私はあまり賢い人間では無い
勉強ができない人間という訳ではない。人並みな知識は持っているつもりだ。
私が言いたいのは人間としての社会性、他者との繋がりを創る事が壊滅的に下手だ
他人との関係を創る上で大切な事、「私は貴方にとって利がありますよ」とアピールする事が出来ない。
いや、小さい頃はできていたのかもしれないが、今現状、友人と呼べる人間が一人もいない
その事に関して寂しい、辛い等の感情が浮かばないのは、人として欠陥があるのだろうか?
本当に小さい頃の様に、他人を見下し、自分の優位を認識していた時と違い、他人を観察している…と言った方が良いのだろうか?
自分に向けられる悪意が煩わしく感じる時があるが、目の前に羽虫が飛び回っているくらいの感想しかない
…違うな、単に好意を向けられる様な行動をとっていないだけだ…
そういう意味で私は賢い人間ではない
そんな私だが、一つだけ自分の愚かしさを誇れることがある
私の人生、人間としての平均寿命の半分も来てはいないが、そんな人生のなかで気付けたこと
他人との円滑な人間関係を積み上げて行く中で、重要な事の一つだろう『妥協』する事
自らの意見を妥協する事で、相手の意見を通す。駆け引きの様なもの
私の中でその駆け引きを上手く行える者は、円満な人間関係を作っているのだろう
…例え、譲れない信念があったとしても、其れが利に繋がるのなら…
あっただけなんだ、其処に「在る」のではなく、「あった」だけ
私は馬鹿で愚かしい人間だ。其れでも。
自らが定めた信念を曲げてでも、行うと決めた目的を妥協してでも、他者に会わせたいと思えない
本当に愚かだけど、自分の意思は突き通す
例え阻まれても、挑み続ける
その事だけが、その事のみが
私が誇れるたった一つの事
其れを突き通す為に
前を見詰め、地を蹴り砕く音を響かせ疾走させる
前方に二つ、頭上からと背面より追ってくる蒼い物体、それらが此方へと銃口を向ける
疾走から急激な方向転換、前進から瞬時に右手方向へと直角に飛び退く
跳んだ方向と逆方向に砕けた地面の破片が飛散する
瞬きの時間差で頭上と背面から伸びる青白い線が先程まで走っていた地点を貫く
飛び退き、宙に浮かんだ身体を捻り、片足を地面に『叩き付ける』急激なブレーキに地面が抉れるように削れながら速度を落とす
更に拳を地面と垂直に振り下ろし、地面へと突き刺さり、完全に勢いを削ぐ
拳を脇に引き寄せるように,素早く腕を動かし、地面に接触する寸前に、もう片方の掌を着き、屈伸運動のみで地面に刺さった拳を引き抜き、身体を宙に放り出す
眼前を二条の閃光が通り過ぎていく
空中で体勢を直し地面へと着地し、膝で衝撃を吸収しつつ立ち上がると同時に首を捻る
再度通り過ぎていく閃光
空を漂う四つの兵器の位置を確認し、此方を見下ろす、蒼い騎士甲冑を纏っているような少女を見る。金色の髪が陽光に照らされ、眩く輝かせている姿は、戦乙女を連想させる。実に絵になる光景だ
それに対するように疾走の為に腰を沈ませ、拳を握り締める
風が吹く
地へと届くかのような長い銀色の髪を靡かせ、人間の頭部くらいありそうな拳を開き、地を這うように四肢を着く。髪の色と同じ銀色の鈍く輝く装甲に覆われた身体に各関節に取り付いている淡く発光する結晶体、手の甲に取り付けられた打撃の威力を増幅させる推進増幅機に加え、瞬発的な加速を可能にし、身体の動きを制限しないように、各部位に装着されたバーニア、そして身体中を走る蒼く発光している線、拳を握り締め、力の込められた部位が輝きを増していく。人としての身体能力を極限まで引き出し、増幅、超人的な動きを可能にする特殊兵装。ISとしては欠陥品ともいえる、超近接戦、打撃特化にのみ重点を置いた。紛れもない欠陥機体。
その銘を『銀獅子』
上空に漂う少女を見つめる表情の無いマスクに覆われた獅子
まるでお伽噺にありそうな一場面
一方は銀色の獅子を狩るために武器をもつ少女、もう一方は空に浮かぶ女騎士を地へと堕とす為に襲い掛かる獅子
何処かの物語でありそうな構図だなと苦笑しつつ、脚へ徐々に力を込めていく
只、前へ進み敵を叩き伏せる為に。
眼前で拳と拳を叩き合わせる
轟音が響くと同時に地を疾走し、距離を取る蒼い女騎士を猛追する
開始の合図から約120秒
更に動きを加速させて追い詰めようとする獅子と其れを討たんと武器を構える騎士