手合わせの終わったあと、午後のお茶の時間である。
「あなた、本当に強いのね……」
エレオノールが言う。
あの後、妻に代わり、夫である公爵が手合わせではなく、稽古を
行う流れになったのだが……、
レナスは、杖を持っていなかったのだ。
「よっ、良くそれでお母様にけん、手合わせする気になったわね」
その時、つぶやいたルイズだったが、考えてみれば昨日もレナスは杖なしで突飛なことを
やっていた。
貴族の決闘とは魔法を用いるものと、頭の中で結びついていたので、思わず流してしまったのだ。
仕方がなく、ブレイドの訓練を模した木剣での稽古になったのだが、
若かりしころ、トリステイン一のブレイド使いと言われた公爵に、レナスはしぶとく食い下がった。
でも、いくら素早さと技に長けているとはいえ、まだ成長していない少女の体、疲れが見え始め
たころに、公爵の重い一撃を食らって……、昏倒してしまった。
気がつくと、何か柔らかい物の上に頭を載せられていて,
「気がついたかしら、レナス?」
その声にぎょっとして目を開くと!!
「げっ!!」
カトレアの膝枕からあわてて跳ね起きようとするレナス。
だが、その肩をカトレアが優しく押さえると、おとなしくなった。
「すっ、すまん。レナス。少々やりすぎた」
なぜかボロボロの姿になった公爵が、詫びを入れる。
それで、午後のお茶になったのだが……
「あなたはまったく!!女の子相手に何をやってるのですか!!」
カリーヌはまだ怒っているらしい。
「いいんです。私の腕が未熟なだけですから……」
あれで未熟?、お母様が騎士になったときより幼いのに……。
ルイズとエレオノール、共通の思いである。
カトレアは例によって何も言わない。
「いや……、私も少々大人気なかった。すまん」
改めて侘びを入れながらも、公爵は戦慄していた。
実は、レナスの攻撃は浅いながらも何発か当たっていたのだ。
これが実戦ならば、鋭利な刃物で切り付けられた痛みで杖を取り落としていたかもしれない。
だから思わず本気になって殴りつけてしまった。
昏倒したレナスを見てあわててヒーリングをかけたが……、
妻から特大のエアハンマーを食らったのはその直後だった。
お茶もそろそろお開きになりそうになったころ……、
執事の一人が、公爵と夫人に声をかける。
「旦那様、奥様、レナスお嬢様のお迎えがいらっしゃいましたが?」
「ふむ、そうか」
「待たせておきなさい」
公爵家たるもの、妻の実家とはいえ格下の家の従者などに構うことはない。名目上はであるが。
「あの……、それが……」
「何かあるのですか?」
烈風カリンの表情に戻ったカリーヌが問う。
「……、セレスティーヌ様自らおいでです……」
”ブバッ!!”
その言葉に、レナスは、ちょうど含んでいた紅茶を吹きだした……。
「えっ、お姉さまが?」
「なっ、何、義姉上が?」
なっ……、なんで来ちまうだよ。オカン……。
控えていたメイドに飛沫を拭かれつつ……、レナスは頭を押さえるしかなかった。