「そうだ、なのはさんのデバイス、今のうちに整備しておきましょうか?」
と、リニスさんが提案してきました。
「ルシフェリオンをですか?」
「はい、登録してから、ろくな整備をしていないですよね。少しフェイトに任せて休ませてあげてはいかがですか?」
確かに少し無理をさせてきたかも知れませんね。
「では、お願いします」
『よろしくお願いいたします。ミスリニス』
はい、とリニスさんは優しくルシフェリオンを受け取ってくださいました。
「それと、なのはさんのご両親にあいさつしておきましょう。心配させてるかもしれないし、何かあった時のためにもね」
そうですね。こっそり抜け出しているのもそろそろ、いえ、あの家族なら多分もうばれているでしょうし。
プレシアさんが誤魔化していただけるならそうしてもらいましょう。
ということで、みなさんを連れて翠屋に行きました。
「いらっしゃ、ああ、なのはか。ん? そちらの皆さんは?」
と、お父さんが私の後ろにいたプレシアさんたちを見ます。
「初めまして、プレシア・テスタロッサと言います。少々お時間いただけないでしょうか?」
そして、プレシアさんは適当に私がプレシアさんたちの手伝いのために抜け出していたと、誤魔化してくださいました。
「そうか、それでなのははたまに家を抜け出していたのか」
と、お父さんがうなづきます。
「はい、心配をおかけして申し訳ありませんでした」
と、謝ります。が、いいんだとお父さんは笑ってくれます。
「なのはが自分から進んで人助けかあ。お父さんは嬉しいぞ」
「あら、この子は元から困った人は見逃せない子よ?」
そっかあと、お母さんの言葉にお父さんがあははははと笑います。
本当に仲がいいですね。リニスさんも砂糖を入れずにアイスコーヒーを飲んでますし。
フェイトは……楽しそうにユーノの背を撫でています。
少し気持ちよさそうなユーノ。
「……フェイト、変わりなさい」
なんか、ユーノが怯えてるのは気のせいでしょうか? いえ、きっと気のせいですね。
「やだよ~」
ほう? いいでしょう。なら、お話です。
そしてフェイトからユーノを取り返そうとしていたら、
「そういえばテスタロッサさんは海鳴には観光目的でもいらっしゃってるんですよね?」
「ええ。それとプレシアでいいわよ」
「なら、私は桃子でいいです。実は今度私たち日帰りで温泉に行くんですけど、よろしかったらいっしょにいかがですか?」
え?
というわけで、すずかやアリサたちと一緒に行く温泉にフェイトたちが来ることになりました。
「僕はフェイト・テスタロッサ! よろしく!!」
「フェイトの妹のアルフだよ。よろしく」
アリサとすずかに自己紹介するフェイトとアルフ。
「ア、アリサ・バニングスよ。よ、よろしく」
「私は月村すずか。よろしくねフェイトちゃん」
アリサはフェイトのテンションに若干引き気味で、すずかは普通に対応しました。
意外と強いですよねすずかは。
「プレシア・テスタロッサです。本日はお招きいただきありがとうございます」
「リニスです。よろしくおねがいいたします」
と、プレシアさんが保護者グループとあいさつしています。
ふう、予定よりも大人数ですが、大丈夫でしょうかね?
そして、私、フェイト、アリサとすずかにユーノは同じ車に乗ることになりました。
「僕、温泉っていうの初めてなんだ!」
「ふーん? すごいわよ今から行く場所は」
「おー! 楽しみだぞ!!」
と、少しすればあっさりとフェイトは私たちの中に馴染んでいました。リニスさんはそんなフェイトを嬉しそうに見ています。
若干浮かれ気味に見えるのはやはり友人が増えた喜びなのでしょうか。そう考えると、いつの間にか、私も微笑んでいました。
そして、旅館につくと真っ先にフェイトが飛び出しました。
「おお~、すごいぞ、でかいぞ、立派だぞ~!」
などと大声で感動して、リニスさんが恥ずかしそうに顔を赤くしていました。
まったく、本当にアホの子なんですね。
それから、温泉に行こうとして、
「よーし、綺麗に洗ってやるぞユーノ!」
と、フェイトがフェレットのユーノを拾い上げました。
ちょっと待ちなさい。
「駄目です、ユーノは男湯です」
「え~、なんでさ~」
本当にわからないのですか?
「曲りなりにもユーノは『男の子』です。なら男湯に行くのが当然でしょう?」
フェイトはユーノの正体を知っているからこれで納得してくれると思ったのですが……
「ぶ~、いいじゃん。だいたいこの年でそんなこと言い出すなんて君、理屈っぽ過ぎ」
と、口を尖らせてフェイトが難色を示します。
……ふっ。
「あなたとは、やはり拳で語り合わなければならないのですね」
「よーし、この前の決着をつけるぞお!!」
私が腰を落として構えると、フェイトはしゅっしゅっと拳を奮う。
一触即発の空気が漂い……
「いい加減にしなさいこのバカちんども!!」
アリサの鉄拳が下りました。
その後、ユーノ自身がちゃんと恭也さんのところに行ってくれたため、安心して温泉となりました。
お母さんとお父さんにプレシアさんは後で入ると散歩に出てしまいました。
よりにもよってあの二人と一緒とは……プレシアさんの冥福をお祈りしましょう。
なお、余談ではありますが、私たちが上がった時はプレシアさんは、濃いめのお茶を飲んでいました。あー甘いと言いながら。
「うおー! 一番乗りだぞー!!」
なんてフェイトが風呂場で走って、お約束の通り転びました。
「う~、痛い……」
「あんまりはしゃぐからです。風呂場なのだから気をつけなさい」
とフェイトを嗜めながら、手を差し出して起こします。
ごめーんとあまり反省していない様子でフェイトが笑う。
……まあ、いいでしょう。せっかくの温泉なんですから。
フェイトと洗いっこをしていましたら、年長者組は一か所に固まっていました。
「ふう、なかなか気持ちいいですね。日頃の疲れが抜けそうです」
と、リニスさんがぐいいっとお湯の中で体を伸びます。
「でしょう?」
と、忍さんが笑います。
「やっぱり足を延ばせるっていいよねえ」
と、美由紀さんが言いますが、微妙に小さくなって、その眼は何度も忍さんとリニスさんの胸を行ったり来たり。ああ、そういえば、美由紀さんは胸のサイズにコンプレックスがあったんでしたっけ。
なんとなく自分の胸を見ます。
……きっと大丈夫です。きっと将来は大きくなります。
「どうしたのなのは?」
「いえ、気にしないでください。それと、お湯をかけますから目を瞑ってください」
そう答えてから私はフェイトに頭からお湯をかける。
そのあとは僕の番だぞー! と、フェイトに背中を流してもらいました。
そして、晩御飯も終わり、布団に入りました。
その時、どっちがユーノと一緒に寝るかということで一戦する羽目になったことを明記しておきます。
いえ、別に私はユーノに対して深い思い入れはありません。ただ、あのもふもふが欲しいだけです。
結局、アリサの仲裁で二人と一匹で寝なさいなんてことになってしまいましたが……
それから、みんなが寝静まった頃、それは起きました。
これは、ジュエルシードの反応!
「フェイト」
「うん!!」
私の呼びかけに頼もしくフェイトは頷いてくれました。
旅館から抜け出して私たちはジュエルシードの発動場所に向かいます。プレシアさんは何かあった時のため、残っていただきました。
「なのはさんすいません。まだルシフェリオンの整備は途中で」
「いえ、構いません」
リニスさんに答えながら急ぎます。
「あそこだ」
とユーノの言葉に視線を向ければ……化け物?
以前境内に現れたものと似ていますが、より攻撃的な姿、背からは翼が生え、一回り大きい犬の化け物。
これは……空が飛びたい、もしくは強くなりたいといった願望でしょうか? しかし、それであのような禍々しい姿となるとは、ジュエルシードの化け物を見るのは三度目ですが、妙ですね。
まるで態と間違えているような……
「隔離結界張ったよ!」
ユーノの言葉に思考の海から戻りました。
「よーし、行くぞバルフィニカス!」
『Yes,sir!』
フェイトが飛び出す。まあ、考えるよりも先に止めなければ。
「あたしも行くよ!」
アルフが一瞬で大きな狼へと変貌し、フェイトに続いきます。
「……ユーノはあのような姿には?」
「いやいや、なれないからね」
そうですか。少し残念です。
「フォトンランサー!」
さらに、リニスさんも後方からフェイトたちを魔法で援護します。
私は……デバイスがないので見学です。
噛みつこうとする憑依体をひらっと躱し、お返しとばかりにバルフィニカスで切りかかり、憑依体が迫ればすぐ離れる持前のスピードを生かしたヒット&アウェイ。
どうやら大きい分小回りが利かないようですね。フェイトとアルフが優勢です。しかし……
「Gaaaaaaaa!!」
と、いきなり憑依体が炎を吐きました。
「うわっと!!」
意表を突かれたフェイトがぎりぎり避けました。間一髪ですね。
さらに、こちらに向かって炎が……まずい。今の私はバリアジャケットすら着ていない!
「なのはさん、私の後ろに!」
リニスさんがシールドを張ってくれます。
しまった。フェイトたちが大丈夫かと心配でついてきてしまったけど、完全な足手まといでした。
これならプレシアさんと一緒に旅館に残っておくべきでした……
ですが……
「このお!!」
フェイトが突っ込む。
再び炎を吐き出され、フェイトが消えた。
一瞬で敵の後ろに現れる。
「それは、もう見たよ!」
バルフィニカスを一閃、敵の背にある翼を両断する。
「Gaaaaaaaaaa?!」
落ちる敵にアルフが組み付きます。
『今だフェイト!』
「うん! バルフィニカス!」
『Sealing form. set up』
バルフィニカスがシーリングフォームへと変貌します。
「ロストロギアジュエルシード、えっと、シリアル……なんでもいいから封印!」
適当ですね……
そして、また一つジュエルシードの回収に成功しました。
そして帰り道、私は悩んでいました。
ジュエルシードの発動。まるで態と願望を間違えて叶えているかのような憑依体……いったいなんでしょうかこの言いようのない不安は……
「どうしたのなのは?」
私の肩に乗っていたユーノが尋ねてきます。
「いえ、ちょっと反省を」
と、誤魔化しました。まだ、ユーノに言うには情報が少なすぎますし、今までのが特殊だっただけかもしれませんしね。
私はそう自分を納得させるのでした。