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[28082] 【チラ裏から】 魔法少女だらけの聖杯戦争
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:5537cbab
Date: 2012/04/06 10:16
第一話 最強のカード


聖杯の探求――

 それはこの遠坂家において魔術師の血とともに代々受け継がれてきた宿願である

 私の父は前回の聖杯戦争で帰らぬ人となった

 それ以来、私も聖杯戦争へ参加する為に準備を重ねてきたのだ



「さて……準備は万端、体調も良し!」

 部屋の中で遠坂は制服から戦闘服に着替え、儀式の最終チェックを行っていた。
 もしも、儀式に不備があればいくら強いサーヴァントを手に入れても契約不備に縛られては元も子もないからだ。
 特に遠坂自身が持つ呪いとも言うべき『うっかり属性』に対してはいくら警戒してもし切れないくらいだ。

「うん、我ながら絶好調!これなら、サーヴァントの召喚もバッチリね」

 遠坂は自身の準備に不備が無い事を確認し終えると耳にかかる黒髪を払いのけた。
 そして、儀式場である屋敷の地下にある魔法陣へと急いだ。



 その日、朝から私の気分は高揚していた。

 10年来の目標だった聖杯戦争が今まさに始まろうとしている。

 今日はその参加条件となるサーヴァントの召喚を行うことにしていたのだ。


「素に銀と鉄」


「礎に石と契約年来の大公」


『凜、聖杯はいずれ現れる』


「祖には我が大師、シュバインオーグ」


「降り立つ風には壁を」


『アレを手に入れるのは遠坂の義務であり』


「四方の門は閉じ、王冠より出て」


『魔術師であるならば、避けてはとおれぬ道だ』


「王国に至る三叉路は循環せよ」


 それが父の最期の言葉


「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ」


「繰り返すつどに五度、ただ満たされる刻を破却する」


 ならば私は魔術師として生きよう


「――告げる」


「汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に」


 そして見事に聖杯をこの手にして見せる
 そう決心すると遠坂は魔法陣に手を伸ばす
 すると、魔法陣が光り輝き始める


「聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば答えよ」


「誓いを此処に」


「我は常世総ての善と成る者」


「我は常世全ての悪を敷く者」


 あまりの厖大なエネルギーの蠢きに自然と遠坂の顔から汗が零れ始める。


「汝、三大主、言霊を纏う者」

「抑止の輪より来たれ」

「天秤の守り手よ――――――!」


 魔力の嵐はその言葉と共に陣を中心にして荒れ狂い、遠坂にこれ以上無い程の手応えを感じさせる。
 しかし、少しすると魔力の嵐は収まりその場には何も無い空間が広がるだけだった。
 その光景に遠坂は目の前の光景が信じられず固まってしまう。
 手応えを感じた筈なのにまさかの失敗という結果なのだ。
 その事に驚きを隠せる筈が無かった。


「……ちょっと…………なんで何も起こらないのよ‼」


 あまりに信じられない光景に思わず叫び、儀式の手順を確認して行く。


「まさか、失敗………?そんな!儀式は完璧だったはず‼」


 儀式の失敗の原因を探る為に手順を見直していると居間の方から大きな物音が響き渡った。


「何⁉居間の方から……‼」


 遠坂は急いで階段を駆け上がる
 そして、ドアノブを勢い良く回し始めるが、イライラからか上手く開かず沸点を通り過ぎた遠坂はドアを蹴飛ばした。





「いたたたた…………ここは?確か、私……」


 遠坂の目の前に居たのは瓦礫の山に座っているテレビアニメに出て来るような可愛らしい魔法少女のコスチュームを着た少女が存在していた。
 全く理解出来ない状況に遠坂は思わず「はっ⁉」と、素っ頓狂な声をあげてしまう。


「あの……ここ、何処ですか?」


 同じように状況を全く理解できていないピンクのコスプレ?をした魔法少女?は助けを求めるかのように遠坂に尋ねた。


「ちょっと、待ってね……夢じゃないと、なるとキャスターを引き当てた?はぁ、ツいてないわ……」


「キャスター?何の事を言ってるんですか?」


 ピンクのコスプレ?少女は状況が理解出来ずに首を傾げる。
 その全く会話が成り立っていない状況を不審に思い、遠坂は恐る恐るこう尋ねた


「聖杯戦争って分かる?」


「聖杯……戦争?」


「まぁ、簡単に言うと勝ち進めばどんな願いも叶うのよ!あんたも英雄なんでしょ!叶えたい願い位あるでしょ?」


 遠坂の願いという言葉にピンクのコスプレ?少女はジッと自分の手を見つめる。
 その様子に一応、話が通じている事に凛はホッとするとサーヴァントの返答を静かに待った。
 
 願い……その言葉がまどかの胸にポッカリと空いていた空虚なる穴を刺激する。
 とても大切な思いだった気がするが今はもう思い出せない位に曖昧に掠れバラバラになってしまった記憶……
 霞がかかり、継ぎ接ぎだらけの断片でしかない大切な思い達……
 そんな思いにまどかは呆然と立ち尽くしてしまう。
 凛は呆然とどこか遠くを見つめるまだ自分よりも幼いであろうまどかに対してどう接していいのか分からず溜息を吐き、頭を掻き毟る。
 だが、そう長い時間凛が待てる筈がなく痺れを切らし、まどかにこう告げた。

「何か聞きたい事があるならさっさと言いなさいよ!」


「えっ?あの、あのね……願いが叶うなら何か代償とかってあったりしないのかな?絶望とか……」

 まどかは急に声をかけられて返す言葉が見つからず、思わず頭の中に浮かんだ思いを凛に投げかけた。
 なんで、願いに代償があると考えたのかまどか自身にも分からなかったが何故かそれがとても大切な問題であるように感じ、まっすぐに凛を見つめる。
 そんなまどかの様子に凛はこの子もまたサーヴァントとして呼ばれている英霊であることを思い出すと頭の中にある知識を彼女にも分かるように噛み砕いて話し始めた。

「まぁ、本当のところどうなのかは分からないけどアインツベルンって言ってもわからないわよね……そういう有名な家系が辿り着いた根源への門を固定し向こう側に至る技術って聞くから詳しくは解らないけど、根源は世界そのものでもあるから、それなりの代償は在るかも知れないけどあなたの言うような絶望とかそういったモノとしての代償ではないと思うわね……膨大な魔力の塊って言われていたりもするし……えっと、貴方の真名って何ていうのかしら?名前が判らないと呼びにくいでしょ?」

「鹿目まどかだよ?宜しくね?えっと……「遠坂凛」凛さん!」

「凛さんは恥ずかしいわね。そうね!凛ちゃんってどうかしら?私はまどかって呼ぶから。それででいいかしら?」

 その言葉にまどかはにっこり微笑むと大きく頷いた


 こうして二人は固く握手をした。
 これが最強の魔法少女と遠坂凛の運命の出会いだった
 これは魔女になる前の魔法少女を救う為に概念にまで成り果てた少女の救いの物語……




「それで? 魔法少女ならこの瓦礫の山片付けられるわよね? 後は任せたから!」

 魔法少女であるのだからこの世界とは違う魔法体系でこんな瓦礫の山をさっさと片付けられると考えて後は全てまどかに任せて少しばかりの仮眠を取ろうとするが、その手をまどかに取られてしまう。
 凛はそんな必死なまどかに何事かと思い振り返るとものすごい速さで首を横に振るまどかがそこに居た。

「む、無理だよ! 凛ちゃん! 私の魔法はただ弓を魔力で生み出すだけだからそんな事出来ないよ!」

「えっ? 普通、魔法少女って証拠隠滅とかでこれくらいのモノなら魔法を唱えて次の瞬間元通りじゃないの? よくアニメとかの魔法少女って簡単にそうやってるじゃない!? その服は飾りなの?」

 全く持って信じていない凛にまどかは必死に手伝ってくれるように懇願する。

「飾りじゃないよ! その……きっと、私の世界の魔女は現実的な器物を壊したりしないから必要なかったんじゃないかな? だから、凛ちゃんお願いだから手伝って?ねっ?」

 こうして、凛はまどかの言葉に仕方なく手伝いを始めるが女手二人では当然の如く終わる筈が無く、一睡もせず夜通し作業しても結局半分済んだ程度で作業を投げ出しまうのだった。



感想待ってます



[28082] 聖杯戦争開始前日
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:cf724002
Date: 2011/09/17 01:57
第二話 逸話無き英雄 鹿目 まどか

「あれ……もう、朝じゃない……」

 まどかの召喚時の失敗により出来た瓦礫の山は夜通し作業を続けたのにも関わらず、いまだに存在感を放っていた。その途方も無い瓦礫の量に凛は溜息を吐くと近くの椅子に腰を下ろした。

「もういいわ……まどか……それより、貴方って日本人よね?」

 この瓦礫と召喚のミスにばかり頭が行っていて考えていなかったが、鹿目まどかという英雄など聞いた事がなかったからだ。聖杯戦争では英雄の逸話に基づく宝具が戦局を大きく左右するがそれは逆に言えば此方の真名が公のモノとなる諸刃の剣でもある。つまりは、使い所が難しい武器なのだが、マスターにすら真名を聞いても解らないとなると戦略の立てるのが難しくなる。それ故にまずは、日本人であることを疑ったのだった。

「えっ?そうだけど……」

 質問の意図がまるで理解出来ていないまどかはどうしてそんな質問をするのか分からず首を傾げてしまう。
 だが、それ以上に凛は頭を捻っていた。
 魔法少女……キャスターの可能性を考えたが、昨晩、監督役である言峰教会に召喚に成功した旨を伝え召喚したのがキャスターだと伝えるが、既にキャスターは召喚済みと返答されてしまった。そして、残っている座はセイバー、アーチャー、アサシンと言われてしまったのだ。
 この状況で希望を捨てなければ、最強と名高いセイバーの可能性もあるにはある。
 だが、あの様子だとそれは夢を見過ぎだろう……。となると、最弱のアサシンかアーチャーなのだが、鹿目まどかという英雄の逸話など聞いた事がない。
 残った可能性としては“未来”の英雄なのだが、これだと他のマスターに逸話から真名が判明しなにのは好都合だが、認知度の問題が起こってしまう。
 しかし、先程も言ったように聖杯戦争におけるサーヴァントの強さはその英雄の認知度の高さに由来している。
 つまりは、有名な英雄になればなる程に本来に近い姿で召喚されるのだ。
 けれど、真名がばれないメリットだけでなく、デメリットも抱えてしまっている状態なのだが……

「はぁ、あんた……本当に英雄なの?」

 凛は溜息交じりにまどかに尋ねて見た。
 どこからどう見ても、普通の平凡などこにでもいる中学生にしか見えないまどかに本当に聖杯戦争を戦い抜けるのか不安になってしまったからだ。
 確かに魔術師も普通の社会に紛れ込むものだが、魔法少女もそういうものなのだろうかと、疑問を思い浮かべてたりするのだが――それよりも、何と戦って英雄にまで上り詰めたのかが非常に気になってしまう。

「えっ? 英雄って、私はなんの取り柄も無いただの中学生だよ?」

 まどかのその返答に凛は呆れ果てて頭を抱えてしまう。
 つまり、それは聖杯戦争でハズレを引いた事になるからだ。
 何の取り柄も無い英雄などで到底勝ち抜ける程、聖杯戦争は甘くは無い。
 何せ相手もまた過去の英雄を連れているのだ。
 その上、魔術師同士でも己の技術を競い合う戦う場面も起こり得てしまう。そんな中で、サーヴァントが無能であるのなら魔術師がサーヴァントと魔術師を同時に相手にするなど命を捨てるようなものだ。
 その現実が夢であって欲しいと願う凛は現実逃避を試みるがそんな事で今、目の前にある現実が変わる訳が無かった。

「そう言えば、あんたの武器は? 魔法少女なんだから魔法のステッキ? ステッキで相手を撲殺するの?」

「しないよ!それに、昨日言ったよ? 私の武器は弓だって!」

 そう告げると、何も無い空間から弓を取り出す。
 その花をモチーフにしているのであろう弓を視た凛はそれをすぐに仕舞うようにまどかに指示した。
 視ているだけでも、有り得ないレベルの魔力が蠢いているのが理解出来てしまうソレは、まさに遠坂の目指す宝石剣のレベルに匹敵する一品だ。
 何の取り柄も無いとか抜かしたまどかがこれ程までの一品を所持している事に世の理不尽さを感じながら、再び盛大な溜息を吐いた。

 しかし、まどかはそんな凛の心中を知らずに心配気に凛にこう告げた。

「溜息ばかりしてると、幸せが逃げちゃうよ?」

 まどかのその言葉に怒りの沸点を越えかけるが、常に優美たれの遠坂の家訓に加えてサーヴァントはどう見積もっても年下……その怒りを飲み込むと大人の対応を心掛ける。

「まぁ、気にしないで? ただ、その弓が貴方の宝具の一つだろうからなるべく見せない方がいいわ……って、言っても貴方の宝具から真名を突き止められる筈は無いんだけどね……私も知らないし……」

 まどかの持つ弓は遠坂が軽く見積もっただけでも、C〜Bランク相当の一品でありあながちハズレを引いた訳では無い事に安心する。そして、アーチャーのスキルである狙撃を最大限に活かす為にまどかの狙撃の腕を知りたい所だが試し撃ちが出来る場所などある訳が無く、徹夜明けで学校を休むと街の様子を視て回る事にした。

「ねぇ、霊体化して?」

 街に出かける準備を整えた凛はまどかに当たり前の様に尋ねるが、全く霊体化する気配が無い……それどころか、何をどうしたらいいのか分からず凛の顔をじっと見つめるだけだった。

「霊体化って何……かな?」

「霊体になって人間に視えなくする事よ……元々、英雄自体が亡霊みたいなモノだからなれる筈なんだけど……まさか、出来ないの?」

 まどかの服装は今だに魔法少女のコスプレのままで、この衣装で街を歩きなど狙って下さいと言っている様なモノだ。それだけでは無く、周りの注目を集め恥ずかしい事この上ない。
 ただ、まどか本人が見て回ってこそ意味がある戦場偵察にまどかを連れていかない訳にはいかなかった。
 そんな事を考えていると凛はある服がある事を思い出した。
 言峰が毎年贈って来る似合いもしない服である。
 毎年、全く着られることなく箪笥の奥底に眠っていたそれを探し出し、中学生の時に送られたサイズのモノをまどかへと手渡した。








「そう……アーチャーが召喚されたの……」

「あぁ、残る座はセイバー、アサシンだけだ」

「そのようね……ところで、そっちの子は誰なのかしら?」

 黒髪の魔法少女は言峰神父が連れてきた白い少女を視線を移すと少し殺気を込めて睨む。
 それに対して、言峰は何でもないかのようにその殺気を交わすとこう告げた。

「何……協力者だよ……君に最初から参戦して貰う訳にはいかないからな……何せ、前聖杯戦争から存命しているサーヴァントであり今回のマスターにとってはイレギュラー的存在である君をそう簡単に動かせないからな……」

「そう……別に貴方が何を企んでいようが私には関係ないわ……私は聖杯を手に入れられればそれでいい」

 そう告げると黒い魔法少女はどこからともなくデザートイーグルを取り出し、それを言峰に向けた。
 だが、それに言峰はまったく物怖じした様子は見せずじっと黒髪の魔法少女を見つめる。

「ただし、私の邪魔をするならたとえマスターであっても容赦しないわ」

「覚えておこう……あとは、二人で話しておきたまえ」

 言峰はそう言い残すと白い少女を部屋に残し退室する。
 その後ろ姿を白い少女は睨み付けるが令呪で拘束されているのか唇を噛み締めると手を握りしめる。

「それで、あなたはまだ私に用があるのかしら?」

 一人残った少女に対して、黒い魔法少女はまるで興味が無いように淡々と尋ねた。
 それに対して、意を決したようにその白い少女はゆっくりと唇を動かし始める。

「なんで、あなたはあのマスターに従ってるんですか?」

 その問いに対して、黒い魔法少女は初めてその白い少女を視界に入れると何も言い返すことはせず、黙ってその少女の話を聞き始める。

「信用していた……信頼していたマスターを不意を衝いて殺して令呪を奪って、それで服従させて……なんで、そんな人に従えるんですか!」

「自業自得ね……この戦争に参加した以上は全てが敵だとわかっていたはずよ? 令呪を奪われて殺される可能性もある」

「それは……そうかもしれないけど、でもそんなの間違ってるよ!」

 熱くなる少女に対して、冷静に黒髪の魔法少女は一言だけその白い少女の言葉を訂正した。

「それに、一つだけ勘違いしているわ――私はあの男を信用なんてしていない、私は目的の為に利用しているだけよ……たった一人の友達を救い出す為に……」

 それはその黒髪の魔法少女が初めて感情をこめて呟いた言葉だった。




あとがきという名の言い訳

 凛の件に関しては色々悩んだ結果、「凛さん」より、「凛ちゃん」のほうが遠坂に似合ってるかなと勝手に判断した結果です……なので、このまま行こうかとwww
 思った以上に反響があったことに内心不安を隠せません。

では、宝具の紹介

まどかの宝具 その一

救済の弓
ランク 推定 C+~B+++
種別 対軍宝具
レンジ 不明
最大捕捉 測定不能

全ての魔法少女を救済した英雄まどかの用いた弓
その逸話から悪き穢れた魂を払う事が出来る対悪宝具でもある。
弓はホーミングとなっており、使用者の魔力が尽きるまで無尽蔵に増やせる。
但し、現在召喚の際に神性を失った為、本来の穢れを払う力は失われている。




[28082] 平穏なる買い物
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:40370561
Date: 2011/09/17 01:59

 新都まで実体化したまどかを連れて偵察兼買物に来ていた。
 目的の一つが霊体化出来ないまどかと街を出歩く為の服を買う事なのだが、何やら箱入り娘のように眼を輝かせて辺りを見回すまどかに凛は溜息を吐いてしまう。
 だが、同時にいくら英霊とはいえ年相応の普通の少女のようで少しだけ安心していた。
 だが、そんなに辺りに気を回していたら目の前が悪露底になってしまい、やはり前から歩いてきた黒髪の少女にぶつかってしまう。

ゴン

「あっ⁉ごめんなさい!」


「いいえ、こちらこそごめんなさい――まど……いえ、そんな訳が無いわね……気にしなくていいわ」

 ぶつかった少女はまどかに対して何やら驚いた様子を一瞬だけ見せるが、気のせいだったのか次の瞬間にはにこりと微笑みまどかの身を案じ始める。

「それより、名前……聞いてもいいかしら?」

「えっ?かな……佐倉 仁美だよ!」

 一瞬、まどかは本来の名前を告げそうになってしまう。
 しかし、凛の真名はなるべく避けるようにと言う言葉を思い出し、咄嗟に頭に浮かんだ二人の名前を合わせて口にしてしまう。
 それを聞いた黒髪の少女はどこか安心した様子で小さく「良かった……」と、呟いた。

「それじゃあ、ごめんなさい。私、急いでるから……」

 それだけ告げると黒髪の少女は言峰教会のある丘へと続く道へと姿を消した。
 その後ろ姿を何故かまどかは見えなくなってもじっと見つめていたのだが、急に頭に振り下ろされたチョップがまどかを現実へと引き戻す。

「あんたね……少しは気をつけなさいよ……」

「あはは、ごめんね?凛ちゃん」

「まぁ、それよりさっきの子が気になってたみたいだけどどうかしたの?」

 その凛の言葉にまどか自身もよく分からなかった。
 分からないけど、どこか懐かしく大切なモノをあの少女に感じていたのかも知れない。
 ただ、それを断言出来る根拠は無かった。
 けれど、その何かわからないものが確実にあの少女とあるような気がして何故かまたどこかでであるそんな気がまどかにはしていた。

「分からないけど、そんなに気にしてた……かな?」

「気にしてたわよ……姿が見えなくなっても見続けてたし……」

 まるで箱入り娘のようだったりするまどかに対して凛はどのような逸話を持つ英雄なのか考えてしまう。
 魔法少女……
 しかし、それを除けばどこにいてもおかしくない普通の少女……
 彼女もまた魔術師のように現実の何かを犠牲にした結果に立つ場所が英霊の座なのだろうかと、少し考えてしまうがその考えを振り切ると頭を切り替える。
 そして、まどかの頭を撫で始めた。

「さっさと服買うわよ!なるべくお金はかけたく無いから、色んな店を回らないといけないし、その後は街の狙撃ポイントになりそうな場所を見て回らないといけないんだからね!」

「服を買うのに服屋を回るの⁉一件でいいよ!それに、なんだか頭を撫でられるのは恥ずかしいよ」

 一応、財布の中の諭吉を確認するもこの出費はなるべく抑えたいのが凛の気持ちだった。
 魔術師が皆、お金を気にする訳ではない。
 遠坂に代々伝わる魔術の特性故のモノだ。
 宝石魔法……つまり、宝石に魔力を溜めて使うのだが一回使うと二度は使えない。
 故に、一発は大きいが出費が嵩む魔術なのである。
 何せ一発使うと五十万といった単位で飛んでいくのだ。
 確かに特許などで自然とお金は入って来るがそれでも、なるべく抑えておかなければ金喰い虫である宝石魔法はやっていけない。

「他の店の方が安かったら嫌じゃない……」

「えっ?他の店にもっと良いのがあったらじゃ無くて?」

 まどかは最初に気にする所がそこなの!と驚いてしまう。
 普通はまどかの答えが正解なのだが、金銭面を気にする凛からすれば着れればいいのである。
 そして、五件もハシゴさせられ寝巻きを含め三着購入すると自宅に荷物をコインロッカーへと預けると狙撃ポイントを見て回る為に夜の街を歩き始める。
 最後のポイントである深山町にある自身の通う学校に到着する頃には空には星が輝き始めていた。

「だいたいこんな所かしら?あなたのアーチャーとしての腕が活かせるだろう場所は」

「うん……多分、大丈夫かな? それよりも綺麗だね……この街は……」

 凛の話を全く聞かずに夜景を眺めているまどかになぜか怒りは湧いてこなかった。
 逆にそのどこか遠い場所を見るような眼差しに言葉に出来ない感情が押し寄せてしまう。
 まるで、そこに居るのにも関わらずまるで違う世界からモノを見ているようで、絶対に届かないモノを見つめ続けるようなまどかに凛は何故か年齢以上の何かを感じた。

 サーヴァント……英霊……

 過去に偉業を成したであろうこの少女は何を得て、何を失ったのだろうか?


 だが、そんな感情に浸る時間など存在しない。





 ここは既に戦場なのだから……






「ゴメンね、悪いけど私と戦ってもらうよ!これも、マスターの命令だから!」


 その声に凛とまどかが振り向くと、そこには何やら機械らしき杖を構えた純白の衣装を纏う少女が宙に浮かんでいた。
 どこからどう見ても小学生の女の子なのだが、感じる魔力の量は一般人にはあり得ない量でありそれの膨大な魔力がソレをサーヴァントであると告げていた。
 その魔力量と容姿のギャップに凛は唖然とするも相手が何のサーヴァントか分からない状態でアーチャーが近接戦を挑むのは分が悪いと判断し、舞台を変える為に屋上から飛び降りようとする。
 しかし、凛は何やら理解出来ない魔術でいつの間にやら拘束されてしまう。
 その足にハメられた光のリングは空間に固定されているようでどんなに動いてもビクともしない。
 必死に逃げる算段を立てようとするが、相手のサーヴァントがそれを待つ筈が無い。




「残念だけど、逃がさないよ」





 そう告げるとその魔法少女はまどかと凛い向けて機械の杖を向けるとその杖を中心にピンク色に輝く中遠が現れる。
 そして、次の瞬間ピンク色の光がまどかを包み込んだ。










時間は少し戻り、言峰教会


 黒髪の少女は言峰教会に辿り着くと先程の少女に関して思い返していた。
 鹿目まどかと同じ容姿をした少女――
 確かにここが“あの世界”とは根本が違う異常は起こり得る事である。
 ただ、その少女の近くに今回の聖杯戦争に参加を表明している御三家の一人、遠坂凛がいた事にが酷く気になって仕方が無かった。

「確か、言峰の情報だとアーチャーよね? 遠坂凛のサーヴァントは? まどかは魔法少女の時は弓を装備していた……十分、可能性はある……」

 聖杯を手に入れるためには、護りたいモノを傷つけねばならないかもしれない。
 その可能性に黒髪の魔法少女は深くため息を吐いた。
 だが、ここである事を思い出す。
 英霊は所詮、本体は時間軸からは外されて英霊の「座」におり、こちら側の世界で活動しているのはその触覚たる分身のような物である。
 通常、用が済んだらそのまま消滅する。
 つまり、ここにいるまどかは本来の世界によって捕らわれているまどかではないとも割り切る事が出来る。
 しかし、それは何をもってまどかをまどかとするのかという哲学的な問題にも発展し、そのような答えを容易に出せる筈が無かった。
 どうであろうが、英霊として召喚されたまどかはどの時間軸のまどかであろうともほむらの事を知っているまどかに他ならない……
 答えの出ない袋小路に迷い込んでしまったほむらは小さくため息を吐くが、ほむらはまどかを救う為ならどんな事でもすると誓った事を思い出す。
 だが、どちらにせよまどかがアーチャーであるかは全て憶測に過ぎなかった。

「少しいいかしら、ランサー」

 そして、出た結論がランサーにアーチャーを調査させるという事だ。
 彼女を使えば、自らが出向かなくても確かめる事が出来る。
 最悪、まどかを自らの手で殺すという場面を回避できる。
 自分でもそれは卑怯だとは分かっているがそれ以外に今は方法が見つからなかった。

「あの……なにか用ですか?」

「確か、あなたは言峰に全サーヴァントとの交戦を令呪で命じられていたわよね?


なら、アーチャーとはもう交戦したのかしら?」

 黒髪の少女の問いにランサーは首を横に振り否定する。
 既にしている事を前提に問いに来たのだが、していないという結果に黒髪の少女は答えを先送りできたことに少しだけ安心するもそれは結局何も解決していない事に気が付くとランサーにこうお願いをする。

「なら、アーチャーに関する情報を出来るだけ多く集めてくれるかしら?特徴、目的……なんでもいいわ!言峰には内密にお願いできないかしら!」

 冷静な印象しかなかった黒髪の少女の変わりように、ランサーは驚いてしまう。
 だが、その願いを否定する理由も無かったランサーはその願いを聞き入れる事にした。
 あの神父は信じていたマスターを裏切るような信用ならない人間だったが、目の前にいる黒髪の少女はどこかあの大切な友人と重なってしまい放っておけなかったからだ。
 だから、ランサーは決意を胸に黒髪の少女にこう告げた。

「わかりました。そのかわり、こっちからも一つだけ教えて貰ってもいいかな? 別に大したことじゃないんだけど、名前……聞いてないから」

「暁美ほむらよ……ほむらでいいわ」

 言峰への復讐の手助けをお願いされると思っていたほむらは予想外過ぎるお願いに一瞬、耳を疑った。
 確かに真名を教える事は危険だ。
 ほむらが求める情報との価値を比べればそんなモノには大した価値は存在していないが、それでもこちらの願いに膨大なモノをふっかけて来る程度の事は覚悟していただけにどこか呆れてしまう。

「よろしくね?ほむらちゃん。私は高町なのは!なのはでいいよ!」

 そう笑って手を差し伸べるなのはの顔がほむらの目にはどこか|大切な友達≪まどか≫にダブって見えた。
 そして、高町が名前を尋ねた本当の“意味”にその時、初めて気付いた。


「これで、私達友達だね?」

 その高町の笑顔にどこか昔の自分を思い出してしまいクスリと久しぶりに笑ってしまった。








マミさん道場

さやか「はぁ……マミさん、こんな道場に呼び出しって何かあったのかな?しかも、体操服にブルマ指定されたし……」

マミ「早かったわね?美樹さん」

 その言葉に振り向くと目の前に広がる光景にさやかは固まってしまう。
 マミさんの頭はどう見てもお菓子の魔女シャルロッテにマミマミされているのだ。
 ただ、突っ込むとマミさんの心の傷を抉る事にもなりかねないので、笑ってスルーする。

さやか「そういえば、今日は何の用でsか?こんな道場にしかもブルマ指定で?」

マミ「あぁ、その事ね!つまり、原作のタイガー道場的な事をするためよ!それにしても、どこから声がするのかしら?なんだか暗いし生暖かいのだけど、美樹さんはどうかしら?」

さやか「えっ?そうですかね?」

 それはシャルロッテの口内だからですとは口が裂けても言えないさやかはこの状況にどう対応していいのか分からず右往左往してしまう。
 だが、そこへ現れた暁美ほむらがさっそうと現れた。

ほむら「その必要はないわ」

 そう呟くとどこから取り出したのかRPGをマミさんの頭に食らいついたシャルロッテに向けて発射する。
 その光景を見てしまったさやかは現状が理解できずに呆然と立ち尽くしてしまう。

ほむら「私は忙しいの。早くして貰えると助かるわ」

マミ「そうね?じゃあ、今回の聖杯戦争に対する意気込みをどうぞ!」

ほむら「まどかのありがたみを全世界、全宇宙の人間に知らしめることよ!」

 そう強く断言したほむらと瞬時に復活したマミさんがもう次元が違い過ぎて着いて行けていないさやかはそれを完全に観客として見つめていた。

マミ「確か、まどかさんのリボンが聖凱衣として受け継がれているのよね?」

ほむら「ええ、そうよ!女神であるまどかから頂いた大切なものだから」

 唯一の常識人である筈のさやかもこの異次元的な会話に自らの常識を疑ってしまう。

ほむら「それにしても、貴方達は大変ね。」

さやか「何がよ?」

ほむら「不幸が似合いそうだからってだけでこんな場所を任されて」

 その言葉にさやかは一瞬固まってしまうが、次の瞬間、叫び始める。

さやか「ちょっと待て―――!それは、私らが不幸って事かーーーーー!」

ほむら「そっちは頭からパクリとマミるという新しい言語まで生み出した中二病、あなたはひぐらしの時報男ならぬ、時報女じゃない。結構な確率で魔女になるから」

さやか「時報女……そんな二つ名いやだーーー」

ほむら「あら、もうこんな時間ね……そろそろお暇させてもらうわ。私も忙しいから」

マミ「私はチーズじゃない……チーズじゃない……友達いない寂しい中二病女じゃない」

 ほむらの言葉に二人とも撃沈していた。





 追伸

 マミさん道場は一発ネタです。
 まどか教はアンサイクロペディア参照



[28082] 高町 なのは登場
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:40370561
Date: 2011/09/17 02:00
 凛とまどかを包み込んだ桃色の光の中を掻い潜りランサーへ向かって一本の矢が飛来した。
 その矢はランサーでは無く、その光を放つ杖へと一直線へ向かい魔方陣に当たるとその魔方陣の向きを僅かにずらす。

「やるね!」

 確かに魔力量の桁違いからまどかの矢では押し返すすべはない。
 だが、物量で時間稼ぎ、光線を放つ杖にホーミングして矢を放つ事で狙いを逸らす事なら可能だと瞬時に判断したのだ。
 そして、逸れたのを目視で確認するとまどかは素早く凛を拘束する輪を射ると校庭へと飛び降りる。

「なんなのよ! あの拘束! 魔術回路に魔力が流せないし、力も入らないしあの子の能力?」

「わからないけど、真正面から戦うのは危険だと思う……でも、向こうも簡単には逃げられそうにはないね」

 そう凛に告げるとまどかは急いで背後のランサーの方を振り向いた。
 まどかの目線の先には膨大な数のスフィアを待機させてまどかに狙いを定めているランサーの姿が目に入ってくる。
 それに対して、まどかも弓を絞り小規模な魔方陣を展開して対抗する。

「面白い魔法だね! 膨大な量のホーミング性能の矢を放てる弓……でも、それだけじゃないよね?」

 なのはがこの戦いを楽しむように笑いながらそう尋ねるが、まどかは首を横に振りそれを否定した。

「私に出来るのはコレだけ……貴方みたいに、多種多様の魔法が使える訳じゃ無いから」

「まどか! 何で手の内を明かすのよ!」

 背後で凛がまどかに呆れながら叫んだ。
 手の内が弓しかないことを晒せばそれだけ接近戦に不利だという事を教える事になる。
 特に目の前にいるランサーは推測でも中遠距離型……どう考えてもレンジでは分が悪いからだ。
 だが、そんな凛の言葉は矢とスフィアの衝突による爆音でまどかには一切届かない。
 拮抗し、激しくぶつかり合い、粉じんが辺りを覆い隠す。
 そんな中でそのスフィアの嵐を掻い潜ったまどかの矢がランサーの背後から飛来し、ランサーを襲った。
 しかし、その死角からの攻撃をまるで視えていたかのようにランサーは身体を逸らせるだけで難なく躱して見せる。
 その際にランサーは僅かにまどかから目を逸らしてしまう。
 その僅かに視線が逸れた隙にランサーへ向かってまどかは走り込んだ。
 互いの距離が縮まったことにより発射から、被弾までの時間が徐々に短縮され、まどかの矢がランサーのスフィアの生成量を追い越し、拮抗は崩壊し始める。
 その状況にまどかは戦況が傾いた事を確信すると矢を放ちながら、ランサーに向かって懇願した。

「私は誰も傷つけたくない! だから、退いて!」

「言ったよね? マスターによる命令だって! それに、これは聖杯戦争だよ? 最後の一人になるまで殺しあわないといけないの!」

 そのランサーの答えに凛はすぐに令呪による強制の可能性が頭に浮かび上がった。
 そうなると、令呪使用により本来の実力以上を発揮している可能性すらありうるのだ。
 今のまどかではこの実力差を覆せないと判断した凛はここは生き残るためには令呪を使うべきだと判し、令呪を発動させようとする。

「学校から脱出……えっ! 嘘! なん、令呪が使えないの!」

 だが、令呪は発動どころか一画も消費されることは無かった。
 そんななかでランサーの保有する直観がここアーチャー以外にも、サーヴァントがここにいると感じ取る。
 それも、令呪の使用を阻害できるクラスの何か強大なモノが……
 大き過ぎる気配にランサーは辺りへの警戒を強めるも気配以外には感じ取れずサーチャーにすら引っかからない。
 だが、次の瞬間急速に魔力を奪われるる感覚にまどかとランサーは見舞われる。
 それにより、魔力により構成されたモノは全て分解されてしまい、先程まで押していたまどかの矢とランサーは展開していたスフィアが徐々に消滅していく。
 同じようにマスターである凛の持つ魔力もまた減少し始めていた。

「何なのコレ! まどか、何かわかる!」

「分からない……けど、何か不味い何かがここにいる……多分、この真下に……」

 真下、そうなると地面の中だ。
 確かに霊脈は流れているがここはさほど重要な霊脈ではない。
 そんなモノが真下に本当にいるのかは疑問に感じてしまうのだが、本当に存在しているのならソレは今後の戦いの上で相当厄介な存在となるだろう。






 だが、そんな事を考えているような暇などなかった。




 その時、背後から小枝の折れる音が聞こえたのだ。







 凛が振り返った先にいたのは衛宮士郎だった。









英雄達の人智を超えた死闘……

魔術師でもなくとも誰もが目を奪われる光景だった

そうたとえば

誰かがそこに居合わせてしまう可能性を忘れてしまうくらい







 ランサーは即座に魔術師同士の暗黙の了解である目撃者排除にターゲットを変えて動き始める。
 凛はそれを追いかけランサーを止めようとするが、魔力消費は少ないまでも別の要因での消費があってか少し弱ってしまっているまどかに無理をさせる訳にもいかず、ランサーを追うことは出来なかった。
 そして、凛はまどかを抱えると一端、何かいるであろう学校の敷地を後にしてまどかの回復を待った。









衛宮side


 なんなんだアレは……

 ただ、これだけは分かる

 アレは見てはならなかった

 だから……

 逃げなけば殺される……


 そう考えると急いで、学校を飛び出した。
 だが、そう簡単にランサーから逃げられる筈が無く、その存在に先回りされてしまう。

「ごめんね……私はこんなことしたくないんだけど……」

 目の前に現れたのはどんなに見積もっても小学生高学年の少女なのだが、その子が持つ杖が先程の戦闘を行っていた人間であると証明していた。
 そんな中で、自身の周りに何か違和感を感じた士郎は急いで右へ跳ぶ。
 その咄嗟の判断にその少女は驚愕の表情を浮かべていた。

「嘘! バインドの位置が分かるの!」

 バインドと言われても士郎には何の事か分からない。
 急いでその少女の横を急いで通り抜けると良く分からないがバインドと呼ばれるものがあるであろう位置を直感を頼りに避けて走り抜けた。

「はぁ……はぁ……」

 家に辿り着き、安心して座り込んでしまうがすぐにこんな事をしている場合では無い事を思い出す。
 生きている以上は口封じのためにここへやって来る可能性があるからだ。





 その時、背後に何か不味い気配を感じた。






 その桃色の光線は士郎を包み込み、窓を破壊してそのまま庭へと士郎を放り出す。
 そして、転がって倉の壁に叩き付けられた士郎に立ち上がる隙を与えず、ランサーは杖を突きつけた。

「ごめんね……」

 泣きそうになるのを必死に堪えながら、杖の先に現れた魔法陣に魔力を通していく。






死ぬ……?

俺はここで死ぬのか……?





冗談じゃない!!






俺はまだ誰一人として救えていない

俺はまだ正義の味方になれていない!




衛宮士郎はまだ死ぬわけにはいかない!!




その時、左手の痣が輝き、蔵の中に紫電が走った。







マミさん道場


さやか「どうも!時報女こと、さやかちゃんでーす」

マミ「随分、吹っ切れたのね?」

さやか「気にしないでください!では、サーヴァント紹介行ってみよー!」


クラス ランサー

マスター 不明
真名   高町なのは
性別   女性
属性   秩序・中庸

筋力C 耐久A+ 俊敏C 魔力A++ 幸運A 宝具A+++

クラス別保有スキル

対魔力C

保有スキル

???

???

直感 A 戦闘時、常に自分に有利な状況を感じ取る能力

宝具

???? A+++

???? ???

さやか「マミさん? なんか、優遇され過ぎじゃありませんかね? Aばっかりじゃないですか!」

マミ「まぁ、根っからの主人公属性だし、参加メンバーの中で一番主役っぽいじゃない?」

さやか「まぁ……そうなんですが、ことごとく赤毛のお兄さんに魔法避けられてた気がするんですけど……」

マミ「あれは彼が世界の異常に敏感だからよ! 魔法陣の発動を直感的に感じて避けてたの!」

さやか「そうか……まぁ、いいや! ところで、なんで令呪が使えなかったんですか?」

マミ「それは後々判明するわ。ただ、使用不可になった訳じゃ無いから注意してね?」

さやか「へーって事は、まどかの言った下にいる何かの影響の可能性が大きいのか!」

マミ「そうなるわね? この聖杯戦争の中で最もイレギュラーな事よ」

さやか「まどか、生き残れるのかな? このキャラクター表見たら心配だよ……」

マミ「私達に出来るのは応援だけよ! それに、まだ宝具は使ってないわ!」

さやか「あれ? Zeroの必滅の黄薔薇は名前言わなかった気が……」

マミ「あれ? そうだったかしら?」

さやか「それに、まどかの弓って真名解放したらどうなるんだろ…………」

マミ「そう言えば、本来の能力失われて弱体化してたわよね…………」

END




追伸

あどかの真名解放は現時点では存在しません。
つか、Zeroランサーと同じと思っていただいて構いません。
あれ? なんか、まどかが他に比べて見劣りしてしまう……
キャスター、アサシン、ギルポジが異常なだけなんだけどねwwww
因みに、士郎君は活躍することになりました!
無限の剣製VS狭間の武器庫←名前は仮
夢の対決みたいな!
私的にはほむほむが好きです。
因みに、ほむほむは麻婆恐怖症です。
そのうち、その他版に移す予定



[28082] 始まった戦争
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:40370561
Date: 2011/09/17 02:02
 紫電の先から突如、跳び出して来た何かに咄嗟に反応してランサーは砲撃をキャンセルする。
 そして、すぐさまランサーは自身の前面にプロテクションを展開し、すぐさま攻勢に転じられるようにと同時にスフィアを展開する。
 それに対して召喚された存在はスフィアを警戒し距離を取りつつ、ランサーの出方を窺う。

「何が……」

 何が起こったのか理解できない士郎は蔵の中から外を窺うが粉塵によって覆われてしまって何も見る事が出来ない。
 そんな状況に思わず更に身を乗り出してしまう。
 それに気付いた影は慌てて士郎の方を振り向かずに叫んだ。

「何してるんですか! 一般人は下がっていてください!」

 徐々に粉塵が晴れて現れたのは黒いスーツに金色の髪を靡かせた美女だった。
 その光景にランサーは僅かに動揺し、口を噛み締めるがすぐに元の表情にもどる
 金髪の女性はランサーとは違い、武器であるバルティッシュを構えるも目の前の光景を信じる事が出来ず、撃置く事が出来なかった。




「なのは…………」

「フェイトちゃん……なの?」




 互いに見知っているだけあって傷付けるを躊躇ってしまう。
 フェイトにとって、なのははかけがえのない友人であり、大切な仲間だ。
 そんな仲間を敵として排除するなど、出来る筈が無かった。
 だが、そんな状態を続けて行く訳にはいかない……
 なのはが間違っているのであるならば、絶対に止めなければならない。
 そんな中でなのはとの出会いを思い出した。
 今のように言葉ではわかり合えず、魔法を使いぶつかりあう事によってわかり合って来た。
 フェイトはそれを思い出すとバルティッシュを握りしめ、決心を固めるとなのはを見つめ問いを投げかけた。



「なのは……自分が何をしようとしたのか分かっているの?」




「それは、フェイトちゃんのマスターを殺そうとしたことかな?」




 フェイトはその言葉に頷くと、アサルトフォームへと変形させた金色の刃をなのはへと向ける。
 それに対して、なのはもフェイトに対してレイジングハート周囲に魔方陣を展開して魔力を充填させて臨界態勢でフェイトへと杖を向けた。


「答えて! なのは! なんで、こんな真似をするの!」



「なんでって、それはマスターの命令だからだよ? フェイトちゃん……英霊として召喚された私はマスターの命令に縛られてるの……それがサーヴァントとして縛られた私達の運命なの……それに、力になりたい子がいるから……」



「なのは……」

 その敵対宣言とも言えるなのはの言葉にフェイトは俯いてしまう。
 だが、すぐに顔を上げると深呼吸をしてバルティッシュを握り直すとなのはへと向き直った。



「なのはの気持ちは分かった……でも、それはなのはの友達として見過ごせない……私が全力でなのはを止める!」



 フェイトの言葉になのはは小さく頷くとどこかその姿勢に対して嬉しそうに笑った。

「強くなったね……フェイトちゃん……なら、全力全開でぶつかりあうしかないね……」



 フェイトが本気でぶつかるのであるなら自身も本気でぶつからないと失礼になる。
 そう判断したなのははレイジングハートの柄を強く握りしめフェイトへと照準を絞った。








「まどか! こっちよ!」

 学校の敷地外で消費したまどかを休ませた後、凛は急いで衛宮家を目指していた。
 校舎内を探したが既に衛宮君の気配が無い以上は家へと逃げた可能性が高いからだ。
 それはつまり、そこでランサーに襲われている可能性も十分に…
 そんな中でまどかと凛の前に見過ごせない光景が現れてしまう。



「これ……もしかして、ここで何かあったんじゃ……」



 
 目の前に現れた光栄に漏れたまどかの言葉に凛は唇を噛む。
 そこには女性が倒れていたのだ。
 外傷はまるでないが、まるで死んだように冷たくなっている。
 凛はそのあり得ない状態にすぐさま、魂食いであると気が付くと冬木の管理者でありながらこのような所業を見斬に防ぐ事が出来なかった自分の不甲斐なさに腹が立つ。



――衛宮君の事も捨て置けないけど、魂食いなんて外道行為を見過ごすわけにはいかない




 そんな二つの大きな問題の中で凛は迷いに迷ってしまう。
 そして、決心を固めるとその女性を最後にもう一度だけ視界にいれた。

(ごめんなさい……でも、これ以上あなたのような被害者を出させないと誓う……だから、今はもう一つの問題を優先させてちょうだい)


「衛宮家に急ぐわ……確かに見過ごせないけど……私の不注意で巻き込んだ上に命を狙われてるとなると、捨て置く訳にはいかないから……」

「凛ちゃん……わかった!」



 その選択に深く頷くとまどかは真剣な眼差しでいまだ見えてこない衛宮邸を見つめた。













「遠坂のやつ……やっぱり参加してやがったのか!」

 先程、女性が倒れていた近くの物陰から現れた男性が忌々しげに呟く。
 それに対してもう一人の黒い着物を着た女性は気に入らない様子でその男を蹴とばした。

「なんで、私がこそこそしないといけないわけ? あんな奴らなら私一人でも十分なのに」



「しかたないだろ! なんで……こんな奴がサーヴァントなんだよ……」



 本来なら、もっと大物が召喚される筈だった。
 召喚の媒体となったモノとしては何一つ間違っていない。本来なら霊獣としては最も格の高い一級品であろうものが召喚されるはずだった。
 誰が考えただろうか? 媒体となったモノの持ち主とは別のモノを召喚してしまう事になると……
 この召喚に関しては少年の祖父でも意外そうな顔で自らの目を疑ったくらいだ。
 そんなマスターの心境を知らずにその女性は更に少年を蹴飛ばした。

「もう悪霊を集めるのは飽きてきたし、そろそろ本格的にあいつらにしかけたいのよね」

「お前、もう忘れたのか! キャスターに完敗して命からがら逃げだしたことを!」

 少年のその言葉に女性は踏み付けようとしている足を止めた。
 キャスターとの戦いは向こう側に一方的にやられるばかりで、命からがら逃げだしたのだ。
 もしも、あのまま続けていたのならライダーを排除できないと考えてキャスターの武闘派マスターにより自分が排除されていただろうと考えるとその少年は顔を青ざめてライダーに当たり散らす。

「わかったら、少しは俺の話を聞けよ!僕は選ばれた人間!いわば、エリートなんだぞ!それなのになんでお前みたいなやつがサーヴァントなんだよ!糞!」

「随分と小馬鹿にしてくれるわね? なら、此方からも言わせてもらうけど、どうして私が貴様のような人間の言葉に耳を傾けなければならないのかしら」

 そう告げると女性は懐に携えていた刀を抜き放つ。
 それと同時に女性の背後に大きな影が現れた。


「おい……待て! 俺はお前のマスターだぞ! おい!」

 少年は涙目になりながら懇願し最後には気絶するのだった。







 衛宮邸の庭先ではスピードとコントロールという勝負が行われていた。
 フェイトはこれまで培った経験でその物量とコントロールに対抗し、隙を見て切り込もうとする。
 だが、天性の才能を持つなのははその経験の差を才能で巻き返し、踏み込もうとするフェイトを押し返す。
 しかし、どんなに天性の才能があったとしても歴戦の経験と年齢による成長率を考えると大人のフェイトと小学生のなのはでは知識も運動能力も歴然たる差があり、押し負けるのも時間の問題だった。
 それでも何とか拮抗しているのはフェイトがなのはのスターライトブレーカーを警戒しているからに他ならない。
 あれを殺傷で放たれてばマスターどころの騒ぎではなくなってしまう。
 最悪、この町が地図から消滅という結果すら起こり得てしまうからだ。


 そんな拮抗した状態を崩すべく先に動いたのはなのはだった。


「フェイトちゃん……ごめんね……」

 そう呟くと魔力が杖の先に魔方陣を展開し当たりの魔力を収束し始める。
 フェイトはその光景にその魔法がなのはの得意技とも言えるスラーライトブレイカーであると気が付くと、魔力を魔方陣へと流す際の僅かな隙になのはの方へと踏み込みながら叫んだ。


「なのは! そんなものを殺傷で放ったらどうなるか本当に理解してるの!」


 なのはは慌てて止めようとするフェイトに対して冷静に冷酷な言葉を突きつける。



「ねぇ、フェイトちゃんがそこから動くと……マスターに直撃するよ?」




 仕事柄故か、マスターを背後で守るように戦って来たその戦い方がここに来て仇となってしまった。
 直線位置にいる以上は放たれればフェイトが防御しなければ確実にマスターが消滅する。
 その状況を理解できていないだろうマスターの事を踏まえて次の行動を練り直そうとするが、時は残酷にもそのような猶予を与えることなどせず、レイジングハートが魔力充填を終えた事を告げた。


「ごめんね……けど、これが聖杯戦争なんだよ?フェイトちゃん……」


 なのははそう小さく呟くとフェイトとそのマスターへとレイジングハートを向ける。


「スターライト――――――ブレイカーーーーーーーーーーーーーーーーーー」



 フェイトとマスターに対して放たれた桃色の星を砕くとまで言われた魔法が襲いかかる。
 そんな中で、一つの影がフェイトの目の前に割り込んできた。

「星の力を秘めし『鍵』よ、真の姿を我の前に示せ。契約のもと、さくらが命じる。『封印解除』」

 小さな鍵を取り出しそう唱えるとそのカギは次第に杖の形へと変化する。
 そして、カードを一枚取り出し空中へと放り投げると先程、鍵から変化した星をモチーフにしたであろう杖でそのカードを叩き、呪文を唱える。



「星の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約のもと―――が命じる。レリーズ!」



 その呪文と共に杖の星の部分が回転を始めると次第に当辺りの魔力がそのカードを中心に形作られ始めた。








なのはの宝具についての解説コーナー

さやか「今回使ったのって宝具なんですか?スターライトブレイカーって?」
マミ「いい質問ね?星を砕く砲撃……凄く素敵よね……まぁ、それは置いといて、これは宝具じゃないわ」
さやか「でも、前回のステ表にはスターライトブレイカーが乗ってましたよ?」
マミ「よく見なさい!ここにEXってあるでしょ?今回使ったのは何かしら?」
さやか「スターライトブレイカー……って、凄く屁理屈臭いですよね?」
マミ「それにカートリッジを排出してない事からも僅かに違う事分かるわ!」
さやか「確かにそう考えると微妙に違うんですね!」
マミ「えぇ、そうよ!だから、彼女の真のスターライトブレイカーはこんなレベルでは無い筈よ!私もあんな必殺技を習得しないと!って事で修行するから今回はこの辺りで失礼するわね!それでは、さようなら!」



[28082] キャスター
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:40370561
Date: 2011/09/17 02:03
「盾よ。魔法の力より我を守れ!」

 その言葉と同時に辺りに結界が張り巡らせられる。
 結界とスターライトブレイカーがぶつかり合い、その衝撃で粉塵をまき散らし視界を悪化させた。
 そんな中でフェイトはその光景に言葉を失わずにはいられなかった。


 目の前にいる小学生があの天性の才能を持つ魔砲少女とまで言われていたなのはの必殺技と張り合っているのだ。
 だが、その張り合っているように見えるのはあくまでもそう見えるだけだ。
 なのはのスターライトブレイカーはその盾に僅かに亀裂が入っていく……



「凄いね! だけど、私の魔法はそんな盾じゃ止められないよ!」



 闇の書事件での結界破りが結界を壊すという概念となり、ここで結界宝具に対しては優位性に立つまでに至っているので宝具ではないにしろスターライトブレイカーも低ランクの宝具並に強化されているのだ。
 だが、相対する盾もまた同じように剣以外の属性には無類の強さを誇るという概念を持っている。
 その二つの概念のぶつかり合いがこの拮抗にも見える状況を作り出してはいるが、潜 在的な魔力量によって盾に決定的な亀裂が入る。
 その光景にフェイトもその少女の前にシールドを張り巡らせようとする。



「ったく、勝手に突っ走って行ったと思ったらランサーとやりあってんのかよ……」



 その言葉と共に高町なのはが突如背後に現れた赤いポニーテイルの少女に槍で吹き飛ばされる。
 なのははその際に一瞬、レイジングハートを手放したがすぐさま掴むと乱入者に標的を変えた。


――僅かにその横やりが遅れていたならば、確実に高町なのはの魔法が三人をまとめて飲み込んでいただろう。


 フェイトはそう考えるとホッと安心するが、それと同時に乱入者の出方となのはの動きを見る。
 そんな中で少女は片手で槍をくるくると回しながらもう一方の手で持っていた焼き鳥をほうばった。



「あのさーキャスター……何度も言うと思うけどさ、私は別に人助けや正義の為とかそんなお茶らけた理由でこの戦いに参戦した訳じゃないんだよ。勝手に潰しあってくれるってんなら勝手にやらしとけばいいじゃん――なのになんで、自分から戦いに突っ込んでいくんだよ……」



 キャスターのマスターはそう呟きながら焼き鳥の串を全て頬張るとその串をランサーに向けて頬り投げる。
 すると、その串は本来の強度ではあり得ないほどの威力を持ってランサーの頬を切り裂き、近くの土壌に突き刺さった。
 なのはは頬から垂れた血を手で拭うと、少女を睨み付ける。
 マスターからはサーヴァントと張り合える人間などいないと聞いていたが、目の前の少女は明らかに何かが異常で即座に排除するのを躊躇わせる程の何かがあるように思えてならないからだ。
 そんな中で、キャスターが割り込んできたマスターに対してこう叫んだ。



「でも、杏子ちゃん! 私は困ってる人を見捨てることは出来ないから!」



「解ってない……って、あんたに文句言っても仕方ないか」



 杏子と呼ばれた少女は頭を掻きながら槍の切っ先を警戒しているランサーへと向ける。
 そして、面倒そうに溜息を吐くとランサーを睨み付けこう提案した。


 
「どうする? 近くにもう一体サーヴァントの気配がするんだけど四つ巴にはなりたくないんじゃない?」


 確かに先程戦ったアーチャーまでここに参戦するとなると分が悪い。
 その上、最も警戒せねばならないであろう目の前にいるキャスターのマスターに関する情報が少なすぎる事も考えるとランサーはその言葉にマスターに対して念話どうすべきか意見を聞こうとする。
 だが、マスターでは無く何故か暁美ほむらが念話に出て、それに対して回答した。


(撤退しなさい。今の制約がかかった貴方では勝ち目はないわ。それに、貴方からの報告も聞きたいから)

(でも、ここで潰しておかないと後々厄介になるよ?)



 暁美ほむらはそれがキャスターを指している事に気付くと少し考える。
 なのはの目が間違っていないとするならば相当厄介な相手になるのだろう。
 そういう相手の場合、マスターを抑えるのが自然な流れだが、そのマスターも規格外となっている。
 そうなると、なのはの言葉に間違いはないが、まだ聖杯戦争序盤である。
 これからぶつかるであろうサーヴァント達との戦いの事を考えるとここで戦う必要がない事をなのはに伝えるためにこう説得する。



(どれだけ強大な宝具を持っていようが私の持つ規格外の宝具の前では無力よ。それに、規格外なら既にバーサーカーとアサシンがいるわ)




 ランサーが戦った中で逃げに徹しなければ危険だった二体のサーヴァント……そして、現れたキャスター


 御三家の一角であるアインツベルンの召喚したバーサーカー
 そして、今だにマスターを捕捉できない神出鬼没なアサシン
 それから、多彩な宝具を操る戦略型のキャスターに規格外のマスター……


 今回の聖杯戦争の中で中核となるのはこの三名だろうと暁美ほむらは踏んでいた。
 だからこそ、今ここで目となり手足となるランサーを失うという痛手だけは避けなければならなかった。
 なのははほむらの意図を読み取ると深く頷きレイジングハートの照準からキャスターのマスターを外す。


「そうですね。今回は引かせていただきます」


「そうかい。わかったのなら、さっさといきな」


 こうして、戦闘は終結に向けて動き出していたのだが、そこへフェイトが乱入する。
 なのはの本心、どうしてこんな事をするのかをなのはの口から聞きたかったからだ。


「待って! なのは!」



「フェイトちゃん……私達は敵同士、話す事なんて何もないよ」



 なのはは振り向く事をせず、そうフェイトに告げるとそのまま衛宮邸を後にした。
 そして、残された杏子は持っていた槍をどこかへ仕舞うとキャスターの頭にデコピンをする。



「ったく、本当に世話が焼けるなキャスターには」

「ごめんなさい……ライダーの時は良かったからつい……」



 ライダーとランサーの違い
 それは、杏子にとって仕事か否かでしかなかった。
 ライダーは抹殺すべき悪であり、掟破りの魂喰いを行う大罪人……何より、埋葬機関の一員である以上はアレを見逃すわけにはいかないからだ。
 それに比べてランサーは見境なく喧嘩をふっかけているだけで杏子から見ればかわいいだけだった。
 最も、こちらを狙ってくるのであれば容赦するつもりはないが……



「まぁ、無事だったのならそれでいいさ……まだ、こちらの手の内もばれてないようだしな……」



 ライダーとの戦いでライダーが消耗していたのは何もキャスターだけの力では無い。
 キャスターの攻撃はあくまでも相手の魔力を削ぎ落とし、生気を奪う魔力攻撃で物理的な威力は無い。
 つまり、物理的な破壊を行っていたのは他ならない杏子だったのだ。
 本来ならば敵わない筈のサーヴァントに対して対等に渡り合えているのはこれまで吸血種を相手に埋葬機関として狩って来た経験によるものに他ならない。


 杏子はまだこちらを警戒しているフェイトに呆れ果てると、そのマスターを見つめながらこう尋ねた。


「んで、そっちはどうするんだい? わたしらはあんたらと戦うつもりはないんだが――――それでも、殺し合いたいってんなら話は別だが」


 その言葉にフェイトは咄嗟に士郎の前に立ちバルティッシュを杏子に向ける。
 杏子はそれが戦うという意思表示だと判断すると再び槍を握り、フェイトを睨み付けた。
 そんな一発触発の状況に殴り込んできたのはアーチャーと凛だった。


「衛宮君! 大丈夫!」



 塀を乗り越えて現れた凛はその現状を見てすぐにランサーはおらず、まだ士郎が生きている事に胸を撫で下ろす。
 しかし、士郎の前にいたサーヴァントに士郎がマスターになり、聖杯戦争に参加するマスターである事を意味していた。


 三人のマスターが同時に相対する状況――

 戦いにならない道理はなかった。
 いつ引火しても爆発してもおかしくない。
 そんな中でまどかは杏子の姿を見て突然、頭痛に見舞われる。


「まどか! どうしたの!」


 突然、頭を押さえて膝をついたまどかに凛はすぐさま駆け寄ると心配そうに見つめる。
 痛みが徐々に引いていくとまどかは凛の手を借りて立ち上がり、杏子を見詰めてこう呟いた。

「杏子ちゃん……だよね?」


「なんで私の名前を――あんたはさっきまでここにいなかった筈だよな!」

 突然現れたアーチャー自分の名前を言い当てられた事に杏子は警戒を始める。
 名前を知られているという事は自らの手札を知られている可能性があるからだ。
 だが、凛の頭にはその杏子の思いとは別に一つの仮説が汲み上げられる。


 平行世界の同一人物


 そうだとするならばまどかの英雄としての伝承が存在しない事が証明される。
 世界そのものが違うのであれば全く違う魔法体系もその認識の些細な違いも全てが説明できる。
 だが、それと同時にこんな少女がどうして英霊に祭り上げられたかが凛には前以上に気になってしまった。



「えっ……その、私のこと知っているのなら教えてほしいなって……」

「わけわかんねぇよ! アンタの事なんか知る訳ないじゃん! 私らは初対面なんだ――行くぞ、キャスター」



 まどかの問いに一触即発だった空気は冷め切り、興ざめと言わんばかりに杏子は槍を片付けるとさくらと共にさっさと衛宮邸を後にする。
 その立ち去る杏子の後ろ姿をじっとまどかは見詰めていた。






言峰教会

「無事でよかったわ。戦略的撤退も視野に今度から入れておいて。まだ、聖杯戦争は序盤なのだから」

 暁美ほむらはなのはにそう告げると報告に耳を通した。
 そして、予想はしていたがアーチャーの存在に言葉を失う。
 守る為に戦っていた筈が自らの手で殺めなくてはならない……
 そうしなければ、真に聖杯は手に入らないのだから
 七体のサーヴァント全てを破壊する事により聖杯は真に完成する。
 真に完成した聖杯でなければ世界の法則を変えるほどの力は無い……
 そんな事を考えていると不意になのはが話しかけてくる。



「もう一つ、気になる事があったの……」



「何かしら? 話してちょうだい」



「アーチャーと戦っている最中に――圧迫感を感じたというのかな……? その、言葉では説明しにくいんだけど、まるで何かに無理矢理押さえ付けられている感覚がしたの」



 英霊を押さえ付けられるとしたらそれはこの聖杯戦争のシステムに干渉できるモノのみだ。
 だが、なのはの報告を聞けばマスターも英霊らしき存在でもないもっと異質なものだったという話だった。
 そうなると、暁美ほむらの中で一つ、忌まわしい出来事が思い起こされる。
 第四次聖杯戦争で聖杯から溢れ出した泥
 呪いの塊ともいえるものだ。
 あれで聖杯が汚染されているのなら……
 この戦争で何が起こってもそれは想定の範囲内と言えるのかもしれない……
 だが、暁美ほむらはそこまで考えて思考を中断した。
 もしも、何かが頭の中でそれ以上考えるなと囁いているのだ。
 踏み込めば戻れなくなると……


「セイバーに関しては問題なさそうね……度を越した優しさは甘さに繋がる。そこを突けば簡単に潰せるわ」


 暁美ほむらはこれ以上、深く考えないように話を変えた。
 そうしなけえば、自身が保てなくなると感じたからだ。
 ほむらがこれまで戦ってこれたのは単にまどかの思いがあったからだ。
 そして、この戦争が自身にとっては最後の希望だ。
 ワルプルギスの夜を超えられないとすると、別の方法で救うしかない……
 もしも、この戦いそのものが無駄であるならばこんどはどれだけ探し回ればいいのだろう……
 そう思えるまでにほむらの心は消耗していた。


「でも。油断しない方がいいと思う。フェイトちゃんは強い子だから」



「そう。でも、目下の問題はEX級の宝具を持つと思われるこの三名よ」



 バーサーカーとキャスターは多彩な力を用いる事が出来る。
 逆にアサシンは一つだが、魔力で構成されている英霊に対して天敵と言える存在だ。
 特にバーサーカーに関しては狂化してもなぜかそのままの意識を保っているというイレギュラーでもある。
 早目に潰しておくか、消耗した所を叩くかになるが聖杯の杯を手に入れる為には――
 必ずその“心臓”を手に入れなければならない。



「うん……それで、これからどうするの? ほむらさんの指示に従えと命令されているんだけど……」



 その言葉に暁美ほむらは首を傾げた。
 あの男が全てを他人に丸投げとは珍しい。
 むしろ、衛宮士郎辺りを突くのかと思っていた。
 あれ程までに前回の聖杯戦争で執着していた衛宮切継の息子なのだ。
 もしも、あの男のような男なら相当厄介な相手だけに全て言峰にぶつけて処理させたいというのが、ほむらの本心だった。


「悪いが、こっちも立て込んでいてね」


 噂をすればご本人が登場する。
 だが、言峰にしては珍しく少し疲れた表情をしていた。


「何かあったの? 聖杯戦争に関わる事なら早めに教えて欲しいのだけれど?」

「いや、少しばかり知り合いの娘が参加しているのでな。まぁ、気にする事は無い」

「意外ね。人の苦しむ姿を見て至高の喜びとするような貴方が他人の心配なんて」

「別に心配している訳では無い。むしろ、興味があるのだよ。何を聖杯に願うのかね……」


 その言葉に暁美ほむらは忌々しげに言峰を睨み付けた。
 だが、それを言峰は軽くあしらうと部屋をすぐさま後にしてしまう。

「ほむらさん……」

 なのはのその言葉だけが部屋に響いていた。








さやか「あいつまで登場してこの話に参加していないのって私達だけですよ?マミさん……」
マミ「大丈夫、美樹さん。あれは私たちの知る佐倉さんではないわ。あれは別世界線の佐倉杏子なのよ」
さやか「でも、なんか私達だけ扱いが酷くないですか?」
マミ「それはそうね……」
さやか「だって、マミさんなんて不幸過ぎてなんか変なミスで潰されるとか、私の宝具はネターーーみたいな事この作者言ってましたから」
マミ「それは許しがたいわね……」
さやか「あっ、マミさんの固有スキルに厨二病がありますよ」
マミ「な!私はそんなんじゃないわ!少し、作者に抗議して来るわ!」
さやか「あっ!行っちゃった……」



[28082] ライダーVSキャスター
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:93eaa46f
Date: 2011/09/17 02:06
「それで、他にも何かあるんじゃないの? 特にキャスターに関して……」

 ほむらの言葉に言峰は小さく頷くとある映像を見せる。
 その映像はつい先ほど行われたであろう戦闘の鮮明な様子だった。
 そして、その映像を見せながら言峰はこう呟く。

「何とも面白いとは思わないかね? 聖職者でありながら、その身は“穢れた存在”と矛盾している……私の推測では彼女は此度の聖杯戦争において強敵になりうると思うのだが……」

 愉しげに話す言峰の言葉など、ほむらには届いていなかった。
 映像に映っているのは、佐倉杏子……
 この世界には魔法少女などいないが、あの姿は紛れもなく佐倉杏子だった。
 それにあの戦い方もどうみても見知った佐倉杏子の戦い方である。
 ほむらの頭にはあの悪魔の存在が浮かび上がってきた。



「まさか、この世界にも奴はいるの!」



「奴? 何のことを言っているのかはわからんが、私の調べた限り彼女はすでに死んでいる……数年前に埋葬機関の手によってね……なのに、今こうしてここに参戦している……実に興味深いと思わないかね?」



 言峰の言葉になどほむらには興味などなかった。
 死んだ身体、まるでソウルジェムを抜き出された魔法少女のようではないか……
 その事で頭がいっぱいで言峰の話など全く入ってこない。
 埋葬機関や時計台、封印指定……この世界のルールなどまどかが救えるのであれば破ってでも救って見せる。
 それ故に佐倉杏子の姿をしたソレの出生には全く興味が無い。
 ほむらの中で興味があるのはこの戦争に勝ち抜く手段とその方法、そしてこの世界に奴がいるか否かだけだ。





「少し、一人にしてくれないかしら? 考え事があるの」





 抑揚のない、平坦な声でほむらはそう告げると言峰は小さく頷き部屋を後にする。
 そして、部屋に残ったほむらは俯き、感情の籠っていない眼でもう一度その映像を最初から再生し始める。
 別に佐倉杏子に興味がある訳ではない……
 もしかしたら、この世界にもあいつ……QBが存在している可能性がある事を懸念しているのだ。
 あいつがいたとするならば無限のエネルギーを生むことができる可能性がある聖杯を見逃すはずがない。
 だが、結論の出ない答えにほむらは深くため息を吐いた。






「ハロー キャスター?」

 その言葉に夜道を歩いていた二人の少女は振り向く。
 少女たちの振り向いた先には灯の消えかけた電燈が一つあり、その点滅する灯の下で着物を着た女性が此方を見下ろしていた。

「へぇ……随分と禍々しい英雄がいたもんだね……これじゃ、悪霊じゃないか」

 赤い髪をポニーテールにした少女は口にくわえたポッキーを折ると懐から槍を取り出す。
 それに追随する形でもう一人の少女も星を模した杖を取り出した。

「意外ね? 私のマスターと違って前線に出て来るんだ……そこは評価してあげるけど、所詮は人間、敵ではないわね」

「速い!」

 気が付くとライダーは目の前から消えており、次の瞬間キャスターの目の前が真っ赤に染まる。
 そして、隣でゆっくりと倒れていくマスターにそこで初めてマスターが刺されて事に気が付いた。
 その光景にキャスターは言葉を失うが、地面に当たる直前、マスターは飛散して消滅してしまう。
 そして、同時にライダーの右腕が吹き飛んだ。
 全く、状況が理解できないライダーはその理解できない状況に一度距離を取ると辺りを見回す。



「おかしいわね? 確かに殺した筈なのだけど……感触もあったし……」



 そう呟きながらライダーは右肩を軽く回した。
 すると、飛ばされた右腕が飛散し、消滅し始める。
 そして、吹き飛ばされた右腕のあった場所の肉が不気味に蠢き、やがてはもとの右腕として皮膚まで再生するのだった。
 その状況にキャスターは思わず、声を上げて驚いてしまう。
 だが、戦いの真っ最中に長時間驚く暇などある訳がなく、一枚のカードを取り出すとそれを宙へと投げた。



「クロウの創りしカードよ。我が『鍵』に力を貸せ。カードに宿りし魔力をこの『鍵』に移し 我に力を!ソード!」



 そのカードを星の杖で叩くと同時にその杖でライダーへと斬りかかる。
 だが、ライダーは携えていた刀でその杖を防ぐと面白そうに笑った。



「それが貴女の宝具って事なのかしら? なら、私も使わせて貰うわね? 乱紅蓮、遊んであげなさい!」



 ライダーがそう呟くと突如、背後に巨大な影が出現する。
 ライオンのような体に複眼のように並ぶ目、尾には何匹もの蛇というおぞましい姿にキャスターは一瞬、怯えるも何かを呟き動揺した心を落ち着ける。
 そして、すぐさまキャスターは次の手を考えるが、それよりも早くその不気味な化物が襲い掛かってきた。



 しかし、その化物の爪も牙もキャスターへと届く事は無かった。




「ったく、世話の焼ける餓鬼だな……」




 その声と共に、どこからともなく出現した槍が先程、ライダーを襲ったように乱紅蓮を襲う。
 その攻撃により、その化物はライダーの背後へと吹き飛ばされてしまう。


「まだ、こんな所で切り札の一つなんか使いたくなかったんだけどさ……アンタは私と同類らしいし、その手の奴って確実に破壊しないと消滅しないからさ……手加減は出来ないよ?」


 突如、キャスターと化物の間に現れた殺した筈のキャスターのマスターはライダーと背後の化物に殺気を放ちながら睨み付ける。
 まるで無傷な様子にライダーは忌々しげに睨み付けると大声で叫んだ。


「舐めた事、抜かしてんじゃないわよ! 人間風情が!」


「人間ね……アンタから見れば、私はまだ人間って事なのか……、さくら! あんたはライダー本体に集中しろ!この化物を潰し次第、一気に畳み掛けるぞ!」


「えっ! わかったよ! 杏子ちゃん!」


 あんな化物を一人で相手をするというマスターの言葉に耳を疑うも、二人を同時に相手にする程の力が無い事が判っている以上はそれ以外にこの場を打開する方法は無い。





 そのあとに映ったのはまるでランサーの如く槍を振るう佐倉杏子と杖でライダーを追い詰めるキャスターの姿だった。




 ここから先は記録が無いが、最後に僅かに映った映像から判断するに佐倉杏子が独力でライダーの宝具と思われる化物を撃破、その後キャスターと共にライダーに瀕死の重傷を負わせている。
 その高い実力から考えるに、この世界の佐倉杏子もあの世界でベテランとして生き延びてきた相当な熟練者であるとほむらは判断する。
 

 映像の中で気になる点としては最初のライダーの攻撃を喰らった筈なのに無傷という点だ。


 それ以上に気になったのは、何度か映像からも見て取れたが体の輪郭がぶれている場面が見て取れたという事だ。



 高速で移動しているわけでもないのに、当たらないのは何かしらの魔術と考えるのが妥当だろう。
 それも、相当なレベルで対魔力D……いや、Bですら防げないレベルの魔術と考えるべきかもしれない
 つまり、何らかのアクションを見せずにそのクラスの魔術を行使できるマスターともなれば、それにも対策を立てながら戦わなければならない。
 今回の事で救いがあるとすれば、戦う前にその能力の一部を掴めたことだろう。
 もしも、何らかの魔術で惑わせているのであれば、ほむら自身の攻撃すらも躱されてしまう可能性がある。
 その上、気になって仕方が無いのは切り札の一つと言っていた事だ。
 まだこれ以上の切り札が存在する可能性を意味している。
 そうなれば、こちらとしても本気で相手にせねばならなくなってしまう。
 前回からの累積もあり、使える回数は数えられるほどしかないほむらの持つEX級宝具の使用も考えなければならないかもしれない。
 そう思い至ると小さな声でこう呟いた。



「これで、キャスターは相当厄介な敵になったわね……」



 しかし、ここでほむらは大きな見落としをしてしまう。
 ライダーの能力である再生ばかりに気を取られて、禍々しい膨大な魔力にだ……
 此度の聖杯戦争で最も魔力を保有し、それが穢れている存在……
 この時はまだ、このライダーの真の脅威について気付く者は誰一人としていなかった






ライダーに関して若干のパワー変更を行いました
強化です。狂化ではありません。
本来の能力を考えればこれくらいはゆるされるかな?レベルでwww



[28082] アサシンの強襲
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:5afa287a
Date: 2011/09/17 02:07
「それで、取り敢えず私は今は戦う意思はないんだけどそっちはどうなのかしら?」

 遠坂は戦闘の意志が無い事を示す為に両手を上げる。
 先程の瞬時にマスターの前に移動したことから判断して、セイバーはスピードに特化したタイプである。
 戦略的にアーチャーがこの場で戦うのは勝率が低いという思いもあるが、それ以上に衛宮士郎を巻き込んでしまったという責任感というモノが大きかった。

「マスター、ここは彼女を信じていいと思います。今のマスターはこの戦いについて知らない事が多すぎるから、そこを知らないとこれからの戦いに立ち向かう上で迷いが生まれると思うから」

「それは……なぁ、遠坂……なんなんだよ?これは?」

 その予想の斜め上を行く士郎の質問に遠坂は思わず呆れ返ってしまう。

「あなた、まさかとは思うけど“令呪”のシステムはおろか、聖杯戦争の事すらろくに知らないの?」

「令呪?聖杯戦争?確か、さっきの奴らがそんな事を言っていたが、何なんだそれ?」

 遠坂は一から説明しなければならないことに溜息を吐くと、衛宮邸の方へと目を向ける。
 聖杯戦争についてなど立ち話で済ませられるレベルでは無い。
 アイツに説明を押し付けることも可能だが、後々で貸しにという事にされては堪ったものではない。

「まぁ、中で話しましょう? 長い話になるし」

 遠坂のその言葉で居間へと移ると、士郎は遠坂とまどか、フェイトにお茶を出した。

「まず、最初に言っておくけれど私は正式に聖杯戦争に参加しているマスターよ」

 その言葉に士郎は驚きを隠せなかった。
 遠坂と言えば、学校では誰から見ても優等生、学校の男子からはアイドル視されている存在だ。
 そんな人間にこんな裏があれば誰だって驚いてしまうだろう。

「そして、あなたと同じ魔術師……あの、衛宮君? 魔術師についての説明はいいわよね? そこから始めるとすごく長くなるんだけど?」

「そこは分かってるから安心してくれ」

「そう、なら魔術師についての説明は省かせて貰うけど、この聖杯戦争のマスターには魔術師しかなれないのよ。まぁ……それでも、衛宮君の場合は何らかの事故によるものなんだろうけどね。それにしても、驚きだわ。まさか、衛宮君がマスターに選ばれたなんて……」

「そ、そうか、遠坂も魔術師でマスターだったんだな」

 士郎の言葉に小さく頷き、一呼吸空けた。







「ようするに、七つのクラスが存在していて、そのマスターは自らのサーヴァントにどんなことでも従わせることのできる三回の絶対命令権を所持しているって考えればいいわ」

「長い話だったが、えらく簡潔にまとまったな……」

「そして、それぞれが万能の窯である聖杯を賭けて殺し合いをする」

 遠坂の口から出た言葉に士郎は思わず、声を荒げた。

「そんなのおかしいだろ!人の命をまるでゲームみたいにやり取りするなんて……」

「そうね……だけど、言葉としてはその喩が適切よ……七人の選ばれた魔術師たちがサーヴァントと令呪を手駒として聖杯を賭けて戦う儀式……貴方はそのゲームに巻き込まれたのよ……それじゃあ、場所を移しましょうか?案内しなければならない場所があるの」

 遠坂は淡々と士郎に告げると立ち上がり、玄関から外へ出る。そして、新都へと士郎とまどかを連れて向った。

「なぁ、なんでお前はわざわざせつめいまでしてくれたんだ?」

 士郎の口からこぼれた言葉に対して、遠坂は振り向かずおう告げる。

「私は変に貸し借りを作りたくなかっただけ。戦うか戦わないか貴方の自由だけど、もし貴方が次に遭った時にマスターとして私の前に立つなら……


迷わず、あなたを殺すわ」


 遠坂はそれだけ告げると士郎に簡単にこれから向かう先の話をすると、それ以上は何も語る事はなかった。









 言峰教会につくと七人目のマスターとして言峰に士郎を預ける。
 付き添いとして霊体化したセイバーも一緒に教会へと入った中で遠坂とまどかは話が終わるのを教会の外で待っていた。
 そんな中で、此方を観察するような視線に遠坂は気が付き、近くの草むらに目を向けるとその草むらの方へと気付かれないように視線を向ける。

(やっぱり、誰かに見られてるわね……)

 そこで凛は除きの相手に対してカマをかけた。

 

「出てきたらどうなの? 確か、杏子だっけ?」



 相手があのキャスターのマスターという確信は無かった。
 たが、その読みはどうやら正解だったらしく、ランサーのマスターが潔く凛の前に姿を現す。
 そして、持っていたうまい棒を齧りながら、凛に探りを入れ始める。


「これは光栄だね……この土地を守護する遠坂の人間に名前を憶えて貰えるなんて……そんなに、身構えなくていいよ。別に戦う意思はないさ」


 そういうと、杏子は持っていた紙袋から新たにうまい棒と書かれたお菓子を遠坂に投げ渡してきた。
 凛はそれを一応は相手の機嫌を損ねない為に受け取るが、何かしらの魔術的な仕掛けがあるのではないかと疑いの目をその菓子に向ける。
 だが、どこからどう見ても十円で買える駄菓子である事に思わず凛は首を傾げた。
 杏子はそんな凛の様子に溜息を吐くとこう告げる。



「お近づきの印だよ。それよりも、一つ聞きたい事があるんだよね……アンタにさ。その為のお近づきの印のつまらないモノって奴さ」



 凛は杏子の言葉にお近づきの印のつまらないモノならもう少しマシなモノを持って来て欲しいと言い返しそうになる。
 しかし、杏子の周りに溢れる魔力の荒れに遠坂の頬には冷や汗が流れ、その言葉を飲み込んだ。
 いくら戦う意思はないとはいえ、この魔力の荒れは完全な臨界態勢という事である。
 それに加えて、キャスターとアーチャーでは相性的な問題も考えるとどう考えても分が悪い。
 そのような結論に至った凛はここは相手の話に乗って機会を窺う方がいいと判断すると受け取ったうまい棒をまどかへと渡した。
 そして、杏子へと笑いかけると念のために持って来ておいたポケットの中の宝石をいつでも使えるように握りしめる。
 

「内容によっては答えられないかもしれないけど、何かしら?」




「言峰って前回の聖杯戦争からここまで不穏な動きをしたりしなかったか?」



 遠坂は杏子の言葉に耳を疑った。
 聖杯戦争を公平に行う上で設置された監督役を疑うなど聖杯戦争を行う上での規則を疑うに等しいからだ。
 ただ、前回の聖杯戦争にアサシンとして参戦している上、その経歴の不自然さから考えるのならば疑いの目をかけられても仕方が無いのかもしれない。
 しかし、全く持って杏子の欲しているような情報を凛は有していない。
 その為、答えに迷っていると杏子は溜息混じりにこう告げた。





「その顔だと、何も知らないのか……いや、少し昔に親の関係で知ってるから挨拶に来たんだが、これまでの経験が言峰を信じるなって訴えるんだよね……まぁ、元々私は誰も信じちゃいないからいいんだけどさ」




「なら、こっちからも一つ聞かせて貰って宜しいでしょうか? シスター?」



 どこからともなく聞こえてきた言葉に杏子はすぐさま槍を構え、凛は握りしめていた宝石を更に強く握り締め声のする方向へと目を凝らす。
 そこに居たのは小さな少年だった。
 しかし、人としての機能を切除し、最低限動くようにしたガラクタというべきなのだろうか?
 凛がそんな事を呟く中で杏子はその人形に対して忌々しげにこう呟く。

「おいおい……人形師って奴か?」

 人形師……
 文字通り、人形を創る者の総称だが完全に魂の器を模倣売る事が出来るのは一人を除いていない……
 何故なら、人間を超えた人型は創れても、人間と同じモノは創れない。
 おそらく、目の前の人形も人間と同じモノを創ろうとして出来たモノなのだろうが余りに出来そこない過ぎる。
 動くのが奇跡的なくらいに……

「あぁ、この身体ですか……かの蒼崎にすら無能の烙印を押されてしまいましたから……貴様は何と戦争するつもりかとね……」

「何が言いたい?」

「いや、だから人形師って呼ばれ方は好きじゃないんですよね。それはほかの人形師に失礼じゃないですか……所詮は未熟者で落第している私と彼らと一緒にするのはね? 私は人形遣いです」


 杏子はその言葉に舌打ちするとさくらの霊体化を解除する。
 それと同時にその少年に対して突きを放つ。
 杏子が行動を焦ったのは他でもない裏の世界では名の知れた封印指定や吸血種を狩る魔術師『人形遣い』を名乗る相手が目の前に現れたからだ。
 人型でありながらヒトを超えたモノを創る事に関しては飛び抜けた才能を有しており、常に最前線で戦い勝利してきた狩人。
 裏の世界では知れ過ぎている二つ名に先手を取ろうとした結果だった。
 だが、それを容易く許す筈が無い。
 霊体化していたのか、突如現れたアサシンが目の前に現れたのだ。
 杏子は掴まれそうになる寸前で、背後へと跳躍し何とか掴まれることは躱すいきなり体が重くなるのを感じた。


「マスター大丈夫ですか!」


「キャスター! あんたは手を出すな!」


 キャスターの言葉にすぐさま立ち上がると現れたアサシンに対して槍を構える。
 そんな中で、今は協力する方が妥当だと考えると杏子にこう提案した。

「ねぇ? ここはお互いに協力して乗り切らない? 悪い取引ではないと思うのだけど?」

 だが、杏子からすればいくらこの聖杯戦争の御三家とは言ってもまだまだ未熟者にしか見えていなかった。
 その為、その提案を鼻で笑って蹴り飛ばす。



「足手まといは引っ込んでろ! テメェの御守りをしている余裕なんてないんだよ!」

「言ってくれるじゃない! これを見てもまだ言えるかしら?」


 遠坂はそう叫ぶと懐から宝石を取り出す。
 そして、長年ため込んできた魔力を開放する。
 それにより、作成された無数の氷塊を作成しアサシンとそのマスターへと降り注いだ。


 降り注いだ氷塊は辺りに冷気を振りまき、みるみる内に着弾点に氷塊のオブジェを生成し、その氷塊のオブジェは辺りを侵食するようにあらに巨大化していく。
 まるでコキュートスを現代に復元したような惨状に凛は確かな手応えを感じた。
 だが、隣にいた杏子は違うらしくそれに対して小さく舌打ちをした。


「あんたの実力は分かった……だが、あっちはさらに上らしいぞ……」


 杏子の言葉にアサシンの方へと目を向けるとアサシンとマスターの周りだけ全く無傷だった。
 しかも、アサシンもそのマスターも微動たりしていない。
 まるで、そこだけ攻撃が降り注が無かったかのような光景に凛は驚愕の声を上げる。


「どうして!あれだけの氷塊が降って一か所だけ無傷なんてありえない!」


「あぁ……私でもあれだけのもの使われたら、掠る位するが奴はそれすらしてねぇ……こうなったら仕方ないな、私の足だけは引っ張らないでくれよ? 行くぞ! キャスター!」

 マスターの言葉を合図に、キャスターは一枚のカードを放り投げ、杖で叩いた。
 それを見た杏子は再び真正面から突っ込んでいく。


「へぇ、面白い魔法だね? 私の使う魔法とは根本の理論が違うけど、大体は理解できた。闇を用いて視界を封じるか……確かに戦略としては悪くないが、相手が悪かったね……」


 アサシンはそう呟くと目が見えないとは思えない速度で杏子に迫った。
 そして、アサシンの手が杏子に触れる瞬間、杏子の姿が飛散していく。
 いきなりの現象にアサシンだったのだが、アサシンは驚く事はせず、楽しげに笑うと背後に手を向けた。
 そして、そのまま空を切るように手を動かすと何かを掴むように地面に叩き付ける。


「残念だったけど、私の前ではいくら五感を支配しようが無駄だよ? 私の口が近くにあるものを無差別に食べようとするからね」


 凛はどうやって杏子を助けるか考えるが考えるが、全く持って案が浮かばない。
 そんな中で、まどかは弓を取り出すと三本の矢を生成し、アサシンに向けて放った。

「無駄ね!」

 そう告げるとアサシンの肌が裂け、口となりその矢を食べ始める。
 凛はその光景に魔法が効かないと判断するが、こんどは弓の前に自分の背丈ほどの魔方陣を展開する事で大量の矢を同時生産し、アサシンへと放った。
 すると、先程まで完全に口を使い分解をしていたアサシンが初めて回避行動を取る。

「助かった……アーチャー!」

 解放された杏子は随分と魔力を食われたらしく、消耗していた。
 だが、まだ戦闘が終わっているわけではなく休む暇などない。
 けれども、此方には向こう側に通用する魔力攻撃以外の攻撃手段を要しているわけではない。
 その事から凛はここは戦略的な撤退をする事を決めるとキャスターにこう指示を飛ばす。


「キャスター! 私とまどかで奴の動きを止めるからその隙に奴をどこかへ閉じ込める事は出来ない?」


 その言葉にさくらは小さく頷くと、凛はアサシンへ人差し指を向ける。
 そして、自らの魔術回路にありったけの魔力を流し込んで大量のガンドをアサシンに対して放つ。
 
「ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!ガンド!」

 大量の魔力の塊にアサシンは左に転がり込み回避しようとするが、そこにはどかの大量の矢が待ち構えていた。
 先程の回避の様子から同時に大量の魔力を消費する事が不可能と踏んだ上での作戦だったがどうやら効果があったらしく足止めに成功する。


「アーチャーさん! そのマスターさん! ありがとうございます!」

 キャスターはそ小さく二人に対してお礼を言うと、アサシンが立ち上がる隙を与えず星の杖で一枚のカードを公使する。
 そして、星のモチーフが回転し、アサシンの周りの台地が盛り上がり次第に形が変化していき、迷宮が形作られた。
 この迷宮は上を飛び超える事が不可能な迷宮なのだが、ある裏技を持ちいられれば簡単に脱出出来てしまう為にアサシン程度なら逃げる時間を稼ぐ程度にしか用いる事が出来ればいい方だろう。
 アサシンとそのマスターが迷宮に閉じ込められるのを確認すると士郎の事が少し気がかりではあるが、凛は衰弱している杏子を背負い急いでその場を後にする。
 まどかも念の為にアサシンを警戒しながらも、凛の後に続いた。






「酷いやられ方ですね?アサシン」

「マスターが適当に戦えって“令呪”で命令したんじゃない? それを私の所為にされても困るわね……本来の10%も力を出せないんじゃあやり難いったらありゃしない」

 さくらの作り出した迷宮に空いた虫喰いのような穴から現われたアサシンは皮肉混じりに背後にいるマスターにそう答えた。
 その様子にマスターも苦笑いを浮かべると近場に転がる失敗作の人形を蹴り飛ばす。

「ですが、我々としては上出来ではありませんか? 彼らには我々が勝利するための楔を打ち込む事に成功した。後は我々は例のモノが届くのをゆっくりと待つことにしましょう」

「はいはい……しかし、よかったのかい?わざわざ、私の宝具の弱点を露見させて?」

 弱点……それは、彼女の食べられる量には限界が存在する事だ。
 つまり、それ以上の魔力を食べさせれば自滅してしまう。
 だが、そのアサシンの疑問にマスターは不敵な笑みを浮かべた。

「大丈夫です……それも既に策があります……今回の戦いはその為の布石です。次の戦いのときの為にね……その時は、誰の手のひらで回ってるのでしょうね?言峰綺礼……」

 マスターはそう呟くと丘の上の教会を一睨みし、アサシンと共に杏子たちが降りて行った方向とは違う方向へと足を進めて行った。




ほむら「ようやくアサシン戦……って前回よりも凶悪になってるわね……」
杏子「てか、こいつ……どう倒せっていうんだよってレベルだよな……魔法利かないし魔力喰ってやがるし近接戦とか無理ゲーなキャラ?」
ほむら「安心していいわ。こいつよりも頭が痛く成るキャラがいるから……」
杏子「はっ?おい、それ本気で言ってんのか?これ以上、化物出たら街なんて消滅すっぞ!」
ほむら「そうなったら言峰が頑張るでしょう」
杏子「いや、それでいいのか?」
ほむら「深く考えたら負けよ」



[28082] 誓いと協力と
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:b5bd452d
Date: 2011/09/17 02:10
それは全ての終わりであり、始まり

私はその時の自分の行いを後悔している

好奇心は猫をも殺す

私は子供だった……餓鬼だった

好奇心に任せて深い森の中へと入っていき、ソレに出会ってしまった

「あら? ここまで誰にも出会う事なくたどり着いたの?」

本来なら情人では辿り着く事の出来ない場所

運が良かったのか……

それとも悪かったのか……

私はソコへと辿り着いてしまった

「貴方は運がいいわね?」

私は目の前の存在に言葉を失った

子供から見てもわかる

絶対的な壁……そして、自らがいかに虫けら以下の存在であるかを

「本当に面白い子ね……貴方がここまで辿り着いたのも何かの縁……貴方の願いを一つだけ叶えてあげましょうか?」

「わ、私は…………お父さんの言葉をみんなに聞、聞いて、欲しい……」

それがすべての悪夢の始まり

終わる事のない……生きながらにして地獄……

そう、それこそが彼女の死だった

そして、彼女が産声を上げた瞬間だった



 凛に肩を抱えられて逃げ出す中で杏子は夢を見ていた。
 遠い過去の夢……もう思い出す事もないだろうと思っていたすべての始まり……
 まだ十代とは言え、前線で吸血鬼を狩り続けてきた
 この聖杯戦争すらも、そんな戦いの一つにしか本来は過ぎなかった
 しかし、自分の過去の幻影を他のマスターや自らのサーヴァントに視てしまう
 きっと、今更になりあの悪夢を思い出したのもそれが原因なのだろう……

「もういい……私は大丈夫だ。それより、毎回あんな化物が召喚されるのかい? 聖杯戦争ってのは……私はソッチの方の部署には顔が利かないから分からないけどさ」

 新都と深山町を隔てる川原のベンチに杏子は腰を下ろしながら凛にそう尋ねた。
 ライダーの悪霊、異常なアサシン……アサシンはまだマトモかもしれないが、ライダーに関しては反英霊どころか、英雄であるかどうかすら怪しく思えてしまう。
 それにあの女は確実に何かを隠していた。
 もしも、杏子のこれまでの吸血種や封印指定どもとの戦いから培われた経験に基づいた直感が正しければ、あの女は今後、何かしらの仕掛けを施し最大の敵になるだろう。
 杏子としてはその確認の意味もその質問には含まれていた。



「そんな事、私に聞かれてもわからないわよ! ただ、何かがおかしい事だけは確かね……何かがあるのかもしれないわ」

 
 凛が何か思い出そうと必死に頭を動かす中で杏子はある事を思い出した。
 第四次聖杯戦争の聖杯によって引き起こされたであろう大火災……
 大量の死者をだしたが、何を聖杯に願ったのだろうか?
 第八秘蹟会に問い合わせれば当時の資料が手に入る可能性があるが、今の監督役がその戦いに参戦していた言峰だ。
 そうなると、他に手を考えるとするならば他の参戦したマスターから情報を聞くしかないのだが、当時の戦いにおいて生き残ったのは三人であり、そのうちの一人の衛宮切継は既に死亡、ウェイバーベルベットは此方の立場上、接触は難しい……。
 杏子はその事に完全にお手上げであると結論付けると小さくため息を吐いた。



「あの! 杏子ちゃん、聞いて見たい事があるんだけどいいかな?」



 突然、まどかは杏子にそう切り出す。
 知っている杏子とは違うが、失われている記憶の手掛かりがつかめるかもしれない……そう考えての問いだった。
 まどかの中には、今も戦う事を迷っている自分がいた。
 相手が自分と同じかそれ以下の少女であり、なんでお互いに傷付け合わなければならないのか頭では理解出来ても心が納得できずにいる。
 そんなまどかの真意に気が付いたのか、杏子は呆れながらこうまどかに告げた。




「あんたが聞きたいのは、私が何で戦うのかだろ――そんなに怖いのかい? 人に武器を向けるのが」




「と、当然だよ! 私はそんな事の為に魔法少女になったんじゃないよ!」




 思わず感情の漏れたまどかに杏子は溜息を吐くと、頭を掻き毟る。
 その様子にさくらは思わず笑みを漏らした。




「なら、それが理由でいいんじゃないか? あんたはその何かを守り通す為に魔法少女になったんだろ? なら、それを最後まで守り通せばいい。簡単な話じゃないか」



「それは、そうかもしれないけど……なら、杏子ちゃんはなんでそんな風に戦うの?」




 その言葉に何かを言おうとするが、杏子はそれを寸前で思いとどまると顔を俯かせ顔の表情が分からないようにする。
 さくらはそんな杏子の様子に何かを言いかけるが、さきに杏子に止められてしまった。



「別にいいよ……キャスター……どこにでも、ありふれた不幸だからさ。そんな不幸から逃れたくてこうなったってとこだよ」



 そんなのはデタラメだった。
 ありふれた不幸……私は自分で全てを壊してしまった。
 私が戦うのは全て自分の為だ。誰の為にも力を使わない……自分の為だけに力を使う。
 本来ならば既に死んでいたであろう自身がまだ生き続けているのは単にあの女の御眼鏡に適ったからである。
 けれど、居場所などない……なってしまった以上はこの世に居場所などどこにも存在しない。
 だから、戦い続けている。生きる為に……そんな事、まどかに言える筈が無かった。


 そんな杏子の返答に凛はすこしだけ勘違いをしていた。
 魔術師であろうとすればする程に今ある現実から離れてしまう。
 それが魔術師としての性なのだ。
 凛は杏子の使っている認識齟齬らしき魔術……それをサーヴァントに対して行使してる実力は全魔術師の中でもトップクラスの人間であるという事でもある。
 それに加えて、英霊と対等に渡り合っている槍の技術……
 普通に生きていないのは明らかだった




――実際は、凛が思っているよりも更に深い闇にいるのだが……




「ごめんね……変なこと聞いちゃって……そうだよね、杏子ちゃんのしている事は遊びじゃないもんね……命を危険に晒す仕事……気まぐれなんかでやってるわけじゃないもんね……でも、何か思い出せた気がする。私は大切な何かを守り通したくて魔法少女になったんだと思う。だから、その時の自分の誓いを嘘にしたくない! これじゃあ、戦う理由にならないかな?」




 まどかの言葉に杏子は深く頷く。



「いいんじゃないのかい? 私にはあんたが何を思って英雄の座にまで上り詰めたのかは分からない。だけど、アンタが生半可な思いで英雄になったとは思わないからさ――なら、その思いを貫けばいい」




 杏子はそう告げるとそっとまどかの頭を撫でた。
 はるか昔のように遠く感じてしまうほどの数年前……
 姉思いだった妹に対して頭を撫でてやったように……
 そう思うと自責の念が込み上げて来るが、涙が出るのを堪えるとまどかの頭から手を放した。
 まどかはいきなりの行動に顔を真っ赤に染めて頭から湯気が出始める。
 その様子を凛とさくらは楽しげに微笑んだ。
 








「それで、これからどうするつもりだい? 確実に私らは協力関係だと思われちまったし、私とキャスターだけではアサシンは倒せない――同じく、アンタとアーチャーだけでもアサシンは倒せない」



 少し間をおいて、まどかが復活すると杏子はそう切り出してきた。
 アサシンのキャパシティは不明だが、能力的に言えば魔力を用いる攻撃は無意味だと考えた方がいい。
 そうなると、キャスターの能力では不利になると考えての事なのだろうがそこで何かが引っ掛かってしまった。
 キャスターの宝具は未だにわからないが、あの時使用したカードと考えていいだろう。
 そうなると、魔力で何かを動かし戦うという方法を選べば十分に勝機はあるのではないか?
 その答えに行きつくと、凛はこう尋ね返した。



「そうかしら? キャスターの宝具は応用性の利くモノな気がするし、それ以上にアンタが何も切り札を隠してないようには思えないのよね」



「こりゃ、鋭いね……確かにそうなんだが、私が危惧してるのはアサシンじゃないんだよ」



 杏子の言葉に思わず、凛は首を傾げる。
 杏子の戦闘技術とキャスターの能力を考えると、ランサーとセイバー、ライダーとなるがそこまで彼女たちの強敵として立ちはだかるとは思えなかった。
 それに加えて、バーサーカーはまだ表立っては動いていないが、前例から判断するに力押しで来るタイプだという統計を踏まえるのなら十分、杏子達だけでも対応しきれる筈だ。
 そこで、先程の言葉を思い出す。
 悪霊……つまり、杏子はこれまでの話から推測するにライダーを警戒しているのだ。
 しかし、凛にはそこまで弱っているライダーを危惧する理由が分からなかった。



「ライダーのことかしら? でも、貴方の言ってる事が正しいのならライダーはすでに相当弱っているはずよ? ここまでの情報をまとめれば、一番魂喰いをしなければならないほどに追い詰めれれてる……それなのに、どうして、そこまで危険視するの?」



「はぁ? アレが弱ってるって? あいつは無限の再生能力を持つバケモンだよ? ――私とキャスターで撃退するのが精一杯だったさ」



 撃退――凛はその言葉に驚きを隠せなかった。
 キャスターの近接戦闘の能力はどう見積もっても低いが、それを補う形で杏子の近接戦闘技術は高い為に逃げられる事はあっても押し切れないというのは耳を疑ってしまう。
 これまで見た杏子の戦いから、相当な熟練者である筈だ。
 しかも、魂食いをするまで追い詰められているという状況と喰い違う。
 ライダーをこの目で見るまでは分からない事が多すぎる……
 杏子の言葉に凛は驚きを隠せないが、それ以上に動揺していたのがまどかだった。



「ソウルジェム……」



 その言葉に杏子は左右に振り、こう答えた。



「ソウルジェム? ライダーはそれを殺生石と言ってやがったぞ? あとは解るだろ――殺生石っていやぁ九尾の狐の欠片……宝具に何か隠していると考えるのが妥当だ……しかも、鵺らしき霊獣を操ってやがったしな」



 まどかはその言葉に何故かほっと一安心する。
 そんな中で凛はランサーと戦った際の事を思い出していた。
 アレが何によって引き起こされた現象かは全く判断が付かないがこれから戦い激化していく中で確実に目の前に現れる。
 一人ではどうにもないであろう事は十分承知しているだけに今の杏子の提案は素直にありがたいモノだった。
 


「わかったわ。でも、私から明かせる情報は無いわよ? ランサーとも殺り合ってるみたいだし――あるとすれば、まどかが霊脈の中に何かが蠢いているのを感じた事くらいかしら? ただ、すぐにその気配は移動したらしくて証拠はないんだけどね」



「それは初耳だね……良い情報をどうもありがとう。これで、交渉成立って事でいいのかな?」



 杏子は凛に対して手を差し伸べると、凛もその手を握り返す。
 こうして、凛と杏子の協力体制が出来上がり第五次聖杯戦争に大きな勢力図が出来始めようとしていた。










「先程は助けて頂きありがとうございました」

 言峰教会の裏にある墓地は何もない荒野と化していた。
 アサシンとバーサーカーの戦闘……
 そして、マスターとマスターの戦いによるものだ。
 実際にアサシンはバーサーカーをマスターから引き剥がしたに過ぎず、この荒野はアサシンのマスターによるものだった。
 その上、凛と杏子が先程戦った姿である少年の姿とは違い、二十代後半の若い優男の姿だった。



「いえいえ、私はただ割り込んだだけですし、それに肩慣らし相手には本家本元であるアインツベルンの戦闘用のホムンクルスを見て見たかったですから……ですがどうやら、今回は出て来なかったようですね……」



「なんで、マスターを殺そうとしたんだ……あんな小さな子だぞ!」



 助けられた筈の士郎はそう告げると、アサシンのマスターへと食ってかかる。
 アサシンのマスターはそんな士郎の様子を一笑すると、士郎に人形を向ける。


「これは戦争ですよ?血で血を洗う戦い……その事を本当に理解していますか? 貴方のような偽善者が勝ち残ることなど出来ません……衛宮切継の息子というので少しは期待していましたが期待外れもいいところですね……つまらない、本当に時間の無駄でした……」

「あんたが親父の何をしてるのかは知らない” だけどな、あんな小さい子を殺そうとするなんて見過ごせるかよ!女の子だぞ!」

「女の子……なら、貴方は目の前の小さい女の子に銃を向けられたのならば自らの命を差し出すのですか?」

「話し合えば、分かり合えるかもしれないだろう! そんな事もせずにただ一方的に殺そうとするならそれは悪だ!」



 その士郎の言葉に深くため息を吐く。
 そして、人形を片付けると近くで退屈そうにしているアサシンに何やら合図を送る。


「悪ですか――あまり、ふざけた事を言っていると早死にしますよ? 誰もが幸せになる理想郷なんて存在しない。人間の欲深さから考えれば、貴方の言う誰もが幸福になる世界などお時話です。そんなモノを追い求めても決して叶いませんよ? 所詮は自己満足がいいところです。行きますよアサシン……時間を無駄にしてしまいました」 
「なぁ、いいのかい? わざわざ、手を貸したってのは知り合いだったんじゃない?」




 そうして、衛宮士郎と別れ坂を下っていく中でアサシンはマスターにこう尋ねた。


「なぁ、いいのかい? わざわざ、手を貸したってのは知り合いだったんじゃない?」





 アサシンの言葉に表情を失ったマスターは首を左右に振り、淡々とした口調でこう呟いた。




「衛宮切継は何度か会ってはいますし、彼のご子息ならあの件でこの戦いに全てを賭けて参戦していると思ったのですが、どうやら思い違いだたらしいですからね……あのような餓鬼に用はありません……いきますよ? アサシン」


 アサシンとアサシンのマスターはこうして再び闇に紛れて消えていく。
 その足取りを追うのは教会の力を持っても不可能なモノだった。



 こうして、聖杯戦争が開始して一日目の夜が終わった。








感想の返信


 黒桜難しすぎる……堕ちた英霊とか書けないが故の断念ですwww


 ツナギの自滅について

 これも実は出す際に一つ案を考えています。
 それを用いてなのはさんと真正面からツナギさんにはぶつかって貰おうかなと……
 因みにツナギのマスターは人形師ですが、青崎のような人間と瓜二つのものを目指したのではなく、魔術師や吸血種を狩る為に作り上げた兵器としての人形を作り上げるといったイメージです。まぁ、青崎に関してはどうしようか迷い中……
 一応、青崎製の人形は出すつもりですけどね……


 アサシンのマスターは蟲爺じゃないのかについて

 黒桜難しすぎる……堕ちた英霊とか書けないが故の断念ですwww
 それに、慎二君がいますからね……あの人は途中から話に割り込むKY老人だと思います。まぁ、出ませんが……つか、まずは桜が影薄いですしwww
 その代わりなのか、黒ワカメが出ます。
 この小説ではワカメは地雷を踏みまくります。
 士郎君も地雷を踏みまくります。
 英霊エミヤポジの杏子様から見れば衛宮の在り方は虫唾が走りますからwww
 感想待ってます



[28082] 番外編 没話 セイバーVSバーサーカー
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:b5bd452d
Date: 2011/09/17 02:15
「こんばんわ、お兄ちゃん」

 教会での神父と話が終わり遠坂と歩いてきた道をセイバーと二人で歩いていた。
 神父の話
 切継の事
 知らなかった事を色々と知る事なった。
 ただ、一つ誓ったのは十年前の悲劇を繰り返させないという事だった。

「士郎?あの子、貴方に話しかけているように見えたんだけど知り合い?」

「えっ……」

 士郎はセイバーの言葉に顔を上げるとそこには雪のように白い髪をした少女がほほ笑んでいた。
 そして、その隣には雨も降っていないのに雨合羽を深くかぶり顔を隠していて、となりにいる少女と同じくらいの背格好の子供が士郎の方をその深くかぶったフードの中からじっと見つめていた。


「やあっと出てきと思ったら無視は酷いんじゃないかな?はじめまして、私の名前はイリヤ――イリヤスフィール・アインツベルンと言えば分るかな?お兄ちゃん」

「君みたいな子供が俺に何の用だ」

 その言葉にイリヤは士郎を睨み付けるとこう告げた。

「人を姿で判断するのはよくないと思うな……じゃぁ、始めましょうか……ずっと、この日を待ちわびてたのよ!やっちゃって!バーサーカー」

 その言葉を合図にフードを被った子供は走りこむと士郎へとどこからか取り出した長い刀を向ける。
 セイバーはその刀に何か嫌な予感を憶えて急いでソニックブームで士郎を抱えて距離を取った。

「士郎は離れていてください!このサーヴァント危険です!」

「あら、逃げるの?お兄ちゃん?逃がしてはダメよバーサーカー」

 イリヤの言葉にフードを被った子供は立ち止まると自らの体格以上の刀を構えた。
 その様子にソニックブームで一気に勝負を賭けようとするが、刀が動いた瞬間、急いで背後へと跳ぶ。
 まるで三つの斬線が迫ってくる中でセイバーは一太刀目を躱し、二太刀目を受ける。だが、三太刀目を受け切れず僅かに服を切り裂かれた。

「噂以上に厄介な相手ね……セイバーの癖に最速のサーヴァントと言った所かしら?」

「そういう貴方の刀の腕はどれほどの鍛錬を重ねたものなんですか?その体格で出せるような技ではありませんね」

 セイバーの言葉にバーサーカーは持っていた刀を消滅させると一気にセイバーへと斬りかかる。
 その状況に冷静に受け流そうとするが荒れ狂う暴風で押し潰される。

“風王鉄槌”

 荒れ狂う暴風にセイバーは押し負け、吹き飛ばされるがその先から黄色に輝く魔力の球が放出される。
 それを撃ち落とす為にセイバーから目を離してしまう。

「バーサーカー後ろ!」

 その言葉に気付くと急いでバーサーカーは背後にいたセイバーの鎌を受けようとするがスピードでは敵う筈がなく合羽を大きく切り裂かれてしまった。

「何!」

「おい!どういう事だよ!」

 セイバーも士郎も目の前に現れた光景に思わずそう呟いてしまう。
 目の前にいるのはどこからどう見てもイリヤなのだ。
 その状況にバーサーカーは溜息を吐くと士郎に向けてこう声を投げかける。

「久しぶりね!お兄ちゃんって、この世界じゃお兄ちゃんじゃないのか」

「どういう意味だ!」

「黙りなさい!バーサーカー!それ以上はの発言は許さないわよ!」

 何かを言いかけたバーサーカーの言葉をイリヤは遮る。
 そして、バーサーカーに指示を下す。

「あの魔槍を使いなさい!それを使えばセイバー如きに後れを取ら無い筈よ!」

「わかりました……マスター……ごめんね、お姉さん」

 バーサーカーはそう呟くと見えない武器が紅い槍へと変貌していく。
 それに合わせて、来ていた鎧から青い服へと変化した。

「何を!」

 槍先に集中していく禍々しい殺気にセイバーは鎌から魔力の刃をバーサーカーへと飛ばす。

「無駄よ!その心臓を貰い受ける!」

 低く放たれた槍を上から押さえつけて軌道を逸らそうとするが、鎌が槍に触れる瞬間に槍の周りの空間が螺旋曲がる。

『刺し穿つ死棘の槍!』

 その瞬間、槍の軌道は捻じり曲りセイバーを貫こうとする。

 イリヤもその瞬間、セイバーを倒したと確信した。
 だが、その槍は突如として軌道を変えて別の心臓を破壊する。

「嘘!なんで!狙ったのはセイバーの心臓よ!」

 あり得ない状況に宝具を使用したバーサーカーですら言葉を失った。

「やれやれ、ゲイボルグ……クランの猛犬の持つ心臓を狙う魔槍とは聞いていたがこうなると自信が湧くな。つまり、用意しておいた心臓をセイバーの心臓と勘違いしたんだからな……」

「セイバーの心臓を誤認させた!貴方何者よ!」

 イリヤはバーサーカーに指示を飛ばし、その乱入者を消すように指示を飛ばす。
 だが、その間に影が乱入する。

「マスターはやらせないよ」

「アサシン……ってことは貴方がアサシンのマスターってわけ」

「ご名答……アサシンのマスターの若輩者の人形師であります。人形師としては落第点の失敗作故にホムンクルスの令嬢と比べるのはおこがましいかも知れませんが、ここはお相手願いましょう」

 そう告げるとアサシンは士郎を抱えて言峰教会の裏手の墓場目指して急いだ。
 そして、墓場につくと立ち止まりアサシンは士郎をセイバーに投げ渡すと追ってきたバーサーカーではなく、マスターへと走り出す。

「させないわ!」

 バーサーカーが急いでアサシンとマスターの間に入るが第六感がバーサーカーにアサシンから距離を取らせた。
 だが、それが正解だったとすぐに理解する。
 何かは解らないが、先程までバーサーカーが場所は何かに抉り取られていた。

「おい……ホムンクルスの代名詞なら戦闘用ホムンクルスとか出さないのか?それとも、わざわざ先手を譲ってくれるってか?」

 イリヤは本来ならば背後からの謀殺を警戒しなければならないアサシンの異常な能力に驚いてしまい、マスターから目を逸らしてしまう。
 そして、それを余裕と受け取ったアサシンのマスターは近くにあったアタッシュケースに一滴の血を落とす。

「これが人形師失敗作である私が出した結論です。まぁ、貴方方ホムンクルスを創る名人から見れば塵以下の代物かも知れませんが……」

 アタッシュケースから現れたのは一人の女性だった。
 だが、それは見た目だけで内部はすでに別次元に昇華されているのは明らかでさながら人間の皮を被った悪魔と言った所だろう。
 その様子にイリヤもバーサーカーも驚くがそんな驚いている余裕は与えられない。
 その女性が一歩歩き出すと何やら口を動かし唱え始えめる。
 その様子に何かが起ころうとしているのか理解すると咄嗟にバーサーカーに指示を飛ばす。

「バーサーカー!逃げて!」

 その指示が届いたのと同じタイミングで詠唱が終了するとバーサーカーに対して殴りかかる。

「無駄よ!しょ……嘘でしょ!まさか、対吸血種用に仕上げてるの!」

 有り得ない怪力と聖堂教会が用いる洗礼詠唱の組み合わせにバーサーカーは驚きを隠せない。
 本来、相容れないはずの聖堂教会の術式を用いるだけではなく、聖人の持ち物の一部を埋め込む事により能力の強化と補強に加えて悪しきモノを払うという浄化の概念武装として完成させているのだ。

「貴方が失敗作?天才の間違いじゃないかしら?」

 イリヤは忌々しげにアサシンのマスターを眺めるが、マスターは首を横に振りそれを否定する。

「何をおっしゃってるのですか?私は人形師としては出来そこないですよ?かの青崎にすら貴様は人形を創るつもりがあるのかと言われたぐらいでして、私が作る人形は欠陥品ばかりで人間を創る事は出来ないのです。機能の一部を再現程度が関の山でね」

「つまり、異端ってわけ……あいつと同じ魔術師殺しってところかしら?でも、そんなこうげきじゃぁ、私に傷つける事なんて……」

 そう言いかけた所でイリヤは言葉を止める。
 なぜなら、首筋にナイフが突きつけられていたからだ。
 気が付かないうちに背後から……

「誰も私が一体しか人形を操れないとは言っていませんよ?」

 イリヤはバーサーカーの方に視線を送るが、バーサーカーもアサシンと人形相手に苦戦を強いられているらしくこちらの手助けを出来るような状況ではなかった。
 完全に敗北しかないこの状況にイリヤはアサシンのマスターを睨み付けると令呪を使用する。

「令呪をもって命ずる!私を安全にここから離脱させなさい!バーサーカー!」

 その言葉にバーサーカーは頷くと二人の攻撃を聖杯からのバックアップで強化された脚力で躱し、マスターに迫る。
 その様子につまらなげにイリヤの背後にいた人形を下がらせるとそのままバーサーカーを追おうとせず見逃s。

「おいおい、いいのか?アイツなら私らだけでも潰せただろ?」

「いえ、何やらキャスターが協定を結び勢力図が出来つつある状況でのバーサーカー敗北は今後の戦局に多大な影響を及ぼしかねません。まぁ、彼女の宝具を大体は把握したという所で今回は元々引くつもりでしたし、彼女の能力は期待外れでしたから……」

 そうアサシンに返すと、マスターは士郎へと近付いて行った。


前回の話の途中にあった出来事です。
これで、バーサーカーが確定しました。
後悔はしていません。
因みに、アサシンのマスターの人形に埋め込まれている聖遺物は封印指定を潰した際に奪ったものだったりします。



[28082] 二日目~三日目予告と全話編集のお知らせ
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:b5bd452d
Date: 2011/09/11 15:01
「さぁ……始めるとしようじゃないか! 僕を、見下してきた連中への復讐を!」

 暗き闇に死者の魂が蠢く

 辺りの空気は黒く濁り

 最悪の二日間が始まる


「おいおい……こんなのありかよ」

 止まらぬ悪霊たちの群れ

 苦戦する杏子

「そう簡単には取らせてくれそうにないわね……」

「相手をしてあげなさい。鬼道丸」

 現れた鎧武者と鵺を前に苦戦を強いられる遠坂達

 そんな中、三人の人間が冬木市入りをする

「はぁ、奴にはきっちり金を払ってもらわねばならないからな」

「あの……なぜ、私がここに?」

「アレはああ見えて一応、私の弟子みたいなものだからな。面倒事の一つくらい押し付けても問題なかろう。それに、奴の方がそういうモノの扱い方は詳しいからな」

 アサシンのマスターへの届け物を届けに参上した燈子さん

 それに、連れられるかのようにして現れたもう一人の女性

「ロアが片付いたと思えば、今度は悪霊退治ですか……さっさと、数を片付けて第八聖典の試作品を彼女に渡してメシアに直行するとしますか」

 埋葬機関第七位であり「弓」の異名を持つ代行者が夜の闇を舞う

 冬木に覆われた瘴気の要因を取り除く事が出来るのか

 明けない夜が始まる


「やってくれるじゃない……所詮は人間の分際で……ならば、己がどれだけちっぽけな存在か思い知りなさい」

 その言葉と共に、闇が鼓動する

 そして、最大の敵が姿を現した








 二日目と三日目は完全に話の方向性が変わります。
 ついでに言うと、ライダーの強化率がだいぶ上がりました。
 喰霊原作を読んでる方なら大体想像つくと思いますが、天狗以外はある程度使うつもりです。
 まぁ、流石にやり過ぎた感があるので助っ人キャラ出しますがwww
 あくまで、このライダーによる現象を抑えるという意味合いでの助っ人キャラですのでその後の期待はしないでください。
 因みに、今回のライダー編では第四次のキャスターの時のように令呪を分け与えるという事態になる予定。
 それだけ、ライダーが脅威という訳だからなのですが……
 では、十七日に全てを編集する予定ですので感想を頂けると幸いです。
 ここから、完全に個人の趣味に走りますが、シエルを出したのは完全な事態の収拾ですが、もう一方はあまり意味はありません。
 燈子さんをだすなら、空の境界の女性キャラを一人くらいゲストみたいに絡ませてもいいかなって……
 アサシンのマスターとかも後半戦で色々とありますからその補強に……



[28082] 静か過ぎる始まる
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:b5bd452d
Date: 2011/09/17 02:12
「はぁ……おはよう……」

 朝に弱い凛は頭を掻き毟り、大きな欠伸をしながらリビングへと降りる。
 だが、そこで異変に気が付いた。
 リビングから何かを焼く匂いがするのだ。
 その香りに凛は慌ててリビングへと走るとそこには我が物顔で台所で料理をする杏子がいた。

「あぁ、起きたか?もうすぐ飯が出来るぞ!」

「飯が出来るぞ!じゃないわよ!なんで、あんたがここにいるのよ!」

 昨晩、話し合いが終わった後にわかれた筈の人間が自分の家にいる事に凛は驚きを隠せなかった。
 何食わぬ顔で料理をする杏子に凛は苦笑いを浮かべるが、そんな凛を気にせず、料理を盛り付けると机の上に並べ椅子に座った。

「早く座れよ?冷めちまうだろ」

「えぇ……そうねって!なんで、あんたがここにいるのかを聞いてるのよ!」

 凛は一瞬、食事をとる為に箸に手を伸ばすが、流れにのまれている事に気が付くと慌てて突っ込みを入れる。
 そんな凛に対して杏子は真剣な眼差しで凛を見つめると一拍置いてこう投げかけた。





「あんたが言っていた何かわからない気配の正体を探る為に教会側に聖杯システムの事で問い合わせたんだ……まぁ、全く資料は無かったが一点だけ気になる事があった」


「まぁ、システムについて御三家以外に詳しく知る人間はいなさそうだものね……で、分かった事って何よ?」


「いや、まぁ……その、私達は本当に聖杯戦争の機能が正常だって信じていいのかなってさ……ライダーが完全に悪霊の類でどう考えても英霊ってのに引っかからないんだよね……反英霊ってのもいささか疑問だったからさ」


 凛はライダーとの面識がまだないためその問いには何とも答えられないが、確かに本来は英霊を召喚するシステムに英霊以外のモノが混じってしまったというのは少し気にかかる。
 前例は調べてみなければわからないが、もしも前例がないならばそれは聖杯戦争のシステムそのものに異常がある可能性が高い。
 そうなると、先日のまどかが感じた気配も何らかの聖杯戦争のシステムエラーによって召喚されてしまったイレギュラーの可能性が高い。
 凛はその事をまだ寝惚けている頭の片隅に置くと欠伸を殺しながら杏子の料理を食べ始めた。
 それからすこしして、まどかが目をさましリビングへとやってくる。


「おはよう、凛ちゃん」


「ん? あぁ、おはよう。まどか、昨日はよく眠れたかしら?」


「うん。おかげさまで、あれ?杏子ちゃんたちが何でここに?」


 状況が全く理解できていないまどかは首を傾げてしまうが、そんなまどかに対して杏子は早く飯を食うようにせかした。
 そんな聖杯戦争の空気を感じさせない二人の様子に思わず凛は笑みをこぼしてしまう。
 そして、二人のやり取りが終わると凛は杏子にある質問をぶつけた。


「ねぇ、そう言えばライダーのマスターは判明してるの?一番危険なら、マスターを押さえればなんとかなるんじゃない?」


「マスターか……どうも、アイツがマスターってのがしっくりこないんだよね……なんか、本みたいなの持って魔術を操るど素人のバカだったんだが、あのセイバーのマスターの事も考えればマジでそうなのかもしれないのか?」



 凛のなかではその本というモノが気がかりだった。
 もしも、その本がサーヴァントを操るものだとするならマスターが別に存在している可能性もある事となる。
 衛宮君とセイバー、人形遣いとアサシン……
 バーサーカーとは戦闘経験が無く、いまだに正体は不明
 ランサーとライダーはマスター不明と来ている
 ここは盤石な体制を敷くなら動かず相手の動くのを待つのが筋だが、あまりにイレギュラーが多い戦争に凛は決断に迷ってしまう。


「まぁ、だから今後の方向を決めるために来たんだよ……今は均衡みたいなのが出来ちまったお蔭で平穏に見えるが一度投石して波紋が出来るとそれは全体に広がっちまう。一角を落とせば、確実に戦争は激化するからな」


 仮初の平穏……確かにその言葉があっているのかもしれない。
 ただ、アーチャーの能力上は奇襲や待ち伏せに弱い以上はどちらをとってもリスクは大きい。
 凛は次の一手を迷っている中でまどかがこう凛に告げた。



「私はライダーさんが人に迷惑をかけているなら、それを止めたい。ダメかな?凛ちゃん?昨日、倒れていた人がこれ以上、増えるようなことは見過ごせないから!」


 昨夜、凛とまどかが見た魂食いの被害者……
 その時、凛は何を誓ったのか
 その事を思い出すと凛はまどかの言葉に少し考え、溜息混じりにこう返した。


「確かに、私はこの冬木の地の管理人である以上はその行動を黙って見過ごすわけにはいかないわね!そうと決まったら、ライダーをとっちめてやらないといけないわね!まどか」


「ライダーって決まったんなら、夜に見回りって所か?なら、それまで休ませてもらうわ……日の光は少し苦手でね……克服したとしてもキツいもんだ」


 杏子はそう告げると食べ終わった食器を片付け、流しに置くとソファーで眠り始めた。
 そして、凛とさくらとまどかで何ができるかの確認などの準備を行い、夜が来るのを待つ。




間桐邸

「まだ、魔力の補充はできないのかよ!ライダーは!」

 焦るマスターを他所にライダーは不敵に笑う。
 前回のキャスターへの敗北を踏まえて準備は着々と進めてきた。
 魂喰いなど、その前哨戦に過ぎない。
 その真の目的はもう一つの目的を隠す事だ。
 悪霊をこの地へと集め、それをスキルで使役する。
 すでに自らの力でもって場を乱し、魍魎や火車と言った霊が着々と集まり始めている。
 後は、一度ライダーが合図を行えば冬木は惨状となるだろう。

「おい、聞いてるのか! マスターは僕なんだぞ!」

 背後で喚くムシケラの様子にライダーは溜息を吐くが、そこである事を思いつく。
 魍魎は人の死体に取りつくが、その力は対して強くは無い。
 だが、もしも見知った人間に取りついたのならばそれを殺すのには並大抵な覚悟が必要だ。

「そうだ……貴方は天才なのよね? マスター?」

「当然じゃないか! 僕は選ばれたモノ! この戦いだって僕が生き残るに決まってる」

 ライダーはそのマスターの自惚れ具合にニヤリと口元を釣り上げた。
 この男ならそれなりにアレを上手く使えるかもしれない。
 自滅するまでの時間、暴れまわり他のマスターの目を逸らしてくれればいい。
 コレが死ねば本来のマスターとのラインが復元され、魂喰いの必要もなくなるからだ。

「貴方は力がほしいのよね? なら、私がその力を与えてあげるわ……」

 そう呟くと額が割れてそこから現れた石にライダーは手を伸ばす。
 そして、その石を二つに分けるとそれを慎二に見せ優しく微笑みかけた。

「この石に選ばれれば無限の力を得る事が出来るの。あなたの望む魔術を使う為の魔力も、力も思いのまま……どうかしら?」

「嘘じゃないんだろうな?」

「あら?貴方が無限の魔力を得ればこれからの戦いなんて楽勝よ?それに死なない体を手に入れる事も出来る。貴方の願いである聖杯なんて簡単に手に入るわよ?」

 その言葉に踊らされて慎二はゆっくりとその石へと手を伸ばす。
 ライダーはそのマスターの様子に何とか笑いを堪えると、その石をそっと慎二の手に乗せた。

「受け入れなさい……石の力を……」

 そう告げると石をゆっくりと心臓の位置へと持っていき一気に押し付ける。
 すると、まるで吸い込まれるかのようにゆっくりと皮膚の下へと落ちていき、やがては見えなくなった。
 それと同時にマスターである慎二が苦しみだす。

「な、なんなんだよ!これは!」

 叫ぶ、慎二を他所に高らかにライダーは笑うと部屋を出て、地下へと続く階段を降り始める。













 そして、地下に待っていた真のマスターに向かってライダーは笑いかけた。


 それに気が付いたマスターも目の前に広がる光景を視ながらライダーへと笑い返した。


「ほう……なかなか面白い事をやりおる」

「それはお互い様ですわ?貴方も酷い事をなさいますね?これだけの死体を集めるなんて……」


 目の前には死体の山が積み重なっていた。
 ただ、一つ普通の死体と違うのはその頭になにやら取り憑いている事だ。
 カテゴリーCの魍魎であり、死体を動かし人を喰らうしか能が無い悪霊……
 ただ、それがこれだけの量となれば話は別だ。
 目の前には百はあろうという死体が並べられており、それに今まさに魍魎が取り憑こうとしていた。

「貴方の息子さんにも道化になって貰いましたわ……あまりにも使い物になりませんでしたから少しばかり細工をさせていただきましたが……」

「構わん……奴では聖杯を手に入れることなど不可能だろうからな……」


 マキリが日本に渡ってきて何代も代を重ねる事により、土地が合わなかったのか魔術師としての才を失ってしまった。
 そんな人間になど最初から期待などしていない。
 此度の戦いには自ら出陣しようとこのサーヴァントが召喚されたときに一目見て決めたからだ。
 すでに聖杯の器も確保している……だが、欠片で作った模造品では心もとない……真の聖杯を手に入れるにはやはり、アインツベルンの聖杯の器が必要だ。

「それよりも、準備はどれほどかかる?」

 ライダーは真のマスターの言葉に一言、こう答えた。

「今日の夜には全ての舞台が整います。いかにサーヴァントとして優れていようとも同時多発的に起こる戦闘と、我が宝具の前では無力と言えましょう……」

「そうか……ようやく、我が悲願が叶う時が来たのか……」

 静まりかえった地下室の部屋で悪霊が蠢く中、その人間の言葉が静かに何度も反響を繰り返し、やがては再び静まり返った。








 先に言うと、黒桜はでません
 あれは士郎に認められなければなりませんが、この作品では一切そのような事はありません
 わかるようにこの作品の士郎君は空気の読めない痛い子です
 真の主人公は杏子様です(嘘)
 すいません、まどかです
 二日目の最初から分かった通り、惨劇を起こします
 多分、批判が来るのではないかと不安です……
 しかし、ライダーの話ですから彼女が輝かなければならない!
 感想待ってます。

Self is taken, self is hidden and self is not given.
It is the first cruel temporary peaceful actually.
The temporarily first hope to despair which finally is not In the department of a crime which finally is not, it is temporary help.
I will take over my offense of the temporarily.
it is not saved -- a soul In my dream, one time should save and be.


我は奪い、我は隠し、されど我は何も与えん

残酷なる現実には、仮初の平穏を

終わりなき絶望には、仮初の希望を

終わりなき罪科には、一時の救いを

我がその罪過を一時、引き受けよう

救われぬ魂よ

我が夢にて一時の救いあれ


固有結界の詠唱を考えるのは意外と難しいです
なんか、英語が苦手なので変な英文にwww
誰の固有結界かは内緒ですが
目的のキャラとは違ったんですがねwww固有結界詠唱は難しい



[28082] 策謀
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:b5bd452d
Date: 2011/09/17 02:14
 夜になり、新都へと杏子と凛、まどかは来ていた。
 そんな中で杏子はポツリとこんな事を呟く。

「もしかしたら、アイツも私と同類なのかもな……」

「何か言った?」

 凛は杏子の言葉が聞き取れず、尋ね返すが杏子は何でもないと誤魔化すだけだった。
 すでに見回りを初めて数時間が経過しているが一向にライダーの気配はない。
 これまでの魂食いの頻度からすれば、まるで嵐の前の静けさとでもいうような不気味な静けさを思わせる空気が新都を覆っていた。

「おかしいな……これまでの頻度とやり方を考えるとそろそろ引っかかってもいい筈なのに……」

 ライダーのマスターの下僕と思われる無能の行動を考えれば明らかに異常だ。
 これまでの露見を鑑みない行動が明らかに一変している。
 その時、杏子の鼻に嗅ぎ慣れたあの嫌な臭いが漂って来た。
 他の二人は気が付いていないようだが、この臭いは確かに血の臭いだ。
 しかも、ちょっとやそっとのレベルじゃない……何十人もの人間から抜き去り、それをばら撒いて作られた血の池が放つ異臭だ。
 杏子はその事に槍をいつでも使えるように手を添えながら、その悪臭の方へと走り出す。
 
「杏子!一体、どうしたの?」

「この先に何か嫌がる……お前らも覚悟しとけ!」

 凛達も杏子の後と追い、角を曲がろうとするが、杏子はそれを制止しようとする。


 しかし、凛たちはその制止を聞かず角を曲がってしまった……

 
 そして、目に入ってきた光景に言葉を失う


 いや、失わずにはいられなかった






「慎二……アンタ、何してるの……」



 それがやっと凛の口方漏れた言葉だった。
 血の池で人間だった肉片を蹂躙し、踏み付けている慎二の行動など凛に理解出来る筈が無い。
 頭の中にはソレに対する拒絶感とその光景の気持ち悪さに今にも吐き気を催す……だが、ここで、その流れに乗ってしまえば戦う事が出来ないと凛はなんとかそれを飲み込んだ。
 そんな中で槍を握りしめて黙っていた杏子が、慎二を睨みながらゆっくりと近付いていく。
 槍は怒りによって震え、凛や英霊である筈のまどかすらも冷や汗を掻いてしまう程の殺意を発していた。



「テメェ、やってる事の意味をわかってるのかよ!」



「意味?これまで、僕の事をバカにしてきた奴らを皆殺しにしてやっただけさ!僕は選ばれたモノなんだからね!」



 その言葉に杏子は何も言わず、慎二の身体を槍で振り抜いた。
 手加減すらしない、本気の一撃……
 サーヴァントですら、並みのモノでは吹き飛ばされる一撃である。
 しかし、その一撃を人間としては考えられない筋力で慎二は耐えきったのだ。
 その事に、杏子は目を疑うが、瞬時にライダーが何かをしたと結論に至る。
 あの女の策略だとするならば、他にも何かしら手を打ってくる……そうならば、ここで全員が留まるのは愚策だ。
 相手の戦力が見えない中での力の分散は危険だが、杏子にとっては一人の方が戦い易い。
 さくらがいても本気の杏子にとってみれば足手まといにしかならない。
 杏子がそう分析していると、何とか持ち直した凛が目の前の光景について尋ねてきた。





「どういう事よ!佐倉杏子!こいつは人間の筈よ!魔術師としての才能すらない!」





「分からねェ……ただ、これじゃあまるで吸血種って感じだな……こうなっちまったらもう助からねぇ……一思いに殺してやる方がこいつの為ってもんだろ……ライダーが何かしたようだがな……」


 そう杏子は言い終わると、慎二から距離を置く。
 そして、空いた片手で槍を持つ右肩を掴むと目を閉じ、誓言を唱え始めた。

 「私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。
  我が手を逃れうる者は一人もいない。
  我が目の届かぬ者は一人もいない」

 「打ち砕かれよ。
  敗れた者、老いた者を私が招く。私に委ね、私に学び、私に従え。
  休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる」

 「装うなかれ。
  許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を」

 「休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。
  永遠の命は、死の中でこそ与えられる。
  ――――許しはここに。受肉した私が誓う」

            
 「――――|“この魂に憐れみを”≪キ リ エ ・ エ レ イ ソ ン≫」

 その言葉を言い終えると同時に杏子は瞼を開けると慎二へ向かって走りだし、跳躍すると同時に心臓めがけて槍を振り下ろした。
 心臓を穿たれた人間は死ぬ。
 絶対的な法則の中でその場にいる誰もが慎二が死んだと思った。
 だが、それで話が終わる事は無かった。
 心臓を貫かれて死んだ筈の慎二が刺した槍を掴んだのだ。
 そして、ゆっくりとその槍を引き抜くと槍ごと杏子を近くのビルへと叩き付けて瓦礫の中へと沈める。
 慎二はそれを自らの目で確認すると高らかに笑った。



「そうさ!これが選ばれたモノである僕が得た力だ!これなら、もう誰にも負ける事は無い!今ならこれまでの事を許してやってもいいぞ?遠坂?」




「誰があんたなんかに謝るのよ!」



 みるみる傷が繋ぎ合わされていく慎二の心臓の穴に凛は恐怖を感じながらもそう言い放つ。
 凛はまどかが配置につく為の時間稼ぎをする為に人差し指を慎二へと向け、魔術回路に魔力を流し込む。
 前回戦ったアサシンとは違い、ダメージは通る……ならば、宝石を使う事もないと考えての判断だったが、それは誤算だった。
 大量に放たれるガンドの嵐に後退する事無く、徐々に凛の方へと近付いて来るからだ。
 そして、凛の目の前に来ると慎二は高く腕を振り上げた。




「愚かだったな!遠坂!」





「馬鹿はアンタよ!」





 その言葉と共に、射撃位置に移動したまどかが弓を振り絞り、小さく呟いた。




「ごめん!でも、もうこれ以上罪を重ねるのはよくない事だと思うから!」





 弓の前には小さな円形の魔方陣が現れる。
 そして、まどかが弓を射ると同時にその魔方陣に魔力が流れ、ピンク色に発光すると大量に生成された矢が慎二に襲い掛かる。
 だが、それらが突如現れた轟音により跳ね返されると同時に、慎二の前に黒い影が現れる。



「どうした!遠坂のサーヴァントはこんなものなのか?雑魚じゃないか!あれだけ、僕の事をバカにしてた癖に哀れだな!」





「おいおい……私は眼中に無しかよ?ど素人の糞餓鬼が!いきがってるんじゃねェよ!」



 いつの間にか瓦礫から抜け出していた杏子は今にも凛へと襲い掛かろうとしていた鵺を素手で掴むとそのまま隣のビルへと叩き付ける。
 そして、すぐさま杏子はライダー本体を探すように指示していたさくらにこの場を離れるように指示を追加する。



「さくら!あんたは凛の指示に従ってライダーを見つけ次第、対処しろ!あの女はこの近くにいる筈だ!このバカはあたしが潰す!」



「ちょっと待ちなさいよ!そいつを殺すつもり!」



 凛の動揺に杏子は溜息を吐くと髪を掻き毟る。
 魔術師としてはまだまだ未熟な凛にとってこの男は現実の一つなのだろう。
 杏子が失った掛買の無い時間……
 だが、この状況でそんな優しい事は言っていられない
 手を抜けば逆に喰われる
 弱肉強食……弱者は蹂躙され、強者の食い物にされるだけだ
 しかし、それは凛の生きる世界とは別の世界の話だ



「助けるにしても、なんでこうなったのかわからないなら助けようがないだろ?だから、私がここで足止めしといてやる!だから、急いでライダーから情報を聞き出せ!そう長い時間、私も持ちこたえられないぞ!」


 だが、その言葉が嘘である事にさくらはすぐに気が付いた。
 杏子は分かっているのだ。
 もう、目の前にいる人外は戻れない事を……
 身内にそれを出し、殺してしまったという責を凛に負わせない為の優し嘘だった。



「わかった!急いでライダーを探し出す!行くわよ!まどか!さくら、ライダーの居場所まで案内して!」


「えっ!はい!こっちです!」


 さくらは突然、凛に話しかけられた事により、現実へと引き戻される。
 そして、さくらは凛とまどかの元へと現れると高みの見物をしているであろうライダーの元へと案内を始める。
 しかし、そう簡単に辿り着かせる筈が無く、鵺はそれを阻むために三人の後を追い始めた。












「いいのかい?あんたの護衛を手放して?」


 杏子は軽く首を回しながら慎二に向けて殺気を放つ。
 普段の慎二なら耐えられないであろう殺気を軽く受け流すと嫌らしく嗤いは始めた。


「無限の魔力を手に入れた僕に怖いモノなんてないのさ!だって、僕は天才だからね!以前の逃げ回るだけの僕とは違うって所を見せてあげようじゃないか!」


「そうかい、そうかい……こんな事なら、例のアレを携帯しておくべきだったな……」


 杏子の持つ最大兵器……
 神代の宝具のレプリカだが、吸血種や封印指定を殺す槍としては十分すぎる兵器
 だが、まだ試作段階でもあるため、いつでも持ち歩ける品ではなかった
 その為、一応先輩であるいけ好かない野郎から槍を一本拝借していたりして、戦場を駆けていたりするのだが……
 こんな事なら、今持ち合わせている武器を全て持って来ておくべきだったと反省するとやれやれと言いながら、槍に魔力を通していく。


「言っておくけどさ……私は手加減しないぞ?アンタを殺す気で行く」



 杏子の目は槍に魔力が通されるにつれて見る見るうちに朱く輝き始めた。
 それだけではない。
 爪も伸び始めて、十の刃となる。
 そして、変化が終わると同時に音も立てず、空気に溶けてしまった。




「おいおい、あれだけ言っておいて逃げ……なんだよ、これ!なんで僕に傷が付いてるんだよ!」


 
 叫んでいる間にも慎二の身体には傷が増え続ける。
 姿が見えず、どこから攻撃しているのかも判らない。
 激しい猛攻に反撃の隙すら与えない。
 杏子の“人間”を相手に戦う際の常套手段である魔眼による感覚支配だ。
 その激しい猛攻は体の傷の再生させる余裕など与えず、新たな傷を生み出していく。
 息をつく暇すら与えず、反撃の隙を見せない。
 これがプロと素人の実力差だった。


 気が付くと、辺りには慎二の血が大量に飛び散っていた。
 慎二は身体中をずたずたに引き裂かれ、穿たれた慎二は恐怖のあまり逃げ出そうとするがその首を杏子は槍を空いた片腕で掴み高らかに持ち上げる。
 そして、今は輝く事を止めた目で慎二を睨みつけた。


「ふざけるな!僕が負ける筈が無い!こんな奴に!」


 この状況になっても負けを認めないその神経に杏子は呆れ果ててしまう。
 だが、こうなった以上はこの雑魚も滅する対象だ。
 せめてもの救いとして痛みの感ずる暇もないくらいにあっさりと……
 杏子はそう誓うと槍を慎二の首へと向ける。



「チカラの使い方すら知らないヒヨッコなんて所詮はこんなもんさ……アンタには背負う覚悟もその代償も足りなかったんだよ!いくら不死っていってもさ……頭を潰せば死ぬだろ」


 そう呟くと杏子は槍の穂先を慎二の頭に狙いを定める。
 そして、一気に頭めがけて槍を突き立てた。




 しかし、寸前の所で何かに突き飛ばされた。






「おい……お前が通り魔の正体か!」



 その聞き覚えがある声に、杏子は思わず舌打ちをする。
 こんな事なら、さくらをこちらに残しておくべきだったと後悔するが、こんな事で令呪を使う必要が無い……
 令呪を使う必要が無い……
 杏子はそこである事に気が付いた。
 ここまでボロボロにされてもライダーを令呪で呼ばないのは不自然すぎる。
 確か、慎二は本を使ってライダーを操っていた。
 しかし、今はその本が無い……



 まさか、別にマスターがいる?
 その疑惑が浮かんだ時、全てが杏子の中で繋がろうとしていた。
 もしも、真のマスターがいたとするならこいつは“私”をここに足止めさせておく為の布石だとしたら……
 ここにセイバーが現れたのも全てあの女の策略だったとするなら……
 そう考えると、この場に長居する必要はない。
 必要な武器を持ち込み、早急に対処せねばならない
 仕事として……



「糞……めんどいのが出てきやがったか」



 サーヴァントの中で最優と謳われ近接戦に秀でたセイバーと真正面から渡り合うのは本気になった杏子でも部があるか分からない。
 しかし、ここでアレを見逃すわけにもいかない。
 かといって、セイバーと戦い消耗するのはもっての外だ。
 どう動くか杏子が悩んでいると、セイバーが戦闘の構えを示しながら告げる。


「答えなさい!返答次第では貴方を倒します!」


「倒すね……やっぱり、殺し合わないと話は進まないか……私としてはそいつを引き渡しって逃げられたか」


 気が付いた時には慎二の姿は消えていた。
 ならば、もう杏子にセイバーと戦う理由は無い。
 しかし、どうやら、向こう側のマスターにはあるらしい。


「もう、魂喰いなんて止めろ!」


「はぁ? 何言ってんだ? 私はあの糞餓鬼に用があるんだよ……テメェになんざ用は無い」


「慎二に何の用があるんだよ!」


「奴を殺す。アレはこの世界には居てはいけないものだ。存在自体が悪だ。早めに処分しなければ大変な事になるぞ」

 その言葉は衛宮士郎にとって許せるモノではなかった。
 全てを救う事を望む衛宮士郎にとって、誰かを切り捨てる事は絶対にあってはならない。
 だから、目の前にいる杏子が慎二を殺そうとするのを許すわけにはいかなかった。

 杏子が向こう側が仕掛けようとしている事に気が付き、距離を取ろうとするが、足が固定されて動かない。
 そして、気が付いた時にはフェイトの金色に輝く鎌が杏子へと迫っていた。


「何!?」

 
 鎌がふれる瞬間、杏子の姿が消滅したのだ。
 それと同時に背後から槍が振り下ろされる。
 いくら対魔力の高いセイバーとは言え、物理でならダメージを与えられると考えての事だったが固い壁へと阻まれてしまう。

「ったく、バリアなんてありかよ……」


「それはお互い様です。幻術が得意なようですね……」


 互いにとって戦いにくい相手……
 フェイトの魔法は非殺傷設定とは言え、魔力変化による雷撃で一時的に行動を制限する位ならば容易いだろう。
 しかし、杏子の幻術の前には攻撃を当てる事すら難しい
 睨み合いが続く中で、杏子はフェイトから目を逸らすと辺りを見回した。
 そして、乾いた笑みを浮かべる。


「おい、こりゃマジか……ここは停戦といかないか?さすがの私もこいつら相手には骨が折れるし、アンタらが居たら邪魔だ」

「なんだよこれ……」

 目の前に現れたのはビルの高さもある蜥蜴と死者の軍団だった。




フェイトVS杏子は少し先送りになりました
ただ、二日目~三日目のライダー編の中ではもう一度戦う予定です
さて、ここまで話が多きくなれば日本在中のあの方も動きます
流石に埋葬機関も待ち一つが死の街になるのは見過ごさないでしょう
次回は死の軍団です!

固有結界案

Self will cover thou crime.
Truth is reversed to falsehood.
A lie is wandered to truth.
No intentions are repainted here.
The truth of and falsehood is a dream carried out in which one time is transitory.
The dream is osamu which awakes some day.
Just if it becomes, disappear as a phantom of a transitory dream.


我は汝の罪を覆い隠そう

真実を偽りへと反転し

虚言を真実へと流転し

全ての意思をここに塗り替えん

されど、偽りの真実は一時の儚き夢なり

その夢はいつかは醒めねばならぬ理

なればこそ、儚き夢の幻として消えよ


 ハッキリ言ってライダーが少し面倒な存在にwww
 杏子の判定とかもwww
 一応、今のまま行くつもりですが



[28082] 立ちはだかるもの
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:b5bd452d
Date: 2011/09/19 15:52
「君は殺生石に何を望む?」

 悪魔の囁きに黄泉は答えてしまった

「私の本当の望み、本当の願い……それは神楽……あの子を守りたい。あの子を全ての不幸から守りたい。あの子を全ての災いから守りたい。あの子を傷つけるもの、あの子を危険に晒すもの、あの子を災いを齎すもの……その全てを消し去りたい。お願い、あの子を守って……不幸を消して、災いを消して……例え、それが私自身であったとしても!」

 それが、諌山黄泉が死んだ瞬間だった。

 大切な妹の手によって……

 自慢の妹の手によって……

 大好きな妹の手によって……









「そう簡単にはライダーの元へは行かせてもらえないようね」

 なんとか、悪霊の群れを掻い潜りライダーの居る街を見下ろせるビルの屋上へと辿り着いた凛だったが目の前に立ちはだかる鎧武者に苦戦していた。
 ライダーはまどかとさくらが苦戦する様子を愉しげに観戦するばかりで手を出してくる様子は無い。
 完全に舐めきった態度に漬け込む隙はあると凛は考えるが、目の前の障害が予想以上に大きかった。

「まだまだ!」

 まどかは幾度も矢を大量に放つが、その度に完全に撃ち落とされてしまう。
 さくらも目の前の鎧武者にどう攻めるか思い悩んでいるようでなかなか斬りかかれずにいた。

「あら? その程度なのかしら――前回までの威勢の良さはどこへ行ったのやら」

 ライダーの小馬鹿にした嗤いに凛はガンドを撃ち込もうとするが、魔術回路に魔力を流し込んだところで思いとどまる。
 ただでさえ、二対一で苦戦しているのだ。
 ここで、ライダーが入って来たのなら完全に劣勢の流れになってしまう。
 それだけは避けなければ無いのだが、戦闘は悪い方へと転がっていく。

 上空を黒い影が通り過ぎたかと思うと、それはさくらとまどかの前に降り立ち吠えた。

「まどかさん! 危ない!」

 目の前の化物が吠えた事により発生した衝撃波がまどかの矢を吹き飛ばし、衝撃波と共にまどかへと降り注ぐ。
 本来の咆哮だけでも人を殺すには十分すぎる威力がある。
 それに、まどかの宝具である矢が加わるのだから、当たったら幾らサーヴァントとは言え致命傷になる可能性がある。
 そんな中で、さくらは一枚のカードを素早く取り出すと、それを使役する。



 さくらと最も共にあり続けたカード「|風≪ウィンディ≫」
 風邪を生み出し操る事の出来る四代元素のカード
 そのカードにより生み出された風が、乱紅蓮の咆哮とぶつかりあい、乱紅蓮の咆哮を相殺する。



 だが、行き場を失った矢は上空へと打ち上げられ、その場にいる全員へと襲い掛かった。






「大丈夫? まどか! さくら!」

 辺りはビルが破壊されたことによる塵が蔓延しており、視界を遮っている。
 ラインから魔力を吸い上げられる感覚から令呪を確かめる事なくまだまどかが存命している事は解るのだが、どこにいるかまではつかむ事が出来ない。

 視界を遮られた凛は思わず叫んでしまうが、それが命取りとなる。
 叫ぶという事は、まどか達に位置を知らせると同時に敵にも位置を知らせてしまう。
 ここに来て、遠坂家に伝わる呪いである『うっかり』を発動させてしまった。
 そんな中で、遠坂の背後に大きな黒い影が現れる。
 遠坂はソレに気付くと咄嗟に、振り返りガンドを放つ。

 放たれた黒い弾丸は刀を僅かに逸らせ、なんとか鎧武者から距離を取ることに成功する。
 だが、危険である事には変わりない。
 まどかが此方の位置を把握するまでは一人で相手をせねばならない。
 そんな中である事に凛は気が付いた。

(まさか、こいつ……対魔力は無いの?)

 鎧武者の頬にガンドが跳弾した際に出来たのか、傷が出来ていた。
 それを考えれば、まどかの矢を全て弾き飛ばした事にも納得がいく。
 あれは魔力の塊だ――対魔力が無いのなら一発が致命傷に成りかねない程の高純度の魔力を秘めた……
 つまり、この相手はまどかやさくらが戦うよりもマスターである凛本人が戦った方が有利に戦える。
 そう判断すると、頭から逃げるという選択肢を消し去り、目の前の鎧武者へと目を向ける。
 敵の武器は刀が両手に一本ずつの二刀流……
 まだ、何かを隠しているかもしれない。
 凛は細心の注意を払いつつ、宝石をいつでも使用できるように左手に持つと右手で鎧武者の足もとにガンドを放つ。



 鎧武者の足場を崩し、足を殺す事が目的だがそのような事が鎧武者に気付かれない筈が無い。
 ガンドが当たる直前に跳躍すると、凛へと迫る。
 凛は軽く舌打ちをすると、持っていた宝石を使用して自分の身体機能を即座に強化する。
 だが、そんな強化如きでは完全に躱す事は叶わず、身体には徐々に切り傷が出来始めた。
 そんな中で、凛は左手に持っていた宝石の一つを回避する際に落としてしまう。

(あぁ、やっぱり一筋縄には行かないようね……けど、杏子も頑張ってくれているんだし、私もこんな所で時間をかける訳にはいかないのよ!)

 そう思い立つと、一気に鎧武者へと走り込む。
 そして、体中に刀による切り傷を作りながらも懐へと入り込むと、もう一度肉体強化の重ね掛けを行う。
 本来ならば、身体の負担が大き過ぎる為、するべきではないが今は手段を選ぶ余裕は無い。
 倒せなければ、そこに待つのは死だけだからだ。

(綺礼い教わった中国拳法がここに来て役に立つとは思わなかったわ……礼を言うのは癪だけどね)

 トラックが衝突するような衝撃に鎧武者は後退するが、僅か三歩で踏み止まる。
 しかし、凛にとってはその三歩こそが重要だった。
 先程、宝石を落とした場所……
 その宝石を発動させた際に最大限に威力を発揮できる場所……
 凛の攻撃により、膝をついている鎧武者は今度は回避することは出来ない。

「これで、終わりよ!」

 その言葉と共に、宝石から魔力は解放され辺りが白い稲光に包まれる。
 近くにいた凛もその衝撃に吹き飛ばされるが、確実に鎧武者に攻撃を与える事が出来たという確信が凛にはあった。
 雷が幾つも落ちたような轟音と発光……
 その衝撃は同時に辺りの粉塵を吹き飛ばす。


「あらあら……人間にしてはやるようね」

 そのあまりの威力にライダーは笑う事を止めた。


(やったかしら?あれだけの威力を叩き込んだんだから……)


 吹き飛ばされて地面に倒れ伏していた凛は身体を起こすと鎧武者のいた方へと目を向ける。
 そこには片膝を地面に付き、黒こげになっている鎧武者がいた。
 満身創痍の状態の鎧武者に凛は一瞬、気を抜いてしまう。
 だが、まだかすかに息があり、完全に消滅した訳では無い。
 鎧武者の身体から棘が映え始めたかと思うと、次の瞬間にはその棘が凛に襲い掛かっていた。
 気が付いた時には既に遅い。
 身体強化の重ね掛けによる身体疲労と気の緩みから即座に身体を動かし回避する事は叶わない。
 目の前に迫る棘の嵐に凛は必死にあがこうとするが、奮闘敵わず幾つもの棘が凛へと襲来する。




「凛さんをもう傷付けさせない」



 いつの間にかまどかが凛の前で弓を弾いていた。
 そして、全ての棘を撃ち落としていく。
 それだけでは無い。
 幾つかの矢は当たると同時に、棘を消滅させているのだ。
 矢と棘の競い合い……



 先に根を挙げたのは鎧武者だった。



 棘が止まると同時に鎧武者は刀でその矢を弾き落そうとしていく。
 しかし、矢が当たった瞬間、刀はみるみるうちに消滅していきそれは身体へと拡がって行く。
 その状況に鎧武者も動揺し、驚愕の顔を浮かべるがそれが何なのか理解するには至らなかった。



「何よ……あの矢は……あの鬼道丸を浄化したっていうの……」


 ライダーですら驚きを隠せない。
 もしも、倒されたというのなら納得がいっただろう。
 しかし、浄化されたというのなら話は別だ。
 あのサーヴァントは自分にとっては天敵である。
 先程から攻撃は矢を放つだけに留まっているから大した事が無いと鷹を括っていたのだが、それがここに来て大いに覆される。
 それは凛も同じだった。
 凛の目に見えていたスキル表が一瞬だが、書き換わったのだ。
 しかし、それは目の前の鎧武者を倒すと同時に消滅した。

(なんなの……まどかって……)

 マスターである凛も戦闘中に能力値が書き換わるという現象は聞いた事が無い。
 確かに、狂化スキルを使う事が出来ればそれは可能だがまどかにそのようなスキルは備わっていない。



「あれ? 私……凜ちゃん大丈夫!」


 その上、自分が何をやったのか覚えていないような言い回しで凜の無事を確認しようとしてくる。
 まるで、無意識の内に何かしらの能力が発動したのか……
 もしくは、別の誰かがまどかに憑依したかのように……



 しかし、そのような事を考えている暇は無い。
 後は残る障害である乱紅蓮を倒し、ライダーを倒して慎二に何をしたのか聞きださなければならない。
 凜は先ほどのまどかの異常を頭の隅に記憶し、今は目の前のライダーへと集中するとまどかとともに乱紅蓮へと向き直った。







「ここだな……」

 煙草を咥えた女性と礼園女学院の制服を着たどこか気弱そうな少女があるビルの一室の扉を叩こうとしていた。
 二人はノックをしても返事が無い……
 そんな家主の態度に痺れを切らした煙草を咥えた女性は部屋の扉を返事を待たずに明けた。
 扉の向こうにはまるで蝋人形館のように多数の人形が並んでいる。
 それは全てが人を模して創られたのだろうが、全てがどこかかけており伽藍堂としていた。

「あのバカはまだ私のよう人形を創る事に固執していたのか……才能が無いとさっさと断言してやったんだがな」

 此方をじっと眺めている作品の数々を面白げに眺めながら煙草を咥えた女性は奥へと進んでいく。
 そんな中、その女性の後ろを付いて来ていた気弱そうな女性が恐る恐るその女性へと尋ねる。

「あの……なぜ、私がここに……?」

 歪曲の魔眼をこれ以上使うなと忠告されたかと思えば、いきなり連れ出されてこんな片田舎の街に連れられて来られたのだ。
 数か月前の事件の事を考えると何があってもおかしくは無い。
 自分はそれだけの事をしているのだ。
 だが、そんな心配を他所に煙草を咥えた女性は近くにあった人形を掴むとその人形を睨み付ける。

「まぁ、あれさ。今回は作品の納品と同時に不出来の弟子が久しぶりに顔を見せるっていうんでわざわざ出向いた訳さ。奴にはきっちりと金を払ってもらわねばならないからな」

 まったく、話が通じていないのだがそんな事をしていると大きな広間に出る。
 そこには小学生くらいの少年がいくつものテレビの前に座り、じっとテレビを見ていた。

「貴様は相変わらずのようだな」

「そちらこそ、おかわりないようで……すいませんが、今いいところなんです。まさか、ここまでやるとは私も念の為に師匠に連絡しておいて正解でした。料金はそこのアタッシュケースの中にあります。ざっと、一千万円程ですが足りますよね?」

「足りるが、いいのか?人形一体で五百万と電話では言ったんだが?」

 料金を多くもらう分には悪い話ではないが、これからこちらからも面倒事を押し付ける身からすれば流石に受け取り辛い。
 だが、そんな師匠の言葉にその子供は振り返るとこう答えた。

「師匠の作品にはそれだけの価値がありますから――いや、そんな価値すらつけられないかもしれません。中世の錬金術師の推測を踏みにじるその人形に一千万など安いくらいですよ」

 作品の出来を絶賛するその子供に対して師匠と呼ばれた煙草を咥える女性は大きく紫煙を吐きだす。
 本人は本当に絶賛しているつもりなのだろう。
 しかし、しれは褒められている本人からしてみても目の前にいる子供の創る作品は異質だ。
 それ故に『人形師』として名高い青崎燈子が目の前の少年を才能が欠片もないと言い切った。
 それは、自身のような人形を創る才能が無いからに他ならない。
 部品一つ一つの代替えパーツなら完璧に再現するのだが、それが全体となると途端に作成できなくなる。
 しかし、それは単に青崎燈子が異端であるに過ぎない。
 ただ、それだけであり少年が人形を創る上で才能が無いわけではない。
 むしろ、有り過ぎるというべきだろう。
 死徒の身体の一部や、封印指定の魔術師の魔術回路を用いて生前の持ち主の力を再現する。
 それだけならばまだいいが、魔眼の複製や固有結界の再現まで行う異常っぷりなのだ。

「私からすればお前も十分異端なんだがな……」

 燈子さんの呟きにその子供は楽しげに笑うと本題を切り出すように促す。

「それで? こちらからの要件は終わりました。そちらの要件を聞きましょうか?」

「こいつに魔眼の使い方を教えてやって欲しい。そういうのはお前の方が詳しいだろ?」

 その言葉に思わず、子供は呆れ返る。
 何せ今は戦争中なのだ。いつ殺されてもおかしくは無い。
 確かに、今手駒が増えるのがうれしいがそれを死なせたとなっては後々禍根が残ってしまう。
 当然の如く、その女性も燈子さんに何を考えているのかと言おうとするが、真剣な眼差しでこう告げる。

「アレはああ見えて一応、私の弟子だからな。面倒事の一つくらい押し付けても問題なかろう。それに、奴の方がそういうモノの扱い方は詳しいからな」

「おい、本人の前でアレって言い方は無いんじゃないか? 確かに魔眼関連の扱い方は師匠よりは詳しいが……んで、系統は?」

「歪曲に透視のおまけつきだったな」

 つまりは、物陰に隠れてもねじ切られてしまう事を意味する言葉に唖然とした様子でその女性を見つめる。

「それで、代替えの眼を創ればいいのか? それなら、あんたが……」

「違う……コントロールの仕方を教えてやってくれ……それが無いと、無痛症が治療出来んようでな」

「無痛症って、人工的に痛みを消す事によって長年封じ込めたのかー――考えた奴の顔が知りたいね。そんなエグイ方法で封じ込めるなんてさ」

 少年は楽しそうに笑うと、少女を頭から足元まで値踏みするように眺める。
 どう考えても戦闘向きではないうえに、その話を聞いた限りは頭脳戦も難しいだろう。
 戦争が終わればいくらでも付き合っていいのだが今は何分、時間が無い。
 それ故に断ろうとするのだが、燈子さんはこう条件を付け足した。

「依頼人からは出来んのなら殺せと言われていてな……また、暴走するかもしれない爆弾を抱えるのは御免だそうだ」

「ったく、わかったよ……ただし、死んでも文句は言わないならって条件があるがな」

「あぁ、問題ない。肉弾戦を仕込もうが何をしようが構わんが襲うなよ?」

 そう言い終わると、入ってきた方のドアに顔を向ける。
 少女もそちらの方を振り向くとそこには小学生くらいの少女と三十代くらいの青年が立っていた。





マミ「さて、アサシンサイドにも動きがあったわね!」
さやか「なんか、あそこってどんどん強くなって行ってないですか? まさか、家のまどかがあんなことやこんな事に……」
マミ「大丈夫よ!まどかさんがそう簡単に誰かに負けるとは思えないわ!」
さやか「それはそうですけど、歪曲の魔眼で透視付きとか厄介過ぎませんかね?」
マミ「それはそうだけど、魔術師ではなく退魔の方の一族だし戦闘経験は殆んどないっていうキャラだから少し危うい印象を受けるわね」
さやか「確かに……死んでも責任は取らない発言してましたしね」
マミ「まぁ、それはおいておいて、まどかさんのマスターは今回大活躍ね」
さやか「たしかに、二人が苦戦した相手を追い詰めましたからね……最後はまどかに仕留められましたけど」
マミ「さぁ、次回はどうなるのかしらね」
さやか「えっと、次回は……未定だそうです。って、作者考えておけよ!」




全ての編集が終了しました。
まあ、実は次回も書き終えているのですが間を置いて更新を予定しています。
多分、その次を書くのに時間がかかりそうなのでwww
感想も待ちしております。
因みに、杏子の現在の槍は普通の槍ですよ。



[28082] 虐殺と増援
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:b5bd452d
Date: 2011/09/24 04:10
「おい……なんなんだよ!これ」

 それが誰の叫びだったのかは杏子に確認する余裕はない。
 突如、現れたソレらにより大通りは血と叫びが支配していた。
 目に付くのは死体ばかりであり、それが動き人を捕食する。
 救いたくても救えない、守りたくても守れない。
 圧倒的な数の暴力の前にはいかにサーヴァントと言えども、マスターを守る為に動きを制限される。
 埋葬機関に所属し、吸血鬼を狩り続けてきた杏子もまた装備が万全でないこともあり防戦一方の戦闘をしていた。

「おい、セイバー! 何ビビってんだ! こいつらはもう死んでるんだ!」

 杏子には目の前で動く人間が死んでいる事を本能的に嗅ぎ取っていた。
 吸血鬼の創るグールのようなものと考えればいいのだが、フェイトとそのマスターである士郎はそれを割り切れない。
 それ故に戸惑い、一瞬だけ止めを刺すのを躊躇してしまった。



 その時、二人の前に赤い鮮血が飛び散る。



 二人をかばった際に杏子の右腕の肉が食い千切られたからだ。
 だが、杏子はその怪我に対して痛みを見せるようなことは無く、ただ冷静に死者の肉体を破壊していく。


「状況を弁えろ! 今の状況の中でお前がしなきゃならねェのはなんだ! こいつらによる被害を最小限に止める事だろうが! なら、そんなところで寝ている暇なんてあるのかよ!」


 杏子はそう叫ぶと一刻も早くこいつらを倒して凛の後を追う為に走り出す。
 だが、自己催眠により痛みを消していた事により大きな隙を生んでしまう事となる。
 死者の軍団の中に飛び込んだ杏子は槍を振るい、死者を行動不能にしていく。
 次の槍を振る為に足を踏み込むが、その際に体の体勢を崩し血の池へ落ちて行ってしまう。
 なぜそうなったのかはすぐには理解できなかった。
 ただ、頭の中にあるのは自身に群がろうとしている死者をどう潰してこの場を離脱するかだけだ。
 しかし、対魔用に加工されていない槍では力で粉砕しなければ奴らを破壊する事は叶わない。
 そして、何より今の体勢では手首だけで振るうわなければならない……
 杏子は襲い掛かって来た死者を殴り飛ばすと急いで立ち上がろうとするが、そこで初めて何故こんな事になったのかを理解する。
 杏子の目に入って来たのは自身の右足首だった。
 それが何故そこにあるのかは理解できないが、それがこの状を作り出したすべての原因である事はすぐに解った。

「くそが……」

 この時ほど、自身の本当の武器を持ってこなかったことを後悔したことは無い。
 アレがあればこのような死者如きに後れを取る事もないからだ。
 だが、今更そんな事を言ってもすでに遅い。
 杏子の左足首から流れる血は徐々に止まっていき、それは新たな左足首となり始める。

「伏せて下さい!」

 突然のフェイトの言葉に急いで頭を下げると、さっきまで頭のあった場所を金色の大きな刃が通り過ぎる。
 そして、その刃は死者達を切り裂き辺りに新たな血を撒き散らした。
 杏子はその様子にようやくセイバーの覚悟が決まった事を悟る。

「随分と遅い登場だね。それってもしかして正義の味方ってのがいつも遅れて登場するからなのかい?」

「私はただ、今守れるものを守りたいだけです。それを守る為に最善なのは何か、それを見失っていました。ここで彼らを殺す事を躊躇すればするほどに犠牲者の数が増えてしまうのであればしかたがありません」

「意外と物わかりがいいんだな。けど、まだ戸惑いは隠せないか……なら、お前はあっちの蜘蛛みたいなのとでっかい獣みたいなのを相手しろ。こっちも死者どもを片付け次第、そっちに向かう」

 杏子が指差した先には真っ赤に燃え上がる獣と高足雲のような奇妙な形の悪霊が町を破壊しようと動き回っていた。
 フェイトはそれはまだ戸惑いを隠せないマスターを思われての提案だと判断すると静かに頷く。
 それを見た杏子は士郎の方へと槍を向ける。

『我、汝の穢れを祓いたもう』

 そう告げると杏子は槍を地面へと突き刺した。
 すると、士郎の周りに網目の障壁が突如として現れ、四方を囲い込む。
 その様子に士郎はその壁と突撃して自分も戦いに参加しようとするが、その障壁はビクともしない。

「セイバー、これでアンタも少しは後ろの事を気にせずに戦えるだろ? まぁ、大抵の攻撃は耐えられる結界魔術だからこんな雑魚には破られはしないよ」

「ありがとうございます。でも、貴方は私を敵視していたのに何故?」

「今だけだよ。私もさっさとこいつらを片付けてライダーを倒しに行かなきゃならない。それなら、アンタが最大限に暴れられるような状況を創ってでか物片付けさせた方が速いだろ」

 そう告げると、杏子はいまだに人を襲い続け数を増やしていく魍魎の群れを睨み付ける。
 そして、息を深く吸い込むと目を閉じた。
 先に倒さねばならないのは先程、足首を切った存在だ。
 それを倒さない限り不意打ちで形勢逆転も起こり得てしまう。

「士郎はそこにいて。すぐにこの惨劇を止めるから」

 フェイトも士郎にそう告げると飛び上がり、火車の前へと立ち塞がった。






(にしても、これじゃ埒が明かないな……あの悪霊……倒しても倒しても湧いてきやがる。これじゃ、ライダーを先に潰した方が早そうなんだが……)

 杏子は目を見開くと誰もいない場所を一閃する。
 だが、その一閃は火花を散らし何かに弾かれてしまう。

「くそ……軌道を読んでも向こうの起こす風で弱められて弾かれちまう……こりゃ、少しばかりてこずりそうだね」

 杏子はそう小さく呟くと槍に魔力を流し込み、強化していく。
 今の武器には対悪霊用の概念武装としての機能は全くない為に完全に威力のみで圧倒しなければならないからだ。
 しかし、強化は武器そのものに無理をさせるために度重なる強化はかえってその武器の強度を弱める事にも繋がりかねない。
 それでも、杏子が強化に踏み切ったのは目の前の鎌鼬がそれだけ厄介な敵であることに他ならなかった。



 防戦、防戦、防戦


 あまりのスピードの速さとその風の防御でなかなか杏子は攻撃に転じられずにいた。
 それどころか、攻撃を受けた際の余波で体中に切り傷が出来ており、それが杏子へと悪霊を呼び寄せていく。
 完全に後手に回ってしまっている状態に軽く舌打ちをするが、現在持っている武器ではこれが限界だ。
 埋葬機関外の仕事と言って大半の武器を置いて来てしまった事を今になって後悔する。
 だが、後悔したところで今の流れが変わる事は無い。
 それどころか、杏子の中に焦りを生むばかりだった。


「仕方ないか……魔眼は使えないようだしな」


 杏子の持つ魔眼は相手の脳に直接干渉するために目を通して幻術を見せる。
 その為、石化の魔眼などと違い相手の目を見る事が出来なければ全く持って効果を発揮する事が出来ないのだ。
 それ故にいつものように相手の感覚を僅かにずらして戦うという方法が封じられてしまっていた。
 そんな苦戦している中で杏子はニヤリと笑うと自らの魔術回路に魔力を流し込み始める。


 杏子の胸を鎌鼬の鎌が貫き、紅い鮮血が飛び散った。


 魔術回路に魔力を流した際に出来た僅かな隙を突かれての事で杏子は反応できなかったのだろう。
 杏子の身体からは赤い血が噴き出し、ゆっくりと地面へと落下していく。
 そこへ死霊や魍魎たちが殺到し、血肉を喰らわんと群がった。
 そのあまりに無残な光景に士郎は言葉を失う。
 そして、飛び散った血がそれを現実だと告げていた。




 しかし、次の瞬間にはその血が飛散してしまう。
 そして、鎌鼬の身体を一本の槍が貫いた。



「やっぱり、風の流れで感じ取ってやがったか……まぁ、解答さえわかれば本当に何でもない相手だったな」



 杏子はそう呟くと鎌鼬から槍を抜き、亡霊の群れへと再び向き直る。
 しかし、次の瞬間体中から鮮血が噴き出した。

「一体じゃなかたのかよ!」

 目視で確認出来ただけでも五体の鎌鼬がいる。
 それどころか、杏子の姿をして槍を此方へと構える山彦までいる始末だ。
 その状況に槍を振るおうとするが、体の腱が切り裂かれており身体を動かす事が出来ない
 絶体絶命のピンチに杏子は令呪を使う事を考えるが、向こう側がライダーと戦っていたら……
 さくらを戻す事で倒すチャンスを潰す事になったらと考えると令呪を使う事が出来なかった。
 けれど、それは今ここで杏子が倒れても同じことである。
 いくらサーヴァントと言えどもマスターの魔力供給無しでは生き残る事は厳しい。
 ライダーに勝つなど以ての外だ。

(仕方ないか……アレを使うとするかな)

 そう心に決めると徐々に犬歯が伸び始める。
 身体中の血が熱く煮え滾り、瞬時に体中の組織を再構築し、途切れた神経をつなぎ合わせ始めた。
 しかし、その再生も即座に回復する訳ではない。
 その僅かなロスに再び悪霊の群れが杏子へと襲い掛かろうとするが突如、降り注いだ黒剣に貫かれ、燃え始めた。
 これだけ膨大な黒剣を扱う人間など埋葬機関に一人しか存在しない。
 埋葬機関第七位シエルーー『弓』の二つ名を持つロアの転生体
 埋葬機関の中ではまだ話の通じる相手なのだが、不死身な上に催眠で他者の記憶を書き換える能力持ちの為に一番やりにくい相手なのだ。

「なんで、アンタがここにいやがるんだよ? シエル? アンタはロアを追っかけてたんじゃないのか?」

 ビルの屋上から降り立ったシエルを杏子は立ち上がると睨み付ける。
 だが、それに対してシエルは二本の槍を杏子に投げ渡すと杏子を睨み返した。

「ロアは先日滅した為、もうこの世には存在していません。それよりも、この状況はどういう事ですか? 私は貴方に第八聖典試作型を届けるように命じられただけなのですが、町に入った瞬間にこれだけの穢れた気配が町中を蠢いている状況……説明していただけますよね?」

 シエルの有無を言わさぬ物言いに杏子は二本の槍を受け取ると一本の封を解いて外気に触れさせながらこう返した。

「吸血鬼じゃない……過去の英雄を召喚して戦わせる聖杯戦争って儀式で何を間違えたか過去の大怨霊を呼び寄せちまったらしいんだ。それで、私はそいつの呼び寄せた悪霊に足止め食らってたってわけさ」

 杏子の言葉に小さく頷くとカソックから何本もの黒剣を取り出し、それを悪霊のほうへと投擲する。
 すると先ほどとは違い、何人もの悪霊の頭を貫きコンクリートの地面へと突き刺さった。

「事情は理解しました。つまり、その根本を倒せばこの状況は打破できるわけですね?」

「おそらくそうなんだが、一筋縄ではいきそうに無い」

 それは杏子の本心からの言葉だった。
 あのライダーがこれだけの怨霊を集めたのには何か理由があるはずだ。
 マスターだと思っていたワカメ頭の男の言動も少しばかりおかしかった。
 ライダーの保有している殺生石と言う宝具は史実では白面金毛九尾の狐の欠片と言われている。
 しかし、この白面金毛九尾の狐についても色々な諸説がありその実態はあまり掴めていない。
 それを宝具として保有しているということはライダーとしての経歴上それを召喚出来てもおかしくは無い。

「もしも、本当に九尾の狐なんて召喚されたとしてら、根本を倒すだけでは終わらない可能性がある」

 獣といわれて思い出すのは死徒二十七祖の第一位なのだが、九尾は史実が正しければ人間によって一度は滅ぼされている。
 その為、ガイアの意思ではないとは思うのだが……
 考えれば考えるほどに嫌な予感しかせずこの類の直感は良く当たってしまうのだ。
 杏子は溜息をはくと第八聖典を振るい、死者の群れを吹き飛ばした。

「分かりました。我々がマスターではない状態で聖杯戦争に関わったとなれば色々と厄介なことになるでしょうから、その根源の排除は貴方一人に任せるとしましょう」

 そう告げると次々と黒鍵を投げて死者の群れの殲滅を開始する。

「けれども、この亡霊の群れは我々の協議に反するので見過ごせませんけどね……次にあった時にカレーでも奢っていただきましょうか?」

「相変わらずのカレー好きだな……わかったよ。それで貸し借りはなしだ」

 杏子はそう呟くとさくらたちの向かった方向へと走り出す。
 しかし、その道は巨大な土蜘蛛によって塞がれており通り抜けることは出来ない。
 だが、杏子は止まることなく足を踏み切るとその巨体へと跳躍し、第八聖典を振り下ろした。





 その勢いは止まることなく、土蜘蛛を貫通し反対側の通路へと出る。
 そして、第八聖典に付着した土蜘蛛の体液を振り払うと突如、土蜘蛛がゆっくりとその巨体を道路へと倒れこませる。
 動かなくなったその巨体に杏子は新しい武器である第八聖典試作型の威力を実感した。



「いくら神殺しの槍の劣化コピーとは言え、流石は神を傷付ける程度のことは可能と言われるロンギヌスの槍量産試作型だな……」


 杏子はそう呟くとビルの壁を走り、凜達のいる場所へと急ぐのだった。




感想に対する返信

 聖杯の中にはクリムさんがいない事は先に断言しておきます。
 それから、まどかの呪い浄化は一時的なモノでアレとは関係の関係性については今は各々の推測に任せますwww
 今回出てきた槍のうちの一本はロンギヌスの槍レプリカで神に対して傷をつける程度の能力を持ち、それ以下の存在にもそこそこのダメージを与える事が可能
 もう一本の槍については後々登場します。
 ただ、この槍自体は試作型なので強度自体に問題があります。
 では次回をお楽しみに
 感想、質問お待ちしています



[28082] 動き始める事態
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:b5bd452d
Date: 2011/10/21 01:48
「キリが無い……倒しても倒しても湧き続ける……」

 バルティッシュの雷撃の刃を振りかざし、大型の化物を切り刻んでいくが、切り刻んだところから湧いてきているのだ。
 魔力消費はまだ大したことは無いが、これが長時間に渡れば完全に追い詰められるだろう。
 金色に輝く髪も妖魔の赤黒い血に染まり、乾ききっていた。

「やっぱり、根本を倒さない限りキリがありませんか……」

 今すぐにでも、キャスターのマスターが言っていたライダーを倒しに行きたいが、背後にいるマスターがいる。
 おそらく、私が行くと言えばマスターもついて来るだろう。
 しかし、そんな危険な真似を侵させる事は出来ない。
 そう決めると、まずはこの場所にいる妖魔を殲滅する事を念頭に置き、フェイトは金色に輝く魔方陣を展開する。
 セイバーはザンバーフォームからハーケンフォームへと形態を変更すると、目の前の地獄を見つめる。

「これ以上、貴方達に好き勝手暴れさせて誰かを傷つけるマネはさせない!」

 セイバーは鈍足な土蜘蛛の脚を掻い潜り、ハーケンセイバーという魔法によって作り出された金色の刃で全ての脚を切断していく。
 少しずつではあるが大型の妖魔の発生速度が倒す速度に圧倒され始める。
 だが、その下では多くの人間が魍魎により、動く死体へと変えられ続けていた。



「もう一度言いますが、本来ならば聖杯戦争に埋葬機関が参戦するのは時計台との協定違反なのですが、流石にこのような事態は見過ごせないので、そうここにいる監督役にお伝え下さい……それを否というのであれば、貴方方でこれを沈められるものと判断し、町外堀にて待機し、終了と同時に浄化作業に入る事となりますが?」

 シエルは業務連絡のように背後にいるであろう監督役との連絡役にそう告げた。
 しかし、何も返って来ない。
 シエルはいつでもあの亡者の群れに仕掛けられるように柄だけになっている黒剣に両手に三本ずつ握る。
 極めて異例の事態……イレギュラーすぎる悪霊がライダーに召喚されたとなればこの地だけで収まりきらない可能性がある。
 そうなれば、監督役としても事態の隠蔽が困難になり魔術などの裏の世界の事がばれてしまう事態にもなりかねない。
 難しい判断が求められる中で言峰は『サーヴァントとマスターに危害を加えないという制約の中でならば、悪霊を異端として排除するのを許可する』という結論を出した。

「サーヴァントとマスターに危害を加えない限り、我々は黙認するだそうです」

 シエルにそう告げると同時に監視の気配が消えた。
 その言葉にシエルは即座に聖書のページを刃へと変えて黒剣を亡者の群れへと次々と放っていく。
 黒剣に刺された亡者のあるものは燃え盛る炎に焼かれ、あるものは背後に並んだ亡者と共に串刺しにされていく。
 圧倒的までの実力差の前では数の暴力などさして意味は無かった。
 しかし、それを補うかのように湧き続ける亡者の群れにここに釘付けにされている事には変わりない。

「それにしても、不自然ですね……先程から、霊脈にこの状況を引き起こしているものとは違うもっと別の禍々しい気配があるように感じますが…………さっさと終わらせて後輩にこの町で一番絶品のカレーを奢らせることにしましょう」


背後から迫ってきた鎌鼬を難なく串刺しにすると、黒鍵を構えて走り出した。









「ここなら、ライダーの呼び寄せた奴らの大半が一望できるんじゃない?」

 とあるビルの屋上にコートを着た白銀の髪の少女が立っていた。
 その少女の真下では執行者が死者の群れを屠っている。
 だが、それは彼女の知るルールに違反している事の筈だ。
(教会側はこの聖杯戦争には手を出さない筈だったわよね……それを破っている事が他の組織にバレたら色々と厄介な事になりかねないじゃない……)
 その少女は小さくため息を吐いた。

「もしかしたら、外部組織の介入まで考えないといけなくなるかもね……でも、一番は他の組織にこの事実が伝わる前に執行人を潰す事よね……やりなさい!バーサーカー!」

「いいの?そんな事をしたら教会も黙っていないと思うけど……」

 背後に現れたフードを被った小柄な子供が心配げに呟くが、マスターである銀髪の少女は一言、振り返らずにこう告げる。


「戦いに介入した以上、事故は付き物だと思わない?あなたなら、ここからあの死霊の群れを一掃出来るわよね?」

 その言葉にフードを被った小柄な子供は返答を渋った。
 もしも、そのような事をしたならばマスターに危険が及ぶ可能性が高いからだ。
 何よりも、自身の基本ステータスを鑑みても狂化して対等に渡り合えるか怪しい……
 因果律を捻じ曲げる武器を使えば殺せない事は無いかも知れないが、心臓を潰しただけでは死なない可能性も高い……

「まさか……私に口答えするつもりじゃないでしょうね!アサシンに押されて逃げ延びた癖に!」

 アサシンは基本的に忍んで背後から不意打ちをするのが常套手段となる絡めてを好むサーヴァントだ。
 そのサーヴァントにバーサーカーでありながら力負けした事が二人の信頼関係に揺らぎを引き起こしていた。

「どうなの!バーサーカー!何か言ったらどうなの!」

『いやー!こりゃすごい光景ですね!まさに地獄絵図!こんなこと仕出かしたマスターとサーヴァントのコンビはそうとう頭の行かれた連中なんでしょうね!てか、マスターの頭も怒りでとうとうイカれ……


って、何私を死者の群れの中に投げ込もうとしてるんですか!た、助けて!マスター』

 今にも死者の群れの中へと投げ入れられそうにしているそのお喋りな杖とマスターのコントのような様子に若干、苦笑いを浮かべるとその杖をマスターから奪い取った。


「何のつもりかしら?バーサーカー」

「一応、これが無いと宝具が使えないので流石にそれは困るから……」

 杖を奪い取った小柄な少女は一枚のカードを取り出すとそれをその弓兵の絵が描かれたカードをその杖にかざした。
 すると、そのフードの中が一瞬光る。

「マスターは下がっていて

『――投影、開始』

『----憑依経験、共感完了』

『----工程完了。全投影、待機』」

 その詠唱と共に小柄な人影の背後に多くの名も無き剣が浮かび上がる。
 それらは徐々に数を増やして行き、終いには万を超える量の剣を生み出す。

(本来のこの技を使う“英霊”だとこうはいかないだろうけど、私の“スペック”と本来の“役割”のお蔭かしら)

 その剣群は徐々に角度を変えてビルの間に蠢く死霊の群れと執行人へと照準を合わせていく。

「宝具には至らないけどそれ相応な名剣の数々よ!これだけ撃ち込めば、少しは効果あるでしょう『っ――――停止凍結、全投影連続層写…………!!!』」

 その言葉と共に、全ての剣が一斉にビルの合間に降り注ぐ。
 名も名声も持たない剣の群れではあるのだが、死霊の群れ程度ならこれだけで十分に事が足りる。
 大通りは血と呻き声で別の意味で地獄と変貌した。

『----同調、開始』

 フードを被った小柄な子供は即座にこの英霊が好んで使っていた干将・莫耶を投影し、飛来してきたソレを弾き飛ばした。
 即時、離脱も考えたのだが目の前の執行人にいつの間にか立っていた執行人はそう簡単には逃がして貰えそうにはない。
 “サーヴァント”であるバーサーカーですら感じる相手の覇気に次の一手に何を選ぶことが最善かなかなか決める事が出来ない。

「いや、すいません。てっきり、彼らの同類かと思っちゃって咄嗟に手が出てしまいました」

 笑いながらそう告げる目の前の執行人にバーサーカーのマスターは睨み返す。

「何のつもり?確かに前回は教会の人間がマスターに選ばれるイレギュラーはあった。けど、マスターでもない!しかも、埋葬機関の人間が聖杯戦争に関わる事を許した覚えは無いのだけれど?」

 バーサーカーのマスターの言葉に執行人は答えにくそうに頭を掻いた。
 ここで、キャスターのマスターである杏子に第八聖典を渡しに来たと答えれば事態はややこしくなる。
 暗示をかけるにも相手は恐らく、御三家の一つであるアインツベルンの作製したホムンクルス……
 無理矢理排除すれば時計台との衝突になる可能性も高く、難しい……

「此方が協力を要請したのでね」

 その言葉に全員がビルの内部へと続く扉の方へと視線を向けた。
 先程まで人の気配すらしなかった筈のその場所にはランサーとそのマスターらしき少女、監督役の言峰綺礼が立っていた。

「どういう事か、分かるように説明してくれるかしら?」

「流石にライダーはやり過ぎたという事だよ。魂喰いだけでなく、町一つが消え去りかねないこの事態――我々の情報処理をもってしても、少しばかり厳しいので偶然居合わせた彼女に協力をして貰ったのだよ。彼女は元より君たちより彼らのような手合いとの戦いに慣れた言わばプロだからな」

「そういう事です。私が許されているのは悪霊退治のみでライダーを滅する許可は下りていません」

 その言葉に嘘をついていない以上はここは認めるしかない。
 だが、ライダーの扱いについては話が別だ。

「それなら、ライダーについてはどうするつもりなのかしら?」

 バーサーカーのマスターの問いに言峰は少し考えたフリをするとこう答えた。

「此度のこの行為は看過する訳にはいかないからな。前回の聖杯戦争の際に使われたルールを使おうと思っている。ライダーを倒したマスターに令呪を与えるというな。もちろん、協力して倒したのなら全員に与えるつもりだ」

 言峰はそう言い切ると右腕の令呪をバーサーカーのマスターに見せる。
 それを見たバーサーカーのマスターは少しだけ驚きのような表情を見せた。

「これまでに使われなかった令呪は代々監督役が管理してね……」

「なら、さっきの言葉に嘘はなさそうね……けど、それはいつから適応されるのかしら?まだ、全てのマスターにその追加ルールが伝わってないと思うのだけど?」

「それもそうね……私としても“既に”一画使ってしまっているからその提案は美味しいのだけど、それが問題ね」

 まるで、右腕に刻まれた一角失われている令呪を見せつけているかのようなランサーのマスターにすこしだけバーサーカーのマスターは疑いの目を向けるが、それが何かは今は分からなかった。

「一応、日付が変わり次第のろしを上げて召集をかけるつもりだ。――そうそう、もう一つ言い忘れていた。どのような形であっても、その召集に応じたモノのみがランサーを倒した際に令呪が一画貰える権利を得る事が出来るという事を……」

 それだけ連絡事項を告げると執行人と言峰は何かを話し始める。
 バーサーカーのマスターはランサーのマスターをの方に目を向けるが気が付いた時にはランサー共々消え去っていた。

「バーサーカー……ここは、一端引いて様子を見ましょう」

 そう告げると、バーサーカーのマスターも町の闇の中へと姿を消した。












「なんなんだよ……これ……」

 衛宮士郎の目の前に広がるのは鉄の臭いが広がる地獄だった。
 もしかしたら、そこに転がる肉片だったモノを助けられたかもしれない……

「俺は……十を救う正義の味方にならないといけないのに……」

 覆っていた結界はいつのまにか消えており、士郎は血の中へと座り込んだ。

「クソ……クソ……何か手はあった筈だ!」

「士郎……あまり、自分を責めてはダメだよ。一度、家に帰って休もう?っね?」

「違う!全力を尽くしたとかそんなのは関係ないんだ!


俺は!


俺はみんなを助けなくっちゃいけないんだ!」


 そんな士郎の悲痛な叫びにセイバーは初めて士郎の歪みを理解した。
 自分の持っていた歪みよりも尚も深く、根深い歪み……
 きっと、その歪みは士郎を……マスターを殺す事になるだろう。そんな風に思えてしまうような……

「何か手はあった筈だ!俺がもっとちゃんとしていればこんな事にはならなかった筈だ。こんなザマで正義の味方なんて笑わせるなっ!」

 誰かを救わなければならないという強迫観念に近い思いに支配された士郎にセイバーの言葉は届かない。
 正義の味方……セイバーはどんなに最善を尽くした所で悲しい結末を迎える事もある事を知っているからこそ、その思いを否定し、士郎を正さねばならない。
 しかし、それは恐らくこの主従関係を壊すキッカケにもなりかねない。


「士郎……まだ、ライダーは倒れていない。だから、こんな所で泣いてる暇があったらする事があると思うの。それに、その痛みは一人で背負う必要はないから……私も救えなかったのは同じだから」

 それがセイバーが今、士郎にかけられる最大の言葉だった。
 全てを否定すれば昔の自分のように壊れてしまうかもしれない……
 そんな思いがセイバーの思いを食い止めていた。
 そう告げると、セイバーはどこか心配げな眼差しで士郎に手を差し伸べるのだった。




第八聖典試作型の設定を少し弄りましたので使用時に説明します。
概念武装としては特殊なモノに変更しました。
概念武装としての考えが温いと判断しましたのでおいおい、説明を入れさせていただきます。
神を殺した槍という設定ではないのであしからず。


次回の予告みたいなのをここで少々


眼を誤魔化すための策としてランサーのマスターが登場……
そして、セイバーと士郎の間に少しすれ違いが生まれました。
大きな事態の動きとしては第四次の狐狩りが今回も行われるという事

以前として、動きを見せないアサシン
突如、現れたランサーのマスター……
そして、ライダーVSまどか、さくらの決着は着くのか?

感想とか質問とか頂けると幸いです。



[28082] 宝具破壊、そして……
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:711eb89e
Date: 2011/10/30 00:06
「風よ。彼の者を捕らえよ」

 キャスターはその言葉と共に風のカードを取り出す。
 カードから噴き出した戒めの風は乱紅蓮を包み込み、見えない枷として乱紅蓮を拘束していく。
 しかし、元より風対風の戦い……そのような拘束など、咆哮波の衝撃波で容易く振り解かれてしまう。
 さくらの宝具は多彩な能力を誇る反面、同時に発動させられる数には限りがある。
 現状で八枚にまで絞り込んで現界させてはいるものの、そこまでの誘導経路を計算して更にカードを使う順番を練っているのだった。

(元はケロちゃんみたいな霊獣だとすると、姿を消されたら厄介だし……でも、そろそろ勝負に出ないとまどかさんだけでライダーと戦う事になる)

 アーチャー陣営の勝負が着こうとしている事を直観的に感じ取ると、キャスターは風のカードを戻して一気に二枚のカードを取り出した。

「クロウの創りしカードよ。我が『鍵』に力を貸せ。カードに宿りし魔力をこの『鍵』に移し 我に力を!ウォーティ!水よ。戒めの鎖となれ!」
 
 その言葉と共に大気中に漂っていた水分がまるで意思を持ったかのように乱紅蓮へとまとわりついて、徐々にその身体を包み込み始めた。
 しかし、水一枚の力では風同様に乱紅蓮を押さえつける事は難しい。
 上位の霊獣である事もあるのか、暴れまわり何度も水を払いのけながらさくらの方へと突撃してくる。
 そんな霊獣に対してさくらは冷静にもう一枚取り出しておいたカードをリリースした。

「残念だけど、これであなたの負けだよ」

 その言葉と共に、カードから白い光と轟音を伴いながら飛び出した雷がまるで獣のように乱紅蓮へと喰らい付きおその巨体に襲い掛かる。
 元来のカードの性質としても獰猛な性質だが、それが水と合わさり乱紅蓮を貫いたのだ。
 霊獣としての格ならばこの程度の攻撃では行動に支障は出ないのだが、水による電流強化という相乗効果もあり、その大きな身体を初めて地面に横たえた。
 しかし、まだその眼はさくらから離れておらず、いまだに唸り声を上げ続ける。

(さくら! そっちはどうなってる! 私もすぐに到着する!)

 脳内へと直接響いてくるマスターである杏子の声にさくらは小さく頷くと目の前の戦いを早く終結させるために動き出した。
 しかし、その直後何か嫌な予感めいたものがさくらの中を走り抜ける。
 この霊獣を倒してしまってはならないという恐怖にも似た人間の本質を揺さぶる何か……
 その何かが何なのかは分からないが、それがさくらの手を鈍らせるのには十分過ぎるほどのモノだった。




 さくらが気が付いた時には身体が宙を舞っていた。
 その瞳から見えるのは逆さに映った上手く働かない足を震わせながら立ち上がる乱紅蓮の様子……
 その光景に初めてさくらは咆哮波を直撃したことを悟った。


「なら!えっ!?」


 吹き飛ばされた際に利用しようとしていたカードは吹き飛ばされて辺りに散らばっていた。
 つまり、手元には今すぐ使えるカードは存在しない……
 そして、目の前に迫るのは乱紅蓮の強靭な爪であり、その爪に切り裂かれたらいくら英霊と言えど無事では済まない。
 さくらは散らばってしまったカードを頭から一度、消し去ると新たに一枚のカードを取り出してそれをリリースする。
 剣のカード――それを用いてその爪の攻撃を何とか防ぐ中で、さくらは一つの可能性を思い立った。


 乱紅蓮を破壊せずに無力化する……


 可能性では僅かだが、もしも成功すれば大幅にライダーの宝具ともいえる乱紅蓮の力を削ぐ事が出来る。
 しかし、カードの精質的に可能かどうかでは怪しいのだが……
 そんな迷いの中で覚悟を決めると散らばってしまった新たに一枚のカードを現界させる。
 乱紅蓮は新たなカードを使おうとしている事に気が付くと、さくらに向けて吠えた。







 一か八か……けれども、その賭けはどうやらさくらの勝ちで終わったらしい。
 乱紅蓮が吠えたにもかかわらず、咆哮はさくらを襲う事は無かった。






「あなたの声は静で奪わせて貰ったの。本来は他人のきれいな声を奪うものだけど一か八かあなたを無力化して倒さないままライダーを倒す為に」

 そう呟きながら、落ちている一枚のカードを手に取った。
 凍結――ありとあらゆるものを凍らせてしまう危険なカード
 さくらが何をしようとしているのか野生の勘で気が付いた時には全てが既に遅かった。
 乱紅蓮の脚はゆっくりとだが、着実に凍り付いていく。逃げ出そうにも最大の武器である声と肺活量を奪われている為、身動きのできない巨体では手も足も出ない。
 そして、抵抗虚しく乱紅蓮は氷塊の中に閉じ込められた哀れなる獣へと化してしまうのだった。






「さくら……それ、どうしたの?」

 それが凛の口から洩れたその光景を見たときに漏れた言葉だった。
 キャスターとは本来は騙し討ちや搦め手を主体とする戦い方が基本だが、さくらの能力は一度共に戦った時に既に十分に戦闘も行えると理解したつもりになっていた。
 だが、目の前の光景はその予想を遙かに上回っているだけにそれ以上の言葉は出て来なかった。

「無事でよかったよ。 それより、ライダーは?」

 さくらの言葉に現実に戻ってきた凛はライダーは先程いた場所に目を向けるが既に座っていなかった。


「あら?どこ見ているのかしら?」

 ライダーの言葉に慌てて氷像の方へと顔を向けるとそこには刀を携えて今にも自らの宝具である筈の乱紅蓮に止めを刺そうとするライダーの姿があった。
 自身の宝具を破壊しようとする意味不明な行動に凛の中にも先程のさくらと同様に嫌な予感が走る。
 そうまでして、この時点で宝具を破壊するという事はあれが何かの枷になっているからだ。
 それも、この乱紅蓮以上の宝具を使用する為の……
 凛は慌ててそれを止めようとするが、体が動かない。
 それはキャスターとまどかも同様のようだった。

「嘘! なんで!?」

「身体が動かない……どうして!」

 サーヴァントとして石化の魔眼にかかったとしてもそれは行動に支障が起こる程度である。
 だが、今のこの現状は全く身体を動かす事が出来ないのだ。
 魔術回路に魔力を流して抵抗するが、それでも全く動かないだけに何の手の出しようもなかった。



「今から、貴方達に面白いモノを見せてあげる。私の宝具である殺生石の真の力を……」



 その言葉と共に、その氷像へと刀を振り下ろす。
 それと同時に乱紅蓮は完全に消滅し、乱紅蓮が封印されていたであろう刀も朽ちて消えてしまった。
 だが、それと同時にライダーの手には七支刀が現れ、その刀が静かに脈動を始める。
 その脈動は禍々しく、サーヴァントではない凛の眼からしてもあれが相当にヤバいモノである事はすぐに理解できるほどのモノだった。
 ライダーはそんな凛の動揺に気が付いたのか楽しげに笑うと一言、こう呟いた。



「貴方達が九尾の狐と呼ぶ玉藻前が従えたと言われる最大の妖怪白面金毛九尾の狐の正体が何だか知っているかしら?」


 その意味深なライダーの言葉に相手の出方を確かめながら静かに凛は首を横に振った。
 ライダーはそんな凛の様子に少しだけ笑うと一言だけ凛に告げる。


「貴方達がガイアと呼ぶモノの意思よ。それが私の真なる宝具……それを前にして貴方達は太刀打ちできるのかしら?」


 ガイアの意思――それはこの地球そのものの意思に反抗する事を意味している。
 そんな大きな力の前では人間など脆弱なモノであり、あの死徒二十七祖第一位のガイアの怪物は人類に対して最強の一つに数えられる。
 もしも、それほどのクラスのモノを使われたとなれば聖杯戦争だけの括りでは収まらない……
 凛はここからどのような手を打つことが最善か考えるがそんなものがすぐに浮かぶ筈が無かった。


「おいおい、誰か忘れやしちゃいないか? ライダー?」


 その言葉と共に、上空から赤い髪を靡かせてライダーの心臓めがけて突きを放った。
 ライダーは咄嗟に七支刀でその突きを払うがその際に、槍の先端が頬に触れて煙を上げて小さな傷を作り上げた。


「やっぱり、あなたが私にとっては一番の強敵という所かしら? その槍、相当私にとっては天敵そうね……まだ完全にあの子が覚醒していない以上はここは一旦、引く事にするわ」

 言葉では余裕ぶるが、全く再生する気配のない頬の傷に杏子の持つ槍を睨み付けると即座に退散する。
 杏子はライダーを一度は追撃しようとするが、現状で一人で挑むのは危険と判断し、凛達を拘束していた影に刺さっていた針を引き抜いた。

「わりぃ……それより、あいつ前に会った時より禍々しさが増してたが何かあっ! あれは教会からの狼煙か?」








 こうして、二日目の戦いが終わりを迎えた。
 教会はライダーの暴走から狼煙でマスターたちに召集をかける。
 そして、この戦争には直接参加しない退魔組織や埋葬機関も状況次第では即座に参戦できるように外延部に部隊を展開させる動きまで見せ始める。
 第六次聖杯戦争はこれまでのどの聖杯戦争以上に重大かつ緊急の大きな局面を迎えようとしていた。







あとがき

第八聖典ロンギヌスレプリカ

概念『死の確定』

 「確かに肉体の死を確認した」という事から『倫理的な神殺し』となった。また、神の子の死を確認した聖遺物故に、神を殺す魔槍となっている。
 聖遺物としての属性から多くの不死者の『既に死んでいるモノを殺せない』という倫理的不死性すら破壊しかねない教会の最終兵器とも言える。
 しかし、あくまで杏子の振るうのはレプリカであり、『既に死んだものを傷つける』事に踏み止まっている。
 もしも、本当のロンギヌスであったのならば、傷付いた頬からその概念が広がり、ライダーは窮地に立たされていた事だろう。

一応、キリがいい二日目で切った為に少しばかり短くなりました。
ただ、さくらの戦いにまだ少し不満があるので書き足したりすることがあるかも知れません。この辺りは精進がやはり必要ですね……
因みに、アサシンに関してですが『魔力喰い』なので英霊のような霊体の存在に対しては天敵という意味で押し負けただけであって相性が悪かったというのが一番の原因です。
それから、士郎に関してはワカメが三日目で色々となるので少しばかり不味い状況にwww
では、感想お待ちしております。



[28082] 連合と襲撃
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:711eb89e
Date: 2011/11/11 00:17
教会 未明

 薄暗い教会の中で言峰は静かに溜息を吐いた。
 狼煙を合図にマスターに召集をかけたのはいいが、直接出向いて来たのはランサーのマスターとセイバーのマスターだけである。
 当然と言えば当然なのだが、いまだに表へと出て来ないアサシンのマスターを突き止めるチャンスだっただけに言峰としては少しばかり面白くない結果だった。

「やれやれ、直接出向いて来たのは二人だけか……まぁ、使い魔を入れればライダーのマスターを除いてここに参上しているのだからよしとするか」

 そう呟くと、言峰は単刀直入に話を切り出そうとする。
 しかし、それを一匹の使い魔が遮った。

「先に聞いておきたいんだが、あんたはライダーのマスターを知っているんじゃないのかい?」

 キャスターのマスターである杏子の放った使い魔の声に言峰は何も知らないと首を横に一度だけ振る。
 だが、杏子はそれを信用はしない。いや、余計に信用できなくなったというのが正しいだろう。
 確かにマスターの教会への参加申請は義務付けられていないが、あの間桐慎二は確実にマスターであり、あの手の輩の行動を教会が追跡していないのは怪しい。
 だが、これ以上問い詰めても言峰はのらりくらりと躱すだけだと判断すると、杏子はそれ以上は何も尋ねる事はしなかった。

「君らには説法を聞くような習慣はないだろうから単刀直入に言う。現在、第五次聖杯戦争は存続の危機に瀕している。既にこの冬木の外縁部には退魔組織、教会の舞台がこちらの合図を今か今かと待ち受けている。もしも、この町から災疫が一滴でも外に零れ落ちればそれを理由にこの町へと侵入を開始するだろう」

「御託はいい。結論だけを言ってくれないかしら?」

 ランサーのマスターらしき顔を隠して少女の言葉に言峰は小さく咳払いする。

「昨夜の一件は既に多くの組織に露見しているが、今もこうして平穏を保っているのは規定があるからに他ならない。よって、これを聖杯戦争存続の危機という非常時と判断し、監督権限を行使、暫定的に聖杯戦争のルールを改変する事とする」

「ルールの変更?どんなルールにするのかしら?」

「何、簡単だ」

 そう告げると、言峰はカソックの右袖を捲り上げ、右腕の肌を露わにする。
 そこにあったのは大量の令呪だった。




(やれやれ、厄介な事になったな)

 それがその令呪を見た際にアサシンのマスターが感じた純粋な考えだった。
 この聖杯戦争において最も信用ならない人物が監督役である以上、余剰令呪の存在は絶対的な戦力差になりかねないからだ。
 その上、言峰は元代行者であり、戦闘能力でも並の人間では太刀打ちできない。

(ここは従うフリが一番正しいのは解っているんだが、引っかかる事が多すぎる……)

 ここまで姿を現さなかったランサーのマスターの登場……
 しかし、それが事前に入手していたマスター情報とは明らかに違う事も気になっていた。
 バゼット・フラガ・マクレミッツ――
 情報が正しければ神代の宝具を継承する家系であり、サーヴァントと共に戦う武闘派と前情報から考えており、その宝具についての対策も敷いていた。
 読みが外れたと考えれば全てに納得がいくのは確かだが、言峰という存在がそれを否定してしまう。
 バゼットと言峰が旧知の中であり、背後から襲って令呪を奪う可能性もある。
 つまり、ここにいるランサーのマスターは替え玉……
 そう考える考え方も十分にあり得てしまうからだ。

(手っ取り早く、バゼットの遺体……証拠隠滅されている可能性も――いや、魔術師が居を構えるなら人通りが少ない場所……探してみる価値はある)

 アサシンのマスターの絶対的な強みはその手の広さだ。
 彼の創る人形は完全に人間を再現する事は出来ないが、それぞれに特化したものであるなら問題なく作る事が可能……戦闘用に特化していないなら別にさしたる機能も必要ない。

(ネズミでも放ってみるか……)

 アサシンのマスターはそう決めると目を閉じてもう一人のマスター代理へと視界を交代した。



「これは過去の聖杯戦争を通じて回収され、今回の監督役の私に託されたモノだ。決着を待たずしてサーヴァントを喪失し、脱落したマスターの遺産――彼らが使い残した令呪だ。私はこの余剰令呪ひとつひとつをに私個人の判断んで任意の相手に譲渡する権限が与えられている。ここまで言えば、分かると思うがライダーを倒したマスターに令呪を一画与える」

「へぇ?なんだか、面白いことしているわね?」

 その言葉にその場にいた全員が教会の扉の方へと振り返る。
 黒い長髪に着物を着た女性……今回の標的たるライダーそのものだった。

「おやおや?悔い改めに来たのか?」

「何を言っているのか理解できないわね。わざわざ、宣戦布告しようとしてるみたいだからわざわざ来てあげたの――それに、貴方が隔離したマスターも返してもらわないとならないからね」

 ライダーの言葉にその場にいた言峰以外は耳を疑った。
 杏子の質問に知らないと答えていながら、裏でライダーのマスターを確保していたのだ。
 その不信感に対して言峰は溜息を吐くとこう説明した。

「教会としては助けを求めるマスターを保護するのは義務なのでね」

「けど、彼には冬木市で一番霊格が高い場所に行って貰わないといけないから返してもらえないかしら?」

 そう告げるとどこからか七支刀を取り出して言峰へと向ける。
 七支刀から漏れ出す黒い気にそれが相当な魔剣であると判断すると、自らの精神の影響も考えてマスター達は次々と使い魔との感覚供給を絶ち始める。
 しかし、生身の肉体で来ているセイバーのマスターである士郎とランサーのマスターは逃げる事が出来ない。


 絶体絶命の状況、武器もなく、目の前の何かわからないものに感じる恐怖に士郎は動く事は出来ない。
 そんな中で、金色に輝く一閃が士郎とライダーの間に割って入る。

「無事ですか?マスター!」

 セイバーはライダーを一睨みすると辺りを見回して逃走手段を考えながら、相手の攻撃を警戒する。
 昨夜の事も考えれば、どう考えてもライダーとの一騎打ちは危険であり、何か逆転の策を用意していない状況ではぶつかりたくないというのが本心だった。

「あらあら? さすがにサーヴァント二人を同時に相手するのは厳しいわね……なら、こうしましょうか?」

 そう呟くとライダーはにこやかに笑い指を弾いた。
 すると、教会内部から何やら禍々しい気配が漂い始めた。




『綺礼、どうするの? 貴方を守りながらここを脱出するのは不審に思われる気がするのだけれど?』

『ランサーのマスターは既に令呪が一画無いが確かにそれだけでは説得力が足りないな……』

 綺礼の返答にほむらは溜息を吐くと霊体化していたランサーを実体化させる。

「ランサー、状況は分かっているわね。ここはセイバーと協力してこの場を脱出するわよ」

「わかりました。マスター……」

 そう告げると、ライダーに対して杖を向ける。
 それに対してライダーは何かを思いついた笑みを浮かべるのだった。

「なのは……」

「ここはマスターも協力しようっていってるから襲ったりはしないよ。フェイトちゃん。それに、ライダーが一筋縄ではいかないよ?」

「話し合いは終わったかしら?」

 そう呟くと七支刀を振り下ろそうとする。
 セイバーもそれに応戦して斬りかかろうとするが、背後に現れた気配に即座に士郎の守りに入る。
 それは、ランサーも同様だった。

「これが、ライダーの言っていた力って奴か……本当に素晴らしいじゃないか!」

 笑いながら現れたのは昨晩、槍使いに襲われていた慎二だった。
 その光景に士郎は思わず言葉を失ってしまう。
 目の前にいるのは間桐慎二……他ならない士郎の親友なのだ。

「慎二……お前何してるんだよ!」

「あぁ、衛宮か……お前も僕の事を影で見下していたんだな……魔術も使えない出来損ないってな!」

 慎二がそう叫ぶと同時に黒い影が一気に士郎へと襲い掛かる。
 ライダーへの牽制をしているセイバーは士郎をかばう事が出来ず、士郎も目の前の光景に動く事は出来ない。
 そんな中で言峰はやれやれと小さくため息を吐くと即座に間桐慎二の懐へと入り、打撃を撃ち込んだ。


「残念だったな。ライダー……貴様の願いはどうやら叶わなかったらしい」

 八極拳の中で『寸勁』と呼ばれる絶技を本気で喰らったとあればただの人間如きでは即死は避けられない。
 言峰としても内臓を潰す感覚を感じている為、間桐慎二が死んだことを疑う余地は無かった。

「あら?本当にあなたはソレを殺したのかしら?既に人の道を外れたソレをそう簡単に殺せると思って?」

 その言葉に言峰は振り返るとそこにはゆっくりと立ち上がろうとする間桐慎二の姿があった。
 その光景はその場にいる誰もが信じられない光景だ。
 特に前聖杯戦争の結末を知っているほむらからすればあの技の威力を知っており、それに耐えられる人間がいるなど信じられない。
 ソウルジェムが存在しており、間桐慎二が魔法少女と言うのであれば既にあのまどかの取り巻きの一人(名前は思い出せないけど)がいたから納得がいくがこの世界にそのようなモノが存在する筈が無い。
 それに、復活という行為には何らかの代償を払わなければならない。
 つまり、何か仕掛けがあるという事だ。あの間桐慎二の復活には……


「貴方の願いは間桐慎二という事かしら?それとも、彼に埋め込まれている石かしら?」


「つまり、彼を返すから見逃せと言ってるのかしら?それとも、ここで彼を消滅させるという手もあるのだけれど?いくら、再生能力があろうが、対城宝具に耐えられるかしら?」

 対城宝具が使われれば肉体消滅は避けられない。
 そうなれば再生できない可能性が高い……ランサーは僅かに動揺を現した。

「つまり、そうされたら不味いのね?貴方にはここでリタイアして貰う事にしましょうか……ランサー―――――!!」

『待て……ここは彼らに一度引き渡す方が面白いとは思わないかね?』
『それよりも、ここで思惑を潰しておく方が得策と思うのだけれど……』
『そうか……なら、ここで君への魔力供給を止めるとしようか』

 その念話にほむらは小さく言峰に対して敵意を露わにする。
 現状で魔力供給を止められれば確実に聖杯の器を手に入れる事は出来ない。
 本心ではここは定石を踏んで間桐慎二を消して思惑を消しておくのが筋だとは分かっているが、苦渋の決断で言峰の言葉を飲むしかなかった。

『なんのつもり、綺礼……何を考えての事か説明して貰えないかしら?』
『何、ここで殺すより自らの手で殺めさせる状況になった方が面白いと思わないかな?衛宮切継の息子である衛宮士郎が友人と街の人々を天秤にかけて苦渋の決断をする。私は実がじっくりと熟れてから収穫したいのでね』
『そう……本当にあなたって人間はいけ好かないわね』



「おい、慎二をどうするつもりだ!」

 衛宮士郎の言葉をほむらは軽く無視するとライダーにこう告げた。

「さっさと連れて行きなさい。それで、話は終わりでしょう? 本当に消されたいのなら話は別だけれど」

 ほむらの言葉にライダーは忌々しそうに睨み付けて来る。
 だが、そんな視線になど興味が無いほむらはそれを受け流しなのはにいつでも合図があれば狙い撃つ事が出来るように待機させる。

「確かに、今ここで無茶をする必要はないわね……昨夜、宝具を破壊されてしまって今の私は無手同然なのだから……私にここまで苦労させたのだから、それなりの働きはして貰うわよ?マスター」

 ライダーはそう告げると慎二を連れてどこかへと歩いて行ってしまう。
 その後ろ姿を呆然と士郎が眺めている中でいつの間にか、ランサーとそのマスターは姿を消しており、教会には言峰とセイバー、マスターの三人になっていた。

「大丈夫?マスター……」

 だが、その言葉が士郎の耳に届いていない事はセイバーが一番理解していた。
 衛宮士郎の闇――十全てを救わなければならないといけないという強迫観念……
 何が原因かはセイバーには分からないが、一つだけ解る事があるとすればその先に待ち受けるのは絶望しかないという事だけだ。
 常に十を救えることなど出来はしない。
 九ですら難しい事もある。
 どんなに頑張っても、一しか助けられない事も起こり得る。
 だからこそ、本来ならば失ったものよりも守れたものに目を向けなければならないのだ。
 それが、フェイトがこれまでの経験から学んだ事だった。

「慎二の目を覚まさせないと……」

 フェイトはその呟きの先に待ち受ける結末を想像し胸が痛んだ。
 背後でその言葉にどこか満足げな様子の言峰に気が付く事なく……



[28082] 災いと策謀
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:711eb89e
Date: 2011/12/20 01:21
「マスター、提案があるのだけどいい?」

 アインツベルンの森、深い霧の中の城の一室でバーサーカーがイリヤにそう告げる。
 その手には一本の剣を持っており、それをイリアへと手渡すと真剣な顔付きでそれをイリアの手の中へと預けた。

「バーサーカー?この剣は何かしら?」

 身長の半分程もある剣を渡された所でバーサーカーの様に振り回すことは出来ない。
 戦略的に考えてもマスターである自身の動きを阻害しかねない逸品にイリアはバーサーカーの考えを疑ってしまう。
 そんなマスターに対してバーサーカーは七枚のカードの内、一枚を除くすべてのカードをイリアに預けるのだった。

「ちょっと、!バーサーカー!あなた、どういうつもり?これは貴方の宝具でしょ!なのに、なんで私に……」
「多分、私がライダーと戦っている間、マスターが無防備になる。特に私がこのカードを最大限で使うとなると、マスターからの魔力供給も必要になるからマスター自体の魔力量もどうなるか分からない。それに、そのカードは私が持っているよりもマスターが持っている方が安全だから」
「安全って!ちゃんと説明しなさいよ!バーサーカー!」

 すると、少し悩んだがバーサーカーは剣を指差してこう告げた。

「アスカロン――投影だからランクは落ちていても大抵の害悪や悪意かマスターを守ってくれる筈よ。そこでなら、私の宝具も安全……それに、もしも私が倒されても遠坂邸からアレを持ち出せる事が出来ればマスターにもまだ勝機はある」

 つまり、それは敗北する可能性も考えてのバーサーカーなりの答えだった。
 その答えに対して、イリアはそれを許さないと言いかけるがあのライダーは他のサーヴァントとは明らかに何かが違う。
 英霊では無く悪霊……それも、強力な悪霊を従える事が出来るレベルの化物なのだ。
 この聖杯戦争を成立させるにはライダーを倒さねばならない状況であるだけに勝たねばならない。
 聖杯を勝ち取る為には自身が倒れた先すらも何かしら策を練っておかなければならない……そんな不穏な気配がこの聖杯戦争内を支配していた。
 そんな中で、バーサーカーが考え出したのがイリヤへの宝具の譲渡である。
 だが、今はこの策がどのような方向へと聖杯戦争の流れを導くかはバーサーカー本人すらも気が付いていなかった。

「何か秘策はあるんでしょうね?あのライダーを倒せるだけの秘策が?」
「当然じゃない。私はマスターのサ―ヴァンとなんだから!」

 そう笑顔で答えると、バーサーカーはマスターであるイリアと共に城を出発し、ライダーの向かうであろう霊格の高い土地……柳洞寺を目指すのだった。









「やはり、ライダーが動いたか……僕としてはそっちは他のマスタに任せるのもアリだと思ってるんですけどね」

 藤乃の報告を聞くと、アサシンのマスターは急ごしらえで作製した人形の出来を確認しながらアサシンの方へと目を向ける。
 既に、マスターとしての権限は浅上藤乃に譲渡しており、今のアサシンとの関係は魔力ラインの繋がりしかない。
 だが、それで問題はなかった。
 いや、むしろソレの方が好都合とも言える。
 第四次の衛宮切継がとったように、マスターの誤認を起こす事が出来れば、取れる選択肢も増えるからだ。
 それに加えて、マスターでないのであれば、他の事に時間を割く事が出来る。
 あのランサーのマスター……恐らくこの戦いで何らかのアクションを取る筈のあの不可解なチームに対して何らかの牽制を行う必要もあるだけにそれは非常に重要でもあった。
 他にも、このライダーとの戦いでは宝具の開帳をする連中も現れると予想されるだけにこの局面での選択が今後の状況を左右するのは誰の目から見ても明らかだ。

「でも、私なんかがマスターなんて勤まるのでしょうか?」

 魔眼殺しの眼鏡をかけた藤乃は一画だけ欠けた右手の令呪に少し不安な表情を浮かべる。
 それに対してアサシンのマスターは確認し終えたある人形の入った鞄を排水溝の近くへと運ぶとそれをひっくり返しながら振り向かずに藤乃の問いに対してこう答えた。

「それは君しだいだと思うけど? それに、その魔眼殺しだって仮初でしかないんだ。君の魔眼は強力で魔眼殺しがいつまでもつか判らないからね……君自身が自分と見つめ合って自分なりの方法を探し出すというのが物事を解決する一番の近道という事さ」

「でも……それと、私がこの戦争に参加する理由に何の関係が……?」

「ないよ」

 アサシンのマスターは藤乃の問いにそう断言する
 そして、藤乃が何か言うよりも早くこう続けた

「確かに君が参加する理由はない。でも、君が自分の力と向き合うキッカケにはなると思うよ? 似たモノが集まるこの戦いを経験すれば、色々な出会いと別れがあるだろうし、君の力が誰かを救う事もあるだろう」

「私の力が誰かの為になる……?」

「まぁ、全ては君次第だよ。僕が君に何を言った所で君が答えを見つけない事には意味がない。僕が君に出来るのは君が答えを見つけられるように少しばかりの後押しする事だけだからね。まぁ、燈子さんの手前、君を殺させるようなマネはしないさ……あの人は怖いから」

 そう告げると近くに山積みにされていたブラウン管のスイッチが突然、オンになり、白黒の砂嵐が現れる。
 その映像は徐々に鮮明になり、気が付くと何かしらの映像に切り替わっていた。
 藤乃はそのブラウン管が映し出しているのは白黒の世界ではあるがパイプの中らしい事に気が付いた。
 パイプの中を高速で移動し、何かを探索している様子のソレ……
 それこそが、人形師の用意した手札の一枚だった。

「感度は良好……まぁ、色彩が欲しい所だけどこれだけの数を創るとなると妥協は必要かな? 燈子さんなら完璧な仕事をするんだろうけど、僕程度ではこの辺りが関の山だからね」

「あの、これって排水溝ですよね? 何の視野なんですか?」

 藤乃がアサシンのマスターに問いかけるとアサシンのマスターは頬を吊り上げながらこう答えた

「鼠の視界だよ。今は何の意味もないかもしれないが後々に意味が出て来る。僕らがしているのは戦争だから常に敵の先の先を読まなければならないからね……僕は一眠りする事にするよ……何か動きが在ったら起こしてくれないか?」

 それだけ、藤乃に告げるとアサシンのマスターはソファーに寝転がり、すぐに死んだように眠りについてしまう。
 残された藤乃はまだ完全に聖杯戦争というモノを理解していないだけに何をどうしていいのか分からず、呆然と立ち尽くしてしまうのだった。






「おい、ここで何するつもりなんだよ!」

 慎二が苛立ち交じりにライダーに大声でそう叫んだ。
 だが、ライダーは何一つ答える事はせず、どこからかあらわれた間桐臓顕に対して愉しげに笑いかけた。

「これで全て揃ったわ。状況も、材料も……それで、マスター?そっちも準備は完了しているのかしら?」

「この程度造作もないわ。まさか、こんな出来損ないにもそんなたいそうな役回りが出来るとわな……」

 臓顕とライダーのやり取りに状況が理解出来ない慎二はその場から逃げ出そうとする。
 だが、その時突然、胸に激痛が走った。
 心臓を抉られるような痛みは心臓に直接響いており、すぐにそれがあの石によるものだと気が付く。
 何かしらのオーラを発しながら、自身を侵食していくソレに慎二は泣きならライダーに縋り付いた。

「な、なんだよこれ! 聞いてないぞ、ライダー! どういうことだ! 説明しろ!」

 泣き叫んで助けを願う慎二を鼻で一蹴すると寺の敷地内に描かれた魔方陣へと慎二を引き摺りながら進んでいく。
 そして、その中心近くに慎二を投げ捨てるとソレを見下しながら最後の総仕上げに絶望に染め上げるために慎二に残酷な真実を突きつけた。

「簡単な話じゃない……貴方はこれから私が使う宝具を召喚する上での贄よ?貴方のお蔭でこの土地に多くの穢れを集める事が出来たの……だから、道具の最期の役回りを果たして貰おうと思って……アンタみたいなゴミのようなマスターでも少しは役に立ってくれた事だけは礼を言わせて貰おうかしら?」

「おい、何言ってるんだよ……ライダー!!」

「聞こえなかった? アンタみたいなゴミクズ以下の雑魚に私がペコペコ従うと思っていたのかしら? そうだとするなら本当に哀れね」

 慎二はライダーの言葉に何も言い返す事が出来なかった。
 そのかわりに、心臓の脈動と石の放つ黒い脈動がシンクロし、ゆっくりと慎二の中で蠢き始める。
 その様子に全ての準備が整った事を感じ取ったライダーは臓顕が用意した陣の中心に七支刀を突き刺した。


 すると、魔方陣を中心に辺りに黒い渦が巻き始め、慎二とライダーを包み込むかのようにゆっくりと繭のような形を取り始める。

「ほぉ、これは随分と禍々しい気を集めたもんじゃ……私の蟲達がしきりに蠢いておるわ……」

 その気配から宝具がどういったモノであるのかを直感で理解した臓顕はそれが生まれる時が来るのを楽しみにするように笑みを浮かべる。
 そして、その禍々しい気配に導かれて現れた魑魅魍魎達が山を下って行く姿を眺めながらふと、背後にある違和感を覚えて振り返った。

「おや、気のせいかな?この方角だと大聖杯の安置してある地下大空洞の辺りだと思うのじゃが……」

 強烈な印象を間桐臓顕に与えた何かはまるで存在しないかのように気配を消しており、それ以上はおかしな気配を感じる事は無かった。

「やはり、聖杯戦争というシステムそのものが第三次のアインツベルンのルール違反で既に崩壊していたという考えには間違えはなさそうじゃな……でなければ、桜もこのような悪霊をライダーとして招きよせる筈もなかったかのう」

 全てが自分の計画通りに進んでいる事を間桐臓顕は疑っていなかった。
 しかし、それこそが間桐臓顕の大きな見逃しであり、今後の聖杯戦争に大きな影響をもたらす事になるとはこの時、だれも予想していない……







地下大空洞

 大聖杯の中で蠢いていた微かな残滓が急速に形を創り始めていた。
 地脈の穢れを吸い寄せて、力を増して行くと同時に聖杯の中にある情報からもっとも強いであろう姿に変貌しようとしているのだ。
 すでに、この聖杯戦争の中で意思も無く彷徨い続けていたソレは確実に成長し、意思を持つ。

 曰く、世界を数日で滅ぼす事の出来る魔女

 曰く、災害ともいえる魔女の宴

 曰く、世界の悪意を集め浄化するガイアの意思

 いまだに形は定まらない中で、つい先日からその姿はゆっくりと少女の姿へと変異を始めている。


 ソレはどこかで見た事があるような少女……


 しかし、ソレはいまだに目覚める事は無い。


 今はまだ、深い眠りの中で目覚めの時を待っているのだった。
 しかし、その事には誰も気が付かない……
 いや、気が付いた人間はいる。
 だが、一人はそれの崩壊を見届ける事なくこの世を去っており、もはや誰にもコレを止める事は出来ない。



[28082] 侵入
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:711eb89e
Date: 2012/01/01 15:52
「やれやれ……第四次のサーヴァントも化物だったけど、今回のライダーも負けず劣らずの人外ね」

 ほむらはそう呟きながら長い石段をゆっくりと登っていた。
 第一の霊格を持つ地、円蔵山……
 ライダーの話が真実であるなら、この地で何かを起こそうとしている筈だ。
 ただ、問題はこの地の霊格が高い事で周囲に結界が張り巡らされており、この石段以外では柳洞寺への侵入が不可能な事だろう。
 長い石段を登り切り、門へと辿り着いたほむらは門へと手をかけようとする。
 だが、即座に背後へと跳び、空間から一丁の銃を取り出した。

「そう簡単には通しては貰えなさそうね」

 門の向こう側から現れた亡者の数々……
 一体一体では大した力を持たないが、集団になれば足止めにはもってこいな存在となる。
 既に死んだ身体であるが故に完全に破壊するまで動き続ける兵隊……
 いくら無限とも言える攻撃手段を持つほむらと言えども、完全に破壊する手立てをこの場で使えないだけに最悪の相性となってしまう。




――数十分前


「あの……ライダーさんはどうするつもりですか?」

 あの悪霊を見逃す事だけは出来ないとなのははほむらに対して真剣な眼差しでそう尋ねた。
 霊脈を利用するサーヴァント……
 これだけの負のエネルギーを集めれば、何らかの影響を大聖杯に与える可能性もある。
 それは言峰にとってはうれしい誤算なのだが、ほむらにとっては訳が違う。
 まどかを魔法少女の運命から救う……それを実現する為に聖杯の力に賭けているだけにこれ以上、“汚染”されてしまう事だけは避けねばならなかった。

「早急に排除する。けど、奴らが陣を構えている柳洞寺っていうのが少し厄介なの」

 侵入経路が長い石段のみとなれば何らかの罠を仕掛けてきていると踏んで間違いないだろう。
 何かの儀式を行うつもりでいるのなら、それを邪魔される事だけは避けたいはずだ。
 ただ、あの手の相手は油断ならない。
 美国織莉子のような計算高さや呉キリカのような破綻した精神を彷彿とさせるライダーの在り方は気を抜けば――恐らく、こちらが取り込まれるだろうというある種の第六感に似たモノが囁いていた。
 それだけに、ライダーとの戦闘はどうにかして奇襲という形に持ち込みたいのだが、それの最大の難敵として現れたのは結界である。

「なのは、円蔵山の結界を破壊する事は可能かしら? 山を吹き飛ばさずに」

 山を破壊して地脈に影響を及ぼせば何が起こるか分からない。
 それに加えて、第四次の勝者である衛宮切継が何の対策も講じないままこの世を去っているとは思えない。
 何をしているかは分からないが、最悪の状況を常に予測して動いかねばならない。
 死んでもなお、厄介な存在として残り続ける衛宮切継という亡霊にほむらは溜息を吐いた。
 そんなほむらに対してなのはは少し難しそうな顔をしてこう告げた。

「破壊は出来るけど、結界の術式が判らない限りはどれだけ破壊した状況が持つか分からないかな……この世界の魔術の考えは私の知っている術式とは違うから、一瞬で復元されてしまうかもしれない」

 大聖杯が真下にあるだけにその可能性は否定できない。
 それもあのライダーは解った上でそこに陣取っているのだとすれば、もはや戸惑っている時ではないのかもしれない。
 ほむらはそう結論付けるとなのはにある支持を行った。






「キリが無いわね……」

 ほむらの銃弾は的確に亡者の頭を撃ち抜いていくが、それでも止まる事無くほむらへと襲い掛かる。
 階段から外に出すわけにも行かず、数の多さから前に進む事も出来ない状況にほむらは舌打ちをした。
 今後の展開を考えれば、バーサーカーとキャスターが存命している状況で切り札を切る事は避けたい。
 しかし、この状況を打開する為には……
 ほむらは右腕に手を飛ばそうとする。
 その僅かに亡者から目を逸らした瞬間、ほむらに亡者の群れが襲い掛かった。

「しまった!!」

 魔女との戦いでは油断は常に死に直結する。
 それを身に染みて理解していた筈なのに本来の魔法を使えないという状況に起じた僅かな隙……
 覚悟を決めてサーヴァントとしての力を発揮しようとすると、突然ほむらの周囲になのはのスフィアが襲い掛かった。

「大丈夫!?ほむらちゃん!」

 大量のスフィアで亡者の群れを牽制し、背後のほむらを守るようにして立つなのは
 自身のミスにより不意打ちを突くチャンスを失ったが、切り札を切る事は無かったと割り切るとほむらは即座に頭を切り替える。

「なのは、ありがとう。貴方がいてくれて助かったわ」

「ごめんね。頭ではあのままほむらちゃんが引き付けておいて私が本体を砲撃する方が理に適っているのは理解出来てたんだけど、友達を見捨てる事は出来なかった」

 友達――
 それはなのはにとっても、ほむらにとっても大きな意味を持つ言葉だ。
 なのはにとってのフェイト、ほむらにとってのまどか
 立ち位置は違えど、以後の道を決める上で多大な影響をもたらした人間であり、守りたいモノ
 ほむらもまた親友である――いや、親友であったまどかを救う為に何度も時間を繰り返しているだけにそのなのはの気持ちは痛いほど理解出来てしまう。
 それ故に、なのはを咎めるようなことはしなかった。

「それで? 来たからにはこの状況を打開できるのよね?」
「うん。絶対にライダーさんの思い通りにはさせない!」

 そう宣言すると更に待機させていたスフィアを発射させる。
 そんな中で、金色の雷色を放つ何かがなのはと隣りを横切った。
 そして、その雷光を纏った何かは次々と亡者の群れを切り伏せていく。
 なのははその様子にそれがフェイトである事に気が付いた。

「何をしに来たのかしら? 衛宮士郎」

 この状況におけるセイバーの乱入。
 それはこの場に衛宮士郎が現れた事に他ならない。
 しかし、この場に限っていうのであればそれは邪魔以外の何物でもない。
 確かにセイバーの加勢は魅力的だが、衛宮士郎の在り方はハッキリ言って迷惑だ。
 恐らく、慎二という少年を助けに来たのだろうがこの状況で第一優先に救うなどという馬鹿げた理想を掲げるのであるのならば――そう考えたほむらは石段を急いで登ってくる衛宮士郎へと照準を合わせる。

「おい、何の真似だ! 一人で戦うよりも協力した方が」
「協力……貴方の目的は間桐慎二でしょう? でも、私はアレを容赦なく殺すわ。何の躊躇いなくね――これで分かったかしら? 貴方と私が協力関係になる事は無いと」

 この術式の核にあの少年が使われている筈だ。
 彼に埋め込まれた石も何かを増幅させる為と考えると十中八九助からない。
 そんな状況でも救う事を諦めない存在などと協力すれば、背後から戦いを止めるために刺されかねない。
 そんなバカげた事をするくらいなら一人で戦った方がよっぽどマシだというものだろう。

「あんた、この状況がどういう状況か分かってるんだろう! なら!」
「あなたこそ、分かっていないんじゃないのかしら? “正義の味方”さん?」

 誰かを救えば救うほど、誰かを呪わずにはいられない。
 希望と絶望のバランスは差し引きゼロだ。
 誰が言ったかはもう覚えていないが、まさしくその通りだろう。
 もしも、そんな事すら考えずに誰かを救い続けられるとするのならば、それは狂人だ。壊れた人間だ。

「何が言いたいんだ! アンタは!」
「解らないかしら? 貴方は誰も救えないって言ってるの。だから、帰りなさい。正義の味方なんて言う夢を見るのなら、それは幻想の中だけにして」

 ほむら自身、衛宮切継の在り方は自分とどこか似ていると考えていた。
 しかし、今目の前にいる衛宮士郎は違う。
 全てを救おうとするバカげた理想を持つ彼はほむらにとって理解しがたい存在だった。
 いや、理解できないと断言した方が正しいのかもしれない。
 確かに正義の味方を目指したバカな少女がいた。
 でも、結局彼女は自分の中に溜まった恨みや妬みによって自滅したのだ。
 何もかもを失って……大切なモノすら傷つけて……

 ほむらはそれ以上何も言わず、石段を登って行く。
 背後で衛宮士郎が何かを叫んでいるが、その言葉はほむらの元へは届かない。

「行きましょう? ランサー……時間の無駄だわ」

 亡者を倒し切り、石段を登りきったほむらは振り向くと何の忠告もなく衛宮士郎へと発砲する。
 完全に、殺すつもりの一撃……
 もしも、セイバーがいなければ衛宮士郎は死んでいただろう。

「どういうつもりですか! ランサーのマスター」
「忠告よ。もしも、ここを登って来て参戦するのなら次は容赦なく潰すとね」

 明確な殺意がこもった言葉にフェイトは思わず、ほむらから距離を取る。
 マスターを守りながら、なのはとそのマスターを相手にすることは厳しいからだ。
 此方の手札を知っているであろうなのはとの戦いは長期戦になる事も予測される。
 そうなった場合、マスターからの魔力供給が上手く行われていないフェイトは極めて不利な状況に立たされてしまう。
 そう考えると、今は引く以外に選択肢は無かった。

「ごめん。士郎……今は引こう?」
「どういう事だよ! セイバー」

 フェイトとしても今の士郎は間桐慎二に執着しすぎているのは理解している。
 それは危険なほどに……まるで過去の自身がプレシアへしたような執着だ。
 だからこそ、あのランサーのマスターの言葉も理解できた。
 今ここで士郎が参戦するというのなら、恐らく自分もあのような態度を取っただろう。
 その危険すぎる歪みは戦いの最中、敵を救う為に自身に向く可能性もあるからだ。
 自分の言葉が士郎には届かない事を理解したフェイトは士郎にそれ以上、何もいう事は無かった。



「待たせたわね。行きましょうか」

 なのはを連れて柳洞寺の門を潜った瞬間、世界は反転する。
 そこにいるだけでも頭が狂いそうな感覚にサーヴァントであるほむらですら見舞われる。
 だが、同じサーヴァントである筈のなのはには同じような効果は見られない。

「ほぉ、やはりお主が最初に来よったか――アーチャーと呼んだ方がいいのかのう?」

 その言葉になのはは耳を疑った。
 七人のサーヴァントで戦う戦争の八人目……イレギュラー
 考えが無かったわけではないが、それを他者の耳から聞くのでは訳が違う。
 そんななのはとは裏腹にほむらは臓硯を睨み付ける。

「そう……確かに始まりの御三家の一人の貴方なら第四次の結果をしっていてもおかしくは無いわね……その肉体も仮初で本体は別の場所にあるのかしら?」

 その言葉に臓硯は楽しげに笑いながら静かに頷いた。



[28082] ほむらの決断(そして、オマケ)
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:711eb89e
Date: 2012/01/17 01:15
「ほぉう……なかなかに鋭い……」

「老害の相手をしているほど、私も暇ではないの――そこをどいて貰えるかしら?」

 ほむらは臓硯に対して最終通告を行うと、一度だけ指を弾いた。
 もはや、目の前の老人は人の皮を被った化物でしかない。第四次の時点で言峰が一度、滅しているだけにこの身体も仮初のモノと考えて間違いないだろう……。
 だからこそ、ほむらも手加減するつもりは無かった。
 不死身の化物というのであれば、大火力でもって肉体ごと粉砕する。
 ほむらの空間が歪み、そこから巨大なミサイル発射台が現れた。

「あの……ほむらちゃん……それって、何するつもりなのかな……」

 質量兵器――いや、大量破壊兵器を召喚した暁美ほむらに対し、ランサーは思わずそう尋ねてしまう。
 この手の兵器は戦車や都市そのものを狙うものでどう間違っても対人に使用するものではない。
 たった一人を殺す為にこんなものを発射すればこの山自体が吹き飛んでしまうだろう。
 先程まで、この下に眠る大聖杯の心配をしていたのが嘘のような行動にランサーは戸惑いを隠せない。

「何発当てれば、貴方は焼け死ぬかしら?」

「ならば、試してみるか? そんなものでは膿を殺す事など出来んことを悟るだけだがな」

 その挑発的な臓硯の態度に暁美ほむらは何の躊躇いもなく、もう一度指を弾いた。
 それを合図にトマホークの火が点火される。
 推進力を得たトマホークは亜音速へと加速すると、まっすぐに突き進んでいった。
 なのははその行動に慌ててほむらを抱きかかえると、爆風と衝撃波に耐えるためにシールドを展開した。


「やれやれ……何の対策も無しに、このような行動を起こすと思っているのかのぉ」


 臓硯は怪しげにニヤリと笑みを浮かべると持っていた杖で一度、地面を叩いた。
 それと同時に臓硯の周りに一枚の仮面が現れる。
 その仮面は臓硯を守るようにクルクルと回転すると、二枚へと変化した。
 だが、そんな仮面程度でトマホークを止められる筈が無い。
 何らかの手を打っている事を予想し、わざわざこれほどまでの兵器を投入したのだ。
 そのほむらの見積もりも甘かったことを思い知る事となるのだが……




 辺りはトマホークが爆発した暴風で全てがなぎ倒されていた。
 爆発時の熱で辺りは燃え盛り、その熱風がほむら自身の肌をもチリチリと焼いていく。
 そんな中で何事もなかったように傷一つ負う事なく、平然と臓硯は立っていた。
 臓硯の周りは地面がめくれあがり、その威力のすさまじさを物語っている。
 だが、臓硯が立っている場所だけはまるでトマホークの爆発が起こらなかったように無傷なのだ。


「ありえない……」


 臓硯の魔術にこのような術は存在しなかった筈なのだ。
 それに加えて、不気味な面が二枚から三枚へと増えて、今また、四枚になった。
 どう考えてもあの面が宝具……それも、相当なモノと判断するしかない。

「ねぇ、ほむらちゃん……なんか、あの黒い繭が胎動してるように思えるんだけど気のせいかな……」

 ランサーの言葉にほむらは臓硯を警戒しながら黒い繭の方へと目を向ける。
 その光景に見覚えがあった。
 これは魔法少女が魔女になる時の光景に酷似している。
 それに加えて、ほむらの中の第六感があれをここから出しては不味いモノだと直感的に告げていた。

「急いで終わらせるわよ……これ以上、あの繭に羽化する時間を与えたら不味い事になるわ……」

 だが、羽化を止めるにはどうすればいいかが判らない。
 マスターを止めるにしろライダーが独立して動かない可能性は無い。
 羽化したものが周りのモノを食い荒らして現界しないとは限らないからだ。
 そんな心中を読んでか臓硯は悠長にほむらに語りかけて来る。


「お主は金毛九尾の狐を知っておるか?」


 九尾の狐――
 日本の三大妖怪にも数えられる大悪妖怪で日本各地に伝承が残っている。
 江戸以降、歌舞伎や人形浄瑠璃の題材としてよく採り上げられている事から、知らない人間は少ないだろう。
 その伝承の中では国や王朝を破壊する災害という見方も出来るだろう。

「時間稼ぎのつもりかしら? そんなもので私は止まらないわ」
「最後まで話を聞いた方がいいと思うがのぅ……あの生娘曰く、九尾は生と死を操る事が可能らしいんじゃが、言いたい事はもうわかるであろう?」

 ほむらの構えていたRPGの照準は震えて定まらない。
 臓硯は知っているのだ。自身が聖杯に賭ける願いを――それを逆手に取り、動揺を誘おうとしているのだ。
 だが、この力が本当ならば、穢れた聖杯の力に頼る事無く、目的を完遂する事が出来る。
 悪魔の囁きに等しい誘惑にほむらは引き金を弾けない。

「どうじゃ? お主の目的と膿の目的……実に似通っておるであろう? もしも、協力してくれるのであれば、主の目的にも力を貸してやらんでもないのだが……」

 頭では目の前の化物が人との約束を守るような性格をしていないのは理解している。
 第四次聖杯戦争のバーサーカーのマスターの末路を見れば一目瞭然だ。
 この化物も言峰と同じ穴の狢だ。甘言で人を惑わせ、踊り狂う様を楽しむ畜生だ。
 それが解っていても、一筋の希望がそこにある限り、その引き金を弾く事は出来ない。

「ほむらちゃん! 下がって!」

 いつの間にかスターライトブレイカーを放つ為に魔力を充填していたランサーがほむらに向かって叫んだ。
 だが、それは完全な交渉決裂を意味している。
 そうなれば、臓硯はもうこの話を持ちかけて来ないだろう。
 ほむらは令呪へと手を伸ばすとゆっくりと口を開こうとする。

「ほむら……ちゃん……」





「令呪をもって命―――――ずるとでも思ったの? ランサー! 宝具の開帳を許可するわ。あの化物達の目的を阻止しなさい」




「それは交渉決裂と考えていいのかのう?」



 臓硯の言葉にほむらは今度は躊躇いなくRPG7の引き金を弾いた。
 だが、トマホークが効かなかった以上、そのようなものが今の臓硯に効く筈が無い。


「これが答えよ。確かに貴方の提案は魅力的だけど、それでは何も解決しないわ。不老不死なんてモノでは私の願いは叶わないの。奴ら、インキュベーターの魔の手からまどかを守るには」


 それがほむらの返答であり答えだった。




















ここからは番外編みたいなもの……(決して文字数稼ぎではないんだから!)


「やれやれ、年とは取りたくないものだな。思うように体が動かん」
「ねぇ、愛って何?」
「こうも、言葉が通じんとはここまで不便とは……全くやり辛い」

 まったく、言葉の通じる様子の無いバーサーカーにアサシンはゆっくりと背中の剣を抜き放つと腰を低くする。
 その様子にバーサーカーは何かを理解するように目を輝かせた。

「そうなんだ! やっぱり、それが愛なんだね!」

 この子供がバーサーカーの適性を持ったのはこの考えが原因に他ならない。
 愛とはつまり、痛みと認識する。それにより、辺りに痛みを振りまいた……。
 それが彼女がバーサーカーとして召喚された所以だった。
 狂喜に支配された子供の印象を受けるバーサーカーにアサシンは真正面から走り出した。


「あのアサシン……ただのアサシンではないのか? バーサーカーに真正面から挑むなんて正気の沙汰ではないぞ」

『どうしましょう? なら、一度牽制を行いましょうか?』


 舞弥の進言に切継は暗視スコープ越しに二人の戦う様子を確認する。
 近くにマスターらしき気配もない。
 ここはこの位置から様子を窺い、今後を策を練る方がいいだろう。
 そう結論付けようとしたのだが、そうもいっていられない状況になる。

「ランサーだと!」

 ここで戦いに乱入して来るなど正気の沙汰ではない。
 ましては、起源弾を受けてボロボロになっているランサー陣営ならなおの事だ。
 にもかかわらず、この場に現れた。
 裏に何かあると考えて間違いないだろう。恐らく、キャスターが絡んでいるのだろうが……
 現在わかっているだけでも精神支配と時間停止の二つの強大な能力を持っている。
 恐らく、ここに現れたランサーのマスターはその能力によって支配されたと考えるのが妥当だろう。
 今回の聖杯戦争で肉弾戦を好むライダーと並んで強敵に数えられるキャスターがほかのサーヴァントを支配下に置いたとなれば状況は厄介な事となってしまう。
 ただ、唯一の救いはマスターがともに未熟という事だろう。



「厄介な事になったようだな」

「ランサーがキャスター側に着いたの――令呪による強制と考えるのが妥当なのかしら?」

 アーチャーの言葉に時臣は静かに頷いた。
 おそらく、キャスターの時間停止に対抗出来るのは同じ時間停止の宝具を持つアーチャーだけだろう。
 しかし、問題がある。
 アーチャーの宝具ではあの男を殺し切る事が出来ないという事だ。
 一度逃がせば完全に復活してまた相手をすることになる。

「もう少し、情報が欲しい所だがこれ以上、奴らを野放しにしておく方が魔術が世界に露見する可能性があるか……」

 キャスターのマスターは快楽殺人を好む異端者
 それ故に、魔術師として隠匿するという当然の考えを持っていない人間なのだ。
 この冬木の地を監督する時臣としてはそれを見過ごす事は出来ない。
 大きく動こうとしている戦況の中でそれぞれの思惑が交差する。
 物語は一気に佳境を迎えようとしていた。







 オマケの部分はなろうにて少し考えていた第四次聖杯戦争について少し書いて見ただけです。
 他に意味はありません。
 セイバーが出ていないのは決まって無いからですwww
 蟲爺のセリフ……難しいです。
 では、感想待ってます。



[28082] ライダー覚醒
Name: 浅田湊◆90ff2c1d ID:b54a327f
Date: 2012/04/06 03:03
 なのはの持つレイジングハートから薬莢が排出される。
 この一撃であの仮面の防御を破壊する。そうすれば、ほむらちゃんの攻撃も通る筈だ。
 私が今、なすべき事はあの仮面を完全に破壊する事……
 この一撃で全てを決める!

 この一撃を放てば、レイジングハートの機構に負荷がかかる為、数時間は戦闘行動がほぼ行えなくなってしまう。それ故に、文字通りの最後の切り札だ。
 もう一つのカードを切るという方法もあるが、そうなればこの後の戦いに響いてくる。
 だからこそ、“今の私”の全力全壊でぶつかるまでだ。

 カウントが終わる。

 これで、破壊出来なければ恐らく、私の持つ魔法では破壊出来ないだろう。
 絶対にあの防御を抜いて見せる。破壊して見せる!

『星を砕く桃色の光線《スターライトブレイカー》EX!!』

 宝具解放と同時に臓硯とその背後の繭は桃色の光に包まれる。
 高町なのはの持つ最大の魔法であり、一撃必殺。
 結界すら撃ち抜く魔法であるだけに、確かな手ごたえがそこにはあった。






 宝具解放により吹き飛んだ地表の為に舞い上がった砂埃が次第に落ち着いてくる。
 なのははレイジングハートを労わるように下ろすと、臓硯のいた場所をじっと見つめる。



「嘘でしょ……なんで——————私の宝具が、効かなかったの!?」


 まるで何でもなかったように臓硯はそこに立っているのだ。
 そして、背後の繭も無事……
 それに比べて、なのはは時間を空けなければ戦う事は難しい。
 なのはは思わず、これからどうするかをほむらへ尋ねる為にそちらへと目を向けた。

「なるほど、そういう事……」

 ほむらは何かに納得するようにそう呟くとデザートイーグルをその仮面の一枚に向けて発砲する。
 すると、先程まではあれ程に強固と思われていた仮面があっけなく飛散してしまったのだ。
 なのはとしてはその光景があまりに信じられなかった。
 威力を考えれば、デザートイーグルとスターライトブレイカーではどう考えても後者の方が上だ。
 そうにも関わらず、デザートイーグルでいとも簡単に破壊されてしまった。

「なのは、よくやったわ——あの宝具は結界だけど修復機能は無い。流石に、貴方の宝具の威力に耐えきる事は出来なかったのよ。所詮は硬度が高かっただけのようね」

 どんなに硬い鉱物も何度も叩けばいつかは割れる。
 硬度が高いだけならあとは力押しでどうにでも出来る。
 暁美ほむらが全ての仮面を破壊して臓硯を捉えるのが先か、ライダーが羽化するのが先かそれだけだ。
 勝機がほむら達に見え始めると同時に、臓硯に初めて焦りが見え始める。

「まさか……じゃが、そう簡単にさせんわ!」

 臓硯はそう叫ぶと、地面を一度叩き大量の蟲を召喚する。
 その光景になのはは思わず、身を引いた。

「なのは、貴方は下がっていなさい。貴方はちゃんと役目を果たしたのだから」

 ほむらはなのはに対してそう叫ぶとショットガンを召喚する。

「ごめんね。ほむらちゃん」

 それを見たなのはな出来る限り、早く戦線に復帰する為、霊体化するのだった。




「流石にそう簡単にはとらせて貰えないわね——流石、御三家の一角と言った所かしら?」



 ショットガンは確かに一撃で大量の蟲を落とせるが、弾薬の装填に時間を要してしまう。
 それだけに、なかなか仮面の破壊に漕ぎ着けないのだ。
 だが、臓硯の蟲とて無限ではない。この状況が長く続けば続く程に不利になるのは臓硯だ。
 どちらも時間との闘い。

 繭が羽化する。
 その不確定な時間という制限時間の中で先に仕掛けたのはほむらだった。


「なら、これでどうかしら?」


 ここまで拮抗しているのは弾込めに時間を要してしまっているからだ。
 ならば、今ここで選ぶべき方法は銃そのものを消耗品として考える事……
 魔法少女、巴マミが行っていた方法だ。
 銃器に関しては前回の聖杯戦争のマスターの事もあり、十分に確保済みだ。
 ほむらは持っていたショットガンを撃ち尽くすと後ろへ放り投げ、新たにショットガンを召喚する。


「舐めるな!!小娘の分際で!」


 チマチマ出していては押し負けると踏んだ臓硯は負けじと一気に全戦力を召喚する。
 だが、所詮はサーヴァントとして召喚され、第四次聖杯戦争を勝ち残った実力はダテではない。
 既にタネの割れている臓硯の魔術などなんの脅威にもならない。
 所詮は蟲でしかない。現代の科学技術の結晶である殺人兵器の前では所詮は無力でしかない。

「これで終わりよ。マキリ……貴方の負けね」

 蟲を出し切ったのか、辺りには蟲の亡骸だけが大量に散らばっている。
 だが、あれだけ聞こえていた羽音は既に聞こえず、仮面に守られた弱った老人一人立っているだけだった。
 そんな老人にほむらはゆっくりと近付いていくと仮面を一枚ずつ破壊していき、最後に臓硯の頭にデザートイーグルを突き付けた。

『ほむらちゃん!逃げて!』

 なのはの声が頭に響き渡る。
 その言葉にほむらは咄嗟に後ろへと跳んだ。

「何……これ……」

 辺りに立ち込める気配にほむらの口からそう漏れてしまう。
 その存在の前に立つだけで威圧感を感じる。
 あの黒い獣……あれがライダーの真の宝具なのだろう。

「助かったぞ。それで、うまく、コントロール出来ているのだろうな?」

『あら、当然じゃない……さぁ、昨夜の屈辱をやりかえしてあげようじゃない」

 なのはも頼れない。
 臓硯を押し切れなかったのは痛い。
 ここは他のサーヴァントに押し付けるべきなのだろうが、いつ現れるかは分からない。
 ほむらはデザートイーグルを仕舞うと、相手の動きを予測し、今後の対策を考えるのだった。



「なんだ……この気配……」

 柳洞寺から伝わってくる禍々しい気配の増大に杏子は思わずそう呟いた。
 気を抜けば押し潰されんばかりの黒い負の感情の塊……何の耐性も持たない人間は恐らくこの気配だけで飲み込まれてしまうだろう。

「遠坂! あんたにさくらの事は任せる。私より上手く動かせるだろ?」

「杏子、あんた何するつもり?」

 杏子は返答せず、シエルから渡された槍を取る。
 封印を完全に解いていないとは言え、聖遺物であるそれは自身の身体を蝕んでいく。恐らく、本物であればひとたまりもないだろう。

「私は私の仕事を熟すだけだ」

 仕事――それはつまり、埋葬機関の人間としてマキリを滅ぼすという事だ。
 あの悪霊の件も踏まえれば、確実に魔術教会も何らかの手を打って来る筈なのだから……。今回の事はやり過ぎている。秘匿されるべき魔術が公になる可能性を考えれば仕方が無いだろう。
 ただ、さくらは違う。埋葬機関の人間ではない。
 そういう事もあり、自分の仕事に巻き込みたくないというのが信条なのだろう。

「マスター、大丈夫なんですか? 今回の相手は一人だと……」

 さくらは攻撃とサポートを同時に行える優秀なキャスターだ。
 ただ、問題点は彼女自身から血の匂いがしない事だろう。真っ当な魔法少女であるなら知らなくてもいい世界。杏子はそれを見せたくないのだ。

「キャスター、あたしとアーチャーと三人でライダーを引き付けた隙にマスターを拘束するにはこれ以上に良い案は無いわよ? 杏子の能力はその行動力があってこそ発揮されるものだろうから……それより、まどかさっきからどうかしたの?」

 どこか上の空のまどかに凛は尋ねるがやはり聞こえていない。
 今回の切り札は昨晩の戦いを考えればまどかが切り札となり得るだけに今は目の前の敵に集中して貰いたい。
 凛としても杏子の実力は信用しているが、あのキャスターからは何か嫌な気配を感じた事もあり、杏子一人では不安なのだ。

「まどか? まどか? 何考えてるの?」

「凛ちゃん……ごめん、何の話してたっけ?」

「これから、ライダーを倒すのにどう動くかという話よ! 分かっていると思うけど、あのライダーは危険な存在だから気を抜かないでね」

 戦いは一瞬でも気を抜いた方が負ける。
 どんなに優秀な魔術師も死ぬ時は死ぬのだ。この聖杯戦争も殺し合いであり、前回の聖杯戦争に参加した父親は敗北して死んだ。
 アーチャーの実力は信じているのだが、精神面がまどかの問題点なのかもしれない。 

「ライダーさん……本当に悪い人なんでしょうか?」

 まどかから洩れた言葉にさくらにも迷いが迷いが見え始める。
 ライダーに関しても分からない事が多すぎる。慎二をおかしくしたのは何だったのか……。もしも、その石により狂ったのだとすれば……。

「止めとけ、そんな事を考えても仕方ないだろ。じゃなけりゃ、もっと被害が出るぞ」

 そんな考えは最後の最後で詰めを誤らせる可能性がある。
 甘さが死に繋がる事も戦場では多い。多くの戦場を経験してきた杏子からしてみれば敵と判断した時点で相手の理由を考えるなどバカバカしい事だった。

「さっさと行くぞ。分かれるのは寺院に潜入してからだ。侵入する為の道は一つならそこに兵を集中させてる筈だ。全力で一気に突破するぞ」

 杏子の言葉に凛は残りの宝石の数を確認する。
 残量は少ない。杏子や英霊であるまどか達のような切り札ではなく、使い捨てであるために今後の展開も考えて切っていかなければならないからだ。

 まどかはあのランサーのマスターについて考えていた。
 あの懐かしい感覚は私が大切に思っていた友人に似ている。
 私の為に必死に抗おうとした少女……大切な友達。暁美ほむら。
 そう、ほむらちゃんだ。なんで、忘れてたんだろう。大切な友達の事を!
 思い出したと同時に胸の中のぽっかりと空いた空洞に一枚のパズルのピースがはまった気がした。それと同時に体の中に澱んだ何かがどこかへと流れ出す気がする。
 それが何かは分からないが、何か不味い事が起こりそうな……そんな気持ちだ。
 だが、今は何なのかは分からない。

「凛さん、アーチャーよろしくお願いしますね」

 杏子の力になるにはライダーを引き付けるしかないと覚悟を決めたキャスターは凛とまどかにそう告げる。
 向かう先は龍洞寺であり、ライダーが町に出て来るまでの時間を考えればあまり余裕はない。
 迷っている余裕はないのだ。

「じゃあ、いきましょうか?」
「やれやれ……面倒事になりそうだな」

 凛は覚悟を決めると赤いコートを纏い、家から一歩足を踏み出す。
 杏子も槍を担ぐと紅い法衣を纏い龍洞寺へ向けて歩き始めた。



[28082] 反抗
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:b54a327f
Date: 2012/04/08 14:37
 大地が鼓動する。
 地面の下にいる何かが羽化を待つさなぎのようにゆっくりと変化してく。
 現在の龍洞寺を一言で表すならそれは異界だろう。
 この世の法則が成り立たない別世界――呪い、怨念が渦巻く負の世界
 そこに存在しているだけでほむらは自身に呪いが溜まっていくのを理解する。
 長時間の戦闘は自身の魔女化を招く。短時間で決めなければ勝ち目はない。
 ギリギリの淵で耐えきっているがいつ溢れ出すか分からない以上、出し惜しみをする意味などない。

「どうした? 辛そうな顔をしておるのぉ……」

 この異界の空気をものともしない臓硯は愉しそうに笑みを浮かべる。不快。それ以外の感情が湧き上がらないような気色の悪い笑みだ。
 問題はライダーに物理は効かない事だ。先程の仮面は存在しないが、僅かに尾に触れた境内の一角が消滅している事を考えると――触れた時点で消失するだろう。
 残る手段は魔術による大規模攻撃だが、なのははまだ出せない。
 残るサーヴァントも頼れるかどうか怪しいとなれば、最後の手段を運用する事も考えなければならないだろう。

(なのは――辺りに何かおかしな気配はないかしら?)

 ほむらは念の為になのはに確認する。
 一応、受肉してしまっている事と元々、魔法少女としての素養に乏しいが故に探知が上手く行えないのだ。
 なのはからの報告にあった何かがもしも推測通りならばここからアレを離さねばならない。そうしなければ……恐らく、もっと厄介なモノを呼び寄せてしまうだろう。
 アレは人間の怨嗟の塊だ。そして、この下にある大聖杯が蓄えているのも怨嗟の――アンリマユと呼ばれるこの世のすべての悪だ。相性は反吐が出る程にいい。
 本来はサーヴァントが六体入らなければ起動しないが、イレギュラーとして開いてしまう可能性がある、そうなった場合、出て来るのは――いや、考えること自体が無駄だ。可能性に過ぎないのならば、今は目の前の臓硯に集中しなければならない。
 だが、次のなのはの言葉にそんな考えは舞ことを知る事となる。

(何か、この下にいる。蠢いてる……なんなの、コレ……)

「臓硯! サーヴァントを下げなさい」

 本来なら起こり得ない状況。
 有り得ない事態にほむらも焦りが見え始める。最悪の事態として穢れた泥が規定以上で溢れだしてしまえば、世界そのものが滅びかねない。
 あのライダーのサーヴァントはこのよの全ての悪意を集めたと言っていた。
 そんなモノが全ての悪意を増幅させてしまったとすれば可能性としては十分に考えられるからだ。

(なのは、あと回復までどの程度かかるかしら?)

(宝具を使用する為には後、数日の時間が必要かな。こんな時に何も出来ないなんて歯痒いけど)

(貴方は良くやったわ。後は私がどうにかしてみせる)

 なのはには大見栄を切ったけれど、策はない。
 臓硯から令呪を奪い、自決させるという方法も無くはないが、あの存在がそう簡単に死んでくれるとは思えない。
 令呪の拘束にも抗うような化物がサーヴァントにはいるだけにその策は穴だらけと言っても過言ではないのだ。
 ただ、他にあのライダーと真正面から戦えるだけの武力を持っていないのも事実である。他に策はない。

「私もそろそろ本気を出しましょうか」

 その言葉と共に、ほむらの衣装が変化する。
 魔法少女として慣れしたいんだ衣装。時を操る魔法の使い手。魔法少女としての暁美ほむらだった。

「それがお主の真の姿という訳か――潰してしまえ! ライダー」

 臓硯の言葉にライダーは怪しく笑みを浮かべるとほむらへと襲い掛かる。
 膨大な質量を誇る巨大な獣は恐ろしいスピードで向かって来た。ソレの速度にはもはや人間であるという事が敗因だ。
 爪が地面を抉り取り、砂埃をあげる。同時に爪が触れた部分が消滅した。

(これがライダーの真の力という訳か)

 あれだけの事を言っただけの事はあると臓硯は悦に浸っていた。
 一番、厄介なのは言峰綺麗の保有するイレギュラーだったからだ。それを無くした今、言峰に手札は無い。
 もっとも危険視すべき相手が消えたのだ。それを喜ばない筈がなかった。
 だが、それも一時のモノでしかない。背後から迫り来る銃弾が全てを語る。

「残念ね。この程度では私は取れないわよ」

 仮面に銃弾は弾かれてしまう。
 先程までと同じ攻防だが、それだけでも十分な収穫があった。
 所詮は魔法。どこまで言っても魔法でしかない。ならば、衛宮切継の遺品を利用できるだろう。
 トンプソン・コンテンダーを取り出すと中に切継の起源を基に作られた起源弾を込める。威力は十分。そして、この銃は衛宮切継が用いていた時以上の力を発揮するだろう。
 暁美ほむらの宝具によって――。

(戦闘を許可した覚えはないぞ。アーチャー)

(どういうつもり! 今は戦闘中よ!)

 言峰綺麗からの念話にほむらはチャンスを失う。
 戦場での戦いで一瞬でも気を抜けば一気に流れが変わるものだ。何度も同じ手は通用しない。
 前回の聖杯戦争での吸血鬼との戦いで多用している為に残っている砂は僅かだ。
 短時間での連続ならある程度の回数は可能だろうが、長時間となれば数回が限度だろう。
 そんな状況下で内なる敵すらも相手にせねばならないとは本当についていない。

(そちらに遠坂凛が向かっている。意味は解るな)

 言峰の言葉にほむらは武装を解除し、元の姿へと戻った。
 それと同時に手に持っていたトンプサーは消失し、デザートイーグルが現れる。それと時を同じくして、境内に佐倉杏子と遠坂凛も現れるのだった。












「確か、あいつはランサーのマスターだったよな――他の連中は傍観ってわけ!!」

「どうしたの? 杏子……おかしいわよ?」

 
 そう言いかけた杏子が右眼を押さえて苦しみ始める。
 何が起こっているのかは凛には分からないが、あの苦しみ方は普通ではない。
 犬歯が伸び、目が赤く輝く。その光景は人を惹きつける妖美な雰囲気を漂わせる。
 臓硯もそれが予想外だったらしく、言葉を失っていた。

「なるほど……お前らはここで穢れたモノを集めているって訳か」

 先程とは杏子の態度が違う。
 それはキャスターも感じ取ったらしく、何も言葉が出て来なかった。
 いつもの表情ではない。まるで、闘争本能に支配された別の存在に視えてしまう。

「そう言う事か……まさか、このような所まで死徒二十七祖アルトルージュの配下。噂には聞いておったが、このような小娘だったとはな」

「あの女の配下なんかじゃねぇ。アタシはアタシだからな」

 杏子がそう告げると持っていた槍の封印を解き放った。
 それと同時に辺りの空気が一気に浄化されていくように感じる。今まで感じていた重苦しい空気が消失し、肩に圧し掛かっていた圧迫感も消滅する。
 だが、消滅すると同時に杏子の槍を握る手にヒビが入り始める。
 それが指す事の意味をほむらも凛も即座に理解した。
 あれは聖典と呼ばれる聖遺物のレプリカであり、吸血種にとっての天敵とも言える概念武装。それを運用するたびに佐倉杏子の身体は滅び行くのだ。
 つまり、時間制限を持つ必殺技。だが、チャンスは今しかない。これを逃せば恐らく、地下にいる何かを目覚めさせてしまうからだ。
 言峰が令呪を使う可能性を考えればチャンスは一度だけ……無茶をさせる事になるが、高町なのはの力が必要だ。
 火力を求めるならば、バーサーカーも欲しい所だが、アインツベルンはどう動くかまでは予測できない。有り得ない可能性を視野に入れる訳にはいかない。

「佐倉杏子。一撃でライダーを破壊出来る?」

「ようはアイツの核を破壊すればいいんだろ? 近付ければ何とかなるが、それまで持つかどうかが問題だな」

 杏子の言葉にほむらは勝機ありと判断すると彼女の手を掴んだ。
 これで宝具の使用条件は揃った事となる。後はなのはが上手くやれるかどうかだ。

「マスターを離しなさい! ランサーのマスター」

 相手が味方と確定していない以上、キャスターは警戒する。
 これまでのランサーの行動を考えればそう言う風に取られても仕方がない。
 ランサーそのものが背後から狙っている可能性もあるからだ。
 そんな険悪な空気の中で先程まで一言もしゃべっていなかったまどかが口を開く。

「ほむらちゃんだよね……私だよ! 鹿目まどかだよ! ほむらちゃん!」

 まどかがそう叫んだ瞬間、大地が揺れた。
 その意味を理解したのはこの中ではほむらだけだった。
 この揺れは恐らく、大聖杯の中身が溢れだしたのだろう。
 なのはからの報告が正しければ、それは町中を蠢いている。もしも、自身のように受肉をしようとしているとするならば、恐らくこの中でまどかの記録から姿を写し取る事しか考えられない。

(クリームヒルトか、ワルプルギスが出て来るって事!?)

 さっきの揺れが産声だと考えるなら時間は無い。
 ほむらはなのはに念話で合図を送ると宝具である砂時計を反転させ、杏子と自身以外の時間を止めるのだった。










「あんた……それは……」

 時間を制御する魔術を極めようとしていたのはあの一族しかいない。
 十数年前に魔術師狩りにより回収された魔術回路を保有していた衛宮という家系。その息子は搾りかすを用い、自らの身体に固有時制御と呼ばれる固有結界を展開していたという。
 おかしい。求める過程が同じだったとしてもここまでの魔術師を誰一人として認知していない筈がない。
 このランサーのマスターは別段、根源へ辿り着いているようにも見えず、覚醒しているようにも見えない。何もかもが不自然の塊だ。

「チャンスは一度きり。それを逃せば次は無いわ」

 杏子の問いを無視し、ほむらは簡潔にそう告げる。
 恐らく、言峰が令呪を使用して来るからだ。言峰にとってこれ以上、美味しい光景は存在しない。
 ほむらとしてはそれだけは何としても阻止せねばならなかった。

「だが、核の位置がわからないんじゃ手の出しようがないぞ。この槍の範囲を考えると」

 本物のロンギヌスだったならば、殺せたかもしれないがこの槍は偽物。既に死んだモノを傷付ける程度の効力しかない。ただ、聖遺物としての浄化効果を保有しているのもまた事実である。
 それ故にピンポイントで核を狙わなければこれといった効果が期待できないのだ。

「策はあるわ。あの肉塊の中には生贄とされあの男も入っている筈よ」

「つまり、ライダーはそいつの身体を媒介にした以上、あの出てる部分はブラフって事か……」

「えぇ――そして、奴が絶対安心できる部分と言ったらどの部分になるかしら?」

 どのようなモノでも分解する身体、最高硬度を誇る仮面。
 この二重の防壁に守られた奴の身体の中心以外には考えられない。
 但し、問題が存在する。仮面を破壊し、ある程度の道を作っておかねば石に辿り着く前に飲み込まれてしまいかねない事だ。
 博打にも程がある。
 だが、これ以外に策は無い。
 そんな時、一人の少女の声が時が止まった世界に響き渡った。

「何よこれー。私以外の人達がみんな止まっちゃってるじゃない」

 その幼い声は一人しかいない。
 ほむらの宝具を通常の人間が逃れられる筈がない。だが、今はそんな事よりもバーサーカーがここにいるという事実が大事なのだ。

「アインツベルン! 私がこの結界を解いた瞬間、あの黒い化物を消滅させられるだけの切り札はあるかしら」

「対城宝具を求めてるなら確かにあるわよ? どうする? バーサーカー?」

 バーサーカーに結界が通用しない。
 ほむらはこの状況下でもバーサーカーの観察を怠らない。
 聖杯の器を手に入れる為にはバーサーカーを倒さねばならないからだ。だが、そこである事に気が付く。
 アインツベルンを守っている結界が存在するのだ。恐らく、バーサーカーもそれによって護られているのだろう。
 実に厄介な相手に成りそうだが、今はそんな事を考えている暇はない。

「マスターに従うわ。それに、あのライダーを倒さないと聖杯戦争は終わってしまうだろうし」

 聖杯戦争の終結はアインツベルンの悲願が潰えると言う事を於いて他にない。
 それは許されない事だろう。

「分かった。あいつを叩き潰しなさい! バーサーカー」

「了解。マスター(ただ、マスターにセイバーのカードを渡してるから……)」

 そう、バーサーカーが保有するカードは一枚だけ。
 アーチャーのカードだ。ここに来て後々の事を考えての行動が裏目に出てしまった。






ほむらの宝具に関する制限の説明

 第四次でとある吸血鬼と戦った際に多用してしまい、あと数回が限度となっています。それと同時に、この聖杯戦争内で時間を巻き戻した場合どこまで巻戻るか定かではありません。
 その為、使い勝手が悪いとも言えます。

アンリマユについて

 まぁ、これだけの悪意を集めれば何らかの形で孵化しますよね 
 アレは生まれたがっていたわけですしww
 どのような形で生まれるかは未定ですがww



[28082] 火力不足
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:324f951a
Date: 2012/05/27 01:33
(さて、どうする。アーチャーの状態でアレを投影するのには無理があり過ぎる)

 セイバー状態で用いる事が出来るエクスカリバーは対城宝具。
 あれを完全に殺し尽すにはそのクラスの宝具が必要だろう。
 そして、この状態であの宝具を用いるにはリスクが高過ぎる。それに見合うだけのモノが存在していない以上、今ここで使うのは危険だ。
 どうする――どうすえばいい。
 時間は無い。この結界内での時間を考えれば――答えは一つしかない。

「I am bone of my sword. 体は剣で出来ている。
Steelis my body, and fireis my blood血潮は鉄で、心は硝子。

I have created over a thousand blades. 幾たびの戦場を越えて不敗。

Unknown to Death. ただ一度の敗走もなく、

Nor known to Life. ただ一度の理解もされない。

Have withstood pain to create many weapons. 彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。

Yet, those hands will never hold anything. 故に、生涯に意味はなく。

So as I pray, unlimited blade works. その体は、きっと剣で出来ていた。」

 使用するのは固有結界。
 アーチャーの持つ唯一の宝具。
 勝てる可能性は分からない。炎が凍り付いた時を溶かし、ゆっくりと侵食していく。
 そして、辺りに現れたのは砂漠に突き刺さる幾重もの剣の山――
 頭上には巨大な歯車――
 固有結界「無限の剣製-アンリミテッド・ブレードワークス-」
 英霊となったエミヤの至った極地。

「行くわよ! ライダー! ご覧の通り、貴方が挑むのは無限の剣。剣戟の極地! 恐れずしてかかってきなさい!! 」

 ここに存在するのは全てが宝具の贋作。
 だが、贋作と言えども宝具は宝具なのだ。
 問題は劣化した宝具の真名解放で対抗できるのだが……
 もしも、セイバーのカードがあったのなら投影する事の出来ない精霊の鍛えた剣を扱えたのだが、無い物ねだりをしたところで仕方がない。


 ライダーの巨体に膨大な量の兼が向かう――
 宝具としては低ランク
 ライダーを殺しきれる威力ではない。
 もっと、高威力の攻撃を放たなければ、確実に再生するだろう。これまでの情報をまとめればその可能性が高い。
 それを理解していてもなかなか次の一手を出し余裕が無いのだ。
 対城宝具を保有していないのは痛い。だが、ここはこれ以外に方法はないのも事実だ。
 確かにイリヤからカードを渡して貰う事も可能だ。だが、それをすれば他のマスターにバーサーカー自身の保有する宝具の秘密がばれてしまう。
 ここでばれてしまえば今後の戦いに影響を及ぼしかねない。
 アサシンの能力を考えればここでカードを切るのは危険と言えよう。
 ただ、イリヤの安全は完全に確保出来ている。あの不浄の塊はイリヤを守る結界を崩壊させることは出来ない。
 バーサーカーは近くに刺さっていた槍を掴んだ。

「対軍宝具 突き穿つ死翔の槍――心臓を持つか分からない以上、こちらの選択の方が正しいわね」

 本来のランクはB+
 投影の為、ランクは落ちるがそれでも最大捕捉が50人だ
 足を止める程度の役割は果たせるだろう。
 殺せる宝具を持たない今はこれ以外に方法は無かった。時間を稼ぐ以外には……。



「ゲイ・ボルグ!」


 一本の槍は真名解放により三十本の槍に分かれ、ライダーへと襲い掛かる。
 だが、それでも保有する心眼(真)がそれだけでは足りないと告げていた。何もかもが足りない。
 いや、バーサーカーの持つ宝具ではアレは殺しきれないのかもしれない。
 そう思わせるまでに強大な怨念を放っていた。
 黒い穢れた泥――
 それはまるで、目に見える形で現れた世界の全ての悪意のように脈打ち、辺りを侵食する。
 分かるのだ。時が止まっていてもアレは着実に世界を侵食している。
 目の前にあるのは絶望でしかない。希望など欠片も無い。ある筈がない。
 だが、勝たなければならない。勝って救い出さなければならないから……。
 もう一人の自分を!そう、この世界のもう一人の自分。イリヤスフィール・アインツベルンを救わなければならないからだ。
 バーサーカーの知るアイリスフィールと切継が嘘だとは思えない。
 この世界の二人もイリヤを愛していた筈だ。何かを求めて聖杯戦争に参戦した筈だ。
 だからこそ、その二人を勘違いし、憎しみを向けるもう一人の自分を救わなければならない。
 あの子には光の中で笑っていて欲しいから――



「ランサーのマスター! 火力が足りない! 何か他に手はないの?」



 必要な火力が足りない。
 そこで思い出したのはランサーの宝具だ。
 あの宝具は対城宝具。アレを用いれば形勢逆転可能かもしれない。
 だからこそ、ここにランサーがいない事がバーサーカーは不自然に感じたのだ。

「ランサーは負傷して霊体化しているわ。ランサーはたった一人でライダーを相手していたのよ」

 一人で相手をしていた。
 あのランサーが霊体化しなければならないほど追い込まれているという事実をバーサーカーは信じられなかった。
 だが、ここに居ない事を考えると恐らく事実なのだろう。
 そんな事を考えていると突然、時が動き出しライダーへと刀剣と槍が殺到する。
 刀剣がライダーの巨体を貫く度に黒いヘドロが辺りに撒き散らす。
 黒い泥は辺りを侵食し、黒い闇色へと変色する。問題はその地面が黒いオーラを放っている事だろう。このままでは泥に汚染された土地がライダーを強化する可能性すらある。
 時間をかければかける程にこちら側が不利になるだけにどうすればいいか結論が出ない。
 そこで、頭にある事が過ぎる。アーチャーの宝具だ。咲く夜の様子を見ればアレは恐らく対軍宝具である。それならば、足りない一発が弱いとしても数で押し切る事が可能な筈だ。

「アーチャー! 貴方の魔法でおさえられない?」

 どれだけの魔力を消費するか分からないが、ここで魔力を消費しないほかない。
 だが、念密な投影になればなるほどに自分の持ちえない属性の魔術を利用する為に時間がかかってしまうのだ。それ故に不意打ちをされる事だけは避けなければならない。
 その言葉に無限の剣製の範囲内に入り、動けるようになったまどかは小さく頷いた。

「わかりました。バーサーカーさん」

 ただ、凛の頭ではそれは無意味だという結論が過ぎる。
 ライダーの能力は操作。つまり、魔力の塊でしかないまどかの矢は操作で……。
 何かの概念武装としての護りがあるのならば、話は別だろうが今のまどかに概念武装は存在しない。それでは足りないのだ。絶対的な戦力としての何かが……。

















「やれやれ……よくもまぁ、やってくれるな。間桐めが……」

 サーヴァントは全員出払っている。今、ここにいるのは言峰綺礼だけだった。
 監督役としての繋ぎを行なわなければならない。それだけの為にだ。あの間桐臓硯――やはり、あの時に潰しておくべきだった。
 だが、そんな静寂に落ちた教会に来客が訪れる。
「ここにいるんだろう。言峰」
 訪れていたのは衛宮士郎だった。あの切継の息子。それ故に期待していたというのにこの様子では私を満たしてはくれそうにない。むしろ、セイバーとランサーの二人の関係の方が面白い事になりそうだ。
「今宵は何の用かね? ライダーの件で少々、忙しいのだが」
「その事でアンタに聞きたい事がある」
 恐らく、アーチャーに追い返されたのだろう。このような男など戦場では邪魔でしかない。
 あの女の事だ。実力で追い返したのだろう。この程度で折れるような信念だとするならば料理のし甲斐が無いというモノだ。だからこそ、ここは背中を押す事にしよう。
「そうか。お前もまたライダーの討伐に向かっていたと思ったのだがな。奴は明確な悪なのでないのか? 正義の味方――貴様はそうなのであろう? 衛宮士郎」
 言峰の言葉に士郎は僅かに目を逸らした。やはり、迷いが視える。
「あれがどうにかしなければならない事は理解しています。だから、ここに来ました。私達に何が出来るのかを問う為に」
 衛宮士郎の背後から霊体化していたセイバーが現れる。ランサーから報告は聞いていたが見た瞬間、それが甘美なモノである事を理解する。この女はあの時の雁夜と同じ匂いがすると……。
「何が出来るかか。外円部に配置されているモノ達もそろそろ動き出そうとしているだろう。それまでにどうにかしなければこの町は地図から消える事になるだろうな」
 その言葉に衛宮士郎とセイバーは言葉を失う。当然だろう。そこまでの事態と考えていなかったのだ。
 だが、良く考えれば解った筈だ。自分達がどれ程、危うい天秤の上に乗っているのかを。
「時間はどれくらい残っているんですか?」
「ふむ。一時間も無いだろうな。だが、手を尽くせば三十分は稼げるだろう」
 実際はこの町の外に出るまでは奴らが付け入る口実は手に入らない。だからこそ、もう少し長い時間を稼げるはずだ。だが、それをそのまま伝えては面白くない。未熟ならば未熟なりに足掻くさまを見るのもまた一興だろう。
「時間が無い。急ぐぞセイバー!」
「待って、士郎。その場に行って何をするの? ここまで来てまだ助けるなんて言うつもり?」
 助ける? まさか、ここに来てまだあの男を助けようというのか?
 間桐慎二は恐らくすでに死んだも同然だろう。あの男があの聖杯の泥に匹敵するモノを浴びて耐えられるとは考えられない。助けようとして助けられない絶望。その姿を眺める。それは最高の美酒となり得よう。
「俺は誰も悲しまずに済む結末を掴みたいんだ。正義の味方がいれば、誰も悲しまないで済むような」
「無理だよ。そんな事、誰にも出来ない。士郎は神様じゃないんだよ。そんな結末ばかり求めてたら、いつか士郎が壊れちゃう。そんなの間違ってるよ」
 壊れるか……確かにその言葉は間違ってはいないだろう。だが、ここで止られてはせっかくの熟しかけの果実を無駄にしてしまうという事だ。それは本当によろしくない。
「まぁ、落ち着けセイバー。求めるのは自由であろう。それに、今はライダーをどうにかするのが先決ではないのかね?」
 言峰の言葉にセイバーは納得がいかないようではあったが口を閉じた。これ以上、言い合いをしても無意味だと判断したのだろう。ならば、今は目的を与える事が先決の筈だ。
「衛宮士郎。お前にはやって貰いたい事がある。お前とセイバーにしか出来ない事だ」
 恐らく、火力が足らないと言っている頃だろう。並大抵の火力ではない。宝具級の一撃が必要な筈だ。
 そして、目の前にはセイバーがいる。この正義感の強さと甘さを利用すれば簡単に宝具の威力を見る事が出来よう。ランサーでは戦闘能力は分かれども、宝具の威力までは判明しなかった。ならば、利用しない手はない。
 言峰は怪しく嗤うと衛宮士郎とセイバーに宝具を使用するように暗に促すのだった。



[28082] 人形師の敗北
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:324f951a
Date: 2012/07/15 19:24
「どうしたんだよ……セイバー」
自分にも何か出来る事があると言われ、急いで参戦しようともう一度、あの場所へと向かおうとしていた。
だが、後ろにはセイバーが付いて来ない。ただ、士郎をどこか悲しそうな眼をして見つめているのだった。

「やっぱり、マスターをあの場所へは行かせない」

きっと、行かせればどうなるかセイバーには理解出来ていた。
友人の事を諦めきれていない事も。まだ、青臭い理想を掲げ続けている事も。
でも、助けられないモノも存在している。セイバー自身が母さんを、リインフォースを救えなかったように……。
どんなに足掻いたところで全てを救う事は無理なのだ。不可能なのだ。
その理想を掲げる事は間違ってはいない。むしろ、そうしなければ、いつしかどこかで切り捨てるという考えが先に浮かぶようになうだろう。でも、それを抱きすぎれば自分自身が壊れてしまう。
どんな事件も犠牲は出てしまうのだから……。

「何言ってるんだよ……セイバー」

「その言葉通りだよ。後は私が何とかする。だから、安全な場所にいて」

きっと、友人を手にかけるとなれば躊躇いを生むだろう。
だが、あれを野放しにするのは士郎の信念に反する筈だ。ならば、その泥は誰かが被らなければならない。
ならば、甘んじてその泥を被ろう。士郎の掲げる思いはきっと、士郎の根幹に関わる大切なモノなのだから、それなくして士郎はあり得無い筈だ。

「ふざけるな!お前だけ、危険な場所に」
「それが間違ってるんだよ。私も士郎を守りながら戦う余裕はないの……分かって貰えないかな?」

戦えない。他のマスターは自衛手段を持っている。士郎は彼らに比べたらこういう言い方は悪いが、天と地の差だ。語る次元が違い過ぎる。もとより、比べる方が烏滸がましい。
それに、今は自分の手の届く範囲を知ってもらいたいというのがセイバーの思いだった。
所詮、人は手の届く範囲の人間しか救えない。それでも、多くのモノを溢してしまう。
それを学ばなければ、士郎は――マスターはきっと壊れてしまうだろうから。

「そんな事、出来る訳ないだろう!女の子であるお前を一人で」

「だから、それがそもそも間違ってるんだよ」

セイバーはバルディッシュを待機状態からザンバーモードへと変更し、マスターである士郎に向けた。
こうでもしなければ、士郎は理解を示さないだろう。私と自身の実力差を身をもって体感しなければ絶対に……。
本当はマスターである士郎を傷付けるのは心苦しい。出来るなら、したくは無い。
でも、ぶつかりあわなければ伝わらない言葉もある筈だ。
ラインが正式に開通していない為、魔力には不安があるがリンカーコアのお蔭で自給自足が出来ている。無茶をしない限り、魔力切れを起こす事は無いだろう。
ただ、全力で戦う事は何度も出来ないだろうが……。

「士郎、私が士郎にバルディッシュを向けたのがいつだか気が付いた? これが貴女と私の差だよ」

神速とも言えるセイバーの早業を士郎如きが見破れる筈が無かった。
気が付いた時には首筋に刃が当てられている状態。令呪を使う隙すら与えない徹底ぶりだ。もしも、セイバーが直前で刃を止めていなければ、今頃は胴体と頭が別れていただろう。

「ごめんね……士郎」

そう言って、セイバーは士郎を魔力ダメージで気絶させようとする。だが、その瞬間、バルディッシュの魔力刃が有り得ない方向に螺旋まがった。
敵襲! そう考えたフェイトは士郎を抱えてこの場から離脱しようとする。
だが、それを易々と許す敵ではなかった。

「やぁ、またあったね。セイバーとそのマスター。今度は仲間割れかな?」

一番、出会いたくなかった存在だ。
しかも、セイバーと士郎を分断する形で立っている。それを考えるとここからただ、離脱するのは難しいだろう。方法があるとすればただ一つ。アサシンを撃退する以外に道は無い。
セイバーがバルディッシュを構え、アサシンと対峙する。明確な戦闘を意識した構えだ。

「あの魔術師殺しの衛宮の息子――やはり、いくら調べても貴方以外、該当者はいませんでした。予想外過ぎて笑うしかありませんよ」

その言葉に警戒心をさらに強め、セイバーはじっと観察する。そこである違いに気が付いた。
本来あるべきはずの場所に足りないのだ。この男は令呪を持っていないのだ。
ならば、人形である可能性も捨てきれない。だが、マスターの権限を誰かに譲渡した可能性もある。
簡単に判断できないだけにセイバーはなかなか動けない。アサシンに単独行動スキルがあれば、マスターを倒しても消滅しない。危機は去らない。
マスターを押さえても、アサシンがそれでこちらの言葉を聞くとは思えない。完全に手詰まり状態だ。
そんなセイバーの胸の内の葛藤に気が付いたのか、アサシンの元マスターは一言、こう呟いた。

「安心して下さい。ここで貴方達を消すつもりはありませんよ。ただでさえ、ライダーが消えれば一気に拮抗が崩れ、戦況が動くというのに最強の駒と名高いセイバーにまで脱落されては困りますから」

「ただ、あまり此方の邪魔をされるようであれば容赦なく叩き潰しますがね」

マスターではない。
つまり、誰かにマスター権を譲った事を意味している。何かを企んでいなければおかしい。

「あぁ、安心してください。私はお前らに構うつもりはありませんから。別の要件で動いてるので――今なら他の人間に気取られる事なく、何の障害に妨げられずに動けますから」

「何をするつもりだ!あんた達!今、どういう状況なのか理解してるのか!」

理解ならしているだろう。いや、していなければおかしい。それを理解しても尚、ここで動くとなれば何か別の要因があるに違いない。

「それでは、私はもう行きますから後は彼女に任せましょう。そうそう、ランサーのマスターにあったらよろしく伝えて置いて下さい。化けの皮を剥がして差し上げますと」

「答えなさい! 貴方達は一体何が目的なんですか!」

裏がある。
そうとしか思えない言動にセイバーもアサシンのマスターに食ってかかる。
違和感だ。アレ以上に何か厄介な存在がいる。まるでその事を知っているかのような行動……。
ならば、後々にぶつかる可能性がある以上、見過ごせる筈が無い。
警戒心を露わにする二人。だが、二人だけではなかった。

「説明して下さい。一体、何があるんですか」

「まぁ、君には教えておかなければならないか……。アレが本当に英雄に見えるかな?」

その言葉に何も言い返す事が出来ない。
ライダーはどう考えても怨霊だ。アレが英雄であっていい筈が無い。
英雄とは正反対の世界を滅ぼしかねない悪だ。今もその悪にこの町は世界は滅ぼされようとしている。
それが意味している事は一体、なんだろうか? その答えなど決まっていた。

「そういう事ですか? このシステム自体が崩壊してるとでも言いたいのですか!」

「さぁ、そればかりは私にはわかりません。ですが、疑う余地はあるでしょう? 前回の戦いを知っていれば……

たとえば、そうですね。言峰綺礼は衛宮切継を知っていた。それはなぜかな?」

「彼が前回の聖杯戦争に関わっていたから――」

「なら、結末があのような結果だったのに何故、何の調査もしていない? このまま続ける?」

「何が言いたいんだよ……お前」

そのような言葉を士郎が受け入れられる筈が無かった。受け入れられる筈が無かった
壊れる。衛宮士郎はこの事実に耐えられないだろう。いや、元々壊れている人間だ。
だからこそ、今は全てを忘れるべきだ。何もかもを忘れ、今は一時の休息を……。

だが、衛宮士郎に近づく事は出来なかった。
アサシンが間に入ったからだ。アサシンのマスターの命令によって……。

「悪いけど、今のマスターはアンタじゃなくてさ」
「アサシン、どういうつもりですか……なんで、私の味方に」

アサシンからは何の返答もない。
だが、必要などないだろう。今は目の前の元アサシンのマスターを撃退する事にだけを考えればいい。
いや、そうしなければ勝つ事は出来ないだろう。
一度、絶対的な敗北を受けているのだから……。

「仕方ありませんね。今はまだ、此方もあまり騒ぎを起こしたくはない。ここは一端引きましょう。既に記憶の操作は行えましたから」

本来ならば、完全に隠蔽して置きたかったが、この状況でサーヴァント二体を相手にするのは不可能だ。それを考えればどちらが最善か簡単に判断出来るだろう。

「待ちなさ!!」

セイバーは少年を拘束しようと動く。
だが、身体が凍ったように固まってしまい、男にザンバーが迫る直前で止ってしまう。
いくら、ザンバーに力を込めても全く動かない。まるで石になってしまったかのようだ。
そこでようやく気が付いた。何をされたのかを……。

「魔眼ですか……」
「けど、いいのかい?私らを見てるって事はマスターから目を逸らすって事だと思うんだけどさ」

「勝手に勘違いしているみたいですが、いつ私が魔眼を用いましたか?」

その言葉に別の要因が頭に浮かび上がる。
この少年は人形師。ならば、魔眼を持った人形を放つ事など容易いだろう。

「すいません。どうやら動けないようです……」

現アサシンのマスターである浅上藤乃は完全に動きを封じられていた。
つまるところ、この場所を全て視界に入れられる場所に人形が存在している。気付かれない様に配置している事を考えると油断ならない相手という事は明白だろう。
今回の動きを考えれば、一番危険視すべき相手だ。

「それでは、あとは頑張って下さいね。私がいなくなって数分で切れると思いますので……」

そう告げるとゆっくりとどこかへとアサシンの元マスターは姿を消す。
信用は出来なかったが、どうやら言葉通り魔眼は解けたらしい。セイバーのマスターである衛宮士郎は完全に気絶している。動けるのはセイバーだけだ。

「よかったのかい?一応、あいつに師事するようにいわれてたんだろう?」

「それは……」

あの光景を見ていると両儀式と戦った時の事を思い出してしまった。
だからこそ、思わず手を出してしまったのだ。今更、思い悩んだところで仕方がない。
ただ、何度も過去の事例を考察しているような節を考えると何か裏があるという事は薄々ではあるが、藤乃は感じ取っていた。

「まぁ、今更言っても仕方ないか。で、どうするんだい? ライダーとやり合える程、私は強くないんだけど」

その言葉は嘘ではないだろう。
アレは殆んど知識がない藤乃でも理解出来る。それ程までの相手なのだ。近接戦闘特化のアサシンには少しばかりキツい相手だろう。

「強くないって、あれだけ大暴れしておいて何を言ってるんですか!」

バーサーカーと真正面から対等に渡り合い、見事に追い返した。
あの光景を見ているだけにどうしてもその言葉を信用できない。規格外のバーサーカーと渡り合えるアサシンも十分に規格外なのだから……。

「勘違いしてるようだけど、物事には相性ってモノがあるんだ。それを踏まえた上で、アレと私との相性は最悪でね。あんたらのような存在と戦うのとは訳が違うのさ」

「――ごめんなさい。変な事を聞いてしまって……。それで、貴方達はどうするつもりですか?」

ライダーはマスターたちの共通の敵だ。
だからこそ、共闘できるのであればしたいというのが本心だった。











「こんな場所で何をしている。アサシンのマスター」

「いえいえ、過去の聖杯戦争の資料を読めばここに大聖杯と呼ばれるモノがあるというんで押さえに来ただけなんですが……貴方こそ、何をしていらっしゃるんですか? 監督役――言峰綺礼」

大空洞内部、本来なら誰一人として人が近付かないような場所だ。今は忙しい筈の監督役がどうしてこのような場所にいるのだろうか? 普通に考えればおかしい事だ。
大聖杯が眠る奥からは不気味なオーラが感じ取れる。まるで、強大な死徒が存在しているかのような圧迫感だ。考えられる要素は一つしかない。
あのライダーの影響だろう。いや、それだけではないのかもしれない。

「アレを破壊しなくてもいいんですか? あれはここに存在していいモノではないでしょう」

感覚で感じ取れる。
この気配を知っている。怨念、恨み辛み……負の感情が集まり蠢く感覚だ。
これだけ強大なモノが出て来てしまったらどうなるか分かったモノではない。上にいるライダー以上のモノがこの世界に現れる可能性もある。
だが、何にが蠢いているというのだろうか? こんなものが聖杯の近くに何故、存在しているのか理解出来ない。確認しなければならないだろう。
人形師が一歩踏み出すと、突然、背後から殺気が飛んで来る。
咄嗟に身体を反らそうとするが、遅い。気が付けば、身体が吹き飛び地面に転がっていた。

「何しやがる。言峰綺礼! これを見逃すのが監督役の仕事なのか!」

「ほぉ――あれを喰らってまだ生きながらえるか」

言葉が通じていない。
最初からこの男は壊れているのだろう。ならば、この戦い自体に意味がな!!
身体が急激に重たくなる。自分が自分でなくなる感覚……。
もう、時間が無いのかもしれない。この場所でもこれだけの被害があるのだ。ならば、聖杯にどのような被害がいっているのか分かったモノではない。
どんな手を使った使ったとしても止めなければならない。

「もとより、貴様は作り手の筈だ。わざわざ、その身で私に挑む事こそが愚の骨頂だろう。万策尽きたか?」

「そうだな……。ここで人形を使えば汚染されてどのような被害を撒き散らすかわからない。ならば、ほかに手段は無いでしょう」

この場の空間というのが最悪なのだ。
人形を創る際に吸血種などの一部を利用している。超越種と対等に渡り合う為に……。
だが、手段を全て奪われた訳ではない。まだ、勝機は残されている。これまでもこの程度の絶望的状況なら幾多も乗り越えてきたのだ。

保有する魔術回路に魔力を流し込む。
いつもとは違う。人形を操る為ではない。自分の神経を強化する為に――。
本来ならば人体が耐えきれないような戦い方だ。だが、この身体は基より人形。戦う事のみを考えられて作り出された個体だ。子供という外見に納める為に制限は付いているが、人間相手には問題ないだろう。
そう、人間という括りに言峰綺礼という男が入っているのだが……。

「なるほど、大見得を切ったわけではなさそうだな」

言峰はそう告げると懐から黒鍵を取り出す。
埋葬機関の連中が主に用いる礼装だ。問題は付加効果の方だが、弓の二つ名を持つあの女ほどには使いこなせないだろう。ならば勝機はある。どんな人間にも身体的な限界が存在しているのだから……。
黒鍵の刃が迫る。聖書のページを変換した属性付加、強化による威力増大だろう。
だが、その程度で潰れるほどやわではない。

左手でその刃を払いのけると腰を深く落とし、足を踏み込む。
そして、言峰にの心臓に右手を……。

「遅いな。止まって見えるぞ」

触れる直前で手が固定される。
咄嗟に、不味いと判断するとなりふり構わず固定された右腕を外し、言峰から距離を取る。
元から、人形である事を考えれば腕などまた付け替えればいい。その程度のモノだ。それに、もしも躊躇していたのならば確実に仕留められていただろう。
それだけの気迫をあの一瞬、言峰綺礼は纏っていた。

「なぜだ!貴様、なんで生きている!」

心臓が無い、ハートレス。
だが、お蔭で前提条件から書き換えることが出来た。そもそも、この男は埋葬機関に所属していた男だ。
そして、前回の聖杯戦争の生き残り――何か隠していてもおかしくはない。
心臓がないのならば、頭を潰す以外に方法はない。
ただ、それには片腕で相対するのは少しばかり厳しいだろう。

「やれやれ……失礼な事を言ってくれるね。私はこうしてここにちゃんと生きているのだが」

「生きているって意味、分かってるか?ハートレス」

作り手であり、担い手ではない事がここにきて大きな差を生んでいる。
こんな事ならば、確認ではなく攻め落とすつもりで来ておくべきだった。
だが、そんな余裕は……!!

辺りの景色が変化する。
固有結界――だが、ここにそれを行えるような人間がいるとは思えない。
何かが背後に立っていた。逃れられない。まるで、体が徐々に背後にいる存在と同化していくかのようにいう事を聞かない。吸い込まれる。
何故だ。おかしい。分からない。困惑が頭を支配する。

「何故、アーチャーがここにいる? 貴様は上で戦っている筈だが? ここに凛のやつもいるのかね?」

アーチャーという言葉に振り向いた。
違う。アーチャーじゃない。直感ですぐに理解する。
確かに被っている皮は同じだが、内面がまるで違う。こいつはヤバい……。上にいる奴と同様。いや、それ以上。
ようやく気が付いた。自分がどうなっているのかを……。
魂の部分で同化させられている。このままでは人形を別に用意していたとはいえ、意味がない。
使いたくは無かったが、こうなっては仕方が無い。コレを相手にするには分が悪すぎる。賭けに出るにしても勝ち目がなければ意味は無いだろう。いくら、人形の身体でも捕らわれた時点で敗北だ。

「今回は引かせて貰う」

元々、この人形は遣い捨てるつもりだった。予定よりも早いが仕方あるまい。
言峰綺礼とあの存在を一人で相手にしても瞬殺されるだけだ。
せめて、この場所に閉じ込めるとしよう。そう覚悟を決めると、体の中に魔力を通す。
一本だけ創られていた擬似魔術回路。これに魔力を流した際に体が自爆するように設計されていた。
威力は心もとないが、場所を考えれば十分に相手を閉じ込められる筈だ。鍾乳洞、壊れやすさなら折り紙つきの筈だ。

「させると思っているのかね?」

言峰が動く。
辺りに血飛沫が舞った。
言峰の手が人形師の心臓と貫き、首が地面を転がる。

「なぜ、これほどまでに素晴らしいものを壊そうとするのかね? 理解が出来んな」

言峰の言葉など、もはや届かない。
転がっているのは死体だ。もはや、喋る事も叶わない。
こうして、人形師のマスターは聖杯戦争の敗北が決定したのだった。








「保険が正解だったな。心臓が潰れた時点で頭を吹っ飛ばすようにしておいて」

人形師の第二アジト
だが、恐らくは言峰も念の為にここに訪れる可能性がある。なら、生存を疑われるような証拠は残しておかない方がいいだろう。
装備も置いて来てしまったモノの大半は放棄する事になるが、仕方が無い。裏をかくにはその程度の損害は承知の上だ。
あの存在に対してもそれなりの対策を行わなければならない。概念武装――聖典クラスのモノがあれば話は違うのだろうが、それを手に入れるのは難しいからだ。
まぁ、どちらにしろ言峰綺礼にはきっちりとお礼をしなければならない。
そう呟くとアジトを出る。工房を放棄する位なら破壊する方がいいだろう。あの男に此方の手札を知られるくらいなら……。保険をかけておいたため、殆んど損害はなさそうだが――。
しかし、問題はなぜアーチャーが姿をしていたのかだ。その辺りの裏も取らなければならないだろう。







作り手なので言峰神父との戦闘には敗れて貰いました。
武器も持っていないので……。因みに、まだまだ彼女には動いてもらう予定はありません。今回は上にいるライダーさんの影響で一時的に具現化してる状態と考えて貰えると助かります。



[28082] 希望
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:324f951a
Date: 2012/09/11 00:42
「嘘、でしょう……まだ足りないの……」

目の前に広がるのは絶望と言う名の災疫。
どのような攻撃もたちまち再生する悪夢だ。これに打ち勝つには並大抵の宝具では歯が立たない。
だが、同時に時間もない。なぜなら、背後には町があるからだ。冬木にまで降りられれば辺りのモノを食い散らかし、更に強大な力を得る。そうなってしまえば、手の施しようがない。
バーサーカーが固有結界で食い止めているがそれが崩れるのも時間の問題だ。
それまでにこの状況を打開する策を見付けなければならない。たった一つの希望を探し出さなければならない。
他のマスターたちがサーヴァントに指示を飛ばす中で凛は考えを巡らせる
昨夜にあって今日無い物だ。
アーチャーが悪霊に対しての切り札を持っているのは確実。だが、宝具ではない。
恐らくは固有能力。しかも、特定条件下のみで作用する極めて特殊なモノの筈だ。
今、この状況を打開出来るだけの手札はそれ以外に凛は思い付かなかった。

「鎧武者を浄化したチカラ――」

アレは絶望と真逆の性質――希望を与えていた。
闇に沈み切ったモノにすら差し込む光だ。どこまでも温かく、優しい。
別の何かがまどかに憑依したとあの時は考えていた。自覚がない力。
キャスターもアーチャーもバーサーカーもランサーも必死に戦っている。ボロボロになりながら、ライダーと言う強大な力に抗おうとしているのだ。まだ、誰一人として諦めていない。
なら、凛がしなければならないのはこの僅かな可能性に賭けるという事だ。
例え、どんなにちっぽけな希望でもそれを信じて前に進む以外に道はない。そう、道はないのだ。

「その程度? そろそろ、貴方達も絶望に沈みなさい!」

九尾の狐から黒い霧状の何かが洩れ出し、辺りを覆い尽くす。

「何!コレ!?」

驚く暇すらなく、凛はその霧に飲み込まれた。光すら通さない暗い闇だ。
目の前を暗く閉ざすその霧からは声が聞こえてくる。諦め、憎しみ、呪い。負の感情だ。まるでその霧は形あるものを飲み込もうとしているかのように手のような物を創り出すと足や手にしがみつく。
痕が残るほどに強烈な力だ。マスターたちを襲うそれにサーヴァントたちも思わず目を逸らしてしまう。
だが、今は戦いの最中だ。敵から目を逸らし、背中を向けてしまえば恰好の的。ギリギリで踏み止まっていた拮抗など容易く崩れ去ってしまい、徐々に流れをライダーに持って行かれても仕方がない。
何故なら、ライダーはどんなに攻撃を浴びせた所で再生しているのだから……。

「凛!」

だが、その中を宝具アスカロンの守護に守られていたイリヤが駆け寄る。
今、アーチャーが魔力供給減を失えば更に泥沼へともつれ込む。そうなれば、巻き返しは難しい。
アスカロンの守りの中に入ればこの黒い霧からも逃れられる。そう考えてイリヤは結界を張ろうとするが、宝具すらもその黒い霧は侵食していたのだ。白く輝いていた刃は黒く濁り、刃毀れが始まっている。
もしも、これが本物ならばこんな事にはならなかっただろう。
いや、レプリカ。投影品。
並の礼装では凌げない瘴気なのだから、これでも随分持った方なのかもしれない。
けれども、問題はそうなればバーサーカーすらも魔力供給を失うという事だ。戦線を支えているバーサーカーが……。
イリヤは令呪を使うか迷った。
最悪の場合、令呪を用いて聖杯からバックアップを受けられれば自身が倒れても戦い続ける事が可能かも知れない。
だが、所詮はそれも希望的観測。どれほどの力がバックアップされるか分かったモノではないのだ。もしかしたら、一瞬で力を使い切ってしまうかもしれない。
バーサーカーそのものは燃費が悪い。狂化などしてしまえば、イリヤの制御なしには戦えないだろう。
弱くなった結界では凛に憑りついた瘴気を払うことは出来ない。徐々に弱って行く凜にイリヤは唇を噛んだ。



「凛さん……」


背後の様子にキャスターの手が止まる。
最後の切り札。ここでソレを使ってしまえば後々、杏子との約束が果たせない……。杏子を闇から救い上げる事が出来るとすれば希望だけなのだ。そう、希望だけ。
たった一枚のカードがさくらの手にある。このカードを切れば、この状況を打開出来るかも知れない。
けれども、それは杏子を救う唯一の手段を失う事と等しい。それ程までに、このカードは消耗が激しいのだ。
クロウカードの中で最も強敵だった「無」から生まれた「希望」
ラスの力を持つ52枚のクロウカードとのバランスを保つ為に作り出したマイナスの力を持つカード。元々、それ程の力を持つ為、このカードを使用してしばらくは宝具を使用する事が出来ない。
それが意味している事は完全なる無力という事だ。そうなれば、さくらが聖杯戦争で勝ち抜く道は閉ざされる。
しかも、使える可能性は一度か二度……。いや、二度目はないかもしれない。
マスターである杏子――今も闇の中で必死に戦い続ける一人ぼっちの少女。
この場で必死に絶望の中に挫けそうになりながらも必死に抗う少女たち。
二つを天秤にかける。どちらもさくらにとっては守りたいものだ。
どちらも見捨てる事が出来ない。自分を構成する大切なモノ。けれども、どちらかを選択しなければならない。



「ごめんね。杏子ちゃん……」


最初から決まっていた。
自分に言い聞かせて来た。「絶対に大丈夫」何度も、そう言い聞かせて来たのだ。
今回だって同じだ。杏子の事も絶対に何とかして見せる。
それに、ここで他のみんなを裏切る事など最初から出来る筈がなかった。そんな事をしてしまえば、これまで自分がして来た事、全て。歩んで来た道、出逢った人たちに背を向けてしまう事になるのだから。
ならば、最初から迷いなどある筈がなかった。


「レリーーーーーーーーーーーーーズ!」


星のカード。
さくらの持つカードの中で最も力を持つ希望と言う名を司る五十三枚目のカード。
そのカードが解放されると共に辺りは真っ白な温かい光につつみこまれた。














「まだ、邪魔をするのね」

ほむらが結界を解いたと同時に間桐の蟲が襲い掛かってくる。
最初から放っていたのだろう。邪魔をする為に……。杏子の概念武装を撃ち込むにはこの男が最大の難関。
こいつをどうにかしない限り、届く事はない。
結局、こうして互いにぶつかるしかないのだろう。
間桐――聖杯戦争を始めた御三家にして衰退していった一族。
その長だったのがこの男だ。不老不死と言う手段が目的に入れ替わった。もしかしたら、自分もこのようになって行くのかも知れない。既になっているのかもしれない。まどかを救うという目的の為の手段がいつの間にか目的となる。
思い返せば、そんな事が何度かあった。まどかを救う為にさやかを見殺しにした。切り捨てた。
そうすれば、次に起こる事象が確定するからだ。多くの道筋を歩み、その事柄に感情が動かなくなった。それが当然と思うようになってしまっていた。

「当然。素晴らしい力を手放すと思ったか!」

今まで年老いたみすぼらしい姿だった臓硯の姿がまるで時を遡ったかのように若々しい。
その魔の魅力に憑りつかれてしまったのだろう。哀れな末路。まるで、魔法少女のなれの果て。魔女のようだ。

「哀れだな。そういう奴を何人も見て来た」

杏子は埋葬機関に所属し、力に溺れた愚かな人間の末路を見て来た。
吸血鬼になるモノ。確固たる存在を失い、概念になるもの。皆、何かが欠落していた。
そんな二人の前に立ちはだかる臓硯。それを無視出来る筈がなかった。






久し振りの投降なので慣らしで少し短いです。すいません。
少しずつ、ペースを上げていく予定です、



[28082] サーヴァントステータス表 更新しました
Name: 浅田湊◆03c015ee ID:711eb89e
Date: 2012/07/15 19:22
セイバー

真名 フェイト=テスタロッサ=ハラオウン
マスター 衛宮士郎
属性 秩序・善
性別 女性
武器 デバイス

筋力 B
耐久 B
敏捷 A++
魔力 A
幸運 C
宝具 B+

アーチャー

真名 鹿目 まどか
マスター 遠坂 凛
属性 秩序・概念
性別 女性
武装 弓

筋力 C
耐久 A
敏捷 C
魔力 A+
幸運 B
宝具 B

クラス別能力

対魔力 D

 鹿目まどかの対魔力は脆弱なモノである。そのランクはD、すなわつ一工程の魔術なら無効化出来る程度のモノであり、魔力避けのアミュレット程度のモノでしかない。これくらいの守りであれば、少し強い能力を持った魔術師であれば、容易に突破する事が可能である。

単独行動 B

 通常サーヴァントがマスターを失うと現界するための魔力をどこからか補充しない限り、数時間でこの世から存在が消滅する。消滅までの時間は英雄によりさまざまだが、単独行動ランクがBである鹿目まどかの場合、二日間は継続して現界し続ける事が可能。ただし、これは戦闘や宝具使用などの消耗を避け、魔力を出来る限り温存した場合の理想値である。

保有スキル

 千里眼 A

 ごくまれに未来視を起こす事がある。遠距離まで見通せる鷹の目。
 能力的には視界に捉えたモノに向けて放たれた矢を外すことはありえない。

宝具

 救済の弓 対軍宝具 C+~B+++

 決して外れる事のないホーミング性能の弓を無尽蔵に魔力が尽きるまで放つ事が出来る宝具
 その矢は魔力で生成されている為、対魔力に対しては弱体化するがそれを数で押し通す事が出来るほどのモノである。


アーチャー

真名 暁美 ほむら
属性 執着・歪み
性別 女性
武装 魔法・現代火器

筋力 D
耐久 D
敏捷 C
魔力 E
幸運 D
宝具 EX

対魔力 D

 暁美 ほむらの対魔力は脆弱なモノである。そのランクはD、すなわつ一工程の魔術なら無効化出来る程度のモノであり、魔力避けのアミュレット程度のモノでしかない。これくらいの守りであれば、少し強い能力を持った魔術師であれば、容易に突破する事が可能である。

単独行動 B

 通常サーヴァントがマスターを失うと現界するための魔力をどこからか補充しない限り、数時間でこの世から存在が消滅する。消滅までの時間は英雄によりさまざまだが、単独行動ランクがBである鹿目まどかの場合、二日間は継続して現界し続ける事が可能。ただし、これは戦闘や宝具使用なおの消耗を避け、魔力を出来る限り温存した場合の理想値である。

固有スキル

兵士の心得 B++

 本来は宝具としての意味を持たない神聖の欠片も保有しない現代火器を宝具として扱う事が可能になる。そのランクはD~Bランクまでと様々

悪運 A+

 どのような状況になっても必ず打開点を発見する程に悪運が強く死ににくい。また、精神汚染を無効化する。

戦術 B

 事前の情報を元に有利に事を運ぶ事が出来る。但し、突発的な戦闘に於いてはこの能力はマイナスに働く

宝具

時空反転 対界宝具 EX

 砂時計が完全に無くなるまでは時間停止しか行えないが、その砂がすべて落ち切るとその砂時計を反転させることにより、過去の自分へと遡る事が可能。

貯蔵庫 対軍宝具 B+

 暁美ほむらが生前使用した兵器が無尽蔵におさめられている空間の狭間に存在する場所であり、彼女の意志で自在に配置が可能となっている。



ランサー

真名 高町なのは
マスター
属性 秩序・中庸
性別 女性
武装 魔法

筋力 C
耐久 A+
敏捷 C
魔力 A++
幸運 A
宝具 A+++

クラス別能力

対魔力 C

 高町なのはが持つ魔力は彼女の資質から1ランク強化されている。
 ランクBの対魔力は三節以下の魔術は難なく無効化する事が可能。さらに言えば、大魔術、儀礼呪法であっても高町なのはにダメージを与えるのは難しい。また、彼女が魔導師であることもあり、彼女に対して魔法で挑むのは至難の業と言えよう。

保有スキル

カリスマ B 軍団を指揮する天性の才能

戦闘続行 B 大きな傷を負っても戦闘が可能。ちょっとやそっとの怪我では死ななくなる。

千里眼 B 戦場における敵の位置を自分の索敵内であるならば補足が可能

直観 A 戦場で常に自身にとって最適な行動を感じ取る能力。研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚、聴覚への干渉を半減させる。

宝具

スターライトブレイカーEX 対城宝具 A+++

 高町なのはの保有する最大最強の砲撃魔法。本来のスターライトブレイカーの特徴である収束魔力に加えてマガジン内のカートリッジ全弾の魔力も使用する。そのため、スターライトブレイカー+では長時間(テンカウント9必要だったチャージタイムを半分近くに短縮されている。
 絶対的な威力を誇る超強力な砲撃ではあるが、その魔力は既になのは本人やレイジングハート・エクセリオンの限界を超えており、発射後なのは自身は一定時間魔法が使用不可能、レイジングハート・エクセリオンはその機構への負荷のためにメンテナンスが必要となる。 以上より、使用後は戦闘行動がほぼ行えなくなるという、文字通り最後の切り札。



ライダー

真名 諫山 黄泉
マスター
属性 混沌・悪
性別 女性
武装 刀

筋力 B+
耐久 B
俊敏 B
魔力 EX
幸運 E
宝具 EX

クラス別能力

対魔力 B

 元来は対魔を生業としていた為もあって、極めて高い対魔力を有している。ライダーのクラスが持つ対魔力のクラス別能力は、三騎士のクラスに比べると効果の低いモノだが、それがこれだけ高いランクになっているのは諌山黄泉自身の対魔力が高いためだ。
 ランクBの対魔力は三節以下の魔術は難なく無効化する事が可能。さらに言えば、大魔術、儀礼呪法であっても、諌山黄泉にダメージを与える事は難しい。

騎乗 A++

 ライダーのサーヴァントに選定されるだけあって、諌山黄泉は高いランクの騎乗能力を有している。しかも、その能力は特定の獣や乗り物に対して発揮される訳ではなく、ガイアの意志にまで簡単な意識操作を行えるほどである。

保有スキル

悪霊 A+

 精神汚染をすべて無効化され、暴走時にはステータスが1ランク上がる

心眼(真)B

 それまでに得た情報を元に、相手の行動を予測し。状況を打破する危険回避能力

汚染 A++

 辺りに悪霊を引き寄せ、自らに従わせる事が出来る

宝具

師子王(乱紅蓮)対人宝具 B++

 赤い獅子のような巨大な獣の姿で、尾は無数の蛇である師子王に宿る霊獣を召喚し使役する事が出来る。
 また、この霊獣は任意に霊体化を行えるため倒すのは非常に困難となっている。

殺生石 EX

 黄泉を悪霊に至らしめた一品であり、無限の魔力で再生させ続ける怨念の塊。
 逸話の通り、この石は十個に分かれた欠片の一つだがこれ一つだけでも相当な力を誇る
 また、これを用いる事でガイヤの汚染浄化を行うシステムである九尾の召喚が可能

九尾  EX

 ガイヤの意思であり、人々の怨念の塊。
 その怨念を集めて浄化するシステムの一部の為、世界を滅ぼすほどの強大な力を誇る



キャスター

真名 木之本 桜
マスター 佐倉杏子
属性 中立・善
性別 女性
武装 杖

筋力 E
耐久 D
敏捷 D
魔力 B++
幸運 A++
宝具 


アサシン

真名 
マスター
属性 秩序・中立
性別 女性
武装 無し

筋力 B
耐久 B+
敏捷 C
魔力 B
幸運 E++
宝具 

バーサーカー

真名 
属性 無邪気・中立
性別 女性
武装 杖

筋力 C
耐久 B
敏捷 B
魔力 A++
幸運 A
宝具

固有スキル

狂化 B

 理性の代償として能力を強化する。バーサーカーを特徴づける能力なのだが、イリヤの保有する精神汚染無効の能力により、理性を失うことなく能力を強化する事が出来る。しかし、能力を使った際には少しばかり思考に隔たりが出る程度のリスクが出来てしまう。

保有スキル

単独行動 A

 依代であるマスターを失っても、しばらくの期間限界を保っていられる能力


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