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[27596] <一発ネタ>なのはの世界でMACROSSを再現してみる
Name: あおあお◆c94eb749 ID:6e8c7e8d
Date: 2011/05/07 20:29
―――これは

―――もしかしたらあったかもしれない

―――IFの物語







 飛び交う騒音、立ち込める硝煙の臭い。
 辺りに充満するのは濃密を超え呪いにも感じられるほどの死の気配。
 耳を貫くような悲鳴が辺りを覆い尽くし、絶望という悪魔が耳元で怨念を振り撒きつづける。
 そんな世界に異色な存在が一つ。

「AMFを全開にしろ! ホールの守りを固めて交代で防御にまわれ!
 天井を崩しても構わん、バリケードを造り入口から一歩たりとも進めさせるな!!」

 指揮官なのだろう。
 一人だけ色の異なる制服を着た男が叫ぶ。
 その声は騒々しい戦場の中でも隅々までよく届き、同じだけの復唱となって返ってくる。
 彼の名はレジアス・ゲイズ、管理局内で中将という要職でありながらも数少ない武闘派として知られる人である。

「いいか、決して一対一で戦うな。入ってきたところを袋だたきにしろ!
 蛮勇などいらん、生き残ることだけを考えろ!!」

 そう叫ぶように指示を出すやいなや、彼は両肩に怪我人を担ぎあげ奥へと運んでいく。

 レジアスは呟いた。
 我々が何をしたというのだ、と。

 彼を含め、現在この隊舎で戦っているものたちの中に犯罪者はいない。
 少なくともこのようにして攻められるような人はいないはずだった。

 だとしたらどうしてこのようなことになっているのだろうか。



 そこにはどうしようもないほどに深い怨念が眠っていた。
 有り体に言えば"出る杭は打たれる"というやつだ。
 別の言い方では"スケープゴート"とも言う。

 彼は…彼等は身替わりにして贄とされたのだ。


――管理局の正義を示すための


 もともと管理局の上層部はレジアス派閥が気に入らなかった。
 利権よりも救済という誰よりも管理局の理想を体言している彼等が、力を握っていくのがどうしようもなく気に入らず、また同時に恐ろしかったのだ。

 ――彼等は消してしまおうと考えた。

 予(かね)てよりレジアスは半質量兵器の導入を訴えており、陸の一部では独断に近い形で実施もされていた。

 彼等はそこに付け込んだ。


 レジアスたちは知らぬ間に見事な悪に仕立てあげられ、彼等は悪を倒す正義の味方というシチュエーションだ。

 宣戦布告も無しに開かれた争いの火蓋は今だに閉じることを知らず、俄然浸食するかの如く激しさを増していく。

「怪我人は最優先で避難させろ、一人たりとも見捨ててはならん」

 現在の戦況は膠着状態といったところだ。

 ……とは言ったものの、睨み合いが続いているわけではない。
 互いにこの短時間で大勢の負傷者を出す泥沼の争いだ。



 どうすればいい、どうすれば……
 祈るように瞳を閉じる。

 これ以上の血は無意味だ。
 いや、そもそもこの戦いにおいて流れた血こそが無意味だ。
 ゼストよ、私はどうすればいいのだ。
 お前ならどうする、答えては…くれぬか……。




 設置型AMFと魔導兵器でなんとか持ちこたえてはいるが、所詮多勢に無勢。
 一般の事務局員の加勢もあってようやく守りを通せてるという危険な状態だ。
 それもいつ崩れるかわからない抜かるんだ地盤の上に建つ家の如し。
 第一に数が違う。
 このままではじり貧だ。


 こんな争いがいつまで続くというのだろうか。
 誰もこんなことは望んでいないというのに、ひたすら無益に命を消費するというのか。

 これが、私の贖罪だとでもいうのか……。


 頭を抱えたくなる思いを打ち払い、自分に出来ることをしようと指揮の合間にレジアスは怪我人や物資の搬送を行う。
 本来ならば指揮官が動き回るのは好ましくないのだろう。
 しかし誰もそれを咎めるものはいない。
 その心遣いに感謝しつつも、絶望的状況に心が押し潰されそうになる。



 だが不可解なことが起きたのはそのときだ。

「敵が退いてゆく……?」

 何故だ、安堵感よりも困惑が先に出る。
 若い局員などは歓喜の悲鳴をあげているが、戦闘経験を持つものは一様に眉をひそめ嫌な顔をしている。
 背筋をちりちりと焦がされるような嫌な予感とでもいうのだろうか、長年世界の裏を見てきたからこそ絶対の自信を以て信頼できる"勘"というヤツが、煩いほどに警鐘を鳴らしている。
 外れてほしいが、外れないからこその"勘"だ。

 そしてさらなる絶望が襲ってきた。

 モニターを睨むオペレーターが悲鳴をあげるように報告をする。
 彼も警戒を怠らずに計器を睨み続けていたのだ、レジアスは彼に感謝した。

「撤退する魔導師と入れ代わるように接近する反応あり。これは…戦闘機人です!」

「機人だと、馬鹿な!
 あれは開発が中止されたはずだ!!
 ――して、数はどれ程だ」

 問うと彼は震える手でモニターをこちらへ向けてきた。
 絶望に染まっていた顔がもはや青を通り越し白くなっている。
 そしてそれを聞いた人間を絶望へと押し込む報告をした。

「数は――数は1000以上です」

 その言葉に世界すべての時と空間が止まったかと思われた。
 しかしそんなことは所詮錯覚でしかなく、絶望の輪は着々と私たちの首を真綿で締め付けるように迫りくる。

 『諦めろ』悪魔はそう言う。いや、天使がそう言い、悪魔は『進め』と言っているのかもしれない。
 どちらだろうと関係ない。
 もはや助かる見込は潰(つい)えたと言っても過言ではない、むしろ足りないほどだ。
 戦闘機人が相手ではAMFによるアドバンテージは消え去る。

 そもそもが地力で劣っているのだ、どうして耐えることが出来ようか。


 膝から崩れる。
 慌ててオペレーターが肩を支えるがレジアスの視線は宙をさ迷うばかりだ。

 窓の外からは戦闘機人が列を成して進みゆく光景が垣間見える。

 死を呼ぶ行進。
 彼女達がここにたどり着いた時、その時虐殺が、殺戮が始まるのだろう。


 戦闘機人はすべて女性が素体だと聞いたことがある。
 何故か、と聞かれれば生物学的な要素が絡んで来るのだろうが、そんなことはどうでもよい。

 化粧など知らないのだろう。
 美しく整った顔は、逃げ遅れ地に倒れ伏す管理局員の脚を、手を、身体を踏み潰し目標の姿を突き刺すように見つめつづける。
 彼等のうめき声も聴こえていないのか、その脚は留まることを知らない。

 彼女達は試験管で生まれ、戦場で育ち、そして棄てられる。

 着飾って街を歩いたこともない。
 青春を謳歌するべき年頃の娘を使う、そのことに言いようのない怒りが体を駆け巡る。

 なんら感情を感じさせない瞳は黄金色に輝き、一歩一歩大地を踏み締めながら進む様はさながら天使のようだ。



 戦意は既に失われている。
 当然だ、勝てるはずがない。
 戦力比は1:500を示している、歯向かう気が失せるなどというレベルの話ではないのだ。

 しかし彼女達の目的は戦いに勝つことではない、殲滅だ。

 白旗を振ろうが止まるはずもない。



 そんな空気の中、オペレーターの声は不思議と響いた。

「これは…隊舎上空に超高エネルギー反応!」

「なんだと!?」

「質量反応なし、エネルギーのみです!!
 そんな…これほどのエネルギーが一点に集中すれば次元の壁が崩壊します。エネルギー尚も上昇中!」


 ナニが起こっているというのだろうか。
 敵の策略……ではないようだ。
 その証拠に戦闘機人達も脚を止めている。


「反応が反転、エネルギーが質量に変わっていきます。こんなもの、既存の技術のどれとも一致しません。
 上空にナニカが転送されてきます。質量、形状ともに不明です!」


 この場にいるすべての者が上空に現れるナニカに注目していた。


 上空に現れた黒い影、ソレは徐々に形を現していった。

 鋭く尖った先端部が明らかになる。
 ソレは先端から徐々に流線型を描き、炎の如く朱に塗られた本体を顕(あらわ)にする。

「戦闘機……だと?」

 誰の呟きだったのだろうか、飛び出してきたのは一機の戦闘機だった。
 質量兵器の中でも強力な部類に入るその形状は、管理局員ならば誰でも知っているものだ。


 真っ赤な本体色をしたその飛行物体はヘリコプターのように空中で停止した。
 宙空に留まる謎の戦闘機。
 その存在が皮肉にも戦場を停止させ、レジアス達の命を延ばしていた。


 すると驚くべきことが起こった。
 戦闘機が中頃から真っ二つに折れると、全身が様々な稼動を始めた。

 変形だった。

 あれよあれよという間に腕が現れ脚が出来、戦闘機はヒトの姿をとっていた。

 最後に顔が現れる
 戦闘機が完全なヒトガタに変形したのだ。

 手には銃なのだろうか、筒状の物を持っている。
 ロボット――その言葉が1番説明しやすいだろう。
 誰もが言葉を失っていた。



 誰も言葉を発せない沈黙の時間が続く中、最初に動いたのは原因となっているロボットだった。
 その炎のように赤い体躯が、関節が、指が動きはじめ、銃口が地上に向いた。
 機械とは思えぬほどにスムーズな動きで右腕は稼動し、その人差し指が引き金にかかるところをレジアスは目撃した。

 盛大なマズルフラッシュ

 誰もが直感的にマズイと感じたが、派手な音を発て発射された銃弾は全て地上に突き刺さった。
 意図してだろうか、機人と隊舎の丁度中間にである。



 全員が疑問に思った。

 しかしそれは始まりに過ぎなかった。


『てめぇら聴こえてるか!!』

 声がした。
 若い男の声だ。
 音の出所、つまり音源は先程銃弾らしきものが撃ち込まれた場所だ。

 あれに人が乗っているのだろうか、そしてその彼がこの声を出しているのだろうか。




『ここが何処で何がどうしてどっちが悪くてお前らが誰なのかは知らねぇ――けどな』





 声の主はそこで言葉を切る。
 レジアスは思う。
 そんなことを奴らに言っても無駄だと。
 争いを止めろというのは奴らに指示を出す側にしなければ彼女達が止まることはない。


(誰かは知らない…だがやめろ)


 彼が狙われることになる。
 命令一つあれば彼女達は空へと舞い上がりあの赤い機体をスクラップへと変えてしまうだろう。


 しかしレジアスの懸念は杞憂でしかなかったのだ。




『争いなんてくだらねぇぜ!
 そんなもんはさっさとやめて…てめぇら全員、オレの歌を聴けぇぇぇ!!』





 確かに男の一言めはレジアスの予想したものに相違なかった。

 しかし二言目は予想外だった。

 いや、誰が想像出来るだろうか。

 争いを止めるために歌い出すなど……。



 ギター特有の弦を引っ掻く音が戦場に響き渡る。

 さっきとは異なる意味で誰もが言葉を発することができない。


 掻きならされるギターとともに響き渡る力強い歌声
 負の感情が流されてゆく

 歌で潰れかけていた心に火を燈す


 馬鹿だ――そう口にしようと思った……しかし言葉にできない。
 馬鹿馬鹿しいのは私たちのほうではないか。

 



 そんなときだ、一人の戦闘機人が空へと昇っていくのが見えた。
 いや、一人ではない。
 一人が飛び立つと後を追うように続々と空へと舞い上がる戦闘機人たち。


「いかん、撃ち落とされるぞ」


 あの機体が敵か味方かは関係ない。
 戦闘機人たちはアレを撃としにかかるだろう。

 ここからでは遠く援護も不可能だ。
 最悪の事態を胸に描いた、しかし……


「あああああぁぁぁぁあぁああああ!!!」


 彼女達は雄叫びを挙げながらそれぞれ砲撃を放つ。
 しかし彼女達が放つ砲撃は色とりどりの軌跡を空に描き一発たりとも当たることはない。


 最初に飛び上がった一人が一際強く接近し叫んだ。


「貴様、名は」


 歌が一時途切れる。


『熱気バサラ』

"おぉぉぁぁぁぁぁぁあああああ!!"

 彼が名乗る、戦闘機人たちが雄叫びを挙げる。
 彼女達は思い思いの魔法で空を彩る、それはまるで

「コンサートの追っかけみたいですね」

 空に赤青黄色の軌跡を残し縦横無尽に駆け回る。
 彼女達は気づいていないのだろう、自分達が笑っているということに。


 赤い戦乙女と無数の天使達は戦場の空を踊りつづける。

 その幻想的な光景を、敵も味方も関係なく惚けるように見続けていたのだった。





 この戦いが後に管理局、引いては次元世界の理を塗り替えるほどの大事件の始まりだとも知らずに……





=====================================

一時期なろうの方にあげてた事がある奴です

元ネタは最強女の艦隊です

正直まだ至らない点ばかりですので寛大な目で見ていただけるとありがたいです



そんなわけで次回予告(嘘)です

其の壱

スバル「訓練校のランチニ回、奢ったよ!!」

ティアナ「私は十三回奢らされたぁっ!!!」

スバル「しっかり数えてるんじゃ…ない!!」

ティアナ「学園祭の時あたしのケーキ食べたのもアンタでしょ!!」

――――――なんてのを書いてみたい。


其の弐

「今日の模擬戦相手は"あの"機動六課だ、手抜くんじゃぁねぇぞ」

「ハハハ…女ばかりなんでしょ? そりゃぁい……うわぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」


「柿崎ぃぃぃぃぃぃっ!!!」



其の参

「ほな一発でかいのいくで」

――闇に染まれ――

――デアボリック・エミッション!!――

空を覆い尽くす黒い球体

「柿崎、遅れるな、柿崎」

「駄目です隊長!間に合いません!!うわああああ!」


「柿崎ぃぃぃぃぃぃっ!!!」



[27596] こりもしない二発目
Name: あおあお◆c94eb749 ID:6e8c7e8d
Date: 2011/07/02 13:26


*忠告

 エリオが空飛んでたり変な設定出てきてたり変な終り方ますがますがサラリと受け流してくださると嬉しいです
 あと私はそこまでなのはに詳しいわけではないのでミスとかあったらお願いします



==================





 暗雲立ち込める空。
 地上には延々と崩れ風化したビルが立ち並ぶ廃棄された区画。
 遠く離れた場所からは巨人の足音のような重低音が聞こえる。おそらくまた一つの巨大な建築物が大地へと還ったのであろう。

 人っ子一人いないアスファルトに乗り捨てられた車、およそ生物の気配というものの消えた世界に僅かな例外が幾つか。

 向かい合うように空に浮かんだ二つの人影。
 少年と一人の女性。

「フェイトさん」

「私はフェイトじゃない。私はアリシア・テスタロッサ」

「違う、貴女の名前はフェイト、フェイト・T・ハラオウンです」

「……敵は排除する」

 金色の髪を風にたなびかせた美しい女性は一切の表情を変えずに言い放つ。光を失った目に敵意を込めて眼前の少年を睨みつけ、手に持つ杖を構えることで意志を表す。いや、意志などない。彼女の心にあるのはただひとつ、母のため。母の邪魔をする存在は全て敵。倒せば母が褒めてくれる。だから目の前の存在を排除する。
 変わり果てた母の姿に少年は折れそうになる心を必死に奮わせる。彼女の言葉の一つ一つが心に突き刺さり少年の脆く柔らかな信念をえぐり取っていく。
 自分に出来るのだろうか。
 彼女を……母の首を締め付ける鎖を壊すことが出来るのだろうか。
 母の親友と同じことが自分に出来るのだろうか。
 役者不足ではないか、その思いが胸を過ぎる。

 母の親友――高町なのはは言った。
『全力でぶつかれば想いはきっと届く。
 エリオ君、フェイトちゃんへのありったけの想いを伝えてあげて。
 それがきっと答えになるから』

 躊躇うな。
 自分の全てを隠すことなくぶつけろ。

 少年はゆっくりと槍を握る手に力を込める。
 母を倒す。
 その選択が正しいのか定かではない。
 勝てるかどうかという問題ではない。もとより勝つ自信などない、そんなことを考えたこともない。ずっと背中しか見てこなかった。
 だが手段がそれしか残されていないならば……。

 構えた槍が震える。
 だが自分に期待してくれている皆のためにも、心を囚われた母のためにも、そして何より自分の自身のためにも。

 震える腕を心で押さえ付け、エリオはフェイトを倒すことを決意した。






 ぽつりぽつりと雨が降り始める。
 弱々しく空から零れはじめた雨は次第に強く激しいものへと変わりはじめ、ザーザーと喧しくひたすらに世界を掻き乱す。

 黒く渦巻く空は誰の心を暗喩するのか。
 フェイトだろうか?
 プレシアだろうか?
 エリオだろうか?

 空に螺旋を描く二つの流星。
 幾何学的で幻想的な軌跡を空に残して飛び回る二人の魔法使い。

 漆黒の衣とマントに身を包んだフェイトが大鎌を振りかぶる。輝く金色の刃はエリオの顔を掠め、僅かに紅混じりの雨粒を切り裂き刹那に閃光の如く過ぎてゆく。

 Sランク。
 次元世界最速。
 次元世界に何万何億といる数多の魔導師の頂点の一人。

 自分が相手にしている存在の恐ろしさを再実感する。
 ダレカが言っていた。
 高ランク魔導師が本気になるということは戦略兵器を動かすよりも効果があると。

 恐怖
 心の中に泡のように浮かんでくるそれを勇気で塗り潰し続けながらエリオは戦う。

 フェイトは非殺傷設定を外している。
 今までエリオを守っていた魔法の力から外された枷は暴風のように荒れ狂い、襲い、命を刈り取ろうと死神が笑うかのようにエリオに降り懸かった。

 正面からの攻撃を防いだと思った瞬間には背後に殺気を感じる。体を捻り初めて目に焼き付くような金色の軌跡が過ぎ去ったことを知り、そして気づけば顔面からビルへとたたき付けられている。
 蹴り飛ばされたと脳が理解する前に片手では数え切れぬほどのフォトンランサーが迫りくる。
 飛びかけていた意識をストラーダとともに握りしめ空へと飛び出すが、躱し切れなかった数発がバリアジャケットに当たり干渉しあい消滅する。

 長くは持たない。
 だが一瞬で勝負を決められるだけのナニカがあるわけでもない。


 いや――あることにはある。
 勝利の要になる可能性を秘めた最後の牙が。だがそれは両刃の剣。使ったからといって勝てるとは限らない。
 0%の勝率が0.001%に上がるかどうかというものだ。


 背後から一筋の稲妻が瞬き一つの合間に過ぎ去り、ぎりぎりのところで反応をしたエリオの肩から血が弾け飛ぶ。
 だが痛みで動きを止めたらそこで終了になる。
 姿を変えたフェイトのバルディッシュから放たれるプラズマスマッシャー。死に物狂いで避けるが完全に躱せるのならばここまで苦戦するはずもなく足に直撃をする。
 バリアジャケットの自動防御は限界値を遥かに上回る衝撃にたやすく突き破られるものの、それでも自身の仕事を全うすることで主の身を守った。消滅を免れた脚から肉の焦げる腐臭とも似た嫌悪感溢れる臭いが撒き散らされ雨によって押し流されていく。


 強い。
 分かりきっていたことだ。
 母の強さは自分が一番知っている。

 いつだってその背中に護られてきた。

 暗い闇に包まれていた自分を暖かい世界に連れ戻してくれたのも母だった。

 魔法の強さだけじゃない。

 母がもっていたのは心の強さ。

 誰かを救うという優しい心を自分は教わった。

 恩を返す等と言うと戸惑う顔をする姿が目に浮かぶ。

 打算も見返りも関係なく人を救う、だから人に好かれいつかそれが自分へと帰ってくる。

 それほどに優しい人だったから憧れた。

 その背中にいつか追いつけるだろうかと信じながら。


 目の前にいる女性に自分が憧れた母の姿はない。
 同じ姿をしていても暖かな瞳も笑顔もない。
 何故このようになってしまったのかは知らない。母が自ら望んでなったのかもしれない、無理矢理にされたのかもしれない。だがどちらだとしても自分の心は変わらない。母を取り戻すと決めたのだ。エゴだろうと我が儘だろうと関係ない。
 帰ってくるのを待つのではない、取り返すのだ。
 そう自覚した瞬間にエリオの中にあった迷いが消えた。





(なのはさん……そっちの調子はどうですか)

 魔弾の雨を潜り抜けている高町なのはの脳内に直接声が響く。いわゆる念話というやつだ。

『エリオ君。こっちは大丈夫だよ。今やっとプレシアさんを見つけたところ』

(そうですか。いろいろ我が儘を言ってすみませんでした)

 今回の作戦でエリオが通した唯一にして最大の我が儘。それはフェイトの説得及び戦闘行為の一切を引き受けるというものだ。無謀に近いそれを、しかしはやては受け入れた。もう一度皆で海鳴に行く約束を忘れるなとだけ言ってエリオを送り出したのだ。

(こっちはもうすぐ片がつきます。これが終わって皆で地球に行くのが楽しみです)

『エリオ君?』

 エリオの言葉に底知れない不安が沸き上がってきた。言葉にはできないそれは靄のように纏わり付き言葉の裏に隠れた真実を開くのを躊躇わす。

(3年ぶりの全員集合を祝して、もう一度……。
 じゃあ、後は頼みます)

 嫌な予感が沸点へと達しようとする直前にエリオからの念話は途切れた。
 切れたというわけではなく切られたのだった。その言葉にのせられた想いをかみ砕こうとするが雨霰と降り注ぐプレシア・テスタロッサの砲撃によっていやがおうにでも意識を戻されてしまうのだった。





 廃棄区画を猛スピードで駆け抜けてゆくエリオとフェイト。
 依然立場は変わらない。
 追うものがフェイト。追われるものがエリオ。

 そして遂に一発のサンダーブレイドがエリオに直撃をする。体勢を崩したエリオへ次々と押し寄せる誘導弾の雨。必死に捌こうとストラーダを振るが落としきれるモノではなく、さらに追い撃ちのようにエリオへ容赦のない攻撃が注がれる。
 そして『ブレイク』というフェイトの冷酷なまでの追加の声で体に刺さった雷の剣が破裂した。
 無慈悲なまでの応酬を受けたエリオが爆煙から姿を現し落下を始める。このままでは頭から大地へとたたき付けられる。




 生死を確認しようとエリオへフェイトが接近したそのときだった。

――ライトニング・ブースト

 瀕死または息絶えたかと想像されたエリオの口から小さくそう呟かれた。

 一度上昇し砲撃でとどめを刺すことを選択したフェイトは上空にてバルディッシュを構え、そして表情一つ変えずに驚愕した。とてつもない速さでエリオが肉薄していたのだ。
 砲撃をキャンセルし背後をとるべく今までのように加速し移動する。だがエリオとの距離が離れることはなくエリオはフェイトの背後に張り付くように追いついていた。

 なおも加速するがエリオとの距離が開くことはない。ここにきて初めて追うと追われるの立場が逆転した。

 エリオの切り札。
 両刃の剣と形容したJoker。
 その名はライトニング・ブースト。人間の神経を伝う電気信号を意図的に加速させることで常人には不可能な反射と反応を得ることが可能になる。
 だがどれほどの反射速度を手に入れたところで肉体の性能が追いつかなければ意味がない。そこでエリオはリミットブレイクとカートリッジの全弾使用、バリアジャケットの一部機能のオミットという気が狂ったとしか思えないような方法をとった。
 ドーピングの重ねがけ。
 しかしそこまでやることで初めてエリオはフェイトと同じ土俵に立つことが出来たのだ。






 気持ちが悪い。
 胃の中のモノが全て込み上げてくるが喉を越える前に再び胃へと押し返される。
 自分と母以外が止まっている世界を見て、ようやく追いつけたという言葉が浮かぶ。
 だが目の前を飛ぶ母が方向を急転換し上昇へと移る。遅れるわけにはいかずにストラーダを無理矢理上へと向け一気に全力噴射、追従する。
 体が押し潰されそうになる痛みの中で涼しそうな顔をしている母の姿が目に入った。

 やはり凄い。
 浮かぶのはそんな言葉で、自身判断力が落ち始めていることにも気づかない。
 フェイトのバリアジャケットがソニックフォームになっておりその顔には汗と苦悶の表情が浮かんでいるのにも気づかない。
 だがエリオはフェイトの背中を追いつづけた。どこまでもどこまでも。


 どこまでも加速を続けながら空に光の軌跡を描く二人。
 もはやそれは人の域を越えている。


 だがフェイトの手に握られたバルディッシュから幾つものプラズマランサーが発射された。
 数十ものプラズマランサーが一斉にエリオへと襲い掛かる。四方八方から迫りくるそれらを前に、エリオはさらに加速することを選択した。


 急加速し上昇

 足を振り慣性も合わせた力任せの急制動

 そこからの再加速と急降下に併せ、カートリッジ一個分の魔力をばらまく。


 あるものは魔弾同士の魔力で干渉しあい消滅。
 あるものは今だに背後で鮫のようにエリオに迫る。
 あるものはまいた魔力に反応し破裂した。


(あと一歩…………)

 ロールを繰り返しながらフェイトの背を追いつづける。もはや身体はボロボロ、呼吸をしているのかどうか、痛みすらわからない。
 だがもう少しということだけはわかる。

「――――見えた」

 サーカス地味た機動を繰り広げたエリオの周囲にはもはや一発のプラズマランサーも残ってはいなかった。
 残る力を振り絞りストラーダを真っ正面に構え、最後の加速をかけた。


「あぁぁぁぁあああ」

 風に混じり消えていく雄叫び。
 口の中に込み上げてくる鉄の匂い。

 音も世界も置き去りにして加速していく。



 ――段々と近づいていくフェイトの背中


 あと僅かで追いつくというときにフェイトがこちらを振り向いた。フェイトは驚くほど穏やかな表情を浮かべ、静かに腕を広げた。


 ――その母性の象徴たる胸に槍の先が吸い込まれていく


 ナニカ暖かいものにエリオは受け止められた。

「強くなったね、エリオ」



 ――――頬を撫でられる感触を最後に、エリオの意識は闇に飲み込まれた





==================

 後書き

 懲りもせずに書いてみました
 前回は歌詞をそのまま書くという愚かなことをしてしまいすみませんでした
 あと柿崎の愛されぶりに嫉妬してました


 次回予告(偽)

「アースラより出撃中の全魔導師へ。本艦はこれより聖王のゆりかごとの近接格闘戦に入ります」

 後方で指揮司令塔のアースラが突撃を始める。
 若手の魔導師には動揺が、一部の魔導師はニヤリとした笑みが浮かんだ。


「全艦、トランスフォーメーション!!」




 次回はバトルゆりかごにアースラアタックをぶち込んでゼロ距離アルカンシェルしたり、バトルクラウディアでクロノ君が『今だ、アルカンシェルを(劇場版風)』と叫んでくれるかもしれません。

 で、マジで書いてみたいのはティアナ主役ででFの『フレエンドリー・ファイア』


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