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[27726] 【習作】神様 = In QB(かみさまはいんきゅべーたー)【魔法少女まどか☆マギカ】
Name: ZACK◆b2515568 ID:5be0c2e0
Date: 2011/05/11 03:24
■ 前書き ■

この小説は、「テンプレを踏襲しながらどれだけ意外性を表現できるか」をテーマにした、ZACKの初小説です。
言ってみれば主人公(おれ)TUEEE系小説にならないように、
作者(おれ)SUGEEEと言われることができるかがテーマです。

そのため、以下の点には十分にご注意ください。

・テンプレ要素がふんだんに盛り込まれています。
・とりあえず転生オリ主です。
・しかし、ひねくれているので、テンプレを期待している人の期待には沿わない可能性が高いです。
・使用したテンプレは各話の後書きに記述します。
・R-15相当のグロ描画が入る可能性が高いです。
・ZACKは結局俺tueeeしたがりなので、最終的に俺tueeeになる可能性があります。
・ただし、序盤の主人公は三つ編みメガネのほむほむクラスです。
・青い子と黄色先輩は出来るだけ幸せにしてあげたいです。
・原作より幸せになるか、不幸になるかは、現状未定です。


以上の注意事項を踏まえてなお進む勇気がある方は、どうぞお進み下さい。


※批評・批判は大歓迎ですが、批判の場合どこがどうだめかを記述していただければ幸いです。
 その場合、できるだけ作品に反映させていただきます。



[27726] 序章 - 前編 - 【投稿日:2011/05/11】
Name: ZACK◆b2515568 ID:5be0c2e0
Date: 2011/05/20 05:54
■問1
今あなたの目の前で女の子がトラックに轢かれそうになっています。
助ける場合の結果の確率以下の通りです。

A:両者助かる・・・・・20%
B:女の子は助かる・・・50%
C:両者助からない・・・30%

助けますか?助けませんか?


YES / NO





普段の俺なら間違いなく『NO』と答えただろう。
女の子を助けて自分も助かるなんて奇跡がおきる確率はあまりにも低い。
そのくせあまりにも高い代価。
自分の命と引換えに見知らぬ少女を助けるなんてことを、
本気で考えるやつはよほどの被虐願望の持ち主か、幼女愛好家のみだと嘲笑いすらしたと思う。


――だから、今ある現実はある意味奇跡のようなものだと言えるだろう。


結論から言えば、問1の答えは『YES』だったようだ。
しかも残念なことに「A」を掴みとることもできなかった。
一体何メートル引きずられたのだろうか。
道路には俺の頭で作られたすりりんごがぶちまけられたことだろう。


(りんごェ…)


痛みはもはや無い。
少し前までは激痛という単語では生温いと思えるほどの痛みが走っていたのに、
今ではこんなどうでもいいことを考えていられる。
思わずりんごに同情してしまうくらいだ。

しかし、痛みはなくとも既に身体は限界だ。
視界は暗闇に閉ざされて、何一つ見えるものがない。
最後に見えた限りでは、上半身と下半身がお別れする直前だったはずだ。
…間違いなく、――死ぬ。

あの子を助けることはできたのだろうか?
できたらうれしいなと思う。
せっかくこんな奇跡が起きたのだから、幸せになってほしい。


(ただし運転手、てめーはダメだ)


そんなことを考えながら、自分の意識が遠ざかっていくのを感じ、
ようやく自分が死ぬのだということを実感できたのだった。






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   序章 - 前編 -






(――ここは、…どこだ?)


次に気がついたとき、俺は暗闇の中にいた。
周りを見回しても目に映る物は何もなく、自分の身体すらも見ることができない。
一筋の光もささない闇の中。


(・・・誰かいませんか?)


しかし、その疑問は言葉になることはなかった。
いや、正確には言葉にすることができなかった、だ。

――声が出せない。

いやそれだけではない。
気付かなかったが、腕も、脚も、それどころか指一本すらも動かすことができなかった。
半ばパニックに陥りながら、疑問だけが俺の頭の中を駆け巡っていく。


ここはどこだろうか?
確か俺は確か事故にあったはず…。
まさか、全身不随の上に視力も失ってしまったのだろうか?


「違うよ」


突然。
何の前触れもなくその声は周囲に響いた。
男にしては高い声。しかし女とも断定できない。
強いて言うならば、女性の声優が男の子の声を当てているようなそんな声だった。


(違うって何が違うんだ?)

「『ここ』は病院ではないってことさ。
 君は確かにあの時死んだんだよ」


子供の様な声で、感情を感じさせない声で、現実味のないことを言われているのに、
なぜかその声には全てを納得させられるような説得力を感じさせられる。


(死んだってどういうことだよ?君はだれなんだ?どこにいるんだ?死んだって言うならここはなんなんだよ?なんで俺がこんな目にあっているんだ?子供の冗談なのか?だいたい喋ってないのになんで返事が出来るんだよ!?でも、動けないのも、喋れないのも事実だ。夢?夢なのか?そうだ、きっと夢に違いな

「少し落ち着きなよ」


またパニクってしまった。
感情を感じさせないその声は、子供に呆れられた様に感じさせられて少し恥ずかしい。


「まぁ、混乱してしまうのも仕方がないことだよ。
 ちゃんと説明するから、落ち着いて聞いて」






「ボクは神だ」




*




それからその『声』はいろいろな事を教えてくれた。

・ここは、現実世界より遥かに高次元に存在する世界であること。
・この世界にも生物は存在しており、それらは現実世界では「神」と呼ばれている存在と同等の力を持っていること。
・この次元では世界の運命にも干渉できること。
・運命を変えることで世界に負荷がかかること。
・次元が違っても世界は同じであり、現実世界からこの次元、この次元から現実世界にも影響を与えること。

…そして、確かに俺はあの事故で死んだこと。


(つまり、本来あの事故では、俺ではなくあの子が死に、俺は生き残るという運命だったんだな?)

「そうだね。
 原因はわからないけれど、君は確かに運命を変えたんだ。
 実感はないかもしれないけど、これはとても凄いことなんだよ」


運命を変えたと言われたても確かに実感はわかない。
しかし、ここまで説明をうけて頭によぎるものがある。

子供を助けて事故。
運命を変える。
死後の世界で神様に遭遇。

こ、これは、…テンプレ通りではないかっ!?
となると、俺はこの後、


(転生ですか!!?)


思考が漏れてしまった。
しかもオタク思想丸出し。神様相手に…。
これは恥ずかしい。気分は「orz」だ。


「へぇ~、わかってたんだ?」

(…………へ?)

「話が早いね。
 その通り。君には転生してもらうよ」
 

え?まじで?冗談じゃなく?
は、ははは…ハハハハハハハハッ!!
キタ!キタ!!キタコレ!!!キタヨコレ!!!!
我が世の春が来たぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

神様ありがとう!!
正直助けなければよかったかなとちょっぴり思ったけど、
やっぱり人助けはいいことだったんだ!!
アハハハハハハハハハッ!!



っと、テンションが天元突破してしまったぜ。
落ち着かなくっちゃな。…ムフフ。
冷静に、冷静に。…クフフ。
って、そうだ。人助けで思い出した。


(そういえば、あの子ってどうなるんだ?
 俺が助けた子。運命を変えたら寿命まで生きるのか?)
 
「いや、その子なら死んだよ」







(―――――――――――は?)



「死因は脳挫傷。車に轢かれるところを助けられるも、その時に頭を打ったことが原因だね」


浮かれ上がった思考が一気に冷めた。
言われた言葉の意味は簡単なのに、理性が理解することを拒んでいるのがわかる。


(え?どういう、…どういうことだ?
 さっき運命を変えたって言ったじゃないか…。
 全部嘘だったのか?)
 
「違うよ。
 さっき言ったじゃないか。君は運命を変えたんだって。
 君はあの時、2つの運命をねじ曲げたんだよ。
 君はまだ死なないという運命と、あの子はあの時に死ぬという運命を」
 
(ならどうしてあの子が死んでいるんだっ!!?
 車に轢かれる運命をねじ曲げて、脳挫傷で死ぬ結果を生んだとでも言うのか?)


そう考えるのが自然なのかもしれない。
所詮人間では運命に抗うことはできないのだと。


「それも違うよ。
 だって、―――」


「あの子を殺したのボクだからね」




…………意味がわからない。
何を、こいつは何を言っているんだ?


(何を…、言っているんだ?
 殺した?お前が?…、え?)
 
「さっき教えてあげたじゃないか。
 運命をねじ曲げると、世界にかかる負担は大きいんだって。
 そして君は2人分の運命をねじ曲げた」
 
(それがなんなんだよっ!!!?)

「死んでしまった人を生き返らせることはできないけど、
 死ななかった人を殺すのは簡単だ。
 車に轢かれて死ぬはずだった人が、車を避けたときの怪我が原因で死んだ程度であれば、
 元の運命と大筋は変わらない。
 つまりそれだけ世界にかかる負荷は少なくて済むんだ。
 だから殺したんだよ。当然だろ?」


ようやく、ようやく理解できた。
物腰が柔らかいから勘違いしていた。

――こいつは、人間ではないのだ。

価値観が全く違う。
理解することも難しい存在なんだと思い知らされた。


「それじゃ、話を戻そうか」

(はなし…?)

「そう、君の転生の話だ」


そうだ、そんな話だった。
でも、なぜだろう?
なぜ俺だけ優遇されているんだ?


――そう。
この時の俺はまだ、理解が足りていなかった。
理解したくなかったのかもしれない。
そんな都合のいい話は、…この世にはないのだと。


そして一呼吸置き、『神』はその言葉を発した。



「それでは君に、判決を下す」



■後書き

【使用テンプレ】
New!! トラックに轢かれそうな女の子
New!! 助けたせいで死亡
New!! 死後の世界で神様と遭遇 → 転生させてあげるよ

箇条書きするとよくわかる、どこにでもよくあるテンプレ小説ですね。
と、いうわけでこの作品はこんな感じの小説です。仲良くしてね。




[27726] 序章 - 後編 - 【投稿日:2011/05/12】
Name: ZACK◆b2515568 ID:a929a545
Date: 2011/05/20 05:56
特別なことなんてないと思っていた。
必要以上の金も名誉もほしいとは思わなかったし、
意味もなく罪を犯す必要は無いと思っていた。
平凡に生まれ、平凡に生き、平凡に死んでいく。
特別に憧れることはあっても、特別になることはないと思っていた。
それでいい。……そう、思っていた。

心変わりでもしなければそれができると思っていた。
いや、それができないなんて考えたこともなかった。
それどころは自分はなんて謙虚な人間なんだろうとすら思っていた。

気付かなかったのだ。
そんな平凡な人生すらも送ることができない可能性が有るなんて。
考えないようにしていたのかもしれない。無意識で。


『自分の思う通りに生きるためには、そのための力が必要だ。
 力無き者はより強い力に押し流されてしまうから』


よく聞く言葉だ。
誰でも一度は考えつく程度には。

俺には力が足りなかった。
そう、『神』という名の絶対的な力に対抗するだけの力を持っていなかった。
だから平凡に生きることすらできなかった。


――ただ、それだけの話しなのだ。






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   序章 - 後編 -






「それでは君に、判決を下す」


完全に混乱していた俺に、『神』が告げた言葉はそんな言葉だった。
判決。
つまり俺は、罪を犯し、それに対して罰を受けるらしい。

――混乱して思考がまとまらない。

罪ってなんだ?
罰ってなんだ?
俺が何をしたって言うんだ!?

『アイツ』は運命を変えたことが罪だと言っていた。
死にそうな女の子を助けたことが罪?
ふざけるなっ!!

罰ってなんだ?
転生してもらうって言ってたな。
転生することが罰なのか?





――落ち着け。

…そうだ。落ち着け。
判決を下すってことは、これからそれが説明されるんだろう。
冷静になれ。


「少しは落ち着いたようだね。
 君自身で気づいたようだけど、君の罪は個人的な理由から運命を改ざんしたこと。
 たった1人の命のために、世界に負担を掛けたんだ。
 情状酌量の余地はないね」


(……クッ)


冷静になれたと思った瞬間にこれだ。
今度は怒りで頭が沸騰しそうだ。
全神経を集中して、なんとか怒りを漏らさないようにする。


「君に与える罰は、さっきも言ったけど転生だ」

(……、転生することがなんで罰になるんだ?)

「安心していいよ。ボクには人間の価値観はわからないからね。
 罰は人間の価値観に沿ったものさ。」


「畜生道って知っているかい?」




…ちくしょうどう、……畜生道だと!!?


「そう、君たちが仏教っていう宗教で決めたものだね。
 重い罪を犯した人間を、獣に転生させるってやつだね」


理解したくなかった。
理解してしまった。
確かに全てが繋がった。
それならば確かに転生は罰になるだろう。


(…………、うそだ)


茫然自失としているのは、自覚していた。
だって現実味がまるでない。
まるで他人事のようだ。
だってそうだろう?
俺は人を助けたんだ。
自分の命を掛けて女の子を助けたんだ。
なのになんでこんなことになるんだ?

――ワケガワカラナイ


「嘘じゃないよ。
 君はこれから本来君が生きるはずだった時間の分だけ、
 獣として生きてもらう」

(いやだ、そんなのイヤダッ!!)

「ただし、獣として悠々自適に暮らしてもらっても困るんだ。
 正直ボクらにとってみれば、君も君が飼っていた犬も大して変わらないからね」

(…嘘なんだろ?嘘って言ってくれよ!?)

「だからね」


「君には家畜に転生してもらうよ」


(――カチク?)

「そう、家畜」
「安心していいよ。
 食用の家畜だから何度も死んじゃうと思うけど、
 さっきも言ったとおり、君の元の寿命分生きるまで、
 何度も転生することになるから」

(…うそだ。こんなの嘘だ。
 そうだ、こんなの絶対おかしいよ)

冷静になんてなれない。なれるわけがない。

(きっと全部夢なんだ。
 そうじゃなきゃおかしい。
 そうだよ、俺がこんな目にあうわけないじゃないか。
 あはっ、アはは、アははハハ、アハハハハハハハハハハハハハハッ!!!)


もはや現実逃避しかできない。
頭の何処かで夢ではないと理解しながらも、
目の前の現実から全力で目をそらすことしかできなかった。


「それじゃ、さようなら、だね。
 短い間だけど、楽しかったよ。
 自分以外の存在と話したのは、数万年ぶりだったからね」


そして、俺を地獄のドン底へとたたき落とす張本人は、
最後までそのことを気に掛けることもなく、
無慈悲に別れの言葉を紡いだ。



――こうして、俺の人間としての生は、終わりを告げた。






*






そこは安らかな温もりに満ちた世界だった。
微睡む意識の中で、なにかを考えることすらできなかったが、
自分が無条件に護られていることだけはわかった。

一体どれほどの時間をこうしていたのだろうか?
1時間、1日。あるいは1年以上こうしているかもしれない。
一体後どれほどの時間をこうしていられるのだろうか?
いつまでもこうしていたい。
外の世界は怖いんだ。


――ふと、外から何かが聞こえてきた気がした。


「…も…少……。…張…」

「脚…出て…ぞ」

「よ…、…っぱ……だ」


何の音かはわからない。
しかし不思議とその音は、この幸せな時間を終わらせてしまうことがわかった。


(イヤダ!!)


相変わらず微睡んだままの意識では、何も考えることはできないのに、
心のどこかで確信していた。

幸せでいられるのは、この世界だけなのだと。
そして、この世界から出てしまえば、そこには絶望しかないのだと。

だから、必死で抵抗した。
仮初の幸せだとしても、その幸せを手放したくなかった。
しかし、抵抗したのは心だけ。
実際には、抵抗することもできず…、


「出てきた!産まれたぞ!!」


俺は畜生道は歩み始めた。
――始めてしまったのだった。






*






そこからは、まさに地獄としか呼べない時間が続いていった。


最初の生は牛だった。
モンゴルの遊牧民に飼育される雄牛。

考えることは生前と同様にできたが、所詮は牛。
本能のままに動くことしかできない。
あるいは、自分の意志で動かすことはできないようにされていたのかもしれない。
どちらにしても大した違いはないが。

最初の生は、2年と続かなかった。
死因は考えるまでもない。
俺は食用の家畜だったのだから。

その2度目の死は、間違いなく俺を絶望にたたき落とした。
これが日本の家畜だったらそうでもなかったかもしれない。
俺の産まれた集落は、少し変わった屠殺方法を採用していた。

家畜の胸をナイフで切り裂き、そこから手をいれて、直接心臓の血管を引きちぎる、というものだ。



その日はよく晴れた日だった。
男がナイフを片手に近寄ってきた瞬間に、
俺は死ぬのだと悟った。


(逃げたい)


当然だ。
牛の身体は自由に動かすこともできない。
その癖、五感を感じ取ることはできた。
つまり痛みもそのままに感じるということだ。
逃げたいと思うのは、当然だ。
しかし、身体は動かせないのだから、結局逃げることなどできはしない。


そして、俺の2度目の死が、死神たるその男がやってきた。


(ヒィッ!!!
 来るな!ヤメロ、来るな!!)


男の持つナイフが煌めいた。


(イヤダ!!イヤダ!!!)


男の持つナイフが俺の胸を切り裂いた。


(――ぁグゥッ!!
 いたい…。痛イィィィ!!!!)


男の手が傷口に差し込まれた。


(イヤダやめて痛い助けて痛い死にたくない怖い痛いいやだなんで俺が痛い痛い助けて痛い怖いイヤダもういやだこんなの嘘だどうしておがぁざんジにたくないタずケテイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ――――――――――――――!!!!)


男の手が心臓に達し…、
――血管を、引きちぎった。





それからも俺は、幾度も生まれ、幾度も死んでいった。


ある時、俺は豚として生まれた。しばらくして食べられるため、炭酸ガスで殺された。
ある時、俺は犬として生まれた。しばらくして捨てられて、保健所で殺された。
ある時、俺はガチョウとして生まれた。しばらくして子供のイタズラで殺された。
ある時、俺はラクダとして生まれた。しばらくして砂漠で遭難し、飼い主共々死んだ。
ある時、俺はモルモットとして生まれた。しばらくして試験用の薬を投与されて殺された。
ある時、俺はカエルとして生まれた。しばらくして学校の教材として、身体を切り刻まれて殺された。
ある時、俺はまた牛として生まれた。しばらくして流行病にかかり、殺処分された。


――あぁ、こんな身体にされて、始めてわかった。
――現実世界[ここ]は地獄で、人間[ひと]は鬼なんだ。






*






『それ』は求めていた。。
『それ』はとある目的のため、その目的を叶えることができる存在を求めていた。


――熱力学の法則に縛られないエネルギー
――そして、それを得ることができる、エントロピーを凌駕するほどの祈りを持つ者を。


『それ』がここに来たのは、もちろん偶然ではない。
とても、とても強い想いを感じたからだ。
深く、暗く、強い絶望。


本来『それ』が求めていたのは、絶望ではなく希望だ。
希望から絶望への相転移。
それが熱力学の法則に縛られないエネルギーを得るために、最も効率のいい方法だからだ。
しかし、これほどの絶望。

一度希望に相転移し、そこから絶望へ相転移することが出来れば、
……あるいは、『それ』の目的を達成するにたるエネルギーを得ることが出来るかもしれない。
家畜の身体であることなんて関係無い。
『それ』にとって、肉体は魂の付属に過ぎないからだ。

故に『それ』は今ココにいるのだ。
深く、暗く、強い絶望をもった存在の前に。






*






「君は極みつけのイレギュラーのようだね。
 まさか、家畜の身体に人間の魂を宿らせているとはね」


その声を聞いたのは、何度目の生になるのだろうか。
もうそれすらもわからなくなった頃だった。
既に自我も薄れかけ、だれが話しているのか、
なぜ俺に話かけることができるのかもわからない。


「僕は君の想いをたどってここまで来たんだ。
 とても、とても強い想い。
 君にはどうしても叶えたい願いがあるんじゃないのかい?」


…願い、叶えたい願い。
今の俺に取って、叶えたい願いは1つだけ。


――この地獄から抜け出したい。


「その願いは君にとって、魂を差し出すに足る物かい?
 …もし、そうであるなら、僕は、君の願いごとをなんでも1つ叶えてあげられる」


…願いが、…叶う?


「そう。なんだってかまわない。どんな奇跡だって起こしてあげられるよ。
 ――だから、」






「僕と契約して、魔法少女になってよ!」




*





――それは、1つの地獄の終わり。
――それは、新たな地獄の始まり。


絶望に染まった男は、その日1つの希望を手に入れた。
その希望は仮初のものなのか。確かな希望と成り得るのか。
希望を得た男は、運命に囚われた少女たちと出会うことになるだろう。
男は、少女たちは、望まぬ運命を打ち破ることができるのだろうか。


斯くして、物語の幕は開かれた。






次章 神様 = In QB   第1章

  - 魔法少女達の出会い -



これは、絶望と闘う少女たちの物語。






■後書き

【使用テンプレ】
・トラックに轢かれそうな女の子
・助けたせいで死亡
・死後の世界で神様と遭遇 → 転生させてあげるよ
New!! 転生後の体験のせいで、トラウマ(暗い過去)を持つオリ主
New!! 転生 オリ主 TS → 魔法少女化フラグ

これにて序章完。です。

原作では基本的に希望から絶望への相転移で、エネルギーを取得していましたが、
絶望から希望への相転移でエネルギーを取れるかは不明でした。
本作では、絶望から希望への相転移では、エネルギーは取れないという設定にしたため、
QBは絶望に落ちた主人公に希望を与え、その後に絶望に落ちてもらうというスタンスをとっています。

ようやく少し原作キャラが登場しました。
次章から原作に突入していきます。お楽しみに。




[27726] 第1章 - 魔法少女達の出会い - 第1話 【投稿日:2011/05/13】
Name: ZACK◆b2515568 ID:475fe1a9
Date: 2011/05/20 05:57
2本の脚で大地を踏みしめる。
自らの身体を抱きしめるように両の腕で包み込み、
幸せをかみ締めるかのように、そっと瞼を伏せた。

柔らかな風が頬を撫で、穏やかな光を浴びて、鮮やかに光る金色の髪をたなびかせていた。



「――あぁ。………あ、ああぁああっぁあぁ!
 ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


叫んだ。ただ叫んだ。


いったい何年ぶりだろうか。
あるいは既に何十年と過ぎ去っているのか。
俺は自分が人間であることに、幸せを感じていた。

あまりにも当然な。
生きることの大前提ともいえるほど当然の状況。

それでも、俺は今、幸せだ。

立ち上がるだけで、腕を動かすだけで、声を出すだけで幸せを感じる。
今ならば、真顔で、真剣に、「生きているだけで幸せだ」なんて甘ったるい台詞を吐いてのけるだろう。
人間は、人間でいられることにもっと感謝するべきなのだと。






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   第1章 - 魔法少女達の出会い - 第1話






そうして、どれほどの時間がたったのだろうか。
『それ』は、ゆっくりと声をかけてきた。


「そろそろいいかい?」

「あぁ、…すまない。
 もう少しだけ待ってくれ。現状を把握したいんだ」


随分と放置してしまっていたようだ。
幾分か冷静になることができた俺は、改めて『それ』に向き直った。


『それ』は少なくとも今まで生きてきた中では見たことがない存在だった。
白い毛並み、赤い瞳、外見上はイタチのようにも見えるが、頭頂部にはネコのような耳が。
そしてそこからはなんだかよくわからないものが伸びている。
なんだかよくわからないものには、どういう風についているのかわからないが、金色の輪のようなアクセサリーがついている。
『キュゥべえ』と名乗ったそいつは、その姿といい、今の俺を魔法少女と呼んだことといい、
往年の魔法少女もののアニメに出てくるマスコットそのものだ。

だが、俺にとってはまさに救いの神だ。
どれだけしても足りない、言葉では表現しきれない程に感謝している。
俺を人間に戻してくれた。
それだけで一生かかっても返しきれないほどの恩を受けたように感じる。

ふと、室内に備え付けられている鏡に写る姿が見えた。
そこには獣の姿ではなく、1人の美少女といっても過言ではないほどの愛らしい少女の姿が写っていた。

スラリと伸びた脚。金糸の如く美しく流れる髪。そして…、


――山の如くそびえ立つ、大きな胸…。


(あぁ、本当に女の子になっちゃったよ……、って重要なのはそっちじゃないな)


そう、本当に重要なのは胸ではなかった。


――左目が黒い


日本人なら普通のことかと思うが、そうではない。
日本人を含む東洋人のように虹彩が黒いのではなく、眼球自体がすべて黒く染まっていた。
黒目も白目もない。
まるで黒い宝石を眼窩にはめ込んだような、そんな目だった。

後でキュゥべえにきちんと問い合わせようと考えながら、少しでも自分の状況を把握しようと、思考を巡らせていた。



先ほど室内と言ったが、ここはとある研究施設だ。

今世の俺は、ネコだった。
ネコと言っても、本当にネコなのかと思うくらい大きな身体で、最後に計測したときは、体重は15Kgに達していた。
近年話題になった、様々な種を掛け合わせて作られた、ヒョウに似たネコ、「アシェラ」と同じ位の体格だ。
体格だけでなく、存在も俺はアシェラと似ていた。

ここは新品種のネコを生み出すための研究施設だった。


――ただし、非合法の。


そういう意味では、俺はアシェラとは違い、日の目を見ることのない存在だ。

俺は、ネコとネコ以外の存在を交配させる研究の下に生みだされた。
母はネコだが、父はキツネだ。
…会ったことないが。

俺は合法・非合法問わず、様々な手段を駆使してようやく生まれた奇跡的な存在らしいが、
見た目も遺伝子もほとんどネコそのものだったため、ただの実験動物として切り刻まれる直前だった。

そうして切り刻まれるところを助けられ、人間にもしてくれて、


(……やっぱり、キュゥべえには足を向けて眠れないな)


そう、改めて感謝の念を深めるのだった。






*






「すまない。待たせてしまったな。
 もう…、大丈夫だ」


現状を振り返り、幾分か冷静さを取り戻した俺は、そう言ってキュゥべえに語りかけた。

「いやいや。落ち着いたならいいさ。
 自分の状況はつかめたかい?
 落ち着いたなら、自分の力を感じとってごらん?
 無事に魔法少女となれたなら、自然と自分の力も見えてくるはずだ」


そう言われて、もう一度自分の中に意識を向けた。

確かに、なんとも言えない感覚だが、自分の中に確かな力を感じる。
それに使い方もなぜかなんとなくわかる。


(試しに使ってみようかな)


そう考えて、俺は力を集中した。

力が身体を巡るのを感じた。
今までに感じたことのない感覚。
それなのに、生まれた時から具わっていたようにも感じる感覚。
そして、俺は、その感覚を形にした。


そっと自分の右手を見てみる。


……………、成功だ。


俺の右手は、手首から先がネコの手になっていた。



「どうやら問題なく力を使えるようだね」

「あぁ、俺の力は簡単に言えば変身能力みたいだ」

「そうか。君の身体は魔力で作られたものだからね。
 魔力で形を作り変える力が具わったのも当然かもしれない」


なるほど。そういうこともあるのかもしれない。
自分の感覚を信じれば、俺は、自分の思い描くどんな姿にでもなれるみたいだ。

ただし、いくつか制約がつくらしい。

・1つ、男の姿にはなれない。

なぜかはわからないが、俺が魔力を持っているのは、少女の姿をとっているかららしい。
男の姿になろうとすると、変身の途中で魔力が霧散した。…残念だ。ほんっとぉーに!! …残念だ。


・1つ、今の少女の姿がベースというわけではなく、変身は完全に身体を作り変えるらしい。

つまり、元の姿に戻る場合、元に戻るというよりも、変身する前の姿を思い描いて、もう一度その姿に変身するという感覚のようだ。
ここで注意が必要なのは、変身する姿を思い描く必要があるということだ。
俺の思い描く姿が崩れていたら、そのまま変身することになるのだから、
………、最悪福笑いみたいな顔になるかもしれない。

…全身の変化はしばらくしないほうがよさそうだ。


・1つ、無機物には変身できない。

有機物であれば、想像上の生物ですら変身することができそうなのに、無機物になることはできないらしい。
ただし、無機物のような形状の有機物にはなれそうだ。
…例えば戸愚呂(兄)のように、肉でできた剣。とかにはなれる。

しかし、これは想像上の生物になる場合も同じだが、俺の変身は細部まできっちりイメージしないといけないらしい。
例えば、ドラゴンに変身しようとした場合、外見はドラゴンだが内臓は人間のままで、結果すぐ死亡する、なんてオチもありえる。
よしんばうまく生きていられたとしても、姿を再現するだけだから、物理法則を覆すことはできないだろう。
具体例をあげれば、ドラゴンになっても、身体が重くて空を飛ぶことはできない、…みたいな。


(…使えるような、…使えないような。
 まぁでも、使い方しだいかな)


そうして、俺は、少しずつ自分の力の使い方を確かめていった。






*






「それじゃあ、君も自分の力は確認できた様だし、魔法少女について説明しようか」

「ああ、お願いするよ」

「その説明をするためには、まず、君の左目のことから話そう」


そうだ。左目だ。
魔法少女としての力にすっかりハマッて忘れていたが、さっき鏡を見たとき、確かに左目はなにか黒い石をはめ込まれたようになっていた。


「そういえばそうだったな。
 この左目はいったい何なんだ?」

「その石は『ソウルジェム』。
 魔女と戦う使命を課された魔法少女が手にする、魔法の石だよ」


やっぱり眼じゃなくて石なのか。
左目の視力もないみたいだしな。


「ソウルジェムは、魔法少女の魔力の源なんだ。
 君の身体は魔力でできているからね。
 おそらく君の身体から100mでもその石を遠ざけたら、君の身体は動かなくなるんじゃないかな?」

「うぇっ…。
 そうか、人間に戻れたと思ったけど、正確には人間じゃなかったんだよな。
 ――まぁ、仕方がないか。………わかったよ。注意する」


そのくらいは、気にならない。
あの地獄よりも千倍も万倍もマシだ。

魂の器が肉体じゃなくなったからって、何だって言うんだ。
そんなことで文句は言わない。


――誰にも、…言わせない!!






*






それからいくつかの説明を受けた。魔法少女のこと、魔女のこと。
それらの説明が全て終わり、俺とキュゥべえは、とある魔法少女の下へ向かっていた。


「キュゥべえ。一体どこに行くんだ?」

「この辺りでは一番僕を信頼してくれている子のところさ。
 君は人間になったけど、いつまでもあの研究所にはいられないだろ?
 お金もないし、戸籍もないんだから」


確かにその通りだ。
せっかく人間に戻れたのに、このままじゃ最悪餓死してしまう。


「だから、今から行く先の子に、君のことを預かってもらおうと思ってね。
 やさしい子だから安心していいよ」

「へぇー。どんな子なんだ?」

「そうだね、性格は優しくて、上品な感じかな。
 見た目は今の君ならわかるよ。
 君の肉体のモデルになった子だからね」


なるほど、確かに上品な感じの身体だった。
…振る舞いが俺のままなせいで、なんかチグハグになっていたけど。

迷惑をかけるのは心苦しいけど、背に腹は変えられえない。
みっともないけど、誠心誠意お願いして、助けてもらおう。


「さ、そろそろだよ」

「ん、ついたのか?」

「そう。
 ここが見滝原町。
 君の身体のモデルになった魔法少女、
 
 


 ――巴マミが住む町さ」




柔らかい風が吹き、縦ロールという特徴的な髪型をした、金色の髪が揺らめいた。
物語の始まりを告げるかのように訪れたその風は、一体何を運んで来たのだろうか。

幸運を祝福する神の息吹か、絶望の暗雲を運ぶ悪魔の吐息か。


桜の花の蕾が美しく開き始め、春風とともに魔法少女が集い始める。


時は2010年3月。
時間を越える魔法少女がこの町にくるまで、―――後、1年。



【見滝原町の魔法少女数:2人】



■後書き

【使用テンプレ】
・トラックに轢かれそうな女の子
・助けたせいで死亡
・死後の世界で神様と遭遇 → 転生させてあげるよ
・転生後の体験のせいで、トラウマ(暗い過去)を持つオリ主
・転生 オリ主 TS → 魔法少女化フラグ
New!! 左右の目の色が違うのは基本です
New!! 転生先は実験体


1章 第1話をお届けしました。

正直自分で書いててツッコミどころが一杯です。
とりあえずQBの白々しさを感じ取っていただくことができれば成功です。

オリ主(まさかのまだ名前なしw)の左目については、ネタバレになるのでまだ説明はできません。
とりあえずQBの説明はウソではありません。
が、原作を見ている方にはわかるとおり、ただの魔法少女でも同じことがおきます。
それをさもオリ主だけに起きるかのように言って、左目がソウルジェムになった理由をごまかす、QBマジ外道w

今回の使用テンプレはほとんどありません。
て、いうかテンプレ使いながら意表をつくためのネタが尽きました。
一応オリ主はオッドアイになるべきそうすべき!! という思想のもと、テンプレとして追加しましたが、
正直ムリヤリすぎかと…w

作中時間は、考察サイトに書いてあった時間を元にしています。
ほむらのループの基点となる日が、病室のカレンダーから推察すると、2011年の3月16日らしいです。


そして次回、ついにマミさんが登場する予定です。
原作開始まで1年。どれだけマミさんと仲良くなれるのか。
ちなみにオリ主の外見は今のところまんまマミさんです。
理由は作中でQBが言っているように、マミさんが一番利用し
……マミさんが一番QBを信頼してくれているからです。
(もしオリ主が全身変身をして、マミさんに再変身しようとすると、
 顔が崩れてマミさんの出来損ないみたいなことになりますw)

この先は所々キンクリしていく予定です。ご了承ください。



[27726] 第1章 - 魔法少女達の出会い - 第2話 【投稿日:2011/05/20】
Name: ZACK◆b2515568 ID:5be0c2e0
Date: 2011/05/22 06:17
「さ、ついたよ。
 ここがマミの住んでいるマンションだ」

「…うん」


出てきたのは生返事だった。
今更だが、気が乗らない。

あれから、最初の俺が死んでから、もう随分とたったが、人間と話すのは始めてだ。
キュゥべえとは日本語で話していたが、どんなに感謝していても、キュゥべえを人間だとは考えられない。

人間と正面から話し合うなんて、
…正直どんなことを言ってしまうかわからない。
これから会う、巴マミさんとは一切関係がないとは分かっていても、
ふとしたキッカケで感情が爆発してまうかもしれない。


俺はやっぱり人間が嫌いなのだ。

…と、思う。


なんとも言えない複雑な気分だ。
この気持ちは、俺にしかわからないものだろう。
人間から動物にされ、何度も何度も人間に殺されてきた、…俺にしか。


「ん?どうかしたのかい?」

「……いや、なんでもない」

「それならいいけど。
 とりあえず僕はマミに君のことを説明してくるよ。
 いきなり君に会ったら、さすがに驚くだろうからね」


ふむ。確かにそうか。
来客に応じてドアを開けたら、そこには自分がいた。
…なんて、怪談でしかない。


「了解。
 それじゃ、しばらくその辺をぶらついているよ。
 説明。長くなるんだろ?」

「そうだね。
 君の境遇はとても複雑だし、話せないこともあるからね。

 説明が終わったら呼びに行くから」

「うん。じゃあ、また後で」


そう言って俺はその場を後にした。






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   第1章 - 魔法少女達の出会い - 第2話






巴マミの住むマンションから、ほど近い公園に俺はいた。

ちょうど下校時間らしく、ランドセルを背負った子供や、
制服を着た少年少女が楽しそうに帰宅している様子が見える。

砂場で遊ぶ小学生。遊ぶ約束をしながら帰宅していく少年達。
晩ご飯のメニューを考えながら、買い物へ向かう主婦。

活発そうな青い髪をした少女が公園にやってきた。
その後ろを、桃色の髪をした少女が追いかけてくる。

少女達はネコに餌をあげに来たようだった。
桃色の髪の少女がカバンから取り出したネコ缶を、1匹のクロネコが頬張っている。


平和な光景だった。


昔から俺はこんな光景を見るのが好きだったんだ。
気が緩んでしまったのか、ふと、涙がこぼれてきた。

左目はソウルジェムを隠すためにずっと閉じていたが、
右目の視界も滲んでしまい、前が見えない。

だが、今くらいはいいだろう。
ようやく手に入れることができた平穏なんだから。
そう思い、俺はそっと右目の目蓋も落とした。






*






「あの、大丈夫ですか?」


誰かが俺に声を掛けてきたようだ。
先程の少女だろうか?
申し訳ないが、今は涙で顔を見ることができない。


「あぁ、ごめん。大丈夫だよ。
 西日が目に差し込んできただけだから」


そう言うと、少女は少し安心したようだ。
涙も治まってきた。視界が鮮明になっていく。

やはり先程の少女。クロネコに餌をあげていた、桃色の髪の少女だった。


「心配かけてすまないね」


ほんの少し世間話でもしようかと想ったが、
公園の入り口から、青い髪の少女がこっちを見ていた。


「ほら、友達が待っているよ。
 あの子、一緒に帰るんだろ?」


そう言って公園の入口で待っていたる、青い髪の少女を示してあげると、
桃色の髪の少女は、慌ててお礼を言って、駆けていった。


(お礼を言いたいのは、俺のほうなんだけどな…)


そう。
ほんの少しだけだが、あの子と話していて確信できた。

俺はやはり、人間は好きにはなれない。
…なれないが、人間を恨んでいるわけではない。
先程の様な平穏な日常を見るのも、変わらず好きだし、人と話すのも好きだ。
きっと巴マミさんとも仲良く出来るだろう。



すっと、立ち上がり、後ろを振り向くと、


「お待たせ。…行こうか?」


と、いつの間にかすぐ後ろまで来ていたキュゥべえに声を掛けた。


「いや、そんなに待ってないよ」


そう答えてくれたキュゥべえを肩にのせ、巴マミのマンションに向かう。
涙はもう流れてはこなかった。






「…あの子は」



「ん、なにか言ったか?キュゥべえ」

「いや、なんでもないよ。気にしないで。」






*






パァァーーン!!!

乾いた打音が、夕日が赤く照らす部屋の中に響いた。


思わず自分の手を見つめてしまう。
手のひらがジンジンしている。少し赤くなってしまったようだ。
どこからかカチカチとリズミカルな音が聞こえる。

状況をつかむことができない。
一体何がおこったのだろうか。
何も理解することができなかった俺は、1つずつ状況を思い出していくことしかできなかった。






少女、巴マミは、想像していたよりも更に上品な感じで、
その年代の子の中でも、とりわけて聡明な少女だった。

最初に会った時こそ、呆然としていたが、すぐに自分を取り戻した。

さすがに自分と全く同じ姿をした少女。
それも、男のような、否、男そのものの振る舞いをした存在が目の前に現れたんだ。
呆然とするのも無理はない。
正直俺だったら、そんな奴と笑って話あうなんてできないだろう。
どんなに頑張っても顔が引きつるくらいは仕方がないと思う。

それなのに、マミは笑って俺を迎え入れてくれた。
それだけで、彼女がいい子だとわかる。

それから、俺たちは、リビングでお茶を飲みながら、お互いの世間話も交え、お互いの事情を摺りあわせた。

今までのこと、これからのこと、マミの普段の生活や、先ほど公園で出会った少女達のことなど。
穏やかな時間があっという間に過ぎて行った。
マミとならやっていけるだろうと思いながら、これから共に頑張っていこうと笑いあい、
共闘を誓って、握手をしようとした。



――その時だった。



「ッッ――――――!!!!!!!!」


ヒッと、息を呑む音が聞こえ、握手をしようとしていた右手が閃く。
『マミ』の手を打ち据えて、乾いた音が静寂を破り裂いた。


そして俺は、無意識に動いた腕を、呆然と見つめていた。


そうだ。思い出した。

『俺が』、マミの手を、打ち払ったんだ…。



――――なぜ?



…違う。
本当はわかっている。

あの時、おれは、――マミの手が怖かった。


いや、今でも怖い。
その証拠に、俺は尋常ではないほどの冷や汗をかいている。
歯の根は合わず、今もガチガチと打ち鳴らしている。
震えも止まらず、目には涙すら浮かんでいる。


……怖い。恐ろしい。



だって…。
だって俺に向かって差し伸べられる手は、



――――いつだって俺を殺すから。



「ご、ごめん。マミ。
 大丈夫。…大丈夫だから。
 ただ、手。…手を、こっちに向けないでくれるか?」

「…………。
 えぇ、わかったわ。
 
 ごめんなさい。貴女を恐がらせてしまったのね」

「ち、ちがう!……ごめん。
 マミのせいじゃないんだ。全部俺のせいだから、…だから」


震えながら、俺はマミに謝罪をした。
事実マミはなにも悪くない。
マミは大丈夫だとわかっているのに、手を打ち払ってしまった俺が悪いんだから。



「そう。わかったわ」


それでいい。俺なんかのせいで、マミを傷つけるわけにはいかない。
この子は、今まで出会ったことがないほど、いい子なんだから。


「それじゃあ、改めて」


――え?


「私は巴マミ。見滝原中の2年生。
 
 そして、あなたと同じ、
 キュゥべえと契約した、魔法少女よ」

「……………」

「これから、よろしくね」


そういって、彼女は俺に笑いかけてくれた。

聞きたいことも、言いたいこともいっぱいあるだろうに。
疑問を全て飲み込んで。気にも留めていないかのように振舞ってくれた。
これから、ここに居ていいのだと言ってくれた。


――嗚呼、ここならば大丈夫かもしれない。


今度こそ俺は、幸せになれるのかもしれない――。


そう、思うことができた。






*






「それじゃあ、まずは名前から決めましょう」


と、唐突にマミが切り出してきたのは、自己紹介のすぐ後だった。

キュゥべえの提案で、『神』のことはマミには伝えないようにすると決めていた俺は、
魔女の口付けを受けて、ネコの姿にされていた元人間という設定でマミに説明していた。

魔女の力のせいで、人間だったころの記憶を失った。
しかし、魔女の力のおかげで、キュゥべえの姿を見ることができるようになった俺は、
キュゥべえの力で人間になり、魔法少女となった。
今マミの姿をしているのは、そのためでこの身体は俺の祈りによって生み出された姿だ、と。

だから、自己紹介のときに名前を言うことができず、
それをマミは気にしてくれたのだろう。


「できたら、マミがつけてくれないか?」


そう。名前はマミにつけてほしかった。
俺が今信じられる存在は、キュゥべえとマミだけだ。
マミがつけてくれる名前だったら、好きになれる。


「私でいいの?」

「ああ。マミがいい。」


そう告げると、マミは考えだしてくれた。
色々と考えてくれているのか、ボソボソと名前らしき言葉がマミの口からこぼれてくる。


「…カッコいい名前が…、………ッフィーとか、…ピ…チュー…………天使とかどうかしら…、漆黒の…いいわね…」


……本当にマミでよかったのだろうか(汗)

ものすごい不安が頭をよぎる。
漏れ聞こえてくる名前は、どう考えてもD・Q・N。

漏れてくる名前に戦々恐々としながら、時間は過ぎていき、――ついに。


「よし、決まったわ」

「決まっちゃったの!!!!!?」

「………何かしら?その反応は」


すごい不安なんです。
とは、言えないよな……。

とりあえず聞いてみるしかないか…。ふぅ。


「ごめん。なんでもないよ。
 じゃあ、教えてくれるかな」


――まともな名前でありますように。

運を天に祈るような気持ちでマミの言葉を待つ。


「なにか納得いかないのだけれども、まぁいいわ」


「…貴女の名前は、
 
 
 
 
         ――――マヤ。巴マヤよ」





――普通だ。
すごく普通の名前だった。

よかった。本当に、本当によかった。

って、え!?


「貴女はネコだったって言ったでしょ。
 ネコは沖縄ではマヤーっていうから、それに…」

「ごめん。ちょっと待って!」

「………どうしたの?
 やっぱり嫌だった?」

「いや、違うよ。そうじゃないんだ。でも、


 ……巴って?」


そう。気になったのは、名前ではない。
巴。巴マヤ。そして巴マミ。
これではまるで…。


「そうよ。巴マヤ。
 いい名前でしょう?」

「うん。そうだけど。
 でも、その、………いいのか?」

「いいのよ。
 それに、こんなに似てる女の子が、2人で過ごしていくのよ。
 
 それって姉妹以外のなにものでもないじゃない」


涙が出てくる。
この子は…、どうしてこの子はこんな…。
俺が元男だって知っているのに。
身体も魔力で、勝手にマミの姿を盗んだものなのに…。


「――ありがとう」


今俺が浮かべている笑みは、きっと、今まで生きてきた中で、最高のものだろう。






*






「そしたら、後はこれね」

「…なに、それ?」

「アイパッチよ」


そう言って、マミが持ってきたものは、海賊の船長がつけてそうな眼帯だった。

黒い革製の眼帯で、シルバーのドクロマーク。
頭蓋骨の下には2本のマスケット銃らしき銃が交差している。


「どうかしら。
 貴女の左目。ずっと閉じてるくらいならこれをつければいいと思うわ」

「…ありがとう」


デザインはともかく、確かにマミの言うとおりだ。
これをつけていれば、左目のソウルジェムを見られないですむ。

…医療用の白い眼帯でいいような気がするけど。

そう、マミに言ったが、


「ごめんなさい。
 目を怪我することなんてなかったから、それ(医療用の眼帯)は持っていないの」


じゃあ、なんでこんなもの(黒いアイパッチ)持ってるんだよ!?


…だが、好意は好意だ。
医療用の眼帯を買う金も持っていない俺は、おとなしく、その眼帯をつけた。


「うん。やっぱり似合うわ
 私もつけてみたことあったんだけど、自分でつけても見れないじゃない。
 
 …でも、なにか物足りないわね」


正直ウンザリしながらマミの言葉を聞いていた。
名前といい、アイパッチといい、マミってもしかして、もしかして…。


「そうだわ。
 完全に私と同じ見た目だと区別がつかないでしょ。
 貴女の魔法の練習も兼ねて、貴女の髪の色を白か銀にしてみましょうよ」


間違いない。厨二病だ。

香ばしい香りが漂ってくる気がするほどの厨二病。
そういえば、マミって14歳なんだっけ。


「私が金髪だから、貴女は銀髪がいいんじゃないかしら?
 これならおそろいで完璧よね」


この子は、いい子なんだけど…。
いい子なんだけどなぁ。


――ま、いっか。


この子との生活は、ちょっと疲れることもありそうだけど、
そんなこと吹き飛ばすほどの希望があった。
マミとなら、楽しく生きていくことができるだろうと。

――これは、確信だ。



「明日も、――きっといい日になるな」


マミと目を合わせないようにしながらそっぽを向き、
口笛を吹くマネをしながら、言葉だけは本心から、そうつぶやいたのだった。









一方その頃…

QB「あのね…。僕もいるよ」



- To Be Continued -




■後書き

【使用テンプレ】
・トラックに轢かれそうな女の子
・助けたせいで死亡
・死後の世界で神様と遭遇 → 転生させてあげるよ
・転生後の体験のせいで、トラウマ(暗い過去)を持つオリ主
・転生 オリ主 TS → 魔法少女化フラグ
・左右の目の色が違うのは基本です
・転生先は実験体
New!! 銀髪に眼帯。これはラウラですか?はい、チンク姉です。


と、いうわけで、第1章 第2話をお届けしました。
日常風景を書くのは、とても難しいです。
IFルートのBADエンドばっかり浮かんでくるw
日常シーンなんて書いてると蕁麻疹がでてくるぜ。

さて、ようやくオリ主の名前も決定しました。
マヤの名前の由来は、作中でも語っている通り、ネコさんでかつマミさんと似た名前だからです。

そして、マヤの姿を変更しました。
これはコメントでも頂いていましたが、テンプレの1つ。
ロング銀髪眼帯少女を満たすためです。

今は原作の1年前。
つまりマミさんは中学2年生。
厨2病最盛期のマミさんなら、これくらいは当然ですw
最初にマミさんを登場させたのも、左目をソウルジェムにしたのも、全てはこのためだったのさ!!!――嘘だけど。

本当は、コメントを頂いてから思いつき、強引にこじ付けました。
だって最初は、髪を銀色にする理由なんてなかったんですよ。
でも、これからは、オリ主は、マミさんの身体と顔で、左目にアイパッチ。
髪は銀髪でストレート。背中まで流すような感じです。

字にするとマジテンプレww

テンプレネタをご提供くださりました、
まほかに様、通りゃんせ2代目様、蓬莱NEET様、ありがとうございました。


次回からしばらくマミさんとのイチャイチャパラダイスが続きます。
お楽しみに。



[27726] 第1章 - 魔法少女達の出会い - 第3話 【投稿日:2011/05/25】
Name: ZACK◆b2515568 ID:5be0c2e0
Date: 2011/05/26 08:10
雨が降っていた。
シトシトと降る雨の中、マヤは呆然と立ち尽くしていた。


――どうしてこうなってしまったんだろう。


答えはすぐに見つかった。馬鹿だったからだ。
その人の本質も見ず、見ようともせず。
わかった気になっていた。わかると思っていた。

だから傷つけてしまった。
自分に見えた側面だけを信じ、それだけが全てと断じて。

どうしてこんなに馬鹿なんだろう。
いつもそうだ。
無知で、無思慮で、無神経で、なのにそれを知りながら、何とかなるなんて楽観的な思想で。

そうしていつも誰かを傷つけるのだ。




――俺は、…最低だ。






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   第1章 - 魔法少女達の出会い - 第3話






高架線の下を静寂が支配していた。
張り詰めた空気の中、漏れる息づかいがかすかに聞こえてくる。

その世界の中心に、1人の少女が存在した。

その少女は黒かった。
もちろん全てが黒いわけではない。
馬の尾のように纏められた、陽光を受けて銀色に輝く髪を含め、何箇所かに黒以外の色を持っている。
しかし、その少女全体を見たときに、最初に感じる印象は黒だった。

季節的にはそろそろ時期外れとなる、黒のロングコート。
中に着たブラウスは白かったが、腹部に着用されたコルセットは黒く、少女の年齢の割に大きな胸を下から支えている。
その色は下半身にも及び、胴着から、軍用と思われるブーツに至るまで、全てが黒で統一されていた。

そこまでは、少女が纏うには厳めしいものではあったが、ファッションとして言い張れなくもない。
だが、両手に着けた、数少ない黒以外の色を放つそれが、少女が日常の存在でないことを主張していた。
少女の髪と同じく陽光を反射する銀色。
しかしそれは、髪とは違い鈍く光を反射する鋼。
少女の両手には、西洋騎士の如き手甲が身に着けられていた


「――――ッ!!!」


切り裂くような吐息と共に、静寂が打ち破られる。
彼女の姿がブレ、人間大の何かが視界を横切った。
瞬間、


――ガンッ!!!


甲高い音が鳴り響いた。
1度では終わらず、続いて2発、3発、4、5、678…。

15発程聞こえただろうか。
時間にすれば、3秒もたってはいない。
人間大の物質が、約5mの距離を、3秒とかからず7往復程した計算になる。
それを成すには、どれほどの速さが必要なのだろうか。

それを成した少女、マヤは、もはや原型を留めていないドラム缶の残骸を見ながら、
そっとため息をついた。






*






「やっぱり、ちょっと攻撃力が足りないわね」


俺の練習を見守っていたマミが、結果をみてそう言ってきた。


「やっぱり、そうかな?」

「ええ。
 身体能力で言えば、私よりもずっと高いのだけれどもね。」


今俺たちは、マンションの近くの高架線の下で、魔法の使い方について実験をしていた。
俺の使える魔法は、変身能力と身体能力の強化のみ。
マミの言うとおり、身体能力はマミよりも高いが、いかんせん火力が低い。
人として見れば十分なものだったが、魔女と闘うとなると少々心もとない。
マミとは違い、俺は魔力を身体の維持に使用しているせいか、一定以上の魔力を出力することができなかった。


「変身能力を使えば、もう少し威力は上がるのでしょう?」

「確かに、筋肉を増やすように変身するとかすれば、多少は上がるけど…、
 やっぱり魔力と比べると微々たるものだよ」

「そう。…厄介な問題ね。
 燃費がいいのはいいことなのだけれど」

「でも、すぐにどうにかできる問題じゃないだろ。
 もう少し、考えてみるよ」


そう答えつつ、姿を私服へと切り替えた。
先ほどまでの厳めしい服装とは違う、一般的な女性用の服装。
それは、マミからもらった服だった。

俺的にはさすがに少し抵抗があるのだが、
恥ずかしいから自分のために服を買ってくれなんて、厚かましいことは流石に言えなかった。

そんな俺の姿を見ながら、それにしても…と、マミが切り出した。


「ん?」

「やっぱり男の子だったんだなって思って」

「何の話?」

「服よ。魔法少女としての格好のこと」


ああ、と納得する。俺の変身時の服装は、マミと違い無骨なものだ。
マミの服は所々に意匠が凝らしてあり、マミの姿と相まってとても愛らしいものだ。
しかし、俺の服装は生前の趣味であったゲームの主人公を模したものだった。
ダークヒーローと呼ばれるそのキャラは、常に黒い服装を身に纏っており、
それを真似したマヤの服装は、間違いなく少女ではなく、少年の嗜好と言えた。


「正直、魔法少女には見えないわよね」

「何を今更。
 マミの銃を使った戦い方だって、魔法少女には見えないじゃないか」

「それにしても、よ」


マミの言いたいこともわからないでもないが、やはりそこは元男の子。
カワイイよりは、カッコいいと思われたい。
マミはあれでカワイイもの好きだから、あまり気に入っていないのかもしれない。
しかし、マヤも心底から少女になったわけではない。そこは大目に見てほしいところだ。


「…でも、あれはあれでカッコいいわね」

「マミ?なにか言ったか?」

「いえっ!なんでもないわ!!」


そうして、じゃれあいながら、少女達は自らの『家』へと帰っていった。






*






今日も高架線の下を、ドラム缶がはじけ飛ぶ音がする。
昨日と異なるのは、そこにいる少女が1人しかいないということ。
今は平日の昼。マミは学校に行っていた。


「ふぅ」


練習を始めてから、3時間程経っただろうか。
戦闘訓練を開始してからすでに1ヶ月が経過している。
身体強化能力はもはや問題なく使えるようになっていた。
変身能力も、手足など末端部分のみの変化であればとくに支障はない。
火力についても、追々なんとかなるだろうと考えていた。


――それが、どんなに甘い観望かも知らずに。


生前に措いても、ろくに喧嘩もしたことがないマヤは、気づかなかった。
普通の人間ではありえない力に酔っていたこともあるのだろう。
あまりにも少ないマヤの経験では、察することはできなかった。
その楽観的な嗜好がどれだけ危険なものなのかを。






マンションへの帰宅途中に、最寄の公園に入っていく。
体の熱が冷めるまで、特になにもせず、ぼーっと風景を眺めていく。
戦闘訓練の後は、そうして寄り道するのが日課だった。
その日もベンチに座り、何も考えずにたたずんでいると、


「ねえちゃん、なにやってるんだ?」


近所の子供だろう。
まだ小学校にも入っていないだろう、見るからにヤンチャな男の子が声をかけてきた。
ねえちゃん?……あぁ、俺のことか。


「俺のこと?」

「あぁー、ねえちゃん、俺なんて言っちゃだめなんだぞ。
 女の子は私って言うんだぜ。そんなことも知らないんだぁ」


ねえちゃんは馬鹿だなぁとでも言いたげな目で見てきやがった。
相手は子供、相手は子供と頭の中で繰り返すが、なんと言うか子供特有の表現が微妙にむかつく。
そんなこと知ってるよとでも返してやろうかと思ったが、流石に大人気ない。


「俺は特別だから、俺って言っていいんだよ」

「とくべつぅ?」

「そうさ。
 実は俺は、……この町の平和を守る正義の味方なのだ!!」


………………。
なにかやけに静かな時間が過ぎた気がする。
せっかくポーズまで付けてやったのに、失敗したか。
男の子は皆、バッタ怪人は好きだと思ったのに、…知らんのか?
技の1号と力の2号。2人の力を受け継いだ技と力のV3。完璧なポーズなのに。
…ジェネレーションギャップ。にくいぜ。


「…す、すっげぇ~!!」


なんだ、感動して声が出なかっただけか。
流石V3だ。


「ポーズはダッセーけど、正義の味方なんだ!!」

「………」


目がキラキラしていた。
俺の反論をすべて封じる力を持った視線だ。
ちっ、平成ベイビーめ。
今日は勘弁してやるが、いつかV3の雄姿を叩き込んでやる。



少年。コータはどうやら同じマンションに住んでいるらしい。
たまたま公園に遊びに来て、ベンチを占領していた俺が気になったらしい。
一緒に遊んでいた友達は帰ってしまったらしく、暇だったとのことだ。

母親が帰ってくるまで時間があるらしいので、仕方ないから一緒に遊んでやった。
仕方がないからだ。
V3を馬鹿にされたから、鬼ごっこでは速攻で捕まえてやった。
大人気ない?聞こえんなぁ。



17時になり、空が赤く染まるまで全力で遊び、コータは笑いながら帰っていった。
友達が帰ってしまい、寂しそうにしていたからな。元気になってくれてよかった。


俺も帰ろうかと、公園を出ようとしたその時――。


突然、左目が疼きだしたのを感じた。


「この感じ、…まさか、魔女!?」


嫌な予感がする。
全速力で魔女の気配が感じた方向に走った。

公園を出て少ししたところで、
ふらふらと路地裏へと歩いていく子供の姿が目に映った。
100m程先だが、やけに気にかかる。


――あれは、コータ!?



全力で追いかけ、路地裏に入る。


「コータッ!!!」


が、フッとその少年は消えてしまった。
…結界だ。間違いなく、魔女の結界に取り込まれてしまったのだろう。

焦った俺は、矢も盾もたまらず、急いでその結界内に飛び込んだ。
魔女が現れたら、マミに連絡するという忠告も忘れて。






*






その結界の中は暗かった。
暗色系の色を混ぜ込んで作り出したような、マーブル模様の空間。
その中に一部だけ普通の空間が存在している。
広い砂地の庭に木造の建物。
建物の窓から中を覗けば、均等に並べられた机。そして壁には大きな黒板が見えた。

田舎の学校だろうか?
砂地もグラウンドと考えれば、そこそこ広いことにも納得がいく。

魔女はどこだ?
結界の中は、魔女どころか使い魔も見当たらない。


いや、いた。
木造校舎の屋根の上。
少女のような姿をした魔女がうずくまって座っていた。
見た目はただの少女にしか見えない。
しかし、ソウルジェムの反応を信じれば、間違いなく魔女だ。


とりあえず今は反応がない。
注意は払う必要があるが、置いておこう。

それよりも今はコータだ。
コータはグラウンドの中心で、グッタリと横たわっていた。


「コータ」


駆け寄って揺さぶると、コータは薄っすらと目を開けた。
意識は朦朧としているようだが、問題ないようだ。
魔女のくちづけは受けているが、自分で動けるようだ。


「ねえ、ちゃん…?」

「大丈夫だ。今、助けてやる。
 動けるか?」

「ここ、どこ?…こわいよぉ」

「いいから、落ち着け。大丈夫。大丈夫だ。
 動けるか?」

「うん」


少しは落ち着いてくれたようだ。
今は逃げよう、と思い、コータを抱えようとした、その時。

地面から巨大な口が飛び出てきた。

コータを気遣っている暇などない。
急いでコータを抱えその場から飛びのいた。


地面から飛び出てきたのは、2mはある巨大な唇がついた顔。口の中は鋭い牙が並んでいる。
そこだけ見れば色違いのパックンフラワーのようだ。顔には唇しかついていない。
全身を見ると、『それ』は四足獣のようだ。
四肢の先端は全て金属バットのようなものでできている。
そして『それ』の周りは小さな人形が2体、宙に浮かんでいた。


――魔女だ。


それはソウルジェムの反応からもわかる。
だが、屋根の上にいる奴も、…魔女だ。


1つの結界の中に2体の魔女。
こちらの手にはようやく動けるようになったコータ。
…どうする?いや、やるしかない。

少し下がり、コータに告げた。


「コータ。ここから動くなよ。
 今俺が、あいつらをやっつけてやるから」

「うん!」


現金なものだ。もう元気になって目を輝かせている。
これは恥ずかしいところは見せられないな、と気を引き締め、
敵にむかって全力で走り出した。



――さぁ、戦闘開始だ!!!



- To Be Continued -




■後書き
長くなったため、分割します。
後書きは第1章 第4話にまとめて書きます。



[27726] 第1章 - 魔法少女達の出会い - 第4話 【投稿日:2011/05/25】
Name: ZACK◆b2515568 ID:5be0c2e0
Date: 2011/05/26 08:11
一足飛びで敵に向かって駆け抜ける。向かう先は、


大口の魔女。


俺に出せる全力の速度を乗せて一撃を食らわせてやる。
鈍重な魔女だ。速攻で、ケリを付ける。

様子見も何もいらない。全力を込めた右ストレートを放つ。
しかし、死角となった右側から、衝撃が走った。


「くっ!」


2体の使い魔の片割れだ。
50cmほどの少女型のビスクドール。
のっぺりとした顔が、こんな場だとたまらなく恐ろしい。
ポニーテールの人形と黄色いリボンでハーフアップにした人形。

今攻撃を加えてきたのは、ポニーテールの人形だ。

それならそちらか壊してやる。
思いっきり振りかぶり、全力で攻撃する。

しかし、またもや逆側から衝撃が走った。

今度はハーフアップの人形だった。


傍から見る人がいればすぐに気づいただろう。
マヤの攻撃は全てテレフォンパンチだ。
経験不足を如実に物語っている。

ましてや、敵は曲がりなりにも連携している相手だ。
大口の魔女を攻撃しようとしたら、ポニーテールの使い魔が、
ポニーテールの使い魔を攻撃しようとしたら、ハーフアップの使い魔が死角から攻撃してくる。
ならハーフアップの使い魔を攻撃しようと思っても、
ハーフアップの使い魔は、ほかの奴らよりも単純に素早かった。

それこそ傍から見ていれば簡単にわかる単純な連携だが、
経験不足な上、初めて魔女と対峙したマヤでは、それすらもわからなかった。






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   第1章 - 魔法少女達の出会い - 第4話






大口の魔女に殴りかかった。
ポニーテールの使い魔に跳ね飛ばされた。

ポニーテールの使い魔に殴りかかった。
ハーフアップの使い魔に腹を強打された。

ハーフアップの使い魔に殴りかかった。
簡単によけられ、無様に地面にこけた。


――なんで?なんでだよ!?


マヤは焦っていた。
なんとかなる。そう思っていた。
火力は足りなかったが、それでもドラム缶を原型がなくなるほど、強打することができた。
戦闘に直接役立つとは思っていなかったが、変身能力なんて力も得た。
いきなりマミみたいになれるとは思っていなかったが、
なんで、なんで使い魔1匹倒せないんだッ!!?


焦った攻撃は更に大振りになっていく。
大振りになった攻撃は更にあたらなくなっていく。
完全な悪循環だった。


「ねえちゃん……」


コータの声は、もはや今にも泣き出しそうだ。
泣きたいのはこっちのほうだ。と思う余裕すらない。


「大丈夫だから!安心しろ!!」


叫ぶ。どうやったら安心できるのかと頭によぎるが、そんなものは無視する。
今はコータを落ち着かせなくてはならない。
なんとか考えることができたのは、それだけだった。


だが、その思考すらも焦りを招く。
大技をぶち込んでやろうと渾身の力を込めて、踏み込もうと力を溜めはじめた。
ポニーテールの使い魔も、ハーフアップの使い魔も、
奴らの攻撃がこちらに当たる前に、大口の魔女を倒せばいいという考えだ。
最高速で飛び込み、スピードに乗せた、最大の力で魔女を殲滅する。
そのために、力を溜める。


大口の魔女が何かしようとしていることにも気づかずに。


力は臨界点まで溜まり、…その力を、解き放った。


弾丸の如く速度で大口の魔女に接近する。
使い魔達の位置からでは、迎撃は間に合わない。
今度こそ成功すると確信し、その右腕を振りかぶった。




そして…、気づけば地面に寝転んでいた。




最高のスピードを乗せた右ストレートが直撃する寸前、
大口の魔女が口から巨大な『声』を発したのだ。
その『声』は、マヤを弾き飛ばし、コータのいる場所まで飛ばすほどの威力があった。

だが、その『声』の本当に恐ろしいところは、威力なんかではなかった。





「ね…………ん、ね…ちぇん。だい……ょ…ぶ!?」

「……っ!!」


一瞬意識が飛んでいた。
コータの声で目を覚ます。だが…、
マーブル模様だった空が更に歪んで見える。
空だけではない、コータも魔女も全てだ。

視覚だけではなく、コータの心配する声も、耳鳴りでよく聞こえない。

感覚が狂わされていた。
視力、聴力、それに伴って距離感も滅茶苦茶だ。


「いいか、コータ。俺は大丈夫だから、安全なところまで下がるんだ」


もはやそれしか言えない。
ここにいてはコータを巻き込んでしまうと考え、魔女に向かって駆け出した。

だが、おかしい。
魔女に向かっているはずなのに、遠ざかっている気さえする。
距離感が狂わされたからか?
いや、おそらく方向感覚まで狂っているのだろう。
まっすぐ進むこともできないらしい。

気づけば目の前が地面だった。
途中でこけたことにも気づけない。

このままじゃまずい。

だが、こんなチャンスなのに、奴らは攻めてこなかった。
もしかしたら、迎撃しかしてこない奴らなのだろうか。

立ち上がると、少し感覚が戻ってきていた。
視界が安定してきており、空も普通に見えてきている。
大口の魔女も…、


大口の魔女がいない。どこだ。――――?






――っ!下か!?


最初の時のように地面から飛び出してくるつもりかもしれない。
急いで地面を確認する。だが、いない。
なら、どこに?

マヤの勘はそこまで外れていなかったようだ。
不意に地面から大口の魔女が飛び出して来た。
だが、そこはマヤの真下ではない。随分離れた位置から、飛び出してきた。
地面に隠れていたのは間違いないようだが、…なにがしたかったんだ?


視力は少しずつ回復してきている。まだよく見えないが、奴の唇の色が変わっているような気がする。
口紅でも塗ったような…。何かの技の前兆か?


警戒心を更に高めて、――ふと気づいた。



――コータは?



あの子がいない。
安全なところまで下がっているように言ったのに。
目の届かないところまで逃げてしまったのだろうか。

それならそれでいい。
マヤの感覚も少しずつ戻ってきている。。
奴との距離感も正確に把握することができる。
今度は奴の罠に掛からないように集中しなくてはならない。


感覚がまともに戻ってきた。


視力が戻る。
奴の唇が震えているのが見えた。否、唇だけではない。口全体がモゴモゴと動いている。
やはり唇の色も変わっていた。
予想通り何か大技でもだそうとしているのだろうか…?


聴力が戻る。
奴の方から微かに音が聞こえてくる。言葉で表すのが難しい、なんとも言えない音だ。
クチュクチュと水っぽい音も聞こえる気がする。
唾液でも集めているのだろうか…?
だとすれば、あの距離からでも可能な遠距離攻撃の類か。


距離感が戻る。
奴が飛び出してきた場所は、さっきまで俺が立っていた場所か?
そう遠くはない。一足飛びで攻撃することはできないが、飛び道具ならすぐ届くような距離。
となればやはり遠距離攻撃。


感覚は戻ったが、まだ素早く動くことはできそうにない。
避けることができなければ、受け止めるか弾くかするしかない。



そして…。


「――ッ」


プッという音と共に、奴の口から球状の物体が高速で飛来してくる。

――予想通りだ。

予想より多少速いが、簡単に弾くことができる程度の速度だ。
左手で弾いて、奴との距離を詰めようと決め、奴の弾を弾き飛ばそうとした。


「――――?」


左手はもう止まらない。振りかぶった腕を振り下ろした。
だが、なんだろう。奴の弾に見覚えがある気がする。

左手を振り切った。
奴が放った弾は、地面に小さくバウンドして、コロコロと転がっている。

奴に向かって走りだすこともできず、つい視線をそちらに向けてしまう。
そこから…。








――――――首だけとなったコータが、虚ろな目でこっちを見ていた。







「――――――ッッッ!!!!!」



声にならない悲鳴が、口からこぼれた。
一瞬で本能が状況を理解した。だが、理性はそれを拒む。
だから何度も、何度も見た。しかし、間違いない。
コータだ。

一見してさっきまでの少年と同一人物かわからないほどに表情が歪んでいる。
恐怖の為か、目は限界まで見開いており、苦痛のためか口からは舌が飛び出している。
もはや何も写すことはない、その瞳は、まるで、なぜ助けてくれなかったのかとセメテイルヨウデ…。


「ウッ――!!!」


喉まで込み上げてきた吐き気とともに、全てを吐き出していた。
吐瀉物も、涙も、弱音も、全て。


「ッッ、ゥグッ!!なんで、グッ!!ナンデッッ!!!?」


慟哭が止まらない。
全てを投げ出して、うずくまった。



――隙だらけだった。ここは戦場だというのに。



大口の魔女が、マヤをその口の中に捕らえようとした、瞬間。




轟音とともに、豪雨の如き弾丸が、魔女と使い魔を襲った。


「マヤッ!!!」


それを間に合ったと言うべきなのだろうか。
それを間に合ったと言ってもよいのだろうか。
そこにいたのは、魔女の反応を捕らえて駆けつけたマミだった。


マミは状況を確認し、まず魔女を排除しようとする。
…が、そこで時間切れとなった。


魔女の結界が閉じていく。

木造の校舎が遠ざかり、魔女達は消えていった。
マーブル模様の空が暗く染まり、そして幕が下ろされた。



  - FIN -






*






路地裏にいたのは、マミとマヤだけだった。
コータの首は、結界の中に取り残されてしまった。
それを後処理に困らなくてすむなんて、心によぎってしまう自分を詰り、
マミはマヤに声をかけた。


「…マヤ」

「…なんで、あの子だったんだろう?」


その質問は、誰に向けたものでもなかった。


「なんで、俺なんだろう?
 俺なんて、碌に喧嘩もしたこともない、ただの雑魚なのに…」

「………」

「マミもあるんだろう?こんな風に助けられなかったこと…」

「…、ええ」

「だったら、なんで、なんで続けてられるんだよ、こんなこと」

「…、魔法少女は、命懸け。そして、死と隣り合わせのものよ。
 私の場合は、考えてる余裕さえなかったけど、願い事をかなえてもらった。
 それと引き換えに、魔法少女をしているわ」

「やめたいって思ったことはないのか…?」

「…、あるわ」

「なのに、まだ続けるのか?」

「…、ええ」

「できない。俺には出来ないよ…。俺は、俺はマミみたいに、…強くなんか、なれないッ!!!」


そういい残して、マヤは走り去っていった。
路地裏に残っているのは、もはやマミだけ。
そこは、静けさに満ちていた。




「私だって、…強くなんか、………ないわよ」



静寂の中に響いた、吐き出すように搾り出されたその声が、走り去ったマヤの耳に届くことはなかった。



- To Be Continued -




■後書き

【使用テンプレ】
・トラックに轢かれそうな女の子
・助けたせいで死亡
・死後の世界で神様と遭遇 → 転生させてあげるよ
・転生後の体験のせいで、トラウマ(暗い過去)を持つオリ主
・転生 オリ主 TS → 魔法少女化フラグ
・左右の目の色が違うのは基本です
・転生先は実験体
・銀髪に眼帯
New!! 「左目がうずきだす。この反応、ヤツか」
      どう見ても邪気眼です。本当にありがとうございました。


【ゲストキャラ】
◆カケラの魔女 / フレデリカ
膝に顔を埋めた姿をした、少女型の魔女。
結界内にある学校の屋根の上に座り続けているため、顔が有るかは不明。
性質は諦念。
時に囚われた魔女。結界の中は一定の間隔で時間がループしている。
カケラの魔女自身は動くことはほとんどない。
並行世界の魔女のカケラで、細分化されて力が弱くなったことで契約に囚われ、魔女になってしまったとの説が有る。
いつから存在し、誰がその説を提唱したかは不明。
いつの間にかこの世界に存在し、誰からともなくその噂が広まった謎の魔女。
その説によれば、本体となった魔女は奇跡の魔女とも呼ばれる世界で一番残酷な魔女らしい。


口説[くぜつ]の魔女 / K
顔を覆うほどの巨大な唇と、四肢の先端が金属バットになっていることが特徴の魔女。
性質は扇動。
長い時を経て、魔女となった元カケラの魔女の唯一の使い魔。
純粋な魔女ではないため、魔女なのに男性型。
その巨大な唇から発する音は、人の感覚を惑わせる。
カケラの魔女を守るために存在しており、魔女として独立した今も、カケラの魔女を守り続ける。
Kという名は、カケラの魔女によって歪められたものであり、本来の魔女としての名前が別にあるらしい。

※口説:言葉。弁舌。また、口先だけのもの言い。

◆Me
口説の魔女の手下。双子の姉。
その役割は、Kを傷つけるものを排除すること。
Meという名は、カケラの魔女によって歪められたものであり、本来の使い魔としての名前が別にあるらしい。

◆She
口説の魔女の手下。双子の妹。
その役割は、Meを傷つけるものを排除すること。
Kは割とどうでもいい。
Sheという名は、カケラの魔女によって歪められたものであり、本来の使い魔としての名前が別にあるらしい。

◆登場元作品
・ひぐらしのなく頃に
・うみねこのなく頃に



と、いうわけで、第1章 第3話、第4話を一気にお届けしました。
推敲が足りていないかも知れないので、後ほど確認して、誤字があれば修正します。
ゲストキャラはあくまでゲストです。
今後本編とクロスするなんてことはありません。
ゲストキャラの場合、極力ネタバレしない程度にしています。


ちなみにこの小説でMary Sueテストをしました。
129点でした。この小説は黒歴史になるのでしょうか?

※125~150点
・あなたの小説を読む人に、精神科医の役を押しつけないようにしましょう。
・類は友を呼びます。放っておくと悪化するばかりです。
・現実はあなたが思っているほど敵意に満ちてはいません。



[27726] 【NEW!!】第1章 - 魔法少女達の出会い - 第5話 【投稿日:2011/05/26】
Name: ZACK◆b2515568 ID:5be0c2e0
Date: 2011/05/26 08:21
1人、フラフラと歩き、結局気づけばいつもの公園のベンチに座っていた。
帰らなきゃと思うが、動くことができない。
いや、どこに帰るというのだろうか。
マミにあんなことを言ってしまった。
マミだって何も思っていないはずはないのに。


――マミ、泣きそうだったな。


そう。冷静になって思い返してみると、最後の台詞をマミに叩きつけた時、
間違いなくマミは傷ついた顔をしていた。
…いや、していたではない。そんな顔に、俺がさせたんだ…。

マミみたいになれない…か。

今でもそう思っているのは、間違いない。だが、
…俺が、マミの何を知ってるんだろう。

知り合ってまだ1ヶ月程度しか経っていない。
その間に、俺はどれ程マミのことを知れたのだろうか?
いや、そもそも知ろうとしたのだろうか?
久しぶりの人間の身体で、幸せに浸って、甘えていただけなんじゃないか。
自分が不幸であることに酔って、自分は幸せになる権利がある。幸せになることが当然なんだ。なんて考えていたんじゃないか?
マミだって、まだたった14歳の女の子なのに…。

俺が魔女と戦うということを、もっとキチンと認識していれば、…もっと強くなろうと考えていれば、
こんなことにはならなかったんじゃないだろうか?
マミに甘えたりせず、もっと貪欲に強さを求めていれば…。
そうすればコータだって………。


「………、コータ」


駄目だ。マイナス思考から抜け出せない。
自分が益体もない考えをしていることは自覚していた。
全て今更だ。
今更そんなこと考えていたって、もうどうしようもない。
そんなことはわかっていたが、考えるのをやめることはできなかった。


「――あの、すみませんっ!!!」


そう、声を掛けられたのは、そんな考えに囚われてから、1時間程たった時だった。






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   第1章 - 魔法少女達の出会い - 第5話






俺に声を掛けてきたのは、30歳くらいの女性だった。
エプロンをつけたまま、サンダルを履いただけの格好で、おそらく主婦であろうその女性は、ひどく憔悴していた。
普段ならやさしい微笑みが似合いそうなその顔に、焦りを貼り付けて、声を強張らせてその女性が聞いてきた。


「あの、この辺で、コータを、男の子を見ませんでしたか?
 5歳くらいの、活発な子なんですけど…」

「――――ッ!!!」


その女性は、コータの母親だった。
コータが帰ってこないことを心配して、探しまわっていたのだろう。
今は21時。コータが帰ろうとしてから4時間は経っている。
あれからずっと探し続けていたのだろうか。
その疲弊した様子をみれば、この人がどれだけコータを大切に思っているのかがわかる。

…俺はこの人になんと言うべきなんだろう。なんと言えるのだろう。


「あの、貴女、夕方頃にコータと遊んでくれていた人ですよね!?
 あの子、この公園で、銀髪の女の人と遊んでたって。
 あの子がどこに行ったか知りませんか!!?
 お願いです!!教えてください!!?」


ああ。こんなに必死なのに。
誰よりもコータを心配しているのに。
こんな人に対して、俺は、自分を護るための嘘しか言うことはできないんだ…。


「…コータなら、17時頃に家に帰るって…。
 この公園で別れて、それっきりです」

「それ、本当ですか!!?
 あの、他に、他に知っていることはないですか!!?
 あの子、本当に家に帰るって言ってましたか!!?」

「……ごめん、なさい」


その瞬間の様子をなんと言えば表すことができるだろうか。
俺の言葉に、女性は落胆し、全ての力が抜けたようだった。

…きっと、この人は、ずっとコータを探していたのだろう。
その中で、銀髪の女が公園でコータと遊んでいたのを聞いて、それが、最後の希望だったのだろう。
その希望を、俺が、刈り取ってしまったんだ。


「……そう、………ですか」

「…ごめんなさい」

「…いえ、…いいん、です。
 変なことを聞いてしまって、ごめんなさい。
 
 あの、どこかでコータのことを見かけたら、教えてください。
 これ、電話番号です」


そう言って、俺に電話番号の書かれた紙を渡した女性は、フラフラと公園を後にした。

これからあの人はどうするのだろうか。
コータは二度と帰ってこない。帰ってくることはない。
なのに、あの人はそれを知ることはなく、この先ずっと、コータを待ち続けるのだろう。

俺はどうすればいいのだろうか。
本当のことを伝えればいいのか?
だが、それが何になるというのだろう。
この世界には魔女という存在がいて、コータはその魔女に食べられてしまいました。
俺の力が不足していたせいです。ごめんなさい。

と、でも言うのか?
馬鹿なことを。自己満足にすらなりはしない。
もう、どうしようもないんだ。
コータも、あの人も、もう救うことはできない。
その事実だけが、心に重くのしかかっていた。






*






「見滝原署の者です。ちょっと署までご同行をお願いします」


そう言われ、警察署に連れて行かれたのは、2日後のことだった。

任意同行だ。
恐らく、行方不明となったコータと最後に接触した人間ということで、調べられているのだろう。
聞かれるのは、別れるときのコータの足取りが中心だった。
しかし、名前を聞かれてつい答えてしまったのは失敗だった。

巴マヤという人間はこの世に存在しない。

警察ほどの組織であれば、そのことにも気づくかもしれない。
行方不明者と最後にあった人間が、聴取で嘘をついたとなれば、それを疑わないはずがない。
面倒なことになるな…。




そう考え、対処方法を考えていたが、次にきた面倒は、想定外のものだった。




警察の聴取も終わり、俺はまた公園に来ていた。
いい加減、家に帰ったほうがいいのかもしれない。
だが、マミのことも、コータのことも、コータの母親のことも、未だに考えがまとまることはなかった。
だから、今もまた、ベンチに座り、佇んでいる。
それが何も生み出さないことを知りながら、考えるフリをして、本当に考えることを放棄している。
そのことから、全力で目をそらしていた。


新たな面倒が発生したのは、そんなときだった。


「ここが、事件が発生した公園です」
「閑静な住宅街にある、この小さな公園で、男の子は姿を消しました」
「一体ここで、何が起こったというのでしょうか?」


公園の中に、大勢の人間が入ってきた。
10数人程だろうか。
マイクを持った女性を中心に、何かをしている。

マスコミだ。
なにか、打ち合わせをしながら撮影しているところを見ると、生放送ではないのだろう。
だが、面倒なことは確かだ。
そう思い、公園から出ようと考えた。


「おい、あの子。行方不明になった子と最後に遊んでたって子じゃないか?」
「ん?あの銀髪の子か。確かにそんな子は早々いないしな」
「へぇー。結構かわいいじゃん」
「あんな子が最後の目撃者か。こりゃ、おいしいな。結構数字とれるんじゃねぇか?」


はっきりと下卑た声を聞き取った。
どうせ聞こえないとでも考えたのだろう。
だが、この身体はただの人間ではない。
聞きたくない声まで聞き取ってしまう。

イライラを募らせながら、早々に立ち去ろうとしたが、一歩遅かった。


「ああ、ちょっと待って。
 少し時間いいかな?」


リポーターと思われる女性が声を掛けてきた。
既にカメラはこちらに向けられている。

鬱陶しい。

そう思い、全て断って帰ろうと思った。
これ以上ここにいてもなにもいいことはない。
1人で考えていても、何にもならないことがよくわかった。

マミに会いたいな。


「ごめんなさい。急いでいるので」

「そんなこと言わないで。ちょっとだけでいいから。
 貴女、一昨日ここで行方不明になった男の子と最後に遊んでいた子よね?
 そのときの様子を教えてくれるだけでいいの。
 その子、そのときどんな様子だった?
 家出とかしそうな感じじゃなかった?」


矢継ぎ早に尋ねてきた。
最初の確認はなんだったんだろうか?
質問内容にしてもひどいものだ。
これをそのまま放送するつもりだろうか?
それとも自分の質問の部分だけ編集して、当たり障りないように放送するのだろうか。
そもそも俺を馬鹿にしているのだろうか?

更にイライラが募る。


「あの、どいてください。家に帰りたいんです」

「もう。ちょっとくらいいいじゃない。
 貴女と遊んでいた男の子が今行方不明になっているのは知っているでしょ?
 そのことについて、今どんな気持ちかな?」


なんなんだろうか、こいつは。
何もかもが腹立たしい。
今どんな気持ちかなんて、聞いてどうするつもりなのか。
余りにも、酷すぎる。
まさかとは思うが、こいつ、こんな調子であの子の母親のところに行ったのだろうか。
もし、そうだとしたら…。


「……………」

「ったく。
 貴女ね、すぐ終わるんだからちょっとくらい協力してくれたっていいでしょ?
 子供が行方不明になっているのよ!!
 貴女が答えてくれれば見つかる可能性だって上がるとは考えないの?」


………。

こいつは、何を言っているのだろうか?
意味がわからない。
こいつに比べたら、まだあの『神』の言い分のほうが納得できるかもしれない程だ。
コータが行方不明であることについての俺の気持ちを言えば、コータが見つかるとでも言うのだろうか。
しかも、なんでこの女は自分が良いことを言っている。とでも言いたげな顔でこっちを見ているのだろう。
もしかして本気でそう思っているのか?
さっきから下心を隠しきれない顔で、優しげに語りかけてきていたのは、
本気で自分が優しい女なんだと思い込んでいたんじゃないか。

気持ちが悪い。
コータが死んで、コータの母親が悲しんで、なのになんでこんな女が幸せそうに生きているのだろう。

そうだ。コータじゃない。
コータじゃなくて…、





――オマエガシネバヨカッタノニ





左目から力が放出されたような感覚を感じた瞬間、
ドサッという音と共に、目の前にいた女が、糸の切れた人形のように倒れ伏した。


「…………、え?」


一瞬の静寂の後、辺りが騒然となる。
状況を確認する声、救急車を要請する声、怒号が周囲を錯綜していた。

一体何が起こったのだろうか?
訳がわからない。
訳がわからないが、ここにはいたくなかった。


騒然としたマスコミ達を尻目に、俺は足早に立ち去った。






*






いつの間にか、いつも練習をしていた高架線の下にいた。
雨が降り出したことにも気づかず、濡れた身体をそのままに、地面に座りこんでいた。

一体何が起こったのだろうか?
冷静になってから、考えてみても、結局訳がわからなかった。

死ねば良いとまで思ったのは確かだ。
だが、思っただけで人を殺すなんてありえるのだろうか?
そんなこと…。


「あるよ」

「……。キュゥ、べえ?」


そう声を掛けてきたのは、この半月ほとんど家に帰ってこなかった、キュゥべえだった。

今まで一体なにをしていたのだろうか?
それも聞きたいことではあったが、今はそれよりも重要なことができた。


「あるって、…なにが?」

「思うだけで人を傷つけてしまうってことさ。
 それは、君の力なら、確かにありえることだよ」

「力?
 …でも、俺の力って言ったら、身体能力の強化と変身能力しか…」

「僕も、そう思っていたんだけどね」

「だったら」

「ねえ、マヤ。
 マヤは今まで能力を使ってきて、自分のソウルジェムが濁ってきたと感じたことはあるかい?」


急に話を変えないでほしい。
俺の力の話はどうなったのだろうか。
しかし、ソウルジェムか。
そう考えてみると、俺のソウルジェムが濁ったことは…、


「…ない、かな」

「やっぱりね。
 おかしいとは思ったんだ。
 マヤのソウルジェムは最初から真っ黒だっただろ」

「ああ」

「確かにソウルジェムの色は魔法少女によって異なるものだ。
 でも、それが黒に染まることなんて、今までなかった。
 
 君のソウルジェムの色は、君の絶望の深さを表しているのさ。
 君の祈りが叶った後も、君の絶望は変わることがなかった。
 
 つまり、君のソウルジェムは、濁らないんじゃない。
 最初から濁りきっているのさ」


その言葉に、反論することはできなかった。
確かにその通りだったから。
魔法少女に生まれ変わって、人間のような身体を持って、確かに幸せだと思っていた。
生きることができるだけで幸せだと。
だが、そんなもの誤魔化しにすぎない。
本当はわかっていた。気づいていた。
生きることが幸せだと思っていたわけではない。
生きていれば、あの地獄よりはマシだと思っていただけだった。

俺はまだ、…あの絶望から抜け出せてなんかいなかった。


「でも。…それなら。その、俺の力って」

「今回の件について言えば、力と言うほどのものじゃないよ」

「え?」

「恐らく君の負の感情に引きずられたんだろうね。
 君が抱いた感情が原因で、箍が外れて、絶望の力が少し漏れてしまっただけだと思うよ」

「漏れた、だけ?」

「正確に言えば、君の無意識が絶望の力を操って、魔法として現出した。と、言えるかな」


感情に引きずられた、か。
そんなのどうすればいいんだろう。
今後俺が憎く思った相手は、その度に死んでいくのかな…。


「…キュゥべえ。俺は…どうすればいいのかな?」

「それを僕に聞かれても困るよ。
 人間の感情なんて、僕が一番知りたいものなんだから。
 
 …でも、君が完全に力を制御できるようになれば、特に問題は起きないんじゃないかな」

「魔法少女としての実力が上がればってことか?」

「君の場合は…、どちらかといえば精神力を鍛えれば、力はコントロールできると思うよ」


精神力、か。
どの道今の俺では、魔女どころか、使い魔を倒すことすらできていない。
となれば、やはり1から鍛えるしかないのかもしれない。
マミのこと。コータのこと。コータの母親のこと。警察のこと。マスコミのこと。
色々と問題も起きてきたし、丁度いいのかもしれないな。

そう考えて、しばしその考えが間違っていないかを検討してみる。
……それしかないか。




「キュゥべえ。頼みがあるんだ」






*






「上海!?」


リビングの中に、マミの声が響く。
唐突なのは自覚していたので、仕方がないとは思うのだが。




あれから俺は、結局マミの家に戻り、シャワーを浴びた後、マミに全てを説明していた。
コータが死んでから、俺に起こったこと全てを。

そして土下座と共に謝罪した。
マミに甘えていたこと。マミを傷つけてしまったことを。

最初こそうろたえていたが、俺の言葉を聞き、最終的には謝罪を受け入れてくれた。
その時に、俺はこう切り出したのだ。


「実は俺、しばらく上海に行こうと思うんだ」


と。
……やっぱり唐突すぎたかな。
折角仲直りをしたのに、いきなり出て行きますと聞こえたかもしれない。

そのことに思い至り、俺はあわてて説明を始めた。


「っと言ってもしばらくの間だからな。
 俺が力も、経験も、精神力も足りないってことは、今話しただろう」

「…ええ」

「だから、全て一から鍛えようと思って…。

 キュゥべえに紹介してもらったんだ。
 俺と同じ様に、魔法じゃなくて、身体能力を中心として戦う魔法少女のことを」

「その人がいるのが、上海ってこと?」

「ああ。
 それに、警察やマスコミとも揉め事を起こしちゃったから、冷却期間も兼ねて、ね」


そう。その問題のためでもある。
結局あのリポーターの女は死んではいなかったらしいが、他の取材とかに対応する度にあんなことが起こるのも困る。

警察の方も、突然目撃者がいなくなるのを怪しむかもしれないけど、マミとの関連性を匂わせるのは、
名前しかないし、そこまでマミに迷惑がかかることはないだろう。
顔も似てるが、印象は大分違うと思う。


「そう。それなら仕方がないわね。
 それで、誰のところに行くつもりなの?」

「いや。それは、俺も聞いていない。
 正直名前を聞いてもわからないし。
 キュゥべえ。教えてくれるか?」

「いいよ。
 と、言っても多分マミなら知ってるんじゃないかな?
 魔法少女の中でも、有名な子だからね」

「え?
 上海の魔法少女で、身体能力が主体の、有名なって、…まさか。
 だって、もう10年も前の噂って聞いたわよ」


10年前に噂になった魔法少女?
それって10年前からずっと戦い続けてるベテランてことだよな。
たしかにそんな人なら頼りになるかもな。
もう、少女じゃない気がするけど…。


「そんなに有名なのか?キュゥべえ」

「まあね。マミはどこまで聞いてる?」

「そんなには知らないけど、確かほとんど魔法も使えないのに、たった1本の剣で、上海中の魔女を殲滅したって聞いたわ」


…マジかよ。
そんなに強い魔法少女に教われば、俺も…。


「でも、上海の魔女を殲滅した後、何の音沙汰もないから、死んだんじゃないかって話だったけど…」

「生きてるよ。
 自分の害になる魔女だけを狩るってスタンスだったから、それ以降は噂にならなかったんだろうね」


そうして、俺は心を決めた。
今までの弱かった自分を一掃し、強く、強くなろうと。
魔力で作った体だけではなく、技も、心も強くなって、そのとき初めて、マミの隣に立てると。
そう、思ったから。


「その人、どんな人なんだ?」


その質問は、キュゥべえにしたものだ。
だが、それに対する答えは、マミから出てきた。


「噂によって色々あったけど、どの噂にも共通しているものがあったわ。

 魔法でなく、1本の剣で魔女を屠る存在。
 魔力ではなく、中国武術の象徴とも言える気の力。内功を極めた、内家剣士。
 
 
 
 ――戴天流剣法を極めた存在。
    [コン]瑞麗[ルイリー]。人呼んで、……『紫電掌』」



- To Be Continued -




■後書き

【使用テンプレ】
・トラックに轢かれそうな女の子
・助けたせいで死亡
・死後の世界で神様と遭遇 → 転生させてあげるよ
・転生後の体験のせいで、トラウマ(暗い過去)を持つオリ主
・転生 オリ主 TS → 魔法少女化フラグ
・左右の目の色が違うのは基本です
・転生先は実験体
・銀髪に眼帯
・邪鬼眼の発症。



サイバーパンク武侠片『鬼哭街』
企画・脚本 / 虚淵玄 × 原画 / 中央東口

- 発売まで、後1日 -


と、いうわけで、第1章 第5話お届けしました。
上でちょっとばかし媚びてますが、次回は、鬼哭街とネタクロスさせようかと思っています。
知らない人でもわかるように、内容は話の中で説明していこうと思っていますが、
鬼哭街の確信的ネタバレになることは避けられないかと思っています。

ネタバレが嫌、という方は、是非ゲーム購入後にお読み頂ければと思います。

以上。宣伝でした。


ちなみに主人公は、身体能力強化を中心に育てていこうと思ったわけですが、
もし他の能力を選んでいたら、以下のようにルート分岐します。

・身体能力強化
 ⇒ 本編ルート。戴天流剣法を覚え、剣を使って魔女を殲滅します。

・変身能力強化
 ⇒ サヤの唄ルート。強力な力を得ますが、そのリスクとして身体が崩壊する可能性があります。

・絶望能力強化
 ⇒ 魔王マヤルート。絶望の力を完全に操り、人々だけでなく、魔法少女、魔女にすら恐怖を振りまきます。



(注意)
作中、マスコミを意図的に貶めておりますが、実際の取材方法とは一切関連ありません。
全て作者の妄想ですので、ご了承ください。
作者は別に右翼とかではありません。



[27726] 番外編 その1 - 神様 ≠ In QB - 【投稿日:2011/05/15】
Name: ZACK◆b2515568 ID:5be0c2e0
Date: 2011/05/20 05:58
■注意
この番外編は、本作序章にて主人公が転生する際に、神様がQBさんみたいな外道ではなく、
完全なテンプレ神様だった場合のIF物語です。
本編ではありません。
本編に煮詰まってしまったので書いた息抜きみたいなものです。
ご了承ください。


以下の点にご注意下さい。

・完全なテンプレ転生です。
 基本的な流れは以下のとおりになります。

 主人公死亡 → 神様謝罪 → 転生させてあげる → チートもあげる

・テンプレですが、やっぱりテンプレ通りにはなりません。
 テンプレ転生に対する1つの疑問を掘り下げてみました。

・シリアスにはなりません。

・序章 - 前編 -から分岐します。
 そのため、最初の方の描写は省略しています。

以上の点をご了承して頂けるかたは、↓にお進み下さい。






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   番外編 その1 - 神様 ≠ In QB -





「ボクは神だ」


その声を聞いたその時に、俺の未来は確定した。




そこは光1つささない場所だった。
自分の身体さえも見えない闇の中で、俺は得体のしれない存在と話していた。

『そいつ』曰く、俺は二次創作のテンプレよろしく、女の子をかばってトラックに轢かれたらしい。
確かにそんなことがあったような気がする。
かすれた記憶の片隅に残っていた情報を掘り返してみたが、間違いはなさそうだ。


(…なるほど、俺は死んだのか。)

「そう。君は死んだ。
 でもね、本来君はまだ死ぬ運命ではなかったんだ」

(………?ならなんで死んだんだ?)

「申し分けないけど、こちらの不手際としか言えないね。
 まあ、でも安心して。
 生き返らせることは出来ないけど、君の本来の寿命までは生きれるように、転生させてあげるから」


――うわぁ、テンプレだ。

とってもわかりやすい展開だ。
・・・だが、望むところだ。
こう見えて(…何も見えないが)俺は生粋のヲタクだ。
ありきたりのテンプレだって構わず食っちまう男なんだぜ――ッ!!


「それじゃ、そろそろいいかな?
 質問とかがなければ、転生処置を始めるよ」

(ちょっと待ったぁ!!)

「ん、質問かい?」

(チートはどうした?)

「は? ………なんの話だい?」


顔を見ることはできないが、どうやら相当あきれているようだ。
『神』にあるまじき、といってもいいくらいの呆けた感じの声がした。

どうやら全く理解できないらしい。
ここまでテンプレを用意しておきながら、それは故意ではなく偶然だったようだ。
だが、ここまで来ておきながらチートなしなんてのはゴメンだ!!


説明した。あふれんばかりの気持ちを抑えて、切々と説明した。
ここぞとばかりに、畳込むように、日本が世界に誇るヲタク文化では、
少女を助け、トラックに轢かれ、そして転生する人間には、神様が素敵な能力を提供する義務があるのだと――。


「ふうん――。
 やっぱり理解できないなあ、人間の価値観は」


30分は話続けただろうか。
ようやく納得してもらえたようだ。理解はしてもらえなかったが。
全く。『神』を名乗るくせに情けないやつだ。


「ふぅ。
 君の思考くらい読めるってことを忘れてるね?」

「まぁいいよ。
 そこまで言うなら、ボクが君の願いを叶えてあげる」


――マジカ!!


言ってみるものだな。と、ひっそり思いながら、
脳内の記憶領域から、叶えてほしい願いリストが即座に引っ張り出してくる。


「ただし、叶える願いは1つだけだ。
 それ以上は世界に負担を掛けてしまうからね」


むぅ、それじゃしっかりと吟味して…


「それと、もう転生処置は始まっている。
 後5分くらいで、君は転生する。だから、それまでに決めてね」


5分かよ――ッ!!


さすがにそりゃ短いぜ。
焦る。焦る。
焦りすぎて思考がまとまらない。
残り時間が刻々となくなっていく。


「ちなみに、君の転生する世界には、どうやらファンタジー要素があるみたいだね」


――何?
つまり、…………バトル物か!!?
それならば戦闘能力か?無限の魔力とか?
でも魔法がない世界だったら、魔力だけあっても無駄だしな。
そもそも本当にバトル物なのか?
バトルのないファンタジーだって……、ないかな?
あったとしても、どうせ人気がなくてテコ入れされるんだろうし、って、これは現実なんだった。
ジャ○プとは違うか。
それなら…。


(決めたぜ!!)

「そうかい。
 なら早く言ってくれるかい? 後15秒しかないよ」


うぇ!!?
もうそんなに時間がたっていたのか。


(よし。俺が欲しい能力は、――)






   - 無限の剣製だ -




そう、『神』に告げたのを最後に、俺の記憶は途絶えたのだった。






*






そして今、俺はここにいる。



俺が転生した世界は現代日本。
ファンタジー色の全くないこの世界で生きていた。

転生といっても俺は今17歳。
生まれてからこれまで生きてきた記憶はあるが、前世の記憶がよみがえったのはつい先ほど。
妹と妹の友達と一緒に、年下の友人に送るCDを買いに向かっているときだった。
どうやら今日、この日、この時。
俺が前世で生まれてから死ぬまでの時間分生きた今、ようやく前世の記憶が戻ってきたらしい。


「お兄ちゃん、急に立ち止まってどうしたの?」


そんな俺の様子に疑問を覚えたのか、妹が聞いてくる。


――急に前世の記憶が蘇って呆然としてたんだよ。


(言える訳ないだろそんなこと)


「ごめん、なんでもないよ」

「なんでもないなら、早く行くよ」


妹の友人も急かしてくる。
彼女の想い人でもあり、俺の年下の友人でもある少年に送るCDを、早く買いたくてしかたないようだ。
微笑ましくて、思わず口元がにやけてしまう。


「なによ!なに、ニヤニヤしてんのよ!?」

「なんでもない。なんでもない。
 愛しい彼のために、早く買ってあげたいんだろうなぁ。
 なんて思ってないさ」

「――なっ!!」


彼女は一瞬にしてりんごのように顔を真っ赤にした。
妹は、俺と同じような顔で、こっそりニヤニヤしている。
焦っているのか、怒っているのか。
妹とはしゃぎながら俺に文句を言ってくる彼女を尻目に、俺は歩き出した。



この平穏な世界で、チート能力も手に入れて、
前世は事故で死んでしまったけど、今度はきっと幸せになるだろう。
――そう思った。


「いつまで遊んでんだよ。 早く行こうぜ。」





――――まどか。さやか。





俺の名前は鹿目カズヤ。
妹1人、弟1人を持つ平凡な男子高校生だったが、
今日、この瞬間から魔術師となり、魔法少女達と激動の人生を駆け抜けていくことになる男である。




*




I am the bone of my sword.
(体は剣で出来ている)


お菓子で作られたような空間で、俺は詠唱を始めた。









あの日から、俺の日常は一変した。

まどかとさやかと一緒にCDを買いに行った日。
魔女と遭遇し、魔法少女と遭遇し、非日常に日常が塗りつぶされた、あの日から。


そこで出会った少女。――巴マミは言った。


この世界には、魔女と呼ばれる異形の存在がいる。
それだけでなく、その魔女と戦う存在がいる。

そして、彼女。巴マミは、キュゥべえと契約し、魔女と戦う人生を歩むと決めた、
『魔法少女』なのだと。


俺達。
俺とまどかとさやかは、あれから何度か彼女が戦うところを見た。
彼女曰く『魔法少女体験コース』とのことだ。


『無限の剣製』というチート能力もあったので、慢心していたのかもしれない。
魔法少女になれるわけもないのに、俺もマミを押し切って、体験コースに参加していた。
妹が心配だからと、それらしい理由をつけて。
なぜか、キュゥべえを見ることができた俺に、条件付きでマミは同行を許してくれた。

マミが付けた条件。
それは、「無茶をしないこと」「1人で魔女と戦おうとしたりしないこと」「まどかが魔法少女になる。あるいは、魔法少女にならないと決めたとき、カズヤは同行をやめる」という3つ。


今俺はその条件の内の1つ「無茶をしないこと」を破ろうとしている。


病院で見つけた、孵化しかかったグリーフシード。
それを見張っている内に、魔女の結界の奥まで迷い込んでしまっていた。

俺と一緒にいたキュゥべえの案内で、俺の元まで辿りついたマミは、
凄い勢いで、敵の使い魔を倒していた。



I am the bone of my sword.
(体は剣で出来ている)



戦闘はマミが優勢で進んでいた。
しかし、何が起きてもいいように、俺は詠唱を開始した。



Steel is my body, and fire is my blood.
(血潮は鉄で、心は硝子)


まどかとさやかが白い目で見てきた。
仕方がないと思う。
端から見たら、マミが真剣に戦っている横で、いきなり訳のわからない言葉を口走っているようにしか見えないだろう。


I have created over a thousand blades.
(幾たびの戦場を越えて不敗)


だが俺は真剣だ。


Unknown to Death.
(ただの一度も敗走はなく)


この力は気軽に使えるものではない。
使うとしたら魔女の結界内だけだろうと思っていたが、
・・・使うのは初めてだ。


Nor known to Life.
(ただの一度も理解されない)


そうこうしている内に、マミは魔女と戦い始めていた。


Have withstood pain to create many weapons.
(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う)


最初の内は、マミが放つ銃弾もかわされていたが、
どうやら本当に今日のマミは絶好調のようだ。
すぐに魔女を追い詰めた。


Yet, those hands will never hold anything.
(故に、その生涯に意味はなく)


そして、


「――ティロ・フィナーレ!!」


マミが必殺技を放ち、・・・。



その時は訪れた。



すべてがスローモーションで見えた。
ティロ・フィナーレで魔女を打ち抜き、リボンで拘束したその瞬間、
ファンシーな姿をした魔女の口から、ピエロの顔をした、蛇のような、芋虫のようなモノが、
大口を開けてマミに向かって伸びてきた。





――今しかない。


俺は長い詠唱を終わらせ、その力を解き放った。


So as I pray,UNLIMITED BLADE WORKS.
(その体は、きっと剣で出来ていた)




――瞬間、世界が切り替わった。
いや、塗りつぶされた。


カズヤを中心に炎が走る。
炎が通りすぎた場所から、世界が一変していく。
剥き出しの大地。赤茶けた砂。赤く燃え上がる空。
どこかから歯車の軋む音が聞こえてくる。


――そう、これこそが固有結界『無限の剣製』。


もっとも魔法に近き魔術にして、魔術師の到達点の一つ。
術者の心象世界をカタチにし、現実に侵食させる結界。

そしてその結界内の大地には、無数の『剣』が突き刺さっていた。



「―――――――――――――へっ?」



間の抜けた声が聞こえた。
辺りを見回す。
まどかも、さやかも、マミも、魔女ですらどこか呆然としていた。
さっきの声は誰のものだろうか?
いや、俺か?

辺りを見回す。
見間違いではない。

結界内の大地には、無数の『剣』が突き刺さっていた。

俺はおもむろに一番近くにあった『剣』を『ひろった』。
手のひらサイズのそれは、俺の手にフィットしてとても使いやすそうだ。
それにはとある文字が印字されている。





――KOKUYO






…とても切れ味の良さそうなカッターナイフだった。


「なにそれこわい」


俺は努めて慌てず、冷静に、もう一度辺りを見回した。
やはり、見間違いではない。
視界には、突き刺さった無数の『剣』が入っている。


――カッター、……鋸切、包丁、彫刻刀剃刀爪切りバターナイフチェーンソーハサミ缶切りペーパーナイフ十徳ナイフ etc etc



どうしてこうなった…。
どうしてこうなった!!?


あの時、確かに俺は願った。
無限の剣製を使えるようになりたいと…。
1つしか叶えられない願いを、チートのために使ったじゃないか!!?




その時…!絶望的閃きっ…!! 黒い、闇の如き閃光…暗黒の光が…俺の脳を刺す…!
閃く…!閃いてしまう…!! なぜ!! …なぜこんなことになってしまったのか…!!
その、回答を!!!




よくよく考えて見れば、確かに固有結界は展開できているのだ。
少なくとも願いが叶えられなかったわけではない。
そこまでわかれば後は簡単!!
…無限の剣製は、

『視認した剣の構成や本質を捉え、複製し貯蔵する』という能力を持つ。


――そう、俺は見てない。

約束された勝利の剣も、勝利すべき黄金の剣も、偽・螺旋剣も、
原作ではランクが低いとされている干将・莫耶すらも見たことが無いのだ。
それどころか、本物の剣なんて見たことが無い。




――だからって、………文房具はないだろ。



「――ティロ・フィナーレ!!!!!」



俺が呆然としている間に、マミは復活し、魔女の顎から抜け出し、魔女を殲滅していた。



言葉が出ない。
確かにマミを助けることはできたが・・・。

・・・これはひどい。


「・・・なんだかよくわからないのだけれど」


俺の固有結界も、魔女の結界も消えて、マミもいつもの制服に戻っていた。
なにが起きたのか理解できないが、いきなり俺が落ち込んでいて、マミ達も混乱しているのかもしれない。


「とりあえず、あなたがやったのよね? アレ」


力なく、頷いた。
本音では認めたくなかったけど。


「とりあえずありがとうでいいのかしら?
 ・・・・・・、でも」






「あんなに刃物とかいっぱい集めて、お金とか大丈夫だった?」






――ズゥーーーン!!


そんな音が自分の身体から出てきたような気がした。

違う。なんか違う。
こんなはずじゃなかった。
助けることが出来たのは素直に嬉しい。

でも、もっと、・・・こう。なんかあるだろ?
チート能力もらったオリ主が、その力で女の子をたすけて。
・・・なんでお金の心配されなくちゃいけないんだ?



――世界は、いつだって……こんなはずじゃないことばっかりだよ!!






*





こうして、俺のオリ主ライフは始まった。
神からもらったとてつもなく微妙な能力と、妹達魔法少女の力を借りて、
この世界に降りかかる困難に、どれだけ立ち向かえるのだろうか?


――この物語の結末は、まだ誰も知らない。









■あとがき


どうしてこうなった。



これしか言えません。
本編の続きを書いていたら、欝展開が難しくて煮詰まってしまったので、息抜きに始めたのですが、
なんかいつの間にか、こんなになってました。


一応コンセプトとしては、神様が普通のテンプレ神様として、どうやって読者の期待を裏切るかでした。
当初この構想を練っていたときに、よりシリアスにするため、テンプレ神様をやめてできたのが、本編です。

えらい長くなってしまいましたが、本当はこの番外編は息抜きです。
見づらいようでしたら、分割して3話くらいにしようかと思います。



本編は現在製作中です。もう少しお待ちください。




[27726] 番外編 その2 - 世界で最も美しい奇跡(前編) - 【投稿日:2011/05/22】
Name: ZACK◆b2515568 ID:5be0c2e0
Date: 2011/05/25 07:16
■注意
・ふと思いついたIFエンドです。

・全て書くとさすがに長いので、一部を除いてダイジェストでお送りしています。
 映画の予告みたいなものを想像しながら読んでください。

・オリ主の女性化が進んでいます。
 本編の性格と合わないところが多々ありますが、そのように成長した。
 と、お考えください。

・本編とは、一切関係はございません。

・少しだけ、R15相当のグロ描写があります。
 人によっては物足りないかもしれませんが、閲覧時にはご注意ください。

・他作品と微妙にクロスしています。
 知らなくてもできるだけわかるようにしていますのでご了承ください。
 ネタがまったく理解できなかった等ありましたら、修正いたしますので、ご連絡ください。






*






それは、もうありえない未来。
もしかしたらありえたかもしれない結末。

たった1つの分岐で、世界はまったく異なる顔を見せる。

正史とは異なる流れを紡ぐ世界。
そして、流れは終焉へと至り、やがて別の物語として、その物語にふさわしき結末を迎えるだろう。
その流れはいつ分かたれてしまったのだろうか…。

それは2人の少女の出会い。――その日まで、遡る。

ほんの些細な違い。
だが、その些細な違いがために、新たな世界が、産声を上げた。





「…貴女の名前は、
 
 
 
 
         ――――サヤ。巴サヤよ」





深まる絆。交なる想い。
あの日、姉妹となった少女達は、寄り添いながら理不尽な世界に立ち向かう。



「これが、…魔女」

「そうよ。でも私が付いているんだから大丈夫。安心して」

「姉さん…。
 ――うん、わかった。信頼してる」



他人から始まった2人。
他人を信じることができなかった2人。
馴れ合うこともできず、近づくことのできなかった2人は、
幾多の試練を乗り越え、やがて本当の家族となった。



「憧れるほどのものじゃないわよ、私…」

「無理してカッコつけてるだけで、怖くても辛くても、誰にも相談できないし、1人ぼっちで泣いてばかり」



ようやく見せることができた弱さ。
ようやく見つけることができた幸せ。
それを守るためなら、どんなことだってできる。



「それでも、…それでも頑張る姉さんだから、頑張れる姉さんだから、私は信じることができた!!」

「だから、姉さんはもう1人なんかじゃない。
 ――私も、…姉さんがいれば、私もそうなんだって、…そう、想ってる」

「これからは、私も一緒に頑張るから。――だから」



2人の少女が歩む軌跡。
それはどんなに美しい物語を描くのだろうか。
たとえどんな軌跡を描くことになろうとも、
2人でいることができれば、幸せなのだと、



「体が軽い…。こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて」

「もう何も怖くない」

「私、1人ぼっちじゃないもの」



――そう、思っていた。









だが世界は、どこまでも残酷で。










「サヤッ!!!」

「もうやめて!!それ以上変身能力(ちから)を使い続けたら貴女の身体は――ッ!!!!」



突きつけられる現実。
崩れた肉体。失われた能力(ちから)。
肉塊の如く崩壊した身体を引きずる少女の前に、地獄への門が現れる。



「ちょっとちょっと。なにやってんのさ、マミ。
 なんなんだよその化物は?
 どう見たって魔女じゃねぇか」

「ッ!!………、杏子。
 なんでここに………?」



集い始めた魔法少女。
化物となってしまった少女をかばうのはたった1人だけ。
友達と思っていた、仲間だと思っていた少女達ですら、もうそばにはいない。



「化物とか化物じゃないとか、そんなの…、どうだっていいじゃない」

「姉さん……」

「私は、例え化物だろうと、貴女と一緒にいたいわ。
 ただ、それだけなのよ」


――だが、それでも…。

少女の想いは変わらない。
友人、仲間、全てを振り払い、たった1つ、大切なものを護るため奔り続ける。






「1つだけ、方法がないこともないよ」






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   番外編 その2 - 世界で最も美しい奇跡(前編) -







「………キュゥべえ。…本当、なの?」

「本当さ、マミ。今、僕が君に嘘をつく必要なんてないよ」


それは、溺れる少女の前に差し出された藁だった。
その藁がどれだけ脆いか知りながら、それでも縋るようにマミはキュゥべえに尋ねた。


「…お願い、キュゥべえ。教えて。私どうすればいいの?」


マミは泣いていた。もはや限界だったのだろう。
よく見てみれば、目の下は隈がひどい。
キュゥべえが最後にマミとあったときよりも、全体的に痩せていて、頬はこけていた。


「わかったよ。
 ただ、まず1つだけ聞いてほしいんだ」

「…なに?」

「その方法をとったことで、君がどうなってしまうかまでは、わからないってことさ。
 なにせ、前例にないことだからね」

「…それでも、その方法をとれば、サヤと一緒に居られるんでしょ!?
 サヤと、今までと同じように接することができるんでしょっ!!?
 だったら。…だったら、私は――」


迷いなんてない。
マミにとって、サヤは掛け替えのないたった1人の家族だった。
全てを投げ捨てるに値する存在だった。


「…そう。
 方法は簡単だよ。自分の魔力を使って、サヤが普通にみえるようにすればいいんだ」

「え?…そんなことができるの?」

「理論上はね。

 君だって身体能力の強化は行っているだろう。
 あれは、魔力を使って自分の肉体をある程度改造しているようなものだ。
 それと同じ要領だよ。
 魔力を使って、自分の感覚を改造すればいいのさ」


それなら確かに。と、マミは納得する。
魔力を使った肉体の操作。それは、魔法少女としては基本中の基本となる力だ。
当然マミにもできる。
しかし…。


「でも、自分の感覚を改造って、そう簡単にはできないわよね?」

「そうだね。
 どんな感覚にすれば、サヤをきちんと認識できるのかを計算して、
 視覚・聴覚・嗅覚は最低でも操作しないといけない。
 
 おそらく、今マミが使える魔力のほとんどを消費することになるだろうね」


そう。サヤの身体の崩壊は今も進んでいた。

始めは左手が腐り落ちたことだった。
次第に自分の身体を維持できなくなっていったサヤ。
既にその身体は原型を留めておらず、もはや人間サイズの内臓の塊と呼ぶべき姿になっていた。
その変貌は姿だけで留まらず、その身体からは、腐った肉の臭いが漂ってきている。

そして今朝。
ついにその言葉も聞き取れなくなってきた。
今はまだ何とか理解できる。
聞き取れなくなってしまった単語もあるが、聞き取れる言葉を拾い集めて、前後の文脈から類推することは可能だった。

だが、それもいつまで可能なのだろうか。
明日にでもサヤの言葉は、マミにも聞き取ることができないようになってしまうのではないか?

マミは焦っていた。


「…それって、私が魔女になれば、ってこと?」


ソウルジェムが濁りきった魔法少女は魔女に成り果てる。
そのことを既にマミは知っていた。
聞かされたからだ。サヤに。

その時マミは狂乱し、自殺しかねないほど取り乱したが、少ししてから落ち着くことができた。
サヤがいたからだ。

サヤがいたから、やがて魔女となる運命を受け入れることができた。
サヤがいたから、弱い自分を認めてあげることができた。
サヤがいたから、……1人ぼっちではないと思えた。

全てサヤがいたからこそ。
だが、今度はそのサヤがいなくなってしまう。
それだけは認めることはできなかった。


――例え魔女になったとしても。サヤがいない世界で生きるよりはマシだわ。


「たぶん、魔女にはならないですむと思うんだ」


しかし、キュゥべえは少し考え込みながらそう言った。


「どういうこと?ソウルジェムが濁りきった魔法少女は魔女になってしまうのでしょう?」

「その通りだ」

「だったら――」

「でも、サヤがいる」


サヤがいるから何なのだろうか。
マミは考えてみたが、正解と思える回答を導き出すことはできない。
わからないなら、素直に聞けばいいだけだ。


「今のサヤの力はすごいよ。
 おそらく、身体という枷が取り払われたことで、本来のサヤの能力を使えるようになったんだろうね。
 僕も最初は、サヤは身体能力の強化能力と変身能力だけしかないと思っていたんだけど…」

「そうじゃないの?」

「うん。サヤの本当の能力は、


 ――――絶望の操作さ」


「絶望の、…操作?」

「そう。それも人間の持つ感情の操作なんてレベルじゃない。
 絶望という概念そのものの操作。
 それがサヤの能力さ」


概念操作。よくわからない。
感情の操作と何が違うのだろうか。


「感情の操作ももちろんできるけどね。
 簡単に言えば、絶望という言葉そのものの意味を変えてしまうのさ。
 絶望とは、未来に希望を見出せないこと。人はそのとき負の感情にとらわれるだろう?」

「えぇ」

「でも、サヤの能力を使えば、絶望にこそ喜びを見出すようにすることもできる。
 それも1人や2人ではない。世界規模でね。
 サヤは絶望という概念に対しては、世界の常識すら覆す力を持っているのさ」


ただし、その能力の全てを使いこなすほどの力は、今のサヤにはないけどね。
と、キュゥべえは締めくくった。

そんなことが可能なのだろうか。

そうマミが思うのも無理はない。
それは、1人の魔法少女が得る能力としては、破格、いや、規格外の能力だ。
しかし、その能力と、マミが魔女になることと何の関係があるのだろうか?


「いえ。確かに関係あるわね…。
 魔女は絶望から産みだされる存在。その絶望を操れるなら…」

「そう」




「「――絶望に落ちても魔女にならないようにできる」」




- To Be Continued -



[27726] 番外編 その2 - 世界で最も美しい奇跡(後編) - 【投稿日:2011/05/22】
Name: ZACK◆b2515568 ID:5be0c2e0
Date: 2011/05/25 07:17
マミは限界まで魔力を使い、感覚を改造する。
そしてサヤは能力を使い、絶望に落ちたマミが魔女にならないようにする。



その試みは、成功とも失敗とも言えない結果に終わった。



今マミは、サヤの膝を枕にして眠っていた。
安心しきったその寝顔は、見るものを和ませるほどに柔らかで。
とても先ほど、半狂乱に陥ったようには見えなかった。


「ねぇ、キュゥべえ。姉さんに何があったの?
 どうしてあんなに取り乱すことになったの?
 失敗しちゃった?」

「いや、失敗したわけではないよ。
 成功したとは、言えないかもしれないけどね」

「どういう、こと?」

「今のマミには、サヤの姿は普通の少女の姿に見えている。
 それは、今のマミの様子を見ればわかるでしょ?」

「うん」

「でも、代わりに他の物が普通には見えなくなってしまったのさ」

「…他って?」

「他は他。他の全部だよ。
 机やいす、本棚、床も壁も天井にいたるまで。
 今マミが普通に見えるのは、サヤだけだろうね」

「そんな…、ことって…」


本当によかったのだろうか。

サヤは後悔していた。
マミに押し切られてしまう形になったが、やはりマミを説得してやめてもらうべきだったのではないか。
サヤのことが普通に見えるようになっても、他のものが見えないのであれば、何も変わらない。
いや悪化している。
マミのことを考えれば止めるべきだった。そう思っていた。


「…いいのよ」

「姉さん!起きたの?大丈夫?」

「平気よ。…サヤのこと、ちゃんと見えてるわ」

「でも…」

「いいの。最初は驚いちゃったけどね。
 でも、もう平気。
 他のものがどんな風に見えようと、…サヤが見えるわ。
 サヤが見えて、サヤの言うことがわかる。
 私は、…それだけでいいのよ」


そう言って、マミは微笑んだ。
それは、生き地獄に叩き込まれたようにはとても見えないほどに、美しく、柔らかい笑みで。

そんなことを考えてはいけないと思いながらも、サヤはそれが、――どうしようもないほどにうれしかった。






魔法少女まどか☆マギカ 二次創作小説
 神様 = In QB   番外編 その2 - 世界で最も美しい奇跡(後編) -






そうして、2人の少女は地獄へと堕ちた。

妹は、姉を想い、微笑みがら地獄に向かい突き進み、
姉は、妹を想い、涙を流しながら地獄に向かう妹を追いかけた。

互いを想い合う少女たちの心。それは地獄の中にたった1つ残された絆。


「たぶん、私がイレギュラーだったんだよ」

「サヤ?」

「私の話、覚えてる?」

「神様に転生させられたってやつよね?」

「そう。今ならわかるの。
 私はその時、別の世界から転生したんだって。
 だから、この世界の運命を歪ませたのは私なんだよ」

「…サヤ……」

「きっとその世界では、姉さんは私じゃなくてまどかをパートナーにしていたんじゃないかな?
 なんとなく、相性よさそうな気がする。
 さやかも姉さんには憧れてたみたいだし。
 きっと杏子とも、なんだかんだ言って仲良くしていたんじゃないかな?」

「…そうかも、しれないわね。
 でも…、
 
 
 私は遠慮させていただくわ。そんな世界」

「え?」

「だって、

 ――――サヤがいないもの」


化物と成り果てながらも闘い続ける少女。
化物と成り果てた妹を愛し続ける少女。

妹は姉を護り、姉は妹を護る。
ただそれだけのこと。
お互いに支えあうことのできた、たった2人の姉妹。


だが、それ故に、2人の少女が他者を受け入れることは、ついになかった。


「ねぇ、姉さん。
 …私ね、本気になればこの世界をどうにかしちゃうことだってできるんだよ。
 皆、皆私と同じ存在にすることだってできる。
 私が持っていた絶望の力なら、それくらいできるんだって」
 
「それなら、それなら、そうしてしまえばいいじゃない!!
 貴女と一緒にいられるなら、…私は!!」
 
「そうだね。それもいいかもしれない…。
 でもね、姉さん…。」



「――タンポポって花があるよね」



地獄の中を歩む2人の少女。
だがそこに、たった1本だけ、蜘蛛の糸が垂らされた。

2人で登ることはできない程に、か細い糸。
その糸に気づいた妹は、姉に最後の選択を委ねる。



「綿毛の種は風に運ばれて、故郷から遠く遠く離れて、
 もしかしたら草木なんか一本も生えてない砂漠に落ちちゃうかもしれない」

「そんなとき、たった一粒のその種が何を思うか・・・・・・」

「それを想像してくれれば、解ってもらえるかもしれない。今の私の気持ち」


姉が気づく前に糸を登っていれば、きっと幸せになれたのだろう。
転生したことも忘れて、獣として生まれ、何度も殺されたことを忘れ、そして、

――姉を忘れ。


「種は、もちろん草の種だからね
 その気になって頑張れば、砂漠を砂漠じゃなくしてしまえる。
 ただ一粒だけの種でも、もしかしたら、頑張ろうって思うようになるかもしれない。」

「頑張って育って増えて、いつかこの土地が
 一面のタンポポ畑になるまで頑張ろうってそう思うかもしれない」


だがそんなことは望まなかった。
サヤが全ての力を使いきれば、何かを犠牲に誰かを助けることができる。
自分のために使えば、もちろん自分を助けることができる。
そんな考えは浮かびもしない。

マミがサヤを求めていただけではない。
サヤもまた、マミだけを求めていた。


「そんな風にタンポポの種が心を決めるとしたら、どんなときだと思う?」

「それはね、その砂漠に――たった1人だけでも――花を愛してくれる人がいるって知ったとき」

「タンポポの花は綺麗だね、って、種に話しかけてくれたとき」


だからサヤは、マミに最後の選択を委ねた。
自分のための選択肢を切り捨てて。

サヤを捨てて、マミを救うか。
世界を捨てて、2人で生きるか。

その2つの選択を。


「だから、私はもう大丈夫。
 姉さんがいてくれたから、もう何も怖くない
 1人で生きていくことにも、世界を侵すことにも耐えられる」


「だから、姉さん、教えて。
 貴女が昔の暮らしに戻りたいかどうか。
 あの時失ったものを、普通の感覚、…生活を、取り戻したいのかどうか」

「…、サヤ。私は―――――ッ!!!」






*





おぞましい現実のなか、2人の少女が歩んでいた。
少女達はとても深く互いを想い合い、いつも並んで歩いていた。
地獄から始まり、楽園を辿って、再び地獄へと堕ちた2人。

その2人は、最後の選択で、何を選び、どこに辿りついたのだろうか?
それはもう、誰にも知る術はなく。

少女達が描いた軌跡。
それは、見るものの心を洗うような、美しいものだったのだろうか?
それとも、見るに耐えないほどに、醜いものだったのだろうか?

だが、それがどんなに醜いものであったとしても、それでも2人は幸せだと言うだろう。

なぜなら2人は…、





「ネエサン。





    ――――ダイスキ」




どんな時も一緒なのだから。










理不尽な現実の中に描かれる、美しくも醜く、醜くも美しい物語。
貴方はその物語の中に、たった1つ、変わらない想いを見るだろう。

2人の少女が織り成す軌跡。
それは、世界で最も美しい奇跡。





――それは、世界を侵す愛





神様 = In QB   IF END - サヤの唄 -



END?


















「やれやれ、ひどい有様だね」


白い毛並みに小さな身体。
地球上に存在しない動物の姿をとったそれは、かつてキュゥべえと呼ばれていた存在だった。


「世界中が肉塊と腐敗臭で満ちている。
 まさか、たった1人の絶望が、この星中を絶望に堕とすことになるなんてね」


キュゥべえが辺りを見回すと、そこには地獄と呼ぶしかない光景が広がっていた。

まるで、世界中の人間を殺害し、その内臓を全てぶちまけたような光景だ。
人が人に、車が車に、木が木に見える。そんな当たり前の光景はそこにはなかった。
少し小さな肉塊が動き回っている。恐らくは小動物。ネコだろうか?
少し高いところに、赤黒く、そこにピンクを混ぜたような色をした臓物がぶら下がっている。
位置的に考えて信号機だろうか?
色がわからない信号機など、何の役にたつのだろうか。
それともこの世界に慣れてしまえば、色がわからなくても理解できるようになっていくのだろうか?
色だけではない。
全ての存在から、常にすえた臭いが漂ってきて、なのにその臭いになれることがない。
視覚、嗅覚、そして聴覚、味覚、触覚に至るまで。
5感の全てが狂っていた。

外を歩く人間は少ない。
世界は変えられてしまったが、まだ全ての人間が変わってしまったわけではないのだろう。
だが、それも時間の問題だ。遅かれ早かれ結末は一緒だろう。


「この星はどうなるのかな?

 …ま、後はこの星の人類の問題か。
 この星の全ての人間が絶望に堕ちたことで得られたエネルギーは、
 この宇宙の枯渇したエネルギーをまかなってあまりあるほどだ。
 僕らのエネルギー回収ノルマも達成だ」


そう言ってキュゥべえは、ふと目を閉じた。


「感情のない僕だけど、君達のことは特別に感じていたよ。
 もしかしたら、幸せだったのかもしれない。
 魔法少女の秘密を知ってなお、僕を友達だと言ってくれたのは、君達だけだったからね」


しばらくの間、感慨にふけるかのように記憶を反芻すると、スッと目を開けた。
そして、なにかに気がついたように、ある場所に目を向ける。


「お別れだね。サヤ、マミ。
 短い間だったけど、一緒にいて楽しかったよ。




    ――――オシアワセニ」




そう言ってキュゥべえはこの星から去っていった。

キュゥべえの視線の先には2つの肉塊があった。
人が歩くような速度で、何年もたまって濁りきったヘドロのような足跡を残すそれは、
なぜか楽しげで、どこか姉妹のようにも見えた。




END


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