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[27550] まどかといっしょ【魔法少女まどか☆マギカ】
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/05 20:56
第1話



/ 1


 災厄を振りまいた舞台装置の魔女が去った見滝原町。

 破壊の限りが尽くされ、荒廃した地に残った二つの影。






「ックゥッ―――あ゛あ゛っ!」

 ソウルジェムが絶望に染まる苦痛に身を捩り、呻くまどかと、傍らで膝を着いてまどかの手を握るほむら。

「まどか! すぐに浄化するからね!」

 ほむらは、黒く染まったまどかのソウルジェムにグリーフシードを近づけるが、まどかは拒絶する。

「もう、いいの…」
 苦悶の表情を浮かべるまどか。

「そんな…」
 ほむらは溢れる涙を拭う事なく、まどかの手を握る手に力を込める。

「ほむらちゃんの忠告を無視して魔法少女になった罰だよ」

「もうワルプルギスの夜は去った!
 他の土地で魔女狩りを続ければ生き続けられるわ!」
 まどかの肩を掴んで叫ぶほむら。

「私がろくに力の使い方も練習しないで、いきなり実戦に臨んだから、避難所も潰れちゃった…」
 まどかは言葉を止め、降り注ぐ雨粒を眺める。

「まどか…」

「お母さんも、お父さんも、タツヤも…、避難してた町のみんなも…」
 嗚咽を漏らし、どこか遠くを見つめるまどか。







 ほむらによる現代兵器の火力の集中によって始まったワルプルギスの夜との戦いは、ほむらが幾度も経験した戦いと同様にあまり効果が無かった。

 まどかの矢はワルプルギスの夜に突き刺さりはするものの、効果があるようには見えなかった。

 ワルプルギスの夜が避難所に近づくにつれ、焦る二人。

 ほむらにとっての4回目の世界でまどかはワルプルギスの夜を一撃で倒した。願いによって強さが変わるが、まどかの可能性に賭けるしかなかった。

「最高の魔法少女になる」キュゥべえにそう評されたまどかが全ての魔力を注いだ矢を放つまで、ほむらは道化師役の使い魔からまどかを守りぬいた。

 放たれた矢はワルプルギスの夜に直撃し、ワルプルギスの夜と共に避難所へ落ちて爆発――――避難所を瓦礫の山に変えた。



 ワルプルギスの夜は何事も無かったかのように炎を噴出し、瓦礫を吹き飛ばして宙を舞い、見滝原町を去った。

 避難所は基礎の一部しか残らなかった。






「私、家族を、町のみんなを殺しちゃったんだよ。
 いくつグリーフシードがあっても、すぐにソウルジェムは絶望に染まっちゃうよ…」

「まどか…」

 どこか遠くを見ていた、焦点の合わない瞳を閉じるまどか。、

「私、魔女にはなりたくない…。嫌なことも、悲しいこともあったし、守りたいものも守れなかったけど、もうこれ以上、この手を汚したくない…」
 まどかは、ほむらを見つめて言外に介錯を願った。

「次の私によろしくね…。キュゥべえに騙されないように、ずっと一緒に居てほしいな」
 苦痛をねじ伏せ、優しく微笑むまどか。

「うん」
 ほむらは泣きながら頷くと、まどかの頭を抱きしめる。

「…約束するわ! 何度繰り返すことになっても、まどかと共にいるわ!」

「うん。お願い」
 まどかがほむらの首に腕を絡めると、ほむらはまどかを抱き上げ、唇を重ねた。

 ただ唇が触れるだけのキス。

 お伽話なら、お姫様は王子様のキスで救われるが、まどかの魔女になりたくないという希望を叶えるを救う方法はただ一つ。



「う゛う゛ぅ゛っ――――――!」
 悲痛な叫びと発砲音が響いた。












/ 2 side 暁美ほむら


 幾千の夜を繰り返し、数えきれないほど、まどかの死を見てきた。

 まどかを手にかけたことも数えきれない。




 私の目的はまどかを守る事。

 まどかが魔女になるのを防ぐ為、まどかを殺すたびに摩耗する。

 私の心は擦り切れる寸前だった。



『キュゥべえに騙される前のバカな私を助けてあげてくれないかな』

 繰り返すうちに増えたまどかとの約束目的は、未だに果たせないでいる。

 過去に戻った時点でまどかが契約している事もあれば、私がワルプルギスの夜と戦っている瞬間に契約する事もある。


『ずっと一緒に居てほしいな』

 そして、増えた約束。




 今回は、今までの路線、ミステリアスな雰囲気を演出して、まどかに近づくキュゥべえ狩りをするのは辞めよう。

 何度やってもキュゥべえがまどかにまとわり付くのなら、常に私もまどかの側に居て契約を思い留まらせよう。





 まどかの唇、柔らかかったな…。

 もう、私のまどかへの執着は、恋と区別がつかない。



 今度こそ、まどかを守りきる!



 決意を新たに、病室を後にする。



[27550] 第2話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/04 20:39
第2話



/ 1 side 鹿目まどか


「おはよ~」
 息を切らせて挨拶。


「おはようございます」

「まどかおそーい」

 また、私が最後…。
 親友のさやかちゃんと仁美ちゃんと待ち合わせして一緒に登校してるんだけど、いつも待たせちゃって悪いな…。

「お、可愛いリボン」
 腰に手を当ててリボンを見るさやかちゃん。

 よかった、気付いてもらえた!

「そ、そうかな? 派手すぎない?」

「とても素敵ですわ」
 仁美ちゃんに微笑みながら褒められて、笑顔が素敵だなって、思わず見とれる。








「今日ね、変な夢を見たんだ」

「どんな夢ですの?」
 仁美ちゃんに促され、夢の内容を口にする。



 笑いを堪えていたさやかちゃんが、吹き出し、お腹を押さえて言う。
「あははは、つまりまどかはその黒髪の子と変身して、でっかい歯車と戦ってたと?」

「まどかさん、そんな願望がありましたのね…」
 仁美ちゃん、そんな目で見ないで!

「そんなに笑わなくても…」

「まさか、まどかが文字通り中二病だったとは…」
 さやかちゃんは私の肩をバシバシ叩きながら続ける。

「オカルト雑誌の読者投稿コーナーで集った怪しげな会合で『私が前世で光の戦士だったまどかです』とか言っちゃうの? もうダメ! お腹痛いw」

 話すんじゃなかった…。










「でね、ラブレターでなく直に告白できなきゃダメだって」

 カバンでスカートの裾を隠し、ゆったりと歩く。
 さやかちゃんは時々スカート捲りをするから要注意なのです。

 ただでさえ短い制服のスカートというか、中学生の制服スカートをこんなに短くしたのは誰なんだろ?

「相変わらずまどかのママはカッコイイな~」
 振り向いてさやかちゃんを見る。

「美人だし、バリキャリだし」

 視線を前に戻すと、仁美ちゃんがクルリとターン。

「そんな風に、キッパリ割り切れたらいいんだけど…」

 仁美ちゃんは一挙手一投足が優雅で参考になる。

 とはいえ、マネしようとしてもうまくできないんだけど…。

「羨ましい悩みだね~」

「いいなー、私も一通くらいもらってみたいなー。ラブレター」
 頬に手を当て、眼を閉じて言う。

「ほ~、まどかも仁美みたいなモテモテな美少女に変身したいと?」
 ニヤニヤしながら私を見るさやかちゃん。

 目を細めたさやかちゃんは、リボンを指差してからかう。
「そこでリボンからイメチェンですかなー?」

「違うよー、これはママが」

「さては! ママからモテる秘訣を教わったな!」

 両手を顔の横で構えるさやかちゃん。

「けしからん!」

 さやかちゃんが躙り寄る。

「そんな破廉恥な子は~」

 え?

「こうだ!」

 咄嗟に逃げるも、背中から抱きつかれて、脇腹をくすぐられてしまう。

「イヤッ、ちょっと! 止めて!」

 今日のセクハラはこれなの?

「可愛いヤツめ~」

 くすぐりに弱い私は逃げる事もできず、されるがまま。

「でも男子にモテようだなんて許さんぞ~」

「仁美ちゃん! 見てないで助けて!」

「お二人の仲を裂くのは気後れしますので」

「まどかはあたしの嫁になるのだ~」

「どさくさに胸を揉まないでー!」

「え? 胸だったの? ゴメン気付かなかったわー」

 ヒドイ!










「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 嘘!?

 夢で見た子!?

 しかも私の事見てるよ!

「暁美さんは、心臓の病気でずっと入院して…」
 暁美さんは早乙女先生が紹介しているのを無視して、私に駆け寄った。

「暁美ほむらです。お名前、教えて頂けるかしら?」

「えっと、鹿目まどか…です」

「そう…」
 あ然とする私の手を取ると、暁美さんはとんでもない事を口にした。

「鹿目さん、いえ、まどか…。
 一目惚れしたわ。付き合ってくれないかしら?」

 一瞬の静寂の後、教室は驚きの声に包まれた。



「突然そんな事言われても…」

 握られた手と、暁美さんの顔を交互に見ながらしどろもどろになっていると、仁美ちゃんが声をあげる。

「暁美さん、残念ですけど、まどかさんはさやかさんのお嫁さんに内定しているのですが…」

 何言ってるの!?

「何それ!?」
 さやかちゃんも驚いてるよ。

「今朝、まどかは私の嫁になるのだって、さやかさんが告白してたじゃありませんか」

「美樹さやか! まどかは渡さない!」
 あれ? どうしてさやかちゃんのフルネーム知ってるんだろ?

「いや、あれは冗談で…」

「でも、この間テレビで最近は冗談っぽく告白するのが流行ってるって言ってましたわ。
 なんでも、断られても冗談だって逃げてダメージを小さくするのが目的とか…」

「美樹と鹿目って、そ~いう関係だったわけ?」

「前から怪しいと思ってたよ。スキンシップ過剰だったし」

「やべえ、鹿目ハーレム始まった! 羨ましい!」

 え?

 クラスメイトにもそんな風に見られてたの?

「まどかさん、良かったですね」
 仁美ちゃんが訳の分からない事を言う。

「何が?」

「『ラブレターでなく直に告白できなきゃダメ』でしたっけ。
 禁断の愛とはいえ、さやかさんと暁美さんは、ちゃんとお母様の出した条件をクリアしてますわ」

 こうしてホームルームは混沌と化すのでした。









/ 2 side 暁美ほむら


「鹿目さん、いえ、まどか…。
 一目惚れしたわ。付き合ってくれないかしら?」

 どうせ、まどかを救えなければ次の時間軸へ向かうのだから、醜聞など気にならなかった。

 まどかと一緒の時間を増やす為、初球から直球でアタックする事にした。

 例え振られても、健気にアタックし続けるだけ。








「まどか、あなたがこのクラスの保健委員よね?
 保健室に連れてってもらえる?」

「う、うん」


 無言で廊下を歩く。

 休み時間の喧騒の中、私とまどかの靴音が響く。

「暁美、さん?」

「ほむらでいいわ」

「ほむら、ちゃん」

 まどかに名前を呼ばれる。

 それだけで嬉しい。

「何かしら?」

 声が弾んでるのバレてないかしら?

「どうして私、なのかな?」

 難しい質問ね…。

「迷子になると困るから、手を繋いでいいかしら?」

「え? う、うん…」

 恥ずかしがるまどか可愛い!

 手を触れると、一瞬ビクッとするも、まどかは手を握り返してくれた。

「なんて言えばいいかしら…」

 歩きながら考える。

 立ち止まり、まどかの手を私の左胸にあてる。

「ほむら、ちゃん?」

「まどかを見た瞬間から、ずっとドキドキしてるの」

 驚くまどかを抱きしめる。

「え?」

「一目惚れ、同性、そんなの関係ない。あなたへの想いに理由なんて…」

 まどかも抱きしめ返してくれた。

「返事、まだ聞いてない」

 これは脈があるのではないかと期待して聞いてみる。

「ホームルームの時は返事できなかったね」

 耳元で囁かれた言葉は…。

「ごめんなさい、まだ出会ったばかりだし、まずは友達からでいいかな?」

「かまわないわ。よろしく、まどか…」





 全面ガラス張りの見滝原町中学校。

 転校初日に女生徒に告白し、玉砕した女生徒の噂は即日広まった。



[27550] 第3話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/05 20:56
第3話



/ 1 side 暁美ほむら


 まどかが語った夢の内容は、私が前回経験した時間軸におけるワルプルギスの夜との戦いだった。
 やはり、今回もまどかは私が移動してきた時間軸のまどかの行動を夢として見ているようだ。
 幸い、まどかが心に深い傷を負ったところまでは夢で見なかったようだけど、それが良かったのかは分からない。
 もし、最後まで見ていれば、この時間軸のまどかはキュゥべえと契約しないですんだのだろうか?




「「あははは」」

 店内に美樹さやかと志筑仁美の笑い声が響く。周囲の客の視線が集まる。

「そんなに笑わなくても…」
 困り顔のまどかが可愛い。

 横顔とはいえ、こんなに間近でまどかを見つめられるなんて…。
 私にまどかの隣に座るよう勧めてくれた志筑仁美には感謝しなければ…。

「もう決まりだ。それ前世の因果だw」
 美樹さやかはツボにはまったのか、まどかが私と夢の中で逢ったという話に、体をくの字に曲げて笑っている。

「素敵ですわね…」
 志筑仁美は頬に手を添えて、おっとりとした雰囲気で、まどかと私に暖かい眼差しを送りながら言う。

「あんた達、時空を越えて巡り逢った運命の仲間なんだわw」

 ここは美樹さやかのネタにのっておこう。

「まどか…」

「なーに、ほむらちゃん」
 小首を傾げるまどか。

 テーブルに置かれたまどかの手に自身の手を重ねる。
「私たちは運命の赤い糸で結ばれていたのね…」

「~~~っ!」
 赤面するまどかを見つめていると、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

「いや~、ホントあんたたちお似合いだわw」

「あらあら、そんな事を言ってると、暁美さんにまどかさんを奪われてしまいますけどいいんですか?」
 いたずらっぽい笑みを浮かべる志筑仁美。

「あたしはノーマルだ! 転校生と一緒にするな!」
 立ち上がって講義する美樹さやか。

「でも、毎日まどかさんにセクハラしてますし、説得力ないですわよ」

「まどかにセクハラ!? なんて羨ましい!
 美樹さやか! あなたにまどかは渡さない!」

「羨ましいって…」
 まどかの視線が痛い。










/ 2 side 暁美ほむら


 習い事の用事があると言う志筑仁美と別れた私たちは、CDショップに寄る事になった。

 いつもなら、キュゥべえ狩りをしている時間。
 キュゥべえは今回の時間軸で、どのようにしてまどかに契約を持ちかけるのだろうか。





 視聴曲に合わせてリズムをとるまどかが可愛い。
 どうして私はデジタルムービーを持って来なかったのだろう。

『―――助けて』

 まどかがヘッドホンを外す。

『助けて、まどか!』

 周囲を見回すまどかに声をかける。
「どうしたの?」

『僕を、助けて!』

「助けを呼ぶ声が聞こえたの」

「気のせいじゃないかしら」

「でも、聞こえたの!」
 キュゥべえに導かれて改装中にフロアへ向かうまどかの後を追いかける。

 美樹さやかも置いてかれた事に気がついて着いて来ている。

「誰?」

 耳に手を添えて辺りを見回すまどか。

「誰なの?」

 改装中の真っ暗なフロアをおっかなびっくり歩くまどかが可愛い。

「どこにいるの?」





「なあ転校生、この頭に響くまどかに助けを求める声なんなのかな?」

「美樹さやか、どうして私の制服を掴んでるの?」

「う~、うるさい! どうだっていいでしょ、そんな事!」(///∇///)

「まどかだったら嬉しいのだけれど、あなたじゃ…」



 改装中のフロアはいつしか魔女の結界へと変貌する。

 なるほど、私がキュゥべえ狩りをしないと、いきなり魔女の結界に誘い込んで契約を迫るわけね。

 せっかく今までと違う出会いなのだから、できるだけ巴マミとも敵対しないようにしましょう。










/ 3 side 美樹さやか


「なんだ、これ?」
 呆然と呟く私を置いて、まどかの元へ駆け寄る転校生。

 まどかは白い小動物を抱えていた。

「この仔を助けなきゃ!」

 転校生は小動物を睨みつけている。

 まどかの胸に抱かれてるからって、そんな小動物に嫉妬するな!

「変だよここ、どんどん道が変わっていく…」

 周囲が次々に変化し、蝶の下半身を持つ毛玉のバケモノが私たちを取り囲む。

 転校生はまどかを守るように手を広げる。

「ああ、もうっ! どうなってんのさ!」

 恐怖を誤魔化す為、まどかを抱きしめる。

「美樹さやか、まどかを抱きしめるのは私の役目よ」

「こんな時に何言ってんだよ!」

 転校生は私ごとまどかを抱きしめる。

「安心しなさい。まどかは私が守るわ」

 不思議と、その言葉は私の不安を溶解させた。

 というか、私は守ってくれないのかよ!





「ええ!? ほむらちゃんが夢で見たのと同じ格好になった!?」

「まどか見た!? 今一瞬、転校生が裸になったよ!?」

 転校生はアニメやゲームのヒロインの制服のような格好になり、左腕には丸い盾を着けていた。

「そう、見たのね」
 転校生はほのかに頬を朱に染め、まどかを見つめる。

「乙女の柔肌を見たからには、まどかに責任をとってもらわないと…
 不束者ですが…」

「転校生、後ろっ!」
 転校生は軽やかにターンすると、どこから取り出したのか、拳銃でバケモノを撃ち抜く。

「すごい…」

「転校生、あんた何者? ここが何なのか知ってるの?」

 転校生はあたしの疑問を黙殺してバケモノを撃ち続ける。

 転校生はアクション映画の主人公のように動きまわって敵を倒すような派手さはないけれど、あたしとまどかに敵を近づけないよう、的確に一撃でバケモノを屠ってゆく。


 まどかの見た夢といい、会ったその日にこんな訳わかんない事に巻き込まれるなんて…。

 転校生のやつ、事情も説明しないなんてどういうつもりだ。




 多勢に無勢、転校生が倒した以上のバケモノが次々に現れる。

「転校生! これじゃキリがない。私にも武器を!」

「美樹さやか、私はロアナプラでも生き残れる腕がある。
 素人は私に守られてなさい!」

 言いながら弾倉を交換する転校生。

 その間も、バケモノはじりじりと距離を詰める。

 弾倉の交換を終え、再び転校生が拳銃を構えた瞬間、光が溢れ、私たちを囲んでいたバケモノが消滅する。



「あなたたち、危ないところだったわね」

 見滝原中の制服に身を包んだ、金髪を名古屋巻きにした美人が現れた。

 なにあの胸…。

 先生無茶よ!
 って言いたくなるくらい制服姿に、無理してる感がハンパ無い!

 なぜか卵型の宝石と鎖を持っている。

 手に持った卵型の宝石の周囲には花のエフェクトがかかってる。
 よくわからないけど、なんかスゴイ。
 あたしも欲しいけど、やっぱりあんなの持ってると水商売の女だと思われたりするのかな?

 鎖を持ってるし、女王様なのだろうか?

「あなた新人ね、そんな風にチマチマ撃ってたんじゃラチがあかないわよ」

 新人?

 まさか、転校生もこの歳で水商売?

 なわけないか…。

 転校生に声をかけたコスプレした風俗のお姉さんっぽい美人は、続いてあたしとまどかに声を掛ける。

「あら、キュゥべえを助けてくれたのね。
 ありがとう。その子は私の大切な友達なの」

「私、呼ばれたんです。頭の中に、直接この仔の声が…」

「なるほどね…」
 謎の美女は、まどかの腕の中で眠る小動物を覗き込み、笑顔になる。

「その制服、あなたたちも見滝原中の生徒みたいね。2年生?」

 あなたたち『も』?
 この人も中学生?

「あの、あなたは?」
 まどかが質問するが、美女は謎のポーズを取る。

「そうそう、自己紹介しないとね」

 先輩?は媚びるようなポーズをとりながら言葉を続ける。

 っと、今気づいたけど、またバケモノがいっぱい来てる!?

「でも、そのまえに…、ちょっと一仕事片付けていいかしら」

 先輩?は小さくジャンプを繰り返す。女子中学生に媚びるような仕草を見せてどうするつもりなのさ?

 そして、転校生同様に一瞬裸になり、変身。

 パッドでも入ってるかと思ったけど、生乳だったよ。

 同じ中学生なのになんという格差…。

 いや、でもまどかや転校生の方がもっと絶望している事だろう。

 あたしの大きさは、年齢を考えれば普通だよね?



 変身した先輩?が跳ぶと、一面に銃が現れ、斉射!

 転校生が梃子摺った無数のバケモノを一瞬で倒してしまった。

「す、すごい…」
 まどかの呟きに反応する転校生。

「まどか、私もがんばったよ」

「ほむらちゃん、守ってくれてありがとう」

 まどかにお礼を言われて嬉しそうな転校生。
 なんだ、こんな顔もできるんだ…。



[27550] 第4話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/07 20:57
第4話



/ 1 side 暁美ほむら


 巴マミの治癒により、キュゥべえの傷が塞がる。

「おー」

「すごい…」

 まどかは純粋に治癒魔法に感心しているだけのようだけど、美樹さやかは食い入るように見つめている。

「これで大丈夫…」

 濡れた犬が水を弾き飛ばすように身震いすると、キュゥべえがつぶらな瞳を開ける。

「ありがとうマミ! おかげで助かったよ!」

「お礼ならこの子たちに言って。私じゃ間に合わなかったかもしれないもの…」
 私たちに手のひらを向けて言うマミ。

「うん、ありがとう、鹿目まどか! 美樹さやか! 暁美ほむら!」
 普段は感情の無い素のキュゥべえしか見ていないだけに、いかにもな魔法少女のマスコットを演じるキュゥべえをちょっと可愛いと思ってしまい、自己嫌悪。

「なんで名前知ってるの?」
 警戒心からか、まどかを守るように手を広げる美樹さやか。

「美樹さやか! さりげなく手の甲でまどかの胸に触れないで!」
 油断も隙もない。

「ちがっ! これはわざとじゃないから!」

「息を吸う様に自然にセクハラするなんて…。どうやら志筑仁美が言っていた、あなたが毎日まどかにセクハラするという話は本当みたいね」

「ふふ、あなたたちおもしろいのね」
 いつの間にか変身を解いていた巴マミが口元を手で隠して笑う。


「わたしたちこそ助かりました。あの、あなたは…?」
 胸元のリボンを弄りながら問い掛けるまどか。

「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。私の名前は巴マミ」

 何故か、クルリと一回転してみせる巴マミ。スカートがふわりと翻る。美樹さやかの視線は何かが見えそうで見えない巴マミのフトモモに注がれている。

「あなたたちと同じ見滝原中の生徒よ」

 うん、もう変身解除していて、私たちと同じ制服だから、そこは言わなくても分かる。

「よろしくね!」

 このわざとらしさはなんだろう…。


「そしてこの子がキュゥべえ」

「僕、君たちにお願いがあって来たんだ!」
 まどかを見つめて口を閉じたまま話すキュゥべえ。

「僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ!」
 ちょこんと首を傾げ、長いフサフサの尻尾を揺らしながら言うキュゥべえ。
 その仕草は、最初の時間軸でまどかと一緒に可愛がっていた黒猫、エイミーを彷彿させる。
 色も、姿も、性格も、全く違うのに…、キュゥべえ媚び過ぎ!

 こうやって何人ものいたいけな少女たちを毒牙にかけてきたのね…。










 巴マミの家で魔法少女の詳しい話を聞事くになった。

 私たちは、無言で巴マミの後ろを歩く。

 巴マミの肩に乗ったキュゥべえの揺れる尻尾を見ながら、風穴を開けたい衝動と、抱きしめたい欲求と戦う。
 キュゥべえが媚びるとこんなに可愛いなんて…、詐欺にもほどがある。


『ねえ、キュゥべえ』

『なんだい、マミ?』

『キュゥべえが候補者に助けを求めて、私が偶然通りかかって助ける予定だったけど、一人魔法少女になってるって事は、タイミング遅かったかしら?』

 は?

 転校初日にまどかが契約していない場合、薔薇園の魔女の結界に迷い込むのは巴マミのせいだというの?

 私たちは立ち止まり、顔を見合わせる。

『ちょっと遅かったかもしれないね』

『そう…。暁美さんには悪いことしちゃったわね。ちゃんと願い事を考える時間も無かったでしょうし…』

『でもね、僕は暁美ほむらとは契約してないんだ』

「え!?」
 驚き、振り向いた巴マミは、私たちが立ち止まっているため、距離が離れている事に再び驚く。

「あの~、内緒話のつもりだったんでしょうけど…」

 呆れて途中で口を噤む美樹さやかの後を引き継ぐ。
「テレパシー、聞こえてたわよ」











/ 2 side 美樹さやか


 マミさんはマンションで一人暮らしをしていた。

 私たちはマミさんとキュゥべえに不信感を抱いていたけど、魔女や魔法少女の説明を受ける為に、招待を受ける事にした。

 部屋に通されると、紅茶とケーキが出された。初めからマミさんの部屋で説明をするつもりだったらしい。

 ケーキはシフォンとレアチーズを1ホールづつ手作りで用意していたあたり、私たちが巻き込まれたのはマミさんとキュゥべえの計画通りだった事が分かってドン引きした。





「これはソウルジェム。魔法少女の魔力の源よ」

 うわぁ…、キレイ…。

 お水のアイテムじゃなかったんだ…。

「キュゥべえに選ばれた女の子が、契約によって生み出す宝石なの」

「僕との契約によってソウルジェムを手にした者は、魔女と戦う運命が課されるんだ」

 キュゥべえは猫のような口を開かずに喋っている。どうなってるんだろ?

「でも、その代わりに一つだけ、どんな願いでも叶えてあげる!」

「何でも!?」

 さっきみたいな演出をする胡散臭いヤツだけど、マミさんが魔法を使ってたのは事実だ。
 キュゥべえの傷が塞がるところをこの目で見たし…。

 転校生は銃しか使ってないから、自由業の親分の娘が護身用で持っていた武器を使っただけで、魔法少女じゃないかもしれない。
 じゃあ、なんで一瞬裸になって変身したんだ? 露出狂? まどかに生まれたままの姿を見せたかった?

「何でもって、金銀財宝に不老不死、満漢全席にあんな事も!?」

「食べ物につられるって…」
 転校生、じと目で見るな!

「さやかちゃん…」
 うわっ、まどかまでじと目で見なくても…。

「で、魔女って?」
 続きを促して誤魔化す。

「マミのような魔法少女が希望を振りまく存在ならば、魔女は反対に絶望を撒き散らす存在なんだ」

 本当にキュゥべえはどうやって喋ってるんだ?

 可愛いのに不気味だな。

「よくある理由のはっきりしない自殺や殺人事件は、かなりの確率で魔女の呪いによるものなの…」
 マミさんが説明を引き継ぐ。

「魔女は常に、あなたたちが迷い込んだ結界に身を隠してる」

「迷い込んだのではなく、貴女の計画でキュゥべえに誘き寄せられたのだけど…」

「そうだね…」
 おおう、まどかと転校生のじと目が私からマミさんにw

 マミさんは冷や汗を掻きながら続ける。

「私が助けに来なければ…、あの場所から生きて帰れなかったと思うわ」

「おいっ!」

 私のツッコミにビクッと体を震わせるマミさん。

「命懸けだから、あなたたちも契約するかどうかは慎重に選んだ方がいいわ」

 あ、そのまま続けるんだ…。

 この人、けっこーイイ性格してるな…。



[27550] 第5話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/06/08 21:32
第5話



/ 1 side 美樹さやか


「夜も更けてきたし、今日はここまでにしましょうか」

 巴マミの部屋を辞したあたし達は、転校生の家にお邪魔する事になった。



『巴マミとキュゥべえは魔法少女になる事の利点のみしか説明していないわ』

 転校生の言葉は無視できるものではなかった。

 恭介の手を治すのを願い、ほいほい契約するつもりになっていたあたしは聞いておかなければならない。











「これが転校生の家?」

「そうよ」
 涼しい声で肯定する転校生。

「あはは、なんか…、デラ富樫が泊まったホテルにそっくりだね…」

 まどかの家もガラス張りでアレだけど、転校生の家も相当アレだった。

「本当に、劇中の守加護すかごに来ちゃったかと思ったよ…」

「両親があの映画のファンで、できるだけ似せるよう依頼した注文住宅なの」

「すごーい!」
 まどかは手を合わせ、ただ純粋に感動しているようだ。あんた、目が輝いてるよw

「転校生の家ってさ…、もしかして、門司まで聖地巡礼に行く時間の取れないファンの代替巡礼スポットになってたりしない?」

「よく分かったわね」

 冗談だったのに、本当にそんな事になってんのかよ!

「時々、知らない人がホテルと間違えて勝手に入ってくる事もあるわ」
 深く吐息する転校生。

 転校生も苦労してんだな…。

 1階がガラス張りの家に住んでいるプライバシーの低いまどかといい、やっぱ普通の家が一番だよな…。





 室内の再現率もすごかった。

「うわっ、カウンターまであるのかよ!」

 自宅なのに外見だけでなく中まで再現するって、どんだけあの映画が好きなんだよ!

「本格的だね」
 興味津々に辺りを見るまどか。

「座って待っててちょうだい」
 一声かけてカウンターの中に入る転校生。あ、村田大樹のサイン色紙が飾ってある…。

「うわっ、こんなとこまで再現してるのかよ!」

「さやかちゃん、どうしたの?」
 無言で色紙を指し示すと、口を開けてぽかーんとするまどか。さすがに呆れたか?

「わけがわからないよ」
 ついに不思議生物にまで言われる転校生の家w

 苦笑しながらテーブルに飲み物を置くと、転校生はまどかの隣に腰掛けた。

「さて、何から話そうかしら…」











/ 2 side 美樹さやか


「ひどい、こんなのってないよ…」
 ぽろぽろと涙を零すまどか。優しすぎるまどかにとって、魔法少女の真実はショックだったのだろう。

「キュゥべえ、今の話って本当なの?」

「ああ、本当さ」
 あっさり認めるキュゥべえ。

「まどか…。決して魔法少女にならないと約束して」
 まどかを優しく抱きしめる転校生。まどかは声にならないのか、ただただ転校生を抱きしめ返す。

「マミさん、こんな重要なことを隠して魔法少女になるのを勧めるってどういうつもりなのかな」

 胡散臭いとは思ってたけど、ゾンビみたいに仲間を増やしたいとかじゃないだろうな…。

「マミは知らないよ。君たちは事実を伝えると決まって同じ反応をする」

 一切表情を変える事なく、キュゥべえは続ける。

「―――マミさんを騙したの?」
 震える声で問うまどか。

「一つだけなんでも願いを叶える代わりに魔法少女になって欲しい。そう言って契約してるのだから、騙してなんかないさ。
 魔法少女がどういったものか説明を省いたけれど、嘘は言ってない」

 キュゥべえは平皿のミルクをひと舐めし、続ける。
 転校生のヤツ全部知ってたのに、なんだってこんな外道までもてなすんだ…。

「どうして人間は魂の在処にそんなに拘るんだい? わけがわからないよ」

 ああ、コイツは本当に私たち人間をなんとも思ってないんだ…。

「それより、僕としては契約した覚えのない暁美ほむらがどうやって魔法少女になったのか知りたいね。
 契約時に説明しないはずの真実を知っていた事も含めてね」

 口の周りについたミルクをベロで舐め取るキュゥべえ。
 ふさふさの毛並みといい、いちち媚びる動作といい、あたしも騙されるところだったじゃないか!

「あら、契約前に全部説明したインキュベーターは、あなたたちの中でも変わり者だったという事かしら?」

「外見はあなたとそっくりだったわよ」と語る転校生。まどかを抱きしめたままヘブン状態になっている様は、まどか本人には見せられない。

 なんというか、出逢ったその日にここまで好きになれるってスゴイ。

「僕たちインキュベーターは記憶を共有しているから、契約した事を知らないはずないんだけどね…」

 首を傾げるキュゥべえ。

「うーん、君が契約したのはジュゥべえなのかな、それともハチべえかな…?
 ハチべえはうっかりしてるから、契約した魔法少女の情報を共有し忘れたり、うっかり魔法少女がどういうものか全部説明するのもありえるね」

 うっかり説明を忘れるなら分かるけど…。
 分かるといっても、キュゥべえのしている事は納得できない。

 キュゥべえたちが人間をなんとも思ってない事を再確認させられる。










/ 3 side 暁美ほむら


「ほむらちゃんは、本当のことを聞いたのに、どうして魔法少女になったの?」
 さっきまで私の胸の中ですすり泣きしていたまどかの質問。今でも私の腕の中にいるまどかは目もほっぺも真っ赤。

 まどかに嘘を吐くのはつらい。

「私、先日まで心臓の病気で入院していたの」

「あ…」
 眼を閉じて、私を強く抱きしめるまどか。

 あー、もう!

 このまま、ずっとまどかをぎゅっと抱きしめて離したくない!


「そっか…、魔法少女の真実を知ったうえで契約したって事は、移植が必要だったり、不治の病だったりしたんだね…」
 勝手に勘違いする美樹さやか。

「日本じゃ移植の順番待ちも厳しいし、海外で移植手術を受けるのも大変だもんね…」
 あれ? 美樹さやかがうっすらと涙をたたえ、瞳が潤んでる。

「ほむらちゃん…」

「転校生…」

 まどかと美樹さやかに抱きしめられ、薄幸だと勘違いされて心苦しい。

 なんだか、もう本当の事が言える雰囲気じゃない。

 ちゃんと完治して退院したなんてもう言えない…。











/ 4 side 美樹さやか


 うぅ、転校生…。

『両親があの映画のファンで、できるだけ似せるよう依頼した注文住宅なの』

 こんな家建てるお金あはあっても、娘の治療費は出さない親だなんて…。

 そりゃ転校生も魔法少女になるよね。

 だめだ、涙が溢れてくる…。

 あたしは、かわいそうな転校生を抱きしめてあげる事しかできなかった









あとがき

 ほむほむが主役のはずなのに、なぜかさやかのターンが多い罠。


P.S.

 ザ・マジックアワーのあのホテルとほむホーム似てると思いません?



[27550] 第6話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/14 23:56
第6話



/ 1 side 鹿目まどか


「まどか、朝帰りとはやるね~」
 歯磨き中にママにからかわれる。

「先輩の家にお呼ばれされちゃって…」
 歯を磨きながら説明する。

「その後、ついつい友達の家を梯子しちゃって…」

 ママは手慣れたメイクでどんどんキレイになっていく。改めて考えたら、女の人って魔法なんてなくても変身してるんだ…。

「門限とか、うるさい事は言わないけどさ、晩飯の前には一報入れなよ」

「はーい」
 ぶっきらぼうな言い方だけど、心配してくれて嬉しい。
 家族を養う世の中の父親は仕事ばかりで家族を見ないなんて言われてるけど、ママはちゃんと私を見てくれる。ほむらちゃんの事を知って、こんなあたりまえの事が幸せなんだって…。

「そーいやさ、和子から聞いたんだけど、昨日告白されたんだって?」

 突然の事で口の中の泡を飲み込んじゃった。

「うえぇ~、けほっ、けほっ…」

「ありゃりゃ、大丈夫かー?」
 背中をさすってくれるのは助かるけど…。

「ママ、歯磨きしてる時に変なこと言わないでよ」

「ごめんごめん」
 ママは苦笑交じりに謝ると、とんでもない事を口にした。

「だってさー、昨日、和子が朝からすごいテンションで電話してきたんだよ。
『詢子! まどかちゃんが女の子に告白されたわよ!』ってな」

「えー、早乙女先生…。どうして教えちゃうかなー」

「その後、さやかちゃんとほむらちゃんがまどかを奪い合うあたり、まちがいなく私の娘だって感心してたぞー」

「ママ、訳が分からないよ」
 早乙女先生、なんでそんな事まで話してるの?

「私も昔は『お姉さま』って慕われてたもんさ。和子とは中学時代から今でもそ~いう関係だしな」

「―――ッ!?」
 ママのとんでもない発言でうがい中の水を噴出する。
 うわ、鏡が…。

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 ママが両刀だなんて話知りたく無かったよ!

 しかも早乙女先生とそ~いう関係だったって…。

 どうりで早乙女先生の私を見る目が時々変だなって思ってたら…。

「和子も親に早く孫の顔を見せろって言われてプレッシャー掛かってるから、偽装結婚しなきゃってがんばってるんだよな」

「ぎ、偽装? 相手の男の人がかわいそうだよ」

 メイクを終え、鏡を前に髪を掻きあげてポーズをとりながらママは続ける。
「きっと、和子も本気じゃないから長続きしないんだよ」

 そういう問題なの?

「ねえ、パパは知ってるの?」
 不安になったので、小声で訪ねてみる。

「知ってるよ。パパは主夫として家の事を一手に引き受けてくれるだけでなく、子育てもしっかりしてくれてる。和子との関係まで許してくれて、ほんと感謝してもしきれないね…」

「えー? ママの性癖、受け入れてるの?」

「パパは心が広いし、今でもラブラブだし~」





「今朝のごはんはパパとほむらちゃんの合作だよ」
 パパとほむらちゃんがテーブルにお皿を並べる。おそろいのエプロンを着ける二人はまるで歳の差カップルみたい。

「オムレツはほむらちゃんが、トマトソースはパパが作ったんだよ」

 オムレツはほむらちゃんが冷蔵庫の中身を適当に見繕って作ったもので、オムレツにかけてあるトマトソースはパパが家庭菜園で育てたトマトを使って作ったものだって説明があった。

「お、こんな短時間ですごいね。いただきまーす」
 早速、パパとほむらちゃんの合作料理、オムレツを口に運ぶママ。

「ん!? おいしー!」

「ありがとうございます」
 ほむらちゃんは褒められて照れているのか、頬をほんのりと朱に染める。

「ほむらちゃん、可愛い…」
 無意識のうちに口に出ていた。



 (///∇///)   (///∇///)



 エプロンを掴んで恥ずかしがるほむらちゃん。

「えっと、違うの!? でなくて、違わないというか、あーもう!
 なんで私女の子相手にドキドキしてるの!?」

 顔だけでなく耳まで真っ赤になったほむらちゃんと見つめ合う。

 何か言わなきゃ!

「あー! まっか! まっかー!」
 タツヤがフォークを振り回しながら嬉しそうな声をあげる。

「うんうん、真っ赤だねー」

「まどか、あんた間違いなく私の娘だわ。いや~血は争えないね」



 落ち着いたところで、オムレツをフォークで口に運ぶ。

「ええっと、あんまりじーっと見られると緊張しちゃうよ」

「ごめんなさい。でも、食べてもらうのって少し緊張して…」

「「あはは…」」
 軽く笑い合い、オムレツを食べる。ほむらちゃんは私が食べるのを見つめている。

「初々しくていいな。私もパパとも和子とも、こんな空間を作れた時代があったんだよなー」

 オムレツの中にはモッツァレラチーズが入っていた。

「おいしい!」

「そう言ってもらえると作った甲斐があるわ」
 口元をほころばせたほむらちゃんは、マグカップを口元に運んで笑みを隠す。

「すごいなー、私なんてふんわりしたオムレツなんて作れないよ。何度やっても崩れちゃうし」

「パパはね、昔から親子で料理をするのが夢だったんだ。未来の義娘と夢を叶える事ができて嬉しいよ」

 パパがさらっと変なことを言った?

 その後、ほむらちゃんが私の家に住む事をパパとママから伝えられた。
 なんでも、私が告白されたのを聞いた後、ママが早乙女先生にほむらちゃんの情報を教えてもらっていたらしい。
 転校の手続きはほむらちゃん本人が行い、心臓の病気を患っていたにも関わらず、両親は一度も学校に相談に来なかった事を聞いていて、私が会ったその日にお泊りするほど信頼しているのが決め手になったという話だった。











/ 2 side 暁美ほむら


 待ち合わせ場所で美樹さやかと志筑仁美と合流する。

「おはよー!」

「おはよう」

 優雅に振り返る志筑仁美。
「おはようございます」

「おは…」
 美樹さやかは振り返りながら挨拶をし、まどかの肩に乗るキュゥべえを見て固まった。

『おはよう、さやか。と言っても、早朝に別れたばかりだけどね』
 テレパシーでさやかに挨拶するキュゥべえ。ああ、魔法少女のマスコットをしてるキュゥべえ可愛い。でも殺したい!
『戻って』から一度もキュゥべえを殺さないのは初めてで、禁断症状がでそう。
 キュゥべえを愛でたい衝動と、殺したい衝動。どうにかなりそう。
 とりあえずまどかと手を繋いで落ち着こう。

「どうしましたか、さやかさん?」
 心配そうに美樹さやかの顔を覗き込む志筑仁美。

「やっぱそいつ、あたし達にしか見えないんだ?」
 私とまどこに小声で囁く美樹さやか。

「そうよ」

「あの?」

 怪訝な表情を浮かべる志筑仁美の肩を抱いて歩き始める美樹さやか。

「あー、いやぁ。なんでもないから! 行こう! 行こー!」

『頭で考えるだけで、会話とかできるみたいだよ』
 まどかのテレパシーに、ビクッと大きく震える美樹さやか。

『ええ? あたし達、もう既にそんなマジカルな力が!?』
 さやかの心の声が恐怖に染まる。

『いやいや、今はまだ僕が間で中継してるだけ。でも、内緒話には便利でしょ』

『良かった…。寝てる間に魔法少女させられたかと心配したよ…』

『僕は本人の同意も無しにそんな事しないよ』

『良かったー!』

 美樹さやかの百面相はおもしろい。

『ほむら! なんで笑ってるんだよ!』

「皆さん、さっきからどうしたんです? 頻りに目配せしてますけど…」

 何故かバッグを降ろす志筑仁美。

「いや、これは、あの、その…」
 口ごもるまどか。

 美樹さやかはあらぬ方向を見て誤魔化す。

「まさか、三人…。既に目と目で分かり合う間柄ですの?」
 身悶えする志筑仁美。

「まあっ! たった一日でそこまで急接近だなんて!? 昨日はあの後、一体何が!?」
 激しいボディランゲージを交えて捲くし立てる志筑仁美。

「そりゃねえわ、さすがに…」
 素で引く美樹さやか。

「そうね」
 美樹さやかとそんな関係だと勘違いされるのはイヤね。

「確かに色々、あったんだけどさ…」

「ほむらの家で3人でお泊りしたし…」

「今朝はまどかのご両親に挨拶してきたわ」

「お泊り!? しかも昨日は転校生と呼んでいたさやかさんが、暁美さんを名前で呼ぶなんて!?」
 自分自身を抱きしめて身悶える志筑仁美。テンションあがりすぎて顔が紅潮している。

「というか、まどかの両親に挨拶ってなんだよ? あ、なんでまどかと手を繋いでるんだ!?」

 私をまどかの繋いだ手を引き離そうとする美樹さやか。
「美樹さやか、あなたに私とまどかの関係をとやかく言われる筋合いは無いわ」

「なにをー!?」

 互いに頬を引っ張りあうのに夢中になってしまい、周囲の音が耳に入らなくなる。


「ああ! まどかさんを奪い合う二人! まどかさん、本当にハーレムを…」

「ち、違うよ!」

「さっき、さりげなく志筑仁美の肩を抱いていたのは、セクハラターゲットをまどかから志筑仁美に変更したという事では無かったの?」

「でも、いけませんわ! 女の子同士で! それは禁断の愛の形ですのよ―――!」



 私と美樹さやかは往来で正座させられた。

「あの、二人とも?
 仁美ちゃんに誤解されたんだけど…」









あとがき

 次回、ようやく薔薇園の魔女。



[27550] 第7話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/16 00:11
第7話



/ 1 side 美樹さやか



 いつものショッピングセンターの、いつものフードコート。

 でも、お喋りするメンバーはいつもと違う。まどかはいつも通り一緒だけど。仁美が居なくて、昨日友達になったほむらと、昨日知り合ったマミさんと、不思議小動物のキュゥべえがいる。

 マミさんとキュゥべえはあまり信用してないが、ほむらは悪いヤツじゃない。かわいそうな家庭環境で、あたしが面倒見てあげたくなる。
 昨日は思わず同情して抱きしめちゃったし、家族の温もりにはほど遠いだろうけど、ベッドで3人、川の字で寝た。
 ほむらを真ん中にして、あたしとまどかで抱きしめてたんだけど、ほむらは緊張してたのか、まどかが寝息を立ててもずっと起きてた。
 ほむらのヤツ、澄ました顔であんまり表情を変えないのに、あんなに赤面しちゃって…。思わず見とれちゃったじゃないか。





 一口飲むと、カップを置いてテーブルに肘を着いてポーズを取るマミさん。トレードマークの名古屋巻きが揺れる。これってセット大変そうだよなー。
 ストレートパーマしてもすぐもとに戻っちゃう人もいれば、1ヶ月から半年も持つ人もいるけど、名古屋巻きって、あのドリルはどれくらい持つんだろ?
 毎日髪の手入れをすると、すぐダメになりそうなイメージがあるんだよなー。それともソバージュみたいに洗っちゃいけないなんて事ないよね?

「さて、それじゃ魔法少女体験コース第一弾、はりきって行ってみましょうか」
 ニコニコ上機嫌のマミさんが歌うように言う。何がそんなに嬉しいんだろ?
 体験コースも何も、既にほむらの話を聞いてあんまり契約する気ないんだよな…。
 でもまあ、目の前に魔女に殺されそうになってる人がいて、対処できるのがあたししかいないなら、その場の勢いで魔法少女になっちゃう可能性もあるかもしれないんだよなー。
 もう、その状態になってる時点であたしも魔女の結界に取り込まれてるんだろうし。

「準備はいい?」

「準備になってるかどうか分からないけど…」
 まあ、せっかく見滝原町の平和を守る為にやる気になってるのを水差すのもアレだし、ノリノリでいってみよー!

 布を巻いた得物をテーブルに叩きつけて言う。
「持ってきました!」

 視線が集まったところで、布を翻しながら外し、金属バットを露にしてホームラン宣言!

「今日の私ならジェダイ評議会の長だってホームランにできる!」



 ―――天使が通った。



 なんか微妙な空気になったので、「何も無いよりマシかと思って…」と呟きながら座る。

「まあ、そういう覚悟でいてくれるなら助かるわ」
 口元を隠しながらなんとか声を絞り出すマミさん。微かに震えてるんだけど、反応が薄くて困る。
 まどかとほむらはあたしを見ながらポカーンとしてるよ。

「美樹さやか、周囲の客が慌てて出て行くわよ」
 ほむらに言われて周囲を見渡すと、さっきまで談笑してた客がまばらになってるうえ、カウンターで店員がひそひそ話してる。

 空気が重い。

「まどかは何か持ってきた~?」
 とりあえずまどかに話を振ってみる。

「え? えっと…」
 まどかは一瞬驚いた顔をするも、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに笑みを浮かべてカバンに手を伸ばす。

「私は…、こんなの考えてみたんだ」

 まどかが取り出したのは英語のノート。

 中には変身後の衣装案。

「フフフ…」
 口元を隠して笑うマミさん。

「あははは…」
 あたしは我慢できなくて大口開けて笑っちゃった。

「まどか? 魔法少女には成らないで」
 ほむらは、まどかを見つめたまま真剣に言う。

 あ、ほむらのヤツ、いつの間にかまどかに手を重ねてるじゃないか。

「あ、ほむらちゃん。心配させてごめんなさい」

 まどかはほむらが重ねた手に、さらに手を重ねる。

「あのね、授業中暇だったから…。落描きついでに、もし自分が変身したらどんな衣装になるのかなって想像して…」

 まあ、確かに落描きだ。まどかだけでなく、ほむらとマミさんの変身後の姿も描いてあるし。

「まどかが魔法少女になるつもりが無いならそれでいいの」
 ほむらはまどかに頬擦りする。まどかはくすぐったそうだけど、嫌がる素振りは無い。

 なんだこれ?

 本当にまどかはほむらを受け入れてる?

 いや、待て!

 私のセクハラだって…、あれ? 昨日のくすぐりは逃げてたよね?

 ああ、でも魔女の結界内で胸を触っちゃったのは嫌がってなかったよね?

 というか、なんでこんな事考えてるんだ!?

 あたしには恭介がいるじゃないか!

 いや、恭介はただの幼なじみでまだ恋人じゃないけど…。

「こりゃ参った、あんたらのラブラブ空間には負けるわ」
 とりあえず、二人を冷やかしてもやもやした気分を無理やり中断。

「まどかさん、魔法少女になるつもりないの?」

「そうだよ! せっかくなんでも願いが叶うチャンスなのに、勿体無い」

 怪訝な表情を浮かべるマミさんと、モキュモキュと口の中でポテトを咀嚼したままなのに、それを感じさせずに喋るキュゥべえ。本当にキュゥべえはどうなってんだ? まあ、クチャラーは嫌いだから、咀嚼してても不快にさせずに喋るキュゥべえは助かる。というか、口を開けて喋ってるとこ見たことないぞ。これが宇宙の神秘か…。

 というか、ほむらのヤツ、自分のポテトを全部キュゥべえに食べさせたからって、あたしのポテト与えるな!
 でも、今こんな事言うと空気読めないとか言われるんだろうな…。納得いかない!
 でも、ポテトを食べるキュゥべえ可愛いなー。ほむらが餌を与える気持ちも分からなくもない。
 この人間をなんとも思ってない小動物も、マスコットしてる時は可愛いんだよなー。
 いや、マスコットというより、ただのペット? ペットと話せたらなんて思ったことあるけど、そういった意味じゃキュゥべえは理想のペットだよなー。契約を持ちかけてこなければ…。

「え、だって…」
 口ごもるまどか。きっと、本当の事を知らないマミさんに魔法少女になりたくない理由を言うのを躊躇っているんだろうな。

「まどかが魔法少女になったら、私がまどかを守る王子様役になれないもの」
 そう言うと、ほむらは、まどかの頬を優しく撫でる。

「ほむらちゃん…」

 何この今にもキスしそうな雰囲気!?

「あー。もしかして…」
 カップを両手で持って、ストローに視線を落としながら言い辛そうに、続きを口にするマミさん。

「昨日、女子生徒が女子生徒に告白したって噂…、もしかして…」

 赤面して黙りこむまどかとは対照的に、まどかの髪を手櫛で梳きながら、ほむらが言う。
「ええ、私よ」

「あー、どうりで妙にべたべたしてると…」
 マミさん、視線が泳いでるよw

「さて、準備も整ったし、魔法少女体験ツアーに行きましょうか」
 この雰囲気に耐えられなくなったマミさんが席を立つ。

「まだよ」

 疑問を浮かべるマミさんに、ほむらが指摘する。

「まだ巴マミと私の戦闘スタイルの確認と、どのように魔女と戦うか確認してないわ」

「そうだったわね」
 マミさんが席に着くと、ほむらが続きを口にする。

「そして、一番大事なのが、まどかをどうやって守るかよ」

「あたしは? ねえ、あたしは?」

「安心しなさい、美樹さやか。ついでに貴方も守ってあげるわ」

「あたしはついでかよ!」

 あたしはまだフルネームなのか…。










あとがき

 次は薔薇園の魔女との戦闘だと言ったが、あれは嘘だ(ぇ?

 このシーンはさらっと流すつもりが、長くなってしまった罠。



[27550] 第8話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/18 23:41
第8話



/ 1 side 暁美ほむら


「私の戦闘スタイルは、マスケット銃の射撃を基本として、マスケット銃を鈍器にしての格闘戦ね。
 魔女を倒す時には大砲を使うわ」

「た、大砲!?」
 まどかが驚いて仰け反る。

「お~! 昨日のマスケットの斉射もすごかったけど、大砲まで…」

 美樹さやかがテーブルに手を着き、身を乗り出して問う。

「で、どのへんが魔法なんですか?」

「銃も大砲も魔法で作り出してるの」

「はぁ~、魔法で武器を作り出すんですか…。
 なんか、こう…、いかにも魔法少女的な何かは無いんですか?」

 身振り手振りを交えながら抽象的な表現を繰り返す美樹さやか。

 あ、美樹さやかのポテトが無くなった…。

 手付かずだったサンドイッチをキュゥべえの口元に差し出すと、キュゥべえは嬉しそうに目を細めてサンドイッチを噛じる。

 巴マミに迫る美樹さやかを横目に、まどかと共に、口いっぱい頬張るキュゥべえを眺めて、同じタイミングで視線を絡めて笑顔になる。

「美樹さん、落ち着いて」

 美樹さやかは、理想の魔法少女像とのかけ離れた現実を認めたくないのか、巴マミに次々と質問をぶつける。

「あ、これなら美樹さんも満足してくれるかしら?
 リボンで拘束したり、斬ったりできるわ! それに治癒魔法! 治癒魔法もできるのよ!」

治癒魔法!?

 美樹さやかは巴マミの手を取り、顔を近づける。

「そういえば、昨日キュゥべえを治療してましたね!」

 美樹さやかはさらに身を乗り出し、巴マミとの顔の距離はほんの数センチ。ここで美樹さやかを押したら面白い事になりそうね。

「ええ…」
 巴マミは引いている。

「あのっ! それって、怪我で動かなくなった手も治せたりしますか?」

 なるほど、毎回美樹さやかが魔法少女になる『祈り』について聞きたいのね。

「私自身とキュゥべえなら治せるわ」

 そうよね。

 そんなものよね。

「なーんだ…」

 脱力し、ぐったりと椅子にもたれ掛かる美樹さやか。

「美樹さんは誰か、怪我を治したい相手がいるの?」

「もしかして、上条くん?」

「いや、ただ聞いてみただけ…」
 巴マミとまどかの問いに、美樹さやかは天井を見つめたまま力なく答える。










/ 2 side 美樹さやか


「私は主に銃火器を使って戦うわ」

「ほむらも銃かよ!」

 昨日、見てたけどさ、他にも魔法少女らしい何かがあってもいいだろうに…。

「まったく、魔法少女ってーのは飛び道具しか使わないのかよ!」

「他には、ゴルフクラブも持ってるわ」

「ゴルフクラブ?」
 マミさんは不思議な表情を浮かべている。

「ええ、ゴルフ用品店で売っていた中古で、1本で千円の安物だけど…」

「それが格闘戦の武器? 魔法で武器を作ったりしないの?」

 マミさんは質問した直後、合点がいったのか、手を打って続ける。

「暁美さん、魔法少女になったばかりだから、武器の作り方がよく分からないのね?
 安心して、先輩として手取り足取り丁寧に教えてあげるわ」

 にこりと微笑むマミさん。

「いえ…」
 ほむらが何か言いかけるけど、マミさんは遮って続ける。

「まず、魔法で武器を作る時なんだけど、しっかりとイメージすれば、何種類も、いくつでも作れるの。
 だから、弾が尽きても新しい武器を召喚すれば、あっ、召喚っていうのは武器を魔法で創りだす事を言うの。
 弾が尽きても次々と新しい武器を召喚すれば隙を少なくして戦えるでしょう?」

「あの、だから…」

「いちいち弾倉を召喚して再装填するなんて、隙が大きいわよ」

 隙が大きいって…。

 じゃーなんでマミさんは単発のマスケットなんて使ってるんだよ…。

「それから、暁美さんの拳銃は薬莢の排出や硝煙の匂いまで再現してたけど、そこまで再現すると魔力の消費がもったいないから、もっと簡略化してもいいと思うの」




 マミさんの魔法少女講座は、30分も続いた。



「講義、ありがとう」

 ほむらは疲れた表情で搾り出すように口にする。

「やっと終わったー」
 あたしもテーブルに突っ伏す。

「長かったねー」

 まどかはキュゥべえの耳?を引っ張って遊んでいる。
 それを見たほむらもキュゥべえの耳を引っ張る。

『ちょ、何をするんだい?』

 キュゥべえの抗議を無視し、あたしは尻尾に手を伸ばす。

「それで、暁美さん。武器のイメージは固まったかしら?」
 カウンターで人数分の新しい飲み物を買ってきたマミさんが、カップを配りながら言う。

「あ、どうも…」

「ありがとうございます」

「ありがとう」

 ほむらはお礼を言うと、とても言い辛そうに語る。

「さっき何度も言おうとしたのだけれど、私は武器を作れないの」

「え?」
 ぽかんと口を開けて固まるマミさん。

「私は入院生活が長かったせいか、あまり物を持てなかったの。個室とはいえ、病室にたくさん私物を持ち込むと看護師さんに注意されるから…。
 それで、武器を作り出す事ができない代わりに、盾経由で亜空間に武器を収納する事ができるの」

「えっと…、つまり、ほむらの武器は本物?」

「そうよ」

 現実の銃火器で武装したほむら。

 お前のような魔法少女がいるか!

 こう、魔法少女っていうのは、夢と希望を…。

 だめだ、ほむらもマミさんもイメージがかけ離れすぎてる。

「ほむらちゃんって、なんだか未来の道具を持ってないドラえもんみたいだね」

 悪意の無いまどかの一言に、ほむらはがっくりと肩を落とす。

 人の話を聞かないマミさんも暗い表情をしている。

 こんなんで魔女退治できるの?










 マミさんのテンションは魔女の口付けの説明をしているうちにもとに戻りました。

 ほむらは、まどかと手を繋いで歩いてるうちにテンションがあがりました。

 まどかは遠足気分のようです。




 このメンバーで本当に大丈夫なのかな?












あとがき

 次回、ようやく薔薇園の魔女。

 あれ?

 最近同じ事を言ったような気がする。



[27550] 第9話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/21 23:44
第9話



/ 1 side 美樹さやか


「この人は?」

 魔女の口づけを受けたOLを横たえると、毅然とした表情で立ち上がるマミさん。

「大丈夫。気を失っているだけ」

 ノリノリのマミさんは、まどかの質問を黙殺して駆け出す。

「行くわよ!」

 まどかが聞きたかったのはそういう事じゃないと思うんだけどな……。





 飛び降りたOLを助ける為に変身したマミさんは格好良かった。

 突然の出来事なのに、咄嗟にリボンでOLを受け止める姿は、まさに魔法少女だった。

 そりゃあ、少しは憧れたよ。

 でも、魔女の口づけの説明で、このOLは魔女に生命力を吸い上げられ、操られて自殺するところだったって言っておきながら、気を失っているのを放置するなんて、何を考えてるんだ?

 しかも、説明してるうちにどんどんテンションがあがって、ノリノリで駆け出す。

 私たちが着いて行ってないのに気が付かないあたり、完全に自分の世界に入ってるよ……。



「ほむらちゃん……」

「この人は目が覚めたら、魔女に操られてまた自殺させられるわ」

「どうすればいいのかな?」

 不安な表情でOLを介抱するまどかと、まどかのうなじを熱い視線で見つめるほむら。

 うーん、まどかのうなじが妙に色っぽい。まどかの魅力を見つけるの上手いなー。さすがほむら。
 次に恭介のお見舞いに行ったら、うなじが見えるように意識しながらりんごを剥いてみよう。もちろんウサギの形にカットして可愛さアピールだ!
 あ、うなじだったら、和服の方がいいかな?
 あー、でも、突然和服でお見舞いに行ったりしたら変に思われるかな……。

「ほむら、ちゃん?」

「これでこの人は安全よ」

「確かにこれなら自殺はできないけど…。これはどうかと思うなー」

 まどかの戸惑う声で、自分の世界から引き戻される。

「って、オイ! なんで手錠で拘束してるんだよ!?」

 OLは手錠で後ろ手に両手を拘束するだけでなく、左足首にも手錠をつけたまま膝を折り曲げて、もう片方の輪を左手首に拘束し、どうやっても自力で動けないようにされて転がされていた。
 手錠がはまるって、このOL足首細いなー。いや、手錠はごつくて太い腕の男にも使えないとおかしいだろうし…。じゃなくて!

「ほむらはなんでそんなもんまで持ってるんだ?」

「魔女に操られた人の安全を考えると、これが一番だからよ」

 涼しい顔で言うほむら。人が死にそうになった瞬間に立会い、微かに震えているまどかを背中から抱きしめ、頬擦りする。

「まどかも美樹さやかも同じ事を考えていたでしょ?
 魔女を倒さない限り、魔女の呪いを受けたこの人は再び自殺する」

「ああ、マミさんは答えないで行っちゃったけどね」

「巴マミはこの人が目覚めて、次の行動を起こす前に魔女を倒すつもりなのでしょうけど、間に合わない可能性もあるわ」

 マミさんと違い、ほむらはしっかり説明してくれるのはいいんだけど、まどかに頬擦りして幸せそうな表情で言われても、真面目な雰囲気が台無しだよ!

「で、この人は魔女を倒すまでこのまま?」

「そうよ」
 即答されたよ…。

「誰かに見られたらマズくない?」

 見た目でアウトじゃないか?

「大丈夫。きっと、この人を見つけた人は、拘束放置プレイのお楽しみ中だと思ってくれるわ」

「そう、だよね…。それに、こうでもしないとこの人、危ないよね……」

 何故か納得するまどか。

「おーい、帰ってこーぃ…」

 改めて、OLを見る。

「なんと言うかさ、そこはかとなく漂う犯罪臭が…。いや、なんでもない」

 人命を優先すれば、この処置も仕様がない…よね? と無理やり納得してマミさんの後を追う。











/ 2 side 暁美ほむら


 ビルに足を踏み入れると、巴マミが遅れてやって来た私たちに振り向いて小さく吐息する。

「遅かったわね。何をしてたの? 怖くなって逃げたかと思ったわよ」

「あー、あたし達あんまり魔法少女になるつもりも無いし、ここでさよならするのもいいかもしれませんね~、なんて……、あはは……」

 頭を掻きながら契約する気がないと語る美樹さやかに安堵する。

「そうね、今からそうしようかしら」

 美樹さやかが破滅してゆく姿を見る事もなければ……。

 そして、何度戦ってもワルプルギスの夜も倒せないのならば、倒さなくてもいい。

 ワルプルギスの夜が見滝原町に来る日に合わせて、まどかと旅行でもして町を離れていれば、まどかが魔法少女になる事もない。

 帰宅後に『災害』で滅茶苦茶になった見滝原町を見ても、まどかがキュゥべえに願う事もない。

 後は、まどかと一緒に人生を謳歌するだけ!



「暁美ほむら、君は!?」
 まどかに抱き抱えられたキュゥべえが叫ぶ。

「暁美さん、あなた契約したからには、魔女を倒す義務があるのよ!」
 巴マミはうっすらと涙を浮かべ、私に詰め寄る。

「そうだよ! 前払いで願いを叶えたのに、そんなの非道いよ!」
 慌てて声を荒げるインキュベーターという、珍しいモノが見れて少し嬉しい。

「あ、そっか…。魔女と戦わなければ……、魔法を使わなければソウルジェムが濁る事もないのか……」
 ポン、と手を打って呟く美樹さやか。まさか、今ので契約するつもりになってたりしないでしょうね?

「美樹さん! そんなのダメよ! 人として間違ってるわ!」

「いや、魔法少女になれる素質を持ってるとはいえ、一般人を魔女の結界に誘き寄せたマミさんに言われても……」

 巴マミがターゲットを変更して、美樹さやかに詰め寄るがバッサリ斬られる。

「完全にマッチポンプだし……」

「そんな!? やっと後輩ができたと思ったのに!」


「あ」
 まどかの声に反応して確認すると、キュゥべえがまどかの腕の中から抜けだしていた。

「もし、そうすると言うのなら……。名残惜しいけど僕は君たちの前から姿を消すよ……」

 心底悲しそうなキュゥべえに、心を打たれる。

 インキュベーターを憎いと思ってる私ですら、こんなに衝撃を受けているのに……。

 たった1日だったけれど、キュゥべえを餌付けしたり、モフり倒したりした思い出が脳裏に浮かぶ。


「ねえ、ほむらちゃん。このままキュゥべえを飼いたいな……」

 そんな風にまどかに上目遣いでお願いされたら断れないじゃない!

「分かったわ。キュゥべえがこのままペットになってくれるのなら、魔女と戦うわ」

「ありがとう! まどか! ほむら!」










/ 3 side 美樹さやか


 マミさんの髪飾りが光を放つと、吹き抜けのホールの階段を登ったところ、2階に薔薇で縁どられた丸いゲートが現れる。
 昨日はいつのまにか結界に迷いこんでいたけど、これが入り口らしい。

「今日こそ逃がさないわよ」
 さっきのやり取りを無かった事にするかのように、真剣な表情で言うものだから、「後輩ができたと思ったのに!」と涙目で叫ぶ姿を思い出してしまう。

 ギャップに笑いを堪えていると、マミさんが私の得物である野球部から拝借して来た金属バットに触れる。
 バットは白を基調とし、中心部に金色の地に蔦のような模様が入り、上部はティーポットを彷彿させる意匠に変化する。

「うわぁ、うわぁ……」
 思わず声が漏れるほどカッコ悪い。

「すごい……」
 まどかは声が笑ってるし、キュゥべえも口元をヒクヒクさせている。ほむらにいたっては、私の肩に手を着いて小刻みに震えている。

「気休めだけど、これで身を守る程度の役には立つわ」
 先行して階段を登るマミさんはあたし達が笑いを堪えている事に気づいていない。

「絶対に私の側を離れないでね!」

「「はい!」」

「わかったわ」

 マミさんが振り向くまでに、なんとか全員持ち直す事ができた。

 本当に危なかった。





 結界に入った途端、大音量のベルがあたし達を迎える。

「どうやら、この使い魔は侵入警報を兼ねているようね」

 解説しながらも、あたし達に近づく使い魔を狙撃するマミさん。
 使い魔の数が増えると、注意を引く為か、マミさんが先行する。いや、側から離れるなって言ってたし、あたし達が遅れてるだけか。


 向かってくる使い魔に改造バットを振り下ろす。

「来んな、来んなー!」
 自分の声に怯えの色が含まれているの自覚しながら、まどかとほむらを守る。



 結界に入ると同時に変身したほむらは、まだ一発も撃っていない。

 ほむらが何をしているのかと言うと―――。




挿絵:かきの
ameblo.jp/akira-119/entry-10899030619.html




「キュゥべえ、その場所変わりなさい!」

 まどかが胸に抱くキュゥべえに詰め寄っているのである。

「まどかの胸に抱かれていいのは私だけよ!」

「ほむら、魔法少女として仕事しろ!」

 なんであたしが魔法少女を守ってるんだよ!

「あはは……」

 さやかちゃんはまどかの乾いた笑いをBGMに戦うのでした。









あとがき

 あれ?
 薔薇園の魔女の結界に侵入したけど、魔女とはまだエンカウントしてないぞ?
 ポルナレフAA略



[27550] 第10話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/25 23:16
第10話



/ 1 side 巴マミ


 結界を駆け抜けながら発砲!

 使い魔が四散する。

「どう? 怖い?」

 速度を緩めずに走りながら問い掛ける。

 だけど、返事はない。

 ふふ……。

 声も出ないほど怖がってるのね。

 きっとこの子たちは私を頼りにになる先輩って思ってるわね。

 怖がって魔法少女になるのを止めるなんて言い出さないといいけど……。

 でも、美樹さんはあまり魔法少女になるつもりはないみたいだし、なんでも願いが叶う特典をもっとアピールした方がいいかしら?

 例え美樹さんが魔法少女になったとしても、魔女と戦うつもりがないのも問題よね。

 そうよ!

 私が危なげ無く魔女を倒して、この町を守る正義の魔法少女である姿を見せれば、きっと美樹さんも私に憧れて、私のような魔法少女になりたいって思うはずよね!




 使い魔が集まり、合体したものを新しく召喚したマスケットの銃床で殴り倒すついでに、くるりとターン。

 華麗に戦う私ってカッコイイ!



 きっとあの子たち、ジャニーズのライヴを観に来たファンみたいに興奮してるわ!

 え?

「なんで着いて来てないのよ―――!?」











/ 2 side 美樹さやか


「ちょっと! 私の側を離れないでって言ったでしょ!」
 えらい剣幕で怒るマミさん。

「どうしてこんなところで痴話喧嘩してるのよ!
 それに、キュゥべえは私の友達で、パートナーなのよ!」

 マミさんがまどかからキュゥべえを引っ手繰る。

「マミ、苦しい」

 マミさんの中学生とは思えない胸で溺れるキュゥべえ。

「ぁん…、キュゥべえ、みんな見てる……」

 苦しくて暴れるキュゥべえと、その動作で胸を刺激されて悦ぶマミさん。


「ああ、キュゥべえ……」

「ペットが……」

 手を伸ばして残念がるまどかとほむら。





「あつ~。戦ったから汗かいちゃったよ」

 襟元のリボンと詰襟のホックを外して、手で扇いで風を送り込む。





「キュゥべえは私のパートナーなの!
 あなた達が付け入る隙なんてないのよ!」

 キュゥべえを抱きしめて言い放つマミさんは、キュゥべえが呼吸できずに苦しがっている事に気付いていない。

「食事もお風呂もトイレも一緒だし、寝る時だって同じベッドで抱いてるのよ!」

 あたし達が沈黙する中、マミさんの胸でもがき苦しむキュゥべえの悲鳴だけが響く。

「キュゥべえって、オスだよね?」

「そうよ」

 確認するように問うまどかの手を握り、肯定するほむら。

 友達でパートナー?

 マミさんの胸がおんなに大きいのは、毎晩キュゥべえと盛ってるから?

「あの言い方だと、マミさんって、もしかして獣―――」

「美樹さやか! そんな言葉を使ってはダメ!」
 あたしが確認しようとすると、あたしの言葉を遮ってほむらが叫ぶ。

「ありがとう。もう少しでNGワードを言うところだった」

 さっきとは違った意味で頬が熱くなるのを、服の中に風を送り込む行為で誤魔化す。





「ごめんなさい。変なところを見せちゃったわね」

 赤面したマミさんが、頬を掻く。

「魔法少女体験コース、再開しましょっ!」

 気をとりなおして、マミさんがマスケットを掲げる。

「おー!」

 あたしも改造バットを掲げるが―――。

「あはは、もうちょっと待ってね」

 まどかの胸というまな板に顔を埋めるほむらのせいで再開できずにいた。

「もう少しでまどか分の補給が終わるから待って」

 まどか分ってなんだよ…。

 さんざんべたべたしてるくせに、まどか分が足りないから戦えないって……。

「暁美さんと鹿目さんって、仲が良いのね…」

 マミさんは、二人を羨ましそうに見つめる。

「まだ会って2日目だなんて信じられないくらいですよ」

 本当に、ほむらはすごいな。

 あたしがセクハラすると嫌がるのに、まどかめ、ほむらには体を許して……。
(注意:まだ行為には及んでません)

「待たせたわね」
 鼻息荒く、ヤル気十分なほむらがアサルトライフル?をどこからともなく取り出す。

「暁美さん。それってニュースで見たことあるんだけど、もしかして……」

「ああっ! 自衛隊最大の不祥事として報道された紛失武器の!?」

 思い出した!

 先週、関東の複数の基地からたくさん武器が紛失したってニュースがあった。こんなものどうやって紛失するんだっていうくらい大きな車両もあったけど、ほむらの魔法少女としての能力は収納だったよね?

 確か、ほむらが持ってるのって89式小銃だっけ?

「ねえ、ほむら? それ、どうやって手に入れたの?」

 念のため、聞いてみる。

「こっそり忍びこんで盗んで来たのよ」

「あっさり認めたよ―――!?」

「あはは……」
 まどかは乾いた笑いを浮かべる。

「暁美さん、ちゃんと魔女と戦うつもりだったのね」

「安心したよ!」

 ほっと胸を撫で下ろすマミさんとキュゥべえ。
 あれだけ世間を騒がせたニュースの犯人が目の前にいるのに、マミさんは仲間がいれば不問なのかよ!


「魔女の脅威から、まどかを―――」

 言い淀み、軽く咳払いすると、ほむらは銃剣を取り付けながら、当然のように言い放つ。

「魔女の脅威から、国民を守る為に使われるのだから、きっとこの子も本望よ」

 言って、銃を撫でるほむら。

 こう言えば誰も入手方法について何も言わないと思ってるんだろうけど、ほむらのせいで国民の為に働く自衛官が処分されている事を忘れちゃいけない。





「気をとりなおして、魔法少女コンビ結成よ!
 魔女なんて速攻で倒しましょう!」

 マミさんが声を張り上げてほむらの手を引くが、ほむらは動かない。

「コンビ?」

 何を言ってるんだ? という表情を浮かべるほむらが手を振りほどく。

「共闘はするけど、コンビを組むわけではないわ」

 そして、自然な仕草でまどかの手を握る。

「そう……。暁美さんは鹿目さんを守りながら戦うのね」

 マミさんはあたしに向き直ると、手を差し伸べる。

「美樹さん、あなたは私が守るわ。さ、行きましょう」

「いえ、あたしはマミさんに改造してもらったバットがありますので、マミさんはあたし達の事は気にせず、力いっぱい戦ってください!」

「せっかく、せっかく後輩ができたって喜んでたのに!
 これじゃ今までと変わらないじゃない!」

 嗚咽まじりに叫ぶマミさん。

「ああっ! マミさんのソウルジェムが!」

 まどかが叫ぶ。

「どんどん濁ってく!?」

 こんなんで絶望するな!

「くっ…」

 ほむらが噛み締めた口から声にならない声を吐き出す。



 そして、気がつくとマミさんはほむらによって気絶させられていた。










あとがき

 まどマギカフェでシャルロッテが見たい。
 まだ2~3時間待ちなのだろうか?



[27550] 第11話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/05/29 22:17
第11話



/ 1 side 美樹さやか


「危なかったー! まさか、転校生にフラれたマミさんがあたしにタゲ移すなんて……」

 ほっと胸を撫で下ろすあたしに、まどかとほむらが同情の視線を向ける。

「美樹さやか、さっきあなたはキュゥべえと契約しても、魔法を使わなければソウルジェムは濁らないと思っていたようだけど、実際は肉体の維持と操作で微量ながら魔力を消費するから必ず魔女と戦う羽目になる」

 気絶したマミさんを見下ろし、ほむらは続ける。

「そして、例えベテランの魔法少女であっても、私たちにとっては、なんでもないやり取りで急激にソウルジェムが濁る事もある。
 美樹さやか、あなた治癒魔法に喰いついていたわね」

「上条くんの事だね」
 まどかは、ほむらが何を言いたいのか分かったのだろう、ほむらに温かな視線を向け、腕に抱きつく。

「もし、その人の完治を願って契約したとしても、その人に美樹さやかが代償を払った事は知らないし、その人とあなたの関係が上手くいくかも分からない」

 あたしはマミさんから視線を外し、ほむらの目をしっかりと見る。

 ここまで言われれば、いくらあたしでも分かる。

「ありがとう、心配してくれて」

 ちょっと不器用だけど、巻き込まれたあたしとまどかを心配して、しっかりフォローしてくれるほむらに無性に抱きつきたくなった。

「ほ~むら~!」

 冗談っぽく名を呼びながら両手を広げてほむらに近づく。

「ッ!」

 途端、表情を引き締めたほむらが発砲。

 まどかは発砲の瞬間、体を大きく震わせて驚くが、すぐに邪魔にならないように離れる。

 昨日も思ったけど、ほむらの戦う姿はすごく様になってる。

 通路の奥から近づいていた使い魔を次々と撃ちぬくほむらを間近で見ながら、あたしは抱きつこうと手を広げたままのポーズで固まる。

 どうしよう、なんかすごい恥ずかしい。

 使い魔を片付けた後、改めて抱きつくのも変だよね?

 というか、改造バットを持ったまま手を広げて迫るあたしって、客観的に見たらどうなんだ?

 なんて考えていると、服の中に熱い何かが飛び込んできた。
 改造バットで使い魔と戦った後、戦闘(というか、バットを振り回していただけなんだけど)後の体温の上がった体を冷ます為に、風を送り込もうと緩めていた襟が仇になった。

「あっつ~~~~~っ!?」

「さやかちゃん!? ほむらちゃん、さやかちゃんが!」

 ぴょんぴょん飛び跳ねるあたしに駆け寄るまどか。

「まったく、不用意に近づくからよ」

 ほむらは無造作にあたしの襟元から手を突っ込む。

「ひっ、ひゃぁあああっ、ほむら、どこ触ってんだ!」

「静かにしなさい」

 微かに頬を朱に染め、ほむらはあたしの胸をまさぐる。

「んー?」
 ほむらは一旦小銃を収納すると、あたしの上着の裾に手を入れてブラウスの裾をスカートから出すと、上と下から手を入れて何かを探し始める。

 まどかは複雑な表情を浮かべてあたし達を見ている。

「まったく、魔女の結界内で発情するなんて、人間は年中発情するとはいえ、わけがわからないよ」

 あたしはキュゥべえが何を言ってるのか分からないぞ。

 というか、もうとっくに熱くなくなってるんだが、ほむらはいつまであたしの胸を揉んでるんだ?



「あのー、もうとっくに出てきてるんだけど。ほむらちゃん、いつまでさやかちゃんを触ってるのかな?」

 まどかが指差す先には薬莢が転がっていた。

 まどかの指摘に、あたしとほむらは無言で見つめ合う。

「いつまで胸触ってんのよ!」

「ごめんなさい」

 ほむらが服から手を引き抜くと同時に、互いにそっぽ向く。

 頬が熱い。

「あーあ、火傷して痕が残ったたらどうしよう」

「そうね……、正妻の座は譲れないけど、妾でよければ空いてるわよ?」

「え、それって私が責任取るって事?」

 くすりと笑い、ほむらと笑みを交わす。

「まさか初めてあたしの胸を揉んだのがほむらだとはなー。あたしの初めてを奪ったんだから、ちゃんと責任とれよ~」

 ほむらに抱きつく。

「私だって、まだまどかとそ~いう事をしてないにも関わらず、不可抗力とはいえ美樹さやかの胸を揉むことになるなんて思ってもみなかったわ」

「責任ねー。さやかちゃんに数えきれないくらいセクハラされてるんだけど、さやかちゃんはどう責任とってくれるのかな?」

 身から出た錆とはいえ、有名なお店のスイーツ1週間分の献上を約束させられてしまった。











/ 2 side 暁美ほむら


「そろそろ行きましょう」

「あー、マミさんどうしようか?」

 魔女のもとに向かうにあたり、巴マミをどうするかが問題になった。

「さすがに、ここに置いていく訳にもいかないよね」

「そうね、ここに放置したら使い魔に殺されるおそれがあるわね」

 3人で腕を組んで悩む。

「あ、ほむらが収納するのはどう?」

「さやかちゃん、いくらなんでもそれは……」

「生モノを収納した事がないから、ちゃんと保存されるのか分からないわ」

 実際、収納すると言っても、収納物の時間は停止しているのか、時間の流れが遅くなるのか、早くなるのか、現実と同じような流れなのか、全く分からない。

「もし、収納空間内は時間の流れが早かったりしたら、取り出した巴マミが魔女になっていた、なんて事も考えられるわ」

「よし、ここに置いていこう!」

 美樹さやかがバットを掲げて言う。

 わざわざ何か言うたびにバットを振り回さなくても良いのではないか。

「それなら、僕が見張ってるから、君たちは魔女を!」

 キュゥべえが涎を垂らしながら言う。

「キュゥべえ、マミさんが気を失ってる間に変な事するつもりじゃないでしょうね?」

「なんの話だい?」

「だって、マミさんといつも口では言えない事をしてるんでしょ?」

 美樹さやかは何を想像しているのだろう?

「キュゥべえ、巴マミを食べるつもりじゃないわよね?」

「食べる!?」

「ちょ、ほむら! あたしに表現を注意しておきながらナニ言って……」

 動揺するまどかと美樹さやかを尻目に、キュゥべえを撃ちぬく。

 あー、やっとキュゥべえを殺せた!

 そろそろ禁断症状が出るのではないかと思えるくらい、キュゥべえを殺したい衝動でうずうずしていたので、ちょうどいい口実だった。

「ひっ」

 まどかがキュゥべえの死体を見て後ずさる。

「え!?」

 驚く二人の足元で、新しいキュゥべえが古いキュゥべえの死体を咀嚼する。

「暁美ほむら、突然何をするんだい?」

「嘘……」

「自分の死体を食べてる?」

「無意味に潰されるのは困るんだよね。勿体無いじゃないか」

 記憶を共有した同一の個体が無数にいるのだから、1匹くらいいいじゃない。

 あまりな光景に呆然とする二人。

「結界に入る前にあれだけ食べておいて、さらに自分と同じ質量を食べる。
 二人きりにしたら、巴マミも食べたりしないでしょうね?」

「涎たらしてたもんね」

「食べるってそっちかー」

 まどかとさやかが納得したようなので、キュゥべえを殺した事について、何か言われる心配はない。

「それで、マミはどうするんだい?」











/ 3 side 美樹さやか


「あはは、なんだか犯罪みたいだね」

 まどかが言うのも当然。

 あたしはマミさんの両足を抱え、引き摺りながら運んでいるのだ。

 どうしてこなったのかというと、ほむらが収納すると魔女化する恐れがあり、キュゥべえに任せるとマミさんが食べられる心配があった。

『まどかに箸より重いモノを持たせるなんてとんでもない!』と語るほむらにより、あたしがマミさんを運ぶ事になった。

 マミさんは中学生には見えないスタイルの持ち主なので、当然あたしが背負う事もできない。

 それで、まるで死体を運ぶように見えるあたしという犯罪チックな光景ができたってわけ。

 ちなみに、箸より重い改造バットはまどかが持っている。



「がんばって、もうすぐ結界の最深部だ」

 キュゥべえの言葉と同時に、目の前に扉が現れる。

 扉の先の空間にはグロテスクなバケモノが鎮座していた。

「これが魔女よ」

 ほむらは顔色ひとつ買えずに言う。

「グロい……」

「こんなのと、戦うの?」
 まどかの声には怯えの色が滲む。

 ほむらは無言で何か取り出し、ボタンを押して魔女に投擲した。

 魔女は大爆発を起こしたけど、ほむらが守っているのか、爆風を感じる事は無かった。

「え? 終わり?」

 爆発が収まった後、空間に魔女の姿はなく、あたし達は魔女の結界からもとのビルに戻っていた。

「どこが魔法少女なんだよ!」

 すごく納得いかないあたしの声がビルに反響した。










あとがき

 昨日、雨天なら客も少ないだろうと思って、まどか☆マギカカフェに行こうという話になった。

「公式ツイッターで雨なのに100人並んでて3時間待ちだって」

「平日、有給取って行くか?」

「そうだな」

 7月18日までの期間限定営業だから、土日に行くのは厳しそうな罠。



[27550] 第12話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/06/08 21:32
第12話



/ 1 side 鹿目まどか


「ですから、年甲斐なくミッ●ーを見てはしゃぐ女性に低いテンションで相手をしてはいけません!
 女の子はいくつになってもディ●ニーが大好きなのです!」

 目玉焼きの焼き加減が原因で別れた相手の人への怒りが収まらないのか、授業そっちのけで男子に女の子とのデートでやってはいけない事という、別れた相手のダメだしを熱弁する早乙女先生。

 恒例行事と化しているとはいえ、クラスのみんなは聞くだけでぐったりしている。

「見滝原町は日帰りでディ●ニーランドに行くには遠すぎます!
 わざわざディ●ニーリゾートに宿泊して行ったにも関わらず、たかがアトラクションの2、3時間待ち程度で話題を切らせたり、疲れたから帰りたいなんて言うのは論外です!」

「先生!」

 ほむらちゃんが席を立って挙手する。

「まどか、ほむらのヤツ、薬を飲むとか言って保健室に逃げるつもりだ」

 今日はキュゥべえが居ないから、テレパシーではなく、身を乗り出して小声で囁くさやかちゃん。

「私たちも付き添いって事で逃げるんだね」

 さやかちゃんと頷き合う。

 クラスのみんなもお互いに顔を合わせて相談してる。きっとみんなも体調不良を訴えて逃げるつもりなんだ。

 自分たちの今後を左右する、第一の逃亡者に注視するクラスのみんな。



「禁断症状がでそうなのでまどか分を摂取してもよろしいでしょうか」



 一瞬、教室は静寂に包まれた。

「「「「「「「「なんだそりゃ―――!」」」」」」」」



 予想外の変な発言をするほむらちゃん。

 一体、どんな顔で言ってるんだろ?

 いつもの澄ました顔のまま?

 それとも、悪戯っぽい笑みを浮かべて?

「仕様がないわね、禁断症状が出そうなら我慢してとも言えないし、今回は許可しますが、次からは休み時間中に充電しておくこと!」

「「「「「「「「許可すんのかよ!」」」」」」」」

「はい。ありがとうございます」

 髪を掻き上げながら振り返って、私の席へと歩くほむらちゃんの顔は、とても残念な事になっていた。






「ああ、まどか……」

 どうしてこうなったんだろ?

「昨日は私がまどかの抱き枕状態だったから、交代……」

 私は、そう語るほむらちゃんに抱きしめられて、ほお擦りされている。

 正確には、私の席に座ったほむらちゃんの上に座らせられたうえで、抱きしめられている。

 しかも、ほむらちゃんは私の肩に顎を乗せてほお擦りしながら、ぎゅっと抱きしめながらボディタッチしてくる。

 今も早乙女先生が熱弁を奮っているにも関わらず、クラスのみんなは私たちを好奇の目で見てるよ……。


「鹿目ハーレムは実在する!」

「「「「な、なんだって―――!」」」」

「志筑さんと美樹さんを見ろよ、鹿目さんをぽっと出の暁美さんに奪われて二人ともハンカチを噛み締めて『キーッ』って…」

「捏造するな! そんな事してない!」

 ある事無い事言い出す男子に、さやかちゃんがぶち切れ、4限目終了のチャイムが鳴っても早乙女先生は熱弁を止めず、カオスな光景が繰り広げられた。











/ 2 side 美樹さやか


「美樹さん! 暁美さん! 鹿目さん! 一緒にお弁当を食べましょう!」

 うわあぁ……。

 ただでさえややこしい時にさらにややこしい人が……。

 というか、なんで私を最初に呼ぶんだよ!

「あら、もうお昼休憩なのね」

 早乙女先生は、マミさんの乱入でやっと4限目が終わっている事に気がついた。

「今日の授業内容はテストに出ますので、ちゃんと復習するように!」

「授業してないだろ!」
 思わず声が出てしまう。

 ハッ!?

 なんかあたし、ここ数日ツッコミばっかじゃないか?

 礼もしてないけど、早乙女先生は教壇の周りに散乱したテキストやら、チョークやら、折れた指し棒を片付け始める。

 熱くなったからって、散らかしすぎだよ……。



 そんな事を考えていると、マミさんがあたしの机に風呂敷に包まれた大きな荷物を置く。
 形から推測すると、重箱っぽい。

「美樹さん、貴女の為に腕に縒りをかけてお弁当を作ったの!」

 とてもイイ笑顔を浮かべて言うマミさん。

 って言うか、近い近い!

 思わず仰け反ってしまう。

 にも関わらず、マミさんはどんどん顔を近づけてくる。

「うわー! なんで顔を近づけるんだよ!」

 思わずマミさんの顔を押しのける。
 うわっ、手のひらに生暖かい感触が……。

「手のひら舐めるな!」

「えー? 私と美樹さんの仲じゃない」

 悪びれる事なく、小さく舌を出して言うマミさん。

「誤解されるような事を言うな!」



「どんな仲なんだ!?」

「先生! 妄想が止まりません!」

 早乙女先生も笑顔でサムズアップするな!

「なんという事だ……。学園最胸の戦闘力を持つ巴先輩が美樹のモノになってただなんて!?」

「絶望した―――!」

 あー、もう! 男子も変な妄想を膨らませて誤解されるような事を言うな!

 なんかもう、血管キレそう。



「昨日、私にあんなに非道い事をして傷物にしたあげく、放置プレイまでしたんだし、責任取ってくれるのよね?」

「「「「「「「「「「キズモノだと―――!?」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「うお―――!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「きゃ―――!」」」」」」」」」」

 外野は喜ぶな!

「私が気を失ったのに、あんな事をして、そのまま放置だなんて……」

 巴先輩を泣かせるなんて、と非難の声も聞こえてくるけど、泣きたいのはこっちだ!
 なんであたしがマミさんにタゲられるんだよ!?

「泣き真似するな! だいたい、外で拘束放置してたOLの回収があったんだから仕様がないでしょ!」


「OLを拘束して放置プレイ!?」

「何Pしてたんだ!?」


「美樹さんのせいで背中に痣が残ってるんだけど……」

 魔法で治せ!

「それを言うなら、あたしだってほむらのせいで軽く火傷して痕が残ってるんだぞ!」

 言ってから、しまったと思った。


「暁美さんのせいで火傷?」

「SMプレイキタ―――ッ!」

「さっきから拘束とか、放置とか、ワクキタが止まらない!」

 おーい、男子ー、妄想やめろー……。


「暁美さん、私の美樹さんを取る気?」

 マミさんがほむらを睨むけど、ほむらは何処吹く風でまどかをハグし続ける。

「巴マミ、私はまどかのモノだもの。美樹さやかなんかに手を出すはずがないわ」

「なんかって言うな!
 だいたい、ほむらはいつまでまどかを抱きしめてるんだよ!」

「あはは、ごめんねさやかちゃん。昨日は私がほむらちゃんを抱き枕にしてたから……」

 まどかの後をほむらが啄ける。

「今度は私がまどか分を補給する番」

「抱き枕にされて充電してたんじゃないのかよ!」

 二人とも頬を赤らめるな!
 なんだよ、その幸せオーラは!

「美樹さん、私たちも負けてられないわね」

 誰かマミさんを止めて……。

「3人とも、今日もするでしょ?」



「何をスル気なんだ!?」

「何って、そりゃナニだろ?」

 外野は黙れ!

 魔女狩りとかみんなの前で言えないからって、誤解されるような事を言うな!

「たくさん作ってきたから、暁美さんと鹿目さんの分もあるわよ」

「さ、行きましょう」

「うん」

 まどかとほむらは腕を組んで教室を出て行く。

 開き直ってイチャつく二人と違って、あたしは完全に誤解なのにー!

 あたしの学生生活はどうなるんだよー!



「さ、私たちも行きましょう」

 マミさんが無理矢理あたしの腕を引き上げる。

「まさか、さやかさんがレズビアンなうえ、特殊性癖の持ち主だったなんて……。
 これなら上条さんに告白しても抜け駆けにはなりませんわね……」

 あたしが席を立つと、後ろの席に座ったままの仁美が聞き捨てならないことを呟いていた。










あとがき

 figmaまどか予約完了。


p.s.

 芳香剤タイプの虫除けを設置したら、網戸に蛾がはりつくようになったでござる。

 こんなの絶対におかしいよ!



[27550] 第12話あふたー1 まどかとお風呂 
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/06/20 00:35
第12話あふたー1 まどかとお風呂 



/ 1 side 鹿目まどか



「♪~」

 鼻歌交じりのパパと無言のほむらちゃんが並んで食器を洗ってる。

 会話が弾んだ夕食の余韻を楽しんでいるのか、パパもほむらちゃんの背中からは幸せそうな雰囲気を感じる。

 パパは専業主夫だから、ママが台所に立って夫婦で料理をするような場面は見たことないけど、おそろいのエプロンを身に着けるパパとほむらちゃんがまるで新婚さんみたいに見えて、思わずパパに嫉妬しちゃう。





 ママはまだ帰ってなかったけど、パパとタツヤとほむらちゃんとわたし、4人でとった食事は楽しかった。

 パパがタツヤに今日は幼稚園でお友達とどんな事をして遊んだのか聞いて、タツヤが舌足らずな口調で一生懸命答える姿に、わたし達3人の頬が緩む。
 ほむらちゃんがタツヤに相槌を打ったり、頭を撫でて会話するのを見て、ほむらちゃんはパパだけでなく、タツヤとも仲良くできそうだって思えて嬉しくなった。

 なのに、タツヤを可愛がるほむらちゃんの姿に胸の奥がチクリと痛んだ。





 仲良く食器を洗うパパとほむらちゃんを見て気付く。

 ああ―――。

 わたし、たった2日でほむらちゃんを好きになっちゃったんだ……。



 思い返せば、ホームルームで突然告白された時は、まだわたしにも一般常識があったんだと思う。
 あの時はクラスのみんなが大騒ぎするから、返事は有耶無耶になっちゃったけど、女の子同士なんてありえないって思ってた。
 やたらと『禁断の恋』と言って盛り上げる仁美ちゃんには参ったけど……。

 休み時間に返事を求められて、友達からって返事しちゃったのを後悔してる。



 放課後にお茶した時も、毎日わたしにセクハラするさやかちゃんを羨ましがるほど自分に正直で。

 助けを呼ぶキュゥべえを気のせいだって止めてくれようとして、わたしが魔法少女に関わらないように守ろうとしてくれた。

 迷い込んだ結界では、ちゃんとわたしとさやかちゃんを守ってくれた。
「守ってくれてありがとう」って言うと、とても素敵な笑顔を浮かべて喜ぶほむらちゃんに見惚れちゃった。
 それまでのクールな印象が大きかっただけに、ギャップで胸を打ち抜かれたような衝撃を受けた。

 もしかしたら、この時、ほむらちゃんを受け入れてたのかも……。



 魔法少女の真実を教えてくれた時は、有史以来犠牲になった人たちを想って涙を流す事しかできなかった。
 そんなわたしを優しく抱きしめてくれたほむらちゃんは、とても温かくて安心できた。

 心臓の病気があったとはいえ、本当の事を知ったうえで、契約したほむらちゃんは強いと思った。
 そして、子供が病気で大変な思いをしてるのに、家に居ないほむらちゃんの両親に苛立ちを覚えた。
 何の取り柄もないわたしだけど、ほむらちゃんの支えになりたいと思った。



 翌朝、ママからママと早乙女先生がいわゆる、仁美ちゃんの言う禁断の愛ってヤツだって知らされて少し心が軽くなった。
 ほむらちゃんが気になり始めてるのはそんなにおかしい事じゃないんだって……。

 そう思うと、体験ツアーの打ち合わせをしてる時にはもう、自然とほむらちゃんを受け入れてた。
 昨日感じた温もりを求めて、手を重ねたり、頬擦りしたりのもイヤじゃなかったし、ほむらちゃんが止めようとすると、わたしから求めて続けてた。



 魔女との戦いを前に、わたしの胸に顔をうずめて恐怖を紛らわすほむらちゃんはすっごい可愛かった。
 思わずぎゅって力いっぱい抱きしめちゃった。

 薬莢がさやかちゃんの服の中に飛び込んだ騒動じゃ、さやかちゃんを助けるためとはいえ、さやかちゃんに触るほむらちゃんに軽い怒りを覚えた。

『まさか初めてあたしの胸を揉んだのがほむらだとはなー。あたしの初めてを奪ったんだから、ちゃんと責任とれよ~』
 そう言ってほむらちゃんに抱きつくさやかちゃんには、冗談だと分かっても強い怒りを覚えた。



 たった2日で、普通じゃ体験できない事がいっぱいあった。
 映画とかマンガでよくある、出会ってすぐ恋に落ちる展開とか、現実じゃあるわけないって思ってたけど、わたし自身体験して、それがありえる事なんだって分かった。



 帰宅後の日常のひとコマで、パパと弟に嫉妬するという予想外の出来事で、改めて実感する。
 この2日間を思い返せば、既にほむらちゃんを受け入れてる自分に気付く。

 どうして「友達から」なんて言っちゃったんだろ……。

 今からでも遅くないよね……。

 今度はわたしからアタックしてみよう。



 洗い物を終えたほむらちゃんとパパがエプロンを外し、テーブルにやってくる。
 手にはマグカップ。この香りは、パパお得意のココアだ。
 市販品のココアに一手間加えるだけで味と香りが大きく変わる専業主夫の知恵ってやつらしい。

「ほむらちゃん、お疲れ様」
 にっこりと笑顔を浮かべて労う。

 一瞬で耳まで真っ赤になるほむらちゃん。

「ね、これ飲んだら一緒にお風呂入ろ!」











/ 2 side 鹿目まどか



 ぽぽぽーんと脱いだわたしは、ほむらちゃんをじっと見つめている。

「まどかの家って、どんな部屋も大きな空間を確保してるわね」
 ほむらちゃんは恥ずかしいのか、わたしから視線を外して言う。

 でもね、鏡越しにわたしの肢体を見てるのがバレバレだよ。





 なんだか、マミさんくらいのスタイルなら肢体って言ってもいいかもしれないけど、わたしの大きさじゃ肢体(笑)とか言われそうな気がしてきた。

「どうしたの?」

 ほむらちゃんは、突然重い雰囲気を纏ってしまったわたしを心配してくれる。

「ううん、なんでもない」
 自分の発育の悪さに軽く絶望してたなんて言えないよ……。

「家の話だったね。ママから聞いたんだけどね、タツヤが生まれたのを機にリフォームする事にしたら、話を聞きつけた社長さんが有名な建築士を紹介してくれてね」

「へー」
 胸の前で拳を軽く握って、目を輝かせるほむらちゃん。

「紹介されたのは、今もやってるリフォームをテーマにした長寿番組に出てた建築士さんでね、ある程度の希望を伝えて任せてみたら、こんな事になっちゃったんだって……」

「こんな事になっちゃった?」
 聞いちゃまずかったんのかなって冷や汗を垂らすほむらちゃん。
 ほむらちゃんもこんな顔するんだ……。

「一家で団欒するための広いダイニングキッチンでしょ」
 思い出しながら指折り数えていく。

「朝の日差しを浴びながら、家族そろってゆったりと身支度できる洗面所でしょ。昼間は照明を使わなくてもたっぷり明かりの入るエコな作りでしょ。梯子を使わずに昇り降りできるロフトでしょ。ベランダ菜園じゃ物足りなくなったパパが注文した家庭菜園でしょ……」

「あー……」

「最初の3つを実現するために、1階はダイニングキッチンと洗面所が仕切りなしで一緒にされて、全面ガラス張りになっちゃったんだ。オフィスビルじゃないんだから、一般家屋でガラス張りとか、ひどいよね……」

「ごめんね、どんな言葉をかければいいのか……」
 そう言って、ほむらちゃんは私を抱きしめた。




「そんな事より、早く入ろうよ!」

 わたしの言葉に、もじもじと恥ずかしそうにして、脱ぐのを躊躇っていたほむらちゃんがボタンを外していく。

 勿体振るように、ゆっくりと脱いでいく姿はとても魅力的で、すごくドキドキする。

 衣擦れの音も、わたしの鼓動を高鳴らせる。

 いつも体育の授業の前後に更衣室でクラスのみんなと着替えてるけど、こんな風に緊張する事なんてないのに、ほむらちゃん相手に意識してる事で、改めてわたしがほむらちゃんを恋の対象として意識してるって実感させられる。

 スカートを脱いだほむらちゃんは、皺にならないよう、ハンガーに掛けると、ブラウスのボタンを外してゆく。
 まだ恥ずかしいのか、本当にゆっくりで、先に全裸になってしまったわたしとしては、待ちくたびれてしまった。

「もうっ! ほむらちゃんばっかりわたしの裸を見てズルイ! そんなに脱ぐのに手間取るならわたしが脱がせてあげるね♪」

「ま、まどか?」

 手をわきわきさせて躙り寄ると、ほむらちゃんは一歩づつ後ずさる。

「その手が怖いんだけど……」
 とうと壁際に追い詰められて、脱ぎかけのブラウスの胸元を手で隠すほむらちゃん。

「ほむらちゃんはどれだけわたしを待たせれば気が済むのかなー?
 あんなにスキンシップ大好きなほむらちゃんがこんなに恥ずかしがるなんて意外だよ」





 そんな―――。

「こんなのってないよ!」

「ほむらちゃんもわたしと同じような体型だと思ってたのに、着痩せするタイプでさやかちゃんと同じくらい胸があるなんて!」

「えっと、あの……」
 ほむらちゃんは困惑しながらも、意を決してブラを外す。

 ぷいっとそっぽ向いたわたしは、ほむらちゃんの一言で期限を直してしまうのでした。

「まどか、早く入ろ」

「うん!」

 そして、分かってしまう。

 どうしてほむらちゃんが裸になるのに躊躇したのかを……。

「その傷痕って……」

「魔法で消す事もできるけど、さすがに短期間で手術痕が消えてると怪しまれるから」

「無理に一緒に入ろうなんて言っちゃってごめんね」

「ううん、いいの。私もまどかと一緒にお風呂に入りたかったから」
 その一言で、わたしは嬉しくて舞い上がってしまうのでした。












 続きはXXX板で!










あとがき

 まどマギカフェ4時間待ちだと!?

 本当にいつ行けば良いのだろう……。



[27550] 第13話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/06/08 21:44
第13話



/ 1 side 美樹さやか


「ねぇ、まどか……」

 街灯の下で、まどかと抱き合うほむらが囁く。

 別に盗み聞きしようというわけじゃないけど、どうしても耳に入る。

「どうしたの?」

「今日も帰ったら洗いっこしよ?」

 思わず力が抜ける。

 こんな時に何を言ってるんだ!

 って言うか、そんな関係に進展してたのかよ!

 思わずガン見すると、まどかとほむらは抱き合ったまま、キスしてるんじゃないかって思えるくらい顔を近づけて、お互いに赤面して見つめ合っている。

「ふふ、いいよ。今日もほむらちゃんをすみずみまで洗ってあげるね」

 まどか……、本当に遠いところに行っちゃったんだね……。



 出逢った初日に告白されて、お友達からって断ったはずなのに、2日目にしてすでに人の目を気にする事なく、イチャついていた。

 そんなまどかに訊くと、こんな答えが帰ってきた。

『なんかこう、まるでずっと一緒にいたような錯覚すら覚えるくらい、一緒にいるのが自然な気がするんだ。
 ほむらちゃんってすごいんだよ。逢ったばかりなのに、わたしのことなんでも知ってるし、気がつくと両親にも気に入られてるし』

『ほむらちゃんのわたしへの気持ちは本当に真剣なんだって、伝わってくるし……』

『それに、ほむらちゃんの家族って、ああでしょ?
 ほむらちゃんには私しかいないんだって……。
 ずっと、誰かの役に立ちたいって思ってたわたしが、ほむらちゃんの支えになれるのも嬉しいし、甘えてくるほむらちゃんはとっても可愛いし……。そうそう、普段のクールなほむらちゃんとのギャップがまた可愛いんだ~♪』

『それにねほむらちゃんって、とても温かいの。こう、ぎゅ~っとすると、とっても幸せな気分になるんだ(以下略)』

 うん、あんなに長々とのろけ話を聞かされるなら、訊くんじゃなかったって後悔した。

 でもまあ、まどかに抱きしめられたまま、まどかが自分をどう思ってるか聞かされて真っ赤になったほむらは、あたしが思わずドキドキするほど可愛かった。あれが見れたのは良かった。今度、からかってやる!



 深く吐息し、結界の中で二人の世界に浸るバカップルに声を掛ける。

「おーい、帰ってこーい!」

 しかし、あたしの言葉は届かないようだ。

 バカップルの足元で溜息を吐くキュゥべえだけが、この場での理解者ってのが納得いかない!

「後は若い二人に任せて、早く帰ってお風呂に入りましょ」

「うん、そうだね」

「おい! バカップル! 本当に帰ろうとするな!」

「「えー?」」

 ハモるな!

 なんで、ほむらは戦わないでまどかとイチャつくんだ!

「美樹さやか、上から来るわ。気をつけなさい」

「うわっ!?」

 あたし目がけて急降下する、頭が棘々で覆われた猫を彷彿させる黒い影のような使い魔に向けて、マミさんに改造されてしまったバットを降り上げる。

 ガキーン、という音とともに、シールドが現れる。

 使い魔がシールドに体当たりを繰り返すたびに、その衝撃で膝から崩れ落ちそうになる。

「こーのぉ―――っ!」

 あたしは気合を入れて耐える事しかできない。

「ほむ」

 ほむら、早く! と叫ぼうとしたあたしの声を遮って、まどかが叫ぶ。

「マミさん、今だよ!」

「オッケー、任せて!」

 バカップルの横にある街灯の上に降り立ったマミさんがリボンを巨大な大砲に変えて、発射!

 使い魔はマミさんの特大の一撃で退治された。

「ティロ・フィナーレ!」

 あ……、今のって、もしかして技名を叫ぶタイミングずれたのかな?

 それとも元々技の名前を叫ばなくても攻撃できるのに、カッコつける為にやったの?











/ 2 side 美樹さやか


「やった! マミさんカッコイイ!」
 どことなく棒読みでまどかが声を上げる。

「もう、見せ物じゃないのよ」

 まんざらでもない様子で、ニヤケながら変身を解くマミさん。

 あ~、わざわざ回転しながら街灯から飛び降りてみせるとか、絶対にカッコつけてるよ……。

「危ない事をしてるって意識は忘れないで欲しいわ」

「マミさんが言うな!
 ならなんで、一般人のあたしを戦わせるんだよ!」

「えーっと…」

 目を逸らして口ごもるマミさん。

「だいたい、ほむらも魔法少女だろ! まどかとイチャついてないで戦えよ!
 キュゥべえもほむらの願いを叶えたんだろ! ほむらを戦わせろよ!」

 キュゥべえは無言でマミさんを見上げる。

「巴マミから頼まれたのよ」

 え?

「美樹さやかに良いところを見せたいから、魔女が出てきたり、ピンチにならない限り手を出さないで欲しいって」

「暁美さん! どうしてバラしちゃうの!?」

 おーい……。

 吊り橋効果でも狙ったのか?

「どうしてそんな事を?」

 本当に、なんであたしがマミさんにタゲられてるんだろ?

 マミさんは頬い手を添えて、もじもじと恥ずかしそうに語り出す。

「美樹さんって、私の理想の男性にぴったりなの。
 常に私を引っ張ってくれそうだし、頼り甲斐あるし…」

「あたし、女なんですけど……」

「暁美さんと鹿目さんを見てると、女の子同士でも幸せになれるんだって思えてこない?」

 ダメだ、こいつら早くなんとかしないと……。

 ノーマルな、あたしが間違ってるんじゃないかって思えてくるから困る。











あとがき

 しばらく、さやかが中心になります。


p.s.

 芳香剤タイプの虫除けを止めて、マジックテープで網戸に貼れる虫除けにしたら、夜に照明をつけて窓を開けてても虫がこなくなったよ!

 これで熱帯夜になるまで、エアコンや扇風機を使わずに済みそうです。



[27550] 第14話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/06/15 00:21
第14話



/ 1 side 志筑仁美



「美樹さん、お昼一緒に食べましょう」

 今日も、上級生がさやかさんを誘っています。

 昨日のクラスの皆さんの反応を見ると、有名な方のようですけど、なんという名前でしたっけ?

 それにしても、今日も重箱でお弁当を作ってくるなんて、お二人ともかなりの量を食べるんですね。


「今日はさやかちゃんをご指名だね」

「そうね。気を利かせて二人きりにしてあげましょう」

 まどかさんとほむらさんは、授業が終わると同時に、周りの目を気にせずにハグし続けています。

「もう、そなん事言ってー。本当はほむらちゃんがわたしと二人っきりになりたいだけなんでしょ?」

「否定はしないわ」

 アツアツで見てられません。

 私も上条さんとお付き合いする事になったら、人目を気にせずにこのような事をするようになるのでしょうか?



「えーい! まどかとほむらはTPOをわきまえろ!」

 さやかはさんは照れくさいのか、ラブラブなお二人に注意して上級生を無視しています。


「あらあら、さやかさんは今日も愛妻弁当ですか? 羨ましいですわ」

 いつもの調子でさやかさんを冷やかします。

「妻……。そんな、本当の事を……」
 上級生は両手で顔を覆って恥ずかしがっています。

 イヤイヤと、恥ずかしがって顔をふっているのですが、パーティーでも見た事のない見事な縦ロールに見惚れてしまいます。

 このような古いマンガのお嬢様キャラを体現する髪型が似合うなんて、すごいです。

「誰が妻だ!」

「もう私の入り込む余地はないんですのね」

「だから違うって!」

 よよよ、と泣き崩れるマネをしてさやかさんをからかいます。

「私と美樹さんの間に入り込むですって?」

 ですが、上級生の重圧で押しつぶされそうです。

「あなた、私から美樹さんを奪おうと言うの?」

 ひどく平坦で、重く冷たい声で上級生に睨まれて体の震えが止まりません。

 なんという事でしょう。政界や財界で活躍する方よりも、さやかさんの恋人の方が眼力やオーラが強いなんて!

 これが、恋する乙女は最強というものなのでしょうか?

「ふ、二人ともお幸せにー!」

 私はこの場から逃げる事しかできませんでした。

 でも、私の心は晴れやかです。

 これなら、もしさやかさんが上条さんに告白したとしても、上級生を前にしたら、上条さんも裸足で逃げ出すでしょう。











/ 2 side 美樹さやか



 マミさんと二人きりなるのがちょっと怖かったので、バカップルにもついてきてもらったんだけど、あたし達を無視してイチャラブフィールドを形成して食べさせっ子してて意味ないじゃないか!

 キュゥべえはマミさんに与えられた重箱2段を食べるのに忙しくてあたしを助ける気なさそうだ。

 身体強化されてるマミさんに襲われたら、か弱い美少女のさやかちゃんじゃ逃げられない。

『美樹さやか、もし貞操の危機を覚えたら、心から願うんだ! その願いがエントロピーを凌駕すればさやかは助かるよ!
 だから、僕と契約して魔法少女になってよ!』

 もしかして、キュゥべえがマミさんをけしかけてるんじゃないだろうか。






「はい、美樹さん」

 マミさんがあたしの口元に伊達巻を運ぶ。

「あはは、正月でもないのに、どこで買ったんですか?」

 伊達巻なんてスーパーじゃ年末年始にしか見ないぞ。

「これね、私の手作りなの」
 笑みを浮かべるマミさん。

「えええ? 本当ですか?」

「ええ。はい、アーン」

 まさかの手作り!

 伊達巻って買うものだとばかり思ってたから、つい好奇心でマミさんにアーンして食べさせてもらっちゃったよ!

 何してんだ、あたし……。

「あ、おいしい…」

 看病してもらうなら抵抗も薄いんだろうけど、まどかとほむらが目の前でやってるのと同じことを、あたしもマミさんとしちゃってるっていうのに軽く自己嫌悪。

 あたしはノーマルなのに、どんどん染まってる気がする。

 眼を閉じて考え事をしていると、前髪を掻き上げられ、おでこに熱を感じた。

 咄嗟に目を開けると、目の前にはマミさんの顔が!

「な、なななな、何してんですか―――っ!?」

「良かった。あまり食べたがらないから、体調でも悪いのかと思ったけど、熱があるわけでもないのね……」

 そう語るマミさんは、おでこをくっつけたままなので、瞬きするたびに互いの睫毛が触れ、唇は今にも触れそう。

 慌てて突き飛ばそうとするも、マミさんが本気で心配してくれてるのが分かるから、それもできず、ただこの状況にドキドキウするだけ。

 うわー、あたし、絶対に真っ赤になってるよ……。

「あー、えっと、その……」

 だめだ、言葉にならない。

「そ、その……、心配してくれてありがとう」

 あまりの恥ずかしさにそっぽ向こうとした瞬間、背中を押されてマミさんとあたしの唇が触れ―――





 お互い前歯をぶつけて痛みに悶える。




 ファーストキスは血の味でした。

 あたしはなんともなかったけど、マミさんはあたしの歯があたって上唇を切っていた。

 事故とはいえ、マミさんとキスしてしまい、恥ずかしくて顔が見れない。

「キス、しちゃった」
 呆然と呟くマミさんに視線を向けると、ってゆーか、結局すぐにマミさんの顔見ちゃってるじゃん!

 自分で自分が分からない。ついさっき恥ずかしくて顔も見れないって思ったそばから、自然と視線で追ってるよ。


 マミさんは唇の傷口に指をあてる。

 指に付着した血を舐め取ると、舌で唇の傷口を舐める。

「これが美樹さんとのキスの味……」という言葉がなんか怖い。



 あたしを押したのは誰か、確認しようと振り返る。

「まどか、突然何を!?」

 まどかは勢い良く頭を下げる。
「さやかちゃんゴメン!」

「謝るくらいならはじめからするな!」


「でも、さやかちゃんとマミさんを見てると、なんだかやきもきして、早く付き合っちゃえばいいのにって思ったの。
 だから、わたしも力になりたいなって思って……」

「鹿目さん……」

 おーい、マミさん、感動するとこじゃないぞー。

「力になりたいってなんだよ! あたしはノーマルだって言ってるじゃん!」

「そんなのもったいないよ! さやかちゃんも女の子同士で幸せになっちゃえばいいんだよ」

 まどかは胸の前で手を合わせてにこやかに言う。

 ああ、まどかはホンモノになっちゃったんだね……。











あとがき

 いよいよ明日はおりこ☆マギカ2巻の発売日ですね。
 公式サイトの試し読みだとマミがピンチだったけど、果たして生き残れるのだろうか。



[27550] 第15話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/06/15 00:20
第15話



/ 1 side 美樹さやか



 病室の前で深呼吸を繰り返す。

 今回のCDも喜んでくれるかな?

 いつも海外の中高年が演奏するCDばっかりだから、今回は高橋紀之っていう、海外のコンクールで入賞して、今は国内の若手中心のオーケストラで活躍してるヴァイオリニストのCDを選んだ。
 海外の有名なヴァイオリニストと違って、比較的歳も近いし、同じ日本人だし、いい気分転換になるといいな。


 それにしても、こんなに頻繁にお見舞いに来てるのに、毎回緊張しすぎだろ、あたし!

「よしっ」
 小声で気合を入れて、勢い良く病室の扉を開ける。

「恭介ー! 今日もさやかちゃんが来てあげたぞ~」

 ガチガチに緊張して、清水の舞台から飛び降りるほど勇気を出してるのに、どうして居ないんだよー!



 そよ風に揺れるカーテンを眺めていると、看護師さんに声を掛けられた。

「あら、上条君のお見舞い?」

「はい」

「ごめんなさいね。診察の予定が繰り上がって、今丁度リハビリ室なの」

 よーし、たまにはあたしが恭介のリハビリを応援してあげよう!

「そうでしたか、どうも」

 軽く会釈して病室の扉を閉める。リハビリテーション室に向かい歩き出すと、看護師さんの雑談が耳に入る。

「先輩、あの子、よく来てくれますね」

「助かるわ、難しい患者さんだしね……」

 あ~、芸術家は気難しいってやつ?
 恭介もなんだかんだで天才なんて言われるほどの演奏家だしなー。
 恭介が患者として、看護師さんにどう思われてるのかちょっと気になってきたぞ。あの看護師さんは声が大きいからよく聞こえるし、階段のところで盗み聞きしてみよう。

「励ましになってくれてるといいんですけどね」

 こんなに可憐な乙女のさやかちゃんがお見舞いに来てるのに、恭介のリハビリの励ましになってないはずがないじゃないか。

「事故に遭う前は、天才少年だったんでしょ? ヴァイオリンの……」

 病院でも噂になるくらいの天才だもんね。

 きっと、恭介の演奏を聞けば看護師さんもファンになるに違いない!

「歩けるようになったとしても、指のほうはね……」

 え?

「もう楽器を弾くなんて無理でしょうね……」

 嘘……、恭介の指が治らない!?

 冗談でしょ?

「先輩、上条君なら演奏できなくなっても新しい生き甲斐を胸に、第二の人生を謳歌してくれますよ!」

「そうなってくれるといいんだけどね……」

「上条君はもう新しい生き甲斐を見つけてますよ?」

 恭介って強いな……。

 恭介が新しい生き甲斐を見つけてるのに、あたしがこんなに落ち込んでたらダメだよね……。

「Mな上条君とSな彼女で、いつもソフトなプレイしてるじゃないですか~」

 え?

 恭介に彼女ってどういう事!?

 まさか、もう仁美が!?

 しかも、『いつも』って事は、相当前からなの?

 恭介のヤツ……、まさかあたしと仁美で二股かける気だったのか?

 こんなに頻繁にお見舞いに来るんだから、ただの幼馴染じゃなくて、好きだって察しろよ!

 もう彼女がいるならそう言えよ!

 あー、まさか告る前に失恋するなんて……。

「あの二人、まだ中学生なのにソフトSM!?」

 しかも、病室でプレイして周囲にバレてるって……。恭介と仁美にそれとなく注意した方がいいかな?

「ソフトって言っても、別に肉体的な意味じゃありませんよ。精神的なプレイをしてるから、ソフトなプレイって表現したんですよ」

 ああ、文字通りのソフトSMじゃなかったのか。良かった……。

「で、で? どんなプレイしてたの?」

「先輩も好きですね~。永島先生との夜の生活に変化をもたせてマンネリから脱却しようって魂胆ですか?
 まりあちゃんに見られないよう、気をつけてくださいね」

「余計なお世話よ!」

 マンネリか……、恭介と仁美が倦怠期になったら奪うってのは……。
 ダメだ。仁美が相手じゃ勝てる気がしない。

「ほら、上条君の個室、いっぱいCDがあるじゃないですか」

「うんうん、それで?」

「もう演奏できない彼氏に、敢えてCDをプレゼントして、個室に持ち込んだラックはCDでギッシリじゃないですか。これって、精神的に責めてると思いません?」

 あたしじゃん!

 あたしと恭介って、付き合ってるように見えるんだ?

 良かった。仁美と付き合ってるわけじゃなかったんだ……。

「なーんだ。どこがSMなのよ……」

 ホント、この看護師さんの勘違いで良かった……。

 ほっと胸を撫で下ろす。

「あー、先輩信じてませんね?」

「当たり前でしょ。どこに中学生でそんな特殊性癖に目覚める子がいるのよ」」

「上条君は絶対にMですって! だって、私が何度点滴や採血を失敗しても、恍惚の表情を浮かべて『僕で練習してください』なんて言うんですよ」

「朝倉! まだ点滴失敗してるの!? ナースになって何年経ってるのよ! もうすぐ高杉先生と独立するんだから、いい加減、ちゃんとできるようになりなさい! だいたい、この間も採血で何度も失敗して、薬物の常習者みたいな注射痕にしちゃってクレームきたでしょ!」

 この人どんだけ下手なの?

 ていうか、恭介、本当にMに目覚めてるの?

 なんか、あたしが恭介の指が治らない事を気にするのがバカらしくなるくらいショックなんだけど……。












/ 2 side 美樹さやか



 夕日が刺し込むリハビリテーション室では、恭介が一人で平行棒を使って歩行訓練をしていた。

 真剣な表情で訓練する姿からは、自分を傷めつけて悦ぶような性癖を持っているなんて思えない。

 本当に恭介がMなら、辛い訓練も気持よさそうな表情を浮かべてるはずだよね?



「やっほー! さやかちゃんが来てあげたよー!」
 リハビリテーション室に入り、元気よく声を掛ける。

 病室の前であんなに緊張してたのが嘘のよう。看護師さんの会話でいい意味で脱力できたからかな。

「やあ、来てくれたんだ」
 さわやかな笑みを浮かべ、手を上げる恭介。キラリと輝く汗が反則だ。

 こんなにリハビリをがんばる、いじらしい姿でそんなふうにされるとドキドキしちゃうじゃない……。

「うわぁっ!?」
 なんて思っていると、あたしに挨拶するために平行棒から片手を離した恭介がバランスを崩して転倒する。

「恭介!?」
 あたしは直ぐ様駆け寄り、恭介の上体を起こす。

「イタタ……」

「恭介、大丈夫? どこか打たなかった?」
 介抱していると、恭介の上着がはだけてしまっているのに気づく。

 この病院で貸与される入院着の上着は浴衣みたいというか、ローブに似た作りをしていて、1箇所ひもを緩めるだけではだける事ができる。

 リハビリで歩行訓練をしていたせいか、支える背中はじっとりと汗で濡れ、はだけた前は華奢だけど確かに男の子なんだって感じさせる。

 布越しで、付着した恭介の汗を舐めてみる。

 これが恭介の味……。

 まあ、汗だけにしょっぱいだけなんだけど。


 ああ、少し荒い呼吸を繰り返す恭介が妙に色っぽい。

 上気した顔と体!

 う~~っ、写メ撮りたい!



 じゃなかった!

「ほら、掴まって」

「さやか、ありがとう」
 恭介の笑顔を見るだけで幸せになる。

 調子にノッテ、ふふ、もっと私を頼りなさい。なんて言いそうになる。

 恭介を介助して、平行棒の端に設置された椅子まで移動する。

 介助するという事は、当然、恭介と密着するわけで。

「ごめんね。歩行訓練でいっぱい汗掻いたから、さやかの制服に汗が……」

 恭介は申し訳なさそうに言うけど、あたしは今この瞬間が幸せで、ずっとこのままでいたいなんて思ってしまうわけで……。

 ホントに幸せ!





「さやか、ありがとう」
 椅子に座って一息吐いた恭介に改めて礼を言われる。

「えへへ、いいって事よ」
 座ったままの恭介に、背中から抱きつく。

 いつもならこんな事できないけど、介助で密着したせいか、自然と抱き着いちゃった。

 こんな些細な事で、幸せな気分になれる。

 まどかとほむらが人目を気にせずハグする理由が少し分かった気がする。

「急にどうしたんだい?」
 恭介が喋ると、密着した頬で、筋肉の動きが分かる。

「ふふ……」
 二人の間に流れる空気も甘くなってる気がする。

 今なら、あたしの気持ちを自然と伝えられそうな気がする……。

「恭介、あのね」

 さあ、さやかちゃん一世一代の告白だ!






「もう見てられないわ。今日は1時間遅れなんて言うから後を着けてみれば……」

 なんでマミさんがいるのさ?

 部外者が面会で病室フロアに入るには、ナースステーションで受付しないといけないのに、誰のお見舞いって事にしたんだ?
 実在の入院患者の名前を出さないと入れないだろうに。

「さやか、この人は誰だい?」

 あー、もう!

 せっかくいい雰囲気だったのに!


 まるで一山いくらの使い魔を見るような冷たい視線で恭介を見下ろすマミさん。

「この泥棒猫! 私から美樹さんを奪おうだなんて、身の程を知りなさい!
 あなたみたいな弱い男の子は美樹さんに釣り合わないわ」

 ちょ、恭介!?

 なんで嬉しそうなの?

 まさか本当にMなんじゃ?

「いつからあたしがマミさんのモノになったんですか?」

「放課後はいつもダブルデートだし、お昼だって私の手料理をアーンして食べさせてあげてるでしょ」

 えー?

「認識の違いってヤツ? マミさんにとってはそうだったのかもしれませんけど、あたしはノーマルですから、マミさんの事は友達としか……」

「それに、美樹さんは私をキズモノにしたんですから、ちゃんと責任を取ってもらわなきゃ」

「キズモノ……?」
 恭介は、あたしとマミさんを交互に見つめる。

「誤解されるような事を言うな!」

 だいたい、もう魔法で直してるだろ!

「いくら幼馴染だからって、私の美樹さんに気軽に近づかないでくれるかしら」

「マミさん、あたし、今日のツアーは参加しない。明日はお昼も一緒に食べないから」

 なんなの、これ……。

 ちょっとウザイけど、マミさんとは友達としてやっていけるかなって思ってたのに……。










わっふるキャンペーンのお知らせ


13話で「うん、分かり合ってる二人に昨晩はナニがあったかもうちょっと詳しくw」との感想があったので、
わっふるわっふると10人レスついたらXXX板でまどかとほむらのず~れ書きます。






あとがき

 マミはちゃんと許されて、さやか争奪戦に復帰するよ!


 おりこ2巻購入。



[27550] 第16話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/06/27 22:32
第16話



/ 1 side 美樹さやか


 ベッドに体を投げ出す。


 なんなのよ……。

 マミさん、空気読んでよ……。


「さやか、あまりマミを悪く思わないでほしいんだ」

 いつのまにかキュゥべえが佇んでいた。

「キュゥべえ、どっから入ったのよ?」

 上半身を起こして、キュゥべえの首の皮を掴んで持ち上げる。

「僕にとっては、簡単な事さ!」

 いつも通り口を閉じたまま喋るキュゥべえ。

「マミはね、小学生で魔法少女に―――」

 キュゥべえにデコピンして黙らせる。

「痛いじゃないか」

「外を歩いた脚であたしのベッドに乗るんじゃない!」

 ポケットからハンカチを取り出してキュゥべえの脚を拭う。

 肉きゅうがぷにぷにで気持ちいい。

 モフモフの尻尾といい、ペットにしたい。

 これで喋らなければなー。

 頭を撫でると目を閉じて気持よさそうだし……。

 ほんと、可愛くて抱きしめたくなる。

「それで、何しに来たの?」

「マミはね、小学生で魔法少女になってから、ずっと一人で戦って来たんだ。
 いや、正確に言えば一時期パートナーが居た事もある……」

 突然マミさんの話をするキュゥべえ。

 マミさんに頼まれたのかな?

「マミはパートナーにグリーフシードを持ち逃げされたり、縄張り争いに巻き込まれて魔法少女同士の殺し合いを見てきたんだ。
 そんな事を何度も繰り返して、今のマミになったんだ。
 彼女は常に誰かとの触れ合いを求めてる……」

 はいはい、マミさんはキュゥべえと交わって満たされてるでしょ?

「そんな時に、信頼できるパートナーになれそうなさやかと出逢ったんだ」

 あたしは聞き流しながら、ベッドに身を投げ出したキュゥべえのふわふわ動く耳(触手?)に猫パンチをお見舞いする。

「さやか、猫じゃないんだから僕の耳で遊ばないでよ」

 耳だったのか……。

「さやかちゃんは可愛い仔猫ちゃんなのでしたー」

 短い沈黙の後、キュゥべえは小首を傾げて言った。「わけがわからないよ」と……。

「その言葉、明日まどかとほむらに言ってみてよ!」

 なんだよ、あたしは可愛くないってのかー?

 とりあえずキュゥべえの頭を叩いておいた。





 一方的にマミさんの話をしたキュゥべえは枕元で丸くなっている。

 用が済んだら出て行くと思っていたど、今夜はあたしの家に居座るつもりのようだ。

 キュゥべえを枕にするのもいいかもしれない。





 魔法少女になるつもりもないし、キュゥべえと会話が続かない。

 あ、そうだ!

「ねえ、キュゥべえ。 魔法少女らしい魔法少女になりたいと願った子っていたの?」

「さやかの言う魔法少女らしいってのはどういう意味だい?」

 本当に分からないのか、首を傾げるキュゥべえ。

「子供向けアニメに出てくるような魔法少女なんだけどさ」

「それなら、大勢いたよ」

「へ~、やっぱりほむらやマミさんが異端で、ちゃんとした魔法少女もいるんだ?」

「いや、異端なのはさやかの言う魔法少女だね」

 魔法少女らしい魔法少女が異端か……。
 魔女と戦うってのがネックなのかな?

「詳しく聞かせてくれないかな」

 あたしはキュゥべえを目の前に抱き上げる。

「さやかが魔法少女に興味を持ってくれて嬉しいよ!」

 あまり表情を前に出さないキュゥべえが満面の笑みを浮かべる。

 そして、語られる魔法少女の物語。





 魔法の箒で空を飛びたいと願った少女は、高空でバランスを崩して墜落死。

 魔法で人助けをしたいと願った少女は、力がバレて、両親に超能力少女としてテレビデビューさせられて、魔女を倒す時間が無くなってしまいソウルジェムを浄化できず魔女になった。

 キョンシーを使役したいと願った少女は、海外で墓荒しとして逮捕された。

 ゴーストスイーパーになりたいと願った少女は、天才霊能力少女として霊能番組に出演するが、ブームが終わってしまい、インチキ呼ばわりされて魔女になった。

 好きな姿に変身したいと願った少女は、本当に変身する力しか持たず、魔女と戦う力が無かった。

 同じように好きな姿に変身したいと願った少女は、魔法のコンパクトからごん太レーザーを発射する事ができたけど、燃費が悪すぎてレーサーの照射中にグリーフシードが濁りきって魔女になった。

 サイボーグになりたいと願った少女は、少女が望んだロ●コップになれたが、メンテナンス設備が無かったので、充電できず、生命維持ができなくなってしまい、死ぬ直前に絶望して魔女になった。

 悪の魔法少女になりたいと願った少女は、他の魔法少女全員から敵と認識され、殺された。

 嫌なヤツをモンスターにしたいと願った少女は、他の魔法少女の祈りの対象者をモンスターにしてしまい、仇討ちされた。

 人助けをしたいと願った少女の中には、雑貨屋を経営しながら今も魔女退治を続ける中年女性もいる。この女性が最年長の魔法少女らしい。
 なんでも、あたしの求める魔法少女らしい魔法少女になって生き残っているのはこの人をはじめ、雑貨屋をしている人だけらしい。

 雑貨屋になる気のないあたしとしては、やっぱり魔法少女になるのはありえないと再確認した。

「そうそう、雑貨屋を経営しながら大人になっても生き残ってる魔法少女って言っていいか分からない魔法少女だけどね、全員僕と契約する前から魔法少女だったよ」

「どういう事?」

 つまり、キュゥべえとだけ契約した魔法少女で大人になるまで生き残れた魔法少女はいないの?

「彼女たちは魔法の国とか、なんとかの泉とか、なんとかの王国とか、魔女界とかから魔法の力を授けられてたんだけど、彼女たちの魔法で解決できない事があって困ってたり、悲しんでたりしてた時に僕が契約したんだよ。
 元々魔法を使えただけあって、彼女たちは強かったよ。特に伝説の戦士と呼ばれてた彼女たちは何度も世界の危機を救ってるだけあって負け知らずだったよ!」

「うわぁ……、魔法少女、ホントにいたんだ……」

「僕としては、絶望して魔女になってくれないから願いの叶え損だったけどね」











/ 2 side 暁美ほむら



「それじゃ、恭介のお見舞いしてくるね」

「うん、わたしはほむらちゃんと時間潰してるから、ゆっくりしてきてね」

「待合室でイチャつくなよー」

 まどかは、てぃひひ、と笑いながら腕を絡ませる。

 こうして、今日は使い魔相手にストレスを発散すると意気込んでいた美樹さやかは、この後の私たち3人で行く魔女狩りツアーで使う改造バットを背負ったままエレベーターに向かった。












/ 3 side 美樹さやか



「さやかは僕を虐めてるのかい?」

「恭介、これ、あたしの気持ち! なんちゃって」と冗談交じりに、昨日渡せなかったCDをプレゼントした後の恭介の言葉がこれだった。

 恍惚の表情を浮かべる恭介を見て、恭介が本当にMなんだって分かってしまった。

「え? 虐めるってどういう事?」

「さやかが、もう二度と演奏できない体になってしまった僕にヴァイオリニストのソロCDを持ってくるイジメは別にいいんだ。Mな僕にとって、それはご褒美だから……」

 頬を朱に染めて言う恭介に、なんて言っていいか分からない。

「僕を虐めて快感を得るさやかとは、良い関係になれると思うんだ」

 なんか勘違いしてるし、ちょっと変態入ってるけど、恭介とあたしは相思相愛って事だよね!?

「でもね、いくらさやかがレズビアンだからって、僕にホモになれなんて非道いよ……」

「え? 恭介? 何言ってるの?」

 恭介は手元のCDに視線を落とす。

「高橋さんはホモとして有名なんだよ。そんな高橋さんのCDを渡して『これがさやかの気持ち』なんて言われたら、僕もホモに走れって言ってるようにしか聞こえないよ」

 恭介が何を言ってるか分からない。

「僕、本当は分かってたんだ。さやかの事……」

 あたしが恭介の事好きだってバレてた?

 まあ、まどかに言わせればバレバレらしいし、恭介もあたしと良い関係になれるって言ってるし……。

「さやかがレズビアンだって……」

「へ? 何言ってんの?」

 わけがわからないよ!

「数日前に、興奮したクラスのみんながお見舞いに来てくれてね。鹿目さんがハーレム作ったって教えてくれたんだ」

 なにそれ?

「しかも、さやかがハーレムの一員で、転校生と鹿目さんの奪い合いをしてホームルームが潰れたって聞いてビックリしたよ」

「あの妄想戦士ども……。ある事ない事言いふらしやがってー!」

「志筑さんがお見舞いにきてくれた時も、さやかが3年生の女子とただならぬ関係になったって教えてくれたし」

 仁美まで……。

「この間なんて中沢君が、さやかが鹿目さんのハーレムの一員だと思っていたら、実は誤解でさやかはハーレムモノの主人公だったって、鼻息を荒くして語ってたよ。しかもさやかは女王様で、上級生だけでなくOLの奴隷までいるって」

 中沢、明日絶対に殴る!

「クラスのみんなはいつ修羅場がキャットファイトに発展するかワクワクしてるって言ってたよ」

「志筑さんがさやかの近況報告をして少しすると、中沢君が同じ内容の報告をしてくれるんだけど、二人ともさやかのモテっぷりの話題しか話さないんだ。近頃の学校は他におもしろい話題ないのかな?」





 気まずい沈黙が続く中、恭介はシーツを握りしめる。

「僕、さやかにどうしても伝えたい事があるんだ」

「僕は男だし、さやかの望むようなホモになれないし……。レズビアンのさやかにとって、僕は興味の対象外かもしれない。
 でも、僕なら女王様としてのさやかの衝動を全て受け止める自信がある!
 だから、卑しい僕をさやかのオス豚にしてください!」

 告白されてるような気がするけど、なんか違う……。


 あたしの返事を待って、不安気な表情の恭介に対して支配欲が湧いてくるんだけど、どうしたら……。

「さやか様の背負ってる長物で僕を傷めつけてください」

 なにそれ怖い。

「あはは……」

 自然と乾いた笑いが出てしまう。

 本当にどうしよう……。










あとがき

 紅さやか(さくらんぼ)おいしかった。



[27550] 第17話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/06/28 22:35
第17話



/ 1 side 美樹さやか



「きっと、恭介はさ……、ずっと病室とリハビリルームくらいしか行かないから世界が狭くなったせいで特殊性癖に目覚めちゃたんだよ]

 きっとそうだ!

「いや、さやかによる、日々のさりげない調教で今の僕があるんだけど……」

「いや~、恭介ってば冗談うまいなー!」

 恭介が「僕をこんなにしたのはさやかなんだよ」とか何とか言ってるけど無視して話を続ける。

「ほら、外でリハビリしようよ。あたしが車椅子押してあげるからさ」

 恭介の頭を撫でながら、笑みを浮かべる。

「ね、恭介……。外でしよ♪」

「そうだね……。やっと分かったよ」

 恭介はベッドから車椅子に移ろうとしているので、介助する。

 入院生活で筋肉が落ちたせいか、全体に華奢な恭介の肉付きを確かめるように、さりげなく触る。

 布越しとはいえ、恭介とこんなに密着して幸せな気持ちになる。

 でも、ベッドから車椅子に移るだけじゃすぐ終わってしまうのが残念。


 外でのリハビリを嫌がっていたのが、まるで嘘のような笑顔を浮かべる恭介に、あたしも笑みを返す。

 車椅子に深く腰掛けて一息ついた恭介の肩に顎を乗せると、恭介は手櫛であたしの横髪を梳く。

 それがなんだかくすぐったくて、気持よくて、思わず目を閉じて恭介に頬擦りする。

 恭介は無言であたしの髪を梳く。

 ずっとこうしてたい……。

「外でリハビリかー。さやかならきっと、僕が限界になっても車椅子へのアクセスを許してくれず、もっと頑張れ! 僕ならできる! とか言って応援してるフリして虐めてくれるんだね?」

「そんな事しないって!」

「背負ってる長物も、スポコンモノのコーチみたいに、愛のムチだとか言って僕に振り下ろすんでしょ?」

 恭介……、あたし付いて行けそうにないや……。

 会話もぜんぜん咬み合ってないよ……。

 早く目を覚ましてよ……。

 呆然と車椅子を押す。そんな午後。












/ 2 side 美樹さやか



「あ、さやか見て、あそこ!」

 恭介の言う場所を見てみると―――。

「鹿目さんと一緒にいるのが転校生の暁美さんかな?
 鹿目さんって本当に暁美さんと付き合ってたんだね。聞いた通りだ……。という事は、さやかの噂も……」

 一つのアイスを二人で食べるまどかとほむらがいた。

 病院の近くの32アイスクリームの店舗で買ったんだろうか、コーンに乗ったアイスを二人で舐めながら舌を絡ませている二人はまるで男の子のアレを舐めているようにすら見える。

 ごくりと恭介がつばを飲み込む音が聞こえる。

 見れば、恭介の股間はテントを張っていて、まどかとほむらに軽い嫉妬を覚える。

 恭介の背に寄りかかり、固くしたモノに手を伸ばす。

「アンタさ、あたしの犬なんでしょ?」

 硬くなった棒に爪を立てても、布越しじゃあんまり効果がないように思えたから、その下の玉を強く握ってみる。

「なんでまどかとほむらを見て興奮してるの?」

 手の中で転がる玉がおもしろくて、力を込める指を一本づつ変えていく。

「~~~ッ!?」
 恭介は汗を噴出して、声にならない悲鳴をあげている。

 コリコリした感触と、玉にどの程度力を込めると恭介が痛がって、どの程度の力だと悦ぶのか、加減が分かってきた。

「アハハハッ、痛みなんて簡単に悦びに換えられちゃうんだ!」

 苦しそうだけどどことなく嬉しそうな恭介の横顔を見て、ふと我に帰って恭介から離れる。

 自分のした事が怖くなり、後ずさる。



「今のはまずかったよ、さやか!」

 突然現れたキュゥべえがあたしの体をかけあがって肩に乗る。

「危うく恭介が片玉になるところだったよ! でも片方しかない方が強くなるなんて話もあるから問題ないかもしれないね」

「キュゥべえ、何しに来たのよ?」

 あたしの肩で前足を投げ出して、だら~んとぶら下がるキュゥべえが可愛い。

 思わず頭を撫でてしまう。

「最初は恭介の玉が潰れてから、玉の治癒で魔法少女になってもらおうと思って出待ちしてたんだけど、同じオスとして見てられなくて、つい出てきちゃったんだ。しかも動揺していたせいで余計な事まで言っちゃったよ……」

「あれは見ているだけで痛かった……」

 遠い目をして言うキュゥべえ。


「さやか、誰と話してるんだい?」

「あー、なんでもない。独り言……」

 まだ少し苦しそうだけど、あたしを見上げる恭介がすごく色っぽい。

 赤面して、まだ少し荒い呼吸をしてあたしをじっと見つめてる。

 なんか凄いイイ雰囲気じゃない!?

 今なら自然とキスできそう……。

 恭介の肩を掴んで、徐々に顔の高度を落とす。

「さやか、今のは良かったよ。本番のリハビリを前に、こんなに僕を虐めてくれるなんて……」

 恭介の言葉で力が抜けて、キスどころじゃなくなった。












/ 3 side 美樹さやか



 あたしがバカやってるうちにアイスを食べ終えたまどかとほむらは、ベンチでイチャついていた。

 人目を憚る事なく、舌を絡めたディープなキスをかましながら互いの体を触ってる。

「おーい、そこのバカップル、場所を考えろー!」

 あたしが注意すると、思わぬ反撃を受けた。

「美樹さやか。その言葉、そっくりそのまま帰すわ」

 髪を掻き上げながらカッコ付けて言うほむら。

 その首の角度は決めポーズなのか?


「こんにちは、上条くん。リハビリ進んでる?」

 そんなあたしとほむらを放置して会話を勧めるまどかと恭介。

「やあ、鹿目さんもさやかの付き添いで来てくれてたんだね」

 少し首を傾げて笑うまどか。

 それ流行ってるの?

「歩行のリハビリは順調かな……」

「そっか、がんばってるんだね」

「さやかに相応しい奴隷になる為にね!」

 まどかとほむらが一歩下がる。

「そうだ、鹿目さんに言っておきたい事があったんだ。
 さやかは僕のご主人さまだから、さやかが鹿目さんのハーレムから抜けるのを許可して欲しいんだ」

「そもそもわたし、ハーレムなんて作ってないんだけど……」

 小さくガッツポーズする恭介。

「それじゃ、暁美さんがさやかをキズモノにしたって話は?」

「私が? 上条恭介、私は美樹さやかなんかに手を出したりしない!」

 憤慨するほむら。

「なんかって言うな!」

「そうだよね~。ほむらちゃんの身も心もわたしのモノだもんねー」

 そして、向い合って手を繋ぐまどかとほむら。

「まどか……」

「ほむら……」

 唇を重ねる二人。

 背伸びするまどかがいじらしい。

 そんな二人を呆然と眺める恭介の頬に手を添えて、屈んで顔の高さを合わせる。

「だから、あたしはレズじゃないって言ってるじゃん! 恭介も何度言えば分かるの!?」

「何度言ってもわからない恭介にはこうして教えてあげる……」

 恭介のやわらかな唇に、あたしの唇を重ねる。

 隣から聞こえる舌を絡める水音や、甘い吐息を無視して、ただ唇を重ねる。

 そっと唇を離すと、恭介が言う。

「なんだ……、僕の顔に唾を吐きかけてくれるんじゃなかったのか……」











/ 4 side 美樹さやか



「病院の駐輪場の前ってけっこー広いから、ここで歩く練習しようか?」

 車椅子を押す手を止め、恭介に話しかける。

「ここで虐めてくれるんだね……」

 恭介が変な事を言うたびに力が抜ける。


 肩の重みが消える。

 見れば、キュゥべえが病院の壁に向かって駈け出していた。

「これは!」

「キュゥべえ、どうしたの?」

「グリーフシードだ! 孵化しかかってる!」

 セリフは緊迫感溢れていても、キュゥべえの顔はいつも通りだから、なんか力が抜ける。

「そんな! なんでこんな所に!?」

「さやか、さっきから独り言が多いよ。何か悩みでもあるのかい?」

「もう魔力の侵食が始まってる! 結界が出来上がる前にほむらに連絡を!」

「分かった!」

 ほむらに発信。

 でない。

 再発信。

 でない。

 まどかに発信。

 やっぱりでない。

「あー、もう! イチャついてないで出ろよバカップル!」

 そして、あたしと恭介は結界に閉じ込められた。



 お菓子の迷宮で車椅子を押しながらキュゥべえに問い掛ける。

「ねえ、キュゥべえ。どうしてまず逃げろって言わなかったの?」

「♪~」

 キュゥべえは目を反らして口笛を吹き始める。

 ムカついたから、思いっきり踏みつけた。











あとがき

 異様に眠くて仕事にならないから帰ってきてSSを書く。
 どうして家に着くと眠気が消えるのだろうw



[27550] 第18話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/07/04 00:44
第18話



/ 1 side 美樹さやか



「というわけで、僕はさやかに魔法少女になってもらいたいんだ」

 恭介に抱かれたキュゥべえが、悪気なく言い放つ。

 ムカついたのでキュゥべえの顔面を殴る。

 キュゥべえを殴った結果、キュゥべえごと恭介の鳩尾を殴る事になってしまった。

「ぐふぅっ」

 前のめりに崩れ落ちた恭介は、キュゥべえを抱えたまま微かに震えて上体を起こす。

「さやか、いいパンチ持ってるね。さやかの怒りは一発じゃ足りないだろ? 僕が逃げないように捕まえてるから、気が済むまでキュゥべえと僕を殴ってよ」

「うん、分かった! 恭介を殴るのは気がすすまないけど、それで恭介が喜んでくれるなら!」

 胸の前で拳を掌に打ち付け、音を出して威圧する。

 恭介はとっても嬉しそうなイイ笑顔であたしに期待の眼差しを送り、キュゥべえは逃げようと暴れるけど、しっかりと捕まえている恭介から逃げられずにいる。

「ま、待つんださやか!」

 キュゥべえの言葉を無視して華麗なステップを踏んで拳を叩き込む。

「痛みを快楽に変換するなんて、他者を傷めつけて快楽を得るなんて歪んでるよ!」

 昔見た内●選手の試合を思い出しながら、踏み込んでワンツー!

「こんなの絶対におかしいよ!」

 キュゥべえを殴るだけでなく、クリンチで恭介と密着したり、試合中の事故を装って恭介とキスするのも忘れない。





 何故、恭介にキュゥべえが見えているのかというと―――。


「さやか、今日は独り言が多いけど、何か悩みでもあるのかい? 奴隷の僕じゃ頼りないかもしれないけど、相談して欲しいな」

 本日何度目かの恭介の心配に、本当にあたしがおかしくなったと思われてるんじゃないかって不安になったので、恭介にキュゥべえが見えるようにできないのか聞いてみたら、あっさり「できるよ!」と言った事に始まる。

 なんでも、魔法少女の素質を持つ子を探すには、素質を持つ子にしか見えないようにするのが手っ取り早いとかで、そうしてたらしい。

 恭介にも見えるようになったキュゥべえは、あたしを魔法少女にするためにつきまとっている事と、魔法少女になる対価として、ひとつだけどんな願いも叶える事、あたしが魔女の結界に囚われ、どうしようもなくなった時に生き残る為にあたしと契約する為にここにいると語った。

 願いの件を聞いても、恭介は何も言わなかった。

 手を治せると言っても

「僕は今、さやかに虐められて……、さやかの奴隷になれて幸せだから他に望む事なんてないんだ」

 としか言わなかった。

 恭介の瞳に迷いはなかった。












/ 2 side 暁美ほむら



「こんな所に結界があるなんて……」

 お菓子の魔女……、今日だったのね。

 幸せすぎて忘れてたわ。

「さやかちゃんは、これを伝えるために何度も電話してきたんだね」

 美樹さやかからの着信は私に8回、まどか宛に6回もきていた。

 私とまどかは通行人に見られながらキスするのに夢中で、電話に出るどころじゃなかった。

 こちらから掛けなおしても電源が切れているか電波の届かない場所にいるというメッセージが流れるだけだった。
 恐らく、二人とも結界に囚われてしまったのだろう。

「ほむらちゃん、早く助けに行こう!」

 今にも結界に飛び込もうとするまどかの腕を掴む。

「まどか、今回は結界に入らないで」

 きょとんとした顔で口を開くまどか。

「でも、さやかちゃんと上条君を助けないと……」

「いつもは巴マミがいるから、安心してまどかと美樹さやかを魔女の結界に連れて行っていけるのだけど、今ここにいる魔法少女は私だけ」

 私を真剣に見つめるまどかが凛々しくて、頬が熱くなる。

「美樹さやかだけなら、私一人でもなんとかなったかもしれない。でも、魔女の結界は中がどうなってるか分からないの。今までも平坦な道だけでなく、長い階段とかあったでしょ。もしかしたら道のない山とか、雪道の可能性だってある。満足に歩く事もできない上条恭介までいると、私一人じゃ守りきれない」

「わたしとさやかちゃんで上条くんを介助すれば」

 力になりたいと思うまどかの気持ちは分かるけど、私の経験した過去の時間軸では、まどかはお菓子の魔女に何度もトラウマを植えつけられている。
 なるべく連れて行きたくはない。

「だから、まどかには巴マミを呼んできて欲しいの」

 まどかの顔が明るくなる。

「私は巴マミが来るまで、二人を守る」

「分かったよ! すぐに呼んでくるね!」

 駆け出すまどかを見て思う。

 巴マミと番号の交換をしないでよかった、と……。

 巴マミとの出会いで不信感を抱いたまどかと美樹さやかは、携帯番号を聞かれても巴マミには教えなかった。

 その後、行動を共にするようになった今も、二人の巴マミとの連絡手段はキュゥべえを経由したテレパシーだけ。



 まどかには悪いけど、巴マミが来る前にお菓子の魔女を爆殺する!












/ 3 side 美樹さやか



「ああ! マミさんに改造してもらったバットが!?」



 錠剤や薬瓶にカラフルなメスの浮かぶお菓子の迷宮。

 ケーキの壁を食べてみたら美味しかったと言っておく。

 使い魔はあたし達を攻撃する事なく、行列を作って何かを探しているようだった。

 あたしは恭介にいい所を見せたくて、調子にノッて改造バットで使い魔を殴って倒した。

 すると、今まで攻撃してこなかった大量の使い魔に襲われるはめになっちゃった。テヘッ。

 まるで時代劇の殺陣みたいに使い魔を斬り、じゃなくて撲殺するあたしカッコイイ!

 なんて思っていると、バットが元の金属バットに戻ってしまった。

「最後に魔力を補充したのは2日前だしね。さあ、さやか! 僕と契約を!」

 恭介の膝の上でくつろぐキュゥべえを無視して、車椅子を押して逃げる。

 ケーキの床は車輪が沈み込んで押し難いし、走り辛い。

「キュゥべえ、毛づくろいしてないで自分の脚で走れ!」





 辿り着いた先は、巨大なお菓子やケーキが転がる結界の中心部。

 使い魔の姿は無いけれど、空間の中心に位置するアホみたいに脚の長い椅子にかわいいぬいぐるみみたいな魔女が座っていた。





 このままじゃ、あたしだけでなく恭介まで……。





「本当に、どんな願いでも叶うんだね?
 恭介の手、治るんだよね?」

「大丈夫、キミの祈りは間違いなく遂げられる」

 恭介の膝の上で真剣な表情というか、いつも通りの無表情で答えるキュゥべえ。

「じゃあ、いいんだね?」

 目を伏せていた恭介があたしを見る。

「さやか、僕は手なんて治らなくてもいい! だから、自分の為に願いを使うべきだ!」

「自分のためだよ。あたしは恭介の奏でる音色が好きだから……。毎日恭介のヴァイオリンを聴きたいから」

「さやか……」

 あたしの殺し文句で赤面する恭介から、キュゥべえに視線を移す。

「やって」

 キュゥべえがあたしの胸の前に耳を伸ばす。

「くぅっ! ぁあっ、ん……」

「さやか、その喘ぎ声だけで僕はっ! 僕はっ!
 さやかを初めに鳴かせるのが僕じゃなくてキュゥべえってのが納得いかないけど、さやかの色っぽさに僕は―――っ!」

「んんっ! あ゛あ゛ぁ……」

「ちょ、上条恭介!? 僕に勃起したチンコを押し付けないでよ!」

 そんな最低な会話を聞きながら、あたしの胸から抽出された魂を呆然と眺める。



「さあ、受け取るといい。それが君の運命だ」


 こんなちっぽけな宝石が、あたしの魂……。



「さっそく変身するよ!」

 ソウルジェムを胸の前に浮かべると、着ていたモノが全て弾け飛ぶ。

 マミさんの変身シーンを意識しながら跳ねて踊る。

「さやか、一緒にお風呂に入ったころとは違って、すごい成長したんだね。乳揺れも最高だよ!」

 やばっ、恭介の前で全裸になっちゃったよ!

 ほむらやマミさんの変身シーン見てたのに、不覚!

 あ、でもこれで恭介を悩殺、なんちゃって。

「さやかなら絶対に女王様の衣装も似合うよ!」

 恭介の褒め言葉を聞きながら変身完了!

「魔法少女、マジカルさやかちゃん、誕生!」

 目を閉じたままポーズをキメる。

「すごい! すごいよ、さやか!」

「魔法少女らしい魔法少女に憧れていたさやかがこんなになるなんて……。わけがわからないよ!」

 恭介とキュゥべえの対照的なコメントを疑問を抱きながら目を開ける。



 恭介の褒め言葉を聞いたからか、あたしは女王様になっていた。

 エナメルのハイレグボンテージ衣装に、ガーターベルトと網タイツ。革製の長手袋に、踏むと痛そうなピンヒール。

 何故かバタフライマスクとトゲ付きの首輪まで……。

 そして、手にはムチと火の点いたロウソク。



「これでどうやって戦えって言うんだ!?」









あとがき

 和歌山産の桃うめええええええええ!
 この3日間で10個食べたけど、ハズレなし!

 桃のシーズンがついに始まった!
 価格も手頃になって嬉しい!

 今日から朝食は桃、夜のデザートも桃な幸せな日々が始まったよ!



[27550] 第19話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/07/11 22:14
第19話



/ 1 side 美樹さやか



 赤面する恭介マジ可愛い!

「すごいよさやか! 完璧だ……、これこそ僕が求めていた女王様だよ!」

 どうしよう、恭介に褒められてすうごく嬉しい。

 そういえば、お洒落しても恭介に可愛いとか、褒められる事って無かったっけ……。

「さやかは女王様ルックが似合うと思ってたけど、僕の目に狂いはなかった!」

 こんなに恭介に褒めてもらえるなら、魔法少女も悪くない。


 恭介は車椅子から立ち上がり、二重の意味で立った恭介は入院着の上着を脱ぎ捨てる。

「さあっ、今すぐ僕にそのムチを振り下ろしてくれっ!」

「そんな事より、早く魔女を倒してよ」

 いつもの表情を崩し、とても嫌そうな顔で呟くキュゥべえ。

 恭介が立ち上がるまで恭介の固いモノを押し当てられてたのに嫌がるなんて、なんてヤツだ!





 魔女は椅子に座ったまま動かないから放置する。

 いよいよプレイ開始。ここなら邪魔も入らない。

 恭介とSMプレイして、最高に盛り上がったところで処女を捧げちゃう?

 ほんの少し先の未来を想像して、頬が熱くなる。


 両手を広げて、あたしのムチを待つ恭介が崩れ落ちる。

「あれ? 手は動くけど、足は変わってないや」

 がっかりするかと思ったけど、何故か嬉しそうなままの恭介。

「あ……、ゴメン。手を治してとしか祈ってなかったわ。アハハハ……」

 気分が沈みそうになるけれど、細かい事は気にしない。

 恭介の手はちゃんと動いてるんだから、それでいい。
 こんな事を気にしていたらマミさんみたいにソウルジェムが濁っちゃう。

「今のさやかなら上条恭介の足も治せるよ」

 いつもの無表情に戻ったキュゥべえを左手でロウソクと一緒に持ち上げる。

「キュゥべえ、それホント!?」

「ああ、本当さ。通常、癒しの祈りで魔法少女になった場合、癒しの魔法の対象となるのは自分自身と他の魔法少女と僕だけなんだ」

 キュゥべえの体に溶けた蝋が垂れて固まる。

「君は上条恭介の癒しを祈った。だから、君だけは特別で、上条恭介も癒す事ができるんだ!」

「熱いから早く放してくれないかな」と漏らすキュゥべえを放り投げ、キュゥべえを羨ましそうに見ていた恭介の元へ。

「いいなー、キュゥべえ。体中蝋だらけだし、毛も焦げてる……」

 あれ?

 もしかして、今のってキュゥべえとSMプレイした事になるの?

「こんな事をして悦ぶなんて、どうかしてるよ!」

 キュゥべえは付着した蝋で体がうまく動かせないのか、動きがぎこちない。





 マミさんがキュゥべえを治した所を思い出しながら、恭介の足に手をかざす。でも、マミさんがキュゥべえを癒してた時のような優しい光はでない。

 どうすればいいのか分からないので、分かりやすいものを頭に浮かべる。

「ヒール!」

 ぴろ~ん、という効果音と共に恭介が光に包まれる。

「え? 冗談で叫んだら発動した? 恭介、足はどう?」

 恭介が恐る恐る立ち上がる。

 ゆっくりと踏み出し、歩く。

 良かった。

 恭介が治った!

「さっきまで満足に歩けなかったせいか、少し違和感があるけど、すぐに感覚を取り戻せそうだよ」

 恭介はあたしの正面に立ち、手を握ろうとして、あたしの手がムチとロウソクで塞がっているため、一瞬両手を彷徨わせる。

「さやか、本当にありがとう」

 恭介に優しく抱きしめられてすごく幸せな気分。

「恭介が怪我をしたら、いつでも新感覚癒し系魔法少女のさやかちゃんが直してあげるね」

 恭介が抱きしめる手に力を込める。

 半裸の恭介に強く抱きしめられて、あたしも自然に恭介の得中に手を回す。

 恭介の首筋に顔を埋めて深呼吸。

 ほのかな汗の臭い。

 首筋に舌を這わせる。

「あ…、ロウソクで背を焼かれながら舐められる。イイよ、イイよさやか!」

 あそこに固いモノを押し付けられて変な気分になる。

「これで安心してどんな激しいプレイもできるね」

 真剣な表情でそんな事を言われても、どんな顔をすればいいのか分からない。

「恭介……」

 とりあえず、恭介が喜んでくれるから、このまま恭介の背中に蝋を垂らし続けよう。












/ 2 side 暁美ほむら



「恭介が怪我をしたら、いつでも新感覚癒し系魔法少女のさやかちゃんが直してあげるね」

 今まで何度も美樹さやかが破滅する姿を見てきたけれど、こんな展開は初めてね。

 バタフライマスクの女王様姿で癒し系を自称する発言を耳にして、思わず吹き出してしまった。

 結界中心部外縁の大きなドーナツに身を隠して様子を伺っていると、美樹さやかと上条恭介がSMプレイを始めた。

 何度も失恋する姿を見ていただけに、ちょっといい話だなって……。ようやく幸せを掴んだ美樹さやかを祝福したいと思ったのだけれど、魔女の結界をホテル代わりにして、いい雰囲気で抱き合いながら上条恭介の背中を焼く姿に、腹筋が崩壊した。

 お菓子の魔女は、巴マミですら高確率で敗北する強敵だから、いつものようにパターンにハメて爆殺したいのだけれど……。



 今出て行くと「空気読め!」なんて言われるんでしょうね。



「もう見てられないわっ! キュゥべえまで私から美樹さんを奪おうというの!?」

 あ、大きなショートケーキの影で胸元のリボンを噛み締めていた巴マミが2人と1匹の前に飛び出したわね。

「美樹さんの気をひこうと猫みたいに可愛い仕草をして! 美樹さんを誘惑してるんでしょう!」

「いや、僕は体に付着した蝋を取りたいから床で体を擦ったり、耳で剥がそうとしてるだけなんだけど」

「あー、マミさんまた邪魔するの? 空気読んでよ……」

「美樹さん、あなたに相応しいパートナーは私よ! 目を覚まして!」

「また君か……。さやかに相応しい奴隷は僕だって、見て分からないのかい?」

 なにこの修羅場……。

 お菓子の魔女も呆れて見てる。

 はぁ……。

 早く帰ってまどかとにゃんにゃんしたい。










あとがき

 シャルロッテ戦はあと1、2話で終わります。

 その後、まどほむのターンに戻ります。



[27550] 第20話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/07/19 23:09
第20話



/ 1 side 美樹さやか



「さやかを『美樹さん』と呼ぶ君と、幼馴染であり、恋人でもあると同時に奴隷という、いわゆる王道な関係の僕」

 あれ?

 恋人が奴隷って王道なの?

 なんて考えていると、恭介が四つん這いになって続きを口にする。

「どちらがさやかに相応しいか、なんて言うまでもないだろ?」

「それなら、美樹さんは私を『マミさん』と呼んでいるのだもの。私も『さやかさん』って呼んでもいいわよね」


 恭介がこんなになったのは、あたしが無意識に調教したからだって話だし、恭介はあたしが育てた! なんて言ってもいいのかな……。


 とバカな事を考えていると、四つん這いになった恭介とマミさんが口論しながらあたしを見上げていた。
 キュゥべえはその隣で体に付着した蝋を剥がそうと、がんばって転がっている。

「「どっち!?」」

 口を揃えてどちらを選ぶのか決断を迫る2匹の犬。

 二人とも尻尾があったらぶんぶん振ってそう。

「いや~、ついにあたしにもモテ期が! じゃー、両手に花って事で」

 軽いジョークをとばすと、目に見えて恭介が落ち込む。

「そんな……、さやかは僕だけじゃ満足できないのか……」

「ふふ、上条さん。同じ主人を持つ奴隷として仲良くしましょう」

「胸か? 胸なのか? さやかがこのメス豚の色香に惑わされないようにするにはどうしたら……」

 orz

 がっくりと首を落としてブツブツ呟く恭介の姿を見ると、背筋がゾクゾクする。

「ねえさやか、僕はタイで手術を受けてシーメイルになったほうがいいのかな?」

 恭介の突拍子も無い言葉に驚愕する。

「いや、冗談だから! 恭介はそのままでいて! 絶対にそんな手術受けちゃダメだからね!」

 恭介の肩を掴んで揺らしながら強く云い聞かせる。一瞬、考えちゃったのは秘密だ。

「分かったよ」

 そう答える恭介は真剣な表情だったけど、口元には微かな笑みが浮かんでいた。

「冗談? さやかさんは私と上条さん、どっちを選ぶの?」

 少し勝気な顔で答えを求めるマミさん。

「もちろん私よね?」

 でも、さっきからずっと四つん這いなのでちょっとアレだ。



「あたしが選ぶのはもちろん恭介だよ」

「さやか……」

 感極まったのか、あたしの脚に頬擦りする恭介。

「さやかは僕を選んでくれると信じてたよ……。あぁ、さやか!」

 本当に犬みたい。

「あはは、恭介ぇ、くすぐったいよ」

 恭介の前でしゃがむと、あたしの膝と膝の間に頭を押しこんでくる恭介の髪を撫でる。飼い犬とじゃれる気分。

「さやか! さやか!」

 恭介の勢いが強すぎて、尻餅をついてしまう。

 まるで、大型犬の飼い主になった気分だ。

 恭介はあたしの股間に顔をうずめて深呼吸すると、あたしの内腿を舐める。

「ちょ、恭介! マミさんが見てる!」

 マミさんはこの世の終わりのような顔で呆然とあたし達を見てい―――って、髪飾りが!

 またソウルジェムが急激に濁ってるよ!

「も、もちろんマミさんだってこれから一緒に戦う仲間だから頼りにしてるよ!」

 マミさんの瞳に光が戻る。でも、まだゆっくりとソウルジェムをは絶望に染まっている。

「えっと、ほら! 前衛のあたしと後衛のマミさんで良いパートナーになれるんじゃないかなって……」

「そうよね! 私たち良いコンビになれるわよね!」

 目尻に涙を浮かべたマミさんに抱きつかれる。

「恋人や奴隷じゃなくて、魔法少女としてさやかと共に戦うパートナーとしてなら君を認めてあげるよ。
 さやかに怪我させたら承知しないよ」



 マミさんはあたしの胸に顔を埋め、恭介は内腿をペロペロ舐め続ける。

 転がるキュゥべえを視界の隅に収めながら、どうしてこうなったんだろうと考える。

 あ、可愛い魔女がお菓子を食べながらこっち見てる……。












/ 2 side 美樹さやか


 ようやく落ち着いた二人は何故か、まだあたしの前で四つん這いで待機している。
 そろそろ魔女と戦った方が……、なんて心の片隅で考えてたりするんだけど、あれほど魔女退治の意義や義務について熱く語り、まどかとイチャついてばかりであまり魔女と戦おうとしないほむらを注意していたマミさんも戦おうとしないのが気になる。

「さあ、そのムチで僕を打ってくれ!」

「おっけー。せっかくこんな格好してるんだしね」

 恭介に請われて、魔女退治の件を頭から追い出す。

 魔女も襲ってこないし、別にいいか……。

「それじゃ、いくよ!」

 ムチを振り上げると、後背の空中で伸びきったムチが空気を叩く。

 パ―――ンッ!

 振りかぶっただけで大きな音が鳴ったので、振り下ろす先を急遽「うー、蝋が取れない」と呟くキュゥべえに変更する。

 パ―――ンッ!

 さっきよりも大きな音とともに、キュゥべえの体が弾けて赤い花を咲かせた。

「アハハ……」

 笑って誤魔化す。

「あー、さやか。五●田の専門店から通販でSMグッズ取り寄せるから、ムチでのプレイはまた今度にしようか……」

 冷や汗を掻く恭介。

「そ、そうだね……」

 よく考えたら、魔法少女になって身体強化されてるし、ムチは魔女と戦うための武器じゃないか。そんなものを恭介に振り下ろそうとした自分に恐怖を抱く。ちょっとハイになってた……。

「「あはは……」」

 二人で乾いた笑いを浮かべる。




「まったく、ひどいじゃないか!」

 どこからともなく現れた新しいキュゥべえが自分の死体を咀嚼しながら続ける。

「どうやっても蝋が取れなかったから助かったといえば助かったけど……。ハムッ、ハフハフ、ハフッ!」

 一心不乱に自分の死体を食べるキュゥべえ。



「フッフッフ……」

 マミさんが四つん這いのままわざとらしく笑う。

「どうやら、さやかさんの責めに耐えられるのは同じ魔法少女である私だけみたいね!」

「っく!?」

 言いながら立ち上がるマミさんは、悔しそうな恭介を見下ろして不敵な笑みを浮かべる。

「それに、私はこんな事もできるのよ!」

 マミさんは胸元のリボンを引き伸ばして自分の体をリボンで覆う。覆われたマミさんの体が黄色い光に包まれる。

「どう? さやかさん。似合うかしら?」

 光が収まると、マミさんの衣装は手足と帽子だけ残してパージされて、裸で亀甲縛りという、似合うと答えていいものか悩む格好になっていた。

 というか、後ろ手で縛ってるあたり、マミさん、魔女と戦う気ないだろ!

「えっと、よく似あってますよ……」

 マミさんはほのかに頬を朱に染めて顔を背ける。

「ありがとう。やっぱり、想い人に褒められると嬉しいわね」

 いや、その格好で恥じらう姿を魅せられても……。

 変身状態でSMプレイするのが危険だと理解した恭介は、立ち上がってマミさんを見て、前かがみになる。

「悔しいけど、メス豚として相応しい格好だ。でも、僕だって負けていられない!」

「ふふ、私だって負けないわよ!」

 え?

 何コレ?

 奴隷同士の妙な友情?



「さあ、さやかさん。私にムチを!」

「悔しいけど、今の僕じゃさやかの嗜虐心を満足させる事はできない!」

 そう言い放って顔を背ける恭介だけど、すぐにマミさんをガン見する。

 だいたい、あたしの嗜虐心ってなんだよ!

 あたしは恭介の趣味に合わせてるだけだぞ!

 そんな恭介にちょっとイラっときたから、あまり力を入れずにマミさんのおっぱいにムチを打つ。

「ッッッ~~~~~~~~ッ!!!?」

 マミさんは涙をポロポロ零しながら転がる。

 痛くて満足に声が出せないのか、声にならない悲鳴をあげてるんだけど……。

「死ぬほど痛いと分かっていても、敢えてムチを受ける。奴隷の鑑だ。憧れるなぁ……」

 どこまでも転がり続けるマミさんを見ながら、恭介が遠い目で呟く。



 マミさんは、結界中心部外周に点在する大きなドーナツに半分埋もれて止まった。

 生きてるとは思うけど、ちょっと心配になる。




 崩れたドーナツの後ろから、ほむらが現れる。

 髪を掻き上げながら、あたしに聞こえるような声量でほむらが言う。

「美樹さやか、巴マミ、あなた達はどこまで愚かなの……」

 ダメだ、言い返せない。

「暁美さんの蔑むような視線、イイ!」

 とりあえず恭介の肩にぽん、と手を置き、すこ~し力を込める。

「嫉妬して僕を傷めつけるさやかの愛が~」

「蝋はおいしくなかったけど、がんばって食べたよ!」

 魔女を前にして緊張感の無い恭介とキュゥべえを軽く睨む。



「さあ、ほむら! ちゃっちゃと魔女を倒して帰ろう!」

「その点は同意するけど、まずは……」

 ほむらはグリーフシードでマミさんの髪飾りのソウルジェムを浄化する。



 ドーナツに埋もれたマミさんをそのままに、ゆっくりと歩いて来るほむらの視線が痛い。

「きゅっぷいっ!」

 背中の口でグリーフシードを食べたキュゥべえが妙な鳴き声を出す。

「あたしが言うのもなんだけどさ、魔女の目の前なのに、どうしてこう、緊張感ないんだろうね」

「まるで自分は関係ないような口ぶりね」

 ほむらにじと目で見られながら、両手を頭の後ろで組んで笑って誤魔化す。

「あはは……」

「今度は脇でアピール? 残念だけど、私は脇フェチじゃないし、まどか一筋よ」

「いや、別にそーいう訳じゃないってば!」

 ほむらにじと目で見られ、お菓子片手に優雅にティータイム中の魔女にあたし達のプレイを鑑賞される。

 そんな、あたしの初陣。











あとがき

 まずは、マミファンの方、すみません。

 もう少ししたらマミもいい思いする展開になりますので、マミの待遇改善の話までもう少しお待ちください。


 あと、シャルロッテ戦は次で終わります。



p.s.

 アーチェリー場の施設利用許可証の更新をしたついでに、まどかごっこしてきた。
 東日本大震災以降、施設の夜間利用ができなかったから、長期間できずにいた。
 ぜんぜん当たらなくなってて、勘を取り戻すまで大変だった。

 節電で夜間利用できなかったのに、いざ夏になると夜間利用が復活する謎。



[27550] 第21話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/07/20 23:02
第21話



/ 1 side 暁美ほむら



 美樹さやかの前に立ち、前に出るのを防ぐように手を広げる。

「この敵は私が倒すわ。だから、美樹さやかとその奴隷は下がってて」

「あたしだって戦う力を手に入れたんだ」

 美樹さやかが私の手を取る。

 美樹さやかは私の左手を両手で包みこんだまま、正面から向きあう。

「ほむら、あたしも戦うよ!」

 美樹さやかはバタフライマスク越しに、真剣な目で私を見つめている。真剣な場面なのに腹筋が危ない。

「あたしもキュゥべえと契約したんだ。魔女と戦う義務がある。それに……」

 美樹さやかは私の手を軽く握ったまま、ダンスするようにくるりと回って、お菓子の魔女を見据える。

「あの魔女はいくらでもチャンスがあったのに、律儀に待っててくれたしね。あたしが戦うのが礼儀ってもんよ~」

 魔女すらも呆れる痴態だっただけじゃ……。

「でも、そのまえに……」

 くるりとターンして、私に一礼し、手を離す女王様。





「ねえ、キュゥべえ」

「なんだい、さやか」

 キュゥべえは小首を傾げて可愛さアピール。

 悔しいけど、抱きしめたい……。

「変身後の衣装って変更できないのかな?」

「そんな事を訊かれたのは初めてだよ」

 真剣な表情でキュゥべえに詰め寄る美樹さやか。

「あたしって、やっぱり魔法少女に憧れてるんだ……」

「もう成れたじゃないか」

「こんな格好じゃなくて、ちゃんと魔法少女らしい魔法少女になりたいんだ」

 見つめ合う女王様とインキュベーター。

「で、どうなの?」

「難しい問題だね」

 パ―――ンッ!

 キュゥべえが弾ける。

「できるの? できないの?」

 美樹さやかは古い体を食べるキュゥべえに再びムチを振り下ろす。

 パ―――ンッ!

「無駄に潰されるのは」

 キュゥべえは出現と同時にムチを打たれて赤い花を咲かせる。

 こんなに可愛いキュゥべえを何度も殺すなんて……。前の私なら、キュゥべえに対してこんな感情を抱く事なんてなかった。
 まどかと結ばれて心に余裕ができたから?

「キュゥべえ……、あんなにさやかの愛を受けるなんて、なんて羨ましいんだ……」

 青い顔で妙な発言をする上条恭介。彼の握った拳から血が伝う。

 もう手遅れね……。

 パ―――ンッ!

「さやか! 話をき」

 パ―――ンッ!

「さやか! 落ち着いて!」

 パ―――ンッ!(以下略





 ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家の超豪華版。お菓子のホールの一角はキュゥべえの血で赤く染まった。

 肉片が散らばり、血の滴る惨劇の舞台で、さやかに尻尾を掴まれて逆さになって揺れる、口の軽くなったキュゥべえが早口で語る。白い体毛なのに、何故か顔色が悪い。まるで人間のように真っ青になっている。

「変身後の衣装はそれぞれの魔法少女のイメージに左右される。
 でも、まだ魔法少女に成りたてで、自身のイメージ、衣装や戦闘方法が確立されていないのなら……。なんとかなるかもしれない」

「具体的にどうすればいいのさ?」

「一度変身を解いて、僕にソウルジェムを貸してごらん」

 良かった。

 もし、美樹さやかが魔女になったら、車輪の代わりに無数のロウソクを使い、キュゥべえがされたように焼いたり、蝋で動きを封じ、最後に鞭で一撃の下に魔法少女を葬る強敵になるかもしれない。

 今回の美樹さやかは上条恭介と恋人(?)になれたのだから、魔女になる可能性は低いかもしれない。
 それでも、いままで私が見てきた剣で戦う魔法少女になれば、もしもの時に簡単に爆殺できる。





「よろしくね」

 ソウルジェムを置き、満面の笑みを浮かべてキュゥべえの頭を撫でる美樹さやか。

 キュゥべえがソウルジェムの前に耳を翳すと、ソウルジェムが輝く。

「あ、やっぱり、SMフォームも残しておいてくれる?」

「え?」

 あのキュゥべえがぽかんと口を開けている。

「いや~、ほら、SMフォームがあれば、恭介とプレイする時に衣装買わなくて済むし、それに軽く叩いただけなのに、一撃でマミさんが戦闘不能になったじゃん?
 あれはあれで意外と強い気がしてさ……」

 キュゥべえの頭を抑えつけて続きを口にする美樹さやか。

「もし、今度の変身後のイメージがあたしの理想である魔法少女らしい魔法少女そのものだったりしたらさ、戦えなくてすぐに魔女になっちゃうかもしれないしね。
 キュゥべえ、戦闘フォームの使い分け、やってくれるよね?」

 美樹さやかが床に鞭を振り下ろすと、キュゥべえは身震いして、ガクガクと何度も頷いた。












/ 2 side 美樹さやか



「さやかちゃん、変身だっ!」

 あたしの注文通りに叫ぶキュゥべえ。どこかヤケクソ気味なのが気になるけど、まあいいや。

「オッケー、まかせて!」

 ソウルジェムを掲げ、軽く眼を閉じて踊りながら変身。

 マントを翻し、剣を構えて叫ぶ。

「魔法少女プリティさやかちゃん、見参!」

 キマッた!



「結局、魔法少女らしくないじゃないか……」

 呟くキュゥべえを踏みつける。

 ウェディングにするか、セーラーにするか、魔法騎士にするか迷ったけど、デザインはオリジナルにした。
 まどかがデザインを考えてたから、あたしも毎晩寝る前に脳内イメージして練り上げた渾身のデザインなのに、それを否定するキュゥべえにムカついた。だから、ぐりぐりとキュゥべえを踏み躙る。

「キュゥべえばっかりズルいよ」

「恭介、後で虐めてあげるから、終わるまで待ってて」

 恭介ってば、キュゥべえなんかに嫉妬して可愛いんだから!





「そんなに言うなら……」

 確かに魔法少女らしい魔法少女になりたいと、キュゥべえに無理言ったのはあたしだ。

 あたしは、魔力切れで元に戻った金属バットを手に取ると、魔力を込める。



「よしっ」

 イメージした通り、先端がハート型になり熨斗の巻かれたピンクのバトンを掲げる。

「どう、キュゥべえ。これなら魔法少女らしいでしょ」

「美樹さやか、剣は使わないの?」

「懐かしのアニメ特集で見た武器だね」

「センスを疑うよ」

 乙女心を分かってない発言をするキュゥべえに魔法のバトンと叩きつける。

「さやかちゃんコケティッシュボンバーッ!」

 放物線を描いて飛んでいくキュゥべえが魔女とぶつかって、仲良く床に墜落した。

「これで、とどめだあ―――っ!」

 魔法のバトンを振って、キュゥべえと魔女の直上に無数の剣を召喚!

 キュゥべえと魔女は剣の雨で串刺しになった。

「ん~、あれだけ待っててくれたのに、なんか奇襲みたいになっちゃって悪いことしたなぁ~」



 魔女狩り体験ツアー第一弾出発前に受講した魔法少女講座が役に立った。

 初めてマミさんと会った時に魅せられた無数の銃による斉射。それを剣でこんなに簡単に再現できるなんて!?

「あたしって才能あるんじゃない?」

「まだ終わってないわ!」

 え?

 振り返ると、ほむらが戦車?の後部ドアの中から手を伸ばして叫ぶ。

「みんな、乗って!」

「みんな、急いで!」

 新しいキュゥべえが戦車?の中からほむらと一緒に叫ぶ。ちゃっかり先に乗ってるなんて、さては今度のキュゥべえは初めからあの中に出現したな!

「うわぁ……、装甲戦闘車だー。魔法少女ってこんなのまで魔法で作れるの?」

 嬉しそうに駆け寄る恭介。

 これって戦車じゃないの?

 改めて魔女を見ると、魔女の口からディ●ニーの3Dアニメ調の顔のついた恵方巻きを彷彿させる何かが飛び出してこっちに向かっていた。

「えええ? あの魔女あと何回変身するんだ!?」

 軽口を叩きながら乗り込もうとしたところで、魔女が戦車?の砲塔に噛み付こうとしていた。

「ッ! 対戦車ミサイルが誘爆するわ! 逃げて!」

 ほむらの言葉を受けて、逃げる。




「逃げるのはいいんだけど、なんでほむらが真ん中であたしと恭介と手を繋いで走る必要があるのさ!?」

「こうしないと、あなた達の時間も止まるわよ!」

 後ろを振り向いて、ほむらの発言の意味を理解する。魔女は砲塔に噛み付く瞬間のまま停止していた。

 ある程度離れたところで背後から爆音が響く。

「あぁ……、一発も撃ってないFVが……」

「もったいないね」

 戦車?が壊れた事にがっかりするほむらと恭介は、逃げ遅れて爆発に巻き込まれたキュゥべえの事を覚えているのかな?

 肩を落とすほむらの前にさっきのやつよりも砲身の大きな戦車が出現する。

「今度は90式? 紛失した兵器と同じものがぽんぽん出てきてびっくりだよ」

「そんな事より、早く乗って!」

 恭介を抱えて軽くジャンプして、砲塔の上に着地する。

「あなたはこっちよ」

 恭介を砲塔の前にあるハッチに押し込むほむら。

「私が魔力で車体を動かす。あなたは座ってるだけで何も触らないで」

 恭介の前に立って説明するほむら。

「分かったよ。あ……、黒スト越しの白か、あああっ、手が! 手が!」」

「恭介!?」

 恭介の悲鳴に何があったのかと思ったら、乗り込む途中の恭介の手をほむらが踏み躙っていた。

「ほむら何やってんだよ!」

「美樹さやか、あなたの奴隷、もう少し躾た方がいいんじゃないかしら」

「私を性的な視線で見ていいのはまどかだけよ」

 恭介の手を踏む足に、さらに体重をかけるほむら。

「ああっ、さやかの祈りで治ったばかりの僕の手が―――っ!」

「え? このまま潰されたら、もしかしてあたしの命はほむらのパンツ鑑賞料で相殺されちゃうの!?」

「蔑む視線が気持ちいいっ!」

「恭介もこんな時までバカ言ってないで、あたしだけを見てよ!」

 あたしの悲痛な叫びに心打たれたのか、恭介の手から足をどけるほむらと、さっと乗り込む恭介。

「確かにこんなバカな事してる時間は無いわね」

 噛み付いたものが爆発して、呆然としていた魔女がこっちに向かっていた。

 恭介が潜り込んだ操縦席のハッチを閉めると、砲塔のハッチにもぐりこんで頭だけ出すほむら。

 あたしも砲塔のハッチに入り、上半身だけ出したところで戦車が動き出す。

「ねえ、ほむら。この据付の銃撃っていい?」

「いいわよ」

 許可が出ると同時に引き金を引く。

「うおおおおおおおおおお」

 やばい、なんかテンションあがる!

「ほんと、結界の中は地獄だね!」

 こんな時はネタの一つもとばしたくなる。

 楽しく撃ちまくっていると、轟音が響き、魔女が吹き飛ぶ。

 打ち上げ花火を発射場の目の前で見るような、大きな衝撃がお腹に響く。

 魔女はまるで脱皮するように、口から新しい体を出して追いかけてくるものの、ほむらが脱皮と同時に着弾するように戦車砲による射撃を繰り返した結果、魔女は耐え切れず爆発四散した。

「いい魔女は死んだ魔女だけね」

 ほむらは小さく呟くと、恥ずかしそうに視線を泳がせる。

「ねえ、ほむら」

「何かしら?」

 あたしに視線を向けるほむら。

「いい加減、あたしの事もさやかって、名前で呼んでくれないかな?」

 沈黙するほむらににこりと笑いかけて続ける。

「あたし達、友達だよね?」

 ほむらはハッチの奥に頭を引っ込めて「分かったわ、さやか」と消え入りそうな声で返事をした。











あとがき

 この10年で、ほぼ毎年総合火力演習に応募してるけど、まだ1度し当たったことがない罠。
 そして、今年は応募しようと思い、応募要領を確認した前日が応募締め切りだった罠。
 観艦式はけっこー当たるのになぁ……(過去3回で2回当選)

 90式の発砲時の、地震かと思うほどの衝撃は忘れられない。
 90式が発砲した時の会場中からあがったあの興奮の声……。

 よりによって応募を忘れるなんて無念すぎる。

 平成22年度総火演のDVDには10式はイベントでの走行映像のみだったけど、今年の総火演では10式も発砲するのだろうか。
 もし、そうなら生で10式の射撃が見れるでろう、チケット当たった人達が羨ましいぜ。



p.s.

 シャルロッテ戦が終われば、ほむまどイチャイチャに戻ると言ったわけですが、さや×恭介であふたーやってからになります。

 ず~れ好きのみなさん、次々回までお待ちください。



[27550] 第21話あふたー(仮)
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/07/25 23:06
第21話あふたー(仮)差し替え



 今回は、本編を先に勧めるため、その他板のみでの投稿となります。
(今月中に杏子を出したかった)
 えろシーンを追加したバージョンをXXX板に投稿するのは8月を予定しています。


 感想板でNG判定でたので、後半差し替えました。




/ 1 side 上条恭介



 ベッドで横になり、開けた窓から病室に流れ込む風を感じながら、他の病室の患者が聞いているであろう、漏れ聞こえる微かな音量のラジオを耳にしながらさやかを待つ。

『では、次のコーナ~! 口説き文句はじゅ、う、ご、も、じ。
 群馬県見滝原町の魔弾の射手さんからのお便りです。
 これは同じ学校に通う、み―――じゃなかった、S・Mさんにあてたものですね。危なく本名を読んでしまうところでした』

 へ~、同じところに住んでる人のが読まれてるんだ……。

『1通のメールで2つ投稿しているのですが、今回は2つとも読んじゃいます。決して、今週は投稿が少ないとか、そういうんじゃありませんよ? 本当だよ?
 まず、1つめ。

 愛があるならば本妻でなくていい

 続いて2つめ。

 どんなプレイにも耐えてみせるわ

 いや~、特殊な趣味を持つ相手に惚れてしまったのに、それに合わせようと努力するいじらしさ!
 既に恋人がいるのに、2号でいいと言える、本気で愛しているからこそ言える言葉ですよね。
 しかも、このリスナーは女の子で、想い人も女の子なんです!
 女の子同士でこの口説き文句が出てくるって、すごく興奮しますよね!』

 投稿者の想い人のイニシャルといい、心当たりがあって困る。

 あのメス犬の宣戦布告なのだろうか?





 コツン、コツン、コツン。

「やっほー、来ちゃった」

 ノックして窓から入ってくるさやか。

「さすがは魔法少女だね」

「うん、魔法少女ならどんな高層階に住む相手でも夜這いできそう」

 頭を掻いて笑うさやか。

 ベッドに腰掛けるさやかはボンテージ衣装に包まれていて、僕の鼓動は否が応にも高まると同時に、胸を刺すような痛みも抱く。

 何故ならば、さやかは荒縄で拘束したキュゥべえをぶら下げていたから……。

「さやか、どうしても聞いておきたい事があるんだ」

「んー? 何々? さやかちゃんがなんでも答えてあげる」

 さやかはからからと笑いながら、カウボーイのようにキュゥべえを振り回す。キュゥべえはボールギャグを咥えさせられていて、病室にキュゥべえの声にならない悲鳴と涎が飛び散る。

「もしかして、僕はキュゥべえにさやかを寝取られたのかい?」

 それはそれで興奮するけど、動物に寝取られるのはさすがに……。

「は? あたしがキュゥべえと? そんな事あるわけないじゃん」

 さやかは怒って荒縄を手放すと、僕に指をつきつける。

 天井にぶつかったキュゥべえがちょうど胸の前に落ちてきたのでキャッチする。

「あたし、マミさんと違って獣姦の趣味なんてないんだけど!」

「あのメス犬はそんな趣味まであるのかい? 本当に文字通りのメス犬だね」

 さやかの言葉に胸を撫で下ろして、キュゥべえのボールギャグを外す。

 この動物があのメス犬と交尾するシーンを想像して半勃ちになってしまう。

「ありがとう、上条恭介!」

 キュゥべえに問い掛ける。

「さやかはどうしちゃったんだい?」

「君との初体験に怖気付いて、景気付けにア●コールを摂取してしまったんだ」

「そんなに無理してまでする事ないのに……」

 酔ったさやかの相手をしながら、ア●コールでハイになっただけでこれなのに、酔って正体を無くした相手をホテルに連れ込む行為はものすごい苦労しそうだと予想する。












/ 2 side 上条恭介




【検閲削除】





「さやかちゃんだと思った?
 残念! キュゥべえでした!」





【検閲削除】













あとがき

 なんやかんやで執筆時間があまりとれなくて、中途半端なところまでしか書けなかったので、XXX版は8月に持ち越しです。

 とりあえず、今月中に杏子を出せそうな感じ。



P.S.

 JA勝沼の桃がすごい!
 今週は勝沼産ばかり買っていたのですっが、全部甘くて美味しいだけでなく、傷んでるものもなく、1つもハズレが無かった!

 勝沼の農家ぐっじょぶ!

 福岡産はあたりよりもハズレの方が多かっただけに、JA勝沼が際立ってる!



[27550] 第22話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/07/31 23:21
第22話



/ 1 side 志筑仁美



 妙に上機嫌なさやかさんといつもの待ち合わせ場所で二人を待つ。

 さやかさんは昨日も上条君のお見舞いをしたそうですけど、中沢君に協力してもらっている件で、上条君はさやかさんを同性愛者だと思っているはずなので、さやかさんと上条君がくっつくのは考え難い。

 さやかさんに何があったあのでしょう……。



「お~い!」

 元気よく手を振るさやかさんの視線の先を追うと、目に映るのは仲睦まじいまどかさんとほむらさん。心なしかほむらさんはげっそりしているようですけど、何があったのでしょうか。

「まどか、ほむら! 遅いぞー!」

 さやかさんが急かしても、二人も歩く速度は変わりません。

 まどかさんはほむらさんの腕に抱きついて、肩に頭を預けています。
 朝から密着されているほむらさんも、まんざらでもない様子で、口元が緩んでいます。クールビューティーなイメージが台無しです。

 そんな幸せそうな二人の姿を自分と上条君に重ねて夢想する。



「まったく、まどかとほむらは今日もらぶらぶだな~」

 さやかさんは楽しそうに、ふざけてほむらさんの空いている腕に抱きつく。

「あらあら、さやかさん。お邪魔虫になってはいけませんよ」

 私と上条君との間でも、お邪魔虫にならないでほしいものです。




「ねえ、ほむらちゃん? どうしてさやかちゃんに抱きつかれてるの?」

 底冷えするような声で静かに問い掛けるまどかさん。

「さやか、ふざけてないで離れなさい」

 ほむらさんがさやかさんを振りほどこうとすると、さやかさんは余計にぎゅ~っと強く抱きついているようです。

「え~? 昨日は二人で手と手をとりあってがんばった仲じゃ~ん」

 上機嫌なさやかさんと、焦るほむらさん。そして、まどかさんを含めた三角関係を眺め、さやかさんが私と上条君の障害になるような事は無さそうで安堵する。

「ねえ、どうしてさやかちゃんを呼び捨てにするのかな?」

「そりゃー、あたしとほむらが共に死線をくぐり抜けた戦友だからさ」

 意味が分かりませんが、ゲームでしょうか?

「本当にそれだけ?」

 声色がいつものまどかさんに戻る。

「ええ、本当よ。私はまどか一筋だもの。浮気なんてあり得ないわ」」

 ふざけて悪いことをしたと思ったのか、ほむらさんの腕を離すさやかさん。

「あの言葉、もう一度言って欲しいな……」

 ほむらさんは抱きつくまどかさんの顎に指を添える。

 間近で見つめ合う二人はとても良い雰囲気で……。

「まどか、大好きよ」

「えー?」

 何の不満があるのか、口を尖らせるまどかさん。

「だって、さやかと志筑仁美も居るのに……」

「昨日、往来でキスしてたのに今更何言ってんの?」

 空気を読まないさやかさん。

 じっと見つめるまどかさんに根負けしたのか、ほむらさんは小さく吐息して口を開く。

「まどか、愛してる」

「私もほむらを愛してる」

 まどかさんが背伸して、二人は唇を重ねた。












/ 2 side 志筑仁美



 数分も唇を重ねていたまどかさんとほむらさんは、登校する生徒たちの注目の的でした。

 舌を絡ませる二人を写メで撮る方もいましたが、二人の世界に入っていて気にならなかったようです。

 ようやく帰ってきた二人をひっぱって歩き始めると、すぐにいつも通り雑談に花を咲かせるはずでした。

「ねえ、ほむら」

「何かしら?」

「首筋とか、スカートの裾のあたりの太腿とかさ、痣が見えてるけど、気のせいかな?」

 言われてみると、今日のほむらさんにはあちこちに痣があります。
 さやかさんに指摘されたまどかさんは、ほのかに赤面しています。

「気のせいじゃないわ。昨日、私がさやかを呼び捨てにしたのを聞いたまどかがね」

 ほむらさんがまどかさんを見ると、ほむらさんに抱きついてずっとほむらさんの顔を見つめ続けていたまどかさんが引き継ぐ。

「ほむらちゃんは私のものだって、ほむらちゃんにしっかり自覚して欲しかったから、つい……。
 それに、このままじゃさやかちゃんにほむらちゃんを奪われるんじゃないかって思ったら、ついつい燃え上がっちゃって……」

「昨日はタチ禁止にされて、まどかに十回以上もイカされたわ……」

「だって、私で気持ちよく喘ぐほむらちゃんって可愛いし、シーツを握りしめて刺激に耐える表情なんてゾクゾクするんだもん」

 まどかさんは、蕩けるような表情でほむらさんの腕を引っ張る。
 そして、引っ張られて少ししゃがんだほむらさんの首筋をぺろりと舐める。

「ね?」
 ほむらさんが一瞬魅せた表情は、上条君一筋の私でもドキッとしてしまいました。

「おかげで全身痣だらけなのに、今日はまどかにストッキングを禁止されて……」

「ほむらちゃんの生足って貴重だから注目を浴びるし、みんなにほむらちゃんは私のものだって自慢できるかなって思ったんだ」

 えへへ、と笑いながらほむらさんの肩に頭を擦り付けるまどかさん。

 まどかさんはほむらさんの呼び方が『ちゃん』付と呼び捨てが混在していますけど、どういう基準なんでしょうか。


「ほむらは愛されてるなー、このこのお~!」

肘でほむらさんを突付くさやかさん。

「実は、あたしにもあるんだ。キスマーク」

 言いながら、詰襟のホックを外すさやかさん。

 そういえば、どうして見滝原中は女子の制服も詰襟なのでしょうか。

 さやかさんの首筋にも、ほむらさんのソレと同じような痣があった。

「昨日、さやかちゃんは少女から女になったのだ!」

「やったね、さやかちゃん!」

「おめでとう。そういえば、昨日はあなたたちも外でプレイしてたものね」」

 素直に祝福するまどかさんとほむらさん。

「一足先に処女を捨てた私に質問があればどんどん訊いてくれたまえ~」

「おめでとうございます。それで、お相手はどなたですの?」

 何故かすぐに答えずに、さやかさんは携帯電話をいじりだす。

「じゃーん! もちろん恭介だよ!」

 早速、画面を覗き込むまどかさんとほむらさん。

 遅れて、画面を見れば、そこには上条君のハメ撮り画像が映しだされていました。

「こ、この写真じゃ上条くんのお相手の顔が分かりませんわ」

 信じたくないので吐き出した言葉も、次々と表示される画像で否定される。

 様々な体位で体を重ねる上条君とさやかさん。

「そんな! さやかさんが上条君と青姦だなんて!」

 写メはどれも夜の病室でしたが、さきほどのほむらさんの話からすると、お二人は外でもシていた事に。

 どうしてこんな事に……。

 いえ、でもまだ負けたと決まったわけじゃありませんわ!

 ドラマでは略奪愛なんてものもありましたね……。










あとがき

 ほむまど禁断症状が出ていた方、お待たせしました。

 そして、杏子を待っていた方、そのシーンまで間に合いませんでした。
 次回は確実に出てくるので、もうしばらくお待ちください。



p.s.

 とうとうねんどろいどを買ってしまった。
 まどかでねんどろいどデビュー。
 ameblo.jp/akira-119/entry-10971412549.html
 東方のねんどろいどでさえ、買わずにいたのに……。
 そして、一つ買ってしまった今、東方ものも欲しくなってきた罠。

 figmaほむらは2個買うべきか迷っていたり。
 普通のとめがほむ両方飾りたい。



[27550] 第23話
Name: あきら◆72790bb6 ID:1ccd4a68
Date: 2011/08/08 22:58
第23話



/ 1 side 美樹さやか



 授業中、ずっと背中に視線を感じていた。

 魔法少女になってから、なんとなく感覚が鋭くなったというか……、所謂『達人』のように気配が分かるようになった。きっとこれも魔法少女が魔女と戦う為の基本スペックに違いない。


 仁美のヤツ、なんであたしをじっと見つめてるんだろ?

 もしかして、一足先にオトナの女になったあたしに嫉妬してるのか~?

 でも、振り向くとすぐにホワイトボードをノートに写しはじめるんだけど、手を動かし始める前の内容が書かれてないから、あたしを見てたのはバレバレなんだぞ。




 あれ?



 もしかして……。



 仁美のヤツ、あたしが恭介と恋人になったのを知って自分の気持ちに気がついたんじゃ?



 え―――?



 仁美は、あたしが好き……?



 いやいや! そんなはずない!



 いや、でも……、授業中ずっとあたしを見つめてるし。振り向くと見つめていたことを誤魔化すし……。

 今日あたしが恭介と初体験してオトナの女になったのを知ってから態度おかしいし……。

 やっぱり、あたしに気があるとしか思えない。

 恭介だけでなく、マミさんや仁美まで虜にしちゃうなんて、あたしって罪な女。

 それに、最前列の席の中沢君まで授業中にチラチラとあたしを見てるし、今のあたしはモテ期に違いない!




「ほむらちゃん、くすぐったいよぉ~」

 まどかは授業中も自席でほむらとイチャつくのが日常の光景になってしまった。

「ひゃうっ……」

 体中にキスマークをつけられたお返しをしているのか、ほむらは膝の上に座るまどかを抱きしめながら、まどかの耳たぶを甘噛みしている。

 時々首筋に舌を這わせたかと思えば、まどかの首筋に音をたてて口付けしてキスマークを作る発情カップルのせいで、周囲の生徒は授業に身が入らない。

 そんなバカップルを無視して授業を進める早乙女先生はまどかとほむらに何か弱みでも握られているのだろうか?

 今はまだ早乙女先生の授業だけだけど、いずれ他の授業でもイチャついてそうで怖い。

 こんなバカップルが間近にいるにも関わらず、あたしを見つめ続けるって事は、仁美があたしを好きって説も間違いじゃないかもしれない。




「はい、今日の授業はここまで!」


 日直の号令で早乙女先生に礼をする。

 着席し、一息ついていると慌ただしく飛び込んでくるマミさん。

「さやかさん! 放置プレイはわりといつもの事だけど、あんな格好で放置するなんてひどいじゃない!」

「ちょ、マミさんいきなりなんて事を言うんだよ!」



 マミさんの発言で静寂に包まれた教室が一気に湧き上がる。

「「「「「「「「「「うお―――、いったいどんな格好で放置プレイしたんだ―――っ!?」」」」」」」」」」

「巴先輩、この間はキズモノにして放置プレイしたから責任取れって迫ってたよね?」

「やはり、美樹と先輩はガチレズのうえ、女王様と奴隷な関係に違いない!」

「俺も美樹ハーレムに参加すれば虐めてもらえるのかな?」

「あんた男だからダメじゃない?」



「俺、放置プレイ中の巴先輩見たよ」

 好き勝手言っていたクラスの連中が中沢君に注目する。

「俺さ、昨日も上条のお見舞いに行ったんだけど……」

「お前、毎日上条に会ってるな。まさか、上条を狙ってるのか?」

「そんなわけあるか!」

 長い前髪を振り乱して、ボディランゲージ交じりに否定する中沢君は、とんでもない事を口にした。

「志筑さんに頼まれたから上条に美樹さんのモテっぷりを教えてるんだよ」

 仁美を睨むと、仁美は手の甲を口元にあて、笑いながら目を逸らす。

 つまり、仁美は中沢君を使って、恭介があたしに手を出さないように仕向けようとしてたって事?

「で、どんな格好だったんだよ!」

 中沢君は携帯を取り出し、みんなに見せる。昨日、あたしの鞭を受けて気絶した状態のマミさんが壁紙になっていた。

「昨夜、早速オカズにして3発も抜いちゃったよ」

「うわ、手足は着せて体はリボンで亀甲縛りって……、美樹ってマニアックだな」

「胸の何かで打たれたような痕が痛々しいな」

「ブーツにハイニーソを残すとは、美樹は男心を分かってる!」

「この状態で放置プレイとか、美樹って意外と鬼畜だな……」

 好き勝手言うな!




「あー、手が滑った!」

 仁美の机の上に乗って、魔力で創りだした鞭を振り、中沢君の携帯を絡め取る。

「「「「「「「「「「美樹女王様の鞭捌きすげえ―――!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「きゃ―――、美樹さん素敵!」」」」」」」」」」

「鞭を持ち歩くとか、巴先輩と何時でも何処でもプレイする為に違いない!」

「このクラスのバカップルがどんどん増殖していく……」

 盛り上がる外野に、しまったと思いつつ、中澤くんの携帯からMSDを没収し、本体の画像データを削除する。

「さやかさん、私の為に……」

 なんか感激して、あたしの足にしがみつくマミさんがウザい。





 騒がしかった教室も落ち着きを取り戻した。

 何故か自主的に私の椅子になろうとするマミさんを3年の教室に帰し、仁美と会話する。

「ね、仁美。明日の放課後、空いてる?」

「どのようなご用件ですか?」

「恭介の手が治ったからさ、恭介本人に内緒のサプライズ演奏会するんだ」

 数秒目を閉じて考えていた仁美は、再び目を開けると俯いたまま答えを口にした。

「必ず参加させて頂きますわ」












/ 2 side 美樹さやか



「それは!」

 恭介が驚きの声をあげる。

「お前から処分しろと言われていたが、どうしても捨てられなかったんだ」

 恭介が父親。お義父さんって言った方がいいかな?
 とにかく、恭介がバイオリンを受け取る。

 事故以来、久しぶりに手にとったバイオリンを構えると、恭介の口元に笑みが浮かぶ。

 本当に嬉しそうで、サプライズ演奏会を企画して良かったと思う。

「さあ、試してごらん」

 恭介の両親に、お世話になった医師と看護師。そして、あたし、マミさん、仁美。

 恭介の復活を祝う演奏会の出席者は静かに、恭介を注視して待つ。





 夕暮れの屋上に、恭介の奏でる音色が響く。

 曲目はアヴェ・マリア。

 落ち着いた曲調だけど、何故か心が高ぶる。

 恭介が弾いてるからかな?

 あ、今、この瞬間ってマジックアワーだ。

 えっと、映画の中ではどう表現してたっけ?

 夕暮れ時のほんの一瞬。

 太陽が沈んで、完全に暗くなる前の、昼と夜の間。

 世界が一番美しく見える瞬間。

 恭介が淡い幻想的な光に包まれる。

 恭介が神々しく見える。

 聴きなれた曲なのに、うっすらと涙が溢れてきて視界が歪む。

 徐々に夜の帳が落ちる空と、夕暮れの温かな光を残す空。言葉で表現し難い、とても綺麗なグラデーションを描く空を流れる雲を眺めながら、恭介の演奏を聴く。

 ああ、あたしは本当に恭介の奏でる音色が好きなんだ……。





「ふぅ……」

 曲の余韻に浸る中、恭介の満足気な吐息が漏れる。





「さやか、どうだった?」

「うまく言葉にできないくらい最高だったよ!」

 恭介はバイオリンをお義父さんに預けると、あたしを抱きしめる。

 背後で身を強ばらせる気配が2つ。マミさんと仁美かな?

「さやか、ご褒美が欲しいな……」

 あたしの耳元で囁く恭介の姿に、お義父さんとお義母さんが驚きの表情を浮かべている。

「え? ここで?」

「僕達の関係をこの場でみんなに知って欲しいんだ」

 耳元で熱い吐息交じりに嬉しい言葉を言われて、あたしは舞い上がってしまった。

 ここで両親公認に!

 さらに、あたしに気があるマミさんと仁美にも、あたしは恭介とラヴラヴで、マミさんや仁美の入る隙間はないって!

「どんなご褒美が欲しいの?」

「女王様なさやかに、指を……、踏みにじって欲しい」

 恭介の顔が赤いのは、ご褒美への期待か、それともマジックアワーの幻想的な光のせいか……。

「おっけー! ちょっと待っててね!」












/ 3 side 佐倉杏子



 展望台の双眼鏡を魔法で強化して、遙か彼方の病院の屋上を監視する。

 見滝原町を縄張りとする巴マミの他に、魔法少女と推測される年代の少女は2人。青と緑。どっちだ?

 演奏していた男に抱きつかれた青い方が、エレベーターや階段のある入口の中に入り、変身して戻ってきた。

「ふーん、あれがこの町の新しい魔法少女ね」

 何をするつもりなんだ?

「キョーコ、あの魔法少女はどうしてみんなの前で変身したのかな?」

「さぁ?」

 それにしても、女王様たー、変わった趣味してんな。

「ちょ、何してんだアイツ!?」

 おいおい、あの魔法少女、一般人の前でさっきまで演奏してた男の手を踏み始めたぞ?

 男の方もなんで恍惚とした表情を浮かべてんだ?

「ゆま、見るな!」

 ゆまを隣の双眼鏡から引き剥がす。

「えー? ゆま子供じゃないよ」

 不満たらたらのゆま。

「ゆまにはまだ早い。というか、ゆまが特殊性癖に目覚めたらアタシは泣くぞ」

「ゆまはキョーコが望むなら、いいんだよ?」

 どこで覚えたのか、妙な事を言ってあたしに抱きつくゆま。

「で、そろそろあたし達を呼んだ理由を教えてくれないかなー?」

 キュゥべえに問いかけて本題を促す。

「あの魔法少女は美樹さやか。初めての戦闘で、あのマミを一撃で戦闘不能にし、僕すらも一撃で倒してみせた極めつけのイレギュラーだ」

「はぁ? どういう事さ。どうして魔法少女同士で戦ってるのさ?」

「それだけじゃない! さやかは……、さやかは、僕の尊厳を踏み躙ったんだ!」

「キュゥべえ、何言ってんのさ?」

「さやかは、演奏していた男、恭介を使って僕の後ろの純潔を奪ったんだ!」

「おいキュゥべえ、ゆまの前で変な事言うんじゃねえ!」

 ゆまの耳を塞ぎながら怒鳴る。

「そして、さやかは僕を股間に縛り付けて、リビングディルドーなんて言って笑いながら、僕に恭介のアナルを掘らせたんだ!」

「アイツ、とんでもない変態だな。女王様で腐女子かよ。しかも男とオスを現実に実践って、誰得だよ……」

「どうだい、さやかの危険性が分かったかい?」

 荒い呼吸で肩を上下させながら言うキュゥべえ。

「ああ、アイツをゆまに近づけちゃいけないって事がよ~く分かった」

「そうそう、あと最近見滝原町を中心に近郊の町で魔法少女を殺して回る魔法少女が出没してるから気をつけてね。」

 魔法少女殺し?

「ソイツ、何モンだ?」

「それは分からない。でも、被害者の一人が死に際に証言したんだ『黒い魔法少女』ってね」

 黒い魔法少女だと?

 今見た女王様は黒かったよな?

 キュゥべえはなんて言った?

 マミを一撃で戦闘不能にした?

 あの、さやかとかいうふざけた女王様はマミを下僕にしたのか?

「杏子はベテランだし、ゆまも強力な素質を持った期待の新人だ。二人には期待してるよ」











あとがき

 1/8スケールまどかは明日予約開始か……。
 ミカタンブログの画像見て、まどかでこの出来となれば、今からほむほむが待ち遠しいw

 まどかってこんなに絶壁だったっけ?
 ふと、疑問に思って10話を見直す。
 オクタヴィアの車輪を避けるまどかはこれ以上ないくらい絶壁だった。


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