の元に向かって来た。

「Gファルコン……? パーラ?」



一方Gファルコンのコックピットでは、操縦していたパーラが後ろに座っている美緒に大声で話しかけていた。

「おいもっさん! 本当にいいんだな!? 私は知らないぞ!!」
「構わん! ネウロイの頭上へ行ってくれ!!」

そしてGファルコンはそのままネウロイの頭上を旋回する。

「よし……! ハッチを開けろ!」
「無茶するなあ……ちゃんと帰ってこいよ!!」

美緒の指示に従い、パーラはコックピットのハッチを開ける、そして美緒は凄まじい風圧を受けながら立ち上がり、身に纏っていたマントを脱ぎ棄てた。

「おおお!? もっさんその格好は!?」

パーラは後ろにいる美緒の姿を見て驚愕する。
美緒はいつもより数十倍凛々しい表情で標準装備の紺色の水上用制服ではなく、真っ白な水上用制服に身を包んでいたのだ。

「では行ってくる!!」

美緒は頭にドーベルマンの耳、お尻からは尻尾を出し、そのままGファルコンからネウロイに向かって飛び降りた。



「坂本さん!?」
「少佐!?」

芳佳とティファもその様子を見ており、当然のように驚愕していた。
そして美緒はそのまま背中に背負っていた刀を抜く。刀身は青いオーラを身に纏っており、美緒は右目の眼帯を外し魔眼を開放しながら刀を降り下ろした。

「はああああああ!!」

その時、ネウロイが美緒を迎撃するようにビームを発射する、しかし美緒はそれを刀で真っ二つに切り裂いてしまった。

「必殺! 烈風斬!!! うおりゃああああああああ!!!!」


美緒はそのままビームごとネウロイを真っ二つに切り裂いた、するとネウロイはガラス片となってバラバラに砕けてしまった。

「坂本さーん!!」

芳佳とティファはすぐさま落ちていく美緒の元に飛んでいく、そして二人は空中で彼女をキャッチした。

「すまんな二人とも、紫電改が故障してな……代わりにパーラに連れてきてもらったんだ」
「だからって無茶しすぎです!」
「でも……すごかったです」
「ふふふ……見たか? シールドが張れなくてもこの烈風丸があれば私は戦える!」

そう言って美緒は嬉しそうな顔で、ネウロイを切り裂いた自分の刀……烈風丸を見つめる、そしてそのままティファの方を向いた。

「すまんなティファ、お前の初手柄を横取りしてしまって……だが初陣にしては中々の働きだったぞ!」
「あ、ありがとうございます」

美緒に褒められ、ティファはうれしさのあまり頬を赤く染めて視線を逸らす、するとそこに……ヴェネツィア艦隊の援護をしていたガロードがDXに乗ってやって来た。

『やったじゃん三人とも! すげー戦いっぷりだったぜ! ほら、DXの手に乗りな!』
「ありがとうガロード……」



そして芳佳達はDXの手に乗ってフリーデンのMS発射口に戻ってきた。

「いやーびっくりしたぜ、まさかネウロイのビームを切っちまうなんてさー、もしかして扶桑にいた時に姿を見せなかったのって……」
「ああ、この烈風丸を打っていたんだ、名前は一晩中考えて付けたんだが……」
「いいと思います、少佐らしくて……」
「そうか? わっはっはっは!」

DXから降りてきたガロードや芳佳、ティファらに烈風丸を見せてご満悦の美緒、すると彼女の装着しているインカムに、ブリッジにいるジャミルから通信が入ってきた。

『少佐、ネウロイは倒したのか? まだ気配が消えないのだが……』
「うむ、こちらも手ごたえが無いと感じていたところだ、恐らく……」


その時、整備兵の一人が上空に舞い散るネウロイの破片を指差して叫んだ。

「おい見ろ! ネウロイが再生していないか!!?」

その声を聴いて一同は一斉に空を見る、するとネウロイの破片が一か所に集まって行き、瞬く間に元の姿に戻ってしまった。

「くそ! コアが再生している!」
「私たちが行きます!」

魔眼でコアの存在を確認した美緒は心の中で舌打ちをする、するとすぐに芳佳とティファが飛び立って行った。

「成程……そういう理屈か! 二人とも、奴のコアは常に移動しているんだ! 今は右端に移動している!」
「は、はい!」



二人はネウロイに再び接近すると美緒の指示した通りの場所に銃弾を撃ち込む、しかしコアが移動しているせいか攻撃は通じていなかった。

「ダメ……! 回避される上に再生速度も速い……! このままじゃ……!」
『あきらめるなティファ! 俺も援護する!』

そこにガロードが駆るDXも到着し、芳佳とティファと共にネウロイに攻撃を加える、しかしそれでもネウロイを落とすまでにはいかなかった。

「!! ガロード!」

その時、ティファはネウロイのビームの標準がDXを捕えているのに気付き、すぐさまシールドを張ってDXの前に立った。

「ティファ!!?」
「私も手伝うよティファちゃん!」

すると芳佳もティファの横に並んでシールドを張り、ネウロイが放った高出力のビームを受け止めた。

「くっ……!!」
「んんんんん!!!」
『二人ともよせ!』

あまりのビームの威力に顔を顰める芳佳とティファ、このままでは押し切られて二人とも落とされるかもしれない……そう頭に不安がよぎった時、遥か彼方から一発の銃弾が放たれ、それはネウロイを貫いて攻撃を中断させた。

「ふえ!?」
『この攻撃は!!』
「あの人たちが来てくれました……!」



「いやっほー!! お待たせー!!」
「見て見てー! 今の全部命中したでしょー!!」

すると銃弾が放たれた方角から、ストライカーを装備したシャーリーとルッキーニが三人の元に現れた。

『シャーリー! それにルッキーニ!!』
「チャオ! 芳佳! ガロード! ティファ!」
「おおティファ!? 噂には聞いていたけどまさか本当にウィッチになるとは……うわっ!?」

しかし再会を喜んでいる暇もなく、ネウロイは攻撃の手を緩めず彼女達にビームを放つ、対してシャーリーはその攻撃を回避しながら反撃を試みる、しかし攻撃は一向に効果を現さなかった。

「なんだこいつ!? むちゃくちゃ硬いぞ!?」
「再生速度が速いみたいなの……ガロード君、あれは撃てないの?」
『悪い、まだチャージに時間がかかる! くっそ……もう少し火力があれば……!』



その時、シャーリー達が来た反対方向からも銃弾が放たれ、ネウロイを見事貫通した。

「対装甲ライフルだ!!」
「ってことは!!」

そして銃弾が放たれた方角から二人のウィッチが芳佳達の前にやって来た。

「リーネちゃん!」
「芳佳ちゃん!」

芳佳は親友であるリーネの姿を見て、すぐに彼女に抱きつき無事の再会を喜んだ。

「よかった~! 無事だったんだねリーネちゃん!」
「うん! ガリアから今着いたの!」
「感傷に浸っている暇はありませんわよ」

するとそこにもう一人のウィッチ……ペリーヌも芳佳達の元に合流する。

「ペリーヌ……あなたも来てくれたのね」
「ええ、それにしてもティファさん……あなたのその格好、中々お似合いですわよ」

するとその時、ネウロイの表面で大爆発が起こる、どうやらどこからかロケット弾が放たれたようだ。

『あそこから来るのは……サーニャとエイラか!』

「おっす! ガロード!」
「芳佳ちゃん、皆……」


さらに別の方角からは、三人のウィッチが高速で接近してきていた。

「敵ネウロイはコア移動型タイプ、再生速度は従来型の二倍の速度を超えるわ」
「再生速度よりも早く潰せばいいだけじゃん!」
「まったく、せっかくのクリスとの休暇がふいになった」
「ふふっ、あなたが一番に来るって言ったのよ?」
「なっ!?」


その三人の姿を見て美緒達は喜びの声を上げる。

「来たか!」
「ミーナ隊長! バルクホルンさん! ハルトマンさん!」
『みんなが来てくれた!!』


すると今度は海上からいくつものミサイルや銃弾やビームが放たれ、すべてネウロイに命中する。

『悪い! 遅くなった!』
『救援活動に手間取っちゃってねえ』
『僕達も援護します』

ミサイルなどが放たれた方角には、エアマスター、レオパルド、ベルティゴ、Gファルコン、ジェニスらフリーデンのMS隊がいた。


その時、ネウロイは集まってきたウィッチやMSを追い払うかのように全方角に赤いビームを放つ、しかしそれは魔力シールドに阻まれたり回避されたりして一発も命中することはなかった。

ふと、戦闘空域に入ったミーナのインカムに、フリーデンにいるジャミルから通信が入ってきた。

『よく来てくれた中佐、現場の指揮権は君に委ねる』
「了解しました、ウィッチ隊はフォーメーションカエサルでMS隊と共にネウロイに攻撃を! ガロード君……あれはいけるの?」
『チャージまであと少しだ! それまで持ちこたえてくれ!』
「わかったわ、それじゃ全員……攻撃開始!!」
「「「「「「「「「「了解!!!」」」」」」」」」」

ミーナの号令のもと、ウィッチ達は一斉にネウロイに攻撃を開始した。

一方、フリーデンで空の戦闘の様子を眺めていた美緒は、突然土方に声を掛けられる。

「中佐! 紫電改いけます!」
「わかった!」

美緒はすぐさま用意されていた自分のストライカー……紫電改を履き、使い魔のドーベルマンを憑依させた。

「坂本美緒……出る!」

そして美緒は勢いよくMS発射口から飛び出していった。

それと同時にまずはウィッチ達がネウロイに攻撃を仕掛ける、先陣を切るのはシャーリーとルッキーニ、二人は見事なコンビネーションによる旋回でネウロイの攻撃を回避し、そのまま銃弾をネウロイに打ち込んでいく。そしてルッキーニが魔力シールドを張ったまま体当たりし、そのままシャーリーと共に離脱する。

次にペリーヌがトネールによる電撃を纏った体当たりでネウロイを怯ませ、装甲が青白くなった所をリーネが装甲弾を確実に叩き込んでいく。

次にエイラとサーニャが雲の中に逃げこんだネウロイを追いかけ、雲から出てきたところを、ピンポイントで予測したエイラのサポート付きで、サーニャがミサイル弾を叩き込んでいく。

ビームで反撃を繰り返すネウロイ、するとそこにエーリカが風を纏った体当たり……シュトゥルムでネウロイの体に穴を開ける。続いてバルクホルンがネウロイの上部に二丁の機関銃の銃弾を撃ち込み、そのまま銃を二丁とも逆さに持ったかと思うと……。

「ずおりゃああああああ!!!!」

そのままネウロイの装甲を削り取るように銃身を叩き込んだ。

『俺らも負けていられないんじゃないの!!』
『だな!!』

するとMA形態のエアマスターバーストに乗ったレオパルドデストロイは、バルクホルンが退避した後のネウロイの背に降り立ち、超近距離でありったけの火力を叩き込んだ。

するとネウロイはビームの標準をレオパルドに定める。

『おっと!? そろそろか!』
『おら! 乗り込め!』

レオパルドはすぐさま迎えに来たエアマスターの背に乗り、ビームが直撃する寸前にネウロイの背から退避した。


『ガロード! サテライトキャノンはまだなの!!?』
『こっちはもう持たないぜ!』

一方、チャージ中のDXを守るように戦っていたGファルコン、ジェニス、ベルティゴに乗っていたエニル達ははしびれを切らしてガロードに話しかける。

『もうちょっと! もうちょっとだから!』
『……! ネウロイがこちらを向きました!』

その時、カリスはネウロイがこちらに狙いを定めている事に気付き、DXを守ろうと前に一歩出ようとする、その時……。

「私に任せろ!」
『坂本少佐!!?』

突然美緒がDXらの前に立つ、そしてネウロイが放ったビームを烈風丸で真っ二つに切り裂いた。

「切り裂け! 烈風丸―!!!!」
『げえええ!? ビームを切りやがった!?』
『おっほ! こりゃまたすごい物を見ちゃったな!』

遠くで見ていたウィッツとロアビィは驚きの声を上げる、それは他の者たちも同じだった。そして……。


「!!! 来た来た来た来たーーー!!!マイクロウェーブ!!」


次の瞬間、天空から雲を貫いて一筋のビームが放たれ、DXの胸部に照射されていく。

「よし! 全員ツインサテライトキャノンの射線上から退避!!」

美緒の号令を聞いて、ウィッチ達とMS隊はネウロイから離れていく、それと同時にDXは背中の翼を展開し、二対の砲身の標準を波状攻撃によりコアを露出させているネウロイに向ける。

『いくぜ! ツインサテライトキャノン!!』

次の瞬間、ツインサテライトキャノンの銃口から膨大な量のエネルギーが放たれ、ネウロイを飲み込み跡形もなく消し飛ばした。


「おおお!! やったガロード君!」
「私たちの勝ちね……」
『ああ! 炎のMS乗りと……!』
「ウィッチに不可能はない!!! わっはっはっはっは!!」

ネウロイを倒し平穏が戻った空に、美緒のご機嫌な高笑いが響き渡った……。










そんな彼女達の様子を、薄暗い部屋に設置されている巨大モニターで眺めている人物がいた。

「ふむ……流石はツインサテライトキャノンだ、本来の出力の半分以下とはいえ、ネウロイを葬るには十分だな」

その人物……癖っ毛のある金髪の少年が冷静に戦況を分析する、すると彼の後ろから一つの影が近付いてきた。

「カウフマン様……次は私が出撃しますか?」

少女らしき人影の提案に対し、カウフマンと呼ばれた少年は苦笑しながら虫を払うジェスチャーをとる。

「まあ待ちなよ、折角なんだし彼女達の実力をもうちょっと見ておきたいんだ、捕獲したアレもまだまだ沢山あるんだ……人以外にも使えるかどうか試してみよう」
「解りました……」

そして人影はカウフマンから離れていく、するとカウフマンは近くにあったキーボードを叩き、モニターに一機のMSを映し出した。

「まずはこれを使ってみるか……さてはて、ウィッチ達はどう戦うのかなあ?」

カウフマンは無邪気に笑っていた、まるで新しくもらったおもちゃをどう使うか迷っている子供のように……。










第二話はここで終わりです、次回からクロスならではのネウロイの登場を予定しております。

オリキャラ達の詳細については追々明かしていきます。



[29127] 第三話「食い込んでます……」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2012/02/06 19:34
 第三話「食い込んでます……」


ヨーロッパ海域での戦いの次の日、ロマーニャの離れ小島にあるウィッチ基地……その司令官室に呼び出されたジャミルは、ミーナから今後の活動について説明を受けていた。

「では再結成された第501戦闘航空団に、我々フリーデンも加われと?」
「はい、ヴェネツィア上空に出現したネウロイの巣……それを排除するために軍は近々大規模な作戦を実行する準備を整えています、心苦しいですがあなた達にも手伝ってもらいたいと上層部が……」

ミーナは異世界の住人であるジャミル達を危険な戦いに巻き込むことに若干躊躇いと申し訳なさを感じていた、しかしジャミルは迷うことなく即答する。

「いいでしょう、この世界の方々には多大な恩がある……それにネウロイがどのようなものなのか我々もこの目で確かめたい、その申し出を受けましょう」
「……ありがとうございます、ジャミル艦長」

そしてミーナは一枚の辞令書をジャミルに見せる、書類にはティファの顔写真が貼ってあった。

「ティファさんはこれより第501戦闘戦闘航空団の一員として働いてもらいます、階級は軍曹……よろしいですか?」
「本人にも確認を取っていただければ私は何も言いません、ウィッチの事に関してはあなた達の方が精通していますしね」
「ありがとうございます……」


こうしてフリーデンは再結成された第501戦闘航空団と共に、ヴェネツィアに現れたネウロイと戦う事になった。


同時刻、501の基地とは大分距離の離れた土地にある第504戦闘航空団基地では、フリーデンによって運ばれた扶桑からの物資の引き渡しが行われていた。

そして兵達の作業を遠くから見つめている人物が二人……美緒と彼女の親友である竹井醇子は、久しぶりの再会を喜びながら互いの近況を語り合っていた。

ちなみに醇子は504の隊長であり、先の人型ネウロイとの接触作戦を指揮しており、突然のネウロイの巣の出現により多くの部下を失っていた。

「報告書は読んだ、あの内容は事実なのか?」
「ええ、あの時の私たちはネウロイと接触できると思っていた、でも……ネウロイはより一層狂暴になって現れた、気を付けてね……美緒」

これから死地に向かう親友に対し、醇子は精一杯の励ましの言葉を贈った、対して美緒はふふんと自身あり気に返答する。

「安心しろ、私には心強い仲間がいる、次に会うときは平和な世界になっているだろうさ」
「ふふっ……その時はガロード君も連れてきてね、美緒が惚れた男の子ってどんな子か知りたいから」
「ああ……っておい!!?」

ここでかっこよく去ろうとした美緒だが、醇子の冗談かどうかわからない一言に思わずツッコミを入れる。

「あらあ違うの? 彼の話をする時の美緒、すごく楽しそうだからてっきり……」
「い、いやいやいやいやいやいや!!!? 確かにガロードは気骨のある男だが、そ、そのあいつには思い人がいるし……ゴニョゴニョ」

顔を真っ赤にして口籠る美緒を見てニヤニヤと顔を綻ばせる醇子。

「まさか美緒が恋をするなんてねえ……私もそろそろ上がりだし、嫁ぎ先の事も考えないとねえ」
「だからそういうのじゃ……ってこら! どこへ行く醇子―!!」

二人はまるでウィッチになったばかりのひよっこだった頃のように、無邪気にじゃれあっていた……。






次の日、504基地の付近で美緒とミーナは芳佳達の実力を確認するため、戦闘訓練を行っていた。

「ふええええ~!!」
「はうう……」

空き地で行われた走り込みで、芳佳は美緒の期待の十分の一にも満たない成果しか上げられなかった、そして同じく訓練に参加していたリーネ、ペリーヌ、そしてティファも似たような感じだった。

「明らかに体力不足ね」
「芳佳、リーネ、ペリーヌは前の戦いの後に軍から離れていたからな、半年以上のブランクだ、ティファは単純に訓練不足……やれやれ」

すると後ろで見ていたバルクホルンも、四人のあまりの不甲斐なさに怒りの声を上げていた。

「午前中の飛行訓練でもあの四人は問題が多かったぞ!? 衝突を繰り返すわ的には当たらないわで……! このまま実戦に出すのは危険すぎる!」
「そうだな……」

美緒は走り込みを終えて地面に倒れ込んでいる四人に、竹刀を突き付け高らかに宣言した。

「四人とも立て! お前たちは基礎からやり直しだ!」





美緒の命令で芳佳とリーネとペリーヌとティファは、ストライカーで海から突き出した岬にある一軒家の近くに降り立った。

「ここが少佐が指定した訓練所なの……?」
「うん、メモを見る限りここで合っていると思うけど……」

四人はストライカーを装備してフワフワ浮いたまま、人影を探して辺りをキョロキョロと見回した。その時……ティファは突如危険を察知し声を張り上げる。

「みんな! 上!」
「え!? うわわわわ!」

ティファの声を聞いて芳佳達は慌ててその場から離れる、すると上空から突如銀色の物体……巨大な盥がぐわわわ~んという音と共に芳佳達のいた場所に落下してきた。

「な、なにコレ!?」
「もしやネウロイ!?」
「だぁ~れがネウロイだい!」

すると今度は箒に跨った老婆が、上空から芳佳達の元に降りてきた。

「挨拶も無しにうちの庭に入るなんて、ったく最近の若い子は躾がなってないねえ!」

意地悪く指摘する老婆に対し、芳佳達は慌てて頭を下げて挨拶した。

「え? あ、こんにちはー」
「もしかしてあなたがアンナ・フェラーラさんですか? 坂本少佐が言っていた教官というのは……」
「そうだよ」

ティファの質問に、アンナと呼ばれた老婆は億劫そうに箒の上から答える、すると芳佳が気合十分といった様子でアンナに問いかける。

「あの! 私たち坂本少佐の命令でここに訓練にし来たんです! ここで合格を貰うまでは絶対帰ってくるなと言われました!」

するとアンナはとても嫌そうな顔をして、芳佳達に命じた。

「……はあ、とりあえずその履いている物を脱ぎな」



数分後、ストライカーを近くの納屋の中に置いた四人は、一人ずつアンナにバケツを持たされた。

「じゃあまずあんた達には今夜の料理とお風呂の為に、水を汲んできてもらおうかね」
「水汲み……ですか?」

ティファはバケツを持たされながら、辺りを見回して水をくむ井戸を探す、しかしそれらしきものは見つけられなかった。

するとアンナは島から橋を渡ったその先にある岬の、そのまた先にある丘陵の上の井戸を指差した。

「えええ!? あんな遠く!?」

あまりにも距離が離れているため驚きの声を上げるペリーヌ、他の四人も声を出さずに呆けていた。

「ここは海の上だからね、水がでるのはあそこだけさ」
「あ、つまりストライカーを履いて水を汲めという事ですね?」

ティファはこの訓練の趣旨を理解する、しかしアンナは首を振ってそれを否定した。

「半分外れさ、誰がストライカーを使っていいと言ったかね? これを使うんだよ」

そう言ってアンナは先端に藁を束ねただけの四本の棒……箒を四人に差し出した。

「「「「箒?」」」」



数分後、四人は早速先端にバケツを引っかけた箒に跨り、使い魔を憑依させて飛び立とうとする。

「行きます!」

同時に浮かび上がる四人、しかし彼女達は股間に激しい痛みを感じ、苦悶の表情を浮かべる。

「……!? い、痛い……!」
「く、食い込む……!」
「あ、ぐぐ……! つつ……!」
「ふぅぅ……!」

魔法がかかった箒は重力に逆らって浮かび上がろうとするのだが、うまくバランスが保てないので傾き、乗り手のお尻が滑ってしまうのだ、かと言って脚の筋肉に力を入れると、大切な部分に余計に力が加わり摩擦が起こる、逆に力を抜くと体が回転し頭が下の方に向いてしまうのだ。

「あああっ!?」
「きゃああ!!」
「くううう!!」
「んんん……!!」

以上の理由から中々飛び出せない四人、声だけ聴いているとものすごい勘違いをする人が続出しそうだ。

「いつまでウロウロやってんだい? 早くしないと晩御飯に間に合わない……よ!」

しびれを切らしたアンナが手をパンと叩く。すると四人の跨る箒はロデオの馬のように暴れ始めた。

「きゃああああ!!?」
「わああああ!!?」
「きゃっ!? はっ!? わっ!?」
「……!!」


一番初めに落ちたのはリーネだった。芳佳はぐるぐる回る箒にしがみつき、ペリーヌは白く柔らかな太ももで傾いた太い箒をきゅっと締め付ける。そしてティファはどうにか箒を制止させるが、動けずに顔を真っ赤にしてじっとしていた。

「まったく情けない! これで魔女とは片腹痛いね! あんたは無駄にでっかい物を付けているからバランスがとれないんだ……よっと!」
「ひゃあ!?」

アンナは真っ先に落ちたリーネの元に歩み寄り、あろうことか彼女の豊満な左乳房を鷲掴みした。リーネは思わず可愛い悲鳴を上げる。
しかしアンナの言う事にも一理ある、巨乳のリーネは真っ先に落下したのに対し、貧な他の3人は辛うじてバランスを保っている……それはそれで悲しい気もするが。

「ほら! あんた達もいつまで回ってんだい!?」
「箒に聞いてください~!!」

まるで落語のようなやり取りをする芳佳とアンナ、そして芳佳はとうとう地面に落下した。

一方ペリーヌとティファは兎にも角にも宙に浮かび上がり、じっと静止し続けていた。

「ほう、やるねえ」
「う、ふふ……これぐらいウィッチとして当然ですわ……!」
「っ……!」

強がりを言って見せるペリーヌ、しかし表情に余裕はなさそうだった。

「そうかいそうかい」

そう言ってアンナは、ペリーヌが跨る箒の先端をおもむろに押し上げる。

「ああっ! ううっ! ひいい!!」

なんかもう、そういうのにしか聞こえない声を上げるペリーヌ、そしてついに地面に落下する。
そしてアンナは標的をティファに向ける。

「ほれ、あんたもさっさと飛ばないと」
「っ!!」

アンナはペリーヌにした時のように、ティファが跨る箒の先端を押し上げる、対してティファはギュッと目を閉じ、声を押し殺して股間に来る刺激をこらえる。

「ほう、あんた見かけによらず根性あるねえ、ほれ! その調子で飛んでみな!」
「っ!? だっ……!」

容赦なく箒を揺さぶるアンナ、するとティファは目にうっすら涙を浮かべ、口をだらしなく開けて声を上げた。

「う、動かさないで……! あっ! んっ! ひぎぃ!!」
「ならさっさと飛ばないかい! ほれほれほれ!!」
「やぁ! あ! ああ~!!」

そしてティファはついに耐え切れなくなり、ふらふらと地面に落ちて行った。

「たく情けないねえ、もっと根性を見せないかい!」
「んはぁ……んん……!」

ティファは全身を真っ赤にして地面に倒れ込んでおり、頭からはスチームの如く湯気が立っていた、もちろんアンナの声は聞こえていない。

するとようやく調子を取り戻したペリーヌが、ぷんぷんと怒りながら自分が使っていた箒を放り投げた。

「今どきウィッチの修業に箒だなんて、時代遅れにもほどがありますわ! やってられません!」
「おや、もう根を上げるのかい」

すると同じく調子を取り戻した芳佳が、真剣な面持ちでアンナに問いかける。

「あの、私も知りたいです、こんな修業で強くなれるんですか?」
「……あんた強くなりたいのかい?」
「はい!」

芳佳の強い意志が宿っている瞳がアンナに向けられる、するとまだ回復しておらず顔が赤くて息が途切れ途切れのティファもアンナに問いかける。

「私も皆を守るために強くなりたいです……お願いです、これで本当に強くなれるんですか?」
「芳佳ちゃん、ティファちゃん……」
「ふむ……なら見ておいで」

するとアンナはティファが使っていた箒に盥を引っかけ、そのままどこかに飛んで行ってしまった。

「アンナさん……行っちゃった」
「ふん! もう戻ってこなくて結構ですわ!」

そう言ってペリーヌは不機嫌そうにふんと鼻を鳴らす、するとすぐにアンナが戻ってきた、盥の中には目一杯水が汲んであった。

「わあ! こんなにいっぱい!」
「これを一人で!?」
「すごいです……!」

盥の中を見て感嘆の声を上げる4人、しかし芳佳はいまだに納得できていなかった。

「でもこれで本当に強くなれるんですか?」
「疑り深いねえ、あんた達の教官だって、ここで訓練して一人前になったんだよ」
「教官……? もしかして坂本少佐が?」

意外な人物の名前が挙がり、呆気にとられる四人。対してアンナは意地悪く笑いながら美緒がいた時の事を話す。

「ああ、あの子は素直でねえ。最初っからあたしのことを尊敬して一生懸命に練習したもんさ、おかげで立派な魔女に成長したってわけさ」
「坂本さんもこの訓練を……」

芳佳はようやく、この訓練の効果を信じ始める、すると……おもむろにティファが箒に跨り、再び浮上の訓練を始める。

「んっ! くぅ……!」
「ティファちゃん……」
「ほれ! あの子が一番新人なんだろう!? うかうかしていると追い抜かれるよ!」

アンナの発破とティファの行動を見て、芳佳、リーネ、ペリーヌは互いに見つめあってこくんと頷きあうと、箒に跨って訓練を始めた。

(ふふん、あの子も面白い子達を見つけてきたもんだねぇ)

アンナは訓練をひたむきに行う芳佳達を見て、満足そうにうんうんと頷いていた……。





その日の夜、訓練を終えた芳佳達はアンナの家の寝室で、明日に備えて一つのベッドの上で四人一緒に眠っていた。

「うぅーん……お風呂入りたかったなぁ……むにゅ……」

芳佳はそんな寝言を吐きながら、寝苦しくなって目を覚ます、そしてふとベッドに掘られている字が彼女の目に入る。

「“クソババァ”……これって坂本さんの字だ……」

その字を見て、芳佳は思わずクスリと笑ってしまう、尊敬している美緒の昔の意外な一面に触れて、少しばかり微笑ましい気持ちになっていた。

そして芳佳は起きるのが遅くなってはいけないと思い、瞳を閉じて再び眠りについた……。




翌日、芳佳達は箒に跨ったまま、横一列に並んでアンナの指導を受けていた。

「あんた達三人とも魔法力は足りているんだ、足りないのはコントロール、今までは機械がしてくれていたものを自分でコントロールしなきゃダメなんだよ」

そう言ってアンナはまず芳佳の元に歩み寄り、彼女が跨っている箒の先端を手で持ち上げた。

「~~~!! 痛いですアンナさん……!」

股間に箒が食い込んで何とも言えない痛みを感じる芳佳。

「痛いのは箒に体重がかかっているからだよ! あんたも!」

そう言ってアンナは次にリーネの箒を持ち上げる。

「ひゃぁうん!!?」

芳佳と同じく悲鳴を抑え込んだ声を上げるリーネ。そしてアンナは次にペリーヌの元に歩み寄る。

「あんたも!」
「いぎぃっ!!?」

前の二人と同じく、アンナに跨っている箒を持ち上げられ声にならない悲鳴を上げるペリーヌ。
そしてアンナは狙いをティファに向ける。

「あんたも!」
「……! 食い込んでます……!」

アンナに自分が跨っている箒を持ち上げられ、股間に何とも言えない痛みが襲う。しかしティファは歯を食いしばり悲鳴を上げなかった。

「ほう、他の三人と比べて我慢強いねぇ、ほれほれ」
「あっ」

アンナは先ほどよりも激しく、そして何度も箒を揺らす、するとティファは頬をほんのり赤く染めて切なげな吐息を漏らした。

「ん~? もう根を上げたのかい? ほれほれほれ」
「あっ、やんっ、やっ……!」

股間に何とも言えない刺激を受けて、ティファは艶やかな声を漏らした。
そしてそれを見たアンナは深くため息をつくと、箒から手を放した。

「ふぅ、それじゃあんた達、私についてきな」

そう言ってアンナは橋が立てかけられている方角へ歩きだし、芳佳達はそれについていった。

「いいかい? あんた達はストライカーユニットっていう機械にずーっと頼りすぎなんだよ、まずはそれを忘れて箒と一体化するんだ」
「箒と……一体化?」
「箒に乗るんじゃなく、箒を体の一部と思うんだよ、そして自分の足で一歩踏み出す、そんなイメージで魔法を込めるんだ、ちゃんとした魔女なら簡単な事さ」
「自分の足……」

アンナの説明を芳佳達は早速実行に移す。自分の魔力を箒に込めて、自分の体の一部だと思い込もうとした、すると……

「あ!? あ! 飛べたー!」
「私も!」
「飛べましたわー!」
「うん……!」

芳佳達は体から青白い光を放ちながら、ふわりと箒に跨ったまま浮遊することに成功する。

「すごい! すごいよ皆! 私達本当に箒で飛んでいるんだ!」
「そうだね!」
「こんなの当然ですわ!」
「なんだかストライカーで飛ぶときの風と違う気がする……」

箒に跨りながら喜びを露わにする芳佳達、するとそこにアンナが箒に跨ってやって来た。

「いつまで遊んでんだい! さっさと水汲みに行かないと日が暮れちまうよ!」
「い、言われなくても解っていますわ!」
「「「いってきま~す!」」」

芳佳達はアンナに催促され、海の向こうの岬にある井戸に向かって飛んで行った……。


その日の夕方、芳佳達は井戸から組んできた水をバケツから盥に移す。
盥の水は三分の二ほどまで汲まれていた。

「ま、今日はこの辺でいいだろう……」
「やったあ!」
「よかったね……!」

アンナに初めて褒められ、芳佳達は本当にうれしそうな顔で互いに目線を合わせていた……。

夜、芳佳達は夕食を済ませた後、小屋の外にある浴場で一日の汗を流していた。
ちなみに湯船には芳佳達の汲んできた水があまりなかった為、お湯は腰辺りまでの量しか汲まれていなかった。

「なんだか水たまりみたいだねー」
「私たちが運んできた水が少なかったんだよ」
「明日はもっと沢山運ばないと……アンナさんも入れない」

一糸まとわぬ姿でお湯に浸かる芳佳達、その時……芳佳はペリーヌだけ湯船に浸かっていない事に気付く。

「どうしたのペリーヌさん? 入らないの?」
「え? いえ……入らせていただきますわ」

そう言ってペリーヌは若干表情を引き攣らせながら、そーっと湯船に腰を下ろす、すると

「ひっ! しみる~!!」

箒に跨った訓練で摩擦を起こしたのか、彼女の股間部分は現在デリケートな状態になっていた。

「だ、大丈夫ペリーヌさん?」
「え、ええ……」
「まずは足から浸かった方がいいと思います」

ティファの提案を受けて、ペリーヌはまず足だけを湯船に浸からす、そして彼女はティファにある質問をする。。

「……アディールさん、少し疑問に思っていたのですが……どうして坂本少佐の提案を受け入れてウィッチになったのですか?」
「あ、それ私も知りたいです、あんな怖い思いをしたのにどうして……」

ペリーヌ達は何故、ティファが自分から進んでウィッチになり、自分達と一緒に戦ってくれるのか疑問に思っていた。
そして質問を受けたティファは、夜空に浮かぶ月を見上げながらポツリポツリと語り始めた。

「私……守られるだけなのが嫌なんです、これまでずっとガロードやフリーデンの皆は私が危ない所を助けてくれました、向こうの世界でも、この世界でも……」

ティファの脳裏に、ガロードと出会う少し前からこれまでの事が走馬灯のように蘇っていた。
ニュータイプである自分を救い出してくれたジャミル達フリーデンの皆、どんな危機でも必ず助けに来てくれたガロード、ティファはそんな彼らの優しさをうれしく思う反面、助けられてばかりの自分が少し嫌になっていた。

「私も皆を助けたい、力がもっとほしい……そう考えていた時に私はこの力を授かった、きっとこれは神様がくれたんだと思う……だから私は守りたい、皆の未来を……」
「ティファちゃん……」

ティファの断固たる決意を目の当たりにし、芳佳達はティファが何倍にも大きく見えていた。

「……ティファちゃんって強いんだね、私よりもずっと……」
「ううん、芳佳達だってそう……皆を守るために戦っている、私は……皆と会えてよかった」
「こっちこそだよ! これからも一緒に頑張ろう!」
「ふん、ワタクシの足だけは引っ張らないよう善処するのですね、なんなら練習相手になってもよろしくてよ」

こうしてティファは芳佳とリーネとペリーヌとの間に、親友とも呼べる関係を築き上げた……。





数分後、風呂から上がった4人は橋の上で一緒に星空を眺めていた。

「わー……! きれいだねー!」
「うん、それにいい風……」

ふと、芳佳は今日これまで自分たちが使っていた箒の事について話し始めた。

「すごいねえ、ストライカーができる前のウィッチって、皆箒で飛んでいたんでしょ?」
「私のお母さんも、昔は使ってたって言ってたよ」
「でも、箒で飛んだぐらいで本当に強くなれるのかしら……」

そうぽつりと不満を漏らすペリーヌ、するとそこに……。

「疑り深いねえ」
「あ、アンナさん、こんばんは」

アンナが芳佳達の様子を見にやってきて、ティファが真っ先に挨拶した。

「明日も早いってのにこんな所で何してんだい?」
「橋を見ていたんです」
「橋? 橋がどうかしたのかい?」
「あの……アンナさんはあんなにうまく箒で飛べるんだから、橋なんかいらないんじゃないかなーって……」

自分が感じた気持ちを素直に話す芳佳、するとアンナはため息交じりに説明し始めた。

「……あたしの娘は魔法が使えなくてね」
「娘さん……?」
「随分前に嫁にいっちまったけど、年に数回孫を連れて会いに来てくれるんだ、この橋を渡ってね……」
「成程」

芳佳達はアンナの説明を聞いてうんうんと頷いて納得する。

「娘さんは今どこに?」
「……ヴェネツィアさ」
「ヴェネツィア……!?」

芳佳達はその話を聞いてハッとなる、ヴェネツィアは現在ネウロイによって支配されており、人が住めない状態になっていた。
アンナの娘たちの安否を気遣って不安そうな顔をする芳佳達、するとアンナは無理やり微笑んでフォローを入れた。

「大丈夫だよ、家族全員無事に逃げたって連絡があった、今はこっちに帰ってくる途中だよ」
「よかった……」

話を聞いて心底ほっとする芳佳達。

「早く帰ってくるといいですね」
「きっと娘さん達もアンナさんに早く会いたいと思っています」
「そうだね」
「ですわね」

そしてアンナに励ましの言葉を贈る、するとアンナは照れ隠しにわざとらしく咳払いをした。

「んっんっ! 今日はさっさと寝な! 明日は朝早く修業だよ!」

そしてアンナはそのまま家屋の方へ歩いていった、そんな彼女の後姿を、芳佳達は微笑ましく見送った……。





次の日、芳佳達四人は協力して水を汲んだ巨大な盥を、箒に括り付けた紐で吊るして家まで運んでいた。四人ともここ数日の修業の成果か、箒を使っているにも関わらず安定した飛行を見せていた。

「始めっからこうすればよかったね」
「四人もいるとバランスもとれて楽ちんですわ」
「今日はお風呂一杯にしようね」
「うん…………!!?」

その時、ティファは海の彼方から強大な敵意が向かってくるのを感じ、その場で一時停止する。

「? どうしたのティファちゃん?」
「早く運ばないと……」
「海の向こうから何か来る……!」
「え?」

すると芳佳達も水平線から迫ってくる一つの光を視認する。

「何あれ!?」
「まさかネウロイ!?」



一方ウィッチ基地に停泊しているフリーデンのレーダーも、そのネウロイらしき反応を捕えていた。

「目標は出現場所のヴェネツィアからアドリア海沿岸をヴァ―リー方向にまっすぐ移動しています」

サラからの報告を受け、ジャミルと基地から呼び出された美緒とミーナは、ネウロイの今後の進行ルートを予測する。

「目標は今のところまっすぐにしか移動していないな、迎撃地点は……海上か」
「それまでは陸地を少し掠るだけ、上陸はしなさそうね」
「これなら緊急出動の必要はないな……!? いやまて!?」

美緒はモニターに映るアドリア海付近の地図と目標の予測進行ルートを見て、目標がアンナのいる岬にぶつかるような形で通る事に気付く。

「まずいな……このままでは宮藤達が……!」
「今からじゃMSでもウィッチでも迎撃は間に合わん、トニヤ、アンナ・フェラーラ女史に連絡を」
「了解!」


数分後、アンナの家に戻ってきた芳佳達はすぐさまネウロイが接近していることをアンナに伝えにいった。

「大変ですアンナさん! ネウロイが今こっちに!」
「今あんた達の基地から連絡が来たところだよ、基地からの部隊は今から出撃しても間に合わないそうだ、この家はあきらめるしか……」
「!! そんなのダメです!」

するとティファが珍しく声を荒げてアンナを叱咤する。

「ここは娘さんが帰ってくる場所なんですよね? なら私たちがここを守って見せます、帰る場所がなくなるのはとても悲しいことだから……」
「そうですわね、あの橋がなくなってしまいました、らお孫さん達が帰ってきた時の目印がなくなってしまいますわ」
「あんた達……」

そして四人はすぐさまストライカーが収納されている小屋に駆け込み、装着してすぐに小屋を豪快に吹き飛ばして空へ飛びあがり、ネウロイの方へ向かっていった。





そしてネウロイの姿形がはっきりと見える位置にまで来たとき、ティファはある事に気が付く。

「……? あのネウロイ、もしかしてモビルアーマー……?」
「え? それってどういうこと?」

芳佳達にはネウロイはふつうの紙飛行機のような形にしか見えなかった。そして三人の中で一番階級が上のペリーヌが指示を出す。

「ワタクシとリーネさんが編隊で攻撃、宮藤さんとアディールさんは援護して!」
「「「了解!!」」」

するとネウロイは背中の二対の砲台からビームを発射する。ペリーヌはそれを回避しながら機関銃で反撃を試みる。

「攻撃開始!」

刹那、銃口から複数の弾が発射され、何発かがネウロイに命中して装甲を削る、その後ろからリーネ、芳佳、ティファが続く。

するとネウロイは翼部分を破損し、そのままふらふらと海の方へ落ちそうになっていた。

「やった!?」
「待って……!」

芳佳達が撃墜したと思っていた中、ティファはネウロイから発せられる敵意を感じ取って注意を促す。

するとネウロイは突然めきめきと変形を始め、飛行機型から頭が三角で太めのライフルを持った人型兵器に変形した。

「えええ!? 変形した!?」
「あのネウロイ……MSですの!?」





そんなウィッチとネウロイの死闘を岬から双眼鏡で眺めている影が一つ。
その人物はインカムで何者かと通信をしていた。

「カウフマン様、あのMSは一体……? 僕はあんなものは見たことがありません」
『あれはOZ-01MD“トーラス”、君達の住む世界とは別のところで作られたMSさ、ちょっと知り合いの商人から買い取ったものだよ、ネウロイのコアとMSの相性は合うのかどうかちょっとした実験がしたくてね……』
(別の世界か……この男、まだ僕達に隠し事をしているんだな……)

そしてその人物は双眼鏡で、必死に戦っているティファを見つめた。

(ふふふ……ティファ・アディール、初めて会った時はお姫様のような子だったのに、女の子とは解らないものだね……)

その人物は数々の死闘を繰り広げてきた宿敵の想い人の成長に、少なからず驚きと喜びを感じていた。



一方、突然人型に変形したネウロイに編隊を崩された芳佳達は、何とか流れをこちらに引き戻そうと粘り強く戦っていた。

「ね、ネウロイがMSみたいになるなんて……!」
「でも見たことのないタイプ……エアマスターと似ているけど……」
「! リーネちゃん避けて!」

その時、ネウロイの放ったビームがリーネのストライカーを掠める、ストライカーは先端部分を破壊されリーネは真っ逆さまに海へ落ちて行った。

「きゃー!!」
「リーネちゃん!」

芳佳はすぐさま落ちていくリーネに向かって行き、そのまま海面に激突する。

「二人とも!」

すぐさま助けに向かおうとするティファとペリーヌ、すると激しい水しぶきの中から、破損して飛べなくなったストライカーを履くリーネを肩車した芳佳が浮上してきた。

「合体した!?」
「よかった、無事だったのね」

その時、ネウロイは再び飛行機型に可変し、アンナのいる岬に向かって飛んで行った。

「このままじゃアンナさんの家が!」

四人の間に焦りが生じる、その時……ティファはある作戦を思いついた。

「二人とも、私とペリーヌが先行して追いかけてコアを出します、それを後ろから狙い撃って」
「……!? コアの位置が解りますの!?」
「やってみます……!」

そう言ってティファは、飛びながらニュータイプ能力でネウロイが発する敵意の根源を探る。その彼女をペリーヌが援護し、さらに後ろからはリーネを肩車した芳佳が続く。

「……! そこ!!」

刹那、ティファの脳裏にネウロイのコアの位置が浮かび上がり、彼女はそこに銃撃を集中させる。

「そこですのね!」

さらにペリーヌの攻撃も加わり、装甲を削られたネウロイはついに自身の赤いコアを晒した。しかしすぐに覆い隠そうと装甲は回復を始める。

「今です!」
「リーネちゃん!」
「はい!」

しかしリーネはその隙を見逃さず、ティファの合図と共にライフルの引き金を引き、銃口から放たれた銃弾は見事ネウロイのコアを打ち抜いた。
ネウロイはそのまま、ガラス片となって粉々に砕け散り、アドリア海に雪のように舞い散っていった……。

「やりましたわー!」
「やった! やったよ皆!」
「うん! アンナさんの家も橋も守れたね!」
「私にも守れた……!」

そして四人は喜びのあまり空中で抱き合ってはしゃぎ合った。

その様子を、アンナはは岬から眺め、嬉しそうにふっと笑っていた。

「四人とも、合格だよ……」





その日の夜、美緒は芳佳達が世話になったお礼をしようとアンナの家に電話を掛けていた。

「坂本です、この度はお世話になりました」
『ええ、全然大変じゃなかったよ、誰かさんと違って、ベッドで泣いてたりしなかったもんね~……こら! 静かにせんか!』

電話の向こうでは子供のはしゃぐ声と、それを咎める女性らしき声が聞こえてくる、恐らくアンナの娘と孫たちが遊びに来ているのだろう。

そんなアンナの話を聞いて、美緒は心底苦い顔をする。

「(糞婆……)私は泣いていませんよ! わっはっはっはっはっは!!」
『キャハハハハハハ!!!』
『これ静かにおし! 聞こえないよ!』

アンナは思わず、暴れまわる孫たちに対し声を荒げて注意する。

『ま、とにかくあれだね』
「はい?」
『中々見込みがあるよ、あの子達は……』
「ふっ……私もそう思います」

美緒はかつて世話になった人物に自分の育ててきた後輩たちが褒められているのに、言いようのない嬉しさを感じていた……。


一方その頃基地にある芳佳とリーネの部屋では、一つのベッドに芳佳、リーネ、ペリーヌ、ティファが一緒に雑魚寝していた。芳佳はもちろん定位置(リーネの胸の上)である。

「すう……すう……」
「んん……」
「ガロード……くう……」

彼女達のベッドの傍には、アンナからもらった練習用の箒が四本、きれいに壁に立てられていた……。





~おまけ~

その頃格納庫では、ガロードが兼定に餌をやっている最中だった。

「なあ兼定……俺今回全然出番がなかったよ……」
「くぅん……」

出番も無いうえ、今回はティファに全然かまってもらえなかったことに、ガロードはちょっと寂しさを感じていた……。










今回はここまで、エロい表現って難しい……でもいつかはR18の作品にもチャレンジしてみたいと思っています。

次回は原作二期四話がベースのお話、キッドとパーラがメインの話になります。



[29127] 第四話「強くて! デカくて! スッゴイ奴!!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:cb9981f1
Date: 2012/02/23 19:47
 第四話「強くて! デカくて! スッゴイ奴!!」


ある朝のウィッチーズ基地、ハンガーでシャーリーは下着姿のまま自分のストライカーユニットの試運転をしていた。

「ふんふんふーん」
「あっちい~……ようシャーリー! ご機嫌だな!!」

するとそこに、ジーパンにシャツ一枚といったラフな格好のパーラがやって来た。

「おう! マーリンエンジンの調子がいいと私も調子がいいんだ!」
「はっはっは、まさに一心同体だなー、ところでルッキーニは?」
「上上」

そう言って天井を指差すシャーリー、その先には屋根の骨組みの上でグースカ寝ているルッキーニがいた。

「ひゃー! よくあんなところで寝られるなー!」
「まああいつ半分は猫だし」
「ああ、猫ならしょうがない」

何故か納得するパーラ。するとそこにバルクホルンがドカドカと歩いてきた。

「こらリベリアン!! なんだその格好は!!? あとパーラ・シス! お前もブラぐらい着けんか!」
「あらら、うるさいのが来た」
「えー? だって熱いじゃん~?」

バルクホルンの注意に対し、とてもめんどくさそーに頷きあうシャーリーとパーラ。

「貴様達は曲がりなりにも軍人だ! そんなだらしない格好では他の兵士の示しがつかんだろうが!」
「軍人の前に人間だしなあ?」
「緩まる時があるのは当然だろ?」
「くそっ! まるでリベリアンが二人になったようだ! 厄介すぎる……!」

そりの合わない人間が増えて疲労感も倍に感じるバルクホルン。

「ふあああ……おはよ~……」

するとそこに……シャツと白いズボン一丁という姿のエーリカが現れた。

「なあああ!!? ハルトマン! なんてだらしない格好をしているんだ!? それでもカールスラント軍人か!?」
「えー? そうだけど?」
「なっはっはっは! うまい!」

バルクホルンとエーリカのやり取りに爆笑するパーラ、その時……。

「んだああああ! てめえらうるせえよ!」

すぐ傍にあったジャンク品の山の中から、寝起きでイライラしているキッドがニョキっと飛び出してきた。

「サルサミル!? キサマそんなところで何をしている!?」
「昨晩徹夜でウィッチ用のサテライトキャノンの調整をしていたんだよ、おかげで全然寝れてねえ……」

よく見るとキッドの周りには他のフリーデンの整備兵達が死体のように雑魚寝をしていた。

「あれま、完全に背景に溶け込んでいたから気付かなかった」
「あれが我らにも使えればネウロイなど敵ではない……! それで!? いつ実戦配備されるのだ!?」

バルクホルンはDXのサテライトキャノンの威力を二度目撃しており、その力が自分にも使えるかもしれないという事に期待感を寄せていた。

しかしキッドの答えはそっけない物だった。

「うーん……ワリイけどサテライトキャノン自体は使うことはできねえよ、こいつを使うにはリスクが多すぎる」
「リスクだと? そんなもの私は恐れない!」

バルクホルンはそれでもサテライトキャノンを使おうと食いつく、するとキッドはため息交じりに説明を始めた。

「……あのなあ、サテライトキャノンっつーのは本来島一つ吹き飛ばすほどの威力を持っているんだ、MSならともかく生身のウィッチが撃ったらどうなると思う?」
「え? えーっと、そりゃ……」
「成程、反動ね」

エーリカの回答にキッドはうんうんと頷く。

「前にガロードが爆発する廃墟から逃げる際にサテライトキャノンを使ったが、それはそれはもう恐ろしいほどのスピードが出たそうだ、ウィッチが撃ったら地球の裏側に行っちまうぞ」

少し大げさにリスクを説明するキッド。対してシャーリーは興味深々といった様子で自分の意見をぶつける。

「でもさー、DXは背中のブースターでその反動に耐えてたじゃん、それにも取り付けているんでしょ?」
「ん~……そうなんだけど、もしお前らウィッチがサテライトキャノンの反動をブースターで支えたら……」

その時、キッドの目の前に一匹の蚊が飛んできた、キッドはその蚊を両手でパンッと潰した。そして潰れた蚊が張りついた手を、その場にいた面々に見せた。

「ま、こうなるわな、ガンダムの場合ルナ・チタニウムっつう特殊装甲で耐えることができるけど、生身のウィッチじゃまず無理なんだよ、それにマイクロウェーブを送信するBATENは衛星軌道の関係で昼間しか使えないし、使い勝手が悪すぎる……いわば欠陥品だな」
「そーなんだ、それなら仕方ないよね、そんな危ない武器でぺちゃんこになりたくないし」
「くう……! なんともったいない……!」

バルクホルンは自分達がサテライトキャノンを使えない事に歯ぎしりをして悔しがる。





「あら、キッド君にパーラさんもここにいたの?」
「その様子だと大分遅くまで働いていたようだな」

するとそこにミーナと美緒がバルクホルンらの元にやってきた。

「おうもっさんにミーナさん! どうしたんだ?」
「今朝方カールスラントから新型ストライカーが運ばれてきたの、別のハンガーに運び込まれているから見に来たのよ」
「新型ストライカー?」


数分後、別ハンガーにやって来たシャーリー達は、カールスラントから運ばれてきた赤色の新型ストライカーを見物していた。

「ほう、これがカールスラントの最新型か」
「正確には試作機ね、Me262V1、ジェットストライカーよ」

カールスラントから郵送された仕様書を読みながら説明するミーナ。
するとパーラはそのジェットストライカーをすりすりと触って感触を確かめる。

「へー、見た目ごっついけど性能はどうなんだ?」
「エンジンはレシプロストライカーの数倍、最高速度は950km以上とあるわ」
「ひゃ~! そりゃすっげえ!」

早さに目のないシャーリーはミーナの説明に目を輝かせる。

「なあなあ、これ私が履いていいか?」
「何を言っているリベリアン!? カールスラント製のストライカーはカールスラント軍人である私が履くべきだ!」
「なんだよー! 国は関係ないだろ国はー! 950kmだぞ!? 超高速の世界を知っている私が履くべきだ!」

シャーリーとバルクホルンはどちらが先にジェットストライカーを履くか揉め出した。

「また始まったわ」
「しょうがない奴らだ」
「あいつら会う度に喧嘩しているよなー」

そんな二人の様子をミーナ達はやれやれと眺めていた。

その時、ハンガーの屋根裏で寝ていたルッキーニが、騒ぎに気付いて下を覗き込んでジェットストライカーの存在に気付く。

「おお! かっちょいいストライカー! いっちば~ん!」

そしてぴょんと飛び降り、ジェットストライカーに自分の足をすっぽりと履かせた。

「ああ!?」
「ずるいぞルッキーニ!」
「へっへーん! 早いもん勝ちだもーん!」

ルッキーニは自分の魔力をジェットストライカーに流し込み起動させる、するとジェットから今まで聞いたことのないような異様な爆発音が空気を揺るがした。

「うひゅ~!!」

得意げな表情のルッキーニ、しかしその時……彼女の全身に電流のようなものが走った。

「ぴぎゃー!!?」
「ルッキーニ!?」

ルッキーニはそのままストライカーを脱ぎ捨て、その辺にあった物陰に隠れてしまった。

(今のは……)
「おいルッキーニ!? 大丈夫か!?」

一部始終を見ていたキッドはジェットストライカーの状態を解析する一方、シャーリーはルッキーニの身を案じて彼女の元に駆け寄って行った。

「どうしたんだよルッキーニ?」
「なんかね、びびびっと来たの……シャーリー、アレ履かないで」

怯えを含んだルッキーニの訴えに、シャーリーはジェットストライカーの危険性を悟った。

「うーん……悪い少佐、私はパスするよ」
「なんだ怖気づいたかリベリアン、まあいい……」

そう言ってバルクホルンはジェットストライカーを履き、エンジンを起動させる。

(うん、特に変わったところは無いぞ)

ハンガーを揺るがすほどの振動を放つジェットストライカー、既存のストライカーにはできない状態だった。

(いける! 文句のない感触だ!)

ジェットストライカーの素晴らしい性能にバルクホルンは魅了されていた……。





数時間後、バルクホルンは早速他のウィッチ達を交えて、基地付近の上空でジェットストライカーの試験運転を開始した。

「そりゃああああああ!!!」
「くうううううううう!!!」

まずはスピード対決、ジェットストライカーを履いたバルクホルンは、部隊最速のシャーリーと上昇スピードを競い合った。


「一体何の騒ぎですの?」
「バルクホルンさんが試作ストライカーでシャーリーさんと勝負をしているみたいなの」

地上の基地滑走路では騒ぎを聞きつけた芳佳とリーネとペリーヌ、そしてティファがルッキーニと共に、勝負の様子を見学していた。

「くっ……!」

上空ではシャーリーが先にエンジンストップする中、バルクホルンは上昇距離を伸ばしていった。

「シャーリーさん、一万二千メートルで上昇が止まりました、バルクホルンさんはまだ昇っています、すごい……」
「ほえ~」

計測を任されてストライカーで飛んでいたサーニャとエイラもまた、ジェットストライカーの驚異的な性能に驚いていた。





数分後、バンカーに戻ってきたシャーリーは、ストライカーを履いたまま身丈ほどある巨大なライフルとその銃弾を背負った。

「そんなに一杯持って飛べるんですか?」
「私のP51は万能ユニットだからな、いざとなればどんな状況だって対応できるんだ」
「力持ちなんですね、シャーリーさんのストライカーは……」
「それよりもシャーリーさんは胸の搭載量を減らしたほうがいいのではありませんの?」

ペリーヌの皮肉に、何故か芳佳とリーネとティファが顔を赤くして自身の胸を見つめる、それぞれ自分の胸囲に関して悩みを抱えているのだろう。

一方シャーリーの隣では、さらに沢山の銃器と弾薬を抱えたバルクホルンが得意げに出撃しようとしていた。

「あっちはもっとすごい……」
「おいおい、そんなので飛べる訳ないだろう?」

常識はずれの積載量にシャーリーは呆れかえる。

「ふん、まあ見ていろ……!」



数分後、バルクホルンは難なく飛行し、ネウロイを模したダミーさえも軽く破壊してみせたのだ。

「すごい……すごいぞこのジェットストライカーは!」
「マジかよ……」

その様子を後ろからついて来ていたシャーリーは唖然とした様子で眺めていた……。





その日の夜、訓練を終えたシャーリーやバルクホルンらはバンカーで夕食を取っていた。
ちなみに今夜の食事当番は芳佳とリーネ、そしてティファである。

「今夜は肉じゃがですよー」
「私とリーネもお手伝いしました……」
「へー、私は料理の事はよくわからないけど、宮藤の作るものは何でもうまいな、これ魚の出汁か?」
「カツオです、うふふ……ありがとうございます」

一方、食事に同席していたペリーヌは少し不快そうな顔をしていた。

「なぜこのような油臭い所で食事を……」
「食べながら文句言うな」
「おいしい……」

そんなペリーヌを、サーニャと一緒に食べていたエイラが注意する。

「私にできることはこのくらいだから……ほら、お腹が空くと怒りっぽくなるっていうじゃないですか」
「芳佳ちゃん、バルクホルンさんとシャーリーさんが心配なんですよ」

芳佳は度重なる訓練で疲れているであろうシャーリーとバルクホルンを気遣って、食事をこのハンガーに運んできたのだ。

「お! なんかいい匂いするな!」
「わん!」

するとそこに、ガロードと兼定が肉じゃがの匂いにつられてハンガーに現れた。

「ガロード君、兼定、肉じゃが作ったんだけど食べる?」
「肉じゃが? なんだそれ俺食べたことないからわかんねーや」


(! チャンス!)

その時、リーネの額にピリリリリっとニュータイプが何か感知するときに出てくる電流のようなものが走る。
そして彼女は自分の皿の上の肉じゃがの具をフォークで刺し、ガロードに差し出した。

「ガロード君、よかったら一口どうぞ、あーん」
「え? あ、あーん」

ガロードはティファが見ているので躊躇いながらも、リーネが差し出した肉じゃがの具のジャガイモを口の中に入れた。

「うふふ、おいしい?」
「おお! こりゃうまい!」

その様子を見ていた他のウィッチ&ティファは、一斉にテーブルから立ち上がった。

((((((しまった! 出遅れた!))))))
「うじゅ?」←(約一名はよくわかっていない)

そして真っ先に、ティファがリーネを押しのけるようにガロードに自分の肉じゃがを差し出した。

「ガロード、私もあーんしてあげる」
「え!? いいの!? ティファにあーんしてもらえるなんて俺は幸せ者だな~」

やはりティファの時はリアクションが格段に違うガロード、しかし他の面々はめげなかった。

「ガロード君! 私もあーんしてあげる!」
「なんならワタクシは皿ごと差し上げますわ!」
「そんじゃ私はスープを飲ませてやるよ! ほら口開けな!」
(エイラは右からお願い、私は左から攻めるわ)
(あいあいさー)
「あーん皆ずるーい! 私も私もー!!」

「え? いや、そんなにいらな……うわあああ!!?」

ガロードはそのまま、芳佳達のあーん攻勢の波に飲まれていった……。



「ほーれ兼定、バルクホルンは食べねーのか?」

一方、兼定に自分の分の肉じゃがを分けてあげていたパーラは、ハンガーの隅っこの方でバルクホルンが疲れた顔で座っている事に気付き、彼女に気遣いの言葉を掛ける。

「あ、ああ……大丈夫だ、食事はそこに置いてくれ」
「……ふーん、そうは見えないけどな、まあ私は魔法とかウィッチの事はよくわかんないけど、取りあえず無茶はすんなよー」

そう言ってパーラはバルクホルンの食事と自分の分のおかわりを取りにバルクホルンの元から去っていった……。





それから一時間後、基地の外で芳佳とシャーリーはドラム缶風呂を堪能していた。

「はあ、ドラム缶が風呂になるなんて大発見だなー」
「坂本さんがリバウにいたころはよく使ったそうですよー」

「お、やってんなー」
「私も入るー!」

するとそこに、タオル一枚体に巻いただけのパーラとルッキーニが現れ、パーラは芳佳の方、ルッキーニはシャーリーの方のドラム缶風呂に入った。

「ふにゅ~ん! やっぱりシャーリーのはふかふかだ~!」

ルッキーニは後頭部をシャーリーの豊満な胸に預けてご満悦の様子。

「ふにゃ~……パーラさんのも中々……」
「おいおい、のぼせてんのかよ芳佳」

一方芳佳もまた、フリーデンで一、二を争うパーラのビックバストに後頭部をうずめて、その心地よさを堪能していた。

「ねえねえ芳佳! あとで場所取り替えっこね!」
「うん、いいよー」
「おいおいルッキーニ、不倫とは悲しいじゃないか」
「なっはっはっは! 私のでよければいつでも枕にしていいぜ!」

その時ふと、パーラは先ほどのバルクホルンの様子を思い出し、シャーリー達に話してみる。

「そーいやバルクホルン元気なかったよな、体調でも悪いのか?」
「きっとあいつのせいだよ! あのこぉーってなる奴!」
「ジェットストライカーの事か? そーいやキッドがあれは危ないんじゃないかって呟いていたなー」

先程のバンカーでのやり取りを思い出すパーラ、そしてキッドの名前を聞いた芳佳はその彼についてパーラに質問をする。

「キッド君ってすごいよね、まだ子供なのにMSだけでなくストライカーの整備もできちゃうなんて、とてもルッキーニちゃんと同い年とは思えないよ」
「あいつにとってはメカいじりが生きがいみたいなもんだからな、腕も確かだし私達も安心して自分の相棒を動かせるってもんだ」
「信頼してんだなー」
「まあな、あいつほどの腕を持つ奴なんて、この世の中に早々いないぜー」

パーラはまるで自分の事のように、キッドの事を自慢していた……。





次の日、シャーリーとバルクホルンは再びジェットストライカーの性能を調べる為、基地近海の上空でレース対決を行っていた。

「よーい! どーん!」
「よっしゃー!」

ルッキーニの合図と共にシャーリーが勢いよく呼び出す、しかしジェットストライカーを履くバルクホルンはその場で滞空したまま動かなかった。

「あり? バルクホルン? どーん! どーんだってばー!」

ルッキーニが何度合図しても発進しないバルクホルン……とおもいきや、彼女は突然不敵な笑みをこぼし、ジェットストライカーのエンジンをフル稼働させる。

「ふぎゃー!!?」

あまりの衝撃にルッキーニは遥か彼方に吹き飛ばされる、そしてバルクホルンは遥か先を飛行していたシャーリーを、驚異的なスピードで軽く追い越してしまった。

(すごいぞ! まるで天使に後押しされているみたいだ!)

「わ、私がスピードで負けるなんて……」

絶対的自身を持つ自分の得意分野が軽く凌駕され、シャーリーはショックのあまり声が出なかった。
しかしその時、彼女はバルクホルンの異変に気付く。

「? なんだ?」

バルクホルンはいったん上昇してぐるぐると旋回し、そのまま海へ真っ逆さまに墜落していった。

「え!? お、落ちたあ!!?」

シャーリーやその光景を見物していた芳佳達は、慌ててバルクホルンの救助に向かった……。










数時間後、バルクホルンは医務室のベッドの上で目を覚ました。

「う、うう……?」
「あ、起きた」

ベッドの周りにはウィッチ全員やティファ、ガロード、そしてパーラとキッドもおり、ベッドの上のバルクホルンを心配そうに見つめていた。

「どうしたんだ皆……? 私の顔に何か付いているのか?」
「バルクホルンお前……海に落っこちたんだぞ、ったくこっちは大騒ぎだったんだぞ」
「私が……落ちただと……!?」

ガロードの話を聞いて信じられないといった様子のバルクホルン、するとキッドが厳しい口調で説明を始めた。

「そこのミーナ姉ちゃんの話じゃ、お前は魔法力を使い果たして気を失ったらしい……なんかおかしいと思ったんだよな、あのジェットストライカーは性能が飛びぬけている分使うエネルギーも半端ないんだ」
「ごめんなさい……昨日からキッド君に警告を受けていたのに……こうなる前に止めておくべきだったわ」
「そんな……! 試作機に問題はつきものだ、実戦配備する為にまだまだテストを続けなければ……!」


その時、医務室にバンッと大きな音が響き、部屋にいた者たちは驚きで音がした方角を見る、キッドが近くにあったテーブルを叩いたのだ。

「……メカニックとしてそれは許可できねえ」
「隊長としてもあなたの身を危険に晒すことはできません、バルクホルン大尉……あなたは当分の間飛行停止のうえ自室待機を命じます、これは命令です」
「ミーナ……! 了解……」

バルクホルンは完全に納得しておらず、とても悔しそうにミーナの命令を受け止めた。

「現時刻をもって、ジェットストライカーの使用を禁止します!」





それから一時間後、キッド達整備班はジェットストライカーを鎖で厳重に封印していた。

「お前ら! しっかり縛っておくんだぞー!」
「「はい! チーフ!」」

その様子をガロードとティファは口惜しそうに見ていた。

「しかしもったいないよな、これすごく強いのに」
「しょうがないわよ、これは誰にも扱えない物……」
「だな、自分の武器で死んじゃったら間抜けどころの話じゃないもんなあ、バルクホルンはまだあれを使うつもりみたいだけど」

ガロードは先ほどバルクホルンの自室で、彼女が筋力トレーニングに励んでいるのを目撃し、はあっとため息をつく。

「あの人の戦いに対する情熱は本物……ちょっとやそっとじゃ揺るがない」
「まあな、あいつは純粋に祖国や妹の為に戦っている訳だし、そこがバルクホルンの強さなんだよな」

「……」

そんなガロードとティファの会話を、キッドは作業をしながら聞き取っていた。

その時、基地中に敵襲を告げる警報が鳴り響いた。

「ネウロイ!? ティファ行くぞ!」
「うん……!」

ガロードとティファは警報を聞いてすぐさま基地の指令室に向かって行った。

「……さてと」

その様子を見て、キッドはジェットストライカーの隣に置いてある装備に視線を向けた……。



数分後、ブリーフィングを終えた一同はネウロイが出現した海上へ出撃する、ちなみに今回出撃しているのは美緒、ペリーヌ、シャーリー、ルッキーニ、エーリカ、そしてGファルコンとドッキングしたDXに乗るガロードとパーラであり、他のメンバーは緊急時に備えて基地で待機している。

『敵の分析結果が出たわ、このまえティファ達が遭遇したMS型ネウロイに酷似したもの、それも五機がロマーニャ方面に向けて南下中よ』
「またMSかよ……! 一体どうなってんだ!?」

ガロードはフリーデンにいるサラからの報告を受けて歯噛みをする、しかもDXのモニターに映る五機のネウロイは、先日ティファ達が遭遇したMS型ネウロイとは違って、腕や頭などが全体的に丸々としていた。

「こいつもまだ見たことないタイプか! 皆気をつけろよ!」
『了解した!』

パーラの警告に答える美緒、その時……突如五機のネウロイはMS型から円盤の様な形のMA型に変形し、高速で美緒達の元に突進してきた。

「さらに変形しやがった!」
『各機散開してDXのフォローを! やつらをここから通すな!』
『『『『了解!!』』』』

美緒達は分散するネウロイに対し、DXを主体としたフォーメーションを組んで迎撃に当たった……。


一方その頃フリーデンでは、ジャミル達がその戦いの様子を分析しながら、予想外の事態に備えて作戦を練る。

「また正体不明のMS型ネウロイか……」
「あ、あんなデザイン見たことないですよ! 一体どこの軍の……!?」

初めて見るMSに動揺を隠せないブリッジクルー、するとそこに……。

『あのMSの名は“アッシマー”じゃよ』
「何?」

突然、ブリッジに謎の老人から通信が入ってきた。

『あ! BATENをくれたじいさん!』
『ほっほっほ、久しぶりじゃのう皆の衆』

戦っていたガロードはその人物が、ガリアでの戦いのときに自分を助けてくれた老人だという事に気付く。

「……? あなたはあのMSが何なのか知っているのですか?」

ジャミルは冷静に、今ガロード達が戦っている相手について老人に質問する。

『あの機体はアッシマー、お前さん達の暮らしていた世界とは別の場所で作られたMSじゃ、何者かがこの世界に持ち出し、ネウロイのコアを取り付けたのじゃろう』
「別世界のMS……!?」

ジャミル達は老人の“別世界で作られたMS”という単語に首を傾げる。

『ほっほっほ、今お前さん達は別世界の地で魔女と一緒に戦っている……そう考えれば別世界のMSなど不思議じゃなかろうて』
「た、確かにそうですが……」
『アッシマーは機動力が高い分装甲はそんなに厚くはない、おまけにコアのある一機が他の四機に指令を送っているようじゃ、DXがフォローすればウィッチにもコアのある個体を破壊出来るじゃろう』
『そっか! あんがとなじいちゃん!』

ガロードとパーラは老人にお礼を言うとすぐに相手MS型ネウロイの小隊に向き合い、一斉にミサイルを発射する。
するとネウロイは散開してミサイルを回避する、その隙を美緒達は各個撃破を狙って同じく散開して迎撃に向かった。

ふと、美緒はシャーリーと戦っているネウロイにコアの反応がしている事に気付き、インカムでそのことを伝える。

『シャーリー! 本体はそいつだ! お前に任せた!』
『ラジャー!』

各自ネウロイを迎撃する中、シャーリーはコアのあるネウロイを追撃する、しかしネウロイは高い機動力でシャーリーの追撃を尽く回避していく。

『あれ!?』

そしてネウロイは海に向かってほぼ垂直に下降したかと思うと、一気にシャーリーに向かって上昇してきた。

『おお!? やる気か……! そうこなくっちゃ!』

シャーリーもまた臆せず、旋回しながらネウロイに攻撃するが、ネウロイのビームによる反撃と高い機動力により中々決定打が出せずに焦り始めていた……。

『ちぃ……じっとしてろよ!』





一方その頃キッド達整備班は基地滑走路で、空で激戦を繰り広げるガロード達を固唾を飲んで見守っていた。

「くっそあのネウロイめ……DXを本体に近付けないように他の四機でフォーメーションを組んでやがる……」
「このままじゃジリ貧っすよ!」

するとそこに、基地で待機していたウィッツがキッド達の元に駆け寄って来た。

「おいキッド! エアマスターは出せるか! ジャミルに手が足りてないから援護して来いって頼まれたんだ!」
「ん? ああ! いつでも行ける……おい!?」

その時キッドは、バンカーの中でバルクホルンが厳重に封印されていたジェットストライカーの鎖を自力で引きちぎろうとしている光景を目撃する。

「バルクホルン! お前謹慎してたんじゃなかったのか!?」

キッドは慌ててバルクホルンに駆け寄り、鎖を掴むバルクホルンの手を掴んだ。

「行かせてくれ……! このままでは皆が危ない! ジェットストライカーならすぐだ!」
「馬鹿言え! こいつは危ないって言われたろうが! 大人しくここで待ってろこのボケ!!!」
「くう……! しかし皆が危ないのに!」

バルクホルンは軍人である自身の使命感から、ジェットストライカーを使って一刻でも早くシャーリー達の救援に向かいたいと思っていた。
しかしキッドは彼女の気持ちを知ってか知らずか、ジェットストライカーを使って出撃することを許さなかった。

「あのなあ……! 俺達はこれまで自分達が整備したメカで一人も戦死者を出していないことに誇りを持っているんだ! てめえも俺達に相棒を預けている以上……俺達の言う事を聞きやがれ!」

キッドにもまた、メカニックとしてのプライドがあり一歩も譲らなかった。

「だが……だが……!!」

それでもバルクホルンは引き下がらず、少し泣きそうな顔でキッドに訴えかける。
するとキッドはにやりと何か企んでいるような顔で笑った。

「安心しろ、何も出撃すんなとは言ってねえ、お前にはこっちを使ってもらう」
「何……?」





数分後、基地滑走路から一人のウィッチが飛び出していき、それを見たジャミルはハンガーにいるキッドに通信を送る。

「おい整備班? エアマスターはどうした!? 何故バルクホルン大尉が……!?」

対してキッドは出撃していくバルクホルンを見送りながら、とても楽しそうな笑顔で答えた。

『悪いジャミル! 新兵器のテスト……ぶっつけ本番でさせてもらわ!』



一方、MS型ネウロイに苦戦していたシャーリーは、いつの間にか後ろを取られ絶対絶命の危機に陥っていた。

「しまった!?」

そしてネウロイからビームが放たれようとしていた、シャーリーに確実に当たるコースである。
しかしその時……どこからともなくエメラルドグリーンの色をしたビームが、ネウロイの体を貫きコアを露出させた。

「ええ!!?」

シャーリーはビームが放たれた方角を見る、そこには羽を後ろに開いてブーストモードに変形したサテライトキャノンを背負ったバルクホルンがいた、手にはウィッチサイズのビームライフルが握られている。

「だああああああ!!!」

バルクホルンはそのまま背中に装備されていたビームサーベルを抜き、ビームでできた刀身を起動させて、そのまま槍投げの如くネウロイのコアに向かって投げた。
刀身はそのままコアを貫き、五機のネウロイは全てガラス片となって砕け散った。

「す、すげー……あれがガンダムの力……」

シャーリー達はバルクホルンの装備するサテライトキャノンの性能に感嘆の声を上げていた。

その時……バルクホルンは突然、糸が切れた人形のように、海に向かって真っ逆さまに落ちて行った。

『やっべ! バルクホルン自体がガス欠だ!』
「んな!? たく世話を焼かせて!」

シャーリーはすぐさま落下していくバルクホルンの元に飛んでいき、彼女を落下する前に受け止めた。

「はあ、間に合った……」

ほっとしたシャーリーは、自分の胸に顔を埋めて気持ちよさそうに眠っているバルクホルンを優しく見つめていた。

「あ~~!!!? それ私の私の~!!」

その光景を見ていたルッキーニは、自分の特等席を取られて憤怒していた……。





その日の夕方、バルクホルンは命令違反の罰としてバンカーでじゃがいもの皮むきを一人でやらされていた。
そしてその様子を見に、ウィッチやガロード達がバンカーに集まっていた。

「しかしバルクホルンが規則違反なんて初めてだな」
「まあそれでネウロイを倒せたんだし、少しは大目に見てやれよ」
「それとこれとは話が別です!」

珍しくバルクホルンにフォローを入れるシャーリー、するとそこに……。

「みなさん、ご迷惑をおかけしました」

妙に言葉づかいが丁寧で、メガネをかけたエーリカ(?)が、美緒やミーナ、バルクホルンやシャーリーに話しかけてきた。

「何故お前が謝る?」
「ハルトマンのせいじゃないだろ?」
「あ、いえ私は……」

するとそこに、沢山のジャガイモ料理を乗せた台車と共に芳佳とリーネ、そしてティファがやって来た。

「みなさーん、じゃがいもが沢山届いていたから色々作ってみましたー……ってあれ?」
「ハルトマンさん、メガネなんて掛けていましたっけ?」

芳佳とリーネもまた、いつもと雰囲気の違うエーリカ(?)を見て首を傾げる。
するとティファがある事に気付く。

「二人とも……この人はエーリカじゃないわ」
「「え?」」

「おお! おいしそうなポテト……あれウルスラ? どうしたのこんなところで?」

するとそこにもう一人のエーリカが現れ、台車の上のポテトをつまみ食いした。

「うえええええ!!? ハルトマンさんが二人!?」
「そう言えば皆は知らなかったわね、この人はウルスラ・ハルトマン、ハルトマン中尉の双子の妹でジェットストライカーの開発者の一人なのよ」
「「「双子の妹~!!?」」」

衝撃の新事実に揺れる芳佳達、そんなことは放っておいてウルスラは黙々とジャガイモの皮をむくバルクホルンに話しかけた。

「バルクホルン大尉……この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「なあに、試作機に欠陥は付き物だ、気にすることはない」
「ジェットストライカーはこちらが回収させていただきます、代わりといってはなんですがじゃがいもを沢山持ってきましたので皆さんで食べてください」



ハンガーの外ではコンテナ数個分の大量のジャガイモが置かれていた。

「こ、こんなに沢山……」
「これでしばらくはジャガイモ料理だねえ……」

それを見たペリーヌやロアビィ達はこれからの献立メニューの事を思いカクンと頭を垂れた。



「あの……それとキッド・サルサミルさんはどこに?」

説明を終えたウルスラは、キッドの所在についてバルクホルンらに聞いた。

「ん? あいつならほら、あそこ」

そう言ってシャーリーが指差す先には、エイラとサーニャとルッキーニ、そしてパーラに対してウィッチ用サテライトキャノンについて熱く語るキッドがいた。

「というわけで! こいつはサテライトキャノンは使えないが補助ブースターの役割を果たせるわけで……!」
(話長え……)
(眠い……)
「くかー」
「いやー、そんなに気に入ったのか私の胸」

しかし聞いているエイラ達は話が長すぎて気だるそうしており、ルッキーニはパーラの胸を枕に完全に寝ていた。

「あなたがキッド・サルサミルさんですね」

そんな彼にウルスラは声を掛ける。

「ん? なんだエーリカメガネなんてかけて?」
「それ私の妹」
「あなたのお話は聞いております、早々にジェットストライカーの欠点に気付いていたとか……」
「ん? ああまあな」

そう言ってキッドは鎖で封印されたままのジェットストライカーを撫でるように触った。

「まあなんつーかコレはだな、エネルギーを魔法頼りにし過ぎなんだよ、もうちっと科学の部分でフォローしたほうがいいと思うぜ」
「成程……そういう考え方もありましたね、迂闊でした」

ウルスラはキッドの意見を素直に受け入れ、異世界の人間である彼の意見に興味を示していた。

「いやー、でもアンタの作ったこいつも中々悪くねえよ! きっと経験を積めばもっと強くてデカくてスッゴイ奴が作れるぜ!」
「ウルスラより年下じゃんあんた」

キッドより年上の妹が若輩者扱いされ、思わずツッコミを入れるエーリカ。
一方キッドは目をキラキラさせてウルスラにある頼みごとをする。

「なあなあアンタ、まだここにいるんだろ!? ならよー俺と意見交換して色々作ってみねえ!? 俺ちょっとこの世界の技術に興味があるんだよ!」
「いいですね、でもまた失敗したら……」
「大丈夫大丈夫! ここにはゴリラみたいに頑丈なウィッチがいるから! そいつがテストしてくれっから大丈夫だって!」

その一言に、バルクホルンはぴくんと反応し、その場にいたほぼ全員がブッと吹き出していた。

「ほう……? ゴリラみたいなウィッチとは私の事か?」
「え゛?」

キッドはいつの間にか自分の背後にバルクホルンがいることに気付き、自分がとんでもない失言をしたことに気付いた。

「や、やだな~? 誰もバルクホルンお姉ちゃんがゴリラなんて言ってないじゃないか~?」
「そんな無垢な瞳で訴えかけても駄目だ、私の弟はガロードだけだしな、それではキッド……向こうで少しは な し を し よ う か?」

バルクホルンの目は完全に猛獣が獲物を狩る目になっていた。

「ひ、ひ、ひええええええ!!! お助け~!!」
「あ! こら逃げるなあ~!!」

恐怖のあまり逃走するキッド、彼を怒り心頭で追いかけるバルクホルン。

「助けてパーラ!」
「おいおい!? 私にどうにかできる相手かよ!?」
「貴様! 女を盾にするとはますます許せん!」
「うじゅ~! 枕がうごいちゃダメ~!」
「ルッキーニ! そんなにパーラの胸がいいのか!? 私は悲しいぞ~!」



そして大騒ぎになっていくハンガー、そんな様子を一歩下がった場所で見ていたウルスラは、微笑みながらエーリカに話しかけた。

「ふふふ……姉さまの仲間は面白い人が沢山いるんですね」
「まあね、退屈はしないかな」


こうして色々騒がしかった一日は、最後も騒がしく終わっていくのでした……。










今回はここまで、劇場版公開まで一か月を切っているのでエンジン全開で行こうと思います。
次回はウィッツとトニヤがメインで絡む回になりますのでお楽しみに。



[29127] 第五話「私達が守る!」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2013/09/10 09:34
 第五話「私達が守る!」


ある日の朝のウィッチーズ基地、その食堂で芳佳とリーネ、そしてティファは朝食の準備をしようと米袋の中を覗いていた。

「お米大分少なくなってきたね」
「他の食品も心許無い……」
「坂本さーん! お米なくなっちゃいましたよー!」

芳佳はたまたま近くを通りかかった美緒とミーナに、備蓄していた米が無くなってきたことを報告する。

「うーん、これほど一気に隊員が集まるとは思わなかったからなあ」
「フリーデンの人たちの分もあるし、ちょうど備品を揃えておこうと思ったのよ、よかったら街へ買い出しに行ってもらえる?」

 それを聞いた芳佳とリーネ、そしてティファは顔を見合わせた後、芳佳が代表して嬉しそうに元気よく答えた。

「はい! 了解です!」



☆ ☆ ☆



数分後、ティファとミーナから買い出しの話を聞いたジャミルは、フリーデンの主要クルーをブリッジに集めて買い出しのリクエストを聞いていた.

「という訳で我々の分も買い出ししてくれるらしい、何かリクエストがあれば言ってくれ」
「うーん……いきなり言われてもなあ、すぐには思いつかないな」

 そう言ってうーんと悩みだすガロード達、すると真っ先にロアビィが手を挙げた。

「それじゃ、俺は酒とかつまみとか頼んじゃおうかな、レクリエーションルームの備蓄もそろそろ寂しくなってきたんだよねえ」
「いいわねえ、あそこが充実すればクルーや他の基地の人達も楽しめるだろうし……チェスとかのボードゲームもあればいいんじゃない?」

 現在フリーデンのとある一室にはロアビィが作ったレクリエーションルームがあり、クルーだけでなく整備兵など基地の隊員達も時折やって来て交流を深めていた。

「ロアビィとエニルはそれでいいんだな」
「では私はコーヒー豆でも頼もうか、ロマーニのコーヒー豆がどんなものか味わってみたい」
「テクスはコーヒー豆か……他はいないのか?」

 ジャミルの問いに、今度はティファが思い出したように手を挙げた。

「あの……画材道具を頼んでもいいでしょうか? 今度芳佳達の絵を描くって約束したんです」
「そういや前にそんな話してたな、俺はそうだな……思い付かないしなんでもいいよ」
「僕もなんでもいいですよ」
「ティファとガロード、カリスも決定か……ウィッツとトニヤ、お前達はどうする?」
「ん~~~~~! そうだな……」

 ジャミルの問いに、腕を組んでう~んと悩むウィッツ、その時トニヤはある事を思いついた。

「そーだ艦長! 買い出しって501の子達が行くんですよね?」
「まあ、そう聞いているが?」
「なら私とウィッツがその買い出しに同行しますよ、男手があった方があの子達も楽だろうし」
「ちょ!? 何勝手に決めてんだ!?」

 トニヤの提案に戸惑うウィッツ、するとロアビィがニヤニヤしながらウィッツの肩に自分の肘を乗せた。

「まあいいんじゃない? 買い出ししながら自分の欲しい物を探すって手もあるし、トニヤとデートも出来て一石二鳥じゃない?」
「ば、バカ野郎! からかうんじゃねえ!!」

 ロアビィの指摘に顔を真っ赤にするウィッツ、しかし“トニヤとのデート”の部分は拒否するような事は言ってないので、周りの人間はご馳走様と言わんばかりにニヤニヤしていた。
 そして断る理由は特に無いので、ウィッツはトニヤと共に501のロマーニャへの買い出しに同行することになった……。


☆ ☆ ☆


数時間後、501基地の外……そこでウィッツとトニヤ、そして買い出しメンバーに選ばれた芳佳とルッキーニは、シャーリーが運転する買い出し用トラックに乗り込んでいた。

「じゃあなウィッツ、頼んだぜー」
「おう、留守番頼んだぜ」

 見送りに来たガロードとティファとミーナとリーネ、ふとトニヤはその中でリーネがとても不安そうな顔をしている事に気付く。

「? どうしたのリーネ? そんなお通夜みたいな顔しちゃって?」
「あ、あの……ちゃんと帰ってきてくださいね?」
「大げさだなおい、たかが買い出しじゃねえか」

 そう言ってバンバン肩を叩くガロードに対し引き攣った笑みを浮かべるリーネ、すると運転席にいるシャーリーが声を掛けてきた。

「それじゃ出発するぞー」
「はーい、トニヤさんは助手席、私達は荷台ですね……」

 そしてトラックはロマーニャの町へ向けて出発する、その様子をリーネはまるで戦場に赴く恋人を見送るような不安そうな顔をしていた……。



☆ ☆ ☆



 それから十数分後、芳佳、ウィッツ、トニヤはその理由を身を持って知る事になった。

「ひええええええ!!!?」
「うおおおおおお!!!?」
「ひゃあああああ!!!?」

基地からロマーニャまでの道のりは、ロクに整備されてないガタガタの崖の上を渡るルートしかないのだが、それを501のスピード狂・シャーリーはあろうことが猛スピードで走行していた。

「いいっやっほー!!!!」
「にゃはははは!! いっけーシャーリー!」
「ばばばバカ野郎! スピード落とせ!」
「落ちるうううう!!」

ガードレールの無い崖の曲線カーブをシャーリーはドリフト気味に曲がり、芳佳はその際発生した慣性の法則で振り落されそうになる。

「死ぬ! 死ぬから! シャーリー止めて!」
「しっかり掴まってろよ! 崖飛び越えるぞ!」

 助手席のトニヤの懇願を無視し、シャーリーはアクセルを目一杯踏んで助走をつけ、目の前の底が見えない崖を飛び越えた。

「「「あああああああああ!!!?」」」
「おおお!! 飛んでる~!」

 あまりの高さとスピードに股間の辺りが寒くなっている三人を差し置いて、ルッキーニはシャーリーのレース漫画顔負けのドライビングテクニックを楽しんでいた。

 そしてトラックはドスンと着地し、そのままロマーニャの町へ何事も無かったように向かって行った。

「あー楽しかった!!」
「楽しくねーよ!」



☆ ☆ ☆



 それから数十分後、シャーリーの運転するトラックは(他人の目から見れば奇跡的に)目的地のロマーニャの街に辿り着いた。
 ちなみに車内はシャーリーの乱暴な運転のお陰で、芳佳とトニヤが車酔いでグロッキー状態になっていた。

「ぎぼぢわ゛る゛い゛……」
「し、死ぬかと思ったわ……!」

 するとウィッツは決意に満ちた表情でシャーリーに言い放つ。ちなみに彼もまたシャーリーの常識外れの運転に参っていたが、普段からMSで空中戦を繰り広げている故にトニヤ達ほど参ってはいなかった。

「帰りは俺が運転するからな」
「えー!?」

 不満そうに口を尖らせるシャーリー、そんな運転席にいる彼女の脳天にウィッツは荷台から軽くチョップを叩きこんだ。

「拒否権は無しだ! 俺はまだ死にたくねえんだよ!」
「はーい、ちぇー」

 そして数分後、ロマーニャ市内を走るトラックの中で、ルッキーニは嬉しそうな様子でトラックから見えるローマの観光名所を芳佳達に解説していた。

「ほら! あそこに見えるのがコロッセオだよ! すごく大きいんだー!」
「ルッキーニちゃんてロマーニャの事詳しいんだねー」
「だって私の生まれ故郷なんだもーん」

 その時、トニヤはふと疑問が浮かび、隣で運転していたシャーリーに小声で話し掛ける。

「そういえばルッキーニってまだ子供よね? それなのに軍隊にいるの?」
「うん……あいつの話じゃ半ば無理やり入隊させられたって聞いたなぁ、私に会う前はホームシックになって脱走ばかりしてたらしいぜ? まあ私と出会ってからはそういうの無くなったんだけどさ」
「苦労しているのね、貴方達も……」

 小さいながらも苦労しているルッキーニの昔話を聞いて、トニヤは半ば感心の意味を込めて溜息をつく。

(まあこの世界の軍人たちの殆どは、彼女達を好き好んで戦わせている訳じゃないみたいだけどね……)

 トニヤ達フリーデンのクルー達は、マロニーや一部の上層部を除く軍人達が彼女達ウィッチを好き好んで戦わせている訳じゃないという事を、数々の共闘を通じて感じ取っていた。無論それは年若い彼女達を戦わせる罪悪感からと、男としてのプライドからくる物等の数種類あるのもだという事も理解していた。

(自分達のできる事をするしかない……って訳か)



☆ ☆ ☆



 数分後、ウィッツ達一行は501のメンバーやフリーデンのクルー達のリクエストの品を買う為にとある雑貨屋にやって来ていた。

「おー、色々売ってんな」
「えっと……メモメモっと」

 芳佳は501の皆から預かってきたメモを取出し、それに書かれた品を買い物籠にいれていく。一方それを持つウィッツもトニヤと一緒にフリーデンクルーのリクエストの品を集めていた。

「ねえ、お酒とかどうする?」
「安いのでいいんじゃねえの? うまけりゃなんでもいいだろ」

 その時、ウィッツ達の視界にテーブルの上に置かれている狐の耳と尻尾を生やした巫女服の少女のミニチュア人形が入った。よく見ると周りにも違う種類のが数体置いてある。

「あら、この人形可愛いわね」
「お客様、お目が高いですね」

 するとそこに雑貨屋の女性店員が両手をニギニギしながら近寄って来た。

「随分変わった作りしてるわねこの人形」
「はい! 一年前から発売されているミニチュア玩具“もふもふ久遠ちゃんシリーズ”です! 女の子に大人気なんですよ? 妹さんのプレゼントにいかがですか?」
「お、おう」

 ズイズイ勧めてくる女性店員にたじろぐウィッツとトニヤ。一方、芳佳はフリフリの可愛い服を手に取って買い物かごの中に入れようとしていた。それを見たシャーリーは芳佳に話し掛ける。

「なんだそれ? 可愛い服だなー、お前が着んの?」
「いえ、これはバルクホルンさんに頼まれて……」
「バルクホルンが!?」

 シャーリー芳佳が手に持つフリフリで可愛い服をバルクホルンが着る姿を想像し、思わず腹を抱えて爆笑した。

「だぁーっはっはっは! バルクホルンが!? 似合わねえー!」
「い、いえこれは妹のクリスちゃんにって……聞いてください~!」

 一方、ルッキーニはそんな彼女達の輪に入らずつまらなそうにしていた。

「うにゅ~……暇~……ん?」

 その時、何気なく店の外を見たルッキーニは、赤い長髪の女の子が二人組の黒いスーツの男達に腕を掴まれどこかに攫われそうになっている様子を目撃した。



☆ ☆ ☆



「は、放してください!」

 赤い長髪の少女は自分をどこかに連れて行こうとする二人の黒服の男達に抵抗する。

「スゥゥゥゥパァァァァァルッキーニキィィィィィィック!!!」

 するとそこにルッキーニが颯爽と現れ、少女の腕を掴む黒服の男の顔面に飛び蹴りを叩きこむ。黒服の男はぐぇっと悲鳴を上げて地面に倒れる。

「もういっちょ!!」

 ルッキーニはそのまま傍にいた黒服の男の顔面にも飛び蹴りをくらわす。見事な二段蹴りであった。

「え!? あ、あの!?」
「ほら! 早く逃げるよ!」
「ええええ~!?」

 突然の事に困惑する赤髪の少女、ルッキーニはそんな彼女の手を取り、うめき声をあげている黒服達を放置してそのままどこかへ走り去って行った……。



☆ ☆ ☆



 その頃、雑貨屋で買い物を済ませた芳佳達はルッキーニがいない事にようやく気付き、トラックの前で話し合いをしていた。

「運転席にもいませんでしたね、さっきまで店の中に居たのに……」
「参ったなあ、アイツに残りの金渡したまんまだぞ」

 困ったように頭をバリバリかくシャーリー、するとトニヤは少し不安そうな顔で隣にいたウィッツに話し掛ける。

「大丈夫かしらあの子? まさか誘拐されたとか……」
「いや、アイツに限ってそんな……」
「でもあの子、お菓子とかにつられるとホイホイ付いて行きそうじゃない?」

 トニヤのその一言に、深刻そうに考え込むウィッツ、芳佳、シャーリー。そしてシャーリーはすぐさま結論を出した。

「仕方ない、念のため手分けして探しに行くか、集合場所はここな」
「わかりましたー」

 こうしてウィッツ達はルッキーニを探しに二手に分かれてロマーニャの街中を散策することになった……。



☆ ☆ ☆



 その頃ルッキーニは赤い髪の少女と共に黒服の男達から逃げ、とある公園らしき場所の草陰の隠れていた。。

「ふーん、マリアって言うんだ? なんであの人達に追いかけられてたの?」
「え、えーっとそれはその……」
「あ! わかった! アイツらマフィアか! 裏通りは多いから気を付けないと!」

 マリアと名乗った赤髪の少女と楽しげに話すルッキーニ、彼女とは出会ったばかりなのにも関わらず、501の皆と話すときの様に屈託のない笑顔を向ける。

「マリアってこの辺に来るのは初めてなの?」
「はい、生まれた街である筈なのによく知らないって言うのも変ですよね」

 そう言ってマリアは少し寂しげな笑みを浮かべる。するとルッキーニは彼女の手を取り再び駆けだした。

「じゃあ案内してあげるよ! こっちこっち!」
「え、ええ!? ちょっと!?」

 ルッキーニは戸惑うマリアを連れて人々の喧騒で賑わうロマーニャの街へ向かって行った……。



☆ ☆ ☆



 その頃芳佳はシャーリーと共にロマーニャの中を歩き回りながらルッキーニを探していた。

「ルッキーニちゃ~ん? どこ~?」

 そう言ってゴミ箱の中を覗き込む芳佳。普通そんな所に人は入らないと思うが、猫っぽいルッキーニを探しているのならあながち間違いでもないかもしれない。

「見つからないな~、ホントアイツどこに行ったんだ?」
「あら、二人共ここにいたの?」

 するとそこに別の場所を探していた筈のトニヤが現れた。

「あれトニヤ? なんでここに?」
「いやね、途中でウィッツと逸れちゃって……歩き回っていたら偶然貴方達を見つけたのよ」

 そう言って互いに疲れを吐き出すかのように溜息をつくシャーリーとトニヤ。その時……芳佳が突然二人の元に駆け寄って来た。

「お二人共!」
「お? どうした? ルッキーニいたか?」
「猫です! 白猫!」

 そう言って芳佳はその辺にいた妙に丸々とした白猫を二人に見せた。

「お前なあ……」

 芳佳の緊張感のない行動に思わずカクンと首を垂れるシャーリー、その時……トニヤが芳佳から白猫を受け取ると、猫の前足をクイクイ動かしながら謎のアテレコを始めた。

「ニャップニャプ~、ひ……シャーリー、早く音符……じゃなかった、ルッキーニを見つけるミャー」
「解ってるわよーハ……トニヤ、ちょっと一休みしてからねー」
「な、なんですかその寸劇!?」

 突然の二人の寸劇に、芳佳は思わず右手を上、左手を下に直線に開く謎のポーズを取りながら驚いた。



☆ ☆ ☆



 その頃、ルッキーニとマリアはロマーニャの中心にあるコロッセオの上段の席の方までやって来ていた。

「うわぁ……広いですねえ」

 初めて見るコロッセオの大きさに感嘆の声を上げるマリア、そんな彼女に対しルッキーニは嬉しそうに解説を始める。

「昔の人はここで格闘大会やってたんだって! あれ……?」

 その時、ルッキーニは下の方で車いすに乗った車の男性を発見する。車いすの男はコロッセオの客席の下段を移動していた。そして……不注意で車いすの車輪を石段から踏み外してしまい、大きく横によろめいた。

「ほっ!」

 しかしルッキーニがいち早く異変に気づき、彼が倒れる前に体を支えた。

「大丈夫? この辺りはガタガタだから!」
「ふ……助かったよ御嬢さん」

 大人びた雰囲気の車いすの男は紳士的な態度でルッキーニに礼を言う。そしてそこにマリアも駆けつけてきた。

「こんにちは、貴方もロマーニャの観光ですか?」
「ええ、まあ、そんな所です。ただこの辺は初めてなので道に迷ってしまって……」

 マリアの質問ににこやかに答える男。するとルッキーニが嬉しそうな顔で男の座る車いすの取っ手を掴んだ。

「おじさんもロマーニャ見て回るの!? それじゃ私達と一緒に行こう!」
「え、いや……」

 ルッキーニはそのまま戸惑う男を無視し、彼の車いすを押しながらマリアと一緒に次のロマーニャの名所に向かった……。



☆ ☆ ☆



 その頃シャーリーは芳佳とトニヤと別れてルッキーニの捜索を続けていた。

「まったく……本当にどこに行ったんだよ……」

 シャーリーはルッキーニがなかなか見つからずに内心不安が募っており、自然と速足になり注意力が散漫になっていた。
 それ故に、横から歩いて来た青年に気付くことが出来ずに衝突して尻餅をついてしまう。

「あいたっ!?」
「ああ、大丈夫ですか?」

 シャーリーは青年から差し出された手を取って立ち上がり、ズボンに付いた汚れを払い取りながらお礼を言った。

「す、すみません、ちょっと迷子の子を探していて余所見していて……」
「それは大変ですね……どんな子なんですか?」
「短いポニーテールにちょっと色黒の12歳ぐらいの女の子なんですけど……あと白い軍服に縞々のズボンを履いてます」

 すると青年は突然口を閉じてシャーリーから視線を逸らして黙り込んだ。

(あれ……?)

 シャーリーはその青年の態度を見て、何か特殊な魔力のような物を感じ取った。

(なんだろう? ティファが力を使っている時の様子に似ているようで、違うような……)

 その時、青年は再びシャーリーと目を合わして話し掛けてきた。

「そう言えば……広場の方で先程そのような子がアイスを食べていましたね、赤毛の少女と一緒に」
「本当ですか? いやー助かりました! 今行ってみますね!」

 シャーリーはそう言って青年に礼を言うとその場を去って行った。
 そしてその場に残った青年は、目を閉じて傍目から見れば瞑想の様な事をし出した。



(兄さん、さっきの子は……)
(ああ、フリーデンが所属する501)のウィッチだ)
(運がない子達だ、これからここがどうなるかも知らずに……僕等も行こう兄さん)
(う、うむ、だがちょっと待ってくれ、今動くことが出来ない)
(兄さん?)



☆ ☆ ☆



 その頃ルッキーニは広場に居あるアイスクリームの出店で沢山のアイスを買い、(使ったお金は買い出し用の物)それをマリアや途中で出会い仲良くなった子供達数名、そして車いすの男に配って食べさせ、そのままロマーニャの街を移動しようとしていた。

「そう言えばおじさんってどこから来たの?」

 子供達がマリアと和気藹々と話していた時、ルッキーニは自分が押す車いすに座る男に話し掛ける。

「(おじさん……)ここからとても離れた所から来た」
「ふーん、どんな所?」
「さあ、もうだいぶ前のことだからね、殆ど覚えていないさ」
「そうなんだ……」

 男の話を聞いて、ルッキーニは人で賑わうロマーニャの街を見渡し、そして先程買った棒付きのキャンディを彼に渡した。

「ハイコレ! おじさんにあげる!」
「あ、ああ……」

 男はルッキーニにおじさんと呼ばれ渋い顔をしながら、彼女に差し出されたキャンディーを受け取った。そしてルッキーニはいつものニコニコ顔ではない、少し寂しそうな笑みを浮かべながら語り始めた。

「帰るところが無いって……寂しいよね、私もマーマ達がいるロマーニャが無くなったらすごく悲しいと思う。でもね、私にはシャーリーが居て、芳佳達がいて、ガロード達がいるから寂しくないんだ。おじさんにはそういう人いる?」
「……いるな、この世でたった一人の肉親が」
「なら大丈夫! その人と幸せも辛い事も半分こすればね!」

 そう言ってルッキーニは男に向かっていつもするようにニッコリ笑ってみせる。対して男はルッキーニから目を逸らし黙り込んでしまう。そして……。

「……そろそろ知り合いと待ち合わせの時間だ、楽しかったよ……御嬢さん」
「え? そうなの? 一人で大丈夫?」
「ああ、ありがとう」

 そう言い残し、男はルッキーニの元を去って行った。するとそれに気付いたマリアがルッキーニに話し掛けてくる。

「ルッキーニさん、あの人は?」
「もう行っちゃった……もっとお話ししたかったのになぁ」

 そう言って寂しそうな顔をするルッキーニ、その時……。

「あ! いたー!! おーいルッキーニ~!」

 彼女達の元に突然シャーリーが駆け寄って来た。

「あ! シャーリーだー!」
「あ、じゃねえよまったくぅ! 心配かけさせやがって!」

 そう言ってシャーリーはルッキーニの頭をグシャグシャと撫でた。それを見たマリアは首を傾げながらシャーリーに話し掛ける。

「あのう……貴女ルッキーニさんのお友達ですか?」
「ああはい、こいつの保護者みたいなもんです。こいつ……」

 その時、シャーリーの言葉を遮るように、ロマーニャの街中にサイレンが鳴り響く。

「ネウロイ!?」
「シャーリー! 海の方向!」

 その時、ルッキーニは海の方角から何か来ることに気付きその方向を指さす。そこには細い骨の様な飛行物体がロマーニャの街に迫っていた。

「何アレ!? エアマスターより細い!」
「私達も行くぞルッキーニ! トラックにストライカーを積んでおいた筈だ!」
「うん! マリア!」

 ルッキーニは駈け出す前に自分が被っていた帽子をマリアに投げて渡す。

「ええ!? ルッキーニさん!?」
「行ってくるね! 私ウィッチだから!!」



☆ ☆ ☆



 数分後、ロマーニャの上空で旋回するMA型ネウロイ、そのネウロイに対し一足早く出撃していた芳佳は攻撃を加えていた。

「くっ、早い……!」

 しかし相手ネウロイは凄まじいスピードで移動し、芳佳の攻撃を難なく回避していた。その時……彼女のインカムに通信が入ってくる。

『気を付けるんじゃお嬢ちゃん、それはフラッグというガロード達のいた世界とは別の世界で作られた機体じゃ』
「おじいさん!?」

 通信はいつも501やフリーデンを援助してくれる謎の老人からだった。

『そいつはエアマスターみたいに人型に変形するMSじゃ、皆と連携して挟み込めば勝機はあるぞい』
「わかりました!」

 その時、ストライカーユニットを装備したシャーリーとルッキーニが現れた。

「話は聞いたぞ宮藤! 私があいつを追い込む! お前はルッキーニと待ち伏せしていてくれ!」
「は、はい!」
「らじゃー!!」

 そう言ってシャーリーは芳佳とルッキーニの援護射撃を受けながら逃げるネウロイを追いかける。

「スピード勝負なら負けねえー!」

 そう言って逃げるネウロイの後ろを銃撃しながら追いかけるシャーリー、距離は縮まらないが広がりもせず、銃撃も何発か当たっていた。

(よし、あとはコアの位置を……!)

 そう言ってシャーリーが気を緩めた次の瞬間、ネウロイは突然減速してMA型からMS型に可変する。

「うぇ!?」

 突然の原則にシャーリーも慌ててブレーキを掛ける。しかしその瞬間動きが乱れて止まってしまう。相手ネウロイはその隙を逃さす、右手にあったライフルの銃口をシャーリーに向けた。

「シャーリー!」
「シャーリーさん!」

 ルッキーニと芳佳は慌てて彼女を助けに行こうとする。しかし次の瞬間、下方からネウロイ目掛けて何発ものビーム弾が発せられ、ネウロイの動きを封じた。

「あれは!?」

 シャーリー達がビーム弾の放たれた方向を見ると、そこには青と白を基調としたガンダム……ガンダムエアマスターバーストがMS形態で飛んできた。

『お前等無事か!?』
「ウィッツさん!? どうしてMSを!?」
『ティファがこの事を予知してキッドが持ってきてくれたんだよ! 助太刀するぜ!』

 そう言ってウィッツは二丁のバスターライフルと頭部に装備されているヘッドバルカンなどでネウロイを攻撃する。スピードはネウロイの方が少し早いがエアマスターの方が火力が多く、ネウロイの装甲がガリガリ削られていった。そしてついに胸部に赤いコアを露出させた。

『おっしゃ! 後は……!』
「ロマーニャは私が守る!!」

 その時、エアマスターの前にルッキーニが割って入り、目の前にまるで矛のようにシールドを重ねて展開した。

『お、おいおい!? あぶねえだろうが!』
「ウィッツ! 私のお尻押して!」
『はあ!? お前何言って……!』

 突然何を言いだすんだとウィッツは突っ込もうとしたが、ルッキーニが臀部辺りにも大きなシールドを張っているのを見て全部理解した。

『成程な……よし! 思いっきり行くぜ!』
「らじゃー!」

 ウィッツはそのままエアマスターをMA形態に変形させ、ルッキーニを押し出す様に相手ネウロイに突っ込んでいった。

「ロマーニャは……私達が守る!!」

 ルッキーニが展開した重ね掛けしたシールドは後押しするエアマスターの速度も加わり、直撃したネウロイのコアを粉々に砕いた。

「やった~! 私達の勝ち!」
『まったく……無茶ばかりするガキだぜ。おっと!?』

 するとルッキーニは持っていた自分の銃火器をエアマスターの手に投げ渡した。

「ちょっと持ってて~」
『お、おいコラ!?』

 ルッキーニはそのまま、地上で今の戦いを見ていたマリアの元に飛んでいく。

「マリア!」
「え!? うわわわわ!?」

 ルッキーニはそのままマリアをお姫様抱っこして、ロマーニャの全景が一望できる高さまで空に飛びあがる。

「わあ……」

 圧巻の光景に思わず声を漏らすマリア、それを見たルッキーニは彼女に対しニッコリ笑う。

「ねえ! すごいでしょ!?」
「はい……ルッキーニさんはこれを守っているんですね。私も……自分にできる事をします」

 そう言ってマリアは瞳に決意を宿らせる。そんな彼女達の元にウィッツの乗るエアマスターとシャーリー、芳佳が近付いてきた。

『いい話で終らせようとしている所悪いんだけどよ……お前、預けた金どうした?』
「え……あー!!?」

 ルッキーニは隊から預かったお金を、マリアと一緒にロマーニャを巡る際に殆ど使い切ってしまった事を思い出す。

「お、怒るでしょうねミーナ中佐……」
「あーあ、私しーらね」
「ふ、ふええええええええええ!!!?」

 ロマーニャの上空に、ルッキーニの叫び声が木霊した……。



☆ ☆ ☆



 その日の夜、501基地の滑走路の先端、そこでウィッツは一人で海を眺めていた。

「あれーウィッツ、そんな所で何してるのー?」

 するとそこに、ルッキーニが眠そうな目をこすりながらウィッツの元にやって来た。

「ん? ああ……ちょっと夜風に当たりたくてな、それよりもお前……ちゃんと反省したか?」
「うじゅー……うん」

 ルッキーニはあの後、買い出し用のお金を全部使い切った事をミーナと美緒に咎められ、ずっと外でバケツを持ちながら立たされていた。その時大泣きしたせいか、ルッキーニの目元は赤くなっていた。

「そっか、まったく……皆に心配かけやがって、今度からはああいうことすんじゃねえぞ」
「うん……」

 そう言ってルッキーニの頭をわしわしと撫でるウィッツ。そうする彼の瞳はどこか優しかった。

「ウィッツってなんだかお兄ちゃんみたいだね」
「そうか? まあ……年下の兄弟が何人もいるからなぁ」
「そうなんだ? ウィッツには故郷ある?」

 ルッキーニは先程ロマーニャで出会った男の事を思い出しながらウィッツに質問する。対してウィッツは空に浮かぶ星と月を映す夜の海を眺めながら答えた。

「まああるっちゃあるな、ロマーニャと違って何もない一面麦畑の村だけどよ……家族とは前会ったとき喧嘩別れしたままだったし、今度はトニヤ連れて行こうと思っているんだ」
「ふーん……じゃあさ! その時は私も行っていい?」
「いや、別にいいけどよ……ロマーニャと違って何もない所だぜ?」

 ウィッツの答えに対し、ルッキーニはニッコリ笑って答える。

「ウィッツの大切な場所なんでしょ? きっといいところだよ!」



☆ ☆ ☆



 その頃、シャーリーはルッキーニの行いの連帯責任として報告書を書かされ、それを司令室にいる美緒とミーナの所に持って行こうとしていた。

「中佐―、報告書書き終わり……おろ?」

 司令室に入ったシャーリーは、そこで美緒とミーナがジャミルと真剣な表情で話し合っていた。

「あ、シャーリーさん……」
「どうしたんだ皆? 難しい顔をして……」
「うむ……実は逮捕されたマロニー一派から提供された写真にこういう物があってな……」

 そう言って美緒は一枚の写真をシャーリーに見せる。その写真にはマロニーと何か話している青年の姿が映し出されていた。

(こいつは……!?)

 シャーリーはその青年の姿を見て驚く、写真の青年はシャーリーがロマーニャで出会った青年と同一人物だった。

「こ、この男がどうかしたのか?」

 シャーリーは声を上ずらせながら、先程から無言のジャミルに話し掛ける。
 ジャミルはサングラスの奥の瞳をギュッと閉じながら答える。

「その男の名はオルバ・フロスト……我々の世界を滅ぼそうとした者だ」










 本日はここまで、1年半以上お待たせして申し訳ございませんでした。何分久々なので内容忘れている上になんかいまいちな出来になってしまいました。余裕あったら後日修正します。
 一応これまでの路線だと嫌がる人がいるので、この話からちょっと変えていこうと思っています。それ故今回ウィッツ回にするつもりがあんまり活躍させられなかった……。

 次回はエイラーニャとロアビィ回になります。



[29127] 第六話「飛べ、エイラ!」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2013/09/19 11:59
 とある海上、そこで501とフリーデン隊はそこに出現したネウロイと戦闘を繰り広げていた。

「はぁ! はぁ……!」
『ティファ! あまり無茶すんなよ!』

 上空でガロードはティファの背中を守る様に飛びながら、次々と来る小型ネウロイをビームライフルで撃破していく。その時……。

「わー!? ガロード君上!」

 DXの頭上から複数のネウロイが襲い掛かってくる事に気付き、芳佳が慌てて警告する。
 その時……どこからともなく放たれたミサイルが、DXに襲い掛かるネウロイをすべて撃破した。

『ったく、お前はティファしか見てねえからそうなるんだよ』
『ワリィワリィ、助かったぜロアビィ』

 ガロードは自分を援護してくれたGファルコンと合体したレオパルドデストロイを駆るロアビィに礼を言う。

『ったくお前もいちゃつくなら周りの事考えろよ』
『おう! わかったぜ!』

 ガロードはロアビィが恐らく敵の目を気にしろと言ったと解釈したが、ロアビィは周りでやきもきしながら戦っているウィッチ達をチラ見しながら話していた。
 
 一方、少し離れた位置ではエイラが歌を口ずさみながらネウロイの攻撃をひょいひょい避け、そのまま反撃で撃破していた。

『すっげえなアイツ、確か未来予測の魔法使えるんだっけ?』
『まるでニュータイプだよなぁ』



 数分後、あらかたネウロイを片付け、美緒が右目の魔眼を使って残った敵がいないか確認する。

『へっ、手応えのない奴等だったぜ!』
「多分コアが破壊されていないからだろうな」

 そんなウィッツとバルクホルンの会話をよそに、美緒は山の向こうに見える、雲を突き抜ける程の高くて黒い塔に気が付く。

『なんだありゃ!? 宇宙まで届いているんじゃねえの!?』
「うわホントだ!? たっけー!」

 他の者達も塔の存在に気が付き驚愕する。
 その後、美緒が大気圏まで続く塔の先端へ偵察に行き、基地で作戦を練る為全員帰還した……。



☆ ☆ ☆



 その日の夜、501のウィッチ達とフリーデンの主要メンバー達はミーティングルームに集められ、室内の照明が落とされたそこで偵察部隊が撮って来た先程の塔のネウロイの写真を見せられていた。
 美緒の説明によれば、塔の形のネウロイは全長3万メートルあり、毎時およそ10kmという低速でロマーニャの街へ向かって移動しており、放置すれば被害が増えるのは確実なのだという。そしてコアを破壊しようにもそれは真空状態の天辺にあり、破壊は極めて困難な状態だった。

「宇宙まで続く全長3万メートルの塔……ね、ネウロイも色々と規格外が多いじゃないの」

 美緒からの説明を受け、ロアビィとトニヤがソファに腰かけながら皮肉っぽく笑う。一方ミーナは隣にいたジャミルとキッドにある質問をする。

「ウィッチのストライカーユニットの限界高度は精々1万m……MSはどうなんです?」
「エアマスターかGファルコンが頑張れば行けるかどうか……って所だな、ウチのMSには地上から単独で宇宙に上がる性能なんてないからな」
「マスドライバーがあればあるいは……だが無い物を強請っても仕方ない」

 ジャミル達の答えに、ミーナはふうっと溜息をついた。

「MSが無理となると……やはり我々の出番になりますね」

 そう言ってミーナは投影機にあるストライカーの写真を写し、美緒が説明を始める。

「MSに出来なくても……我々ウィッチにはこれがある! ロケットブースターだ!」
「ほう、名前からして飛びそうなストライカーだね」
「これで高度三万mのコアの所まで飛ぶのか少佐?」

 エーリカとシャーリーの質問に美緒は首を横に振って答える。

「いや、これは簡単な話ではないこのストライカーは大量の魔法力を消費し短時間しか飛ぶことができない」
「だからそこまで私達でロケットブースターを履いた誰かを運べばいいのよ、そしてこの作戦には瞬間的に広範囲の攻撃を行うことが出来る武器を扱う者……サーニャさん、お願いできるかしら? 貴女のフリーガーハマーならこの作戦に最適なの」

 ミーナはこれまで一言も発していないサーニャに話し掛ける。サーニャは先日買い出しの時にエイラが頼んだ枕を抱きしめながら答えた。

「はい……やります」

 その答えを聞いて、何故かエーリカが誇らしげに微笑む。サーニャが使うフリーガーハマーはエーリカの妹のウルスラが開発した物だった。
 するとそこに隣にいたエイラが手を必死に上げて意見を言う。

「はいはいはい! 私も行く!」
「そうか、時にエイラ……お前はシールドを張ったことがあるか?」

 美緒の質問にエイラは胸を張って自信満々と言った様子で答える。

「シールドぉ? 自慢じゃないが私は実戦でシールドを一度も張ったことが無いんだ!」
「そうか、なら無理だな」
「うん、ムリダナ……うぇ!?」

 美緒にバッサリ言われ困惑するエイラは、食い下がらずに粘る。

「いやでも! シールドを張れない訳じゃないぞ!」
「だが実戦では使ったことが無いんだろ?」
「その通りだ!」

 美緒はやれやれと溜息をつくと、今まで黙って話を聞いていた芳佳の方を向いた。

「この作戦自分の身を守る余裕のないサーニャを守るには宮藤、お前のシールドが最適だ、頼めるか?」
「は、はい!」

 自分が指名され、声を上ずらせながら答える芳佳。

「ううー!」

その様子をエイラはまるで野犬のように唸りながら悔しそうに見ていた。



☆ ☆ ☆



 それから一時間ほど後、エイラはいつも自分が使うサウナにペリーヌを呼び出していた。普段あまり仲がいいとは言えない二人の珍しいツーショットがサウナの中で展開されていた。

「なんですのエイラさんワタクシに用って……はぁ、サウナって苦手ですわ……」

 ペリーヌは気怠そうにもみあげをいじりながらエイラの話を聞いた。

「お前さ、いつも宮藤と喧嘩しているだろ? だったら私に協力してくれよ。敵の敵は味方って言うだろ?」
「どういう理屈ですのソレ……」

 そう言ってズイズイ迫ってくるエイラに嫌そうな顔をするペリーヌ、するとそこにサーニャがバスタオル一枚を体に巻いて入って来た。

「……? 何しているのエイラ?」
「う……」

 するとエイラは気まずそうにそそくさとサウナ室から出て行った。一方ペリーヌは隣に座ったサーニャを目を細めながらじーっと見ていた。メガネをしていないので相当見にくいようだ。

「……サーニャさん?」
「何やってんだ! 行くぞツンツンメガネ!」
「ああちょっと!? エイラさん!?」

 するとエイラが戻ってきてペリーヌの手を取って再びサウナ室から出て行った……。



☆ ☆ ☆



 次の日、基地の近くの海上、そこでペリーヌはストライカーユニットを履いてエイラとティファ、そして大分離れた所にはライフルを持ったリーネを連れて、エイラのシールド展開の訓練を行おうとしていた。

「ではエイラさん、リーネさんが狙撃を行いますので、ティファさんをサーニャさんだと思って守ってくださいまし」
「何故……私なんです?」
「キャラが被り気味だからですわ。守ってあげたくなる系でしょ貴女達」

 ペリーヌの返答におおっと深く頷いて納得する一同。そして離れた位置でライフルを構えるリーネが声を掛けてきた。

「でも本当にいいんですかー!? 危ないですよー!」
「構いませんわ! 親の仇とか恋敵とでも思って思いっきりやりなさい!!」
「恋敵……」

 その瞬間、リーネの纏う雰囲気が何故かどす黒い何かに変わった。そしてリーネは無表情のままライフルを構え、躊躇いなく引き金を引いた。銃弾がまっすぐエイラの方に飛んでいく。

「ひっ!?」

 しかしエイラはリーネが発するオーラに恐怖してしまい、銃弾をひょいっと避けてしまう。銃弾はそのままティファの眉間に直撃するコースを飛んでいた。
 しかし着弾する前に、ティファがシールドを展開して銃弾を空中で止めた。

「ちょ、エイラさん! 何で避けますの!?」

 シールドを展開する訓練なのに避けるエイラに対し当然怒るペリーヌ、しかし彼女もこの辺りを支配する殺気の様なものに気付いており、声がちょっと上ずっていた。

「い、いやだってものすごい殺気を感じたから……!」
「それはワタクシもですが! それじゃ訓練にならないでしょう!? リーネさんもっとバンバン撃ってくださいまし!」
「え!? あ、はい!」

 するとリーネはすぐにいつもの状態に戻ると、次弾を装填して引き金を引く、すると……。

『危ないティファぁぁぁぁぁぁ!!!』

 何故か斜め下からガンダムDXが飛び出してきて、リーネとエイラ&ティファの間に割って入って銃弾を防いだ。見事な援護防御である。

「ガロードさん!? 何やってますの!?」
『お前等こそティファに何やってんだ!? 何か嫌な予感したから無理やりDXで出撃すれば案の定だったぜ!!』
「なんだその直感!?」

 そう言ってガロードはDXの手で包むようにティファを庇う。ティファはまんざらでもない様でほくそ笑んでおり、リーネとペリーヌは面白くなさそうに歯ぎしりしながら黒いオーラを発していた。
 ガロードの恐るべきティファラブパワーにより、その日の訓練はグダグダになって終了した……。



☆ ☆ ☆



 数十分後、エイラは溜息をつきながら自室に戻って来た。するとそこには同室であるサーニャがマフラーやコートなどの防寒具を整理していた。

「お帰りエイラ、訓練どうだった?」
「うん……横やりが入ってグダグダになった」
「そう……」

 エイラはふと、サーニャが手に持っている防寒具を見る。

「それ、どうしたんだ?」
「芳佳ちゃんに貸すの、芳佳ちゃん、扶桑から何も持ってきていないみたいだから……」
「そっか……」

 普段から仲のいいサーニャが芳佳、芳佳と言うのにエイラは嫉妬のような物を感じ、なんだか面白くないと思った。それ故にサーニャにちょっと冷たい態度を取ってしまった。

「よかったじゃん、私より宮藤の方がきっとうまくやれるよ」
「……! 諦めるの? エイラ」

 サーニャは少し怒ったような口調でエイラに問いかける。

「だって無理だもん、やろうと思っても出来なかったし」
「できないからって諦めちゃ駄目……!」
「じゃあ最初から出来る宮藤に守って貰えよ!!」

 エイラとサーニャはエキサイトしてしまい、ついに口論にまで発展してしまった。

「エイラのバカ!!」
「サーニャのわからず屋!!」

 するとサーニャはエイラから貰った黒い枕を彼女の顔目掛けて投げつける。枕はぽふんとエイラの顔に当たり、ゆっくりと下に落ちていく。そしてエイラはサーニャが悲しそうに涙ぐんでいるのに気付いた。

「もう……知らない!」
「サーニャ……!」

 エイラは部屋を出ていくサーニャを追いかけることが出来なかった……。



☆ ☆ ☆



 フリーデンのレクリエーションルーム、そこでエイラはバーのカウンター席でうつ伏せになりながら涙でカウンターを濡らしていた。

「うええええ……サーニャに嫌われた……ちくしょう……」
「おいおい、元気出せよ、掃除が大変だろ」

 向かい側でそれを見ていたロアビィはグラスを拭きながらエイラを励ます、するとエイラは目元が真っ赤な顔を上げてロアビィに言い放つ。

「酒もってこい酒! 今日は浴びる程飲んでやる!」
「お前未成年だろうが」

 その時、横から茶色い液体と氷の入ったグラスが、スーッと滑るようにエイラの手元に運ばれてきた。
 グラスが運ばれてきた方を見ると、そこにはエニルが一人で酒を飲んでいた。

「私のおごりよ、それ飲んで元気出しなさい」
「おう……」

 エイラはグラスをガシッと掴むと、そのままゴクッゴクッと一気に飲み干し、カウンターに空になったグラスをゴンッと置いて言い放った。

「麦茶じゃんコレ!!」
「当たり前よ、お子ちゃまにお酒なんて飲ませられないわ」

 するとエイラはカウンター席に突っ伏して再び泣き出した。

「チクショー! どいつもこいつもバカにしやがってー! ていうかお前等私と齢一、二個ぐらいしか変わんないじゃん!! 老け顔だからって大人ぶってんじゃねえ!」
「俺らからしてみればお前等童顔すぎると思うけどな、もう二,三個若いのかと思ったぜ」

 エイラの暴言に対しロアビィは大人の余裕と言わんばかりに自分のグラスに酒を注いだ。その時……。

「マスター、私はカルピス、氷三個で」
「はいよ」
「あれ!? 居たのかシャーリー!?」

 反対側にシャーリーが座っている事に今気づき驚くエイラ。シャーリーは何故かいつもの様な元気は無く、何か悩んでいるのか愁いを帯びた顔をしてふうっと溜息をついていた。

「な、なんだなんだおい、お前らしくも無いなぁ」
「うるせー……私にだってこういう時はあるよ」

 シャーリーはそう言いながら運ばれてきたカルピスをストローでちびちび飲む。それを見たロアビィは自分も酒に口を付けながら語り始める。

「まあ、色々とうまく行かない事もあるし、どうにもならない事もあるだろうけどさ……相手に気持ちを伝えるのを迷っちゃいけねえぜ。お前らの場合いつ何が起こるか解らない仕事しているんだしよ」
「そうね……後悔だけはしちゃ駄目」

 ロアビィの話を聞いてエニルもまた、酒が入っているグラスを見つめながらどこ寂しそうな顔をしていた。

「……?」

 エイラとシャーリーはそんな二人の様子を見て、彼らの過去に何があったのか大体察するが、彼らの気持ちを考えて詳しく聞くのは控えた。
 そんな彼女達を見て、ロアビィは最後に自分が出来る精一杯のエールを彼女達に贈った。

「まあ、俺が何が言いたいかっていうとな……俺みたいになるなってことさ」



☆ ☆ ☆



 同時刻、基地の近くの水辺、そこでサーニャはいつものように一糸まとわぬ姿で体を清めていた。ただしいつものようにエイラが傍にいない為、彼女のの表情はどこか暗かった。その時……。

「サァーニャー!!!」

 突然上空から真っ裸のエーリカが飛んできて、サーニャのすぐ傍に全身で着水した。

「いったあー……」

 無論エーリカは全身を強く打って顔を歪める、するとそこにティファも全裸で現れた。

「それじゃ痛いのは当然だと思う……」
「だよねー、えへへ」
「二人共……どうしてここに?」

 突然の珍客に驚くサーニャ。一方エーリカは笑顔で答える。

「サーニャとエイラが喧嘩したって聞いたから励ましにきた!」
「原因は私にも少しあるし……」

 そう言ってティファはサーニャから喧嘩の詳しい経緯を聞く。そしてサーニャの話が終わると、エーリカと一緒にサーニャを励ました。

「普段から一緒に居るんだもの……そういう事もあるわ」
「まあ任務だし、仕方ないんじゃいの?」

 エーリカはそう言って呑気にバシャバシャと背面で水場の中を泳ぎ始める。そんな中ティファはサーニャにある助言を送った。

「サーニャ……貴女はエイラにどうしてもらいたいの?」
「私……?」
「私はいつもガロード達に助けて貰って、だから自分もガロード達を守りたいと思った。サーニャはエイラにどうしてほしいの?」

 ティファの自分を顧みた助言に、サーニャは今初めて、自分はエイラにどうしてほしいか伝えておらず、そして自分がどうすればいいのか考えていなかった事に気が付いた。

「私は……」



☆ ☆ ☆



 数日後、前日のロマーニャ海軍のネウロイ撃退作戦の失敗の報を受けた501は、当初立てたロケットブースターを使った作戦を実行することになった。
 そして作戦実行一時間前、ブリーフィングルームに集められた501とフリーデンクルー達は美緒とミーナ、そしてジャミルから作戦内容を聞いていた。

「まずは第一段階、MSによってウィッチの打ち上げ班を高度1万メートルまで押し上げます。ガロード君、ウィッツさん、お願いできるかしら?」

 ミーナのお願いに、ガロードとウィッツはコクンと頷く、次にジャミルがウィッチ達の方を見ながら説明を始める。

「次に軽量のペリーヌ、リーネ、ルッキーニ、エイラが高度2万メートルまで宮藤、サーニャ両名の突撃班を打ち上げる。残った者はネウロイの妨害に備えて周辺を警戒してもらう」
「やはり今回も現れるのでしょうか? MSのようなネウロイ……」

 不安そうなリーネの質問に、ジャミルは難しそうな顔をして答える。

「可能性はゼロではない、だからこそ残りのメンバーで君達を守るのだ。君は自分のすべきことに集中するんだ」
「は、はい」



☆ ☆ ☆



 ブリーフィングが終わり皆が格納庫に向かう中、ガロードはブリーフィングルームに残っていたジャミルと美緒、ミーナに話し掛けた。

「ジャミル、ちょっと聞いたんだけどよ……この世界にオルバの奴が居たって本当なのか? しかもマロニーに協力していたって……」
「諜報部が持ってきた情報だ、間違いない」

 ジャミルの代わりに答える美緒、そしてミーナがガロードとジャミルに質問する。

「その……オルバ・フロストでしたっけ? どうしてマロニー指令に協力していたのでしょう?」
「彼は……彼等兄弟は世界の破滅を望むほど我々の世界を憎んでいる。恐らく我々と同じようにこの世界に飛ばされ、マロニーに保護され色々と助言していたのか……いや、それだけではないか」
「ティファにあんな事をしたのも奴等なんだろうか、なんにせよ俺達で止めないと」

 ガロードは瞳に決意を宿らせ、拳をギュッと握り締めた。
 その様子を、半開きのドアの向こうから、シャーリーがじっと見ている事に気付かないまま……。



☆ ☆ ☆



 基地の滑走路上、そこでDXとエアマスター・バーストは両掌に芳佳達打ち上げ班を乗せ、背中のブースターを噴かせて上昇する。それを他のウィッチ達やフリーデンのMS乗りたちは黙って見守る。その時……海上で待機していたフリーデンから通信が入った。

『大変よみんな! こっちにMS型ネウロイが接近している! 数は10!』
「なんだと!?」
「打ち上げを妨害するつもりね、総員迎撃態勢!」

 ミーナはすぐさまその場に居た全員に迎撃を命じ、皆は指示に従い次々と出撃する。
 そんな中ロアビィは上昇していくエイラ達を見上げながらぽつりとつぶやいた。

「……頑張れよ、エイラ」



☆ ☆ ☆



 高度1万メートル、そこでペリーヌ、リーネ、ルッキーニ、エイラ達第二打ち上げ班はロケットブースターに点火して上昇する。ぶわっと脳を揺さぶるような衝撃が彼女達を襲う。そして高度2万メートルまで到達し、芳佳とサーニャはロケットブースターに点火して上昇する。
 その様子を下からじっと見つめるエイラ、これから死地へ向かうサーニャを想い、自分が今何をすべきか自問自答を繰り返す。

―――相手に気持ちを伝えるのを迷っちゃいけねえぜ―――

 あの時のロアビィの言葉が心の中で反復される。そしてふと……上昇し始めるサーニャと目があった。
 その瞬間、エイラの心の中からある思いが溢れだした。

「いやだ!」

 突然叫ぶエイラに驚く他のウィッチ達、するとエイラはエネルギーが切れかかっているロケットブースターを展開し、上昇するサーニャと芳佳を追いかける。

「何してるのエイラ!?」

 突然のエイラの行動に驚くサーニャ、それでもなおエイラは止まらない。

「サーニャが言ったんじゃないか! 諦めるからできないんだって! 私は諦めたくない! 諦めて後悔したくない! 私がサーニャを守るんだああああああ!」

 尚も追いかけるエイラ、しかし点火したばかりのサーニャのロケットブースターとエイラのエネルギー切れ寸前のブースターでは推進力が違い過ぎ、距離がどんどん離れていく。すると……サーニャと一緒に居た芳佳が突然エイラの背後に回り込み、彼女をエネルギー十分の自分のロケットブースターを使って一気に押し上げた。

「エイラさん! やりましょう!」

 自分の思いを汲んで手助けしてくれた芳佳に、エイラはコクンと頷きながら心の中でありがとうと呟いた。
 そしてエイラはサーニャを捕まえ、彼女のブースターの力で一気に上昇する。

「芳佳ちゃん!」
「無茶ですわエイラさん! 魔法力が切れて帰れなくなりますわよ!」

 リーネとペリーヌは制止しようとするが時すでに遅く、サーニャがそんな二人に向かって叫ぶ。

「私がエイラを連れて帰ります!」

 その返答に、ルッキーニは声援を送った。

「いっけー! サーニャ! エイラ―!!」

 エイラとサーニャはお互いに抱き合ったまま、優しく微笑み合った。もう二人の間にはわだかまりは無くなっていた。



☆ ☆ ☆



 一方海上で襲い掛かって来たネウロイ達と戦っていたロアビィ達は、上空の様子をペリーヌから聞いていた。

「本当なの!? もう宮藤さん……エイラさんまで……」

 宮藤だけでなくエイラまで命令違反を犯したと聞き、ミーナは戦いながら頭を抱える。

「はっはっは! あいつらしいな!」
「笑いごとじゃないわ、美緒……」

その話をコックピットから聞いていたロアビィは、エイラ達がいる空を見上げてにやりと笑った。するとフリーデンの上で戦っていたトニヤから通信が入る。

『あの子、ようやく素直になったわね』
『ああ……』

 ロアビィはこのレオパルドをくれた女性と、かつで向こうの世界で出会い、戦いに巻き込まれ死に別れた女性……ユリナの事を思い出す。
 自分が想いを伝える前に居なくなってしまった二人……そんな不甲斐なかった自分を、ロアビィはエイラを見て思い出していた。

(過ちは繰り返させない……か)

 かつてガロードが放った言葉を、自分の中で繰り返すロアビィ。そして彼は上昇を続けるエイラに向き合って、精一杯のエールの言葉を送った。


『飛べ! エイラ!!』



 第六話「飛べ、エイラ! ~Sweet Duet~」



 高度3万メートル、サーニャの魔導針でネウロイのコアを探索しつつ上昇する二人。
高度3万3333メートル、魔力による人体の保護が無ければ一瞬で死に至ってしまうこの空間で、サーニャはようやく塔の形のネウロイの先端にあるコアを発見する。
サーニャはロケットブースターを切り離し、慣性だけでネウロイとの距離を詰める。するとネウロイはサーニャ達に気が付いたのか、先端部分を螺旋状にピラピラと開き、赤いコアを露出させ、そこから赤いビームを発射した。


地上、レオパルドデストロイはGファルコンと合体しながらMS型ネウロイ達と空中戦を行い、すでに二機倒していた。
 ジェニスやベルディゴやフリーデン、そしてウィッチ達の活躍もありMS型ネウロイの数は残り3、するとそこに芳佳達を運んでいたDXとエアマスター・バーストが降りてくる。レオパルドはそのままGファルコンと空中で分離すると、MA形態になっていたエアマスターの上に着地し、一緒にありったけの火力を解放し、迫って来たトーラス型ネウロイとフラッグ型ネウロイをコアごと吹き飛ばした。
 そしてDXが最後に残ったアッシマー型ネウロイのコアをビームソードで貫いた時、何かに気付いて空を指さした。
 皆が一斉に空を見上げると、そこには空に向かって放たれる塔型ネウロイの赤いビームが、まるで花が咲いたかのようにきれいに割かれていた。その光景は一種の自然現象で起こる芸術性を感じる。

 それはエイラが初めて実戦で展開したサーニャを守る為の魔力シールドで、ネウロイのビームを防いだことによってできた偶然の産物だった。エイラはずっとネウロイの攻撃に耐える。そしてネウロイの攻撃が絶えた時、サーニャはゆっくりとエイラの手を放し、フリーガーハマーを構えて引き金を引いた。
斉射された9発のロケット弾のうち一発がネウロイのコアに当たり、ネウロイは誘爆による大爆発の後ガラス片となって砕け散った……。
その爆風によって、シールドを展開していなかったサーニャは飛ばされてしまう。しかしエイラが咄嗟に手を伸ばして彼女の手を掴んだ。
サーニャが飛ばされないよう、シールドを展開しながら彼女の手を掴むエイラ。そして爆風が収まり、二人は抱き合いながらゆっくりと地上へ降下していった。

「聞こえるか?」

 しばらく降下して、音が通る高度まで降下したエイラはサーニャに声を掛ける。サーニャは「うん」と短く返事をした。

「ごめんな……」
「ううん……私も」

 これまでの事を謝るエイラに、サーニャは気持ちを伝えなかった自分も悪かったという意味を込めて自分も謝る。
 ふと……彼女は地上にそびえたつ大きな山脈を発見した。

「見てエイラ、オラーシャよ、ウラルの山に手が届きそう」
「うん」

 久しぶりに見る、自分の家族がいる故郷の大地を見て、サーニャは思わず小さくつぶやいた。

「このまま、あの山の向こうまで飛んで行こうか……」

 するとエイラは泣きそうな顔をしながら、声を少しだけ震わせて答えた。

「……いいよ、サーニャと一緒なら、私はどこへだって行ける」

 エイラの様子に気付いたサーニャは、取り繕うようにエイラに向かって微笑んだ。

「嘘……ごめんね、今の私達には帰るところがあるもの」
「……宮藤やガロードが、誰かを……皆を守りたいっていう気持ちが少しだけ解った気がするよ」



 エイラとサーニャはそのまま基地へ降下していく。芳佳やガロード、そしてロアビィ達が待っている、自分達の帰る居場所へ……。


 







 今回はここまで、今回はストパン2の六話をベースにしつつ、ガンダムXのストーリーのオマージュをちょっと含めてみました。
 終盤のネウロイ撃破の描写はアニメ版の声無し演出を意識して書いてみました。
 しかし序盤の描写少なかったなぁ、胃炎治ったら後日書き足すかもしれません。

 次回7話はジャミル&ミーナ回、ガンダムXのストーリーのオマージュを含んだオリジナルの話になります。オリキャラもちょっと出てくるよ。



[29127] 第七話「魔女に捧げる鎮魂歌」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2013/09/30 01:13

 とある日の明け方、夜間哨戒の為一人でロマーニャ上空を飛んでいたサーニャは、その哨戒の終わりの時間が来たため、眠い目をこすり、ふあああと可愛らしい欠伸をしながら基地の戻ろうとしていた。

「ふん、ふん、ふーん……」

 飛んでいる間歌を口ずさむサーニャ、その時……彼女が耳に装着しているインカムから、何やら声のような物が聞こえてきた。

『……こ………………よ……………………』
「え?」

 突然の声にサーニャはその場で静止し、返事をしてみるが相手からの反応は無く、ずっとザーッというノイズ混じりの声が聞こえていた。

『…………ここ……………い………………………』
「誰……? 中佐?」

 サーニャは魔導針を使って声の出処を探るが、見つけることは出来ずやがて声は聞こえなくなった。

『サーニャさん? どうかしたの?』

 すると今度ははっきりと、ミーナの声がサーニャの装着するインカムに聞こえてきた。

「中佐、実は……」



☆ ☆ ☆



 数時間後、基地の食堂で朝食を食べ終えた501の面々とフリーデンの主要メンバー達は、サーニャから明け方の出来事について聞いていた。

「ふーん、インカムにノイズ混じりの声ね」
「魔力の反応はあったんだけど……」

 眠い目を擦るサーニャの話を聞いて、ガロードは腕を組んで考え込む、するとパーラが茶化す様に、ソファに座るサーニャの後ろから声を掛けてきた。

「もしかしてそれって、幽霊かなんかじゃねえの?」
「まさか~、幽霊なんているわけないですよ、ファンタジーじゃあるまいし」

 芳佳のその一言に、フリーデンの面々はものすごく突っ込みたそうな顔で一斉に彼女を見た。多分彼等の心の中では“魔法を使う君等はファンタジーじゃないの?”という言葉が渦巻いているのだろう。
 ふと、ソファの上で寝転がりながら話を聞いていたルッキーニは、傍にいたウィッツが小刻みに震えている事に気が付き、にししと笑いながら彼に声を掛ける。

「なーにウィッツ? もしかしてお化け怖いの?」
「ばばばばば馬鹿野郎! そんなわけねえだろ!?」

 声が上ずっている上にコーヒーを持っている手がプルプルして中身を零しているウィッツを見て、501のメンバー達は“怖いんだ……”と心の中で呟いた。

「にゃははー、お化け怖がるなんて子供みたーい!」
「うるせえ! 怖くないっつってんだ……」

 そう言ってウィッツが反論しようとした時だった。突然彼らの背後から“バンッッッ!!!!”という大きな音が発生し、皆一斉にその方角を見る。

「な、なに!?」
「びっくりした~……って兼定?」

 そこにはテーブルの上に乗っていた兼定が前足を叩きつけていた。そしてその前足に付いた黒い虫のような物を芳佳に見せた。

「何だろコレ? 虫?」
「変わった虫だよね」

 芳佳とリーネがそう言った瞬間、虫のような物はパリンと赤いガラス片の様なものになって砕け散って消えた。

「消えた……」
「何だったんだろうね」

 そして二人が再び皆の方を向くと、恐怖で顔を引き攣らせているウィッツが何故かロアビィに抱き着いており、その彼の背中には泣きそうな顔のルッキーニが引っ付いていた。恐らく先程の幽霊の話で恐怖心が増していたせいか、兼定が出した大きな音に必要以上に驚いていた。

「ってかまたかよお前……顔ちけえよ!」
「二度目なんかい」

 ものすごく嫌そうな顔をしてウィッツを引き剥がしながら、突っ込まざるを得ない事を呟くロアビィにツッコミを入れるエイラ。

「……で、何の話だっけ?」

 皆が一通り落ち着いた所で、ガロードが話を戻す。

「中尉が哨戒任務で声を聞いたという話だったな、魔力反応がしたという事はネウロイでは……」

 そう言ってバルクホルンは腕を組んで考え込む。するとそこに……スケッチブックを持ったティファと、美緒が皆のいる食堂にやって来た。

「皆、ちょっといいか?」
「ん? どうしたんだもっさん、それにティファも」
「これ……」

 そう言ってティファはスケッチブックの中身を皆に見せる。スケッチブックには海底に沈むボロボロのストライカーが描かれていた。

「ティファが予知夢を見たらしい」
「予知夢? なんだか久々だな」

 久々に発動したティファのニュータイプ能力の一つにフリーデンの面々は驚く。そしてティファは淡々と説明を始めた。

「海の底で誰かが呼んでいます……多分サーニャが遭遇した現象に関係しているかも」
「ふむ、調べてみる必要がありそうだな、午後にサーニャが言っていた現象が起こった場所に行ってみよう。ジャミル艦長たちにも協力を仰ごう」
「「「了解」」」

 美緒の説明にウィッチ達は“了解”と返事をし、ガロードらフリーデンクルー達も無言で頷いた……。



☆ ☆ ☆



 食堂での出来事から一時間後の事、フリーデンの医務室……そこにミーナはある用事でやって来ていた。

「あの……すみませんテクスさん」
「ほう? これは珍しいお客さんだ」

 医務室の主である船医のテクスは、ちょうどコーヒーを淹れている所だった。

「どうしたのかね? どこか体の具合でも……」
「ええ、ちょっと……胃薬をもらいに、基地の備品の方が無くなっていまして……」
「成程、では……」

 そう言ってテクスは机の中に入っていた胃薬をミーナに手渡す。そしてカップをもう一つ取出し、その中にコーヒーを淹れた。

「まあどうだい? 折角来たのだし一杯? 今日のブレンドはうまく行ったしね」
「あ、はい、ありがとうございます」

 ミーナはテクスにお礼を言いながらカップを受け取り、中のコーヒーをズズッと一口飲んだ。

「おいしい……」
「それは良かった。それにしてもその年で胃痛とはね、だいストレスが溜まっているんじゃないか?」
「ええ……最近はネウロイと戦うよりも上層部と喧嘩している事が多くて……」

 そう言ってミーナはふうっと溜息をついた。それを見たテクスは顎に手を添えながら考え込んだ。

「そういう風にストレスを溜めるのはよくない、そんな時は自分の好きな事を思い切りやるのが一番だよ」
「自分の好きな事……ですか」

 ミーナはそう言われて、自分の好きな事は何だろうと一瞬考え込み、音楽の事を思い出す。

(そう言えば最近歌っていないなぁ……時間も機会もないし仕方ないか)

 そんなことを考えながら、ミーナはテクスにぺこりとお辞儀をした。

「ありがとうございますテクスさん、今度やってみます」
「いえいえ、お役にたてて何よりですよ、司令官殿」
「でもテクスさんやジャミル艦長が居てくれて本当に助かっています。こんな状況で話を聞いてくれる人がいるのは……」

 ミーナはそう言ってもう一度礼を言う。それを見たテクスはふーと溜息をついた。

(まあ彼女もあの中で年長とはいえ20にも満たないからな、重責を担うには若すぎるかもしれないな)

ウィッチという立場故、基地の司令官として皆を纏めるという使命を、年若い立場で背負うミーナの心境を想い、テクスは彼女の事がなんだか心配になっていた。

(ガロードの話では過去にも色々とあったらしいし……私の助言が役立てばよいのだがな)



☆ ☆ ☆



 その日の午後、フリーデンはサーニャがノイズ混じりの声を聞いたという海域にやって来ていた。
 そしてMSデッキでは、キッドたち整備班がロアビィのレオパルドデストロイにとある調整を施していた。

「よし終わり! これで海の中を潜れるようになったぞ!」

 油まみれの顔で傍にいたジャミルとロアビィに声を掛けるキッド。それを見ていたエイラ、サーニャ、バルクホルン、エーリカ、そしてミーナは感心の声を上げた。ちなみにガロードやウィッツ、芳佳ら他のウィッチは非常時に備えて基地で待機中である。

「すごいね~、MSって海底も潜る事ができるんだ」
「向き不向きがあるけどな、ちなみにガンダムタイプは皆宇宙でだって活動できるぜ」
「宇宙か……想像も出来ん話だな」

 そんなバルクホルン達の話をよそに、ジャミルはロアビィにとある指示を出す。

「ではロアビィ、早速海底に潜って貰おう、サーニャとエイラと一緒にな」
「成程、私の予知とサーニャの魔導針を使って……」
「ティファちゃんが予知したストライカーを探すんですね、解りました」

 そしてレオパルドに乗り込んでいくサーニャとエイラ、そんな二人をエーリカは羨ましそうに見ていた。

「いーなー二人共、私も一回ぐらいMSに乗ってみたいなー」
「遊びじゃないんだぞハルトマン、しかし興味があるのは私も同じだ。あれが量産できればネウロイとの戦いがぐっと楽になる」

 すると話を聞いていたキッドが二人の会話に入って来た。

「お? なんならジャンクパーツ集めて作ってやろうか? お前らの特性に合わせたモン作ってやるぜ」
「おお~!? いいじゃん! 面白そう!」
「駄目よ、そんな資金ありません」

 キッドの提案に水を差すミーナ、するとキッド、エーリカ、バルクホルンはミーナの顔をじーっと見てある事を思い浮かべていた。

「な、何、どうしたの?」
「いや……司令官殿がオーダーメイドのMSに乗るとしたらと思って……」
「何故かジェニスに似たピンク色のMSの手の上で、ものすごい格好で歌い踊っているミーナの姿が脳裏に浮かんだ」
「だよね!? なんか関西弁喋るちっこくて丸いロボットが傍にいるよね!?」
「ど、どういう連想ですか!!?」

 三人の思考のシンクロ具合と、その内容に思わずツッコミを入れるミーナ。
 そんな彼女達のやり取りをよそに、ロアビィが操縦するレオパルドはそのまま海の中に入って行った……。



☆ ☆ ☆



 光の射さない暗い海の中、レオパルドは海底に向かって進んでいた。

「見てエイラ、イルカさんが泳いでる」
「ホントだー! かわいいなー」
「お二人さん、気持ちはわかるがお仕事の方も頼むぜ」

 座席の後ろにいたサーニャとエイラに声を掛けるロアビィ。

「解ってるよ」
「ちょっと待っていてくださいね」

 そう言ってサーニャは魔導針を展開してストライカーの位置を特定しようとする。すると……。

『………………ち…………』
「なんだ?」
「……! さっきの声です!」

 レオパルドの通信機が受信した声に反応するサーニャ。するとエイラがタロットカードを持ちながらロアビィに声を掛ける。

「見つけた! そのまままっすぐ降りてくれ!」
「OK!」

 エイラに言われた通り、ロアビィはレオパルドを真下へ降ろしていく。そして海底に辿り着いた。

「ありました、あそこです」

 そしてサーニャはレオパルドのモニターに、海底に沈むストライカーが映っているのを発見する。

「よし、取り敢えず持ち帰るか」

 ロアビィはレオパルドの手を使ってストライカーを地面ごと掬いあげた。するとロアビィはレオパルドの手に何か光るものが引っかかっている事に気付く。

「なんだ? まあいいか……」

 レオパルドはそのまま、手にストライカーを乗せたまま海面に向かって浮上して行った。……。



☆ ☆ ☆



 数分後、フリーデンのMSデッキに戻って来たレオパルドは、手の上に載せていたボロボロのストライカーを床に置いた。

「見たところ普通のストライカーだな、ロマーニャ軍のか」
「でもちょっと型番が古いわね開戦当時の物かしら」

 ストライカーを見てあれこれ思案するミーナとバルクホルン、するとレオパルドから降りてきたロアビィが、ストライカーの傍に会った光るものを手に取った。

「おいコレ、そのストライカーの持ち主の物じゃねえの?」

 彼の手には、“ニコレッタ”という名前入りのドッグタグと、海水で少し錆びた金色のペンダントがあった。

「ニコレッタ……持ち主の名前ね、ロマーニャ軍に問い合わせてみましょう」
「これが海底にあったということは……」

 その場に居た一同は、このニコレッタという人物がどうなったのかを大体察し、少し視線を落とした……。



☆ ☆ ☆



 次の日、皆が集まる基地のブリーフィングルームに、ロマーニャ軍の軍服を着た青年がミーナによって呼び出されていた。青年は無精ひげを生やしてガリガリに痩せており、目からは生気が消え失せていた

「では……貴方が彼女の身元引受人でよろしいのですね? ロベルト軍曹」
「はい、彼女の両親は病死し、家族と呼べる者はもう僕しかいませんから……」

 そう言ってロベルトと呼ばれた青年は、ミーナからペンダントとドッグタグを受け取った。そしてそれを見つめながらぽつりと昔話を始める。

「彼女は……ニコレッタと僕は婚約していたのです。ネウロイとの戦争が始まる前に……しかし実家が軍の名門だった彼女は否応なしに徴兵され、そのままネウロイとの戦いで行方不明に……」

 ロベルトはそのまま目に涙を浮かべ、両膝をついた。

「あの戦いの時、僕も出ていたんです……! 戦闘機に乗って、そしてネウロイのビームに貫かれた彼女を……! う、うああああああ……!」

 形見であるペンダントを握りしめ、声を殺して泣き始めるロベルト。そんな彼をその場に居た者達は皆、悲しそうな顔をしたり、もらい泣きをしたりと様々な反応をしていた。

「ニコ……どうして先に逝ってしまったんだ……!! 僕を一人にしないでくれ……! 僕は……君がいないと……!」
「あの……」

 彼の状態に居た堪れなくなり、芳佳が声を掛けようとする。その時……。

『泣かないで、ロベルト』

 突然隣にいたティファが喋り、芳佳とその隣にいたリーネが彼女の方を向き、驚愕する。
 ティファは何故か髪の毛が金髪になっており、大人びた雰囲気を纏っていた。

「お、おい! ティファ!? どうしちゃったんだよ!?」
「多分……ニコさんの霊がティファに降りて来たんだ。ニュータイプってそう言う事も出来るらしい、私も初めて見たけど」

 他のウィッチ達と同様に動揺するシャーリーに、パーラは冷静に解説する。
 そしてニコレッタの霊が降りてきたティファは、そのまま呆然としているロベルトの傍に歩み寄って行った。

「ニコレッタ……!? ニコなのか!?」
『ごめんね、サヨナラも言う事が出来なくて、今日は貴方と会う為に……あの子達にここに連れてきてもらったの』

 そう言ってティファに乗り移ったニコレッタは、呆然としているサーニャの方を見る。そして再びロベルトの方を向き、彼の体を優しく抱きしめた。

『ロベルト……もう悲しむのは止めて、私は貴方が笑っている顔が好きなの』
「ニコ……ニコ……!」

 ニコレッタの乗り移ったティファの胸の中で泣きじゃくるロベルト、するとティファの体から光の粒子が天に向かって抜けていく。

『ロベルト……愛しているわ、これからは雲より高い場所で貴方の幸せを祈っているから……』
「ニコ……僕も君を愛している……」

 そして光の粒子が人の形を成し、そのまま天に昇って行った。

『ありがとう……可愛い後輩さん、貴方達の武運も……』

 そして光の粒子が消えると、ティファが糸の切れたマリオネットのようにカクンと膝を付き、ガロードが咄嗟に駆け寄り彼女の体を支えた。

 その場に居た一同、先程までの現象を目の当たりにして、しばらく呆然としていた……。



☆ ☆ ☆



 次の日、フリーデンはとある任務の為、クルーや501のウィッチ達を乗せてロマーニャ海域を航行していた。
 そしてブリッジでは、ジャミルが艦長シートに座りながら、じっと海を眺めていた。

「キャプテン、もうすぐ目的のポイントに到着します」
「そうか……」

 サラの報告に答えるジャミル、するとブリッジにミーナがやって来た。

「ジャミル艦長、こちらの準備は完了しました」
「そうですか、では後は目的地に到着するのを待つだけですね」
「はい……」

 それだけ言い終えると、ミーナは何を言ったらいいか解らず、その場に気まずい沈黙が支配する。

「あの……」
「あのウィッチの幽霊……余程この世界に未練があったのでしょうな」

 ジャミルの沈黙を破る一言に、ミーナは少し顔を曇らせる。

「死んでしまうと伝えたい事も伝える事が出来ませんからね……私も、彼女の気持ちが少しだけ解ります」

 かつて将来を誓い合った人と死別した自信を鑑みるミーナ、それを聞いたジャミルは、視界に映る海の、その先を見つめながらぽつりと語り始めた。

「愛しい人との死別……戦う相手がネウロイだろうと人間だろうと、そういった悲劇は繰り返されてしまう……」

 ジャミルは過去の自分の姿と、ルチルを始めとしたかつての戦友達の姿を脳裏に浮かべながらミーナに語り掛ける。

「その悲劇を止めるのが、あの日引き金を引きながらも生き延びてしまった私の……今を生きている我々の使命なのだ……」
「キャプテン……」
「……そうですね」

 ミーナはジャミルの過去は知らない、しかし彼の様子を見てきっと何か重い使命を背負っているんだと察し、そのままブリッジを去って行った……。



☆ ☆ ☆



 ロアビィ達がニコレッタの遺品を回収した海域、そこでフリーデンのカタパルトに並んで立つフリーデンのクルーと501のウィッチ達。
 そしてサーニャが代表して、花束を海に投げ入れた。

「一同! この海に眠る英霊達に……敬礼!」

 美緒の号令と共に敬礼する501のウィッチ達、一方フリーデンのクルー達もニコレッタに対し目を閉じて黙祷する。そして数十秒後、整備班によってブリッジにピアノとマイクが運び込まれた。そしてサーニャがピアノの前に座り、ドレスに着替えたミーナがマイクの前に立つ。
 穏やかなさざ波の音を交えて、バラード調の静かな曲を弾き始めるサーニャ。その伴奏に合わせてミーナが歌い始める。

 海にミーナの綺麗な歌が響き渡る……。



☆ ☆ ☆



 そのミーナの歌を、テクスは一人フリーデンの医務室で聞いてた。
 スピーカーから流れるミーナの歌をバックに、テクスはいつものようにコーヒーを淹れる。そしてそれに口を付ける前にぽつりとつぶやいた。

「魔女に捧げるレクイエム……か」



 第七話「魔女に捧げる鎮魂歌」










 本日はここまで
 最初は二期7話に沿った話をやろうと思ったのですが、構想練ってみてフリーデンの男共が【アッー】ってなる展開しか思いつかなかったので、多分滅茶苦茶怒られると思い今回のオリジナル話にしました。そらおとクロスなら出来たな。

 今回出てきたロベルトとニコレッタというオリキャラの名前は、「ライフ・イズ・ビューティフル」という映画の俳優さんと女優さんの名前から取りました。第二次大戦時のヨーロッパが舞台の映画でして、見たのはもう10年以上前ですが、今でも見た内容がはっきり思い出せるぐらい印象深い作品です。機会がありましたら皆さんも是非見てみてください。

 次回は芳佳パワーアップ回、ティファをウィッチにした奴等もちらっと出す予定です。



[29127] 第八話「みんなを守る為に」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2013/10/14 17:12
 とある日、明け方の501基地、そこで早くに目が覚めてしまった芳佳は、何気なく海岸沿いの方に散歩に出かける。そこで彼女は岩場に乗って剣の稽古をしている美緒を発見する。

「烈風斬!!」

 美緒はオーラを纏った刀を振り降ろすと、海を真っ二つにしそうなほどの衝撃波を放った。それによって体力を消耗したのか、美緒は肩で大きく息をしていた。そしてようやく背後にいる芳佳の存在に気付いた。

「宮藤……」
「す、すごい技ですね烈風斬って」
「……これでは駄目だ、私が会得したいのは烈風斬を超える烈風斬、真・烈風斬だ。あれを会得できればどんなネウロイだって……!」

 そう言って美緒は衝撃波を放った海の方を見て不満そうな顔をする。すると芳佳はある事を思いつき、美緒に懇願する。

「坂本さん! 私にも烈風残を教えてください! ネウロイを倒して一日でも早く平和な世界にしたいんです!」
「駄目だ、お前みたいなひよっこにはこの技は使えない」
「お願いです! 私に……!」

 芳佳の粘り強い懇願に、美緒は刀を鞘に納めながら答えた。

「駄目だ」



☆ ☆ ☆



「ふーん、そんなことがあったんだ」

 数時間後、基地の食堂……そこで芳佳は朝食後の食器の片づけをしながら、今朝の出来事をリーネとガロードとティファに話した。

「きっと坂本少佐は私が頼りないから教えてくれないんだよね……」

 そう言って肩を落とす芳佳、そんな彼女をリーネ達は心配そうに見つめる。

「いや、そうではないのかもしれないぞ」

 するとそこに、ジャミルが珍しく芳佳に話し掛けてきた。

「ジャミルさん? どういう事ですか?」
「強大な力という物は、扱う者に多大な責任がのしかかる。その技を君に扱わせるにはまだ早いと少佐は判断したのかもしれないな」
「あー……なんとなくわかるかも、俺も初めてガンダムに乗った時、追い詰められていたとはいえ大変な事になったしな……」

 ジャミルの話を横で聞いていたガロードは、ティファに出会い初めてガンダムに乗り、そして正当防衛とはいえサテライトキャノンで多くの命を奪った事を思い出し、少し暗い顔をする。

「要するに私が言いたいのは……坂本少佐が決して君を信頼していないからそういうことを言ったのではないという事さ。君は今できる事をしっかりするべきだ」
「……はい! わかりました!」

 ジャミルのアドバイスに、芳佳は幾分か元気を取戻し、食器の片付けに戻って行った。
 そんな彼女を見送りながら、ガロードは笑みを浮かべながらジャミルに話し掛ける。

「珍しいじゃん? アンタが直接アドバイスして来るなんてさ」
「昔の誰かさんとそっくりだったのでな、つい口を挟みたくなったのさ」
「たはっ、言われちゃったぜ」

 そう言ってガロードは悪戯っぽく笑いながら舌をペロッと出した。



☆ ☆ ☆



 数時間後、基地周辺の海域、そこで芳佳、リーネ、ペリーヌ、そしてティファはストライカーを履いて模擬戦を行っていた。まずは芳佳とペリーヌが戦い、他の二人は立会人である。

「それじゃー……始め!!」

 リーネがぴーっと笛を鳴らし、芳佳とペリーヌはペイント弾が込められた銃を持って一斉に飛び立ち、激しいドッグファイトを展開する。

「後ろ、取りましたわよ!!」

 そう言ってペリーヌは前を飛ぶ芳佳に狙いを定める。しかし芳佳はぶれる様に飛んだかと思うと、左から捻りこむように回って飛んでペリーヌの背後を取った。

「左捻り込み……! あんな高度な技を……!」

 離れて見ていたティファや、戦っている本人であるペリーヌは、芳佳の飛行技術の高さを目の当たりにし驚愕していた。

「うわっ!?」

 しかし次の瞬間、芳佳は突然ガクンと減速してしまい、標準がずれてペリーヌに弾を当てる事ができなかった。

「!! 貰いましたわ!」

 その隙は逃さないと言わんばかりに、ペリーヌは再び芳佳の後ろに回り込み、彼女の体にオレンジ色のペイント弾を命中させる。
 それを見たリーネはぴーっと笛を吹いて模擬戦の終了を二人に告げた。

「勝者、ペリーヌさんです!」
「まあ、ワタクシに掛かればざっとこんなものですわ」

 一方芳佳は不安そうな顔で自分の履くストライカーを見つめ、それに気付いたティファが話し掛けてくる。

「どうしたの芳佳? 調子悪いの?」
「うん……急に力が抜けた気がして……」
「何ボサッとしておりますのお二人共!? 次は貴方達の番ですわよ!」

 そして芳佳はその日、ティファとペリーヌと二戦ずつ模擬戦をやったが、ストライカーの謎の不調により一勝もすることが出来なかった……。



☆ ☆ ☆



 基地の格納庫、そこで美緒はペリーヌの先程の模擬戦の報告を受け、芳佳のストライカーを整備班に整備させていた。

「どうだ? 状態は?」
「見たところどこにも異常はありませんでした。念のため部品を新品に取り換えましたが……」
「よう! なにしてんのー?」

 するとそこにキッドがいつもの取り巻き二人を連れて現れた。

「キッドか、実はな……」

 美緒はキッドに先程の芳佳の状態の事を話す。するとキッドは顎に手を添えて考え込み、ある結論を出す。

「俺はウィッチの事はよく解らないけどよ……ストライカーに問題があるとは思えないぜ。ここの基地の奴等腕は確かだし」
「だろうな、となると宮藤自身に問題があるのだろうな……」
「一応俺らにも見せてくれよ、なんか解るかもしれないし」

 そう言ってキッド達は芳佳のストライカーの点検に加わり、美緒は思う所があるのかその場を去って行った。



☆ ☆ ☆



 数分後、基地の医務室……そこで芳佳は美緒に呼び出され、基地に駐在している女医の身体検査を受けていた。

「うーん……いたって健康ですね、どこにも悪い所はありません」
「そうですか……」

 女医の診断結果の報告を受けて、美緒はさらに不安そうな顔をする。そんな彼女の心境を知ってか知らずか、芳佳は上着を着ながら呑気に話し掛ける。

「どうしたんですか? 急に健康診断だなんて……」
「ん? いや……部下の健康状態を知るのも上官の役目だからな」
「でも、どこも異常はないんですよね?」

 そう言って不思議そうに首を傾げる芳佳、するとそこに……。

「あ……芳佳」
「お邪魔するよ」

 テクスに連れられたティファが医務室にやって来た。そして芳佳の姿を見るや否や、心配そうに話し掛ける。

「どうだったの芳佳? どこか悪い所はあった?」
「ううん、いたって健康だって、こう見えても私、一度も風邪を引いたことが無いのが自慢なんだー」

 そう言って得意げに答える芳佳、するとテクスは少し難しそうな顔で美緒に話し掛ける。

「だったら尚更不安だな……ティファから詳細は聞いているが、原因が解らないのに不調な彼女を戦場に出すのは危険じゃないか?」
「ですね……宮藤、お前は不調の原因が解るまで基地待機を命じる。出撃する事は許さん」
「ええ!? そんな……私は飛べます!」

 美緒の指示に衝撃を受ける芳佳、そんな彼女をテクスは優しく諭す。

「宮藤君、少佐は何も君に意地悪をしたくて言っているんじゃない。君の身を案じて言っているんだ。納得できないだろうが納得するしかない」
「はい……」

 芳佳はそのまま俯いてしまい、ティファは孫ん彼女を心配そうに見つめる。すると芳佳はある事に気付きティファに話し掛ける。

「あれ? そう言えばティファちゃんはなんでここに? どこか具合が悪いの?」
「ううん、そうじゃない……私のこの体の中にある魔力の源について解ったことがあるらしいの」

 すると話を聞いていた女医が神妙な面持ちで話し始める。

「軍で調べた結果、ティファさんの体には魔力の籠った鉱石が入っている事が解りました。少なくともネウロイの物でもなければ、ウィッチ関連の物でもありません。この世界に存在が確認されていない物です」
「どういう事なんですか? それって……」

 女医の話を聞いていた芳佳はちんぷんかんぷんだと言わんばかりに首を傾げた。するとテクスが腕を組んである仮説を立てた。

「つまり……別の世界の魔石だという事ですかね?」
「ええ、研究者の間ではそういう説を唱えている人もいます」
「別の、世界……」

 少し飛び抜けた領域の話に、芳佳はさらに首を捻る。一方ティファは少しだけ理解し始めていた。

「ありえない話ではないと思います……私達の様な世界があれば、芳佳達ウィッチの世界もある……」
「そもそもティファをこのような体にした者が何者なのかすら解っていないしな。情報が少なすぎる」
「ですね……」

 そう言いながらティファは自分の胸に手を当てて考え込み、芳佳はそれをじっと見つめた……。



☆ ☆ ☆



 その日の夜、芳佳は一人海岸沿いで箒に跨り、犬耳と尻尾を生やして飛び上がろうとしていた。

「ふうううううう~!!」

 目いっぱい力を込めて飛び上がろうとする芳佳、しかし箒はブルブル震えると、そのまま藁の部分が爆発しバラバラになってしまった。

「そんな……」

 壊れた箒を見てショックを受ける芳佳、するとそこに……。

「芳佳……一人で特訓?」
「くぅ~ん」

 ティファが兼定と一緒にやって来て、爆散した藁を手で拾い始めた。

「ティファちゃん……兼定……」
「箒……一緒に直そう」



 数分後、芳佳とティファは砂浜に腰かけながら、二人で箒を直しつつアドリア海を眺めていた。ちなみに兼定はティファの膝の上で丸まって寝ている。

「どうしよう……私、全然飛べなくなっちゃったよ。これじゃ……誰も守れない……」

 芳佳は心苦しそうな声で、心の内にため込んだ不安をティファに打ち明ける。するとティファは兼定の体をなでながら、優しく微笑みながら語り始めた。

「芳佳……私もね、昔あなたみたいにもっと力が欲しいって思ったことがあるの。ガロード達を守る、もっともっと強いニュータイプの力が……」
「ティファちゃんが?」

 以外かも、と芳佳は思ったが、ティファのガロードに対する愛情の深さを目の当たりにしていた彼女は、すぐに思い直した。

(ガロード君がティファちゃんをすごく想っているように、ティファちゃんもガロード君の事をすごく想っているんだよね……羨ましいなあ)

 そんな二人の間に、自分は割って入れるのか……否、割って入っていいのかという思いが、ガロードを想っている芳佳の心に別の暗い影を落とす。
 ティファはそのまま話を続ける。

「でも……ある人に言われたの。“ニュータイプは所詮幻想。特別な力という物は誰かを想う気持ちにこそ宿る”ってね。芳佳……貴女にもきっと同じことが言えると思う。たとえ飛べなくなっても芳佳は芳佳よ。誰かを守りたい……自分にできる事をしようと思う気持ちがあるのならね」
「ティファちゃん……」

 ティファは箒を直し終えると、眠る兼定を抱きかかえながら立ち上がった。

「帰ろう? 明日も早いし……ゆっくり眠れば体も治るかも」
「……うん!」

 芳佳はティファの言葉を心の内で噛み締めながら、箒を手に取って基地に戻って行った。……。



☆ ☆ ☆



 次の日、ウィッチ達とフリーデンクルー達は基地のブリーフィングルームでミーナからある報告を受けていた。

「連合軍司令部によると、明日にはロマーニャ地域の戦力強化のため、戦艦大和を旗艦とした扶桑艦隊が到着する予定です」
「大和……ではいよいよネウロイの大規模掃討作戦が本格化するのですね」

 サラの質問にミーナと美緒は書類に目を通しながら答える。

「ええ、大和は作戦の要になりますからね……」
「作戦決行時には貴方達フリーデンの力も借りたいと思っています。よろしいですね?」
「ええ、貴方達には色々と世話になっていますから」

 その時、ミーナの近くにあった電話機がジリリリリと鳴り響き、ミーナは受話器を取った。

「もしもし……ええっ!? 大和で事故!?」

 緊迫したミーナの声に、その場に緊張感が漂う。
 そしてミーナは受話器を置くと、先程電話で受けた作戦内容を皆に伝える。

「救助要請です、先程大和の医務室で爆発があり負傷者が多数、大至急医師を送って欲しいそうです」
「よし、すぐに準備を進めよう」

 そう言って美緒が話を進めようとした時、突然芳佳が立ち上がった。

「私に行かせてください! 戦うことは出来なくても、治療と飛ぶことはできます!」

 すると今度は隣にいたリーネも立ち上がる。

「私も行きます! 包帯ぐらいなら巻けます!」
「リーネちゃん……」

 二人の志願に、ミーナはやれやれと溜息をつき、美緒とバルクホルンはふっと笑っていた。
 その時……ガロードとティファも立ち上がってある提案をする。

「人手は多い方がいいんじゃねえか? 俺達のMSで先行して医療物資を届けてやろうぜ」
「万が一の為、私も一緒に行きます……」

 すると話を聞いていたジャミルが、美緒とミーナにさらに提案する。

「少佐、急ぎ医者や物資が必要なら、テクスとパーラも一緒に連れて行きましょう。その方が多くの命を救う可能性が高くなる」
「ですね……頼んでもよいでしょうか?」



 こうして芳佳達は事故が起こった大和へ、飛行形態のGファルコン合体型のDXに乗って先行して向かう事になった……。



☆ ☆ ☆



 数十分後、大和船内……そこに辿り着いた芳佳達は、爆発に巻き込まれ負傷しうめき声をあげている多くの兵士達を見てつばを飲み込む。するとテクスが医療カバンを片手に、涼しい顔で負傷した兵士達に近寄って行った。

「芳佳君、君達は重傷者を優先して治療したまえ、私は軽傷の者を中心に治療していく。ミーナ君は芳佳君の手伝いを、ガロード達は私の手伝いを頼む」
「は、はい!」
「わかった!」

 テクスの指示に従い、それぞれ持ち場に着き治療を始める芳佳達。
 手の付けられない重傷者は芳佳の魔法で治し、それ以外はテクスが応急処置を施していく。そんな彼らの努力もあってか、負傷した兵達は全員命を取り留めることが出来た。

「ふぃー……終わった終った」
「さすがに疲れたね……」
「うん」

 治療も一段落し、ガロード達は部屋の隅で小休止を取る。そこに……人数分のコーヒーを持ったテクスがやって来た。

「お疲れ様だ5人共、これでも飲んでゆっくりしたまえ」
「あ、ありがとうございます」
「いただきまーす」

 そう言って芳佳とリーネはテクスのコーヒーに口を付ける……が、あまりの苦さにうげーっと舌を出した。

「はっはっは、君達にブラックは早すぎたか」

 そう言ってテクスは砂糖の入った瓶を手渡した。芳佳とリーネは迷わず砂糖を受け取り、コーヒーの中に三杯ほど入れた。
 それを見たガロードはふふんと鼻で笑った。

「はっはっは、お前等お子ちゃまだなー」
「そういうお前はミルク入れてんじゃねえか」

 そう言って隣にいたパーラは、コーヒーの中身を指摘されて顔を赤くするガロードの頬をツンツン突いた……。



☆ ☆ ☆



 その頃大和のブリッジでは、艦長と副長が事故の処理が無事に終わったという報告を受けてほっと胸を撫で下ろした。

「またも宮藤さんとガロード君に助けられたな……」
「あれほどの事故で……奇跡ですな、今度のお礼は何にしましょうか?」
「ふっふっふ、前回は陸軍の扶桑人形だったな」

そうして二人が和やかに談笑している時……艦内に警報が鳴り響いた。

「何事だ!?」
「電探室より報告! 前方にネウロイの反応確認! 数は3!」
「馬鹿な!? ここは安全圏の筈だぞ! くっ……総艦戦闘準備!!」

 その時、ブリッジに居た操舵手が声を張り上げた。

「機影目視で確認! MSタイプ!」
「なんだとぉ!!?」

 次の瞬間、大和は攻撃を受けて大きく揺れた。



☆ ☆ ☆



「どわぁ!?」
「何!? 攻撃!?」

 一方居住区に居たガロード達も、大きな揺れを感じて転びそうになった。そしてガロードに体を支えられていたティファは、外からくる敵意を感じ取っていた。

「この感じ……ネウロイだけじゃない、誰かが私達を見ている」
「見ている? どういう事?」
「話は後にするぞ! 今は迎撃するのが先だ!!」

 そう言ってパーラが格納庫に向かって先に駆け出し、ガロード達がその後を追いかけるように駈け出した。



☆ ☆ ☆



 MSとストライカーが収納されている格納庫、そこでガロードはDX、パーラはGファルコンに乗り込み、芳佳、リーネ、ティファはそれぞれ自分のストライカーを履いて出撃しようとしていた。

「あ、あれ?」

 しかし、芳佳のストライカーだけは何故か動かず、飛び立つことが出来なかった。

『おいどうした!? 先に行ってるぞ!』

 そう言ってガロードとパーラは先に出撃していく。

「ちょ、ちょっと待ってて! んんんん~!」

 芳佳は必死に力んで飛び立とうとするが、ストライカーのエンジンが動くことは無かった。それを見たリーネとティファは互いに見つめ合い、頷きあうと芳佳の方を見る。

「芳佳ちゃん……私達も行くね」
「あんまり無理しちゃ駄目よ」

 そう言い残しリーネとティファは飛び立っていく。

「ま、待って二人共! 待ってってばー!」

 格納庫に一人残された芳佳の声がむなしく響いた……。



☆ ☆ ☆



一方、DXとGファルコンは大和の艦橋の上に立っていた。

「ガロード・ラン! DX、出るぜ!」

 ブースとを吹かして勢いよく飛び立つDXと、その後に付いて行くGファルコン、そして二機は扶桑艦隊相手に暴虐を振るう三機のMSを補足する。

『なんだ!? あの恐竜みたいなMS!?』

 三機の黒いMSは人型になったり恐竜型のMAに変形して扶桑艦隊の砲撃を掻い潜り、接近してくる戦闘機を次々と撃ち落として行った。

『やべえぞガロード! このままじゃ扶桑艦隊が!!』
『解ってる!!』

 そう言ってガロードはDXのビームソードを抜き、恐竜型のMSに切りかかる、しかし相手は咄嗟に人型に変形し、手のひらからビームサーベルを出し攻撃を受け止めた。

『オラオラオラー!』

 一方Gファルコンは一気にミサイルを発射し、残り二機のMSを扶桑艦隊から引き離す、しかしその内の一機が、被弾して戦闘力が低下している護衛艦の高雄に向けて、掌からビームを撃ち出す。

『しまっ……!』

 パーラが助けに行こうとしたその時、突然リーネが現れてMSのビームから高雄を守った。

『リーネ! ティファ!』
「パーラさんは一機に集中して! 私達はもう一機を……!」
「まって皆! アレ!」

 その時、ティファはこの空間に漂う邪気を感じ取り、空に芳佳達が使う物とは違う魔法陣が展開している事に気が付き、その方向を指さす。

 空に浮かぶ血の色の様な真紅の魔法陣、その中から白いレオタードに銀色の甲冑風のブーツを装備した、ふわりとした銀髪に赤いバイザーを付けた少女が現れた。背中には鉄で出来た白い翼のような物が四枚装着してある。

「女の子……!?」
「何アレ!? ストライカーを装着していない!?」

 リーネは突然魔法陣から現れた少女の足にストライカーらしきものが何も装着されていない事に驚く。

『“D”、早速君の力をあの二人に見せてあげようか』
「わかりました……カウフマン様」

 どこかと何らかの方法で通話した銀髪の少女は、そのまま右手に拳銃のような物を取出し、そこからビームを発射した。

「きゃ!?」
「くっ……!」

 リーネは咄嗟にシールドを張ってそのビームを防ぎ、急いでティファと共に散開して、銀髪の少女の両側の位置を確保した。

「貴女は何者なの……どうして私達を攻撃するの?」
「……」
「貴女なの? 私にこの力を植え付けたのは?」

 攻撃を避けながらティファは銀髪の少女に語り掛ける。しかし少女は攻撃を繰り返した。

『ティファ! リーネ! うお!』

 ガロードとパーラは何とか二人を助けに行こうとするが、三機の恐竜型MSに行く手を阻まれて助けに行くことが出来ず、徐々に機体のダメージを蓄積させていく。

「ガフランの反応速度、三機とも良好……攻撃を継続します」

 銀髪の少女はそう呟きながら、リーネとティファにさらなる攻撃を加えた……。



☆ ☆ ☆



「みんな……!」

 その様子を大和の艦橋で見ていた芳佳は、居ても経っても居られず、自分のストライカーが格納されている格納庫に向かう。
 芳佳は格納庫に辿り着いて早々、ストライカーを履いて飛び立とうとする。しかしストライカーの魔導エンジンは動いて早々停止してしまった。

「う、うううう……!」

 胸の内から込み上げてくる自分に対する憤り、情けなさ、そして無力さに、芳佳は瞳から大粒の涙を流す。
 そしてふと、幼い日に父と交わした約束の事を思い出す。

―――芳佳……お前は母さんにもおばあちゃんにも負けない強い力を持っている。その力で皆を……芳佳の守りたい物を守るんだ―――

「ごめんなさいお父さん……私もう飛べないの! 何も守れないの!!」

天を仰ぎ号泣する芳佳。その時……。

―――泣くんじゃない、芳佳―――

「え?」

 どこからか、父の声を聞いた芳佳は辺りを見回す。すると突然近くにあったシャッターが開き、緑色のストライカー……震電と、キッドが作ったウィッチ用バックパック……リフレクター付きブースターが現れた。

「これは……」
「わん!」

 するとその隙間から兼定が現れ、芳佳の胸に飛びつき彼女の頬を流れる涙を舐め取った。

「兼定!? どうしてここに……!?」
「ワシが連れて来たんじゃよ」

 するとそこに、いつも芳佳やガロード達を助け、この世界でもサテライトシステムが使えるように人工衛星「BATEN」を用意してくれた老人が現れた。

「あの時のおじいさん……?」
「お嬢ちゃん、一つ聞きたいことがある」

 老人は真剣な眼差しで芳佳を見据え、彼女に問う。

「お嬢ちゃん……ワシならお嬢ちゃんに今以上の力……皆を守る力を与える事が出来る。だがそれはお嬢ちゃん自身、今以上の過酷な戦いに身を投じる事になる。君に……その覚悟はあるか?」

 老人の問いに、芳佳は顔を拭い、決意を込めた瞳を輝かせながら答えた。

「貰えなくても……やります!!! 私にできる事をやって、皆を守る……それが私の“決意”です!」

 芳佳の返答は予想以上だったのか、老人は少し驚いたような顔をした後、はっはっはと大声で笑い始めた。

「はっはっはっは!!! 成程……運命の神様は、お嬢ちゃん達に素晴らしい出会いを与えてくれたようじゃ!! 兼定!!」
「わぁん!」

 すると兼定は一声大きく鳴くと、紫色の光を放った……。



☆ ☆ ☆



 大和のブリッジ、そこで艦長達はカタパルトから芳佳が出撃するという報告を受けて驚愕する。

「宮藤さんが出撃するだと!?」
「はい! 震電とリフレクターを装備しているようです!」

 艦長は慌てて出撃しようとする芳佳を止めようと通信を入れる。

「駄目だ宮藤さん! まだそれは試験運転が済んでいないんだ!」



☆ ☆ ☆



 大和カタパルトデッキ……そこで芳佳は震電とリフレクターを装備し、そして紫色のオーラを醸し出した状態で、艦長の制止の通信を受けていた。

「行きます……みんなを守る為に!!!」

 そう言って芳佳は飛び立った、自分の守りたいすべてを守る為に……。



 第八話「みんなを守る為に ~Satellite Cannon~」



その頃、ガロード達は三機の恐竜型MSと謎のテクノロジーを使う銀髪の少女に苦戦していた。

『うわぁ!?』
「パーラさん!!」

 パーラの駆るGファルコンは後ろからビームで撃たれてしまい、翼を破損して高度を下げていった。

『すまねえ! 私はここまでだ!! 後は頼んだ!』
『くそ! もっさん達はまだ来ないのかよ!!』
「まだ時間が掛かるって連絡が……!」

 その時、銀髪の少女は再びリーネに向けてビームを放つ。
 避けられない攻撃ではない……しかし射線上には被弾して逃げ遅れた扶桑の戦艦があり、リーネは残り少なくなっていた魔力を使ってシールドを張り、ビームを受け止めた。

「く、うううう……!」
「今……」

 すると銀髪の少女は怯んだリーネに一気に接近し、ビームサーベルのような物を取り出して彼女に切りかかった。

「リーネ!」
「邪魔をしないで」

 助けに入ろうとするティファを、銀髪の少女はビームを発射して牽制し動きを封じる。そしてすれ違い様にリーネのストライカーを斬った。

「あ……!」
「リーネ!!」

 リーネのストライカーは飛行能力を失い、そのまま海へ真っ逆さまに落ちていく。

「芳佳ちゃん……!」

 もう駄目だ、と思いリーネは目をギュッと閉じる。

「リーネちゃああああああああああん!!」

 するとそこに芳佳が飛んできて、海に激突する寸前のリーネを救い出した。

「芳佳……ちゃん?」
「リーネちゃん大丈夫!? ガロード君達も!」
『芳佳!? お前飛べなかったんじゃ……てかその装備ってキッドの作ったやつじゃね!?』

 突然現れた芳佳に驚くガロード達、すると芳佳は近付いてきたティファにリーネを預ける。

「ティファちゃん! リーネちゃんをお願い!」
「うん、解った」

 そして芳佳は銀髪の少女を睨みつけ、リフレクターを高機動形態に変形させながら飛んで行った。

「よくもリーネちゃんをおおおおおお!!!」
「!!」

 銀髪の少女はすぐさま翼から輪っか状のビームを展開し防御しようとする。しかし芳佳はリフレクターからビームソードを取出し、出力を上げて銀髪の少女の背中の翼を切り裂いた。

「くっ……!」

 飛行能力を失い海に落下していく銀髪の少女、すると恐竜型のMS三機は一斉に芳佳に向かって行った。

『芳佳!』
「ガロード君! 離れて!」

 対して芳佳はリフレクターをXの形に展開し、キャノンを肩に担いだ。彼女の体からはさらに紫色の光が溢れだしていた。

『え、まさか……!?』
「この感じ、マイクロウェーブ!?」

 すると天空のBATENからマイクロウェーブが芳佳に向かって照射される。

「サテライトキャノン……撃ちます!!」

 芳佳は早めにチャージを終えてサテライトキャノンの引き金を引く、銃口から膨大な量のエネルギーが放出され、三機のMSを飲み込んで消失させた。

「わっ……ととと!!」

 芳佳はサテライトキャノンのものすごい反動でバランスを崩し後に吹き飛ばされそうになりながらも、体から溢れる魔力で震電のエンジンを全力で回し、何とか体を支えた。

『す、すげえ……芳佳がサテライトキャノンを……』
「ニュータイプじゃないのにあれを動かすなんて……」

 そしてサテライトキャノンのエネルギーを全部放出し終えると、芳佳はガクンと脱力した。

「芳佳!」

 それを見たティファは、リーネを支えたまま慌てて彼女の体を支える。すると芳佳はすぐに体勢を立て直した。

「あ、ありがとうティファちゃん」
「残るはあの子だけ……」

 そう言ってティファ達は翼を一枚失った銀髪の少女を見る。
 その時、彼女の後ろから二つの真紅の魔法陣が現れ、そこからそれぞれ二機のガンダムが現れる。
 そのガンダムを見て、ガロードとティファは目を見開いて驚いた。

『ガンダムヴァサーゴ……! ガンダムアシュタロン!』
「あの人達だ……!」

 ガンダムヴァサーゴは銀髪の少女の体を手に乗せると、ガロード達に向かって通信を入れる。

『久しぶりだな、ガロード・ラン、ティファ・アディール』
『シャギア・フロスト! それにオルバ・フロスト……! お前達もこの世界に来ていたのか!』

 ガロードの声色の様子を聞いて、芳佳とリーネは彼等の関係がどういう物なのか大体察し、黙って話を聞いていた。

『おまえらなのか!? ティファに変な石を埋め込んだのは!? あのMSのネウロイもお前達の仕業か!? 一体この世界で何をするつもりなんだ!?』
『我々の目的はただ一つ……』
『僕達を認めない世界を滅ぼすだけだよ。彼女達はその手助けをしてくれるのさ』

 そう言ってヴァサーゴとアシュタロンは戦闘態勢を取ろうとする。その時……芳佳が突然口を挟んできた。

「待って! 世界を滅ぼすってどういうこと!?」
『宮藤芳佳、リネット・ビショップ……ウィッチであるお前には永遠に解るまい、力がありながら認められない者達の苦痛など』
「「え?」」

 シャギアの言葉に、芳佳とリーネは自分が何故責められるようなことを言われるのか解らず困惑する

『兄さん、レーダーに反応が……』

 その時、ガロード達の遥か後方から美緒やジャミル達が援軍として駆けつけてきた。

『ガロード! 無事か!?』
「助太刀するぞ!」
『……どうやら今は分が悪いようだ、日を改めてお相手するとしよう』
『あ! 待て!』

 ガロードはすぐさまシャギア達を捕まえようとするが、彼等は再び現れた魔法陣の中に入って行き、その場から姿を消してしまった。

「あのMSにあの時の人が……」
「はれ? さっきの声どっかで聞いたような?」

 美緒と共に援軍に駆け付けたシャーリーとルッキーニは、ヴァサーゴとアシュタロンから発せられた声にそれぞれ反応する。

『フロスト兄弟……くそっ!』
「あの人達……」



 戦いは芳佳達の勝利に終わった。しかし去り際に放ったシャギア達の言葉が、彼女達の心の内にモヤモヤとしたものを残して行った……。



☆ ☆ ☆



 その日の夜、基地の格納庫に置かれている震電とリフレクターを眺めながら、美緒とミーナ、そしてジャミルとキッドは話をしていた。

「まさか芳佳姉ちゃんがこのバックパックを使いこなすとはねー、しかもサテライトシステムを動かしたと来たもんだ」
(ニュータイプとウィッチ……やはり何か関係があるのか?)

 ジャミルがあれこれ思考を巡らせている一方、美緒とミーナは震電を眺めながら感心した様子で話をしていた。

「J7W1震電……一時は計画が頓挫したと聞いたが、宮藤博士の手紙によって完成したそうだ」
「それを娘である宮藤さんが動かしたなんて……まるで彼女の為に作られた機体みたいね」
「ああ、おまけにサテライトキャノンの反動を抑え込みやがった。芳佳姉ちゃんの魔力もすごいが、それを制御するこのストライカーもすごい、宮藤博士っていうのはホント天才だな」

 手放しに誉めるキッドを横目で見つつ、ジャミルは震電をじっと見つめながら、ある疑問を思い浮かべる。

(彼女を狙った様に現れるネウロイと言い、フロスト兄弟を支持する者達といい、やはり宮藤芳佳には何か秘密があるのか……? それに兼定の事も……)

 ジャミルは芳佳から、兼定に魔力のような物を受け取ったと聞いており、彼女に対しさらなる疑問を深めていく。
 するとそこに、人数分のコーヒーカップを持ったパーラとテクスが現れた。

「お疲れ様―、コーヒー盛って来たぜー」
「テクスさん……パーラさんも、今日はありがとうございました。貴方達のお陰で多くの命が救われました」

 ミーナはコーヒーを受け取りながら、今日の任務で多くの人命を救った二人にお礼を言った。対してテクスはジャミルにコーヒーを渡しながらふふっと笑った。

「私は宮藤君の手伝いをしただけですよ。彼女の医療技術にはこちらとしても学ぶことが多い」
「そう言えばガロード達はどうしたんだ?」
「部屋でぐっすり寝たぜ、今日は働き詰めだったからな、あの四人」



☆ ☆ ☆



 基地にあるガロードの寝室、そこでガロードはティファ、芳佳、リーネに抱き着かれながらウンウンと苦しそうに寝ていた。

「んぐぐぐ……マシュマロの波が……」
「えへへへ……ガロードくーん……」

 リーネに背中から抱き枕の如く抱き着かれて眠るガロード、そんな彼の胸元にはティファと芳佳がすうすうと寝息を立てて眠っていた。

「くー……ガロード……」
「むにゅにゅ……お父さん……わたしやったよー」


 そして慌しかった一日は過ぎていき、また新しい一日がやってこようとしていた……。










 本日はここまで、ちょっとオリキャラを作ってみたけどうまく動かせず、代わりにとあるガンダムゲームのオリキャラを改変して登場させてみました。

 サテライトウィッチーズも残り約4話+α、ここまで来たら一気に駆け抜けたい所存ですね。それと同時に新作のガンダムクロス作品も構想中、候補は4作ほどありそれぞれテーマも定まってありますが、どれから手を付けようか迷っています。

 それとガンダムXのMG化決まりましたねー。最近MGにハマってたのでドンピシャのタイミングですよ。

 それじゃ今日はこの辺で、次回は水着回で、ちょっとキャラ崩壊している人も出てきますのでご注意を。



[29127] 第九話「伝わっているから」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2013/10/19 02:34
 第九話「伝わっているから」



 とある日のロマーニャ近海、フリーデンのMS隊と501のウィッチ達は、その周辺に出現した大多数の小型ネウロイと大型の飛行機型ネウロイ相手に激しい戦闘を繰り広げていた。

『ウィッチは小型機を撃破しながらチャージをしている宮藤の援護を! MS隊は大型機を叩くぞ!』
「「『『了解!!』』」」

 ガンダムXディバイダーを駆るジャミルの指示を受けながら、MS隊とウィッチ達はそれぞれ攻撃を開始する。

「はああー!」
「……!!」

 バルクホルン、エーリカ、シャーリー、ルッキーニが小型機の群れに突撃しながら次々と撃ち落としていく中、リーネとペリーヌ、ティファはサテライトキャノンのチャージを開始する芳佳の周りを、シールドで守りつつ銃撃で反撃してネウロイの数を減らしていく。
 一方Gファルコンと合体したDXと、可変したエアマスターの上に乗るレオパルド、そしてベルティゴは飛行機型の大型ネウロイに攻撃を加えながら、コアの位置を探る。

『くっそすばしっこいな……DXのサテライトキャノンで一気にやれねえのかよ!』
『駄目だ、DXのは威力がありすぎて周りにも被害が及ぶ』

 戦いながら愚痴るウィッツを、ジャミルは傍に見える大きな橋をチラ見しながら宥める。

「まだですの宮藤さん!?」
「もう少しです! それまで持ちこたえて!」

 その時、大型ネウロイがベルティゴに向かって赤いビームを放ち、ベルティゴはそれを回避する。放たれたビームはそのまま後方にあった橋に直撃する。

「あ! 橋が!」
「……! よくも橋をー!!!」
「ペリーヌさん!?」

 するとペリーヌは激昂した様子で、銃撃しながら大型ネウロイに突撃していく。

『うぉ!? ペリーヌ!?』
『ちょ! 危ないよ!』

 MS隊を掻い潜って突撃していくペリーヌ、彼女の勢いある攻撃は大型ネウロイのコアを露出させるまでに至った。

『今だ!』
『僕がやります!』

 カリスはそう言ってベルティゴに装備されているビットのビームでネウロイのコアを撃ち抜いた。
 ガラス片になって砕ける大型ネウロイ、すると芳佳は背中のリフレクターから光を放ちつつ大声で叫ぶ。

「チャージ完了しました! 皆さん射線上から避難を!!」

 宮藤に言われた通りMS隊とウィッチ達は先頭空域から離れる。それを確認した芳佳はサテライトキャノンの引き金を引いた。
 砲身から放たれた青白い光の奔流はそのまま小型ネウロイの大多数を飲み込んでいく。

『少佐! ネウロイは!?』
「まだ少数残っています。各機残存勢力の排除を!!」

 魔眼で残りのネウロイの数を確認した美緒は他の者達に掃討を指示する。

 そして数分後、大多数いたネウロイは芳佳達の活躍により残らず全滅した……。



☆ ☆ ☆



 数分後、基地に戻って来たウィッチ達は美緒から労いの言葉を貰っていた。

「今日は皆よくやってくれた。特にペリーヌ、素晴らしい活躍だったな」
「え、あ、はい……」

 ペリーヌは心ここに非ずと言った様子で生半可な返事を返し、周りの芳佳達に意外そうな顔をされていた。

「うむ、それじゃ今日は解散! 各自ゆっくり休むように!」

 美緒が解散を言い渡し、皆それぞれ戻って行く中、ペリーヌは何やら思いつめた様子で自分の部屋に戻って行った。

「ペリーヌさん……」

その時、芳佳達にパーラと、彼女の豊満な胸を枕にしたルッキーニが歩いてきた。

「なんかペリーヌ、様子おかしかったよな」
「おかしいって?」
「いつもなら……」

 そう言ってパーラとルッキーニはちょっとお嬢様っぽい動きをしながらペリーヌの真似をする。

「あーら少佐~、そんなこと~、ありますわ~」
「もっとほめてくださいまし~」

 その二人の物まねに芳佳とリーネはぷっと吹き出し、二人の後ろにいたティファは無表情のまま顔面と肩を振るわせていた。

「ねー、シャーリーもそう思うでしょー?」

 そしてルッキーニは後ろにいたシャーリーに同意を求める。

「ん? ああ、そうだな」

 しかし当のシャーリーはというと、心ここにあらずといった様子で生半可な返事をした。

「ぶー、なんかノリが悪いー」
「シャーリー、なんか最近ため息つくことが多いな、大丈夫か?」

 フリーデンクルーの中では特にシャーリーと仲の良いパーラは、元気のないシャーリーのことを本気で心配していた。
 するとシャーリーは少し乾いた笑いをしながら必死に取り繕う。

「あははは、だ、大丈夫、ちょっと悩み事があるだけさ」

 すると話を聞いていたバルクホルンが血相を変えて話に割り込んでくる。

「お前が悩み事だと!? 明日は槍でも降ってくるんじゃないか!?」
「あ! ひっでー! お前は私をなんだと思ってるんだ!?」

 バルクホルンの一言に口を尖らせて怒るシャーリー、そんないつもの様子に戻った彼女を見て芳佳達はほっと安堵していた。



 ☆ ☆ ☆



 その日の夜、フリーデンのレクリエーションルームで、哨戒任務の前の息抜きにとサーニャとエイラはテクス相手にビリヤードで対戦していた。ちなみにその様子をロアビィとカリスとパーラが飲み物片手に見学していた。

「がんばって、エイラ」
「よーっし、まかせとけ!」

 サーニャの声援を受けたエイラは、気合十分と言った様子でキューを持ったまま構え、ビリヤードテーブルの上に置かれているキューボールを、ポケットの近くに置いてある9番の的玉に向かって撃ち出す。手玉は9番の的玉に当たるが、ポケットの横にぶつかりはいる事は無かった。

「んがー! 外れた!」
「残念……」
「それでは次は私の番だな」

 悔しそうに地団駄を踏むエイラを尻目に、テクスはマイキューを持ちながらビリヤードテーブルに体を乗せて構える。手玉と9番の的玉との距離は先程より離れている。
 コンッ、と乾いた音と共に手玉は打ち出され9番の的玉に直撃する。そして9番の的玉は勢いよくクッションにぶつかってバウンドすると、そのままテクスの脇にあったポケットに吸い込まれるように入って行った。

「私の勝ちだ」
「すげえー! ドクターうまいな!」

 クールにキューを立てて持つテクスに、エイラとサーニャは称賛の声を上げる。それを見たロアビィはニヤニヤしながら野次を飛ばす。

「本当に上手いよなぁドクター、さすが皆がいない時にこっそり練習しているだけはあるな」
「おい! それ秘密!」

 ロアビィの指摘にテクスは珍しく焦りながら人差し指を口に添える。それを見たサーニャはくすっと笑い、エイラはなあんだと呆れた様子でへへっと笑っていた。
 するとそんな和気藹々とした雰囲気のレクリエーションルームに、腕を組んで何やら考え事をしているシャーリーがやって来た。

「うーん……マスター、ビールで」
「はいよオレンジジュースね」
「んだよー、その辺は融通利かせろよー」

 そう言いつつロアビィから出されたオレンジジュースを受け取り、それを一口飲んではぁーっと溜息をつくシャーリー。それを見た隣のパーラは彼女の肩をポンポン叩いた。

「お前さ、ホント最近どうしたんだ? 何か悩みがあるなら私らが相談に乗るぜ?」

 パーラの提案に、シャーリーはうーんと悩んだ後、意を決して口を開いた。

「あの……さ、お前等あのフロスト兄弟の事知ってんだろ?」
「うん、それが?」
「実は私……ロマーニャで会ったんだ」

 次の瞬間、フリーデンクルーの顔色が変わった。



 数分後、シャーリーはロマーニャでの出来事を皆に話した。事情をあまりよく知らないエイラとサーニャはともかく、ロアビィらフリーデンクルーの表情は真剣そのものだった。

「うむ……そんなことがあったのか」
「うん、声似てるし、この前見た写真と瓜二つだから間違いないと思うんだ」
「お前それ早めにミーナ隊長に言えよ」

 エイラの指摘に、シャーリーはごもっともと言わんばかりに頷きながら答えた。

「うん……そう思ったんだけど、なぜかそうできなかったんだ……なあ、あのフロスト兄弟ってどんな奴だったんだ?」

 シャーリーの質問に対し、ロアビィ達は苦い顔をしながら答える。

「ロクでもない奴等だったよ、俺らを騙してフリーデンに潜入してティファ攫って行くわ。地球軍の高官利用して俺達を攻撃して来るわ。もうとにかくやりたい放題だったぜ」
「なんか、カテゴリーFっていう特殊能力使えるらしいけど、味方はすぐ裏切るし、自分達を認めない世界を滅ぼすとか言うし、結局最後まで理解しあえなかったよな」

 ロアビィとパーラの説明にシャーリーは考え事をしながら俯く。

「ですが……」

 その時、何も言わずに話を聞いていたカリスが口を開いた。

「なんだカリス? あの兄弟を弁護すんのか?」
「そういう訳じゃ……でも……」

 カリスはなにやら思いつめた様子で、今まで自分の心の内に秘めていた事を晒し出した。

「あの二人を見ているといつも思うんです。僕ももしガロード達に出会っていなかったらああなっていたのかもって」
「お前がか? うーん……確かに考えるかもな」

 カリスの過去を知るロアビィは、彼の心の内を知って納得する。

「ガロード達に出会わず、自分のこの力の事を何も知らず……いや、いつか何らかのきっかけで力の事を知ったら、多分あの兄弟と同じことを考えたかもしれません。それだけに……あの時ガロード達が差し伸べてくれた手にどれだけ救われたか」

 カリスはかつてノモア市長に自分はニュータイプだと吹き込まれ、操り人形のような扱いを受け、真実を知り自ら死を選ぼうとしたことがあった。しかしガロードの“生きろ”という言葉が、今の彼を存在させていた。
 ゆえにカリスはフロスト兄弟に対し、少なからず共感染みた感情を抱いていた。

「彼等にも手を差し伸べてくれる人がいれば、ああはならなかったかもしれません……」
「うん……何かそれ解るかも、アタシもサテリコンの皆が死んで一人ぼっちになった時、ガロードが居なかったらどうなっていたか……」

 パーラもまたカリスの意見を聞き、あの出会いが無かったらというIFを想像し彼に同意する。
 そんな彼らの話を聞いて、シャーリーは難しい顔をして悩みだす。

「お前等、随分とヘビーな人生送ってんだな、私なんて自分の好きなことやってばかりで辛いなんて思ったことないから……そんな私に、あの人に何か言う資格があるのかな……?」

 二人の話を聞いたシャーリーは、彼等フロスト兄弟の境遇と、自分自身の人生を顧みてさらに悩みだす。
 するとテクスがそんな彼女に一言アドバイスを送る。

「君は……彼等に何か伝えたい事があるのかね?」
「いや、自分でも何がしたいのか解らないんだ、でも……あの人に何か言わなきゃいけないのは解る」
「じゃあ迷わずに伝えるといい、誰かを助けたいという気持ちに、資格は必要ないのだから」

 テクスのその一言に、シャーリーはハッとなり、そして黙って頷いた……。



☆ ☆ ☆



 次の日、基地周辺の海岸、そこでウィッチ達は水上訓練の為水着姿で集まっていた。

「よし、宮藤、リーネ、ペリーヌ、ティファは水上訓練を行う。他の者は各自自由行動だ」
「うう~、折角の海なのに~」
「頑張ります……」

 訓練を言い渡された芳佳達4人はそのまま美緒とミーナに連れて行かれる。するとそれと入れ替わりで、ガロード、ウィッツ、ロアビィ、トニヤ、エニル、パーラ、カリス、キッドといつもの取り巻き二名がそれぞれ水着姿でやって来た。

「ティファ達は訓練か、ちょっと俺様子見てくるぜ!」

 パラソル等を設置するフリーデンクルーを尻目に、ガロードはさっさとティファ達が歩いて行った方角に駆けていった。

「ったく、どんな所に居てもアイツはブレないね」
「ほっとけ、こっちはこっちで楽しもうぜ」

 そう言ってウィッチ組とは別に各々海を楽しむフリーデン組、そんな時……海に入ろうとしていたエーリカは、隅っこで体育座りをしていたカリスに近付いて行く。

「あれ? カリス泳がないの?」
「い、いえ……皆に誘われたのはいいんですが、こういう所でどう遊べばいいのかよく解らなくて……」
「ふーん……よしわかった!」

 するとエーリカはカリスの手を取り、彼を海の所へ連れて行こうとした。

「んじゃ私とあそぼ! 一人で座っててもつまんないよ!」
「え!? エーリカさん!?」
「こぉらハルトマン! 準備運動ぐらいしろ! 後カリスをその道に引き込むな!」

 バルクホルンの忠告を尻目に、エーリカはカリスを海の中に連れて行くと彼に海水を掛け始めた。

「ほーれほれほれ!」
「わっぷ!? エーリカさん!?」
「おのれ……カリス! 援護するぞ!」

 そしてバルクホルンも加わり、三人は激しい水の掛け合いを始めた。

 一方、サーニャとエイラは砂浜で体育座りをしたまま、マイペースにじーっと海を眺めていた。

「熱いな……」
「海がきれいだね……」
「いやいやアンタら、もっと海をエンジョイしなさいよ」

 するとそんな二人の状況を見かねてか、エニルがタオルと木刀片手に声を掛けてきた。

「だって熱いの苦手だし」
「ああ、アンタら雪国出身だっけ?」
「いけないなあ、折角の海だし、そういう時はコレだ」

 するとそこにロアビィがスイカを担いで現れた。

「扶桑で教わったスイカ割りでもやろうぜ。割れたら皆で食おう」
「お、いいな面白そう」
「じゃあ誰から……」

 その頃、沖の方では……ルッキーニとトニヤとパーラがゴムボートに乗りながら、クロールで競争しているウィッツとシャーリーを応援していた。

「いっけ~! シャーリー!」
「ほらもう少しよウィッツ!」
「頑張れ二人共~」
「「ぬおおおおお!!!」」

 ものすごい勢いでゴールの岩まで泳いでいく二人。互いにスピードを極めんとする者同士、血が騒いでいるようだった。

 そしてキッドは、取り巻きの二人と共に砂の城……ではなく、砂のガンダムを作っていた。

「おっしゃー! もうちょっとで完成……」
「あ! あぶねえ!」

 その時、どこからともなく飛んできた木刀が、あとちょっとで完成だった砂のガンダムを木端微塵に粉砕した。

「あああああああああ!!?」
「「チーフぅぅぅぅ!?」」
「わりいわりい、すっぽ抜けちまった」

 するとそこにスイカ割りの最中だったエイラが申し訳なさそうに歩み寄ってくる。しかしキッドは魂の抜けた状態であり、取り巻き二人の声に全く反応しなくなっていた。

 そしてそれぞれが海を堪能している中、芳佳達4人は訓練用ストライカーを履いて崖の上に立っていた。

「では訓練を開始する。さっさと飛び込めー!!」
「「「は、はい!!」」」

 美緒に促されるまま、4人は海に飛び込む。それから一分もしないうちにペリーヌが浮かび上がって来た。

「ぷはぁ!」
「お、ペリーヌが一番か」
「ええ、少佐の指導の賜物ですわ」

 そう言って自慢げに鼻を鳴らすペリーヌ、すると……。

「ぷはぁ!」

 以外にもティファが浮かび上がって来た。

「あら? ティファさんが二番手なんて以外ね」

 すると後ろで見ていたガロードがふふんと鼻を鳴らして自慢げに答えた。

「ああ見えてティファは泳ぎが得意なんだ。この前イルカと一緒に泳いでたしな」
「イルカと? すごいわね」

 ガロードの話にミーナは普通に感心する。するとティファはある事を思い出しハッとなってガロードに問い詰める。

「が、ガロード!? あの時の……見てたの!?」
「へ? 何怒って……あ、やべっ!!」

 ガロードはその時、初めて自分の失言に気付く。そのティファがイルカと泳いでいた時、彼女は生まれた時のままの姿で泳いでおり、ガロードはその時の様子を除くような形で見ていた。無論その事は今日の今日まで秘密にしていたのだ。

「ガロード……! もう知らない!」
「待ってくれティファ! 違うんだ!」

 そう言ってティファは怒って海から出て走り去ろうとする……が、ガロードが慌てて駆け付けて彼女の手を取った。

「放して! ガロードがそんな人だったなんて思わなかった!」
「そ、その……あの時黙って覗いていたのは謝る! で、でもその……」

 ガロードは顔を真っ赤にしてモジモジしながら、ティファの目をまっすぐ見て答える。

「あまりにもティファがイルカと泳ぐ姿が綺麗だったもんで……言い出すタイミングが掴めなかったんだ!」
「が、ガロード……!」

 するとティファも顔を真っ赤にしてガロードに背を向ける。そして……振り向きながら両手で自分の体を隠しつつ、彼をジト目で見つめる。

「…………いいよ、許してあげる」
「え!? いいの!?」
「うん……ガロードだったら別に……見られても嫌じゃないから……」

 その瞬間、ガロードはあまりの嬉しさに顔をニヤつかせる。傍目から見ると今にも背中にキューピッドの羽が生えて浮かび上がりそうだった。

「ティファ・アディィィィィル!!!!」
「ひゃい!?」

 その時、そんな二人の甘々シュガー&ハニー空間を一刀両断するかのごとく、美緒の怒号が辺りに響いた。

「貴様……訓練中に男とイチャイチャするとは何様だ……!」

 よく見ると美緒の隣にいたミーナは、まるで汚物を見るかのような目で睨んでおり、海に居たペリーヌは口をへの字に曲げてぐぬぬと悔しそうな顔をしており、いつの間にか上がっていた芳佳はものすごく悲しそうな顔をし、同じく上がって来たリーネは怖い程無表情で、体からなんか黒いオーラを発していた。

「す、すみませんでした……」

 その後、ティファはこの炎天下の中基地の周り30周の訓練を追加され地獄を見るが、終わった後にガロードに介抱され天国とウィッチ達のさらなる嫉妬を味わう事になる……。



☆ ☆ ☆



訓練終了後、へとへとになった芳佳とリーネとペリーヌ、そしてそれ以上にくたくたのまま戻って来たティファは砂浜で大の字で寝転がっていた。するとそこにルッキーニが海から上がってくる。

「ねーねー! なんか海の底に宝箱みたいなのが沈んでたー」
「宝箱!?」

 するとペリーヌは飛び起き、ルッキーニに宝箱の位置を聞くとさっさと海の中に潜って行った。

「あ、ペリーヌさん待って!」

 芳佳達もその後を追って海に入って行く。そして海底にあった宝箱を持ち上げようとするが、重すぎて持ちあがらず、息が切れてペリーヌ以外は海から上がって行った。

『この……トネェェェェル!!!』

 ペリーヌは火事場の馬鹿力と言わんばかりに、宝箱を魔法力で持ち上げ、海に上がって行った。

「おおお……すごいねペリーヌ」
「こ、これぐらいどうってことない……ですわ……」

 そんなペリーヌを見て、思わずぱちぱちと拍手を送るティファ。
 そして一同はへばるペリーヌを尻目に、芳佳達はルッキーニのピッキングで宝箱の中身を確認する。

「……箱が入っているわね」

 宝箱の中には、一回り小さい宝箱が入っていた。その宝箱を開けるとさらに一回り小さい宝箱、それを開けるとさらに一回り小さい宝箱、それを開けるとさらに一回り小さい宝箱、それを開けるとさらに一回り小さい宝箱……。
 そして芳佳達の周りには様々な大きさの、開けっ放しで空っぽの宝箱が散乱していた。

「こ、これで最後かな?」

 そう言って芳佳は野球ボールほどの大きさしかない宝箱を開ける。しかし中には何も入っておらず、体力が回復し復活したペリーヌは、それを見て明らかに落胆していた。

「そんな……これじゃ……」
「まって、ちょっと貸して」

 その時、ティファが何かに気付き、宝箱を受け取り底をコンコン叩く、すると宝箱の底の板が取れ、そこから一枚の洞窟の地図が出てきた。奥の方にはご丁寧に何か重要そうな物が隠してありそうな印が付いている。

「これは……」
「間違いありません! 宝の地図ですわ!」

 ペリーヌはすぐさまその地図を手に取り、洞窟に向かおうとする。

「あ、待ってペリーヌさん!」
「おもしろそー! 私もいくー!」

 そしてそんな彼女の後を芳佳、リーネ、ルッキーニ、ティファは付いて行った……。



☆ ☆ ☆



 芳佳達一行はそのまま地図に記されている洞窟に辿り着き、その奥へ入って行った。

「あ、あっちに道が……」

 するとリーネが、自分達の進行方向に二つの洞窟があるのを発見する。それを見たペリーヌは地図を見ながらあれこれ思案する。

「地図によると、どちらもお宝に繋がっているようですが……取り敢えず左に行ってみましょう」
「大丈夫なのー?」
「逸れたくなかったら付いて来なさい」

 ペリーヌは半信半疑のルッキーニ達を連れて左側の洞窟に入って行く。そんな彼女を見てティファは怪訝な顔をする。

(そんなに欲しいのかな? お宝……)



☆ ☆ ☆



 その頃、海岸に居た美緒達は、芳佳達がいない事に気付き集まっていた。

「ルッキーニさんがいない?」
「ああ、岩場の方へ魚を獲りに行くっていったきり戻ってこないんだ」
「そう言えば宮藤達も、先程岩場の方へ行くのを見たな」

 するとガロードが血相を変えて話に割り込んでくる。

「ちょっと心配だな……その岩場の方へ行ってみようぜ」


 それから数分後、美緒、ミーナ、バルクホルン、エーリカ、シャーリー、ガロードの六人は、芳佳達が入って行った洞窟を発見し、中に入って行った。

「どうトゥルーデ?」
「うむ、ついさっき誰か通った痕跡がある」

 足跡を頼りに奥に入って行った美緒達は、芳佳達同様二つの洞窟を発見する。

「どっちに行ったんだ?」
「二手に分かれるか?」
「いや、中に何が待ち受けているか解らないし……俺の勘はこっちだって言ってるぜ!」

 そう言ってガロードはティファ達が入った方とは反対の洞窟に入って行き、美緒達もその後に付いて行った。
 そしてしばらく歩くと、くたくたの様子のエーリカが文句を言い始めた。

「疲れたー……まったく手間を掛けさせるなー」
「でも探検みたいで楽しいじゃん」
「それにしてもここ、随分と人の手が入り込んでんじゃん」

 ガロードは地面の石畳を見て疑問を口にする。するとミーナがその疑問に答えた。

「私達の基地にしている所は、元々古代ウィッチの遺跡だったところなのよ。ここもその一部だったんじゃないかしら?」
「ふーん……ん?」

 その時、ガロードは大きな壁画のような物を発見する。壁画は長い年月がたって破損が激しかったが、殿様の髭のような物を生やした巨人が、蝶の羽のような物を生やして空を飛んでいる姿が描かれているのは辛うじてわかった。

(なんだこりゃ? どう見てもウィッチじゃないよな……)
「ん? 何かしらあれ?」

 その時、ミーナが壁画とは別に、竈のような物の上に置かれている大きくて立派なツボを発見した。

「何かしらこれ? ずいぶん立派ね」
「我々の大先輩の技か、素晴らしいな」
「そんあのどうでもいいじゃん……うわっ!?」

 ツボの出来に感心する美緒の横で、エーリカはとてもつまらなそうに壁に寄りかかる。すると突然……彼女の背後で何かガコンという音がして、突然竈の上のツボがミーナ目掛けて落下してきた。

「! 危ない!」

 美緒は咄嗟にミーナを突き飛ばし、落下してきたツボの下敷きになってしまい、辺りに赤い液体が飛び散った。

「「少佐!?」」
「もっさん!!?」
「きゃあああああ!? な、何これ……!!?」

 ミーナは自分に掛かった赤い液体を目の当たりにして、呆然自失の状態になってしまう。一方この事態を引き起こしたエーリカは自分のしたことに恐怖し、何もできずに震えていた。一同の脳裏に最悪の展開がよぎる。

「はあああああ!! とりゃ!!」

 バルクホルンは急いでツボを破壊し、下にいた美緒を救出する。彼女は胡坐をかいており怪我をしているように見えなかった。

「美緒! 美緒!」
「おいもっさん! 大丈夫か!?」

 すぐにガロードとミーナが美緒に駆け寄る。しかし美緒は反応せず、ただ一回ひっくとしゃっくりしただけだった。よく見ると顔がほんのり赤い。
 するとエーリカが飛び散った赤い液体を一口舐めてある事に気付く。

「コレ……血じゃなくてワインだね」
「もっさん! おいもっさん! 大丈夫か!?」

 ガロードの必死の呼びかけに、美緒は……。



「わっしょーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!」



 突然大声を上げて、そのままぐえっと言って寝てしまった。

「きゃあ!?」
「な、なんだよいきなり!? 本当に大丈夫か!?」

 ガロードはすぐさま美緒の体を揺らして彼女を起こす。すると美緒は焦点の合っていない目でガロードを見る。

「もちろんわたしは……らいじょうぶらっ!」

 そして呂律のまわっていない口調で、いきなりガロードに抱き着いたかと思えば、思いっきり自分の唇をガロードの唇に押し当てた。

「んぶううううううう!!!?」
「なっ……何をしているの美緒おおおおおおおお!!?」
「血迷ったか少佐!!」

 ガロードの唇に吸引力の強い掃除機が如く吸いつく美緒を、バルクホルンとミーナは強引に引き剥がす。

「わっしょーーーーーい!!!」

 すると美緒は謎のかけ声と共に来た道を逆走していった。
 それを見たバルクホルンは、弟分の唇が強引に奪われたことに腹を立て追いかけようとする。

「少佐を捕まえろ!! 生死は問わん!!」
「問おう! そこは問おう!!」

 そんなバルクホルンをエーリカはツッコミを交えながら宥める。
 一方ミーナとシャーリーは、突然唇を奪われ、同人誌みたいに乱暴されて傷ついた乙女みたいになってるガロードの安否を気遣う。

「大丈夫ガロード君!?」
「元気出せ! 犬に噛まれたもんだと思え!」
「ううううう~!!!」

 するとガロードは感情を爆発させるかの如く叫んだ。

「セカンドキスだったのにいいいいいい!!!」
「ちょっと待て! 今ガロードが聞き捨てならないこと言った!!」
「ファーストの相手は!? やっぱティファ!?」

 ガロードの発言にものすごく食いつくシャーリーとエーリカ。するとそんな彼女達にバルクホルンが怒声を浴びせる。

「確かにものすごく気になるが後にしろ! 少佐を外に解き放つとウィッツ達にも被害が!」

「おーいおまえ等ー」

 するとタイミング良く(悪く?)ウィッツ、ロアビィ、キッド、カリスが歩いてきた。

「おまえ達!? どうしてここに!?」
「お前等の帰りが遅いから様子見に……てかガロードなに泣いてんの?」

 さめざめ泣いてるガロードを見て首を傾げるウィッツ達、するとそのとき、シャーリーが何かに気づいて大声を上げる。

「よ、横だあああああ!!」
「ああん?横がなn「わっしょーーーーーーい!!!」

 すると突然、ウィッツの横にある物陰から美緒が飛び出し、彼に飛びついてそのまま唇に吸いついた。

「んぶううううううう!?」
「ちょ!? なにやってんだもっさあああああああん!?」

 突然の美緒の蛮行に驚愕するロアビィ達、すると美緒はきゅぽんとウィッツの唇から自分の唇をはずすと、そのまま近くにいたキッドに飛びついた。

「うわああああああ! やめ……んんんん!!!」

 そして奪われるキッドの唇。20歳そこらの女性が12歳の少年を力任せに押し倒し唇を奪う……文章にするとそのヤバさが解るだろう。時代が時代なら美緒は社会的に抹殺されていたであろう。

「に、逃げろお前等! 少佐は今酔っぱらってキス・マッスィーンと化していて手が付けられない!」
「解った!」
「すみませんお二人とも!」

 ロアビィとカリスは自分の安全を優先し、先に被害に遭った二人を助けることなく一目散に逃げ出した。

「わっしょーーーーーい!!!」

 そんな二人を見て、美緒はキッドを打ち捨て獲物を追う獣の如く低姿勢の状態で追いかけて行った。

「酷いや……お姉ちゃん酷いや……」

 地面に転がり、両手で顔を覆いながらさめざめと泣くキッド。

「おい! 大丈夫かウィッツ!」

 シャーリーは四つん這いになって項垂れているウィッツに声を掛ける。するとウィッツはボソボソと小さい声で何かつぶやいた。ミーナはその言葉を聞き取れなかったためシャーリーに確認する。

「ウィッツさんはなんて言ったの?」
「舌、入れられたって……」

 その瞬間、ミーナは思わずブブフッと笑いを吹き出した。



☆ ☆ ☆



 その頃、少し先を進む芳佳達は、突然後方から悲鳴なような物を聞き身を隠していた。

「あーっはっはっはっはっはっはっは!!!」
「うわあああああこっち来た……んぐううううう!!!」

「な、何ですの今の!? ロアビィさんの声に似ていましたが……」

 この状況だからだろうか、若干判断力が鈍っているペリーヌ達、するとティファがぼそりと呟いた。

「まさか、古代人の怨霊が私達の他に宝を探しに来た人達を……?」
「や、やめてよティファちゃん! 怖いよ!」
「わぷっ!?」

 リーネは恐怖のあまり近くにいた芳佳を抱きしめ、彼女を自分の豊満な胸でガッチリホールドする。するとルッキーニが半泣きでペリーヌに縋り付いて来た。

「ね、ねえねえ! もう帰ろうよ!」
「だ、駄目ですわ! このまま何も持ち帰らずに帰るなんて!」

 そう言ってペリーヌはルッキーニを払いのけ奥に進もうとする。だがその時……。

「ぬあーっはっはっはっは!! わっしょーーーーーーーい!!」
「誰かぁぁぁぁ!!! 助けてくださぁぁぁぁい!!!」

 今度は少年の叫び声が聞こえ、芳佳達は思わず物陰に隠れる。

「今度はカリス君っぽい声が……」
「ぺ、ペリーヌさん! 取り敢えず隠れてやり過ごしてからにしよう!」
「そそそそそそうですわね!」

 ペリーヌは芳佳の提案を素直に受け入れ、謎の声が遠ざかるまで物陰に隠れた……。



 それから数分後、謎のわっしょいという声と悲鳴が遠ざかり、芳佳達は地図が示している方角へ再び進みだした。
 そして一行は、巨大な騎士の石像が何体も飾ってある広間に到着する。

「うわー……広いねー」
「ここにお宝が……?」
「あ、ペリーヌ」

 宝を探し求めて奥へ進んでいくペリーヌ、一方ルッキーニは壁に掛かっていたレイピアと盾を発見し、それを振り回して遊んでいた。

「ねえ見て見て! かっちょいいでしょ!?」
「ルッキーニちゃん、振り回したら危ないよ」

 その時、突然鎮座していた石像が動きだし、ペリーヌに襲い掛かって来た。

「石像が動き出した!?」
「ペリーヌさん! にげてー!」
「駄目ですわ! 子供達の橋を架けるまでは……!」

 ペリーヌは石造の攻撃をひょいと避け、反撃の手段が何かないかと辺りを見回した。

(さすがに丸腰だと分が悪いですわね……)
「あわわわわ……あ!」

 その時、恐怖しながら様子を見ていたルッキーニが自分の手元にあるレイピアを見てある事を思いつき、それをペリーヌ目掛けて投げた。

「ペリーヌ!」
「!! はっ!」

 ペリーヌはレイピアをジャンプして空中でキャッチする。

(お父様、お母様、ガリアの皆……ワタクシは負けませんわ!!)
「グオオオオオオ!!」

 石像はペリーヌに向かってパンチを繰り出す……が、ペリーヌはそれを片手で飛び越え、使い魔を憑依させて石像の胸にレイピアを突き立てる。

「トネェェェェェル!!!」

 ペリーヌはレイピアに魔力で生成した電撃を電導させ、石像を粉々に砕いた。

「やったー! ペリーヌさんすごーい!」

 芳佳達は素直に、ペリーヌに称賛の言葉を送る。すると石像の後ろにあった隠し扉がゴゴゴと轟音と共に開け放たれた。
 
「あんなところに扉が……お宝!」

 ペリーヌ達はすぐさまその扉の奥に入って行く。するとそこには大きな広間と、何か植物の様な植えられている花壇が広々と設置されていた。金銀財宝のような物は見当たらない。
 ペリーヌはその花壇に植えられている植物を見てある事に気付く。

「これはハーブ……サフラン、クローブにローリエ、オレガノ……胡椒まで! まさかこれがお宝ですの!?」

 この遺跡が出来た頃なら価値のあった香辛料の数々、しかし今はあまり価値のないお宝の正体にがっくり項垂れるペリーヌ。するとそんな彼女の肩を、ティファはポンポンと叩く。
 そしてしばらく歩いた時……ティファがペリーヌに話し掛けてきた。

「ペリーヌ……そんなにお宝が欲しいの?」
「ええ、だってそれさえあればガリアで待つ子供達を助けてあげられますもの」

 ペリーヌの話によると、彼女は戦災孤児となった子供達を引き取っているのだが、その子達が通学に使う橋が破損してしまい、その為の修復の費用が足りないそうなのだ。

「もう家の物は殆ど売ってしまいましたし……もしこれが駄目だったら家宝のレイピアを売るしかありません」
「……ペリーヌって強いのね」

 ペリーヌの話を聞き、ティファは彼女に対し尊敬と敬意の感情を抱き、褒めた。そんなティファの言葉を受け取って、ペリーヌは顔を赤くする。

「そ、そんなに褒めたって何も出ませんわよ!」
「でも本当にすごいと思う、自分を犠牲にして他人に優しく出来るなんて、並大抵の覚悟じゃできないと思うから……きっと子供達にも、ペリーヌの優しさが伝わっているから。だからそんなに落ち込まないで」
「……ありがとう、ティファさん」

 ティファの言葉に、ペリーヌの落胆した心は幾許か癒されていた。その時……。

「わっしょーーーーーーい!!!」
「「きゃあ!!?」」

 突然花壇の奥から美緒が奇声を上げて飛び出してきた。どうやらまだ酔いは醒めていないようである。

「少佐!? 何故ここに……というかいかがいたしましたの!!?」
「あひゃひゃひゃひゃ!! 私は酔ってないぞぉーー!!」
「貴女は何を言っているの?」

 するとそこに鬼の形相のバルクホルン達が駆け込んできた。

「ペリーヌ! その狼藉者を捕まえろ!」
「あー、あのー、お手柔らかにねー!」

後では未だショックから立ち直れていないガロード達を連れたエーリカ達がやってくる。

 そして数分後、酔っ払いキスマッスィーン・坂本美緒は長時間にわたる逃亡劇の末、ウィッチ数名に取り押さえ基地に連行された……。



☆ ☆ ☆



 その日の夜、ペリーヌは自室でガリアから届いた手紙を読んでいた。

「ペリーヌさん、何読んでいるの?」
「ガリアの子供達から手紙が来ましたの、壊れた橋をあの子達が自力で直したそうですわ」

 そう言ってペリーヌは、話し掛けてきた芳佳、リーネ、ティファに同封されていた写真を見せる。そこには修復された橋の前で笑顔を見せる子供達の姿が映されていた。

「橋、直ったんだ」
「皆で力を合わせて歩んでいく……それが本当の復興なのかもしれませんね」
「そうね……」

 ペリーヌは写真の中の子供達の笑顔を見てふふっと微笑み、それを見たティファもまた優しい笑みを浮かべていた。



その頃、司令室で美緒はミーナと共に、あの遺跡について話していた。

「成程、あの遺跡は古代のウィッチが宝を守る為に作ったのね、ペリーヌさんを襲ったっていう石像も魔力が残っていたから動き出したのね」
「ふむ、謎の多い基地だ。ところで……何故私は縛られているんだ?」

 美緒はそのままミノムシのようにぐるぐる巻きに縛られて吊るされている自分の体を見て首を傾げる。するとミーナはちょっと冷たく言い放った。

「うふふふふ……美緒、酔った勢いとはいえ、やっていいことと悪い事があると思うわ。トニヤさん達は爆笑していたけど。取り敢えず反省してね?」
「……すまん、まったく思い出せんのだが」



☆ ☆ ☆



 基地周辺の砂浜、そこでガロード、ウィッツ、ロアビィ、キッドは、満月を眺めつつ無言の体育座りで項垂れていた。

「……わん」

 すると通りかかった兼定が、まるで「まあくよくよスンナよキスの一つや二つぐらい」と言いたげに、肉球でポンポンと彼らの体を叩いた……。










 本日はここまで、暴走しすぎましたね今回……次回は真面目にエーリカ&カリス回になります。
 ストパンOVA&三期とMGガンダムX発売決定しましたね。もうテンション上がりまくりですわ。この調子で他のX系のMG化&残りの501メンバーのフィグマ化もしてほしいですね。



[29127] 第十話「僕は僕だ」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2013/11/03 12:06
 第十話「僕は僕だ」



 とある朝の501基地、廊下を一人歩いていたカリスは、偶然格納庫に向かうバルクホルンと遭遇する。

「あ、おはようございますバルクホルンさん」
「ああ、ノーティラスか……すまないがちょっと私の自室で寝ているハルトマンを起こしてきてくれないか? 私はちょっとキッドに呼び出されているんだ」
「起こすって……もうすぐお昼ですよ?」

 腕時計が示す時間を見ながらカリスは指摘する。対してバルクホルンははぁっと溜息をついた。

「まったく、あいつのだらしない性格をいい加減どうにかしないとな……男のお前に頼むのもなんだが、よろしく頼むぞ」

 そう言って格納庫の方へ歩いて行くバルクホルン、そしてカリスは言われた通りバルクホルンとエーリカの自室へ向かって行った。

 数分後、二人の自室の前にやって来たカリスは、扉をノックして中に入って行った。

「エーリカさん? 入りますよ」

 部屋に入ってカリスが目にした物、それは柵で綺麗に隔てられた異質な光景だった。片方はきちんと片づけられていて清潔なのだが、もう片方は本やらお菓子の袋やら脱ぎ捨てられた服、下着等で床が見えないぐらいに埋め尽くされており、微妙に異臭も漂っている。

(清潔な方は多分バルクホルンさんだな……エーリカさんの姿が見えないけど……)

 そう考えながらカリスはエーリカの姿を探して辺りを見回す。その時……ゴミ山の中がもぞもぞ動いたかと思うと、そこからエーリカが眠い目をこすりながら這い出てきた。

「ふあああ……おはよ」
「エーリカさん、よくそんな中で寝られますね……」

 エーリカは眠い目をこすり、眠そうな目をしながらカリスの方を見て、ようやく彼の存在に気付く。

「はれ? なんでカリスがここにいるの?」
「バルクホルンさんに貴女を起こしてくれって頼まれたんです」
「ふーん……ふあああ、しょうがないからおっきよ」

 そう言ってエーリカはのそりと立ち上がる。そんな彼女の姿を見てカリスは急に顔を真っ赤にして後ろを向いた。そんな彼の様子にエーリカは首を傾げる。

「あれ? どうしたの赤くなって?」
「エーリカさん! 下! 何か履いて!!」

 そう、エーリカは今黒いシャツ一枚しか身に着けていない状態であり、下半身は何も身に着けていなかった。

「おっと、うっかり履き忘れてたわ。ごめんごめん」
「ま、まったく……風邪ひいたらどうするんですか」

 そう言いながらカリスは顔を赤らめたまま、いつもと変わらない様子でズボンを履くエーリカを尻目に部屋を出て行った。


 ちなみに、何故女の子の部屋にカリスを行かせたのか、バルクホルンの言い分はこうだ。

「いや、ハルトマンの奴も男に自分の部屋を見られれば恥ずかしくなって生活態度を改めると思ったのだ。全然効果は無かったみたいだがな!!」

 数分後、部屋を出たカリスとエーリカは食堂に向かいながら、何気なく会話を交わしていた。

「エーリカさんって本当に自由奔放ですよね」
「そーかな? カリスがお堅いんだよ。そういえばさ……カリスってこの世界に来る前は何してたの? ガロード達とは別の所に居たって聞いたけど」

 エーリカの何気ない質問に、カリスは一瞬くらい顔をするが、すぐに持ち直して問いに答えた。

「故郷のフォートセバーンという街で自警団を率いていました。あの辺は治安も良くないので」
「へーすごいねー。齢変わらないのにしっかりしているよねえ。私には絶対真似できないよー」

 エーリカはカリスに対し普通に感心する。するとカリスはふふっと笑った。

「僕はただ自分のすべきことをしているだけですよ。じゃあ僕はこれで」
「あれ? ご飯食べないの?」
「ええ、ちょっと用事があるので……」

 そう言ってカリスはエーリカと別れて医務室がある方向に向かって行った……。



☆ ☆ ☆



それから数時間後、エーリカはバルクホルンと共に朝のランニングをした後、眠い目をこすりながら自室に戻ろうとしていた。

「ふあああ……二度寝しよ……ん?」

 その時、たまたま通りかかった医務室の扉が開いている事に気付き、話し声がするので覗き込んでみる。中にはテクスとカリスがおり、何やら神妙な面持ちで話し合っていた。

「大丈夫か? 今月はまだ起こっていないし、ジャミルに言って休ませてもらった方がいいんじゃないか?」
「いえ……こんな大変な時に、僕だけ休むわけにはいきません」

(何の話しているんだろ……カリスどっか悪いのかな? まあいっか)

 話を盗み聞きしたエーリカは、そのまま病室の前から立ち去ろうとする。すると彼女の前方からバルクホルンがやって来た。

「ハルトマン、これからブリーフィングだぞ、今度決行する作戦についての説明だそうだ」
「ああ、そう言えばそんな話してたね……ってかトゥルーデ、なんか機嫌悪くない?」

 エーリカはいつも以上にしかめっ面のバルクホルンを見て首を傾げる。

「……今、アフリカからあいつが来ている」
「あいつ? うえー……マジで?」

 バルクホルンの話を聞いて察したエーリカは、とてもめんどくさそうに大きく溜息をついた。



☆ ☆ ☆



 数分後、ブリーフィングルーム……501とフリーデンの主要クルーが集まったその場所で、ミーナは数日後に行われる作戦について節寧していた。

「数日後にマルタ島を占拠するネウロイを排除するため、ウィッチを尖兵とした殲滅作戦を行います」
「ウィッチだけで? 俺達は出なくていいのかよ?」
「だな、ていうかさっさとサテライトキャノンでとっととロマーニャのネウロイの巣をフッ飛ばさなくていいのかよ?」

 ガロードとウィッツの素朴な疑問に、何故か答えにくそうに顔を歪めているミーナに代わりサラが答えた。

「軍の上層部が、あまり私達の力に頼るのをよしとしていないらしいのよ。あまりにも余所者の私達とミーナ中佐達ウィッチが活躍しているせいで彼等の立場が危うくなっているらしいの……だから中々攻撃命令が下らないらしいのよ」

 それを聞いたウィッツと、ロマーニャが故郷であるルッキーニは、互いに腕を組みながら怒りを露わにする。

「んだよそれ、プライドどうのこうの言っている場合じゃねえだろ! ロマーニャの住人は今でもネウロイに苦しめられているっていうのによ!」
「そーだそーだ!」
「私に怒りをぶつけられても困ります」

 そんな彼等の怒りをサラはクールに受け流す。するとミーナが重苦しい表情でジャミルやウィッツ達に頭を下げる。

「すみません……貴方達には協力してもらっている立場ですのに、こんな不愉快な思いをさせてしまって……」
「い、いや、アンタが謝る事じゃねえだろ」
「しっかし、軍のお偉いさんっていうのはどの世界でも身勝手なのばかりなんだねえ」

 ガロードはかつて相対した新連邦と宇宙革命軍の指導者達の事を思い出し、くだらないと言わんばかりに鼻をフンと鳴らした。
 すると美緒がサラの説明に補足を加える。

「フリーデンの今の立場も、前の戦いで赤城を失った扶桑の戦力の補強という名目で、カールスラント、ロマーニャ、扶桑に守って貰っている状況だからな……さて話を戻そう。マルタ島奪還作戦では我が501から一名、そしてアフリカから派遣されたウィッチ一名によって行われる」
「アフリカから?」

 その時、皆のいるブリーフィングルームに金髪ロングヘアーの、スタイルのいい長身の少女が入って来た。着ている黒い軍服からしてカールスラント軍所属だという事が解る。

「第31飛行隊ストームウィッチーズ所属のハンナ・マルセイユ大尉です。彼女には今回の作戦に協力してもらう事になります」
「よろしく! 子猫ちゃん達!」

 そう言ってハンナはウィンクして二本指をシュッと振る。それを見たカリスはある事に気が付く。

「あの人は……アフリカで会った……」
「あれ? カリスってハンナの事知っているの?」
「前の戦いのとき、ガロードを探してアフリカに行ったときにお会いしたんです」

 するとハンナはカリスとエーリカの姿に気付いて、期限が良さそうにニコニコ笑いながら近付いてきた。

「おおーハルトマン! それにお前はあの時のロボットの! お前等の噂はよく聞いているぞー!」
「げー……見つかった……」

 対してエーリカは面倒臭いと言わんばかりに、机に突っ伏しながらハンナから目を逸らした。よく見るとバルクホルンも面白くなさそうに腕を組みながらフンと鼻を鳴らした。

(なんでしょう? エーリカさんこの人のこと苦手なのかな?)
「おいおいつれないなハルトマン、私のライバルよ」
「マルセイユ大尉、今はブリーフィング中よ」

 周りの状況を無視して自由奔放に動くハンナに対し、ミーナは厳しい口調で釘をさす。

「へいへい、ミーナは相変わらず怖いなあ」

 ハンナはやれやれと溜息をつきながらエーリカ達から離れていく。そしてミーナは気を取り直して説明を続けた。

「マルタ島奪還作戦に参加するウィッチはこのマルセイユ大尉と、我が501からはバルクホルン大尉に参加してもらいます」
「ちょっと待てミーナ」

 突然、ハンナはミーナの説明を遮って、エーリカの方を見ながらふふんと不敵に笑いながら言い放った。

「この作戦でバルクホルンは私のパートナーにはふさわしくない」
「貴様……何が言いたい?」

 ハンナの一言に、今まで不機嫌そうに腕を組みながら話を聞いていたバルクホルンが立ち上がり、ズカズカと彼女に歩み寄る。対してハンナはバルクホルンを見下すような態度で言い放った。

「お前じゃ役不足だと言っているんだ。私のパートナーはハルトマンこそ相応しい」
「貴様……!」

 次の瞬間、バルクホルンとハンナは互いに手を掴みあい、魔法力を発動させて辺りに衝撃波をぶわっと放った。

「お前の上官を上官とも思わない態度……いい加減正さねばならないな!」
「今は階級は一緒の筈だが?」

 怒るバルクホルンを挑発するハンナ。一触即発の空気の中周りの人間は慌てふためく。その時……。

「はい、そこまでだ」
「ぬ?」
「う?」

 突然、バルクホルンとハンナの間に、コーヒーカップを二つ持ったテクスが割って入って来て、彼女達のそれぞれカップを手渡した。

「二人共、それを飲んで少し落ち着きたまえ、大抵の問題はコーヒー一杯飲んでいる間に解決する。後はそれを実践できるかどうかだ」
「いや、そんな問題じゃ……」

 バルクホルンが何か言おうとした時、突然エーリカが立ち上がる。

「私がトゥルーデの代わりに作戦に出るよ、それでいいでしょ?」
「え? ええ……あなたがいいのなら……」

 エーリカの一言でその場は丸く収まった。テクスの言う通り、コーヒー一杯飲んでいる間に……。



☆ ☆ ☆



 それから数日間、ハンナは作戦開始の日まで501の基地で過ごすことになり、事あるごとにエーリカに突っかかっては彼女に勝負事を仕掛けていた。
 実戦訓練ではエーリカに撃ち掛けるフリをしたり、ランニングでは競争に持ち込んだりと、ハンナはエーリカに対抗意識を持つのだが、相手をさせられている本人はというと、相手をせずにただただマイペースに、そしてやる気がなさそうに訓練をこなしていた。

「ふーん、じゃあハンナってお前らと同じカールスラント軍なんだ」

 そしてとある日の朝食時、エーリカはガロードとティファにハンナの事について聞かれ、とてもだるそうにしながら答えた。一方当のハンナはというと、勝手に朝食の早食い対決を始めていた。

「おかわりだ!」
「すみません、もう米櫃が空です」
「何ィ!? 私の勝ちだなハルトマン!」

 米櫃を空にして勝ち誇るハンナを無視し、エーリカはガロードとティファに説明を続ける。

「軍学校で私が主席とっちゃって以来、ああやって毎回私に勝負を挑んできてさ、もういい迷惑だよ」
「へー、つまり構ってちゃんって訳か」
「んがー! 無視するなハルトマン! うぷっ!」

 ここ最近勝負を挑んでものらりくらりと躱されストレスが溜まっているハンナ、そして食べ過ぎたゆえにちょっと吐きそうになっていた。すると隣にいたカリスが彼女の食器を見てある指摘をする。

「ハンナさん、納豆残してますよ」
「いや、これはいい、こんな粘っこくて臭いがキツイのなんて食べられるか」
「それは概ね同意ですわ」

 ハンナの意見に概ね同意するペリーヌ。ちなみに彼女もしっかり納豆を残している。するとウィッツが顔に青筋を立てて立ち上がった。

「バッキャロウ! 食い物を粗末にするんじゃねえ! 食えるもんはしっかり腹に収めねえとバチ当たるぞ!!」
「え~……」

 実家が農場を経営している故にその辺は厳しいウィッツ。さらに他のフリーデンの面々もウンウンと頷いてウィッツの意見に同意する。
 一方ハンナは嫌そうな顔をしながら納豆を食べる事を渋っている。するとカリスがにやりと笑ってハンナにある指摘をする。

「ハンナさん、エーリカさんはしっかり納豆食べていますよ? これじゃ負けちゃうんじゃないですか?」
「くっ……!?」

 カリスの指摘を受けて負けず嫌いの心が刺激されたのか、納豆の豆をつまんで口に運ぼうとするが、口に入れる寸前で止めて躊躇うハンナ。それを見たカリスはエーリカ達に目配せをしながら席を立った。

(後はウィッツさんに任せて行きましょう)
(お! サンキューカリス!)

 小声で礼を言いながら食堂を去って行くエーリカ達。

「で、ではわたくしもこの辺で……」

その後をこっそり付いて行こうとするペリーヌ。しかし……。

「くぉら! てめえも食べるまで逃がさねえぞ!!」
「んぎゃー! 見逃してくださいまし―!」

 ハンナとペリーヌが納豆を食べて解放されたのはそれから三時間後の事だった……。



☆ ☆ ☆



 その日の夕方、基地の格納庫にとある物資が搬入され、ガロードとバルクホルンははそれを見に格納庫にやって来ていた。

「キッド~、なんかカールスラントから武器が届いたってホントかよ?」
「ああ、ウルスラとあれから色々意見交換してな、まずこれを使える程度に直してみた」

 そう言ってキッドは近くに置いてあった物体の上に掛かっていたシーツを引っぺがす。そこにはストライカーが置いてあり、それを見たバルクホルンは驚きの声を上げる。

「ジェットストライカー!? 直せたのか!?」
「まあな、これなら魔力がカラカラになるまで吸い取られずに済む。ただこれ単体だと前よりスピードとパワーが落ちる。そこでこいつの出番だ」

 そう言ってキッドは重そうに人間サイズのジェット付きバックパックを持ってきた。

「これは宇宙服の推進剤発射するブースターを改造した奴でな、使わない魔法力をコイツのパワーで補う。もう早々にガス欠を起こすことはないさ」
「そんなことが可能なのか!?」
「まあそんなに推進剤詰めないから、10数分しか戦えないけどな。いざという時に使えるぜ」

 するとバルクホルンはバシバシとキッドの肩を叩いて彼を称賛する。

「すごいじゃないか! これをここまで使えるようにするとは……お前は天才だ!」
「いてて……! もっと優しく!」
「キッドー、DXの新装備ってなんだよ?」

 ガロードに言われ、キッドは部下達に指示して大きな物体に掛かっているシーツを剥がさせる。

「あ、これって……」
「なんだなんだ?」
「何してるのガロード君……あ」

 するとそこにエイラとサーニャがやって来て、ガロードと共にシーツの下の物体を見て驚いた。

「これって私のフリーガーハマーに……」
「リーネの対装甲ライフルじゃん! しかもデケエ!」

 そこにはサーニャがいつも使っているフリーガーハマーと、リーネの使っている対装甲ライフルがあった。ただしサイズはMSが握れそうなほど大きかった。

「ほら、DXってツインサテライトキャノンの他にはバルカン、バスターライフル、ビームソードしかないじゃん? チャージの間ビームコート持っている敵相手だと苦戦しそうだし、実態弾使う武器があったほうがいいんじゃないかって話になったんだ。だからウルスラの姉ちゃんの前面協力の元、ウィッチの武器をスケールアップした物を作ってみたんだ。本当は烈風丸も作ろうと思ったんだけど技術的な問題がなぁ」
「すっげえ! サテライトキャノンなくても戦えるだろコレ!?」

 強力な武器の登場に興奮を隠せないガロード。その時……。

「ふん、私から言わせればガラクタだな」

 風呂から上がって来てほんのり顔の赤いハンナが現れ、キッドが作った新兵器を見て鼻で笑い一蹴した。

「マルセイユ……キサマはまた!」
「なんだよー、俺達の作ったモンにケチ付けんのかよ」

 折角の昂ぶっていた気持ちをへし折られ怒るバルクホルンと、苦労して作った平気を馬鹿にされムッとするキッド。それでもハンナは馬鹿にしたような口調で二人を挑発し続ける。

「そんなガラクタに頼らなくても、私は戦えるさ。お前達は精々それで遊んでいろ」

 そう言い残しハンナは去って行き、バルクホルンは飛びかかりたい衝動を抑えて地団駄を踏む。

「んぎー!! あいつめえええええ!!」
「まあまあ」

 そんなバルクホルンをエイラは宥める。一方キッドは不機嫌そうに口を尖らせながら悪口を言う。

「あの女ぜってキャラ付間違ってるぜ! あんなのがカッコいいとか思って勘違いして、みんなにすげー嫌われるタイプだ!」
「具体的だねその指摘……」



 そんな彼等の様子を、物陰から見守っている人影が一つあった。その影はそのままハンナが去って行った方向へ歩いて行った……。



☆ ☆ ☆



「ハンナさん」

 数分後、その人影……カリスは、廊下を歩くハンナに追い付いて彼女に話し掛ける。

「なんだい? サインならしない主義だからお断りだぞ?」
「いえ……ハンナさんってどうしてそこまで勝ち負けにこだわるんですか?」

 カリスは自分の内に秘めていた疑問をハンナにぶつける。するとハンナは真剣な表情で答えた。

「戦場において、勝ち負けは最も重要だからだ、勝利以外に価値は無い……だから私は勝ち続けて、最強でなくちゃいけないんだ」

 そしてハンナはカリスに近付き、人差し指で彼の胸板を小突いた。

「無論、お前達MS乗りも私が倒すべき相手だ。訳の分からない兵器に……私の空を汚されてたまるか」

 ハンナのプライドの高さ故か、彼女の中にはネウロイに対して多大な戦果を挙げるMS乗りたちに対しても対抗意識が芽生えていた。
 それに対しカリスは、自分の胸に差し出された指を優しく掴んだ。

「貴女の勝ち負けに拘る姿勢は立派だと思います。でも……拘りすぎるといつか大きな過ちを犯すことになります。僕は……そうなった人を一人知っていますから……」
「……なんだそれ? まあいい、その忠告は心の隅っこにでも置いといてやるよ」

 興が削がれたのか、ハンナはつまらなさそうにハンッと鼻を鳴らしながらカリスの元を去って行った。
 カリスはそんな彼女の後姿を、どこか心配そうな表情で見つめていた……。



☆ ☆ ☆



 マルタ島奪回作戦決行の前日、エーリカは欠伸をしながら自分の部屋から出てきた。ちなみに現在エーリカは作戦の為と言われ、普段使っているバルクホルンと同室の部屋ではなくハンナと同じ部屋を使っている。
 ふと、エーリカは入口の近くで難しい顔をしているバルクホルンを発見する。

「ん? 何してんのトゥルーデ?」
「あ、いや……なんでも……」

 その時、エーリカはバルクホルンの手にハンナのブロマイド写真が握られている事に気付いた。

「何? ハンナのサインが欲しいの?」
「ち、違う! こ、これはその……クリスの為だ」
「クリス?」

 バルクホルンの話によると、妹のクリスはハンナのファンであり、自分にサインをもらってきてと強請って来たそうでなのだが、普段からそりの合わないハンナにサインを強請るなど出来ないと、入口の前で板挟みになって悩んでいたらしい。
 話を聞いたエーリカはやれやれとため息交じりに首を振ると、バルクホルンからブロマイドを取り上げた。

「いいよ、私が代わりに貰ってきてあげる」
「そ、そうか? すまないな、私は少し用事があるから後でな」

 そう言ってバルクホルンはエーリカに礼を言い、そのままどこかへ去って行った……。



☆ ☆ ☆



「バルクホルンにサイン? やだね」

 数分後、サインが欲しいと言ったエーリカに対するハンナの第一声がそれだった。

「トゥルーデじゃなくて妹のクリスにだよ、いいじゃんサインの一つや二つ」
「はっ! あんなシスコン石頭に書いてやるサインなんて一つもないね」

 そう言ってハンナは差し出されたブロマイドを天井に向かって投げ捨てた。するとエーリカは珍しく怒ったような表情でハンナを睨みつけた。

「おい……トゥルーデを馬鹿にするな」

 するとハンナはさらに挑発するような口調でエーリカに言い放った。

「なら私と勝負しろ、お前が勝ったらいくらでもサインしてやる」
「勝ったらするんだな?」
「ああ」

 こうして二人は次のマルタ島奪回作戦で勝負することになった……。



☆ ☆ ☆



 作戦決行当日、MSとウィッチ達を乗せたフリーデンは、連合艦隊と共に一路マルタ島へ向かっていた。ちなみに水中ではエーリカとハンナを乗せた潜水艦が潜航している。

「なあ、なんかエーリカの様子おかしかったよな?」
「そうだね……ハンナさんと喧嘩でもしたのかな?」

MSデッキではガロードとティファ、そして芳佳が先程見たエーリカの様子について話していた。

「あんなハルトマンさん初めて見た……いつも笑ったり眠そうにしている姿しか見なかったしね」
「うーん……大丈夫かな? 作戦でミスったりしねえよな?」

 いつもと様子の違ったエーリカを思い出して不安そうにするガロード達、するとそこにカリスがやって来た。

「ガロード、次の作戦……少し警戒した方がいいかもしれません」
「なんだ? ニュータイプの勘って奴か?」
「ええ……何か嫌な予感がします。警戒はしておいた方がいいかもしれません……」

 そんな彼を見て、芳佳は感心したようにカリスを褒める。

「すごね、そんなこともわかるんだ……確かカリス君もティファちゃんと同じニュータイプって言うのなんだよね。ホントすごいなあ」

 するとガロードとティファが、ちょっと微妙そうな顔をして話を逸らそうとする。

「う、うん……まあそうだよな」
「それより芳佳、次の作戦のフォーメーションの確認をしましょう」
「へ? あ、うん」

 そして去って行く芳佳とティファ、そして残されたガロードはカリスに話し掛ける。

「カリス……体の方は大丈夫なのかよ? 今月はまだ起こっていないんだろ?」
「ええ、ですが大丈夫です……皆の足手纏いにはなりませんから」

 そう言ってカリスは自分のMSの方へ歩いて行く。ガロードはそんな彼の後姿を心配そうに見つめていた……。



☆ ☆ ☆



 そして艦隊はネウロイによって発生させられた黒いドームに覆われているマルタ島を肉眼で捉えられるところまで接近し、フリーデンのMS隊と501のメンバーは、エーリカとハンナの支援の為に出撃する。その中にはもちろんカリスのベルティゴの姿があった。

『ここのネウロイを叩かないと私達の基地だけでなく、アフリカ戦線の味方への支援もままならない状態よ。だから要塞化したネウロイを内側から潜入して倒す。二人とも準備はいい?』

 ミーナが潜水艦にいるエーリカとハンナに指示を出す。

「いつでも行ける!」
「こっちもいいよ」

 そして二人を乗せる潜水艦は進んでいき、ドームの下を潜って浮上する。そして開け放たれたハッチからエーリカとハンナが飛び出してくる。
 ドームの中には小型のネウロイが多数、襲い来るそれらに二人はそれに銃撃を加えていった。

「敵数40!」
「38!」
『はあ? どっちだよ!?』

 エーリカとハンナのちぐはぐな報告にガロードは首を傾げる。しかし他の者はすぐにその意味を理解していた。

『どっちも合っているわ。次々と撃破しているのよ』
『す、すごいな……』

 そしてエーリカとハンナは次々とネウロイを撃破していく。

「残り29!」
「25!」

 ネウロイもまたビームで反撃するが、エーリカとハンナは体を回転させながら回避し、反撃でさらに撃墜していく。

「残り7!」
「5!」
「3!」
「2!」
「1!」
「「ゼロ!!」」

 そして最後の一隊を撃破するのと同時に、近くにあったコアに銃弾を撃ち込む二人。そしてコアはそのまま砕け散り、ドームも消滅して作戦は完了した。

『すごい……あれだけいたネウロイをもう全滅させやがった』
『やるねえ、二人共』

 二人の常人離れした活躍に、唖然とする501メンバーとMS乗り達。

「撃墜数……私は20だ」
「私も20」

 並んで飛行しながらそう言い放つ二人。そして次にすべきことを二人は理解していた。

「引き分けは好きじゃない」
「知ってるよ」
「決着をつけるぞ」

 次の瞬間、二人は真上に飛び出して一気に距離を取る。

『あん? 何してんだアイツら?』
「まさか……!」

 するとハンナはエーリカの背後を飛びながら、彼女に向かって銃の引き金を引く。先程までネウロイと戦う為に使っていた銃なので、もちろん実弾が込められている。エーリカはそれを横に移動するようにして回避した。

「う、撃ちましたよ!?」
「ああ、撃ったな」
『なんでそんなに冷静なんだよもっさん!! 止めなきゃ!』

 慌てて止めに入ろうとするDXを、美緒は手で制止する。

「ウィッチにはシールドがある。直撃したりはしないさ」
『そう言う問題か!?』
「ああ、そしてこの戦い……先にシールドを出した方が負けだ」

 そうこう言っている間に今度はエーリカがハンナの背後を取り銃撃を加える。その高度な技の応酬を交えた激しいドッグファイトにはもはや殺気すら感じ取れる。

『へー! 二人ともすげえじゃん』
『まあ私程じゃないけどな!』

 ウィッツとパーラはそんな二人の戦いぶりを見て素直に感心する。そして決着の時は近付いていた。

「くっ!」
「んっ!」

 二人は互いの息遣いが聞こえる程の間合いに飛びむ、銃身が交差し、銃口は互いの頭部に狙いを付ける。しかし二人共引き金を引くことは無かった。

「弾切れだ」
「私もだ」

 全弾撃ち尽くした二人は、ふっと笑みを交わした後銃を降ろした。

「決着ならず……か」

 そう言ってふうっと胸を撫で下ろす美緒、しかしその時……突然ティファとカリスが声を張り上げた。

「いけない……!」
『みなさん! まだ終わっていません!』

 ティファとカリスの声に驚く一同、その時……上空からいくつものビームが放たれ、それはガロード達を襲い連合艦隊の戦艦に何発か命中した。

「上!? あいつらは!」

 上空を見上げると、そこにはこれまでガロード達が倒してきたMS型ネウロイ10数体と、ガンダムヴァサーゴとアシュタロンの姿があった。

「このタイミングで増援!? 疲れた所を狙ってきたか!?」
「各機戦闘態勢! 迎撃して!!」

 美緒とミーナの指示で各個散開し、襲い来るフロスト兄弟の軍団を迎え撃つ。
 一方、エーリカとハンナは降りかかるビームの雨をギリギリで避けながら状況の打開を試みる。

「くそ! 弾も魔法力も切らしている時に……!」
「完全に隙を突かれたね。さてどうするか……」

 ふと、エーリカは今の状況を招いた自分のこれまでの行いを思い出し、冷や汗を流しながら自嘲気味に笑った。

(柄にもない事しちゃったからな……)
「ハルトマン!!!」

 その時、エーリカの後ろからフラッグ型ネウロイのビームが飛来し、彼女が履いているストライカーを掠める。

「うわっと!?」

 完全に油断していたエーリカはシールドを張ることが出来ず、そのまま海目掛けて落ちて行った。

「ハルトマアアアアアアアン!!!」

 ハンナは絶望に染まった顔でエーリカを追いかけようとする。その時……彼女の後ろからカリスの駆るベルティゴが駆け抜け、落ちそうになったエーリカを空中でキャッチした。

『大丈夫ですかエーリカさん!!』
「か、カリス……助かった~」
『お二人共早くコックピットへ!』

 そう言ってカリスはベルティゴのコックピットハッチを開き、エーリカとハンナをその中に避難させた。

「このままフリーデンに帰投します、しっかり掴まってて!」
「あ、ああ……!」
『行かせるか』

 そう言ってカリスがフリーデンに向かおうとした時、ベルティゴの前を一体のMS……ガンダムヴァサーゴが遮った。

「くっ!」
『逃がすか!!』

 カリスはヴァサーゴと距離を取ろうとするが、ヴァサーゴは折り畳み式の腕……ストライククローを伸ばしてベルティゴの肩を掴んで捕えた。いつものカリスなら避けられた攻撃なのだが、一緒に乗っているエーリカとハンナを気遣った故に反応が遅れてしまったのだ。

「くっ……」
『やあ、初めましてというべきかな? カリス・ノーティラス』
「通信……!?」

 カリス達はヴァサーゴからくる通信に耳を傾ける。

『君の事はよく知っている。宇宙革命軍のよって作られた人工ニュータイプ……』
(人工ニュータイプ?)

 初めて聞く単語に首を傾げるエーリカは、隣にいたカリスの顔色を伺う。カリスはただただ無表情にヴァサーゴからの通信を聞いていた。

『今日は君を我々の仲間として誘いに来たのだ。君には我々と同じ、力を持ちながら力無きものに無下に扱われ、世界に対し怒りを感じている……そうだろう?』
(なんだ? 何を言っているんだコイツ?)
「……」

 カリスは瞳を閉じ、何かを考えているようだった。

『来い、カリス・ノーティラス……我々は君を歓迎するぞ、仲間としてな』
「……貴方達は……」

 するとカリスは瞳を開け、静かな口調でヴァサーゴのパイロット……シャギアに語り掛けた。

「貴方は、僕が辿っていたかもしれない可能性だ。誰も手を差し伸べてくれず、破滅願望しかないただの哀れな人間だ……」
『何……!?』

 カリスの指摘に、シャギアは眉をひそめる。そしてさらにカリスは話を続ける。

「あの時……自分の出征の秘密を知って、彼に完膚なきまでに叩きのめされ、思い上がった愚かだった自分を消してしまおうと思った時……彼は手を差し伸べてくれた……だから今僕はこうして、この世界を守る為に戦っている」

 次の瞬間、ベルティゴは肩につかまっていたストライククローを振り放ち、背中から大量のビットをばら撒いた。

「僕が貴方達と戦っているのは……僕は僕だからだ! ニュータイプとかそんな事は関係ない!」

 そしてばら撒かれたビット全てからビームが発射され、そのすべてがヴァサーゴの至る所を撃ち抜いた。

『ぬおおおおおお!!?』
「……貴方にだって、そうしてくれる人がいる筈なのに……」
「カリス……」

 その時、ヴァサーゴは壊れかけの機体を辛うじて動かし、ベルティゴとの勝負を続けようとする。

(後の戦火の延焼を防ぐために、ここでトドメを刺さないと……!)

 カリスはそのままビームサーベルを握ってヴァサーゴにトドメを刺そうとする。

「!? う、ぐうううううううううう!!!?」

その時……彼の胸部に激しい苦痛が襲っい、機体ががくんと下がった。しかし一緒にいるエーリカとハンナを守る為、機体の高度は辛うじて維持した。

「お、おい!? どうした!?」
「カリス! おいカリス!!」

 突然苦しみだすカリスを気遣うエーリカとハンナ、するとヴァサーゴの傍にアシュタロンが近付いてきた。

『兄さん!』
『オルバ、戦況は?』
『少し圧されているね、こちらの戦力が8割削られたよ』

 アシュタロン……オルバの視線の先には、シャーリーによって撃墜されるトーラス型ネウロイの姿があった。

『なら退くしかあるまい。雇い主の依頼は達成できなかったがな……』
『わかった』

 アシュタロンはそのままMA形態に変形してヴァサーゴを背中に乗せ、そのまま残ったMS型ネウロイと共にその場から逃げ出した。

「お、おい待て!」
『おい無茶だ! 追いつかねえよ!』

 シャーリーはそのままアシュタロンを追いかけようとするが、パーラに止められ悔しそうに歯ぎしりする。

「ああんもう! 私の話を聞いてくれよ!」

 その時、ベルティゴからオープンチャンネルで、エーリカの悲痛な叫びが各機のインカムやコックピットに送られてきた。

『誰か! 誰か早く見てよ! カリスが! カリスがぁ!』
「!? カリスがどうかしたか!?」
『と、突然すごく苦しみだして……このままじゃ死んじゃうよぉ! 早く助けて!!』

 するとDXとエアマスターがベルティゴの肩を掴み、そのままフリーデンに帰投しようとする。

『すぐにテクスの所に連れて行くぞ! 芳佳! その間治癒魔法を!』
「え!? う、うん!」

 呼び出された芳佳はそのままベルティゴのコックピットに入り、ものすごく苦しそうにしているカリスを見て唖然とする。

「ああああがあああああああ!!!」
「カリス君……!? どうしたの一体!?」
「いいから早く助けてくれよぉ! カリス死んじゃうって!!」
「ああ! はい!」

 半泣きのエーリカとオロオロしているだけのハンナに急かされ、芳佳は急いでカリスに治癒魔法をかけ続ける。

 そしてカリスの容体が安定したのはそれから一時間たった後の事だった……。



☆ ☆ ☆



 ブリッジに集められたエーリカ以外の501のメンバーとハンナは、そこでカリスの体の事に付いてジャミルとテクスから説明を受けていた。

「シナップス……シンドローム?」
「……彼は戦争の道具として、宇宙革命軍の科学者によって人工的にニュータイプ能力を植え付けられたのだ。そしてその代償があの発作……シナップスシンドロームだ」
「シナップスシンドロームは月に一度、死に値するような激しい発作に見舞われる。治療法は未だに見つかっていない」
「そ、そんな……!」

 余りにもショッキングな真実に、芳佳達は言葉を失う。そんな彼女達を見てテクスは申し訳なさそうに頭を下げる。

「すまなかった……君達に心配を掛けさせまいと、彼に口止めされていたんだ。こういうことになるのなら早めに明かしておけばよかったな」
「そんな……謝らなくたって……」
「人工的に能力を植え付けるだと……そいつら、カリスを何だと思っているんだ!」

 話を聞いていたバルクホルンは、カリスにニュータイプ能力を植え付けた者に対し憤りを感じ、拳をギュッと握り締めた。そしてそれは他のウィッチ達も同じだった。
 そしてそんな彼女達を見て、ジャミルは安心したように笑みを零す。

「彼の事を本気で想ってくれるのだな」
「当たり前です、だって仲間ですもん!」
「まあ彼の体とどう向き合うかは彼次第だ、だからどうか……君達も彼の事を支えてやってほしい」

 テクスの願いに、ウィッチ達は皆コクリと頷いた……。



☆ ☆ ☆



 基地の医務室、そこでカリスは薬で眠らされてベッドに寝かされており、すぐ傍ではエーリカが付き添っていた。

「くっ……うう……」
「あ! カリス! 起きたんだね!」

 目を覚ましたカリスは体を起こそうとするが、エーリカに慌てて止められる。

「まだ寝てなきゃ駄目だよ、滅茶苦茶苦しそうだったのに! 私が似合わない事をするから! ゴメン、ゴメンね……!」
「い、いえ……いいんです、いつもの事ですから」
「いつもの事……!?」

 カリスはこれ以上隠しておけないと思い、自分の体の事……人工ニュータイプとシナップスシンドロームの事をエーリカに話した。

「僕がああやってニュータイプの力を使えるのも、人工的に力を植え付けられたからからなんです。その代償がコレです……」
「……」

 何も言わないエーリカ、しかしカリスは彼女が目から涙を流している事に気が付く。

「エーリカさん……? 泣いているんですか?」
「だって……カリスが可哀相だよ……! 望んで手に入れた力じゃないのに、そんな苦しい思いをして……」

 するとカリスはエーリカの頬を流れる涙を手で拭き取った。

「それは貴女達も同じじゃないですか」
「え?」
「貴女達のその力だって、望んで手に入れた訳じゃない、でも貴女達はその力を受け入れて、その小さな体で、皆を守る為にネウロイに立ち向かっている……僕はそんな貴女達にどれだけ勇気を貰った事か……」

 カリスはそのまま自分の胸に手を添えて、これまで自分の内に秘めていた思いを打ち明ける。

「だから僕は……これからもこの体と共に生きていこうと決めたんです。それが僕に出来る事をする為でもあるから……」
「カリス……」

 そのカリスの秘めたる決意に、エーリカの中にある思いが芽生えていた……。



☆ ☆ ☆



 次の日、基地の滑走路……そこでハンナはアフリカ行の輸送機に乗り込もうとしており、それをカリスの他何人かが見送りに来ていた。

「もうちょっとゆっくりして行けばいいのに……」
「向こうで雑誌の取材があるからな、私は忙しいんだよ、ああ、それと……」

 ハンナはサインを書いた自分のブロマイドをカリスに手渡す。

「これをバルクホルンの妹に渡してやってくれ」
「貴女が直接渡さないんですか?」
「そんな恥ずかしい事出来るか、それにこれは今回迷惑を掛けた詫びだ、それと……体の方はもういいのか?」

 ハンナは珍しくしおらしくなりながらカリスを見る。カリスはそれに微笑んで答えた。

「僕の方は大丈夫ですよ?」
「い、いやその……うん、まあそうだ。それとありがとう……あの時お前大変だったのに、私達を庇ってくれて……」

 ハンナは顔を赤らめながら、あの時カリスが発作に苦しみながらも、自分達を守ろうとしてくれた事に関してお礼を言った。
 するとカリスは意地悪っぽく笑いながらハンナに語り掛ける。

「心配してくれるんですか? ハンナさんって優しいんですね」
「へうっ!? や、優しいとか言うな!」
(あの子の「へうっ!?」なんて声初めて聞いたわ……)

 二人の様子を傍から見ていたミーナは、付き合いの長いハンナの新鮮なリアクションを見て笑ってしまい、顔を見られない様に後ろを向いた。
 一方ハンナは顔をさらに赤くしながら輸送機に乗り込んでいく。

「とにかく! この借りはいつか返すからな! 覚えておけよ!」
「はいはい」

 そしてハンナを乗せた輸送機はそのままアフリカへ向けて飛び立っていった……。



☆ ☆ ☆



 同時刻、エーリカとバルクホルンの部屋……そこでバルクホルンはいつものように寝坊しているエーリカを起こしにやって来た。

「起きろハルトマン! まったくお前はいつもいつも……!」

 ベットで毛布に包まっているエーリカを起こそうと近付くバルクホルン、その時彼女はエーリカのすぐ傍に、開いたままの分厚い本がある事に気付く。

「これは……医学書?」

 バルクホルンはふと、エーリカが以前ウィッチとして上りが来たら看護士になりたいと言っていた言葉を思い出す。おそらく彼女は夜遅くまで勉強していて寝坊してしまったのだろう。
 バルクホルンは、エーリカが夢を語る所から夢に向かって動き出すところまで来たのは、恐らく昨日のカリスとの一件が切欠だろうと推測した。

「……ふん、30分だけだぞ」

 そう言ってバルクホルンは、すうすうと寝息を立てているエーリカを起こさない様に、静かに部屋を出て行った……。










 本日はここまで、10月中に終わらせられる様にしたかったんですけど1日オーバーしました……。
 次回はストライクウィッチーズ2のラスト二話の話をベースに話が展開します。物語も大きく動き出します。
 とにかく11月中に完結させて、12月に新作出せればなあとか考えています。ではまた次回。



[29127] 最終話「私が私でいる為に」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2013/11/07 00:13
 最終話「私が私でいる為に」


連合艦隊が停泊する軍港、そこで美緒とミーナは司令室に赴き、そこで軍の上官達から、次の作戦の概要を聞かされていた。

「なんですって!?」

 その作戦内容を聞いて声を張り上げる美緒。一方ミーナは冷静に作戦内容を再確認する。

「司令……それでは今回の作戦にはウィッチやフリーデンの力は必要ないと?」
「そうは言っていない、君達はもしもの時の為の後方支援として出撃してもらいたい。何せ今回の作戦はネウロイではなくその巣だ、そしてその作戦の要は扶桑海軍の戦艦大和だ」

 するとすぐ近くにいた大和の艦長……杉田が立ち上がって説明を始める。

「はい、ヴェネツィア上空のネウロイの巣は大和が撃破します」
「艦長! 通常兵器の大和ではネウロイを倒す事は……!」
「通常兵器ではないのだよ少佐、アレは……我々の決戦兵器なのだ」

 憤る美緒を宥めるように将軍が声を発し、部下を使って美緒とミーナにとある資料を手渡す。

「これは……!?」

 資料に目を通した美緒とミーナは驚愕の声を上げた……。



☆ ☆ ☆



「大和をネウロイ化させる!? 本当なのかよそれ!?」

 数時間後、基地に戻って来た美緒とミーナは、他のウィッチやフリーデンの面々に次のネウロイ撃滅作戦について説明する。作戦はウォーロック実験を元に進められた、より安定したネウロイのコアコントロールシステムを使い大和をネウロイ化させ、ネウロイの巣を攻撃させる……という内容だった。
 無論、その場に居た皆は前の戦いでウォーロック……ネウロイのコアを使った技術がいかに危険か知っており、賛成する者は誰一人いなかった。

「おいミーナ……お前この作戦に納得しているのか!?」
「納得している訳ないじゃない……! でもこれは命令なのよ」

 バルクホルンの指摘に、ミーナは悔しそうに眉を顰めながら答える。すると話を聞いていたジャミルが頬杖をつきながら考察を始める。

「ふむ……もしかしたら司令官達は、自分達にもコアのコントロールが出来ると踏んだのではないだろうか? 実例は今まであったわけだし……」
「ああそうか、フロスト兄弟の奴等、ネウロイ化したMSと一緒だったもんな」
「けどアンタらの軍が出来るという訳じゃないんだろ?」

 ウィッツとロアビィの指摘に、ミーナは重苦しい表情で答える。

「でもこの先、消耗戦を続けるだけの戦力は軍に残っていない。我々にはもうこの作戦を成功させるしかないわ。失敗すれば……ロマーニャをネウロイに明け渡すことになる」

 そのミーナの一言を聞いて、ルッキーニは今にも泣きそうな顔でウィッツとシャーリーに縋り付いた。

「ね、ねえ? ロマーニャ無くなったりしないよね?」
「大丈夫だ、安心しろ」
「そうだぜ、それにいざとなったらサテライトキャノンを使う許可が下りるんだろう?」

 ルッキーニを抱いて落ち着かせているシャーリーを横目に、そう指摘するウィッツ。隣ではロアビィがウンウンと頷いて納得していた。

「だな、俺達には二重の作戦がある。負けはしないさ」
「ああ! いざとなったらDXでバーンと皆やっつけちゃうぜ!!」
「すぐ調子に乗って~」

 席から立ち上がり胸を張るガロードを茶化すパーラ。重苦しい空気に沈むブリーフィングルームに明るい空気が舞い込んできた。

「そうだよね……皆が居れば負けないよね」
「そーそー、私達11人のウィッチとフリーデンのMSがあれば負けないさー」
「……」
 
 ウンウン頷いて笑みを零すサーニャやエイラ達、しかしそんな彼女達を見て、美緒は何やら不安そうな顔をしていた……。



☆ ☆ ☆



 ネウロイ撃滅作戦……オペレーション・マルス決行前日の夜、フリーデンのブリーフィングルームにはガロード達フリーデンのクルーが集まっていた。

「しっかし、俺達がこの世界に来てから随分経つよな、もう一年以上になるのか」
「そうよねえ、向こうの世界はどうなっているのかしら?」

 ウィッツとトニヤはそんな事を語らいながら、ロアビィが出したウィスキーに口を付ける。するとビリヤードをしていたカリスが二人の話に入ってくる。

「僕も早くフォートセバーンの皆の所へ帰らないといけないのですがね、あの時僕達がこの世界に来た現象の正体が解ればいいのですが」
「あのガラスの雨の事か、あれって一体何なんだろうな?」

 ロアビィはこの世界に来る直前に体験した、ガラス片のような物が降る現象の事を思い出す。するとサラがある事を思い出し、ティファに質問する。

「そう言えばティファ……あの時貴女「世界が割れる」と言っていたわね、何か感じていたの?」
「あの時……ガラスが降る方角から何か沢山の意思や力が流れ込んできたのを感じました。今思えば……アレは芳佳達ウィッチの魔法力だったのかも」
「そう言えば貴女達、たまに共鳴みたいな事しているわね。ニュータイプとウィッチって何か関係があるのかしら……?」

 エニルが頬杖をついて色々と考えていたその時、レクリエーションルームに芳佳がやってきた。

「あ、皆さん……」
「どうしたんだ芳佳? 子供は寝る時間だぜ?」
「実は坂本さんを探していたんです。坂本さん……今朝から様子がおかしくて……」

 芳佳はガロード達に、今朝美緒の部屋を訪れた際、彼女の部屋に飾ってあった刀……烈風丸を触り魔力を吸い取られ、後から来た美緒に助けられ鬼の形相で怒られた事、そして先程のブリーフィングの時から美緒が何か思いつめた表情をしていた事を話した。

「そう言えば最近元気ないよなもっさん」
「心配ね……一緒に探す? ガロードも一緒に」
「う、うん、ありがとうティファちゃん」



☆ ☆ ☆



 芳佳はガロードとティファと一緒に、美緒を探しに基地を歩いて回る事になった。そして彼等は、誰も居ない格納庫で美緒の姿を発見する。

「あ、もっさん……」
「何しているんだろう?」

 美緒は格納庫の真ん中で、ストライカーを履きながら刀を握りしめていた。

(あれは……烈風丸?)

「今夜だ、今夜中に真・烈風斬を完成させなくては……!」

 美緒はどこか焦りの籠った呟きをしながら、足元に魔法陣を展開する。しかし出力が安定しないのか、すぐに魔法陣は小さくなりエンジンからバチバチと火花が散っていた。

「くっ……! ちゃんと回れ!!」

 美緒は無理やり魔力を安定させ、滑走路に向かってユニットを発進させる。
 しかし滑走路に出ようとした瞬間、美緒は中央にミーナが立っている事に気付き、彼女を避けようとしてそのまま転倒してしまう。

「さ……!」

 助けに行こうとした芳佳達を、何者かが手で制する。それは……ジャミルだった。

「ジャミル? なんでここに?」
「彼女の様子がおかしかったので様子を見に来たのだ。ここはミーナ中佐に任せよう」

 一方美緒は転倒して痛む体を必死に起こしながら、何も言わないミーナに声を掛けた。

「ミーナ……知っていたのか」
「……いつか、こうなる事は解っていたわ。まさに諸刃の刃ね……戦場で戦う力を得ると同時に、大量の魔法力を消費して、貴女の魔女としての寿命を縮める妖刀……」

 いつの間にか雨が降り出す。その中で美緒は必死に立ち上がり、烈風丸を握りしめて構えた。

「私はまだ、戦える!」

 刀身からオーラが発せられる。しかしそれはすぐに弱弱しい炎のようにすうっと消えてしまった。

「あ……!」
「もうやめて! 美緒!」
「まだだ! 私は必ず真・烈風斬を完成させる!」

 そう言って再び烈風丸に力を込めようとする美緒、しかし烈風丸は何も反応を示す事は無かった。
 そして膝を付いて崩れ落ちた美緒は、雨が降りしきる曇天の空を見上げ、叫んだ。

「頼む! 後一撃だけでいい! 私に真・烈風斬を撃たせてくれ! 私を……十一人の中に居させてくれ……! ミーナ……!」

 ミーナは堪らず、雨と涙でグシャグシャになっている美緒を抱きしめた。

「うあああ……うあああああああああああ!!!」

 曇天の空に、美緒の心からの懇願を込めた鳴き声が木霊する。そんな彼女を、ガロード達はただただ物陰から見守る事しかできなかった。
 その時ふと……ジャミルが重い口を開いた。

「元々持っていた力を失うのは辛いだろうな、何かを守る為に戦ってきたであろう彼女ならなおさらだ。境遇は似ていても私とは大違いだ……」

 ジャミルがかつて持っていたニュータイプ能力を失ったこと、そしてそれに関係したある出来事の事を知っているガロードとティファは、彼に対し何も言えなかった。そしてジャミルは芳佳に話し掛けた。

「芳佳……できる事なら君は、坂本少佐の仲間として彼女を支えてやってくれ。彼女を救うにはそれしかない……」
「は、はい! わかりました!」

 ジャミルのアドバイスに、芳佳は暗い気持ちを吹き飛ばす様に元気よく答えた。


 そして、決戦の日はやって来た。



☆ ☆ ☆



 昨晩の雨から一転して晴れあがったアドリア海を、赤城や大和他多数の連合軍艦隊と共に進むフリーデン、そこから11人のウィッチ達、そしてDX、エアマスター、ベルティゴ、Gファルコンが出撃し、レオパルドとジェニスはフリーデンの艦上で砲台として待機していた。
 その横では今回の作戦の要となる大和が並行して進んでいた。



「キャプテン、もうすぐネウロイの攻撃半径に入ります」

 シンゴの報告に、艦長シートに座るジャミルはコクリと頷き、隣の赤城に乗る杉田艦長に通信を入れる。

「杉田艦長……ご武運を」
『そちらも、終わったら酒でも飲み交わしましょう』
「ふっ……はい」

 そしてヴェネツィア上空のネウロイの巣が視認できるところまで艦隊が進んだとき、そこから無数の円盤型ネウロイがわらわらと出てきた。

「各機、大和のネウロイ化が終わるまで、相手ネウロイを各個迎撃せよ。三分でいい……時間を稼ぐんだ」
『了解! ガンダムDX! いくぜぇ!』

 ジャミルの号令と共に、501のウィッチ達とMS隊は、DXが先頭になってネウロイの軍勢に向かって行った。



「いっくぞルッキーニ!」
「らじゃー!!」

 シャーリーはルッキーニの腕をつかむと、彼女をブンブンと振り回してそのままネウロイが密集している所まで投げ飛ばす。ルッキーニはそのまま弾丸をばら撒いてネウロイを大量撃破した。

「ふいー! やたっ!」
「あ! おい後ろ!」

 すると大量に撃破して油断しているルッキーニの背後から、さらに大量のネウロイが襲い掛かる。

『オラオラ―!』
『全部撃ち落としてやんぜー!!』

 するとそこにMA形態のエアマスターとGファルコンが飛来し、ルッキーニを攻撃しようとしたネウロイを次々と撃破した。

「おー!やるジャン二人共!」
『バカ! まだ敵はいるんだぞ!』
『さっさと片付けようぜ!』

 ウィッツはルッキーニを叱り飛ばしながら、次々襲い来るネウロイの群れに、シャーリー、ルッキーニ、パーラと共に突っ込んでいった。



 フリーデンと大和の周りに群がるネウロイの大群、エイラはそれを挑発しながら一列になる様に引き付けていた。

「ほーらこっちこっち!!」
『いいわ、そのまま引き付けてなさい』

 そして一か所に集まったタイミングで、フリーデンの上に居たレオパルドとジェニス、そして上空のサーニャは一斉に引き金を引く。
 沢山のビーム弾とミサイルの雨を受け、ネウロイの大群は一気に殲滅された。

『よーし次だ、引き続き頼むぜお二人さん』
「任せとけー!」
「はい……!」



 少し高度のある所、そこでバルクホルンとエーリカ、そしてカリスの駆るベルティゴは、襲い来るネウロイを次々と撃破して行った。

「あーん! 数が多すぎるー!」
「泣き言を言うなハルトマン! 勲章があっちから飛んできたと思え!」
『僕が貴女達の背中を守ります、目の前の敵に集中して!』
「わかった!」



 一方芳佳は、大和に向かって発射されたネウロイのビームをシールドで防ぎ、その隙を突こうとするネウロイを、ティファが彼女の背中を守る様に撃破していった。

(私が、私が坂本少佐の分まで頑張らないと……)

 芳佳の心の中で焦りが生じる、そんな彼女の心情を察してか、ティファが心配そうに声を掛ける。

「無茶しないで芳佳、私達も居るんだから」
「うん! ありがとうティファちゃん!」

 美緒はその様子を眺めながら、苦しそうに肩で息をしながら冷静に戦況を分析する。

「ネウロイめ、大和が普通じゃない事に気付いたか……! くっ……!」
「大丈夫少佐?」
「平気だ、皆が頑張っているのだ……私も休んではいられない!」

 心配するミーナに対し力強く答えた美緒、その時……連合艦隊が放った弾幕から逃れたネウロイの一団が、孤立していたペリーヌとリーネを取り囲んだ。

「囲まれた!?」
「ど、どうしましょう?」
「任せろ!」

 それを見た美緒は高く飛び上がり、ネウロイの一体に烈風丸を振り降ろした。

「烈風斬!」

 しかし……烈風丸の刀身はネウロイを切り裂くことはなく、カキィンという金属音と共に、下にあった大和の艦橋に突き刺さった。

『もっさん!』

それを見たガロードすぐに、DXのブレストバルカンでリーネ達を取り囲むネウロイを一掃し、美緒の傍に機体を寄せた。

『おいもっさん! 怪我は……!』
「烈風斬が……効かない?」

 美緒はガロードの問いに答える事はせず、自分の予想以上の魔法力の低下にショックを受けながら両手を見つめていた。

「もう私は……誰も守れないのか? 戦えないのか……?」
『もっさん……』

 その時、オペレーターのトニヤが全機体、全ウィッチに向けて通信を入れてくる。

『各機! 大和のネウロイ化が始まるわよ! 補給が必要なMSと魔法力の低下したウィッチはフリーデンに戻ってきて!!』

 すると、大和のブリッジが突然ネウロイの表面のように黒い細胞に覆われ、それは光の破片をまき散らしながら徐々に広がって行った。

『本当に大和がネウロイ化している……!』
『ガロード、念のためサテライトキャノンを撃てる準備をしておけ。この戦場……何が起こるか解らないぞ』
『わかった!』

 ジャミルの指示に従い、機動衛生上のBATENから発せられるマイクロウェーブを受け取るDX。そうこうしている間に大和は完全にネウロイ化し、そのまま海面から空中に浮上し始めた。
 大和は襲い来る小型ネウロイを対空砲火で撃破しながら、ネウロイの巣に向かって一直線に飛んで行った。

「すごい……」

 その圧巻な光景に、芳佳達ウィッチ達はフリーデンへの帰還を始めながら驚いていた。

「任務完了……各機、DX以外はフリーデンに帰還して。少佐……私達の任務は成功したのよ」

 ミーナはバツが悪そうに美緒に話し掛ける。美緒は目に涙を溜めながら天を仰いでいた。

「……私にとって生きる事は戦う事だった。だが……もうシールドを失い、烈風斬も使えない……!」
「……貴女は十分戦ったわ」

 ミーナは美緒を慰めながら、他の者達と一緒にフリーデンに帰還して行った。
 一方、完全にネウロイ化した大和は、小型ネウロイによって破壊された箇所を急速に修復しながら、巣へ向かって突き進んでいく。

『すっげえ……再生しながら進んでいるぜ』
『それに火力も凄まじいですね』

 そして大和はネウロイの巣の核に突き刺さり、辺りに凄まじい衝撃波が放たれる。しかし……後は主砲を撃つだけなのだが、何故か大和は動かなくなった。

「……? どうして撃たないの?」
「まさか!?」

 その時、各員にトニヤの切羽詰った通信が聞こえてくる。

『艦長! 大和の魔導ダイナモが停止し、主砲が撃てないそうです!』
『なんだと!?』

 するとネウロイの巣から小型ネウロイが多数出現し、爆撃で大和を攻撃し始める。

『おい! このままじゃ大和がやられちまうぞ!』
『サテライトキャノンのチャージはまだなのかよ!?』

 ウィッツとロアビィの催促に対し、ガロードは少し焦ったような声を上げる。

『そ、それが……マイクロウェーブが来ないんだ! まだチャージが終わらないんだ!』

 そうこうしているうちに、小型ネウロイは他の連合艦隊に対し攻撃を始め、次々と被害を広げていく。

「このままじゃ全滅しちゃうよ!」
「作戦は失敗なのか……!?」

 皆の間に諦めムードが漂う、その時……美緒が突然、ネウロイの巣に向かって飛び出した。

「まだだ! 私が行って大和に乗り込み魔導ダイナモを起動させる!」
『待つんだ少佐! サテライトキャノンのチャージが終わるまで待て!』
「そうしているうちに全滅してしまう! 行かせてくれ!」

美緒はミーナ達の制止を振り切り大和へ向かう。そんな彼女を魔法力を消費してしまったウィッチ達は追いかけることが出来ず、MS隊が追いかけるがネウロイに遮られて追いつかなかった。

(皮肉なものだな……戦う力を失った私が、唯一飛ぶだけの魔法力を残しているのだからな……紫電改、大和まででいい、私を連れて行ってくれ!!)

 美緒はネウロイのビームを掻い潜りながら大和のブリッジへ入って行った。その様子を……芳佳達は不安そうに見守っていた。

「美緒……無事に帰ってきて」
「坂本さん……」



☆ ☆ ☆



 一方、大和ブリッジに入り込むことに成功した美緒は、そこにある魔導ダイナモに自身の魔力を注ぎ込む。

「もっとだ……もっとだ!」

 すると美緒の履く紫電改が徐々にネウロイ化していく。それを見た美緒はふっと自重めいた笑みを浮かべた。

「そうか……お前は私を必要としているのか……ならば行くぞ大和! 私が私でいる為に!」

 気合一閃と言わんばかりに叫ぶ美緒。すると魔導ダイナモの出力が上がり大和の主砲が起動する。

「うてえええええええ!!!!」

ネウロイの巣のコア目掛けて一斉に砲撃を開始する。それと同時に、ネウロイの巣は轟音と爆炎に包まれた。



☆ ☆ ☆



 瘴気と暗雲が晴れ、辺りに青空が広がる。そしてネウロイの巣があった場所からは光の破片がキラキラと海に向かって降り注いでいた。

『もっさんは!? もっさんはどうなったんだ!? おい!』
『あの爆発では……!』

 皆が美緒の安否を気遣う中、トニヤの通信が聞こえてくる。

『大和の反応を確認! 健在みたいです!』
『大和が無事なら坂本少佐も……!』

 その報告を聞いてほっと胸を撫で下ろす一同。その時、カリスは大和の様子を見てある事に気が付く。

『おかしい……大和のネウロイ化が解けていません。もう元に戻っている筈なのに……』
「! ネウロイの反応が復活!」

 そのサーニャの一言に驚愕する一同、すると大和の背後に……その10倍以上はありそうな巨大なネウロイのコアが現れた。

『嘘……でしょ!?』
『お。おいあそこ!』

 その時、パーラが巨大なネウロイのコアを見て何かを発見する。ネウロイのコアの中央には……美緒が四肢を取り込まれた状態で捕えられていた。

「坂本さん!」
『まさか!? 取り込まれたっていうのかよ!?』
『全機! 急いで坂本少佐の救助を……!』

 サラが咄嗟に指示を出そうとしたその時、ティファは何かを感じ取ってハッと上空を見上げる。

「来る……」
「え? どうしたのティファちゃん?」
「何か、禍々しくて大きな悪意が……」

 それと同時にサーニャも、魔導レーダーに何かを捉えた。

「中佐、この空域に何か大きなものが来ます。戦艦……? いや、それ以上……」
「何ですって!?」










「……ここまで“本筋通り”に事が進むとはね……」





 その時、ネウロイのコアの背後に、芳佳達の使う物とは違う、別の紋章が描かれた魔法陣が出現する。

「な、何アレ? あれもネウロイの攻撃?!」
『艦長! レーダーに反応! MAクラスです!』
『何……!?』

 すると魔法陣の中から巨大な一本足を生やした、緑色のMAが現れる。そのMAは至る所から触手のような物を伸ばし、巨大なネウロイのコアを取り込んでいった。

「な、なんですの!? アレもMSですの!?」
『MA……!? でもあんなの見たことないわ』
『なんでもいい! 早くもっさんを助けに行かないと!』

 そう言ってDXはネウロイのコアに向かって飛び出そうとする。しかしその時……上空から数発のビームが降り注ぎDXの行く手を遮った。

『フロスト兄弟!?』
『彼の邪魔をしないでもらえるかな? ガロード・ラン!』

 上空から現れたヴァサーゴとアシュタロンは、フリーデンのMS隊にこれ以上進行させないようビームで弾幕を張る。

『おい! なんだよあのMAは!? アレもお前達の兵器か! あのコアをどうする気だ!』
『アレは我々の野望を叶えるMAだ』
『君達に“彼”の邪魔はさせない』

 その時、ウィッチ達のインカムにMSのコックピット、そしてフリーデンのブリッジに、聞いた事のない少年の声の通信が入る。

『やあ、初めまして……フリーデンの諸君、そして501戦闘航空団……ストライクウィッチーズの皆』
「!? 誰!?」
『お前か!? フロスト兄弟の雇い主って言うのは!?』

 ガロードの質問に対し、その少年の声は彼を小馬鹿にするような声で答えた。

『ふうん……君達はあのジジイから何も聞かされていないみたいだね。当然か……君達の頭じゃ理解できないだろうしね。この“分離世界”の事、自分達が本当は何者なのかを……』
『何言ってんだお前!? 何者なんだよ!』
『僕の名前はカウフマン……何れ全ての世界を統べる神となる存在さ』
『か、神?』

 突拍子も無い少年の言葉に、ガロードは一瞬唖然としてしまう。すると……巨大なMAの背後の何もない空間が、突然ガラスのようにパキパキとひび割れる。
 そしてパリンとひび割れると……その先には何もない荒野と、何か黒い塔の様な物が建っている光景が広がっていた。そして辺りには光るガラスの欠片のような物が吹雪のように待っていた。

『!? おい! これって!』

 フリーデンのメンバーは似たような現象を、この世界に来る直前に体験しており、カウフマンと名乗った少年がこれまでの出来事に深く関係している事に気付いた。

『では……また会おう。向こうで待っているよ……宮藤芳佳』
「え?」

 突然名指しされて戸惑う芳佳。そしてMAとフロスト兄弟はそのひび割れた空間の向こう側に入って行った。

『行こう兄さん、今度こそ僕達の夢をかなえる為に……』
『そうだな、オルバよ』
『ま、待てえ!』

 ガロードはフロスト兄弟を追いかけようとするが、彼等と巨大MAはひび割れた空間の先に行ってしまい、空間は再び出現した魔法陣によって修復されていき、数秒後には元の何もない空間が広がっていた。

 そしてヴェネツィアは、まるで何も無かったかのような静寂に包まれてた……。










 はい、これにてサテライトウィッチーズ2は最終話となります。引き続きエピローグをご覧ください。



[29127] エピローグ「刻を超えて ~Over Sky~」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2013/11/08 10:03
ヴェネツィアでの戦いから数時間が経った。



 基地に一度戻って来たフリーデン、そしてそのクルー達と美緒とミーナを除く501のウィッチ達はブリーフィングルームに集まる。各々、これまでの展開の付いて行けず暗い顔をしていた。

「坂本さん……どこに連れていかれたんだろう?」
「折角ヴェネツィアを解放できたのに、これじゃあ……」
「何なんですのあの声は!? 坂本少佐をどうするつもりですの!」

 どうしていいか解らず、ただただ喚き散らすペリーヌ、するとそこに……上層部からの指示を受け取って来たミーナが帰って来た。

「ミーナ、上層部はなんと?」

 バルクホルンの質問に対し、ミーナはどこか疲れたような顔をして答えた。

「……501は本日をもって解散、坂本美緒少佐の捜索はロマーニャ軍が続けるそうよ」
「501が、解散……!?」

 ミーナの言葉に、501のメンバーは一斉に立ち上がり、彼女に問い詰めた。

「そんな……予定されていたこととはいえ……!」
「まだ何も終わっていないんですよ!? あのネウロイも、坂本さんの行方も分からないのに……!」
「私だって何とかしたいわよ!!!」

 そしてミーナの怒号が、501のウィッチ達を黙らせる。ミーナはそのまま膝をついて泣き崩れてしまった。

「私だって、何とかしたいわよ……美緒を助けたいわよ……! でも、どうにもできないのよ……!」
「ミーナ……」

 バルクホルンとエーリカは、泣き崩れるミーナに寄り添って彼女を慰めた。
 そんな中、フリーデンの主要クルー達は何やら考え事をしているのか、ずっと黙り込んでいた。そんな彼等にエイラが話し掛ける。

「なあお前ら、さっきから黙ってどうしたんだ? あの一本足のデカブツの事、何か知っているのか?」
「……あのMAの後ろに広がっていた光景……」

 その時、ガロードが重い口を開いた。

「あの黒い塔、見たことがある」
「どういう事だ?」
「あの光景……俺達のいた世界だったんだ」

 その瞬間、ブリーフィングルームにいた皆がガロードに視線を向ける。すると他のフリーデンクルーもポツリポツリと話し始めた。

「あのガラス片も、俺達がこの世界に来る直前に体験した現象だったよな」
「どういう事なんだろうな? フロスト兄弟は何か知っているのか?」

 そう言って考え込む一同、その時……。

「やれやれ、どうやら一足遅かったみたいじゃな……」

 いつもガロード達を助けてくれる謎の老人が、ボロボロの身なりでブリーフィングルームにやって来た。

「じいさん!?どうしたんだよその格好!?」
「いやはや、奴等がBATENを狙って攻撃し始めたから守りに行っていたんじゃよ……結局破壊されてしまった、奴等の計略にまんまと嵌められてしまった」
「BATEN、壊されたのか……通りでマイクロウェーブが来なかった筈だ」

 するとジャミルが立ち上がり、壁に寄りかかる老人に問いかけた。

「教えてください、貴方は何を知っているのですか? 坂本少佐を浚ったあのMAの事を知っているのですか?」
「うーん……知っているには知っているが、全部説明するには時間が掛かる。だから要点だけ言うぞ」

 すると老人は呆然としている芳佳を指さした。

「はっきり言おう、奴等の狙いは君じゃ、宮藤芳佳」
「え!? 私!?」

 突然名指しされて驚く芳佳、すると老人はリモコンのような物を取出し、ブリーフィングルームにあるボードの上に、大きなスクリーンのような物を出現させる。そしてスクリーンには先程現れた一本足のMAが映っていた。

「このMAの名は“グロムリン・フォズィル”……“Re細胞”と呼ばれる特殊な細胞組織を取り込んだ、寄生植物の様な兵器なんじゃ」
「グロムリン・フォズィル……?」

 聞いた事のない兵器の名前や用語に、一同首を傾げつつも、老人の説明を聞き続けた。

「このMAは最大の力を引き出すためにコアとなる人間が必要なんじゃ、条件は二つ、子を宿す事の出来る、生命力の強い女性である事。そしてもう一つは魔法力のような特殊な力を持つ、または特殊な兵器を扱える戦闘力の高い者である事じゃ」
「魔法力……じゃあ坂本少佐が攫われたのはその為……?」

 ペリーヌの問いに対し、老人は首を横に振って答える。

「奴等が坂本美緒ごとネウロイのコアを取り込んだのは、恐らくネウロイの力をグロムリンに取り込む為、僅かな坂本少佐の力を繋ぎとして使う為、そして……宮藤芳佳をガロード達の世界……アフター・ウォーの世界に誘い込むためじゃよ」
「な、なんでわざわざそんな事を?」

 リーネは訳が分からず老人にさらに質問する。すると老人はガロード達の方をちらっと見て、深く溜息をつきながら答えた。

「理由は二つ、Re細胞には自己再生機能という特殊能力が備わっており、宮藤芳佳の治癒魔法と相性がいいという事、そしてもう一つは……アフター・ウォーという世界が、グロムリンにとって苗床に適した世界だという事じゃ」
「どういう事です?」
「Re細胞は自己再生機能を応用した、死体を屍人の兵として動かせる能力を持っているのじゃ、つまり……死体が多ければ多い程、奴は戦力を強化できる」
「成程な、俺達の世界は生きている人間より死んでいる人間の方が多いからな、そういうのには適しているのかもな」

 老人の話を聞いて皮肉めいた笑みを浮かべるロアビィ、そして老人は黙ったままのジャミルに話し掛ける。

「ジャミル艦長……これからどうする? もし元の世界に帰りたいのなら、ワシがその道を作り出そう」
「そんなことが可能なのですか?」
「奴等が作り出したこの世界とお主たちの世界との道……今ならワシの固定することが可能じゃろう」

 すると話を聞いていた芳佳が、意を決した表情で老人とジャミルの前に立った。

「お願いですおじいさん! 艦長! 私も連れて行ってください!」
「なははは! やっぱりそう来たか!」

 老人は芳佳の行動を読んでおり、あまりの予想通りの展開に大笑いした。そしてすぐに真剣な眼差しで芳佳を見る。

「じゃが……奴等の狙いは君じゃ、もし敗れるようなことがあれば、君はあの化け物に取り込まれて、人間でもなんでもない、鉱物に近い存在として永遠に等しい生を送らねばならん。それでも行くのかね?」
「行きます!」

 老人の脅しとも忠告とも取れる言葉に臆することなく、芳佳は即答し、自分の考えを伝えた。

「あの人達の狙いが私であろうと関係ありません! 私は坂本さんを助けたいんです! それに……あのネウロイのコアを取り込んだMAがガロード君達の世界にいるって言う事は、その世界が危ないって事なんですよね?」

 芳佳はちらっとガロードの方を見て、胸に手を当てつつ微笑みながら話を続けた。

「ガロード君達はこれまで、私達の世界を守る為に命を掛けて戦ってくれました。だから今度は私が、ガロード君達の世界を守りたいんです!」
「わ、私も行きます!」
「わたくしも行きますわよ! 少佐を助けたいのは同じですし! 宮藤さんだけでは頼りないですわ!」

 すると傍にいたリーネとペリーヌも、芳佳と共にアフターウォー行きを志願する。すると他のウィッチ達も次々と手を上げていった。

「私も行く、あの兄弟に一言伝えたいことがあるんだ」
「私も! ウィッツの故郷見てみたいもん!!」

「私もいくぞ、やられっぱなしは性に合わねえ」
「私も……あの人達を放っては置けない」

 そしてエーリカとバルクホルンは、これまでずっと黙り込んでいるミーナに話し掛ける。

「ミーナ、私達はどうする?」
「無論、私達はお前が止めようが行くつもりだがな」
「……」

 するとミーナは意を決した表情で顔を上げた。

「……命令違反なんて私、軍隊に入って初めてよ……けど私は、カールスラント軍人としてではなく……坂本美緒の、そして貴方達の仲間として付いて行きたいと思います」
「ミーナ中佐……」

 そのミーナの決意に、ジャミル達は少し感激に近い感情を抱いた。そしてそれを見た老人はウンウンと頷いて歩き出した。

「出は皆、フリーデンに乗り込むのじゃ、これからわしの力で“刻の扉”を生成する」

 

 一同がフリーデンのある格納庫に向かうと、そこでは連合軍の軍人たちがずらりと立ち並んでいた。その中心には……今回の作戦を立案した軍の上層部の者達が立っていた。

「どこに行こうというのだね? ミーナ中佐?」
「司令、私達は……」

 ミーナが弁解しようとした時、ジャミルが彼女の前に立った。

「我々を行かせてください、これは我々にしかできない事なのです」
「……」

 すると司令官ははぁーっと、少し長めの溜息をついた。

「今回の事態は、我々の認識の甘さが招いた事だ、止める権利など無いさ、それに……このお方の頼みなら尚更だ」

 すると司令官を始めとした兵達が、波が引く様に道をあける。そしてそこから……赤毛の白いドレスを着た、神々しい雰囲気を放つ少女が現れた。

「貴女は……!」
「あ! マリアだ!」

その少女……ロマーニャ公国第一公女マリアは、ジャミル達の前に悠然と立ちながら、優しく微笑みかけた。

「貴方達は私達のロマーニャを、この世界を幾度も救ってくれた英雄……そんな貴方達にできる事と言えばこれぐらいしか……」
「いえ、ありがとうございます、マリア公女殿下」

 そしてフリーデンクルーと501のウィッチ達は出航し、海に出る。海には連合艦隊がずらりと並んでおり、乗組員たちが艦橋に出て敬礼していた。

 そして近くの海の見える岬の先端には、いつの間にか老人が立っていた。

「さあ、出でよ“刻の扉”よ……刻を超えて世界と世界を繋げ!」

 次の瞬間、フリーデンの目の前に巨大な魔法陣が出現し、そこから四角い扉のような物が出現した。

「ぬおおおお!!!」

 老人は体から電流のような物を流しながらさらに力を込める。すると扉が光を放ちフリーデンは光に包まれた。

「じいさん!!」
「おじいさん!!」

 ガロードと芳佳がフリーデンから岬を見ると、そこには光の粒子を巻き上げながらうっすら消えかかっている老人の姿があった。

「ワシは大丈夫じゃ! それよりとっとと行かんか!」
「いや! 全然大丈夫そうに見えないんですけど!?」
「アンタ人間じゃないのかよ!?」

 老人は消えかかっている右手でぐっと親指を立てて、二人にエールを送った。

「ガロード! もしすべてが終わったらD.O.M.E.の所に行くんじゃ、彼はすべてを知っている! だから死ぬんじゃないぞ!!」
「……ああ解った! だからまた会おうぜじいさん!」



 そしてガロード達を乗せたフリーデンは光に包まれ、この世界から姿を消した……。



☆ ☆ ☆



 光が晴れ、フリーデンは何もない砂漠地帯を進んでいた。

「く……サラ、状況は?」
「このポイントは……北米大陸、セントランジェ付近です」
「戻って来たのか、俺達……」

 ブリッジに居たクルー達は自分達の元いた世界に無事帰還できホッと胸を撫で下ろす。するとそこに、芳佳達501のメンバーがわらわらと入って来た。

「艦長、状況は?」
「ああ、無事我々の世界に着いたようだ」

 その時、外の景色を見ていたルッキーニが声を上げる。

「うわー! なんかスッごく大きな塔が建ってる! 何アレ!?」

 ルッキーニが指さす方向には、少しぐにゃりと曲がった、黒くてボロボロな塔が建っていた。その高さと大きさは、彼女達が居た世界では到底作れないような大きさだった。
 するとトニヤが、はしゃぐルッキーニに説明する。

「アレはね……戦艦よ、15年前宇宙から落ちてきた……ね」
「アレが戦艦……!?」
「ああ、詳しくは一息ついた後にしよう、確か近くに街があった筈だ」

 そしてフリーデンは町を探し求めて砂漠を進む。芳佳達ウィッチがこの世界の現実を知るのは、それからしばらく経った後の事だった……。



エピローグ「刻を超えて ~Over Sky~」










 ~次回予告~

貴方達がいたから、私達は未来へ歩き出す決意ができた。

君達がくれた笑顔の魔法で、僕達は羽ばたける、雲を抜けたその先へ。

だから行こう、一緒に……皆の未来を守る為、皆の夢を守る為に……。



 最終章 サテライトウィッチーズ ~月光の魔女~



 それは、星の海を駆ける機械人形たちと、月の光に導かれた魔女達の、“絆”の物語。










 という訳で月光の魔女編に続きます。分割にすると話数稼ぎとか言われて怒られるかなと思ったのですが、舞台もAWに移動する訳ですし、それっぽい演出にしたかったのでこのようにしました。
この作品の構想プロット、実は最初は“501のメンバーがAWの世界に行ってガンダムXの物語に介入していく”という物だったのですが、宇宙戦どうするのとか、あまりのも話が長くなるという事で今の形になりました。これからやる最終章はその流用が混じっています。
では今日はこれまで、最終章は全四話程度を予定していますのでよろしくお願いします。



[29127] サテライトウィッチーズ ~月光の魔女~  第一話「私達にできる事」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2014/01/13 12:09
 ※サテライトウィッチーズ最終章となります。本筋はエピローグ含めて全四話+αの予定。
 ※オリジナル設定とかバンバン出てきますのでご注意を。

 では始まります。










 第一話「私達にできる事」



  ~???~

 薄暗い部屋、そこには大きなネウロイのコアが置かれており、その中心には美緒が四肢を固定された状態で捕えられていた。
 その姿を、少年……カウフマンは、豪華な装飾を施された椅子に座りながら眺めていた。

「カウフマン様」

 するとそこに、銀髪の少女がカウフマンの元にやって来た。

「どうした? “D”?」
「フリーデンがこのアフター・ウォーの世界にやってまいりました。どうやらウィッチ達も一緒のようです」
「ふふん、やはりな」

 カウフマンは立ち上がると、目を閉じて気を失っている美緒の元へ近付き、彼女の頬を摩った。

「君にも役に立ってもらうよ坂本美緒、宮藤芳佳が僕の伴侶として相応しくなるようにね……」

 カウフマンの顔に、歪んだ笑みが浮かび上がっていた。



☆ ☆ ☆



 そんな彼の様子を、隠しカメラで眺めている、金髪で口ひげを蓄えスーツを着た壮年の男の姿があった。

「ふむ……精神状態は良好のようだ、後はガンダムとの戦いでどのような結果を残すか……」
『アリューゼ』

 すると、男の背後に複数のスクリーンが浮かび上がる。各々に違ったデザインの軍服やスーツを着た男達が映っていた。

「これはこれは……スポンサーの皆様方、どうしましたか?」
『どうもこうもない! 貴様……我が軍のMSを提供したというのに! あのような野蛮人や小娘共に撃破されるとはどういう事だ!!』

 スクリーンの一つに映る黒い軍服を着こんだ大柄の男は、アリューゼと呼ばれた壮年の男を怒鳴り付ける。
 すると波打つように他のスクリーンに映る男達も怒声を浴びせてきた。

『もうすぐ我々は決起する時が近付いているというのに、無駄な時間を割いている暇は無いのだがな』
『来たるべき日が近付いている時に、あのような欠陥兵器を売り付けられても困る』

 派手な装飾の軍服を着た老人と、厳つい雰囲気を醸し出す緑色の軍服の苦言に、アリューゼはまあまあと宥めるジェスチャーを取った。

「申し訳ございません……何せアレは未完成なので、“シメール”の素材にはネウロイだけでは足りないのです」
『貴様! 未完成品を我々に売りつけようとしたのか!?』

 大柄の男は短気を起こし立ち上がる。

『まあまあ皆さん、落ち着いてくださいよ』

 その時、水色のスーツを着た男が、騒ぐ男達を冷静に宥めた。

『未完成品とはいえ、アレは並みの軍隊じゃ太刀打ちできない戦力を有しているんです。それが完成した姿……見たくはないですか? 折角MSの提供や多額の融資をしているんだ。どうなるか最後まで見てみましょう』
『そうそう、焦っては損ですよ。MSの設計図も提供しているというのに』

 水色のスーツを着た男の意見に、隣のスクリーンに映る、左右対称的な肌の色をした青年が妖しく笑いながら同意する。

『ふん! まあいいいわ! 結果を出せないようだったらすぐにでも切り捨ててくれる! よく覚えておけ!』

 そしてスクリーンはあ水色のスーツの男が映っている物を除き消える。

『やれやれ、あのような客相手にビジネスとは、心底同情しますよ』
「いやはやお恥ずかしい……何れそちらに完全な状態でお送りしますので、もう少々お待ちください」
『確か別の世界でテストを始めるとか……その時は僕にも一枚かませてくださいよ? あの二人のようになるのは御免ですからね』

 そう言い残し、水色のスーツの男はスクリーンから消えた。
 それを見たアリューゼはふうっと溜息をつき、自分の首に巻いてある水色のネクタイを締め直した。

(ま、客が焦るのも無理はないか、“あんなもの”を見せられればな、ブラッドマンやザイデルのようにはなりたくはないだろう)

 その時、アリューゼのすぐ傍に小さなスクリーンが浮かび上がる。そこにはメガネを掛けた黒いスーツの男が映っていた。

『専務、D社から電話が入っております。例の契約、承諾するとのことです』
「そうか、うまく行けば大儲けの案件だ。気合いを入れんとな。しかし……いい加減休暇が欲しいなあ、最近家にも帰れてないよ……」

 アリューゼは金髪のオールバックを櫛で整えると、その部屋を後にした……。



☆ ☆ ☆



 フリーデンが元の世界に戻って来てから数日、フリーデンは物資の補給の為、近くにあった町……セントアンジュの近くに停泊していた。

 そしてその中のレクリエーションルームでは、ウィッチ達がいずれ来るであろう戦いに備えて思い思いに体を休めていた。

「うにゃー、本当に何もない所だねー」

 ルッキーニは外に広がる景色を眺めながら呟いた。

「ああ……ガロード達の話じゃ、この世界は十五年前の戦争で大きく傷ついたらしい」
「人類の9割が死滅した、第七次宇宙戦争……」

 この世界の現実を目の当たりにし、芳佳達は少し暗い顔をする。するとエイラがぽつりと口を開いた。

「私さ、ガロードと初めて会ったとき、この世界の事を聞かされていたんだ。あの時は現実味が無くて信じられなかったんだけど、実際目の当たりにするとな……」
「人同士の争いで、ここまでひどくなるなんて……」

 サーニャもまた悲しそうな顔で、窓の外に広がる荒野を眺めていた。

「おーい、みんなー」

 するとそこに、ガロードが呑気な顔をしながらウィッチ達のいるレクリエーションルームにやって来た。

「どうしたの? ガロード君」
「いやさ、ジャミルに買い出し頼まれてさ、よかったら誰か一緒に来ないか?」
「ですが……」

 ペリーヌはガロードの意見に難色を示す。これから決戦があるかもしれないというのにそのような呑気な事はしていられないと言いたげに。それでもガロードは引き下がらない。

「折角この世界に来たんだしさ、お前らにもこの世界の事よく知ってもらおうと思って……駄目か?」
「うーん……」



☆ ☆ ☆



 数分後、フリーデンのブリッジ。

「キャプテン、ガロードが芳佳さん、リネットさん、ペリーヌさんと一緒にセントアンジュに向かいました」
「そうか……」

 サラの報告を聞いて、溜息をつきながらシートに深く座り直すジャミル、するとそこにミーナがやって来た。

「ジャミル艦長、これから我々はどうするのですか?」
「取り敢えず補給と情報収集だな、今バルチャーの知り合いと連絡を取り、物資を少し分けてもらうつもりだ、それまで君達はゆっくり休んでいたまえ」
「はい……」

 そしてミーナはブリッジの外に広がるAWの世界を見渡す。それを見たジャミルは彼女に声を掛けた。

「……中佐はこの世界を見てどう思う?」
「その、少なからずショックを受けたというか……まるでこの世の終わりに来てしまったみたいな……」
「そうか」

 ミーナの意見を聞いて、ジャミルは深く溜息をつくと、そのままポツリポツリと語り始めた。

「……君達のネウロイに巣食われている世界に飛ばされた時、異形の怪物に立ち向かう人類を見て、私は人とはここまで一致団結できるのかと感動に近い感情を覚えた。それと共に……ネウロイが居なくなったらこの世界はどうなるのだろう? もしかしたら何れ我々の世界のようになってしまうのではないかと思ってしまった」
「……」

 ジャミルの話を聞いたミーナは、かつて美緒が自分達の都合ばかり主張する上官達を見て、ネウロイが居なかったらきっと世界大戦でも初めて居ただろうという会話を思い出していた。あの時の美緒は冗談交じりで話していたが、今目の前にいるジャミルは本気でその事を危惧しており、ミーナ自身も窓の外に広がる戦争の傷跡が刻まれている景色を見て、決してそれが空想の産物ではないという事を実感していた。

「まあいい、今は目の前の問題を片付けよう、未来の事はその後に考えればいい」
「……はい」

 そしてミーナはそのままブリッジを出ていく。ジャミルと同じように、心の内に大きな不安を抱きながら。



☆ ☆ ☆



 数十分後、セントランジェの表通り、様々な出店が立ち並ぶこの通りに、ガロードは芳佳、リーネ、ペリーヌを連れて買い出しに赴いていた。
 
「なんか、今まで見てきた町と随分雰囲気が違うね」
「そーだな、この雰囲気久しぶりだ」

 久しぶりに吸うアフターウォーの空気を噛み締めるガロードと、初めて踏み締めるこの世界の土の感触を感じている芳佳達。ふと、彼等は街の至る所で怪我をして疲れ切った表情をしている人が何人かいる事に気付いた。

(やけに負傷している人が多いですわね……戦争でもあったのでしょうか?)
「おや? アンタもしかして……」

 その時、ガロードの元に中年の太目の女性が近付いてきた。すぐ傍には一歳ぐらいの男の子がウロチョロしている。

「ん? なんだ? どっかで会ったっけ?」
「ほらアンタ! 前にこの街を襲ってきた盗賊をやっつけた子だろう!? いやー、まさかまた会えるなんて、礼を言ってなかったねえ」

 そんな二人のやり取りを見て、リーネが声を掛ける。

「ガロード君、この人と知り合いなの?」
「いや、実はフリーデンに乗る前、この街に来た盗賊を追っ払ったことがあってさ……そっか、覚えていてくれたのか」
「もちろんだよ! アンタはこの街の恩人だからね! ところで……」

 女性はふと、ガロードの後ろにいる芳佳達をいぶかしげに見つめる。

「アンタ達、何パンツ姿で街をうろついているんだい?」
「「「へ?」」」

 女性の指摘に、一斉に首を傾げる芳佳とリーネとペリーヌ、一方ガロードはその指摘に手をポンと叩いて理解する。

「ああそっか、考えてみればそれが普通の感想だよな、芳佳達と一緒に居る期間が長すぎて疑問に思わなくなってたよ」
「どういう事ですの? というか……」

 ペリーヌはふと、通りを行きかう人々が自分達を指さしてヒソヒソと話をしている事に気付いた。

「なんだあの恰好? こんな真昼間に……」
「何かの罰ゲームかしら?」
「おかあさーん、あのお姉ちゃんすごいローライズー」
「これ! 見ちゃいけません! 後どこで覚えたのその単語!?」

 そんな好奇の目で見られる芳佳達は、少し居心地が悪そうだった。

「な、何かものすごく見られているね……」
「そんな格好しているからだよ! 追剥にでもあったのかい?」
「いやいや、実はこれこいつらの故郷の習わしでさ……ほら、ジャングルの奥で全裸で生活している部族とかいるじゃん、アレと同じだよ」

 必死に誤魔化すガロード、すると女性はふうっと溜息をついて売り物である色々な野菜が入った箱を持ってくる。

「まあいいさ、あの時の礼に安くしておいてやるよ」
「おー! サンキューおばさん!」

 そんなやり取りをしているガロードの背後でじっと待っている芳佳達、その時……芳佳は自分の服の裾を何者かにクイクイ引っ張られた。

「ん? 何?」

 芳佳が後ろを振り向くと、そこには5歳ぐらいの黒髪長髪の黄色いワンピースを着た小さな女の子がいた。

「おねーちゃん、どうしてスカート履いてないの?」
「スカート? うーん……いつもこの格好だし……」
「へんなのー、どこから来たのお姉ちゃんたち?」

 少女の質問に、困ったような顔をして考え込むリーネとペリーヌ。

「うーん、何て答えればいいんでしょうねペリーヌさん」
「まさか異世界から来たなんて言えませんし……」

 その時、芳佳は何か思いついたといった表情で少女の質問に答える。

「あのね、お姉ちゃんたちは空から来たの、魔法の箒に乗ってね」
「お空?」
「うん。お姉ちゃんたちはウィッチなんだ」

 すると女の子はぱあっと笑って芳佳達にすり寄ってくる。

「ウィッチって絵本に出てくるあの!? 後ろのお姉ちゃんたちもそうなの!?」
「そうだよー」
「まあ、間違ってはいませんわ」
「すごーい! すごーい! ねえねえ、どんな魔法が使えるの!?」

 そんな楽しそうなやり取りをしている芳佳達と女の子を見て、女性は嬉しそうに笑う。

「あの子があんな顔するの久しぶりに見たよ」
「ん? どういうこった?」
「あの子の両親はね、この前起こった新連邦と宇宙軍の戦争に巻き込まれて死んじまったのさ、今は私が引き取っているんだけどどうもね……似たような境遇の子が増えてきてどこも大変なのさ」

 そんな女性とガロードのやり取りを聞いたペリーヌは、少し真剣な面持ちで考え込んだ。

(ここにも両親を亡くした子供が……)
「ねえねえ、お姉ちゃんはどんな魔法が使えるの?」

 そんなペリーヌに話し掛ける女の子、するとペリーヌはすぐに笑顔を作り女の子との会話に戻った。

「そうですわね……雷を出せますわ」
「わー! すごいー! 私にもできるかなー?」

 そしてガロードは女性からさらなるこの世界の現状を聞き出そうとしていた。

「でも戦争も終わったし、ここ最近は平和なんだろ?」
「とんでもない! 今度はあちこちに変な怪物が出る様になってもう大変なのさ!」
「え、怪物?」

 女性の言葉に首を傾げるガロード、その時……街中に突如サイレンの音が鳴り響いた。

「なんだ!? 警報!?」
「大変だ! 奴等が来たんだ!



☆ ☆ ☆



 一方フリーデンのブリッジでは、突然駆けこんできたサーニャが魔導針である反応をキャッチし、オペレーター席に座るトニヤに指示を出していた。

「南南東の方角から……ネウロイの反応! 数20!」
「ネウロイ!? なんでこの世界に!?」
「考えるのは後だ! 各MS及びウィッチは出撃! 街の人々を守るんだ!」

 ジャミルの指示を聞いて、サーニャはブリッジを飛び出して格納庫へ向かう。

「ガロード達は!? まだ街にいるのか!?」
「今バルクホルンさんが迎えに行っています!」



☆ ☆ ☆



 セントアンジェにある見張り台、その上にいる見張り台の男は、双眼鏡で遥か彼方から向かってくるネウロイの大群を確認しながら、近くにあった警報を鳴らしていた。

「この前の奴等が来た! みんな武器を取るんだー!」

 一方地上では町の人々が迫撃砲を引っ張り出したり、バズーカ砲を持ち出して戦闘態勢を取っていた。

「い、一体何が……」
「ここ最近、海の方から黒いテカテカした化け物が現れるようになったのさ! 結構な数の街が消されてね……その生き残りが結構この街に集まってきているんだよ」
「それって……!」

 ガロード達はそれを聞いて、女性が言う化け物が何なのか察した。そして女性はガロードに銃を差し出した。

「兄ちゃん! よかったら手伝ってくれないか! お嬢ちゃん達はその子と一緒に隠れてな!」

 一方、女の子はカタカタと小さく震えながら芳佳にしがみついていた。

「お姉ちゃん……怖い……」

 すると芳佳はニッコリ笑いながら少女の頭を優しく撫でた。

「大丈夫、お姉ちゃんたちに任せて」
「え?」
「言ったでしょう? 私達は……」

 その時、空の向こうから一つの影がガロード達の元に向かって飛んできた。芳佳とリーネとペリーヌのストライカーを抱えたバルクホルンである。

「宮藤―! 持ってきてやったぞ! 使え!」
「バルクホルンさん!」

 そんなバルクホルンの姿を見て、女性や少女、周りにいた街の人達は目を丸くして驚いた。

「あ、アンタら一体……!?」

 芳佳達はストライカーユニットを履きながら、その問いに答えた。

「私達は……ウィッチです!!」

 そして芳佳、リーネ、ペリーヌは魔法力を発動し、空へ向かって勢いよく飛び出した。その光景を見てガロードはにやりと笑う。

「ま、どの世界でもアイツらのやる事は変わらないのね」



☆ ☆ ☆



 空高く飛び上がった芳佳達は、後から来たエーリカからそれぞれ武器を受け取った。

「重っ……さっさと片付けちゃおうよ」
「はい!」

 その頃地上では、地走型のネウロイがレーザーで街の迫撃砲を破壊していた。

「うわあ! もう駄目だ! 街に入られる!」

 そして逃げ惑う者、死ぬ覚悟で迎え撃とうとする者が出る中、ネウロイは猛スピードで街に入ろうとする。その時……天空から一発の銃弾がネウロイを撃ち抜き、ネウロイはガラス片になって砕け散った。

「え、え?」
「なんだ!? 空に何かいるぞ!」
「女の子が空を飛んでいる!!?」

 そこには狙撃の姿勢を取ったまま次の標的に標準を合わせているリーネを中心とした芳佳達が居た。街の人達は空から現れた芳佳達姿を見て驚く。するとそこにミーナが飛んできた。

「皆さん! ここは私達が食い止めます! 今のうちに避難と負傷者の手当てを!」
「え、あ、はい!」

 訳のわからぬまま街の人達はその指示に頷く。そしてミーナはすぐさまネウロイの元へ飛んで行った。

「何なんだあの子達は……パンツ姿だし」
「おまけに可愛い……」

 一方501のウィッチ達は街に迫る地走型ネウロイを次々と撃破して行った。

「しかし数が多いな……確かアフリカで確認されたタイプのネウロイだったか」
「どーでもいいよ、さっさと片付けよう」

 バルクホルンとエーリカは背中合わせになって回転しながら、手に持った銃で周りのネウロイを次々と撃破していく。

「サーニャ! 援護するぞ!」
「うん……!」

 大型のネウロイに突撃していくエイラ、その後ろをサーニャが追い、フリーガーハマーの強烈な一撃で粉砕し、二人は爆炎の中を突き抜けて空柄舞い上がって行く。

「せやせやせやせやー!」
「いやっほー!!!」

 ルッキーニとシャーリーは地上すれすれを飛びながら、地上を走るネウロイ達を一斉に撃破していく。

「……! みんな! 後方から超大型が来るわよ!」

 その時、ミーナが後方からくる大型のネウロイに気付き、芳佳達に警戒を呼び掛ける。
 その大型ネウロイはフリーデンに似た形と大きさをしており、まっすぐ、そして早い船速でセントアンジェの街に向かっていた。

「フリーデンの同型艦を利用したのか!?」
「早く止めないと……! 小型はウィッツ達に任せて私達はあれを食い止めよう!」

 その時、戦艦型ネウロイは主砲を稼働させ、砲身をセントアンジェに向ける。

「いけない!!」

 ミーナがそう叫んだ瞬間、砲身から一発、二発と主砲が放たれる。どちらも街へ直撃するコースだ。

「……!」

 迫りくる砲弾、それを見た女性は近くにいた自分の子供と女の子を身を挺して庇う。その時……。

「駄目えええええ!!!」

 芳佳がその間に割って入り、魔力シールドで二発の砲弾を防いだ。

「わあ……!」

 その光景を見た女の子は、思わず感嘆と憧れの念を芳佳に向ける。
 一方リーネは対装甲ライフルの標準を、戦艦型ネウロイの主砲……それも砲身に向けて定め、そのまま引き金を引く。
 銃弾は風を切り、そのまま砲身の中に撃ち込まれ、戦艦型ネウロイは中から爆発を起こし赤いコアを露出させる。

「トドメですわ! トネール!!!」

 すぐさまペリーヌは体に電撃を纏い、そのまま戦艦型ネウロイに突っ込んでいった。戦艦型ネウロイはコアを破壊され、他のネウロイと共にガラス片になって爆散した。

「やったー! ペリーヌさん!」
「ふう、口ほどにもありませんわね」
 
 ペリーヌは芳佳とリーネに抱き着かれながら、余裕綽々と言わんばかりに静電気で跳ねあがった自分の金髪を整える。そして他のウィッチ達もペリーヌを中心に集まってくる。
 その時……街の方から歓声が上がる。

「すげー! なんだあの子達!?」
「街を守ってくれてありがとー!」
「後で写真撮らせてくれー!」

 その様子を見て、芳佳は気恥ずかしそうに笑った。

「あはは……何だか目立っちゃってるね、私達」
「そうだね」
「さてと、ガロードさんと買い出しの荷物拾って帰りますわよ」

 芳佳とリーネとペリーヌはストライカーを履いて飛んだまま9ガロード達の元に戻って来た。

「よう、お疲れさん」
「さあガロードさん、帰りますわよ」

 そう言ってペリーヌはガロードの首根っこを掴み、芳佳とリーネは買い出しの荷物を持って飛び立とうとする。するとその様子を見ていた女の子が手をブンブンと振って声を掛けてきた。

「お姉ちゃんありがとー! また遊びに来てねー!」
「うん! 絶対に来るからー!」

 そして芳佳達は声援を送る街の人達に手を振りながらフリーデンに帰還する。ふと……ペリーヌに掴まれているガロードは、隣で飛んでいた芳佳が笑っている事に気付いた。

「どうした芳佳、ニヤニヤして?」
「うん、あのね……どんな世界に居ても、私達にできる事、やる事って変わらないんだなって思って」

 芳佳はあの少女が自分に向けた笑顔と感謝の言葉を思い出し、自分の中である決意が芽生えたのを感じていた。

「だな、お前等らしいよ」

 ガロードはそんな芳佳に微笑み返した。



☆ ☆ ☆



 数時間後、フリーデンに戻って来たガロードや芳佳達は、レクリエーションルームに集まり先程セントアンジェに現れたネウロイに付いて話し合っていた。

「しっかし、なんでこの世界にネウロイが現れたんだ?」
「ネウロイがいるって事は……やっぱりどこかに巣があるって事だよな」

 ウィッツとロアビィがそんな話をしている時、芳佳がある事を思いだした。

「そう言えばセントアンジェで会ったおばさん、ネウロイは海から現れたって言ってました」
「海……か、向こうの世界と似たような場所に巣を張っているんだな、奴等は」

 その時、ガロード達のいるレクリエーションルームにサラが入って来た。

「皆、艦長の知り合いのバルチャーからの情報が来たわ。一度ブリッジに来てください」
「何かわかったのかな?」



☆ ☆ ☆



 数分後、ガロード達はブリッジに集まる、それを確認したジャミルはブリッジのモニターを起動させる。するとそこには30代ぐらいの、少し貫禄のある女性が映し出された。

「久しぶりだな、ローザ」
『はぁいジャミル、少し見ない間に個性的なクルーが増えているじゃないの』
(ローザ……? ああ、アルタネイティブ社に攫われたティファを助けるときに手伝ってくれた、あのバルチャー艦の艦長か)

 モニターに映る女性……ローザを見てロアビィや他のクルーは彼女とは(モニター越しだが)以前会っている事を思いだした。

「ローザ、君はあの怪物……ネウロイがどこから来たか知っているのか?」
『ええ、この写真を見て』

 ジャミルに言われるがまま、ローザはモニターにある写真を映し出す。写真には水平線の上に聳え立つ黒い雲の塔が映っていた。それを見た芳佳達ウィッチはすぐさま反応する。

「ネウロイの巣!」
『これは情報屋から買い取った写真なんだけどね、どうもここからあの黒い怪物どもが湧き出ているらしいのよ。お陰で用心棒の仕事は増えすぎちゃってね、どこも手が足りない状況なのよ』
「新連邦は何をしているんだ? 市民を守るのは彼等の仕事だろう?」

 ガロードの質問に、ローザはふーっと溜息をついた。

『前の大戦でブラッドマンが死んで、後釜に座った奴等がどうも頼りなくてね……指揮系統が滅茶苦茶であまりうまく行っていないみたいなのよ。前政権の横暴なやり方に反発した反抗勢力の反乱を鎮める為に防衛のための戦力を削いでいるし、はっきり言って充てにならないわ』

 それを聞いたバルクホルンは腕を組んで不機嫌そうに鼻をフンと鳴らした。

「まったく、詳しい事情はよく知らんがこの世界の軍隊は情けないな、権力を振りかざしているからいざという時にしっぺ返しを食らうのだ」
「いっそトゥルーデが鍛え直しちゃえば?(そうなりゃ私の負担が減るし)」
「いいなそれは……よし、この事件が終わったらこの世界で軍事顧問でもしてみるか。無論お前も一緒に」

 トゥルーデの提案に結局こうなるのか……と言わんばかりに苦い顔をするエーリカ。そしてジャミルはローザに質問する。

「この写真が撮られた場所は?」
『人工島ゾンダーエプタがあった場所よ』
「ゾンダーエプタ……!」

 その島の名前を聞いたガロードの表情が険しくなり、それを見た芳佳とティファが彼に話し掛ける。

「ガロード君? その島の事知っているの?」
「あそこには……あの人が眠っている」
「ああ、それにDXを手に入れた場所でもあるんだ。ネウロイはなんだってあんな場所に巣なんて作ったんだ?」

 その時、リーネがモニターに映るネウロイの巣を見てある事に気が付く。

「あ、あの……この下の方に小さく映っているのって、もしかして坂本少佐を取り込んだグロムリンってMAじゃ……」
「え!?」

 それを聞いたトニヤは慌ててリーネの示した箇所を拡大する。するとそこにはリーネの言う通り、グロムリン・フォズルらしき機体が映っていた。

「間違いない、あのMAだ」
「じゃああそこに美緒が……彼女を浚った一味がいるのね」
「我々の行先が決まったな」

 そしてジャミルはシートから立ち上がると、ガロード達に向けて号令を下す。

「フリーデンはこれより戦力を整えた後に、ゾンダーエプタ跡に向かう。各自準備を進めてくれ」



 こうしてフリーデンは来たるべき決戦に向けた準備を進める。この世界を守る為、そして今まで続いて来た戦いを終わらせるために……。



☆ ☆ ☆



 人工島ゾンダーエプタがあった場所……かつてガロードの駆るDXのツインサテライトキャノンの一撃によって跡形も無く吹き飛んだその場所には今、ネウロイの巣が渦のように聳え立っており、その中の中心にまるで巨大要塞のように大きい、神話の世界に出てくる箱舟の様なデザインの黒い戦艦が停泊していた。
 そしてその中にあるMSデッキらしき場所、そこでカウフマンは大勢の作業員によって整備されている一機の黒いMSを眺めていた。

「カウフマン様、フリーデンが周辺のバルチャーを集めてこちらに向かっているようです」

 するとそこに、白い髪の少女達数名が報告に現れる。その報告を聞いたカウフマンはにやりと笑った。

「ふぅん、じゃあお出迎えのパーティーの準備を急がなきゃね、サプライズゲストも招いて……ね」

 その時、黒いMSの元に大きなカプセルが運びこまれる。中にはピンク色の脳みその様な物が詰まっていた。

「カウフマン様、アレは……」
「あれかい? お得意様の一人が技術提供のお礼にって作ってくれたものさ、“バイオ脳”と言うらしい。まあクローン脳というものさ。君達の仲間のようなものさ」
「……」

 そして黒いMSの中にカプセルが積み込まれていく。それを見たカウフマンは背を向けて歩き出した。

「さあ行こう……僕が新たなる神話になる為に」



☆ ☆ ☆



 その頃、芳佳達の世界のロマーニャの501の基地……その滑走路に、マリアは一人海を眺めていた。その視線の先には、フリーデンがくぐった扉が静かに佇んでいた。

「殿下、お体に障ります」

 後ろにいた護衛の男がマリアに声を掛けるが、彼女は首を横に振る。

「私は大丈夫です」
「……なにやらお悩みのようですが、あのウィッチ達とフリーデンの事を考えていたのですか?」

 護衛の男の質問に、マリアは静かに語り始めた。

「彼女達は私達を……この世界を守り抜いてくれました。ですが私達は、死地に向かう彼女達をただ送り出す事しか出来なかった……それが悔しいのです」
「では、貴方はどうしたいのですかな?」

 するとそこに、ガロード達を元の世界に送り返したあの老人が現れ、マリアに語り掛ける。

「私に何が出来るのでしょうか?」
「自分が今心の中で思ったことを実践すればいい。実際に彼等はそうしてきた」

 その老人の一言に、マリアはハッとなる。そして老人はそのままその場から立ち去っていった。そしてマリアはある決意を心に宿した。

「……政庁に戻ります。そして国民放送の準備と各国の首脳と連絡を取ります」


 そんな彼女の様子を少し離れた場所で眺め、予感……というよりも確信を持つ老人。

「貴方達なら刻の扉をちゃんと使ってくれるじゃろうて、憎しみで始まった関係は修復するのはほぼ不可能でも、恩と優しさから始まった出会いは、時を超えても色あせない強固なる絆になる……どんな世界や歴史でもそれは実証されておる」




 世界が変わる瞬間が、すぐそこまで迫っていた。










 今回はここまで、12月中に完結するとか言っといてこの様……誠に申し訳ございませんでした。
 今回の話は芳佳達がアフターウォーの世界をその身で感じるお話で、それを受けてどういう考えを持つのかと言うのが今後の話の中心になっていきます。

 次回はオリ敵との最終決戦の前編を予定しています。あのガンダムも出てくるかも?



[29127] 第二話「16年目の亡霊」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2014/02/11 22:49
 第二話「16年目の亡霊」



 ネウロイの巣を発見してから一週間後、ネウロイの巣があるゾンダーエプタ島跡に向かうフリーデンは、補給のため大陸の海岸線に一時停泊していた。そしてブリッジではジャミルとサラ、そしてウィッチ達を代表してミーナとバルクホルンが、ネウロイの巣の攻略についての作戦会議を行っていた。

「夕刻に攻撃を仕掛ける? 何故?」
「この世界でサテライトキャノンは、月が出ている時にしか使えないのでは?」

 ジャミルが建てた作戦に首を傾げるミーナとバルクホルン。するとサラがジャミルに代わって説明する。

「それは向こうも同じ、フロスト兄弟のガンダムにはサテライトランチャーという兵器が備わっています。もし先に使われたらフリーデンは……だからまずフロスト兄弟を撃破し、坂本少佐を救出した後にツインサテライトキャノンで一気に勝負を決めたいのです」
「成程な……しかし並大抵の戦力では返り討ちに遭うだけだぞ?」
「今艦長の知り合いのバルチャーから資材と情報を集めています。ある程度それが揃い次第、ゾンダーエプタ跡に向かいます」



☆ ☆ ☆



 フリーデンのレクリエーションルーム、会議を終えたジャミル達はガロードや芳佳ら主要メンバーを集めて今後の方針を伝えた。

「という訳だ、向こうが仕掛けてこない限りしばらく戦闘はない。ゾンダーエプタ跡に向かうまでは各々自由行動だ。羽を伸ばすなり訓練するなり好きにしてくれ」
「自由行動か……」

 ジャミルの指示に、主に501の面々はうーんと悩みだす。

「今大変な時なのに、そんな呑気にしていていいんでしょうか?」

 そんなサーニャの一言にロアビィはハハッと笑う。

「まっ、今から臨戦態勢とったってしょうがないでしょ、キャプテンが羽伸ばせって言ったんだからお言葉に甘えようぜ」
「坂本さんがここにいたら“それでは訓練だ!”って言いそうですね」

 芳佳の冗談に、皆ツボにはまったのかにこやかに笑っていた。



 こうしてガロードや芳佳達は来たるべき決戦に備え、各々思い思いに過ごすことになった。



☆ ☆ ☆



 フリーデンMS格納庫、そこでキッド達整備班はバルチャー達から運ばれてきた機材を使ってMSやストライカーを整備していた。

「おーっし野郎共! 決戦までにここのMSとストライカー、全部最高の状態に仕上げるぞ!!」
「「「うぉーっす!!!」」」

 キッドの号令と共に各々散って作業を始める整備班。そしてキッド本人もまたスパナ片手にストライカーに向かった。

「さーって、俺もこいつらをパパッと仕上げるか」

 そう言ってキッドは近くに置いてあった寝かせてあるストライカーを持ち上げようとする。

「ふんぬ!! ……あ、駄目だコレ持ち上がんねえ」

 しかし腰を入れて両腕で持ち上げようとしてもビクともしないストライカーに、キッドはやれやれと溜息をつく。

「おーい、誰かジョッキかクレーンを……」
「これを立てればいいんだな?」

 その時、キッドの横からぬっと人影が現れ、ストライカーを軽々と持ち上げた。

「バルクホルン!? なんでここに!? 休んでろって言われてたろ!?」
「まああ休めと言われても何をすればいいか解らなくてな……何気にここに来ただけだ。折角だし手伝わせてくれ」
「うーん……まあいいいか、それ支えてくれ」

 キッドは現れた人影……バルクホルンにストライカーを持っているように指示し、自分はそのストライカーの整備を始める。
 そして二人の間にしばらくの間沈黙が流れ、ただただ周りの喧騒と金属の打音が、小気味よい音色となって流れていた。

「……賑やかだな、ここは」
「うん? まあ、そうだな」

 バルクホルンの一言に、作業をしながら返事をするキッド。バルクホルンはそのまま自分の胸の内を語り始めた。

「ここは活気に溢れているな……あまり整備を手伝ったことが無いから知らなかったよ」
「そうか? これが普通だぜ俺達の場合」
「いつだったか……お前に言われたな。“自分達が整備したメカで一人も戦死者を出していないことに誇りを持っている”と、今私達が生きているのはお前達のお陰でもあるんだな……ありがとう」

 バルクホルンの突然のお礼の言葉に、言われ慣れていないキッドは照れて顔を真っ赤にする。

「な、なんだよいきなり!? 体がかゆくなるだろうが!」
「はははっ、それはすまんな……とにかくたまにはお前達を手伝おう! 力仕事は任せてくれ!」
「ははは……まあ別にいいけどさ」

 そして二人は、再び黙々と作業を始めた。そしてその最中、キッドはぽつりとバルクホルンに向かって呟いた。

「……今度も生きて帰ってこいよ」
「……言われなくてもそのつもりだ、最高のメカニックたちが整備したストライカーを履くんだからな」



☆ ☆ ☆



 フリーデンが停泊している海岸の付近の砂浜、そこでルッキーニは水着姿でビーチボールで遊んでおり、ウィッツとトニヤはそれに付き合っていた。

「ほらー、行くわよルッキーニー」
「らじゃー! すぅぅぅぱぁぁぁぁルッキーニあたーっく!!!」
「どわぁ!? どこに打ってんだ!?」

 ルッキーニから放たれた高めの威力のあるサーブを受ける事が出来ず、仰向けに転倒するウィッツ。

「にゃはははは!! 私の勝ちー!」
「ほらウィッツ、しっかりしなさいよー!」
「このやろー……! こうなりゃ本気出していくぞオラ!」

 一方、シャーリーはそんなルッキーニ達から離れ、赤いビキニ姿でビニールチェアに横たわりながら日光浴をしていた。ただし表情はどこか固い。

「……」
「どーした? 考え事か? お前らしくもない」

 するとそこに黒いビキニ姿のパーラが現れ、シャーリーの横に置いてあったビニールチェアに腰かける。

「うん……この世界ってさ、アイツにとってやっぱり滅ぼしたい世界なのかなって思って」

 シャーリーの言う“あいつ”が誰なのかを察したパーラは、逆に質問で返した。

「シャーリーはどうなんだ? この世界の事をどう思うんだ?」
「ん~……確かに悲しい事が沢山ある世界だとは思う。でも……その中でも一生懸命生きている人達がいるんだ。滅ぼしていいとは思えないなあ」
「じゃあその事をそいつに伝えればいいじゃん」

 パーラの答えに、シャーリーはう~んと首を捻る。

「伝わるのかな……アイツラと違って、何にも辛い経験とかしていない私の言葉なんて」
「う~ん……そうだなあ」

 シャーリーの言葉に、パーラもまた一緒に悩みだした。そして……ある答えを導き出した。

「アタシは……お前の言葉が軽いなんて思わない。きっとあいつらは世界の事を良く知らないんだ。自分達の世界の中で、勝手に結論を出しているだけなんだと思う。だからよ……お前の手でもっと広い世界に連れてってやればいいじゃん」
「パーラ……」
「ま、これって私の育ての親達が教えてくれた、大昔の宇宙飛行士の話の受け売りなんだけどさ。色んな所に行った人間はそれだけ人柄もデカくなるんだって、ならシャーリーなら大丈夫だろ。色んな所びゅんびゅん飛んでいるんだからさ」
「……そうだな」

 そしてシャーリーはビニールチェアから起き上がり、うーんと体を伸ばした。

「はー! 柄にもなくナーバスになっちまった! こういう時は体を動かすに限る! おーいルッキーニ! 私も混ぜろー!」
「おー! シャーリーも混ざる!? ならビーチバレーしよ!」
「なら私はウィッツと組むか、負けねえぞ!」

 そしてシャーリー達はルッキーニ達に混ざってビーチバレーに興じた……。



☆ ☆ ☆



 フリーデンのレクリエーションルーム、そこでサーニャはロアビィと共にビリヤードに興じており、カウンター席ではエイラとエニルが飲み物片手にその様子を眺めていた。

「えいっ」

 サーニャはキューで手玉を突き、正面にあった的玉に当て、そのままビリヤード台のポケットにストンと入れる。それを見たロアビィは小さく拍手をした。

「へえ、大分上達したじゃないの。そんじゃ俺が上級者のお手本を見せてやろうじゃないの」
「はい、お手並み拝見します」

 そう言ってサーニャは横に移動し、ロアビィは意気揚々とビリヤード台に上半身を乗せて手玉を突こうとしていた。

一方、カウンター席でウィスキーの入ったグラスに口を付けていたエニルは、隣でタロットカードをいじっているエイラに声を掛ける。

「そう言えば、貴女達この一件が終わったらどうするの?」
「終わったら? 多分だけど故郷のスオムス辺りに配属されるだろうなぁ。そんでサーニャの両親探しの手伝いをするんだ」
「サーニャの両親って……確かネウロイの侵攻で疎開して、そのまま行方不明なんだっけ?」
「うん、ラジオでたまにピアノ演奏しているから、生きているのは確かなんだ」

 話を聞いたエニルは、少し寂しそうに笑いながら、グラスの中身をコクッと飲んだ。

「……ちょっと羨ましいわね、家族と……帰るべき故郷があるのって。私達にはそういうのが無いから。ああごめんなさい、暗い話しちゃったわね」
「別にいいさ、迷惑だなんて思っていないからさ。これから私達はそういうのを無くすための戦いをするんだよな」

 するとプレーを終えたロアビィと、これからプレイするサーニャがエイラ達の話に割って入ってくる。

「まっ、俺達に悲壮感とかそういうのは似合わないよな。リラックスして戦って、そして皆で生き延びようぜ。今更誰かが欠けるなんて無しだぜ?」
「ですね……私もまだまだやりたい事いっぱいありますから」

 サーニャが突いた手玉は、そのまま狙った的玉に当たってポケットに入った。攻守交代するサーニャとロアビィ。

「……本当に上達したな、まあお前ら二人は故郷と家族の為に戦う。俺とエニルは……戦友の故郷と家族の為に戦うって事……でっ」

 ロアビィが突いた手玉は、狙った的玉に当たる……が、的玉はポケットに入らず、縁に弾かれた。

「ぷっ! ださっ!」
「あらあら、色男さんも可愛い所があるのね」
「……ふふっ」
「お、お前等笑うなよ!? サーニャまで!」

 それなりにカッコいいセリフを吐いたのに締らない結果になって脱力するロアビィと、それを見て笑うエイラ達。
 上品な雰囲気が漂っていたレクリエーションルームに笑い声が響いた。



☆ ☆ ☆



 場所は戻って格納庫、カリスは一人愛機のベルティゴのコックピットで、ハッチを開けたまま機体の調整を行っていた。

『カリスー、機体の状態はどうだ?』
「良好です、これなら万全以上の状態で戦えそうですよ」
『ははは、そうかい……取り敢えず今日はこの辺で仕舞だ。お前も早く休めよ』

 整備班の一人との通信を切り、カリスはふうっと息を吐いてコックピットのシートに凭れ掛かる。その時……。

「ばぁ!」
「うわっ!?」

 突然ハッチの上の方からエーリカがにょきっと顔を出し、それを見たカリスは思わず声を出して驚いた。

「び、びっくりさせないでくださいよ……」
「なはははー、ごめんごめん」

 エーリカは悪戯っぽく笑うと、そのまま開いたままのコックピットの入り口に腰かける。

「もうすぐ決戦かー、皆気合入ってるねー」
「当然ですよ、坂本少佐も助けないといけませんし」
「うん、そうだよねー……」

 そしてカリスは機体の最終調整の為コックピットにあるキーボードを叩き、エーリカは下で作業をしている整備班達を眺めていた。
 喧騒と金属音が独特の音楽を奏でる中、二人の間には沈黙が流れる。

「カリスってさ」

 その沈黙をまずエーリカが破った。エーリカはカリスを見ないまま、作業を続ける彼に話し掛ける。

「カリスってさ……この一件が終わったらどうするの? ずっとフリーデンにいるの?」
「いえ……故郷のフォートセバーンに帰るつもりです」
「故郷って……」

 エーリカはカリスにとって故郷がどういう場所か、ガロード達フリーデンのクルーに聞き知っていた。カリスがその町で生まれ育ち、今の特別な力を宿し、そして大きなハンデを宿した体にされた事を。

「一度……僕は大きな間違いをそこで犯し、街の人達に大きな迷惑を掛けてしまいました。それなのに街の人達は僕を許し、慕ってくれるんです。だから僕はその人達に恩返しがしたいんです」
「……そっか、優しい人達なんだね」

 そしてエーリカはある事を思いつき、クルッとカリスの方を向いた。

「ねえねえ! この一件が終わったら私もカリスの故郷に行ってみてもいい!?」
「え? ええ……僕は構いませんけど、あそこには何もないですよ? それにエーリカさんにも任務とか……」
「いいのいいの! 全部トゥルーデがやってくれるから! それじゃ約束だよーん!」

 そう言ってエーリカはコックピットから飛び降りて去って行った。

「……ふふっ、本当に自由奔放な人だ、眩しいぐらいに……」

 あんな風に生きる人がいるんだ、とカリスはエーリカを見て思い、少し羨望の思いを抱いた……が、すぐに思い直した。

(僕はどうやっても彼女にはなれない。僕は僕らしく生きて、自分のできる事をやろう……)



☆ ☆ ☆



「よっと」

 ベルティゴのコックピットから飛び降り、無事着地するエーリカ。すると……。

「だ・れ・に・全部任せるだって?」
「ほわぁっ!!? 居たのトゥルーデ!!?」

 すぐ後ろにバルクホルンが額に青筋を立てて腕を組んで仁王立ちしており、後ろではスパナ片手にニヤニヤしているキッドが居た。

「貴様! 私達の世界はまだまだ危機に瀕しているんだぞ!? そんな心がけでどうする!?」
「わぁ~!? ごめんごめん!!」

 ズイズイ詰め寄ってエーリカを威圧するバルクホルン、そんな彼女達の間にキッドが割って入る。

「まあまあまあ、落ち着けよバルクホルン、それより……エーリカ、お前あれ? カリス狙ってんの?」
「どぅお!!?」

 キッドの指摘にエーリカは顔を真っ赤にしながら普段出さないような変な声を出した。すると先ほどまで怒っていたバルクホルンも目をキラッキラさせて話に入ってくる。

「うむ、それは私も気になる。お前はガロードを好いているのではないのか?」
「い、いや……あんなラブラブしている二人に割って入れるわけ……って何言わせんだよ!? そんなんじゃない!!! そんなんじゃないから~!!!」

 そう言ってエーリカは脱兎のごとくその場から逃げ出した。

「逃げた!? まだ尋問は終わっていないぞ!!」
「野郎共!! エーリカを捕まえろー!!」
「「「うーっす!!」」」

 そして始まる整備そっちのけの追いかけっこ、さながら動物園から逃げ出した動物を捕獲しようとする職員のようだ。
 そんな光景をカリスはハッチの開いたコックピットから眺め、そして呟いた。

「……やっぱり面白い人だ」

 彼の表情には普段見せないような満面の笑みが浮かんでいた。



☆ ☆ ☆



 フリーデンの医務室、そこでミーナはテクスの入れたコーヒーを飲みながら彼と談笑していた。

「あら? ここにあった医学書が一冊無くなっていますね」
「ああ、エーリカ君に貸したんだ。彼女……医療関係に興味があるらしくてね」
「そうですか……」

 そう言ってミーナは優しく微笑むと、カップに入ったブラックコーヒーを口に付けた。すると医務室に、サラを引き連れたジャミルがやって来た。

「おや大佐、君もテクスのコーヒーを飲みに?」
「ええ、少し心を落ち着かせたくて……」
「ははは、まあ人数分ある。君達もどうだい?」



 数分後、ジャミルがコーヒーを啜る横で、サラは何やら考え事をしているミーナに話し掛ける。

「……坂本少佐の事を考えているのですか?」
「ええ、考えれば考える程悪い考えばかり浮かんで……彼女、無事だといいんですけど……」

 そう言って不安そうに顔を曇らせながら俯いてしまうミーナ。そんな彼女にジャミルが声を掛ける。

「今から不安がっていても結果は変わらない。今は心を落ち着けてこれから来る決戦に備えるべきだ」
「それは……頭では分かっているのですが……」

 それでもなお不安そうなミーナ、一方ジャミルは自分の手を見つめながら話を続ける。

「大丈夫だ、私の手が届く限り、もう誰も死なせはしない。15年……16年前のあの日、引き金を引いてしまった私の責任と……戦友達への誓いだ」
「ジャミル艦長……」

 ミーナはジャミルが背負っている物を肌と心で感じ取り、彼の言葉の重みを感じ取った。そして……手に取っていたコーヒーカップを机に置いた。

「そう……ですね、御助言ありがとうございます」
「いやいや、私達も貴方の指揮を頼りにしていますよ。絶対に救いましょう……坂本少佐を」



☆ ☆ ☆



 夜、フリーデンの艦橋の先端で、ガロードとティファは月と満天の星空の下で語り合っていた。

「いやぁ、こっちも向こうも、星空が綺麗なのは変わらないなぁティファ」
「そうね……」

 ガロードは少し顔を赤らめながら、隣にいるティファの肩を抱き、自分の元に抱き寄せた。ティファはその行為を拒絶もせず、顔を赤くしながらちょっと嬉しそうにしていた。

「ガロード、私ね……また夢を見たの」
「夢? これから起こる戦いの事か?」
「ううん、もっと先の事……私達がね、芳佳達の世界だけでなく、もっともっと色んな世界に行く夢。そこで色んな人と出会うの……」

 ティファは夜空に手をかざしながら語り始める。

「世界って広い。色んな人がいて、色んなこと、色んな思いがあの星空のように広がっている……」
「……なんかロマンチックだな、戦争とかが何か馬鹿らしくなってくんな」
「だね……」

 そしてガロードとティファは肩を抱き寄せあったまま、キスしてしまいそうなほど顔を近づけながら互いに向き合う。

「それじゃ明日は、その夢を正夢にするために頑張らないとな」
「うん、私も頑張る」

 二人の間に、熱い眼差しが交錯しあっていた。



☆ ☆ ☆



 そんな二人の様子を、芳佳、リーネ、ペリーヌは遠く離れた場所からうつ伏せの状態で眺めていた。

(はわわわ……! ペリーヌさん! あの二人なんかキスしようとしていますよ!)
(いたたた!? リーネさんお静かに! あと背中バシバシ叩かないでくださいまし!)

 二人の様子を見て若干興奮気味のリーネと、そのとばっちりを受けるペリーヌ、一方その二人の隣では芳佳が寂しそうな顔をしていた。

(あの二人、幸せそう……私達が入り込める余地はないね)
(うん、まあ……そうだよね)
(はあ、あそこまでイチャイチャされると、嫉妬する気も失せてしまいますわ……)

 すると芳佳はゴロンと仰向けに寝転がり、夜空に広がる満天の星空を見上げる。

「私もいつか……あんな風に傍に居てくれる人、現れてくれるかな?」
「大丈夫だよ、だって芳佳ちゃん可愛いもん」
「お二方、今はそれよりも少佐を助ける事に専念いたしましょう。恋の話はまたその後ですわ」
「そうだね、全部終わったその時は……」

 芳佳は再びガロードとティファの方を向く、彼女の目に……二つの影と影が重なった光景が飛び込んできた。

(きっとガロード君と、ティファちゃんと……フリーデンの皆とお別れしなきゃいけないんだろうな)



 そして夜は更けていき、決戦の日はやってくる……。



☆ ☆ ☆



 ゾンダーエプタ跡から数十キロ離れた海域……そこにはフリーデンを先頭とした数隻のバルチャーの艦隊が編隊を組んで進んでいた。

 その光景を、フリーデンのブリッジから眺めていたサラは、シートに座るジャミルに話し掛ける。

「よくこれだけの戦力を集められましたね」
「報酬さえ払えば協力してくれるからな、心もとないが……無いよりはマシだろう」

 そしてジャミルは通信機を使い、フリーデンの上で待機しているガンダムDXの中にいるガロードに通信を入れる。

「ガロード、状態は?」
『ああ、機体共々良好だぜ。流石はキッド達の整備だ』
「お前は今回の作戦の要だ、頼りにしているぞ。他の皆もよろしく頼む」



☆ ☆ ☆



 フリーデンの艦上、そこでGファルコンが合体した状態のガンダムDXは堂々と佇んでおり、周りには芳佳やティファら11人のウィッチ達が武装して待機していた。芳佳はリフレクター装備、バルクホルンはジェットストライカー装備である。

「坂本さん……絶対に助けてみせます」

 周りに聞こえないような小さい声でそう呟く芳佳、その時……突然近くにいたサーニャが魔力針を展開し、ティファも何かを感じ取り声を上げる。

「いけない! 避けて!」

 次の瞬間、フリーデンは左に少し曲がりそれとほぼ同時に艦の横に橙色の光線が横切り、フリーデンの後方を航行していたバルチャー艦の左舷に直撃する。

「アレは……!」

 皆が光線が放たれた方向を見ると、そこにはガンダムヴァサーゴCBとガンダムアシュタロンHCが、ネウロイ化した数種類のMSを数十機連れてこちらに向かっている光景があった。

「やはり邪魔してきたな!」
「各機迎撃を! ガロード君のDXを守るのよ!」

 ミーナの号令と共に、MS隊とウィッチ達は次々と飛び立ち、護衛のバルチャー艦からも水中用MSのドーシート系MSが次々と出撃して行った。
 そして戦いが始まる直前、DXのコックピットにジャミルから再び通信が入る。

『ガロード、ここは皆に任せて芳佳と一緒に先に行け』
『わかった! みんな死ぬんじゃねえぞ!!』

 ガロードの駆るDXは芳佳とティファとリーネとペリーヌを引き連れ、ガンダムヴァサーゴらの軍団を突破するようにゾンダーエプタ跡に向かって行った。ヴァサーゴ等はそんな彼等に目もくれずまっすぐフリーデンの艦隊に向かって行った。

『追わなくていいのかよ! ガロードがお前らのボスを吹き飛ばしちまうぜ!』

 レオパルドを乗せるMA形態のエアマスターを駆るウィッツはヴァサーゴに通信を入れる。

『彼等の相手はサプライズゲストに任せるさ』
『僕達は君達を葬らせてもらうよ』

 そしてヴァサーゴらの部隊は一斉にビームを放ち、MS隊やウィッチ達はその攻撃を掻い潜り反撃する。戦闘の火蓋は切って落とされた。



☆ ☆ ☆



『ガロード! 見えて来たぞ!』

 数分後、ゾンダーエプタ跡近くまで接近したガロード達は、そこで巨大なネウロイの巣と、周りを守る様に飛びまわっている複数のネウロイがいた。

「すごい数……!」
「でもサテライトキャノンがあれば一発ですわ! チャージは!?」
『あと数分で月が昇る! それまで……』

 次の瞬間、巣の周りを飛び回っていた小型のネウロイ達がガロード達に襲い掛かる。

「ガロード君を守り抜けばいいんだね! 任せて!」
『あんまり無茶すんなよ!』

 ネウロイが放ったビームをシールドで凌ぎつつ、ガロード達もまた戦闘を開始した……。



☆ ☆ ☆



 ネウロイの巣の中心にある戦艦の内部、そこでカウフマンは銀髪の少女達と共に、モニターで戦闘の様子を眺めていた。

「ふむ、中々善戦しているようだね、我が軍は」
「ただ……徐々にですが数を減らされています。ですが向こうの弾切れが先でしょう」
「長期戦にもつれ込む前にサテライトキャノンを使われて終わりさ、では早速とっておきの札を切るとしよう……ふふっ、“何故君が!?”と反応するんだろうね。彼等は」

 そう言ってカウフマンは格納庫の様子を写したモニターを表示させ、マイクを使って指示を出す。

「それでは出撃させようか……“魔王”を」



☆ ☆ ☆



「!!? この感じは!!?」

 フリーデンのブリッジ、そこでジャミルは何かを感じ取り、ガタッと立ち上がる。その様子に驚くブリッジクルー。

「どうしたのですかキャプテン!?」
「い、いや……だがそんな筈はない! 彼女が生きている訳が……!」

 その時、モニターを見ていたトニヤがある事に気付き声を上げる。

「キャプテン! ネウロイの巣からMSが一機出撃しました! これは……!?」



☆ ☆ ☆



 ネウロイの巣の周りで戦うガロード達、その時彼等は巣から一機のMSが現れた事に気付いた。

「皆さん! 巣から何か出てきますわ!」
「アレは……!」

 その機体を見た一同は驚愕する。彼等はその機体の事を良く知っていた。

『黒い……ガンダムX!?』

 その機体……全体的に真っ黒に塗りつぶされ、細かい箇所は違っているとはいえ、それはサテライトキャノンを装備したガンダムXそのものだった。

『どういうことだ!? なんでガンダムXがここに!?』
『それは僕が話してあげよう』

 するとガンダムXのコックピットに、カウフマンが通信を割り込ませてきた。

『カウフマン!?』
『その機体の名前は“ガンダムX MAOH”、君のそのガンダムDXのベースになったジャミル・ニートが駆っていたガンダムX二号機を、君がここを吹き飛ばす前に回収、そして修理ついでに色々アレンジさせてもらった機体だよ』
『アレか……!』

 ガロードはかつてガンダムDXを初めて目にした時、その傍らにボロボロの状態のガンダムXがあったことを思い出す。

(アレを回収したのか……! つーか奴等、その頃からこの世界に干渉していたのか!? いや、考えるのは後だ!)

 ガロードは歯切りしつつ、呆然としている芳佳達に声を掛ける。

『気を付けろ皆! 誰が乗っているか知らないけどガンダムは手ごわいぞ!』
『まあ、乗っている人も一流だからねえ。精々殺されないようにね?』

 すると黒いGX……GXMAOHは、両脚ハードポイントに装着される小型バルカンポッドとミサイルポッドを発射して、ガロードや芳佳達を散開させる。そして手に持っていたシールドバスターライフルで芳佳、リーネ、ペリーヌ、そしてティファを狙い撃ちする。

「きゃ!?」
「は、早い!」

 芳佳達は咄嗟にシールドを展開して無傷でやり過ごす。その隙を突いてGXMAOHはDXの上空を飛び越える様に飛び、シールドバスターライフルでDXとGファルコンの連結部分を狙い撃ちした。

『うわ!?』

 GファルコンはそのままボロンとDXから外れ、海に落下していく。

『わ、悪い! アタシはここまでだ! 後は頼む!』
「パーラさーん!!!」

 落下していくGファルコンを追って行くペリーヌ、一方残ったガロード達はビームソードを取り出したGXMAOHと相対する。

『なんだよ今の動き……全然解らなかった』
「この動き……この感じ、もしかして……!」
『ふうん、ティファ・アディールは気付いたみたいだね。“彼女”に』

 通信の向こうで、カウフマンはたいそう愉快そうな笑みを浮かべていた。



☆ ☆ ☆



 そのGXMAOHを駆る“彼女”の正体を、ジャミルは感じ取り耳元を抑えた。

「そんな……そんな筈はない! 彼女が生きている筈が……サラ、ここは頼む」
「キャプテン! どこへ!?」
「GXで出る!」

 ジャミルはMS格納庫に向かって駆けながら、頭の中であれこれ思考を巡らせる。

(何故だ……何故彼女があそこにいるんだ!?)

 そしてMS格納庫に着き、慌てるキッド達をよそにGXディバイダーに乗り込んだ。そして……思わず心の内を言葉に出してしまった。


「どうして君がそこに君がいるんだ……ルチル!!」

 あの戦争から16年経った今、彼等の前に亡霊が立ちはだかる……。



☆ ☆ ☆



 ~最終話予告~

 それは偶然と奇跡が折り重なった出会い。

 白い機械人形は、少女達に笑顔の魔法を学び、箒で駆ける魔女達は少過ちを繰り返させないという決意を心に宿らせる。

 その出会いは、苦しくて辛い事もあったけど、それ以上に幸せで希望に溢れていた。誰かの想いと未来を守りたい、その事だけは一緒だったから

 さあ終わらせよう。また新しい何かを始める為に。



 サテライトウィッチーズ最終話「Resolution ~笑顔の魔法~」


 そして月光の下に魔女は舞う。










 そういう訳で二話終了、次回で最終話になります。(エピローグ+αもありますが)

今回は特別ゲストとしてガンダムビルドファイターズに出てくるガンダムX魔王(カラーリングは黒)を登場させてみました。まあルチルさん(っぽいの)を出す予定は最初無かったのですが、BFのアニメ見ていたら魔王出したくなって一緒に出してしまいました。今回出てくるルチルさんはとある世界の技術を使って“再現された”ものになっています。まあ詳しくは次回のお話で。

次回は最終話という事で色々と豪華に行きたいと思っていますので、是非最後までお付き合いしてください。




[29127] 最終話「Resolution ~笑顔の魔法~」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2014/02/13 23:10
 ゾンダーエプタ跡付近の海域の戦いは、フリーデン側が若干圧され始めていた。

「サラさん! 状況は!?」
『今キャプテンがガロード達の援軍に向かいました! 皆さんは戦線の維持を!』
「軽く言ってくれる……ねっ!」

 サラからの指示を聞いたミーナとエーリカは、他の仲間達と共にフリーデンを守りつつ、ネウロイ化したMSの大群を迎え撃っていた。

「くそ! 数が多すぎるぞ!」
「一度補給に戻らないと……!」

 弾を補充しているエイラを、サーニャはシールドを張って攻撃から守る。その少し離れた場所ではシャーリーとルッキーニが突進しながら銃を乱射し、ネウロイ化したMSを次々と撃破して行った。

「なー! 数が多すぎるよー!」
「泣き言言っても数は減らないぞ! あ……あれは!」

 混戦の最中、シャーリーはエアマスターとレオパルドと戦う、ヴァサーゴとアシュタロンを発見する。

「ルッキーニ! お前はエイラ達と一緒に補給に戻れ!」
「え!? シャーリーは!?」
「私はちょっと話したい奴が居るんだ!」

 そう言ってシャーリーはエアマスターらが戦っている空域へ向かって行った。

 一方MA形態のエアマスターの上に乗ってミサイルやビームを乱射するレオパルドに乗るロアビィは、相対するヴァサーゴとアシュタロンを駆るフロスト兄弟に悪態を付く。

『まったく! アンタらも黒幕ぶるのが好きだねえ! あの子らの世界にまで迷惑かけてどうするつもりだよ!』
『無論、我らを否定した世界に鉄槌を下す為だ、彼等はそれを行使するための手段に過ぎない!』
『お前ら……ガロードに散々言われただろうが! この世界もあの世界も、お前達の為に存在している訳じゃねえんだぞ!』

 その時、ヴァサーゴの両腕がギュンと伸び、レオパルドとエアマスターの胴体をそれぞれガッチリ掴む。

『貴様らには解らないだろう……我々の想いなど!』
『解りたくもないね! 世界を滅ぼそうなんて思うネガティブ思考なんてさ!』

 するとアシュタロンがヴァサーゴの元から離れ、レオパルドらの背後に回り込む。

『終わりだ!』
「やらせるかー!!!」

 その時、アシュタロンの目の前に上空から一筋の影が遮る様に舞い降りた。

『くっ!?』
 
 一筋の影は巨大な魔力シールドを展開し、高速で突進して来るアシュタロンを強引に受け止めて停止させた。

「くぁ~!! これだけの質量を抑えるはきっつ~!」
『シャーリー!? 無茶し過ぎだぞ!』

 ウィッツの心配する声をよそに、シャーリーは手をブラブラ振りながら無事をアピールする。

「そいつはお前達に任せた! 私はちょっとこいつに話がある!」
『お、おい!?』
『余所見をする余裕があるのかな……!?』

 シャーリーを気に掛けるウィッツとロアビィに攻撃を仕掛けるシャギアの駆るヴァサーゴ、そしてアシュタロンを駆るオルバは目の前に立つシャーリーに通信を入れる。

『やあ、君は確かロマーニャで出会ったね』
「その節はどうも、お陰で……」

 シャーリーがその言葉を続けようとした時、オルバがシャーリーに向けてビームを放つ。ビームは魔力シールドによって防がれた。

「話は最後まで聞けよ!」
『悪いけど君に構っている暇は無いんだ、早く消えてくれたまえ』

 そう言ってオルバはどんどんビームを放つ。シャーリーはそれを横に飛んで回避していく。

(くそっ、人の乗るMS相手ってこんなにやりにくいもんなのか……!)

 シャーリーは反撃しようとはせず、オルバに伝えたい事を伝えるチャンスを伺っていた。



☆ ☆ ☆



 フリーデンのブリッジでは、ブリッジクルーの怒号が飛び交っていた。

「味方のバルチャー艦の損耗率が50%超えたわ! このままじゃ全滅よ!」
「右舷被弾! 消火斑は消火急げ! 舵が取れなくなるぞ!」
『ジェニスは一度帰還するわよ! 弾の補充をお願い!』

 そんなブリッジの様子を見て、サラは一度うーんと俯いた後、腹を括った様子で顔を上げた。

「皆! とにかく気持ちで負けちゃ駄目よ! MSとウィッチは二人一組で小隊を組んで互いの死角を守って! 私達は動き回りつつ可能な限り援護射撃でネウロイの数を減らすのよ!」
「りょ、了解!」

 通信機を通して聞こえるサラの激に気を引き締めるクルー達、そんな彼女を見てトニヤはふふっと笑って話し掛ける。

「アンタ、大分キャプテンらしくなって来たじゃない」
「まあ、留守を預かる間位はね」

 サラはふっと笑ってみせると、皆が戦う様子を映し出したモニターを眺めた。

(キャプテン、皆……ご武運を)



☆ ☆ ☆



 ゾンダーエプタ跡、ネウロイの巣の目の前ではガンダムDXや芳佳達が、目の前に現れたガンダムXMAOHに翻弄されていた。

『は、早い!』
「全然目で追えないよ~!」
「とにかくDXと……芳佳のサテライトキャノンも守らないと」

 ガンダムDXに芳佳達が付いて行ったのは、DXのサテライトキャノンが万が一使えなくなった時の保険であった。しかしたとえ月が上がったとしても、ガンダムXMAOHの素早い攻撃でチャージする暇も与えて貰えないだろう。
 おまけに現在パーラが戦線離脱し、それのフォローに向かったペリーヌが下がったことによりガロード達の戦力が低下しており、彼等は今窮地に立たされていた。

『こりゃちょっとヤバい感じ?』
「大丈夫よガロード……彼が来てくれたわ」

 その時、苦戦するガロード達の後方から一機の白いMS……ジャミルの駆るガンダムXディバイダーが現れる。

『ガロード! お前達は先に行け! このガンダムは私が相手をする!』
『ジャミル……わかった! 行くぞみんな!』

 ガロードの駆るDXはすぐさま芳佳、リーネ、ティファを引き連れてネウロイの巣へ向かって行った。その後をガンダムXMAOHは追いかけようとするが、GXディバイダーに背後から羽交い絞めにされて動きを封じられてしまう。

『お前は……何者なのだ!? 何故彼女と同じ動きが出来る!?』

 ジャミルは必死にガンダムXMAOHのパイロットに問いかけるが、パイロットの方は反応することなくGXディバイダーを振りほどくと、背中のビームソードを抜いてGXに振り降ろした。対してGXもすぐさま反応して後ろに下がり、そのままビームソードを抜いた。

『ならば……戦いの中で見極めるまでだ!』



☆ ☆ ☆



「どうやらうまく行っているみたいだね……“バイオ脳”、素材が優秀だと成果も段違いだ」

 ネウロイの巣の中心にある建物の中にあるモニター室、そこでカウフマンはモニター越しに映る外の戦闘の様子を眺め、余裕の笑みを浮かべていた。

『どうも、そちらは順調のようですねぇ? いい物を使っている』

 その時、カウフマンの横に水色のスーツを着た男が映し出されているモニターが展開する。

「ええ、よき友人から送られてきた素敵な贈り物ですよ。無論……こちらの持つ技術も付け足していますが。それにコストもかかる」
『MDとかいう無人兵器、化け物を組み合わせたスイール。そしてバイオ脳……やれやれ、兵器として優秀すぎて兵士がいらなくなるぐらいだ』
「無論、すべて売るつもりはありませんよ。効率よく“搾取”させてもらいますよ……無論あなたもね?」

 カウフマンの挑発に対し、水色のスーツの男はやれやれと首を横に振った。

「怖い怖い、僕は貴方達に逆らうつもりはありませんよ。よきビジネスパートナーとしてこれからも付き合って行きましょう」
「ええ……では我々も出撃するので、これで……」

 そう言ってカウフマンはシートから立ち上がりその場を去って行った。その様子をモニター越しから眺めていた水色のスーツの男は、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

「解りませんねえ……神様になりたいだなんて、“化け物”の思考なんてどれも同じということでしょうかね」



☆ ☆ ☆



 戦いが始まって数十分後、傾いていた夕日は完全に落ち、東の地平線からは月が昇って来ていた

「ガロード君! 月が!」
『ああ、わかっている!』

 そしてDXは背中の翼を展開し、ツインサテライトキャノンの砲身を展開し、月から送信されるマイクロウェーブを受信する。

「ティファちゃん! 坂本少佐の居場所は!?」
「まって……今探している……!」

 その間、ティファはニュータイプ能力を駆使して美緒の居場所を探る。その時……周りを警戒していたリーネがある事に気付いた。

「皆! 巣から何か出てくる!」

 するとネウロイの巣から巨大なMA……グロムリン・フォズィルが現れる。その中心にへばりついている巨大なネウロイのコアには、美緒が四肢を固定された状態で捕えられていた。

「坂本さん!」
『くそ……! 今助けるぞ!』

 そう言ってガロード達は美緒を助けに行こうとする。だがその時……彼等の横に数発のビームが放たれ、動きを封じられる。

『なんだ!?』
「見て! あそこ!」

 リーネが指さすグロムリン・フォズィルの頭上には、三人の白いレオタードに銀色の甲冑風のブーツを装備した、ふわりとした銀髪に赤いバイザーを付けた、四枚の白い翼のような物を背負う少女達がいた。
 芳佳達は彼女達が、かつて向こうで大和救援作戦の時に遭遇した少女と同一人物である事に気付く。

「あの時の子だ! 3人もいる!?」



 一方、グロムリン・フォズィルのコックピットに乗り込んだカウフマンは、頭上の少女達三人に指示を出す。

『君達にはウィッチ達を任せる。宮藤芳佳は必ず生きて捕えろ。他はまあ……好きにしてくれ』
「「「了解」」」

 次の瞬間、銀髪の少女三人は飛び出す様にそれぞれ芳佳、リーネ、ティファの元に向かって行った。

「き、来た!」
「人間同士で戦うなんて……!」

 今まで出会ってきたのとは違う、少なくとも自分達と同い年ぐらいの少女の姿をした者と戦うのに芳佳達は躊躇いを感じる。しかし銀髪の少女達は対照的に無機質な殺意を向けながら芳佳達に向けて引き金を引いた。

『ティファ! 芳佳! リーネ!』
「ガロード……私達は大丈夫! 早く坂本さんを!」

 ティファは襲い来る銀髪の少女達を迎撃しながら、ガロードに先に行くように指示する。ガロードは躊躇いを見せながらも、ティファ達を信じてグロムリンの方へ飛んで行った。そしてウィッチと銀髪の少女達の戦いが始まり、芳佳は少女達のビーム攻撃を回避しながら彼女達に問いかける。

「アナタは一体何なの!? どうしてこんな事に手を貸しているの!?」
「理由なんてない」
「私達はただマスターの命令を実行しているだけ」

 その淡々とした答えに、リーネは魔力シールドで攻撃を凌ぎながら反論する。

「そんな……! 沢山の人を苦しめて、沢山の世界を傷付けて……そんなのが正しいはずがないじゃない!」
「マスターの命令は絶対」
「それが私達……レギオンの存在意義」

 自分達を“レギオン”と名乗った銀髪の少女の答えに対し、ティファは持っていた銃で反撃しながら、目の前のレギオン達を悲しそうな目で見つめる。

(この子達は……ガロード達と出会えなかった私なんだ)

 ティファは“もしも”の世界自分と、目の前で自分達に戦いを挑んでくる戦争の道具にされているレギオン達に、ある種の共感と憐れみの念を抱いた。

「だからこそ私は貴女を止めたい……世界は戦いばかりじゃない。もっと穏やかで優しい生き方があるって伝えたい」

 ティファのその一言に、芳佳とリーネも彼女と背中を合わせながら同調する。

「お節介なのかもしれない! でも……!」
「私も芳佳ちゃんやガロード君にそうして貰った様に、手を差し伸べたいの!」

 そして三人は一斉に放たれた数発のビームを上に飛んで回避し、それぞれレギオンの方に向かって行った。



 一方、グロムリン・フォズィルに接近したガロードは、美緒が囚われているコアに接近しようとするが、グロムリンの薙ぎ払うようなビームに行く手を阻まれる。

『くそ!』

 ガロードはシールドバスターライフルでグロムリンを攻撃する……が、透明な光の壁によってビームは拡散されて防がれてしまう。

『ビームが効かないのか!?』
『ご名答、いかにガンダムと言えど一機でこれは落とせないよ』

 するとグロムリンは期待から60基近くのミサイルを発射し、DXだけでなくフリーデンらのいる辺りにまでミサイルの雨を降らせた。

『クソ! やめろー!!』

 ガロードは攻撃をやめさせるため、ビームソードを抜いてブースターを最大限までふかし、グロムリンに一気に接近する。

『甘い!!』

 対してカウフマンは有線ヘッドビームランチャーでDXを狙い撃ちにする。ガロードはそれをシールドで防ごうとするが、予想以上の威力にシールドを破壊され、その拍子でビームソードも落としてしまい、軌道をずらされ半ば激突する形でネウロイのコアに機体を激突させてしまう。

「が……うわっ!」

 制御不能に陥り、そのまま水面に落下していこうとするDX、しかし途中でコアから飛び出している凹凸物に背中から激突した。DXが落ちた場所……それは美緒と一緒に取り込まれた大和だった。

『げはっ!』

 落下の衝撃でコックピットも大きくゆがみ、飛んできた破片で頭を怪我し血を流すガロード、さらに落下の衝撃で内臓にも大きな負担が掛かってしまい、胃の中の物を少し吐き出してしまった。

『あーあ、ゲロ吐いちゃったか……もう諦めて楽になったら?』
『あ、諦めるかよ……! お前みたいな身勝手な奴に、この世界も芳佳達の世界も好きにさせるか……!』
『……身勝手な奴ね。まあいいさ、いくら強がったってもう終わり……』

 その時カウフマンは、レーダーが複数の新たな反応を捉えている事に気付いた。

『増援……だと?』



☆ ☆ ☆



 同時刻、フリーデンでオペレーションをこなしていたトニヤは、このフリーデンに通信が入って来ている事に気付いた。

「え!? 何これ……」
「どうしたのトニヤ!?」
「この海域に接近してくる部隊が……これって!」



 一方フリーデンの近くで戦っていたMS隊とウィッチ達も、接近してくる艦隊に気付いた。

「ちょっと! 何か近付いて来ているんだけど!? 敵の増援!?」

 その部隊を見てウンザリしている様子のエーリカ、そしてすぐ傍にいたカリスがその部隊の正体に気付く。

『アレは……宇宙革命軍!?』



☆ ☆ ☆



『聞こえるかフリーデン、こちらは宇宙革命軍、君達の援護に来た』
「宇宙革命軍!? な、なんで!?」

 突然現れた予想外の援軍に、サラを始めとするフリーデンの面々は困惑していた。それを見ていたミーナが話に割って入ってくる。

『宇宙革命軍……確かフリーデンと敵対していた筈じゃ……』
『それは……コロニーの新たなる指導者となったあのお方の指示だ』
「あの方……!?」

 その時、宇宙革命軍の輸送機の中から空中戦用に装備を変更しているジェニスやクラウダが降下し始める。そしてその中に……複合アンテナを背部に装着したクラウダがあり、凄まじいスピードで他の機体の道しるべのようにネウロイMSの軍団に突撃していき、次々と敵を落として行った。
 その機体の凄まじい戦闘力を見て、サラたちはそのパイロットが何者なのかすぐに気が付いた。

「あ、あの機体は……ランスロー・ダーウェル!!!」



☆ ☆ ☆



『各機、目標はあの黒いMS部隊だ。フリーデンのMSとウィッチの御嬢さんたちを援護するんだ』
『『『了解!!!』』』

 アンテナ付きのクラウダを駆る男……ランスロー・ダーウェルは、部下に迅速な指示を出し、統率された動きをもって、周りのネウロイMSの軍団を次々と撃破して行った。
 そのランスローにカリスが通信で話し掛ける。

『まさか貴方が現れるとは思いませんでしたよ。ランスロー・ダーウェル、何故地球に?』
『あの戦争……第八次宇宙戦争が終結した後、我々宇宙革命軍と新連邦は条約を結び平和への道を歩み始めた。しかし指導者を失った両陣営の混乱は計り知れなくてね……私が今臨時の宇宙軍の代表をしているのさ』

 ランスローは自嘲気味に笑いながら、襲い掛かって来たネウロイMSをビームサーベルで真っ二つにし、カリスのベルティゴと背中合わせになる。

『何にせよ助かります。僕達だけじゃどうなっていたか……』
『援軍に来たのは我々だけじゃない。もうすぐ到着する』
『え?』

 その時、宇宙革命軍がきた方角から、さらに複数の艦隊が現れた。

「また来た!?」
『新連邦の艦隊よ! それにあの中心にいるのは……!』

 さらに援軍に現れたのは新連邦軍の艦隊、そしてその中心を航行する戦艦を見て、フリーデンのクルーとウィッチの面々はさらに驚愕した。



☆ ☆ ☆



 新連邦の戦艦から次々とドートレス・フライヤ等のMSが出撃する中、艦隊の中心を航行する一回り小さな戦艦……赤城の艦橋に何十人もの少女達……ウィッチがストライカーユニットを履いて、今まさに出撃しようとしていた。

「各機、501とランスロー氏の艦隊の援護、並びに負傷者の援護を!」
「「「了解!!!」」」

 先頭に立っていた扶桑海軍の軍服を着たウィッチ……竹井醇子の号令を合図に、ウィッチ達は一斉にアフター・ウォーの空に飛び立った。



☆ ☆ ☆



『聞こえますかフリーデン、こちらは赤城、これより戦列に加わります』
「す、杉田艦長!? 何故ここに!?」

 アフター・ウォーの世界にいる筈のない、赤城からの通信を受けて驚愕するフリーデンのクルー達。そして思わずトニヤが通信機の向こうの杉田艦長に質問する。

『マリア公女殿下が全世界のウィッチに声を掛けたのです。命がけで我々の世界を守ってくれた英雄たちに、今度は我々が報いる番だと。世界を渡って貴方達を助けに行こうと……予想以上の志願者の数に驚きましたよ。そして貴方達がくぐったゲートを通った直後に、あのランスロー氏と出会いまして……貴方達がここで戦っている事を聞き、馳せ参じさせてもらいました』
「マリア公女が……」

 杉田艦長の話を聞き、サラは思わず胸の中に喜びの感情を浮かび上がらせていた。自分達がこれまでしてきた事が、まさかこのような形で報われるとは思わなかったのだ。

「こういうのも……魔法って言うのかしらね?」
「さしずめ“笑顔の魔法”って奴ね」

 サラの独り言に、トニヤは笑いながら冗談交じりに言葉を返した。



☆ ☆ ☆



 戦場は宇宙軍と新連邦、そして赤城が連れてきたウィッチ達によって形勢逆転の様相を呈していた。

「ウィッチがこんなに……504やアフリカの部隊まで!」

 その様子を見て驚愕するミーナ、すると彼女の元に醇子ともう1人、扶桑のウィッチが近付いてきた。

「501戦闘航空団のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐ですね。504戦闘航空団隊長、竹井醇子大尉です」
「彼女の補佐を任されました、角丸美佐中尉です」
「あ、貴女は確かワイト島方面防衛隊隊長の……!」

 自分を見て驚くミーナに、美佐はニッコリ笑ってみせた。

「貴方達のブリタニアでの活躍、近くで見させてもらっていました。貴方達がピンチだと聞いて、あの子達すぐに集まって来てくれたんですよ」
「ありがとう……! 手の空いた人は宮藤さんやガロード君達の援護を!」



 その頃、エイラとサーニャは、複数のネウロイMSに取り囲まれていて苦戦していた。

「サーニャ、弾は大丈夫か……?」
「ちょっと心もとない、このままじゃ……」

 二人の間には焦りの感情が浮かび上がっていた。その時……。

「イッルー! サーニャさーん!」

 金髪ショートヘアのウィッチが弾薬を持ってエイラとサーニャに接近していた。その少女の姿を見て、サーニャとエイラは驚きの声を上げる。

「に、ニパ!? 何でここにいるんだよ!?」
「お前らが大変らしいから手伝いに来たんだよ! ほれ!」

 エイラにニパと呼ばれた少女……エドワーディン・カタヤイネンはエイラとサーニャに弾薬を投げて渡すと、気合十分と言った様子で鼻をふふんと鳴らして銃を構えた。

「よーっし! 私も手伝ほげあ!?」

 だが次の瞬間、ニパは横から飛んできたネウロイMSに衝突し、そのままひゅるるる~と落下してぽちゃんと海に落下した。

「……ブレないなアイツも」
『あれ? 今お仲間が落ちてったけど大丈夫なの?』

 すると一部始終を見ていたトニヤが彼女達に話し掛ける。それに対しサーニャは弾薬を装填しつつあははと自嘲気味に笑いながら答える。

「大丈夫です、いつもの事なので」
『い、いつも? そう……』



☆ ☆ ☆



 一方、同じくネウロイMSの軍団と戦っていたバルクホルンとエーリカ、そしてカリスは、ランスローの軍隊とウィッチ達の援護を受けていた。

「うわ~すごい数! 一体どれだけ集まったんだろうね!?」
「勝てる! これなら勝てるぞ!」

 その時、バルクホルンらを取り囲んでいたネウロイMS数機が一瞬で撃破され、爆炎の中から一人のウィッチが飛び出してきた。

「よう! 久しぶり……って訳でもないか!」
「げっ!? ハンナ!?」
「お前までここに来たのか!? アフリカはどうした!?」

 バルクホルンとエーリカは目の前に現れたハンナに驚く。対してハンナはクールに笑いながら答える。

「圭子に色々丸投げしてきた! ハルトマンとの決着がまだついていないしな! ところで……カリスはどこだ?」

 突然顔を赤くしていそいそと聞いて来るハンナに若干イラッとするエーリカ、そしてバルクホルンは頭痛を抑えながらカリスが戦っている方向を指さした。

「あそこで戦っているが……?」
「そ、そうか! ならば!」

 そう言ってハンナは空になった弾倉を捨て、腰に装備していた弾倉をまるでお尻で叩く様に飛ばし、それをキャッチして素早く銃に込めた。リベリオンの軍人達からは“おしりロード”と呼ばれている技術である。

「助太刀に行かなくちゃな! うん!」
「おさきー」

 しかしハンナがカッコつけている間に、エーリカがさっさとカリスの援護に向かって行った。

「なああー!? ずるいぞハルトマン!」

 それを見て慌てて追いかけていくハンナ、それを見たバルクホルンは、はあ~っと疲れたような溜息をついた。

「お前等……今戦闘中だという事を自覚してくれ」
「バルクホルン大尉!」

 その時、彼女の元に二人のウィッチが近付いて来る。カールスラントのウィッチであるヘルマ・レンナルツ曹長とハイデマリー・W・シュナウファー大尉である。

「我々はこれよりバルクホルン大尉の援護に回ります!」
「よろしくお願いします」
(よかった……手間のかからなさそうなのが来て)

 心の中で心底ほっとするバルクホルン、するとハイデマリーが補足を付け加える。

「実はもう1人来ているのですが……今あそこで戦っています」

 そう言ってハイデマリーは、ある一人のウィッチが戦っている方向に視線を移す。そこではカールスラントの軍服を着た銀髪ショートヘアの少女が、襲い来るネウロイMSを次々と撃破して行った。

「もう誰も落とさせない……落ちろ」

「ラウラ・トート……アイツも来ていたのか」
「大尉!ご指示を!」

 ヘルマはビシッと敬礼をしながらバルクホルンの指示を仰ぐ。するとバルクホルンはにやっと笑って銃を構えた。

「よし……この世界の軍とあの化け物たちに見せつけてやろう……我々カールスラント軍人の強さと恐ろしさをな!!」
「「了解!!」」

 そしてバルクホルンはジェットストライカーのエンジンを吹かし、ヘルマとハイデマリーを引き連れてネウロイの軍団に向かって行った……。



☆ ☆ ☆



「さあ! 私達も行くわよ! アルダーウィッチーズの実力を501に見せてやるわよ!」
「「了解!」」

 ルッキーニとシャーリーが戦っている空域でも、第504戦闘航空団の赤ズボン隊の三人……フェルナンディア・マルヴェツィ、ルチアナ・マッツェ、マルチナ・クレスピが援軍として現れ、沢山いたネウロイMSを次々と撃破して行った。

「にゃはー! すごーい!」
「まさかアンタらまで来てくれるなんてな……」

 参院の姿を見て、ルッキーニとシャーリーは戦いながら驚く。

「当然です、貴方達には私達の故郷を救ってもらいましたから」
「ここは僕等に任せて!」
「さあ来なさいネウロイ! 全部撃ち落としてくれるわー!」



☆ ☆ ☆



 同時刻、Gファルコンが墜落した地点では、ペリーヌがコックピットの中にいるパーラを引きずり出していた。

「大丈夫ですのパーラさん!? ふぬぬぬ……!」
「た、助かったよペリーヌ……ってうわぁ!? ネウロイが来た!!?」

 すると彼女達の周りに複数のネウロイが集まり、彼女達にビームの銃口を向ける。

(くっ……この数をパーラさんを守りながら相手にするのは……!)
「ペリーヌ、私の事はいい! 早く芳佳達と合流するんだ!」
「そんな事出来る筈ないでしょう!」

 二人がそういって言い争いをしている間に、ネウロイは彼女達に向けてビームを放とうとする。しかしその時……上空から銃弾の雨が降り注ぎ、ペリーヌ達を取り囲んでいたネウロイが次々と撃破されていった。

「あ、あれは!?」
「ペリーヌさ~ん!!」

 すると突然、銃弾が降り注いできた方角からウサギ耳を生やした少女がペリーヌに抱き着いて来た。

「あ、アメリー・プランシャール!? 何故ここにいるんですの!?」
「もちろんペリーヌさんを助けに来たんです~! 無事でよかった!」

 抱き付いて来たウィッチ……アメリー・プランシャールはえぐえぐ泣きながらペリーヌをぎゅっと抱きしめ、対するペリーヌは迷惑そうにアメリーを引き剥がそうとしていた。
 そんな二人の様子を、パーラは首を傾げながら眺めていた。

「えっと……お知り合い?」
「え、ええ、ガリア空軍での後輩でして……アメリーさんいい加減にしてくださいまし!」

 すると彼女達の元にもう1人、リベリオンの軍服を着たツインテールのウィッチがやって来た。

「アメリー、アンタ……こんな時ぐらい自重しなさいよ。私だって我慢しているのにー……」
「あ、ごめんなさいフランさん!」

 リベリオンのウィッチ……フランシー・ジェラードに窘められ、アメリーはパッとペリーヌから離れた。

(……なんか少佐少佐言っている時のペリーヌに似ているなコイツ)

 初めて見たペリーヌの知り合いのウィッチに対し、そんな感想を抱くパーラ、その時ペリーヌはある事を思いだした。

「そ、そうですわ! 早く宮藤さん達の援護に向かいませんと!」
「大丈夫です! とっても頼りになる人に任せてますから!」
「頼りになる人……?」



☆ ☆ ☆



 赤城の艦首、そこに一人の帽子を被った少女がスナイパーライフルを構えて座っていた。

「えーっと、リーネ達はどこかなっと……お! いたいた!」

 その少女はスナイパーライフルのスコープを覗きながら、数km先でレギオンと戦っているリーネ達を発見する。

「なんかピンチっぽいね……よし! お姉ちゃんが助けてあげるか!」



☆ ☆ ☆



 同じころ、レギオンと激しいドッグファイトを繰り広げる芳佳達は、自分達の攻撃がレギオン達の周りを包む謎のフィールドによって防がれてしまい。圧倒的に不利な状況に追い込まれていた。

「くう……! 銃弾が通らない!?」
「私達のシールドとは違うの!?」

 一方レギオン達はビームライフルらしき武器を抱えて、銃口を芳佳達に向ける。

「目標ロック、無力化しま……」

 その時、突然戦場に一発の銃弾が飛来し、レギオンの一人が構えていたビームライフルの銃口にストンと寸分たがわずに入った。ビームライフルは内側から爆発を起こした。

「戦闘続行不可能……離脱」
「え!? な、何が起こったの!?」

 芳佳達は慌てて銃弾が飛来した赤城のある方角を見る。すると今度は銃弾が二発飛来し、それぞれ残りのレギオンの持つビームライフルの銃口にすっぽり入り、内側から爆発を起こした。

「戦闘力15%に低下……」
「これより離脱……」

 ライフルの暴発により深手を負ったレギオン達は、そのまま芳佳達に目もくれず撤退して行った。

「まさか……攻撃する間だけ開くフィールドの隙間を狙って狙撃したの?」
「こんな芸当が出来るのは、まさか……」

 リーネは自分が持つライフルのスコープで赤城の方を見る。スコープには自分達の方に向かって手を振る少女の姿があった。

「やっぱり……ウィルマお姉ちゃんだ……」
「えー!? リーネちゃんのお姉さん!? どうしてここに!?」
「な、なんだかよく解らないけど、とにかく今はガロードの援護に行きましょう」

 ティファにそう言われ、赤城の方に芳佳はお辞儀を、リーネは一度ウィルマの方に手を振りながらガロードが戦っているグロムリンの方へ向かって行った……。



☆ ☆ ☆



 同時刻、ガンダムXMAOHと戦うジャミルのGXディバイダーは、すでにディバイダーを破壊されビームマシンガンで戦っていた。

(強い……! 彼女である筈がないのに、どうしても打ち崩すことが出来ない……このままでは!)

 するとガンダムXMAOHは、突然背中の翼を広げマイクロウェーブを受信し、サテライトキャノンの砲身を両手で持ち上げるように構えた。

『いかん!』

 ジャミルはすぐさま機体を上昇させる。相手は自分のみを狙っている。このままの高度では味方を巻き込んでしまうと思ったとっさの判断である。
 そしてガンダムXMAOHは砲身から特大のサテライトキャノンをGXディバイダーに向けて放つ。ジャミルはそれを機体を右に飛ばして回避する。しかしサテライトキャノンの膨大なエネルギーの奔流は、まるで津波のようにGXディバイダーを追いかける。

『ぬおおお!!』

 ガンダムXMAOHの周りを、まるで円を描く様に飛ぶGXディバイダー、そしてサテライトキャノンのエネルギーが出し切られるのを見計らって、ビームソードを抜きつつガンダムXMAOHに一気に接近する。

『はあああ!!』

 右手で持ったビームソードを振り降ろそうとするGXディバイダー、しかしそれが振り降ろされるよりも早く、ガンダムXMAOHはいつの間にか右手で持っていたビームソードを斜め上に振り上げて、GXディバイダーの右腕を切り落とした。

(やられ……!)

 自分の死を予感し、体の芯が一瞬で氷のように冷たくなっていくのを感じるジャミル。しかしその時……彼の背後から、どこか懐かしさを感じる声が聞こえてきた。

『使え! ジャミル・ニート!』

 自然と、GXディバイダーは空いた左手を後ろに伸ばした。そして掌に、ビームサーベルの柄が収まり、ジャミルはそれにスイッチを押し、接近していたガンダムXMAOHのコックピットに突き立てる。ビームサーベルの刃はコックピットを貫いた。それと同時に、ガンダムXMAOHはまるで魂が天に向かって抜けたように動かなくなった。GXディバイダーはそれを優しく抱きしめる様に支えた。

『ルチル……』

 かつて自分が少年の頃慕っていた女性の名前を呟くジャミルのサングラスの奥の瞳は、どこか悲しそうだった。
 するとGXディバイダーの元にランスローの駆るクラウダが近付いて来る。

『大丈夫か、ジャミル・ニート』
『ああ、君がこれを渡してくれたのか』
『部下の物を拝借したのさ』
『また……君に助けられたな』

 その時、二人の周りに小型ネウロイやネウロイ化MSが集まってくる。

『話は後だ、まずはこれを片付けよう』
『ああ、力を貸してくれ……ランスロー・ダーウェル』

 16年目の亡霊を討った、かつてはライバル関係だった男二人は、二度目の共闘関係を結び異形に立ち向かって行く。二人の英雄の快進撃を止められる者は、いない。



☆ ☆ ☆



『兄さん、少しこちら側が圧されているね』

 シャーリーやウィッツ、ロアビィらの相手をしていたフロスト兄弟は、予想外の援軍でひっくり返って行く戦況を冷静に見ていた。

『問題ない……これですべて吹き飛ばせばいいのだ』

 するとアシュタロンはMA形態に変形し、その上にヴァサーゴを乗せる。

『やべえ! サテライトランチャーを使う気だ!』
『させるかっての!!』

 フロスト兄弟の意図に気付いたウィッツとロアビィは、すぐさま彼等のガンダムに襲い掛かる。

『邪魔だ!』

 しかしヴァサーゴがすぐさまストライククローを伸ばして数発ビームを放ち、エアマスターの翼部分とレオパルドの頭部に直撃させる。

『うぉ!? 駄目だ制御できねえ!』
『くそっ……誰かフロスト兄弟を止めろ!』

 二機が海へ落下していく中、ロアビィは周りにいる味方にオープン回線で通信を入れて指示を出す。しかしほとんどの味方はネウロイらの相手で手が離せなかった。一人を除いて。

『やろう兄さん、僕達の世界に栄光を』
『ああ、まずは今までの礼をさせてもらうぞ……フリーデン!』

 ヴァサーゴは月から送信されてくるマイクロウェーブを背部の放熱フィンで受信し、アシュタロンが展開したサテライトランチャーの引き金を握る。その時……。

「やめろー!!!」

 他のウィッチ達の援護をしていたシャーリーが音速を超える猛スピードで、フロスト兄弟のガンダムに突進してきた。

『彼女は……!』
『構うな! たかが小娘一人に止められはせん!』

 シャギアは戸惑うオルバを叱責し、サテライトランチャーのチャージを続ける。一方シャーリーは高速で突進しながら、前方に円錐状に何重にも重ねた魔力シールドを展開する。

「こうなりゃ一か八かって奴だ!!」

 そしてシャーリーはスピードを緩めることなく、今まさにチャージが行われているサテライトランチャーの銃口から中に入ってしまった。

『な……!? なんてことを!?』
『構わん! 発射する!!』

 シャーリーの無謀と表現するには足りない行いに驚愕するオルバをよそに、シャギアは引き金を引き絞る指に力を入れた。
 
一方、サテライトランチャーの砲身の中に入ったシャーリーは、魔力シールドの強度をさらに強めた。

「やらせない……やらせねえぞおおおおおお!!!!」


 そして引き金は引かれた。



☆ ☆ ☆



「錦ちゃん! アレ!」

 第504戦闘航空団の一員として派遣されていた諏訪天姫は、同じ部隊の仲間で親友である中島錦と共に戦っており、シャーリーの一連の行動を目撃していた。

「む、無茶だ! 死ぬぞ!」

 サテライトランチャーの砲身に突っ込んだシャーリーを助けに行こうとする錦、だがその時……サテライトランチャーから膨大なエネルギーが放出された。

「うわわわわ!?」
「天姫!!」

 それにより発生した衝撃波で飛ばされそうになる天姫を、錦は手を掴んで引き留める。そして……ある事に気が付いた。

「ビームが……裂けている?」

 ヴァサーゴが放ったサテライトランチャーは、まるでラッパのように円形に裂け、錦達に直撃することはなかった……が、海の方に当たったサテライトランチャーのエネルギーが津波を引き起こし、敵味方共々混乱に陥っていた。
シャーリーはサテライトランチャーを正面から受け止めようとはせず、円錐状に展開した魔力シールドで受け流そうと考えたのだ。そしてその読みはちゃんとした結果を残した。
 その頃、サテライトランチャーを放ったフロスト兄弟は目の前で起こっている現象に驚愕していた。

『ば、バカな!? サテライトランチャーが!?』
『このままでは暴発……!』

 するとサテライトランチャーの砲身は想定外の負荷を掛けられた事により、突然の大爆発を起こし、そのまま二機とも海へ落下して行った。

「しゃ、シャーリー……?」

 そして一部始終を見ていたルッキーニは、彼女が居たであろうサテライトキャノンの砲身が吹き飛んで海に落下していく様を見て、思わず大声で叫び飛び出して行った。

「しゃ、シャーリー! 出てきてよシャーリー!! シャーリィィィィィ!!!!」



☆ ☆ ☆



 海に浮かぶ残骸の上で、シャーリーは自分を呼ぶ声を聞いて目を覚ました。しかし左目は頭から流れている血のせいで開けることが出来なかった。

(生きてる……のか? 私……)

 シャーリーは試しに自分の手足を動かし、指も腕も全部欠けずに残っている事を確認する。

(ウィッチじゃなきゃ死んでたな……まるっきり無事って訳にはいかないけど)

 シャーリーは焼けただれた自分の右掌を見つめて自嘲気味に笑う。彼女の右腕は重度の火傷を負っており、右半分の上着と下着が焼けてなくなっていた。そして起き上がろうとするが、魔力を使い果たしたせいか体に力が入らず起き上がれなかった。その時……近くでガラガラと瓦礫が崩れる音を聞いたシャーリーは、音がした方角を見てにやりと笑う。

「よう、アンタも生きていたか」
「ああ、おかげさまでね……!」

 そこには、ボロボロの姿のオルバが立っており、彼は額に青筋を立て、シャーリーに銃を向けていた。

「よくもやってくれたね……お陰で僕は……僕等は!」
「“自分達を否定した人類を滅ぼせない”……ってか? まあそう怒るなって。よかったじゃないか、そんなくだらない事をせずに済んで……」

 次の瞬間、シャーリーの頭のすぐ傍に銃弾が撃ち込まれる。しかしシャーリーは物おじせずにオルバを見据えていた。

「くだらない、だと……!? 君に何が解る!? ウィッチである君が! 誰からも祝福されていた君達が! 世界のすべてに拒絶された僕達の何が解るって言うんだ!!!」
「解ってないのはお前らの方だ!!」

 オルバの慟哭に、シャーリーはさらなる慟哭で返した。

「自分達は拒絶されたから、世界を滅ぼすとか……そんなの悲しいじゃん、おかしいじゃん……!」

 シャーリーは自分が目の前の男に対して感じていた事、そして伝えたかったことをすべてぶちまけた。

「あのさ……アンタ、ロマーニャで私がルッキーニを探していた時、その能力を使って助けてくれたよな?」
「あ、あれは……」

 シャーリーの指摘に、オルバはその時の事を思いだして戸惑いを見せる。

「アンタらすげえよ、私達ウィッチにできない事が出来るんじゃないか。アンタらは失敗作なんかじゃない、自分にできる事が出来るすげえ人間なんだ……!」

 シャーリーは必死に上半身を起こし、オルバが向ける銃に臆することなく、彼の目をしっかり見て、自分がずっと伝えたかった、自分なりの答えを言葉にした。

「たとえ……アンタらの事を否定する人間が大勢いても、私はアンタらを否定しない! アンタらは私達に出来ないことが出来るすげえ奴なんだって言ってやる!」
「!!!!!」

 シャーリーの言葉を受けた途端、オルバの銃を握る手はガタガタと震えだした。その時……。

「弟を誑かすのはやめて貰おうか……!」

 右手に銃を持ったシャギアが、瓦礫の上を這いつくばりながら現れた。

「アンタは……!」
「もう遅いのだよ……! 我々はもう後戻りができないところまで来てしまったのだ! もう止まれないのだ!」
「そんなことはない! だってアンタら今も生きているじゃないか! だったらいくらでも償える! やり直せるんだ!!」

 シャーリーの必死の叫びに、シャギアは心を乱され、半ば発作的に銃の引き金に指を掛けた。

「黙れ! 黙れ! 黙れええええええ!!!!」



 そして辺りに一発の銃声がパァンと鳴り響いた。



「あ、アンタ……!」

 シャーリーに向かって撃たれた凶弾は、間に割って入ったオルバの胸に当たった。
 肺に当たったのか、オルバはゴフッと大量の血を吐いてその場で倒れた。

「オル……バ?」

 目の前で何が起こったのか理解できず、放心状態のシャギア、一方シャーリーは這い蹲りながらオルバの傍に寄る。

「おい! しっかりしろ! 死ぬんじゃない!!」
「にい、さん……」

 オルバはうつ伏せのまま口から血を流しつつ、放心状態のシャギアに語り掛ける。

「ぼ、ぼくらはもう、たたかわなくて、いいんだ。かのじょに、うけいれられた、ほろぼすりゆうが、なくなった」
「しっかりしろ! 死ぬな! こんな事で死ぬな!!」

 シャーリーは大粒の涙を流しながら、どんどん冷たくなっていくオルバの体を揺さぶる。そんな彼女に、オルバは何も取り繕っていない優しい笑顔を向ける。

「あり、がとう、きみに、あ、あえて、よか……」
「おい!? おい!! 目を閉じるな! 帰ってこい!」

 シャーリーはオルバを仰向けに寝かせ、心臓マッサージを試みる。一方その様子を虚ろな目で見ていたシャギアは、自分の手の中にある銃を見つめる。

「オルバ」

 生まれた時から一緒で、これまで苦楽を共にしてきた自分の半身、その半身を自分の手で掛けてしまった事実を受け、シャギアは半身の名前を呼んだ後、銃口を自分の眉間に押し当て、引き金を引いた。
 パァンと、辺りに二度目の銃声が響く。しかし銃弾はシャギアの頭を貫通することなく。何も貫くことなく海の向こうに消えて行った。

「君は……」

 シャギアの銃を握る手には、顔を涙と鼻水でグチャグチャにしているルッキーニがしがみ付いていた。

「そ、それは駄目だよ! 自分で自分を殺しちゃうなんて、絶対に駄目だよ!!」

 ついさっきこの場に到着し、三人の間に何があったか理解していないルッキーニは、恐らく何も考えず、発作的に……というより本能的にシャギアの行為を止めたのだろう。
 すると周りで戦っていたバルクホルンやミーナ、赤ズボン隊の3人も次々とシャーリー達の元に降りてきた。

「酷い怪我……早く医務室に!」
「私の事はいい! それよりこいつを助けてくれぇ!!」
「解っているから少し落ち着け! まったく……ここまで無茶をするとは呆れた奴だ!」

 半狂乱のシャーリーを宥めるバルクホルンをよそに、赤ズボン隊の3人は瀕死のオルバに駆け寄る。

「フェル隊長……」
「解ってるわよ、宮藤さん程じゃないけど、命をつなげるぐらいなら!」
「早くフリーデンに運びましょう!」

 フェルがオルバに回復魔法を掛けている様子を呆然と眺めていたシャギアは、手に持っていた銃を地面に落とす。そして彼の元にミーナが近付いてきた。

「シャギア・フロスト……私達と共に来てもらいます」
「……ああ」

 シャギアは一切抵抗することなく、瀕死のオルバや重症のシャーリーと共にフリーデンに連れて行かれた……。



☆ ☆ ☆



 グロムリンのコックピットでカウフマンはこれまでの出来事の一部始終を見ており、自身の敗北を予感していた。

『……まさかこんな展開になるとはね。少し君と彼女達の世界の人間達を見くびっていたよ』
『そう、かよ……!』

 ガロードはブレストバルカンでグロムリンを攻撃する。しかし弾が当たった個所は、すぐにズブズブと再生されていった。

『な、何だ今の!?』
『無駄だよ、その程度の攻撃じゃすぐに再生されるし、ビームコートでサテライトキャノンの威力も軽減される』
『くっ……!』

 ガロードはモニターで周りを見回して起死回生の手が無いか探る。するとDXが倒れている大和の艦首に、先程落としたビームソードが落ちている事に気付く。

(あ! アレは……!)

 そしてそのビームソードの傍に、美緒が使っていた烈風丸が突き刺さっている事にも気が付いた。

『どうした? 逆転の手は思い付いたかい?』
『ああ、とっておきのがな!』

 するとDXはブースターを噴かし、落ちていたビームソードを拾い上げ、グロムリンの方に投げつけた。しかしアンカーレッグによってそれは上空に向かって弾かれてしまう。

『無駄なあがきを……』

 そう言ってカウフマンはDXに最後のトドメを刺そうとする。しかしその時……上に弾いたビームソードが突然大爆発を起こし、グロムリンの視界を一時奪う。

『なんだ!?』

 ガロードとカウフマンはビームソードを爆破させた銃弾が飛んできた方角を見る。そこには……ライフルを構えたリーネが居た。

「今だよ! 芳佳ちゃん! ティファちゃん!!」

 そう言ってリーネは横に避ける。するとそこにはサテライトキャノンを構えた芳佳と、彼女の横で抱き付く形で指示を出しているティファが居た。

「敵はあそこ……あそこに向かって撃って!!」
「うん!」

 そして芳佳はサテライトキャノンの引き金を引く。銃口からエネルギーの奔流が流れ出し、グロムリンのが展開する透明なシールドに直撃する。

『この程度の攻撃で……!』
「いけええええー!!」

 すると芳佳の叫びが届いたのか、グロムリンのシールドはブワッと散開し、頭部とネウロイコアの左半分を吹き飛ばした。そしてそれと同時に……芳佳のサテライトキャノンは負かに耐え切れず、プスンと煙を出して動かなくなった。

「ああ、使えなくなっちゃった……」
「とにかく坂本少佐を助けに行こう!」

 芳佳は動かなくなったサテライトキャノンを脱ぎ捨てると、リーネとティファと共にグロムリンの元に近付いて行った。

『おのれ……落ちろ!』

 グロムリンはサテライトキャノンから受けたダメージを回復させつつ、迫ってくる芳佳達にビームとミサイルの雨を降らせる。しかしダメージが大きすぎるせいか、思った様に弾幕が張れず彼女達の接近を許してしまう。

「坂本さんは……いた!」

 ティファは四肢を固定されて束縛されている美緒を発見し、彼女の周りに銃弾を撃ち込んで救出を試みる。すると美緒を固定していた部分は粉々に砕け散り、美緒はコアから解放されて海に向かって落下しようとしていた。

「坂本さ……」
「少佐―!!」

 するとティファが助けに入ろうとするよりも早く、後ろからやって来たペリーヌが彼女の横を通り過ぎ、力無く落ちていく美緒を空中でキャッチした。

「少佐! 少佐!」

 意識のない美緒に必死に呼びかけるペリーヌ、すると美緒はうっすらと目を開けた。

「ペリーヌか……済まない、迷惑を掛けた」
「……!! いいんです! いいんですの! 少佐が無事で何よりです! 皆さん! 坂本少佐の救出に成功しました!」

 ペリーヌはオープン回線で美緒の無事を味方全員に伝える。すると至る所から歓喜の声が上がり、全体の士気が上がった。

 一方、芳佳とリーネは周りから降り注ぐグロムリンの攻撃を回避し続けるDXに近付き、ガロードに通信を入れる。

「ガロード君! 大丈夫!?」
『なんとかな! 後はアイツをぶっ飛ばすだけだ!』
「うん! 後少し……きゃあ!?」

 その時、芳佳の背後から数発のビームが放たれ、彼女の履くストライカーを片方破壊した。ビームが放たれた方角には、先程撤退したレギオンの一人が飛ぶのもやっとな状態で向かってきていた。

『芳佳!』
「芳佳ちゃん!」
「マスターを……やらせはしない」

 ガロードは落下しそうになった芳佳をDXの手で受け止め、リーネは降り注ぐグロムリンの攻撃から二人を守る様にシールドを展開する。

「震電が……」
『そのままじゃ危ない、DXのコックピットに入れ!』

 芳佳はガロードの指示に従い、ストライカーを脱ぎ捨ててDXのコックピットに入る。一方リーネは向かってきたレギオンの一人を迎撃する。

「あの子は私に任せて! 二人はあのMAを!」
『解った! 無茶するなよ!』

 ガロードはレギオンの一人と戦闘を開始するリーネを見送りつつ、目の前に立ちはだかるグロムリンを見据えた。



☆ ☆ ☆



DXのコックピットに入った芳佳は、ガロードの怪我を治しつつ現状を確認する。

「ガロード君! サテライトキャノンで一気に決めちゃおうよ!」
「それが……さっき背中から墜落した衝撃で、サテライトキャノンが壊れちまったんだ、他の目ぼしい武器も全部無くなっちまって……」
「ええ!? そんな!」

 美緒という人質が居なくなった今、サテライトキャノンで一気に勝負を決めるチャンスなのだが、その切り札が失われた今、ガロード達はまさに絶体絶命のピンチに陥っていた。

(どうする!? 芳佳のサテライトキャノンも無い今、この状況を打破する方法なんて……)
「わん!」

 その時、コックピットのシートの裏から突然、兼定が現れ芳佳の肩に乗っかった。

「兼定!? お前また忍び込んでたのかよ!? つかよく無事だったな!?」
「わんわん! わん!」

 すると兼定は右前脚でモニターを指す。モニターには艦首に突き刺さった烈風丸が映っていた。

「烈風丸? あれがどうしたの?」
「わふ……!」

 兼定はきとっとした目つきで芳佳を見る、すると芳佳の頭の中に、兼定の声らしきものが聞こえてきた。

「これは……? そんなことが出来るの? ……うんわかった、やってみる」
「芳佳? どうしたんだ?」
「ガロード君、あのね……」

 芳佳は兼定から受け取った作戦をガロードに耳打ちする。

「ええ!? そんなことできるのかよ!? 幾らなんでも無茶なんじゃ……」

 作戦の内容を聞いて、ガロードは心配そうに芳佳を気遣う。すると芳佳はしっかりとした目つきでガロードを見据える。

「マイクロウェーブ受信システムは生きているんでしょ? ガロード君……私を信じて! 私達なら出来るよ! きっと!」
「……ええいわかったよ! こうなったらとことん信じてやるよ!」

 そう言ってガロードはDXのブースターを噴かし、艦首に刺さる烈風丸をDXの手で握り締めた。

『何をするつもりだい? サテライトキャノンが使えない君にできる事なんて何もないさ』
「言ってろ!」

 そしてDXはミサイルとビームの雨を掻い潜りながら、月から送信されるマイクロウェーブを受信する。するとカウフマンはDXのコックピットにいる芳佳に問いかける。

『宮藤芳佳……君もこの世界を見ただろう? 例え今は協力していても、君達の世界はやがて人類の手で戦火に包まれ、やがて滅びの道を進む。人間とはそういう物さ、現に過去や黒歴史の中の20世紀もそんな時代だった。それは未来永劫、人が人である限り変わる事はない』
「……」

 芳佳は黙ってカウフマンの話を聞いていた。

『僕の元に来てくれ宮藤芳佳。僕と君となら数多の次元世界を統べる神と女神として、争いのない永遠の未来を作ることが出来る。戦争が嫌いな君としては、魅力的な提案なはずだ』
「……確かに人ってそういうものなのかもしれない。でも……」

 カウフマンの問いに対し、芳佳はその目にある決意を宿らせながら答える。

「でも、それってやっぱり違うよ。私は神様ってガラじゃないし、誰かに管理された未来を生きるのって……死んでいるのと一緒だと思う。未来ってどうなるか解らないから、みんな一生懸命、大切な人と一緒に居られる“今”を大切に生きるんだよ」

 それは芳佳がガロード達フリーデンの皆と、この世界で生きる人々を見て感じた素直な気持ちだった。その彼女の奥底に宿る“決意”は、カウフマンの言葉に決して揺らぐことはなかった。

「私……ウィッチになった日から色んな人に出会った。坂本さん、リーネちゃん、ペリーヌさん、ミーナさん、バルクホルンさん、ハルトマンさん、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、サーニャちゃん、エイラさん、ティファちゃんにフリーデンの皆、そしてガロード君……皆私に笑顔の魔法をくれて、私に守る力をくれたんだ。だから……!」

 芳佳はGコンを握るガロードの手に、自分の手をそっと添え、大声で宣言した。

「だから私のやる事は変わらない! みんながくれた笑顔の魔法を胸にアナタと戦う! それが私の……“決意”なんだ!!」



 最終話「Resolution ~笑顔の魔法~」



 芳佳の宣言を受け、ガロードもまたDXの操縦を続けながら、カウフマンに反論する。

「だとよ! フラれちまったな兄さん!」
『……そのようだね、君のようにはいかないな』
「誰だって辛い思いを抱えて、一生懸命生きているんだ。それがティファに初めて出会った日から出会ってきた人達皆に教わった事だ。だから俺はそんな人達や……ティファや仲間達を守る! それが俺にできる事だ!!」

 そしてDXはグロムリンの攻撃を掻い潜って距離を開ける。そして背中の翼を広げ黄金の輝きを放つ。

「マイクロウェーブ……来る! 芳佳! 本当にいいのか!?」

 ガロードの問いに、芳佳は気合い十分と言った様子で鼻息荒げに答えた。

「ガロード君! ウィッチに不可能はないんだよ!」
「それもそうか! 芳佳達に出来ない事なんてないもんな! 疑いようがねえよ!!」

 そしてDXにマイクロウェーブのチャージが完了した時、突然芳佳の体が青白く光り出した。

(お願い、烈風丸、DX……!  みんなを守って!)

 すると、DXの右手に握られていた烈風丸が突然輝きを放ち、みるみるうちに光の剣となってDX以上の長さにまで巨大化する。

『まさか……!? 自分の体を電導させて、マイクロウェーブのエネルギーを烈風丸に送り込んでいるのか!? そんなことをしたら君の体は!』
「ガロード、くん……お願い!」

 自分の体が破裂しそうな感覚に襲われながら、芳佳はガロードにすべてを託す。

「任せろ! これで……終わりだああああああ!!!」

 ガロードはさDXに残るすべてのエネルギーを使って、グロムリンに突撃する。そしてマイクロウェーブのエネルギーを注入され巨大化した烈風丸を、グロムリンとそれに寄生するネウロイに向けて振り降ろした。振り降ろされた刃はコアを破壊し、グロムリンのコックピット付近を叩き割った。

『……あーあ、女神も居ないし、これでゲームオーバーか。敗因は……最後まで君達を侮っていたからかな』

 滅茶苦茶に破壊された自分の乗るグロムリンを、むき出しになったコックピットから見て、自身の完全敗北を悟り自嘲気味に笑うカウフマン。そんな彼にガロードはDXの手を伸ばした。

「早く脱出しろ! 爆発するぞ!」
「いや、構わなくていい……僕は“不合格”だからね。彼等に処分されるよりは……自分で幕引きするさ」
「おい!!」

 カウフマンはどこか穏やかな瞳で、空に浮かぶ夜空を見上げた。

「さようならだガロード・ラン、宮藤芳佳……この先ももっと大変な思いをするだろうけど、一足先に遠い場所から見届けさせてもらうよ」
「お、おい!」

 
 
 次の瞬間、グロムリンは大爆発を起こし、それと同時に残ったネウロイ達はすべてガラス片となって砕け散った。

「カウフマン様……そんな……!」

 その様子をリーネと戦いながら見ていたレギオンの一人は、動きを止めて手からビームライフルを落とした。

「あ、あの……」
「守れなかった……私はもう……何も無くなってしまった……」

 そしてレギオンはそのままどこかへ飛び去って行った。リーネは後を追おうとしたが、あまりの速さに動くことが出来なかった。


「勝ち……ましたの?」
「宮藤とガロードは!?」

 美緒と彼女を支えるペリーヌは爆発の衝撃波を凌いだ後、姿の見えないDXを探す。
その時……ティファが月に向かって指を指した。

「大丈夫、二人はあそこ……」

 ティファの指先には、銀色に輝く月をバックに、光の翼を輝かせるDXが佇んでいた。

「よかった……! 芳佳ちゃん! ガロード君!」
「やった! あいつらやりやがった!」
「いえーい! 私達の勝ちだー!」

 それを見た501のウィッチがDXの元に集まって行き、コックピットの中のガロードと芳佳を祝福し、フリーデンの面々はその様子を優しく見守っていた。





 こうして、次元世界を股に掛けた事件は終わりを告げ、二つの世界は新しい未来へ共に歩み始めた……。










 はい、これにて最終話は終わりです。引き続きエピローグをお楽しみください。
 今回救援に来たウィッチ達の選考基準は手元にあったストパン漫画作品(キミとつながる空、片翼の魔女たち等)となっております。



[29127] エピローグ「銀色Horizon ~いつか、還りたい空で~」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2014/02/11 23:18
 あの戦いから数日後、芳佳達の世界を繋ぐゲートの前にはフリーデンと赤城が停泊していた。赤城の後ろには半壊した大和がワイヤーで括りつけられていた。
 そしてフリーデンの艦の上では、芳佳、リーネ、ペリーヌ、そして美緒が目の前のガロードとティファに最後の別れのあいさつを行っていた。

「これでお別れだね……ガロード君」
「ああ、それにしても大丈夫なのかよ? 芳佳お前……もう魔法が使えなくなっちゃったんだろ?」

 あの戦いで芳佳は体に大きな負荷を掛けてしまい、体の中の魔法力がなくなってしまいほぼ普通の女の子になっていた。しかし彼女はそんな事を微塵にも気にしていなかった。

「魔法力が無くっても、私は私にできる事をするだけだよ。扶桑に帰ってお医者さんになる為の勉強をするつもり」
「そう……応援しているわ」
「ガロード、お前達はどうするんだ? もしよければ私が軍に口添えして……」

 美緒の誘いに対し、ガロードは首を横に振った。

「知っているだろ? 俺お堅いのは苦手なんだ。それに……まずはもっとこの世界の事を知りたい、だからティファと一緒に旅に出るつもりなんだ」
「見識を広める為の旅か……お前らしいな! わっはっはっは!!」

 ガロードの返答に、美緒は予想通りだったのかいつものように豪快に笑い飛ばして見せた。
 そして芳佳は少し寂しそうな目でガロードとティファを見つめる。

「もう、会えないのかな……」
「そんなことないさ、じいさんとD.O.M.E.の話が本当なら、この先もっと大きな戦いが起こるかもしれない。もしそうなったらどこからでも駆けつけるさ」

 ガロードは自身満々と言った様子で親指をグッと立てる。すると芳佳達の後ろからミーナの声が聞こえてきた。

「美緒、そろそろ時間よー」
「そうか、名残惜しいがそろそろ……」

 そう言って美緒達はガロード達の元から去り赤城に乗り込もうとする。

「ガロード君!」

 その時、突然芳佳がガロードの元に駆け寄る。彼に抱き着いた。
 そして、彼の頬に自分の唇を押し当てた。

「え」
「あ」
「あら」
「おお!?」

 その場に居た者すべてが、その光景を目の当たりにして目を丸くして驚く。
 一方芳佳はすぐにガロードから離れると、リーネ達の横を駆けて赤城の方に向かって行った。

「じゃあねガロード君! 私……ガロード君の事が好きだったよ!!」

 自分の想いを過去形にしてガロードに伝えた芳佳は、今更になって自分の行動が恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして脱兎のごとくその場を去って行った。

「ちょ!? 待ちなさい宮藤さん!」
「きゃー! 芳佳ちゃん大胆!」
「ふむ……どうやら私の予想を超える成長をしたようだな宮藤……それではなガロード、ティファと仲良く暮らすのだぞ」

 そして美緒達もそんな彼女を追いかけるようにその場を去って行った。

「え……え?」

 何が起こったか解らず、ガロードはただただ唖然としていた。そんな彼にティファはニッコリと笑いながら話し掛ける。

「ふふふ、ガロードはもっと女の子の気持ちを理解できるようにならないとね」

 目の前で自分の想い人がキスされたにも関わらずニコニコ笑っているティファ。彼との間にある確固たる絆ゆえの余裕だった。



 そして彼等は、掴み取った束の間の平和と日常の世界へ進んでいった……。



☆ ☆ ☆



 ガロード達の世界の、連邦軍本部、そこに招かれたジャミルは、宇宙軍の代表として来ていたランスローからある提案を受けていた。

「私が地球軍の代表に?」
「ゲートの固定化により、ここと向こうの世界との交流はこれからもっと盛んになって行くだろう。向こうの世界事情に精通し、向こうの世界の人間達に顔が効き、尚且つ世界をより良くしていこうとする確固たる意志を持つ君なら適任だと思うが?」
「だが私は……」

 かつて地球軍と敵対し、多くの兵達の命を奪ってきた。そんな自分に彼等を纏めることが出来るのか。そんな疑問がジャミルの中で渦巻いていた。
 するとそんな彼に、連邦軍の上層部の人間達が話し掛けてくる。

「これは我々の総意でもあるのです。確かに我々はアナタと戦い、戦友を多く失った……だがそれはブラッドマンらの暴走のせいです」
「貴方が代表になってくれるのなら、我々はアナタを全力で手助けします! だから……」

 連邦軍上層部の本音を聞き、ジャミルは頬杖をついて深く考え込む。するとすぐ傍で話を聞いていたサラがジャミルに話し掛けてきた。

「私は……貴方がどんな決断を下そうと、ずっと付いて行くつもりです」
「……」

 そしてジャミルは決断を下し、目の前のランスローに右手を差し出した。

「……わかった。多くの血で築かれたこの平和、共に守らせてくれ」
「ああ、一緒にこの世界を変えていこう」

 ランスローは差し出された手を握り返し、地球軍と宇宙軍一丸となってこの世界をより良くしていくことを誓い合った。



☆ ☆ ☆



 フォートセバーン、冬が終わり雪解けが始まったこの街では、街の人々の活気あふれる声が響いていた。
 そしてその中でカリスは復旧活動をしている街の人々に指示を出していた。

「大分この街も立て直しましたね。一年前までは瓦礫の山みたいだったのに……」
「これも皆が頑張ってくれたお陰ですよ。ただ資材は足りているのですが食料が……」

 その時、カリス達は上空に一機の輸送機が飛んでいるのに気付いた。

「アレは……?」
「ああ、なんでもカールスラント軍からの支援物資のようで……」

 その時、輸送機からパラシュートに取り付けられた複数の木箱と、ストライカーユニットを履いたウィッチが飛んできた。

「カ~リ~ス~!」
「うわ!? エーリカさん!?」

 そのウィッチ……エーリカはすぐさま、呆然としているカリスに抱き着いた。

「え、エーリカさん!? 何でここに!?」
「カールスラントからの支援物資運ぶついでに遊びに来た!」
「遊びに来た! じゃないだろう!!!」

 すると今度はバルクホルンがストライカーを履いて輸送機から飛び降り、二人の元に降りてエーリカの後頭部に重めのチョップを叩きこんだ。

「いっだ~?! 酷いよトゥルーデ!」
「まったく、普段はめんどくさがりのくせに、カリスが絡むと急にやる気を出すのだからな」
「あはは……エーリカさんも相変わらずで」

 そしてバルクホルンは腕を組み、ものすごく真面目な顔でカリスに質問する。

「で、カリス……クリスにお土産を買って行こうと思っているのだが、ここに特産品とかはあるのか?」
「……ふふっ、貴女も変わらないですね」

 カリスは相変わらずな二人を見て、今まで見せた事のないような笑顔を見せた。



☆ ☆ ☆



 ウィッツの故郷の村の付近、村まで続くでこぼこ道に一台のジープが走っていた。

「ほら、アレが俺の村だ。何にもねえところだけどな」
「おー! すごーい! 見渡す限り金ぴかだー!」

 運転席のウィッツが見せた外の村の広大な麦畑を見て、後部座席にいたルッキーニは純粋な感想を述べた。すると助手席にいたトニヤが、ルッキーニの隣で寝転がっている、体中に包帯を巻いたシャーリーに声を掛けた。

「それにしてもアンタ達よかったの? ウィッチの仕事ほったらかしで?」
「いいんだよ、アタシの怪我はまだ治っていないんだし、療養休暇って奴だ」
「そう……それにしてもあの兄弟、一体どこに行ったのかしらね? また逃げ出したみたいだけど、また何か企んでいるんじゃないの?」

 そのトニヤの一言に、シャーリーは後頭部に両掌を乗せながら、外の風景を眺めつつ笑ってみせた。

「もう大丈夫じゃね? あいつらはもうこの世界を滅ぼそうだなんて考えていないさ、私の声が届いていたのなら……な」



 そしてジープはウィッツの村に近付いて行く。その様子を……じっと眺めている二つの影がある事を知らぬまま。

「……声を掛けなくていいのか?」
「ああ、僕達にはやらなくちゃいけない事ができた。彼女に礼を言うのはその後さ」

 その二人の目には、もう以前の様な憎悪は宿っておらず、穏やかな光が宿っていた……。



☆ ☆ ☆



 芳佳達の世界の、ペテルスブルグの第502基地の格納庫、そこでロアビィとエニルはスオムス軍の軍服を着て、自分達のMSの前に立っていた。ちなみにその隣には、ジェニスやドートレスなどといった量産型MSがずらりと並んでいた。

「いやー……まさか俺が教官になるとはね」

 あの戦いの後、扶桑やロマーニャを始めとした世界中の国は、ゲートを通じてAWの世界との交易を開始し、AWの世界に人材や新鮮な食糧を始めとした物資を送る代わりに、向こうからは何百年も進んだ様々な技術やMSや戦艦といった兵器を見返りとして受け取っていた。そして軍はそのMSの操縦法を兵達に学ばせるために、ロアビィらを教官として雇い入れたのである。

「いいんじゃない? 様になっているわよ?」
「まあ文句はないさ、報酬もそれなりに貰えるし、それにここの子達も可愛いのがいっぱい……ああうんジョークだから、銃突きつけるのやめて」

 その時、格納庫の奥の方からボロボロのニパが、スパナをもって顔を真っ赤にして怒っているキッドに追い掛け回されていた。

「くぉらー! また墜落しやがって! ストライカー直すのにどれだけの時間と金掛かると思ってんだー!」
「ひえ~! ごめんなさい~!」

 そんな彼等の様子を、フリーデンの整備班達やパーラはやれやれと呆れつつ笑いながら眺めていた。

「まーたやってるよあの二人」
「ニパも懲りないねえ、何で出撃の度に落ちるんだか」

 そんな彼等のやり取りを尻目に、エイラとサーニャがロアビィ達に近付いてきた。

「おーい二人共―」
「サーシャ大尉が訓練を始めるから来てくれって……」
「あー、もうそんな時間? それじゃ行こっか?」

 エニルに言われ、ロアビィは来ている軍服を整えて、ぽつりとつぶやいた。

「解ってるって、まあ……こういう生き方も悪くないよな」



☆ ☆ ☆



 扶桑、海軍学校の校庭では、竹刀を持った美緒が、校庭をヘトヘトになりながら走っている女子生徒達に檄を飛ばしていた。

「ほら! 後五周だ! きりきり走れ!」
「「「は、はい!!!」」」
「頑張っているわね、美緒」

 すると美緒の元に、仕事で扶桑に訪れていたミーナがやって来た。二人は生徒達の訓練風景を眺めつつ語らい始める。

「ミーナか、お前達には本当に迷惑を掛けたな……今私がこうしていられるのもお前達のお陰だ」
「当然の事をしたまでよ、だってあなたは私達11人の中の一人なんだし」
「そうか……なら私も報いなければならないな」

 ふと、ミーナは校庭を走る生徒の中にいる、ポニーテールの少女に注目する。

「あら? あの子すごいわね、走り始めてずいぶん時間が経つのに涼しい顔をしているわ」
「ああ、服部か、奴は中々見どころがある。いいウィッチになるだろう。アイツ等を一人前に育て上げるのが、私のこれからの仕事だ。ネウロイとの戦いはまだ終わっていないからな」
「ええ、向こうの世界の人達も協力してくれるし……早く終わらせてしまいましょう」

 校庭を走る未来のウィッチ達に希望を見出す美緒とミーナ。すでに力を失った者、近い将来力を失う者。しかし彼女達の想いは未来を生きる者達に受け継がれていく……。



☆ ☆ ☆



 ―――リーネちゃんへ、お元気ですか? 私は今お医者さんになる為に、この世界の大学の先生になったテクスさんの元で勉強の真っ最中です。あの戦いから随分経ちましたが、皆元気でやっているみたいです。
 ガリアでの生活はどうですか? ペリーヌさんやお屋敷の子供達は元気ですか? 聞いた話によるとペリーヌさん、AWの世界の戦災孤児も何人か引き取ったそうですね。別々の世界で生まれた子供達が家族になって一緒に暮らすって、なんだかすごくって、とても尊い事なんだなと思います。
 いつかそっちに遊びに行きたいです。その時は腕によりをかけた扶桑料理、皆にご馳走してあげるね     芳佳 ―――



「こんな感じでいいかな? うーん……」

 扶桑にある芳佳の実家である宮藤診療所、そこで芳佳はガリアで暮らすリーネに向けて手紙を書いている真っ最中だった。

「芳佳ちゃーん」

 その時、芳佳の部屋に彼女の友人である美千子が入って来た。

「どうしたのみっちゃん?」
「この前拾った怪我した小鳥さんがどうなったのかなって思って……」
「ああ、それなら……」

 芳佳は机の上にあった鉄製の鳥かごを美千子に見せる。鳥かごの中には元気に羽をバタつかせる小鳥がいた。

「すっかり元気になったみたいだね、よかったー」
「折角だし今放してあげよっか」

 そう言って芳佳は鳥かごを持ち、美千子と共に庭に出た。外はもう夜も耽っており、夜空には月が美しい輝きを放っていた。

「はい、今出してあげるよ」

 鳥かごの蓋をあけると、中の小鳥は勢いよく月に向かって飛び立っていった。
 その光景を見て、芳佳はぽつりと声を漏らした。

「ガロード君、今頃どうしているかなー?」
「確か向こうの世界で旅しているんだったよね。でもきっとまた会えるよ。約束したんでしょう?」
「うん……」

 芳佳は夜空に浮かぶ月を眺めながら、遠い世界にいる大切な人達に思いを馳せる。

(いつかまた……ね、ガロード君、ティファちゃん、私……皆と過ごした思い出、ずっと忘れないから)


 そして鳥かごの小鳥は月に向かって飛び続け、やがて風景の違う世界へやってくる……。



☆ ☆ ☆



 荒野に敷かれるレールの上を走る貨物列車、その中にある牧草を積んだ車両の上に、二人の少年少女が夜空に浮かぶ月を眺めていた。
 そんな彼等の元に、一羽の小鳥が羽休めの為に降りてくる。

「あら? アナタは……」

 少女は小鳥の体にある怪我の治療の後を見つけ、優しく微笑んだ。

「元気でやっているみたいだな、芳佳達も」
「そうね……」

 そして二人は小鳥を優しく撫でながら、夜空を美しく照らす月を眺めた。

「芳佳達と出会ったこと、俺達ずっと忘れないからな」

 そして列車は二人を運んで進んでいく、どこまでも、どこまでも……。



エピローグ「銀色Horizon ~いつか、還りたい空で~」










 はい、これにてサテライトウィッチーズは完結になります。まあまだ劇場版やこれからやるOVAと三期の話もあるし、いつかまた何か書くと思いますけど。
 しかしまだ回収していな伏線とかやりたいことがありますので、最後に+αを2,3個投稿してから締めにしたいと思っています。

取り敢えずもう少しだけ、炎のMS乗りと魔女達の物語にお付き合いくださいませ。



[29127] TIPS:「私はD.O.M.E.……すべての始まりの日を知る者」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2014/02/17 11:46
TIPS:「私はD.O.M.E.……すべての始まりの日を知る者」


※この話はサテライトウィッチーズのネタバレだけでなく、これから書こうと思っている作品のネタバレが含まれています。

※また、他のガンダムシリーズや他のアニメ作品の設定や用語が、匂わす程度に出てきます。



それでもOKな方はスクロールを、ネタバレがイヤな方はそのまま戻るをクリックしてください。




















 すべての戦いが終わった数日後、AWの世界の月付近、そこに一隻の宇宙戦艦……フリーデンⅡがガロードらを乗せて航行していた。
 航行の目的は、あの老人が言っていた「すべてが終わったらD.O.M.E.に会え」という言葉に従って、月面のマイクロウェーブ送電施設にいるD.O.M.E.に会うためである。

「うわー! リーネちゃん! 地球が見えるよ!」
「ホントだ! 大きいねー」

 フリーデンⅡのブリッジ、そこで芳佳達11人のウィッチ達はノーマルスーツを着たまま、始めて体験する宇宙に様々な反応をしていた。

「シャーリーシャーリー! 水がまんまる!」
「おーすげー!」
「これぐらいではしゃぐな、まったく恥ずかしい」

 無重力下で大きな水の塊となって浮遊する飲料水を見てはしゃぐシャーリーとルッキーニ。そしてそれを窘めるバルクホルン。そんなバルクホルンをエーリカは悪戯っぽく笑ってからかう。

「あれあれー? トゥルーデさっき楽しそうに、無重力でくるくる回ってなかった?」
「い、いやそれはだな!?」

 顔を真っ赤にして弁明するバルクホルン、一方エイラとサーニャは、芳佳達の隣で地球の様子を映すモニターをのんびりと眺めていた。

「見てエイラ、地球があんなに小さいわ」
「この前任務の時に、成層圏から地球を眺めたことあるけど、それとはまた違った感動があるなー」

 そしてその後ろでは、ペリーヌが慣れない無重力空間に四苦八苦していた。

「あわわわ!? 止まりませんわ~!」
「ほっ、大丈夫かペリーヌ?」

 豪快に縦回転していたペリーヌを、美緒は彼女の手を掴んで救出する。

「も、申し訳ございません少佐……お恥ずかしい所を見せてしまいました……」
「なあに構わんさ、こんな空間にすぐ慣れる方が難しい」

 そうしてきゃいきゃい騒ぐウィッチ達から一歩引いた位置にいたミーナは、はあっと溜息をついて申し訳なさそうに、艦長席に腰かけるジャミルに声を掛ける。

「すみません、うちの子達が……」
「構わないさ、地球育ちにとって宇宙空間は何もかも新鮮だろうしね」

 その時、ブリッジにノーマルスーツ姿のガロードとティファがやって来た。

「ジャミルー、月まであとどれぐらいなんだ?」
「後10分もすれば着くだろう、それまでに皆を席に着かせてくれ」
「オッケー……ん? どうしたティファ?」

 その時、ガロードはティファが月を映すモニターをじっと見つめている事に気付いた。

「あそこ……」

 ティファはモニターのある個所を指さす。そこは月面上にあるマイクロウェーブ送電施設だった。

「ここになにが……?」

 オペレーター席にいたトニヤは試しにティファが指さした箇所を拡大する。するとモニターには皆が驚愕する光景が映し出されていた。

「お、おじいさん!!?」

 モニターには、マイクロウェーブ送電施設の入り口付近で、フリーデンⅡに向けて手を振るあの老人の姿があった。宇宙空間に生身の状態でいるにもかかわらずにだ。



☆ ☆ ☆



 月面に降り立ったフリーデンⅡ、そこから降りてきたガロード達フリーデンクルーと芳佳達は、そこであの老人と合流した。

「ふむ、遠い所から遥々とよく来たのう。奥で彼が待っておるぞ」

 真空の中で生身のまま平然としている老人を見て、ガロードは今まで抱いていた仮定をようやく確信にすることができた。

「爺さん……今更だけどさ、アンタ人間じゃないよな?」
「なんじゃい、今更気付いたんかい。まあワシの事は奥で纏めて話すとしよう。付いて来なさい」

 ガロード達は老人に導かれるがまま、マイクロウェーブ送電施設の中に入って行った……。



☆ ☆ ☆



 しばらくすると、ガロード達はとても広い場所に辿り着いた。

「着いたか、ここに来るのも久々だな」
「着いたって……何もありませんわよ?」

 ロアビィの言葉に意見するペリーヌ。その時……彼等の周りを突然強い光が包んだ。

「きゃ!?」
「な、何だぁ!?」

 経験したことのない超常現象に驚愕する芳佳達、すると彼女達はノーマルスーツからいつもの服装になって、ガロード達と共に宇宙空間の様な場所に移動していた。

「あ、あれ? 私達いつの間に着替えて……」
「こういう場所なんだよここは、驚くのも無理ないか」

 その時、彼女達の真上に大きな光の玉が現れ、それはゆっくりとティファの両手に収まった。

『ウィッチの御嬢さん達は、初めましてになるね』
「うわ!? 光の玉が喋ったぞ!?」
「ティファちゃん、もしかしてこれが……?」

 驚くエイラとサーニャの質問に、ティファは光の玉を見つめながら答える。

「ええ、彼がD.O.M.E.」
『私の事は、ここに住まう意思の様なものだと思ってくれ』
「ふえ~……摩訶不思議だね~」

 そう言ってエーリカはティファに近付き、D.O.M.E.を指でツンツン突く。そしてバルクホルンに頭を叩かれて首根っこ掴まれて無理やり離された。
 そして改めて、ティファの隣にいたガロードがD.O.M.E.に今まで溜まっていた内なる疑問をぶつける。

「D.O.M.E.……お前は知っているのか? この世界の事、カウフマンの事、そしてそこの爺さんの事……」
『ああ、私はとある“記憶”を管理している。今からそれを君達に見せよう』

 その時、ガロード達の頭上にいくつものモニターが浮かび上がる。
 その画面にはガロード達の物とは違う、様々なガンダムたちが戦っている様子が映し出されていた。

『私はD.O.M.E.……黒歴史を封印する者』
「黒歴史……?」

 モニターに映るガンダム達の戦いを見て、フリーデンの面々や芳佳達は様々な反応を見せる。

「ものすごい動きだなこのガンダム……あっという間に黒いMSを倒したぞ。ざっと三分で12機と言ったところか」
「なにこれ!? 馬に乗っているわこのガンダム!? こっちには海賊みたいなのまで……」
「わぁ、天使の翼みたいなのを生やしたのもいる! こっちには……何か赤い光の翼のガンダムと青い翼のガンダムが殺し合っている風に見える……」

 そして芳佳はモニターの中に、DXを映し出している物がある事に気付いた。

「あの……これってDXじゃない?」
「ホントだ……これって一年前の戦いの時のか?」

 芳佳の示したモニターを見るガロード、そこには第八次宇宙戦争時の最後の決戦、月付近でDXとヴァサーゴ、アシュタロンがサテライトキャノンとサテライトランチャーの打ち合いをし、相打ちに近い形になっている光景が映し出されていた。
 そしてモニターの様子をずっと眺めていたガロードは、ある違いに気付いた。

「お、おいコレ、変じゃねえ? 俺が芳佳の世界に行く様子が映ってないぞ」
「というか……サテライトキャノンの流れ弾でここが消し飛んでねえか?」

 ウィッツらもそのモニターに映る様子を見て違和感を抱く。するとD.O.M.E.が静かに語り始めた。

『かつて……世界は一つだった。一つの時代が発展しては滅び、発展しては滅びを繰り返していた。我々のいるこの世界も、かつては一つだった世界の、幾つもある時代の一つだった』
「一つの世界……時代?」

 そしてモニターが一斉に、髭を生やした白いロボットが放つ空を包み込むような大きな光の翼によって、地上全ての存在を消し飛ばしている光景を映し出した。
 その髭のロボットに、ガロードは見覚えがあった。

「これって基地の遺跡に描かれてた奴じゃ……?」
『全てを統べる者……“∀ガンダム”、数多なるガンダムの歴史を“黒歴史”として封印してきた存在……人は彼の物によって滅びと発展を繰り返し、その種を星の海へ撒いた聖永の果てで、“刻”を支配する力を手に入れた』
「時を支配する力? それってタイムマシンとかそういうの? 子供の頃そう言う本読んだことあるな」

 シャーリーの質問に、D.O.M.E.はティファの手元から浮かび上がりながら答えた。

『彼等もそう考えていたのだろう……しかしそれは少し違っていた。彼等は“特定の時間を移動する”のではなく、“特定の時間を複製する”力……つまり宇宙を複製する力を手に入れたのだ』
「時間を戻すのではなく複製する……本当にそんな技術が作られたというのか?」
「ということは、もしや我々のこの世界も……?」

 ジャミルとテクスの質問に、D.O.M.E.ははっきりとした答えを提示する。

『君達の考えている通りだ、我々のいる世界は聖永の果ての者達によって複製された黒歴史の世界。そしてウィッチ達のいる世界は、その副産物として生まれた世界だ』

 するとガロード達の頭上に、幾つものガラス玉のような物が星空のように浮かび上がった。
 その幾つものガラス玉にはそれぞれ他の世界のガンダムだけでなく、芳佳達ぐらいの齢の少女達が異形の者達と戦っている光景が映し出されていた。

「すごい、この子達ストライカーユニットを履いていないのに空を飛んでいる」
「ていうか……肉弾戦で戦っている子や、杖みたいなのからネウロイのビームみたいなのを出している子もいるし……」
「あ、このフリフリした衣装可愛いね」

 そして美緒はガラス玉の中の一つに、金髪ツインテールの黒衣の少女が、斧の様な武器を片手に“Ⅲ”と刻まれた宝石を手に取っている様子が映し出されている事に気付いた。

(アレは確かティファの中に埋め込まれていたものと同じ種類の魔法石か?)
『彼女達は人類の別の可能性……私や彼は、ウィッチ達も含め“フォーチューン”と呼んでいる』
「フォーチューン……運命の女神か」

 そして今まで黙っていた老人が、D.O.M.E.に代わって語り始めた。

「今となっては聖永の果ての人類がどうしてそんな事をしたのかは解らん、そして複製されたいくつもの世界が並行世界として存在し、それぞれ違った文明と技術を発展させているのが現状じゃ。そして何百年も昔……すべての始まりの日がやってきた」
「すべての始まりの日?」

 すると頭上に、底の長い下駄を履いたウィッチ達が映し出される。画面の中のウィッチ達はどこかの和風な町に侵入してきた異形の者達を迎え撃っていた。

「これは……古代の扶桑のウィッチだな、相手はネウロイか?」
「いえ、少し違うわ……」

 そのネウロイよりカラフルでどこか果物を連想させるその異形の者達は、逃げ惑う町民たちや迎撃しに来たウィッチ達を捕まえ、そのまま炭化させていった。

「こことは違う遠い世界で、世界を複数に裂くような戦争が起こった。そしてその中の国の内一つが、次元を跨いで君達の世界各国に侵略戦争を仕掛けた。目的は魔力的資源と物理的資源……君達の世界は、他のいくつもの世界を巻き込み、幾憶幾千もの命を奪った大戦争に巻き込まれていった」

 映像がどこかの戦争の様子を映しだす。地上では騎士甲冑を身に纏う紅と緑のオッドアイの少女が、数万はいる騎馬兵の先頭を進み、上空ではウィッチらしき箒に跨った少女達が、オッドアイの少女達と同じ方向へ飛んでいく。彼女達の眼前には天使の羽を生やした数千の少女達が物々しい兵器を手に持って空で待ち構えていた。
 そして開かれる戦端、天使たちの砲撃は瞬く間に数百の命を奪い、上空のウィッチ達は生き残りを救う為魔力シールドを展開する。そして持っていた銃や刀で天使の羽の少女達を次々と斃していった。

 やがて画面は無数の兵や少女達の屍が散乱する荒野を映し出す。その中心には戦乙女を連想させるような騎士甲冑を身に纏った女性が、悲しそうな顔で空を見上げる。その視線の先には、曇天に佇む巨大な金と銀色をした戦艦のような物があった。
 やがて巨大な戦艦は、曇天を超えて現れた∀ガンダムと対峙する。映像はそこで終った。


「それを止めたのが∀と、遠い世界の王……いや、一人の少女の犠牲だった」
「私達の世界でそんな事があったなんて……」

 自分達の世界でそんな酷い戦争があったことを初めて知り、芳佳は少なからずショックを受けていた。

「戦争は二つの力によって止められ、君達の世界はその二つに感謝と敬意を払い、そしてもたらされた刻を超える技術を自ら破棄した……自分達にはまだその力は早すぎると判断して……」
「うむ……確かにそんな事があったのでは、恐れを感じるのも無理はないな」
「まあそれも数百年経った今、奴等が行動を起こしたお陰でまた戦乱が起きようとしているんじゃがの」

 するとガロード達の頭上に、今度はMSの工場らしき場所や、巨大なガラス管の中に入れられているネウロイや様々な異形の生物が、ガラス玉の中に映し出されている。

「お主達が戦ったカウフマンと、そのバックの組織の正体……それは次元を股に掛ける兵器製造会社……“PWF”じゃ」
「兵器会社? な、何かいきなり規模が小さくなったな、国家とか神様とかじゃないんだ?」

 カウフマンらの意外な正体に拍子抜けするガロード達、しかし老人は真剣な表情を崩すことなく話を続けた。

「だがやっている事はえげつないぞ。奴等の目的は売り物となる究極の兵器の開発……グロムリンや∀を超える究極のガンダムの完成じゃ。その部品として必要なのが各時代の中心で活躍していたガンダムに勝ったというデータと、強大で特別な力を持つフォーチューンじゃ」
「えーっと……それってもしかして俺?」
「それと私って事なんですか?」

 老人の指摘に、互いに顔を合わせるガロードと芳佳。

「兵器を売るにしても、性能だけでなく箔もつけないといかんしのう。いくつもの時代で数々の伝説を作ってきた白いガンダムに勝ったという実績と自信が欲しいのじゃよ。まあそれ以外の目的もあるかもしれんが、それ以上の事はまだわからん」
「成程……そっちは大体分かった、んじゃ次に、アンタは何者なんだ?」

 ガロードの質問に、老人は顎髭を摩りながら答える。

「ワシ? ワシはご覧のとおり人間じゃない」
『彼は“コンプレックス”……自我を持つナノマシンの集合体だ』
「ナノマシン?」

 首を傾げるルッキーニに、傍にいたテクスが説明する。

「ナノマシンとは0.1~100nmの機械の事さ、昔地球軍が医療用に開発を進めていたと聞いたが、戦争でその計画は頓挫した筈……」
「気の遠くなる未来では開発され、実用化されたんじゃよ。ワシはコンプレックスG―X型……この体全部医療用ナノマシンで出来ておる。治癒能力ならお嬢ちゃんにも負ける気はせんよ?」
「へえ……そんなあんたが何でD.O.M.E.と知り合いなのさ?」

 ロアビィの問いに、D.O.M.E.が代わりに答える。

『彼は聖永の果ての人々が、PWFの行いを止める為に私の元に送り込んできたのだ。兼定と一緒にね。私達は彼等から話を聞いてすべてを知って、ここに黒歴史のデータの半分を保管しておいたのだ』
「兼定は別の並行世界のウィッチの使い魔なんじゃ、まあある意味芳佳ちゃんとはかなり相性抜群じゃよ」

 そしてガロード達の頭上には再びいくつもの世界を映すガラス玉のような物が浮かび上がる。

「ガロード、お主達が芳佳嬢ちゃん達の世界に転移したのは半分事故じゃったんじゃ」
「事故? どういうこった?」
『次元世界と次元世界の合間というのは非常に不安定であり、ゲートや長い年月を駆けないとまず繋がる事はない。しかし例外が一つ……膨大なエネルギー同士の衝突だ』
「世界と世界の合間は薄いようで厚い膜のような物で遮られていて、例えるなら……そう、人がスピードを出している軽トラックに撥ねられた際に発生する爆発的なエネルギーでも、条件が揃ってしまえば狭間を飛び越して、たまたま隣接していた世界に飛んでしまうんじゃ」

 するとガロードはある事を思い出し、手をポンと叩く。

「ああ、もしかしてあれか、フロスト兄弟とサテライトキャノンを撃ちあったから……」
『世界の狭間が一時的に破壊され、たまたま隣接していた彼女達の世界にフリーデンごと飛ばされたのだ。そこをPWFに利用されて……』
「別の所でも似たような事が何度も起こっていてのう。ホントなんでこれだけ短い期間でこんな事が起こるんじゃか……」

 そして話は一通り終わり、老人は静まり返っているガロード達を見渡した。

「とまあ……ワシらが話せるところはこんな所までじゃな。何か質問は?」
「世界を股に掛ける兵器会社か……俺達そんな所と戦っていたのか」
「勝てるのかな? 私達……」

 不安がるガロードや芳佳達に、D.O.M.E.は優しく語り掛ける。

『君達なら大丈夫だろう、君達が築いた二つの世界の絆は、これから起こるであろう戦いも乗り越えていける』
「でも、私はもう戦う力は……」
「……」

 そう言って芳佳は魔法力が無くなった自分の手を見つめ、すぐ傍では美緒が黙ってうつむいてしまう。そんな彼女達にもD.O.M.E.はフォローを入れる。

『魔法もニュータイプ能力も、所詮は人が作り出した幻想に過ぎない。君達はこれまでも自分にできる事をしてきたのだろう? だったらその気持ちを忘れなければいい。何も力が無くても、何かを変えようとするのなら、それこそが人類の進化の形……ニュータイプなのだから』
「私がニュータイプ……?」

 自分の知っているニュータイプとは違う、初めて聞く定義のニュータイプに触れる芳佳。すると隣にいたペリーヌがふうっとため息交じりに優しく笑いながら話に割って入ってくる。

「確かに宮藤さんやガロードさんの行動力には色々驚かされましたわ……でもだからこそ、私達501は以前よりもっともっと強くなれたのかもしれませんわね」
「そう言われると二人はとってもすごいよね。みんなをここまで引っ張ってくれたんだもん」
「皆が居ればこの先どんなことがあろうと乗り越えられる……私はそう確信しています」

 リーネとティファの言葉に、ガロードと芳佳はちょっと照れくさそうに笑う。
 すると再び強い光が発せられ、その場にいる全員を包み込む。

『そろそろお別れの時間だ……私は再び時が来るまで、ここにある黒歴史のデータを守ろう』
「また遊びに来ますね、D.O.M.E.さん」

 D.O.M.E.に別れを告げる芳佳、そしてガロードはこの場にいる皆の方を向いた。

「それじゃ帰ろうぜ。また皆と会えるといいな」



 そしてガロード達はそれぞれの居場所へ帰って行く。再び出会える日が来る事を信じながら……。










 はい、という訳で伏線の補完回も終了です。所々文が変で解りにくかったかもしれません……。
 並行世界云々の設定は、昔読んだRAVEという漫画の設定が元ネタになっています。つまりこの世界の並行世界は、一つの世界の各時代のバックアップデータを複製して出来た物ということになっています。
 転移云々は、SSでよくある神様転生とかトラックに轢かれることにより起こる転移がどうして起こるのかを自分なりに仮説を立てて設定を作ってみました。



 ではこれにて、二年半もかかったサテライトウィッチーズは終了となります。途中エタりかけた事もありましたが、目標だったところまで書き切ることが出来て本当に良かったです。


応援してくださった方々、アドバイスをくれた方々、偉大なる二つの原作の制作スタッフの方々、理想郷の管理人様、すべてに最大級の感謝を送ります。ありがとうございました!!



















 ~予告~

 どこまでも広がる空を駆ける翼は、空が星の海と繋がっていて、残酷で、様々な命の営みがある事を知らなかった。
 それを教えてくれたのは、飛ぶこともできない、泥だらけで傷だらけな体を持った機械人形。これはそんな物語。



 嵐の中で羽ばたいて(機動戦士ガンダム第08MS小隊×IS<インフィニット・ストラトス>)

 今夜か明日ぐらいに投稿予定。


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