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[27438] 【習作】迷宮ファンタジー学園冒険者
Name: やかた◆16f27903 ID:965f10c6
Date: 2011/04/27 14:51

 国立フレイヤ冒険者養成学園は、大陸北東部に位置するスオカ国の唯一の国営冒険者養成所である。
 その特徴は、大陸全土で五つしかない創世期より在るという《門》を取り囲む街カンテラに在り、また500年程昔に大魔導師によって《門》を模して各地に造られた《搭》の一つを抱えている事が挙げられる。

 短く切った黒い髪と黒い目、筋肉質で180を上回る大柄な体を黒い服で包んだ全体的に黒っぽい男の名は、アルベルト・ブラックスミス。今期学園の入学者で、ピッチピチの15である。


   …………………………………………


《搭》・一階


 俺は石造りの迷宮の通路の陰から、忌々しげに部屋を覗いていた。
 部屋の反対側の通路の先には、二階へ上がる階段と外へと繋がる転移装置が見えていた。しかし、部屋には反対側の通路近くに朽ちかけた骸骨兵が三体、また通路から見えない部屋の陰に何かが居るらしく、気配察知に引っ掛かっている。
 朽ちかけた骸骨兵、分類的にはスケルトンに括られるが、その能力の低さと何より見た目から《半壊スケルトン》と呼ばれている。奴らは通常のそれに比べ、動作にしても移動速度にしても遅く奴らだけならば対処方は幾らでもあるのだが、物陰の敵が気掛かりだった。


「何時までもこのままって訳にはいかんよな」


 溜息と共に出た独り言は、時間が無い事を告げていた。
 休憩する傍ら部屋を窺う事約10分、そろそろ動かなければ通路を巡回するモンスターに見つかる危険性があった。もし、モンスターに見つかれば部屋の中の奴らも出てきて挟み撃ちになるだろう。それだけは避けねばならない。
 俺は意を決して部屋に飛び込むと、すぐさま気配の有った方へと駆け出した。


(げ! マジックプラントかよ!)


 事前に仕入れていた情報により、居るかもしれないとは思っていた。
 しかし情報では、この部屋で出る敵にパターンの内、半壊スケルトンが三体出るのは5つ。その中の、最悪のパターンだった。

 マジックプラントとは、その名の通り魔法植物である。50~200の幅の茎を持ち、6~24枚の花弁を待つ。茎の幅が大きく、花弁の枚数が多いほど強力である。花弁中央より、魔法の矢を放つ。また、花弁の色でその属性を知ることが出来る。根を動かして移動できるが、移動速度は遅い。

 俺は気配隠蔽でギリギリまで近付いてから駆け出したので、不意を突いた形になり、戦いを有利に進められるのだが、奴らは性質上、花弁を相手に向ければ攻撃できる。
 近付きさえすれば、用意に倒せる相手であるが、相手は既に花弁をこちらに向け、魔力を収束し始めている。
 このままでは俺が近付くのが先か、相手が魔法を撃つのが先かという所だろう。そして俺の耐魔力と残りの体力を考えると、直撃すれば即死もありうる。


(間に合ってくれ)


 そう願うも、花弁の先の魔力は拳大の球を形どり、今まさに強く輝いた。


(ガード……無理! 回避出来るか?!)


 全力疾走の状態から無理に防ごうとしても、防ぎきれないと判断し、思いっきり体を捻った。
 直後、左脇腹を白い光を放つ矢が掠めていく。
 入学時の支給品である革鎧を薄く傷つけ、革鎧では防げない魔力ダメージが脇腹を切り裂く。
 痛みを無視し、右手のショートソードを振り抜くと、確かな手応えと共に花弁が宙に舞った。
 無理矢理振るった一振りであったが、速度が乗っていた為か、一撃で倒せたらしい。
 急ブレーキを掛けつつ方向転換して見れば、骸骨兵どもが向かってきていた。
 骸骨兵の横を抜けようと足を踏み出せば、脇腹に激痛が走った。


(っぐ! 勿体無いけど仕方ない)


 もたついて囲まれてはコトだと、腰のポーチから最後の回復薬を一気に飲み干す。
 するとすぐさま、脇腹の傷が塞がり、痛みが消えていくのを感じた。
 マジックプラントの死体が光の粒子になるのを見ながら、具合を確かめる。これならば大丈夫だと確認し、粒子の後に残された魔石を掴み、狭まる包囲を楽に抜けて、転送装置に飛び込んだ。








あとがき

行間だとか大丈夫でしょうか?
あと、1話の長さってどれ位が良いんでしょうか?

どうも、やかたです。

ファンタジーだとか、迷宮とか、スキルとか、ステータスとか、そんな要素が書きたいです。



[27438] 1話
Name: やかた◆16f27903 ID:965f10c6
Date: 2011/05/03 21:10

 《搭》の横には、出入りを監視・管理する為の施設がある。
 四階建てのその施設は、入ってすぐに受付窓口があり、その隣には階段、そして其処から先は、廊下の両側に部屋が並んでいる。
 その内の一番手前、1Fと書かれた部屋の奥に置かれた転送装置が、ヴイィーンという低い音を唸らせながら動き出した。
 直径4m程の灰色の円盤の上に、桃色の光を放つ魔術陣が浮び上がり、円盤の四方に配置された同色の円柱にも同じ様に、桃色の魔力光を放つ魔術式浮かび上る。
 数秒後、円盤と柱の間に桃色の魔力壁が形成され、さらに上下にも魔力壁が形成され、空間が隔絶されると、次の瞬間には誰も居なかった筈の円盤の上に、男が立っていた。


   …………………………………………


 周囲を取り囲む魔力が霧散していくのを感じながら、ホッと息をつく。転送装置という物を初めて使ってみたが、問題なく使用できたらしい。周りの景色が、石造りの迷宮から板張りの部屋へと変わっていた。
 手に持ったままだった、剣と魔石をそれぞれ鞘と背中のリュックにしまい、部屋を出る。
 受付で慣れない手続きを済ませ、建物を出ると、既に日が沈みかけていた。寮の自室に帰る頃には、完全に沈んでしまうだろう。

   ■■■

 俺が寮に着く頃には、案の定日は沈んでいた。
 中に入ると、日は落ちたがそれ程遅い時間ではないため、一階のホールにそれなりの数の寮生が居た。
 売店を覗く者、食堂で早食い対決をしている者、掲示板を熱心に見つめる者、警備員に怒られている者。
 その中の、テーブルでトランプをしている一団の一人と目が合った。そいつが何か話したと思うと、一団は席を立ち、近付いてきた。

(……面倒な奴に見つかっちまったな。無視するか……)

 一団の先頭を歩く小柄な男を見て、すぐさま階段へと歩き出したが、回り込まれてしまった。

「おいおい待てよ、アルベルト! 無視すること無いだろ?」

「……悪かったな。疲れてるんだ、通してくれないか?」

「そう邪険にするなよ、同期だろ? ……おや~?どうしたんだ、ボロボロじゃないか」

 ニヤニヤと人を小馬鹿にした笑みを浮かべ、わざとらしく驚いている。周りにいた奴らも、同じ様な顔で囃し立てる。

「ど~したんだ?アルベルト。植込みにでも突っ込んだのか? スッ転んだのか? もしかして《搭》を探索して来たのか?! いかんぞアルベルト、お前は弱いんだからな、スライムにもボコボコにされちまう」

「……そうだ。《搭》に行ってきたんだ。だから疲れてるんだ、通してくれ」

「《搭》! アルベルトが《塔》! おい皆聞いたか、あのアルベルトが《搭》に行ったんだとよ! それでどこまで行ったんだ、一日中入っていたんだろ。三階か四階か? もしかして一階ってことは無いよな? どんなに慎重に行ったって、一階に一日も掛かるわけ無いしな!」

 分かったうえで言っているのだろう。腹は立つし、いつもの俺だったら喧嘩を買っていただろうが、慣れない探索で精神的にも肉体的にも疲れているのだ。無視して部屋に帰ることにした。

「いて! おい待てよ! 逃げるのかよ腰抜野郎! ……弱いくせに!《孤児》の癖に! 目障りなんだよ!」

 押し退けられた男が、怒声を発しながら追って来ようとしたが、近付いてきていた警備員に止められる。
 俺は男の罵声を聞きながら、部屋へと戻った。

   □□□

 窓から射し込む光で、昼前であることが分かる。昨日部屋に戻ってから、いままで寝ていたらしい。
 寝ぼけた頭で周りを見ると、脱ぎ散らかした服や装備が散乱している。

(腹が減ったな。昨日の晩と今朝と、何も食ってねえからな。先飯にするか)

 グゥ~っと腹が鳴ったので、片付けを後回しにし、服を引っ掴み一階の食堂へと向かった。


 時間が時間なので、講義か探索にでも出ているのだろう。人が殆ど居ない食堂で、トレイにパンやサラダを乗せていく。
 この寮は、基本金に余裕の無い者が入る。その為、部屋は狭いし家具も安物のベットと机しか無いが、家賃がタダ。
 そしてその一階にある食堂には、金の無い者の為に、売れ残ったパン等がタダで食べられる。まあ、味は……。

 適当な席に座り、硬いパンを噛み千切りながら今後の予定を考える。
 とりあえず今日は、戦利品の片付けと装備の修復、消耗品の補充で終わるだろう。
 問題は明日から如何するか、もっと具体的に言うならば、どうやって《搭》を攻略していくか。
 学園の規則で、二年への進級の条件の内に《搭》の十階到達がある。
 聞いた話に因ると、一階から十階までは敵の強さや一階毎の広さはあまり変わらず、場所や敵の種類が変わるらしい。
 これは、月初めの変成でも今まで変わらず、一階が遺跡、二・三階が森林、四・五階が洞窟、六・七階が川辺、八・九階が草原で、十階がまた遺跡となるらしい。

 ここで問題となるのがこの月初めの変成で、これは毎月一日に《搭》が内部構造を変える現象の事で、敵の種類や罠やアイテムの位置、場所の様子そのものも変わる。
 変わらないのは、下の階層の方が敵が弱い事と階段のある所位なもので、それ以外は全て変わると言ってもいい。
 その為、転送装置を設置出来るのは階段の近くだけで、また、《搭》内部で月を跨ぐ時は階段近くに居ないと、《搭》の変成に巻き込まれ、塵芥まで分解された上で吸収されるので、一般に『《搭》に喰われる』と言う。
 まあ、変成は一日に及ぶので、階段近くに居るならばそのまま外に出た方が賢明である。

 話を戻すが、この変成がある為今の情報は今月中しか使えず、来月になったらまた一から情報を集めなければならない。
 そして欲しい情報が一階から十階というのも問題になる。
 この階層は、初心者訓練用の階層で、容易ではあるが実入りが少ない。普通のパーティーで二ヶ月、講義を優先したり慎重なパーティーであっても、掛かって四ヶ月。しかし、慎重なパーティーは大体月の終わり頃に探索するので、そのパーティーからの情報を待っていたら間に合わなくなる。だから、二ヶ月の間に行ける所までは行きたい。
 俺の力では、情報が出揃い再設置されない罠が潰された後であっても、回復薬二十個、ファイヤージェム十個を使い切ってやっとだ。これでは、情報が集まらなくなったらどうなる事か。

(今回は最初だからって全部屋調べたが、次からは最短距離を行くか。情報が有るうちに、階層を稼ぎたいしな。……しっかし金が足りねえ)

 トレイを片付け、部屋に戻りながら今後の方針を固めていくが、やはりここに行き着くのである。
 曰く、金が無い。
 元々多くなかった資金は、入学金と今年の学費で殆ど無くなってしまった。と言うのも、育ての親たる爺さんが、俺を鍛冶師にしたいらしく、
冒険者になる事を認めなかった為、一銅貨すら出して貰えず、コツコツ貯めた貯金だけで払ったせい。
 まあ、自分の学費位自分で何とかするもんだが、多少は期待していたのだ。

   ■□□

 子供の時に両親が死んで、爺さんに引き取られてからは武具を作る事に関係する事ばかりを教えられた。
 一流と言っていい腕前の爺さんの所には様々な人が訪れ、様々な物が持ち込まれた。一般的な物から、魔法金属、ドラゴンの鱗、月の魔力を集めた液体などと言った一級品、またそれを扱う道具。
 まずはそれらの知識。特性や取り扱い方、調達方法といった実務的な事から、それらにまつわるちょっとした小話まで。
 次は目利きだったか。何が良くて悪いのか、何に使えて如何使えないのか。間違えるとすぐに拳骨が飛んできた。
 武具の扱い方の基本を習ったのも爺さんだった。「扱い方の分からない物が作れるか!」としごかれた。
 他にも、参考になる書物が多いからと、古代ドワーフ語を教えられたり、錬金術も関係があるからと教えられた。

 本当に色々教えてもらったし、感謝も尊敬しているが、俺がなりたいのはやっぱり冒険者なのだ。
 子供の頃、寝物語に聞いた英雄の様にはなれないことも分かっている。
 才能が無いのも、分かっている。工房を訪れる英傑たちに無理言って稽古をつけてもらった時に散々言われた。褒められたのは、目利きと錬金術と鍛冶術位だ。
 其処まで分かっていても諦められないのは――朧げになってしまっているが――これが両親との唯一の思い出だからだろうか?
 分かっているのに止められないとは、これは正しく呪いなのかもしれない。

(……らしくない事考えてんな。まさかホームシックってやつか?!)

 思い至った結論に、恐れ戦いている内に部屋まで着いたらしい。
 掌から学生証を出し鍵に近づけると、カチッと音がして鍵が開いた。

 この学生証はマジックアイテムであり、入学時にとある儀式魔術によって、魂そのものに関連付けられる。その為自由に出し入れが出来、紛失の可能性が無い。性質が性質なので、この国だけではなく、各国において身分を証明する物にもなる。また、関連付けされていても、学生証側から魂に干渉する事は出来ないの安全である。
 他にも、各機関が収集したデータに照し合せて能力を評価したり、スキルの表示も出来る。色んな情報を入れておく事も出来るし、メモ帳としても使える。勿論、他人に見せた時に、勝手に見られない様ロックを掛けることも出来る。
 最近では見た目を変える事も出来、古い本の様にしている奴や、ファンシーにしている女子生徒などが見受けられる。
 因みに俺は、初期状態の角を落とした半透明の板で、モンスターの情報等を入れている。
 優秀なアイテムではあるが、多分これの所為で入学金が跳ね上がっているんだと思う。

 部屋に戻った俺は、まず装備から片付ける事にした。

(上着は下着類と一緒に洗濯だな、パンツは……結構破けてるけど、これなら縫えば直るな。武具類はっと……)

 盾の方は簡単に直るだろう、問題は鎧の方だ。買い換えるまででは無いが、結構掛かりそうである。
 後は剣であるが、無茶な使い方した割には大丈夫そうである。これなら多少研ぐだけでいいだろう。爺さんの所を出る直前に作った自作の品だが、あんな無茶な使い方をしてこの程度の損傷なら中々の出来だろう。
 金が掛かるのは鎧位か、もっと上手く躱すなり、盾で防ぐなりしないと、結構ヤバいかも知れんな。

 今後の反省をしつつ、今度は戦利品の確認である。現在の収入源がこれしかない為、結果次第では色々考えねばなるまい。
 昨日背負っていたリュックの中から、一つ一つ確認していく。
 《搭》独特の現象であるが、倒した敵は光の粒子となって消える。その後、アイテムを残したり残さなかったりするのだが、その為アイテムが手に入らなかったり、手に入ってもどうしようも無いゴミであったりと、利益を計算し難いのである。

(案の定、ゴミばっかじゃねえか。骨ってどうすりゃいいんだよ、骨って……)

 魔力も何も無い骨など、どう売り捌けというのだ。他の物も、あまり金にはなりそうに無い。
 殆ど魔力の無い屑魔石が十五、タダの骨が十、空瓶が一に吸血蝙蝠の羽が三と牙が一、甲殻芋虫の殻が一。

(そのまま売って、大体540銅貨位か。……鎧の修理費用にも足りねえ。錬金術で加工するにしても、この材料だとやり様が……)

 手持ちが全く無いわけではないので、それと合わせれば修理費用位は出てくるだろう。
 しかし、そうすると消耗品を買う金が無くなってしまう。
 だからと言って、修理せずに次の階へは行きたくなかった。

(二階は森林タイプだったか、毒を持ってるモンスターも居るだろうし、余計消耗品が掛かるな。いや、最短距離を突っ切れば行けるか?)

 時間が無いから無茶をする、無茶をするには金が無い、金を貯めるには時間が無い。
 思考のループに陥った俺は、その日晩飯を食べ損なうのであった。



[27438] 2話
Name: やかた◆16f27903 ID:965f10c6
Date: 2011/05/15 01:38

 《搭》の二・三階部分は森林型のフィールドである。
 慣れない学生にとって草木が生い茂るそこは、ちょっとした迷路であり、学生証のオートマッピングが無くてはならない。
 見上げると木々の間から、室内であるというのに青空が広がっていた。


   …………………………………………


 朝、一階の転送装置から入った俺は、昼前だというのにもう階段が見える所まで来ていた。
 草木生い茂る森の中に石畳の空間があり、そこから天へと伸びる階段が見える。と言うよりもう着いた。

(情報通り進めば、こんなに簡単にいくのかよ。一階での苦労っていったい……)

 昨日悩んだ結果、鎧の修理を止め手持ちの金から解毒薬を買い、部屋に残しておいた回復薬十個を全てポーチに入れて、《搭》へと入った。
 事前の情報を基に作成したマップを使い、モンスターの少ない最短ルートを進んだところ、数回戦闘をし、回復薬を一個を使っただけで階段の傍まで着ていた。

 階段脇の転送装置へ行き、学生証に階数登録をしておく。こうする事で、今後二階までの装置を使えるようになるのだ。
 そのまま取り出した学生証で時間を確認すると、昼より一時間ほど前だった。

(昼から如何するか……、時間も回復薬もあるから三階に進むか。リュックもまだまだ軽いし、大丈夫だろ)

 殆ど戦闘をしていないので、アイテムを集めておらず、背中のリュックは軽かった。これなら、探索に支障は出ないだろう。
 また、今月中のマップは既に十階まで作成しており、それに因れば、三階はどんなルートを通っても一度、巨大蜂の巣の近くを抜けなければならない事以外は二階とほぼ一緒だった。
 巨大蜂の巣とはその名の通りであるが、《搭》では巨大蜂を無限に発生させる物である。本来、《搭》内部のモンスターは一度倒すと、一定時間再発生しないが、この巣の近くでは巨大蜂が常に一定数発生し続ける。また、発生させる蜂にも二種類あり、巣を守る蜂と逃げても追ってくる蜂がいる。

 階段に腰を下ろし、リュックから水と食堂のタダパンを取り出す。
 《搭》上層部や外部などは、探索に掛かる日数が多い為保存食が持ち込まれるが、下層部においては、探索に長くても一日二日しか掛からないので、食事の内容は個人の趣味である。
 しかし、俺のような貧乏人にとっては、大抵食堂で貰えるタダパンと水だ。食堂では他にも、サラダや具の無いスープが無料ではあるが、持ち運びに不便な為これだけしか持って来てはいない。

(相変らず味はしないし、硬いし。まあ、よく噛まなくちゃいけない分、腹は膨れるわな)

 無料でこれだけの物を得られるだけで、御の字ではある。
 食べ慣れたパンを胃に押し込め、パサついた口に水を流し込んだ。

   ■□□

 食事を終え休憩していた俺は、学生証を取り出しマップを確認をする。
 二階にもっと時間が掛かると思い、三階のルートを決めてなかったのだ。
 基本モンスターは避けるとして、ルートは二つ。遠回りをするルートと、巣を抜けるルート。
 遠回りをする方にも巣はあるが、規模が小さく蜂の数も三匹しかいない。しかし問題もある。遠回りするため時間が掛かる事と、一箇所に留まっていない敵に遭遇する危険が上がる事だ。
 もう一つのルートは、巣を越えさえすれば、モンスターがいる場所を避けたとしても、比較的短い距離である。ただ、巣には八匹の蜂が居り、走り抜けたとしてもその内の五匹が追撃して来るというので、遠回りのルートより危険である。

(蜂が五匹か……、何とかなるか? しかし、遠回りすると日を跨ぐ事になるし。……ファイヤージェムでも残ってれば、楽なんだけどな》

 ファイヤージェムとは魔術石の一種で、辺りに火を撒き散らすマジックアイテムである。撒き散らすと言っても、《搭》内部の森林は破壊されてもすぐに光に変わって、消滅・再生をするので大火事になって巻き込まれる心配は無い。
 魔術石とは、込められた魔力を使い決められた効果を発動する物なので、魔力の少ない俺には必須のアイテムである。
 そんな必須アイテムを持たずに探索など、本来ならやらないが、あれは今の自分にとってそこそこ高価であり、思いのほか二階を簡単に行けた為、このまま勢いに乗って行ける所まで行っておきたかったのだ。

   ■□□

 階段を上がった先は、二階に上がった時と同様辺りに少し石畳の床が広がっており、その先に草木生い茂る森が広がっていた。
 周りを取り囲む木々は四方にその口を開けており、俺が行くのは階段を上がっった状態から見て右手の方だ。
 石畳と草の境界まで来ると、森の入口付近に巨大アゲハがヒラヒラ飛んでいるのが見えた。
 腰の後ろに下げた折り畳み式のショートボウを、取り出すと同時に慣れた手つきで素早く展開する。
 巨大アゲハは、片方の羽だけで人の顔を程もある蝶であり、その羽から出す鱗粉には相手を痺れさせる効果があり、それによって動けなくしてから獲物の体液を吸うのだ。
 普通の冒険者であるなら大量に吸わない限りは問題ないが、俺の場合、神々の加護が無く、また保有魔力が少ない為、魔法や状態異常の耐性が低く、多少吸っただけでも動きが鈍るのだ。

 未だこちらに気付いていない敵に、標準を合わせて弓を引き絞る。
 境界内に居る限り、敵に襲われる事は無いので、慎重に狙いを定める。
 相手との距離を計算し、矢が届くまでの時間を割り出し、その時の敵の動きを予測して矢を放つ。
 頭を狙って放たれた矢は、しかし羽を木に縫い止めるのにとどまった。

(安全な所から射って、この精度か。もっと練習しないかんな)

 結果に肩を落としつつ、弓を片付け剣を抜く。
 周囲を確認し、敵が居ないことを確かめてから木に縫い止められている巨大アゲハに近付いて、止めを刺した。
 切り裂かれた巨大アゲハが光になり、後には木に刺さった矢のみが残った。

(アイテムはなしっと、矢も曲がってやがる、これじゃあ使えんな)

 刺さった矢の状態を確認し、使えないと判断した俺は、回収するのを止め森の中へと入っていった。

   ■■□

 森の中を警戒しながら右へ左へと進むこと三時間、時に戦い時に身を隠してやり過ごし、道程の三分の二を過ぎた所で、漸くこのルート最難所である巨大蜂の巣の前まで来ていた。
 目の前の曲がり角を曲げれば、全長五・六十センチは有ろうかという蜂たちが飛び回っていることだろう。見なくても分かる、今もブゥーンという独特の羽音が聞こえている。

(ここを抜けたら、この階は終わったも同然。いっちょ気合入れて行くか!)

 リュックを背負い直し、回復薬を一瓶一気に飲み干す。歩き疲れた体に力が漲ってくるのを感じる。
 ここはどれだけ広場から離れられるかがポイントである。
 巣を壊さない限り無限に湧いてくる蜂は、広場の中は勿論、少し離れた所であっても寄って来ることがある。どれだけ離れれば、新たに湧いた蜂が近寄って来ないのか分からないので、兎に角離れれるだけ離れなければいかない。
 疲れが取れ、体に力が行き渡ったのを確認し、広場へと突入する。
 視線だけで辺りを見渡せば、広場の奥の方に十メートルは有ろうかという巣があり、その周りを蜂たちが飛び回っていた。

(……よし! まだ気付いてない! これなら其れなりに距離を稼――がぁ!!」

 突然の衝撃に意識が飛びそうになり、次いで肺から空気が漏れた。胸の辺りに痛みが走り、うまく呼吸出来ない。
 咄嗟に後ろに仰け反る体をそのまま倒れさせ、転がるように後ろへと下がる。すぐ後に、体があった場所を光弾が貫いた。何が起こったのか未だ分からないが、敵の追撃を躱せたらしい。
 回復薬を二瓶取り出し、いまだ咽ている為まず胸の辺りに塗りこむ。痛みが引いていくのを感じながら横へと転がると、光弾が横を過ぎていった。
 息を整わせ、二つ目の回復薬を無理矢理流し込むと、痛みは完全に引いていった。

 この頃になると、何が起こったのか理解できた。今も続く光弾は、何故か広場の出口に陣取っているマジックプラントに因るもので、俺はそれをモロに食らったのだ。
 何故奴があそこに居るのかは、分からない。情報には無かったし、奴は動きも遅いので何処かから移動して来るはずも無いのだが……?
 しかし、現に奴はあそこに居るのだ。情報収集があまかったのか、情報を鵜呑みにし、自分で確認しなかったのがいけなかったのかは分からないが、それは生きていたら後で考えればいい。
 今分かることは、奴に襲われ出鱈目に回避していた所為で、見事に広場中央まで戻っている事と、当然の如く巨大蜂どもに囲まれている事だ。要するにヤバい。

「これは、死ぬかもしれん」

 剣を握る手に力を入れ一人呟くと、蜂たちが襲い掛かってきた。

   ■■■

 あれからどれだけ戦っているのか分からない。辺りがまだ明るいことから、それ程経ってはいないだろう。いや、《搭》の中だから夜でも明るいのだろうか?

 最初は強引に突破しようとした。纏わりつく蜂どもを切り裂き、出口へと急いだが、光弾に止められた。何度か挑戦したが、蜂を相手にしながらでは、遂に突破する事は出来なかった。
 次にいったん退却しようとしたが、マジックプラントに背を見せることは出来ず、後ろ向きに下がるのでは、たいした距離を進めていない。それでも中央よりは入口に近付いただろうか。
 纏わりつく蜂どもを、切り裂き貫き殴り飛ばして、ジリジリと下がる。
 体はすでにボロボロで、飛び回る蜂の鋭い針で至る所から出血していたし、一定の間隔で飛んでくる魔法の矢を防ぎ続けた為、盾は殆ど原型を留めてないし、それを持つ左腕はとっくに動かなくなっていた。
 あえて無事なところを挙げるとすれば、リュックに守られた背中ぐらいか。リュックを背負っているお陰で、鎧含む背中部分は無事だった。その代わり、リュックはズタズタに成っているだろうが。

 そんな状態でも諦めないのは、まだチャンスが残っているからだ。
 使う暇が無かった為、ポーチの中には回復薬がまだ三・四個残っているだろう。それだけ有れば、ここを脱出した後二階の転送装置まで引き返す事が出来る。
 そして肝心の脱出する方法だが、それも考えてある。
 さっきから絶え間なく飛んでくる光弾だが、当然それを撃つマジックプラントの魔力は無限じゃない。だから魔力を使い切ると、少しの間充填の為、光弾が飛んでこなくなる。その間が狙いである。
 普通なら何時魔力切れを起こすのか分からないが、今まで戦い続けていたお陰で、俺はタイミングが分かるようになっていた。あと三発も撃てば打ち止めだろう。
 残りの体力から言って、これが最後だろう。もし失敗したら俺は……。

 残りの気力を振り絞る。
 一発目、顔を目掛けて飛んでくる光弾を、顔を傾ける事で躱す。光弾は頬を切り裂きながら、後ろへと飛んでいった。
 そこへ真正面から襲い掛かってくる二匹の蜂を、我武者羅に振るった横薙ぎの一閃でまとめて切り裂く。
 ムチャクチャに剣を振るった所為で、体勢が崩れたところに二発目が飛んできた。
 崩れる体の勢いを利用して、動かない左腕を迫り来る光弾にブチ当てる。運良く盾に当たったのか、パーン! と甲高い音を響かせると同時に、革の盾が粉々に飛び散った。
 左右から来る蜂をしゃがんで回避し、続く三発目を体を捻って躱しながら、後ろの一匹を両断する。

 ここだ! と思い、敵を両断した勢いのまま走り出そうとした時に、その異変は起こった。

(脚が! 脚が動かねえ!!)

 予測通り三発目を躱した後、今まで感じていた魔力の気配が無くなったので、すぐさま走り出そうとしたところ、脚が動かなかった。
 しゃがんだ状態から、上半身だけが前へ進もうとした為、顔面から地面へと倒れる。
 口の中に入った土を吐き出しながら、混乱した頭で必死に考える。

(何が起こった?! 如何して動かない! 敵は? 如何すればいい?)

 ぐるぐると回る思考の下、ポーチから回復薬を取り出そうとするも、激痛が走る。見れば巨大蜂がその針を、深々と腕に刺していた。
 痛みに耐えながら必死に腕を振ろうとするが、何故かまともに振るえず次々に蜂に囲まれていく。

「ぐああ! ぐああああああああ!」

 体中を刺され痛みに悶絶し、あわや首を刺し貫かれようという時に、何故か蜂たちが離れていった。

(ぐぐう! 何だ?! 助かったのか?)

 不可解な事態に困惑するも、理由は直ぐに分かった。
 背後より魔力の高まりを感じたのだ。散々苦しめられたそれに、何が起こるかすぐさま予想がついた。
 如何にかしようと体を動かそうとしても最早動かず、ヤバい! と思った時には背中に一際大きな衝撃を受けていた。

 暗くなっていく視界の隅に、ヒラヒラと舞う鮮やかな蝶を見た。



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