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[27536] 【完結】ツレが魔女になりまして(魔法少女まどか☆マギカ・オリキャラのみ)
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 22:06
初めての方も知っている方もこんにちは。
本作品は、文章を上手く書く能力と、早く書けるようになる能力のための習作です。
突っ込みどころはあるかもしれません。感想ついでに書いてくださると為になるので遠慮なく書いてください。



魔法少女まどか☆マギカの二次創作です。
ネタバレはアニメ12話までの全開前提で書きますが、本編にその設定が生かされるかどうかは知りません。

一応、若干原作キャラが出ますが、基本的には、オリ主・オリキャラのみで進行します。


また、pixivで同名の作品を投稿しています。同一人物なので誤解なきよう。
arcadia用に若干の修正はしています。

pixivとは1話分の投稿の分け方も変更しようと思っていたのですが、結局pixivと同じように場面ごとに区切ることにしました。なので1話ごとの文字量はかなり少なめです。


更新
5/3:1・2話投稿
5/6:3話投稿
5/14:tips・4話投稿
5/17:5話投稿
5/23:6話投稿
5/25:7話投稿・6話の一部を修正。1・2話を微妙に修正。
5/31:最終話投稿
7/2:全編を微妙に改稿。ifストーリー、設定メモとあとがきを追加。



[27536] ツレが魔女になりまして 1話
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 21:26





「私、魔法少女になったの」

 幼馴染の彼女がそんな事を言ってきたのは中学3年の、ある日のことだった。

 その日はいつもどおりに学校に登校し、刻々と迫りくる受験と卒業に、あまり実感が沸かないながらも楽しみにしていたような、そんななんてことない日常のうちの1日だった。
 だからこそ、唐突にそんなことを言ってきた彼女をつい可哀想な目で見た俺を、一体誰が責められようか。
 よく考えて欲しい。普段、少し――彼女の名誉のために「少し」としておくが――言動がおかしいとしても、こんな電波なことを言われたら「あぁ、ついに黄色い救急車を呼ぶ時が来てしまったのか」と思わない訳にはいかないだろう。
 そんな風に考えて彼女を白い目で見ていた俺を鞄で、しかも全力で一回転の勢いをつけて殴るのはやめて欲しい。冗談抜きでマジで痛いから。暴力は反対です。

 彼女はぷりぷりしながらも通学路を先に行く。俺も彼女も同じ学校且つ徒歩通学なので、先ほどの光景を見てしまった道行く自転車通学の生徒たちに変な目で見られながらも、置いてかれないように早足で彼女に追いつく。
 ……それにしても、どうして魔法少女なんだろうか。わざわざそんなファンシーなものを取り上げる辺り、何かの影響があるとは思うのだが。
 最近で、そんな影響されるようなアニメとか作品なんてあったっけ……。
 そう考えるも、特に思いつかないので、どうせまた彼女の気まぐれだろうと決め付け、これ以上はその件については反応することなく放置する事にした。とりあえずファンシーなのは頭の中だけにしておいてほしい。
 変に反応するからこういう輩は助長する訳で、放置すれば知らずのうちにまた元に戻るだろう。そうしないと俺の胃に穴が空くに違いない。


 ……と、思っていたのだが、何故か学校の帰りに詳しい事を聞く事になった。

 帰り際に彼女から言い出したので、まだ電波が続いているのかと考えようとしたところで彼女が鞄を構えたので、大人しく聞かざるを得なかった。本当に怖い。
 ため息をつきながらも彼女についていく。まぁ、さっき彼女とは通学路が全く同じなので、寄り道せずに帰るとすれば一緒になるのは当たり前なのだが。
 ところで、魔法少女といえば、普通ならば日曜日の朝とかにやっているようなファンシーなものをイメージするものなのだが、彼女の頭の中の実際はどういうものなのだろうか。
 ……正直言って、彼女にそういうものは似合うとは思えない。
 うん、どう頑張ってもそういう方向に持っていくのは苦しいと思う。まぁコスプレ的には似合いそうだが。コスプレ映えする体躯ゆえに。

 家の近くにある公園で話を聞くことになった。別に現在我が家は俺以外には誰もいないから家に呼んでもよかったのだが、俺の提案は華麗に彼女に無視された。
 彼女が言うには、キュゥべえという、動く白いぬいぐるみから、「魔法少女になって魔女と戦って欲しい」と告げられ、それをそのまま承諾したそうだ。意味が分からない。こいつは何を考えているんだ。そして何を言っているんだ。
 なんでも、「願い事を一つ、なんでも叶える代わりに魔法少女となり、この世に巣食う魔女と戦って欲しい」のだという。
 個人的には魔法や魔女という言葉が出てきた時点で、胡散臭さが半端無かったのだが、非常に残念なことに、当の彼女が俺の目の前で"魔法"を使ったので信じざるを得なかった。

 勿論、始めはどこで瞬間着替えやその他のマジックを仕入れてきたのかと問い詰めたのだが、その後々に常識ではどうやっても説明できないモノを披露され、結局は彼女の使う"魔法"というものの存在を信じざるを得なくなってしまったのだ。
 魔法少女の衣装となるコスプレ(にしか見えない)は地味なのか派手なのか判断の難しいものであったが、この衣装は魔法少女のあり方と思い描いたものがカタチとなって現れると聞いて、あぁこいつの中途半端さがここに現れたんだなと納得した。思わず口に出したら腹パンされた。昼飯が出かけた。

 ……さて。魔法の存在と、魔法少女というものを理解したはいいものの、いろいろと不可解な点があったので、彼女にいろいろ問うてみたのだが、どうやら彼女もまだ詳しくは知らないことが多いらしい。ほとんど何も聞かないまま、成り行きで契約したため、詳しい内容については追々聞くつもりであったらしい。おいおい……。
 質問の一つとして、いつまで魔法少女を続けるのか聞いたのだが、なんとコレに関しては終わりが無いらしい。魔女がこの世に存在する限り、魔法少女は戦い続けなければならないという。
 故に、そう簡単に契約する人間はいないらしいのだが、幸か不幸か頭がいろんな意味で残念な彼女は感性が普通の人間ではないので……。そしてこの結果である。
 一度魔法少女になった以上、ほぼ一生魔法少女として戦うことを義務付けられたと言われ、思わず愕然としてしまった。
 彼女は気楽にやっていくと答えたが、戦いというものはそういう考えではやっていけないだろう。魔女が現れたら、授業中であろうと通学中であろうと戦いに赴かなければならないだろう。そしてそれが魔女がいなくなるまで続く。
 自分の一生を犠牲にしてまで、彼女はその力を得たのだ。確かに、彼女の感性は普通では理解できないものが多々存在するし、行動やその他に於いても本人よりも周りが頭を痛めるような事が多い。しかし、だからといって彼女は決して頭が悪い訳ではない。学業成績としては勿論のこと、知性の点で言えば俺らは勿論のこと、教師ですら驚かせる程のことを難なくやってのける。……それ以上に特異な行動・言動が目立つ事はまぁしょうがないとしてもだ。

 だからこそ理解が出来ないのだ。そんな彼女であれば少し考えるだけで先が、ゴールが見えないレールへと方向を転換することの危険性が分からない訳が無い。それにも関わらず、彼女はどうしてその道を選んだのか。少し感情的になりながらも彼女に問うたのだが、理解していると答えられたうえ、結局はぐらかされ、それ以上質問答えることは無かった。

「ま、お前が納得してるなら俺は何も言わないよ。っていうか何を言ってもどうせもう戻れないんだろ?」

「その通りー。少女の憧れ、少年の羨望の的、魔法少女! そんなのになった私はまさに素敵! いいねいいね! なんだかテンション上がってきた!」

 言語化不可能な言葉を叫びながら走り出そうとしている彼女を止めながらもため息を一つ。今の話が本当なら、世界の平和が彼女に掛かってる。大げさに言えばこんなものなんだろう。
 ……とてもそうには見えないのだが、そういうことなのなら仕方が無い。俺にはどうしようもないことだ。
 少々心配ではあるが、引き際は自分で判断出来るだろう。何かあれば俺に頼るだろうし、これ以上は何を言おうが無駄であろう。

「まぁ無理しない程度に頑張ってくれ。俺には関われない話だろうしな」



 ちなみに何を願って魔法少女になったのかはまったく教えてくれなかった。







[27536] ツレが魔女になりまして 2話
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 21:26





「ゆーうーちゃーん。あーそびーましょー」

 机に向かって作業をしていると、表から喧しい声が聞こえてきた。
 いくら周りに家が少ないとはいえこんなことをするのはやめて欲しい。正直恥ずかしいし、田舎ゆえに程よく、数十メートル離れているお隣さんにも普通に聞こえているのだ。こないだ近所のおじさんにからかわれて恥ずかしくなったものだ。…ていうかぶっちゃけこいつの家にまで届いているに違いない。それほど離れている訳でもないのだから。
 休日の朝からその声にげっそりとしながらも、階段を下りて玄関のドアを開ける。そこには待ち構えていたかのように堂々としている幼馴染の姿があった。

「……おい。頼むから普通にインターホン押してくれ。頭にひびくから――」

「あーゆうちゃんまた徹夜? お肌荒れちゃうよニキビ増えちゃうよ身体壊しちゃうよ」

 お前は俺の保護者かと言わんばかりの台詞を玄関でマシンガントークの如く吐いてくる。とりあえずまずは上がるか帰るかしていただきたい。
 そんな俺の思いを汲んでくれたのか、おじゃましまーすと元気な声で家主を無視して家の中へ入っていく我が幼馴染。……まぁ慣れたからいいんだけどさ。

「で、今日はどうしたんだ。残念だけど、俺は原稿がまだ残ってるからそんなに相手してらんないぞ。……そもそも眠いから昼過ぎまで、今から寝ようとしてたのに」

「んー、特に用事はないよー。どうせまた不摂生な生活してると思って来たらやっぱりその通りだったから。おばさんはいつまで出張なの?」

「月曜だよ。明日まで俺一人」

 俺の母は所謂シングルマザーというものである。いや、正確には10年ほど前までは父親がちゃんといた3人家族であったのだが、不慮の事故によって父が死んだのでそれからはずっとこの調子である。
 それからというものの、母は父が経営していた会社を継いで10年前からずっと小さな会社の社長を務めている。女だからと舐める事なかれ。自慢だがうちの母はそこそこ有名な大学を2回出ている。現役時代とその数年後に。それを示すかのように、非常に賢いのである。なんというか、知性というか、仕事や生活をする上での賢さというものがずば抜けている。……今この目の前にいる幼馴染と通じるものがあるのは気のせいだろうか。
 ともかく、そのお陰でずっと父から引き継いだ会社を続けていられるのである。どうでもいいことを言うならば、昔よりも今の方が景気がいいくらいなのである。恐ろしい。

「そっかー。お、今日は珍しくちゃんと洗濯物干してる。お皿も洗ってるし、えらい! ゆうちゃんもやるときはやるね!」

「さっき一息ついた時にやっといたんだよ。人を何も出来ない甲斐性なしみたいに言わないでくれ」

 頭を撫でようと、手を伸ばしてきた彼女を華麗に回避して、ため息をつきながらも彼女に反抗する。普段ならそのまま、また俺をいじるのだろうが、しかし彼女は意外な方向へと話を持っていく。

「そうだねー、顔もなかなか、勉強もそれなりに出来る、家事全般はお手の物、そして同人誌で中学生にして既に自分でお金を稼ぐ! スペックだけでいえばそこら辺にいる男よりもよっぽど出来た人間だよね! なのに彼女がいないのは何故でしょうか!」

「答えはおまえが邪魔をするから。つーか変なほめ方するの止めて。むず痒い……」

 むず痒いというかこっ恥ずかしいというか。普段あまり褒められる事の多くない自分にとって、こういうのは……何というか、弱い。

「柄にも無く照れちゃってー。かーわーいーいー」

「うるさい」

 でもやっぱり彼女はいつも通りだった。

「……とりあえず俺は寝る。眠気が限界だし。お前どうする? もう帰るか――」

「その点はご心配なく! お勉強道具を持ってきたので問題ないです!」

 にっこりと笑いながら手提げのトートバッグを見せ付けるように掲げる。なるほど、何が入ってるのかと疑問に思ってはいたがそういうことか。

「じゃあご自由にどうぞ。3時間くらい経ったら適当に起こしてくれ。起きなかったら3時まで放っといてくれていいよ」

「なんだかんだで私に頼る駄目男なゆうちゃんかっわいー」

 もう相手してられん。おやすみの一言だけをいい、階段を上って自室へと戻る。
 部屋へと戻り、勉強机の上に散らばっていた作業道具などを直し、原稿をひとまとめにしたあとベッドへと腰掛ける。

「で、だ」

 一息ついて独り言のようにつぶやく。

「どうしてお前が俺と一緒に部屋まで来てるのかな」

「えっ?」

 さも当然のように座椅子と折りたたみ机を取り出し、トートの中から勉強道具を取り出している彼女を視界からはずしてため息をつく。ほんとため息しか出ない。

「え、だってゆうちゃん寝るんでしょ?」

「それでどうして一緒の部屋にいるんだって聞いてるんだけど」

「もしかして私をリビングに放置する予定だったの? えーひっどーい」

 身体をくねくねしながら口に手を当てて駄目? とか聞いてくる。色気もクソも無い。
 ……頭が痛くなってきた。こいつといると本当に精神が磨り減る。

「お前なぁ、仮にも思春期真っ只中性欲バリバリの男子中学生と、現在家族が他に誰もいない状態で同じ部屋にいる事にちょっとは危機感を持てよ」

「それくらいでゆうちゃんが襲ってきたらもうとっくに私の処女は散ってるよー」

 あーもうやだやだ。この子やだ。

「はいはいさいで」

「む……そんなんだからゆうちゃんはまだ童貞なのよっ!」

 ズビシッ、と音がつきそうな勢いで俺を指差すのだが、まぁその通りなんだが、…いろいろと気に入らない。
 ……まぁ正直な話。俺が彼女に対しては好意を持ってるのは事実だろう。思春期としてそれなりに色目で見る事だってあることはある。
 だからといって彼女を抱きたいかといえばそれは話は別だろう。
 幼馴染という言葉では足りないくらいにお互いの距離が近い。さすがに通帳の場所は知らないだろうが、印鑑を置いている場所くらいは知っている仲だ。宅急便の対応なんざしょっちゅう。調味料の位置だって覚えてる。そのうち歯ブラシを置きそうな勢いなのである。
 何が言いたいかというと、彼女とはもう家族のようなものなのだ。しかしだからといって寝る時に一緒の部屋に居られるのは困る。以上。

「あ、気にしなくていいよー。どっちにしてももう眠いんでしょ。気にしないでおやすみー」

 …あぁ、俺はとても眠いのだ。今も眠い身体に鞭打って彼女と会話しているのだ。
 彼女に文句を言おうとしたものの、しかしもう限界。寝る。掛け布団を被り、目を閉じる。

「…おやすみ」

 小さく呟いたその一言に、彼女が笑ったような気がするが、もう意識は夢の中。…おやすみ。




「……」

 目が覚めた。
 枕もとの携帯で時間を確認すると今は3時の少し前。丁度いい時間に起きれたようだ。
 半身を起こし部屋を見渡す。彼女は居ない。だが荷物は残っていることから、恐らく階下で何かしているのだろう。
 まだ眠気が抜けきらない身体に鞭打って大きく伸びをする。そしてのろのろと身体を起こしベッドの脇で立ったまましばらくぼーっと。眠くて動く気になれないが、ここで二度寝をしてしまうと完全にサイクルが崩れてしまうので起きねばならない。うーうー言いながら、まだしばらくボーっとしていると部屋の扉が開いた。

「うわっ、びっくりした。ゆうちゃん起きてたの。おはよー今ちょうど起こそうと思ってたとこよー」

 手にはお盆。そこにはカップが二つと洋菓子がいくつか置かれていた。

「あーおはよう。眠いわ」

「おはよう。あ、机にあるノート除けてー」

 彼女の声に反応してのろのろとだが動き出す。折りたたみ机の上に広がっていた勉強道具を最低限まとめて脇に置く。
 それを確認して彼女は机にお盆を置く。カップに注がれていたのはコーヒーだ。俺は紅茶派なのだが眠気を覚ますには丁度いいだろう。
 腰を下ろして彼女の向かいに座る。コーヒーをちびちびと飲みながら眠気を飛ばして頭を回復させる。

「寝てる間に何かあった?」

「んー、特に無いかなぁ。あ、そういえばゆうちゃんの携帯に何回かメールと電話が来てたみたいだけど」

 言われて確認してみると彼女の言うとおり、リアルとネットの知り合いから何件か連絡が来ていた。大分眠気が飛んだとはいえ、まだ完全に頭が覚醒した訳ではないので、あいまいな返事を返して後ほどまたちゃんと返信することにした。
 その後彼女と駄弁りながら勉強を教え、教えられというのを繰り返してふと時計を見るともう夕方。子供はそろそろ家に帰る時間だ。

「あ、もうこんな時間なんだ。ゆうちゃん今日の晩御飯はどうするの? もしよかったらうちで食べる?」

 俺につられて時計を見た彼女が言う。
 さてどうしようか。確かに今日は準備なにもしてないし、今から準備をするとなると少々時間がかかる。
 …まぁ手抜きでいいのならパパッと作れるのだが、寝ていた為に昼を抜いている状況。出来るなら夕飯はちゃんとしたものをがっつり食べたい。……というわけで。

「申し訳ない、よろしくお願いいたします……!」

 お願いする事にした。彼女はにこにこと笑いながら彼女の親へとメールを送る。

「んじゃ英語終わったらうち行こっか」

「了解しましたお姫様」

 二人で関係代名詞の英作文に苦労しながらも宿題と予習復習を終わらせ、軽く準備して彼女の家へと向かう。
 その後の事はもういいだろう。ごくごく平和なヒトコマであったさ。
 平和で平和で、本当に幸せな日々。ずっと続いていくと信じて疑わなかったそんな日常。それが崩れるだなんてことは考えられない。そんな事がもしあるのならばそれは……。







[27536] ツレが魔女になりまして 3話
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 21:26





 彼女が魔法少女になってからしばらく経った日のこと。
 土日祝日の3連休を利用して、停滞気味だった原稿を一気に進められたので、若干修羅場状態だった原稿にも少し余裕が出来、気晴らしに散歩でもしてみようと思い立って、自分でも珍しいとは思いながらも久しぶりに自主的に外へ出た。

 太陽は既に沈んでいるものの、まだまだ周りは明るい。……とはいっても、もうしばらくすればすぐに暗くなるだろうが。
 適当にコースを決め、それほど長くない散歩を開始する。
 家から出てすぐのところにある公園では、小学生であろう子供たちが元気に遊んでいる。元気なのはいいことなのだが、そろそろ帰らなくていいのだろうか。そろそろ怒られそうな時間だが。

 そうして歩いてしばらく。目的の場所の近くまでたどり着いた。この角を曲がり、人気の無い公園を抜けて裏道を歩いて、そこから更に少し行けば……。
 散歩のお陰で気分はリフレッシュされて、気持ちはアップテンポ。
 久しぶりに感じる軽い気分で公園への角を曲がり、公園へと足を踏み入れようとしたそのとき、公園に誰かがいるのが目に入った。いや正確には公園の地面に倒れているというのが正しい。公園の真ん中を堂々と陣取り仰向けで寝ている。……ちょっとどころかかなり怪しい。
 誰だと思いつつ、倒れている人物と距離をとりながら近づき、そのまま公園の中を通り過ぎようとしたところで

「……ん?」

 暗くて見えにくかった、倒れている人間の正体が明らかになった。……腐れ縁で、家族よりも一緒にいる時間が多い例の魔法少女の彼女である。
 ……こいつは一体何をしているのだろうか。警察に補導されたいとでも言うのか。
 最近は随分とマシになってきたとはいえ、いろんな意味で、結構なレベルで頭が残念な子なので、この状況下ではなるべく・極力関わりたくないというのが本音だが、さすがに知り合いを放置するのは気が引けるので、加えてこのまま放っておくと後が怖いので、彼女の許へと歩み寄る。
 地面に仰向けで寝そべっている彼女は空を見ていた。特に何かをしている訳でもない。ただ地面に寝そべり、空を見上げていた。

「……おーい。お前何やってんの。もう大分暗くなってるから……ほら、帰るぞ」

 起き上がらせようと、手を伸ばすが、彼女はそれに反応することなく、未だ空を見ている。どうしたのだろうかと思っていると、長いため息を吐きながら彼女はようやく反応した。

「はぁぁ。…あ、ゆうちゃん。やっほー。原稿おわったの?」

「ほとんど終わったよ。今は丁度息抜きの散歩。ほら、暗くなるから早く帰るぞ」

「……ん」

 再び彼女に手を伸ばし、身体を起き上がらせる。そして半身を起き上がらせた状態で彼女は口を開く。

「私が魔法少女になったってこと、覚えてるよね」

「…ん、……覚えてるよ」

 いきなり何を言い出すのだろうか。
 あんな出来事をそう簡単に忘れるはずも無い。あれほど衝撃的な事実を聞かされることなんて長い人の一生でもそうそう無いだろう。それこそ彼女から「出来ちゃったの……」とか言われない限りは。
 とっとと帰らせようとしたものの、彼女の目が普段ではほとんど見ることの出来ない真剣な目をしていたので、引っ張ることはせず、そのまま彼女が口を開くのを待つことにした。どうしたのだろうか。

「ゆうちゃんには殆ど言ってないから、多分知らないだろうと思うけど、……私ね、あれから何度も魔女やその使い魔と戦ってたの。この街でね。時には危険なこともあったけど、なんとか勝ってきたし、まだまだだけど、ちょっとずつなら経験も積めてきたと思う」

 彼女がぽつぽつと言葉を紡ぐ。何が言いたいのか、未だ図りかねるが口を挟むのもどうかと思い、何も言うことなく、彼女が続きを話すのを待った。

「でね。この街にはもう一人魔法少女がいたらしくてね、しかも私よりも先に魔法少女になってたみたいで。……さっきの話なんだけど、私が魔女の使い魔を追いかけてたらその子がやってきてね。その子が私の邪魔をして使い魔を逃がしちゃったのよ」

 よくよく考えたら当たり前の事だが、彼女以外にも魔法少女がいたことにほんの少しの驚きを覚える。まぁ、彼女以外の魔法少女を見たことが無いのだから、今まで思いつかなかったのも当たり前といえば当たり前か。
 そんな事を考える間にも彼女は先を続ける。
 彼女から詳しく聞いた訳ではないので、未だに魔法少女のシステムというものはさっぱり分からないが、彼女が簡単に契約していた以上、魔法少女を生み出すのにはそうそう苦労するものではないのだろう。もしかしたら俺が思っている以上に魔法少女はたくさん居るのかもしれない。

「でね、ほら、私ってそれなりに正義感っていうのがあるじゃない。だからさ、その子とちょっと口論になってね。…で、最終的にはその子と戦う事になっちゃったんだけど。……魔法少女同士で戦うというのもおかしな話だけどね。それでね」

 そこで彼女は一度話を区切り、よっと言いながら立ち上がる。そして少し困ったような笑顔を向けながら

「負けちゃった」

 そう言った。そして悔しいなぁと、独り言と思えるほどの声量で呟いた後に言葉を続ける。

「遊びみたいな軽い気持ちで魔法少女やるんじゃないってその子に怒られちゃったよ。……困ったなぁ。私はずっと全力でやってるつもりだったんだけど」

 彼女はまた空を見る。
 既に日が沈んでから時間が経っている。星空と月の輝きが目立ち始めてきた。薄着だけではそろそろ肌寒い時間だ。

「魔女の使い魔は放置していれば、いずれ魔女になる。使い魔を倒してもグリーフシードは得られないけど、魔女になればグリーフシードを持っているかもしれない。……だけど使い魔が魔女になるには人を喰べないといけない。
 …目の前の犠牲を無視して、自分の利益だけを追求するのはどうかと思って、何より助けられる命を放り出すのは我慢できなくて、そう思ったからその子と戦ったんだけどね。キャリアの差なのかなぁ。手も足も出なかったよ」

 そうして彼女はまたため息をつきながら俺を見る。目尻に涙を浮かばせながらも笑いかけ、一歩を踏み出す。

「……帰ろっか。もう遅いし、心配されると困るもんね」

 彼女は歩き出す。俺に見えないように涙を袖で拭き取り、深呼吸をして俺へと振り返る。

「ゆうちゃん一緒に帰ろー! 早く来ないと置いてっちゃうよー」

 そこにいる彼女はもういつも通りの彼女だった。さっきまでの弱音を吐いていた彼女はもういない。いつも通りの元気な彼女だった。
 そう見えるはずなのだが、……やはり何かが違うように思えてしまう。
 何が違うといわれても分からない。だが、これだけ付き合いが長いからこそ分かる違和感。しかしその違和感の正体が分からないまま、何か消化不良のようなものを抱えながらも、俺達はほとんど喋ることなく帰路に着いた。


「じゃあねゆうちゃん。また明日」

 そうして彼女はそのまま家へと帰っていった。何か俺は言うべきだったのだろうか。彼女に何か話しかけるべきだったのだろうか。

「あ……」

「……ん、どしたの?」

 彼女を一度呼び止める。しかしやはり何を言えばいいのか、俺には何も思いつかなくて何もいう事が出来なかった。

「いや……また明日」

 結局、どうすることも出来ないまま彼女と別れ、俺も家へと戻った。





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とりあえず、追加投稿。
執筆自体は終わったので、修正を加えながら、反応を見てゆっくりと投稿していこうと思います。


感想返し
>30歳になったら~
その手があったか!(

内容に関しては、書き始めが原作8~9話の時点だったので、展開が……なんですけどね。
「彼女」が「ゆうちゃん」とどう作品内で絡んでいくのか、上手く書ければいいんですが……。

感想、ありがとうございました。



[27536] ツレが魔女になりまして tips
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 21:17
※この話だけ視点変わってます。





 またある日の事。
 数日前からこの近辺で気配のあった魔女。気配を辿って何度か追い詰めるものの、その都度、魔女の使い魔たちに遮られて尽く致命傷を与える事が出来ず逃げられていた。しかしそれも今や過去の話。
 魔女を守ろうとする使い魔たちを、手に持つ得物で切り裂いて消し去り、守るものが居なくなった、がら空きの魔女へと地を駆けて肉薄する。
 そして

「チェックメイトッ!」

 止めの一撃を魔女に放ち確かな感触を手に、消滅していくのを横目で確認する。
 消滅と同時に、魔女の身体から何かが零れ落ちる。見間違える筈も無い。私達、魔法少女の生命線とも言えるグリーフシードだ。

「ふぅ……」

 魔女の結界が崩壊し、元の世界へ景色が戻っていく
 久しぶりに魔女を倒し、グリーフシードをようやく手に入れた。最近はずっと使い魔を追いかけていることばかりだったのでグリーフシードを手に入れられず、ソウルジェムに溜まった穢れにそろそろ焦りを感じていただけに、今回グリーフシードを手に入れられたのは幸運であったといえる。

 強くなるためには経験を積んでいかねばならない。しかしだからといって我武者羅に戦っていてはソウルジェムに穢れが溜まっていって上手く戦えない。最近になってようやく自分の戦い方というものを確立させたものの、まだまだ無駄は多い。だからこうして今のように、少々の危険なら目を瞑って魔女へ特攻するという結果になってしまっている。このままではいずれ持たなくなることは分かっている。それまでには何とかしたいものだけれど……。

 胸元のソウルジェムにグリーフシードを近づけ、ソウルジェムに溜まった穢れをグリーフシードへと移していく。すぅ、と身体が軽くなるような錯覚と共に、黒く濁ったような穢れがグリーフシードへと移っていく。
 例のぬいぐるみのキュゥべえが言うには、ソウルジェムに穢れを溜めすぎると大変なことになる、としか聞いていなかったため、いまいちその後に、具体的にどうなるのかは知らない、というか分からない。が、まぁ少なくとも、まともな事にはならないのは確かだろう。しかし分からないからと云って、わざわざ自分を犠牲にしてまで実験する気はさらさら無い。いつだって自分の身が一番可愛いのだ。大人しくあのぬいぐるみの言う通り、溜まった穢れをグリーフシードに移しておこう。
 ソウルジェムの穢れが完全に浄化されたところでグリーフシードをソウルジェムから離す。このくらいなら、今手に入れたこのグリーフシードでまだあと2、3回くらいなら浄化に使っても問題ないだろう。無理をしない範囲ならの話だが。……もっとも、出来るならばグリーフシードを複数手に入れて、もっと余裕のある状態でいたいのだが、現実はそう甘くは無い。

「今度会ったら、あのぬいぐるみにもっと効率のいい狩り方教えてもらおうかしら」

 キュゥべえとは契約してからというものの、必要最低限の数度しか会っていない。しかしキュゥべえ曰く、私が気づかないだけで知らないところで監視はずっと続けているとかなんとか。その「ずっと」というのがどれ位を表すのか分からないが、everytimeとかalwaysなずっとなら、薄ら寒いものを感じてしまう。というかかなり気持ち悪い。ヒくわ。

 もともと直感に近い形で契約したため、そこまであのぬいぐるみ自体には興味はなかったものの、やはりいざ冷静に考えてみると、よく分からないことが多すぎる。ていうか契約するだけして、あとは殆ど放置って営業としてどうなのかしら。アフターケアは必要だと思うのだけれども。まるで悪徳契約。
 とは言うものの、この間久しぶりに会った時には、グリーフシードを手に入れてそれに穢れが溜まったころにまたやってくると言っていたので、恐らく直にまたあのぬいぐるみに会えることだろう。その時に疑問に思うことをいろいろ聞くことにしようではないか。……最も、ちゃんと答えてくれるかは分からないのだけれども。あの絶妙なはぐらかし方は、後々にならないと気づかないほど巧妙だから、しっかりと注意していなければいけない。この間も、それでしっかりとはぐらされたから、今度こそ……。

 さて、一応魔女を倒してから付近の警戒を続けていたものの、特に新しい魔女の気配なども感じないし、問題ないようだ。
 まだまだ魔法少女としての使命は終わらない。基本的には半永久的に続くと私はキュゥべえから聞いている。

 しかし私はずっとこんなものを続ける気は毛頭ない。どんな物事にだって永遠は無いはず。これにだって、きっとどこかで終わらせる方法があるはずだ。
 魔法「少女」というのだから、多分……さすがにこのまま10年も続けるなんて事は無いだろう。10年後、つまり20代半ばのそんな時期に、魔法「少女」なんて言っていれば失笑ものどころじゃない、冗談抜きで頭が可愛そうな人になってしまう。うん、確実に。 女子会(笑)並に。いや、それどころじゃ無いかもしれない。……おぉ怖い怖い。
 とは言うものの、自分以外の魔法少女に出会ったのは、今まであの子一人しか居ないので、具体的に、正確にはこれからどうなるかは分からない。あの子も私と同い年くらいだったし、いまいちよく分からないのだ。少女じゃなくなった魔法少女はどうなるのだろうか。少女でない魔法使いだから魔女にでもなるのか? 馬鹿馬鹿しい。

「ほんとアホらし……疲れたしもう帰ろうっと」

 変身を解いて帰路へ着く。使い魔が人を襲う前に、こちらから攻撃を仕掛けたので今回は確認できた範囲では犠牲者は居ない。周りに人通りも無いので、特に気にすることなくゆっくりと帰れるだろう。
 疲れのせいで重くなったような錯覚がする身体に鞭を打ってだるそうに歩いていく。
 確かに魔法少女として魔女を倒していると、何も無い普段の数倍の疲労がある。それは普段はそこまで活動的に動かない私だから、余計にそう感じるのかもしれない。それ以外にも、常に魔女の気配を探るために神経を張っていないといけないし、魔女に操られた人間などを見つけた場合はその対処もしなければならない。本当に大変なのだ。

 つらいことなんて沢山ある。しかしそれを超えて使命を果たさねばならないのだ。その所為で更に辛くなる。
 何よりも、この努力を誰も知らない。当たり前だ。言うわけにはいかないし。
 しかし、……だからといって、挫ける訳にはいかない。どういう基準かは知らないが、私は選ばれた訳なのだ。普通ではない、非日常への世界へ向かう権利を。そして手に入れたのだ、他者を守る非日常の力を。だからこそ、私は頑張らねばならない。心を折る訳にはいかない。
 同じ街に魔法少女が居たことは割と驚いたがそれ以上に、その子に負けたということは予想以上に衝撃的だった。驕っていた訳ではない。少なくとも自分ではそう思ってる。……それでも、心のどこかで、今までの人生のように、負けることは無い、勝てるはずだ、何とかなると高を括っていたのだろう。そしてその結果があれだ。

 私達のように現実に存在する魔法少女は、アニメや漫画に出てくるようなファンシーでファンタジーな存在ではない。自身の命を賭けて、魔女というよく分からない存在を討ち取るのだ。そんな生と死のやり取りの世界が普通なのだ。だからこそあの子に、覚悟の差で、経験の差で負けたのは至極当然である……そうであるはず。
 そう分かっていても、……やっぱり心を砕かれる思いだ。キュゥべえには才能があると言われていたし、今まではそれほど大きな苦労も無く魔女を倒してきていたのだから、やはり気づかぬ間に天狗になっていたのだ。そんな私の鼻を折ってくれたのだから、感謝しなければならない。次は無いのだから。
 だからこそ、これからは気を抜けない。今まで以上に気を引き締めていかなければならない。今までの覚悟よりも、もっともっと遥かに重い覚悟が必要なのだ。……いや、これでようやく魔法少女としての覚悟が出来たというべきか。
 私自身で自覚できるくらいに、あの出来事の前後で魔法少女としての行動が変わってきたくらいだ。まだまだ先は長い。一歩ずつ、でも確実に成長していかねばならないだろう。


 ようやく家が近づいてきた。もうすぐゆうちゃんの家が見える頃だ。
 ゆうちゃんの部屋は相変わらず電気がついている。車が無いことから、おばさんはまだ帰ってきていないのだろう。たぶん、ゆうちゃんはおばさんが帰ってくるまでずっと部屋に篭っているに違いない。最近はまた原稿がうまくいってないのか、頑張って隠そうとしてるみたいだけど、ずっと目の下にうすく隈が出来ている状態が続いている。
 さすがにそこまで分かっていながら今日行くのは迷惑だろう。家に突撃したい気持ちを抑え、ゆうちゃんの原稿が上手くことを願ってゆうちゃんの家の前を通過する。

 最近になって――特に先日の他の魔法少女との一件から――ゆうちゃんが私に対して以前と比べて更に優しくなった気がする。これは多分気のせいじゃないはずだ。ずっとゆうちゃんと一緒にいる私だからこそ分かること。
 もともと彼は、私に対しては甘やかしていると私自身が自分で自覚出来る程に優しい。口ではなんだかんだ言いながらも、結局は私に合わせてくれるようなそんな人なのだ。それが更に優しくなったのだから、それは本当にもう……幸せいっぱいなのだ!

 少しぎこちなかった日々もあったがすぐにいつも通り、そして今まで以上に優しくて素敵なゆうちゃんになっていた。
 彼のことを考えるだけで、このつらい魔法少女の使命もなんとかなるような気がしてくるし、ソウルジェムの穢れも中和されるような気分なのだ。恋する乙女は無敵です、だなんて言葉があったけど、あれはまさしく本当のことだと身を以って実感した。というか今まさに実感している。
 今日も家に帰ったらメールと電話で魔女を退治したことをゆうちゃんにお話ししよう。面倒くさいと言いながらも、彼はきっと私の話を黙って最後まで聞いてくれるのだ。
 そして明日会ったときに……頭を撫でてもらうのだ。
 ゆうちゃんが人を褒めることは、私を含めてもあまり、というかほとんど無い。でも、だからこそ偶に褒めてくれる時はすっごく嬉しいし、不器用ながらも頭を撫でてくれる手はまさに魔法みたいに疲れを吹き飛ばしてくれるのだ!
 あぁ、早くゆうちゃんに会いたい!
 彼のことを思うだけで帰路に着く足取りも軽くなる。まだまだ私は戦える。限界のギリギリが来るまでは、ずっと、ずっと戦える。それまでは、ゆうちゃんにずっと甘えていよう。彼に笑ってもらえるように頑張ろう、頭を撫でてもらえるように頑張ろう。
 そんな幸せいっぱいな気持ちで家に帰り、ゆうちゃんとの電話で褒めてもらった後は幸せすぎて、気づいたらベッドに横になって眠っていた。






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 勉強忙しすぎて修正やってる暇がありませんでした。就活?そんなものはない。


感想の返しを
>使い魔(童貞)が成長した魔女(魔法使い)には種がないと言うかーー!!
性別的な考えで、種があるか無いかという考えも……ry

「彼女」を負かせた魔法少女はまさにベテランで魔法少女としての動き方を知っているのでしょう。
だからこそ、まだ幻想を抱きがちだった彼女と考え方の差が出たのではないかなと。
ちなみにもうこの魔法少女の出番はありません。残念。
おりこは昨日あたりにまた出たんでしたっけ? 同人誌でこの人の癖のある描き方があんまり好きじゃなかったんですが、やっぱりこうなるとほいほい買ってしまう訳なんですよね。

感想、ありがとうございました。

ちょう短い話なのでそろそろ半分くらいですかね。物語は動くんですか。



[27536] ツレが魔女になりまして 4話
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 21:26





 彼女が魔法少女になって、そしてそれからいろいろあって、またしばらく経った頃。
 今日も今日とていつもと変わらない日常。何気ない日常……ではあるのだが。
 なんというか、今、ふと気づいたことなのだが、ここ最近彼女と居ることが多い気がする。
 いやこの言い方は少々語弊があるか。
 確かに今まででも、他の友人たちと比べると圧倒的に彼女といる時間の方が多いのだが、どうにも最近彼女と二人で過ごす時間が多い気がするのだ。もちろん、これらの理由には部活の引退で部活のメンバーと絡む事が少なくなったことや、もともと家が近いので彼女と受験に向けて一緒に勉強することが多いということもあるのだが。
 それでも、以前ならば彼女と俺以外に他に誰かが追加で居る事があるものなのだが、どうもここ最近は彼女と二人きりの時間が多いのだ。これは気のせいだろうか……。まぁ気のせいじゃないのだけど。残念ながら、事実なのである。非常に複雑な気分である。

 とにかくまぁ、そうだな……。
 つまり何が言いたいかというと。

「どうしてこうなった」

 休日の夕方、我が家で現在彼女と二人きり。そして当の彼女は俺の膝枕ですやすやと眠っている。
 こうなったきっかけは全く以っていつも通り。
 母さんは仕事で家にいないので、今日も今日とて自分の部屋に引きこもって勉強や原稿をしていると、彼女がいつも通りにやって来て、丁度いい時間だったので休憩も兼ねて、彼女が暇つぶしにと持ってきたDVDの鑑賞を始めることにしたのだ。
 しかし序盤から少しうとうとしていた彼女が、鑑賞途中でついに耐え切れなくなり、ゆるゆると俺の肩へと寄りかかってきた訳だ。
 かなり眠そうにしていたので無理やり起こすのも悪いと思い、仕方ないので寝させようとするものの彼女が俺に抱きついてきて離れない。何やかんやしている内に完全に眠りに落ちてしまい、今の状況が出来上がったという訳である。
 彼女が借りてきた映画はもうクライマックス、ほどなく、直に終わるだろう。しかし膝の上で気持ちよさそうに眠る彼女は起きる気配が全く無い。どうしたものか。

「おーい、映画はもういいのかー終わっちゃうぞー」

「んー」

「ていうかそろそろどかすぞ。動けないから。ほら」

「んーんー」

「デコピンするぞ」

「んー」

 腰に抱きついてきた。こりゃ駄目だ。完全に起きる気が無い。
 ていうか起きているのか寝ているのかどっちなんだ。俺のいう事には反応してるみたいだけど……。意識は覚醒しているけど頭は寝ている感じだろうか。あ、映画が終わった。


 ……さて、本当にどうしようか。エンドロールが終わり、タイトル画面に戻ってきたので電源を落とす。途端に部屋が静かになった。
 ぐっすり寝ている彼女を無理やり起こすのもいいが、そうした場合、高確率で不機嫌になる。その矛先を俺や物に当てられるのはあまりよろしくないので、残念ながら我慢するしかないのである。
 彼女という障害物が膝の上にあるこの状況下では何も出来ないと、普通ではお思いだろうがそんなことは断じてない。幸いなことに、携帯端末は持って来ているので、これで作業は出来ない事は無いのだ。勿論最低限だが。先を見越して持ってきていた俺を褒めてやりたい。普段なら携帯すら放置するような俺だから。

 片手で端末を操作しながら手持ち無沙汰なもう片方の手で彼女の頭を撫でるようにして髪を手櫛で梳く。あまり長くは無いものの、肩に少しかかる程度のセミロングの髪の毛はこうやっていじるのに丁度良い。もともとの髪質もあるが女子らしく、手入れがしっかりと行き届いているので勿論さらさらである。触っているこちらが気持ちよくなるくらいだ。いつまでもこうして触っていたいが、これが彼女に見つかると間違いなくからかわれるだけなので、程ほどにして止めることにする。

「……」

 一息ついて、眠っている彼女の顔をそっと眺める。気持ちよく眠っているその顔は見ているとこちらまで顔が緩んでしまいそうになる。彼女の顔が整っていて綺麗なだけに余計にそう思えてしまうのだ。

「   」

 小さく彼女の名を呼ぶ。勿論、既に夢の世界へと旅立っている彼女は名前を呼ばれても反応しない。ただ静かに寝息を立てるだけである。
 もう一度頭を撫でる。
 それに反応してか、僅かに身じろぎするものの、やはりこれといった反応は無い。

 ……こうして、何もしていなければ可愛いのに。

 いつもそう思う。本当に、顔は整っているし、性格だって猫被ってる時は特に悪いところは無い。…都合の悪い本性を隠すのを猫を被るって言うんだけどさ。まぁ自分としては、彼女の突拍子の無い行動も、訳の分からないことに付き合わされる強引さも、時々見せる素直さも、全部慣れたものだ。
 そりゃあ……時々面倒だと感じるときはあるけども、一体どれだけの付き合いだと思っているのか。年の数とほぼ同じ年月を彼女と共に過ごしているのだ。文句は既に言いまくっているし、対処法も身につけているので今更どうしようとも思っていない。それが分かっているからこそ、彼女も遠慮なく俺に突っ込んでくる訳なんだけど。


 先ほどと変わらずに、すぅと寝息と立てる彼女はまだしばらく起きる気配は無さそうだ。よっぽど眠たかったのだろうか。それならば、わざわざうちに来ることなく、自分の家で昼寝でもしておけばいいものを。貴重な休日に態々うちに上がりこんで何をするでもなく昼寝とはこれ如何に。

 さて、それにしてもどうしようか。彼女が自分で起きるにしろ、俺が起こすにしろ、今はまだそんな時間じゃないだろう。もう少し、寝かせておくとしよう。彼女の事だから、もう少しすれば自分で起きるだろうし。
 彼女の寝息を聞きながら、端末を弄ってひたすら新しい原稿の為に構成を練り上げていく。まだこれは使うことは無いだろうが、頭に思い浮かんでいるうちに文字に起こしておこう。熟成させればいい作品になりそうだ。そんなことを考えながら彼女と二人きりの時間は過ぎていく。



「ん……?」

「お、ようやく起きたか」

 ある程度の作業を終わらせてしばらく休憩していると、身体をうねうねと動かしながら声をあげ、ようやくお目覚めの気配を見せる。そして目を開けてしばらく回りをきょろきょろとした後に、俺の顔を見て、

「あれ……? おはよう?」

「おはよう」

 彼女は目をぱちくりさせて再び周りをぼーっと眺める。お嬢様は未だに頭が覚醒しきってないご様子のようで。……こういう仕草は可愛いんだがなぁ。何分、普段の様子があぁだから余計にそう感じてしまうな。
 そしてまた俺の顔を見て、にへらと頬を緩ませたあとに言葉を続ける。

「…私寝てたの?」

「うん、寝てたよ」

「ゆうちゃんの膝枕で?」

「そう、俺の膝枕で」

 答えるやいなや、緩みきっていた顔が更に緩み、学校での普段の凛とした彼女しか知らない人が見れば別人としか思えないほどにやけた顔を見せる。
 ……勿論のこと、俺はこちらの顔の方が見慣れているのだが。

「なんという至福! これは二度寝するしかっ」

 すかさず再度睡眠の体勢に入ろうとする彼女を妨害し、さっと回避する。さすがに2回目を受け入れるほど優しくは無い。こちらにも都合があるのだ。

「寝すぎると夜寝られないぞ」

「うー大丈夫だよー。最近寝ても寝ても眠くて」

 ……。彼女が目をこすりながら言った言葉が心に引っかかった。
 何が原因かは恐らく見当がつく。言うまでも無く例のアレ――魔法少女としての使命――だろう。確かに使命を全うするために動き回る事は良いだろう。彼女が選んだ道である。誰も責める事は出来ないし責められる謂れも無いだろう。だけど、それが原因で身体を崩してしまっては元も子もないのだ。

 よくよく彼女を見れば、寝起きにしてみれば――いつも見てきた俺だからこそ分かる――顔色が若干悪いようにも見える。本当に気にならないレベルではあるが、それが余計に不安になる。俺には何も言ってこないが、きっと俺の知らないところで無理をしているのだろう。
 もともと彼女はそれほど恒常的に活発に活動するタイプではない。インドアかアウトドアかと聞かれればアウトドアに分類されるだろうけど、だからと云って動き回るかと言われればそうでは無い。そんな彼女がこのようなことをずっと続けていれば、いずれ身体に大きなしっぺ返しが来る事は想像に難くない。だからこそ、彼女の無意識にブレーキを掛けさせるために、彼女にそれとなく注意をする。それが、俺が出来る数少ない事のうちの一つだろう。

「頑張ってるのは分かるけどさ。俺の知らないところでもいっぱい頑張ってるんだろうし。だけどあんまり根つめて頑張りすぎると、またいつかみたいに怪我するぞ。
 いくら考え方が違うったって、こないだ言ってた子も同じ魔法少女なんだろ。じゃあ目的は変わらないんだろうし、疲れたらその子に任せてしばらく休んだっていいと思うよ。無茶を続けて取り返しのつかないことになったらそれこそ元も子もないからさ」

 肩によりかかってボーっとしている彼女の頭を撫でながら言う。彼女は少し顔を赤くしながらも、

「……うん」

 素直に返事をする。
 いつも通りの、普段の彼女なら、ひとつふたつからかいを混ぜながら答えるのだろうが、やはり疲れているのだろう。びっくりするほど素直なこの通りである。

「つらかったら、俺に頼ってくれてもいいよ。こうするくらいしか出来ないけど」

 そう言って不器用ながらも、片腕で頭を撫でながら彼女を抱きしめる。俺は、彼女の替わりに魔女を倒す事は出来ない。彼女の替わりに世界を救うことなんて出来ない。俺に出来るのは、彼女の心が折れぬよう、彼女をずっと支えることだけ。
 彼女が魔法少女であるという事実を知っているのはこの世界で俺だけ。だからこそ、俺が彼女を支えていかなければならない。
 どんな時でも強がることが多い彼女だ。今だってきっと強がっているに違いない。
 もし、この調子のまま続けていれば、いつかきっと彼女は躓いてしまうだろう。躓く前に彼女を支えること。そして躓いたとしても、彼女の手を取って立ち上がらせて、助けて、そして俺が出来る範囲で導いていくこと。それが俺の出来ること。
 彼女がずっと弱気になっているところなんて見たくない。彼女は花のように綺麗にずっと笑っていて欲しいのだ。その為なら、そんな彼女がずっと見られるのなら、俺はどんな事にだって耐えてみせよう。

 それからしばらくして、ようやく彼女の頭が完全に覚醒したようで、俺から顔を真っ赤にしながら離れ、あぅあぅ言いながらクッションに顔を埋めていた。

「うー恥ずかしい! ゆうちゃんにべったりくっつくなんて!」

「別にいつもと変わらないと思うんだけど」

 そんな彼女を俺はずっと眺めている。普段は俺をからかう側にいる彼女がここまで照れているのも珍しいといえば珍しい。……まぁ俺も、表情には出していないものの、未だにかなり心臓がバクバクいっているのだが。
 その後はというものの、親からの連絡で帰りが遅くなるとの事で、彼女と共に夕飯を作り、若干気まずい気配のする食事を取り、やはりこの日も平和に過ごしていった。

 まだまだ平和な日々だ。俺の知る、当たり前である平和の日々。でも確実に入り込む非日常と、その平和を砕く気配。まだ俺はそれにほとんど気づけず、舞い上がりながらも日々を過ごしていた。






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tipsと一緒に投稿。両方とも修正してたらpixivで投稿したものよりも3割ほど増えていたでござる。

またゆっくりと修正かけながら、投稿していきたいと思います。



[27536] ツレが魔女になりまして 5話
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 21:26





 彼女が魔法少女になって結構な月日が経った頃。
 しばらく前に、無茶をするなと彼女に言ってから、それでも未だに無理をする事はあるものの、以前に比べればかなり改善されたといってもいいだろう。それに加えて魔法少女というものに慣れたということもあって、自分の実力以上の無理をする無茶はしなくなった。そのお陰で彼女の体調も前のようにずっと不調という事も無く、すこぶる快調な日々を過ごしているようである。

 以前は平日休日問わず、魔女の気配があればそこへ赴き、尚且つ平日は学生として学校に行かねばならないという中々に大変な毎日であった。休日も日中は街中を歩き回ったり、外に出てもすぐに魔女や使い魔の動向を探る事ばかりで、完全に休むということは月に数日あるかどうかという程だった。
 しかしそれも今や過去の話。俺の言った事をちゃんと聞いたのかどうかは知らないが、最近はそれなりに休むようになったお陰で、今日のようにゆっくりと二人で買い物に行く余裕も出来たのだ。

「私の用事は大方終わりかなぁ。掘り出し物もあったし。じゃー次はゆうちゃんの服を買いに行きまっしょー!」

「……俺の服はいいよ。こないだ買ったとこだし」

「こないだ、ってそれどうせ春に買い物行ったときでしょー。秋服は絶対買ってないでしょー」

「違うって。先月買いに行ったから。俺がいっつも行ってる服屋で夏服の処分セールがあったから、ついでに秋服も買ったんだよ。だから俺の分はいいよ。それに今着てる服だって、ちゃんとその時に買ったやつだから」

「えー。せっかく恥ずかしがるゆうちゃんを無理やりコーディネートするという計画があったのになー。コーディネートはこーでねーと。ぐへへへw」

 一人で寒い洒落を言って気持ち悪い笑みを浮かべている彼女を放置して先々進むことにした。近くに一緒にいて同類と思われたらたまらない。…既に遅いかもしれないが。

「あ、待ってよゆうちゃん。買い物行かないならそろそろ休憩しようよ。この近くに去年出来たイギリス風の喫茶店、まだ行ってなかったんだー。一緒に行こーよー」

 そう言って彼女は俺に駆け寄り、俺の答えを聞く前にぐいぐいと腕を引っ張って進んでいく。ま、早い昼ご飯を食べて、昼前からずっと買い物とか遊んだりしてたから、丁度そろそろ疲れてきたところだ。ここらへんで休憩するのも良いだろう。どちらにしろ、もう帰るだけなのだから、ゆっくりするのも悪くはない。
 いま歩いている商店街を抜けて、別の通りへと向かい、民家が立ち並ぶ通りを歩く。そこからまた少し歩いたところに他の家とは造りが違う家がぽつんと建っていた。
 なるほど彼女の言うとおり、家の見た目からしてまさにイギリス風。なんというかブリティッシュというかアイリッシュというか。いや、この違いは俺は分からないのだけど。とりあえず雰囲気は充分だろう。少し首を動かすと見える、目の端に僅かに映る周りの民家さえなければだが。

 彼女と共に中に入ってみると、外観と同様、中の造りもしっかりしているようだ。客もそこまで多くなく、一息ついてゆっくりとくつろげそうだ。
 二人とも日替わりのケーキセットを頼み、彼女はモカを、俺はグアテマラを飲みながらゆっくりと談笑していた。個人的にはイギリス風なのだから紅茶(勿論ミルクティー)が飲みたかったのだが、紅茶のケーキセットの方がコーヒーよりも若干高かったので我慢した。どういうこっちゃ。
 多分ここがあんまり人気が無いのは、堂々とイギリス風と銘打ってるくせに、紅茶ではなくコーヒーを出す気が満々だからなんだろう。メニューをよく見ると、紅茶はフレーバーティーなども合わせて10種類ほどしかないくせに、コーヒーはやけに種類が揃っている。見たことも聞いたことも無い種類もたくさんあった。どういうこっちゃ。

「このコーヒー飲みやすいねー。やっぱインスタントとは違うねー」

「そりゃそうだろ。よっぽど質が悪いのじゃない限り、豆から挽いたのは味も香りも格別だよ」

 これだけコーヒーを揃えているだけに、やはりというべきかコーヒーの味はとてもいい。うちの家でも時々ドリップ式のコーヒーは飲んでいるが、注文が入ってから豆を挽くという、挽きたてほやほやのコーヒーはやはり味が違う。……ような気がする。さすがにそこまで舌は肥えてない。インスタントと違うことくらいは分かるけども。

「でもやっぱり紅茶の方が飲みたかったなぁ。ちょっと奮発して紅茶の方を頼めばよかった」

 しかし忘れてはいけない。俺らは所詮は中学生なのだ。日々のお小遣いとお年玉で一年をやりくりしていかねばならない、悲しい身分なのだ。こうやって彼女とデート紛いのことをするだけでも結構な出費になる訳で。……まぁ俺は別の収入もあるがそれも雀の涙程度。作品のための資料を買えばすぐになくなる程度だ。加えて先月いろいろと支出があったために、今月は若干金が無いのだ。故に見栄を張って奢ることも出来ない訳だ。悲しい。

「また今度来るときに頼めばいいよ。ケーキも美味しかったし、次は紅茶頼めばいいさ」

 コーヒーも紅茶も美味い。少なくとも、舌の肥えきっていない俺はそう感じた。

「えーなにそれまた私とデートする気かなー? いやーん」

「うっせ」

「あいたっ」

 顔を近づけて挑発してきた彼女の額にぺこんとデコピンとする。彼女は額を押さえながらも、にやにや笑うのを止めない。全く……。

「そういえば」

 ふと思い出したかのように、口を開いて彼女に魔法少女としての近況を聞きだす。こうして二人で外出する余裕は出来たものの、こうしていても彼女は肝心なところを隠している事が今までに多々あった。だからこそ、こうして言葉にしてなんとも無いか聞くのが大事なのだ。

「最近は大分余裕が出来てたみたいだけど、あんまり魔女も見かけなくなったのか?」

「うん、そだねー。今月の初めに1体倒したきりかなぁ。一応警戒は続けてるけど、今のところは全く問題ないよ。だから今のところは割と余裕があるかなー」

「そうか」

 そう笑って言う彼女に嘘を言っている節はない。ならば、特に俺が気にする事も無いだろう。せめて彼女の心が安らぐように、いつも通りにしていればいい。


 マスターのご厚意に与り、サービスの2杯目を飲んでいると、何時かに話した続きとして、彼女が今までに戦ってきた魔女の話を始めた。

 彼女が時々話す魔女の話はとても興味深い。普通、魔女と聞いて思い浮かぶのは、黒装束に黒い三角帽、黒猫を使い魔にして箒で空を飛ぶ。というような典型的なものであろうし、俺もそれにもれずにそういう想像をしていたのだが、実際はまったくそんなものではないらしい。というかそもそも人ですらないという。
 人型の魔女もいるものの、基本的にはどちらかといえば、モンスターやクリーチャーなどと言った方が正しいような、現実離れした外見をしているものが大半らしい。
 キメラの様な様々な動物をくっつけた化け物のようなものもいれば、スーツで着飾ったマネキンのようなものも、虫かごに手足が生えただけのようなものや、ガラクタやゴミを集めて人の形にしたようなものまで、それはもう事実は小説より奇なり、を体現していると言うほどの様々な形をした「魔女」がいるらしい。
 ……話を聞いている身をしては、それは本当に魔女なのか?と思わずにはいられないが。
 そんな常識の外の話を聞いたからこそ思い浮かんだ疑問を、彼女にぶつけてみた。
 そもそも「魔女」とは何なのか、という疑問だ。今まで、そして現在も実際にこの目で見たことは無いものの、そんな常識離れした存在が自然に発生するとは思えない。だからこそ彼女にその疑問を投げかけてみたものの、どうやら彼女もそれは知らないらしい。しかし彼女曰く、大体の想像はつくが余りにも突拍子の無いものなので俺に話す程ではないという。いずれ自身を魔法少女へと変えたキュゥべえから聞きだすつもりらしいが、そう思っている時に限って探しても見つからなくなっているとかなんとか。

「はー。大変なもんだねぇ。仕事じゃないのにやらねばならん。しかもそれがハイリスクノーリターン。やらねば倒される。逃げてもどこにでも潜んでいる。倒しても誰にも感謝されない。……今更ながら、何でお前がこんな条件を飲んだのか俺は理解に苦しむんだけど」

「確かに言われてみればそうなんだけどねー。……でも魔法少女っていう、その響きに詰まった夢や理想、それから私の願い。それを手に入れられたんだから、今はまだ満足してるよ。それに、誰も私を見ていないってことはないからね。ゆうちゃんがちゃんと私を見てくれてるしね」

「……なんだその自意識過剰」

「ふふふ、そうだねー」

 それからも彼女とコーヒーを飲みながら他愛の無い話をし、俺の「当たり前」である、何も起きないいつも通りの平和な時間を過ごしていった。



 喫茶店で彼女とのゆっくりとした優雅な時間を過ごし、そろそろいい時間になったので、会計をして店の外へ出た瞬間、言葉では言い表すことの出来ない違和感が辺りを覆った。
 驚きつつもあたりを見渡すと、隣にいた彼女がとある一点をみて驚愕していた。

「魔女の結界!? なんでこんな近くにあったのに……」

 ……どうやら、この違和感の正体は魔女が結界を張った所為らしい。
 それが意味することはつまり、魔女が姿を現し、人間を捕食するということ。

「ゆうちゃんは先に帰ってて! 私は魔女を倒――」

 彼女が言葉を言い終えるその前に、辺りの違和感が急激に膨らみだし、逃げる事も出来ずに俺と彼女を飲みこんだ。

「う……。はっ!?」

 一瞬意識が飛んだような気がしたが、すぐに目を開け辺りを見渡す。
 飲まれた先の空間はまるで異次元のようだった。いや、まさに異次元、異空間そのものだろう。
 原色のペンキを辺り一面に撒き散らしたような目に悪い空間。そして様々なガラクタや家具や家電、モノが入り乱れて組み上げられた建造物のようなもの。その隣にある、まだ完成途中のガラクタタワーを一心不乱に組み上げようとする異形の何か。
 現実では考えられないような景色がそこにあった。何かのアトラクションだと思っても、それにしては趣味が悪すぎる。

「気をつけてゆうちゃん。魔女の結界に飲み込まれた。今はまだ出られないから私から離れないで」

 声をした方向を振り向くとそこには彼女が、あの時以来一度も見ていなかった魔法少女の姿でそこに立っていた。
 その姿に、いつもの抜けた彼女の面影は無く、凛とした姿と表情でいる彼女はまさに魔法少女だった。

「これが……魔女の結界の中なのか……?」

「そだよ。危ないから私から離れないでね。……進むよ、気をつけてね」

 そう言って歩き出す彼女から一歩遅れて、彼女から離れぬように自分も歩き出す。
 彼女との「デート」とも言える今日一日の終わりがまさかこんなことになるとは、一体誰が想像できただろうか。
 いつも通り、平和な一日として終わるはずだった。いつも通りの、異常なんてどこにも無い、誰もが当たり前のように享受している「平和」な一日として、彼女と共に過ごした何気ない今日の一日が終わるはずだった。
 なのに。
 なのにどうして、こいつらは邪魔をするのだろうか。

「そういえば、この姿を見せるのって久しぶりだね」

 緊張している俺の気を紛らわせる為だろうか、彼女が声を和らげて笑いかけるように話しかけてきた。勿論、その視線は進む先を見ていて、周囲の警戒を怠っていないのだが。

「そうだな……。夏前の、魔法少女になった、ってことを教えてくれたあの時以来だ」

 あの時のことを思い出す。
 それは突然の、そして突拍子も無いような話だった。
 いつものような、何気ない冗談だと思っていたその告白。しかしそれはまさかの真実で、異能の力を手に入れたと告げた彼女は、いつもより輝いていた気がする。

「あれからあっという間、だったような気がする。忙しかったのもあるけど」

 ぽつりと独り言のように言葉をこぼす。そんな俺の言葉にも、彼女は笑顔で返してきた。

「そうだね、ほんと、あっという間だった。
 どうすればいいのか分からなくて、我武者羅に頑張って。魔女を倒して、魔法少女に倒されて。ゆうちゃんと一緒に過ごして、一人で魔女と戦って。
 こうやってずっと過ごしてきた」

 彼女の言葉に何か含みを感じたが、それが何かまでは分からず、かといって聞くことも出来ずに、彼女の後ろをひたひたとついていく。
 しばらくの間、沈黙が辺りを支配する。
 この空間を進んでも進んでも、あちらこちらに、前衛的といえば良いのか、ガラクタが沢山積み重ねられたものがあり、そこにまた異形のよくわからない生物のようなものがせっせとそこかしこに落ちているガラクタを組み上げている。時折悲鳴のようなものを上げて、ガラクタタワーから落っこちたり、ミスをしたのか、ガラガラと崩れる音がするものの、それ以外は俺と彼女の靴の音以外聞こえない。

「あの、さ……」

 沈黙に耐え切れず、彼女に声をかける。彼女は一瞬だけ後ろを振り向き、なぁにと返した。

「今回の魔女、勝てるのか?」

「まだ分かんないよ。でも今までずっと、魔女には負けてないし、多分今回も大丈夫だよ。…それに、いざとなれば尻尾巻いてゆうちゃん連れて全力で、どんな手を使ってでもここから逃げるから大丈夫」

 彼女のその声にいつものような抜けた感じはない。

「そう、か……」

 表情や気配と同じく、張り詰めながらも俺を気にかける余裕を持ち、そして辺りへの警戒も怠らない。既に彼女は臨戦態勢に入っている。そうだ、俺や他の人間とは違う、魔法少女として。魔女と戦う存在として。
 もう俺に出来る事は無いだろう。
 せいぜい彼女の邪魔にならないよう、後ろにちょこちょこついていって、彼女の指示を聞き漏らさないようにするしかない。
 彼女に何か声をかけようと思うものの、どう声をかければいいのか思いつかず、口を開きかけてまた閉じる。頑張れなんて言えないし、他にどう声をかければ良いのか分からない。
 だからこそ、また沈黙へ戻ってしまう訳なのだが、そこに不安は無い。彼女と一緒に居れば大丈夫。そんな気がするから。








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おりこ☆マギカが近所の本屋に置いてない……
仕方ないのでかずみ☆マギカだけ買ってきました。どうもこんにちは。

もう少し間を空けようかなと思ったけど、忙しくなりそうな気配があったので先に投稿。


どこからどうみてもデート。でも二人は飽く迄「一緒に買い物に行ってるだけ」と言います。そんな感じ。
ここ数年は恋してないし、きゅんきゅんしてないしで、こういう表現はすっごく書くのが難しいです。
気の合う異性の友人、欲しいですね。異性の幼馴染はいるけれど、最近会ってないなぁ……。


では感想返し。
二人が幸せなシーンは書いてて楽しいです。
僕のソウルジェムも今は浄化される程です。

毎度感想ありがとうございます。
他の方もかるーく一言でも書いていただけるとモチベーションが上がるので書いて欲しいなぁ……と思ったり。


ではまた次回。



[27536] ツレが魔女になりまして 6話
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 21:26





 魔女の結界に飲み込まれ、歩き始めてどのくらい経っただろうか。しばらく歩き続けていたものの、周りの不気味な景色は変わることなく、しかし足元は延々と続く石畳の道であるという、違和感が非常に気持ち悪かった。
 根拠のない恐怖感や、まわりの気味の悪さに、びくびくしながら付いていく俺を注意しながらも彼女は、時より思い出したかのように襲い掛かる異形の何か(この結界の魔女が使役する使い魔らしい)を、手に持つ得物で軽くなぎ払いながらも石畳の道を一直線に進む。

 こんな訳の分からない空間で一人、彼女はずっと魔女と戦っていたのか。
 俺が平和に、呑気過ごしていた間、彼女はずっと一人で魔女と戦っていたのか。
 そう思っただけで、そう考えただけで、彼女の存在――魔法少女としての存在――を大きく感じた。

「随分と大きい結界……、もしかしたら結構強い魔女なのかもしれないわね……」

 いつもの俺と居るときに見せる、ふわふわと浮いたような のほほんとした彼女ではなく、見たことが無いほど真剣な眼差しで道の奥を睨みつけている。
 道の先、結界の奥には何があるのか、俺にはさっぱり分からない。俺の目には見えていない何かが彼女には見えているのかもしれない。
 奥へ進むごとに強くなる本能が鳴らすアラームも、結界の外に出られない今では意味が無い。
 逃げ出したところで使い魔たちに捕まってしまうのが目に見えている。彼女についていくしか出来ない自分の無力さがつらい。

「……そろそろ本命が見える頃よ。ゆうちゃん、気をつけてね」

「あ、あぁ……」

 何をどう気をつければいいのか分からないが、せめて彼女のそばから離れぬよう、ぴったりとついていくようにした。
 正直、怖い。
 この空間が、襲い掛かる異形の物体が、感覚を失わせるような周りの景色が。
 訳の分からない空間に、彼女と一緒とはいえ無理やり閉じ込められ、今までの常識が通用しないような異形の物体に襲われる。自分の常識の外の存在というものが怖い。そして何より、それらに平然と対応している彼女の強さが。
 彼女を支えると言いつつ、その実何も知らなかった自分が腹立たしかった。そして何も出来ない自分に腹が立つ。
 そんな事を考えながらも狭い一直線の道を歩き続けてしばらく。
 少し雰囲気の異なる場所へ出たと思った瞬間に、周りの景色が高速で目まぐるしく変化していく。
 そして空けた場所へと出た。

「見つけた……!」

 彼女がそう呟き、見たことの無い程の鋭い目で、この空間の奥に佇む、ガラクタで組み上げられた城のような建物の上に居る一際目立つ異形の生物を睨む。
 そこら辺に沸いていた使い魔とは似ているものの、存在そのものが、俺が見ても分かるほどに一線を画している。おそらくアレがこれらの親玉、……魔女なんだろう。

「ゆうちゃんはここで待ってて。……狭いけどこっから出ちゃ駄目だよ。危ないから」

 そう言って、彼女は何も無い虚空から4本の2mほどの長さの棒を取り出し、俺の周りに突き刺す。
 そして後ろへ一歩下がり指を一度だけ鳴らす。するとその4本の棒から透明の何かが発生し、それが俺を閉じ込めるように覆った。

「え、ちょっ!?」

「この中にいれば使い魔たちも入って来れないし、流れ弾からもそれなりに守ってくれるから。壁みたいなものだから、そこから出ないでね。それじゃ、ちょちょいのちょいで終わらせるから待っててねっ!」

 言い終えるや否や、彼女は目にも止まらぬ速度で地面を駆け出し城の上で佇む魔女へと肉薄する。
 そして先ほどと同じように虚空から槍や刀などを彼女自身の周りに呼び出し、右腕を横に一振りさせ、それを合図に空中に留まっていた武器を一斉に射出させる。
 見つけた時から殆ど動きの無い魔女は、やはりというべきか、彼女の放った武器が迫っても動くことなく、城の上で止まっていた。
 そして轟音と共に彼女の攻撃が魔女へと直撃する。それに続くように、土煙のようなものが魔女の周りを包むものの気にすることなく、速度を緩めることなく彼女は魔女へと突っ込み、その手に持つ得物で魔女に斬りかかる。
 しかし、

「くっ」

 その攻撃は魔女には当たらない。
 それどころか、彼女が放った攻撃の一切が魔女へ通っていなかった。
 彼女の放った攻撃は全て、どこからともなく現れた、あの異形の物体である魔女の使い魔によって防がれていた。その身を挺して魔女を守った使い魔達は砂の様にボロボロと崩れていき、突き刺した使い魔たちが消えたことにより落下していく彼女の武器も、光に包まれて虚空へと消え去る。

「それならっ!」

 地面に着地するのと同時にもう一度跳躍し、魔女の居る城よりも高く飛び上がる。そして落下しながら再び彼女は虚空から武器を取り出す。
 それは刃渡りが彼女の身長の2倍は優に超えている程の大きな両手剣。それを両手で持ちながら身体を空中で1回転させ、勢いを付けて魔女へと振り下ろす。

「やぁぁっ!」

 たとえ使い魔が魔女を守ろうとしても、それすらも容易に切り裂くことが出来るであろうと思わせるほどの大きさと威力。
 案の定、魔女の使い魔たちが魔女を守るために彼女と魔女との間に次々と割ってはいるものの、まるで豆腐を切っているかのように軽々と両断し、その刃は魔女へと迫る。
 再び轟音。
 魔女が佇んでいた城ごと、彼女の刃は両断する。
 辺り一面は砂埃と土煙で再び視界が無くなる。と思ったのも束の間。突風が吹き荒れたかのように、それらは一瞬で消え去り、そこに見えた二つの影。
 どうしてというべきか、やはりというべきか。傷が無く無事な魔女とそれと対峙する彼女の姿がそこにあった。

「ほんと、厄介な魔女……」

 ここからは聞こえないが、そう彼女が呟いた気がする。そして城が無くなったことにより、空中で何事も無かったかのように佇む魔女は突如、奇声のようなものを上げる。

「うっさ……!!」

 まるで超音波。そう思わせるような笑い声。魔女からそれなりに離れている自分でも思わず耳を塞がずにはいられない程の騒音。
 彼女も一瞬だけ怯んだ姿を見せたものの、すぐに体勢を立て直し、再度虚空から武器を呼びだす。

「もう! ほんと面倒!!」

 今度は長さが1m程の槍。刃の部分は短く、それでいて無駄が無い形の槍。それを掴み、そして振りかぶって、彼女は魔女に向かって勢いよく投げた。

「やぁぁあ!」

 何か魔法の補助でもあるのか、彼女の投げた槍は光の粒子を撒き散らしながら魔女へと一直線に、矢のように伸びるように突き進む。
 魔女は未だに不愉快な笑い声を上げている。しかし彼女の放った槍が目前に迫ったところでようやくその声量を下げ、横にずれるようにして槍を避ける。

「無駄っ!」

 彼女は再び同じ槍を呼び出し、同じように魔女へ放つ。
 しかし魔女は先ほどと同じように横にずれてその槍を回避し、壊れたように笑い声を上げ続ける。

「これでっ!」

 彼女は未だに笑い声を上げる魔女を見上げ、しかしこれ以上の攻撃はしない。
 よくは見えないが、彼女のその横顔には既に笑みがあった。その笑みは彼女がすでに勝利を確信しているかのような、そんな笑み。そして彼女が指を一度だけ、響くような音で鳴らす。

「――チェックメイト!」

 その言葉と共に、先ほど投げた二本の槍が魔女の許へと『戻ってきた』。
 魔女もさすがに予想できなかったのか、すかさず回避運動を取るものの既に遅く、二本の槍は魔女へと突き刺さる。

「よしっ!」

 そう声を上げたのは自分か彼女か。槍が突き刺さったまま力無く落下していく魔女を見て、この非日常の終わりをようやく感じた。
 地面へと落ちて消滅した魔女の近くで何かを探るのも数瞬、彼女はこちらへ向き直り、大きな声で俺へと声をかける。

「ゆうちゃん終わったよー。帰ろっかー」

 彼女がこちらへ歩きながら笑みを浮かべている。白い衣装に身を包み、悠々と歩くその姿は本当に輝いていて、神々しく見えて。


 だからこそ。
 目の前で起きたことが理解できなかった。

「えっ――?」

 口から声が漏れる。
 魔女は確かに倒したはずだ。使い魔は魔女無しには生きれない。だからこそ、今この空間に居るのは俺と彼女の二人だけ。そうだったはず。
 俺はもちろんのこと、彼女ですら知覚できなかった「何か」によって彼女は真横に吹き飛ばされた。

「うぐっ……」

 ボールがぶつかったかのような鈍い音を立てて彼女は壁にぶつかった。うめき声を上げながらも、彼女はよろよろと立ち上がり、自分を吹き飛ばした「何か」を睨みつける。

「何で……もう一匹……」

 ふらつきながらも彼女は歩きだして、俺の許へと近づく。そしてそこで一度膝を折り、地面に手を着く。

「きっつー……。まさかもう一匹隠れてたなんて、不覚。ゆうちゃんごめん、もうちょっと時間が掛かりそう」

 そう言い彼女は深呼吸を一回、そして立ち上がる。純白のように輝いていた衣装は既に汚れが目立ち、ところどころに赤い汚れ――どうみても血――もついていた。

「お、おい怪我……」

「大丈夫大丈夫、魔法でもう治したから。狭い中に閉じ込めたままでごめんね。次もぱぱっと倒して、今度こそ帰ろっか!」

 気づけば、原色ばかりの目に悪い空間のはずだった魔女の結界は色を変え、ワインレッドや藍色などの、暗い色に染められていた。そして魔女の建造物だったものも既に形は無く、別のものへと変質を始めていた。
 彼女を吹き飛ばした「何か」は未だに俺の視界には映らない。しかし彼女は既に見えているのか、何も無い空間に視線を移していた。

「なるほどなるほど。でもそれで隠れてるつもりなら……」

 彼女が腕を横に一振り。そうするだけで、虚空から幾つもの武器が現れ、何も無い空間に狙いを定める。

「かくれんぼは私の勝ちね!」

 彼女が指を鳴らす。彼女の周りに舞っていた無数の武器たちはその音に弾かれ、再び矢のように放たれる。
 何も無い空間に飛んでいったかと思われたそれらは、やはり何も無い空間に阻まれたように何かに突き刺さる。しかし先ほどのようにそこに使い魔や魔女の姿は無い。ただ空間に突き刺さり、そして同じように落ちていく。
 それに彼女は何も表情を変えず、再び同じように武器を呼び出し、同じように射出する。今度は違う方向へ。
 しかし今度は同じようにはいかなかった。放たれた武器のうちのいくつかが、甲高い音を立てて弾かれたのだ。

「……」

 その様子を黙って観察するようにみていた彼女は再び先ほどと同じように、武器を虚空から呼びだす。しかし今度はダガーナイフのようなもの1つのみ。そしてそれを持って振りかぶり、武器が弾かれた場所へと投げつける。
 先ほどと同じ様に弾かれる……と思い、そして結果、同じように弾かれたのだが、

「喰らいなさい」

 弾かれたのを確認した瞬間に彼女が指を鳴らし、同時にダガーナイフが爆発した。
 爆風と黒煙が、爆発したところを中心に立ちこめ視界を狭める。しかし爆心地から「何か」が地面へと降り立つのを、俺と彼女は見逃さなかった。 

「あれが本体ね……!」

 ようやく現れた魔女。それは糸繰り人形、マリオネットそのものの形をしていた。

『Mwa ha ha!』

 魔女の口からこぼれる笑い声。それはまるで演劇の役者のような作られた笑い。その笑い声をあたりにばら撒きながら、人形の魔女は辺りを高速で駆け巡る。

「くっ、ちょこまかと……!」

『Bwa ha ha ha!』

 魔女の笑い声は種類を変えて、まるで彼女をもてあそぶかのように辺りを駆け巡りながら延々と笑い声を上げ続ける。
 人形の魔女が辺りを駆け巡る速度はそれを追う彼女よりも速い。始めはなんとか追いかけていたものの、無駄だと気づいた彼女は追いかけるのを止め、立ち止まって動き回る魔女を目で追いかける。
 高速で動く魔女の動きは、なんでもない一般人である俺にはほとんど分からない。時より残像のようなものが見えるだけで、目で追いかけるのはもう諦めている。

「この……止まりなさい!」

 彼女が手に持つ得物を大きく振りかぶり、その姿勢のまま大きく真上へ飛び上がる。そして地上から数m飛んだところでその得物を振り下ろす。
 そこは丁度、魔女が通ろうとしていたところ。行動を先読みし、魔女の通る道で、彼女の持つ得物が魔女の命を吸い取らんと迫る。
 しかしそれでも彼女の攻撃は魔女を切断するには至らなかった。

「ああもう……!」

 彼女の攻撃を受け止めた人形の魔女は、先ほどとは姿が変わっていた。
 黒いマントのようなものを羽織り、顔に当たる部分には半分だけ覆われた仮面のようなものを付けている。そしてその手には彼女を攻撃を受け止めた、細身の刺突の剣であるレイピアが握られていた。

『huhuhu』

 魔女は全身をカタカタと震わせて笑い声を上げる。
 空中で拮抗状態に陥り、そのまま自由落下により地面へと落ちていく。しかし彼女と魔女は鍔迫り合いとなったまま姿勢を変えず、その状態のまま地面が近づく。
 地面まであと少しとなったところで、彼女は人形を右足で大きく蹴りだす。モロに喰らった人形は弾かれたように空中に跳ね飛ばされる。

「もらったぁぁあ!」

 彼女は地面に着地するや再び姿勢を整え、空中を翔けて飛ばされて姿勢が崩れた魔女へと肉薄する。
 魔女までもう少しというところまで彼女が迫る。未だ魔女は空中で姿勢を崩したまま。このまま彼女の攻撃が通れば……。
 しかしやはりというべきか、彼女の攻撃は魔女へ通らない。

『huhuhu』

 いつの間に。
 彼女が魔女へと肉薄するその一瞬で魔女は再び衣装を変えていた。
 今度は全身を鎧と兜のようなもので包み、自らと同じ大きさ程の盾で彼女の攻撃を防いでいた。
 そして

『hee-hee!』

 自分からその盾を手放したかと思いきや、落ちながらその盾ごと彼女を蹴り飛ばし、

『LOL! hee-hee-hee!』

 その盾が爆発した。

「っ!?」

 彼女はその爆発を間近で受け、そのまま空中を力なく軌跡を描くように、俺の真上を越えて地面へと落下した。

「   !!!」

 彼女の名を呼ぶものの、返事は無い。十秒か二十秒、はたまた一分経ったころか、ようやく彼女はぴくりと動き出し、ぎこちない動きで起き上がった。


 立ち上がった彼女は悲惨なものだった。
 少し前まで白く輝いていたはずの衣装は汚れ、破れてまるで襤褸のようになり、身体の至るところから出血していた。

「うー…きっつー。これはちょっとヤバいかも……」

 手に持つ得物を杖のように使って立ち上がり、よろよろと俺の近くへと歩みよる。

「ごめんねゆうちゃん、もうちょっとで終わらせるから……」

「お、おい……」

 彼女はよろよろと歩きながらも、再び魔女と対峙する。大きく深呼吸をし、胸に手を当てる。光が彼女を包んだかと思うとすぐにその光は収まる。光に包まれた彼女は、若干ではあるがその姿が元に戻っていた。しかしそれも完璧でなく、未だに血の汚れはついているし、服も破けたところが申し訳程度に修繕されているだけ。

「こりゃさっきのグリーフシードも使わないとヤバいかなぁ……」

 こちらからはよく見えないが、彼女が懐から何かを取り出す。そして再び胸に手を当て、しばらくその姿勢のまま動きを止める。

「よし、全回復! 今度こそ仕留める!!」

 彼女が手に持っていた何かを横に放り投げて仕切りなおしとでも言わんばかりに空中に悠々と佇んでいる魔女へと向き直る。両の手を合わせて、そして左右に広げるようにして手を離す。再び彼女の周りには彼女が呼び出した無数の武器が虚空より現れる。しかしその数は今までの比ではない。数えるのも呆れるほどの数。
 分が悪いと判断したのか、空中に佇んでいた魔女はどこかへ逃げるようにすぅと消えていく。

「一気に終わらせる!」

 彼女が手を横に軽く一閃。するとぶら下がるように下を向いていた武器たちは、それぞれがあらゆる方向を向き始め、そして彼女が指を鳴らしたのを合図に、再び矢のように伸びて放たれる。
 壁にぶつかる音やどこかから聞こえる悲鳴、そしてこの世のものとは思えないような奇声が辺りに響き渡り、雑音としてこの空間を支配する。

「まだ……」

 彼女は再び武器を虚空より呼びだす。そして同じようにあらゆる方向へ向けてそれらを放つ。

「まだまだ……」

 その動作を繰り返して何度か。彼女が武器を放つたびに雑音は大きくなり、辺りに立ち込める煙は増えていき、視界や聴覚を塞いでいく。
 そして最後に極めつけといわんばかりに、一度だけ大きく響くように指を鳴らす。それを合図にして、至るところに飛んでいった彼女の武器たちが爆発し、誘発し、視界を更に狭め、もはや数m先すらも見えないほどとなる。
 煙が収まるまで彼女も俺も動かない。
 がらがらと崩れる音が時々聞こえるものの、まるで無音であるかのようにあたりは静かになった。


 煙が晴れ、あたりを見渡す。まるでテロが起きた後のようにあたりは瓦礫だらけ。
 更に周りを見渡すと、破けたマントと半分以上ずれるように外れている仮面を付けた人形の魔女が、無数の瓦礫の上に立っていた。

「これでっ!」

 その姿を見つけるや否や、彼女は手に持っていた得物を再び握り締め、地面を駆けて魔女へと肉薄する。魔女もそれに気づいたのか、自分の横の地面に刺していた剣を持ち直し、それを彼女へと構える。

「終わりっ!!」

 得物を振りかぶり、魔女へ振り下ろす。しかし魔女もやはり簡単にはやられない。手に持ったレイピアで彼女の攻撃を裁いていく。

『haha!』

「あっ!?」

 魔女の笑い声と共に、彼女の手に持っていた得物が魔女によって弾かれ、大きく空を舞う。
 一瞬だけ彼女は動揺したものの、すぐに意識を切り替え、一回後ろへ飛ぶようにして退く。

「だから!」

 今までは射出だけに使っていた剣を虚空より呼び出して手に握り締める。
 そして再び地を駆け、魔女へと迫る。

「これで終わり!」

『Rotflmao!! hee-hee-hee! hahaha!!!』

「やめろ行くな! 避けろ!!」

 魔女へと迫る彼女には見えなかったそれ。彼女の背後から迫るそれ。魔女へあと一歩というところで彼女の動きを止めたそれ。

「え……」

 勝てるはずだった。いや、勝つことを疑わなかった。彼女の強さ、それに目の前の魔女はひれ伏すはずだった。なのに

「あぅ……。うっ……」

 魔女が弾いた事で彼女の手から離れ、大きく空を舞っていた彼女の得物はどういう訳か、彼女の意思を無視して彼女の背中へと突き刺さり、その切っ先は胸を貫通していた。

「ぐっ!」

 一瞬たたらを踏んだものの、崩れることなく目の前の魔女を睨む。彼女の身体はがくがくと震えているが、それでも彼女は手に持つ剣で魔女を切り伏せようとする。しかし先程よりも明らかに甘いその剣先は容易に避けられ、魔女は大きく後ろへ退いて空中へ飛び上がる。

『Mwa ha ha ha! goodbye!』

 そう言い残して魔女は再び高速でどこかに消え去った。





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なんという事でしょう。

いろいろ突っ込みどころに気づきましたが勢いでカバー。



もう少しで終わります。

それではまた次回。



[27536] ツレが魔女になりまして 7話
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 21:28





 彼女が俺の為に張ってくれた四角形の結界が消え去り、それと同時に弾かれるように彼女の許へと駆け寄る。
 近づく前から分かっていた。

「あ、ゆうちゃん……」

 彼女のその姿はすでにボロボロで血まみれで……。それを目の当たりにして、全身の血が引くような、力が抜けていくような、そんな錯覚がした。
 そして彼女は音も無く地面へと倒れこむ。崩れる彼女を地面へ倒れこむ前になんとか腕で支え、ゆっくりと地面に下ろす。

「   !!」

 必死に彼女の名を呼ぶも、彼女の反応は鈍く動きが緩慢で、ゆっくりと動かした手の先は震えていた。
 彼女の背中に突き刺さっていた得物は、既に彼女自身が抜いたものの、まだその傷口からは絶え間なく血が流れ続けている。

「さっきみたいに何とかならないのか!? こう、魔法でぱっと!」

「もう……駄目だよ…。これ以上魔法使うと、ソウルジェム、穢れきっちゃうもん……」

 そういいながらも、彼女は震える手でゆっくりと胸に手を当てる。胸に飾りのようについていた宝石から光が漏れ、彼女の全身を一瞬だけ包み込む。

「ん……。これで血は止まったよ……。でももう駄目かな……これが本当に最後の魔法。もうほんとにこれ以上は魔法、使えない……」

 困ったように笑みを浮かべるものの、その顔色は生気が感じられないほど青くて。それに反するように彼女から流れ出た血は赤くて。

「なんでだよ……。何でこんなこと……」

 堪えきれず、涙が溢れてくる。駄目だ、彼女にこんなところを見せてはならない。もっと、いつもの俺みたいに……。そう思っていても、もう長くないことが明白な彼女を見てしまっては、溢れる涙は止まらなくて。

「ごめんね。ゆうちゃんに格好良いとこ、見せたかったから……」

「……馬鹿」

 彼女は再びごめんね、と小さな声で謝り、そして小さく呟く。

「もう、疲れちゃったよ……」

 再び彼女の身体が光で包まれる。そして光が収まると先ほどまでの魔法少女としての服装から、今日半日ずっと共に過ごしてきた彼女の私服に戻っていた。
 彼女は苦しそうにしながらも小さく笑い、口を開いた。

「分かってたんだけどなぁ。誰にも誉められない。誰にも見向きされない。私の頑張りは、誰にも認められることは無い。それが、魔法少女だって。……分かってたけど、やっぱり辛かったよ」

 ぽつぽつと語られる彼女の心の内。
 それはずっと……いつもの彼女を、そして他の誰もが知らない魔法少女としての姿、両方を見てきた俺ですら知らなかった、教えてくれなかった彼女の心の内。

「でもね」

 彼女は一度口を閉じ、俺の顔を見つめるようにして眺める。そして涙を一筋流し、もう一度口を開いた。

「それでも、ゆうちゃんだけは全部知っててくれた。私を見てくれていた」

 彼女が本当は何を考えていたのか、何を感じていたのか。それは俺ですらも知らなかった。知るはずも無かった。当たり前だ。
 しかしそれでも彼女の二つの側面――当たり前の、何気ない日常を過ごす「普通の女の子」である彼女と、魔女を討ち取る使命を持った「魔法少女」としての彼女を知っているのは俺だけ。だからこそ他人が知らない彼女の苦悩を、ほんの少しでも、知っていた。

「ゆうちゃんがいてくれたから、私は頑張れた。誰にも褒められなくても、誰にも認められなくても、ゆうちゃんだけが私を褒めてくれた、認めてくれた。だけどね……」

 彼女が涙を流しながら手を伸ばす。その手は弱弱しく、何かに縋るかのように空へと手を伸ばす。その手を取り、彼女を抱きしめる。

「……もう駄目だよぉ。ゆうちゃん、助けてよぉ。つらいよ……身体が痛いよ、心が痛いよ……」

「もういいんだよ……休んでくれ。もう、お前が苦しむところなんて見たくないよ……」

 耐え切れず、また涙が溢れてくる。
 あぁ――
 彼女を守るはずだった。彼女の支えになるはずだった。彼女にずっと笑ってもらうはずだった。
 それはなんてことないささやかな願い。彼女が魔法少女になってからも俺が願ったのは、彼女のせめてもの平凡で平穏な安らぎ。それを彼女が得られるのなら、自分の心に嘘をついて道化になってでも、彼女と共に在ろうとしたのに。
 それなのに。
 それなのに、どうして、彼女は今こんなに苦しんでいるんだ。
 それなのに、どうして、俺は彼女を救えないんだ。
 自分の無力が恨めしい。彼女を救えない自分が憎い。
 ただ彼女に幸せでいて欲しかった。そんな願いすらも叶える事が出来ず、ただただ、涙を流し続ける。

「……ゆうちゃん、泣かないで」

 彼女の指が、頬を伝う涙をふき取る。俺の頬に触れる彼女のその指は、弱弱しくあったもののまだ温もりがあった。

「私は幸せだったよ。ゆうちゃんのお陰で、ゆうちゃんが居てくれたお陰で、私は幸せだった。辛いときでも、ゆうちゃんがいてくれたから、頑張れた。ゆうちゃんが、そばにいてくれたから……」

 彼女の声が弱弱しくなってきた。喋るのももう辛いのかもしれない。そんな事実は認めたくない、認められない。それでももう、彼女は……

「ゆっくり、休んで。また、頑張ればいいよ。だから……」

 堪えていたはずだけど、また涙が頬を伝う。流れる涙を気にせず彼女をもう一度抱きしめる。

「ごめんね、……ありがと」

 彼女は小さな声でそう呟いた。
 俺が出来る事は……まだ何かあるのだろうか。何も言わず、ただ彼女を抱きしめる事以外に何か出来る事があるのだろうか。
 彼女はそんな俺へ笑いかけるが、涙を流すだけの俺はそれに応えることが出来ない。
 それでも彼女は俺へと笑いかける。

「さすがに、ちょっと疲れたかな……。お言葉に甘えて、……ちょっとだけ、休むね」

 小さな声で、それでも彼女のよく通る声で、彼女の顔を見つめなおした俺へと話しかける。
 それに小さく頷いた俺を見て、再び笑みを浮かべて目を閉じる。





「うぅぅうぅっ――!!」

 そうして目を閉じて休んだはずの彼女が突如苦しみだした。
 いきなりの出来事に理解が追いつかず、彼女の名を呼ぶも彼女は苦しんだまま胸を押さえ、ずっとうめき声を上げたまま。

「ああぁぁぁああぁぁっ――!!」

 彼女が一際大きな声を上げ、その手に持っていたソウルジェムが零れ落ちる。零れ落ちたソウルジェムが一際大きく輝き、視界を塞ぐほどの光を発する。
 そして――
 俺は言葉を失った。
 なにが、どうなっているのか。
 目の前の出来事が理解できない。

「……魔、女……?」

 彼女の魔法少女の証であるソウルジェムが砕け、そして現れたのは異形の化け物。それは紛れも無く、彼女が討ち取るべき対象であった魔女、そのものであった。

「なん……で……?」

 訳が分からない。
 分かることは彼女が突如苦しみだし、光りだしたソウルジェムが砕けたこと。そしてソウルジェムの中に溜まった穢れが具現したかのように現れたのは、先ほどまで居た魔女とは違う、新しい魔女の姿。
 そう、それはまるで今彼女のソウルジェムから生まれたかのような――。

「どうして……?」

 彼女は魔女に討ち取られた。多量の血を奪われ、致命傷を受けて。
 そして彼女の、魔法少女の証であるソウルジェムが砕け、そこからわき出るように……新しい魔女が……。
 どういう事なのか。魔女は……、魔法少女の死すらをも冒涜するのか。

「ふざ……、っけんな!」

 動かない彼女を抱きながらも、目の前の魔女を睨みつける。
 新しい魔女――仮面を付けた二足歩行をする巨大な化け物――は、辺りを見渡し、そしてこちらを一瞥したあと、まるで興味が無いかのようにふいと顔を背けて、そのまま動きを止めた。
 襲ってこない様子に若干の疑問を抱きながら目の前の魔女を睨むものの、歯軋りするほど悔しい事だが、俺に魔女に対抗する術は何一つ無い。
 もしこの手に武器の一つでもあれば、たとえ無謀と言われようと、目の前の魔女へと向かっていっただろう。しかしそれすらも無く、俺に出来ることは彼女の身体を抱くことと、目の前の魔女を睨むこと。ただ、それだけ。
 だからといってこのまま何もしてないのでは意味が無い。遺憾だが退くことしかこれ以上出来る事はなく、目の前の巨大な魔女を睨みながらも、後ろへと下がっていく。

 魔女を睨みながらも、じりじりと後ずさりし、腕が何かに当たりようやく壁際近くまでたどり着いたと気づき、抱き上げていた彼女の身体を一度地面へ下ろす。
 未だ魔女に大きな動きは無い。時折少しだけ動くもののその動きも鈍く、それ以上余計に動く気配はほとんど無い。
 小さく息をつく。ここから出る手段というものが分からない今は、とにかく目の前の脅威から逃げる事を優先しなければならない。
 再び彼女を抱え上げ立ち上がる。

「見つけた。あれは魔女」

「新しい魔女」

「まだ成り立ての魔女」

「すぐに倒せる程度の弱い魔女」

 歩き出そうとしたところで、どこからか二人の少女の声が聞こえてきた。しかしそれがどこから聞こえてきたのかを探す余裕は無い。動かない彼女を抱え、どこからか現れた――……本当はどこから現れたのか分かっている――目の前の魔女から逃げなければならない。
 やはりというべきか、魔女に動く気配は無い。
 ただそこにゆらゆらと揺らめいて存在しているだけ。俺らがまだここに居る事は分かっているだろうが、それでも何も仕掛けてくる様子が無い。
 彼女を再び抱えなおし魔女に背を向けて逃げ出そうとした時、背後から大きな音――爆音のようなもの――が辺り一帯を響かせた。
 轟音に振り返ると、そこには変わらず何も動く気配のない魔女と、それと対峙する二人の少女が居た。
 普段ならば、逃げろと少女二人に叫んだことだろう。しかし二人から感じるその気配はただならぬものだった。
 彼女と長く一緒にいたからこそ分かるその気配。その気配は"普通"ではないものの気配であった。
 俺にはあの少女達が何者か分かる。そうだ、あの二人は――

「魔法、少女……」

 紛れもなく、あの二人の少女は只者でない。それぞれがその身に纏う白と黒の衣装、そして手に持つ異形の武器。
 二人の少女はまさしく魔法少女であった。

「……」

 二人の魔法少女と巨大な魔女が睨みあう。辺りの空気が変わった。直に、一帯は再び戦地となるだろう。
 しばらくのにらみ合いが続いた後、白い衣装を身に纏った魔法少女が手に持つ杖を空に掲げる。ただそうするだけで、何も無い空間から突如巨大な火の玉がいくつも現れ、流星のように魔女を襲う。いきなり迫ってきた火の玉に、魔女はその手で幾つかは振り払うものの、その全てを振り払えた訳では無く、打ちもらした火の玉が魔女の胴体へと直撃する。火の玉が身体を焼き、魔女はうめき声のようなものを上げながらも身体に燃え移った火を消そうともがいている。攻撃が命中したことを確認した白い少女は黒い少女へと目配せする。それを受け取ったもう一方の少女は小さく頷いて再び魔女へと向き直る。
 そしてもう一方の黒い衣装を身に纏った少女が魔女の近くへと駆け抜け、魔女の目の前にまで接近する。そして真上へと飛び上がり、少女が手に持つ大鎌で先ほどの攻撃で怯んでいる魔女の左腕を根元から切り裂き、両断する。腕を斬り落とされた魔女は一際大きな声を上げるものの、残った手で襲ってきた少女を振り払おうとするだけで、それ以外の大きな動きがほとんど無い。

「この程度なら」

「……余裕」

 黒い少女が退いてきたのを確認して白い少女が再び杖を掲げる。先ほどの巨大な火の玉をどこからともなく出したように、次に現れたのは一つの巨大な氷塊。魔女の頭上に現れたそれは重力に逆らうことなく、そのまま魔女の頭へと落下する。そして直撃した氷塊は砕けちり、辺りへばら撒かれるように拡散する。

「まだまだ」

 杖を掲げていた白い少女が、今度はそれを振り下ろす。
 すると砕けてあたりに散らばり小さくなった氷塊たちが指向性を持って、重力に逆らうように動き出し、魔女に再び襲い掛かる。
 操られているかのように細かい氷塊が突き刺さるように魔女へと飛んでいき、魔女の身体にいたるところに突き刺さっていく。
 砕けた氷塊が突き刺さったことで魔女が怯んだのを確認し、そこから更に杖をもう一振り。どこからともなく風が吹き荒れ、そしてそれらは集束していく。
 そうして吹き荒れた風によって作られたカマイタチのような槍が3つ。杖を横に一振りし、それを合図に3つの風の槍が魔女へと飛んでいく。高速で魔女へと迫り、突き刺さるのと同時に風の槍は砕けるように拡散し再び集束、今度は魔女を縛る風のロープとなる。
 ロープに縛られ、魔女はもがくものの白い少女の魔法は強く、縛られたものを引きちぎることが出来ない。

「これで最後っ」

 黒い少女が地を駆け、魔女の近くへと接近する。
 しかし魔女もそのままやられるだけでは無いようで、一際大きくうめき声を上げたかと思うと力づくで自らを縛っていた風のロープを破壊する。
 ようやく縛られたものから解放された魔女は、近づいた少女を退けようと右手ではたくような攻撃を仕掛けるが、黒い少女は飛び上がってその攻撃を軽々と回避する。
 飛び上がった少女が自分の持つ大鎌の刀身を撫でるように触れる。大鎌に魔力でも通しているのか、少女の持つ大鎌が光に包まれ、そして少女の身長よりも遥かに巨大で大きな光の刃が生まれる。

「やっ!」

 そしてその巨大な光の刃を持った大鎌を魔女へと躊躇無くそのまま振り下ろし、魔女の頭上から股下まで一気に両断する。
 回避すら出来ずに真っ二つに割れたものの、魔女はまだ生きているのかゆっくりと左右とも倒れるものの、暴れるようにもがくようにしながらあたりにぶつかっていく。

「とどめ」

 黒い少女が悠々と白い少女の許へと戻り目配せをした後に、白い少女が杖を振り上げ、再び巨大な火の玉を出現させる。そしてそれを二つに割れて未だに暴れる魔女、両方に向かって飛ばす。
 火の玉が迫り、しかし何も抵抗する術を持っていない魔女はただひたすらにもがき続けるだけ。
 そして白い少女が放った火の玉が魔女へと直撃し、辺りが爆煙に包まれる。
 しばらくして、辺りを包んでいた煙が晴れた時には既に新たに現れた魔女は消滅し、その場には俺と彼女、そして二人の魔法少女だけが残っていた。
 いきなり現れたかと思えば嵐のように掻き荒らして魔女を狩り取った二人の少女の姿に唖然とし、その場を動けなかったが、辺りの風景が崩れるように変わっていくのをきっかけにしてようやく止まっていた足を再び動かした。

 そして崩れていく風景と同じように俺と彼女を閉じ込めていた魔女の結界は完全に崩壊し、ようやく元の世界へと俺達は戻ってきた。








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書いていてつらい。
書き終わってからの修正もつらい。
読む直すのがつらい。
ここらへんは今まで書いた作品の中で、一番気力使ったシーンですね。


感想返し
魔女関連はその内また言うと思います。
ほんとに魔女になっちまった!

言われて気づいたけどそういえば彼女は結構フラグ発言してますね。だからこうなったのか……。
6話の最後の彼女に刺さった得物の描写ですが、一応彼女の意思の外で刺さったという描写にしたかったんですが……。描写不足でしたね。修正しときます。



次回最終話です。

ではまた次回。



[27536] ツレが魔女になりまして 最終話
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 21:30


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 最終話 ツレが魔女になりまして。
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「お、おい。待ってくれ!」

 新たに生まれた魔女を苦も無く討ち取り、その魔女から生まれたグリーフシードを手に入れた二人の少女は、俺達に何も言うことなくその場を離れようとしていた。

「あんた達、魔法少女なんだろ……? 魔法を使えるんだろ…? なら……こいつを、助けてくれよ……」

 必死で目の前の二人の少女に助けを請うものの少女たちは、彼女を抱え、膝をついている俺を見下ろしたまま、その冷たい瞳を微動だにさせない。

「もう無駄よ」

 そして言い放つ。その言葉には一切の反論を許さないような鋭ささえ含ませて。
 思わず開いた口から何かを言おうとしても何も云えずに、再び口を閉じる。
 そんな事言われても、俺は納得出来なくて、二人の少女をずっと睨みつけるようにして見ていた。

「何で、だよ……。魔法なんだろ……奇跡を起こす、魔法なんだろ……」

 消え入りそうな声になりながらも、俺の腕の中で眠ったように動かない彼女を一度だけ見て、そして再び二人の少女を睨み返す。
 二人の少女は、睨んだまま視線を外さない俺に観念したのか呆れたのか、ため息をつきながらも再び俺と彼女の許へと歩み寄り、そして口を開いた。

「貴方が抱いてる彼女はもはや抜け殻」

「ただの死体と変わらない」

「彼女は内に穢れを溜め込みすぎた」

「だから彼女は魔女へと変わった」

「故に私たちが討ち取った」

 こいつらは……何を言っているのだろうか?
 彼女の身体はここにある。彼女は俺が今まさに抱いてるじゃないか。
 魔女? それは彼女が討つべき対象だ。たしかに彼女の持っていた、彼女のソウルジェムが内包していた穢れから魔女が生まれた。しかしそれは彼女の死を冒涜した魔女の仕業で……。
 二人の少女のいう事が理解できなくて、理解したくなくて、頭は働こうとしない。そうだ、彼女がそう簡単に死ぬ訳なんか無い。さっきの魔女に喰われて、そして……。
 そのはずなんだ。だからこそ、

「そんな訳、ないだろ……」

 だからこそ、この少女達が言っていることは出鱈目に過ぎない。嘘だ、嘘に決まっている。

「魔法だよ、魔法でなんとかなるだろ……。助けてくれよ……!」

「だから無理」

「無理じゃないだろ、出来る筈だろ……」

 彼女を一度地面へ下ろし、立ち上がって少女達の許へと寄る。
 少女達の背は小さく、見下ろすような形になってもなお少女達はその態度を崩さず、俺を気にする素振りすら見せない。
 再び目の前の少女がため息をついて、そして気だるそうに口を開いた。

「理解してないようならもう一度言うけど」

「貴方が大事に思っていた彼女は既にいない」

「私達が討ち取ったから」

「それが事実」

「だから魔法で助けるのは無理」

 あぁ、……そういうことか。
 お前達が俺から彼女を奪ったのなら。そうなのなら……。

「返せよ……。あいつを、返せよ!」

「彼女はもういない」

「常に現実は非情」

「事実は変わらない」

 彼女は少女達に討ち取られた……? いや、彼女は魔女に喰われて……。訳が分からない。頭の中がぽっかり抜けたような、飽和しすぎて何も考えられないような、ふわふわと何もない空間にいるような、そんな感覚に陥り、何がどうなのか分からなくなる。
 こころの奥底から何かが氾濫しそうで、それを必死に止めようと、押さえようとして、頭が、身体がどんどん重くなる。しかしそんな事に構っていてはならない。
 少女のうち片方が、またため息をつきながら俺の許へと歩み寄り、覗き込むように顔をぐいと近づける。

「わたしたち、魔法少女はいずれ魔女になる。これは避けられない運命」

「それは決して変えられない。だからこそ、それでも私たちは魔法少女を続ける。いつか必ず戻れることを信じて」

「目の前で見たでしょう。貴方の大切な人が魔女になる様を」

「それが彼女が絶望した末の姿。心の歪みと穢れが集約された姿」

「魔法少女の結末。呪いを振りまく、魔法少女の対の姿」

「だからやがて魔女になる私達は」

「同じ魔法少女に討ち取られる」

 ……あぁ、理解している。頭に入ってきているさ。彼女がどうなったか、理解しているさ。
 それでも……理解は出来ても、納得は出来なくて、その事実を受け入れることが出来なくて。

「うるせぇ黙れよ! 返せよ! …あいつを返せよ!!」

 堪えきれなくなり、目の前の少女に掴みかかる。背は俺よりも遥かに小さくその容貌は幼い。おそらく俺や彼女なんかよりも数才年下だろう。だがそんなことは関係ない、彼女を……。

「しつこい男は嫌われる」

 目の前の少女がつんと人差し指で俺の胸の辺りを軽く押す。しかしそれだけでまるで思い切り吹き飛ばされたかの様な衝撃を受けてしまう。
 大きくたたらを踏みながらも何とか耐え、目の前の少女を睨みつける。しかし少女は臆する事なく俺を見返し、やがて開いた差を埋めるようにおもむろにこちらへと歩き出す。

「勘違いしないで欲しいのだけれど」

 ため息をつきながらも目の前へと迫る。怯まずに睨み返すが、少女はまるで気にすることなく俺の目を覗き込むかのように見つめ返す。

「私達、魔法少女の使命は魔女の討伐。あなたも彼女とずっと一緒にいたのなら、それくらいは知っているでしょう? そして魔法少女は魔女になる。確かにさっき倒した魔女の元はあなたの大切な人だったのかもしれない。でもだからといって倒さない訳にはいかないの。あなた一人の勝手な感情で、多くの人間の犠牲を許せるとでも?」

 有無を言わさぬ圧力と、殺気を含んだ視線に何も言い返せず、無言のまま少女を睨み返すことしか出来なかった。



「そうさ、これは決められた食物連鎖。魔女が人間を喰らい、魔法少女が魔女を喰らい、魔女になった魔法少女をまた魔法少女が喰らい、そうして続いていく食物連鎖の輪。今更何を言っても変わらないよ」

 しばらくの沈黙が続いていたが、どこからか、目の前にいる二人の少女とは違う声が聞こえてきた。
 声をした方向を振り向くと、そこには真っ白い姿をした見たことの無い形をしたぬいぐるみのような生物が立っていた。若干の戸惑いが頭の中に走るが、ふと昔彼女が話していた"マスコット"を思い出した。

「まぁある意味共食いとも言えるんだけど……。で、キュゥべえ。あんた何しに来たの。またこないだみたいにバラバラに切り裂くわよ」

 俺の目の前にいない方の少女、黒い魔法少女が自らの武器――大鎌――をどこからともなく取り出して、キュゥべえに向けて威嚇する。

「やれやれ、いつも通り物騒だね君達は。そんなにピリピリしなくても、そこにあるグリーフシードを回収したら、すぐに消えさせてもらうよ」

「そうしなさい。正直あんたを見てるだけで、バラバラにしたい衝動が抑えきれないわ」

「ふぅ、毎度の事だけど君達の近くに居ると、身体が幾つあっても足りないよ」

 ため息のようなものを吐いて、キュゥべえは少し離れたところに落ちていた黒い物体――彼女が魔女との戦いのときに捨てたものだ――を拾い上げる。そして空中に放り上げたかと思うと、その背中が開き、その中に黒い物体を飲み込んだ。

「それじゃ僕は退散させてもらうよ。あとは君達で何とかしてね」

 そう言って白いぬいぐるみのキュゥべえは、どこかへ歩いていき、姿を消した。

「……はぁ。邪魔が入ったけど、もう一度言うわ。あなたの大事な人はもう帰ってこない。私達が倒したから。でもそれはやらなければならないことだから私達を恨むのは勝手だけどそれはお門違いなの。分かったかしら?」

「まぁ分かってても分かってなくても、どっちみち結果は一緒なんだけど」

 白い少女がため息をつきながら口を開き、そしてキュゥべえが居なくなったのを確認してから大鎌を直して、白い少女の後に言葉を続けた黒い少女もこちらへやってくる。

「そんなこと分かってるよ……でもだからって、納得出来るわけないだろ……!」

 拳を握り締める。
 そんな現実、そんな事実に納得出来るわけが無い。頭じゃ理解している。この二人の少女が言う言葉に、目で見たものとの齟齬はほとんど無い。本当に起こったことなのだ。
 だから、だからこそ。
 そんな現実を、こんな事実を受け入れられない。そうすれば、彼女の思いも全て無駄になってしまうようで。そして俺の心が折れてしまいそうで。
 人々を襲う明確な悪、それが魔女であると、そう教えられた彼女はただひたすらに魔女を探し出し、そしてそれらを討ち取っていった。
 彼女は人々を守れたことを誇らしげに語ってきた。後一歩で魔女に喰われそうだった人間を守れたことを、自分の得た力を正しい方向に使えたことを、いつも嬉しそうに話していた。
 他にもいくらだって言える。彼女がどれだけその力の為に自分を犠牲にし、そして苦悩したか。悲しみに潰されないように耐え、苦しみに毎日を圧迫されても負けることなく、空しさに心を喰われても折ることなく、そして喜びに身体を満たして戦い続けた。
 そんな彼女が、自らの宿敵として定め、討つべき対象とした魔女になってしまい、そして他の魔法少女に討たれたなど。そんな事があっていい筈が無い……。そうだ……そんなことが、あっていい筈が無いのだ。

「納得出来る訳が無いだろ! 受け入れられる筈が無いだろ! あいつがどんな思いで今まで戦ってきたか! どんな辛い思いで続けてきたか! それをお前らが――」

「もういい」

 白い少女はため息をつく。
 そして瞬きをするその一瞬で、俺は目の前にいた少女によって、その少女がいつの間にか持っていたその杖で、横腹を思い切り殴られた。

「うぐっ!?」

 先ほどのとは訳が違う。その場で耐えることも出来ずに、あっけなく真横に吹き飛ばされ、無様に地面を転がる。
 横腹を押さえ、全身の痛みに堪えて立ち上がろうとするものの、横腹を殴られた痛みと地面を転がった痛みが身体の動きを阻害して、立ち上がろうとする身体を上手く動かせない。

「く、お…待て……」

 相変わらず無表情で俺を見下ろす少女達に声を上げて叫ぼうとするものの、その声すらもまともに出ない。横腹を殴られた痛みが全身に回っているような感覚がして、そして地面を転がった痛みも合わさって、動かそうと全身の力を振り絞っても全く身体を動かすことが出来ない。
 そんな俺を見て、二人の少女はその無表情のまま、踵を返して去っていく。
 必死で声を上げようとするものの、まるで声帯が壊れたかのように声が出ない。叫び声を上げようとしても、どんなに声を出そうとしても、掠れた声しか出てこない。
 何も出来ないまま、必死で少女達を呼びとめようとするものの、身体は動かず、声は上げられず、何一つ出来ることなく、――そしてそんな俺を全く気にする素振りを見せずに、少女達の姿がどんどん小さくなっていく。
 少女たちが完全に見えなくなり、その場に俺と彼女だけが残され、耐え切れずに声にならない叫びを上げる。
 どうしてこうなったのか。何故……。
 考えても考えても答えの出ることのない問いに頭を支配され、意識を失いかけるも、今やるべきことはそうではないと頭を振ってその考えを吹き飛ばし、顔を上げる。
 片手でわき腹を押さえながら、もう片方の腕で匍匐前進のように無様に這い蹲りながらも、必死に彼女の許へと這い寄る。
 夕焼けに照らされて、色を失っていた彼女の顔は赤く染まり、ほんの少し前までの、いつもと変わらない彼女を思わせる。

「   」

 彼女の横へと這いより、彼女の名を呼ぶ。
 しかし、眠っているように目を閉じている彼女が俺の呼ぶ声に反応することは無く、ただ俺の声が空しく通るだけ。
 もう一度、彼女の名を呼ぶ。しかし、やはり、彼女はそれに答えることは無い。
 彼女は――。
 それを確かめるのが怖い。現実は、事実は……分かっている。でもまだ俺はそれを確かめた訳じゃない。だからこそ、今それを確かめて、本当にそうであったのならば、俺は……。
 その一歩を踏み出して越える勇気。踏み出せば、越えれば二度と戻れない。
 震える手で確かめるために手を伸ばす。心が折れそうだ、伸ばした手を引っ込めたい。でも、それも許せないことで、だからこそ、彼女へと手を伸ばし、確かめる。
 必死の思いで確かめる。しかし既に彼女の自発的な呼吸は無く、そして心臓の鼓動もない。日が沈み始め、夕焼けが薄れていくのと同じく、彼女の顔からも色が消えていく。

「返事してくれよ……。いつもみたいに笑ってくれよ……。俺のそばに居てくれよ……。なぁ……」

 もう、何もかもが遅い。彼女はもう既に……。

「まだお前に言ってなかった事があるんだよ……。言いたいことがあるんだよ……。起きてくれよ……」

 ただひたすらに――。夕暮れと共に体温が失われていく彼女を抱いて、止まることのない――。
 彼女を抱きしめ、――涙を流す。







 あの非日常の現実からしばらくの時間が経った。
 道端で倒れている俺と彼女を見つけた通行人が通報してくれたものの、やはり彼女が助かる事は無かった。死因は衰弱死だったらしい。
 特に大きな怪我が無かった俺は既に体調には問題が無かったのだが、当時は心ここに在らずという状態だったので、実際に俺が自身の意識を取り戻したのはそれから数週間経ってからのことだった。
 意識を取り戻し退院してからも、しばらくの間は彼女の家に行く事が出来なかった。彼女の死を受け止める事がまだ出来なくて、彼女の死という現実に耐えられなくて、あの時は随分と心が荒んでいたと思う。ふと目を閉じたときにあの魔女が、そしてあの魔法少女達が瞼の裏に現れて俺の心を滅茶苦茶にしていっていた。
 そんな俺のまるで幻覚を見るかのような症状に耐えることが出来ずに、母さんが無理やりカウンセリングを受けさせた。急性ストレス障害、そしてPTSDと診断され、しばらく心理士の世話になる生活が続いていた。週に一度の面接をしばらく続けていたものの、心の整理がつくまでは何をやっても何も心に響かず、なにもすることが出来なかった。
 そんな生活が続き、そして数ヶ月が経ってようやく彼女の死を、そしてこの現実を少しずつではあるが、受け止める事が出来るようになってきた。
 それからというものの、心が落ち着きを取り戻すにつれて、ある疑問が頭の中をずっと支配していた。

 "何が悪かったのか。どうして、こうなってしまったのか。"

 この結果をもたらす事になった原因は何か。彼女と契約し、ただのなんてこと無い、普通の少女であった彼女を魔法少女へと変えたキュゥべえか。魔法少女として使命を果たし、そして無理を続けた彼女をそうと知りながら止められなかった自分か。それとも使命の為に一切の都合を排除して、魔女となった彼女を討ち取ったあの少女達か。
 彼女を失った今、心にぽっかりと空いた穴は何をしても埋まることは無い。死を受け止める事が出来ても、空いた穴はふさがる事は、きっと無い。
 何がいけなかったのか。今となっては何が悪いという事は無かったような気もするし、そのいずれもが諸悪の根源のような気もする。
 何が原因なのか、何が悪かったのか。
 何も分からずに、彼女を守れなかった自分や、彼女が魔法少女として関わったその全てに、ただ後悔と自責、悔恨の念が渦巻き、そして憎悪という感情だけが心の中に留まり、ずっとくすぶり続けることとなった。
 心に空いた穴はふさがらない。必死に何かを探しても、埋まることの無い、傷として残り続けることとなった。

「何が悪い? 決まっている。それは――」

 そんなものは分かりきっている。彼女を失うこととなった元凶、その全て――。

「魔女が悪い、魔法少女が悪い、その全てが悪い。彼女を救済しなかった全てが悪い。その全てが憎い」

 心の有様は既に変容していることに、自分自身が気づかない訳が無い。
 しかし、それでも。
 彼女を失った事、彼女を守れなかった事、彼女が討ち取られた事。その事実、現実全てが心に攻め立てるように突き刺さり、ただ、憎悪のみが自らを突き動かす感情となった。
 そのことに、そうなってしまったことに何ら思うことは無い。何も思わない。
 あぁ、そうさ……。
 こんなおかしい世界、もう……どうなったっていい。
 彼女を救うことができなかった、救わなかったこの世界など……。
 彼女がこの世から消えてしまった今、俺にとってこの世界に価値というものは既に存在しない。
 俺は男だから、魔法少女になることは出来ない。たとえどんな願いがあったとしても、それを叶えてもらうことは敵わない。
 どれほど願っても、叶えてくれる者はいない。
 だけど。だけどそれでも、――願わずにはいられない。
 叶うことが無くても、叶える者が居なくても、俺はその願いを願い続ける。
 呪詛を吐きながら、心の奥底からの願いを。永遠に。

――願わくば、全ての魔法少女と魔女が滅びますように。











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終わりました。
これにて「ツレが魔女になりまして」完結になります。


・それでは感想返しを。
彼女は結局、こんな結果になっちゃいました……。
一体どうしてこうなったのか……。




この話に救いはねーのかよ!という方。
次回更新が、当作品の投稿としては最後の更新になります。

それではまた次回。



[27536] 救いがあっても、いいじゃないですか。
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 22:02
6話分岐のifストーリーになります。
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「   !!」

 崩れ落ちた彼女の許へと駆け寄る。
 遠目からでも分かるほど、彼女の服は赤く染まっていた。ほんの少し前まで真っ白だったはずの彼女の服は汚れ、破れ、そして彼女自身の血に染まっていた。
 うつぶせに倒れていた彼女をかかえて抱き上げ、上半身を起こす。彼女の背中を支える右手はどんどん彼女の身体から溢れていく"何か"で濡れていく。その感触にとてつもない喪失感が頭の中を埋めていくのを感じた。

「えへっ……、最後に、やっちゃった……」

「だ、駄目だもう喋るなよ! ち、血がこんなに出てるし身体だって……!」

「……えへへ、ゆうちゃんの焦ってるとこ、久しぶりに見れたな」

 彼女はそう言いながら力なく笑う。そんな彼女を見て、そしてこの現実が、――彼女はもう長くないことを俺に強制的に悟らせる。
 必死で堪えるものの、後一歩で涙が溢れてきそうで、それでも泣く姿を彼女に見せる訳にはいかず、溢れそうになる涙を必死で抑える。
 そんな俺を見て安心させようとしたのか、一度だけ彼女の身体が光に包まれた。

「ん……。とりあえず、止血だけは魔法で、なんとかしたよ。でもこれだけやっちゃってると、あんまり変わんないかなぁ……」

「魔法って……! だって、もう真っ黒じゃんか……」

 彼女の胸元にあるソウルジェムは既に濁りきって、あの宝石のように綺麗に煌めいていた輝きを既に失わせている。そんな彼女のソウルジェムを見て、俺は恐らくひどい顔をしているのだろう。そんな俺を見てか、彼女はもう一度全身を光らせた。すると、今までの魔法少女の衣装から、先ほどまでの私服へと元に戻っていた。

「ん、……そだね。もうさすがに、魔法は使えない、かな」

 私服へと戻った彼女の手には、濁りきったソウルジェムがある。ずっと眺めているとまるで吸い込まれそうな、なにかおぞましいものを感じさせて、つい目線をソウルジェムから彼女の顔へと移した。
 彼女はそんな俺を見て困ったように、しかし力なく笑う。

「ソウルジェムが濁りきったら大変なことになるって、キュゥべえが言ってたんだよね……」

 手に持つソウルジェムを撫でながら言う。
 彼女の魔法少女である証であり、そしてその力の源であるソウルジェム。それがこれまでの神秘的な輝きを既に失わせ、どこかおぞましいような背筋が寒くなるような濁りと色をして、それらがソウルジェムの中を巡るようにうごめいている。

「どうなるのか分かんないけど、……まともなことは起きなさそうだから。ゆうちゃんは今のうちに逃げて」

「馬鹿言え……」

 巻き込みたくないから、と彼女は言うが、俺はその彼女の願いに答えることは出来ない。
 たとえ何が起こるかわからなくても、たとえどんな事が恐ろしい事が起こるとしても、今俺が彼女のそばから離れることは、絶対に無い。
 ……認めたくない話であるし、出来る事ならばその現実から逃げたいのだが、恐らく彼女はもう長くない。未だ魔女の結界の中に俺たちが居る事は理解しがたいことではあるが、だからこそ、それ故に彼女をどうすることも出来ない。
 仮に外であればすぐに119番でもして救急車を呼んでいただろう。それ以外にも、なんとしてでも彼女を生きながらえさせようとしていただろう。あらゆる手段を駆使して。……でも今は何も出来ないのだ。何もする事が出来ないのだ。その事実が俺に圧し掛かり、やはり彼女を救えないという事実が心を締め付ける。

「……そんな顔しないでよ。いつもみたいに、格好いいゆうちゃんでいて欲しいな」

 こんな時でも、彼女はいつも通りだった。どんな時でも笑みを忘れず、そして優しかった。だからこそ、俺は何も出来ず、ただ彼女を抱きしめる事しか出来なかった。

「えへ…ゆうちゃん、あったかい……」

 いつもの抜けたような声で、しかしその声に力や生気を感じることが出来ず、それが更に俺の胸を締め付け苦しめる。

「なんで……俺は何も出来ないんだろうな……」

 彼女に聞かせるつもりは無かった。心の独白がただ声に洩れ出たような、そんな何気ないしかし心からの言葉。
 しかし抱きしめて密接している今は、そんな聞かせるつもりのない小さな声も彼女に聞こえてしまう。彼女は小さく咳をして口を開いた。

「…私はね、ゆうちゃんがいてくれるだけで、私は幸せだったよ」

「でも、俺は……」

「ゆうちゃんが居てくれたから、私はこの、つらい魔法少女の使命も、ずっと今までこなす事が出来たんだよ。つらい時でも、苦しい時でも、どんな時でも、ゆうちゃんがそばにいてくれるって考えるだけで、耐えることが出来たんだよ」

 彼女の口から語られるのは、俺が知るはずもない彼女の心の内。彼女がずっと内に仕舞っていたそれは、嬉しくもあり、そして同時にとても……辛かった。
 俺と彼女は今までの人生、ずっと一緒に居たと言っても過言ではない。それこそ本当に腐れ縁だとか何だと言っても差し支えないほどに。中には比翼の鳥・連理の枝だとか冗談交じりに言われたこともある。そんな俺と彼女だからこそ、相手のことならほとんど何でも知っていたし、そして許容していた。

「あぁ……本当によく頑張ったよ…。だからさ、しばらく、休もう」

 そしてそんな関係だからこそ、もうこれ以上、彼女が苦しむところを見たくないのだ。どれだけ不恰好でもいい、どれだけ無様でもいい。それでも、彼女が傷つき苦しむ様はもう、見たくない。

「ゆうちゃん、ほんとに、ありがと……」

 彼女は笑う。弱弱しくも、精一杯の笑顔で彼女は笑う。俺もそれに返すように笑おうとするが、どうしても上手く笑えない。くしゃりと泣き顔のようになっているに違いない笑顔しか、今の俺は彼女に向ける事が出来ない。そしてそんな俺を見て、また弱弱しくも笑う彼女。
 最期なのだ。もう、長くは無い。だからこそ、彼女には幸せな気持ちのままでいて欲しい。
 ――せめて、最期くらいは安らかに。
 しかしそんな時間も長くは続かなかった。
 穏やかな表情をしていた彼女は突然苦悶の表情に染まり、胸を押さえて苦しみだしたから。

「うぅっ……駄目……! ゆうちゃん早く逃げて…!」

 ハッと気づき、ふと見やれば彼女のソウルジェムに罅が入り始めている。
 もう、限界なのか。
 まだ何とかなると楽観的な希望を抱く事も出来ず、しかしさよならを告げることも出来ず、そしてどうすることも出来ずに、それでも彼女をおいて逃げ出すことが出来るはずも無く、ただ彼女の身体を強く抱きしめる。

「絶対に……」

 そうだ。絶対に離さない。どんな事が起こっても、どんな事があろうとも、俺は彼女を離さない。
 苦しむ彼女の声が俺の胸を更に苦しめる。何とかしたくても何も出来ないという事実は俺に更に重く圧し掛かる。だからこそ、ただただ、彼女の身体を抱きしめる。

「離さないから、絶対に一人にはさせないから……!」

 未だ彼女は苦悶の声をあげ苦しんでいる。
 これだけ彼女が苦しんでいても、俺は無力なのだ。何も出来ない自分が、これ以上無いほど恨めしい。
 彼女を救うには、一体どうすれば――。
 強く彼女を抱きしめながら頭を必死に働かせる。そんな時、幻聴のような何かがふと頭の中に入り込むように聞こえてきた。

『大丈夫だよ』

 そう、誰かが話しかけたような気がした。

「え……」

 誰もいない筈なのに声が聞こえ、それに反応してつい顔を上げる。
 そして目の前に、"その人"は現れた。
 いきなり現れたその少女は柔らかな、まるで女神のような微笑みで、既に血の気のない彼女を見つめ、そして彼女が手に持っているソウルジェム、それに手をかざすように近づける。
 ただそうするだけで。
 彼女のソウルジェムに宿っていた濁りが、まるで浄化されていくかのように消えていき、そして――

「えっ?」

 彼女のソウルジェムは砕けるように、しかし柔らかな響きで四散し、消えていった。
 それを見届けた少女はまた柔らかな笑みを浮かべて、温かみのある光の粒子を残して消えていった。
 突然現れた女神のような少女は現れた時と同じように、何の前触れもなくどこかへ消えていってしまった。突然の出来事に俺も彼女も固まってしまい、しばらくの間、その少女が消えていって空間を眺めていた。そうやって眺めているうちに、気づかないうちに魔女の結界から元の世界にいつの間にか戻ってきていたことに気づかされた。
 それからほんのしばらく経ってから、お互いの顔を見合った。俺と同じように、彼女も目が点になっているだろうと思っていたのだが、そうではなかった。
 いきなりの出来事だ。俺は何が起こったのか、さっぱり分からなかった。
 しかし、目の前の事実だけを受け入れるのならば。

「わ、わたし……」

 そしてそれに気づけるのは。
 それは紛れも無く、彼女自身だけだろう。

「私……戻れたよ」

 それは恐らく、彼女自身だからこそ気づけたものなのだろう。

「普通の女の子に、戻れたんだよ」

 彼女は堪えきれず、涙を流しながら口を開き、そういった。
 それはつまり……。そう、それが意味するのは……。

「魔法少女じゃないんだよ。…私は、私に戻れたんだよ」

 彼女が、俺と同じ世界に戻ってきたという事。魔法少女としての彼女ではなく、普通の少女である彼女として生を全う出来るという事。それはこの上なく嬉しい事で、自然と涙が溢れてきた。そして彼女の身体を抱きしめる。ほんの少し前と何も変わらない、軽い身体。
 しかしその実態は先程までとは違う。本当の意味で、ただの女の子としての身体なのだ。異能の力など無い、闘う運命などない、日常を生きる身体。それはやはり、魔法少女としての彼女を応援しながらも心のどこかでずっと求めていたものだった。
 何かが変わったわけじゃない。でも、だからこそ。だからこそ、その事実が嬉しいのだ。
 そうしてしばらくの間抱き合い、そこからまた少し。ようやく落ち着いてきた頃、彼女は徐に口を開いた。

「私ね、ゆうちゃんに言いたかったことがあるの。今までずっと、言いたかったけど言えなかったこと」

「……あぁ、……俺も、あるよ。言いたかったけど今まで言えなかったこと」

 彼女の声色は今までとは異なり、真剣味を帯びたものだった。その声を聞いて、何故か直感的に理解した。
 理由も根拠も見当たらないが、彼女は恐らく直に"逝く"だろう。
 何故分かるといわれても答えられない。それでも、何かがそう囁くのだ。後悔したくなければ、今のうちだと。
 だから、彼女の話す言葉を一句たりとも逃すまいと、こちらも真剣になり、彼女が再び口を開くのを待つ。

「私ね」

 彼女は一度止まった涙を再び流しながらも、まるで天使のような微笑みで、言葉を紡いだ。

「私、ずっとゆうちゃんの事が好きだった。ずっとずっと、ずーっと好きだった。この世の誰よりも、この世の何よりも、ゆうちゃんが大好き」

 それは、まさしく彼女の口から放たれたものであっただろうか。彼女から聞けた言葉であろうか。
 その言葉は何よりも、どんなものよりも望んだ言葉であったかもしれない。ずっと一緒に過ごしてきた俺らにとって、もうそういう感情はとっくの昔に超えたような思いはあった。
 それでも、俺は俺で、彼女は彼女なのだ。
 だからこそ、彼女のその言葉に俺は当然の、そしてそれ以外ありえない答えを返す。

「あぁ、俺も、大好きだよ。世界の何よりも、大事で大切だよ」

 涙が一筋、頬を流れるものの、気にすることなく続けて彼女の名前を呼ぶ。それを聞いた彼女は満足そうに頷き、腕を伸ばし、俺の身体を引き寄せる。

「えへっ」

 乾いた唇はかさかさしていて、とても雰囲気なんてあったものじゃない。それでも俺と彼女の愛のしるし。
 今だけは、今この瞬間だけは現実を忘れて二人だけの世界。この世に居るのは俺たちだけ、そんな世界を今だけは描き出す。
 彼女の顔を見つめ、もう一度、名前を呼ぶ。あぁ、愛おしい。彼女の存在が、この時間が、この瞬間が。すべてのものが愛おしい。
 何もかもが俺と彼女の味方のような気がして、ずっとずっとそんな時間が続くような気がして。こんな時間が、この瞬間が終わって欲しくないと願ってしまって。
 だがそんな時間も長くは続かない。
 ふと気づいた時には世界が変わっていた。もう、限界かもしれない。……終わりが近づいてきている。
 気づかない振りを、知らない振りをしているのももう限界だ。彼女の身体からはどんどん熱が失われていっている。顔や手からも色が失われ、彼女の白い肌が更に白くなっている。

「ゆうちゃん……最後のお願い、してもいいかな…」

 それでも彼女の表情は、それはもう安らかで穏やかで、この先に訪れる死をも受け入れているかのような、そんな表情をしていた。

「あぁ、何でも言ってくれ……。どんなお願いでも聞くよ」

「……ありがと。じゃあ、最後のお願い。私が死ぬまで、…私が消えるまで、ずっと、そばに居て欲しいな」

 彼女の最後の願いは、何気ない、そして俺と彼女にとっては当たり前の事で。しかしそれを最後の願い事にする彼女の心の内は……。

「いるよ。ずっといるよ。俺はずっと、お前と一緒にいる」

「えへへへ、ありがと、ゆうちゃん……」

 最期の最後まで、彼女は彼女らしく在った。いつもの、しかし今までのどんなそれよりも美しい笑顔で俺に笑いかけてくれた。俺もそれに応えるように笑いかける。もうさっきのような泣き顔のような笑顔じゃない。彼女の笑顔へ返すのにふさわしい笑顔で笑えているに違いない。
 笑いあっていると、彼女の身体が光の粒子に包まれ始めた。
 始めは何が起こったのか分からなかったものの、彼女の表情が変わらない事から、ああ、そういうことかと気づいてしまった。――本当のお別れだ。
 もう、会えなくなってしまう。彼女との未練が無いわけではない。それでも、彼女のこの結果が、意味あるものであらねばならない為には、ここで止まるわけにはいかない。また零れそうになった涙を袖で拭い、彼女へと笑いかける。

「あっという間だったよ」

 何が、とは言わない。

「でも、思い返すとこれだけ長かった」

 歩んできた道は途切れていない。

「ずっとずっと」

 本当に、ずっと。

 彼女の手を握り締める。本当に僅かながらも、彼女も握り返してくれる。彼女とのつながり。彼女の世界とのつながり。

「ありがと」

 心からの言葉。まだまだ言いたい事は沢山ある。でも、もう時間がない。
 あぁ、後悔なんていくらでもある。未練だってある。たくさんある。それでももう、おしまいなのだ。だからこそ、けじめをつけなければならない。
 彼女の頭を撫でて、引き寄せる。そしてそのまま顔を寄せ、唇を重ねる。
 ほんの一瞬の出来事だけれど、彼女は一瞬だけ目を見開いて驚いたもののすぐにまた笑顔になった。彼女の名前を呼ぶ。彼女は口を開いて返事をする。もう、声は出ていない。

「ありがと」

 もう一度、彼女の名前を呼ぶ。最期に彼女は――。
 そして彼女は、消えてしまった。




 彼女は笑顔で逝った。
 その事実は、あの女神のような少女が頭の中に響くような声で言っていた、

『魔法少女の最期を、貴方達の祈りを、絶望で終わらせたりはしない』

 というあの言葉の通り、彼女が幸せに逝けたことを示しているのだろう。
 消えていく彼女は何よりも美しく、それでも儚げでやっぱり悲しかったけれど、自然とそれを受け入れる事が出来たような気がする。そりゃあ、当たり前だけど、……情けない事に今でもまだ完全に受け入れる事は出来ていない。それでも、たとえば彼女が背負ってしまっていた魔法少女としての使命や、彼女を討った存在、そういうものに対する憎しみや怒りというものはない。言いたい事は無いかと聞かれれば、もちろんあるのだが、怒り狂うようなことは無い。今もどこかで彼女のような魔法少女がその使命のために闘っている。そういう俺の知らない世界での、生死を賭した戦いがあることを忘れてはいけないから。

 こころに空いてしまった穴、彼女の居場所は未だに埋まらないけれど、それでも日々の日常は何も問題はない。
 誰もがこの馬鹿みたいな平和な日常を疑うことなく享受している。街中を見渡したとき、そこには沢山の人がいる。この中の誰かは、知らないうちに彼女に救われたのだろうか。……今も時々、街中でふと彼女と同じような気配を感じる時がある。それは魔法少女なのかもしれない。もしかしたら……彼女がどこかで見てるのかもしれない。
 欲を言うならば、彼女には生きていて欲しかった。もっと生きて、ずっと傍に居て欲しかった。いろいろやりたい事だってあった。まだまだしてない事だってあった。
 しかしそれはもう叶わぬ願いだ。今更何を言おうと、変わる事のない事実、現実は俺の目の前にある。
 学期が変わり、学年が変わり、学校が変わり、そんな日々の忙しさに埋もれそうになりながらも俺は彼女の事をずっと思い続ける。

 彼女が最後の最後に言った言葉を信じて、俺は今日も前を向いて生き続けなければならない。……あぁ、こんな言い方をすれば彼女に笑われるかもしれないけれど。
 人生は楽な事ばかりじゃない。現実に押しつぶされて、時々生きるのがつらくなるときもある。ふと、逝ってしまった彼女の許に行きたくなるときもある。それでも、ずっと前を向いて生きるのだ。限りある命を全力で。
 それが、生きている人間の権利であると共に、本能的な義務なのだから。ずっとずっと、前を向いて生き続けるのだ。そりゃあ、偶には後ろを向いたっていいさ。そうしないと彼女の事を忘れてしまいそうだから。彼女の事を覚えていられないから。
 でも後ろを向いて生きるんじゃない。前を向いて、こけないように、そしてどんな不幸が襲ってきても振り払えるように堂々と生きるのだ。
 それがきっと、彼女の最期の言葉へと繋がると信じて。


 「またね」の言葉を信じて。いつの日か再び彼女と会える日を信じて、俺は今日も生き続ける。






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ツレ魔女完!やっと終わりました!

という訳で、救済ifルートになります。正直、本編の流れで救済は無理くさかったので逃げの一手、ifルートでの救済になりました。結果は変わりませんが、過程には大きな違いがあります。何故彼女は死んだのか、人間はこの答えに求めるものはhowではなく、what つまり、「死とは何か」についての考えです。

それでは最後になると思われる感想返しを

QBは唯一の本編とのつながりですのでやっぱり出して正解だったと思います。お陰でいい反響が
正統派、の意見についてはもう何も言うことは無いですね。ひねりが無いのは僕自身の頭の限界です。



ではちょっとした言い訳コーナー

何でこんなに遅かったの?
A.本編完結で気が抜けました。やる気の減退が主な理由であとは忙しかったりとかまぁ色々……
急遽執筆したifですので遅くなってしまいました…



そんなこんなで、「ツレが魔女になりまして」ようやく完結です。
皆さんの応援のお陰でなんとか書き上げれました。本当に感謝です。
毎回感想をくださった九尾さんをはじめとした多くの方の感想は本当に嬉しかったです。ありがとうございました。

それでは。



[27536] 設定メモとかあとがきとか。
Name: 碼椙 柊◆61c6a64a ID:ab56b935
Date: 2011/07/02 22:02
メモそのままです。
一応見れるモノにはなっているはず…


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 彼女の契約のための願いは「彼(ゆうちゃん)が私をずっと見て、彼との幸せな時間を過ごせるようになること」
 確かにその願いはかなえられ、今までよりも、そして魔法少女になったことを告げたとき、そして他の魔法少女に負けて涙を見せた時から、さらに自分だけを見てくれるようになった。それを実感し、とても嬉しく思っていたのだが、そこで一つの疑問が生まれる事となる。――それは果たして彼自身の意思による行動なのか、それとも自分の願いによる結果なのか。
 前者ならまだいい、でももし後者なら? 自分は彼の意思を強制的に操作したことになるのだ。確かにずっと自分を見て欲しいという願いは真実である。かといって、操り人形のように、糸を自分で操ってこちらに向くように動かす事、それは……許されていいことではない。
 彼が自分に優しくしてくれるたび、嬉しいのに自分では気づかない程の無意識の奥に罪悪感は溜まっていき、その罪悪感によってソウルジェムの穢れが加速していくようになる。
 そして最期、涙を流しながら自分を抱いてくれる彼。嬉しいはずなのに、これ以上無く自分は幸せである筈なのに、なのにこうなった原因は全て自分で。
 彼がこうして自分を見てくれるのも、自分のために涙を流すのも、全部、全部自分の願いの所為な気がして。
 無意識に宿る罪悪感はついに表層へ現れ、彼女を完全に喰らい、絶望へ向かわせて。
 そして彼女は、魔女になった。

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魔女図鑑α

Freut:フロイト
芸術家の魔女。その性質は横暴。
自らの手下に命じて、この世に存在するあらゆるものを積み上げて「アートな」作品を作らせるものの、その作品は何か物足りない。
感性を失い、自分の中に残った記憶を頼りに作り出すその作品は所詮は贋物ばかり。
魔女自体に力は無いので追い詰めれば簡単に倒すことが出来るだろう。

本体は巨大な異形の物体。見ていて愉快にはとても思えない。

※書いてから気づいたけど、原作10話に似たような魔女が居ましたね。それとは別ですよ、勿論。……でもそれに気づいて仕方なく描写変更したシーンはあります。
 モンハンでいうとロアルくらいの強さ。属性速射ボウガンがあればノーダメ0分針いけますね。


Jung:ユング
芸術家の魔女の手下。その役割は建築。
魔女の命令で作品を作り続ける。そこに意思は無く、ただ言われたことだけを何の疑問を抱くことも無く遂行する。
魔女が提示するものよりも、より魅力的な対価を提示すれば簡単に寝返るだろう。ただし人語は理解出来ない。

本体は異形の物体。少なくともこの世に存在しそうな形ではない。

※どうでもいい話ですけど、僕は力動が苦手なのでユング派でもフロイト派でもありません。
 フロイトを魔女にしてユングを使い魔にしたのは特に意味は無いです。
 芸術家の魔女の名前がはじめの案ではフライハイトだったので、頭文字Fつながりでフロイトになりました。ユングは少年の意味でつけてました。


Erich:イーリッヒ
人形の魔女。その性質は舞台裏。
自らの結界に近づいた魔女を絡め取って操り、自分の思い通りに動かす。
人間を襲うのも、結界に入り込んだ魔法少女を倒すのも全て操った魔女に行わせ、自分の手は汚さない。
自分が動くときはあらゆる衣装を身に着け、その役者になりきって演劇を務める。

本体は糸繰り人形(マリオネット)、大きさは1mくらいで案外大きい。衣装に身を包むことによって、それに見合ったあらゆる能力で魔法少女を翻弄する。

※魔女の中では単体の能力ではかなり強いんじゃないでしょうか。魔女同士の格ゲーとかあったらチート認定されそうな感じです。シャルロットちゃん(第二形態)は隠しキャラ。
 本編じゃ上手く描写出来ませんでしたが、6話のラストで「彼女」の得物が背中に突き刺さったのはこの子の能力によるものです。決して彼女の操作ミスじゃないですよ。
 あらゆるものを気づかれぬように上手く操るのがこの魔女の能力。魔法少女の手から離れた無機物を操るくらい、訳無いです。


Remarque:レマルーク
人形の魔女の手下。その役割は隠匿。
魔女の存在も自分の存在も、操った魔女に知られないようにこそこそ隠す。そうすることで操られた魔女は操られている事に気がつかない。
時には頑張りすぎて、操った魔女の結界の気配すら隠してしまうことも。

本体は無い。しかし実体はあるので攻撃すれば当たる。

※6話の人形の魔女戦で何も無いところに武器が刺さったり、どこからか悲鳴とかが聞こえていたのはこの子の仕業。見えない分、いきなり聞こえてきたりと性質が悪い。
 単体での戦闘能力は皆無。でも持ってる能力はチートくさいですね。
 5話で魔女の気配が直前まで気づけなかったのはこの子の所為です。


Wertheimer:ウェルトハイマー
犬の魔女。その性質は親愛。
人間に危害は加えない。手下にも人間に危害は加えさせない。
しかし自らの大切なものに危害を加える人間には容赦しない。
周りを無視して魔女一筋に攻撃を与えれば難なく倒せる。

本体は仮面を被った二足歩行の化け物(どーもくんに激似)。仮面の下の素顔は誰にも見せない。

※「彼女」が魔女となった姿。姿に特に意味はありません。悪意もありません。
 Q.どうして犬の魔女なの? A.裏設定に彼女は実はゆうちゃんに尽くすタイプだというのがあるからです。 …えっなにそれ怖い。


Ehrenfels(未登場):エーレンフェルス
犬の魔女の手下。その役割は慰め。
孤独な魔女をずっと慰めている。時には自らの身を呈して魔女の心を癒す。
しかし魔女に心は無い。彼らのすることに全く意味は無いのだ。

本体はぬいぐるみ。ファンシーなものからちょっとおかしいものまで。

※未登場なのでコメントのしようが無い。


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 @「彼女」
 魔法少女としての服装のイメージは、なのはのバリアジャケット。なのはよりも若干スレンダーなデザインかな。ソウルジェムの位置は胸。
 攻撃方法は主にギルガメッシュのパクり。超強力だがくっそ燃費が悪い。得物として細刃のシャムシール(シミター)を持っているが、近接攻撃は怖いのであまり使わない。ジャベリン投げて倒すのが楽しくてずっとそれで止めを刺してた。多分二次ネタのマミさんと仲良く出来る。チェックメイト!

 @白い魔法少女
 魔法少女の衣装イメージは白要素を増やしたはやて。手に持つ武器はレイハさんに似た何か。ソウルジェムの位置は頭に被った帽子
 攻撃方法は主にファンタジー魔法。単体の能力で言えば、設定の中ではチートチートしてるので最強です。しかし後衛からバカスコ撃つ感じなので、前衛が居ないとひ弱。
・通常ならば他の魔法少女が知らない、魔法少女の秘密(魔女化やQBの目的)を知っている。しかしそれでも元に戻る手立ては見つかっていないため、半ば諦めの境地に達している。クールキャラ。しかし魔法少女でない時はあぅあぅ……な感じですんごい人見知り。庇護欲駆り立てられる程かわいい。

 @黒い魔法少女
 魔法少女の衣装イメージはもっと黒くしたフェイト。スカートはもうちょっと長いよ。スパッツでもなければ真ソニックフォームでもありません。手に持つ武器は純白の大鎌(刃も実体)ソウルジェムの位置は腰
 攻撃方法は主にフェイトのまま。ただし近接主体。実は大鎌をぶん投げて攻撃もしたりする。
・白と同じく魔法少女の秘密を知っている。基本的に白とニコイチで行動する。白よりも野蛮な性格で好戦的。白のことが大好き(not百合)
・二人とも中2の14歳。でも契約の影響?で成長がすごく遅く、体格で言えば小学生くらい。ロリペド歓喜な感じ。







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あとがき





 はい、魔法少女まどか☆マギカ二次創作、「ツレが魔女になりまして」これで真の完結となります。ホットな話題で書き始めて、完結させれたのって始めてな気がします。今までいくつ、挫折の山を築いてきたことか……。

 さてこの作品ですが、はじまりはこのどこかで見たことのある、パロったタイトルから始まりました。
 まどマギの二次かきてーなー、書くならやっぱ魔女になっちゃう話だよなー→魔女になっちゃう…魔女になる……おぉ?→タイトル決定。
 そこから構想がどんどんふくらみ、そして最終的にこのような作品となりました。楽しんでいただけたでしょうか?
 まどマギという、ホットな話題で投稿しているにも関わらず、少ない感想に自分の実力の無さを痛感していましたが、毎回感想を下さった九尾さんのお陰でなんとかモチベーションを維持して作品を修正作業を続ける事が出来ました。その他の方々の感想も、とても貴重なモチベーション維持のもとになりました。お陰で今の「ツレ魔女」があります。本当にありがとうございました。

 それではあとがきです。

 まずは本編のちょっとしたお話でも。
 そもそもこのお話ですが、大筋では執筆前のプロットと大差は無いものの、細かいところではいくつも変更点がありました。
 その中でも一番大きな変更点が、原作との関わりです。執筆前のプロットでは諸所で原作に関わるようにしていたのですが、書いていくうちに変更、結局本編には関わりの無いオリジナルストーリーのようなものになりました。
 ちなみにどこらへんで本編と関わってたかというと、例えば3話。ここはもともと相手は杏子の予定でした。というか書いてる時は杏子のつもりで書いていました。舞台も杏子の住んでいた、見滝原の隣町という設定にしていましたし。しかし書いているうちにいろいろと変更があり、結局名無しのどこかの魔法少女に変更。舞台も全く関係のないところに。
 あとは本編終了後。本編ではゆうちゃんが魔女と魔法少女への呪詛をふりまいて終わっていますが、本来のプロットではこのあと少しだけ続いていました。この後あらゆる手段、方法(ここら辺は考えてなかった)で見滝原へ向かい、原作魔法少女組と出会いそこで彼女らに突っかかるというお話が予定されてましたが、これもカット。ちなみにこのお話のオチは返り討ちにされてフルボッコです。ゆうちゃん殴られまくり。
 あとは今回更新分のお話。これも本当は書くつもりの無い話でしたが、本編だけだと救いが無いので急遽執筆開始。もともと筆が遅いのもあって、ここまで遅れてしまいましたが。
 でもこの話を追加しておいて良かったと思える部分もありますね。蛇足感が無いとはいえませんが、たとえば本編では描ききれなかったところを書くことが出来ました。その最たるところが、二人ともが相手に「好き」であることを直接言ったことです。好意があることは自覚してますが、やはりこっ恥ずかしいのか、本編では一度も言ってないはずです。なのでifなら……。ある意味これを書くのが目的の数割でした。
 ついでにifストーリーについて少し。
 表現については、原作アニメに準拠しました。まど神さまに救われたあとの魔法少女はどうなるのかという処で悩みましたが、原作の表現に準拠し、消滅=円環の理行き?という解釈のもと、描写しました。
 他には上記の通り、二人が相手に「好き」ということを正直に告げるシーン。ここが書けただけでも満足です。書いてる間、ずっと身体がむず痒かったのは初めての体験でした。
 で、彼女自身の心境ですが、本編7話では何も出来ずに死ぬという事に対する恐怖と絶望がありましたが、ifに関しては半ば諦観の念があるように描写しました。なので彼女の台詞に変更がある訳です。そしてそれによってゆうちゃん自身の心境も大きな違いがあります。(まぁ、本編とifだと展開が違いすぎるのでなんとも言えないかもしれませんが)ここらへん、上手く書けてたでしょうか?

 あとはどうでもいい話ですが、実は本編はもう少し長めに書く予定ではありました。でも自分の実力的に、これ以上長くさせると意欲・時間の都合で確実に完結させることが難しくなると思ったので、この尺に落ち着きました。もう少し書きたいシーンはあったんですが、短編としては丁度いいくらいでしょうか。
 ちなみに作品テーマですが、若干後付けになるんですが「西部戦線異常なし」です。彼女が死んでも世界は何ひとつ変わることなく進んでいく。セカイ系の真逆ですね。



 では突っ込まれた設定の穴に対する言い訳タイム。
 Q.なんで魔法少女じゃない主人公にQB見えるの?
 A.ていうか本来ならば魔女も見えないはずですよね。
 魔女に対してはもう言い訳できないくらい設定の齟齬なんですが、QBに関してはQB自身が見える対象を設定できるんじゃないかなという独自設定を……キツいですかね。認識迷彩が高度に進化したようなものを纏っていて、それで見える対象を通常は魔法少女のみに限定しているとかなんとか……。
 あと、QB見てなんで驚かないの?に関しては事前に彼女がこうこうこんな形のマスコット!みたいな感じで紹介してます。その場面は本編にはないですが。なので思ったよりも動揺せずにすんだという事にしています。でも実際いきなりあんなの現れたら、事前情報あっても驚きますよね……。
 あとは、魔法少女は結界の中で死んだら死体残らないんじゃないの?とか。マミさん的な意味で。まぁこれは結界内で魔女化したということで例外的な処理で……。
 その他様々な設定の穴が自分でも見つけたり、指摘されたり……。作品を書くことの難しさを改めて痛感しました。


 他にもいろいろと言いたいことがあった様な気がしますが、もう覚えてないのでここらへんで終わりにしたいと思います。沢山の方々のPV、そして感想のお陰で完結させることが出来ました、本当にありがとうございました。
 それではまた機会があれば会いましょう。では。







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最後の宣伝ページ
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自分のサイトの宣伝です。
今はしょうもない日記がメインのサイトですが、一応もの書きのサイト…のはずです。
もしよろしければ、どうぞ。

「ふぁいなるぴーす」
@www.geocities.jp/sirius901013/@


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