ほぼはじめましてになると思います。椎夜と申します。
友達との会話で出てきた花畑から思いついて、睡魔を我慢して書き上げました。
最近書き物してないなぁ。これを機に書くか。といった流れで書いたので、文章構成上ミスがあるかもしれません。
中二成分が足りない気がしますが、作者にはこれが限界でした。
――――――――――――――――――――
「ここは――――」
目の前には一面の花畑。地平の彼方まで延々と続いているように見える。その光景はあまりに浮世離れしていて、美しいとしか感じることができない。事実、このような光景は現実にはありえないだろう。まさに、魔性という言葉がふさわしい景色である。しかし、問題はそこではない。いや、これはこれで問題なんだが、重要度の差、というやつである。なんせ――――
「俺は誰なんだ?」
自分が分からないのである。
何故、俺は自分を覚えていないのか。
何故、俺はこんな所にいるのか。
何故、俺は、この景色をおぞましいと思うのか。
何故、俺は――――この光景を知っているのか。
「落ち着け。まずは自分について思い出してみよう」
そう声に出して自己を落ち着かせる。でないと、今にも狂ったように叫びだしそうなのだ。
目を閉じ、周囲の情報をシャットアウトする。そして、自己の内面の深い所へと潜っていく。
まず、名前だ。
名前は、アイン・シュラーフェン。
次は、自分がさっきまでやっていたことだ。
俺は――――。
「俺は――――」
俺はいったい何をしていたんだ?名前はすんなり思い出せたにも拘らず、さっきまで自分がしていたことは一つとして思い出すことができない。
「記憶喪失か?」
いや、落ち着け。まだ、最奥にまでは達していない。結論付けるにはまだ早い。
何か切っ掛けを。
そう思い、自分の服装を見てみる。
これは、軍服か?全体的に黒で統一された重厚な服である。
「俺は、軍人なのか?」
これは、重要な手掛かりだ。俺はどうやら軍人――少なくとも、軍の関係者なのだろう。
これを加味し、再び自己の記憶の深くへと潜り込む。
軍――戦争――何度も舐めた栄光や苦渋の味――何かが燃える音――辺りに充満する鉄の匂い――銃の引き金を引く感触――視界を染める赤
そうだ、俺は――――
「ねぇ、なにやってるの?」
突然の声に思考は寸断される。思い出しかけた自己は、再び遠く離れて行ってしまった。
「なにやってるの?」
今度は左から別の声。だが、この声たちには共通点があった。
――――子供の声?
不思議に思った俺は、閉じていた瞼を開ける。すると、そこには子供が――――たくさんいた。
さっきまではどこを見ても花しかなかったのに、はたして彼らはいつの間にここに来たのだろうか。
「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」
右にいる子供がそう言う。そして、その言葉が起爆剤になったかの如く、周囲の子供たちも口々に、遊ぼうと言い始める。
「そうか。でも、お兄さんは今忙しくてね」
遊びたい盛りなのだろう。それは分かるが、正直こちらは記憶を辿るのに忙しい。多少の罪悪感はあるが断ろう。そう思い、さらに言葉を重ねようとしたところで――――
「何を言ってるの?」
子供たちに遮られた。普通なら、懇切丁寧に分かりやすく言葉を噛み砕いて言い直すところである。しかし、その子供たちの声は純粋だった。そして、純粋ゆえにとても恐ろしい。言葉だけを見れば、どこにでもありそうな会話だ。だが、俺の内心は恐怖で埋め尽くされていた。
そして、さらに俺の恐怖を煽るものがある。
――――知っているのだ。
この光景を。この子供たちの顔を。先の会話を。今の俺の心境を。
まるで――――前にもこんなことがあったかのように。
「何を言ってるんだい?君もわたしたちと同じじゃないか」
続いてかけられる声。全身を白で包んだ無垢な少女。
――――――――?
続いて走る違和感。目の前の白は、本当に少女なのだろうか?
そしてまた、前にもこんなことを思った、とふと思い出す。
「どういうことだ?」
謎の感覚から来る恐怖を置き去りにし、会話を試みる。
「分からないのかい?」
そんな不思議そうな顔をされても分からないことは分からな――――
「は?」
思わず、そんな声が出た。しかし、それは仕方のないことだろう。なんせ――――
「体が縮んでいる?」
さっきまで20歳代相応だった自分の体が、目の前の子どもたちぐらいの年まで若返っていたのだから。
「遊ぼうよー」
周囲の子供たちの声。
「さぁ、一緒に遊ぼう」
それに便乗するかのような白の声。
二種類の声に誘われるかのように俺は走り出す――――ところで疑念がわいた。
"便乗するかのような"。その言葉は何かがおかしい。
違和感に従い、周囲を見渡す。少し遠くに子供たち。目の前に城の少女。それはいい。だが、その光景こそが違和感の正体であった。
なぜなら、子どもたちは目の前にいる少女に遮られているはずの俺をまっすぐ見ているのだから。
気づくと共に襲われる感覚。知っている。
そして、目の前の少女。その正体にも気付いた。
「シュライバー……少佐」
そう。それは白の少女などではなく、殺戮をばら撒く凶獣。三年前に粛清された筈の少年だったのだ。
「あーあ、気付いちゃったのかぁ」
彼は、玩具に飽きた子供のように告げ、その手に持つ銃で俺の胸を撃ち抜いた。
「今度はいけると思ったんだけどねぇ」
「な……にが」
「何がって、暇つぶしだよ。グラズヘイムは殺しあう以外何もないからね」
そう告げる彼の眼に浮かぶは殉教者のような、それのためなら命を賭けられるという程のナニカ。
「君はいわば感染者だ。ここ限定ではあるけれどね。だから、ハイドリヒ卿はお考えになったのさ。限定的とはいえ、自分と同じ状態になった君が、この繰り返しから抜け出すことができるのかと」
その話を聞き、死に瀕しているにも拘らず、俺は、
これも知っている、と絶望を感じるだけだった。
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補足として、主人公(?)はドイツ軍人で、ベルリン崩壊時に獣殿に食われた、という設定です。
続きは、人気があれば、ということで。