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[28064] 【一発ネタ】とある科学の超電子人間(とある科学の超電磁砲×仮面ライダーストロンガー)【短編】
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/05/29 21:24
 真夜中、その区画は街灯も少なく、人通りも全くない場所であった。そんな場所に防護服を着込んだ者たちがせわしなく動き、手に抱えた小銃を空に向けていた。通信機から出される指示に従い、彼らはその区画を包囲するように行動し、時折、銃声も響いた。

『目標は依然、健在』
『こちらの攻撃が通用しない!』
『第三小隊の通信途絶……』

 通信機に飛び交う声は冷静なものもあれば焦りや恐怖に彩られたものもあった。彼らにそれだけの感情を植え付ける存在がそこにはいた。夜の闇に姿を隠したそれは無数にうごめく触手を器用に動かし、ビルの合間を抜け、飛び越え、時には邪魔をする者を薙ぎ払って、目的地である施設を目指した。その姿は人ではない。彼らの中には、それを『怪人』と称する者がいた。
怪人にとって、邪魔をしてくる存在は対して気にはならない。脆弱な人間が装備を整えても、自分にかなうはずはないからであった。飛び交う銃弾をモノともせず、それは遂に目的地まで到達した。無造作に壁を破壊し、防犯装置が作動してもそれを無視して、怪人は施設の中央部分、立ち入り禁止区域まで侵攻すると、自身の触手を伸ばしそこにあった巨大な装置からエネルギーを吸い取り始めた。

「ウオォォォォォン!」

 雄叫びをあげながら、怪人はそのエネルギーを全て吸いつくすまでその場にとどまった。その間にも怪人を追っていた者たちが施設にたどり着き、怪人を発見するのに数分とかからなかった。怪人はそんな彼らをぎろりと睨みつけ、再度大声をあげた。

「ウオォォォォォン!」

 瞬間、怪人の身体が発光し、触手からは無数の光の筋が放たれた。その膨大なエネルギーは一瞬にしてその場に居合わせた人間を焼き、絶命させた。

「ウオォォォォォン!」

 それは蒸し暑い夜の出来事だった。


観光バスに揺られながら、城茂はツアー前に配られたパンフレットを片手に窓の景色を眺めていた。長い事見てきたつもりの東京も『学園都市』付近に近づくと一気に近未来に近づき、人類の英知もここまで来たかと思えてくる程だった。茂は大きな欠伸をしながら、チラッとパンフレットの目を通した。学園都市内部の観光施設の説明がでかでかと登載されており、端にはオススメとされている飲食店の写真も載っていた。茂はそれらには若干の興味を示しつつ、ページをめくってお目当ての記事を見つける。

「新エネルギー開発施設ね」

 そこに写し出されたのは無公害エネルギー施設の案内であった。本来ならツアーのメインの一つであったのだが、ツアー出発前日に取り消しとなっていった。茂自身はその施設の見学が取り消され、キャンセルした観光客の間に入るようにこのツアーに参加した。
 施設見学中止の理由としては施設の事故であると説明を受けたが、別に茂は気にしなかった。ぼんやりとパンフレットを眺めていると、バスガイドの黄色い声がマイクを通して車内に響く。それと同時に車内も騒がしくなり、それはもうすぐ学園都市に入る事を意味していた。茂はパンフレットを丸めてポケットに突っ込むと、支給されていたペットボトルのお茶を飲み干した。

「さて、どうやってツアーから抜け出そうかね」

 茂はペロッと口元を指で拭うと、ニヤっと笑みを浮かべて、窓の外を睨んだ。獲物を狙うかのような鋭い眼光が窓に映る。正直に言えば、茂は学園都市の観光ツアーなどどうでも良かった。ただ合法的にこの学園都市に入る事が出来る手段にちょうどよかっただけであり、他の観光客に交じって土産がどうのなどは端っから頭にはなかった。
 数十分後、バスはトンネルをくぐり、学園都市と外界を隔てるゲートを超え、遂に都市内部へと進入した。バスガイドの指示に従いながらバスを降り、列の最後尾についた茂は説明を適当に聞き流し、都市の風景を見渡した。超高層ビルが立ち並び、行き交う人々の大半は学園と言うだけあって学生が多かった。その中に教師やら研究員やらの大人も交じってはいたが比率でいえば学生が多かった。

「ホォ! ガキばかりだからか、活気はあるみたいだな」

 正直な感想を述べながら、茂はこの人ごみの中に紛れれば何とかツアーから抜け出せるのではと考えていた。しかし、茂の服装は少しばかり目立つ。真黒な手袋をしているのもそうだが、蒸し暑い季節に入ったと言うのに、茂の服装は長そでのジャケットとSの文字が入った真っ赤シャツである。取りあえず、一通りツアーにつきあってからころ合いを見て離れる。茂はそう計画した。とにかく昼食を食ってからでも問題はないだろうと思った。

「腹ごしらえは必要だからな」

 観光会社の職員も食事は旨いと言っていた。茂は観光よりもそちらの方に期待しながら、ぞろぞろとツアーの列についていった。
 学園都市は多くの区画に分けられており、茂たちは学園都市の外交の窓口として有名な第三学区にいた。今は昼食に向かうと言う事もあってか、その隣の第四学区を目指しており、同時に茂にとっての最終目標は研究施設が多く立ち並ぶ第十学区であった。

「おいおい、まるっきり正反対の場所じゃねぇか! こりゃ、面倒だぜ……」

 パンフレットに記載された地図を眺めながら、茂は頭をかいた。学園都市の規模を考えると、この場所から目当ての第十学区まで移動するのは相当な時間を要する。学園都市の交通機関を使えば短縮もできるが、ここの交通事情を把握していない茂にしてみれば少し計画が狂ったと言える。
 「どうしたものか」とぼやき、何とかならないものかと思案する茂だったが、その思考は突如響いた爆発音で中断された。その突然の爆発音にツアー観光客も周りの学生も驚き、悲鳴を上げる者もいた。そうなると軽いパニックが起きて、鳴り響く警報の音がそれをさらに促進させるようにも見えた。そんな中、ビルの中から数人の若い男たちが飛び出し、してやったという表情でニヤついていた。覆面もせずに、白昼堂々の強盗とは中々やるもんだなと思いつつ、茂はどこか呆れた顔でいた。
 男たちは計画性も感じられない逃走を開始し、どういうわけかツアーの列に突っ込んでくる形となった。混乱したツアーの観光客を押しのけるように男たちは下品な笑い声をあげていたが、先頭を切っていた男は突然の衝撃に気を失う事になった。

「な、何だテメェ!」

 すぐ傍にいた一人の仲間はあらん限りの威勢を飛ばし、懐から折りたたみのナイフを取り出した。他の仲間たちはそれを見てはやし立てるように騒いだ。

「あぁん?」

 そんな男たちに臆する事なく茂は逆に睨みを利かせて、ナイフを持った男に詰め寄った。男は茂の眼光にたじろぐが、武器を持っている事が余裕に繋がったのか、ニヤリと笑みを浮かべてナイフを突き出した。

「どけよ、兄ちゃん。怪我したくないだろ?」
「ホォ、威勢を張るのは得意のようだな?」

 しかし、茂はそれ以上の余裕を見せていた。男はそれが気にいらなかったのか、大声をあげながら、ナイフを横に払った。が、そのナイフの切っ先を茂はつまんで見せて、次の瞬間、男の手首を蹴りあげ、ナイフを取り上げた。

「よっと……子どもがこんな危ないもん持っちゃいけねぇな?」
「く、くそ! お前、調子に乗りやがって。俺達は能力……あが!」

 男が言いきる前に茂のチョップが脳天に命中して彼は気を失った。そんな一連の流れを見ていた仲間たちは互いに顔を見合わせて、じりじりと下がっていき、しまいには走って逃げようとした。しかし、茂はそんな彼らを逃すつもりはなく、気を失った二人の男を投げ飛ばし、逃げ出す男たちにぶつけた。もつれるように転がった男たちはそのまま衝撃で気を失ったのか、小さな呻き声をあげて動かなくなった。

「ったくよ、人さまに迷惑をかけるなってんだ」

 パンパンと掌を払いながら、茂はフンッと小さくため息をついた。同時に、ざわつく人だかりを押しのけて、警備員と思しき大人と腕に腕章をつけた学生らがやってくる。彼らは倒れた強盗たちを確保しながら、ざわつく人だかりをなだめ、誘導していった。茂はそれを眺めながら、「なんで子どもが警察の真似ごとをしているのだろう」と思った。


 ややあって、茂たちツアーの観光客たちは学園都市の施設へと案内されていた。ジャッジメントと呼ばれる学生たちによる治安維持機関の支部であった。施設に案内されて数分後、他の観光客の最後に茂は別室に呼ばれ、ツインテールの少女と向かい合う形になった。その少女は事件現場に真っ先に現れた少女だった。

「本来なら、アンチスキル……警備員の方々が対応するはずなのですが、只今、人手が足りず私たちが対応させていただきますの」
「そりゃ御苦労なこった」
「私、ジャッジメントの白井黒子と申します。えぇと……?」
「城茂、ツアーの参加客」
「あぁ、ありがとうございます。それで、茂さん……この度は民間協力者として、私たち治安維持組織といたしましては……」

 黒子が書類に目を通しながら話していると、茂がそれを中断するように声をあげた。

「あぁ、そんな事よりさ?」
「はい?」
「ツアーってどうなるんだ?」
「あぁ……残念ですが、本日のツアーは一旦取りやめという形になっておりますの。ですので、参加者の方々は今日はホテルで止まっていただいて、また後日という形になると……」
「そうか。いや、それだけわかればいいんだ」

 茂はそれだけ言うと、たちあがって部屋を後にしようとした。

「あ、お待ちになってください!」

 黒子は茂を止めるように声をかけた。

「どんな形であれ、協力者にはお礼と言うものが……」
「ホテルの一番高い飯をただで食わせてくれるならそれでいいぜ?」

 ニヤっと笑みを浮かべた茂は片手をあげて部屋を後にした。一人残された黒子はムスッと表情を変え、どっかと椅子に座りこんだ。

「なんて人でしょう! あの殿方には遠慮と言うものが欠けていますわ!」
「そりゃ悪うござんしたな」
「えぇ!」

 突然戻って来た茂に対して、黒子は素っ頓狂な声をあげた。それを見た茂は少し意地悪な笑顔を浮かべて「じゃぁな」と言って今度こそ部屋を後にした。黒子は恥ずかしくなって、声を荒げて叫んだ。

「あなた、私よりも年上の癖に、恥ずかしいとは思わないんですの?」
「悪かったよ!」

 茂は冗談っぽくそう言って部屋から離れた。少し悪戯がすぎたかなと反省はしたが、表情からはそれが感じ取れないのは茂の性格故であろう。
 

「……?」

茂はそのまま施設の出入口付近まで移動すると、一人の少女を見つけた。先ほどの黒子と同じ制服を着た少女だった。黒子よりも少し年上に見える少女はショートカットの髪と活発そうに見える容姿だった。茂は視線の端に彼女を捉えながら、別段声をかけるわけでもなく、そのまま彼女の横を通り過ぎた。

「……!」

 瞬間、彼女から微弱な電磁波を感じ取った茂は視線だけを向けて、僅かながらの興味を示したが、すぐに前を向いて出入口をくぐった。

「気が合いそうな奴だったな」

 不思議とそう感じ取った茂は日差しの中、宿泊先のホテルへと歩いていった。その道中で、茂は明日には行動を開始しようと思った。


 翌日、茂は朝早くから第十学区へと足を運んでいた。ホテルの従業員から交通機関の事情を聞きだし、電車やタクシーを乗り継いで第十学区までやってくると、茂は早速、件のエネルギー施設へと向かった。
 こういう時にこそ、自身のバイクがあると便利なのだが、学園都市に持ってこれない以上、それは無理だった。
 案の定立ち入り禁止の立て札と周りに数人の警備員らが巡回しており、中には立ち入れないようになっていた。茂はとにかく遠くからでも良いので、施設の現状を知っておきたいと思い、目を凝らした。

「思った通りだ。事故にしちゃ施設の損傷が小さい」

 茂の視線の先、施設の壁には大きな穴が開いていたが、目立った損傷はそれくらいで、他には周りが焼け焦げたような跡が残っているだけだった。現場検証はすでに終わったのだろう、施設内には人がいるようには見られず、破壊された壁はそのままの形で残っており、瓦礫などが散乱していた。瓦礫は内側に散らばり、壁の損傷具合からわかるのは、壁は外側から破懐されたと言う事だった。

「これは当たりだな。奴に間違いねぇ……問題は次にどこを襲うかだが……」

 茂はそれを考え、腕を組んだ。このエネルギー施設が襲われた事は間違いなかった。その理由もいくつかあげる事が出来る。しかし、次襲われる場所を特定するのは非常に難しいと言えた。この第十学区はいわゆる研究機関が多く立ち並ぶ区画であり、これと同じようなエネルギー開発施設も沢山ある。その中からどれか一つを限定するのは不可能だった。
 手掛かりをつかんだと思った矢先に、まさか手詰まりに陥るとは思っていなかった。茂は舌打ちをして、頭をかいた。

「面倒になるな。こうも狙われる場所が多いと、奴の動きも読めねぇ。せめて奴の行動理由さえ分かればな?」

 「これはバイクが必要になるな」そう考えながら茂はふと、見覚えのある少女を捉えた。ジャッジメントの支部で見た活発そうな少女だった。茂とは反対側から施設を眺める少女はこちらに気がついていないようだった。

「あの場所にいたと言う事は、あの少女もジャッジメントとやらか?」

 だとすれば、何か事情を知っているのかも知れない。そう思った茂は話を聞いてみようと思い、彼女に歩み寄った。

「あー……失礼?」
「はい?」

 茂はできる限り人当たりの良い顔を浮かべながら、声をかけた。少女は僅かに顔を動かして答えた。あまり茂に興味はないようだで、視線は施設の方に向けられているのがわかった。そんな彼女の態度に対して茂は特になにも感じはしなかった。それは、この少女も恐らくはこの施設の事を気にしているのだと感じたからである。

「お前さん、ジャッジメントの支部にいたよな? あの施設の事、何か知らないか?」
「さぁ? 私、ジャッジメントじゃないから」
「何、違うのか? なんだよ、期待させやがって……」
「人の事言えるわけ? アンタこそ、どうしてここにいるの。黒子から聞いたけど、ツアーの客じゃなかったの?」

 茂の言葉が癇に障ったのか、少女は少し顔をしかめて言い放った。茂は「気の強い女だ」と思いながら、彼女の質問に答えてやった。

「まぁ、ちょっと野暮用でな。この施設に少し確かめる事があったのさ」
「ふぅん」
「お前はどうなんだ? 少なくともここは普通の学生が見に来るような場所じゃないぜ?」

 次は茂が質問する番であった。ジャッジメントであれば、治安維持などの目的があるが、この少女はジャッジメントではないと答えた。そうなるとなぜここにいるのかが疑問だった。とはいえ、この少女なら「興味本位で」くらいは平然と答えそうだと茂は思った。ある意味で、茂はあって間もないこの少女性格をよく捉えていると言える。

「気になった……からじゃ不満かしら? 私の学校、この区画に近いのよね。そんな場所でこんな事件が起きたら、野次馬根性くらいはでるでしょ?」

 少女ははっきりと答えた。そんな少女の思い切りの良さに茂は彼女を少し気にいった。だから、それ以上は何も聞かずにおこうと思った。

「そうかい。そんじゃ、俺はもうここに用はないんでね。お前さんも……」
「お姉さま、やはりこちらにいらしたんですね!」

 甲高い声と共にツインテールの髪を揺らしながら黒子は少女に詰め寄った。対する少女は視線を知らして、どこか気まずい表情を作った。

「あ~……ちょっと通りかかって」
「嘘をおっしゃらないでくだしまし。どうせ、首を突っ込もうと思ったに違いありませんわ! あれほど、民間人は関わらないで下さいとお願いいたしましたのに」
「そんなに怒らないでよ、第十学区って、私たちの学校に近いじゃない? だから気になるのは普通でしょ、普通」
「お姉さまの普通を通していては、世の中、大騒ぎですわ……それにしても」

 黒子は目を細めて、茂の方を向いた。

「ツアーの参加者がどうしてこのような場所においでなのでしょうか? ここはツアーコースから外されているはずでしてよ?」
「野暮用だよ、野暮用。それにもうすんだから勘弁な」

 茂はニヒヒと笑いながら、片手で謝った。黒子はムスッとした表情で茂を睨んでいたが、次には肩を下してため息をついた。

「まぁ、よろしいですわ。おふたがた、ここは本当に危険なんですの。エネルギー事故が収まっているとは言っても、何が起きるのかわかりませんから……」

 黒子がそう言って、次の瞬間、ドーンっという爆発音が響く。

「……!」

 三人が、驚きの表情をあげるとさらにもう一つの爆発音が鳴り響く。

「あの方角は別のエネルギー施設ですわ……お姉さまたちはここにいてくださいまし!」

 黒子はポケットから緑の腕章を取り出すと、慣れた手つきでそれを腕につける。そして、そのまま駆けだす。

「あ、ちょっと黒子!」

 少女の静止も聞かず、黒子の姿はかき消えるようになくなった。

「ホォ……超能力者の街ってのは知っていたが……テレポートか」

 茂は関心するように呟いた。

「あの爆発……そう遠くはないな。お嬢ちゃん、ここでお別れだ」
「お別れって、どこ行く気?」
「野暮用を片付けに行くのさ。じゃな!」

 茂はそれだけ言うと、一気に走り出した。
 そんな茂を少女、御坂美琴は呆気にとられて眺めていた。


 黒子にしてみれば、目の前の状況を理解するには少し時間が必要だった。しかし、現状はそれを許さず、黒子は無理やりでもその現実を理解する必要があった。テレポートによって一足先に現場にたどり着いた黒子が目にしたのは、奇怪な存在が緑色の触手を伸ばして、施設からエネルギーを吸い取っている姿であった。

「な、なんですのあれは」

 その奇妙な存在に対して生理的嫌悪感を感じた黒子は通じるかどうかは疑わしかったが、呼びかけを行った。

「ジャッジメントですの。そこのあなた、今すぐ活動を止めて……」

 瞬間、黒子は緊急テレポートを行った。すると、先ほどまで黒子がいた地点には触手の一つが伸びていた。

「話を聞く気どころか、抵抗を……話が通じる相手とは最初から思っていませんでしたが……それなら私もやりやすいというものですわ!」

 言って、黒子は太ももから鉄矢を取り出し、それを触手に向かってテレポートさせた。鉄矢は正確に触手に送り込まれる。

「オォォォォォン!」

作業を中断せざるおえなくなった怪人は叫び声をあげながら、黒子を睨みつけるように身体ごとむきを変えた。うねうねと触手が蠢き、まるで植物のツタのように見えた。怪人は鉄矢を抜き取ると、再度叫ぶと、次の瞬間、触手に空いた穴がふさがっていった。

「再生した! クッ、報告に合った通りの化け物ですこと……」
「オォォォォォン!」
「熱線が来る!」

 黒子は報告にあった怪人の能力を思い出し、即座にテレポートして、その場から離れた。黒子の読み通り、怪人は触手の先から熱線を発射し、コンクリートを焼いた。判断が遅れていれば、黒子は蒸発していた。黒子は怪人から距離を離して、次の一手を考えていた。

「増援が来るまでは、何とか持ちこたえなければ……」

 その時だった。無数の触手が黒子に迫り、彼女を捉えようとする。対する黒子はテレポートでそれを難なく避けるが、触手は執拗に彼女を追いつつづける。その都度、テレポートで回避するが、黒子なら怪人の触手の範囲から逃れる事が出来る。しかし、それが出来ないのは、怪人がこのまま市街地へと移動するのを防ぐ為でもあり、他のジャッジメントなり、アンチスキルなりが到着するまでの足どめが必要だったからである。

「しかし、これは少々きついですわね」

 連続のテレポートは流石の黒子でも体力と神経を消耗させた。こちらに決定的な打撃を与える攻撃方法がない以上、逃げる事に徹するしかなかった。怪人は黒子が攻撃に徹する事が出来ないように攻撃を続けていた。それが長く続けば黒子に僅かな隙が出来るのも仕方がなかった。
 黒子が何度目かのテレポートを終えた瞬間、狙ったかのように一本の触手が彼女を捉えた。

「あっ……!」

 黒子を薙ぎ払うように触手が勢いよく振られ、黒子はテレポートを行ったが、その少し前に黒子の身体に触手が命中していた。

「ぐっ……あぁ!」

 押さえられた腕からは出血が見られた。同時に黒子は右腕に激痛を感じた。

『折れてはいないようですわね……しかし……』

思った以上のダメージを追った黒子はじりじりと後ろへと下がる。相手はこちらの動きを読み始めた。しかし、次の瞬間、攻撃に転じるか、と意を決した黒子の背後からバイクの独特なエンジン音が響いた。

「……!」

 何事かと思った黒子はバッと後ろを振り向く。すると、そこにはバイクにまたがった城茂の姿があった。茂はバイクのアクセルを一気に捻り、猛スピードで黒子の横を通り過ぎると、そのまま怪人めがけてバイクをぶつけた。その衝撃で怪人は吹き飛ばされる。

「な、何をしていますの!」
「何って、俺の用事を片付けに来たのさ」
「相手は化け物ですわ。それに貴方は民間人でしてよ!」
「へっ、化け物の相手は慣れてるんでね……」

 不敵に笑う茂はヘルメットを脱ぎ棄て、手袋を外した。すると、コイルで巻かれたような、金属の両手があらわになり、茂は両腕を伸ばし、大きく弧を描くように回し、

「変身……ストロンガー!」

 両手をこすり合わせ、一声の下、茂の身体からまばゆいスパークがほとばしる。バチバチと火花が飛び散り、いくつもの電流がはじけ飛ぶ。スパークが収まると、そこには仮面をかぶり、赤いプロテクターを身に付けた茂の姿があった。カブトムシのように威風堂々とたつ角、緑の複眼、黒いスーツに赤いライン、同じく赤いプロテクターにはSの文字が描かれ、ベルトからは未だに電流がはじけ、白いマフラーをなびかせた戦士がそこにはいた。

「仮面ライダーストロンガー!」

 茂は、ストロンガーは堂々と名乗った。そして、ストロンガーは掛け声と共に怪人に飛びつき、何度もチョップを喰らわせた。しかし、怪人も態勢を立て直し、両者はもつれ合うように格闘戦へと移行した。

「へっ、亡霊がのこのことお天道様の下に出てきやがって。まってな、すぐに成仏させてやる!」

 ストロンガーは拳を握りしめ、その手に電気エネルギーを充填させる。

「電パンチ!」

 繰り出される電撃の拳。直撃を喰らう形になった怪人はその衝撃と電気エネルギーにより身体が赤熱し、火花を散らす。

「オォォォォォン!」
「意外とタフな奴だ……初期型の奇っ械人にしちゃ、中々の野郎だぜ」
「ストロンガァァァァ!」

 ストロンガーの余裕の言葉に逆上したのか、怪人は無数の触手を伸ばしストロンガーを捉えようとする。しかし、ストロンガーはそれらをなんなく払いのけ、強烈な蹴りを喰らわせる。

「はっ、組織は全滅し、狂った奇っ械人でも、仇敵の名前は忘れないわけか」

 目の前の壊れた機械に対して、哀れな末路しかない怪人に対して、ストロンガーは憐れんだように言った。

「だが、それもすぐ終わりだ。テメェを倒して、ブラックサタンは今度こそ壊滅だ!」


 黒子はそんな戦いを目の当たりにしながらも冷静であった。ただのツアー客だと思っていた男が謎の変身を遂げ、怪人と互角以上の戦いを繰り広げている。本来なら理解が及ばない領域だが、超能力者を相手取ってきた分、黒子は耐性があったと言える。

「とにかく、今のうちに他のジャッジメントたちに連絡を取らなければなりませんわね!」

 黒子は携帯を取り出し、すぐさま自分の所属する支部へと連絡を取った。

「初春、聞こえてまして? えぇ、今現場にいますの。至急他の方たちを寄こしてくださいまし。えぇ、私は無事です。今……説明が難しいですわね、そちらで確認してくださいな。とにかく、今は周辺の安全確保と怪人の撃退が最優先ですわ!」

 一通りの連絡を終えた黒子は増援が来るまで、ストロンガーと怪人の戦いを眺めるしかなかった。それは一方的とも言えた。怪人の触手も熱線もストロンガーに対しては何ら効果はなかった。力ずくで払いのけ、見た目に反して俊敏な動きで避け、時には強固な身体で受け止める。一夜にしてアンチスキルの部隊を壊滅させた怪人に対して、目の前の存在はその身一つで対抗してみせたのだった。

「レベル4……いえ、レベル5にも匹敵する存在……あのお方、一体なにものなんですの?」

 黒子の疑問は当たり前のものと言える。突如として現れた正体不明の怪人と戦士、どちらも異形な存在だった。学園都市の暗部が生みだした存在なのか、それとも外部からの侵略なのか、可能性はいくらでも考え付く。

「警戒すべきですわね。あの方が味方であれば良いのですが……ッ!」

 暫くはマヒしていた痛覚が戻って来たのか、黒子は苦痛に顔をゆがめた。今の状態では安全なテレポートはできない。黒子はとにかく立ち上がろうとして、膝を立てた。

「黒子!」

 不意に聞こえた声に、黒子はバッと振り返る。視線の先には美琴が走ってくる姿が映った。

「お姉さま、どうしてここに。民間人は立ち入り禁止ですわよ?」
「なに、余裕言ってんの。酷い怪我じゃない!」
「折れてませんから、大丈夫です。ただ外側の傷が大きいだけですわ」

 勤めて平静を保つ黒子だったが、美琴にはそれが強がりである事はわかっていた。美琴は黒子を支えるように肩を貸して、怪人とストロンガーへと視線を向けた。

「何よあれ……やっぱりエネルギー施設は事故じゃなかったじゃない! それに、あの仮面の奴、学園都市の新しい強化服かなにか?」
「わかりませんですの。怪人の正体も、あの仮面のお方も……どちらも警戒すべきですわ……それよりお姉さま、今はここから離れてくださいまし。もうじき援軍も来ます。レベル5とは言え、お姉さまは民間人ですわ」
「そうは言っても、ルームメイト放っておいて逃げられるかってぇの! その気になれば、あんな奴私がぶちのめす!」
「またそのような事を……」

 しかし、美琴が駆けつけてくれた事に対して僅かながらも安堵した黒子ではあった。

「オォォォォォン!」

しかし、その次の瞬間、怪人の叫び声が響く。二人が振り返ると、怪人は力任せにストロンガーをはねのけ、我武者羅に触手を伸ばし、自分たちに向かって走りだしてきた。

「お姉さま!」

 叫ぶ黒子。しかし美琴は逃げもせず、悠然に振り返り、右腕を伸ばす。瞬間、美琴の腕から数万ボルトともの電撃は発せられ、矢となった電撃は触手に見事命中し、それをはじいた。

「こっちに来るんじゃ……」

 美琴は言葉を溜めながら、

「ないわよ!」

 もう一度電撃を放った。それは怪人めがけて飛んでいく。しかし、怪人は無数の触手を電撃に伸ばし、触手の先端を開いた。すると、電撃の矢は吸い込まれるように消えた。怪人は美琴の数万ボルトの電撃を一瞬で吸収したのだ。

「な……!」

 その一瞬の隙が美琴の判断を鈍らせた。無数の触手が美琴を捉えようと伸びる。美琴は茫然とその触手を眺めて、

「ボケっとするんじゃねぇ!」

 間に入ってきたストロンガーの一喝で我に返った。ストロンガーは二人の盾となるように怪人の触手を受け止めていた。

「さっさと逃げな……うぉ!」

 そう促すストロンガーだったが、突如として触手が彼の首や腕など、身体じゅうにまきついた。

「こいつ……!」

 振り払おうとするストロンガーだったが、それよりも早く、怪人は行動を起こした。触手の先端を開き、ストロンガーに密着させ、

「グアァァァァァ!」

 そのエネルギー吸い取り始めた。ストロンガーは急速に自身のエネルギーが吸い取られていく事に危険を感じた。触手を掴んで振り払おうとするが、パワーが出ず、遂には膝をつく。

「くそっ……電気エネルギーが……」
「ウオォォォォォォン!」

 そして、ストロンガーのエネルギーを吸いつくした怪人は叫び声をあげると、ストロンガーを解放して、触手を器用に使いながら、その場から離れていった。

「待て、このやろぉ……」

 それを追おうとするストロンガーだったが、力尽きその場に倒れる。変身が解け、茂の姿に戻った時、美琴は驚きを隠せなかった。

「この人……さっきの……!」

 美琴は倒れる茂の姿をただ見つめるしかできなかった。
 遠くからサイレンの音とジャッジメント、アンチスキルの増援がやってくる姿が見えた。



[28064] 後編
Name: 士官その一◆6a589bf2 ID:016151d2
Date: 2011/05/29 21:25
 エネルギーが尽きかけた茂の身体は鉛のように重かった。それでも、茂は這ってでもバイク、カブトローの下まで移動すると、予備の電気エネルギーを補給し、苦しい表情をしながらも、カブトローを押して、怪人の後を追おうとした。

「どこに行くつもり!」
「奴を追うのさ」

 茂は振り返らずに答えた。

「追うって、そんな身体で何ができんのよ! 後はレベル5のあたしにでも任せて……」

 美琴なりに茂を心配したのだろう。そんな言葉を言いながら、美琴は茂を止めようとした。茂は一度立ち止まって見せたが、美琴に返事を返さず、瓦礫の山から漏電する電線をつかむと、バチバチと電気を自身に流して、電気エネルギーを補給した。はたから見ればそれは異常な行為に見え、電撃使いとは言え流石の美琴も声をあげた。

「な、何やってんの! 死にたいの!」
「補給だよ、補給。奴にエネルギーをすっからかんにされたからな。ま、動く分には十分だろ」
「エネルギーの補給って……アンタ、何者よ?」
「言って信じるのか?」
「……!」

 茂は不敵な笑みを浮かべると、そのままバイクを走らせた。美琴は暫く茂の背を眺めていたが、黒子の事を思い出して、駆け寄った。

「黒子! 大丈夫?」
「だ、大丈夫ですわ。それよりもお姉さまは?」
「こっちも無事よ。怪我もないわ」
「それは良かったですの……もうじきにジャッジメントとアンチスキルがやってきます。お姉さまはどうぞ、寮へお帰りになってくださいまし」
「ここまで来て、何言ってんの! あの男も勝手にどっか行くし!」

 今更納得できるかと言わんばかりに美琴は叫んだ。自分が言えたきりはないと言う事は自覚していたが、頼ってくれたって良いではないかとも思う。少なくとも自分は一人で軍隊を相手取るとまで言われるレベル5なのだから。

「お姉さま、まさかレベル5だからなんて考えてませんわよね?」
「……!」

 しかし、そんな美琴の思考は黒子には最初からわかっていた。この人はそういう人だからとも納得できるが、レベル5だろうと民間人は民間人である。

「それに、あの怪人はエネルギーを吸収する能力を持っていますわ。少なくともエネルギー施設を吸いつくすくらいには……いくらお姉さまでも相性が合いませんの」
「私の武器は電撃だけじゃないのは知っているでしょ?」

 超電磁砲、美琴はそう呼ばれる。その威力は絶大だが、弱点もある。それが射程距離である。絶大な電撃を伴う超電磁砲だが、その弾丸となるのは何の変哲もないコインである。故に摩擦熱などに耐えきれず、僅か数メ十ートルの距離しか持続しない。しかし、そんな弱点を補うだけの力はあった。

「それに、あんたは怪我してるし、あの男も多分万全の状態じゃないわ……それに、あたしにもそれなりに責任はあるのよ」
「……」

 あの時ストロンガーが庇ってくれなければ、自分はやられていた。第一にあの時、自分の能力が通じなかった事に油断したのは、己の過信であると美琴は悔やんでいた。

「ジャッジメントやアンチスキルが来るのなら、それでよし。とにかく、今はあの怪人をどうにかしないといけないでしょ?」
「お姉さま!」

 そう言って、美琴は茂が去っていった方角に向かって走り出す。黒子も後を追おうとするが、傷が開いたのか、激痛でその場から動く事が出来なかった。黒子は美琴の背を眺めながら、「ご無事で」と呟いた。その表情は呆れ顔にも見えたが、それは彼女が美琴の事を信頼しているからこそできる表情だった。
 爆発の影響もあるが、元々研究機関が立ち並ぶ第十学区には人の影はなかった。避難指示が出されれば、他の区画とは違って、一切の気配がなくなってしまう。美琴はポケットからコインを取り出して、駆けだしていた。

「人がいないって少しは便利よね……」

 誰に言うわけでもなく、美琴は呟いた。広間に出た美琴はコインを空に投げながら、立ち止まる。

「だって、自分に向かってくる相手がすぐわかるんですものね!」

 美琴は空を舞うコインに電撃を流し、上空へと打ち出した。一瞬にして音速の三倍もの速度を叩きだしたコインは弾丸となり、上空から美琴を狙っていた怪人を撃ち落とす。

「ウオォォォォォン!」
「てっきり別のエネルギー施設を狙っているものだと思っていたけど、まさか私に狙いを変えていたなんてね……お手軽にエネルギーを奪えるとでも思ったの?」

 うずくまる怪人を前に美琴は再度取りだしたコインを何度も放り投げなら言った。今、美琴と怪人のいる距離は絶妙なものだった。この距離なら超電磁砲を打ち出してもコインが焼け解けず、威力の低下もない。美琴はコインを指ではじき、その手にできる限りの電撃を充填した。

「あたしはそんなに安くはないわよ!」

 美琴の怒声と共に超電磁砲が打ち出される。先ほどは牽制程度の放ったコインだったが、今は、それとは比べ物にはならない威力の超電磁砲が怪人めがけて飛来していた。怪人は態勢を変えることなく、飛来する超電磁砲を見ていた。そして、巨大な炸裂音と共に煙が上がる。周囲にはバチバチと余剰エネルギーが放電されていた。

「校舎を吹っ飛ばすくらいの威力は出したはずよ……これであの化け物も粉々のはず……」

 次第に煙が晴れると、美琴は目を見開いて、唖然とした。

「くっ……本物の化け物ってこと?」

 そこには触手の先端から発生させたバリアで身を守り、傷一つない怪人の姿があった。さらに、触手の先端には電気が走っており、それは美琴の打ち出した超電磁砲を受け止め、そのエネルギーを吸い取った事を意味していた。

「なんて手品よ!」

 美琴は叫ばずにはいられなかった。しかし、叫んでも結果が変わるわけではなかった。美琴は急いでコインを取り出し、次の超電磁砲を発射しようとするが、それを怪人は許さなかった。無数の触手が彼女を捉えようと迫る。美琴は舌打ちをしながら、足元に電気を集中させ、大きく飛び退く。その態勢の状態からでも美琴は怪人に狙いを定めて、打ち出そうとするが、残りの触手が怪人を守るようにバリアを展開していた。

「この!」

 美琴は本体を狙うのを止め、迫ってくる触手を撃ち落とすことにする。とにかくやっかいなのがこの触手であった。

「こいつさえなければね……!」

 一瞬、美琴の脳裏に超電磁砲とは別の技が思い浮かんだ。砂鉄を集める事によって、巨大なのこぎりを作り出す事もできるが、この場所ではその砂鉄を集めるのに時間がかかってしまう。その間にあの触手から逃れられる手段はない

「黒子にでかい口叩いたんだから、逃げ出すわけにもいかないのよねぇ……」

 そうは言いつつも、美琴は冷や汗が流れるのを感じた。正直なところ手詰まりに近い状態だった。

「よぉ、苦戦しているみたいだなビリビリちゃん!」

 不意に聞こえた声、それにビリビリという単語から、美琴は大きく反応した。

「誰がビリビリですって!」

 その時、美琴はとある少年の顔を思い浮かべたが、振り返った先にはカブトローに跨った茂の姿があった。

「あんた……!」
「へっ、あの奇っ械人め……妙な技を覚えやがったな!」

 ニヤッと笑いながら、茂はアクセルを捻った。エンジンの轟音が轟き、カブトローがウィリーをしながら怪人に突進する。むろん、怪人もそれを迎撃しようと熱線を発射するが、茂は巧みにバイクを操り、それを全て回避して見せた。そして、加速をつけながら、茂はカブトローを宙へと飛ばした。怪人を飛び越え、後方に着地したカブトローは瞬時に反転して、怪人の背に前輪を押し付けた。

「ウオォォォォォン!」

 吹き飛ばされた怪人は態勢を立て直すが、それよりも早く茂はカブトローを怪人にぶつけていた。再度吹き飛ばされる形になった怪人は自身の周りに熱線を放ち、煙幕を作り出し、その一瞬の隙に逃げ出す。

「やろぉ、ちょこまかと逃げやがって……」

 茂はすぐさま怪人を追うように、カブトローをアクセルを捻る。すると、その背後から、美琴の声が響く。

「ちょっと待ちなさい! あたしも連れて行きなさいよ!」
「あぁん? ガキはすっ込んでろ!」
「うるさいわね、これ以上あいつを見過ごせるわけないでしょ!」
「あぁくそっ、生意気な小娘だぜ……時間が惜しい、邪魔するなよ!」
「うわわっ!」

 茂は悪態をつきながらも、美琴を襟をつかんで、乱暴にカブトローに乗せた。そして、無理やりヘルメットをかぶせると、一気に加速した。

「あ、くっ……!」

 その加速に振りおとされそうになった美琴は必至に茂の身体にしがみつくしかなかった。さらに急激なカーブを行われると、しがみつくのも難しい。美琴は怒鳴らずにはいられなかった。

「もう少し優しく運転できないの?」
「うるせぇ! これでも遅い方なんだよ!」

 そんな言い争いを続けながらも、茂はしっかりと怪人の後を追い掛けていた。

「ところで! あんたは! あの怪人と! どういう関係なの!」

美琴はエンジン音に負けないように大声で叫んだ。

「なんで教えなくちゃならんのだ!」
「良いでしょ!」
「ちっ……かつてブラックサタンと言う組織があった。いわゆる秘密結社だ。奴のような改造人間を作り出し、世界征服たくらんでいた連中。それも随分前に壊滅したが、奴はその組織の生き残りだ」
「ブラックサタン……世界征服」
「お前さんらが生まれるずっと前の話だがな……」
「……」

 茂の語った話は突拍子もないものだった。それはまるで漫画の世界だったからだ。しかし、目の前に怪人が現れれば、それも信じるようになる。自慢の超電磁砲が効かなかった事も含めれば、その組織がどれだけ強大だったのかもおのずとわかる。
 暫くバイクで進んでいると、とたんに建造物が少なくなり、代わりに進行方向の先に巨大な施設が見える。巨大な壁で厳重に匿われた施設を見て、美琴はあの場所がなんなのかを思い出した。
 それは学園都市でも限定的にしか行われていない原子力の研究機関だった。


 怪人は他のエネルギー施設には目もくれず、ただ原子力研究機関だけを目指していた。あと数キロ、怪人にしてみれば大した距離ではない。数分もあれば到着する距離だった。しかし、背後から迫るバイクの存在も忘れていなかった。
 小癪なと感じた怪人は熱線を発射するが、バイクは轟音をあげ、宙を舞う。そして一気に怪人の前に躍り出ると、そこからスパークが発生する。怪人は素早く触手のバリアを展開すると、そこに超電磁砲がさく裂する。しかし、打ち出されたコインはバリアに阻まれ、そのエネルギーは吸収されていった。

「やっぱりあの触手をなんとかしないと!」

 カブトローの後部に跨った美琴は発射態勢のまま唸った。怪人の触手がなくなれば、こちらの攻撃が通じる。厄介なエネルギー吸収もなくなる。しかし、攻防一体の触手はそう簡単には攻め落とせるものではなかった。

「下手な小細工はいらねぇ。ちぎってでも取り除く!」

 茂はカブトローから降りて、手袋を取ろうとするが、それを止めた。今はまだストロンガーへ変身する程のエネルギーはなかった。今の状態で動く分にはもうしぶんない量だったが、それが変身するとなると、もっと大量の電気エネルギーが必要だった。
すると、躊躇する茂の隙を狙うかのように、触手が飛んでくる。茂と美琴はお互いバラバラにそれを避けるが、茂はもう一方から飛んできた触手に反応が出来ずに身体を締め付けられてしまう。

「ぐあぁぁ!」

 ギリギリと締め付けられ、上に持ち上げられると別の触手の先端が開く。赤く発光を始める、今まさに茂めがけて熱線が発射されようとしていた。茂は逃げるようにもがくが、今の状態では満足に力を出す事が出来なかった。

「この、離しなさい!」

 美琴はすぐさま怪人めがけて電撃を放つが、それは当たり前のように吸収されてしまう。その間にも熱線の発射は刻一刻と迫っていた。どうするべきか、美琴は悩んだ。こちらの攻撃は通用しない。助けようとしても、茂めがけて超電磁砲を放てば、彼の身もただでは済まない。

「どうすれば……」

 その時、美琴はある事を思い出していた。それは、茂は電線から電気を得ていた事だった。

「もしかして……!」

 確証はない。しかし、目の前の怪人の存在や電線の一件、試してみる価値はあると思った。美琴はバチバチと全身に電気をみなぎらせた。美琴の周りを静電気がはじけ、青白い電流が走る。そして、右腕を茂に向けて、思いっきり叫んだ。

「受けとれぇぇぇぇ!」

 美琴が電撃を放つのと熱線が発射されるのはほぼ同時だった。瞬間、強烈な閃光と爆発音が響き、爆煙が上がる。衝撃による風から身を庇いながら、美琴は爆煙の中で何かが光るのを見た。

「あれは……」

 煙が薄れていくと、怪人は直感からか触手をその中心へと向かわせた。

「天が呼ぶ……」

 しかし、それは掴まれ、同時に力強い声が響く。

「地が呼ぶ……」

 力任せに引きちぎられる触手、声はさらに近づいてきた。

「人が呼ぶ……」

 煙の中から、緑色の複眼が光る。

「悪を倒せと俺を呼ぶ!」

 白いマフラーが風になびき、地響きのような声があたりを支配した。

「聞けぇ、奇っ械人!」

 力強く大地を踏みしめるように、仮面の戦士は姿を現した。

「俺は正義の戦士……仮面ライダーストロンガー!」

 その瞬間、一気に煙が晴れ、同時にまばゆい閃光を激しい火花が飛び散る。空気中をスパークが走り、ストロンガーを照らした。真っ赤な角とプロテクターが、黒いスーツが、白いマフラーが、同じく白いグローブとブーツが、赤いラインが、そして胸のSの文字が、堂々と大地に立っていた。

「間一髪だったぜ……お前さんの電気エネルギー、確かに受け取った」

 仮面のせいで表情は見えないが、どうせ彼の事だ。ニヤッと笑みを浮かべているに違いないと美琴は思った。その堂々とした姿に美琴も自然と笑みを浮かべた。

「あったりまえでしょ。私はこの学園都市に数人しかいないレベル5の御坂美琴よ!」
「御坂美琴か……へっ、まさかガキに助けられるとはな。だが、まぁ、感謝するぜ?」

 ストロンガーは肩を回し、首をほぐしながら悠然と進んだ。怪人もまたストロンガーと対峙するように彼を睨みつける。触手をうねらせ、獣のような唸り声をあげる。

「はっ、待たせたな奇っ械人! さっき礼はたっぷりとさせてもらうぜ!」

 一気に怪人に詰め寄るストロンガー。迫る触手を回避しながら、飛び出し、拳を突き立てる。しかし、その拳はバリアに阻まれ、弾かれる。態勢が崩れたストロンガーを触手が捉えるが、ストロンガーは慌てもせず、逃げ出そうともしなかった。

「良いのかよ、俺ばかりに集中していて?」

 その言葉の意味を怪人が理解する前に、触手が切断され、ストロンガーは解放される。怪人は何事かと狼狽し、美琴の方を睨んだ。そこには巨大な砂鉄ののこぎりを発生させた彼女の姿があった。美琴はまるで茂と同じようにニヤっと笑みを浮かべていた。

「砂鉄を集めるのに苦労したわ。だけど、威力は中々でしょ?」
「おぉ、子どもにしちゃやるじゃないか」

 二人は不敵に笑い、並び立った。しかし、怪人は気圧されることなく、バリアを展開させた。それを見た美琴は呆れたように口を開く。

「あのバリアがやっかいなのよねぇ……あたしの超電磁砲も通用しないし」
「そうかい。だったら……」

 ストロンガーは指を鳴らしながら一歩前に出る。美琴は彼が何をするのかはわからなかったが、あのバリアを破壊する方法があるのだと確信した。それは短い間にできた両者の信頼関係でもあった。
 ストロンガーは怪人を見据えながら、高々と声をあげた。

「チャージアップ!」

 その瞬間、ストロンガーの胸のSが高速回転を始め、膨大なエネルギーが彼を包み込む。同時にストロンガーの角が白銀に輝き、プロテクターにも銀色のラインが入る。これこそが仮面ライダーストロンガー最大の武器、超電子人間へと変身するチャージアップであった。僅か一分というタイムリミットが存在するが、その力はまさに絶大だった。
美琴はその凄まじいエネルギー量が自身の最大出力を遥かに凌駕するものだと感じ取った。

「いくぞ!」

 ストロンガーは掛け声と共に天高く飛び上がる。そして、身体を捻り、とび蹴りの態勢を取ると、ドリルのように高速に回転を始める。同時に超電子のエネルギーがストロンガーを包み込む。

「超電子……ドリルキィィィィック!」

 技名を叫び、ストロンガーと怪人が激突する。怪人はストロンガーをバリアで受け止める、そのエネルギーすらも吸収しようとするが、高速回転をつづけるストロンガーのキックがバリアにひびを入れる。

「ウォォォォォン!」
「おぉりゃぁぁぁ!」

 最後の一声、気合いを入れたストロンガーの前に、怪人のバリアはむなしく音を立て、つら抜かれる。同時にバリアを張っていた触手が破壊され、怪人もまたその肉体に大きなダメージを受けた。身体中から火花が散り、足をふらつかせながらも、怪人は立ち上がろうとした。

「オォォォォォぉン!」

 雄叫びをあげ、怪人は自身の中に残されたエネルギーを解放させる。すると、僅かだが、傷が再生を始める。

「あいつ、自己修復する気?」
「だったら、その前にケリをつけるのさ」

 まだあんな隠し玉をと美琴が叫ぶ。しかし、ストロンガーは余裕の態度を崩さす、チャージアップをしたままカブトローに跨った。チャージアップの残り時間は三十秒を切っていた。美琴はその行動は黙って見ていたが、不意に声をかけられ、あわてた。

「おい、いっちょやってくれよ?」
「や、やるって何を?」
「決まってんだろ……超電磁……いや、超電子砲さ!」

 エンジンが痛快な轟音をあげる。美琴は絶句した。飛んでもない事を思いつく男だと思った。しかし、不思議と不安はなかった。理由などなかった。美琴は両腕をストロンガーに向けた。

「タイミングを合わせろよ?」
「それはこっちの台詞よ?」
「言ってくれるぜ……いくぞ!」
「ぶっとべぇぇぇぇ!」

 美琴は己の最大出力をストロンガーに放った。そしてストロンガーもカブトローの発進させた。美琴の電撃を受けて、カブトローはその最大速度を1010kmまで加速させた。だがそれだけではなかった。美琴の超電磁砲は音速の三倍で打ち出す代物。本来ならコインを使用し、その射程距離は短い。しかし、今打ち出したのは超電子人間である、仮面ライダーストロンガーである。その耐久力はコインとは比べ物にはならない。音速の弾丸となったストロンガーはそのまま一気に怪人めがけて突撃する。その瞬間、怪人は跡形もなく、粉砕され、ストロンガーは音速の世界から離脱し、チャージアップを解いた。
 ストロンガーは怪人がいた地点を眺めながら、美琴にも聞こえないような小声で呟いた。

「あばよ、名も知らぬ奇っ械人……永遠に眠れ」

 ストロンガーは変身を解くと、美琴の方を見やった。美琴も茂の方をみて、笑った。茂も破顔した。


 事件の後、美琴はやはりジャッジメントとアンチスキルらからこってりと絞られた。涙目で謝っても許してもらえず、反省文やらなんやら面倒なものを押しつけれ、さらには寮監にまで報告されるという最悪の事態だった。美琴は大きくうなだれながら、ジャッジメントの支部、黒子のいる部屋へやってきていた。

「どうして、事件を解決したのに怒れるのよぉ……しかも寮監にまで報告だなんて……」
「当たり前ですわ、お姉さま。それだけ事をしたのですから」
「でもね……」
「そうまでして、動きたいならジャッジメントに入ればよろしいのに?」
「いやさ、あたしはなんていうか、自由に動きたいわけよ。こう組織に縛られるのってやじゃない?」
「なにを子ども見たいな……」

 そんな言いあいを始める二人を眺めながら、パソコンを使用していた少女、初春飾利は頭の花飾りを揺らしながら小さく笑った。

「うふふ、お二人ともあんな事があったのに、本当にお元気ですね?」
「初春、お姉さまは元気というよりおてんばという言葉がお似合いですのよ?」
「言ってくれるわね……」

 何か反論してやろうかとも思ったが、心当たりが多すぎる美琴はやはり何も言わない事にした。若干ふてくされた美琴に苦笑しながら、初春は一つ質問した。

「そういえば御坂さん、城茂さんはどうなったんですか?」
「そういえばそうですわね。あの事件の後、ジャッジメントもアンチスキルも行方を捜したのですが……」

 美琴は窓の外を眺めながら、茂の事を思い出していた。怪人を倒した後、彼はそのままバイクに乗って去っていった。美琴もそれを黙って見送った。それが良いと思ったからだ。あの男は稲妻のように現れ、そして消えていく。それがお似合いだったから。

「さぁね、どこかで走ってるんじゃない?」

 実際はどうなのかは知らない。だが、あの男ならありえると思った。ふと、美琴も一つ聞いておきたい事があったのを思い出した。

「ねぇ、二人とも。仮面ライダーって知ってる?」
「仮面ライダーですか? それは、城茂の名乗った単語ですわね?」

 黒子は首をかしげて、わからないと首を振った。

「知らないんですか?」

 対して初春は平然と答えた。

「初春さん何か知ってるの?」
「アングラじゃ結構有名な都市伝説ですよ」
「都市伝説?」
「はい、1970年代を筆頭に、謎の組織が暗躍したという噂があるんです。それらの組織はいくつも存在して、そして人知れず壊滅していった。その陰には人々を守る仮面の男たちがいたという話です」
「へぇ、そんな伝説があるんだ……」

 美琴は関心するように頷いて、思った。それは都市伝説でもなければ、作り話でもなかった。事実存在する戦士の事なのだと。だとすればまた出会うかも知れないし、もしかしたら、別の仮面ライダーと出会うかも知れない。いや、二度と出会う事はないかも知れない。だが、美琴は覚えておこうと思った。仮面の戦士の名前を。
 初春は最後にこう締めくくった。

「人々はその人たちを『仮面ライダー』と呼ぶそうですよ?」





あとがき
かなり遅いですが、レッツゴー仮面ライダーを見に行きました。そしたらこれです。息抜き程度に書いたと言い訳しつつ、ただたんにやりたかった事やって、詰め込んだだけの作品。多分誰もが考えた事はあるんじゃないか? もしかしたら類似した作品があるんじゃないかと思いながらもほとばしるライダースピリッツを抑える事ができませんでした。しかし、キャラの口調に違和感、少し反省。文章もちょっとおかしいや。
 ちなみに続きません。これで完結です。ディケイド風に言えば通りすがりの仮面ライダー的な感じです。

同じ名前の作品があったので、少し名前を変更しました。


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