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[27440] 【オリジナル・習作】それ行け月見里高校文芸部
Name: pisteuo◆8a182754 ID:35c6400b
Date: 2011/04/27 19:59
「そうだ。ぶちょーぶちょー。わたしちょっとぶちょーに教えてもらいたいことがあったの思い出したんですけど、いーですか? まあハッキリ言ってそんなに大変な話じゃないわけですし、今忙しかったらまた後で暇なときでもいいんですけどー」
 という声が背後から聞こえてきたので、僕は手にしていた本のページを捲る手を一時止め、顔を上げてそちらに耳をかたむけてみることにした。その先には、この部の部長である萌南涼子(もなみりょうこ)先輩と、同年代としては少々小柄であろうと思われる後輩の姿。
 別にその質問の対象に僕は含まれていないのだから、無視をしてこのまま読書にふけっていてもいいと言えばいいのだけど……大抵の場合この二人が何かをしようとすると僕も一緒に巻き込まれたりするので、こういう時は最低でも話の流れくらいは把握しておかないと知らぬうちにとんでもない状況に放り込まれかねないため、それをするのはちょっと怖い。
「ふむ。たしかに私は今小説を読んでいるので本当の意味での暇というわけではないが、しかしこれは元々今しなければならないことがなかったために、暇を潰そうと開いただけの物。つまり君の話を聴くことでもその目標を代用することはできるから、これの重要度はそれ程高くないよ」
「? ようするに、どーゆうことですか?」
「そうだね。つまるところ……構わないからその私に聞きたいこととやらを話してご覧、芽衣。と私は言っているのだよ」
「あ、ホントですか? ありがとーございます!」
 月見里(やまなし)高校文芸部。部長の奇行が原因で、まことしやかに『変人の集まりだ』などと囁かれているこの部が不本意ながら、僕が今高校に通っている上で所属している部活だった。
 時は放課後。所は部室。部員数はこの場にいる三名で全て。
 部長はスラっとした長身で真っ黒な髪を腰の近くまで伸ばした、見た目だけならそこらを歩いているだけで人が振り返るような美少女。ただし綺麗なバラにはトゲがあるというか、部長の場合はむしろトゲの山であるというか。迂闊に部長に手をだそうものならば、身体か心に深刻な傷を負ってボロボロになるであろうことは間違いない。
 もう一人の部員である山上芽衣(やまがみめい)は一つ下の一年生で、髪を頭の両脇でくくっている所謂シニヨン、おだんごヘアーでカワイイ系の女の子。ただし愛嬌のある笑顔と明るい性格にダマされると、部長と同じく後で痛い目を見ることうけ合いの、油断のならない奴だったりする。
 そして最後に僕こと九璃人(いちじくりひと)。平々凡々な容姿に、中肉中背のどこにでもいるような普通の高校二年生。本当かどうかは知らないが、名前が珍しくて面白いとか言うわけのわからない理由でこの文芸部へと半強制的に入れられて、事情を知る者には同情され、事情を知らないものには美少女二人を侍らせてるなんていう思わず一笑に付したくなるような理由でやっかまれている不幸少年である。
「それで、なにが聞きたいんだい? ほら、宝船にでも乗った気分でどーんと話してご覧」
 それを言うなら大船である。部長は七福神の一員か何かなのだろうか。それに気分だけでは駄目だろう。
「りょーかいですっ。えーっと……こないだですね、わたしテレビ見てて思ったんですけどー」
 そう言って、んーと唇に人差し指を当てる山上。考えをまとめでもしているのだろう。
「どうして日本って倒産……破産? ってしないんでしょーか」
 まさかのいきなり政治話。相変わらず、脈絡とか話の流れとか場の空気とか、そういったものを置き去りにする奴である。
「ふむ。芽衣がどうしてそう思ったのか、その経緯を詳しく教えて欲しいかな。そのほうがより正確に君の疑問にも答えられるだろうから」
 しかし部長もさるもので、動揺どころか一瞬の間隙もなくそう返す。それは芽衣の唐突さに慣れているのもあるだろうが、なにより部長自身の頭の回転の速さによるものが大きいだろう。
「それはですねー、さっきも言ったとおりこないだやってたテレビ番組を見てて思ったんですけど、その番組でですね――」
 部長は山上の今一まとまりの悪い話を聞きながら、ふむふむと頷いている。恐らくは頭の中でまとめながらどう答えるのか考えてでもいるのだろう。
 山上の話を纏めると、彼女が見ていた件の番組は民法のいわゆる政治番組で、そこで出演していた専門家が日本の財政は現在大赤字で、借金をしているがそれをまったく返せていないのだという話をしていたのを聞いて疑問に思い、それで今回の話になったのだとか。
「だってみんなの税金が普通国にはいるお金で、国はそれを使って色々やるんですよね? なのに赤字ってことは、ようするに入るお金より出るお金のほうが多いってことで、それっておかしいんじゃないかなーと思ったんです」
 まあ確かに、そう思うのもわからなくもない。現在の日本の財政赤字は、数十兆円に登るという。それも今年度だけなどの散発的なものではなく、毎年の話だというのだからひどい話だ。それに毎年赤字が出ているということは、つまり借金を返すことが長期間出来ていない、どころかむしろ赤字分を国債で補填しているのだから、増えていっているということになる。いったい累積でどれほどになっているのかということを考えると、末恐ろしい気分になってくる。
「ふむ、なるほど。とりあえずは、芽衣のいいたいことは分かった。私見……私なりの考えでよかったら答えるけど、それでもいいかい?」
 む。どうやらいつの間にか山上の話は終わっていたようだ。部長が顎にその白魚のような指を添えながら、山上に向き直っていた。
「はいっ、もっちろんですよ。むしろそれが聞きたかったんですからー」
 その返答に部長は鷹揚に頷き、それではと話し始める。その口元にうっすらと笑みが浮かんでいるのは、人に何かを説明したりするのが楽しいからなのだろう。往々にして知識人というやつは、自分の見解や知識を振舞うのが好きな人種であることが多いのだ。
 まあ、スポーツマンが試合や勝負を楽しむのと似たようなものなのだろうと僕は思っている。その辺は、動かすのが頭だろうが体だろうがあまり変わらない。自分の培った能力が、何らかの形で役に立っているというのは嬉しいものである。
 理由がそれだけとは限らないし、それにそもそもあっているかはわからないけど。部長風に言うのなら、これはあくまで僕の見解であるので必ずしもあっているとは限らない、というところだろうか。
「なぜ現在の日本が、あきらかに支出と収入の釣り合いが取れていないというのに財政破綻をしないのか。それはね、芽衣。日本が国という形態の組織だからだよ」
「うーん……?」
 山上が頭の上にクエスチョンマークを量産しながら部長の話を理解しようとしているのを見て、部長は楽しげな表情を隠さずに話を続ける。
「そもそも借金というもの自体は、たとえ誰もが知っているような一流の大企業――例を挙げるのなら、ホンダやソニーといったところかな――も必ずしているものなのだよ。当然の話ではあるけれど、企業の運営資金である資本金は出資者の出資金で賄われ、そして出資をしてもらうということはつまり借金をするということだからね」
 まあ、そうだろうな。現在日本で最も多い企業形態である、株式会社。これだって要するに、株という名前の借金をしているだけなのだ。株というのは要するに、借金の仕方の一つなのだから。
 借金と利益とコスト。これは常に切っても切れない存在で、同時に発生するのが当たり前のことなのである。
「そうだね……、芽衣。芽衣は『倒産』という言葉の意味については当然知っているよね?」
 部長の問い掛けに、またもやうーんと唇に指を添える山上。恐らくは考えるときの癖なのだろう。
「えっと……、お店とか会社にお金が無くなって、潰れちゃうこと……で、あってますよね?」
 不安気に返事をする山上に、「うん、それで間違いない」と頭を撫でる部長。そしてほっとした笑顔を漏らす山上。
 大変仲がよろしいようで、いいことです。もちろんなんだか僕だけ仲間はずれにされてるような気がしてちょっとだけ寂しさを感じてるだとか、そんな事はないですよ。ついでに一瞬だけこちらを向いた部長と目があって、同じく一瞬だけいい笑顔を見せていたような気がするのもきっと気のせいですとも。
「ふふふ」
「?」
 部長が思わず漏らした笑い声に、山上は首をかしげ僕はわずかに顔をしかめる。
「さて、では次だ。芽衣。企業の倒産には二つの種類があるんだけど、それがなにかはわかるかな?」
「倒産に、種類……ですか? うー、すいません、まったくわからないです」
「いやいや、別に謝ることではないよ。こういうことは普通興味のある人間しか知らないものだし、知らないことは別に恥じることではない。興味を持ったのならば、調べればいい。今の芽衣みたいにね。人に聞くでも本を読むでもどちらでもいいけど、大事なのは知らないことをそのままにしないで、その自分から疑問を解き明かそうとする意欲だよ。私はね、芽衣。君たちのそういうところを買ってるんだ」
「あ……、えへへ。その、ありがとうございますっ」
 部長は山上の照れ笑いに、ほがらかに微笑を返した。が、その後に今度は人の悪い笑みを浮かべてこちらを向いて、
「ああ、勘違いしてほしくはないのだけど、私はもちろん後輩クンのことも買ってるんだ。だからそんなに拗ねないでおくれよ? ちゃんと後でかまってあげるからね」
 部長のその言葉に、僕は一瞬ひくりと頬がひきつったのを感じた。
「……部長。実は僕、最近ひどいパワーハラスメントを受けたんですけど、この部を退部してもいいでしょうか。できれば今すぐにでも」
「おやおやそれは大変だ。そんな悲しい事を言われてしまうと、私は後輩クンが大好きだから身体を張ってでも止めたくなってしまうね。具体的には全校集会で君に泣きつくとか、朝のホームルームに乱入してラブレターを音読するとか」
 いじられているだけなのは分かっているが、しかし部長の場合否定しておかないと実行しかねない。僕は未だニヤニヤとイイ笑顔を浮かべている部長に向かって溜息を突きながら前言を撤回することにした。
「……やめてください。どんな拷問ですかそれは。さっきのはただの冗談ですから、そんな事はしなくていいですよ」
「うん? そうなのかい? ということは後輩クンも私のことが大好きだとおもっていいんだね? ああ、後輩クンと相思相愛の仲とは、なんと素晴らしいことか。では早速明日から交際を始めようか。初めは交換日記からでいいかい?」
「またまたご冗談を。部長みたいなお方と恋人なんて、畏れ多くて無理ですよ。僕にはそんな資格ありませんから」
「なに、恋愛に貴賤はないとも。必要なのは資格などではなくただ一つ、お互いの恋慕の情だけさ。さあ、大好きな私の胸に飛び込んでおいで」
「遠慮しときます。それよりいい加減話を戻したらどうですか? ほら、山上が暇そうにしてますよ」
「いえいえわたしのことはお構いなくー。というか本音を言っちゃうと、犬も食わない様なのに巻き込まれるのは嫌ですのでー」
 折角話題を戻そうと山上に話を振ったのに、そこから返って来た返答は思いっきり僕の意に沿わないもので思わず盛大に顔をしかめてしまった。
 それは要するに、夫婦喧嘩は犬も食わないとでも言いたいのだろうか。まったく。誰と誰が夫婦だって? 僕にも選ぶ権利くらいはあるもんだ。
「おや。芽衣は分かっているねえ」
「いやちがうから。部長とケンカすることはあっても多分夫婦になることはないから」
 と表情はそのままに早口でツッコミを入れると、何故か二人は顔を見合わせくすくすと笑いだした。
「……。なんですか、その笑いは」
「ふふ。いやなに、そこで多分と付けてくれる後輩クンが可愛くてついね」
「わたしも、実はまんざらでもないんじゃないのかなーとか思っちゃって、つい」
「いや、あんたらほんとさっさと話進めろよな。僕にかまってないでさ」
「先輩ちょっと顔赤いですよー」
「うむ。ツンデレ乙、という奴だな」
「誰がツンデレですか誰が!」
 ニヤニヤと笑う二人の視線に耐えかねて、僕は思わず大声を出してしまう。
「ふむ。さすがにこれ以上やると後輩クンが本気で怒ってしまいそうだし、そろそろ本題に戻るとしよう」
「はい、そうですねー。何事も引き際が肝心ですからー」
 その会話を背後に僕はもう一度溜息を付いて二人に背を向けた。もっとも変わらず耳だけはそちらに向けているが、もう同じことにならないように会話に入るつもりはない。
「では話を戻そう。たしか……さっきは倒産の話までしたんだったね」
「はい」
 コクリと頷いた山上に部長も頷いて、
「倒産には、二つの種類がある。それは受動的倒産と、能動的倒産だ。……と、そうだ。説明に入る前に念の為に注意しておくけども、これはあくまで私の考えだから、完全に鵜呑みにしてはいけないよ?」
「あ、はい。りょーかいです」
「うん、よろしい。では説明を続けるよ。先に言った二つのうち、受動的倒産は一般的に考える、さっき芽衣がいったような倒産と聞いたら思い浮かぶそれだね」
 ふむふむ、と頷く山上を見て、部長も満足気に話を続ける。
「そして能動的倒産は、文字通り自分から倒産することだね」
「ということは、まだお金がなくなってるわけではないんですよね? じゃあどうして自分からしちゃうんです?」
「なに、別に難しく考えることはないよ。単純に完全に借金で首が回らなくなる前に自分から倒産することで、会社の資産を売って借金を返すってだけのことさ」
「はあ……。つまりこのままじゃいつかダメに成っちゃうのが分かるから、そうなる前に先に自分からやっちゃえー、ということですか?」
「そうだね。そういうことだ」
 流石にずっと喋りっぱなしだったので、部長も少し疲れたのだろう。そこで二人は一度話を区切って、各々持ってきていたジュースを飲み始める。そして少しの間の後に、部長はまた話し始めた。
「企業が倒産をしてしまうのは――」
 なにか思うところがあったのか。部長は一瞬そこで話すのを止めたが、すぐに山上に視線を戻してもう一度話し始める。
「倒産をしてしまうのは、もちろんお金がなくなったからだね。そして企業が正式に倒産扱いになるのは、自分から法的手続きをとるか、もしくは借金の利息を二度払うことができなかった、という状況におちいってしまうかの二つ。これはそのままさっき言った受動的倒産と能動的倒産に当てはまるね」
「なるほど」
「さて。ここで最初の、どうして日本が財政破綻をしていないのかという質問の答えが出るんだけど……、芽衣はどういう意味か分かるかい?」
「え? あ、えーっと、えーっと……ようするに、日本はまだまだ利息を払うだけのお金は持っていて、それにこの先何年かも大丈夫だっていう見通しが通っている、ってことでしょうか?」
「……、うん。大体はあってるよ。そう……点数をつけるなら、おおよそで七〇点、ってところだろうね」
「ありゃ。ちゃんとした正解にはなりませんでしたかー」
「ふふ。まあ、しかたないさ。多分その足りてない部分が初めからわかっていたのなら、そもそも今日みたいな話にはなってなかっただろうからね」
「つまり、そこがわたしの疑問のキモって奴なんですね。それで、その足りない所って一体――」
「それは……」
 もう口をはさむつもりはなかったのに、僕の口は主人の意思を無視して勝手に口走ってしまっていた。そのことに我が事ながら少々驚きつつ、まあココで止めるのも変な話かと思ってそのまま自分の考えを口にすることにする。
「それは、国債の話ですか? 部長」
「うむ。その通りだよ。流石だね、後輩クン」
 満足気に頷く部長と、その横で小首をかしげている山上。
「国債、ですか」
「うん。芽衣は国債のことを知ってるかな?」
「うー、すいません。名前くらいは聞いたことがあるんですけど、詳しくは知らないです」
「なら……、そうだね、折角だから後輩クン。君が説明してあげてくれないかい?」
「え?」
 部長から急に話をふられてしまい、多少面食らってしまう。
「僕がですか?」
「ああ、嫌なら別にいいけど。ダメかい?」
 若干上目遣いでそう言われて、思わずうっと呻きそうになる。まったく、こうやって自分の容姿の使い方を心得てて、その上人心掌握が上手いから苦手なんだ、この人は。
 僕は一度少し深い呼吸をし、自分の中に籠った感情を吐き出して、それから説明を始めた。自分の動揺を悟られるのはなんとなく癪だったので、部長への返事はしないことにする。
「国債って言うのは簡単に言うと、国が発行する株みたいな物。もしくは借金の証明書みたいなものかな。普通はどこかの会社が買うものだけど、たしか個人も資金さえあれば買えたはず。これを買うメリットは、設定された時間によって国に貸した金額にプラスアルファして利子の分が帰ってくること。例えば国から帰ってくるのが五年後だったら三パーセント。一〇年後だったら五パーセント、みたいな感じにね。もっとも正確な数字はそこまで調べたことがないから知らないけど」
「うう? えーっと、つまり……それを買うことで国にお金を貸せる券、ていうことでいいんでしょーか?」
 思案顔で問いかけてきた山上に、僕は肯定の意を返す。
「まあその解釈であってると思うよ。大体そんな感じだ。僕もそんなに詳しいわけじゃないから、全部鵜呑みにされても困るけど」
「ありがとう後輩クン。それじゃあ続けて質問だ。芽衣。芽衣は借金を返す方法がどれだけあるか、わかるかい?」
「え? んー、お金を返す方法っていうと……お金を貯める?」
「そうだね。それもひとつの方法だ。ではその借金を返すための貯金はどうやって溜めるものかな?」
「えーっと、節約をする?」
「ふむ。他には?」
「あとはー、使う分以上にお金を稼ぐとか」
「そう。そうだね。だけど日本は国だから、その方法は取れない。当然の話しではあるけれど、国というのは非営利団体だからね。ではその二つ以外にもう一つ方法があるのだけど、何か分かるかい?」
 山上がふるふると首を横に振ったのを見て、部長は小さく頷き答えを口にした。
「それは、借金をすることだよ」
「??? お金を返すために、さらにお金を借りるんですか?」
「そう。ここで重要になってくるのが、先ほど説明した国債だ。ではここまでの話を分かりやすくするために、そろそろ結論もこみに一度まとめてみようか。これも後輩クン、君にお願いしたいと思うのだけど、いいかな?」
「別にそれくらいかまいませんよ。それに嫌だって言ってもどうせ強制的にやらせるくせに」
 溜息とともに頷いて、僕はこれまでの話を頭の中でまとめていく。ちなみに部長は僕の返事を聞いて当然とでも言わんばかりに笑顔を浮かべていたので無視することにした。
 それから少しして、だいたい考えがまとまったところで、それじゃあ、と腕を組みつつ話し始める。
「……まず、国に――日本に入るお金、収入は税金。そして出て行くお金、支出が予算だ。で、問題は毎年税金が予算を上回ってしまっているということ。それで日本は、その足りない分を国債を発行して補っている。だけど国債は当然借金であるので、これを返さなければならない。返すことができないということは、イコールで財政破綻になってしまうからだ。とは言え初めに言ったとおり、すでに支出は収入を上回っていて、国債を返す分のお金は当然無い。なので日本は、その借金の利息を返すために、その分の国債をさらに発行している、と。だいたいこんな所かな」
 あまり分かりやすく人に説明するのは得意ではないので、少しわかりにくかったかな? と思って確認のために視線を向けてみると、山上は何かを考えるようにまた唇に指を添えてうーんと唸っていた。
「とりあえず、どうしてなのかーっていうのは分かってきたと思いますです。要するに日本は借金でマイナス分を帳消しにしてるから大丈夫、ってことなんですよね。でも何となく思ったんですけど……それって、ずーっと繰り返すことってできるんですか? いつまでもその国債っていうのを皆が買ってくれるとは、思えないんですがー」
 山上の質問を受けて、僕は無言で部長に目を向けた。頼まれたからさっきは答えたけど、必要以上にでしゃばるつもりはないのだ。
 すると部長は目線で小さく頷いて、何事かを考えるように顎に手を添える。山上も当然空気を読んで、無言で部長が話し始めるまで待つつもりのようだ。
 そしてわずかの沈黙の後、部長は顔を上げて、
「ふむ。ひとつの疑問が解消されれば、また新たな疑問が出てくるのは必然。とはいえここまでである程度基礎的な知識は理解できただろうし、なんでも私が答えてあげるというのもあまりいいことではないだろう。と、いうことでだ」
 そこで一度言葉を区切った部長のどこか楽しそうな顔を見て、多分これからめんどくさいことになるのだろうなという予感がした。僕は静かに本を読んでいれば幸せなのだけど……きっとこの文芸部にいる限り、そんな平穏な日々は来ないのだろうと心中で嘆く。
「今年の文芸部の活動報告は、今回の芽衣の疑問……日本はこのまま国債を発行し続ける状況のままでいられるのかどうか。というテーマの研究レポートにしようと思うのだけど、どうかな? ふたりとも」
「部長。分かってるとは思いますけど、うちは文芸部ですよ? 普通文芸部って言ったらどこかの賞に作品を出すとか、合同誌を作るとか、そういう事をするんじゃないですか? そんなどこかの大学の課題レポートじゃないんですから」
 思わずしてしまったツッコミに、しかし部長は涼しい顔で、
「いやいや後輩クン。そも創作活動において、そういった固定観念に縛られるというのは、まったくもってナンセンスだとは思わないかい? 例えばだね、調べたことを紹介するような小説を書いてみるというのはどうだろうか。ほら、よくあるだろう? 物語仕立てで勉強をする、過去の偉人の伝記をマンガにしたようなのが。あれと一緒だよ」
 む。まあ確かにそういう手もあるか。それに部長のいうことも一理ある。創作活動とはそもその字のごとく、新たな作品を創造する活動のことをいう。同じことばかりをしていてはそれはできないし、いい刺激になるやもしれない。
「わたしはもちろんオッケーです。そもそもわたしが言いだしっぺみたいなものですしー」
「そうか。それはよかった。それで、後輩クンはどうだい? やっぱりまだ反対かな?」
「……いえ。確かにさっき部長の言ったことも否定はできませんし、これ以上文句を言う気はありません。それにもともと、最終的な決定権は部長にありますしね」
「うむ。あっという間に意見を変えるその変り身の早さ、流石だね。素晴らしいよ」
「意志薄弱ですいませんね……」
 微笑を浮かべながらの部長の皮肉に思わず大打撃を受けてしまう。まあ意思が弱いのは事実なんだけどさ……。
「うん? どうやら勘違いをしているようだけど、別に皮肉を言ったつもりはないんだけどね。むしろ私は褒めているつもりだよ、後輩クン?」
「どこがですか……」
「む。私は本気なのだが」
「もういいですって。この話はもうやめにしましょう。それより今日はもう何もありませんよね? なければそろそろ帰りますけど」
 いい加減この話題を続けるのは嫌だったし、それにそろそろ帰りたかったのも事実だ。これ以上遅くなってしまうと真っ暗になってしまうし、そうなってしまったら二人を送らなければならなくなってしまう。
「ああ、もうこんな時間か。そうだね、今日はそろそろ解散にして、今後の活動の計画を練るのはまた後日ということにしよう。芽衣もそれでいいかな?」
「はいっ。異議なーし、です」
「うむ。では解散。各々気をつけて帰るように。家に帰るまでが部活だからね。買い食いはしてもいいけど三〇〇円までだよ?」
「部長。遠足じゃないんですから」


 とまあ、こうして今日も今日とていつも通りの一日が終わったのである。とは言っても、我が月見里高校文芸部にとってはふつうじゃないのが日常であり、きっと今回の研究とやらも一筋縄では終わらないのは確実。どうやらまた騒がしい毎日が始まって、周りからの変人扱いは拍車をかけるであろうことは明白なのである。できることなら平穏無事な毎日を贈りたいところではあるが、やっぱりそれは諦めたほうがいいのだろう。……はあ。



[27440] それ行け月見里高校文芸部(2)
Name: pisteuo◆8a182754 ID:20a0c7ef
Date: 2011/05/14 21:41
これはとある場所に、僕ら文芸部一同が向かう途中での話。いつものようにアホの子にしか見えないようで実はそうでもない我が可愛げのない後輩、山上芽衣の疑問から始まった会話の一幕である。
「センパイセンパイ。そういえばわたし、昨日の話で一つ疑問に思ったことがあったんですけど、ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだいきなり。薮から棒だなあ。まあいいや。いいも悪いも聞いてみないとわからないし、取り敢えず言ってみたら?」
 僕がそう返すと山上はいつも通り「はーい」と元気に返事をして、徐に話し始めた。
「えっとですね。センパイが昨日してくれた説明の時にちょこっと話に出てた、えーっと……そうだ、サラ金だ。アレのことなんですけど、サラ金ってよく話には聞きますけど、詳しいことは全然知らないんですよねー。よくサラ金でお金を借りるな、とは聞きますけど……あれって要するに何がダメなんでしょーか」
「サラ金ね。ああ、国債の説明をしてたときの話かな」
 と呟き頷きながら、僕は部長に視線を移す。説明好きな上に山上を可愛がってる部長のことだ。こうすれば僕が部長に任したのだと判断して、勝手に説明を始めてくれることだろう。別に僕が答えなきゃいけないことでもないのだから、それでいいだろう。ぶっちゃけめんどくさいし。
「ふふ。そうかそうか。後輩クンはそんなに私の声が聞きたいのだね? それならば仕方ない。その芽衣の質問には、私が答えてあげようじゃないか」
 すると部長は楽しげな笑みを浮かべてそんな事をのたまいだしたが、ココで反応すれば向こうの思うつぼだろう。これで無視をすれば質問に答えると言っておいてこの上で無理にからかうことはないだろうから、これ以上の追撃はないはずだ。
「さて、芽衣。まずはじめに……サラ金サラ金とはよく聞くが、芽衣はそもそもあれの正式名称は知っているかな?」
「あ、そっか。言われてみれば、サラ金ってちゃんとした名前じゃないんですよね。ホントはなんて言うですか?」
「ああ、消費者金融だよ。まあほとんどの場合サラ金で通用するとは思うから、無理に覚えることもないとは思うけどね」
 ほうほうと頷く山上に部長は笑みを返して、
「それじゃあ話を続けようか。芽衣の質問は、なぜ消費者金融で借金をするのがよしとされないのか、だったね。まずはそうだな……。芽衣はそもそも、どうして銀行と消費者金融という、借金をするための組織が複数同時に存在しているのかわかるかい?」
「え? えっと……それってようするに、どうして他に銀行もあるのにわざわざしょーひしゃきんゆうでお金を借りる人がいるのか、ていうことですよね?」
「うん、そうだね。そうとってもらっても構わないよ。需要があるからこそ供給もある。私の問いも芽衣の質問も、本質的にはどちらも同じ意味だからね」
 と部長が頷くと、山上はいつものように唇に指を添えてうーんと唸る。そしてしばらくして、わずかに顔を俯けると表情を暗くして、
「……うう、ちょっとわかりそうもないです」
 と言った。
「そうか。まあ仕方ないだろうね。というよりも、ひょいと答えられたらなぜ聞いたのかという話になってしまうしね」
 部長はいつも通りどこか楽しげに、「それじゃあ説明をしよう」と前置きをして、
「どうして信用のおける銀行ではなく、消費者金融で借金をするものがいるのか。それを一言で言うのなら、ひとえに借金のしやすさが原因だろうね。銀行には、借金をするうえで必ず必要な条件がある。それは、借主にきちんとした返済能力があり、そして身分が確りとしていることだ。しかし消費者金融にはそれらが必要なく、容易に誰でも借金をすることができる。例えば銀行なら過去にどこかで借金を踏み倒した過去のある人間に容易には貸さないが、消費者金融はその限りではないということだね」
「はー、なるほどー。でも、それだけなら皆すぐに借りれるしょうひしゃきんゆーにお金を借りに行っちゃうし、やっぱりなにか問題があるんですよね?」
「うん、その通りだ。確かに消費者金融は容易に借金をすることができるというメリットがあるが、しかしそれを補って余りあるほどの大きなデメリットがあるんだよ」
「それはいったい……」
 視線で問いかけるようにじっと見つめてくる山上に満足そうに頷きながら、部長はもったいぶった様子でその問の答えを口にした。
「うん、それはだね……銀行とは、比べものにならないほどに高い利子だよ。他にも取立てに対する粗暴さも、デメリットに挙げられるだろうね。まあ後者に関しては、最近は法律の縛りが厳しくなったみたいだから、全ての消費者金融がそうだとは限らないと思うけどね。ああ、余談ではあるけれど、消費者金融の受付の仕事はすごく給料が高いそうだが、そのかわり建物の奥からひどい罵声やら何やらが聞こえてきて、大抵の人が長くは続かないそうだよ。受付の募集は基本的に女性だそうだし、まあそれも無理は無いだろうけどね」
 その場面を想像してか、「うわあ……」とどこか嫌そうな表情を浮かべた山上に、部長は軽く笑顔を浮かべる。
「はは、まあそうなるだろうね。私ももしその仕事についたらと思うと、ちょっと勘弁して欲しいところだ。――さて、それじゃあ話を戻すよ。もう大体は話したから、もう少しだしね」
「あ、はい」
「現在は、消費者の生活を脅かす過度な取立ては法律違反になったり、最大利息の上限が決まっていたりとある程度は整備は進められているようだけど、それでも決められた利息以上の利率で貸す、いわゆるグレーゾーンの所もあるからそういうところは特に要警戒だね」
 ちなみに、と前置きをして、部長はさらに言葉を続けた。
「金融法で決められている上限利息は、たしか18%だったかな。だからもしそれ以上の利息で借金を返しているのだったら、弁護士を立てたりして返してもらうことができるよ。民事の場合は警察の立ち会いのもとで訴えることもできるから、業者と警察を呼んで話し合いをするのもいいかもしれないね。――とまあ、だいたいこんなところだろうね。どうだい? わかったかな、後輩クン」
「ってなんでそこでいきなり僕に振るんですか」
「それだとなんだかセンパイがサラ金でお金を借りてるみたいですねー」
「いや、かりてないから。高校生のうちからサラ金のお世話になってるって、どんだけ僕ダメ人間なのさ」
 根も葉もない疑いをかけられて、すかさず訂正をする僕。
「ふふ、当然だね。夫の財布のひもを握るのは妻の仕事。私の目が黒いうちは、後輩クンがそんな事をすることはないとも」
「おお。さすがです、ぶちょー」
「いやいや、さすがじゃないから。誰が旦那で誰が妻なのさ。今のところ誰とも結婚した覚えはないって」
 すぐにツッコミをすると、二人はクスクスと笑いあう。それに僕が溜息を付いて、会話が途切れたので前を向いた。それからは特に大事な話も部長のウンチク話も特になく、目的地まで他愛のない話をしながら歩いて行った月見里高校文芸部一同であった。
 ……それにしても、相変わらず文芸部のぶの字も出てこない会話だよな、これ。


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