さて、唐突になるが、現在形で俺は絶体絶命だ。
いや、いきなりこんなことを言っても諸兄がたは頭上に疑問符を浮かべ、首を捻るだろう。
まあ無理も無い。
俺も平次ならば怪訝な顔を浮かべるだろう。
だが状況を説明すると別だ。
敵に前線拠点を完全にではないが包囲され、そこかしらから前線から担ぎこまれた味方の呻き声が聞こえて来るのだ。
しかもソレを鎮める医薬品が絶対的に不足している。
なんせ一月も補給がこない(おかげで食料品も弾も不足しているクソッタレ)
そして機体の予備部品も不足している、つまり機体の整備がままならない。
その結果、兵器性能の低下を招いている。
詰まる所、八方塞がりの破漢破天、四面楚歌なのだ。
まあグダグダ言っても始まらないので、ともかく出撃して状況を打開しよう。
幸いに勝機はまだある。
「オイ!!そこの傭兵!!ぼさっとつったって無いで出撃しろよ!!」
傍らの新兵と思わしき青年が喚き立てる。
「言われんでも解かってるさ」
「じゃあとっと出ろよ!!この薄汚い傭兵が!!」
やれやれ良く言ってくれる。
傭兵や女子供にも頼らないと戦線の維持が出来ない程追い詰められた軍なのに、プライドだけは一人前ってか?
「笑えない冗談だぜ…全く…」
四角い胴体、そこに取っ付けられた防塵布と装甲に覆われた腕部と脚部、そして頭部。
現在の戦場の陸戦兵器の花形、戦車に次いで使用されている人型機動兵器。
タクティクス・アームズ、略称TA。
その歴史は古く300年前発生した【統合戦争】の中期に、世界初の第一世代型のタクティクス・アームズ【ウォーカーポッド】が投入された。
当初は戦車や、歩兵が持つ携帯ランチャー等で鴨が葱を背負ってきたと言わんばかりにに撃破されていたが、機体自体の改良や世代を重ね、現在では高性能化の弊害で値段が嵩張る戦車よりも、配備台数が多い強力な兵器になっている。
素早く降着状態にしてあったTAのコックピットに乗り込み、シートに体を預けると、備え付けのコンソールを叩いてコンバットプログラムを起動させる。
【戦闘プログラム作動】
TAのジェネレーターがヴゥンと音を立て起動。並列に並んだ複数のモノアイ型のカメラが、カバーの下で鈍く光り鋼鉄の体ゆっくりとが起き上がる。
先程の傭兵が乗り込んだTAのセッティングは、右肩部分にマウントされている9連装ミサイルポッド、右手には主武装のTA用アサルトライフルを装備。
起き上がった機体は、鋼鉄の脚部を軋ませながら、眠っていた格納庫を出る。
「オペレーター外の状況はどうだ?」
「現在前線の基地防衛部隊は基地の5キロ先まで後退。ゼメル共和国軍はTAと戦車の混成部隊繰り出して、円形状に包囲しながら迫っています。」
「絶望的だな」
「全くですよ。なんで包囲される前に、逃げなかったんですか」
と、オペレーターのイレーナ・ミンクスが良く透る声で抗議してくる。
「仕方が無いだろう。請けた仕事はキッチリ済ませるのは、俺の流儀だし、まさかここまで追い詰められるとは予想だにもしなかった……」
とかなんとか言いながら、機体が格納庫から出てヘリに吊り下げられようとした瞬間―――
何処からともなく重々しい物体が風を切るような音がしたかと思うと、いきなり背後で激しい轟音が轟いた。
「ヌオオォォ!?」
突如として格納庫が爆発した、ありゃ中に残っていた連中は木っ端微塵だな。
「おい!!格納庫に弾があたったぞ!?敵に長距離砲がいるじゃないか!?」
「うぇ!?イやそんな事は……AEWKSより入電!!敵地上戦艦ティタノボア級を確認との事です!!」
「よりによって地上戦艦まで出張してきやがった……」
コイツはますます面倒な事になって来たぞこりゃ……。
そして噂に出て来た、前線は酷い有様だった。
味方の歩兵が無残な骸を晒し、TAと戦車が物言わぬ残骸として、数え切れないほど転がっている。
「クソが!ゼ軍のノロガメと鈍牛が!」
塹壕に篭ったリオネア軍の歩兵達が、敵TAグランディング・タートス達やステラー戦車に向けて、無反動砲や携帯ミサイルランチャー、迫撃砲や塹壕に備え付けられた機銃でなんとか応戦していた。
「これでも喰らいやがれ!!ゼ軍の豚共が!!」
一人の兵士がランチャーを肩に担いで、敵のTAに向けて発射。
炭酸が抜けるような音と共に、射出されたミサイルが敵TAの上半身に直撃し、派手に爆発しながら倒れる。
「ハッハー!!どうだゼ軍のノロガメめ!!リオネア軍の力、思い知ったか!」
そして彼が、もう一回ランチャーを使いTAに攻撃しようと塹壕から身を乗り出した瞬間―――
「軍曹!!危ない!!」
「あ……?」
敵TAが腰に装備した、凡用20ミリ機関砲が彼の体をズタズタに切り裂いた。
「おおう、こりゃヒデェな。」
俺が愛機と共に颯爽と駆けつけると、回りは敵だらけ、味方は必死に抵抗して居ると言う有様だった。
「全くこの戦況を打開しろとは、雇い主も無茶な事を言ってくれるじゃねえか」
全くどうしようもない戦況だ、だが依頼は依頼だ。
「さあ、ゼ軍をパパッと片付けて、たっぷり報酬を貰うとしますか」
「ふっ、リ軍もたいしたことが無いではないか」
ゼメル共和国軍陸軍第35大隊司令官イベル=リャコブスキー大佐は自軍の
進攻状況を見て笑っていた。予想よりも進攻がはやいのだ。
(この調子で進めば後3時間で前線拠点をおとせるぞ。)
昂る気持ちを押さえながら進んでいると
「少佐!偵察機より入電!敵TAが増援として出撃したようです!!」
「何?数は何機だ?」
「それが…その…たった3機です」
「3機?3機で一体何をするつもりだ?リ軍のやつらめ…?ともかく迎撃部隊を向わせろ。手の空いている小隊に迎撃指令を出せ」
「了解しました」
前線では敵の増援を叩く為に、攻撃中の部隊から手が空いている小隊を向わせていた。
「敵TAを確認、コマンド・ラプターとストライク・ウルフです!!数は3機!!」
傍らのパイロットが機種と数を伝えてくる。
(コマンド・ラプターはまあ良いとしてストライク・ウルフ?一世代前の機体じゃないか。そんな物を出してくるとはリ軍も相当苦しいらしいな)
さて唐突だがTAにも世代というものがある。
今現在開発、量産されてる機体達は俗に第四世代型と呼ばれるタイプである。
主にコマンド・ラプターとグランディング・トータス等がその世代に当たる。
そしてストライク・ウルフは、それより一世代前の第三世代型と呼ばれる60年前に初めて生産されたタイプの機体郡に属する機体だ。
この機体は指揮官タイプ(【マークス・ミリタリー社】系列の機体はストライクが指揮官タイプの機体の総称であり、【ゼノア・ワークス社】系列の機体はファングである。この名前は製造メーカーごとに微妙に差異がある)のカスタムが施してあり、元となったコマンド・ドックは高い生産性と拡張性を持ち、幾度と無く改修され、大量生産されたので、この機体と指揮官タイプがアチラコチラの秘密結社や、反体制組織に独立武装勢力、民兵集団や傭兵に使われているのだ。
(まあ良いどんな相手でもただ下すのみ!)
そう思いながらトータスのパイロット達は迫り来る3機に迎撃を開始した。
つづく?
作者あとがき
いやはやチラ裏の皆様始めまして
全自動式メタル棺桶と言うものです
昔からこちらで楽しいSSを読ませて頂いて常日頃からワクワク
させて頂いております。このたびは初めてのSSとしてこの作品を
投稿させて頂きました、何分他の先輩作者にくらべれば見劣りする
作品ですが何分楽しんでいただけたらと思います
それではこの辺で失礼させていただきます。