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[28399] 【ネタ】友達がいなくて昼休みが辛い……【オリジナル】
Name: トワイライト◆246d0262 ID:13e7fc51
Date: 2011/06/17 02:48
俺という人間には二つの特殊能力が備わっている。
一般的な男子高校生である俺が、如何にしてその特殊能力を得るに至ったか、それはまたの機会に語ろう。
今はその特殊能力についてだ。

まず一つ目。
俺はある種の『力』を感じることができる。
その力とは人間がそれぞれ持っているもので、個人によってその力の大きさは違う。
俺は他人のその力の大きさを見抜くことができる。
ではその力とは一体何の力なのか?
俺はその力を『TIP』と名づけた。

ずばりT(友達)I(いない)P(パワー)。
人間から発せられるそのパワーの大きさで、その人間がどれくらい友達がいないかが分かるのだ! すげー!

例えば、現在は昼休み。
教室には、数台の机をくっつけて作った即席のテーブルがある。
無論テーブルがあるからには、それに群がる人間もいる。
昼食を和気藹々と食べつつ、昨夜のドラマの話をする彼らには、TIPの波動が全く見えない。
彼らには友達がたくさんいるのだ。

そして一方で、ポツンと一人でもそもそと弁当を食べている男もいる。
その男は圧倒的なTIPを放ち、そのTIPたるやスカウターが爆発するどころか粒子状になって消滅するレベルだ。
彼には友達がいない。
高校生活が始まり一ヶ月。
教室の中ではいくつものコミュニティができていた。
各コミュニティごとに、それぞれの特色があるが、まあそれはいいだろう。
一人で弁当を食べている彼――彼はどのコミュニティにも所属していない。
言うなれば、彼はオンリーワン。一匹狼。単騎特攻。

何とかわいそうな男なのだろうか。
ほんと、一人でご飯食べてておいしいの? ねえ?
授業合間の休みに寝たフリするだけの仕事は楽?

「まあ、俺なんですけどねー」

っと、いかんいかん。
自虐に走りすぎて、つい独り言を呟いてしまった。
周りから変な目で……見られてない。
あ、そうか。いないこととして扱われてる、と。
なるほどなー。
へー。
うわーい、死にたーい。


ここで唐突に俺の二つ目の特殊能力について語ろう。
第二の能力それは――『友達がいない能力』!
え? 能力じゃない?
まあ、ぶっちゃけTIPとかも俺の捏造だしね。
話す相手がいないと、こうやって頭の中でアホなこと考えるくらいしかすることないんだ。


■■■


今更になって『何で』と思う。
何で友達がいないのか。
理由を考えてはみるも、これといって思い浮かばない。
高校生活が始まって一ヶ月。
その間、人に避けられるような奇行もしていないし、人を不快にさせるような事を言った覚えは無い。
それどころか入学以来、誰とも喋った覚えはない。
……うーん。

「それだ!?」

核心を拾い上げ、思わず大声をあげてしまう。
でも大丈夫、ここはトイレで、他に誰もいないし。

しかしなるほど。
そりゃ全く人とコミュニケーションを取らなかったら、友達もできんわなー。
緊張してたってのもあるし。
地元から出てきて一人暮らし、知人もいない。
高校生活が始まって最初の頃は、話しかけられた記憶もあるけど、なんか『お、おう……』って受け答えしかしてなかったなぁ。
そりゃいないこととして扱われるわ。

「よし!」

ここで切り替えよう。
流石に一ヶ月、この土地の空気にも慣れた。
ここからが俺の入学式、高校生活の始まりだっ。
友達もバリバリ作っちゃうんだぜ!

俺は気合を入れ、トイレから飛び出し、自分の教室へと帰った。
入り口の扉を開け、教室内を見渡す。
そこには一ヶ月を共に過ごしたクラスメイト達の姿。
よーし、パパ話かけちゃうぞー。
俺は教室の中心、クラスメイト達の輪の中に突進する。
よーし、よーし。
よし……

「……ふう」

そしてその輪を沿うように避け、自分の席に着き一息吐いた。
さて。
さてさて。
まあ……無理だよね。
もう出来上がっちゃってるもん。
一見さんお断りの店並みにできあがっちゃてるもん。
空気がもう完全にアウェイなんだよね。
つーかここ本当に俺の教室なのか?
声を出すのすらしんどい。
何ていうか……中学生くらいの時に初めて行った従兄弟の家、みたいな?
いやー無理だわー。
これ無理だわー。
スタートに失敗したわー。

「……」

これ本当に詰んでないか?
今の俺のカスみたいなTTP(友達作れるポイント。今作った)じゃ、この場での作戦行動は不可能だ.
つーかなんだアイツら。楽しそうだな、おい。
そんなゲラゲラ笑っちゃって……俺を殺す気か?
俺教室内で孤独死しますよ?


■■■


作戦を変えることにした。
今からクラスメイトの輪に入るのは無理だ。
TTPをもっと上げなければならない。
ではどうするか?

俺よりも友達がいない奴を探しに行く――。

そういうことだ。
幸いこの高校はマンモス校……とは言わないが、まあワニ校くらいには規模が大きい。
この学校のどこかに、俺のようにクラスの輪に入れなかった孤独死寸前の生徒がいるはず……!

と、いうわけで放課後は学園内を散策することにしたのだ。
つーか他にやることないし。

「家に帰ると、実家にいる妹の幻影が見えるんだよなー」

『お帰りお兄ちゃん! 学校は楽しかった?』なんて笑顔で言うのだ。
俺やばい。
そしてそれに話しかけて、若干満足してる俺はもっとやばい。
早く友達いなそうな奴を探さないと――お?

校舎から離れた中庭を歩いている時、俺の能力『友達いない奴レーダー』が反応した。
凄いTIPを感じる……! 今までにない背筋が凍えるほどのTIPを……!
俺はそのTIPが発せられる方角へ急いだ。

たどり着いた先は、中庭の隅に備え付けられている自動販売機。
その自動販売機の前に一人の女生徒が立っていた。
身長は低い。いかにも、つい最近まで中学生だった風な、垢抜けない後姿だ。
髪は黒く、二つに分けている、いわゆるツインテールだろうか。
少女を後ろから観察していると、何やら妙なことに気づいた。
少女は販売機のボタンを何度も押しているのだ。
そして更に妙なことに、少女の足元には山のようなジュースの缶。
販売機のジュース取り出し口を見ると、ジュースの缶で溢れている。
お金の入ってない自動販売機のボタンを延々と押す少女。
興味が出てきたので、話かけることにした。
後ろからポンと肩を叩き、できるだけ明るく声をかける。

「ハロー」
「……波浪?」

少女はゆらりとこちらに向き直った。
小首を傾げながら言葉を呟く姿は、見た目以上に幼く見えた。

「何か用ですか?」
「いや、さっきからボタンポチりまくってるから、何事かと」
「ああ……」

少女は小さく口を吊り上げ、皮肉気に微笑んだ。

「自動販売機のボタンを押しまくってたら、いつか缶の代わりに友達とか出てくるんじゃないかなーと、思いまして」
「いい感じに病んでるね君」

元気系ロリ枠っぽいのに勿体無い。

「だって全然友達できないんですよ……。いや、最初の頃は近くの席の人と話してたんですよ? でも、気づいたらその人たちは、何かどっかのグループに入ってて……話しかけても続かなくて……」
「あーあるある。置いてかれた感凄いよね」
「頑張って話に入ろうとするんですけど……どうやったら休みの日に皆で行ったショッピングの話に割り込めるんですか? ググっても出ないんですよね」
「そりゃgoogle先生はリア充だからな」

顔に影を落とす彼女には悪いが、俺は内心少し喜んでいた。
もしかしたら、この学校には俺のようなボッチはいないのかもしれない、その可能性を打ち砕いてくれたのだ。

「まあ、そこのベンチにでも座りなよ。ほらジュースあげるからさ」
「ど、どうも……ってこれ私のジュース」

近くのベンチに少女を誘導し、ジュースを渡す。
しかし、このジュースの山どうするんだろうな……。

「まずは自己紹介をしようか。俺の名前は山田一」
「どこぞのシナリオライターの様な名前ですね」
「え?」
「……っ! あ、い、いえ! な、何でもないです……! い、いい名前ですね!」
「ありがとう?」

何故か顔を赤くして急に慌て出した少女。
よく分からないけど……まあいいか。

「えっと、私は井本一奈です。同じ歳……ですよね」
「ああ、そうだ。そして同じく今日まで、友達を作れなかった同志でもある」
「ひんっ」

唐突に事実を告げられた井本さんは、涙目でビクリと震えた。
かわいそうだが仕方がない。
事実を受け入れなければならないのだ。

「君のTIPはおよそ……18万。なかなかのレベルだ」
「な、何ですそれ?」
「どれくらい友達がいないかを示した数字だ」
「ひぃぃぃっ!?」

再び井本さんは震えた。

「そのレベルでは、これからも一生友達はできないだろうな」
「い、一生……な、なんなんですか!? 私を虐めるために呼んだんですか!?」
「そうだ」
「そうなんですか!?」
「あ、いや違う。すまん」

あまりに虐めがいがあったので、つい悪乗りしてしまった。

「虐めるなんてとんでもない。その逆だ」
「ぎゃ、逆? い、虐めない……?」
「そーいうことではなく――友達になろうと、そう言ってるんだ」
「と、とも――友達に!? こ、この私と!? ドッジボールで最後まで残ってるのに、試合が終了する私に!?」
「だぜ」

俺は当社比三倍の微笑みを浮かべた。

「な、何でですか!? 何で私なんかと!?」
「俺も友達いないからさ。一人より二人だろ?」
「一人より二人!」

井本さんは雷撃を受けたかのように、仰け反った。
一々リアクションがでかい少女だ。

井本さんは俺の顔を探るかの様に見つめ、俺が真剣であることを理解すると、その目に涙を浮かべた。

「ほ、本当にいいんですか私で? わ、私めんどくさいですよ? メールとか一日100回くらいしますよ?」
「……」
「……ちょ、ちょっと『めんどくせえ……』って顔しませんでした?」
「メール大好きさ! メールでご飯三杯はいけるね!」
「山田クン――!」

井本さんはぐいと俺に近づき、手を握ってきた。
その目は久しぶりに飼い主に会えた子犬のようで、俺は軽く引いた。
こんなに喜ぶなんて、何だかいたいけな少女を騙している気がする。
い、いや騙しているわけじゃないさ。
これは俺の友達作りの最初の一歩。

「と、友達料は月にどれくらい払えばいいですか!?」

早くもその一歩は挫折しかけていたが。
TIPの凄まじさから、只者ではないと思っていたが……本当に只者じゃなかった。

俺の計画。
友達いない人間と友達になり、そのコミュニティを大きくする。
その中で友達を作る能力を養い、更に友達を作る。
いずれはこの学校中の人間と友達になれるって寸法だ。

「きょ、今日は家でご飯を食べていきませんか!?」
「間合いの取り方下手過ぎじゃね? 会って数分の人間を家に招待するなよ」
「両親にも紹介したいんですけど!」
「怖いな!?」

友達計画は前途多難だった。



[28399] 幻の妹が部屋にいて辛い……
Name: トワイライト◆246d0262 ID:13e7fc51
Date: 2011/06/21 01:13
「あ、明日も友達でいてくれますよね!」

中庭での会合の後、夕暮れに染まる校門での井本さんの言葉である。
今ひとつ意味が分からない、しかし井本さんの表情は必死なそれだった.

「いや、まあ普通にそうだろ? 友達ってそんな一日経ったらハイ終わり、みたいなもんじゃなくね?」
「そ、そうですよね! 明日も明後日も明々後日も――これからずっと……死ぬまで友達ですよね!」
「……」
「あ、あの……なんか『コイツ面倒くせぇ……』みたいな顔してませんか?」
「俺とお前でエターナルフレンドだ」
「ハイ!」

数分前の初遭遇から、井本さんには得体の知れない『アレさ』があることは分かった。
TIP値が高い人間には、それ相応の理由がある。
何かしらの原因が無くちゃ、友達がいないなんてことは無いからだ。
多少人格や性癖に問題があることも想定していたが……しょっぱなからキツイのを引いてしまったかもしれない。
この子が最初で良かったのか……?

「……? どうかしましたか?」

溌剌とした笑みを浮かべながら、小首を傾げる井本さん。
所々のアレな発言を除けば、小動物的な可愛らしさを備えたいい感じの子なんだが……勿体無い。

校門で別れる直前まで『夕食を家で!』と半ば病的までに誘ってくる井本さんに、やんわりと断りを入れて帰路に着く。
分かれて数秒もしない内に長文メールが届いたのには、ヒヤリとしたが、まあ許容範囲だ。
これから多くの高TIP保持者と接していくのだ。これくらいのことで挫けてはいられない。




■■■




高校生活初めての友人が出来た日、そして俺の壮大かつアドバンスな計画の始動日。
放課後の帰り道、ほぼ10分おきに届く井本さんのメールを処理しながら、これからについて考える。

この学園にはまだまだ俺の知らない、莫大なTIP所持者がたくさんいるはず。
高いTIP所持者は惹かれ合うサダメだ。
これからTIP……ああ、一々面倒だな! これからTIPのことは<友達力>って表記にしよう。

これから友達力が乏しい連中と友達になっていく。
例え友達力が乏しくても、一人や二人友達がいるかもしれない。
その友達――友達の友達とも友達になる。
そうやって友達の輪を増やしていけば、さながらネズミが子を産むが如く、友達が増えるという計画だ。
ああ、やばい!
考えるだけでも興奮してきたぞ……!
友達が輪の様に増えていく、その光景を想像しただけで、俺の胸に何か熱い物が溜まっていくのを感じた。
胸の内に溜まってきた感情を、言葉にして夕暮れに向かって叫ぶ。

「イッツアショータイム!!」
「ねえママ。あのお兄ちゃんショーが始まるって言ってるよ? 一体何が始まるの?」
「――ええ、そうね。始まるようだわ……楽しい楽しいショーが。ふふ、楽しみね」

誰もいないと思って叫んだけど、変な親子に見られてたわー。
恥ずかしいわー。


■■■


「お帰りお兄ちゃん」

家に帰ると、いつもの様に妹の幻が出迎えた。
いつもならスマイル+ただいま!のコンボをお見舞いするのだが、それは昨日までの俺。
友達がいなかった昨日まの俺だ。今の俺には友達がおり、幻なんかに頼らずともいい。
取り合えず塩……は無いので、手から波動的な物を生み出すイメージを代わりにぶつける。

「消えろ幻想! もう貴様は必要ない! ハァー! ……だが、今まで俺を支えてくれてありがとな」
「久しぶりに会った兄がヤベエ。前からヤバイと思ってたけど、ヤバサが進行しちゃってる……やっぱり友達がいなすぎて……」

……あれ?
何だ? いつもの幻想にしては、目つきが悪いな。
いつも見ている幻想なら、目をハートマークにして過剰なほどのスキンシップをしてくるのに……。
これはまるで、実家にいる本物の妹の様じゃないか。
玄関マットの上で腰に手を当て、呆れた目でこちらを見てくる楓。
もしかするともしかするのか?

「もしかして本物の楓か? トゥルー楓?」
「そうだよ。そもそも私に偽者も本物はないよ」
「何だよ本物かよ……」

やれやれと靴を脱ぎ、楓の脇を通り抜け部屋へ向かう。
部屋に入り、背後を見ると相変わらず、兄を兄とも思っていない蔑んだ目で俺を見てくる楓がいた。

「で、何しに来たんだ?」
「様子見。最近実家の方に顔出さないから、見て来いってお母さんが」
「そうかい」

溜息を吐きつつ、座り込む。と同時に携帯が震える。
またメールだ。あの井本さん、宣言通りにアドレスを交換してから数分置きにメールを送ってきなさる。
どれどれ
『お父さんです』
そんな短い文面と共に、満面の笑みでダブルピースをしたおっさんの写真が添付されていた。
知らんがな。どういう感想を送ればいいんだよ。
つーかおっさんダブルピースやめろ。

取り合えず『そうだな、お父さんだな』と送っておく。

「……」
「ん?」

携帯から顔を上げると、妹が目を細めて俺を見ていた。

「何だよ、そんなに俺を見つめて? 俺に穴でも開ける気か?」
「……どこからのクーポンメール? マ○ド? ロッテ○ア? MOS?」
「決め付けるのとかよくない」
「でも、そうでしょ? お兄ちゃん、メールを貰うような友達なんていないし。お兄ちゃんメンタルチキンだから、ジャンクフード以外のお店行けないし」
「い、行けるっつーの! 王将とかも行けるし! 言うなればばかっぱ寿司すらもな! さもなくばジャ○ンカラにだって行けるわ!」
「どんな日本語なのさ……」

ハァ、と溜息を吐く楓。
俺の携帯に友人からのメールが届くなんて考えもしない顔だ。
腹立たしい。
ここで俺がこのメールを見せれば、どうなるだろうか。
驚く顔が見れるかもしれん……あーいや、でもこのメールの量見せるのはなあ……。
精神衛生上よくないか……。
発狂しかねんしな。
つか俺が既に発狂しそうだ。
メールフォルダが井本さんの名前で埋め尽くされるのに、比例して俺の精神も磨耗して行っている気がする。
今日本物の楓に会っていなかったら、幻想の楓に溺れてそのまま人生ドロップアウトしてたかもしれない……。

「ありがとな楓」
「今の流れからのお礼の意味が分からない」
「ジュースやるよ」
「何これ多い!? 運搬車でも襲撃したの!?」

ここに来てやっと、楓が驚く顔が見れた。
ちょっと優越感。
明日の筋肉痛と引き換えに、この顔が見れたなら儲け物だ。

さて、思わず癒しを手に入れたが、俺は忙しい。
これから一人部屋で、精神を集中しなければならないのだ。
友達力を感知する為には、普段から精神を研ぎ澄ませなければならない。
故に一日一回の瞑想は必要不可欠なのだ。

「という事で帰れ」
「まだ様子見終わってないから帰らない」
「何でだよ。『お兄ちゃんすっごい元気だったよ! その元気さに充てられて私もすこぶるワンダフル! わんわんお!』とか適当に言ってればいいだろ?」
「それ多分汚染されてる。兄菌に感染してる」
「おいやめろ。小学生時代を思い出すから菌ネタは本当にやめろ」

ここで小学生の頃を回想することはない。
ただ言えるのは――子供はどこまでも残酷になれるってことだ。

――ブルブルブル。

……と、またメールか。

『美桓ちゃんです』

えー、今度は姉ちゃんか? 美人だな……つーかダブルピース好きな家族だな!
あ、続けてメール?

『美桓ちゃんはお母さんです、一応』

母親かよ……似た物夫婦にもほどがあるな。

……と、また楓がこっちを見てる。

「早く帰れよ。つーか、あれだろ? 週三回、手紙で近況報告してるだろうが。見てないのか?」
「え、見てないけど?」
「見ろよ、見まくれよ。俺字書くの苦手なのに頑張ったんだぞ? 何で見ないんだよ」
「燃やしたから」
「燃やしたのかよ……燃やしたのかよ!?」

時間差で驚いてしまった。
兄が懸命に書いた手紙をも燃やす妹がどこにいるのか? ここにいます。

「ついでに芋も焼いたけど」
「兄の手紙で芋焼くなよ!」
「手紙か、お兄ちゃんの部屋のエロ本のどっちを燃やすかで迷った」
「良い判断だったな、楓」

それ以前にエロ本の場所を把握されてるのも問題だな……。
全部を持ってこれなかったのが悔やまれる。

……と、またメールが。
『ポチmk2です』
メールに添付されていたのは、柴犬の写真。
凄い名前の犬だな……つーか、この犬もダブルピースしてやがる……。

「で、その芋がこちらに」
「お、おう……」

楓が鞄から新聞紙を取り出す。こういう差し入れは地味にありがたい。
後で暖めて食べよう。

震える携帯。
……またメールだ。

件名『メイドのアーニャちゃんです』

メイド?
メイドって言うと、あの……メイドか?
家にメイドがいるのか? 凄いな……。
どれどれ。

「うぐぅお!?」
「ど、どうしたのお兄ちゃん? 急にボディにいいのを貰った様なリアクションして……。 暴力的なまでに安いクーポンでも届いた?」

楓が何か言っているが、耳に入らない。
携帯に映る写真。
凄まじい破壊力だ……。

映っていたのは、件名通りメイドさんの写真。
そしてやはりダブルピース。
そしてババア。
明らかに60は超えたババアが、視線を上に向けた状態で、舌をテロリと唇から垂らし、ネジが外れた感じの笑みを浮かべているのだ。
吐き気がする。
何だこのババアは。俺を写真越しに不能にする気か……!?

『特技は男の人を虜にする笑顔らしいです。隣にいたお父さんは悩殺されて、失神してしまいました。もうお父さんってば(笑)』

(笑)じゃねーよ。
これ生身で見てたら、完全に廃人になるぞ。
つーかおっさん、こんなメイド雇うなよ。

「……ねえ、お兄ちゃん大丈夫? さっきから脂汗が凄いよ? そんなに大変なクーポンだったの?」
「あ、ああ……そうだな。こんなものが出回ったら、世界が終わる……そんなレベルだ」
「凄いクーポン……ビッグ○ックが2円とか?」

それは世界が終わるな。
俺はできるだけ画面を直視しない様にしつつ、メイドババアの写真を消去した。
できれば脳内からも消去したいが、一度刻まれた記憶は一生消えない。
恨むぞ、井本さん……。

楓は俺の様子がおかしいことに何か言いたそうだったが、時計を見ると立ち上がった。

「じゃ、帰る」
「え、帰るのか?」
「帰るよ。もう遅いし。塾行かなくちゃ」

来年高校受験である楓は、どの高校を目指しているかは教えてくれないが、勤勉に勉強をしている。
その勉強の時間を割いてまで、俺のところに来てくれていることを考えると、かなり嬉しい。
まあ、いくら嬉しくても態度には出さないのだが。
シスコンとか気持ち悪いしな。

楓は鞄を掴むと、玄関へと向かった。
そのまま靴を履き、玄関の扉を開け――

「友達がいないからって、近所の子供に『ぼ、ぼくと友達になってよっ』なんて迫らないでね? そんなのがニュースで流れたら、私耐えれらいから……笑うの」
「もう帰れ。すぐ帰れ。今すぐ帰れ」
「言われなくても……じゃ」

そして楓は去っていった。
来てくれて嬉しかったが、最後の台詞で台無しだった。

「……やれやれ、と」

再び震える携帯。
このままだと、本当に一日100通のメールが届くかもしれない。
ここらで、一つこれからの為に注意をしておくか。

件名『これからよろしくお願いします』

本文には『頑張ってみました!』の文字。
添付された写真は……メイド服を着た井本さん。

「……うぉ」

仄かに頬を染めながら笑顔でダブルピースをする井本さんを見て、少しときめいた。
……う、うん。まあメールくらいいいかな。

その日の瞑想は心が和む井本さんの写真を見ながら行った。
ただし、井本さんの隣でダブルピースをする制服を着たババアは全力でシャットアウトして。



[28399] 屋上が結構汚くて辛い……
Name: トワイライト◆246d0262 ID:13e7fc51
Date: 2011/06/24 15:54
翌日である。
翌日――俺が高校生活初めての友達を作った次の日。
昨晩の瞑想もあってか、気は体中に充実し精神的なコンディションも整っていた。
絶好の友達作り日和(語呂悪いな……)と言えた。
朝食をバリバリ食べ、意気揚々と家を出る。
青空の下でサンサンと輝く太陽も、決意を新にした俺を祝福しているようだった。
空を仰ぎ、気合と共に声を出す。

「――今日からが俺のレジェンド(伝説)のプロローグ(始まり)だッ!」
「ねえママ? あのお兄ちゃんレジェンドがプロローグらしいよ」
「そうね。――ふふ、私達は新しい歴史の始まりを目にしているのかもしれないわね、あなた?」
「そうだねママ――傍観者たる私達はただそれを見守るだけだ」

うわー……誰もいないと思ってたのに、また変な親子に見られてたわー。
しかも昨日の親子だわー。
出勤前のパパも一緒だったわー
同じアパートの住人だったわー。



■■■


俺が初めての友人を作り、レジェンドをプロローグしようが、クラスでの扱いが変わるわけではない。
今日も今日とてクラスメイトからはいない物扱いされ、午前の授業を過ごす。
体育が無い日はいい。
あの破滅の言葉『ハイ、二人組作ってー』が無いからな……。
あれ考えた奴今すぐ死なないかな……?

さて、午前中の授業も終わり昼休みになった。
俺はクラスメイトの友達力高めの連中が、机を連結させる音を聞きながら、教室を出た。
そのまま二つ隣の井本さんの教室へ。
扉から溢れ出てくる、購買もしくは学食の行く連中を避けながら、教室の中を覗き込んだ。

「……んー」

この教室も俺のクラスと同じく、数人の生徒が集まりくっつけた机でコロニーを形成している。
そのコロニーから外れる様に、教室の隅。
井本さんがいた。

「うわぁ」

思わずそんな声を出してしまうほど、井本さんの状況は悲惨だった。
まず目が死んでる。
そして目が死んでる。
最後の目が死んでる。
つまり目が死んでるのだ、オーバーキル。

井本さんの死んだ魚の様な視線は、ふらふらと教室を彷徨っている。
楽しげに食事をするクラスメイト達を。
決して届かない物を見るかの様に、自嘲気味に微笑みながら見ている。
容姿が快活そうな少女なだけに痛々しい。
誰か声掛けてやれよ……かわいそうだろ。
思わず目から涙してしまう。
と、よくよく考えたら、俺もあんな状況だという事に気づいた。
そう考えると、涙も倍出てくるのだった。

滲む視界越しに井本さんを見ていると、覇気のない動きで鞄から弁当箱と思われる包みを取り出していた。
きっと一人で寂しく頂くのだろう。
俺は井本さんの携帯にメールを送った。
内容は『扉を見るべし』。
井本さんの机の上にある携帯が振動、相変わらず覇気のない動きで携帯を開き――パッと表情が華やかになった。
満面の笑みが浮かぶ。
そして視線は俺がいる場所へ。

「や――!」

俺を見るけるやいなや、立ち上がり教室に響き渡る大きな声をあげる。
そしてその大声にクラスの視線が集中する。
それに気づいた井本さんは、じわりを顔を赤くして、

「や……やっぱり今日はいい天気ですから、お外でご飯を食べようかなー……なんて」

と言ったのだった。
そしてそれぞれの雑談に戻るクラスメイト達。
恐ろしくリアクションがないな……。
誰か一人くらい何か言ってやれよ……。

あまりに悲惨な状況。
俺は井本さんに向かって、こっちに来いと手招きした。
そのまま廊下へ。

「は、恥ずかしかったです……」

教室から出るや、真っ赤な顔を覆う井本さん。
そりゃあれだけ大声出した上に、クラスメイトからはノーリアクションだったからな。
恥ずかしいわ。

「そ、それで……何か用ですか?」
「昼飯はいつも一人で食べてるのか?」

俺の言葉に、井本さんの顔に影が差した。

「ええ、まあ……はい。入学式からずっとです。カクテルパーティー効果って怖いですよね……あんなに騒がしい教室なのに、自分に関する話題だけはハッキリと聞こえちゃうんですから……。『一人でご飯食べておいしいのかな?』『声かけなよー』『やだー』『ふふふ』みたいな会話で私のMPはボロボロですよ」
「大変だったな……」

本当に。
他人事じゃないから困る。
俺の場合、そのカクテルパーティー効果以前の問題で、自分の話題なんて微塵もされないからな。
朝、俺が教室に入ってきても、誰も視線を向けないっていう。

「一緒に食べる相手はいないんだよな?」
「……友達いないですからね。あっ、でも携帯に家族の写真を写したりして食べると、一緒に食べてるみたいで――」
「……」

よく今まで生きてこれたな、この小動物……。
ストレスで禿げるか、エスケープフロムスクール(退学)、E・J・K(Employment Jitaku Keibiin)しなかったことは賞賛に値する。
いや、昨日の奇行を見る限り、それも時間の問題だったかもしれないが。

さて、用件を告げよう。
俺は右手に持った弁当の包みを見せた。

「俺と一緒に昼ご飯を食べないか?」
「……?」
「いや、そんな意味が分からない、みたいな顔で首傾げられても。友達いない同志で一緒に飯食おうぜ、って話なんだけど」
「……んーっ! むぃー! い、痛ひ……」
「そりゃそんだけ頬引っ張ったらな」

急に自分の頬っぺたを引っ張る井本さん。
白い頬に赤みが差す。
どれだけ強く引っ張ったんだ……。
というより、何故いきなり頬を?

「ゆ、夢じゃないんですよね!? わ、私と一緒にお昼ご飯を食べようって……嘘じゃないんですよね!?」
「本当だけど」
「ほ、本当に……ほっ、本当にですか!?」
「……あ、ああ」
「嘘じゃないんですよね!? 着いて行ったら、私を指差しながら『ぷぷー、アイツ本当にきやがった!』『マジウケル!』『超ヤバス! 10000ガバスレベルだわ!』って言う人達に囲まれたりしないですよね!?」
「……」
「……あ、あの『しつこいなコイツ……やっぱ一人で食べるか』……みたいな目で見てませんか?」
「俺の辞書に<しつこい>という言葉は無い」

何か弁当に関する嫌なトラウマでもあるのか……?

「い、一緒に……一緒にお昼ご飯……」

どれだけ一緒にお昼を食べる友人に焦がれていたのか。
目の前の井本さんは、思わず微笑ましい表情で見てしまうほど、歳相応の満面の笑みを浮かべた。

「は、はい! 一緒に食べましょう! すぐに食べましょう! 一緒に! 一人じゃなくて二人で!」

ぐいと手が掴まれ上下にシェイクハンドされる。
恐らくこの揺れで、俺の弁当はしっちゃかめっちゃかになっているだろうが、この笑顔を壊すのも忍びない。
黙っていよう。

井本さんはシェイクハンドに満足し「「す、すいませんでした!」と真っ赤な顔で握っていた手を慌てて離した。
仕切り直すかの様に言葉を発する。

「そ、それでどこでご飯を食べるんですか? ……も、もしかして教室で?」
「そんなことをしたら俺は死ぬ」

あんな友達力が充満した中で、俺達二人如きで挑んだら、多分即死する。
レベルが高すぎる行為だ。

「じゃ、じゃあどこで? 空き教室も大体は埋まってますし……」

恐らく何度か一人で食事できる場所を探したのだろう。
しかしどこへ行っても友達力保持者に占領されていた、井本さんの言葉からはそういった意味が感じ取れた。
確かにこの学校で、昼休みに一人きりになれる場所というのは殆どない。
放課後ともなれば、部活や遊びなどで無人になる空間は点々とあるが。

「あっ、もしかしてあそこですか? あそこは、ちょっと……臭いとかもありますし……で、でもっ、山田君と一緒なら――頑張れると思います!」
「頑張んなくていいから。つーか便所飯じゃないから。二人で便所飯とかないから」

グッと拳を握り、得体の知れない闘志を燃やす井本さん。
いや、いくら燃やそうが、便所飯は無いから。
しかも何度か経験があるような言い方である。
マジかよ……軽くヒくわ……。
俺だって一回しかした事ない行為なのに。

「じゃ、じゃあ一体どこで……?」
「……」

不安げに訪ねてくる井本さんに、俺はちょっと自慢げな顔でその場所を指差した。
真上――屋上へ。


■■■


「で、でも屋上には確か鍵が――」
「ほれ」
「あ、開いちゃった……?」

ポカンとした表情で、開いてしまった屋上の扉を見る井本さん。
少し誇らしい気持ちになる。
屋上へ入れることに気づいたのは、最近だ。
放課後、特にやることが無くてフラフラとやって来て開いてしまったのだ。
少しコツはいるけども。

扉を開けて屋上へと入る。
少し肌寒い風が俺達を撫でた。
冬じゃなくて良かったと思う、冬にこんな場所で食べるなんて正気じゃないからな。

「はぇー……凄いですねー。漫画とかじゃ当たり前の様にここでお弁当食べてますけど、普通は入れないですもんね」

屋上をグルリと見回しながら、興味深そうに呟く井本さん。

俺達は、日の当たらない給水棟の影に向かった。
そこに用意しておいたビニールシートをひく。

「遠足みたいですね!」

無邪気な笑顔の井本さん。
これが本来の彼女の姿なんだろう。

シートに座り、二人で向かい合う。

「お弁当に見せ合いっこしましょう! 一度やってみたかったんですっ」

こうやって何の疑いもなく俺に擦り寄ってくる子犬の様な井本さんに、冷酷な表情でこの場から立ち去ってみたいと思う俺の心の深くにある闇は一生封印しておいた方がいいと思う。
俺に子犬を虐めて喜ぶ趣味は無い。
好意には好意で答える、信頼関係の構築の基本だ。

「俺の超弁当を見たら、井本さんは失禁するかもしれないな……」
「しっ、失禁なんてしませんよぅ! え、えっちな事言わないで下さい! もー!」

Q.失禁はえっちな言葉ですか?
A.知りません。

赤面癖があるのか、頬を仄かに赤くした井本さんがバタバタと肩を叩いてくる。
この程度の下ネタとも言えない下ネタで恥ずかしがるなんて……あ、ああ、そうか。
友達いないからか……。
そ、そうか……うん。

「な、なんで『この子、社会に出たら死ぬんじゃないかな……』みたいな目で見るんです?」

社会に出ると、下ネタコミュニケーションは必須だからです。
下ネタコミュのレベルが低いと、輪から弾かれます。
……ん? 何で俺はそんなこと知ってるんだ……?
まあいいか。

「お、お弁当です! ハイ! 見せっこしましょうっ」

せーの、と自分の弁当の蓋を開ける井本さん。
中身は彩りがあり、何というか相当、弁当を作りなれた人間の製作である事を感じ取れた。

「へー、おいしそうだな」
「でしょっ? アーニャちゃんが作ってくれたんです!」
「……」
「何で急に嫌そうな顔になるんですかっ」

ほんと、何でだろう。
どれだけ旨そうでも、あのダブルピースババアが作った物だと考えると……うお、脳裏に昨日の制服バアア映像がっ!

「……うえっぷ」
「ひ、人のお弁当を見て変なリアクションしないで下さいよぅっ」

ああ、いかん……。
これは流石に失礼だな。
くそ、いつまで俺を苦しめるつもりだ、ババアめ……。

「山田君のお弁当も見せて下さよー」
「そ、そうだな……オラッ!」

脳内バアアを追い出す勢いで、自分の弁当の蓋を開ける。
ババアは消えなかったが、その代わりに目の前の井本さんがビクリと震えた。

「び、びっくりしました。……わっ、こ、このお弁当……ご飯とお芋さんだけしかありませんっ!」
「腹には溜まるぞ?」

昨日楓が持ってきた芋は、家にまだまだある。
こうやって消費していかなければ、腐ってしまうからな。

互いの弁当のオカズを交換しながら、昼食を食べる。
食事中の話題が尽きることはない。
お互い、今まで会話の相手がいなかったのだ。
喋る内容なんていくらでもある。

さて、食事も済み、昼休みもそろそろ終わる。
俺は今日の昼食の本当の用件を告げることにした。

「今日の放課後は空いてるか?」
「……へ? 放課後ですか? ――あ、空いてます! すっごい空いてます! 穴だらけです!」

猛烈に食いついてきた。
目が爛々と輝いていて、その顔を目の前まで近づけてくるので、少し怖い。

「空いてるか。なら良かった」
「ど、どこに行きます!? ゲ、ゲームセンターですか!? それとも映画に!?」
「違う」
「カ、カラオケですか!? もう『またお一人様ですか? ギターケース持って来て、練習しにきたアピールとかいいですからw』みたいな顔で見られなくていいんですよね!? やったーっ」

何やら薔薇色の放課後を想像して、万歳している井本さんには悪いが、全然違う。
俺達には遊んでいる暇なんてないのだ。

放課後、昨日の様に校内を散策し、友達力が低い人間を捜索する。
二人なら単純に捜索能率も二倍だ。
友達力が凄まじく低い井本さんには、とても期待している。
友達力が低い人間は友達力が低い人間と惹かれ合う……それは世界のサダメだからだ。

さて、問題は。

「プリクラも撮りましょうねっ! あっ、そうだ。こ、今度の連休に旅行に行くのはどうですっ? 私のお父さんが経営してる旅館があるんですよ――」

満面の笑みで遊びの計画を立てる井本さんだ。
俺達がこれから行う活動を告げたら、さぞ落ち込むだろうが……。
まあなんとかなるだろ。

今日の放課後より――友達の捜索を開始する。


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