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[28071] [習作]夜天通行(リリカル×禁書)
Name: ベクトル◆5a28e14e ID:9641fd69
Date: 2011/06/21 22:29
-プロローグ-

それは私たちの住んでいる世界とは違う2つの世界とそこで生きていた人たちの物語。

1つ目は<超能力>や<魔術>が存在する世界。
この世界では<特殊な右腕を持った高校生>が物語の中心にいる。

2つ目は<魔法>や<吸血鬼>が存在する世界。
この世界では<何にも負けない心を持った少女>が物語の中心にいる。

しかし、今から語られる物語の中心はこの2人ではない。

1人は<最強>でありながら他者を傷つけないために他者を傷つけるという矛盾を犯してまで<無敵>を目指した<孤独>で悲しい青年。
もう1人は<孤独>と悲しい<運命>を背負いながらも強く生き、他者を思いやることができる<優しい>少女。

<孤独>な青年は<優しい>少女と出会い何を思うのか。
<優しい>少女は<孤独>な青年と出会い何を思うのか。

<科学>と<魔法>が交差するとき、物語は始まる。



~注意書き~

・処女作です。
・最強・ハーレムモノでは無いです。
・無印はあまり絡みがないです。
・独自解釈が入ってしまう場合があるかもしれません。
・一方通行の性格には作者なりの解釈が混じっているので原作との差異があると思います。


~あとがき~
初めまして。ベクトルと申します。

禁書の一方さんとリリカルのはやてが好きなので2人がメインの小説を書いてみました。

とりあえずプロローグと1話を書いてみましたので皆様のご意見をもらえたらと思い投稿させていただきました。

小説を書くのは初めてなので拙い文章になるとは思いますが、よろしくお願いします。

<追伸>
規約違反をしてしまい申し訳ありませんでした。
修正を行いましたが、まだこちらに落ち度があるようでしたら教えていただけると有り難いです。



[28071] 第1話 こうして彼は彼女に会う
Name: ベクトル◆5a28e14e ID:9641fd69
Date: 2011/07/03 18:59
-1話 こうして彼は彼女に会う-

《学園都市》、それは関東西部に位置し人口約230万人、総面積は東京都の3分の1。在住している人の8割は学生という巨大な塀に遮られた教育や研究を主とした都市国家である。
内部と外では科学技術に大きな差が存在しており、独自の軍事衛星や高性能な機械が存在する。
そして大きな特徴として学生達に暗示や薬品を投与し《超能力》という《異能》を研究、開発をしている。

《超能力》にはその力の威力や効果等を評価しランク分けされた《LEVEL》というものがある。
《LEVEL》は0~5まであり下から順に《無能力者》、《低能力者》、《異能力者》、《強能力者》、《大能力者》、《超能力者》。
その中でも最上位に位置する<超能力者>は《学園都市》全体でも7人しかいなく《大能力者》との間には力に絶対的な差がある。
また、《超能力者》の中にも序列が存在しており第1位の能力者は《学園都市》最強の能力者ということになる。

第1位の超能力者、名前は一方通行《アクセラレータ》、能力は運動量・熱量・光量・電気量など、体表面に触れたあらゆる力の向き《ベクトル》を任意に操作・変換できるといった《力》。
彼は学園都市において《最強》であった、《最強》であったが《無敵》ではなかった。
《無敵》になる為にある実験に参加し、1万人もの人を殺した。
しかし、実験の途中で《特殊な右手》を持つ《無能力者》に敗北し実験は中止、《無敵》にはなれなかった。

その後、彼は1人の少女に出会う。
少女を救うために彼は夜の街を奔る。

物語はそこから始まる……


2011年8月31日の夜、学園都市で銃声が響く。
銃声の発生源はとある裏路地。
そこでは眉間から血を流した白髪・赤目・異常に白い肌をした青年<一方通行>と、右手から血を流し苦悶と恐怖に顔を歪めた白衣を羽織り濃い緑色の髪をした男性<天井 亜雄>が対峙していた。



「……、分かってンだよ。こンな人間のクズが、今更誰かを助けようなンて思うのは馬鹿馬鹿しいってコトぐらいよォ。
 まったく甘すぎだよな、自分でも虫唾が走る。
 けどよォ、このガキは、関係ねェだろ!
 たとえ、俺達がどンなに腐っていてもよォ。
 誰かを助けようと言い出すことすら馬鹿馬鹿しく思われるほどの、どうしよォもねェ人間のクズだったとしてもさァ、このガキが、見殺しにされて良いって理由にはなンねェだろうが。
 俺達がクズだって事が、このガキが抱えてるモンを踏みにじっても良い理由になるはずがねェだろうが!」

 銃で撃たれた額の出血部を片手で押さえ、鈍い痛みに耐えながら自分の想いを天井に言い放ったところで自分の意識が薄れていくのがわかる。

(クソがっ……俺はこンなとこで死ンじまうのかよ……
 ガキが助かったのかも見届けることが出来ねェでよ

 ……俺のことはどうでもいい。
 俺は妹達<シスターズ>を1万人も殺したクズな悪党だ。
 いつどンなことで死ンじまっても文句は言えねェ。

 ……けどよォ、あのガキが死ぬのだけは許容できねェ!
 ガキの脳内にあったエラーは全て削除した。
 これでガキがウイルスで死ンじまうことだけはとりあえず避けられた筈だ。
 天井のヤロウには反射した銃弾を食らわせてやったから少しの間は大丈夫だろう。

 ……だが、俺がなンか出来ンのはここまでだ。
 後は芳川に任せるしかねェな。
 意識を保つのもそろそろ限界だ……)
 
 鈍い痛みが少しずつ無くなっていき今までの人生が漠然と頭の中を過ぎる。

 幼い頃から能力を発現させ、周囲の人間からは化物と恐れられ、研究所に連れて行かれた。
 研究所の大人たちも俺の能力を知れば知るほど恐怖に顔を歪ませる。
 そうしていく中で俺は自分の異常さを自覚していき《孤独》になっていった。
 《LEVEL5》の第1位になってから周囲は俺のことを畏怖の対象として見てくるようになり、俺は完全に《孤独》になっていく。
 しかし、それでも名声欲しさや私怨で勝負を挑んでくる能力者やスキルアウトは後を絶たず、挑んでくる者全てを返り討ちにする。
 自分の力が誰かを傷つけるのが嫌だった。
 ならば《最強》ではなく《無敵》になればいいのではないか。
 挑むのも馬鹿馬鹿しい程になればだれも傷つけることはないと信じ、そんな下らない考えで参加した実験が《絶対能力進化実験》。
 《学園都市》が誇る超高性能並列コンピュータ、樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>の演算で第1位《一方通行》は、第3位《超電磁砲》のクローンである妹達<シスターズ>を導き出した日時・場所で2万回戦闘を行い、殺せばLEVEL6に至る。
 そう《予言》した為、科学者達はその演算結果から実験の施行を提言した。
 そして俺はLEVEL6<無敵>になるため妹達<シスターズ>を1万人も殺し。
 1万38回目の実験で奇妙な右手を持った《無能力者》が乱入してきて、その《無能力者》に敗れて実験は中止。
 《無敵》には至れず、人を自分の意思で1万人以上殺したという結果だけが残った。
 今まで自分がしてきたことは何だったのかわからなくなり、自分という存在のアイデンティティが崩れかけている時にガキ<ラストオーダー>と出逢う。
 純粋無垢なガキを見ていると自分の罪が浮き彫りになっていく。
 だが、それと同時にガキを守りたいとも思い、最終的にガキを助けるために自分の命を犠牲にした。

 漠然とこれが走馬灯ってヤツかと思いながら心の中で苦笑する。

(思えば随分とクソったれな人生だったな……
 良い思い出と言えるもンが1つも存在しねェなんてよ……
 自分の人生に泣けてくるぜ……
 クソったれな人生だったが最後に誰かを救えたかもしンねェンだ。
 それでいいじゃねェか。

 ……まァ、平穏な暮らしってのもしてみたかっ……)

 そこまで考えて俺の意識は完全に途絶えた。





 私は物心ついた頃から1人《孤独》だった。
 両親の記憶は微かにあるだけ。
 幸せだった幼い頃。
 両親と手を繋ぎながら笑顔を浮かべる自分。
 父親と遊び、一緒にお風呂に入る。
 母親の作る食事を楽しみにしながら夕食の配膳の手伝う。
 夜には父と母の間で明日も楽しい日になりますようにと願いながら眠る。
 そんな、なんでも無いようでとても幸せだった日々。

 それも唐突に終わりを告げる。

 両親が交通事故で死んだ。
 幼いながらにもう両親と一緒にはいられないのだとわかり悲しみに暮れる毎日。
 葬儀も終わり広い家の中1人で生活する日々が始まる。

 最初は戸惑った。
 料理や洗濯、掃除、やったことがないことも1人でしなければならない。
 料理をしては失敗し、焦げた目玉焼きを1人食べた。
 洗濯をしようにもどうやればいいのかわからず、服を駄目にした。
 掃除機の使い方がわからず、家が汚れていった。
 何かに失敗するに泣いた。
 しかし、泣いても助けてくれる人はいない。
 今までだったら泣けば両親が駆けつけてくれてわたしの頭を撫でながら慰めてくれる。
 でも、もうその両親はいない。
 そう思い涙を堪えて精一杯やっていく。

 1年も経つと大体のことを覚え、最初の頃のように失敗すること無くなりつつあった。
 家事をするのも楽しいと思えるようになった。

 しかし、この泣きたくなるような環境に変わりは無い。


 7歳の誕生日を迎え、夏も過ぎかけ少し冷たい風を感じるようになったある日それは起こった。


 朝、目が覚めて起き上がろうとするが足が思うように動かない。
 突然のことに混乱しながらも這って移動し受話器を取り救急車を呼んだ。
 搬送された病院で告知されたのは原因不明の下半身不随。
 難しい言葉を使われたので何を言っているのかよくわからず1人で困惑していると、石田と名乗った医者が小学生の自分にもわかりやすいように説明してくれた。
 少しずつ足が動かなくなっていくらしい。
 なんでそんなことになったのかはわからない。
 大きく纏めるとそんな内容だった。
 とりあえず入院して様々な検査を受けることになりそれから暫くの間は病院での日々が始まる。

 よくわからない大きな機械を使って何回も検査をしてきたが年が明けても原因がわかることはなかった。
 色々な治療を試したが良くなることもなく時間が過ぎていく。
 このままずっと入院しているという訳にもいかず退院することになった。
 退院する際に石田先生が「絶対にはやてちゃんの足を治してあげるからね」と約束してくれた。

 また1人で生活する日々が始まる。
 週に一度、病院で足の具合を診てもらう。
 リハビリや治療は続けている。
 しかし、足は良くなるどころか麻痺が段々と進行しているらしい。

 夜に家で布団に入っていると、ふとした拍子に無性に泣きたくなることがある。
 なんで自分がこんな目に合わなければならないのか。
 なんで自分の周りに家族や友人と呼べる人がいないのか。
 なんで、どうしてと考えているうちに自然と涙を零して嗚咽を漏らす。

 両親が生き返って欲しいなんて言わない。
 足が治って欲しいなんて言わない。
 贅沢なんて言わない。

 ……だから、誰かこの《孤独》から私を救って欲しいと心から願った。願い続けた。

 そして8歳になり、夏も秋も過ぎ年が明けたある日。


 《あの人》はやってきた……





 目が覚め、瞼を開けると見知らぬ天井が目に入った。

(……ここはどこなンだ?)

 背中が冷たく硬い感触があることから自分がフローリングに仰向け寝ていることはわかる。
 周囲を確認しようと上半身を起こし、視線を一周させるとベッドや箪笥、本棚、机があり、自分が何処かの民家の一室にいることがわかった。
 今度は自分自身のことを確認しようと考え、体に意識を向ける。
 ざっと診たところでは特に異常は無い。
 《反射》の《演算》も問題無く行われている。
 服装も白いズボンに黒をベースに白の模様が入ったTシャツと《あの日》と変わらない。
 ただ、財布や携帯は無いようだ。
 自然と出てきた《あの日》という単語が引っ掛かり、今までのことを思い出すように思考を巡らす。

(俺は確かあのガキを助けようとして、天井に銃で頭を撃たれて……
 ……っ!?
 頭を撃たれたのになンで俺は生きてンだ?!
 さっき確認した時、額に傷は無かった。
 《学園都市》の医者でもあの傷を何の後遺症も無しに回復させられるとは思えねェ。
 ってことはあれは夢だったのか……?
 いや、そンなことは有り得ねェ……
 あれは確かに現実だった。
 
 第一なンでこンなとこにいるのかわからねェ……
 ここが病院だってならまだわかる。
 だが、ここは病院じゃねェようだし)

 と、現状を理解するため脳内で只管に仮説と否定を繰り返していると部屋の外から車輪が動く音が聞こえ、自分のいる部屋の前で止まった。
 扉が開き、茶色い髪を肩口で切り揃え前髪の左側に赤と黄色の髪留めを1つずつしておりどこか人を安心させるような雰囲気を持った車椅子の少女が部屋の中に入ってくる。
 よく見ると少女はパジャマ姿で膝の上に料理が乗ったお盆を乗せていた。
 自分と目が合うと驚いた表情をし目を白黒させていたが、すぐに笑顔に変えて話しかけてきた。

「良かった!目が覚めたんですね!!
 あっ、お兄さんお腹空いてへんか?良かったらこれ食べます?
 わたし用に作った朝ご飯なんで男の人には物足りひんかもしれへんけど……」

 少女は捲し立てるように喋り自分の膝の上にある食事を俺に勧めてきた。
 関西弁を使っていることから少女が関西人であることはわかりここは関西なのかとも思ったがそれは推測でしかなく、確証が無い。
 無駄に色々と考えるよりも、聞いてみればわかることだと思い質問することにした。
 
「……ちょっと待て。
 それよりお前は誰で、ここはどこなンだ?
 それを先に教えろ」

 少女は俺の乱暴な物言いに一瞬だけ怯えた表情をし体を強張らせたが、気を持ち直したのか少し体の力を抜く。
 そして、それもそうやねと呟くと膝の上にあったお盆を近くにあった棚の上に置き、再度こちらに向き直ると質問に答えた。

「ここは海鳴市にあるわたしが住んでいる家や。
 そんでわたしの名前は八神 はやて、8歳の小学2年生、苗字は八つの神様と書いて八神、名前なそのまま平仮名ではやてって書くんよ。
 よろしゅうな」

 少女はそこで一旦言葉を区切る。
 自分の知っている市町村の中に海鳴市という場所は無かった、それに《学園都市》の内部であれば学区を答える筈なのでもしかしたら《学園都市》の外という可能性もある。
 とりあえず詳しい現在地はよくわからないが自分が少女<八神 はやて>の家で寝ていたことだけは理解できたので、もっと詳しい情報が欲しいと思い更に質問しようとしたところで伺うような顔をしていた少女がまた話しかけてきた。

「わたしは自己紹介したで、お兄さんの名前は?」

 そう聞かれ、なんと答えるか迷いながらもぶっきらぼうに自分の《能力名》であり、通称でもある名前を告げた。

「俺の名前は一方通行<アクセラレータ>だ」






こうして正史では出会うことなど有り得なかった2人は言葉を交わす。

この結果が今後の物語にどう影響するかはまだわからない。

《魔法》と《超能力》が交差する時、物語は始まる。 
  



~あとがき~
修正版です。



[28071] 第2話 現状把握とこれから(前編)
Name: ベクトル◆5a28e14e ID:9641fd69
Date: 2011/06/06 21:49
-2話 現状把握とこれから(前編)-


小学2年生の年明けから数日経ったある朝。
重い何かが地面にぶつかる音で私は目を覚ました。
驚いて体を起こし自分の部屋を見渡すと、ベットの脇に高校生ぐらいの男の人が仰向けで倒れていた。
なんで男の人が自分の部屋にいるのかわからず頭の中が真っ白になった。
混乱しながらも男の人の容姿が特徴的でずっと凝視していた。
少し冷静になってきたところで警察に電話するべきかと悩んだが、結局はしなかった。
なにか行動するにしてもこの人が起きてからでも大丈夫だろうと思ったからだ。

今になって振り返ってみると無用心な行動だったと思う。
その男の人が悪い人だったらと考えると背筋が凍る。
でも、そこで警察や救急車を呼んでいたら今のこの生活は無い。
ならあそこで受話器を取りに行かないで良かったと思う。

それに、私はなとなくだが倒れていた男の人が悪い人には見えなかった。
話していないからどんな人かはわからなかったけど……


あの人<アクセラレータ>は、とても《優しそうな顔》をして穏やかに眠っていたから……




-side 一方通行-

「俺の名前は一方通行<アクセラレータ>だ」

 数瞬だけ迷った末に俺は自分の通称を名前として目の前の少女<八神 はやて>に教える。
 彼女は少し面食らった様な表情をした後、首を傾け疑問顔をしながら俺に質問してきた。

「あくせられーた?
 それって名前なんですか?」

 もっともな質問だと思った。
 確かにこんな記号みたいな名前のヤツなんて、そういないだろう。
 俺も昔は日本人らしい名前を持っていたと記憶しているがそれは思い出せないし、俺のことを表す名前ということならこの呼び名の他に存在しない。
 だから俺は再度自分の名前を目の前の少女に教えた。

「そうだ。
 一方通行<アクセラレータ>ってのが俺の名前だ」

 俺がそう言うと、少女は思案顔になり下を向きながら独り言を言い始める。

「じゃあなんて呼んだらええんかなぁ……
 年上みたいやし、さん付け?
 それともさっきみたいにお兄さんのまま?
 ……いや、大穴で呼び捨てってのもアリやな!
 でも、やっぱりそれは年上に対して失礼になるんかな?
 ならいっそ親しみを込めてアクちゃんとかセラちゃんとかにした方が…」

 ……などと、少し危ない子みたいブツブツ言いながら俺に対する呼称を決めようとしている。
 このままいくと不名誉な呼称を貰うことになりそうだと思いそれを阻止するために話しかけた。

「俺のことは呼び捨てでいい。
 それと中途半端に敬語が混じンだったら敬語は使わなくていい。
 聞いててうぜェ」
 
 そう言うと少女は顔を上げて微笑みながらこちらを見てきた。

「ええんか?
 それは助かるわ。
 敬語って使い慣れてへんから喋ってて肩凝るんよ」

 ああ、肩凝ったと口にしながら肩が凝ったことをアピールするかのように右手を左肩にあて、左肩をほぐすように回している。
 何故かその姿が中年のおばちゃんのように見えるのは俺の気のせいだと信じたい。

「じゃあ改めてよろしゅうな、アクセラレータ。
 わたしのことも気軽にはやてって呼んでくれてええよ」

 そう満面の笑みをこちらに向けて言ってきたが、素直に名前を呼ぶのは癪だしもう少し詳しく現状が知りたいので俺は目を少し細め少女を軽く睨むように威圧しながら答えた。

「あァ?
 てめェみてェなガキはガキで十分だ
 ンなことより、もう少し詳しく俺が目を覚ますまでのことについて話せ」

 そうすると少女<はやて>は頬を膨らませ、いかにもな不満顔で強い視線をこちらに向けてきた。

「確かにわたしぐらいの年齢の子はアクセラレータから見たら子供かもしれへんけど、こんな可愛い女の子にむかってガキはありえへんやろ。
 それに人にお願いするならもう少し頼み方ってもんがあるんと違う?
 はやてって呼んでくれるなら話してもええよ?」

 言葉の最後では不満顔はなりを潜め、変わりにニヤニヤとしながらこちらを見てきた。
 俺は顔を顰めながら軽く舌打ちをし、心の中でうぜぇと思いながらもどうするかを考える。

(ここでこのガキの言うことを聞かないで警備員<アンチスキル>やらなんやらを呼ばれるのは面倒くせェ。
 まァ警備員<アンチスキル>なんぞ面倒くせェだけで来たら返り討ちにしてやればいいンだが、そうなって追われるのは更に面倒くせェ…)

 最終的にまずは現状把握が最優先事項だ、と思いつつもやはり素直に名前を呼ぶのは癪に障るので適当にはぐらかすかと今度はこちらが不機嫌な顔をしながら答えた。

「…ガキが調子乗りやがって。
 しょうがねェから気が向いたら名前で呼んでやるよ」

 はやては一瞬だけだが少し顔を顰め、その後すぐに表情を笑顔に変えながら嬉しそうな雰囲気を醸し出した。

「まぁ、今はそれでええか。
 じゃあ話をしたいと思うんやけど、少し長くなりそうやしリビングに行って朝ご飯食べてからにしよか。
 正直お腹空いてしょうがないんよ。
 持ってきた朝ご飯も冷めてもうたから温めたいしな。
 どうせアクセラレータもお腹空いとんのやろ?
 わたしの料理は自分で言うのもなんやけど、絶品やで?」

 確かに腹は減っているが、ガキの施しを受けるのは俺のプライドが許さないので断ろうかと思い言葉を発しようとしたところで自分の腹が鳴る音が部屋に響いた。
 部屋の時が止まり、数瞬後にはやてが笑いながら話しかけてきた。

「聞くまでも無かったみたいやな。
 ほな、行こか」

 ちょっと待てと言おうとしたが、すでにはやては部屋から出てしまっていたので溜め息を吐きながらしょうがなく後を追いかけることにした。
 その後はやての少し後ろを歩き、この家のリビングらしき場所に着いた。
 はやてはそのままキッチンの方に進み、持っていた朝食を鍋に戻し温め直したりしていたので、俺は適当にその辺の椅子に座ることにした。
 数分後、テーブルの上に2人分の朝食が並べ終わり、はやては俺の座っている席の正面に移動した。

「もしかしたらと思って多めに作っておいて良かったわ。
 それじゃあ、食べよか?」

 そう言ってはやてはいただきますと手を合わせ目の前の朝食を食べ始めたので、俺も食べることにした。
 並んでる食事は白米にわかめとネギの味噌汁、卵焼き、塩鮭、それに納豆といかにも日本の朝食です、というような感じのメニューだった。
 とりあえず玉子焼きを口にして思わず美味いと言葉を零しそうになったが、それを抑えて黙々と食事を続けているとふと視線を感じて顔を上げた。
 するとはやてが何かを期待するかのようにこちらを見ていて、俺と視線が合うと話しかけてきた。

「どうや?
 さっき言った通りわたしの料理は絶品やろ?
 で、何か感想とかくれると嬉しいんやけど……?」

 確かにはやての料理は美味い。
 《学園都市》のレストランでもここまでの味をだせる店はなかなか無い。
 よくもまぁ、8歳でここまで美味いもんが作れるようになったなと思いながらも素直に褒めたら付け上がりそうなので適当に答えることにした。

「まァまァだな。
 絶品ってほどでもねェし、かといって不味い訳でもねェ。
 普通ってとこだな」

 俺がそう言うとはやては少し項垂れ、気落ちしたように呟いた。

「そっか……普通かぁ。
 これでも料理の腕には自信あったんやけどなぁ……」

 俺はそれに対して特に反応をせず食事をとり続けた。
 食事が終わりはやてが食器をお盆に乗せ流し台に運び、台所から戻ってくる時にさっきのお盆に湯のみと急須を乗せて戻ってきた。
 俺の前と自分の前に湯のみを置き、お茶を注いで一段落したところで俺が話を切り出すことにした。

「……ンで、さっきの話の続きなンだがどうして俺がここにいンのか詳しく話せ」

 はやては俺の言葉を受けて眉間に右手を置き瞼を閉じてう~んと何かを思い出すような仕草をしていた。
 少し間を置いて考えが纏まったのか右手を膝の上に戻し目を開いて俺を見てきた。

「わたしもなんでアクセラレータがわたしの家にいるのかはよくわからんのやけどな。
 今日の朝、何かが床にぶつかる音がして目が覚めたんや。
 そんで体を起こしてベッドの脇を見たら見知らぬ男の人が床に倒れていてそれでちょう戸惑ったんやけど、とりあえず寝てるだけみたいやし起きるまで様子をみることにしたんや。
 で、まずは朝ごはんや!って思って朝ごはん作りに行って、食べてる間に目を覚ますかもしれへんと思ったから部屋で食べようと食事持って戻ってきたら目を覚ましてたって感じやったかな。
 他には何か聞きたいこととかあるん?」

 はやての表情から嘘をついている素振りもないことがわかったのでとりあえずそれを信用することにした。
 今聞いたことから現状を推察するために顔を少し俯けた。

(しかしわからねェ……
 なンで俺はこのガキの家にいンだ?
 俺が気付かなかっただけで、あの場には空間移動能力者がいたのか?
 いや、もしいたとしても俺をここに飛ばした目的がわからねェ……
 それにここが《学園都市》の外か内かもいまいちはっきりしてねェ。
 ……クソがっ!?考えれば考える程に意味がわかんねェ!
 とりあえず現在地の確認もしとかなきゃいけねェし、ここにいる理由を考えンのは後だ)

 そう思考を巡らしはやてに向き直った。

「後は、ここの詳しい住所が知りてェ。
 それと出来れば《学園都市》の第7学区までの距離なンかもわかると助かるンだが…」

 
 そう言ったところではやてが不思議そうな顔をしてこちらを見ていることに気付いて言葉を止め、どうした?と質問した。
 するとはやては難しい顔をしながら言ってきた。

「ここは茨城県にある海鳴市中丘町っていう場所やで。
 それより《学園都市》ってなんなん?
 そんな場所聞いたことないんやけど」

 そう言われて一瞬面食らった。
 まさかこの日本で《学園都市》を知らない人間がいるとは思わなかったからだ。
 それとここが茨城県だということ。
 学区で答えなかったことから《学園都市》の外という可能性もあることがあるのはわかっていたが、出るのには色々と面倒な手続きをしなきゃならないし空間移動能力者では一度で東京から茨城県までの距離を移動させるのは不可能だ。

「……《学園都市》を知らねェだと?
 東京の西側にある、バカでかい都市だ。
 聞いたことぐらいはあるンじゃねェのか?」
 
 そう言ったが、やはり聞き覚えがないのかはやてはう~んと唸っていた。 

「聞いたことないなぁ……そんな大きい街ならわたしが知らんわけあらへんしな。
 わたしな、よく図書館とか行っていろんな小説とか読んだりするんや。
 それで勉強の為に参考書や歴史書・地図なんかも読むんやけど、それでもそんな名前の地名載ってるの見たこと無いで。
 それに、そんだけ大きい街ならニュースとか新聞に載ることもあるはずやし……」

 そこまで聞いて俺は《学園都市》という場所が存在しないという考えが頭を過ぎり愕然とした。

(俺がいた場所とは違う世界?
 いや、そンな筈は無ェ……
 確かに今までの所属していた研究所の中には平行・並列世界や異世界について研究してるアホ共もいたが、あれは机上の空論だ。
 それにこのガキが知らないってだけの可能性もまだ0じゃねェ)

 眉間に皺を寄せ、難しい顔をして思考を巡らしている俺にまたはやてが問いかけてきた。

「実は会ったときから気になってたんやけど、なんでそんな薄着なん?
 今真冬やで?
 いくらなんでも半袖は有り得へんやろ?」

 それを聞いて更に混乱しながらも俺は答えた。

「……真冬?
 ……ちょっと待て、今日は西暦何年の何月何日だ?」

 俺の問いにはやては不思議そうな顔をしつつも直ぐに答えた。

「今日?
 西暦2005年の1月5日やで?
 それがどうかしたんか?」

 その答えを受けて俺はまた思考の渦に潜った。

(あの日は確か2010年の8月31日だった筈だ……
 さっき考えたことが事実だってのか……?
 いや……そんなこと有り得てたまるか。
 だが、それ以外に今のところ有力な考えが無ェ。
 百歩譲って俺が平行世界に移動したとしても、そうなるに至る要因が無ェ……
 それに額の傷が消えてるって疑問もある
 ……クソがっ、手持ちの情報だけじゃ判断がつかねェ)

 思考がそこで止まりかけたところではやてが質問してきた。

「難しい顔してどうしたん?
 あ、まさか帰る場所が無いとかなん?」 

 そう笑いながら冗談っぽく言ってきた。
 しかし、俺には笑えない冗談にしか聞こえなく顔を歪ませながら真剣に答えた。

「そうだって言ったらどうすンだよ、このクソガキが」

 それを聞いてはやては最初またガキって言った等と笑ったりいしながら言ったりしていたが、俺の顔が真剣なことに気付きバツの悪そうな顔をしつつ俯いてしまった。
 そして絞り出すように声を出して聞いてきた。

「……それって、本当、なん?」

「いや、調べてみねェと断言はできねェが現時点では帰る場所が無い可能性の方が高ェ」

 俺は言っていて自分の頭がおかしくなったんじゃねぇかと思いながらもそう言うしかなく、言い終わった後は呆然と虚空を見るしかなかった。
 それでも頭の中ではあのガキ<ラストオーダー>のことや妹達<シスターズ>、芳川のこと考えていた。
 そう……もしここが俺の知っている世界とは違う世界だとしたら、あの後どうなったのかを知る術はない。
 それは俺の思考を止めるのには十分なものだった。
 暫くの間は俺もはやても何もしゃべらず時間だけが過ぎ、時計の秒針を刻む音だけが部屋に響いた。
 どれくらいそうしていたのかはわからないが、何かを決めたような顔をしてはやてが話しかけてきた。
 
「なぁ、もし良かったらでええんやけど……調べ物が終わるまで、ここで、わたしと一緒に、暮らさへん?」

 そう言われて正直面食らった。
 このガキ、頭おかしいんじゃねぇか?と思ったがはやての真剣な顔を見てこちらも真面目に答えることにした。

「テメェ、自分が何言ってンのかわかってンのか?
 それはよく知りもしねェ男に言う台詞じゃねェだろ。
 第一、俺はガキの施しを受けるほど落ちぶれちゃいねェ」

 そう言うとはやては少し陰りのある笑顔を見せながらも言い返してきた。

「わたし自身、おかしなこといっとる自覚はあるんよ。
 ……ただ、不思議なんやけどアクセラレータなら大丈夫、信じられると思えるんよ」

 はやては屈託の無い、とても綺麗な笑顔を俺に向けた。
 その姿が何故かあのガキ<ラストオーダー>と重なって見えた。
 その考えを振り払うかのように俺は口を開いた。

「ギャハっ、テメェ頭おかしいんじゃねェか?
 自分で言うのもなんだが、俺はお前が考えているような人間じゃねェ。
 人間の中でも最底辺のクズだ。
 そんな奴、信用なんて出来なェだろ」

 俺はそう口を三日月型にすように不気味な笑みを作って言った。
 しかしはやては俺の言動に対して一切動揺を見せず、先程と同じ笑顔のまま口を開いた。

「自分で自分のことを悪く言う人に悪い人はおらへんよ。
 ……それにな、一人ぼっちで、生活するのは、もう、いやなんよ……」

 はやては最後の方になるにつれ笑顔を失くし、寂しそうな顔しながらこちらを伺うように見つつ言葉を発していた。
 俺は一人という言葉に疑問を抱いて尋ねることにした。

「あン?一人ってのはどういうことだ?
 両親はいねェのか?」

 それを受けてはやては今にも泣き出しそうな顔をしながら無理に笑顔を浮かべていた。

「もう随分前に事故で死んでしもうてな。
 それから、ずっと一人で暮らしてるんよ
 だからさっきみたいに誰かと食事するのも久しぶりなんや」

 それを聞いて、俺はそうかと呟くだけで答えた。

 俺に両親の記憶は無い。
 俺にはわかりやすい《力》があったからそんな《孤独》な状況にも耐え、自己を形成してこられた。
 しかしはやての顔を見る限りコイツにそんな力は無いのだろう。
 それに見ず知らずの俺に一緒に住もうと提案してくるってことは、この広い家に一人で住むのに心が耐えられなくなりつつあるのだろう。
 だからといって知り合ったばかりのこのガキに何かしらの感情を抱くほど俺は偽善者じゃない。
 コイツにも言ったがガキの施しを受けるのは御免だ。

 しかし、あの提案は魅力的ではある。
 まだ自分の現状が把握しきれていないのだ。
 色々と調べなければならないこともあるので拠点が手に入るのは正直有り難い。
 なら、とりあえず乗ってみるのもありかもしれないと思い口を開こうとしたところで先にはやてが話しかけてきた。

「ごめんな!
 急によくわからんこと言って。
 さっきのは無しや!
 とりあえず警察とかにでも相談してみよか?」

 目尻に涙を溜めながら体を動かし無理して明るく振舞おうとするはやてに向かって俺は言葉を放った。

「別に一緒に住んでやってもいいぜ」

 それを聞いた途端はやての動きが止まり酷く驚いた表情をしながら呟いた。

「……ほん、まに?
 ほんまに一緒に住んでくれるんか?」

 俺が言ったことが信じられないのかはやては念を押すように、確認してきた。

「別に構わねェ。
 それにこのままここを出ても行くあてが無ェかもしれねェからな」

 そうだ、このままここを出発し《学園都市》に向かおうとしても東京に行く足も無ければ金もない。
 それにもしかしたらここは本当に平行世界とやらなのかも知れない可能性もある。
 だからこの選択が手持ちの情報から導く選択の中では最善であると思う。
 別にはやてがあのガキ<ラストオーダー>に被って見えたから提案を受け入れたわけじゃない。

「ほんまにええんやな?
 後でやっぱりやめたとか言わへんな?」

 はやては俺が言ったことがよほど信じられないのか、まだしつこく聞いてくるので少し苛立ちながらももう一度答える。

「チッ……テメェもしつけェな。
 だから一緒に住んでも構わねェって言ってンだろうが」

 それを聞いてはやては俺の近くまで車椅子を移動させると満面の笑みをこちらに向けてきた。
 そして……

「これからよろしくな!アクセラレータ!!」

 と、嬉しそうな声を出しながら、俺に向かって右手を差し出してきた。
 俺は顔を顰め、はやての顔から視線を外しつつ差し出してきた右手を掴んだ。

「……あァ、短い付き合いになるかもしンねェがな」

 そう念を押しながら面倒臭そうに言葉を投げた。
 そうしながらも頭の中では今後どうするかを考えていた。
 
(とりあえず拠点は決まった。
 次は図書館なりに行って《学園都市》の有無を確認する。
 あるなら直ぐに帰ればいい。
 ラストオーダーのことも気になる。
 移動手段はどうにかするしかねェな。
 
 だが……もし無かった場合はどうするか。
 それなら暫くの間ははやての家に留まり、適当なタイミングで出てくことにするか)

 思考を纏めつつもう一度はやてを見る。
 そこには花が咲いたような笑顔を浮かべ、目尻に涙を溜め、何度も掴んだ俺の手を上下に動かす姿があった。


-side out-


-side 八神 はやて-


「これからよろしくな!アクセラレータ!!」

 そう私が右手を差し出しながら言うと、アクセラレータは一瞬だけ何か眩しいものを見るような顔をしていた。
 その後、顔を顰め私から視線を外しながらも差し出した手を取りながら答えてくれた。

「…あァ、短い付き合いになるかもしンねェがな」

 捻くれ者やなぁ、と思いながらも握手してくれたことが嬉しくて私は何度もその手を上下に振った。
 自分の顔がとても綻んでいるのがなんとなくわかりながらこれからの生活に思いを馳せた。

(誰かと一緒にこの家で暮らすなんて初めてやからなぁ、これから楽しくなりそうや。
 でも、アクセラレータの調べ物が終わるまでって話やからほんまに短い付き合いになってしまうかもしれへんけどな…
 少しでも長く一緒に居れたらええなぁ) 

 わたしからも色々と聞きたいことがあるから聞いてみよ、と考えるのを終わりにして再度話し掛けようとした。


-side out-



一方通行と八神はやて……

まだ2人の会話は続く。

八神はやての状況を知り一方通行は何を思うのか。

一方通行の過去の一端を知って八神はやては何を思うのか。


《魔法》と《超能力》が交差する時、物語は始まる。



~あとがき~

文才が来い!!!

どうも作者のベクトルです。

少し長くなりそうなので前後編にしました。

あぁ……駄目出しされそうでとても怖いです。

というか、アクセラレータがただのツンデレになってしまった……

世界はこんなはずじゃないことばかりだ……


更新は一週間に一回ペースで出来るように頑張りますのでよろしくお願いします。

<追伸>
修正しました。



[28071] 第3話 現状把握とこれから(後編)
Name: ベクトル◆5a28e14e ID:9641fd69
Date: 2011/06/21 22:29
-現状把握とこれから(後編)-


 打算からはやての家に留まることにした。
 思えば少しだが同情の気持ちがあったことを否定はできない。
 あの時、直ぐに出て行くことを選んでいたら俺はどうなっていたのだろうか。
 《学園都市》が無いと知って絶望しながらもまた元いた世界と同じようなに《力》を振るい他人に畏怖される人生を歩んだのだろうか。
 それとも警察やそういった公共機関に拾われて目的もなくただ呆然と日々を浪費するように生きたのだろうか。
 この選択をした俺にはわからない。
 
 それにしても、この世界には優しい人間が多い……
 《学園都市》も存在せず、今のところ《超能力》といった《異能》も公に確認されていない。
 街を歩いているとこんな俺に声をかけてくる人間がいる。
 はやては俺に綺麗な笑顔を向けてくる。
 そんな光景が俺には眩し過ぎる……

 俺は悪党だ。
 どうしようもない人間のクズだ。
 だからこうやって穏やかに生活していると心の中でもう一人の俺が囁いてくる。
 ここにいていいのか?
 お前はそんな暮らしが許される人間か?
 人を殺しておいてその咎から逃げるのか?
 そんな手ではやてに触れていいのか?
 悪党には悪党らしい人生ってもんがあるだろ?
 だから早くここから出て行くべきだ。
 
 そういった考えが出てくる度に俺は苦悩する。
 出て行くべきか、留まるべきか……
 ……だが、このまま平穏にはやてと暮らしていきたいと思う自分がいる。
 だから今暫くはこの争いも無く、平和な世界でただ心穏やかに時が過ぎるのに身を委ねていくのもいいかもしれない……

 いつかここから離れなくてはならない決断を迫られる日が来るその時まで。


-side 八神 はやて-

 握手する手を離し先程までいたアクセラレータの向かいの席に車椅子を移動させ、わたしはアクセラレータのことをもっと知りたくて質問をすることにした。

「そういえば色々と聞きたいことがあるんやけど、質問してええかな?」

 そう言うとアクセラレータは少し顔を顰めた。

「聞きたいことってのはなンだ?
 内容によっては答えてやる」

 面倒くさそうにしているが、答える気は一応あるようなのでわたしは気になっていたことを聞くことにした。

「じゃあ、遠慮なく質問させてもうで。
 まずその髪の毛って地毛なん?
 それに目も赤色で肌も白いし、ハーフとかなん?」

 まず最初に気になっていた容姿について聞いてみることにした。
 アクセラレータはその質問にさっきと同じように面倒くさそうにしながら、肘をテーブルについて言葉を投げるように答えた。

「あァ、この髪は地毛だ。
 それと俺はハーフとじゃねェ、生粋の日本人だ。
 アルビノって聞いたこと無ェか?」

 日本人と聞いて驚いたが、アルビノというのは確か図書館で読んだ本の中に書いてあった。
 よくは覚えてないが確か遺伝子疾患とかいう病気の一種で肌が白くなってしまうとかでウサギとかヘビによくあるものだった筈。
 読んだ本にの内容を思い出そうとしてもちょっとした気まぐれで選んだ本だったし難しい単語がいっぱい書いてあって半分もいかないで読むのを諦めたのでよく覚えていない。
 そうやってわたしが顎に手を当てう~んと唸っていると、アクセラレータが溜め息を吐き呆れたように話しかけてきた。

「図書館に入り浸っているとか言ってたからいろいろと博識なのかと思ってたンだが、やっぱりただのガキか。
 アルビノについて説明してやってもいいが、ガキじゃわかんねェ内容になる。
 とりあえず、肌と髪が白くなって目が赤色になるとでも認識しとけばいい。
 ンで、他にはなンかあンのか?」

 自分が考えていたいた内容と同じだったのでそれでとりあえずは納得すことにした。
 ただ、またガキ扱いされたことに少し腹が立ったが今それを言ってもどうせさっきみたいにテメェみたいのはガキで十分とか言い返されるだけだと思い、更に質問をすることにした。

「後は、今何歳なん?
 それと学生だったん?
 というか、今までどんな生活してたのか気になるんやけど……
 言える範囲でええから教えてもらえへんか?」

 私がそうお願いするとアクセラレータは少し嫌そうな顔をしたが、肘をついたまま何かを思い出すような顔をしながら答えてくれた。

「何歳かってのは年を数えてねェからわからねェ。
 誕生日なンてのも特に祝ったこともねェから覚えてねェしな。
 今は一応、高校生ってことになンのか?
 どんな生活って聞かれてもなにを話せばいいのかわからねェから答えようがねェ。
 昔話をするのも面倒くせェし、質問するならもっと具体的に聞け」

 相変わらず乱暴な物言いに少し戸惑うが、それよりも自分の年齢や誕生日を覚えてないということに驚いた。
 それに自分で高校生と言っているのに何故か疑問系だ。
 アクセラレータの昔話にも興味があるが、今はそこの辺りを詳しく聞こうと思い再度質問することにした。

「年齢や誕生日がわからんってどういうことや?
 家族とか友達に誕生日とか祝って貰ったりしたことあらへんの?
 それになんで自分が高校生かもわかってないんや?
 学生やったらそう言えばええやんか」

「親や兄弟なんてのはいねェし、友達なンてのも生まれてから出来たことがねェ。
 それに高校生つっても一度も籍を置いてるだけで学校に行ったことなンてねェから健全な高校生かって言われたら微妙だな」

 間髪いれずに衝撃の事実をなんでも無いことのように答えるアクセラレータに少し驚いた。
 ただ、家族や友人がいないという部分に私と一緒だという考えが過ぎり嬉しくなった自分が汚い人間に思えて少し自己嫌悪した。
 それになんで家族がいないのにそう普通でいられるのか不思議になった。
 自分は家族がいなくてこんなにも寂しくて辛いのに……
 アクセラレータはそれが普通で当たり前のことだと思っているように感じる。
 なんでそんなに普通でいられるのか?
 なんでそんなになんでもないことのように話せるのか?
 どうやったらそうやって《強く》いられるのか?
 そうやって考えているとまた心の中に《孤独》が満ちていく気がして泣きそうになっていた。

「……な、んで?」
 
 気が付くとそう口から言葉が零れていた。
 自分でも声が震えているのがわかる。

「あン?」

 それに対してアクセラレータは先程と変わらない声色で先を促すように言ってきた。

「なんでそんなに普通でおるれるん?
 ……辛くはないんか?」

 それに合わせて自分も率直に聞いてみた。
 するとアクセラレータはまた溜め息を吐きながら呆れたような声をだした。

「普通ってのはどういう意味のことを指してンだ?
 第一、俺は今まで進んで一人になるように生きてきたから別にそのことになんの感慨も持たねェよ。
 当然の結果ってやつなンだよ」

 そう聞いた途端、自分の中で感情が爆発したような気がした。
 普段、心の中に溜め込んでいたモノが一斉に溢れ出していくような気がした。
 そして言葉を叩きつけるようにしてアクセラレータに迫った。

「なん、で……なんで自分から一人になるようになんてするんよ!
 一人で生きていくなんて寂しいだけやんか!
 そんなんじゃほんまに一人<孤独>になっていつか周りに誰もおらんようになってしまうで!
 人間は一人じゃ生きていけんのや……
 誰かと繋がっていたい、近くにいて欲しいと思うもんやんか……」

 最後の方は心の底から搾り出すように言った。
 言い終わった後、私は下を向き拳を強く握り締めながら涙を流していた。
 暫くそうしているとアクセラレータが話しかけてきた。

「……テメェが両親を失くした後どういった人生を歩んできたかは知らねェ。
 テメェは周りに誰かいて欲しいと願ったのかもしれねェ。
 だが、今言ったソレはテメェの価値観であって俺の価値観じゃねェ。
 ……俺は1人で生きていくことを選んだ。
 それは俺が自分で選んだことだ。
 他人にとやかく言われる筋合いはねェ」

 それを聞いてる間に少し泣き止み、まだ涙で濡れる瞳を正面に向けた。
 そこには真面目な顔をしたアクセラレータがいた。
 言葉通りに他人を拒絶しているような目をしている……
 だが、よく見ると瞳の奥に寂しさのよなモノが見え隠れしているように感じた。
 そう感じ取った時、あぁこの人も口ではこういっているが本当に望んで一人になった訳ではないんだなと思った。

(アクセラレータにもなんかしらの事情があるんやな……
 でも、そのことを今聞こうとしても答えてくれへんのやろうなぁ。
 ……なら、一緒にいる間にアクセラレータのことが少しでも理解できたらええなぁ……)

 そう頭の中で呟き、少しでもアクセラレータとの距離を縮めたくて顔に付いた涙の後を手で拭いながら言い返した。

「そうやな……確かに価値観は人それぞれや。
 ……でもこれだけは言わせてもらうで。
 ここにいる間、わたしはアクセラレータのことを家族として扱う。
 それがここに住む上での最低条件や」

 自分でも少し無茶苦茶なことを言っている気がしたが、それでも強い視線をアクセラレータに向けることで自分の意思を示した。 
 アクセラレータは驚いたような表情をした後に顔を顰めながら勝手にしろと呟いた。
 それを聞いて私は顔を綻ばせながら次の話を切り出した。

「了解も得たことやし、勝手にさせてもらうな。
 次は確認したいことなんやけど調べ物はどこでするん?
 図書館とかがええんかな?それとも市役所とかの方がええんかな?」

 そう聞くと、アクセラレータは少し思案顔に成りながらもあまり間を置かずに答えた。

「……そうだな。
 とりあえず、図書館に行きてェ。
 図書館で調べれば大体の情報は手に入るだろうしな。
 それでも納得いかなかったら市役所なり、もう少し詳しく調べられそうなところに行くってとこだな」

 確か図書館の開館日は来週の月曜日からだったかと思い出しながらこれからの予定を決めるようと話しかけた。

「それやと、図書館の開館日は来週の月曜日からやから後5日ぐらいは調べに行けなくて暇やな。
 ほんなら、それまでに洋服を買いに行ったりしよか?
 それしか持ってへんのやろ?
 それとアクセラレータ用の食器とかはとりあえずお父さんが使ってたので我慢してもらおうかな。
 後は、短くても一週間はここにおるんやし何か必要な物があったらその都度買いに行くってことにしよか。
 あぁ、それと部屋の準備もせなあかんなぁ。
 なんだかんだでやることいっぱいやな!」

 これからの予定を考えながら話していると楽しくなってきて言葉の最後には拳を握り締めて上にあげていた。
 アクセラレータはそんな私の姿に顔を顰めながら少し不機嫌そうな声を出した。

「図書館に行くのが来週になるのはしょうがねェが、服とかそンなンは必要ねェ。
 第一さっきもいったが、ガキの施しを受ける気は無ェよ」 

 そう言ってきたが、一時的にでも我が家の一員になるのでそこの辺りを妥協する訳にはいかない。
 なので家主権限で強引に話を進めようとすることにした。

「それはわかっとるけど、服に関しては無理にでも従ってもらうで?
 毎日同じ服着てたらご近所さんに何を言われるかわかったもんやあらへんしな。
 これは家主命令や!」

 無理にでも言うこと聞いてもらうでという感じで言うと、アクセラレータは先程よりも不機嫌そうな顔をしながらこっちを見てきた。
 そして少しそのまま睨み合っていると、私が引く気がないことを察したのか少し視線を外し舌打ちをしながら諦めたかのような顔をしてこちらに視線を戻してきた。

「しょうがねェか。
 暫くは厄介になるわけなンだしな。
 少しは言うこと聞いてやるよ」

 それを聞いて私は顔を綻ばせつつこの後どうするかを提案した。

「ほんなら、とりあえず部屋の準備をしてその後お昼ご飯食べたら服買いに行こか?」

 そう私が言うとアクセラレータは好きにしろと机に肘をつきそっぽを向きながら答えた。

「これからアクセラレータが使う予定の部屋に連れてくから付いて来てな」
 
 私はそう言うと車椅子を動かしアクセラレータの部屋にする予定の場所に移動しようとした。
 アクセラレータも面倒くさそうにしながらも私の少し後ろでポケットに手を入れながら付いて来た。
 そのまま2階にある私の部屋の隣に案内する。
 部屋の中に入るとそこには難しそうな本が並んだ本棚と引き出しの無い机とキとャスターと肘掛・背もたれ付きの椅子が左側にあり、正面には少し大きめの窓がある、広さは大体6畳ぐらいの書斎があった。
 そして部屋の説明をするためにアクセラレータに話しかけた。

「ここがアクセラレータに泊まってもらう予定の部屋や。
 元々、書斎やったから布団とかは後で運んでこんといかんのやけど、広さも十分あるしええ部屋やろ?」

 私の言葉を聞いてアクセラレータは悪くねェと呟いた後に少し質問してきた。

「この部屋に不満は無ェが布団はどこから持ってくンだ?」

「布団は一階の客間の押入れにあるんよ。
 あっ、どうしてもベットがええって言うならわたしと一緒に寝るんでもええで?」

 少し意地悪したろと思い言葉の最後にそう付け足し誘うような上目遣いをしてみたが、アクセラレータは私の発言を鼻で笑いながら聞いていた。
 そして馬鹿にしたような顔をしながら私に向かって言った。

「テメェは何アホなこと言ってンだ?
 頭大丈夫ですかァ?
 それにガキに誘われても何も嬉しくねェよ。
 10年後に出直してこい」

 自分でもちょっと無いかなとは思ってはいたが、この言い方はあんまりだと思う。
 捻くれた性格してるのは今までのやりとりでわかっていたつもりだったけどここまでとは……
 ……それに、冗談っぽく言ったが誰かと一緒に寝たいという気持ちもあった。
 そう考えると真っ向から否定されたのが少し寂しく感じた。
 でも、その気持ちをアクセラレータに悟られると心配させるかもしれないと思い、笑顔を作りながら口を開いた。

「いくらなんでもそれは酷いやろ……
 まぁ、冗談やったし別にええけどな。
 もしそこで一緒に寝るなんて言ったらアクセラレータの性癖を疑うわ。
 ほんなら、申し訳ないんやけど後で客間から自分で布団持って行ってもらってもええか?」
 
 少し冗談も交えながらアクセラレータに言ったが、何か考え事をしているのか思案顔をしながらあァと気の無い返事をしただけだった。
 何を考えているのか聞いても答えてくれへんのやろうなぁ、と思いながら時計を見るともう正午を過ぎていたことがわかりお昼ご飯をどうするか聞こうと思い質問した。

「もうええ時間やな、アクセラレータは何か食べたいものとかあったりするん?
 出来うる限り要望には答えるで?」

 そう言うとアクセラレータは考えごとを止めたのか、表情をいつもの不機嫌そうな顔に戻した。

「別に何でもいい。
 特にこれが食いたいとかってのも無ェからな」

 それを聞いて私は少し頬を膨らませながら不満を言った。

「そういうんが作る側として一番困るんやで。
 まぁ今日のところはとりあえず温かいお蕎麦にでもしよか」

 そう言うと私は車椅子を動かし台所に向かった。
 心の中で人とこういう会話が出来るのは楽しいなと思いながら。


-side out-


-side 一方通行-

 はやてからの質問が終わり、俺が泊まる予定の部屋に入りはやてからのアホな提案をバカにしながら流しつつ部屋の中を見ているとふと先程のはやてとの会話を思い出していた。

(……さっきリビングでされた質問には少し焦った。
 自分ではああ言ったが心の奥で俺はどう考えてンだろうな。
 進んで一人になった……ならざるを得なかったというのが正しかったな。
 俺は化け物だ……
 他人を傷つけない為にはそうするしかなかった。
 それも所詮は言い訳にしか過ぎねェのかもしんねェ。
 ……だが、《孤独》になることで他人が傷つかないならそれでいいと考えて行動した。
 それが今でも間違ってたとは思わねェ。
 《力》ってのは人を《孤独》にするもんだってのも《力》を発現した時に理解してたしな。

 しかしなンで俺は馬鹿正直に家族がいねェことを話しちまったんだか……
 そンなこと言ったらコイツが過剰に反応することぐらいわかってンだろうに。
 俺はこンな短時間ではやてに内面を出すほど心を許しつつあンのか?
 俺はそんな人間だったか?
 ……いや、そンなことはねェ。
 そンなことある筈がねェ……
 俺の人生に他人を巻き込む訳にいかねェしな。
 はやてのようなヤツに俺の人生<闇>を話せる訳がねェ。

 それにしても今更だが、なンではやてはこの年齢で一人暮らしなンかしてンだ?
 普通は親が死んだとしても、親戚の家に行くなり施設が預かるなりするもンだ。
 それに車椅子ってことはどこか体に異常があるってことだ。
 尚のこと一人暮らしってのは有り得ねェ。
 それになンで真っ先にその疑問が出てこなかった?
 話を聞いてりゃそんな疑問すぐに思いつく筈だ……)

 そこまで考えてはやてが昼飯について聞いてきたので適当に答えることにした。
 
「別に何でもいい。
 特にこれが食いたいとかってのも無ェからな」

 ぶっきらぼうに何でもいいと言う俺の発言を聞いたはやては頬を膨らませ不満顔をしながら文句を言ってきた。

「そういうんが作る側として一番困るんやで。
 まぁ今日のところはとりあえず温かいお蕎麦にでもしよか」

 はやてはそう言い終わると車椅子を移動させて下に降りようとしていたので後を追いながらまた思考を巡らした。

(さっきの疑問は後ではやてに聞いてみるか……
 こういうことを聞くとまたあのガキは落ち込むかもしれねェが、ここでグダグダ1人で考えていても答えが出るわけでもねェ。
 だったら多少聞き辛いことでもてっとり早く聞いとくべきか)

 そうこうしているうちにまたリビングに戻ってきていた。
 はやてはそのまま台所に向かいながら俺に向かってちょっと待っててなと言い、昼食の準備を始めていた。
 俺は特にすることも無いので先程の席に座り少しボケッとしながら冷めた茶を啜っていた。
 暫くそうしていると良い匂いが漂いだし、腹減ったなと心の中で呟き少しでも空腹を紛らわそうとまた茶を啜る。
 茶が無くなりどうやって時間を潰すか考えているとはやてが台所から声を掛けてきた。

「アクセラレータ!
 ちょっと運ぶの手伝ってくれへんか?
 流石に汁物は1人で運ぶの大変なんよ」

 それを聞いて面倒くせェと呟きつつも、腹も減ったし早く飯も食いたいのでダルそうにしながらも立ち上がり台所に向かった。
 そしてはやてはおおきになと言いながら丼が2つ乗ったお盆を渡してきた。
 渡されたお盆を両手持ちテーブルに向かって歩く。 
 はやてと自分の前に蕎麦が入った丼を置き自分が座っていた席に戻った。
 俺が座るのを確認したはやてが手を合わせ、いただきますと言うの聞くと同時に俺は何も言わずに蕎麦を食い始めた。
 俺のそんな姿を見たはやては溜め息を吐きながら呆れたように口を開いた。

「お腹空いてたのかもしれへんけどいただきますぐらいは言おうや。
 いただきますってのは作った人に対する礼儀もあるんやけど、何よりも食材に対する感謝の意味もあるんやで?」

 説教臭いことを諭すように言ってくるはやてだったが俺はあァと適当に相槌を打つだけにした。
 そんな俺にもう諦めしか出てこないのか、はやてはもう一度だけ溜め息を吐くと蕎麦を食べだした。
 それを横目で見つつ俺はこの蕎麦に対する評価を心の中でしていた。

(それにしても朝飯でも思ったがコイツの料理はなかなかのもンだな。
 今ンとこ和食しか食ってねェが台所を見た限り洋食も良い線までいきそうだな。
 そうなると夕食ではもう少し脂っこいモンが食いてェな。
 和食ってのも偶にはいいが、ステーキとかの方が俺は好きだ。
 まァ後で提案してみるか……)

 俺はそこまで考えて自分がはやての雰囲気に影響されたのかどうでもいいことを真剣に考えていることに気付いてこんなことを考えるのは俺じゃねぇと心の中で呟き、目の前の蕎麦を啜ることで気を紛らわした。 
 食事も終わりはやてが改めて淹れたお茶を一口飲み、先程から聞こうと考えていたことを質問することにした。

「……そういやなンでテメェは1人で暮らしてンだ?
 親が死ンだからってテメェみたいな車椅子のガキが1人で暮らしてるってのはおかしいンじゃねェか?
 それに車椅子で生活してるってことは足でも悪ィのか?」

 俺がそう矢継ぎ早に聞くと、やはりはやては少し困惑したような表情をして何も答えず俯いて黙ってしまった。
 少しの間はそのままだったが、やがて意を決したようにこちらの目を見ながら口を開いた。

「少し長くなってしまうかも知れへんけど、わたしの今までの話、聞いてくれるか?」

 長くなるのは正直面倒くさいので手短に話せと言いたくなったが聞いたのは俺だし、そう言って重要な部分を省かれてまた質問するのも面倒なので俺は話の先を促すために続けろと短く言った。
 それを聞いてはやては軽く頷くと話を切り出してきた。

「わたしな……さっきも言うたけど、今よりもっと小さい時に両親を事故で亡くしとるんよ。
 それでその時になお父さんのお仕事仲間やったっていう男の人が連絡をくれてな。
 遺産の管理とか経済的な援助を申し出てくれたんよ。
 その人はグレアムおじさんって言うてな。
 イギリスに住んでるらしくてまだ直接あったことは無いんやけど、わたしを気遣って年に何回かエアメールを送ってきてくれるんよ。
 凄く良い人なんやで、親戚もおらんかったわたしの面倒を見てくれとるしな。
 ……それで話を戻すんやけど、わたしは両親が亡くなって気が動転していることもあって流れに身を任せる形になってしもうてな。
 その時のことよく覚えておらんのやけど、気が付いたらこの家で1人で暮らすことになってて……
 最初は戸惑ったんやで、なんで1人で暮らさなあかんのかもわからんかったしな。
 でも、その頃は日々の生活することでいっぱいいっぱいやったし、あんまりそういうこと考える余裕も無かったのもあるんよ。
 そうやって生活しているうちに家事とかもなんとかできるようになったんよ。
 それにまだ車椅子の生活や無かったしな。
 ……でもな、7歳の誕生日を過ぎた頃に今度は朝起きたら足が動かんようになってしもうてな。
 病院に行って診察してもろうたんやけど、原因はわからないらしいんや。
 今でも病院に通ってはおるけどいっこうに良くならんくてなぁ。
 家族もおらんし寂しい生活やったんやで。
 それで車椅子で生活し始めて足の治療もしながら暮らしていたらアクセラレータが部屋の中にやってきて今に至るんや。
 少し大雑把になってしもうたけど大体こんな感じやね」

 はやてはそう言い終わると顔を俯け、少し物思いに耽っているようだった。
 その姿を見て俺ははやてから視線を外し思考を巡らす。

(話を聞いてもはやての両親が死んで1人暮らしをするまでの過程がかなりおかしいな……
 しかもそのグレアムとかいうヤツがキナ臭ェ。
 はやては自分で言っていて気付いてねェみてェだが、無意識にグレアムのことを悪く思わないようにしている節がある。
 そのせいか少し話に矛盾もある。
 ……なンかの精神操作か?
 能力者がいるか研究所があればその可能性も否定出来ねェが、なンではやてに精神操作を掛けてまで1人暮らしをさせる必要がある?
 それに足に異常がでるタイミングも出来すぎてやがる……
 もしかしたらはやてにもなンかしらの抱えているモンがあンのかも知れねェな……
 だが、そこまで突っ込むべきじゃねェ。
 俺がどれだけここにいるかもわかんねェンだ……
 いらねェことに首を突っ込むべきじゃねェな)

 そこで思考を打ち切りはやてに視線を戻した。
 話している時は辛い表情を出来るだけ抑えるようにしていたようだが、話し終わり俯いているうちにその感情を抑えることが出来なくなったようで伏せている目の中に寂しさを宿していた。
 俺はその顔を見て軽く舌打ちをして口を開いた。

「ンな顔してんじゃねェよ。
 さっきまでのバカみたいな明るさはどこいったンだ?」

 そう皮肉たっぷりの表情を作りながら言うと、はやては顔を上げまだ少し無理をしているようだが笑顔を作りながら口を開いた。

「ここはこの可哀想な美少女を慰める場面やと思うんやけど?
 ま、アクセラレータにそういったのを求めるのも酷ってもんやな」

 冗談を言えるようには気を持ち直したらしい。
 だが、コイツの冗談は一々可愛げがねぇなと思った。
 まぁ落ち込んだ表情でいられてもうぜぇだけだし、こうやって憎まれ口を言ってるほうがまだましかと思い適当に流しながら話を終局に持っていくことした。

「ハッ、俺に何を期待してンだよ。
 ンな面倒クセェことだれがやるか。
 それで買い物ってのはいつ行くンだ?」

 そういうとはやても気分を変えたように満面の笑みを作り提案してきた。

「ほんなら、もう少ししたら晩御飯の買い物もせなあかんし出かけようか?
 膳は急げとも言うしな。
 早いとこアクセラレータの服も買わんといかんし」 

 その提案に対して俺はわかったとだけ言い、茶を啜りながら今まででわかった事実を纏めるために軽く思考を巡らしていた。

(これからどうなンだかな……
 まァ、さっきも考えたが《学園都市》の有無を確認しない限り今後の指針すら立てられねェし、今はこの状況を甘んじて受け入れるしかねェか。
 それと、はやてに対する深入りもこれ以上は避けるべきだな……
 話を聞く限りコイツを取り巻く環境も面倒そうだ。
 今は自分のことしか考えられねェし、コイツに深入りしなきゃならねェ理由もねェ。
 それに俺はあのガキ<ラストオーダー>と妹達<シスターズ>のことで手一杯だ。
 中途半端に関わるぐらいならこれぐらいの距離で留めて置いた方が判断が下しやすい。
 結論だけ考えれば現状維持の様子見ってとこか)

 そこで思考を止め、目の前で出掛けるのことが決定してやたらとテンションが高いはやて見て面倒くせぇと溜め息を吐いた。


-side out-



会話は一先ずの終結を迎える。

両者の中にある、相手に対する思いの違い。

歩み寄ろうとする八神はやて。

一定の距離を保とうとする一方通行。

まだ2人の距離は縮まらない。


《魔法》と《超能力》が交差する時、物語は始まる。 


~あとがき~

はやて視線で書くのが難し過ぎて死にたい……


どうも作者のベクトルです。

金曜になったので投稿しました。

いつも通り批判されないかビクついております。

一方さんの性格これで大丈夫か?と思いながらもなんとか仕上げました。

皆様のご意見お待ちしております。


注意事項をプロローグの終わりに作りましたのでよろしくお願いします。



[28071] 第4話 この世界とあの世界
Name: ベクトル◆5a28e14e ID:9641fd69
Date: 2011/06/17 00:24
-この世界とあの世界-


アクセラレータ……あの人の名前。
私はどれだけあの人のことを理解出来たのだろう。
初めて出会った時はその乱暴な口調や捻くれた性格のせいで彼の本心を読み取ることが上手く出来ずにいた。
今は数ヶ月間だけど一緒に暮らしてきたのである程度までわかっているつもり。
あの人の言葉は凄く乱暴だけれど、その裏に優しさを込めてくれる。
そんなあの人だから私は出逢った日から弱音を吐けたのだろう。
それに少しだけ聞けたあの人の過去が自分と似ている気がしたから……

……でも、あの人はこれ以上距離を縮めさせてくれない。
あの人の抱えている物を知りたい。
出来うることならその荷物を一緒に背負ってあげたい。
それは子供の我侭かもしれないけど……
私はあの人のおかげで《孤独》では無くなった。
あの人は私が欲しがっていたモノ<家族>をくれた。

だから少しでもいい……

あの人が《悲しい顔》をしなくて済むようにしてあげたい。
あの人が《優しい顔》を作れるようにしてあげたい。


-side 一方通行-


 あの後、はやてに連れられて近くの服屋とスーパーに行ったのだがやたらと服選びで時間が掛かった。
 俺はモノトーン系で1・2着セットで買えばいいと思っていたので、はやてにその旨を伝えたがその意見は家主命令で却下されやたらと色んな服を着てみろと言われ最終的に上下それぞれ5点ずつとコートを2着も買うことになってしまった。
 服のセンスはある程度俺の趣味が反映されたが、全体的に白っぽい服が多くなった。
 それと夕飯の献立についても意見を求められつい肉がいいと口を滑らせてしまった。
 そのせいか夕食はステーキになった。
 正直に味の感想を言えば美味かったとしか言えない。
 食後に食べ物の好みを聞かれたのでコーヒーと答えたら、それは食べ物と違うでと笑いながら言われたがその次の日から俺の席にコーヒーが置かれるようになった。
 それと、何かあった時の為にとはやてから5千円札を渡された。
 最初は拒否しようと思ったが、確かに急に金が必要になることもあるかもしれないので受け取ることにした。
 そしてそんな自分の姿にかなり落ち込んだ。
 それから図書館の開館日まではやての買い物に付き合ったり、話し相手になりながら日々を過ごした。
 
 そして今日はついに図書館の開館日。
 これでやっと《学園都市》について調べることが出来る。
 結果はどうあれ今日中に大体のことがわかる筈だ。
 
 とりあえずいつも通りはやてと飯を食い、着替えて出かけることになった。
 ちなみに俺は外ではやての車椅子を押したりはしていない。
 そういうのは柄じゃない。
 基本的にはやての隣でポケットに手を突っ込みながらダルそうに歩いているだけだ。
 何度か押してくれへんの?と言われたが面倒くせぇと答えて黙らせた。

 歩いて図書館に向かう最中はやてがここになにがあるとかここのスーパーは何が安いとか話しかけてきたが俺はあァと答えるだけでひたすらはやてが喋っているだけになった。
 そうこうしているうちに図書館に着き、はやてが改めて話しかけてきた。

「ほんなら、わたしは童話が置いてあるコーナーの近くにおるから調べ物が終わったら迎えにきてな」

 そう言い終わるとはやては本棚の方向に向かって行ったので俺はそれを見届けてから動きだした。
 とりあえずは地図を確認しに行くために地理関係の本が並んでる本棚に向かった。
 本棚の前に着くと適当な日本地図を手に取り関東圏のページを開いた。
 そして東京の西側に目を向けやっぱりか……と呟いた。
 なんとなく予想はしていたがそこには《学園都市》という地名は存在していなかった。
 その後、司書に願い出てインターネットを使用させてもらい調べたりしたが一切情報は出てこなかった。
 調べ終わったところで近くのベンチに座りながら考えを纏めることにした。

(まァ、予想していた通りだったな……
 はやての家でテレビを見ていて《学園都市》の情報が一切流れていないことからある程度は覚悟していたしな。
 これでここが平行世界やらなんやらってとこなのはわかった。
 ……だが、こうやって事実を突きつけられるとショックってのは受けるもンなンだな。
 ……それにこれでもうアイツ<ラストオーダー>があの後どうなったのかもう俺には調べる術がねェ。
 アイツのことを守ってやることも出来なくなっちまった……
 ……だが、何時までも気落ちしている訳にもいかねェな。
 向こうには芳川がいる。
 それにアイツも妹達<シスターズ>の一人だからな、あの実験を邪魔しに来た三下もその辺と接点があるみてェだったしどうにかなンだろ。
 第一、俺みたいな悪党に守られるよりも他のヤツが近くで守った方が安全だ。
 俺も色々な実験に参加して恨みを買ったりしてきたからな。
 そンな俺はアイツの傍にいなくていいのかもしれねェ。
 ……そう納得するしかねェな。

 しかし、違う世界か……
 転移と傷が消えた理由がわからねェのってのは納得いかねェな。
 その辺りはなんとかして引き続き調べるとするか……
 あまり過度な期待は出来ねェが、もしかしたら調べる過程で向こうに戻る手立てが見付かるかもしれねェ。

 次はこの世界の歴史やらを調べるとするか。
 俺のいた世界と何かしらの相違点があるかもしれねェしな)

 そう考えを纏め、ベンチから立ち上がり今度は歴史書の本棚に向かった。
 そこで暫く日本やアメリカ、ヨーロッパ等の主要国の歴史を読み、自分の知っている歴史とどの程度の差があるのかを確認した。
 表の歴史にはほとんど差が無いことがわかったが、裏社会のことはこういったところでは調べようが無いので機会があれば調べることにした。
 そこでふと時計を見ると短針が1時を指しているのを見て4時間近くも調べていたことに気付き、そろそろはやてのところに行くかと思い童話コーナーに向かった。

 童話コーナー近くではやての姿を探すとテーブルに肘をついて寝ているのを見付けた。
 溜め息を吐きつつはやてに近づき、頭を軽く小突くと怒られたように姿勢を正しこちらに体を向けた。
 そして俺の姿を確認すると口を開いた。

「なんや、もう終わったんかぁ?」

 そう少し寝ぼけたような口調でアホなことを言ってきたので、俺は無言で時計を指した。
 はやては俺の指の先にある時計を見て驚いたのか一瞬だけ大声を出しそうになっていたが図書館内ということもあってなんとか声を抑え、外に出よかと言ってきた。
 特に反対する理由も無かったので俺は頷くと先に図書館の外に出てベンチに座りはやてを待つことにした。
 暫くするとはやてが急いだように出てきて俺に話しかけてきた。

「なんや、もう1時やったんやね。
 寝てもうてたから気付かんかったわ……
 それにしても、先に出るなんて酷いやんか!
 本片付けるの手伝ってくれてもええ筈や!!
 ……ほんまにアクセラレータは優しさってものが欠けとるな」

 そう最後の方には捲し立てるように糾弾してきたが、俺はそれをあァあァそうですねェと軽く流しながらこれからどうするのか聞くことにした。

「ンで、この後はどうすンだ?
 家に帰ンのか?」

 流されたことにご立腹だったはやてだが俺がそう質問すると、少し悩んだような素振りみせ提案してきた。

「ん~…とりあえず何処かでお昼ご飯食べようか。
 その後は良かったでええんやけど、病院に行きたいからついてきてくれへんか?
 新年のご挨拶と診察をせなあかんしな。
 あ、調べ物の結果は家に帰ってからゆっくり聞かせてな。」

 飯を食いに行くのを反対するわけがないし、病院に行くのも別に構わない、それに調べたことの結果報告は後でするつもりだったのでそれもべつに問題ない。
 だが気になったことがあるので質問することにした。

「別に構わねェが、病院の医者やらに会った時は俺のことをどう説明する気だ?」

 その質問を聞いてはやてはあっ、と声を出し悩みだした。
 暫くそのまま動きが止まりどうするか考えていたようだったが、良い案が出て来ないようで頭から湯気を出すように唸っていた。
 俺はそれを見て呆れ混じりの溜め息を吐き、口を開いた。

「とりあえず俺は、テメェの父親の遠い親戚で親も居なく一人暮らし。
 今までアメリカの大学に通っていたが最近になって卒業が決まったからこっちに越してきた。
 それで、お前のことを思い出して様子を見に来た。
 苗字はとりあえず八神、国籍も日本にあることにしとけ」

 言葉の最後に少し無理があるがこんなもンだろと俺が言うとはやてはそれでいこうと右手の親指を立ててイイ笑顔を作ってきた。
 だが、俺がいった内容に少し疑問点があったのか質問してきた。

「アクセラレータの設定はそれでいくにしても、大学生って……アクセラレータは高校生ぐらいやろ?
 それはちょっと厳しい気がするんやけど?」

「あァ、そのことか。
 アメリカってのは飛び級が普通に認められてるし、俺は応用数学や情報物理学に関しては博士号を取れるぐらいの頭は持ってンだよ。
 だからそれぐらいの設定でも問題ねェ。
 なンか質問されても問題無く答えられる。
 むしろ、高校生ってことにすると学校はどうしてるだのと聞かれる可能性もあるかもしれねェからな」

 俺がはやての質問に間を空けずに答えると、はやては表情を固まらせ信じられないような目をしてこちらを見てきた。

「…それ、ほんまなん?
 博士号ってようは教授さんになるための資格みたいなもんやろ?
 今までそんなこと一言も言っておらんかったよな?」

 そのはやての問い俺は何でも無いことの様に返答した。

「別に話さなきゃいけねェことでもねェだろ。
 それを知ったところで何か変わる訳でもねェンだしな。
 それにそンな話するタイミングなンて無かっただろうがよ」

 それを聞いてはやては少し寂しそうな顔をしながら少し俯いて呟いた。

「確かにそうやけど、それでも言うてくれてもよかったやんか。
 ……わたし、アクセラレータのこと全然知らんのやね。
 この前話したときも結局、今までの生活のことは教えてくれへんかったし……」

 俺はその姿を横目で見つつ、少し重い雰囲気が漂っているがそれを気にせず行くぞと声を掛け歩きだした。
 俺が歩きだしたことに焦ったのか、はやては急いで車椅子を動かし横に並んだ。
 そしてその後は特に会話をすることもなく近くにあったファミレスに入りメニューを見ながら適当に注文しさっさと食って病院に向かうことにした。
 ファミレスから病院に向かう頃には先程のような空気も無くなり、はやても話しかけてくるようになったが俺はいつも通り適当に返事をしながら歩くことにした。
 
 暫く歩き病院に着くとはやては受付を済ませる為に俺から離れていった。
 その間、特にやることも無い俺は自販機で缶コーヒーを買い、それを飲みながらはやてを待っていた。
 缶コーヒーを飲み終わる頃にはやても受付を済ませたのか俺の近くに戻ってきており、このまま先生の診察室に行くでといい俺を先導した。
 診察室に向かう途中で何でもはやては俺のことを受付で話したらしく、そのことを聞いた石田という医者が会いたいと言っているらしいので同行することになったらしい。
 面倒だが、ここでそのことを言うと後で怪しまれる恐れもあったので着いていくことにした。 
 そうこうしているうちに診察室の前に着き、はやてが軽くドアをノックすると中からどうぞという声が聞こえてきたのではやての後ろに付く形で入室した。
 部屋の中を観察すると診察用のベッドや医療X線写真観察器、事務仕事用の机、その机の上にはプラスチック製の引き出しや様々な書類が乗っている至って普通の診察室だった。
 改めて正面に目をやるとそこには濃い青色をした髪を肩口程度で切り揃え、白衣を着た女性の医者が居た。
 俺はその医者を見たときに芳川を思い出した。
 見た目の印象がとても良く似ていた。
 ただ、芳川は気だるさのような雰囲気を纏っていたが、この医者はそういったものとは違いある種の心地よい緊張感のある雰囲気を纏っていた。
 そんなことを考えているとはやてと医者が挨拶を始めた。

「明けましておめでとう、はやてちゃん
 その後、足の具合はどう?
 何か変わったこととかあったりした?」

「明けましておめでとうございます、石田先生。
 特に変わったこと無かったです。
 足も特に異常ないと思いますよ」

 そう受け答えしつつ足を触診したりして軽く診察をしていたが、ある程度区切りが付いたところで石田とかいう医者を俺に視線を向けてきた。
 最初は観察するように懐疑的な目をしてきたが、俺が何の反応もしないのではやてに質問することにしたらしく俺から目線を外しはやてに向き直った。

「それで、はやてちゃん。
 この人がさっき受け付けの看護師に言っていたお父さんの親戚とかいう人なの?」

 そう聞かれはやては少し焦りながらも決めておいた内容で説明をし始めた。

「そうなんですよ。
 わたしも最初に知った時はビックリしました。
 今までアメリカの大学におったらしくて卒業したから日本に戻って来たらしいんです。
 それで住む場所が決まってなかったみたいだったんでわたしの家に住んでもらうことにしたんです」

 石田はその説明に少し怪しむように顔を顰めてはやてを見ていたが、はやてが少し引き攣った笑顔を作り誤魔化している。
 すると今度は俺の方を向き頭を下げ挨拶してきた。

「始めまして。
 はやてちゃんの担当医の石田と申します。
 えっと、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「アクセラレータ・八神だ」

 聞かれたことだけを俺が手をポケットに突っ込んだままぶっきらぼうに即答すると、石田はその言い方や態度に面食らったのか目を白黒させていた。
 しかし、いつまでもそうしてはいられないと思ったのか更に問いかけてきた。

「アクセラレータ?
 失礼ですが、変わったお名前ですね。
 アメリカの大学をご卒業なさったお聞きしましたが、どちらの大学を卒業したのかお聞きしても構いませんか?
 それとあなたのご年齢とご家族はどうなさっているかも出来ればご説明をお願いします」

「別に名乗る度に言われることだから気にしてねェ。
 大学はMIT、歳は18、家族はいねェ。
 卒業したから日本に帰国した。
 はやてのことを思い出して会いにきて、まだ借家の契約もしてなかったからはやての家に泊まらせてもらっている」

 俺は石田の質問に特に悩んだ素振りも見せずすらすらと答えると、また少し顔を顰めていた。
 暫く俺と視線を合わせていたが何かを思いついた顔をし、席を立ち上がり頭下げて口を開いた。

「失礼なことを聞いて申し訳ありませんでした。
 それではもう少しはやてちゃんの診察をしたいのでアクセラレータさんは少し外にあるソファでお待ちして頂いてもよろしいでしょうか?」

 それに俺はあァと答えて診察室の外に出た。


-side out-


-side 八神はやて-


 アクセラレータが診察室を出て行くと石田先生は私に話しかけてきた。

「ちょっとあの人が親戚っていうのは信じ切れないけど、まぁそれはとりあえず置いておきましょう。
 それで、アクセラレータさんとは上手くやっているの?
 こう言っちゃ悪いかもしれないけど、なんか不良みたいというか無愛想というか……」

 言葉尻を濁しながら石田先生は困ったような顔をしていた。
 やっぱりアクセラレータの言った通り設定に無理があったんかなぁ、というかアクセラレータの第一印象は不良なんやなと心の中で苦笑しつつも石田先生の質問に答えることにした。

「ええ、無愛想で乱暴な言葉しか使えへん人やけどちゃんと話してみると良い人ですよ
 買い物とかに行く時も面倒くさいだの言いながら一緒に行ってくれますし、それに家族が増えて毎日が楽しいです」

 そう私が笑顔を作って答えると、石田先生は右手を顎にあてて考えるような仕草をしていた。
 そして姿勢を正して私を正面に捉えて口を開いた。

「そう、ならいいのだけれど……
 もし何かあったら直ぐ私に相談するようにしてね」

 私はそれにはいと答えたが、頭の中ではアクセラレータが何か仕出かす訳ないと断言していた。
 あの人は少し捻くれているがとても優しい人だとこの5日間でわかっていたから……
 その後は診察や新しいリハビリ方法や薬の話をする合間にアクセラレータが来てから私の生活がそう変わったかの話をした。
 診察が終わると今度はアクセラレータと2人で話したいと石田先生が言ったので私はアクセラレータを呼ぶ為に診察室を出た。


-side out-


-side 一方通行-


 俺は診察室の外に出てソファに座りながらはやての診察が終わるのを待っていた。
 ただ、頭の中ではやはりあの設定では怪しまれるのも当然かと考えていた。
 その後は何をするでもなく座っていた。
 どれぐらいそうしていたのかはわからないが、はやてが診察室から出てきて俺に声をかけてきた。

「お待たせや、アクセラレータ。
 あ、石田先生が少し2人で話したい言うてるんよ。
 わたしはこのまま受け付けに行って診察代と薬を貰ったりしてくるから、終わったらロビーに来てな。
 ロビーのソファに座って待っとるから」

 俺はあァ、また後でなと答えて診察室に入ることにした。
 診察室に入ると石田が真面目な顔をしてこちらを見てきていた。
 そして、椅子に座るように促されたが俺はそれに拒否しこのままでいいと言いポケットに手を突っ込んで診察室の壁に寄りかかった。

「で、話ってのは何なンだ?」

 そう俺が石田を視界に納めながら切り出すと、石田は俺に鋭い目線を向けながら口を開いた。

「話というよりも確認に近いのかもしれなのだけれどもね。
 ……あなたの身の上話は正直に言えば信用出来ないわ。
 突然はやてちゃんの親戚だとか言われても信じられる訳が無いもの」

 そう先程までの使っていた敬語を使うのをやめて言及してきた。
 それに対して俺は内心でまァそりゃそうだろと思いながらも口を歪ませ、不敵に笑いながら目を細め石田を見た。
 
「だったらどうすンだ? 
 警察にでも連絡すンのか?」

 そう挑発するように言う俺に対して石田は真面目な顔を少し崩して溜め息を吐いた。

「……最初はそうしようかとも思ったのだけれどもはやてちゃんからあなたのことを聞いてる内にそうする気も無くなったのよね。
 だってはやてちゃん、あなたのことを話している時とても楽しそうな顔をしてるんですもの。
 それに家族が出来たってとても喜んでいたし……
 あんな顔をされてたら警察に連絡する気もしなくなったわ」

 そうやれやれと肩を竦めながら話す石田に俺は少し驚いた表情をした。
 そして顔を顰め面にし舌打ちをしながら心の中でこのお人好しどもがと軽く悪態をついた。
 最悪、このまま通報されるようなら面倒なことになる前に八神家を出る覚悟もしていたのだがその心配は無さそうなので少し安堵している自分がいた。
 どうやら俺は存外に今の生活が気に入っているようだ。
 と、そこで石田がまた話しかけてきた。

「だから、1つお願いしてもいい?」

 そう少し懇願するように聞いてきた。
 その姿を見て俺は面倒だなと思いつつも頼みごとの内容を聞くために、モノによると短く答えて続きを促した。
 それを聞いて石田は俺に真剣な目を向けながら口を開いた。
 
「どうかはやてちゃんを悲しませるようなことはしないであげて。
 あの子は今までとても辛いことに耐えて生きてきたわ。
 それに……そのことを人に話したりせず抱え込んでいるもの。
 私ははやてちゃんをこれ以上、悲しい目に合わせたくないのよ」

 最後の方には少し目線を下げ悲しそうな顔をしながら話した。
 それを聞いて俺は眉間に皺を寄せながらも返答した。

「約束は出来ねェ。
 俺がいることで悲しませることになる可能性もある以上な」
 
 俺がそう答えると石田は一瞬だけ驚いた顔をしたがすぐに笑顔に変え視線を俺に向けてきた。

「はやてちゃんの言った通りね。
 あなた、ちょっと捻くれているけど根は優しいみたい。
 これならはやてちゃんを任せられるかな」

 それを聞いてあのガキはコイツに何を話したんだと思いながら舌打ちをした。
 非常に不本意なはやて石田の俺に対する評価に機嫌が悪くなりつつも俺は話が終わりなら帰るぜと吐き捨てながら診察室を出た。
 途中で石田が何かを言っている声が聞こえたが、今はそれを聞く気分では無いので無視しはやてがいるロビーを目指した。
 ロビーに着くとはやてが受付前にいたので近づくことにした。
 ある程度近づいたところではやてにおいと声を掛けた。
 それを聞いたはやては顔をこちらに向けて口を開いた。

「あ、アクセラレータ。
 もう終わったんか?
 わたしの方も薬もらったら終わりやからそしたら帰ろうか」

 そう言ってきたのであァとだけ答えて暫くはやての後ろに控えて待つことにした。
 数分後、薬をはやてが受け取り病院を出た。
 帰り道の途中ではやてが石田とどんな話をしたのか聞いてきたのでテメェこそアイツに何を吹き込みやがったと答えた。
 その俺の答えにはやては少し考えるような仕草をした後に笑いなが口を開いた。

「別に変なことは言ってへんよ。
 ただ、アクセラレータはツンデレやって教えたぐらいやね」

 それを聞いて俺は右手で眉間を押さえながら盛大に溜め息を吐いた後、はやての頭を鷲掴みにしながら口を開いた。

「このガキ、誰がツンデレだ!
 そういうのを変なことってンだよ。
 余計なこと吹き込みやがってっ……!」

 そう言いいながらはやての頭を掴んでいる手に力を込めるとはやては痛い痛いと喚きながら俺に抗議してきた。

「だって事実やんか!!
 アクセラレータは二言目には面倒臭いだの言いながらも頼むと手伝ってくれるし、表面上冷たいだけで優しいやんか!!
 それをツンデレと言わずになんていうんや!!
 ってかいい加減に離してや!!
 そろそろ本気で痛いんやけど!?」

 ふざけたことをぬかすので更に力を込めながらこのクソガキがっと言うと、はやてはあかん!?ほんまに頭が割れそうやとか言いながら車椅子を動かしていた手を俺の手に近づけどうにかどかそうとしながら立ち止まった。
 だが、俺はそれでも手を離さずに暫く力を込め続けた。
 少し満足したところで手を離すとはやては涙目になりながらこちらを睨んできた。

「……か、か弱い女の子にこんなことするなんて?!
 アクセラレータの外道!鬼畜!!甲斐性無し!!」

 そう言ってきたので俺は顔を歪め、凶悪そうな笑顔を作りながら再度右手をはやての頭に伸ばす仕草をした。

「あァ?!
 このクソガキ、どうやらまたやられてェみてェだな……」

 そう言ったところではやては慌てて車椅子を動かし、ほら晩御飯の材料買いに行くでと誤魔化し逃げるようにスーパーに向かって進みだした。
 それに俺は舌打ちをして右手をポケットにしまい、はやての隣に並んだ。
 最初、はやてはまたやられるのかと思ったのか体を強張らせていたが、俺にその気が無いとわかると表情を笑顔に変えながら今日の夕飯の献立を聞いてきた。
 それに俺は肉だなと答えたりしながら歩いていると、ふとした拍子にはやてが会話を終わらせ無言になった。
 俺はその無言の空間の中、こういうのも悪くねェなと心の中で呟きはやてを見た。
 すると、はやても俺に顔を向け口を開いた。

「こんな……こんな日々がこれからも続いたらええな」

 そう少し小さく呟くはやてに俺は何も答えず前を向き直った。
 はやてもそんな俺の態度に何も言わず、俺の隣で車椅子を動かす。
 前を見ると少しだが太陽が夕日に成り掛けていた。

(あァ、こんな日々も悪くねェ……
 悪くねェな。
 ……これが俺の望んでいた日常ってやつなのかもな)

 俺は太陽を見ながらそう思い、無言で歩を進める。
 
 まだ一月で寒い筈の空気が少し暖かく感じた気がした。


-side out-


自分の現状を知った一方通行。

アクセラレータの現状を知ることになる八神はやて。

一方通行は自分の現状を八神はやてに話す。

八神はやては一方通行の事実を知る。


《魔法》と《超能力》が交差する時、物語は始まる。  


~あとがき~

俺の脳内妄想が加速中!


どうも作者のベクトルです。

今週も金曜になったので投稿しました。

そして……気が付いたら一方さんがデレてしまっていた。

これはどうなのだろうか……?

あまりにも不評なら書き直します。

それと、とらはの設定を混ぜるか検討中です。

あ、遂に次で説明関係の話は終わりになると思います。

6話から少しずつ話が進展していけるかなぁ……という感じです。

皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。



[28071] 第5話 《学園都市》
Name: ベクトル◆5a28e14e ID:9641fd69
Date: 2011/06/19 01:34
-《学園都市》-


俺はどうしたいんだろうか……
はやての家に長居はしない、適当なタイミングで出て行くそう決めた筈だった。
……だが、はやてと一緒に居るとその決心が鈍る。
アイツの笑顔を見てると心が穏やかになるのが自分でもわかる。
アイツの悲しい顔は見たくないと思う自分がいる。
そして……《はやて》と《ラストオーダー》を重ねている自分がいる。
そんな馬鹿なことを考えている自分がいる……

はやてはあのガキの代わりじゃない。
はやては《はやて》で、ラストオーダーは《ラストオーダー》なんだ。
それぞれ別の人生を歩んできて境遇もなにもかもが違う。
そんなことはわかっている。
だが、この考えが頭から離れない。
……どうすればいい。

このままで良い筈がない。
自分の中での考えを纏めなければ……
だが、自分の考えが纏まらない。

……俺は、俺はこんな人間じゃなかった筈だ。

誰かを想うなんて俺の人格<ソフト>じゃねェ。

誰かと誰かを重ねるなんて有り得ねェ。


そんなことを考ながらもはやてと一緒に暮らしている。


-side 一方通行-

 家に帰り晩飯に豚肉のしょうが焼きを食べ、食後にはやては紅茶を俺はコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。
 くだらないバラエティ番組で2人とも特に会話をすることもなく、かといって笑うこともせずただ時間が過ぎていった。
 暫くそうしているとはやてが紅茶とコーヒーを淹れ直し、テレビを消して話を切り出してきた。

「それで、調べ物の結果はどうやった?
 図書館だけやと無理なんやったら今度は市役所にでも行くんか?」

 そう聞いてきたので俺は頭の中で図書館で調べたことを整理しつつ、はやてにどこまで話していいものか考えながら返答した。

「いや、図書館だけで十分だ。
 意外にここの図書館の蔵書が充実してたこともあってある程度納得いくまで調べられたからな」

 俺の発言にはやてはなら良かったと言い、調べたことに関して聞きたそうにしていた。
 その姿を見つつ俺は《超能力》や俺の詳しい過去を伏せるのは確実だなと決め、とりあえず結果だけを端的に話し始めた。

「結果だけ言えば、俺の帰る場所は見付からなかった。
 これからも定期的に図書館に行く予定だが……まァ望み薄だな」

 そこで一旦、言葉を区切りコーヒーを一口飲んだ。
 マグカップをテーブルに置き、はやての顔を見るとなんとも形容しがたい表情をしていた。
 喜んでいるような悲しんでいるような、それでいて笑っているような泣いているような、そんなよくわからない顔。
 そんな顔を見ながら俺は自分の事を全部話すのも面倒だし、ここからは質問形式にしてはやての聞きたいことだけを必要最低限だけ答える形にし、詳しく話せないことは適当に誤魔化す形にした方が得策かもしんねぇなと考えそうするべく口を開いた。

「全部話すのも面倒くせェ。
 なンか聞きてェことがあンなら質問しろ」

 面倒臭そうに言う俺にはやては考えに耽っていたのか体を一瞬震わせた。
 その後、硬い表情をし俺の顔を見ながら口を開いた。

「……ほんなら質問させてもらうけど、帰る場所が無いって詳しくはどういうことなん?
 この前、言ってた《学園都市》いうのは日本に無かったってことなんか?
 その辺りがいまいちよくわからんのやけど……」

 はやては難しい顔をしながらそう俺に問いかけてきた。
 自分で答えを見つけようとしているのかう~んと唸っているはやてを視界に納めながら俺はどうしたもんかと頭の中で呟いた。

(普通に考えれば平行世界やらなンやら言っても正気を疑われるだけだな。
 ……ンで、そこの話をしないとなると適当に嘘をつくことになる。
 だが、それだと話に正当性が出てこなくなる恐れもある、それに俺がはやての部屋に突然現れた説明も難しい。
 まァそこの辺りはコイツがわからないような小難しい話をして誤魔化すって手もあるンだが……後で調べられてまた話をするって状況になる可能性もある。
 面倒な話はこれで終わりにしてェからそれは御免だな。
 それにはやては年齢の割に頭の回転が早ェから少しでもボロを出せばそこから突っ込まれるかもしれねェ。
 ッチ、最初にここが平行世界だとは思わずはやてに俺の情報を渡し過ぎたか……
 アレがなけりゃもう少しやりようはあったンだがな。
 しょうがねェ、だったらここは正直に俺の世界のことを話すか)

 そう頭の中で結論付け、右肘をテーブルに置き話し始めた。

「そのことを話す前に1つだけ確認しとく。
 俺がこれから話すことはかなりアホらしい話なンだが、俺は事実しか言わねェ。
 それを信じるも信じないもテメェ次第だ。
 ……それでも構わねェか?」

 そう俺がはやてに問いかけるとはやては少し困惑したような表情をしたが直ぐに表情を引き締め真面目な顔をして頷いた。
 それを見て俺は一度はやてから視線を外し、少し間を空けた後に向こうの世界のことを話し始めた。

「まず、俺はこの世界の人間じゃねェ。
 こことは違う世界の人間だ。
 ……平行世界や異世界ってのはわかるか?」

 そう初っ端から衝撃の事実を坦々と言う俺にはやては狼狽しているが、質問の内容に答えるためにどうにか口を開いた。

「平行世界ってあれやろ?
 アニメとかに出てきて、もしこうだったら世界はどうなっていたのかとかいうのやったっけ……?
 とりあえずこことよう似た世界やって考えであっとる?」

 はやては自分の知っている知識を使ってなんとか理解しようとしているようだが自信がないのか俺に問いかけるように答えた。
 その内容が何となくアニメと俺のいた世界を一緒にされた気がしてムカついたがここで話が脱線するのは面倒だなと思い抑えることにした。
 それにまぁガキの知識がそれが限界かと思いながらあァと答え、話の続きをし始める。

「それでとりあえずはそれで構わねェ。
 こことよく似た世界って認識も間違ってねェ、本当は量子力学を用いたもっと難しい話なンだがテメェじゃ理解出来ねェだろうからな」
 
 俺がそこで言葉を区切って溜め息を吐くとはやては馬鹿にされたと思ったのか少し不服そうな顔をしていた。
 だが、平行・並行世界の理論ってのは定義が曖昧で多数の解釈もあり、ある程度の物理学系の専門知識が無いとかなり理解に苦しむ内容だ。
 小学生のコイツがそんなのを持っている筈がなく、したがって理解出来るとは到底思えない。
 それならばここで無駄なことに時間を費やすさず、このままその辺りの理論の話は省いた方が懸命な筈だ。
 なので、はやての視線を無視し続けるぞと言い説明を再開した。

「……ンで、俺がいた世界ってのは歴史的にはここと大差ねェ。
 世界大戦、世界各国の名称、宗教、その他のことも多少誤差はあったが概ね合ってたしな。
 ……ただ、日本においては少し話が違ってな。
 国内に《学園都市》っていう独立国家みてェのが存在していた。
 前にも話したが総面積は東京の3分の1、人口230万人の巨大都市だな。
 《学園都市》って名前の通り、中には多数の学業施設があって各分野のエリート育成みてェなのを主に行ってた。
 人口の8割は学生で残りの2割も教師や警備員・研究者なんかだった。
 それと科学技術の研究所もあって、外と内とでは技術格差が何十年もあるって話だ。
 まァ高い技術力があったから独立国家なんて呼ばれるようになったンだがな。
 それと、さっきは大差ねェと言ったがそんなもンが出来たせいで世界のパワーバランスは1900年代後半からここと少し違ったな。
 《学園都市》が出来る以前の歴史はほぼ同じだったってことだ。
 それはとりあえず置いとくとして、そこに俺は住ンでた。
 俺は特待生でな、授業に出席しなくていい代わりに研究所なンかに行って研究の手伝いをしてたンだ。
 そこで研究の手伝い中に装置が暴走……何とか暴走を鎮めようと研究員総出で対処に当たることになった。
 最終的には抑え切れなくて爆発したンだが、爆発に巻き込まれた俺はなぜか知らンがここに飛ばされてたって訳だ。
 まァ大体こんなもンか、かなり突拍子もねェ話だったがなンか質問はあるか?」

 俺はそう締めくくりながらあっちの世界の大雑把な説明を終えて、話し疲れたよう右手を首にあて頭を左右に捻り音を鳴らした。
 そうしながらまぁ話せる内容はこんなもんだろと思いながら思考を巡らしはやてが質問してくるのを待った。

(《超能力》のことを伏せて話をするならこの辺りの話が妥当だろ。
 薬品云々や催眠・暗示なんて話を社会の裏を何も知らねェこンなガキにするもンじゃねェ。 
 俺がここにくる理由もあれなら知らぬ存ぜぬで押し通せンだろ。
 実際、どうしてここに転移することになったのかは俺もわかって無ェンだ。
 それならこれぐらいの誤魔化しならどうにかなンだろ
 後はこの話をコイツが信じるかだな……)

 と、そこまで考えているところで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたはやてが口を開いた。

「ほぇ~……なんや信じられへんような話でビックリしてもうたわ。
 ……でも、わたしはアクセラレータの話を信じるで。
 確かに普通なら有り得へんっていうて笑ってお終いなんやろうけど、この一週間ぐらい一緒に暮らしていてアクセラレータがわざわざそんな嘘をつくような人やないことはわかってるつもりやしな」
 
 と、そこではやては言葉を区切り、真剣な目をして俺の目を見つめてきた。
 はやての顔を見てなんともあっさりと話を信じたもんだと内心で呆れつた。
 キチガイと思われても何らおかしくない話だったのにコイツは信じやがった。
 やっぱりコイツはお人好しだなと思いつつ、ここで黄色い救急車を呼ばれなかったのは良かったと安堵もした。
 そんなことになったら俺のプライドが一瞬にして崩れるとこだった。
 
「ほんでな、質問なんやけどアクセラレータが手伝っていた研究ってどんなことをやってたん?」
 
 色々考えているところではやては話を再開し、質問してきた。
 俺はごちゃごちゃ考えるのを止め、その問いにどう答えたもんかと考え始めることにした。
 少し考えて適当にエネルギー研究の話でもして誤魔化すかと決め、肘をまたテーブルに置き口を開いた。

「俺が参加していた研究ってのはエネルギー研究の実験でな。
 太陽光を利用した発電機の研究テーマにしてた研究所だったンだがな。
 まァ《学園都市》は風力による発電がメインだったンで需要があったのかと言われると微妙なンだがな。
 一応そこの辺りの説明はあったンだが俺にはどうでもいいことだったンで聞き流しちまったからよく覚えてねェ。
 少し覚えてンのは科学者連中の自己満足みてェなもンだったらしいってことぐらいか。
 ……ンで、その研究を続けていく上で従来の物より小型でそれでいて圧倒的にエネルギーの変換効率が高い物を作ることになった。
 だが、ダウンサイジングに不備があったのか試作で作ったやつが熱量を溜め込み過ぎて暴走して爆発しちまった訳だ。
 ついでに言っとくと爆発自体はそうデカイもンじゃなかった。
 試作型ということもあって出力的には本来の10000分の1に抑えてやってたからな。
 どンなに酷くてもあの施設が吹っ飛ぶぐれェで済んだ筈だ。」
 
 俺の言葉を聞いてはやてはまたほぇ~とアホっぽい声を出して感心したように俺を見てきた。
 その視線がうざかったのでンだよと聞くと、はやては何度か頷いてから頭を上げ関心したような顔しながら俺を見てきた。

「いやな、ほんまに頭良かったんやなぁっと思ってな……
 病院行く前に聞いてはいたけど実感なかったからなぁ。
 こうやって研究内容とかとか聞いてやっと実感湧いたわ。
 あ、それともう1つええか?」

 そう聞いてきたはやてに俺は面倒臭そうにあァと答え先を促した。
 それを確認するとはやては興奮を抑えきれないように鼻息を荒くしながら少し身を乗り出して質問してきた。

「やっぱり科学技術が発達しとるってことはロボットとかおったんか?!
 青い狸型のとか、赤い彗星とか言われそうなのとか!」

 それを聞いて思わずさっき見ていたテレビ番組に出ていたコント芸人のように肘をテーブルから落とし椅子から転げ落ちそうになった俺は変じゃない。
 くだらないこと聞いてくるので思わず盛大に溜め息を吐いてから口を開き質問に答えることにした。

「ハァ……どこぞの未来型青狸やら赤いと三倍速いのなンかはいなかったが、ロボットはいたぞ。
 ドラム缶型で掃除兼防犯用に設計されたヤツが《学園都市》内部の路上にな」

 そう呆れながらも答えるとはやては少し残念そうな顔をしていたが直ぐに、ドラム缶でもロボットがいたなんて羨ましい、見てみたい、等と騒いでいた。
 俺はその反応にうんざりしながら投げやりに他には何かねェのかと聞くとはやては少し冷静になったのか騒ぐのを止め思案顔になった。
 そしてこちらを伺うように見ながらして問いかけてきた。

「後は、質問というわけやないんやけど。
 ……帰る場所が無いってことはウチにこのままいるんか?」
 
 それは俺も《学園都市》が無いとわかった時からどうするか考えていたことだった。
 ここをそのうち出て行くことは決めているが、直ぐに出ていくにしても戸籍も無ければ特に伝手も無い今の俺では生活が出来ない。
 流石にホームレスになるのだけはゴメンだ。
 なのでまだ暫くはここに居座ろうと思いそれを伝えるために口を開いた。

「……あァ、まだ暫くは世話になる。
 とりあえず行く宛てが無ェことには変わりねェからな」

 そう俺が投げやりに答えるとそれを聞いたはやてはとても嬉しそうに笑った。
 そしてそっかそっかと何度も頷き、俺の答えに喜んでいるのが誰にでもわかるような仕草をしていた。
 その表情を俺は少し目を細めながら見ているとはやてがふいに顔を上げた。

「……ほんならまた改めてよろしくの握手をしようや、アクセラレータ。
 これかも一緒に暮らしていくんやしこういうんは大事だと思うんよ?」

 そう言いながらはやては初めて会った日と同じように車椅子を俺の横に移動させ右手を差し出してきた。
 俺はその問いに対する返答はしなかったが、その代わりというように今度は顔を顰めながらもその手をしっかりと握りながらはやてを見た。
 その俺の姿に驚いたのか、はやては一瞬だけ目を見開いたが直ぐに笑顔になりまたあの日のように俺の腕ごと上下に右手を振った。

「これからもよろしくなアクセラレータ」

 そう満面の笑みを浮かべ、腕を振るはやてに俺は短くあァと答えただけだった。


-side out-


-side 八神はやて-

 アクセラレータの話を聞いてから少し経ち、今はお風呂に入っている。
 こんな足だと湯船に浸かるのも一苦労なので普段はシャワーだけで済ますことが多いが今日はなんだか入りたい気分だったのでお湯を張っておいた。
 そして体を洗った後に湯船に浸かりながらさっきの話を思い出していた。

(……アクセラレータにあんな事情があったなんてなぁ。
 信じる言うたのは本心やけど、ちょっとビックリし過ぎて頭の整理が追いつかんなぁ。
 平行世界……
 小説とかでそういう設定のはよく読んだりするけど本当に実在するんやな。
 ほんまにビックリしたわぁ。
 それに《学園都市》ってのも凄い場所や。
 科学技術が凄く発展してて、ロボットもおって、私がよく読む本の中に存在するような場所……
 そんな場所で暮らしていたアクセラレータの生活ももっと詳しく聞きたかったけど、正直あれ以上は頭の整理が追いつかんくてパンクしていまいそうやったからまた今度にしよかと思って質問するのやめたけど機会があればもっと聞きたいな。
 そんでいっぱいアクセラレータのことを知ってほんまの家族みたいになれたら嬉しいなぁ。
 ……それに握手をしようとした時、アクセラレータが目を逸らさないで手を握ってくれたのはほんまに嬉しかった。
 わたしを拒絶しないで受け入れてくれた気がした。
 でも、ああやって顔を顰めて不機嫌そうな表情を作るのはマイナスポイントやな。
 あおそこで少しでもいいから笑ってくれたらもっと嬉しかったんやけど……
 ……そういえば、まだアクセラレータ笑っているとこって見たこと無い気がする。
 意地が悪そうな顔をしてニヤついとんのはあるんやけどなぁ。
 でも、純粋な笑顔も見てみたいな。
 きっと綺麗な顔して笑うんやろうなぁ。
 黙っていればイケメンやしね)

 と、そこまで考えてノックをする音と脱衣所の扉を開ける音が聞こえ、アクセラレータが脱衣所から声を掛けてきた。

「オイ、もう1時間以上も入ってンだが湯船で溺れてねェよな?」

 そう聞かれ驚いて時計を確認すると確かにお風呂に入ってくると言ってから1時間半近く経っていることに気がついた。
 その事実に慌てつつ外にいるアクセラレータに大丈夫、溺れてへんよと言って湯船から出ることにする。
 アクセラレータはその返事を聞いて脱衣所から出て行ったみたいで、浴室から出ると既にいなかった。
 体を拭き、服を着て脱衣所の扉を開けると正面に自分の着替え持ったアクセラレータがいた。
 心配かけてごめんなと私が言うと、アクセラレータは別に心配したわけじゃねェと言って私が脱衣所から出るのを確認するとすれ違うように脱衣所に入り扉を閉めた。
 そんなアクセラレータを見て私はほんまに素直やないなぁと呟きながらも顔が綻んでいた。
 シャワーの音が聞こえてきたところで私は台所に向かった。
 そして鼻歌を歌いながらいつもより丁寧にコーヒーを淹れながらアクセラレータがお風呂から出てくるのを待つ。

 そんな時間が楽しくて自然と顔が綻んでいた。

 
-side out-


真実を隠す一方通行。

真実を隠されたことに気付かない八神はやて。

……2人の距離は傍目に見れば縮まったようにも見える。

しかし、本質的には縮まっていない。


そしてついに一方通行は八神はやての抱えているものに気付き始める。


《魔法》と《超能力》が交差する時、物語は始まる。


~あとがき~

ヒャッハー!!

どうも作者のベクトルです。

妄想が加速し過ぎて、書き上がったってしまったのでまだ土曜日だったこもありざっと読み直して投稿してしまいました。

少し短かったかもしれませんがそこの辺りはご容赦していただきたいです。

それにしても……こんな感じで大丈夫か?

とりあえず次回からは少しずつではありますがリリカル的な話を盛り込んでいきたいと思います。

これからもよろしくお願いします。

それでは皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。



[28071] 第6話 序章・考察
Name: ベクトル◆5a28e14e ID:9641fd69
Date: 2011/06/25 23:01
私の判断はこれで良かったのだろうか……

あの少女のことを考える度にそう考えてしまう。
負の連鎖を断ち切るためにはしょうがない。
非常な手段を取ってきたが、私は間違っていない。
……そう、自分の心に言い聞かせることで無理矢理に納得させている。

計画は今のところ特に問題も無く推移している。
1年以内には《騎士》と《アレ》の覚醒も終え、全てに終止符が打てる筈だ。
そうすればもう誰も悲しむことは無くなる。

……だから私は間違っていない。

しかし、最近になって妙なことが起こった。
《娘達》の報告書に奇妙な青年があの少女の家に住みついたということが記してある。
その報告を聞いた時に私以外に気付いた者がいるのかと焦った。
だが、調べるとその青年に《魔力反応》は無く、地球に《次元間転移》をしたという《魔力反応》も無い。
ということは恐らくは一般人なのだろう。
このまま放置しておいても問題無いとは思うが、計画の為にも不確定要素は取り除きたい。
それに無関係の人間を巻き込むのも本意ではない。
なのでまずは娘達を使い、牽制することにした。

これでその青年があの家から離れてくれればいいのだが……


-序章・考察-


 俺がはやての家に居座ってからもう一ヶ月が過ぎている。
 あの話をした後からはやてはことあるごとに《学園都市》や俺の過去について質問してきた。
 質問の答えに窮することもあったが何とか適当に誤魔化し続けてきたおかげで、《超能力》や俺の詳しい《過去》については教えずに済んでいる。
 ただ、向こうでどのような生活をしていたかは話すことになってしまったので、奨学金を貰って学生マンションで1人暮らしをし、研究所に行かない時は適当に時間を潰すか部屋で寝てると答えた。
 それを聞いてはやては呆れ顔になりながら駄目学生の典型やな、と言ってきたのでどう生活しようが俺の勝手だ、と言い返すと今度は他にも彼女はいなかったのか?とかこの世界と向こうの世界の違い等を色々聞いてきたが一々説明するのも面倒だったので適当に流したりもした。

 図書館には大体週に2回のペースで足を運ぶ程度にしている。
 はやてが行くときについでに俺も行く流れになるのでその時にあの時に調べなかった細かいことや帰る手段の模索をした。
 帰る方法は今のところ、全くと言っていいほど手掛かりが無い。
 第一、俺自身が理解していないことに関して調べようも無いのだが……
 とりあえずこちらの件に関しては本当に気長にやっていくしかないのだろう。
 それと、やはり向こうとこちらの歴史・地名には大きな差異は見つからなかった。
 ただ、《学園都市》が無いおかげなのかは不明だがこちらの世界のほうが世界情勢は安定しているように思える。
 その代わりに科学技術は少し劣っているようだ。
 まぁ、俺は外の情報に詳しい訳では無かったので確証は無いが。
 
 先程までとは別の話だが、とりあえず向こうに帰る手段も見付からないので戸籍を偽造することにした。
 いつまでも身元不明にしておくのも不味い、それにこういったことは早めにやっておいた方が良い。
 人生、いつなにがあるかわからないのだ。
 出きることは可能な限り先にやっておくに越したことはない。
 偽造する上で裏家業の連中とコンタクトを取れたら楽だったのでどうにかそっちの業界を探そうともしたが、よく考えてみれば依頼するための金を持っていなかったことに気付いたため諦めることになった。
 そうと決まれば話は早いと思い夜中にはやてに黙って出掛け、<能力>を使い警備関係の装置を全て一時的に解除して市役所に潜り込む。
 その後は<能力>とハッキング技術を駆使し自分の戸籍を偽造、そして偽造したことがバレないように工作も施しておいた。
 書類として俺の戸籍に関する情報が無いので、入念に調べ上げられることがあればバレる恐れもあるがまぁ大丈夫だろう。
 非常に面倒臭い作業ではあったが、先に延ばしておいても問題が解決する訳でもないのでやはり早めに片付けて正解だったと改めて思っている。

 とりあえず身元不明という大きな問題を解決した俺はここの生活にも慣れてきたので海鳴市の地理を覚える為に1日に数時間だが街を歩くことにした。
 街を歩く時間、目的地も特に決めずにただ適当に歩き、その時になんとなく気になった場所があればそこに行き適当な時間になったら帰るようにしている。 
 これにはやては連れて行っていない。
 1人で行くことを告げた時は行きたいと駄々を捏ねていたが、俺も1人の時間が欲しいンだよと言うと渋々だが引き下がった。
 咄嗟に言ったことだったが、はやてがいるとゆっくり考えたいことがある時も話しかけてきて思考を中断されるし四六時中アイツといるんだ、偶には1人になりたいというのは本心だ。
 そして今日も俺は1人で街を適当に歩いていた。


 時刻は4時過ぎ、場所は海鳴市の中にある海浜公園。
 ここで俺は缶コーヒーを片手に持ち、海沿いにある手すりに両肘を付け寄りかかりながら海を眺めていた。
 周りには家族連れや学生がそこそこいたが、冬ということもあってから人影はある程度まばらだ。
 乳母車を押しながら歩く母親、学校帰りに寄ったのか制服のまま手を繋いで歩く男女2人組み、談笑しながら机付きベンチに座る男女7人組み。
 煩いと思わない程度の喧騒の中で俺は何を考える訳でも無く、水平線を眺めながら呆っとしている。
 偶には何も考えずにこうして過ごすのもいいもんだ。
 そうして夕日が沈み始めたのに気付きそろそろ帰るかと思った時、ふと喧騒が聞こえ無くなり周囲に人の気配がしないことに気付いた。
 
(……なンだ?
 いくら冬だからってまだ人が完全に居なくなるような時間じゃねェ。
 先程までと空気が違ェ……原理は不明だが、意図的に俺以外の人間をこの周囲から除外した?
 この世界にはそンなことが出来る科学技術は存在しねェ筈だ。
 いや、今はそンなことどうでもいい、実際にこうなってるって時点で何かしら俺の知らない《力》がこの世界にはあるってことで納得するしかねェ。
 
 まず、なぜ俺だけを残した?
 この空間を作ったヤツは俺に何か用があるってことか?
 ……俺の存在が誰かにバレたか?
 《能力》がバレたって線は薄い。
 ここに来てから《能力》はほとんど使ってねェからな。
 いや、《反射》はデフォで設定しているからそこからか?
 だが《反射》にしても精密機器で測定するか俺に接触しないと存在がバレることはまず無ェ。
 となると平行世界から転移してきたってことがバレたか?
 俺がこの世界に来てまだ一ヶ月、俺の事情を知ってンのははやてのみ。
 はやての家が盗聴でもされたか?
 いや、盗聴器の類は無かった。
 時空間の歪みでも観測していたのか?
 いや、それも現実的な話じゃねェな。
 ってことはこの空間を形成している《力》でも使って調べたのか?
 ……他に考えられそうなのははやて絡みのことぐらいか。
 それにしてもこの張り詰めたような空気……
 クソがっ……判断しようにもこの現状を作り出したヤツから何かしらのアクションを起こしてもらわねェとどうしようもねェ)

 そこまで思考を巡らしたところで背後に人の気配を感じ警戒しながらも素早く振り向くとそこには趣味の悪い仮面をした男が何も無い空間に立ち、こちらに視線を向けてきている。
 何も無い空間に立っているのに目を見開いて驚いたが、こんな空間を作れるなら空中に立つぐらいは出来ると思い直し動揺を抑え込みその男を睨みつつ観察をする。
 恐らく体格から考えて成人は過ぎ、身長は170前後、細身だが痩せ過ぎているという程でもない、服は青と白が混じりアニメや漫画のコスプレのような格好、白い手袋、ざっと見ただけの結果はこんなもんだ。
 数十秒程は睨み合っていたが、男はこちらに顔を向けたまま無言を貫いている。
 このままでは埒が明かないのでこちらから先に問いかけることにし、口を開く。

「ンだよ、俺に何か用があるんじゃねェのか?
 黙ってられても困るンだが?」

 そう俺が言っても男は微動だにせず沈黙を保ちこちらを見下ろしている。
 その姿に俺が苛つき、演算を開始して周囲にある風のベクトルを操作し、男を海面に叩き落そうとしたところで男が動いた。

「……八神はやての家から今すぐ出て行け」

 感情を持っているのか疑うようなとても無機質な声を出し、理由も何も説明せずに何の脈略も無くそう告げる男に俺は苛立ちを隠そうともせずにハッと鼻で笑い顔を歪めた。

「いきなり何言ってンだ?
 それは俺が自分で決めることでテメェに指図されて決めることじゃねェよ」

 そう吐き捨てるように言い返すが俺の言葉には反応せず、男はさらに言葉を繋げてきた。

「このままあの少女といるとお前は後悔することになるだろう。
 悪いことは言わない、今すぐ出て行った方がお前の為だ」

 そう念を押すように言ってきたが、その俺を見下したような言い方がとつもなく気に食わない。
 俺の決めたことを他人にとやかく言われるのは非常に苛つく。

「何のお節介か知らねェが、見ず知らずの怪しい人間に理由も言わず命令されてそれにハイそうですかと従うヤツなンていねェよ。
 第一、テメェ頭おかしいじゃねェか?
 そンなコスプレみてェな格好しやがって、まだ春じゃねェから変質者が出るには早いぜ?
 ……それとも今すぐ救急車でも呼んでやろうか?
 もちろん色は黄色だがな」

 俺が馬鹿にしたような顔し、挑発するように言うと途端に空気が更に重くなった。
 先程まで機械のようだった男から怒気が溢れているところ見ると、どうやら案外コイツは短気らしい。
 コイツからもっと情報を手に入れるためにどうするかと思考を巡らしそうとしたところで男が視界から消え、気がつくと俺の懐に入り込み腰を軽く落とし右拳を握り腰辺りで構えた姿勢の男がいた。
 そのまま今まさに拳を俺に向けて放とうとしている。
 俺の無防備な姿から一般的に言えばこのままいけば見事に急所に入るところだが、俺には《反射》がある。
 殴ろうとしてもお釈迦になんのはてめぇの腕だ、馬鹿がと思ったところで男の繰り出した右拳が俺の鳩尾に綺麗に《入った》。

「…ッガ!?」

 鈍い痛みを腹部に感じ、そう口から動揺と痛みで声が漏れた。
 痛みで蹲りそうになるがそれを堪え、鳩尾を右手で押さえながらベクトルを操作しながら地面を蹴り距離を取る。
 そんな中、俺の脳は今起こったことに混乱しつつも急速に回転していた。

(なンだ!?
 なにが起こった!?
 《反射》出来ねェだと!?
 ……まさかあの三下みてェな右手なのか?!)

 そこで追撃が無いことに気付き、思考を止め警戒しつつ男の様子を観察した。
 男は先程いた位置からは動いていないが、右手をだらりと下げ、左手で右肘を包むように庇っている。
 よく見ると右手の手袋が血が滲んで赤く染まっているのがわかり、《反射》によって腕に負担が掛かり出血したのだというのがわかった。
 それに微かだが男の呻き声のようなものも聞こえてくる。

(……あの右手を見る限り、あの三下みてェな右手って訳でも無いらしい。
 だが、どうしてあの程度で済んでいる?
 普通なら負荷に耐え切れず、腕がひん曲がって折れるぐらいはしてる筈。
 それに《反射》したのに俺が殴られているのはどういう訳だ?
 相打ちなンてのは俺の《反射》で有り得る筈が……相打ち?
 殴ってきた力のベクトルは反射出来てんだ、ってことは反射出来なかったのはそれ以外の《力》か?
 俺が理解している物理法則内の出来事なら問題なく《反射》は働く。
 何かしら俺の理解していない法則<ベクトル>が存在し、その《力》を拳に乗せて俺を殴ったのか……?
 そう考えればこの状況も納得できる。
 この空間を形成しているのもその《力》の応用か?
 詳しく解析してみるか……)

 そう考え、まず自身の体表面に接触しているベクトルの中に自分の知らないモノが無いか解析しようとしたところで男が呻くのを止めこちらに視線を向けてきたのがわかった。 
 俺はそれに気付くと警戒を強めるように重心を少し落としつつ、僅かでも動く度に痛む鳩尾を左手で押さえ少し顔を苦痛で歪めながらも男をきつく睨みつける。
 男はそんな俺の様子にも特に警戒したような素振りも見せず、再び空に浮き上がりながら口を開いた。
 
「……今日のところはこれで失礼する。
 だが、再度通告だ。
 あの少女の家から出て行けそしてあの子に関わるな、そうしなければお前は必ず不幸になる」

 そう言い切り、俺の返答も聞かずに空中に静止し足元に発光する幾何学的な模様をした陣のようなものを発生させた。
 光が強まると男の姿が消えていき、空間を形成していた妙な《力》の感覚も無くなり周囲は夕暮れ時の光景に戻り、喧騒が聞こえてくる
 男が現れる前の光景に戻ったところで俺は何も聞けずに逃がしたことに気付き、舌打ちをしながら自分の失態に苛立ち近くにあった手摺に拳を叩きつける。
 この俺が相手のいいようにあしらわれ、更には傷を負うことになるとは思わなかったからだ。
 《学園都市》第1位<最強>のプライドがあの三下と戦って負けて以来、加速度的にボロボロになっていく。
 その事実にまた苛立ちを募らせながらも気分を落ち着かせるために溜め息を吐きもう一度だけ周囲を見回す。
 あの正体不明の仮面男が再度やってくるような気配もないことを確認し、此の侭ここにいてもしょうがないので帰路に着くことにした。
 海浜公園を離れ住宅街を歩きながら先程のことにつて考察する。 

(……仮面男が俺の前に出てきたのはあのガキから俺を遠ざけることが目的。
 つまり仮面男はあのガキを監視していて、俺が一月経っても出て行かないので行動した。
 単独犯か複数犯かは不明。
 例のギル・グレアムとかいう奴が絡ンでる可能性もある。
 それと、奇妙な《力》を使い空間を隔離してンのかはよく知らないが、特定の対象者のみを残し他の人間を設定した空間から除外出来る。
 《力》は他にも空間移動・攻撃にも転用できることからかなり幅が利く能力である可能性が高い。
 また、それらは単一の能力で行われていたので無く、複数の能力で行われていた可能性もある。
 仮面男が居なくなる寸前でベクトル解析した結果だとあの場にはよくわからないモノが存在していたことから恐らくはこれが《力》に関係しているのだろう。
 その後にもベクトル解析を続けてみると、先程よりもわかりずらいが妙なモノがあるのはわかる。
 ここからその《力》の根源を解析出来ればいいンだが、どうにも上手くいかねェ。
 これの使用方法や操作条件を知っていないと解析すらできないのか?
 《学園都市》第1位、最強の頭脳を持つこの俺が?
 ……チッ、仮面男ともう一度接触して使用しているところを解析出来ればもう少し何かわかりそうなもンだが、あの様子だとまた直ぐには接触してこなェな。
 あの《力》に関しては別のアプローチを掛けていくか、仮面男がもう一度接触してくるまで待つか……とりあえずは別のアプローチ方法を考えるか。

 次はあのガキについてだ。
 あのガキが面倒な事情を抱え込ンでいるのはわかっていたが、強硬手段のようなことを取ってくるような相手がいるとはな……
 やはり、あのガキが1人で生活してンのも、そのことに対して周囲の人間が不思議に思わないのも仮面男の仕業ってことか?
 ン?ってことは《力》には精神操作も出来るってことか。
 俺のことを知っていたってこはそれを俺にも掛けていねェってことはねェだろ。
 なのに、はやてを取り巻く環境に疑問が出てきたってことはその《力》を無意識に《反射》したか、それとも俺の脳みそには効果が無い、或いは薄いってことか?
 いや、前者は無いか……《反射》していたならはやての事情に直ぐ気付いてもおかしくねェ。
 それに《反射》出来ンならさっきの拳も《反射》出来る筈だ。
 最初は疑問に思わなかったってことを考えると効果が無いってのも微妙なとこだな。
 そうなると、あの《力》の作用は俺の脳には影響を及ぼしにくいってことか。
 それが解析を上手く出来ない原因の1つの可能性もあるな。
 考えが、少し逸れたがあのガキの周辺で一番怪しいのはギル・グレアム。
 何が目的かはまだわからねェが……少し注意深く観察してみるか?
 その過程で《力》に関しても何かヒントになることがあるかもしれねェ。
 
 ……ハァ、面倒ごとに巻き込まれている感は否めねェが、はやてには借りもある。
 もう少し深く首を突っ込むことにするか……
 それにあの《力》を理解し、使用出来るようになれば《学園都市》に帰る手段の糸口が掴めるかもしれねェ。
 空間転移みてェなことも出来ンだ、参考ぐらいにはなンだろ。

 はやての事情に深入りはしねェとか頭ン中で考えといてこの結論か……俺も大概だな) 

 ハッと自嘲めいた笑い声を吐き出し考えを纏めたところで既に玄関前まで来ていたことに気付き、自分が予想外に深く思考の渦の中に潜っていたことに気がついた。
 そんな自分に自嘲を深めつつ家に入るとはやてがいつものようにおかえりと笑顔で近づいてきたのでただいまと短く答え、そのまま話をしつつリビングに向かう。
 改めて家の中を調べようと思い、リビングで一息入れた後でまずは二階にあるはやての部屋に向かった。

 部屋に入り、ざっと見回すと今までは気が付かなかったが本棚に異様な存在感を放つ本があることに気付き、近づいて観察する。
 その本は本棚の中段に飾られており、一般書物に比べて2周り以上は大きい、そして何よりも異質なのが鎖で四方を厳重に縛られ開かないようになっていることだ。
 それにこの本の周辺だけさっき知覚したよくわからん粒子が多い。

「人の部屋でなにしとるん?」

 詳しく調べようと手を伸ばし掛けたところで、入り口の方から声を掛けられそちらに振り向くと少し不振気な表情をしたはやてがこちらを見ていた。

「前から気になってたンだが、この本は何だ?」

 動揺を隠しつつ、咄嗟に先程の本を親指で指し口から言葉が零れる。
 話題を逸らすにしてももう少しやりようがあった気がするが、言ったことを取り消すことは出来ないので憮然とした態度を取りやり過ごすことにした。
 はやてはそんな俺の姿に訝しげな顔をしていたが、視線を本に移す。

「その本はわたしが物心つく前からあるんよ。
 なんであるのかもわからないし、鎖で縛ったりしてあって少し不気味なんやけど……
 大切にせなあかん気がして本棚の目立つところに飾っとるんよ。
 本の中身については開けたこともないし、どんな本かもわからんからなんとも言えんなぁ」

 そう教えてくれたはやてにそうかとだけ呟き、俺も視線を本に移す。


 俺はこの妙な存在感を放つ《本》が何かしらの重要な意味を持つ気がして、ソレを観察するように見ていた……




遂に物語が始まりを告げる。

正史から外れたこの世界はどのような結末を迎えるのか。

幸福か、絶望か。

最良か、最悪か。

それともまた別の結末か。

それは《彼》の行動次第で如何様にも変わる。


魔法少女リリカルなのは ~夜天通行~ 始まります。


~あとがき~

む、むぅ……こんな構成で大丈夫か?

皆様こんばんは、作者のベクトルです。

やっと戦闘シーンですね。

しかし、短いな……自分の文才の無さに泣きました。

一昨日から修正を繰り返してもこの出来にしかならないという駄目さ加減でした。 

文章の書き方も変えましたが、これもどうなのだろうか?

不評なようなら戻します。

あ、今回の話で6話にも及んだプロローグ的なモノは終わりになります。

ただ、次話はもう少し各人の心の中を掘り下げる幕間っぽいモノにしようかと思います。

それと、1~6話を修正しながら7話を書いていくことになるので来週の週末に更新できるかは微妙です。

2週間に一度は更新できるように頑張りますので、今後ともお付き合い願えればと思っております。

皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。


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