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よろしくお願いします
2011/07/08 :タイトル変更しました
ノシ棒は めのまえが まっくらに なった
※
『遺跡発掘から:28日目』
変な石を拾った。
イッシュ地方が南部。
リゾートデザートに点在する遺跡にて、連日に及ぶ発掘作業中の出来事である。
アロエ館長の鳴り物入りで編入されたエリート君、などと言われても、しがない一研究員でしかない俺である。
依頼で発掘作業に参加したはいいが、見つけたものといえばこんな程度だった。
見た目も質感もただの石ころ。
ただの、というのは語弊があるかもしれない。
完全球体のそれは、明らかに人工物だった。
とはいえ、こんなものはそこらにごろごろと転がっている。そも、ここは古代遺跡だ。どこぞの構造物から剥がれ落ちたのだろう。
「ただの石にしか見えないけど、きっと意味のあるものなんだろうさ。なんてったって、あんたが見付けたんだからね」
とはアロエ館長の言。
そんなに期待されても困る。
実際、あらゆる機材にかけて調べても、ただの石としか結果が出なかった。
が、出土品は出土品。
仕方が無いから自宅兼研究室に持ち帰り、再検査してみることに。
考古学的に無価値であっても、地質的に価値あるものならばよいが。
『29日目』
変な石が孵った。
・・・・・・自分でも何を書いているのか、さっぱり解らない。
白い巨大なドラゴンが、石の中から飛び出してきた。
いや、石そのものがドラゴンだったのか。
解らない。混乱している。
詳細は明日の日誌にて。
『30日目』
あの石は、どうやら古代のモンスターボールのようなものであったらしい。
違うのは、それそのものがポケモンであったということだ。
この白いドラゴンが休眠状態に入った姿があの石であり、恐らくは古代にて、その状態で持ち運びされていたと考えられる。
これが古来からの人の夢、ポケモンの運用、という概念の大元になったのかもしれない。あるいは、そのものか。
1925年にニシノモリ教授によってモンスターボール開発が始まったのは周知の事実であるが、その発想自体は記録に残らない程の太古の昔から在ったのだ。
多くのポケモン博士の言葉を借りるなら、ポケモンが全ての答えを教えてくれている、ということか。
さて、件の白いドラゴンである。
全長は3m弱。
体重は300Kを超えるだろうか。
幸い、我が家は研究資材搬入のためにガレージ造りとなっているため、この程度のサイズのポケモンならば不自由はない。
しがない一研究員にはポケモン図鑑のような高価な代物など持ち合わせていないため、これが一体何というポケモンであるか判断がつかない。
古代から復活したポケモンであるために、記載されていない可能性の方が高いが。
とんでもない力を秘めている、ということだけは解る。
雄叫びを上げながら石から飛び出した瞬間に、尻尾から噴き上げた炎が鉄材を飴細工のように、どろどろに蕩かした程である。
よく火事にならなかったものだ。
思わずやめろ、と叫べば熱はぴたりと止み、白いドラゴンは理知的な瞳でこちらをじっと見ていた。
片付けのために簡単な指示を出せば、それ通りに従う。人語を理解しているのだ。
これはいよいよ尋常ではないぞ、とアロエ館長に電話を入れようとした瞬間、電話機はまっぷたつにきりさかれた。
見れば、静かな眼で白いドラゴンが佇んでいる。
誰にも存在を知られたくないのか、と問えば、頷きが一つ。
ここにいたいのか、と問えば、また一つ頷きが。
・・・・・・仕方あるまい。
しがない一考古学研究者でしかない俺だが、考古学者を自負するならば、自身が発掘した出土品には責任を持たねば。
『31日目』
奇妙な共同生活が始まった。
何か伝えたいことがあるのか、こちらをずっと睨んでいるが、言語のコミュニケーションは一方通行なのだ。
俺にはポケモン語など解りはしない。
解らないまま一日が過ぎた。
『43日目』
奴が現れて10日ほど経つ。
未だに睨まれ続けているが、さっぱりである。
なので、別の方法でコミュニケーションを図る事にした。
単純に接触してみよう、というだけだ。
触れてみた奴の毛並みはさらさらと手触りが良く、温かかった。
気が付けば連日の研究疲れもあってか、奴に寄りかかって居眠りをしていたようだ。
こいつもこいつで、律儀に俺が起きるまで身じろぎせず待っていた。
そして、睨まれる。
解らない。
何を伝えたいのだろう。
『50日目』
観察を続けた中で解ったことは、奴がドラゴンと炎の混成タイプということ。
高い知能を有しているということ。
それくらいだ。逆を言えば、それしか解らなかった。
ポケモンの生態は謎に満ちていて、人間が足を踏み入れられるのは、その一部でしかない。
人間に出来ることは、彼等の力を借り、我々の力を貸し、共存関係を築くことだけだ。
いや、共存関係ではないか。
人間はポケモンに依存している。
ポケモンは単体で生きていくことが可能だが、ポケモンなしではもはや人間の社会は成り立たない。
経済、司法、医療、交通・・・・・・その全てが、ポケモンの力に頼っている部分が大きいのだ。
彼等が我々に力を貸してくれるのは、互いに築いた絆のためであると信じたい。
こいつはどうなのだろう。
俺と絆を結ぶつもりがあるのだろうか。その強大な力を貸そうとしているのだろうか。
解らない。
さしあたって、この尻尾の炎を何かに役立たせられないものか。
そこから考えよう。
『69日目』
今日は奴の尻尾の火で目玉焼きを作ってみた。
フライパンを乗せると流石に嫌がっていたが、また律儀にも動かなかった。
油がはねる度にきゃんきゃんと犬のように鳴いていた。熱いらしい。
これくらい我慢しろと言ってきかせた。
お前はドラゴンでしかも炎タイプだろうに。
焼き上がった目玉焼きはミディアムレア。
半熟で最高の仕上がりである。
我ながら塩コショウの加減が素晴らしい。
奴が物欲しそうにこちらを見ていたので、半分わけてやった。
尻尾を振ってよろこんでいた。
尻尾にぶち当たった柱がへし折れ、屋根が歪んだ。
久しぶりにキレた。
一度ならず二度までも、こいつは。
感情にまかせて怒鳴り散らすと、地面に伏せて反省のポーズをしていた。
機嫌を取ろうと、少しずつ擦り寄って来る白ドラゴン。
だからお前は犬なのかと。
・・・・・・まあ、いい。
雨露がしのげれば文句は言うまい。
目玉焼きは冷えてしまっていたが、何故か美味かった。
こいつも、今度は控え目に尻尾を振って美味そうに食べていた。図体の癖に、燃費は良いらしい。
そういえば、誰かと食事をとったのは何年振りだったろうか。
『75日目』
毎日何もない部屋で留守番は暇だろうと思い、壁掛け型のテレビを購入してやった。
こいつの登場でテレビが壊れてしまっていたので、それの買い替えである。
チャンネルはポケモン用の大きめのものに替えてもらった。キャンペーン中らしく、無料交換だった。得した気分である。
取り付けが終わり、さっそく電源を入れる。
流石最新型。画面の美しさはこれまでのものとは比べ物にならない。
どうだ、と奴を見れば、何やら非常に驚いている様子。
どうやらテレビを初めて見たらしい。あんな小さな画面の中に人が入っているのかと、びくびくしていた。
チャンネルを変えてやる度に大げさに驚いている。
そしてポケモンバトル実況に番組が替わった瞬間。
リザードンが画面手前に向って火を吹く、あの有名なOPが流れた瞬間だ。
あろうことか、こいつはぎゃんっと飛びあがって、口から火を吹きやがった。
火炎放射である。
・・・・・・結局また電化店に戻る羽目になった。
もしものためにポケモン破損保証に入っておいたからいいものを。
まさか初日でとは。
学習したのか、壁は派手なコゲ跡が付いただけだった。それでも大問題だが。
煙を上げるテレビの残骸を背に、俺がまたキレたのは言うまでもない。
『102日目』
階下から低年齢向きのアニソンが聞こえる。
確か、女の子向けのアニメ番組だったか。
妖精ポケモンの力を借りて変身し、巨悪に立ち向かう女の子二人の話。
一月もテレビを見ていれば、お気に入り番組が出来るらしい。
その一つがこれである。
立派なテレビっ子になったようだ。
音楽がサビの部分に入る。
「モエルーワ!」
うるせえ。
『167日目』
本日をもって発掘の全工程を終了する。
遺跡のほとんどが砂に埋もれてしまっているのだから、これ以上はどうにもならないのだ。
結局、大きな発見は何もなかった。
「あんたが見付けたものだから、何か新しい発見でもと思ったんだけどねえ」
と、アロエ館長。
何度も言うが、買い被りすぎである。
俺は一研究員でしかないのだ。
見付けたのはアニメがないと生きていけないポケモン一匹だけである。
疲れて家に帰ると、あのアニソンが流れていた。
先日買い与えたDVDを十二分に活用しているようだった。
大画面の中、二人の女の子が黒と銀の戦士へと変身する。
低年齢向けと侮るなかれ。
流石は物語の山場であるか、音楽と演出は凄まじい迫力だ。
『我こそは黒き太陽、サンシャインBLACK’RX!』
『我こそは影の月、ゴルゴムノブヒコ!』
『二人合わせてセンチュリーキングス!』
クイーンではないのか。
スカートの下にはついているというのか。
あと二人目のネーミング。
「ンバーニンガガッ!」
うるせえ。
『291日目』
発掘工程が終了し、もう随分と経つ。
次に現場に呼び出されるまで、また悠々自適の研究生活である。
奴の腹をソファーにして寝そべりながら、資料を読みふける。
そういえば、とふいに思いついた疑問を口にした。
お前は何でここにいるのか、と。
一瞬静止して何かを思い出すような仕草の後、奴は途端に慌てだした。
廃材置き場をひっくり返し始める。
辺りに散乱する機材の山。
・・・・・・まて、俺。
まだキレるな。大人になれ。
何かを伝えようとしてるんだ、こいつは。
そうして奴が取り出したのは、一個のモンスターボール。
それを俺の足元まで放って、挑戦的な眼でじっとこちらを見る。
――――――コメカミから、太いゴムが切れたような音がした。
わざわざ壊れたモンスターボールなんぞ取り出しおってからに。
「取って来い」でもしたいのか。
お前は犬か。
犬なのか。
ポチエナなのか。
余りにも頭に来たため、小一時間の説教の後、こいつのニックネームを「ポチ」にしてやった。
俺のポケモンという訳ではないのだから、ただの呼び名でしかないが。
いつまでもお前だとか、こいつだとか、奴だとかではこちらとしても不便だったのだ。
これくらいが丁度いいだろう。
おい。
俺は怒ってるんだぞ。
嬉しそうにするな、ポチ。
尻尾が柱に当たってあああ――――――。
『292日目』
家が崩れた。
今から段ボールを使いワクワクさんタイムである。
楽しい図画工作の時間がはっじまっるヨー。
何を作るかって?
テメェの小屋に決まってんだろうがポチェ・・・・・・。
『326日目』
新居完成。
知り合いの業者に頼み、突貫工事で仕上げて貰った。
ドッコラー達の集団作業は見事の一言。
その間ポチはダンボールハウスで待機だった。
時折空気穴から悲し気な鳴き声が聞こえるも、適当に誤魔化した。
内装はほとんど変わっておらず、またガレージを改造したような家屋である。
ポチも反省したようだし、外に出してやることに。
ようやく羽を伸ばせて嬉しいだろうと思いきや、聞こえるアニソンのサビ。
『なーぜーお前はライダーなのーに車にのるのかー』
『その時、不思議なことが起こった(ナレーション)』
「モエルーワッ! モエルゥゥゥワッ!」
・・・・・・今日くらいはいいか。
『327日目』
うるせえ。
オールとか勘弁してくれ。
『343日目』
ゆったりとまどろんでいた昼過ぎ。
「元気にしてた?」
学生時代の同期が遊びに来た。アポなしで。
ポチはいつの間にかコンテナの中に身を隠していた。
素早い奴め、そんなに人目に付くのが嫌か。
ますます引きこもり生活に磨きが掛かっていやがる。
「問題があります」
と、到着するや同期から急に真剣な顔で切りだされた。
何だ。
「白い水着と黒い水着・・・・・・どちらがあたしに似合うかしら?」
帰れ。
シンオウ地方に帰れ。
「冗談よ。つれないわね」
ボタンに指を掛けながら言っても説得力は無いんだよ。
その鞄からはみ出してる白と黒の布切れはなんだ。
あとチャンピオン様がこんなあばら屋に来るんじゃない。
広いだけしか取り得のないようなとこだぞ、ここは。
「今日のところは新築祝いと、あなたのガブリアスの様子を見に来たの」
家を建て直したのをどこから聞きつけてきたのやら。
ああ、はいはいガブリアスね。元気にしてるよ。
最近はじしんで砂を固める作業しかさせてないけど。
やっぱそっちに影響出てたか。
「ええ。私たちのガブリアスは双子だから、何か通じるものがあるのね」
そうさね。
教授から卵を二つ渡されて、それぞれが育てなさいって言われたのが懐かしいよ。
で、どんな感じだったよ。
「一年程前の事になるんだけれど、この子がよく怯えたような仕草を見せるときがあったの。何か強大な存在を察知したかのように・・・・・・」
それは、あー、その、なんだ。
今は収まってるでしょ?
「ええ。それで何があったの?」
うむむ、何と言えばいいのやら。
まあ、なんだ、発掘作業で格上のドラゴンタイプと会っちゃってさ、そのせいだよ。
もう慣れたみたいだから、そっちも大丈夫だろ。
「なるほど。そしてあなたは更に強くなったという訳ね。さあ、クロイ君。ポケモン勝負をしましょう」
なぜそうなる。
もう一度言ってやる。なぜそうなる。
チャンピオンが軽々しく勝負しようとか言わない。
「もうチャンピオンではないのだけれど。ふむ、解りました。クロイ君、バトルしようぜ!」
言い方をかえても駄目なもんは駄目だ。
ポーズを取るな。
指をくわえても駄目だ。
「どうしてあなたはトレーナーを毛嫌いするの? そんなに強いのに、勿体ない」
だってお前、負けたら金をむしられるとか、どんな博打だよ。
俺に続けられるわけないだろ。金ないし。
この前なんか負けて電車賃を取られたって、泣きながら歩いてるエリートトレーナーの女の子を見たよ。
あんまりにも可哀そうだから車に乗っけて送ってやったよ。
エリートトレーナーでもころっと負けるような世界だぜ。
お前さんだって子供にやられたんだろ。
やってられん。
「へえ、そう、車で」
それに研究職と二足のわらじを履けってか。
俺はお前さんみたく優秀じゃないんだから、無理だって。
それに、ほら。
俺あんまりグロ耐性ないからさ。
「というと?」
つのドリル。
ぜったいれいど。
ハサミギロチン。
かみくだく。
もっと挙げようか?
「・・・・・・いえ、結構。よく解ったわ」
ポケモンバトルってけっこうグロイんだよね。
だからさ、俺にはそれを仕事にすることは無理なんだよ。
今だってギリギリの生活してるんだ。
ひーこら言いながら毎日暮らしてる野郎にゃ無理だって。
「では、勝負ではなく気晴らしにバトルごっこでもしない? もちろん遊びだから、お金のやりとりはなし」
まあ、それなら・・・・・・。
「ふふっ、じゃあ全力で戦いましょう!」
あいよ。
行け、ガブリアス。
「ミカルゲ、行きなさい!」
げきりんぶっぱー。
「くっ、一撃で! 次、シビルドン!」
げきりん。
「ル、ルカリオ!」
まだいけるか。
もいっちょげきりん。
「苦手タイプをものともしないなんて! でもこれで動けないはず。ミロカロス!」
どっこいラム持ちです。
げきりんぶっぱー。
「う、うぉーぐる・・・・・・」
げきりん。
「・・・・・・がぶりあすぅ」
げきりん。
ずっと俺のターン余裕です。
本当にありがとうございました。
「・・・・・・」
おい、何だよ。
床で寝るなよ。
眠いんなら帰れよ。
動きたくない、ってお前ね。布団まで運べってか。
はいはい。
よっこらせーのせっと。
『344日目』
同期帰宅。
とはいってもサザナミタウンの別荘でしばらく過ごすらしい。
海底神殿の研究をするんだとか。
あー、あれね。
何年か前に海に潜って見に行ったよ。
王がなんちゃらって暗号が石碑に彫ってあったんだっけか。忘れた。
振り返っては手を振る同期を見送っていると、これまたいつの間にかポチが姿を現わしていた。
あいつは誰だって?
同期だよ、大学時代のな。
なんだ、その目は。
「モエルーワ?」
うるせえ。
『362日目』
地元から手紙が届く。
差し出し人は、近所に住んでいた女の子。
トウコちゃんからだった。
仕事で実家から離れた俺に、定期的に手紙をくれる優しい子である。
機械音痴でメールが使えないからと、女の子らしい丸っこい字がいっぱいに書かれた手紙。
今回は一枚の写真が添えられていた。
トウコちゃんの写真だ。
新しい服を買ったんだとか。
しかし・・・・・・これは、その、露出が多すぎるんじゃなかろうか。
トウコちゃんは静かな子、というか、どちらかというと暗い感じの子だったはずなのに。
大胆に袖をカットされたベストに、ホットパンツ。
コンプレックスだと言っていたふわふわのくせ毛は、キャップでまとめられている。
今時の派手目な女の子の服で似合ってはいるのだが、違和感が拭えない。
トウコちゃんの私服はほとんどが単色のシンプルなもので、髪もアップになどせずいつも下ろされていて、言い方は悪いが、幽霊みたいな感じだったはず。
俺が地元にいた頃は、トウコちゃんはよく後ろをついて歩いてきていたのだが、気配が無くいつも驚いていた記憶がある。
これがトウコちゃんの趣味ではないとなると・・・・・・ああ、またお母さんに無理矢理着させられたんだな。
必死にシャツを引っ張ってるけど、ホットパンツから伸びる足はそれくらいじゃあ隠せない。
耳まで真っ赤にして、ベルちゃん腕を組まれて写真に写ってるトウコちゃん。
「モエルーワ!」
うるせえ。
自信満々に頷くんじゃねえ。
『365日目』
トウコちゃんの手紙に書かれていた最後の一文が頭を離れない。
『おにいちゃんに会いたいです』
小さい頃に面倒を見てやっていただけだというのに、あの子は俺なんかのことを気にかけていてくれる。
心配してくれる人がいるのはいいものだ。
仕事で帰れない、などと屁理屈をごねているが、本当は実家に帰るのが辛いのだ。
誰もいない家に一人でいると、両親のことを思い出してしまう。
とうとう去年は命日にすら帰らなかった。
ポチの尻尾を枕にしながら、手紙を読み返す。
いつもは何とはない内容の手紙だったというのに、会いたいと、はっきりとそう書かれている。
初めてのことだった。
なんだポチ、急に動くな。
行け、というのか。
・・・・・・そうだな。悩んでいるよりは、いいか。
墓参りもしないといけないしな。
しかしお前をどうするか。
言うや否や、ポチの身体が光り出した。
光の中、どんどんとポチの影が小さくなっていく。
光が収まった後には、モンスターボール大の丸い石ころが。
持って行け、ということか。
ありがとよ。
俺もお前と一緒なら心強いよ。
「ンバーニンガガッ!」
うるせえ。
石のくせに吠えるな。まったく。
よっこらせ、と手を伸ばす。
そして俺はまた、変な石を拾った。
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