<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[27393] 悪魔との契約(なのはオリ主) 【チラ裏から】
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:19

チリチリと音が聞こえる。

ガラガラと崩れる音が聞こえる。

バチャと液体がぶちまけられる音が聞こえる。

一体何の音なのかさっぱり(さっぱり?)解らない。

そうやって自分に嘘をつくが勿論現状は変わらない。

意識は理解を拒むのに頭は意識を拒む。

チリチリという音。

それは炎が燃え上がる音。

ガラガラという音。

それは建物が崩れる音。

バチャという音。

明瞭だ。

どこにでもあって、そして必要なモノ。

ただの人の赤い血だ。

この数時間か、もしくは数分か。それとも数秒なのかもしれないが、その時間の間に随分見慣れてしまったものだ。お蔭で鼻とかが麻痺しているような気がする。

新鮮だったわけではないが、こうもずっと見ていたら流石に飽きてきたモノである。とは言っても、そんな風に言ったところで何かが変わるというわけでもないわけなのだが。

周りの風景も変わらない。ここはどこにでもあるようなデパートだ。いや、デパートだった場所と言うべきであろうか。少なくとも普通のデパートという所はここまで壊れていなければ、こんな灼熱地獄でもなければ、こんな阿鼻叫喚な地獄絵図でもないだろう。

炎は吹き荒れ、瓦礫は飾りの様にそこら辺に転がっている。そしてそれらを着飾っているオプションはただ一つだ。つまり━━━人間の死体だ。

そこには色んな人間の死体が転がっていた。

天井の瓦礫が落ちてきて、潰れた死体。炎によって焼かれた死体。将又は逃げようとして、同じ目的を持った人間の集団に踏まれて死んでしまったと見えるような可哀想な死体。

どっちにしろ結論は死んだという事。そういう意味ではここは平等なのかもしれない。

地獄の風景こそが平等というのは相当皮肉が籠っていると思える。そうでもしなければ人間は平等になれないのかと。

そこまでどうでも良い事を考えてふと思った

そういえば俺の両親はどこにいるのだろうかと。さっきまで一緒に……いたはず?だった両親はどこに行ったのだろうか?そう思いぼろぼろの体と意思を振り絞って首だけを何とか動かす。

右を見る。

そこには瓦礫が雨の様に落ちてきたのだろう。その瓦礫の雨を一身に受けた串刺しの刑を受けたかのような男の人。ブラド伯爵でもここまではしないであろうというぐらいの刺されようだ。お蔭でお腹から少し赤黒いものがはみ出していた。自分が父親と呼んでいた人だ。

左を見る。

左の方にはもろに炎の嵐を受けてしまったのか、人間としての原型は限りなく崩れていて、最早顔どころか、性別すらも解ることが出来ない状態の死体だ。肉が焼けた臭いがそれからするというのでいい気分がまったくしない。多分、俺が母親と呼んでいた人間のはずだ

さにあらん。

希望を思っての行動は無意味だと知っていたはずなのに。ここでは希望はあっても、その希望によって造られる現実(奇跡)はない。品切れ状態という者だろう。

そこまで考えてふと思った。何だか自分の思考が冷めている気がすると。それもそうだろう。これだけの地獄地獄を見せられてきたのだ。思考が覚めるぐらいしないともう正気を保っていられない。

否、そもそも、今の状態はもう正気であるのだろうかすらわからない。そしてもう正気にこだわる理由もないのではないかと思う。だって、どっちにしろ自分の命はそろそろ終わりだろう。

少なくとも救援が来ている様子は今のところ内っぽいし、自分の体はもう極限状態だ。とてもじゃないが立って歩いて何て事をする余裕なんて一欠けらもない。

あったところで体を動かす気力がもう存在しない。つまり、絶体絶命。もう少ししたら周りのモノと同化するだろう。今ここで生きている矛盾という者を消すために。

どうでもいいと心底そう思った。こんな状態の自分が生きていてもどうにもならないし、どうにか出来るとも思えない。地獄によって壊された人間は地獄に帰るのが定めだろう。

まぁ、簡単に言えばあるべき場所へ帰れという所だろう。まぁ、そんな事を言っても死後の世界に地獄という者があるのかは知らないけど。現実の世界にはこうしてあったけど。

はぁと本気で溜息をつく。溜息をつけた事に少し驚いた。それこそ本当にどうでも良い事だけど。

ぼんやりとした目で再び周りを見回す。変わらない風景。さっきまで生きていた何時もの光景をまるで異常だったと思ってしまいそうになる。それともその考えは正しいのだろうか。

思考がさっきから逸れまくりだと思う。こんなことを思ってもどうせ何にもならないというのに。

下らない思考はもう止めようと思う。とっとと寝よう。こんな風に思考を続けているからこんな風に生き続けてしまっているのだろう。体は疲れ切っている。ならば、体の力を抜き、目を閉じたらすぐに夢の世界に行けるだろう。それが悪の付く夢かどうかはさておき。

そうと決まったら有限……はしていないので無言実行でいいのかな?無言実行をしよう。体の力を抜き、目をゆっくりと閉じた。閉じていく風景は相変わらずの炎と壊れた建物の風景だったが。

これで眠れると思った。

………………………………

なのに望んだ瞬間は何時まで経っても来なかった。つい、それが冤罪だと解っていても思ってしまった。理不尽だと。他の人間はカタチはどうあれ眠っているのにどうして自分だけ眠れないのかと。

理不尽な今に理不尽な怒りが込みあがってくる。どこにそんな力があったのかと問いかけたくなるぐらい目に力が籠められる。冗談じゃない。これだけ理不尽な光景を受け入れているのにどうして終わりぐらい選ばせてくれない。

周りの終わりを選ばせて貰えなかった人たちの事を無視して考えてしまう。不遜な考えだが今、この瞬間だけ。ここにいる何もかもに殺意を抱いた。

ああ、もう

むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつく。

こんなもの全て

■■してしまいたい━━━!


「その願い、叶えてあげましょうか?」

その瞬間。

目の前に立っていた。

さっきまでそこには何もいなかったのにそこに立っていた。

そこに立っているのは女性だった。年は14ぐらいの少女であった。髪は白で長く背中まで届くぐらいのロングヘア。身長は150~155の間くらい。

顔は可愛らしさと綺麗さを合わせた美を三個ぐらいつけてもいい造形だった。服装は何だか中世のお姫様が着てそうなドレスを真っ黒にしたものであった。

そして何よりも印象的だったものは、その瞳のアカさせあった。

炎よりも紅く血よりも朱いアカ。この地獄の中でも尚アカく輝いていた。

何故だろうか。

どこからどう見ても人間の美少女。しかし俺はこの少女を人間と定義するのは間違いだと本能的に思った。

何故だと思っていたら気付いた。

この場所、この地獄にあまりにも似合いすぎている。まるで地獄を住処にしているようなものだ。この美もそう異界の美。魔とも呼んでいいくらいだ。

美しすぎるものには魔が宿る。まさにその権化だ。こんなのは絶対に人ではない。

冗談のような存在だ。しかし、御伽噺というには禍々しいし、夢物語の存在というには穢れた存在に見える。かといって神様とかいうような感じではない。全くもって神々しさがないからだ。

むしろ、これは━━━

「その通りよ。察しがいいわね。私、悪魔なの」

それは簡潔に答えた。

非情に詰まらない答えだ。悪魔なんてそんなの今時の小説にさえ全然出てこない。大体悪魔と言うには外見が完璧に人間の姿じゃないか。まぁ、悪魔が人間の姿を取ってはいけないという法則なんてないけど。

まぁ、いいや。その悪魔様が一体何の用なのでしょうか?

「あら?呼んだのは貴方の方なのに。忘れたの?それとも━━━目を逸らしているの?」

知ったことじゃない。どっちにしろ俺はこのまま死ぬのだから。ああ、それともお前は俺を迎えに来たという意味での悪魔だろうか?それならばとっとと連れて行って欲しいものだ。強いて言うならばそれは悪魔ではなく死神の仕事ではないのかと思うが。

「ん?まさか。何で私が貴方を連れて行かなきゃいけないのかしら。むしろ、逆よ。貴方は生きてないと面白くないわ」

勘弁してくれと本気で思う。何が悲しくて悪魔なんかに気に入られなきゃいけないんだ。というか、悪魔なんておかしいだろ。きっと、これはそう。俺の死に際に見ている幻という奴だろう。

だとしたら何て変なものを俺は見ているのだろうか。少し自分の脳みそに疑問を抱いてしまった。見るのならばもう少しまともなものを見るべきだろう。家族との思い出とか。

皮肉にもならないけど。

話が逸れた。じゃあ、この自称悪魔は一体何の用で俺に会いに来たのだろうか?俺が呼んだとか寝言ほざいているけど、呼んだ覚えもない━━━あー、もしかしてあれかな。悪魔は魂を取るというからそれかな?とっとと死にたいとか願ったし。

「十点てとこかしら。願ったぐらいしか合ってないわ」

手厳しいと思ったがどうでもいいや。俺が願った?俺が願ったのは別に━━━早く寝たい、だけ、の、はず、だ。

「あら?現実逃避が早いわね━━━でも、駄目よ。許さない」

瞬間

空気が変わった。変わった原因は目の前の人間らしきものが笑っただけだ。何もおかしい事などしていない。なのに空気が変わった。笑みの形は三日月型。それは心底愉快そうに俺を見ている。

穢されたと思った。理由なんてない。ただ穢された。そう思った。

さっきまでピントが合っていないモノと話しかけている気分だったが、何となく理解してしまった。これは人間ではないという事を。考えればそうだ。こんな状態の場所にこんな美しい存在がいるはずがないのだ。

異常の風景に似合うのは異常な存在だけなのだから。

それはその笑顔のままこちらを見て、まるでとろけるような甘い声を出してくる。声だけ聴くとまるで誘惑してるみたいだ。

「よくもまぁ、そんな反吐が出るような願いを考えたわね。私ですらそんなもの、本気で願った事がないのに。精々面白半分なのに。真剣にそんな最低な願いを感じたのはこれが初めて。ふふふふ、嗚呼、本当に最高。悲鳴でさえそんなに甘くはないわ」

何を言っているのか全く理解できない。人語で話しているはずなのにまるで異界の言葉を聞いているような感じがする。さっきまで自分を狂っているとか思っていたが、とんでもない。

こんな所にいる事を当然としている生き物こそがまさしくそれだろう。俺はどっちかというとこうでもしないとタエラレナイと思ったから、思考が一時的にこうなっただけだろう。

でも、これは違う。

これは生まれついての■■だ。

関わってはいけないモノだ。関わった瞬間人生が終わるモノだ。

悪魔はただ嗤う。人の都合何て関係なしに。

「クスクス。これだから観察は止められないのよね。嗚呼、何て無様な人間。嗚呼、何て醜悪な人間。嗚呼、何て汚らしい人間。嗚呼、何て下らない人間。嗚呼、何て傲慢な人間。嗚呼、何て愚かな人間。嗚呼━━━何て美味しそうな人間。」

急速に恐怖が湧き上がってきた。余りにも遅い動き。どっちにしろ体は動かない。蛇に睨まれた帰るというのはこう言う気分なのだろうか。知りたくはなかった気分だ。

「あら?ようやく理解したの?ふふふ、可愛らしいくらい鈍感ね。本当に」


食べちゃいたいくらい━━━


ペロリと口の周りを舐めるその仕草は何て妖艶なんだろう。もう体は限界だ。こんな恐怖を覚えてしまったからか。さっきまで望んでいたモノが体を支配していく。意識が勝手の閉じていく。余りにも脈絡がない終わりだ。

閉じていく意識の中。悪魔の嘲笑が聞こえる。

「忘れないで。貴方はいずれ最低最悪な存在になるわ。■■にして■■の■■。■■にして■■。それはきっと傍から見たら凶悪なモノでしょうね。でも、忘れないで。私はそんな貴方を━━━心底■しているって」

声は虚ろに、姿は朧気に。何もかもがぼんやりとしていく。炎を彩っていた光景が闇に呑まれる。行先はどこに。それすらも闇の中。そして最後の言葉を聞いた。


「ねぇ、貴方の願いを叶えさせて?」


それは夢を見る少女のような声色だった。























「いい加減に起きなさい!風雷慧!」

その声で無理矢理起きてしまった。

一瞬の自分の喪失。そのあやふやさを心地よく思う。

数秒でようやく自分を取り戻す。

しかし今度は今の状況の理解が遅れている。

頭の理解の遅さを五感が自動的に補正する。便利な頭だ。

視覚は風景を。

嗅覚は人がいる証を嗅ぎ取り。

聴覚は人のざわめきを。

触覚は堅い木の感触を。

味覚は別に何も。

それらの情報を頭の中で整理してようやく今の状況を理解する。

ここは聖祥小学校一年の教室。時間は外を見る限り放課後だろう。じゃあ周りのざわめきはクラスメイトが帰ろうとしているからでであろう。昨今の若いやつらは落ち着きが足りないなぁと自分も昨今の若者だということはとりあえず棚に上げる。

そしてようやく本題?

俺を睡眠という名の安楽地獄から目を覚まさせた諸悪の根源の方を見る。

目の前にいるのは平均身長ぐらいのロングヘアな少女である。

しかしこの少女。他の子供と違って違う所がある。

それは金髪でつり目なところだ。

もう一度言う。

金髪でつり目なのだ。

サーヴィスにもう一度。

金髪でつり目なのだ。

自分のサーヴィス精神の大きさに自分でもびっくりだね。後五回ぐらい続けたいが話が進まないので仕方なく断念しようではないか。世界の修正に感謝するがいい。

アリサ・
「バーニング」

「そうそう、燃え上がる魂、熱き鼓動、進は紅蓮の道。その名はアリサ・バーニング!!ってアホか!」

素晴らしい。ここまで自爆してくれるといじめ甲斐があるというものだ。では続けようか。悪魔の加護の下で。

「すまない、故意だ」

「そう、それなら仕方ないわね。じゃあ私は寛容な心で貴方を滅殺するのが人として正しい判断かな」

おおっと、意外とアグレッシブな。

「すまない、恋だ」

「そう、それなら仕方ないわね。恋とはまさしく燃え上がるような想いだものね。それならバーニングと間違えてもってんなわけあるかい!」

しかし二度ネタは減点だな。まだまだツッコミの経験が足りんな。

「で、何の用だ。用がないなら帰らさせてもらうぞ」

「あんたのその一瞬の切り替えには私もついていけんわ。はぁ、一応の義務だから聞くけど一緒にかー」

「だが断る」

「なんで一瞬で断るの!」

「あ、アハハ」

いきなり声が増えた。

まさか。

「バニングス!ついに影分身の術を覚えたかっ。流石人外!」

「あんたの中での私は一体何に分類されてんのよ!しばき倒すわよ!」

「ははは、何に分類されているかなんて鏡を見給え。一瞬で理解できぐわっ」

「アリサちゃん!ダメだよ、ただでさえおかしい風雷君の頭を叩いたら更におかしくなっちゃうよ!」

「なのはちゃん、本音が漏れているよ」

仕方がないのでそちらを見る。

そこにはまぁ、バニングスと並ぶ美少女と呼んでいいだろう少女が二人立っていた。

一人は高町なのは。

身長は三人の中で一番小さく髪の毛は栗色でツインテールで束ねている。語尾になのをつける可哀想な人類だ。

もう一人は月村すずか。

身長はアリサと同じくらいの身長で髪の毛はカラスの濡れ羽色でストレートに下している。清純というのがよく似合っている女の子だ。

そして個人的だが俺は高町が苦手だ。

何故かというと。

「さぁっ、今日こそ名前で呼んで!」と強制してくるのだ。

もはやストーカーと呼んでもいいレベルだ。
なるほど。


「高町は変態だったのか……。まぁ、特別驚くような事ではないか」

「いきなり自己完結しないでなの!ていうかどうしてそんな結論に!」

「ああ、確かになのはのそれはもう呪いレベルだものねぇ……」

「ごめんね、なのはちゃん。フォローできないよ」

「いじめだよ!」

「「「Yes,correct!」」」

「ふぇーん!」

これが俺。

風雷慧の日常。

あの地獄から戻ってきた日常だ。

大切なものは地獄(あそこ)で失くしたが。






















結局今日も高町ストーカーから難なく逃げて街を彷徨っている。いつも通り。俺らしく。断っておくが別に俺は高町自身を特別嫌っているとかではない。

……苦手にはしているが。

バニングスも月村もそうだ。

むしろ今の若者の事(自分も含めて)を考えると今時珍しすぎるタイプだろう。多分だがあいつらは他人のために命を張れる素晴らしい馬鹿だろう。人間としては最高クラスの人間だろう。

よくあんな希少種になれたもんだと度々感心する。よほどご両親の教育が良かったのだろう。

ん?

じゃあ高町の家族も高町みたいな性格をしているのだろうか?

………一家総出でストーカーか。いやらしい家族だ。

なるほど。確かに希少種だと改めて実感をする。個性が薄い俺から見たら憧れはしないが感嘆はしてしまいそうだ。心の中で自嘲する。

実際の顔の筋肉はまったく動かないが。

すると今日見た二年前の夢を何となく思い出す。

あの火災。

あの地獄。

そう

あの時。

あの場所は地獄であった。

生きる希望は光の速さよりも速くなくなり。

絶望は絶望しすぎて感じられなくなる。

否、絶望こそが当たり前だと認識してしまうが故に絶望を感じれなくなってしまう。

そんな地獄。

それが地獄。

その中から何を間違ってか生還してしまった。

本当に、本当に運よく助けが間に合ったらしい。奇跡だとよく言われたものだ。

だがしかし、しかししかし。

生還した少年は地獄を体験する前の少年ではなくなった、いや亡くなったと言った方が適格かもしれない。あの地獄を経験した後、もう既に俺は今までの俺ではなくなったからだ。

喜ぶことができなくなった。

怒ることができなくなった。

哀しむことができなくなった。

楽しむことができなくなった。

笑うことができなくなった。

つまり感情を表すことができなくなった。医者が言うには自己のショックで感情を出しづらくなったのだろうという一般論を言ってきた。別にそんな一般論は興味がない。

重要なのは治療法がないということだ。

当たり前だろう。

別に病気や怪我ではないのだ。治す方法なんてない。そして何より俺が治す気がない。治そうとする気力がそもそも欠落しているのだ。治るはずがない。

そう。

だから俺は理解できない。

何故高町はあんなに必死になって友達になろうとするのか。

まったく理解できない。

何で友達が必要なのだ。何で他人を信用しなきゃいけないのだろうか。まったくもって理解できない。あれなら殺人鬼の方が理解できる。

結局はそういう事だろう。

地獄から無事救出されたと思われた少年は実質命を救われた代わりに救われない生き物になったのだろう。

まぁ、こんな思考はただの被害妄想だろう。

考えるだけで馬鹿らしい。そう考えると自己嫌悪がふつふつと湧き上がる。

その自己嫌悪で思わず。


■■してしまいそー



一瞬の空白。

ついさっきまで何を考えていたのか思い出せなくなる。自分の迂闊さに自分で呆れる。

そう、確か夢の話だっただろうか。あの夢も別に久しぶりというわけではない。というか一週間に4、5回のペースで見ている。いい加減何度も同じ映画の同じシーンを見ているみたいで飽き飽きしている。

だが唯一気になるところがある。

あの少女。

人の形をした悪魔。

あの唇を三日月に歪めて笑うあの不気味すぎる笑み、あの嗤い方。

今でもはっきり覚えている。しかしあら不思議なことにあの少女はあれ以降一度も会っていない。やはりあの火災の中で現実逃避をするために自分が生み出したただの妄想の産物なのか。

だがそれにしてもだ。


あの悪魔の嘲笑は
嫌でも゛本物´だと実感させる。


自分でも馬鹿らしいと思うが思うことは止められない。

あれは悪魔なのだと。

人の魂を契約で貪り食らう化け物だと。

それ故に疑問がもう一つ残る。

俺は

俺はあの悪魔に対して何を願ったのだろうか?

その答えもあの地獄に置いてきてしまった。

知ろうにも覚えていない。

聞こうにもその対象がいない。

あの地獄の中、俺は一体何を願ったのだろうか。それが唯一の自分の目的かもしれない。

それを知ったら俺は。

変われるだろうか………?

答えは誰も知るはずがない。

それこそ悪魔の知恵がなければ。

……………………………。

いらないことを考えすぎたようだ。

目の前には図書館がある。丁度いい。暇つぶしに本を読もう。

そう思い目の前の建物に入ってく。

いつも通り。

適当に。





















あとがき
前から気に入らなかったプロローグの大幅修正と第一話と第二話の合併です。
今度は注意されたように出来る限り…と━━━を減らし、文末に句読点をつけるようにしてみました。
これで大丈夫でしょうか……?
正直まだまだ不安です。





[27393] 第一話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/12/16 00:27

よいしょ、よいしょと車いすを足場にして私、八神はやては目当ての本を取ろうとするがこれがなかなか取れない。

まぁ、足場にするいうても足は動いてないから足場じゃないんやけどなと自分にツッコミを入れながら頑張って目当ての本を取ろうとする。

さっきも言った通り私の名前は八神はやて。

普通なら小学校に通っているはずの子供や。

そう普通なら

実は私は両親が既に他界しており、しかも両足が動かないというマイナスのステータスを持っているんや。

簡単に言うなら不幸の美少女ていうやつやな。

………はい、そこ。
自分で美少女言うんやないとかツッコまない。

そう一人寂しくボケながら本を取ろうとする。

寂しく

そう、私はこの孤独の状況を寂しく思っている。でも、私は学校に行くのには少し気後れする。

別にお金がないとかいう世知辛い理由ではない。

足のせいで他人に迷惑になる…………とも思っているけどそれは多分言い訳、いや綺麗事やと思っている。

多分私は見たくないのだろう。

家族がいて、元気に走り回っている自分と同い年の幸福満点の子供を。

私も人間。

他人を好ましいとも思うし、嫉妬もする。世の中にはそれでも我慢するような人がいるのかもしれないけど、私はそこまで人間ができてないいんや。

だから黒い感情が生まれても我慢することはできないんちゃうかと思う。だからあんまり学校に行きたくない。

……まぁ、こんなのはただの引きこもりの言い訳かいなぁと思いながら再び本に手を伸ばす。

……………むぅ、取れへん。

あとほんの数センチ。

あとほんの数センチが取れへん。

仕方ないから周りの人に助けを求めるか、もしくは諦めようかの二択を考える。別に誰かの手を借りてまでして見たいというわけでもないので諦めようかな~と思っていると

いきなり目当ての本が後ろから抜き取られた。

一瞬、思考と動きが止まる。

しかし直ぐに両方の動きを再起動する。

きっと親切な人が本を取ろうとして取れない自分を見て手伝ってくれたのだろうと思いながら、ゆっくり振り返ろうとする。

そういえば、後ろから伸びてきた腕はそこまで高い位置にない。もしかしたら自分と同じくらいの子供かもしれない。

そう思いながら振り返る。

本を取ってくれた礼と本を受け取るために。

そして後ろに立っている人を見た瞬間。

今までの自分の価値観が木端微塵に壊れた。

目の前に立ったいたのは少年だった。
年は予想通り自分と同い年くらいで背はこの年頃の子供の平均身長くらいで、体格は結構がっしりしてるような気がする。

髪の毛はやや長く、しかし伸ばしているというよりもほったらかしにしている感がでている。

しかし問題はそこではない。他の特徴はどうでもいいんだ。そこらへんはどこにでもいる少年だ。

問題は顔、詳しく言えば表情。

そこには何の感情も浮かんでいなかった。

思わず息をのむ。

こんな顔をする人間。大人、子供を含めて見たことがない。

普通に言えば無表情と言えばいいのかもしれないが、普通の無表情はここまで『無』に近づけない。無表情といえどもそこには少しは感情を含んでいるはずなのだから。

しかし彼の表情はまさしく『無』表情だ。

何の感情も無いのだ。

どうしたらこんな人間になるのだろうか。

そんな風に思っていると目の前の少年は可愛らしく首を傾げて

「あれ?これが目当ての本だったのではないのかね」

と問いかけてきた。

意外にも声には希薄だが感情を読み取ることが出来た。
そのギャップに戸惑いながらも

「ええと、あ、ありがとう……」

とどもりながらも本を受け取った。

そしたら彼はうなずぎそして直ぐ近くの空いてる席に座りながら本を読みだす。

しばらく放心状態になりながら彼をじーと見てしまう。

すると案の定

「何か用」

と質問されてしまう。

こちらはただぼーとしていただけなので何も思いつかず少し焦ったがとりあえず目の前の本をネタにした。

「ええと、な、何を読んでいるんや?」

「ん、今はやりの謎探偵ゴナン。持ち前の暴走と子供らしい安易な発想で犯人を突き止め周りのおっさんに睡眠薬をぶちこんで特技の声帯模写をして謎を解き明かす漫画。ただ子供なので時々犯人を冤罪で捕まえたり、睡眠薬の多量接種をさせてしまい、周りのおっさんが死んでしまうけど、その時は「ミスっちゃった!犯人さん、おじさん。許してピョン」という独創的な漫画」

「………………かなり前衛的な漫画やなぁ」

「言葉を選ばなくてもいいぞ」

思わず半目になってしまうのは許して欲しいと思う。

そこではたと気づく。普通に会話が出来ていることを。自分は多分だが人見知りが超激しいと思っていたのに。

この不思議すぎる少年には何も思わなかった。

それを不思議に思いながら、口は意志に逆らって言葉を紡ぐ。

「あ、あの。私、八神はやて言うんやけど君は?」

「風に雷。そして慧眼の慧で、風雷慧」

即答だった。

私は何をしたいんやろうと思いながら言葉を紡ぐ。何も考えてないということは本心を勝手に語ろうとしているのだろう。

口は動く。

己の無意識を表すために

「ま、また会えへん!」

己の願望を。

この不可思議少年との再会の約束を。

まだ会って三分ぐらいしか経ってないのに多分だがこの少年に惹かれたのかもしれない。

この少年の非人間性に。

答えは簡潔だった。



[27393] 第二話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:20
図書館に行った翌日。八神とは約束はできないが会えたらまぁ、会ってやろうという約束をした
というわけで再び聖祥学校の教室
既に時間帯は放課後
つまり帰宅時間
ああ、何て素晴らしい時間
学校が終わったと自覚した時本当に幸福だと思ってしまうのは学校に行っている人で理解できない人はいるだろうか、いやいない!
その幸福に浸りさぁ、帰ろう♪と思っていたら

「待ったなの!」

と叫ぶ声
最上級の幸福の時間は一瞬で壊れた
小さいけど、しかし確かに幸福だった俺の時間はたやすく、呆気なく壊れてしまった
だから高町に角度45度からの鋭いチョップを入れたことを悪いと思う人間がいるだろうか
いたら征伐してやる

「いたっ!お、女の子に手をあげるのはいけないことだと思うよ!」

「やかましい。そして俺からの有難い言葉を一つ言ってやろう。耳の穴を増やしてよーく聞け。この世は男女平等だ」

「立派なことを言ってるけど、それを言い訳に叩いてるようにしか思えないの!というか耳の穴は増やせないの!」

「なに?高町、俺の言う事を聞けないなんていつからそんなに偉くなったんだ。後で掃除ロッカーに突っ込んでやる。入り口をガムテープで止めて」

「いじめだよね!いじめだよね!大切なことだから二度いうよ!」

「で、何の用だ」

「今までの会話は一体何だったの!」

見ればいつの間にか残りの二人がやってきた
こいつら他に友達がいなのかと自分を棚に上げてこの三人の交友関係の心配をした

「と、とにかく、今日こそやってもらうからね!」

高町はいきなり目的語を抜かしていきなり戯言をほざきやがった
今日こそやってもらう?
そんなに何か高町から要求されていたことがあったか、自分の記憶を点検するがまったく身に覚えがない
だが高町は必死に頼んでいる
ならばこちらもちゃんと考えねばと思考する
いや、待て
もしかしたら高町が言っていることの漢字変換を間違えたのかもしれない
頭の辞書を使ってレッツ漢字変換
やってもらう→殺ってもらう
まさか高町にそんな自殺願望があったとは人間とは見かけや性格からは解らないもんだと理解する
いや、しかしまだ他にもあるかもしれない
もう一度よく考えてみよう
やってもらう→ヤッテもらう
なるほど、これが最近の問題の性の乱れという事か
政治家の人たちが慌てるのは無理もないと現場の苦労の一端を思わぬところで得てしまった
だがしかしまだどちらが真実か決定していない
どちらを取るかによって高町の人間性が変わる
これは心してかからなければと誓い真剣に考える

「あ、あの~、何でそんな今まで見たことはないくらい真剣に考えてるの」

「何を言う。今まさにこれからの俺が高町への態度を決定的に変わるかもしれないという瞬間なんだ。真剣に考えなければ失礼だろう」

「!?あ、ありがとう慧君!」

感謝された
ここまでされたなら答えを出さなければ、誠意にならない
ならば後は今までの高町の知識で答えを出すしかない………
考える
高町と言えば……
そうだ、そうだったではないか
まさか忘れていたとは、我ながら忘れっぽいと思う
今度メモ帳を買おうと心のメモ帳に書いとく
そう
高町は
いやらし子だったではないか……
だから答えは後者だ
なるほど
欲求不満なのか
まだ子供なのにと思うが人それぞれだろう
ならば答えなければいけない。自分の意志を

「すまないな、高町。俺はお前と違って健全なんだ」

「私のお願いをどう解釈したらそうなるの!!」

ドンガラガッシャー!と何やら机や椅子が倒れる音
見ればバニングスと月村が勢いよく倒れている
スカートの中身がよく見える
白と青か……
若いなと思う
だが高町の反応を見るとどうやら不正解のようだった
ではまさか答えは前者だったのだろうか
解らない
もうここまで来たら本人に聞いてみよう

「では、何なんだ」

「ただ名前で呼んで!って言いたかっただけなの」

ああ、なるほど。こっちとしてはケリがついたこととしていたのでその発想はまったくなかった
だから言おう

「断る」と

「むぅー!いい加減素直に言って欲しいの!」

「素直に断ったはずだが……」

この少女の頭の中では俺が本当は名前で言いたいんだがみたいな変換を勝手にしているのだろうか。幸せな頭だな

「むぅ、じゃあ今回は諦めさせてもらうけど……」

おや、諦めがいい
それに不安を覚えてしまうのは気のせいだろうか
その不安を現実にするかのように高町の言葉が続く

「そのかわりお願いがあるの」

「お願い?」

不安が徐々に大きくなる
嫌な予感は嫌な現実を引き寄せるという俺の経験が痛いくらい主張している

「つまりね」

ようやく体制を整えたのか月村とバニングスも会話に入ってくる
不味いと心の警戒音が響きまくっている
そして締めは月村が言った

「これからなのはちゃんのお家で遊ばない?」

その瞬間
俺は窓から逃げた
ここは二階だが、これぐらいの位置からなら無傷で着地できる技術ぐらいはある
今までの経験に感謝
自分の状況判断と条件反射に感謝した
だが、着地予想地点の場所に何やら見知らぬお姉さんが立っている
髪の毛は三つ編みで野暮ったい眼鏡をかけていて、年齢は高校生くらいで帰りなのか制服を着ている
身長はその年齢の女性の平均身長くらいで小柄だがしかし引き締まっているという感じがしており、その野暮ったい眼鏡の下は美少女と言ってもおかしくないぐらい整っていた
その唇はすこし驚きに歪んでいた
しかしそれは人が落ちてきたことに驚いたという感じではなくむしろ

本当に落ちてきたという驚きの表情だ…………!

しまったと後悔するが遅い
空中では身動きができない
その女性の手が伸びてくる
こちらを捕まえるために
こいつらグルかと捕まる一瞬で思った
まさか高町達に出し抜かれるとは抜かった
勿論奇跡など起こらずあえなく捕まってしまった
とりあえず明日高町を掃除ロッカーに一時間ほどぶち込んでやろうと決心する


あとがき
すいません、物語の進行が遅くて
あと、感想掲示板で色々言われていますが、駄作であるのは自分でも解っていますし、厨二臭いのは百も承知です
だからこんなものは見たくないと思っている方は見なくて結構です



[27393] 第三話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:20
いつもの我が喫茶翠屋
しかし今日は少し店じまい
久しぶりの休暇なのだ
最近家族での団欒をしていなにので丁度いいだろうと思って桃子と一緒に提案したのだ
それに前の仕事での事故のおかげで家族みんなに迷惑をかけてしまった
特になのはにはつらい思いをさせてしまった
不幸中の幸いか
なのはにも友達ができて毎日の学校を楽しく過ごせているようだ
それが何よりも嬉しかった
今日はその友達も連れてくるらしい
良いことだ
アリサちゃんとすずかちゃん
二人ともいい子だ
しかも不思議なことにすずかちゃんのお姉さんの月村忍ちゃん
彼女は何と我が弟子にして頼れる長男の恭也の彼女なのである
縁とは面白いものだ
二人の関係は良好そうだ
時々なかなかの甘々空間を作成している
思わず美由希が泣いて「痛い!私の青春が痛い!」と意味が解らない叫びをあげながら逃げたぐらいだ
ふふふ、しかしまだ桃子と俺のいちゃいちゃ固有結界にはには勝てんなぁ
俺たちの固有結界に勝ちたければこの三倍をがっ

「も、桃子。どうして皿を俺に向けて投げるのかなぁ?」

「あらあら、私も解らないの士郎さん。ただ何か士郎さんが変なことを考えているように感じたかしら?つい」

鋭い
不破家にもこれほど鋭い人間はいなかったかもしれない
流石俺の桃子
そういえばとふと美由希で思い出す
今日はアリサちゃんとすずかsちゃん以外のなんとなのは初の男友達を連れてくるらしい(強制)
本当はアリサちゃん達と仲良くなった時と同じくらいから知り合っていたはずなのだが如何せん、何だか付き合いが悪いらしい

例えば、名前で呼んでと頼んでも名前で呼んでくれないとか

例えば、一緒にお昼を食べようと誘おうとしたら逃げるとか

例えば、一緒に帰ろうと誘おうとしたら逃げるとか

例えば、なのはをいやらしい子扱いするとか

例えば、なのはを罠にかけて男子トイレに侵入させたとか

…………あれー?
何だか殺意が湧いてきたぞー
ははっはっはっはははははははははははは!
まずは軽い『挨拶』からしおうかなー
お父さん頑張るぞー

「父さん。考えていることは大体わかるが殺気は抑えてくれ」

「ははは、今日は士郎さん」

「ん?やぁ、忍ちゃんに恭也」

噂をすれば影とやらか
二人とも高校から帰ってきたか
美由希はなのは達への迎え兼なのはの男友達を捕まえる為に聖祥学校へ
どうやらその子逃げるとなれば手段を選ばず、二階から飛び降りたりするらしい
一度それをした時誤って空手黒帯の体育教師の上に着地してしまい壮絶な殴り合いが起きたらしい。やんちゃで元気な子供だ

「今日は二人とも早かったなぁ。どうしたんだい?」

「いや、忍が………」

「だってぇ、なのはちゃんもそうかもしれないけど、うちのすずかにとっても初の
男友達だよ~。気になるじゃない恭也。それにいつもすずかからご飯の時やら色んなときに聞かされるのよ~。風雷君、風雷君て。」

一瞬誰かと思ったがすぐに思い出す
そう確かその男の子の名前が風雷慧という名前だった
珍しい姓だなぁと思っていたのだ
だが、そんなことよりも

「ほう、それは驚きだね。すずかちゃん、そんなに彼の事を話しているのかい?」

意外だった
すずかちゃんはもう何回か会ったが、そんなに他人をそれも男の子について話題にするというようなタイプではないと思っていた
そこらへんは最初らへんの忍ちゃんに似ている
この娘も周りの何故だか知らないが壁を作っていた
きっと理由ありだろうと思う
だが、今は少なくとも恭也に対しては心を開いている
壁を作っていた理由を忍ちゃんから聞いてそれでも一緒にいると誓ったからだろう
今はそれだけでいい
いずれ俺達にも話してほしい
それが親というものだろう
話が逸れてしまった
しかし忍ちゃんの話を聞いているとなのはが言わなかった風雷君について知ることが出来た
曰く
喜怒哀楽がない子だとか
非人間的魅力があるとか
いたずら好きとか
一度も笑わない子だとか
喧嘩慣れしているとか
等々何だかそこまで褒められたような事ではなかった
というか、その

人間だろうか

そんな思考をしていた自分に愕然とする
頭を振ってその思考を消そうとするが消えない
大体一度も笑わない人間などいるはずがないだろう
感情は隠すことはできても消すことはできないが俺の持論である
そんなことが出来るとしたら植物人間か死人くらいだろう
生きているのならその束縛からは逃れられない
そう思う

「はは、やっぱり士郎さんもそう思いますか」

見ると忍ちゃんも苦笑している
困ったという感じで

「でもですね。すずかは同じことを言うんですよ。「きっと彼はどんなことも受け入れられる。能動じゃなくて多分受動的だと思うけどって」。すずかがここまでずけずけ人の事を評価するの初めて聞きましたよ」

苦笑しながらも何だか嬉しそうだ
きっと嬉しいんだろう
妹が他人の事を話題にあげてくれるのが
それを聞いて自分もハッと気づく
そう、例え本当にそんな子だとしてもなのはの友達でいてくれているんだ
なら、悪い子ではないだろう
我ながらみっともない
まさか自分よりも遥かに年下の女の子に教わるとは。俺も修行が足りないな
その後暫く三人で途中で桃子も入り談笑していると

「……ほ…いいか……かんね……!」

「諦め……がいいな……!」

「………風雷君………いこ………?」

「あ………わかって……もう遺言………した」

「…………まに、そんな…………のかなぁ?」

そしたらようやく子供グループの到着のようだ
意外と長いことかかった
きっと例の彼が嫌がって抵抗したのかもしれない
若いなぁと思う

「さぁ、迎えに行こうか」

「ええ」

「ああ」

「はい」

三人とも息をそろえて返事するのに苦笑して四人で立ち上がり玄関の方に行く
もう玄関の方に立っているのを気配で感じ取っている
どうやら美由希がドアを開けようとしているようだ

「今開けるぞー」

とこちらから声をかけあっちの動きが少し止まる
だが直ぐに返事が返ってきた

「うん、わかったお父さん。あ、あと、驚かないでね」

いきなり意味が解らないことを言う娘だ
一体何に驚くというのだろうか
四人で首を傾げる
もしかして風雷君が来ることはサプライズということにしているのだろうか
娘ながらボケているなぁと思う
みんなその話はなのはから聞いたのになぜ忘れるのだろうか
苦笑しながらとりあえず話に乗ってあげることにした

「はいはい、わかったから開けるぞー」

そして遠慮なくドアを開ける
瞬間
美由希の言っていた意味を理解した
彼の姿を見た瞬間

理解させられた




無理矢理拉致られて高町の家にお邪魔して数分
今、俺たちは

大乱〇で白熱していた

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」

「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

「……ダメ、私、ついていけない……」

上から俺、バニングス、月村姉、高町、月村妹の順番のコメントだ
ちなみに今の俺たちのバトルの様子は

「くっ、何でそこまで見事にカウンターを決められるの!?動体視力良すぎだよ風雷君!」

「月村姉も何でそこまでファ○コンパンチを上手いこと決めれる!こっちからしたら痛恨の一撃だ」

「ちょ、なのは!さっきから卑怯よ!ステージ端で飛ばされてようやく戻ってきたのにその度に吸い込んでまた吐き出して場外に飛ばすなんて!女なら真正面から堂々と戦いなさい!人気にでるわよ!」

「止めてよ!そんなリアルな事を言うの!だ、大体アリサちゃんだって、場外に少しでも出たら空中下攻撃をかまして直ぐKOするじゃない!人が弱っている隙にえげつないことしてるよ!」

「……あれ?私、影薄い?」

とこんな感じで盛り上がっていた
本当ならこの○ームキューブは四人対戦なんだが月村姉が改造して6人までいけるようにしたらしい。大丈夫なのだろうか?具体的に言えば法律関係」
結局勝者は月村姉だった。いや何であんなに上手いことファル○ンパンチを決められるんだろうね
そうやって上手いこと区切りがついた所に狙ったようなタイミングで高町母がお茶などを持ってきてくれた
多分高町はこの人から大量の遺伝子を貰ったのだろう。髪の色や顔がそっくりだ

「ありがとうございます。高町母」

「うふふ、別にいいのよ。何せなのはの初めての男友達だもの。でも、とりあえず高町母じゃなくて桃子さんと呼んでほしいんだけど」

「ははは、いやいや、そんな私などにそんなことは出来ません」

高町の性格は親譲りか
病名高町症候群と認定
これにかかると相手のことを名前で言わないと気が済まなくなる。重度になると相手に強制する。救いがたい病気だ
気を付けなければと肝に銘じる
そうやって油断したのがいけないのか。何を思ったのか知らないが急に高町母が急に頬を掴んできた。考え事をしていたので反応できなかった

「にゃにひょしゅりゅんでゃすか」

掴まれたまま喋ったので変な言葉になってしまう
見れば他のみんなもいきなりの行動に驚いたり首を傾げたりしている
しばらく頬で遊んでいた桃子さんからようやく返事が返ってくる

「いやね、その、笑わないなと桃子さん思ってしまって」

「………」

ああ、なるほど
見れば気にしている大人連中や高町達も耳を傾けている
そういえば言ってなかったか
別に隠すようなことじゃないから言ってもいいけど。何だか不幸自慢みたいになってしまうからあんまり言いたくないのだ

「いえ、別に。特別なことがあってこうなったんじゃないですよ。ただ、デパートの火災に巻き込まれたらこうなっただけです」

「………十分大事だと思うけど」

「もう一度言います。別に。そんなの国で見たらよくあることですし。世界の視点で見たら大量にある事故の内の一つです。特別なことじゃないですよ」

そうどこにでもあるような事だ
あんな地獄、世界のどこにでもある
俺はただその内の一つに触れただけ
黙った高町母の代わりに高町父が代わりに話す

「まるで……他人事のように話すね、君は」

そうだったかなと首を傾げてみる
別にどうでもいいことだろう

「………一つ聞きたいんだが」

今度は高町兄か

「何でしょう?」

「………君のご両親は」

今度はそっちねと思い素直に答える

「ええ、目の前でその火災で死にましたよ」

その一言で空気が凍る
はて、何か変な事を言っただろうか
解らず悩んでいると

「………変だよ」

と高町がボソッと呟く
言葉は続く

「おかしいよ。どうしてそんな風に自分の大切な人が死んだのにそんな無感動で入れるの?どうしてそんな酷い目にあったのにそんな無感動でいれるの?どうして、どうしてなの!」

最初は探るようだったが最後のほうは言葉を矢の用に飛ばすぐらい感情が込められていた
何か高町を揺るがすような事を言ったのかもしれない
だが

「じゃあ、何だ。悲劇的に言えばいいのか」

「っつ」

「悲劇的に言ってみんなからのお涙頂戴。素晴らしく泣ける話だね。高町が言いたいことはそういうことかな?」

「わ、私が言いたいのはそういうことじゃ………」

「同じさ。しかしこれだけは言わせて貰おう
同情なんかいらない
憐みなんかいらない
そんなものはうっとおしいだけだ。反吐が出る。
同情していいのは人を助ける時だけだ
それ以外のはただの憐みという名の見下しだ」

「ふ、風雷君。言い過ぎだよ………」

「そうか。とは言っても俺の持論を話しただけだ。別に理解しなくてもいい」

そう言ってあっさり話題を断ち切る
雰囲気はさっきまでの賑やかさから考えられないぐらい最悪になってしまった
確かに言い過ぎた
何か言ったほうがいいのかもしれないが生憎そこまで口は達者な方ではない
どうしたものかと思っていると
パン!と手を叩く音が聞こえる
見れば高町姉が手を合わせている
これはまさか………!

「高町姉、まさか………人体錬成を……!」

「駄目よ美由希ちゃん!持ってかれるわよ!」

「ふむ、でもこのシーンは恭也が立場的にしなければいけないのではないか?」

「そして美由希は鎧になるか……」

「な、何でそうなるのー!」

俺、月村姉、高町父、高町兄のコラボレーション突っ込み
うーん。座布団一枚だ
では要件は一体なんだろうか?

「えーと、今日はお泊り会でしょう?だから、そろそろ用意とかをした方がいいんじゃないのかなーと思って」

「ほう、美由希の言うとおりだな。部屋の用意とかしないといけないからな」

ほうほう、今日はお泊り会だったのか
では、邪魔にならないうちに

「とこに行こうとしているの、風雷」

「………ちっ、トイレさ」

「………今露骨に舌打ちをしたよね。というかトイレに何故荷物が必要なのかしら。私聞きたいなぁ」

何故かってそんなの決まってる

「実はこの中には俺専用のトイレットペーパーが…」

「何でカバンの中にそんなのをいれているのよ!」

馬鹿な、いざという時に便利だぞ

「ふぅ、でも古典的な失敗をしてるようだから言うけどーートイレそっちじゃないわよ。そっちは出入り口だけ」

なん、だと

「バニングス、一体誰がそんなことを決めた」

「いや、誰が決めたとかじゃなくて」

「馬鹿者!答えがただ一つだけと決めつけるんじゃない!」

「え?何。私叱られてるの?」

「いいかバニングス。答えが一つなんて誰が決めた。誰も決めてないだろう。なのに答えがただ一つしかないと決めつけるその思考はただの諦めだ」

「!?」

「だが、俺は諦めない。地べたを這いずり回ろうが、泥水を啜ることになっても俺は諦めないぞ」

「風雷……」

「さぁ、行くぞ!!」

「待てやこら」

「ちい」

騙されなかったか
高町辺りなら誤魔化せていたはずなんだがな」。ふん、なら理論で片付けさせてもらう

「大体な、いきなりすぎて何も用意などしておらんよ。例えば服とか」

「確か恭也の子供の頃の服がまだあったわね」

「ああ、まだ押し入れにあったはずだ。サイズは見たところそこまで変わらないみ
たいだ」

高町兄、高町母、余計な真似を

「た、例えばよくあるお泊りセットとか」

「父さん、確か余りの歯ブラシとかあったよね」

「ああ、確かここに……あったあった」

ブルータスよ、お前もか

「ほ、ほら、飛び入り参加だから部屋が空いてな……」

「じゃあ、慧君の布団は恭也の方にしいとくわね」

「ああ、構わない」

に、逃げ道が

「ほ、ほら、高町家に金銭的な負担が」

「あらあら、子供が三人増えたぐらいなら大丈夫よ」

お、己!

「う、家の冷蔵庫に今日中にやらなければいけないものが」

「後でこっちで弁償してあげるわ」

止めて!俺のライフポイントはとっくにゼロだぞ

「じ、実は枕が変わると眠れないんだ!!」

「ダウト!あんた机の上で毎時間グースカグースカ寝てんじゃない!!」

ちぃ!退路は断たれたか
ならば手段はただ一つ

「こうなったら無理やりいかせてもらう!!」

「ほう、小太刀二刀御神不破流を前によくぞ吠えた少年!」

数分後あえなく負けてしまった
みんなからは筋がいいと言われたがそれは嫌がらせでしょうか



ぎぃぃぃぃぃ、ばたん
十年くらい慣れ親しんだドアが開く音で俺は目を覚ました
目を開けるとそこには慣れ親しんだ俺の部屋の天井
今日はなのは達の友達のお泊り会で部屋の中にはその友達の一人の少なくとも俺の知り合いの中で一番複雑怪奇な子供と一緒に寝ていたはずだ
目を彼が寝ていた方に向けるとそこは空っぽ
やはり、彼が出て行った音らしい
それにしてもドアが開くまで気づかないとは
彼は驚くほど気配を断つのが上手い
それに何故だか大体が我流だが体術の心得があるらしい
でなきゃいくら父さんが手を抜いたからといって数分ももたないだろう
誰に教わったのかと聞いてみると

「超野蛮な山猿から教わりました。何と無礼なことに人間であるとか言っていますが」

とか言っていた
何でも散歩していたら急にその顔気に食わん!ほわちゃーとか叫んできてバトルになってそれ以降出会ったら訓練という名の殴り合いを
しているらしい(それを警察に見られて危うく捕まりそうになったが山猿をフレアにして逃げたとか言っている)
お互い名前も知らないとか。それなのによく出会うらしい
それにしても何処に行くのだろうか
眠れないのだろうか
心配になって起き上がった
気配を探ってみると彼が行こうとしている方向は

「屋上か………」

直ぐに向かった。
念のため足音を消して


屋上
そこに彼は座っていた
今日は快晴だったからか、いつもよりも美しい星空が広がっている
まるで人々の命のきらめきだ
それを彼は見上げて座っている

「起こしてしまいましたか」

いきなり声をかけられた
気配と足音は消していたはずなのに

「凄いな、もう気づくなんて」

「流石に真後ろに立たれたら気づきます」

そう言いながら彼はこちらにその背中を向けたままである
この夜空を見ている方が大切だと背中が語っているように見える
彼の隣に座り、俺も星空を見る

「どうしたいんだい、眠れないのかい」

「惜しいですね。正確には眠りたくないが真実です」

その答えに思わず眉を歪める
何故眠りたくないのだろうか
不眠症かと思ったが彼の顔は表情こそないが不健康には見えない
隈一つもない
では何が彼をそうさせるのか
答えは直ぐに聞けた

「昔の、昔の話をするとよく夢にでるんですよ」

何の夢とは聞かない
そんなものは聞く前から答えは解っていなくては人間としてお終いだ
言葉は続く

「それもね、厄介なことにですね。両親が死んだ瞬間を見せられるのですよ」

困ったもんだと言いたげな仕草をする
俺は何も言わない

「それ以降の光景ならいいんですけど、何故だか知らないが過去を話すといつもこうなる」

彼は表情を無表情のままにしたまま話す
今更だが理解した
彼はこの星の海を見ていない
焦点が合っていない
彼が見ているのは今ではなく過去だ
そう、彼の瞳には過去に経験した地獄を見ている
見ている
いや、見続けている
現在進行形で彼は過去を見ているのだ
彼にとっては今も地獄の中にいるようなもんだ

ああ、俺は何て勘違いをしたのだろう

俺は彼には感情なんてものはない少年と思っていた
周りのみんなもそう思っているかもしれない
酷い勘違いだ
彼は亡くなった両親に対して罪悪感を覚えている
自分だけ生き残ってごめんなさいと
いや、もしかしたら両親だけではないのかもしれない
その場にいて死んだ人達にもそう思っているのかもしれない
彼は何でもなさそうに話すが逆だ
彼は何でもあるようなことを何でもなさそうに話すのだ
勿論これは勝手な決めつけかもしれない
実は本当に何にも思っていないのかもしれない
しかし彼は見たくもない光景なのにその嫌なことを俺たちに話してくれた
それだけは

勘違いではない

そう思い彼の頭を撫でた
すると彼は不機嫌そうな声で

「子ども扱いしないでください」
等言ってくる

思わず笑う
小学一年生なのだから子供なのに
弟がいたらこんな風なのかもしれないと思う
俺はそのまま頭を撫でる
彼は不機嫌そうに喋る

「いい加減止めてください恭也さん」

その時初めて名前で呼んでくれた
他者のことを名で呼ばぬ彼が俺の名を
何故と問うと

「………愚痴を聞いてくれたのは貴方が初めてだからです」

つまり認めてくれたのか
成程、彼は誰かにこの話を聞いて欲しかったのかもしれない
それがたまたま俺だった
それがたまらなく嬉しい
剣士である俺が
剣以外でも誰かに認めてもらった
ただそれだけが嬉しかった
俺たちはそのまま朝まで星を見ていた
お互いを何も言わずただ星を




[27393] 第四話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:20
風雷君の辛い過去の話から翌日
普通ならこう空気が嫌な風にギスギスする日
そうなると誰もがそう思っていた
結果は半分正解で半分はずれ
そう、何故だか知らないが

恭也さんと風雷君が物凄く仲良くなっているのだ

見た目とかそういうのが変わったとかではない
証拠の会話はこれだ

「慧君、そこの醤油を取ってくれないか」

「どうぞ、『恭也さん』」

そう恭也さんだ、あの風雷君がだ。もう一度言わせて欲しい

あの風雷君がだ

今まで一度も誰かの名前を言わなかった風雷君がだ
今までなのはちゃんの要求を一度も飲まなかった風雷君がだ
恭也さんはどんな奇跡を使ったのだろうか
どんな魔法を使ったというのだろうか
あ、なのはちゃんのお箸が折れた
今の内にお皿を退避
退避した直後

「どういうことなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉx!!」

と机をバン!と両手で叩いた
その時にはみんなも予想していたのかお皿とかを退避させていた
なのはちゃんの行動って読み易いよね
そんな中恭也さんと風雷君はいつも通りだった

「なのは、ご飯中にそんなに叫ぶのははしたないぞ」

「というか近所迷惑だ」

「そんな些細なことは今の大事と比べたら大したことではないなの!!」
あはは、なのはちゃんがいい感じにおかしくなってる

「お兄ちゃん!一体どうやって慧君から名前で呼んで貰えるようになったの!!説明を要求するなの!」

まぁ、私達も気になっていることなので誰もなのはちゃんを止める人はいない
むしろ、そうだそうだ、ブー、ブー等みんな言っている
このメンバーでは私は自然と影が薄くなってしまいそうだ。グスン
ごほん、そしてその質問に件の二人はお互いアイコンタクトをして一言

「「気が合ったから」」

ユニゾンした一言であった
一瞬
なのはちゃんから全ての動きが消えたような気がした
即座にみんなは理解した

いかん、嵐の前の静けさ状態だと

予感道り直ぐに爆発した
大声という名の嵐を

「納得いかないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

鼓膜が潰れたかと思った
事前に耳を塞いでいなければやばかったかも
運動神経はなのはちゃん低いのに肺活量はあるのかもしれない
ちなみに一番近くで聞いていた士郎さんは床に倒れて桃子さんと漫才をしていた
内容は

「桃子………俺はもう……」

「そんな!しっかりして下さい!士郎さん!!」

「ああ………俺は……桃子みたいな…………素敵で素晴らしく美しい人と………結婚できて…………幸せだ………ガクリ」

「しろ、う、さん?士郎さんぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

息が合ったプレイだ
そこを空気を読んだお姉ちゃんがスポットライトを二人に当てていた
それ以外のみんなは華麗に無視していた
それのせいで更に士郎さんの瞳には涙が………
見なかったことにしよう

「高町うざ………煩いぞ」

「今さらりとうざいって言おうとしたよね!どっちにしろ悪意が隠せてないなの!」

「え?悪意って隠すものなのか?」

「はい決定!有罪決定なの!なのは法典では死刑って決まったけど遺言はある!」

「言いたいことならある━━俺を殺すには高町じゃあ役不足だ」

「OKなの。つまり戦争なの!」

「戦争?一方的な虐殺の間違いだろう」

「なのーーーーーーーーー!」

なのはちゃんが風雷君に突撃するが風雷君に頭を押さえられてそこから一歩も前に進まず、手も届かない
まるで漫画のギャグシーンだね
そう思っていると何だか風切り音が
余裕の状態だった風雷君が珍しく顔色を変えて咄嗟に頭を伏せる
すると彼の背後の壁に何か生えていた
見るとそれはえーと飛針だっけ、一度恭也さん達の修業を見せてもらった時に見たことがある
何でそれが生えてるんだろうと思ったが直ぐに気づいた
ああ、さっきの風切り音はこれを投げたから
では、誰が
みんなその思考に至ったのか飛針が飛んできたと思われる方向と思わしき方を見ると
そこには構えていた士郎さんが
冷や汗をかきながらそれでも表情を変えない風雷君
この状況では滑稽に見えるのは私の気のせいでしょうか

「あ、あの~高町父。今の━━当たってたら死んでると思うんですが」

「安心しろ風雷君。━━確信犯だ」

ちゃきと何か音が聞こえた
士郎さんが刀を構えた音だった

「━━模擬刀ですよね」

「いや、そんな失礼なことはしないとも。お客様用ミラクル真剣だ。これに斬られると、あら、不思議。一つの物が二つになるんだよ」

「………峰打ちですよね」

「HAHAHAHA,面白いジョークだね。だが俺は仕事には真面目でね。業務に従って刃の方を向けないといけないんだよ」

「ははは、聞きたくないんですけど聞かなければ俺の命が斬られそうだから聞きますけど。その仕事とは?」

「よくぞ聞いてくれた。その仕事とはな………」

「仕事とは?」

「なのはをいじめた男を抹消………いや、抹殺することだ!!」

「いかん!ただの親馬鹿か!!」

「親馬鹿結構!なのはの為ならそこらの野郎共なんぞ滅殺してやろう!」

「高町父!控えめに言いますけどあんたおかしいぞ!!」

「問答無用!!御首頂戴!!」

刀を振り上げバーサーカーの如き狂気を抱きながら風雷君に向かう
みんなマジとわかって士郎さんを止めようとするが流石は一流の剣士
スピードが段違いに速い
恭也さんも美由希さんも止めようとするが一歩遅い
風雷君も逃げようと体を動かすが、動かそうとした直後彼は気づいたようだ
逃げ場所がないのだ
横はテーブルと壁
前後は襲い掛かってくる士郎さんと驚きで棒立ちしているなのはちゃん
これでは逃げようがない
しかも士郎さんのスピードを見ると動けて一歩分
それではどう足掻いても逃げられない
風雷君、絶体絶命だと思った
だが、彼はそこでは終わらなかった
彼はその一歩を自分を動かす為に使うのではなかった
彼は足を動かし、周りにあるものを士郎さんに向けて蹴るために一歩を使った

つまり、さっきまで座っていた椅子を

当然、士郎さんはそれに対処しなければいけない
何故ならば条件が風雷君と同じなのだ
横はテーブルと壁
前後は迫りくる椅子と後ろには桃子さんが
となると迎撃するしかない
飛来物を刀で迎撃
しかし言うほど簡単ではないだろう
そもそも刀は人を斬るものだ。断じて木材などを斬るものではない
しかも高速で動いている物だ
並みの剣士では無理だ
逆に刀が勢いに負けて折られるだろう
されど、高町士郎は並みの剣士ではない
超超一流の剣士
御神不破流の師範なのだ
高速で飛んでくる椅子など

たやすく斬れる

疾っという風切り音は
斬という風切り音に変わった

余りの鋭さと速さに椅子は少し遅れて真っ二つに分裂した
一つの物は二つの物になり、それらは士郎さんを避けて飛んだ
私にはその斬った瞬間が全く見えなかった
そしてもう一つ見えなくなったものがあった
士郎さんも遅れて気づいたのか、少し目を開く
だが、次の瞬間。士郎さんは後ろを見た
そこにはさっきまで士郎さんの前にいたはずの風雷君が中腰で立っていた
一体どうやって………!!
瞬間移動でもやったのか
答えは士郎さんの口から聞けた

「上手い状況判断だ。椅子を蹴り飛ばした直後、君も走り抜けそのまま私の股の下を潜り抜けるか。確かに視界は飛んでくる椅子のせいで狭まるし、君は小学一年生だ。小柄だから十分に出来る作戦だ。しかし、それが御神流以外ならのはずだが………気配を隠すのが上手いね」

「ええ、いつも喧嘩を挑んでくる山猿に逆に奇襲を仕掛ける時に身に着けた技です。しかし流石に猿ですから、野生の勘が凄くてなかなか成功できませんが人間が相手なら不可能ではないでしょう。現に恭也さんにも通じたわけですし」

「成程、だからこんな無茶な作戦をしようと思ったのか。大した胆力だ。美由希に習わせたいものだ」

うんうんと一人頷いている士郎さん
凄いと正直に思う
あんな一瞬でそこまで頭が回るなんて私には不可能だ
例えそれを可能にする身体能力があったとしても咄嗟にしろと言われたら私には無理だろう
多分私ならあの状態でただボーと立って、為す術もなくただ剣撃を受けるだけだろう
凄いなともう一度思う
しかし、それだけの事を成し遂げた彼の顔からは緊張は取れていなかった
答えは簡単
士郎さんが説明する

「でも、その後が続かない」

「………」

「確かにその年頃でそれなら素晴らし過ぎる動きだ。一種の天才かもしれないかもね。しかしだ。それでも俺にはまだまだ届かない。その気になれば。攻撃はおろか防御もさせずに俺は君を倒すことができる」

「………」

事実だろう
風雷君は色々なものが士郎さんに負けている
例えば体格差
例えば経験
例えば身体能力
等々色々なものが負けている
仕方がないことだろう
そもそも風雷君は腕が立つとはいえども少し喧嘩慣れしているといっただけだ
対する士郎さんは実戦式の剣術を習得した超一流剣士だ
むしろ今の攻撃を躱せたことだけでも奇跡の領域だ
多分、武術に関して詳しい人がいたらこういうだろう
この少年は称賛に値する、と
しかし限界だ
これが彼の限界だろう
それを彼もわかっているだろう
元より聡い少年だ
彼我の実力は理解しているはずだ

「さぁ、君の負けだ!」

士郎さんは勝利を確信したのか叫び大胆にも彼に大股で近づこうとする
しかし、急に彼がおかしな行動に出た
緊張を解いたのだ
士郎さんもおかしいと思ったのだろう、歩みを止める
そして問う

「どうしたんだい?こんな場面で緊張を解くとは━━自殺行為だよ」

「いえ、もう終わりましたから」

へっ?と思わず間抜けな声を出してしまう
だってどう見ても風雷君の不利………あ~ようやく理解したよ
確かにこれで終わりだね
どうやら士郎さんは気づいてないようだ
ええと、こういう時は十字を切るんだっけ?

「どういうことだ………ひぃ!」

がしっと士郎さんは後頭部を思い切り後ろから鷲掴みにされました
ぎぎぎと無理矢理死刑囚、いや士郎さんは後ろに振り向かせられる
そこには

満面の笑みの桃子さんが

みんな悟った
士郎さんの命はここまでだと
だからそれぞれ士郎さんの旅路のために手を合わせたり、十字を切ったり、遺影を撮ったり、線香に火を点けたりしている(つまり、誰も士郎さんを助ける気がないんだね♪)
士郎さんは命乞いをする

「も、桃子、待ってくれ。こ、こここここここここれれれれはだだだだななななな」

「はいはい、何ですか、士郎さん?」

「そそそそそそそののののだだなな。スーハー(深呼吸)。な、なのはを虐める不届きものに成敗をしようとだなぁ」

「あらあら、私には二人は微笑ましい行為をしていただけのようにしか見えませんでしたが」

「い、いやいやいやいや、そんなことはないぞ!彼はあのなのはの頭を押さえつけるという悪行をしていたんだ!!」

「ふふふ、そうなの?━━じゃあ、お話はそれで終わりですね」

「!!!!???」

うわぁ、士郎さん、凄い顔している
でも誰も助けようとはしない
このメンバーな中には命知らずの空気を読まない人間はいないようだ
あ、風雷君。写メで士郎さんの写真をモノクロにしているぅ。しかも何故か賞金首にしている。わぁ、二千円だ。

「じゃあ、行きましょうか拷問………私たちの愛の巣に」

「あっはっはっはっはっはっはっは、今、間にモノスゴイコトバガハサンデイタヨ
ウナキガシタノハキノセイデショウカ」

「うふふ、大丈夫よ士郎さん。━━子供達を思って言葉を変えたの」

「嫌だ!止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、こきゅりゅ!」

あ、短い悲鳴が
急に力が抜けた士郎さんはそのまま首根っこを掴まれたままずるずると引きずられ違う部屋に入ろうとする

「あ、そうそう」

すると何を思ってか。急にその満面の笑みをこちらに向けてくる
みんなピクリと一瞬で背筋を伸ばす
本能って凄いと知りたくもないことを私は知ってしまった
ついでに笑顔ってこんなにプレッシャーがあるものなんだと知ってしまった
その笑顔で一言

「絶対に見に来ちゃ━━駄目よ」

ひゅーーーーーーー、ばたん
答えも聞かずに桃子さんはドアを閉じた
誰も動くことができなかった




それから一時間
私たちは片づけをした後、それぞれの時間を過ごしている
風雷君はさっきの動きを見て恭也さんと美由希さんに修業に誘われ引きずられていった(そこらへんは親子そっくりだ。ちなみにまだ士郎さんと桃子さんは帰ってきていない)
彼は彼でノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォと言って連れて行かれていた
味のある悲鳴だった
表情は無表情のままだったが

「それにしても士郎さんのあれは大変だったねぇ」

「本当ですよ」

お姉ちゃんとなのはちゃんの話が耳に入る
士郎さんには悪いが仕方ないだろう
あれじゃあ、なのはちゃんに何時までたっても恋人が出来ないんのではないだろうか
そう思いながらお茶をズズズーと飲む
ああ、美味しい。適度に温かいお茶が美味しい
「困るわねー。もし、すずかの想い人に何かあったら大変な事よー」

「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「目が!!目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あ、アリサちゃん!!落ち着いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

飲んでいたお茶をはしたなくも、思い切り噴出した
アリサちゃんは適度に温かいお茶を目に浴びて大ダメージ
なのはちゃんはそんなアリサちゃんを見て大慌て
結論はカオスになった
の前に

「お、おおおおおおおおおお姉ちゃん!!いききききっきなあななななりりりりいりりり何をぴゅうの!!頭大丈夫!!?」

「うんうん、いい感じの壊れ方ねぇ~。でも最後の方だけがまともに話せていたことにすずかが日々お姉ちゃんに対して何を考えていたかお姉ちゃん、理解しちゃったなぁ」

今はそんな些細なことはどうでもいい
問題は

「え?そうなの?すずかちゃん、慧君の事が好きなの?」

「へー、すずかも変わった趣味してるわね~。まぁ、気づいていたけど」

この二人、というよりなのはちゃんだ

「な、なのはちゃん!」

「うん、な………っていたたたたたたたたた!!食い込んでる!すずかちゃん!すずかちゃんの一見繊細そうな指が私の脆い肌を呆気なく貫通してるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

無視した
今はそんなことは問題ではないはずだ
なのはちゃんの肩よりも重要なことだ
それは

「いい!なのはちゃん!」

「うん!なに!できゃりゃば私にょーー!!肩がクライマックスを超えらーー!前に!!」

なのはちゃんのキャラが壊れている感じがするが気にしない

「絶対、絶対、絶ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー対!!!」

「ねぇ!それ、わざ!!っとなの!わたしょ!のkつう!をのっばっすだめの、じがーーん稼ぎなの!うにゃ!!」

「ねぇ!なのはちゃん!真面目に聞いて!!」

「聞いた!!いったぁ!舌噛んだなの!」

「嘘つき!!遊んでるよ!!」

「じゃあ、その握力を弱めにゃ!にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!推定70キロオーバー!!?私もう死んでてる!!?」

「すずか!落ち着きなさい!!なのはの内面と肩と言語が既に原形を留めていないわ!!ついでにアンタの内面も!」

はっ!私としたことが!
えーと、こういう時は

「ほ、骨だけは拾うからね!!?」

「駄目よすずか!それ、なのはの死亡フラグ!!」

ポキッ

「「あっ」」

何だか枝を折ったかのような音
それは何故か知らないが私の手の中、つまりなのはちゃんの体内から聞こえたような気がした
…………………………………………
沈黙が漂う
私とアリサちゃんは冷や汗を一筋流す
どういう行動をすればこの場でベストなのか、それだけを考える
ゴクリと二人で息をのむ
そして息を吸う
そしてついに一言

「「おお、なのは(ちゃん)よ。しんでしまうとはなさけない」」

「死んでないよ!!」

あっ、生きてた
良かったぁー。この年で前科持ちはやだよ~


時間をかけてようやく落ち着いて話せるようになった

「も~、すずかちゃん~。痛かったよ~」

「ご、ごめんねなのはちゃん。つ、つい」

「ごめんねだけじゃあ鎖骨の痛みは帳消しにならないの」

「………(何でなのはは明らか鎖骨が折れたはずなのにもうダメージから立ち直ってるのかしら。高町家の不思議?」

「アハハ、すずかも可愛くなったね~」

「お、お姉ちゃんっ」

「(そしてこの人はあれだけの惨状を前に顔色も変えてない。あれ?常識人は私だけ?)」

「それにしてもすずか。彼のどこに惚れたの?」

「うっ」

「あ、それ私も聞きたーい」

「私もー」

「あ、アリサちゃんやなのはちゃんも………?」

「当然よ!友人のコイバナ程面白そうな………応援し甲斐なものはないわ!!」

「右に同じくなの!」

「アリサちゃん。出来れば本音の方を隠してくれていたら少し感動していたんだけど……」

「で、どうなの?」

「う、の、ノーコメントでお願いします………」

「あら?私達にそんな可愛らしい行為が通じると思っているなんて。可愛らしい子━━なのはちゃん、アリサちゃん。すずかを羽交い絞めしてちょうだい」

「了解なの!」

「任せて下さい!」

「ひゃ!ふ、二人とも止めて!お、お姉ちゃん。な、何をする気………」

「ふっ、決まってるでしょう」

そう言ってまるで聖母のような微笑みを浮かべるお姉ちゃん
私この笑顔をどういうのか知っている
それは

「すずかが素直になるまで揉むのよ」
悪巧みと

「も、もみゅ!?や、やっぱりお姉ちゃん!そっちのけが!!?」

「やっぱりっていうのはどういうことかな!?ふふふ、でも今はその称号甘んじて受けましょう!妹の乳を揉むために!」

「駄目だよお姉ちゃん!!そのキャラ何だか知らないけど誰かに被ってる気がするの!!頭に浮かんだビジョンだと狸っぽい子に!!」

「そんなの今の私には関係ない!!」

「ひゃん!!」

揉まれた
それも鷲掴み

「ふふふ、ここがいいのでしょう、すずか?」

「や、やぁ、やめてぇ。あっ」

「ふふふ、口ではそう言っても体は正直ねー」

「「わ、わぁー」」

お願いだから止めてー!!
と変な雰囲気になっていたら

「し、死ねる………あの鍛錬死ね………」

がちゃり
風雷君がドアを開けた

「「「「「…………………………………………………………………………」」」」」

言葉なんていらなかった
私達にはそんなものはいらなかった
悲しいことに
ばたんとドアを閉じられる
その動きでみんなの動きが再開される

「ふ、風雷君!誤解だよ!!」

「ああ、大丈夫、月村。俺は空気を読めるいい子。だから遠慮なく続きをヤッテくれ。俺はそれを遠くから侮蔑の目で見るから…………」

「お願い!!その気持ちはわかるけど、今回だけは空気を読まないで!!あと、全然フォローにもなってないし、逆に追い打ちをかけているよ!お願いだから信じて!!同性愛の趣味を持っているのはお姉ちゃんとなのはちゃんとアリサちゃんだけなの」

「え!!ここでまさかのカーブをするの!!すずか止めなさい!!変な趣向を持っているのはなのはだけよ!!私はどノーマルよ!!」

「ええ!アリサちゃん!?私を売るの!!」

「いや、わかってるんだ………高町症候群にかかっていて変態なわけはないって。解っていたさーーーーーー救いようがないって」

「駄目だ!こいつ話を聞いているようでまったく聞いてないわ!!」

「ふふふふふふふふふ」
彼は不吉な笑いをしながらドアから遠ざかっていき、最終的に走りながら


「月村も変態だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

と叫んで行った
その後私達は彼を追いかけた
誤解を解くために
私は変態じゃないよ!!!

風雷慧  脱走


あとがき
質問に答えますけど、彼は声には感情が少し篭っているのに、顔に感情が宿っていないというアンバランスな人間です
だから設定は壊していない…………はずです
あと、一つ聞きたいんですが一部だけ文字を大きくしたり、ルビをするにはどうやったらいいのでしょうか
出来れば教えていただきたいです



[27393] 第五話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:21
魔窟の世界から逃げ、今俺は図書館にいる
別に他意はない
単純に適当に逃げてきたら、ここの近くに来ていたのでここに逃げ込んできたのである
それに月村ならともかくあの二人が本を読むとは思えないと思ったのだ
完璧な作戦
思わず自分の頭を撫でてしまうくらい完璧だ
さらに思わず独り言を呟く

「まったくーーーー傑作だな」と俺は笑わず

「戯言やろ」と狸は笑った

「ていうかキャラ的に言うセリフが逆やろ!!更に私は狸ちゃう!!」

「な、何を言う!お前が狸じゃなかったら何を狸と言うんだ!いい加減にしろ!」

「え!?何でや!私何で逆切れされてんの!?この場合私がキレるシーンやろ!」

「そんな空気、俺が殺して解体して並べて揃えてーーー晒してやるさ」

「やめぃ!色々迷惑や!!」

「鏡を見て言え」

「辛辣なツッコミ!」

ああ、癒される
まさか狸相手に癒されるなんてーーーー高町家よりは百億倍ぐらいマシだからな
この気持ちを一言で表したら何と言うだろうか
獣に癒し
ぴーん

「ケヤし…………」

「すいませーん。誰かこの人を病院に連れて行ってくださーい」

「病院?お前が今から行くのは動物園だろう?」

「はははは、残念ながら私には二度ネタは通じひ…………」

「----餌として」

「まさかの見世物ではなく、消費物!!?」

「こんなゲテモノを見世物になんてーーーー俺にそんな酷いことが出来るはずがないだろう」

「はい、ダウト!!現在進行形で私に酷いことをしてるくせに、どの口が言うねん!!」

「この溢れんばかりの善意と悪意を溜めているこの口が」

「確信犯か!!」

お互い挨拶という名のコントをする
しかし、そんな僕たちは実は会うのは二度目だという
はっはっはっはっは、遠慮ないなぁ、お互い

「そやねぇ、私達会うのが二回目とは思えへん程コントしてるで」

「何だろうなぁ。この連帯感」

「こ、これはまさかーーーーー恋?」

「ごめん、俺自殺するわ」

「私の心がじさつしちゃいそうや~」

がしっと握手する
呼吸を合わせて一言

「「おお、心の友よ!!」」

この会話
そう!こういうことが出来る相手を求めていたのだ
ああ、至福の時間
でも至福の時間は長くは続かない
そう、それは機能理解してしまったことであった

「「「見つけたよ(わよ)!慧君(風雷、風雷君)!!」

「な、何や!」

「下がれ八神!いや、こいつらに近づくな、話すな、触るな、同じ空気を吸うな!!もしこれらを守らなかったら高町症候群にかかってしまうぞ!!」

「た、高町症候群?」

「そう、病名高町症候群。症状はレズになったり、ストーカーになったち、親馬鹿になったりと様々な症状が出るが結果はかかったらーーーーー変態になる」

「そ、そんな恐ろしい病気が!?」

「駄目だよ!彼の言うことを真に受けたら!風雷君は屁理屈を並べることなら世界を狙えるもの!」

「屁理屈で世界を狙えるということはつまり俺の屁理屈は世界を支配できるということか………………大したものだ」

「駄目だよアリサちゃん!もう慧君には言葉は通じないと思うよ!!」

「さらりと酷いわねなのは……………」

「わ、私はどっちを信じればいいんや……………?」

「「「「無論、こっち(だ、よ、なの)!!!」」」」

「あかん!あかんでぇ!!私がボケることも、ツッコむ事も出来ないなんて!私はどうすればいいんや!!」

わいわい騒ぐ俺達
互いに譲らず、互いに主張するので話は平行線
決め手がない状態で更に騒ぐ
だが、俺たちは忘れていた
そう、ここが図書館(公共の場)だということを

「あいた!」

「きゃっ!」

「いたっ!」

「にゃっ!」

「あがっ!」

同時に悲鳴があがる
何故悲鳴がというと答えは至って単純
何かをぶつけられたからである
何かというのは

「ぼ、ボールペン?」

「シャーペン?」

「練消し……………」

「じ、Gぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!何で私だけこんなんやねん!」

「…………………明らか殺意が籠った六法全書」

みんなが一体誰がこんなことをと思い投げられてきたと思われる方向に振り向いた
そこには

こめかみに立派な青筋を立てていたお姉さんが

その視線がこう言っている

図書館で暴れんなよ糞ガキがと

その場の判断で全員逃げだした

運動神経の悪い高町と車いすの八神を残して
うらぎりものーと声が聞こえたような気がしたがそんな些細な事では俺達の逃走本能には勝てなかったのである




「まったく、ひどいよ!」

「ほんまや!」

「だからごめんって何度も言ってるでしょう」

「そうだぞ、こんだけバニングスが謝ってるんだ。そろそろ許してやれ」

「……………まるで自分は何も悪くないっていう言い方だねぇ」

「え?俺悪いことなんて一度もしたことがないよ」

「「「「はい、嘘!!」」」」

「人の言っていることを疑うなんて……………悪い子だな」

「そのセリフ、慧君には言われとうないわ!!」

「同意見だよ!」

「右に同じ」

「左に同じ」

失礼な奴らだ
今は図書館から逃げてきて公園に来ている
流石にあのままあそこに居残るほどみんな精神力は強くなかったのである
あの後は八神をみんなに紹介した
その後、高町恒例の秘技「名前で呼んで」を使い見事八神を洗脳した
恐ろしい能力だ
そういえば八神。お前は人見知りが激しいんじゃないのかと尋ねてみたら
「いやいや、あんなボケて、ツッコんでたら、そんなん乗り越えてしもうた」
ということらしい
別にどうでもいいけど

「ああ、私これからどういう顔してあそこに行けばいいんやろうか…………」

「大変だな、八神」

「だ・れ・の・せ・い・や!!」

「そこの三人娘」

「風雷?責任転嫁っていう言葉知ってる?」

「勿論知っているとも。それがどうした?」

「あははは、時々むかついてその澄ました顔を思いっきし殴りたくなるんだけど私、間違ってないよね?」

「月村、言われてるぞ」

「…………へぇ、風雷君からしたら私澄ました顔してるんだ」

おおっと藪を突いてしまったか
触らぬ月村に祟りなし
そう思いその殺意から逃れる為の方法を考えていると
「おっ」
目の前にアイスクリームの屋台が
丁度いい。これでご機嫌を取ろう

「見目麗しいお嬢様。どうかこの甘いものでご機嫌を直してください(棒読み)」

「うん……………出来ればそのセリフに感情が籠っていたら完璧だったのに」

「まっ、風雷に期待するだけ無駄でしょう。あ、あたしバニラね」

「私もバニラ!」

「私もや!」

「……………何故お前らも注文する」

「「「え?まさかすずかちゃんだけ特別扱いするの?ふーーーん」」」

何だその含みがある言い方は
まぁ、別にそれぐらいのことで財布は傷まないけど

「月村は?」

「………………………………え?あ、ああ!わ、私はチョコで!!」

「……………………何で焦っているんだ?」

よくわからんやつだ
そう思いながら屋台に近づいて注文をする
すると後ろから話し声が聞こえる

「それにしても普段は薄情者に見えるけど優しいやんか」

「そうだよね~。あ、こういうのをツンデレっていうんだよね~」

あら、とても不快な会話が

「すいません、チョコ二つに、バニラ一つ、あとそこの抹茶わさびサイダーを一つと、いちごカレー辛口を一つで」

「なんやぁーーーーーー!!その奇怪なアイスは!!?」

「何でそんなものがあるの!?ていうか止めてそんなものを注文するのは!?」

やかましい
誤解しかない事を話しているからいけないんだ

「それにしてもすずか。良かったじゃない。好み似通っているみたいよ」

「え、えへへ。そうかなぁ~」

何か聞こえたが気にしない
というか聞いてない



しばらくアイスを食べて雑談していた
余談だが八神と高町はアイスを意地で食べていい笑顔で気絶した
余りにもいい笑顔だったので写メを撮っといた
これは高町父にでも怒ったとき用のフレアにしておこう
そう思っていたら

「ぬっ」
さっきまで公園になかったものを発見した
というか余りにもくだらなさ過ぎて見る気が一瞬で失せた
見つけたものはざるを棒で立てた幼稚園どころか赤ん坊ですらしないトラップというのも馬鹿らしいものだ
よくその下には食べ物とかで釣るために何かを置いておくんだがそれが

「ね、ねぇ、あ、あのと、トラップ?らしきものの下に。い、いやらしい本が置いてあるように見えるんだけど。わ、私の気のせい?」

高町も気づいたのか律儀にみんなに伝える
他の奴らもそれには気づいていたのかみんな目をそらしたり、顔を赤らめたり、興味津々だったり、興味なしだったり、色々な反応を返してきた
はぁ、こういう馬鹿らしい物があるということは十中八九あの山猿の仕業だろう
とっとと山猿退治をするか
そう思い立ち上がり、くだらないもののそばに歩いていく

「え?慧君?ど、どうするの?」

俺は何も言わずカバンからシャベルを取り出す

「「「「えええ?ちょっと待って!明らかそのカバンには入らないサイズ(やん、じゃない)だよね!!」」」」

無視して穴を掘る
ざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっく
よしこれぐらいで成長した万年発情猿を落とせるくらいの深さにしたか
あとは餌か
今度はカバンから何の変哲もないペットボトルを取り出す

「「「「????」」」」

後ろから今度は何だろうみたいな反応をしているのが気配でわかるが、これも無視してとぽとぽと中身の水をそのエロ本にかける
よしよしこれくらいかけといたら景気良くなるだろう
今度はごそごそとポケットからマッチを取り出して火を点け遠慮なくエロ本につけた
一瞬でエロ本が業火に包まれる
次の瞬間

「ほわちゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

などど奇声を発した山猿が藪から出てきて燃え盛っているエロ本に飛び込んだ
よくもまぁ、絶賛火事中のエロ本を抱き抱えれるもんだ
だがまだ甘い
山猿は本の方に集中していて足元を疎かにしている
そして一歩足を引いた瞬間
山猿は俺がついさっき作った落とし穴に嵌った
ぐわぁぁぁぁぁぁぁとかいう山猿の奇声が聞こえたがそんなものは気にせずにすぐさま穴に近づき上から魔法の水(灯油)を落とし、ついでにマッチを落とす
そうするとあら不思議
下に落ちた動物が燃えだすではないか
こうなるとこう言いたくなるよなぁ

「はっはっはっはっはっはっはっはっは!!!猿がゴミのようだ!」

「…………………………はっ。ちょ、ちょっとあんた!!それ殺人よ!」

「あ、ほ、ホントや!余りの状況の移り変わりについていけなかったからリアクション取れなかったけど慧君!!そんなんしたらその人死んじゃうで!!?」

「そ、そうだよ!は、早く火を消さなきゃ!!」

「み、水!!」

おやおや、皆様何を勘違いしているんだろう
これは優しい俺が答えて上げなければ

「みんな。騙されてはいけない!こいつは人の皮を被った山猿だ!!」

「「「「こいつ、もう駄目だ!!」」」」

おお、珍しく八神が関西弁を放棄して、月村が汚い言葉を吐いた
それにしても何を言うのだろうか
この山猿がもう駄目なのは見た瞬間わかっているのに改めて口に出すとは……………非合理的だね

「あんたって無表情な癖して何で喋る内容はコミカルなの!!?」

無視した
いちいち相手にするのがめんどくさくなったというのが本音だが
何やらバニングスが錯乱して俺を殺してやるとか言って月村達に止められている
最近の若者は脳が異常だね
そう呑気に思っていると

「こ、小僧!貴様ぁ!よくの儂の先祖代々伝わる法典を焼きやがったな!」

と言って穴から這い出る山猿
速攻で穴に戻すために蹴ろうとしたが流石に間に合わなかった
ちっ、流石山猿
登るのが得意なもんだ

「大体何だ。エロ本を法典にしている家系は。そのまま去勢されればいいのに」

「己、年上に対して礼儀というのが分かっておらん小僧が……………!」

「はて、この場に年上の人間がいただろうか?俺の目の前には山猿じじぃしか見えないが」

「わかった。儂が悪かった。小僧に礼儀という概念は難し過ぎじゃったな。だからこっちに来い。躾をしてやろう。何、痛くはせん」

「この前それを信じて近づいたら延髄チョップをかまして俺を気絶させてそのまま山のど真ん中に捨てていったよな。あの後餓えた野獣とかと遭遇したりして帰るのに一週間かかったんだが」

「それを言うなら小僧。お前は儂が寝ている間にどこかからか調達してきたコンクリに儂を埋め込んでそのまま海に捨てたような気がするんじゃが。コンクリから抜け出すのに二日。帰ってくるのに三日かかったんじゃが。しかもその間に鮫やら何やらに襲われたんじゃが」

「「………………………殺す!!」」

「お、落ち着いてなのーーー!!でいうか何であの炎から無傷でいられるのーー!」

「…………………………その前にさっきの過去話が本当なら何でこの二人が生きているのかを知りたいんだけど」

「……………あれ?でもそういえば、この前。風雷君が何故だか知らないけど一週間休んでいて連絡もないっていう事があったような」

「……………………………………………………きっと偶然やって」

外野が何かほざいているがそんなのは無視
今はこの万年発情期の山猿を抹殺しなければ…………!
そう思っていると山猿は何をとち狂ったのか、四人娘の方を見ていた
チャンスと思ったが、ちゃっかり片目はこちらの方をちゃんと監視していた
ええい、無駄に隙がない
そうしてチャンスを狙っていたら

「ほう、これは傑作じゃな。小僧の友達かな」

とにやにやした気持ち悪い笑顔でそう尋ねてきた
だから俺は反対の気持ちいい返事をした

「いや、残念ながら。一人はストーカーで、一人はレズで、一人は狸で、一人は変人だ。こんな個性的な友達は願い下げだ」

「「「「余りにも酷い評価(なの、よ、や)!!!」」」」

そんなことはない
俺はちゃんと見て評価している

「待ちなさい風雷!確かになのはとはやてとすずかの評価はそれでいいわ!でも私の評価はおかしいわ!!私は変人何て言われるほど高町症候群にやられてないわ!」

「ちょっと待って!その病名、既に受け入れられているの!?そしてアリサちゃんは友達をいとも簡単に捨てるの!!?」

「同感だよアリサちゃん!少なくともその意見はなのはちゃんとはやてちゃんにしか通じないよ!私は普通だもん!」

「ちょい待ちぃ、すずかちゃん!出会ってまだ一時間ぐらいしか経っていないのにその言い方は酷いんちゃうか!!それに私、人間やもん!!狸ちゃうもん!!」

「八神。それについては後でゆっくり『お話』をしよう。ついでに鏡を見せよう」

「ひど!!このメンバー、手加減ていう概念が存在しない!」

「「「「手加減なんてそんなもん、ドブに捨てたわ(よ)!!」」」」

「人間として終わってる!?」

「はっはっはっは、仲がいいのう」

うるせぇ、糞山猿
とっとと山に帰れ

「よし、儂はそこの御嬢さんたちと話したくなったぞ。というわけで小僧、あそこで売っているたい焼きを買ってこい」

などど明らか喧嘩を売っているとしか思えないセリフを言ってきやがる

「山猿………………ついに幼女まで……………」

「残念ながら儂の守備範囲はお前さんほど広くわないなぁ」

「おいこら山猿。いきなり事実を捏造するな。後ろからの冷たい目がストレスを増やす」

『年上で優しくて包容力があって家庭的でロングヘア巨乳』

「……………………………………………」

おかしい
何で俺の声が返事として返ってくるのだろうか
しかも何をふざけたことを言っているんだろう
一発この声の主をとっちめなければ

「自分で自分を殴るとは…………………マゾの所業じゃな」

「二つ聞きたいことがある。答えさせてやるから答えろ」

「何じゃ?クソ生意気な小僧。お前さんと違って寛大な儂が答えてやろう」

「一つ、その機械は何だろうか」

「何じゃ小僧。ボイスレコーダも知らんのか」

知っているけど理解したくなかっただけだ

「二つ目ーーーーーーその戯けた言葉は一体なんだ!」

「ふっ、お前さんをこの前鳩尾を四連打しておとした時に上手いこと寝言を言いそうだったから、少し『お前さんの好みは?』と聞いてみたら素直に答えてくれたぞ」

「馬鹿な!?俺の深層心理がそんなものを望んでいるなどとは!!」

「ふはははは。何ならもう一度流そうか。しかも今度はラジオをハッキングして全国に流れるようにして最後に小僧の住所をつけようではないか。あははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

「この山猿!拷問だけじゃ収まらないぞ!!」

「なにぃ?そんな口を聞いてもよいのか」

「くっ」

「わかったなら、とっとと買ってこい変態小僧」

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「はっはっは、行ってこーーい」

ちくしょう!!
この場合何を言っても負け犬の遠吠えだがそれでも言わなければ気が済まない

「山猿!!月のない夜は気をつけろ!!きっと釘バットを持って気絶させた後、リアルアリジゴクに手足を縛った後、放置してやる!!」

「それは負け犬の遠吠えというより殺人宣言じゃぞ」

山猿が人を自称するか!





「やれやれ、やっと行きおったの」

そうしてお爺さんはよっこらせと言ってベンチに座った
あの風雷をあんな風にパシらせることが出来るなんて………………凄いお爺さん

「はい!お爺ちゃん、質問!!」

そう思っているとはやてが元気に手を挙げながらお爺さんに話しかけた
…………………度胸あるわね
人見知りだったんじゃなかったの
首をやれやれと振ってその話を聞いていると

「さっきの好みーーーーーーマジですか!!」

「たわべ!!」

こきょ
余りのあほらしさに首が嫌な音を……………
そんな私の事情を知らずに話は続く

「ああ、そんなものはーーーーー嘘じゃ」

「え!?でもさっきの声は………………」

「合成じゃ」

「無駄にハイテク技術!お爺さん器用ですね!」

「かっかっか、あの小僧をいじめるにはこのぐらいをやらないと駄目じゃぞ?昔は可愛かったんじゃがなぁ」

「へっ!そうだったんですか!?」

「そうじゃとも。-----出会い頭に思い切り後頭部を殴ったらそれきり動かなくなってのぅ。もしかしてヤッチャッタと思い急ぎ森に隠してたのぅ。サツが来ないかブルブルして布団に入っておったわ」

「ああ、つまり風雷の性格の歪みの原因はお爺さんにもあったのね………………」

「かっかっか、何を言う。あの小僧は出会った時からあんな風に歪んでおったぞ」

まぁ、少しはマシになりおったがとお爺さんは言ってたがそえよりも重要な事がある
この人は私達が知る前の風雷を知っている
なら、少しは話を聞くことが出来るかもしれない
思い立ったが吉日

「あの、その、出会った時の風雷ってどんなやつだったんですか?」

うんうんと周りも同意する
私の知り合いで一番複雑怪奇な知り合い
さっきまでのギャグシーンでも彼は結局一度も表情を変えなかった
そこまで行くともはや彼には感情というものが無いのではないかと思う

「ん?ああ、今よりも酷かったぞ。まるでこの世全てをどうでもいいと思っておったからのぅ。まぁ、それは今でもじゃが」

「そ、それは、やっぱりあの事件で……………」

事件?とはやてが首を傾げるがそんなことに構っている場合ではない

「ああ、何の事件があったが知んないがそれのせいなんじゃろうなぁ。あの小僧はこう言っておったな『地獄を味わって生きようとしたらその地獄に適応しただけだ』と」

何だそれは
つまり生きようと思っての行動が今でも続く呪いになっているという事だろうか
それじゃあんまりにも

「可哀想か」

考えていたことをお爺さんに言い当てられてつい肩を竦める

「それ、本人に言っちゃ駄目じゃぞ。あいつ同情されるのもするのも嫌らしいからのぅ」

それはまぁ、態度を見たらわかる
というか実例を見たことがある
一度あいつが生徒に家族の事でからかわれているのを見たことがある(本人は完璧に無視していたが)
すわ、止めてやろうと三人で止めようとしたら
先生が出てきて命知らずにもこう言ったのだ
「風雷君は家族を事故で失ってしまった可哀想な子供だからそんな風に言っちゃ駄目」と
その瞬間まったく反応していなかった風雷が反応した
表情は相変わらずの無表情
しかし瞳には隠す気もない怒気が
その後先生が一人減ったと言っとこう
何をしたのか知らないが
手加減を知らないやつなのだ

「そうじゃなぁ。あの小僧この前は儂が散歩で眠くなって眠っておったら儂を縛って森に放置よった。しかも周りには熊を呼ぶ餌を置いて」

「………………………………これってツッコむとこかなぁ」

「ええ。こう言うべきだと思うよーーーーー洒落になってないって」

「すずかちゃん………………遠慮がなくなってきたね」

「成程。類は友を呼ぶという事かの」

確かに

「わ、私は風雷君みたいにおかしくないよ!!」

「「「「…………………………うん、そうじゃな(そうね、そうやな、そうだね)」」」」

すずかがいじけた

「まぁ、それでも昔よりかはマシになったの。昔は声にも感情が籠ってなかったからのぁ」

まるで人形じゃった
そう呟くお爺さんには気のせいか悲しみが含まれていた

「あの、お爺さん」

なのはが何だか聞きた気な様子だ

「何だい、栗色のお嬢ちゃん」

栗色のお嬢ちゃん…………………凄い名前
なのはは無視したようだ
この子も逞しくなっちゃって

「その、何で慧君と仲良くしようと思ったんですか?」

「ん?本人から聞いておらんのか?」

「ええと。何だか『その顔気に入らん』とか言って、えと。----コミュニケーションをしたとか」

「言葉を選ばんでもいいぞ」

なのはも口が達者になったわね
誰の影響かしら
………………………………………………………………………………

「あ、アリサちゃん?どうしてそんなに拳を熱く握りしめてんの?」

「ふふふ、どうしたのはやて?そんな赤ずきんみたいな質問をして。ただ私はこんなにもみんなを汚した風雷を原形がなくなるぐらい殴ろうと決心しただけよ」

「ああ!アリサちゃんは暴力的な意味で高町症候群にかかってんのやな!」

失礼ね
私はなのは達と違ってどノーマルよ
でも確かに何でだろう
みんなも疑問に思う
まさか本当に顔が気に入らないでけでここまでするとは思えないからである
ところが

「しかし儂の理由はそれだけじゃぞ?」

「へ?じゃ、じゃあ本当に顔が気に入らないだけで?」

「応とも。あやつが余りにも無表情過ぎるからのーーーーーだからからかってやろうとしただけじゃ」

「-----あ」

呟いたのはなのはか。それともすずかか、はやてか。もしかしたら私かもしれない
疑問は一瞬で氷解した
簡単な事だ
この人もこの人なりに彼を心配していたのだ
……………方法は明らか間違ってるけど
あの無表情の彼を
感情を意地でも出さない彼を
本人は俺は感情はないとアピールしているつもりのようだけどみんなそんなわけないとちゃんと理解している
大体感情がないなら友達じゃないと嫌がることも出来ないでしょーが
意外と抜けている奴なのである
はぁ、まったく

不器用なやつ

その後、風雷はたい焼き(わさび味)を思い切りお爺さんの顔にぶつけ、そのまま乱闘になった
私の心配を返せと思いを乗せてドロップキックを二人にやったら一撃で気を失ってしまった
みんなの私を見る視線に恐怖があった気がする
気のせいだと思いたい
理不尽よーーーーーーー!!

あとがき
勝手にすずかをこんな扱いにしてすずかファンの人申し訳ない
どうか寛大な心でお許しを
次はまさしくそのすずか編にしようと思っています
ついでにすいません
西尾維新のネタをパクッテしまいました
作者のネタ不足故です



[27393] 第六話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:21
ようやく高町家の呪縛から逃れることが出来て幸せをこの上なく満喫することが出きる平日
ああ、俺はいつもこんなに幸せだったのかと適当に感想を抱く
学校があれほど恋しいと思ったことはなかったなぁ
どうやら俺は地獄とはかなり縁があるらしい
皮肉………………というわけではないか
まぁ、別にどうでもいいけど
そういうわけで今回は何とびっくり!

あの高町達から逃げることが出来たのだ!

今回は悪魔が余りにも俺を哀れに思ったのかバニングスと月村は早めに帰っていたのだ
そうなると敵は高町ただ一人
逃げるのはたやすい
ようやく日頃の行いが報われた感じがした
今は今日の食材を買った帰りなのである
しかもタイムセールス
タイムセールスになる度に思う
あのおばちゃんどもは人間の皮を被った鬼神なのではないかと思う
さっきまでの攻防を少し思い出す

「やいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!そこんガキぃ!!その卵寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「アヘッド、アヘッド!!獲物(食材)を刈り尽くせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ガンボー!!ガンボー!!ガンボー!!」

「家計の遣り繰りしてる小学生舐めんやないでーーーーーーーーー!!!!」

「邪魔するものはまとめて蹴散らしてやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「負けてらんないのよーーーーーーーーーーー!!あんた達にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「待ってろよーーーーーーーーーー!!俺のカワイ子ちゃん(お肉)!!!たっぷり愛し合おうぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「OKフ○ッキンシープ(文字道り羊の肉)。たっぷり憐れんでやるからよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

んんん?何か変なものが記憶に混じっているなぁ
ちゃんと消去しとかなくてわな

とまぁ、こんな感じの地獄絵図
あれ?
俺の行く先々が全部地獄に見えるのは被害妄想だろうか?

……………………………………………………

思考を一時停止した
こういう時は無心でいるべきだと経験で覚えた
覚えたくもなかったが
いらない経験ばかり覚えていくのは何でだろう?
………………止めよう
これじゃあ無限ループだ
こんなことは気にせず家に帰って飯を作ろう
そう思っていると気が楽になってきた
思い立ったが吉日
少々危険だが裏道を通って帰ろう
そう思い所謂、路地裏というところを歩き回り帰宅を急ぐ
ほんの数分歩く
そしてようやく路地裏の出口が見えてきた
気分のせいか、心なし出口の外は明るく感じる
ここから後3~4分歩けば自宅だ
今日は奮発してキムチ鍋だ
さぁー、とっとと帰るぞーと意気込んで出口から一歩出る
すると次の光景は

幼女誘拐であった
しかも見覚えのある金髪つり目と清楚そうなお嬢様風黒髪ロングヘアーの
俺の人生はいつもこんなんだ




いきなりのことだった
唐突の事だった
前触れとかはなかった
別に今日は何の変哲もない一日だった
普通に朝起きて
普通に朝食を食べて
普通に学校に行き
普通に授業を受け
普通に友達と喋り
普通に稽古を受けに行った
どこにも特別なことはなかった
なのに今起こっていることは特別というより異常な出来事
私とすずかを誘拐しようとしているということ
稽古を終えて私たちは迎えを待っている時だった
いきなり目の前に車が止まり、スーツ姿の人二人がが出てきて私達を捕まえたのだ
余りの出来事に一瞬心臓が止まったかもしれない
しかしそこは素晴らしき神秘な人間の構造
状況を完璧に理解…………………は出来なかったが自分がすることは直ぐに理解した

この人達から逃げないとーーーー不味いということを

「いや……………離しなさいよ!!」

「は、離して!!」

私とすずかは逃げ出そうともがいた
当然だ
このままいけば何があるか
想像出来ないことがここまで恐ろしいとは知らなかった
ただ私達は我武者羅に暴れた
しかし現実は非常だ
如何せん
女の子、しかも子供の私達が成人男性の筋力に勝てるはずがなかった

「おとなしくしろ!このガキ共が……………!」

「きゃっ!」

「すずか!!」

私達が暴れたからか
さっきまでよりも酷い扱いをしてくる
すずかのあの綺麗な黒髪が引っ張られる
それで私の沸点は臨界点を軽く突破した

「ちょっとあんた達!私の友達に何すんのよ!許さないわよ!」

第三者から見たら何を言っているんだろうと言われる発言だろう
何せ私達はこんな風に逆らえないのに許さないなど言っているのだ
しかし私は至って真面目だ
私は髪を見ての通り日本人とアメリカ人のハーフだ
この髪のせいでとは言いたくはないがそれで長い間友達が出来ず、ひねていた
すずかとの出会いもかなり最悪だっただろう
私はすずかにいきなりいたずらをしようとしていたのだ
そこになのはが入り色々あって今では親友といってもいいぐらいの仲になった
二人には言ってないが私は本当に二人には感謝している
今まで友達が出来ず一人で寂しかった
それを二人が救ってくれた
大袈裟ではない
何よりも大切で何よりも誇らしい友達だ
その大切な友達がこんな酷い目にあっているのだ
例え場違いだろうと何だろうと私は吠える

私の友達にその汚らわしい手で触るなと

しかし返ってきた反応は予想とは違った
てっきり怒ってくるかと思った
しかし返ってきたのは

嘲笑だった

こんな状況なのに困惑してしまう
何だろうか、友情を笑われたのかと頭が勝手に思考する
答えがわからないまま彼らが勝手に喋りだした

「はっ、素晴らしい友情ですね。こういう時は私達はその友情に涙するべきなのかな?」

ふざけた言い方だった
敬語を使っているが敬意はまったく込められていない
ただの見下しだ

「うっさいわね!!私達を離しなさい!ただじゃおかないわよ!!」

これは嘘ではない
何せすずかの姉の恋人恭也さんがいるのだから
正式名称は知らないけど確か御神流というのを修めている人だ
少しなのはやすずかと一緒に試しに訓練を見てみたけど凄すぎて何をやってるのかさっぱりわからなかった
そして忍さんがすずかや私の危機に気づいたら当然恭也さんに繋がる
そうなったらこんな奴らはちょちょいのちょいだろう

「アリサちゃん…………その言葉は多分だけど死語じゃない?」

「こんな時に何ツッコんでんのよ!!」

ええい、このシリアスシーンに!
一体誰の影響……………考えるまでもないので考えなかった
というか考えたくなかった

「ということで私達を離しといたほうが賢明よ!!」

「くくく、そうですか。そいつは大変ですね」

どうやらこいつらにはただの冗談を言っていると思われたようだ
嘲笑は耳にこびり付いてうっとおしい

「ははは、それにしてもマンガみたいな友情ですねぇ」

「何ですって!!」

「いえいえ、褒めているのですよ。-----これで彼女が人間だったら素晴らしいのですけどねぇ」

「------は?」

何を言っているのかさっぱりだった
彼女が人間だったら?
すずかのこと?
何を言っているんだろう
何処から見てもすずかは人間ではないか
もしかして二次元と現実を区別できていない可哀想なイタイ大人だろうか

「残念ながら可哀想なでもイタイ大人でもないのですよ」

私が言うよりも早く返事が返ってきた
どうやらこういう反応を予測していたらしい
もう一人の男も車の中に入りながら嗤っているのがわかる

「やはり喋っておりませんでしたか。まぁ、それは当然ですよね。話したら化け物扱いですものね」

「はぁ!?何言ってんのよ!すずかはどう見ても人間じゃない!すずか、言ってやりなさい!この現実と妄想を区別できない馬鹿達に私はあんた達と違って立派な人間だって!!」

そうすずかに一喝した
しかし答えは返ってこなかった
沈黙だった
顔を俯けて表情が読み取れなかった
まるでそう

真実であることを悟られないように

「嘘……でしょう、すずか?」

すずかが人ではない?
そんなはずがない
だってこんなにも私達と一緒なのに
思考が纏まらない
纏めようとするけど空回ってばっかり
いつもの私とは明らか違う
私はこんなにも頭が悪かったかと思ってしまう

「さて、お友達の相互理解も終わったところなので、そろそろ連れて行くとするか」

はっと再び現実を認識する
そういえば誘拐されそうになっていたのであった
再び暴れるがびくともしない
そんなことをしていると車の後部座席のドアが開けられる
本能的に理解した
このままあのドアの中に入って行ったら最悪なことが起こるかもしれないと
すずかもそれを理解したのかさっきよりも暴れる
しかし無駄だった

「ああもう、とっとと縛って向こうに連れて行くぞ」

苛立った口調で車からロープを出してくる
怯えで何も言えない
さっきまでの威勢はどこに消えたのだろう
それを相手もわかったのか
気持ち悪い笑顔を浮かべ

「残念だったな。恨むならそこのお嬢さんをうらみゃ!!!」

キーーーンという音がしたような気がした
いきなり変な風に声を出したと思ったらさっきまであんなに私達を離さなかった手が簡単に離された
いきなりのことなので着地することが出来ずに尻餅をついてしまった

「「きゃっ!!」」

本当に何が起こったのだろうか
お尻の痛みを気にしつつさっきまで私を捕まえていた男の方にすずかと同じタイミングで振り返った
そこにはさっきまでのスーツ姿の男が立っていた
たださっきまでと違うのは顔が痛みに引き攣っているのと

え~と、股間の間に足が
簡単に言うとえ~と男の急所を思い切り蹴っている足が

暫く男は硬直していた
というか硬直するしか出来なかったのだろう
すると後ろから男の急所を蹴っていた足が下された
と思いきや
再び思い切り蹴った

「たびゃん!!」

憐れな叫びが再び響く
しかし蹴っている奴は容赦なかった
それから何回も蹴った
ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス
その度に気持ち悪い悲鳴を男はあげていた
20回、いや25回ぐらい蹴られたらようやく倒れた
そしてようやく男の急所を連続で蹴っていたのかが誰だかわかった

「慧君!!?」

「風雷(外道)!!?」

「待てや、バニングス」

ちっ、かっこの中まで読むなんて……………じゃなくて!
こんなところでボケている暇なんてなかった
私の馬鹿!
そうしていると車の中にいたもう一人の男がドアを開けた
それと同時に風雷は何かを投げた
私はこう見えても運動神経は良い方なので何が投げられたかを確認することが出来た
見えたものは赤いもの
ああ、確かあれは食べると辛い味がする不思議な食べ物
その名も

キムチ!!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!目が目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「二度ネタよ!!」

「アリサちゃん!落ち着いて!言ってもあの人には通じない!!」

わかってるわよ!
でも言わなければ伝わらないじゃない!

「落ち着けバニングス。とりあえず逃げるぞ」

そう言ってこいつかこんな時でも無表情だった
しかもこいつキムチで目が潰れている奴にも急所蹴りをやっていた
小声で「再起不能決定だな」とか呟やいていた
手加減を知らない男
風雷慧
恐ろしい奴………………
そして私達の手を引いて路地裏に駆け込んだ

「て、ちょ、ちょっと!一人で走れるわよ!」

「そ、そうだよ!」

そうお互い抗議していると風雷は振り返らずに返事してきた

「その震えた足でか?」

「な、何言ってんのよ!べ、別に震えてなんか………………」

震えていた
隠しようがないくらい震えていた
全然気づかなかった
自覚した今でも全然感じれない
それでもしっかり震えていた
その震えの名を私は知っている

恐れだ

仕方がないと事情を知っている人間はみんなそう言うだろう
まだ小学校一年生になったばかりの子供なのだ
精神年齢は他の子供達よりも遥かに高いとはいってもだ
むしろあれだけの啖呵を言ったのだ
褒められはすれ責められはしない
誰も彼女の事を臆病とは言わないだろう
むしろ勇敢と称えるだろう
しかしそんな言葉は今の私には通じないだろう
見ればすずかもそうだった

ああ、私達はこんなにも怖い目にあったんだと自覚した

そう思っているといきなり風雷が止まった
いきなりだったので風雷の背中に当たった

「な、何よ!いきなり…………」

「そ、そうだよ………………」

怒鳴る私達の声に力が籠っていないことがわかる
すると風雷が振り返った

「「???」」

私達はいきなりだがはてな顔になっていただろう
何故かというと珍しくこの無表情男が表情は変えなくても困惑しているというか言うべきかどうか迷っている雰囲気が伝わってきたのだから
それもはっきりと

「あー、バニングスと月村」

風雷は振り返らずに喋りかけてきた
何だか歯切れが悪い
一体何を言うつもりなのだろうか

「いいか。ここには今誰もいないし、誰も見ていない。あいつらも多分撒いた」

「「うん」」

というかいつの間にかそこまで走っていたのか
そういえば結構疲れている
でも本当に何が言いたいのだろうか
遠回り過ぎる

「え~と、だからな」

「あーーー!もうじれったい!何が言いたいのよ!!」

「まぁ、つまりな」

ようやく本題のようだ
こいつのことだ。どうせ下らないことだろうと思った
しかし今日は予想外の事ばかり起きる日のようだ
まさかこいつが

「例えば二人の女の子が泣いたとしても誰も見ないのではないかなー」

こんな人を気遣うようなセリフを言うなんて

「「……………………あ………」」

不意打ちだった
下らないことを言うと思っていたから
こいつが他人を気にするとは思っていなかったから
だから私とすずかは簡単に涙を流した
しかし目の前の背中に見られるのが恥ずかしかったから私達は咄嗟に彼の背中にしがみついた
身長は私達とそこまで変わらないのに何故だか知らないが大きく感じる
そんな背中だった
彼はそのままの状態でいて私達がしがみついても気にしなかった
私は久々にわんわん泣いた
すずかもわんわん泣いた
彼は黙ったままでいてくれた
それが嬉しくて更に泣いた
久しぶりの大泣きだった
結局泣き止むのに15分ぐらいかかってしまった
風雷はそのままずっと黙って背中を貸してくれた

「じゃあ、警察に行った方がいいか」

「そうね。その方がいいわね」

風雷は号泣したことについてはまるで無かったかのようにしてくれる
それが有り難かった
はぁ、パパとママにも電話しなきゃ
そう計画していたら

「待って!!」

すずかが今まで見たことがないくらいの真面目な顔と真面目な口調で叫んだ
思わず風雷と同時に振り向く

「お願い……………このまま私の家に来てくれない?…………」

すずかは何かを決意したような顔で私達を見ていた
私達から目を逸らさずじっと

「理由は?と聞くのは無粋なんだろうな」

風雷はもう悟りきったような顔(とは言っても無表情だが。こいつの隠している表情を見て私がそう判断しているのだ)ですずかを見ている
相も変わらず無表情で

「うん……………話すよ………全部
何でこんな目にあったのかも
私が何を隠しているかも………………全部話すよ」

私達は黙って頷くしかなかった
風雷は知らないけど、私はすずかの覚悟に圧倒されたからだと思う
さっきあの男達が言っていたすずかの秘密の一端
それを知られるのをすずかはかなり嫌がっていた
それを自ら話すと言うのだ
さっきあの男はそれを知ったら普通に暮らせないみたいな言い方を言っていた
つまりだ
すずかはそうなっても構わないと決意したのだ
例え嫌われても、軽蔑されても、拒絶されても
話すと決意してくれたのだ
その覚悟を決めたすずかは心なしかいつもよりも綺麗に見えた
静かで、ひっそりしているがしかし明確に光っている
そう
まるで月のように
何だか悔しいけど負けた気がした
人間としても
女としても
でも、とても清々しい
何でかなんて決まってる
私達に秘密を話してもいいと決意してくれた
つまりそれだけ私達を信頼してくれたという事なのだ
余りの嬉しさにまた泣くかと思った
でも今度は意地でも泣かない
それはそうだ
だってすずかがこんなにも良い少女になったのだ
ならば私も張り合わなきゃ駄目でしょう
それでこそ

友達というものなんだから

今日という日は特別な一日になるようだ
そう私は予感ではなく
完璧に確信した



あとがき
まだ読みにくいということですが今度はどこらへんを改行するべきなんでしょうか
あんまり開けてたら文面が汚くならないでしょうか
あ、あと、まったくルビとかフォトがわかりません
見てもさっぱりです
これが作者の限界か……………
言っていて泣けてきました



[27393] 第七話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:21

あの幼女拉致集団を撒いて二時間
ようやく話が始まりそうだ
今は月村が提案したとおりに月村邸
初めてきたが噂通り豪邸だった
別にどうでもいいけど
あ、こんな所に高そうな壺が……………

「風雷君?まさか盗もうっとか思ってないよね」

「いや、一生借りようと………………」

「ねぇ、知ってる?この家には猫がたくさんいること」

「ん?ああ、さっきから鳴き声がうるさいよな。それで?」

「その猫の中に猫の大好物を体に巻きつけて叩き込むよ」

「わぁ、僕、凄い金持ちになった気分(棒読み)」

「…………………プライドはないの?というかシリアスな雰囲気に入るとみんなが予想しているのにその予想を裏切るな!!」

「大丈夫。アリサちゃんも忍ちゃんから見たら十分コミカルよ」

「………………………………………ついていけん」

「…………………………私もです」

「わ、私もです」

今ここに集まっているのは俺、バニングス、月村、月村姉、恭也さん、え~と、さっき紹介してもらった月村メイドと月村ドジッ子メイド

………………………………………………個性豊かなメンバーだ

とてもじゃないが個性が薄い俺は混ざれない

「風雷?私、今あなたが嘘をついた気がするんだけど」

「いや、人間はなかなか現実には勝てんなと改めて実感しただけだ」

「…………………そういう思考に到った経緯がわからない…………」

気にするな
お前はそのままでいい
俺を面白がせる面白キャラで

「…………………ねぇ、本題に入っていい?」

月村姉が何だか泣きそうだ
泣けばいいのに
間違えた
泣いて詫びればいいのに

「……………………ドサド」

呟きは無視した

「えー、ゴホン」

わざとらしい咳払いでようやく本題に入った

「まずは言わせてね。すずかを助けてくれて本当にありがとう」

「俺からも言わせてくれ。ありがとう」

「うん、私も。風雷君、ありがとう」

「そういえば私も。ありがと」

と言って忍さんと恭也さんというかその場にいた全員が頭を下げた
調子が狂う
風雷慧はこんな風に誰かにお礼を言われるような人物ではないのに

「別にいいですよ。たまたま帰り道に二人が拉致られそうになったのを目撃した。つまり偶然です。お礼を言われるようなことはしていません」

「あれ?風雷。照れてる?」

「照れてません」

バニングスが面白いものを見たみたいになっているが今度は意識的に無視する

「で、手早く『本題』というのにいってくれませんか」

その瞬間
少し和んでいた空気は一気に緊張した
月村だけではない
月村姉や恭也さん、バニングスもだ
はぁ、面倒だな
どうやら余程の事情のようだ

「………………それは「待って」すずか?」

月村姉が話している途中に月村が強い意志を感じる声で遮る

「私が話すよ」

「すずか……………でも」

「いいの、お姉ちゃん。-----信じてるから」

「………………………そう。じゃあ、私から言う事はないかな」

「うんーーーーーありがとう」

そこまで月村姉と話し合い改めてこちらに振り返ってきた

「何度も言うようだけど巻き込んでごめんね」

「だーかーら、すずかのせいじゃないって!」

「俺はキムチ鍋の材料を弁償してくれたがはっ」

「風雷。もうギャグシーンはいいから真面目な話をしようね?」

「ごめん、アリサちゃん。それ私のセリフ」

「いいから話を進めなさい!」

「は、はい!(あれ?何で私が怒られてるのだろ?)」

再び真面目な空気を取り戻す
いちいちこんな風に空気を取り戻さないといけないとは難儀だね

「……………………二人とも聞いたよね?私が人間じゃないって」

「…………………ええ、聞いたわ。でも、すずかはーー」

「ごめん。アリサちゃん。最後まで話させて。ね。」

「…………………わかったわ。ーーーーーー続けて」

「うん」

返事をし、そして月村は瞳を閉じ、深呼吸をし出した
気持ちを落ち着けようと
覚悟を決めようと
他者を信じようと
1分くらい時間が経っただろうか
ようやく月村は瞳を開けた

「その通りなの。私はーーーー吸血鬼なんだ。夜の一族っていうね」

「もしもし病院ですか。急患ーー」

がしっ(携帯を奪われた音)
ぐしゃ(携帯を握力だけで潰された音)

「風雷君。-------私は本気だよ」

「ああ、確かにーーーー本気(殺る気)だな」

ちょっとした場を和ますジョークなのに
ん?おやおや、どうして俺をそんな白い目で見るのだろう
俺の素晴らしさに気づいたかね?

「吸血鬼って……………あれは伝説上の生き物じゃあ……………」

覚悟はしていたようだがバニングスも驚きを隠せないようだ
それはそうだろう
吸血鬼は存在しない架空の生き物
それが今の人間の当たり前に思っている常識だ
そんな常識が出来たのは簡単だ
まず、そんな存在を見た人間がいないからだ
昔の伝説っていうのは簡単に言えば昔の人間が証明できなかったことを人間ではない生き物がやったのだとか、呪いのせいだとか、神が怒ったんだとか。そうやって無理矢理こじつけたものだからだ
証拠がなければ存在しないと同義
のはずなのだが

「証拠ならあるよ」

そう言い彼女はこちらを見た
………………ん?
何か違和感がある
ほんの些細な事なのだが、しかし、いつもの月村とは違うところが

「すずか………………目が…………」

バニングスに言われて気づいた
そう目だ
いつもは鴉の濡れ場色をしている月村の瞳が

今は血のようなアカに………………

瞬間

地獄に立つ悪魔を想像する

月村の瞳よりも禍々しく、しかし美しいあの血のようではなく、血塗られた魔の瞳を………………

バチィ!!と頭の中で派手なスパーク(痛み)が炸裂する
しかし意識的に無理矢理表には出さない
いつものことだ
自身の体の制御には長けている
そうでなくてはいけない

「…………………これでわかったかな?私が人間じゃないっていう事が。一応言っておくけどカラーコンタクトとかじゃないから」

「ちっ」

先回りされた

「だからね。あの人が言っていたことは間違ってないの。ううん、事実なの。だって私」

化け物だから

そう言い悲しそうに笑う彼女

だから俺は即座に行った

「へぇ、で、それで?」

「「「「「「え?」」」」」」

「いや、だから吸血鬼でした。で、そんだけ?」

「そ、そんだけって、充分だと思うんだけど」

「何だ。そんなどうでもいいことだったのかよ。拍子抜けだなぁ」

「だ、だから、充分に驚くことだと思うんだけど。だ、だってクラスメイトが化け物だったんだよ?」

はぁ、まずはそこからか

「もしかして月村。お前ーーーー肉体が人とは違うから私は化け物だとか思ってないだろうな?」

「え?」

違うの?って感じで首を傾げられた
見れば周りもそうだ
なんだなんだ
どの人も認識不足だなぁ

「じゃあ問題。ここにただ思いのまま殺人を繰り返す人と何もかもを潰せるけど何も潰したくないという人ではない鬼がいました。さて、この場合どちらが化け物扱いされるでしょう?人ではあるがまるで鬼のように人を殺す殺人鬼か。人ではないけど何も壊したくないと主張する人らしい鬼か」

「そ、そんなの………………」

そこで口が止まる
当然だろう
わざとそういう問題にしたのだ
自分を投影させるように
まぁ、誰でもわかると思うけど

「で、でも、もしかして鬼はいきなり心変わりして人を壊すかもしれないでしょう!!だったらどっちでも同じだよ!」

確かにその通り
どんなものだって絶対に変わらないとは言えない
例えば優しかった人間がある日を境に残酷な人間になるなんてよくあることだ

例えばそう俺とか……………

「………………お前はそれが一番怖いのか?」

「……………そうだよ。私はそれが怖い。いつも仲良くしてくれているみんな、大好きなみんな。感謝なんて言葉じゃ飽き足りないくらい感謝しているよ。でもね、もしかしたら私は急にみんなの血を吸いたくなるかもしれないんだよ?血を吸うことに快楽を覚えるかもしれないんだよ?もしかしたらその結果」

殺してしまうかもしれないんだよ

「!!そ、そんなことーー」

「あるんだよ!アリサちゃん!勿論、お姉ちゃんみたいに上手くいく可能性もあるよ…………………でも、もし最悪の可能性になったらどうするの?そんなことになったら私耐えられない。ううん、耐えたくない。それならいっそ壊れたい。でも私はみんなと一緒にいたい。………………ねぇ、私」

どうすればいいの?

そう言いついに顔を伏せた
誰にも顔を見られたくないというように
誰も何も言えなかった
バニングスは勿論、家族である月村姉も
当たり前だ
月村が言っていることが正しいなら月村姉は月村にとって眩しいくらいのハッピーエンドをした人だ
どんなことがあったかは知らない
奇跡みたいなことがあったのだろう
そういうのが積み重なって今の月村姉がいるんだろう
月村の羨望の対象として
その本人がここで生半可な励ましなんかしてもそんなのただの嫌味にしかならない
だから彼女は黙るしかない
手の平の皮膚が破れるくらい手を握りしめながら
ふぅ
別に月村がどうなろうとぶっちゃけたところどうでもいいと思うがそれでは

俺の『契約』が果たせない

ならば動こう
俺の『名』にかけて

「つまり、お前はみんなと一緒にいたい。だがもしかしたら自分がいつか心無い化け物になるかもしれないのが怖い。そういうことだな」

「…………………そうだよ」

「ならば話は簡単だ。お前が化け物になったらーーーーー俺が殺す。それで問題はない」

またもや沈黙が下りた
今度はさっきのポカーンとした沈黙ではない
もっと重苦しい空気
そうーーーー怒りだ

「それはどういうこと?風雷君」

さっきまでの態度はまるで幻だったかのように溢れんばかりの怒気を俺にぶつけてくる
否、ここまで来ればもはや殺意だ
それほどまでにも月村姉は怒っていた
俺がたやすく月村を殺すと言ったからか
それとも妹が殺されるかもしれないと思ったからか
しかしここで引くわけにはいかない
ここで引いたらそれこそさっき言った言葉が嘘になってしまう

「どういうことって、言葉通りですが」

ぷちんと理性が千切れるような音が聞こえた気がした
勿論、幻聴だ
本当はガタン!と椅子を倒した音なのだから

「ふざけないで!私の大切な妹を…………」

「お姉ちゃん!待って!お願い、聞かせて!」

「!?すずか!何言ってるの!?この子は今ーーー」

唐突に月村姉の声が途切れる
見てしまったからだ
自分のたった一人の家族が

とても嬉しそうに笑っているのを

まやかしでも何でもない
現実だ
月村は笑っている
そうまるで
魔女に騙されて呪いをかけられたお姫様が呪いを解いてもらうかのようにだ
その笑顔のまま月村はこちらを見る

「いくつか聞いてもいい?」

「答えられるものなら」

「いつまで、それをやってくれるの?」

「お前が死ぬまでやってやろう。サーヴィスだ」

「じゃあもしも暴走しそうになってもまだ救える手があるかもしれない。でも、もしかしたら無理かもしれないという微妙な場合なら」

「その場合はお前が完璧な化け物になるまでは殺さないが、もし無理ならヤル」

「はっきり言って」

「……………お望みどおり、でははっきり言おう。どんな手段を使ってでもお前を殺そう。手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐にお前を殺そう。だが安心しろ。俺はお前を殺した感触は忘れない。化け物になったお前を殺した感触ではない。人間である月村すずかを殺した感触を俺は覚えよう。だからーーーーお前は安心して友達と仲良くすればいい」

「…………………………」

そこで一端言葉が止まる
周りの雰囲気も張りつめた調子で止まる
それはそうだろう
自分の家族が、主人が、友達が
ただの少年から殺人宣言を受けているのだから
これで張りつめなければおかしいだろう
だがその雰囲気は破られた
月村の苦笑によって

「風雷君って前から思ってたけど本当にーーーーー素敵なほど残酷だね」

「それはどうもって言いたいが訂正してもらおうか。俺は無意味なくらい残酷なんだ」

偽悪趣味なんだね返されるがそこは無視する

くすくす笑いながら彼女は言葉を続ける

「うん、本当に残酷だねーーーーーそんな提案をされたら欲しくなるに決まってるよ。悪魔の契約よりも達が悪いよ」

悪魔
地獄で出会ったあの悪魔
それよりも達が悪いねぇ
それは洒落が聞いてる

「そうかい。でも、月村ーーーー決めるのはお前だぜ」

「そうだね。じゃあ言わせてもらおうかなーーーー答えは決まってるって」

それは契約の言葉だ
悪魔との契約の為の宣言だ
彼女はこちらに手を差し出した
まるで契約書に署名をするかのように
それに気づいたのか月村が面白そうに話す

「契約書が必要かな?残酷な悪魔さん」

「不要だね。悪魔との契約は魂に署名っていうのが相場だろう吸血鬼さん」

アハハハと月村は笑う
それは覚悟が決まった女の顔だ
このほんのちょっとの時間で月村は素敵な女になった
女の子とは強いな
俺が『敬意』を表するぐらい
悪書をし、そして契約の言葉は終了する

「改めてよろしく風雷君」

「そうだな。『すずか』」

まともや時が止まる
咲○さんでもいるのかしら
見れば月村が顔を赤くしながら慌ててる

「え!ちょ、ちょっと待って!?ままままま、さかの不意打ち!?私こういう時何をすればいいの!?」

「すずか。笑えばいいと思うよ」

「あ、ありがとう!お姉ちゃん!アドバイスをくれて…………………駄目!こんな時に相手の顔なんて見れないよ!」

「初々しくていいわね~。そしてすずか、さっきまでのシリアスムードを返しなさい」

「バニングスよ。後半の方だけマジトーンで話すな。メイドさんが怖がってるぞ」

「………………………………………………」

ガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガス

「な、何だぁ!バニングスがいきなり壁に向かって物凄いパンチを連続で放ってる……………!」

「……………………(慧よ。それはすずかちゃんは名前で呼ばれたのに自分が言われてないのが悔しいからだ)」

「………………はぁ、怒るべきか、悲しむべきか、喜ぶべきか。困る展開だよ」

「そうよ、その話よ」

いきなり会話を戻される

「まぁ、一応言っとくけど私はすずかが吸血鬼だろうが蚊だろうが気にしないからね」

「アリサちゃん、それは侮辱してるの?それとも遠まわしに喧嘩を売ってるの?」

「茶々を入れずに黙って聞きなさい!だからすずかはいつものメンバーの中では一番影が薄いのよ!」

「最近のアリサちゃんは理不尽だよ!あと、人が気にしていることを簡単に指摘しないで!」

「失礼ね!私の体の半分は寛大で出来てるわ!そしてそう思うなら改善しなさい!私を見習って」

「残り半分は容赦無用だな。そしてすずか、バニングスを見習うのは危険だ。見習うんなら俺にしとけ」

「どっちも見習いたくないよ!!」

「「その言葉、遺言ととってもいいな(わね)」」

「くっ、い、いいよ!いつまでも二人になんか負けてらんないんだから!これでも吸血鬼なんだから!」

「「よくぞ言った!では存分にごうも……………いじめてやる!」」

「どっちにしろ本心を隠せてない!?」

そう言って軽い乱闘になる
それを見ていた周りの大人グループ(高校生が入っているが)は苦笑しながらその光景を見ている
張りつめた雰囲気は終わった
ようやくただの日常になった
そう思っていた時に

「「「「「「「!!!」」」」」」」

いきなり電気が消えた
唐突な事なのでみんな反応が出来なかったが俺と恭也さんは反応した
二人で同時に別々の窓のカーテンを開けた
よく見たらもう外は真っ暗だ
しかし、いくら真っ暗でも相手が隠れていなければ意味がない
その闇に紛れて動いている者がいた
その姿はどこかの暗殺者ですかといいたくなるような服装をした明らか物騒な集団であった
この場面でこのタイミング
間違いないだろう
夕方の奴らと同業だろう
強硬策に出たという感じか
どうやらまだまだ帰れないらしい
やっかいな契約をしてしまったかなと少し後悔という程ではないがまぁ、自分でやったのだからこの後悔はただの八つ当たりだな
まぁ、いい
夜はまだ始まったばかりだからな
それにさっかくの悪魔と吸血鬼が契約した晩なんだ
これだけでは味気ない
彩りに赤色が絶対的に足りない
それに、圧倒的なーーー
そこまで考えて自分の物騒な思考に気づいた
あれ、俺ってこんなに好戦的だったっけ?
何だか今日の俺のテンションはおかしい
いつもはこう
はぁ、また面倒なことがっていうキャラではなかったか
まぁ、それこそ今はどうでもいいことだが
まぁ、とりあえず後ろで呆けている人たちに一言言って目を覚まさせるか

「どうやら、大量の招かれざる客が厚かましい事に最高級のもてなしを要求してるようですよ」

その時
その場にいる誰もが気が付かなかったことがある
今のに即座に反応した風雷慧や高町恭也でさえ気づかなかったことが
声が発せられたのだ
だがおかしいことにその声は誰にも届かなかった
否、誰も聞けていなかった
それは確かに声だったが音ではなかったのだ
では、それでは声ではないではないかと言われそうだが、そういうものであると無理矢理納得するしかないのだろう
それはもし聞けていたらみんなは女の人の声だと判断しただろう
『人』かどうかは別として
『それ』は誰にも聞かれない言葉でこう呟いていた

足りない、まだ足りない

ただそれだけを繰り返し呟いてた


あとがき
申し訳ない
完璧にすずか嬢の性格が………………!
と、とりあえずこういったシリアス以外は出来るだけ原作に近づける気です
……………………多分
とはいえようやく次はバトルに行けそうです(魔法じゃないですけど)
初めての事なのでどうかご容赦を
今回はほんのちょっと今のところ出番がないキャラを出しました
というか何度も言いますが本当にタグが使えない!
作者は馬鹿の子です
はっ、ということはタグを使える人は天才か!
新しい事実と心理を発見した気分です






[27393] 第八話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:21

「一体どういうこと……………!」

「わかりません。しかし忍お嬢様、今はそんなことを考えている場合ではーーー」

「くっ、ええ、そうねノエル。今は何とかして逃げなきゃ………………」

この会話からわかるように今は非常事態
そう今日の夕方に襲ってきた人達が集団で襲ってきたのだ
まだ生き残っている監視カメラの映像からすると20人くらいいるらしい
そう頭の中の冷静な部分がそう思考しながら、私は別の事を考える

……………………そんな、どうして?
今までこんなことなかったのに?

そう今までこんなことは一度もなかったのだ
そういう事が起きそうだとか
ちょっとした脅迫だとか
嫌がらせとかなら今まで散々受けていた(私は直接は見ていないが)
なのに今日に限ってこんなことが起きた
どれだけ思考してもわからない
契機がわからない
私が馬鹿だからだろうか?
それとも私が子供だからか
思考が駄目な方向に無限ループしそうになる
その時現実に呼び戻す彼の声を聴く

「とりあえず、まず深呼吸してください。焦っていたら最悪なタイミングでミスを起こすかもしれませんよ」

こんな状態でも相変わらずの無表情の彼
言葉も冷静そのものだ
何と言うか修羅場慣れしているという感じがしてしまう
勿論、そんなことはないのだろうが
ただ単に物凄く冷静に見えるからだろう
だがそれでも、こんな場面で冷静になれるという事が凄い事だろう
見たらいつも気丈なアリサちゃんが震えているのがわかる
かく言う私もそうだ
さっきの覚悟は友達を手にかけるぐらいなら死ぬというそういう覚悟はした
が、これとそれは別だ
ただ殺される覚悟なんてしていない
というかしたくもない
その覚悟をするという事はいつどんな時でも死を受け入れるという事ではないか
そんなの耐えられない
耐えられるわけがない

「くっ、駄目です!裏口にも侵入者が………………!」

「そんな……………………」

「ご都合主義に頼ってみますが、何か秘密の隠し通路というのはないのですか?」

「残念ながらないわ。予算があったなら考えていたけどね」

「…………………………予算があったらしていたのか忍」

「そうだ!あれは…………………………くっ、駄目だわ。対恭也用に作ったトラップは電力がなくなっているから作動しなくなってるか……………………」

「忍!お前は一応恋人に対して何故そんなものを用意する!?」

「…………………………俺たちはそんな危ない道を通ってきていたのか」

あれ?
今は危険な状態なんだよね?

「さて、漫才は一端切り上げましょうか」

「そうだな」

「同感ですね」

「「余裕あるね(わね)!!」」

思わずアリサちゃんとユニゾンする
このとてもシリアスな時にこんな漫才をするなんて
この三人は何という大物なのだろうか
しかし、返ってきた返事は全然予想と違っていた
お姉ちゃんはいきなり疲労と諦めを含んだ笑みを見せ

「余裕?そんなもんなんてないわよ。強いて言うなら空元気ね」
と言った

「「え?」」

思わず二人で呆ける
だって何だか凄い余裕ていう感じが出てたし、それにだって
それって、逃げられないっていう事を認めるっていう事ではないのか

「え?う、嘘だよね、お姉ちゃん………………?」

「…………………………ここまで来て嘘は言わないわ」

「だ、だって……………そ、そうだ!恭也さんがいるじゃない!だから大丈夫ですよね?恭也さん?」

「…………………………………………」

何でこんな時に沈黙するのだろうか
ここは「ああ、任せてくれ」ていう場面だろう
ああ、きっと緊張で喉が枯れたのかもしれない
それはそうだ
あんな大人数を相手に戦うんだ
いくら恭也さんでも緊張するに決まっている
でも大丈夫
恭也さんは強いからきっと

「……………………勝てる、自身はある。だが…………………全員を守れる自信がない……………………!」

勝手な思い込みなのはわかっている
八つ当たりなのもわかっている
それでも思うことは止めれなかった

裏切られた、と

「どうして………………どうしてなの?やっとこれからだという時に、やっと私として生きられると思ったところなんだよ。なのに何で……………………何でこんなことになるの?友達と一緒にいたいということは悪い事なの?普通に生きたいっていうのは悪い事なの?願っちゃいけない事なの?」

「そんなわけーーー」

「じゃあ、どうしてこうなるの!!」

感情が制御できない
制御できない感情は瞳からも零れる
余りにも熱く、冷たいそれ
でも、今はうっとおしいだけだった
ついに両膝がかくんと折れて床につく
もう立ち上がる力もなかった

「結局…………………………そういうことなんだね」

私達(吸血鬼)には希望も未来もなく
ただ絶望だけ
それしかないのだ
ああ、やっと自分が望んだものが得れると思っていたのに
みんなも苦痛を我慢しているような顔になっている
でも駄目なのだろう
例え生き残れても

全員が生き残れないのなら意味がない

それは私が望んだ未来ではないのだ

そう思っていたら

「茶番は終わりましたか?」

聞きなれた声
さっき私に希望を見せてくれた無表情の彼
でも、いくら彼でももう希望は見せられないだろう
そう思うと彼の毒舌も愉快な気分で聞けた
だから次の言葉には驚いた
心底

「どうやら皆さんは頭の回転が止まっているようなので、俺が作戦を考えてもいいですか?」

は?とみんなが同じ言葉を同時に放つ
作戦?
何の事だ
もしかしてこの状態を打破する何かを考えたという事なのだろうか
そんなの無理だろう
だってたかがこの人数
しかも戦えるのは恭也さんとノエルさんとファリンだけ(二人の事はまだ説明してないけど)
いくら三人が人間離れしていてもあれだけの人数にみんなを守れるとは思えない
お姉ちゃんもそう思ったのか

「あのね、風雷君?状況はわかっている?」

「状況はわかっていますが、状態がわかっていませんね。出来れば情報が欲しいですね」

「っ!だからその状況が不味いって言ってんの!」

「確かに不味いですねーーーーで?」

「でって、だからーーー」

「悪いですけどもう諦めているならとっとと死んでくれませんか?邪魔ですし」

「なっ!?」

余りの物言い
流石のお姉ちゃんも声を荒げている
だが風雷君は相変わらずの無表情
つまりだ
彼はこの状況にまったく動じていない
不利とは思っているかもしれないが不安には思ってないのかもしれない
でも、もしかしたら状況を完璧に理解してないだけかもしれない
ただ希望を見たいだけかもしれない
でも、そうだとしても
彼はこう言ってるのだ

俺は諦めないぞ、と

「何ですか?俺はこう言っているんでーーー生き残る覚悟がないのなら邪魔だから消えて下さい。足手まといですと。わかりますか?今のところ最低すずかとバニングスは俺が出来る限り何とかしないといけないんですよ。二人は生きたいと思っているようですから。だから足手纏いがいたら邪魔なんですよ」

突然出た私達の名前に驚く

こんな状況で
こんな私を

それでも助けてくれるのか

何故という思いがある
今まで彼は私達に友達になった覚えはないと散々言ってきた
おそらく嘘ではない
気にしてないのはなのはちゃんぐらいだろう
いや、気にしていないのではなく気づいてないのかもしれない
孤独を望む彼
救いを拒絶する彼
馴れ合いなど御免
それが彼だと私は認識していた
ならば何故こんなことを
そう問いかけると

「ああ、確かにその通りだ。でもな、俺は約束は簡単に破るけどーーーー契約を破るわけにはいかない」

契約
さっき誓ったあれのことか
でも、その契約内容に私を守ってというのはなかったはずだが

「何言ってんだ。契約しただろう。もしお前を殺すというのならそれは俺だと」

「あーーー」

余りにも遠まわしな言い方
口八丁の彼らしい言い方
何て不器用さ
こんな時でも彼らしい
不謹慎だけど嬉しい
みんなにはばれているけど私は彼が好きなのだ
少しませているかもしれないけど
別に特別な出来事はなかった
というかさっきまでは好意ではなかったと思う
だって前まではこういう打算があったのだ

彼ならば私が吸血鬼とかそういうのを『まったく』気にしないのではないかと
否、無視するのではないかと思っていたのだ

何でかはわからない
ただ言うならば女の勘というものだろうか
彼の無表情を超えた無表情を見ていたらそう思えてきたのである
だから好意ではなかったのだと思う
……………………さっきまでは
今まで色んな慰めを聞いてきた
気にするなとか
いつかわかってくれる人が現れるとか
そんな慰め
しかし、ぶっちゃけて言うと少しうんざりする慰めだった
しかし彼は違った
そもそも彼は慰める以前に同情すらしていなかったと思う
そういえばあのお爺さんも言っていた

『あいつ同情されるのもするのも嫌いらしいからのぅ』

本当にそうだ
でも嬉しかった
同情しなかった
つまりそれはーーーーー私と対等に接してくれたという事だ
それが私にとってどれだけ嬉しい事かーーーー
だからこの問いに答える言葉は一言で十分だった

「うん………………そうだねーーーー生きよう」

今はただそれだけを

「……………………あーーーーーもう!これじゃあ私がただの弱虫になっているだけじゃない!!」

バン!と勢いよく机を叩き、立ち上がる
そこにはさっきまでの弱気はない
そこにはただ生きてやろうじゃないかという意気込みだけがある
さっきまでの絶望しかない空間が跡形もなく消え去った
今はその絶望に抗ってやろうじゃないかという意思がみんなからありありと感じられる
凄い………………
ほんの少し彼が話しただけで場の雰囲気が変わった
さっきまでこの世の終わりみたいな雰囲気だったのに、今は運命に抗う戦場みたいな雰囲気だ
これは一種の奇跡ではないのだろうか
生きようと思う
錯覚かもしれない
現実を認識しきれてないのかもしれない
やけになっただけなのかもしれない
それでも生きよう
現実は非常かもしれない
ハッピーエンドはないかもしれない
でも、足掻くのはやめない
最後まで生き汚く、地べたを這いずり回って、泥水を啜ってでも生きよう
彼流にいえばそれが私自身への『契約』だ
決戦はもうすぐ
それまでに色々と作戦を決めないといけないらしい
緊張感が極限にまで高まる
そんな雰囲気に

「あっ、月村姉。これが終わったらあいつらから俺が失ったキムチ鍋の材料代。奪ってもいいですか?」
「あんた!空気を読みなさい!!」

この時ばかりは誰も止めなかった
逆にみんなでお皿を彼に投げつけた




「----というわけよ」

「なるほど」

とりあえず今は作戦会議
不幸中の幸いにもまだ相手が攻めてくるには時間がかかるらしい
何故かと聞けば

「聞きたい?」

と満面の笑みで返されたので丁重に辞退した
……………………絶対トラップだな
電気を使ったトラップだけではなかったのか
よく俺達は無事にここまで辿り着けたものだ
まぁ、そんな事を言っても精々足止めくらいだろう
数を少しでも減らしてくれてればいいが高望みはしない
今はただこちらの戦力と相手の戦力とこちらが使えるものと相手に使えるものを聞いていたのだ
まともに戦える人は恭也さん、月村メイド、月村ドジッ子メイド(何でも自動人形とかいうものらしいが、別にどうでもいい)
相手は案の定武装しているらしい
具体的なものはわからないが銃器と無線がを使っているのは確認されているらしい
使えるものは正直ほとんどないらしい
電気が止められたせいで結構なトラップ類が使えなくなり(それでもまだあるらしい)、武器などは恭也さんの剣術に使う得物とメイド二人が使う得物と強いて言うなら包丁とかそういう一般家庭にあるものらしい
逆に相手に使えるものーーーー相手の弱みとかはないのか
つまり政治的(少しおかしいが、まぁ、いいだろう)に何とかするものはないのかというとこの案件で生き残って、相手を生け捕りにして証拠とすれば出来ると
つまり現時点ではないということだ
ついでに何故狙われているのかと聞くと多分私、もしくはすずかの吸血鬼としての価値を欲しているのだという
詳しいことは教えてくれなかったが深入りする気はない
狙われているのが誰かがわかったのだから十分に価値がある情報だ

「…………………………難しいな」

「そうですね………………逃げようにも全ての出口はどうやら見張りがたってります。突破は時間があれば可能ですが、直ぐに応援が来るでしょう。そうなるとみなさんを守るのが…………………」

確かに
状況は絶望的だ
武器もあちらの方が断然有利
それに何より数が違う
人海戦術が最高の策とは言わないがそれでも有効な策であることは事実
事実ここまで追い込まれている
ここにいる三人は最高クラスの実力者らしいが、しかしだ
足手纏いが多すぎる
月村姉にすずか、バニングス
そして認めたくはないが俺だ
この三人だけなら辛勝になるだろうけども勝利ぐらいは出来るかもしれないらしい

無様な足枷になるとは………………最悪だな

今は自己嫌悪をしても意味がない
今はただ敵に打ち勝つ事だけを考えよう
勝利条件の為の障害をまず考える
一つはさっきも言ったように数
これに関しては言うまでもない
二つ目は武器
ナイフとかだけならまだしも銃器が相手ならお手上げだ
それも相手は多数
常人が立ち向かおうとしたらまず1秒で挽肉だ
そして三つ目
これが一番のネックかもしれない
それは
無線機
かなり邪魔だ
こちらの勝利条件を考えれば俺達は別に無理して相手をしなくてもいいのだ
全員が逃げられば完全勝利だ
こちらの戦力を一点集中して包囲網を突破してそのまま逃走
自分達はその間近くに隠れていればいい
それで勝利なのだ
だがそれで障害になるのが無線機なのだ
それで応援を呼ばれたらそれでおじゃんだ
最悪、隠れている俺達が見つかったらもう立て直しは効かない
そのままバッドエンドだ
そして残念な事に現実にはリセットボタンはないのだ
やり直しは効かない
一度失敗したらそこで終了

さて……………どうする

あれだけ啖呵を吐いてそれはないだろうとか思う人がいると思うが、はっきり言って勝利条件の達成は難しい
他のみんなもいろいろ考えているようだが、表情を見たら芳しくはないようだ
どうするかと思い何気なく天井を見る
そしてそこにあるものを見た

…………………………使えるな





「みなさん。策を一つ思いつきました」

いきなり慧君がそんなことをのたまった

「え………………って本当!?」

忍が驚き焦った声で慧君に答えを求める

「ええ、本当です。ただしいくつか必要なものと必要な準備が入ります」

「それは?」

「ええまずーーーーー」

彼は必要なものを忍に淡々と説明する
彼は未だに無表情
一体どれだけの胆力があればこんなことが出来るのか
精神でいえば彼は人類最強ではないのだろうか
少なくとも俺よりは強い
弱音を吐いた俺よりは

「ーーーーええ、一応それだけの道具も技術は突貫工事になるわね。」

「十分です。それだけ出来ればお釣りが返ってきます。後は具体的な作戦ですがーーー」

そこまで言うと彼は何故か俺の方を見た

何だ……………?

彼は一度年齢には似合わないため息をつき

「さっき恭也さん、貴方は弱音を吐きましたね」

こちらの痛いところを突いてきた

「…………………………ああ」

否定はできない
肯定するしかない
俺は弱音を吐いた
御神の剣士が
守ることを信条とした御神の剣士が
守れないかもしれないと言ったのだ
これを弱音と言わずに何という
今の俺はただの……………弱者だ

「しかし、今からの戦いにそんな弱音を吐くような心のまま着いてきてもらうわけには行けません。ということで貴方のプライドを刺激しましょう」

「………………なに?」

俺の……………プライド?

「今回の作戦で貴方はこういう立場になります。貴方が俺達すべての命を守る立場に」

「は?」

間抜けな声が出た
今この少年は何と言った
俺がここにいるみんなの命を守る立場になると言ったのか
こんな俺に
一度は無理だと弱音を吐いた俺に
それでも

守らせてくれるというのか!

「勿論、貴方が失敗したら全員の命が危うくなりますね。ようは一番大事な役割です。失敗は許されません。だからーー」

その信念を貫けますか

ああ、なるほど
すずかちゃんが彼を悪魔と言うわけだ
まるで彼の言葉は悪魔の誘惑だ
自身が望んでいる物を示され、そして叶えることが出来ると掲示する
これを悪魔と言わず何という

見事に俺が望んだものを見せつける……………!

恭也は自覚はしていないが顔の表情が変わる
それは獰猛な笑顔だ
ただの獰猛な笑顔ではない
己の命を懸けたものを貫くことが出来るという戦士の貌だ
そこまで風雷慧は見届け頷いた

「OK。それでいいです。頼みますよ、御神の剣士。貴方の剣で俺達の障害を薙ぎ払ってください」

「ーーー心得た………………!」




剣士は闘志を奮い立たせた
後は準備をするだけだな
そこらへんは月村姉とかに任せよう
今言う事は宣言だ
これからの戦いに向けての

「では、今宵の演劇(戦い)のキャストが決まりましたね。敵役はあの見るからも雑魚そうな馬鹿共と、味方役は月村姉、月村メイド、月村ドジッ子メイドとバニングスとすずか。主役は恭也さんと僭越ながら俺、風雷慧が行こうか」

みんなが一瞬動きを止めるが無視

「では話しましょうかーーーー勝利への脚本を。とその前にすずか」

「え?あ、うん、なに?」

いきなり呼ばれたのが意外だったのか少し慌てたがすぐさま答えを返す
別に簡単な要求をするだけなのに
だから慌てず彼女に頼んだ

「すずか。お前の服が必要だから速攻で脱げ」

「………………………………………」

答えは速攻だった
腰が入ったビンタという


あとがき
申し訳ない
次はバトルと言っていたのに
次こそはバトルなので
本当ですよ!
そしてすいません!
終わりのクロニクルの芸風を勝手に獲ってしまって!!



[27393] 第九話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:22

時間は草木も眠る逢魔が時

場所は月村邸

そんななか私達は動いていた
周りを見ると皆似たり寄ったりの恰好をしており、その手には物騒な鉄色の物、武器がある
形や性能は違ってもこれの使い方は至って単純だ
つまり敵を殺すという
そんなものを握っていると自然と溜息をつく
随分と自分はこういうものを握るのに慣れたものだと
別に自分の人生は特別何かがあったという事はない
ただ生きていたらこうなった
それだけだ
別に自分の仕事に不満はない
どんな世界でも生きていくには金がいる
ただ自分の仕事がこういうのだった
最低で屑みたいな仕事だがそれでも金は手に入る
とどのつまり人間とはこうやって争い続ける業が深い生き物なのだろう

とまぁ、無駄な考えを保留し即座に頭を切り替える
今回の仕事は何だかマンガにでも出てきそうな内容だ
何でもここにいるご令嬢を生きて捕えなくてはいけないらしい
多少の怪我はいいらしいが、命だけは取るなというのが条件だ
何故と思うが追及は避けた方がいいのがこの業界の常識だ
好奇心が強い奴は大抵ろくでもないことになる
だから生きるには中途半端な関心が丁度いいのだ
依頼を受け、成功し、金を貰う
これが最上の関係だ

またもや話がそれてしまった
さっきのトラップのせいで疲れたのだろうか
トラップの内容の詳細はあんまり思い出したくないので言いたくないが、一言言えることがあるとしたら、製作者の性格はかなり陰険だろうというところだろう
おかげで何人か脱落した
それでもこの屋敷を包囲するには十分なぐらいだが
今はチームを分けている
まず、俺達
ターゲットを探し出し、見つけたら有無を言わさずに連れてくる探索隊
次は正面玄関にいるチーム
こいつらは正面を警戒するとともに俺達が使っている無線の中継場所みたいなものだ
最後に裏口のチーム
こちらは完全に逃走を警戒するためのメンバーだ
人数配分は俺達が一番多い
普通なら連携をするための正面玄関チームに人数を分けたいところだが、何でも依頼人の情報だとターゲットについている恋人とメイド達の実力が人外級のレベルの強さらしい。冗談に聞こえるが、まさかそんな子供でも言わないような冗談をこんな場面で言うはずがない
というわけで探索隊の俺達が一番多いのだが

バン!とまた扉を開く
最大限の警戒をしながら辺りを見回すが人影はない
念のため人が隠れられそうな場所も探してみるが人はいない
またもやはずれ
どうやらやっこさんは上手く隠れているようだ
まぁ、命とかを狙われているのなら当然の反応だろう

『こちらα、β、γ、応答しろ』

そんなこんな考えているうちに定時連絡の時間
どういうわけかこのチームでは俺がリーダーという事になってるので俺が応答しなくてはいけない
面倒だがこれも仕事だ
無線機のスイッチを押し、返事をする
ちなみにαは玄関チーム
βは俺達
γは裏口チーム
別に名前に凝る必要はなかったので素っ気ない名前にしたのだ

「こちらβ、異常なし。ターゲットは未だ確認できず」

『こちらγ、異常ない。ターゲットは未だ確認できず』

どうやらまだどこにも出てきてないようだ
困ったもんだ
こういう膠着状態は大抵長いこと続く
こういう状態では嫌でもお互い敏感になるのでお互い逃げ、追いを続けてしまうのだ
そんなことをしていると集中が切れる

まぁ、長期戦ではこちらに分があるだろう………………

さっき出た三人はともかく他の人間はこういう荒事には慣れていない、つまり足手纏いだ
さっきから守勢に回っているのもそれが原因の一つだろう
こっちも仕事
まさか武士道に乗っ取って一対一で勝負とか卑怯な事はしない、何て綺麗事を言うつもりは微塵もない
足手纏いがいたら即座にそこをつく
これもこの世界の常識だ

何はともあれまずはターゲットを見つけなくては話にならない
とりあえず再び違う部屋に行こうと思った瞬間

『あーーテステス。マイクテストー、マイクテストー。今日は晴天なりーー』

などとふざけた言葉が屋敷内に流れた
どうやら放送機材でもあるようで屋敷内全体に流れているようだ
ほんの少しの緊張が走るが、そこは経験から無視する
まずはこの行動の意味を理解しようと思考を走らせる
答えを出す前にあちらが先に答えを言う

『えーーー、この屋敷に来ている物騒な皆さん。どうか哀れで可哀想で個性が薄い俺の頼みを聞いてくれないでしょうかーーー』

戯言と判断するべきかと思考したが今は情報が欲しい
これから聞く言葉を全て頭に刻むために耳に集中する
そして次に来た言葉は私達にとって予想外の言葉だった

『俺、風雷慧は降伏するのでどうか助けてくれないでしょうか。ちなみに人質として、ここの一番の末っ子、月村すずかを捕えていますが』




どうやら作戦が始まったようだ
そう思い俺は体を隠し、気配を消しながら合図を待つ
今回の作戦は奇策というか無謀ともいえる作戦だ
誰かが、特に俺と慧君が失敗したら命を落とす
しかし、この作戦以外皆が生きて帰れるという作戦が出なかったのだ
何とか準備は間に合ったが、それでも不安要素が有りすぎる
作戦を考えられなかった自分が言う資格はないが
俺は自分が装備している武器を見る
人を殺すだけの武器
しかし、俺達御神不破流はこの殺す武器で人を守ろうとするのが真髄
作戦の事を頭の中で繰り返し、そして作戦の事を聞く前の会話を思い出す

『今回の作戦で貴方はこういう立場になります。貴方が俺達すべての命を守る立場に』

無表情の彼は宣言通りに俺のプライドをこういうセリフで突いてきた
事実、高町恭也に対してこれほど効果的なセリフはないだろう
御神流の教えというのもあるが何よりも自分の信念としていることなのだ
そこを突かれたら動くしかない
彼の言葉を利用されたと捉える考えもあるかもしれない
しかし

『その信念を貫けますか』

彼は一度くじけた俺をこの重要な役割にした
ノエルさんやファリンさんが戦えることを知った後でもだ
普通なら弱音を吐いた男よりもそっちに任せるだろう
でも、彼は俺に任せた
勿論、打算的な事もあるのかもしれない
でもだ
俺がそう思いたいだけかもしれない
でも俺はこう思う

『OK。それでいいです。頼みますよ、御神の剣士。貴方の剣で俺達の障害を薙ぎ払ってください』

俺を信用してくれたからここを俺に任せてくれたのではないのかと
過大評価かもしれない
都合のいい解釈をしてるだけかもしれない
でも、俺が知る限り一番年下で、複雑怪奇な性格で、手加減などせず、容赦もしない彼が弱気な俺をここに任せるのだろうか
そこで思い出す
彼が今のところ名前で呼ぶのは俺とすずかちゃんだけだという事を
推測だがというかこじつけで自分がそう取りたいと思っているのだろうけど

彼は認めた相手にだけ名前で呼ぶのではないか

わかっている
さっきも考えたように都合のいい解釈だというのは
しかし、俺は馬鹿だ
その誤解を勝手に信じることが出来る馬鹿だ
信用されていると勝手に解釈し、信じる
ならば
ここでその信用に応えなくては御神の剣士として
男として
人間として屑になる
その考えを胸の内に秘める
研ぎ澄まされていくという感覚がある
まるで剣を研いでいるみたいな感じだ
そうだ
この身は御神の剣士
是、一本の刀也
ただの殺人の刀ではない
人を守る守護の刀だ
ならば守れ
己が存在意義に懸けて
己が信念に懸けて
皆から託された想いの為に

こうして高町恭也は研ぎ澄まされていく
本人は気づいていないが普段の数倍は
だが彼はまだ動かない
刀は納刀したまま
ただ今宵限りの主の抜刀(合図)を待つ





「一体どういうつもりだ……………」

答えを期待したわけではない
相手は屋敷のどこかで放送しているのだから
そう思っていたら

『別に、他意はないですよ。普通ならこんな命のやり取りをしている現場にいたら怖くなるに決まっているでしょう』

返事が返ってきた
そこで更に緊張が高まる
どうやら相手は屋敷中に声を拾う機材をセットしているらしい
つまりこちらの会話は筒抜けのようだ
しかもよく聞くと声は若い
多分、今回巻き込まれたターゲットの友達の男の子だろう
だがその言葉を単純に信じることも出来ない
こちらの言葉が聞こえるのならば、逆にそれを利用して情報を入手しようという判断をする

「残念ながら君の言葉を簡単に信用するわけにはいかないな」

返事がすぐ返ってきた

『ふむ、それはそちらの立場から考えたら当然だと思うけどこっちからしたらそれを証明する術がないのですが』

「………………いくつか質問をさせてもらおう」

『いいですよ。幾らでも』

これは意外な答えだった
こちらはもしかしたら他の人間に脅されてこんな囮みたいなことをしているのかと思ったが、どうやら外れらしい
とりあえず、今は情報が最優先だ

「まず、他の人間は?」

『ええ、月村すずかを人質にした時に俺は逃げ出したから知りませんよ』

「そちらの戦力は?」

『さぁ、聞いたところでは男性一人と女性二人。その女性はメイドなんですが、これは洒落なのでしょうかね』

「何故こんなことをした」

『さっきも言った通り生きたいからですよ』

「君達は友達だったのでは?」

『残念ながらこちらは友達なんて微塵たりとも思っていません』

「だが君は夕方、こちらからの相手を撃退していると聞いたが」

『それはすいませんと言っておきましょう。一応クラスメイトですから痴漢に襲われているから助けようという正義感が動いたのですよ。今になって後悔していますが。後悔先に立たずという言葉は真理ですね』

「信用できない」

『こっちとしては信用してもらうしかないのですが』

「…………………………では直接話をしたい」

ここで切り出す
もしこれが嘘なら十中八九断るはずだ
何故なら場所が見つかったら、そこでゲームオーバーなのだから
だが

『ええ、いいですよ』

答えは二つ返事だった
少し眉をひそめるが警戒は怠らない

「……………では場所は?」

『ええ。場所は二階の広い部屋があるでしょう?食堂みたいですね。そこでお待ちしています』

そこまで言うと
ブツと相手からのコンタクトが切られた
まだ油断はできない
もしかしたらトラップがあるだけで本人はいないかもしれない
とりあえず他のメンバーに報告だけはしとかなくてはと思い無線のスイッチを入れる

『こちらα、状況は理解している』

『こちらγ、同じく』

「こちらβ、判断を仰ぐ」

暫く沈黙する
しかし答えはすぐだった

『こちらα、指定された場所に行け。油断はするな』

やはりそうなるだろう
確かにまだ証拠などはなく、怪しいところばかりだが逆を言うと事実の可能性もある
もしターゲットの内、一人を本当に人質にしていたら大変なことになる
相手は子供だ
もし錯乱して手にかけたら一大事だ
ならば必然的にそうなるだろう

「β、了解しました。これより通信は少しの間閉じます」

簡潔に言い、仲間に目配せをして、指定した場所に行く
しかし、彼らは知らない
彼が相手するのはただの子供ではない
この世で唯一といってもいいかもしれない
人間なのに悪魔の名を冠することを許された子供であるという事を

『あ、後、夕方にやられたキムチ鍋の弁償もしてもらうんで』

「……………………………………………………」

やはりただの子供だろうか



ふぅ、と電源を切って溜息をこぼす
とりあえず第一段階はクリアした
後は次の第二段階と第三段階をクリアしたら勝ちだ
だがこの二つが綱渡りみたいな作戦だ
タイミングがほんの少しでもずれたらそこで終わりだ

……………まぁ、保険はとってあるからいいけど

そう、この作戦は最低死ぬのは『一人』なのだ
誰も気づいてないようだからよかったが、誰かが気づいていたら止められていただろうなぁ
あの人達、馬鹿みたいにお人好しだし
かたかたかたと足音が極限まで消された震動が聞こえた
どうやらもう二階に来たらしい
気を再び引き締める
第二段階の内容は舌戦だ
とりあえず遠慮なく騙させてもらおう





指定された部屋に到着した
ここに来るまでにトラップはなかった
だがそれでも油断はしない
中に伏兵とかその他のトラップがないとは限らない
疑心暗鬼になるのは職業病だ
故に気配を読むテクニックは少しはあると思ったのだが、部屋の中にはそれらしい気配がない
騙されたかと思うが承知の上だ
目配せをする
各々武器を構えたり、奇襲対策をしたりなど色々な反応をする
ならば後はドアを開けるだけだ
一つ深呼吸

バン!!とドアを開ける

だが予想に反してそこは廊下よりも真っ暗だ
明かりがついてないのも原因の一つだが一番の原因はカーテンを閉じているのがあるのだろう
月の光さえ届かない
そういえばターゲットの姓には月が含まれていたなと余計な事を考える
しかし、思考とはよそに経験が体を動かせる
銃についているライトをつけようとした瞬間

「すいません。光は点けないでくれませんか」

唐突に聞こえた声に体が勝手に反応して声がした方向に銃をつきつける
勿論、他のメンバーも
さっきと同じ声
顔は見えないがシルエットから小学生くらいだとわかる
そのシルエットが二つ
その内一つは少年らしきシルエットの腕が首にまわっていた
規則正しい寝息も微かに聞こえる

………………嘘では……………なかったか

どうやら本当にターゲットの一人を人質にしたらしい
もっともそれも作戦の内かもしれないが

「すいません。それ以上近づかないでください。安全を求めているとはいえまだ完璧な交渉もしていないのに近づいてもらったら困るんで」

要求が再びくる
私は返答した

「もし、それを破ったらどうする?」

「簡単です。この人質の命を断ちます。偶然なことに俺の手にはナイフが握られているのですよ」

後ろの何人かが少し呻き声を出したのがわかる
多分だが力ずくで抑えようと思っていたのだろう
いくら銃弾のスピードが音速レベルとはいえ、流石に彼のナイフがターゲットの首を掻っ切るよりも早くには無理だ
銃が音速でも、それを撃つ私達の指は音速ではないのだ
ある意味厄介な構図だ

「では、こちらはどうすればいい」

「簡単です。俺はこれから月村邸から逃げるので、それを見逃して下さい。途中でこいつを解放するので後はご自由に」

「不可能だ。信頼できない」

「こちらも不可能です。信用できない」

お互いがお互いを疑いあう
緊張感は否応なしに高まる

「大体繰り返すが君達は友達ではなくとも学友ではあったんだろう?そんな相手をそんな簡単に見捨てるのかい」

「ええ。逆に聞きますが貴方、自分の命と学友の命、どちらが大切ですか?」

「……………なるほどな。非常に合理的だ」

「そりゃ、どうも。お褒めいただき光栄です」

「だがーーーーわかるだろう?」

「ええーーーーわかりますとも」

「「全然信じられない」」

話は平行線だ
このままでは時間だけが流れる
もう一人の方を捕まえられたらこっちは用済みなのだが、今のところの様子では難しいだろう
護衛の方が全部あちらに付いているかもしれない
そうなるとこちらの子供を何とかした方がまだ楽だ
見た目に反してかなり頭が回るようだから気は抜けない
ここからは力を使う戦いではなく、頭を使った舌戦だ

「もう一度復唱しよう。君の要求は自分の安全確保。それが済み次第、人質を解放。それだけかい」

「ええ。強いて言うならこれからも俺に手を出さない事もですかね。ついでにキムチ鍋の弁償も」

「後半無視するが、勿論、私達は君の言葉に偽りがあるのではないかと疑う」

「勿論、俺は貴方達が約束を守ってもらえるかどうかを疑う」

「どうしようかな」

「どうするべきですかね」

「はっきり言おう。実は君達二人の話を聞いているのは実は情報を知るためであって、君達の命はどうでもいいんだよ」

「嘘ですね。それならば昼間の時、何故二人を生け捕りで誘拐しようとしていたんですか?殺すだけなら事故に見せかけて暗殺することも出来ないことはないでしょう」

「依頼人の要求だ」

「ほう?では、どのように殺せと?」

「近くの廃棄ビルに誘拐してーーー」

「ダウト。減点だよ。そんなもの発見が遅くなるのと犯人の詳細がわかりにくなるだけで同じですよ。そんなことで見つかるようなヘマをしないという事は証拠隠滅能力があるということ。ならば事故でも同じですよ」

…………………………鋭い

どうやら生半可のブラフでは突破できないらしい
舐めてかかったらこちらの負けだ

「しかし、どうする?こっちとしてはわざわざその取引に応じる必要はないのだよ」

「だから人質がいるのですよ」

「だがこっちに保証する術がない。血判書でも押すかい?」

「いい線言ってますが、貴方達に武士道とかはなさそうですしねぇ」

「君にもな」

「違いない」

そこで一端息を吐く
熱い
一体この部屋に入って何分ぐらい経っただろうか
三分くらいだろうかと思って時計の方をチラリと見るともう十分ぐらい経っている
余り長い時間消費するのは得策ではない
速めにケリをつけなくては
ほんの少し銃を下す
長い間銃を同じ体制で持つと冗談じゃないぐらい疲れるのだ
その時、偶然無線のスイッチを入れてしまう
その時

『誰か!!誰か応答を!!頼む!早く救助を……………ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

一瞬でみんなの動きが止まる
今の悲鳴は何だ?
頭の回転が誤作動をしている
思考が空転する
自分が今、何をしていたのかわからなくなる
だがそこらへんは皆プロ
ほんの三秒ぐらいで現実に戻ってくる
どういうことかをほんの少しの時間で計算する
まず、他のメンバーが襲撃されている
襲撃しているのはあの銭湯可能の三人のだれか、もしくは全員
何故それを知ることが出来なかった
答えは簡単
俺達のメンバーは定時連絡から外れたから
何故
それはこれから行く場所がトラップがあるかもしれないから無線の使用を控えたからだ
何故この場所に来た
この少年に指定されたからだ
つまり結論

最初から最後まで騙されていた………………!?

即座に銃を構え少年を撃とうとしたら

ボン!と煙が発生し

ボッ!と火が点いた

いきなりの事で何もできなかったがそれでも少年を撃とうという行動は止まらなかった
引き金は即座に引かれた

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

総勢三十余りの銃口が火を噴く
パリンっ!!と窓ガラスが割れる音が聞こえる
当たっていたなら肉片しか残らない理不尽な掃射
撃っている間に火に反応したのかスプリンクラーが動いた
多分だは主電力とは違う予備電力で動いたのだろう
しかし、今はそんな事を気にしている時ではない
一端掃射を止める
煙はまだ晴れない
動くものはなさそうだ
スプリンクラーの人工の雨が私達を濡らす
暫くしてようやく煙が晴れる
そこには誰もいなかった
だがそこには服があった
女の子物の制服
多分ターゲットの少女が通っている学校の制服だ
だが肝心の本人はいなく、服だけだ
よく見たら周りにゴムがある
なるほど
どうやら風船で人に仕立て上げていたようだ
解った瞬間、誑かされたというよりは呆れてしまう

よくもまぁ、こんな無茶な真似を………………

ほんの少しでもカーテンから光が漏れたら一瞬でばれる
どうやら少年は窓から飛び降りたのだろう
二階からだから無理ではないが、無茶ではある
ターゲットの学友ならまだ小学一年生
骨や筋肉などいくら鍛えていたとしても未発達だろう
余程うまく衝撃を殺さなければ骨が砕けているだろう
そして多分だが少年は上手く殺せてないだろう
銃弾のせいでカーテンに穴が開いたおかげで光が漏れてきた
少年がいたと思われる場所には

赤い血が

銃弾のいくつかにかすったのだろう
見たところ致命傷というわけではなさそうだが軽いというわけではないだろう
これで上手く着地できるかは五分五分だろう
しかし、まんまと騙されたものだ
とりあえず今することはここから撤収するしかないだろう
他のメンバーはやられていると思うべきだ
すぐさま撤退して任務の失敗を伝えるしかないだろう
気が重いが仕方ない
捕まるよりましだと思い、スプリンクラーで垂れてきた水を舌で舐める
そこで違和感を感じる

待て。何故火を点ける意味がある

火は事前に灯油でも周りに撒いていたのであろう
例えば自分達を傷つける為なら火の威力が弱すぎるし、スプリンクラーがあるのだ
私達にダメージを与えれるはずがない
まさかスプリンクラーの存在を知らなかったというわけではないだろう
これほどの作戦を考えてのにそんな些細な事を見落とすとは思えない
ということは
まさか
そう思った瞬間足から力が抜けた
それは私だけではなく他のメンバーもだ
強烈な脱力感が体を支配する

……………睡眠………………薬か……………

こういうことか
つまりだ
スプリンクラーの水の中に睡眠薬を混ぜたのだ
そのための火か
ただ火を投げただけならみんな違和感から逃げられるかもしれない
だが、この状況
騙されたとわかり、他のメンバーの敗北を知った後
そんな中で違和感を感じる暇がない
しかも、相手が子供だったのもある
いくら油断は出来る限りしないようにしていたとしても心理的に完璧に緊張を保つのは難しい
そんな中をこのトラップ
見くびっていた
嘗めていた
相手はただの子供ではなかったのだ

何て…………えげつない……………子供…………だ

バタリとみんなが倒れる
誰も動くことはなかった





「はぁ、二度とこんなことしたくないぜ」

思わずため息をつく
幸せがいっぱい逃げていく
何とか着地をした後、近くの木に背をもたれさせ、脇腹に受けた傷を服を破ってガサツな応急処置をしたところだ
ギリギリなんてもんじゃない
完璧な失敗だ
本当ならもうちょっと舌戦をするはずなのに偶然にやられた
咄嗟に作戦を早めに決行したが、この様
傑作としか言えない

「大丈夫か!?慧君!?」

ようやく恭也さんがやって来た
結構返り血に濡れているし、彼自身の血も流れてるがかすり傷みたいだ
羨ましい
ちなみに恭也さんが本格的に動いたのは俺が館内放送の後でキムチ鍋の事を聞いた直後だ
相手は油断したのか無線を切るというのを拾ったのだ
まぁ、作戦通りだ
キムチ鍋の事が作戦の合図だったのだ

「遅いですよ。恭也さん。出来ればもう少し速く来てくれてもよかったですよ」

「ああ、すまない。すぐ治療を……………!」

「そうですね」

苦痛はもうどうでもいいけどこのまま血が流れ続けたら失血死をしてしまう
流石にそんな間抜けな死に方はしたくない
何とか立とうとする

「よっこら…………せ」

「馬鹿!無茶をするな!俺が運ぶ!」

「馬鹿はそっちですよ。もしその状況で敵に奇襲されたらそれこそどうするんですか」

「くっ、だが…………しかし」

「大丈夫ですよ。まだ動けなくなるほど血は失っていません」

そうして彼の顔を真っ直ぐ見る
それでようやく観念したのか
わかったと呟いて早歩きでここから去ろうとする
俺もそれについて行こうとする

はぁ、疲れた。今日は早く…………寝たい

そう思ったのがいけないのだろうか
唐突に背中から

「なんだい?もう帰るのかい」

と知らない声が聞こえた

すぐさま振り返る
俺はともかく恭也さんでさえ気づかない気配の消し方
一瞬で判断
相手はプロ中のプロと認定、否、断定

そこに立っていたのはビシッと黒いスーツを決めた男と
何だか変な服を着て刃で武装した女

変な女の方のは知らないが男の方はヤバイというのがぴんぴんする
立っている姿は重心が揺れておらず、自然とそこに立っている
隙なんてものは全然ない
完璧な武を修めている人の立ち振る舞いだ

「なるほど、君達が俺達を撃退したのか」

相手はこちらを値踏みするような目でこちらを見てくる
いけない
沈黙しているのは駄目だ
弱気を見抜かれるかもしれない

「何ですか?こちらを舐めるような目つきで見てきて。もしかしてそっち系の人ですか?」

よし
いつもの戯言が出てくる
いきなりのショックを何とか耐える

「残念ながらそんなもんじゃないさ。ただ君達がよくあれだけの人数から生き残れたねと感心したのさ」

「それならこちらも残念ながらと言いましょう。何せ相手はこちらが少人数だからか。もしくは、足手纏いがいると思っていたからか。あんまり本気ではなかったと思いますよ。」

「それを突いたのは君達の力量だ。謙遜することではないと思うけどね」

ちくしょう…………
侮ってくれないか
こちらを侮ってくれたらもう少し隙が見えてくるのだが相手は油断など欠片もない
不味い状況だ
こちらは怪我人一名に疲労一名
明らかこちらの不利だ
何せ相手は今まで何もしていないのだから
と思ってたら今まで沈黙を保っていた恭也さんが会話に加わった

「…………何故、貴様らがここにいる?」

「奇妙なことを聞く。俺達の仕事はそちらの吸血鬼の確保だ。ならここにいるのはおかしくないだろう?」

「それにしても速過ぎる!応援ならもう少しかかるはずだ!」

「ああ、そういうことか。それはそこの少年に聞けばどうだ?どうやらわかっているようだし?」

「何を言いますか。俺はどこにでもいる小学生です」

「君みたいな薄気味悪い子供がどこにでもいる小学生なら教育を変えなくてはいけないね」

「………………貴様!」

恭也さんが怒って突っかかろうとするがギリギリ止める
こういう相手に感情で戦っても結果は敗北だろう
感情だけで決まる勝負なんて皆無なんだから
それに薄気味悪いと言われても反論は出来ないことは自覚している

「で、答えは?」

「簡単だ。俺達はいざという時の保険でね。失敗したときの為の駒だよ」

そう言った瞬間
さっきまでまるで人形みたいだった女が急に動き出した

「イレイン。君の相手はそこの黒尽くめの剣士だ。----存分に戦え」

瞬間
恭也さんと女の姿が消えた
否、消えたのではない
俺の動体視力では追えないスピードで遠ざかったのだ
多分だが先に攻撃したのはイレインとかいう女の方だろう
証拠に
俺の斜め五歩ぐらいの位置に大地に強烈な足跡が残っている

恭也さんの同類か
もしくは、メイドの同類か………………

多分だが後者だろう
それならさっきまでの人形みたいな状態に納得できる
ようするに電源が入っていなかったのだ
電源(命令)が
まぁ、恭也さんなら勝つのはわからないが直ぐに負けるという事はないだろう
問題は俺だ

「さて、こちらも始めようかな」

そんな事を言いながら彼は何の構えも取らない
まさしく泰然自若
なのにまったくの隙なし

「おいおい、俺なんか相手してもメリットはまったくないぞ」

「そうでもないな。こんな奇策を考え付いた頭は完全な障害だ」

「いつ、俺が考えたと」

「時間稼ぎもそこまでにしときな。ターゲットの情報は既に頭の中に入っている。そしてこんな考えを思いつくような人間がいないこともな。そこの高町恭也を含め、自動人形もな」

「そのターゲットを探したほうが得策ではないのか」

「それは同感だがーーーーもうこの屋敷内にはいないだろう?」

「何故そう思いますか?実は秘密の部屋に隠れているかもしれませんよ?バシリスクと一緒に」

「映画の話もいいけど。まだまだ子供だな。答えるのが早いよ」

「……………………………………………………」

「まぁ、だから君を倒すという事になるのだ」

「何故?」

「簡単だ。君のズボンの左ポケットーーーー携帯が入っているだろ」

「いえ、これはーーー」

「別に答えは聞いていない。それを奪わせてもらうだけだ」

「まさかこれですずか達と連絡をとるとでも。残念ながらそういう為の暗号も作っています。速攻で俺じゃないとばれますよ」

これはブラフだ
まさかこんな局面になるとは思っていなかったし、携帯を使われるとは完璧に計算外だ(ちなみにすずかに壊されたのはダミーの玩具の携帯だ。何故そんなものを持っているかだって?野暮なことは聞きなさんな)。
少しでも攪乱になればいいのだが
だが現実は更に残酷だった

「いや、それはどうでもいいんだ」

「なに?」

「簡単だよ。君は違うかもしれないけど。もしも仲良くなくてもクラスメイトの子供が例えば人質になったとしたら、『普通』はどうする?」

「……………………………………………………」

「それも、もしも自分のせいで人質になったとしたら?」

「……………………………………………………」

「そうなって、こう言ったらどうなるかな?『この少年を返してほしくば、降伏しろと』」

もはや言葉はいらなかった

ダン!!と思い切り地を蹴る
自身の怪我の事などは構わない走り
ただ敵を打倒するために




あとがき
すいません、機器については独自の解釈をしてますし、多少ご都合的に進んでいるところがありますが
そこらへんは作者の力不足なのでどうかご了承頂きたい
次ですずか嬢編の終わりになると思います
本編に入るのはいつになるやら



[27393] 第十話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:22

一瞬で何の躊躇いもなくぶちのめそうと走りながら心の中で宣言した
こいつはさっきまでの男達とは違いまさしくプロ中のプロ
舐めてかかったら一瞬でこちらはお陀仏
だから遠慮なく

ここでぶっ潰す………………!


「ここでキムチ鍋の材料の弁償を貰い受ける………………!」

「言うべきセリフと隠すべきセリフが逆じゃないかな?」

相手の戯言は無視した(どちらも本心だからだ)
相手を攻撃できる距離まではあと五歩といったところ
しかし、相手は俺よりも成熟した男性なのだ三歩といったところか
更にこちらは正規の格闘技の訓練は受けてないのだ
あの山猿との喧嘩ぐらいだ
こちらが不利な条件しかない
残り四歩
相手は二歩
出来ることは時間稼ぎぐらいか
そう思ってると
黒服スーツはスーツの内側に手を突っ込んだ

銃か…………………………?

この距離で?
近接戦闘に入ったらただの無用の長物になる銃を?
意図が読めない
相手の攻撃範囲まで残り一歩
もうここまで来たらどこぞの某熱血マンガの主人公のライバル?(ギャグ好き)な奴のセリフを使おう

「やけくそってかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

一歩
踏み込む
直後
相手は手を内側から引くが手の中には

「あっ」

空っぽ
と思った瞬間
目の前から黒い槍の如き攻撃が
相手のミドルキックが

「!!っ」

咄嗟に両手をクロスして防ぐ
衝撃をもろに受け後ろに吹き飛ぶ
なるほど
手はフェイク
本命は足か
本命の攻撃を悟られにくいようにそういうフェイクを入れたのだろうが、流石に解りやす過ぎだ

このまま時間稼ぎを出来たらいいのだが………………

そうは問屋が卸さなかった

タンッとむしろ優しそうな音を響かせながら
吹き飛んでいる俺に追いつき襟首を握られた
そしてそのまま流れるような頭突き
喰らったら頭蓋骨陥没は必須かなと頭はのんびり考えながら

「っ!!」

頭を必死に逸らした
と思ったら

「がっ!」

唐突に脇腹に痛みが走る
理由は明確だ
俺が頭突きの方に集中して視野狭角をしている間に相手が思いっきっり俺の脇腹を叩いたからだ
しかも銃弾で傷を負っている方の

ぶしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!

決して少なくない血が勢いよく吐き出される
その分体温が下がった気がした
だが、そっちは今はどうでもよくないが、もう一つのダメージの方が深刻なのでどうでもいい
本命はそっちではない
本命は脇腹自体
人間の人体急所の内一つ
衝撃は肋骨を突き抜け肺にまで至る
おかげで呼吸困難に陥りそうだ
苦しんでる隙に相手は容赦なく攻撃する

ドゴッ!と強烈な膝蹴りを鳩尾にやられる
どうやら人体急所を攻めるサーヴィスらしい

ガボッ!と余り口から出ない音が出てくる
胃から込みあがってくるものがあるのが嫌でもわかる
だが、それを出す余裕なんてどこにもない

そのまま、いつの間にか襟首を掴んでいた手を離したのか
空いた両手をお互いきつく掴み合い、まるでハンマーのような形になり

思い切り振りおろされる

ゴン!!と頭から嫌な音が響く
頭は勢いに乗ってそのまま地面に頭突き
容赦がないのレベルではない
これでは一方的な虐殺だなと本格的にボーとしてきた頭でどうでもいいことを考えてると

その頭をサッカーボールを蹴るように思い切り蹴られる

あら見事
俺の体がまさしくボールのように吹っ飛ばされた
もう体が………………
ゴロンゴロン転がりながら体がやばいぐらい動かないことを自覚
最初から最後までただやられるだけだった
戦隊ものの雑魚キャラでもここまで酷くないだろう
転がっていると携帯が左ポケットから落ちたのが見えた

…………あ…………………ま…………………………ず

思いとは裏腹に携帯は遠ざかっていく
奪わせてはいけないのに

相も変わらず現実は地獄以上に非情だ







「さてと」

見るからに薄気味悪い子供は動かなくなった
当然だろう
あれだけ人体急所に打ち込んだり、脳を揺さぶったりしたのだ
気絶は当然しているだろう
まぁ、少なくとも二、三日は飯もまともに食えないだろう
あれで立ち上がったら、それこそ化け物だ
とりあえず最初の目的の携帯を拾いに行く
どんな文面を書くのが一番効果的を考えながら、携帯のすぐ近くまで歩き、取る為に屈む
そこで、強烈な違和感
今まで培ってきた膨大な戦闘経験が警鐘を鳴らしまくっている
待て

何故こんなに都合よく携帯が落ちている

落ちる直前
少年は俺に蹴られた衝撃で思い切り転がっていた
確かにあれなら偶然、携帯が落ちても不思議ではない
不思議ではないのだが警鐘は止まらない

目的の携帯が『偶然』落ちた
そんな偶然あるだろうか

ならば何故落ちた?
そこまで思考が追いついた瞬間

俺は躊躇わずにその体勢から横に転がった
すると、さっきまでいた位置から風切り音が聞こえた
何かが壊れた音が聞こえたが、それを確認せず、暫く横にゴロゴロ転がりながら、ランダムで立ち上がった
すると目の前には

倒れたはずの少年が血を流しながら
焦点が合わないまま立っていた

「何で立っているのか。まず聞きたいね」

「…………それは……………簡単ですよ。足に異常がないので……………立てるのですよ」

言葉は途切れ途切れだがそれでもふざけた戯言を言ってくる
ここまで来たら天晴れと言いたくなる

「そういうことではなくてね。あれだけのダメージを受けながらどうして立ち上がれるんだい?普通なら体の痛みや何やらで起き上がるのは最低二日はいると思うんだけどね」

「…………………………素人の…………子供……………相手に…………そんなえげつないことを…………した…………んですか。最低な……………人…………です…………ね」

「君にだけは言われたくはないがね。それとも何か?君は無痛覚症なのかい?それなら、こちらはやる気がでてこないんだが」

「………………………………………………………………」

勿論、外れているのはわかっている
それならば、ここまで苦しそうにはなっていないだろう
受け身とで凌げる攻撃をした覚えもない
かといって耐えられるような攻撃ではない
精神論ーーーとかは勿論、なしだ
今までの攻撃は精神論で何とか出来る攻撃ではない
人体としての急所ばかり狙った攻撃なのだ
根性論では履がえられない
では、何だろうか

「やっぱり君は化け物だったのかな?」

「…………………それこそ…………貴方に…………言わ…………れたく…………ないです」

相も変わらず無表情
だから薄気味悪い子供なのだ
こういう顔をした人間は仕事柄、結構見ている
そういった奴らは大抵ろくでもないことを起こす
テロや大量殺人
数え上げたらきりがない
メールをした後、殺すつもりだったが、それが裏目に出たようだ
これは単純にこちらの落ち度だ

…………………それでも動けるはずがないんだが

まぁ、いくら聞いても相手が答えるはずがない
そういえば、さっきは何を投げたのだろうか
相手から気を逸らさずに横目で、さっきの場所を見てみると、そこには拳大くらいの石があった
ご丁寧にも自分の携帯を壊し場がら。さっき聞こえた壊れた音はそれか
何時の間に石を拾われたのだろうか
まさか、携帯に意識を向けられた時ではないだろう
そんな時間的余裕はなかった
となると取れる時があったとしたら

地面に一度倒れさせたときか…………………………

よくあんなダメージを受けている最中に思考が動く
それだけならプロレベルだ
とりあえず、さっきまで考えていた作戦はこうして失敗に終わった
では、今やることは何か
決まっている

彼の止めだ

いくら立ち上がったとはいえ既に相手は死に体だ
証拠に息は荒いし、焦点は会ってない
他にも足が震えている
もう二撃ぐらいやったら、それで終わりだろう
だが、もう楽観は許されない
さっきの攻撃も耐えたのだ
その次も耐えられないとは言えない
一度あることは二度ある
二度あることは三度ある
まぁ、逆の可能性もあるにはあるが、俺達はプロだ
ならば、立ち上がれる可能性を零にするべきだ
遠慮なく、手加減なく、容赦なく
卑怯上等の手段で
コンマ一秒で考え、結論を出した
そこまで出たならば後は簡単だ
俺がした行動はこうだ

手をスーツの内側に突っ込み
内側にあるものを外にだし
相手に照準を合わせ
力を込める

ドン!ドン!

火薬の匂いがした
少年は一瞬、驚いた顔をして、体を見た
そこには

穴が『一つ』空いていた

一瞬の空白
まだ傷口からは血が流れない
しかし、心臓が一度鼓動をすると
ドシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!と勢いよく血が噴き出す
まるで、赤色の間欠泉だ
さっき傷口を直接殴った時よりも派手に溢れている
少年が後ろに二歩下がる
そして
遂に力が抜け、後ろに倒れる

ドサッという音が虚しく響く
流石にもう立てないようだ
これで立てたら、それこそ化け物だ
いや、既に精神だけなら化け物か
それにしてもおかしい
俺は『二発』撃ったはずなんだが、当たったのは一つだけ
もう一つは頭の方を狙ったはずなんだが…………………
まさか避けられるとは思えない
となると俺が外しただけだろう
やれやれ、俺も鈍ったものだ
帰ったら射撃訓練をやり直そうと心の中のメモに書きながら、倒れている少年に油断なく近づく

今度こそ彼に止めを刺すために

本当ならそれはもう余分な行為
もう、この少年は死に体
放っておいとも、もはや障害にはならないだろう
というか、放っておいたら出血多量であっけなく死ぬだろう
これからの行動は普通はもしかしたら、まだ居るかもしれないターゲットを探すか
もしくは、、今もまだイレインと戦っているであろう、御神の剣士を倒しに行くために助太刀に行くか
もしくは、撤収するかだ
これらの中のどれかを選ぶのが順当だ
だがそうはいくまい
この少年の『才能』を見てしまったらそうはいけなくなった
本当ならこの少年は死んでなくてはおかしいのだ
考えてみるがいい
この少年は確かに頭が切れる
少なくとも同年代の少年少女よりは遥かに切れるだろう
だが、それだけなのだ
多少、肉弾戦の心得があるようだが、それだって素人に毛が生えてレベルだ
それで銃弾飛び交う戦場で生きられるはずがない
否、断言しよう
生きられない
なのに、この少年は虫の息だが、まだ呼吸している
当たり前のように奇跡を起こし続けている
いや、ここまで来たら奇跡などという綺麗な名称ではない
ただの『異常』だ
見るもおぞましい
聞くも耐えがたい
醜い異常現象だ

だからこそここで断ち切らなければいけない

別に正義感でもなければ義務でもない
有り得ないと思うが、もう二度とこの少年と会わないようにするためだ
これが一番確実なのだ
こんなのは二度と会いたくない類の生き物なのだ
つらつらそんな益体もない事を考えていたら、もう少年は目の前だった
躊躇なく銃を額に向けようとする
その前にまた声が聞こえる

「…………………………あ…………の…………」

よくまぁ、喋れるもんだ
異常が極まった異形だな

「何だい。遺言は聞く気はないよ」

「…………月…………村家…………の…………………ゴホン!…………人達が…………………どこに行ったか…………知りたくゲホッ!ないですか?」

血を吐き出しながらも言いたいことを最後まで話す
当然だが銃を動かす手が止まる
個人的にはどうでもいいのだが、公的には無視してはいけない情報
勿論、ブラフの可能性の方が高い
だが、それでもしも本当の事なら完璧な失態となる
仕事とはこういう嫌な事も我慢しなければならない
それは普通の仕事も汚れ仕事も変わらない
世知辛い世の中だ

「とっとと話せ。君とは本当は話したくも、見たくもない」

「…………………おやおや…………………………嫌われた…………………もんで…………………」

「いいから話せ」

「O……………K、落ちつこ……………うぜ……………とっつぁん」

「待てぃ、○パン」

こんな時でもボケるか

「…………………まぁ……………そちらも…………………………わかっ…………てる……………ように……………ここには…………いません」

「……………………………………………………」

俺は黙って先に進めるよう促す

「そう……………あの…………………人達の…………………行先は……………………………………………………」

「行先は?」

「……………………王○」

「さぁて、ロシアンルーレットだな。ちなみに六分の五な」

「……………………傑作…………………………ですね」

…………………手足の二、三本ぐらい撃ち抜いてもまだ動けるような気がするのは俺の気のせいだろうか

「ちっ、いいから話せ」

「……………………そう…………ですか……………答えは……………簡単です」

ようやく答えか
さっきまでの呑気な雰囲気は消し、答えだけを聞く態度に戻る
まぁ、答えを聞いた後、容赦なくぶち抜くけどね
息絶え絶えに無表情のまま彼は伝えた

「…………………………貴方の……………後ろです」

は?という言葉を放つ前に延髄に痛みが走る
呆気なく体の力が抜けていく
一体何が?といつもより働かない頭がようやくそう考える
気配はまったく感じなかった
では、俺よりも高い技術を持っている御神の剣士ーーーー高町恭也かと思うが幾らなんでもイレイン相手には速すぎる勝利だ
もう体は上手く動かせず、前のめりに倒れるだけだが、長年培ってきた経験と訓練のおかげだろうか
視線が後ろの方に向いてくれた
相手はーーーー知らない男だった
しかし、推測はできた
何せ高町恭也と顔のつくりが余りにも似ているのだから

くそっ…………………………最後まで…………弄ばれた

せめて最後はこの薄気味悪い少年を睨もうと思いコンマ3秒くらいで目線を戻すと
そこにはーーーーーーー悪夢が
きっとこれは幻影
きっとこれは間違い
だってそうだろう
さっきまで
死にかけても表情を変えていなかった少年が

唇を三日月の形に歪めて嗤っているように見えたのだ
まるで、そうーーーー俺の不様を嗤うかのように

そこで意識は途絶えた
最後の思考は

ああーーーーーこんな化け物に関わるべきではなかったのだ






声がぶつ切れで聞こえる
否、もうそれは声というものではない
自身が理解できるものでなかったらそれは声ではなくただの音(ノイズ)だ
何で知っている言葉なのに理解できないのだろうかと思うが、既にそんな判断を下せるような状態ではない
俺自身はもう状態理解を出来るような状態ではない
簡単に言うと危篤状態なのだ
当たり前だろう
ほんの小学一年生の体に普通ならあり得ないダメージをしこたま喰らったのだ
大の大人でも危ないクラスのダメージをまだ体が出来上がっていない小さな体で受け止めてしまったのだ
結果がこうなるのは至極当然の結末だ
ぶつ切れの声(ノイズ)が頭に響く
そういえば視覚も薄ぼんやりとしている
誰が誰と話しているのかもわからない
理解できない言語が聞こえる

「……………だ……!…………血が……………すぎ……………!」

「な……………………なら…………………か!」

「ちょ……………………い!…………………………りな………………!!」

「…………………………んだ!…………………ゃん!」

「ノ………………リさ…………!……………たち…………すか!?」

「…………………が…………」

「………………には……………力………な……………す」

雑音がうるさい
いい加減眠らせてほしい
こっちは疲れてるのだ
起きたら幾らでも相手してやるから寝させてほしい
何で疲れているのか思い出せないが、これだけ疲れてるのだ
きっと、かなりの面倒な事をしたに違いない
ならば、ここで眠るのは正当の報酬ではないか
そう思い、ぼんやりとだが開けていた瞳を閉じようとする
しかし、相手はこちらの事情をまったく気にせずに、ようやく眠れるかと思っていたのにあろうことか、いきなりほっぺを叩いてきた
周りのノイズが更にうるさくなってきた
何で眠らせてくれないんだ
それとも何だ
この知らない(知らない?)人達は俺を更に働かせるつもりだろうか
何て外道
寝ることすら許されないのか
ノイズはもう煩わしさを超えて頭痛になってきた
ああ、もう

むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつく

ああ、こんな俺を邪魔するもの全て
■ーーーー

その瞬間
音が聞こえた

それはさっきのようなノイズではなかった
閉じかけていた目がほんの少し開かれる
何で自分がそんな事をしたのかわからない
ただ自分はどうしてもその音が気になった
ただただ確かめたかった
音がどこから聞こえるのか、使い物にならない耳をどうにか使って音源を探した
意外にも音は近くから聞こえた
そこにいたのは人だった
ぼんやりとしていてよく見えないが多分少女だと思う
ぼんやりとしていて表情も見えない
何の音なのか必死に理解しようとする
そうしていたら

不意に、顔に何かが落ちてきた

既にほとんど感覚はないが、まだ感じれる程度にはある
それは『水』だった
だがただの水ではない
温かいのだ
一体なんなのだろう?
まったくわからない
悲しいことに
この少年の思考能力は既に不味い領域に入っている
意識があるだけ奇跡なのだ
だから音が一体何なのか
水が一体何なのか
まったく理解できない
答えは簡単なのだ

音は少女の嗚咽で
水は少女の涙なのだ

そんな事も彼は理解できない
彼女が何を流しているのか
彼女は何を思っているのか
だが
だが、彼は外側の事は何も理解できないが、彼は内側ーーー己の記憶から溢れたものは理解できた

…………………………あれ?
俺は何か…………………約束……………いや、『契約』をしたんじゃなかったっけ

内容はボケた頭ではまったく思い出せない
しかし、それでもまるで喉に骨が引っ掛かったような気持ちになる
思い出せないモノを何故は俺は必死に思い出そうとしている
誰と契約したかもわからないものを
故に未練が出来た
ならば

まだ、俺は眠れない

その瞬間
記憶のフラッシュバック
俺の原初
地獄の風景
悪魔の嘲笑
そして
どこかの病室で一杯の人達を前に自分が何かを言っている光景

“今、ここに僕は契約します”

それは契約の祝詞
忘れてはいけない最初の契約

“今から僕のーーーーー”

ここから先は思い出すまでもない
思い出さなくてもこの汚れ、穢れ、壊れきった魂に刻んである
そうだ
忘れてはいけない
まだ俺は死ねないいんだ
死ぬわけにはいけないんだ
重傷?
知ったことじゃない
血が足りない?
そんなのどうでもいい
現実は非情?
それがどうした
傷が重いなら無視しろ
血が足りないなら代わりの物で補え
現実が非情ならその現実を■■しろ
だから

だからまだ死ねない

途端に視界が少し晴れる
さっきまではノイズだった声が今はまだ聞き取りずらくても声として理解する
周りが驚いているようだが無視
ただ俺は言いたいことを言うだけ
重くなった口でそれでも言う

「まだ…………………死ねない………………!」

そこで意識が闇に落ちた

最後の幻聴か
何か異形のコエが聞こえた

ーーーー残念
ーーーーもうちょっとだったのに
ーーーーまぁ、いいわ
ーーーーこれは
ーーーー貸しよ

最後に幻を視る


唇を三日月の形に歪めて嗤っているナニカを










パチクリと目を開ける
あれ?
レレレーノレ?

「知らない天井だ…………………」

日本人なら誰でもやるようなギャグをかましながら、現状を理解しようとする
見たところここは何かの家のようだ
しかも、何か豪邸の家のようでかなり部屋は広いし、高価そうだ
おっ、あそこの絵、高そう
その思考をして思い出す
昨日会ったことを
いや、昨日かどうか知らないが

確か………………最後に銃弾を受けて……………それからどうしたんだっけ?

まったく思い出さない
記憶が抜け落ちている
途中で気絶でもしてしまったのだろうか?
というかちょっと待て

何故俺がまだ生きている?

あの傷で俺はまだ生きれたのだろうか
別に医者ではないから確実とはいえないが、結構致命傷とはいかなくてもかなりの重傷のはずだったのだが
傷の部分を見ようにも体に力がまるで入らない
困った
どないしまひょとエセ関西弁を使いながら呑気に考えているといきなり

「ふ、風雷君!?起きたの!!!?」

いきなりの怒声で意識の大半が削られた

「………………すずか、ちょっと声の音量を下げよう。はっきり言ってうるさい」

「その毒舌……………!間違いなく風雷君!」

「見極め方がおかしくないか?」

「そんなことないよ!これが対風雷君用の見極め法その1だよ!」

「まるで、この世に俺の偽物がいるみたいだね。是非とも会いたいものだ………………」

「よかった……………そのおかしい会話。風雷君だぁ………………」

何やらあんまり良くない評価で喜ばれてしまったが目尻にあるものを見たらツッコめなかった
まぁ、別にどうでもいいけど

「おい、泣き吸血鬼。どうでもいいから状況の説明をしてくれ」

「泣いている女の子に対して言うセリフじゃあないよね!?しかも人が一番悩んでいたことでいじめるなんて!!」

「黙れ、泣け、金を寄越せ。そして状況を説明しろ」

「ああ……………やっぱり、優しい風雷君ていうのは夢のまた夢なんだね………………」

「十分に良心的だが」

「鏡と辞書を見てきて」

「鏡や辞書如きで俺の人間性は映らんよ」

「こういうのを天上天下唯我独尊男って言うのかな…………………………」

「俺如きでその称号は…………………………恐れ多い」

「はぁ、あんなことがあったのに何にも変わらないね風雷君」

「変わって欲しかったか?」

「ううん。全然」

ようやく、そこでいつも通りの笑顔を浮かべるすずか
他人の心配をするなんて、まったくお人好しな

「で、結局あれからどうなったんだ?」

「うん。一つずつ答えるよ」

「まず今は何時か」

「もう3日だよ」

「あれから事件はどうなった」

「お姉ちゃん達が動いているけどなんとか、犯人の人達を捕まえれそう」

「恭也さんは?」

「あの後、美由希さんとノエルさんとファリンさんが助太刀に行ったから無事だよ」

「バニングスは…………………聞くまでもないな。次」

「それはちょっと酷いんじゃないかな?アリサちゃん、かなり心配していたよ」

「後であいつの髪の毛で遊んでやる」

「…………………………具体的には?」

「あいつの髪の毛に蜂が好みそうなフェロモンをつけて、その後こう誘う『一緒に外を散歩しないか?』と」

「最上級の口説き文句が最低の騙し言葉になっている…………………………」

「そう褒めるなよ。つけあがるぜ」

「照れないんだ………………」

相変わらずのおふざけ
帰ってきたという感じがするのは気のせいではないだろう
だが、本題はそこではない

「でだ」

「…………………うん」

また少し落ち込んだような顔をするが、このままでは堂々巡りなのでこの際無視する
俺が本当に聞きたいのは

「何で、俺の傷がこんなにも早く癒えているんだ?」

「……………………………………………………」

そう
幾らなんでも3日やそこらであれだけの重傷が治るはずがない
素人目でも1~2か月は必要だろう
なのに、布団の下の体はそこまで傷ついている感じがしない
体が動かないのは麻酔でもやっているのだろうか

「答えてくれ、すずか」

「…………………………うん」

意を決してという様子で彼女は語る

「とりあえず、先に言っとくけど。風雷君の体はとてもじゃなかったけど病院まで耐えられるような体ではなかったの」

「だろうなぁ」

そりゃそうだ
あんだけ血を流したのに全然大丈夫ですとか言われたら逆に引く
何故だかジト目で見てきたが無視
話の先を促す

「だからねーーーー私の血を輸血したの」

「すずかの血?」

「そうーーーー吸血鬼(わたし)の血」

吸血鬼の血
伝承通りなら何だか吸血鬼化しそうだが、夜の一族とやらはそこまで伝承を再現してはいないようだ
実際、すずかは太陽の下を普通に歩いているし、ニンニクを食っているところも見たことがあるし、十字架も平気みたいだし、水も大丈夫そうだった
だが

「うん。そうだね。確かに私達は伝承みたいに不死身ではないし、相手を吸血鬼化はしないけどーーーー再生力と運動神経はピカイチなんだよ」

「ははぁ、なるほど。つまり」

その吸血鬼の再生力を使って俺を治療したというわけか

「でも、そんなに上手くいくものか?」

少々、ご都合主義で進んでいる気がする
そんなことが出来たなら作戦会議の段階で言ってくれてもよさそうなんだが

「だって仕方ないもの。初めての試みなんだよ」

「実験かよ」

成程、ようは賭けだったのか

「そう、賭けだったんだよ。もしかしたらまったく効かないかもしれないし、雀の涙程度の効果だったかもしれないし」

もしかしたら、風雷君は吸血鬼になっていたかもしれない

そう呟いた

ふーん、なるほど
別になっててもどうでもよかったけど
その場合は月村姉から輸血パックを貰わなければ

「で、一応風雷君の体を調べてみたら、吸血鬼化はしてないけど、少し再生能力と運動能力が上がってるかもしれないって」

なん…………………だと

「最高のプレゼントじゃないか!」

「結果論だよ!」

思わず喜んだら叱られた
やべぇ、空気読まなかっただろうか
すずかの目がすわっている
怒らせてしまったか?

「うん。私ね、今、本当に、怒っている」

言葉を確かめるようにぶつ切れにしながら、立ち上がり
何を思ったか
何故だか俺を押し倒す様な恰好で俺が寝ているベッドに上がってきた
ま、ままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままっまあっままままままままままままままままままままままままままままままま

「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!すずか!?この格好は不味い!」

「反論なんか聞いていないよ!」

「話は聞いてくれ!?」

「そんななのはちゃんみたいなセリフ、聞く耳持たないよ!!」

「何て失礼な評価を!!俺はあんなストーカー少女と同じセリフなんぞ死んでも吐かん!」

「言い訳なんて聞きたくないよ!!」

「言い訳?違う!これは正当な主張だ!!」

「戯言だよ!」

「戯言さ!」

ぜぇぜぇとお互い何を言いたいのかわからないまま叫びまくる
というか当初の目的の体勢を直すのを忘れていた
この状態を誰かに見られたらーーーーー殺される
ていうか自殺してやる
どうやって離そうかと考える
そうか!すずかは怒ってる
多分、自分がこんなにも悩んでいたことで喜んだからだ
ならばーーー謝ればいい!
とてもあんな奇策を考えた少年とは思えない考え
所詮、小学一年生
こういった事態には慣れていないのだ
そうと決まったら無言実行

「わかった!悪かった!謝る!お前の体を気にせず喜んだのは悪かった!この通りだ!だからーーー」

「わかってない!風雷君は私が何で怒っているかわかってない!」

え?
俺が喜んだからでは?
そう思っていたら

「私が怒っているのは風雷君が死にかけたことだよ!!」

「------------」

驚いた
本当に驚いた
久々に驚いた
いや当然だろう
こんなマンガみたいに恥ずかしいセリフをかます女の子がいたら
流石に空気は読むが

「いい!私達がどんだけ、どんだけ心配したと思ってるの!3日だよ!3日も起きなかったんだよ!もう起きないんじゃないかと思ったよ!危なかったんだよ!死ぬかもしれなかったんだよ!」

「……………………………………………………」

ついには泣きながら彼女は叫んでいた
俺が言える言葉はなかった
すずかの言うとおりここの集団はみんな心配したのだろう
みんながみんな、お人好し過ぎるから
俺なら多分、涙も流さないだろう
だって、俺はーーーーー家族の葬式でも泣かなかった

「それに一番怒っているのはーーーー私との契約を破りかけたこと!!」

ちょっと待った
それだけは聞き捨てならない

「待った。別に俺はお前との契約を破った覚えはーーー」

「言ったよねーーーー一生、契約してやるって」

それは…………………………確かに言った
そう、確かに言った
忘れていたなんて言い訳にもならない
確かな契約違反だ
これだけは流石に俺が完璧に悪い
約束は破っても契約は破らないを信条としていたはずなのに
完璧な失態だ

「悪い…………………確かにそれは俺の契約違反だ…………………何の弁解も出来ない」

「駄目。そんな言葉では許せない」

きつい言葉を受ける
当然だろう
俺は彼女にとって最低な事をした
こんな謝罪なんて聞いても何の慰めにもならないだろう

「…………………そうだな。許されるはずがーーー」

「だから、風雷君の大切なものを貰うね」

「は?一体なにをっ!」

キスされた
マウストゥーマウス
イッタイナニガオコッテイルノデショウカ
十秒以上されてた気がする
いや、もしかしたら三十秒くらいしてたかもしれない
その間俺はボーとされるがままだったから時間間隔が曖昧だ
ようやく離れたすずかの顔は少し赤くなっていた

「………………貰ったよ。多分、ファーストキスを」

めがっさファーストキスです
そう言い彼女はようやくベッドから離れ、部屋から出ていこうとする
扉の前に立ち、出ようとしたところで立ち止まり、振り替えずにこちらに話しかけてくる

「………………絶対、貰うからね、『慧』君」

そう言って彼女は立ち去った
ボーとする
何が起こったのか冷静に考えようとするが考えが纏まらない
ここまで考えが纏まらないのはおかしい
ということはーーーー今は夢か
それならば起きなくては

「慧君!ようやく起きたか………………。まったく無茶する。作戦を聞いた時はびっくりしたぞ。君と恭也を囮にして、忍ちゃん達には一端逃げて俺達を世呼びに行かせるなんて…………………………って慧君!?何故窓から飛び降りおうとしている!!」

「黙ってください夢の中に士郎さん。今、俺は夢の中にいるようだから衝撃で起きようと思っているんですーーーー具体的には3階分の衝撃で」

「落ち着け慧君!今時流行の自殺なんてやっても得なんてないぞ!仕方ない!じゃあ、俺の秘蔵のなのは&桃子コレクションの一部をやるから…………………」

「んなもんいるかーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「ああ!?俺の秘蔵コレクションがまるでゴミのように破かれる!?己、そこまでしたなら覚悟はできているだろうな!!?」

「上等だ!!今なら鬼だろうが悪魔だろうが高町だろうが水戸黄門だろうがカーネ○おじさんだろうが乗り越えれるぞ!!」

ほんの数分の死闘を繰り広げ、そこで騒ぎを駆けつけてきた人に止められた
夢ではーーーなかった
無表情のままそう思った





あとがき
最後のシーンは少し遊びすぎたかもしれません
まぁ、ハーレムになるかどうかは今のところ不明ですが
個人的にすずか嬢が好きだったのでこんなシーンを
決して悪意があったわけではないので
幼稚だったと思いますが、そこらへんは寛大な心でお許しを














[27393] 第十一話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:22

みんなはどう思っているかは知らへんけど
私、八神はやての生活は彼との出会いで物凄い様変わりしてもうた
別に嫌じゃない
逆に物凄く嬉しい
今まで私は知らへんかった

友達といる楽しさ

友達と遊ぶ楽しさ

友達と話す楽しさ

どれも初めてな事で新鮮だった
そして本当に幸せな事だった
毎日目が覚めると夢だったんじゃないかと不安に思う
だから、いつも会う度に思ってしまう

ああ、夢やなかったと心の底から安心する

わかってはいるのだ
友達が出来たのは現実だという事は
それでも不安に思ってしまう
そう不安になってしまうのだ
余りにも幸せで怖いのだ
これを失った時

私はーーーー生きていけるんやろうか?

答えなんてないのはわかっている
そんなのその時にならないとわからない
出来れば『その時』なんか一生来て欲しくない
でも、私はわかってしまっている
この世に一生ーーーーいや、絶対なんてないという事に
家族と足をなくしたから
だからもしかしたらこの幸せも、もしかしたら無くなるのかもしれないのだ
どれだけ嫌と言っても現実は憎いほど望みが叶わなかったりする
勿論、反対の可能性もあるのはわかっている

でも、私はーーーーたまらなく怖い

そこまで思ってふと思い出す
あの私をこういう風な事を考えるようになった原因の少年の事を
異常なんてレベルを超越している無表情の少年を
自分と似たような境遇で、しかし決定的に違う少年を
風雷慧君
何だか変てこな苗字をしている彼
彼も私と同じで事故で両親を失っているらしい(詳しくは聞いていない)
それを切っ掛けに彼は無表情になったらしい
こう言ったら彼には失礼だけどやはり境遇は似ていると思う
違うとすれば

彼は自分も事故に巻き込まれ彼の両親の死を直接に見て

私は両親が死ぬところを見ずにただ不幸だけを聞いた

彼は事故の結果、表情が死に

私は事故とは関係なく足が動かなくなった

慧君はこの出来事をこう言うだろう

別にどうでもいいけどと

でも私はそんな簡単に割り切れない
慧君みたいに割り切れない
だから、彼に教えてほしいぐらいだ

何で慧君はみんなと一緒にいて怖くないんやと

問えるはずがなかった
問うたらこの幸せな関係が壊れてしまうんじゃないかと思うと言えるはずがなかった
八神はやては気づかない
それは相手を気遣っての遠慮ではなく
ただ答えを知るのが怖いので逃亡しているだけだと
彼女はまだ気づかない
いずれは知らなくてはいけないのに







今、私達は物凄い緊張状態になっとる
ここに集まっている誰もがそうなっとる
私の初の友達
慧君から、アリサちゃん、なのはちゃん、すずかちゃん
その友達の家族の
高町家、月村家の人達
どの人も真剣な顔だった
子ども組(慧君は相変わらずの無表情だったが、目が真剣だった)はおろか大人組も
唯一笑っているのは桃子さんだけだった
物凄い輝いとる微笑だった
にこにこと擬音が聞こえてきそうや
その表情にはただ楽しみましょうという意味しかなかった

………………この状態で笑ってるなんて…………………凄い人や………………

多分みんなも似たような感想だったと思う
誰だってこの状況を見たらそう思う
実際、この状況にあの屈強そうな士郎さんや恭也さんも冷や汗を流している
当たり前だ
ここは決戦場だ
ここは処刑場だ
ここは墓標になるかもしれない場所だ
一度でも気を抜けばーーーー二度と立ち上がれない
ああーーーー何でこんなことにぃ
確かに自分は面白かったら何だってよしを信条としているがこれは耐えられない
肉体というより精神が
今まで意図的に無視していたもの
元凶を忌々しく見る
それは




人生ゲームと王様ゲームを合体させたどうでもいい玩具だった







発端は何だったか
とりあえず今日の始まりはいつも通りだったはずだ
公園でみんなに出会い(慧君は美由希さんに鋼糸やったか?それで縛られていた。どうやら逃げようとして捕まったようだ。いつも通りや。あ、記憶の中でアリサちゃんが慧君の頭を殴って気絶させ取る)
その後、みんなでなのはちゃんの家に遊びに行ったのだ
OKや
ここまでは何のおかしなこともない(え?拉致している?違うで。あれは誘っただけや)
その後高町家のみなさんと挨拶して、少しの間他愛のない話をしていた
ここまでもおかしくはない
そう、問題はここからや
発端は忍さんやった

「みんなー。面白いゲーム持ってきたよーーー」

慧君が逃げた

恭也さんと士郎さんとアリサちゃんが追いかけ、捕まえた

「離せ!俺はまだ帰りを待っている食材たちが…………………!」

「あんた馬鹿ぁ!食材があんたの帰りを待っているはずがないでしょうが!」

「愛着を持てば誰だって聞こえる!あの愛らしい食材の声が!!」

「それはただの幻聴よ!もしくは幻覚よ!」

「頼むから帰らせてくれ!きっと、月村姉のことだ!凶悪で強烈なナニカを持ってきたんだ!!」

「そんなこと………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………きっとないはずとは言えない!!」

「アリサちゃん…………………そんだけ長考してくれたんだから嘘でもいいから忍ちゃん、フォローして欲しかった…………………」

「お、お姉ちゃん。しっかり!」

「そ、そうですよ、忍さん。元気出してください!」

「ふふふ、私の味方はすずかとなのはちゃんだけね…………………」

「「えっ」」

「……………………………………………………恭也ぁ~~。みんなが虐める~~」

「……………………………………………………泣け。今は大いに泣け。そして過去を振り返るんだ忍。そうすると自ずと答えが見えてくる。」

「ちっくしょー!この世に神も悪魔もいないーーーーーー!」

「いいから、月村姉。地面に頭を擦り付けて謝罪するがいい。そうすれば俺の中の評価がかわるかもしれぬ。-----手下ランクが」

「可愛い顔して言うセリフがそこらのやくざのセリフよりも外道や!もうちょいオブラートに包みーや!!」

「ふむーーーーこれでも大分優しく囁いたのだが」

「有り得ないくらいのドサドなの!いつか絶対慧君は言葉で人を殺す日が来ると思うなの!!」

「言葉で人を殺せるかーーーーービバ完全犯罪」

「なのは!駄目よ!!こいつにそんな事を聞いてもイカレタ回答しか返ってこないわ!だって考える頭がイカレテルもの!!」

「アリサちゃんも人の事が言えないくらい毒舌をかましている気がするのだけど…………………………」

「黙りなさい!ツッコむしかできない影薄キャラは!今の時代は文武両道(ボケとツッコミ)よ!!」

「はい、言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!アリサちゃんがすずかちゃんの気にしていることを思い切り抉ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!すずかちゃんの怒りのボルテージが物凄い勢いで上がっとるーーーーーーー!!!例えるなら格ゲーでの必殺技ゲージが上がる感じでーーー!!」

「はやてちゃん!?解説していないで二人を止めてーーーー!二人から殺意が湯水の如く溢れている気がするのーーーー!!」

「さぁさぁさぁ!始まりました!!世紀末の大勝負!!片や見た目は清楚系お嬢様。しかし、その見た目からは想像できないぐらいの怪力と体力とスピードを持つ怪人、その名も月村すずかーーーーーー!!。片や金髪つり目。見た目は我儘なお嬢様系の典型的なツンデレ少女。しかし、放つ拳や蹴りは○ジラでさえ苦しむ、その名もアリサ・バニングスーーーー!!!さぁ、今宵はどちらが勝つのでしょうか!?勝つ方に五百円を入れて下さーーーーーい!」

「はい、そこぉ!慧君!どさくさに紛れて上手い事商売をしようとしないで!ーーーーって何でお父さんと忍さんは入れようとしてるの!?」

「前から思っていたけど…………………………アリサちゃんの言葉は少し戯れの言葉を超えているよね?だったらーーーーちゃんと躾をしなきゃ。----二度と歯向かう気が起きないように」

「へぇ、すずか。あんた、私に勝てると思っているの?それならとんだ自惚れね。じゃあ、私がちゃんと教えなきゃねーーーー猫の爪と牙では犬の爪と牙には勝てないって」

「吠えたね、アリサちゃん!!主人に尻尾を振るだけの動物な癖に!!」

「かかってきなさいよ!主人を放っといてそこらを散歩するしか能のない動物のくせに!!どちらが生態的に上か決着を着けて上げるわ!!」

「二人とも止めてぇーーーーーーー!!!」


しばらくお待ちください



「「「「で、何の話だったっけ(かしら、や、かな)??」」」」

「…………………………アリサちゃん、すずかちゃん、はやてちゃん、慧君。他人の話はちゃんと聞こうよ~。ほら、忍さんが泣いてるよ~。ーーーーペ○シ片手に」

「もういいもん。もういいもん。どうせ私は誰にも見られず、聞かれず、その内『え、月村忍?ああ、あのRPGで言うとやりこみ要素祖みたいな影は薄いキャラの』って言われるのよ!!」

「……………微妙なところでリアルだな」

「忍ちゃんも悩みある女の子というわけだな……………」

「あらあら、大丈夫よ忍ちゃん。」

「そ、そうですよ忍さん。いつか幸せな日々が来ますよ」

ちょっとからかい過ぎたようや
ちょっと罪悪感を感じる
見たところアリサちゃんやすずかちゃんもそうみたいや
慧君は相変わらずの無表情やけど、何となく考えていることがわかるような気がする
多分だがーーーーまだ言い足りないっていう感じの雰囲気がバリバリ出とる
鬼や悪魔というのはきっと彼みたいな人間への評価なんやと思った

「じょ、冗談ですよ。で、何なんですか?その面白い玩具というのは?」

「そ、そうですよ。何なんですかぁ。私とっても楽しみですよ」

「お、お姉ちゃん。みんなの言うとおりどんなものを持ってきたの?」

「いや、絶対ろくでもないものだから捨ててごふっ」

私とすずかちゃんとアリサちゃんの絶妙なコンビネーションアタック
流石の慧君も反応出来んかった

「…………………………聞いてくれる?」

「「「「うんうん」」」」

なのはちゃんも話に乗ってきた
niceエアリーディング

「…………………………話を逸らさない?」

「「「「うんうん」」」」

「…………………………急にボケない」

「「「「うんうん」」」」

「…………………………忍ちゃん嬉しいーーーー!」

「「「「うんうん(うわぁ、かなり面倒くさい性格ーーー)」」」」

皆の心が一致した瞬間だった
どうせやったら熱いシーンで一致したかった
ようやく忍さんの機嫌も治って本題に戻る
ちなみに慧君はまだ蹲っていた
どうやら見事に私らの拳がクリーンヒットしたらしい
みんな見事に無視してたけど

「今回持ってきたのはじゃじゃーん」

忍さんが取り出したものはボードゲームぽいものやった

「えっと、人生ゲームですか?」

なのはちゃんが疑問に思ったことを素直に聞いとる
まぁ、順当に考えたらそんな感じなんやけど

「ふっふっふ、そう思うでしょう」

その質問には忍さんは意味深な笑顔で答えるだけ
あれ?違ったんかいな
ならば一体それは何なんやろ?

「ん~。簡単に言えば人生ゲームと王様ゲームの合体版かな」

封を開けようやく姿を現す
確かに人生ゲームみたいに進むマスみたいなものがあるが、人生ゲームに必要なお金とかが入っていない
ただマスの所が細工されているらしく裏返しに出来るようになっている

「まぁ、基本的は人生ゲームと一緒でこのルーレットで前に進む。ここからが違うのだけどそのマスに着いたら裏返す。すると裏面には指令が書いているの。その書かれている指令をクリアしながら進んでいくゲームなの」

ふむ、なるほどなぁ
確かに面白そうやなぁ

「それ指令をやらなければどうなるんですか?」

おお、アリサちゃんが私が聞きたかった事を聞いてくれた

「それは勿論ーーーー知りたい?」

「「「「ノー、マム」」」」

一致団結
我等の結束力は鉄よりも固し

「うんうん、良い返事ね~」

忍さんはさっきまでいじられたいた人とは思えないくらい清々しい笑顔を浮かべている
恭也さんはそれに呆れて溜息を吐いている
士郎さんと桃子さんと美由希さんは苦笑している
ちなみに慧君はまだ倒れている
おかしいなぁ、何時もならここらへんで目覚めてイカレタ事を言うんやけど
そこまで上手く入ったのだろうか
みんな無視しとるけど

「うん、じゃあ、これで遊ばない?みんなで」

むぅ
確かに面白そうや
でも、ハイリスクな気がする
ああ、でも私の関西人?の血が!!
ああ、ああ、ああ!!!
もう、ど・う・に・も止まらない

「はいはーーい!私はやるでーーー!!」

「はやてちゃん!?死ぬ気なの!?」

「はやて!その年で人生を捨てるのは早いわ!!」

「そうだよ!はやてちゃん、思い直して!!」

「…………………………はーい、はやてちゃんと海鳴小学校三人娘は強制参加ね」

「「「!!!?」」」

わ、凄い顔

「恭也もやるよね~」

「…………………いや、忍。俺はこのゲームから非常に嫌な予感がビシビシ伝わってーーーー」

「…………………………(ニコ)」

「やろう」

うわ、一瞬で負けはった
恭也さんでも恋人の笑顔は怖いらしい

「士郎さんや桃子さんや美由希ちゃんはどうですか?」

「うーーん、じゃあ、俺はやろうかな」

「私は遠慮させてもらうわ。私は見てる方が好きだし」

「じゃあ、私も見てるだけにしきます」

「じゃあ、士郎さんは参加ね」

流石に大人グループに対しては自重したようや
さぁ、ゲームの始まりや

「あっ、そこで死んだふりしている慧君も強制参加だからね」

「この世に救いはねぇ!!」

あ、死んだふりやったんか








「「「「「「「「ひーとりもんから右まーわり」」」」」」」

順番は決まった
ついでだから座る順番もそれに応じて変えた
一番目から
アリサちゃん、なのはちゃん、慧君、すずかちゃん、恭也さん、士郎さん、私、忍さんの順番
色々と反乱が起きそうで少しわくわくしてくる

「まずは私からね」

アリサちゃんは少し緊張した顔でルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラ

「3ね」

少し少ないわねとぼやきながら自分の駒を進める
さぁ、裏面をオープンだ
どんなものが出てくる!
裏面をアリサちゃんが見た瞬間


時が止まった



物凄い笑顔でアリサちゃんは静止している
ま、まさか
いきなりの当たり
思わずみんな見る
内容は……………!

『メイド服でみんなをご主人様、お嬢様とゲームが終わるまで』

「「「「「「「……………………………………………………」」」」」」」

言葉はいらなかった
理解はいらなかった
後は行動で示すべきだと本能が察知した
すなわちーーーー耳を塞ぐと

「何でよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!」

物凄い大声に耳を閉じてもキーーンと耳鳴りがする
こ、こいつは強烈や…………………………!

「おかしいでしょう!こういう類の罰ゲームは私じゃなくて風雷とかもしくはなのはがやるべきでしょうが!私みたいなお嬢様キャラには完璧に似合わないわ!!」

「…………………どうやらバニングスは犬耳もつけたいようだな」

「…………………うん、そうだね。尻尾もつけて語尾にわんていうのもつけようね」

おう
慧君はともかくなのはちゃんの能面の顔がここまで恐怖を刻み付けるとは
恐るべし
アリサちゃんもそれを感じ取ったのか

「ひっ、あ、ああ、そ、そういえばメイド服なんてこんなところにないものねーーー。じゃあ、これは出来なーーーー」

「任せなさい、アリサちゃん」

「おっそろしぃーー!!」

何と見事に忍さんがメイド服セットを(犬耳、尻尾付き)
思わずアリサちゃんが奇声をあげとる
ええで!これがこういうゲームの醍醐味や!!

「さぁ、アリサちゃんーーーー指令を果たそうね」

「懺悔しなーーーー人間に生まれたことを」

じりじりと二人が近づいていく
アリサちゃんは逃げようとしてるけど足が恐怖で動かない
一瞬だけ時が止まり
そして

「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

悲鳴でお楽しみくださいな





「しくしく、もうお嫁にいけない…………………………わん」

メイド服を結局着せられ語尾に犬言葉をつけられたアリサちゃんは隅っこで泣いていた
心に大きな傷を負ってしまったようやけど、代わりになのはちゃんと慧君がすっきりした感じであった
すずかちゃんは苦笑し(でも止めなかった。というか写メっとった。なかなか恐ろしい)、忍さんはつやつやした顔になった
私?
私も満足な気分になった
さぁて、次はーーー

「わ、私だね」

なのはちゃんの番や
くっくっく、次はどうなるやら

おそるおそるといった調子でルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラガラガラ

この音は成功へのラッパか
もしくは破滅に向かう太鼓か

「5…………………」

自分の駒を5歩進める
さぁ、オープン!!

「えとーーーー『このセリフを感情込めて言いなさい』」

ん?意外に普通やな
愛の告白とかやったら嬉しいんやけどなーーー
ごほんとなのはちゃんがわざとらしい咳払いをし、あー、あーと声を整え
一言

「お父さんなんて大っ嫌い!!!」

「なのはに嫌われたーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

命令が脳に伝わる前に士郎さんは泣いた顔を手で隠しながら走り去った
流石に不味いと思ったのか
恭也さんと慧君と美由希さんとなのはちゃんが追いかける

「お、落ち着いてお父さん!ほら、これは遊びだよ!!」

「なのはに弄ばれたーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「ええい、無駄にネガティブシンキングなこと。いっそ最下層まで落としたら復活できませんか?」

「慧君。君の考えていることは傷ついている人間を心の廃人コースに行かせる悪魔の思考だから」

「そうだ慧。だからーーーー力づくで止めるしかない」

「恭ちゃんはは恭ちゃんで肉体的な廃人コースをお勧め!?」

「お、お父さん!な、なのははお父さんの事好きだよ!?優しいし、かっこいいし、頼りがいがあるお父さんでーーーー」

「なのは!nice assist!!」

「でも時々不必要なくらいお母さんと甘々な空間を作ったり、男の子と話しているだけで怒り出すとかそういうところはちょっとっと思うけど。そこを省けば物凄くいいお父さんだよ!!」

「なのはぁーーーー!!それ止め!!父さんに対しての最高クラスの最悪な止め!!」

娘に奥さんとの愛と親馬鹿を否定された士郎さんは悲しみのあまりスプーンで死のうとする
慧君は止めるべきか悩んだようやったけど、その後に集団自決用の手榴弾が出てきたら止めた
こんなギャグシーンで死ぬのは流石に嫌やったらしい


結局士郎さんを宥めるのに15分かかった
大の成人男性は実の娘の言葉に多大な被害をもらってしもうたということや
当のなのはちゃんは疲れ切った顔をしている
少し同情してしまう
ま、気を取り直して
さてさて、次は本命の

「……………………………………………………」

究極クラスの仏頂面の慧君の出番や
かなり嫌な予感しかしないこのゲームにかなりの危機感を覚えとるようや
だがここまで来たらもう引き返せへん
観念したのか相変わらずの無表情でルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ

「ふっふっふふふふふふふふふふふふふふふふふ。あーーーーーーはっはっはっはっはっははははははははははははははははははははははは!!!さぁ、ふら、ご主人様!!私と同じ目に合うがいいわん!!この屈辱を!!この悲しみを!!この絶望を!!思う存分味わうがいいわん!!」

思わずみんな目を背けてもうた
余りにもアリサちゃんが憐れになってしもうた
慧君を絶望させようとしてるんやろうけど、合間合間に『ご主人様』や『わん』が入っていて緊張感やら何やらが抜けてしもうてる。これじゃあ、ただのイタイ子に見えてしまうのだ
最もイタイ事は本人はそんな事を気にしていられるような精神状態ではなくなってしまったということやった
ようやくルーレットが止まる

「1か…………………」

運がない彼だった
無表情キャラは運がないのは相場であるという神の声が聞こえたような気がした
さぁ、オープンや!!

「…………………『地獄の料理をご堪能あれ』」

どういうことやろ?と私と慧君が首を傾げていたら
バッと他のみんながなぜか美由希さんの方を見た

「ちょ!地獄の料理で何故私の方を見るの!?」

「忘れはしないぞ美由希…………………………お前が生み出してしまった悲劇を」

「あの時は大変だったーーーーー何せ家族のみんながセイ○ガンを求めたからな」

「…………………………それでも駄目だったの」

「一体どうやったらあんな不可思議味になるのかしら…………………………。ある意味パティシエとして知りたいわ」

「「「ごめんなさい(ごめんね)、美由希さん(ちゃん)。フォローできません(できないよ)」」」

「酷い!余りにも酷い!もう少し慈愛の心で頑張れとか、次こそはとか言ってくれていいじゃない!!」

「お前の料理でその慈愛の心は壊された」

「恭ちゃんの馬鹿ーーーーーーー!!!」

「ぬおっ!美由希!貴様、俺の盆栽を壊すとはーーーー覚悟はできてるのだな!!」

「ふ、ふーーーんだ。いいもん!もう私には何も怖いものなんてないよ!!」

「よくぞ言った!!今日の修業は普段の3倍でーーー」

「ごーーめんなさーーーーーーい!!」

「土下座するの速いねぇ、美由希ちゃん…………………」

私は慧君と目を合わせる
どうやら美由希さんの料理はミラクル味みたいなようや
となると

「慧君ーーーー遺言は?」

「…………………………餃子が食べたかったです」

「ふ、二人とも!失礼だよ!ていうか慧君のその遺言はなに!?ふんだ!良いよ、そんだけ言うなら見せるよ!私だって頑張れば料理の1つや2つくらい出来るよ!」

20分後

「はい、出来たよ!」

「あれ?意外と見た目は」

「おかしくないな」

そこにあるのは普通のクッキー
何か変な色になっているというわけではなく、焦げてるとかいうわけではなく、何の変哲もないクッキーだ
臭いも嗅いでみたが別段変な臭いはしない
ということはさっきの美由希さんの言うとおり頑張ったのだろうか
それともその前のは単純に失敗しただけなのだろうか
慧君は意外にもそこまで警戒心を持たずに

「じゃあ、貰います」

と言ってひょいとクッキーを取って口に入れた
すると

バタン!!と明らかに重力を無視したスピードで倒れた

シーーーンと空気が凍った
みんながまずはこれは彼の体を張ったギャグかと疑うが、明らか彼の眼には冗談の色がない
倒れた足も痙攣している
これはーーーーーマジや

「け、慧君!?だ、大丈夫!」

「美由希…………………………今度は何の毒物を入れたんだ?」

「そ、そんな事はしてないよ!ただ隠し味にちょっと…………………」

「誰か美由希に常識を教えてくれ」

「…………………返す言葉もありません」

しゅんと気落ちする美由紀さん
流石に可哀想になってくるが、フォローのしようがない
と思っていると

「た、高町姉。さ、ささあさささ最高に上手かったです」

慧君が手足をがくがく震わせながら立ち上がった
いや、いくらなんでも

「む、無理しなくていいよ。美味しくなかったでしょう…………………」

「い、いえいえ、ととととっても美味しかったです。思わず天国に逝ってしまう程でした」

笑えない冗談だった

「で、でも手足が震えているよ…………………」

「感動です」

物凄い言い訳
でも、何故だか知らないけど恭也さんと士郎さんが感動している
漢だと

「顔が青いよ」

「生まれつきです」

「声が震えているよ」

「武者震いです」

「お腹から凄い音が」

「空腹なんです」

そう言って彼は残りのクッキーを全部食べた

「おおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいしかtったでででででdっでえででででですすっすっすすすすううsっすうううすうすすすうすうす”#%$%&’%’*+¥&”#$%$」」

「あかん!人間の言語を忘れかけとる!!」

「しっかりしろ!慧君!君は勇者過ぎるぞ!!」

「ああ!尊敬できるくらいに!!」

何だか男同士で感じるものがあったらしい
二人は男泣きしている
ちなみに原因の美由希さんは

「わ、私は実は凄い料理上手なの…………………」

自分の固有結界に入っとった
目の前の惨状から目を背けて
ちなみに彼の回復には30分かかった

…………………あれ、このゲーム
遊ぶ心でやっとったら
死ぬ?

ようやく現状を理解したみんなであった
そして冒頭に帰るのである



あとがき
今回ははやてパートです
最初らへんはギャグパート
まだ続きます
応援、本当に、ほーーーーーーんとうにありがとうございます!!
出来る限り面白い作品にしたいと思っています



[27393] 第十二話 <修正>
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:22
戦いは中盤に入る
次の犠牲者は

「わ、私だね…………………」

冷や汗を流し、緊張で顔を引き攣らせているすずかちゃん
無理もない
あれだけの阿鼻叫喚(アリサちゃんや慧君)を見たのだ
これで怯えないのは桃子さんぐらいやろう
ゴクリと唾を飲み、そして
運命のルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ

何故だろう
このルーレット
回が重なることに長くなっていないだろうか
まるで緊張が高まっていた時にその緊張を長引かせるようにしているみたいだ
ゴクリと今度はみんなが唾を飲む
当たり前だ
なのはちゃんの例からわかるように回すのがすずかちゃんだからといって、罰ゲームに当たるのがすずかちゃんとは限らないのだ
この一回りにはみんなの命が懸っているのだ
そして
ルーレットが止まる
出た数字は

「4だね…………………」

真剣そのものといった表情で自分の駒を進めるすずかちゃん
その顔はまさしく戦士の顔
言葉を変えたら死ぬ覚悟をした顔
誰もそれを笑うものはいなかった
さぁ、肝心の指令は如何に…………………!

「え~と『となりの人に目一杯抱き着いてください』」

慧君が飛んで窓を突き破って逃げようとした

アリサちゃんがドロップキックで慧君を撃ち落とした

慧君が床に沈んだ

ここまでの動作
わずか4秒
おそるべし風雷慧
おそるべしアリサ・バニングス

「何をするバニングス!俺は悲しいぞ」

「喧しい!ご主人様に逃げる権利はないわん!」

「人類の主権を無視するとは…………………最低だな!」

「ほう、ご主人様にとっての主権とは何か、聞きたくなってきたわん」

「逃走の権利、人で遊ぶ権利、金を貢がせる権利、俺に絶対服従の権利だが。これくらい覚えておかなければ社会の成績が不安だぞ?」

「OK。ご主人様に必要なものはまずは生き物としての最低限守らなければいけない礼儀というのがわかったけど、どうやって覚えたいわん?」

「ふむ、必要ないとは思うが参考までにどうやって教えるつもりなのかね」

「一、拳で魂に刻む
二、蹴りで魂に靴跡をつける感じで跡を残す
三、頭突きで脳に直接訴える
これのどれかだけどせめての選択権はあげるわん」

「ふむ、せめて暴力はなしはないのかね」

「ないわねわん」

「そういうドエス系の奴は俺より高町の方がいいと思うのだが…………………」

「異議あり!私はエムじゃないなの!ノーマルなの!そして名前で呼んでほしいなの!」

「3なのか…………………前から思っていたんだがーーーーその語尾うぜぇ」

「ウルトラ失礼なの!アリサちゃん私は全部をお勧めするの!」

「私怨はよくないわ、なのはお嬢様わん。それにーーーー否定はできないものわん」

みんな酷いのーーーーーー!!と叫んでいるが二人は無視
このメンバーでは無視スキルは必須だ
覚えなければストレスが増えるだけなのだから

「捕まえたぞ!慧君!」

「なっ!士郎さん!卑怯な!それでも剣士ですか!」

「堂々と卑怯、騙し技、口先を使う君にだけは言われたくないな!」

「背中の傷は剣士の恥!」

「君は剣士ではないだろう!?」

「男は生まれた時から剣士です!」

「成程、それなら理解できるな」

「男の会話で納得しないでくださいわん!」

「ええい、さっきからわんわん喧しいわ!!」

「う、うるさいうるさいうるさいわん!!私だって好きでやっているわけじゃないんだからわん!」

「黙れ!典型的なツンデレめ!とっとと尻尾を振ってデレテみろ!」

「何を!この無表情毒舌家!閻魔様にその舌を取ってもらいなさいわん!」

「「……………………………………………………」」

「二人して傷つくなら止めたらいいのに…………………」

実はこの二人結構気が合う
お互いドエスやからか
それとも似たような趣向(いじめ)やからか
成程、類は友を呼ぶやな
その光景を微笑ましく見ていると

「…………………むぅ」

何だか面白くなさそうに見ているすずかちゃんが

「お姉ちゃん!とっとと指令をやろう!!」

「すずか!?お前ーーーー気でも狂ったか!?」

「私は何時だって正気だよ!慧君!」

そう最近の彼らは滅茶苦茶距離が縮まった気がする
まず、二人はお互いを名前で呼ぶようになったし
何より最近すずかちゃんが慧君に対して積極的になっとる
それに最近押され気味な慧君(無表情やけど)
この前1週間ぐらい慧君を見かけなかった
その間は彼が言うにはまたあのお爺さんにやられたとか言ってるけど嘘やと私は睨んでる
ていうかその後にすずかちゃんと仲良くなったんやから誰でもわかる
名前の事はなのはちゃんに知られたときえげつない魔王になって慧君を攻めていたけど、最終的になのはちゃんはダンボールに封印され取った

「じゃ、じゃあ、やるね」

顔を真っ赤にしながら背後から抱き着いたすずかちゃん
慧君は相変わらずの無表情やけど目を逸らしている
これは大分恥ずかしがってるなぁ

「すずか!そこでもっと積極的に動くのよ!狙うのよ!慧君の弱点を…………………!」

「忍。姉として子供にそういう事をアドバイスするのはいけないと思う」

「私に倫理は通じないわ!!」

「堂々と叫ぶな!」

「ええと、どうすれば?」

「舐めるのよ!具体的には首筋などを!エロくレロレロと艶めかしく!そして熱く、激しく!」

「月村姉!婉曲に言いますがあんたおかしいですよ!頭が!」

「今の私に常識は通じないわ!」

「傍迷惑この上ないわ!!」

「…………………えーと、えい!!」

おお!
すずかちゃん行ったぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁx!!!
首筋をペロリと艶めかしく、エロく、熱く、激しく行ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
慧君はビクンと体を震わせるが、何等かに意地があるのか表情にも声にも出さない
アリサちゃんとなのはちゃんは恥ずかしいのか両手で顔を隠している(ベタな事に指の隙間から見ているが)
ちなみに大人組は微笑ましいものを見るように見ている(美由希さんは「私、小学生に負けている?」と落ち込んでいる。後で胸を揉んで元気にしようと決意する私)
すずかちゃんは顔を真っ赤にしながら何回か首筋を舐めている
その度に慧君はビクビクしているけど意地でも以下略

「むぅ、慧君我慢強いね」

「…………………………」

黙ったまま彼は反応しない
ここまで理性が強固な人間よくおったなぁ
私やったら速攻で理性が切れてすずかちゃんを襲っているのに
はぁと溜息をつくすずかちゃん
すると

「ひゃ…………………」

物凄い可愛らしい声が聞こえた
思わずみんなの動きが止まる
まず、すずかちゃんの方を見る
何故ならそこら辺から声が聞こえたからだ
しかし、彼女は首を振る
私ではないと
では、誰かとみんなが3秒くらい考える
答えは直ぐに出た

「…………………慧君?」

「…………………………」

彼は何の反応もしない
しかし、我等にはこの沈黙に意味をつけられる
すなわちーーーー沈黙は肯定だと
だが、さっきは感じてはいたけど耐えてはいたではないかという疑問が浮かぶ
では、さっきとは何が違う
少し思考し、やがて気づいた
さっきすずかちゃんは溜息をついた
その時溜息が当たった場所は…………………!

「すずかちゃん!!慧君の弱点はミミーーーーーック!!」

弱点を言おうとした瞬間ピコハンを投げられた

「慧君の弱点?宝箱?」

と純粋そうに首を傾げているなのはちゃんがいたが返事をする余裕がない
何故かというと

「慧君!これ、何でこれ、瞬間接着剤をつけているんや!?」

「煩い狸を黙らせるための魔法の道具だ」

「取れへんのやけど!?」

「取ったらーーーー顔の皮膚ごと」

「こわ!!」

己、この究極毒舌家!
くっ、どうやって慧君の弱点を伝える?
このままではぁ!

「くっくっく、俺のかぴゃ」

途中で奇妙な声になった
お、ピコハンで見えないが予想は出来る

「す、すずかさん?そ、そこはちょっとぅん」

「か、可愛い。もうーーーー止まらない」

「ちょ、まっ」

おおう
見えないのが残念やけど聴覚だけでわかる
素晴らしくーーーーーエロい

「あーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

その後の悲鳴は女の子みたいだった
無表情やけど
弱点は


耳やった






「さぁ、八神。死のうか」

「いきなり死刑宣言!?」

「そうねわん。はやては死ぬべきよわん」

「はやてちゃんーーーー死は怖くないよ」

「み、みんなまで……………私との友情は!?」

「「「友情?何それ、得になるの?」」」

「新しいバージョン!?しかも、一糸乱れぬハモリ!芸人もびっくり!私もびっくり!」

「あ、あはは」

当たった内容が内容なだけにみんなからのセリフが酷い
ちなみにすずかちゃんだけはホクホクした顔になっとる
くっそー
一人だけ満足できる内容やったからって!

「ま、まぁ、士郎さんのがあるから」

「「「十三階段はあと一つか(わん、だね)」」」

「みんなのセリフに私の心が泣いた!!」

ちなみに
慧君が悶えている間に恭也さんがやったんやけど
内容は

『自分の好きなものを自分の手で一つ壊す』

何を壊したかは各人のご想像に任せる
ただ言えることは一つ
暫く、恭也さんは遺体(壊したもの)から離れなかったと言っておこう
恭也さんの瞳から輝いたものが流れたとか

「じゃあ、俺はとっとと終わった方がいいな」

士郎さんは特に気負った感じがなくルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ

「さぁーて何が出るかな~」

あれだけの地獄を見たのに意外と気にしていない
ということは今のところの内容では士郎さんにダメージがないということか
……………メイド服でもいいんかな?
ようやく止まる

「お、2か」

自分の駒を進める士郎さん
これじゃあ、士郎さんのリアクションは期待できないかもしれない
ちょっと残念
まぁ、肝心の内容は何やろ

「さぁて、オープ」

言葉が途中で止まった
みんな?顔で士郎さんを見る
はて?何やろう?
あの士郎さんを硬直する内容とは
みんなでその内容を凝視する
そこには

『愛するものを盗られる』

ギシっと空気が軋んだ
愛するものを盗られる
士郎さんの場合は至って単純だ
桃子さんとなのはちゃん
しかし、ここにいるメンバーだと少し話が変わる
何せ盗るにもほとんどが女性なのだ
百○気質がないと無理
となると士郎さんの殺気の行く場所はーーーー

「…………………恭也、慧君」

「ま、待て、父さん!」

「そうです!高町父、落ち着いて!」

ヤローメンバーに行く

「大丈夫。わかってはいるんだ」

お?
意外にも落ち着いている?
予想やったらもう既に暴れまくっていると思っていたのに
そのことに二人の男はホッとしている

「よかった。父さん。これはゲームだからな」

「そうそう、これは遊びですよ」

二人も何とか士郎さんを穏やかな方向に持っていこうとしている

「ああ、そうだとも」

うんうんと恭也さんと慧君は頷いている
チェー、今回は流石に波乱はないんかなーと思ってたら

「桃子となのはは別嬪だからなーーーー何れは祓わなければいけないと思っていた」

予想を斜め下の方向の発言を士郎さんが
二人はギョッとした顔で士郎さんを見た
士郎さんの手には
あら、立派な刀が

「ちょ!ちょっと待ってください!士郎さん!!」

「そうだ!落ち着け、父さん!!」

「では、聞くが…………………もし二人が大切なものが盗られそうになったら、その盗ろうとしている盗人に対してどうする?」

「生まれたことを後悔させた後、次に感覚を持ったことを後悔させ、その後ごめんなさいと言えることを後悔させてやります」

「右に同じ」

「ああ、俺も同意見だ。だからーーーー」

「「だから?」」

「……………die」

言葉を放った後
士郎さんは獣のように二人に飛びかかった
まるで某金属一杯の恐慌に出てきた用務員のお爺さんみたいに






「…………………生まれた意味って何だろう?」

「た、大変!?慧君が悟りを開いちゃった!!」

「…………………そりゃ、あれだけの目にあっていたら悟りの一つや二つは開くでしょうわん」

「…………………今回、慧君。運がないね」

「日頃の行いちゃうか」

「…………………八神、このハバネロ食べるかい?俺の好意だ」

「…………………それを好意と思っているのが間違いやと何で気づかへんのや……………」

ちなみに士郎さんはある意味指令を果たせなかったので桃子さんのスィートルームにご招待されている
時折、ギャーーーーと聞こえるのは気のせいやと断じる
気のせいじゃなかったらーーーー世にも恐ろしいものを見てしまう

「さぁ、次はヤガミノバンダヨ」

慧君の怖い声は意図的に無視した
大丈夫
今まで出た指令なら別に怖いもんはないはずや
今の私にーーーー怖いもんなし!!
そぉい!!

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ

何でやろうか
このルーレット
明らか私が力を込めた分より力いっぱい回っとる
やはり呪いなんか?
出た数字は

「ろ、6ぅ!」

そう6
今まで出てこなかった数字や
つまり、最悪な予感が
他のメンバーは既に瞳に嗤いの感情が込められている
慧君もそうやけどこのメンバーも大概人の心を捨てていると思う
嫌々自分の駒を進める

一歩一歩がこんなに怖いなんて……………

そして遂に6歩進んだ
そして
裏面をゆっくりオープンする
少しだけ最初の方が見えた
そこには

『女性陣のーーーー』

「ほわちゅあーーーーーーーーーーーーーー!!!」

勢いよく裏返した
私の勘が告げている
すなわち続きの言葉はーーーー胸を揉め!!
きゃっほーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!
我が世の春が来たーーーーーーーーーーーーーー!!!
まずは忍さん!
次に美由希さん!
そして順にすずかちゃん、アリサちゃん、なのはちゃんのを揉み尽くそう!!
生まれて初の上機嫌に彼女の家のある本が震えたというがそれはまた別の話
そしてリバースカードオープン!!

『女性陣の手によって自分の胸を揉まれろ』

「はい?」

どうやら私は疲れているらしい
まるで自分の胸が揉まれるみたいに書いているように見えてしもうた
少し目をゴシゴシ擦る
そして目をパチクリする運動をし再び見る

『女性陣の手によって自分の胸を激しく揉まれろ』

変わらなかった
むしろ文面がやばくなっている
咄嗟の事で頭の理解が遅れている
チッチッチ、ポーーーン
はっ、に、逃げなきゃ!!
だが悲しいかな
彼女の足は悪く、そしてここにいるメンバーはそんな弱点を平気で突く人でなしのメンバーなのだ

「わっ!」

「リーダー、捕獲しました」

「よくやったわ。美由希補佐官」

「光栄であります。忍リーダー」

「み、みなさん。じょ、冗談ですよね……………」

「はやてちゃんーーーー私達は何時だって本気よ」

「そ、その情熱は違う場所で……………」

「はやてちゃんにそれを言う資格はないなの」

「な、なのはちゃん!助けて!」

「ごめんね、はやてちゃん。この罰ゲームーーーー女性陣からって書いてあるの。つまりーーー」

「つ、つまり?」

「「「「「ここにいる女の子からみんなにはやてちゃんは揉まれるの」」」」」

「いややぁーーーーーーーーー!!そんな百○空間、いややぁーーーーーーーーーーーーー!!私はみんなと違ってノーマルなんやーーーーーーーーーーーー!!!」

「ふっふっふわん。そんな可愛らしい言い訳が通じると思っているのわん」

「そうだね、はやてちゃん。後ーーーーーアリサちゃん。もう違和感がないね」

うるさいわね!というアリサちゃんのセリフに構っている余裕は残念ながら全然ない

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!
おかしいやろ!
キャラ的にも!
世界の修正力的にも!
八神はやてが胸を揉むのではなく、揉まれる立場になるなどあり得るだろうか、いやない!!
平行世界の八神はやても超びっくりやで!!
と、とりあえず何とか生き残る方法を!

自分が揉むのはいいが揉まれるのは嫌な関西弁少女
流石、ここのメンバーと仲良くなれただけはある
傍迷惑この上ない

「そ、そうや!慧君、士郎さん、恭也さん!たーーーー」

「俺、トイレ行ってくるわ」

「俺は盆栽の手入れに」

「俺は皿洗いに」

野郎三人はさっさと逃げていった
しかし、慧君はさりげなく盗聴器らしきものを置いて行ったのが偶然見えたし、恭也さんと士郎さんの二人は明らか見え、聞こえ出来る距離である
結論は一つ

人間、諦めが肝心やと

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

本日二度目の可愛らしい悲鳴が上がったとか
もうお嫁に行けへん
ぐすっ






それからというもの勝負は非情やった
誰もが不幸な目にあった(忍さんは二度ネタしかあたらないので割愛)
誰もが悲しい目にあった
誰もが恥ずかしい目にあった
思わず何人かは世を嘆き、儚い命を断とうとしたものもいる
心身ともに限界を迎えかけた
その時

「わ、私が……………最初の……………ゴールや」

コツンと駒が置かれる
ゴール地点に
長かった
本当に長かった
泣くかと思ったのは百回や二百回やなかった
こういう時に支えてくれるはずの友達は今回は全員敵
誰もが孤立無援
だが、そこでようやく私が最初のゴールに辿り着いた

「な、長い……………旅路やった……………」

ようやく終われるかと思うと我慢していた涙が零れるかと思った
それを恥じることはないと私は思う
というか今まで泣かなかった私を褒めてほしいくらいや
緊張感が切れる
そう思った瞬間

「あら?これ、裏面があるわ?」
と桃子さんの素敵な死刑宣言が

思わず視界がブラックアウトしたのを誰が体力がない等と責められるだろうか
どこかのアニメのセリフを思い出す
例え鎧を纏おうと心の弱さ(ストレスに負けた繊細な心)は守れないのやーー

「あら?はやてちゃん。お疲れのようね。じゃあーーーー私がオープンしてもいいかしら」

誰も何も言わなかった
当然やろう
だって、誰も何かを言うような体力や精神力を残していないのやから
もうここにいるのは呼吸するだけど骸
ようは、好きにしてくれという事

「じゃあ、遠慮なく」

桃子さんは楽しげにオープンする
ははははははは、次は何やーーーー
紐なしバンジーかーーー
桃子さんのスィートルームにご招待かーーーー
究極クラスの甘々空間の満喫かーーーーー
それとも恐怖!スィーツ無限!夜の体重計をご覧にあれかーーーー

これだけの罰ゲームが瞬時に頭に浮かぶのは今までの罰ゲームの凄惨さを語っている
しかし、考えていたのと違った
内容は

『はやてちゃんは桃子さんの話を聞く』

「はい?」

思わず間抜けな言葉を放つ
今までの罰ゲームとは少し違う気がする
何というか
いきなりのシリアスという感じというか

「…………………騙されるな八神。それはそういう風に見せかけたえげつながふっ」

途中で目にも止まらないお皿(鋼)が慧君の頭にぶつかったのがで言葉が止まった
無視した
ついでに誰が投げたのかも無視した

「んー。じゃあ、桃子さんの話、聞いてくれる?」

そう言って桃子さんは背中に隠していた紙を見せた
その紙に書いてある内容は

「桃子さん……………これは……………」

「ええ。そのまんまよ」

思わず紙を見て動きを止めてしまう
予想外の内容
考えもしなかった内容
いや、考えること自体を否定していたのかもしれない
だって
今までそんな事をしてくれる大人なんかいなかったのやから
紙の内容はこうだった

養子届と

そして桃子さんは続けた

「私達の養子にならないかしら。はやてちゃん」

その時の私は
一体

どんな顔をしていただろうか

よく
わからなかった



あとがき
応援してくれているみなさん
本当にありがとうございます!
まさかこの駄作がこんなにも誰かを笑わせることが出来るとは思いもよらなかったです
厚かましい願いですが出来れば、これからもこの作品を見守ってほしいです



[27393] 第十三話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:23

結局
八神は願いには応えなかった
ただ煮え切らない態度で

「…………………考えさせてくれます?」

と答えただけ
別にどうでもいいことだ
だって、俺には全く関係ない
他人事だ


決めるのは八神であって
俺ではない


なら、いちいち気にするのは間違いだろう
桃子さんも気にせず

「うん。わかったわ。何時でも待ってるわね」

と流石大人なだけあってその振る舞いには余裕がある
高町のごり押しの頼みじゃないところが物凄い大人だ

「今、誰かに貶された気がする…………………」

無視した
とりあえず、もう結構な時間なので帰ることになった
何時の間にか日は落ちている
時の流れとは早いものだ
お蔭で拉致られてここに来たのを忘れてしまいそうになる
月村ファミリーとバニングスは車に乗って帰る
俺は徒歩
すずかとバニングスからは乗ってもいいと言われているが、そんな事をしたら逃げ場がないので謹んで毎回遠慮してもらっている
本来ならここに八神も乗せてもらって帰るのだが
今日は違った
八神は何を思ったのか

「…………………………なぁ、慧君。…………………………送ってってくれへん?」

などと、なかなかおかしな頼みを放ってきた
思わず眉をひそめる
何時もとは違う事をしようとする八神
こういう時に自分の勘が一番頼りになる
その自分の勘が俺にこう告げている



混ぜるな、危険ーーー



間違えた今日の俺の勘は少し反抗期らしい
きっと、高町症候群が俺の脳内に直接、毒を注入しているからだろう
こいつは危険だ
今度、解毒剤を飲まなければと心のスケジュールにチェックを入れる
今度こそ本当の俺の勘が告げる


こいつは危険だと



ならば、俺は素直に返すのがせめてもの八神に対しての敬意だと思い
素直に答える

「すまないな、八神。俺、帰り道こぶあっ」

「あらあら。慧君。はやてちゃんを送ってあげるなんて紳士ねぇ」

ま、まさか躊躇なく延髄をやるとは…………………………
当たり所が悪かったら死んでるぞ高町母
というか冗談ではない
このままでは八神を送ってしまうではないか
これはいかん
早急に訂正を

「八神、違うぞ。俺が断じて送るあぁ!」

「ああ、まるで男の鏡だな」

き、恭也さん
お前もか
ええい、まだ終われんよ!

「違うぞ!俺はらぁ!」

「もう、慧君ってかっこつけだねぇ」

「だから、おべ!」

「そう言うな。美由希。男の子とは恰好をつけたくなるのだよ」

「貴様ら、俺を怒らセーブル!」

「そうよね~。そこらへんは恭也と似ているわね~」

大人組の波状攻撃
その内三人は超最強クラスの武闘家
本能か
習性か
またはわざとかは知らんが見事に人体急所を攻めてくる
少しは躊躇ってほしい

ああ、いかん
頭がクラクラしてきた
これがーーーーー死?
こ、こんな馬鹿げた攻撃で死ぬなんて、死んでも死にきれんっ

『その願い、叶えてあげましょうか?』

馬鹿野郎!
お前みたいな明らか伏線だらけのキャラがこんなギャグシーンに出てくるんじゃない!

『私は願い(出番)が欲しいのよ』

やめぃ!
せっかくのお前の意味深キャラが台無しだ!
さっきまでのシリアスシーンの空気を返せ!!

『また来るわー』

二度と来るな!!

「慧君!しっかりして!どんな悪夢を見ているの!?」

「こいつ…………………ダメージの余り倒れたかと思ったら、いきなり虚空に殴りに行くものね。」

「慧君…………………遂に脳が…………………!」

「すずか。貴方の初期のキャラがもう原形が残って居ないというのが今の発言でわかったわ」

「そういう意味じゃあ、キャラ崩壊していないのはアリサちゃんとはやてちゃんだけだよ…………………」

「止めなさい、なのは。それ以上のそういう発言は危険よ」

はっ!
俺は今まで何を…………………
そう、確か

「じゃあ、はやてちゃんを送るの、よろしくね」

そう
つまり八神のお届の断りを失敗したという事だ











「…………………ごめんなぁ。こんな遠回りさせて」

「別にもうどうでもいいよ」

結局
高町家&月村姉の策謀で八神を送ることになった
まぁ、面倒臭いのは本音だが、別にどうでもいいのも事実だ
それに結構、夜の散歩も好きなのだ
特に今日は風も丁度いい具合に吹いているし
何より月が綺麗だ
まぁ、気が利いてないことに疾風には程遠いのが少し空気を読んでいないところかもしれない
そう気障な考えをしながら、八神の車椅子を押す
さっきから八神はそこまで話さない
何時もの八神を知っていたら、誰でも奇妙に思うだろう
普段のあの元気の八神から今の姿はあまり想像できない
初対面でもわかるぐらい落ち込んでいる
何が原因なのか…………………等と言うのは無粋だし、丸解りだ
原因は桃子さんが出した紙
養子届だろう
どういった経緯でああいう話になったのかは詳細は不明だが、大体は想像できる
何せ、あのお人好し家族の事だ
『つい』家族がいなくて、足が悪く、学校も行けてない少女を助けたくなるかもしれない
まぁ別に俺には関係ないことだが
他人は他人
俺は俺である
そして前にもすずかに言った通り

決めるのは八神だ

「…………………はぁ。私、どうすればいいんやろぅ」

「何がだ?」

「わかってるくせに」

「それでも聞くのが俺の信条」

「そんな信条。ドブに捨てた方がいいで。この性悪少年」

「とても胸を揉まれて快感の叫びを上げていた少女の口から出る言葉じゃないな」

「耳を舐められて女の子みたいな悲鳴を上げていた少年からそんな事は言われたくないわ」

「「……………………………………………………」」

お互いがお互いの心の傷を抉ったせいで沈黙が漂った

「…………………………この話はなしや」

「…………………………同感だ」

一致団結
俺達のトラウマは思い出すものではない

「ていうか、真面目な話をしてるんやけど」

「ふむ、それは失礼。マドモワゼル」

「似合わへんなぁ」

そこでようやく八神は苦笑する
そこで思い出す
高町母から養子の話を聞いた時の八神の表情を
俺にはないものを
あの時
八神が出した表情は驚きではなかった
いや、勿論
驚きも含まれていた
しかし、それ以外の感情の方がもっと強く出ていた
あれはそう


困惑、もしくは動揺
そして
恐怖だ…………………


よくわからない
最初の困惑と動揺はまだ理解できる
しかし、恐怖とはどういうことだ
彼女は俺と同じで孤独主義だったか?

それはありえない
彼女の顔は、瞳は、声は
初めて会った時と比べて遥かに幸福そうに見え、聞こえる
彼女は俺とは違い、誰かを求めるタイプだ

まぁ、高町とは違って健全なタイプか…………………

高町は高町で誰かとの繋がりを強く求めるが、少しそれが強過ぎではないだろうか
そう、まるで、誰かの役に立ちたいと思っている感じである
脅迫観念とまでは言わないが、それの四歩手前ぐらいには行っていると思う

誰かの為になりたい
誰かを助けたい

そんな考えを持っている感じである
誰かの為にならなければいけないと言った方がいいかもしれない
自分に強制しているといった感じだ
高町が俺と未だ話し続けているのはそこらへんだろう

まぁ、同情とはまた違うからどうでもいいけど

助けられる気もないが
話が脱線してしまった
ええと、確か八神が他人を求める理由だったか
そんなの簡単だろう



八神は孤独が嫌だったのだろう
友達、もしくは家族が欲しかった
ただーーーーそれだけ




当たり前だ
ただの小学一年生の少女が一人を好きになるなんて、それこそ俺ぐらい壊れてなければいけない
八神はどこを見ても『普通』の少女だ


当たり前の事で喜び


当たり前の事で怒り


当たり前の事で哀しみ


当たり前の事で楽しむ


そんな普通のどこにでもいる当たり前で足が悪い女の子だ
悪いことではない
むしろ一番良い事だ
この世の中で生きていくのに一番良い事は普通に生きることだ
異常など邪魔どころか有害だ
異常は世界から排斥され続ける
逃れようなく
堪えようなく
例外なく
俺もその一人だろう
ま、今は俺の事は関係ない
だから八神はまだましな方だろう
彼女には幸せになる権利がある
だからこそ
わからないのだ
他人からも
本人も
幸せを望んでいる八神
それがどうして


幸せになることを恐れる?



疑問は解消されないと気持ち悪い
だから、率直に聞こう

「で、お前どうするんだ?」

「…………………んー?私はそうやなーー。…………………どうしたいんやろなーー」

車椅子を襲ているから八神の顔は見えない
だから、どんな表情をしているのかもわからない
構わず続ける

「別に断る理由はないと思うが」

「何で?」

「メリットの方が多い」

「例えば?」

「資金援助、家族増加、学校も行けるかもしれない、少なくとも今よりも生活の不安は取り除けるなど」

「そうやなーー」

「逆に断る理由としたらーーーーー相手の家族が嫌いとか」

「有り得へんな」

「そうか。もしくはーーーーまだ未練があるかだ」

「…………………………何の?」

「…………………………家、もしくは」



家族の




返事はなかった
それとも沈黙が返事なのか
判別はつかなかった
判別するつもりもなかった
どう考えてもそれはただの決めつけだからだ
暫く沈黙が続く
どういうことか
今日は気持ち悪いくらい静かで、澄み切っている
音といえば八神の車椅子から出る音ぐらいだ
この無音という音の中で素晴らしいくらい響いている
空は面白いくらい澄み切っている
夜天の名に相応しい美しさだ
星は光り
月は輝く
まるで何かを照らすかのように
そこで益体もないことを思いついてしまう


そう
まるで
この場の全てが八神の為の舞台みたいだなんて


正直クサすぎる
今日のあの遊びか
もしくはこの場の雰囲気に当てられ過ぎたのだろう
そうじゃなきゃおかしい
そこまで考えていると八神がようやく話し出す
無音と夜天の加護を受けている少女が

「…………………そうやなぁ。多分私が躊躇している一番の理由はお父さんとお母さんの事があるんやろうなぁ。いや、やろうなぁじゃないわ。きっとそうなんや」

さっきの沈黙は考えを纏めるものだったのか
すらすら言葉を放つ八神
それに籠っている感情を読み取ることは出来なかった

「ふぅん。それは愛着?」

「それもある」

「じゃあ、執着」

「それもあるなぁ」

「じゃあ、義理」

「それもあるなぁ」

愛着
執着
義理
それがあるのは結構
他人の事を言うつもりもないし
他人の事を言える立場ではないので
だが、さっきから八神はこう言っている
『それもあるなぁ』と
つまり
本質ではないという事だ
一番大事な根幹ではないという事
では、彼女が一番躊躇っている理由は果たして何だろうか
俺は俺で躊躇せず聞いた

「じゃあ、お前は結局何がつっかえているんだ」

「…………………………慧君ならわかると思ってるんやけど」

「は?俺が?何で?」

「…………………慧君と私は似てないけど似ているから」

俺と八神が似てる
それは最高級の冗談だ
どこをどう見ても俺達は似ていない
顔も性格も経歴も違う
そのはずだ

「確かに顔と性格は全然ちゃうけどーーーー経歴は似てへんかな」

「どこが」

「例えばーーーー両親が死んだこととか」

「………………………………………」

確かにそれだけなら似ているだろう
共に似たような時期に両親を亡くしたもの同士
そこだけならば
しかし
それでも俺と八神は全然違うとしか言えない
選んだ道が
選んだ場所が
選んだ始まりが
選んだ終わりが
何もかもが違い過ぎる
強いて言うなら
八神はハッピーエンド(普通)を選び
俺はバッドエンド(異常)を選んだといったところだ
だから、違う
それは八神
誤解なんだ
俺なんかと似ていてはいけないのだ

「…………………まぁ、多少は違うと思うけど」

「いや、全然だね。俺とお前が似ているだなんて…………………背筋が寒くなるぞ」

「乙女に言うセリフじゃないで!?」

「雌に言うには丁度だ」

「ええい!まだ私の事を獣として見てるんか!」

「勿論だとも」

「この分からず屋!!」

無視した
これで会話の流れは途絶えた
素晴らしいね
この俺の状況判断
神すら凌駕するね
八神が白い目で見てくるが更に無視
すると
おやおや、溜息を吐いたよ八神
幸せが逃げるよ?

「どの口が言うか…………………」

何だかご機嫌斜めだな
別にどうでもいいけど

「…………………慧君。この話題を真面目に話したくないやろ」

「…………………………何のことやら?」

「…………………わかりやすいなぁ」

ちっ
数分ももたせられなかったか

「…………………そんなに私と似ているって言われるのが嫌?」

「…………………………俺に似ている人なんていないよ」

いるとしたらそいつは犯罪者か何かだろう
少なくとも異常者に違いない

「そうかなぁ。私は慧君がそこまで異常者に見えへんけど」

「OK。眼科だな」

「(無視)だって、慧君ーーーーかなりのお人好しやんか」

「は?」

ちょっと待った
聞き捨てならない
そのセリフは見逃せない

「八神。訂正しろ。俺はお人好しではない。ただの人でなしだ」

「…………………………卑屈言うんか、偽悪言うんか。どちらかわからへんけど、まぁ、別にいいで。」

完璧に八神は話を聞いていない
ふざけてもらっては困る
お人好しーーーー善人と言うのは俺に与えられるような称号ではない
それこそ。そういうのは高町家の人間に相応しい
まるでお人好しという言葉に似合う為の性格を持っているんだから


だってそうだろう?

もし俺が本当に善人なら

あの地獄で

オレハ

オレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハ



アノトキナニカデキタハズナノダカラーーーー



「け、慧君?ど、どうしたんや?急に黙ってしまって…………………」

八神の言葉で現実に戻ってくる
嫌な思考に浸っていたようだ
自分が今まで何をしていたのか
一瞬の忘我を味わう
そこまで経って、ようやく八神が俺を見ていることに気づいた
その瞳には
隠しようもない


恐怖が映っていた


どうやら自分の顔は余程怖い顔をしているらしい
少し気を引き締める
いつもの無表情になるように意識的に更に心がける
ようやく、自分の表情が元に戻った感じがする
やれやれ、まだまだ精神修行が足りないらしい
これでは、その内何かに化かされるかもしれない
八神もようやくホッとした顔になる

「ごめんな…………………何か悪い事を言ったみたいで…………………」

「別に…………………俺の事情なんだから、八神は全く関係ない」

「…………………………それでもごめんな」

はぁ
ぶっちゃけるといちいち謝られるとうざい
まるで、相手の事も自分の事情とでも言いたいのかな、このおちびさんは
あーーー
駄目だ駄目だ
少しやさぐれている感じがする
俺はもう少しお人形さんキャラのはずだ

「で、だ。八神。結局ーーーーお前は何を恐れているんだ」

話を逸らす意味も含めて桃子さんの話を聞いた時の八神の反応について聞く
少々いきなりだったが

「へっ…………………………」

いきなりの事で八神は少し間抜けな声を出したが、こう見えても八神は聡い
直ぐに俺が何を聞いたのかを理解して黙る
その反応からすると、どうやら俺が思った推測は間違いではなかったらしい
やはり、あの時
八神は確かにーーーーー恐怖を抱いたのだ
一体何に恐怖したかは
八神が答えるかによってわかる

再び沈黙
何時の間にか俺達の足は止まっていた
どこにでもある道路で俺達は話をする
今、俺達を見ているとしたらそれこそ、月と星ぐらいだろう
そんなくだらないことを考えてると
八神がこちらを見た


泣きそうな顔で


「…………………………あんなぁ、私」

「ああ」

俺はただ返事するだけだった
今の俺がすることはそれだけだろう

「お父さんとお母さん。両方死んだんや」

「ああ」

「それもいきなり」

「ああ」

「それも私の知らないところで」

「ああ」

「だからな」

「ああ」

「だからな私」

「ああ」



「失くすのがーーーーー怖い…………………………!」




遂に彼女の瞳から雫が零れてくる
透明な綺麗な軌跡が
八神の整った顔を輝かす
俺は黙ることしかできなかった

「だってそうやろ!いきなりやで!それも私の知らへんところでいきなり!!二人共や!!二人とも!!別にその日は別に何も特別な事はなかったはずや!!そしてお父さんとお母さんも別に死んでしまうような悪い事をする親やなかったし、危険な仕事をしているわけでもなかった!!」

「……………………………………………………」

「でも死んだ!!特に悪い事もしてへんのに死んでしもうた!!何でや!?お父さんとお母さんは悪い事をしてへんで!!?でも、何の因果も関係なく!呆気なく死んでもうた!!」

「……………………………………………………」

「運が悪かったから?確かにそうやろうな!でも、そんなつまらない理由で死んでしまうなんていおかしいやろ!?たった運が悪かっただけで人が死んでいいはずがあらへん!!そんなの間違っている!!おかし過ぎる!!」

「……………………………………………………」

「それに何や!この足は!!自分で言うのも何やけど私かって別に何も悪い事はしてへん!!礼儀もルールも法律も今のところ破った覚えはない!!なのに何で私の足はこんな風に動かんのや!!ねぇ、何でや!!」

「……………………………………………………」

いつもの八神からは考えられないくらいの強い叫び
強い慟哭
強い嘆き
それだけ彼女は我慢していたのだろう
何でこの世界はこんなにも理不尽なのだと涙を流しながら訴える
それを俺は黙って聞いた
彼女の言うとおりだ
この世は何の因果も関係なく誰かもが死ぬ
何も悪いことなどしていない人も呆気なく死ぬ
運が悪かったから?
そんなのどこにでもある普通の原因だ
残念な事に神様というクソヤロウは世界は運が悪い人や失敗したもの、異常者には残酷だというルールを作ったらしい
ふざけた話だ
失敗した者や異常者には残酷というのはまだわかる
でも、ただ運が悪い人にも残酷と言うのはおかしいというものだ
それを彼女は嘆いている


親の事とーーーー自分の事と


それも当たり前だろう
一見、気にしていないような態度をとる八神だが
気にしていないわけない
まだ6歳なのだ
いくら少し精神年齢が同年齢の子供よりも高いといえどもそれでも子供だ
むしろ今までよく我慢したものだ
親を失い
追い打ちをかけるかのように両足の異常
世を悲観するなと言う方が無茶だ
もし、高町達に会わなければこの少女はもっと孤独を味わっていたかもしれない
孤独は間違いなく彼女を侵していたはずだ
なのに何故養子の話を恐怖する?
何故?



そこまで思い
そしてーーーー話は繋がった
ああ、そういうことか



理由に至った
一瞬で成程と思ってしまう
答えの回答は直ぐに八神が言う



「だからーーーー私は怖い。桃子さん達と家族になるのは嬉しい。心の底から嬉しいんや。でもーーーーーその分失ってしまったら私は」



耐えられへん



つまりこの少女は家族になるのが嫌なのではなく
ただ、もしかしたら得たものを失うのが怖いのだ


はぁ、やれやれ
本気で俺は呆れた
成程、まぁ、両親が死んでしまったから、そういう思いは人一倍だと思うが、それでも呆れてしまう
もう少し年を取った八神なら大丈夫かもしれないが、それはそれ
そんなIFの話をする気もない
だから遠慮なく言った


「馬鹿らしい」


罵倒を


「なん…………………やて?」

八神が驚愕と怒りの表情をごちゃ混ぜにした表情でこちらを見る
そん事はどうでもいい

「耳が悪いのか?じゃあ、サーヴィスにもう一度言ってやろうーーーーー馬鹿らし過ぎる」

二度言う
八神を徹底的に罵倒する
ぶちっという音が聞こえた気がした
多分それはーーーー八神の堪忍袋の緒が千切れる音だろうと他人事のように考えていた
そして


「慧君は…………………………わからへんのか?私の気持ち」

「ああーーーーまったく全然わからないねーーーーーまるで自分がこの世で一番不幸ですと不幸自慢している子供の事なんて」

完全な売り言葉
それを黙って聞いているほど
八神は温厚ではなかった


バシッ!と音が鳴る

それは八神が俺を殴ろうとした音で

俺がその手を止めた音だ


「いきなり何をする八神ーーーー危ないぞ?」

「うるさい!!慧君なら!慧君ならわかってくれると思っていたのに!!」

「おやおや、八神は傷の舐めあいをご所望かな。ははははははーーーー願い下げだ」

「何でや!!慧君かて怖いはずやろ!?得たものを失うのは!!だって慧君かってーーー」

「確かに俺も両親を目の前で亡くしたね。ああ、その気持ちは少しは理解できるとも」

「だったらーーー」

「だが、俺は一度も新しいものを得るのに恐怖を抱いたことなどない」

「…………………!!」

そう一度だってない
この孤独も
この生活も
この生き方も
あのときにした『契約』も
俺は自分で選んだのだ
その全てが自分にとって新しいものだった
しかし、俺は恐怖もしてないし、後悔もしていない
これからもする気などない
否、してはならない
それはあの時
あの場で死んでいった人たちへの冒涜だ
恐怖など以ての外だ

「で、でも、それでもーーー」

「それにだ。八神」

相手の言葉を遮って俺は言う

「お前は認めているではないかーーーー失うかもしれない。しかしーーーーー得れるものはあると」

「…………………!!」

「そうだ。確かにこの世には絶対はない。どんなものでもいつかは無くなるかもしれない。壊れるかもしれない。だが、それを言うなら逆もあるんだ。無くならないかもしれないし、壊れないかもしれない。永遠には続かないかもしれないし、永遠に続くかもしれない。ほら、絶対なんてどこにもないのだから。」

そう
この世には絶対などない
残酷な意味でも
優しい意味でも
俺達は残酷な方を味わったけど
八神はもう良い筈だ
もうそろそろ優しさを貰ってもいいころだ
俺と違ってこの子には何の罪もない
まだやり直せる


だってこの子には
立派な心がある


だからか
俺の言葉はいつもと違う気がする
いつもなら見捨てるはずなのに
まぁ、月と星に狂わせられたという事にしてもらおう


「だからーーーー八神」

「っう…………………」

「一つ問うーーーーお前は結局何が望みなんだ?」

「…………………………私の…………………望み」

「そうだ。もうごちゃごちゃと何かを言いあうのは止めよう。はっきり言って不毛だ。大体この話は元々はシンプルだ。結局ーーーー決めるのは俺でもなければ高町家でもない。決めるのはーーーーお前だ」

「……………………………………………………」

「怖いとか何とかそんなのはどうでもいいだろう?もうそんな段階はとっくの昔に過ぎているし、どうでもいい。もうここまで来たら一つだ。つまりーーーーお前がどうしたいかだ」

「私の…………………………したいこと」

「そうだ。願えよ(叫べ)」

「……………………………………………………」

「我儘でもいい。エゴでもいい。願えよ(叫べ)。」

「……………………………………………………」

「もうそろそろーーーー許されてもいい頃だ」

「……………………………………………………」

そこで話を断ち切る
もう俺から話すことはない
話す気もない
後はーーーー八神の仕事だ

「わ、私は…………………………」

葛藤している
自分がそんな我儘を言っていいのか
恐怖に打ち勝てるのか
彼女にとっては辛い葛藤かもしれない

「私は…………………………」

しかしだ
いづれは乗り越えなければいけない壁だ
彼女がこれからを生きていくのに避けては通れない儀式

「私は…………………………」

彼女も理解しているだろう
彼女は無駄なくらい聡いのだから
というか俺の知り合い全員無駄に聡いが
だから大丈夫のはずだ
馬鹿の俺と違って
八神は立派な

「私は…………………………!」


立派な心を持っているのだから



「私はみんなと一緒にいたい!!」



願った(叫んだ)
彼女は打ち勝ったのだ
未練を
執着を
愛着を
恐怖を
彼女は打ち勝ったのだ
失うのが怖くても、その先に得れるものがあるという事を信じたのだ

「私はみんなと一緒にいたい!なのはちゃんやアリサちゃん、すずかちゃん。士郎さんや桃子さんや美由希さんや恭也さん。忍さんやノエルさん、ファリンさんと一緒にいたい!!」

八神はまだ続ける
まるで、自身の願いを世界に刻み付けているみたいだ
それでいい
それでいいんだ
お前は俺じゃないんだ

「それにーーーー慧君とも」

「止めとけ八神」

「嫌や」

「…………………………抜くぞ」

「何を!?」

「それは…………………(ふっ)」

「何やーー!その無表情の声だけ笑いはーーー!!?」

「いや、禿げた八神を想像するとつい」

「か、髪は女の子の命やで!!」

「それは良い事を聞いたーーーーその儚き命散らそうか」

「散らすぐらい千切るきなん!!?」

「風に乗ると綺麗だぞ?」

「その分私の頭が涼しくなるわ!!」

ようやく俺達らしい会話に戻る
それに気づいたのか
八神はようやくいつもの表情に戻り苦笑した

「そうやな。何や、私が悩んでいたことなんてこんなちっぽけな事やったんやな」

「八神の存在と一緒でな」

「やかましい」

「……………………………………………………悲しいよ?」

「無表情でそんな風に言われても説得力ないで」

「その分を溢れんばかりの言葉で補っているのだよ」

アハハと彼女は笑う
無表情で俺は答える

「うん決めた。私、明日桃子さんに言ってくるわ」

「そうか」

「…………………………普通頑張れとか言うんちゃうか」

「言う必要があるのか?」

「アハハ。そうやなぁー」

「そうだろ」

「うんーーーーありがとうな」

「お礼を言うくらいなら土地を寄越せ」

「要求高いな!!」

それから俺達はつまらない事を言いながら歩き出した
彼らを見るのは星と月の夜天だけである



それからどうなったかを口に出すのは無粋というものだろう
まぁ、強いて言うなら
高町家の人口密度と
聖祥学校の人口密度が増えたという事ぐらいだ











これは桃子さんに話に言った時の事や
誰にも言ってない事
私が疑問に思ったことを聞きたかったのだ
多分、これを逃したら聞けなくなるかもしれへんから

「なぁ、桃子さん」

「なぁに?はやてちゃん。ちなみにお義母さんと呼んでくれてもいいわよ」

「あ、アハハ。それはもうちょっと後に」

「あら残念。で、何かしら?」

「あ、はい。えと、そのーーーーこの話(養子縁組)慧君には提案しなかったんですか?」

「……………………………………………………」

そう
それが疑問やった
こんなに優しい人達がまさか私だ養子の話をするとは思えへん
つまりや
慧君はもしかしたら

「…………………………ええ。慧君にも勿論提案したわ。」

「…………………………やっぱり、断ったんですか?」

「ええ。でもね、何て断ったと思う?」

「え?ええと…………………………わかりません」

「ふふふ。そうよね。慧君ね。こう言ったのよ。『ありがとうございます。でも、すいません。確かに俺の両親は死にました、肉体的にも精神的にも。でも、『ここに』いるんですよ。心の中にいるだなんてクサい事は言いません。でも、『ここに』まだいるんですよ。だからーーーー俺にとっての家族はあの人達だけなんです。この仮面(無表情)を突き通すと決めた時から』

「……………………………………………………」

「私、尊敬したわ。あの子にそんな風に思ってもらえるようなーーーー素敵なご両親だったのね」

でも、それは
その返答やと
彼は未だにーーーー過去に囚われていると解釈することも出来るんちゃうか?

「そうね。そう解釈することも出来るわ。でもーーーーそれを何とかするのも私達の仕事よ。はやてちゃん」

「あ…………………………そうですね」

そうや
彼が未だに過去に囚われているんやったら私達で戻らせればいいんや
私を過去から解き放った彼を
自分で言ってるくせに自分の事は棚に上げている彼を
あの無表情という仮面で隠されている彼の本当を
私達が
何とかするんや






あとがき
今回はちょっと急すぎたかもしれませんし、説教もちょっと無理矢理感があるかもしれません
やはり、まだまだ未熟者です
ええと、感想の返事の一部についてお答えを
ギャグになっている
ええ、仰る通りです
自分でも何でこうなったのかさっぱりです
いつ、原作に入るか
お答えしましょう
次からです
少々いきなりで無理矢理感がありますが、ぶっちゃけて言うと
原作前にやっとくべきと思ったイベントはこれで終了したのです
最低でも主人公の過去の一部始終と月村編とはやて編
これが原作前に出来たらよかったのです
そして皆さんに言っときたいことが
作者、原作のセリフなどそういったものを全て覚えていません
だから、そういったものはオリジナルになると思います(日付なども)
まぁ、闇の書が起きた日付ぐらいは守りますが
だから、そこらへんはご了承を
ちなみに主人公が魔法に関わりだすのはAS編からと決めてあるので
無印ではチョイ役だと思います



[27393] 第十四話  <無印編スタート>
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:23

ーーーーー物語は歪んだわ
ーーーーー不誠実にでも確実に
ーーーーー地獄はどこにでもある
ーーーーーでも、天国はない
ーーーーーああ、何て素晴らしい
ーーーーー不平等で雁字搦めな自由
ーーーーーさぁ、始めましょう
ーーーーー魔の力の物語の始まりを
ーーーーー壊れた誰かさんの物語を
ーーーーーそれを私は面白可笑しく嗤いましょう
ーーーーーだって滑稽なんだから







俺、風雷慧は聖祥学校の三年生になった
時が流れるというのは早いものだ
もう二年経ったのだ
まぁ、別に何やら特別な事があったというわけではないので、特別感慨に浸るような毎日ではなかっただからだろう
まぁ、別にどうでもいいけど
だが、問題が幾つか出来てしまったのだ
そう、問題とは

「何?いつもの無表情顔で私達を見てくるなんて?」

「それがこう真摯に見てくれるような視線だったらいいんだけど…………………………」

「こう、何だか人をなぁ。まるでこう…………………………」

「厄介者みたいに見るのはどうかと思うなの…………………………」

上からバニングス、すずか、八神、高町の順番だ
そう
これが問題だ
教師連中がどんな会議をしたのか知らないが
何を思ったのか
俺達を同じクラスにしてしまったのだ
そうなると大変
俺はそうなると

「毎時間、高町症候群の汚染源と話し合わなければいけないのか…………………………」

「まだ言ってたの!?もう二年目だよ!!」

「確かに…………………高町症候群は怖いわ。でも大丈夫よ」

「アリサちゃん!!ありがとう!!微妙に弁護しきれてないけど、流石私のとーーーー」

「ちゃんと手洗い嗽、殺菌をしているから」

「もう誰も信じられないよ!!」

「なのはちゃん!駄目だよ!人間不信になったら!!」

「そやで!なのはちゃん!なのはちゃんの良い所は最後まで諦め編とこやろ!?」

「は、はやてちゃん、すずかちゃん…………………」

「最後まで頑張ろうよ」

「そやで。少なくとも私達は応援しているで」

「……………………………………………………実は二人は私が孤軍奮闘しているのを見るのが面白いから応援している、何て言わないよね」

「「ビクッ」」

「…………………………………………………………………………………………………………この外道が!!」

「ほう、そうかね?」

「なのはが言葉遣いを放棄した!?」

「やさぐれてしもうた!?」

「新しいなのはちゃんの誕生!?ついでにちゃっかり慧君が話に合わせている!!」

相変わらずのボケとツッコミの応酬
まったく変わらないと思ってしまうがまぁ、これはご愛嬌というやつで
ワイワイ騒いでると(高町を虐めていると)

「はーーーーい、授業を始めますよーーーー」

先生が入ってきた
がやがや騒いでいたクラスメイトも各自自分の席に戻る
かく言う四人娘も帰っている
俺は元々自分の席に座っていたので不要
というか勝手に俺の席に集まるな

「はーーーい。それではーーー」

先生の声が辺りを支配する
よし、じゃあ、俺は真面目にーーーー

「そぉい!!」

「何と!!?」

いきなり先生がチョークを投げてきた
余りにも唐突な奇襲
しかし、それぐらい躱せなくて何が人間か!!

「戯け者が!!」

チョークを紙一重の所で避ける
ふっ、これぐらい
高町父のせいで否応なしに反応できる…………………………!
俺の勝ちってなにぃ!!!
驚愕の二連続
まさかと思うだろう
何故かと言うと

「二段重ねだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

そう
先生はチョークを2個投げたのだ
それも単純に2個投げたのではない
時間差をつけてだ
それも俺が避けるであろう場所を推測して


これが先生になるには覚えなければいけない必須スキルか…………………………!


勿論そんなことはない
何が悲しくてこんな大道芸みたいなスキルを教育者が覚えなければいけないのだ
こんなもの必須スキルにしなければいけない社会は一端崩壊するべきだろう
一揆上等で
だから皆さん
とち狂ってこんな無駄過ぎるスキルを覚えてはいけませんよ

「あっぶなーーーーーーーい!!!」

ギリギリで躱す俺
ああ、髪の毛に白いラインが…………………………
俺はどこぞの死神様の息子じゃないぞ!!
ちなみに投げられたチョークは勿論当たらなかったのでスピードが落ちるまで止まらない
するとどうなるか?
聡い皆さんはわかりますよね?
補足説明をするが、今ここは学校で、教室です
そして授業中です
俺ほどではないが皆さん良い子です
つまり席に座っています
ここまで来たらわかるだろう
つまり、チョークは
後ろの人に当たる
そして何の因果か
後ろの席は

「うにゃ!!」

運動神経が切れている高町なのである
バタン!と椅子ごと人が倒れる音が教室の中で響く
そうするといつものメンバーが

「だ、大丈夫!?なのは!!」

「なのはちゃん!しっかりして!!傷は浅いよ!!」

「き、着物の人が呼んでいる~~なの」

「駄目やなのはちゃん!今時そんなありきたりなボケじゃあ誰も笑ってくれへんで!!」

「はやて!今はボケ指導をする時間じゃあないわ!!今は救護兵(メディック)を呼ぶ時間よ!!」

「任せて!お姉ちゃんから少し習っているから!」

「ほんまか!任せたで!!」

「うん!----右斜め四十五度から終わりを告げるチョップを…………………………!」

「そう言う意味での治療か!!ツッコミを入れる場所が多々あるけどとりあえず一つだけ言うわーーーー殺るのなら躊躇っちゃ駄目よ?なのはが苦しむから」

「なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!意地でも死ねないなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「そんな!?なのはちゃんの戦闘力がーーーー473なのになってしもうた!!」

「その戦闘力高いの!?」

などどいつも通りのボケとツッコミをやっている
あちらは無視しなければいけない
あの空間に入ったら精神が汚される
もしくは精神が穢される
だから今やることは

「先生!いきなり何をするかね?危ないではないか」

「あら?授業を寝ようとしていたクソ生徒にはそんなことを言う権利はないわね」

「おやおや、最近の教師は可愛い生徒にクソ生徒等とそんな暴言を吐くのかい。嘆かわしい、教育の崩壊だね。しかも人権侵害。我が法典に乗っ取れば死刑よりも重い罪だが俺は寛大なので特別に許してあげようではないか。感謝してもいいですよ?」

「はっはっはっは。風雷君?君の敬語がおかしいのはまぁ、もう諦めています。でも、何でかなぁ。敬語にしては敬意が籠っていない発言が多々あるのですが、それは先生の気のせいでしょうか」

「それは自分に疾しい事がある証拠だよ先生。そういえば先ほども俺はまだ寝ていないのに勘だけで寝そうだと思いチョークを投げてきたね。証拠もないのにそんなことをするとはーーーー疑い深いね」

「へぇ。まぁ、確かに勘だけどその勘は今まで培ってきた経験がそう告げたのだけど」

「確かに経験が大事なのは認めよう。しかしだ。その経験で疑心暗鬼の陥るのもどうかと思いますよ。何事も信頼や信用がなければいけないと思いますよ。何事も余裕が大事です。これ重要ですよ。テストに出ます」

「成程、確かに認めましょう。信頼、信用は大事だと。しかしですね。大分甘く見ても私には貴方が私に対して信頼や信用を抱いているようには見えないのですが」

「はっはっはっはっは。それはそうでしょう。誰がいきなりチョークを投げてくる教師を信頼、信用すると思いますか?そんなことをするのは頭が花畑などこぞの高町症候群の感染源のツインテールの人間?だけですよ」

「え!?ここでいきなり私に跳弾が飛んでくるの!?」

「ええい。高町。うるさいぞ。5分だけでいいから、息を止めておけ」

「そんなことをしたら酸欠で私が死ぬの!!そんなこともわからない慧君じゃないでしょ!!」

「当たり前だとも。しかしだ、高町。限界とはーーーー超えるものだろ?」

「良い事を言っているけど、もし失敗したら私はお陀仏なの!!」

「なに、安心しろーーーーきっと生命保険は出る」

「死ぬことを望んでいるの!?私の命をお金で売らないでよ!」

「まさか。高町をお金で売るはずがないではないか。俺はただーーーー少々高町の存在が少しうざ…………………………気になりだしただけなのだから」

「まるで愛の告白みたいだけど、その前に言いかけた『うざ』っていう言葉が全て台無しにしているよ!!」

「うるさいぞ高町。授業に集中しろ」

「私が悪者みたいな扱い!!さっきまで暴れていたのは慧君と先生ーーーーっていつの間に真面目な授業モードに入っているの!!?さっきまでその板書もなかったよね!?」

「うるさいわよなのは」

「なのはちゃん、授業中だよ」

「なのはちゃん、授業終わった後やったら幾らでも付き合ってあげるで」

「高町さん。授業妨害は止めてください」

「高町、みんなの迷惑だ」

「うにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

今日もいつも通りの日常だった
まったくーーーー困ったもんだ











「……………………………………………………」

「ご、ごめんごめん。なのは。わ、悪かったって」

「さ、流石にやり過ぎやったって反省してるから」

「だから、その、機嫌直して?ね、お願い?」

「いや、別ぐはっ」

は、反応が早くなったではないか…………………………
流石俺と2年間つるんだだけあるな
だが、八神よ
幾らなんでも車椅子のタイヤで俺の足を踏むのはやり過ぎではないかね
というか何故俺がここにいる

「え?確か…………………………慧君が逃げようとしたから私とアリサちゃんで抑え込んだんだよ」

「成程、だが俺は何故今まで気を失っていたのであろうか。俺は確かに逃げようとしたがその後の記憶がいきなり途切れているのだがすずか」

「…………………………疲れが溜まっていたんだよ」

「そうかそうかーーーー土葬してくれるわ!!」

「あかんで、慧君!日本じゃあ火葬やで!?」

「ツッコみどころが違うわ!はやて!」

「動くなぁ!すずか、バニングス」

「うにゃ!!いきなり何するの!?」

「こちらにはなの質がいるぞ!抵抗せずに俺の攻撃を受けろ!さもなくばーーーー」

「「「「さ、さもなくば?」」」」

「高町をまともにするぞ!!」

「な!!何て恐ろしい…………………………」

「くっ、卑怯やで!慧君!!」

「そうだよ!どうせなら正々堂々でやらなきゃ誰も認めてくれないよ!!?」

「正々堂々?素晴らしい言葉だね。だが、そんなものでは現実には打ち勝てんのだよ」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………実はみんななのはの事が嫌い?」

ヤイヤイ屋上で騒ぐ俺達
今は昼休み
つまり、昼食の時間だ
屋上には俺たち以外にも人がいるが、みんなこちらを見る視線にはまたかという感情が籠っている
まぁ、3年間似たような事をしているからなぁ
だからこそ先生のあの態度
既に俺に慣れている感じである
慣れとは恐ろしいものだ

「…………………………そもそも、慧君が毎時間寝ていたり、先生にチョッカイを出すからいけないいじゃないのかな」

ようやく機嫌が直ったのか
高町が会話に参戦する

「何を言う高町。俺は紳士だぞ」

「へぇ、風雷は頭がおかしいから常識もおかしいとは知っていたけど。紳士の定義も知らないとは私も知らなかったわ」

「ほう、淑女の定義も本質も知らないどこぞの金髪我儘つり目少女に言われるとは。俺も焼きが回ったかな?」

「「……………………………表で死ね!!」」

「二人とも相変わらずやね~」

「普通そこは表に出ろじゃないかな?」

「すずかちゃん。二人ともそんな当たり前の枠組みに収まるような人間じゃないなの」

「…………………………さり気なく恐ろしいなぁ。なのはちゃん」

馬鹿話をしながらとりあえず弁当を食べようとするが
ここで問題発生

「なぁ、お前ら。俺は弁当ではないのだが」

ご飯は作れるが流石に早起きする体力というか気力がないので、いつも俺はコンビニでパンかおにぎりだ
だが、残念な事に気が利かない連中なので俺のご飯を持ってきてくれてはいないようだ
薄情な奴らめ

「というわけで俺は取りに行くのでーーー」

「逃げようとする理由は与えないよ」

WOW
すずかさん?
何でしょう?
その素晴らしい笑顔は
まるで、得物を追い詰める獣みたいな笑顔ではないか

「しかしだな。すずか。それでは俺のご飯がないではないか」

「ご飯ならあるよ」

「ほう、どこにあるのかな?」

「はい、あ~~~~~ん」

「……………………………………………………」

風雷慧は逃げ出した

アリサ・バニングスははやてごと車椅子を投げた

二人と一つはぶつかった

風雷慧と八神はやては地に沈んだ

ここまでの行動
僅か……………………………………………………0,5秒
恐るべし風雷慧
恐るべしアリサ・バニングス

「いきなり何をする!!流石に車椅子は死ぬぞ!」

「ほんまや!それに何で私ごと投げるんや!!?私は慧君やアリサちゃんと違ってギャグシーンに無敵修正はかからへんのやで!」

「嘘つけ!速攻で復活しておいて、説得力の欠片もないわ!!」

「その前にアリサちゃん…………………………どうやってはやてちゃんが乗っている車椅子を持ち上げて投げれたの?怪力のレベルじゃあ納得できないんだけど…………………………」

「努力と気合、そして根性よ!」

「無茶苦茶なの!」

「化物め…………………」

「精神的にも化けもんやな…………………」

「そこ!無表情毒舌男と冗談狸娘!聞こえてるわよ!」

俺達は全然変わらない
それはそうだ
たった2年
しかも俺達はまだ小学三年生
変わるには速すぎる
変わったと言えば
八神が高町家にお世話になっていることぐらいか
ちゃんと養子の話を受け入れたらしい
まぁ、知っていることだけど
だが、八神は
『八神』の姓を捨てることはしなかった
誰も聞きはしなかったが、みんな何となく悟っているのだろう
だから何も言わない
それでいい

「そういえばさっきの授業でも言っていたけどみんなは将来について考えている?」

「何だ高町。いきなりだな」

「そうやな~。話題のネタがなくなったって感じがしているな~」

「にゃはは、でも、気になるのも本当だよ」

「ま、それもそうね。私の場合はパパの会社を継ぐだけど…………………すずかは?」

「はい、あ~~~ん。…………………うん?なぁにアリサちゃん?」

「…………………………あ~~~んていう優しそうな言葉と違ってすずか。貴方、今、無理矢理風雷の口に入れたわね…………………………」

「ふふふ、何の事かな?とりあえず私は機械関係の仕事が興味あるかな」

「へぇー、そうなんだー」

ちなみに俺はすずかに無理矢理入れられたご飯を喉に詰まらせてやばいことになっている
唯一八神だけが

「誰か医者をーーーー!!」

と叫んでくれているのが救いであった
すずかよ
俺、何か悪い事しましたか?

「はやてちゃんは?」

「え?私か?」

速攻で俺を切り捨てていく八神
所詮、この世で信じられるのは自分だけだね
ごふっ

「私はな~。そんな将来設計がまだ出来てへんからな~。まぁ、得意なもので行くなら料理かな?」

「はやてちゃんは料理が上手いからね~」

「そうよね。調理実習の時、みんなとレベルが違ったものね」

「いやいや、一人暮らししていたら自然と覚えるもんやで」

「はやてちゃん、謙遜し過ぎなの」

あはははと楽しそうな声が何故か遠くから聞こえる
あれ?
おかしいな?
確かそこまで距離はなかったはずなんだが
アッチョンブリケ

「ねぇねぇ。慧君はーーーって慧君が泡を吹いて死にかけなのーーーーーーーー!!」

「放っておきなさいなのはーーーー世界に貢献できるチャンスよ」

「駄目だよアリサちゃん!私のもう一つの夢が!!」

「…………………………言わんでもわかるのが恐ろしいなぁ。でもーーーーこの状態を招いたのは…………………………」

あっはっはっはっは
地獄というのはどこにでもあって困るね







「で、何の話だったか」

「将来の事よ」

「…………………………ツッコみたい!!何で何事もなく復活しているところとか物凄くツッコみたい!!でも、それをすると関西人の魂が拒絶する!!ああ!それにしてもーーーー金が欲しい!」

「で、慧君は何になりたいの?」

「確かに気になるね」

八神が無視されていじけているがそれも無視
我等の無視スキル
伊達ではないぞ

「俺も八神と似たようなもんでまだ全然決まってない」

「ふ~~ん。でも、アンタ。結構頭良かったよね」

「性格さえよければ結構凄いよね」

「…………………………すずかよ。俺の性格は全否定かい?」

「いいなぁ~。みんな。私は何の取り柄もないしにゃ!!」

「ほう、取り柄がないとな」

「それは聞き捨てなりませんな。なのはちゃん」

「理数系だけならアリサちゃんも超えるのにね」

「なのはの癖に生意気ね。つまりなのはは、自分以下のレベルは無能って言いたいんだ~」

「ふにゃう!ふにゃにゃにゃ!にゃう」

「高町…………………君が何を言いたいのかわからないよ」

「にゃう!!」

「遺言さやって」

「ほう、ではーーーー手加減はいらないわね」

「にゃう!!?」

「逝きなさいなのは!破滅のグランバ○ッシューーーーーーーーー!!」

「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「あ、ベルが鳴ったぞ」

まぁ、単に頬を抓っただけなのだが















「やれやれ、ようやく下校か。ではーーー」

「逃がさないよ、慧君」

「行かせない…………………!」

「ちっ!もう気づいたか…………………!」

俺はただ一人で帰りたいだけなのに…………………!
どうして誰も認めてくれないんだ!!

「これが若さゆえの過ちってやつなのね…………………」

「アリサちゃん。それは心の中で言うべきや」

「だが、残念ながら今日は高町姉もいなければ恭也さんもいないだろう」

「な!?何故それを!」

「ふふふ。あの人外と付き合っていたら嫌でも気配を読む術を覚えるわ」

「説得力があるね…………………」

ふふふ、言うなバニングスよ
俺も泣きたい
泣かないけど
だが、これで俺を止めるものはなし!!

「ええーーーーあんたが思考をしている間に私達に捕まるという馬鹿な事をしなければね」

最近の自分は甘くなったと思う今日この頃である






「むっ」

結局高町達に捕まり無理矢理一緒に帰宅させられている時
妙な気配を感じた
この気配は間違いない…………………
あの山猿の気配だ
皆も雰囲気を察知したのか俺から少し離れている
慣れとは…………………恐ろしいものだ
さて、どこから来るか…………………
右か
左か
前か
後ろか
くっ、駄目だ
上手く気配を捕えられない…………………!
その時

ガタリと下から音が聞こえた

ま、まさか…………………!

「下かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

気づいた時には流石に遅かった

ガッターーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!とマンホールが跳ね上がり

「がふっ!!」

俺の顎に直撃
バタリと一時離脱
ああ、脳が揺れる

「お、お爺さん?な、何で下水道から?」

「おう。久しぶりじゃなぁ。御嬢ちゃん達。大体八話分くらいかのう」

「駄目ですよ。お爺さん。その言い方は色々と不味いです」

「はっはっは。黒髪御嬢ちゃんもなかなか良い事を言うのう。」

「あの、その前に一体何で下水道から来たんですか…………………?」

「何、簡単じゃよ。この前この小僧が儂を不意打ちで人中を殴ってきおって。それで気絶していたら何時の間にか浄水場でのう。危なく洗浄されるとこじゃったぞ」

「逆に何で生きているのか私は疑問なんだけど…………………」

「金髪お嬢ちゃん、意外と人間やればできないことはないんじゃぞ」

「限度っていうのがあると思うんやけど…………………」

「儂と小僧はとうの昔に乗り越えたわい。そんなもの」

「…………………ある意味サイ○人?」

「はっはっは。いいのう、サ○ヤ人。あれは日本の文化の極みごふっ!」

「ああ!お爺さんの鳩尾にマンホールが上手い事めり込んだ!!」

「山猿…………………よくもやってくれたね?しかしだ。俺は意外と寛大な男。サーヴィスもつけて十倍返しで我慢してやろうではないか。感謝で涙を流してもいいもんだね。そして俺の靴を舐めてもいいくらいだね?」

「ごふっ!き、きしゃま…………………!」

「ははははははははは!!何?きしゃま?面白い赤ちゃん言葉だね。山猿爺の癖に退化したのかい?それはいかんな。はっきり言おうーーーー脳の病気だ」

「おんのれクソガキ!人生最大級の恥を晒す気はあるのだろうな…………………………」

「今時そんな脅し文句では誰も怖がらんよ。せめてこれぐらい言わなくてはーーーー髪を引き千切って皮膚を剥いで爪を剥いで眼球を抉って耳を切り落として去勢して指を千切ってその断面を鑢で思い切りさすって勿論足の方の指も同じことをしてさらに内臓を一つ一つ抉り出してしかし生きる程度に傷つけないぞこの山猿爺…………………………!」

「この危険思想な小僧が!!」

「この有害存在が!!」

そして俺達の闘いはクライマックスに!
他のメンバーを距離的に置いて行って







「逃げられたわね」

「逃げたね」

「逃げられたなぁ」

「逃げられたなの」

私達は今、塾の帰り道
塾から出たらまずはその一言が出てきた
むぅ、せっかく慧君を捕まえれたのに
まさかのどんでん返しなの…………………………
それにしても

「全戦全敗なの」

「そうよね~」

「どうやったらいいんだろ…………………………」

「私の関西直伝のジョークでも全敗とは思わんかったわ…………………………」

この全然全敗というのは解る人には解る
つまりだ

慧君をどうにかして笑わせる、もしくは何らかの感情表現を出させるという事だ

ちなみにこの作戦には私の家族にすずかちゃん家にアリサちゃん家も参戦してくれているなの
でも、今のところ効果はなし
相変わらずの無表情スタイル
城壁とかでもここまで固くはないと思うなの

声だけは喜び、しかし表情には出さず

声だけは怒り、しかし表情には出さず

声だけは悲しみ、しかし表情には出さず

声だけは楽しみ、しかし表情には出さず

無表情にして無感情
とまでは言わないけど仮面でもあそこまでじゃないと思う

「はぁ。弱音を吐くみたいで嫌だけど…………………………『今の』私達にはこれが限界だと私は思う」

唐突にアリサちゃんが言う
へっ?
でも、それって

「諦めるの?アリサちゃん…………………………慧君を笑わせることを…………………………」

それは悲しいことである
私は最後まで諦めたくない
自惚れかもしれないけど私は慧君の友達である
…………………………何だか実際自惚れだとか変な電波が飛んできたけど無視なの
だからこそ、私は慧君に笑って欲しい
諦めたくはない
それを言うと

「はいはい。いきなり結論を急がない。私も諦める気はないわよ」

「え?で、でも、さっき……」

「人の話はちゃんと聞きなさいなのは。私はこう言ってでしょう。『今の』私達にはって」

「だから………………アイタ!」

「落ち着きなさいなのは」

「アリサちゃん…………………………いきなり指○なんて…………………………」

「恐ろしい…………………………それが出来るアリサちゃんもそうやけど、それを躊躇いもなく友人にするその精神が恐ろしい…………………………」

「あんたらは特別にカラミ○ィエンドをぶちかましてあげるわ」

「「…………………………成程、類は友を呼ぶって本当だったんだね(ほんまやったんやね)」」

「…………………………誰を類にしたかは無視してあげるわ」

「あの~。話題から遠ざかってますけど…………………………」

「あ、ごめん、なのは。空気よりも薄過ぎて忘れたわ」

「……………………………………………………アリサちゃん」

「ん?何かしら?」

「……………………………………………………慧君に似てきたね」

「ちょっと話し合いましょうか」



しばらく
お待ちください



「何度でも言うわよ、なのは。誰があんな無表情根暗毒舌契約至上主義の偽悪趣味の最低最悪の口先八丁男に似てきたなんて世界がなのは色に染まったとしても有り得ないわ。いえ、神が許したとしたら、その神を殴り殺してでもその事実をもみ消すわ」

「…………………………にゃう…………………………」

「アリサちゃん。なのはちゃん、今は聞ける状態じゃないよ…………………………」

「私の話を無視するとは…………………………なのはの癖に生意気ね」

「そんなん言うから似てきたって言われるんや」

「お黙りなさい狸!!狸に喋る権利なんて存在することすら許されないわ!!」

「何やと!?お犬様だからってわんわん言い過ぎなのもはしたないと思うで!この忠犬アリサ公!!」

「「よく言った!ならば、ここで果てろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

「2人とも落ち着いて。キャラとかそういうのが壊れてるよ」

「…………………………何ですずかちゃんは落ち着いてられるの?」

「…………………………慣れって怖いよね」

「…………………………ごめんなさい」

何故かいたたまれなくなって謝ってしまったの
た、確かに私達の暴走のストッパーは大抵すずかちゃんだったの
あれ?
でも、慧君に対しては結構すずかちゃんも暴走気味な気が…………………………

「なのはちゃんーーーー女の子はあることに気づくと変わるの」

「にゃ?そ、それって?」

「…………………………なのはちゃんにはまだまだ早いかな?」

「それって私だけ子ども扱い?」

「「「…………………………ふっ」」」

「!!!」

結論
みんな慧君ウィルスにやられていると判明

「と、とりあえず、何が言いたいのかな?アリサちゃん」

「う~ん。結構簡単な事よ?」

「それでも聞きたいよ」

「じゃあ、言うけど…………………………まず私達は風雷の無表情の仮面を取りたいOK?」

「「「OK」」」

「色々やったわねぇ」

「そやなぁーーーーあの忍さん作成の祝!ロケットファイヤー!!555(ゴーゴーゴー!!)を受けても何も表情を変えなかった時はある意味尊敬したもんやなぁ。あれ、確かホーミングで慧君を2時間ぐらい追い掛け回してたよなぁ?」

「うん。そうだねぇ。私的にはお姉ちゃん作成のイグアナとかえるとペリカンとキジのキメラに追われても無表情なとこが尊敬出来たけど。無表情で顔が引きつっていて、レアな顔だったから思わず写メで200枚くらい撮ってしまったよ」

「私は忍さん作成の全長30メートルくらいのリアル機龍のメッカゴジャラに思い切り踏みつぶされそうになっても生きている慧君に驚いたの」

もう1つ結論を言おう
どこぞの無表情少年が彼女達から離れようとする理由にはシリアスな理由だけではなく、きっとコミカルな命の危険を感じたからだろうというのは誰でも理解できるだろう
むしろ、こんな目に合わされてもちゃんと接してくれるあの少年はかなりと言うレベルでは説明がつかないほど忍耐強いのでは…………………………
というかすずかさん?
貴方、2年前に少年にキスをしてそれからピャアで素晴らしい関係になろうとしているのではないのでしょうか?
というか皆さん
貴方達は人としての心を持っているのでしょうか
無表情の少年が人生が終わるまで生きられるか心配です
シリアスな理由ならともかくこんな理由で死んだら誰でも死んでも死にきれないでしょう

「とまぁ。色々やったけど効果はなかった」

「「「うん」」」

「でも、私はそもそもアプローチの仕方が間違っていた、そう思うの」

「「「???」」」

それって?

「だってさ。私達、アイツがまず『何で』無表情に拘るのか知らないじゃない」

「「「あ…………………………」」」

誰もがそんなことを考えていなかった
みんな必死で慧君を笑わそうとすることだけに必死になっていた(その努力の方向性はかなりというか人としても間違っていると思うが。もう今更なことだった)
しかし、確かにそうだ


『何故』あそこまで徹底して表情を無にするのかの理由を知らない


いや、そもそもだ
私達は慧君の事を『全く知らない』
勿論、少しは知っている
名前は風雷慧
年は私達と同じ
誕生日は四月一日
特技は運動と料理
後は超毒舌家
これぐらいの事は2年の付き合いで知っている
逆に言えばこれぐらいしか知れない
他に何か知っているといえば


彼を変えさせる要因となった事故の話


しかしだ
これだけが彼を無表情にさせているとは思えない
何故ならば


それじゃあ何故そこまで『契約』を大事にしようとするのだ


どういう事かは知らないけど
慧君は『契約』というものを絶対に守ると誓っているらしい
どういう事かは知らない
そもそもアリサちゃんとすずかちゃんから聞いた話なのでよくわからないところがある
とりあえず、事故だけではそんな事を思うとは思えない
ということは

「そうねーーーー私達に会う前の4歳から6歳ぐらいに何かあったと思うのが妥当ね」

みんなも頷く
確かにその2年は私達は慧君の事は全く知らない
その間に何が有ったかも知らない
でも、それでも
私達は前に進んでいる
そう思えた気がした
慧君を笑わせるための
慧君を救うための
少し大袈裟な言い方かもしれないけど、それでも想いは間違っていないと思う

「よし!これで私達の今後の方針は決まったわね!」

アリサちゃんは私達の顔を一通り見た後、そう締めた
私もチラリとみんなの方を見てみると、他の3人もやる気満々みたいなの
よかった!
やっぱり私達は5人一組の仲良しじゃあないと!!
勿論、わかっている
私達の関係はいつかは変わるという事を
時間の流れは止まらない
何時か
私達は離れ離れになるだろう
会いに行くことは出来るけど、それは会いに行けるじゃなくて会いに行こうという意思を持たなければいけない関係になるという事を
それでも、こんな淡い願いをなのはが持つのはいけないことでしょうか?
永遠なんてものがないのは知っている
でも、私は願いたい


どうかーーーー私達がいつまでたっても仲良く、一緒にいられますようにと


しかし、その願いは叶えられることはなかった
皮肉なことに
その願いを壊したきっかけはなのは自身だった
彼女は聞いた

『お願い…………………………助けて!』

それを聞いた瞬間
彼女の望みは断たれた
またしても皮肉なことに
魔法という
奇跡を叶える力で










「ふぅ、ようやくタイムセールという最強の壁を乗り越えて家に帰れる…………………………」

夜の帰り道
あの山猿は手加減なしのハイキックを蹴りこみ、ノックダウンした
とりあえずゴミ袋に入れてゴミに偽装してゴミ捨て場に置いといた
これで明日はゴミ収集車で砕かれて自然に有毒な存在が一つ消えるだろう

良い事をしたな…………………………

自分を自画自賛
今日も調子がいい
それにしても
ふぅと溜息を放つ
何も変わらない日常
今日の延長線上でしかない明日
日々を怠惰に生きるしかない生活
勿論、不満を言うのは筋違いだろう
むしろ感謝をするべきだ
世の中にはこんな退屈という感情すら知らずに、日々を生きることで精一杯な人間がたくさんいる
だからこそ、不満など言うはずがない
俺が不満を言いたいのは日常ではなく
自分の事である
余りにも『普通』に生きている自分に吐き気を催す
これではいけないと脳が直接訴える
しかし、頭の冷静な部分がこう言っている


未熟者の分際で調子に乗るなと


わかっている
頭の冷静な部分の言っていることの方が正しい
まさしくそうだ
まだ、たったの小学三年生
誕生日のせいで9歳になったばかり
そんなただのガキに出来ることなんて一つもない事なんてとっくの昔に理解できている
だからこそ、今は将来に向けて準備をするための期間だという事も理解している
だが、頭はそう思えても感情は許してくれない
その感情はこう告げてくる


忘れるな
お前がしたことを
お前があの時思ったことを
お前があの時誓ったことを



忘れるはずがない
今でも鮮明に、グロテスクに覚えている
その記憶が俺を焦らせる

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!と

ちっと思わず舌打ちする
今日の俺は少し通常とは違うようだ
多分、今日の授業で将来について話したからだろう
やれやれ
まだまだ修行が足りない
あれしきのことで乱れるとは
とりあえず今日のところはとっとと帰って頭をリセットすることだろう
そう思っていると

「ん?」

視界の端に何やら青いものを見つけた
輝きに釣られて思わずそっちの方に視線を向けてみると


そこには青く光る石が


珍しい石だ
特にそういうことには興味がないが、それでもわかる
大体青く光る石という時点で誰でも珍しいとわかるだろう
思わず近づいて拾ってしまう
拾っても尚青く光る石
どうやら光の反射とかではないようだ

ふむ…………………………まぁ、ただの石のようだけど…………………まぁ、あの4人娘には丁度いいかもしれない

こういう光物は女の子が好きだろう
別に機嫌を取るとかそういう意図はない
今度、あいつらが不機嫌になったときのフレアになってくれたらいい
そんな程度であった


しかし
この判断が
彼の運命を大幅に狂わせることになる


そしてソレは直ぐに来た


「ロストロギア…………………ジュエルシード…………………」


声が聞こえた
思わず顔をそちらの方に勢いよく振り向く
何故そこまで焦ったのか
答えは簡単だ

さっきまでそこには何の気配もなかったはずだからだ

最近は恭也さんとかのおかげで気配を読み取るのは上手くなったと思う
それなのに
相手はすり抜けてきたのだ
そんな事が出来るとしたら
自分よりも遥かに上の人間
つまり、達人クラスの人間
そんなものに対して視線を向かないでいることなどとてもじゃないが出来ない
だからこそ、勢いよく振り向いた
振り向いた先には


金色の死神が浮いていた



それを拵えているのは闇色のマント
それが構えているのは黒色に鎌
それを輝かせているのは金色の長い髪
更には赤い、宝石のような両の目
顔はかなりの美少女
10人が10人とも可愛いというクラスの綺麗さ
しかし、この場ではそんなものを感じ取ることはできない
構えている物や、服などや浮いていることも理由の一つだが
何よりも

その瞳はまるで人形のような瞳に見えたからだ

そう
さり気なく無視していたがこの少女は浮いている
如何な摩訶不思議を使えばこんなことが出来るのか
立体映像?

この現実感がその考えを拒否する
では、どうやって浮いているのか
御伽噺の魔女ではあるまいし
しかし、今はそんなことを考えている余裕は一斉ない
何故なら
その人形じみた瞳には
隠しようもない敵意が込められていたからだ
その敵意が言葉として放たれる
言外に逃げられないと言いたげに


「それを力ずくででも回収させて貰います…………………!」


これが彼のファーストコンタクト
無表情の■■の悪■と魔法との







あとがき
ようやく本編に入りました
無印はそこまで長くやる気もありません
出来るだけ直ぐ終わらせるつもりです
それにしてもようやくフェイトが出てきた~
長い道のりだった…………………
まさか、本編の前に15話もやっちまうとは…………………
早くオリジナルストーリーに行きたいものです
高町はやては誕生しませんでした
ご期待に応えれずすいません



[27393] 第十五話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2012/01/05 16:09
黒衣の少女の詰問を受けて、俺は完璧に臨戦態勢になった。いざという時に動く心構えも体勢も準備できた。

後することといえば、情報の入手だ。少なくとも、コミュニケーションはとってくれそうな感じがする子だ。

さっきは、また月村家で殺し合ったあの男みたいにプロが出てくるかと思えば、そんなことはなかった。

さっきまで気配はなかったが、今は普通に出てる。もしかしたら空中からいきなり出てきたからかもしれない。

とりあえず、素人目だが見たところ恭也さん達のレベルではないことはわかる。

ならば、多分だが対処できる………

とりあえず、さっきの考えを実行。

「ロストロギア?ジュエルシード?何だそれは?俺にはまったく心当たりがないのだが?」

これは本当。

そんなものに関わった覚えはない。強いて言うならジェエルシードを日本語訳にしたら宝石の種だが。

そんなものがあったら、俺は今頃金欠で悩んでいない。だから、もしかしたら勘違いという事があったらいいなぁ。

しかし、案の定

「………とぼけないでください」

という返事が返ってきた。

こうなるともう戦いは避けられないかもしれないが、それでも口は止めない。実力不足の未熟者である俺が使える武器はこの口先と子供という事で相手を油断させる先入観しかない。

だが、相手も同年齢なので後者は通じないだろう。

しかし、とぼけないでくださいと来たか。ということは、俺はとぼけるように見えるような事をしたとことか………。

だが、それでも思い当たることはないが………

「とぼけるというのはいきなりだと思うがね。大体ジュエルシードとは一体なんだ?それは一体どんな形をしているんだ?」

そこまで言い切ると少女のさっきまでの剣呑な雰囲気がいきなり霧散して

「???」

可愛らしく小首を傾げたのだ。

?何だ?

俺は今、何か変な事を言っただろうか?

金色の少女は?顔を維持したまま

「えと………その、本当に知らないんですか?」

「あ、ああ。まったくジュエルシードとかいうのは知らないし、聞いたこともないし、見たことも、触ったこともないと思うが………」

「………こういう事を初対面の人に言うのは失礼だとはわかっているんですけど………実はその言葉は私を騙す為の嘘という事は………」

「いや、全然。まったくもって知らない」

「………」

おやまぁ?

何故か急にだんまりになってしまったぞ?

ああ、それにしても、その子犬みたいな表情ぞくぞくするね?高町とはまた違う方向性でいじめ甲斐がありそうだ。

そう思っていたら

「ごめんなさい!!」

謝られてしまった。

状況はこうだ。

金髪の美少女に謝らせている男子小学生の図。

しかも、相手は冗談で言うごめんではなくマジ。

しかも、よく見たら相手の服装はレオタードみたいで少し目の毒。

しかも、男子小学生の方には何故謝られているのかまったく覚えがない。

これで罪悪感を覚えない人がいるだろうか?いや、いない(反語表現。俺レベルになるとこれぐらいできないと誰も認めてくれないのだよ。実力が有り過ぎるのも考え物だね)

更にそんな服装の少女を謝らさていたら誤解を受けてしまいそうだと思わない人間がいるだろうか?いや、断じていない!!

「いや、ちょっと待った。謝られる理由がないのだが………」

何だかグダグダな雰囲気になってきた。さっきまでの殺伐とした雰囲気は何だったのだろうか。

自分はシリアスをギャグの空間にしたことは一度や二度ではないが、やられたことはなかった。

少し反省

「だって、その………決めつけで貴方を襲おうとしたから………」

「?決めつけって………何か決めつけられるような何かを俺がしたのか?」

前言を繰り替えすが、まったく身に覚えがない。

はっ!

もしかしたら、ついに夢遊病の気が………!

高町達にやられている虐めというかもう殺す気満々の攻撃のせいで俺のストレスがマックスを超えたためについに現実逃避を………流石俺の体。生き残ろうという意思は一人前だね。

「で、結局何のかね?俺にはさっぱりだ」

「………」

すると少女は少しこう悪いと思いながらも指をさしてきた。

俺の手を。

その手には、さっき拾った珍しい青い石が握られている。

「ん?ああ、この石?珍しいだろう?」

「いや、あの、その………」

「青く光る石なんて滅多にないからさ。仕方ないから俺の知り合いにあげようかと思ってさっき、拾ったんだ」

「あの、だから………」

「まぁ、あの四人はそんな綺麗なものをか好きになるような感性を持っているかは知らないが少なくとも、弾除けになるだろうと俺は睨んだ」

「え、え~と………」

「で、この石がどうしんだい?まさか、これがジュエルシードとかいう変な名前の石とか言わないよな?」

「あ、はい!そうなんです!それがジュエルシードなんです!」

「なるほど、そうかそうか………俺の感性が現状を生み出した原因かーーーーーー!!」

OH,MY,GOD!!

まさか俺の高すぎる感性がこんなグダグダ空間を作り出す原因となるとは………

恐るべし俺

素晴らしい俺

少女がいきなり叫んだ俺に驚いてビクッとなっていたが無視。

はぁ、ともあれ

「成程、これが欲しかったのね」

こういう珍しい石を集めているコレクターかなと建前で思っとく。

詳しく聞くつもりもない。

別にどうでもことだからだ。

「あ、はい。だから、その。後から言っといて失礼とはわかっているんですが━━━それを譲ってください!」

そう言って少女は頭を下げた。その行為で彼女の性格が大まかだが理解する。
成程、彼女は物凄い生真面目なのだろう。高町達とは違うベクトルで珍しいタイプ
ついでに天然。

こういうタイプの人間はかなり世渡りが下手だろう。生真面目で生きるにはこの世は嘘だらけだからだ。

つまり、損をする性格だという事だ。

不器用なんだなと思う。

そんな頼み込むような事なんてしなくても、思いっきり力づくで奪えば良い事なのに。

それこそ、さっき浮いていた不思議な力で、その鎌みたいな戦斧で。


まったくーーーー馬鹿みたい。


しかしだ。

俺はそういう類の馬鹿は好きだ。

だから

「ほれ」

躊躇いなく彼女に差し出した。

「え?」

彼女は何故か驚き顔。

「何だその顔は?お前はそれを欲しがっていたのだろう?ならば、出てくるのは驚きではなく喜びの顔だろ」

「え!で、でも、いいんですか!?」

「いや、別に俺自身は別にどうでもいいものだったし。それなら欲しがっている人にあげるのが筋というものだろ」

「でも、さっき………知り合いに上げるって………」

「気にするな………手は幾らでもある」

さて

とりあえず八神には秘技ハリセンバズーカをくれてやる。

高町は今度はカーテンで動けなくして一時間ぐらい放置してやろう。

バニングスはそうだな………ドッグフードをやれば大丈夫だろう

すずかは………止めよう、貞操に関わる

「だから遠慮なく貰え」

「あ………」

無理矢理彼女の手に石を握らせる。彼女はいきなりの事だからか、驚いた顔でそれをボーっとした顔で見る。

「じゃあ、達者でな。二度と会う事はないだろう」

そう言って俺は家路につく。

え~と、帰ったらご飯と掃除。それをしたら寝るか。今日は調子が悪いし、授業も別に大丈夫だし。

そうやって今後の予定を即座に決めていく。切り替えの早さも既にプロレベルだ。御神の剣士でもこうもあっさり物事を切り捨てはしないだろう。

だからこそ次の言葉は彼にとって意外だった。

「あ、あの!お礼をさせてください!!」

「………ONE,MORE.PLEASE」

「えと、だからお礼をさせてください!!」

「OK。話し合おう」

「え?あ、はい!お礼の話ですね!」

「違う!まずは何故お礼の話になるかというお話だ!」

「え?だ、だって、良い事をしてもらったらお礼をしなきゃ………」

「話を整理しよう。まず俺はこの石を拾った。OK?」

「は、はい」

「次に君はこれを欲しがっていた。OK?」

「は、はい」

「そして俺は別にいらないからそれを君にあげた。OK?」

「はい」

「そして結論はこうだ━━━お礼などいらない以上。状況終了。じゃあ」

「待ってください!」

「ええい!何が不満なのかね!?君もちゃんとはいと答えていたではないか!!」

「結論が不満なんです!」

「何を言う!みんな幸せの御伽噺みたいなハッピーエンドだったではないか!!これで不満とは━━━欲求不満なのかね?」

「はい?何のですか?」

「………ごめんなさい」

思わず謝ってしまう。彼女の姿は自分の失くしてしまった姿。

そう、まさに純粋無垢。

真っ白な状態。

そんな彼女を見ていると自分の黒さが露骨に目立ってしまい、とてもじゃないが良心がもたない。

すいません………俺の心のダークマター。

「あ、あの!大丈夫ですか!?」

「いや、すまない━━━少し現実と理想の違いに心を打たれていたんだ」

「は、はぁ」

「では、そういうわけで」

「待ってください」

ちぃっ!

誤魔化しきれなかったか。ならば、見せてやろう。

西尾維○風なら戯言遣い。

ひ○らし風なら口先の魔術師と言われる俺の実力を………!


しばらくおまっちゃあください。

あ、間違えちゃったテヘ!


「ぐふぅ。こ、これがボケ殺しの最高の極致━━━天然か………!」

完敗だった。今まで口先八丁野郎と言われていた看板はここで完璧に壊された。

ありとあらゆる戯言も。

ありとあらゆるボケも通用しなかった。

空気を読まないのではない。二度繰り替えすが天然なのだ。

おお、この少女は汚れを知らない………!

「じゃ、じゃあ、お礼させてくださいね?」

「………ORZ」

死人に鞭打つとはこのことか。

「はぁ、わかったよ………ほら、これが俺の住所」

そう言って彼女に俺の住所を渡す。偽の住所を渡そうか考えたがその結果。危ない人のところに逝ったら大変なので自重した。

ちなみに誤字ではない。

「はい、わかりました!あの、それでは………」

「ああ、またな」

「………はい!」

諦めの境地に浸っていたらまさかの極上の笑顔。金色の髪と同じで輝いている。

夜の中。

地上でも輝く金色の太陽。

気障な言い方だが、彼女には似合っている表現だと思う。思わず何回でも見たくなる笑顔だ。

そういえば

「名前。聞いてなかったけど。名前は?」

「あ、そ、そうでしたね………。私の名前はフェイト。フェイト・テスタロッサです」

「フェイト(運命)?そいつはまた素敵な名前だな。名づけた人はいいセンスを持っているよ」

その瞬間

テスタロッサはさっきとは比べられないぐらいの輝いた笑顔を浮かべた。

太陽だってこうは輝かない。

運命を冠する少女は光色に輝く。

なるほど。

名前をつけてくれた親に対して物凄い愛情を抱いているのだろう。それはとてもいいことだ。

少し━━━羨ましかった。

それだけ愛せる親がいるのが………。

止めよう。こんなのただの感傷と嫉妬だ。

だからこそ

俺は言う事を言おう。

「テスタロッサ」

「?はい?」

「親は………大事にしろよ」

「………はい!」

そこで俺達は別れた。











そしてまたいつもの学校。

自分の教室のドアを開けると

「かかった!」

「何!!」

上から黒板消しが!

今時こんなトラップを使うなんて!

しかしだ。

「甘いわ!」

そんなの前に出たら効かん。

「すずか!」

「うん!」

「へ?」

何を目配せしたのか。

すずかが八神の車椅子を持ったかと思うと。

「そうりゃ!」

「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!二度ネタかいなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

車椅子ごと投げられてこちらに飛んできた。

なるほど。

俺は前に移動したばかりですぐさま動けない。そこで車椅子(+八神)の大きさなら一歩二歩では避けきれない。

まさに物量作戦か。

だが、そうや問屋は卸さないぜ!

「ふんっ」

飛んできた車椅子に自分から両手を近づけ、触れる。俺には飛んできた車椅子を受け止めるような馬鹿力はない。

だが、力がなかったら技量で誤魔化すのが俺のやり方だ………!

こちらに力という圧力がかかる前に、そのベクトルを無理矢理逸らす。合気道みたいに力ではなく、技術で逸らす。

成功する確率は五分五分。

何せ俺は合気道を習ったわけではない。

これは自己流だ。

いけるか………!

そして

逸らした!

上に!

「天井が近いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ドガシャ!!と何だかめり込む音が聞こえたが無視だ。八神はそんなに軟な人間ではないと実体験しているからだ。

だから今は

「いきなり奇襲とは━━━相当人間を捨てたねお前ら」

「失礼ね。あんたより人間性と優しさと容赦は捨ててないわよ」

「右に同じくだよ」

「そのセリフ、俺の後ろで天井から生えている物体を見ながら言えるか?」

「「うん」」

「OK。お前らは十分に鬼畜だ。来世からやり直せ」

ここまで酷い人間は初めて見た。人間とはここまで醜く、酷く、残酷な人間になれるものなのだな………。

実感した。

「あれ?」

おかしい。

ここで高町症候群の感染源の人間からつっこみが入るはずなのだが………。

高町の席の方を見てみると


ボーっとしているある意味高町らしい姿があった。


「………何やってんだ?あれ?」

「さぁ?私達が会った時には既にあの状態だったわよ」

「右に同じだよ」

「………(ぷらん、ぷらん)」

「ふむ、そうか」

昨日は特別変ではなかったし帰るときも(俺は戦線離脱したが)そうだ。

そうなると家に帰った後か。

何かあの家族で問題が………?

「有り得んな」

「有り得ないわね」

「有り得ないよね」

「………(ぷらん、ぷらん)」

あの万年新婚夫婦に仲良しすぎる兄妹。あの家族で問題を作る方が難しいだろう。

そんなことをするぐらいなら世界にとっての未曽有の危機を起こしたほうが簡単というものだ。

「絶対に逆だと思うよ………例え相手が高町家の人達でも」

無視した。最近はみんな反抗期だ。昔はあんなに可愛かったというのに。時の流れとは残酷なものだ。

「………慧君にだけは言われたくない」

再び無視。それにしても高町如きに無視されるとは。俺も舐められたものだ。意地でもこちらに振り向かそう。

頭を撫でる。

反応なし。

ほっぺを抓る。

反応なし。

デコピン。

反応なし。

耳たぶを引っ張る。

反応なし。

鼻を塞ぐ。

反応なし。

手を抓る。

反応なし。

胸を触る。

反応━━━。


「うにやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


あり。

やれやれ。

ようやくか。

高町の癖に粘ったものだ。

「なななななななななななななななななににににににににににににににににすすすすすするるうるのののにのお!!!!」

「何って、色々触っただけだが」

「その中に触ってはいけないところがあったの!」

「はて?まったく覚えがないが」

「ダウトなの!!さっき思いっきり私の、その、えっと」

「んん?どうしたのかね、高町?言えないのかね?自分がどこを触られたのか」

「うっ」

「自分では言えないような場所を触られるとは………高町はいやらしい子だな」

「ち、違うもん!私はいやらしくなんてないの!」

「では、堂々と言えばいいではないか。自分が触られた場所を」

「うっ」

「………俺の勝ちだ。たかごふっ」

「風雷?少し頭冷やしましょうか」

「何でだろう?助けてもらったのに、何故だか釈然としないよ………ってはやてちゃんが天井からぶら下がって愉快なオブジェになってるなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

結局相変わらずの日常だった。昨日の事があってもそんなに変わらない。変わるにはまだ弱かった。











またいつも通り騒いだ後、直ぐに家に帰ると。

そこには、あらま

昨日の金髪少女が立っていた。

おやおや。

何だか近所に変な誤解が生まれそうな絵だぞ。

そう思っていたらポンと肩を叩かれた。そこには近所のおじさん。おじさんは不気味なくらい爽やかな笑顔を浮かべ、俺に何かを手渡してきた。

それは

コ○ドーム


………


おじさんはサムズアップし、そして颯爽と立ち去ろうとする。

とりあえず俺は拳大のコンクリートを拾い、おじさんの頭に70キロぐらいのスピードで投げつけといた。

今度から周りのはもっと気をつけよう。そう誓った日であった。








「ご、ごめんなさい。いきなり来てしまって………」

「いや、別に。ちゃんと時間を指定していなかった俺も悪いだろうし」

「でも………」

「はいはい。これじゃあ、無限ループに入るのでこの話題は終了」

あれから死体(おじさんの)を隠し、テスタロッサを家に入れた。流石に女の子をずっと家の外に置いとくほど鬼畜ではない。

それにしても

「テスタロッサ。お前、学校って知ってるか?」

「?はい、知ってますけど」

「………学校がいつぐらいまでやるか知っているか?」

「あ………いえ、知りません」

ふぅと溜息をつく。

やはりか。

この少女は聞くと昼からずっと待っていたらしい。よくまぁ、補導されなかったものだ。

「まさかここまで世間知らずとはねぇ。世の中色んな人がいるものだ(←二階から飛び降りたり、教室で女の子の胸を揉んだりする男)」

「う、うぅ」

こういう時はこういう格言が使える。

目くそ鼻くそを笑うと。

それにしても

学校が終わる時間を知らないか………

目の前の少女は明らか同年齢、もしくは一つ年上か年下だ。そんな少女が小学校の終わる時間を知らないはずがない。

それに

昨日

彼女は漆黒の服を身に纏い空を飛んでいた。

見間違いではない。

夢ではない。

幻ではない。

現に少女はここにいる。それこそが証拠だ。

やれやれ、今度は一体どんな厄介ごとだか………

少女はこう言った。

せめて事情を話しますと。別にどうでもいいのに。まぁ、こうなったら泣き言を言っても仕方がない。

少女にお菓子を渡しながら

「じゃあ、聞かせて貰おうか━━━君の動く理由を」

「………はい」

少女は深呼吸をし始めた。

スー

ハー

スー

ハー

まるで決心するかのように。一分ぐらい経った頃だろうか。

キッとこちらを見て、ただ一言。

「魔法って━━━信じれますか」











「なるほど━━━異世界というより並行している世界から来たのが君であり。魔法っていうのはその世界での技術か………」

「は、はい。そうです」

何だか凄い難儀な話だった。それはそうだ。

いきなり違う世界から来て、自分は魔法少女ですとカミングアウトされたら真っ当な人間なら優しくかつ強引に病院に連れて行くだろう。

それをしないのは簡単な事だ。

証拠を見ているからだ。

だが

「肝心なところを聞いていないのだが」

「………」

「何故あの『石』を集めている」

「………」

肝心なところ。

あの青い石。確かロストロギア、ジュエルシードとか言ったか。

あれを見つけた時、彼女の眼は人形みたいに冷え切っていたが、その冷気には鬼気迫るものがあった。

絶対零度の焔。

その焔の名は、使命感だ。

小学生の少女には似つかわしくない言葉。

それを聞きたかったのだが

「………」

「………だんまりか」

話してはいけないのか。

それとも

話したくないのか。

それはわからない。何せ会って一日だ。時間だけで言うなら一時間ぐらいだ。それぐらいで相手の事を理解できるはずがない。

理解する気もそこまでないのだが。まぁ、それなら仕方ない。

「わかった。じゃあ、聞かない。お礼はそれでいいよ」

「え?」

「だから、もうお礼はいいよって言ったんだよ」

「………!そ、そんな!たったこれだけでお礼だなんて………!」

「別に俺がいいって言っているんだよ。そっちの都合は関係ない」

「それは………でも………」

「そうだ。あの、えっと、ジュエルシードってあれだけなのか?」

「え?い、いえ、まだたくさんあります」

「ふぅん、それは厄介だな。じゃあ、見つけたら渡してやるよ」

「え!!そ、そんな!悪いですよ!それに危険な事があるかもしれません!」

ふぅん。

危険な事をやっているのか。

ま、この少女は自分でやろうとしているようだから止める気もないけど。

「じゃあ、尚更だ。そんなものが街中にごろごろあると迷惑だ。欲しがっている奴にあげるのが一番だろ」

「それは………」

「それにこれが一番合理的だ」

「でも………そんな助けてばっかりじゃあ………」

「ふぅ。じゃあ、こうしよう。一個拾うたびにそうだなぁ。何かご飯を買ってきてくれ」

「は?………そ、そんなことで………」

「そんなこと?馬鹿な!家計が赤字の俺にはこれは死活問題だ!!」

「は、はい!」

「生活の危機だ!命の危機だ!人生の危機だ!そのためにはご飯が必要なのだ!だからテスタロッサ!協力してくれ!!」

「わ、わかりました!」

よし、乗り切ったぞ。空気とは便利なものだ(同い年の女の子にご飯を要求するヒモの才能あり)。

とりあえず、俺達はお互い夕方からこの家に出来る限り毎日集まると約束した。

やれやれ

やっと堅苦しいのが終わった。そう思っていると。

「あ、あの。そういえば、私、貴方の名前を聞いてません………」

「へ?あ、そう。俺の名前は風雷慧。好きに呼んでくれても構わない」

「風雷慧ですか………何だかかっこいいですね」

この少女のセンスは大丈夫だろうか、そういえばさっきから気になっていたことについて言う、

「さっきから敬語を使っているけど、俺は別に敬ってもらうような人物でもなければ年上でもないと思うから、敬語はいらないぞ」

「え?で、でも」

「敬語で話して来たら………鼻の穴にピーナッツを突っ込む」

「!!!わ、わかりまし━━━わかったよ。その、ケイ」

「よろしい」

これで俺達の奇妙な関係が始まった。

あれ?

俺は、何で、この少女を手伝おうと思ったのだろうか?自分の事なのにまったく理解できない。

我ながらおかしなものだ。

まぁ、どうでもいいことだ。

その時

その場の誰にも聞こえず。

誰にも感じれず誰にも理解できない異形のコエが響いた。

それはこう言っていた………はずだ

━━━滑稽ねぇ。

━━━無の表情という仮面で素顔を隠しても。

━━━演じれるのは道化役だけなのに。

━━━相変わらず現実から目を逸らすのがお得意ね。

━━━まぁ

━━━それもいつまで続くかしら。

━━━せめて

━━━客が楽しめる程度には続くといいわねぇ。

そして

『それ』は、唇を三日月に歪めケタケタ嗤い出した、

それを誰も見ることも感じることも出来なかった。







これはその後のシーン。

「ただいま」

「あら?おかえりー、フェイトーーー。どこに行ってたんだい?せめてあたしに一言言って欲しかったよ~」

「うん。ごめんね、アルフ………」

「謝らなくてもいいんだよ、フェイトォ。ただ、心配しただけなんだよ」

「うん………ありがとうアルフ」

「お礼なんていいんだよ。フェイトは私のご主人様なんだから」

「うん。それでも、ありがとう、アルフ」

「うん。それで、どこ行ってたんだい?」

「それは………」

「それは?」

「………昨日知り合った男の子のところに」

「OK。フェイト。今から少し野生に帰るけど、許してくれるかな?」

「あ、アルフ!?いきなりどうしたの!」

「己、クソガキ!よくもフェイトに毒牙を………!」

「ち、違うから!アルフ!落ち着いて!」

「がるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる!!」

「アルフーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

それは少女の何気ない日常。

しかし

その少女には笑い顔があった。

どこぞの少年とは違って。

とても楽しそうに。

「??今日のフェイトはいつもとは違うねぇ?」

「え?そうかな?別に私はいつも通りなんだけど………」

「いや、その何ていうか………いつもより元気に見えるんだよ」

「………そう、かな」

「何か良い事でもあったのかい?」

「………うん、あったよ」

「へぇ!それは良かったよ!で、何があったんだい、フェイト?」

「うん」

そう言い彼女は微笑んだ。アルフが言うならいつもよりも元気な顔で。


「友達が………出来たかもしれないの」


そう

幸せそうに。

大切そうに。

呟いた。







あとがき
すいません
楽しみにしていた人は遅くなって
でも、これからはもっと不定期になると思うのでそこらへんはどうかご了承してください
さて、ようやく話が進みだしてきましたが、なかなか進みません
そこで今回は我らが主人公について
この主人公のコンセプトは一度バッドエンドを迎えたです
例えば
FATEの衛宮士郎
例えば
リトルバスターズの理樹
これらの主人公と慧は境遇は結構似ていますが、決定的なところが違います
それは何でしょうか?
答えは次回に



[27393] 第十六話    <微グロ注意>
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:24

唐突だけど私
高町なのはは

魔法少女になったの

ここで慧君が聞いたら

「病院に行こうか、高町。何、大丈夫だ。いい医者を知っている。二、三発しばいてもらったら自身の純情さをあっという間に汚してくれるだろう」

とか言うのだろう
…………………………瞬時に彼の毒舌を想像してしまう自分に仲良くなったと喜んでいいのか、悲しむべきなのか
でも
残念ながら
私はおかしくなったのではなく
夢見がちでもなく

本当の魔法少女になってしまったの

切っ掛けは夢だった
その夢はただ私にこう伝えた

『……………助け、て』

その言葉だけだった
でも、私が覚えるのに十分な言葉だった
そして
昨日の塾の帰り道
物凄い既視感

私は…………………この場所を知っている

そう思ったら私は走っていた
皆が私に何か言っていたようだったけど、私は聞いている余裕はなかった
そして
そこには

白いナマモノガーーーー

間違えた
本当は

傷ついたフェレットさんがいた

その傷ついたフェレットさんは直ぐに動物病院に連れて行った
その時は直ぐに帰ったけど

胸騒ぎは全然収まらなかった

家族のみんなには悪いけど、私は真夜中にフェレットさんを預けた動物病院に向かった
すると
そこには

大きな怪物がいた

その怪物は夕方に助けたフェレットさんを追いかけていた
悪い予感は的中した
何をすればいいのかわからなかった
だけど、そこでフェレットさんが

「来てくれたんだ…………………!」

と喋ったのである
その時は大いに驚いたけど、同時に何か納得したの
今日の夢はこのフェレットさんが見せたのだと
そしてフェレットさんは私にこう頼んだ

「僕と契約して魔法少女になってよ」

また間違えた
どうやら電波が届いたなの
真実は

「お願いします!これを使って一緒に戦ってください!」

だったっけ?
そして私はフェレットさんの首にかかってた赤い宝石みたいなものをもらい
そして

魔法少女になった

赤い宝石は杖に
ただの制服は自分を守るバリアジャケットに
そして私は大きな怪物をやっつけ
そして何か青い石を封印した?
その後
フェレットさんが倒れ、何だか不吉な予感をもたらすサイレンがしたので、速攻で逃げたの
慧君と一緒にいたらそういった勘と逃げ足が自然と高くなるので良かったかもしれない
…………………感謝はしないけど
公園まで逃げたらフェレットさんが起きて、お互い自己紹介を始めた
名前はユーノ君というらしい
本当はもっと話したかったが、もうかなり遅いので家に帰ることにした
誰にも見つからないようにそーっと帰ろうとしたけど、お兄ちゃんとお姉ちゃんに見つかって叱られちゃった
にゃはは、やっぱり無理だったよ
でも、お父さんとお母さんにユーノ君を飼ってもいいかとお願いしたら了承してもらったからよかったよ~
そしてはやてちゃんとの会話

「ほぉー。今日のあの傷らけのフェレットがよくここまで持ち直したな~」

「にゃ、にゃはは。そ、そうだね~」

鋭い
さっき公園でフェレットさんは自分の最後の魔力で体を治したらしくて、夕方の時よりも体はよくなっている
ど、どうしよう!

「なるほどなぁ~。最近の獣医さんは腕が凄いんやな~」

「…………………………」

自己完結してくれたの
腕が良くても治るスピードは変わらないと思うなの…………………………

「ん~。それにしても。このフェレット」

「え?どうしたの?」

「どこかで、見た気がするんやけどな~。そう、確かーーーーそうや!夢の中で!」

「!!!」

本当に驚いた
ユーノ君が言うにはあれはユーノ君が放った念話とかいうので魔力を『持っている』人に届くらしい
そうなると

はやてちゃんも魔力を持っているという事なの…………………………?

ユーノ君に聞きたいところだけど、本人はお母さんとお姉ちゃんに遊ばれている(何だか嬉しそう?)
もしかしたら、後で本当の事を話したらはやてちゃんも一緒に手伝ってくれるかもしれない
そう思っていたのに

「き、気のせいじゃないかなー。ほら、既視感っていうのがあるの」

「まぁ、それもそうやなぁ~。夢の中で見た生き物が現実で出てくるなんて御伽噺じゃないんやからな~。」

私は誤魔化してしまった
そうだ
はやてちゃんは足が悪い
それなのにジュエルシードの探索なんて危険な事を手伝わせることなんて出来ないなの
だから私の考えは間違っていない
間違って………………いないなの












そして次の日
私はまだ昨日の話にボーっとしていた
アリサちゃんやすずかちゃんが声をかけてくれていたけど、私は生返事を返すことぐらいしかできなかった
ボーっとしていたら慧君に、その、む、胸を触られたの…………………
う~、も、もうお嫁に行けになの…………………
それを言ったら慧君に五千年早いとか言われたの
怒ってタックルをしたら、慧君にカーテンで縛られて、二時間ぐらい放置されたの
みんなはいつも通りの事だと認識し、私は無視られたの
あれ?
これって公認の虐めなのではないのでしょうか?

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

考えるのは止めとこうなの…………………………
最悪な結末を考えてしまいそうだから
でも、そのお蔭で(勿論、感謝はしないけど)、ユーノ君との念話に集中できたの
最初はどうやってするのかわからなくて戸惑っていたけど、ユーノ君にコツを少し教わったら直ぐに出来たの
何でも他の世界から来た魔法使いで、何か発掘をしている人で
その発掘した者が事故で地球に落ちてきたらしいから、責任を感じてジュエルシードを集めに地球に来たらしい
頑張ったけど、遂に体力や魔力を使い果たし、あの念話を送ったらしい
そして私にこう言った

『昨日は本当にありがとうございました。これからは僕一人で大丈夫なので…………………』

私は考えもせずに咄嗟に言葉が出た

『それは駄目だよ』

『え?で、でも…………………』

『確かにユーノ君の気持ちもわかるよ。でもーーーー私も知ったから』

『…………………………』

「だからーーーー私も手伝うよ』

『…………………………うん。ありがとう』

『お礼なんかいいよ~。私が好きでやるって言ってるんだから』

『うん。それでもありがとう』

「にゃははは…………………」

何だか照れてしまいました
すると

「…………………………高町さん」

先生からの声が

「はい?何ですか?」

「……………………………………………………保健室に行きなさい」

何でもいきなり笑い出したので、遂に目覚めたのかと思い、みんなで戦々恐々としていたらしいです
違うもん!
私は目覚めてなんかないもん!!














ということで、早速今日からジュエルシード集めをしようとユーノ君と念話で話していたら

「…………………………高町」

慧君が話しかけてきました
これはかなり珍しい事です
いつも話しかけるのは私達からであって、その度に慧君は逃げようとします
もう出会って二年経っているのに
その慧君が自分から私に話しかけてくれるなんてレア中のレアです
現にクラスでは

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!風雷の行くルートは高町ルートだったのかぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「てっきり、月村ルートだったと思っていたのに!!まさかのダークフォース…………………!」

「くそっ!!俺はてっきり八神狸だと推測したのに!」

「侮りがたし!風雷慧!高町なのは!」

「私は一番喧嘩しているアリサちゃんを押していたのに…………………」

「予測できないわね…………………流石、風雷慧」

「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!馬鹿どもめ!!俺は最初から予想していたぞ!!風雷は一番ツンとしている高町に気があることを!!」

「その通りです!!あの風雷君は隠れツンデレだという事を私は理解していました!!」

「お前ら!最初は確か究極のダークフォース、高町の姉を押していただろう!!?」

「「勝ったもん勝ちです(だ)!!」

「「「「「「「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」

このクラスも大概変人です
きっと慧君症候群が広がり始めているのです
世界はいつかこんな風に混沌になるのでしょうか…………………………
当の本人も似たような事を考えていたのか、彼らを憐れんでるような感じです(いつも通りの無表情だけど)
ところで私ルートっていうのは一体何のことでしょうか?

「高町にはまだ早い大人の会話だ」

「え?でも、みんな大抵同い年…………………」

「精神年齢がだ」

「ふぇ~。そうなんだ。みんな凄いなの」

「……………………………………………………」

みんな成長が早いなの
私もそうなりたいなぁ~

「高町。本題だが」

「え?あ、うん。何?」

そういえばそうだった
この無表情の少年は私に何を言おうとしていたのかを聞いていなかった
少しは仲良くなれたのかな…………………
とお気楽に考えていたら

「…………………お前、『何』をしようとしている」

急に冷水を浴びせられたような感覚に陥った
思わず慧君の方に勢いよく振り返る
彼は相変わらずの無表情
何も変わらない
何も変化していない
なのに
私は初めて
この少年に畏怖の念を感じてしまった

「…………………図星か」

「な、何の事?わ、私にはさっーーー」

「嘘をつくならもう少し上手くしろ。それでは幼稚園の子供も騙せない」

逃げることは許されなかった
誤魔化すことも出来ない
彼の前にそんなことなどできるはずがない
元々、話術では私は慧君に勝てるはずがないのだ
すずかちゃんやアリサちゃんも言っていた
体術もそうだけど、話術に関しては私達では勝てないと
私にできるのは
思ったことを口に出すだけで
本当の事を隠すことではないのだーーー

「はぁ。まぁ、別にどうでもいいか」

どうしようと思っていたら、いきなり彼からそんな言葉が出てきた
さっきまで感じていた威圧感が綺麗に無くなっている
それとも、さっきまでのは気のせいか

「えっ!?い、いいの!?」

「聞いて欲しいのか?」

「いや、そういうわけじゃあ…………………」

「ああ。別に聞いて欲しいと言われても聞く気はないし」

「結局は面倒臭いだけなの!!?」

「誰が高町の話なんぞ聞くか」

「二年経ってもこの扱い!私達、進歩がないよ!!」

「誰がお前との関係を進歩させるか。それならば俺はまだ○ナルドと仲良くなるわ」

「くぅっ。何故だか言い返せないところがあるから反論出来ないなの…………………」

「バカ町が俺に勝とうなんぞーーーー地球の歴史分ぐらい早い」

「一体、私と慧君の差はだれだけあるの…………………?」

「恐らく未だ発見されていないぐらいの距離の惑星分」

「全然わからないの」

「安心しろ。俺もわからん」

「どこに安心する要素が有るの…………………」

結局はいつも通りの会話
結局、彼は一体、私に何を言いたかったのだろうか

「まぁ、何をしようとしてるのか知らんし、興味もない」

「…………………………」

そう思っていたらいきなりこんな事を告げてきた

「ただ、まぁ、少しだけ忠告をしとこう」

「忠告?」

「この二年間の義理の分だ」

「…………………………」

「忠告の内容は至って簡単だーーーー嫌な予感には従え。嫌な音が聞こえたら、近づくな。嫌な臭いを嗅いだら、探すな。それらは大抵当たるぞ」

「嫌な予感と嫌な音と嫌な臭い…………………………」

「後はそうだなーーーーー予想するときは常に最悪な状態を予想しろ。現実はその三歩ぐらい上の最悪を出すからな。少しでもショックを和らげれるだろう」

「常に最悪な状態を、予想する…………………………」

「それだけだ」

そこまで言ったら彼はそのまま帰ってしまった
彼が何故私が秘密にしていることをわかったのかはわからなかった
でも、さっきの言葉は

「心配、してくれたのかな?」

それは嬉しい事だった
あの無表情で容赦のない彼が私をそんな風に思っていたことが
本当にたまらなく嬉しかった
少しやる気が出た
だからこそ
私は考えなかった

何故、慧君みたいな子供が『そんなこと』を忠告できるのかという事を

それに
私はこれからこの四つの忠告
その全部を破ることになることも
私は知らなかった

そして
そんな私に告げる何かが来た
それは
ジュエルシードの反応だった
音でもない
臭いでもない
見たわけでもない
しかし、感覚がそれを訴えた
私の闘いの始まりを
キラっと私の首にぶら下がっているレイジングハート
それが光った気がした
まるで主が戦場に導かれるのを祝福するかのように














そして神社にジュエルシードの反応が来たので、途中でユーノ君と合流して向かった
そして神社特有の長い階段の下に着く
でも、どうして神社ってこんなに会談が長いんだろうか
そんなどうでもいいことを考えていると


ゾクリという悪寒と

………チャリという音が

嗅いだことがあるがここまで強烈な臭いはない何だか鉄臭い臭いがした


思わず足が一瞬止まる

今、私は何を感じた
今、私は何を聞いた
今、私は何を嗅いだ

慧君の忠告が頭を掠めるが、それを噛み締めるレベルにいかない
見ればユーノ君も止まっている
フェレットの顔だからよくわからないが、その瞳には恐怖が宿っている気がする
多分、私もだが
おかしい
おかしい
おかしい
おかしい

昨日の怪物でもここまでの悪寒は感じなかった

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

心臓が激しいぐらい鼓動を打つ
本能はこう告げている

ニゲロ
ソコカラサキニチカヅクナ
ミナケレバ、ミツカラナケレバイキレル
ダカラ
ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ

ニゲロ!!!

本能は体を止める
まったくもって正常な反応だ
これで回れ右をしたら私は普通の世界に帰れるだろう
否、生きて帰れるだろう
しかしだ
体は何時まで経っても回れ右をしない
本能は体を動かそうとするが
高町なのはの根源がそれを実行させない
その根源とは

高町なのははいい子でなければいけないという思いだ

過去のトラウマが一気に蘇る
怪我をした父
仕事で忙しくなった母
それを手伝うために一緒に忙しくなった姉
鬼気迫る勢いで剣の練習をする兄
そして


誰にも構ってもらえず、一人寂しく、ポツンとしている私


その瞬間
私は一歩進んでいた
前に
本能はそれを防ごうとするが、私はそれを意思の力で阻む
きっとこの一歩は私に後悔させる
だけど
高町なのはが高町なのはである限り
この行動を止められない
一歩
一歩
一歩
一歩
一歩
一歩
そして遂に階段を
登りきる
そこで
私は
慧君の忠告を身を以て理解する

そこには


黒々とした何だかわからないバケモノがーーーー

それは獣みたいな姿をしていた

しかし、おかしい事にそれは普通の獣のサイズではないのである
そして何とその獣の顔は口が顔を裂いていた
そして、目が二つではなく、たくさんあった
その眼は

全部血塗られたアカだった

だが、しかし
それはジュエルシードの影響で出来た怪物ではなかった
だってそれで出来た怪物は

それに喰われていたのだから

グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ

そこは神社の霊験さなど欠片もなく、ただそこには赤い血と、何だかわからない赤黒いナニカが散らされていた。その近くには女の人が倒れていたが、とてもじゃないがそんなことを気にしていられない
ナニカを理解できない
理解してはいけない
理解したら今の均衡状態が壊れる
でも、頭は勝手に理解しようとする
意思では止められない
そう、それは

人や動物の中に入っているナイゾーーーー

「うっ!おぇぇぇぇぇぇ!!」

理解した瞬間
胃の中の物が逆流してしまった
無理もない
彼女は精神年齢は同年齢の子供よりは高いとはいえまだ子供である
それにここに来た理由は困っている人を手助けするという聞いたら物凄い良い事だが
こんなことになるとはまったく思っていなかったのである
所詮、子供である
こんな命懸けになるとは思っていなかったのである
覚悟なんて上等なものは持っていなかったのである
慧君の言っていることを完璧に理解した
嫌な予感には従え
嫌な音が聞こえたら近づくな
嫌な臭いがしたら探すな
そして
常に最悪な予想をしろ
まさしくその通りだ

現実は三歩先の最悪を作る

ギョロリとそれはこちらを睨んだ
するとそれは

唇を三日月に歪め嗤って

「■■■■ーーーーーーー!!」

直ぐ傍に倒れている女の人は無視してこちらに襲い掛かってきた

「ひっ!」

とてもじゃないが反応出来ない
体を動かすことなぞ出来るはずがない
そんなことが出来るのならもう逃げている
ああ、私はここで死ぬのか
死んでしまうのか
死ぬんだろうな
死ぬ
呆気なく
何もせず
何もできず
何かを成し遂げることもなく
こんなところで、私はーーーー
私はーーーー
私は…………………
私は…………………

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


死ねない!
私はまだ
私はまだ死ねないの!!
死ぬのか怖い
それもある
でも
それ以上に

まだ…………………………みんなと一緒に笑っていたい!!

その心が
その不屈の闘志が
彼女の胸元の宝石を刺激し、そして

『ALL,RIGHT.MY,MASTER』

デバイス(相棒)が答えた
宝石は瞬時に杖となり
制服は瞬時に私を守るバリアジャケットになった

「そんな!起動パスワードもなしにレイジングハートを起動させた…………………………!」

そんな言葉を聞いている余裕はなかった
目の前の脅威を何とかすることが先決だ
私はまだ魔法の何たるかを知らない
だから。私はただ想うだけ
守ってと
レイジングハートはそれを読み取ってくれた

『PROTECTION』

目の前に桃色の障壁を張り、もう目と鼻の先に迫っていたバケモノと

激突

ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッィィィィィィィィィィィィンンンンンンン!!

不協和音が辺りに響き渡る

「くっ!うぅっ」

とてつもない反動に思わず杖を落としそうになる
しかし、それは我慢
それをした瞬間
待ち受けるのはさっきみた光景だ
どれぐらいの時間が経ったか
バケモノは突き破れないと理解したのか
唐突に後ろに下がった

「っ!ハァ!ハァ!ハァ!」

いきなり圧迫感が消えた
それを幸いに今まで無意識に止めていた呼吸が再開される
後、数秒続いていたら酸素が足りなくて死んでいたかもしれない
バケモノはしばらくそのアカイ瞳でこちらを睨んできた
私はそれを受けるだけ
恐怖はある
しかし、今はそれを凌駕する意思で何とか立っていられる
そして
何を思ったのか
バケモノは急に
ニタリと口を再び三日月に歪め
そのまま

バッ!!

と去っていた

つい追いかけなければと思うが、とてもじゃないが動く気力がない
体力もない
そのまま地面に膝をついてしまった

「なのは!!大丈夫!?」

ユーノ君の心配する声が聞こえる
私は心配をかけないように笑いかけようと思い、振り替えると
さっきまであのバケモノに喰われていた怪物は

ただの小さな犬に変わった

「------あ」


そこに倒れているのはただの小さな犬であった
そこに倒れている女の人のペットなのだろう
首輪をされていた
しかし、今のその犬は
元の気の色がわからないぐらい赤く染まっていた
ユーノ君がその犬に近づく
彼の顔は悲しそうだった

「…………………………多分、さっきのバケモノはこの犬に取付いていたジュエルシードを狙っていたんじゃないかな」

そうなのかもしれない
実際、その犬からは何の反応もない
でも、違うのだ


今、聞きたいことは『それ』についてじゃない


「…………………ねぇ…………………ユーノ君…………………その、お犬さんは」

生きているの?

その言葉は口には出さなかった
でも、ユーノ君には出さずとも伝わったのだろう
彼は
沈黙したままだった
何よりのーーーー答えだった

「------あ」

思考が停止する
わかっている
頭ではわかっている
これはどうしようもないことだということは
だって、私が来たころにはあの一方的な捕食は始まっていた
階段の時の怯えで止まっていた時間などほんの少しだけだ
でも、それでも
考えは止まらない


何故、もう少し早く来れなかったのだと


勿論、早く来ても助けられなかったかもしれない
自分は魔法を使ったのはまだ二回目だ
そんな自分が何かを出来ると思うのは自惚れだ
でも
私には力があったのだ
守れる力が
他の人にはない
守れる力が
なのにこの様
慧君がいたらこう言うだろう

不様だなと

否定なんて出来ない
肯定あるのみだ
現に私は今

こうやって不様に

「うっ、ひっ、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

泣いているのだから

まったく知らないお犬さんに対して
私はただ泣くことしか出来なかった
それがただ悔しくて
それがただ情けなくて
それがただ腹立たしくて
私はただ泣いた
ユーノ君はそんな私をただ黙って見ていてくれた


これが私の
最初の闘いであり
最初の葛藤だった













あとがき
今回でようやくオリジナル展開
このバケモノはが何なのかはまだまだ秘密
今回は早めに出せましたわ
さて、この前の主人公考察ですが、わかる人にはわかったでしょう
簡単に答えを言っときましょう
正解は他の主人公と違い、誰にも『助けられなかった』存在
それは風雷慧です
だからこそ、彼は他者との繋がりを拒否したくなるのです
勿論、他の主人公もこうなると言っておりません
自分なりにもしもこういった主人公が助けられなかったらこうなるのではと思った姿であります
つまり主観です
だから余り批判しないでくださいね
いや、お願いします
それとデバイスの言葉は出来るだけ何とかしますが、無理なところは日本語で行くのであしからず



[27393] 第十七話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:24

高町の様子がおかしい
それは高町家や俺達を含む全員の見解であった
誰でもわかる
まず目に見えて元気がなくなった
例えば

『バニングスよ。実は俺ーーーーカボチャの事が好きだったんだ!』

『いきなり、野菜への告白を聞かされて私はどうすればいいの!?』

『そ、そんな!!?慧君は…………………カボチャの事が好きだったの…………………?』

『すずかちゃん!?それは冗談に付き合ってるだけやな!?』

『……………………………………………………』

『『『『………………………………………………………………………………』』』』

このように俺達への漫才に付き合わなくなったり

『…………………………なのは、お父さんと一緒に出掛けようではないか!!どこがいい?遊園地か?水族館か?それとも動物園か?もしくはロマンチックにプラネタリウムなんてどうだ?』

『……………………………………………………やだ。今、お父さんと出かける気分じゃないの』

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!なのはに振られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

などど中々辛辣なコメントを言ったり(よくやった。高町)
いつもとは違うのは丸解りだ
ちなみに高町父はその後、高町母にスィートルームに連れてかれてた
ドチャという音が暫く響いていたらしい
更に恐ろしい事に高町家の家の構造上、そんな部屋があるはずがないし、見たこともないらしい

………………………………………………………………………………考えるのはよそう

とりあえず由々しき事態と思われたみんなは集まり(俺は無理矢理、高町姉によって連れてかれた。理不尽だ)、高町を元気づける作戦を考えた
考えた結果
バニングスのお茶会をしましょうに決まった
それが一番まともな意見だったからだ
他にはこんなものがあった

『第六次みんなのトラウマいじくり大会を』

『却下よ。あれで、何人かが致命傷を負ったじゃない。というかあんたもやられてたでしょうが』

『こうなったら、第十五次人生王様ゲームを提案するわ』

『却下だよ!お姉ちゃん!大体、あれで自分の愛用していたスパナを恭也さんに斬られて、あわや別れるかというところまで逝きかけたじゃない!!』

『一緒に盆栽をーーーー』

『駄目だよ、恭ちゃん…………………………恭ちゃんの趣味は少なくとも子供には受けないよ。それならお料理教室をーーーー』

『■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

『結局、慧君のトラウマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『では、第五十三次!!なのはの可愛らしい所、愛らしい所を褒める会を!!』

『それ、やる度にいつも士郎さんは桃子さんにスィートルームに連れられてるやんか!!』

『こうなったら私の意見だけね。私は第二十七次拳で熱く語り合おう回を提案するわ』

『あれって、この前は何故か最終的に慧君とすずかちゃんの一騎打ちになって最後には彼が貞操の危機を感じて敵前逃亡をしてしまい、すずかちゃんが優勝しただったよなーーーー確かなのはは最初に脱落していたと俺は記憶していたが』

『すずか。貴方の意見は?』

『わ、私はーーーー第三十一次慧君強奪戦をーーーー』

『それ。得するのあんただけじゃないーーーーー待ちなさい風雷。喰われるとか呟きながら逃げるんじゃないわ。敵前逃亡は士道不覚悟よ』

『ふふふ。争奪じゃなくて強奪なところがポイントなんだよ』

『こうなったら私だけやなぁ。私は初の試み、ボケとツッコミの熱き友情、二時間ドラマを提案するで!!』

『残念ながら俺達は一人一人が極端なボケとツッコミをするからテレビを見ている皆さんには受け入れられないと思うぞ』

などど話し合っていた
俺達は一体何をしていたのだとコメントしたくなるだろうけど、みんな結構真面目だ
というわけど、高町を連れて月村家でお茶会になった
ちなみに俺はそんなものには行くつもりはなかったのだが、お茶会前日に高町父によって奇襲をかけられ、目が覚めたら何故か月村邸ですずかの膝の上だった
思わず、ポケットに入れてあったナイフで自殺を試みようとしたが、みんなに取り押さえられて失敗した
その後は皆から危険と思われたのか、恭也さんに鋼糸で縛られてしまった
それをチャンスと思ったすずかはまたもや膝枕をしようとする
転がって逃げ続けていたが、流石は夜の一族
身体能力は高いので、逃げきれなかった
終いには

「う、腕枕にしてみる?」

などと聞いてくる始末
勘弁してください
二年前からすずかの頭のねじがやばいくらい抜けている
他のメンバーはそこから助けずにニヤニヤするだけ
おのれ、こうなった原因は全て高町にある!
今度は教卓の下に封印してやる
そう、密かに復讐を誓っていると(ただの八つ当たり)、高町と恭也さんが来たのか。車の音がした
これでも耳はいい方なのだ
これだけ広大な家でも結構聞ける

助かった…………………

ねじがやばいくらい抜けているすずかでも、流石にこんなに恥ずかしい恰好を友達に見せるのは恥ずかしいだろう
そう思っていたが
何故だか知らないが彼女は俺を膝枕したまま動かない
おやおや

「すずかよ。何故動かないのかな」

「?何で動く必要があるの?」

「なるほど。では、ちゃんと説明してやろう。このような痴態をお前の友人に見せるのは少々恥ずかしいだろう?だからーーーー」

「慧君。今更何を言っているの?もう既にそんな段階は終わっていると思うよ」

「………………………………………………………………………………」

そんなわけあるかとツッコもうとしたが、過去を振り返ってみると
何故だか
その声は出なかった

ああ
随分と俺も汚れたものだ
昔の純粋だった自分が懐かしい…………………

「…………………ん~。確かにこういう部分だけは今でも純粋だよね~」

「すずかは随分と慣れてしまって…………………俺は悲しいよ?」

「それは褒め言葉だねーーーーん?それとも…………………次の段階に行って欲しいというおねだりかな?」

「メイデー!メイデー!!助けて誰か!!すずかが妖艶な眼差しと表情で俺を見てくるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

危険だ!
最悪なぐらい危険だ!
貞操の危険がする!
お願いします!誰でもいいから助けて下さい!
ああ!

「すずか!顔が近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い!!!」

「うん。だってーーーー近づけてるんだもの」

体にある全ての力を使って、その場を転がって離脱しようとする
しかし、それはすずかの手によって阻まれた
ああ、俺は何でついナイフで自殺などしようと思ったのだろうか?
高町にも言ったのに
現実は常に三歩ぐらい最悪だと

「はーーーーーーい。もうすぐなのはちゃん達が来ますーーー」

シーーーーーーーンと動きと時が止まった
状況を説明しよう
今のは急に扉を開けた月村ドジッ子メイド
そして俺達の今の状態は
俺は鋼糸で縛られている状態で
そんな俺を膝枕して、しかも押さえつけていて、しかも顔を俺の顔に迫らせようとしている

Q、この状況を第三者が見たらどう思うでしょう?

A,とても気不味い状況だと思います

「…………………………ファリン?」

「ひぃっ!!わ、わわわわわわわわーーーー忘れ物しちゃいますた☆」

ドジッ子メイドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
それは諸刃の剣だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「ふふふ。じゃあ、一緒に探したあげるね?」

「!!!!」

だから言ったのに

「じゃあ、慧君。続きはまた今度で」

「俺は二度とこんなことをするつもりは御座いません」

違うぞ
俺はすずかのプレッシャーに負けたわけではないぞ
ただ、俺は場の空気を読んだだけなのだ
断じて負けたわけではないぞ!













ようやく高町も集まって、お茶会の始まり
ちなみに俺はその間に逃亡を五回ぐらい試したが、見事失敗した
くそぅ
最初の四回はともかく
五回目はダンボールを使って逃げたのに…………………………
まさか、あんなところに赤外線センサーがあるとは
一番いい線だった
今度はドラム缶辺りで攻めてみようと思う
まぁ、それはともかくとして
今回のメイン
高町だが
まだ少しどんよりとしているが、少しは元気を出したようだ(ちっ!)
現に

「あ…………………このジュース、美味しい…………………」

「あ、それ?確かーーーー風雷?あんたが持ってきた奴よね?」

「ああ、そうだーーーー厳密には勝手に士郎さんが俺の荷物から出したものだが」

「へぇ、後半は無視するけど。これ、何ていうジュースなん?」

「それ自体は普通のリンゴジュースだぞ」

「え?でも、これ…………………」

「ああ、だからーーーー少し隠し味をしたんだ」

「……………………………………………………物凄い不安が」

「まさかなぁーーーー適当に入れたら媚○になるとは………………………新しい化学反応だね」

「「「「ぶうぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅうぅ!!!」」」」

「何だ四人とも。口に飲んだものを吐くとは。行儀が悪い」

「げほっ!ごぼっ!な、何てものを作っているのよ!!というかどうやったら、そんな化学反応が出るのよ!」

「ゴキーーーーいや、何でもない」

「お願い!すずかちゃん!洗面所貸してなの!少し汚いけど、頑張って胃の中を洗浄するなの!!」

「どうしたんだ、高町?何か劇薬でも飲んだのかい?そいつは大変だな」

「だ・れ・の・せ・い・か・な!?」

「高町父。だって、俺はこれを捨てる途中で奇襲されたのだから」

「お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

「まぁ、○薬なのは嘘だけど。奇襲されたのは本当だが」

「ふぅん。そうなんだ~。どっちにしろ後で桃子さんに報告やねぇーーーーーすずかちゃん。何でそんな真っ赤な顔で、しかも、妖しい目つきで慧君を見ているんや?」

「ふぇ?…………………………だって…………………熱い…………………………」

風雷慧は逃げ出した

月村忍は指を鳴らした

風雷慧が踏んだ床が沈み、体の半分が埋まった

「月村姉!!何の真似だ!今、俺は忙しい!要件は手早く頼む!」

「じゃあ、簡単に言うわねーーーーすずかをよろしく」

「聞いてもそれを実行するとは言ってないぞ!というか何故興奮している!?」

「ほら、病は気からって言うじゃない?」

「それは妄想のレベルを超えていますぞ!!とりあえず、こう言わせてもらおう!だが、断る!」

「じゃあ、こう言おうかしらーーーーすずかによろしくされて」

「何て恐ろしい事を言うんだ月村姉!やられている立場の視点だとかなりぶるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!な状態なんですぞ、貴様!」

「はぁ、はぁ」

「す、すずか!危ない息遣いで迫ってくるな!」

「さぁ、なのはちゃん、はやてちゃん、アリサちゃん。私達は出ましょうーーーーここから先は二人の時間だから」

「そこぉ!!神妙な顔で他の奴らを連れ出すな!----いざという時の盾がなくなるではないか!」

「慧君ーーーーそんな本音を聞いてこの場に留まろうとする人がいると思っているのかしら?」

「高町!お前が欲しがっていたあの無駄に高機能なマウス!」

「うん!わかったよ!」

「懐柔されるのが早い!欲望に忠実過ぎだよ!」

「それが俺達さ!」

「最低なグループだね!」

「ちょっと待ってください!確かに風雷となのはとすずかはかなり最低ですけど、私は普通です!」

「そうやで!私達は普通やで!」

「あ…………………………?」

「ちょ!今の反応はなんや!アリサちゃん!!」

「え?……………………………………………………ああ、はやて。何かしら?」

「まさかと思うけどーーーー私の存在を忘れていた、とか言わへんやろな?」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………まさか!私が大親友の事を忘れるわけないでしょ!!」

「じゃあ、その間は何なんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ようやく俺達らしい会話になった
将来にまったく役に立たない会話だが
ん?
何だその生き物は?

「ん?そういえば慧君には紹介してなかったよね。じゃあ、紹介するよ。この子はユーノ君ていうの。フェレットなの」

「きゅー」

「へぇ、フェレットかぁ~。まったく知らんな」

「そうよねぇ~。私もそんなの詳しく知らないわ」

「というか日本にそんなにいるのかな?」

「あんまり聞かんなぁ~」

「にゃ、にゃはは。そういうところは置いとこうよ~」

「きゅ、きゅ~」

「それにしてもーーーー高町の癖にネーミングセンスが悪くないとは…………………お前、本物か?」

「…………………………ツッコんじゃダメ、私。ツッコんだらそこから悲劇に繋がるなの…………………………!」

「進歩している…………………!あのなのはが進歩している…………………!」

「流石なのはちゃんーーーーみんなからやられて慣れているだけがあるね…………………」

「…………………そういえば、前から聞きたかったんだけどーーーーみんなは何でなのはを虐めるのかな?」

「「「「……………………………………………………」」」」

「…………………プリーズ、アンサー」

「…………………体が勝手に(←性格がひねくれているから。負の方向に)」

「…………………右に同じ(犬の本能。いや、本性?)」

「…………………左に同じ(上の分を猫に変えただけ)」

「…………………真ん中に同じ(単純に面白がっている)」

「………………………………………………………………………………ぐれるぞ、この野郎共!!」

「「「「!!!た、高町が(な、なのは、なのはちゃん)、遂に史上初のキャラ崩壊を…………………………!これが人が一度は通る反抗期ってやつか(反抗期ね、反抗期なんか)!!!」」」」

「きゅ~!!」

何だかフェレット野郎は猫に追い掛け回されていた
はっはっは、もてていて羨ましいよ
ん?
何だかこちらに助けを求めるような目つきをしているね?
中々感情表現豊かなフェレットだ
もしかしたら、実は人間だとか
あっはっはっはっはっは
最近は色んなものに出会っているから、簡単に否定できんな(吸血鬼や魔法少女など)
そうやって久しぶりにこのメンバーで和んでいた(俺はまったく和めなかったが。主に貞操的な意味で。最近のすずかには恐怖を感じてしまう)
このまま、お茶会は続くと思ったら


不意に
高町の顔が少し強張った


幸か不幸か
他のメンバーは気づいていない
無理もない
強張っているとはいえほんの些細な変化だ
俺みたいに無駄なくらい注意深くなくては気づかない変化だ
その無駄な注意深さで俺はもう一つ気づいた
あのフェレットの雰囲気も若干変わっている
そっちに関しては自信がないが
そう思っていたら

「あ。ゆ、ユーノ君?」

フェレットが逃げ出した
勿論、猫に追われていたから逃げ出した
そう解釈する方が正しいだろう
しかし

「あ、危ないから、私が探してくるね?」

その下手糞な演技を見て、おかしいと思わない人間がいないだろうか

「そう?私達も手伝おうか?」

「う、ううん。大丈夫だよ。なのは一人で大丈夫」

「それならええんやけど…………………」

「うん。じゃあ、行くね」

高町はフェレットを追いかけて走る
それを俺は


止めなかった



止める理由がなかった















そして
結果はご覧の通りだった
時間が経っても帰ってこない高町を段々と心配し、少しみんなで探そうと決断を仕掛けたところで

あのフェレットが『一匹』だけで帰ってきた

その後
フェレットの誘導に従い、走って行った先には
高町が倒れていた
とりあえず背負ってこの家まで連れてきて、ベッドで寝かせた
いやはや
それにしても、バニングスと八神の狼狽えっぶりは凄かったね
すずかは冷静そうだったが
まぁ、別にどうでもいいけど
どっちかというと
俺が問題にすべきことは

「何で俺が看病役なのだ…………………」

そうなのだ
何故、俺がこんなことをしなければいけないのだ
普通、こういうのはバニングスか恭也さんの役回りだろうに(ちなみにそれらのメンバーは今。この状況を起こす諸悪の原因となったと思われるフェレットを断罪している最中だ。きっと、今頃、素敵なフェレット悲鳴が響き渡っていることだろう。俺も聞きたかったな~…………………」
そう思いながら、数分経つと

「…………………ぅん」

どうやら高町が起きたようだ

「あれ?…………………ここは?…………………」

「大した寝惚けっぷりだな。ここは夢のスィートルームに決まっているだろう?」

「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!恐怖の世界の幕開けなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

「…………………冗談だ」

寝起きのハイテンションか…………………
お前は薙○か

「そ、そういえば、慧君。どうしてここに?」

「まだ寝惚けているのか。ここは月村邸。それでお前があのフェレットを探しに行ったら、何故だか知らないが、倒れていた」

「あ…………………」

ようやく思い出したのか
そこで一気に暗くなる

「覚悟しとけよ?バニングス辺りは手加減しないと思うぞ」

「…………………にゃはは。容易に想像できるね」

「そうだな。じゃあ、呼んでこようか。どっちにしろ、お前の事をみんなに知らさなければ、俺が怒られる」

そうして今まで、座っていた椅子から立ち上がり、部屋のドアに歩いていく
ドアのノブを掴んだところで

「…………………………慧君は、聞かないの?」

などと聞いてきた
俺は振り返らずに

「聞いて欲しいのか?」

「…………………………どうなんだろう?」

「じゃあ、聞かない」

「…………………………どうして?」

「興味がないの一言」

「…………………………手厳しいなぁ」

顔は見えないが、どうやら苦笑しているようだ

「何を言う高町。俺は今も昔もこの性格だ。それをいつもと違うと思っているのなら。それは単にお前が今、何かに、もしくは誰かに甘えたいと思っているからではないか?」

「……………………………………………………」

そこで彼女は沈黙した
図星か

「…………………………時々、慧君は私の考えていることをわかっているんじゃないかと思う時があるなの」

「そんなことは出来ないさ。超能力者じゃああるまいし。俺が出来るのは精々推測するぐらいだけだ。」

「…………………ある意味それだけでも凄いと思うの」

「ふぅん」

そこで会話が途切れる
沈黙が部屋を少し支配する
とっとと、この部屋を出ようと思った矢先
高町が声を放つための息継ぎが聞こえたので、断念する

「ねぇ…………………慧君」

「はぁ、何だ」

「もしも…………………………もしもね。自分にもう少し力があれば。自分がもう少し速く動けたら。そんな後悔が生まれてしまったら、それを払うためにはどうすればいいと思う?」

「それは人によって解答は千差万別だ。参考にはならない」

「それでもいいから、教えて」

…………………ふむ
さっきよりも意志が少し感じる
その声から察するに
何というか


今の自分よりも、前に進みたい
立ち止まりたくない
そんな意思か…………………


何があったか
詳しい事は知らない
それでも
推測は出来る
この前
金髪少女
テスタロッサに出会った事
ジュエルシード
そして

魔法


時期はぴったしだ
だからーーーー推測は出来る
だけど
それを言うのは野暮というものだろう
だから、俺は解答の方に集中する
まるで、この意思に報いるかのように

「そうだなーーーーー俺なら、そんな後悔を抱くよりも、自分が誓った事をするだろうな」

「自分が、誓った事…………………」

「そうだ。そもそもだ、高町。後悔?そんな七面倒な事を考えるのはお前の『性』には合わないだろう」

「------え?」

「お前は頭で考えて動く人間ではないと言っているんだ。お前はもっとシンプルな馬鹿だろう。性に合わない事でぐちぐちしてんな。『似合わないぞ』」

「------あ」

言うだけ言って、俺はその場を後にした
最早言う事など、一つもないのだから
ドアを開け、そのまま出ていく
そうして、密かに後ろを振り向く
そこには


さっきまで、うじうじしていた少女は消えていて

迷いを払った少女の顔があった

バタンとドアを閉める
俺の役目はこんなところだろう

「なぁ、すずか」

右に振り向く
そこには

鴉の濡れ場色の綺麗な髪をしていて
顔も美少女な
吸血鬼が立っていた











目の前にいつもの無表情の少年が立っている
まるで、彼だけが時の歯車から抜け出たように彼は変わらない
そんな彼を私はーーーー好きになった
誰からの異常に見られる彼を
だからこそーーーー不安になる
この少年が
無表情の仮面を被ることを当然としている少年が
『これからも』そんな生き方をするのではないかと

「で、どういうつもりだ?」

「…………………まぁね。こういうのは慧君が一番得意かなって思って」

「残念ながら俺は人をどん底まで突き落す手法しか知らない人間だが」

「その割にはなのはちゃんには的確なアドバイスをしていたようだけど」

「きっと、幻聴でも聞いていたんだろう」

「じゃあ、そういうことにしといてあげる」

「…………………含みがある言い方だな」

「じゃあ、慧君の真似をして言ってあげる。そう思うのは自分に疾しい事がある証拠だよ」

「失礼な。俺はいつだって清廉潔白だ」

「嘘つき」

「そうとも」

はぁ
相変わらずの偽悪趣味
達が悪い事に本人は自分を本物の悪人とか思っている
とんだ自意識過剰だ
鈍感なのは他人だけにしてほしい
いや、やっぱり他人にもしてほしくない
というか私限定に鈍感にならないでほしい
あれだけアプローチをしているのに何で何も言ってくれないのかな?

私…………………そこまで魅力ないかな…………………

これでも女の子
結構、自分の美容に関しては気を付けているんだけど
ちなみに
その努力はちゃんと成功している
現にいつもいるメンバーの四人全員がかなり人気だからだ
これは関係ない話だが
それのせいで最近どこぞの親馬鹿辻斬りの人は夜な夜な歩き回って、娘たちに変な虫がつかないように虫の居場所まで『訪ねて』いるようだ
そして、どこぞの無表情ギャグ人間も、人気者を独り占めにしていると周りから思われており、それのせいで時々、奇襲されているようだ。まぁ、全部返り討ちにしているようだが。この少年の経験した修羅場とのレベルの差が違い過ぎるからだろう

だから、別に彼女自身にはまったくもって問題はないのだが

そのくせ…………………なのはちゃんの胸に触るし…………………

ちなみに
かなりショックを受けているように話しているが、実際はそれの後、彼女は廊下にある消火栓を振り回して、少年の頭を思いっきり、しばき倒し、倒れた彼の胴体に思いっきり、机の面の部分をめり込ませ、動きが止まっているところに、掃除ロッカーを思いっきり、勢いよく倒していた。それも顔面に
悪魔の所業ならず、吸血鬼の所業とはこのことか
その後
ケロリと復活している彼も彼だが
年々と回復スピードが上がっている気がするのは気のせいだろうか

いっそーーーーリミッターを振り切ろうかな?

「ん?どうして、慧君は唐突に窓から逃げようとしているのかな?」

「わからん。ただ、俺の本能が叫んでいるんだ。ここは危険地帯だと」

「慧君の本能は当てにならないから信じない方がいいと思うよ。それに今はシリアスタイムだから逃げられないよ」

「くそっ!シリアスタイムだったか…………………」

何語だ

「で、本題は?」

「…………………うん」

さっきまでのコメディ空間を一瞬で忘れる
今はこの話を聞くために一人で来たのだ
その話題とは

「ねぇ、慧君ーーーーなのはちゃんがしていることに『気づいていた』?」

そう
こう聞いているけど、彼は気づいていたと思う
だって、なのはちゃんが倒れているところを見ても

彼はまるでやはりなという感じで溜息をついただけなのだから

相変わらずの無表情で

溜息をついていただけだった

まるで

別にどうでもいいと言わんばかりに

だから
彼の返事もそんな感じだった

「ああ、大体は推測だが、分かるさ」

それがどうしたと言わんばかりの口調だった

「…………………多分、危ない事をしているんだよね?」

「そうだろうな。具体的には知らないが」

「…………………止めないの?友達の危機だよ」

ある意味期待した言葉
それに彼は
表情通り
無情にも

「は?いつ、俺が高町の『友達』になったんだ?それに」


別に高町が勝手に危険に立ち向かってるんだ

その結果

死ぬのならば

高町はその程度だったという事だろう

と心底不思議そうに答えた



「………………………………………………………………………………」

結局
彼と私達の関係はそこまで進んでいない
その事を表すかのような言葉であった

わかっていることであった
二年前のあの事件の事もあるのだが
彼は敵味方問わず
手加減も容赦も加減も知らない
残酷な人間だという事を
それが例え
『私達』であっても例外はない
わかっていたことだけど
少しーーーー悲しい
あれだけ仲良くしていたのが


実は振りだという事を言われているのと同義なのだから


そう落ち込んでいたら

「それに、今のところ、俺の友は『二人』だけだ」

「え?」

二人?
誰?
そういう思考が私の中でぐるぐる回る
二人
二人といえば
何か関係線がなかったか
そこまで考えたら、急にピンときた


彼が名前で呼んでいる人の数は何人だったっけ


そう考えた瞬間
彼は急に早歩きで去っていく

「待ってよ、慧君!」

「いーーーや、待たない。俺はこれから用事があるのだから」

「そんなことよりも、さっきの!」

「知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない」

「もう!意地っ張り!!」

私は彼の小さくも頼もしい背中に向かって走る
確かに私達はまだ全然親しくなってかもしれない
それでも
それでも
前には進めているのかもしれない
でも、今はそんなことを考えている暇はなかった
だって

今の私は
きっと
恥ずかしいくらい笑っているから








あとがき
いやぁーーー。進みませんな
それにしてもれいおにくすさん
自分で言うのも何ですけど、この駄作を読んでくれてありがとうございます
月並みの言葉ですけど、出来れば最後までよろしくお願いします



[27393] 第十八話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2012/01/09 23:30

高町がぶっ倒れた後はそのまま流れ解散だった。流石の外道連中もあのまま遊ぼうとは思わなかったらしい。

俺はって?

俺は優しいのだから、高町が弱っていたら、そのまま帰らそうとするに決まっているではないか。

だから俺は高町が怪我したおかげで早く帰れるぜ!ベリーベリーラッキー!!なんて全然思ってなんかいないぜ。

俺は高町の弱っているところを隙にして逃げようなんて全然思ってなんかいないぜ。

…………まぁ、どっちにしろ今日は早めに帰らなければいけないのだが。

理由は今の状況だ。

「あ、ケイ。こんにちわ」

「ああ、そうだな。テスタロッサ」

今日は所謂、俺達の密会の日なのである。三、四日に一度は俺の家に集まり俺がジュエルシードを拾っていたら、テスタロッサに渡す。

それが密会の理由だ。

俺があれを集めるのは、そんなややこしいのがこの町にあるのが面倒なだけだが、テスタロッサは結局、集める理由は口にしない。

まぁ、別にどうでもいいけど、とりあえず、話を進めようか。

「ど、どうだった?その…………………ジュエルシードは?」

彼女は早速、本題に入った。

それはそうだ。元々、そういう密会なのだから。

それにしても

一応期待しているけど、過度な期待はしていない、という感じだな………

まぁ、無理もない。

何でもこのジュエルシードとかいうのは魔力がないと見つからないというかわからないらしい。

そして、テスタロッサが言うには俺には魔力とかいうのは全然ないらしい。

すなわちだ。俺がジュエルシードを見つけられる可能性は零に近いという事だ。この前のあれは偶然という名の奇跡だろう。

………いや

この世に偶然はない。あるとしたらそれは必然だ。偶々見つけたのではなく、見つけるべくして見つけた。

そういうものだろう。どこぞのマンガの言葉を借りるなら。

何ともまぁ━━━皮肉な言葉だ。

それでは━━━これは決まっていたことだと言われているのではないか。

あの時

あの場所で

開かれてしまった。

あの地獄

あの悲劇

それも予定調和と言われているみたいで。

物凄く----■したくなる。

「あ、あの…………………ケイ?ど、どうしたの?」

テスタロッサの言葉で現実に戻ってくる。彼女の瞳にはーーーー恐れが宿っていた。俺を見て。

………

やれやれ。まだまだ精神修行が足りない。これでは何時までたっても解脱できない。まぁ、する気もないし、予定もないのだが。

時々、長考するとすぐこうなる。今日はとっとと要件を済まして、お開きにするのが得策だろう。

「ほれ」

「え?」

ポケットから出した青い石を彼女に投げ渡す。彼女は条件反射か、それを少し危なげにキャッチする。

それでも、あんな急に渡されたのに受け止められたのは、彼女の身体能力のおかげだろう。

すずか程ではないが、バニングスレベルはあるかもしれない。え?高町はどうしたかって?

言わぬが華よ。

じゃあ、とっととお開きに━━━

「どどどどどどどどどどどどどど、どうして、ここっこのジュエルシードを見つけたんですか!!!」

「耳が!耳がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

まさかの大音量。この少女をカラオケに連れってはいけないと心に誓う。マイクなど持たせたら、大変だ。

ああ、耳から血が……

「だ、大丈夫!?」

「何、心配いらない。だから少し声のボリュームを落としてくれたまえ。耳がいかれる」

ううと呻きながら少し黙る。天然少女はこれだから侮れない。うっかりで殺されたら洒落にならない。

「そ、それで、どうやって見つけたの?」

「何、簡単さ。見つけた奴から奪………譲ってもらったのさ」

「ど、どうやって?」

「それは………テスタロッサ。お前は知らなくていいんだ」

「な、何でそんなに声に慈しみの心が溢れているのかな?」

方法は至って簡単だった。

偶々ジュエルシードをゲヘヘと笑っている男子小学生を見つけたので(注、この笑い方は少年視点です。良い子のみんなは現実を見ようね)、少し取引をしたのだ
彼は快く承諾した。

何と取引したかって?〇町姉印の〇ッキーさ。何で伏字が入るかって?俺が口に出したくないからだよ。

その後、少年は暫く悶えていたらしいが見ていないので知らない。

ちなみに、彼はこのジュエルシードを彼女に渡すつもりだったらしい。それなのに女の人からのクッ〇ーを貰うとは、浮気だねこれは。

だから、ちゃんと俺は彼女の方にも事実を伝えておいたさ。きっと、今頃は恋人と熱い時間を過ごしているだろう。羨ましくない限りだ。

「まぁ、別にそんな事はどうでもいいではないか。それで?そっちの収穫は?」

「え?あ、うん。私の方も一個封印することが出来た」

「へぇ、それは重畳」

「ただ━━━敵も現れた」

「ふむ?」

「相手は栗色の髪の女の子で」

「ふむ?」

「髪の毛を私みたいに二つに分けていて」

「ふむ?」

「年も私達ぐらいで」

「ふむ?」

「真っ直ぐな目つきをした女の子」

「ふむふむ。成程成程」

完璧にどこぞの馬鹿町だ………!まさかここまで推測していたのが当たるとは………俺の心眼も馬鹿にはならんな。

まぁ、わかりきっていたことだ。明らかに雰囲気を変えた高町を見ていてわからない方がどうかしている。

最も、もっと深い意味で理解しているのは精々、俺とすずかと高町家の武闘派連中だけだろう。

いや、高町母もわかってそうだが、となるとやはり高町もイタイ子(魔法少女)の仲間入りか。

今度から、少し距離を開けなくては。まぁ、別にどうでもいいけど。

「で、それは障害となり得るのか?」

「………今のところは大丈夫。戦ってみたけど、彼女は魔力は凄いけど完璧な素人だった。見たところ遠距離専門。つまり、砲撃魔道士。威力は凄いけど━━━当たらなければ大丈夫」

「ふぅん」

砲撃魔導師ねぇ………どうやら、あいつはとことん高町家の遺伝子を継いでいないらしい。

まぁ、近接に適した魔法使いであったとしても、あの運動神経では無理だろう。せめて少しは運動をしていたら、才能とは別に鍛えられていただろうけど。

そういう意味では運がいいのか。

「まぁ、俺が知ったところでどうなるというわけではないか。それに魔法については俺は素人以下だ」

「う、ううん。そんなことはないよ。い、いざという時に相談するかもしれないし………」

「………魔法について全く知らない俺がどうやって戦術に口出すというのかね」

そうするとわたわたし出す彼女。相変わらず超がつくぐらいお人好しだ。

俺がこんな風に自分を卑下するような事を言えば、このように何故だか知らないがフォローしようとする。この少女は優し過ぎるし、素直すぎる。

まったく、傑作だな………

ここまで純な少女はこの現代には希少種といってもいいぐらいだ。それをいうなら俺の知り合いたちもそうなのだが。

ベクトルは違うというか、何と言うか、俺の周りはこんなのばっかりだ。

「まぁ、本題に戻そうか。他にジュエルシードの当てはあるのかね?」

「え?あ、うん。今度はちょっと遠そうだけど。大体の場所の当てはある………」

「そいつは重畳。先行き明るい事だ。出来ればこのまま行ってもらいたいものだ」

「うん。そうだね」

テスタロッサは苦笑しながら、笑った。俺はいつも通り笑わなかったが。それにしても、初対面の印象とは違って、結構楽しそうに笑う。

最初は人形みたいな少女というのがイメージだったが、今はどこにでもいる少女だ。素はこうなのか、それとも彼女が変わったのか。

まぁ、別にどちらであってもいいのだが。

「とりあえず、うっかりをしないようにな」

「うん。あ、だから、次会うのは少し後になるけど………」

「ああ、わかった」

だけど

この会話は無駄になる。それについてはまた少し後の話。














プルルルル、プルルルル、プルルル。

おや、電話か、珍しい。固定電話が鳴るのはかなりの珍しさだ。最近は携帯という文明の機器が成長しているのだから。

それにしても面倒だな。無視したら、その内止まるだろう。

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル。

「………」

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル。

………ストーカーレベルの嫌がらせだぞ

だが、しかし、こういうのは取ったら負けというのがルールなはず。ならば、もう少し辛抱を。

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル。

………すいません、無理です。

というか家の電話ってこんなに長くかけれましたっけ?

「はい、もしもし。斉藤です」

『いきなり偽名を名乗るとはいい度胸をしているね、慧君』

「人違いです」

がしゃん

俺は一瞬で受話器を置いた。

ふぅ、さて、今日は何をしようかな?暇つぶしにヨガのポーズでもしとくかな。と計画をしていたら。

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル

また電話が鳴った。溜息を一つつく。

そして、再び電話を取る。

「はい、もしもし。後藤です。ストーカーなら訴えますし、セールスならお断りです」

『その前に君が今までしてきた悪行を裁かれる方がいいだろうな』

「何を言いますか。間違え電話の癖にそんなことを言うとは━━━人としてどうかと思うがね」

『そっくりそのまま返させてもらおう』

「残念ながら返品は受け付けていません」

『君の存在を地獄に返品というのはどうだろうか』

「お生憎様。俺はどうやら地獄には嫌われているようなので、きっと返してはくれないでしょう」

『君のその減らず口にはある意味尊敬するよ』

「そいつはどうも。名も知れぬ人。ということで要件は聞き終わったので、切ってよろしいでしょうか?」

『まだ、本題にも入っていないのだが』

「いえいえ。知らない人の話は聞いてはいけないというのが世間一般の常識ですから」

『ほう?君が世間一般の常識を語るとは。君も遂に末期かい?』

「何を言いますか。この親馬鹿野郎殿。俺はこの世の誰もが認める常識人だぞ」

『はっはっは、戯言は常識を語った後に言うべきだぞ。とりあえず本題に入らせて貰おうか』

「はっはっは、聞く気はご━━━」

『旅行に行こう』

「ストーカーについて行く趣味はありません」

がしゃん。

再び受話器を置く。さて、今日はセ○ィロスを打倒するか。

そう思っていたら


極寒の殺気を感じた。



思わず振り向く。体の細胞一個一個が臨戦態勢に入る。更には喉が一気に乾く。

でも、そんなことを気にしている暇など一切なかった。

何故なら


刀を持った高町父が思い切り、突きでドアを破ってきたのだから。



ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!という音が辺りに響く。

でも、そんなことに意識を裂いている時間など欠片もない。

今は

何故こんなことを!!

「よくも俺のドアを!!俺の心が済むまで弁償してもらうぞ!親馬鹿変態め!」

「言うべきセリフと隠すべき本心が違うと思うぞ」

答えなど聞いている暇はない。今はとりあえずするべきことをしなければいけない。

とりあえず、直ぐ近くに置いておいた三本の包丁を指で掴みそのまま投擲。

ヒュゥ!と風を切り裂いて彼の体を貫く。などということはまったく起きず、高町父は必要最小限の動きで躱し、切り払う。

「己!ス○ロボ並みの切り払いのスキルを得ているとは………!流石は御神の剣士!」

「否!それでこその御神なのだよ!」

減らず口を叩きながら、俺はそのまま背後に跳躍。そこを直ぐに高町父の刀が一閃。勿論、必然だ。

普通なら俺は今の動きは避けれなかった。後、『一歩』進んでいたら、俺はお陀仏だっただろう。

だが

「くっ!慧君!君は何時の間に暗器術を覚えた!」

「あんたたちといたら嫌でも」

そう、さっき俺は包丁を投げていた。

だが、その時、置いていたのは『三本』だった。だが、俺が投げたのは『二本』。

つまり、そういうことだ。


二本は投げ、本命の一本はなるだけ隠したのだ。

この為に


幸いなことに俺は今は長袖だったので、一瞬だけなら隠せた。そして、跳躍しながら高町父の足元を狙った。

それ故に高町父は一歩を踏めなかった。

最も、これ以降はどうしようもないのだが。

「止めだ…………………………御首頂戴!!」

「ちぃ!ここまでか…………………………!」

結局

今の俺にはほんの数秒逃げるのが限度。

能力も

経験も

技術も

体も

何もかもが負けている。勝てるとしたら若さだけなのだ。

この後、直ぐに俺の意識は闇に落ちる。














「………」

起きてみたら俺は知らない車に乗っていた。

………縛られて。

「あ、起きた」

「起きたわね」

「起きたね」

「起きたんか」

その後に来たのは不愉快なノイズ。

成程、状況の理解は完璧だ

「早く悪夢から覚めなければ………こんな悪魔に囲われている世界にいたら魂がいくらあっても足りないぐらいの拷問が待っている………!」

「………へぇ、殊勝ね。貴方の今言ったセリフを有言実行させてあげましょうか?」

「アリサちゃん、駄目だよ。慧君の狡猾な罠にはまっているよ。そのままだと私達が悪魔だと認めることになるよ?」

「あ!?ほ、本当だ!!」

「流石すずかちゃんや!私達が気づかへんかった事に気づくなんて………流石慧君の本妻ぐふっ!!」

「もう、やだ!はやてちゃん!そんな本妻だなんて………まるで他にもいるみたいな言い方」

「やだ、すずか………最後だけ能面のような顔で呟かないで、怖いから」

「そもそもだ。俺はすずかを本妻にした覚えも、他にもいる覚えもないのだが」

「「「「外野は引っ込んでて(でなさい、んや)!!」」」」

「貴様ら………この!俺に挑発とは………覚悟はできているんだろうな?」

「ほう、その縛られた状態で何ができるのかしら?」

「この逞しい面構えで煩殺」

「死になさい」

「それでここは………ああ、思い出した」

旅行で行くという事は、とりあえず海鳴ではないだろう。

はぁ、面倒臭い。















「へぇ、結構いい旅館ですね」

「だろ?休養になるのは確かだろ?」

「はっはっは!もっと父を褒めるがいいこぷっ!」

「おっと、石鹸が滑った」

「おっと、桶と高町父秘蔵の写真が滑った」

「貴様ら!年上への敬意とかそういうのがないのか!?」

「貴方のどこに尊敬するところがあるのか五文字以内で答えてほしいですね」

「同感だ」

「無論全身だ」

「むかつくことに五文字は出来てやがる」

「しかし。それだと性格の部分は褒められないと自覚しているのだな父よ」

「OK。その恰好のまま表に出ろ」

「さて、体も洗ったし、本命の風呂に入りますか」

「うむ」

「………ここまでの仕打ちは久しぶりだぞ」

結局、無理矢理拉致されて旅館に泊まるおことになった。傑作とはまさしくこの事だ。これで高町父や高町姉、恭也さんがいなかったら、とっくの昔に逃げていた。

『わーーー!大きいお風呂!』

『本当ね~。いいお風呂だわ』

『ふっふっふ。旅行を楽しみにした甲斐がありましたね。はやてちゃん、お風呂に入るよ』

『お願いします~。はぁ~極楽極楽~』

『はやてちゃん、おじさん臭いよ?』

『ふっふっふ。まぁ、桃子さんもみんなが喜んでくれて嬉しいわ』

『にゃはは。気持ちいい~』

OK

俺はここを離脱するべきだと俺の戦闘経験が叫んでいる。嫌な予感に逆らわず自然な感じで、風呂から上がろうとする。

恭也さんも似たような考えに到ったのか、同じタイミングで立とうとする。

その肩にガシッと高町父の手が乗る。万力の如く。ここからは視線での会話。

離せ、殺すぞ。

父といえども容赦はせんぞ。

盗聴するぞ。後、覗くぞ。後、やれるものならやってみな。

一瞬、恭也さんと目配せしてアクション。

俺は男の急所を恭也さんは避けずらく、そして人体急所の脇腹を。

全部逸らされた。

ちっ!

こんなところで無駄なパワーを見せるんではない!その若さは桃子さんと一緒に発散してくれ!

以下同文だ!

あっはっはっは!俺と桃子はいつもハッスルさげふっ

あれ?何故か上から桶が落ちてきたよ?

「士郎さーーーーーーーん。何だか変な感じがしたので桶を投げましたが?」

「それだけで投げたのか!?高町母!」

「落ち着け慧!!母さんと父さんのラブラブ度は既に人体のレベルを超えているのだ!!」

「ぐっ、そ、その通りだ!俺と桃子の愛は固有結界どころか他人すら侵食するぞ!」

「傍迷惑この上ないわ!!」

とりあえずもう一度視線での会話に戻る。

とりあえず聞きます----正気ですか?

無論----正気だとも。

一応聞くぞ父よ。あのメンバーにそんなことをすると----輪廻転生を何回するかわからないぞ。

恭也よ。それは命はご勘弁出来ないと断言しているぞ。

そういうことなんですよ。高町父。認識が甘いぞ。

お互い視線でのやり取りで静かに会話を進行する。何故こんな技能を持っているかだと?

逆に聞くが、持っていたら物凄い便利だぞ。

そう思っていたら

『じゃあ、コイバナをしましょう』

物凄い不穏当な発言を月村姉が提案した。再び逃げようとする俺と恭也さん。それを捕まえる高町父。

暫し、乱闘が続く。

そんなことを気にせず会話が続く。

『じゃあ、まずは………アリサちゃんから言ってみよう!』

『は?な、何でですか!こ、こういうのは経験者の忍さんか桃子さんかすずかの方に行くべきです!』

『そ、そんな経験者だなんて………いい』

『すずかちゃん、不穏当やで』

『だって~。私や桃子さんやすずかじゃあわかりやす過ぎで面白くないでしょう?だから、今回は今のところはっきりしていない人に集中しようかな~って忍ちゃんは思ったわけよ』

『お、横暴です!じゃ、じゃあ、先に聞きます!どうして恭也さんや士郎さんや風雷を好きになったの!?』

『恭也だから』

『士郎さんだから』

『慧君だから』

「「俺もだぐぷっ!」」

咄嗟に俺が殴らなければやばかったかもしれない。流石は俺。

『はい、質問に答えたわよ、アリサちゃん。さぁ、答えを。ハリーハリーハリーハリー!!!』

『せ、急かさないでください!きゅ、急に言われても………』

『ふむ。それもそうよねぇ~。じゃあ、好みのタイプを聞かせてよ』

『た、タイプですか………そうですねぇ………とりあえず馬鹿な男は嫌です』

『率直ねぇ………』

『あ、あの、頭が悪い意味で馬鹿って言っているんじゃないですよ』

『わかってるわよ。性格的な意味ででしょ』

『はい』

『まぁ、それはよくわかるわ━━━さて、次はもっと本格的にね』

『手厳しい!!?』

『じゃあ、まずは年齢』

『出来れば同年齢で………』

『背』

『高めで』

『顔』

『顔も大事ですけどやはり性格ですかね』

『頼りたい派?頼られたい派?』

『どっちともですかねぇ』

『ふむ、なるほど』

そこで月村姉は納得したのか、少し会話が止まる。だが、直ぐに始まる。

『じゃあ、次はそこで逃げようとしているなのはちゃん』

『にゃ!ば、ばれました!』

『逃げたらそのタオルを剥ぎ取って男湯に投げ入れるわよ』

『じょ、冗談ですよね?』

『………(じり)』

『わかりましたから、にじり寄らないでください』

『わかればよろしい』

『でも、私もそういうのはよくわからないんですけど………。強いて言うなら、さっきのアリサちゃんへの質問の一部を変えるぐらいです』

『どれかしら?』

『お母さん………娘のこういうところだけ食いつかないでよぉ………』

『あら?お母さんも知りたいのよ』

『うう………』

『で、どれかしら?』

『ええと………出来れば私は頼れる人がいい………』

『成程ねぇ』

また再び会話が少し途切れる。とりあえず隣で

「なのは………お父さんは頼れるぞ」

とか

「我が妹よ………そんじょそこらの男を連れてきても許さないぞ」

とか言っている親馬鹿とシスコンをどうしようかと本気で悩む。悩んでいるうちに再開。

『じゃあ、最後のはやてちゃん』

『どんと来てええでーー。忍さん』

『………流石ね、はやてちゃん。このメンバーで二番目にポーカーフェイスが上手いわ』

『………一番目は?』

『桃子さん』

『白旗』

そりゃそうだ。

『で、はやてちゃんの好みは?』

『そうやなぁ。確かに聞かれるとわからんもんやなぁ………』

『じゃあ、身近な例だったら?』

『身近な例やったら………慧君し━━━』

『あげないよ!!!』

『最後まで言わせてーな』

というか、俺はお前の物ではないぞ。すずかよ。

『そういえば、すずかは慧君のどこが好きなの?』

『どこがって!?全部だよ!!強い所も弱い所も手加減がない所も容赦がない所も遠慮がないところも無慈悲なところも冷酷なところも残酷なところも残虐なところも無表情なところも毒舌なところも背が普通なところも戦っているところも口では何とか言いつつも微妙ーーーーーーーーーーーに優しい所も偽悪なところも欲深い所もかなりのネガティブ思考な癖に微妙なポジティブ思考なところも口癖が別にどうでもいいと言うところもなのはちゃんを虐める時は凄い楽しそう?なところも士郎さんに負けて気絶したときに見れる可愛らしい寝顔も私が少し積極的にやろうとしている時に逃げ出そうとする愛らしい所もどれだけやられても不屈な精神で逃げるところもタイムセールスに負けた時悔しそうに俯いているところとか全部大好きなんだよ!!!!びっくりマークを遠慮なく使いたいぐらい大好きなんだよ!!!!!大事な事だからもう一度言うよ!!大好きなんだよ!!!!!!!!』

………愛ってこえぇ。

暫くすずかには触れないでおこう。野郎二人の生暖かい目線がうざかった。



あとがき
今回はあんまりネタに走れなかったです




[27393] 第十九話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:24
怖い怖い温泉から上がり
しかし
俺達はかなりの緊張感を感じていた
流したはずの汗が流れる
さっきから心臓(命)の胎動が煩い
手が震え
足が震える
頭が異常事態に陥っているせいか
視界が赤い
更には視野狭角まで起こしている
見れば周りも似たようなものである
誰もかれもが俺と似た様子だった
違うのは高町母だけだ
この状態を笑うとは
レベルが違う
歴戦の勇者である高町剣士組でさえ強張っているのに
誰もが自分の為に戦っていた
裏切り
罵り
騙し
敗北させ
勝利する
そこにはただ単純な構造
原初の時代からあった弱肉強食
弱いものが強いものに喰われる
最もシンプルで
最も正しい世界のルール
ただそれだけが、この場を支配していた
俺はただ恨んだ
この状況を生み出した物を
それは

卓球だった

……………………………………………………前にもこんなことがあったような?

切っ掛けは些細な事だった












「さて、風呂も上がり、コーヒー牛乳も飲んだことだし」

「美少女&美女の艶姿も見れたことだし、やることはただ一つ」

「卓球をしましょう」

上から月村姉、高町父、バニングスの順番だ
というかバニングスよ
その年でその二人とタイミングを合わせるとは…………………人間を止めてきたね?

「「「失礼ね(だな)。私達は(俺達は)あんた(貴方、君)程人間を止めてないわ(止めてない)!」」」

「…………………お前らが言うか」

吸血鬼(本物)に御神の剣士(常識外)にバニングス(非常識の代名詞)
見事に人外の代名詞が揃っているではないか
常識人は俺一人

…………………いつから、ここは人外魔境になったのやら

「…………………今、物凄い、慧君にツッコまへんといけない気がしたで?」

「何を言う狸。存在そのものがツッコミ待ちの貴様にそんなことを言われる理由はないな」

「…………………そろそろ決着を着ける時やなぁ。その誤解の」

「貴様、人語を解するでない。たかだかイヌ科の哺乳類の分際で粋がるでない。身の程を知れ。というかとっとと二足歩行に帰れ。そして野生に帰れ。そして喰われろ」

「…………………これって十分に殺人が起きてもいい状況やなー?」

「落ち着いてはやてちゃん----慧君相手に生半可な計画と殺意は通じないよ」

「…………………………卓球の話の戻ろうよ」

「おーー。何か卓球のラケットが勝手に動いているぞ~」

「へぇー……………………………………………………ってそれは心霊現象じゃないの!?」

「「「「「「へ?」」」」」

「待ちたまえBOY&GIRLS」

「手品でしょう?」

「映写機があるんじゃないですか?」

「磁石ちゃうんか?」

「違うよ。きっとこの場所が軽いものは浮くような特別な力場を用意しているんだよ」

「えーーー。きっとあれだよ。風の力だよ~」

「何てリアクションが軽いお子様だ…………………」

「…………………理由の大半は忍。お前の面白愉快なスーパー科学のせいではないか?」

「…………………昔のお化けを怖がっていたなのははどこに行ったのだろうか」

「きっとお化けを怖がっていた時期よ、士郎さん」

ぐだぐだだなぁ
いつも通りだけど

「ふーー。まぁ、いいわ。風雷。ちょっと付き合いなさい」

「トイレに?」

「別にいいけど----その瞬間、貴方はすずかにヤられるわ」

「肝に銘じておこう」

「…………………いや、トイレに付いていくこと事態を否定してへんで」

「時々慧君は警察に行って裁判を受けて有罪を受けて電気椅子を受けるべきだと思うんだよね」

「時々すずかちゃんは慧君の事を本当に好きなのか疑問に思う事があるなの」

「…………………これって本当に小学生の会話かしら」

「…………………言うな」

まったく話が進まない
これでは何の提案をしていたのかわからなくなる

「だから、卓球の相手をしてって言ってるのよ」

「別にいいが----倒してしまっても構わんのだろう?」

「ほう-----私相手にそのセリフ。吐いた唾は戻せないわよ」

「では、君の敗北に賭けよう」

「慧君、思い切りパクリ」

「でも、それがちゃっかり似合うのはなんでなんや…………………」

「上等だバニングス-----お前がMに目覚めるくらい叩き潰してやる」

「卓球でどうやってそんな事が出来るか解らないけど、口先だけなら誰でも言えるわよ」

「そしてアリサちゃんは見事に悪役をこなしている」

「あらあら、仲がいいわねぇ」

「俺と桃子の関係程ではないけどなーーーーーーーーーーー!!」

「私もよーーーーー!!士郎さーーーーーーーん!!」

「恭也!!私達も対抗しよう!!」

「…………………無茶を言わないでくれ」

外野は無視しよう
それに俺達はこうは言っているが、そこまでやる気はない
精々遊ぶかーー程度である

「じゃあ、私から先制でいい?」

「どうぞ」

バニングスがラケットを構え、球をほんのちょっと宙に投げる
その間に会話が聞こえた
それが切欠であった

「それにしても普通に卓球するのは面白くなくありませんか?」

「まぁ、一理ありだな」

「そうねぇ」

高町母の言葉が聞こえる
地獄への誘いの声が

「じゃあ、負けたら罰ゲームっていうことで」

「そぉい!!」

「そうりゃああ!!」

さっきまでのほのぼのとした雰囲気はどこにいったのやら
お互い全力投球
お互いの身体能力と技術が許せるレベルのラリー
すなわち

遊びのレベルではない

「っしゃああああああああああああああ!!貰った!!」

「ちぃぃ!!やるじゃない!!」

一点リード!
このまま切り抜ける

「調子こいてんじゃないわよ!!」

「かかってきやがれ三下!!」

「何だか無駄に熱いね」

「それが罰ゲームのせいやなかったらかっこいいんやけどな~」

「駄目だよ、はやてちゃん。それを説明しなきゃ誤魔化せるかもしれないのに」

さぁ、次は俺のサーブだ!!
行くぞ!!

「慧君!得意料理は!?」

「生麦生米生卵!!」

「アリサちゃん!!もう一度聞くけど男の好みは!?」

「どこぞの螺旋○!!」

「それって早口言葉だよね!!」

「アリサちゃん!!さっきは馬鹿が嫌いって言ってたけど、熱血馬鹿は好きなんか!?」

「というかはやてちゃんになのはちゃん。脊髄反射で二人の集中を散らそうとするなんて…………………高町&風雷症候群の第二期に突入しちゃったのかな?」

「失礼な!風雷症候群の末期レベルに堕ちているすずかちゃんに言われたくないよ!!」

「褒め言葉だよ-----でも、なのはちゃんは貶し言葉で言ったから卓球殺ろうか」

「しまった!?墓穴を掘りぬけてしまったなの!!」

「なのはちゃん…………………リボンは拾うで」

「そこは本体を拾って欲しいなの~~~~~~~~~~~~~~~」

白熱していくバトル
ちなみに八神は

「な、何でや!!足が動かへん私が何故やらなきゃいけへんのや!!」

「はやてちゃん…………………自分の障害を理由にやらないっていうのは駄目だと桃子さんは思うの」

「せ、正論や…………………ここで慧君みたいに暴論を出してくれたら逃げれたのにここで正論…………………実はこのメンバーで一番酷いのは…………………」

「大丈夫よはやてちゃん-------足は美由希がやるから」

「ごめんね、はやて------私、まだ生きたいの」

「御神の剣士やのに家族を売るんかーーーーーーーーーー!!」

そこら中で発生する悲鳴

「父よ…………………今こそ超えさせてもらおう…………………!」

「はん!まだまだ青いな、恭也。その程度の啖呵しか言えないのなら、底が知れるぞ」

「言ってろ!父はいずれ息子に超えられる立場だ!!」

「確かにそれは認めよう------しかし!!桃子への愛は超えさせないぞ!!」

「それは心底どうでもいい!!」

「何だと!!?桃子への愛がどうでもいいだとぅ!!!」

「士郎さん。凄い自己完結だね」

そこら中で発生する修羅場



ああ
この場に平和的な解決を促そうとする者がいない…………………!



結果
風雷慧VSアリサ・バニングス
勝者 風雷慧

「かはは、傑作だぜ」

「…………………今度はぜ○りん?」

月村すずかVS高町なのは
勝者 月村すずか

「今度から相手を見ようね」

「確かすずかちゃんが無理矢理やらせてたよね!?」

高町桃子VS八神はやて
勝者 八神はやて

「あ、あれ?わ、私、勝ってい、る?」

「若い子は凄いわね~~」

高町士郎VS高町恭也
勝者 月村ファミリー(原因は最終的にラケットでの果し合いになり、仲裁したノエル&ファリン&忍に止められたため)

「ぐ、ぐふっ。ろ、ロケットパンチだと…………………」

「そんな漢のロマンを…………………避けられるわけないではないか…………………!」

「「…………………………申し訳ありません」」

「やっぱり、科学者は夢追い人じゃなきゃね☆」

色々とろくでもない結果だ
それにしても八神
やるな
まさか、足が動かない状態で高町母に勝つとは

「さ~て、運命の罰ゲームの時間だよ~。敗北者の皆さん」

「「「「くっ!!」」」」

「あらあら」

((((((…………………………この人には勝てない))))))

誰もが高町母に勝てない
そう改めて思わせる余裕の笑顔であった

「じゃあ、まずはアリサちゃんね」

「任された」

「ちぃ!何よ!今更怖いものなんてないわ!」

「(無視)そうだな…………………………ここは思い切ってバニングスのキャラを壊そう」

「は?」

「そのお嬢様キャラを捨てて、元のすずかみたいな清純キャラになれ」

「!!!何て理不尽な!私に自分を捨てろと申すか!!」

「アリサちゃん。既に壊れ始めてるよ。そして------まるで今の私は清純じゃないみたいな言い方をされたような気がしたような…………………」

「さぁ、とっととやろうか」

「う…………………わ、わかったわ…………わかったよ」

「おやおや、それだけではわからないな」

「くっ…………………わ、私は別に何もしてないよ(精一杯清純の振りをしている)」

「「「「「「「「「「……………………………………………………」」」」」」」」」」

「な、何かな?」

「…………………バニングス------すまない」

「な、何で今までにないくらいマジトーンで謝るの?」

「……………………………………………………ごめん」

思わず謝ってしまうくらいだった
キャラが立っていない
そう
あのバニングスのキャラがだ
謝る理由は十分だった

「さ、さて、次はなのはちゃんね」

「う、うん」

「じゃあ、ミノムシの物まねでもしてもらおうかな?」

「ミノムシの物まねってどうやるの!?」

「そこはなのはちゃんのイマジネーションで攻略だよ~」

「やったとしても恥辱プレイだよ!」

「な、なのはがそんな言葉を知っているだなんて……………………………………お父さん悲しい!」

「お父さんは黙ってて!!」

「ふぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「!なのはちゃん!あれだよ!!あの士郎さんの悶える姿!あれを真似たらいけるかも!!」

「そ、そんな!嫌だよ!!お父さんの物まねなんかしたら、なのは、変態扱いされちゃう!!」

「さり気なく酷いけどそこは無視するね。でも、罰ゲームを無視したら------スィートルーム逝きかもしれ------」

「私!頑張るよ!!」

「素直ななのはちゃんが私は一番好きだよ」

そこからは描写できない
ただ、言わせてもらおう
思わず八神が関西弁を投げ捨ててしまう出来事であったという事を

「…………………次は桃子さんね。はやてちゃん…………………さよなら」

「止めてぇな!!そんな今生の別れみたいなこと言わんといてーな!!」

「あらあら忍ちゃんは後で『お話』をしましょうか」

「恭也…………………ごめんね。私…………………帰れないよぉ…………………!」

「忍ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「…………………どないしょ」

「(にこにこ)」

「眩しい…………………!この笑顔が眩しい…………………!」

「あらあら、別に罰ゲーム的なものじゃなくていいのよ」

「え…………………そ、それなら」

「うん。何かしら?」

「お、お、お義母さんって…………………呼んでいいですか」

「喜んで」

「お、お義母さん…………………」

「ええ」

「…………………あれ?ホームドラマが展開されている?」

「はやて!俺の事はパーパと呼んでもいいのだぞ!!」

「じゃあ、俺の事はにーにか」

「じゃあ、私は----」

「は、恥ずかしいですよ!!」

「「家族だから恥ずかしくなどない!!」」

「…………………このセリフ。シリアスと取るか、ギャグと取るかで印象が変わるな」

「風雷、君。空気を読んだ方がいいわ…………………いいと思うよ。せっかくいい雰囲気なんだ…………………いい雰囲気なのに」

「どっちかと言うと必死に頑張るアリサちゃんが健気過ぎて顔を合わせられない」

「騙されちゃ駄目だよ、アリサちゃん。今、すずかちゃん。物凄い良い笑顔をしているから」

罰ゲームなのに意外と良い展開になる高町家

「さ~て♪最後は士郎さんと恭也ね」

「「くぅっ!!」」

「そうねぇ…………………いっそ逆にしてみよう。士郎さん-----なのはちゃんを嫌いって言ってください」

「な!!忍ちゃん…………………君は今、どれだけショッキングな事を言っているかわかっているのかい?」

「大丈夫です。私には何の影響もないので」

「泣くぞ。いい年したおじさんが物凄いマジトーンで泣くぞ。しかも、絵もマジになって泣くぞ。将来のお義父さんが本気で泣くぞ?」

「その苦しみは全て慧君にぶつけて下さい」

「あの悪魔小僧のせいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「んん?何だか殺気を感じるぞ」

「慧君。今のうちに遺言と生命保険に入っておいた方がいいと思うよ」

この後
俺は高町糞父に気絶されたので知らないが、罰ゲームを棄権した高町父は高町母のスィートルームに連れられたらしい
え?ここは高町家ではないではないかってか?
馬鹿だなぁ
あの人に常識が通じると思っていたのかい
ちなみに恭也さんの罰ゲームの内容を聞きたかったのだが、何故か聞かせてくれなかった
高町母曰く
大人の事情よらしい
よくわからんものだ

「………………………………………………………………………………あれ?私の出番は?」

頑張れ
高町姉
負けるな
高町姉
きっと、誰も貴女を応援していない

「ひど!!」
















あの後
結局その場の流れで流れ解散になった
俺は結局汗を流したのにかなりの汗がべたついた状態になってしまったので風呂に再び入ることにした
すずかに気づかれないように来るのは大変だった
女って怖い

「はぁ、まったく、最近は周りが騒々しい」

独り言を吐きながら、服を脱ぐ
ちなみに何故か俺の着替えは用意されていた
何でも高町母が俺のサイズにぴったしのを造っていたらしい
何時の間にサイズをしられたのだろうか
まぁ、あの人だからな
ある意味○EY作品の奥方たちにも負けない個性を有しているからな
何が出来てもおかしくはない


昔の妄言(高町家は魔窟と言ったこと)は皮肉でもなく事実だったのか…………………………


我ながら冒険をしているものである
いよいよ逃走の準備をしなくてはいけないかもしれない
などと考えながら風呂へのドアを開ける
がらりと音を響かせ
俺は中に入る
むわっとした湯気が顔に当たる
脱衣所でもそれとなく見たが、運がいい事に誰もいないらしい
日頃の行いのおかげだろう
ちゃんとゴミ掃除(八神退治)をしといたのがよかったのかもしれない
これならば、多少のマナー違反も免れるだろう
シャワーとかなら、卓球の前にしたのでただ風呂に入りたかっただけなのである
風呂は命の洗濯とはよく言ったものである
俺の今までの疲労も選択してくれそうだ
ここに無理やり連れられたという疲労は洗い流せそうにないが
まぁ、この風呂で二割ぐらい許してやろう
さぁ
風呂に入ろうぞ
と思っていたら


チャプと
風呂の水が揺れる音が



ありゃ
先客がいたのか
まぁ、別に脱衣所の中にある加護の中を全部覗いたわけではないので、もしかしたら、誰かがいるという可能性は十分にあった。
だから、別に驚くことではない
強いて言うなら
多少のマナー違反を見逃してくれる頭が柔らかいお客さんであることを祈りたい
いい加減
体の汗の感触が気持ち悪い
目を瞑ってもらおう

「すいません。入らせてもらい、ま、す?」

風が吹いた
そのお蔭でさっきまで薄ぼんやりとしか見えなかった相手の姿が見えるようになった
不幸にも
湯気が少し晴れた
その先には


美しい
金色の髪を持った
天使と見間違うぐらい
可愛らしい
少女が
裸で
お湯につかっていた



少女もこちらの存在に気づいていなかったのか
大きな瞳をパチクリと更に大きく開けている
その瞳は赤く
顔もお湯につかっているためにほんのり赤く染まっている
しかも、その顔はかなりの美少女
絵画レベルの神聖さを感じてしまう
まだ未成熟ながらも素晴らしいと言わざるを得ないだろう
そう
一つミスがあるとしたら
この場面を見ているのが芸術家、もしくは女の人ではなく
どこにでもいる男子小学生であることだろう
しかも、相手が既知の存在であることを言い訳を難しくしていることだろう

「え?ケ、イ?」

「………………………………………………………………………………いやいや、俺は慧などと言う名前ではありませんよ。マドモワゼルテスタロッサ」

「…………………………私の名前」

「……………………………………………………ジーザス」

何ていう初歩的なミスをしてしまったのだろう
我ながら最悪だ
意外と自分は困惑しているらしい
咄嗟の事態における思考の纏め方を修行することを次の課題にしておこうと心のメモに書きまくる
まだまだ修行が足りない
体も
心も
気力も
宿題は山ほどあるなぁ
そうやって下らない事を考えて現実逃避をしていると
テスタロッサは偶然か知らないが
自分の体を見る
そう
何の服も来ていない
生まれたままの姿を晒している自分を

「…………………………!!!!」

バッと体を両手で隠す
ボッと顔が赤く燃え上がる
しかし、悲しいかな
いくら小さくとも
どれだけ両手で体を隠そうとも
その細い両手では隠しきれないぐらい
体というのは大きなものなのだ
不幸中の幸いと言うべきか
湯より下の方は見えてなかったのが救いであった


NICE湯
NICE湯煙
お前たちは最高に空気を読んだぞ…………………!



バチィ!!
ん?
何だろう?
このスパーク音は?
まるで、そう
電気が弾けた音と言うべきか
静電気と言うべきか
そう言ったものが弾けたような音が聞こえた気が

「う、う、ううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「ま、待て待て、テスタロッサ!!一般人に魔法を使う気か!!うぉっ!幾何学的な紋様が…………………!そしてスパーク音が強烈に…………………!ちょっ、待て!ここが風呂場だぞ!!水が大量にある場所だぞ!!漏電なんか簡単に起こる場所だぞ!!そして、あれ!?確かここは男湯だったはずだぞ!!?そして、たかだか裸を見られたぐらいで、そこまで怒ることは-----」

「うぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

どうやら最後の言葉が止めだったようだ
テスタロッサを中心に雷が走る
勿論、ここは風呂場
水は風呂に入っているテスタロッサは当然
俺の足元も水で濡れている
つまりだ
雷は俺の元まで届く
これで俺がベストコンデション
つまり
いつもの調子であったら、逃げられただろう
上空に飛んで逃げることなど簡単だ
しかしだ
俺はつい、さっきまで
バニングスとやらと卓球をしていたのだ
疲労は結構ある
それがなくても長旅の疲れとやらが知らぬ間に体に蓄積されている
つまり
結局は
結論は一つ
時の流れとは残酷だという事だ

「しびればびれぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

俺の儚い悲鳴が世界に刻み込まれる
まさか俺がこんな二流のお笑い芸人みたいな悲鳴をあげるとは
世も末だ
そして
これが俺が初めて見て
初めて受けた魔法とは
子供たちの夢が壊されるね

そうして
俺の
意識は
闇に堕ちた
ギャグ的に
今回はこんなんばっかだ









あとがき
何だかすずかの性格が完璧に壊れています
作者もここまで壊れるとは思っていませんでした
え?
アルフとの遭遇シーンはって?
やだなぁ
あのアリサ・すずかメンバー相手にそんなことが出来るとお思いですか?
アルフは賢い獣です
恐らく
野生の本能で危機を察知したのでしょう
大したものです
え?
ユーノは?
血圧測定器に押しつぶされているでしょ
はっはっはっはっは
そういえば
皆さんに聞きたいことがあります
皆さんはこの作品でどういうところが笑えるのですか
是非とも知りたいです
出来れば、教えてください
今後の参考にしたいと思います





[27393] 第二十話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:25
ふと
地獄アカイ夢を見た
地獄の業火から逃れるすべはなく
罪の重みからは逃れず潰れる末路
己が声によって作られは消える悲鳴の合奏
事実
その場所は地獄であった
嘆きは嘆きでしかなく
祈りは祈りでしかなく
希望は希望でしかない
涙はただ流れ、枯れ果て、蒸発する
それらは絶望の先でしか生まれないのだから
根源が闇ならば
それらは闇に還るしかないのだから------
ああ
それは何て


虚しいクルシイ連鎖-----



救われない終わり
報われない終わり
地獄はこれらの結末を許容する
いや
もしかしたら、地獄でなくても世界そのものが許容してるのかもしれない
だから
この結末を
俺は一生記憶し、記録し続けなくてはいけない
忘れるな/忘れてはいけない
これが

■■■の罪なのだから

ふと
上を見てみる
そこにはとてつもない邪な気配
悪霊とはこういったものだろう
だが、正確にはソレは悪霊ではない
悪霊よりも数百倍の悪意の塊
ただ、人の魂を嗤いながら契約と言う名の強奪で奪い取る


悪魔なのだから



悪魔はただ嗤う
人の愚かさを
人の滑稽さを
人の迂闊さを
人の間抜けさを
ただ嗤う
三日月型に口を歪めて
心底愉快そうに










そして夢から覚める
目覚めは最悪
普段の何百倍の最悪さ
泥の中に沈み込んでもこの気持ち悪さは再現できないだろう
あの日以来
風雷慧の目覚めというのはこういうものになったのである
別にどうでもいい
それぐらいどうってことない
そんなことで堪えるほど、俺は弱くはない
ただ
少し寝苦しい
ここは余りにも狭い
少し広い場所に行こう
そう思い、布団を跳ね除ける
そこでようやく自分の状況を思い出す
そういえば、旅行に来ていたのであった
部屋が自分がいつも寝ている部屋よりも広い和室
そこら中に何故だか寝転がっている少女共
そういえば
寝る前に何故か俺の部屋はここだと伝えられたんだっけ
脱出を幾度も試みようとしたが
最終的にバニングスと相討ちになってそのまま気絶したんだっけ
あの拳
本当に素人なのか時々、疑問に思う
そして、今更気づいたが
何故か知らないが、すずかが俺のベッドに侵入してきていた
確か、最後の記憶ではすずかはもっと離れていたはずだが
寝ていたとはいえ、俺が気づかないとは

末恐ろしい子供だ…………………!


すずかの危険度レベルを三つぐらい上げとく
しかも、恐ろしい事に
この少女は俺の方に更ににじり寄ろうとしている
しかも!!

浴衣をはだけさせて…………………!


すずかの危険度レベルが右肩上がりだ
そろそろ命の危険レベルに達する
強くなろうと改めて誓う
そう下らない事を考えていたら気づいた
すずかはいる
バニングスはいる
八神はいる
高町は-----

高町はいない


「…………………ふぅん」

偶然とは恐ろしいものだと思う
まぁ、テスタロッサがいた時点でわかっていたが
それにしても
これは高町の幸運を褒め称えるべきか
高町の不運を嘆いてやるべきか
まぁ
どっちにしろ俺には関係ないが
とりあえず涼みに行こう
幸い
部屋にいるのはちびっ子達だけ
抜け出るのはたやすい
恭也さんや高町父、高町姉ならこうはいかなかった
最低な状況だったが
最悪な状況ではなかったというべきか
別に感謝はしないが
そうして
俺は部屋から抜け出た















何とかして屋上に上がる
山の上だからか、いつもより星空が見え、近い気がする
更には悪くはない風が吹く
これでいい女といいお酒があれば良しと大人の人は言うのだろうか
俺にはあんまりわからないが
この自然だけで十分だからだろうか
欲がない…………………何て解脱した仏僧みたいな事は死んでも言わないけど
単純に自分が子供だからだろう
どうでもいいことだけど
それにしても
海鳴も都会と言うわけではないけど
こういう山奥の風もいい
星空もいつもより綺麗だし
それにほら
何だか金色の光が流れ星みたいに落ちてくるよ
ははは、素晴らしいね~
……………………………………………………

「って、星落シぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

思わず叫ぶ
くっ
ほ、星が落ちてきたとき、一体どこまで逃げればいいのだろうか?
そんなこと
WIKIPED○Aにも載ってないぞ!!
あああああああああああ
どうする、○イフル!!

「え、え~と、ケイ。私だよ?」

「くっ!遂に幻聴まで聞こえたか!それとも走馬灯か!?どっちにしろBADエンド確実ではないか!!」

「お、落ち着いて……………」

「大体、俺の脳は一体どういう風に考えたら星が喋るって考えられるんだ!我が脳みそながら物凄く凄いぜ!流石は俺!世界を狙える頭脳だね」

「け、ケイ~。落ち着いて~」

「ええい!さっきから物凄い甘ったるいボイスで囁きよって!!俺の心がそこまで落ちぶれていたのか!!」

「ど、どうしよう…………………」

「しかも、さっきから聞き覚えのある声。これは…………………風呂場で聞いたよう-----」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!推定二十万ボルト、とととととととととととととととととととととととととととととと!!!」

電気ショックを受けるのは初めて…………………とは言えないのが残念である
月村姉に感謝する気はないが電気体勢を付けてくれたことは助かった
じゃなきゃ、今ここで儚き命を散らしていたかもしれない


















「何だ、テスタロッサか。どうした?こんな時間に?」

「…………………地球の人って凄いんだね。魔法を喰らって直ぐに回復できるだなんて」

「なぁに。この場所で生きるにはこのスキルは必須スキルだよ。誇ることではない」

「わぁ!凄い!!」

わぁ
物凄いキラキラした目で見られている…………………
良心が
良心が痛む…………………!
や、止めろ!
見るな…………………!
そんな目で俺を見るな!

「??どうしたの、ケイ?」

「いや、何でもない。人の業の深さを改めて知っただけだ」

「????」

子犬みたいに首を傾げる
まったく、困ったもんだ
やり辛いというか
からかい辛いというか
その分からかい甲斐はあるのだが

「で、どうしたんだ?」

「え、あ、うん。この宿の傍でジュエルシードを見つけたの」

「なるほど。それで?」

「うん。それで、さっき、白いバリアジャケットを着た魔導師と戦って、ジュエルシードを一つ奪った」

「ほう、それは幸先がいいな」

「うん-----このまま万事上手くいくといいんだけど」

「それは誰もが思う初歩的な願望だよ」

「うん。そうだね」

そう言い
彼女は微笑み、俺の隣に座る
これが八神や高町ならとりあえずしばいているが、まぁ、テスタロッサだからなぁ

「…………………ごめんね」

「?何が?」

「だって、その…………………………友達なんでしょう」

「……………………………………………………友達かどうかは別として、何で知っているかっていうのは聞くまでもないか」

そりゃぁ、あんだけこの宿で一緒にいたら、嫌でも気づく

「うん。ごめんね」

「お前が謝ることじゃあないだろ」

「でも…………………ケイの知り合いを傷つけた」

「俺に謝ることじゃあないだろう」

「……………………………………………………」

はぁ
まったく真面目な事
それじゃあ、生き辛いだけだろうに
少しは人生手を抜いたほうが楽だという事は解っていることだろうに
それでも止めれないのがテスタロッサらしいというか
何というか
はぁ
本当に
かったりぃ

ポンと子気味良い音を鳴らして
彼女の頭に手を乗せた

「け、ケケケケケケケ、ケイ!!?」

「テスタロッサ。気をつけろ。その言い方ではまるで物凄い笑い方をしている怖い子供だ」

「え!?あ、う、うんうん!!」

「無駄に元気なうんだな…………………」

「いや、だって!」

「初心だねぇ…………………」

初期のすずかを思い出してしまったよ
何故、今みたいに汚れてしまったのか

……………………………………………………………………………………………………………………………………

あら、やだ
涙が流れてきそうだよ

「け、ケイ!どうしたの?そんな顔を押さえて…………………」

「ああ、すまない。つい、心の汗を流してしまいそうになって」

「た、大変なんだね…………………」

「そうだとも」

おっと
話がそれてしまった
我ながら悪い癖である
別に治す気は全くないが

「やりたいことがあるんだろう?」

「え?」

「自分が傷ついてでも、相手が傷ついてでも、成し遂げたい何かがあるんだろう?」

「……………………………………………………」

「それなのに、お前はこんなことで諦めるのか。良心が咎めたから。手伝ってもらっている人の知り合いを傷つけたくないから。そんなことで諦めてしまう程お前の意志は薄っぺらいのか?」

「!違う!!」

「そら見ろ」

「あ…………………」

それが答え
例えどれだけ傷つけられても
例え何を傷つけようとも
自分がすることは変わらない
言っていることは単純かもしれない
しかし
それを実行するのがどれだけ大変か
現代を生きている人間なら誰でも知っていることだろう
言うは易く行うは難し
まさしくその通りだ
実体験している自分がそれを言うのだから間違いない
だから
俺はこういう馬鹿は好きだ

「いいか、テスタロッサ。世の中に完璧に正しい選択があると思うか」

「それは…………………」

「ないだろう?」

「…………………………」

「宗教家の皆さんがありがたいことに唱えている残念な神様とやらはそんな楽な抜け道は作ってくれなかったという事さ」

「…………………………」

「じゃあ-----一番楽な選択肢は何だと思う?」

「…………………………わかんない?」

「答えは簡単----『停止』していることだ」

そう
何もしなかったらいいのだ
そうすれば何も辛い事はないし
何も苦しい事もないし
何も悩む必要もない
ある意味、最高の抜け穴だ
抜け道は作らなかったくせに
抜け穴は作っておくとは
神とかいうクソヤロウは狡猾なもんだ
誰だって、楽なのが一番なのだから
でも-----

「でもさ。俺達人間の中には一番楽な方法があるとわかっても、それを選ばない馬鹿な奴がいるんだよ」

「…………………………」

「で、テスタロッサはどれなのかな?」

「楽な方法を選ぶ賢い人間かな?それとも-----」

「決まってるよ」

そこで彼女は笑顔を浮かべた
さっきの苦笑ではなく
凛々しい笑顔であった
良い笑顔だ
さっきまでの少女の顔ではなく
戦う覚悟を決めた戦士の顔だ
まったく-----
女の子の成長は早いものだ-----













「ん。じゃあ、それで良し」

そう言って彼は頭に載せていた手を退けた
少し
残念だと思った
何でかはわからないけど
ただ、温かいのが離れたのが残念だった
彼は私を慰めている間も無表情だった
言葉だけは感情が籠っているように聞こえるけど
その顔には何も映っていなかった
その瞳にも
一体
彼は何を見ているのだろうか
その空ろな瞳は
何を見つめているのだろうか-----

「どうした?」

「え?あ、ううん。何でもないよ」

つい、彼の横顔を覗き込んでしまった
ちょっと反省
人の顔を睨むのはマナー違反だと思うから
そこまで、考えて思い出した
何で、私がここにいるのかを
ジュエルシードを取りに来たのが、この場所に来た理由だけど
ケイの所に来た理由は-----

「ねぇ、ケイ?」

「何だ?」

「何かあった?」

「…………………………さぁ?気のせいじゃないか?」


…………………本当かな?

残念な事に
フェイトとこの無表情の少年の付き合いはまだ短い
いつものメンバーで特に勘の強いすずか・アリサ・はやてなら気づけたかもしれない(というかなのは以外のほとんどか)
それは嘘だと
皮肉な事に
彼が一番多用し、頼りにしている、言葉こそが彼の感情を知る手段なのだ
まさしく傑作だ

「そう…………………なら良いんだけど」

「ああ-----そろそろもうお子様は眠る時間だ。早く帰った方がいい」

「もう、ケイも同じ年でしょ」

「精神が違うのだよ」

「…………………そうなのかな?」

「そういうことにしておけ」


納得はいかなかったが、確かに休養は必要だ
ジュエルシードの監視に
魔道士との戦い
それに封印
並みの魔導師ならとうの昔に倒れているぐらいの作業をこなしたのだ
自分の才能でそれらを補っているとはいえ、体は疲労を欲しているのがよくわかる
それに
さっきからアルフから念話が来ている
そろそろ帰らないとアルフが寂しがるだろう

「うん。じゃあ、また」

「ああ、またな」

それを聞いてふと思った

そういえば…………………
私、またって…………………

それは何気ない発見だった
それを
私は
何と思ったのだろう-----
今は
胸にしまって

「待てい!!いくら夜中だからだって、空を飛ぶのは問題だと思うぞ!!」

「はっ!」

状況まで胸にしまってしまっていたフェイトであった
ちなみに結界も張っていない
手にある相棒が少しチカチカ光っていた
まるで呆れたように















結局
あのまま黄昏る気分ではなくなったので部屋に戻る
すると

がちゃりとドアを開けると
そこには



魔人すずかが立っていた




見ればバニングスや八神がガタガタ震えながら寝た振りをしている


一体何が合ったらこんな超進化を…………………?


「ねぇ、慧君-----イッタイドコニイッテイタノカナ?」

「やだなぁ、すずかさん。言葉がカタカナになっているし、君の良心の欠片であるカチューシャが真っ黒に何故か色が変わっているぞ」

「ハハハハハハハハハハ、ナノハチャントドコニイッテイタノカナ?」

「おいおい、何を言っ-----」

気づいた

気づいてしまった


そういえば高町は姿を消していたという事を・・・・・・・・・・・・・


そしてその後に俺も屋上に上がった
そしてすずかの妄想力は伊達ではない
伊達であって欲しかった
そうなると結論は一つ


Q,夜中に男女がいなくなったら貴方はどう思いますか?特に妄想癖があるかた
A,答えは貴方の心の中に


「うん。そうだね…………………今までが私らしくなかった」

「待て、すずか。いきなり悟りを開くな。こういう場面で開かれた悟りというのは大抵がろくでもないということを俺は知っている」

「こうなったら------XXX版に移行する覚悟を…………………!」

「貴様!小学生の癖に何て覚悟を持つのだ!!」

「愛だよ!!愛が私にそうさせた!!」

「しっかりしろ!お前のキャッチコピーは清純系のお嬢様だろう!?」

「そんなもの!とうの昔に廃棄されたよ!!」

「廃棄するなよ!!くそっ!これがゆとり教育の弊害か…………………!」

「「いやいや!!違うでしょ(やろ)!!!」」

「馬鹿め!!引っ掛かったな!!」

「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!寝たふりしてやり過ごす作戦が台無しやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「己、風雷!!わざとツッコミ所満載のセリフを言って私達の気を引くなんて!!策士!!えげつないくらいの卑怯な策士…………………!天は何故こいつにこんな狡賢い才能を与えたのよ!!」

「それが○元突破!!それが------」

「それ以上の狼藉は許せんで!!」

「慧君、無駄だよ!!ネタに走って逃げようだなんて、無意味どころか無価値のレベルの逃走だよ!!」

「馬鹿な!?古今東西、ネタに走るのは最強の逃亡手段なのに!!」

「それを何故超えたかって?そんなの決まっているよ-----私のレベルは既に大魔王クラス!」

「大魔王から逃げられない!?」

「ルー○も効かない…………………まさしく逃走不可能の絶体絶命、背水の陣ってやつね…………………」

「さぁ、どうするんや、慧君…………………!」

「こうなったら、一か八かの最後の賭けだ!!」

「ふっ、一体何をするというの?」

「帰って寝る。今日はもうしんどい」

「だーめ❤」

その後
帰ってきた高町なのはが見たものは
みんなの命から溢れたアカイ水で散らばっている惨劇の劇場であった
何が合ったのか


何故かみんな壁にめり込んでいたり

天井に足からめり込んでいたり

床に愉快な刺さり方をしていたり

布団と座布団に埋もれて見えなかったり


非情にツッコミ所満載の対処できない事態であった
さっきまで自分がシリアスに戦っていたのがあほらしくなる光景だった
とりあえず
ド○えもんみたいにあの中で寝ようと思った










あとがき
夢の話は若干TYPEMOONぽくなってしまいました
これからも回想とかこういうのはそんなものになってしまうかもしれません
バトルシーンはまだか…………………!



[27393] 第二十一話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:25
々俺はこう思う
神とかいうクソヤロウはいるのではないかと
最も
神は神でも

「慧君!!それをこっちに…………………!それは危ないものだから…………………!」

「ケ…………………それをこちらに渡して…………………渡してください!」


疫病神という名の神だが


お互い知り合い
一人は高町なのは
高町症候群の発生源で、ボケとツッコミは一般レベルでどちらかというと弄られキャラ
栗色の髪のツインテールが特徴的でいつもニコニコ笑っている
彼の家は物凄い親馬鹿と凄い奥さんと
頼りになる兄と………………………………………………………………………ああ、姉が一人
そんな家庭で育ったからか
本人は物凄くお人好しのお馬鹿さんで
名前で呼んでくれなかったら逆切れする困ったさんである
そして高町母の遺伝を受け継いでいるからか、客観的に見ればかなりの美少女であろう
俺は別にどうでもいいが
それが今は何故か
変てこな服を着て
変てこな杖を構えてる
変てこな獣を付き従えている


人とは変わるものだな…………………


万物は流転する
その事をしっかりと胸に刻んだ
そしてもう一人は
チラリとそちらを向く

こちらは金髪でしかし高町と同じツインテールの髪型にしている女の子
フェイト・テスタロッサ
こちらもまた別ベクトルでの美少女で
しかも、かなりの天然さん
究極のボケ殺しだ
何でも別世界から来た魔法使いらしく
今はこの海鳴市に落ちてきたジュエルシードとかいうのを探している
詳しい理由は知らないが
とりあえず、俺はそれを手伝っている
理由は至って簡単
そんな危険物がある街ではおちおち眠ってられないからだ
本当は敬語は禁止しているのだが
聡い子だ
俺が友人を裏切っているように見せたくはないのだろう
無駄なくらい聡い子だ
とまぁ
現実逃避はここまでにして
どうしてこうなったか
といっても
話は簡単だし
本当にただの偶然なのだが
単純に

学校終わる

家に帰ろうとする

近くの公園を通る

おや、何だか見たことがあるような青い石が

OK。これはテスタロッサに持って行ってやらなければ

それを取ろうとする

すると、あら不思議。何故だか二人がほとんど同時に現れたではないですか

そして現状


クソ神様は絶対俺の事を嫌っているだろう…………………!


別に好かれたくもないが
まったく、傑作な事だ
さて、この現状をどうするか
と思っていたら

「じゃあ-----勝った方がケ…………………その人からジュエルシードを貰うという事にしよう」

テスタロッサが提案した
成程
確かに勝った方がそういうのを制するのは昔からよくある手法
何より、俺が困らない
流石、テスタロッサ
頭がいい
一方、高町は

「え?慧君から無理矢理奪えば…………………ううん。それでいこう!!」

今度は体育館倉庫に閉じ込めておこうと決心する
今更良い子ぶりやがって
お前の本性は完全な黒色だ

「慧君。後で全力全開の魔法を受けてもらうの」

「高町如きが俺に当てれるとは思わないね」

人の心を勝手に読みやがって
プライバシーというのがないのか

『『DEVICE FORM』』

お互いの杖?が形を変える
子供の夢のような杖だなぁと他人事のように思い
そして

「「やぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

お互い殴りかかった


……………………………………………………テスタロッサはわかるが、高町。お前は遠距離専門の砲撃魔術師ではなかったのではないですかい?


これが戦闘民族
高町家の血筋か
そうまたもや他人事のように思っていたら

「ストップだ!!此処での戦闘は危険過ぎがっ!!」

何だか憐れな乱入者が二人の攻撃を止めていた

…………………自身の体を張って

大したチビだ
ある意味尊敬に値する

「「あれ???」」

ガールズの反応は薄い
どけてやろうよ
その武器

「ぐっ………………僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。この場にいる全員は速やかにデバイスを収めるように。そして-----詳しい事情を聴かせて貰おうか」

おお
仕切り直すか
これは完璧なまじめ人間かな?

「…………………時空管理局」

「執務官だって!!」

高町の所にいる獣と
テスタロッサの所の獣が何故か人語で話す
いつからこの世界はテレビの中になってしまったのか
マヨ○カテレビじゃああるまいし

「フェイト!!撤退するよ!!」

おや
人間というか獣の姿も持った存在と言うものだったのか
さっきの明らか保健所送りの狼っぽい動物の姿はなく
勝気なお姉さんぽい赤毛の女性が魔法を放っていた
ある意味初めて見た魔法
でも、素人目だが
何だか、そこまで怖くはなかった
確かにあの連続で出てくる魔力弾
リロードなど無しに出来るのだから捕まったら怖いが
逆に言えば当たらなければどうってことない
何せ弾丸のスピードは銃弾のそれに遥かに劣っているからだ
速いは速いけど
避けきれないという事はない
現に
急に現れた黒いチビは
危なげなく躱し
そして
密かに俺のジュエルシードを盗ろうとして迫ってきたテスタロッサに
魔力弾を放った

「「「「!!!!」」」」

驚きは四者
一人はテスタロッサ
まさか自身の使い魔の攻撃をこうも簡単に避けてその上攻撃したことに
一人はアルフ
躱されたこともだが、それよりも自分の大切な主人が攻撃されるという事実に
一人は高町
いきなり現れた男の子もそうだが、何よりも自分が話したいと思っている少女に何の躊躇もなく攻撃をしたことに
一人はユーノ
彼はただ、ようやく時空管理局が来てくれたという事に
そして四人は理解していた
その攻撃がフェイトに当たるという事を
なまじ魔法を理解しているせいで
当の本人は反射的にその攻撃に耐えるために身を縮めている
だが


その衝撃は起きなかった
何故なら



攻撃が当たりそうなテスタロッサを
無理矢理俺が引っ張ったからだ




「「「「「!!!!!」」」」」


今度の驚きは俺以外の全員
別に俺は瞬間移動をしたとかいう夢溢れるような行為をしたわけでもない
さっきも言ったように
テスタロッサは俺が持っているジュエルシードを奪おうとして、こちらに近づいてきていた
本当なら俺達は協力関係にあるのだが
さっきも言ったように気を使ったのだろう
俺が自分と関わりなど持っていないと証明するために
故にだ
それ故に近づいていたため
躱させるのは簡単だった
そして

「うわ~。何時の間にか俺が持っていた奇妙な青い石が持って行かれた~(棒読み)」

「「「「「!!!!!」」」」」

テスタロッサに俺の持っていたジュエルシードを渡すことにも成功した
俺の完璧な演技力の前ではこれでは盗られたようにしか見えないだろう
俺は自他ともに認める非力な子供なのだから

「はっ!ツッコミ所の気配…………………!」

高町の戯言は無視した
後は

(テスタロッサ。どうでもいいから、速く逃げろ)

(!!で、でも!)

小声で彼女の撤退を促すのみ
とは言っても
流石はテスタロッサ
俺の知り合いにも負けず劣らずのお人好し
こんな場面でも俺を見捨てようとはしない
昔の侍とかでもここまで義理堅くないだろう
だが

この場面では逃げてくれなくては困るのだ

逃げていてくれないと不審に繋がるからだ


(いいから。俺を信じろ)

言っていて何だが
超恥ずかしい
何だその『俺を信じろ』は
熱血物の主人公ですか
イタイ子のセリフです
正直これで騙されてくれる子なんて-----

(!!わかった!信じる)

目の前の子しかいないに決まっているじゃないか

「アルフ!!」

「わかったよ!!」

二人は急ぎ、一か所に集まろうとした

「待て!!」

黒いチビは魔力弾を放って止めようとしたが、そこに

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

高町が飛び込んだ

「なっ!」

いきなり射線上に飛び込んできた女の子に驚き、急遽動きを止めた
それ故にテスタロッサの動きを止めれなかった
そして、二人の姿はどこかに消えた

「くっ」

黒いのは悔しそうに呻いたが、直ぐに
何故か空間にモニターぽいのが出てきた
もう俺の知っている常識はインフレを起こしまくりだ
別にどうでもいいけど

「すいません。艦長。逃がしてしまいました」

「仕方ないわ、あの状況なら。とりあえずそこにいる人たちを連れてきてくれないかしら。事情聴取をしたいから」

「わかりました」

なるほど
高町は連れて行かれるのか
ざまぁ、見ろ
そう思っていたら

「では-----三人とも付いてきてくれないかな?」

……………………………………………………………………………………………………………………………………
ん?

三人とも?
おかしいな
まるで、俺が人数に入っているみたいだ
ああ、そうか
自分も数に入れているのか
ちょっとしたボケか
なるほど、なるほど

「そこの無表情な君。君もだぞ」

現実逃避は許されなかった














「わぁ~。凄い~。まるでファンタジーの世界に迷い込んだみたいなの」

「というか俺達は今、魔法技術ってよりは科学技術が発達した世界に迷い込んでいるんじゃないか?」

「…………………なのははわかるけど慧は全然混乱していないね」

「一々混乱していたら面倒なだけだからだ、スクライア」

俺達は今
高町が言ったようにファンタジーの世界に迷い込んでいる
あの黒いのに無理矢理
そう
無理矢理連れてこられた先が何と戦艦の中なのである
しかも、外は何だかわからない空間
これからはどう足掻いても魔法とは結びつきそうで結びつかない気がする
まぁ、卓越した科学は魔法と見分けがつかないとも言うから別にいいか
そもそも
俺はここではおまけ扱いだ
近くにいたからここに連れられてきたというだけだろう
ちなみに
さっき、このユーノ。スクライアとかいう金髪少年が人間に戻ったことで少しハプニングが起きたのは言うまでもないだろう
ああ
金髪が赤色に染まっていく光景は中々壮観だった
誰がヤッたかは言うまでもないだろう
何せ
女の聖域を覗いたなのだ
それはともかく
一瞬
テスタロッサとの関係がばれたかと思考する
可能性は零ではないと思うが、多分違うと思う
それならば、俺は今頃独房行きだろう
高町には彼は一般人だから、違うところに転移しているとか言えばいいだけだ
高町は究極の馬鹿ではないが、人の言葉をあんまり疑わないから直ぐに信じるだろう
もう少し
すずかやバニングスや八神のように少しは疑ったほうがいいと思う
まぁ、別にどうでもいいけど

「連れてきました、艦長」

そう言ながら中に入るクロノ・ハラオウンとかいう名前からして黒いの

「あら、ありがとう、クロノ」

そうやって俺達も入っていくと


そこは何故か純和風の部屋だった


……………………………………………………何でさ


意味が解らん
何故、異世界の艦隊の中の一室に地球のしかも日本の文化があるのだ
余りにも違うコンセプトが衝突している
見れば、高町もそうみたいで少し困惑している
初めて、高町がまともだと思えた瞬間だった
そこからはここまでの経緯をスクライアが話す番であった
俺もその話は初耳なのでほんの少しだけ興味深かった
なるほどねぇ
どうやら、スクライアもテスタロッサに負けずとも劣らずなぐらい生真面目な性格らしい
その割には女風呂を覗いているけど
バニングスとすずかに知られたら終わりだな

「なるほど、スクライア一族から聞いてはいたけど、そんなことが………」

「………それで、僕が回収しようと」

「立派だわ」

「だけど、同時に無謀でもある」

スクライアが少し呻き
高町は反論しようとしたが結局何も言えなかった
まぁ、正論ですからな
強いて言うなら
立派な行為っていうのは大抵が無謀の行為だろうとおもうぐらいだ
言う程でもないけど
それからは時空管理局という組織について、ロストロギアというものについての説明があった。
ロストロギアとは進化し過ぎた文明の危険な遺産。使用法によっては世界どころか次元空間さえ滅ぼしかねない危険な技術であるとか。
そういった危険物の封印と保管をするのが管理局の仕事の一つでもあるとか。
丸っきりファンタジーの話だ
ジュエルシードもその内の一つらしい
詳しい理屈は理解できないが解ることはただ一つ
どっちにしろろくでもない物だという事だ
世界の危機とやらがあんな小さなもので発生するとは
世も末だな
別にどうでもいいけど

「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」

「君達は今回の事は忘れて、そえぞれの世界に戻って元通りの世界に戻るといい」

最終的にこう締められた
まぁ、妥当なところだ
高町やスクライアは不満そうだったが、仕方ない事だ
餅は餅屋
こういうのはプロの仕事だ

「でも、それは!」

「次元干渉に関わる事件なんだ。民間人が出る話じゃない」

そうそう
それが正しい
これにて一件落着

「まあ、急に言われても気持ちの整理も出来ないでしょう? 一度家に帰って、今晩ゆっくり三人で話し合うといいわ。その上で、改めてお話ししましょう」

このセリフがなければ

……………………………………………………………………………………………………………………………………
はぁ
はいはい、そうですか
そういうことですか
これが人間の業というやつですか
まぁ
別にどうでもいいんだけど

「それで----そこの男の子もいいわよね?」

急に俺の方に話が向けられた
他のメンバーもこちらに視線を向けられていく
ええ
全くもってその通り
不満などないですよ
だから、俺は堂々と言った


「ええ。遠慮なく高町を使い潰してください。女狐艦長」















瞬間
周りの空間が凍った
さっきまでの和やかではないが、それでも少しは緩かった空気が
一瞬で張りつめた
原因は言うまでもなく目の前の無表情の少年の言葉
一瞬
理解できなかったのか
キョトンとした顔をしていたクロノはようやく言葉の意味を理解し

「貴様…………………!かあ………艦長に何て事を…………………!」

怒って彼の襟首を掴もうとした
それをエイミィが止めた

「離せ!エイミィ!!」

「ちょ!クロノ君!気持ちはわかるけど落ち着こうよ!!」

エイミィに感謝する
私はそのままこの状況を起こした少年に問いかけた

「どういう意味かしら?事によっては私も怒らざるを得ないのですが」

「はて?俺は真実を言っただけですが?貴方達に怒られるようなことなど一切していませんが?」

「私もそのようなことをした覚えはありませんが」

「はっはっは-----白々しい」

少年は笑い声を出し
途端に冷たい声を出す
それでも-----彼の表情は変わることはなかった
笑い顔にも
怒った顔にも

「け、慧君。いくらなんでも…………………言い過ぎだよぉ」

「そ、そうだよ。幾らなんでも言い過ぎだよ」

「おやおや。今回は遺憾ながらも君達を擁護しているのだぞ。高町、スクライア」

「「え?」」

二人はクロノと同じでキョトンとした顔になった
それに無表情の少年-----慧君は溜息をついた

「やれやれ。だから毎回言っているだろう-----お前はもう少しだけ他人を疑う事を覚えた方がいいと。それでは何時か詐欺に会うぞ。まぁ、あの家族なら大丈夫な気がするがね」

「ど、どういうこと」

「はぁ、まぁ、いい。そこの女狐艦長はどうやら自分から言う気もなさそうなので、こちらかたその守りを崩さなければ言わないか」

「…………………………だから、何の事かしら?」

私は
この時
この少年に
本当に恐怖を抱いた
今まで
戦いや会談
そういった中で仕事をしてきた私が
ただの無表情な少年に恐怖を抱いた
暴かれる
そう思った
隠していた自身の黒い所が

「さっきもそこの黒いのが言ったようにこのロストロギアとかいうのは一般人つまり素人が出るものではない。そこまではわかるな?国語系は絶望的な高町君?」

「喧嘩売っているなの!!?」

「なのは!落ち着いて!」


「良い反応よろしい。まぁ、俺達、地球で言うなら素人の喧嘩流を覚えている人間が凶悪な殺人犯を追いかけるようなものだ」

「うん。とてもわかりやすいなの」

「じゃあ、聞こうか。もし高町。お前がベテランな警官でそういった殺人犯を追いかけている時にそういう素人が俺も捜査を手伝う!とか言われたらどうする?」

「え?そんなの危ないからって言って誠意を持って諦めさせるしか」

「その通り。たかだか喧嘩の仕方を知っているだけでは無謀なだけだ。むしろ、半端な力は余計に危ないだけだ」

「うん、でも-----それとこれがどういった繋がりを?」

「廊下で立っていろ」

「何でなのーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「じゃあ、そこの優等生っぽいスクライア君。わかるかい」

「…………………うん、わかったよ」

「え?何なの?」

「お前は進学できないな。もう一度一年生からやり直せ」

「失礼な!!」

「じゃあ、聞くが-----そういった素人である高町に何故、考えさせる必要がある」

「---------あ」

「そうだ。お前はどういった強さを持っているか、俺は知らないがそれでも強い方、何だよな?」

「うん、なのはの魔力量は管理局でもトップクラスだと思うよ。後は経験とか技術を学べば最高クラスになれると思うよ」

「へえ、この高町が…………………腐っても戦闘民族、高町家の一員だな」

「後でお母さんに言っとくなの」

「勘弁してください」

……………………………………………………
私は何も言えなかった

「…………………さっきから聞いていたらぬけぬけとそんなことを…………………!一体何を根拠に!!」

「だから、今言っているではないか。素人の高町を考えさせて何をさせようと言うんだい」

「それは…………………彼女も少なからずはこの事件に関わったのだ。気持ちの整理とかが必要だろ------」

「零点。死者が出るような現場に感傷を持ち込むなよ」

「っ!!」

「気持ちの整理?はっ、普通そんなものにお前らみたいなものが構っている余裕なんてないだろうが。それはお前らの仕事じゃねぇ」

ズバズバとこちらの痛い所だけを狙ってくる
この少年は何者だ

「話が逸れたな。何処まで話したか…………ああ、確か素人の高町に何をさせようという話だったか。そんなの言うまでもないわな-----ようは使い捨ての駒になれということだろう」

「え…………………」

「!!ち-----」

「ほう、何が違うんだい?いくら魔力とやら強いとはいえ何の訓練も受けていないただの小学生。しかも、運動神経は可哀想。更にお人好し。そんな奴に話し合ってください?そんなものはとっとと戦う決意をして私の下に来なさいと言っているのと同義だ。今更善人面をしても無駄だと気づけよ、女狐艦長」

「!!貴様!!これ以上母さんに何か言ってみろ!!」

「何が起こるのだ?法の番人さん?まさか、正義の味方が無力な一般市民に攻撃などはしないだろうね?」

「っ!!」

思わずデバイスを取り出そうとしていたクロノはその一言で止まった
無理もない
今、言われたことがそれがクロノの行動原理なのだから

「正義。これほど万人に愛される言葉はないだろうな。そしてこれほど万人に嫌われる言葉はないだろうね。」

「…………………どういう意味だ」

「簡単だ。正義なんてこの世のどこにでもあってどこにでもないからさ。だから好かれて嫌われるのさ」

「…………………意味が、わからない」

「例えばだ。今みたいに俺はお前たちを糾弾している。そっちからしたら俺は悪の見本だろうね。で、そっちは正義側」

「…………………………」

「しかしだ。逆に考えよう-----俺の視点からすれば俺は高町を擁護している正義側だぞ」

「…………………………それがどうした」

「そう、お前は聡いな。この世は矛盾だらけ。自身がただ一人の正義かと思えば実は相手も正義。勿論、例外はあるがな。そして面白い事にこのまま行けば正義の共食いだ・・・・・・・・。はっ、神様とか言うクソヤロウはろくでもないルールを作ったものだなぁ」

「…………………………君は何が言いたいんだ」

「ただの戯言さ」

そう言って彼は一度大きく息を吸い、吐く
そして

「まぁ、結論を言うぞ、高町」

「え、あ、う、うん」

「結論を言えばこの女狐艦長はお前を味方に引き込みたかったわけさ。そちらの意志で。立場上、自分から一般人に頼めるわけでもないからな。お前から来ましたと言えば言い訳の方は簡単だろう。そして自分は従順に協力してくれて尚且つ強力な味方を得れるというわけだ」

「…………………うん、わかった」

私は
何の否定も出来なかった
確かにそうなってくれたらという思いがあったことは否定できない
管理局は人員不足なうえに実力不足なのだから
彼女のような魔力量が多く、正義感が強い少女は正に逸材だ
喉から手が出るほど欲しい人材だ
だから
きっと、私は意識的ではなくとも無意識的にあんなあくどい事をしてしまったのだろう
クロノは今でも怒っているみたいだが
正しいのは彼だ
だから
今から拒絶さ-----

「そうか。じゃあ、後は好きにしろ」

「「「「「……………………………………………………はぁ!?」」」」」

「何だ、いきなり。急に仲良くなりやがって」

「え、いや!だって!そこは何が何でも私を止めるシーンではないの!?」

「は?何で俺が高町を止めなきゃいけないんだ。そんな場面は月が落ちてきても起きないから安心しろ」

「地球に未曽有の危機が起きるレベルでも慧君は私を止めないの!!?」

「ええい、黙れ、うるさい、しゃべるな。お前に人語を話す権利を与えた覚えはない。というか息を吸うな。地球温暖化の原因が」

「ひど!ひど!ひど!ひど!ひど!ひど!ひど!ひど!ひど!そして地球温暖化の原因は私だけの責任じゃないよね!?」

「落ち着いてなのは!!いつもここからなのははみんなにやられているんだよ!!」

「頭が理解しても体が止まらないの!!」

「そうなるように俺たちみんなでお前を調教したからなーーーー長かった」

「実は慧君の存在自体がロストロギアとかいう不可思議存在じゃないなの!?というかアリサちゃん!!すずかちゃん!!はやてちゃん!!裏切ったなのーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「みんなはお前に期待していると言っていたぞ」

「え、本当?---------それって事実上の殺人許可?」

「残念ながら-------あの連中はみんな人間を止めている」

「慧君もね」

「読者の皆さんに聞いてみたまえ。みんなは喜んで俺を支持してくれるだろう人間の。ヒーローだと」

「読者のみなさーーーーーん!!騙されてはいけないなの!!慧君は人間と言う種族に分類されるような真っ当な生物ではないなの!!」

「お前にだけは言われたくないな。エセ魔法使い」

「私は皆が認める魔法少女なの!!」

「魔法少女っていうのは何の遠慮もなく人を殴り殺そうとするものなのかね」

「ななななななんの事かなあ?」

「確か非殺傷設定とかいうのがあるらしいが-----杖で殴ったらお終いだろうなぁ」

「け、慧君だって!お爺さんとの喧嘩の時、何時も凶器を出すじゃない!!」

「あれは類人猿だ人間ではないから。凶器を使ってもOKだ。むしろ凶器を使うのが正しいのだ」

「言い訳なのーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「近所迷惑だ」

「ちょ、ちょっと待って!」

いきなり漫才をし始めた二人を何とかして止める
というか無理矢理止めさせてもらった
この少年は何と言った

「もう一度聞かせてもらうわ-----貴方、今何て言った」

「だから好きにしろと言いました」

「…………………………あれだけ言ったのに」

「何を言っているんですか。俺は最初に言ったじゃあないですか『遠慮なく高町を使い潰してください』と」

「それは皮肉のつもりで言ったんじゃあ…………………………」

「皮肉ついでの真実です」

「じゃあ、何故こんなことを…………………」

「嫌がらせです」

「…………………………」

良い性格してるわね…………………

「まぁ、本音を言いますと単純に真実を知らずに良いように扱われている憐れな高町を思い描いてつい…………………ということにしときましょう」

「断言はしてくれないの…………………」

わからない
この少年は何がしたいのだ
なのはちゃんを擁護したかと思えば、別にどうでもいいと言う
何がしたいのだ・・・・・・・・

「はぁ、どうでもいいことに時間かけた」

そう言い
彼は相変わらずの無表情で立ち上がった
まるで、さっきまでのことなどどうでもいいと言いたげに

「帰してくれますよね?」

ニコリとも笑わず彼はそう言った
用はない
それを端的に伝えている気がした














あとがき
ネタが無くなってきた気がしました
今回はまぁ、誰でも気づいているようなある意味勧誘の所を自分風に皮肉っぽく書かせて貰っただけです
これからは、どんどん進ませて貰おうと思います
………………………………………………………………………………多分
多分行きます
この作品がとらは版に逝っても生きていけると思いますか?
多分無理だと思いますが、一応聞いてみます





[27393] 第二十二話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:25

「ケイ!!よかったぁ。捕まったかと思ったよ…………………本当に良かった」

「そいつはどうも。とりあえずシリアスなところ、申し訳ないが-----テスタロッサ。脱げ」

「…………………………………………………………………………………………………………ぴょ!!」

「面白い奇声だな…………………………とりあえず脱げ」

いきなりの脱衣展開に皆さん
戸惑っているかもしれないが、とりあえずここまでの経緯を

家に戻る

テスタロッサが待ち伏…………………待っていた

泣きついてくる

慰める

数十分してようやく泣き止む

そして今の展開

皆さんもこれでわかってくれるだろう…………………
何?
わからないだと?
まぁ、別にどうでもいいけど

「ででででででででっででででででででももももももももももこここっこういうのはきっちり順序良く華麗に綺麗に素敵にアクロバティックをしなきゃいけないわけで!!!!」

「落ち着け、テスタロッサ!!お前が何を言っているのか俺にはさっぱりだ」

「ふふふふふふふふふしゅ~~~~~~~~、め、メモリアル…………………」

「テスタロッサーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!お前は今、何を見て、何を感じて、何を思っているんだーーーーーーーーー

ーー!!!!」

とりあえず熱暴走したテスタロッサに冷え○タを張っておいた
熱望暴走したやつにはこれがかなり効く
皆さんも似たような現象を友達が起こした時は是非とも使用を(←使い方を間違っています)
とりあえず
今の混乱に乗じて

彼女の腕の部分の服を捲った

「あ…………………」

驚いたような
怯えたような声をテスタロッサが出すが、気にしていられないし
それに遅い
既に見た
そこには

ヒドイケガガ--------


「………………………………………………………」


予想はしていた
さっきの逃走の時
僅かだが体を守って動いていたこと
時折顔が強張っていたこと
まだ会って間もないが人の癖を覚えるのは得意だ
だから、わかっていた
そして
この傷を
作った相手も
テスタロッサは隠していた傷を見られたせいか
顔を俯かせている
思わず聞いてしまう

「……………………………………………………何故だ?」

「…………………え?」

「何故こうまでして戦う?そこまで相手の事が大切か。こんなことをしてくれる人が。そこまでして大切か?」

「…………………………」

彼女の顔は暗い
わかっているのだ
頭では理解しているのだ
この少女は純粋なだけで
頭はいい子なのだから
どういうことなのか理解しているはずなのだ
しかし

「…………………大切だよ」

彼女は言い切った
辛そうなのに
苦しそうなのに
投げ出したいと切望しているはずなのに
何故


その言葉には幸福を感じるのだろう



「今はただ------母さんは混乱してるだけ。本当は優しい人なの。いつも優しく笑っていた。その笑顔が---」

私のキオクに焼き付いている


彼女は微笑んでいる
正しく微笑んでいる
だが
それは微笑みなのか
俺には

ただの現実逃避にしか見えない

それは何て


盲目的ちんぷな愛------


俺が最初に彼女から受けた第一印象は間違っていなかった
俺は最初
彼女を人形のようだと思った
だが、今までの行動を見ているとそうではないかと思っていた
しかし、実際はこうだ
陳腐な表現だが
この子はただ親への盲目的な愛を頼りに動いているだけだ
そこに疑問や不満などあるはずがない
当然だ
何せ自分の意志ではなくただの感情で動いているだけなのだ
意思と感情は違う
決定的に

「うん。だから、これが終わったらきっと母さんは昔のように笑ってくれる。だから------」

そうして彼女は笑う
ツギハギの笑顔で
だから俺は
何も言わず
何もしなかった
その後
彼女に協力関係の話は無かったことにしようと言われた


















今、私はアースラに乗っている
…………………………ごめんなさい
端折りました
か、簡単に説明させてもらいますと
結局、あの後
ユーノ君とよ~く話し合い
慧君が言ってくれた真相も含んで話し合った結果
私達はジュエルシードの探索を協力することにしました
ジュエルシードが更に危ないものだという事がわかり、早く集めなきゃという思いも勿論、あるのですが
一番の目的はフェイトちゃんです
目を閉じれば直ぐに彼女の姿が投影されます
大抵が無表情だけど、多分、それは何かを隠しているから
でも以前、ぶつかってお互いのデバイスを壊した時
フェイトちゃんが自分のデバイスに謝っているところを見たことがある
だから、きっと優しい子なのだと思うのです
それなのにこんな危ない事をしている
それを確かめたい
そして
フェイトちゃんと友達になりたいのです
勿論、家族のみんなには詳しい事情は言えませんが出来る限りの事は話しました
そうすると
何故かお兄ちゃんとお父さんが慧君を無理やり連れてきて

「何か組織と連携するのだろう?(なのはを駒みたいに使おうとしたことは万死いや、億死に値するがな)」

「なら、この口先八丁の暴論遣いのこの少年を持っていくんだ、なのは。きっと役に立つ(何時か、その時空管理局とかいうのと少し『お話』をしなくてはな。なぁに、慧君のよりも優しくしてやるさ)」

「待てや、人外衆。俺は便利なアイテムじゃないぞ。そして出てる出てる。心の闇が溢れている」

「「知ったことか!!」」

「高町。このキチ害共を何とかしてくれ。お前が関わるとこんな風に人じゃなくなるのだから」

「ごめんなぁ、なのはちゃん。フォローできんわ~」

「…………………はやてちゃんがフォローしてくれたことがあったっけ?」

「手厳しいな~」

そういうことで本当に慧君を連れて行ってみると

「では、まずは契約金だが-----まずは五千万貰おうか」

「待ってくれ!桁が一つ、いや二つぐらいおかしいぞ!!というか法外だ!!」

「何を言うか、黒いの。高町は魔法初心者だが魔力は多い。つまり生物資源だ。それをたったの五千万で借りられるのだ。しかも、スクライア首輪つき。破格の条件だろう?」

「どこがだ!!異議を唱えさせてもらおう!!」

「却下する。大体だな。娘に傷があったら国家予算×5を貰っても許さない親馬鹿&シスコンがいるのだぞ。そんな相手にたった五千万。むしろありがたみで泣いてくれてもいいと思うぞ。」

「くっ!なさそうでありえそうな話で脅迫してくるとは…………………さては貴様!頭がいかれているな!!」

「二回しか会ったことがない相手にそんなことを言う君の頭がいかれていると思うがね?まぁ、俺は寛大だから気にしないで上げよう。そら、感謝したまえ」

「君は僕の堪忍袋の緒を無駄に切って何がしたいんだ…………………!」

「無論、金が欲しいのだよ。高町を売って」

「あれ!?私、何時の間にか商品になってる!?」

「ようやく高町が役に立つ日が来たか…………………感慨深いものだ」

「私は何時まで経っても変わらないその外道回路に感慨深いよ!!」

「そう怒るな、高町…………………………腐るぞ」

「な、何が!!」

「……………………………………………………ツインテールが」

「いやぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ

ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「なのは。落ち着いて。常識的に考えたら髪の毛は腐らないよ」

「スクライア------空気読まない奴は抜くぞ」

「なのは、気をつけて!!髪の毛は大事にしないと腐るって聞いたことがあるよ!!」

「変わり身が早いよ!!」

「漫才をしていないで真面目な話をしてくれないか!!」

「おお、そうだった。そうだな。給料は大体このぐらいで」

「局員の月給の十倍だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ええい。つべこべ言わずに出すもの出せばいいのだ」

「凄い、この子…………………悪役のセリフが物凄く似合ってる…………………」

「ええ…………………別格だわ」

「エイミィも艦長も!!無視していないでこの論外な少年を何とかしてください!!」

「おやおや。勝てないと知ったら他力本願かい。しかも、その内の一人は母親。ママのおっぱいがそんなに好きなのかい?」

「!!そんなわけあるかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「あらあら。クロノ。言ってくれたら幾らでもあげたのに」

「かあ…………………艦長も遊ばないでください!!」

「残念。まぁ、でも。そろそろ援護しないと私達がただ働きになってしまうから応援しましょうか。クロノ、準備はいいかしら?」

「!!は------」

「後そうだな------女狐艦長の日本の文化を侮辱したとみられるあの作法ともいえない作法。緑茶に砂糖を入れるという行為も禁止してもらおうか」

「くそっ!!この件だけは飲まざるを得ない…………………!ここで一気に追い返そうというところで、要求を呑まざるを得ない案件を出すなんて…………………………何て上手いテクニックなんだ…………………!」

「ちょ!クロノ!!お母さんの唯一の癒しが盗られるという会話なのに何で裏切ろうとしているのかしら!!?」

「ごめんなさい、艦長------同意見です」

「大事な部下まで!!これが風雷君流の交渉術………相手の弱みを生かし、時には敵さえも味方につける。しかも狙ったタイミングは逃さない。これが地球式交渉術…………………伊達じゃあないのね…………………!」

「何、もっと褒めてくれても構わんよ。何せ俺はここにいる誰よりも上の人間なのだからね。崇めるのは当然の行為だとも。だから俺に貢物をするのも当然の義務なのだよ」

「…………………あれ!?私が貰うはずのお金が慧君が貰うように仕向けるような不穏当なセリフを私の耳が捉えた気が…………………」

「何を言う、高町------ただ働きは誰でも嫌だろう?」

「それが本音なのーーーーーーーーーー!!?」

「馬鹿者!!金が欲しくない人間などこの世のどこにいる!!大体だ!人間、やること為すこと全てに金が必要だ。それが人間が生み出した協力するための知恵であり、相手を上手く落とすための狡猾さだ。それをだ、高町。君は否定できるのかね!人間の浅知恵と言って嗤うのかね!人間の愚かしさだと言って切り捨てられるのかね!人間の欲の汚さと言って否定するのかね!」

「う…………………そ、それは」

「そうだ。答えられまい。何せ高町もその人間の一人なのだからだ。故に抗うな、受け入れるんだ。なぁに、怖くはない。直ぐに快楽となるだろう」

「悪魔だ!!悪魔の誘惑だ!!でも、それをわかっていても拒否を出来ない!!これぞまさしく悪魔の誘惑…………………!」

「その前にそんな大金を渡すとはこちらはまだ了承していないぞ!!」

「ええい、往生際が悪い!!さっさと出すもの出さんか!!」

「もうそれは悪党だよ!!」

結局
長い討論の末
契約金は大分負けて六桁ぐらいにしてもらったの
それだけで申し訳ないのに給料も貰える
しかも、こちらは何でも普通の局員さんの三倍ぐらいらしい
罪悪感で涙を流してしまいそうだ
ちなみにこんな惨状を起こした当の本人はかなり不服そうだった
無表情だったけど
あの少年はやはり手加減とか
良心とかいうのを覚えるべきだと思う
切実に
私のストレスを減らすために
………………………………………………………………………………
まぁ
あと一つ
慧君のお蔭で手に入れた条件があったから感謝はしますけど
長い回想になってしまったの
とりあえず無事に時空管理局と一緒に戦う事になったのです
そして今の現状

「反応出ました!ジュエルシードです!」

「わかったわ、エイミィ。なのはさん、ユーノ君。向かってください」

「はい!」

「わかりました!」

遂に私達の出番
クロノ君はいざと言う時に備えて待機しているらしい
何だかドキドキする
自分の感情だけではなく
他の人の意志が任されているからか
何時もの何倍も緊張している気がする
でも、大丈夫
まず私は一人ではなく、ユーノ君がいるし
ここまで私を応援してくれた家族や友人がいる
それに

フェイトちゃんとお話をするという大事な目的がある

じゃあ、ここで立ち止まっているわけにはいかない
だから進もう
そう決意を改めてたら

「…………………?変です、艦長!ジュエルシードの反応がもう一つします!!」

「何ですって!まさか-----同時発動!?」

いきなりのハプニングに私とユーノ君は思わず足を止めてしまいます

「いいえ、違います!このジュエルシード-----移動しています!!」

「誰かが持っているという事か、生物に取り込まれて移動しているっていうこと?」

「…………………どうやら後者みたいです。でも、これは…………………」

「どうした、エイミィ?何か疑問でもあったのか?」

「えと、まるで変な事を言っているというのは自覚はあるんだけど…………………これは本当に生物かな・・・・・・・・・・?」

「「「「????」」」」

どういう、事だろう?
疑問に思い、考えてみるが答えを知る前に

「目標をサーチャーで捕えました!モニターに映します!!」

答えが映し出された
それは

「何…………………これ…………………」

「これは…………………ジュエルシードで作られた怪物…………………ではない!何だあれは!!?」

以前出会った

あれは出会ったとは言わない
以前遭遇し、偶々生き残れた


バケモノだ・・・・・

以前、出会った時とまるで変わらない
いや、ジュエルシードを取り込んだからか
前よりもその凶悪さや禍々しさが強化されている気がする
見るだけで生物の本能が呼び起される
生命の危機というのに反応する警鐘がガンガン鳴り響く


ニゲロ
アレハヒトガアイテヲシテイイアイテデハナイ
アレハミルモノスベテヲクイコロスムゴタラシイバケモノダ…………………!


何も動いてないのに汗が流れてくる
心臓が勝手に激しく動き出す
口が酸素を求めてだらしなく開かれる
余りにも情けない自分の姿
でも、それを恥だとは思えないくらいの禍々しさ
どのようにしたら、このような生物が自然界で生まれるのだろうか
いや
生まれるはずがない
これは星すらも予想していない完全なイレギュラーだ
あってはならない
ありえてはならない
まさしくバケモノイレギュラー
それはそのバケモノの名に恥じぬように
ただ自身の渇きを潤すためにジュエルシードを狙っている
欲望という理性に忠実に付き従っている
アレを止めるには言葉では不可能だ
やるなら実力
そう力づくでないと無理だ
だが、それは普通なら無理な話だ
アレにただの体術とか力で勝てるとは思えない
何もかもの例外である存在がただの人間の武術で勝てるとは思えない
そう
普通なら

「………………………………………………………………………………」

私は少しの間気分を落ち着かせることにした
慧君のアドバイスは本当に的を得てる
あれだけ他人を貶しながらいつの間にか彼はこちらに忠告もしてくれたのだ
他の人がいないところでだけど
その忠告の一つが落ち着くこと
戦いでもテストでも料理でも
落ち着かない事には何もできない
深呼吸を数回したら頭がスッキリした
周りはまだ慌ただしい
そして次は

…………………状況の分析

今は管理局の人達はアレの正体を必死に探っているらしい
管理局の力を疑うわけではないけど、多分無駄だろう
あんなものが他の世界にもごろごろいたら私は外にも出れなくなれなさそうだ
故にアレの正体は解析できないと思う
そうなるとこの人達はどうするだろうか
慧君の言葉を思い出す

『いいか、高町。戦場で一番怖いものは未知数…………………つまり、何もわからないものだ」

『??何で?』

『お前はもう少し思考を鍛えるべきだな。じゃあ、聞くが。例えば俺がお前と戦うとしよう。当然お前は俺の戦術など知らんな。何せ喧

嘩などしたこともないのだから』

『うん、そうだね。でも、それがどうしたの?』

『幼稚園いや高町母のお腹の中からやり直せ』

『もうそのネタには飽き飽きだよ』

『…………………僕の中のなのは像が崩れ落ちる音が聞こえたよ』

『(無視)』

『さて、じゃあ、落第生の高町に答えをサーヴィスで教えてやろう------じゃあ、俺は今からどうやって攻撃するんだ・・・・・・・・・・・・?』

『…………………………ああ!!』

「ようやくわかったか。そういうことだ。前情報がないと相手がどのように行動するのかがわからない。それは十分に脅威だ。何せどの攻撃が有効なのかがわからない。どうやって防御すればいいのかわからない。自分の選択した行動が正しいのかわからない。それらは迷いとなって自分の動きを阻害する。まぁ、勿論。例外はあるけどな。それでもわかるか?人間が最後に恐怖するのは結局はわからないものだということだ。あれだけ科学とか何やら言ってるのにな。皮肉な事だ』

『うん…………………で、結局、今回はフェイトちゃんとジュエルシードぐらいしか戦わないけど…………………そういった相手と戦う時はどうすればいいの?』

『さぁ?俺なら逃げるね』

『そ、それじゃあ意味がないの!!』

『命あっての物種というだろうが。下手したら呆気なく昇天死ぬするぞ』

つまりだ
この場で一番賢い選択は------

「不味いね…………………何をしてくるかわからない…………………それでいてこの嫌な雰囲気」

「ああ。かなり不味い敵だろう。となると」

「そうね。安全を期するためにここはジュエルシードを囮に使いましょうか」

「----------」

わかってる
頭ではちゃんと理解している
アレと戦うにはせめて何らかの情報が合った方がいいという事を
それがあるか無いかで命の危険はかなり違う
だからこその静観
余りにも正しい結論
でも


ふと
あの赤く染まった余りにも可哀想な犬の姿を思い出した


勿論、犬の気持ちなど私には理解できない
出来るとしたら勝手に想像を押し付けるだけ
想像するなんて簡単だ
相手がやられたことを自分がされたらと仮定してみればいい
どれだけの苦痛があったか
どれだけの恐怖があったか
どれだけの憎しみがあったか
どれだけの願いが踏みにじられたのか
どれだけの悔しさがあったか
どれだけのそういった感情が溢れ出てくる
想像だけでこんなに出てくるのだ
あの小さな犬がどんだけ辛い------否
それを口にする資格はないと思う
私は間に合わずに、しかも、アレと遭遇したのに生きている
それは些細な違い
負けたあの子は犬であり
生きた私は人間であった
殺されたあの子は魔力がなく
後悔した私は人間であった
それだけだ
その些細な違い
それがこの結果
あの犬は特に悪いことなどしてないはずなのに
ただ運悪くジュエルシードを見つけてしまった
ただそれだけだ
運が悪かった
ただそれだけが原因だ
私のせいでは、ない
ないのに

「……………………………………………………」

体が軋む
心が痛む
動かない体を無理やり動かせるという行為の代償として幻痛が走る
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!
でも、そんな痛みより


あの犬の事が悲しい


こんな苦痛すらも得れなくなってしまった
あの犬が可哀想だ
だからこそ
高町なのはは動かなくてはいけない…………………!

「すいません!!高町なのは!遅れながらジュエルシードの回収に向かいます!!」

そう言い
私は背を向けた
後ろからは驚愕の声が上がる

「なっ!正気か!?アレが一体何なのかわからないのに!下手をすれば命を落とすぞ!!」

「死にません!私にはまだ家族が友達が、そして」


フェイトちゃんもくてきがある


こんなところで死んだりするわけにはいかない
でも
だからこそ
私は行かなくてはいかないのだ
こんな時
無表情な少年はどう言うだろうか
それを思いついてこんな場面なのに苦笑してしまう
だって
私には似合わないが、この場に物凄く似合っていたのだから
だから私は声高らかに叫んだ

「あの大きなバケモノには------借りがあるんです・・・・・・・!!」

それだけ言って私は行こうと思った
そう思うと

「うん、じゃあ、行こうか」

「え?」

「いいかい、なのは。直ぐに戦場に着くから、集中してね」

その声は優しく
そして強い声であった
声は聞きなれたものであったが、その意思は聞いたことがなかった
それは
ユーノ君の声だった

「行くよ、転移!!」

そう思った瞬間
私の視界は歪んだ















それは知性がなかった
それは理性がなかった
それにあるのは凶暴な感情
愉快な事にそれには理性も知性も記憶もないのに感情があったのだ
ただ一つだけだが
凶暴かつ強烈なただ喰いたいという
人間の七つの罪の内の一つである暴食である
つまりだ
これは生物ではないが、ケモノではあったということだ
本能というのに忠実なケモノだ
それはただ自身の好物の気配を感じたからそこに向かっているだけ
それに善悪はない
だってそうだろう?
ケモノが獲物を喰うのに何故善悪が必要か
ただ自身が喰いたいから喰う
それは正しくケモノの姿だった
そこに
一つ異常な事が起こる
突然
目の前の空間から翠色の光が迸り


二人の少年、少女が現れた


一人は金髪で顔はまだ子供のあどけなさが残るが知性と強い意志が見える
服はまるで民族衣装みたいで
無手のまま現れた
もう一人は限りなく純白な服を着た栗色の髪をした少女
こちらも少年と同じで年齢にそぐわない意思を感じる
その手には金色の杖
それは知らない
その金色の杖が敵を打ち倒すための砲台であることを
ただそれが理解できることは少しだけ
相手が自分に脅威を与える存在であることと
相手が自分の飢えを癒してくれる存在であるという事を
それは猛った
それが脅威であれ、得物になり得るならそれは動く
記憶がないから気づかない
相手は以前喰おうとしていた存在であることを
知性がないから気づかない
相手の実力を
理性がないからわからない
自信の止め方を
故にそれは二人に向かって駆けた
唇を三日月型に歪めながら


少女はその歪んだ三日月を見ながら


何故か無表情の少年の姿を幻視した


それを考える余裕はなかった
二度目の戦いが始まる
魔法と悪魔の闘いが













あとがき
結局、なのは達は管理局に付かせましたが、まぁ、作者はひねくれ者
少し詳細を考えていたものと変えることにしました
どう変えるかはお楽しみで
れいおにくすさん
期待を裏切るようで申し訳ない
ずっと応援してくれたので出来れば要望に応えたいところなのですが
如何せん、自分の力量が応えてくれません
申し訳ありません
それでも見てくれるというなら幸いです
ようやく次がバトルになりそうです
長かった
拙い手で何とかやってみようと思います



[27393] 第二十三話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/10/23 23:25

先手はバケモノの方だった

「■■■■■ーーーーーーーーーーー!!」

それは地球上のどんな生物にも理解されない意味不明な雄叫び声を上げながら
我武者羅に突進してきた

「っ!!」

思わず恐怖が出てくるがそれに構ってられる余裕なんて微塵もない
必死に精神を落ち着かせ、それと同時に魔法を構築する
それは何時もよりは遅かったが、この状況なら早いと言われるぐらいのスピードだった
効果は直ぐに出た

『FLASHMOVE』

レイジングハートが発し
そして
相手の突進を避けたどころか
相手の後ろに回っていた
高速移動魔法
本当ならフェイトちゃん対策の魔法だったが、今はこの魔法を覚える切っ掛けとなったフェイトちゃんに感謝
使えるものは何でも使わないとこちらが負ける
私はそのままレイジングハートを構え、私の十八番のディバインバスターを撃とうとする
そうしていたら

『AUTO PROTECTION』

「え?きゃ!!」

いきなりレイジングハーが勝手に魔法を使ったかと思えば
物凄い衝撃が体に走った
何が自分を打ったのか
そう思っていると、それが視界に直ぐに映った
思わず驚く
それは尻尾だったのだ
思わずそれに知性があるのかと疑うがそれは違うだろう
多分、真相は相手がこちらの攻撃を避けた
だから、本能的に尻尾を振った
それだけだろう
だが、それだけが、この場では致命的
バケモノはグルリとこちらに振り返った
アカイ瞳がこちらを睨んでくる
無理矢理体を委縮させてくる
まるで魔眼だ
自分で言っておいて何だが洒落になっていないと思う
そんなつまらない考えで現実逃避をして
その凶悪な口が開か━━━━━━━

「僕を忘れないでほしいね」

れなかった
見れば何時の間にか翠色の光のリングがバケモノの口を閉ざしている
バケモノはそれを何とか壊そうとするが出来ない
当然だ
それは少年の唯一の才能の塊
それは少年の今までの努力の塊
攻撃の才がなくとも
その非凡な身で鍛え上げた翠のリング
例えバケモノであろうとそれを容易に壊せるはずがない…………………!

「なのはも言っていたけど━━━━━━━僕もお前には借りがあるんだよ」

その少年の声は何時もの優しい感じは鳴りを潜めていた
そこには隠しようもない怒気が隠されていた
ここで少年の回想に入ろう
少年はこの事件が始まってから後悔のしまくりだった
この事件が起きたことも
自分なんかがジュエルシードの発掘の責任者になったことも
自分一人でこの事件を解決できなかったことも


この少女をこの事件に巻き込んだことも


間違いなく自分はこの少女の将来を歪めただろう
この少女は優しい
魔法なんてものを知らなけれなこんな人を傷つけ、傷つけられるような世界に足を踏み入れることはなかっただろう
将来、彼女が何になっているか知らないが
彼女の店は喫茶店だという
ならば、パティシエになっていたかもしれない
それじゃあなくとも他にも未来はあっただろう
でも、僕はそれを歪めた
こんな選択肢を与えてしまった
勿論、時空管理局はかなり汚い事があるのは先日、わかったことでもあるが
それでもちゃんと仕事をしているところもあるのである
災害救助や犯罪者の確保
こういったロストロギアの処理
そういう意味ではちゃんとした仕事でもある
悪い所だけを見ていたら偏見になるだろう
相談する際にそういったことも説明した
あのリンディさんもクロノもエイミィさんもどちらかと言うとまだマシな人だと思う
でも、あの場に慧がいてくれて助かったと思う
僕ではあの場で反論どころか、ただ受け入れるしかなかったと思う
本当に後悔しまくりである
正直、自分が嫌になる
才能もなく
ただなのはを戦わせる
最低な人間だ
何よりも最低なところは


僕がなのはと出会えたことに感謝しているところだ・・・・・・・・・・・・・・・・・

これが普通の出会いなら素直に喜んだ
何の変哲もない出会い
それで仲良くなる
それならば良かった
だが、残念な事に
少女は地球生まれで
僕は魔法世界生まれ
普通の出会いなんぞ出来るはずがないのである
まったく


何て皮肉な世界だ━━━━━━━


皮肉でふと思い出した
それは交渉が終わって、いきなり無表情の少年に呼び出されたことだ
それは
忘れてはならない『契約』の話だ
無表情の少年が問いかけてくる

「スクライア。お前はどういうつもりでこんなところに飛び出してきたんだ」

「どういうつもりって…………………自分の発掘した物がこんな場所に落とされたんだよ?それなら責任者として何とかしないと…………………」

「やれやれ。俺の周りはどうも頭が固い奴で埋まっているな。それを義理堅いというべきか、融通が利かないとでも言うべきか。」

「…………………何が言いたいんだい?」

「では、率直に言おう。お前はそういった自己犠牲的行為で英雄にでもなりたかったのかい?それとも━━━━━━━━そういった行為で自分の事を認めてほしかっただけか?」

「!!!違う!!」

思わず声を荒げる
目の前の無表情な少年を睨みつける
彼はこんな時でも不気味なくらいに無表情だ

「ほう、違うときたか。では、何故こんな危険な作業を単身で来た。万全を期すならば頼れる仲間か、それこそ時空管理局の連絡すればいい。さっきの話を聞いていなかったのかな?中途半端な力は逆に危険だという事を」

「っ!!」

反論できなかった
まったくもってその通り
万全を期すならもっと仲間を呼び集めるべきだし、管理局に連絡するべきだ
そして何より
僕よりももっと強い人間を行かせるべきだ
中途半端な力
まったくもってその通り
その中途半端な力が彼女を危険に呼び寄せてしまったのだから

「その通り。貴様は何人かの人間の運命を変えてしまったのだ。そこのは高町は当然、敵側の人間も含まれる」

またもやその通り
ジュエルシードさえなければあの金色の死神は戦わなかっただろう
何せあの子の目的はジュエルシードなんだから

「それでいて尚お前はその体たらく。まったく鈍感も過ぎたら傲慢に変わるぞ。お前はそんな人間の癖に高町を守るだなんて言うつもりではないだろうな?」

目の前の少年は暗にこう告げている
お前はこの事件で誰かを守る資格などないと
わかりきっていたことだ
何より
自分こそが彼女を傷つけるようにした原因だというのにどの口が守るだなんて言えるだろうか
そう
どの口が
決まっている

「そうだよ…………………!僕はなのはを守って見せる…………………!」

この口がだ
何と滑稽な
何と不様な
何と傲慢な
自分でも理解している
自分がどんだけ傲慢な事を口にしているか
地獄に堕ちたら閻魔に舌を盗られるのは確定事項だろう
だが
それでもだ
悪いのか
自分がこの少女を守りたいと思うのが
ああ、悪いかもしれない
だが、そんなこと知ったことではない
滑稽?
そうだとも。幾らでも嘲るがいい
不様?
そうだとも。幾らでも嗤うがいい
傲慢?
そうだとも。幾らでも蔑むがいい
それぐらい元より覚悟の上
それぐらいの覚悟を出来ずに何が守るだ…………………!

「…………………それは━━━━━━━世界すらも敵に回すと言っているのと同じだぞ。それが━━━━━━━」

「見くびらないでくれ!!たかだか世界程度を回せずに何が覚悟だっていうんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

自分でも驚いた
こんなに自分は熱い性格だっただろうか
だが、不思議と
それが心地よい
そうとも
今、僕は
自分の心の内の全てを吐き出している
それで心地よくないなんて嘘だ
ああ、僕はこんなにも


正しく間違っている・・・・・・・━━━━━━━


それを僕は
誇らしく思う
その時
無表情の少年は

「あっはっはっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

笑い出した
無論
顔は笑っていないが
声だけで笑っていた
心底愉快そうに
心底楽しそうに

「な、何だよ!僕は真面目に━━━━━━━」

「いや、失礼。まさかここまで高町への愛をカミングアウトするとは思っていなかった」

「なっ!!べ、別に僕は恋愛感情で言っているわけじゃなく、純粋にただなのはを守りたいだけだって------」

「十分だと思うがな。まぁ、いいさ。そこまで言ったんだ。まさか力量が足りなくて高町を守れなかった、何て言って報告してくんなよ」

そこまで聞かされてようやく気づいた
もしかして、この少年は僕を激励してきたのではないかと
そんなことをする理由は簡単だ
友達を助けるのに理由はいるのかという理由だ
それを訪ねてみると

「馬鹿を言え。俺は別に高町が死のうが生きようが知ったことじゃあない」

「でも………………」

「ま、強いて言うなら『契約』だな」

「契約?」

「そ。とある少女と契約したんだ。安心して皆と一緒に暮らすがいいって。その中に残念ながら高町も入っているんだよ。本当に残念な事に。まったく、何で俺がこんなことをやらなきゃいけないんだか。はぁ、我ながら二年前は若かったなぁ」

「…………………………」

彼が何を言いたいのかわからなかった
でも
それでも
僕は自分が考えたことが間違いではないと思うのは間違いだったんだろうか

「じゃあな。精々頑張ってくれ。ユーノ・・・

自分の名前を呼んでくれた彼を
誤解するのを間違いだと言えるだろうか















回想終了
つまりだ
僕はこいつからなのはを守らなきゃいけない
何よりも
こいつはなのはを泣かせた
ならば

「報いをうけるべきだよね…………………!」

そうして
なのはを叩いた尻尾と頭を一つのバインドで縛り付ける
そのまま
バケモノの背中はエビぞりになった

「━━━━━━━!!!」

悲鳴も絶叫も上げられない
当然だ
それは今、僕のバインドで口を閉じられているのだkら
えげつないことをしているという自覚はある
だが、形振り構ってられない
なのはを守る為ならばなんでもしよう━━━━━━━━!

「なのは!!ディバインバスターの準備を!!」

「うん!既にやっているよ!!」

念話など不要
ほんの少しの期間いるだけど既に相手が何を望んでいるかを読み取る程度の関係は築いている
既にレイジングハートの先端には桃色の閃光が
もう少し時間が経ったら極大の魔砲が見れるだろう
だが、敵もさることながら
ぶちぶちと嫌な音が聞こえる
バインドが力づくで破られようとしている
何て馬鹿力
これでも補助系の魔法には自信があったのだが
一瞬で崩れそうだ
だが、落ち込んでいる場合ではない
重要なのはただ一つ
アレがもしかしたら捕縛を破って、なのはを傷つかせるかもしれないということだ

「二つや三つで足りないなら、倍で補ってみせるよ!!」

宣言通り
バインドを構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し、構築し尽くす
最早、相手の姿など見せないぐらい構築する
翠色の縄がまるで一つの塊のように光る
そう
これがクロノとか頭を使う相手なら最初のバインドを避けられていてとてもじゃないがこんな状況になっていないだろう
しかし、相手は理性を失ったケモノ
バインドにかかった時
これはなのはに夢中だった
理性がないケモノは当然我慢など知らず
こちらのことなど気にも留めなかった
故に存分にやれた
だからこそ

「理性や知性などがなくても…………………後悔はさせるよ」

少し何時もと違う魔力運用をする
聞こえないとはわかっていてもバケモノに語りかける

「知っているかい?バインドという言葉は縛るという意味がある。今なら子供でも知っている言葉だよね」

バケモノを縛っている翠色の縄が更に光輝く

「縛るっていうなら━━━━━━━━更に強くできるよね…………………!」

「━━━━━━━━━━━━━!!!」

ぎぎぎぎぎぎぎぎ!!
バインドが締まる音が響く
バケモノの声は出ないが、苦しむ音が聞こえる
残念ながら手加減なんてしない
更に光が増すと


ボキンと
何だか呆気なく骨が折れる音がした


「---------!!!!」

今までの中で最上級の苦悶
つまり、それだけ追い詰めているという証拠だ
ならば、畳み掛けるのが定石だ

「準備完了!!」

なのはの声が聞こえた
ならば後は彼女の一撃に期待しよう
いや、期待なんてしなくても

「全力全開!!ディバイン----」

なのはは強いんだから

「バスターーーーーーーーーーー!!!!」

そういえば
偶然だが
DIVINEという意味は神聖なとかいう意味だったなと思う
ならばこれほど適した攻撃はないだろう
相手は堕ちたケモノだ
神聖なものには弱いだろう
結果はご覧のありさま
結果を見ることが出来ないくらいの爆発が起きた
ある種の花火を見ているような気分だ
事実、桃色の魔力素が花火の様に散っている
幻想的で綺麗だ
だが、それに見惚れている場合でもない
なのはの実力を疑うわけではないが、相手は何せ理解不能のバケモノ
何が起こっても不思議ではない
なのはの攻撃によって発生した煙が次第に晴れ------


第六感が悲鳴を上げた
僕は即座に前に飛びながら後ろに障壁を張った
すると

がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!
と金属製の壁に当たった様な音が世界に響き渡った

「な!!」

「ぐっ!!」

なのはの驚きと僕の苦悶の声が同時に響いた
そう、目の前には


僕のバインドに捕まって、なのはのディバインバスターの直撃を受けたはずのバケモノがこちらに体当たりしてきていたのだ


思考が停止しかけるが無理に頭を動かす
そのせいで目の前の恐怖に恐怖を感じるが、構ってられない
停止したらそこで一気に------喰われる
咄嗟に念話をなのはに繋げる

『なのは!援護よろしく!』

『え!?あ、うん。わかったよ!』

ぎぎぎぎぎぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
障壁と相手の体とで不協和音が作られ、耳に侵入し、頭を乱す
そして極めつけは

「■■■■ーーーーーーーーーー!!!」

理解不能の叫び声
地獄の怨嗟かと聞き間違えるような叫び
事実
ユーノの推測は正しかったかもしれない
これは地獄の眷属と言っても正しい存在なのだから━━━━━━

「ディバインシューター!!」

そこで背後からのなのはの誘導弾
思わず疑問に思う
ディバインシューターは確かに使い勝手がいい魔法だ
何せこれを使いながら自身も移動できるのだから
しかし、この異例の存在を相手するには少し心許ない
使い勝手もいい
スピードもまぁまぁある
しかし
これを打ち倒すためのパワーが足りない
数で補う?
無理だ
将来ならともかく今のなのはが誘導できるのは五発
初心者なら上々のレベルだ
これ以上は高望みというものだが
それでも
この場では低いとしか言いようがない
なのはがその誘導弾を五つを出したのを感じ
そして発射する
狙いは顎、体、腕の三つ
既に加速付き
何度も見たが、それでもつい見惚れてしまう美しい桃色の魔力弾だった
それらは僕のマントを通り抜けて攻撃をしようとする
だが、その美しさも
究極な醜悪さの前には無意味
それはニヤッと嘲笑したかと思うと


それらを腕を振るって消し去った


呆気ない所のレベルではない
ここまで来たら清々しさを感じる
四つの魔力弾は圧倒的な破壊によって消された
不幸は続く
ピシッ
あんまり聞きたくないような音が聞こえる
だが、現実逃避をしても無駄なものは無駄
潔く障壁を見るとやはり障壁に罅が入っている
まだ少しは持つと思うがとてもじゃあないがなのはのディバインバスターを待っている余裕はない
万事休すかと少しネガティブな思考に入ろうとした時
一つ引っ掛かった


待てよ
後、一つはどこに行った・・・・・・・・


なのはのディバインシューターの最大は五発
全力全開がモットーのなのはがこんな場で出し惜しみをするとは思えない
事実
彼女が出したのは五発だった
だが、砕け散ったのは四発
なら、後一発は?
答えは目の前に現れた


ガツン!!!!
バケモノの頭が急に上に勢いよく振りあがった


ギィッ!!とそれから苦悶の叫びが上がる
何があったかなんて
答えは明瞭だ


バケモノの頭の上あたりになのはのディバインシューターが浮いているんだから


恐らく顎にぶつけたのだろう
非殺傷設定を消しているのか
本来なら爆発しているはずだが、それは鈍器の様に相手を殴るだけで終わった

この優しい少女が非殺傷設定を解除するなんてことをするとは思えない
となるとなのは自身がそう仕向けたということになる
そこでようやく彼女の意図を理解する
さっきの瞬間移動としか言えないそれの対策だ
さっきは爆発の際に生じた煙のせいで何が起こったかわからなかった
同じ過ちを起こさないための攻撃だ
本当に━━━━━━━━呆れるくらいの才能


天は明らかに彼女に才能を与えすぎた


それが
日常の関わることなら良かったのに━━━━━━


嘆いても仕方がない
今はすることをしよう
バケモノから離れ、魔法を構築する

「チェーンバインド!!」

今度は翠色の鎖で


バケモノを殴りつけた


「■■■■ーーーーーーーーーー!!!」

本来の使用方法とはかなり違う方法
僕もまさかバインドをこんな風に使う日が来るとは思わなかった
でも、チェーン…………鎖なんだ
縛る以外にも叩くことも鎖は出来る
ならば、別に間違った使用方法ではない
縛らない理由は簡単だ
さっきは縛っていても抜け出せたのだ
ならば、バインド系は無効だと言っても過言でもない
なら直接的に攻撃するしかないだろう

…………………でも、参ったな
これじゃあ

決め手に欠ける━━━━━

なのはは決め手が多い砲撃系の魔法士だが、さっきも言ったようにもしかしたらバケモノの特殊な能力で躱されるかもしれない
これでは如何に強力な砲撃でも無意味だ
かといってディバインシューターではパワーが足りない
しかし、それはこっちも一緒

なのはよりも酷い
何せ攻撃魔法が一切無いのだ
攻撃力だけならそこらの一般局員にも負ける
今は手数でこちらが押しているがそれもジリ貧だ
後一手
後一手があれば━━━━━━━

「━━━━━━━やれやれ。独断専行して危険な目に合っていたら意味がないよ。なのは、フェレットもどき」

途端に
青色のバインドが的確にバケモノの手足を押さえている
無理矢理引き千切ろうにもそれは出来ない
何故ならそれらは全部首に繋がっているからだ
無理に引っ張れば━━━━━━━自分を締める
されど

されど、理性がないからこその恐怖を出しているのが目の前の存在


何の遠慮もなく
その手足を引っ張った

ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっっっ!

骨が軋む音
あのケモノは何の遠慮もなく自身の首の骨を砕こうとしている
それを代償に手足の自由
アレが生物と同じ体をしているとは思えないが、それでもその常軌を逸した行動に思わず恐怖する
理性を失ったものとはあれほど恐怖するものなのか
なのはも同じようだ
無理もない
だが
一人
黒いバリアジャケットを着た執務官だけは取り乱さなかった

「聞こえてはいないと思うけど。蛮勇は結構だけど結果に結びつかない行為は無駄と称されるんだよ?」

そう呟いた瞬間
目視だけで数百に及ぶ剣弾が何時の間にかバケモノの周りを埋め尽くしていた

「今回は特別サーヴィスだよ。何せ素人二人が勝手に動いたんだ。力むのは仕方がないだろう…………………!」

おお
どうやら僕は彼を怒らしたらしい
まぁ、しかし
今回は素直に感謝しとこう
そうして断罪の刃は振り下ろされる

「スティンガーレイ・エクゼキューションソフト!!」














「まったく、君達がどんなに無謀な人間かよ~くわかった」

「にゃ、にゃはは…………………ごめんなさい」

「なのは。謝らなくていい。こんなゴキブリの進化系みたいな黒くて粘着質な人間にそこまで言わなくてもいいよ」

「━━━━━━ほう、言ったな、フェレットもどき。人間とも獣とも言えないような中途半端な生ものの癖して僕に喧嘩を売ろうとは…………………格の違いと言うものが理解できない生物は悲しいものだな」

「弱い犬ほどよく吠えるって確か地球の言葉にあったよね?」

「「…………………!」」

「ふ、二人とも喧嘩しないで!!」

とてもじゃないが命のやり取りをした後とは思えないくらいの漫才
というか一つ疑問

「何だか、ユーノ君…………………慧君に似てきてない?」

「む。確かに…………………ユーノ。お前のその嫌味。まるであの陰険な風雷そっくりだったぞ」

やっぱりそうだ
クロノ君の同意も得れた
何となく全てというわけでもないが、雰囲気が似ている気がする
そういえば戦い方も以前と違い何だか手加減がなかった
そう言うと何故だか嬉しそうに笑った

「そう?でも、これじゃあまだまだだよ。彼みたいに躊躇いもなく偽悪をすることが出来るほど僕の精神はまだ出来てないよ」

「…………………気のせいかなぁ?私、何だかユーノ君が慧君を尊敬しているみたいな風に話しているように聞こえるよ」

「…………………奇遇だな、なのは。僕もそう思ったよ」

「え?だって━━━━━━彼。凄いじゃない」

「嗚呼!!微妙に否定し辛いよ!!」

「これが恰好いいとかそういうのだったら否定するんだが、確かにある意味においては凄いからな…………………」

これはユーノ君が困ったさん状態なのです
慧君を見習ったらきっと性悪な人間になってしまうのです
慧君いたいなのが二人もいたら私はきっとストレスで潰れてしまいます
失礼なという電波(念話)が届いた気がしますが無視します

「はぁ。とりあえずさっきのバケモノを連れ帰ってどこかに埋葬しよう。流石に地球に置いて帰るわけにはいくまい」

そうでした
私達はさっきのバケモノに打ち勝ったとはいえそこで終わっちゃ駄目なのでした
あんなのが見つかったらきっと大パニックです
我ながら失念していたなの
それにしても


これで━━━━━━━━少しはあの子の為になれたかな?


届くなんてそんな夢見がちなことは言わないけど
それでも思う事は自由だと思う
だから、私は思う
届けと
貴方の悔しさは晴らしたから
そう思い、バケモノの方に振り返る
今はバインドで吊るしてるからそこにいるはず
だが━━━━━━


そこには何もいなかった・・・・・・・・・・・

「え…………………………」

何もない
おかしい
確かにクロノ君の魔法はバケモノを貫き、そしてバインドで固定した
逃げる余地もないし、仮に力づくで逃げようとしたなら必ずクロノ君が気づくはず
いや、そもそも
あれだけの傷で動けるはずがないのだ
みんな動かない
クロノ君のもユーノ君も私も
私は漠然と感じた
またアレと対峙する時が来ると
それが何時になるか知らないけど
これが最後ではないと
予感ではなく
確信で











あとがき
どうでしょうか
初の魔法バトル
レベルが低いと思うかもしれませんが、そこはご容赦を
これからはもうどんどん進めます
速攻でA’Sに行きたいのです



[27393] 第二十四話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:26

ようやく帰ってきた俺の日常
魔法なんてどうでもいい物とはようやく縁が切れた日常
ただ、学校に行って勉強する日常
ただ、家に帰って寝る日常
俺がこよなく愛する日常
そこにようやく帰ってきた
テスタロッサからの絶縁状を遠慮なく、受け入れ、そしてそのまま別れた
あの調子だと直ぐにでもジュエルシードは集まりそうだし
何よりも
テスタロッサを手伝う気がない
どうやら俺の観察眼はまだまだという事がわかった
そこらへんも修業が必要だ
どうやら自分は少しは強くなったと思っていたが、それは勘違いのようだった
我場がら少し慢心し過ぎである
慢心を許されるのは王ぐらいだろうに
肉体面もさることながら精神面、集中力
そして観察眼の方の修業を強化しようと思った
とこれからの予定も組んだが
とりあえず帰ろうというところだ
幸い
高町変態は魔法のせいでいないし初めて魔法に感謝した事柄だった
それのお蔭で奴らの防備は手薄
お蔭で強行突破が成功した
バニングスにはジャーマンスープレックスをかまし
八神には車椅子を奪い、相手の機動力を殺いだ後、そのまま風雷バスター
すずかには………………………………………………………………………………
すずかには………………………………………………………………………………
言うのを止めよう
心に傷がまた疼く
またもや大人の階段を登ってしまった…………………………
体ならともかく精神はこのままでいいのに…………………………
酷いや
俺が何をしたっていうのだろうか
別にどうでもいいけど
そうして帰って行った
そして後悔をした
自分のトラブルメイカーのレベルはわかっていたが、せめてこれ以外にしてほしかった
ここはただの帰り道
別におかしな点はない…………………とは言えない
ある異物が混じっている
そこには

オレンジ色の毛をした大きな犬が傷だらけで倒れていた━━━━━━━


「…………………………はぁーーーーーーーーー」

もう呆れで溜息ぐらいしか出ない
というか何も言う気が起きない
どうやら世界を創造した最高にして最低な神様とやらは俺にこの事件から逃げられないように鎖をつないだらしい
そう


運命という名の鎖を━━━━━━━━


本当に━━━━━━━嫌になる
別に見捨ててもいい
傷自体は物凄く酷いというわけではないが、それでも今から治療の準備をするのと後から準備をするのとは全然違うだろう
だけど俺は別にそれがと言う人物である
知り合いの犬が死んだところで俺には何も影響がないし、どうでもいい
それならば、家に帰る方が得だ
だが
それも考え次第だ
何故この犬がこんなところで倒れている
普通なら高町ユーノ組
もしくが管理局にやられたと思うだろう
何せこいつらは敵対しているのだから
だが
それにしては傷が有りすぎる
ユーノと管理局は知らないが、高町がこんなことをするとは思えない
何せ血を見るだけで大慌てをするような人間だ
それがここまでえげつなくすることが出来るとは思えない

…………………ギャグ方面ではは違うがな

ちなみに
自分のせいでユーノがえげつなく容赦しない性格になったのであるが、この時点では知らない
無知とは時には優しさになるものだ
思考が逸れた
そしてまさかテスタロッサがやったというのも違うだろう
あの子はあの子でこんなことは出来ない
親の事ならともかく自分の使い魔?でいいのかな
それに対してこんなことが出来るとは思えない
そもそも
こいつは何故やられている
一番有り得る可能性は裏切りだが、些か遅い
もう既に管理局にマークされているはずだ
勿論、そのまま逃走するというならば逃げれる可能性はあるかもしれないが
それならば何故怪我をしている
裏切るとか逃走するとか言うならばテスタロッサや親にばれない様にするはずだ
勿論、こいつがへまを打ったとかいうなら別だが
それならば当の昔にへまを打っているだろう
過大評価…………………ではないはず
となると一番考えられる可能性は

「テスタロッサ側で何かが起こったという事か」

厄介な事実だ
そうなると俺が予想していた結末とは変わってしまう
てっきり、テスタロッサ側が我慢が効かなくなり、無謀な事をして捕まるのがオチだと思っていたのだが
これだから現実は嫌だ
別に何もかもが想像通りにいくなんて事はこれっぽちも思ってはいないが、せめて最悪な方にじゃあなく現状維持にぐらいになって欲しい

「それでも叶わないのが現実か…………………」

独り言を呟きながら携帯電話を取り出す
そこにはアドレスがある
無理矢理入れられたアドレス
成り立ての魔法使いのアドレスが

「あっ」

がちゃり←携帯が落ちた音
ばきゃ←携帯を踏んで壊した音

「…………………………」

まだ夕方だ
時間はあるはずだ
そう
この犬が死ぬ時間ぐらいは
















「━━━━━━━━━で、なのはの家に急いで走り、ここまで連れてきたという事か」

「ああ。俺はきっと世界で一番良い事をしたと思うぞ」

「成程。確かに人命救助は世界で一番良い事と言われてもいいかもしれない。僕もそれは否定しない」


「だろ?」

「ああ━━━━━━━━━怪我人の足を掴んで引っ張らなかったらな!!」

「素晴らしい方法だろう━━━━━━━━━何せそこまで馬鹿力でなくとも運べるのだから」

「相手に素晴らしい痛みを与えることを考慮しろ!!」

「確かに素晴らしい痛みだな━━━━━━━━━何せ俺に与えられたのだから」

「駄目だよ、クロノ君。慧君にそんな正論を言っても変な事を言って誤魔化されるだけだから。違った。自分の本心を語るだけなんだから」

「…………………………経験で語っているから物凄く真実味があるね、なのは」

「そう言うなよ、高町━━━━━━━━━レベルアップするよ?」

「まだ上がるの…………………!」

「もう少し常識を知れ…………………!」

「なぁに。俺が世界だ。以上」

「なのは!!どうしてこの男は人間扱いされているんだ!!?」

「私も不思議だよ!!何で慧君の種族は外道族奇天烈種じゃないの!!?」

「日本の諺で確か類は友を呼ぶっていう言葉が合ったよね?」

「ほう。ユーノは博識だな。どこかのツインテールで栗色で白くて馬鹿でアホで間抜けで国語の点数が悪くて自己中心回路を持っていて名前を呼んでってストーカーレベルで付き纏ってきて高町症候群の発症源で魔法少女と粋がっている夢見がちなイタイ子とはまるで全然違うな」

「レイジングハート!!準備はいい!!?標的は目の前だよ!?零距離射撃で頭を撃って少しでも頭を正常に戻してあげよう!!」

「ま、待った、なのは!!君の魔力で撃ったらアースラが落ちる!!」

「慧君を落とすための代償なの!!これからの事を考えると安いなの!!」

「いかん!!頷きかけた!!」

「ははははは。高町よ━━━━━━━━━俺と天秤にかけるなら世界以上のものでなければ釣り合わんぞ」

「僕は慧の器の大きさに思わず感動するよ!!」

「「「………………………………………………………………………………」」」

「ん?どうしたの」

思わず皆で内緒話

(おい、どういうことだ?何故あいつは俺に対してこんなにキラキラした眼差しでこちらを見ているんだ)

(こっちが聞きたいなの)

(まったくだ。最初の内はどこにでもいるような性格だったはずだぞ。精々頭が良くて正義感が強いだけの)

(さり気なくどこにでもいないような性格が入っていた気がするが無視しよう。なら、どうしてこうなる)

(だから知らないなの。慧君が何かしたんじゃあないの?何時の間にか名前で呼んでるし。何時の間にか名前で呼んでるし。何時の間にか名前で呼んでるし!!何時の間にか名前で呼んでるし!!!)

(そこまで気にすることかよ!!でも、特別何かをしたというわけじゃあないと思うぞ。)

(君の事だから無意識的に何かをしたんじゃないか?)

(失礼な。俺は考えて行動するぞ)

(それがまともな行動なら大歓迎なんだがな)

(それはそれで気持ち悪いなの)

(…………………………お前の性格も段々と暴力的になってきたよな)

(し、失礼な!私は普通だよ!!)

(普通の子はこんなにも簡単に武器を振り回すことが出来るかな?)

(え?レイジングハートは武器じゃないよ?)

(ほう?では何だ?)

(━━━━━━━━━魔法だよ?)

(最悪な切り返しだな!)

「ねぇ、みんなで何を話しているの?」

おっと内緒話終了

「ああ。生命の進化について語っていたんだ」

「ああ。植物からマンドラゴラまでの進化の過程は面白かった」

「…………………………面白い?」

黒いのと連携
何とか話は逸らした
すると

「クロノ君。使い魔の女の人、起きたよ」

「早いな」

どうやらあのオレンジ犬が起きたらしい

「あの。アルフさん、大丈夫でしたか?」

「うん。心配はないよ。本人も頑丈なのか知らないけど、命の別状もないし、もう少し休めば起きれるんじゃないかな」

「よかったぁ」

中々頑丈だな
少なくとも三キロぐらいは引き摺ったというのに
俺の知っている獣はみんな生命力が有りすぎだ
少しはそれを他のみんなに分け与えるべきだ
別にどうでもいいけど

「それでアルフさんが面会を頼んでるの」

「面会?」

「艦長にも伝えているから早く行こう」

「わかった」

ぞろぞろとみんなは病室と思しき場所に向かっていく
よし
じゃあ、俺は帰宅の準備を━━━━━━━━━

「あれ?慧君。どうしたの?行こうよ」

「何を言っている高町。俺は部外者だぞ。それがこんなにも関わっていたら駄目だろうが」

「ん?大丈夫だよ。だってアルフさん。貴方も指名しているもの」

やはり助けるべきではなかった
そう後悔しながら逃亡しようとするが高町がバインドとかいう魔法で俺を捕まえたせいで逃げられなくなった
ええい
魔法を得た途端調子のりやがって
今度は男子更衣室(しかも先生用に)放り込んでやる


















そして今現在はかと言うと

「受けてみて!!これが私の全力全開!!」

それは星の裁き
魔力という名の光を集めた断罪の一撃
これを受けたら嫌でも改心すると言われる最悪で無慈悲な一撃
それを

「スターライト、ブレイカー!!!」

動けないテスタロッサに打ち込んだ
もはや弾というより放射だ
もしあれを非殺傷設定で受けていなかったら体は残っていないだろう
だって体が光で消えているし
恐ろしい
あれだけの攻撃を放てることもだが
それ以上に
あんな攻撃を動くことも防ぐことも出来ない女の子に放つその精神性が恐ろしい
見れば隣のオレンジ犬とユーノも怯えている
というか震えている
すると視線が合う
俺達の心は一つだ


嗚呼、俺達は何ていう化物を生み出してしまったのかと━━━━━━━━━


ユーノはまた別種の後悔をし始め
オレンジ犬はテスタロッサを高町と戦わせたことを後悔した
俺は高町と出会ったことを後悔した
そして目の前には何事もなかったようにテスタロッサの心配をしている
そしてそれに甘えているテスタロッサ
まぁ、別にどうでもいいか
本人は無事そうだし
それよりも

「ユーノ。オレンジ犬。とっととあっちに行け」

「え?何で?」

「そうだよ。せっかく感動な場面なのに」

「あの破砕弾を見た後でもそう言うか。真面目に切り替えるけどさっきの話を聞いた所。テスタロッサの母親がジュエルシードに狂的なぐらい憑りつかれているんだろ?」

「…………………………ああ、そうだよ。でも、それがどうしたっていうんだい?」

「ええい、馬鹿め。そんなやつがこんな美味しい状況を見逃すはずがないだろうが」

「「っ!!」」

二人が即座に飛び上がるが
間に合わない
空には自然界には存在しない紫の雷
その雷はまるで意志を持つかのように


テスタロッサを襲った


「はっ、ぐっ、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

「フェイトちゃん!!」

雷はテスタロッサを焼き、苦しめる
だが、傷つき、体力のないテスタロッサよりも
武器が耐えれなかった
戦斧は徐々に罅割れ
そして砕けた
その中から現れるのは宝石の種
人々の願いを勝手に叶える災厄の種
それらは宙に登り
宙に消えた
テスタロッサは壊れたみたいに高町に支えられた
それを俺は


壊れた人形みたいに思えた


















そうして今は艦橋
俺は余程魔法世界に好かれているようだ
ここにいるのは俺、高町、ユーノ、テスタロッサ、オレンジ犬、女狐艦長とその他の局員だけだ
そして目の前にはモニター
そこには


壊れたように笑う幽鬼のような女性と
ボットに入れられたテスタロッサ似の誰かが映っていた


武装局員は噛ませ犬の如く倒された
演出にはもってこいだね
そうして語られる真実
テスタロッサは死んだ『本物』のクローン
それを生き返らさせるためにジュエルシードが必要だった
ふぅん、大した美談だね
そうして極めつけは

「貴方を作り出してずっとね━━━━━━━━━貴方が大嫌いだったのよ!」

「っ!!」

そうして彼女の手から
金色のアクセサリーが
落ち
砕けた
そして
彼女自身も
崩れ落ちる
俺は偶然か
彼女の後ろに立っており
彼女は後ろの倒れてきた
支えようと思ったら支えられた
だから俺は


テスタロッサを無視して前に進んだ・・・・・・・・・・・・・・

バタッと後ろから倒れる音がしたが、別にどうでもよかった

「あ、アンタ!!フェイトを支えることが出来ただろう!!?」

「そうだよ!!何で無視したの!!?」

一人と一匹から声がかけられたが無視した
どうでもいいし

『あら?貴方はそこの人形を支えて人形劇をしないのかしら?』

丁度目の前のモニターから声をかけられたのでそれに乗ることにした

「は?何で?俺が何でお人形遊びをしなきゃいけないのかね?」

「っ!!アンタ!!」

「慧君!!フェイトちゃんは人形なんかじゃないよ!!」

再び無視

『あっはっはっはっは!!素敵ねぇ!お友達はそんな風に言ってないようだけど、そこは大丈夫なのかしら?』

「心配ご無用。高町は別に友達じゃないのでね。そしてそれは高町の目と耳が悪いからだ。お前のその言葉に何の反論もすることも出来ずにただ現実逃避するしかないのなら、それは人形といっても変わりないだろう。何せお前という糸を離された瞬間、蹲るしか出来なかったのだから」

『はっ!素敵ね。貴方とは気が合いそうね?』

「奇遇だな。俺もそちらの方が性に合っている。何せこちらは正義正義を謳っている連中ばっかで辟易する。俺はどちらかというと悪人だからな」

『あら?何だったらこちらに来る?ジュエルシードはあげれないけど。こちらの世界を教えてあげようかしら?』

「美女からのお誘いは嬉しいが、生憎と知らない人について良くなと教育されていてね。」

『あら、残念』

「残念無念また来年」

「君達は何をっ!」

クロノが余りにも犯罪者と仲良さそうに話し合う俺に突っかかろうとしたが途中で気づいた
二人の瞳はとてもじゃないが仲良さそうなもの通しが話す瞳ではなかったからだ

魔女の瞳には嘲笑が含まれている
娘以外はどうでもいいと
だからこの会話もただの戯れだと

無表情の少年の瞳には何も無い
他人どころか自分もどうでもいいと言いたげな瞳だった
だからこの会話も意味がないと

クロノは理解した
この二人は似通いつつも絶対に相容れないもの同士だという事を
そして瞬間
無表情の少年の瞳が二方向に向いた
一人は僕
もう一人はユーノだ
その何も無い瞳からはこう伝えられた気がした


時間稼ぎしてやるから何とかすればと


その瞳を見てようやく金縛りに似た何かから逃れられた
そうだ
僕は執務官
ここで何とかしなきゃ時空管理局の名折れだ
だから彼は念話で伝えた
一つはフェイトを部屋に送ることと
時の庭園に突入することを
目の前の自分よりも年下の無表情の少年に圧倒されながら












『で?貴方はどうしてそこにいるのかしら?見たところ魔力はなさそうだけど』

「なぁに。何故か知らないが散歩していたら綺麗な青い石が落ちていたのでね、思わず拾おうとしたら何故かこんな場所に。まったく何であんな場所にそんな物騒な石が落ちているのかな?」

『危険ね。一体誰が落としたのかしら』

「さぁ?俺の想像が正しかったらきっとそれは魔女だろうな」

『何でかしら?』

「決まっている。あれ程えげつない代物なのだ。魔女辺りが用意した物でなければ嘘だ。きっとその魔女も性根が腐っているだろうね」

『へぇ、悪い魔女ね』

「全くもってその通り」

お互い毒のある会話で牽制
そこに微塵も善意はない
お互い敵を嘲るぐらいの意味しかない
…………………………周りの人間が胃薬を求めて走って行っていたが無視

『それで、結局貴方の願いは何かしら?』

「ん?ああ、まぁ、ぶっちゃけると別に願いなんてなくてね。俺がここにいるのはここにいる奴らと違って正義感に酔っているわけでもないし、高町みたいに力があると自惚れたわけでもなければ、どこぞのちっぽけなお人形さんみたいにママのおっぱいが恋しいわけでもなければ、オレンジ犬みたいに忠義があるわけでもない。俺は単に━━━━━━━━━自分が住んでいる家が壊されてはたまらないだけだ」

それだけである
それを言うと魔女と他のメンバーは驚いたような顔をした
すると

『あはははははははははははははははは!!物凄いエゴの塊ね、貴方!!他人の都合何てまるで考えてないでしょう!まるで王様気分ね!!」

「いやいや。どこぞの娘の為に世界を滅ぼそうとしているどこかの性悪魔女に比べたら俺なんてただの子供さ」

『「ははははははははははははは━━━━━━━━━最低ね(最低だね)」』

罵り合うタイミングもばっちし
俺達仲良し?

『嫌よ。貴方と仲良し何て━━━━━━━━━反吐が出るわ』

「そいつは嬉しいな。お前みたいに過去にばっかり縋って私は娘を取り返して見せるって馬鹿みたいに叫んでいる夢見がちなイタイ大人と仲が良いなんて思われたら天国の両親に申し訳ない」

ギリッと軋む音が聞こえた
それは目の前の魔女が怒りで歯を食いしばった音であった

「━━━━━━━━━黙りなさい」

「ほう?最近の大人は子供から言論の自由を奪うのかい?そいつは知らなったらな。そこで眠っている眠り姫に聞かれたらさぞや悲しむだろうな。最低な親だと」

『アリシアはそんな事は言わないわ!!あの子は優しい子だわ!!ほら、見なさい!!この素晴らしきアリシアの思い出!!太陽や星なんかどうでもいいくらいのレベルの輝きでしょう!!』

「まさか、このシリアスシーンに子供自慢をされるとは思わなかったよ。まぁ、それは女狐艦長の頭の中に置いといてだ。ああ、そうだったな。そこの眠り姫は確か君の都合がいいお人形さんだったな。君の願いを叶える為の都合がいい舞台装置。成程。そんな子供からテスタロッサを創ったのならああいう風に人形みたいに育つか。良かったではないか。テスタロッサには君の娘の面影がちゃんと残っていて」

『━━━━━━━━━━━━━━━━━━」

最早言葉で激情をぶつけることすら出来ないというぐらいの怒気が飛んできた
それでそういうのに何人かの慣れていないオペレーターは震えあがっている
情けない
これぐらいの怒気ぐらいは慣れてなきゃいけない立場だろうに

『…………………ふん。口先だけは一流ね』

「そいつは褒め言葉だな。口先が一流という事はその他も一流という事だ。何せ俺は有言実行派でね。口先でも実行できる男だという事だ」

『筋金入りの馬鹿ね…………………………』

「それはお互い様の気がするがね?管理局とかいう正義馬鹿の皆さんを敵に回している魔女殿」

「…………………成程。確かにね」

『…………………目の前で言いたい放題ね』

魔女も俺も無視した
どうでもよかったので

「まぁいい。これからは罵り合いではなくもっと建設的な話をしようではないか。お前のこれからの話に繋がるから聞いていて損ではないと思うがね」

『あら、卑怯ね。これからの話に関係があるなら私は嫌でも聞かなきゃいけないじゃない━━━━━━━━━いいわ。入ってきた虫けら共もそうだけど、まだアルハザードに行くには時間がかかる。それまでなら聞いてあげるわ』

「そいつはどうも。では、これからは科学者としてのお前に聞こう」

『━━━━━━━━━何かしら?』

「なぁに、簡単だ。すなわち━━━━━━━━━命とは何かという事だ。これからの事に重要だろう?」

『…………………確かに必要だけど哲学的ね。私は科学者よ。哲学は専門外よ』

「構わんよ。俺が聞きたいのは哲学的視点ではなく、科学的な洞察だ」

『…………………ふん。命ね…………………ある意味科学者なら一度は考える領域だけど。それを本質的に理解した人間はいないわ。それは魔法世界でも同じこと。どこぞのマッドサイエンティストは知らないけどね』

「つまり…………………まるでわかっていないと」

『面白みのない話なら返せるわよ。例えば魂とか、例えばそれは心臓とか。でも、どれも具体的には違うでしょうね。そうね。強いて言うなら━━━━━━━━━命とは人間そのものよ』

「ふぅん、成程。」

話はよーく解った
成程、成程
そーいうオチか

『で?話は終わったかしら?』

「ああ、終わったよ━━━━━━━━━とっとと娘と共に自滅しろ」

ピシッ
そういう幻聴が聴こえた
別にどうでもいいけど

『━━━━━━━━━それは、どういう意味かしら』

さっきの怒りとは別次元
最早殺意のレベルにまで昇華されている
心地よくも悪いわけでもない
別にどうでもいい殺意だ
これならば二年前のあのヒットマンの方が手強かった

「どうもこうもない━━━━━━━━━お前が失敗するのが決定したからだ」

『そんなわけないわ!!必ず成功する!!アルハザードには死者蘇生の秘術があるから!!』

「あるかどうかは知らないが、ま、仮にあるとしよう。では、聞こう。あったとしても、お前はそれをすることができるのか?」

『…………………………あっ』

まっ
簡単に言えば手術みたいなもんだ
その医者は例えば脳の手術については詳しいが他の手術の知識は知らない
そんな状態の人に例えばがん手術とかが出来るか?

百パーセント失敗する
魔法のそういう技術がどうなのか知らないが、少なくとも繊細な技術であろう
それも死者蘇生の魔法
それも失われたアルハザードとかにしかない秘術
そんなものが速攻で使えるようになるはずがない
少なくとも知識の方は詰めなくてはいけないだろう
技術の方は経験でも使えばいいかもしれないが
それに

お前の方は時間がないっぽいらしいからな・・・・・・・・・・・・・・・

『!!何故それを…………………………』

「諸事情でね。死体は見慣れている・・・・・・・・・。その記憶と照らし合わしたら。お前の顔色は既に死に体だ。ぶっちゃけよく立っていられるものだと感心してしまうよ」

『…………………………』

「そんなただでさえ時間制限がある身なのに。その上死者蘇生の魔法の習得。不可能の三乗ぐらいの難易度だね」

『…………………………』

「それともそっちの技術はそれこそ魔法よろしく不可能を可能に出来るのかい?はっ、無理だね。じゃなきゃこんなところで頑張っているわけないよな!?」

『…………っ!!』

「いい加減に気づけよ、魔法使い。奇跡なんてものはこの世のどこかにあったとしてもそれは俺達みたいな最低で最悪な人間には起きないという事を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

世界の残酷かつ公平なルールを魔女に叩きつける
それぐらい、この魔女は理解しているはずだ
現にいま、俺の言葉に口を閉じている
反論したければすればいいのに
そこで理解した
こいつがどういう思いでここにいるのかを


…………………………不器用な奴


そうなると次のセリフは予想されている
案の定
そのセリフだった

『…………………そうだとしても━━━━━━━━━もう私は止まれないのよ!!』

ブツンとモニターが切れた
それが魔女の最後の意地だったのかもしれない
もう俺がやれることは何もないだろう
一つを除いて

「はぁ。こういうのは趣味じゃないんだが。まっ、しゃあねぇ。乗りかかった船だ。俺の主義通り━━━━━━━━━手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐にお前を倒そう」

そうして何やら騒がしくなったその場から去った
行く先は簡単
お人形さんのお部屋だ














あとがき
次で無印最後です



[27393] 第二十五話  <無印完結>
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:26

「アレキサンダー大王!!」

唐突な奇声でテスタロッサが入っている部屋に入って行ったが無反応
思わず滑ったかと思うが、まぁ、自重
流石の俺も空気は読める子だが
つい、うっかり
どこぞの赤いのの遺伝を受けてるかもしれない
別にどうでもいいけど
そう思いながら
テスタロッサが寝ているベッドの方を見る
そこには


正しく
人形が寝ていた


眼に意思はなく
顔に感情はなく
四肢には力がない
ただ、寝るだけの人形

ただいるだけの人形
なまじ造形が整っているから余計にそう思える
事実、俺はそう断定する
感情はともかく
意思がないのは人間性の欠如だと思う
だからここにいるのは糸を失った人形
昔からよくある話
壊れた玩具は最終的にどうなるでしょうという話だ
でも、困った
別にテスタロッサがこのまま精神崩壊しても別にどうでもいいんだが
それでは、あの魔女の嫌がらせが出来ない
かといって、俺は人形遊びなんて趣味でもなきゃやったこともない
幾ら俺の口先が凄くても
人形相手
じゃなくても
相手と意思疎通が出来なきゃ通じない
困ったもんだと嘆息した
別に絶対にしなければいけないというわけでわない
あんな魔女が百人や千人
死んだところで俺には何の影響も与えやしない
『契約』もしていないし
でもそうなると嫌がらせが出来ないんだよな~
あの魔女はまぁ、他人事というわけでもなさそうだし
かといって、俺事というわけでもないが
まぁ、結局は別にどうでもいいけど
と思ってたら
呼吸音がした
別にさっきからテスタロッサは呼吸をしていた
だが、それはただ呼吸するためだけの呼吸だ
この呼吸は人だけが出来る事
話す時にする呼吸だ
どうやら
まだ気力はあるらしい
よしよし
これならば
あの魔女の目的を


■■できるな━━━━━━━━━



その時
誰もこの少年を見ていなかった
だが、もし見ていたならば
誰もがこう思うだろう
何て薄気味悪いと
だが、見れるはずはない
きっと、それは錯覚だからだ
何せ一度も感情を出さなかった彼が



絶対零度を超えるほどの冷気を感じる
三日月形に歪んだ嗤いをしたのだから
ただ愉悦の形に
■■を楽しむ悪魔の形に
きっと
悪い夢だろう
だって、彼は笑いもしないし
嗤いもしないはずなのだから















ぼうっとした思考の中
いつも通りの無表情の彼が来たことを視界は捉えていたが
何かをするという気にはなれなかった
そもそも、私は何をしたかったんだっけ?
自分の原初の記憶を忘れている
胡乱な頭は勝手に動こうとする
私はそれを止めたいのだけど脳は勝手に動いてしまう
嫌な頭
私の頭なのに私のいう事を聞いてくれない
これじゃあ、母さんが見捨てるのもおかしくない
そうだ
母さんが悪い筈がない
母さんはとてもいい人だ
悪いのはきっと私なのだ
だって、母さんは何時だって
何時だって
何時だって?
笑ってくれた
笑ってくれた?
記憶が
意思が
自分が
何もかもが混濁する
何もかもがあやふやだ
そのくせ、自分はまだここにいると感じる
いっそ、消えてしまった方がどんだけ楽か
なのに、望むことを起きない
別に私は凄い事を望んだわけではない
世界征服とか
国はが欲しいとか
そんな大層な事を望んだわけではない
望んだのは小さなこと
本当に本当に小さなこと
町を歩いていたら気づいたこと
きっと、どこにでもあるような幸せ
私はただ、それだけを欲していただけ
普通の子供が聞いたら欲がないとか言われるかもしれない事
でも
それで十分だった
それだけで満足できるものだった
なのに私は叶わない
理不尽だ
公平でもなければ平等でもない
余りにも酷い世界だ
そして気づいた
世界がどうしようもないのではなく
どうしようもないのが世界だと
私は一体何をしていたのだろうか
本当に私は何をしたかったのだろうか
疑問は口に出た
動かないと思っていた体は意外と簡単に動いた
疑問は空気を揺るがせ、音となった

「私は…………………何をすれば…………………よかったんだろう?…………………」

答えが欲しかった
陳腐な言葉でもいい
下らない言葉でもいい
ただ答えが欲しかった
都合がいいと言えば言葉が悪いが、目の前には無表情の少年がいた
何時も言うわけではないが私を助けてくれた少年だ
だからきっと
私を
助けて━━━━━━━━━
だが、彼女は知らなかった
少年の信念は手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐に動くのが彼の行動理念だ
そして、何よりも
彼は馴れ合いが大嫌いだ
現に彼は自分を支えなかった

「━━━━━はっ。いい身分だこと。何もかもを他人に任せればいいと思っているのか。このお人形さんは」

「………………………………………………………………………………え?」

何を言われたのか本当に分からなかった
あれ程勝手に動いていた頭が今は動きを止めている
彼は私のそんな状態を無視して話しかけてくる

「あの魔女の言っていたことは丸っきり正しいようだ。魔女の癖してまぁ、真実ばかり話すこと。それにまぁ、お人形遊びが上手い事、ついでにお人形制作も。魔女じゃなくてその道のプロになればよかったのに。それならば今頃金持ちになっていただろうに」

罵倒は続く
一つ一つの言葉が私を痛めつける
母さんに人形と言われていたのと同じくらい痛い
つまり、私は無意識に彼の事を信頼していたという事か

「信頼?綺麗な言葉を吐いて自分を誤魔化すなよ」

彼は信念通り容赦なしの言葉
侮蔑の感情を大量に含んでいるが、表情は相変わらず無表情
最初から最後まで
彼はこのような状況でさえ自分には何の影響もないと言葉もなしに伝えてきている

「お前はただ他人に依存しているだけ。共存ではなく依存。簡単に言えばただの傍迷惑だ。」

「…………………っ!」

傍迷惑
共存ではなく依存
つまり、私は
人に寄り掛かるだけで相手に何も恩返しできない
人形
誰かに操ってもらわなければ動けない人の形
誰かがいなければ


何もできない人形━━━━━━━━━


何も
否定できない

「本当に━━━━━がっかりだ。てっきり、もう少しは根性ある奴かと思っていたら、実質は他人の命令がなければ動けないただの無気力なお人形。しかも、傑作な事に、自分が世界で一番不幸ですみたいな顔で不幸なヒロインみたいに俯いている。馬鹿らしい。この現実に白馬の王子様はいないぞ」

何もかもが正しい
彼は何も間違っていることを言っていない
彼の言葉が私に弱さを突く
止めようにも止めてくれる人もいなければ、止める勇気もない
何よりも
止める資格がない
そう思っていたら

「本当、あの魔女も馬鹿だなぁ。こんな出来そこないの人形なんて作るなんて。人形が人形なら製作者も製作者か。どちらも救いようがないただの屑だな」

瞬間
頭が沸騰した
考えての行動ではなかった
勝手に両手が動き
勝手に少年の襟首を掴んだ
今まで出したことがないような力で
先ほどまでそれこそ人形のように脱力していた四肢で
人形のような手足だった手足は人間に生まれ変わった
そんな気がする動きだった
そして口も先ほどのような消えそうな言葉ではなく
熱く滾るような意思だった



「母さんを……………母さんを侮辱するなぁ!!!」



こんな怒声を出すなんて考えてもいなかった
そして考える気もなかった
思考なんてせずに口が勝手に動いた

「私を侮辱するのはいい!!でも、母さんを侮辱するのは許せない!!」

「ほう!何を許せないんだ。それにさっきまで自分を人形扱いした自分の母親を擁護するのか!はっ、大した依存心だ。操り糸がなきゃ動けないもんな、お人形さんは。結局はお前の今の怒りも、その自分が依存できる存在を失わせないためのただの自己防衛だろう。他人の事なんてまったく考えてないくせに、まるで、他人が大事大事みたいな言い方しやがって。ご立派、ご立派。俺も見習わなきゃなぁ、その処世術」

「っ、違う!!確かに私は他人に依存ばっかりしてきたかもしれない。それでも、それでも、」

何度も言葉が詰まるけど、それでも必死に口を動かそうとする
認めなくてはいけない
この先からの反論を言わなくては
そうでなければ資格がない
私は確かに人形だった
ただ、母さんの命令を受けるだけの
そういう意味では確かに人形だった
でも
しかし
その根底にあるのは
そうやって、命令を聞いていたのは

「全部私の意志だよ!!」

そうだ
何もこの目の前の少年みたいに無感情で動いていたんじゃない
依存ばっかりしていたけど
それは立派な意思ではないのか
嫌、立派ではないだろう
それでもそれは意思だろう
人によっては醜いと言うかもしれない
汚いというかもしれない
でも、それを否定したら今までの自分が嘘になる
そうだ
確かにこの体は偽物だ
この記憶は偽物だ
もしかしたらこの技術も
この経験も
この言葉も偽物かもしれない
何もかもが偽物かもしれない
だけど
だけど!
譲れないものがある
そう
あの夜
宿の上で目の前の少年と問答したことがある

『やりたいことがあるんだろう?』

『自分が傷ついてでも、相手が傷ついてでも、成し遂げたい何かがあるんだろう?』

『それなのに、お前はこんなことで諦めるのか。良心が咎めたから。手伝ってもらっている人の知り合いを傷つけたくないから。そんなことで諦めてしまう程お前の意志は薄っぺらいのか?』

その問答を聞いた後
私はどういう反応をした
そう



『違う!』




こう答えたはずだ
誰かの命令に甘えただけかもしれない
ただ、母さんに認めてもらいたいの一心だったかもしれない
それでも

「依存かもしれない!逃避かもしれない!甘えることしか出来ない子供の綺麗事だったかもしれない!それでも、私は私の意志で進んだ!!後悔だらけだったし、間違えだらけだった!何度も挫けかけた!それでも、前に進んだ!それはやり直しても一緒!!例えスタート地点に戻っても私は同じ道を選んでいた!それを馬鹿というかもしれない!愚かっていうかもしれない!ただの自己満足っていうかもしれない!でも、そんなの関係ない!!」

自身の言葉が自分を温めていく
まるで、血が通っていなかった体に血が通っていくみたいに
熱く
強く
心臓が強く鼓動する
私は人形ではなく人であると証明するかのように
仮初の心臓みたいにリンカーコアが熱く活動する
魔力が暴れている感じがする
まるで、自分を動かす原動力みたいに
だからそうした
変化は一瞬だった
病人服みたいな服は瞬時に自分が使っているバリアジャケット
すなわち、戦うための姿に
無手だった手には黒い戦斧に
それは力のない自分に力を貸してくれるために
壊れていた私の相棒は私の意思をくみ取ってくれたのか
自己回復していく
それはつまり、共に戦ってくれるという証
こんな主人でも認めてくれるという証
私にはもったいないパートナーだ
それらを自分の『意思』で持ち
そしてバルディッシュを彼に突き刺すかのように構え



「私は!私はフェイト・テスタロッサだ!!不出来で間違いだらけで母さんにも認められないけど!それでも!それでもフェイト・テスタロッサだ!それを誰にも否定はさせない!例えそれが」


世界が相手でも━━━━━!




そう言い
足元に幾何学的な金色の魔方陣が浮かぶ
行く先は決まっている
何を為すかも決まっている
さっきまでぐだぐだしていた意思は透き通っているみたいだ
迷いはない
そんなものは捨てれた
後悔も捨てれた
もう十分だ
もし、目の前の少年が私を止めようとしても無理矢理進む覚悟もした
だから、目の前の少年を見た
すると
そこには



無感情ではある
無表情でもある
相変わらずだが
その何にも映っていなかった黒い眼には
何か
羨望みたいな感情が━━━━━



転移が始まる
彼の姿が薄れていく
そんな中
私の耳に聞こえる音があった

「……………………………………………………何だ。やれば出来るじゃないか。『フェイト』」

彼のその一言で
力も解放された
そんな気がした
その瞬間だった
その時だった
私が
ケイを
風雷慧を
恋した瞬間は















そして後日
ケイにあれだけの啖呵を吐いても
結局は母さんに拒絶された
最後まで母さんはアリシアを見ていた
私ではなくアリシアを
それでまた後悔とかが出てくるのは避けれなかったけど、それでも自分が選んだ答えだと思う
そうじゃなきゃ彼に申し訳ない
そして今は
公園でなのはとお別れの挨拶をしているところだった
お互いに泣き、抱き着き、名前を言いあった
名前を呼ぶことが、友達
それならば
私とケイは友達だったのかな
…………………………本当に?
勿論、友達であったのなら嬉しい
でも、私は
『それだけ』を望んでいたのだろうか

…………………違う

母さんに会いに行く前に私は自覚したではないか
これは友情ではなく
…………………あ、愛情かなって
最後になのはとリボンを交換し合った
そして

「…………………時間だな」

クロノがそう言った
でも
私はわがままかもしれないけど
不満を覚えた
だって、ここに

…………………ケイがいない

まだ自分の思いの丈も伝えていない
それなのにこのまま別れるのは
嫌だ
その思いが口から溢れた

「あの…………………会いたい人がまだいるんです」

みんなの視線が釘つけになった気がした
そしてクロノはすぐさま困った顔になった

「…………………事情は大体理解するけど…………すまない。これでも無茶しているんだ」

やっぱりという思いと
残念だという思いが同時に溢れた
わかっている
この場にいる事が既に我儘だという事を
それでも願ってしまうのが人間の性というものなのでしょうか
でも、わかってる
それを願うには自分は許されない事をし━━━━━━━━━

『うわ~、大変だ~。唐突に機材が~。艦長、緊急事態です~』

『あらあら。大変ね!もし、この間に誰かがどこかに行っても動けないわ~』

「「「「「はっ?」」」」」

みんなの声が揃い、疑問の意思を表す
しかし、そんなものは聞かないとばかりに声が続く

『そうだった。俺━━━━━この後あの子に告白するんだった。君の眉毛に乾杯って』

『OK.きっとアンタはその彼女に殺されるという死亡フラグを踏んだね』

『あ、いけね。私、今日は限定のマジカルパラダイス!恐怖のベリーメロンを見に行くんだっけ』

『作者の脳が沸騰してるとしか思えないタイトルだがしょうがない。僕も行かせて貰おう』

『嫌々付いて行くみたいな言い方だが、その手に抱えているパンフレットと色紙は何だ』

『いかん。そういえば知り合いに下剤を買ってくれと頼まれていたんだ』

『おっと、そいつはいけねぇ。それを許すと必ず一人が苦しむ結果になる』

そう言って彼らは離れていっているのか
人の声が聞こえなくなった

「か、艦長!そんなことをしたら、大変ですよ!!」

クロノも慌てている
それはそうだろう
今やっている事は犯罪者を逃そうとしているの同意だ

『あら?だって仕方がないじゃない。機材が壊れてしまったんだから』

『そうそう、クロノ君。人間にはどうしようもない事とどうしようもない不運っていうのがあるんだよ?』

「確信犯はそうは言わない…………………!」

クロノは頭痛を堪えているみたいに頭を押さえている
すると

「おっと、僕のリンカーコアが勝手に魔法を紡いでしまっている、誰か僕の暴走を止めてくれー」

「わ、わぁー、た、大変だー。ユーノ君、しっかりー(棒読み)」

「おっと。こいつは大変だ!そこのちっこいの!ユーノを止めるのを助けてくれ!」

「君達もか!!」

何時の間にか結界も張ってあるし、暴走というには何だか作為的にクロノに向かってバインドが向かっている
た、大変だ
私の一言でこんなことに
すると念話で

『フェイトちゃん。今のうちに行って!』

『で、でも!』

『大丈夫だよ、フェイト。クロノは頭が固すぎてどうしようもないけど』

『あたし達三人なら何とか時間稼ぎは出来るよ!だから、フェイトは行っておくれ!』

何だか死地に行く直前の雰囲気になっている気がする
でも、それは
確かなみんなの絆を感じるものだった
選択肢は二つ
甘えるか
収めるかだ
何時もの私なら後者を選んでいる
でも

…………………今日くらいは、いいよね?

そうと決まれば即座に動かないと
疾風迅雷が私の好きな言葉なんだから
だからみんなに伝えた
これからを精一杯生きるために


「━━━━行ってきます!!」


その後
四十分程でフェイトは帰ってきた
彼女は嬉しそうに赤面しながら唇を撫でたという
ちなみに同時刻
どこぞの無表情の少年は何を思って発狂したのか
首つり縄を持って、学校の一番大きな木で自殺しようとして、途中で恭也さんに見つかって止められていた
最終的には某樽から出てくる海賊で自殺しようとしていた
どうやって自殺しようとしていたのかは不明だ













あとがき
ようやく無印が終わったー
次からはもうほとんどがオリジナルになると思います



[27393] 第二十六話  【A’S開始】
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:26

「はっ?八神の誕生日パーティー?」

「うん。それのサプライズ版」

「それをなのはの家でやるから」

「慧君もちゃんと来てね。後、プレゼントとかも用意してね」

思わずむっとした顔になる
今はあの忌まわしき?魔法の事故から巻き込まれてようやくの平穏を掴めたある日である
あの年増の魔女との舌戦とか
あの年増の女狐艦長との舌戦とか
あの頑固というか融通効かない黒いのとか
あの最初は覚悟もしていないフェレットだったが今はマシになっているユーノとか
あのイタイ子全開の高町とか
あの金髪ツインテールボケ殺しのフェイトとか
あとあの柔らかい唇のか━━━━━
思考強制停止
駄目だぞ

その先を思い出したらいけないぞ
じゃないと━━━━━

「ねぇ、慧君━━━━━今、素敵な事を思い出さなかった?」

隣の素敵な吸血鬼にぶっKILLされるぞ

「やだなぁ、すずか。俺の頭は何時も素敵なこわい君の事しか考えてないさ」

「あはは、やだ。慧君。もう、恥ずかしいよ~━━━━━今、変なルビを入れなかった?」

「HAHAHAHA.すずか━━━━━それはきっと君の悪い夢だ」

「何だ~、そうだったの~。じゃあ、私の脳内の慧君がこんな風に返事をするようになるくらい現実の慧君が酷いってことかな?」

「その切り返し方は想定していなかった…………………」

「ていうか、慧君。すずかちゃんには甘いよね」

「きっとアレよ、なのは。すずかが将来、自分好みの女になるって予測しているから、今のうちに飴を与えているのよ」

「OK.その小学生では有り得ないその思考を止めろ。そしてその話を真に受けて俺に迫ってくるな、すずか」

最近
余裕がないと思う生活である
これならば、魔法の方がマシかもしれない
嫌な人生だ
もう少し優しくしてくれてもいいと思う
別にどうでもいいけど

「脱線している、脱線している。ほら、なのすずけい。話を戻しなさい」

「何て不名誉な省略だ」

「色々と語弊があるよね」

「アリサちゃんのネーミングセンスは少しレベルが高過ぎるよ」

「…………………風雷とすずかはともかく。なのは、アンタまで…………………」

「「「嘘は言ってない(よ)」」」


しばらく、お待ちください


「…………………話、戻しましょうか」

「…………………そうだな」

「うにゃぅ~」

「…………………何だか私。段々と悪い子になっている気分」

乱闘を終えて一息
ちなみに上手い事痣とかそういうのは残さないのはプロの手口
将来
こいつらがドメスティックバイオレンスを起こしても気づかないだろう
何て最低な技術だ

「え~と。何の話だったっけ?」

「うちの学校の教師陣の遺伝子には何かえげつない遺伝子。そうオカシニウムという遺伝子が入っているのではないかという話だ」

「…………………一瞬。誤魔化せそうな遺伝子だね」

「どちらかというと成分ぽいわ」

「否定はできないだろう」

「とりあえずその遺伝子はアンタとすずかとなのはとはやてにも入っているわね」

「ああ、そうかもな」

「??意外ね。すんなり受け入れるなんて」

「ああ━━━━━その代りバニングスには暴力遺伝子パワフルニウム、マッシグラーという遺伝子がある」

「きっと命日って命が尽きる日の省略の言葉なのよね…………………!」

本日二回目の乱闘
俺の昇○拳を受け止めるとは
化物め

「はやての誕生日パーティー。出なさいよ、アンタ」

「バニングスよ。俺が何て答えるかなんて解っているだろう?」

「ええ。長い付き合いだもの」

ニコッとバニングスは笑い
俺は笑わなかった

「だが、断る!!」

「すずか!!やっておしまい!!」

「くすくす笑ってゴーゴー!!」

「何の!高町シールド!」

「うにゃげふっ!」

「なのはちゃん、退いて。慧君を押し倒せない」

「高町、頑張れ。今、お前の真価が試されている…………………!」

「肋骨が…………!肋骨がきりきり軋んでいる…………………!これ以上は耐えることはできないって訴えているよ…………………!」

「臨界点まで残り六秒と見た」

「冷静に…………言ってないで……………助けてよ…………………!」

「4、3、2、1」

「うにゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

以下略
正直、このメンバーは真面に話そうという気を起こす人がいない
またもや一息

「でも、アンタ。そんなこと言いながらちゃっかり誕生日パーティーの日はいつも来ていてじゃない」

「口ではこう言いながら慧君は優しいんだよね」

「うんうん」


不愉快な発言
しかし真相は

「何時も高町父が脅してくるんだが。前は足の腱を切って無理やり連れだすとか言っていたが」

「「「…………………」」」

あの時はやばかったなぁ
ガトリングガンを忍ばせていなかったら流石に防げなかった
生活の知恵とはこの事か

「ふぅ…………………偶には平和な平日を過ごしてみたいなぁ~」

「じゃ、じゃあ!今度私とデー━━━━━」

「一人で」

「一人デートなんて!そんなのさせない…………………!」

「俺、将来。すずかに殺されそうだ」

「アンタも大変ね」

「ご愁傷様なの」

「他人事だと思って…………………」

「「だって他人事だもん」」

「話が進まないぞ」

お前らも話逸らしているじゃないか
女三人揃えば姦しいっていうやつか
傍迷惑この上ない
ちなみに当の八神は

「は~~~~い、今日はいつもよりもよ~~く回っています~~━━━━━士郎さんが」

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!桃子の為ならえんやこ~~~~~~~らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「素敵よ~~~~、士郎さ~~~~~~~~ん!!」

「桃子は俺の百倍素敵さーーーーーーーーー!!!」

「…………………(くるくる)」

「もっと!もっと!私、士郎さんとお義母さんの良い所もっと見たいな~~~~」

「ならばはやてちゃん!俺の事はパーパと呼んでくれ!!」

「そんなお義母さんだなんて~~~。マーマでも良いのよ~~」

「…………………俺は何時まで番傘をまわしとけばいいのだ…………………(くるくる)」

色々と時間稼ぎをしてくれているらしい
体を張って
馬鹿ばっか

「大体、そんなものはお前ら仲良しお人好し器量良し暴力良しだけですればいいじゃないか。俺みたいな奴は楽しい雰囲気を台無しにするだけだと思うぜ」

「んん?何か一つだけ変な良しがあった気がするけど…………………」

「気にしちゃ負けだよ、なのはちゃん」

「そうよ。この馬鹿げた暴言遣いを相手にするにはそれがベストなのよ」

「…………………何時の間に俺に暴論遣いという二つ名がついているのだろうか?」

どこぞの○言遣いか
ファンに知られたらリンチを受けるぞ
別にどうでもいいけど
はぁ

「わかったよ、わかったさ。行ってやるよ」

「え?珍しいね。何時もなら結局は士郎さんか恭也さんの手によって拉致じゃなくて連行されなきゃ来てくれないのに?」

「その行為が嫌だからこう言ってんだ。仕方がない。いい加減無理矢理気絶されて拉致られるのは飽き飽きだ。それならば、まだいっそのこと自分から行った方が肉体的ダメージが少なくて済む━━━━━その分、精神的ダメージがありそうだが」

「にゃはは。それでもよかったぁ。はやてちゃん、喜ぶよ~」

「ま、これで後はパーティーの準備とプレゼントの用意だけね━━━━━サプライズ作品は例年通り忍さんが作製だし」

「…………………この前家に唐突に癇癪玉が投げられたのだが」

「ああ、それは忍さんが前言った秘技☆癇癪ミラクル!その光は美しかった…………じゃない?」

「ああ。何故癇癪玉なのにタイトルに光が付いているのかというツッコミは保留がするが━━━━━破裂した瞬間レモン汁が飛び散って暫く○スカ大佐ごっこをする羽目になったんだが。アレを投げた奴は誰だ」

「確か━━━━━はやてちゃんだったよね」

「プレゼント。良いものにしてやらなきゃな…………………」

「何だか物凄い良いセリフを言っているような感じだけど、嫌な予感が物凄いプンプン…………………」

そんな馬鹿な
俺はアイツの為に素敵な狸料理をプレゼントしてやろうと思っているだけなのに
んん?
狸が食べるものって何だろう?

「まぁ、いいや━━━━━ところで」

「何よ。後半部分だけマジになって」

「━━━━━八神の誕生日って何時だっけ?」

「OK.記憶を復活させるには頭を何回殴ればいいかしら。出来れば教えてほしいわね━━━━━私に余計な手間をかけないために」

「俺の優秀な記憶能力を揺さぶろうとするとは━━━━━どこぞの山猿と似た存在だね」

「ほう、聞き間違いかしら。長年付き合ってきた知り合いの誕生日を忘れている人間が自分の記憶能力の事を優秀とか言っているように聞こえたのだけど。寝言は寝てからではなく命が尽きてから言うべきね」

「馬鹿な事を言う。死んでから話せるわけないというのに━━━━━テレビの見過ぎだね。夢見がち小娘君」

「大丈夫よ。だって貴方。悪夢のような存在なんだもの━━━━━まさしく夢見を悪くするようなね。だからそれぐらいしそうじゃない」

「ふぅ、やれやれ。とんだじゃじゃ馬な事だ━━━━━どうやら力づくが好みのようだな」

「あら?だってその方が簡単に決まるじゃない」

「上等。遺言を残したらどうだ?どうせ直ぐに語ることが出来ない体になる」

「お生憎様。私はそんな未練たらたらで女々しい女じゃないの。」

「成程。そこだけは好感を持とう」

「ふふ、ありがとう━━━━━じゃあ」

「ああ、決めようではないか━━━━━どちらが最強か!!」

「「話がすり替わっているよ!!」」

高町はバニングスにタックル
すずかは俺にアッパー
どっちも結構効いた
というか拳に愛が感じない

「じゃあ、口で━━━━━」

「勘弁してください。いや、本当に」

俺の人生はこんなんばっかだ
命がいくつあってもたりゃしない

「で、結局、何時だっけ」

「…………………本当に覚えてないの?」

「覚える必要がなかったという事だろう」

「アンタにぴったしなセリフね…………………」

「はいはい。どうでもいいから、教えないなら別に無視するけど」

「今、教えるからちょい待ちなさい。今度は忘れるんじゃないわよ」

「後ろ向きに善処出来たらしてやる」

「物凄い前向きネガティブ発言だね…………………」

「言葉を選ぶ前に早く答えなさい。もうそろそろ八神がここに来るころではないか?」

「それもそうだね。じゃあ言うよ。はやてちゃんの誕生日は━━━━━」

この頃は知らなかった
それが約束された闇の誕生日とは
呪いに呪われ闇の名を得た書の事を
俺達は残念ながら知らなかった

「6月4日だよ」




















「いやーー。お待たせなーー。お義母さんと士郎さんの芸が面白くてつい遅れたわーー」

「なぁに、気にするな八神。その分、ここで食べた代金はお前につけといた」

「え、ホンマにーー。あははは━━━━━嘘やろ!!?」

「八神…………………俺がそんな下らない嘘をつく男だと思っていたのか。だとしたら俺は悲しいぞ。俺は何時だってお前には嘘をつかなかったというのに」

「何でやろう……………かなり嬉しくなりそうなことを言ってくれているのに全然嬉しく感じひんのは…………………」

「それは嬉し過ぎて心が追いついていない証拠だ」

「ああ、成程~。私、今、喜んでるんやな~~━━━━━絶対無理」

「安心しな。ここは翠屋だ。酷い事にはならないだろう━━━━━多分」

「最後に余計な事言った!!」

「気のせいだ。とりあえず俺を信じろ(高町母のスィートルームにご招待されるぐらいはされるかもな)」

「今、心の中でかなり最悪な未来予想図を考えていたやろ!」

よし
とりあえず八神の俺達の集まりを不審に思わせないように出来た
後ろの3人に八神には見えない位置で親指を立てる
3人も八神に見えない様に親指を立てた
ちなみに後ろの3人は


流石暴論遣い
言葉だけなら人類最強━━━━━!


等と考えていた
ちなみにお金は実はちゃんと払っている━━━━━ツケで

「さて━━━━━じゃあ私の家に行こ」

「行ってらっしゃ━━━━━待て、すずか。何故俺の両手両足の関節を外す。これじゃあ動けないじゃないか」

「慧君の一番の長所の口は動かせれるよ?」

「やだなぁ、動けなくする理由になってないじゃないか」

「大丈夫だよ。なのはちゃんの家について逃げる心配がなくなったら嵌めてあげるよ」

「出来れば俺は今すぐに嵌めてほしいな~。嵌めてくれたら俺、すずかに良いことしてあげるかも~」

「う~~~~ん」

「すずかちゃんすずかちゃん。迷っちゃ駄目、迷っちゃ駄目、きっと慧君の事だから直ぐに嘘をつくよ」

「そうよ。アイツにやられてきたことを思い出しなさい。思わず敵意が……………殺意が溢れてくるわ」

「あ、アリサちゃん。最後だけマジなのはやめてーな」

「お前ら実は俺の事嫌いだろ」

「私は普通だよ」

「私は嫌い」

「私は好きかもしれへんでーー」

「私は愛の概念では足りないくらい好きだよ」

「とりあえず、すずかには聞いていない。そしてバニングスは予想通りで八神はただ面白がっているだけだろうが」

「ふふ~~ん。わからんで~~。はやてちゃん。実は大分前から慧君の事をアイタっ!!」

「はやてちゃん。その件については詳しくハナソウネ」

「じょ、冗談やで…………………」

「ヤンデレすずかか……………見慣れてきたら面白くなくなるわね」

「アリサちゃんはかなりセメントな性格になってきたと思うの…………………」

「変人の末路だな…………………」

「五月蠅い」

とそんなことはどうでもいい
とりあえず

「離せ」

「やだ」

「断る」

「いやや」

「拒否」

「せめて揃えろや。いや、ある意味揃っているけど」

お願いだから離して
はーなーしーて
離せやこの野郎

「「「「だーめ」」」」

「可愛く言ったからって許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

ずりずりと引きずられていく
死刑場に

「じゃあ、フェイトちゃんの為にビデオレター新しく録ろうね」






















失礼ながら私
フェイト・テスタロッサはわくわくしている

「うわぁ……………フェイトちゃん。凄いわくわくしていますね」

「ふふ、そうね。でも、子供らしさが出ていいじゃない」

「…………………ま、そうですね」

「もう、クロノは相変わらず固いわね~」

「これでも周りに合わせているつもりです、艦長」

「はぁ。これじゃあ孫の姿を見るのは当分先ね」

「まったくですね~」

「…………否定はできませんから受け入れますけど、失礼な言い方です。そしてエイミィ。君は無礼だ」

なによーーという騒ぎが聞こえるけど私の意識にまでは届かない
まだかまだかと待つ
こういうのを恋焦がれというのだろうか
それならば、何て素晴らしい思いなのだろうか
ただの退屈な時間も私にとっては薔薇色に見える

「ふぇ、フェイトから凄い幸せ感情が……………あのプレシアの時には一度も感じなかった感情が物凄くリンクを通してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「ああ、そっか。アルフはフェイトの使い魔だからフェイトの感情が少し感じれるんだっけ」

今度は耳に入ってきた
一人は私の家族のアルフで
もう一人は

「や、フェイト。調子はって聞かなくても大丈夫そうだね」

「ユーノ。うん。私は大丈夫だよ」

友達のユーノ
なのはやアルフと一緒に助けてくれた人
勿論、彼も私を助けてくれた人だけど
あの助け方は何だかなぁと思い少し、苦笑する
何せ私を助けるどころか逆に罵倒してきたのだから
でも、それのお蔭で立ち直れた
別に一人でももしかしたら立ち直れたかもしれない
ううん
今だから言うけど多分立ち上がることだけは出来たと思う
でも
その代り、私の生き方は変わらなかったと思う
母さんの代わりにまた依存先を探す人形
そんな感じになっていたのではないかと思う
このまま管理局に就職するだけして、そのまま意思というには薄弱な生き方をしていたかもしれない
多分、なのはの生き方を真似ていたのではないかと思う
ある意味、彼女の生き方は鮮烈だから
私は直ぐに影響されていただろう
今は違う
自分の意思だけで自分の将来を掴もうという気になっている
管理局も勿論、道の一つだけど、それだけじゃないことは彼が示してくれた
あの無表情の彼が
今では将来の選択肢を広げるため裁判をしながらその合間にエイミィやリンディさんに頼んで料理の練習もしている
これが面白いのである
何時か、彼に食べさせてあげたいなぁと思っていると

「ん、来たみたいだよ。フェイト」

「え!ホント!?」

「もう、フェイトったら。そんな事で嘘は言わないよ」

「ご、ごめん。アルフ」

「良いってフェイト。毎回毎回楽しみにしている出来事だもんねぇ」

クスクスと笑うアルフ
見るとユーノや周りの人も笑っている
あぅ
少し自粛
恥ずかしい
顔の赤面を見られない様に少し俯く

「じゃあ、画面に出すねー」

が、直ぐに顔を上げることになる
モニターに光が灯る
光はそして形になる
そこには

『『『『『『『元気!?フェイトちゃん!!』』』』』』』

大量の人達が
そこにいるのはなのはの家族となのはの友達と
そこには

『ちょっと!風雷!!アンタ!挨拶ぐらいしなさいよ!!』

『誰がそんな恥ずかしい挨拶ができるか。ここにいるだけでも感謝が欲しい立場なのに』

『へへーーん!そんな恰好で言われても怖くないもん!!』

『ふわぁ~~、幸せ夢気分~』

『離せ、すずか。そしていい加減に俺の関節を嵌めろ。そろそろ、腕に後遺症が出ないかが心配になってきた』

『だ~め。もう少し見せつけてから~』

『…………………本当にすずかちゃんのキャラ崩壊は酷いな~。いや、でも、元々猫属性はあったから、素質はあったんか…………………』

『……………すずかちゃん、まぁ、気持ちはわかるが、そこで止めといてくれ。男として少しその状態に同情する気持ちもあるし、何よりも手紙をしている最中だ。あんまり相手に無礼に見えないようにしなくてはな』

『むぅ。わかりました』

『………………恭也さん。貴方に感謝を』

『君はどこぞの騎士か』

『でも、意外と似合うわね~』

初っ端からこちらを無視した雰囲気になっている
ある意味、何時もの事だ
ケイがかき乱し
なのは達がそれに乗り
なのはの家族がそれを収める
見ていて本当に面白い

…………………少し、嫉妬するけどね

彼━━━━━風雷慧
出会った時と変わらない無表情の彼
それを後ろから抱き抱えていた少女
月村すずか…………だったよね?
火を見るよりも明らかで、きっとケイに恋している少女だ
見せつけているという言葉通りに彼女は何時もケイに抱き着いていたり、何かしらの事を彼にしているのである
思わず

「むぅ~」

膨れるのは仕方がない事

「あらあら。毎回見ていて飽きない光景ね~」

「ふん、アイツの愉快な光景を見れてという意味ならば確かに飽きない光景ですね」

「クロノ君ったら。そんなに慧君をライバル意識しちゃったりして~」

「誰があんな奴をライバルだなんて……………!それならば、まだそこのフェレットもどきをライバルにした方が千倍マシだ」

「あっはっはっは、クロノ━━━━━どうやら今日こそ、その生意気な舌ごと頭を握りつぶしてほしいようだね」

「ふん、君如きにそんな芸当ができると思っているのか。ああ、すまない。夢を見る権利はフェレットにもあったな。すまないな、差別

表現だった。お詫びに今度ペットフードを奢ってやるさ」

「上等だよ、クロノ。僕だって伊達や酔狂で魔法を習得しているわけではない。何より━━━これでも慧に勝手に師事しているからね。だから負けるわけにはいかない…………………!」

何だか熱いバトルを向こうで繰り広げているみたいだけど今はそんな事をしている場合ではないのです

『そら、慧君。君も何か言いたまえ』

『…………むぅ。こういうのは苦手なんですけど』

『こういうのは言葉ではなくて気持ちだ』

『俺の苦手分野です』

『堂々と胸を張る言葉じゃないわね~』

『い・い・か・ら!やりなさい!!男でしょう!!』

『男女差別とは恐れ入る。流石は暴力の申し子』

『誰が暴力超人よ!!』

『答えは貴方の中に…………………』

『すずかーーー!!アンタって人はーーーーーーー!!』

『この馬鹿アリサちゃーーーーーーーーーーーーーん!!』

『どこぞの○ンダムーーーーーーーーーーーー!!?』

『駄目やアリサちゃん!!それは死亡フラグやーーーーーーーーーーー!!』

『まぁ、後ろのコントは無視しとこうか』

『ああ!!アリサちゃんの腕があんなことに…………………!』

『無視しとこうか』

無表情のままぶっきらぼうに告げる彼
後ろの風景は大惨事なのに…………………

『まぁ、とりあえず━━━━━むぅ、こういう時は元気にしているかぐらいでいいか』

「うん!元気にしているよ!」

返事が来ないのは解っているけどつい、やってしまう私
彼はそれを解っているかのように言葉を続ける
彼の周りは温かい目で彼を見守っている

『フェイトの事だから返事してそうだが、まぁ、いいや。何か足りないモノとかあるのならばそこにいるであろう女狐艦じゃなくて女狐と頑固一徹の黒いのに任せるがいい。なぁに、遠慮なくこき使ってやれ以上』

「…………………相変わらずの悪役っぶりねぇ」

相変わらずで安心した
と言っても定期的に連絡しているのだが
ここで私を喜ばせるような言葉を吐いているようで吐いていないのが彼らしい

『ふむ。では、達者でぷぉっ!貴様ら何をするか!!』

『黙れーーーーーーーー!!ぐれてやるーーーーーーーーー!!!』

ぷつんといきなり切れた
暴れ過ぎの結果だろう
思わずお腹を押さえるぐらい笑ってしまった

「ふふふ。あちらは相変わらずねぇ」

「…………………ふん」

「元気そうでよかったよ」

「あたしはフェイトが嬉しそうでよかったよ」

「うん」

「じゃ、こちらも返信をしようか、フェイトちゃん」

「あ、はい」

これが今の私の日常
裁判をしながらも楽しめる私の日常
それが本当にかけがいのないもんだという事を知っている
私が欲しくてたまらなかった素敵な日常

「ふふふふふ。フェイトちゃーーん。ちょっとこういうポーズっとってくれない~」

「え?何で、エイミィ?」

「そうすればきっと慧君も喜ぶと思うわよ~」

「!!わかった!」














後日
フェイトからのビデオメールが送られた
内容は自分の現況
それだけならばよかったんだが最後に

「…………ん」

目を閉じて唇を前に出すという謎のサーヴィス

「「「「「…………………」」」」」

言葉はいらなかった
拳を握る音が聞こえる
果たして俺の体は吸血鬼の一撃を受けても大丈夫なのか
それを試すことになりそうだ














あとがき
ついにA’Sに入りました
そして遂にチラ裏から移行を決意!
出来ればリンチは遠慮していただきたい!!



[27393] 第二十七話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:27

八神の誕生日まであと八日となった時

「ということで狸の誕生日パーティーをしなければいけないことになったので、そのプレゼント選びを手伝わせてやるから、感謝したまえ、山猿」

「ほう、冒頭からいきなりそんな無礼な事を言いだすとは……………流石はいきなり襲ってきたと思ったらスタンガンを押しつけただけはある」

「安心しろ━━━━━ちゃんと熊も必殺のレベルにしといた」

「それのどこに安心しろというのじゃ?」

「そのレベルなら死なないのだろう?」

「限界という言葉を知っているかの?」

「無論、知っているともそれがどうしたというのかね?」

「解った、解った。お前がキチガイというのは昔から知っている事じゃ。だから、五百発殴らせろ」

「おや?高貴な俺にそんな狼藉を働くとは?許せない類人猿だね。」

「貴様が高貴なら儂は尊大じゃな。存分に崇めるがよい」

「はぁ?爺の癖に何を言っているのだか?耄碌が進み過ぎた年寄りと山猿のブレンドは嫌だねぇ」

「こんガキャア………………!下手になっていたらいい気になりおって…………………!」

「何?もっと罵ってください?素晴らしく変態だね。地球に触れないでほしいくらいだね。母なる大地が汚染される」

「馬鹿もん!!━━━━━エロスは神聖にして不可侵じゃ!!」

「この腐れ頭脳が…………………!天に代わっておしおき━━━━━すなわち天誅!!」

「ならば、儂は人の思いに代わって━━━━━人誅!!」

結局俺達の最初はこうなる
乱闘に次ぐ乱闘
命の叫びが銀河に響くーーーーーーーー!!

「はぁ、はぁ、で、狸へのプレゼント選びをぜぇ、ぜぇ、手伝ってもらおうか」

「何故、ふぅ、ふぅ、儂が、ほぉ、ほぉ、手伝わなければならんのじゃ」

「年の功というものがあるだろうが」

「それをお前さんに貸す義理もないと思うがのぅ」

「今まで散々世話してきただろうが。後、孤独死しないようにしてあげただろうが」

「何でじゃろうな。思い返すと儂は何時もお前さんに殺されかけている記憶しかないのじゃがな」

「爺━━━━━それはお前が無意識に幸せな記憶を封じているからだ」

「ほほぅ━━━━━生憎だが、小僧に幸せな記憶を作ってもらった記憶はないのじゃがなぁ」

「やれやれ。最近の山猿は御恩と奉公の関係すら忘れてしまっているのか━━━━生物として最低の進化だね」

「はっはっはっは━━━━━生物としての究極最低進化慧に言われたくないのぉ」

「はははははは━━━━━つべこべ言わずに手伝えやこら」

「はっはっはっは━━━━━だがまぁ、いいだろう」

「じょうと…………………あれ?」

「む?どうしたんじゃ。━━━━━まるで素直すぎて拍子抜けという顔をしおって」

「わかってんじゃねぇか」

「なぁに、儂とて人間じゃ。少しは人の役に立ちたいという思うはあるのじゃよ」

「じ、爺…………………」

ま、まさか!
この山猿にそんな気持ちがあったなんて…………………!
お、俺の夢か…………………!
思わず目の前の物を殴るが

「拳に痛みが感じる…………………!やはり、リアル…………………!」

「そうかそうか━━━━━確かめることはこれからじゃがの」

乱闘どころか死闘レベルの闘い
ハリウッドなんか目じゃないぜ
とりあえず数分、休憩して

「では、行こうかのう」

「あ、ああ、でも、何処に行くんだ?」

そういえば、それについては聞いていないし、何のプレゼントを探すのかも聞いていない
それについて聞くと
爺は何故か不敵な顔で笑いながら

「ふっ、それは見てからの秘密じゃが━━━━━一つ言えるとしたら」

「い、言えるとしたら?」



「━━━━━山を舐めるな」



注、ここから先は某三機合体アニメのOPでも想像しながら見てください




一日目

「隊長!ここに謎の足跡が…………………」

「うむ、山を舐めるなよ」



二日目

「隊長!崖がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「山を舐めるな!」



三日目

「隊長!吸血蝙蝠が!!?」

「山ーをなーめるなーーーーーーーーーーーーーー!!!」



四日目

「隊長!何故か山から岩の塊が!!」

「山を舐めるなっ!!」



五日目

「隊長!毒蛇が!!」

「山を舐めるな~(巻き舌)」



六日目

「隊長!食料や水がもう…………………!」

「山を舐めたな!!」



そして遂に七日目
もはや食料や水が尽き、体力すらも尽いた日
もうここまでと思った日
だが、先人はこう語ってくれた
努力は報われると━━━━━

「た、隊長…………………!」

「…………………うむ。見つけたのう」

二人は感動で泣くかと思った
だがしかし
泣くのではない
ここは喜ぶ場面だと俺達は互いに理解していた
そうだ
俺達は何度も壁にぶつかったがその度に不屈の闘志で立ち上がってきた
その最後は喜びで迎えるべきだろう
爺は本当に心底嬉しそうに笑いながら
それを俺に見せてきた

「見ろ…………………ツチノコじゃ…………………!」

瞬間
俺の脚は爺の顎を蹴り上げていた

「な、何をする、小僧!!せっかくの奇跡の瞬間が台無しではないか!!」

「台無しはこちらのセリフじゃねぇか!!この山猿アホ爺!!何でツチノコ探しに命賭けて探してんだよ!!というか俺も何故付き合っていたんだ、こんちくしょう!!」

「何を言う!!こんな天然生物!見せるだけで最高のプレゼントになるではないか!」

「では言おう!馬鹿めと。もう一度言おう、馬鹿めと。何度でも言おう!!この馬鹿野郎!!」

「な、何が不満じゃというのだ!!こんな素晴らしい生き物を見れて何が駄目じゃというのだ!!」

「その思考自体が駄目だというのだ!!想像してみろ!うら若き女の子がツチノコに対して猛烈な熱い視線を向けている姿を!!」

「ふむ━━━━━気持ち悪いだけじゃのう」

「ならば、ここで朽ち果てろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「何時もよりもアグレッシブじゃなぁ!!?」

「お前の心をブロークンファンタズム!!」

「どっぴょろげ!!」

「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!衝撃のーーファースト○リッドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ア○ター能力!!?」

「守りたい世界があるんだーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「ぐぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

そして約四時間ほど拷問をして、ようやく我に返った

「はっ!そういえば時間!!」

携帯を開く
電波は繋がっていなくても日付と時間ぐらいは確認できる
今の時間は


6月3日
昼の3時


「…………………………………………………………………………………………………………………………………」

ここまで来るのに一体何日かかっていただろうか?
確か世界が出来るくらい彷徨っていた気がする
いや、それについては何とかできる
こんだけ彷徨っていたのは単純に色んな場所を駆け巡っていただけなので帰るだけなら何とかできよう
ただし
今から帰ってそしてプレゼントを用意する?
不可能と認定
しかし、これでプレゼントを買ってこないとすずか辺りに襲われそうな気がする
それも嫌な方向で
冷や汗が無限に出てくる
今回ばかりは口癖の別にどうでもいいけどが出せない

不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い!!

爺のせいにする?
不可能
アレラがそんな言い訳を聞いてくるはずがない
いっそ逃げるか
不可能
御神の剣士に知られたことが不幸だと思う
ここは大したことがない物でも送って何とかする
不可能
この1週間の喪失は不味い
幾らなんでもその程度のもので1週間もいなくなるはずがない
素直に謝る
不可能
その程度で許すのならば俺がここまで考えているはずがない
命乞い
不可能
上と以下同文
アイ○ル
この馬鹿思考
いっそ殺られる前に殺るか
御神の剣士相手のそれは無理

ふぅ
結論はただ一つ


嬲られる━━━━━


「させるかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

大急ぎで荷物を用意し
大急ぎで地面に転がっていた何かを蹴飛ばし
大急ぎで町に戻ることにした

「まだだ!まだ終わらんよ!!とりあえず女の子が好きそうな?物を用意すれば何とか間に合う!!徹夜覚悟の特攻ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

光よりも早く走る俺
今なら世界記録の人間とも渡り合えよう
御神の剣士とは無理だが
今更誰かにアドバイスを貰うのは無理
ここは店の人に聞いてみるのが一番だろう
全速力で走りながら頭で考える
はぁ
この2日は長い日になりそうだ…………………
とりあえず今は

「…………………北はどっちだ…………………!」

町に辿り着けるかが問題だ





















「…………………で、その隈っていうわけ?端的に言うわ。アンタは馬鹿よ」

「…………………今回だけは反論はするまい」

「あ、アハハハハハ…………………」

何とかして町に辿り着き、店を探し、店員さんからお勧めやらを聞いて、何とかしてプレゼントを手に入れたら既にもう日付は変わる寸前
またもや大慌てで高町家に行く
その時、つい力加減を謝って壁に穴をあけてしまった
今度からは注意しよう

「いや、アンタ…………………どんなスピードと硬さがあればあんなマンガみたいな穴を作れるのよ…………………」

「上手い事、型が出来ていたよね…………………」

「…………………」

自分でもびっくり
でも、俺が言いたいことはそれではない
周りをチラリと見る
暗く
狭く
埃が積もっている場所
明かりなんてまるっきりない
そう
ここは天井である

「何で俺達は天井にいるんだよ!!」

「仕方ないじゃない!!今回はサプライズなのよ!だから私達が普通にいたらおかしいでしょうが!!」

「でも、どちらかと言うと慧君に同意見だよ…………………汚いし」

「そ、それはそうだけど!じゃあ、桃子さんに言えばいいじゃない!!」

「そんなことが出来たならば、とっくの昔にやっているわい!」

「…………………でも、狭い。つまり━━━━━迫り放題…………………!」

「パターン青!すずか発見!!」

「残念ながらそれは○徒ではないわ」

ちなみにこの用意の為に高町が何とかしているらしい
頑張れ

「慧君」

天井板の下から恭也さんの声が聞こえた

「何でしょうか」

「そろそろ作戦開始時刻だ」

「了解」

作戦開始時刻
それは丁度日付が変わる時間帯
12時だ
その時に八神が帰ってくるから、それに合わせて天井を突き破って出てくるという事になっている
無礼講という事で遠慮なく天井板を突き破ってもいいらしい
太っ腹だ

「後れを取るなよ」

「ふん、アンタこそ。私の背中を見ときなさい」

「違うよ。残念ながら前を行くのは私の役目だよ」

戦場に行くかのような雰囲気になっている俺達
そして
いよいよその刻限
残り10秒

10

「いやー。遅くなってしもうたなー」

「そ、そうだね~」

八神達帰宅



「総員配置につけ!!」

号令が下る



「それにしてもなのはちゃん。今日は様子がおかしいで~」

「そ、そんなことはないよ~」

怪しまれてやがる
一歩、廊下に踏み出す音が聞こえた



全員がクラッカーを所持する



「バニングス。胸が邪魔だ」

「セクハラよ。アンタ!!」

「静かにしてよ!!」

バニングスの胸が邪魔で口論



「ほ、ほら!はやてちゃんの友達の狸のぬいぐるみがあるよ!」

「遂には慧君以外もそう思うようになってしもうたか!!」

NICE ASSIST!!



「美由希!!お前が今、そっと出した皿は何だ!!」

「あっ!き、気づかれた!!」

危うく大惨事になるような事態を止める恭也さん
英雄誕生



「桃子…………………暗い所にいても君の美しさは輝いて見えるよ」

「士郎さんだって…………………暗くても貴方の格好よさがわかるわ」

惚気てやがる
こんな場面で



「あれ?電気が消えてるやんか?もうみんな寝たんかいな?」

「さ、さぁ、どうだろうね~?」

八神達がドアの前に立つ



遂にドアを開ける

そして



本来なら明かりをつけ、瞬時に俺達が出て、クラッカーを鳴らしているはずだった
だが
それは
何年も前から約束されていた闇の復活の前には無意味だった
八神がドアを開け
俺達が天井板を突き破り
高町ファミリーが電気をつけようとした瞬間
それは起きた



光が
辺りを埋め尽くした












そして
それのせいで俺とすずかとバニングスは着地を失敗した
















あとがき
今回はネタ尽くしですね
あと、闇の書
もしくは夜天の書の起動
これからは本当にオリジナルなのでそれが嫌な人は本当に止めた方がいいです
それでも見てくれる方には感謝を



[27393] 第二十八話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:27

余りの唐突な出来事にその場にいた全員が一瞬茫然自失となった
しかし
そこでそのままで終わらない人間がいるからラッキーだ

最初に動いたのは恭也さんと高町父であった
動きは素早く且つ無駄のない動き
流れるような動作で高町父は近くにいる高町母を引き寄せ
恭也さんは月村姉の傍に走り寄っていた
そして服で隠しておいた小太刀の抜刀の構え
何時でもやれるという臨戦形態になった

そしてそれに遅れる形で高町姉が同じ体勢になったのがかろうじて見えた

そして遅いと言ってもいいぐらいの反応でようやく俺が動けた
咄嗟の反応速度もだが、咄嗟ではない反応速度も残念ながら俺は御神の剣士には遠く及ばないのだからこれは当然の結果だろう
何とか倒れた姿勢から立ち上がり、一番近い人間
まずはすずかとバニングスを無理矢理回収した
視覚は光のせいで焼かれ見えていないが
幸いな事に、何より気配を読むのは得意だ
だから、簡単にとらえられた

「…………………って、ゲボォ!」

「け、慧君!そ、そこは…………………!」

何か言っているが無視
とりあえず二人を連れて未だ茫然自失状態の八神と高町の所に向かう
八神はまだしも高町がまだ茫然なのは頂けない
思わず舌打ちをする

「馬鹿か高町!!これはお前の専門だろう!!」

「━━━━━!!」

ようやく高町も自失から立ち直ったらしい
胸のアクセサリーに手を伸ばす
そこには赤い宝玉がある
ようやく目覚めたか
そう思い、八神の直ぐ傍にようやく着いた
そこで高町父からの声が聞こえた

「大丈夫か、慧君!!」

「すずかの乳の感触を堪能しているので大丈夫です!!」

「遠慮なく堪能しときたまえ!!」

「わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

すずかが何か怒声を上げたが無視
馬鹿げた行為をすることによって互いが何とか冷静であることを確認
視覚はまだ取り戻せていないが、少しは見えるようになってきた
まだぼんやりとだが、姿ぐらいは見えてくる
それは

「………………本?」

何か本の形をしていた
勿論、ただの本ではないと思うが、形だけ見たら紛れもなく本だろう
大体、今時間はどれくらい経ったのだろう

「大変、慧君!!これ!凄い魔力!!」

「あーーーーーもう!またそっちのドッキリマジックかよ!!いい加減にしてほしいもんだ!!」

せっかく魔法なんて言うパチモンからようやく離れたと思っていたのにこの様
世界っていうのは本当に愉快に出来ている
嫌だ嫌だと言っているものがこんな簡単に現れてくる
有り難くて殺したくなってくる
そんな益体もない思考をしていると

「…………………人?」

八神の呟きで前を見る
すると、確かにこの眩い光の中心点に人影が見えてきた
さっき見た時にはいなかったはずだ
警戒レベルを更に上げる
見たところその数━━━━━4人
俺一人では対処できないが御神の剣士の3人がいるならば心強い
多分だが、魔法なしでもあの人達の方が高町の数百倍は強いだろう

…………………それは飛び道具や遠距離を除けばだが

とりあえず近接系で最強なのはこの人達だろう
相手の実力は解らないがそれでも即負けという事には絶対ならないだろう
それこそスーパーサイ○人を連れてこなければ
段々と光が弱まってきているのが解る
何時でも行動を起こせるように体勢を整える
光の向こうで刀を鞘から少し抜く音が聞こえる
何時でも殺し合いの準備は万全だ
そして


光が止んだ━━━━━



そこにはやっぱり4人の人物がいた

一人はピンク色の髪でポニーテールに括っている女性だ
顔つきは凛々しく、まるで御伽噺に出てくるような騎士をイメージしてしまう
現にその騎士のイメージに負けないように体が鍛え上げられているというのが解る

二人目はは赤い髪をした少女で髪は三つ編みにしており、年齢は見たところ同じか、年下というところ
見た目だけならどこにでもいる勝気な少女ていうイメージだ

三人目は金髪をした女性でさっきのポニーテールをした女性とは違い、騎士という感じでない
むしろそれを癒すそれこそ魔法使いのような感じであった

四人目は屈強な男。しかし、その頭と尻には獣の耳と尻尾があり、一見コミカルに見えるがその体つきから鍛え上げた屈強な武人という感じがされる。一人目の人を騎士というならこの男は戦士という感じだ

余りにも統制されていない面々
しかし、そんな四人だが一つだけ共通点があった


それは四人とも瞳に光がなく
機械的な瞳だという事だ



その機械的な瞳の視線を動かす
その瞳はまず

…………………八神を見ている?

何故かただの少女を見る
それから彼らは今の状況の確認の為に周りを見てきた
…………………嫌な予感が膨れ上がる
それを感じ取ってくれたのか
恭也さんが構えを解かずに質問をしようとする

「…………………おい、君達は一体━━━━━」

それが皮肉にも合図となってしまった
瞬間で目配せをして


こちらに攻めてきた


四人はばらけそれぞれの相手に攻撃を開始した
何か得物を瞬時に取り出したのが見えたが、とてもじゃないが確認している暇なんてなかった
騎士のような女の人が大剣を何時の間にか構えてこちらに攻めてきたからだ

「…………………!」

高町が戦う覚悟をして前に出て、手を突き出した
すると

『PROTECTION』

桃色の障壁が手を中心に編み出された

「━━━━━━━━━」

息をのむ人間は何人か
それさえも確認している暇なんてない
何故かというと

「……………レヴァンティン」

『EXPLOSION』

剣なのに何故か撃鉄音
その瞬間
剣の出力が高まった気がした
現に剣に炎が灯り障壁に罅が入っている

「…………………っつう!」

高町が辛そうに呻いている
これで完璧に魔法関連の相手という事が判明
そしてこれはやばい
ぶっちゃけて言うとこれはかなりやばい状況だ

ええい!これで相手が恭也さんかせめてユーノだったらな…………………!

そんな事を言っている暇などない
これは運試しだ
かなり最悪な気分だが高町に賭けるしかない
そうと決まれば行動開始

「━━━━━━シィッ!!」

思い切り一歩を踏み出し、それを踏み切る為に使い、そのまま飛び
思いっきり足を振り回す
幸いか
相手は剣を上段から振り下ろしてくれたおかげで子供の俺が飛んでも足が届く範囲
狙いは顎
気絶は無理でも当たれば脳震盪は必須
というかまともに当たれば顎が砕ける一撃
手加減なんてできるはずがない
そんな余裕を見せていたら即座に一刀両断すると気迫が物語っている
そんな本気の一撃
しかし、そんなものは簡単に避けられた


とっと
後ろに一歩下がられただけで避けられた


相手の攻撃に怯まず
迷わず
それに間合いもしっかり把握しながらの完璧な回避
それのより相手が自分よりも遥かに多い経験を持っている事と実力を持っていることを再認識
相手の機械的な瞳がこちらを捕える
どうやらやっこさんは標的を即座に帰るつもりのようだ
その思考速度には是非ともあやかりたいものである
とどうでもいいことを思っていると


即座に一刀両断の意思と剣が落ちてきた



剣には魔力のせいか炎が纏っている
炎の魔剣に相応しい姿である
そんなもので斬られたらあっというまに焼き斬れてしまう

「やっべっ…………………!」

思わず
といった調子で大声を叫ぶ
すると

「…………………慧君!」

高町が見事前に出てきてくれた

「ディバイン━━━━━シューター!!」

出てくるのは桃色の弾丸
一つ一つが高町の意思に従う魔弾
その数
五つ
しかも至近距離
おまけで攻撃直後
躱せる術は普通はないが
生憎だが魔法は結構いんちきなことが出来ることを知っている

『パンツァーシルト』

剣からの無機質な声とともに盾が生み出される
その結果、魔弾はいとも簡単に止められる
だが、それで十分な仕事をしてくれた
そういう風に仕向けたとはいえ、NICEassistだ
相手はこういう攻撃の対処には慣れている騎士とはいえ防御に気を回したせいで少し剣筋が揺れている
それならばなんとかなるものだと思考しながら


剣を横から手を当てて逸らした


「…………………!」

目の前の騎士も驚き顔
別にそこまで驚くことはない
相手が上段の振りおろしで攻撃してくるのは解っていたことだし、高町のお蔭で剣筋も揺れたし、視界も少し逸れた
それならば、相手が御神の剣士クラスでなければどうとでもなるというものだ
少し、手が火傷したがどうでもいいことだ
押した反動で右に飛び、着地する
とまぁ、偉そうな事を言っているが実はここで手詰まりなのである
俺に関しては少々エゲツナイ事をしなければ勝てなさそうだし
高町に関してはさっきの剣戟で障壁が破られているところから魔法同士では分が悪い事が解るし
何よりも高町自身の経験が少なさ過ぎる
ユーノから聞いた話では高町は魔法戦では天才的な才能を持っているらしいが、それでも限度というものがあるだろう
何よりもここは屋内だ
さっきは至近距離だから魔弾を放てたが、高町の本分は砲撃
こんな狭さじゃとてもじゃないが、砲撃なんて撃てないし、撃てたとしてもそれは恭也さんとかを巻き込む
何より目の前の騎士がそれを許さない
というのが普通の見解なのだが
まぁ、相手は不幸な事に


ここにいる人間は大抵が普通ではないという事なのである



チャキと剣が女騎士の首筋に置かれる
女性は驚いた顔で停止する
賢明な判断だ
動いたら即座に斬る…………………という事は高町達がいるからやりはしないけど気を失わせることぐらいはしただろう
後ろに立っているのは恭也さん
彼には赤い少女が向かっていたはずだ
少し彼の後ろを見てみるとそこには縛られたり、抑えられたりしている他三名
これだから御神の剣士は理不尽だから嫌だ
とはいっても今回は短期決戦だから勝てたものだろう
長期戦ならどうなっていたことやら
まぁ、今は別にどうでも良い事だ
溜息をつきながらとりあえず独り言

「…………………とんだサプライズになりましたね」

俺の人生は本当にこんなもんだな~




















「…………………成程。つまり、君達は闇の書の主とかいうものに仕える騎士で今回はそれがはやてちゃんが選ばれたという事か…………………」

「そうであります、父上殿」

結局
あの後、何とか話し合いの段階に持っていき、色々説明をされたところである
闇の書
守護騎士
ヴォルケンリッター
確か意味は雲の騎士でドイツ語だっけ?
何故ドイツ語とかツッコみたいがそういえば高町のは英語だったのでどうでもよかった
名前が俺が認識した順だとシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラとかいうらしい
何ともまぁ変な名前だ
俺が言う資格はないが
とりあえず名称は紫、赤娘、緑○、蒼犬でいいや
面倒臭い名前だなこいつら

「……………今、猛烈に風雷を殴り捨てなきゃいけない気がした」

「空気を読め、バニングス」

殴るはまだしも捨てるという事はどういう事だ(←この少年。お爺さんをゴミとして捨てたり、浄水所に捨てたりしています。しかもぎりぎり昨日に山に捨てたままにしています)
それにしてもまたもや面倒くさそうな魔法関連
今度はジュエルシードみたいに融通は利かないらしいが
その分
もしかしたら叶えられる願いが大きくなっているかもしれない
まぁ、その分話し合いが出来るからまだマシと言えばマシなのかもしれない
ジュエルシードは問答無用に願いを叶える者だったし
それも最悪な方向性で
……………いや。一度猫が大きくなったというのもあったとフェイトから聞いたから全部が全部最悪というわけではないのかもしれない
どっちにしろ傍迷惑というのには変わりがないか
今回は何とゲーム方式

「……………闇の書のページ、666ページを埋めるまで魔導師から魔力を募集しなければいけないが、それが終わると闇の書の主は覚醒し、しかもその膨大な魔力で願いを叶えることが出来るか…………………」

何ともまぁ、厄介な魔道具である
666って悪魔か
それとも暴君か
ま、別にそんな事はどうでもいいんだが
問題は

「だから主。貴方が命令してくれたなら我らは直ぐにでも魔力を集めるために戦いに向かいましょう」

「…………………んー」

その主が何と八神だという事だ
何ともまぁ、おかしな運命
皮肉という言葉はまさしくこの状況
一番願いがありそうな少女にあるというのだ
八神なら幾らでもあるだろう


両親とか
足とか━━━━━


どれも馬鹿に出来ない願い
彼女の隠しようもない本心を聞いているからこそ俺も理解する願い
どれだけ笑っていても
その思いが消えることはないだろう
それならば、彼女は『八神』の性を捨てているだろう
未だに『八神はやて』と名乗っているのがその答えだろう
つい目が細くなる
しかし、その視線に意思が籠る前に八神が

「別に私は他人様に迷惑をかけて託すような願いはないしな~」

「「「「…………………はい?」」」」

おお
騎士一同が驚いた顔に…………………
珍しいと称すべきかな?

「し、しかし、主。貴方は足を患ってるではないですか?それを治したくないのですか?」

「そうだ……………じゃなくてそうで、す」

「んー。そりゃなぁ。治したいかっていえば治したいけどな~。そりゃあ、私かて人間やで。健康になりたいなんて思うに決まっているやんか」

「なら━━━━━」

「でもな」

そうして一呼吸して
八神は周りを見た
高町家を
月村家を
友人を

「私はな━━━━━この時間が大事なんや。皆がいて、遊んで、ご飯して、下らない話をして、勉強して、そして寝る。そんな当たり前があれば私は充分なんや。これ以上望むんは罰当たりっていうもんや。だって、私の願いは十分に━━━━━」



叶っているんやし




そう言って彼女は笑った
不覚にも
目の前の少女に見惚れてしまった
この馬鹿…………………
何が似ているだ
やっぱり、まったく違うじゃないか…………………
俺はこんな風に
清々しく、綺麗に笑う事も、生きることも出来ない
見惚れていたのはこの場にいる全員だったらしく
少し皆も動きを止めていた

「で、では━━━━━私達は必要ないっていう事ですか?」

緑○が問いかける
それに八神は困った顔をして
高町家族の方に顔を向ける
一瞬、高町家のメンバーは疑問を抱いたが、直ぐに察したらしく、彼女に笑顔を向ける
まったくもって大した家族だ
ここまで意思疎通無しで心が通っている家族がこの世にいるだろうか
しかも何の迷いもなしに

「ええと……………それやったら提案があるんやけど」

「何でしょうか?」

「━━━━━私達の家族にならへん?」

「「「「━━━━━はっ?」」」」

本日二回目の驚きの声
当然だろう
どれだけの時間を生きてきたのかは知らないが
その中の主が利用価値のある戦術兵器に対してこんな温かみがある言葉を投げかけてくれた人がどれだけいたのか
いたとしても彼女たちは膨大な時間で忘れているのかもしれない
それがさっきの機械的な瞳だというならば頷ける
期待するよりも━━━━━諦めて受け入れた方が楽だというのは当然だろう
例えそれがプログラムだとしてもだ
それを思ったのか

「し、しかし、主。私達はただのプログ━━━━━」

「違うで」

それを即座に否定する八神

「シグナム達はプログラムじゃなくて━━━━━人間や」

「「「「なっ…………………!」」」」

「だって━━━━━━━━━こんなにも人らしいやんか」

余りにも聖女じみた答え
しかし、人間というのはまぁ、同感だ
プログラムて言うには余りにも人間染みている
その感情がプログラムだとしても、そういうものがあるのならば、それは本物と言っても差し支えはないだろう
元が作り物でも
時にはその作り物が本物を凌駕することなんて世の中には大量に例があるのだから

「…………………あ、ありがとうございます、主」

「………………ありがとう」

「あ、あ、ありが、とう、ございっ、ますっ!」

「…………………感謝します、主」

どの守護騎士も感極まっている
緑○なんて泣いているではないか

「も、もう~。そんな主なんて畏まらなくても普通にはやてでいいで」

「な!そ、それは…………………!」

「す、少し…………………!」

「じゃあ、あたしははやてって呼ぶ」

「じゃあ、私ははやてちゃんで!」

「き、貴様ら!━━━━━━━裏切ったな!」

「アハハハ。シグナムとザフィーラは固いんやな~」

「も、申し訳ありません、ある━━━━━━」

「もう。いいで。好きに呼んでくれても」

「「あ、ありがとうございます!主!!」」

何時の間にコントに
完璧に空気が弛緩したなぁ
と思っていたら


「じゃあ、早速のお願い何やけど、ここにいるのは私の家族と友達なんやけど、仲良くしてな」



その一言で何故か空気が凍った
別に変な事を言っているわけでもないのに空気が凍った
四人の顔は驚きの顔に変わっている
そんな馬鹿なという表情を八神と


俺に向けながら━━━━━



あ~
面倒臭い事になりそうである

「な、何か不味い事私言った?」

「…………………いえ、その命令自体はいいのです」

「………………ただ」

紫と蒼犬が呟いた瞬間
瞬間
四人が示し合わしたように
俺に向かってそれぞれの武器を構えた
俺はそれをそのまま動かずに迎え撃とうと思ったがいきなり襟を掴まれて後ろに下がらされた
後ろにいたのは恭也さんだった
お節介な事だ
どうせ当たってはいなかったのに

「その小僧だけは━━━━━その小僧だけは駄目だ、はやて」

「そうです。この少年は存在するだけで許されない最悪にして災厄です」

「おやおや。嫌われたもんで」

「黙れ」

その場にいる何人かが存在するだけとかの下りで怒りの感情で立ち上がったり、抗議の声を出そうとしている
別にどうでも良い事だ
むしろこの対応の方が正しいのだ
逆を言えば高町家や月村家はまぁ、特赦な事情があるからか、後、このキッズ共
こいつらの方がどちらかというとおかしいというもんだ
とりあえずこのままだと状況は進まないだろう
引くか、攻めるか
残念ながら俺は好戦的ではない
溜息をつきながら俺は立ち上がる
それにこうしないと後ろのお節介な人が怒りそうだ

「どうやら有り難くも嫌われているようなので退散しますね」

「ちょっ!」

誰かが止めようとしたが無視した
くわばら、くわばら言いながら出口まで去ろうとしたところで気づいた

「そうだ、八神。二度手間になるところだった」

「え?」

そのままポケットから包装された小さな箱を投げ渡した

「じゃ、後はそのにいるメンバーと仲良くパーティーでもやってくれ。なぁに、気にするな。恨まれるのも嫌われるのも蔑まれるのも慣れている」

そう言って出ていった
元からこういうのは不向きなのである























あとがき
守護騎士登場した直後に険悪
その理由は次回説明します
と言っても結構パクリな説明になると思います
最初のバトルシーンでそんな事可能かなんて質問は出来れば勘弁を
気合で…………………!という事で勘弁してください



[27393] 第二十九話
Name: 悪役◆de0dec60 ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:27
嫌われているのは慣れている。そう言って彼は相変わらずの無表情でこの家を出ていった。そこには本当に悲しそうな姿もなく、かといって怒っているというわけでもなかった。言葉通りに慣れているという感じであった

それをどこか悲しいというのは俺の憐みの感情から来る結論なのか。彼自身はそう言われたら即刻に斬り捨てるだろう
とりあえず、今の問題の四人の方に話を進めよう

「で、どういうつもりなんですか?慧君が最悪とか災厄とか。彼の表情だけを見てその判断なら私は遠慮なく怒ります。」

すずかちゃんは落ち着いているように話しているが、付き合いの長さからよくわかる。アレはかなり怒っている。当然だろう。すずかちゃんは慧君を好いている。その相手を貶されるような言葉を言われたら怒るのは当たり前の精神だろう

俺も忍を貶されたら当然怒る。

見れば周りのみんなも同意見のようだ。母さんも美由希もなのはもアリサちゃんもはやてちゃんも忍たちも父さ━━━??

父さんは慧君程ではないとはいえ無表情だった。思わずおかしいと思う。父さんは私生活からも解る通りかなり優しい人だ。家族だけではなく、娘の友達や息子の友達でも怒るようなことが有ったら躊躇わず怒る人だ

そうでなければボディガードなど出来るはずがない

父さんは誰よりも優しく、誰よりも強く、誰よりも気高い存在だ

だからこそ、俺もその道を歩みたいと思ったのだ。この人生を刀に捧げる覚悟をした決意に父さんへの尊敬というものがどれだけあったか。それを誇らしく思えるからこそ、俺はこの道を選んだのだろう

それなのに

何故、父さんが一番黙っている━━━?

「そうやで、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル。答えてぇな。私かて友達を貶されたら幾ら家族になるからって怒るで。そりゃあ、慧君は意地悪だけど。少なくとも悪い人ではないと思うで。」

「そうよ。確かに風雷は意地が悪いし、性格が悪いし、他人を簡単に見捨てるし、騙すことに関しては超一流だし、頭はイカレテルし、女の子が相手でも遠慮なく殴るし、セクハラとかを遠慮なく行うし、何度も殺意を抱いたような人間だけど……アレ?弁解、出来ない?」

ギャグ要員アリサちゃんは黙ってて」

すずかちゃんの痛烈なツッコミに流石にアリサちゃんも心が痛んだようだ。確かにこの場でそういう事を言うのは少し不謹慎かもしれない。ある意味慧君に一番似ているのはアリサちゃんかもしれない。本人は否定するだろうけど

「あの、話してくれませんか?それがちゃんとした理由でそれを謝ってくれたのなら慧君だって許してくれると思います。さっきから酷い事を言われている慧君ですけど、それでも悪い人ではないんです。」

なのはが真摯にヴォルケンリッターに語りかける。友達の事となればなのはは強い。何よりもその意見に賛同しているのはここにいるメンバーの全員なのだから

その視線にヴォルケンリッターは真っ向から受け入れ、そして代表としてシグナムさんが語った

「……父上殿。貴方は恐らくですが、歴戦の勇士とお見受けしますが、どうでしょうか?」

「ん?まぁ、歴戦の勇士なんて言われるような大層な人間では決してないけど、それでもまぁ、この中では一番修羅場をくぐってきた人間だろうなぁ」

父さんは苦笑しながら、自分は一番この中で戦場を駆け抜けた人間だと自白する。決して誇らしげではない。確かに父さんは色んな人間を守ったけど、その守った人間を守るために他人の命を切り裂いたのも事実。それが父さんの苦笑の原因だろう

それでも、その顔には後悔と言う二文字がないので安心する

でも、何故この場で父さんの経歴を問い質す?まったく、関係ない話ではないのか?

その疑問の答えは返された

「では、見たことがあるはずです。アレみたいな人間を・・・・・・・・・

「…………」

ヴォルケンリッターは慧君をアレと称した。まるで慧君自体を人間ではなくまるでモノみたいに。思わず手を握りしめる力が強くなってしまうのは仕方がない事だろう。それによって血が出てしまうのも些細な事だ

それにしてもどういう事だ?慧君みたいな人間。俺は確かに慧君みたいな人間は今のところ見たことがない。良くも悪くも彼は珍しい人間なのだ。だけど別におかしくはないだろう。俺達は小さい町で暮らしているのだ。自分みたいな人間が近くに住んでいるだなんてめったに起きない事だろう。特別変ではない

なのに何故それを気にする?

「沈黙は肯定として捕らせてもらいますが、いいでしょうか?」

「……ああ、それでいい。だからこそ君達が言いたいことも解っているつもりだ」

「な!お、お父さん!?お父さんも慧君が最悪って思うの!!確かに慧君が善人かといえばそうではないかもしれないけど。でも!悪人でもないはずだよ!」

「そうですよ、士郎さん。慧君は酷くはあっても非道ではないと思います。それは長年付き合ってて解っている事です」

なのはと母さんが父さんの一言に反論する

皆も同意見だ。まさか父さんまでもがそんな事を思っていたとは思わなかった。正直、父さんの肯定意見を聞いた時、少し動きを止めてしまった。余りにも予想外の言葉だった

「違うんです。別に性格云々で私達は論じているわけではないのです。いえ、多少はありますけど。私達が言いたいのは彼の性質です」

「性質って……?」

「そんなん言われても……特に慧君にはそんなん言われるような性質ってないで?」

「それは見てないか、それとも理解していないかです主。」

性質

でも、そんな事言われても確かに慧君にはそんな性質なんてないと思うが。別に天武の才を持っているわけではない。確かにあの年齢でのあの運動神経や頭の回転の速さは凄いが、何も慧君だけの性質ではない。珍しくはあるが、時々そんな子供がいる。それを言うならここにいる子供は皆精神年齢が高い

だから、そんな事を言いたいのではないのだろう

「この中でどういった経緯をアレと体感したか知りませんが━━━ありませんか?彼が関わった事柄で何かしらの偶然や奇跡が起きたことが」

その一言で各自の様々な事を思い出す

そういえばとアリサは思い出す

彼はすずかと一緒に襲われて車に連れ込められそうになった時、『偶然』通りかかって、何とか助けてもらったなと。私はそれを偶然と処理していた

そういえばとすずかは思い出す

彼はあの二年前の事件の時。『奇跡的にも』あれだけの怪我をしたのに、まだ生きていた。だから、私の血をあげて助けるという事が出来、そしてまた『奇跡的にも』相性が良くて助かった。私はそれを奇跡と処理していた

そういえばと恭也は思い出す

二年前のあの事件。彼はあの黒いスーツを着た凶手により止めを刺されそうになったが、そこに『運よく』父さんが間一髪で助けに来れたという事を。俺はそれを運よくと処理していた

そういえばとなのはは思い出す

彼はついこないだの事件。魔法というもののせいで起きた事件。それの中心はジュエルシードというロストギア。それは魔力を持った人にしか感知できない代物。それなのに彼はそれを三つも『偶然にも』見つけた。私はそれを偶然と思った

一つ一つは小さいし、普通に有り得る可能性の出来事だ。別にどうとでもいえる事。それこそただの偶然や奇跡だ。それがただ彼にいい方向に向かったり、巡ったりしただけで。彼がそんなものを操れるなんて━━━

「そうです。これ自体は何の理屈もなければ能力もない出来事なんです。けれど、それがそんなにも『偶然的に』『奇跡的に』というものがこの世で起こると思っていますか?そう思っているなら失礼ですが、この世を甘く見ていると思います」

「それは……」

確かにその通りだ。この世はそんなに甘くもなければ、優しくもない。良くも悪くも適度なのだ。それによって人生が成功する人もいれば、失敗しる人もいる。長生きする人もいれば、事故死する人もいる。適度に運がよく適度に運が悪い。それが『世界』だ

「でも、奇跡の部分は人間は意外と実力でそれを引き寄せる部分もある。偶然だってそうだ。実力でそれを引き寄せただけだけの方が多い。偶然の部分はただのこじ付けではないか。それはただの言いがかりにしかならないと俺は思う」

「……まぁ、そう言われたらこちらとしたら何も言えませんね。確かに偶然や奇跡は実力で引き寄せることもあります。確かにこじ付けと言えばこじ付けですが━━━そうこじつけられる様な部分がある・・・・・・・・・・・・・・・・というだけでも不自然だと思いますが」

「それこそがこじ付けだ」

そうだ。そんな風に言われたから何だというのだ。偶然?奇跡?そんなものは実力で起こそうと思えば起こせるものだ。彼自身にはその実力があるのだ。ならば、何の問題もないではないか。アリサちゃんの偶然や今、聞いたなのはの偶然はそれこそ偶然の産物だ。

そうに、決まっている

「確かにそうですね━━━では、その実力で不審な点はなかったですか?」

「不審な点だと……?馬鹿なそんな事はない。彼はただ格闘技で相手との時間稼ぎをやったり、少々、舌戦をやったぐらいだ。それだ━━━━━」

「その相手をした敵。怒ったり、彼に執着したり、周りを見る目が損なわれたことがありませんでしたか」

「━━━━━」

そんな事はないと言おうとして口が止まった。見れば周りの人間もそうだった。

誰もがその言葉を否定できなかった

それぞれの彼に関する記憶が答えを告げている

あの黒いスーツを着た凶手。あの相手は何故か彼を殺すことに躍起になっていた。その理由は彼が『異常』だからだ。それも看過することが出来ないと処理された『異常』。それ故に彼はそこに不意を突かれた

プレシア・テスタロッサ。今、考えればおかしいところがあるかもしれないとなのはは思う。あの人はもうアリシアちゃんを救う事にただ狂っていた。そんな人なのに何故か慧君の話を何故か聞いていた。まるで見逃せないみたいに

そして

そうだ。最初の、初対面の時に彼から目を離すことが出来ずに驚いたのは誰だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

思わず声を荒げてしまう

「つっ、そ、そんなのは言いがかりではないか!ただ、彼の無表情に驚いただけ━━━」

「そうかもしれません。しかしだ。それなのに言いがかりを言いたくなるぐらい彼からは目が離せなくなる。目を離したいのに、離せない。見たくもないのに離せない。これと似た話があります。心理学的なものですが、人は『欠点』を見せられたら落ち着かなくなると言います」

「……確かにそうだが、彼が他人の欠点をたくさん持っているとでも?」

「いえ。彼自身は欠点というものではない。表現するならば━━━醜悪・・とでも言うべきですね」

醜悪

醜く、良くない事

それは余りにも

彼ににあ━━━

「そ、そんなの言い過ぎだよ!!慧君は確かに無表情だし、手段は選ばいけど、でも、それだけだよ!!生きるために必死なだけだよ!?そこを非難されるの!?だって、慧君は別に悪い事なんか━━━」

「悪い事なんかしていない。その通りかもしれません。ええ、そうです。別に彼が悪いわけではありません。悪いとしたら彼がそういう生き方を選んだことが悪いというべきでしょう」

「━━━何よそれ?風雷がそういう生き方をしたからいけなかった?ふざけんじゃないわよ!!生き方を選ぶのは人の自由でしょ!?確かにそれが悪い生き方っていうのがあるのはわかってるわよ!でも、アイツは特に悪い事なんてしていないじゃない!!ただ、アイツは」



事故でああなっただけで━━━



その一言をアリサちゃんはぐっと飲み込んだ

確かにその一言は軽々しく言ってはいけない。それは彼のプライバシーに関わることだし、何よりも彼自体がそれを言われるのは好きではないだろう。当たり前だ。事故に会う前の彼は知らないが、それでも今よりも遥かにマシな生き方をしていただろう。それを捨て去るほどに強烈な出来事だったという事だ。事故の規模などにも関わらず。表情を捨て去るほどに

「そうですね、日常生活を生きるなら、別のそんな生き方をしても大丈夫でしょう。でも、だからこそ、そこで彼の『偶然』が邪魔になる。まぁ、砕けて言えば、事故頻発体質。トラブルメイカーとでも言えばいいでしょうか。そうなると嫌でも敵の存在が現れる」

そこに来て最初に説明された『偶然』

「何故か、アレの身の回りでは事件が起き、そして巻き込まれる。そして彼はその中で敵の目を無理矢理でも自分の方に向かせる。別に向いても意味がないのに向いてしまう。醜悪と言う名の毒といったところでしょうか。アレを排除すればこの苛立ちがなくなるというのだから、まぁ、間違っていはいないでしょう。掃除をしたくなる汚れといったところです。しかしだ。そこで彼は上手い事立ち回る。暴力で時間を稼ぎ、聞いたところで言うと、暴論で相手を更に苛立たせる。相手を落ち着かせるような事をさせない。その醜悪さを利用する。時には周りの味方さえ利用する。さっきのように」

「??さっきって?」

「私が彼に攻撃するときです、ご息女殿」

「な、なのはで良いです。でも、そんな事ってありましたっけ?」

「では、失礼ながらなのはと。アレに私が攻撃するときアレはこう叫びましたね『ヤバイと』。その時、なのははどう思いましたでしょうか?」

「け、敬語も外してくれても構いませんよ。それは慧君が危ないから助けなきゃって思って行動して」

「お言葉に甘えて。それが多分、アレの誘導の結果だろう。事前に自分の危機を貴方に知らせるような発言をしておき、なのはの迅速な行動を促らせる。大した頭の回転だ。味方さえも利用するとは」

「で、でも!あんな状態なら咄嗟に声が出てもおかしくはないと思います!」

「貴方達が知っている少年はそんな無駄な事をするのか?」

「っ!!」

誰もが言葉を失う。

そうだ。彼は頭の回転が速い。それは周知の事実だ。そんな彼が無駄な事をするわけがない。それに何よりも、彼自身に性格が無駄を嫌う性格だ。何よりも彼が死ぬとかそういうので混乱するとは思えない

「解っていただけましたでしょうか?事件に巻き込まれるだけならただの被害者ですが、アレはその事件を巻き込まれながら性質で引っ掻き回す。たちの悪い被害者の姿をした加害者であり、愉快犯です。更にたちが悪い事にアレの性格はでは、それには敵と味方の区別がない。敵であろうが、味方であろうが。アレの邪魔をするならばそれは等価値と言う顔です。性質でやっているのではないんです。性質で引っ掻き回された状況を性格で周りを更に引っ掻き回しているんです。歩く暴風みたいなものです。普通ならそんなに上手く引っ掻き回すことは出来ないのに、アレはそれを実現する。無理矢理出来ない障害を破壊して」


いるだけで周りを少し引っ掻き回すのにそれを更に性格で引っ掻き回す。


確かにそれは彼の性質であり、性格だ。彼は事件に巻き込まれても逃走はしようと考えても、逃亡はしなかった。巻き込まれてもそれの渦の中心に紛れ込みに行った。

確かにそれは危険な存在なのかもしれない。勝手に巻き込まれ、その中を引っ掻き回し、自分の都合の良いように脚本を乱す。それには敵も味方も関係なし。出来なかったら、その障害を破壊する

確かに最悪にして災厄というのは正しいかもしれない

でも

「ああ、確かに危険かもしれないな」

「うん。そうかもしれないね」

「ええ、そうかもしれないわね」

「うん、そうなのかもしれないなの」

「そうやな、そうかもしれへんな」

「解っていただけましたか……」

上から俺、すずかちゃん、アリサちゃん、なのは、はやてちゃんが答え、シグナムさんが安心したかのようにホッと溜息をついた。

しかしだ。

代表して言わしてもらおう。彼の友人として

「その渦に入ってきて、俺達を助けてくれたというのも事実だぞ・・・・・・・・・・・・・・・

「「「「!!!」」」」

月村家と恭也と美由希アリサは思い出す

あの二年前。あの場に彼がいなかったら恐らく全員……とは言わなくてもここに立っていないモノがいたという事を。それを彼が引っ掻き回してくれたおかげで生き残れた

なのはは思い出す

この前のジュエルシードの事件。P・T事件と名付けられることになった事件。これ自体に彼はそこまで干渉はしてこなかった。だけど、その中で彼は罪悪感や傷心で傷ついた友人に無茶苦茶な方法だが生き方を示してくれたという事を教えてもらっていた

「確かに打算があったかもしれない、愉快犯だったかもしれない。実は俺達の命とかはどうでもよかったのかもしれない。それでも彼のお蔭で助かったんだ。自分を犠牲にしてくれてたんだ。彼はそれを否定するかもしれないけど。だけど、俺達人間は馬鹿でな。思い上がりを勝手に押し付け、信じることが出来るんだ。だから言おう。彼は戦ってくれたと・・・・・・・・・。それは醜かったかもしれない。それは酷かったかもしれない。それは外道だったかもしれない。それは悪と言われる行為だったかもしれない。それでも!戦ってくれたんだ・・・・・・・・!」

声が荒げてくる

感情が無理矢理込み上げられる

それは怒りだ

そうだ。確かにその生き方も行為も醜悪だったかもしれない。誰からも認められない存在だったかもしれない。それでも、彼は俺達を助けてくれたではないか。それをこんな簡単に否定させていいものか?


断じて否!!


その体を以て肉の壁となってくれた

その暴論を以て時間稼ぎと悪意と敵意と嫌悪の壁となってくれた

そんな彼を

俺達が認めなくて誰が認めるというのだ

「ということだ。ここにいる人間はそんなことは承知の上で彼と付き合っているんだ。彼風に言えばそんな暴論では引くわけにはいかないな」

「ば、馬鹿だろう!あんた達!!あんな化け物と付き合うっていうのかよ!?信じらんないぜ!!」

「止めないか、ヴィータ!!あ、主はどうなのですか?貴方もアレとその、友人付き合いを続けるというのですか?」

「それは勿論やで」

「な、何故ですか!?もしかしたら、利用されているのかもしれないのですよ!?アレは明らか他人を信用や信頼をしていない瞳です!ともすれば、それが友人でもアレは遠慮なく利用したり、裏切ったりしますよ!!」

「……じゃあ、聞くけどな。裏切りは確かに悪い事やと思うけどな。利用するんてそんなに悪い事なんか?」

「「「「は?」」」」

「だって、人間関係ってドライに言えば利用する、される関係やろ。時には自分のエゴで他人と付き合っている人間もいるやろうし、寂しくなりたくないっていうだけで、他人と付き合う人もいると思うで。ほら、それって寂しさを紛らわせるために他人を利用しているって言えへんか?」

「そ、それは確かにそうかもしれませんけど……で、でも彼の場合はもっと酷いかもしれな━━━」

「自分が生き残るのに必死なのがそんなにいけへんのかいな?それやったら、仕事している人はみんな危険人物やなぁ。他人を蹴落とさへんと生きていけへん世界らしいからなぁ」

はやてちゃんはにこにこと笑っているが……断言しよう。アレは怒っている。現に笑ってはいるが、その目は笑っていない。むしろ、何の感情も宿っていない気がする

「まぁ、慧君の場合はかなりえげつない事をしそうやけど、今更やしなぁ。むしろ、それでこそ慧君って感じやし。それと」

「な、何でしょうか」

何故か最後にザフィーラが返事をした

それにはやてちゃんはにっこり笑顔で返した

「私が闇の書にそんなに願いがないのは慧君が私と引っ掻き回してであってくれたお蔭なんやけど」

もう四人は何もいう事が出来なかった













「とりあえず、四人には何かお仕置きをせぇへんとんなぁ」

「お、お仕置き!!?」

「くっ!な、何なりと……」

「こ、この命に代えましても……」

「しょ、承知しました……」

やっぱり、はやてちゃんも慧君の周囲にいる人間だとしみじみと自覚した

「恭也さん?何か変な事を考えへんかったか?」

「いや、何も」

お約束だな

でも、お仕置きって、何をすればお仕置きになるんだろうか?と思ってたら

瞬間、冷気が

「あら?それなら、私がしとくわよ」

「「お、お義母さん?(お母さん」」

「「「「「も、桃子さん」」」」」

「「か、母さん?」」

全員が寒気を感じて、母さんの方向に振り向く。母さんはさっきまでのはやてちゃんの笑顔の三億倍もの迫力がある笑顔を振りかざしている。その笑顔。閻魔と直接対峙をした方がマシだと確信する

見れば四人は俺達と違って耐性がないから、動くことも出来てない

「大丈夫よ。悪い風にはしないから。慧君と違って手加減する器量はあるわよ」

「あの━━━容赦の方は?」

「……さぁ、逝きましょうか?」

瞬間、みんなは悟った

この四人の魂に憐みを

十字を切り、手を合わせてそう心の底から願った

「じゃ、逝きましょうか?私のスィートルームへ」

「ちょ、ちょっと待ってください!!さっきまでそんなところにドアなんてなかったはずです……!」

「わからない!!ただの変哲もないドアなのに!物凄い命の危険を感じるぞ!!」

「い、いやーーー!!か、体が勝手にドアの方に向かってますーーーーーー!!?」

「む、むぅっ!ま、魔法も使えない!!」

「大丈夫、安心して━━━きっとみんな変われるから」

「「「「優しい言葉で真実を隠しているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」」」」

パタン

五人が入り、ドアが閉じる音

そして

「#$%&&?¥^!!!」

「ヴイ、ヴィータちゃん!!落ち着くのよ!ほ、ほら、花でも見て落ち着きましょ!!ほら、こんな所にも黄色くて縁起が悪い菊の花が……」

「シャマーーーーーーーーーーーーーール!!!お、っぽろげぇ!!」

「シグナムーーーーーーーーーーーー!!こ、これが固有結ぶわぁ……ぞ、○ーラギぃ……」

部屋からは阿鼻叫喚の図

思わず耳を塞いでしまう

そして、この場にいるツッコミ要員がこの状況にツッコミを入れる

「「「アレ!!?これがオチ(なんか、なの)!!?」」」

その後

無表情の少年に対してDOGEZAを素晴らしい角度で決めている四人組の姿が見れたとか。それを見て、無表情の少年は出番を得れなかった腹いせに頭を足で踏んだとか

意外と繊細な心でした

















あとがき
な、何とか一応要望に応えて直してみましたけど、こんなんですかねぇ?
中身はもう結構西尾維新の設定をパクッてますし、この程度で狂ってるなんて言えないという人もいるかもしれませんけど。それは作者の技量不足です。申し訳ない
まぁ、戯言遣いほど迷惑ではないが、その代り主人公は無意識だけではなく、意識的にも引っ掻き回しているというところです
そして皆主人公を持ち上げていますけど、真相はどうやら
まぁ、高町家や月村家&アリサは人が好い人達だと思っているからこんなんかなと思って書きました
後何でこんな馬鹿げた主人公に惚れるのかという意見には一応考えはあります
まぁ、それを書くのは大分後ですかねぇ、多分
それを言えるほど続けるかな……少し不安
とは言ってもこの主人公が痛いといいますけど、それでもとこの主人公のモデルとなっている某ラノベの主人公よりはかなり変態っぷりを押さえているんですけどねぇ



[27393] 第三十話
Name: 悪役◆de0dec60 ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:27

「は?闇の書の事で何とかしてほしい?」

「うん、そうなんや。ほら、詳しい事はよぉわからんけど、やっぱり、悪い事をしてきたという事やろ?そりゃあ、それは前の主の命令やったからていうのもあるかもしれへんけど、それでも悪い事をしたのは事実やろ?だから、幾らなんでも何の贖罪もしーひんっていうのは物凄い厚顔やろ?」

「ふむ。まぁ、そうとも言えるね。それで?」

「そやからさぁ、その時空管理局っていうの?そことの仲を取り持ってほしいんや。流石にいきなり言ったら有無を言わずに捕まりそうやから、仲介役が欲しいっていうんかなぁ」

「何故、俺に」

「それは慧君が時空管理局の人達と知り合いやからやんか」

「それなら、高町でもいいだろ。それに俺は残念ながら仲介をしてやるぐらい相手とは仲が良くないぞ。どちらかと言うと仲が悪いんだぞ。かなりの険悪なんだぞ」

何せ一度目は相手の暗黒面を洗い出し、二度目は相手を脅迫しながら高町の参戦の条件を出しまくり、そして金を奪い取り、最後は勝手に相手の親玉との毒のある会話。これで仲がいいといったらそれこそ厚顔だろう

というか俺が仲良くなりたくないだけなのだが

「いや~。だって、なのはちゃんじゃ交渉なんて高等なんてことできひんやろ」

「うむ、正論だな。どうせ高町の事だから『お願いします!守護騎士の皆さんを助けて下さい!』と馬鹿正直に頼むしかできないだろうからな━━━脳への栄養素が足りていない証拠だね」

「むかつく!目の前でそんな事を言われていることもそうだけど、そう言われて反論できないのが本当にむかつく!!」

「落ち着きなさいなのは━━━みんな貴方の事を理解しているわ」

「そうだよ。だから誰もなのはちゃんを責めないよ」

「……それは私が無能だと言うのーーーーー!!」

とりあえず、その騒ぎは無視した

「まぁ、それで俺を選んだというのは確かに真面な思考回路だが……残念ながら俺はただの子供だぞ?俺がそんな交渉の真似事なんて出来るはずがないじゃないか。はっはっはっ。そういうのは高町家の大人どもに頼めばいいではないか」

「え~。私聞いているで~。慧君がなのはちゃんの為に汚れ役を受けて、交渉をしたって~」

「……誰から?」

「本人から」

「高町。少し話し合い(一方的な虐殺)をしようか」

「照れるという行為のレベルを超えた殺戮の展開の予感!?私の明日はどうなるの!!?」

「恐らく斜め下に堕ちるだろうな」

「最早風前の灯火!?」

しばらくお待ちください

「さて、何の話だったっけ?ああ、確か管理局との仲を取り持ってしかも交渉をしろという話だったっけ?」

「……うん。出来ればその指に付いた赤いのを拭いてから話を再開したかったなぁ……」

「なのはーー。生き返ってくるならちゃんと赤いのを拭いてから戻ってきなさいねーー」

「うわぁー。アリサちゃん。物凄い自然に流したね。」

我等の中では流血沙汰など別に不思議ではないのだ。時には俺が流したり、八神が流したり、バニングスが流したり、すずかが流したり、高町父が流したり、高町姉が流したり、恭也さんが流したり、月村姉が流したりしているのだ

ちなみに高町母には手を出してはいけないというのは絶対にして不可侵の条約だ

破った瞬間、自業自得の破滅が待っているからだ

「なぁー?この通りお願いするから頼まれてくれへん?」

八神はそう言って少し涙目の上目使いでこちらを見てきた。並みの男が見たなら一瞬でノックダウンするだろう。何せ、どういう因果か。ここに集まっている女性や子供は何故か美が付く人間ばかりだ

男なら一度は夢見るかもしれないハーレムというやつだ

普通ならそこで二つ返事でOKサインを出すかもしれない。もしくは散々相手を焦らしたうえで仕方がないかと言って、結局は手伝うのかもしれない。

でも、だからこそ、俺の返事は決まっていた

一応聞いてみた

「八神。実はお前、俺がどんなふうに応えるのか解っているんだろう?」

「え?やっぱり、解るぅ?やっぱり付き合ってきた年月が語るよなぁ」

お互いはっはっはっと笑う

そして動く

「嫌に決まってんだろう、馬鹿狸が。そんな何故俺がただでそんな事をしなければいけないんだ。それもよりにもよって何で女狐艦長やあの真面目過ぎて融通どころか皮肉すらも通じないゴキブリと交渉なんかしなきゃいけないんだよ。アホな事は高町にでも言ってくれ。俺はそんなのはご・め・ん・だ」

「うわ!きっつ!これが幼馴染に対する言葉かいな!!?せめて、もー少しオブラートに包んで言えんのか!そりゃあ、少々厚かましい頼みやって思ってたけど……もう少し考えてくれてもいいやんか!!」

「大却下。金にも徳にもならん。俺を動かすというならもう少しまともなものを賭けろ。そうすればこの身も動くかもしれない」

「えっと……わ、私?」

「……………………………………………………………………………………………………………………さて、今日の夕刊はどこに行ったかなぁ?ちゃんと整理整頓はしとかないとなぁ」

「私が悪う御座いました!!」

もう見捨てようと思ったのだが、意外としぶとく頼んでくる八神。思わず嘆息する

「大体何でお前が頼んでくるんだよ。筋違━━━」

「「「「私達からも頼む(頼みます)!!」」」」

「この瞬間を待っていた!?」

「トラップカード発動……って何でやねん!?」

いやだって。いきなり天井や壁や床や窓ガラスを割って現れてきたら誰でも驚くだろうに。あ、窓ガラスを割って入ってきた緑○がドナドナをBGMにしながら高町母のスィートルームに連れて行かれている。そしてそれを見た人間が全員敬礼を彼女に捧げている。しかも騎士たちがお前のじゃんけん運が悪かったのがいけないのだとか言ってやがる。じゃんけんで出現場所を決めたのかよ。そして嫌にノリが良くなっているじゃないか騎士の皆さん

ま、別にどうでもいいけど

さて、コントも見れたことだし、帰ろうかな。いそいそ

「ちょっと待ったぁ!!いそいそと帰ろうとするんやない!!」

「ちっ。何を言うんだ、八神。俺はこんな動物園から早く離れたいだけだ。帰るだなんて一言も言っていないじゃないか。それとも何だ?お前は俺を疑うのかい?だとしたら、俺達の二年間続いた遊情もここまでだな」

「え、何やそれ?その文字は誤字やな?誤字何やな!?誤字って言ってぇな!!幾らなんでもはやてちゃん!泣いてしまうで!!」

「マスター。釣りは倍に」

「それは無理だな馬鹿」

からんからんという音とともに帰った

「……」

「あ、主……?」

「は、はやて?」

「はやてちゃん……物凄い顔……」

「……ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふ。ここまで滑稽にされて私が動かんと思う人間がいるやろうか?断じていない!!」

「「「「「「は、はい!!?」」」」」

「者共!戦の準備をしろ!者共!戦いの享楽を思い出せ!者共!勝利の宴を夢想しろ!者共!原初の命に歓喜しろ!者共!最果てと誤解して突進しろ!者共!最強と自らを騙しながら馬鹿馬鹿しく散っていけ!者共!その口はただ雄たけびを上げるためのものだったと錯覚しろ!者共!我に従えたことを誇りに思いながら狂って死んで行け!!我はそれを悼みながらも気にせずに前に進もう!!さぁ、ラッパを鳴らせ!地面を踏み砕く音を世界に鳴り響かせ!!武器の熱さに心踊れ!!どうした!?狂乱するには良い日だぞ!!」

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

後に皆は語る

この子はまさしく王の器だと

















ミッション1

俺は皆に無理矢理翠屋に連れていかれ、中に最初に入れられた

すると


「いらっしゃいませ!ご主人様にゃん!!」


あら不思議

そこにはメイド服(しかもかなり際どい)と猫耳をつけた不思議生物がいるではないですか

「………………………………………………………………………………………………………………………………ごめんなさい。間違えました」

ガチッ。鍵がかかっている。犯人は俺を連れてきた人間全員と断定。後でぼっこぼこにしてぐっちゃぐちゃにしてごっちゃごちゃにしてその後ぶち殺してやると誓う。いや、確定事項とする

「ああ!?大変にゃ!!」

「大変?変態の間違いじゃないのか?」

「私!猫なので発情期が……!これはもう襲うしかないにゃ……!」

「ああ、つまり……天は俺を見放したという事なのかい……」

そうして暫く乱闘した後、俺はドアからは無理だと判断して窓をぶち抜いて逃げ出した。少し服をはだけて。不覚にもキモチいいと思った自分を恥じた。だって男の子だもん

精神的ダメージ











ミッション2

「ねぇ、慧君!!いい加減私を名前で呼んでほしいなの!!」

「うるさい、なの菌。とっとと消毒されろ」

「そ!そこまで言うんだったら私だって考えがあるもん!」

「ほう、言ってみろよ。どうせストーカーをするぐらいだろ。警察を呼ばせて貰おう。そうして民主主義の素晴らしさを理解、いや、体感して来い。社会勉強にもなる」

「(無視)こうなったら慧君の傍でずーーーーーーーーーーーーっと━━━」

「やはりストーカーか━━━」

「なのなの言い続けてやる!!」

「……ホワットドゥーユーセイ?」

「聞く耳なんて持たないよ!!逝くよ!」

「いや、来なくて━━━」

「なのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなの」

「……」

「なのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなの」

「……」

「なのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなのなの」

「いやーーーー!!どこぞの蛙型宇宙人かーーーーー!!?電波と言う名の何かに汚染される!!?」

精神的ダメージ

いや

精神汚染

















ミッション3

「……恭也さん」

「来たか、慧君」

「本気、何ですか……」

「ああ━━━本気だとも」

二人は何の会話をしているのか定かではないが雰囲気はまるで決闘直前のような気配である。それも場所は道場。場所も空気も見事場の流れを読んでいるのである

事実、これは決闘なのである

「……嫌です」

「もう遅い」

「全身全霊を以て抗います」

「足りない」

「命を以て脱出します」

「それでも尚届かない」

少年の無表情にはに嫌がる素振りがある。それはこの決闘をしたらもう戻れないという事を危惧しているのか。それとも生きて帰れるという自信がないのか。将又は両方なのか。だが、どっちにしろ青年はそれには構わない

「悪いが俺はお前ほど口は上手くない。だから━━━行くぞ!!」

「……!!」

掛け声とともに恭也の気合や闘志が上がる。それはまさに剣士の姿。未だ発展途上とはいえ、その能力は並みの剣士どころか。銃器を持った軍人さえ倒すであろう。まさしく剣を使うものとして相応しい武士である

そしてその裂帛な気を受けて、少年は構えようとする。

だが、遅い

如何に少年が格闘技を修めているとはいえ、青年はそれを凌駕する能力を持つ剣士。技術や経験はおろか。身体能力でさえ段違いである。人間の極限と言ってもいいかもしれない存在である

その速度にただの少年である彼では反応すら間に合わない━━━!

そして青年は気合を入れて━━━叫んだ



「ふとんがふっとんだーーーーーーーーー!!!」



「……」

SIIIINNNと道場が凍って、そして少年が一言

「……さむっ」

「!!!」

青年は少年の余りの一言に斬りつけられたかのようにグラリと体が揺れ、前に崩れる。辛うじて体を手で支えるが、その両腕は笑っている。それは何という感情から来るものだろうか。そして剣士としての少年は心底苦しそうに呟いた

「……無念……!」

さて、何故こうなったのかというと。それは実に単純

彼、高町恭也は良く言えば愚直。悪く言えば頭が固い青年である。故に何時ものメンバーで集まると冗談とか言えない部類に入ってしまい、日蔭グループの人間なのである(ちなみにダントツ一位は高町姉)

そして彼女が。恋人である月村忍がこう言ったのだ


「恭也、冗談が通じなーーーい。つまんなーーーい」


その心中を理解できるものは既婚者ちちだけであった

そして結果げんじょうがこれなのである

正直かなり疲れた思いをした無表情の少年であった

精神的ダメージ















ミッション4

「なぁ、慧君」

「何だ八神。俺は今、疲れている。用があるならば高町母のスィートルームに置いてある俺専用のアポイントの為の用紙が置いてあるからそれを持って出直して来い」

「え?それって冗談やな?そんなまさかあの部屋置いてあるっていうことはまさか自分から入って行ったってこと?そんな馬鹿な!!慧君!人間辞めてたのは解っていたけど、まさか悪魔に魂を売り渡してたなんて……!」

「実はお前、俺の事が嫌いだろう?」

「まぁ、それは置いといて━━━実は慧君にとっておきの事を言おうと思ってんね」

「ほう。じゃあ、それがもし下らない事ならばお前の胸を揉みまくり、そして快楽の虜とさせるがいいな?」

「セ、セクハラどころか、ただの変態行為やんか!!?」

「じゃあ、聞かない」

「ぐっ!わ、解ったで!私も関西人の端くれ。罰が怖くてギャグが言えないなんてそんな本末転倒は私は絶対に受け入れへんでーーー!!!」

「はいはい、とっとと自滅しろ」

「じゃあ行くぜーーおい!実は!」

「前半がどこぞの○ラエタに出てくるの○た君だ」

「私……人間やねん」

「!!!!!???」

「……(わかってた。こういう反応が返ってくるのは私かて解ってた!でも、何もここまでマジ顔で驚かなくてもいいやんか!!ていうか何でそこの我らが幼馴染グループもまず顔で驚いてんねん!!)」

八神はやて

勝利はしたが自分にも精神的ダメージ















ミッション5

「もう!どうしたの風雷?そんな疲れた顔をして。何か悩み事でもあるの?じゃあ、私が乗ってあげるわ?遠慮なんてしなくていいのよ?だって私達友達じゃない」

「……(パキッ)」

持っていたシャーペンが折れた

だが、誰も責める権利などあるはずがない。例え最高裁も審判役でも俺を裁くことは出来ないだろう。というか逆にこのゲテモノの相手にむしろ極刑を言い渡すだろう

何せあのアリサ・バニングスが。あのアリサ・バニングスが他人の心配をするだと……!そんなの世界が滅びても有り得てはならない。というかもう俺は吐きそうである。というか吐かせて

見れば周りの同級生も吐きかかっている。あ、今、自前のエチケット袋に吐きやがった奴がいる。用意がいい奴だ。俺も持ってきてはいるけどな。出来れば使いたくはなかったが

バニングスも周りの惨状を見て思わず涙目になっている。私はそこまで淑女として見られていないのかと嘆いている。それでも笑顔を失くさないのはさすがだ。そして実は俺からは見えない位置で八神がまだGOサインを出していたのだ

そして恐ろしい事にその顔はマジなのだ

嗚呼━━━
私の逃げ場所はない━━━

「さぁ、悩みを言ってみなさい。出来るだけ力になってあげるから。大丈夫。私達一人一人の力は弱くても皆で力を合わせれば百人力よ!」

バチーンとウィンクをする目の前の少女

臨界点突破

教室のメンバーと俺を含め全員が気絶した

その有様にマジ泣きをするアリサ。だが、そんな彼女は希望を感じて横を見る。そこはさっきはやてがいた場所。そこにはちゃんとはやてが立っていた。思わず泣きながら明るい笑顔を浮かべて、そしてはやてに呼びかけた

だが、現実は本当にひどい

はやては


立ったまま気絶していた━━━
燃え尽きたぜ、真っ白によぉ……


その場にいた全員に精神的ダメージ


















ミッション6

公園のベンチ

そこに何故か蒼犬が人間形態でシャツを着て座っていた

「……」

「……」

お互い目を合わせる。その瞳には苦渋の色。一瞬で蒼犬がこの状況を望んだわけではないという事が判明。思わず後で上手いペットフードを買ってやろうかと思ってしまった。だけど、あんまり財力があるという事ではないのでやっぱり止めといた。風雷慧。若干九歳で家計の遣り繰りをする凄腕主夫

だけど、そこで蒼犬は止まらなかった

彼は守護騎士。騎士とは主に仕え、主の為に動き、主の為に働き。主の為に戦い、主の為に壁となり、主の為に牙となり、主の為に死んでいき、主の為に命令をこなす存在。


それが幾ら嫌な命令とはいえ、従わないわけない━━━


そうして彼は動いた

━━━シャツのボタンを外しいきなり



「……やらないか?」



その瞬間

無表情の少年は思わず体に忍ばせている暗器の全てを男に投げてしまった。それもどれも致命傷を負わせる弾道で。しかも、ナイフの先には実は美由希印が……!

彼は面白い事を受け入れることは出来ても、同性愛を受け入れることは出来なかったらしい

意外と初心な少年であった

















「━━━という事で仲介役をやってやろうではないか。感謝しろよ、八神。何せ俺が動くのだ。その価値は世界が動くのと同義だ。感謝どころか畏れ敬うのが当たり前だぞ」

「わーい。何だか発言がどこぞの英雄王みたいだけど、とりあえずはやてちゃん。嬉しいな~。私、思わず慧君に恋してしまいそ~」

「……恐ろしいわ。あれだけの目に合ったのにまだ自分の方が上だと思っている風雷に。手を貸した私が言うのも何だけど」

「……そうだね。私はあんだけ慧君を懲らしめたのに平然と話し合えるはやてちゃんが凄いと思うなの。普通なら罪悪感で少し表情が陰ると思うのに。手伝った私が言えることではないけど」

「どうでもいいけど。慧君養分が足りないのです。食べていいですか?」

「ああ。流石ははやてだ」

「うむ。我らが主に相応しい存在だ」

「指揮官として他人を動かすのにも長けているな」

「……でも、あの年でそんな事を出来ることを手放して喜んでいいのかしら?シャマルさん、ちょっと複雑」

というわけで結局交渉することになってしまった

超面倒臭い

まぁ、お蔭で情報収集・・・・を出来たがな……

そういえば……

「高町。何故、お前はそんな薄汚れているのだ?」

「え?あ、ああ。実はちょっと力試しにヴィータちゃんと戦ったの。そしたら━━━」

「アタシが勝ったんだよ。とは言ってもにゃのはとアタシの魔力総量はどちらかというとにゃのはの方が多いから━━デバイスと経験の差が出たってとこだな」

「も~う、私の名前はな・の・は」

何だか言い争っていたがそんなのはどうでもよかったのだが、もう一つは気になる

「デバイスの差っていうのは?高町のデバイスはあんまり良くないのか」

「そうではない」

説明はどうやら紫に変わるらしい

紫は出会った時と変わらぬ。しかし、人間らしく柔らかくなった騎士の雰囲気を出しながらこちらの質問に答える

「まず、なのはと私達は魔法系統からして違うのだ。」

「どう違うんだ?」

「なのはのはミッドチルダ式。効果範囲と凡庸性に重きを置いた魔法系統で戦闘は大抵射撃系統の魔法が多い」

「成程。では、その説明だとお前たちの魔法は近接系か。まぁ、騎士というぐらいだからな」

「その通り。我らはベルカ式。対人戦闘を想定した魔法系統で一対一ならばミッド式の相手だろうと何だろうと━━━」

「負けはしねぇ!」

他の騎士たちもそう頷いている。騎士の誇りとはまたもや何とも時代錯誤的な。とは言っても、俺の周りにも武士道かぶれがいるので今更言えることはないが

まぁ、簡単に言えば銃がミッド式魔法で剣がベルカ式か

勿論、例外はあるのだろうけど。何せフェイトは多分だがミッド式なのに明らか近接戦闘を得意としているわけだし。そこの緑○も筋肉の付き方が明らか武術関連の筋肉の付き方ではない。となると補助系だろう。それが弱点という事になるわけではないのだろうけど

「では、デバイスの差とは?」

「ああ。今回は私達となのはのだけの説明にするが、なのはのはインテリジェントデバイス。我等のはアームドデバイスというんだ」

「ワイルド○ームズ?」

「アーム○?」

「お前らは黙ってろ、ギャグ要員どもバニングス・八神

この女朗共。何でそんな名作の名前でボケてくるんだよ

「で?違いは?」

「ああ。先ずはインテリジェントデバイスだが。これは簡単だ。用は意思を持つ機械と思ってくれたらいい。これがどういう事がわかるか?」

「……となると術者が気づかない脅威とかが起きたら単独で動いてくれたりしてくれるのか?」

「その通りだ」

うわっ。かなりえげつないもんじゃないか。つまり、それは奇襲とかそういうのは完璧とまではいかなくても少なくとも半分は減らせるという事じゃないのか?幾ら魔法の名前をパクッテいるとはいえ少々便利過ぎじゃないだろうか

「そうでもない。このインテリジェントデバイスは今の説明を聞くとかなり使い易そうだが、実は逆でかなり扱うのは難しく、逆に振り回されることがあるという事らしい」

「そこまで上手い話ではなかったか……それにしてもそれは傑作だな。まさしく道具が持ち主を選ぶという事か」

「そうだな。それにインテリジェントデバイスは魔法の発動体としての能力に主眼が置かれているのでアームドデバイスよりも脆弱な構造であるらしい。だから、近接とかで打ち合うのは無謀に等しい」

「……ふ~ん。だとさ、その脆弱なデバイスでどこぞの金髪少女に殴り掛かろうとした馬鹿町君?」

「で、でも、アレは、フェイトちゃんのもインテリジェントデバイスで……」

「少なくともフェイトは近接主体の魔導師なのだから、お前の遠距離用のデバイスよりは堅いと思うぞ」

「うっ」

馬鹿な奴。そんぐらい考えろよ、そもそも、お前近接系はいくら魔法があっても絶対身体能力と戦闘技術が関わってくるんだ。その両方共がフェイトに負けているのに何で近づこうと考えるかな。馬鹿じゃ言い足りん。クソバカでいいや

「で、お前らのアームドはつまりかなり堅いのかな。そりゃそうか。打ち合うためのものなのだから、杖というより武器か」

「その通りだ。アームドデバイスは堅くまたインテリジェントデバイスとそう変わらないAIを搭載している。とはいってもシャマルみたいな例外を除けばほとんどが武器の形状をかたどっているからかなり手練しなければ使えるとは言えないが」

「ま、武器だからね。どこぞの運動神経ダメダメ少女みたいな奴にはまったく使えんだろう。いや、まずは持てないかもしれんな……」

「ううぅ、い、いいもん!私はか弱い少女だからそんなものを持てなくても大丈夫なの!!」

「か弱いか……弱っている相手にバインドをかけ、それだけでは飽き足りず自分の全力全開の魔法を放った人間にそんな言葉が似合うだろうか……その魔法。海を抉っていたし」

「うぐぅ!」

「はい、たい焼き。だからなのははこれからは私に近づかないでいてくれるかしら」

「そして指も向けないでね」

「あ、手も向けんといてな」

「もうこれからは友情なんて言葉が絶対に出てこないよね!!?というか皆実はなのはをストレスで殺そうとしている!?でもある意味そう言ってくれたら、まだ納得はできるかも!!悲しいけど!」

「「「やだなぁ、なのは(ちゃん)。私達はなのは(ちゃん)の事が好きよ(好きだよ、好きやで)」」」

「俺はもう存在すら否定しているがな」

「ああ!初めて慧君の毒舌に癒されちゃった……」

「マゾの開花だな。おめでとう。一生俺に近づかないでくれ」

「やっぱりそれは幻であった……!」

「まるで蝙蝠のように意見を変える奴だな」

「駄目よなのは。そんな自分の意見を変えるような奴になったら」

「そやで。なのはちゃんはきちんとした意思というのを持たんと」

「そんなんじゃあ、駄目な男に騙されるよ?」

「……私、多分友人に騙されている……!」

無視した。正直どうでもよかった。何だか高町がどこぞの騎士王みたいに蹲っていたが、まぁ、そんなあの名作のシーンを奪うには百億年早いと言うしかない。というか後でおしおきをしよう

「で、続きだが」

「あ、ああ。このアームドデバイスの最大な特徴はベルカ式カートリッジシステムだ」

「「「カートリッジシステム?」」」

魔法関連の俺、高町、八神の声が重なる。すずか達も首をひねっているようだし、密かに部屋の隅にいる恭也さんも話を結構真面目に聞いているようだ。

「何だカートリッジ(弾丸)って。武器に弾丸を使うっていう事はガンブレードか?」

「まぁ、似たようなものだな。ベルカ式カートリッジシステムは前もって魔力を込めたカートリッジをロードする事によって魔導師が持つ魔力以上の魔力を得ることで、魔法の効果を一時的に高めるシステムだ。簡潔に言えばな」

「……さっきのインテリジェントデバイスと似たように滅茶苦茶使い勝手がよさそうだが、当然、何らかのペナルティがあるんだろう?」

「……察しがいいな。その通りだ。確かに使いこなせば有効なシステムだが、これはかなり不安定なシステムだ。使えば術者にかなりの負担を強いることになる。私達みたいにプログラム体で出来ているとか、かなり体を鍛え上げているとかそういう条件がなければ使うのはかなり厳しいだろう。」

「後、体が出来上がっていない子供とかにもそれは辛そうだな。まぁ、使いこなせば確かにそれはかなり強力な力になるか。成程、それで高町が負けたという事か。まぁ、高町の場合実戦経験どころか訓練さえほとんどしていないに等しいんだから、お前らに負けて当然だが」

「にゃはは、確かにそう言われるとそうなのです……」

「あったりめぇよ!そんな簡単にベルカの騎士がひよっ子に負けるわけねぇんだよ!な、な、な、にゃのは!」

「な・の・は!!」

「言い辛いんだよ、お前!!」

疑問は解消された。じゃあ、本題に……っと聞かなきゃいけないことがあったんだ

「そういや、聞きたいことがあったんだ。」

「「「「???」」」」

「魔法って変身魔法とかあったりする?それで獣になったり、違う人間になったりすることとか」

いきなりの質問にその場にいる全員が疑問を思うが、とりあえず答えてくれそうだった

今度は蒼犬だ

「……ふむ。確かに変身魔法は存在する。使い手がそれに長けているのならば、大体の違う生物や人物に変わることが出来るだろう。後、そうだな。使い魔や守護獣とかもある」

「?その使い魔と守護獣っていうのは?」

「ああ。別にこれはミッド式とベルカ式の言い方の違いであり、明確な区分ではない。両方とも多くは元々存在した動物を素体とし、死亡直前、又は直後の体に人工の魂を憑依させる事で造り出すもので、俺もそうだ。俺の場合は狼を素体としている」

「ふぅん。だから犬耳が生えているのか……」

「……狼耳だ。続けるぞ。この使い魔もしくは守護獣は主人との契約で主人の魔力を消費して存在を維持しており、その能力が高い程消費量も多い。まぁ、ここは蛇足であったが。つまり、お前の質問だけならばこれらも動物に変わることが出来る。……質問はこれぐらいか?」

「ああ。十分だ」

となるとこれで今までの違和感・・・・・・・が解消できる

さて、後の問題だが

「じゃあ、八神。今から交渉してくるが。少し条件がある」

「へ?あ、うん。こっちは頼む立場やし、別にいいで。ただ、私が欲しいとか言われたらこ━━━」

「お前を欲しがる人間っていうのは多分狸のオスぐらいだな。とっとと交尾して来い。さぁ、続けるぞ」

「……うん。ええで」

「条件は三つ。一つ、この交渉は人数制限でやる。そうだな。高町父と恭也さん。あと、そこの紫でいいか。一応将だし」

「え?で、でも。やっぱり、私がいいひんと……ううん。わかった」

「二つ。場所指定。恭也さん。貴方の部屋でいいですか?」

「ああ、いいぞ」

「うん。それもいいで」

「三つ目。これは必須と言ってもいいな」

そう

これだけは見逃せない



見逃すわけにはいかない・・・・・・・・・・・

「お前が闇の書の罪を背負ってやるとかそういう気持ちを少しでも抱いているのならば、俺は絶対やらない・・・・・・・・やるぐらいなら死ぬ・・・・・・・・・。いや、やっぱ殺す・・・・・

「……え!」

「二度は言わない。お前が何を想おうが、それらはそいつらの罪だ。前の主の責任?確かにそれもあるだろう。だが結局やったのはそいつらの責任。お前の責任ではない」

「で、でも……私は四人の━━━」

「主?そんなのそいつらが言っているだけだろう。お前はそれともそいつらの主にでもなりたいのか?じゃあ、誕生日にいった事を取り消さないとな。『私は四人の家族ではなくあんたらの主。だからあんたらは奴隷のように働いてな』って言えば?」

「そ、そんなん言えうわけないや━━━」

「じゃあ、主じゃないな。いいか?お前が一緒にそいつらの罪を償う?確かに立派な心がけかもしれないな。そんな聖人君子みたいな考え。逆にどうかと思うがな。子供は子供らしく大人に甘えとけ。それが子供の特権だ」

「で、でも……」

「お前は知らないと思うが━━━自分の罪を取られるというのは酷く不愉快なんだよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。自分の事だ。自分でやらせろよ。そんなことも出来ない馬鹿な大人じゃないだろう。そこの騎士達も」

「……」

「その通りです、主」

そこまで語ると騎士達が八神の傍まで歩き、そして膝をついた。まるでそれは王に臣下の礼を取るまさしく騎士と王の光景。ただの家のはずだがそんなのは飾りだと言えそうな雰囲気。姿形はどうあれ騎士という名は決して名前だけではないらしい

「主よ。分を弁えない言葉でありますが言わせてほしい。我らがそこまで弱い存在に見えますか?」

「そうだよ、はやて。私達はそんなに弱くはないよ」

「そ、そりゃあ、そうやけど」

「はやてちゃん。確かに私達の主ははやてちゃんです。でも、はやてちゃんは言ってくれましたよね。家族になってくれないかって」

「だが、主はやて。我らはその言葉の意味をじつはそこまでは知らなかったのです。しかし、奥方が教えてくれました。それは仲が良く、お互いを信頼し合っていて━━━そして時には喧嘩もし合う対等の存在であると」

「……」

「直ぐには私達もそうなることは出来ないと思います。しかし、どうか不甲斐ない我らを待っていてくれませんでしょうか?」

「だからこれがあたし達の一歩になってくれると思うんだ」

「それに大丈夫です。私達は絶対離れません」

「我らはただ主の為の騎士であり、そしてここにいる皆との家族です」


「「「「我らはただ、主との安らぎを求め、望む者です」」」」


これはまさしく騎士と王の誓い

破られることはない神聖にして不可侵。これを破れば即座に斬首だろうという雰囲気だ。しかし、そこにいるのは厳粛な顔をした騎士ではなく、穏やかな笑みをした人とどこにでもいるただの子供だ

その誓いを受けた子供、八神はやては考えた。過去の事。今の事。これからのこと。皆の言葉。それらを一瞬で全部考えた。だからこそ自分が言うべき台詞を理解した

「……わかった。そうやなぁ。私達は家族。そこに遠慮やぎこちなさはいらへん。皆のモノは皆のモノ。私のモノは私のモノ。ただ私達は時には助けたり、時には叱ったり━━━そして時には見守る。そういうことをするのが家族。そうやな。私もまだまだ子供やなぁ」

そう言って彼女は苦笑した

その笑顔を見届けた騎士はそこで満足した顔になり、そしてこっちに顔を向けてきた

「では、風雷……でよかったか。頼む」

「……自分で受けたり、条件を出した俺が言うのも何だが━━━俺を信頼できるのか」

「……確かに我らが信頼を預けるにはまだ日が浅い。しかし、信じよう」

「……その根拠は?」

「簡単だ。主が、家族が信じている。それ以外何か必要か?」

「……ぷっ、は、はははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

表情には出さず、久しぶりの口だけの大笑い

他のメンバーがポカンとしているが、そんなの気にすることではない。全くもってこの世の人間は何とも愉快な事か、喜怒哀楽を封じているのにまたもや俺を口だけだが笑わす。

愉快、痛快、大喝采

OK,OK。理解した

「上等だよ守護騎士達。お前らは騎士を名乗るに相応しい。卑賤な身だがこちらもその期待。大いに応えてやろうではないか。お前らがただのプログラムで終わるだなんて勿体なさ過ぎる。否、俺がそんな評価を許せない。なぁに、問題はないさ。俺はいつも通り手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐に打倒すればいいだけなのだから。さぁ、行こうか。シグナムにヴィータにシャマルにザフィーラ。まぁ、代表してシグナムだけだが。それでもここから先はお前達が選び、求め、望んだ答えしか待っていない、残り物ハッピーエンドが残っているぞ」

そう言って指定した人間は立ち上がり、恭也さんの部屋に向かった

望むんだ答えを掴むために


















「うわぁ、風雷。本気ね」

「うん。あのセリフが出たってことはもう管理局の人には悪いけど、慧君が勝訴するのは確定事項だよ」

「??アリサちゃん、すずかちゃん、それはどういうことや?」

あのセリフ?

「言ってたでしょう?手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐にって」

「アレは慧君の決め台詞・・・・だよ。だからアレが出たならもう大丈夫。心配なんて微塵もいらない。今の慧君は普段も素敵だけど、今はそれよりも百億倍素敵なぐらい残酷な悪魔・・・・・・・・・・・だよ」

アリサちゃんは仕方なさそうに微笑んでいるけど、すずかちゃんはもう完璧に輝かんばかりの誇らしげな笑顔。それで何となく納得。すずかちゃんは慧君のそういう所を見て好きになったんやろうなぁと

その証拠は後で知らされることになる





















あとがき
とりあえず、ヴォルケンリッターとの仲直り?
見ている人よ
オラに力を分けてくれーーー!!!(切実)
何だか自分でも前半はどんだけ変な妄想を膨らましたのだろうと思ってしまいました



[27393] 第三十一話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:28

こうして俺は暴論をあらん限り使いまくり、管理局の馬鹿共を相手に論破?しまくり、そうして何と守護騎士メンバーの罪を出来る限り軽くしていくという痛快な展開

「を望んでいる人がいるかもしれないけど、そうはいかんざき」

「慧君、何を独り言を呟いているんだ」

「いや、観客に対しての宣言というか、抑止力というか……」

「君は何を言っているんだ」

失礼。

冷静になろう

「ま、とりあえずこれからの説明だな」

「ああ、頼む」

「さっきは決め台詞やら何やら意気込んだセリフを言ったが実は別にそれほど暴論を遣わなくてもいいんだよなぁ」

「何故だ?自分で言うのも何だがこっちは重犯罪者。それをおこがましくも何とかしてくれと言うのだぞ。多少は交渉を強気で言わなくてはい

けないはずだ」

八神は子供ゆえかかなり甘く見ていたようだが、実際はかなり酷い罪を背負っているヴォルケンリッター。どれだけの罪悪を起こしたのかは既にヴォルケンリッターですら、全てを把握していないらしい。昔の主の命令と言えば虫が良すぎるから、やはり罪はお互い様だろう。

ま、そこらへんは上手くやるけど

とりあえず、質問に答えてやろう

「ああ。それは簡単だ。今から喋る奴は……ええと、まぁ、いいや。女狐艦長と頑固一徹な黒いのなんだが」

「……慧君は人の名前を認めた奴ぐらいしか言わないだけで、名前自体は覚えているものだと思っていたんだが……」

「ああ。まさか、呼ぶ気がない奴の名前は覚えてすらいなかったか━━━最低の権化だな」

失礼な

俺は単純に興味がない物はとことん覚える気がないだけで、それのお蔭で脳の容量を効果的に使えているんだよ

「話がこの二人のせいで逸れたな。まぁ、そいつらはもう正義正義の連中でお前らみたいなのでもちゃんと扱うだろうよ。まぁ、女狐艦長の方はどうかと思うから釘は刺しておくけど。ああ、もう。何で俺がまたあんな奴らと話さなきゃいけないかなーー。面倒臭いなぁ。後で八神の胸でも揉みまくってやる。」

「主の胸を揉むのは遠慮してもらおうか」

「冗談だ。あんな発育もしていない胸なんか揉んだところで何の足しにもならない。続けるぞ。というわけで、多分、俺が頼まなくても勝手に人助けをしてしまいそうな奴らなわけなんだ。だからお前らの贖罪活動の方は俺が何かしなくても何とかなるだろう」

「……では、何故主の願いを?」

「簡単だ━━━そろそろ五月蠅い蠅を叩き潰してやろうと思ってな」

「は?」

どうやら気づいてないらしい

これだから魔法万歳王国出身の人間は困る。もう少し近代的なモノではなくて、原始的なモノも重要視するべきだと思う。とは言っても近代人として科学に頼っている俺が言うのも何だけど

「……というか、その年でそこまで読み取れる君が少しおかしいのだがな……」

「あんたらの襲撃を受けていたら勝手に覚えるわ。それに別に少し格闘技を習えば出来る人は出来るらしいですよ」

「……俺の記憶が正しければ君は最初らへんから読み取れていた気がするんだが……」

「それは高町父の記憶違いですね━━━老化か」

「なに。例え老化しても俺と桃子の愛は決して老けない……!」

「そこは衰えるだろう、父よ。というか出来れば衰えてほしい」

「毎回、甘い空間を出しやがって。本当なら血祭りどころか骨祭りだ」

「意味が解らん。そして言おう━━━それは負け犬の遠吠えだと」

「話が逸れてますよ」

おっと、この俺以外のメンバーは話を逸らそうとするから困る。もう少し真面目に生きるという事が出来ないのかと出会ってからずっと思ってしまうよ。まったく傑作だ

「……」

「おっと、恭也さん。ツッコミに刀は駄目だぜ。下手したら切れちゃうじゃないか」

「そこで大怪我するとは言わないのは大物なのか、馬鹿なのか……」

「……また話が飛んでいるのですが」

「おっと、失礼。とは言っても簡単な話なのだがね━━━つまり単純にい八神を見張っている奴らがいるという事だけだ」

「……なに!」

シグナムが焦った声を出す。まぁ、あれだけ忠義者の姿を見せられたからなぁ。むしろ、こういう反応をしてくれないと俺が動く理由が消えてしまう。

説明しようかと思ったけど、そこはヴォルケンリッターの将で歴戦の戦士。経験と直感でちゃんと解ってくれたようだ

「狙いは……闇の書か」

「だろうね。実際、お前らが現れてか更に頻繁に出てくるらしいぜ」

「……まさか、お前はその為に主の願いを一時的に断ったのか……?」

「それは買い被━━━」

「そうだ、シグナム。慧君はその為に俺達にも少し周りを確かめといたほうがいいと警告してくれたんだ」

「……恭也さん。無駄な事は言わなくてもいいです。まるでそれでは俺が八神の心配をしている人間みたいな評価を受けてしまいます。つまり、誤解を受けてしまいます」

「誤解ではないだろう?」

「俺は単に時々、外でじーーーーっと監視してくるのがかなりうざいから言ってだけです。八神の事なんかまったく興味がないです。お分かりですか?」

「ふっ、ではそういうことにしておこう」

むかつく。後で月村姉にあることないことを言っといてやろう。それで煩脳死しろ。はっはぁ、ざまあみやがれ

「では、お前は今回の会談ではそちらを重要視するという事か……?」

「そゆこと。話が早くて助かる。これで他のメンバーならば面倒臭い説明をしなくてはいけなくなる。持つべきものは事情を察してくれる人達ですね。どちらかと言うと俺は一人になりたいのだが」

「無理だな」

「恭也さん。いい加減空気を読んでください。だから月村姉に面白くないって言われるんですよ」

「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「さて、話を続けよう。いい加減うざくなってきた」

「……い、いいのか?」

「構わんよ。という事でお前らの贖罪内容はそいつらに任せることになるがまぁ、それと同時にお前らの防備を用意してもらわないとな。四六時中神経を張りつめるのは流石に面倒だろう」

「だが、証拠はあるのか。気配だけでは弱いと思うのだが……」

「なぁに、心配するな。そこらへんは解決している」

「??ある、のか?」

「YES.大変だったぜ。ばれない様に事を進めるのは。感謝はお前らの所のシャマルにするんだな」

「……何時の間に?」

「さぁて?」

何時でしょうね?別にどうでも良い事だけど

「ま、こんなものは誰でも見つけることが出来る証拠さ。違和感を失くそうとしたら逆に違和感が出来るという事を黒幕さんは理解していなかったのか。それともただの馬鹿か。ま、どっちでも良い事だな」

「……そっちについては私は問題漢なので任せるしかないだが、本当に我らの罪状については大丈夫なのか。主の手前ではああ言ったが、普通に考えれば極刑は当たり前なのだと思うのだが……」

「あーー。まぁ、初対面の相手を信じろと言われたらそれは誰でも疑うよな。じゃあ、簡単だ。テストをすればいい」

「テスト?」

「そ、テスト。なぁに、要はお前らが信頼できるか、出来ないかを測ればいいだけさ」

「……話の途中で失礼するが慧君よ。話す内容はちゃんと纏まっているのか。正直、俺はボディガードをするだけが能であって政治的な事は苦手なんだが、それでもこういうのは少しでも頭で纏めるものではないのだろうか。それとも君のお家芸の暴論で行くのか?」

「んん?今回は暴論は遣わないです。高町父」

「なん……だと……?」

「おいおい。まるでこのガキ、暴論以外の事を知っていたのか、こんちくしょうが。知っているのならば出会った時から使えやこんちくしょうがみたいな顔をしないでください。」

大体、暴論以外を知っていなかったら暴論は遣えないでしょうが。暴論の反対を知り、理解してこその暴論なんだから。そうじゃない暴論じゃあ、威力が格段と落ちてしまう

というわけで、今回は誠に申し訳ないのだが、皆さんから名づけられた暴論遣いの名を返上して何と正論で叩こうと思うのさ。ちゃんちゃんとね。



















「やぁ、頑固一徹の黒いのと女狐艦長。壮健そうで何よりだ」

『………君と話さなければ多分もっと壮健だっただろうな』

『駄目よクロノ。思ってもそう言っては』

出合い頭に痛烈な一言。一体俺が何をしたというのだろうか?過去の自分を思い描いてみよう

……よし、意外とどころかちゃんと普通しているではないか。という事はこの態度はあちらが悪いという事だ。何ともまぁ酷い人間だ。長生きとかすると性格がひねくれるね?

『言っとくが、僕が知っている人間では君が一番ひねくれていると思うぞ。そして君と僕はそこまで歳は離れていない』

「心を読むな」

最近の人間は人間を止めているから困る。もう少し人間らしくなってくれないと世界から弾き出されるぞ

ま、それはさておき

「とりあえず、今日は高町からの質問があったから、こういう通信をしたんだが」

『なのはが?じゃあ、本人が来ればいいんじゃないか?』

「最もな意見だがな。実はあいつは国語の成績は良くない。それを嫌らしくも自分でも理解しているようでな。それでアイツは親や自分の友人を使って俺を脅迫してきたのだ。解ったか?」

『……ご愁傷様とだけ言わせてもらうよ』

はっはっは。高町が凄い悪役になってしまったね?まぁ、悪魔みたいな人種だからいいか。何せ友達になりたいとかいう相手に何と全力砲撃をぶちかましたのだからね。アイツは友達になるには暴力を使わなくてはなれないのか?絶対にアイツとは友達にならないと固く誓おう。そして名前も呼ばないと

『でだ。その質問とは何だ?手短に頼む。フェイトの裁判の事でまだまだやらなきゃいけないことがたくさんあるんだ』

「そういえば二人は?」

『訓練室で訓練しているわ。二人とも暇さえあればそうしている事が多いわ。ふふふ、二人とも貴方みたいに冷静に戦えるようにとか考えて戦えるようにとか言っているわ。好かれているわね』

「……俺よりもそこの黒いのを真似た方が良いと言っといてください。ついでに俺は悪い見本だと」

『何だ。自覚しているのか?』

「そうでなければ今頃この場に立っていないさ」

自分でも解っているからこその行動。どうやらシグナム達もそう言っていたらしいが、全くもってその通り。俺は自覚して動いている。故に醜悪だ。シグナム達が言っていることは何もかもが正しい

別にどうでも良い事だけど

「ま、本題に入ろうか」

『そうだな。このままでは罵り合いだけで終わってしまう。いい加減仕事に戻りたいところだ』

「このワーカーホリックめ。とは言っても簡単な質問だ。デバイスの事らしい」

『ふむ?どうしたんだ。なのははレイジングハートを壊したりしたのか?それとも整備をしたいとかか?なら、フェレットもどきの方が適任なんだと思うのだが』

「ああ。そういう方面ではない。言っただろう。高町は国語が苦手だと」

『???』

「ユーノから聞いているのかもしれないが、高町のデバイスは意思を持っているのだろう?」

『ああ、そうだな。インテリジェントデバイス。その通りなんだがそれがどうしたっていうんだ』

「フェイトの事件で思った事なのかは知らないが、それで考えたことがあるらしい。つまりだ。デバイスと言うのは主のいう事を絶対かは知らないが、大抵は聞くんだろう?」

『その通りだな。主の命を危うくするとかそういうのではない限り大抵は聞くだろうな。それで?』

「知っての通り。高町は超馬鹿が付くくらいのお人好しだ」

『ふむ』

「というわけで機械も人間みたいな扱いをしているわけだな」

『……良いとは言わないが別に悪い事でもないだろう?』

「それで思ったらしいんだ。例えば犯罪者のいう事を聞くデバイスらしきもの。そういったものには罪に問われるのかと」

『……』

「ただの戯言だろうな。だが先ほども言ったように気になったらしい。それはそうだろうな━━━この話はどこぞの金髪少女の話と部分的に一致するところがあるものな」

『……何が言いたいんだ?』

「別に。ただ何となくそんな事があったなぁって」

そう

これは意外と似ているようで似ていない符号。この場合デバイスはただ主の命令を聞くだけと言う意思はあっても感情がないのであって、一方どこぞの金髪少女の事件は感情で縋りつき、意思が追いついていなかった

「で、聞きたいんだが━━━お前らはそういうことがあったら有無を言わさずに極刑なのか?それとも考える余地を与えるのか?」

試すような物言いだろう。現に試しているわけなのだが。

さぁてこれにどう答え━━━

『簡単だ。僕はその時はただ自分が納得するように動くだけだ』

『同感ね』

結構即答だった

へぇ

「試しに聞くがその納得いくように動くというのは具体的にはどうするんだ?」

『場合と相手によるがな。そういう時は僕は出来るだけ加害者であり被害者である人間を擁護しながら、それでいて罪を償わせると思う。今みたいに』

『……』

女狐艦長は黙っている。ここは黒いのに任せたという事か

「……甘いなぁ」

『甘いだろうな。だが━━━自分で納得できないのならば正しくてもそれをするのは僕は出来ない。ただそれだけだ。ふん、確かに甘いだろうな。しかし、この事だけならば君もそうだろう』

「俺は甘さじゃなくてただの我儘さ」

『どうだか。話はそれだけか?』

「ん?ああ━━━テストはここまでさ」

『『は??』』

驚いた顔をするお二人さん。そりゃそうだ。とは言ってもそれを面白がるのが俺の性分。勿論、顔には出さないのが俺の本分。流石は俺。いい仕事する(笑)

まぁ、どーーんと驚いてもらおう。今までは隠れてもらっていた三人に出てきてもらう

「紹介しよう━━━闇の書の守護騎士の将。シグナムとおまけ二名だ」

「「誰がおまけだ」」

「よろしく頼む」

『『はぁ、これはどうも丁寧に……ってどういう事だーーーーーーーーーーー!!!』』

五月蠅い奴らだ





















『……まったく。どうしたらそういう状況になれるのか』

『同感ね……貴方の周りがおかしいのか。それとも貴方がいるからこそおかしくなるのか。あるいは両方かしらね』

二人は今の現状を俺が丁寧に説明してやったら、嘆息して俺に苦言を言ってきやがった。冗談じゃない。魔法とやらは俺だってそこまで関わりたくなかったわ。

「というわけだ。こいつらは自首を願っている。まさかさっきのようなセリフを吐いたのに前言撤回をするとか言わないよな?」

『……成程。言質を取ったというわけか。相変わらず嫌らしい……。また一つ君を理解したよ。君は暴論なんか遣わなくても厄介な存在だと、それにしても━━━皮肉な巡り合わせだ』

そう言って黒いのと女狐艦長はシグナムの方に視線を向けた

思わず目を細めてしまう。その瞳には隠しているようだが何やら変な感情が込められているのが解る。

憎悪、悲観、不安、怒り。そういったものではなく、そういったものをごちゃごちゃに混ぜたような何だかわからない感情が込められていた。

追及するべきか、迷うがそれらは次に見えた時は消えていた。次に見た時は相変わらずな頑固そうな視線だった

『それで僕たちに彼女たちの弁護を頼むというわけか』

「そういうこと」

追及すべきか悩むがここは追及しない方が吉なのだろう。


皮肉な巡り合わせか……。そういえば━━━この二人は仲良し親子のようだが不思議と父親の事を聞かなかったな


それに気づいて思わず溜息をつく。謝ることはしない。ここで謝ったらそれこそ無礼というものだ。人を止め、畜生の道に堕ちた身だが最少最低限守らなければいけないものは守らなければならな。それが生物としての基本にして最重要なルールだろう

だから俺は追及しなかった。勝手に話を進めさせてもらった

『━━━わかった。管理局員としてそれに応える。他の守護騎士にもそう言っておいてくれ』

『そうね。出来るだけ早くに対処させてもらうわ。』

「頼む……といいたいところだか他にも頼む内容がある」

『何だ?言っとくが無罪放免とかそういうものは無理━━━」

「まずは質問だ。例えばの話。魔法とかの監視を民間人にした場合、お前たちの法ではどういう罪になる」

『??いきなりだな。とりあえずは大体は君の方と同じだろうな。ただし、それが管理局外世界の場合は重罪で大体二十年くらいの刑と罰金になるだろうな。それがどうした?』

「もう一つ━━━そっちには認識阻害の結界があるらしいが」

『回りくどい。何が言いたい』

「それで民間人の子供の認識を阻害した場合どうなる?」

『……おい。それはどういう事だ』

「言葉通りだ。どうやら闇の書に深い恨みでも持っているへのへのもへじさんがそういった結界を張っていたらしい。内容は中にあるものの事に関して違和感やらそういうものを失くす結界だとか。便利だな、魔法」

皮肉たっぷりに言う。別にこいつらの責任ではないが。

おかしいとは思っていたのだ。何故八神が一人暮らししていても何も問題扱いされないのか。普通ならそういった施設に運び込まれるか、親戚の家に預けられるかのどちらかだろう。例え意思とかがあったとしても所詮、子供だ。そんなものが普通許されるはずがない。なのに八神は誰にもそう言った事を言われたことがないらしい

違和感を消し過ぎた故に発生した違和感。そう思い魔法使いに調べてもらったら案の定痕跡あり。魔法が聞いて呆れる。こんなものはただの道具だ。

「つまり、闇の書は狙われているというわけだ。まぁ、やってきたことを考えれば当たり前の話なのだが、無関係の人間も巻き込むとは。節操がないね。」

『……事態は深刻のようね。誰だか心当たりはある?』

「ある」

それに驚いた顔を返す女狐艦長。当てにはしていなかった質問なのだろう。まぁ、それは当然だけど

しかし、相手はどうやら最後の最後でではなく、最初の最初でポカをした。

復讐をしようと決意したのはいいが━━━良心を捨てきれなかったようだ。故に証拠を残してしまった

そいつは八神の後見人で援助を申し出たらしく、八神の親の仕事仲間とかそういう存在らしく、一度も出会ったことがない人間らしい。何とも胡散臭いプロフィールだ。八神みたいなお人好しには効果が良かったが

別にその存在は良い。胡散臭いのも我慢は出来るかもしれない


普通なら

あの認識阻害の結界の対象の八神を相手にそんな事が出来るわけがない


出来るとしたら高町みたいに偶然魔法の才能を持っている人間か

術者だ

「そいつの名前はギル・グレアムとかいう人間らしい」

『『……!!何だと!(何ですって)!!!』』

「あん?何でお前らが驚くんだよ」

『そんな……いや、待てよ……グレアム提督は……確か……!』

「おい。そっちで自己完結をするな。一応偽名という可能性もあるんだぞ」

何やら知り合いみたいな雰囲気

どうやらこの話はただでは終わらないようだ





















「成程ねぇ。それは確かに皮肉な巡り合わせだな」

『まったくだ。自分でも運がいい方とは思ってはいなかったがここまでとは思っていなかったよ』

結局はこいつら家族とそのグレアム提督とかいう話を聞かされた。せっかく俺が珍しく気を使ったのにその気遣いがパーだ、ある意味これはこれで皮肉だ

「……すまない!ハラオウン執務官!ハラオウン提督!貴女方の父親を……!謝ってどうにかなるとは思えないが……それでもすまない!!」

『……顔を上げてください、シグナムさん。典型的な言葉ですけど、憎んではいないとは言いませんけど恨んではいませんって言えたらかっこいいんでしょうけど、それでも貴方達に復讐をしようとは思ってはいません。』

『そうです。僕たちは管理局員です。それを誇りとして生きてきました。恨みや憎しみはあれどそれで誤ったことをする気はない。頼みは聞き届けよう。そして━━━君達の警護もした方が良いな』

「……かたじけない」

どうやら円満に解決したようだ。これならば俺はいらなかったのではないだろうか?というか別に何もしてないわけだし。暴論はおろかそこまで正論も使ったといえば使ったが大層なものではない。単に相手の心情を知ったり、グレアムとかいう奴の犯罪を明らかにしただけなのだから

まぁ、後は……

「ああ、そうだ。もう一つだ」

『……まだあるのか』

「なぁに。今度は簡単な事だというか関連付けられることだ。闇の書を調べる事だ」

『確かに必要な事だが……改めて頼むのはどうしてだ?』

「勘なんだがな。どうにも闇の書っていうのは何か余りにも凶悪すぎる。今回は例外なのか知らないけど主にも被害を合わせているぞ」

『……詳しく教えろ』

「悪いが無理だな。秘密ですってな」

『……』

おや?何だか目が据わっていますよ?

『……艦長。こいつと一対一で話をしていいですか?』

「はい?」

いきなり何を言うんでしょうか?

そう思っている間に皆が退出してしまっていた。裏切ったなあいつら。後でにんにくを大量に食わせて月村家に嫌わせるように仕向けよう

そうして俺と黒いので一対一になってしまった

『さて。これで話しやすくなったのだが』

「これなのか?」

『違うわ!!』

冗談なのに

『はぁ。君と喋っていると何時もこうだ』

「じゃあ止めようではないか、速攻で」

『そうもいかないんだ━━━ここで言っておく。今、ここにいるのはクロノ・ハラオウン執務官ではなく、ただの一個人としてのクロノ・ハラオウンだ』

「ふぅん?それで?だからどうしたというんだ」

『話せないのか?詳しい事を』

「話す義理も義務もないと思うけど。逆にあれだけの事をそっちの艦長にされて信頼しろと言うのか?それはまた厚顔な事だ」

『……確かに。それについては弁解はない。だが言い訳を言わせてもらうとあれから母さんは結構落ち込んだんだ。無意識的にもただの一般人を使いまわそうとすらだなんてってね。許してくれとは言えないが解ってはくれないか?』

「俺に言ってどうするんだ?俺は今も前もあくまで部外者だ。当事者はお前らや高町やフェイト。そして闇の書達だ。おまけで高町家+αかな。俺は完璧に場外の人間だよ」

『ならば何故主の存在を隠す』

「……」

『解っているだろう?今も隠ぺいには気を配っているとはいえ人の口には戸を立てられない。下手をしたらさっきまでの会話は筒抜けかもしれない。……敵がいるならば尚更だ。この場合主と思われてしまうのは君だぞ』

「俺は一度も自分が主でないとは言ってない」

『主であるとも言ってないな━━━もしも相手が強行に出たら狙われるのは君だぞ?』

「なに?心配でもしているのか?」

『ああ、その通りだ』

少しびっくり。まさかこの頑固一徹がそんな事を俺相手に行ってくるとは。これが高町やフェイトならば話は違うだろうけど。何か悪い物でも食ったのではないのだろうか

『勘違いするな。さっきも言ったように僕はそういうのは私情だけで判断しない。例え君が気に喰わなくても心配はする』

「それは大きなお世話な事で」

『……正直に言おう。君は確かに気に入らない。だが、それと同時に尊敬している部分もあるんだ』

「それはお前の見込み違いだな」

『あのプレシア・テスタロッサに口論で彼女をある意味圧倒したとき、僕は不覚にも君に負けたと思ってしまった』

「どっちにも勝った覚えはない。アレはあの魔女が焦ったいただけだ。俺の暴論なんて冷静になれば誰にだって論破できる。何せ暴論だからな。筋がまったく通っていない」

『しかし、冷静になる時間も与えず、君は暴論を叩きつけることが出来た。それに君は彼女にまったく怯まなかった』

「偶々だ。怯まなかったのは単に心が状況に追いついていなかったんだろ」

『僕はあの時プレシアに呑まれていた。あの雰囲気に。あの狂気に━━━あの娘を想う気持ちに。問題は大量にあったが彼女の感情は決して間違いであるとは言えなかった。だから僕はプレシアに呑まれていた。でも、君はそんな中もいつも通りだった。正直嫉妬したよ。自分もこれでも幾つかの修羅場を超えてきたと思っていたのに君はそんな僕でも呑まれていた狂気をものともしなかった』

「……」

それは違う。呑まれなかったのではない。ただ感じなかっただけだ。あの程度の狂気で呑まれるような性格をしていたならば俺はこの場に立っていないだろうし、こんな風に動いてもいなかっただろう

何て勘違い

俺は狂気に勝ったのではなく

狂気に染まっていただけの話

別にどうでも良い事だけど

『君は最低かもしれないが見習うべき点がある事は認めている。だから自殺みたいな蛮行を許すことは出来ない。死ぬとしてもせめて僕にその見習うべき点を全て盗られてたからにしてくれ』

「……はっ。お生憎様。お前に盗らせる気もないし、あるとも思わない。ま、そこまで言うなら俺の賭けに付き合わないか?」

『賭け?』

「そうだ。現状そのギル・グレアムというのが一番怪しいのは確かだが、完全な証拠であるとも言えない」

『……そうだな。それこそ本当に慈善事業という事も有り得ると言ったら有り得るし、何より同姓同名という事も有り得る』

「その通りだ。だからこその隠蔽だ。それで相手を誘き寄せる━━━完全な隠蔽の確信はないと言っていたな。じゃあ、話は一端ここまでだ。次に会う時を楽しみにしてみないか?」

『……どうやらかなりの悪巧みみたいだな。良いだろう、解った。無策と言うわけでもないのならば信頼は難しくても信用はしよう。ただし足を引っ張るなよ』

「誰がだ。で、何時になる?そっちの裁判や闇の書の情報収集。そしてここに来る日数。早くて何か月だ」

『そうだな……四、いや、三か月待ってくれ。それまでに何とかしよう。特に情報収集に関しては任せてくれ。』

「了解した。こっちは引き続き警戒をしとこう。しかしだ。それが最低と言うのは解っているが、悠長には出来ないぞ」

『解っているが、下手には動けないんだ。ただでさえ不穏な動きを取るんだ。あからさま過ぎたらそれこそ勘繰られる』

「せめてそっちの人員を秘密裏に割けれたらなぁ。しかし、フェイトと赤犬は裁判中。ユーノは発言。お前たちはそういう事。動ける人間はいないか……最低こっちの戦力は五人か。魔法戦じゃなかったらまだいけるんだがな」

『お互い無い物ねだりはいい加減止めておこう。話が終わらない。何を考えているかは知らないが、しくじるなよ』

「まぁな。とりあえずこの話は高町とかにはするなよ。そっちで会話するときも気をつけとけ」

『ああ━━━死ぬなよ』

そう言ってアイツは通信を切った

何ともまぁ無茶な言葉を残して切ったものだ。俺なんかを心配するとは。まったく、俺の周りにはこういう馬鹿しかいないのだろうか。もう少し人を疑ったり、嫌ったりするべきだと思う

だがまぁ、作戦はこれで始まった


出来ればこの会談が誰かに伝わっている事を切に願おう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

三か月後を待つしかない

さて、大体の事を隠しながら他のメンバーに報告するかね

そう思って立ち上がり、部屋から出て行く























あとがき

ちょっと遅くなりました。今回はそこまで主人公は舌戦をしませんでした
まさかの期待裏切り
期待していた人は申し訳ない
次は一気に三か月飛ぶ予定です



[27393] 第三十二話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:28

かくして三か月が経過した

え?手抜きだって?そんなの全部言っていたら面倒臭いじゃないか?人の事情というのを理解するのも人間として必要なものだぞ、ワトソン君

でもまぁ、部分的になら教えよう。とは言ってもそこまで語るような出来事は別に時になかった。単純に今までの日常にヴォルケンリッターの四人が混じったくらいだ。だから別に変な事は起きていない。例えで言うと


「ちくわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


と吠えたくらいだ

何?もっと状況説明?後はこんなものだぞ

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ザフィーーーーーーラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「貴方を信じていたのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

何とも面白くない叫び声だと思うだろう。もう少しギャグの心と言うのを理解しないとな。後まだまだ心を冷たくするのにも慣れてないのが珠に傷。精進が足りない

とりあえずだが状況は少しずつだが進行している。それは八神にとっていは良い事だろうけど俺にとっては別段良い事でも悪い事でもないのだ。今更だが。俺も何故こんなことを手伝っているのかと時々自問自答するが今更後の祭り

何とかして黒いのはこっちに来れる算段をつけて今日来るらしい。自分で言っておいて何だがよくもまぁ、来れたものだ。他のメンバーにはそれは伝えてある。ただ内容は防護の為とか情報公開の為とかではなくヴォルケンリッターの罪の清算の具体的な方法を説明するとか自分たちへの信用を少しでも増やす為とかだが

詭弁って素晴らしいよね。人を暴論遣いとかいうからこういう仕打ちをされるのは解っていた事だよね?人を勝手に信頼するからこういうしっぺ返しを受けるのだよ。悪い子のみんなは真似しろよ

別にどうでも良い事だけど

ま、あの黒いのが意外と応用力があるのが幸いだったな

少し前の会話を思い出す

「頼んだ俺が言うのも何だが本当に来れるのか。幾ら事件があった場所とはいえいきなりその管理外世界に指定されている地球なんて来たら絶対に怪しまれるぞ。しかも裁判中に」

『普通ならそうだが素晴らしい偶然のお蔭で何とかなったよ』

「素晴らしい偶然?」

『なのはだよ。なのはのお蔭さ』

「なに?政治力とかでいうならゼロどころかマイナスの域に達している高町が何故?」

『酷い台詞だな。君はいずれ知り合いに刺されると予言しとこう。まぁ、この前の事件。こっちではP・T事件と呼んでいるんだが』

「周りの人間には注意しとくよ。P・T?ああ、プレシア・テスタロッサの略か。捻りがない事で。それで?」

『あの事件で君は要望通りにいなかったことにされているがなのはは別だ。正式に協力を申し込んだのだからね』

「その前に高町を誘導しようとしていたがね」

『その件については何度も悪かったと言っているだろう。まぁ、確かに簡単に許されることではないが。話を戻すぞ。それでだ。彼女はこっちではかなりの有名人となっている』

「中々面白い冗句だね。高町が馬鹿な意味ではなくちゃんとした意味で有名人になるなんて世界が七回ぐらいひっくり返らないといけないな。それで?何でだ」

『簡単な話だ。彼女がやったことはかなり凄い事だ。しかもただでさえそのこの事件が物語的だ。さしずめなのはは主人公と言ったところか。ある日唐突に魔法に目覚めそれも奇跡的な魔力を持ち、しかもそれを扱う才能もぴか一。更には完璧な善意で人を助けようとする心。英雄と言っても差し支えはないよ』

「英雄ねぇ。英雄なんて大量虐殺者の代名詞なだけなんだと思うがね。ふぅん、しかも完璧な善意ねぇ……」

『何か変か?』

「んや、別に。好きに解釈しとけば」

『一々含みがある言い方をするな君は。確かに君は交渉とかには向いているな━━━人を苛立たせる天才だ』

「お褒めの言葉どうもありがとう。返礼として女狐艦長にお前が砂糖茶を飲みたいと言っていたと言ってやる」

『……まったく。君は本当に最低だ。続けるぞ。そういうわけで彼女は有名人だ。そして実は意外と君との交渉の事も伝わっているんだ。勿論、君じゃなく彼女とユーノがやったという事になっているが。ユーノが嫌がっていたぞ。僕は彼みたいに凄くないって』

「まぁ、高町だけにしとくよりは説得力はあるがな。ユーノには俺みたいな交渉術を覚えるなよと言っといてくれ。」

『伝えとこう。僕も君みたいな人間がもう一人できたら困る。その交渉の内容を一部とはいえ伝わってくれたのが幸いだ。まぁ、その分僕たちに対しての悪評が増えてしまったが。プラマイゼロだな。』

「━━━ははーん。お前もなかなか腹黒いじゃないか。成程。その交渉内容を利用しようってか」

『相変わらず憎々しいぐらいに頭の回転が速いな。その通りだ。まだ君達にそういえば報奨金を上げてなかったと思い出してな。約束事を放り出したら・・・・・・・・・・法の番人の名が落ちてしまうだろ?』

「くくっ、確かに」

というわけだった

アイツもなかなか暴論遣いの名を得るに相応しい奴だ。何時か将来。結構嫌われる奴になるだろうな。間違いない。何せ俺が言うのだから

というか俺はこんな恥ずかしい二つ名なんかいらない。誰か持って行ってくれ

そんなこんなで俺がもうやることなどないだろう。俺はあくまでも交渉しか出来ない役立たず。否、交渉と言っても筋が通っていない暴論で相手が苛立っている間に無理矢理締結させるだけ。相手が大物とかならばこんなものは全く通じないだろう。中途半端過ぎる特技だ

とりあえずここから先の領域は高町や黒いの達。後はヴォルケンリッターと八神の問題だろう。そこから先は知ったことではない。どっちにしろ何かがあったとしても、もう俺にできる事などないだろう

というわけで寝ますか。授業中だけど

「おい、風雷!!貴様!私の授業でまた寝るつもりか!!」

「あばよ~とっつぁん~。スピー」

「この○び太君レベルの睡眠スピードが!!」

ではでは

悪夢ユメの世界に行こうかな




















ふと

地獄アカイ夢を見た

しかしそれは現実かこのものではない。それは間違いない。何故なら一度たりとも自分はあの光景を忘れたことがないからだ

否、忘れようにも忘れられなかった。意思に関係なく忘却するかと思ったら悪夢として再び思い出される。故にこの光景がかつて経験した風景ではないことは確かである

つまり、今回は自分の記憶と意思おしつけで作られた正しくただの悪夢である

しかしこれはある意味本当の事であろう。何せこれはつまり自分が想っていることを悪夢の形で作られたという事なのだから


━━━タスケテ━━━


幼子の声と思われる声が響く


━━━ドウシテコンナメニ━━━


成人女性らしき声が響く


━━━シニタクナイ━━━


子供らしき声が聞こえる


━━━ワシガナニヲシタトイウノジャ━━━


老人の声らしき声が聞こえる


ありとあらゆる怨嗟や悲しみが聞こえる

これらは作り物

だって現実では声を聴くなどできなかった。だってあそこではもう死者しかいなかった。そういう意味では何もかもが平等であった。あそこでは才能とか地位とか性格とか性別とか年齢とか障害とかそういうのは全て平らにされた

違うとすれば死に方だけ。天井から落ちてきた瓦礫によって潰されたりとか、地獄の業火を連想させる炎で骨ごと焼かれたりとか、それぐらいだ。

どちらが楽な死に方だっただろうか?考えても仕方がない事だった

そんな中、異物は俺だけだった。死者が並ぶ中一人歩くだけの亡者。死ぬべき場所で愚かにも生きてしまった愚者。地獄の責め苦を受けて壊れて動き回るだけのグール

それは過去でも悪夢でも同じであった

だから死者の声を聞くことが出来るのも答えることが出来るのも俺だけだった。

これは呪いなのか。それともただ一つだけの救いなのか。それとも両方か

どちらにしろ俺はこの声に答える事しか出来ることがない。余りの悔しさに、余りの無能さに怒りが込み上げてきた。そんな事情は知らずに声は語りかけてきた。

━━━タスケテ━━━

ごめんなさい、無理です。俺にはどうすることも出来ません

━━━ドウシテコンナコトニ━━━

ごめんなさい、解りません。俺もどうしてこんなことになったのか知りたいです

━━━シニタクナイ━━━

ごめんなさい、不可能です。死んだものを生き返らせることは神様でも無理です。だからこんな無能なゴミ以下の俺にはそんな事できません

━━━ワシガナニヲシタトイウノジャ━━━

ごめんなさい、多分何もしていないのかもしれません。何かしたのかも知りません。でもそんなことは地獄にはどうでも良いみたいだったようです。何もかもが平等にされ、何もかもが不平等にされ、何もかもが死体にされた。その結果だけを要求されただけなのかもしれません

そして答え終わったと思ったら今度は周りにいる気配全員からの質問が来た

今度は間違いなく俺当てへの質問であった


━━━ジャアドウシテアナタハイキテイルノ━━━


それは致命的であり当然な質問

それに対しての質問も微妙にぼかした答えしか返すことが出来ない

ごめんなさい、違います。生きているわけではありません。ただ死んでいないだけです。ただ墓石の下から出てきただけの存在と一緒です。ただ間違っただけです。ただ壊れただけです。ただ奪われただけです。貴方達と同じでただ死に方が他の人と毛色が違っただけですでも、貴方達よりも幸福と思わなければいけないのでしょう

だって、貴方達は生きたがっていたでしょう。死にたいと思っていなかったでしょう。全員が全員そう思っていたとは言いませんが少なくともこんな悲劇に遭いたいと思ってはいなかったでしょう

でも、ごめんなさい

無理なんです

不可能なんです

叶えられないんです

貴方達を生き返らすことは出来ないんです。貴方達を治すことは出来ないんです。貴方達を取り戻すことは出来ないんです。奇蹟なんて起きないんです。奇跡なんて起こせなんです

だから俺にできることは貴方達の存在を記憶し、記録することだけなんです

貴方達には何の慰めにもならないでしょう。でも、それしか貴方達にすることが俺にはないのです。無能の俺にはそんなことしか出来ないんです。貴方達を想って生きる振りしか出来ないんです。貴方達を想って戦うことしか出来ないんです。貴方達を想って卑劣で卑怯なことしか出来ないんです

だから

だから━━━

そしたら

答えが返ってきた


■■■■■━━━


祝福のろいの言葉が




















ガタン!と椅子を転がせろ音を響かせて勢いよく立つ

「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!風雷!また貴様━━━」

先生の怒鳴り声も途中で止まった

その理由は容易に想像がつく。きっと今の俺の顔色は凄い色になっているだろう。表情は━━━無表情であると信じたい。いや、そうでなくてはならない。

だが今はそんな事はどうでもいい。周りの視線が嫌でも俺の方に集まるがそんな事を気にしていられない

速くこの体の中で渦巻くナニカを捨てたい

「━━━先生」

「……あ、ああ。何だ?」

自分の声さえ何だかおかしく聞こえる

やばい。これは平時と違って全く自分の体をコントロールできてない

速くコントロールを取り戻さないと。だから速く体の中のを吐き出さないと

「すいません。トイレに行っていいですか?」

「い、いいぞ。速くするが━━━」

許可を受けたところからはもう話を聞いていなかった。俺は直ぐにその場を離れた。離れる時に何時ものメンバーが心配そうな顔でこちらを見ていた。つまり、あいつらに心配されるような顔色をしていたという事か。全くもって情けない

ああ、でも今はそんな事はどうでもいい

ハヤクハキダサナキャ━━━

アア、デモアイツラガオッテクルカモシレナイ

ジャア、ワカリヅライトコロニイコウ

デモソレマデタエラレルカ━━━?

何処をどう走ったのか覚えていない。気づいたらそこはトイレで洗面所の前みたいだ。自分の息遣いから察するに遠い所のトイレまで走ってきたようだ。よくもまぁ、もったものだ。初めて自分を褒めたくなったがそんな暇はない

もう限界だ。洗面器に縋るようにしてそして

「うっ、げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ、げぼっ!!」

胃の中全部を吐き出した

胃の中が舌を通るときにモノスゴイ味を感じさせ、更に吐き気を込み上げさせまた吐く。それを何度も繰り返す。余りの気持ち悪さにマゾにでも目覚めてしまいそうだ。

よくマンガで痛みは生きている実感だとかいう台詞があるがそんなものはまやかしだ。こんなもので生の実感なんて得れるはずがない。ただの苦痛だ。得れるというならばそいつはただの悟りを開いた人間だろう

何度吐いたのかもわからない。気が付いたら壁にもたれかかって座っていた


本当に━━━情けない


これが俺の姿

みっともなく、不様で汚く卑怯で情けない姿

これが俺の本性

隠していたわけではない。ただ他の人間が勘違いしただけ。皆、勘違いしている。人をまるで無敵超人のスーパーマンみたいに思っている。完璧な誤解だ。俺はそんなに強くないし、凄くもないし、素晴らしくもない

まぁ、自意識過剰なのかもしれないが他のメンバー特に恭也さんやユーノ、フェイト、そして一番はすずかだ。このメンバーは勘違いし過ぎだ。特に後ろ二名。俺に好意を持つなんて勘違いでしかない。どいつもこいつも節穴揃いか

「━━━はっ。まったく反吐が出る」

口だけはいつもの調子は戻せたか。いつも通りの悪態が出てきてくれた。言葉通りだ。毎度毎度俺に期待ばっかりしやがって。こっちはお前らみたいな大層な人間ではないのだ。良く考えればわかる事だ。卑怯な事を使ってでしか生きられない自分と違って俺の周りは正々堂々と戦って生きれるのだ。互いの実力差は明白だ

あんな事を言っているが俺ではもう舌戦だけでしか高町に勝てないだろう。それも時間の問題だ。大人になれば俺の暴論なんて簡単に返せる。
所詮は付け焼刃だ。その付け焼刃も出来ることは時間稼ぎか相手の気を逸らすだけ

そこまで考えて思わず嘆息する。今更の事だ。自分に力がないのは承知の上だ。そもそも自分で『誓った』ではないか。力があるから戦うのではなく、自分で決めたから戦うと

とっとと自己嫌悪なんて止めよう。今日は黒いのとかが来る日っていうのに。速く体調を少しでも治そう。そして何時も通りに傲岸不遜で欠点などない様に振る舞わないと

さてと一声かけて立ち上がろうとすると

ドアが開く音がした

別に変な事ではない。ここはトイレなのだから誰かが来るのは当たり前の事だろう。授業中だがそれで尿意やらが止まるというわけではない。さてどうしようかな?このまま授業に戻るか、いっそこれにこじつてけて早退とかするかとか考えていたら

入ってきたのは女の先生だった

んん?

「……あれ?風雷……君?」

「やぁ、先生。先生もトイレですか?でもここは生徒用のトイレではありませんでしたっけ?」

「……ここ。職員用━━━」

「ありゃりゃ。それは失礼。悪い事はしました。でも、今回だけはわざとではないんです。」

「の女子トイレ」

「……」

ううむ……我ながら典型的なボケを。まさか自分がそこまで餓えていたとは思いたくない。というか嫌だ。

さて、この場をどう潜り抜けるか……

しかし侮るなかれ。俺はこれでも様々な修羅場を潜り抜けた人間だ。身体能力こそ御神の剣士やヴォルケンリッターには負けるが経験や咄嗟の行動ならば勝つとは言わないが負けるとも言えない。

それに今は身体能力ではなく言葉が使える時だ。


今こそ見よ。この暴論遣いと言われている実力を━━━!


「大丈夫です━━━俺、おばさんには興味がないんで!」

「第一種風林火山。風の陣!!」


その一言で周りが騒がしくなった。

興味がないと安心させようとしたのに何故こんな目に合うのだろうと窓から逃げながらそう思った






















そうして私達は私の家に帰りクロノ君が来るのを待っていた

「うわぁー。何か緊張すんな~」

「大丈夫よはやて。あの風雷が保証するとか言ったのよ。なら大丈夫でしょ」

「アリサちゃんも何だかんだ言って慧君の事を信頼しているよね」

「ふふふ、そうだね」

「誰があんなの信頼するか!」

アリサちゃんも素直じゃないなの

それにしても

「慧君、遅いなの」

「メールで送れるとか言っていたけど……そういえばアイツが私達にメールを送ったの初めてじゃない?」

「二年間付き合っていてようやくの初メール……私的世界遺産決定……!」

「すずかちゃんがまた壊れたな~。それにしても大丈夫かいな。教室では滅茶苦茶顔色悪かったけど……」

そうなのです

あの無表情人間世界ランキング一位と言っても過言ではないあの慧君が顔色を悪くしたのです。居眠りする前は何時も通りだったんですけど。というと問題があったのは眠った後。つまり夢の中で問題があったという事なのです

どんな悪夢を見たのかというのは想像するのは難しくありません

「はぁ。あんなのを見た後じゃあ確かに湿っぽくなるわね」

「あの後追いかけたけど何処にもいなかったし」

「私らがどうするかもお見通しやったという事やな」

「喜ぶべきか、悲しむべきか微妙なところだよね」

本当に微妙なところだ。それを良い事に使われているのならばともかくこうやって逃げることに使われていたら台無しなの

「本当━━━難しいね。救いたいと思えば逃げて、助けたいと思ったら助けられる。一緒にいようと思えば避けられる。笑いたいと思ったら無視される。することすることが全て否定される。ある意味慧君は破壊の権化だね」

すずかちゃんが静かに語った。すずかちゃんがそんな事を想っているのは確かに驚きだったけど一番驚きなのは最後の一言だった

破壊の権化

それは余りにも慧君に似合い過ぎではないだろうか

人の期待を破壊し、人の思惑を破壊し、人の願いを破壊する

達の悪い事にそれを自分が願った時だけ。つまり気紛れ。

そこまで考えて苦笑する

何を馬鹿げたことを考えているのだろう。慧君がそんな大した存在に見えるはずがない。大体それならば私達の事も破壊しているだろうに。少し疲れているのかもしれない。

とはいえ今はクロノ君達を待つだけ━━━

「あ……来たよ」

くんと何だか解らない感覚で魔力を捕える

それと同時に魔方陣が目の前に現れる

他の人は私やヴォルケンリッターの人達以外の魔法を見て驚いたり、緊張したりする

「……あれ?」

しかし、私はそうではなく緊張感のない声を上げてしまった。目の前にある魔方陣。それはいい。何らかの魔法を使う時魔方陣が自然と浮かび上がるのが魔法だ。だからそれには問題はない。問題があるのは色の方・・・

今回来るのはクロノ君だと聞いている。つまりだ。それならば魔方陣の色は青色でなければいけないはずだ。記憶がおかしいのか。そんなことはない。忘れるほどの時間も経っていないし、時の庭園の時にこの頭に刻み込んだはずだ


なのに目の前の魔方陣の色は━━━金色・・


見覚えがないわけではない

有りまくりなのだ

その色を覚えている

その色は前の事件。私が魔法とかかわる事件で巡り合った少女で、何度も衝突して、何度も助けあって、そして最後に名前を呼び合う友達となった少女

その名を思い浮かべた瞬間、陣から人が現れた

現れた人間は三人

一人は勝気なお姉さんタイプで正体は金髪の魔法少女の使い魔

一人は理知的な顔をした少年で女の子も顔負けな女顔をしている

そして最後の一人は金髪を二つに束ねていて、羨ましいと思えるくらい可愛らしい顔と特徴的な赤い瞳をした少女

「フェイトちゃん!?」

「久しぶり、なのは」

そして再開は果たされた



















あとがき
少し主人公の回想シーンで長くなりましたね
次くらいシリアスで行きたいですね
遅れてしまいましたがヘタレイヴンさん
応援ありがとうございます
こんな作品を応援していただいてありがとうございます
出来る限り改善はしていると思ますが、至らぬ点は無限ぐらいありそうなのでまた何か変なところがあれば馬鹿な作者にもわかるような指摘をお願いします



[27393] 第三十三話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:28

「本当にびっくりしたよ、フェイトちゃん!」

「うん。私も来れるなんてびっくりだったよ」

「あっはっはっは。あたしゃあフェイトが喜んでくれて幸せだよ」

「うん。僕は僕でびっくりだけどね」

「そうやな~。まさかこんな形で初めましてになるなんて思わんかったな~」

「そうね。てっきりもっと後になると思ってたわね」

「そう。裁判をやっていたんじゃないの、フェイトちゃん?」

あの後

皆でいきなり来たフェイトちゃんに驚き、そして皆でワイワイ騒ぎになったんや。名前はフルネームで確か……フェイト・テスタロッサちゃん。何をやったのかは詳しくは知らないけど何かやって今は裁判中らしい

最もそんな非道なことをやったわけやないらしいからそんな酷い刑になるというわけやないらしい。更にはそこにいるユーノ君やクロノ君とかいう人も協力をしているから大丈夫らしい

それを聞いて内心ほっとする

慧君に何とか頼み、何とかしてもらった身で言うのも何やけど、言い方悪く言えば実例と言うのを見れば少し安心する。この調子であればヴォルケンリッターのみんなの方も何とかなるやろうと楽観できるってもんや

とりあえず、すずかちゃんが今、こんな驚きの状況にあるフェイトちゃんの出現。その理由を聞こうとしている

「うん、ええとすずかでいいんだよね……?」

「うん。私はフェイトちゃんって呼ぶね」

「私はフェイトで」

「私もフェイトちゃんで」

「うん。すずかにアリサにはやて。うん、覚えた」

そこで本当に嬉しそうにフェイトちゃんが笑った

うわっ。物凄い反則臭い笑顔やな~。並みの男やったら一発やで。というか大人ならともかく同年齢なら……ああ、例外がいたな~。それこそ我らが暴論遣い。風雷慧君こそ正しくその例がやな~

何せ美少女と名高いすずかちゃんのおねだりを今までずっと無視したり耐えたりしているからな~。正直、私がされたら光速で陥落するのにな~。ある意味慧君はそういう意味でもバケモノかもしれない

「えっとね。何で私が来れたかと言うとクロノがね」

『幸い君達は僕たちが保護観察をしているという立場なんだ。だから僕たちから離れるわけにはいかないだろう?勿論、少しは無理したけどこれであの無表情暴論最低最悪性悪少年の顔を少しでも歪めることが出来ると思えば安いものだ』

「って言ってたの」

「「「「……」」」」

全員思わず溜息と苦笑を同時にしてしまう

何というかまぁ

「その言い方。風雷にそっくりね」

「そうだね。そのやり方も慧君そっくり」

「にゃはは。クロノ君は慧君とは喧嘩ばっかりしているけど、実は気が合ってたりして」

「喧嘩するほど仲が良いってやつの見本やな」

「うん。私もそれを言ったらクロノが何だか嫌そうに止めてくれとか言ってたよ」

「そうだね。あの真っ黒執務官は素直じゃないからね。ところで。その肝心の慧はどうしたの?」

最後のユーノ君の純粋な疑問

思わず視線を逸らす私達

素直に答えていいのか駄目なのか微妙な所やな~

ああ、三人が疑問顔で首を傾げて……可愛いやんか!

視線会議で素直に答えることにした

「どうやら、慧は今、先生に追われているらしいわ」

「何故に!?」

「風林火山、風の陣が出たから間違いないなの」

「風林火山!?」

「逃げるスピード風の如しっていうことからこの作戦名よ」

「作戦!?」

「ちなみにアリサちゃんの時は風林火山、火の陣で由来は暴虐すること地獄の業火の如しだったよね」

「暴虐!?地獄の業火!?」

「それを言うならすずかは動かざること(愛が)山の如しで風林火山、山の陣じゃない」

「何故に!?じゃ、じゃあ、なのはやはやてにも……?」

「ええ━━━二人は突っ立っている事林の如しって呼ばれているから一度もそういった警報は鳴らされていないわ」

「……なんでやろうなぁ。鳴らされない方が良いとはわかっているんやけどかなり負けて気がするのは……」

「……何でだろうね?」

気にしてはいけないとはわかってもつい思ってしまうのは人間の性やろうか?何と言うか損をした気分と言うか、得をした気分と言うか。どっちつかずでもどかしい気分やな。でも、私がお笑いでキャラを出せていないというのは頂けない。その内返り咲かなくてはいけないと決心する

。この場の関西人代表として

「た、大変!助けなきゃ!」

「ちょい待ちぃぃぃぃぃ!!」

何という純粋リアクション……!慧君から聞いたことは正しかった。見ればアリサちゃんやすずかちゃんも驚きに目を限界まで開けている。というか瞳孔が……

これが噂の天然……その能力は私達みたいにギャグを戦闘力に変えている人間に対してはまさしく天敵。特にアリサちゃんとすずかちゃんに対しては最強と言っても過言ではない能力であろう

聞いた話によれば一度は慧君の暴論でさえ引かせたらしい

何という恐ろしい才能……!我らが束になっても倒せなかった慧君の暴論を打倒するとは……ただ者ではない!!

「え、えと。じゃあ、ケイは遅れるの?」

「う、うん。そうなの」

「……そっか」

「……残念」

遅れるという言葉を聞いてフェイトちゃんとユーノ君が少し落ち込む

???フェイトちゃんが落ち込むのは解るけどユーノ君は何でやろう?はっ!まさか……これなのかな?

そう思っているとなのはちゃんが少し小声で教えてくれた

「ユーノ君その……慧君を何だか尊敬しているみたいで」

「なん……やて……」

「ユーノ。悪い事は言わないわ。アレを尊敬するのは止めておきなさい。きっと人生を狂わされるでしょうし、何よりアレには見習う点はないわ。習って覚えるとしたら暴論のえげつなさと容赦のなさと最低さだけよ」

「ぼろ糞に言っているね」

「そんな事はないと思うよ。暴論って言うけどその暴論で相手の注目をこっちに注目させたりして、囮になってくれたり。アドバイスをしてくれたりして、意外と優しいと思うよ」

「う、うん。そうだよ、アリサ。ケイは良い人でその━━━格好いい人だよ」

「……」

ガギャと物が壊れる音がした

そ~っと音のした方に振り向くとそこには拳大の堅そうな石を握りつぶしているすずかちゃんがいた。その光景を見て思わず背筋が寒くなってしまうのは恥ずかしい事やろうか?いや、そうではない


目の前にいるのは人の姿をした鬼神や……


「そうだった……フェイトちゃんとは決着をつけなくちゃいけないことがあったね」

「え、え?な、何をかな?」

「━━━慧君の事が好きなの!?」

「「「ド直球!!?」」」

余りのド直球さに思わず唾を吐いてしまう。しかし私達の汚れたリアクションと違って当の本人は一瞬どういう意味で言われたのかわからず首を傾げ、そして数秒してようやく気付き顔を可愛らしく赤らめる

な、何ていう可愛らしい反応……ああ、すずかちゃんが敗北の感触に血反吐を吐き散らしている……ああ、アリサちゃんが余りの哀れさに肩を叩いて慰めている。正直私も余りの綺麗さに正視出来ない

そして止めの一言

フェイトちゃんは指をもじもじし、はにかみながら


「━━━うん。多分、その、初恋」


等とのたまった

「……ふっ、フェイトちゃん最高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ(ぶしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ)!!!」

「はやてちゃんが鼻血を出しながら最高の笑顔で感激している!!?」

「くっ、クソ!!風雷なんかには勿体無さ過ぎるわ!!私が男ならば私が貰っているわ!!というか今、奪っていい!!?」

「ああ!ああ!ああ!さっすが私のご主人様!!存在そのものがキュートだよ!!」

「……収拾がつかないな~」

狂喜乱舞

一体、この子は慧君のどこを好きになったのやら?慧君の良い所ねぇ……………………口が上手い事?でも、それは悪い方に。駄目やんか

それはそれとしてすずかちゃんが女としての格(純粋さ)の違いを見せつけられ、かなりの大ダメージを受けている御様子やった。無理もない。もしも、私がすずかちゃんと同じ立場やったら、同じリアクションを取っていたやろう

「あ、すずかもケイの事が好きなんだよね?」

「え、あ、う……」

「よかった!一緒に頑張ろう!こういうのをライバルって言うんだよね?」

「ああ、あうぅぅ。こ、心の闇が光に照らされていくぅ~」

「すずかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

惨劇や

余りにも残酷な惨劇や。こんなものを見せられたら、泣いてしまうで。ああ、なのはちゃんが既に泣いている。そんなん先に泣かれたら私が泣けへんようにになるやんか。上手い事ハンカチを用意しているし

「……話の腰を折って申し訳ないがテスタロッサでいいか?」

「あ、はい」

そうやって和やかに話をしていたらシグナムが話に割り込んできた

「私達としたら主達と楽しんでくれるのは良いのだが━━━今回の問題の話はどうなっている?それともテスタロッサ。お前が話をしてくれるのか?」

そういえばそうや。私達は今回は遊ぶために集まったわけではなく、シグナム達、ヴォルケンリッターの裁判の話をしに来たのであった。本来ならば、高町家とヴォルケンリッターだけの会談に慧君はしたがっていたようだが、なんだかんだで月村家とアリサちゃんも来てしまった。ほんま、友人思いの友達を持って私は幸せもんやなぁ

それによって慧君の意思は無視されたけど

全員を助けるのは難しいもんやなぁ……

とと、今はそんな事を考えている場合やなかった。今はシグナム達の話やった

「そうやで。確か……クロノ君っていう人が話をつけに来てくれるんちゃうん?私は慧君にそう聞いたんやったんけど、もしかしたら、土壇場で話が変わった?」

「ううん、そうじゃないの。ただ━━━」

「ただ?」

「何だか少し頭を冷やしたいから先に行ってくれって」

???どういう事なんやろうか

疑問に集中していたせいか、私は気づかなかった。それを聞いたヴォルケンリッターの皆が悲しい顔になっていた事を






















「……ふぅ」

フェイト達を先に行かせて十分ぐらい経ったか

僕と母さんはまだアースラに残っている。本当ならば既に高町家にお邪魔して、会談の話をさぁ始めようという事になっているかもしれない時間帯だ。建前では丁度あっちにはあの暴論遣いがいないという事で何とかなるかもしれないが、それも時間の問題いだろう

「……あの暴論遣い。時間を指定しておきながら遅れるなんて……」

悪態にも力が入っていないことが何となく解る。そしてその原因も解っている

闇の書。そしてヴォルケンリッター

僕の━━━父さんが死んだ原因

解っているんだ。頭では彼女達だけのせいではないという事を。既にそれも納得して話をした、画面越しだが話し合いもした。そして彼女たちはその罪を償いたいと思っている。良い事だらけだ

しかし感情だけは別の問題だ。感情はこう訴えている


彼女達は父さんの敵だ。だから━━━


そこまで考えて頭を振る。違わないけど違う。彼女達は確かにたくさんの罪を重ねたが、さっきも言った通り彼女達だけのせいではない。歴代の闇の書の主。そして管理局にも問題があったはずだ

歴代の闇の書の何人かが犯罪をしようとした。これはその主のせいだ。しかしだ。多分だが闇の書とだけで彼らを狙った人間もいるだろう。彼らが間違いとは言えない。危ない物を何とかしたいとか思うのは誰でも思う事だ。その危機感は誰にでもある

それ故にそれが暴走をして何の罪もその時はない闇の書を攻撃したことがあるのは一度や二度ではないはずだ。ただでさえ悪名高いのだから。

その結果が過剰攻撃というのもあったはずだ

そこで思った


どっちが最初の引き金を引いたのだろうと


考えても詮無きことだった

「クロノ」

そう思い悩んでいたら声が聞こえた

一生忘れはしないであろう、母の声だ

「母さ……艦長」

「今は母でいいわ。貴方もそうでしょうけど私もそういう気分ですし」

そう言って笑い、傍に来てくれた

本当は一番葛藤しているのは母さんなのに。幾ら父さんが死んだとしてもその当時は僕はまだまだ子供で現に自分にはあんまり父さんの記憶がない。ほとんどが朧気だし、知っている事は他人の評価や他人の思い出話とかだ

しかし、母さんは違う。どういう出会い方をしたのかは知らないが、母さんは父さんと出会い、話し合い、一緒に仕事をし、食事をし、恋をしたはずだ。それらは今も母さんの中で生きているはずだ、でなければ今頃新しい人と新しい人生をやり直しても不思議ではない

現にそういう話を貰ったという事を聞いたことがある。それの結果は母さんの苦笑だった。それだけで十分だった

そういう意味では闇の書は僕たち家族を完璧に壊した原因の一つだろう。父さんは死に、母さんは泣き、僕は彷徨った

ふと思った。もしも、父さんが死ななかったらのIFの話を。そうなっていたらどうなっていただろう?僕は管理局に入らずにただの子供だっ

たかもしれない。それこそ今の歳ならなのはみたいに学校の友達と遊んでいるかもしれない

そして父さんは仕事をし、母さんはそうだな家の仕事に専念していたかもしれない。それで僕は家に帰って母さんに出迎えられ、父さんが帰ってくるのを待ち望んで、帰ってきたら一緒に遊んでくれと願う

誰もが望むような生活が待っていたかもしれない。誰もが目指す幸福を手に入れていたかもしれない

そう思って苦笑した

夢見がちな話だ。こんなことを考えても無駄というのはとっくの昔に理解していた。世界はこんなはずじゃなかったばっかりだ。そんな事は痛いほど理解している。

それにだ。それを望んだら今まで僕がしてきたことはどうなる?父さんの墓標でっていうのは少し美化しすぎかもしれない。だけど母さんが泣いている時に誓ったはずだ。


世界はこんなはずじゃなかったばっかりだ。ならば、そのこんなはずじゃなかったばっかりだを少しでも減らそう、と


その結果が現在

楽な道ではなかった。むしろ困難な道だった。何度挫折しかけたか。魔力量が低いとか言われた。まだ子供だとか言われた。それらを跳ね除けてでも前に進んだ。

そして得たものは━━━小さな笑顔だ

たったそれだけと周りは言うかもしれないが僕にはそれだけで十分だった。それだけで僕は誰かを守れたと勘違いかもしれないが思えた。それを幸福と言わず何というんだろう。だからそんなIFは僕には無駄な話だ。父さんが生きていたらそれはそれで幸福だろうけど━━━今の僕も違う形で幸福だ。

ならば迷う道理はない。何せ話を聞いてみると今回の闇の書の主もそんなこんなはずじゃなかったの被害者だ。僕が動く理由は充分にあるし、

何よりも因縁は断ち切らないといけない

ようやく迷いは吹っ切れた。そう思い、ふとあの無表情少年の事を思い出した。アイツならば僕がこんな風に迷っていることについて何ていうだろうか?

女々しい奴とか言うだろうか?多分だがそんな事は言わない気がする。通信をしていて解ったがアイツはそういう事は馬鹿にしない性格だ。むしろどちらかと言うとそういうのは重要視する人間だと思う

あれだけ他人なんかどうでもいい態度を取っているのに、その癖、相手のプライドとか尊厳とか大切なものとかは馬鹿にはしないのだ

どっちつかずの蝙蝠みたいな奴だ

そう考えていると母さんが笑ってこっちを見ているのを知った

「何か僕の顔に付いてますか?」

「いーえ。ただ、慧君の事を考えていたでしょう?」

「……どうしてそう思ったんですか?」

「だって何だかやれやれ顔で苦笑しているんだもの」

「……」

やれやれ顔

確かにアイツの事を考えているとそうなるかもしれない。何せアイツはかなりの大嘘吐きundefined・・・・・・・・undefinedなのだから。呆れもする。ああいう人間にはなりたくないものだ

そう思い、出発しようと腰を上げる

今は過去との決着を


そう、思っていた



「……!艦長!クロノ君!!」

さっきまで黙っていたエイミィがいきなり叫んだ。その顔には何時もの能天気な顔とは違って声と同様の緊迫な雰囲気が張り付いている。エイミィがこんな顔をするのは━━━非常事態の時だ

「どうしたんだ!?何が起こった!!」

「簡潔に答えるよ!なのはちゃんの家から魔力反応!!」

「それはなのはちゃん達のとは違うの!?」

「違います!誰とも一致しません!!第三者の人物たちです!!」

第三者の人物

その言葉を聞いた瞬間、思わず舌打ちをしてしまった。

第三者?決まっている。こんな状況であそこに集まっているのは闇の書の主とその守護騎士達。どんな理由であそこにいるのかもおおよそだが簡単に見当が付く

やられた……!先制を取られた!!

自分たちが想定していた中で最悪な事態だ。そうならないためにこうして行動したのにこの様。迷いがこんな時に仇になるなんて。まさしく世界はこんなはずじゃなかったばっかりだ。

「くそ!あの暴論遣いは一体何をやっているんだ……!」

思わず八つ当たりをしてしまうがこれはどっちかと言うと僕たちが悪い。それにあの場にいてもあの暴論遣いが役に立てるのか。なんだかんだ

言ってもただの一般人の少年に























一瞬の出来事だった

何だか大量の魔方陣が出てきたと思ったら、シグナム達が一気に張りつめて動こうと思ったら大量の人が出てきて、私達に持っているデバイス?やったっけ?それを突き付けてきていた

本当に一瞬の出来事だった。何せあのヴォルケンリッターの皆でも止めることが出来なかったんやから

「……貴様ら……!何者だ……!」

ザフィーラが声を荒げて問い質しているようだった。あんな声は一度も聞いたことがなかった。でも、今は目の前に突き付けられているデバイスが怖くて何も言えない

ザフィーラの問いに私達に突き付けてきた人の一人のおじさんが答えた

「……何者?そうだな、強いて言うなら━━━ただの復讐者だ」

その答えに皆が息をのんだ。

復讐者

つまり、この場合、それを意味するのは闇の書の被害者という事。闇の書に蹂躙され、ヴォルケンリッターに暴虐されてしまった過去の犠牲者。それによって生み出されたモノ。それが復讐者

「待ってください!確かに闇の書もヴォルケンリッターの皆さんも悪い事をしてしまったけど……でも、今からその罪を償おうと決心したんです!!」

「そうよ!許せなんて言わないけど、ちゃんとした裁判を受けて判決をこいつらが受け入れるからそれを受け入れなさいよ!!」

なのはちゃんとアリサちゃんがそれに反対して騒いでくれる。余りの頼もしさに涙が流れるかと思った。見れば他に人達もおんなじ意見みたいや。本当に素晴らしい人と友達や家族になったんやなと改めて実感

しかしそんな言葉を聞いて帰ってきた反応はただの失笑やった

「罪を償う?裁判?判決?ああ、確かにそれで罪を償えると勘違いで思えるだろうな。しかしだ━━━それならば我々はどうなる?」

「っ!そ、それは……」

「そうだ。確かにそっちは償って気分になって満足かもしれないが私達はどうなる?そっちの都合で友人を失った私達は、家族を失った私達は、最愛の人を失った私達はどうなる?君達の謝罪を受け入れて許せばいいのか?━━━笑わせないでくれ」

余りにも冷たい反応。いや違う。これが当たり前の反応。他人の大切なものを奪ったり、壊してしまった時の反応。受け入れなけれ微けない事をどうしても受けいれいない時の反応

昔、私も体験したことがある反応

私の場合はそれは爆発して━━━どこぞの無表情少年にぶつけた

それを今、私がぶつけられている。ある意味皮肉と言うか、因果と言うのか。どっちにしろ今、私は知った。あの二年前のあの時、彼がどういう風な思いを受け取っていたのか。それをどう思ったのかはまた別だが

「で、でも!それはやっぱり━━━」

「悪い事?その通りだとも。そんな事は百も承知だ。だがな━━━理屈ではないんだ。その理屈を押しのけるほどの感情が我々にそうさせるんだ。許してはいけないと。」

そこに立っている誰もが冷たい表情でヴォルケンリッターの皆を見ていた。見られている彼らはそれらをただ受け止めるしかなかった。自分たちが彼らに何かを言うのはお門違いだと言わんばかりだった

「だが、復讐とはいえ罪は罪だ。だからこれが終わったら我らは自首をしよう━━━我らで闇の書の因縁を少しでも断ち切れるよう」

「待って下さい!そもそも闇の書には転生機能が付いているんです!!ここで例えヴォルケンリッターをどうにかしても……」

「第二、第三の闇の書が現れるか……知っているとも」

「だったら━━━」

「ああ、だから闇の書は主共々永久封印をすることにしようではないか」

そう言って彼らは私の方に振り向いた

……え?

永久封印?

「待ってくれ!!あたしたちはどうなってもいい!!でも、はやてだけは……!」

「そうです!!はやてちゃんは何も悪い事はしていません!!」

「……運が悪かったと思ってくれ」

ヴォルケンリッターの皆が焦った声で現れた人達に訴えている

それに対しての返答はさっきとは違い、少し迷いが込められているような返答。それはこの人達の良心の表れなのかもしれない。しかし、例えそれが良心なんだとしてもそれが行動に繋がらなくては意味がない

私にデバイスを向けている人が私にこう言った

「……君は確かに全くの部外者であり、ただの被害者だろう。だけど君は闇の書の主となってしまった。だから、私たちは君に復讐をする。恨むななどとは言わない。正義は我にありなんて思わない」

ああ、これが私の人生の終わりなんかと働かない頭でそう思う。何時もそうだ。何時も私が関わらないところで勝手に私の運命が決まってしまう。そんな物語を望んでいないのに。そんな終わりなんか望んでいないのに

涙が勝手に溢れてしまう。結局はそう。どこぞの無表情少年の言うとおり。

奇跡など━━━

「……敢えて言うならば━━━」

「復讐と言う正義で死んでくれか?つまんないセリフだね。正義なんてゴミ箱にもありそうなのに」


起きた・・・



この場にいなかったはずの声が辺りに響いた

その声に反応して皆が振り向かされた

そこには

こんな緊迫とした雰囲気の中でも相変わらずな無表情でしかもリンゴを片手に立っている

風雷慧君が立っていた

「何が目的だ……って言うのはどうでも良い事か。丁度いいや━━━まだ決め台詞は終わっていなかったしな・・・・・・・・・・・・・・・

相変わらずの無表情━━━ではない

些細な違い

それは普通見落とすような違い。しかし私達は付き合いの長さで理解してしまった

何時もは何もかもを濁らしているその瞳には


確かな嘲りがあった







悪魔的なタイミングでの奇跡は果たされた

そう思ったこの場にいて、この場にいない・・・・・・・・・・・・・・・ナニカ・・・は確かにこの光景を笑った。しかし、その形は嬉しさや幸福さを表すような笑みではなく



嘲笑であった


奇しくも無表情の少年の瞳に込められているような嘲りと全く同一の感情であった。何を思って嘲っているかは別だが















あとがき
ようやくここまで来ましたか……
こっからは本当に完璧なオリジナル展開です
これからどうなるか
出来ればお楽しみを
追記
色々この話を予測している人もいますけどぶっちゃけルート関連ではまだ決めていません!!
すずかか、フェイトか
将又は別の誰かかと思っているでしょうけど少し誰に行って欲しいと思っているのか知りたいですね
暇があればお知らせてください
ちなみに主人公が大嘘吐きというのは結構重要です



[27393] 第三十四話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:28

「……ふぅ」

ととりあえず溜息をついて今の状況を見る

今の状況は至って単純。ここにいるメンバーの俺以外は全員デバイスを突き付けられて動けなくなっている。それはヴォルケンリッターや御神の剣士も同じだ。高町やフェイトならば解るがあんたらが捕まってどうする、これでは護衛の意味がないではないではないか

世の中ままならないのは知っていたが、せめて実力を持っているんだ。その実力にかけられた期待ぐらい応えてほしいもんだ。とは言ってもそんな期待をたやすく裏切る俺が言うのも何だけど。というか言う資格がない

「……君は……?」

「ん?ああ、名無しの権兵衛。どこにでもいる少年だぜ。親しい人間はいないから名無しって呼ばれているね」

「……戯言を。風雷慧。リンディ・ハラオウン提督と交渉したり、PT事件の首謀者。プレシア・テスタロッサと言葉でだがやりあった少年と言うのは君だろう?」

「……へぇ」

こっちのプロフィールはお見通しか……

俺に関してはいないことになっていたはずだがな。それによく見たら人員は丁度ここにいるメンバーを動けなくすることが出来るぐらいの人数だ。偶然にしては出来過ぎだな。ヴォルケンリッターや高町達はともかく御神の剣士が動ける前に何とかしたっていう事は綿密に作戦を練っていたか

もしくは知っていた、もしくは知らされていただ

ふぅん、結構、作戦通りだね

出来ればもう少し安全的な危機だったほうが良かったが。全くこういうのを傑作と言うのではないか?この調子では黒いの達も動けないだろう。動いた瞬間、この状況も動いてしまったら洒落にならん。それならばこのままの方がまだ読み易い

それにしても俺の人生は困難ばっかりだ。一度くらい自分より格下と相手がしたい。ま、そんな事を想っても詮無きこと。

そして別にどうでも良い事か……

「どうやってこの中に入ってきた?今、この家には結界が張っているはずだが」

「んん?それについては知らんさ。お前らの結界が張られる前に俺がこの家に入っただけじゃないのではないか?」

「……タイミングが良すぎる」

「俺の知ったことではないし、知る必要性もないし、教える必要性もないね」

周りの視線が突き刺さるのが解った。しかし、それでいて相手の注意はデバイスを突き付けている相手や周りに向いていた。やれやれ、今ので何とかなったら楽だったのだが、そうは問屋が卸さなかったか

楽は出来ないという事か。とと、それよりも確認しなければいけないことがあったな

「それで?アポイントも無しに子供の遊び時間を邪魔にしに来た暇人の大人の皆さんはこんな管理外世界とかいう所の地球に何の用でしょうかね。用件によっては聞いてあげなくてもないのかもしれないのかもしれないよ?」

「とぼけないで頂けようか。こっちの用件はただ一つ━━━闇の書への復讐とそこにいる闇の書の主と闇の書の永久封印だ」

「……ふぅん」

少女と言う部分で八神がびくっと震えていたが無視。へぇ?へぇ、へぇ、へぇ?ここまで都合よく話が進む・・・・・・・・・・・・と怖くなってくるね。これで作戦は大成功とは言えないが成功という事にはなるかな?

完璧な証拠と言うには少し弱いがそれでも足しにはなるだろう。及第点と言う奴だ。後はこの場を潜り抜けるだけか。それが一番厄介で難しいんだがな。まぁ、何とかするしかないだろうと思いながらリンゴを齧る。その行為で更に視線が強くなってきた

「それで?君は私達の復讐を止めるのかい。復讐は駄目な事だと模範的な解答を言って私達を止めるのかな?」

「━━━まさか」

俺が肯定的な意見を言ったせいか。いきなり皆が少し動きを止めた。まさか敵側から肯定的な意見が出てくるとは思っていなかったのだろう。そして味方側からそういう意見が出てくるとは思わなかったのだろう。それらを無視する

「復讐?大いに結構な事じゃないか。大体復讐を悪いって言っている奴は大抵そんな事を味わったことがない幸せ者か、もしくはそういった辛さを乗り越えることが出来る強者だ。俺はそんな幸せ者でもなければその強さを無理矢理当て嵌めさせる様な面倒な事はしないの主義でな。そういったものがご所望ならそいつらにやってもらったらどうかね?多分、無償でやってくれるだろう。粘着性だぞ」

「……では君は何をしに来たというのだ?」

「俺?そういえば何でこんな所に来たんだっけ?あーあ。高町症状群の影響かね。ま、別にどうでもいいけど」

その場にいるメンバー全員が沈黙した。はて?何でかしらん?

「……では、君はここで彼女達を殺しそうとしても止めな━━━」


殺せば・・・?」


空気が止まった。別にそんな意図をしたわけでもないのだが。味方側のメンバーならばともかく何で敵さんの動きも止まっているのやら。そういった訓練が足りていないのではないのだろうか

「馬鹿な……!君は友人を見捨てるというのか……!」

「友人?ははは。残念ながらその中には友人は今のところ四人しかいないし、後は俺が認めた奴とその他だけだ。友人以外がどうなろうと俺の知ったことではないし、何で俺が大人まで面倒を見なければいけないんだ。それぐらいは自分でできる年だろう。大体だ。別に君達には関係ない事だろう?むしろ好都合ではないか」

「……断言しよう。君は絶対地獄に堕ちる」

「━━━はっ。残念ながら前に地獄は体験したし、俺は何時でも地獄気分。良い悪夢ユメ地獄気分ってやつだよ」

今さらあそんな脅し文句を使うなんて。遅れている人達である。まぁ、歳は皆中盤ぐらいの年代が集まっているようなので仕方がないが。押さえつけたのか、または止めたのか。どっちでも同じか

「君は……狂っている……」

「?何を今更?俺は何時だって正気きょうきだ」

意味が解らない連中だ。そんな事を今更確認するだなんて。俺を見て真面だと思う奴は狂っている奴だけだろうに。最近の連中はいちいち確認しないといけないのか。お気楽な事で

「ふん、まぁ、いい。では、お前はそこでただ見ておくだけという事か」

「まぁ、そういうことですね。遠慮なくやってもいいですよ?」

「……では、やろう」

「ええ、どうぞ。快楽殺人犯の人達・・・・・・・・






















突然の乱入と理解できない異常さで翻弄されていたが、その異常のお蔭で何とか助かったと思った矢先だった。何を言われたのかさっぱりわからなかった。だから疑問は声に出た

「……何?今、何て━━━」

「あれ?聞こえなかったのかね。では、サーヴィスにもう一度言おう━━━どうぞ快楽殺人者の人達。遠慮なく八神達を惨殺すれば」

聞き間違いではなかった

有ろうことか。この少年は私達を復讐者としてではなく、ただの犯罪者と言う。いや、それだけならばよい。犯罪であるという事は自覚している。復讐とは言うがやっている事は犯罪であるという事も。

だが、その犯罪の理由が快楽を求めてという事はどういう事か

「っ!!訂正を願おうか!!我らは快楽を求めて罪を犯しに来たのではない!復讐と━━━闇の書の被害拡大を防ぐためだ!!」

代表として私が言うが他の者の同意見だろう。事実、周りの少年を見る視線に殺意が込められている。自分の視線でさえそういったものが混じっているのがわかってしまう。

そんな中、無表情の少年は全く気にした様子もなく、その鉄仮面の如き無表情はまったく変化がなかった。その表情はこう語っていた。この程度の事で自分には何の影響も与えはしないと。つまり、どうでもいい・・・・・・

「復讐?闇の書の被害拡大を防ぐため?はははは。口でなら何とでも言えるぞ。何なら俺が実践してやろうではないか━━━わぁー。止めろー。皆に手を出すんじゃないー。復讐なんてよくないぞー(棒読み)。ほら、感謝してもいいですよ?」

余りの暴言。何人かが思わず攻撃をしようと手が震えるのを見て、念話で待てと急いで伝える。ここで集中を無表情の少年に向けるのは不味い。向けた瞬間、ヴォルケンリッターや他の魔導師の少女が動くのは自明の理だ。故に伝えた。落ち着いてくれと

「君、さっきと言っている事と違うではないか……」

「何を言う。俺は別に復讐をしてはいけないとは言ったが、お前らがそうだとは言ってないぞ。ちゃんと頭の中の記憶回路を使って思い出してみろ。俺は復讐の定義の事しか言ってないだろう?」

呆気からん。何となくだが理解した。この少年は油断ならないと。何が?━━━全てがだ。ただの少年ではない事は見た瞬間理解していたが、油断が出来ない事は理解していなかった。

「大体だ━━━それならば我々は何故闇の書なんかを狙う。今、こうして動きを捕えている我らが言うのも何だが彼らは誰しもが精鋭クラスの存在だ。正直こうして捕まえていてもひやひやしている。快楽を求めての殺人者ならばもっと楽な相手を選ぶだろう。それをどう説明するというのだ?説明できないならばこの場で首を取られても文句は言わせない」

「怖い怖い」

全く怖がった様子もなかった。どの言葉が本気なのか。どの言葉が嘘なのか。全くと言ってもいいほどに解らなかった。それともどの言葉も偽物なのか。まるでただ動いているだけの人形を相手している気分だ

「答えろ━━━でなければ」

「……闇の書っていうのはそっちの世界では結構なビックネームらしいようだな」

「?その通りだ。誰もがと言うわけではないが、闇の書の事件の関係者。そして管理局の人員の大抵は知っている。それがどうした」

「つまり大義名分には十分な知名度という事だ」

「なに?大義名分だと?それはどういう━━━」

そこまで言って口が勝手に閉じた。理由は簡単だ。頭が勝手に思考を開始したからだ。思考するために頭は過去を模索し始めた。

快楽殺人者

復讐

ビックネーム

知名度

大義名分

それぞれの一単語の意味を一つ一つ思い出し、そして何かへと繋げようと何度も試みる。何か?違う━━━答えにだ。色んな答えを考えそれを間違いと判断し、再びそれを繰り返す。そうした何回もの検証をした後に答えが━━━見つかった


余りにもふざけた答えに


馬鹿なと思う。こんなことを考えるはずがないと。



余りにも人権や尊厳を無視した考えだと

だが、それしか考えられなかった。だから、頭ではそれを否定したがっていたが、口は勝手に喋ってしまう。震えながらも相手に聞こえるように、問いを発してしまう

「まさか……貴様……私達が……闇の書に復讐と言う大義名分を持って殺しに来た・・・・・・・・・・・・・・・・・・・……とでも言いたいのか?」

考えたくもない答え。放ちたくもない答え。周りのメンバーも驚愕している。囚われている大人の人間もユーノ・スクライアもそうだ。それに対して無表情の少年はにやりともせずに答えた

「自分から罪を言ってくれるなんて━━━自首ですか・・・・・?」

……!!

嵌められた……!

経験を積んだ自分にさえ気づかせないようにした言論的トラップに思わず歯噛みどころか、舌打ちする。周りのメンバーは相とは知らずに無表情の少年を攻め立てる

「何を言う!!全て貴様の策なのだろう!!」

「はっはっは。何を言っているんですか?俺はただの子供ですよ?そんな恐ろしい事を考えたり、予測なんてできるはずがないじゃないですか。俺は一般人ですし、人の考えを読むことも出来ないただの子供ですよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

無表情のまま彼は笑う。その矛盾さに敵意よりもまず嫌悪が先立つ。この反応を自分は知っている。これはそう━━━醜悪なものを見てしまった時の反応だ。嫌なものを見ると倫理よりも先に嫌悪が湧き上がる。これはそれと一緒だ。余りにも醜悪な矛盾。それの権化だ。しかし、今はそんな事を考えている場合ではなかった。このままだた私達はただの犯罪集団に成り下がってしまう

「君が何を言おうと、何を思おうと勝手だが……私達の事を調べればわかる。私達には復讐の動機があるという事を」

「調べればわかる?やだなぁ、情報なんて簡単に隠せるし、書き換えることも出来るぞ」

「……近所の人間も知っている!」

「そう言えばいいだけだろう?」

「管理局のデータベースにもある!!」

「幾らでも誤魔化すことが出来る」

「……君は私達の思い出を穢す気か……!」

淡々と自分たちの思いを否定されることに腹を立ててしまう。それではいけないとわかっているのに理性を凌駕した感情がそれを許さない。いや、許させやしない。だからこそ、我々はここにいるのだ

侮辱は許そう。何せ我らは侮辱されてもいい存在なのだから

軽蔑は受け入れよう。何せ我らは軽蔑するべき存在なのだから

屈辱は甘んじて耐えよう。何せ我らは屈辱を固めたようなものなのだから

しかし、過去に対しての穢れを許す事だけは出来ない

その思いをぶつけたが

「思い出というのは穢れも含めて思い出だと思うがね。穢れが一切ない思い出なんて━━━ただ自分の都合のいい思い出を覚えているだけ。そんなものは思い出とは言えないんじゃないのかね?」

暖簾に腕押し。柳に風。全くの無効化。全くの無意味。怒りも人情も無視される。だがそれは━━━この少年もそれを要らないと言っているのと同義ではないのか?

「君は━━━悼みをいらないというのか」

「━━━まさか!」

声には微かな笑いが含まれていた。最も顔は全く笑っていなかったが、それでも彼は愉快気に話を続ける

「俺は感情は重要だと思うよ!感情はありとあらゆる行為をするための原動力だ。何せ引き金を引くときにも感情は必要だ!それが喜悦を求めるための物でも、それが憎悪を求める者でもだ!それと同時に、ありとあらゆる行為を制止する為の閉じるための鍵でもある。でも、それらの感情は出所は同じ。魂、心、頭。どれでもいいけどそういったところが出所。それは善意はおろか悪意や敵意、嫌悪、憎悪、殺意、狂気でさえ同じ。つまるところ━━━感情と言うのは根は同じだという事だ。それは悼みでも、悦楽を求める者でも、な」

「……何が言いたいんだ……!」

「なぁに、ただの戯言さ……」

腹立たしい。何が腹立たしいかって、全く筋が立っていない事だ

情報は書き換えられるし、隠せる?その通りだ。確かに書き換えられるし、隠せる

近所の人間にそういえばいいだけ?その通りだ。しようと思えば出来る

管理局のデータベースの情報は誤魔化せられる?その通りだとも。そんなものハッキングでも何でもすれば出来ると言えば出来る。技術がなくてもその筋の者に頼めば不可能ではないだろう

不可能ではない

しかしさっきから証拠が全くないではないか・・・・・・・・・・・・・・・

まさしくただの暴論だ。暴れた論理で我らを苛立たせる。さっきから構えているデバイスがふるふると震えている。余計な力が込められている証拠だ。制御できない感情が暴れている証拠だ。生きているという証拠だ

それだけではなく皮肉を込めたような言葉。最早地獄の業火でもこんな熱さにはならない。さっきから冷静になれと言っている自分だが逆に熱くなってしまっているのが良く解る。最悪な事に━━━それを止めようという思いがまったく出てこない。むしろ、暴れさせようとしている。

それを嘲笑うかのように少年は言葉を続ける。少年は手に持っているリンゴをくるくる回している

「知っているかね?リンゴと言うのは知恵の実。神様とかいうクソヤロウが作った木の実。それを最初の人間、アダムとイブが一匹の蛇に擬態した悪魔が唆し、そして人間は知恵を得、いらない感情を得た。そしてそれを知ったクソヤロウはアダムとイブを楽園から追放した。それを原罪と言うらしい。ま、この地球のちょっとしたロマンチックな話さ」

「それが……どうしたと言うんだ……!」

意味もない会話に意味もなく憤りを感じてしまう。いけないと解っているのに最早理性は働かない。体がかちかち震える。まるで寒さに震えているかのようだ。

「こういった話は神様とかそんな下らない存在や宗教の有難みとかいうどうでもいい事を教えるのもあるが、もう一つ、教訓を教えてくれることもあるのさ」

「教訓……だと……?」

ああ、もう止めてくれ


もう体の震えが止まらないんだ・・・・・・・・・・・・・・

「耳の穴をつぶすくらい開けてよ~く聞きたまえ。何せ俺が神の心情を語るなんて滅多にないからな。」

「……止めろ」

「この話で神が人間を、アダムとイブを追放する時の心情を俺なりに考えたものなんだがな。」

「……喋るな」

「何故神はアダムとイブを追放したのか。禁じていた果実を勝手に喰ったからか。なら、何で柵で触れないようにしなかったのか。知恵のみを喰った事で得た知識に恐怖を覚えたからか。じゃあ、その場で殺しておけばよかったんだ。じゃあ、俺が考える心情とは?」

「喋るなと……言っている……」

「では、遠慮なく答えよう。俺はこう推察する」

「……止めろ!」

駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!!

それ以上その声を聴かせるな━━━!


「答えは簡単━━━そんな下らない感情モノに拘った人間なんて下らないと思ったんだろうさ」


ぷちっという音が響かなかった

代わりに響いた音は鉄の音。がちゃりというデバイスが構え直される音。照準が替えられる音。敵を狙う音。敵を殺そうという意思の音。抑えきれない激情の証拠。大切なものを穢された証拠

それらは震えながら無表情の少年……否。こんな相手を人間だなんて認めることは出来ない。これこそまさしく悪魔だ。さっきの話ではないが蛇の皮の代わりに人の皮を被った悪魔だ。誑かすための悪魔ではない。我らを脅かす悪魔だ

だからこうするのは正しい事。むしろしなければダメな事なのだ。この少年は生きているだけで醜悪で罪悪だ。死ぬべきだ。いや、死んでいて当然な存在だ

だから速く引き金を━━━


「だから言っただろう━━━そんな下らないものに拘ったら駄目だと」


呆れた悪魔の声とともに今までの枷を払うかのように自分が捉えていた若い高校生くらいの男が行動を開始した

自分の少年に向けている手を思いっきり引っ張られ、体勢を崩された。咄嗟に足で踏ん張ろうとするがそれを足で払われ、完璧に体勢を苦座され、砲弾のような勢いの肘鉄が鳩尾に決められた

ズドン!!と人体からあまり響かない音と衝撃で力をあっさり奪われた。悲鳴すら漏れない

その行動を見て、他のメンバーがこっちのフォローをしようとして振り向こうとした時、再び捕まえていたヴォルケンリッターが動いた。バリアジャケットを纏わずただデバイスを発動し、抜き打ち。いきなりの奇襲に対応できずに彼らはあっさり倒されていくのが見えてしまった。

そこから先に負の連鎖

それらの一部始終を見たメンバーは動くのは危険と判断したのか、自分が捉えている人質を使って動きを止めようと思った瞬間。翠色の縄が彼らの動きを止めた。意識を失う寸前の頭だが、それでも誰がやったのか、感覚でわかった。民族衣装みたいな服を着ている理知的な金髪の少年だ。思わず見事と言っていい行動だった

後は簡単だった

冷静になろうとするメンバーもいたが、冷静になる暇すらもなくそのまま捕まってしまったり、倒されていった。何もかもが台無しになってしまっている光景だ。何もかもが破壊されていく光景だ。こうならないために何度もシミュレートをしてきたはずなのに。何もかもが破壊されていく。

何て無様。自分の不甲斐のなさに涙でも流してしまいそうだ

最後の抵抗としてこうなった原因である無表情の少年を睨みつけようとする。無駄な事だとはわかっている。八つ当たりである事も解っている。でも、やらずにはいられなかった。あの少年さえいなければ少なくともここまで一方的な終わり方はしなかった


だから少年の方に振り返った

だから後悔した


そこにいたのは少年ではなかった

だってそうだろう?

さっきまで一度として笑っていなかった少年が笑って・・・この光景を見ていたのだから



果たしてそれを笑いと言っていいのだろうか。少なくとも自分が知っている笑いとはこうも恐怖を出すものではない。むしろ、笑いとは人を安心にさせたり、笑わせたりするものだ

だが、少年の三日月に歪めた笑みはそんな用途は存在しない。それは嗜虐の笑みだ。そう。少年は嗤っているのだ。この光景を心底愉快に嗤っているのだ。まるで、それだけが自分の唯一の娯楽だと言いたげに。

さっきの言葉なんかよりも余程饒舌に語っていた

これは関わってはいけないモノで、存在してはいけないモノだという事を

間違えたと深く後悔した

何が間違えたとは言えない。少なくともこの少年と出会った事は完璧に間違いで。人生最大最悪の間違いと言っても過言でもない。これはそういう類の生き物だ。そう━━━怪物と言われる、そういった類の生き物だ

血を啜り、筋肉や神経を引き千切り、骨を砕き、内臓を破裂させ、それを愉悦として嘲笑い、ただ殺す為だけの殺戮機構。目的が合って殺すのではない。殺すために殺している、そういう生き物だ

だから思った


こんな生き物は存在してはいけないと


それが最後の思考

だから、これは夢なのだろう

そう、思う

そう、思いたい






















あっという間の解決だった。いや、もしかしたら実は時間がかなりたってるんかもしれへんけど、私の主観ではあっという間の出来事やった。それを引き起こしたのが友達の少年なのだ

いや、それだけならばいい。良い事なのか悪い事なのかは判断が付かないが、自分の周りには凄い人ばっかり集まっている。

恭也さんや美由希さん、士郎さんは凄腕の剣士やし、桃子さんかて戦うという意味じゃなきゃ凄い大人に見えるし、それは月村家の人達にも言える事である。

大人だけではない

アリサちゃんは詳しは知らないが、凄い大きな会社の一人娘でその為に色々勉強をしていて、クラスではトップクラスの実力の女の子だし、すずかちゃんも似たようなものだろう。なのはちゃんやフェイトちゃん、ユーノ君は魔法を使えて凄いっていうのも解る。ヴォルケンリッターの皆も同じ

けど

慧君は違う

凄い武術なんて持ってない

凄い技術なんて持っていない

凄い知能を持っていない

凄い能力を持っていない

凄い才能なんて持っていない

なのに大勢で自分よりも強くて、技術を持っていて、能力を持っていて、経験を持っていて、そして命を獲られるかもしれない状況で彼は何時も通り慇懃無礼の態度で勝ち抜いた

いや、最早慇懃無礼等と言う甘い言葉では彼を表せられない

傲岸不遜。人の大切なものを踏みつけ、踏みにじり、踏み壊し、そして罪悪感無しで汚す。大切なものだから守るのではなく、大切なものだから壊すという考え

余りにも卑怯で、卑劣で、残酷で、残虐で、容赦がない。誰もが罵る行為で生き残り、誰もが忌み嫌う方法で勝ち残る。

暴虐、暴力、暴論が常套の暴論遣い

故に残るものも返ってくるものも無し

これは一種の惨劇か、虐殺やと思った。だから私はつい守ってもらった分際で言葉を漏らした。この戦いを見た感想を。つまり━━━本心を

「幾らなんでも━━━やりすぎなんじゃあ」

言葉は途中で遮られた


何故かと言うとすずかちゃんが私のほっぺを力一杯叩いたから



いきなりの事で何も理解できなかったし、反応も出来なかった。何故叩かれたのか?何故すずかちゃんが怒っているのか?何もかもが理解できなかった。理解できたのはほっぺが熱いことぐらいだった

だが、その無理解も数秒で理解できた

ようやくほっぺに手を当てて返事をすることが出来た

「い、いきなり、何をする━━━」

「はやてちゃん……今のセリフははやてちゃんだけは言っちゃ駄目だよ……」

「……え?」

意味が解らないという返事をするとすずかちゃんは黙って指を向けた

私はそこに何の疑問も抱かずに向けた指先の方角に顔を傾けさせる

そこには


憎悪と敵意と殺意を抱いた視線で慧君を見ている捕まった人たちが━━━


「━━━あ」

ありとあらゆる悪意が慧君の方に向いていた。自分が言うのも何やけどこれは当然の結果やろう。何せあれだけずくずけと人の大切な領域に入っていき、更にはそれらを壊してしまったのだから。恨むなと言うのが無茶である

視線で人を殺せればという思いを願っているような光景に見えてしまう

それに対して慧君はやっぱりいつも通りの無表情。こんな悪意を一身に受けてもその表情は全然変わっている様子はない━━━だけど。強いて言うならば。その態度はまるで『もう慣れっこだ』と言いたげな態度であった

「……今回は何時もよりも酷いな」

「何を言っているんですか?俺は何時だって手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐にが俺のポリシーでそして最大の強みですよ、恭也さん」

「でも、手心は加えるだろう?」

「……はてさて?何を根拠に」

「手加減はしない、遠慮はしない。容赦もしない。慈悲もなく意味もなく残酷に残虐する。しかし、君は一度も本気を出しているとは言っていない。思うに━━━君は相手が壊れないように自分の力をセーブしているように思える」

「おやおや。その目は節穴ですか?俺は今、敵の目的を完璧に粉砕したと思いますけど」

「━━━君の場合。敵の精神を壊さないだけましだと思うがな」

「━━━」

「何か……嫌な事でもあったのか?」

「……まさか。逆に最高の悪夢undefinedユメundefinedを見ましたよ。お蔭で気分は最悪さいこう。今なら空を飛ぶおちる事も出来そうです」

「……まったく。君は本当に━━━嘘つきだ」

「褒め言葉です」

何を言っているのかはわからないが、それでも慧君が何時もの状態とはちょっと違うというのは解った。でも、そんな不調な時でも彼は私を守ってくれたという事は事実だ。その事実を私は無視しようとしてしまった

自己嫌悪する

私は目の前だけの残虐さだけを見て、彼を嫌悪するところだった。解っていたはずだ。彼がかなりの大嘘吐きだという事を。出会った時から解っていた……とは言わないけど、それでも二回目ぐらいから知っていたはずだ

彼自身は肯定かもしくは否定のどちらかを言うだろう。私達の思っている嘘を言えば間違いなく否定するだろう。器用そうに見えるけど彼はかなりの不器用な人間なのだから

そこまで思い、少し深呼吸をして

「━━━ん」

ほっぺを軽く自分で叩いた。自傷と言う意味やない。自分を鼓舞するためのものだ。何せこれから慧君に謝罪と感謝の言葉を告げなければならないのだ。彼はかなりの確率で拒否をするだろうけどそれでも告げないわけにはいかない

ごめんなさいとありがとうを

そう思っていたら、さっきまで怒っていたすずかちゃんが何時もの笑顔で笑って私の車椅子を押してくれていた。ちなみの周りの人間も嗤ってくれている。

「一緒に━━━行こ」

「……うん」

お互いの笑いあい、そうして彼に謝罪と感謝を告げる

そして皆から、少し離れる


そんな場面だった



急に慧君が物凄いスピードでこっちに振り返り、そして走ってきた

それには言葉もあった

「逃げろ!!」

いきなりの行動に私とすずかちゃんは反応出来ず、ぼーっとするだけ。それに対して慧君は舌打ちをして、私達を思いっきり押し出した

「「きゃっ!」」

二人して短い悲鳴を出す

何でこんなことにと頭がこんがらがるがとりあえず条件反射で押してきた慧君の方を見ると

「……え?」

目の前に壁があった。別に敷居とかコンクリートとかそういうのではない。見えない壁と言うわけではなく、色が付いた壁と言うべきか。それがさっきまで私達がいた空間を覆っていた

「封鎖結界!?」

シャマルが叫んでいるがそれを理解する術がない。何故なら目の前のその空間に慧君と何故か恭也さんと━━━知らないおじいさんがいたのだから。そのおじいさんはもう白髪も交じっている人だったが、その視線は干からびてはおらず、強い視線だった。直感でわかった。まだ事件が終わっていないという事を

そう思ったら慧君が疲れた口調で一言

「……第二ラウンド開始って事かね……?」





















あとがき
今回は大分遅れてしまいました
次こそがバトルです
今回は皆さんに求められているような暴論になっている事を切に思います
それとdesumiさん、にゃむさん、れいおにくすさん
要望には出来るだけ答えたいですが、無理だった場合は勘弁を……!
アサリさん
忠告ありがとうございます



[27393] 第三十五話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/10/23 23:29

……はてさて、どうしようかね。この現状

今は簡単説明するとじいさんの手によって恭也さんと一緒に結界に捕まってピンチな状態だ

「慧君。それでは簡単すぎてよく伝わらないぞ」

「お約束ですね……」

「ふ、二人とも!お約束をしている場合ではないと思うなの!」

「そういう高町だって、語尾がうざいのが変わってないじゃないか」

うざくなんてないもん!とか叫んでいるお子様は無視。ふふふ、だからその殺意とともに抜かれようとしているドスを何とかしてくれないかな、恭也さん?今はシリアスな時間だよ?

「……それはこちらの台詞なのだが」

「失礼。どうにも俺の周りの人間は全員頭がイカレテいるようでね。正直━━━そろそろ我慢の限界と思う事が度々あってね。どうしたことか」

「中心はアンタとすずかとなのはとはやてよ!!」

無視した

今はそんな状況ではないからだ。気を取り直して現実を再確認

目の前にいるのは老人……の一歩手前と言ったところか。少し白髪やしわが増え始めたぐらいの歳の人だろう。しかし、運動神経の適齢期はとうに過ぎた人だ。しかし、それでも好きと言えるようなものが何一つないのが解る。見た目に惑わされるのは禁止。この相手はかなりの武勲者で、経験者だという事を体で実戦経験で言えば俺や恭也さんなんか足元には及ばないだろう

かなり厄介と言える。出来れば恭也さんの身体能力が相手に打ち勝ってくれていることを切に願う。というか相手の人が近接重視の魔導師であることをまず望む。高町みたいに空中戦の砲撃魔導師が相手ならば打つ手は無しだ

「……安心したまえ。君が思っているような敵ではない。私は経験だけ積んだただの老兵だよ……それも接近しか能がない落ち武者のな……」

「……へぇ、それは安心。出来れば自己紹介して知り合いになりませんか?そして少し話し合いでもしましょうよ。もしかしたら、友達になれるかもしれませよ?」

「━━━出来んな。君と話をする気なんか起きないし、名前は既にもうこの場にいる時点で意味のない物に成り下がった。呼びたかったら好きに呼ぶがいい。快楽殺人者とでも何とでも、な」

ちっと内心舌打ちする

どうやらやっこさんはこっちと対話する意思は皆無らしい。無理もない。あれだけ俺の暴論でやられていく味方を見てしまったのだから。どんな馬鹿でも俺と話そうと思いはしないだろう

俺の暴論は一度限りの秘奥義みたいなものなのだから。一度しか使えない。一度しか通用しない。一度振ったら後はただのなまくら刀だ。そっれを解ってくれたのか恭也さんは臨戦態勢に入ってくれていた

それを横目で見ながらせめて少しでも時間稼ぎをしようと無理矢理会話を試みる

「そりゃ残念。では、せめて場を掻き乱したものとしての責任として一つ聞いておこうではないか━━━貴方の目的は何ですか?」

「……闇の書への復讐と永久封印……とさっきまでならばそう答えられたのだろうな」

「今は違うと?」

「残念ながら。君のせいでな」

「そりゃどうも。じゃあ、今のあなたは何をしたいんですか?少なくとも貴方の言った両方の目的は叶えることは出来ないと思いますよ。何せ俺が邪魔をしてしまったからね」

「そうだな━━━だから闇の書への復讐は諦めて・・・・・・・・・・・闇の書の主の少女への復讐undefined・・・・・・・・・・・・・undefinedをしよう」

「……性格悪う」

目的は解った。これまた厄介な相手に目をつけられたものだ。やれやれ。本当に俺の人生は波乱万丈。楽な事など一つもない。気楽に生きる気など毛頭もないが、もう少しレベルに合わせた難易度にならないモノか

「ちょ、ちょい待ちぃ!!私が目的なんやろ!?じゃあ、慧君と恭也さんを離してください!!お願いします!!」

「何だ八神。そんな狸の悲鳴を上げて。お前には関係ないんだから、どうでも良い事だろ?」

「関係ない事なんてない!そ、それに。どうやって私に復讐を……?」

「だからお前には━━━」

「簡単だよ、闇の書の主。やられたらやり返す。つまり、私達がやられたことをその少年に返そうという事だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ちっと今度は口に出して舌打ちする

仕返し。やられたらやり返す。やられたら。この人達がやられたことと言ったら何でしょうか?

「ケイを……殺すって言うんですか?」

答えはフェイトが訪ねた

「……」

返答は実にシンプルだった。沈黙と言う肯定。返答はそれだけだった。実に解りやすい

「そんな……!慧君は━━━」

「関係ないとでも言うのかな?では、今、目的はおろか大切なものを穢された私の仲間はどうなる?」

「それは━━━」

「止めとけよ、八神。この爺さんに何か言っても無駄だよ。何せ自己完結している爺さんだからな……俺の周りの爺はそんなんばっか。やになってくるね。もしくは泣けてくるね」

「ふざけないでもらおう。君に泣く権利なんてない。何せ君は━━━罪悪感なんて一欠けらも感じてないだろう?」

「……」

「あれだけ私達を穢したというのに何の罪悪感もないだろう?あれだけ私達の目的を邪魔したのに何の容赦もないだろう?それだけ生きて罪悪を侵しているのに何の躊躇いもないだろう?だから君は醜悪なんだよ」

「……」

返す言葉なんてなかった。言っていることは全てが正しいし、訂正することも出来ないし、受け入れる要素しかない。

手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐に

そのポリシーと言うか行動原理と言うか。それを実践すればそうなるというのは解っていた事だ。昔実例を見たことがあるのだから。あの地獄(アカイ)火の中三日月形に唇を歪める悪魔を見たのだから

そうなると俺はアレを恨んでもいいのではないかと思う。結果はどうあれ、アレと出会わなければ少なくとも今よりも絶対にマシな最低になっていたはずなのだから。

ま、今となってはどうでも良い事だけど

「殺すねぇ……残念ながら俺は死ぬときは美女の膝で死ぬと決めているんでね。俺を殺すには舞台が整っていないぞ」

「……ふむ。では、今から知り合いの美女を連れてくるので死んでくれと言ったらどうする?」

それに対して俺はゆっくりと頷き

「お前ら……どうやら俺はここまでのようだ。短い付き合いだったが、振り返ってみたら思い出したくもない最低最悪な思い出だった。お前らと出会って━━━人生を失敗したよ」

「慧君の命の価値軽!?」

「美女の膝で死ねるんかいな!!?」

「本当に最低ね!!」

「慧君!それは私の膝でという事!!?」

「み、みんな!落ち着いて……!」

「主の友達と言うのに━━━このまま見捨ててもいい気分になってしまった私は騎士として失格なのだろうか」

「安心しろ、シグナム。皆同意見だ」

「ええ、だから、貴女がおかしいというわけではないわ」

「うむ」

「一ボケに九ツッコミか……ボケとツッコミの比率がおかしいな。そしてすずかの膝でない事は確かな事だろう」

「そして君といると俺は緊張感と言う言葉を失ってしまいそうだ」

「それは頭の病気ですね、恭也さん」

「君がそれを言うか……」

「……話を元に戻しても……?」

失礼と言う言葉とともに話を戻す。故に周りから来る半目の視線は無視だ。いや、無視ではなく受け入れる

……成程。ようやく俺がノーマルな存在という事が解ってくれたのかね?

貴重な一瞬だったと思う。何せ俺がどこにでもいる平々凡々とした人間と言うのが解ってもらえたのだから。それも高町症候群の末期までかかってしまった重症患者集団に。今日は素晴らしい日だと思う

別にどうでもいいけど

そう思っていたら結界の外に青い魔方陣が現れた。ヴォルケンリッターや御神流、月村メイド組はまた新しい敵かと思い、身構えたが

「ち、違うよ!これは━━━クロノ君だ!」

高町の言葉と同時に黒い執務官が姿を現した。その姿は前と変わらず黒いままだった。衣服のセンスはかなり悪いと見た

「どうした、黒いの?今更お前が出てきても出番はこれっぽっちもないぞ。後で高町の砲撃でもやるから俺に感謝しろよ」

「冗談を言っている場合か……!さっきは言葉で勝負できたからいいが、今回は━━━」

「管理局員と初の魔法バトルか……ある意味ファンタジーだな。それとも元管理局員って言った方が良いのかな」

「……何故私が元管理局員だと?」

「単純。さっきの奴が言ってた管理局のデータベースにあるという台詞とお前の名前は既に意味のない物に成り下がったという発言から推測して、そしてカマをかけただけ」

「……喰えない少年だ」

「そりゃどうも」

「……質問ばかりされているのでこちらからも質問をさせてもらおうか」

「質問されても返せるとは限りませんが、それで良ければご自由に」

「君の目的は何だ」

「目的なんかあるはずないじゃないですか。俺は巻き込まれただけなんだから」

「ならば君が未だここにいるのに矛盾が生じるな。さっきの出来事は仕方がないと言ってもいいだろう。結界に入り込めたのは作為的に見えるが、今は偶然としか言えない。だからそこはいい。問題は今だ」

「……」

「君はさっき言ったな。四人以外は友達ではないと。そして予測するならばさっきの黒髪の少女が四人のうちの一人という事になるな」

「……それで?ならいいじゃないですか。友達を救うならば人間として当たり前でしょ」

「━━━嘘をつかないでもらおう。君はそんな友達だから人を救うなんていう存在じゃないだろう。君は自分の邪魔をするというならば友達ですら見捨てる、否、友達ですら君は斬り捨てるだろう」

「……」

否定する気なんてさらさらなかった。後ろで息をのんだのは多分、高町か八神だろう。あの二人はそんなものは許さない性質だろうから。俺には全く関係ないが

「そんな君が━━━」

「簡単さ」

そう、簡単だ

俺が今ここにいる理由は至って簡単だ

「お前━━━本当は俺の代わりにすずかを殺そうとか思っていただろう?何せ狙ったタイミングがすずかが一緒だったものな。」

「……」

「冗談じゃない━━━もしすずかを殺すとすればそれは俺でなくちゃいけないんだから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。俺は約束は破っても『契約』は破らないのを信条としているんだ。だから、すずかは殺させない」

後ろの集団のうちの数人がまた息をのんだのがわかった。それは当然だろう。年端もいかないガキが同い年の女の子への殺人宣言を堂々としているのだから。普通ならば息をのまないはずがない

ふと思った

この殺人宣言を受けている本人はどういう顔をしているだろうか?━━━決まっている。

笑っているに違いない・・・・・・・・・・。そうでなければ契約した意味がない

「さて━━━お互い聞くことは終わったかな?」

「……そうだな。そちらの時間稼ぎは終わってもいいのか?」

「くっ……」

後ろでユーノが悔しそうに呻いているのが聞こえた

「状況が変わってないから解りきっているけど、一応話の流れとして聞いておくわ。結界は解呪できそう?」

「……無理だよ……!時間が圧倒的に足りない。物凄い複雑な術式だよ……最低十五分は欲しい……」

「十五分か……そんだけあれば死体が出来てるね。どっちかとは言わないが」

「無茶だ!」

そこで黒いのがいきなり叫び声を出す。うむ。確かに目の前のかっこつけの爺さんが俺に勝つのは無茶かもしれないね。勿論、冗談だけど。うむうむ。ギャグを言う事で自分が冷静である事を確かめられるとはまさしく一石二鳥

「何だゴキブリみたいに黒いの。理由があるならばとっとと言いたまえ。とっとと言わないのならばスリッパで叩き潰されていろ」

「セリフを全部無視して言うが、その人はレリオ・マルク提督だ!現役を引いた人だが間違いなくトップクラスの実力の持ち主の人だ!!」

「それまた御大層な人間が俺の命を狙うね。世界が俺の命の価値をようやく理解したと見えるね」

「もう一回無視するぞ!それに君達は魔法をよく知らないし、魔法も使えない!それじゃあ勝率は━━━」

「五分五分って所でいいですね、恭也さん?ちなみにそう言えないんならば端っこでじっとしといてください。足手纏いです」

「……言ってくれる。この御神の剣士に端っこでじっとしていろと言うか。俺達にそんな事が言えるのは何も事情を知らない人間か、君ぐらいだろうな……」

「それは素晴らしい。つまり俺は今、誰にもできない事を一つ為し得たという事になりますね。これからの戦いと人生にとっていい事になると思うね。」

恭也さんの苦笑を聞きながら拳を開いたり、閉じたりする。コンディションというか夢見は最悪さいこうだったが、まぁ、そこは何とかするしかないだろう。

状況は最悪。相手の実力も解らなければ魔法の事も全くと言ってもいいほどに知らないし、理解できていない。更にはそれが俺ではなく恭也さんも知らない。更には相手は管理局の古株らしく、経験は俺や恭也さんよりも豊富だろうし、技術で言えば俺がかなりの足手纏い。後は体力とか体格とかそういったものも俺が足手纏い

つまり━━━何時もと同じ状態という事だ

拳銃とかそういうのでないだけマシだろう。油断はできないが

「君達は魔力も無しに戦う気か!?無茶だ!!奇跡でも起きない限り勝てはしないぞ!!」

「それは傲慢な話だね、黒いの。魔法、魔法って言っているけど、聞いた話だとただの道具ではないか」

「……なに?」

「砲撃魔法、防御魔法、移動魔法、転移魔法、飛行魔法、浮遊魔法。捕縛魔法、補助魔法、検索、探索魔法、治療魔法、結界魔法。どれもそんなのは道具に頼れば大抵可能なものだ。砲撃は銃とかを使えばいいし、防御は盾やシェルターに引きこもればいいし、移動は車や電車を利用すればいいし、飛行や浮遊は飛行機を使えばいい。捕縛はそれこそ本物の捕縛の道具を使えばいい。補助魔法はそんなものを頼ることなく体を極限まで鍛え上げれば限界を超えることが出来る人間もいる。検索や探索はそれこそ自分の体とコンピューターを使えばいい。治療は薬や医学、そして体の治療速度に任せればいい。結界はとかはそれこそ柵とかを作って周りを囲めばいい。普通に出来ないとすれば転移ぐらいだ」

そんなものは魔法とは言わない

そう俺は無表情に断言した

「お前らの先祖が何を考えて魔法という名前をつけたかは知らないし、理解する気もないが、これらは魔法じゃない。魔法って言うのは奇跡の別名だ。こんな出来そうなことを大層にしているだけの技術や道具は決して魔法なんて言わない。今の状況だけを指し示すならば━━━ただの暴力だ」

「……」

俺の言い分の誰も返事はしなかった。それはつまり、自分達でもうっすら気づいていたことだという事だろう。自分たちが持っている力は奇跡という魔法ではなく、ただの力という魔法だという事を

「ま、こんなのはただの戯言だけどさ」

そう言いながら軽い準備運動みたいなことをし出す。勿論、相手に隙を見せない程度の準備運動だ。もう一度言うがコンディションは夢のせいで最悪さいこうの二乗だけどこの際贅沢を言っていられない。そして贅沢を言っても叶えられない

おっと、勝利条件を増やしとくか

「そうそう。ユーノ」

「え……?」

「これから俺達は軽ーく辛勝してくるけど、お前にそんなことが出来るならば俺達を助け出させると言う誉を上げるよ?ぶっちゃけどうでもよさげな誉だがね。」

「……うん、解った。やる気が二割増しになったよ」

どうやらユーノがやる気になってくれたようだ。これで少しは生存確率が高くなったというもんだ

「ちょ、ちょっと!ユーノ君!それならば力尽くで私の砲撃で……!」

「駄目なのよ、なのはちゃん。これを壊すのは多分、私達の最高クラスの攻撃を出さないと壊すのは難しいの。ヴィータちゃんで言うとギガントクラスの魔法じゃなきゃ……そしてそんな魔法は大抵が周りにも被害が及ぶ攻撃なの。ただでさえ強力な攻撃なのに、それが魔力をほとんど持ってない人が当たったら……」

「そんな……」

「おやおや、高町。まさか恭也さんはともかく俺事敵を撃とうだなんて……流石は外道高町だな。一度心をきれいに洗い流してもらえ。きっと生まれ変われるような気分になると思うぞ」

「慧君にだけは外道なんて言われたくない……!」

無視した。今は目の前の問題を対処すべきだ

「……終わったかね?」

「ああ……勝利条件でも言っときましょうか?俺達の勝利条件はお前を倒す、もしくは番外でユーノ達が結界を解除してお前を捕まえる。こっちの敗北条件は俺達の勝利条件が満たす前に俺を殺すことと言ったところかな」

「……そうだな」

俺は準備運動を終えて構える。何時でも動けるようにと

恭也さんは暗器していた小太刀二刀を構える。何時でも戦えるようにと

そして相手の老練な騎士は懐からカードを取り出したと思ったら

「……ソード。セットアップ」

『SETUP』

出てきたのは黒い柄みたいなもので、そこから魔力刃とでも言うべきか。普通の灰色をした光の剣が出てきた。ある意味今まで見てきた魔法で一番メルヘンチックな魔法かもしれないと思った

見たところ高町やフェイト、ヴォルケンリッターの持っているデバイスのように意思を持っているようなデバイスには見えない。となるとアレはストレージとかいうのだろうか。それもかなりシンプルらしい。名前からだけで察するとまさしく剣としての機能しか使ってないのではないかと思ってしまう。名前もシンプルだし

何れにしても油断はできないが

賭けるモノも一元大体同じ。生か死かのDEAD OR ALIVE 

強いて言うなら後ろからの俺を心配しているような視線を背後にして戦うというのは初めてかもしれない。何時だって俺は戦う時は一人で大体戦っていたから

別にどうでもいいけど

さて、舞台は整った

後はただ己の全力を何時も通りぶつけるだけ

そして何となくいつもならば言わないような事を言おうと思った。きっとヴォルケンリッターの四人が騎士とかいう夢見がちな存在なんだからだろうと思った

「名乗りはいるかね?」

それに対して目の前の老練な騎士は首を振る事で答えを示した

それが合図だった

俺と老騎士が動いた























目の前の少年がこちらに向かって走ってくる

その事に驚愕とは言わないが少し驚きながらもこちらも前に出るために足を動かす。先手はもう一人の剣を構えている青年の方だと思っていたからだ。

理由は至って簡単で明らかに少年よりも実力が高いからだ。予想では青年が攻撃を担当し、少年は攪乱を担当すると思っていた。勿論、ここから攪乱するという手はある。しかし無謀すぎる

頭はいいと思っていたが所詮戦闘面ではただの子供かと思い

右手から躊躇なしの一撃を放つ

狙いは首。当たれば首から上の部分が綺麗に跳ね上がり、弧を描くだろうと思われる一撃だ。才能ではなくただの努力で突切り上げた一撃。勘ではなく経験だけで狙ったタイミング

しかし、それは外されることになった

少年が当たると思ったタイミングで身を縮め、スライディングをしたからである

余りのアクロバティックな動きで少し混乱した。彼はそのままこちらの足の間を抜けるつもりらしい。こっちの足は剣を振うために少し広げているので子供一人ぐらいは楽に通れるだろう

それならばそれでスライディングが止まった時に攻撃をすればたやすく終わるのだが、そうは問屋が卸さないと言った調子で目の前に黒い青年が抜刀の体勢をしながら走ってきている

それももうすぐ近くだ。どうやら少年を囮として自分の存在を出来るだけ近くさせないようにしていたらしい。

甘く見ていたと反省をする。この青年の戦いっ振りは見てないから知らないでいいが、さっきの少年に対しての脅威は既にみていたはずだ。なのにこの現状。成程、強敵だと思う

そこで抜刀の煌めき。狙いは最も避けにくい胴体部。良い太刀筋だ。狙う所をしっかりと狙った居合。もう少し喧々と技術を学べばそれこそ魔法があっても自分が負けるかもしれないぐらい成長するのではないかと思うような太刀筋だった

素晴らしいと思う

年を取り、現役を引退した身としての一番の願いは後代の成長を見るという事なのだから。しかし、そんな悠長に考えている時間はない。避けようと思えば避けれるが、その瞬間、後ろの少年が何かをしでかすかもしれない

なので、私は片手の防御魔法を発動させた

『PROTECTION』

デバイスの無機質な声とともに灰色の盾が現れる。さっき、少年に言ったように自分には何の才能もないただの老騎士だ。出来るとしたらこういう魔力刃を出したり、他幾らかはあるが基本的には自分にはそれしかない


故にこの防御魔法も欠陥だらけだ、面積は小さいし、堅さもない。更には衝撃も他の魔導師が出来るように受け止めることが出来ないのだ。だが、それはそれで出来る事はある。衝撃を受け止めることは出来ないとかならばそれはもう防御魔法というよりは完全な盾だ。

そして盾ならばそれを受け止めきれるにはタイミングや能力とかが必要になる。そしてもう一つの利用法というのは━━━

ガン!!と大きな音が響く

そしてそれと同時に自分も吹っ飛ぶ━━━無傷で

つまり、衝撃に身を任せただけだ。利点としては自分も方向を決めるためにタイミングを合わせて飛べば、そっちの方に飛べる。後ろから少年の舌打ち音が聞こえるのがわかる

それを確認する前に魔法を放とうとする

それはある意味自分のオリジナルであり、何処にでもあるような魔法である

『GATLING SWORD』

名前とは体を表す。目の前に灰色の魔方陣が広がり、そこから現れるのは無数の剣。それらは回り、回りながらそして打ち込まれる

「「……!」」

スピードとしてはそこまで速くない。むしろ、オリジナルであるガトリングガンのスピードと威力にはかなり劣っている。躱そうと思えば躱せるが、そう━━━ガトリングガンの特徴の大量の弾を発射するという特徴を奪っているのがこの魔法だ

判断は一瞬

少年と青年は即座に左右に分かれ剣の弾丸を躱し始めた

甘いと思い、魔方陣を動かす。この魔法は誘導の能力はないがその代り方向だけは動かすことが出来る。動かす方向は少年の方向。戦っている間も無表情な少年をターゲットとする

「……ちっ!」

彼は舌打ちをしながらも無表情にそれらを必死に走って逃げる。幾ら本家本元よりも威力もスピードも下がっているとはいえ子供の全速力には数秒もあれば方向転換も追いつける。

後、二秒で追いつくと言った時に背後からの風切り音。その方角にいたのは黒い剣士の青年だ。何をしてきたのかは経験から察知する。無理に少年を倒すことを止め、魔法を一時停止して左に避ける

そしたらさっきまでいた場所を通過する物体があった

地球の武器は知らないので、それが飛針という武器であるという事を知らない。必要なのはその武器が飛び道具で当たり所が悪かったら傷を負う武器であるという事だ。最も、こっちはバリアジャケットを身に纏っているので顔とかでない限りダメージは追わないだろうが、それでも念には念をという言葉がある

戦闘というのは一時の油断で一気に不利になる事があるのだから

とりあえず今までの戦いでやはり厄介なのは黒い青年であるというのが改めて判明。武器を持っていることもそうだが、何よりもその運動神経と判断力が不味い

少年の方も何をしでかすが解らないという不安感があるが、戦力という意味では低い。とは言ってもその年齢でという事でならば魔力なしでここまでやれれば将来は化けるだろう

惜しいと本気で思う。青年もそうだがこの少年も。少年の方にはかなりの問題を抱えているが、それでも才能がある事には変わらない。それなのにその若い才能を自分で摘み取るという事。それに自嘲する

そう。自分でも解っている。自分がやっている事は宣言通り闇の書と同じことをしているという事を。違うとすれば動機だ。闇の書は主とそしてその名の通り闇に返すという事と私達は復讐の為だけに

全くもって人類はどうしてこうも道化に走ってしまうのだろうか……いらない思考に走ってしまった。今はとりあえず危険度が高い黒い青年の方に攻撃を集中しようかと思ったら━━━

ヒュンと再び背後から・・・・風切り音

「……!」

思わずその場で少し顔を傾ける。耳を掠めて通過したのは先程の銀色の武器。何故か再び戻ってこちらに攻撃をしてきた。しかし、それだけではなかった

「…ぐっ!」

足に鈍痛が奔る。周りを気にしながら足の方を見るとそこにはどこにでもありそうなナイフがあった

幸い、バリアジャケットのお蔭で刺さりはしなかったが、もしもなかったならば膝の少し下あたりに刺さっていただろう。疑問が少し頭で再生される。

どうしてナイフが……?いやそれよりも何故さっきの武器が戻ってきた……?

思考の時間は一瞬。それも経験によって答えを導いた。答えは後ろにいるであろう少年。そう━━━あの少年は飛んできた武器をそのままキャッチしてこっちに投げ返してきたのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。そうでなければ落ちた武器を拾って投げたにしてはタイムラグが無さ過ぎなのだ

そして武器を投げた後に恐らく自分で隠し持っていたナイフを足の方に投げたのだ

青年から貰った武器を囮に。本命の攻撃を隠したのだ。しかし、そこは魔法初心者だからか。結局はこっちに痛手を与えることは出来なかったが。それでも薄ら寒いものが背中を走る

「ちっ……どうやらただのナイフじゃあ、その服を貫くことは出来ないようだね」

後ろから少年の独り言が聞こえてきた。きっと表情は無表情だろう

侮っていたと歯噛みする。身体能力は同世代では高いが自分には通用しないと思っていた。経験も技術も、すべてが自分の方が上だと過信していた。しかし、それは誤解であった

足りない部分は相方の力を利用し、または利用される。しかも、驚きな事に恐らく初の共闘だというのに見事に息を合わせているという事だ。どちらが合わせているのかはまだ解らないが、どっちにしろかなりの脅威であるという事は間違いない

「……どこからナイフを取り出したのだ?」

「何処でもいいでしょう?大丈夫ですよ。俺は一応武器を隠し持っているという伏線を引いているので、遠慮なくその伏線を利用させて貰っただけなので」

言っている意味が理解できないので無視した

とりあえず今、理解したことは一つ

この少年たちには『全力』で当たらなければいけないという事だ






















あとがき
久しぶりに投稿です
余りのゆっくりさに自分も驚愕ですが、何分多忙なのでそこらへんかご容赦を……
ようやく戦闘シーンに入れました
これでようやく自分的物語が始まったという事です
……物語が始まるのに三十話もかかるとは……我ながら長かったと思います
出来ればそんな遠まわしな物語をこれからもお付き合いをお願いします
オリジナル魔法は出ましたが、そこらへんもどうかご容赦を



[27393] 第三十六話  【修正】
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/11/06 22:45
「失礼をした」

いきなりの事で面を喰らった。それは恭也さんも同じだったようで少し疑問を抱いている様子であった。別に何も相手はへんな事をしていない。普通に俺達の命を刈ろうとしただけだ。

「いや、それは充分に普通じゃないわ……」

世迷い事は無視した。

「別にいきなり謝られるような事はされてはいないと思うがね?」

一応話に乗っといた。相手の罠の可能性は十分にあるが、今のところその様子はない。勿論、油断など全然できはしないが。それに正直、最初からかなり派手に飛ばし過ぎだ。

気づかせないようにしているが、結構息が上がっている。逆に息が上がっていない恭也さんが羨ましい。どんだけ修業したらそんなチート能力を得られるんだか。ちょっとレシピを教えてほしい。

「……そういう失礼ではない。君達の力を誤っていた。そういう失礼だ」

「そんなに褒められても出るのは高町の財布だけだぜ」

「アレ!?何の脈絡もなく私の財布を売られた!!?というか何でなの!!」

「黙れ、良く考えたら俺がこんなおかしな魔法騒ぎに巻き込まれた諸悪の根源。お前さえいなければ今頃せめてもう少し有意義な休日を過ごしてたわ」

「慧君の有意義な休日というのも気になるところがありますが、とりあえず言いたいことがあるの。魔法関連で最初に合ったのは確かフェイトちゃんだったね!?」

「馬鹿だなぁ、高町。お前とフェイトが一緒の扱いを受けられると思っていたのか?」

「うわぁーん!!薄々理解していけど真正面から言われたら痛いなの!!」」

今、有意義な時間を過ごしたようで過ごせなかった気分がした。全部高町が悪いという事にしておこう。何せ高町のせいで雰囲気が変な方向に行ってしまったのだから。

「さて。それで?俺達を無駄に褒めてどうするんですか?何かくれるというならば貰いますよ。それが俺達の将来に貢献してくれるようなものであれば」

「……簡単だ。君達には僭越ながら私の本気を受け取ってもらおう」

嫌な予感が俺と恭也さん。二人に走る。まぁ、大体そんな予感はしていた。幾ら恭也さんが人間として常軌を逸する身体能力を持っているとはいえ、少し簡単に戦闘が進んでいると思った。

まぁ、簡単に言えば上手く行き過ぎ。人生楽に行けるものじゃないという事だね。理解していたこととはいえせめてもう少し難易度を下げてもらいたいものだ。俺はLUNATICなんて出来るレベルじゃないんだ。

「おやおや。残念ながら有り難く返却をしたいと思うが、どうかね?なに。遠慮なく返却をさせてくれたまえ。俺は寛容だから許してやろうではないか?」

「……返品不用だ。受け取れ」

寒気が一瞬で背中を走り抜けた。

それに合わせて無機質な声が辺りに響き渡る。そして同時に目の前の男に魔方陣が展開される。音は名前を表し、そしてさっきまでと一緒でシンプルな名前だった。

『SPEED UP』

起こった出来事はまさしく高速の一言だった。

シンプルな言葉の通りにシンプルな結果を出そうとしている。最初に現れた変化は風だった。さっきまではそこまで吹いていなかった風がまるで車か何かがそばを通ったような風向きになって俺達を叩いた。

次に見えたのは砂だった。ここは高町家の庭。当然、足場はコンクリートじゃなくて砂だ。故にさっきの例えの続きで行くと車みたいなものがここを通ると砂埃が立つだろう。

そして最後に音。それも何故かという思考が追いつかないけどそれは俺の背後から聞こえた。そう。がちゃという金属音が。

「……!」

理解をする暇なんてなかった。ただ直感が告げていた。避けなければ死ぬという余りにも簡単な直感。だけど絶望的な直感。最悪な未来予想図が頭の中で出来上がってしまう。

その未来予想図を現実にしようという意思のもとで金属的なナニカが俺の首に振われた。

風邪を感じてみるとそれは左の方から来ていた。それを信じて体が勝手に反応を起こす。首を右に逸らしながら、下に勢いよく落とすという回避方法。少しでも左からの物を避けるために。

しかし、それは少し遅かった。


斬っ!という音と共に首が斬れ、血が迸っていた。


「……っ!」

そこを驚異の速さで追いついた恭也さんが後ろにいる老兵と言ってもいい人間を刀で吹っ飛ばした。勿論、相手は防御をして無傷だが。その間に俺の襟首を掴んで距離を離した。

そして距離が開いた所で

「慧君!無事か!?」

「命の危険の大安売りですよ。何なら恭也さんにも売ってあげましょうか?ちなみに頸動脈まで残り数センチってとこでしたかね。さっきの攻撃は。」

「冷静に頭をいかれさせている場合か!!」

失礼なと思いながら自分の足で立ち上がる。そこで少し立ち眩みをして転びかけたがそこは何とか姿勢制御。転びかけたところで周りが少し小さい悲鳴を上げかけたが今は無視。正直構ってられない。

「ほう?今のに対応したか……中々反応が早い……」

「生憎と体は恭也さんや貴方ほどではないけど鍛えていてね。そうでもしなきゃ、バニングスやすずかの攻撃に耐えることが出来ないのだよ。とても最悪な事に」

「アリサちゃん!!今はシリアスだから反応しないでね!!」

「なのは。今ので貴方が私をどう思っているのか解ったわ。というかなのはの方がシリアスなんだから考えなさい!!」

どちらにしてもシリアスを妨害していることは確かなので無視しといた。首筋に手を当ててみる。そこからにちゃりとした粘着的な赤い液体が手に付くのがわかる。あの地獄で見慣れたものだ。

「成程。貴方が近接系に特化しているんならばちゃんと候補に入れておくんだったな。てっきり身体能力を上げる魔法が得意のだと思っていたんだが、それは半分正解で半分外れか」

「……いい読みをしている。だが、確かに不正解だ」

「━━━フェイトと同類か。近接加速魔導師・・・・・・・。それがお前の能力か」

基本が最強という言葉を忠実に再現した能力。この老兵にはふさわしい能力と言えば能力だろう。全てにおいて最強とは言えないが近接において最強と呼ばれるのに必要な力の一つだ。

「……少し違うな。私はそこの少女と違って魔法の才能はそこまでない。総量もなければ他の能力の才能もない。飛ぶことすら出来ない出来損ないの魔法使いだ。これだけ経験と訓練を積んでも動きだけで言えばそこの青年みたいなことも出来ない。所詮は非才の身だ」

ちっと思わず舌打ちをする。何が非才の身だ。その非才をここまで来させたのはお前の意思だろうに。才能なき身を上り詰めるための意思を人は何というだろうか。

答えは簡単━━━努力だ。

つまり、この老兵は最近、流行の努力家の人間だという事だ。ん?いや、最近はむしろ怠惰型の主人公の方が人気だったんだっけ。最近の流行は難しいものだ。

「だが━━━そんな私でも一つだけ取り柄があってね。私の加速魔法は移動に限らず、他の魔法にも付与することが出来る。例えば━━━さっきの射撃魔法に加速魔法を付与させたりな」

最後の一言に俺と恭也さんの息が一時的に停止する。

さっきの射撃魔法。確か名前はガトリングソードという捻りも何もない射撃魔法。そのスピードは銃弾以下で避けれない事もないが、それでも中々早いというものであった。

冗談じゃない。さっきは囮になるためにスピードをちょっと落としていたが、それでも十分に速いと言ってもいいぐらいのスピードだった。それにさっきの加速魔法を使われるという事になれば洒落にもならない。

その俺達の思考を知ってか。無情にもさっきの魔方陣が展開される。

「おい、慧君。何か奇策はないのか?」

「少しは自分で考えましょうよ、恭也さん。俺よりは大人でしょうが」

「残念ながら俺は自分の限界というのを知っている。頭の面で言うならば俺は美由希よりも低い」

「堂々という所ではないでしょうが。それに日常の頭と戦闘の頭は違いますよ」

「では、言い直そう。戦闘の頭で言うならば俺は君よりも低い。君みたいに初見の相手と息を合わせるなんてことは俺にはまだ少し無理だ」

「残念。俺は恭也さんと息を合わせた覚えなんてないですよ。偶然偶然。よし、いい作戦が浮かんだぞ。片方が片方の盾になるという奴だ」

「却下だ。俺が君の盾というならばともかくな」

「……冗句だからマジ返ししないで下さい」

そんなことをするわけないじゃないですか。俺は他人なんかどうでもいい主義の最低最悪。否、最悪にして災厄でしたっけ?別にどっちでもいいけど。

お互いとりとめない冗談を言い合ってまだお互いが冷静であることを確認し合った。とりあえず自分たちの心がまだ折れていないだけでもマシな状況だろう。そうでなければ一瞬でゲームオーバーだ。

そして勿論だがリセットボタンなんてないし、コンティニューすることも出来ない。ああ、何て素晴らしい現実。生きていた本当に愉快な事ばっかりだよ~。(棒読み)

「で、結局、結論はどうなんだ?」

「ええ。簡単ですよ。」

おふざけをしている間に相手の魔方陣はもう輝きだしていた。背景の人達が何か避けろとか逃げてとか叫んでいるのが聞こえたがそんなの聞いている余裕なんて全くこれっぽちもない。

そして俺は一層輝きだした魔方陣を見て叫んだ。

「とりあえず、逃げ続ける事です!」

輝きが発せられた。そう思った時は既に恭也さんによって再び襟首を捕まえられて、運ばれていた。そのお蔭で目の前の猛威が派手に見える。確かにガトリングガンの名前に相応しいものだった。弾の剣は既に視認できるスピードではなくなっていたし、効果音もおかしい。

音がガガガガガガガガガガガガガガガガ!!と連続で鳴り響いている。正直俺はあんなものを避けるのは不可能だ。恭也さんの人間離れした運動能力があるからこそ今は避けられているのだ。

俺では二秒ぐらいは生きることが出来るだろうけど、その後はもう無理だ。その後はズタボロになったゴミ雑巾のようになってその辺を転がっているだろう。つまりは死。

「恭也さん!今こそ隠された力を発揮して敵を倒すシーンですよ!!遠慮なく主人公パワーで敵を圧倒してください!!」

「君こそ!こうやって力がないような子が意外と力を隠しているって言うのが今時の感じじゃないのか!」

「二人とも!こんな状況で何でボケられんの!!?」

勿論、余裕なんて皆無だ。俺がこうして軽口をたたいているのは恭也さんに少しでも冷静になってもらおうという試みだ。決して恭也さんで遊んでいるわけではない。そう、決して恭也さんで遊んでいるわけではないのだよ!!

「慧君!後ですずかちゃんと二人きりにしてやる!!」

「この悪魔めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!!!」

「バッチ来ーーい!!」

「ええと、ケイも恭也さんも実は余裕があるんじゃないかな……」

フェイトよ。そこは突っ込んではいけないところだよ?流すところなんだ。そしてすずか。断固として断る。そんなことをするぐらいならばこのガトリングガンに真っ向から突っ込んだ方がまだマシだ。

とは言っても困ったもんだ。この状況では風雷慧は役立たずの一言だ。囮になろうにも囮に徹しようとする前に死んでしまう。サポートすらできない足手纏い。これじゃあ一般人と何も変わらない。

それは余りにも最悪なので

「恭也さん。素敵な作戦が浮か━━━」

「君を見捨てろとかいうのならば却下だぞ」

「……少しは合理的になりましょうよ」

「何が合理的だ。友を見捨てて生き残るくらいならばそれこそ死んだ方がマシというものだ」

「それはとても恰好が良くて良いですけど、その考えは早死にの思考ですよ」

「忠告は有り難くいただけが悪いが性分だ。それよりもだ。君みたいに生き汚い人間がそんなんで諦めるとは覚えないのだがな。」

「……んー」

「あるんだな?」

いや、あるにはあるんだけどね。っとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉ!!!今、俺の靴の底にかすりましたよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!忘れがちだけど今も撃たれ続けています。

「いやー、あるにはありますよ~」

「じゃあ、早くしろ」

「それがとてつもなく卑怯というか何というか……」

「君らしくない。君ならば卑怯でも何でもして生き残ろうとするだろうに。」

「……本当にいいですか?」

「今回だけな」

「……怒りませんか」

「くどい」

「じゃあ、遠慮なく」

恭也さんの赦しを貰えたので俺は本当に遠慮なくその策を取り出した。いつも通り袖から隠していたモノを取り出す。そこにはあら不思議。黒光りするものがあるじゃないですか?

「っ!」

向こうのお爺さんはこっちが高速魔法の説明を聞いた時と同じようなリアクションを取る。俺はそれに満足しながら同じく呆然としている周りや恭也さんを無視して、そのまま発砲用意。

あちらさんはあちらさんで発砲をするのを諦めて明らかな回避行動を取ろうとしている。

俺はそれを観察しながら

「BANG」

連続で発砲した。重い音と物凄い反動に体が振動したがそこは何とかした。物理的に。そして撃たれた老兵はというとあの加速魔法で銃弾全部を全て簡単に躱していた。

まぁ、予想していたとはいえ一発くらい当たった方が可愛げがあると思う。爺に可愛げとかあったらそれはそれで嫌だと思い、自分の考えを消去した。とりあえず当初の目的は達成した。

それを報告しようと恭也さんの方向に顔を向けると何やら言葉にし難い表情をした恭也さんがいた。はて?一体何が合ったのやら?こんな戦闘中に意外と冷静なと思いながらも恭也さんに向けて台詞を放つ。

「ふむ。恭也さん。見事に相手の動きを止めたぞ。称賛してくれてもいいぞ?世界レベルで」

「戯言は無視するが、とりあえず聞こう━━━何だその拳銃は!?」

「何だと言われてもただの拳銃だが……ああ、拳銃の種類とかを聞いているんですか?それならば俺は知らないから説明できませんよ。そんなに知りたいんならば学校に一人はいるはずの拳銃もしくは軍オタの人に聞いたら多分わかると思いますよ。質問は以上ですか?」

「解った。ちゃんと要点をまとめて聞こう。まず、それはどこで手に入れた?」

「ふっ。詳しくは第九話と第十話を。そのどさくさに紛れてちょいと拝借させて貰っただけですよ」

「とりあえずメタな発言はするなと言わせて貰おう。そしてもう一つ……手癖が悪すぎるぞ!」

「それは俺の罪ではない。そう、この手がいけない!勝手に動いてしまうこの手が!だから勝手に動いてしまった俺は許してくれますよね?」

「少し正常になってくれ。そしてまだ聞きたいことがある。銃刀法違反という言葉を知っているか?」

「鏡を見てその言葉を言ってください。」

「くっ!……とりあえず後でそれは没収とそして君の袖の中身を後で調べさせてもらおうか」

「残念ながらこれで弾切れですよ?」

言葉通りに弾切れとなった拳銃をそこらへんに捨てる。撃つことも出来なくなった拳銃なんてただの重りにしかならない。つまりただの邪魔。

弾を補給出来たらよかったのだが、生憎、そんなツテはないのだ。

友達は少ないというのはこう言う時に辛いものだと思う。そう思いながら敵対している老兵を見てみる。そこにはさっきからこっちを射殺すように見ている敵がいた。

「……外すと解っていたようだが、それでも何の遠慮もなく拳銃を撃つとはな……」

「ん?ああ。そっか、あんたは俺の信条を知りませんでしたっけ?では、特別に教えてあげましょう。俺の信条は手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐になんですよ。だから、別にアンタに拳銃を向ける事には何の躊躇いもないし、罪悪感もない。やることをやったって言う感じだね。大体、まさか自分は殺しに来ているのに自分は殺されないとか思っているんじゃないでしょうね?だとしたら物凄くおめでたい頭だ」

「……確かに、その通りだ。自分だけ殺されないと思うのは確かに都合が良すぎるな。しかし、私が言っているのは君がもしかしたら私の命を奪うかもしれない選択を簡単に選んだという事だ」

「また定番の質問を……。別に人を殺したいなんて言う願望はないですよ。単純にまだ死ねないからだから自分の命の代わりに貴方の命を消費する。そんなの当然でしょうが」

「……死にたくないからではなく死ねないからか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

微妙に痛いところを突かれたがとりあえず無視した。傲岸不遜な態度を取っているが今の状況はさっきとそんなに変わらない。相手はまだそんなに体力を消費しているようには見えないし、魔力の方は俺達には解らない、

自分たちが有利かどうかがわからないというのは精神的に不味いものがある。本当に相手を追い詰めているのか?実はまだまだ余力があるのではないかという疑心暗鬼に囚われて余分に体力を消費してしまう。

加えて俺は足手纏い。恭也さんだけならば実力の面で言うならば食らいつけると思うのだが……違う所で微妙だ。

どうしようかと悩んでいたら恭也さんが俺の前に立った。

「慧君。君はここで傍観しておけ後は俺がやる。」

「……状況を理解しているんですか?別にこっちが有利に立っているというわけではないんですよ?」

「だが、君はあの老人の動きについていくことは出来まい?」

「……」

事実であるので俺は無言を選んだ。ガトリングソードの方がどうしても脅威度が高く見えるが、あの老兵の一番の得意手は近接戦闘だ。自分を卑下するような言葉ばっかりを言っているが、あの恭也さんの攻撃を受けてもまだ倒れていないという時点でかなりの腕前というのは誰でも解る。

老いはしても枯れはしていない。それが老兵という者の在り方だろう。敵に回したらこれほど厄介な存在は中々いないかもしれない。それは俺や恭也さんも同じ条件か。いや、俺の場合は味方にも何の遠慮なく迷惑をかけるから俺は更に傍迷惑な存在かな。別にそうであってもどうでも良い事だけど。

そんな事を言っている場合ではなかった子を思い出す。

「だが、恭也さんとあれとじゃあ経験の差が開き過ぎている。なら、さっきまでと一緒で━━━」

「生憎だがな━━━俺は馬鹿でな。経験の差如きで止まるような賢い思考をしていないのだ!」

「……!この馬鹿……!」

説得しようと思った瞬間。恭也さんは老兵に向かって突っ込んだ。思わず追おうとするが体の反応が遅い。理由は単純に俺の運動神経が恭也さんほどではない事と。体力を思った以上に消費していたことが原因だ。

「っ。こなくそ……!」

自分の才能の無さに思わず舌打ちをしてしまう。むしろ、その年齢でよく頑張ったと言われるような働きをしているのかもしれないが、そんなのは風雷慧にとっては何の賛辞にもなりはしない。

否。元々賛辞などいらない。今、重要なのは恭也さんが一人特攻をしたことと。自分の嫌な予感が当たりそうなことだ。嫌な予感は嫌な現実を引き寄せるという。そして残念な事にそう言ったのは中々外れないのが世界という者だ。良い予感は大抵外れるというのに。





















無表情の少年を置いて老人に特攻を仕掛けようとしながら置いていった少年の事を考える。

そして内心苦笑する。あんな合理的とか何とか言っていたが何てことない。彼は多分だが俺の事を心配してくれたに違いない。本人に聞いたら絶対違うというだろうけど。何だかんだ言いながら彼は甘さを捨てきれていない。

それこそ甘さを捨てていたならば俺に盾となって死ねとか言うだろうに。さっきの銃だって。あの場面じゃなくさっきの自分の袖に仕込んだナイフの代わりに拳銃を使っていたならばこの戦いも相手の死という結果で終わっていたはずだ。

彼は大嘘吐きだと改めて心の中で思う。彼は他人を信じないという。ならば、その分俺は彼を信じたいと思う。例え彼自身がいかに醜悪で、最低で、最悪でも。それでも━━━彼は救われると思いたい。

それなのにだ。彼は何時でも責め立てられる立場であった。生き方が醜悪。卑怯。汚い。生きているべきではない。気味が悪い。気持ち悪い。人でなし。化け物。怪物。ありとあらゆる罵倒を彼は何時も聞いていた。

それに関しては少年は無視していたが、俺は無視できなかった。それに関してはある種の理不尽を感じていた。他人事だろうと少年は言うだろうけど俺の性格はそういうのを許せるような大人ではないのだ。だから思った。



どうして必死に生きようとする少年がここまで言われなければいけないのだと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



彼は悪人と謳っているが実は悪人と言われるような事をやったことは一度もないのだ。勿論、彼は自分の心情通りに遠慮とかはしない。だから、騙すことも卑怯な事も罵る事もしている。だから、完璧な善人というわけではない。

しかしだ。彼はその卑怯な手段は多くの場合、自衛か身の回りを守る事にしか使っていない。自分から誰かに敵意を向けるようなことは一度もしていないのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。つまり、彼がやっている事は自分とは手段が違うが、目的は一緒なのだ。

それなのにこの扱い。これではあんまりではないか。だから思ったのだ。


せめて自分だけでも彼の事を守れるような人間にならなければいけない。


勿論、彼だけではない。家族は勿論のこと。アリサちゃんや月村家。そして忍。今日、新しくなのは達の友達となったフェイトちゃんやユーノ君、アルフさん。それらも守護の対象だ。

そこに下もなければ上もない。その中に慧君を入れているだけだ。だけど、それが重要なのだと思う。きっと誰も彼にそんな事をしようと思った人間はいないのだろう。だからこそ、自分がならなければ。

御神の剣士として。高町士郎の息子として。一人の男として。一人の人間として。一人の大人として。一人の戦友として。彼の友の一人として。そして高町恭也として。

その為にも。

目の前の障害を切り払う……!


「っあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

修業中にも滅多に出さない大声を出して気合を入れながら目の前の老人に斬りかかる。手加減などまさしく無表情の少年と同じで全くしてない。そもそもだ。手加減をしている余裕なんてないし、しない。それは侮辱になるからだ。

「ふん……!」

老人も同じ考えのようで彼は真っ向から俺の攻撃を受け止めた。『徹』を使おうかと思ったがとてもじゃないが精神的に余裕がない。ここまで老いても、衰えた様子がない。プレッシャーだけならばまるで巨木を相手に剣を振っているような気分だ。それも何百、何千年も生きた歴史を刻むような巨木相手に。

「……っ、パワーも良し、剣の立て方も良し、スピードも良し、そして意気込みも良し。若く、そして何よりもその瞳に籠っている意志が強い……!惜しい。本当に惜しい!君が敵ではなかったのならば私はこの手で未来を担う若者の命を奪わなくて済むのにな……!」

「ならば、退いてはくれませんか!俺とて背を向ける相手の背中を斬る趣味はない!今ならまだ━━━」

「もう遅い……!我らはもはや引けぬところまで来たのだ!此処まで来たならば最早退却という選択肢などない、あるのはただ復讐を果たせと言う怨念のみ!」

「しかし、それでは堂々巡りだ!復讐はまた新たな復讐しか生まない。貴方人ほどの武人がそれを知らないはずがない!」

「青いな!そんな理屈などで止められるのならばそもそも復讐という言葉は生まれてはいない!!」

金属音が連続的に鳴り響く。鉄と光が交差し合う。もう既に何回剣を振ったか。数える事など億劫だし、何よりもそんな余計な事を考えていたらこちらの首が飛んでしまう。

「━━━」

息を呑む声が多数聴こえる。それも当然。家族では自分の実力を知っているのは父さんと美由希だけだ。他には月村家の皆と慧君ぐらいだ。他の子供やヴォルケンリッターは知らない。

そんな驚愕を伴うような技術を以てしてもいまだ目の前の老兵を打ち倒すことが出来ていない。

こちらの攻撃を避けきれないときは高速魔法を使って避け、防ぐときは盾みたいな防御魔法を使って受け、攻撃してくるときは手に持っている灰色の光の剣を使って攻撃をしてくる。

その動作に迷いはない。一つ間違ったら命を落とすという戦いにおいてこの動き。こちらにはそちらでいう非殺傷設定というものが使えないというのにも関わらずだ。

その顔に浮かぶのは確信だ。様々な戦場を駆けて、そして生き残った経験という勘だ。こちらの武器が魔法とは違うとはいえ、ヴォルケンリッターのような例があるのだろう。接近戦でこういう風に戦うのが初めてという動きではない。

「疾っ……!」

相手の剣をまるで掴み取るかのように剣を回し、受け止める相手の剣を逸らして、そのまま突きを放つ。

相手はそれに怖気ず、逆に前に出てきた。そして前に出した左足の膝を曲げて体を下げることによって突きを簡単に避けてくる。そしてそのまま逸らされた左に逸らされた剣をそのまま引き戻し、そして薙いでくる。そう、両足を。

「……!」

呼気一つで薙いでくる。俺も最低限な動きで後ろに……不可。そしたらそのままあの加速魔法を使用して来るだろう。そうなったら避けることは叶わない。飛ぶことなど以ての外。忘れるな。相手の片手が空いていることを。あれでは何時でもこっちを拳で攻撃できるのだ。

幾ら剣よりもダメージが少ないとはいえ、有利ではない今の状況では些細なダメージが勝敗を決める。ならばこの攻撃を躱したうえで次の攻撃にも対処できるようにしなければいけない。

一瞬の思考すらも勿体ないと思い、体が動いた。

方法は簡単だ。相手の足元を狙ってくる攻撃を足で踏むという。所謂、武器破壊という業だ。本来ならば刀を折れてもいいかもしれないが、相手の刀は魔法というものだ。折れるかどうかはわからない。

しかし、相手の剣の動きは止まるだろう。そして成功すれば次の攻撃にも対処ができる。果たして、結界は成功だった。

流れるようにまるで足を踏んだ場所に丁度来たみたいな結果で相手の剣を踏み、そして止める。半ば予想したとおりに剣は折れなかったが、それは逆効果だっただろう。相手にとっては。何せ手で持っているものを踏みつけられているという事は自分の行動も封じられたというのと同義なのだから。

そして俺の使っている剣術は小太刀二刀御神不破流。小太刀二刀。つまり、左手にはもう一つ剣があるという事だ。その剣で遠慮なく袈裟斬りを放った。右肩から左脇腹を斬る剣閃だ。

相手の判断は一瞬だった。灰色に光っている光の剣をパージしたのだ。そんな機能があるという事は知らなかったので、少し驚いたが左手の勢いは止まらない。このまま行けば結局は袈裟斬りを━━━

『SPEED UP』

ならなかった。

一瞬で自信を加速して後ろに後退したからだ。慧君の思った通りにかなり厄介な能力だ。攻防一体。シンプル故に最強。御神流故に動きは見えているのだが、一瞬の加速ならば御神流よりも早いかもしれない。慧君からしたら俺も似たようなものだというだろうが。

「……ふぅ。全く……最近の若者は末恐ろしい……」

「……貴方に言われたくないな」

「なに。こっちはそっちの少年に言わせれば道具を使ってインチキをしているだけだ。実際にはそんな動きは出せない。手品を使っているようなものだ。それも二流の手品だよ……」

老兵は自嘲して自分の技術について語った。つまり、自分の力はまやかしで作られた虚構であると。自分の力ではなく、ただ相手を騙しているだけだと。

「……そこまで卑下しなくてもいいでしょう。ここまで俺の剣を躱せれたのは貴方の今まで培って出来た力です━━━出来ればこの能力をもっと有意義なものに使って欲しかったのだが。」

「……そうだろうな。」

「何故ですか。貴方達が大切なものを失くした。その気持ちは━━━」

「解ると、そういうつもりかい?」

空気が変わった。この会話は戦闘中のちょっとした息抜きと捉えていた。それが今、重要な空気を変えた気がした。特別な何かをしていないのに何かが変わった気がした。

「貴方の気持ちがわかる。そういった善意溢れる言葉━━━それがどれだけ苛立たしいか。貴様には、貴様には解るまい……!」

「……それは」

「何故ならば━━━君には守れる存在がいるではないか!!」

「━━━!」

激昂した一言と共に老兵が突っ込んできた。さっきまでの考えての行動ではない。明らかに感情に従っただけの暴走だ。策もなければ罠もない。人としての感情をぶつけるという単純な行動であった。なのに反応が出来なかった。

何とか両方の刀を十字にして相手の剣を受け止める。今までよりも更に重い剣だった。そして剣の向こうには修羅すらも逃げてしまいそうな憤怒に染まった顔であった。

高町恭也はそれを見て純粋にただ想った。

何と━━━怖いと。

「君には守れる家族が、友人が、彼女がいる!!それなのに言うに事欠いて私達の気持ちがわかるだと……!どの口がそれを言うか!!その言葉を言うならば最低限自分の大切なものを失くしてから言え!!」

そしてその後は仕切り直しをして何回も剣を叩きつけられる。その度に震える体。果たして震えているのはそれだけのせいだろうか?違う。解るのだ。剣士として。剣から相手の激情が流れ込んでくるのが。

皮肉にも。高町恭也が超一流の剣士であったからこそ読み取れてしまった感情。

すなわち、後悔と。

「何度も夢に見た!守れなかった人たちを!死んでいった人達を!助けたかったという無念と助けてほしかったという想いを!ただ苦しいとただ生きたいと思った家族や友人、恋人を見た!もう一度会いたいと涙を流しながら散っていく人を見た!!それを何度助けたいと、守りたいと、そう思ったか……!しかし、夢とは残酷なものだ!出来ないと頭でわかっている事は絶対に叶えてくれない……!」

連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打。

何回撃たれたかどうかももう覚えていない。平常時のコンディションではない事なんてとうの昔に気づいている。命を奪い合う戦場だからか?

否。命を奪い合うと言うだけならば既に月村家で一度体験している。しかし、その時でさえこんなことにはならなかった。そう━━━あの時はただ仕事で戦いに来た人間と魂がこもっているとは言い難い人形と戦っただけなのだ。

憎しみ、もしくはそれ以外の感情を持って戦うという戦いは今のところ一度として戦った事がないのだ。それ故に圧倒される。余りにも情けなくて、虚しくて、悲しい強さを持って攻撃されたことが一度もない青年はそれに耐えるという術を知らなかった。

「そして現実は更に非情だ!目の前で守ろうとして出来ずに死んだのならば、それこそ自身の力量不足という事でヴォルケンリッターんの代わりに自分も恨んで少しは彼女達を赦せたかもしれない!しかしだ!実際は私達の目の前で死なず、何時の間にか死んでいたといことだ!何なのだそれは!!では、今までの生涯は何だというのだ!?ちっぽけな力だ!!こんな仕事に就いても守れたと言える人間は少数しかいなかっただろう!だけど、そんなちっぽけでも━━━せめて自分が心の底から守りたいと思えるものを守らせてくれてもいいだろう!?それなのに!それなのに!守るどころか死ぬところさえ見せてくれなかったのだ!!」

痛い、苦しい、辛い。そんな思考だけが心に流れる。鬼神の如き表情と剣で俺を追い詰めてくる老兵。そう、追い詰められているのだ。精神的にも、肉体的にも。

「いっそ死のうかと思った!狂えたら楽だと思った!!世界なんて何度滅びればいいかと思った!自分は何と惨めなのだと思った!何故、家族、友人、恋人が死ななければいけないのだと何度も思った何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故!!!何度そう自問したか!!そして行き着いた先がここだ!!君に、君如きが我らの気持ちなど……解るはずがない……!」

最後は強烈な上段からの大切断を受け止めたせいで体が後ろの吹っ飛んだ。とてもじゃないが体が反応しない。良く見れば剣を握っている手が痺れで震えまくっている。

痺れた思考で何かしないとと思ったら目の前に灰色の光が現れた。前を見たらそこには魔方陣。確かガトリングソードとかいうのを発射するための魔方陣だったはずだ。それが展開されている。

動きゃなきゃと思う。動いて守らなければという想いもある。だけど、体は動こうとはしなかった。体力がなくなったわけではない。重傷を負ったわけでもない。ただ動こうという気力が削られたのだ。

理由は解ってしまった。この人達を止めることが出来るほどの理由が自分には存在しないのだ。こっちはただ誰かを我武者羅に守りたいという至極単純な理由だ。

しかしだ。それは今、敵対している人達が昔持っていた願いでもあったのだ。その人達は守りたい人を守れずにその悔しさとを殺意にしてこちらにぶつけてきた。それはつまりだ。


この人達は自分が誰かを守れなかった時の高町恭也のIFではないのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


考えてみろ。もしも自分が彼らみたいに大切な誰かを守れなかった場合。彼らみたいに怒り狂わないなんて言えるか?━━━言えるはずがない。そんなものを否定できるほど自分は強くない。

それなのに。そんな自分が彼らを否定してもいいのか?いや、そもそも否定できる立場なのか。そういった疑問が体を重くしてしまい、普通ならば避けれたはずの攻撃が目の前で動く。

「認めろなんて言わない……!ただ、我らの暴走に巻き込まれ死んでくれ……!」

そして灰色の光が発射した。

周りの人たちが声を上げる。それすらも今の自分は得てもいいものなのかと思う。どっちにしろもう駄目だ。反応するにはもう遅い。ここはもう潔く消えるしか術がない。

ならばせめて目を閉じて━━━


「恭也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


大切な声が聞こえた。

そしてドバっと肉に何かが刺さる音がした。

刺さったと思った。しかし、妙だと思った。自分には全く痛みを感じていなかったからだ。それとも即死してしまったのだろうか。せめて、その事実を確認しようと思い、目を開くと。そこには。

何時もの無表情で

俺をかばって左腕に剣を生やした慧君がいた。























あとがき
更新が遅くなって申し訳ありません。
とりあえず、今回は戦闘ばっかです。
戦闘中でも冗談を言っているのは自分たちが冷静であるという相互の確認みたいなものです。作者にとって。
戦闘が上手くかけれていればいいと心底願います。

追記
ほんの少しだけ修正しました。
とは言っても全然変わっていませんが。
次は主人公がメインで戦うようにしたいと思います。
魔法使い組の出番は何時になるやら……。
そして僭越ながら聞きたいのですが、今回のバトルはどうだったでしょうか?
少しでも戦いの雰囲気が出ていたのならばいいのですが……。



[27393] 第三十七話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/11/23 21:35

愕然とした。目の前にある光景が正しく認識できない。それとも認識したくないのか。どっちにしろ目の前の事実は変わりはしないし、変わろうともしない。

目の前にある光景。少し遠くには剣を持った老人がこっちを見ていた。顔を少し驚きに変えて。しかし、それでも油断はしない様に剣を構えていた。普段ならば流石と思うがそれすらも出来ない。

周りの風景には自分が心底守りたい人間がいた。家族、友人、恋人。みんながみんなこっちを心配して、そして驚愕していた。愕然としていたでもいいかもしれない。無理もない。自分も愕然としていたからだ。

そう、その問題とは。


さっき傍観していろと言って離れたところにおいておいた慧君の左腕に灰色に輝く幻想的な剣が刺さっているのだから。


「━━━っ!慧君!?」

「あ~。うん。久々に大怪我だな。」

そんな状態だというのに彼はまだ何時も通りに軽口を言って、そして無表情である。あれだけの怪我だ。かなりの痛みが左腕を中心に走っているはずなのに、その表情には何の変化もない。

しかし、今は彼の表情に構ってなんかいられない。周りからも悲鳴が飛び交っている。どれが誰の悲鳴かなんか解らないし、余裕もない。多分だが、今、この瞬間。俺は人生で二番目くらい焦る出来事を体験している。

一番目は父さんが死にそうになった時。そして二番目が今。目の前の光景。幻想的な剣は、しかし、現実的に彼の左腕を貫いている。そこから血が泡のように噴き出ている。今は刺さっている状態だからドバっとは出ていないが、アレを抜けばすぐさまそうなるだろう。

思考が空回りする。何をすればいいのか解らない。何をどうすればいいか解らない。情けないという考えだけが頭の中で浮かんできた。今まで自分がしてきた訓練が何も行かせていないという頭の中の冷静な声が俺に告げていた。


だからこそ、いきなり体を押されても反応出来なかった。


「……!」

何故押されたのかとようやく回りだした頭が目の前の光景を処理する。押した人間は慧君。どうやら無事な右腕でこちらを押したようだ。押した原因はちょっと離れていた老兵。何時の間にかすぐ近くに来ていて、こちらに斬りかかっていたようだ。それに反応して慧君が助けてくれたという事だろう。

精神は暴走状態なのに体は訓練の習性か。少したたらを踏むだけで直ぐに体勢を取り戻した。慧君は慧君で俺を押して直ぐに避けたらしく、こっちの傍にいた。

そしてようやく、俺は声をかける余裕が生まれた。

「……っ!慧君!無事か!?」

「これで無事に見えるんならその目は義眼に変えた方が良いんじゃないですか?まぁ、別に動くから無事といっても別にいいですけど」

またもや軽口を言って、そしてそのまま自然な動作で左腕の剣の方に右手を近づけ


遠慮なく左腕から剣を引き抜いた


「!!慧君!?」

「邪魔」

比喩ではなく間欠泉のような血が大量に溢れた。周りの皆が、目の前の老兵が息をのむのが聞こえた。しかし、彼はそれには頓着せず、そのまま残った二本を引き抜いた。

血の勢いが激しくなった。そのまま彼は血で濡れた左腕の服の部分を右腕で器用に引き継ぎって、布として止血をする。それは彼の年齢からは似合わないくらい慣れた手つきだった。

彼は大体一、二分で応急手当てを終えた。無論、その間彼は一度たりとも敵から目を離していなかった。だからこそ、相手も攻撃をすることが出来なかったのだ。

でも、俺はそんな事は知ったことではなく、ただ俺は目の前で怪我をしてしまった少年をただ心配するしかなかった。今までこんなにあせって誰かを心配したことはなかったと思う。こういうのは美由希やなのはの役割だったから。何時も俺は誰かに心配をかけてしまう役割だったから。

「馬鹿……!何をしているんだ!無理矢理傷口から抜いたら━━━」

「まぁ、傷ついてない部分も傷つくでしょうね。まぁ、今は別にそんな事はどうでもいいからとりあえず━━━腹喰いしばれundefined・・・・・・undefined

「は?」

といきなりの言葉に一瞬頭を真っ白にした瞬間。思いっきり、鳩尾に正拳突きが決まった。剣術をやっているとはいえ拳術が出来ないわけではない。そんな俺でも上手い一撃だと思うものが決まった。

とは言っても鍛えているとはいえ小学三年生の拳。体も出来上がっておらず、まだまだ発展途上の拳だったので、鍛えているので二、三歩たたらを踏むだけで何とか耐えられた。

「な……!いきなり、何をするんだ……」

「何をするんだ?それはこっちの台詞ですよ。あんた何しているんだよ?」

呆れかえったという声を出して、無表情に問い詰めてくる慧君。そうしながらも、油断はしていないから流石というべきかもしれない。この年齢で油断大敵という言葉をここまで再現できているというのは良い事なのかどうかはわからないが。

しかし、今はそれについて考えている場合ではない。何をしているんだ。その通りだ。俺は一体何をしているんだろう?皆を、慧君を守ろうと思っていた人間がこうも無様に負けていること。慧君じゃなくても同じことを言いたくなるだろう。

そう思っていると

「違いますよ。別に負けるのは良いんですよ。」

「……何?」

負けても……いい?そんな馬鹿なと思う。負けては駄目だと思う。負けたら守れないし、死ぬ。それは遊び以外の戦いならば当たり前のルールだ。それが復讐でも同じだ。負けては駄目だ。そう、思うのに━━━彼は何故負けてもいい等と言うのだろうか?

「簡単ですよ。実力や運、戦術。自分たちが最高と思えるようなものでも戦いでならば、時には簡単に負けてしまいます。例え、それが最強とか言われている人間や武器でもね。」

「……それは、そうだが……」

「ええ。だから実力とかで負けるなら仕方がないんですよ。実力ならね。でも、恭也さん━━━何で言い負かされて負けているんだよ」

「……」

「戦って負けるのは良い。運で負けるのもいい。思考で負けるのも仕方がない。でも━━━思いで負けるのはOUTだ」

言い返せる台詞なんてなかった。彼の言う事は全部が全部正しい事だった。その通りだ。力を幾らつけても上には上がいるのがこの世の常。どれだけ万全でも番狂わせなアクシデントが起きるのがこの世の常。どれだけ入念に準備をしても相手がその準備を狂わせてくるのもこの世の常。

彼はそれを仕方がないと言う。当然だ。それは自分が最善を持って努力した結果、そうなってしまったというだけの話なのだから。だからこそ、彼は許せなかった。戦う理由という戦う以前の問題で負けていることを。

「貴方は以前、俺に教えてくれましたね。御神不破流の真髄は人を守るという事だと。その言葉は偽りですか?」

「……違う」

「では、その時にこの力で大切な人を守りたいと言った事。その想いは偽りですか?」

「……違う!」

「じゃあ、何で負けているんですか?」

「……くっ」

彼は瞳の中にそれこそ氷の塊のようなナニカを映しながら。俺に言外に貴方の実力ならばこんなことにはなっていないはずだと告げていた。それを信頼と取るか。単純な事実を告げていると取るか。そんな事を思っている場合ではない。

彼の言っている通りだ。何時もの俺ならばもう勝っているという自惚れはないが、少なくともまだ喰らい付いているはずだ。これでも御神不破流を習得しようとしている者。それぐらいの自負はある。

しかし、それを一切使用できなかった。理由は明確だ。

ただ怖かったんだ。ただ怯えていただけなんだ。ただ震えただけなんだ。ただ苦しかっただけなんだ。ただ辛かっただけなんだ。ただ━━━勝てないと思ってしまったんだ。

本気でそう思った。自分では勝てないと。自分にはこれ程培った感情を持っていない。それが負の感情であってもだ。大体だ。俺は実はそこまで凄いという出来事を以て誰かを守りたいと思ったわけではないのだ。

勿論、そんな事を言えば、事情を知っている人は嘘だと言うだろう。不破家を滅ばされたりもしたし、父さんが死にかけたりもしたし、恋人になった忍の命を狙われ、戦った事もあった。

客観的に見たら、それは普通の人生ではないだろう。それは認める。しかし、自分からしたらそこまで実感はない。不破家が滅ぼされたことが始まりなのかと問われたらそうなのかもしれないが、幼少時だ。ほとんど覚えていないに等しい。

俺が誰かを守りたいと思ったのは簡単だ。単純に誰かを守りたいと思っただけなんだ。使命感で動かされたわけでもない。義理で動いているわけでもない。自分がやりたいからそうしているだけ。

信念と言えば聞こえばいいが、これはそんな綺麗なものではなく、ただの我儘だ。自分がしたいように生きる。そこに理由がないんだ。それを凄いという人もいるかもしれないが、目の前の老兵を見ているとそんな気になんて全然なれない。

いや、それを言うならば、慧君を見ていてもそうだ。彼が経験した地獄。それがどんなものだったかは、俺は想像できないし、共感できない。

だけど、それが今の無表情だとすれば、それは規模がどうあれ地獄に相応しい光景だったのだろう。

そしてそれにより、彼は戦うようになった。不謹慎な事を承知で言えば理由を手に入れたという事だろう。だから、彼は俺と一緒で聞いていたであろう老兵の憎悪を感じても自然体なのだろう。

なのに俺には立ち向かう理由がない。何をしても生き残ろうる理由がない。そんな自分が。敵の彼を。止める資格があるだ━━━

「こんな定番の台詞。言うだけで恥ずいんですけど……生きるのに理由なんているんですか・・・・・・・・・・・・・・・・?」

唐突な質問。唐突過ぎて返答に困ってしまう。生きるのに理由が必要かどうか。確かにこの質問は良くある問いだと思う。そしてこの場では最適な質問だと思う。

故に戦闘中だというのに考えてしまう。相手の動向を見るのは普通ならば俺の役割だというのに彼にすべてを任せてしまう。そして考えてみた。そしたら意外とすぐに出た。しかし、それを今、簡単に言葉に出すのははばかれて、結局出た言葉は

「……それは」

だけだった。

だけどそれで通じたのか。彼は老兵を見ながら頷いた。その顔は相変わらずの無表情。その左腕からは止血したとはいえポタポタと血が流れている。血を止めたとはいえ痛みを止められるというわけではないというのに彼は痛がりもしない。

「そうですね。人が生きるには生きる理由がいる。何かしたいことがあるから、家族が、恋人がいるから。まぁ、適当に生きているとかいう人もいますが、それはその人の理由が適当という事だからでしょう。もしくは死ぬ理由がないから。将又は自殺とか苦しいから嫌とかいう人でしょう。さて、この話から解る事があるんですが、解りますか?」

「……いや」

「答えは簡単ですよ━━━生きる理由に上も下もないという事ですよ」

「━━━」

生きる理由に上も下もない。例えそれが適当とかそういう理由だけだとしても、相手の高尚な理由に付き従わなくてもいいと言う事。正論でもなければ、暴論でもない。本当にただの━━━一般論だった。彼らしくもなく。

「こちらの生きる理由が下だから、仕方がないと納得して死ぬんですか?そんなのただ諦めただけだ。敗北して死ぬんならばともかく、諦めて死ぬなんてクズでも出来ます。恭也さんはどっちなんですか?」

「……し、しかしだ。あっちには復讐という正当というわけではないが、それでもここまで突き動かす原動力がある。それを否定するのは俺には難し━━━」

貴方の名前を叫んだ人の名前を思い出してもそれを言えますか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

「……!」

自分の名前を叫んでくれた人の名前。恭也と俺を示す名前を叫んでくれた人の名前。ほんの数年前までは余り喋らないクラスメイトという関わりしかなかった少女。しかし、今では最も大切な人と言ってもいい少女の名前。

月村忍

吸血鬼として生を受け、それのせいで他人と繋がりを持つことに恐怖を持ってしまい、孤独を選び続けていた少女。しかし、その心は誰よりも明るく、そして優しかった。月の姓を持っているのにまるで太陽みたいに明るい少女だった。

何時も何が吸血鬼だと思った。何が化物だと思った。こんな少女が化物だったら、俺は怪物だろう。守るためとはいえ人を傷つける俺と他人の血を呑むが、それを嫌だと思う少女。

断言する。あの娘は俺よりも人間らしいと。だから惹かれた。そんな彼女は結界の直ぐそば老兵の目の前にいた。その瞳には心配の二文字と涙の一文字が浮かび上がっていた。

月の加護を受けている少女は今、一人の男を真摯に心配していた。

ドクンと心音が鳴る。否、これは猛ると言ってもいいくらいの暴れっぷりだ。心音は止まらない。外にまで漏れるのではないかというくらい暴れに暴れまくっている。

ギュッと握る音が聞こえる。それは両の手から聞こえる。そこにあるのはあれ程乱打を受けたのにそれでも手放さなかった双剣が折れるのではないかと思うくらい、握られていた。何処にそんな力があったのだと自分で自分を問い詰めたくなるくらいだ。

その俺の姿を見て、彼は呆れたかのように嘆息した。

「ようやく解りましたか?まったく……貴方はそんな小難しい事を考えて行動するような人ではないでしょうが。そういった面倒事は後で考えるのが高町恭也でしょうが」

「……そうだな。その通りだ。高町恭也はもっと単純な人間だった」

「じゃあ、そろそろ相手をしてあげたらどうですか?あっちは待ちくたびれているみたいですよ」

首の振りで相手の方を示す慧君。そこにいるのはさっきから構えを微動だにさせずにこっちを注視している老兵。その体からは闘気が湯気の様に漏れている気がする。戦士という存在を実感する。

復讐の鬼と化した人間。もしかしたら、自分が成るのかもしれない可能性。そうなる事は否定できない。もしも、忍が誰かによって理不尽に殺されたら、そうはならないなんて断定できない。

でも、そうなったら。きっと忍の事だ。夢の中とかに出てきて一言言うんだろうなぁ。

何やってんの恭也と。

その光景を簡単に想像することが出来て、こんな状況だというのに苦笑してしまう。ああ、大丈夫だ。例えそうなったとしても今の俺は有り得るかもしれない未来を笑うことが出来ている。それならば、きっと大丈夫だろう。

それにだ。御神の剣は守護の剣。他人を殺し、しかし、人を守る剣士。そんな未来を起こさないと断言する阿呆と言われても仕方がない人種じゃないか。ならば、俺もその戯言を言い続けなければ御神の名が泣いてしまう。

そもそもだ。不破というのは破れずとかいて不破と読むのだ。ならば、俺はきっと破れない。そう、馬鹿みたいに信じよう。元々俺はそんな頭がいい人間ではないのだから。

しっかりと剣を構え、体勢を整え、前に出る。隣の少年はそれを見てようやくかこの隠れヘタレと言いたげな溜息をつく。それを無視してとりあえず適当に腕を横に振ったら、横から何故かうぉっという声が聞こえてきたが無視。

いけると素直に思った。コンディションはばっちりだ。それが思い込みだとしても思い込みでこう思えるのならばそれは事実と相違はないだろう。ならば、問題は何もない。

口が勝手の微笑を作る。さっきまでの自分を殺し、今の自分を作っていく奇妙な感覚。それが何故か心地良く自分の馬鹿さ加減を自覚する。だから俺はここで言葉を作った。

どこぞの無表情少年みたいに一言を。

「━━━御神不破流の前に立ったことを不幸と思え」

「……」

敵は無言で構えるだけだった。そこに少しの違和感を感じるが、今はそんな事に構ってる場合ではない。今からする事は簡単だ。誰もが人生で一度はすることだ。


すなわち、自分のトップスピードで走るとただそれだけの話。


しかし、それを御神の剣士がすると結果が変わる。その足は一瞬で距離を無とする。その速度に敵も味方の人達でさえ、驚愕の一言である。人のみで神の速度に達した者。それが御神の剣士。

その歩法を神速という。

既に敵は目の前。相手は反応できてさえいない。目の前に現れた俺に驚いているだけで、剣を構えている余裕もないし、避けれる間合いでもない。ここで討ち取った。


と思っていたら


「なっ……!」

自分を止める物があった。それは光のリングであった。それも自然界には存在しない、灰色に光るリングで、それは両手両足にまとわりついていて、動かそうとしても動くことが出来ない。

まるで空間に固定されているような感じがした。足掻きとして何度も力任せに引き千切ろうとしたが動かない。剣で斬ろうにも手首から先が動かないし、その手首が固定されているので、せめて片手が動かないと斬れようがない。

「くっ……!これは……」

「それはこっちの世界ではバインドと言ってな。簡単に言えば相手の動きを止める魔法なのだよ。何、別にこっちからしたらそれは特別な魔法という事ではない。むしろ、何処にでもあるような魔法だ。」

バインド。こっちの言葉で言うと縛るという直接的で簡単に今の状況を示している言葉であった。空間にという違いはあれど確かに今、自分は縛られている。成程、非殺傷を謳う管理局には必須と言ってもいいかもしれない魔法だ。

しかし、そんな魔法ならば何故今まで一度も使ってこなかったのだ。それにバインドに関しては自分達も知っている。時よりなのは達が魔法で

訓練している光景を見ていたからだ。それを相手が知らないとは思えない。

手を隠す為か?それもあるだろう。しかしだ。俺達は魔法という物に適性がない。故に何処にバインドがあるかどうかなんて知らないのだ。それならばとっとと使って俺達を嬲り殺しにすればいいはずだ。

その疑問が顔に出てたのか、彼は苦笑して答えた。

「簡単だよ。さっきも言ったようにね。私はこの剣と加速魔法以外に才が全く無くてね。防御魔法もそうだが、補助魔法も全然能がない。砲撃魔法なんてさっきのしか、使えないのだ。それも加速魔法があっての砲撃だがね。だから、私の補助魔法は余程相手に隙がない限り全く使えない。」

「何だと……俺は油断な━━━」

気付いた。

俺が攻撃をする前にしていた事は何だった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

俺は確かどこぞの無表情少年と話していた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その少年はこんな事に気づかないような馬鹿ではないはずだ。そもそもだ。彼の事だ。何故加速魔法に反応出来ない自分が相手の事を見張っているのに攻撃してこないのだと疑問に思わないはずがない。

それなのに彼からしたら無駄話を続けた。これではまるで敵を利するかのように。

何故だ?何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。

「慧君!!どういう事だ!!?」

首だけでも捻って彼がいる方を見る。そこにいるのは相変わらずの彼。説明するのも面倒になる彼。つまりは、今の状況に何の疑問も驚き燃えていないという事だ。

その事実に顔色が変わってしまう事がわかる。


彼は……俺を見捨てたのか?


有り得なくはない。彼は自分の道を塞ぐ相手ならば何が何でも通ろうとする人間だ。その為ならばこうした事をしてもおかしくはない。いや、むしろ彼らしい。

「それにしてもだ……余りいい気分ではないな」

そんな事を考えているうちに老兵が前に進んでくる。前に。つまり、俺の方にだ。はっとして前を見るが、無論。動くことなどできない。それでも動こうとして体を揺らすが、何の効果もない。

コツコツとむしろ静かに近づいてくる兵士。もう距離は目の前だ。それなのに後ろの少年は動いてくれないし、音も出さない。だから思った。

死んだと。


俺の横を通り過ぎた後でも。


「なっ……!」

最早何が起こっているのかさっぱり理解できない。人としての自分は生きていることにホッとしているが、剣士としての自分は自分に問い続けている。

何故殺さないのかと。明らかに絶好のチャンスだ。この状態ならば避けるどころか、受ける事さえできないはずだ。それはさっきの抗いで証明している。そもそも、魔法が使えない俺にはこの魔法を解除できる術はないのだから。

だから止める理由なんてあるはずがないのだ。まさか急に良心の呵責に襲われたなどという事はないだろう。幾らなんでも都合が良すぎだ。それにこんな事で止まるくらいならば復讐なんてそもそもしないだろう。

では、何故だ?さっきまで彼に対して思った事が自分に問いかけられる。そこまで考え━━━凍りついた。待て、さっき老人は俺の横を通り過ぎた。つまりは俺の後ろに行ったという事になる。

ならば、俺の後ろにいるのは誰だ?

バッと後ろに振り向く。勢い良すぎて首を少し痛めたが、構ってられない。それにそんな事はどうでもいい。そして後ろにいるのは案の定、老兵と慧君の2人。それも慧君はこの事も想定していたという感じで臨戦態勢だ。とてもじゃないが、急な展開に焦っているというか前ではない。明らかに想定内という構えだ。

嫌な予感がここで完成直前にまで膨れ上がる。そしてその完成の一言は敵である老人が告げた。

「元から君一人を狙っているつもりだったが……まさか自分から誘ってくるとは思わなかった。」

「別に。誘った覚えはないですよ。それにどうせ誘うならばもっと清らかな美女を誘います」

「慧君、そ━━━」

「すずかの事ではないから安心しろ」

途中で変な言葉が混じったがここに来て嫌な予感は確信へと変わった。彼は俺を囮にしたように見せかけて、俺を安全地帯に移動させたという事をだ。余りの事実に頭が痛みだした。

「どういう事だ……!答えろ、慧君!!」

「さっきから俺がこの人に行っていた台詞を覚えていますか?この人は俺を狙っているんですよ。恭也さんもとは一言も言ってませんよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、面白い事に。」

即座に帰ってきた抑揚がない台詞と共に気づいた。確かに相手は一度も俺も殺すとは一言も言ってない。そう言えばそうだ。彼は何故か自分を殺すと強調して伝えていた。それの理由は相手が誰を狙っているか知る為か?

それを知り、質問する相手を変えた。

「何故だ……何故俺は狙わない……!」

「……復讐者と言っても、私は別に余計な人殺しをしたいわけではないのだ。理由はそれだけだ。」

「それだけならば、俺を殺すという選択肢もあったはずだ!」

「勿論、あったとも━━━この少年に出会う前まではね」

「どういう事だ!」

「……我々大人はね。生きていくと選択をするんだ。どっちを残すべきか。どっちを切り落とすべきか。残念な事に、仕事柄そういうのがまた多くてね。故に助けられない人間は助けられなかった。そして今回は簡単だ。どっちを残したほうが後の世に貢献してくれるか?そういった事を考えれば答えは明瞭だ」

「はははははは、慧眼だね?ちなみに俺の名前とかけたわけではないぞ?まぁ、その読みは外れてはいないね。流石、年を取っているだけあって経験だけはあるようだね」

「笑っている場合か!!この馬鹿無表情!!」

「おやおや、恭也さんらしくない罵倒ですね。まっ、強いていう事があるとしたら━━━俺みたいなクズを信じる貴方が悪い」

彼は無表情に声だけ笑い、それだけを告げた。その声色に後悔の色も焦りの色もなかった。余りの何時もらしさにもう怒りなんてレベルではなくなっている。

ふざけるなと頭が叫んでいる。じゃあ、俺が彼を疑った事は全くの誤解であって、そしてそれを彼は受け入れたという事だ。もう、怒りで視界が真っ赤になりそうだ。声すら出ない。叩きつけたい感情が幾らもあるのにそれを出すために冷静になる事も出来ない。

それを知ってか、二人は俺を無視する。

「それにしてもだ……そんな最低最悪な君でも誰かを思う事はしたかったのか?」

「まさか。全く、よくあるよね。先生とか友人とかが他人の思いを知れ、他人の痛みを知れとかいう発言。全く、馬鹿みたいと思わないですか?人はどんだけ頑張っても、相手の気持ちなんて解るはずがないのに。解るんだったら、今頃、カップルは全員相思相愛でしょうねぇ。人を思うとかそんなセリフは吐き気がするような偽善者しか思わない言葉ですよ。まっ、俺は別にどうでもいいんだけど。それに何ですか?まるで、俺がこの状況を全部わかっていたみたいに言って。よく勘違いされるけど、俺はそんなすごい人間じゃないのだよ。精々ひねくれているガキってとこですかね」

「……よく言う」

老人の言葉は至って同感だ。思えば、俺を慰めたこともこのバインドとかいう魔法に捕まえさせるために動かせる言葉だったのだ。暴論や正論。一般論さえも使った巧みな人心誘導。

えげつないというのは彼を表す言葉だっただろうか。だが、そんな言葉ではなくて、口からは違う言葉が出てきた。

「この……大嘘吐きめ……!」

そんな事しか言えない自分が馬鹿らしく感じたが、それは本心だった。どれが嘘だったかなんて言わない。それでも言うとしたら全部だ・・・。何もかもが嘘だらけだ、彼は。

そんな皮肉に彼は

「悪い意味ならば喜んでその名前を受け入れますよ」

と普通に返してきた。

暫く静寂が辺りを支配する。俺や周りの皆はおろか、慧君と老兵でさえ何も音を発さない。動くことするしない。音を出せばそれが発端になるんじゃないかと思ってしまい、動くことが出来ない。

しかし、その静寂は二人の会話で破られた。

「……では、殺すが、何か言い残すことはあるか?」

「別に。死ぬときは俺は黙って死ぬって決めてるんですよ。それに勝利宣言はまだ早いんじゃないですか?そういうのは負けフラグを生み出す原因になりますよ。」

「後半は無視するが、まさか君はこの状態から勝つつもりか。ならば、先に言っておこう。それはただの希望だ。自分で言うのも何だが、私と気味では実力差が空き過ぎだ。そして私には才はないが魔法がある。そしてその加速魔法は君では反応が間に合わない。どう足掻いても投了寸前だ。」

「お生憎様。そんなんで死んでいるんならば俺はとっくの昔に死んでますし、幾らなんでも勝機がなければこんな風に冷静に立ってませんよ。」

「……下らん虚言だ」

「はははは、疑い過ぎだね。まるで俺の言ってること全部が嘘みたいじゃないか。もう少し人を信じることをした方が良いと思うぞ。御老体」

「……」

最早聞く耳なしという態度で慧君の言葉を無視する。そして剣をまるで居合のように構える。瞬間、ぞくっと体に冷気が刺さるような幻覚。これは予感だ。相手が動くという戦う者ならば絶対に一度は感じる悪寒。

そして今やその悪寒は無表情の少年を貫く刃と化す。駄目だと思うがそれは行為には繋がらない。老人の武器に光が文字として刻印されていく。そこにあるのはシンプルな言葉であり、そのシンプルさが故に絶対の強さの一つとなる魔法の言葉。

『SPEED UP』

その言葉と共に周りからは消えたように見える老人。しかし、剣士として限界まで運動神経を鍛え上げた自分の瞳には彼が余りの速さにむしろ、ゆっくり動いているように見える老人が見える。

その動きに歯噛みしながら体を動かそうと揺り動かす。力を込め過ぎたのか、口と両手から血が流れ出した。しかし、そんな痛みでさえどうでもいい。もう老人は彼の後ろに回ろうとしている。

クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!

助けられ━━━

ドカッと何故か間抜けな音が聞こえた。慧君が斬られた音と思い、反射でそれを見たら。

そこには慧君が裏拳で老人を攻撃して倒している図があった。

余りの出来事がいきなり目の前に現れたことで俺は

「……は?」

と間抜けな言葉しか言えなかった。

何があったと




















あとがき
まさかの恭也さん戦線離脱。
自分的にはこの頃はまだ恭也さんは実戦はそれこそ忍の時くらいしか無いと思っていたので、戦う時の心構えがまだ未熟という設定で書きました。
その理屈で言うと主人公はどうなんだよと言うでしょうが、それはまた今度という事になります。
申し訳ないですが。
最後はまるで主人公が隠された力を発揮したみたいな終わり方でしたが、そういうのではないので。
更新が遅くなりましたが、出来れば皆さんが楽しんでいただければ幸いです。
というかこんなにこの回が長くなってすいません。



[27393] 第三十八話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/12/01 19:54

体が後ろに倒れたことがわかる。衝撃が体に通り、痛みが腹に感じるのがわかった。耐え難い痛みとまではいかないが。それは確かに自分にダメージを与えた。バリアジャケット越しでこの痛みだからかなり強烈なのが入ったという事になる。

何が起きたかというのは見当がつくとか以前に見ている。原因は目の前の気味が悪いくらい無表情な少年の右の裏拳。それが見事なタイミングと力で私の鳩尾に決まっただけである。

非情に簡単な話だ。そこまでならばだ。

私は加速魔法を使って、彼の背後に回ったのだ。そのスピードは魔法を使う者か、もしくはさっきバインドで捕えた青年みたいに運動能力を限界近くまで鍛え上げていなければ捉える事は出来ない。出来て反応するくらいだ。

この少年はさっき反応して躱すことが出来ていた。だから、躱す事だけならば想定内だった。躱すとは言ってもぎりぎりであったからだ。そのまま嬲り殺しに近い戦いで制圧をしようと考えていたのだ。汚いと思うかもしれないが、それが確実だと思ったからだ。

そして出血大量で死。かなり苦しい死に方になってしまうが、躊躇いはなかった。復讐をすると決めた時に躊躇いも両親も捨てたと思い込むことにしたからだ。例え、捨てきれていなかったとしても。そうすれば、動けるからだ。

それが脚本だった。なのに、その脚本の成立の根底が崩されかけていた。動けるのはいい。躱すのもいい。それならば、完璧に躱されても構わない。躱したとしても、体力は削られて結局嬲り殺しになるからだ。

しかしだ。反撃されるというのはどういう事だ。拳を握って、その右腕を後ろに振って当てる。しかし、それこそ言うは易し、やるは難しだ。高速移動中の相手をどうやって見て取れる。

それも場所もだ。適当に振ったという可能性もあるが、幾らなんでもそれはないだろう。それならば次に攻撃をしたら少年は今度こそ嬲り殺しか、もしくは即死の二択をたどるという事になるだけだ。

しかし、現実にそんな幸運が起きるのは滅多にない筈だ。勿論、彼の特異性を見れば、有り得なくはないかもしれないが、戦闘の面でそんな奇跡を起こせるほどとは思っていない。現実を侵食する異常なんてあってはならないのだから。

では、何故だ?どうやって私の動きを読み取れた。彼が自分の力を押さえていたからとかか?否、それはないと思う。最初の加速魔法の時の彼の動きは間違いなく限界速度だった。長い間戦いをしたり、見たりしたら解る。相手が本気なのか。まだ力を隠しているのかとかがだ。理屈ではなく勘でだ。

故におかしいと判断する。それとも何だ?火事場の馬鹿力?命の危険になって秘められた才能が開花した?馬鹿馬鹿しい。そんな偶然、それこそこの世にあるはずがない。そんなものがあったのならば、俺達は復讐なんてものに走ってはいない筈なのだから。

では、何故だ?

そしたら答えが返ってきた。答えというのはこの問いの答えというわけではなく━━━少年の本気の蹴りが私の顔に迫っていて、次にどう動くべきかという答えだが。

「……!」

判断は瞬時。そういえばそうだ。自分は倒れてから立ち上がってもいなければ、起き上がってもいない。相手からしたら絶好のチャンスだ。長年の戦闘経験が体を勝手に動かし、体を横に転がす。あのまま蹴りを喰らったら、とりあえず鼻の骨が粉砕されることは確実だ。

余りにも容赦ない攻撃。それがすぐ横に到着したことを認めると更に寒気が奔る。それを無視して腕で地面を押し、その反動で達がある、敵は私の横五メートルくらい。

加速魔法ならば一瞬の距離だ。しかし、躊躇う、使っても勝てるのかと。一瞬の疑念が心に広がるが、しかし、それを直ぐに取り払う。理由はプライドから。この魔法は自分が提督になるために使ってきた最早デバイスの次くらいの相棒と言ってもおかしくない魔法だ。

それこそ管理局に入り始めてからずっと頼りっぱなしの魔法だった。別段特別な魔法ではない。唯一の特色と言えばそれは砲撃魔法にも効果をつけられるという事だけだ。事実、自分よりも魔力が高い者とかさっきのように運動神経がおかしい人間とかには突破されたことがあった。

しかし、そんな雑魚みたいな私をここまで生かしてくれたのがこの魔法だ。足りないか力と手数を速度と技術で補い、此処まで生きてこれた。それは紛れもなくこの魔法のお蔭だ。

だからこそ、この魔法が。自分の自慢の魔法が。こんな魔力も特別な力も、高過ぎる運動神経も持っていない子供に負けるとは思えないと思ったのだ。故にさっきの結果は運だと判断し、再度灰色の陣と言葉が形成される。

『SPEED UP』

無感情な声と共に再び駆け抜ける。普通では出せない速度に体が軋む。しかも、老いた体にはかなりきつい。しかし、そんなGにも慣れたものだ。これくらい慣れなければ加速魔法なんぞ使ってられない。

今度は彼の眼前に移動して、攻撃すると決める。もしかしたら、加速魔法を使う時に背後に回ると思われて反撃をされているのかもしれないと思ったからだ。思考は行動となりそして到着は一瞬。後はそのまま剣を払うだ━━━

足を払われた。多分だが置いといただけの。しかし、こっちは加速してこの位置に辿り着いたのだ。力や技などなくても自分の速度だけで簡単に転べてしまう。

何故だという思考が頭の中を支配する。そしてそれと同時に彼が右半身を捩じり、そしてストレートを放つ。

「……くっ!」

防御魔法……間に合わないと断じて咄嗟に両手をクロスさせて防御態勢を取る。それと同時に彼の歳の割には上手いと言ってもいいくらいの章程がクロスの中心を穿つ。

その勢いに乗り、私は後ろに吹っ飛ばされた。吹っ飛ばれたままずっと自分に自問自答していた問いをつい彼に発してしまった。

「何故だ……何故、反撃できる……!」

それに対して彼は無表情に告げた。

「ふむ……本当ならば秘密なんだが特別に教えよう。実は何と俺は━━━月の加護を受けていてね。ロマンティックだろう?」
























と軽口をたたいている無表情の少年であったが━━━実は余裕なんて一欠けらもなかった。まぁ、彼からしたら戦い全てに余裕なんて成分が含まれていないのだろうけど。運が悪いというか何というか。彼は生涯でほとんど自分より弱い敵と戦った事なんてないのだから。

あるとすれば時々何時もつるんでいる美少女?四人組のせいで時々嫉妬心と憎悪を持った少年たちが突撃強いてきて、それを見事撃破しているくらいの事だけだった。

(……たく、もう……)

加速魔法を使った移動に攻撃を合わせる。そんな事は種と仕掛けがなければとてもじゃないが無茶無謀の攻撃なのである。こんな事は彼でない限り、出来ない事だったと思う。

俺がやっている事の種と仕掛けは簡単だ。まぁ、内容は簡単だけど実際にやるのはかなりしんどいのだが。老兵の魔法は加速魔法。読んで字の如く自身を加速させる魔法である。

単純が故に強力な魔法。火力はないが強みはある。地味ではあるが、効果はある。まぁ、とは言っても魔法世界ではどうなのかは知らないが、すくなくとも俺みたいな普通の人間には脅威に違いない。

「「「嘘だ(や、なの)!!」」」

普通の人間という所でそんな声が聞こえたが無視。とまぁ、という事でかなり強力であると。すくなくとも俺の動体視力ではとらえることは難しい。恭也さんレベルならばともかく。

では、何故相手に攻撃できるのか。勿論、実力を隠していたわけでもないし、秘められていた力が遂に覚醒を魔眼解放……!的な覚醒イベントが発生したわけでもない。そんなイベントは高町だけで充分だ。

だから、俺は人間が健康状態ならば持っているもので打倒しようという事にした。当たり前のもので当たり前じゃないモノに勝とうという事だ。今回のタネは音と砂だ。

そう、加速魔法。動きを早くする魔法。ならば、あれだけ速く動いたのだ。足音がするのは当たり前だろう。不幸中の幸いな事に相手のスピードは漫画みたいに音速を突破していないし、恭也さん達の神速みたいな反応が全く間に合わないというスピードでもなかった。

音を聞いて動く。それくらいのことが出来るのならばそれは何もかもが出来るという事と同義だ。動くと言っても出来る事は1アクションだけなのだが。それでも十分だ。相手に反撃するには多過ぎるくらいだ。

そして音によって大まかな場所は大体推測できる。そして最後に砂だ。運が良い事にここの庭はよく掃除されている。雑草なんてほとんどない。ほとんど砂場で動いているような庭だ。

故にほんの少し動いたら砂がまるで霧みたいに立ち上る。それがあんな速い動きならば尚更だ。お蔭で大体の動きを察知することが出来、反撃することが出来る。高町母には感謝感激雨あられだ。

そう。ここがコンクリートならば為す術もなく俺は死んでいた。今日が雨だったならば為す術もなく死んでいた。この魔法が加速魔法ではなく、瞬間移動魔法みたいなものならば死んでいた。それならば足音も砂も動かず俺の後ろに回り込めるからだ。相手が飛行魔法を使えていたならば俺は死んでいた。加速以前に俺は上空に対する攻撃手段なんてナイフを投げるか、さっきの拳銃しかないからだ。

そして━━━相手が高町やテスタロッサみたいに溢れるような魔法の才能がなくて良かった。そうでなくては俺は死んでいた。それならば、加速魔法なんて使わずにさっきのガトリングソードとかいう魔法に加速を加えればそれで俺は終わりなのだから。

使わない理由はない。逆に使えない理由ならばあるだろう。単純に━━━魔力の枯渇。幾らなんでも魔力を使い過ぎたという事だろう。これまでに結界、魔力刃の精製、砲撃魔法、加速魔法、捕縛魔法。しかも、その内恐らく三つは老兵が苦手としているであろう分野の魔法だ。高町達のような例外でない限り、枯渇しない方がおかしい。

って言ってもどれくらいで魔力が減るのか解らないから全部推測なんだが。それでもあの砲撃……というより射撃魔法を使ってこないところから多分そうだと思うのだが。まぁ、温存しているだけなのかもしれないから油断はしないでおこう。

とりあえず相手の利点は一つ潰した。願わくはこのまま簡単に行ってくれたらいいのだが……。

とまぁ、この少年は簡単にこの方法を利用しているみたいに言っていたがそんなはずがない。余りにも出鱈目なとは言わない。これは確かに少年の言った通り。可能な作戦だ。

しかしだ。この作戦を実行するのに一体どれだけの集中力が必要になると思っている。普通に見るだけなら捉えることも出来ない相手を音と砂の動きだけで見て取る?成程、可能だ。理論上では。

だが、それをするのに普通ならどれだけの緊張感を感じる?どれだけの集中力が必要になる?一度失敗したらそこでデッドエンド。それを彼は今、二回。その前も含めるならば五回は切り抜けている。

体力だって少しは休めて回復したとはいえ消費しているし、今は更に左腕の怪我の事もある。血液が流れることによって焦りが生まれるし、何よりも痛みで判断力が鈍るはずなのに。

何もかもが最悪な状態なのに、彼は何時も通り。しかし、これらの事は風雷慧という少年にとっては当たり前の事だった。


風雷慧


彼を説明する時。周りの人間は色々言うだろう。人の事を虐めるとか、愉快犯だとか、お金に余裕がないとか、月村すずかに迫られて逃げているとか、アリサ・バニングスと喧嘩してダブルノックダウンを何時もよくしているとか、フェイト・テスタロッサの純情さに敵わないとか、高町なのはと八神はやてをからかいまくっているとか、尊敬できるとか、運動神経が高いとか、頭の回転がいいとか、性格が最低最悪とか、彼の決め台詞が手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐だとか、暴論遣いとか。

色々彼について人によって語る事が違うだろう。

だが、しかし、人によって語る事は違うが一つだけ彼について皆が皆、同じことを言うだろう。

高町なのは然り、アリサ・バニングス然り、八神はやて然り、月村すずか然り、フェイト・テスタロッサ然り。それがユーノ・スクライアやクロノ・ハラオウン。最近知り合ったヴォルケンリッターや高町家や月村家の全員が同じ事を言うだろう。


彼は無表情で一度も表情を変えているところを見たことがないとundefined・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・undefined


彼の知り合いは既にそれを当たり前の事だと思っている。だからこそ気づいていない。気づいているのは精々高町士郎とヴォルケンリッターのメンバーだけだろう。

ずっと無表情でいるなんて並大抵なんて言葉で言えるような簡単な異業ではないだろうと。どれだけ無表情でいようと集中してもつい、表情というのは変わってしまうものだ。

日常的なモノならばともかく、突発的な痛みや笑い、怒りという物はあるはずだ。彼は感情がないと疑われがちだが、実際は感情がある人間だ。そうでなくてはそれはもう完璧な『植物』人間だろう。植物は生きているとか言われたらおしまいだが。

それなのに彼は無表情のままだ。つまり、彼は完璧に感情と表情をコントロールしているという事になる。どれだけの集中力があればこんなことが出来るか。故に彼は醜悪と蔑まれる。宗教家ならば笑うという事は神が与えてくれた人間の機能だとか言っていただろう。

そうだとしたら実に愉快だと彼は言葉だけで嘲笑うだろう。つまり、今俺は神に対して抗っているのだからと。そして別にどうでも良い事だけどと呟くだろう。

そんな彼が集中という分野で失敗するはずがない。少なくともその分野だけならば彼は高町恭也や高町美由希はおろか、高町士郎さえ超えるまさしく化物染みた集中力なのだから。

「っ!とぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

加速魔法で接近されて頭を切り払われそうになったところをしゃがむことにより回避しながら、そしてそのまましゃがんだ反動で前に正拳突きを入れる。当たったところまではいいが、そこから相手が自ら後ろに飛んで衝撃を逃したことが分かった。

思わず舌打ちをしてしまう。この戦術も最早限界だ。最初の内はともかく相手も反撃をしてくると解ったのならば対処してくる。結局はその場凌ぎだ。何れは体力を失くして終わってしまう。

それはあっちも同じだと思いたい。もう相手は何度加速魔法を使ってきたか。数えるのは途中であきらめた。俺がずるずると生き残っているせいか相手も肩で息をしている状態だ。

そうでなくては戦った甲斐がないというものだ。とは言っても何の慰めにはならないが。あっちの体力がなくなってきているという事は比例してこっちの体力もなくなっているのだ。何せ相手が動くときは攻撃の時で、俺はそれを躱しているのだから。

それでもまだ加速魔法を使ってくれてよかった。あれは先読みさえ出来れば動きは単調だ。幸いな事に腕の振りだけを加速とかは使えないらしく、そこからだけは普通のスピードだ(それでも十分に速いけど)。

後は良いのが入れば勝てるんだが……

そうは簡単にはいかない。相手はただでさえ強いし、経験もあっちの方が豊富だし。純粋な身体能力では俺よりもはるかに上。更にはバリアジャケットだっけ?そういった鎧みたいなものも着けている。こっちの攻撃が上手く決まったのは最初の驚愕している時の二回だけだ。

はて、どうしたものかと考え込んでいたら

「成程……理解した」

という言葉が飛んできた。

「理解?何を理解したというのかね?この回避方法かい?それとも俺の溢れんばかりの魅力かい?」

「後者は斬り捨てるが、無論前者だ。つまり━━━どうやって回避をされているかはわからないが、加速魔法は通じないという事をだ。」

「へぇ?そりゃ、賢明だね。賢明ついでにここで投降してくれないかね?そうすれば俺は楽に終われるし、もしかしたらあんたの罪も軽くなるかもしれないよ」

「……言うまでもない」

「……全く、頭が固い事で。でも、これじゃあジリ貧ですよ。まぁ、そりゃあ、何れはどっちかの体力がなくなって倒れるでしょうけど。若い分、俺の方が有利でしょう」

嘘だ。若い分有利とかそんな事は全くこれっぽっちも思っていない。相手は現役は引いたのかもしれないけど、それでも俺よりも戦ってきた人間だ。体力がまだあってもおかしくはない。

それでも言葉に出してこっちの方が有利と言えば相手は無意識のうちにそこを気にしてくれるはずだ。これも一つの心理戦。腹黒いとか言われても当然。何せいろんな人たちからクソ野郎と言われているからな~。あっはっはっはっ。

「……メタな発言はどうかと思うが、無視しておこう。確かに老いた身では多少辛いものがある。しかし、まだまだ若いものに負けるとは思ってはおらん。」

「よくある発言どうも。ならば、共倒れでもしますか?そんな事をしている間にユーノ達が結界を壊してくれると思いますけどね」

「君はそれを望んでいるだろうが、勿論却下だ。君の弱点は大体分かった。ならば、それで行こう」

「……へぇ?俺の弱点ですか。後学の為に知りたいですねぇ。俺の弱点てどれですかね?一杯有りすぎて解らないんですけど」

不味いかもしれないと思った。俺の弱点なんてそれこそ言葉通りに大量にある。そういったものを隠して今、立っているのだが。精神論とかそういうところで行ってくれたらうれしいのだが。とは言っても、現実とは非情なモノ。

「なに、簡単だ。君は正攻法に弱いという・・・・・・・・・・・という事だ。君相手は搦め手など使わずに真っ向から勝負した方がやりやすい。つまり、魔法というこて先に頼るのはもう止めよう。これからは単純な剣術で勝負だ。」

「……」

あーあ、やべぇ。全くもってその通り。それこそが風雷慧の最大にして最悪な弱点。つまり、普通に戦ったならば大抵の自分よりも上の実力者には負けるという事・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。それはある意味普通の事。

どれだけ思考を積み重ねても、どれだけ策を考えても。そういったものが通用しない実力だけのバトルでは俺は大抵足手纏いだ。周りの人間ならば、その年齢でその動きが出来るならば大したものだというだろうけど。この場ではそんな褒め言葉を貰っても意味はない。

どんなに言い繕っても、結局は弱いので強いのには勝てないという事だ。魔法使い相手でも弱肉強食の法則にはあらが得ないようだ。とは言っても相手は恐らく真っ向からというならば御神不破流の人間よりは劣るはずだ。というか劣っていないのならば加速魔法なんていらないはずだ。

それならば何とか動体視力も俺の技術も使えるはずだ。そして油断も出来ない。魔法を使わないとか言っているがそれがブラフの可能性は大いにありだ。いざという時に集中力は絶やすことは出来ない。

結局は不利という。どんだけ策を練っても、どれだけ汚い手段をとっても結局は不利。我ながら自分の弱さに冷や汗をかきながら溜息をついてしまう。有利な状況で戦いたいなんて事は言えないが、せめて対等くらいは許してもらいたいものだ。

そう思い身構えた瞬間。

来た。

























そこから先はさっきまでとはまた別種の戦いやと思った。今までの戦いは人が何だかビュンビュン消えて、まるでド○ゴンボールみたいやったから、現実味というのがあんまりなかった。

それこそまるでテレビの中の出来事みたいな戦いやった。それを相手に私の初めての友人が何時もと同じ無表情で戦っているというのは少し信じ難い出来事やった。だけど、その左腕の赤い血が現実であるという事を教えてくれた。

余りの痛々しい姿に何度も悲鳴を上げたが、今はそんな余裕はなかった。

お爺さんの動きははっきり言えばさっきみたいな凄いと思えるような動きではなかった。さっきみたいにビュンビュン消えないで、ただ走る。それは私みたいな人じゃない限り、誰でもできる動き。それに素人目やけど、多分何というか恭也さん程洗練されていないと思う。

多分、同級生の男の子とかやったら地味とかいう動きかもしれない。最近のアニメとか漫画が好きな子供はこういう地味さをそのままで受け取るだろう。

しかし、私は何故かそんな動きを美しいと思ってしもうた。

その光景を見ている人間は誰しもそう思った。その動きは恐らく努力すればできるもの。天才ならばもっと効率よく動くだろう。高町恭也がいい例だ。故にそこに洗練さはなく、ただ効率よく動くための足運び。

しかし、そこにあるのは紛れもない努力の美しさや。このお爺さんが一体どれだけの訓練をしてきたのかはわからへん。だけど、その情熱はきっと凄かったんやと思った。

だけど、その美しい努力の走りが向かう先は━━━慧君の所だ。それも何時の間にかほとんど正面だ

彼も見惚れていたのか、突然の事態にはっとして動こうとするが間にあわへん。だから思わず

「慧君!?」

と声に出す。

しかし、お爺さんは容赦なく剣を上段に構え。振り落した。ギロチンでさえこんな勢いよく落ちひんやろと思うくらいの勢いやった。本当に振っているのが老人かどうか疑うような場面やった。

それに対して彼は間に合わないと悟ったのか。次に出る行動は余りにも予想外の行動やった。本当に一瞬の集中で彼は落ちてくる剣を真剣白羽取りをしたのだ。

余りの事で声が出ないが、どうやら完璧ではなかったらしく、両手から血が流れている。

「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

それを見て、逆にお爺さんは更に力を込めて押し出す。叫ぶと言うよりも雄叫びという感じの声を出して、更に力を込める。慧君はそれに対して全く抗えていない。

当然や。慧君の力は鍛えているとはいえ子供の領域。贔屓目に見ても中学生以下ぐらいやろう。それで鍛えに鍛えた老人を相手にするのは無茶を通り越して無理や。

故に慧君は逆らう事はせず

「ああああああああああ!!」

彼にしては珍しく叫んで、剣の軌道を無理矢理横に逸らした。彼の左耳に掠るような起動で剣は振り下ろされ、お爺さんはいきなりの軌道修正で体の体勢が崩されて、前に転びかけたところ、慧君が良い所に降りてきた頭に頭突きをかまさはった。

「……!」

お爺さんは衝撃で頭を後ろに飛ばされかけはったけど、すぐさま気を引き締め、逆に頭突きをし返す。それに慧君は正面から受けて、頭から流血。たまらずたたらを踏んで後ろに下がろうとしたところを、更に蹴りが襲い掛かり、後ろに文字通り吹っ飛ぶ。

彼の小さい体はそれこそボールの様に簡単に吹っ飛ぶ。それに対してお爺さんはまだ許せぬと言った感じで吹っ飛んでる彼に向かって走り、しかも、追いついてきてる。魔法がなくても凄い身体能力やと思う。

そして彼に追いついたかと思うと振りかぶった剣を振り下ろす。その光景に本日何度目かの悲鳴を上げようとしたが

ガン!!とまるで鉄を殴るような音と共にお爺さんの剣が慧君の後方に吹っ飛ぶ。何やと思ったら、それは何と慧君がお爺さんの剣の峰やったっけ?そこを殴って吹っ飛ばしたような構えやった。

んな、アホなと思う。普通誰だって凶器に向かって拳を向けようだなんて思えへん。誰だって痛いものは嫌やからや。事実、殴った右手からは更に血が出てる。それなのに微塵も恐怖心を抱かへんなんて……。今更ながら慧君にほんの少しの恐怖を抱くが、そんな事をしても、勿論事態は止まらへん。

ようやく浮いていた両足を地面につけて、そして前に進み、腕を後ろに下げた。右腕ではない。右腕はさっき剣を殴り払うために使ったためにまだ戻せていない。故に彼が後ろに捩じったのは左腕だった━━━剣が突き刺さって怪我をしている左腕を。

その行為にさーっと血の気が引くのがわかる。そんな事をしたら左腕はこれからも使えるのかとか、痛くはないのかという疑問が湧いて出てくる。そういった事の知識がないので詳しくはないんやけど、それでも傷口に塩を縫っているのと変わらない行為であることは解る。

それでもそんな事気にせず左ストレートを放とうとする。傷の事は心配だが、もしかしたら、子の一撃で終わってくれるんちゃうかという淡い希望が胸に灯る。

しかし

「……!慧君、後ろ!!」

「ケイ!避けて!」

なのはちゃんとフェイトちゃんがいきなり声を荒げて叫ぶ。何で後ろかと思って慧君の後ろを見てみると



そこにはまるで魔剣みたいに浮かび上がった、お爺さんのデバイスがあった。



何故という疑問は魔法という法則を思考に入れたらすんなり理解できた。恐らくは魔法で剣を浮かび上がらせているのやろう。だから、真っ先になのはちゃんとフェイトちゃんが警告を入れることが出来たのだ。

しかし、それを言うのが遅すぎた。慧君は当然の事だが気が付いていなかった。後ろにあるのが人ならばもしかしたら気づいていたかもしれない。だけど、後ろにいるのは魔力で操られている剣なのだ。慧君は魔力を持っていない。故に魔力で起こされた現象についてはまったく反応が出来ない。

間に合わなと思考したら



サクッとまるで豆腐に端を入れるような感覚で彼の体に刺さった。



「……!」

いやという音が絶叫として口から発声される。こんな大きな声を自分でも出せたのかと馬鹿みたいなことを頭の冷静な部分が考えている。でも、そんな馬鹿みたいなことを考えても現実は変わらなかった。
























(……殺った……!)

少年がこちらの剣を殴り払ったのは予想外の出来事だったが、それでも対処は出来た。今まで隠し持っていた切り札のうち一つが最高のタイミングで発動できたからだ。

お互い手の内を解らない。だが、こっちはメリットだらけの戦場だ。こっちは相手の行動を大抵予想することが出来るからだ。この少年は魔力など持っていない。故に使ってくる攻撃手段は五体を使っての格闘術だ。他にあったとしてもそれは袖とかに入れてるかもしれないナイフとかそういうものだけだろう。

だが、こっちはあっちとは違い、魔法を使える。さっきは魔法は使わないと言ったが当然嘘だ。別に卑怯だなんて思ってないし、この少年を相手にするには丁度いいくらいだろう。それでも相手が魔法世界出身者ならばもう少し用心していただろうが、彼は管理外世界の人間。当然だが、どんな魔法があるのか知らないのだ。

知っていたとしても、それは友人が使っている、砲撃魔法や防御魔法。後はバリアジャケットぐらいだろう。基本中の基本というものぐらいだ。故にこういう小手先な魔法を喰らってしまう。

今、使ったのはちょっとした浮遊魔法。本来ならば自身にかけて使う魔法なのだが、SWORDは長年使ってきた相棒と言ってもいいデバイスだ。どういう風に調整すればいまみたいな結果になるかどうかなんて目を瞑ってでも出来る。

とは言っても所詮は浮遊魔法。刺さってはいるようだが、深くはない。しかし、間違いなく激痛で少しは動けないはずだ。運よく内臓とか重要な体の組織は傷ついていないようだが、ならば止めを刺してやればいい。

何も魔力刃を造るにはデバイスが絶対必要というわけでもないのだ。その気になればデバイスがなくても魔力刃は精製できる。ならば、行く。迷う段階なんてとっくの昔に通り過ぎた。有りがちだが、私が彼に対して唯一良心的な行動が出来る事と言えばそれはこれ以上苦しまずに殺してやるのみ。

最早闇の書の復讐という事だけでは収まらない行為。解っている、自分がやろうとしていることは無関係な一般市民を殺害するという管理局員としては有るまじき、否、人間として有るまじき行為だという事だ。

そこらの犯罪者と何の変りもない。だから、この暴走とも言ってもいい復讐が終わったら、管理局で裁かれよう。例え、それが終身刑だろうが、死刑でも。死んだとしても向こうに逝ったら━━━会えるわけが、ないか……

そこまで考え、そして前に踏み込む。そうしながらも、右腕に魔力刃の術式を編む。非殺傷設定など等に切ってある。これを少年の無褒美であろう左胸にある心臓に刺せば、即死だ。苦痛はない筈だ。最も、そんな死に方をしたことがないので本当に痛みはないと言ってもいいのかはわからないが。

最早勝利は目前。だからこそ、警戒を怠った。


目の前から左拳が飛んできているのに。


「……なっ!」

予想もしていない攻撃。故に何の心構えもなく喰らってしまう。何の対処もしようと思っていなかったから、さっきまでの攻撃よりもはるかにダメージが大きかった。後方に吹っ飛び、転がっていく。

慌てて立ち上がり、前を見る。鼻から赤いものが流れている。思いっきり鼻の所を強打されたから当然の反応だった。しかし、私の負傷なぞ、目の前の少年に比べれば遥かにマシだった。

たったの数秒で彼は血まみれだ。勿論、自分の血で。ただでさえ、左腕は出来て真新しい傷があり、そこから止血しているのにまたかなりの血が流れ、今もまだ背中の肩辺りに刺さっている剣の所からも血が流れている。

満身創痍という言葉は今の目の前の少年の為にあると言っても過言ではないかもしれない。顔まで赤く塗れている少年はそれでも無表情に背中に刺さっている剣を抜こうと手を伸ばしていた。

「……馬鹿な……!何故動ける!いや、動けるのはいい。しかしだ。今の君は体がかなりの激痛を発しているはずだ……!気力で何とかなるものではないはずだ……!」

「……ん~。別に言ってもいいですけど。ただで言うのも何だからクイズ形式で行きましょうかね。一、俺は無痛覚病で痛覚がない。二、ど根性で痛みを我慢している。三、実は背中から出ている赤いものはトマトである。さぁて、どれでしょうか?」

激痛を感じているはずなのに、声には痛みの色がない。どういう事だ。馬鹿らしいが、彼のクイズに乗ってみることにした。勿論、油断はせずにだ。とりあえず三番は論外だから無視する。となると、一か二かだが。二は考えることは出来るが、それは幾らなんでも許容外のレベルのはずだ。根性で耐えるにしても限度というものがある。

となると答えは一という事にしかならない。

「……君は……何も感じれないのか……?」

「残念。一番じゃないのだよ。答えは」

そう言って彼は背中から何かを取り出しら。それは━━━潰れたトマトだった。それは見事に潰れていて、その潰れ方が何ともまるで剣か、何かによって刺されたような潰れ方で。

「何と三番でした!!」

「マジなのか!?」

「嘘だけど」

「……」

「おいおい、何だその冷たい目は。まるで、貴様ちゃんと空気を読みやがれ、このNO AIR READINGみたいな眼差しは。それも何故恭也さんや外野の眼付もそうなっているんだよ。」

正直かなり疲れてしまったが、気を取り直す。目の前の少年は少年で無表情ではあるが、どことなく残念そうにトマトを捨てる。しかし、そんなギャグを言っている間にも彼の背中や腕からは血が流れている。そして、さっきの彼の答えから考えうると。

「有り得ん……その痛みを気力だけで耐えるなぞ、出来るはずがない。いや、出来るのはいいだろう。しかしだ。あんな瞬間的に耐えられるはずがない……!」

「んな事を言ってもねぇ……大体、痛みって耐えるものじゃなくて、受け入れるものでしょう・・・・・・・・・・・?」

まるで、さも当たり前の事でしょうと言った感じで彼はそれこそ暴論を吐いた。しかし、今回は以前のモノとは違い、それは狙ったものではない様子だったのだ。つまり、これは彼の本心だという事になる。

彼に対しての恐怖心が間欠泉の様に湧き上がる。違う、それは絶対に違う。痛みは受け入れるものではないのだ。痛みとは我慢せずに、それを周りに告げ、危機感を出すためのものだ。熱いものに触れた瞬間に手を引っ込められるのは、それは痛みがあるからだ。そうやって、痛みを感じるが故に痛みを避けることが出来るのだ。

なのに彼の言い分の場合、熱いものに手を触れても「ん、熱いな」の一言で終わってしまうという事だ。手を離す事さえもしないのかもしれない。これでは人の本能に逆らっている。

「……解らない」

「んん?解らないって何がだね?俺の若さの秘密かい?そいつは教えられないな。」

「……何故君がそんな事をするのかという事だ。それでは━━━辛いだけではないか」

「━━━」

おどけた口調は一瞬で閉ざされた。そこにあったのは本当に、本当の『無』表情だった。その顔には何の感情も籠っておらず、人形と言われてもそうだと思いたくなるような表情だった。

人間なのに人形。その矛盾に足が何故か後ろに下がる。それを見て、少年も自分がどんな表情をしているのかを気付いたのか、手で一度顔を隠し、そして離すと、そこにはいつも通りの無表情があった。そして何か言おうと口を開くが

止めたと言わんばかりに首を振った。

「……何も語らぬか」

「……ここで何かを語ったらまるで悲劇の主人公気取りになってしまうでしょう?そういうのは大っ嫌いなんです。悲劇のっていう所も、主人公って言う単語も。そういうことをするのに相応しいのは俺以外の人間だ。俺みたいな地獄に堕ちるべきゴミクズには相応しくないですよ。それにイタイし」

悲観したような言い方……ではない。彼はそれを当たり前だと思って発言している。やはり、そうなのかと思った。戦う前に発した言葉。死にたくないではなく、まだ死ねない。まるで、その目的を終えたならば、死んでもいいと思っているような言い方だ。

それとも━━━死にたいと思っているのだろうか。

余分な感傷だ。これから殺そうとしている相手の事など知ってどうするというのだ。余本どころではない。意味のない感傷だ。だけど、何となく解ったかもしれない。

何故こんなにも彼を殺さなければいけないと思ったのか。その答えは簡単だ。この少年はこのまま生きていたら、地獄の苦しみを抱いたまま生きていくと直感で気づいたからだ。感情で殺すと思ったのではなく・・・・・・・・・・・・・・義務感で殺さなければと思ったのだ・・・・・・・・・・・・・・・・

そうかと真実に気づき、そしていきなり動いた。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「っ!」

いきなりの振り下し。加速魔法無しの歩法は速くはなかったが、鋭さはあった。それにより超近距離の戦い。

「っ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

対する少年は右腕をまるで岩の塊のように握りしめた右ストレート。それは自分のお腹の方を真っ直ぐ狙っている。スピードもパワーも文句なしといえるレベルだ。

お互いが確信した。この一撃が場の流れを変えると。故にお互いその一撃にかなりの力を込める。交差する剣と腕。息をする暇さえお互い無く、ただ体を相手を倒すための武器とする行為にだけ、全力を込める。

結局届いたのは少年の拳だった。

原因は武器の違い。拳と剣では幾らリーチが違っても、この距離では拳の方が速い。子供であるというのはマイナスしかないと思われがちだが、子供であるがゆえにその小柄さが余分な動きを排除できたのだ。

そしてその衝撃はもろに老人の鳩尾に来る。

「……っは!」

今回は防御を捨てた一撃の為、衝撃を逃がそうという考えなんて、出来なかった。バリアジャケット越しでもこのダメージ。思わずくの字に曲がる、すると、首が下りた瞬間にその頭を掴まれ、そのまま少年の膝との顔面激突。

手加減も容赦もない。激痛が顔全体を走り、思わず目を閉じる。鼻血が再び流れる。だけど、そんな事を知ったものかと言わんばかりに、更にアッパーを決めてくる。無理矢理状態を上にあげられ、空を見上げる。頭はぐわんぐわんと脳震盪。

頭がボーっとしてきた。だけど、戦士としての経験か。解る。彼が更に傷んだ鳩尾を狙ってくることが。その一撃を受けたら、多分墜ちてしまうだろう。

まさかのいきなりの終わりだった。魔法も使えないただの少年に敗北。恥と言えば恥だ。圧倒的な立場だったくせに最後の最後に他人としての情で殺そうと思ってしまったのがいけなかったのだろう。

これで終わりかと思った。呆気ないと思った。でも、仕方がないと思った。所詮は才能の無いただの枯れた老人だ。そんな人間が今更何かを成し遂げられると思ってはいなかった。それが復讐でも同じ結果だという事だろう。

自分に最後を任せてくれた人間には申し訳ないと思う。すまないと、君達の想いを無駄にしてしまったと。そして胡乱気な頭で周りを視ると。



そこには心底恨めしい存在ヴォルケンリッターが立っていた。



ドクンと心音と共に周りの風景が記憶によって浸食された。そこは過去の風景。一瞬の走馬灯と言ってもいい幻覚だ。過去を再生することしかしない幻覚だ。

そしてその光景とは失くした自分の家族。自分が心底守りたいと、自分が命を懸けてでも守りたいと思った家族の姿だ。

まずは子供が小さい時の風景。そこにあるのは本当に何処にでもあるような風景。子供と遊び、ただ笑うだけの風景。でも、そこには幸せがあった。普通の綺麗さがあった。

子供とじゃれ合い、妻と話し合う。それだけで私は薔薇色のような人生を得たと思えた。それだけで充分なのに子供……息子は嬉しい事にお父さんみたいになりたいなどと嬉しくなるような事を言ってくれる。

危険だからやめなさいと苦笑しながら言っていたのを覚えている。その度に息子は駄々をこねたのでどうしたものかと笑っていたのを覚えている。でも、実は内心嬉しいと思っていた。それを後で妻に知られてからかわれたものだ。

何とも綺麗な黄金の日々だった。これだけで自分はどれだけ辛い任務があっても、生きて帰ってこれると馬鹿みたいに思っていたのだ。何と小さい人間だったのかと苦笑する。

そして場面が変わる。そこはやはり今まで住んでいた家の風景。だが、変わっている事があった。それは住んでいる住人の年齢だ。私と妻は少し老け、息子は青年と言ってもいいレベルの見た目になっていた。

覚えている。それは息子が管理局に入る事が決まった時の事だ。我ながら息子に対して甘かったのか、何度ももっと危険の少ない仕事をしないかと問うたのが無駄だった。その事で妻はそういう頑固なところは自分に似ているなどと苦笑して言っていた。

決め手の一言が何とも卑怯な事に、何時か父さんの後を継いで立派な提督になりたいからだなどと言うのだ。そんな事を言われたら、嬉しくて首を横に振る事などできるはずがないではないか。

だからこそ、息子の特訓は厳しくやった。理由はただどんな時でも生きて帰ってこれるようにとただそれだけを願った訓練だった。妻は心配そうにその光景を見ていたのを覚えいている。でも、止めなかったのは、これが息子の為になると思ってくれたからだと思う。

そして士官学校に寄宿しに行ったのを妻と一緒に見届けた。

最初の内は手紙からは楽しいという話題だったが、途中から辛いという言葉も交じっていた。当然だ。訓練は当然のように厳しいだろうし、更には魔力の適正というものがある。息子は幸い、自分よりは魔力はあったが、それでも高いというレベルではなかった。

それによって後から知った話だったが、虐めもあったらしい。その当時はその事は露とも知らず、だから、私達は辛いのならば止めてもいいと何度も言った。管理局で働きたいのならば、別の道もある事も提示した。それでも息子は頑として受け入れなかった。

そこまでの風景を一瞬のうちに見ている間に気づいた。



嗚呼、私は、まだこんなにも家族の事を覚えている、と。



嬉しい事だと思ったら、再び風景が動き出した。その風景は確か息子がようやく全線で働けるレベルになって士官学校から卒業して、働き出したところの時の風景だったと思う。

その頃になって息子の顔が良い顔になってきたのに気付いた。理由を聞いてみたら、自分の手で誰かの笑顔を作れるのが嬉しいという事だった。何ともいい息子に育ってくれたと酒場で同僚に言ったものだ。

そして久々に家で三人集った時に、息子は告げた。何時か父さんの所で修行して本当に提督を継いでみせると。不覚にも涙が流れるかと思った。息子の前では何とか流さずに出来たが、妻と二人になった瞬間、決壊して大人げなく泣いた。妻も一緒に嬉し涙を流してくれた。

もう何も現世に未練がなくなってしまう事ばかりの連続であった。


だが


風景が変わる。その風景を見た瞬間、血が凍った。その風景は覚えているというよりは忘れるはずがないと言える風景。その風景には自分が顔は何とか無表情になっているが、それでも嬉しそうというか楽しみにしているのが自分でも解るくらい浮き足立っていたのがわかっていた。

何故嬉しがっているのかといえば、それは私の誕生日が今日だからだ。勿論、もう十分な年寄りなのだから、誕生日だからとは言っても、そんなに喜ぶものではないと解っているのだが、この前偶然にも、妻と息子が私にサプライズパーティーをするという事を聞いてしまったのだ。

それでつい、嬉しくなり、私はそれを知らないふりをして今日まで過ごしていたのだ。

━━━止めろ。

私が帰ったら、クラッカーでも鳴らして驚かそうという魂胆らしい。それに私も驚こうか、もしくは意地悪に私もクラッカーを買っておいて、先制を取るのもいいなと年甲斐もなくはしゃいでいた。

━━━止めろ。

そうして仕事を何時もよりは手早く終えようと必死にデスクワークをしていた。そう言う楽しい事があると解ってるのならば、つまらないデスクワークがまるでご飯を食べるように簡単に出来た。

━━━止めろ。

そうして、いた、ら、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話が、電話がかかってきた。

━━━止めろ!!

その電話のななななななななななななななななななななななないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいyooooooooooooooooooooooooooooooooooooooohaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa



止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!止めてくれ!!!


止め━━━



妻と息子の死亡通知だった。



そこから先の記憶はあいまいだった。ただ、次に見えた光景は二人が眠っている墓石の前で膝をついている自分の姿だった。

何を考えればいいのかさっぱりだった。自分が何か悪い事をしたのかという典型的な自罰思考をしていた。勿論、人並みに少しは悪い事はしたと思うが、こういう仕打ちをされるようなまねはしたかというとさっぱりだった。

二人は自分の誕生日プレゼントを買うために買い物をしていたらしい。そしてその買い物帰りに襲われたらしい。現場を検証したところ、息子は最後まで妻を守って戦ったらしく、妻はそんな息子が死にそうになった瞬間、庇ったのではないかという事だったらしい。

そして結果は守った妻ごと、守られた息子は死んだ。犯人は闇の書の守護騎士。ヴォルケンリッターという事だった。息子が持っていたデバイスに記録が残っていたのだ。

原因はどうやら……というよりやはりリンカーンコアを狙ったものらしい。闇の書事件の言う昔から続いている忌まわしい事件。呪われたロストロギアの血の惨劇。

しかし、そんな忌まわしさなんて自分にはどうでもよかった。そんな忌まわしさよりも今は憎らしさが勝っていた。そうだ、何故私達なのだ。何故このタイミングなのだ。何故殺したのだ。

世界には大量の魔力を持った人間がいるのに何故私の息子なのだ。日にちなどランダムで選んでいるだろうに何故幸せの絶頂期の時を選んだのだ。別に魔力だけを奪うだけならば殺さなくても良かっただろうに何故殺したのだ。


何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故


何故だ!!


理不尽な結果だった。悪魔がいたならば魂を捨ててでもこの結果を変えていたかもしれない。神がいるならば祈りに祈り、何故こんな世界を作ったと嘆いただろう。

もう駄目だ。血が滾る。憎悪が己と世界を焦がす。肉が傷む。怒りが己と世界を焼く。頭痛がひどくなる。哀しみが己と世界を凍らす。何もかもがどうでもいい。ただ、家族を、自分を。こんな目に合わせた存在をただ、ただ、ただ、ただ、ただ、ただ!!



殺し尽くす……!



瞬間、頭が覚めた。想いを蘇えらせ、今感じていた痛みも絶望も諦めも何もかもを捨てた。この身に残るのは灼熱染みた怒りと憎悪と狂気の炎のみだ。その狂気が私に命ずる。叫べ、と。否定する理由はなった。故に叫んだ。

「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

咆哮は獣の如く。視線は手負いの獣が如く。ふらついていた手足は確かな力を持って張りつめる。突然の変異に目の前の少年や周りが驚く。しかし、そんな事はどうでもいい。アッパーでぐらついていた脳は無理矢理にも活動を再開した。

そして目の前の少年を右腕に編み上げていた魔力刃の術式で思いっきり袈裟斬りを放った。それも禁じ手の一つ。手足の部分加速というものを使ってだ。これは完璧な禁じ手だ。

何せ使うと手足が壊れるというのが前提の欠陥魔法だからだ。一部だけを加速するとなると加速について来れない肉体が限界を感じて肉と骨が砕ける。当然と言えば当然の結果だ。

勿論、今回も例外ではなく、自分の右腕の筋肉と骨は文字通り砕け、千切れた。強烈な痛みが生まれるが、そんな事は知ったことではなかった。ただ、結果として目の前の少年の左肩から右わきまで切り裂けたというのが重要なのだから。

一瞬、少年の体は静止して、そして心臓がドクンと一鼓動をした瞬間。

ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!と血が溢れだした。

「━━━!!」

周りの人間が悲鳴を上げたがそんな事は知ったことではないし、まだ手を緩めるつもりなんて全くない。もしかしたら、このレベルでも痛覚遮断と言ってもいい能力と言ってもいいのか解らない能力を使ってくるかもしれないのだから。

だからそのまま、魔力刃を消して、そのまま少年の頭を鷲掴みにする。そのまま前に押し、体勢を崩そうとする体を止めようと彼の足が条件反射でたたらを踏みながら、踏みとどまろうとするがその足を大外狩りの用法で払い、そのまま少年の後頭部を地面に思いっきり激突させる。

グシャッ生々しい肉が潰れる音が響く。でも、そんな事もどうでもいい。重要なのは少年がまだ生きているという事だけだ。ならば、一度で潰れないというのならば、何度でもと単純な頭でそう考え、少年を片手だけで持ち上げる。所詮は子供の体。軽すぎて片手でも持ち上げられる。そのまま何度も後頭部を地面に叩きつける。

グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ!何度も叩きつける。その度に周りから止めろとか止めてとか悲鳴が聞こえるがそんな事は知らない。この少年を殺せば、結果的に自分の復讐が完遂できる。それだけで傷んだ体を酷使する理由になった。

何度叩きつけたのか解らない。五回か、十回か、もう三十回ぐらいは叩きつけたか。もう回数なんて知ったことではない。しかし、何度目かの叩きつけで少年の顔を見た。そこにはある意味ようやくと言った感じで諦めの表情が瞳に籠っていた。

この瞬間。あれ程死なないのではと思った少年を殺せるのは今がチャンスだと思った。すぐさま捨てられていた自分のデバイスを手繰り寄せる。そのまま彼の心臓に刺そうとする。彼は今、叩きつけた反動で浮かび上がっている。それでは刺し辛い。なので、地面に押し付けるために殴って、地面に押し付けた━━━左肩から右脇までの傷口の上を。

勢いが緩んでいた傷口を叩いたショックで更に血が飛び出した。顔にもかかるがそんな事は気にしていられない。獣のように高ぶった頭が何を思ったか、声を作る。

「終わりだ……!死んで私の復讐を完成させろ……!」

その言葉と共に剣を振り下ろそうとする。少年の顔は飛び出した血で見えない。その血ごと刺してやろうと思い、両手でデバイスを構えた瞬間。



その血を割るように少年の左腕が私の首を掴んだ。



「……ぐっ!!」

いきなりの窒息で体に力が入らない。何処にそんな力があったのだと思いながら、つい、彼を睨み殺すという言葉みたいに視線に殺意を宿して無表情の少年を睨みつけようとした時。

見てしまった。



その少年の瞳に隠しようもない狂気が宿っている事を。



その狂気の名は知らないが、それは確かに狂気だと思う。こんな所では死ねない。死ぬわけにはいかない。終われない。終わってはならない。生きなければいけない。死んではいけない。

死ねない


死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない。


そんな負の感情で支配された瞳でこちらを睨みつけ居ていた。体はゾッとする。そんな狂気を宿しながらも、無表情の仮面で隠していたのかという想いで、しかし、感情はそんな怒りで焼き付いていて、体ほど正直に反応しない。

怒りと狂気の睨み合い。どちらも引く気など毛頭に考えていない。現に少年の左腕は痛みを押して尚、締め付けてくる。違う。これは窒息を狙ったものではない……!首の骨を折る気だ。

「っっ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

片手なのに恐ろしい力で握ってくるので、振り解くのは断念して、彼の脇腹を思いっきり蹴る事によって離れることにした。上手い事入ったので骨の一本ぐらい折れたかもしれない。彼の口からも血が流れ、そして転がって行った。

ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら首を擦る。そこにはぬるりとした感触。それは最後までつかもうとした手の爪で引っかかれた跡。それがかなり執念深かったのか、意外とかなりの出血量であった。

ぞっとする。その出血量ではなく、その執念深さと狂気に。いや、それが生きたいとかいう願望ならば当たり前の反応と言いたのだが、これはむしろ逆だ。少年の瞳の中の狂気はそんな美しいものではなかった。生きたいのではなく、死ねないだ。

酷い妄執だ。それが私の間違いという可能性はない。生きたいのならば今頃形振り構わず逃げているだろう。

しかし、無表情の少年は逃げるどころか、むしろ立ち上がってきた。眼光は今まで以上に鋭く血のせいか、赤く光っている。自分をさっき獣のようになったなどと比喩表現を使っていたが、これは桁違いだ。

自分が獣ならば、少年はバケモノだ。何がバケモノと言えるわけでもないが、何故かその単語が頭に浮かびあがってきたのだ。

そう思ったら



少年の姿がまさしく異形の化物となって

そして、ニッと三日月形に口を歪めて━━━嗤った



「……!」

幻覚だ。変な事ばかり考えたせいと痛みで変な妄想を視てしまっただけだ。しかし、その幻覚はまやかしでも、今、体が震えていることは否定することが出来ない現実だった。さっきまでの怒りが嘘のように無くなり、代わりに変な恐怖心だけが生まれる。

落ち着けと震える体を叱咤する。大体何故嗤うのだ。彼は一度だって表情を変えていないのに、何故想像上のバケモノが嗤う。見下すように、愉快そうに、痛快そうに嗤うのだ。きっと少年の毒気に当てられただけだ。

そうに違いないと頭の中の恐怖心を頭を振る事によって振り払い、立ち上がろうとしたら、足がカクンと折れて、再び膝立ちの状態になってしまった。ダメージを受け過ぎたと思考して不味いと思った。今、かなり無褒美な状態だ。ここを攻撃でもされたら……!

少年もそう思ったのか、直ぐに攻撃をしようと一歩踏み込んだら、少年も膝がカクンと折れて、そのまま体勢を崩して、女の子座りみたいな体勢で座ってしまう。その原因も解る。単純に血を流し過ぎたのだ。

そもそも今の状態でどちらが優勢かどうかというならば、間違いなくこっちだ。あっちは刀傷によって体力やダメージもそうだが、血を流している。こっちは体力とダメージくらいだ。後一撃で蹴りがつくというのは恐らく同じ条件だが、それでもどちらが体力があるかといえば、それはこちらの方だ。

あちらは既に出血大量寸前まで血を流している。これまでの出血を考えれば当然の事だ。自分の身を慮らずに戦っていたらそれはこうなる。彼の周りも彼の地で少し赤く染められている。

これならば、自分が何もしなくても死んでしまうだろう。勿論、そんな事はしない。これは復讐なのだ。復讐なのに自分の手ではなく、時間に任せて完遂するなんておかしい。幕引きは自分の手でするべきだ。

そうして立ち上がる。ふらりと体は揺れ、ダメージが吐き気を生み出す。もう一撃喰らったら気絶するという診断は間違いではない。しかし、後、一撃くらいは問題ない。

そう思い目の前を見ると

「おっ、おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」

足をガクガク震わせながら必死に立ち上がろうとしている少年の姿があった。もう痙攣と言っても言いくらい震えに震えていた。両手を膝につけ、体に力を入れ、その結果、血を再び流す。最悪な悪循環だ。

それでも必死に立ち上がろうとする。まるで、その光景は━━━まるで命を燃やし尽くして飛び上がろうとする蜉蝣に見えた。

交尾を追えたら、ほんの数時間で死んでしまう儚い生物。その刹那の時間を必死に飛び上がる傍目からは醜い虫。そして憐れな存在。だって、飛び上がれても、最後に行き着く先は地面なのに。

「お……!おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

なのに少年かげろうはは無理矢理立ち上がった。まるで、それしか知らないという風に。前に進むしか知らない。それが地獄の奥底でも。そう、彼の視線が告げている。



嗚呼

本当に━━━怖い。

自分は心底━━━この少年に恐怖している。



「……次の一撃でどちらかが倒れるだろうな」

「……でしょうね。倒れるのは年上というのが相場ですけど」

返ってこないと思いながらも言った言葉だったが意外に返事があった事に少し驚いた。もうバケモノみたいな少年と会話が成立するとは思っていなかったからだ。その恐怖心を抱いたまま、少年と話し合う。

「私は君が怖くなったよ……今だってそう。まるで人と話しているとは思えなくなってきた。君がバケモノじゃないのかと馬鹿みたいに考えてしまう。」

「はっ。最高の評価ですね。バケモノ。ええ、昔そう言ってもいい存在と会いましたよ。いや、あれは出会ったというよりも遭遇したと言った方が良いのかな。ま、どっちでも変わりませんか。」

「……成程。」

「今思えばあれが自分を変えたのか……少なくとも、今の自分よりは少しはマシな存在になってただろうに。ああ、そうだ。今までの自分を捨てると思いを作ったのが自分の歪みならば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・捨てた後の風雷慧を作り上げたのは間違いなくアレのせいだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「……意外だな。君がそこまで自分の事を他人のせい等と言うなんて」

「……事実だ。見本がなければ俺は今頃冷たい土の下で眠っていたでしょう。最悪にして災厄。それの土台を作り上げたのが、まさか悪魔アレだなんて……ほんと━━━達が悪い。」

まるで苦笑するかのような口調。しかし、その顔はやはり━━━笑っていなかった。

彼の言葉がどこまでが本気なのか全くわからなかった。ここに至ってレリオ・マルクは少年の事を理解使用する行為を完璧に断念している。相手が敵ならばまだ理解は出来るだろうけど、違うモノを理解しようなんて愚かの一言だ。

もうお互い時間はない。そこで一つ愚にも付かない事を聞いてみた。

「なぁ━━━君は過去を変えたいと望んだ事はないかい?」

「……質問の意図が、解りません」

「そのままの意味だよ。出来るかどうかは別として、過去を変えたいと思った事はないかい?もし、あの場でああしていたら。もし、あの場に自分がいたら。もし、あそこに行かなかったら。ありとあらゆるIFを思い描いて、そしてそれが叶ってくれないかと思った事はないかね?例えそれが間違った行いだったとしても、例えそれが馬鹿げていて、非情に愚かな考えだったとしても━━━その考えを。一度でも考えなかったと言えるかね?だから、聞かせてくれ。君は過去を変えたいと望んだことはないかい?」

「……」

その問いに彼は沈黙した。短くて、長い沈黙。その沈黙が答えかと思ったら

「━━━望めない・・・・

一言だけだった。

それも答えは望んだ事があるでもなく、望んだ事がないのどちらでもなく望めない。自分にはそんな事を言える資格なんてこれっぽっちもない。そう、彼はむしろ自分に言い聞かせていた。


そうか、と私は苦しみ

そうさ、と彼は嘆いた。


そして私達は同時に動いた。


























もう小手先の技術なんて必要ではないと直感で理解できた……などと格好つけた言い方を言っているが、そんなのではない。単純にもう小手先の技術を使えるような体力がなければ、血も足りないだけだ。

こりゃ戦いに勝っても、負けても死ぬかもしれん。何時もながらの命の危険だ。命の危険も何十回もやれば慣れてくるというものだ。今回も助かるかどうかはさておいて。

まぁ、死ぬのは別にいい。漫画みたいに主人公だから死なないなんて馬鹿げた冗句を言うつもりはさらさらない。死ぬときは死ぬし、生きる時は生きる。それが人生というものだ。バケモノの俺が『人』生なんて言える義理はないかもしれないけど。

閑話休題。

自分で言うのも何だが、決着の時だというのに余計な事を考えるとは……流石は俺だね?別にどうでもいいけど。

そう思っていたら、後踏込一歩のところまで近付いていた。相手の攻撃は冗談からの振りおろし。俺は自分の利き腕から出される右ストレート。自分が最も信用している業とは言えない技だろう。

そこら辺の子供出来る攻撃。つまり、誰でも出来る攻撃で倒そうというわけだ。この戦いの勝敗を分ける原因は簡単だ。ただ、どちらの攻撃が先に届くかという事だけだ。そして結果は立つのが一人で倒れるのが一人か、立つのが一人で、死ぬのが一人のどちらかだ。

全く割に合わない。あっちは最悪でも気絶で済むのに、こちらは勝っても負けても死ぬ可能性があるのだ。余りの不平等さに泣けてくる。別に今更の事だけど。

故に声高らかに叫んだ。足りない力を雄叫びと命を上乗せすることによってスピードを上げる。向こうも同じ考えなのかあっちも声を荒げて叫び。

そして


剣をいきなり直下の地面に刺した。


「━━━は?」

意味が解らない行動。その行動に初めての馬鹿みたいな戸惑いの声を口から発する。意味が解らない。そこから剣でもさっきみたいに操ってこっちを攻撃する気か?そこまで魔力と体力が余っているとは思えない。

じゃあ、何らかの別の魔法か?以下同文。じゃあ、ここに来てのまさかの敗北宣言?まさか、そんな柔な意思ではないのはこれまでの戦いで十分に証明されている。

では、何のために?とは思うが、振りかぶった拳の勢いはもう止まらない。疑問をそのままに攻撃の意思を放とうつするが

『SPEED UP』

無機質な声と共に老人がその場を離れて十メートルくらい後方に下がる。どうやら加速魔法の分の魔力はあったらしい。ついでに、魔法を発動するだけならば、魔法発動時にデバイスを握っているだけで良かったのか。

だが、そんな事はどうでもいい。更に不可解な事だ。今の加速魔法をそのまま使えば、俺をもしかしたら倒せていたのかもしれないのに。集中力はともかく、体が追いつけるとは自分でも思っていない。

ここに来て、疑問は嫌な予感に変わる。その証拠としては老人の声だった。

「……私のデバイスは長年付き合ってきた、言わば相棒みたいな存在でね。ストレージデバイスで意思はないが、それでも愛着などそういったものは使ってきた年月の分、培ってきた。」

いきなりの独白。意図も何も読めない言葉。利益となるか不利益となるか解らないので、どう行動すればいいのか解らなくなってしまう。薄氷の上を歩くというのはこう言う気分なのだろうか。

「長年。そう、長年付き合ってきた相棒だ。SWORDのお蔭で本来ならば死んでいたであろう戦場でも上手く生還できた。感謝の一言では足りない、相棒というよりも命の恩人と言ってもいいかもしれないな」

最もデバイスなので恩人という言い方は多少おかしいかもしれないかもなと苦笑しながら付け加えられた。その言葉の中には確かな感謝と━━━そして何だ?これは、済まないと思っているのか……?

何故だとそう心の中に問い質す。その答えを老人が答える。

「だから、本当に残念だ━━━自分の命の恩人ごと、自爆させるなんて・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……!」

嫌な予感的中。今日も俺の感度は良好というふざけた診断結果に呆れる。

「ああ、安心したまえ。自爆とは言ってもSWORDには自爆装置なんてロマン溢れる装置はついていない。自分のデバイスだ━━━自殺させるような機能をつけるはずがないだろう。爆発するのは刀身だ。あまり派手ではないが、少なくともそこら辺は爆発するかな」

いや~んな感じ~。何とかして剣から離れようと必死に体を動かそうとするが、元々拳を振り切っている体勢のせいで直ぐに動けるような姿勢ではない事と、更には今までの戦闘による体力消耗と出血大量のせいで何時もの五割の力もスピードも出ていないことが原因だ。

つかぬことを聞きたいのですが、爆発まであと、何秒ですか?

「ああ、それは━━━今だ」

世界は今、光った。



























最初に閃光。次に爆音。そして最後に爆発。それらは感覚だけならば、すべて連続で起こったように感じた。余りの光と音に目と耳が痛くなるが構うものか。今はただ、あの少年を殺したことを祝う事と、SWORDの冥福を祈る事だけだ。

爆発による煙で少年の所は見えないが、確実に死んでいるだろう。威力はそんなにあるわけでもない。だが、それでも、あれだけ爆発の中心に近かったら間違いなく死んでいる。あの殺しても死ななさそうな少年は間違いなく死んだはずだ。

そう思い、上空から雨のように降ってくる土を鬱陶しいと思いながら、振り向く。そこには何時の間にか結界が破られていたのか、結界内は言ってきていた少年の知り合いがこっちを見ていた。

しかし、そんな視線はどうでもいい。一番重要なのは闇の書の守護騎士と主。その姿を見て嘲笑した。どうだ、見たか。私は今、お前たちに復讐したぞ。お前たちがやって来たことを全部お前に返したぞ。我らが感じてきた痛みや苦しみや後悔や悔しさや憎悪や怒りを全部お前たちにぶつけてやったぞ。貴様らの願いも強さも誇りも平和も全てを粉微塵にしてやったぞ。
どうだ?

解ったか?

そうだ。

これが。

これがだ。

これがお前らがやって来たこと━━━



ザリッと酷く不快なノイズが後ろから聞こえた。



「━━━」

思考が停止した。行動が停止した。感情が停止した。何もかもが停止した。

おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。

こんな足音みたいな音がして良い筈がない。

ザリッ

そうだそうだそうだ。これは間違いだ。あってはならない間違いだ。きっと殴られ過ぎて頭の回線がおかしくなってしまったに違いない。そうだ、そうに違いない。何を馬鹿な事を考えているのだろう。そうだ、足音なんてあるはずがないじゃないか。そうだそうだそうだそうだそうだ。あってはならないのだ。

ザリッ、ザリッ

ああ、頭の方の異常は解っていても治らない。これはもう末期なのかもしれない。その幻聴の音の具合から察すると━━━後、そう二歩。

ザリッ、ザリッ

そうそう。今、丁度二歩になってしまったようだ。

あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。

有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない、有ってはならない。

そうだ。人間ならばあのときに既に死んでいなければならない。そうだ、人間ならばあの時死んでいなければならないのだ。そうだ。人間ならば死んでいなければいけないのだ。そうじゃなきょおかしい━━━



「━━━あっは」



楽しむような子供の音色が聞こえる。余りにも無邪気な嗤い声。その音色は余りにも綺麗すぎて気持ち悪い。こんな音ならばまだ雑音の方が音楽になり得るというものだ。



「あっはっはっはっは━━━」



あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、こんな音を聞いてはいけない!!!こんなものを聞いていたら頭がおかしくなる!!!!!!!どうしてどうしてどうして!!?私は何時の間にこんな最悪な夢に紛れ込んでしまったのだ。こんな所には一秒だっていてられない!!そうだ!!夢なんだからここが現実ではないという証明をすればきっとここから出れるはずだ!そうに違いない!!そう、さっき感じた違和感は……そうこの足音の正体が生きているはずがないという事だ!そう、人間ならばもうあの一撃で死んでいなければならないのだ。



そう

人間ならば

じゃあ

後ろの正面だぁれ・・・・・・・・


「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハはははははははっ、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」


「━━━ひぃっ!!」

我慢できずにまるで暴走したように振り返る。こんなものを背後で見えないまま対峙するなんてもう我慢の限界だった。

そこには


さっきと同じで血だらけになっている無表情の少年・・・・・・が拳を振りかぶって立っていた。


そこから先の答えは肉を打つ音だけ。

























お爺さんを殴り倒した後。慧君は暫く無表情に倒した老人をしばらく見ていたが、不意に足から崩れていくのがわかった。それを見て、私のすることは直ぐに決まった。

「フェイトちゃん!!私を慧君の傍に連れてって!!」

「━━━え?」

余りの凄惨な光景か、もしくは慧君のあんな嗤いを見たせいか。フェイトちゃんは一瞬我を失ってしまっていたようだった。でも、そんな些末事は私には関係はなかった。

今、重要なのは今の慧君には私が必要だという事だけだった。なら、今はフェイトちゃんの都合を聞いている暇ではない。今はただ私のしたい事をするためにフェイトちゃんに手伝ってもらうだけだ。

「いいから!慧君が死んじゃう!!」

「っ!!解った!!」

慧君が死ぬという言葉で直ぐに我に返ってくれて、私の手を掴んで、そしたら一瞬で慧君の目の前にいた。移動する前にフェイトちゃん以外の声が聞こえた気がしたので、もしかしたらお爺さんと似たような魔法でも使ったのかもしれない。

でも、お礼を言うのは後だ。今、慧君は私のもたれかかるように倒れようとする。その光景を不謹慎ながらも嬉しいと思い、倒れてきた彼を抱き抱え、そして━━━彼にキスをした。

「「「……!」」」

後ろや横で驚いたような声やら何かが聞こえてきたけど無視。今は私は事前に口の中で切って出しておいた血を慧君に分け与えているのだ。そう━━━吸血鬼の血をだ。昔ならば忌むべき力だったけど、今だけは感謝する。これのおかげで慧君を救えるのだから。

「……っん……!」

キスをして血を与えてから、少し元気になったのか、慧君は目を薄くだが、確かに目開き、私を弱々しく押し返そうとする。その反応が余りにも可愛らしくて、思わずキスをしながら笑ってしまった。うん、大丈夫。その瞳が赤かったからきっとちゃんと回復するだろう。

でも、これじゃあ、どちらが女の子か解らないや。そう思いながら、残念だけど唇を離す。彼と私をつなぐ架け橋は本当ならば唾なんだろうけど、私達の場合は赤色の架け橋。血によってつながった私達。吸血鬼と悪魔のペアには丁度いいと思う。それを大事に思いながら言葉を紡ぐ。

「駄目だよ、慧君。休むことはいいけど、死ぬのは許されないよ。だって慧君は約束は破るけど、契約は守るんだよね」

「……」

慧君は無表情というよりは仏頂面をして目を逸らす。その顔が語っている。卑怯だという感じに。そんなの知ったことではなかった。嫌がる彼を無理矢理抱き寄せて彼の耳元に口を寄せる。

「謝るなんて事はしないよ。だって、慧君は謝られるのが好きじゃないからね。だから、ね?今は休んで。休んだ先はきっと慧君がそんなに望むようなモノは来ないと思うけど……でも、私は慧君を望んでいるから。だから、絶対に死なないでね。」

「……こ……の……」

仕返しは必ずするからなと弱々しく呟きながら、彼は目を閉じた。寝る時も相変わらずの無表情。でも、あれだけ言い返せたならばきっと大丈夫だろう。さぁ、私の血を与えたとはいえちゃんと治療してもらわなきゃいけないだろう。というかあれだけでは応急処置にしかならないので、もっと血液を与えないといけないだろう。

そうなると、もしかしたら私の事も話さなきゃいけないかもしれない。でも、そろそろ話そうかなと思っていたのだから、丁度いいかもしれない。

周りは慧君の戦いで少し固まっている。きっとこの戦いは誰にも理解できないモノだっただろう。私でも全部が全部理解できるものではなかった。慧君の怖い所を改めて見せられた。でも、別にそれで態度を変えようとは思わなかった。

理解も予測も出来はしなかったけど、でも、想像はしていた。きっと慧君は怖い人だという事を。でも、それで良かった。だって、吸血鬼の隣を歩いてくれるんだもの。そんな人が怖くないはずがない。怪物と一緒に歩く存在はやっぱりバケモノが適任というのが定石だと思う。

きっと、これからもそうだろう。慧君の事を理解できず、恐怖する。あんまり好きな言葉じゃないけど、それは仕方がない事だと思う。でも、これは当たり前の事だと思う。だって、他人の事なんて完璧に理解できる筈なんてないのだから。

どんなに親しくても、どんなに愛し合っても、どんなに憎しみ合っても。相手の事を完璧に理解できるなんて事は残念ながらないと思う。それこそ相手の心を読む能力でもない限り不可能だ。

人はきっと一生他人の事を理解することは出来ない。それは吸血鬼や悪魔でも一緒。でも、だからこそ、寄り添うことは出来るだろう。同じになる事は出来ないけど、一緒にいることは出来る。慧君が契約で私を守ってくれるのならば、私は想いで慧君を守る。

それが私みたいな非力な存在でも出来る事だろう。そうして私は慧君を抱えて急いでクロノさんという人の所に走った。ただ、慧君の命を助けてもらうために。


























あとがき
どうも、ようやくお爺さんとのバトル編が終わりました。
あんまり何話も続けたらグダグダになると思い、思い切ったら、何時もの二倍長い量になりました。
……
ま、まぁ、とりあえず楽しんでもらえることを祈ってます。
最初の加速魔法を集中力で何とか場所を予見したとかいうのがありますが、普通の人は絶対無理でしょうね。
音と一瞬の砂の動きで場所を確定するなんて何て集中力と書いている自分でもそう思います。
チートらしき能力が今のところない主人公の唯一のチート能力と言ったところでしょう。
とは言っても神速みたいに集中して場所を特定する前に攻撃するような最速攻撃には形無しですけど。
ちなみに作者の中では加速魔法は神速の三、四歩手前という事にしていますので、ご了承を。
後、後半でかなりチラリと瞳が赤く輝いているという事を書いてますが、この時、夜の一族の能力を使っているという事で。
具体的な事は次で言いますけど、とりあえず万能ではないという事で。
だから、最後に爆発から生き残ったのもちゃんとしたトリックがあるので。
後はこれだけで相手が怖がるものかと思う人がいると思いますけど、作者的にあんだけダメージを受けているのにそれをはっ?それが?的に行動してくる少年がいたら恐怖すると思います。
長々とした説明だと思いますが、一応作者なりの理由があるので出来ればそこらへんは菩薩のような心で許していただきたいと思います。
また、感想なども毎日楽しみにさせてもらっているので、遠慮なくどうぞ。
今の話の内容以外の事でも結構なので。
では、また次の話で。



[27393] 第三十九話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2011/12/17 12:06

突然、自分の眼がパチクリと開く。自分でも何故いきなり目が開いたのか解らない。そう思っていたら、何故か自分の顔の前にも目が二つパチクリと開いているではないですか。

はて?何で俺の目の前に目が二つあるのでしょうか?ややや?そういえば目の周りには顔や鼻や眉毛もあるぞ。それに髪の毛や耳や口までもあるではありませんか。これは一体全体どういう事ですか?

そう、これではまるで目の前に顔があるような描写ではないじゃないか。おかしいな。それじゃあ、理論的に目の前に他人が一人いるという事になるという事だ。うむ、自分の頭はちゃんと正常みたいだ。重畳重畳。

では、誰が目の前にいるのだろうと思い、少し視界を広くしてみた。そしてその顔の形や輪郭、髪の長さを見て、記憶の中の人物と照合してみた。

すると、あらびっくり。月村すずかでした。

「……」

「……」

俺達の間に言葉はなかった。とりあえず、今の状況を整理してみようと思った。今の状況。どうやら、ここは医務室みたいな場所らしくて、周りにはそれらしい器具が大量にあったし、腕には点滴が付けられていた。

そして目の前の月村すずかはと。俺は今まで寝ていたので勿論、ベッドの上でお利口さんみたいに寝ていた。そしてすずかはその上を覆い被さるように膝立ちをしていた。俗にいう━━━押し倒したような体勢という事だ。

「……」

「……」

ここは医務室だという事に思い出した。となるとあれがあるはず……と思い、右腕を動かそうと布団から手を出した瞬間。その手を電光石火の如き動きで捕まえられた。犯人は勿論、すずかである。速い。フェイトやあの老兵並ではないかと思うようなスピードである。

「ねぇねぇ、慧君。この手は一体何かな?」

「はははは、決まっているだろう?風雷慧という素晴らしい存在の右腕だとも。偶に暴走して相手の胸を揉んだり、スカートを下したりすることがあるのがチャームポイントなのだよ。」

「ふぅん?その事については後で拷問するとして。で、その素晴らしい右腕で何をしようとしたのかな?」

「ふむ。俺の想像が正しければここは医務室だ。ならば、医務室ならばかなりの確率で付いているものがあるよな?」

「うんうん、それは何?」

「ふむ、本当ならば誰が教えてやるか、この愚民がと言いたいところだが、今は特別だ。特別に教えてやろうではないか。感謝しろよ。そして答えは━━━ナースコールだよ」

「へぇ?うん、答えは解ったよ。でも、そのナースコールを使って何をしたいのかな?もしかして、看護婦さんといけないことをしようだなんて考えていないよね?」

「ははははは、その言葉はそっくりそのまま返させてもらうよ。俺はすずかみたいに年中発情期ではないのでな。それに、最近は看護師と言わないと諸団体が煩いらしいぞ」

「そんな微妙にリアルな事を言われても反応が返しづらいだけだよ……で?それじゃあ、そのナースコールを何に使うつもりなのかな?」

「なに。ただ、俺は目の前の痴女を何処かに連れて行って欲しいだけさ。」

「━━━落ち着こう」

「な、何を言うかね。俺はかなり落ち着いているとも。というか、そのセリフは俺が言うべきだと思うがね」

「いい、慧君?これは別に押し倒そうとか、襲おうとかそう言う行為ではないの」

「それはまた新しい見解だね。」

「うんうん。まずね。大前提として慧君は実はというか再び3日くらい寝込んでいたの」

「ふむふむ」

「それでね。今日も見舞いに来たけどさっきまでやっぱり起きてこなかったの」

「ふむふむ」

「それで心配になってね。そして思いついたの。これは━━━目覚めのキスが必要だと」

「何でさ!!」

「待って!」

言葉と共に俺の右腕を押さえている腕とは逆の腕で俺の顔の目の前に突き出す。何だか、何時も通りとはいえ今日のすずかはかなり面白いギャグキャラになっているようだ。

「いい、今からその理由に至った理由を教えるよ。まず目覚めのキスとは何だという事を説明するけど。目覚めのキスというのは簡単に言えば主人公、もしくはメインヒロインに来るある種のイベントという事。そして効果は相手が死にかけていたり、傷ついて気絶している相手を起こすことが出来るというある種の魔法なんだよ。色んな物語でこれをして起きたという事例があるから眉唾物ではないの」

「……生まれてから早9年。まさか目覚めのキスという事についての講釈を聞くことになるとは思わなかった……」

こんな講釈を聞いたのは人類の中で俺だけではないのだろうか。そんなつまらない称号は本当に要らなかった。何故俺はこんな目に合わなければいけないのだろうか。

「そんな奇跡を起こす魔法があるのだから━━━使わない手はないと思うの」

「……」

無言で今度は左手でナースコールをこっそりと探そうとする。今度は布団の上から押さえつけられた。これならば、別に俺は老兵がこいつを結界に閉じ込めようとした時、慌てなくても良かったかもしれない。むしろ、すずかの方が楽に勝てたかもしれない。

何だったんだ今回の疲労はと冷静に考える。まぁ、とは言ってもそれもまた人生。人の生涯とは山あり谷あり、難ありの連続だと改めて噛み締める。世界は何と困難の連続なのだと。

「だから!ここでキスをしようとする事はむしろ善意な行い……!そう、これは人命救助と愛を両立させた素晴らしき行い……!先達に死ぬほど感謝するよ!」

「頭のねじが緩んでいるなんて典型的なセリフは言わないさ━━━お前はむしろ締めるねじがない人間だ……」

暫くマウントポジションから抜け出る戦いになった。その内容を伝えるには老兵との戦いの何倍もの密度の戦いがあったので、流石に省略をさせてもらう所存である。全くもって傑作だ。

























「それにしても三日か……今回はあんまり寝てない気がするな」

「普通ならばそれはかなり長いんだろうけどね」

結局、乱闘もその辺にして普通に話すことにした。寝ていたから当然、時間感覚はおかしくなっているが、今更どうでも良い事だし、慣れてしまった事だ。取り乱すような事はしない。強いて言うならば体の節々が少し痛みを発するが仕方がない事だろう。

痛みで思い出した。すずかの話通りならば、三日前に受けた傷はどうなっているのだろうかと思い、自分で受けた傷の所を軽く触診したり、動かしてみたりする。

……うん。ちゃんと動く。体のどこにも動かないという所もなければ、逆に何の感触も感じないという所もない。重畳重畳。俺の予想だったら左腕はもしかしたら切断かなぁとか思っていたし。

魔法による回復手段が体に聞いたのか。否、多分だが、一番自分の再生に役立ったのは……

「吸血鬼としての再生能力か……」

「……」

今の俺の体は正直に言えば人間だとも言えないし、吸血鬼だ……とも言えない体らしい。言葉にするならば今、流行の半妖という奴かもしれない。よく解らない存在だ。そもそもがだ。夜の一族の血を人間に分け与える……それもかなり適応率が高い人間に与えるだなんて試みは夜の一族史上で初の試みらしい。

そんな実験みたいなことをして出来上がったのが、中途半端な生き物という事だ。これならば、いっそどっちかにちゃんとしてほしいとか思うかもしれないが、そこは許してほしいものだ。

すずか達みたいに常時身体能力が高くなるというわけでもなければ、回復力も同じだ。月村姉曰く、多分かなり集中、もしくは興奮していないと発動しないんじゃないかしらとの事で。微妙に制限がかかっている力だ。

まぁ、お蔭で戦っている時に少し血が上ったせいか、身体能力が少し上がり、傷を回復することは出来なかったが血を止めることはしてくれたので、これ以上望むのは少し言い過ぎだろう。

そして問題の吸血だが。それについては何故だか知らないが、そんな衝動はあんまりなく、強いて言うならばすずかの血を呑むことが出来るくらいだ。それのお蔭か、すずかの血を呑むと回復力が高まる。それのお蔭で今、生きているのだろう。有り難い事だ。

「……後悔している?」

「あん?」

「だから……その……吸血鬼みたいにな━━━」

「しつこい」

ぴしゃりとすずかの世迷言を断ち切る。別に今更自分が人間だとか、バケモノだとか。吸血鬼とか知ったことではないのだ。そもそも、すずかに昔言ったようにバケモノというのは確かに人間離れした力を持つ者にも言われるが、他にも精神的な意味で人間から乖離した存在もバケモノと言われるのだ。

つまり、既にバケモノとなっているんだ。今更、体が吸血鬼化したからと言ってどうという事はない。むしろ、魂にようやく肉体が追いついてきたという思いがある。つまり━━━別にどうでもいいと言う事だ。

「……はぁ、やっぱり、筋金入りの偽悪者だね、慧君。それも少しナルシストが入っているなんて……ある意味一番厄介だよ」

「誰が偽悪者で、ナルシストだ。いや、まぁ、後半は認めてもいいが、偽悪者って言うのは認められんな」

「はいはい」

全然認めていないようだ。俺の周りのメンバーはこの二年間で少しひねくれすぎだと思う。まだ小学三年生なのだから、もう少し元気に素直に純粋に人を信じる者だろう、普通。嘆かわしい世の中だね。

「……で?他の連中は?」

「ん。今日は私が速くに来ただけ。さっき、皆にも連絡したから、きっとすぐに━━━」


ドタバタドタバタドタバタドタバタ!!


「━━━来たみたいだよ」

「そのようで」

ドタバタと物凄い音を立てながらこっちに向かって走ってくるのが解った。やれやれ。もう少し静かに動くという事が出来ないのかね。一応ここは病室なのだから。もし、俺が二度寝とかしていたらどうするつもりなんだ。

すずかは苦笑。俺は嘆息して、その煩い足音を聞いていた。結局、まだあの煩い連中と付き合わなきゃいけないようだ。生きているという事はそれだけで苦労だ。別にどうでもいい事だけど。

そんな事を考えているうちに音が扉の前にまで来ていた。そしてそれに反応して自動ドアだったらしいドアが流れるように開いて、そこには何時ものメンバーがいて、俺が起き上がっている姿を見て馬鹿みたいな笑顔を作って中に入ろうとして━━━ドアが人で詰まった。

「あ、あれ!?か、体が動かないの!」

「ちょ!お、おかしいでしょう!?何でそんな上手いタイミングでドアに皆で入ろうとすることが出来たのよ!!ってイタ!は、はやて!!車椅子が痛いわ!」

「そ、そんな事を言われても私にはどうすることも出来ひんねん!」

「あ、主!今、何とか……!くっ、う、動かない!!」

「う、上手い事体に力が入らない体勢で入ってしまったわね……」

「……それもあるかもしれねぇけど……一番の原因はシグナムとシャマルのその無駄にでかい胸の脂肪じゃなくね?」

「何やて!!何て失敬なおっぱいや……!そんな失敬なモンは主が没収してやるで……!」

「あ、や、止めてください、主!どうしてこんな動きにくい体勢でいるのにそんな事だけ動くことが出来るのですか……!」

「血や!関西人としての血が私をこうさせるんや!この熱いパトスは誰にも止められない……!」

「は、はやてちゃん!落ち着いてー!」

「……なぁ、シャマル。今、お前の体に押し付けられてるから思ったんだけどよ……お前のお腹、ぽよぽよだよな……」

「何て事を言うの、ヴィータちゃん!!今、貴方は人の言葉の中で一番酷い事を言ったわ!!そ、それを言うならヴィータちゃんだってあんだけお菓子とか食っているんだからお腹が……嘘」

「いや、だって、アタシはちゃんと運動しているし。シャマルはあんまり動いてなかったよなぁ」

「!!ち、違うわ!!そもそも私達は闇の書のプログラムよ!!私生活を怠けたって体が変わるなんて非科学的よ!!」

「み、皆、落ち着いて……バルディッシュ。何とかできない?」

『OH……It'difficult.』

余りにも奇怪なおしくらまんじゅうなので不覚にもリアクションが取れなかった。それはすずかも同じらしく、苦笑の笑みのまま顔の動きが止まっている。その表情のまま俺達は視線を合わせた。それだけで以心伝心で来た。次に俺達が何をするかをだ。

「すずか。お茶ないか?出来れば欲しいんだが」

「うん、解った」

つまり、このギャグを傍観すると。他人の不幸を見れば心落ち着くのは誰だってそうだろう。それは悪魔でも吸血鬼でも同じこと。これはある種の一体感というものかもしれない。人間の潜在能力と言うのは素晴らしいものだと頷く。

「こ、こら!そこのバカップル!!いいから助けなさい!!」

「ははは、真ん中の台詞は斬り捨てて言うが、俺は空気を読める子。だから、俺は風の流れに身を任せるのさ……」

「人間や世界に存在しているだけで抗っている慧君に言われたくないの……!」

「ほう?そんな事を言える余裕があるのかね?では、高町には特別にこれを塗ってやろう」

「それは……唐辛子……!や、止めて!!それを一体どうする気なの……!」

「決まっている。これはその可愛い鼻に塗ってやろうと思っているのだよ」

「何て拷問なんや……!人が動けない時に苦痛を与える……拷問吏になるのにこんなに相応しい性格他にいいひんで……」

「待って、慧君。そういえば、まだその唇、奪っていない」

「ケ、ケイ?一体すずかと何をしようとしていたの……?」

「落ち着け、フェイト。そんな涙目でぷるぷるしてこっちを見るな。すずかの言う事は全く聞かない方が良い。こいつは締めるねじが一本もない妄想痴女だからな。」

「妄想痴女……何だか逆ジャンルが合成された犯罪みたいな響きだけど……それはつまり、襲っても仕方がないという理論武装が出来た証……!」

嫌だ、この子。もう人間とか吸血鬼のレベルじゃないわ。変態度だけならば、俺を超えていると本気で思った。そう思いながら、貰ったお茶をずずずーと飲み干した。そういえば、このお茶は地球製だろうか?

























「全く……ようやくお目覚めか……人を心配させた罰として3日分の宿泊代と医療費を払ってもらおうか。君はどうやら罰というものを与えないとつけあがるタイプみたいだからね」

「何だとこのクソチビ真っ黒が。それがお前の仕事を少しでも減らしといてやった恩人に言う言葉か。恥を知れ恥を」

「「……」」

「……二人とも、止めなさい。ほら、クロノ。艦長のいう事を聞きなさい」

「……了解しました」

女狐艦長のいう事を聞いて渋々と言った感じでこっちを睨むのをやめた黒いの。どうやら、まだまだお母さんに甘えたいお年頃みたいだ。見た目通りの精神年齢のようだね。若いとはいいものだな。

「……無性に君を殴りたくなってきたのだが……」

「それが最近のキレる若者という奴だね」

話が進まない。お互いそう思ったのか、同時に嘆息する。何故だか知らないがこいつとはあんまり気が合わない。いや、他のメンバーとも勿論、気なんてものは合わないのだが、こいつは格別だ。本能的に合わない。

「さて……何はともあれおはようと言うべきかね?」

「ああ、そうだな。こっちとしてもようやく話が出来ると同時に君が起きたことによって士気が戻りそうだよ」

「……何?後半は無視するが、まだ話をしていなかったのか?」

周りをチラリと見まわす。そこには俺の知り合いが大抵いる。店をやっている高町父や高町母や高町姉は流石に家を全員で空けるわけにはいかないらしい月村姉やメイドさんはここには来ていない。それでも話を進めるには十分の役者は揃っている。

「馬鹿か、お前。三日も仕事もせずにいたらニートに堕ちるぞ。別にお前がどうなってもどうでもいいけど」

「怒りたくなるようなセリフは無視させてもらうが、僕のせいではない」

「はぁ?」

「彼女達が話を聞くならば君がいないといけないって言ったんだよ」

そう言いながら、顎でその彼女達の方向を示す。否定する理由がないので俺もそっちの方を見てみる。途中で首がこきゃと嫌な音が鳴ってしまったが、それは運動不足で起こる事だと自分に言い聞かせる。

そこにいるのはヴォルケンリッターと八神。何やらよくありがちな沈痛の表情というのをしている。つまりは面倒臭い顔をしているという事だ。これはまた面白くなさそうな話題に入りそうだ。そう思い、頷き、そして黒いのの方に向いた。

「━━━さて、話をしようか」

「……待ってくれ」

無視は許されなかった。面倒だから無視をしたというのに空気を読んでほしいものだと思い、再びシグナム達の方向に振り返る。

「……で?何かね?つまらない事を言ったら爪楊枝を鼻に刺すよ」

「……すまなかった!!」

皮肉を言った瞬間、四人が一斉に土下座をしてきた。ここまで素早い土下座は一度も見たことがないと驚いている場合ではないと空気が告げている。現に高町やバニングス、黒いのが視線でこう訴えている。何とかしろと。

「やれやれ。別に俺はお前たちに謝られるような事をされた覚えはないのだがね」

「……幾らでもあるじゃねぇか!」

「……その傷……俺達がお前に頼まなければ、否、あの時、主への注意を怠っていなかったのならばそんな事にはならなかったはずだ……!」

「そもそも……私達が主の為とはいえ、たくさんの人を殺していなかったのならば……」

「今回の事件は全て……私達のせいだ。本当にすまない……」

ふぅと溜息をつく。頭が固い人間はこれだから嫌だ。別に傷とかそういうのはどうでもいいのに。なぁ、女狐艦長?

「……そこの無表情少年は何ともないようにしているけど、まだ傷が完璧に言えていないから、まだ痛みはあるわよね?」

「「「「……!」」」」

余計な事をと思う。確かに痛みはあるが、別段それがどうしたという事なのに。老兵にも言ったように痛みって言うのは耐えるものではなく、受けいれるもの。周りにその考えを押し付ける事はしないけど、俺はその考えで動いているのだから、気にしなくてもいいのにと思う。

「だから気にしなくてもいいと言っているのに。大体、俺が予想していたよりもかなり軽傷で助かったくらいだ。良い状態で左腕切断。最悪な状態で死亡すると思っていたからな。どちらかと言うとこれはまさしく最善の結果だ」

「そんわけないだ━━━待て。予想しただとundefined・・・・・・undefined

流石は烈火の将。それとも剣の騎士かな。戦闘以外にも頭は回るようだ。というか最低でも俺よりは頭が回るだろう。別段、俺の頭はスパコン並みの並列処理が出来るというわけでもないのだから。別にスパコンのスペックとかは全く知らないのだが。

「どういう事だ。予測と言うのは……怪我だけの事か?」

「んにゃ。襲撃の事だね」

ずずずーと再びお茶を飲む。言い忘れていたが、ここはさっきの医務室だ。あの後、ドアに詰まっていた奴らを思いっきり蹴って、外してやって、その後に乱闘騒ぎになったら、黒いの達が来たのだ。まるで、計ったようなタイミングだった。

「おい、ちょっと待った、暴論遣い」

「何だ口が悪い執務官」

そんな話をしていたら黒いのが割り込んできた。美女と語らっているのに邪魔とは……少しは空気というものを読んでほしいものだね。これだから、堅物はいけない。

「リンディさん?その砂糖が入ったリンディ茶を貸してくれませんか?慧君に呑ませたいので」

「すずかさん?それは人の飲み物ではありませんのですよ。それは舌がレベルアップした結果、人の食べ物や飲み物を受け付けなくなった人の終わりとしての果ての飲み物ですのよ?」

直ぐ傍で女狐艦長が崩れ落ちて、泣き真似をしていたが無視した。だって、俺は嘘を言ったつもりはなかったのだから。全て、本心から出た言葉だ。お嬢様言葉になったのは、断じてすずかに屈したわけではない。そう、ただ、お笑いを取ろうとしていただけなんだ……。皆、信じてくれ……。俺は決して権力に屈したわけではないんだ……!

「あれー?こんな所に札束がある~。これで慧君を殴ったらどんな反応が返ってくるんだろうね?」

「何を言う、お嬢様。私、お金を払ってくれる人間の味方です。お金を払ってくれるのならば、例え、火の中、水の中、草の中、森の中(○ケモンのOP風に)。何処でも貴方を守る剣にも盾にもなりましょう」

「結婚式会場でも?」

「それは無理」

「おいこら。僕の話を聞け」

ち、違うよ?俺は権力に屈したわけではないんですよ……!俺はただお金に屈しただけなんだ!!否、俺は貧乏に屈しただけなんだ……!そこのところを間違えないでほしい。

「で、何だ?黒いの」

「質問したい。当たり前だが、何故君が襲撃を予想できたというんだ。」

「うむ。まぁ、誤解がないように言っておくが、どんな襲撃が来るかは予想していないぞ。俺が予想したのは精々襲撃が来るという事だけだ」

「……だからそれはどうしてだ?」

「簡単だ。もしも、お前たちと完璧にコンタクトが取れて、連携を組んだら、それこそ襲撃のチャンスは完全に潰れてしまうだろうに。そしたら、出来る事とすれば暗殺だが、それもまた難しいな。何せこっちには有り得ないくらい気配感知に優れた剣士が三名もいるのだからな」

「……君もそこに含めてもいいと思うがな」

「褒めたってつけあがるだけだぜ、恭也さん」

「確か二度ネタじゃなかったかしら……?」

無視無視。バニングスの事は放っといて先に進もう。何だか周りの人達もこっちに注目し出したようだしね。こういう注目の現場の真ん中に座るというのもまたぞくぞくするね?

「となるとすれば、やる時期はお前達と組む前だろうね。だから、襲撃には一応お前と会談してからずっと気を付けていたけど、意外と遅かったようだね」

「……待て。確かに聞いていたら成程と思ってしまうけど、そもそもだ。まず、その予想は相手が闇の書が復活したことを知っていなければいけないじゃないか。なのに、どうして、そんな事が解った。」

「ああ。だから予想なんだよ。つまりだ。俺とお前の会談内容がばれていたら、きっと誰かが情報をリークするだろうと踏んでの事だったからね。まぁ、普通ならば気づかれないと思うが。例えば、常時こっちを監視している人間がいたとすればどうだろうね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

「……!まさか……!」

「お蔭で証拠が出たしね」

証拠の内容はこうだ。あの時、何の用かと尋ねた時。復讐のメンバーはこう答えた。自分はそこにいる闇の書の主を封印しに来たと。俺は会談で一度も八神の事を漏らしていないというのに。シグナムや恭也さん達もそうだ。

そして証拠はもう一つある。それは恭也さん達の動きを止める為の人数がぴったしであった事と、そして恭也さんや美由希さん、士郎さんも警戒していたという事だ。あの人達は門外不出の剣士であり、例えそれを知っていたとしても相手は魔力もないただの剣士なのだ。魔導師達が警戒するとは思えないのだ。何せ今回の戦いでも解った通り、高町と八神を例外と除く、俺達地球人は魔法に抗う事はほぼ不可能なのだ。

ほんの初歩的な魔法にさえ抗うことは出来ないのだ。そう━━━御神の剣士と言う例外でない限りだ。

「そういう事か……君は自分どころか周りの人間さえ囮に使って・・・・・・・・・・・・・・・・・・、彼女の家に結界を張っていた人物が今も尚、見ているという証拠をつかんだという事か……」

「そゆこと。とは言っても、そのまんま、俺の所に来る可能性もあったのだがね。まぁ、証拠をつかめる確率は五分五分と言ったところかな?」

彼女の家に結界を張ったの下りで八神は???の顔になった。当然だ。まだ、そういう事は話していないのだから。まぁ、詳しい事は後にしておこう。面倒臭いしな。

「……ちなみに、君のところに来る確率はどういう確率だったんだ。」

「ん……実際には俺に来る確率が七割、残りが今回みたいになると言ったところかな」

「ちょっと待て……じゃあ、ほとんど君の方に来ると思っていたのか?」

「そりゃそうだ。もしも、相手が復讐しか考えていない人間だったのならば、考えるなんて行為を破棄して俺の方に来ていただろうに。」

「……その場合どうしていたんだ。君の事だから何か考えていたんだろ?」

「いや。死んでたね」

さらりとどうでも良い事を言って再びお茶を飲む。うんうん、やっぱりお茶と言うのは最高だね。お茶を生み出した人間はきっと今頃神様として奉られているだろう。この神様だけは信じていいかもしれない。

そうやって感慨に更けてるといきなり椅子を派手に転がして、立ち上がる黒い執務官や恭也さんなどがいた。

「馬鹿か、君は!!自分が七割で死ぬような策を使ったというのか!!」

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが……ここまで馬鹿とは思っていなかったぞ!!」

「何を怒っているんですだよ。別に俺が死んでもそっちには関係ないでしょうに。」

「大有りだ(よ)ーーー!!!」

最後の一言は全員で合唱された。全くもって理解できない。別に俺みたいな生意気でクソで最低最悪。じゃなくて、最悪にして災厄が死んでも困らないだろうに。逆にうれしく笑うべき場面だろうに。

「前から思っていたけど……慧君は自分の命の価値を低く見積もりすぎなの!!」

「では、問題。俺<恭也さん。○か×か?」

「ギャグ的な意味ならば恭也さんの方で、シリアス的な意味ならばどっちも間違いであんたも恭也さんも大事でしょうが!!」

「とりあえず、ギャグ的な意味の方はかなりむかつくが返答で、シリアス的な意味ならばまだまだ子供の発想だなが返答だ、バニングス」

「そうだよ、慧。僕は君を凄いと思っているけど、その点についてだけは少し言いたいことがあるよ」

「ユーノ。お前は少し買い被りって言葉を知っておけ」

「ケイ……そんなに私達の事、信じられない?」

「フェイト。上目づかいで涙目は禁止。そして答えは別にの一言で」

「大体だ……君には前々から言いたいことが大量にあったんだ……!」

「……」

「そうだ、慧君。俺も今回の件で人を勝手に戦線離脱させたことには文句が大量に━━━」

ダン!!と恭也さんの台詞を途中に断ち切る音が部屋の中に響く。皆もその音に物凄く驚く。中には音だけを聞いて臨戦態勢になる人間もいる。まぁ、それはヴォルケンリッターと黒いのと恭也さんだけなのだが。ユーノは少し遅いな。

原因は俺の足。余りにも煩いので少し黙らそうとして、震脚を放っただけである。中国武術を極めたなんて口が裂けても言わないが、少し自首訓練で発頚を覚えたら出来る。とは言っても誰かに教えてもらったとかではなく、やっていたら、自然とできたという感じだから、詳しい理屈は全くわからんのだが、それにこんな曲芸みたいな事でしか使えない。

これを覚えるのにかなりの練習を一応したのだが。本来ならば床くらいへこませるらしいし。俺が出来るのは精々大きく音を鳴らすことと、少し揺らすぐらい。俺程度じゃあどんなに頑張っても天地と合一する圏境などは到底至る事などできないだろう。

「……慧君。君は中国拳法にも手を出していたのか……」

「齧った程度ですよ。この程度ならば、恭也さんぐらいならば、一か月もあれば出来るんじゃないですか?」

「今のって……地球の魔法?」

「暇があったら、ユーノにも知識を教えてやるよ」

そんな暇はないと思うけど。

「さて、何処まで話したっけ?ああ、証拠が出たって話だったな。とは言っても、それで犯人が以前出た人とは限らない。ここまで来たら有り得ないと思うけど━━━」

「いや……僕が少しあの人に問い詰めようと思った矢先にあの人達は姿を眩ました。確定だよ……きっと、犯人はあの人達だ」

「……少し焦っていないか?」

「……そうだろうな。すまない。軽率だった。もしかしたら、それで僕が殺されていたのかもしれなかったな」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

そうやって黒いのと話し合っていたら突然の大声。声の主は八神はやて。その顔に張り付いている表情は困惑。何が何だかわからないと言った感じの表情だ。それもそうだ。実際、何もわかっていないのだから。

「さっきから……何でそんなに慧君が死ぬとか、えっと……クロノさんが死ぬとか。そういう話が出てくるんですか?だって、私が頼んだのはそんな物騒な話じゃなくて、ヴォルケンリッターの皆の罪を出来るだけ軽くしてほしいっていう事だけで……」

言葉を吐き出しながらも困惑の表情は晴れない。それどころか泣きそうな顔になってきている。それにヴォルケンリッター達はどうしたもんだという顔のをして、友人’s+恭也さんもあわあわした表情になり、管理局組はうっとした顔になり、そして。

「……何故最後にこっちを見る?」

嫌な役回り……というよりは損な役回りだ。まぁ、確かにそう言うのは自分の役回りだと自覚しているが、大の大人たちが子供に頼るというのは如何なものだろうと少し思ってしまうのは間違いだろうか?





















「……そんな……」

八神はやてはかなり驚いていた。今の自分の状況もそうやけど、その自分に対してどれだけの人が動いて、そして危ない目に合っているのかと。

クロノ・ハラオウンさんは自分の為に色んなところを駆け巡って、情報収集は勿論、フェイトちゃんの裁判の為にも頑張って行動しているらしい。良く見たら、目に隈が出来ているのが解った。

ユーノ君はその情報収集の手伝いの為に無限書庫とかいうかなりほんの量が多い所でかなりの時間を闇の書を調べる為だけに使っていたらしい。その目はやはり、クロノさんと一緒やった。

そして風雷慧君。

私達も囮にしていたらしいけど、一番危ない所にいた少年。そして結局、一番酷い目に合った少年。今ではこうして普通に喋っているが、私達は知っている。3日前の時は危篤状態だったのだ。むしろ、この回復能力は異常との事だ。

それについてはすずかちゃんに聞いたから解っている。半吸血鬼。人間でもなければ、吸血鬼でもない存在。それが今の慧君の状態を言うらしい。そしてすずかちゃんは本物の吸血鬼らしい。

別にそんな事は良かった。相手が吸血鬼でも友達と思える人ならば気にすることなんて何もあらへんと思っていたからや。それはなのはちゃん達も一緒で、直ぐにそんなの関係ないの一言ですずかちゃんと友情を深めることが出来た。

だから別に慧君の事も大丈夫。でも、一番の問題は彼はもしかしたら、そん体質を利用して更に危険な事をすることに躊躇いを失くしてしまったのではないのだろうか?それならば、逆効果だと言うしかなかった。

結局は命の危険。それが答えだ。

他にもいろんな人が私を助けるために動いているらしいというのが何となく解った。三人の少年は当然でこのアースラとかいう戦艦?の人達も皆手伝っている様子である。でも、それは同時に危ない橋を渡っているという事にもなると思う。

これではまるで━━━周りに被害を広げる台風と同じやんか。それも無自覚に。自分の為だけに貴方の命を使わせてくださいって言ったのとほとんど同じ。いや、同義やろう。

これならば。

これならば自分で、

これならば自分で何とかした方が━━━

「はい、そこ」

「イタァッ!」

思索にふけった瞬間、強烈なデコピンを受けた。余程うまい事は言ったらしく、結構痛い。思わず涙目になってデコピンをしてきた人物、慧君の方を睨んでしまう。

「い、いきなり何すんのや!!結構痛いで!?」

「何と!それは嬉しい……OK。ヴォルケンリッター。落ち着こう。俺は別に八神を虐める事だけに喜びを感じているわけではない。俺は虐め甲斐がある人間を弄るだけで……待て!来客用のスリッパを投げるな……!ああ!か、花瓶はらめぇーー!!」

閑話休題。

「……さて、話の続きだが」

「……生傷ばかりでしまらんなぁ……」

「煩い、黙れ。話を戻すぞ━━━まぁ、お前が何を考えているかは大体は解る」

「まさか……これが噂の以心伝心━━━すずかちゃん、あかん。私の首はそこまでしまらへん……!」

「……すずか、止めとけ。こんな所で世界の一部に手を出しても、大した変動は起きないぞ」

この世界には余裕が無さ過ぎると改めて思った。少しギャグを言うだけで命の危険を感じるというのはやはり駄目やと思う。人間や世界に一番必要なのは余裕やと実感する。

そして慧君と同時に嘆息する。そう━━━ボケキャラは何時の時代も苦労する。

「……話を戻すぞ」

「……YES,SIR」

とりあえず、無理にでもシリアスな雰囲気に戻すことにした。このままでは話が全く進まないし、ボケキャラの血が勝手に暴走してしまいそうになってしまう。そうなると一生混沌としたコントになってしまうのである。

「話の続きだが。どうせまた無駄な罪悪感に浸って、『私がこんなことをしなければこんな事になっていなかったのにーー!!』みたいな事を考えているんだろうけど、はっきり言って無駄だし、どうでもいいから捨てろ」

「そ、そんな簡単に捨てられるわけないやろう!?そんな簡単に捨てられるんなら━━━」

「どうせ、今さら罪悪感を感じても、もう遅いぞ」

「な、何でや?」

「そりゃそうだ。ここまで堂々と動いたし、戦ったんだ。今頃、闇の書が復活したというのは情報が速い奴はもう手に入れているだろうし、それが闇の書に因縁を持っている相手ならば尚更だ。少なくとも高町家と月村家とバニングス家はどうか微妙だが、あと、アースラ組と俺はもう関わっているという事ははっきりされているだろうね」

「……!」

当たり前の事実を伝えてられるとこれまた、解りやすいくらい動揺する私。何せ何時もつるんでいる連中は当たり前だが、アースラ組はクロノ君が途中で慧君と恭也さんとの戦いに簡単に参戦しようとして来たことから答えは明白だろう。少なくとも今言った連中は既に巻き込まれていると慧君は簡潔に伝えた。

「解ったか?ありきたりなセリフだけど、もう引き返すなんて言葉を使うのは無理なんだよ」

「そんな……」

「というわけで」

「……?」

「お前に必要なものは罪悪感ではなく━━━更に進む傲慢さだ」

「……どういう事や?」

言葉通りの思いやった。傲慢さなんかが一体何に使われるんやろうかという思いで一杯やった。むしろ、そんなものはあんまり持ったらあかんのちゃうんかと思う。傲慢何て単語からはいいイメージは全くしないし。

そう思っていると慧君は再び嘆息しながら言葉をつなげる。

「なに、難しい事ではない。要は一度決めた事なんだ。途中で投げ出すのは後味が悪いから、投げ出すのは終わらせてからにしろという事だ」

それと同時にパチンと少々演出気味に指を鳴らす。そこで空気を読んだのかユーノ君が立ち上がってきた。まるで、今から何かが始まるという感じだ。実際何かを始めるのだろうけど。

「で、でも……これ以上皆に迷惑なんて……」

「いいんじゃないか?何せお前の周りにいる人間は━━━全員お人好しだ・・・・・・・。俺を除いて」

彼の視線が周りを視ろと促す。それに何の気なしに応えて周りを視る。するとそこには



皆、笑顔で私を見ていて━━━



「━━━あ」

そこには曇りなんて一つもない笑顔。それは友達はおろか、今日、知り合ったフェイトちゃんやユーノ君。クロノさんやリンディさんやエイミィさんも同じだった。誰一人として嫌な顔をしていなかった(慧君を除く)。

「言い訳封じとして聞いとくけど、他のクルーの様子は?」

「愉快な事にアースラのクルー達もやる気満点だよ。━━━理由が薄幸美少女を救うためにとか叫んでいる人間もいたが」

「あっはっはっ。まぁ、アースラのメンバーは皆そんなものだよ、クロノ君」

「そうねぇ……頼もしいでしょう?」

更にはここにはいないが、この船の人達も自分を救うためにやる気を出しているという。どういう事やと思う。だってその━━━私は他人から見たらとっても危ないものを所持しているだけの危険物みたいなものやろうに。そう尋ねてみたら

「君の疑念はもっともだが……では、それじゃあ、僕たちは包丁を買う人間でさえ捕まえなきゃいけない。君が言っていることは簡単に言えば以前この包丁で殺人犯が出たので同じ包丁を持っている貴方も逮捕ですと言っているみたいなものだよ」

と苦笑付きでクロノさんに簡単に答えられた。自分はそんな捕まるような事はしてへんのやと。君は幸せに生きるべき普通の一般人だと。そう言外に伝えられた。その言葉に嘘は見つけられなかった。

「で、でも……私のせいで恭也さんや慧君が━━━」

「はやてちゃん。俺達は家族なんだ。そんな事を気にしなくていい」

「俺に関しては治療費だけでも━━━」

慧君が色んな人たちにタコ殴りにされていたけど無視した。今はどうやらすずかちゃんに舐められているようだが(比喩ではない)、気にしないことが吉だ。事実誰も気にしていない。

「こ、今回は良かったけど、これからもそうなるって━━━!」

「主」

危うく激昂しかけたところをシグナム達が歩み寄って声をかけてくれた。その顔には私を安心させるための笑顔と━━━今回の件で何もできなかった自らへの怒りが込められていた。

「申し訳ありません。私達が貴方の所に来てしまったせいで、主にご迷惑を……」

「ち、違うねん!私は皆を迷惑なんて思ってへん!!ただ、私は……」

自分のせいで他の人たちに迷惑をかけるのが嫌で……と思った瞬間。車椅子を蹴っ飛ばされてこかされた。いきなりの攻撃で受け身なんて当然出来ひん私はそのまま無様に頭からぶつけた。その痛みで涙目になってしまう

「っ!~!」

「あ~、もう一々煩い」

やったのは案の定と言っていいかもしれない。慧君だった。相変わらずの無表情で私みたいな美少女を攻撃したことに何の罪悪感も持っていないようだ。女の子相手にこの仕打ちは如何なものやろうかと思う。

「一々ネガティブな事をねちねちと言いやがって……貧相なのはその胸だけにしてくれ」

「な!!何ていう暴言を……!今、慧君は私とアリサちゃんとなのはちゃんを敵に回したで!!?」

「……ん?それはまるで私達の胸も貧相って言ってるように聞こえるけど。はやて?」

「うん、私もそれについては『お話し』したいなの」

「さて、話を続けよう。いいか、八神。お前みたいな馬鹿であほで愚かで間抜けで狸でいいところといえば料理の腕が高いと言うだけのお前をここにいるお人好しの馬鹿集団は何と助けようとしているのだ。なら、それを利用しない点はあるまい?というかしろ。これ以上監視が付くのは面倒だ」

「……絶対後半が本音やろう」

「隠す理由もないし。大体何だ?お前は?自分から頼んだくせにこうやって被害が出たら後悔か?それならば、お前は何をすることも出来ないぞ。何せ人が動くときは誰かを蹴落としたり傷つけたりすることは必要条件なんだから。現にそうなっただろう?━━━俺は俺が生き残るためにあの老人を倒したのだから」

生きるという事は誰かを傷つける事。当然と言えば当然の心理。極論だけで言えば私達が呼吸するだけで地球は汚れ、私達が何かを食べるだけで誰かが飢え死にしていて、私達が遊んでいるという事は誰かが遊べるような環境にいないという事なのだから。

「誰もが笑って、誰もが幸せな世界。そんな馬鹿みたいに夢みたいな世界を望みたいというのがお前達みたいな幸せ者だろうけど……望むという行為がある限り無理だ。望みは人を狂わす。それが例え良い願いだろうが悪い願いだろうが。良くも悪くも願いと言うのは他人との衝突を作る原因だよ。」

望むという行為は他人と触れ合い、もしくは衝突する原因である。それが例え良い願いでも、悪い願いでも。それが普通の人の営みだと。彼はただ述べた。そこには何の感慨もなかった。あるのは事実の確認のみ。

「結局、何をしてもそれが何かを傷つける。お前らは怒るかもしれないが、それは仕方がない事だ。人間は未来を見ることも出来なければ、運命を決定することも出来ない。何をどう足掻いても人を傷つける。」

「そ、それじゃあ━━━」

「だから。俺達みたいなちんけな人間が出来る事は一つだ。自分が納得できるか、もしくは最後まで意地を貫くかだ」

私の言葉を遮って言葉をつなげる彼。自分が納得するか、最後まで意地を貫く?どういう事や?

「前者は簡単だ。そういった世の中を悲観して諦め、何もかもを投げ出してただ生きる事だけを目的にすること。悪いように言ってるように聞こえるかもしれないけど、別に悪い事ではない。大抵の人間がこの道を選んでるし、それが一番頭がいい方ではあるだろう」

「……じゃあ、後者は?」

「後者もこれは簡単。例え誰かを傷つけてでも、自分には叶えたい願いがあるというそんな意地を以て最後まで抗って苦しみ、もがき、成功するとは限らないようなチャレンジを繰り返す事さ。誰かを傷つけるかもしれない。でも、それ以上に自分にはやらなければいけないことがある。こんな所では終われない。そういった情けない思いで馬鹿みたいに馬鹿な事をすることだ。で、だ。お前はどっちなんだろうなぁ、八神・・・・・・・・・・・・・・・・?」

「……」

話は結局最初に戻る。止まるか進むか。そこまで考えて少し深呼吸する。そうや。少しさっきから焦っていると思う。少し悩んでから答えを出してもいいと思う。感情論だけで結論を出した結果。最悪な事態になるなんてことは避けたい。

そう思い、そして考える。まず、このまま続ければと言う未来に行けばどうなるかを。当然、まず管理局の人には迷惑がかかる。ただでさえ、自分たちはまだ何もしていないとはいえ、闇の書というのはかなりえげつないものあったらしい。犯罪者予備軍呼ばわりされても否定できひんらしい。

そうなるとアースラの人達の風評が悪くなるのは確実やと思う。それに加え、仕方がないとはいえ復讐をしようとする人たちもまた来るかもしれない。その場合は今回みたいに戦闘になる確率はかなり高いと思う。そうなった場合矢面に立つのは今回みたいな場合、周りの皆や。

嫌な言い方やけど、それが魔力を持っているなのはちゃんやフェイトちゃんならば、自衛できるかもしれへんけどこれが魔力を持っていないアリサちゃんや月村家、なのはちゃんを除く高町家、そして慧君になった場合は危ないの一言やと思う。

現に目の前の少年は命を失くす危険の二、三歩前やった。逆にこんなに無頓着の少年がおかしいのだ。そう思い、少し睨むと慧君は何を勘違いしたのか、サムズアップした。そしてまた皆に殴られていた。無視した。

そして今度の止まった場合やけど、この場合やと━━━

「慧君、決めたわ」

「うん?」

「私は進む。どうやら私は後者の馬鹿やったみたい」

「……へぇ?お早い決断で。もう少し悩むか愚痴ると思っていたけど?」

「……慧君の事やからどうせ解っていたくせに」

苦笑して彼を見る。そう、彼の事だからきっとわかっていたはずだ。だって、この問題は立ち止まっても、立ち止まらなくても周りに被害が出るのか前提条件なのだから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


当然の帰結やった。例えばこのまま誰にも援助を求めずに生きても、結局は復讐を求める人達による戦いが起こってしまうのは自明の理。そうなると結局矢面に立つのは同じ人。結論は変わらない。強いて言うならば、被害に遭う人が減るかどうかやと思う。

だったら━━━前に進むしかあらへん。

止まっても同じ、進んでも同じ。結論が同じならば選ぶ選択肢はそれしかない。ネガティブに行っても同じ結果ならばせめてポジティブな結果を。でも、出来れば勿論、誰にも傷ついて欲しくなんてない。自分の為に誰かが傷つけられる。それは仕方がない事かもしれへん。でも、私は嫌や。

解っている。これは子供の駄々や。子供がこれもしたい、あれもしたいって駄々を言っているのと変わらへん。でも━━━望むことは自由やと思う。それがどんなに傲慢であっても、望むことだけはどんな人間にでも許された自由やと思う。それが叶うかどうかはさておきやけど。

「馬鹿でもいい。阿呆でもいい。愚かでもいい。間抜けでもいい。狸なのは……許せへんけど。」

「許せないのかよ」

「でも!私かて人間や!私だって死にたくない!!それに……それ以上に……私はまだ……」


皆と一緒にいたい


そう小さな声で呟いた。それこそ子供の駄々だった。何処にでもいる子供の駄々であった。そして八神はやての幸運な事はそのような駄々を見逃すような人間が周りにいなかったことであろう。

「……ん。じゃあ、闇の書対策を練ろう、はやて」

「……え?」

立ち上がっていたユーノ君がこっちにいきなり声をかけてくる。それに反応出来ず少し間抜けな返事をしてしまう私。そして、ついでとばかりに周りが動き出す。

「おう、流石ユーノ。ちゃんと出たのか」

「うん。僕と言うよりは流石無限書庫と言った方が正しいかもね。あそこは前から情報量が凄いって聞いていたけど……噂以上だったよ、慧」

「ご苦労様だ、フェレットもどき。後でコーヒーくらいならば奢ってやる」

「……コーヒーはいらないから君に天罰を送りたいね」

「ユ、ユーノ。落ち着いてよ。クロノも」

「にゃはは……やっぱり男の子は男の子同士の方が仲良くなるのかな?」

「さぁ?どっちにしろ仲が良い事は良い事じゃないかしら」

「うんうん。慧君と一番仲がいいのは私だけどね」

「わ、私も、負けないよっ」

「……ぐふっ!?」

「すずかちゃーーーーーーーーーーん!!?」

「……何やってんだか」

「こら、ヴィータちゃん。口が悪いわよ」

「まぁ、そう言うな、シャマル。あれはヴィータの照れ隠しみたいなものだ。私達のようなプログラム体のような存在を何も気にせず受け入れてくれるなのは達に素直に嬉しいとは言えずああやって口を悪くしているのだろう」

「なっ!そ、そんなわけねぇだろうが!!勝手に決めつけんな、シグナム!」

「……ふっ」

「あーーー!今、ザフィーラ!笑っただろうがーーー!」

「ふふふ……いい子たちばかりですね、恭也さん」

「……ええ。自慢の家族と友人です」

「うんうん。クロノ君もあんなに楽しそうだしねー。」

そこにあるのはある意味何時もの光景。皆で馬鹿をやって楽しむという光景。余りにも当たり前やった日常の風景。それが私の覚悟の後にもされている。その光景が言外にもこう告げられていた。

別に自分を助ける事なんて日常の続きあたりまえの出来事だと。

もう止まらなかった。瞳から透明な雫がきらきらと溢れてくる。その事に気づいて、慧君を除く皆が私の周りに寄ってきて言葉をかけてくれたり、頭を撫でてくれたり、抱きしめてくれたり、手を握ってくれた。

もう十分だった。二年前に友達が出来ただけでさえ幸福の絶頂だったのに、こんな素敵なプレゼントもくれた。もうこれ以上の幸せ何て何もないと断言できる。生きていてよかったという言葉を臆面なく言うことが出来る。幸せの三乗くらいの幸せだった。

そうして顔を両手で隠して泣き叫ぶ。それは勿論、嬉しいと付く涙を。そんな彼女を周りはどうしようという顔をしているものと優しそうな顔になっている人達は見ていた。

そして最後の無表情の少年はその光景を見て何を想ったか。それだけはやっぱり謎だった。

























そして八神が泣き止んだ後にユーノからの事情説明。その内容は主に闇の書についての事。どうやら、闇の書の正式名称は夜天の書という事らしく、古代ベルカ?とかそんな時代に創られたモノらしいが、最初らへんは今みたいな大量虐殺の為の物ではなかったらしいが、どうやら歴代の主が何やらキナ臭い改変とかをした結果とかいうらしい。

何とも傍迷惑な改変だ。そして調べた結果がこれまたよくある話。蒐集して666ページ集めれば主の体は良くなるのではと言うヴォルケンリッターのネガは虚しく、闇の書の最悪と言われる所以。それは周りだけではなく最終的に主さえも取り殺すと言われているという事であった。そして蒐集しなくても同じ。蒐集しなかったら、今度はリンカーンコアを侵食して死に至らしめる。どっちを取っても結果は同じ。最悪の皮肉だ。

「そんな……」

周りの皆がその最悪な報告に落ち込んだ顔をしていたが、そんなつまらない事をしても現実は変わりはせん。だからユーノに話の続きを促した。

「おい、ユーノ。どうでもいいけど速く続きを言えば?このままだとお前がつまらない悪役になってしまうぞ」

「あれ?よく解ったね?」

「わからいでか。お前みたいな奴がその結果しかないのならば、さっきの御感動シーンで闇の書対策をしようとか言うはずがないだろうが?お前が悪役をするにはちょっとキャラと合っていなかったな」

「……残念。少しは慧の物真似でもしてみようと思ったのに」

俺の物真似なんかしていたらろくでもないどころか犯罪者予備軍の様に人間になってしまうというのに。何時かその歪んだ憧れを何とかしてやらんと少し検討する。別に俺には関係ない事なのだけど。

「……という事は……何か策があるという事なの、ユーノ君?」

「うん、なのは。とは言ってもそれも策と言っていいか怪しい所なんだけど」

「何でもいい、ユーノ。我が主を助けられる可能性があるというならば是非とも教えてくれ」

ピュウと下手な口笛を鳴らす俺。流石は騎士様。狼とはいえ主の為になる事ならば本当に真剣だな。俺ならばそんな他人と為に何とかするとかそういう場合でそこまで真剣になろうとかは思わない。他人の為に何かをするとかそう言うのは御免の人間なのだ。

「うん。皆そう言うと思ったから遠慮なく言うよ。簡潔に言えば大人のいう事を聞かない駄々っ子を叩いて言い聞かせればいいんだ」

「??どういう意味や?」

「うん。デバイスとかにはね。危険防止と化の為に管理者権限。要は持ち主の意思でデバイスの暴走とかを止める権限があるんだ。それを使って暴走を止める。多分だけど、それしかないと思う」

「……待ってくれ、ユーノ。歴代の主とかだって馬鹿ではない人間がいたはずだ。そう言う方法があるならば昔の闇の書……いや、夜天の書の主も同じことをして止めたはずだ」

「はい。そこが一番の困難……というよりはそこだけが困難なんです、恭也さん。推測ですけど夜天の書に何らかの不具合が生じてしまって管理者権限が使えない状態にあると思います。原因は不明ですが、恐らくは無理な改変で」

「……ちょっと待てよ。じゃあ、どうするって言うんだよ!!使えないモノをどうやって使えって言うんだよ!!」

「落ち着きや、ヴィータ……じゃあ、もしかしてユーノ君」

「……うん。そういう事だね。作戦内容は簡単だ。わざと666ページ魔力を蒐集して君を闇の書として覚醒させ、その後にはやてが何とかして管理者権限を使う。それしかない。そして多分だけどその間はヴォルケンリッターの皆さんと僕たちは戦わないといけないと思う。何せヴォルケンリッターは意思はどうあれ闇の書の防衛機能みたいなものだからね」

「何とかって……それじゃあ、作戦なんて━━━」

「当然言えないね。こんな作戦、博打と何ら変わりがない事は解っているよ、なのは。でもね、それしか方法がなかったんだよ。それ以外の一番安全な方法とすればそれこそ復讐をしようとしていた人達と同じ方法に頼るしかないみたいなんだ」

苦渋と言う表現が一番似合う表情をするユーノ。その様子だとかなり調べたようだ。となるとそれしか方法がないというのは正しい事だろう。何せ見落としがあるならば黒いの達が何か言ってもいいしな。

結局はまた二択。今度はやらなくてもやっても結局は八神の命を危険に晒すことになる。成功すればそれこそハッピーエンドでめでたしめでたしで終わるだろうけど、失敗すれば八神はおろか地球すら滅ぶかもしれない。

何ともエキセントリックな二択にしかし、八神は目を逸らさない事で答えを出した。

「……提案した僕が言うのも何だけど本当にこの作戦を実行する気?正直に言えば成功する可能性は限りなく零に近いよ?」

「……だって、しゃあないやんか……さっきも進むって決めたし、何もせずに死ぬよりは足掻いて〇に近い可能性で生きていたいし、それに━━━」

そしてチラリとこちらを見る、はて?ようやく俺の魅力に気付いたのか知らん?もう一度サムズアップしようとして周りが指の骨を鳴らし始めたのでやめた。二度ネタは許さんと態度が語っていた。

で、結局答えはなんだなんだと思っていたら



「それに私達のリーダーの信条は━━━やると決めたならば手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐に戦うなんやもん」



無表情にしていたけど周りは何を勘違いしたのかクスクス笑いだしている。全くもって面白くない。からかうのは慣れていてもからかわれるのは性に合わない。非常に面白くない心持ちで周りの視線を無視する。

「……ぷ。あははははははは!うん、うん。そうだったね。うん、そうだ。じゃあ、僕たちも手加減悪、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐に戦わなくっちゃね」

無視した。こういう空気の場合、ここでは話に乗ったら終わりだ。例え周りが穏やかな笑顔でこっちを見ていても完全無視だ。後で八神は尻に指を入れてやる。そして新しい世界に目覚めさせている。

「ふふふ。慧君、どうしたの?可愛い顔の眉間に皺が寄っているよ?」

「……ほっとけ。そして可愛いなんて言われて喜ぶ男はいない」

「……クス。ケイ、子供みたいだね」

「……一応肉体年齢は子供ですー」

拗ねない拗ねないといった感じで左右のフェイトとすずかが頭を撫でてこようとするのを避けながら溜息をつく。この雰囲気は俺の苦手分野だ。こう、まるで他人を無条件に信頼できるような人間と視られるのは好きじゃない。これから手を引くというのに。

「じゃあ、具体的と言えるわけでもないけど、細かい作戦でも━━━」

「あ~。その前に俺からひとこと言わせてもらってもいいか?」

「何だ、リーダー」

「うっさい、ゴキブリ野郎。後で海鳴の海に重り付けて沈めるぞ」

「「……!」」

「二人ともデバイスと隠し持っていたナイフで斬り合わない。で、何だい?慧」

ちっとお互い舌打ちをしながら武器を戻す。恭也さんが何時の間にまだ薄い医療服のままでいる俺が武器を隠し持っていたのかと思っていたようだが無視する。友人とはいえ自分の手口は隠すに限る。

そうして俺に視線が集まる。散々目立ちたがりみたいな行動をする俺だがここまで注目しなくてもいいのに。別にこれから言うのは特に重要な発表と言うわけでもないのに。

「で、何だ?下らない事を言えば後でなのはに撃たれてもらおうか」

「そいつは怖いな。ま、言う事は簡単で━━━この後、どんな作戦になろうと俺はこれで戦線離脱な・・・・・・・・・・

反応は二種類。想像したとおりの驚き顔になる人間と━━━どちらかと言うとホッとした顔になる人間の二種類。ここまで違うとある意味笑けてくるね。別にどうでもいいけど。

「な、何でよ!あんた!はやてにさっき言った事を全く逆な事を言ってんじゃないわよ!やるのならば最後まで━━━」

「あのなぁ。今回はギリギリで何とかなったが、多分、いや次辺りは絶対に死ぬし、それに今度は完璧な足手纏いになるぞ」

バニングスの感情論を完璧に封じ込める。お前らみたいな人間の感情論でいうならばそうなるのだろうけど、お生憎様残念。現実と言うのは実力主義なのだ。弱肉強食。どこぞの包帯男の言い分風に言えば強ければ生き、弱ければ死ぬだ。全くもってその通り。

「大体だ。これ以降の場面で俺が必要になる部分はないさ」

「……どういう事?」

「簡単だ、フェイト。これから行う事を順にたどっていけば、まずは蒐集活動だろうけど、その時はまず相手は魔力を持っている生物からの蒐集だろう?協力するとはいえ流石に人身御供にするわけはいけないだろう?」

「その通りだな」

「となるとまさかだが俺はそんなドラ○エみたいに魔物退治を出来る力なんて全くない。故にその事で出来る事なんてない。次はまぁ、情報収集なんだけど俺みたいな地球人では魔法そっちの事情を調べるなんてことは到底できないし、する気もない。というかやる気もない」

「……やっぱり後半が本音なんちゃうか?」

「そして最後にまさか俺がお前らみたいな何でもありの魔法バトルに参加できるはずがない。今回なんて本当に偶然の勝利だ。そしてまぁ、仮定で最後の八神が『地球の皆よーー!私に力を貸してくれんかーー!!』作戦に参加したときまぁ、相性で言えばシグナムとしか戦えないわけだが」

「……当然私の方が勝つな」

「え?どうして?」

「すずか。今回の戦いは出来るかどうかは別としてみれば魔力持ちでもない慧でもぎりぎるで勝てるようなバトルではあったんだ」

「「「「「???」」」」」

五人娘が解らないと解りやすい表情で問いかけていた。それに何人かの人間が苦笑していた。俺は呆れで溜息をついている派だったが。バニングスとかすずかとか八神ならともかく、高町やフェイトは気づけよ。

そして律儀にシグナムは説明する。

「今回の相手は総合的な実力はともかく、魔法だけの能力と言う意味では決して強力ではなかったのです」

「え……で、でも……」

「主。確かにあの加速魔法は脅威ではありましたが……正直に言えば魔法ありならばヴォルケンリッターはおろか、なのはやテスタロッサでも反応は可能です。勿論、魔法を持っていない慧にはかなりの脅威ではありますが」

「そ、そうなんか?でも、それじゃあ……」

「ええ。でも、非魔導師が最も恐れるのはそんな解りやすい能力の加速魔法ではなく、もっと普通のモノ。砲撃魔法や補助魔法。結界魔法なんかのほうが脅威なのです」

「???どうしてよ?砲撃魔法は解るけど、何で補助魔法とか防御の為の結界魔法とかの方が脅威なのよ?」

「簡単だ━━━リンカーンコアを持っていない人間はそれを感知することも解除することも出来ないからだ」

バニングスの質問は俺が答えた。それでようやくバニングスとすずかとフェイトは納得したという感じに受け入れた。だが、まだ高町と八神は?顔だ。だから、八神はともかく何で高町まで解ってないんだよ……

「いいか、高町と八神。例えばさっき……って三日前か。あの老人に俺は殴りにかかっていただろう」

「「うん」」

「じゃあさ━━━その時にお前やユーノが張る防御魔法を使われたら俺の攻撃は届くか?」

「そりゃあ━━━」

「━━━届かないよね」

「では、結論。俺はどうやって攻撃を届かせればいいんだ?」

「「……ああ!」」

ようやく気付いたようだ。俺では魔法で構成された防御魔法は決して突破することなんてできない。何せ俺の攻撃手段は拳か蹴りか頭突きか、もしくは袖に隠された武器くらいしか存在しないのだ。そのどれにも属さない魔法を突破する手段なんてない。

防御魔法だけならばまだマシだ。これでバインドとかに引っ掛かったらその瞬間、終わりだ。以下同文で俺は魔法を解除できないのだから。今回は偶々。補助、防御魔法の苦手な相手と戦っただけ。こんな偶然は二度は起きない。

「それに今回に関しては魔力量が相手はそこまで高くはなかったのです」

「あれ?魔力量って皆、同じとちゃうんか?」

「ええ。人によって量や使える魔法は違います。あの老兵の場合、魔力量だけで言うならばCぐらいだったと思います。最も魔力量=強さというわけではないのですが」

同感同感。Cがどういうランク付けかは知らないが、あの老兵ならば多少の敵ならば突破できる力があると思う。現に劣るとはいえ身体能力で恭也さんに何とか喰らい付いてはいたのだ。肉体がこれで全盛期だったら今頃、俺は死んでいるな。

「ちなみに暴論遣い」

「何だ、ゴキブリの同類」

「あの人━━━レリオ・マルク提督は総合で言えばAランクの実力者だ」

「へぇ~。それって凄いのか?」

「凄いなんてものじゃないな。非魔導師が魔導師のそれもAランクの人間を倒したなんて噂が流れたら、とりあえず魔導師の面目は丸潰れだな」

「マジで?じゃあ、俺は三日前に高町やお前の面目を潰せたのか。最高の気分だな」

「君と僕ならば百%、僕が勝つけどな」

「……ちっ、格闘技の分野ならば負けんぞ」

「ふっ、僕を甘く見ているようだな。今の時代に必要とされるのは文武両道だ。僕が魔法しか出来ないと思うのは大間違いだ」

「成程。大事な成長期の時期に無理に体を痛めつけたからそんな風に背が伸びなくなったのか。正に等価交換だな。はははははは!見事じゃないか!!その小ささこそがお前の強さの証だという事ってか!?」

「はっ。何だ三日前までぼろぼろの襤褸雑巾みたいな姿で運び込まれた癖に。最初の方はともかく後半のほぼ格闘技だけの戦闘だったというのにその結果じゃあ、僕には勝つことどころか触れる事さえできないね、この大言壮語男」

「「……!」」

「二人とも。情熱的なクロスカウンターをするのは見ているこっちとしては熱くなるのだがいい加減話を戻そう」

恭也さんの説得に渋々と腕を引く。このまま続けていたらこっちが勝つ可能性はあったのに。だが、確かに侮っていたようだな。まさか俺の拳に反応できるとは……何時か絶対ぶっ倒す。

とまぁ、別にどうでもいい思考はそこらに捨てて。別に相手のランクが高いとか言われたからって自惚れる気なんて毛頭ない。今回は逆に上手く行き過ぎただけなのだ。

細かい事を省けば相手の能力は加速魔法と自分の戦闘技術だけ。前者さえなんとかすれば勝てない事もないという相手だった。魔導師組。しかも、ここにいるメンバーなら勝とうと思えば勝てると思う。最も高町とフェイトと赤犬は確実に負けていただろう。技術的にも精神的にも。能力的には負けていないだろうけど。

Aランクという所まで上り詰めたというならばかなりの実力者だったらしいが、それも加速魔法あっての強さだろう。一般魔導師の強さを知らないから、断言はできないが、あの魔法は本当に単純に脅威だ。それこそ恭也さんが単独で戦って少しでも相手の癖を覚えることが出来なかったのならば、同じことをして反撃することは出来なかっただろう。

結局は偶然。何もかもが運で決まったといっても過言ではない。あの場で恭也さんがいなかったのならば死んでいたし、相手があの老兵以外ならばほぼ死んでいただろうし、相手のもうちょっと魔力量があったのならば射撃魔法のよって死んでいた。

実力で生き残ったわけではない。ただの偶然で生き残っただけ。その事は良く噛み締める。風雷慧は最悪にして災厄であっても、最強や無敵という存在からは遠く離れているのだから。慢心だけはしてはならない。それは本当に肝に銘じておく。

「というわけだ。別に卑怯者とか弱虫とか言ってもいいけど、どっちにしろ俺はリタイアするからな。」

そう言って立ち上がる。すずかとフェイトが体を支えようと立ち上がろうとするが手をひらひら振って別にいらんという意思を示す。これぐらいの怪我で動けなくなっているのならば、とうの昔に死んでいる。

「……おい、君はまだ安静にしておけ。二重の意味でも・・・・・・・。リタイアの方は言うのは何だが逆にほっとしている。」

「そりゃどうも、黒いの。安心しろよ。別にリタイアと見せかけて別行動して何かをするとか、そう言うのは決してしないから。雑魚は雑魚らしく、安全地帯で縮こまっておくよ━━━ああ、そうそう。もう一つの意味での安静はいらないからな・・・・・・・・・・・・・・・・・・

余計なお世話はいらない。そう彼らに言い聞かせておく。誰かの手を借りて生きるなんて真っ平ごめんが俺の生き方なもので。別にその生き方を否定するとかそう言うのではないのだけれど。……そうだ。

「ああ、そうだ」

「???」

「捕まったあの復讐者どもは今、どうなっているんだ?」

「……ああ。今はアースラの牢に捕えているよ。どう足掻いても一度はフェイトの裁判の為にもう一度戻らなきゃいけないからね。その時に本局の方に渡すよ。」

「ふぅん?あっそう」

「……興味があったから聞いたんじゃないのか?」

「まさか。そんな事を言いだしたら俺は別に今の状況にも状態にも興味はないよ」

八神が死ぬかもしれない状況も。俺が体の状態も。別にどうでもいい。至言だ。そしてそれこそ別にどうでもいい事だ。命がとられそうになったからといって性格が変わるとかそんなロマンティックな事をする気なんてこれっぽっちもないのだ。

そう思い、そのまま部屋から歩いて出て行った。
























「……やれやれ」

結局、そのまま流れ解散。あの暴論遣いが出て行ったら皆、急いで彼の後を追って行ったのだ。まるで親鳥について行く雛鳥みたいな光景だった。そう思ったら、かなりシュールな光景だけど。

それにしても……やっぱり、彼の真意がわからない。彼は友人?である八神はやてが死ぬのも自分が死ぬのもどうでもいいと言った。そして自分を殺していたかもしれない相手に対しても。

少なくとも僕にはそれが嘘には聞こえなかった。あれだけを聞いていたらかなりという言葉では足りないくらい薄情な人間のように思える。否、思う。だけど━━━八神はやてと月村すずかを助けた時のあの必死さ。それも嘘には思えなかった。

多分、ついて行った彼らは後者の彼を信じているのだと思う。だけどクロノ・ハラオウンはそんな無条件に彼を全面的に信頼できるような時間を彼と一緒に過ごしていない。判断する基準を持っていないのだ。

僕にはどっちが彼の本当かを判断する根拠はない。だけど、信じてみたいとは思う。幾らなんでもこんなに身を挺して戦ったのに、それを何もかもがどうでもいいとか、そういう思いで戦っているとは思いたくないのだ。

個人的な意見だが、人が何かと戦うには理由がないといけないと思う。それが信念と言う人がいれば友人の為、生きる為、仕事の為、愛の為、夢の為と人それぞれの理由が必要だと思う。そうでなくては命を失うかもしれない戦いで立って戦おうとは思わないと思う。

そうでなけらば誰が命を失うかもしれない恐怖の場所に立っていられるか。僕や母さんにも無理だろう。だから、彼みたいに別にどうでもいいとか言って戦えるはずがないんだ。

何か理由があるはずだと思う。彼が形振り構わず戦う理由が。じゃなきゃ━━━余りにも惨たらしいじゃないか。彼に負けた被害者も。彼も。そうだ。あの時、あの負傷で提督の首を掴んで殺す気なのではないかと思うくらい締めていた時のあの執念。あの執念がそんな別にどうでもいいとかそう言う理由で生まれるはずがないと思う。

そこまで思い、少し驚いた。

何だ。僕もなのは達と同類か。あんなに彼を信頼できないとか言いつつ、それを信頼する根拠を探している。全くもって馬鹿らしい。どうやら僕もまだまだ精進が足りないようだ。

「……さて」

そう思い、闇の書……いや、夜天の書の解放の為の計画を立てるためにもう一度ユーノが集めてくれた資料を読み直そう。万が一でも見忘れていたところとかあって失敗なんかしたら洒落にもならない。

それに魔力がないあいつがAランクの人間に悪知恵と素手だけで勝てたのだ。魔力や組織としての力。経験、技術。全てで勝っている自分が彼に負けるというのは少々どころではなくむかつく。他の誰かに負けるのはいいが、あいつに負けるのは我慢ならない。

だからそうだ。この件を無事に終わらせ、あいつに嫌らしいくらいの笑顔と声で結果を伝えてやろう。どうだ、事件は無事に終わらせてやったぞと。そう思ったら微笑が出てきた。

勝てるなと自然に思った。負ける道理がない。あの腐れ暴君使いに勝てるのだ。闇の書如きに負けるはずがないと、そう、クロノ・ハラオウンは笑った。その笑顔は今までの彼の笑顔とは違って嫌に清々しい笑顔だった。年相応の━━━当たり前の友人にゲームで勝ったといッた感じの。当たり前の笑顔。






















「そういえば慧君」

「ん?何だ、高町?つまらんことを言えばその分だけ八神の髪の毛を纏めて引っこ抜くぞ」

「乙女の命に何て事を……!」

八神が何か言っていたが無視した。俺の台詞で周りの人間も全員頭を守る体勢に入っていた。中々の反応だったと思う。何故その反応を三日前の時に発揮してくれなかったのだろうか。別にどうでもいいけど。

「そんなフェイトにおぶられながら言われてもねぇ……」

「うっさい、バニングス。そしてフェイト。やっぱり下せ」

「駄目だよ~。ケイは動けるとは言っても重傷者なんだよ?それなのに動いたら治るものも治らないよ?」

正論だったので言い返せない。フェイトはこのメンバー一の純粋な人間だが、頭だけで言えば誰にも負けていないのである。そう、確かに正論だ。だが、何が悲しくて自分より少し小さい女の子に背負われなくてはいけないのだろうか?お蔭で背後に立っているであろう、すずかの視線が怖くて話題がふれない。俺だって離れたいのだが如何せん。何故か俺の両手や両足にはカラフルなバインドが……。

「解った。百億歩譲って背負われるのはいいだろう。だが、別にフェイトがしなくてもいいではないか?それならば、恭也さんにでも頼む」

「……ケイは私の運ばれるのが嫌?」

偶にこの少女はわざとやっているのではないかと疑う時があるがそれはやっぱり俺が疑心暗鬼に囚われているからだろうか?それとも俺の心が汚れているだけだろうか?多分どっちもだ。俺はフェイトの質問は華麗にスルーした。

「……それにしてもケイ。物凄く軽いね……少し複雑」

「諦めなさい、フェイト。そいつ男の癖に私達よりも軽いもの。細かい体重は聞かない方が良いわ━━━殴りたくなるから」

「おいおい。それは理不尽というものではないだろうか。別に俺だって軽くしようとしているわけではないんだぞ」

単純に修行と言う名の運動をしているだけだ。それにしてもむぅ……そこまで軽いだろうか。別に重くなりたいというわけではないが、軽過ぎたら拳に乗せる体重が……。これでもちゃんとご飯は三食食べているのだがなぁ。筋トレもしているし。もっと増やすべきだろうか?というかそれでも俺を背負えるフェイトの筋力がおかしいのではないのだろうか?それともやっぱり、魔法を使っているのだろうか?

「くすっ」

「何だよ、すずか。いきなり笑い出して。毒婦っぽいぞ」

「褒められて……ない?」

「褒めてるつもりはないな」

「私が毒婦なら慧君は毒夫?」

「日本語を増やすなよ。ただでさえ日本語は一種の言葉の魔術と言われているんだから。それで?」

「ふふふ。だって、慧君。まるで背が伸び悩んでいる子供みたいな顔になっているんだもの」

「……俺は無表情ですよー」

「こんだけ長く付き合っていたら誰でも解るよ」

いらない読心術を覚えられたみたいだ。長く付き合うというのは良い事だけではないと実感。他の奴らもえっへんというようなどや顔をしているのがむかつく。とりあえず、高町は殴る。

「……今、不穏な考えを感じたけどとりあえず聞いて良い?」

「……」

「な、何で両手をわきわきしながら私の髪の毛を見るんや!?」

恨むならば友を恨むがよい。きっと高町の事だからつまらない事を言うはずだ。そう。決して今回の治療費どうしてくれるのかな~とかは一切思ってはいないさ!!そして高町はそれについては無視しているようだ。ふふふ、流石は高町。魔王の様に冷たい心だね?

「うん。で、聞きたいことって言うのは三日前のあの最後のお爺さんの爆発の事だったんだけど……よく生き残れたよね?」

「……ああ。何だ、その事か?」

ちっ。高町にしては真面な質問だったので手を下す。八神がホッとして頭を押さえている。命拾いしやがったな。

「別に特別な事はしていない」

「じゃあ、何をしたの?」

「ああ。あの老人、デバイスじゃなくて刀身が爆発するとか言っていただろう?」

「うん」

「だから、爆発する前に殴っていた腕を使って刀身を地面に思いっきり埋めた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一瞬の判断だった。殴って伸ばしていた腕をそのままの勢いのまま剣の柄尻に触れ、そのまま押し込めた。幸い、魔力を使った剣だったお蔭か。思いの外簡単に埋めることが出来た。そうなると爆発は足元から上に行く。だけど、大抵は地中で衝撃を吸収してくれるはずだ。

「う~ん……」

「何だよ。疑問があるなら早めに聞いておいた方が良いぞ、バニングス」

「じゃあ、遠慮なく。あの爆発。それだけで防げるものだったの?例えばあんたの言った通りにやってまぁ、結構な衝撃は地中で吸収されるでしょうけど、そんだけじゃあ、やっぱり上に向かう爆発力を吸収するのは不可能だと思うわ。運良く、あんたが後ろに少しでも下がれたとしてもそれだけの傷で生き残れるとは思わないのだけど」

「流石。良い所突く」

本音であった。何時もは手しか出ない奴だが頭脳と言う意味でならば同年代の少年少女を遥かに超える知力を持っているはずだ。ある意味賢者とかになれそうである。

「ま、運が良くて両足が吹っ飛ぶ。順当に行けば下半身は全部持ってかれて、運が悪かったら無駄な足掻きをしていたという事になっていただろうな」

「……じゃあ、何で今、ぴんぴんしているのよ?」

「おやおや、まるでぴんぴんしているのが悪いみたいな言い方だね。まぁ、答えはユーノに聞きな」

「ユーノ?」

フェイトが疑問を声に表してからユーノの方に振り向く。それと同時にほかの連中もユーノの方に視線を向ける。当のユーノは苦笑して俺の方を見ている。俺は男色の毛はないぞ。

「何だか嫌な妄想を抱かれた気がするけど無視するね。それに別に僕は大したことはやってないよ」

「でも、慧君が……」

「ん。まぁ、種明かしをすると、あの時、爆発する直前に結界を崩すことに成功していたんだ」

「あれ?爆発した後やったんちゃうんか?」

「本当に直前だったんだよ。大体三~四秒くらい前だったんだよ」

「ふんふん。それで?どういう事なのよ?」

「うん。爆発することは直前の会話や雰囲気でわかっていたからね。だから爆発する前に慧に防御魔法をかけたんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「「「「「……あ!」」」」」

そゆこと。とは言っても爆発の衝撃で結界自体は砕けて吹っ飛ばされたのだが、まぁ、仕方がないといったところだろう。むしろ、運が良かったと喜ぶべきだ。防御のスペシャリストであるユーノが張った結界でこれなのだ。ユーノ以外が張った結界だったならばやっぱり死んでいたかもしれない。

だから今回の勝利は自分のではない。一番の努力賞は結界の破壊を終始し続けてくれたユーノの隠れた動きだろう。結局、俺一人では誰一人として勝てなかったという事だ。

自分の無能さに呆れて嘆息する。結局そうだ。風雷慧が一人で何かを成し遂げられたことは今のところ一度もない。これが普通の子供の結果なのだろうけど、それに満足してしまう程、俺は頭が良くなかった。

それならば高町はどうなる?つい最近までそれこそ俺以上にに何もできなかったのに蓋を返せば魔法戦でならばトップクラスの魔力だしい。嫉妬など無意味と言うのは解っている。だから別に何かを言うつもりもないし、世を嘆くつもりもない。

こんな事を考えてもどうせ荒事が起こればそんな事は気にしない。元より風雷慧は力の有る無しで行動を決めるような事をする気はないのだ。別に正義感とかそういうのではないが。

「解ったか?じゃあ、とっとと帰ろうぜ。いい加減この状態から脱したいし」

速く帰って寝たいのだ。さっきまで寝て異端ジャンとかそういう平凡な質問は止せよ。学生ならばこの気持ちは誰にでも解るはずだ。解らないのならばそれは真性の勉強好きだ。

そう思って皆を促そうとしたらその内の一人。高町が何故だか知らないが決意を秘めたような瞳になっているではありませんか?他のメンバーと顔を合わせると他の奴らも疑問顔で理解していない様子。別に高町がどうあれどうでも良い事なんだけど。

そう思って無視しようとした矢先に高町が何故かこっちを見て

「慧君……お願い!戦い方を教えて!!」

「…………WHAT?」

物凄い事を言いだしたのである。












あとがき
老人との勝負が終わり少し一休み。
慧の体の半吸血鬼化はやっぱり、流石に後遺症がないというのは少しおかしいかなと思っての事です。
彼にとっては好都合この上ない事だったと思いますが。
……まぁ、若干都合が良すぎると自分でも思いますがそれを言ったら夜の一族の能力も吸血鬼としては都合がいい能力だよなぁと思いまして。吸血鬼なのに弱点無しですし
まさか自分でも目覚めのキスについての講釈を書くことになるとは思わなかった……
ギャグについてはその場で思いついたことを書いてますから。
まぁ、主人公つえーとかいうような勝負の終わり方だったと思いますが、そんな事はないと彼自身が否定。
事実、今回は完全に相性と言う時点で運が良かったという風に書きました。
主人公のまさかの戦線離脱と思いますが、これは仕方がない事です。
元々、魔法と戦闘するなんて能力はないのです。今回なんて偶然中の偶然。
実力だけで言えば今のところ出てきている全メンバーに負けると思います。
勝てるとすれば今のはやてとすずかは運動神経では負けているけど技術では少し勝り、バニングスには勝てるかな?ギャグシーンを除く。
最もこれは普通の結果なんですけどね。
小学三年生がどんなに足掻いてもこれが当たり前でしょう。
だから、頭やら肉体を犠牲にして戦うんですけどね。
そして彼の戦う理由はあるのか、ないのか。
それはお楽しみに。
……何かクリスマス特別編とか正月編とか書くべきなのでしょうか?
そして闇の書の設定。
これで良かったでしょうか?



[27393] 第四十話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2012/01/09 12:20

「……やれやれ」

今の自分は自分の家でくつろいでいる。今日は休日。何時も周りからは俺が何時ものずっこけ五人組と一緒にいるようなイメージが付いているようだが、別にそんな事はないし、そんな不名誉は捨て去りたいものだ。

せめて休日くらいは一人でボーっとしたいものだ。そう━━━出来れば。

「……」

「……」

何故かこの場には俺と恭也さんとザフィーラがいる。何故こうなったかと言うと俺にもわからない。まさか遂に俺の天国と言ってもいいくらいの家にまで侵略されるとは思ってもいなかった。

「……解っているのだろう?」

「何がだ、ザフィーラ?俺はさっぱり理解したくないんだが」

「もしかしたらまたお前に襲撃が来るかもしれないという事だ」

その言葉に嘆息する。別に予想はしていた事だ。黒いのでさえ予測はしていた。二重の意味でも安静にしろと。つまり、襲撃に気を付けろ言う暗示を。だから俺は余計なお世話は結構と言って護衛を断ったはずなのだが。

「お前は確か盾の守護獣とかいう二つ名を持っている獣だろう?じゃあ、とっととお前は主の盾になってこいよ。」

「……お前を守る事で結果、主を守ることが出来ている」

「あん?」

「……どうやらお前は自分の命に何の価値も見いだせてはいないようだが━━━それはお前の都合だ。我等や主の都合には関係ない。主は優しい方だ……一番の友人であるお前が死んだら悲しむに違いない」

「一番?それは違うだろう?一番は俺以外のおめでたい四人組の馬鹿共の誰かだろうさ。まぁ、流石にフェイトは最近だから違うかもしれないが……」

「……だから、お前は自分の命に何の価値も見いだせていないというのだ」

お互い平行線のようだ。まぁ、それが自分勝手の理論ならまだいいか。これが俺を慮って守っているとか言ったならば話し合いは続いていたが、それが自分の主の為とかいう寒いくらいの忠誠心から来ているのならばまだいい。

忠誠心とかとは縁も何もない俺だが、自分勝手に生きているという点では同類だ。自分勝手大いに結構精神旺盛な俺としてはそういう意見ならば拒否をすることが難しい。だからザフィーラについてとやかく言える立場ではない。

そう━━━ザフィーラについては、だ。

「で。じゃあ、恭也さんはどうしてここにいるのでしょうか?」

「……」

だんまりか。これで一体何度目の溜息だろうか。溜息をつけば幸せが逃げると言うがならば俺の幸せは既に来世分ぐらいまでは逃げているのだろう。別にどうでも良い事なんだけど。

お茶でも入れようかなとのんびり考えていると

「……慧君」

「あん?」

「何で……なのはのお願いを断ったんだい?」

ようやく沈黙を破って喋ったかと思えばそんな事。もしかして、そんな事を言いに来たのだろうか?まぁ、恭也さんも高町父程でもないが、高町に甘いからなぁ。断ったことを怒っているのかもしれない。

「別に。それについてはあの時に言ったでしょうが」

「……」

必要な事だけ言って黙る。ついでだが、何となくその時の事を少し思い出す。

『嫌だ』

『何でなの!?慧君は強いんだから、何か教えてくれても……』

『強いだけで言うなら、お前の家族には負けるし、何よりお前は魔法使いだろう?ならば、習うのならばヴォルケンリッターやユーノとかフェイトにしてもらえよ。』

それだけ言って断った。しかも、何時の間にかデバイスは強化していたらしい。何でもあのインテリジェントデバイスにカートリッジシステムを付けたらしい。アホらしい事この上ない。他人の事は言えないが、よくもまぁ、自分の体を痛めつけるような事をする。

まぁ、高町のマゾ批評については別に俺に害がないのならばどうでもいいとして。高町にいった事は全部が全部本当で嘘なんて全くついていない。

体術で言えば、俺は御神流の人間には圧倒的に負けるし、身体能力だけと言うならば夜の一族メンバーにも負ける。頭だけならばバニングスやユーノにも負ける。経験で言えばヴォルケンリッターとは雲泥の差だ。魔力ならばもう言わなくても解る。

どれを取っても風雷慧が誰かにこれだけは勝てるといったものはないのだ。そんな俺が誰かに何かを教えれるとは思えないし、何よりも俺はそんな面倒臭い事をする気なんてない。何が悲しくて自分の時間を高町如きに使わなければいけないというのだ。

「……それだけとは思えないがな」

「……別に。それだけですよ」

そう、それだけだ。第一俺が高町に教える事なんてない。大体、俺の戦法なんて教えたら大抵の人間は自滅するundefined・・・・・・・・・・undefined。俺の戦いを見た人間は誰だって思うだろう。これは戦い方ではなく自殺の仕方だと。

否定はしない。何せそうでもなければ戦うという事も出来ないのだから。十年ぐらいしたら解らないが、今の時点では戦力なんて言える立場ではない人間だ。そんな人間が戦うのならば命を常にかけて戦うしかあるまい。

ありとあらゆる動きに命を懸ける・・・・・・・・・・・・・・・。それが今の時点の俺が出来る最上の戦法であり、自分でも最悪と思える下策である。だからかどうかは知らないが、結局俺は今まで一度として自分一人で誰かに勝ったことがなかった。

例外があるとしたらあの四人組のせいで俺に八つ当たりを仕掛けてくる少年少女(言い間違いではない)だけだろう。何とも嬉しくない戦績である。少し泣けてきた。

「……どうした?風雷。何故泣きそうになっている」

「何でもない、ザフィーラ……そう、これは涙ではない。これはただの心の汗だ……」

「……そうか」

……とりあえず、そういう事だ。

格好つけた言い方をすれば常勝全敗という感じだ。一人でならば必ず負け、誰かの後ろに隠れてその人の勝利に乗っかった形で勝利する。別に卑怯とか思わない。元より自分の実力不足は承知の上だ。ならば、どうやってそれを補うかといえば周りを利用することだろう。

卑怯汚い大いに結構。どんな悪名で罵られてもそんなものは勝利で洗い流される。勝てば官軍、負ければ賊軍。成程、昔の人は良く言ったものだ。結局は勝利者こそ絶対の正義という事なのだから。心底別にどうでもいいのだけど。

「で?そんだけですか?じゃあ、とっとと帰ってくれません?俺はとっとと━━━」

「慧君」

その言葉を聞いた瞬間。体が勝手に動いた。

何時の間にか恭也さんは暗器術で隠していた小太刀を取り出しており、既に抜刀体勢。何時でも抜刀することが出来る体勢。瞬間的に頭が警告を発する。

避けることは不可能。最早受けるしか方法はない。

咄嗟に袖に隠し持っているナイフを手首の動きで出す。そうしている間に恭也さんが一歩踏み込んで間合いに入ってしまった。思わず口がへの字に曲がってしまうのは仕方がない事だろう(無表情は保っているけど)。

ようやくナイフを構えることが出来て、動こうと思ったら。

一閃

首めがけての一撃に躊躇いがあるのかと問い詰めたくなる剣撃。反射の動きでナイフを首の所に持って防御態勢を取る。しかし、頭の冷静な部分はやっぱり現実を簡単に予測している。



戯け、御神の剣士相手にどこにでもあるようなナイフで、ただ刃を立てただけの防御で止められるはずがない。



キィン!と甲高い金属音が家の中に響く。そして続く言葉はヒュンヒュンヒュンと何かが浮いて、回って落ちていくような音。そして最後にサクッとは流石に都合よくはいかずにカツーンという音が響いた。

それは俺が防御に立てていたナイフの刃だった。それは見事に断ち切られ、断面は横目で見る限る綺麗だった。まるで、最初からその形だったのではないのかと問いたくなるくらいだ。

そして恭也さんの刀は俺の首に当てられている。正直、首が冷えてしまうレベルであった。

「……強烈な情熱的なプロポーズですね。お蔭でぞくぞくしてきましたよ。色んな意味で」

「……そう、だな」

俺の冗談に返す言葉は力がない。ザフィーラは何か獣的な直感で理解したのか、何も動かないし、何もじゃべらない。つまり、有体に言えば役に立たない

狼状態だ。別に狼が役に立たないというわけではないが。むしろ、役に立つのだろうけど。

騒動でも良い事を考えているうちに剣を俺の首から離し、そして自分の刀を持っている手の方をボーっとして見ていた。何だか傍から見たら危険人物に見えてしまうのは俺の心が清いからだろうか?

はて、何でこんな事をしたのかしらと思って恭也さんを見ていたら、ようやくと言った調子でポツリと話し始めた。

「そうだ……俺は少なくとも現時点では君と比べたら俺の方が強い。例えば、今のを立場を逆にしても勝てる自信はある」

「……」

全くもって事実だ。高町恭也と風雷慧が正面から激突したら間違いなく勝利の女神は恭也さんの方に微笑む。決定事項であり、確定事項だ。

訓練してきた年月の差は勿論、まだ成熟何て程遠い子供の体。得てきた技の差。そもそも、御神流という俺からしたら既に人間の常識外に至っている剣技を習得している時点で恭也さんの同年齢どころか、世界で見ても剣技だけで勝てる人間なんてそうはいないだろう。

まさしく剣の申し子だ。それに比べ俺は才能なんてないただのちんけな餓鬼だ。相手が自分より強いのなんて当たり前。命を懸けて戦ってあの様。器用貧乏という感じだ。何もかもを極められず、ただ修めるだけ。

「そうだ。事実だけを言えば俺は君と正々堂々戦えば百回中百回勝てるだろう」

「同感ですね。多分、その事実は恭也さんだけではなく、高町父や高町姉。月村メイド組、高町、フェイト、ユーノ、黒いの、ヴォルケンリッターも入るでしょうね」

「そうなんだろうな……だが、あの時、あの場で、立って、戦い、勝ったのは君だ」

「それは買い被りというものですよ。率直に言うのは俺のプライドが許しませんが、あの時、貴方が独断専行とはいえ、戦ってくれなければ、とてもじゃないが、加速魔法に対応するためのリズムを得ることも出来ませんでしたし、体力もついていけなかったでしょう。単独で戦っていたら五秒で死んでましたよ。」

何を想っているのか、今ので大体の事情を理解し、また溜息。全くもって傑作だ。何で俺は他人の人生相談みたいなことをしなければいけないのだろうか

。そういうのは恭也さんの場合、高町父や高町母、月村姉だろうに。面倒臭いったらありゃしない。最近は説教ばっかりして周りの人から悪評を受けているのに。というか、俺もそんな役を何度もするのは御免だ。

「そうであったとしてもだ。結局、勝ったのは君だ。俺じゃない。血を流し、他人を叩き、そして想いを砕く。その全てを……君に背負わせてしまった」

「だから何ですか?その罪悪感を拭うためにもっと強くなりたい。だから、俺に戦い方を教えてくれなんて高町みたいな事を言わないでしょうね」

「ああ、それは言わない」

その台詞は少し意外に思った。高町恭也や高町なのは。否、あの高町家族は誰もがお人好しの人であり、また似たような人間だ。高町母と高町姉、高町なのはは単純な感情から人を守り。高町士郎と高町恭也は信念で人を守る。

抱く理由は違えど結果は誰かを救ってしまうお人好し集団だ。それを何度よくもまぁ、こんな人が好い人間にばかり育ったものだなぁと思ったものだ。まぁ、それはバニングスや八神、ヴォルケンリッター、そして月村家もそうだが。

だから、性格は多少違えども基本的に高町と似ている恭也さんはてっきり高町と似たような事を言ってい来ると思っていた。まぁ、それは少々恭也さんを甘く見過ぎていただけか。

「慧君も知っている事だから一々言わなくても良い事だとは思うが、御神流は剣術、否、武術で言えば多分最強の一角の武術だと思っている。それを全部習得したなどとは言わないが、それを習っている俺は少なくともこれ以上は伸びないとは言わない。まだ、俺は発展段階だ。……美由希や父さん程ではないが、それでも才能はあるとも思っている。だが、伸びるにしてもこれまでみたいに新たな能力や身体能力の発展はそこまで望めないだろう」

「……解っているじゃないですか」

その通りだと思う。俺からしたらよくもまぁ、そこまで人外の動きが出来るもんだと思うくらい御神の剣士の身体能力はおかしい。少なくとも、人間の限界は超えているか、辿り着いているかのどちらかはしていると思う。

それは発展段階の恭也さんや高町姉でもそうだ。何を食べて、動いたら銃弾を撃った後から躱せるような身体能力を得られるというのだろうか。よくある脳みそのリミッターを解除しているのだろうか?

「そうかもしれないな。だとしたら、俺はもう既にそこまで新たな境地に行くことは出来ない体になっているだろう」

奥義の会得を除けばな……と小さい声で彼はそう呟く。そんな事を言っているくせにまだ新しい境地があるらしい。これ以上強くなってどうするつもりなんだろう、御神の剣士は。限度という言葉を知っているのだろうか?

「じゃあ、ここにいる意味はないですから、とっとと帰ってくれませんか?俺はとっととこの犬コロを捨てようと思っている所なんです」

「無視して言うが、俺は今回の戦いで足りていないモノを実感した」

「へぇ、それは良かったじゃないですか。じゃあ、とっとと帰ってください」

「簡単な事だった。確かに俺は身体能力や剣術ならば君よりも遥かに上だ。まだ、美由希にも負けていないと自負できる」

「だから良かったですね。じゃあ、とっとと━━━」

「しかし、それならば、俺は何故最後まで君と一緒に戦えなかった?君よりも遥かに強い俺が」

「いや、だから━━━」

「油断があった?違うな。俺はあの老人に対して油断なんてする暇もなかったし、余裕もなかった。そんなことをしていたならば、今頃、君の助けがあっても、冷たい土の下だろう」

「……頼むから。帰ってください……」

やはり、恭也さんも高町一族だと改めて実感をする。あのおバカ娘と一緒で人の話を聞こうとする気がない。そして自分の意見ばっかり出張するのである。あの親の手によって育てられたのならば仕方がないかもしれないが。

「簡単な事だったんだ。当たり前の事だったんだ。仕方がない事だったんだ。だってそうだろう?俺は戦いの経験なんてほとんどないのだから。」

そして結論はいきなりだった。別に俺はそれに返事をせずにお茶を入れてこようとお茶を入れに台所に行くだけだった。別に言う事はなかった。事実、恭也さんの言っている通りだろう。

「勿論、真剣とかそういう危ない訓練とかならば父さんや美由希とも何度もやっている。だから、刃物や銃器を向けられても動くことは出来る。それは月村邸での事件で理解している。でも、俺は当たり前の事を理解していなかった。━━━引き金を引くのは銃ではない。その引き金を引くのはその銃を持っている人間の想いだという事を」

当たり前の事実だ。だから、俺もザフィーラも何も言わない。そんな事、戦い始めた時から知っていたし、人間の敵はよくある宇宙人や怪物ではなく、やはり、一番の敵は同じ人間なのだから。

「馬鹿だと思ったよ。そうだ。人を動かすのは人の想いだという事は自分でも理解していたはずなんだ。だって父さんや美由希。そして俺もそんな想いで剣を取ったのだから」

そんな事は知ったことではないというのが俺の本音であった。御神の剣士の覚悟を知ったところで俺に何の利益もないし、何よりも御神の剣士が剣を取った理由は大抵予測がつくし、そんな理由は逆に稀だ。大抵はただの殺意か欲望が他人を攻撃する理由だ。

今回の老兵も珍しい例だ。

あんな家族思いの人間が高町家以外に━━━


ふと

見知らぬ光景が横切った。

それは温かく、残酷にも、優しくも、冷たく、楽しそうでも、苦しく、喜びそうで、涙を出してしまいそうなくらい切実で。

ただ

ただ

ただ━━━

幸せそうな三人の親子のただ無邪気にも笑っている━━━


止めよう。


これは見知らぬ光景だ。見知っていてはいかない光景だ。忘れていなければいけない光景だ。思い出してはいけない光景だ。無くしておかなければいけない光景だ。捨てられていなければいけない光景だ。終わってなくてはいけない光景だ。望んではいけない光景だ。

こんな光景は映画みたいなものだ。他人事のホームドラマ。どこにでも上映されてそうで、どこにでも上映されていな光景だ。そう、きっとこれは映画の内容だ。ただの━━━他人事だ。

「……どうしたんだ、慧君?何だか君━━━」

「別に。話を続けてください」

何かを言いかけた恭也さんの言葉を無理矢理封じた。聞きたくもなかった。落ち着こうと内心で自分に言い聞かせる。ここに恭也さんやザフィーラがいなかったのならば、腹いせに壁でも殴っているのだが、こういう時に空気を読まずにここにいるから困ったものだ。

「あ、ああ……でだ。今回は簡単に呑まれた。あの老兵の言い分に。正直、君の立場から言わしたら、俺はどうかしていると思うだろう。戦いの場で相手の言葉で冷静さを失うんだ。全く……愚の骨頂というのはこういう事を言うんだろうな」

自嘲を含んだ溜息と苦笑。自分でもアレは負けて当然だという感じの表情。それに感じて俺とザフィーラは無言だ。俺はお茶を飲み、ザフィーラはただ無言で壁を背に座っているだけだった。それを見て、恭也さんはまた苦笑。

何となく高町恭也は思った。

この二人は……否、慧君とヴォルケンリッターは少し似ているなと。

勿論、性格とか細かい所は全然違う。趣味も性格も顔も癖もほとんど違うだろう。では、何故似ていると思ったか。簡単だ。慧君とヴォルケンリッターは恐らくだが、戦いになったら迷うなんて事はほとんどしないだろう。

ヴォルケンリッターについては自分達にだけ非がある、もしくは害があるとかならば迷うかもしれないが、それが自分の大切なモノの為とかならば、必ず迷わないと思う。

ヴォルケンリッターの場合は主……はやてちゃんの為に。はやてちゃんの為ならば恐らく無言で剣を抜くだろう。だって、彼らは騎士なのだから。主を守ると身に誓っている騎士なのだから。どんな悪名も、彼らには関係ない事だろう。それが主の為ならば。

そして慧君は今だ解らぬ譲れないモノの為に。無いとは言わせない。俺は見た。あの老兵の意外な反撃に合い、一度は諦めかけた彼の瞳に凶器にも、狂気に似たような死ねないという想いを。

理由は解らない。何を想ってそこまでの想いにしたのかも解らない。解る事はただ彼には死ねない理由があるというだけだ。故に彼は手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐に戦う。

自分が生き残るために。勝ち残るために。それが傍から見たら卑怯、汚いと思われるような行為であろうと。己の譲れぬものを通すために。彼は何だってするだろう。

傲岸不遜、卑怯上等。

それで相手の大切なものをなものを踏みつけ、踏みにじり、踏み壊し、そして罪悪感無しで汚しても彼は一切の躊躇いも後悔もない。ただ、無表情に勝ちを獲りに行く。

暴虐、暴力、暴論が常套の暴論遣い。

故に残るものも返ってくるものも無し。ただ、あるのは元から内にあるモノだけ。ただ、それだけで彼は満足する。故に彼は一切の迷いもなくただ戦うだろう。それを強さというか、開き直りと言う人もいるだろうが。


だから、それが俺には必要だと改めてそう思った。


勿論、そんな細かい心の機微には気づいていない俺はただお茶をずずーっと飲むだけであった。結局、恭也さんは俺に何を言いに来たのだろうか。さっき自分で拒否したから、まさか、再び戦い方を教えてくれなんて戯言を言わないだろう。

もしかして、愚痴を言いたいからここに来たとかそんな理由だろうか?そんな理由ならば今すぐ叩きのめして出て行ってもらおう。現実で出来るかどうかはともかく。意思だけはそういう事だったという事で。

「前置きが長いです。いい加減、何を言いに来たんですか?」

「ああ。俺は君に戦い・・というものを教えてほしいと思ってここに来た」

「……また哲学的な問いを」

まぁ、高町みたいに阿呆な質問ではないからまだマシと言った感じだが。だからといって恭也さんほどの実力者が俺みたいなガキに聞いてくるというのは少しおかしいものがあるが。訂正。少しじゃなくてかなりおかしい。

「それこそ、高町父やヴォルケンリッターに聞いてこればいいじゃないですか?俺はガキですよ?経験と言う意味ならば、高町父やヴォルケンリッターには遥かに及ばないですよ」

「俺には勝ってると言いたげな言葉だったぞ」

苦笑と共に返事をする恭也さん。それに否定せずに、正しくお茶を濁す。ずずーっとわざとらしく音を鳴らしてお茶を飲む。うむ、お茶が美味しい~。それにしても、最近、何だか俺はお茶を飲むキャラが定着していないだろうか?

「……まぁ、深くは聞かない。そして何故慧君を選んだかと言うと理由は勿論ある。」

「へぇ?興味深いですね?是非とも聞かせて━━━おい、ザフィーラ。今、お前はさりげなく机の上に置いてあるせんべいをただで取っただろう」

「……見ろ。あそこにマンボウが浮いているぞ」

「えっ、本当?わーい、マンボウさんだ~……って言うとでも思ったか、馬鹿者!」

「言っているではないか」

「……」

恭也さんの沈黙が痛くて、ごほんとわざとらしく咳をして無理矢理空気を変えて先を促せる。あれ?でも、今回は俺が悪いんじゃなくて、ザフィーラのせいだよね?

「……ああ、簡単に言えば多分だが父さんやシグナム達はそういった過去の話はまずそこまでしたくないだろうし、何より、推測だが、そういった話は脚色を入れて、というか少し婉曲に語りそうだと思ったからだ」

「……まぁ、納得できる理由だわな」

確かに高町父やヴォルケンリッターはそう言った話題ならば脚色をいれて語りそうと言えば語りそうである。ただでさえ戦いという事について語るのだから。あの心が無駄に清い連中はそういう風に話しそうではある。

俺個人の意見だが戦いなんて汚いものである。俺はよく自分でも卑怯だとは思っているが、逆に戦いの場でならば、そんなものないというかむしろ、あって同然のモノであると思う。

真正面から正々堂々と勝負なんてそれこそスポーツでなければやるはずがない。それこそ高町とかそういったお人好しの感情を大切にしよう集団だけだろう。アホらしいと俺は思うが、所詮は他人。別に他人の主義にはつっこまない。っていうかつっこむ気がない。

戦場では汚いなんて当たり前。むしろ、汚くなんてない戦場なんておかしい。戦いの場というものは絶対に汚れていなければいけないのだ。それが喧嘩とかならばともかくだ。だから、むしろ、フェイトの事件は事件と言うよりはむしろ、ただの家庭内暴力が外にも広がっただけと言う感じに俺は思える。

今回は少し『穢れていた』がまだまだ綺麗な方だ。

アイツらと関わって一番汚れていたのは月村家でのあの騒動だろう。明らかな過剰な戦力。物量作戦と言うのは、ああいうのだろう。更にはこちらは女子供ばかりだというのに銃器を使った攻撃。

普通に戦っても十分勝算はあったのに、それでも拳銃を使ってきた。そして最後には待ち伏せと言った感じで出てくる、プロの暗殺者と自動人形。命が幾つあっても足りない戦いであった。

更にもっとも汚いと思われる所は相手の戦う理由。

相手は感情で殺すわけでもなければ、快楽で人を殺すわけでもなく、偶然人を殺すわけでもなく、ただ仕事だから。ただお金を貰えるからと言う理由であれだけの事をしてきたのであった。

これぞ、俺が知っている『戦い』だ。こうであってこその戦いだろう。魔導師がおかしいだけで、普通の人が戦えば普通こういう風な戦いになるはずだ。

黒いの辺りはなんだかんだ言いながら同意するだろう。ユーノもまぁ、するかもしれない。

だけど、恭也さんが知りたいのはそっちではないだろう。そっちでは恭也さんはちゃんと戦えていた。それは今も生きていることから証明済みだ。だから、恭也さんは汚い方ではちゃんと戦えているという事だ。

となると、恭也さんが言いたいのは今回みたいな例外。相手は間違ってはいるが、その行動理由としては決して間違いではない場合どうすればいいのかという事だろう。

正しい理由。今回はただ家族の為にというだけで剣を執り、向かってきた老兵に他の復讐者たち。成程、全く間違っていない。高町達は言っていたが、大切なものを無理矢理奪われて我慢できるなんてそうはいない。黒いのや女狐艦長が珍しい例なのだ。

大切と思うものだ。それを壊されたり、奪われたり、汚されたりしたら必ず怒るか、憎悪に狂うだろう。現にそうやって俺は最初に暴論を遣って敵を怒り狂わせ、暴動を起こしたのだから。別にどうでも良い事だけど。

正しい理由は正しい理由で厄介だ。そう言った相手と戦うとこっちはこう思ってしまう。

自分は間違っているのではないか。自分は正しい事をしているのではないのではないか、相手の人が可哀想だ。

そういった感情に支配される。つまり、罪悪感と言う感情をだ。一番簡単なこれの対処方法は何も感じない事だが、これはかなり難しい事だろう。表情は簡単に消すことは出来ると思うが、感情は中々消すことはおろか隠すことも難しいものだ。

プロでも難しいものではないかと思う。そうでなければ、尋問や拷問と言う言葉と行為は生まれなかったであろう。結局、一番の敵は己自身という事になるのだろうか?どうでもいい哲学だ。

まぁ、恭也さんには日頃お世話になっているから、ここらで返しておいた方が後腐れないと言えばそうなんだが━━━

「無理。自分で考えろ以上が俺からの返答ですね」

「……理由を聞いてもいいかな?」

理由?そんなの簡単だ。少し頭が回る子供ならば誰でも解るだろうに。

「じゃあ、言いますが━━━恭也さん。貴方と俺の戦う理由は同じですか・・・・・・・・・・・・・・・?」

「……」

彼は何も言わない。その様子だと聞く前から薄々わかっていたようだ。解っていたならば聞くなよと心の中ではっきりと思うが、そこは口に出さずにいるのが大人の務め。というか俺の務め。

「何か苛立つような事を言われたらむかつくから先に言っておきますが、俺は恭也さんみたいに誰かを守りたいとかそんな恥ずかしい厨二病的な理由で戦うなんてしていませんからね。俺は徹頭徹尾、自分の為のみに戦っていますから」

「……」

「ええと……何処まで話しましたっけ?ってああ、俺と恭也さんの戦う理由は違うって所まででしたね。理由程度でそんなに違うのかと思いますけど、俺的意見だと重要だと思いますよ。理由=テンションですよ。まぁ、正確に言えば理由とその理由にどれだけの覚悟があるかって所ですか。どれだけ綺麗な理想を持っていても、それに対して何も賭けていないのならばそんなものはただの張りぼてですし、覚悟ばっかあっても自分の理由がしょうもないものだったら、つい、自分は負けてると思いますよね。どっちかだけじゃあ、立つことは滅多にないでしょうね」

理由だけでは駄目で、覚悟だけでも駄目。勿論、稀に片方だけで立っている人もいるが、それは本当に稀だろう。稀と言うならば無いと言った方が恭也さんには良いだろう。

まぁ、良くある禅門等の答えに行き着くわけだ。

結局は自分自身で何とかしろ・・・・・・・・・・と言う答えだ。

「成程……そうだな。確かに自分の事は自分でするべきだな。自分の尻を拭くぐらい出来る年だからな。解った。ありがとう。」

「礼なんていらないから、高町の助けでもしてきたらどうです」

「……本当はな」

「あん?」

「本当は多分だけど、父さんならばちゃんと話してくれると思ったんだ」

「……」

……意外とは言わない。別に俺の人間観察が誰よりも優れているなんて思わない。俺だって先入観で考えてしまって、間違えることだってある。それこそ星の数以上にあるだろう。否、これから、星の数以上になると言った方が良いのか。

そんな戯言を言えるまで生きれるとは流石に思えないが。

だから別に俺はただそうなのかと思っただけで、そして、では何故という思いが心の中に生まれた。答えてくれるならば、答えてもらった方が良いだろうし、自分の剣の師匠でもあるし、何よりも自分の父親だ。きっと、自分よりもちゃんとした答えを返してくれると思う。

ならば、何故だろうと思っていたら、恭也さんは笑ってこちらを見た。

「多分だが、きっと、父さんも同じ答えを教えてくれると思ったからだ。父さんは自分にも━━━他人にも厳しい人だからな。君と一緒で。そういう意味だけならばきっと君と同じかもしれないな」

「……何を言いますか。俺は自分には甘々ですよ」

「二年前はあれらとの戦いで手も足も出なかった少年だったのに、この前は俺と連携が出来たというのに?そんなことが出来るようになったのは相当自分を追い込んだ証だろう。大体だ。俺達がそんな事に気づかないと思っていたのか?少なくとも俺や美由希、父さんはちゃんと気付いているぞ。君がこの二年でどれだけ体を鍛え上げたのかを」

「はん、ストーカーですか……」

「時々、少しだけ夢を見るよ。きっと、君の事だからそのまま自分を追い込んで修練を続けるだろう。そしたら、きっと君は史上初かどうかは解らないが、努力だけで、そう、本当にただの努力だけで御神の剣士に迫るような戦士になるかもしれない」

「……それまた大層な夢で。言っときますが、俺は恭也さんや高町姉みたいに才能は有りませんよ」

「その通りだ。君にはそこまで大した才能はないだろう。」

「……それはそれで傷つくような」

「褒めているんだよ。君は決して才能はないが、それを補うように努力や頭、集中力で死中に活を求める。努力、集中、頭脳という意味だけならば、君は俺達を超えているかもしれない。そういう意味でならば平等だな。これで戦いの才があれば君は事実上、最強の人間になってしまうからな」

「……集中のとこだけならば褒め言葉は貰っておきますが、頭脳だけならば俺はバニングスや高町姉には負けると思いますし、努力なんてしてないですよー。」

その言葉に恭也さんはまた苦笑。全くもって困る。俺はそんなに大層な人間でもなければ、努力家でもないというのに。俺はただのどこにでもいるクズで人でなしで狡賢いただの生意気な糞餓鬼だというのに。

「本当に━━━夢を見る。戦いのときに君が指揮をし、俺と美由希が剣を持って戦い、時には君が表に出て、戦い、そして勝つ。もしかしたら、君の交渉術だけで戦いを終わらせるという終わりもあるか。そんな日が来たら本当にいいなと思わないか?」

「……まず俺が当然の如く、恭也さん達と一緒にボディガードをしているように想像しないでください」

「……よく俺や美由希がボディガードを望んでいると知っていたな」

「何となくです」

本当に勘だ。何となくこの二人はボディガードをしていそうなだなと思っただけだ。二人ならばそれを出来る実力もあるし、そういった性格と信念をしている。二人ならば不可能ではないだろう。

この時代遅れの剣士は現代の拳銃飛び交う戦場でも十分に最強の名を得ることは出来るだろう。それぐらい、御神の剣士はおかしいくらいの身体能力を得ているのだから。今回の魔法のような出来事はそれこそ稀だ。

地球にあるような銃弾やトラップならば二人は何なく躱すことも壊すことも出来るだろうけど、今回は地球の技術では対処できない相手だったからだ。もしも、相手が地球にいるような刺客だったらなば、恭也さんが後れを取るとは思えないない。

「月村姉はどうするんですか?」

「勿論、それも未来の一つだな。だけど……俺は多分、剣を手放す事はないと思う。人馬一体ならず、人刀一体と言ったところかな。剣は既に俺から離れられない体の一部になっている感がある。いや、そうなっているんだろう。別にそれを不幸とは思わないがな。美由希は逆に剣を手放すことがあるかもしれないな。あいつの才は俺以上になるかもしれないが……如何せん、あいつは優しい子だ。ある意味剣を握る人間としては致命的かもしれないし、何よりあいつは普通の幸せを求めているという感じがあるからな」

「……まぁ、それでも御神の剣を習っているんだから、そんな苦しい事は惰性では出来ないから、何か意思があるんじゃないですか?」

恭也さんへの恋心とかと内心で付け加えながら。見ていたら解る。高町姉が恭也さんに対して家族の親愛以上の愛情を抱いているのが。それとも抱いていたのかがか。どっちにしろ自分には関係ない事なのだが。そして恭也さんは気付いているのかは知らないが。

「俺はまだ強いなんて言えるものじゃない。父さんにはまだ勝てないし、この前みたいに相手に圧倒されることもある。まだまだ精進しなければいけない事がたくさんある。剣士としても人としても未熟だ。とてもじゃないが、俺は俺を認めるなんてことは出来やしない」

何ともまぁ、凄い事をこの人は言った。さっきも言った通り、剣術のみならば恭也さんや高町姉、高町父は最強クラスだ。魔法を使わなければヴォルケンリッターでもまず勝てないだろうし、加速魔法とかだけならば絶対に負けない。

俺が小細工をしようとしても、その小細工ごと、否、その小細工をする前に叩き伏せるだろう。

今回みたいなことが例外なのだ。彼らに真正面から対抗しようとするならば、今回みたいな例外か、自動人形みたいに最初から人間ではなく機械としての性能が人を凌駕しているか、それこそ同門くらいだろう。

もしくは━━━あの気味悪いくらいの俺以上に最低最悪な災厄あくま

強いかどうかなんか知らない。もしかしたら、弱いかもしれない。もしかしたら、気持ち悪いだけかもしれない。もしかしたら、気味が悪いだけかもしれない。もしかしたら、ただの雰囲気だけかもしれない。

だけど、何故かは知らないがアレは恭也さんは達以上に誰かに負けるという事を想像できない存在だった。

話しが逸れた。つまり、恭也さんは今でも十分以上に強いというのにまだ足りないと宣言したのだ。一体これ以上何になるというのなろうか?精々高町父を超えることぐらいではないのだろうか。

「なに、簡単だよ。逆に君が気づかない方がおかしい。否、男なのに目指さない方がおかしいと言うべきかな」

「……なにぃ?」

一体なんだというのだろうか?俺だけどころかザフィーラですら少し聞こうかと言う体勢になっている。そんな視線の中で恭也さんは胸を張ってただ男らしそうに言った。



「誰でも一度は成りたいだろう?最強の人間に」



「……」

「……」

恭也さんの戯言で一揆に周りの雰囲気は静かになった。シーンというような雰囲気がまるで音になって響いているようだと錯覚してしまう。それほどの静寂だった。

最強?確かに子供とかならば誰でも夢想するような夢だろう。そして大人になったら次第に自分の才を理解して諦めていってしまう夢だ。そして別に世界チャンピオンになったからとはいえ、それが最強だとは限らないのだ。

恭也さんのような例外みたいに今の剣道の最強の人とかと恭也さんがやり合ったら間違いなく、恭也さんが勝つ。つまり、チャンピオン=最強というわけではないのだ。世は広い。だから、強い人間も大量にいるはずだ。

それに最強と言っても最強とは何だ?最も戦いで強いものか?それならば、最強は間違いなく水素爆弾である。あれがあれば人どころか国や世界を滅ぼすことが出来る最強の道具だ。

もしも、道具ではなくて人の力のみだというならばまた難しい。確かに恭也さんは剣術では最強クラスかもしれないが、世の中にはもっと武術がある。素手や棒術。斧や弓など様々な武器や拳技が。それぞれの特徴が出てくるものでそれぞれ得意分野が違う。

それにもしもそれが剣を使っているから強いんだとか言いがかりをつけられたらどうする。その場合、素手で一番強う人が強いのか?

そもそも強いとはなんだ?

そんな色んな疑問やなんやが頭の中で大量発生し、処理落ちしそうになって危うく手の中にあるお茶をこぼしそうになったり、ザフィーラは思わず壁に背を預けていた姿勢からずり落ちそうになって。

そして

「ははは……」

「く、くくく……」

「ぷ、あはははは……」

俺は無表情に

ザフィーラは面白そうに

恭也さんは愉快そうに

そして



「「「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」」」



笑った。

心底愉快そうだった。

風雷慧は無表情であったが、声はそれこそ年相応な子供のような声で本気で笑い、そして手に持っていたお茶とかは中身をすべてぶちまけてしまい、そしてそれを気にも留めずに笑っていた。

ザフィーラは渋い声でただ外見には似合わずただ笑っていた。そこにあるのは本当に面白い話を聞けたというようなどこにでもいるような男の笑いの表情であった。

高町恭也はいつもの仏頂面を完璧に崩し、それはまるで友とただ笑い合っているよいうような表情であった。その声もいつもの落ち着いた声ではなく、同年齢の笑い声と何も変わらなかった。

何を笑っているのかも三人は解っていなかった。

何で笑っているのかもわかっていなかった。余りの馬鹿らしさに笑ったのかもしれない。頼もしい言葉でつい笑ってしまったのかもしれない。別に理由なく笑っているのかもしれない。

そんな理由なんてどうでもよくて笑っているだけかもしれない。ただ笑いたくて笑っているだけかもしれない。何処にでもいるような人間みたいに笑いたかっただけかもしれない。

ここにいる誰もが何処にでもいるような人間ではないのに。

それでも━━━ただ笑っていた。


無表情に

楽しそうに

愉快そうに



















「じゃあ、話は終わったのでとっとと帰れ、犬とシスコン」

「断る」

「以下同文だ」

「……解った。ザフィーラについては聞いたからまだ理解はしよう。だが、恭也さんはどういう事かな?」

「それもザフィーラと一緒だ。君が危険な立場にいるのに無視なんてできるはずがないだろう?」

「上等だぁ!!そんなに俺の家に居たいなどとほざくのならば━━━ダウトで勝負だ!!」

「「望むところだ!!」」

さっきまでの雰囲気は何処に行ったのか?何時の間にか一触即発の雰囲気になってしかも、変なテンションになったのか。何故かダウトなどをしようと言う始末。まるで酔っぱらいの雰囲気である。

しかし考えて欲しい。ここにいる面子の顔を。よ~く思い出してほしい。ダウトのルールと勝利するためにはどうすればいいという事をしっかり思い出して欲しい。テストに出るぞ。

そう、ダウトとは一から順番にカードを出していき、十三になったらまた一から戻り、そして出すカードは嘘をついてもいい。そしてその嘘をついているカードの時ダウトと言って正解だったならば、出した札は嘘をついた人に全部行き、嘘ではなかったのならば、ダウトと言った人間が札を全部取る事になってしまう。

そしてダウトの基本戦術だが……大抵の場合、相手の仕草や表情、声などから判断して相手が出したものが嘘か本当かを決めるのである。勿論、それを逆手にとって騙すという事もあるのだが、基本はこうだろう。それに応用は基本あっての物なのである。

だからこそ考えて欲しい。このダウトをこれからやる人間はどんな人だったでしょうか?

風雷慧←無表情に性格、抑揚が少しない声色。

ザフィーラ←仏頂面&騎士としての冷静さに性格。

高町恭也←仏頂面&御神の剣士としての未熟な感情コントロールに性格。

……やる相手を間違えた。

そう彼らが痛感するのは数時間後であった。


























「ふぅ……疲れたなの」

「お疲れ、なのは、シグナムさん、シャマルさん、ヴィータ」

「今、はやてちゃんと桃子さんがお茶を入れてくれているよ」

「マジか……はやてと桃子さんの茶は上手いからな~」

「こら、ヴィータちゃん。お行儀が悪いわよ」

「そうだぞ、ヴィータ。騎士たる者。剣だけではなく、礼も忘れてはいかん」

「へいへい。ぽっちゃると石頭シグナムの言う通りで」

「ヴィータちゃん……貴方は今、その自慢の呪いウサギを潰される覚悟をしたのね……」

「じょ、冗談だぜ……」

ヴォルケンリッターの三人が何時もの冗談交じりの会話をしているのを笑って、つい、ソファに勢いよく座ってしまう。少し行儀が悪いというのは分かっているのだが、少し疲れてしまったなの。

ふぅと溜息をつきながら今の状況を思い出す。今ははやてちゃんの闇の……夜天の書を覚醒するために魔力を集めている。はやてちゃんを救うためだけど、それでも流石に人から蒐集するわけにはいかないので、今はリンディさんの許可のもと辺境世界でいいのかな?そこの魔力動物から蒐集をしている。

そしてその蒐集の手伝いをしているのだ。毎回毎回ノルマを決めて、魔力を集めに行ってそして疲労したり、怪我したり、ノルマを達成したりしたら家に帰ってくる。そのサイクルをずっと繰り返している。

正直に言えば過激な労働スケジュールと言いたくなるが、友達の命がかかっているのならば文句を言うつもりなんてない。むしろ、大歓迎というのは変な言葉だが、受け入れる。

そして程なくして人数分のお茶が配られ、お茶を飲む時間になったの。お茶を飲むだけで疲労が少しずつ減っていくように錯覚した。ほっと息をつくことで自分が少し追いつめられていたことを初めて自覚した。

ここにいるメンバーは私にアリサちゃん、すずかちゃんに、はやてちゃんとヴォルケンリッターの皆さん、そしてお兄ちゃんを除く私の家族のみだ。

フェイトちゃんとユーノ君とアルフさんとクロノ君達はまだフェイトちゃんの裁判がしっかり終わっていないので、一度戻っているのだ。すぐに終わらせるとクロノ君は言っていたが、フェイトちゃんとユーノ君は手伝えなくて申し訳ないという表情を見せてくれていた。

だから二人の分まで頑張らないとという想いで頑張っているのです。とは言っても流石に誰も管理局員がいないのは不味いということでエイミィさんは残っているのですが、今はリンディさんが借りているマンションの方にいるようなのです。

何時の間にそんな事をしたのでしょうかと思うのですが、そこは大人の人だという事でと結論を出しときます。笑顔を浮かべたあの表情を見てクロノ君が何故か青ざめた表情になっていたから知りたくないというのが本音なのですが……。

皆の様々な手助けがはやてちゃんを助けるたに動いてます。ここで頑張らないと毎日毎時間毎秒、思い続けています。友達を助けるためならば高町なのはは何時だって全力全開なのです。

だから残念だと思う。



ここに慧君がいないことが



勿論、慧君が戦うなどと言ったならば全力で止めていました。あんな死にそうな怪我を何度も受けて、そしてその痛みを飲みながら戦う慧君何て二度と見たくないのです。

でも、ここにいるすずかちゃんやアリサちゃん。家族の皆みたいに見守るという意味で戦うという事をしてほしかったのです。高望みと他の人は言うかもしれませんし、甘えていると言うかもしれませんが、友達が見てくれているというのはそれだけで力になると私は思うから。

なのにここにはいません。それではまるではやてちゃんの事をまるで心配していないし、興味がないと言っているようにも思えます。本当ならば今すぐ慧君の家に行ってお話をしたいのですが、そうしている場合でもないので宙ぶらりん状態なのです。

「どうした?なのは。まだ慧に訓練を付けてくれなかったことを怒っているのか?」

そんな考えを浮かべているとシグナムさんが声をかけてきました。そういうわけではなかったのですが、それも一因としてはあったので、とりあえずハイと言って頷いた。

それに苦笑して、シグナムさんはソファに深く座り込んだ。

「なのは。慧は多分だが面倒だからとかで、断ったわけではないと思うぞ」

「ふぇ?」

面倒だから断ったわけではない?その言葉を処理するのに数分かかった。それはアリサちゃんとはやてちゃんも同じらしく、処理を効率よくするために私達は同時にお茶を飲んだ。すずかちゃんだけは優雅にお茶を飲んでいた。

そしてお茶を飲んでは~っと和んだ後、コップを机の上において、お茶の余韻を楽しんで、そして息を思いっきり贅沢に吸い込んで、口を裂けるかと思うくらい開けて、そして一言。


「「「嘘だ(嘘や)!!!」」」


「おおう……ツッコミのリロードが嫌に遅かったな……」

ヴィータちゃんが何か言っているけど聞く余裕は一切notthingなの!!

何時だって自分が面倒とか害があったら何もしないという基本調理実習で何もしない派の慧君がそんな面倒以外で私達のお願いを断るとは思えないの!!(とか言いつつ、調理実習では実は私やアリサちゃん、すずかちゃんよりは手際が良いのですが。一人暮らしですし)

私達の態度に苦笑するシグナムさんとシャマルさん。それだけを見ているとまるで新しいお姉さんが増えたみたいで少し心が温まります。二人とも美人さんですし、性格も良い人なので誰に自慢してもいいお姉さんになると思います。

「まぁ、待て。なのは、アリサ。主よ、今から理由を説明するので」

「それはいいけど……あのものぐさ慧君がそんな面倒以外で理由があるんかいな……?」

「ええ、多分ですが。まず三人に思い出して欲しいのですが……慧のあの戦い方。あれをどう思いましたか?」

「どうって……」

アリサちゃんの呟きと共に三人で一緒に悩んでみました。

慧君の戦い方。主に拳や蹴りを主体としていて、時にはまるで四次元ポケットみたいに袖から色んな武器を取り出して、投げたり、斬りつけたりするのが彼の攻撃方法。それ以外にも言葉による心理戦っていうのをしている事もある。

それが彼の基本戦術と言うべきところだと思う。魔力やすずかちゃんみたいな力や、お兄ちゃん達みたいな運動神経を持っていないのだから、必然的に少し地味だけど堅実な戦いになる。

それ以外の慧君の戦いの特徴と言えば━━━

「ええと……自分の体ですら囮にして戦う事ですか?」

「そうだな。アレが慧の一番の戦いの特徴と言えば特徴だな」

自身の体すら囮にして、そして失敗したとしても痛みを無視して、戦う。戦いを止める時は相手が倒れたときか、自分が死んだ時のみ。逆の自分が傷つくことによって相手の罪悪感や自分への嫌悪感をさらに強めて相手の判断を損なわせる。

ある意味慧君らしいとは言えるけど、そんな自分を傷つけるような戦法はして欲しくない。というか、しないで欲しい。幾らそれしかなかったとはいえ、あんな戦法は戦法とは言えないと思う。

「その通りだ、なのは。あれは戦いからなどとはとてもじゃないが言えない戦い方だ」

「え?」

「いいか?戦い方、戦略。そういったものは全部、自分を守るものだ。それが結果的に周りを助けることもあるだろうが、究極的に言えばやはり武術というのは自分を守ることのよって力を発揮するのもだ。それは魔法とて同じ」

「……はい、そうですね」

確かにそれはそうです。例えどんな戦いでも、戦うというならばまずは自分の身を守ることから始まります。それは時々、誰かを守るために力をふるうこともありますが、そうでない時はそれは自分を守ります。

そうでなければ、戦いという前提がおかしくなりますから。

「そうだ。だけど、慧の戦術はその前提を壊している。戦術というのはさっきも言った通り自分を守るもので、最後まで生き残るためのものだ。だけど、あいつの戦術はそうではない。あれではむしろ、自分が死ぬことを前提とした戦い方だ・・・・・・・・・・・・・・・・・。戦って生きるではない。戦って死ぬことが目的とした戦術といっても正しいかもしれない。私から言わせてもらえば運良ければ生き残れるだろうといった感じだ」

余りの批評だった。あれは戦術ではなくただの自殺の仕方だと言ったのである。それも今の言い方だと彼はその戦術を自分の意思で選んでいるという事だ。生きるために戦うのではなく、死ぬために戦う。

その言葉に愕然としている私たちを見てシグナムさんがはっとした顔で訂正を入れる。

「も、勿論、あれは唐突な戦いだったので、あんな無茶な戦い方しか出来なかっただけだろう。そうでもしなければ、生き残れる確率はゼロに近かったということだと思う。」

「そ、そうですよね……幾らあのバカでもあんなのを基本の戦法にはしていないでしょうし……」

それもそうだ。シグナムさんの言うとおり、あれは事故で起きたような戦いだったし、何よりも相手の実力が慧君よりも上の人だった。ならば、生きるための特攻といった感じだったのかもしれない。そう思って少し深呼吸する。


一方


「はくちゅん」

「……」

「……」

まるでお約束のようなくしゃみをして、そしてその反動で出そうとしていたカードが誤って表となって出てしまった。そこにある数字は本来出される数字ではないカード。つまり、嘘のカード。

「……」

「……」

「……」

沈黙が場を支配する。そんな中俺は哀願の気持ちで二人を見る。大丈夫だと思いたい。二人とも騎士と武士だ。こんな偶然による卑怯な勝ち方はしないはずだ。二人は俺やあの四人娘と違って正々堂々と戦う良い人のはずだ。

そして俺の気持ちが通じたのか二人は視線を合わせて、俺に笑顔を向けて親指を立ててきた。そして一言。

「「ダウト」」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

まるでカードがゴミのようだと叫びたくなるような山のようなカードが俺の手元に来てしまった。こうして子供たちは大人の行動を見て、人間の汚さや社会の厳しさを知る事になる。


そんな少年の成長を知らずに彼の戦い方についての講釈は続く。

「というわけで。それが多分、なのはに何も教えなかった理由だ」

「???」

?マーク三つ浮かべて意味が解らないと態度で問いかける。前から思ってたのですが、自分はどうやらあんまり頭の回転は良くないのではないかと思います。現にすずかちゃんとアリサちゃんは解っているようなのです。はやてちゃんが解らないのは当然なので何も思いませんが。

「簡単だ。あんな無茶苦茶な戦術をなのはに教えられるわけないということだろう。つまり、彼なりの不器用な気遣いだったんではないか?」

「あ……」

成程。確かにあんな戦い方を教えられても実践でやれと言われたら怖気つくしかないと思う。むしろ、死ぬかもしれないとはいえそれでも自分が苦しむことを許容する彼がおかしいのだ。

「武術とかならば彼でもなのはに教えることはできるだろう。だが、そんなものは一朝一夕で出来ることではない。武術というのは長い時間をかけて極めていくものだからな。今、習ったとしてもそれは付け焼刃にしかならないだろうし、そんなものを実践で振り回せるくらいならばまだそういったところは素人のままのほうがいいと思ったのだろう。なのはは運良く魔法に関しては天才的だからな。武術がなくとも大丈夫と思ったのだろう。実際、魔法戦という意味ならばなのははかなりの実力者だ」

「そ、そんなに褒められても困るんですが……」

「なのは。慢心ばっかりしないだけマシと言えばマシだが、謙遜し過ぎなのもどうかと思うぞ」

そんなことを言われても私にはそんな自覚はないのです。クロノ君やフェイトちゃんやアルフさん、ユーノ君は私のことをよく強いとか言うけど、逆に言えば私はこの四人とヴォルケンリッターの四人しか、訓練したことがないので自分が強いかどうか全く解らないのです。

魔力量だけならば、トップクラスとかも言われてますが……そんないきなり君の魔力の量は凄いよとか言われても実感が湧きません。シャマルさんに仮になのはちゃんの魔力を蒐集したら十ページは埋まるとか言われて、普通の魔道士で一ページぐらいと言われてようやく自分の魔力量が多いんだなと思ったくらいです。

「つまり……今は自分が出来る事をしろということですか?」

「そういう事だな」

何ともまぁ、どこにでもあるような結論である。かなりケンカを売っておいて、そしてそのメッセージはかなり遠回し。これが慧君が誤解される原因の一つでもあるのだ。

「まぁ……確かになのはが風雷みたいな自爆戦法をしたら困るわね」

「そうやね……なのはちゃん。頼んだ私が言うのもなんやけど無茶だけは止めてな?」

「そうだよ。なのはちゃんは慧君みたいに無茶なことはしちゃダメだよ」

「……うん!」

みんなの心配する声で思わず疲れていた体が凄く元気になったような錯覚を得た。やはり、友達や仲間といるだけでそれは力に成り得ると改めて思うのです。どんなに疲れていても、どんなに危険な時でも、皆と一緒にいれば何だってできる。

慧君に言えばそれはただの子供の幻想とでも言うんでしょうけど、それでも私は馬鹿なので信じることを止めようだなんて全然思いません。そしたら、慧君は今度はただの開き直りだとでも言うのでしょうか?ありありとその光景を思い浮かべることができて、思わず苦笑。

何時かこの光景に彼もいてくれたらいいなぁと思う。

それは心底楽しそうで、明るい未来だと思う。




















そしてその後。やはり、疲れたのか、なのはや主達は部屋に帰って休むことになった。無理もない。どれだけ大人ぶっていても、どれだけ魔力があろうと、どれだけ友人が心配であっても、まだ子供なのである。

なのはもそうだが、主や御友人たちもむしろよくもここまで耐えられるものだと思う。

主は刻一刻と死が迫っているかもしれないのに、それでも友人や家族の為に笑い、そんな主を見てなのは達は助けようと思い、奮起する。主は良い友人を持たれたと思う。それは我が事のように嬉しい。

「クスクス」

「……?何だ、シャマル?急に笑い出して」

「ふふふっ……だって、今の貴女。本当に嬉しそうに笑っていたわよ?」

「……そうか?」

言われてつい、自分の顔を触ってみたら成程。確かに唇が微笑の形になっている。少し前の自分ならば考えられないような変化だ。それはシャマルもヴィータもザフィーラもだ。

シャマルはまるで姉か母みたいな雰囲気で周りに穏やかな微笑みを向けるようになった。今は家事を習っているようだが……確率は五分五分か。まだまだ死の可能性があるのならば作ってもらっては困る。

ヴィータは姿相応な子供のようになった。勿論、戦闘中は頼りになる騎士なのだが、昔ならば怒らないような単語にまるで本当の子供の用に反応するようになり、また外で遊ぶようにもなった。

ザフィーラはあの仏頂面が珍しく、あの少年の護衛に行くと言って、あっちに行っている。あの盾の守護獣が。あの石頭と言ってもいいくらいの男が。あの主の盾になるしかしなかった男がだ。

そして━━━私もか。

誰のお蔭かなんて誰でも解る。すなわち周りの全てのお蔭だ。

主がいる。主の友達がいる。主の家族がいる。主を助けようとする人がいる。勿論、全員が全員私達の味方ではない。この前みたいに私達の命を狙う人間もいる。

だからと言って、その者共を悪く言うつもりなんて欠片もない。それはヴォルケンリッター全員の総意だろう。むしろそうであって当然なのだ。我らがやったことはそれこそ死刑台に上るなんてものでは収まらないくらいの悪行をやってきた。

今のような幸せははっきり言えば分不相応な幸福だろう。本来ならば地獄の果てに堕ちていなければいけない魂のなのに、幸運にも、否、幸福にも天国に上がってきてしまった。

もう抜け出すことは出来ないある種の魂の牢獄。こんな幸せから離れるには我らは人間に近過ぎた。自分達がもっとバーサーカーのように戦いでも、何でもいいから狂っていたらこうも幸せなつらい事はなかった。

幸せは薬にもなれば毒にもなる。普通の人生を送っている人間ならばただの幸福だが、この血に塗れた手足では幸せは触れただけで毒に変化する。特にこれは自分は毒になるとわかっているのにそれでも手を伸ばしてしまうから一番辛い。



嗚呼━━━ここは何て地獄しあわせなんだ。



もしも、この作戦が失敗に終わって自分達が永久封印されるのはいい。当然の罪であり、罰だ。受け入れよう。だが━━━どうか、どうか主だけでも助けて欲しい。主を助けるのにこの命が必要というならば幾らでも捧げよう。

この血も、この体も、この魂も全て主に捧げたものなのだから。我らに返るものがなくてもいい。ただ、主を。どこにでもいるようでいない、我らの優しい、優しい主をどうか━━━助けてほしい。

「……シグナム?」

「……ああ……何だ、ヴィータ?」

「大丈夫かよ……何かお前変な顔しているぞ」

「変な顔とは失礼だな。これでも綺麗などとは自惚れるつもりはないが、普通のつもりだとは思うのだが」

「もう。シグナムはシグナムで謙遜し過ぎね」

何がだと返しながら笑う。ヴィータに心配されるとは私もまだまだ精神修行ができていないようだ。勿論、戦闘となれば頼もしい相棒だが、見た目か、それとも主たちと一緒にいることで芽生えた感情故か、何故かヴィータを守ってやらなければとか、思ってしまうようになってしまうようになった。

「そういえばシグナム」

「ん?何だ、ヴィータ。言っとくがアイスは買ってやらんぞ」

「違うわ!!」

「では、呪いウサギバート2は買ってやらんぞ。━━━1はまだしも2のあれはどうかと思うがな……確か口や目から髪の毛らしきものがはみ出していたような……」

「はっ、これだから胸だけ大きい奴は今時のすげぇのがわかんねぇんだよ!あのもっさり感がのろうさをさらにラブリーにしてんだよ!」

「……どう足掻いても私には解らん領域だな」

他愛もない会話をした後にさっきの質問を促らせる。こういう下らないことをするのも主たちの影響だろうか?

「ああ、別に理由は何となく気付いているんだけど、まぁ、定番だし聞いておこうと思ってな━━━何でお前あのケイの戦術で嘘をついたんだ?」

「……やっぱり、お前も気づいていたか」

舐めんなよという呟きとともにヴィータの顔はさっきまでの子供らしい表情はなくなり、そこにあるのは騎士としての顔であった。長年連れ添ったからこその、このギャップ、やはり、毎回驚かされる。

「明らかだろ?ケイが戦ったのが初めてじゃあないことは?そうじゃなきゃ、あの落着きようはおかしいだろうが。お前ははやて達に突然の戦場でああするしかなかったみたいに語っていたけどな」

ヴィータの言うとおりだ。あの少年が戦いをしたのが一度や二度でないことは既に解りきっていることだ。明確に聞いたわけではない。そんなことは聞かずとも理解できる。

恐らく父上殿も理解していると思う。解るのだ。雰囲気や態度、そして勘みたいなもので。その勘が告げている。あの少年が命の取り合いをしたのが一度や二度ではないということを。

それにあの少年は血の臭いがぷんぷんしている。あれで戦ったことがないとかいうのは嘘だ。間違いなく実戦経験で言うならば恭也殿や美由希殿をはるかに凌ぐと思われる。私達や父上殿ほどではないとは言ってもだ。

あの年であれは異常だ。いや、異常であることはよくわかっていた。しかし、私が言っているのは内面的なことではなく、その量が解らない修羅場を経た数だ。大体最低十回くらいは乗り越えているかもしれない。

具体的な回数は当然わからないが、それでも二、三回というのは絶対ないだろう。とは言ってもさっきまでは勘で解るなどと言っていたが、彼相手ではそれは鈍くなる。父上殿ならば大体ならば解るが、少年になるとぼんやりとしてしまう。

少し付き合ってもまだ底が見えない。ああいう少年は転生で何度か見たことがあるが、その記憶も朧気だから強くは言わないのだが、簡単に言えば性質が悪い。何がとは言えない。強いて言えば全部だ・・・

シャマルが言っていた最悪にして災厄。あれは決して間違った評価ではない。性質で事件の渦の中心に巻き込まれ、そして性格でその事件や人々を狂わせ、そして性能で敵対したものにへの災厄と化す。

悪夢が歩いているものだ。人を苦しめ、怖がらせ、狂わせる。本当に最悪でそして災厄となる悪夢。強さではなく、最悪さ。ただ戦うのならば最弱。なのに、何故か殺せない。覚めない悪夢。

覚まさせてくれない悪夢・・・・・・・・・・・


あれならば━━━人を殺していても……おかしくはない。


だけど

「でも━━━あの子、多分だけど、まだ人を殺していないわよね」

「……」

「……何故そう思う?」

シャマルの唐突な一言。ヴィータは沈黙を選んでいるのに私が聞いてみた。そしてその疑問は実はもう自分の中で答えを出していた。

「だってあの子……血の臭いはするけど━━━血がこびり付いていないわ・・・・・・・・・・・・

その通りだ。

血……と言っても比喩表現だが、言葉にすると難しいが、そう、彼は人が死ぬ現場にいたという雰囲気はあるが、人を殺しているというような感覚がないのだ。これこそ、勘だ。確信は全くない。だけど、そう思った。

ならばまだ引き返せる。人を殺すというのは罪だなどと言うことは言わない。主には内緒だが、どうしても人が人を殺すという場面は存在し得るのだ。それを法で裁くというのは仕方がない。しかし、それが例えば私達みたいな存在への復讐とかならばどうだ?

主達ならば駄目と言うだろう。しかし、私達からしたら相手がそうするのは当たり前だと思う。誰だって思うはずだ。自分の大切なものを奪った存在に復讐してやりたいと。

そんな激情を自分たちが否定などできるはずがない。否定する資格なんて……ない。

罪を背負った。罰を受けなければいけなかった。苦しむべきである。それなのに現状は幸福こうだ。それを見て復讐者あいてはどう思うだろうか?決まっている、こう思うに違いない。


自分たちの幸せを奪ったくせに何故私達が幸福な毎日を送っているのだと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


違うだろと被害者たちはそう叫んでくるだろう。それが人を殺すということだ。そしてそれは最悪の連鎖となる。もしも、それで主達が同じ思いを持ってしまったらどうしようという最悪な連鎖だ。

悪循環は永劫に続く。あっちが返したら、こっちが返し、またあっちが返す。どっちかが我慢できればそれがいいのだが、それが出来ないから人の感情なのだ。良くも悪くもと付けることができるが。

この悪夢のような連鎖を生み出してしまうのが人を殺すという事なのだ。

取り返すことなんて出来ない。自分でそれを壊したのだから。償うことなんて出来ない。そんな事をする権利を自分で失わせたのだから。赦してもらうなんてことは出来ない。そんな資格は人を殺した時点で剥奪されるのだから。

「そんな思いは……もう誰にもして欲しくないな……」

「……」

「……ええ、そうね……憎しみの連鎖は、殺意の連鎖は、私達だけで終わって欲しいし、私達以外には味わってほしくないわ……」

私は呟き、ヴィータは黙り、シャマルはただ思いを告げる。ここにいる三人は、今ここにいないザフィーラもそう思うだろう。罪の重さでつぶれそうになるのは自分達だけでいい。

恭也殿や美由希殿はこれからどうするかは知らないが、父上殿みたいにまだ胸を張れるのならばまだいい。ただ私達みたいに胸を張れず、ただ人を殺すような殺戮機械になってほしくない。

ソファに深く沈み、前かがみになり、膝に両肘をつけ、両手を祈るように組み合わせ、額につける。祈るようにという単語を思ったからかつい、本当に祈ってしまう。


どうか

どうか、私達の主を

どうか、私達の誓いを

どうか、私達の祈りを

どうか━━━守ってほしい。

神様でもいい、ベルカの聖王でもいい。なんなら悪魔でもいい。助けてくれるというならば何にでも土下座をしよう。足りないというならば命を供物にささげよう。汚いと言うならば業火で洗おう。救いなんていらない。私達は報われなくてもいい。私たちの結末は惨たらしい血の粛清でも構わない。


だからどうか━━━主と……あの哀れな少年に加護を。



ただ━━━祈った。



暫くリビングは沈黙に支配された。











「……なぁ、シャマル?」

「ん?なぁに、ヴィータちゃん」

「お前が持っているその皿は一体なんだ?」

「え?ああ、これ。これはちょっと私が台所を借りて作った料理なの。二人に味見してもらいたくて」

「悪い、私はこれからじーちゃん達とゲートボールを━━━」

「逃がすと思っているのか、ヴィータ」

「くっ、シグナム!」

咄嗟に身を翻そうとするヴィータの肩を万力のような握力でその場から動かすことを許さないと言っているシグナム。思わず睨めつけようとしてしまうが、何と自分以上にシグナムの眼が血走っている。

既に正気かどうかを疑いたくなるような血走りさだ。

「しょ、正気か、シグナム!アレを喰らって生きれると思って━━━」

「馬鹿者!!」

シグナムの叱責を受けて思わずはっとしてシャマルの方を見る。そこにいるのはかなり落ち込んでいるシャマル。自分は知っている。彼女が料理の勉強を頑張っているのを。その結果がアレだが。

「いいの……ヴィータちゃんの言うとおり。私の料理はまだまだ……だ、もん……ね……」

涙ぐみながら語りかけてくるシャマル。その光景を二人でどうしようという顔をしながら二人は視線を合わせる。会話は念話で。こういう時に魔道士であったことには感謝する二人。

(ヴィータ。食べるぞ)

(お前は私に一緒に死のうといっているっていうのが解っているのか!!)

(安心しろ。我らはプログラム。そんなに簡単には死なん……多分。それにここで食わずして何がベルカの騎士か)

(くぅっ……!)

鉄槌の騎士ヴィータ、烈火の将シグナム。騎士道に殉じ、その後どうなったかは……語るのは可哀想というものだろう。























光陰矢の如しとは先達はよく言ったものだ。もう一気に十二月まで時は経った。時間の流れというのは意識しなければ早いものだと若干9歳が知ったかぶったような真理を会得する。別にどうでもいいけど。

手抜きと言ってくれるな。正直に言えばあれからは変わり映えの無い日々しか過ごしていないのだから。復讐者達からは何も音沙汰がない。後一、二度は来ると思っていたのだが、全くなし。

闇の書がどれだけ罪を犯したのかは知らないが、少なくともあれだけで終わりとは思えない。だから、絶対に何かが来ると思っていたのだが現実はこの通り。何もなし。

予想外とは言えば予想外だがまだ少し時間はある。ならば、何時襲ってきてもおかしくないということだ。気は抜けないということかと引き摺られた格好のまま溜息をつく。

「久しぶり!フェイト」

「フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん、元気だった!?」

「もう……アリサちゃんもなのはちゃんも声が大きいよ」

「あははは、二人ともそれだけ待ち遠しかったっていうことやろ?」

「うん、元気だったよ。なのは、アリサ、すずか、はやて。そして……えっと、何でケイは引き摺られた格好でいるの?」

「フェイト。多分だけど、どうせ慧がここに来るのを嫌がって逃げようとしたところを皆が捕まえたとかだと思うよ」

「相変わらず素直じゃないガキだねぇ……」

黙れ赤犬。その舌噛み千切ってやろうかと息巻くが倒れている状態ではそんなことは出来ず、とりあえずバニングスに捕まえられた手を振り払って立ち上がる。パンパンと服の汚れをたたいて払う。その途中にフェイトも同じことをしてくれたので短く礼を告げる。そしたら相変わらずの向日葵のような笑顔。

今日はフェイトの裁判が終わり、ユーノとアルフを連れてアースラ組が戻ってくる日だったのである。そして今はいつの間にか女狐艦長が地球のしかも、海鳴のマンションの一室を借りていたのだ。

そして極めつけは

「はい、これ。フェイトさん」

「……えっ?これは……」

女狐艦長がフェイトに何か箱を渡したかと思えば、その中には聖祥小学校の真っ新の制服がそこにあってそこから先は言わなくてもいい展開だろう。絶対にこれは計画的犯行だ。

「うわぁ!という事はフェイトちゃんは私達と一緒に勉強できるの!?」

「同じクラスになれるかしら?」

「ふふふ、そこら辺は任せておいて━━━ちゃんと桃子さんと相談して慧君の席の隣を得てくるわ」

「木村くーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

思わず大絶叫。確か俺の隣の席にいたのは木村君という普通の少年のはずだ。嗚呼、何故だ。なぜそんな悲劇を……き、木村君……?どうしてお前は空から笑顔で手を振っているんだ!待て、待つんだ!そこから先は逝っては駄目だ!戻って来れなくなるぞ!!お前には……帰りを待っている家族がいるだろう!!?馬鹿野郎!こんな場面で親指を立てたら……死亡フラグになってしまうだろうが!(注、死んでいません……多分)

遠い空に向かって嘆いている姿をフェイトは困惑したような表情でこっちを見ている。くっ……この無邪気な女の子にそんな過酷な現実を知らせるのは流石に荷が重い……!

一瞬で木村君の存在はどっかに捨てられた。哀れ木村。

「あ、ありがとうございます!リンディ艦長!!」

「良いのよ、フェイトさん。私は貴方達の笑顔を見るだけで元気が出るのだから」

まるで性善説の塊のような言葉。だが、惜しい。その手が鼻のところに持ってきていて、抑えているそこから赤い情熱が溢れ出ていなかったら完璧だったのに……。余りの可愛さに萌え死にしそうという事だろう。可愛いというところは否定しないがはっきり言ってただの変態が幼女に興奮しているようにしか見えないのである。

このシーンを写メして警察に送ったのならばどうなるだろうかと写真に撮りながら警察に提出しに行こうと思い、ドアのほうに向けて歩く。

「待ちなさい、慧君。貴方は今、酷い勘違いをしている」

「ほう?残念ながら俺の頭は今は正常運転しているのだがね?だから、あえて言おう。それはそっちが勘違いをしているのだと」

「良い、ちゃんと説明するけどこれは鼻血じゃないの」

「では、その鼻から垂れているその赤い液体はなんなのかね?まさか、実は血涙とか言うつもりかね。どっちにしろアウトだ」

「甘いわね。これは鼻血でもなければ血涙でもないわ━━━これは保護愛よ」

「……」

無言でフェイト以外の人間と目を合わせてそれぞれの手段で警察に通報しようとするとバインドを使って止められてしまった。こいつ……一般人に対して何の遠慮もなく魔法を使ってきやがった。

仕方なく諦める。司法を守る人間がこんな人間でいいのか不安になるが仕方がない。何れ親子で愛憎劇でもしてもらおうと心の中で思っとく。そうなると本気で楽しそうだ。

「み、見て!ケイ!私の制服だよ!?」

「あー、落ち着け、フェイト。そんなもんは一週間もすれば直ぐに慣れる……」

「……あんたは……もうちょっとロマンとかないのか」

そんな物持っていたら生きていくのに邪魔なだけだろうに。それに見事にフェイトはそんな事を聞かずに元気に制服を取り出して、自分に当てている。まるでドレスをもらったシンデレラみたいだな。

「ケイ……似合う?」

何故そんな質問を俺にするのだと思うが、それを口に言うつもりはない。理由は周りの視線がフェイトを傷つけたら許さないといった感じで睨んできているからだ。ちっ、魔法なんて小細工がなければ遠慮なく言うのに。

さて、で、感想だが、皆も知ってのとおり俺は人を褒めるというのは苦手だし、そういう所で曲解を言うつもりは欠片もない。こんな所でうそを言っても俺には得がない。だから、思った事を普通に答えた。

「まっ、普通に可愛いんじゃないか」

「……えへへ」

本当にまぁ、年相応な笑顔を見せるようになって。ちょっと前のフェイトならば考えられないな。まぁ、変えたのはジュエルシードとあの魔女と高町達なんだろうけど。そして別にどうでもいいけど。

「……むぅ~」

「はいはい、すずか。そんなにむくれないの。可愛い顔が余計に可愛くなってるわよ」

「まぁ、慧君はフェイトちゃんにはえらい甘いからなぁ」

「すずかちゃんが嫉妬してもおかしくないの」

あ、不愉快な会話。

「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!慧君、待った!!こんなマンションのベランダで宙づりされたら普通は失禁してしまうで!!」

「そ、そうなのののののののののののののののののののののののののののののののののののののの!!!……あ。私そういえば飛べたんだ」

裏切り者~とかいう声が聞こえたがどうでもいい。俺がフェイトに甘いとかそんなわけがない。俺は大体平等に接している。敵でも味方でも何でもだ。こんな誤解は即座に刈り取るまでだ。

暫くしてようやく落ち着きを取り戻して一息つく。洒落た言い方をすれば約束の日とかいうやつはもう目の前に迫っているというのにこの馬鹿騒ぎ。緊張感というのがない人間ばかり集まっているね。

「……なぁ、皆。一つ、私と約束してくれへんか?」

そう思っていたら八神からシリアス声で突然な申し出を言ってきた。何だ何だと周りの視線が八神に集まる。そんな中、生きるか死ぬかの二択を迫られている少女は気丈に微笑み、約束を告げた。

「ここにいる皆も含めて、高町家、月村家、ヴォルケンリッター、クロノ君達も含めてクリスマスパーティーをやりたいんや」

その約束というのはどこにでもあるような約束。普通の少女ならば誰でも出来る約束。しかし、ここにいるメンバーは全員解っている。闇の書の解放作戦はその日にやるということを。

八神は当然、魔道士メンバーも生きて帰ってこれるか解らない戦いになることは絶対だ。百%生きて帰ってくるなんて断言できるような戦いなんてそれこそ部活の試合とかしかない。

となると八神の望みはよくあるもう一度戻って皆と戻ってくるとかいう覚悟をちゃんと得たいからとかそういうのだろう。何てちゃんとした青春を送っている奴らだ。

そしてそんな青春娘と青春小僧の返事は決まっているようだ。

「当ったり前よ!今までで一番のパーティーにしてやろうじゃない!」

「うん、そうだね。翠屋で一杯騒ごう」

「うん!きっとお父さんとお母さんが最高のクリスマスケーキを用意してくれると思うの!!」

「え!なのはのお家……洋菓子店なのかい……ゴクリ」

「あはは……アルフ。まだ唾を飲むのは早いよ」

「もう、アルフってば……でも、うん。はやて、一緒に祝おう」

子供たちは夢を持っていて非常によろしい。まぁ、子供は夢を見て育つものだから普通に良いことなんだろうけど。そして俺からしたら別にどうでもいいことなんだけど。

「……慧君も……約束してくれる?」

はん!嫌に決まっているだろう、バーカと即座に口が出そうとしてしまう。というか本来ならばそう言っとくのが俺の性格なのだが、今回はなんと已むを得ない事情が……。思わず出てきた吐き気を我慢しながらこの台詞を言うしかない。

「あ、ああ……ま、まぁ、気が向いたらな……」

その瞬間。空気が止まった。誰もかもが動けなかった。いきなりの出来事に呼吸困難や逆に過呼吸になっている人間もいる。仕舞には、頭を壁に叩きつけている人物もいる始末。暫らく待ち、そしてようやく深呼吸をしだし、そして

「なのは、救急車を呼ぶわよ」

「うん、了解なの」

「待って、それならば月村専属のお医者さんを呼んだほうが大丈夫かもしれない」

「そうやな……もしかして半分吸血鬼になった後遺症かもしれへんしな」

「フェイト、アルフ。手伝ってくれる?無限書庫で慧の病気について調べないと不味いかもしれない」

「解ったよ」

「え、えと……」

周りの反応もまぁ、何時もと違う反応をしたので仕方がないことだというのは解っているので仕方がなく、沈黙して出してあったお茶を飲んで……ごふっ!このお茶……砂糖が入ってやがる……!

「ど、どうしたん!?慧君!何か悪い毒でも飲んで死んで性格反転でもしたん!?」

「中々オリジナリティ溢れる気の使い方だな」

自分でも気持ち悪いと思っているのであえて何も言わない。理由は簡単なことなのだが、この前のダウトで負けてしまい、いつの間にか罰ゲームルールを付けられており、その罰ゲームが『高町や八神達の言うことを一度だけ聞くように』であったのだ。

お蔭で今は一度だけこいつらの言うことを聞かなければいけない状態なのである。本来ならばこんな罰ゲーム、とっとと破るのだが、この前すずかのお願いを無視しようとした瞬間、何処からともなく小太刀が投げられてきた。

あいつら本気だという事なので迂闊な行動はとれない状況だ。唯一の幸運はそのことを周りに知られていないことだけである。こんな事を知られたら俺はこいつらに肉体的にも社会的にも殺されてしまう。ちなみにその時のすずかのお願いはポッキーゲームであった。そんなものを最後までするはずがなくお願いを聞いて直ぐにポッキーを噛み砕いた。その直後にならば直接……!とか言われて襲いかかってきたが。

とりあえず、そんな事情がなかったら誰がこんな寒いイベントに参加するか。嗚呼、俺のキャラが少し汚されてしまった……あの二人にはいつか絶対天誅を下さなくてはな……。

「……理由はわからへんけど……ありがとう!」

そう、絶対にない。この笑顔の為に聞いてあげたとかいうのは絶対にない。





























【おまけ】

「いくわよ」

「うん」

「了解」

「じゃあ」

「せーの」

「「「「「メリークリスマス&ハッピーニューイヤー!!!」」」」」

「いや、遅すぎるでしょうが!!もう既にクリスマスは終わっているし、正月はもう終わりかけじゃない!!」

「一応、そういう行事だから私達に言わせたかっただけじゃないんか?」

「このおまけだって一応雰囲気に乗っておこうと思った作者が書いたものだものねぇ」

「にゃはは……」

「あはは……まぁ、アリサ、落ち着いて。一応進行を続けよう」

「そして何故かこの場には風雷がいないし!!」

「ケイはこんなの興味ないとか言ってどっか行ったものね……ちょっと残念だな」

「あーーもう!こんな可愛い子にこんな子を言わせるなんて……慧君は罪作りやなぁ!!」

「……ごふっ!!」

「すずかちゃん!落ち着いて!!フェイトちゃんの純粋さに毎回毎回血反吐、吐いていたら血が足りなくなっちゃうよ!!」

「もう、またグダグダになってきたじゃない。とっととこのおまけについて語るわ。えーと、ここは特にそこまで重要というわけでもないんだけど、今まであった質問を改めてここで語るという事らしいわ」

「如何にもおまけみたいなコーナーやな」

「シャラップ!!ツッコミは後よ。さっそく行くわ」


あの第一話で出てきた悪魔は何時出るのか?


「……いきなり一番痛烈な質問の答えだね」

「そうなの。あれだけ意味ありげに出てきたのに実際見たら全然出てないの。そう思っていたらもう三十九話、今回を入れたら四十話まで出てないの」

「作者の計画性の無さがここで出てきたわね……」

「え、えっと、その第一話に出てきた悪魔さんはこのA’s事件に必ず出すというつもりらしいです。そしてそこから先はほとんどオリジナル物語になるらしいです。皆さんも出来れば楽しみに最後まで読んでください」

「くっ!ほんまフェイトちゃんは良い子や……こんな作者から押し付けられた仕事をこんな健気にやってくれるなんて……」

「そうかな……でも、ありがとう、はやて。じゃあ、次の質問を」


どうしてこんなクソみたいな主人公が好意を持たれるのでしょうか?


「……(グシャ)」

「……(グスッ)」

「カーーーーーーーーーーーーーーーーーット!!この二人がいるのにこの質問をするなんて……私たちに胃潰瘍にでもなれと言うの!!?」

「そんな現実的な病気で例えを言わないでよ、アリサちゃん!!」

「そうやで!ええい、こんな質問はとっとと終わらせるに限る!ええと、これは残念ながら答えたいのですがそうなるとネタバレとかいう事になるから残念ながら答えられませんということで一つ堪忍してください……じゃあ、何でこんな質問をここに出したんやーーーーーーー!!!」

「わぁぁぁ!はやてちゃんまで暴走を!つ、次の質問でーーす!」


……この話は最終的にハーレムルートですか?


「「「「「……」」」」」

「な、ないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないない!!!何で私があんな無表情最低最悪性悪な暴論遣いとつ、付き合わなきゃいけないのよ!!」

「ど、どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど同感なの!!何で何時も私を虐めてくる慧君を好きにならなきゃいけないの!!」

「あはははは。初心やなぁ、二人とも。ただの質問やのに」

「……はやてはこうなった場合どうするの?」

「え、私?ふふん、別に私やったら慧君でも……待って、すずかちゃん……!背骨はそれ以上そっちに曲がらへん……!」

「ふふふ、はやてちゃん。冗談でも言っていいことと悪いことがあるんだよ……じゃあ、次の質問に行こうか。アリサちゃんとなのはちゃんはこの質問に関しては全く何も出来ない役た……状態だから。え、答えは?それは物語が進んでのお楽しみということでよろしくお願いします」


最初の文章が稚拙すぎたのは?


「何かさっき凄い悪口を聞いたような……まぁ、とりあえず、これは質問というよりは作者の言い分けタイムね……」

「にゃはは……アリサちゃん。あんまりストレートに言うのはどうかと思いますが……えっと、これに関しては作者は最初は本当に小説を書くのに慣れていないどころか、初めての作品だったので勝手を知らなかったというのが理由らしいです」

「理由というよりは言い訳といったほうが言いんちゃうか?」

「最初はこの話、続く前に打ち切らないといけないのではと思ってたらしいからね……」

「うん、だけど、皆さんの声援でここまで来れたので今ではちゃんと書こうと思っている作者さんなのでどうかお付き合いをお願いします」

「「「「お願いします」」」」

「さて、もう質問もなくなってきたんじゃない」

「うん、そうだね。次で最後かな?じゃあ、最後の質問、どうぞなの」


風雷慧ってどういう風に読むの?


「……あ~、そりゃあ、気付かないわよね。まぁ、平仮名で書けばふらいけいって言うことになるらしいわ。名前の元ネタとかはないらしいわよ。つまりはとっさに編み出しただけ」

「ちなみにこの時、作者は終わりのク○ニクルに超嵌ってしもうてて、出来ればあんな風に格好いい名前を付けたいとかいう理由でこんな自然現象がつく苗字を考えてしまったらしいで……」

「あの○ンダーソンっていう名前が余程格好良かったんだね……後になって大分何だこの痛々しい名前はと思ったらしいよ」

「う、う~ん。まぁ、終わったことは仕方がないって言うからもういいんじゃないかな?」

「そうだよ。ケイの苗字、格好いいと思うよ」

「格好良さだけだけどね。じゃあ、このおまけはここまでね。アドリブだったけど持ったほうかしら」

「……途中で私の背骨が嫌な音を鳴らしたけどな」

「にゃはは。つまりは何時も通りだったの」

「これで慧君がいたら完璧だったんだけど……」

「……うん、ちょっと残念」

「居ないやつのことを言っても仕方がないわ……ん?うわ、作者最後は私たちにちょっとした次回予告とかさせる気よ」

「作者だからって私達をいいように使うなんて……後で『お話』なの」

「まぁまぁ。えっと次回はいきなり飛んで闇の書解放事件を書く気満々らしいです。そしてどうなるかは次回のお楽しみということやって。ようやくA'S編の終わりが見えてきたな……」

「そうだね……さて、悪魔や慧君はどういう風に関わるのでしょうか?」

「次回をお楽しみにしてください」


「「「「「では、また次回に。今回も読んでくれてありがとうございました~」」」」」













[27393] 第四十一話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:d44a4ec3
Date: 2012/02/05 11:56

「じゃ、行こうか」

「……そうね。でも、良かったの?」

「ん、何が?」

「別に貴女は残っても良いのよ?そうすれば汚名は私だけが被る事になって貴女はお父様と一緒に過ごすことが出来るわ」

「……そうだね。でも、■■■だけにそんな辛い重荷を背負わせることは出来ないよ。だって、あたし達は━━━姉妹じゃんか」

「……■■■」

「そんな顔しないでよ……そりゃあ、未練はないなんて格好いい台詞は言えないよ。そんな台詞が言えたのならばこんな選択はなかっただろうしね」

「……」

「でも、あたし達はここにいる。それは運命とか神様の意思とかじゃなくてあたしの意思だ。それにあたしはこんな所で尻尾撒いて逃げるような頭が良い性格じゃないでしょ?」

「……そうね、そうだったわね。出来ればもうちょっと賢くなってほしかったけどね」

「そんな事言って。■■■だってこういう馬鹿みたいに損するような事をしてるじゃない」

「ふふふ、そうね。結局、私達二人とも馬鹿っていう事かしら」

「だから言ってでしょう。結局、私達は似たもの姉妹なんだよ」

「ええ……そうね」

「……お父様、怒るかな」

「怒るでしょうね」

「……その時はよろしくね」

「私だけ叱られるなんて嫌よ。叱られる時も一緒よ」

「うわっ、藪蛇だったか……」

「でも、きっとそのお叱りは私達を想っての事なんだと思うわ」

「……うん、そうだね。だって、お父様」

「「優しいんだもの」」

そこにあるのは暗い部屋で笑う二人。声から察するに女性のようだ。二人とも影だけしか見えないが、それだけで解るくらい早熟した女性であるというのが解る。

二人は凄く朗らかに笑っていた。とても、朗らかであった。これから血生臭い事をしようとしている二人には全く見えなかった。これではただいたずらをしようと計画している子供みたいであった。

でも、しようとしているのはやはりいたずらではなく━━━人を殺そうとしているのである。もしかしたら人が死ぬ……のではない。結果、必ず人を殺しているのだ。そこに偶然という単語は入り込まない。突発的な感情で殺人を起こしてしまったのならば、多少は偶然が入るかもしれないが、そこに計画性が混じっているのならばそれは明確な理性に基づく殺人である。

もっとも、計画を敷く理性があったとしても動機はやはりこの二人の場合は感情であるだろうけど。ありとあらゆる動機は感情から作られるのだから。感情無くして人は動かない。無感情で動ける者はいない。それはどこぞの無表情の少年にしても同じのはずだ。

「優しいからこそ━━━私達も胸を張って頑張ることが出来るんだものね」

「ええ。私達が命を賭しても構わないと思えるお父様だから」

「だから……」

「だから……」

「行こう」

「ええ、私達はこれからただの山猫の使い魔から、泥を被る泥猫になりましょう」

そうして二人は唐突にその場から消え去った。正しく影も形も残さずに消えた。その光景を見たものは誰もいなかった。そうして閉幕のチャイムは鳴り終わった。残ったのはこれからどうなるか解らないという当たり前な不安感であった。



























「……主、準備はよろしいでしょうか?」

剣の騎士の一言だけで、自分は既に進むしかないという事に改めて気付かされた。普段なら温かみがあって、頼れるシグナムの声が状況を変えればまるで死刑執行の一言をかける死刑執行人のように思えてしまう。

無論、そんなの自分が錯覚しているだけや。シグナムは何時もよりも更に優しさを滲ませた声で私を心配している。それはシグナムだけやなくて、ヴィータや、シャマル、ザフィーラも私を物凄く心配してくれている。

その顔を見て、私は皆に大丈夫やと伝えなくてはと思い、笑おうと思ったが、失敗した。確かに笑うことは出来たが━━━こんな引き攣った笑顔を見て誰が安心できるやろうか。鏡を見ていなくても解るんやから間違いない。

その証拠に、今、私と向かい合っているなのはちゃんとフェイトちゃんの顔が少し強張っていた。それは恐怖とかではなく、それもヴォルケンリッター達と同じ心配の表情やった。

それを言うならばこの場にいる誰もが私に心配の視線を向けていた。当然の視線やろう。ここは既に決戦場なのだから。私と闇の書。どっちが勝てるかどうかの正しく瀬戸際。

ドクンと心音が高らかに叫ぶ。ここは地球とは違って誰もいない世界。人も動物もいない世界。故に例え失敗したとしても━━━誰にも被害はいかない。自分を除いてと続くけど。

ドクンと心音が心臓そのものを裂きそうだ。自分がかなり混乱しているのが解る。むしろ、混乱以外の感情が自分の内側にどこにもない。嫌な汗がさっきからダクダクと溢れ出ている。これが数分も続ければ自分はミイラになってしまうのではないかと錯覚してしまう。

「……大丈夫か、はやて?」

クロノさ……じゃなかった。クロノ君までもが心配してくれた(本人が別にさん付けでなくても良いと言うので君付けにさせてもらった)。だから、咄嗟意に大丈夫と今度は口で言おうとして、口を開けてみたら

「━━━」

言葉を上手く出せなかった。

こんなんじゃあかんと自分で自分を叱咤する。ちゃんと呼吸をしろと自分に言い聞かせて、呼吸を何回もする。これじゃあ、何時まで経っても始めることが出来ひんやんかと。

意思はある。だけど、それでもそれが行動に繋がらへんのが現状。覚悟があってもそれら全てが感情に覆い隠されているのだ。これでは何も出来ひん。何でもいいから何か言ってリラックスせんとと思い、どうにかして声を出したら

「だ、大丈夫、やで……わ、私は、い、何時でも……」

情けない声が出た。震えた声が出た。それが今の八神はやての状態を表していた。そしてそれらは今度こそ周りに伝わってしまった。不味いと思った。これじゃあ、皆動けへんと思った。

皆いい人や。そんな人たちがこんな風に怖がっている人間相手にそのまま戦えるとは思えへん。だから大丈夫って落ち着かせなきゃ。でも、どうやって?焦りが思考を乱し、乱れた思考が恐怖を生み出し、恐怖が体の動きを封じる。

その恐怖が臨界点を突破する瞬間。


チリンと綺麗で澄み切った音が耳に聞こえた。


条件反射で音が鳴った方向を見る。そしてそこにあるモノを見て思わず苦笑してしまった。まるで狙ったようなタイミングでの音であった。本当に送り主と似た性格を持った物である。

「……?それは……?」

フェイトちゃんが急に静まった私を見て疑問に思ったのか。私が見ているものについて疑問の声を出してきた。隠し理由はないので私は素直にそれを彼女に見せてまた手首を振った。その動きにつられて再びチリンという音が響く。

「ん?これは鈴やな。日本やったらそんなに珍しくないもんなんやけどな。まぁ、腕輪に鈴が付いているのって言うのは珍しいと思うんやけど……多分」

最後の方が自信がないのは自分もそんなに知らへんから。正直そういうのには疎いのは女の子としてはどうなんかなぁと自分でも思っている。でも、慧君と会う前まではそんな事に気を回す余裕がなかったんやから仕方がない。

何を隠そう。これはあの時、ヴォルケンリッターが出てきたときに慧君がくれた誕生日プレゼントなのである。鈴が付いているだけの余りにもシンプルなデザインに大分慌てて買ったなと思うプレゼント。

この事について何故これを選んだのかと彼に問い詰めてみると

『なに━━━獣には鈴がいいと良く言うだろう?』

『……んん?おかしいなぁ……ここに獣なんていないんやけどなぁ。ついに慧君の脳味噌がミキサーでシェイクされてジュースになってしまったんかなぁ?』

『はははは。やれやれ、この狸は……直ぐに現実逃避をするからいけないね。少しは妄想を視るよりは現実を見るべきだと思うがね。だから、お前は貧乳なんだよ』

『失礼な!これでも大きくなってるんやで!!』

『……(むにっ)、三十点』

『……』

ドカバキ。

『ぐふぅ……貴様何の遠慮もなく人中とは……さては、既に獣の心に侵されているな』

『……スケベ心があるようでないような手つきと視線で何の遠慮もなく人の乳を揉む慧君に言われたくないなぁ。というか反省しろ。警察に連行されへんだけマシやと思った方が良いと思い』

『おやおや。俺は良かれと思いお前に真実を教えてやったというのに……人の親切を無視する狸だね?』

『OK。最近ツッコミキャラになってきてしもうた自分を改善するため私はあえてバトルを申し込む所存やで!!』

『こっちは望むかもしれないのかもしれないのはずがないような気がするようだが別にそんな事はどうでもよくないような知ったことではないような所存だぜ!!』

『結局どっちや!?』

そのまま乱闘したんやけど結局最終的に慧君のシャイニングウィザードが決まって負けてもうた。くそぅ……月村特製車椅子に秘められし七色の裁きでも駄目やったか……。

っていうか結局誤魔化されているという事に今気付いた。あの野郎、流石は暴論遣いや。煙に巻くことだけは超一流の言論使いや……お蔭で何人の人間が彼に騙されている事やら。

そこまでどうでも良い事を考えて気づいた。震えが止まっている。恐怖はまだ少し残っているけどそれでもさっきに状態に比べれば百億倍マシと言っても過言ではない状態や。

ある意味感心してしまう。この場にいないのにこの影響力。私達はどれだけ慧君の影響を受けているんやろうか?この年でここまで友達の存在に影響されるというのは嬉しい半分少し恥ずかしい。

まるで親離れできない子供みたいだ。慧君を親なんて死んでも認めたくないんやけど……。うわっ、背筋がぞわぞわっとしてきた。どう足掻いても慧君が親になっている姿なんて考えられない。というか気持ち悪い。

すずかちゃんには悪いけど彼ほど結婚という単語からほど遠い人間はいないと思う。彼の子供がいる姿なんて考えたこともなければ予想も出来ない。アットホームな慧君なんてどうかと思う。

そんな意味もない思考を繰り返してはまた、つい笑ってしまう。周りの人間は何故自分が笑っているのかどうかわからないという顔をしているのがほとんどだったが、一番この中で付き合いが長いなのはちゃんは理解してくれたような顔だった。

「そっか。慧君がくれた鈴だものね。きっと何か憑いてるかもしれないよ?」

「はっはっはっ、やだなぁ、なのはちゃん━━━そんな洒落にもならへん事言わんといて」

「にゃはははは━━━洒落じゃないと思うから言っているんだよ?」

有り難い気遣いだった。有り難すぎてマジ泣きするところやった。でも、うん、大丈夫や。何時もの私や。何処にでもいる少女で、決して闇の書によって悲劇にされた少女とかいう設定の人間やない。八神はやてという個人のままだ。

そうや、少し気負い過ぎていた。何を世界を背負っているような気分で緊張していたんやろう。自分がそんな世界なんて背負えるような器じゃないのは知っているやろうに。闇の書の主とかそんなんどうでもいい。

私は『ただの』はやて。八神はやて。聖祥小学校の三年生でしかない少女や。そんな事、慧君に散々口酸っぱく言われてきていたやろうに。うん、反省反省。

「……大丈夫そうだね」

「うん、ユーノ君。私は何時でも行けるで」

「……全く。あの暴論遣いはいないくせに馬鹿みたいな影響を及ぼすのか」

ユーノ君の微笑とクロノ君の苦笑に私も苦笑で答える。今更な事だ。慧君が他人に与えている影響なんて物凄いとしか言いようがないのだから。それが良い事か悪い事かはさておきやけど。

「じゃあ、最後の確認だ。まず僕達ははやてが闇の書を覚醒する前にシグナム達をバインドで捕えておく。卑怯だと思うけど、もしもヴォルケンリッターが予想通り闇の書の指揮下に入ってしまうのであれば少しでも僕達の勝機を上げるために保険を取っておきたいからね。ヴォルケンリッター達もそれでいいかな?」

「ああ、異論はない」

「……まぁ、少し気は悪いがこれもはやての為だ」

「はやてちゃんの為ならばそれぐらいはするわ」

「少しでも主を助ける可能性を上げるためにな」

「助かる。……他の武装局員はアースラで待機だ。彼らには申し訳ないが彼らの実力じゃ、君達を相手にするのは難しい。だから、戦闘をするのは僕になのは、フェイト、アルフ。そしてフェレットもどきだ」

「……クロノは後で僕に縛られて新しい世界に目覚めたいようだね」

「残念ながら僕は君やあいつみたいに変態じゃないから遠慮しとくよ」

「誰が変態だ!!」

「何だその普通のツッコミは……それでは底が知れるぞ」

「くっ……!別にどうでもいい事なのに何故か負けた気分がする……!」

「それは君が僕にありとあらゆる部分で負けている証拠だ。その調子じゃあ僕はおろかあの暴論遣いにも勝てないな」

「何時かエイミィさんの前で子供のように泣かせたやる……!」

「地味に陰湿な……さて、話を続けるぞ。そして最後にはやて……君の出番だ」

「うん。私が管理者権限で闇の書の暴走を止めて私をちゃんと主として認めさせるやな」

簡単に私らは言っているけど、実際はどれも超を幾つつけても良いくらいの難関ばっかりなんやろう。ヴォルケンリッター達の実力は何回もなのはちゃん達と訓練しているところを見ているし、私……というか闇の書はかなり強いらしい。

それを才能があるからとはいえ僅か五人で相手するのだ。無茶苦茶としか言いようがない作戦や。いや、こんなのは作戦とは言えへんってこれを聞いたらみんな言うやろう。実際ユーノ君もそう評していた。

無理もない。それにフェイトちゃんやクロノ君は訓練を受けているが、なのはちゃんは戦いとかそういうのは無縁だった少女なのだ。管理局の人は全員、なのはちゃんの才能は凄いものだと言っているが、才能だけあっても努力がなければ凄いだけの一言だろう。

例で言えば恭也さんや美由希さん、慧君にこの前のお爺さん。どの人も努力を以て力を得てきた人達だ。皆、なのはちゃんほど派手な力ではなかった。単純な力で言えばもしかしたら、皆、なのはちゃんに劣っていたかもしれない。

でも、今でた全員の動きは魔法無しのなのはちゃんを圧倒していたと思う。というよりも、動きというよりはその思考速度と作戦がと言った方が正しいかもしれない。

恭也さん、美由希さん、お爺さんは魔法を使ったり、持ち前の運動能力を使った相手の隙をついての攻撃。単純故に強力な作戦。一方、慧君は相手の嫌なところを突いたり、周りを利用した攻撃方法。攻撃を喰らってもむしろ利用する異様さ。小さな言葉で相手の精神をほんの少しでも揺るがす狡猾さ。そしてどんな攻撃を受けても立ち上がるその執念。

強い人からしたら小賢しいとか言いそうな方法やけど、ある意味これは彼が全力を以て挑んでいると言ってもいいのではないだろうか。そして今出した人は皆共通点がある。それはなのはちゃんにはないもの。つまり、戦いになったら相手の言葉を聞こうという甘さは捨てて全力で戦うという所だ。

なのはちゃんは良く言えば優しくて、悪く言えば甘い。私かて強く言える立場やないけどそれでも思う事はある。それじゃあ、戦いでは不利になる。素人でも解る事や。無論、こんなんは他人事やから言えるのだろう。

他人事。そう他人事だ。自分やったら結局はなのはちゃんと同じことをしてしまうだろう。だから責める事なんてできる立場やないし、そんな立場にしているのは自分のせいなのである。

それに優しさを責める事なんて誰にも出来る筈がない。むしろなのはちゃんが当たり前なんや。恭也さんや美由希さん、慧君が悪いけどおかしいとしか言いようがない。戦う覚悟を、相手を倒す覚悟なんて一回の小学生が持っているはずがない。それはフェイトちゃんやユーノ君も同じ。この状況を想い、慧君が言っていたことを思い出す。

生きるという事は誰かを傷つける事という事を。その立場になって自覚したら本当にその言葉の意味がよく解るようになった。正しくその通りや。私は私の都合で皆に傷ついてと言っているんやからundefined・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・undefined

でも、だからこそ謝罪とかはしてはいけないのだろう。言うのならばありがとうの一言やと思う。なのはちゃん以外はまだ短い付き合いやけどそれでもこんな時に謝られて喜ぶような性格ではないことは分かっている。つまり、皆いい人やということ。

だから私は別の事を言う。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん、クロノ君。」

「にゃ?」

「え?」

「ん?」

「お?」

「何だ?」

「クリスマスパーティー……全員で出席しような」

ヴォルケンリッターには言うまでもない。既にこの言葉は何度も彼女たちに伝えた。そして答えも聞いている。だからこそ、皆の答えも聞きたかった。自分を鼓舞させたいだけかもしれないけど、それでもやはり皆もちゃんと生き残るという覚悟みたいなものを視たかったのだ。

それを察してくれたのか、皆は一度目を合わせてそして笑って私に応えた。

「「「「「勿論」」」」」

これで本当に心配はなくなった。ほっとするという言葉は正しくこういう状態の事を言うのだろう。大丈夫。奇跡は起こるはずだ。だって、私の友人は奇跡をバンバン起こしてしまう暴論遣いだ。なら、私一人の命を救うくらいの奇跡は起きてくれるはずだ。ある意味神頼みとかよりも重用されそうな存在なのである。

今度から神社の代わりに利用できるかもしれへんなと思いながら、準備に入る。何の?決まっている。闇の書の起動を。やり方は周りの人から聞いている。難しい手順はない。ただ、こう言えばいい。闇の書起動と。

それだけで私は一端夢の世界に。そこから起きられるかは自分次第。覚めない夢になるか、何時もの目覚めを迎えることが出来るか。こういう時は何時ものお呪い。もしも、慧君ならばどう思うだろうか?

そう思い少し考えて何時も通りのお呪いの結果くしょう。決まっている。面倒臭がりな彼だからこう考えるだろう。つまり━━━そんな事はどうでもいいからとっとと終わらせようと。

本当にその通りやと強がる。こんなのはさっさと終わらせて速く翠屋で皆でクリスマスパーティーをしたいと切に願う。それだけが叶うのならば今は他に何もいらない。そう、今はもうそれ以上は望まない。

だからそれ以上を望むのは未来でしよう。

決意したのに皆気付いたのか、全員の顔が引き締まった。私の顔も今あんな格好いい顔になっているのやろうか?そんな愚にも付かない考えをしながら今度こそ準備を開始する。

最早言葉はなかった。所定の位置についてそしてヴォルケンリッター達をバインドで動きを封じておく。そして各自デバイスや拳を構える。もう後戻りもすることも出来ないし、する気もない。

腕の動きと連動して腕輪についている鈴が再び鳴り響く。その音が私を急かしているようで再び苦笑する。普通ならば応援していると解釈するべきなんだろうけど、慧君の贈り物やからどう足掻いても急かしているとしか解釈できない。

だから期待に乗ってやろうかなとらしくもなくそう思いながら周りの皆の方を見る。その意図に皆気付いてくれたのか、皆は真剣な顔になってただ頷いた。こちらの準備はもうできていると。


今、この時間、この場所で闇が顕現する。


スイッチは自らの言葉。言霊とはよく言ったものだ。正しく、私は今、魔法の呪文を唱えようとしているのだ。そしてその呪文で起きる内容が何とも陳腐な世界を滅ぼす呪文だ。何時から私はRPGに出てくる魔王になってしまったのだろうか。その場合、私は大魔王○ーンやろうか?

どうでもいい思考を出来ていることから自分が何時ものコンディションである事を再確認。最後に皆の顔を見て大丈夫と確信する。だから、呪文を用意するために息をすーっと吸い込もうとして



そこでいきなり光の輪が私を捕まえた。



「……は?」

唐突な展開。勿論、こんな事は作戦の内容では絶対になかったことである。理由は簡単で幾ら才能ありの少年少女が五人いるとはいえ、それが666ページ分の魔力を蓄えた闇の書相手にバインドが簡単に聞くとは思えなかったので無駄な魔力消費は避けようという事で私にはバインドは無しの方向だったのだ。

だから、この光の輪はおかしなものだ。それに今思えばこの色は自分が知っている色ではない。なのはちゃんの桜色でもなければフェイトちゃんとアルフさんの金色でもなく、ユーノ君の翠色でもなく、クロノ君の青色でもない。かと言ってヴォルケンリッターの皆の色でもない。

じゃあ、これは誰のだ?

その思考に到った瞬間。目の前に急に人が現れた。誰かは知らない。ただ、とても綺麗な人であるというのは確かである。ただ、忍さんみたいに綺麗なお姉さんというよりはどちらかと言うと勝気なお姉さんと言った感じでアルフさんと似たような雰囲気を持っている感じがする年上ですらりとした手足を持っている人だと思う。

何故断言できないのかと言えば、それは彼女には人間にはない筈のものが備わっていたからである。それは耳と尻尾である。どう足掻いてもそれはコスプレという感じには……見えるかもなぁと少し思う。

今の現代の技術は凄い。ならば、あれくらい実は簡単なのではと思う。少なくとも忍さんならば楽に出来るのではと本気で思う。ううむ、今度量産化を真剣に頼んでみようかな。すずかちゃんや、フェイトちゃんにぴったしやと思う。いやいや、そこは敢えてのアリサちゃんにウサ耳とかを付けて辱めるのもアリやな~と現実逃避をしてみる。

そんな馬鹿な思考をしている場合ではないというのに本当にどこかの無表情少年に毒されていると結構危険やと思った。何が悲しくてこんな状態で友人にウサ耳を付けることを検討しないといけないんやろうか。

「……!!ロッテ!」

「……久しぶりだね、クロスケ。こんな形で出会いたくなかった……なんて私達が言える立場じゃないか」

ロッテとクロノ君は驚いた顔で彼女を見ていて、ロッテさんは悲しそうな顔でクロノ君を見ていた。

ロッテさん。聞いている。ちゃんと慧君から聞かされた。本当はクロノ君が言おうとしていたようだけど彼が先回りして私に聞かせたのだ。前回の闇の書事件。その最後の被害者である━━━クロノ君のお父さんであり、リンディさんの夫である人の話。


そして彼女達、使い魔を生み出した主。グレアムおじさんの部下であるという事を。


彼が何故そんな聞かしたら私を苦しめるだけの話を私に聞かせたのは何となくわかっている。それぐらい解っていないと彼を友達呼ばわりするのは絶対にできない。

きっと彼のことだ。彼女たちが来ることは予測というよりは確信していたのだと思う。そしたらきっとその時にこの話を聞かされていたのだと思う。そして大事な場面だというのに自分が混乱したりして、致命的なミスをさせないようにしたのだと思う。

そして彼はやっぱりいつも通りの憎まれ役をただで買う。今更そんな事をしても私達の慧君への評価は変わらないというのに。そう言ったところの心の機微を彼は全く理解できていないのだろうか。そして私はまたいつも通りの現実逃避をしてしまっていたようや。

「……状況が分かっていないのか、ロッテ。君の実力は確かに使い魔としては最上級だけど、ここには発展途上とはいえ魔力ランクは最高クラスの魔道士が二人とその使い魔が二人にまだまだとはいえ執務間の僕がいるんだ。幾ら君でもまさか僕たち全員に勝てるとは思っていないだろう」

「……ん。さり気なく今、僕、使い魔にカテゴリーされていなかったかい?」

「まぁ、確かに一人や二人ならばともかく五人じゃあ私の勝ち目は少ないだろうねぇ」

ユーノ君が何かツッコミをいれたようやけど今は無視。いかんなぁ。ユーノ君、段々と慧君と行動パターンが似てきたような気がする。早めに直さないと外道病を永久に患ってしまうかもしれへん。

「ロッテさん……私には多分、貴女の気持ちは解りません。大切なものを失くしたことがないから……でも。やっぱり、それでも私は復讐が正しくないことだけは解ります!だからお願いします!」

「……私からもお願いします。なのははそう言ってますけど、私は……大切なものを亡くしているからあなたの気持ちを少しは理解できると思います。恨みました。呪いました。嘆きました。ですけど、それで他人に八つ当たりしてもいいという事には絶対にないです!」

「フェイトがそう言っているんだ……今は帰ったほうが良いと思うよ……それに出来ればアタシは同族としてアンタを殴りたくはないんだ。それに使い魔ならばアンタも自分の主人の間違いを正すぐらいしなよ!じゃなきゃ、何でアタシ達がいるんだよ!!」

「……うわぁ、いい子たちばかりだねぇ。一応監視していたから知ってはいたけど、やっぱり知っていると体験じゃあ全然違うわ……大人からしたら少し羨ましくもあるし、妬みたくもなる様な子達ばかりだ。まぁ、正論で人が動くんならば今頃、戦争なんてないんだけどね」

なのはちゃんが思い思いに説得をしようとするが、それを聞いてロッテさんは疲れたような苦笑をするばかり。そこで納得してもうた。この人もあのおじいさんと同じで言葉で立ち止まるような人ではないということを。

それに気づいているのか。クロノ君とユーノ君は既に動けるように身構えているし、ヴォルケンリッターの皆もバインドを破って攻撃をしようかともくろんでいるような体勢である。

そうや。幾らロッテさんが強いかどうかは知らんけど、とりあえず強いと仮定してもこれだけの人数に勝てるとは思えへん。数が全てなんていうつもりはないけど、やっぱり人海戦術は基本の力やと思う。

だが

「やる気満々なのは結構だけど━━━出来ればこの映像を見てからにして欲しいわね」

ピッと彼女は突然、空中に映像を映す。これも異世界の技術というのは知っているけど、やっぱり何度見ても慣れるものではなかった。魔法も技術と言えば技術なのだが、魔法はまだ機械というよりは少しロマンが溢れすぎている。

何となくだが自分はなのはちゃん達が使っている魔法をまだちゃんと認識していないのではないかと思う。現実離れしすぎているのだ、魔法は。自分にもその力があるとは言われても実感はできないのだ。だからこそ簡単に受け入れることはできたのだが。

閑話休題。

そして何の映像を急に見せられるのやと思い少し警戒をした瞬間。



ピシリとガラスが罅割れるような音が頭の中で響いた。



無論、幻聴や。頭の中に硝子があったらそれは絶対死んでるからそんなことは絶対にない。だからこれは幻聴。自分の理性が耐えられなくなったから、その音を自分が知っている音で代弁した音なのである。

皆も同じらしく誰も彼もが動くことを止めた。呼吸すらしているかどうか解らない。最早この場にいる誰もが戦意を喪失しているように思える。

カタカタとなのはちゃんとフェイトちゃんのデバイスが揺れている音が聞こえる。ブルブルとクロノ君とユーノ君の拳が震える音が聞こえる。わなわなとシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの口が震える。ぷるぷると私に膝が笑う。もう何がなんだか解らない。

そんな中、ロッテさんだけはさっきと変わらず疲れたようなそして冷めたような顔でこちらをにこりともせずに見て、ただ無情に呟いた。その表情は無表情ではあったけど、慧君とは違って自然体の無表情ではなく、明らかに我慢したような無表情であった。

「さて……八神はやてちゃん。君が良い子なのはわかってるから、良い子は今、何をすればいいか解るよね?」

それは本当に正しく使われた脅し文句であった。答えはその映像を見たら頭に浮かぶものであった。



























拝啓、サンタ野郎。俺はビルの屋上で知り合い達の中心でポツンと佇むような罰を受けるような事をしたでしょうかとほとんど八つ当たり気味にクリスマスよろしくでサンタに恨みつらみを吐き出してみた。

勿論、そんな事をしても現実にはなんも変化もないので意味がないことなのだがと溜息をつく。現状の説明をするのが忘れていた。簡単に言うと買い物途中でいるといきなり周りの人間がいないなぁと気づいた直後、いきなり地面が光りだして何のスタンド攻撃だと思ったらいつの間にかこの寒い冬空の下、どこかのビルの屋上で周りには見覚えのある奴らが隣のビルに一色のバインドで捕まえられていて、というか俺が知っている全員がメルヘンチックな光の輪に捕まっており、そして目の前には勝気なお姉さんっぽい人と物静か系のお姉さんが空に浮かんでこっちを睨んでいた。しかも、獣耳と尻尾のオプション付き。マニアにはたまらないだろうなぁ。

「俺のタイムセールスを返せ!!」

「開口一番がそれなの!!?」

「なのは。今更よ……」

とりあえず、お決まりの冗談を言いながらやれやれ仕草で荷物を地面に落とす。この展開ならば起きるのは当然血が流れるアレだ。一応言っておくが、女が経験するアレではない。

「で、この状況なんだが」

「……ごめん、慧……僕が油断しなきゃ……」

「ああ、別に状況を説明しなくてもいいぞ、ユーノ。どうせ、さぁ、いよいよ闇の書を解放しようと思った瞬間。この二人に使い魔の内のどっちかが現れて、一時的に動きを止められたところに魔法世界の映像技術を使った映像でもう一人のほうが翠屋でお前らの為に仕方なく用意していたクリスマスパーティーの準備をしていた奴らをバインドで締め上げられている映像を見せられて、反撃するにも出来ずにあえなく捕まってしまって、そしてこの現状といったところだろう?ははははははは、黒いの。弁解とか言うつもりはないだろうな?」

「……まるで見たような説明口調だな」

んな事はない。明らかに争った形跡もない綺麗な姿の魔道士組の姿や流石に力になれない高町家や月村家。そしてすずかとバニングスがあんなふうに捕まっているのを見たら大体は予想がつく。

まぁ、一筋縄で成功するとは思えなかったけど、こうまで深刻化するのは予想できなかった……わけでもなかった。相手が闇の書を封印するのに固執する復讐者ならばこうはならなかっただろう。それならば、こんな人がいる世界に再び戻すわけがない。

ならば、彼女達は義務よりも感情を優先したということだろう。

「成程。正しい人間の姿だな」

「……残念ながらあたし達は使い魔だから人間っていうわけじゃないよ」

「これは失礼したと言った方がいいのかな?」

「……いや、別に」

まぁ、敵対している相手にこんな事を言われても嫌味にしか聞こえないのだろうけど。事実、ある意味で嫌味を言っているんだけどね。結局、タイプ的に言えばこの前来た老兵と似たようなタイプかなと適当に思ってみる。

とは言っても実力も同じなわけない。あの老兵も魔法世界ではかなりの実力者だったのかもしれないけど、如何せん、彼の才能はノーマルの俺でも一応戦える才能であった。

彼女達もそうならば嬉しいけど、それは絶対にない。何故ならば高町達はバインドで捕まっているのだから。ならば、絶対に相手のどっちかが、もしくはどちらも補助系に長けているか、万能型のどっちかだ。

120%で自分が死ぬことを頭は冷静に告げる。全くもって何時も通りで困る。偶には50%の確率で勝てるとかそういうのはないのだろうか。人生の厳しさに思わず笑ってしまいそうだ。別にどうでも良い事だけど。

「安心しなよ。バインドを使うつもりは今のところはないよ」

「あん?」

「だって、そんな風に勝ってもあの子たちはそんな魔法ひきょうで勝っただけとか言いそうじゃない?それじゃあ、駄目なんだよ。あの子には何の言い訳もできない絶望を貰って狂って貰わなきゃ」

「さいですか。じゃあ、一つ質問があるんだが、何で俺なんだ。はっきり言えば俺は八神の友達ではないし、あっちも口ではそう言っているけど俺みたいなのを友達と認定しているはずがない。まぁ、仮に聖女みたいな心で認定していたとしても俺が一番の友達とかいうロマン溢れるような立ち位置にいるわけないだろう。一番の絶望を与えたいのならば俺みたいなモブキャラじゃなくてもっと主人公格を狙った方がいいんじゃないのか?」

これは本音。賭けてもいい。俺程度の存在が死んでも八神はそんなに苦しまないのではと思う。だって、俺はそういう風に生きてきたし、八神に優しくするような事もした覚えもない。悲劇な少女でも同情する気がないのにどうしてそんな奴が死んだところで悲しむだろうか?

「……今までの監視で予想はしていたけど、これからあんたを殺そうとしている相手が言う台詞でもないけど━━━あんたは本当に馬鹿だね」

知るかと呟く。二度ネタのお前らに言われたくない。とりあえず、言質は取れた……と言っても安心できるはずがなかった。どうせ遠慮なく魔法とか使ってきそうだし、何よりも今のところはとか言っているし。この前の老兵みたいにやばい状況になったら遠慮なく使う気満々なんだろう。

半吸血鬼化も便利そうに見えてかなりの付け焼刃。かなりテンションを上げないと使用はできないし、それにオリジナルには程遠い身体強化。すずかにも劣っていると思う。一番使えるのは回復能力だけ。それも夜の一族と比べたら雀の涙だけど。

俺の戦力が微々たるもので一方的な戦いになると自分で理解していてもどうにもならないのが現実というものだけど。またもや、何時も通りに命を懸けなければいけないということだ。別にどうでもいいけど。

「はぁ……何が悲しくて聖夜に命を懸けて殺しあわなきゃいけないんだよ……まぁ、聖夜って決めたのは人間だけど」

「って慧君!余裕かましてんとはよ逃げて!!今回は恭也さんもいいひんのやで!?今回だけは前回みたいに上手くいくなんて可能性はないんやで!!」

「おーおー。八神がそんな現実を予測できるようになるなんて……思わず感涙してしまいそうだぜ━━━出番のない高町姉が」

「こんな場面で私に出番を回すの!?」

おっ、いたのか。まさかあそこまで気配殺しを身に着けているとは……さすがは御神の剣士。全てにおいて規格外の人外だなぁ。あーはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ。

「……覚悟は出来ているようだね。なら、精々出来るだけ苦しんで死にな」

「おいおい、違うだろう?何を根本的な間違いをしているんだ」

「……何がさ」

本気で解っていないようだ。本当にそれでも俺よりも長く生きてきて、戦った奴らだろうか?これぐらいの常識くらい知ってほしいものだ。別に知っていようが知っていなかろうが、どうでもいい事なのだけど。

「簡単さ。苦しむことができるのはお前らみたいな真っ当な人間の特権だよ。仕事に悩んだり、痛みに苦しんだり、友情の事で考えたり、自分の才能のなさに嘆いたり、新しい壁にぶち当たって止まったり、恋に思い悩み苦しむ。相手を痛めつけたくないのにそれでも感情が許せずに復讐をする。全部、幸福になる人の特権だ。あんたも大人だろう?なら、苦しむっていうのは悪いことばかりではないというのは知っているだろう?残酷に嬲られている時の苦痛でさえ、それから逃れようと必死に生き残ろうとする決意にもなるものさ」

「……じゃあ、あんたはどうなのさ。人としての表情を失い、人としての躊躇いを失い、人としてのルールを忘れた、あんたみたいな奴らは」

決まっていると前置きをして一旦言葉を止め、呼吸をする。そして大したことを言う気はないという感じでさらりと呟いた。

楽しむか、喜ぶんだよ・・・・・・・・・・。ああ、とは言ってもそれは別にマゾ的な意味ではないぞ。まぁ、中にはそういった奴らもいるかもしれないけど。俺みたいな屑共は死にそうになった瞬間、苦痛で喘ぐはずの瞬間。俺たちは楽しむか、喜ぶかのどちらかをするんだよ。まぁ、どっちをするかは人によって違うがね。」

そして何を楽しむのか。何を喜ぶのかも人によって違う。ははははは、こんな所で余所は余所。家は家の哲学を知ってしまうとは中々微妙な体験だね。まったく有難くない事柄なのでどうでもいいのだけど。

「……意味が分からないね」

「分からなくてもいいんじゃない?分かったところでどうにもならないんだし」

「……ふん、じゃあ、もう始めようか。正直に言ってあんたが時間稼ぎをしているようにも思えてきたし」

「おうおう。そいつは同感だ。正直言ってこの寒空の下で何時までも棒立ちなんて馬鹿ぐらいしかしねぇよ。いい加減温まりたくなってきたよ」

お互いに構える。どうやらもう一人の空中にいる奴は戦う気は毛頭にないらしい。つまりは一騎打ちの状態。最近は騎士とかそういうのが流行っているのだろうか。見たところ相手は格闘で勝負をしようという構えだ。

無論、そこから魔法が飛んでくる可能性もあるのだけど。あっちは戦術がある意味で無限で、こっちは有限。やになっちゃう。普通ならば戦う前から戦意を放棄してしまうかもしれない。

「さて、では、正々堂々戦おうとしようではないか」

「……上等じゃない。来なよ。私は真正面らかあんたを……!」

瞬間的に袖から取り出したナイフを相手の胴体を狙って投げた。それも結構な速さで投げたのだが、相手もすぐに気付いたのか。俺以上恭也さん達以下のスピードで危なげなく躱した。

ちっ、今のでケリが付いていたら楽に終わったものを。そう思ってたら、周り全員がいきなり叫んだ、

「初手からいきなり嘘を吐きやがった(なの、吐いたよ、吐いたわ、)!!!」

「ええい、五月蠅い。もう少し静かにしやがれ」

嘘をついて何が悪い。戦力差が歴然なのだから騙し技でも何でもしなきゃ生き残るなんてとてもじゃないが無理に決まっているじゃないか。才能がないのならば小手先に頼るのみ。これ常識ね。

「……!こんの━━━」

「糞餓鬼ってか!おいおい騙し討ちされたくらいで何を逆ギレしてんだよ。しっかりしろ。むしろ奇襲を仕掛けているのはお前達なんだぞ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、この猫共」

「……っ!」

勘違いすんな、思い上がるな、つけあがるな、善人ぶんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は被害者でお前らが加害者なんだぞ・・・・・・・・・・・・・・・・・

自分で言っておいて思う。これではどっちが加害者か解らないと。理解して言葉をしゃべる。言葉とは言所の時代からある一種の力ある魔法だ。障害さえなければ誰でも出来る魔法。酷く陳腐でそこらの石程度の輝き。

でも、仕方がない。名付けたのは俺ではなく、周りの人間だ。誰が最初に呼んだかは━━━忘れたが、それでも名付けたのは俺ではないのだから責任は俺じゃなくそいつのせいという事にしてもらおう。


暴論遣い。


名付けられたのは俺はその名の通り暴れる論理で相手を惑わせ、痛めつけ、傷つけ、狂わせよう。最弱が強者に挑む術なぞそれぐらいしかないのだから。痛覚遮断と集中力、そしてこのひねくれた口しか、自分のは武器はないのだから。

「まさか卑怯だなんて言わないだろうね?こっちはたかが非力の餓鬼。そっちは英雄の使い魔等と言うぐらいなんだ。経験豊富に更には魔法使いなんてメルヘン。卑怯はそっちの方だと全員が口を揃えているだろうね」

「……解っていたけど……!ほんと、むかつく……!」

ギリギリという歯軋り音がここまで聞こえてくる。ネコ科が怒れくるっているねぇ。と思っていたら何故か顔つきが誰かの話を聞いている感じになっている。何故だと思い、直ぐに答えを思いついた。

確か念話とかいうやつだろう。多分、上空にいる高町達の見張り組の役を請け負っている清楚系の女の人が目の前の暴力系猫に冷静になるように注意をしているのだろう。

厄介だ。どうやらもう一人はユーノや黒いのみたいに冷静なブレイン役らしい。こういう相手には暴論は通じるといえば通じるけど余程上手くやらないと決まらない。今のならば普通なら片方は完璧に冷静さを失わせることはできたのだけど、魔法という常識外の手段のせいで上手く立ち直らされてしまった。

むしろ、肉声だったならば逆効果だっただろうに。冷静さを失っているときに他人の声で落ち着けと言われても大抵は逆効果で冷静さを失わされるという可能性があるのだ。しかし、念話というものが詳しいことは知らないが、要は頭の中に響く声なのだろう。

音量のほうは知らないが、他人の声をいきなり頭の中で聞かせられたら嫌でも思考が停止すると思う。それが慣れた魔法使いでも(一方的な偏見だが)。とりあえず肉声よりかは驚くだろう。

ちっ、この様子だと言論は通じないと見たほうがいいかもしれない。

「まっ、いいや。」

呟いてネガティブ思考を放棄する。別に逆境は今に始まったことではない。これぐらいの逆境ならば何時も乗り越えてきた。何度も死に掛け、それでも地獄に這い上がってきた。まだ死ねないという妄執を持って他人の願いを■■した。

そこに何の後悔もなければ罪悪感もない。間違ったことしかしてないという自覚なんてありまくりだ。しかし、だからと言って自分が選んだことだ。

間違いだったとも。最低だったとも。失敗だったとも。汚濁だったとも。最悪だったとも。醜悪だったとも。やってはいけない事だったとも。しかし、そんなのはする前から解りきっていた事だ。

ならば、することは後悔ではなく、再び手を汚すための前進だ。

「とっとと来たらどうだ、英雄の使い魔。正当防衛という素敵な言葉にのっとってお前たちを殺してやる」

だから俺は何の躊躇もなくお前たちを殺すと宣言した。陳腐な宣言だと思う。そしてこれによって相手がまた少し怒り狂ってくれないかという下心もある。だけど、何故か反応は想像していたものと違った。

もっとこう、雰囲気が冷たくなると思っていた。静まりはした。しかし、それは思っていたものとは違った。それは相手の視線がだ。格下の子供に殺してやると言われたのだ。もっと冷たい殺気を込めてにらんでくるか、もしくは怒気を込めてこっちを睨むか、感情によって起きる動揺を無視してこっちを無視のどれかだと思っていた。

しかし、どれでもなかった。予想外にもその瞳には何故かこちらを憐れんでいるような感情が込められていた。そしてその視線のままこっちに向けて語られた。

「……無理だと思うな。あんたじゃ、どう足掻いても私たちを殺せないと思うよ」

「ほう?それは自分の実力が俺よりも上だという自信からくるものかね?あんまり過信をしていると自分の足元がおろそかになってしまうので注意しておいた方がいいと思うよ」

「……ううん、違うね。私の実力云々じゃない。問題はあんたのほうにあるわ」

「はてさて。もしかして、俺の実力が今度は低いと思っての発言だったのかね。それに関しては否定はしないと言っておこうではないか。まぁ、窮鼠の例があるから気を付けたほうがいいかもしれないよ?」

「……違う。実力だけで言っているんじゃない」

「はぁ……じゃあ、何だと言うのかね?このままではグダグダの展開になってしまうぞ」

「……だって、あんた」

ようやくかといった調子で、ずっと口を濁していた台詞を吐きだした。


「こっちが使い魔なのに……こっちがあんたを殺そうとしているのに……それなのにあんた。私たちを━━━真っ当な人間だなって私達に言ってくるじゃないか……」


「……」

意図したことではない。憐れんでほしいだなんて全くこれっぽちも思っていないのだから当たり前だ。だから、これはある意味事故みたいなもの。素で思ってしまった事を言っただけなのだ。

だけど━━━それは仕方がない事であった。だって、俺の理論みたいなものでは相手の二人は明らかちゃんとした『人間』だったのだから。どっかの吸血鬼の御嬢さんと同じで。

「……ふん。まぁ、いいか」

それを気にせずわざと芝居かかった風に右手を上げ、そして指を鳴らす。バチンと良い音が鳴る。それを何だと思ってこっちを睨んでいる猫姉妹。

直後。


パリンとガラスを割るような音と共に黒いのがバインドを破って上空に浮かんでいるもう一人の方を攻撃しようとする。


「!!クロノ!?」

「アリア!!」

何時の間に取り出したのか、機械的な杖を構えており既に光が灯っている。俺は知らないが、それはブレイズキャノンと言って黒いのの魔法では一番攻撃力が高い砲撃だ。

「アリア!」

直後に俺の目の前の奴が魔方陣を目の前に出してまるで鎖のようなバインドを出してアリアとかいう女性に向けて発射し、彼女の足を絡め捕る。そのまま引っ張って脱出させようという魂胆か。

だが、目の前に俺がいる事をお忘れのようだ。だから、その無褒美なお腹に素晴らしいキックを御馳走させて貰った。ドガッと良い音が響いて、相手の体がくの字に曲がる。しかし、ど根性か、吹っ飛びながらもバインド制御を怠らずに上にいた女性を自分の傍に無理矢理引っ張って黒いのの魔法を避けさせていた。

ちっ、あれでせめて片方死んでいたら楽だったものをと愚痴っても仕方がない。こっちに来た黒いのに向けて喋りかけてくる。

「何だ黒いの。意外と本当に抜け出れたな。こっちは全然信じていなかったけど」

「ああ、僕の方も君がまさか時間稼ぎだなんて凄い事を出来るとは思ってもいなかったよ。精々0秒くらいしか稼げないと思っていたよ。ん?ああ、済まない。これじゃあ、君は何もできていないな」

「ははははは。地獄に堕ちたら閻魔さんにその舌を引っこ抜いてもらえ。そうすれば不特定多数の人間が喜ぶと思うぞ」

「閻魔に舌を抜かれるべきは君の方だと思うけどね。ああ、君の場合は舌程度では済まない悪行を積み重ねているからかなりの罰を受けることになっているからか。それは残念だったな。」

この野郎。出会った時からは考えられないくらい舌が回りやがる。こんな風に育てた覚えお兄ちゃんないのに。まぁ、冗談を言えるという事は冷静であるという証だから、どうやら相手が知り合いでも戦える様子だ。

「……っ!クロスケ!あんたどうやって……いや、それよりもどうやって意思疎通をしたんだ……!そこの子は魔導師じゃないから念話は使えないはずだ!!」

「……最初の質問は僕が一体どれだけ君達の修業を受けていたと思うんだ。あれからも修業をしていたし、今度もしも模擬戦をした場合に過去のデータから君達のバインド構成を勉強していたんだよ。後者については━━━」

「ん?ああ、何となくっというか黒いのが視線で『お願いだから時間を稼いで!』なんて乙女的な視線を向けてきたからな」

「誰が乙女か」

その台詞は猫姉妹含めて周りの全員が驚いた。会って間もないと言ってもいいのか解らないが、つまり、彼らはただ視線だけでお互いの役割を一瞬で決め、行動したのだ。余程相手の考えを読み取れるような仲でないと無理だと思う。

なのに彼らは不可能を可能にし、言葉ではなく行動でお互いの役割を示した。何て子供達だと全員が思った。片や管理局の執務官。将来を有望とされ、実際実力、頭ともレベルが高い少年。

片や今は何処にでもいるような少年。性格とかはともかくそれ以外は特徴的なモノがない少年。それがこんなにも盤面を狂わせる。成程、この無表情の少年は確かに災厄の類だ。少なくとも敵方には。

「……さて、一見有利の立場になった気がするが」

「まぁ、実際に見れば君のせいで不利と言えば不利かな。君は魔力がなく、身体能力も僕と同等か以下だ。それに比べてロッテとアリアは僕が知っている限り、使い魔最強の称号を受けてもいいくらいの実力者だ。僕が圧倒的に弱いというわけでもないけど、それでも彼女達に勝てるのは五分五分といったところかな。正直に言えば敗北の可能性は120%だね」

「勝利の可能性は?」

「120%」

「ほう?黒いのの分際で良く吠えたな。誰かの影響か?」

「君といれば嫌でもこんな性格になってしまうさ。勝ち目のない戦いでも不敵であれ。君から覚えたものさ」

「何?人から奪うというのは無礼な。罰として後でお前の財布を軽くしようか。」

「君に奢るのは許せないが、はやてに奢るのならば奮発するよ」

黒いのは苦笑。俺は無表情。どうやらお互いコンディションは良い方らしく暴れるのにもってこいのテンションだった。そう思っていると少し頭痛がして、思わず手で顔を覆う。そうしていたら視界の端のすずかも似たような感じになっているようだ。少し顔をしかめている。

成程、理解した。何となく解った。きっと、今、手で覆っている所から零れ落ちるように━━━赤色の綺麗な目が輝いているだろう。

何故かなんて知るはずがない。テンションが上がらないと光らない瞳なのにちゃんと光っている。それに理由なんてどうでもいい。これのお蔭でさっきよりも遥かにマシな戦いが出来る準備が出来たという事なのだから。

「じゃ、始めようか。こんな聖夜だ。きっと神様だって血を流すことくらい許してくれるだろうさ」

「残念ながら。僕は血を流させる気は全くないよ」

「……上等だよ、クロスケに生意気な小僧。遠慮なくぶん殴ってやる!」

「……やると決めたからには本気でやるわ」

お互い避ける気のない戦いがようやく始まった。命を以て命を奪う戦い。それは魔法という神秘が混ざっても同じこと。ありとあらゆる神秘も結局は原初のルールで縛られるという事を思ってしまいそうになる戦い。

それはお互いが発する音で始まった。


























そこから先ははっきり言ってレベルの違う戦いだった。最初に攻撃をしたのは慧とロッテさんだった。お互い全速力で走り、間合いに近づき、そして全力の拳を拳で相殺した。

ドン!とまるで堅いものが堅いものに激突したような音が響いた。

ユーノからしたら人の拳がそんな音を出すなんてと驚嘆するような事象であった。しかし、二人の拳はそれだけでは終わらない。すぐさま拳を引き、そしてそれからは殴打の応酬。殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って、捌いて捌いて捌いて捌いて捌いて捌いて捌いて捌いて捌いての繰り返し。

ロッテさんは今まで積み上げてきた戦いの経験と手練から拳を。慧は半吸血鬼としての身体能力とロッテさんには及ばないとはいえ、少なくもない経験から拳を。手加減だなんてお互い考えていないと思われる拳。

しかし、永劫に続く均衡かと思われた拳の応酬は意外とすぐに終わった。慧が放った右ストレートをロッテさんは難なく躱し、さっきまでとは違い、スピードを上げてのキック。さっきまではどうやら手加減をしていたようだ。

いきなりリズムが変わり慧も咄嗟に反応出来ずにそのまま吹っ飛ばされる。為す術もなくダメージを受け、そのまま重力によって地面に落とされて、転がり続ける。多分三、四メートルくらい転がったと思う。

しかし、そこは痛覚遮断か、もしくはダメージを軽減していたのか地面に転がっているのを利用してすぐさま起き上がり、再びロッテさんの方に走ろうとした慧の眼前に━━━クロノが横倒しで突っ込んできた。

「「……がっ!」」

流石の慧も立ち上がって直ぐでは避けることも受け止めることも出来ずに、そのままクロノの体を喰らってしまう。どうやら、そっちは見ていなかったのだが、アリアさんに吹っ飛ばされたらしい。そして再び転がる。周りの皆が思わず悲鳴を上げる。しかし、ロッテさんはそれを気にせずに飛行魔法を利用しての飛び蹴りの姿勢を維持したままの突進。

二人とも避けようとしていたが、お互い体が密着していたので上手く動くことが出来ずに結果。蹴りで二人の体は彼らの身長くらいまで浮かびあげさせられた。痛々しい姿に思わず目を逸らしたくなる。

しかし、その後は二人とも地面に落ちた瞬間に合わせて前転をして受け身を取る。どうやらまだまだ体は大丈夫みたいだったので思わずほっとする。

「ちっ……!何だあの猫は!あいつは○ガ様か!!」

「じゃあ、BGMでもかけて僕達のテンションを上げてみるか!?」

「おうおう、素晴らしいアイディアだなぁ!!何なら歌おうか?愛○さと切なさと心強さと~♪ってな!」

「音痴が黙っ……!」

冗談を言い合っていた二人が直ぐに沈黙してしまう。原因は彼らの周り。周りにはまるで星が地上に落ちてきたのかと思ってしまう輝き。思わず触りたくなるくらい綺麗な光の塊。しかし、実際は触れるものを壊す光のスフィア。

その数、凡そ十と四つ。

その全てが彼ら二人をロックオンしている。瞬間的な判断でクロノは飛ぼうとするが、そこに飛べない慧がいる事を直ぐに思い出して、思い止まる。そして彼に向けて叫ぶクロノ。

「洒落にならない状況だが━━━何なら手を貸してやろうかい!?」

「てめぇの手なんてもらうくらいならばまだバニングスの足技を受けた方がマシだわ!!」

「どういう「そうか!じゃあ、頑張れ!!」うっそぉ!!?」

アリサが慧の冗談に突っ込もうとしていたが、そこをクロノが唐突に本当に遠慮なく空中に自分だけ逃げていった事にアリサは思わず変な声で叫んでしまっている。当然だ、僕も驚いている。まさかあの場面で慧を見捨てるとは思えなかったからだ。

魔導師ならばともかく慧は魔力すらないただの人だ。多少、人ではないような状態にはなっているかもしれないが、それでもどっちかと言えば人だろう。そんな彼があれだけのスフィアを受けて無事で済むとは思えない。それに彼らの目的は慧の命だ。

非殺傷設定など絶対切っているはずだ。だから、どう足掻いても喰らったら━━━死ぬ。

皆して悲鳴をあげたり、彼の名前を読んだり、バインドの解除をしようとしている。しかし、かなりのレベルのバインドであり、補助魔法に関しては自信がある僕やシャマルさんでさえ読み解くのに時間がかかるバインドなのである。

間に合わないと思考し、思わず叫ぼうとした瞬間に彼は動いた。それは速いの一言の動きであった。彼の両手は淀みなく彼が隠して持ち歩いているナイフを素早く取り出す。袖はおろか靴の中や胸ポケット、服の下にも隠していたらしくその数、スフィアと同じく十と四つ。

それを彼は全てスフィア目掛けて投げた。流石に残部一片にというわけではないが、一本ずつしかし、確実に全部を当てた。当たる度にボンボン爆発音が辺りを震えさせる。そして約十五秒で全部を潰した。

この結果に一番驚いているのは潰した本人であった。数個は外すと思っていたのに全部当てることが出来た。自分の投擲技術が一流だったからなんて驕る気はない。勿論、並み以下というつもりもないが。

答えは運と半吸血鬼能力によって得られた力と五感の強化だろう。自分が受けている恩恵に心の奥底でこれをくれた相手に微妙に感謝しているのであった。

そして爆発によって出来上がった爆風によって二人の姿は僕達には見えなくなった。



























戦闘して解った事がある。これはあの無表情少年と戦った人間全員が感じた事であると断言していいかもしれない。いや、絶対そうだろう。思った事はたった一つだ。すなわち━━━強くはない、しかし、恐敵だと。

そう思いながら、アリアの爆発で発生した煙の中、少年達がどこから出るか、後漢に意識を傾けていたら、ぶわっと煙を切り裂くように無表情少年が来た。造ることも出来るその右拳は今はただ打倒するための形に。

レベルは高い。この年でここまで立派に拳を握れるのは素直に凄いと言える。だがと続く。そうだ、確かにその年では十分に強い。多分、同じ年で格闘技を競ったのならば高いクラスまで行けるだろう。

しかし、この場においては最弱。私はそれを難なく躱して、再び足を相手の顎に入れ込む。グキッと嫌な音が響いて、頭は上を強制的に見上げられる。そして相手は暫くの脳震盪。ほんの少し相手の動きはさっきよりも鈍くなる。

そこを見抜いて瞬間的に相手の懐に入り、両の拳を相手の鳩尾に突くように叩き込む。右腕が入る。相手がくの字に曲がる。拳には嫌な手応え。しかし、気にせずに今度は左腕を同じ場所に入れる。少年はただ喰らうだけ。

そして最後のフィニッシュに再び左腕の反動で後ろに思いっきり下げていた腕を再び同じ場所に殴る。そしてそのまま吹っ飛ぶ。ここで本来ならばゲームセット。少なくとも4日くらいは胃に真面に食事が入れないくらいの威力を入れた。

だけど、恐怖はここから。少年は明らかにダメージを負っていた。それは殴っていたあたしだから言える事だ。しかし、事もあろうことに少年は何事もなかったように起き上がり、そのままこっちに突進してくる。

またこれだ。さっきも思ったが、そうなのだ。この勝負。さっきからあたしの方が勝っているのだ。圧勝だ。楽勝とは言わない。相手の拳は本気だ。当たりさえすれば、致命傷とはいかなくても隙は出来る。当たりさえすればだが。

再び突っ込んでくる、相手は体を右に振ってフェイントを仕掛けて本命の左拳を振ってきた。上手い体の使い方だが、技術に体がついて来れてない。スピードとパワーが伴っていないのだ。これではフェイントを仕掛けて相手の隙を狙っても、そのまま躱したり、受け止めたり、捌いたりすることも出来る。

相手の拳に合わせて私はくるりと回る。それは見る人によっては相手の動きに合わせて踊るような動き。しかし、そこに無駄な動き。右足を持ち上げて、回転の勢いを殺さずに右回し蹴り。ヒット。

再び彼は転がる。しかし、彼は唇を切ったのか口から血を流しながらも、しかし、自分の両足で難なく立ち上がり、再びこっちに走ってくる。次は上体をわざと上に向けていて、顔狙いかと思ったら、彼は唐突にしゃがんで両足を折るみたいに足を振った。

フェイントに少し引っ掛かったが、すぐさまジャンプをして避ける。そしたら彼は両手で勢いよく地面を叩いてその反動で立ち上がり、そのまま殴ろうとする。普通ならばそれで良かった。空中は足場がない。避ける事も叶わなければ、防御も中々上手くいかないだろう。

反撃ならば尚更。そうこの上なく良い手段。普通ならば。しかし、こっちは魔導師なのだ。空中適正がない魔導師ならばともかくこちとら英雄の使い魔。空を飛べないはずがない。

空を飛ぶ猫。しかし、当たり前といったら当たり前。猫の使い魔なのだ。空くらい飛べなかったらメルヘンが足りない。後ろに少しスウェーするように飛び、彼の拳は空振りになる。そして私は飛行魔法に指向性を与え、回転。そのまま○巻旋風脚。

と言っても当たったのは一度だが、再び吹っ飛ぶ。

しかし。


彼は立ち上がる。

体が幾ら傷だらけになろうとも、その眼光は一切の衰えがなかった。むしろ、更に鋭くなっている。宝石のような赤は聖夜の月の下。地上の星となって輝く。


それは命の色だと理解し━━━恐怖した。


ぞくっと体が震えあがる。敵対した提督の恐怖を今初めて理解した。彼の戦い方は知っていたはずだった。しかし、百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。これは経験して初めて知る恐怖だ。

何度叩いても立ち上がる亡者の如き執念。何度斬っても立ち上がる死者の如き妄念。何度絶望を見せても問答無用と無言で答えて立ち上がる狂戦士の如き無理解。

この命を砕くのに後何回拳を叩きこめばいいのか全く分からない。こんな戦いは初めてである。そうだ。前の提督との戦いは彼の本来の戦いではないのかもしれない。

彼は途中の一騎打ちの時、提督相手に加速魔法を打ち破ると言った奇跡を成し遂げていた。それでてっきり、彼は頭脳で敵と戦い、相手の知らない弱点を突くのが彼の戦法だと思っていた。

しかし、蓋を開けたらこの様。この前みたいに弱点を探る時間もなく、ただ技術で圧倒されている場合の戦い。そうなると彼の恐怖の本領が発揮される。つまり、どれだけダメージを受けても何度でも立ち上がり続けるという幽鬼のような戦い方。

言葉にすれば当たり前のように思えるだろう。だが、実際に対峙してこれ程恐怖することはない。何度叩いても立ち上がって攻めてくる。終わりがあるのかどうか怪しくなってしまう。拳を握って殴っているこっちの方が痛くなってしまう。

自分がちゃんと相手に攻撃を出来ているのが解らなくなってしまう。今までやって来たことを信じられなくなってしまう。殴り続けることによって疲労が押し寄せてきてしまう。

そして末期はこうだろう。


あたしが戦っているのは本当に人間なんだろうかと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


重傷だ。自分でも解っているのに止めれない。相手と向かい合うのがこんなに怖い事だなんてことは初めて知った。あと、何回すればこれが終わるのか。そもそも終わりがあるのかと。

私は終わりがあるのか解らないレースに無理矢理参戦させられたことにようやく気付いてしまった。




























「……!ロッテ!!?」

ロッテが恐怖している。それが如実に伝わってくる。見たところロッテの方が優勢に戦っているのは解っている。そもそも、年齢には似合わない実力と頭があるとはいえ、私達のレベルには来ていないのだ。どう足掻いても正攻法ではロッテや私の方があの少年に勝っているのだ。

でも、少年からしたらそんな事はどうでもいいのだろう。相手が自分よりも強いというのが当たり前の彼からしたら、彼が昔対峙した人と私達は等価の存在なのだろう。だからこそ、立ち止まる理由がない。

絶望的な戦況など何時もの事である彼は絶望なんて慣れ親しんだもの。故に痛みや状況で絶望なんてする事がない。それが敵対している私達からしたら恐怖そのものだ。

戦いなんて好きであるはずがない。こうして技術を学んでかなりの高みの境地に辿り着いたと自覚している私達だが、別に争いさえなければこんな事をするはずがなかった。憎しみや悲しみがなければお父様も管理局に所属なんてしなかっただろう。

こんな復讐なんてやっているけど、そもそもあの悲劇が無かったらこんな事をするはずがなかった。この手を血の染めるなんて……誰が好きでやるモノかと私は思う。だから今回の復讐だって、私達はあの無表情少年を無駄に苦しめることなく殺して、八つ当たりともいえる闇の書への復讐をするのが目的であった。

それなのに。

それなのに無表情の少年はもっと戦えと要求してくる。自分はまだ終わっていない。故に最後まで苦しめと。これではどっちが苦しめているのか解らなくなってくる。それをロッテは直に受けていた。

使い魔だからか。私とロッテの精神リンクはお父様程ではないけど、薄く繋がっている。その薄さからでも彼女が感じている恐怖が繋がってくる。思わず手助けに行こうとすると。

「何処に行こうとするんだ、アリア?」

その言葉と共に飛んできた青い光。クロノの得意魔法の一つのスティンガーレイが飛んできた。マルチタスクによる一瞬の思考。防御は駄目だ。威力自体は低いけど、貫通精度が高いのでバリアは突破される。それにスピードも高い。正しく対魔道視戦にはもってこいの魔法である。

だから私は無理矢理ロッテの方に向かおうとしていた飛行魔法で後ろに無理矢理バックした。余りにも無茶な動きに強烈なGが体に来た。思わず込み上げてきた吐き気を堪える。そう思っていたら体が青い光で捕縛された。

「これは……ディレイドバインド……!何時の間に!」

「君はロッテの心配をし過ぎなんだよ……悪い事じゃないけど、お蔭で隙が出来まくりだよ!!」

バインドブレイクをしようとバインドの構成を一瞬で計算しようとする。

「遅い!!」

『Blaze Cannon』

無機質な声と共に発生するのは熱量を伴った砲撃。当たったら不味いと考えるまでもなく解る。だから慌てずにバインドブレイクに集中。

一秒

砲撃は発射される。

二秒

着弾まで後四秒と判断。

三秒

バインドに亀裂が走る。それと同時に汗がタラリと流れる。

四秒

砲撃が着実に迫ってくる。それに思わず叫びそうになるが、自制してこの時だけ全能力をバインドの破壊に努める。

五秒

「……私の方が速いわ、クロノ!」

バインドブレイク成功。このまま横に避ける。そうすれば仕切り直━━━

「……え?」

避けた先で爆発。そこまで威力はなかった。ただ少しの痛みと爆発による威力で元来た場所に戻るだけである。そう。ブレイズキャノンが迫っている場所に。何が爆発したか。それは避ける0.5秒前に見た。それはただのスフィア。

ダメージで計算すれば魔導師を倒すには圧倒的に火力が足りていない。出来る事とすれば相手を少し動かす事だけ。その少しが現実を少し動かしたのである。

「……君達との訓練はぼくの血肉となっている」

「そんな中、クロノが独り言みたいに語りかけている。事実、独り言なのかもしれない。雰囲気でわかる。彼の雰囲気は今、返事をしてもらわなくてもいいと物語っている。

「一番かはどうかは知らないけど、君達の凄さはよく解っているつもりだ。ある意味憧れだった。グレアム提督と一緒で尊敬していた。今、こんな状況になってもその感情が恥だとは思わない」

素直じゃないクロノからの告白。それは何時もならば本当にうれしいと思われる言葉の数々。だけど、今、この場、この状況で言われたらただ苦しいだけ。こっちは貴方を裏切ったのに。それなのに尊敬されているなどと言われても罪悪感で苦しいだけなのに。

「そんな君が。僕をここまで強くしてくれた君がこの場面で僕のバインドを━━━解除できないはずがない」

つまりはそういう事だと。僕は自分の強さや戦術を信じたのではなく、私達の強さを信じたからこそ、そこにスフィアを置いたという事だと。私がバインドを解除してまだ動けるという事を信じたのだ。

思わず苦笑して呟いてしまった。

「━━━最低」

そして着弾。聖夜の下で季節外れの花火が開いた。




























「!!アリア!!?」

少し離れたところに黒いのが落とした猫が落ちてきた。どうやら結構なダメージを受けてたようだが、まだ倒れてはいないようだ。あれだけ決めておいてそれはどうよと思うが、まぁ、別にどうでも良い事。

今は目の前の出来事が大事。ようやくのチャンス到来。今まで殴られ続けていた俺は長年とは言えないかもしれないが、それでも積み上げてきた経験がそう告げてきた。ここが勝利のチャンスだと。ここを逃したら後がないと。

ほら、目の前には隙だらけの猫さんがいる。ならば、ここで積年の恨み(この数分間の恨みともいう)。晴らさずにいられないというのが人の心情。もとい、とりあえず殴ろうという善意である。

「おい!目の前に蠅が飛んでるから俺が殴ってやるぜ!!」

「……!」

ドガァ!!とようやく殴られ続けていた恨みを一発返した。それも顎。直接、脳にダメージが行く場所である。ぐらぐらと相手の体は脳震盪で揺れている。そこで柔道の背負い投げを彼女に思いっきり食らわせる。正し、ちゃんとした背負い投げではなくて、地面に叩きつけずに本当に後ろに投げただけの背負い投げである。

「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」

「う、うわぁお……!」

相手も脳震盪のせいで為す術もなく吹っ飛ばされる。そのまま脳震盪から回復して飛行魔法なり、防御魔法なり何でも使えばその状態から何とかなって、このチャンスは無に帰すだろう。

そう、そのままならば。

「!ク、クロスケ……!」

上空からの急降下をしてくる黒いの。その進行先は俺が吹っ飛ばした猫の方に一直線。丁度、俺の横を通り過ぎる所から来る。最初から俺が決定打を撃てるだなんて勘違いはしていない。

あの老兵を除いたら魔導師を倒すことが出来るのは同じ魔導師だけだ。例外である御神流でない限り。何の力もない俺では不可能だ。故にこちらの攻撃は全て黒いのに頼る事になる。非常に胸糞が悪いが。

「ロッテ!」

「……っく!大丈夫!攻撃が来るという事が解ってるんなら……!」

防ぎようは幾らでもあると叫んでから腕を交差して、そして彼女の正面には光り輝く結界が張られる。まぁ、どれだけ凄いのか解らないが、解らないモノは現実を厳しく見るべきである。

それにやるのは黒いのだし。まぁ、だから厳しく見て、突破できないと思った方が良いだろう。それならば、この特攻は無意味なものとなって、勝利の可能性は無くなるというのがパターンだろう。

だけど、それにしてもだ。


視野狭角を起こし過ぎではないでしょうか、猫共?


そして黒いのが俺の横を通り過ぎようとした瞬間に俺が腕を伸ばして、黒いのの腕を掴む。それに関しては黒いのは驚くこともせずに、ただ俺に無駄な負担がかからない様に体から力を抜いた。

「「……!?」」

二人が何をするのかという顔になっている。それを俺は声だけで、嘲笑い、黒いのは獰猛な笑顔で迎える。そして俺がとった行動は至ってシンプルであった。

俺は黒いのが乗っているスピードを殺さずに、腕を支点に思いっきり、黒いのをくるりと軌道修正する。キキキーーーーーーーー!!と嫌な音が足の方が聞こえる。少し焦げ臭いにおいがするから、もしかしたら靴底が摩擦で擦り切れたかもしれない。

後でそれは女狐艦長にでも請求しよう。そしてそのまま黒いの事、自分も反転。そして俺達の視線の先にいるのは━━━確かアリアとか言われている猫である。

「━━━」

いきなり標的とされた猫は息を呑むだけで反応は出来なかった。そして、俺はそのまま黒いのを━━━投げ飛ばした。

ビュンと風を切るどころか、貫くような音を出しながら、アリアとかいう猫の方に黒いのは大砲の砲弾の様に爆ぜた。余りのスピードかどうかは魔法世界では知らないが、意表をついたという点ではまぁまぁの点だろう。

「……!あんた達!最初からアリアを……!」

「気づかなかったのか?だって、そうだろう?あそこにいる俺の知り合いを縛っているのはこっちなんだろう?」

「……ならば、僕達がするのは人質の解放と戦力の増加。その両方を狙ってアリアを狙うのは当たり前の魂胆だ!」

「だけど、あからさまに狙って逃げに徹してもらったら困る。だからこそ」

「僕達は一見、各個撃破のような戦い方をしていたんだよ」

「つまるところお前達は」

「結局のところ、君達は」


「「俺(僕)と正々堂々と決闘をしようとした時に負けていたんだよ」」


見事なコンビネーションなどと他人は言うかもしれないが、俺は別に黒いのに合わせたつもりは全くない。黒いのも恐らくそうだろう。そもそも、まったく接した覚えがない人間とどうやって息を合わせれるというのだ。

こんな事が出来たのは簡単な事だ。つまり、お互い、息を合わせようとすることを諦めたのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・

息を合わせようなどと思っていたら絶対失敗する。それは目に見えている事だ。恭也さんみたいに長年付き合ってきた相手とかならばともかく数か月は付き合っているとはいえ、こうしてちゃんと生身で話したことは両手の指で数えられるくらいなのだ。そんなのでコンビネーションなど出来る筈がない。

故に息を合わせようという試みは捨てた。そしたらどうなる?そう、自分達だけの意思で戦う事になる、そうすると考えられるのは共闘している相手の事ではない。今、この状況をどうやって解決するかという事になる。

そしたら馬鹿でも思いつく。一人では絶対に勝てない。二人でも勝てない。ならば、人数を増やせばいい。戦えるメンバーは直ぐ傍にいる。だけど、彼らは捕まっている。そして結論。

ならば、捕まえている術者を倒せばいい。

そして作戦がさっきも話したようになる。至って合理的な思考から出る作戦なのである。勝利の為の思考が出来る人間ならば誰でも出来る事なのである。

結局、難しい事を言っているかもしれないが、要は負けず嫌いがどんなことをしてくるか読み切れなかった相手が悪いという事だ。つまり、ざまぁみやがれ・・・・・・・という事だ。

そして黒いのは一直線で猫の方に飛んでいく。既に杖の先には魔力光が光っている。相手は反射的な動きで防御をしようとしているが、いきなりの奇襲に反応できていない。

終わりだと思った。


思った瞬間であった。






黒いのの腕を掴んで止める初老の男性が現れたのは。





























あとがき
更新が遅くなって申し訳ありません。
テスト前で書く暇がなくって……
今回はロッテ&アリア戦ですが、少し改造している点があります。
それは彼女達が復讐を第一としている所です。
原作ではどちらかと言うと闇の書の被害を失くす為と言う大義名分で戦っていたと思いますが、これでは私情に走って戦ってもらってます。
半吸血鬼の力を使ったのはご都合主義だと言われるかもしれませんが、結局はご都合主義が起きても、我らが暴論遣いはロッテにぼろぼろにされているのですが。
作者的な言い方だとすずかの身体能力がトップクラスならば、慧はハイクラスと言ったところでしょう。それにすずかは吸血鬼としての力をそんなに使っていないのに、それなので実際の運動神経はすずかの方が上と言う設定です。
そして最後に現れたのは言わなくても解ると思う人です。これは敵側のご都合主義が起きたと言った感じでしょうか。
次がどうなるか。それを楽しみにしてもらえたら光栄です。
感想、お待ちしてます。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
1.9015011787415