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[27412] DQ3~そして少女は旅立つ~【原作沿い】
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/04/25 21:53
 無月緋乃(なつき ひの)と申します。
 小説を書き続けてかなりの時間がたってはいるのですが、もうちょっと上達したいなと思い、今回、以前書いていた小説を少々リメイクしてこちらに投稿させていただきました。
 
 利用上の注意等も読むには読んだのですが、至らぬところ、作法の間違い等がありましたら、そっとお声をかけていただけると幸いです。
 
 他にも―――
 
 ・主人公はオリジナルですが、ゲームの内容……つまりは原作にそってストーリーが展開しています。
 ・無月の脳内解釈により、世界に多少新設定等が登場いたします。
 ・執筆速度がとろい
 
 ―――などの問題点というか注意点というか、ありますが……よろしければお付き合いくださいませ♪




[27412] 1.16歳の誕生日
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/04/25 21:54
1.16歳の誕生日
 
 気がつくと。
 少女は見たこともない森の中に居た。
 
 首をかしげて、きょろきょろと辺りを見回す黒い目は、どこか不安―――というよりは、とにかく不思議そうだ。
 いったい何故?自分は今晩もいつもどおりに、布団に入ったはずなのにとでも言いたげで。
 
 辺りの風景は、城下町周辺の森とは、どこか違う。
 静かな森。
 聞こえるのは、葉擦れの音だけ。
 でも、風は吹いてなくて。
 その上、木漏れ日から空をみあげても、光しか感じられない。
 
「……夢?」
 
 思わずぽつりと、言葉が溢れる。
 
 だって、寝てたはずだし……家からでた記憶がないし。
 森ってどこも同じだろうって思ってたけど、見覚えがないし。
 ―――なにより、静かすぎて不自然だし。
 
 念のため、頬をつねってみるが―――感覚はない。
 
(うん。やっぱり夢みたい)
 
 結論は出たらしく、彼女は道なりに歩き始めた。
 こんな綺麗な森の中。
 現実ではなかなかできない、森林浴をするのも悪くない。
 
 彼女が歩き始めて、どれくらいたった頃だろうか。
 
 ―――ざぁぁぁぁぁぁぁぁ……
 
 ふいに聞こえてくるのは、遠いけれど力強い水音。
 何事なんだろうと、彼女は歩く。
 不思議なもので、森の中にある道は、丁度その音の方へと向かっていた。
 
 そして―――進んだ先には彼女の視界いっぱいに広がる湖と荘厳な滝。
 
「うわ……すっごいっ!!―――っと!危なっ!?」
 
 思わず駆け出し、その景色をより近くで見ようとして、慌てて立ち止まる。
 森のすぐ外は崖だったからだ。
 
(ふー……危ない危ない。
 夢の中で転落死とか笑えないよ……)
 
 ほっとため息を付いてから、彼女は改めて目の前に広がる風景を見る。
 
 世界の何処かにある、風景なんだろうか。
 それとも、自分の中での何かの願望でも表してるんだろうか。
 
(……ま、どっちでもいいかな)
 
 だって目の前の光景はとても素敵だから。
 
 滝の落ちる音が、空気を震わせて自分の体へ響く。
 空の青さが眩しくて、周りに見える森の木々もコントラストが効いていてすごく綺麗。
 
 だが。その美しい風景に魅入っていると邪魔が入った。
 
『エル―――エル―――聞こえますね?』
 
 突然聞こえてくるのは、静かながらも綺麗な声。
 だけど、聞き覚えのない、誰かの。
 
「えっ!?だ、誰!?なんであたしの名前を呼ぶのっ!?出てきなさいよっ!?」
 
 思わず、黒い目を見開いて辺りを伺う。
 というか、夢の中で人に話しかけられるとは思っても見なかったし。
 
 しかし、辺りを見回せど、人の姿はおろか、気配も感じられない。
 
 さすがに不安にもなるのだが―――
 
(……でも、よく考えたら夢の中だもんね、こういう事も、あっても別におかしくない?)
 
 ―――すぐに割り切った。
 
 どうやら、夢の中で深く考えるのは意味がないと思ったらしい。
 
『さぁ、私の質問に正直に答えるのです。用意はいいですか?』
「いいよ。何を聞きたいの?」
 
『まず、あなたの真の名を教えて下さい』
「真の名……?あたしの名前よね?さっきエルって……ってああ。そっか。
 愛称じゃなくて、フルネーム?それなら、エルティア。
 みんなエルって呼ぶけどね」
 
(第一、女の子らしい名前過ぎて、あたしには似合わないし……)
 
 少しだけ、拗ねるように心の中で呟く。
 しかし、そんなエルの胸中など、”声”の主には知る由もなく。
 
『そうですか。エルティア。これからいくつかの質問をします。
 難しく考えず、素直な気持ちで答えて下さい。
 そうすれば私はあなたをさらに知ることとなるでしょう』
 
 そう言って、一つ一つ、他愛も無い問いかけを始めた。
 
 冒険に出るとき仲間を連れるより強力な武器、防具を持ったほうが心強いか?
 空を飛べたらどんなにいいだろうとよく思うか?
 鳥は自由だと思うか?
 
 本当に、なんの意図があるのかも、エルには検討がつかなかったが、”声”の問いを答え続け―――
 
『そうですか……これであなたのことが少しわかりました。では、これが最後の質問です……』
 
 ”声”の主がそういった瞬間、エルの視界世界が歪む。
 
「なっ!?い、いったいなんなの!?」
 
 そう、彼女は叫んでみたけれど。
 ぶつん、と途切れるように世界が暗転した。
 
 
***
 
 
 改めて。
 何が起こったのかとエルは思う。
 
 なにせ、またもや気がついたら、見知らぬ場所にいたのだから。
 最初の森と違って、今度は暗くて水がたっぷりとある所。
 
 辺りをきょろきょろと見渡す度に、ちゃぷちゃぷと水音が反響するので、空間事態はそれほど広くもないらしい。
 
(どこだろここ……)
 
 首を傾げながらも、しばらくすれば暗闇に目も慣れる。
 そんな中、みえてきたのは桶のついたロープだ。どうやらここは井戸の中らしい。
 
(あれをよじ登れば、外に出れるよね?)
 
 ぐっと、握ってみるとしっかりしていて、少しくらいの間自分が伝っていっても、大丈夫だろうと確信できる。
 確認が出来れば、彼女の行動は早い。
 思いのほかするすると、スムーズにロープを使って上へ登り―――外へ出た。
 
 だけど、登るのに一生懸命過ぎて。
 彼女は気づいていない。
 
 月明かりに照らされた自分の腕が―――”変貌”していることに。
 
 外に出て、最初に目に入ったのは三人の男たちだ。
 老人と、商人らしき中年と、筋肉質な若者。
 彼らはぎょっとした顔で驚いていた。
 
(……あー。そうだよね。井戸の中からいきなり出てきたら、そりゃびっくりするよね?
 こういう場合、どうしたらいいんだろ……)
 
 エルがそう悩んでいられるのは、ほんの一瞬だけだった。
 なぜなら―――驚いていたはずの男たちの顔が……恐怖に歪んだから。
 そして悲鳴が夜の静寂に響く。
 
「な、なんじゃ?!」
「か、かいぶつだ、たすけてくれー!!」
「あわわわ……」
 
 老人と中年は慌てて逃げ出し、若者だけが取り残される。
 いや。取り残されたんじゃない。
 彼は闘志に満ちた目で、彼女を睨む。
 
「くそー!怪物め!この俺様がやっつけてやる!」
 
 威勢よく啖呵を切って殴りかかるが―――
 
【怪物って何のことっ!?】
 
 避けながらも、そう彼女が問いただそうとした時だ。
 
 彼女の口からは、言葉ではなく、炎が生まれる。
 そして、その炎は若者に引火して―――ほんの一瞬のうちに、悲鳴すら挙げられずに炭化させてしまう。
 
( ―――ど、どういうこと?!?!)
 
 目の前の光景が信じられなくて、思わず目を見開く。
 震える腕が視界に入り―――そこで、自分の姿が”人”でないことをようやく彼女は気づいた。
 
 カギ爪のようなものがついた、漆黒に染まっている腕。
 己の肌を触れてみても、感触が違う。
 
 髪がない。服もない。
 口も、鼻も、目も、形が違う。
 
(―――嘘)
 
 自分が自分じゃない姿。
 もし、この場に鏡があったとしたら、その姿を見て、彼女は割ってしまっているだろう。
 
 炎を吐いたせいか、喉がヒリヒリと乾く。
 頭の中には、疑問がぐるぐると回る。
 
 ただ、彼女は一言「怪物」が何を指しているのか聞きたかっただけなのに。
 
 結果は、信じられないが自分が「火」を吐いて人を殺めてしまった。
 
 
  喉が炎を吐いたせいか、ひりひりと渇く。
 
(嘘だ……)
 
 ……
 ………
 …………

(……………そうだよ、これは夢だよ。
 だ、だって、あたし……火なんか吐けないよ?
 こんな腕だってしてないし……こんな肌の色してないもん……夢だよ……夢……)
 
 茫然自失したまま、当てもなく歩き出す。
 誰かに会えばきっと分かる。
 きっと何かの間違いだって……きっと化物なんかじゃないって。
 
 けれど。
 出会う人々は―――命乞いをし、恐怖し、エルを拒絶した。
 
 最初の炎の時から、嫌な匂いはまったくしない。
 それだけがこれが現実じゃないんだ、と希望を持たせてくれていたけれど。
 
 彼女は、ふいに見てしまった。
 民家の窓に映り込んだ―――己の姿を。
 
 ”化物”を―――
 
(―――っ!!!
 嫌だっ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……っ!!!)
 
 胸を満たす嫌悪感。
 気がつけば、彼女は走り出していた。
 どこか、人の居ない場所へと。
 ここから、逃げ出したくて。
 
 ―――そして。また空間が歪んだ。
 
 

***
 
 
 はっと気がつくと、エルはまたあの滝の前に居た。
 
 慌てて自分の腕を見て、顔を触って。
 ―――いつもの、在るべき姿であることに、ほっと胸をなで下ろす。
 
『私はすべてを司る者。今、貴方がどういう人なのかわかったような気がします』
 
 聞こえてくる声は、さきほどとまったく変わらない。
 だけど―――だらこそ、その悪気のない口調が癇に障る。
 
「ちょっと!!
 さっきのはなんなのよっ!!
 夢の中だからって、悪趣味にも程があるわよっ!!」
 
 しかし、エルの抗議にもまったく、動揺の色はなく。
 声の主は淡々と言葉を続けた。
 
『貴方は気は優しくて力持ち。言ってみれば“豪傑”を絵に描いたような人です。
 性格的に強いものをもっていますが、自分を抑えることも身に着けています。
 そして、思いやりの気持ちも強いので、何事もその人の気持ちになって、考えることができます。
 貴方は自分の欲求や悲しみより、つねにまわりの人たちを思いやってしまうでしょう。
 それでいて、何事にも情熱的で挫けるという事を知りません。
 そんな貴方ですから、誰もが貴方を信頼しています。
 そして、貴方もその信頼に 応えられるよう、努力を惜しみません。
 貴方は本当にすばらしい人です』
 
 手放しで褒めたたえられ、みるみるうちにエルの顔は主に染まっていく。
 すでに、頭の中にはさきほどの夢への怒りよりも、困惑でいっぱいだ。
 
(なんなのこの人っていうか声の人っ?!
 思いっきり恥ずかしいこと言ってるしっ!!
 あたしそんな、凄そうな人間じゃないんだけどっ!?)
 
『そして、もし万が一に貴方が今、そうでなかったとしても、いつかそうなるだろうと信じています』
「って、何!?ただの希望!?」
 
 思わずツッコミをいれるものの、声の主はまったくそれを気にしない。
 
『もう一度いいます。貴方はすばらしい人です。
 そして―――もし違っていたら、早くそうなってくださいね。
 さぁ、そろそろ夜が明ける頃。貴方もこの眠りから目覚めるでしょう。
 わたしはすべてを司る者。いつか貴方に会えることを楽しみに待っています―――』
 
 言うだけ言って、世界が遠ざかっていく。
 霧が立ち込め、ゆっくりと、暗くなっていき―――
 
「いつか会えることをっていったいどういう意味?
 人の夢の中にはいってこれるような奴が人間なわけ!?
 いったいあんたはあたしの夢に何の用だったのよー!!!」
 
 ―――それでもエルは叫んだ。
 こんな終りじゃ納得ができない。
 なんであんな夢を見せたのか、どうしていつか、会える日をなどというのか。
 
 すべてが謎だらけ。
 
 ―――けれど。
 彼女の叫びは届かず、闇が世界に満ちた。
 
 
***
 
 
「―――おきなさい。
 おきなさい、わたしの可愛いエルや」
 
 真夏も近いこの季節。
 朝の気温も高いのだが日中よりは低く、空気はからっとしているせいか、うだる暑さでもないわけで……ようは、寝るのに心地よくて。
 エルは、ごろんとベッドの中で寝返りを打って、すやすやと寝息を立てていた。
 
「まったくもぅ……
 ほら、起きなさい。起きないと朝ごはんはなしですよ?」
 
 四十代半ばほどの年齢の女性は、何度もエルを揺さぶり―――
 
「ぅー……」

 ―――ようやく、呻きを上げながら、エルは目を開いた。
 
「ほら、起きて起きて」
 
 無理やり布団を剥ぎ取って、エルの体を無理やり起こして、頬を軽く叩く。
 
「うー。ちょ、やめ、やめてってば。
 起きたよ。起きた!」
 
 口を大きく開けて、あくびをして。
 ……ふと、エルは首を傾げた。
 
(あれ?
 なんか変な夢をみたような気がするけど……)
 
 突然ぼぅっとし始めたエルに、女性は目を吊り上げて少しだけ睨む。
 
「二度寝は許さないわよ?」
「違うってば!ちょっと変な夢を見た気がして……」
「夢?何か、怖い夢でも見たの?」
「ううん。違うよ。母さん。―――っと、おはよう」
 
 彼女と同じく、黒髪に黒い目をした女性―――エルミナは、その言葉に微笑む。
 その微笑は、母親としての慈愛と―――どこか寂しげなもの。
 
「おはよう、エル。
 今日はとても大切な日。
 エルが王様に旅立ちの許しを頂く日だったでしょう?
 娘のお前をこの日のために、勇敢な男の子のように、育てたつもりです」
 
 そう。例えば、お人形を与えられるだろう年齢に、剣術の練習だと銅の剣を振り回したり。
 体力づくりと言って、毎日樽に貯める水を井戸から汲まされたり。
 勉強は苦手だというのに、モンスターの知識やら、魔法の書物を読ませれて。
 ついでに、料理やらなんやらも、いろいろ仕込まれ―――
 
 おかげ様で、知識とかはともかく、筋肉だけはついた。
 服の上からでは、ぱっと見では分からないが、引き締まりつつ柔軟性のある、理想的な筋肉に仕上がっている。
 ……エルとしては、少々不満ではあるのだけれど。
 
 一応、年頃の娘ではあるのだから、”怪力”と幼なじみに言われるのは、それなりにショックではあるのだ。
 
 しかし、こうして考えると……
 
(雑用と家事を、鍛錬という名目でやらされていたような……
 ……いや、いいんだけど……母さんにばっかりやらせるのも悪いし……でもなんか、腑に落ちない……?)
 
「じゃあ、母さんは先に下で待っているから、準備が出来たら下においでなさい」
「え?……あ、うん。わかった」
 
 そう言って、部屋を出て行く母親を見送ってから。
 エルは部屋の窓を開けて、大きく伸びる。
 
 大きく深呼吸。
 朝の空気は澄んでいて、すごく清々しい。
 
 自分に取って、少しだけいつもとは違う”特別”な朝。
 それを噛み締めるように、彼女はほんの少しだけ、眼を閉じた。
 
「ふー……とーとー今日が来たかぁ~……」
 
 昔を懐かしむように、小さく呟く。
 彼女は目を開けて、窓からいつもの町並みを見下ろす。
 
 
 エルが旅に出る日。
 それは、ずっと昔の、十年以上前のある日がきっかけ。
 
 ―――けれど、本当の始まりは、もっと昔のこと。
 
 遙かな昔から、モンスターと人々は隣合わせに生きてきた。
 
 しかし、十数年前から、モンスターが徐々に凶暴化し始めたという。
 そして―――”バラモス”と呼ばれる魔王が現れ、世界を征服せんと魔の手を伸ばし始めた。
 
 このアリアハン大陸には、誰よりも強く、優しく。
 たくさんの人々に信頼と、勇気を与えた男。
 精霊に愛され。
 ―――勇者と呼ばれる人がいた。
 
 ”オルテガ”
 その名は、彼が若い頃に世界中を巡った―――という事実だけではなく。
 世界の希望として、広まった。
 
 彼は、エルが生まれるのを見届けると、アリアハンを旅立ち世界を巡りながら魔王の居場所を探し始める。
 
 誰かを巻き込むのが嫌で。
 たった一人で。
 
 そんなオルテガを、エルは話の中でしか知らない。
 誰かの”話”の中の父親。
 
 十年前に告げられた、彼の死に―――悲しまなかったわけではないけれど。
 どこか、空虚な悲しみだった。
 
 世界は希望の火を失い―――絶望したかに見えたが。
 そうではなかった。
 
 その瞬間。
 当時、たったの六歳ほどの少女に。
 世界の命運が背負わされたのだ。
 
 ―――けれど。
 父が偉大であればあるほど、子はその重圧に苦しむ。
 特にエルの場合、それは世界の命運がかかっているのだから、余計に重い。
 誰もが”勇者”と言い、”オルテガの娘”だからきっとやってくれる。
 一縷の希望を彼女に託す。
 
 口に出さずとも、周りの空気はそれを語っていた。
 
 だから、やらなきゃ、と思う。
 母を悲しませた父を一発殴ってやらなきゃ気が済まないし。
 それなら、いつか寿命が来たときに、「あんたに出来なかった事、やってんだから」とあの世で言ってやりたい。
 
 ―――いや。
 
 彼女には、予感があった。
 
 父はまだどこかで生きている―――そう、感じる。
 
 城で母親に連れられて、その報告を受けた時。
 報告を持ってきた兵士は、父の遺体を見届けていなかったから。
 そりゃ、火口に落ちたと聞いたら、骨も残らないと思うが―――それでも、エルは”生きている”と思った。
 
 でも、そう思えるようになったのは、三年前の事。
 それまでは、いつかは家族で過ごせるんじゃないかという、淡い期待を裏切られて。
 塞ぎもしたし、落ち込みもした。
 
 けれど、やめたのだ。
 そんな風に、ただ落ち込んでるなんて、意味がないと思った。
 
 だって父親は生きてる。
 戻ってこないのなら、こっちから迎えに行ってやればいい。
 そのついでに、世界も救ってみせよう。
 
「んでもって、殴ってやるんだから」
 
 ぱんっと頬を叩いて、気合を入れるとクローゼットから服を取り出し着替える。
 この日のために、母親が用意してくれた『旅人の服』だ。
 旅行者用のそれは、動きやすく、頑丈。旅立つ我が子への、せめてもの心づくしなのだろう。
 
 おろしたての服に袖を通せば、気持ちも引き締まる。
 
 それから、彼女は引き出しの中にしまっておいた、木の実を取り出した。
 何の変哲もない、ただの種に見えるが、食べるだけで力が少しだけ強くなる、不思議な木の実―――らしい。
 非売品で、手に入れるのは困難だが、偶然にも子供の頃、幼なじみにもらったのだ。
 
(旅立つときに食えよ、なんてね)
 
 ぶっきらぼうに言う幼なじみを思い出し、少しだけ微笑む。
 口に含んで噛んでみると、やっぱりただの木の実だ。
 別に、力が沸いた!……という感覚はない。
 
(……まあ、こんなもんなのかな?)
 
 実際に食べたことはないし、そもそも本物だったかも分からないし。
 重要なのは、幼なじみが”自分のためにくれた”という事なのだから、よしとしよう。
 
 それからマントを羽織り―――机に置かれた、最後の一つを見た。
 
 それは、銀で出来た冠で、蒼い宝石のついた額当て。
 元々は父親が使っていたのを、母が鍛冶屋に頼んで打ちなおしてもらったらしい。
 
 曰く―――勇者はこれをもつべき、なのだという。
 
 これを被った瞬間から、自分は勇者になる。
 
 その事に少しだけ、戸惑い。
 ―――それでも彼女は冠に手を伸ばす。
 
 冠を被り。
 
 一人の少女の誕生日だったこの日。
 ―――新しき勇者の誕生日となった。




[27412] 2.アリアハン城謁見の間
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/05/04 19:56
2.アリアハン城謁見の間
 
 
 アリアハン城は、一般人は本来気軽に入ることはできない。
 だけど、エルは”勇者”の娘だからか、わりと頻繁に入ったことがあった。
 そして今日も、彼女は城の中を歩く。
 
 落ち着いた空気の城内。
 絨毯を踏みしめるたびに、こんな所歩いていいのかなー?と首を傾げたくなる。
 
 だって、いつもは王様に会いに行くのではなくて、兵士の人たちに稽古を付けてもらいに来てたから。
 基本、城内の庭先での稽古だったし。
 
(……やっぱ落ち着かないなぁ)
 
 うーんと、小さく唸って苦笑する。
 
 此処に来るまでの街並みも、いつもと変わらないのんびりとした空気で。
 平和だなぁと、しみじみと思えて。
 何もかも、いつもと同じなのに。
 
 変わってしまった。
 
 いや、変えてしまった。
 変えるために一歩を踏み出した。
 
 ソレに感慨がないとは言わないけれど、不相応な気はひしひしとする。
 
(でもま、自分で選んだんだし、これからも他の国に行ったら、王様に会ったりしなきゃいけないんだし……なれなきゃね)
 
 小さく自分に気合をいれていると、階段を登り切ってしまった。
 もう、この先は謁見の間で、逃げることは許されない。
 
(……よしっ)
 
 もう一度、決心して歩く。
 すでに謁見の間には、たくさんの人がいた。
 何度か稽古を見てもらったことのある、兵士長と副兵士長。
 さらに偉そうな感じの中年の男性(おそらく大臣)がこちらをじぃーーーーっと見ている。
 
(あ、歩きにくいっ!!!)
 
 なんか笑顔がひきつって来た。
 というか、こっちを凝視しないで欲しい。
 
 心のなかで絶叫しつつも、歩き続けて―――足を止める。
 
 目の前には冠を被り、白い髭を蓄えた初老の男性。
 この人物こそが、アリアハンを治めるアリアハン王。
 ここまで至近距離で、お互いの顔を見るのは始めてだ。
 
(な、名乗りあげるべきなのかな?えぇっと、わ、わたしは、オルテガの娘の―――)
 
 エルが戸惑いながらも、名乗ろうとした瞬間。
 
「よくぞきたっ!」
 
 朗々と響く、王の声。
 思わず、びくりと体がすくむ。
 
 今までも感じていた、不安を纏う戸惑いの空気が、一気に体を締め上げる。
 
(……私、なるんだ)
 
 今日、この時から勇者に。
 
 もう戻れない。そして、戻ることを選択肢から消さなきゃいけない。
 昨日までの自分は、今日―――死ぬんだ。
 
 誰かに守られて、そのせいで誰かを失って悲しむ事も。
 助けられずに、苦しむ人を見ることしかできないことも。
 ただ、世界を知らずに、のんきに生きることも。
 ―――どこにでもいるような、少女でいることも。
 
 きっと、なくなる。
 
 口では父親を殴って連れ返す口実と、言ってはいたけれど。
 それくらい、わかってた。
 ”勇者”という存在はそれ程に重い事。
 
 しかし、王の言葉は続かない。
 
 じーーーっとこちらを見ているだけだ。
 
(なんだろう。
 なんか、粗相でもしちゃったのかな?それとも、あまりに弱そうとか?
 そうだとしたら傷つくかも……でも、確かに”勇者”って名乗るからには、今から強くなる人じゃなくて、最初から強い人を選びたくなるのも当然かも……
 私じゃまだ、兵士長とかに勝てた試しがないんだし……でも兵士長が旅に出ちゃったら、国の護りが疎かになるわけだし……
 ……はっ?!それとも、鎧っ!?ちゃんとした鎧を着込んで来いってこと!?
 どうしよう。お母さんがせっかく用意してもらったのに!
 それとも武器っ!?武器なのっ!?
 『旅に出たら、金策は自分でやるのよ』っていうから、頑張ってお小遣い貯めて買った銅の剣じゃダメですかっ!?)
 
 頭の中をぐるぐると考えが巡る。
 これで、勇者らしくないから、帰ってっていわれたらどうしよう?
 
 ―――が。エルの耳にこんな声が届いた。
 
「のぅ。大臣。息子で……よかったんじゃったかの?」
「あの精悍な顔立ち、オルテガ殿の若い頃にそっくりではありませんか!」
「うむ。あ奴は若い頃は実に色男としても、名を馳せておったしのぅ……」
「きっと、エル殿もオルテガ殿のようになるのでしょうなぁ……」
「―――王様」
「む?なんじゃ兵士長よ」
「エルは女子でございます」
「「……」」
 
(……)
 
 じっと、疑わしげな目でエルを見る王と大臣。
 疲れた目で、そんな二人を見るエル。
 
 ……
 …………
 ………………
 
「いやいやいやいや。それはないじゃろ」
「女子なら、もっと腕は細く、足も細く、胸も欲しい所ですなぁ」
「それ以前に、オルテガ殿の子とはいえ娘を旅に出すのはどうかと思うしの」
「確かに」
「……しかし、本人の希望です」
「ふむ……確かに」
「それに今世界は”勇者”を必要としています」
「むむむ……」
 
 唸って、考え込むことしばし。
 
 ややあって、王はエルの方を見た。
 
「よくぞ来た!勇敢なるオルテガの娘よっ!!」
 
 どうやらやり直す事になったらしい。
 
 心から思うことはたった一つだ。
 
 ―――さっきまでの、緊張を返せっ!!!






[27412] 3.まずは……
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/05/22 20:28
「すでに母から聞いておろう。
 そなたの父、オルテガは戦いの末、火山に落ちて亡くなってしまった。
 ―――しかし、父の後を継ぎ、旅に出たいという、そなたの願い、しかと聞き届けたぞ!そなたならきっと、父の遺志を継ぎ、世界を平和に導くであろう」
 
 朗々とした威厳のある声なのだが、どうにもさっきまでのやりとりが脳裏に浮かんで仕方がない。
 今後、真面目な顔をしても、絶対にかしこまった気持ちになれないのだろうなぁと、思ってしまう。
 
 いくら失礼とはいえ、あんなボケをすることくらい、あってもおかしくないはずだ。
 多分、きっと。
 誰だって茶目っ気の一つや二つ、出したって問題ない。
 そう。例えば、自分が緊張しているから、その緊張をほぐそうとっていう事もありえる。
 
 ―――多分。
 
「敵は魔王バラモスじゃっ!」
 
 カッ!と唾を飛ばす勢いで怒鳴る。
 
「……しかし、世界のほとんどの人々は未だ魔王バラモスの、名前すら知らぬ」
 
 ふふん。
 けど、我が国は知ってるんだよ。
 すごいじゃろ?
 
 そんなドヤ顔だ。
 
 ―――さっきのやりとりも含めて、素がこうらしい。
 王という仕事は、きっとストレスが貯まるんだろう―――と、いう事にしておく。 
 
「うちの国わりかし、平和ですよね」
 
 魔王ってのはもっと危機があるんじゃないんだろうか。
 いや、確かに少し前に事件があった。
 あったけれど―――その事件が軽いものだったというわけでもないけれど。
 もっと大規模な侵攻とか、そういうのをなんとなくイメージしていたから。
 
 物足りないというには何か語弊がありそうだけど、そんな感じだ。
 
「それは、この国は勇者発祥の地として、結界がはられておるからじゃ」
「結界、ですか?」
「うむ。我が国の書物にも詳しくは載っておらなんだが、その御陰で我が国の魔物は比較的弱いものしかおらぬようじゃ」
「それに外国との行き来が可能になる旅人の扉も、オルテガが旅立ちの時に、我々に封印してくれ、と言っていましてな。
 現在、国に訪れる外国からの客人は、ルーラかキメラの翼に限ります」
「あー……そういえばそんなことを聞いたこともあるような……」
 
 かつて、母親にそんなことを教えられた気もするけど、すっかり忘れていた。
 それほど広い城下町でもないのに、他所の土地っぽい人がちらほら見えるのは、普通に往来してるだけだと思っていたら違ったらしい。
 
「ともあれ、このままではやがて、世界は魔王バラモスの手に……それだけはなんとしても食い止めねばならぬ!
 エルよ、魔王バラモスを倒してまいれ!
 しかし一人ではそなたの父、オルテガの不運を再びたどるやも知れぬ。
 町の酒場で仲間を見つけ、これで仲間たちの装備を整えるがよかろう」
 
 言って、王は兵士長に目配せすると、小さく敬礼をしてから謁見の間を移動し―――帰ってくるときには、大きな袋を手に持っていた。
 
「受け取れ。そして中を確認するんだ」
「あ、はい」
 
 言われるままに受け取り、中を開けてみると、初心者用の武器防具が少々入っていた。
 
「それとこれじゃ」
 
 大臣から手渡されたのは、じゃらじゃらとお金の入った袋。
 
「それらを軍資金に、仲間集めをして欲しい」
 
 手に持ったお金の袋は、大分軽い。
 いや、軽いといってもお小遣いを一生懸命貯めた事のある身。
 袋に詰まった金額になるまで、時間がかかるだろうなぁと、分かる。分かるのだが―――
 
(倒して参れっていうんだから……もうちょっとくれてもいいのに)
 
 なんというか、既に王に対する不信感の高まりすぎで、本来ならありがたいと思わなければならないのに、どうしてもそんな事を考えてしまう。
 とはいえ、鎖国状態のこの国で、軍備にもお金をかけなければならない、この時勢。
 僅かながらも、一個人に援助をしてくれただけ、光栄な事なんだろう。
 
(……うん。そう考えるのが一番だよね)
 
 うんうんと頷いて、自分を納得させてみる。
 
「では、また会おう!エルよ!」
 
 王の言葉に頷いて、一礼をすると階段を降りていった。



[27412] 4.世の中って世知辛い
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/04/28 17:05
 空はどこまでも澄み渡っていて、頬をすり抜けていく風は涼しい。
 日差しはまだまだ暑いけど、今日は過ごしやすい気温で。
 木陰で昼寝をできたなら、さぞや気持ちの良いことだろう。
 
「んーっ。いーい天気」
 
 大きく伸びをして、思いっきり深呼吸。
 城での王様の茶目っ気ぷりは、若干国民として不安を持たなくもなかったが、お陰で良い息抜きになったらしい。
 あそこで重苦しい空気の中、王様という目上の人に、堅苦しく小難しい話をされたら、それこそカチコチに固くなって、何かをしようという気力がなくなってたかも。
 
 なんとなくそんな事を考えながら、エルは苦笑して王様に渡された支給品を改めて見る。
 
 ひのきの棒を始めとした、護身用にもあんまりなりそうにない装備がいくつかと、少々のお金。
 
 正直せこい。
 一国の主が仮にも「勇者」を旅立たせるための装備にしては、けちりすぎだとは思う。
 
 ため息を付いて、袋をきゅっと締めて見なかったことにする。
 どっちにしろ、もともと持っていた所持金は、残り20Gだったのが、王様からの支給品で倍以上の70G。
 そう考えれば、プラスなのだ。
 プラスなんだから、別に損なんてしてない。
 してないったらしてない。
 
 変に期待をされて、物凄い大金を渡される方が困る!
 
(そう!困るのよっ!)
 
 だって、世界平和を目指さないってわけじゃないけど、本当の目的は父親探しだし。
 そんなのにお金をかけられても……
 
(いっそ。そっちのがプレッシャーだよね)
 
 そう考えると、あの王様の茶目っ気はやっぱり、自分の緊張をほぐすために言ってくれたのかもしれない。
 ついでに、「オルテガの娘」という肩書きにコンプレックスを感じている自分のために、わざとこういう軽い扱いにしたのかもしれない。
 
 ―――これについては、所詮娘だから、って侮られた可能性もあるけれど。
 
 それでも、悪い方に考えるよりは、良い方に考えたほうが、気持ちはいいものだ。
 
(うん。やっぱり、人を嫌うより、好きになってたほうが気分はいいもんね。
 でも……お金がないのはどうしたもんかな……)
 
 自分のたびびとの服を買った時は、家のお手伝いだとか、幼なじみの店の手伝いとか。
 そういったのを何ヶ月か続けて、ようやっと買ったものだ。
 
 とりあえず、今日はお試しで外に冒険に出てみるのはいいとしても、今後どうしたってお金は入用になる。
 例えば、遠くから帰るためには「キメラの翼」という道具が必要だし。
 衣食住のためにだって、お金が必要だ。旅していたって、寝る場所は必要なのだから。
 ある程度は野宿とか、狩りとかで食料は賄えるかもしれないが……初心者が、そう多く狩りを成功できるとは到底思えなし、野宿は危険がつきまとう。
 
 仲間を集めるにしたって、王様からの依頼だったとしても、お給料とか払うべきなのかもしれないし。
 そもそも、装備は自分が整えるべきなんだろうか?
 
 最初から強い人が仲間にいるのが一番理想的だけど―――そういう人は、基本的に自分みたいな小娘を相手になどしてはくれないだろう。
 
(世界を救う勇者って言ったって、戦うくらいしか能がないと、ただの狩人だよね。
 っていうか、正確にはそれ以下だし……んな修行はお母さん付けてくれてないし……
 だいたい、王様の方も「次に来たらお金をまたあげるね」なんて言ってなかったから、きっと今後とも金銭的に当てにはできないんだよね……)
 
 これらを総合すると―――兎にも角にもお金がない。
 
 何をするにも、金・金・金。
 お金で買えないものも確かにあるが、手っ取り早く実になるのはお金で買えるものばかり。
 
 ―――世知辛い世の中だ。
 
(どーしよ……お金稼ぎ……)



[27412] 5.幼馴染
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/05/04 20:02
 
「お前、城の前で何やってんだ?」
 
 呆然とした面持ちで、今後のことに思い悩むエル。
 だが、そんな彼女に声をかけた人物がいた。
 
 布袋を肩に背負い、ターバンを巻いたエルと同じ年頃の青年。
 
「あれ?ルーク?どうしたの?こんなところで?」
「疑問符に疑問符で返すんじゃねぇよ。こっちが聴いてるんだっての」
 
 はぁ、とため息をついた彼こそ、エルの幼なじみで、道具屋の一人息子のルークだ。
 
「世知辛い世の中に困ってた」
「は?」
「お金って、何をするにも必要だよね……」
「いや、んな遠い目をされて言われても、こっちは困るんだが」
 
 言って、またため息一つ。
 その顔は『何いまさらこいつはんなこと言ってんだ?』という、呆れと少々の侮蔑の色。
 道具屋の息子だけに、商人としてお金の大切さは、叩き込まれているらしい。
 
「ルークは何してんの?」
「見てわからねぇのかよ」
「見てわかんないから聞いてるんだけど?」
 
 小首を傾げつつ問うエルに、小さく舌打ちをしてからルークは言う。
 
「城へ配達だよ、配達。訓練で負傷者が出たりするから薬草とかのな」
「あ。そっか」
 
 ぽふと、手を叩いて納得。
 訓練には危険がつきもので、ついでにいうなら、怪我をするには薬が必要。
 使えばなくなるのは当然のことなのだから、補充は確かに大事だ。
 それこそ、定期的に届け物をしてるんだろう。
 
「ついでだから、薬草頂戴」
「配達に来てんだから、余分なんざねぇよ。つか金払え」
「払うよ!まあ、無いならしょうがないし……お店行くかな」
「怪我でもしたのか?」
「ううん。今日誕生日でしょ?
 この冠見て見て、これね、”勇者の証”なんだ。
 つまり!今のあたしは勇者っ!
 ―――と、いうわけで、本格的に旅立つのは今度にしても、とりあえず外ってどれくらい危ないかなーって、実感してみようと思って。
 外に出る準備しようかと」
「思って、ってお前なぁ……未だにこりてねぇっつか……勇者になんかなるのかよ」
「うん」
 
 だって、じゃないと父親探しの旅になんて、きっと出させてもらえないし。
 ―――という本音はこっそりとしまっておく。
 
「年中無休で報酬もねぇもんに、なんでなりたがるんだが……理解できねぇな」
 
 実はちょっと今思ってる。
 
「しかも、そのなりじゃ、金もねぇんだろ。
 うちの国の王ってのはケチだからな」
 
 エルもそう思っていたが、その住民である(しかも、城に出入している)商人が言うのはいかがなものだろう。
 
「んでもって……さっきの世知辛いだの何だのっていう、言葉から察するに……金の稼ぎ方もわからねぇと。
 ったく、世の中なめてんのか?お前」
 
 いちいちごもっとも。むしろエルは図星をつかれまくりだ。
 情報把握は、商人になくてはならないものだが、ここまで図星を突かれると、エルとしても尊敬はすれど、ちょっとびびる。
 
(あともうちょっと、偉そうな態度を治して、口が悪いのも気をつければ、いい商人になるんだろうけどなぁ……)
 
 なんて、考えていると、物凄い勢いでルークは蔑んだ目でこちらを見ていた。
 
「はぁ……この馬鹿が」
「いや、確かにあんたに比べたら、頭は悪いだろうけど。
 言い方ってもんがない?」
「知るか」
「口が悪いなぁ。もーちょっと、相手の事思いやった言葉使いしたら?
 せっかく顔は結構いいんだからさ。女の子にモテるよ?」
「それこそ知ったことかよ」
 
 鼻で笑って、すたすたを歩き始める。
 どうやら機嫌が悪くなったらしい。
 
(褒めたのに、なんで怒るんだろ?)
 
 分からないけど、身長が違う彼の歩幅は当然エルより広い。
 重い荷物も持っていないから、持久力的にはともかく、歩く速度は結構早いわけで。
 
 けど、今はエルが少しだけ小走りすれば、すぐに追いつけて隣を歩くのに不便はない速度。
 
 ―――つまりは、そういう事だ。
 
(口に出さないんだもん。もったいないよね。ほんと)
 
 金だ金だといつも口うるさいくせに、損をしている幼馴染の不器用さに、少しだけ苦笑して。
 二人で一緒に歩いていった。
 



[27412] 6.旅立つ前にお買い物
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/05/08 22:15
 
 ルークと共に道具屋へと歩いていくと、店番に座る恰幅のいい店主の姿が見えた。
 
「あ。おじさん。こんにちはっ!」
「おぉ。エルちゃんじゃないか。
 どうした?うちのバカ息子と一緒に」
「誰がバカ息子だ親父。
 んな軽口叩いてる暇があるなら、てめぇで城への配達にいけよな。そんなんだから、デブになるんだよ」
「なんだとっ!それが親にいう台詞かっ!!」
「言葉遣いを改めて欲しいなら、まずは痩せてみやがれ」
「ぐぬぬぬぬぬっ!!」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて!二人ともっ!
 ほらほらっ!通行人のみんなが見てますよっ!
 商売は、信用が第一なんでしょ?悪い噂がたっちゃいますよっ!」
 
 慌てた様子でいうエルだが、実の所この親子喧嘩は日常茶飯事なので、取り立てて気にしている人間はいない。
 とはいえ、”変な噂が立つ”といわれてしまっては、二人とも折れるしかない。
 しぶしぶと納得いかない様子で引き下がった。
 
「まぃいい。わしはルイーダの酒場に注文聞きに行くからな。しっかり店番しとれよ」
「親父こそ酒場にいくついでとかいって、酒飲んでくるんじゃねぇぞ」
「もうっ!ルーク!」
 
 非難の声をあげても、彼はそしらぬ顔で父親と交代して、カウンターにつく。
 
(なんでこの親子はこんなに仲が悪いんだろう……?)
 
 正直、父親を一度殴るために旅立とう、とは思っているものの、”父親”との思い出があるからの怒りじゃない。
 思い出がないからこその怒り。
 それに対して、ルークはずっと一緒にいて、育てられて。その上で父親に対して、態度が悪い。
 
(反抗期って奴なのかな?)
 
 内心首を傾げてみる。
 自分にはあまり馴染みがないというか、そんな時期があったのかいまいちわからないが、母親がルークにたいしてそんなことを言っていた気もする。
 それなら納得はできなくもない。
 とはいえ、彼の言動が悪いのは父親に限ってのことではないのだけれど。
  
「なに人のことじーっと見てんだよ。
 買い物するんじゃなかったのか?」
「あ、うんっ。するするっ。商品一覧表見せてよ」
「ほらよ」
 
 渡された商品の一覧表にざっと目を通す。
 ちょくちょく薬草は買いにくることも多かったが、その他の商品は値段までチェックしてなかったのだ。
 
「……高いね」
「当然だろうが」
「いやまぁ、しょうがないんだけど……えと、どれ買えばいいのかな」
「ったく……で、今日の所は外で慣らしするだけなんだな?」
「うん。いきなり遠くに行くのはさすがに無謀かなって」
「お前にしちゃ賢明な判断だな」
「私にしてはって、あのね……」
「それなら、出先から一瞬で戻れる”キメラの翼”を非常時用に一個は持っておけ。
 それから……確か金がないっていってたな?
 なら、鍋のフタでも買ってけ。普通の盾に比べたら、それこそおもちゃみたいなもんだが、ないよかマシだろ。結構頑丈だしな。
 念のための毒消し、薬草……それから……」
 
 やれやれといった面倒くさそうな口調とは裏腹に、キラキラとした目でどんどん必要なものをリストアップしては、袋に詰めていく。
 そんな姿を見ていると、やっぱり口ではなんだかんだといっていても、商人という仕事が嫌いじゃないんだろう。
 ぼんやりとそんな事を考えながら、エルの思考はある問題点を思い出した。
「ちょ、ちょっとまった!さっきも言ったけど、私お金ないっ!!
 いろいろ用意してくれるのはありがたいけどそんなにいっぱい買えないよっ!?」
「ちっ。しけてやがんな」
「ここぞとばかりに、いろいろ買わせようとしてたのっ!?」
「ソンンコトナイゼ」
「なんで片言っ!?」
「オレはただ、外にでる無謀な幼なじみを心配してだな……」
「だったら、一緒についてくればいいじゃん。外。
 あ、丁度いいよ、一緒に―――」
「断る」
「はやっ!早いよっ!?せめて最後まで聞いてくれたっていいのにっ!」
「オレはお前みたいな怪力熊女と違って、非力なんだよ」
「熊っ!?」
「的確な表現だろう」
「いうに事欠いて女の子にそれっ!?」
「女の子って柄じゃないだろ。だいたい、ひよっこだろうがなんだろうが”勇者様”なんだろ、お前は。
 対してオレはただの商人だ。足手まといにしかならない自信があるぞ」
「……それはそれで、自信をもって言うような台詞じゃないと思うんだけどな……」
「事実は仕方ねぇだろ」
「そうかもだけど……子供の頃は一緒に外で冒険だーとかいって、遊んだこともあったのに」
「んで、怒られるのはいつもオレだけなのな」
「わ、私だって怒られてたよ?」
「……怒られてたんなら、なんでそれでもオレを誘ってまで行くかな、お前は」
「じゃあ、なんで誘ったらついてきてくれたの?」
「そんなもん、一度お前が一人で出ていって、夕方になっても戻ってこなくて大変な事になったからだろうが!」
「あー……そういえば、そんなことも。あの時はルークが迎えに来てくれたんだよねー」
「遠い目で、懐かしい思い出話にしてるんじゃねぇ。
 大騒ぎになって、あれ以来、お前が一人で出歩く時は、オレがついていけって親父にこっぴどく怒られたんだぞ」
「あはは……ご、ごめん」
「当の本人は、まったく懲りずに何度も外に行きやがるし……」
「だからごめんってば」
「ともかく、もうお前は一人前ってことなんだろ。
 一人で近所くらいは回ってみやがれ」
「うぅ……」
 
 一人は心許ないからと、幼なじみを誘っただけなのに、過去の所行で思わぬ反撃を受けては、エルとしても唸るしかない。
 というか、事実そんなことになっているとは知らなかったのだけど。
 
「んで、お前、金がないんだったな」
「へ?ああ、うん。ぜんぜんない」
「なら、これもってけ」
 
 いいながらルークが渡したのは、なにやらモンスターの名前とその角などがかかれた一覧。
  
「これ、なに?」
「金がないんだろ?
 外のモンスターってのはな、結構いい資源なんだよ。
 分かりやすく例えるなら、一角ウサギの肉か?
 毛皮も角も、ついでに肉も使い道があって、まさに捨てるところなしって奴だ。
 そうそう、血抜きの仕方はわかるか?―――って知らないって顔だな。
 んじゃ、昔もらったこの本もってけ。旅に役に立つ情報がかいてあるし、血抜きの仕方も載ってたはずだ。
 ―――っと話がずれたな。
 まあ、そういうわけでこのリストに載ってるもんを持ってくりゃ、うちで買い上げてやる。
 こういうリストは大抵の町や村にはあるから、まず新しい所に行ったら、もらっておいた方がいいぞ。
 ただし、できるだけオレの所もってこいよ。情報料な」
「……ちゃっかりしてる」
 
 苦笑してから、思わず笑う。 
 らしくていいなと。
 ”勇者”としてその道を選んだけど。
 特別扱いしない、されない、この関係は嬉しいと思える。
 
「ルークはそのまま、守銭奴でいてね」
「あんっ?なんだ、人が親切に教えてやってたのに」
「いや、悪い意味じゃなくて、えーと、そのままのルークがいいなーと」
「わけがわからん」
「うん。私もちょっとわかんなくなってきた」
 
 困った顔でいうエルに、やれやれとため息をついてから、先ほど勧めていた商品を、エルの持っていた荷物袋に詰める。
 
「けど……そんな風になってたんだね、知らなかった」
「昔は今ほどモンスターどもも凶暴じゃなかったからな、そういう風に共存してたらしいいぜ。
 今じゃ狩人なんて人種じゃなくて、旅人やら冒険者だけだけどな、こういうのを持ってくるのは」
「そうなんだ……」
「―――ほれ。代金は70Gな」
「あ、うん。ありがとう」
 
 受け取った袋を持って、代金を支払う。
 
「んじゃ、行ってくる」
「おう。ほどほどにな」
「わかってるって」
  
 笑って、エルは手を軽く振ってから門の外へと歩いていく。
 その姿はルークは視線の端で見えなくなるまで見送って、小さくため息をついた。
 



[27412] 7.選んだ道
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/05/11 18:57
7.選んだ道


「ったく……」
 
 エルの後ろ姿を見て。
 どこか寂しいと感じる自分に、嫌気がさす。
 
 別に群れなきゃ不安になるようなタイプじゃない。
 一人でやった方がいろんな作業が進むし、どちらかといえば自分より劣る人間と一緒にいるのは、ストレスがたまると考える。
 他者を見下す思考。
 それは良くないことだと知ってる。
 自分の得意分野だけを見比べて、自分のほうが優れていると思いこむことが、本当に惨めだと言うことも。
 
 今でも、出来のいい人間だとは思ってはいないが、子供の頃は本当にろくでもない人間だった。
 
 エルと遊んでいたのも、”勇者オルテガ”の娘だったから。
 さっき昔話で出てきた迎えにいったのも。
 本当に打算だった。手間がかかる面倒な奴だと思ってた。
 
 けど。
 
 迎えに行った帰り際。
 二人はモンスターに出会った。
 今にして思えば、たかがスライム一匹。
 当時は今ほど凶暴化していたわけでもなくて。
 大したことじゃなかった。
 それでも、当時の自分にしてみれば、たまらなく恐ろしくて。
 こんな事なら、エルを迎えになんてこなければよかったと後悔さえした。
 
 それは一緒に居たエルも同じだったろう。
 繋いだ手は、冷や汗で冷たく、小さく震えていて。
 正直、あの時はもうだめだと思ったのに。
 
 エルは一歩前に出た。
 震える肩のまま、両手を広げて。
 後ろにいるルークには手を出させまいと、賢明に。
 
 結局、その時は大人がやってきたお陰でスライムは逃げていった。
 
 彼女は大人が来るだなんて知らなかったはずなのに。
 打算も損得もなく。
 ただ、助けに来た自分のために。
 守ろうとしてくれたのだ。
 
 その時からだろう。
 ルークが自分が本当は惨めな人間だと思うようになったのは。
 同時に、彼女のために何かしてやりたいと思ったのも。
 
 たった一人の大切な友人。
 彼女が魔王討伐にたつというのなら、自分のできることはなんだろう。
 
 そう考えて、魔法使いに弟子入りしようとしたことがあった。
  
 だが―――ルークは弟子になることは出来なかった。
 
 別に才能がなかった、というわけじゃない。
 もちろん才能も重要だが、それ以上に必要なのはやる気と努力だ。
 
 それでも引き下がったのは『魔法使いの道、結構。しかし、今のお主の歩く道は、いつか必ず彼女の助けになるじゃろう。そしてそれは、お主にしかできぬ』と言われたから。
 
 本当は、一緒に旅に出たかった。
 いつかの借りを返すためにも、守ってやりたかった。
 けれど―――そういわれてしまっては、選ぶしかない。
 
(オレにしかできないこと、か) 
 
 ふと、何かがひっかかった。
 
(なんだ?なにが引っかかる……?)
 
 記憶の引き出しをもう一度あけていく。
 
(そうだ。魔法使い……確か、魔法使いがアリアハンの国を出るには必要だったはず)
 
 けれど、なんのために?
 そこだけが思い出せない。
 
(いや、いいか……)
 
 思い出せないなら、行動すればいい。
 何のために必要だったか、調べればいい。
 
 エルが彼女なりにやるべき事を見つけたのなら。
 自分は自分なりにやるべき事をやればいいのだ。




[27412] 8.城下町の外
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/05/14 23:08
8.城下町の外


 ざっざっざ
 土を踏みしめて、町の外を宛もなく歩き出す。
 
 空は快晴いい天気。
 風もほどよく海風が吹いていて、磯の香りと共に心地よい。
 平原広がる風景は、森があり、川があり、離れ小島には塔もあって。
 他にはなにも見えない。
 
 どこからか、鳥のさえずる声まで聞こえてきて。
 
「……これが外かぁ」
 
 なんとなしに、呟く。
 深い意味はない。
 だけど、少しだけ意外というか、期待はずれとでもいうべきなのだろうか。肩すかしを食らった気分だ。
 
 外は危険。
 
 魔物の凶暴化に伴って、この辺りでは海路による貿易はほとんど止まってしまった。
 それだけじゃなく、歩いていけば半日程度の距離でさえ、護衛なしでの商人の行き来も減ってしまったくらいだ。
 少なくとも、エルはそう聞いてる。
 
 その、はずなのに。
 
 眼前に広がる世界は、危険とはかけ離れてのどかそのものに見えた。
 
 自分が楽天家すぎるのか。
 それとも、世間が怖がりすぎるのか。
 
 どっちなのだろうと考えながら、橋近くの森へさしかかったときだった。
 
 バサバサッ
 
 翼のはためく音。
 それだけで鳥だとわかる。だけど、その音はエルの上空付近の―――至近距離で聞こえた。
 普通なら、野生の鳥は警戒心が強いから、こんな近くで飛んでいる音など聞こえるはずがない。
 
「―――っ!」
 
 はっとして、思い切り駆け出しながら、上空を見上げる。
 
 視線の先にいるのは、カラスが三羽。
 だけど、ただのカラスではなくて、頭蓋骨を足で持ったカラスだ。
 
(えっと、確かあれは―――おおがらすだっけ?名前まんまだったはず)
 
 立ち止まり、剣を抜いて母親にたたき込まれた情報を思い出す。
 生肉を好んで食べ、人でさえもその獲物として見る凶暴なカラス。足に持っているのは、かつての食料だった犠牲者の骨だと聞く。
 猛禽類の王者である鷲もびっくりな凶暴な鳥だ。―――でも、カラス。
 
 剣を右手に、お鍋のふたを左手でもって、頭上をかばうようにかかげる。
 
 カラスたちの方も、エルのそんな様子に、ただ喰われるか逃げるだけの獲物ではないと感じ取ったのか、彼女の頭上を飛び回りながら、様子を伺う。
  
「……カラスごときに負けてたまるか」
 
 稽古ではない、初めての実践。
 一人きりなのだと。
 敵の実力はわかっていないのだと。
 命のやりとりなのだと。
 
 ―――不注意一秒怪我一生。
  
 自分に言い聞かせる。
 知らず、剣を握る手に汗がにじむ。
 
 にらみ合うこと数秒。
 先に動いたのはカラスだ。
 
 三羽一斉にエルへと降り注ぐように急降下。
 
 下手に動けば逆に手足をやられる―――そう判断して、エルは体の狭い範囲に入るように、体を縮こめる。

 ひゅんっひゅんっがんっ
  
 耳元に風切り音。
 盾への衝撃。手足に感じる痛み。
 
「……このっ!!」
 
 手足の痛みに少しだけ顔を歪めて。
 盾を眼前から外して周囲の確認をしようとしたところで、ばさばさと盾から音が鳴っているのに気づいて。
 ふと見てみれば。
 
 カラスが盾にくちばしを刺さったまま、じたばたともがいている姿があった。
 
「……」
「……」
 
 思わず目が合う。
 ―――が、即座にエルは持っていた剣で盾に突き刺さっているカラスを叩き切るっ!
 
 ルークに熊女と揶揄されるほどの腕力から繰り出される一撃は、不利な体勢であったカラスにはたまったものではなかった。
 ガンっと叩き落とされて、それきり動かなくなる。
  
「まずは一匹」
 
 ふぅ、と一息ついて、すぐに他の二羽へと視線を動かす。
 すでに動かなくなったカラスへの復讐の炎か。
 逃げる様子はないようだ。
 
「来なさい。……私は絶対に負けないんだからっ!!」
 
 
***
 
 
 空を飛ぶというアドバンテージも、盾に突き刺さってしまえば失われる。
 そうでなくても、急降下してくる相手なら、よく見て避けて、避けたところで後ろから切りつけてやればいいし、急降下してくるところへボールを打つ要領で、剣で払うようにやってやればいい。
 
 その事に気づいたエルにしてみれば。
 
 おおがらすの三羽など、敵ではなかった。
 
「……ふぅ。
 初戦にしては上出来だよね?」
 
 呟くように言って、とりあえず被害状況を確認してみる。
 
 盾。穴が空いてきてるので何かで埋めたほうがいいかもしれない。
 服。そこかしこが切れてるので後で、繕う必要がありそうだ。
 傷。それほど深くはないが、放置してると膿むかもしれない。一カ所だけ結構深い。
 
「うーん。一人だと狙い撃ちだもんなぁ……」
 
 一対多数と言う状況はこれからも、一人で行動するなら確実にあることだろう。
 
(本当は一人でなんでもできた父さんみたいに強ければよかったんだけど)
 
 ”勇者”と呼ばれるだけの実力を持った父親。
 たった一人で、魔王退治へと赴いて―――帰ってこなかった人。
 
 それでも。
 皆が皆、あの人なら大丈夫だと思って送り出したのだろう。
 そうでなければ、きっと誰かが止めているか、付いて行っているのだろうから。
 それとも、そうだったとしても拒否をしたのか、はたまた、誰も付いていこうとしなかったのか。
 それはわからないけれど。
 少なくともわかっていることは、自分がまだまだ”ひよっこ”だと言うことくらいか。
 
 魔王退治なんて危ないこと、誰かにつきあわせるのは気が引ける。
  
 正直な本心を言えばそれにつきてしまう。
 
 けれど。
 本当に魔王を倒したいのなら。倒そうとするのなら。
 仲間は必要だろうと、エルも分かっている。
 
(父さんも同じだったのかもね)
 
 苦笑して、消毒用に持たされたアルコールを少しだけ傷口に垂らして消毒をして―――
 
「くぅぅぅ……染みる……だから、アルコールの消毒は嫌いなんだ……―――ってそうだ。先に薬草出しておかなきゃ」
 
 染みる傷口に顔を歪ませながら、ルークの渡してくれた袋の中をあけてみる。
 
「……あれ?」
 
 値段は覚えてる。
 彼に値段表を見せてもらったのだから。
 払った金額も覚えてる。
 きっかり70G。それだけだ。
 
 なのに―――
 
「なんか、多くない?」
 
 キメラの翼に、薬草に毒消し草。
 
 どうして多いのか。
 少しだけ考えて、その意味に気づく。
 つまりは、彼なりの”餞別”と言うことなのだろう。
 
 知らず知らずのうちに、口元がにやける。
 幼なじみの心遣いがたまらなく嬉しい。
  
「……本当、あいつってばひねくれてるんだから」
 
 餞別の入った袋を見て。
 ここにはいない幼なじみに。

「一緒に魔王退治はできないけど、支えてやる」
 
 そう言われたような気がした。



[27412] 9.誕生日の終わり
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/05/18 20:19
9.誕生日の終わり
 
 夜は魔物たちの世界。
 
 そう教えてくれたのは、外の世界のことや魔物たちについて教えてくれた母親だった。
 魔物たちは日の光がなくなり、闇の世界になると力を増すらしい。なにより、夜行性の魔物ほど凶暴だ。
 
 カラスを退治した後も、何度か戦闘を繰り返していると、次第に日も傾いて夕暮れ時になったので、エルは無理をせずに城下町へと戻ってきた。
 
 城門をくぐり、勝手知ったる我が家への帰路を歩いていくと。
 漂ってくるおいしそうな食事の匂い。
 おなかがぎゅるる、と鳴る。
 それもそのはず。戦うことは、普通に運動するよりも体力を消費する。当然その分、おなかも減るわけで。
 
(次回はお弁当持参しよう……っていうか、うちの晩ご飯かな。
 シチューっかな。野菜スープっぽい香りだけど♪)
 
 期待に満ちた気持ちで、足早に家へと急ぐと、自宅の前に人影があることに気づく。
 
「あれ?母さん?」
「お帰りなさい。エル」
「え、なんでそんなところにいるの?」
「もちろん、あなたを待っていたからよ?」
「いやいやいや、なんで待ってるの?
 私、お城に行って挨拶したら、外にちょっと行ってみるから、いつごろ帰るか分からないからねって、言っておいたよね?」
 
 エルの言葉に、彼女は頷く。
 けれど、すぐにちょっと困ったような顔をして、小首を傾げた。
 
「けど、あなたは帰ってきたでしょう?」
「そうだけど……もしかしたらもっと遅くなったかもしれないし」
「それはないわね。
 お弁当も持っていかなかったから、おなかも減っているだろうし。
 なにより、母さん貴方に何度も何度も、夜の外は危ないって教えておいたもの。まだお仲間の人たちも見つけてないのに、そんな無茶しないでしょう?
 もしもそんな無茶を子供の頃ならともかく、大人になってもやるようじゃ、旅になんて出させられないわ。
 母さん、保護者同伴で旅に付いて行っちゃうわよ?」
「ど、どんな勇者一行よ、それ……」
「うふふ。親子で勇者一行。ちょっと楽しいかもしれないわね」
「いやいやいや、母さん、旅なんてできないでしょ!体弱いんだから」
「なぁに、そしたらわしがっ!」
「もっと無理だから!?
 ―――って、いきなり会話に参加しないでよ、お爺ちゃんっ!?」
「ふぉっふぉっふぉ。まぁ、そう言うなて」
「言うよ!?」
「親子三代で勇者一行……」
「母さんもうっとりしてないでっ!」
「―――まぁ、冗談はさておいてね」
「本当に冗談だったの!?」
「無事に帰ってきてくれて嬉しいわ」
「うむ。無事でなによりじゃ」
「……」
 
 柔らかく微笑む、母と祖父。
 本当に嬉しそうだ。
 だけど、少しこそばゆい。
 
「う、うん。ただいま、母さん、お爺ちゃん」
 
 少し照れながら、視線をそらして呟く。
 たった一言なのに、照れるとかありえないのだけど。
 その言葉だけで、二人はそれがとても喜ばしい知らせのように、ニコニコと微笑むものだから。
 どうにも落ち着かない。
 夫と息子のその言葉を聞けなかった二人にしてみれば、なによりの知らせなのだからしょうがないのだけれども。
 
 
「……そ、外でいろいろあったし、汗とか土ぼこりがひどいから、ちょっと水浴び場行ってくるねっ!!」
 
 言うが早いか、ばたばたと家の中に入って着替えとタオルを手にするとダッシュで水浴び場へと走り去っていく。
 
「あらあら。
 全くあの子はしょうがないわねぇ……」
「16歳になったというのにの。まぁ、元気なのはいいことじゃて。
 ……これからもずっとエルの”ただいま”が聞けるといいのぅ……」
「……」
「誰かがやらなければならんとはいえ……なぜあの子なのか……」
「……」
「いや、宿命ばかりは仕方あるまいか……」
「……そうですね、お義父さん」
「ともあれ、無事帰ってきてくれたんじゃ。
 今日はエルの誕生日じゃし、うんと美味いもんをこさえてもらえるかの?」
「はいっ。それはもう腕によりをかけますわ」
 
 二人は笑いながら、家の中へと入っていった。
 



[27412] 10.教会での出会い
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/05/22 20:27
10.教会での出会い
 
 
 月が雲に隠れた夜道を歩いて数分。
 水浴び場は、町の北東にある教会の裏手にあった。
 町民全てが利用できる場所で、覗き防止用についたてが立てられ、冬には教会に声をかければ、お湯を沸かす為の薪も用意してくれる。
 もちろん、旅人も教会に声をかければ使えるし、なにより教会の裏手という立地のおかげで、覗きなんて罰当たりは滅多にない。
 とりあえず誰かが使っているような水音は聞こえてはこないが―――今は誰か利用しているだろうか?
 
「一応ほかに使ってる人がいないか、教会に声かけて聞いた方がいいよね」
 
 独り言のように呟いて、教会の扉をそっと押す。
 木の扉は、少しだけ重い音を立てながら、ゆっくりと開いていく。
 
 中は暗くて、誰かがいるのかよくわからない。
 
(あれ、いつもは神父様がいるのに……どこいっちゃったんだろ……)
 
 首を傾げて、水浴び場の方にいってるのだろうかとも考える。
 その場合はどうしよう?
 誰かがいる気配を感じたなら、引き返せばいいかもしれない。
 だけど、うっかり気づかないで水浴び場に入ったりしたら、先客がいた場合実に気まずいことになる。
 と、いうか”覗き勇者”なんていう、不名誉極まりない二つ名を与えられてしまうかもしれない。
 
(さすがにそれは勘弁だわ……)
 
 格好つけるつもりはないが、最低限というものはある。
 
「すみませーん」
 
 無理かな、と思いながらも期待しながら中へと入っていく。
 昼には太陽の光で色とりどりのステンドグラスの色が床へと落ちているのだが、今はぼんやりとした色が床に落ちているだけ。
 月明かりが消えた室内では、足下に気をつけながらそっと歩くしかない。
 
 エルの足音だけが、静かな空間に響く。
 
「……誰ですか?」
「ひぁっ!?」
 
 ふいに聞こえてきた声に、思わずびくりと体を震わせて声の主を探す。
 右見て左見て、もう一度右を見てみるけれど、人の姿はない。
 
「え、ええ……?」
 
 おろおろともう一度左右を見直すエルに、誰かがため息をついた音が前のほうから聞こえてきた。
 真っ正面は神父様が立つ教壇があるのだが、真っ暗でなにがあるのかよくわからない。わからないが―――
 
 目を凝らすことしばし。
 雲が風で流れて月の光がゆっくりと室内に降りてくる。
 月明かりの陰にいるものの、目の前にいる”誰か”の輪郭がぼんやりを見えてきた。
 
「……暗いとはいえ、真正面にいる人間にどこに居るのかと不思議がられるとは思いませんでしたよ」
 
 苦味を含んでいるけど、澄んだ綺麗な声。
 一歩一歩、ゆっくりとした速度で声の人物は前へと出てくる。
 月明かりの下現れたのは、幼さを残す少年だった。
 暗闇なのに月の光で、光輝く短めの金髪。
 神父が身に纏う、青を基調とした服なのだが、まだ子供に見える彼がそれを着ているのはどうしてだろう?
  
「えっと……教会の人で、いいんだよ……ね?」
 
 エルの問いかけに、少年はもう一度ため息を付く。
 
「それ以外に誰だというのですか。服を見てください。服を」
「いや、確かにそうなんだけど。
 えぇと……その……」
 
 ストレートに子供がその服を着ているのは不思議に思えたから、といっていいものだろうか。
 これぐらいの年頃は、背伸びをしたい時期。
 下手に子供扱いをして、すでに損ねている機嫌を悪くさせるのもどうだろう。
 
 そう考えて、言葉を濁し―――一つ思いついた。
 
「あっ!水浴びしたら服を水に落としちゃった子とか!」
「サイズがぴったりあってるでしょう!」
「……それもそうか」
「お願いですから、その辺りくらいは想定してください……」
「いや、だって、君、まだ子供なのに、なんでそんな格好してるのかなぁとか思ったけど、ストレートに言ったら機嫌悪くなりそうだなぁって思って」
「当然です。というか、全然隠せてません。今思いっきり言ってます!」
「素直なのが私の長所だと思っていたい
「同時に短所でもあると思いますが」
「そこはそれ……気にしない方向で」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
 
 じぃっと青くて綺麗な目が、ジト目でエルを見つめる。
 
「……子供とかいってごめんなさい」
「分かっていただければいいんです」
 
 エルの謝罪に、少年は満足そうに頷いた。
 
 



[27412] 11.あれ……?
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/05/29 11:20
11.あれ……?
 
 
「えっと、それで水浴び場使いたいんだけど……」
「はい。それがどうかしましたか?」
「誰か今使ってるの?」
「いえ。今は誰も使っていません。なのでご自由にご利用ください」
「そっかよかった」
 
 にっこりと笑って、一安心。
 なにせ長時間ではないといえ、結構汗だくになるまで外をうろついていたのだ。
 土埃やなんかが肌に張り付いた感じが気になるし、なにより臭うのもちょっと嫌。
 
「……でも旅に出たら、絶対水浴びなんて頻繁にしてられないよね……」
 
 そういう場合はどうしよう?
 川とかあれば仲間と一緒に入ったり、交代で魔物の見張りをしながら……という形になるのだろうか。
 しかし、その場合、仲間が全員同性ならともかく、異性が混ざっていた場合はどうしよう。やっぱり交代にするしかないのだろうけど。
 
 やっぱり気まずいものがある気はする。
 仮にルークと二人旅をしてたとして、彼は―――
 
「や、気にしないなぁ……」
 
 多分、金にもならんもんに興味はないとかいいそうだ。
 そうじゃなくても、小さい頃は一緒に水浴びとかしたのだし、なにより女性らしい体つきからは離れている自分のを見て嬉しい人はいないだろう。
 
 ……実際には、エルの引き締まった肉体は、彼女が思うほど悪くはない。
 手足の肉付きは理想的だし、多少肩はばがあるものの、身長が平均よりもやや高いため、あまり気にはならない。―――なによりさすがに腹筋は割れていないし。
 
「あの……さっきから何をぶつぶつと独り言を言っているのですか?勇者殿」
「えっと、旅に出たら水浴びできないんだろうなぁとか……」
「あぁ……なるほど。一応女性ですし、気になりますよね」
「一応って……」
「僕より身長があって、力があって、間抜けでも女性ですものね」
「ねえ、刺がないっ!?凄い刺があるよねっ?!」
「……別に。さっきの子供扱いに腹を立てた嫌味ではありませんよ?」
「だ、だからそれは……ご、ごめんね?」
「慣れていますけどね」
 
 いいながら、ぷい、と顔を背ける。
 その仕草はどう見ても、子供だ。
 しかし、彼はどうもそうは思っていないようで。
 
(む、難しいな……っ!!)
 
 どうしたものか。
 いや、このまま水浴びして帰ればいいのだろうけど。
 その選択肢がエルには浮かばない。
 
「……これが我が勇者殿ですか……」
 
 深くため息一つ。
 
「……あれ?そういえば……」
 
 首を傾げる。
 なんだかおかしい。
 違和感があるのは何故だろう?
 
 それがなんなのか―――考えて、ふと気づく。
 
「なんで私が”勇者”って知ってるの?」
 
 エルの言葉に、少年は深く深くため息を付いた。





[27412] 12.世界でたった一つの石
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/06/15 10:52
12.世界でたった一つの石
 
 
 不思議そうにきょとんとしながら首かしげているエル。
 それを深い溜息をもって疲れた目で見ている少年。
 少年はしばし、じとーーーっとした目で見つめてから。
 
「もっと前に僕は貴方を”勇者殿”と言っていたのに、今更それをいいますか?」
「えー……そうだっけ?」
 
 エルの言葉にもう一度深々とため息をつく少年。
 
「言いいました」
「あはは……
 えーっと……それで、なんで私が”勇者”って知ってるの?」
「それは簡単ですよ」
 
 言いながら、彼は指をすっと動かしてエルの冠を指さす。
 銀の冠についているのは蒼い大きな宝石。
 母親が確かに、それは”勇者”が身につけるものだと言ってはいたが……
 
「これって、何か特別な意味があるの?」
「……本気で言ってます?」
「わりと」
「お父上から聞いてはいませんか……?」
「残念ながら、物心つく頃には旅に出てたんで」
「……っ。それは失礼しました」
 
 それまではエルをひたすらジト目で見ていたのだが、あわてて謝り、目を伏せる。
 オルテガの最後はすでに知っているからだ。
 
「あ、えっと、気にしないでっ!
 ほら、父さんの事だから、どっかで記憶喪失にでもなって生きてると思うし」
「……いや、さすがにそれは……」
「勇者とか言われてる人がそう簡単に死ぬとは思えないし、死んだなんて思ってないよ。私は」
「けど、火山の……」
 
 言いかけて止める。
 
「……そうですね、あの人がそう簡単に死ぬはずがありませんよね」
「会ったことあるのっ!?」
「はい。小さい頃に……助けていただいたんです」
「そっかぁ……そうなんだ……」
 
 そう年齢に差はないだろうから、それがオルテガが今も生きている証拠にはならない。
 ならないのだが―――それでも、生きていた”証”だ。
 そう考えると、なぜだか胸が熱くなる。
 ”生きている”と信じて、”死んでるはずがない”と思ってはいても、片隅ではその思いと裏腹に疑っていたから。
 視界もなんだか潤んできて―――慌ててエルはそれをぬぐって笑う。
 
「えっと……話がそれちゃったね、そ、それで、なんでこの冠が勇者と関係あるの?」
「……あ、はい。
 その冠がというよりは、その冠についている精霊石ですね」
「せいれいせき……なんか聞いたことがあるようなないような……」
「……」
「ごめんなさい」
「……いえ、いいです。えぇと……簡単に説明すると……」
 
 いいながら、自分の胸元をごそごそして、中から小さな空色の石のついたロザリオを取り出す。
 
「それは?なんか冠と色だけ違う感じの石だけど」
「これも精霊石です。……本当は、帽子なんですけど……あれ、重くて……代わりにこちらにしてもらったんです」
「あー……そういえば神父さんの帽子にもなんか石がついてたね」
「はい。
 この石は巡礼を終え、正式に僧侶となった者だけに授けられる”精霊石”です。
 ”精霊石”はその名の通り、精霊ルビスの力が宿った石で、所持者の力量――これには精神的な強さや、肉体的な強さに、知識などが含まれます―――に応じてそれらの”精霊石”に対応した魔法を教えてくれます」
「石が……教える?」
「なんですか。その目は。なぜ可哀想なモノを見るような目で僕を見ているんですか」
「いや、だって……」
 
 正直聞いただけじゃ、嘘くさいの一言につきる。
 それに、エルがこの冠を身につけたのは今日が初めてだし。
 外で戦った時も、そんなそぶりは全くもってなかった。
 
「……なるほど。まだ、貴方は”精霊石”の”声”を聞いたことがないのですね」
「こえ……?」
「頭の中に直接声が響くんですよ」
 
 オウム返しに言う彼女に、頷いてから少年は言う。
 ある時、怪我を負った冒険者が教会に助けを求めに来た時に、ちょうど回復魔法を使える人がいなかった時。
 その”声”が聞こえて、今まで使えなかったホイミという初級の回復魔法が使えるようになったと。
  
「教会では魔法使いたちのように、”魔法書”という形では魔法をあまり伝えておりません。口伝のみです。
 なので魔法文字というのは分からなかったのですけど……脳裏に声と同時に文字が浮かんで……なぜだかそれを理解できました。
 そして、精霊石に認められ覚えられた魔法というのは、決して忘れません。
 たとえ、物覚えが悪くて忘れっぽくて、ダメだったとしても、です」
「なるほどなるほど。
 それで、私が”勇者”ってわかったのはどうして?」
「貴方のその精霊石は世界でたった一つしかないからです」
「たった一つ……えぇと?」
「僕のとは色が違うでしょう?
 精霊石はその覚える魔法によって種類が分かれているそうです。
 どのくらいの種類があるかはちょっと分かりませんけど……まあ、魔法を使う職業の代表例として、僕たち僧侶と魔法使いがいるわけですが、それぞれ違う精霊石が存在して、その数も結構な量になるそうです」
「へぇ……で、私の持ってるこれは勇者が持っている奴で、世界で一個しかないんだ?」
「その通りです。
 貴方の”精霊石”は精霊ルビスから賜った特別な物。
 精霊ルビスの祝福を受けたあなた方の血族しか、持つことは許されず、また、精霊石もあなた方の血族しか認めません。
 ゆえに、その精霊石を身につけることがかなう貴方は、特別な存在―――”勇者”と呼ばれるわけです」
「へぇ……」
 
 冠を手にとって、まじまじと蒼い宝石を見る。
 世界に一つだけしかないと言われると、凄い物に見えてくるから不思議だ。
 


***
 
 随分間があいちゃいました……
 色はとりあえず、攻略本から採用してます。



[27412] 13.最初の仲間
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/06/20 21:43
13.最初の仲間
  
 しげしげと見つめてみても、声とやらは聞こえてこない。
 つまりは、精霊石に認められていないということなのだろう。
 そんなことを考えながら、冠を頭に乗せてもう一つの疑問を口にする。
 
「ところでなんで、我が勇者殿、なの?」
「……」
 
 また沈黙。
 ただし、今回の沈黙はエルをジト目で見たりはせずに、不思議そうに見ながら。
 
「あれ?なんかまたまずいこと言った?」
「いえ……聞かされていませんか?アリアハン王から」
「や。なにも聞いてない」
 
 ―――と、思う。と小さく心の中で付け足して。
 
「ルイーダの店で仲間を集めろという言葉は?」
「ああ、それなら聞いた聞いた」
 
 エルの言葉によかった、と小さく呟いてから少年はまっすぐエルを見る。
  
「新たに勇者が旅立つに当たって、王は考えました。
 また一人で旅立たせて、同じ不幸が降り懸からないようにと。
 そのために必要なのは苦楽を共にできる仲間。
 勇者がルイーダの酒場で仲間を自ら見つけることができればそれでよし。
 けれど、今の貴方は若く、未熟。
 王の要請で、協力を要請してはいるけれど、熟練した傭兵は貴方を軽く見るかもしれない。
 そうでなくても、年齢が離れていると、互いになかなか心を許せないかもしれない。
 ならば、必要なのは年若く、信頼できる人間じゃないか。
 ―――と、言うわけでランシールの大神殿から、僕が派遣されました。
 僕はオルテガさんに命を助けられたご恩をお返ししたかったし、年齢も貴方に近いということで選ばれたんです」
「へぇー……そういえば、何歳?」
「14歳です」
「あ、2歳年下なんだ」
「はい」
  
 こくりと頷く少年。
 
 確かに彼の言うとおり、エルはルイーダの酒場で仲間なんて作れるのだろうかと少し不安に思っていた。
 凄く強いとは言えないし、なによりまだまだ子供で女だ。
 女だからと自分を軽く見られないといけないような事はしたことはない。
 いや、むしろ父を探す手段だったとしても、勇者として旅立つと決めた以上、女だからというのを言い訳にしたくなかったし、その程度の理由で探しにいけないのも嫌だったから、そこらの男の子に負けないくらいに、ひたすら母親の指導の下、厳しい訓練を続けてきた。
 けれど……それと世間の評価が一致するとは限らない。
 功績がないうちは、所詮は親の七光りでしかないのだから。
 そういう意味で、アリアハン王の懸念は正しいし、心遣いはありがたい。
 
 ―――が。
 
 改めて問題があがってくるわけで。
 自分の16歳という年齢も十二分に、若い。
 ようやっとお酒を飲むのを許可される年齢というだけで、体もまだまだ未成熟。
 今回エルが16歳で旅立つのを決めたのは、若いうちにいろいろな体験をしたほうがいいというのも含めてだったし、小さい頃からそれを決意していた。
 けれど、目の前の彼はどうなのだろう?
 
 たった2歳の差とはいえ、14歳というのは若すぎるんじゃないだろうか。
 それだけではなく、命をかけた旅になるはずだ。
 ―――経験も浅い彼と一緒に旅をするというのにも多少の不安はあるが、それよりも彼の身の安全のが心配にもなる。
  
 でも。
 もしも……彼も自分と同じように、勇者オルテガの面影を追っているのなら。
 無碍に断る事はできない。
 似たもの同士だから。
 それこそ―――仲間だから。
 
「……勇者殿?」
「あ、うん……」
「僕じゃ頼りないですか?癒しの魔法なら、ちゃんと覚えています」
「や、そうじゃなくて……」
「若いからですか?頼りないからですか?それともすでに仲間を決めたからですか?」
「え、うっ!えと……」
「若いなんてのは貴方とたった2歳差ですし、頼りないのは承知です。
 けど……すでにお仲間を決めてらっしゃうのなら……謹んで辞退します……」
 
 すこししょんぼりとした顔で、うつむく。
 
(う……そ、そんな顔しなくても……)
 
 正直良心がチクチク痛む。
 どうするべきだろう?
 いや―――とるべき行動は分かってる。 
 
「……うん。ありがとう」
「はい。僕の名前はシオンです」
「私はエルティア。よろしくね」
 
 笑顔を交わして、互いに手を握り会う。
 
 こうして、旅の仲間が一人、エルに増えることとなった。
 
 



[27412] 14.それぞれの夜
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/06/29 10:16
14.それぞれの夜
 
 水浴びに行くからと、去っていった扉を見つめて、少年はため息を付く。
 
「……ちゃんとやっていけるかな」
 
 口ではああ言ったけれど、アリアハンに付くまでの長い船旅は彼には少々、きつすぎた。
 それが今度は徒歩で宛のない旅ともなれば、不安がないかといわれたら嘘である。
 しかも、相手は命の恩人であるオルテガの娘で、命を懸けた旅。
 失敗は絶対に許されない。
 
 相当なプレッシャーだと思う。
 特に回復魔法の専門家である以上、自分の責任は重い。
 
(いや……でも……)
 
 話していて思った。
 自分が仕えるべき勇者は―――なんのことはない、ただの女の子だ。
 ”勇者”という肩書きが彼女の双肩にかける重さは計り知れないだろう。
 けど、付いていくと決めた。
 あの人への恩返しをしようと思った。
 
 ならば、この程度の事で―――なにより始まってもいない旅に今怖じ気付いている場合じゃない。
 
(……うん。
 戦うのは怖いけど……僕にだってできることはたくさんあるはず)
 
 たとえば、彼女は知識に関しては疎いようだから、自分が旅に必要な情報なんかを聞き込みしたり、出てくる魔物の知識を手に入れてもいい。
 
(大丈夫……僕にだってできることはあるんだ……)
 
 ”年が一番近いから”
 ”本人の志願”
 ”僧侶としては、まだまだ未熟だけど”
 その理由で選ばれた事を後悔するにはまだ早い。
 
 ぎゅっと胸のロザリオを握りしめる。
 
「大丈夫……」
 
 怖くない。
 独りじゃない。
 
(……そういえば)
 
 ふと、自分で考えた”独り”じゃないという単語で気づく。
 
(そういえば、僕以外の仲間って決まってるのかな……?)
 
 
***
 
  
「ふぁ~つっかれたぁ……」
 
 ぼふんとベッドに倒れ込む。
 お日様の香りが布団からして、柔らかくて寝るには最高だ。
 
(あーでも旅に出たら野宿かぁ~)
 
 旅の途中でふかふかお布団なんて、期待するだけ無駄だし、期待するほうがおかしい。
 だから、こうやってお布団が用意されていることは、幸せなことなんだなと、しみじみと思う。
  
(ちょっと、いくら誕生日だからって詰め込みすぎだよねー……)
 
 朝早くから、お城に行って王様の言葉を聞いて。
 その後ルークにあって買い物をして。
 外に出て、魔物とずいぶんと長い時間戦って。
 町に帰ったら、シオンに会って。
 母お手製のごちそうを食べて。
 
(うん。やっぱ、詰め込みすぎだよねぇ……
 でも……うん)
 
 楽しかった。
 一生に一度しかない16歳の誕生日に、悪くない思い出ができたと思う。
 
(だけど、それも今日で終わりなのかな……来年はどうなるかな……)
  
 まどろむ意識の中、ぼんやりと思う。
 
 枕元に置いた冠を手にとって見つめる。
 薄暗い部屋の紅いランプに、蒼い石はゆらゆらと色を変えていた。
 
 精霊に愛された勇者の血筋。
 
 そんなの初めて聞いた。
 というか、そんなこと言われても実感が沸かないのが本音だけど。
 いや……
 
(そもそも勇者ってなんだろう……)
 
 おとぎ話にでてくる勇者は悪い奴を倒して世界を平和にしたり、お姫様を悪い奴から助け出す存在。 

(―――だけど……そんなことがあたしに出来るとは思えないし。
 私は物語に出てくる人たちみたいに、強い意志も、強い想いもないし……)
 
 鍛錬を重ねることで“力”は強くなるだろう。勉強をすることで知識という“力”を手に入れることはできるだろう。しかし―――強い意志からくる“力”はどうやったら手に入るのだろか。
 
(―――強くなりたい……)
 
 漠然とした衝動。
 どうしてそう思うようになったのか。
 思い出せない。
 
 ランプの揺れる炎に、次第にとろんと瞼が落ちていく。
 体が眠ろうよと、エルの意識を夢の中へと引っ張る。
 
 そうして―――夢の中で。
 彼女は遠い昔に、父が死んだと聞かされたあの日の事をなぜか思い出していた……



[27412] 15.夢の記憶と女の子らしさ
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/08/18 14:53
15.夢の記憶と女の子らしさ
 
 たったった。
 小さな駆け足の音。
 走って走って―――秘密の場所へと向かう。
 
 ―――なんだろう。見覚えがある。
 
 ぼんやりとエルは思う。
 一体誰が走っているのか分からないけれど、この道を自分は知っている。
 
 街の北西。
 ルイーダの酒場の裏のほう。
 人が誰もこない、小さな袋小路。
 荷物が積まれていて、隠れても誰も見つけられない場所。
 
 立ち止ってしゃがみ込む。
 そして―――視界が歪んだ。
 
 歪んで歪んで……ぽたりと水滴が手の甲に落ちる。
 頬を涙が伝うのを覚えてる。
 押し殺した嗚咽が零れたのを覚えてる。
 
 ここは秘密の場所。
 
 ―――泣き虫な勇者の娘の居場所。
 
 
***
 
 
「あれ……?」
 
 目が覚めると、頬が濡れている。
 
「……なんで?」
 
 手のひらについた水滴を見つめて不思議そうにエルは呟く。
 
 何か夢を見ていたんだろうか。
 それが―――悲しい夢だったのだろうか。
 
「……顔洗お……」
 
 身体を起こして大きく伸び一つ。
 
 ぼんやりと、泣いていたことだけは覚えてる。
 だけど、なんで泣いていたのか。
 どうして、今更そんな夢をみたのかまでは分からない。
 
 小さな頃は、悲しいことや苦しいことがあると、いつもあそこで泣いていた。
 誰もこないし、人にも見られないから、泣くには丁度いい場所だったから。
 
(まったく、ちびっ子の頃から見栄っ張りだよね、私も)
 
 誰かに心配かけたくなかったから―――という気持ちがなかったわけじゃないけれど。
 あそこで泣いていた一番の理由は、泣いてる姿を見られたくなかったから。
 
 泣くことは弱いこと。
 オルテガの娘が「泣き虫」と言われるのは嫌だ。
 なにより「オルテガの娘のくせに」なんて言われるのは、凄く嫌だった。
 
 最後にあそこで泣いたのはいつだろう?
 随分前だった気がする。
 
 その時……確か。
 
「……あれ?」
 
 最後に泣いたのは、多分―――父の死を告げられた時。
 その時、お城を飛び出して、あの場所で泣いていた。
 
 そこまでは覚えてる。
 
 だけど―――確か。
 何かがあった。
 それで、その日ようやく笑えるようになった記憶がある。
 
(強くなろうって、あの時決めたんだ。
 勇者として、旅に出ようって。
 けど……何があったんだっけ……?)
 
 思い出せない。
 大切な事だと感じてるのに。
 
「……」
 
 腕を組んで首をかしげて、しばし。
 
「―――はっ!?
 こんなことしてる場合じゃなかったっ!」
 
 慌てて、部屋の水差しで顔を洗って、着替え始める。
 
 そう。
 今日はシオンと外に出る約束をしているのだ。
 真面目そうながらも、突っ込みのキツイ彼。
 遅刻したら何を言われるのか……。
 
「やばいやばいやばい……」
 
 ぶつぶつ呟きながら、昨日の晩に用意しておいた晒しで胸をしっかりと巻きつける。
 昨日外で戦っていた時に、地味に揺れて痛かったのだ。―――対して大きい胸ではないけれども。
 
 ぐるぐると巻いてしまえば、凹凸のほぼない、厚い胸板の完成である。
 
「……髪伸ばした方がいいかなぁ……」
 
 鏡の中の自分の姿を見てると、なんだか切なくなった。
 短い髪に、父親似と言われる風貌もあいまって、胸までないと……正直、自分でも男にしか見えない。
 
「でも髪の毛伸ばすと、戦いの時邪魔になるだろうしなぁ……」
 
 女の子らしさと、生き残ること。
 天秤に掛けたら前者が当然勝つわけで。
 
 しかし、だからといって、女の子らしさを諦めきれるわけでもなく。
 
「……まぁ……似合わないのはわかってんだけどさ」
 
 言いながら小さくため息。
 幼少期からの鍛錬は、確実に身になっている。……筋肉的な意味で。
 腕相撲で、そこらの成人男性には負けないという自信すらある。
 
 さすがにこれで、”女の子らしさ”を求められるほど、エルは夢想家ではなかった。
 



[27412] 16.ルークの依頼
Name: 無月緋乃◆00a74a63 ID:aef200da
Date: 2011/08/26 21:33
16.ルークの依頼
 
 
「って……あれ?」
 
 パンを片手に家を出てみれば、そこに居たのは茶髪に三白眼の青年―――ルーク。
 今にもノックしようとした体勢で止まっていて、向こうも面食らっている。
 
「あれ?って言われてもこっちは困るんだが」
 
 手を降ろして、平静を装いながら言う。
 しかし、その彼の背には大きめの背負袋が1つ。
 ―――まるで、旅に出る準備のような。
 
「それもそうだね。えーっと、とりあえず、おはよ?
 で、なんでルークいるの?ってか……其の荷物なに?」
「挨拶を疑問形にするな。
 んでもって、この荷物は配達用の食料だよ。―――ま、一応他にも色々入ってるけどな」
「へー……。ルークどっかいくの?」
「おう」
「んじゃ、早く行きなよ。なんで私の家の前に?」
「そりゃ―――」
 
 ルークが言いかけたその時。
 誰かの走ってくる足音に二人はそちらを振り返った。
 
 息を切らせて走ってくるのは、金髪碧眼の少年―――シオンだ。
 
「あ、シオン。おはよ~」
 
 笑顔で手をあげて挨拶をするエル。
 しかし、当のシオンはというと、エルの傍に駆け寄った後は、ぜーはーぜーはーと息を切らすだけ。
 どうやらかなりの距離を走ってきたらしい。
 
「おは……よ、う、ござ……い、ます……」
「いや、そんな無理して挨拶しなくていいから。深く、ゆっくり深呼吸して」
 
 言われたとおり、深く深呼吸をしながら息を整えるシオン。
 そんな彼を見ながら―――
 
「こいつ、誰?」
「ん?あぁ……私の旅の仲間」
「ふぅん……もうルイーダの酒場行ったのかよ」
「いや、彼とは教会でちょっとね」
「ふぅん」
「……あの、何か?」
 
 息を整え終わったシオンが、胡散臭げな目でルークを見る。
 其のルークも、シオンを胡散臭げに見ているのだから仕方がないのかもしれないが。
 
「別に」
「なら、なぜそんな目で僕を見ているんですか?」
「目付き悪いのは生まれつきでね。そっちこそ人を胡散臭そうに見やがって、何かあんのか?」
 
(……何?この空気)
 
 妙にピリピリとした空気。
 バチバチと二人の視線に火花が散る―――というほどではないが、居心地の悪さったら。
 
(なんでこんなことに……?)
 
 考えて、考えて―――考えついた。
 
「あ、彼はね、私の幼なじみのルーク。
 道具屋さんの一人息子なんだよ。
 んでね、こっちの彼はシオン。
 私と旅をしてくれる仲間なんだ」
 
 ―――見知らぬ他人だからいけないんだ、という結論に達した。
 
「ほら、握手握手」
「「よろしく」」
 
 二人の手をとって、無理やり握手をさせるエル。
 ……ちなみに、二人の”よろしく”は、声こそぴったりハモっていたものの、不機嫌オーラが出ていたりする。
 
「ねぇ……なんで二人ともそんな不機嫌そうなの?」
「不機嫌になる理由なんてありませんよ」
「初対面の人間に、不機嫌になる理由なんてねぇよ」
「……そう……?」
 
 なんだか納得はいかないけれど、言ってることには納得がいくので、とりあえず頷く。
 
「そんなことより、遅くなってすみません。
 その……昨日、寝れなくて……」
「あ、そうなんだ?仲間だね」
 
 えへへ、と笑うエルに、シオンも少しだけ空気が柔らかくなった所で―――
 
「ガキかよ」
 
 ぼそり、と小さい声が聞こえた。
 声の主は当然ルーク。
 
「……今何かいいました?」
「いや?」
「……」
「んだよ」
「んだよ、じゃないわぁぁぁっ!」
 
 ぐわしっとルークの肩を掴んで、ぎりぎりと力を込める。
 
「いだだだだだだだっ!!ちょ、ちょっとまて!
 相当痛いんだぞっ!?お前自分の熊な―――うぐぅ……っ!!」
「……あの、エルさん」
「ん?なに?シオン」
「物凄く痛がってるんですけど」
「大丈夫。そんなに力込めてないし」
「嘘つけぇぇぇ!!!」
「……あの……その……」
 
 ルークの一言に腹が立ったのは事実だが、さすがにここまで痛そうな悲鳴をあげている相手を、そのまま放置というのも忍びない。
 ……第一この手の嫌みは、自分で返すのが筋だ。
 
「あの……エルさん」
「ん?なに?」
「後は自分でやりますから……」
「なにをだよっ!?」
「ん?あぁ。でもほら、幼なじみとして、他人との接し方を正してあげるのは勤めかなとか」
「なにが勤めだよ!?」
「あぁ……なるほど。一理ありますね」
「一理じゃねぇよっ!?止めろよっ!」
「っていうか、それくらいなら先に謝んなさいよね。
 あんたのが年上なんだよ?」
「……分かったから放せってのっ!」
 
 言って、エルの手が緩んだ所で無理矢理、気合いでふりほどく。
 痛みに顔をしかめながらも、捕まれていた肩に手を当てて一息ついてから、ルークはシオンをちらりと見て、エルをちらりと見てから、もう一度シオンを見る。
 
「悪かったな」
「はい。気にしてますけど、許します」
「……」
 
 何様のつもりだ?と思わず言いそうになって、慌てて言葉を飲み込む。
 
「んで、なんでルークうちに来たの?」
「いまさらだなぁおい」
「いやぁ、すっかり忘れてた」
「……」
「ごめんってば。
 で、どうしたの?何か用事?それとも母さんあたりが配達でも頼んでたの?」
 
 大荷物を指さしながら言うエルに、ルークは首を横に振る。
 
「お前に護衛させに来たんだよ」
「させにって……なんでそんな尊大なんですか」
「あのな、俺は昨日こいつに情報を”無料”で教えてやったんだ。これくらいの見返りがあっても問題ないだろ。
 エルは外で腕試しが出来て、俺は安全に配達にいける。
 互いの利害が一致してんじゃねぇか。
 つか、それ以前に断らせねぇぞ」
「何故ですか」
「……肩が痛くて荷物がもてねぇよ」
「「あー……」」
 
 ルークのもっともな言い分に、思わず呻く。
 それぞれ、原因と実行犯なだけに。
 
「いやまぁ……うん。
 ……ごめんね?やりすぎた」
「そう思うなら荷物を持て」
「はーい。―――って結構重いね」
「一週間の量だからな」
「ふぅん。
 それでどこに持っていくの?レーベの村?」
 
 レーベの村とはアリアハン大陸で一つだけある村だ。
 よそに護衛をつけてまで配達すると、そこしか思いつかないのだが―――

「いや、違う」
 
 しかしルークは首を横に振る。
 
「え、じゃあ、どこ?」
「行き先はナジミの塔だ」
「……どこです?それ」
 
 聞き慣れない単語に首を傾げるシオンに、エルはにっこりと笑って西の方を指さす。
 
「ここからじゃちょっと見えないんだけど、城壁を抜ければよく見えるよ。
 ここから西の、海に浮かぶ小さな島に立っている塔がナジミの塔っていうんだ」
「あぁ……あの塔ですか」
「うん。……でもどうやっていくの?ルーク」
 
 少なくともエルの知っている塔は、完全にアリアハン大陸からは孤立していて、船でしかいけそうもないのだが。
 それとも、小舟でも借りて行くということなのだろうか?
 
 首を傾げるエルに、ルークはどこか楽しそうにニヤリと笑って言った。
 
「アリアハンを出て海沿いに歩いていくと洞窟がある。
 そこからいけんだよ」
 


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