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[27608] 魔法少女仁美☆マギカ(魔法少女まどか☆マギカ)
Name: 鍾馗◆b073de93 ID:e33ef41b
Date: 2011/08/11 22:33
 「魔法少女まどか☆マギカ」素晴らしい作品でした。
 と言う事で、その熱に浮かされたまま、こんなお話を作ってみました。

 例によって本作は話の展開上、独自解釈を加えたりする予定です。
 そういうのが許せないという方はお読みにならない方が良いかも知れません。
 大丈夫という方は楽しんで頂けたらと思います。

 それでは、どうぞ。


魔法少女仁美☆マギカ(魔法少女まどか☆マギカ)


2011年05月05日(木) ある机の中の手紙 投稿
2011年05月05日(木) 土曜日 投稿
2011年05月14日(土) 土曜日 修正
2011年05月14日(土) 日曜日 + 昨夜のほむらちゃん 投稿
2011年06月22日(水) 日曜日 + 昨夜のほむらちゃん 修正
2011年06月22日(水) 月曜日 投稿
2011年06月23日(木) 月曜日 修正
2011年08月11日(木) 月曜日 加筆・修正
2011年08月11日(木) 火曜日 投稿



[27608] ある机の中の手紙
Name: 鍾馗◆b073de93 ID:e33ef41b
Date: 2011/05/05 22:26
ある机の中の手紙


『突然お手紙を差し上げます失礼をお許しください。
 先日の事でお尋ねしたい事がございます。
 誠に勝手な申し出で恐縮ですが、本日の放課後にお時間を頂けないでしょうか。
 もしご都合がよろしければ、校舎の屋上にてお会い頂ければと思います。その場合はお返事を頂かなくとも結構です。
 ご都合が悪いようでしたら、その旨お伝え頂ければ、私の方で暁美様のご都合に合わせさせて頂きます。
 私にとってはとても大切なお話になると思います。
 お忙しいとは思いますが、是非ともお話をお聞かせ頂けないでしょうか。
 心よりお願いいたします。

 かしこ

 ○月○日 月曜日

 志筑仁美

 暁美ほむら様 机下』



[27608] 土曜日
Name: 鍾馗◆b073de93 ID:e33ef41b
Date: 2011/05/14 22:52
「おっはよ~。」
「おはよ~。」
「おはようございます。」


 麗らかな陽射しの中、お揃いのチェックのスカートにベージュ色の長袖の上着、胸元は大きめの赤いリボンが彩り、足下はカッチリと茶色い革靴で締めるという見滝原(みたきはら)中学校の制服姿をした3人の少女達が明るく挨拶を交わし、談笑しながら通学している。
 一人は自分だ。もう一人は、どういう具合か日の光が髪を青っぽく光らせる、ショートカットのいかにも元気溌剌とした少女。最近微妙だったが、一番の友人であった美樹さやか(みきさやか)さん。
 そして、もう一人。こちらは髪を短いツインテールに纏めた小柄で可愛らしい少女。何故か彼女だけ呼びかけている名前がよく聞こえない、最近夢に良く出てくる少女。しかし、少なくとも現在全く面識の無いはずの少女。

 ……貴女は、誰?


魔法少女仁美☆マギカ

土曜日


 未成年の為に未だ未来は未定ながら、端から見た彼女はまさに勝ち組だった。
 手入れを欠かさないおかげで艶を失わない、肩程まで伸ばされ、軽くウェーブのかかった緑の黒髪を持ち、垂れ目がちな瞳を持つ眉目は整っていて、まさに容姿端麗。加えて頭脳明晰、品行方正、気立ても良く、社交性もある。おまけに家は大金持ちのお嬢様で、将来を嘱望された若くて見目の良いバイオリニストの恋人(もちろん男性)もいた。おまけに人当たりも良いおかげで妬まれるよりも素直に羨まれる事の方が多いと、絵に描いたような完璧振りだったのだ。
 しかし、その彼へと告白し、恋人同士となってからは色々と上手く回らなくなってしまっていた。

 まず、彼女の最も仲の良い友人(女性)が謎の失踪。
 もともと彼女の恋人と友人は幼なじみで、友人も彼を憎からず思っていたようだった。
 しかし、恋人になる前の彼への好意を告げた彼女に対して、少し寂しそうにだが、友人はそれを応援すると言ってくれた。
 正々堂々の宣戦布告のつもりだったので彼女もかなり拍子抜けしてしまったのだが、それならばと、その答えを受けて意中の彼へ告白し、見事本願を成就した。(後で彼女が彼に聞いた所では、元々彼も友人から彼女の事を色々聞いていて好意を持っていたが、一方はバイオリンのレッスン、もう一方は各種習い事で告白のタイミングが合わずにいたとの事。)
 だが、当然ながら友人との関係は非常に微妙なものとなり、その直後に友人が謎の失踪を遂げる。彼女が自分の告白との関連性を疑ってしまうのは当然だった。そして、当人達しか知らないそのやり取りを、彼を含む余人に伝えられない事もまた……。

 それ以降、何をしようとしても手に付かずに上の空。ぼ~っとしては失敗するを繰り返し、当然成績も急降下。各種習い事も、もちろん上手くはずがない。
(それを見て「萌え~」とか「ついにドジ娘属性まで。恐ろしい子。」とか言いつつ喜ぶ輩も居たりするのだが、彼女はそんな不埒者のことなぞ知りもしないし、例え知ったとしてもかえって落ち込むだけだろう。)
 なんとか力付けようと慰め、励ましてくれる彼に対しても、彼を見ては罪悪感に苛まれてしまい、元気になるどころか、まともに顔を見る事もできない始末。
 音楽での海外留学が懸かった大事なコンサートの為に現在彼が渡航しているので、結果として距離を置くことになっているのは、お互いにとってある意味幸いであった。
 だが、彼が帰国した時にも今のままでは、そのまま破局してしまうかもしれないとも彼女は考えてしまう。
 元来生真面目な質なので、一度考え始めるとどこまでもどこまでも考えを進めてしまう。そうして悪い事をさらに悪い方へ悪い方へと考え、また失敗し、それが原因でまた悪い方へ悪い方へと物事を考えてしまう。
 なまじ彼女自身でもその辺りが分かってしまっているから自己嫌悪に陥ってしまい、またその流れも自覚出来てしまうのだからなお始末が悪い。
 こういった事は考えるだけ無駄である所かむしろ有害である。従って、ある程度の段階でスッパリと考えるのをやめて気持ちを切り替えるべきなのだが、生憎と14年程度しか人生やっていない彼女は未だその術を身に付けていなかった。

 今日も失敗をしてしまった週末の日本舞踊の稽古の帰り道、暮れなずむ公園のブランコに腰掛けながら、彼女は毎度のようにズーンと落ち込んでいる。そうしてまた、最近癖になっている深い深~い溜め息と独り言が、俯く少女の口から知らず知らずの内に出てしまうのだった。

「はぁ~。どうして私、駄目なんでしょうか。どうしてこうなってしまったんでしょうか。
 ……いっそ何もかも忘れてしまえれば、こんな性格ではなかったのなら、こんな気持ちにはならずに済むのでしょうに。」

 返す人のいないはずの独り言に、しかし返事をした存在がいた。

「それが君の望みかい? だったら僕がその望みを叶えてあげる。
 その代り、僕と契約して魔法少女になってよ。」

 まっ白でもふもふのもこもこな色艶良い毛並みを持つ四本足の小さな体躯。それと同じくらいの大きさのふさふささらさらな尻尾。真っ赤でつぶらな一対の瞳。同じくらい真っ赤な背中の不思議な模様。頭のてっぺんにちょこんと乗っかる猫耳と、その根本からうにょ~んと伸びる、金属製らしい輪っかが付いたどこかカモメの翼を連想させる謎器官。
 かけられた声に驚いた少女が顔を上げた所、猫の見た目をより可愛くしたらこうなりました、とでも言いたそうな、そんな奇妙な存在がそこにいた。

「……今しゃべったのは、ひょっとして、アナタ?」
「そうだよ。初めまして。僕の名前はキュウべえ。」
「あ、はじめまして。私は……」
「知ってるよ。君は志筑仁美(しづきひとみ)さんだね。」
「ど、どうして私の名前を……。」
「今日は僕、君に会いに来たんだ。僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ。」

 思わず釣られて自己紹介を始めようとしたところ、自分の名前を言い当てられ、驚く少女。
 そして、それをさらっと流してズバズバと話を進めていく強引営業マンもとい、キュウべえ。
 キュウべえはこれでもかこれでもかとグイグイ話を推し進めていく。

「僕は君達の願い事を、何でも一つ叶えてあげる。記憶を消したいというのなら消してあげる。性格や考え方を変えて違う自分になりたいというのなら、そうしてあげる。
 その代り、僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ。」
「何でも? 違う自分にもなれる?」
「そうだよ。例え病弱で鈍くさくて勉強も苦手で気弱で引っ込み思案で自分に自信なんて欠片も持っていないような眼鏡っ娘でも、その娘が望んで僕と契約してくれるのなら、文武両道、質実剛健、視力はもちろん裸眼で左右共2.2の、頭に自分だけが信じる脳内女神を飼っている電波系なクール美人にしてあげる事もできるんだ。」
「……あの、さすがに女性としてそれは……。」
「あれ、疑ってるの? はい、証拠写真。」

 どう考えても少女に当てはめるべきでない質実剛健という四字熟語に加えて電波系という単語に引っかかりを覚えた仁美が一拍置いて戸惑いの声を上げると、それをそんな事は出来ないとの疑問とでも思ったらしいキュウべえは器用に前足を背中に回すと、ほらっとどこからともなく写真を取り出し、仁美に差し出した。
 思わず受け取ってしまった1枚目には、確かに気の弱そうな黒髪三つ編みの眼鏡を掛けた少女が俯き加減で写っている。
 続いて2枚目を受け取ろうとした所、仁美の目の前でその写真は、それを持っていたキュウべえごと、いきなり伸びてきた黒タイツと茶色の革靴を履いた足に踏み潰された。

「……ぎゅぇっぷぃ」
「え?」
「……このぼけ猫が。人のクラスメートに一体何をしようとしていたのかしら?」

 いつの間にか、目の前には今の自分と同じく見滝原中学校の制服姿を着た一人の少女がいた。
 腰まで伸びる艶やかなストレートの黒髪の左側に結び目が来るように赤いリボンをハチマキかカチューシャのように着けている、涼しげな眼差しを持つ少女。
 特に親しくしている訳ではないが、仁美は彼女を知っていた。

「……暁美ほむら(あけみほむら)さん。」

 暁美ほむら。
 心臓の病気で先日まで入院していたなんて何の冗談だと言わんばかりの多才振りを発揮する、成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗と、才色兼備を絵に描いたような、少し寡黙な、つい先日自分のクラスに転入してきた少女だ。
 普段は少し寂しそうに微笑んでいる彼女は、今はその様なしっとり落ち着いた雰囲気は欠片も無く、目元を険しく細め、かなり不機嫌そうなオーラをまき散らし、先程知り合ったばかりの謎の白い生物をグリグリと乱暴に踏み付けていた。

「ほむら。最近僕の扱いがちょっと酷過ぎるよ。」
「これでもマシになった方よ。前はアナタを目にした途端、問答無用で蜂巣にしていたわ。」
「訳が分からないよ。
 いい加減、君にしか分からない歴史の事で僕を虐げないでくれないかな。傷を治すエネルギーがもったいないじゃないか。」
「いいじゃない。そのエネルギーは私が稼いでいるのだし、アナタの代りはたくさんいるもの。それこそほとんど無限に。」
「だからと言ってエネルギーを無駄遣いさせて欲しくないんだけどね。
 ただでさえ効率が悪くてエネルギー回収ノルマを達成するのが難しいんだから。」

(なるほど。確かに電波系ですね。訳が分からない事ばかり言っています。どっちともですけど。)

 突如として目の前で行われた掛け合いに取り残され、かと言って勝手に帰る訳にも行かずにいる仁美がボーッとそれを眺めていると、先程踏み付けられていた2枚目の写真が風に飛ばされてフワリと手元に落ちてきた。まるでどこかの女神様が「ほらほら見て見て、かわいいよ」とでも言っているような偶然だ。
 何となく仁美は今朝夢の中で見た、懐かしい感じのする見知らぬはずの少女を思い浮かべ、そして写真を見た次の瞬間に目を丸くした。

 写真に写っていたのはぬいぐるみを抱きかかえた一人の少女だった。
 目の前のそよ風になびく黒髪と全く同じ髪を持ち、同じく目の前で侃々諤々やっている顔と同じ造作の顔をした少女が写っている。
 先程の話の流れからすると、1枚目の写真の少女が変わった姿が今のほむらなのだろう。
 どこをどうやればここまで変わる事ができるのか。まさに劇的なびふぉあ~あふた~である。
 普段ならそれも十分驚愕に値するし、正直その過程には興味津々なのだが、今仁美がより驚いていて、より興味を持ったのは、むしろその彼女が抱えているぬいぐるみに対してだった。

 ピンクと白を基調にした、フリルをふんだんに使用したかわいらしい衣装を着て、足には赤い靴を履き、手には弓らしき物を持って、桃色の髪を赤いリボンで短いツインテールにした少女をデフォルメしたものらしいそれは、衣装こそ違うが、先程何となく思い浮かべた、見知らぬはずの少女を連想させたのだ。
 ちなみに、この衣装は写真の中のほむらの寝間着とお揃いである。

「そもそも何? 人のことを鈍くさいだの電波系だのと悪し様に。」
「僕は君に対する客観的な事実を言っただけだ。それの何が悪いのか僕には理解出来ないよ。」
「あの、暁美さん。」
「……ああ、何かしら、志筑さん。」
「この写真の……。」

 おずおずと声を掛けた仁美であったが、ほむらは差し出された写真をみた途端にまた視線を仁美から足下の、と言うか靴底の下のキュウべえへと移し、キッと睨み付ける。

「キュウべえ、なんでこんな写真があるのかしら。」
「いや何、君の祈りとその結果は非常に分かりやすいケースだからね。説明用の資料に丁度良いんだよ。」
「この世界には肖像権というものがあるのよ。」
「それは君達人類の問題だ。僕達インキュベーターには関係が無い。」
「あの、このぬいぐるみなのですけど!」

 また自分を忘れて掛け合いを始める一人と一匹に対して、仁美もまた忘れられては堪らないと、今度は少し大きめの声をかける。

「あの、このぬいぐるみの事、教えて頂けないでしょうか?」
「……どうして?」
「笑われるかもしれないけど、夢の中で見た女の子に似ているような気がしますの。それに何か懐かしい感じがして、とても気になって……。」
「……そう。」

 仁美の返答を聞いたほむらは表情を一変させ、教室に居る時のように寂しげに微笑む。

「昔、テレビか何かで見たのかもしれないけれど……。」
「ああ、これは……ぎゅぇっぷぃ。」
「さあ、どうだったか。私も覚えているような、覚えていないような。」

 仁美の言葉に対し、ほむらは表情をそのままに曖昧な答えを返す。ただし、何か言いそうだった、踏んづけたままだったキュウべえを再び強くグリグリと踏み付けながら。
 そして、止めとばかりにもう一度キュウべえをさらに強く踏み付けて完全に沈黙させると、ほむらは真剣な表情で仁美と向き合った。

「志筑仁美。あなたは自分の人生を尊いものだと思う? 家族や恋人を大切にしている?」
「え? ……その、わ、私は、大切だと思います。家族も彼も、大好きで、とても大切な人達ですわ。」
「本当に?」
「本当ですわ。」

 そう。仁美にとって、それは変わらない事実。嫌いになるとしたら自分自身に対してのみ。
 本人は気付いていないが、仁美の表情から暗い雰囲気が幾分か拭い取られていた
 答えて自覚したその事によって、まだまだ他人に対して極端に嫌な人になっていない自分に気が付いた仁美は、少しだけ気が楽になったのだった。

「……そう。もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうなんて、絶対に思わない事ね。さもなければ、全てを失うことになる。」
「え?」
「あなたは志筑仁美のままでいればいい、今まで通り。これからも。」

 仁美の表情の変化をジッと見ていたほむらはそう言うと、ノックアウトされているキュウべえの首根っこをむんずと掴んで持ち上げ、長い影を引きながら颯爽と去っていった。

「……訳が分かりませんわ。」

 困惑する少女を一人残して。



[27608] 日曜日 + 昨夜のほむらちゃん
Name: 鍾馗◆b073de93 ID:e33ef41b
Date: 2011/06/22 22:24
 今日も私は夢を見る。
 今日の夢は教室が舞台らしい。見慣れた教室、友人であるさやかさんや見慣れた級友達。そしてそれに、いつも通り見知らぬはずの少女が混じる。たわいないおしゃべりをし、また恋人と上手く行かなかったらしい担任教師のあるべき男性像、恋愛観の力説を一通り聞く。そしてそれが済むと、「普通そっちが先だろう」と教室中の気持ちを一つにしつつ、「大事なお話があります」と転校生が紹介された。
 長い黒髪を三つ編みにした、眼鏡を掛けた少女。先日写真を見た暁美ほむらさん(Ver.Before)だ。
 彼女は自己紹介もそこそこに、つかつかと見知らぬはずの少女の元へと歩み寄ってその手を取ると、人目も憚らずに嬉しそうに「魔法少女」がどうこうと言って、転入早々、電波系少女のレッテルを頂戴していた。

 でも実際の暁美さんは、かえって浮いてしまうくらい何もせずに自己紹介を終わらせていた。
 この夢は、それに貴女達は一体……。


魔法少女仁美☆マギカ

日曜日


 昨日のほむらとの会話で少し持ち直したとは言え、やはり直ぐに本調子に戻るはずはなく、今日も今日とて失踪したさやかの事をぼ~っと考えてはポカをやらかした仁美は、着ているグレーのキャミワンピースとその上に羽織ったベージュのカーデガンを夕陽で赤く染めながら、河川敷のベンチで一人落ち込んでいた。少し離れた所では、日曜日らしく子供を連れた家族連れの姿も見える。
 一頻りさやかの失踪に関してあれこれ自己嫌悪に浸っていると、その家族連れの明るい笑い声にハッと意識を現実に戻される。そして、このままでは家族や恋人にまた心配をかけてしまうと、無理矢理違うことを考えるようにする。

 まず考えるのは、最近見るようになった、謎の少女が登場する自分の夢。当初は何か意味があるのかと夢占い等で調べてみたが、意味はさっぱり不明。
 写真に写っていたほむらの持つぬいぐるみが良く似ていたので、手掛かりが無いかとインターネットで少し調べてみたが、ほとんど取っ掛かりの無い状況の為、手掛かりは全く見つからなかった。
 彼女は一体誰なのか。少し記憶を漁ってもやはり答えは見つからない。とりあえず、帰宅したらもう一度アルバム類を探し直してみようと決める。

 続いて考えるのは昨日の出来事。暁美ほむらが実は電波系だったとか、キュウべえなる人語を操る謎生物の事だとか、そして、魔法少女だとか。
 魔法少女とは、やはり魔法が使えるのだろうか。可愛らしい衣装に変身とかするのだろうか。そして、敵と戦うのだろうか。
 願い事を一つ何でも叶えてくれるのは自分にとって利のある話だが、その代償が魔法少女になる事だとすると、魔法少女になる事とは自分にとって何か不利になる事なのではないだろうか。そうでないと、キュウべえにとっては願い事を叶えて力を与えてと、出る労力ばかりが多くなってしまう。
 それに、願い事を叶えてくれる契約とは、「見返りに魂を寄こせ」と言う悪魔の契約みたいだ。
 加えて、暁美ほむらが去り際に残した謎かけのような問いかけ。それに続く、確か「今とは違う自分になろうと思うな」と言う趣旨の警告の言葉。
 写真で見た変わり様からすると、彼女こそ「今とは違う自分になろう」と願って契約した魔法少女ではないかと考えられるが、そうだとすると、あの警告はやはり自分にとってのデメリットがあるという事ではないだろうか。
 もし魔法少女になるとしたら、もう少し色々吟味した方が良さそうだ。

 キュウべえに渡され、結局そのまま手元に持っていた2枚の写真を見ながら仁美がつらつらとそんな事を考えていると、彼女は突然背後から声を掛けられた。

「まどか! まどか!」
「え?」
「こら、駄目だろう、タツヤ!」
「本当にすいません、驚かせてしまって。あら、その写真?」
「はい?」

 声の聞こえてきた方を向くと、幼い男の子とその両親と思われる見知らぬ男女が立っていた。
 男の子は緑色のパーカにジーパン姿で、元気いっぱいの様子。しきりに写真を見ては「まどか!」と連呼している。
 それをやんわりと抑えているのが、紺のサマーセーターに綿パンを履いており、右から左に流した黒髪の下にある眼鏡越しに優しそうな目元が伺える、三十代と思われる男性。
 そして、写真をみて何やら驚いた様子を見せているのが、黒いスカートに白いブラウスと茶色のジャケットという格好の、黒髪をショートカットにして、その左側にワンポイントとなるシンプルな黒い髪留めを着けた優しそうな、やはり三十代と思われる女性だった。

 互いに軽く自己紹介を済ませた後、戯れる親子、鹿目タツヤ(かなめたつや)君とその父親の鹿目知久(かなめともひさ)さんを見ながら、ベンチのすぐ横の腰掛けた鹿目詢子(かなめじゅんこ)と名乗った女性と仁美は、自然と話をする流れとなっていた。

「本当にご免なさいね、お時間取らせちゃって。」
「いえ、この後特に予定もないので、気にしないでください。」
「あの子がね、一人で遊んでいると、そのぬいぐるみと同じ絵を描いているの。だから驚いちゃって。」
「そうなんですか。私も詳しく知らないのですが、この女の子のぬいぐるみは有名なんですか?」
「さあ? 私も何か懐かしい感じがするからどこかで見たかも知れないんだけど、よく知らないの。
 その写真の子、ほむらちゃんって言ってたけど、私この前たまたま会っているんだけど、やっぱりよく知らないって言ってたし。」
「そうですか。彼女、私のクラスメートなんです。
 実は私もこのぬいぐるみについてはよく知らなくて。
 ただ、最近よく夢に出てくる女の子に似ているので、気になっていたんです。
 『まどか』って名前も今日始めて知りました。」
「そうなんだ。貴女も『まどか』をどこかで見たのかも知れないわね。
 一体どこで見たのかな~。何かの人形劇とか、魔法少女のアニメとかかな~。」

 詢子が「ん~」っと背伸びしながら漏らした「魔法少女」という単語に仁美はハッとする。
 ぬいぐるみは可愛らしい衣装を着て、弓、つまりは武器らしき物を持っていた。つまり、あの見知らぬはずの少女は魔法少女で、ぬいぐるみはそれに変身した姿を模しているのではなかろうか、と。
 そんな仁美に気付かないのか、詢子はさらに言葉を続ける。

「実はほむらちゃんにあった日の夜にね、私も夢で『まどか』を見たの。
 私の仕事があったから、結婚して長いこと子供はいなかったんだけど、その夢の中では早い内から子供がいて、『まどか』は私達の子供だった。」
「……鹿目、まどか。」

 夢の中では親子だったと言う事で、仁美は目の前の女性の名字と、判明したばかりの見知らぬはずの少女の名前を口の中で続けて転がしてみる。その響きの繋がりは、不思議なくらいしっくりとくるように感じられた。
 そして、やはり仁美の発した言葉に気付かないのか、詢子はさらに言葉を続ける。
 仁美に聞かせる為と言うよりは、自然と独白していた。そんな感じの言葉だった。

「夢の中の『まどか』は、それは良い子だった。嘘も吐かない。悪い事もしない。
 でも、夢の最後で中学生になっていた『まどか』は危険だと知っていてなお、いっぱしの覚悟を持って、私を置いて駆け出していっていた。
 ……どうして夢の中の私は、あの時『まどか』を送り出せたのかなぁ。」

 そう言う詢子は静かに涙を流していた。折しも風が吹き、その一部が拭われたように雫となって飛ばされるが、涙は止まらず、かえって止めどなく溢れている。
 夢の中の彼女が何故そのように行動したのか。娘が真っ直ぐに成長する姿をキチンと十数年間見守ってきた親でないと、その理由は分からないのかも知れない。まだ子供を持って3年程の詢子には理解出来ない境地なのかもしれなかった。
 そして、あの夢の事を思い出す度に感じる懐かしさと切なさに詢子は胸の奥が苦しくなる。ともすれば、夢の中の『まどか』に泣いてすがってしまいたくなるほどに。
 だからこそ余計に夢の中の自分が理解出来ないのだ。

「あはっ、ご免なさいね、訳の分からない事言っちゃって。」
「いいえ。同じ人の夢を見るなんて、不思議な事もあるものですね。」

 いい年した自分が今日始めてあった少女に対して涙を見せている事に気が付いた詢子は、ゴシゴシと目元を拭うと、バツが悪そうに謝罪した。
 それを仁美は品良く流し、話を進める。

「そうね。ひょっとすると、ほむらちゃんも同じような夢を見ているのかもしれないわね。」
「そうですね。今度聞いてみようと思います。」

 そのやり取りを切っ掛けに仁美と詢子はベンチから立ち上がって別れの挨拶をし、それぞれの家族の元へと向かっていった。

(月曜日になったら、暁美さんに色々と聞いてみましょう。魔法の事。契約の事。そして『まどかさん』の事。
 夢の事もありますし、このまま何も知らずに曖昧なままにはできません。)

 その道すがら、仁美は静かに非日常の世界の扉を叩く事を決意する。その扉をくぐるかどうかは別にして。

 こうして、物語は静かに動き始めていった。



おまけ
昨夜のほむらちゃん

 ほむらにとってこの世界を守る為に戦うという事は、恐らく今際の際にならないと会えない自らの最高の友達の願いを守る事であり、そうする事は当然の事である。
 そして、毎日その為に戦い、その後で自分に対して元気の元を与え、また明日も頑張ろうと改めて決意して体を休める。それが習慣となっていた。
 今夜もまた、頑張った自分に対してご褒美をあげるべく、いそいそとお着替えをする。
 店頭で見かけた途端に速攻で購入を決意してその店の在庫分全てを買い占め、家に帰って手ずから細部の手直しをしたお気に入りのデザインの寝間着を着て、いつものように「……おそろい」とご満悦になりながらほむらは自室のベットにごろんと寝っ転がる。
 そして、以前夜鍋して作ったぬいぐるみを、自分に向き合う形でたかいたかいのように抱き上げた。

「ねえ、まどか。キュウべえったら、私の事電波系なんて言うんだよ。酷いと思わない?」

 大病を患っていた上に元々引っ込み思案であったほむらは、暇な時は大抵一人でぬいぐるみを相手に遊んでいた。
 三つ子の魂百まで。病気が完治し、それどころか常人以上の運動神経と、千切れても潰れてもソウルジェムが砕けない限り再生する頑丈極まりない体を手に入れ、戦友達や学友達と遊びに行く事もあるようになった今になっても、微妙に形質を変えてその習慣は残っている。
 そしてそれは日々戦いに明け暮れるほむらにとっての毎日の慰めとなっていた。

「それでね、また懲りもせず、今度は志筑さんを勧誘しようとしてたんだよ。
 美樹さんの事があるからしょうがないけど、よりにもよって、何で志筑さんなんだろうね?」

 その姿は普段の彼女のようにどこか寂しそうで、それでも普段の彼女からは想像が付かないほど楽しそうである。
 本人もその事は自覚しているので、恥ずかしがって、ぬいぐるみに話しかける姿は、例え滅多に会えない共働き中の両親であっても見せないように気をつけている。
 ただ、フリフリの寝間着とぬいぐるみの存在だけは隠しようがなかったが。
 その為、そこまでがほむらにとっての他の人に見られるギリギリの境界線となったらしい。
 ちなみに、その両親に初めて寝間着姿を見られた時は退院当日のイメチェン(死語)と同じくらいに大絶賛され、その時と同様に家族限定緊急臨時撮影会が開催されそうになり、ほむらは赤面して慌てて部屋に閉じこもってしまったという。

「……うん、大丈夫。美樹さんの願いの大元は上条さんの幸せだもんね。何とかしないとね。」


「ほむら、また電波を受信してるんだね。
 これをエネルギーに変換出来たら、ノルマの足しになるのになあ。」

 ただし、ほむらは知らない。そんな乙女の純情など知ったこっちゃない神出鬼没のKYインキュベーター キュウべえが、遠慮無くその光景を眺めていたりする事を。
 そして、決して神になったと言う『まどか』の話からではなく、その姿から電波系と評している事を。

「そう言えば、今日もまた妖魔が出たんだけどね、最近増えてきてる気がするの。
 その事を巴さんと話していたら佐倉さんがね……。」

 世の中、知らない方が良い事もあるのかもしれない。



[27608] 月曜日
Name: 鍾馗◆b073de93 ID:e33ef41b
Date: 2011/08/11 22:33
 今日も今日とて私は夢を見る。
 今夜の舞台は通学路。
 だが、先日とは違い、いつもさやかさんと待ち合わせをしている場所のいつもの時間、彼女は姿を現さなかった。
 健康優良児の彼女には滅多に無い事ではあるが、もしも鬼の霍乱で彼女が欠席する場合には律儀にその旨のメールが来る所なのだが、今回はそれも無い。
 そして、時間ギリギリまで待った後、さやかさんとの合流を諦めて学校へと向かっていった。
 この状況には覚えがある。自分がさやかさんへと彼への想いを伝え、そして彼に告白した次の日の状況だ。
 覚悟していたとは言え、やはり親しい友人との間に溝が出来てしまった事はとても辛く、あの時は一人でトボトボと通学した。
 しかし、夢の中の自分は、さやかさんが姿を現さない事が心配なのか、どうにも元気のない、先日名前を知った見知らぬはずの少女を心配させまいとして、空元気を出して無理矢理背筋を伸ばして歩いていた。

 あの時隣に『まどかさん』がいれば、私はやはり同じ行動をとったのでしょうか。
 私にそうさせる『まどかさん』、貴女は一体誰なのですか?



魔法少女仁美☆マギカ

月曜日


「これで良し、と。」

 特に汚れたわけではないが、一仕事終えた仁美はパンパンと手を叩く。
 一仕事と言っても、そんな大層な事をした訳ではない。ほむらの机の中に手紙をコッソリ突っ込んだだけである。
 しかし、実はそこに至るまでにちょっとした紆余曲折があったのだ。

 大切な話を聞かせて貰うように誠意を込めて頼み込む為、仁美はああでもないこうでもないと頼み方のシミュレートを実施していた。
 だがよく考えると、下手に人目に付くと後を付けられ、普通なら正気を疑われかねない話を聞かれてしまう危険性があると気付いたのが昨日の晩。
 そして、本当は最初から直に用件を伝えたかったのだが、仁美はやむなく作戦を変更。密かにほむらの下駄箱の中に手紙を入れようと、いつもより早めに登校した。
 そこまではよかったのだが、仁美がいざほむらの下駄箱の蓋を開けてみたら、既に先客の手紙がいくつか入っていたのを見つけてしまう。
 自分にも同じ経験が会ったのですぐに事情は察せられたが、何となく見てはいけない物を見てしまったような気分になり、思わずキョロキョロと辺りを見回して誰も見ていない事を改めて確認。そしてそのまま何もせずにそっと蓋を元に戻して下駄箱を離れてしまった為、作戦は失敗。
 そうしてさらに作戦を変更した結果、まだ誰も来ていない教室でほむらの机に手紙を忍ばせ、ようやく用件を伝える段取りを整えたのだ。

 早起きとちょこっとした苦労をした甲斐はあり、登校したほむらはすぐに机の中の手紙に気付くと、とても慣れた手付きで周りに気付かれないよう、パパっとそれを開封してサッと目を通す。そしてちらりと仁美を見ると、コクリと頷いたのだった。

 そして時計の針は進み、例によって空席のさやかの席を眺めたりして授業中も上の空の仁美が、今日はさらに放課後の事をぼんやりと考えていたりして為にまたポカをやらかし、対照的にほむらが相変わらずの完璧超人振りを発揮する等してから迎えた放課後。
 仁美はHR終了の号令もそこそこにそそくさと席を立つと、相変わらず級友達に放課後の寄り道に誘われてそれをやんわりと断っているほむらに見えるように小さく頷いてみせてから屋上へと向かった。自分から呼び出して頼み込む手前、相手を待たせるような礼を失する真似はできないからだ。
 階段を最上部まで昇りつつ「さやかさんともよく一緒にこの階段を昇って、屋上でお弁当を食べましたわね」と思い出し、そして例の告白後はそれが全く途絶えてしまっていた事も思い出してまたまた鬱になりながら、ガチャリと屋上へと通じるドアを開ける。
 目の前の景色はコンクリとタイルで彩られた屋内から変わり、一面に大空が広がる見晴らしの良い景色が広がっていた。
 雲が薄く全体的にかかった、微妙に白さに濃淡のあるその水色の空を眺めながら、仁美はほむらを待つ為に腰を下ろす。
 そして、無意識に選んだそこがさやかと一緒に昼食を取る際、いつも座っている場所である事に気が付き、再び気分を暗くする。

(ほんの少し前までここでさやかさんと一緒におしゃべりをしていましたのに、どうしてこうなってしまったんでしょうか。それに、さやかさんは今どうしているんでしょうか。)

 再び一人では答えの出ない、出るはずの無い疑問に捕らわれ、視界に入っている物、耳に聞こえてくる音全てを意識の外に出していた仁美であったが、不意に顔に吹いてきた強い風と、体を揺らしたズシンと言う振動にはさすがに気が付き、意識を外へと向けた。
 そして、仁美の目の前には1体の全身白ずくめで、見た事もない大きな人らしき存在がいた。だが、一目見て分かってしまう。これは間違っても人ではないと。
 体のラインはポンチョのような物で、顔の部分はモザイクみたいな妙な突起を着けた仮面で隠されているようにも見えなくはないが、見た感じアレはそんな物ではない。もちろん何かの特殊メイクとも言えなくもないが、そもそも身長がざっと見た所でも5m以上はある存在なのだ。つまりこれは、得体の知れない『何か』だ。
 その『何か』が奇怪な動きで自分へと迫ってくる。
 随分と退化したはずの人間の生存本能が、仁美の脳裏に警鐘を鳴らした。

(逃げなきゃ。でもどこへ?
 逃げなきゃ。でもどうやって?)

 突発的な命の危機に直面すると、人間の体は硬直すると言う。生存する為には危機を回避する可能性を上昇させるべく、とにかく動くのが道理であるにも関わらずに、何故そのように生物の生存本能に反する状態になってしまうのか、世界中の多くの学者達が頭を悩ませている。
 その苦悩の中から現われた説の一つに、知恵によって生存を確保してきた生物である人間は、体を動かすという命令に割くリソースすら削って、結果として硬直している間に脳内で危機回避の為に役立ちそうな過去の情報を全力で検索しているのだと言う説がある。そして、事故等の直前に起こるそれまでの出来事の回想とは、その検索の過程なのだと。ただし、総じてその検索は事態打開には間に合わないのだが。
 そして、今の仁美もまた、過去の出来事が走馬燈のように脳裏を駆け巡っていた。

(短いけれど、色々な事があったのですね。上条さんとお話した事。さやかさんに宣戦布告しようとした事。上条さんを初めてお見かけした事。3人で一緒に登校した事。私とさやかさんと……『まどかさん』?)

 そうして仁美が硬直している間にさらに『何か』はまた1匹数を増やし、只でさえ0に近しいと思われる生存確立がますますもって0へと近付いていく。
 そしてそれら二匹ともが同じような奇怪な動きで仁美目指して距離を詰め、体を覆う布のような物の継ぎ目から腕を伸ばしてくる。
 瞬きする事すら忘れて固まっていた仁美は、そのままでは確実にその『何か』に襲われ、命を落としていたであろう。
 しかし、直後に鳴り響いた銃声と場違いな衣擦れのような音、それに何かを切り裂く鈍い音がその定めを断ち切った。

「ふう、間一髪ってとこだったわね。」
ふぉい、ふぁいひょうふあ。おい、大丈夫か
「……佐倉さん。はしたないですから、食べるかしゃべるかどちらかにしてください。」

 そして、二人の少女が仁美を庇うように仁美の前へと舞い降りた。

 一人は普段はおっとりお姉さんのような雰囲気を纏って居るであろうと思われる、目尻の下がった優しげな顔立ちの少女。
 白い長手袋を着けた手には、さほど凝ってはいないが、美しく装飾を施されたマスケットが構えられ、その銃口からはうっすらと硝煙が立ち上っていた。
 金色の長い髪は両サイドで結んでさらに巻き髪にして、その髪は綺麗な黄色い宝石の付いた花形の髪留めと羽根飾りの付いた黒いベレー帽で飾られている。白いパフスリーブのブラウスの襟元は黄色いリボンで彩られ、ブラウスそのものにも人も羨むけしからんぶりの女性の象徴をさらに強調するように焦茶色のコルセットのようなものを装着されていた。さらに下へと目を向けると、縁に焦げ茶色のラインを入れた薄茶色のミニスカートから伸びる足には黒と灰の縦縞模様のニーハイソックスが、その上からは脛の部分が焦げ茶色で足首より下が薄茶色のブーツが履かれている。

 もう一人は幅広で大きなの穂先の槍を持った少女。
 やや上がり目で気の強そうな顔立ちをしていて、どこか蓮っ葉な雰囲気を持っており、何故か口に鯛焼きをくわえている。
 深めの赤く長い髪は黒いリボンで無造作に結んでポニーテールにしていて、衣装の色はワインレッド。立て襟と前締めの衣装がどこか神父服を連想させる、スリーブレスで裾の長い上着を着用。襟元は真っ赤な宝石を使用した装飾が、裾の縁は白いフリルが飾り立てている。そしてその下からは銀糸で縁取られた黒いシャツと赤とピンクのストライプという以外と可愛い趣味のミニスカートを覗かせ、足に纏った黒いニーハイソックスの上に折り目から白い裏地を見せる、上着と同色のブーツを履いている。
 ちなみに、今は食べるのに専念する事を選んだようで、黙ってはぐはぐと鯛焼きをお食事中である。

「……あ、ありがとうございました。あの、貴女達は?」
「彼女達は魔法少女。魔獣を狩る者達さ。」
「あら、あなたは……。」
「やあ、こんにちは、志筑仁美さん。」
「こんにちは、キュウべえさん。」

 謎の少女達に代わって仁美の問いかけに答えたのは、先週知り合った謎生物、キュウべえだった。

「あの、魔法少女って……。」
「そう。この間僕が君に話したやつさ。」
「自己紹介はまた後で。
 とりあえず、一仕事片づけちゃって良いかしら?」

 マスケットを持った方の少女はそう言うや否や、その垂れ目には似つかわしくない鷹のように鋭い眼光を浮かべたかと思うと、仁美の返事を待たずに、いつの間にか体に纏い付かれていた黄色いリボンを引きちぎっている『何か』こと魔獣に対して引き金を引く。
 引き金の動作に連動して銃把の上部右側面に付いている、先端を真っ赤に熱せられたハンマーがすぐ下の火皿へと叩き付けられ、そこに塗布された火薬に点火。そしてそれは火薬の塗布されたルートに従って銃本体の側面に開いている火穴の中へと導かれ、そこを通して直結している銃身底部の装薬を炸裂させる。魔法で強化されたそれは急速に膨張し、その圧力によって銃口から鉛玉よりも遙かに威力の高い魔力弾を発射。魔獣へと命中させてダメージを与え、悲鳴のようなものをあげさせた。
 少女は弾の無くなったマスケット(←先込め式で単発)を惜しげもなくポイッと捨てると、次の武器を呼び出す為に手品師が何もない空間に何かを呼び出すようなイメージを脳裏に描き、ベレー帽を手に取ると、その手を振るう。
 そして、そのイメージの補助により魔力で作り上げ、その段階で魔法で色々と強化されているマスケット(装弾及びハンマー加熱済み)を空間に複数現出させ、すかさず次々と銃把を握って構えては発砲を繰り返した。
 その脇を槍を持った少女が口の中の鯛焼きを飲み込みながら駆け抜け、軽快なステップで右に左にと魔獣の攻撃をひらりひらりかわしつつ接近。接近中に、やはり魔法で作られた槍の柄を長柄よりもさらに伸ばした上で魔獣に対して振り回し、ある時はその遠心力の乗った一撃で叩きのめし、またある時は穂先を引っかけて斬りつける。
 マスケットを持つ少女は槍を持つ少女を巧みに援護し、二方向から同時に攻撃を受けないように攻撃。
 一方、槍を持つ少女はその援護の下、マスケットの射線を塞がず、それでいて魔獣に後方へと抜けられないように立ち回っている。
 それぞれが前衛、後衛の働きをよく理解し、また、それを実践出来るだけの練度を備えている事をよく表している連携であった。

「それにしても、こんな昼間からどうして魔獣が……。」
「まあ、この町では最近やたら増えていたからな。いつか出てくるんじゃないかと思ってたよっと!
 だからアタシが出張ってきてる訳だし、こっちとしては稼ぎが増えるから良いけどな。」
「あなたは良いでしょうけど、そこ! 私とほむらさんは昼は学校があるんですよ。」
「その分はアタシがやるよ。夜よりは数は少ないんだし。右側の頼む。」
「諒解っと。その代りにケーキでもご所望かしら?」
「お、分ってきたじゃん。ついでに紅茶も付けてくれるとなお良いね。」
「太りますよ?」
「もしそうなるなら、その時はマミも道連れだな。せいっ!どうせ一緒に食べるんだろう?」
「……あっ! おっとと。危ない危ない。えっと、ケーキではなく、お弁当か夕食にしませんか?」
「別に良いけどさ、図星だったからって戦闘中にフリーズしてし損じするのはやめようぜ。」

 軽口を叩き合いながらも動きは止まらず、少女達が油断せずに着実に与えるダメージによって魔獣は次第に消耗し、さらには突然紫色に輝く光の矢が次々と横合いから撃ち込まれ、ついに1匹が霞のように消滅した。

「遅刻よ、暁美さん。」
「後で何か食わせろよ。」

 仁美が矢の撃ち込み元へと視線を向けた先には、待ち人であるほむらが居た。
 ただし、いつもの制服姿ではない。灰色大きなの襟の上に一回り小さな黒い襟が付いた、二重の大きな襟を持つセーラー服の様な衣装である。その胸元には紫色のリボンを締め、白いフリルに縁取られた灰色のミニスカート、黒タイツの横には灰色のダイヤ柄が縦に並び、足下は黒いハイヒールという姿だ。
 しかも手には弭に花の飾りを付けた黒い長弓を持ち、リボンと同じ色に光る矢をつがえて引き絞っている。

「ご免なさい。待たせたわね。クラスメートの誘いを振り切るのが大変だったの。」

 魔法少女ってあんなに硝煙臭かったでしょうかとか、あの槍魔法っぽいけど魔法少女っぽくないですねとか、ああ、やっぱり変身して戦うのねとか、突然始まった目の前の戦闘に対してそんな的外れな感想を持っていた仁美や戦闘中の二人の少女に対してほむらはそう謝罪すると、再び矢を射放つ。
 赤毛の少女もそれに合わせて槍の柄を多節棍のように分割させ、魔獣の動きを阻害しに動く。
 それらの援護の間に金髪の少女は、それまでのマスケットを太らせたような、抱え大筒よりもさらに太く大きいせいでとても凶悪に見える飛び道具を現出させて、ほんの少しだけ重たげな様子でその銃把を握って水平に構えると、その筒先を魔獣へと向けた。

「杏子さん、離れて!
 ティロ・フィナーレ!」

 そして、タイミングを合わせて発砲。
 マスケットからの魔弾の射撃を遙かに越えた砲撃は、台詞通りに止めの一撃となり、最後の魔獣も消滅したのだった。


 戦闘の終わった屋上には四人の少女と謎生物一匹が腰を下ろしていた。
 先の戦闘は魔法少女達が屋上に張った結界で外界から隔絶されていた為、屋上以外ではクラブ活動や生徒の下校等のいつも通りの放課後の光景が広がっている。
 その放課後特有の活気に溢れた喧噪を背景に、とりあえずは全員の知り合いであるほむらがそれぞれの紹介を始めた。

「まずこちらは巴マミ(ともえまみ)さん。一つ上の先輩で、さっき見た通り魔法少女よ。」
「初めまして。よろしくね。」

 紹介を受けて仁美にそう挨拶をしたのは、舞うようにマスケットを取っ替え引っ替えバカスカ撃ちまくっていた少女。
 変身を解いた彼女はやや色素の薄い髪をしており、見滝原中学校の制服を身に付けていた。

「こちらが佐倉杏子(さくらきょうこ)さん。見ての通り学外の人で、同じく魔法少女よ。」
「よろしくな。」

 次に紹介されたのは先程長大な槍を振り回して大立ち回りを演じていた少女。
 ご先祖に異人の血が混じっているのか、彼女はやや赤みのある髪をしている。服も私服で、グレーのパーカーを黒のシャツの上から着ており、ボトムスはデニムのホットパンツ。そして、茶色のロングブーツを履いている。
 なお、手に相変わらず鯛焼きの包みを抱えているが、さすがに今は持っているだけである。

「そして、こちらが志筑仁美さん。私のクラスメートよ。」
「先程はありがとうございました。志筑仁美と申します。よろしくお願いします。」

 最後に仁美が紹介される。仁美はスッと立ってぺこりと一礼すると、またすぐに腰を下ろす。この辺りのやり取りは家の付合いでちょくちょくあるので、彼女にとっては手慣れたものだ。

「そして、新たな魔法少女候補さ。」
「まあ、そうなの。」
「へえ。」

 仁美の紹介にそう付け加えたのは謎生物キュウべえである。
 それを聞いてマミは若干複雑そうな表情で、杏子は興味深そうな表情で仁美を見る。
 ただし、この場にはその紹介を良しとしない人物がいた。

「黙りなさい。」
「ぎゅぇっぷぃ……。」
「ああ、キュウべえ!」
「あはは、また潰されてやんの。」

 即座にほむらの足が霞み、キュウべえを踏みつける。
 慌ててそれを回収して介抱するマミに、それを見てけらけら笑う杏子。
 何となく三人の個性の一端が分ってしまった仁美であった。

「んん! さて、実は今日、志筑さんと私はここで少しお話をする予定だったんだけど、それは魔法少女の事かしら?」
「はい。後、他にもいくつかお聞きしたい事があります。」

 一気に気の抜けてしまった、と言うか自ら抜いてしまった場の雰囲気を咳払いで誤魔化しつつほむらは話を続けた。
 仁美としてもこれからが本題なので、気を引き締める。

「あ~、魔獣も倒したし、アタシは帰って良いか?」
「私もお暇ましますね。」
「他の方のご意見も頂けるととてもありがたいので、できましたらお付合い頂けませんか?」
「……まあ、いいけどな。」
「あまり大した事を言える訳ではないけど、それで良いのなら。」

 キュウべえと違って空気の読める二人が気を利かせて席を外そうとしたのを仁美は結構強引に引き留めた。
 視点が変われば意見も変わる。とにかく色々な視点からの情報が欲しかったのだ。

「さて、それじゃあ何から話したものかしら。」
「そうですね。とりあえずは私が理解している事から。
 まず、魔法少女とそれはそちらのキュウべえさんとの契約を結ぶ事により、魔法を行使する事が出来るようになった女の子の事ですね。
 そして、その契約とはその女の子の願い事を一つだけ叶える事。その代償に魔法の武器を使ってさっきの魔獣と呼ばれる存在と戦う事。」
「……驚いた。ばっちり合ってるじゃねえか。」
「間違っていないようで安心しました。私が知っているのはそれだけです。他にも色々教えて頂けないでしょうか?」

 仁美の口から語られた説明の内容を杏子が肯定したので、仁美はそれ以上の詳細な説明を求め、それに対してまずマミが応じる。

「そうねぇ。まずは何と言ってもコレね。」

 そういって、マミはどこからともなくオレンジ色の宝石と思われる物体を嵌めた小物を取り出してみせた。

「これはソウルジェム。魔法少女になった時に同時に与えられるものよ。」
「まあ、綺麗な宝石ですね。」
「これが魔法少女の魔力の源とも言えるの。
 そして、私達の魂そのものが結晶になった姿よ。」
「……え?」
「魔法少女となる契約を結ぶ時、キュウべえは魔力を使えるようにすると共に、私達の魂を肉体から切り離して結晶化させる。」
「つまり、今の私達の本体だ。体は魂が遠隔操作しているようなものだな。」

 マミの説明に一瞬理解が追いつかなかった仁美に対して、ほむらと杏子が説明を付け加える。
 そうしてようやく内容を理解した仁美は、自分が震えているのを自覚しつつ、それでも何とか踏ん張って声をだした。

「そ、それって……。」
「そう。今のこの体は魂の無い動く肉体、つまり、ゾンビみたいなものだ。」
「ひっ!」
「もっとも、前と変わらずに機能してるから、腐ったり、干からびたりはしないけどな。腹も空くし。」
「お風呂もご不浄も必要ですね。普通に月のモノも来てますし。それに背も伸びれば体重も増えますから、また下着のサイズが合わなくなったりとか……。」
「……これ以上まだ育ってやがんのかよ、コンチクショウ。」

 あっけらかんと杏子とマミにカミングアウトされ、和やかに話を続けられても、その内容が自分はもう人間ではないと言う内容では、仁美としては平静ではいられない。
 命の恩人であり、普通に意思疎通の出来る存在ではあると頭で理解していても、自分と異なる、それも強大な力を持っている存在に対してはどうしても本能的に怯えてしまうのだ。傍目に見ても、仁美の体が震え、顔から血の気が引いているのがよく分る。

「ほら、やっぱり怯えてる。魂の在処を君達人類は気にするんだろう? 知らなくても差し支えないんだから、言わなくても良かったのに。」
「黙りなさい。」
「ぎゅぇっぷぃ……。」

 ほら言わんこっちゃないという態度のキュウべえに対して、再びほむらが実力行使で黙らせる。

「いい加減、統計的に相手の反応を推し量ると言う事をしなさい。
 言わずに後から分った場合と、最初から分っていた場合、どちらがやっかいか分るでしょう?」
「人間が魂の事を知っていた場合は契約成立率が低下してしまうんだ。それによる損失と、後から偶然知られてしまって戦線離脱や造反が起こった場合の損失だと、前者の方が圧倒的に大きいんだよ。」
「では、最初から知っていた時の生存率と、知らなかった時の生存率ならどうなの?」
「それは、さすがに知っていた時の方が生存率は高いね。何せ皆自分の本体を最優先で守ろうとするから。」
「なら、そうする事で長く戦ってもらう方が良いんじゃないの?」
「それでも効率は五分と五分には遠いね。」
「最初からこちらにとって大切と分っている事を知らせもしないで契約するのは、立派な不法行為よ。」
「概略は伝えてあるし、それ以上の情報を聞かれなかったのにどう知らせろというんだい? 君達人間は契約時に自ら確認しなかった事による錯誤から生じた判断ミスに関して、他者を憎悪する。契約を結ぶ時に自分にとって大切な事を確認するのは契約時の必須の事じゃないか。僕達はその辺りが理解出来ないよ。」

 片や穏やかに語られる、言わないのは正当な理由があるのだとの、踏み潰されても撤回しないキュウべえの主張と、片や淡々と話される、言う方が良いのだとのほむらの主張が激突する。……傍らの仁美をそっちのけで。
 まさか悲鳴を上げて逃げ帰る訳にもいかず、しかたなく仁美は本能を意志の力でねじ伏せ、それでも恐る恐る残る二人に話しかける。

「申し訳ありません。助けて頂いたのに、とても失礼な事をしてしまって。」
「ああ、気にしないで。こっちの事情に巻き込んでしまったのだし、当然の反応よ。謝られると、かえってこっちが申し訳ないわ。」
「そうそう、もうなっちまったんだし。魂の事だって別にそう困るもんでもないからな。気にしてないって。」

 下げられた方の二人はかえって慌ててしまい、口々に気にするなと言う。
 だが、その中に聞き捨てならない台詞が混じっていた事に仁美は気が付いた。

「……困らないんですか?」

 そう、杏子は「そう困るものではない」と言った。先程も自分がゾンビみたいなものだと言ったり、その割には和やかに話をしていたりしていたのだ。

「まあ、気の持ちようだな。アタシは言われるまで全く違和感無く過ごしてたし。」
「後から思えば、妙に体の動きが良かったり、怪我の割に痛みが少なかったりしたけど、魔法少女になったからかな~って思っちゃう位だったわね。」
「はあ。」
「むしろ便利だけどな、アタシとしては。
 ……まあ、気にする奴は最後まで気にしてたけど。」
「……そうね、彼女は最後まで気にしていたわね。」

 そう言って、先程とは打って変わって沈痛な表情をする二人に、仁美はもしやと思って恐る恐る問いかける。

「あの、最後までって、つまり……。」
「ああ、死んだよ。力を使い果たして、消えちまった。惚れた男の為だからって、自分が消えちまってどうするんだよ。さやかの馬鹿が。」
「……今、何と仰いました?」

 仁美の心臓は急にその鼓動を速め、それに合わせて呼吸も早く、浅くなった。頭にもジーンとした痺れが走り、耳には轟々とした耳鳴りの音が聞こえる。
 明らかに普通でない状態だが、当の仁美はそれを無視した。もっと大事な事があるからだ。
 急に顔色の変わった仁美の様子に可を見合わせている杏子とマミが怪訝そうな顔をしているが、それにも仁美は気が付かない。
 杏子の言葉を聞き、そして瞬時に一つの推測が思い浮かんだ瞬間に、それまで考えていた質問の段取りも、ついさっき聞いた魔法少女になる事の代償についても、横で相変わらず言い合いをしている一人と一匹についても、それどころか、ただ一つ、その推測に関する事以外については全て頭から抜け落ちている。

「『さやか』さんと、仰いましたか?」

 人間の脳はコンピューターと比べて一つ一つの計算のスピードは遅いが、コンピューターには出来ない芸当をやってのける事ができる。
 与えられた条件に対して、それまで学習、経験した事によって蓄えた膨大な量の様々な情報をそのデータベースから引き出し、処理をして内容を推し量り、結論を出す事が出来るという機能である。
 そして、その機能はこの時仁美の脳でも完全に働いていた。
『魔法少女の内二人が同じ学校の生徒』『親友と同じ名前の魔法少女の死』『その親友は謎の失踪中』という3個の事実から一つの推測を成り立たせたのだ。
 頭が痺れたように上手く働かなくなり、「もしその推測が正しかったとしたらどうしよう」「違っていて欲しい」「きっと自分の早とちり」「でも多分……」等々、様々な考えが仁美の頭の中を無秩序に走り回る。

「ひょっとして、その方は『美樹さやか』さんと、言う、お名前、です、か?」

 その思考がまとまらない状態が、只々事実の確認と言う、ストレートな質問を仁美にさせていた。ただし、その質問をするだけでも大変な労働であるかのように、喘ぐように言葉は切れ切れとし、声は震えて段々と小さくなり、終いには蚊の泣くような声になっていて、しかしそれでも最後まで言葉を発する。
 そして、魔法少女の優れた聴力でその質問を最後まで聞き取り、遅まきながら事情を察したマミと杏子が躊躇いながら返した返答は、仁美が当たって欲しくないと最も恐れた予測が当たってしまった事を伝えていた。

「……ええ、彼女の名前は『美樹さやか』さん。私達と同じ学校の生徒だった娘よ。」
「……おせっかいな、でも、最後まで一途で真っ直ぐな奴だったよ。」



[27608] 火曜日
Name: 鍾馗◆b073de93 ID:e33ef41b
Date: 2011/08/11 23:43
「」:普通の会話
<>:念話
():考え

 以上を念頭に置いてお読み下さいませ。

 なお、今回よりかなり捏造設定が入ります。
 そう言うのが許せないと言う方はお読みにならないかも知れません。
 大丈夫と言う方はお楽しみ頂ければと思います。






「えぇ? 何それ?」

 元気なさやかさんの声が響く。

「訳分かんないよね。」

 場所は行きつけのファーストフード店。

「文武両道で才色兼備かと思いきや、実はサイコな電波さん。く~、どこまでキャラ立てすりゃあ気が済むんだぁ、あの転校生は。萌えか、そこが萌えなのかぁ。」
「……さん。本当に暁美さんとは初対面ですの?」

 私とさやかさんは並んで座り、正面には『まどか』さん。

「ん~、常識的にはそうなんだけど……。」
「何それ。非常識な所で心当たりがあるの?」
「ん~、あのね、昨夜、あの娘と夢の中で会った……ような……。」
「ぷっ、あっははは。」「ぷっ、うふふ。」

 いつものように、見覚えのある場所に、記憶には無い遣り取り。

「凄ぇ、……までキャラが立ち始めたよ。」
「ひ~どいよ。私真面目に悩んでるのに。」
「あ~、もう決まりだ。それは前世の因果だわ。あんた達、時空を越えて巡り会った、運命の仲間なんだわ。」
「夢って、どんな夢でしたの。」
「それが、何だかよく思い出せないんだけど、とにかく変な夢だったってだけで。」
「もしかしたら、本当は暁美さんとは会った事があるのかもしれませんわ。」
「え?」
「……さん自身は憶えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません。」
「それ、出来過ぎてない? どんな偶然よ。」
「そうね。」

 ひょっとしたら、いずれはさやかさんともう一人とで同じような遣り取りをしていたのかもしれない。
 でも、もうその可能性は無くなってしまった。
 だって、さやかさんはもう……。


魔法少女仁美☆マギカ

火曜日


「夢?」

 照明の点いていない薄暗い自室のベットで、仁美は目を覚ます。
 今日は気分が優れず、学校を休んで自室のベットに臥せっていたのだ。

「さやかさん……。」

 そう呟くと、仰向けになったまま涙を流す。
 親友と呼べる存在の死。しかも、自分を含めたたった四人の例外を除き、その両親友人のほとんどが彼女の死を知らず、そして、遺体が無く、魔法少女という非現実的な存在が絡んでいる為に事情を説明する訳にもいかない、つまりは今後さやかの死をその両親友人達が知る事も金輪際ありえないという現実は、仁美に対して多大な精神的ダメージを与えていた。
 無論、昨日初めてあった少女達に、それもただ口頭で告げられた、何の証拠も示されていない事である。本来なら仁美はそれを一笑に付し、否定すべきではあったが、魔法少女と魔獣の戦いと言う非現実的な現場を目の当たりにし、自らの死の気配を一瞬でも感じ取った後ではとても無理で、素直に受け入れていた。もちろん、仁美にとっては残念な事に、少女達の雰囲気が嘘を言っていないように思えなかったと言うのも非常に大きい。信じざるをえなかったのだ。
 昨日の放課後にそうしてさやかの死を告げられた後の事を、仁美はあまり憶えていない。
 直後に気を失ったらしいという事は理解しているが、霞がかかったように朧気にしか思い出せないのだ。直ぐに目を覚ましたような気もするし、ほむらに付き添われて帰宅したような気もする。
 何より、そもそもそう詳しく思い出そうという気にもなれない。何もかもがどうでもよく、何もする気が起きなかった。
 そうして、再び目を瞑る事もなく、ただぼ~っとしようとしていた仁美に声を掛けた人物がいた。

<よう、目が覚めたか。>
「……どなたですか?」

 頭に直接響く声に対して無気力に返事をする仁美。
 そんな仁美に対して、声の主は苦笑気味に再び声を掛ける

<昨日会ったろ。佐倉杏子だ。>
「……これも魔法ですか?」
<まあ、そうだな。おい、今顔を出せるか?>

 声が鼓膜を通さず直接頭に響いている事に気付けるくらいにようやく頭が働きだした仁美を、杏子は外へと誘った。

 大きな襟が付き、裾の縁にフリルが付いた薄い緑色のゆったりしたサイズの寝間着の上から白いカーデガンを羽織って家から出てきた仁美を、花束を右肩に載せるように持ち、口にシガレット状のラムネをくわえた杏子と、その足下にいるキュウべえが出迎えた。

「よう。すまないな、呼び出して。」
「……いえ、どうせ寝ていただけですので。何かご用ですか?」
「ん、墓参りに行くんだが、付き合わねえか?」
「……着替えて参ります。少しお待ち頂けますか?」

 杏子は誰のとは言わない。そして、仁美も誰のとは問わない。しかし、昨日会ったばかりの仁美を杏子がわざわざ誘って行く墓参りである。誰の墓参りなのかは言わずとも伝わった。
 まだ頭に霞が掛かったような状態ではあるので普段よりもかなり手際が悪かったものの、仁美はすべき事は一通り行う。仕事に出ている両親が早めに帰宅した時の為の手紙をリビングに用意し、ガスの元栓が閉まっている事を指差し確認。続いて制服に着替えて髪に櫛を通す等して身だしなみを整えると、扉に鍵を掛けて家を出た。なお、その頭が普段より働いていない状態であっても靴は学校指定の茶色い革靴ではなく、私物の黒い革靴を選んでおり、さらには安全ピンで左胸にきちんと黒いリボンを付けてある辺り、両親の教育の跡が伺える。
 そうして、途中で花屋に寄って仁美の分の花束を購入してから杏子が仁美を誘ったのは、仁美やさやかの通学路の途中にある公園だった。子供達が賑やかに遊んでいる様子が聞こえてくる遊具のあるスペースから離れ、ベンチのある広場のとある地点まで来ると、足を止めた。

「……ここさ。」
「ここでさやかさんが……。」
「ああ。魔法少女は力を使い果たすと消滅する。
 あいつは私やマミよりも大きな魔力を持っていたが、気負い過ぎて無茶しやがった。その場の残りの魔獣全てと刺し違える形で消えちまったよ。」

 杏子はそう言うと、今度はその広場の隅の内、近い方へと足を向ける。

「さすがに広場の真ん中に花を添える訳にはいかなくてな。普段はここに花を置いてるんだ。」

 杏子が、続いて仁美が持ってきた花束を広場の隅に添え、二人で並んで手を合わせる。
 そういう弔いの儀式をすることで、さやかの死を仁美はジワジワと再認識させられていた。

(さやかさん。あなたは人知れず戦っていたのですね。お疲れ様でした。安らかに眠って下さい。)

 しばらく二人は無言で手を合わせていたが、やがてポツリと仁美は問いかけた。

「……さやかさんは……。」
「ん?」
「さやかさんは、苦しまずに済みましたか?」

 戦いの中に身を置いていたのだ。当たり前だが、辛かっただろう。苦しい事もあっただろう。それに、過ぎた事を尋ねても、それがさやかにとって何かの救いになる訳でもない。あるいは、ただの自己満足か。しかし、それでもそう聞いてしまうのが、やはり人情である。
 そして、それに対する杏子の返答は、仁美を気遣ってはいるが、無自覚に仁美の心に鋭い一撃を入れた。

「さあ? ただ、死顔は安らかだったよ。ここ最近はなんか切羽詰ってたような感じで荒れてたけど、全ての苦しみから解放されたような穏やかな顔だった。」
「っ!」

 さやかが仁美と疎遠になる前は荒れた様子は無かった。しかし、疎遠になった直前の出来事を思えば、荒れた理由など一つしかない。

「……私のせいです。」
「ん?」
「さやかさんが荒れていたのは、多分、私のせいです。」

 そうして、罪悪感に襲われた仁美は一連の出来事を話す。
 さやかに意中の人がいた事。自分もその人が好きで、さやかに対してその思いを告げた事。さやかは自ら身を引いた事。それを受けてその人と自分が恋人同士になった事。そして、そのすぐ後にさやかが失踪、杏子の話では死亡した事。

「私は、私は何て事を……。」

 涙を流しながら途切れ途切れにそう話し終えると、仁美は両手で顔を覆って俯いた。

「あ~、ま~、何て言うか……。」

 黙ってそれを聞いていた杏子はいかにも困ったといった風情で頭を掻くと、おもむろに仁美の頭を自分の胸元に抱き寄せた。そして、幼子をあやすようにポンポンとその背を叩き、慰めの言葉をかける。

「あたしはさやかじゃないからさ、本当の所は分らない。
 でも、さやかは自分から身を引いたんだろう? だったらそれは、その事を消化しきれなかったさやかの問題だ。あんたは関係無い。」
「でも、私がこんな時に告白しようだなんて思わなければ……。」
「アンタはこっちの事情なんて知らなかったんだ。第一、その告白を相手が受けたって事は、さやかは振られる事が確定していたんだ。遅いか早いかの違いさ。
 それに、あいつは魔法少女になった時に告白はしないって決めていたらしい。覚悟はしていただろうさ。」

 本当はそんな潔いものではなく、もっと生々しく感情が爆発していた。
 さやかの祈りは「恭介の怪我を治す事」。
 その祈りの強さに比例したのか、祈りは効き過ぎなくらいに効き、「恭介の怪我を無かった事にする事」と言う、どこかの女神様のご加護があったとしか思えない、プチ歴史改変の形で叶えられてしまっている。
 もっとも、改変前の歴史はさやかと、後何故かほむらしか知らない歴史になってしまったとの事で、事の真偽は杏子には分らないのだが。
 その事を話し、寂しさをベースにした複雑な表情をしながらさやかが「長年お見舞いに行っていた歴史が無かった事になってしまった。」と言うのを見て、「坊やの手と足を二度と使えないくらいに潰してやりな。アンタ無しでは何も出来ない身体にしてやるんだよ。そうすれば今度こそ坊やはアンタのもんだ。身も心もぜ~んぶね。」と杏子が挑発混じりに言ってやった時には、敵意剥き出しで睨み付けてきたりした事もあった。
 そういった事から分るように、さやかの願いはとても真剣だった。だからこそ、その祈りの為に自らの魂を差し出せたのだ。
 それだけ思慕を寄せていた相手を、その相手の為に諦める。振った振られた自体はありふれた話だが、こうなるとやはり生半可な覚悟ではない。
 そして、さやかも一応覚悟はしていたものの、「もうこんな身体で抱きしめてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ。」とマミに縋って号泣していたのも杏子は知っている。

 だが、それを言うと仁美をさらに追いつめる事になるので、杏子は黙っている事にした。

「さやかはさ、アンタを応援するって言ったんだろう? アンタが何時までも自分に責任の無い事を気にしていたら、それこそさやかが救われないさ。」
「……でも、そんなに簡単に割り切れません。」
「そりゃ、すぐには無理さ。特に親しい相手の事は、誰だってね。少しずつ、少しずつで良いんだよ。」
「……ありがとうございます。頑張ってみます。」
「おう。」

 そう言うと、杏子はまた仁美の背中をあやすようにポンポンと叩き続け、それに促されて仁美は再び杏子の胸に顔を埋めたのだった。

 その後、一頻り杏子の胸で泣いた仁美はようやく落ち着きを取り戻したが、杏子はまだ仁美の背中をポンポンと叩いていた。
 蓮っ葉な雰囲気に似合わず優しいその仕草に、仁美は杏子に抱きしめられながらクスリと笑ってしまう。

「慰めてくれるの、お上手なんですね。」
「よせやい。親父が神父だったんでね、その真似事さ。泣き虫な妹もいたしな。」

 それを聞いた仁美は顔を上げて悪戯っぽい表情をする。

「あら、私は妹ですか。」
「少なくとも泣き虫ではあるだろう? これで食い物でもやればさっき泣いたカラスがって奴だ。食うかい?」
「くすっ、頂きます。」

 杏子が澄ました顔で返し、仁美は差し出されたシガレット状のラムネをあ~んと、直接口でくわえて取り、最後にお互い顔を見合わせながら、クスクスと笑う。
 仁美がこんなに晴れ晴れと笑うのは久しぶりの事であった。


「杏子、瘴気の濃度が急速に高まっている! 注意して!」

 しかし、穏やかな時間はすぐに破られた。それまで一言もしゃべらず黙ってほとんど空気と化していたキュウべえが警告を発したのである。
 ちなみに、なぜ今までキュウべえが黙っていたかと言えば、「余計な事すんな、しゃべんな、出しゃばんな」と杏子に言い含められていたからで、それなら何故わざわざ連れてきたのかと言えば、余人には聞かせられない話をする為の、魔法を使えない仁美へと念話を通す通信機扱いである。(家には誰も居なかったので、結局はそこまで気を遣う必要はなかったが。)

 その警告を聞いた杏子は素早く立ち上がると自らのソウルジェムを取り出し、変身して、槍を持つ。

「すまない、仕事だ。結界を張るが、念の為にすぐに離れな。」
「いえ、今日はありがとうございました。」
「何、魔法少女は死んでも普通、それを魔法少女以外に知られる事は無いんだ。でも、さやかはその例外になれた。こっちこそありがとな。」
「……ご武運を。」
「任せろ。」

 そして、間髪入れずに結界を張る。
 そうすれば、仁美を含む関係無い人達を戦闘に巻き込む事は無い。通常ならば。

「あ、あら?」
(結界に取り込まれている。またコイツが狙われてんのか。)

 ただし、魔獣に目を付けられた人間は別である。魔獣がターゲットとして意識した相手は魔獣に繋がりがあるものとして結界に取り込まれてしまう。
 そして、仁美は今回も結界に取り込まれてしまっていた。
 相手の狙いを察した杏子は、瘴気の濃い部分と仁美とを隔てるように位置を取る。
 直後、二人の目の前で黒い霧のような物が渦巻いたかと思ったら、瞬く間ににょきにょきと言った様子でそれが伸び、魔獣の姿をとった。

「でえぃ!」

 だが、それ以上の異常の進行を黙って見る義理は無い。気合一閃、杏子は槍を繰り出し、魔獣を弾き飛ばす。ただし、遠くへは飛ばさない。あまり遠くへ飛ばしては、魔獣を倒すのに余計な手間が懸かるからだ。今はとりあえず仁美を逃がすのが優先である。

「どうも手違いがあったらしい。すぐに逃げな。」
「は、はい。」

 しかし、今日の運命の女神も少女達に優しくはなかった。
 後ろ髪を引かれながらも、自分は足手纏い以外の何物ではないと理解し、踵を返した仁美の目の前でまた一匹の魔獣が姿を現していたのだ。

「杏子さん!」
「ちっ! ぶっ飛べ!」

 仁美の声に、杏子は槍の石突きを新たな魔獣へと繰り出し、後先考えた上で今度は全力で、文字通りに突き飛ばす。
 以前の杏子なら躊躇無く自分以外の人間を見捨てていたのだが、さやかと啀み合い、和解した後の彼女はそこまで薄情ではない。そもそも、一度懐に入れた相手には彼女はとても甘いのだ。
 かと言って、単独でならともかく、足手纏いを抱えた状態で複数の魔獣を一度に相手にするほど無謀でもない。仁美を逃がす事を優先させ、まずは距離を取り、先頭に仁美、その後ろを杏子が守り、キュウべえがその横を並走する形でその場から駆け出した。

「あんたもよくよくついてないね。平和な日本では普通、こんな修羅場には生涯一度遭うか遭わないかだってのに。」
「今まで平和に暮らしてきたツケが回って来たようですわね。」
「そんだけ軽口が叩ければ上等だ。キュウべえ、マミとほむらは?」
「急いで授業を抜け出すって言って、杏子! 前方でも瘴気の濃度が高まってる。間に合わない!」
「くそっ、やるしかないか。いいか、アタシが魔獣を引き付ける。合図をしたら、脇目もふらずに学校まで走れ!」
「分りました!」
「あれか! そこをどけぇ!」

 杏子は左足で踏み込み、槍の長さを伸ばしてそのスピードを加えながら穂先を繰り出して、実体化したばかりの魔獣へと吶喊。魔獣はその胸元に穂先を受け、深くえぐられる。
 しかし、瘴気が集まって実体化した魔獣にとっては器官を傷付けられた訳でもなく、瘴気の一部を吹き飛ばされたに過ぎない。槍が突き刺さっているのもかまわずその手を振るい、自らを阻む相手へと叩き付けようとした。
 対する杏子は槍を繰り引いて攻撃を受け止めるのが間に合わないと見るや、手にした槍を中央から分離。そして、右手に持った方の柄の石突きを穂に変化させて手突槍と成すと、それを逆手に持ったまま、間一髪でその穂先で魔獣の手を払い、返す刃で魔獣へと思い切り突き立てる。
 槍はその穂先の突き刺さった所から瘴気を急速に浄化させていき、自らの構成要素を奪われた魔獣は形容し難い咆吼をあげ、その身を苦痛に喘ぐように捩らせた。
 魔獣が身を捩り、その手を振り回すのを杏子は手突槍を手放して身を屈めて避け、さらには屈んだ姿勢のままその場で360度身回転。その遠心力を利用して、いつの間にか長さを元に戻していた槍を鎖で連結された多節棍のように分割して振り回し、魔獣の向こう脛へと叩き付ける。
 その攻撃は回転時には柄を分割している為、長い柄をそのままで振り回すよりも負荷が軽く、その分回転スピードが速い。そこへ持ってきて、叩き付ける瞬間に合わせて鎖を縮めて元の柄に戻している為、その元に戻るスピードが加わって強烈な打撃となっていた。
 痛恨の一撃を受け、魔獣はその動きを鈍らせる。

「今だ! 行け!」
「はい!」

 魔獣の動きを食い止める事に成功した杏子の合図に、仁美は再び駆け出した。
 杏子の背を左手に見ながら、一目散に公園の出口へと向かう。
 その時、仁美の目の前を木の葉が一枚、風に乗って右から左へと飛び去っていった。
 思わず視線だけでその葉を僅かに追ってしまった仁美は、その視野の片隅に白い何かを見つける。
 この状況で白い何かと言えば、連想されるもののは一つしかない。仁美の生存本能は今回もよく働き、仁美の背筋に悪寒を走らせた。
 元々全力で走っていたので走るスピードは変わらないものの、その悪寒に促されて、その白い何かから少しでも遠ざかるように仁美は身体を右に傾け、身体に掛かる前向きのベクトルに右向きのベクトルを加える。
 その直後、突進してきた魔獣の手が仁美の左手を掠めていった。

「きゃあ!」

 直撃は免れたものの、仁美はバランスを崩して転倒。そして、その目の前には魔獣が立ち塞がる。先に杏子が弾き飛ばした魔獣が追いついたのだ。

「くそっ、さっきの奴か!」

 悲鳴を聞いた杏子は、相手をしていた魔獣の力を多少強引にいなして転倒させると、素早く仁美の元へと駆け付ける。
 だが、その間に遠くへ突き飛ばしたはずの魔獣までもが合流。ついに仁美を庇いながら3体の魔獣を相手取る事になってしまった。

「っ、申し訳ありません。失敗しました。」
「気にすんな。むしろあの一撃をよくかわしたもんだ。動けるか?」
「はい。でも……」
「こうなると、単独で動くのはかえって危険か。……マミ達が来るまで粘るか。
 さすがに今は治療できないが、一応コレ持っておけ。」

 そう言って、杏子は後ろ手に身の丈くらいの棍を仁美へ差し出した。
 左手は怪我をしているので右手だけでその棍を受け取った仁美は、その紙のような軽さに内心驚く。

「魔力で作ったから、重さに反して強力だ。本当にどうしようもなくなったら使え。もっとも、使わせる気はないけどな。じゃ、行ってくる。」

 杏子は魔獣から目を話さずにそう言い残すと、返事を待たずに魔獣へと吶喊していった。

「いい加減うぜえんだよ、このストーカーどもがぁ!」

 残された仁美は自身の不甲斐なさに歯噛みしていた。
 自分を慰めてくれた恩人に対して、ただ守られているだけどころか、足を引っ張るばかり。
 しかも、目の前で繰り広げられる戦いの戦況は、素人目に見てもハッキリと悪い。
 杏子は時々殴られ、叩き飛ばされてもすぐに立ち上がって仁美と魔獣の間へと立ち塞がっている。杏子本人には遙かに及ばないが、見ている方も辛い。
 もちろん杏子がただ殴られているはずがなく、手痛い反撃を魔獣に加えてはいるが、仁美を庇いながらの時間稼ぎの為には思い切った手段が取れないでいる。
 かと言って、仁美がその場を離れると、魔獣が別行動を取った時などの不測の事態に杏子のフォローが間に合わない。
 まさに救援頼みの持久策。八方塞がりであった。

 そんな中、杏子の苦闘する様を見ていることしかできない自身に忸怩たる思いを抱く仁美に囁きかけるモノがいた。

「僕にはあの戦いに介入する事はできない。でも、君ならそれをする事ができる。君は彼女達程ではないけど、普通の人をはるかに凌駕する素質が備わっているのだから。」
「……本当ですか? 本当に私なら、この状況を変えられるのですか?」
「もちろんさ。だから、僕と契約して、魔法少女になってよ。」

 そう、ノルマ達成に邁進するインキュベーター、キュウべえである。囁く売り言葉は仁美の義侠心をくすぐり、自分が何とかしなくては言う気にさせられそうになる。
 それに、今の状況だと魔法少女の加入は状況打破の為であるという大義名分が成り立つ。最近魔法少女の増加にあまり良い顔をしなくなった彼女達も文句は言えないはずだという計算が、キュウべえの営業に押しの強さを与えていた。

「あ、でも……。」
「さあ、願い事を決めて、僕と契約を。」

 だが、仁美は躊躇した。
 当然である。魔法少女になると言う事は、自身が戦いに身を投じると言うだけでなく、彼女達曰く、ゾンビみたいなものに成り果てるという事であるのだと聞かされていたのだから。さやかなど、それを理由で自身が普通に生きる事、特に恋をする事を諦めたくらいなのだ。
 よほどの覚悟がないと出来る事ではなく、そう易々とできる程度の覚悟ではとても足りない。いくら何でも状況の変化が急過ぎた。
 しかし、幸いにも今回仁美はその決断をせずに済む事になる。

<その必要は無いわ。>

 仁美の頭に級友にして魔法少女である少女の声が届き、時を同じくして頭上から紫色の光の矢が降り注ぐ。

「おわっ! ほむらか?」
「ひぁっ!」
「きゃあ!」

 その向かう先は魔獣達と、なぜかキュウべえ。さすがにキュウべえに向かった光の矢は手加減されたもののようで、目の前に光の矢が落着した杏子と仁美は驚きで、ズバリ命中したキュウべえは痛みで悲鳴を上げたものの、キュウべえの被害はそのふさふさの尻尾を焦げさせたに止まっている。
 もし手加減されていなければ、今頃は小さくない穴を穿たれて苦しんでいる様子の魔獣達のようになっていただろう。

<一体何度言わせるの。キュウべえ、あなたはどこまで愚かなの。そうやって無理に契約させるなと、何度も言った筈よ。>

 その矢を放ったほむらは見滝原中学校校舎の屋上にいた。直接現場に向かうより遙かに早く援護が出来る為に屋上へと上がったのだ。
 そして、その手には弭に花の飾りを付けた弓を持ち、天に向かって構えている。その目と耳は魔法で視力と聴力を強化されて、遙か遠くのこの公園を見据え、耳を傾け、戦場の喧噪以外が途絶えた結界内の状況を観察していた。

<痛たた。ほむら、彼女はソウルジェムの事は知っているじゃないか。どこに問題があると言うんだい。>

 抗議をするキュウべえに対してほむらは無言で弓を引き絞り、光の矢を四つ射放つ。
 魔法によって生み出された光の矢はマミの魔力弾同様、攻撃魔法そのものであると同時に物理的な特性も持っている。天を駆けた矢は重力に引かれて頭を垂れつつ加速し、ほむらによる終末誘導に従って3本が再び魔獣達に命中。残りの1本はキュウべえの目の前に落着した。

<黙りなさい。そもそも、相手によく考えさせろ、勝手に契約するなと言っていたでしょう。>
<これは脅迫と言わないかい? 一応君達の事を思ってのことなんだけどね。まあ、今回は僕が退こう。間に合った事だしね。
 でも、現状が戦力不足なのは君も分っているだろう? この町では魔獣が増加傾向にあり、ついには昼間にまで魔獣が現われる始末だ。いずれは魔法少女を増やさなければならない。
 だったら、少しでも素質のある人がなる方が良いだろう?>
<それは今の戦いが落ち着いてから考えましょう。魔獣の増加傾向の原因を除くという手段もあるしね。>

 またぎゃいぎゃいとやり合いそうになった一人と一匹をやんわりと止めたのは、ようやく校舎の屋上に到着したマミだった。

<マミさん。>
<遅いぞ、マミ。>
<……これでも急いで来たのよ。むしろ暁美さんがこんなに早い方がおかしいわ。>
<私は「持病のシャクが。」と言って「保健室には一人で行けますのでお構いなく」と続ければフリーパスだったから。>
<……ああ! 長い間入院していて、ついこの間退院したばかりなのよね、そう言えば。>
<マジか?! なんて元気な元病人だ!>

 女三人寄れば姦しい。救援が間に合った事もあり、先程までの悲壮な雰囲気は微塵となって吹き飛び、三人は雑談を始めてしまった。
 良いのでしょうか?と思いつつも、仁美もその雰囲気に影響されてホッと一息を吐く。
 当然ながら良いはずがない。ほむらの攻撃でダメージを受けたとは言え、魔獣は3体共健在なのだ。これ以上無いくらいの油断である。
 だが、仕方がない部分もあった。彼女達は魔獣はもはや身動きすらままならない死に体であると認識していたのだから。
 その認識が間違いであったと最初に気付いたのは、さすが年の功年長者の風格、マミであった。

<杏子さん! 魔獣が!>
「何?!」

 来援の到着に張りつめていた糸が切れてしまっていた杏子は、咄嗟の反応が遅れてしまう。改めて魔獣へと意識を向けた先に見たのは、周囲の瘴気を吸収し、それにより減少した分を補って回復を成していた魔獣達。そして、それらが跳躍した姿であった。
 手負いの魔獣をしばらく放置すると回復するというのは、魔法少女達にとっては全く未確認の現象であった。今まではほとんど一気呵成に魔獣を殲滅していた為である。
 後手に回った杏子は槍を構えて1体目の攻撃を防いだものの、続く2体目、3体目には対処出来る体勢ではない。

(まずった!)

 魔獣の攻撃を受けざるを得ない事を覚悟した杏子であったが、しかし、それを防いだのもマミであった。

 彼女は杏子へ警告を発すると共に右手首を内側へと折り曲げ、勢いよく外側へと伸ばす。その動きに沿って彼女の右手の袖口から現われた、長さが身の丈の2倍程にもなる全長と普段使うマスケットの倍の口径を持つ長大なマスケット。その特大マスケットの銃身を屋上の柵に乗せて構えると、即座に首を右に傾け、狙いを付けて発砲。
 音の何倍ものスピードで飛翔した大口径の魔力弾は、今まさに杏子に躍り掛からんとしていた2体目魔獣を吹き飛ばす。
 発砲の強烈な反動に右肩を蹴られ、マミは痛みで顔を顰めるも、撃ったばかりの特大マスケットの魔力を解いて即座に消し、今度は右手を背中に回す。そして、いつもと違ってハンマーが左側に付いている、同じく特大のマスケットをどこからともなく現わして右手で身体の前へと引き出し、今度は銃把を左手で握り、銃床を左肩に当て、首も左に傾げて再び発砲。
 普段とは逆の構えで、しかも利き目とは逆の目で狙いを付けた為、さすがに狙いがやや逸れたが、それでも3体目の魔獣の腕を消し飛ばし、着弾の衝撃で転倒させる。
 そこに、今度はほむらが連射した光の矢が2体目と3体目の魔獣へと降り注ぎ、今度こそ止めを刺した。
 残るは1体。得物が槍なだけに、1対1の戦闘ならば杏子の独壇場である。現場に仁美が居るのに油断してしまった事にさすがに懲りた為、今度は油断せず、時折援護射撃を受けながら、それでも無理押しはせずに堅実な戦い方で魔獣の力を削いでいく。
 ……と言えば聞こえが良いが、実態はちょっと違う。
 杏子と援護のほむらは、徹底的に魔獣との距離を保つように立ち回り、攻撃は威力や命中率よりも魔獣の動きを抑制して仁美の安全を確保する事を重視。
 その結果、杏子は長く伸ばした槍で魔獣を幾度もアウトレンジで小突き回し、距離を取られそうになったらほむらが光の矢を撃ち込んで杏子の前まで追い込み、再び杏子が小突き回すといったサイクルが繰り広げられていた。

<なんだ、そんな隠し球があったのかよ。出し惜しみしやがって。あ、コラ、逃げんな!>
<本当、何時の間に。追い込みました。貸し一つ。>
<これ、使い所が難しいしのよ。一発撃ったらしばらくその肩を痛めるし、滅多に使える物じゃないわ。そろそろ楽にしてあげたら?>
<右左の肩で合計2発か? そうは言っても、さすがにもう迂闊な事はできないしな。>
<『ツヴァイシュス・ゲヴェーア(ツーショット・ライフル)』? いずれにせよ、もうすぐ終わります。>
<あら、よく知ってるわね。その呼び名はちょっと大げさにした表現らしいけど。もう少しこう優雅に……。>
<以前、その発展型の対物狙撃銃というのを使ってみようかと思って検討した事があって。残念ながら、何をどうやっても射程と威力がどうしても用途に合わないので、泣く泣く断念しましたけど。残念でした、本当に……。>
<え~っと、状況が許せば私のを使わせてあげるから。ね、落ち込まないで。>
<……てゆーか、お前、何を相手にするつもりだったんだ? これで止め!>

 その為、余裕が出過ぎて、若干気が抜けているのは否めないが。
 ちなみに仁美は「これは戦い。犬畜生と言われようとも勝たなければならないのですわね。」と自らに言い聞かせつつ、目の前のあんまりな光景から目を逸らしている。
 そして、程なくして残る1体の魔獣もその姿を消し、その跡には紫水晶のような縦に長い八面体の結晶が残されたのだった。

 その後、授業を抜け出してきたマミとほむらは校舎内へと戻り、仁美は杏子とおまけのキュウべえに家まで無事に送り届けられ、そのまま杏子とお礼を兼ねたお茶会へとしゃれ込んだ。その間の話題は自然と魔獣や魔法少女の事になる。
 杏子としては、本当はあまり首を突っ込まれたくはない。
 しかし、目の前で死なせてしまったさやかの親友という事で仁美に負い目があり、あまり突っぱねられずなかったのだ。
 途中、さやかの事を思い出した仁美が泣きそうになり、また杏子がそれを慰めるという一幕を挟みつつ、結局色々と教えてしまったのだった。
 ちなみに、キュウべえによれば、魔獣は周囲一帯から集まった大量の瘴気が高密度になる事で誕生するとの事で、それ故に周囲から瘴気が入り込みにくい、閉ざされた屋内にはまず現われないとの事。また、「屋内に魔獣が現われるのを見た事が無い」との心強い証言を杏子から得てもいるので、仁美としてもここまで来れば一安心である。

「色々教えたし、キュウべえはまた別の意見があるんだろうけどさ、やっぱりアタシ達としては、アンタには、いや、できたら他の奴にだって、魔法少女にはなって欲しくない。
 この仕事はね、誰にだって務まるもんじゃない。
 毎日美味いもん食って、幸せ家族に囲まれて、そんな何不自由無い暮らしをしている奴がさ、ただの気まぐれで魔法少女になろうとするんなら、そんなのアタシが許さない。いの一番にぶっ潰してやるさ。」
「でも……。」
「命を危険に晒すってのはな、そうするしか他に仕方が無い奴がする事さ。そうじゃない奴が首を突っ込むのは、ただのお遊びだ。おふざけだ。
 アンタだって、何時かは否が応でも命がけで戦わなきゃならない時が来るかもしれない。その時になって考えれば良いんだよ。」

 そして、杏子は様々な情報を仁美に伝えはしたものの、最後にはそう言って、それに対して何か言おうとしたキュウべえを強引に促して家を辞していった。
 神父であったと言う父親の影響か、イメージと違って杏子が説法臭かったのが意外であったが、その言わんとする事、自分を心配している事は十分仁美に伝わった。
 伝わったのだが、それだけに仁美は懊悩する。

 彼女達の反応から、彼女達が納得する新しい魔法少女候補がそうそう見つかるとは思えない。だが、現状を放置すると、戦力不足の彼女達がいつどうなるか分らない。実際、最後の方はともかく、序盤は自分の事もあって、かなり危なかった。
 そして、自分が魔法少女になりたいかと言えば答えは否だが、現状を知ってしまった以上、ならなくて本当に良いのかとの思いを、完全には振り解けない。

(私は、今のままで良い?
 さやかさんが命がけで守ったこの町で、事情を知った上で、何もせずに?
 恩を受けた人達が危険に晒されている、それを承知しているのに?
 でも、魔法少女になるという事は、魂を差し出すという事。杏子さん達の願いも無視してしまう。
 では、先程襲われた事を無視して、やはり何もせずにいる?
 でも、事情を知ってしまったのに、何かできるのに、相手の願いを言い訳に何もしない自分を私は許す事ができるのでしょうか?
 上条さん。さやかさん。私は一体どうしたら……。)

 仁美はそんな答えのでない自問自答をいつまでも繰り返し、その日の夜は更けていったのだった。


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