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[27540] 「習作」 亡霊の軌跡 (ACFA)
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2011/05/04 00:23
 この作品はACfAのSSです。 
今回が初めての投稿で、初心者なので分からない事も多々あります。
この部分はおかしいこう書いた方が良い、誤字脱字、等ありましたら指摘をお願いします。

 この作品では作者がアリーヤが好きなのでアリーヤは全体的に若干強化されています。 主人公はストレイドのリンクスでけっこう強めになる予定です。
また幾つかオリジナルな設定やパーツが使われる予定ですが、よろしくお願いします。
 この作品では基本的に武器の性能等はVer1.40が基準になっています。しかし現実的にネクストの動きはVer1.15が最も近いということから一部はVer1.15の性能となっています。
 例 アサルトアーマーの威力、その後のPA回復時間、ジェネレーターの重量、脚部の積載量、ACの機動 等です。ご了承ください。
 初めての作品ですのでおかしいところ等あると思いますが、いろいろ指摘していただければと思います。よろしくお願いします。



[27540] 序章 1話 
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2012/08/02 11:58


 国家解体戦争、リンクス戦争。
何回にも渡って繰り返される企業間での経済戦争。
その度に広がる深刻な環境汚染。
それだけが原因ではないだろう、他にも幾つもの要因が挙がるだろう。

 ただそれらの結果として、人類は地上を棄てた。

 人類の新たなる生活の場、人類の箱舟、居住型の超巨大航空機「クレイドル」
高度7000m付近の空を半永久的に飛行するそれらこそが、既に人類の大半にとっての新しい地上と言えた。
人類は自ら汚染し尽した地上を棄て、空に新たな安息の空間を得る事ができた。

 だが、その一方で地上では、経済戦争の舞台として、幾多の紛争の舞台として戦火が止むことは無かった。
激化する戦争と共に深刻化するコジマ汚染。それを全く考えずに続けられる戦争、その影で



      亡霊は動き出す。



 旧レイレナード本社施設-エグザウィル-

 かつての六大企業の一角にて新進気鋭の新興企業であったレイレナード。
リンクス戦争において所属していたリンクスの大半をアナトリアの傭兵によって倒され、また本社施設も破壊されて
壊滅したメガコングロマリット。かつて権勢を誇った白亜の城は崩れ落ち、高濃度のコジマ汚染によって、見る影も
無くなっていた。
 しかしそのエグザウィルの地表から遥かに下の地下部分に密かに動く人影があった。
エグザウィルは周りを湖に囲まれていた。そのため本社に出入りするために航空での移動手段と地下に移動するため
の通路等の空間があった。それらはリンクス戦争の勝者であり、近接していたGAの管理下に置かれていた。
 だがこの人影はそうしたGA等の陣営に属する人間ではなかった。その影はGAの捜索された区域よりもさらに下の区域
にいた。この区域は徹底的に情報管理され、リンクス戦争時のレイレナードの人間ですら知る者は少なかった。
その区域をこの人物は歩いている。ゆっくりと、どこか懐かしむように。

 
 そしてある場所に辿りついた。
パスワードを打ち込み、その部屋に入る。

 そしてそこに”それ”はあった。


 鋭角的なフォルム、漆黒の配色をされた”それ”が。


03-AALIYAH


 レイレナード社製ACネクスト03-AALIYAH、近接戦闘に優れた傑作機。
そして、ここにあるこの機体は通常のものよりも高い性能を誇り、いくつかの新しい機能ももっている。

 人影はそのACに近づき、そして触れて言った。


 「ついにここまで来た。この段階、この場所まで。」


 なおも言い続ける、噛みしめるように、万感の思いをこめて。


 「ここから、すべてが始まる。ここから、すべてを変える。」

 
 そして、目を閉じ、思い出しながら、その”青年”は言う。静かに、厳かに、宣言するかのように


 「父さん、母さん、二人のいや、皆の願いを必ず叶える・・・」

 
 青年は振り返り、元来た道を戻りだす。
これからいくつものやらねばならないことがある。
まず待ってくれている”師匠”に連絡し、次にこのネクストを運び出す。しかもGA等の企業に気づかれずに、だ。
大変なことだろうに、青年はどこか楽しそうに口を歪ませ、歩いていく。

 そして部屋から出るその時に振り返り、言った。


「”世界は私たちが変える・・・”」




[27540] 序章 2話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2012/08/02 11:58


 「随分とご機嫌じゃないか。」


 彼女は唐突にそう言った。自分では表情に出したつもりはなかったが、彼女には見抜かれていたらしい。
何年も一緒にいたのだからそれも当然か、そんなことを考えていると、


 「だいたい何を考えているか見当がつくが、そんな風にしていたら誰でも分かるだろうな。」


 そう言われ、顔に手をあててみると、気が付かぬ間に口角がかなり吊り上っていた。
なるほど、こんな表情をしてたら分からないはずがないかと思い、苦笑する。
つい先ほどあのAALIYAHを密かにガレージに運びこみ、一息ついたところだった。今のところ、どこかの企業に気づかれた様子はない。それに安心し若干気が緩んでいたか。
それではいけないと気を引き締めようと自戒していると


 「そうだ、今からがお前の始まりだというのに、気を緩ませすぎだ。馬鹿者。」


 本当に、彼女は他者の心が読めるんじゃないか、と愚にもつかぬこと思い、苦笑しながら彼女に目を向ける。

長く艶やかな黒いストレートの髪、涼しげで強い意志を感じる黒い瞳、メリハリの効いた硬質的な美貌の持ち主、旧レオーネメカニカのオリジナルNo16霞スミカ
現在はセレン・ヘイズと名乗っているが、かつての国家解体戦争で戦果を挙げレオーネの実質的な最高戦力と目された彼女は一線を引いた今でさえも常人とは思えぬ雰囲気を発していた。


 「ああ、すまない。どうもやっと始まるからといって、気が緩んでいたみたいだな。」


 「まったくだ。せめて気を緩ますのは最初のミッションを終わらせて、リンクスとして登録が完了してからにしろ。まだ準備さえも終わっていないのだからな。」


 そう言うと彼女は近づいていくつかの書類を渡してきた。
黙って目を通す。それは彼女に頼んでおいた幾つかの兵装についてだった。彼女はかつてリンクスだった故に企業に顔が効く。さすがに敵対していたGAグループとはそうでもないがそれ
以外の二つのグループに関してはなかなかのものだ。そのおかげで調達できたものもある。


 「今回頼まれていた背部武器だが、やはりまだ無理だな。私はインテリオル系列には顔が効くが、それでもアルドラとはそう関係が深いわけでもない。
  それに今後のことを考えると、資金が厳しい。買うのならば、いくつかのミッションをこなしてからの方が無難だろう。しばらくはTRESORを使うしかないな。」


 「そうか。そうなると現状でアセンブリは右手が04-MARVE、左手は047ANNR、右背にMP-O203、左背にTRESOR、そして肩に051ANAMといったところか。
独立傭兵とはいえ見事にばらばらになったな。アルドラのグレネードが手に入ってもばらばらであることには違いないが。」


 「それで大丈夫だろう。それら以外にもいくつか武器はある。ミッションの内容に応じてアセンを変えてみるのもいいだろう。おまえは私とのシミュレータでの対戦や訓練でノーマル
  等はなんとかなるだろう。だが今後はAFも相手にするんだ。油断するなよ。」


 淡々と彼女は言う。珍しいことだ、彼女がAFに対してある程度評価するとは。かつてリンクスであった彼女がAFに大して脅威を感じるとは思わなかったが。
意外と心配してくれているのかと思い、少し微笑ながら訊いてみる。


 「以外だな。貴女がAFを評価するとは、普段鉄屑とか言っているだろうに。」


 そう言ってみるが彼女は微塵も動揺せず、フンッと鼻で嗤いながら言った。


 「私はあれを過小評価するつもりはないさ。各企業のフラグシップのAFは厄介だろうしな。だがおまえは仮にも私が育てたリンクスだ、フラグシップのAFは兎も角普及型のAF風情にや
  すやすとやられるように鍛えた覚えはないぞ。もしやられるようなら、またたっぷりと鍛え直さねばならんだろうな。」


 クックックと嗤いながら言う彼女を見て背筋に冷や汗が噴き出る。彼女はやると言ったらなにがあってもやる人間だ。この話題はマズイ。どんなことになるか考えたくもない、どんな
事をやるつもりなのか聞きたくもない。
 急いで話題も変える。これ以上この話題は危険だ、そんなことを考えながら。


 「ところで何をしにここまで来たんだ?この書類のことだけなら貴女は俺の部屋まで来ないだろうに」


 そう言うと彼女は嗤うのを止めて


 「カラードから連絡があった。初のミッションは一週間後。ラインアーク守備部隊の排除だそうだ。」


 と言った。この言葉で一気に冷静になった。


 「ようやく決まったか。また最近ありがちなミッションだな。例のごとくホワイト・グリントの留守を狙って襲撃か。
  企業もよくこんな嫌がらせを続けるものだよな。」


 「確かにな。だが最初のミッションには丁度いいだろう。間違ってもこんなところで躓くなよ。」


 それだけ言って彼女は戻りだした。そして部屋をでる際に


 「ここからがお前の始まりだ。私に見せてみろ、お前の答えを。」


 と言って、部屋をでて行った。しばらくの間無音の静寂が続く。そして


 「ああ。遂げてみせるさ俺の答えを・・・」



[27540] 第1章 1話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2012/08/02 11:59


  <ミッション開始、ラインアーク守備部隊を排除する。>


  疾走。
 
  その言葉が言い終わると同時に爆発的な前方へのクイックブーストによって漆黒の機体-ストレイド-が亜音速まで一気に加速する。
 目標を確認。急造らしい脆そうな足場の上に複数のMT。

 『き、企業のネクストだと!?』

 『くそ!こんな時に限って!!』

 こちらに気付くなり複数の戦闘用MTが一斉に攻撃してきた。
 
  -遅いな。

  そんな感想すら抱いていた。
 亜音速まで加速したこちらの機体を追いきれていないのか、それともたんに腕が悪いのか敵の弾幕はこちらの機体どころかPAにすら掠りもしなかった。
 ストレイドは凄まじいスピードで移動し、一気にサイドへクイックブーストで移動。側面から無防備なMTを食らいつくす。

 旧レイレナード社製の傑作アサルトライフル-MARVE-から吐き出された弾丸たちが無防備なMTの装甲を容赦なく喰らい尽くし、破壊する。

 『っく! うわあぁぁぁぁぁっ!?』

 銃撃とMTの爆発によって足場が崩壊し、無傷だったMTまでも墜ちて行く。
 うまく脱出できれば生き残る事はできるかもしれない。もっともコジマ汚染された海で生き残れる可能性は低いだろうが。
 彼らの実力は知れた。どうやら思っていたよりも遥かに弱いらしい。

 -お前らはもう『敵』じゃない。撃たれるだけのただの『的』だ。

 『くそっ! 効いているのか!?』

 『プライマルアーマーだ! まずはプライマルアーマーを減衰させるんだッ!!』

  そして見た目以上に足場の耐久性も低いようだ。先ほど攻撃によって崩壊した足場のことを考えて、行動を開始する。
 移動し、足場の下から足場に向けて、両手のライフルで攻撃する。あっけなく足場は崩壊しまた再び無傷のMTが海へと堕ちていく。

 
 次に橋の上のまとまっているMTたちに攻撃をしかける。プラズマキャノンを展開する。
アクアビット製のプラズマキャノンから発射された白光が一体のMTを一瞬で蒸発させ、続くアサルトライフルの弾丸がMTを食らいつくす。


  <目標、残り約半数。>


そのまま移動するとトンネルの向こう側にMT部隊が展開しているのが見える。ロックオンできる距離ではないのか、撃ってはこない。
こちらもまだロックオンできる距離ではないが構わず右の散布型ミサイルを起動。角度を調整して一気に連射する。左右に広がる散布ミサイルは加速し、MTたちに直撃し破壊し尽した。


  <目標、残り僅かだ。>


  霞スミカの声が耳に心地良く響く。その声聞きながら長く伸びた橋のトンネルの向こうを見る。
 こちらに迫ってくるノーマルを睨む。GA製のノーマル部隊だ。躊躇いなく一気にクイックブーストで踏み込む。
 左手のライフルを撃ちながら、散布型ミサイルを連射し、さらにクイックブーストで踏み込み、ノーマルの頭上を越え背後に着地する。
 直後に両手の武器をプラズマキャノンとアサルトライフルに切り替え、クイックターンで旋回し、まだこちらに背を向けているノーマルたちに発砲する。
 いかにGA製の厚い装甲があっても、この至近距離からのアサルトライフルに耐えきれず相次いで爆発する。その上GAの兵器には鬼門のEN兵器で攻撃されるのだから一溜りもない。
 
 ノーマル部隊はあっさりと殲滅された。


  <全目標の排除を確認。ミッション完了だ。>

  
 思っていた以上にあっけない終わりに拍子抜けしていると


  <良くやったな、ほぼ完ぺきだ。とはいえあまり調子づくなよ、敵が弱すぎたのだからな。>


 -初のミッションなのだから、もう少しやさしく接してくれてもいいだろうに。
 苦笑しつつ、そんなことを考えながらも了解、と答える。AMSを戦闘モードから通常モードに戻し、回収ポイントまで移動し、海上都市を後にする。




 「初ミッションのご苦労。感想は?」

 「拍子抜けだったよ。貴女とのシミュレーションの方が万倍はきつかったな。」

 「拍子抜け、か。言うじゃないか。今回は相手が弱すぎただけだ、次からはこうはいかなくなるだろう。」

 「そう願うよ。スミカさん。弱いものいじめは好きじゃないんだ。」

 「ほぅ。今日は随分と強気じゃないか、まぁ、私の弟子なんだ。そのくらいのことが言える様でなくてはな。」


 帰りの輸送機の中、ストレイドのコックピットに座ったまま霞スミカと会話をしていた。
 しばらく話した後、会話は今日のミッションの内容へと移る。

 
 「スミカさん。今日のミッションはどうだったかな?」

 「ふむ、そうだな。被弾が0、ミッション時間もごく短い時間に抑えられている。これらはいいことだな。
  だが若干無駄撃ちがあったことと無駄なクイックブーストの使用が多いこと。これらが悪かった点だな。
  ストレイドは03-AALIYAHのフレームを使用していてEN消費が多い。クイックブーストを使いすぎていざという時に使えないなどという事になりかねんからな。」
 
 「なるほど。了解した、覚えておくよ。対ネクスト戦では致命傷になりかねないしな。
  後で戦闘ログを頼むよ。見て改良できる点をさがしておくよ。」

 「そうだな…さぁ、帰ろう。初陣の祝いに今晩は久しぶりに私が作るとしよう。奮発しようじゃないか」

 「それは楽しみだな。貴女の料理はとても美味しいからな。」



[27540] 第1章 2話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2012/08/02 11:58



 「さて、今後の方針を決めるとしようか」

  夕食を終え、くつろいでいると、彼女は唐突にそう言った。
 
 「今後の方針か、どのグループの依頼を主として取るか、ってことか?
  特に3つのうちのどれかを優先するつもりはないが、俺として最初は対AF戦がある依頼を優先的に取りたいな。今のうちに経験を積んでおきたい。
  対ネクスト戦もしておきたいが、そう都合よくくるとは思えないしな。スミカさんはどう思う?」

 「ふむ、おおまかにはそれでいいだろう。ただ若干問題になりそうなのはオーメルか。今、AALIYAHについて扱っているのはあそこだ。機嫌を損ねるとやりづらくなりそうだな。
  それに政治力も3つのグループの中では最も高い。オーメルの依頼を優先的に取っているといつの間にか政治的に囲い込まれてたっということにもなりかねん。
  そのあたりのさじ加減が面倒だろうな。まあ最近独立傭兵でちゃんと中立だといえるのも少ないだろうがな。
  お前はそうなりたいわけではないのだろう。そうならんようにバランスを考えて依頼を受けた方がいいだろうな。」

 「確かに。独立傭兵といっても実質的にはどこかのグループに属しているのと同義って奴のはいるな。そうはなりたくないしな。
  つまり今後は対AF戦の依頼を優先的に受け、あるのならば対ネクスト戦の依頼も受ける。そしてどこかのグループにのみ肩入れしずぎないように注意する。
  現状の方針はこんなところか。」

 「それでいいだろう。あとは情勢の変化や企業のお前への評価等を考えて行動すれば良いだろう。」


   会話が終わり彼女は片付けをする、と言って部屋から出て行った。
  初のミッションが終わったことで少しは余裕もでてきたので、しばらくの間一人で今後の事について考える。最近はこのミッションについてばかり考えていた。
  もっともその予想よりもかなり簡単だったが。
   まだまだ始まったばかりだ、やるべきことはいくらでもある。そう考え、先ほど彼女にもらった戦闘ログを見る。
  見てみると確かに無駄にクイックブーストを使った箇所が幾つかある。あれなら使う必要もなかっただろう。
  他に何か欠点はないか、確認。そして目を閉じ、頭の中でシミュレーションする。
  どう動くのが良いか、どの武器を使うのが良いか、クイックを使うタイミングはどうか。
  熟考していると彼女が戻ってきて言った。


 「相変わらずそれか。私とのシミュレーションが終わったときもいつもやっているな、お前は。
  少し止めろ。大切なことを決めるのを忘れていた。」


   そう言われ、目を開ける。大切なこと?何か忘れていただろうか?考えてみるが、思い当たるふしがない。


 「特に思い当たることがないが、何のことかな?」

 「お前のリンクス名のことだ。機体名は前に決めたストレイドでいいだろうが、そっちを決めてなかっただろう?
  まさか、本名をそのまま登録する訳にもいかないだろう?それとも以前使っていた偽名を使うか?」


   言われてようやく納得する。確かに決めなくてはまずい。
  しかしどうしようか多少悩む。本名を使うのは論外、しかし偽名を使うのも微妙だ。
  以前、偽名を名乗っていた時は、その名で呼ばれていてもそれを自分のことだと認識せず、スルーしてしまうことがあった。
  どうも自分が呼ばれていると思えず、反応できないのだ。
   しばし考え、それでも思い浮かばず彼女に尋ねる。


 「特にいい案が思い浮かばないな。本名を使うのはありえないし、以前の偽名を使うのも気が進まないな。
  貴女に何か考えはあるかな、スミカさん。」


   そう言うと、彼女は少し考えてから答えた。


 「そうだな・・お前の昔のあだ名を使うとかはどうだ?それならお前も自分のことだとすぐ認識し反応だろう。
  若干本名がばれそうになる危険もあるが、まあ大丈夫だろう。」


   なるほど、そういうのもありか。しばし考え、良いのが思いついた。


 「決めましたよ。スミカさん。」

 「ほう、存外早かったな。もう少しかかるかと思ったが。で、どんな名にしたんだ。」

 「”シュウ”と、スミカさんの案からとって幼少時に友人から呼ばれた名にしました、ほとんど本名だがね。」


  苦笑しながら答える。懐かしい過去を思い出す、自分にとって最も幸せだった過去を。


 「それに、もし何か名について尋ねられたら、すぐに返答できますしね。」

 「ほう、どんな風にだ?」

 「かつてのオリジナルNo1ベルリオーズの機体”シュープリス”からあやかって名前を決めたと言うさ。
  自分がランク1になってみせるっていう宣言だ、とね。」


   そう答えると彼女はどこか楽しそうに、傲慢に笑っていた。


 「クックック、それはなかなかいいな。気に入ったぞ。今後はそう呼ぶとしよう。
  それに、昔の弟子のウィンはランク3になっているんだから最低でも同程度になってもらわなくてはいけなかったんだ。丁度いいな。」


   その笑い方は彼女によく似合っていた。一瞬見惚れたが、すぐ常に戻り彼女に問う。


 「用件それでいいのかな?あと一つ聞きたいが、カラードの地上本部には何時行く予定かな?
  早めにランクマッチを行いたいんだが。」
  
 「ああ、そうだな。リンクス名も決まったことだし、さっそくカラードに登録するとしよう。その際にランクマッチの申請もしておく。」

 「頼む。できるだけ早く戦いたい。」


   そう話して彼女は部屋をでていった。
  一人になった部屋の中で目を閉じ再び戦闘のシミュレーションを再開する。先ほどよりも良い考えが思い浮かぶ。
  早く、早く、早く、早く戦いたいとそう思いながらシミュレーションをし続けた。
  その口角を吊り上げ、楽しそうに嗤いながら。
  



[27540] 第1章 3話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2012/08/02 11:59



  「さて。早速いくつか依頼がきたが、何処の依頼を受ける?」

  「へえ。なかなか早い対応だな。ちなみに内容は?」

  「GAはミミル軍港襲撃。インテリオルはレッドバレーの突破支援。オーメルはB7襲撃だな。私としてはGAの依頼を勧めるが。」

  「ふむ、取りあえず3つの詳細を確認してみてからでいいかな?」

  「ああ、分かった。」


  そして3つの企業から送られてきた依頼を確認し終えると彼女に告げた。


  「GAの依頼にするとしようか。弾薬費が向こう持ちの上に、戦わないだろうが新型のAFも見れるんだ。スミカさんの勧めた理由も分かる。今は資金が欲しいしな。
   先にGAの依頼を受けておくとしよう。インテリオルとオーメルは特にいいだろう。あの内容なら受ける価値は低い。GAの依頼を終えてからあればで受ければいいだろう。」

  「ああ。ではGAに依頼を承諾する、と伝えておく。」

  「頼む。俺はアセンの方を少し変更するとしようか、あそこのデータから見ると艦船等の数も相当なものだろう。ライフルや散布ミサイルで攻撃するのは効率が悪い。
   TRESORでは装弾数が足りないだろうから変更するか、それかブレードを使うか?」
   
  「その辺りはお前が考えておけ。手持ちの武器でどう戦うのか、考えるのもいいだろう。」


  確かにその通りだな、と返しながらアセンについて思考する。
 手の武器は片方をブレードに変えればいいだろう、もしくはプラズマライフル等を使うのも良いかもしれないあれなら艦船でも一撃で沈められるだろう。
 背中の武器をどうするか。できるならプラズマのように一撃で艦船を破壊できて、かつ広範囲にダメージを与えられるものが好ましい。
 だがそんな今自分の手元にあるのでそんな武器があったか、と考える。手元にあるほとんどの武器は旧レイレナード陣営で使われていたものだ。
 スミカの伝手でオーメル陣営の武器もいくつか手に入ったが、その中にはそのような武器はなかったはず。しばらくの間考え続けると、一つの武器を思いついた。
 使ってみたかったが、重量や安定等の理由ではずしていた武器。今回の依頼なら特に問題はないだろうと思い、決めた。
 そしてそのアセンを彼女に伝える。彼女も異論はないようでそれに決まった。
  




  水上を漆黒の影が疾走する。
 接近するミサイルを前方へのクイックブースターで回避、すかさず反撃して、敵巡洋艦を撃沈める。
 艦船に白光が奔り、榴弾の大爆発で、竜殺しの剣に断たれて、艦船は沈んでいく。
 オーバードブースト始動。一気に亜音速に到達し、その速度で軍港内に移動し、殲滅する。
 今回のストレイドの武装は右腕にブレード02-DRAGONSLAYER,左腕にプラズマライフルSAMSARA,そして右背にグレネードOGOTOとなっている。
 どれも一撃にて艦船を破壊できる程の威力をもつ強力な武装。それらを前に敵はあまりに脆かった。

  <この辺りは片付いたか。>

  <他に向かえ、時間は限られているぞ。>

 再びオーバードブースト始動させ、高速移動にて敵施設内へ侵入する。攻撃してくる防衛部隊をグレネードにて殲滅すると彼女から

  <敵アームズフォートを確認、ボーナス対象だ優先して撃破しろ>
  
 と告げられ、反応する。奥に巨大なAFを確認する。念のため残弾を確認する。プラズマライフル残弾12、グレネード残弾6。
 ブレードもあるし十分足りる、そう判断する。念のため見渡せば、補給艦を確認。補給艦へとグレネードで砲撃。大爆発を引き起こす。
 だがAFはいまだ健在。ブレードを展開し、切りかかる。竜殺しの名を持つ剣はAFの装甲を容易く焼き切り多大なダメージを与える。
 そしてダメ押しとばかりに、AFのブースター部にプラズマとグレネードで攻撃する。
 すると一気に爆発が起こり、外部装甲が弾け飛び、灼熱の炎が噴き出し、AFが幾つのも破片となって水面に堕ちる。

  <よし、敵アームズフォートは落ちたな。>
 
  その言葉を聞きさらに奥へと移動、補給船へ優先的にグレネードで攻撃し、幾つかの艦船を巻き込み撃沈させる。
 最後の1隻。砲撃をサイドクイックブーストで回避し、敵艦へ接近そのままブレードで切りかかり撃沈。

  <全目標の排除を確認、ミッション終了だ。素晴らしい戦果だ。感服したよ。>

 
  彼女には珍しい破格の褒め言葉を聞きながら、息を吐いた。
-彼女がこれほど褒めてくれるとは、明日は槍の雨でも降るのか?
 実際には死んでも口に出せないことを考えながらAMSの接続レベルを下げる。
 こんな程度で達成感や、嬉しさなんて欠片も感じない。まだまだ目指す場所は遠い。もっと強くなろう、とそう決意を新たにする。
 
 「任務終了。ストレイド、帰還する。」

  今の自分がするべきなのは経験を積み、実績を作ることだ。
 だからそのために耐える、かつてやぶれた企業に使われる怒りも憎しみも虚しさも全て。





  カラードのリンクスとなってから初のミッションをこなしてから数日の間、依頼は来なかった。
 インテリオルとオーメルは先の依頼を別のリンクスに依頼したようですでになくなっていた。
 仕方ないと諦め、シミュレーションに没頭する。
  シュウの持つシミュレーターはかなり高性能なものだ。そのあたりは霞スミカの伝手でーカラードにある物ほどではないがー良いものが手に入っていた。
 しかし、それ以上に価値があるのは中にあるデータだろう。旧レイレナードに所属していた5人のリンクスのデータ。独立傭兵がそうそう手に入れられるデータではないだろう。
 だがシュウは自身の伝手、旧レイレナードの伝手を使い、手に入れることができていた。
 これらのデータとの対戦を続けていた。勝率はベルリオーズとアンジェに対し約5割、オービエ、ザンニ、真改に対し約7割といったところだった。
 他と比べ高い質を誇る旧レイレナードのリンクスたちに対して悪くない勝率といえるだろう。しかし彼はそれに欠片も満足していなかった。
 
  -所詮はデータ、実際の彼らには到底及ばない。

 それがシュウの感想だ。自分が幼いころ目にした実戦の彼らの動きにはとても遠いものだと、そう思っている。本物ならばどうか。
  -ベルリオースならもっと行動を予測しづらく、なおかつ柔軟に合理的に無駄なく行動するだろう。
  -アンジェならこれほどブレードをマシンガンを回避することなどできないだろう。
  -オービエならもっと苛烈な容赦ない攻撃と突撃をしかけてくるだろう。
  -ザンニならより空中機動を混ぜ、上下移動をうまく使い射撃戦をするだろう。
  -真改ならより鋭く動き、これほど攻撃が当たることが無いだろう。
 
  そう考えつつもシミュレーションを止めることなく続ける。より強くなる為に。
 

 「ふむ、熱心なことだな。だがそろそろ5時間近くやっているだろう。一旦止めろ。」


 いつの間にかいたのか、霞スミカがやって来ていてそう言った。


 「まだやれるんだがね、俺のAMS適正がかなり高いことは知っているだろうに。この位なら問題ない。」

 「それは知っている。だが依頼が来ているからな。流石に疲れきって行けないというのは嫌だろう?」

 
  そう言われ納得する。機体の関係等で仕方なく、ならまだしもそんな理由で受けられないなど御免こうむる。


 「なるほど、確かにな。そんなのは御免だ。それでどこからの依頼かな?スミカさん。」
 
 「BFFからの依頼だ。決めるなら早くしろ。」

 
  そう言って、依頼のメールを見せてくる。確認すると、確かに時間に余裕は無さそうだ。
 VOBを慣れるのにも丁度いい、などと考える。


 「受けるとしよう。VOBを使うのは初めてだが、この位ならば大丈夫だろう。慣れるのにも丁度いいだろうしな。」

 「分かった。では了承の返事をしておく。お前は早く準備しておけよ。すぐにでるぞ。」

 
  了解。と返しすぐに行動する。初めてのVOBが不安要素だが、今後も使うことがあるだろう。今のうちになれないとな。そう思いながら、準備を進めた。
 



[27540] 第1章 4話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2012/08/02 12:00



  そうして幾つかの依頼をこなしていった。
   スフィア侵攻部隊の迎撃任務では、VOBを用いて、オーメルの部隊をブリーフィングどおりに後方から攻撃し、多数しとめる。
  VOBを切り離し着地する地点にAFランドクラブがいたが、プラズマキャノンを主砲を狙い一点集中して連発し撃破。予想外の初の対AF戦となったが、特に被害もなく終わる。
  その後はノーマルと撃ち漏らした航空機を撃破して任務終了となった。
   AFギガベース撃破で連続してVOBを使用したミッションとなった。予想をはるかに上回るギガベースの精密な砲撃をなんとか回避しながら移動。
  そのまま一気にギガベースの懐に飛び込み、装備してきたブレードで連続で切りかかり、その切断面にプラズマキャノンを打ち込み、撃破。
  補給船を沈めればボーナスであったが、特に何か仕掛けることなくスルーし、任務終了。
   リッチランド襲撃はランドクラブが情報と違い二機いたが、特に問題なかった。オーバードブーストで一気に接近しブレードの連続攻撃で撃破。もう一機も同様に撃破された。
  そうなれば後はMTとノーマルが多少いただけ、ライフルや散布ミサイルであっさりと殲滅させ、任務終了。



   ここまでの戦闘を振り返ってみればかなり良い結果といえる。対AF戦やVOBを使用した任務もここまでうまくこなす事ができている。
  被弾もほとんどなく、ブレードを多用しているから弾薬費もそう多くはない。ほとんど立ち止まる事無く、無駄な動きもなくなってきている。
  広い範囲での戦闘も、閉所での戦闘、水上での戦闘などいろいろな場所での戦闘を上手く立ち回れている。
 
  ―かなりやるじゃないか。
   霞スミカはそう思っていた。ここまでの戦果を考えれば当然とも言える。新人おリンクスにしては破格といって言いだろう。
  依頼がGAばかりであるのが、若干気にかかるところだが、そこまではどうにもならない。
  オーメルからの依頼も多少は取っておきたいところだが、最近はきていない。
   まあ、依頼が来ないならば別にいいか。と考えているスミカのところに依頼のメールが来た。
そのオーメルからの依頼だったが、内容を最後まで見て驚く。
    
  ―オーメルも使えるかどうか見定めにきたか。それもいいだろう。こちらも見せてもらうとしようか。
  そんなことを考え、クックックと笑いながら、部屋を後にした。



   旧チャイニーズ・上海海域の敵部隊の掃討。
  この日、スミカが勧めてきた依頼はそれだった。敵は最新の半砲台ノーマルと水上型AFギガベースがいる。依頼主は協働を望んでいる。
  別に必要だとも思わなかった。リンクスと協働すれば報酬の数割は持っていかれる。別に金を得るのが目的というわけではないが、修理費用までこちら持ちでは割にあうかどうか。
  この程度の敵ならば自分一人で十分こと足りる。ギガベースもこれだけ近づけているのなら以前ほど脅威でもないだろう。そう思いつつリンクスを確認する。
  候補としてリストアップされたリンクスは三人。

  ランク22、<サベージビースト>のカニス。ローゼンタールに近い独立傭兵だが、作戦の成功率には一定の評価があるがビッグマウスで任務を選ぶので評判はあまり良くない。
  ランク11、<トラセンド>のダリオ・エンピオ。ローゼンタールの新《ランセル》ベースのネクストを駆る、同社専属リンクス。権力志向で我の強い野心家。
  そして、最後の一人を見て驚いた。同時に彼女が勧めた理由も納得した。
  ランク1、<ステイシス>のオッツダルヴァ。実戦派の天才と名高いオーメルの切り札、カラードの頂点たるリンクスである。
  

  「なるほど、貴女が勧めるわけだ。なかなか面白そうな依頼だな。他のリンクスとの協働か。リッチランドの時は断ったが今回はいいかもな。」

  「ああ、対AF戦も何回かこなせたし、ここら他のリンクスの動きを見てみるのも良いだろう。そこから何か学べるかもしれんしな。」

  「そうだな。まあ貴女も同意見だと思うが、協働するリンクスは…」

  「ふん、言うまでもないだろう。そう何回も機会があるとは思えん。今回でよく見て、学んでこい。」

  「そうするさ。よーく見てくるとするさカラードランク1の実力をな。」

   シュウはそう言って不敵に笑った。





   旧チャイニーズ・上海海域。
  かつて10億をはるかに超える人口を擁する大国であった中国の大都市は、今やコジマ実験による事故で巨大なクレータができた上に完全に水没してしまっている。
  今やかつての高層ビルがわずかに海面より上にでているだけの地域だ。
  その場所に今回の任務のターゲットがいた。
  噴射されるメインブースタがすぐ下の海水を散らし、大きなしぶきとして飛散させた。
  ほぼ同時のタイミングて、別の輸送機からビルの上に機体が降り立つ。
  深く昏い蒼。超音速戦闘機の様な鋭いシルエット、旧レイレナードを思わせる鋭角なフォルム。最新鋭の武装を装備するカラードの頂点。<ステイシス>。
  オッツダルヴァの駆る軽量二脚型ネクスト、オーメル・サイエンスの切り札。

  『準備できているな? 貴様』

  「ああ、もちろん。今回はよろしく頼むランク1。」

  『ふん、せいぜい気張ることだ。尻拭いなどあまり趣味じゃない。』
 

  そう会話しながら、行動を開始する。
  ビルに配置された半砲台型ノーマルが見えてくる。特殊な形状をしたシールドが目立つ、BFFらしい四脚のノーマル。まずは小手調べと左腕のライフルで攻撃する。
  だが、攻撃ははじかれて、ガトリングの銃口がこちらに向けられた。

  「ほう…」

  『前面のみのシールドとはな。』

  自分はノーマルであれほどのPAを使用できることに少し感嘆したが、彼はそうでもないらしい。
  呆れを隠そうともせずに言い、ノーマルの後ろに回り込みアサルトライフルの銃撃で撃破した。
  
  ―随分と律儀に壊すことだ。
  そう思いながら一気にクイックで前進。ガトリングを躱しながらノーマルのビルに張り付き、そのままブレードで切り裂く。
  するとノーマルは全く動くこともできず、浮上することなく海に沈んだ。

  あのノーマルはシールドに動力のほとんどがいっていて、機動力が完全に死んでいる。さらに加えて海上にいるのにも関わらず浮上することもできない。
  足場のビルを破壊されれば、そのまま沈むしかない。ネクストの機動力を前に、それは致命的だった。
  ほぼ固定砲台とかわらない半砲台型ノーマルではあまりにも相手が悪すぎた。

  
   半砲台型ノーマル部隊を殲滅し、艦船を沈めながら奥のギガベースに向け突進する。
  やがてギガベースを中心とする艦隊が見えてくる。
  

  「ギガベーズは俺がやろう。ブレードを持っている俺の方がやりやすいだろう。残りの艦船を頼む。」

  そう言って返事を待たず、一気にオーバードブーストで懐に飛び込む。
  そのままミサイルの雨を掻い潜り、時にフレアを使いながらギガベースに取りつきブレードで装甲を切り裂いた。
  その部分にプラズマを打ち込み撃破する。そして援護に向かおうとステイシスの方を見る。そこで



  ――蒼が宙を舞っていた。

  天空から左腕のレーザーバズーカで攻撃し敵艦船を破壊していた。
  10隻以上はいた艦船はもう残り2隻しかいない。

  ―莫迦な、早過ぎる…

  自分がギガベースに突撃してからまだ30秒と経っていない。それなのにもうこれほど撃破するとは…
  そう考えつつ、ステイシスを見る。空を舞いながら時折急加速し、攻撃を躱しながら、反撃の一撃で撃破している。
  蝶のように空を舞い、クイックで一気にスピードを上げて蜂のごとく刺す。鋭い緩急のついたヒットアンドウェイ戦術。
  言うのは簡単だが、これほど迅く、正確にできることなのか、とそう思う。

  ―これが、カラードランク1の実力か…

  
  そう思っている間にステイシスは最後の1隻を撃破し、ビルの上に立っていた。


  <全目標の排除を確認、ミッション終了だ。>



  『―ミッション完了か。』

  オッツダルヴァが呟く。少し間を置いて、ステイシスがこちらを見た。こちらを見られたのはミッション開始から初めてだ。

  『ま…ありじゃないか、貴様。』


  と、どこか楽しげにそう言った。少しは認められたのだろうか。
  正直あれ程の機動を魅せつけられたあとでは、自信をもってそうだと思えないが。

  「それはどうも、光栄だな、ランク1にそう言ってもらえるとは。」


  ただそれだけを返して移動した。頭に蒼のネクストの機動を忘れぬ様に刻みつけながら……

  




  「今までで一番為になった様だな、今日の任務は。正直言って報酬の六割は痛かったがそれだけの価値はあったな。」


  霞スミカの発言に頷きながら、それに応える。
  
  
  「ああ、確かにあれほどとは思わなかった。凄まじいな。しかも被弾が0とは恐れ入る。だが届かないとは思わない、いずれ必ず越えてみせるさ。」

  「フン、言うだけならば簡単だがな。そこまで言うんだ、私にあいつを倒すところを見せてみろよ。戦うかもしれんのだからな」

  
  そう言って楽しそうに笑う彼女に頷き、今日の任務を思い返す。
    
  ――宙に舞う蒼のネクスト。自らの目の前で戦う天才の姿。
  
  その姿を思い浮かべながら、薄く笑う。

  
  「いずれ戦うかもしれないか。ククク、刃を交えるその時を楽しみに待つとするさ…」



[27540] 第1章 5話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2012/08/02 12:01




  強い、とその男は言った。

 『ふむ、確かにここまでの依頼の結果からみてもかなりの腕だな。今回共に行ったお前から見て何か感じたのだろう?』

 『強いな、技量も判断も良い。良すぎるほどにな。だがそれ以上に…』

 『何だ?』

 『AALIYAHの特性を熟知している。普通ではあり得ん程にな。おそらく旧レイレナードの人間だったことは間違いないだろう。』

 『理由は?それだけではないのだろう。』

 『私がレイレナードに居た時にあった人物に似ている。面影もあるし年齢も丁度だろう。間違いないな。』

 『ほう、それだと10年以上前に会った人物だとことだろう、そこまで確信があるのか。』
 
 『一度だけだが間違える訳がないさ、それだけ印象的だったからな。何せ…』



  ―――私の師の息子だ


 
 『…なるほどな、オリジナルの息子か。血は争えないといったところか、親子そろってリンクスとはな…』

 『間違いないと思うが、念のため確認を頼む。彼の過去を探っておいてくれ。』

 『了解した。確認ができたらハリと同じように彼も?』

 『ああ、だがその前に一つ確かめてみよう。彼の真の実力をな…』

 『例の任務か…』

 『そうだ、本来私がやるはずだったが、あの情報が入ってから上層部は迷っている。ランク1を失うかもしれないとな。
  流石にそれは連中には許容できまい。私があの任務をそれとなく彼を推薦しておこう。あのAFの火力をもって彼の試金石としよう。』

 『分かった。そちらは任せる”テルミドール”』
 
 『ああ、了解した。計画の方は任せる、頼むぞ”メルツェル”』






  ――黒と赤が空中で交差する
  赤の逆関節は時にグレネードも放ちながらマシンガンを乱射する。距離を詰めようとクイックブーストを何回も使い、前進する。
  しかし、距離が詰まらない。
  黒の機体は時に前進し、交差して距離を取り、時に後退、左右に移動し距離を取って戦い、マシンガンの射程から逃れていた。
  そしてマシンガンの射程外から二丁のライフルで攻撃をしかけた。
  連続クイックブーストで死角を取り、逆関節を追い立てる。逆関節の機体は総じて旋回性能は高くない。その弱点を上手くついていた。
  高速で移動し、頭上を飛び越え、死角を取ったまま攻撃し続ける。それを続けているうちにやがて逆関節の機体のAPは0になり沈黙した。

  

 『オーダーマッチ終了。勝者ストレイド。』



 「今回の相手はまだましな方か。下位のランクだから仕方ないことだが。」

 「そうだな。だがお前ならすぐ上に行けるだろう。そうしたら、いつも楽勝とはいかなくなるぞ。」

 「その方が良い。簡単に倒せる者に興味ない。己が全力を尽くして倒せるか分からない、それ位の相手と戦いたいな。No29の時みたいにな。」


   そんなことを話ながら二人はカラードの地上本部の中を歩いていた。
  二人がここにきた理由はオーダ―マッチを行うためである。今日の相手はNo25〈スカーレットフォックス〉であった。


 「今回の相手は今までよりは強かったが、やはりもの足りん。戦法は良いが腕が伴って無かったしな。」


  逆関節機体らしい三次元の機動を繰り返しながらマシンガンを乱射し、時にグレネードと散布ミサイルで攻撃を仕掛ける戦法。
  戦法は悪くはなかったが、腕がいまいちだった。

 
 「下位ランクではあんなものだろう。テレジアは別格だ。本来ならばあいつは一桁でもおかしくない腕を持っているんだからな。お前もギリギリの勝利だったしな。
  あいつと今回の相手では比べるべくもない。ただでさえ普段からコンビで戦い、それに慣れている奴にお前が苦戦などするものか。」

 「それもそうか。できれば次の相手はもっと強いといいのだがな。」

 「次の相手か…、インテリオルから丁度良い依頼がきていたな。見てみろ。」


  そういってスミカは依頼のメールを見せてくる。そこには―


  『ワンダフルボディ撃破』


  とあった。
  ―本当にタイミングが良いことだ。
  そんな風に考えながら

 
 「受ける。初めての対ネクストの実戦なんだ、僚機も選べるようだが今回は単機で行く。」


  と即答した。






 
  ワンダフルボディ撃破の任務終了後シュウは非常に不機嫌だった。
  初めてのネクスト相手の実戦で多少興奮していたが、相手が弱すぎてすぐにその興奮は冷めた。
  クイックブーストどころか通常のブーストを用いた移動さえまともにできず、ほとんど止まったり、歩くという練度の低さ。
  間違いなく戦ったなかでダントツで動きが悪い敵だった。とそう考えながらスミカと話す。


 「なあ、スミカさんあれは本当にネクストだったのか?正直言って、PA付きのネクストの武装を持った新型ノーマルと言われた方が納得できるんだが?」

 「確かにそれは分かるが、一応あれでもネクストだ。私はあれをネクストだと思いたくないな。」

 
  彼女はそんなことを言った。オリジナルの元リンクスであった彼女からすればあんなに弱いネクストというのも認めがたいのかもな、と思った。
  確かにネクストとは言い難い動きだった。何故あれがランク24なのか不思議に思うほどだ。

 
 「あれが最下位じゃないのはGAがバックにいるからかなスミカさん、まあ拡散バズーカがあるからランク30とランク28ぐらいには勝てるだろうが。」


 「だろうな。まあいい、あれのことはもう良い。あれとは比べものにならん程大きい依頼が来ているぞ。」


  楽しそうに嗤いながらそう言って依頼を見せた。その内容は――



   『AFスピリット・オブ・マザーウィル撃破』


  ――そう書かれてあった… 



  
  



[27540] 第1章 6話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2012/08/02 12:02



   SOM〈スピリット・オブ・マザーウィル〉


  BFFを支える女王の盾。建造されて10年以上経つ最古参のAF。最古参にありながら未だ頂点の座を降りぬ、間違いなく現行最強のAF。
  かつてあの”ホワイト・グリント”でさえ退けたBFF地上戦力の中核たる超巨大要塞。

   それの撃破が今回の依頼であった。
  その依頼内容を確認し、高速で思考する。どう考えても違和感が拭えなかった。

  ――あの”ステイシス”ならばSOMであっても撃破できるだろうに何故だ?

   あの天才を擁するオーメルならばそうした方が良いだろう。自身の持つ最強の手札の力を周りに知らしめるのに丁度いいだろうに。
  あの天才がSOMに負けるとは思えない。僚機として雇ってあの隔絶した機動を見たからこその確信。
  弱点が知られていない頃のSOMならばともかく対ホワイト・グリントとの戦闘で弱点が知られた現在ならば、そう苦労するとも思えない。
   彼女も同じように考えていたのか口を開いてこう言った。


 「お前が考えていることも分かる。確かにかなりきな臭い。企業の中でも特に狡猾なあの連中の事だ。高い確率でいやほぼ確実に何かあると考えていいだろう。
  ……それでもこの依頼を受けるか?」

  
  相手はあのスピリット・オブ・マザーウィルだ。何体ものネクストを倒し、ホワイト・グリントでさえ退けた最強のAF。
  しかも何か裏がある状態で挑まねばならない、というおまけ付きでだ。別に依頼を受けなくてもおかしくないだろう。

  ――だが


 「その依頼、受けるよ。」

 「いいじゃないか。確実に何かあるだろうが、その思惑を超えてあのSOMを倒せるのならば俺はもっと強くなれる。
  それに、本来ネクストとリンクスとは”最強の戦力”であると俺にに教えたのは貴女だろう。この戦いは俺が真にリンクスとなれたかどうか、試すのに丁度いい。」


  そう返した。それに対し彼女は口の端を吊り上げて


 「そうだな、だが相手はあのSOMだぞ?勝てるのか?」


  嗤いながらそう言った。その言葉にどこか試すような響きを感じた。その言葉に


 「勝ってみせるさ。負けて死ぬのなら、俺はそこまでの存在だったという事だろ。」


  そう返した。





  VOB―ヴァンガード・オーバード・ブースト―。近年クーガー社により開発された新兵器。
  それがストレイドに取り付けられる間、ネクストの中でひたすら思考する。
  これまでSOMの戦闘データ、SOMの武装や部隊についてのデータ、欠陥のミサイル発射口について等を確認し、どう戦うか考える。
  情報を確認し、どう戦うかシミュレーションする。実戦前には必ず行う癖だが、今回はいつも以上に念入りにやっていた。
  やがてVOBの取り付け作業が完了したと連絡が来る。すぐに機体チェックを開始。


  ――SYSTEM CHECK START――
  HEAD:03-AALIYAH/H ―――――OK
  CORE:03-AALIYAH/C ―――――OK
  ARMS:03-AALIYAH/A ―――――OK
  LEGS:03-AALIYAH/L ―――――OK
    
  R ARM UNIT  :04-MARVE ―――――OK
  L ARM UNIT  :047ANNR ―――――OK
  R BACK UNIT  :MP-O203 ―――――OK
  L BACK UNIT  :TRESOR ―――――OK
  SHOULDER UNIT :051ANAM ―――――OK

  GENERATOR :03-AALIYAH/G ―――――OK

  MAIN BOOSTER : 03-AALIYAH/M ―――――OK
  BACK BOOSTER : 03-AALIYAH/B ―――――OK
  SIDE BOOSTER : S02-ORTEGA ―――――OK
  OVERED BOOSTER : LINSTANT/O ―――――OK


VOB-Vanguard Orvered Boost
  MAIN NOZZEL-1 ―――――OK
  SUB NOZZLE-1 ―――――OK
  SUB NOZZLE-2 ―――――OK
  SUB NOZZLE-3 ―――――OK
  SUB NOZZLE-4 ―――――OK
  ASSIST NOZZLE-1 ―――――OK
  ASSIST NOZZLE-2 ―――――OK
  ASSIST NOZZLE-3 ―――――OK
  ASSIST NOZZLE-4 ―――――OK
  SECOND ASSIST NOZZLE-1 ―――――OK
  SECOND ASSIST NOZZLE-2 ―――――OK
  SECOND ASSIST NOZZLE-3 ―――――OK
  SECOND ASSIST NOZZLE-4 ―――――OK


――System All Green


  機体とVOBのチェックが完了する。問題なし。

  ――後は向こうの出方と己の腕次第、か…ならばいつも通り殲滅するだけだ

  
  「ストレイド、出撃する。」






  ――広大な砂漠の上を漆黒の巨人が音の二倍の速度で飛翔する。
  空力など意に介さず、凄まじい推力によってネクストはただ直進する。それはまるで漆黒の流星の様でもあった。
  

  『ミッション開始。BFFのAF<スピリット・オブ・マザーウィル>を撃破する』
 

   その言葉にあわせる様に轟音が鳴り響く。
  目に見えない地平線の彼方からの砲撃がストレイドを打ち砕かんと放たれた。ただ何も考えず、サイドクイックで移動した。その行動がストレイドを救った。
  一瞬前までストレイドのいた場所に、マザーウィルの主砲が放たれていたのだ。
   そのまま的をしぼらせない様にランダムでサイドクイックを使用。放たれる砲弾を回避しながら直進した。
  だが以外にもその攻撃は長距離射撃を得意とするBFFにしてはお粗末といえるものだった。

  ――これならギガベースの主砲の方がかなり精度が高いな、老朽化のことは本当らしいな

  そう考えながら、前方へクイックし、さらに速度を上げ、目標に突き進む。

 
  『VOBの使用限界近いぞ、通常戦闘準備しておけ!』

 
  近づくにつれて、だんだんと”それ”が見えてくる。
  ”巨大”そう表すのが最もふさわしいだろうAFの全景がはっきりと目に映った。同時に


  『VOB、使用限界! パージする!』


   VOBがパージされる。そのままの勢いを保つためOBを始動させる。
  アクアビットの名を高めたそのOBを用いて一気にSOMに接近する、しかしそれを阻むため数を数えるのも馬鹿馬鹿しい程のミサイルの群れが射出された。
  前から、上から、左右から自らを砕かんとするミサイルをその速度で振り切り、回避する。


  ――このまま一気に懐に…!? ッッ!!


   そのまま懐に潜り込もうとして、迫りくるミサイルの中に”それ”が見えた。
  瞬間、皮膚が粟立つ。OBだけでなくクイックブーストを乱発し、”それ”から必死で距離をとる。

  だが、距離を取りきるまえに”それ”はストレイドの近くに着弾した。

   その瞬間、’緑色の閃光が広がり’PAが一気に減衰しギリギリPAを展開できる限界にまでPAが薄くなった。
  歯噛みしながら”それ”に対し思考しながら、ストレイドを高速移動させる。
  思い浮かぶのは自らが行った戦闘の中で間違い無く最強の相手のことだった。白い迷彩の四脚がひそかに打ち出すそれが頭に思い浮かんだ。

  ――まさか、SOMがこの武装を使うとは…!!


  「……”コジマミサイル”だと!?」



[27540] 第1章 7話
Name: 黒の8◆ea88265f ID:51962580
Date: 2012/08/02 12:02
第九話



  「ふむ、あれだけのミサイルと砲撃の弾幕を躱し、コジマミサイルでの奇襲までも躱すか…、侮れんな。」


   SOMのブリッジにてその様子を観察した艦長は、若干の感心と共に呟いた。
  データを検索、照合したところ、新規登録したばかりのNo31<ストレイド>だと判明した。新参だが、このSOMに挑むだけのことはあるようだ。
  正面の巨大なモニタに映された漆黒のAALIYAHを見る。影、もしくは闇を具現化したかのような漆黒のネクスト。
  これまでも同じ方法で近づいてきたネクストを何回も排除してきた。だがここまで接近を許したネクストはそう多くはない。

  「各ブロック、戦闘フェーズKに移行。各々の判断でコジマミサイルの使用を許可する。」
 

  広域通信で指示を飛ばす。
  コジマミサイルを用いての奇襲を回避された、次は全方位からランダムでコジマミサイルを使用し、確実に仕留める。
  如何にフレアを装備していようが、このSOMの物量ならば押し切るのは容易い、そう判断した。

  
  「このSOMの攻撃…他のAFと同じだと思うな。」


  そして艦長の指示と共に最古参の、最強のAFがその本領を発揮する――





  


  

  ――まさかコジマミサイルとは…、厄介なものを!!


  ギリッと血がでるほど唇を噛み締めて、ストレイドを動かす。ここでは一瞬足りとて気を抜けない。
  気を抜いて、コジマミサイルの直撃を許せば、撃墜は必至。それどころか通常のミサイルでさえ当たれば危険。
  回避しきれず、1、2発ミサイルを喰らったがその際にかなり衝撃を受け、PAを削られた。このミサイルがありとあらゆる方向からせまってくる。
  マズイどころの話ではなかった。おまけに時折コジマミサイルが自分ではなく自分の進行方向に放たれ、それによってOBも封じられていた。


  ――何も考えずOBを使い前進すれば、自分からコジマミサイルの雨の中に入るか、クソッ!


  それを避けるには、空中から行くしかないだろうが、そうすると主砲の射角にはいることになる。
  それこそ最悪というしかない。折角ある程度接近して主砲の射程圏外にまで来たというのにその利を捨てるのは厳しすぎた。
  コジマミサイルの効果圏内を避けるなら、それなりに高度を上げる必要性があるだろう。
  そんな高度の空中から行くのならあの主砲と通常+コジマミサイルと砲撃を回避しながら接近しなくてはならない、そんな芸当は不可能だ。
  フレアを使いながら行っても途中で弾切れになり、いずれ集中力も尽きるだろう、そうなれば回避しきれなくなり、被弾していずれ堕ちるだけだ。


  ――完璧に網が張り巡らされている。今までの敵とは格が違いすぎる…!


  ”別格”そう表すしかないほど、SOMは桁外れだった。今まで戦った量産型AFなどとは比べものにならない攻撃の物量と練度。


  ――弱点が知られていなかったとはいえ、あのホワイト・グリントを退けただけのことはあるか。今のままでは撃墜されるのは確実、何にせよまずは奴の懐に入らくては…


   このままでは無様な出血死を迎えるだろう、そうなる位ならばと覚悟を決める。
  敵の攻撃の合間の短い隙にほんの僅かな時間、目を閉じ、己が秘奥に手を伸ばす。
  集中。ひたすらに集中。極限の集中によって脳内の分泌物をコントロールし体感時間を引き延ばす。体感時計の停滞、オーバーレブ(知覚加速)を意図して引き起こす。
  それにてシュウの体感時間は一線を画す。 一秒を十秒、十秒を一分と停滞させ、更なる停滞まで引き延ばす。
  その永劫たる刹那の刻の中のこの状態で、AMSのリミッターを解除、より深く意識の奥にまで潜り込む、よりAMS接続のリンクを深くする、より深くネクストと一つとなる。
  そして”シュウ”は”ストレイド”となる。肉体のポテンシャルを遥かに超えるネクストで行われるオーバーレブ(知覚加速)によってシュウは人の領域を遥かに凌駕する。

   それは奇妙な感覚だった。
  リンクスのために存在する器だったはずのネクストが、まるで本体のように感じられる。
  コックピットに収まっているリンクスという肉体が、単なるパーツの一つ、部品の一つでしかないと認識される。
  欠けていたパーツが全て揃った感覚。圧倒的な万能感。
  この力さえあれば不可能なことなどない、そう思える程の圧倒的な暴力(ちから)。
  
  目を開ける。止まっていた数秒の隙を狙って放たれた大量のミサイルの包囲網を確認して、”ストレイド”は行動を開始する。
  瞬間、クイックで半回転しながら051ANAMを作動、広範囲にフレアをばら撒き、ミサイルを攪乱させる。
  そして巨大な噴射炎を出して一気に前進した。 一瞬で最高速へと移行する最速のクイックたるダブルクイックブースト。
  それによって一気に加速し、ミサイルの包囲網から脱出する。そのまま懐に入るべく高速で移動する。

   だがそれを阻むためにコジマミサイルがストレイドの進行方向に放たれる。
  通常のミサイルに紛れながら大地に向かうそれらが―
  
  ―ストレイドから放たれた数発の弾丸によって、爆発した。
   





   
  「……何だと?」
  

  コジマミサイルが迎撃された?あれだけ距離が離れていてだと?AALIYAHの腕パーツでだと?
  SOMのブリッジにて艦長は今の光景を見て感嘆を覚えずにはいられなかった。
  
  
  「一発だけではなく、ほとんどを墜としたということはまぐれではないな。だがAALIYAHであれだけの射撃をできるとは…」


  AALIYAHの腕は射撃精度が低い、せいぜい50パーセント程度だ、その程度の腕パーツであれだけの射撃を行えるとは…
  艦長は感嘆した、敵とはいえ実に見事だと、新人のリンクスがAALIYAHであれだけの技を見せるとは思わなかった。
  そこまで考え、そこで違和感を覚えた。


  ―AALIYAHであれだけの射撃だと?ロック性能が最も低いあの頭部パーツの機体で?しかもあの状況でだと?
  そうして考えているうちにその結論に到達した。

  <あのネクストはノーロックの状態であの射撃を行った>

  ありえない。最初はそう考えた。だがデータ上のFCSと合わせて考えるとあの機体のロック距離は精々650前後の筈だ。
  あの射撃はそれをかなりこえて行われていた。ロック不可能な距離で行われていたならばそう考えるしかない。
  それにノーロックならば、通常ミサイルの熱反応にロックが惑わさせることもない。
  

  「カラードに登録されたばかりのリンクスでこれほどの技量を持っているだと!?莫迦な!!」


  そして彼は広域通信にて指示を出す。


  「各ミサイルブロックへ通達!次のミサイル攻撃時に通常ミサイルは使うな。コジマミサイルのみにて攻撃せよ!奴を懐に入り込ませるな!!」


  その指示によって百を優に超えるコジマミサイルが全箇所からたった一機に向けて放たれた。





   ストレイドはその光景をどこか他人事のように眺めていた。
  凄まじい数のコジマミサイルが己に向かって迫ってくる。緑光を放つそれが壁の様に己に迫ってくるその光景はどこか幻想的ですらあった。
  ネクスト一機を葬るのには過剰すぎるそれを前に、ストレイドは一瞬で空中に躍り出た。
  フレアを射出しながら、一気にSOMとの距離を詰める。 連続クイックブースト。絶え間ないクイックによって全ての攻撃を回避しながら前進。
  コジマミサイルの弾幕を越え、遂にストレイドはSOMの懐まで入り込んだ。

   そのまま一気に攻撃を加えた。二丁のライフルが下からミサイル発射部を貫き、内部にあるコジマミサイルを巻き込み大爆発する。
  巨大な緑光が奔り、近くにいたノーマルや砲台を消し去り、SOMに甚大なダメージを与えていく。
  また、事前に知らされたミサイル発射口だけでなく、もう一か所の弱点だと推測されていた放熱部にも攻撃を加える。
  こちらに向け放たれる弾丸を回避し、散布型ミサイルでもって一気にダメージを与える。
  傍受した敵の報告を考えると効果があったようなので、そのまま別の放熱部も破壊していく。
  
  




  「第5ブロックにて火災発生!」 「第3ブロックもです!」

  敵に懐まで入り込まれた。あれほどのコジマミサイルの弾幕が意味をなさなかった。
  しかもミサイルランチャーを撃たれ、コジマミサイルが誘爆した。その被害は尋常なものではない。
  すぐに各部に通達しコジマミサイルを隔離させる。 この距離まで接近されたらコジマミサイルは使用できない。

  「何としても撃ち落とせ。各部隊攻撃、弾幕!」

  各砲台がノーマルが敵ネクストに向け一斉に発砲する。だが漆黒のネクストは翻りことごとく攻撃が回避される。
  そしてまた一方的に攻撃が加えられる。例えSOMとはいえ他のAFと同じく、接近されてしまえば決定打に欠けることは変わりない。
 

  「メインシャフトに被害が及んでいます、抑えられません!」 「ダメコン急げ!これ以上被害を拡大させるな!!」

  「第5ミサイルランチャー破壊されました!」「第4ランチャーもです!」

  「第8ブロックにて火災発生!!」

  「メインシャフト、熱量負荷限界突破!」 「ダメです!機関部が持ちません!」

  思わず舌打ちが漏れた。眉間に皺が寄る。これではもう無理だろう。艦長はブリッジにて目を閉じた。

  「もう落とされるのも時間の問題か。総員の退避準備を始めろ!」

  ブリッジのクルー達に退避を促す。一層騒々しくなった。
  あのネクストの戦闘力があるのなら、もうすぐこのSOMは落ちるだろう。思わず天井を仰ぐ。
  
  「堕ちるというのか、10年間無敵を誇ったマザーウィルが、ホワイト・グリントでさえ退けた”母”が、BFFの強さの結晶が…」

  『総員、地上装備!総員、退避!』

  『退避しろ!マザーウィルが崩壊するぞ!』

  広域通信によってその言葉が送られている。崩壊、か。聞きたくなかったな。この”母”が堕ちるという事など…
  気付けば、艦橋には誰も居ない。皆、脱出できているだろうか。コジマ汚染対策もしてある、このまま地上にいても救援が来るまでの間は何とかなるだろう。
  足を動かす。外周部、艦橋の窓の前に立ち、”母”を見下ろす。所々炎が噴出し、部品が吹き飛んでいた。
  艦長は敬礼の姿勢を取る。これまで共に戦ってきた部下達に。そして我々の”母”に。
  10年間BFFを守り続けた”母”が爆発とともに崩れていく――






   <マザーウィルの撃破を確認、ミッション終了だ。>


   <何とか一端の傭兵になってきたなお前も。>


   オーバーレブ(知覚加速)を解除し、通常状態になってSOMから離れるとそう告げられた。


   ――あれほどの相手を倒してそれか、厳しいにも程があるだろう…


    そんなことを考えながら、回収地点に向け移動する。もはや口を開く余裕もない。考えるのも億劫だ。
   この業は己の戦闘能力を凄まじい程に上昇させる。総合戦闘能力は何倍に跳ね上がるだろう。
   しかしその分負担も大きい。AMSのリンクを深くするだけでも危険なのに体感時間ではそれをかなり長い時間で行っているのだ、負担が小さいわけがない。
   高いAMS適正と精神力を持っているからこそ、この程度の代償ですんでいるのだ。
   

   ――今回の戦いでこれにも慣れてきたか、前の副作用はこんなものではなかったしな。


   自分が確実に前に進んでいるのを認識し、少し笑う。
   まだ自分には先がある、まだ自分は強くなれる、そう考える。
   やがて回収地点に到達する。まだ回収の輸送機は来ていない。
   疲れたので少し休む、とスミカに告げAMS接続のレベルを下げ、ゆっくりと目を閉じる。
   そこで限界がきたのだろう、気を失うように、一気に熟睡してしまった。それに気付いたスミカが小さく呟く。


   <ああ、疲れただろう。今はゆっくり休め。>


   この日、最強の一角が堕ち、企業は慌ただしく動き出す。
   その影で亡霊たちもまたしずかに動きだしていた――

   



[27540] 幕間
Name: 黒の8◆9c4f2150 ID:1384b627
Date: 2012/08/02 12:05



 
  『新参の傭兵が、あのマザーウィルを?』

   ランク4、ローディーがそう問うた。その声は落ち着いていながら、驚きを隠しきれていていなかった。
  最古参のAF、SOMが堕ちた。性能、物量、練度、経験、それら全てにおいて最高峰に君臨するであろうあのAFが。
  あのホワイト・グリントでさえ堕とすことができなかったAFが堕ちたことを信じ切れずにいた。
  何機かのネクストがチームとして動いた訳ではなく、たった一機、しかも新参の傭兵が倒したと聞けば、おかしくない反応だろう。


  『はい、間違いありません、ローディー様。カラードは情報の精度を確認しています。』


   ランク2、リリウム・ウォルコットがそれに答え、同時に仮想空間に立体映像が浮かび上がった。
  依頼主のオーメル・サイエンスから送られてきたその映像、その映像に戦闘の様子が映し出される。
  そこにコジマミサイルの弾幕を掻い潜り、接近して縦横に暴れる漆黒のネクストとだんだんと崩れ落ちていくSOMが映されていた。
  ふん、と一人の男が鼻を鳴らし、その鋭い目で場の全員を見下ろした。


  『仮にもリンクス……本来そういうものだろう?』

   
   傲慢とも思えるその言葉には、自らへの絶対的な自信に溢れていた。それだけの実力がこの男にはある。
  言っていることは何もおかしくない。オーメルの切り札たるこの天才ならば、それだけのことを容易くなせるだろう。だからこそのランク1。
  超然たる態度でもってそこに君臨しているカラードの王者。その彼だからこそ言うことができる言葉だろう。
  
 
  『確かに…それに、あの人が育てたリンクスだ。この程度できて当然、といったところか。』


   ランク3、ウィン・D・ファンションが苦笑しながらそう言った。SOMが落ちた、などどうでもよいことだった。
  自身の所属している企業のAFでもないうえに、AFをたいして評価していない彼女には。リンクスの方には多少興味があったが。
  霞スミカの弟子であった彼女はその師匠の考え方の影響を多分に受けている。それ故に彼女はAFにほとんど期待をしていない。
  それよりもSOMを堕としたリンクスの方に興味があった。自身の弟弟子についてはまだ詳しく知らない。
  実力は疑うべくもないが、どんな人間か、年齢や性別すらまだ知らないのだ。
 
 
  ――いずれ会ってみたいものだな…さて今度はどんな奴を弟子にしたのやら…


  興味があることだが、今はそれより優先すべきことがある、と頭を切り替え発言する。


  『まあ、この話題はこのぐらいでいいだろう。そろそろ本題に入ろう。アルテリアの襲撃犯はどうなっている?』

   
  むしろ彼女にとってこちらの方が本題だった。アルテリアに対する襲撃。管理する企業云々を超え、企業連全体に関わる大きな問題だ。
  SOMの陥落など、これに比べれば些事にすぎないだろう。

 
  『堂々とクレイドルの要諦を狙われ、全て不明、打つ手なしなど、管理者の存在意義が問われるだろう。』


  『過ぎたことを言っても仕方がないことだがな。確かに、今回は相手が一枚上手をいったが、今後も同様の行動をさせる訳にはいくまい。』


   ローディーがそれに頷き賛同した。今後のことを考えなくてはならないだろう。一つのアルテリアの襲撃だけで終わるとは考え難い。
  アルテリアには攻撃するなどということをすれば全ての企業に敵視されるのは必然。
  鮮やかな手なみを見ればそんなことも考えない馬鹿だということはありえない。かなりの難敵と見て間違いない。
  ならばこそあの程度で終わりの筈がない。そう、あの程度で終わるとは考え難い。アルテリアに害を加えるべからずという絶対の法を破ったのだ。
  その法を破るというのがどういうことか。それはつまり確信犯であり、既に次の手を考えていると見てだろう。

 
  『その通りだ。ルールを守れないのであれば、静かに退場して貰う他はない。――それがイレギュラーであれ、レイレナードあたりの亡霊であれ…』


   アルテリアに手をだす様な輩は速やかに排除しなければならない。それは全企業の共通認識なのだから。
  その後数十分今後について話し合い、会合が終わり、即座にオッツダルヴァ、ウィン・D・ファンションがログアウトする。
  だが他の3名はまだログアウトせず、先のSOMとの戦いを見ながら話し合っていた。


  『まさか、あのマザーウィルを落とすような新参がででくるとは思わなかった。凄まじいな。』


  『うむ、コジマミサイルで武装したあれを倒せるのだからカラード最上位クラスの実力がある、そうみていいだろう。』


  『だろうな、しかし彼の動きは誰かに似ている気がするのだがな、分かるか王?』


  『ふむ、特に変哲無い普通の機動だった、始めはな。だが途中から急に動きが変わったな。おそらくAMS接続レベルを上げたのだろう。
   限界ギリギリかそれ以上にまでな。高レベルのAMS接続の負荷を受け入れることで機体の戦闘能力を飛躍的に高めているのだろうな。
   たぶんお前が似ていると思ったのはアマジーグだろう。奴も同様の手段を用いていたからな。似た動きになるのも道理だろう。』


  『なるほど言われてみれば納得するな。そんな方法を用いるとは大したルーキーだ。下手をすれば廃人になっておかしくないというのに。』


  『だが、そうしなければ堕ちていただろう。そう考えれば当然の手段とも言える。今後さらに注意が必要だろう。
   下手をすれば二番目のアナトリアの傭兵ともなりかねん。奴のようなイレギュラーは二人もいらん。』

 
   王ははっきりと断言した。企業にとって第二のアナトリアの傭兵など厄介事でしかない。
  かつてのリンクス戦争でのアナトリアの傭兵のあり得ない程の戦果を考えてみれば当然だろう。


   ―単独で10機以上のネクストの撃破に加え、レイレナード本社施設エグザウィルの壊滅―


   異常としか言えない程のあり得ない戦果だった。連携もなく、ほとんど支援のない単独での行動でこの戦果…


   ―もしGA陣営ではなくレイレナード陣営に雇われていたのならば、間違いなくレイレナード陣営が勝利しただろう。―

   ―レイレナードはGAではなくGAに雇われた傭兵に敗北した。―


   こんな声が聞こえるのも当然と言えた。
   現在ではそのアナトリアの傭兵はラインアークとフィオナ・イェルネフェルトという足枷と手枷によって自由に動けなくなっている。
   確かに実力は凄まじいものがあるが、行動が制限され、かつての様に動くことはできない。ただ延々とラインアークの防衛をするしかない。
   そんな首輪付きの番犬となっているからこそ、企業が経済戦争を行うことができるのだ。
   

   『奴の様な輩がまた現れる等、悪夢でしかない。そうだろう?ここまでの任務内容を見れば強さもある程度分かる。
    この実力に加えて、オリジナルが後ろについている。かなりまずい現状だ。』
   

   あの強さは本人の才覚によるところが大きいが、時折見せる苛烈な機動は彼の師の影響に違いあるまい。
   ウィン・D・ファンションと同様の容赦のない苛烈で無駄のない動きは間違いなく霞スミカのそれだ。


   『オリジナルの霞スミカの二番目の弟子か…まったく凄まじいな。』


   『うむ。何を考えているか知らんが、やってくれる…対AF戦についてはよくわかった。次は、対ネクスト戦での実力を量りたいな。』
 

   同じく、リンクスの師として、王はセレンに興味を抱いている様に見える。
   二人の凄腕リンクスを作り上げた者としての興味か関心か…


   『しかし、彼女は恐ろしいトレーナーだな。凄腕のリンクスを二人も育てた――いや一人はまだ途中か…はてさて一体どこまでいくことやら…』










    カラードの頂点による会合が行われている頃、別の所でもある者たちが話し合いを行っていた。
   たった三人と少ない人数が、仮想空間にて立体映像に映し出されるストレイドの映像を見ている。
   その中の一人、白髪の混じる初老の男性が感心したような声を上げる。
  
    
   『マザーウィルを潰す新参とはな。どうして、なかなかいるものだな。』


   感心したその落ち着いた声に対し、理知的な冷たい雰囲気の男は口の端を吊り上げ言う。


   『ああ。モノによっては、首輪を外そうと思う。』


   首輪を外す。それは一種の賭けだった。彼が言う以上成功する可能性は高いのだろう――


   『ハリのように、か? ……それもいいがな、メルツェル。』


   だが、可能性があってもそれはやはり賭けだ。成功例は一度だけある、が、それとて上手くいったことが逆に驚くべきなのだ。
   四人の中でただ一人の女性であるジュリアスはその行為には否定的だった。
   心配をそのまま口にすると、メルツェルはクックックと笑った。


  『案ずるなよ、ジュリアス。』
 

   投影された記録を消す。雑然とした仮想空間の中、メルツェルは密やかに嗤った。


  『もうじき、《マクシミリアン・テルミドール》が我々に戻る。……それで準備は終わりだ。』
 

   旅団長の帰還。
   それこそ彼らが本格的に動き出す始動のサインである。


  『奴に言ってくれ。さっさと戻ってこい、暇で暇で仕方ない、とな。』


  ジュリアスは腕組みをして笑いながらまま言う。


  『了解した。確かに伝えよう。では――』



   一名がログアウトし、直後に残り二人もアウトした。仮想空間は、音もなく闇に閉ざされる。
   音もなく静かにゆっくりと濁り水は世界に広がり始めていた…










   あとがき
   1年ぶりの投稿になってしまいました。
   サイクリング中に事故にあい、しばらく入院したり、しばらく大学に行けず、一年留年するなどいろいろなことがあって
   モチベーションが低下したりしてこれまで書けませんでしたがまた書いていこうと思います。
   現実がちょっと忙しいので1、2週間に一度位の頻度になると思います。こんな拙作ですが、どうぞよろしくお願いします。






[27540] 第2章 1話
Name: 黒の8◆9c4f2150 ID:fe8f4123
Date: 2012/08/02 12:08



   無数の高速ミサイルが水面を穿ち、幾つもの水面から出たビルを破壊し、巨大な水柱を上げる。
   誘導性能は低いが一発一発が破格の衝撃力を持つそれを、漆黒のネクスト《ストレイド》は上昇して回避していた。
   しかしそれがただの牽制で、本命も当てるための手札にすぎないという事を理解しているからこそ、彼の集中はミサイルではなく別にあった。
   空中に佇む漆黒のネクスト、特徴的な複眼のアイセンサーがそれを捉えていた。
   波打つ水面を凄まじい速度で疾走するその巨体を。
   ネクストのOBを遥かに凌駕する速度で迫る、水上型AF《スティグロ》。
   大型の戦艦であっても容易く刈り取るその光刃を、凄まじい速度で迫るその真鍮色の巨体を、ストレイドは上昇し、回避した。
   スティグロは馬鹿馬鹿しいまでの推力で急速離脱しつつ、遥か彼方で大周りに方向転換。
   その様を見送り、ククッと小さく笑う。


   ――スティグロね…何か闘牛でもしている気分だな。ムレータでも持ってくるべきだったかな…


   そんな下らぬことを考えながらも、その目つきは鋭く険しい。
   大海原を疾走する真鍮色の巨体を睨みながら撃破する手段を考えている。


   〈敵が速すぎるな。このままではらちがあかん。何をすべきか分かっているな?〉


   このまま奴の正面から攻撃を続けるか――否定。
   今回の任務では特別な装備は持っていない。グレネードでもあれば別だが、正面からあの装甲に攻撃し続けても効果はうすい。

   奴の上に乗るか――否定。
   レーザーブレードを躱してスティグロに上手く取りついたとしても、その瞬間に終わるだろう。
   スティグロは、あの速度では自分自体がひとつの武器だ。あんなものの体当たりを受ければ、衝撃で機体がばらばらになるの関の山だ。
   仮に上手くやって乗れたとしても、あんな馬鹿げた速度を出す流線型の艦体にはいつまでも乗っていられない。乗ったとしても上手く攻撃できないのでは乗っている意味もない。
 
   速度を殺すか――肯定。
   それに使えそうな水上の廃ビル群はいくつかある。作戦領域に点在する廃ビル群を利用し、速度が落ちた所を狙い、攻撃するのが良いか。
   スティグロの後方は装甲はほとんどないから攻撃も通りやすいだろう。機関部か推進部分も難しくはないだろう。
   ここまでの攻撃でおおよそのスティグロの行動と旋回時の距離や半径は分かった。使えそうな場所にさりげなく移動し、誘い込めばいい。


   「ああ。ビルに突っ込ませて速度を殺す。そして推進部を潰す。それだけだ、複雑なことをする必要はないだろう?」


   〈ああ、それでいい。下手をして落とされるなよ。口に出したんだ。上手くやれよ――〉
   
      
    







   〈スティグロの撃破を確認、ミッション完了だ。上出来だった、サマになってきたじゃないか。〉


   随分と喜ばしげな声で彼女が労いの言葉をかけてくる。
   自分も少し高揚した気分でAF・スティグロを見下ろしていた。
   やったことは単純で、ただビルに突っ込み、速度が落ちたスティグロの推進部に連続でプラズマキャノンと散布型ミサイルを撃ち込んだだけだ。
   如何に頑丈な装甲があっても推進部がやられればどうしようもない。推進部に損傷を受けたスティグロは簡単にその動きを止められていた。
   廃ビル群に突っ込んだまま止まっているスティグロを見ながら思いにふせる。


   ――フラグシップ級のAFか、やはり侮れないな。


   インテリオルのフラグシップだけあってなかなか強敵だった。あの巨体であの出鱈目な速度。ミサイルを軽々と振り切るなんて反則もいいところだ。
   できれば、二度と戦いたくない。少なくとも今回と同じ装備では厳しいだろう。


   ――もし次にまた戦うことになるのなら、その時は必ずグレネードを用意しておくとしよう…


   そう心に決めて帰還した。










   「スティグロの単機撃破。機体損傷及び弾薬費も少ないし、あれを相手にしては上出来かな。
    フラグシップ級のAFを単機で2つ撃破したから、企業にもかなり名は広まっているだろう。ここまでは順調ってことでいいかな?スミカさん?」


   「ああ、上出来だ。出来すぎといってもいい。正直、ここまで順調にやれるとは思ってなかったぞ。」


   「へえ。貴女にそこまで言われる程か…まあこの短期間でフラグシップ級のAF2つをやったんだし、おかしくないか。」


   「そうだ。そのフラグシップ級AF2つを単機撃破というのが大きい。かなりな…既に企業のほうから連絡があったぞ。
    それで幾つかパーツや兵装を買えるようになった。リストにまとめておいたから、どれを買うか決めておけよ。」


   そう言ってこちらに紙の束を投げてくる。受け取ってみると結構な厚みがある。
   どうやら買える様になったパーツの詳細な性能までまとめておいてくれたようだった。
   相変わらず、仕事が早いな…と思いながら、リストを読み進める。
   腕部兵装、背部兵装、肩部兵装、ジェネレータ、FCS等の各種の武器がGA、インテリオル、オーメルの陣営ごとに買えるようになったパーツが書いてある。
   かなりの数があるそれを読み、自身の愛機に必要なものを選ぶ。
   金銭的には余裕があるが、それでも今後のことを考えれば、そう多くは買う事はできない。
   必要なものと予算の間で板挟みになりながらもなんとか買うものにチェックし、彼女に渡す。すると


   ゴォンッ!!


   頭に凄まじい威力の拳骨が落ちてきた。そのあまりの威力にぐおおお、と頭を抱え悶絶していると


   「馬鹿者、多すぎる。減らせ。」


   と非常に冷たい声で簡潔に言ってリストを投げてきた。
   それでも結構選んだつもり何だが、とかそれ以上は減らせないなどと口に出せばさらに酷い事になるだろうと簡単に予測がたつため何も言わずにパーツを減らす。
   流石にもう一発あれを喰らいたくないため先ほどよりも必死だ。

   
   ――結局その後も2発拳骨を喰らうということにはなったが


   「まあ、こんなものか。及第点としておこう。幾つか疑問だが、アルドラのグレネードやインテリオルのレーザーブレードやらは納得できる。
    だがオーメルの標準型レーダーやら幾つかのFCSやらはどういうことだ?必要性が高いとも思えないが。」


   「次のミッションに使おうと思ってね。できればレーダーは最新の高速戦用のよかったんだがね。あと、FCSは今後のためでもあるけど…」


   まだ痛む頭をさすりながら、簡潔に彼女に話す。


   「次のミッション?まだ決めてなかったが、…PAN-51の襲撃か、ああ、なるほど、そういうことか。光学ロックができない場所での戦闘用か。
    まあいいが、それならいっそ頭部パーツを買う方が手っ取り早い気がするが?」


   「確かにそれでもロックできる距離も増えるだろうし、いろいろと性能も上がるだろうけどね。それをするつもりはない。
    武装を変えるのも内装を変えるのも構わない。だが機体パーツを変えることだけは絶対にしない。03-AALIYAH以外使うつもりはないよ。」


   それだけは絶対に変えることはない。03-AALIYAHで頂点に立つ。そして奴を必ず03-AALIYAHで堕とす。
   この二つを実現させるためにここまでやってきた。ここまできた。
   何をしても、何があっても必ず実現させてみせる…
   そう考えをより強くしていると


   「分かった。この件はここまでだ。特に何か言うつもりはない。
    だがPAN-51の襲撃を受けるつもりなのか?いろいろ条件がついているあのキナ臭いミッションを?」


   「確かにいろいろとキナ臭い。けど俺はまだあの手の条件下での戦闘経験がほとんどない。
    経験を積むには悪くないだろうさ。わざわざ時間指定と展開している部隊の排除なんて条件がついているものでもね。
    むしろ丁度いいと思うさ。実際なにかあったとしても、その位乗り越えていかないと、その位でないと

    ――あのアナトリアの傭兵を倒すことなどできないだろう?

   奴も倒すために生きてきた、そのためにリンクスになった。こんなところでは死ねないさ。」


   「…まあいいだろう。そこまで言うんだ。好きにしろ。」


   そう言って部屋を後にする。そして出ていく直前、ドア閉める前にこう言った


   「ただ、簡単に死ぬんじゃないぞ。馬鹿弟子が、かけた時間が無駄になる…」

     









   あとがき

   何とか二週間以内に書ききれました。二日後の水曜から試験なのに書いている自分www
   そんなに科目はないですが、来週の火曜日まであるのでそれ以降になると思います。
   7月中にあと二つくらいは書きたいな、と思っています。完結までがんばりますのでどうかよろしくお願いします。


   



[27540] 第2章 2話
Name: 黒の8◆9c4f2150 ID:ca0e878d
Date: 2012/08/19 18:34




 ――静かだ、不気味なほどに…
 
   濃い霧に閉ざされた作戦領域の付近まで接近して、ただそんなことを感じた。
   三か所の新資源プラントの破壊。それだけならば何もおかしいことが無いごく普通の任務といえるだろう。
   だが今回は何故か時間制限と防衛部隊撃破の条件付き…
   これで何もない普通の依頼だと考える人間はそういないだろう。
   現在特に注意すべきは衛部隊の規模だ。わざわざ撃破対象となる位なのだから相当の数の部隊が展開しているか、もしくはかなりの練度が予想される。
   この非常に濃い霧によって光学ロックもほぼ不可能になる点も併せて考えれば、なかなか厄介といえるだろう。
   そんなことを考えながら、巡航型OBで飛行しながら作戦領域に侵入する。


   <ミッション開始。新資源プラントを破壊する。時間制限付きだ、さっさと終わらせるぞ。>


   本当に気味が悪いくらい静かな作戦領域だった。濃霧によって囲まれ閉ざされた地域。
   打ち捨てられた建築物が風で流れる霧の中で多数存在し、それがかつての都市の名残と同時に昏い死をの気配を放っていた。
   この既に死んだ都市に地下に眠る資源、それを採掘するプラントとそれを防衛する部隊だけがその領域の中で異質に生を感じさせた…
   
   ――こんな場所に長居はしたくないな、敵ながらこんな場所にいなければならない防衛部隊が哀れだな…

   そんなことを思ってしまう位気味の悪い場所だった。
   さっさと終わらせるべく一気に移動すると――

   敵反応。レーダ―によって強化されたセンサーが急速に接近するそれを感知した。――速い。


   <敵機、急速接近――数六機だ。>


   そう報告し、続けて実に忌々しげに呟いた。


   <ふん、なるほどバーラット部隊か…>


   「バーラット部隊だと、この場所でか、厄介だな…」


   <確かにな。この視界の悪い領域ではただでさえ厄介な奴らの撃破はさらに困難になる。道理で防衛部隊も撃破対象になる訳だ…狸共が…>


   バーラット部隊。旧イクバールの時代から存在しているアルゼブラの精鋭ノーマル部隊。
   高機動型ノーマルによって構成されている部隊。
   バーラット部隊はBFFのサイレント・アバランチなどと並び、ネクスト級に継ぐノーマル戦力としてリンクス戦争以前より戦場にあり続けた精鋭というにふさわしい部隊だ。

   さらにネクストACにすら脅威といわれるのは、《セルジューク》の装備している物理ブレード――パイルバンカーだった。
   ネクストの装甲でさえ一撃で貫く絶大な威力を誇り、それによって数多の敵を屠ってきた。
   特に機動性能に難のあるGAの機体ではレーザー兵装、コジマ兵装と並んで、最悪の相性といえる武装だった。
   しかもこの視界が悪く、ロック距離が短くなるこの場所では必然的に近距離戦闘を強いられる、下手を打てばパイルバンカーの直撃を喰らうかもしれない…


   やがてストレイドの視界も敵機が見える。正面から三機。
   目視できないが、センサーで確認すると、その後方に一機、さらに左右から一機ずつ接近してくる。
   正面の敵機に手間取れば、左右からきた敵に囲まれてしまうだろう。流石にノーマルとはいえ物理ブレード持ちの敵に囲まれればまずい。
   幸いにも連中の装甲は薄い、対ネクスト用のライフルならば撃破するのは容易。
   囲まれる前に一気にこの包囲網を食い破る……?!


   瞬間、正面の上空から攻撃を受け衝撃で機体が硬直する。敵ノーマルは一気に急接近し、その右腕のパイルバンカーを突き立てるべく突進した。
   若干、喰らうよりもほんの少し早く硬直が解けた。その瞬間クイックブーストを使用。一気に後方へ距離を取る。


   「ちっ!?……今のは、ロケットか、ということは…」


   <ああ、こちらでも確認できた。敵は《セルジューク》だけではない、逆関節型ノーマル《シャーヒッド》もだ。……バーラッド・アサドもか。>


   「まったく、アルゼブラの最精鋭部隊による連携か、さらに面倒になったな…」   
   
   
   <確か連中は厄介だ。奴らの連携攻撃はネクストにさえ脅威といえる、早めに片付けろ。他のプラントの防衛してる奴らが来る前にな。>


   「了解。」


   瞬間、一気に距離を詰める。離れていてもロケットの的となるだけというのはすでに分かっている。 
   先手を打って逆関節ノーマルを撃破する。奴らも撃破すれば、パイルバンカーを喰らう確率も大幅に減少する。
  
   接近と同時に僅かな発射音を拾った。ほぼ同時に、ロケット砲弾が霧を切り裂いて飛来する。
   刹那、ストレイドはクイックブーストでさらに前進、高い威力と衝撃を誇るロケットを回避。ロケットは近くにあったビルに着弾し、それを粉々に粉砕した。
   敵がこちらの接近に反応し展開する。濃霧の中、幽かに見える敵影は、こちらを取り囲む様に展開。一糸乱れぬ見事な連携行動。
   ここまで相対した敵とは一線を隔す練度の敵部隊に血が沸騰する様な高ぶりを感じつつ、攻撃。
   対ネクスト用の大口径の銃弾が濃霧を切り裂き、逆関節の機体を貫いた。瞬間、空いた包囲網の穴から脱出。反転。一気に敵を攻撃する。
   如何に高機動型ノーマルとはいえクイックブーストができないのでは反転に若干時間がかかる。

   
   ――これだけ一か所にまとまっているのならば、いけるか?


   瞬時に武器を変更、アルドラのグレネードを起動させる。
   狙いはまとまっている三機のセルジューク。
   滞空しているこちらの狙いを悟ったのか分散しようとするが、もう遅い。
   グレネードが三機のセルジュークの付近に着弾。轟音と共に爆発し、爆炎が三機のセルジュークを飲み込み破壊する。


   ――有澤製のグレネードに比べると破壊力や攻撃範囲では劣るが、やはり使いやすい。買ったのは正解だな。


   アルドラのグレネードの性能に満足を覚えながら、攻撃を続行する。
   厄介なパイルバンカー持ちは片付ければ、ロケットの脅威も激減する。
   高い衝撃力のロケットも喰らった際にパイルバンカー持ちのセルジュークがいなければ、脅威は薄まる。
   そのまま左右に展開していたシャーヒッドに突撃。ライフルの銃弾がその装甲を貫き、爆散させる。


   <よし、そこのプラントの防衛部隊は撃破したな。早くプラントも破壊しろ。時間は限られている。>










   <新資源プラントの破壊を確認。残り2。>


   グレネードの爆炎で吹き飛び粉々になったプラントを確認し、告げる。
   バーラッドとバーラッド・アサド、いずれもアルゼブラが誇る精鋭部隊。その精鋭を相手にここまでは良く動いているといえるだろう。
   初撃のロケットでの奇襲以外に攻撃を受けていないのだから…


   ――ここまでは順調に進んでいる、だが、妙に嫌な予感がするな…


   スミカは国家解体戦争から長い間インテリオルの主力として戦ってきて何度も修羅場を潜り抜けてきた。自らの直感に従って、幾度となく危機を脱してきた。
   その直感が危険を感じている。かつての経験からこの類の直感は非常によく当たる。
   その直後、レーダーが作戦領域に高速で進入してくるそれを捉えた…


   ――増援か…亜音速ほどの速度、それにコジマ反応だと!これは…!!


   <敵増援を確認…ネクストだと!?情報屋が最低限の仕事もできないか!!>


   思わず、いいかげんなGAの情報屋に対しての罵声がでる。
   最低でもネクストが来る可能性位伝えやがれ!、や、次にあった時を奴の命日にしてやろう…
   そんな物騒極まりないことを考えていると――


   『GAに尻尾をふる下種が…』


   広域通信、敵機から聞こえてくるその声は異常なまでの敵意と殺意に満ちていた。


   ――ああ、本当にこの類の直感ばかり良く当たる…最悪だな…


   流石のスミカですらこの状況に焦りを感じざるを得なかった。
   スミカが焦っているのは、予期せぬネクストが出現したことだけではない。この状況が示す、恐るべき事実故に、といっていい。

   アルゼブラ領のPA-N51。  
   バーラット部隊。
   過剰なまでのGAに対する敵意と殺意。 
   間違えるはずもない至極簡単な推察が頭に浮かぶ。


   『追いつめて…肥溜めにぶちこんでやる!!』


   アルゼブラ最強のリンクス。実力ではカラード最高クラスに匹敵するといわれる男。

   アルゼブラの白い番犬、ランク14 イルビス・オーンスタイン――襲来










   あとがき
   祝、理想郷復活!!!
   復活記念に12話目を投稿します。ちょっと長くなったので2つに分けることにしました。
   もう1話もある程度はできているのですが、しばらく様子を見てから投稿しようと思います。
   イルビス・オーンスタイン…結構めんどくさいし、個性的な(肥溜め、大アルゼブラ等)敵でもあるんですが…
   オーンスタインというとDarkSoulsの竜狩りの方が思い浮かんでしまう私だったりしますww
   1週目でハム王よりも多く奴に串刺しにされて葬られたせいでしょうけどねww
   就職活動で忙しいですが、何とか完結までいきたいと思います。どうかよろしくお願いします。



[27540] 第2章 3話
Name: 黒の8◆9c4f2150 ID:6ff845e4
Date: 2012/08/19 18:35




   イルビス・オーンスタイン

   アルゼブラ最高位のリンクス、それでもランクは14でありオーダーマッチでの勝率はあまり高くはない。
   しかしそれを補ってあまりある高い作戦遂行率を誇る。特に対GA戦闘の場合はその作戦遂行率と戦果は特筆に値する。
   幾人ものGAのリンクスを倒し、GAに類するものを殲滅してきた。
   その残虐さゆえにGAからは最も恐れられ、最も忌み嫌われているリンクス。実力ならばカラード最高クラスに匹敵すると言われる男。
   

   ――よりによってこの場所であの男か。厄介極まりないな…


   そんな事を考えてしまう程拙い状況だった。
   もし、カラードのオーダーマッチで戦うのならば、そんなことは考えないだろうが、この状況は非常に拙いものだった。
   それでなくとも一対一の状況、対等な状況で戦うのならば、イルビス・オーンスタイン相手でも勝利できるだろう。一対一の戦闘は自分が最も得意とするものだ。
   だが、現状では拙い。イルビスが最大に実力を発揮できる状況が整っているこの状況では。


   ――奴のホームでの戦闘に加えて、バーラッド部隊までいるとなると、厳しいか…


   イルビス・オーンスタインは元バーラッド部隊の隊長だ。それ故に連中と連携もできる。
   しかもバーラッド部隊の経験故にノーロック戦闘に長けている。光学ロック不可であるこの戦場でも戦闘能力を保つことができるだろう。
   レーダーを確認し後退、ビルの裏に滑り込み、ライフルのマガジンを交換、敵に備える。


   ――冷静に。ここまでと同じくノーマル、できるならセルジュークから叩くか。


   敵の攻撃で特に危険なものは二つある。セルジュークのパイルバンカー、そしてマロースだ。
   マロースが来たことによって相手の戦術も変化するだろうが、パイルバンカーが脅威であるのは変わりない。まずはこれを優先的にやるべきだろう。


   「拙いな、何とか一対一の状況までもっていきたいが…敵の陣形は?」


   <敵部隊はマロースを中心としてその前方にセルジューク、さらに左右にシャヒードがそれぞれ三機ずつだ。ッ!敵部隊急速接近、来るぞ!>


   ――基本的な戦術は先ほどと変わらないか?マロースとシャーヒッドで硬直させてその隙にセルジュークで撃破ってところか。


   敵部隊のとりそうな戦術に当たりをつけ、即座に行動開始。ビルのうらから躍り出る。


   その瞬間、マロースは一気に跳躍。逆関節の機体特有のその跳躍でもってストレイドの上をとった。そのまま散布ミサイルを発射。雲霞の如くミサイルの群れが飛来する。
   直後、連動する様に左右からロケットが撃ち込まれる。クイックブーストした機体にさえ正確に撃ち込まれた砲弾が殺到する。
   さらにパイルバンカーでもって穿つべくセルジュークが突撃する。
   前方に躱せばパイルバンカーが、左右に躱してもミサイルを回避しきれず、ロケットも回避できず、後方には先ほどまで身を隠していたビルによって躱すことはできない。
   並みのリンクスであればなすすべもなく粉砕される凄まじい連携攻撃。万が一気付いたとて、くぐることなど不可能といえる程の僅かな隙。
   アルゼブラの精鋭の名に相応しいその練度と連携を最大限に活用した、必殺となり得る攻撃。
   

   しかしシュウは、並みのリンクスではない。攻撃の角度と相対速度と位置情報を計算、一瞬でそれを割り出し、突破口を見出した。
   ストレイドが機体を翻し、影のようにするりと後退した。滑らかな機動は、まるで無駄がなく速い。
   バーラッドの機動に一瞬の乱れが生じ、動きが鈍る。それも仕方ないだろう、いきなり反転し、背を向けて後退したのだから。
  

   ストレイドはその勢いを利用し、ビルを蹴り上った。
   ビルが砕け、崩れ落ちる。最後に蹴った勢いも利用し、一気に上昇する。
   いかにバーラッド部隊とはいえ、飛行用ではないノーマルではそこまで上昇することはできない。この濃霧ならば視認も困難であるから、攻撃も不可能。
   また、マロースとも十分に距離は離れている。この距離ならばまだロックもできないだろう。 
   そこで再び反転し、グレネードを起動。先ほど同様に一気にセルジュークをまとめて葬るべく狙いを定める。


   ――狙いは三機のセルジュークの中心地点、相対速度約500、距離約450、喰らえ、ッチ!またか!


   放つ瞬間、再びマロースから散布ミサイルが発射される。
   即座に下降。ミサイルの群れが頭上を通り越す。それを確認し、攻撃に転じようとした瞬間、僅かな発射音を聞き取った。
   ただ何も考えず、直感で右にクイック。しかし避けきれずストレイドの左腕部のPAに着弾。機体が爆炎と爆風に包まれた。
   一気にAPが減少し、衝撃で機体が硬直する。


   「く、そが…!グレネードだと、空中で命中させるか。いや、これは…」


   ――距離は600は離れていた筈、この濃霧でロックできる訳がない。初撃のミサイルは兎も角、グレネードをノーロックで空中を移動する俺に命中させるだと…


   「流石はバーラッドの隊長だな。ノーロック攻撃はお手の物って訳か。」


   『ふん、直撃を避けるか、良い反応をする。それに勘もいいようだな。だが大アルゼブラに牙をむけたのが貴様の間違いだ!死ね、GAに尻尾をふる傭兵が!!』

   
   そう言い放つと、再びバーラッド部隊と共に連携し、攻撃してくる。
   致命的な一撃を狙うマロースとセルジューク。ストレイドは駆け、敵の包囲を破りつつ、攻撃を返した。
   しかしこの濃霧によりロックが上手くいかず、攻撃の命中率は常と比べるとかなり低いものとなっていた。
   この地の防衛をしてきて、何回もここで戦闘をしてきた者達が相手ではどうしても後手に回ってしまう。
   近中距離での高速戦闘を得意とするシュウであっても、このPA-N51では敵に地の利があり、効果的な反撃を行えなかった。


   ロケットが地を抉り、爆炎を巻き上げる。ミサイルがビルを砕き、爆発とともに周囲に破片をまき散らす。
   敵の攻撃にPAが音をたてて削られ、コジマ粒子が光りながら散っていく。敵部隊の連携攻撃を何度となく回避し、耐えた。
   完璧なイルビスの指示による連携攻撃、さらにマロース自体の巧みな射撃も相まって、徐々にストレイドのAPが削り取られるように減少していく。
   射撃の応酬がつづくその時ミサイルポッドを展開し、ノーロックのままセルジュークに放つ。
   散布型ミサイルの群れが一直線上にいた二機のセルジュークに殺到し、着弾する。一機は撃破し、もう一機も直撃は避けたものの左腕部が破壊していた。
   敵ノーマル部隊の戦闘能力は確実に削っている。このままならば、なんとかマロースとの一対一に持ち込めるかもしれない。だが…


   ――まずいな、すでにAPも20%近く削られている。いずれは一対一にできるだろうが、かなり削られた状況で勝てるか?それに…


   「スミカさん、残りの作戦時間はどの位?」


   <作戦時間は残り6分30秒ほどだ、急げよ。そんなに時間はないぞ。>


   これもまた厄介だった。
   戦いにくい戦場、尋常ではないほどの難敵、これに加え時間制限があるなど、やりにくいにも程がある。
   このままのペースではまず間違いなく、マロース等の防衛部隊、新資源プラント、これらを撃破する前に時間切れになる。


   ――この状況を打破するには、まずはマロースと部隊を分断して各個撃破していくのがいいか。ならば…


   考えをまとめると、一旦後退。敵部隊から距離をとり、行動を開始した。










     
  
   ――できる、SOMを単機で落としたのは伊達ではない…か


   イルビス・オーンスタインはそう評した。
   バーラッド部隊はアルゼブラの最精鋭だ。特にイルビスと連携を組むこの部隊はバーラッド部隊の中でも一際高い練度をもっている。
   この部隊との連携をもってここまでもちこたえた敵は自分の記憶ではほとんどいない。
   いきなり後退し、距離をとってからは目に見えるような行動をとっていないが、警戒を怠ればまずいことになるだろう。
   そして陣形を立て直し、再び襲撃をかけるべく、指示をだしたその時――レーダーにノイズがはしりだした。


   『何っ、ECMか、猪口才な真似を!!全機警戒しろ!陣形を変えて守備を固めろ!』


   瞬時に相手の考えを予測し、それに対しての指示をだす。
   自身を中心として、円形のフォーメーションを組み、全方向からの攻撃に備える。無論上方向への警戒を怠ってはいない。
   どの方向から来ても簡単にこの陣形を崩すことはできないだろう、そう考えているときに視界の端に敵影を捉えた。
   ―OBを使い猛烈な速度で突っ込んでくる敵を…


   『来たぞ!!B3(バーラッド3)の方向からだ!!』


   咄嗟に部隊に指示をだす。部隊が即座に反応する。言われた方向に向き、攻撃を仕掛けようとした。
   しかし、敵機が速すぎた。向き直るよりも速く部隊に肉薄し――
   ――そのまま部隊に攻撃せずに突っ切っていった…


   『……は?……』









   あとがき
   思っていたより投稿がかなり遅れてしまいました。申し訳ありません。
   就活で予想以上に忙しくなり、その後しばらく実家に帰省をしていたら、かなり遅くなってしまいました。
   いやしかしこの真夏の時期にスーツきて就活とか、まじめにやばかった、熱中症で倒れるかとww
   まあ何とか内定ももらえましたのでもういいですけど。
    自分のことはさておき思ったよりかなり長くなってしまったので分割しました。
   8月中にはもう一回投稿しようと思います。拙作ですがこれからも読んでくれるとうれしいです。







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