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[27357] ガンパレード・マーチ Satellite [サテライト]
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/07 01:03
 初めまして フミと言うものです。



 
 【Satellite】[サテライト]とは、【衛星】と言う意味です。


ガンパレード・マーチを廻る衛星の一つになり、これからも


見つめていきたいと思い立った次第です。




 何分『榊ガンパレ』に傾倒しておりますので、似た様な描写や用語等
 

多数書いてしまう事があるとは思いますが、そこはご容赦下さい。



 それと本編は『オリキャラ』が主人公となります。


榊氏またはゲーム本編のキャラクターイメージを大事にされる方には、


あまりお薦め出来ないかもしれません。



あと、武器装備等の設定・名称、幻獣の設定も変わる事があると思います。





 『こんな世界観もあるのね』程度に楽しめる方に


ヌル~い目で読んで頂ければ幸いです。





                      敬具



[27357] 00話 序章
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/04/27 18:57
 1998年5月

物語は八代開戦後頃からはじまる。

 俺は身体の激しい痛みと、それとは真逆な氷の様に冷たい感覚の
両方と戦いながら、後数分後には訪れるであろう【死】を自分でも
驚くくらい冷静に受け止めながら、横たわっていた。

 『ま、相手が幻獣だっただけだ・・・ あいつ等からよりはマシか・・・』

そう心の中でポツリと呟くと、そっと目をとじた・・・。



 ふと目が覚めた。 と言うより、意識が戻った。
反射的に目を開けずに、周りの空気をさぐった。
多くの人間の雑踏、鼻を刺激する消毒臭、飛び交う医療用語。
十中八九、病院だろう。
 もし、この状況で病院じゃなかったら・・・
 
 ゆっくりと目を開ける。なるべく頭を動かさず、
眼球の動きだけで、周りを見渡す。
その仕草を見止めた看護婦が近づいてきた。

 「目が覚めましたか~? 運が良かったですね。
  左大腿部の切創・左前腕部の裂傷、それと右頭部の裂傷があり、
  そこからの出血がひどかったですが、なんとか輸血が
  間に合いました。 危なかったんですよ~」

 『よく喋る看護婦だな』と、ボォーっとした心の中で苦笑しながらも、

 「ありがとうございます。 えと・・・ここ、どこですか?」

 「市立病院ですよ。今入院の為のお部屋を空けていますので、
  準備ができ次第案内しますね。」

 「えっ?ちょっと待って!入院だなんて!」

 「はぁ?何、言ってるんですか?ご自分の身体の状況、分かってるんですか?
  さっき説明した他にも、肋骨に4本のヒビ・全身打撲、
  平時なら1ヶ月コースですよ。」
  
 確かに、、、動けない・・・ 『めんどくさい事にならないといいが・・・』

 「明日にでも病室に執刀医の先生が術後報告に来られます。
  これからの事は先生によく相談して下さい。
  あっ、それとそこのバッグ、貴方のでしょう?
  病室に運んでもらう様にしておきますね。
  では、お大事に~」
  
 そこまで言い終えると、その看護婦はクルリと背を向け、
部屋を出ていった。
1時間ほど放置された後、先ほどとは別の看護婦が部屋に入ってきた。

 「お待たせしました。病室の準備ができたので行きましょうね」

 ストレッチャー独特の硬質な振動を背中に感じながら、
部屋へと運ばれた。右側の脇デスクの上に、勘違いから
俺の所持品となったバッグが置かれていた。

 比較的自由のきく右手でそれを引き寄せ、ファスナーを開け
中身を物色してみた。
 別に金目のものが欲しかったとか、そう言う想いはなく
同じ時間に、同じ場所で、同じであろう恐怖を体験して、
おそらくはもうこの世にいないであろう見た事もない他人に
なぜか妙な親近感が沸いたのだ。

 奨学金制度の説明書や、履歴書のコピー等と一緒に財布があった。
財布の中身は千円札が数枚と小銭の現金、それと銀行カードが1枚と免許証。
免許証の写真に目をやると、妙な緊張顔の少年が写っていた。
名前は・・・


【 橘 勝輝 】


 生年月日は、【1982年4月7日】か。 多分同い年か・・・
16歳になってすぐ、原付の免許を取った様だな。
住所は、八代市通町か・・・ 最近、こっちに来たっぽいな。
おもむろに本籍へと目線が移る。

 その瞬間、思考が凍った。 
そして次に一気に思考が沸点に達した。

 俺自身の自分関連の書類に記してあった本籍地と一緒なのだ!
【橘勝輝】は俺と同じ様に、孤児院(養護施設)で育ったのだ!
それも同じ孤児院で! 
 
 2歳の誕生日を迎える前に孤児院を出た俺には、
時期が同じだったかは分からない。
だが、乳児は入院した日が誕生日となる事が多い事からも
おそらくは時期的に一緒だった可能性が高い!?
免許証を財布に戻し、バッグに納め脇デスクの上に置いた。

 まぶたを閉じて大きく息を吐き、自分の現状を整理する。
それと同時に自分自身に囁く声が聞こえるのを敢えて否定しなかった。

『これは俺のターニングポイントじゃないのか?』

そしていつもの自分が諭しかけてくる

『俺は兄弟とも言える人間を利用するのか?』

 

 結論など、とうに出ているのだ。
どんなに綺麗事を言っても、全て偽善に聞こえてしまう。
自身の【過去】を顧みて、それでも【未来】を紡ごうとする意思がある
【現在】の俺に、選択肢は1つしかなかった。

 
 
今から俺は、【 橘 勝輝 】だ。







[27357] 01話 現状把握
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2013/12/07 22:59
 いつもの様にうつむきながら歩を進め、街灯のない路地に差し掛かる。
視覚よりも先に、嗅ぎ慣れている鉄錆びた臭いを嗅覚が感じ取り、
脳に危険を知らせる。

 次に聴覚がブンッと唸りを上げた物体に対して、脳の命令を待たずに
身体に回避行動をとらせた。
  
 次の瞬間、左側の腕と足に激痛が走る。
やっとそこで、そこまでの過程を理解した脳は視覚で、相手を探りはじめた。
  
しかしやっと見止める事が出来たのは、鈍く紅い光をはなつ
数個の幻獣であろう物の眼球だった。
  
 脳が次の指示を身体に出す前に、左側の肩、上腕部、脇腹に衝撃が走る。
暗闇の中で防御態勢を許されぬまま、その衝撃を受けとめた身体は、
あたかもトスバッティングされたボールの様に弾き飛ばされ、
壁に対してうつぶせの状態で激突した。
 
 生温かい皮膜が顔を覆う様な感触。身体は一切の行動を否定していた。
妙に冷めた自分が、客観的に状況を分析していた。

 『左足、感覚無し・動かない  右足、鈍痛・動く  左手、感覚無し・動かない
 右手、鈍痛・動く  胸部、激痛・呼吸できる  頭部、鈍痛・意識何とか・・・ある』
 
 『ま、相手が幻獣だっただけだ・・・ あいつ等からよりはマシか・・・』
 
 
 
 ・・・最悪の目覚めだ。
 
 なにしろ痛みを伴わないと噂されている夢の中まで、麻酔の切れた痛みは
不躾に踏み込んできた。

おまけに思い出したくもない映像まで、リプレイされるという豪華特典付きである。
これで清々しい朝が迎えようはずもない。
 
 時計に目をやると、7時ちょっと前であった。
焼ける様な痛みを発する左腕と左足に目を向け、意味が無いとは
知りつつも、つい右手でさすっていた。

 そんな事をやっていると、コンコン・カチャリとノックの返事を待つ間もなく
ドアの開く音がした。

 
 「おはようございます~気分はどうですか~?バイタルチェックですよ~」

 
見覚えのある看護婦が、カーテンから顔だけ覗きこませて語りかけてきた。
あいかわらず、よく喋るな・・・と内心溜息を吐きつつも、

 
 「痛みのお陰で目はバッチリ覚めてますよ。
  気分は最悪ですけどね。」
 
 「あらあら、それは難儀なことですね~
  でも命あっての物種ですからね~」

 
そう軽口を叩きあいながら、その看護婦は手慣れた手付きで右腕に
シートを巻いてスイッチを押していた。
 

 「はい、105-65の脈75 ちょっとお寝坊さんかしら?」

 
まぁ、こんな会話も看護婦には必要なスキルなのかもね?と納得しながら、


 「朝はからきしです。 夜は強いんですけどネ」
 
 
 「まぁ! それは将来有望ですね」

 
 そこまで軽口を叩きあうと、そこからはちょっと表情を引き締め
看護婦本来の仮面を被り、語りかけてきた。

 
 「一応、内臓の方にも軽いダメージがあったので栄養剤を
 点滴しています。痛み止めの効果が出にくくなっている様なので
 次からは少し処方を変更します。 空腹感はありませんか?」
  
 「はい、大丈夫です」
  
 「では今日の午後より、執刀医と担当医の先生が術後の
 報告と観察に来られます。
 カウンセリングも兼ねているので、色々お話して下さい。
 後、何か質問はありますか?」
  
 「病室から出る事は出来ますか?車椅子とかで・・・」
  
 「院内限定と言う事であれば、電動の車椅子をお貸しします。
 院外外出は車椅子でも、今は許可されません。
 必要な時はナースコールで呼んで下さい。」
  
 「分かりました。ありがとうございます」
  
 

 脇デスクの上に置いてあるバッグを、再び手繰り取った。
出来るだけ【橘 勝輝】の情報が欲しいからだ。
 
 バッグのファスナーを開け、奨学金制度・履歴書以外の
中の書類を検証する。

 
【熊本県立 熊本高校 編入内定書】
【水前寺ハイツ 契約書】

 
頭、良い奴だったんだなと感心しながらも、橘勝輝の人物像を
プロファイリングしてみた。

 
橘 勝輝

1982年4月7日生まれ 16歳

同年同日に養護施設に入院の可能性有り

1998年、4月より八代方面の高校に奨学金を利用し入学

それに伴い退院の可能性大

同年4月下旬、八代開戦に伴い熊本市内へ疎開の可能性大

編入先は県立熊本高校内定

住所は熊本市水前寺付近 入居日は4月25日

家賃2万5千円 6畳1K

アルバイト先を探していた可能性有り

履歴書がまだ複数枚残っている事から、契約の可能性小

 
 こんなところか・・・
人脈関連の情報は1つもないが、内地から八代に来たのが
入学の為の可能性が高いので、こちらでの人脈は小さいと
考えて良いだろう。
 
 なぜわざわざこんなに前線に近い地域に来たのは不明だが、
八代開戦情報が開示されていた訳ではないので、単に
幻獣への復讐心等からの選択か?
 
 4月は八代開戦宣誓の為、初旬から学校関係は自宅待機、
もしくは疎開勧告が出ていたので、八代の高校に通った可能性も低い。

 加えて市内のハイツへの入居日が4月25日というところから
熊本高校への編入日はこのGW明けだった事が濃厚だろう。
 
 さてここまで推理した上で、一番肝心な事の確認を
しなければならない。


 【 橘 勝輝 】の安否である。
 同時刻同所で俺より先に幻獣に襲われていた可能性が
非常に高い訳だが、生きているという可能性もある。

 また死亡が確認されていてもダメなのである。
行方不明である事が大事なのだ。 

 これの確認方法はネット回線により、知人や親族が本人の
安否を知る事ができるシステムを利用すればいい。

 戦時中ならではのこのシステムを利用する為に先程、
病室から出る事の確認をとったのである。
 
 さて・・・と、時計に目をやると8時を回っていた。
ナースコールに手を伸ばし、ボタンを押す。 インターフォンから、

 
 「は~い どうされました~」
 

またか・・・と思いつつも、

 
 「すいません さっきの車椅子の件ですけど・・・」
 
 「だいじょぶですか? 操作とか出来そうですか?」
 
 「神様が気を利かせたらしくて、右手は大丈夫なんですよ」
 
 「まぁそれは残念! でも電動車椅子はだいじょぶそうですね
 すぐに持って行きます」
 
 『ノリがいいなぁ・・・』


 持ってきてくれた車椅子に何とか座り、簡単なレクチャーを
受けてロビーの隅に設置してあるネット端末へ向かった。
 
【安否確認】を開き、熊本県一覧で検索を始め、【橘】で
更に検索すると、そこには12名の橘の名字をもつ氏名が
表示された。
 
 生存していれば八代市在住か熊本市在住と出るはずである。


【 橘 勝輝 [特別失踪] 】
  
 ビンゴだ!特別失踪とは、従軍・船舶の沈没等による
失踪の事を指している。
 つまりあそこの場所で間違いなく橘勝輝は死んだが、
その身元が分かる様な死に方をしていなかったと言う事だ。
 

 
 一瞬、喜色に染まった自分の心を、再び深い闇色に染め直した。
 

 『さて、露払いは終わった。勝負は午後からだ』
 

 クルリと車椅子を反転させ、病室に戻った。


 



[27357] 02話 身辺整理
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/04/27 18:56
 コンコン・カチャリ・・・

 相変わらずノックの返事を待つ間もなくドアが開く。
いつもの看護婦が新しい点滴を持ってきた。

「ご機嫌はいかがですか~」

『具合を聞けよっ!』と内心ツッコミながら、
「手と足がジクジク痛むおかげで、
目も頭もギンギンに冴えてますよ・・・」

「も? ・・・いい趣味してらっしゃるのですね~☆」

『だめだ こいつ・・・』
「これで少しは痛み、和らぎます?」

「大分落ちつけると思いますよ。 痛みの方はですねっ!」

『ここ、本当に病院だろうな・・・?』
「痛みだけで間に合ってますよ・・・」


 右手の静脈を慣れた手付きで浮き上がらせると、
ツプッっと針をさす。
 ローラーをクリクリと微調整しながら、点滴の落ちる
速度を真剣な表情で見つめてる。


『ほぉ・・・看護婦っぽいな・・・』

「はい、では点滴は1時間半くらいで終わります。
 その間は自重して下さいネ~」

『黙ってれば優秀なんだろうな・・・』
「もとより、そのつもりです!」


 ポタリ・・・ポタリ・・・とゆっくりと落ちる滴を見つめながら、
今からの事を考えていた。
 看護婦が言った通り、痛みはかなり和らいだ。
そのせいかちょっとばかり、フゥ~とする感覚がある。
副作用かな? 気を引き締めた。

 時計が12時40分を過ぎた頃、コンコンとノックの
音がした。

 コン!コン!と再びノックの音。


「あ、、あぁ どうぞ!」


カチャリとドアが開くと白衣の男性が2人入ってきた。
その後、ドアの隙間からスルリともぐりこむ様に入り込んでくる看護婦。


『点滴、忘れてやがったな・・・』

「すまないね。起こしてしまったかな?」

「いえいえ、ノックの返事を待たれた事がここに来てなかったもので・・・」

「あっっっ! 点滴、取りに来ました!」


 顔を真っ赤にして、脇をすり抜けてきた看護婦が、
ササッと針を抜き、パッチを貼る。
 点滴のバッグにチューブをクルクルと器用に巻き付け、
「お大事にっ!」と一声かけ嵐の様に去って行った。


「コホン、、、さて話は聞いてるはずだね?」

「はい 聞いています」

「では自己紹介から始めようか?私は【相田 幸助】、君の担当医だ」

「自分は【木原 匡史】、執刀させて貰った」

「君の名前は?」

「【橘 勝輝】です。橘は木に矛を書く橘です。
 勝輝は勝ち負けの【勝】に輝くの【輝】で、カツキです・・・」

「ふむ・・・では勝輝君は今どこに住んでいるのかね?」

「江津湖の近くの【水前寺ハイツ】っていうアパートです・・・」

「ご両親は?」

「分かりません。養護施設で育ったものですから・・・」

「学校には行っているのかね?」

「内地から高校入学を期に、八代工業に行く予定でしたが、
 八代開戦で疎開しました・・・ 一応次の学校の編入は決まっています」

「大変だったね・・・」

「いえ、こうやって助かっただけでも幸運です。同じ場所にいて
 亡くなっている方もいると思いますので・・・」


 視線を落とし、呟くように返答を繰り返した。
しばらくの沈黙があった。


「いや 悪かったねっ! 事情聴取みたいな雰囲気になっちゃったね」


 担当医が場の空気をなだめる様に言い繕った。この瞬間、



『勝った!』



 と言う心の声が、思わず口から出そうになった。
表情を押し殺し、静かに心を闇に沈めた。
 そして事の顛末を逆に質問した。


「僕はどうやって助かったんですか?」

「その辺りから説明しようか。
 あと1週間程で自然休戦期だが、この時期はやはり軍の士気も
 落ちるらしく、小型幻獣の浸透が多くなるらしい」

「それに勝輝君は鉢合わせしたんだよ。勝輝君の言った通り、
 寸前に6人程犠牲になっている。
 おそらく待ち伏せだろうと報告を受けている」

「6人の方達の身元は今も分からない。識別できたのは、
 かろうじて骨格からのおおよその年齢と、あとは性別くらいだ。
 携帯していた多目的リングも破損が激しく、そこからも
 情報は読み取れなかった」

「DNA鑑定も行ったが、登録者に該当はなかったよ。
 こんな事だから特別失踪者だけが増える事になるんだよ」

「・・・   」

「おっと、愚痴っぽくなっちゃたね。お偉いさん方だけに
 優先登録されている事に、頭に来てるんだよ。
 そういや勝輝君はリングはどうした?」

「僕もどうやらその時、一緒に無くしたみたいで・・・」

「ん~じゃあこの入院中に再登録すると良い」

「はい分かりました」



「じゃあどうやって助かったか?だ。
 君が自分で言った様に、幸運だったと言う事だ。
 君が意識が無くなったあたりで物音で気付いた
 哨戒小隊が駆け付け、そこにいたゴブリン7匹を掃討した」

「その後生存者である勝輝君1人と、おそらく6人分くらいの
 肉塊が、ここに搬送されてきた訳だ。
 一応検死も、今は兼ねる様になってるからね」
 
「おっとイヤな表現をしたね。 ここでこういう商売が長いと
 どうも口が軽くなってしまってね。
 気分を悪くしたなら謝るよ」

「いえ・・・そんな事は・・・」



「では治療内容を報告しておこうか。木原先生、よろしく」

「・・・では説明させてもらいます。左大腿部の切創ですが、
 非常に綺麗な切断面となっています。
 おそらくはゴブリンのトマホークの刃によるものだと思われます。
 18針縫合していますが完治は早く、特に後遺症が残る様な
 事もないと思われます」

「左前腕部の裂創については、おそらくは柄の部分が当たった
 ものと思われます。筋組織自体の破壊は少なく、治りも
 早いでしょう。
  しかし皮膚組織は、比較的大きめの破壊を受けていますので、
 傷跡は残ると思われます。希望であれば後々皮膚移植で
 目立たなくする事も出来ます」

「右頭部の裂創ですが、CTスキャン・MRI・脳波等の
 検査の結果、重篤な症状がでる可能性は低いです。
 ただし、幅4ミリ 長さ4センチ程度の傷跡が
 残ります」

「胸部ですが第3肋骨から第6肋骨までの4本に軽微なヒビが
 入っています。特に治療は施してません。
 右半身全体が打撲していますが、問題はないと思われます」
 
「以上が治療内容です。状況からすれば、非常に軽傷だったと
 思われます」



「つまり、大した事はないと言う事でいいんですか?」

「いや、平時なら2週間の入院コースだよ。
 でも今は有事だからね・・・ 済まないが1週間程度で
 ベッドは開けて貰うと思う」

『サバ読んだな あの看護婦・・・』
「そうですか。大丈夫です。お話を聞いて安心出来ました」

「抜糸も必要のない吸収性の高いものを選んだ。
 このご時世だ。その辺は理解してもらえると嬉しい」

「いえ、むしろ傷跡が残ってもこれからの糧となると思います。
 気にしないで下さい」

「そう言ってもらえるとありがたい。
 それと君の治療費についてだが、軍からの戦争見舞金で
 賄えると思う。
 生活保護も受けられると思うので、申請しておくと良い」

「ありがとうございます。 見寄りが居なかったので
 勉強になります。」

「では、今日はこの辺でいいかな? 
 これでも何かと忙しくてね」



 そう締め括ると、2人の医師は部屋を後にした。
時間にすれば家庭訪問くらいの時間だろうが、自信が確信に
変った貴重な家庭訪問だった。



 ゴロリとベッドに仰向けになる。
とりあえず下地は固めた。退院とほぼ同時に休戦期に
入るだろう。



 退院してから行う事の優先順位を、頭の中で考えながら
5月の陽光の気だるさからか、夢の中に落ちていた。





 GW明けから学校と言うものにでも通ってみるか・・・



  



[27357] 03話 引っ越し
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/04/28 01:03
 1998年5月10日


 何事もなく、退院できた。
入院中に再登録した多目的リングも、無事に届いた。


 流石に松葉杖はまだ手放せないが、面談の翌日からの
地獄の様なリハビリのお陰で、戸惑う事なく歩く事が
できる。 
 ツッパリ感が若干残っているが、痛みは気にならない程度だ。


 まずは引っ越しだな・・・と路面電車の停留所に向かった。
路面電車を終点の【健軍町】で降りる。
 引っ越しとは言え荷物は、セカンドバッグ1つと
着替えが3日分程入ったザックだけだ。



 さて、とりあえずアパートを捜すか・・・



 また電車に乗り、今度は【水前寺公園】で降りて、
契約書の住所を頼りに、ゆっくりと江津湖方面に歩きだす。
 江津湖沿いの遊歩道を下江津湖方面に歩きながら、時折出会う
住民に住所を聞きながら、探していると案外簡単に
見つかった。
 鉄筋2階建て、築15年程度かな?
月2万5千円の割には意外な小奇麗さに驚きつつ、部屋へと
向かった。


 2階の玄関のドアの前に静かに立ち、中の気配を一応探った。
当然の事ながら、人の気配は感じられない。
 セカンドバッグからキーピックを取り出し、
キーシリンダーに差し込む。 
 
 カチリと音がして解錠された。
 
 静かにドアを押した。
身体を滑り込ませるように中に入り、再度気配を探る。
ホッと息を吐き、鍵を掛けチェーンを落とした。


 部屋の中央にザックとバッグを置き、カーテンを
開けてみる。
 まぁ…何と言うか普通のアパートの見晴らしだな・・・


『とりあえず連絡手段の一つもないと、何かと不便だな』


 そそくさと部屋を後にすると、来た道を戻り停留所へ
向かった。再度電車に乗り、熊本市内の【辛島町】まで行く。
 停留所から道路を渡り、【下通り】の裏通りへ歩を進める。

 古いビルの地下へ続く階段をゆっくりと降り、突き当たりの
扉を開けると、小太りなオヤジが細い目でこちらを見た。



「よぉボウズ ご無沙汰だったな。顔を見ないんで、てっきり
 くたばったと期待してたんだが、その様子だと
 まんざらでもなかった様だな」

「ご期待に添えなくて残念だ。 携帯あるか?」

「ほぅ最近は、定職もないのに携帯を持つ時代か?」


 そう冷やかしながらも、5種類ほどの携帯電話を並べる。
どれでも良かったが、耐ショックの携帯を手に取った。


「支払いはどうする?プリペイドにしとくか?」

「いや、口座引き落としにしたい。 そこで腕の良い
 ルートクラッカーを紹介してほしい」

「おやおや、悪い事にはオジさんは手は貸せないぞ」


 そう言いながら、スラスラと裏紙に電話番号と名前を書くと、
二つ折りにした紙片をカウンター越しにスイッと出してきた。
 セカンドバッグに携帯と紙片しまい、10枚程の1万円札を
カウンターに置いた。


「最初の1万円分の通話料はプリペイド登録してある。
 3人から4人ほど渡り歩けば、辿り着ける筈だ。
 ボウズの運も必要だがな」

「ん、サンキュ!」


 そう言い残すと、入ってきた扉から出た。
扉を閉める瞬間、オヤジが声を掛けてきた。


「ワシの名前を出してもいいぞ。大サービスだ!」

「恩に切るよ」


 バタンと扉を閉める。階段を上り、近くのベンチに腰を
下した。 
 携帯と紙片を取り出し、コールしてみる。
電話の向こう側から低い男の声が聞こえてきた。


「どう言ったご用件で?」

「そこで一番偉い奴に代わってくれ。
 じゃないと話が進まない」

「まずはご用件からです・・・」

「お宅の電話番号知ってる奴って、そんなに一般人なの?
 丁稚(でっち)に話して、何回も同じ事を喋りたくない。
 サクサク代われ・・・」

「お待ちください・・・」

「失礼致しました。ここを預かっている坂東と言うものです」

「こちらこそ、無礼だった。
 急ぎの仕事なんで、お宅に仲介を頼んだ。
 裏マーケットのオヤジの、お墨付きだと聞いてるが?」

「左様ですか・・・分かりました。
 詳しい御用件をお聞かせ願いますか?」

「多目的リングのクラッキング、及びコピーが出来る
 腕利きのクラッカーを紹介してほしい」

「分かりました・・・今どちらで?」

「新市街から出たところだ。辛島町のベンチにいる」

「分かりました・・・GPSで詳細地を検索してもよろしいですか?」

「あぁ、いいよ」

「車を回します。5分後にそちらへ・・・」

「助かるよ。こちとら満身創痍でね」


 きっかり5分後に黒のクラウンが目の前に停まった。
後部座席からいかにもな、それ風な男が出てきた。


「お待たせ致しました」

「謝られる程待っちゃいないさ。流石はお墨付きだけはある」

「今からすぐに向かっても宜しいですか?」

「あぁ、その為にお宅に電話したんだ」


 20分程して車は停車した。


『植木町くらいか?』

「着きました。これからどうします?」

「坂東さんから、こっちには連絡は行ってるんだろう?
 バスで帰るのもダルいから、待っててくれるかい?
 2時間程で終わると思う」

「はい、分かりました」


 そこは築10年ほどの、新しめの一戸建てだった。
呼び鈴を押すと、インターフォンから意外にも女性の声で
返事が返ってきた。


「はい どちらさまでしょう?」

「橘と言う者ですが・・・坂東さんから連絡が来てるはずですが・・・」

「あぁ~はい 分かりました。開けますね。
 ・・・あなた~ 坂東さんのお知り合いよぉ~・・・」


 ガチャリと玄関が開いて、眼鏡を掛けた短髪の
サラリーマン風の男が出迎えてくれた。


「お待ちしてました。私、井田と言う者です。
 なんでも闇王のご推薦で私を知ったとか? ・・・光栄です」

『闇王・・・? あぁ、、あっち関係か?』
「【俺】の期待通りの仕事をしてくれると信じてるよ」


 その男専用の個室らしき部屋に通された。
数台のパソコンと端末機器が整然と並べられている。
カチャリと部屋の鍵を閉める。


「それでは詳しい仕事内容をいいですか?」

「この左腕のリングをルートクラッキングして、
 直接この左手の多目的結晶に上書きしてくれ」

「プールせずに直接ですか?」

「それが出来るからお墨付きなんだろ?」

「分かりました」


 端末をリングに繋ぎ、パソコンを起動させる。


「では左手の結晶に繋ぎます」


 ゾクッとする様な感触・・・


「大丈夫ですか?」

「人を待たせてる。サクサク終わらせてくれ」

「リンクさせます・・・」

「井田さんだったか? あんまりモニターは見ない方が良い。
 恩人を手に掛けたくない」

「・・・ハイ・・・」


 20分程で上書きは終了した。
端末を外すと、多目的結晶を皮膚に埋没させた。
その後、リングを外してセカンドバッグに入れる。


「もう一仕事、頼めるか?」

「内容によりますが・・・」

「そんな物騒な事じゃない。このキャッシュカードの
 暗証番号を調べてほしい」

「あ、そんな事でしたら!」


 カタカタとキーを叩き、銀行のメインバンクコンピューターに
入りこむと、カードをリーダーにスッと通す。
 そこから、0001の番号がカウントを開始した。
10秒後くらいにモニターに緑色の数字が4桁でて点滅していた。


「ありがとう、恩にきる。 仕事料はいくらだ?」 

「えっいや・・・」

「これで嫁さんを食わせてるんだろう?
 プロなら誰からでも、きっちり金をとれ!
 じゃないと不具合が起きた時に、ここに俺が殴り込めないだろう!?」

「では・・・」


 1本、指を立てる。


「高い! 1割負けろ!」


 そう言うと、少し帯封がゆるんだ束を1束渡した。


「えっ!? いや10万なんですけど・・・」

「お墨付き貰ったご祝儀だ。取っとけ
 それと、これからはこの関係はアンタに依頼する。
 俺の情報が何がしかでも漏れたら・・・って事だ。
 その保険金も兼ねてる」

「だ、大丈夫です。プールせずに直通の上書きですから、
 痕跡すら残っていません」

「OK! これからも期待してるよ。
 だが俺も一介の高校生だからな
 俺には期待はするなよ」

「あ、、はい」

「では、御無礼しようか・・・さっきも言ったが、人を待たせてる」


 玄関先まで見送られると、車に乗り込んだ。
男が聞いてくる。


「恙無く?」

「あぁ・・・」

「どちらまで?」

「乗った所でいい」


 車が停車した。前線に近いとは言え繁華街はその色を
失っていない。
 ふぅ~と息を吐いて男に1束渡した。


「仕事料だ。坂東さんに渡してくれ」

「頂きます」

「今日はお疲れさん、帰りにでも引っ掛けてくれ」


 そう言って運転手と隣の男に5枚づつほど渡した。
車を降りると、ドアが閉まり車は滑るように街に
吸い込まれていった。



 さて、今日はリハビリあんまり出来てないなぁ・・・


『歩くか!』


 10分後には、後悔の念に苛まれていた・・・
ここまで来て、初乗りで降りてタクシーに
イヤ面されるのもなぁ・・・

 帰りついた時に、杖をどこかで捨てていた事に気付いた。








「さて、そろそろ俺も一般面できるかな?」






 今日1日を顧みて、ふっとそんな言葉が口から洩れた。






[27357] 04話 準備
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/04/28 18:15
 1998年5月11日



 ・・・ 朝か

 時計に目をやると7時半。
さて、自分自身の引っ越しは、大方片付けが済んだが、
まだ色々残っている。
 
 とりあえず学校関係と免許証あたりか・・・


 時間もまだ早いし、朝飯でも食いにでかける事にする。
5分ほど歩いた電車通りにファミレスとコンビニを見つけ、
ヒョコヒョコとした足取りでファミレスに入る。


「いらっしゃいませ~」

「朝定、サバで・・・」

「はい~ありがとうございます!」


 5分後、運ばれてきた【朝定食 塩サバ】を頬張りながら、
後何があるか、考えてみる。

 免許証の再交付に必要な住民票は、多目的結晶があるから要らない。
入院中に【特別失踪】が【在住】に、切り替わったか確認した時、
熊本市と出たから移転届は済んでいる。
【遺失届け・盗難届】は飯を食った後にでも、交番に行けばいい。

 その後学校に電話して、怪我をした旨を伝え後3日程
休むとでも言えばいいだろう。
その間に制服等の用意とか、生活用品の準備を済ませよう。


 30分程で朝食を終えると、店を出た。
リハビリを兼ねて、電車通りをゆっくりと歩きながら交番を探した。
途中から探すのをやめ、ただの散歩になっていたが・・・

 携帯を取り出すと、歩きながら高校に電話を掛ける。


「おはようございます。熊本高校です」

「すいません 橘というものですが、編入を受理されて
 GW明けから通う予定だったのですが、怪我をしてしまい
 連絡を取れませんでした」

「あ~・・・はい 編入される方が1人いるけど、登校してこないと
 噂になっていましたよ。 係の者に代わりますね」




「・・・・・・・・・」




「お電話、代わりました。八千代と言う者です。
 連絡がなかったので、心配していました」

「申し訳ありませんでした。引っ越し早々、街で幻獣に襲われて
 病院で、ウンウン唸っていました」

「それは災難でしたね。 お怪我はありませんでしたか?」

「脚に18針と腕が12針、頭が7針縫った程度です」

「だ、、大丈夫なんですか!?」

「命に別状はないとの事ですが、しばらく体育関連の授業は見学かと・・・」

「あぁ、それは問題ないです。うちは体育の授業がないので」

「そうですか。では教科書とかの手配はどうすればいいでしょう?」

「もうこちらに揃っています。A3が入るバッグと、A4のノートを
 8冊用意してもらえば、授業関係は揃います。
 中学校の学生服は詰襟でしたか?」

「いえ、ブレザーでした」

「では、黒の詰襟を用意して下さい。近隣のお店で制服を買って、
 【クマタカ】と言えば袖の白線を出してくれますので、付けて貰って下さいね」

「わかりました。夏服は?」

「薄青のカッターになります。一緒に購入されるといいですよ。
 もう大分あったかいですからね」

「ありがとうございます」

「ではいつから登校できますか?授業はもう始まってますので
 なるべく早目が良いと思いますが・・・」

「そうですね・・・明々後日くらいから出れそうです」

「とりあえず登校されたら、校則等の説明もありますし顔合わせだけでも
 しておきましょう」

「わかりました。 では後日・・・   あっ登校時間は何時ですか?」

「8時15分が門限です。以降は遅刻になりますので、気をつけて」

「・・・ハイ」




 ま、これで学校関係はクリアだ。
8時15分と言う時間にはちょっとゲンナリ来たが、初めての
学校生活にかなり心が踊ったのもまた事実だ。

 テクテク歩くと国道3号線まで来てしまった。
そこで初めて信号待ちの歩行者に交番の場所を聞いた。


「歩くとちぃと遠ぉかばってん、こっから曲がってまっすぐ行った
 北署が分かりやすかよ。 ビカビカしとっけん、すぐ分かっよ」

「ありがとうございます」


 初老の婦人に軽い会釈を残して、北署に向かった。
500メートル程歩くと、右手に全面ミラー貼りの逆三角形のビルが見えてきた。


『た、、確かに分かりやすいな・・・ って本当に警察署だろうな・・・』


 正直、警察署なるところに足を踏み入れるのも初めてだ。 
正面の自動ドアから中に入る。
 キョロキョロしていると、制服に似合わないくらい美人の婦人警官が
話しかけてきた。


「どういった御用ですか?」

「あぁ~えっと・・・免許証失くしたんで、再交付の為の【遺失届け・盗難届】を
 提出しに来ました」

「はい ではこちらへ」


 カウンターから少し離れたテーブルに案内され、用紙を差し出される。
卓上のボールペンを手に取ってマゴマゴしていると、


「こちらの空欄に、記入をお願いします。ココとココですね~
 判子はお持ちですか?」

「はい 認印でいいんですよね?」

「はい 結構です。住民票は持ってこられましたか?
 多目的リングを付けておられない様ですが・・・」

「いえ リングではなく結晶を埋めてます。そちらで構いませんか?」

「もちろん大丈夫ですよ。若いのに結晶を埋めてらっしゃるんですね」

「以前破損した時に・・・ 慣れれば結構便利ですよ」


 コードレスの端末を持ってきてテーブルの上に置くと、婦人警官はクルリと
背を向けた。


『流石に国家機関だけあって、情操教育されてんだな・・・』


 多目的結晶を手の平に隆起させ、端末にそっとかざすと
ピッとバーコードを読む様な音がした。
 結晶を埋没させると、


「もういいですよ」

「終わりましたか?」

「はい この後どうすればいいですか?」

「免許センターにデータはもう飛んでいますので、すぐに行かれても
 免許の再交付を受けられます。
 でもあと2時間程お待ちになる時間があれば、免許センターの
 方から出張者が来ますので、その旨を伝えればここでも
 受け取る事が出来ますよ」

「では待つ事にします」

「では再交付申請書を書いて下さい」


 先刻と同じ様な文面を書いた後、用紙を婦人警官に渡し
昼食後くらいに受け取りに来ると言い残し、北署を後にした。
 
 まだ空腹感は無かったので、学校でも覗きに行く事にした。
流石に歩く気にはなれず、【水道町】から電車に乗り、
【味噌天神前】で降りた。 

 白山通りを500メートル程歩くと、熊本高校は見えてきた。
時間は10時ちょいすぎなので、生徒を見かける事はないだろうと
思ったが、チラチラと登校する生徒を見かけた。


 黒の詰襟、通称【学ラン】に袖の白いラインは中学生っぽくも
見えるが、そのラインこそが熊本随一の証なのだ。
結構ラフな学ランの生徒も見かける。


『こんな御時世だから、県No1と言えど服装まではそこまでないか・・・』


 結構、自由そうな校風に安堵の気持ちを抱いた。
30分程、正門の付近で観察していると、屈強なジャージ姿の
教師?らしき人物が出てきた。



「随分と興味がある様だが、何用だね?」

『体育、ねぇんじゃねーのかよ!』
「あ、すいません。 明々後日から編入する者ですが、通学路の
 下見がてら来てみたんですが、正門の葉桜に見惚れまして・・・」

「ほぅ そうか! 後1月早ければ桜が見事だったぞ!
 しかし葉桜も味があるな! 食ってもうまいしな!」

「桜も見事だったんでしょうね。 来年の楽しみにとっておきます」

「あぁ不躾だったな。 自分は井上と言う者だ。日本史で教鞭を執っている。
 しかし、貴様脚を引きずっている様だな。怪我をしているのか?」

『このガタイにジャージで日本史かよっ! 
 おまけに初対面で貴様呼びとか、こいつ絶対軍上がりだろ!』
「えぇ、10日程前に幻獣に襲われまして、合計37針縫いました」

「ほぉ幻獣相手に生き残った上に、37針で済んで10日で復帰とは
 見上げた根性と運だな。 治ったら更に磨きを掛けてやるから
 覚悟して通えよ!」

『いきなりロックオンかよっ!って言うか、俺のどこがこいつの
 琴線に触れたんだ?
「ご期待に添える様尽力しますが、お手柔らかに・・・」

「では、気を付けて帰る様にな!
 あんまりここに居座っていると、不審者と勘違いされるぞ!」

『お前が一番最初に、勘違いしただろ?』
「はい、ではまた後日に・・・ 失礼します」





 暑苦しい奴だったなと思いながらも、思い出し笑いが止まらない。
楽しくなりそうだ・・・
 

『学ランでも買いに行くか!』


 なぜか、いい気分で停留所に向かっていた。
電車で【通町筋】まで行くと、下通りに足を向けた。
 

 こじんまりとした、店舗スペース縦4畳程の学ラン専門店に入った。
店主らしき夫人に今の流行を聞き、カタログを見せてもらった。

 【クマタカ】である事も伝え、どの辺までが許容範囲等とかの
アドバイスを貰いつつ、迷って選んだ末【King Dash】と言う
ブランドのセミ短と、1タックのスリムに決めた。
 
 店主が言うには、上下共に布地にサージを使ってるから、
あんまり着てる人がいないと豪語していた。
 白線を付けてもらい、ついでにベルトや、雑貨類も数点購入し店をでた。
 


 その後、下通り入口にある老舗のデパートへカッターシャツや
下着関係を揃える為に向かった。
学校名を言うと、すぐにシャツ出してくれた。

 下着やTシャツ、靴下・靴・腕時計まで一通り揃えると、
莫大な手持ち量になった。
 流石にこのまま電車で・・・と言うのは不可能なので、腕時計以外
宅急便で送ってもらう事にした。




 生まれて初めて、買い物が楽しいと感じた・・・




 帰り道に北署に寄って、免許証を貰い部屋に戻った。




 夕方4時に宅急便から荷物を受け取り、クローゼットに掛けたり
たたんだりして時間を過ごした。
 しかしまだ全然準備が足りてない。


冷蔵庫、調理用具、食器類、ネット環境とPC、寝具とベッド、卓袱台と座布団。


それと今の季節はまだ良いが、エアコンもいる。


折角、免許があるのだから足もほしい。






 あと2日で足りるのか・・・






 とりあえず今日はコンビニ弁当を食べて寝よう・・・




 
 



[27357] 05話 相棒
Name: フミ◆2aa323cc ID:dc4a49f7
Date: 2011/04/30 00:34
 1998年5月12日



 
 携帯電話で時間を確認すると、9時15分。


『ボチボチ起きるかな・・・』


 しかし、厚着をしててもフローリングにゴロ寝はやはり辛い。
とりあえず、シャワーを浴びる為に服を脱ぎ始めた。
改めて左腕の傷を見ると術痕が痛々しい。

 シャワーを浴びながら、今日の予定を考えた。
まずは足を確保しよう。
 原付免許があるんだからスクーターでもいいな。

その後、電気屋に行って家電関係か?
衣料品もいるな。あと家具か?

では、まず銀行に行って口座の残金を確認して、
ある程度、振り込んどこう。
流石に高校生が、現金でエアコン買うとかありえないだろうしな・・・

 よし!全部揃えて、宅急便に運ばせ4時に受け取り予定って事で
今日はいいかな?

 予定を組み上げて意気揚々と、ユニットバスから出ようとする。


『あ・・・  バスタオルも追加だ・・・』


 昨日と同じファミレスで朝食を食べた後、銀行に立ち寄り
予定事項を済ませるとバスの停留所へ向かった。
 バスに揺られながら、東バイパス沿いのバイク屋を探す。

 比較的大き目のバイク屋が目に飛び込んできたので、
降車ボタンを押してバスを降り、バイク屋に向かった。



 
「らっしゃい!」

「どうも・・・えと原付の免許、取ったばっかなんですけど、
 バイクってあんまり知らなくて・・・」

「ん~ではどういったタイプが好きかい?
 例えば、風避けが付いたスポーツタイプとか、ヘルメットを
 シートの下に収納できるスクータータイプとか、
 後、今はビジネスタイプも結構流行ってるよ」

「お薦めとかありますか?」

「家族の方がご一緒じゃないところを見ると、初めての
 一人暮らしってところかい?」

「はい、そうです。高校入学を期に内地から熊本に来ました」

「ほぅそうか! 安全な内地からわざわざ前線に近い熊本に
 どうしてまた?」
 
「養護施設で育ったんですが、そこでの義兄さん達が自衛軍
 に入隊して、配属先が熊本だったんです。
 ですが特別失踪扱いになってしまい・・・」
 
「で、心配になってわざわざ熊本の高校を志望したと・・・?」

「死亡が確認されていない以上、諦められません!」

「そうか 飯とかはどうしてるんだい?」

「お金があんまりないから、なるだけ自炊してます・・・」
 でも・・・だからって安っぽいのは・・・ 永く乗りたいんで、
 中古でも良いからシッカリしたものを探してるんです」

「それで自分で探すつもりかい?」

「それがどれだけ無謀な事くらいは、自覚しています。
 義弟達や義父母に、自分と同じ心配はさせたくありません」

「そこまで理解ってれば何も言う事はないな。
 それじゃ、とっておきの奴をお薦めするとしよう」





 浅黒い顔をした主人はニタリと笑いながら、店の奥にある1台の
スクーターを指差した。

 案内されスクーターの周りを回りながら、じっくりと見てみると
普段、そのあたりで見かけるスクーターとは微妙に違う。



それを見て主人が、語りだす。


「水冷単気筒4ストローク50ccを88ccにボアアップ!
 この時にバルブの強化、擦り合わせ、圧縮比アップを実施!
 カムは敢えて高回転に振らず、中低回転を選択。この選択に合わせ、
 プーリーは敢えて最高速型をすることによって、燃費向上と
 癖の少ない加速フィーリングを獲得!」

「それに合わせてマフラーを、高効率ステンレスマフラーに変更!
 ピストンは出力増に対する対策として、鍛造ピストン仕様!
 燃料タンクは8リットル 普通に走ってリッター35Kmは走るから、
 280Kmは無給油で走行可能!」

「そして、さっき言ってた耐久性の方だが、フロントサスペンションには、
 目の字押し出し材をメインフレームに使った、高剛性のプロリンク!
 そのサスペンション能力を生かし切るために、ショックアブソーバーは
 前後ともホワイトパワーをチョイス! ブレーキシステムには、フロントが
 ブレンボの対向2ポッド式キャリパーとフローティングディスクローター、
 リアもスライド式2ポッドキャリパーのディスクブレーキを装備!」

「車体のメインフレームには、制動力向上に伴う負荷増の対策として、
 外径Φ40、内径Φ30のステンレス製のサブフレームを2本、床下に追加装備!
 これらの重量増対策として、ボディは軽量化と共に、耐衝撃性を
 考慮してドライカーボン製。
 ホイールは純正と同じ10インチを履くも、マグネシウム製に変更。
 車体の軽量化と共に、バネ下重量の軽減に大きく貢献している!」 

「メットインスペースは、フルフェイスのヘルメットを入れて尚、
 500ccのペットボトルが2本収納可能なスペースを確保!
 ボディカラーはポップなパッションレッド!」

  
『単語の半分くらいイミフだ・・・』
「・・・・・・・・・   」

  
「完璧だろう?」


『これだけの、ウンチク分は凄いんだろうな・・・』
「えぇ・・・ まぁ・・・」


「どうだ!気に入ってもらえたかい?」


『これを俺に売りつける気なのか・・・』
「でも、随分するんじゃないですか?」


「そうだな・・・しかし結構長く売れ残っているからな・・・」


『それはバイクじゃなくて、アンタのウンチクのせいじゃないのか?』
「いいバイクの様なのに、勿体ですね」

「じゃ、いいよ。 良いバイクって、理解って貰えた兄ちゃんにサービスだ!」

「えっ?」

「10万で持って行っていいよ!」

「い、、良いんですか!?」

「いいよ 人でも物でも嫁ぐ先は、相手が自分に惚れてくれてる所が幸せだろ」

「ありがとうございます! 必ず幸せにします!!!」

「即決とは、また気風がいいね! 登録はどうするね?今日、やっていくかい?」

「今から登録すれば、今日から乗れますか?」

「丁度これから、役所にナンバー登録に出るところだったから
 今から書けば、お昼前にはナンバーが届いて乗れるよ」

「っ! 登録します!」

「あっ うちでじゃなくてもいいからロックとセキュリティは
 付けといた方がいいよ。
 結構軽い気持ちで、盗って行く輩が多いからね」

「ここじゃ付けられないんですか?」

「勿論、付けれるよ」

「んじゃそれもお願いします。そこいらケチって無くしたら、
 実も蓋もないですから・・・」

「よく理解ってるね。その通りだよ。んじゃセキュリティを
 取り付けとくね。 ロックはリヤ荷台にセットしとくよ」

「はい」



 登録用紙の書き込みを終わらせ、支払い方法などの説明を
受けて一心地つく。
 テーブルに座っていると、主人がコーヒーを両手に持ってきて
左手に持っていた片方を自分に勧めてくれた。


「こっちに来たのは最近かい?」

「はい 4月末に八代から越してきました」

「そりゃ大変だったね」

「まぁでもお陰でいい学校に滑り込むことができました」

「どこだい?」

「クマタカです」

「ほぉ~体育系の顔してる割には頭良いんだね」

『シレっと酷い事言うな・・・』
「よく言われます・・・ 話は変わりますが、生活用品揃えたいんですけど
 その手のお店って近くにありますか」

「近くも何も、ここから500メートルで生活用品はすべて揃うよ」
 
「んじゃ、登録までの間、買い物済ませてきます」

「はい いってらっしゃい」


 主人にコーヒーのお礼を言うと、各お店を回り考えていたものを
買い揃えていった。

 昼前にバイク屋へと再度顔を出すと、納車前の赤いスクーターが
最後の化粧直しを終えていた。
 俺へと引き渡すと、主人が最後に、



「名前は【コヨーテ】だからね!」

『命名されてたんか!お前!?』
「は、、はい コヨーテ?、大事にします・・・」



 主人は、店を出た俺が見えなくなるまで、見送ってくれた・・・





 原付とは言え風を切る感覚は気持ちよく、昼食後はつい近辺を
乗り回してしまった。  

 3時くらいに部屋に戻り、宅急便の到着を待つ間、家具の配置等を
真剣に悩んでいた。

 やがて4時前くらいから次々と宅配業者が訪れ、品物を運び込んできた。
怪我を理由にすべて開梱してもらい、ダンボール等は全て引き取ってもらった。

 ベッドに寝具やチェスト、調理器具や食器に冷蔵庫、パソコンも運び込まれ、
ネット回線も繋がり、いよいよ最後の業者がエアコンを5時過ぎに
持ってきた。

 室外機の配管設置が終わり、夕食の買出しに出かける時間は
6時を回っていた。

 セキュリティを解除し、シートの下からハーフキャップのヘルメットを
取り出すと頭にかぶり、近所の食料品店に出かけた。 

 3日分ほどの食材を買い部屋に戻ると、庫内を設定温度まで
躍起になって冷やそうと、唸っている冷蔵庫に放り込んだ。
 米を研ぎ、炊飯器のスイッチ入れてオカズを考えたが、
面倒くさくなり、ボイルしたウインナーでいいや という事になった。

 炊き上がるのを待つ間シャワーを浴びながら、足りない物がないか
頭をひねっていた。
 結局、追々揃えると言う事で納得して、タオルで身体を拭き上げていると、
シンクの方からピーっと炊飯器が炊き上げの音が発した。



 真新しい卓袱台で食べる、初めての晩餐。


メニューはしょっぱいが、気分は上々だった。


  


 横になると、




『とりあえず、一通り用意は出来たな。明日1日、休息日にしよう・・・』




 


ふと・・・・・・・・・ コヨーテか  面白い店主だったなと思い出しながら、夢に落ちた。








 



[27357] 06話 アルバイト
Name: フミ◆2aa323cc ID:dc4a49f7
Date: 2011/05/01 11:05
 
 1998年5月13日



 プルルッー! プルルッー! ・・・



『・・・今日は1日、休息日だ! ぜってー出ない!!』
「って、誰だよ!?」

『・・・くっそ! 親父から携帯、仕入れたのは軽はずみだった・・・
 自分で首輪、付けちまった・・・』



 非通知設定しているこの電話の番号を知っているのは、間違いなく
裏マーケットの親父一人だけだ。



『おそらく、バイトの依頼だろうな・・・』



プルルッー! プルルッー! プルルッー! プルルッー!!!



『だぁぁぁ! しつけぇ! 着信拒否られてる空気よめよ!!』
「はい! もしもし どちら様!?」

「クククッ 分かってるから中々でなかったんじゃろう?」

「あー 今日はパスだ。 明日からクマタカ生だからな」

「ほう? それじゃ特別に、短期で効率の良いものを選出してやろうかのぅ」

『ハードルが、上がるだけだろ!』
「俺に拒否権はないのかよ!?」

「労働は尊いものじゃよ。 若いうちはシッカリ働かんとな!」

『携帯の件を借りっぱなしにしとくと、これからもずっとこの調子かもな・・・』
「んじゃ今回は特別だ。 だが、短期じゃだめだ。 今日限定の奴な!
 初日からサボりとか、ありえないからな」

「ほぉ~ さらに難度を上げるとは・・・ Mっ気がある様には見えなんだがな」

「もう、いいよ・・・ 用件を聞きに出向く」

「すまんのぅ」

「こっから先を、電波に乗せて話せると思ってる程、日和っちゃいない」

「流石だの。では1時間後、9時丁度に店で待っとるよ」

「了解」



 支度を済ませ、市内中心部の県営の24時間のタワー型の駐輪場に向かう。
そこに【コヨーテ】を預けると、下通りを新市街方面にまったりと歩く。
 9時前5分に裏マーケットに着くと、ガチャリと店内に入る。

 そこには親父と、見知らぬ背広の40代くらいの男が立っていた。
親父がこちらを目線で促し、男に囁いている。
 男が視線をこちらに向け、驚きの表情で親父に囁き返していた。
用件は別として、大方のやり取りは察しが付く。


「ヒソヒソ話の所ですまないが、お話に混ぜてもらっても結構かい?」 

「待っておったよ。 時間前は流石だの。 奥へ行こうか」


 背広の男を伴い、親父が奥の部屋へ歩き出す。 俺はいつもの様に
扉に【 準 備 中 】の看板を掛けると、扉を閉め鍵を掛けた。


「で、この方が今回の雇い主さん?」

「そうじゃ 今回が初依頼で、うちとしてもキッチリこなして、
 常連さんになってもらいたいのでな。 そこでお前さんの出番と言うわけじゃ」

「ふーん・・・  親父がそこまで入れ込むなんて、羽振りが良い様だね」

「コレコレ、そう言う事は依頼人の前で言うもんじゃないぞ。
 それに今のは、遠回りに自惚れにも聞こえて取れるぞ」

「言語力修学中の高校生に、そこまで求めるなよ」

「そうじゃの。 あと2~3年したら、ワシがこんな心配せんでも良くなるかの?」

「親父が店をたためば、明日からでも可能さ」

「仕事はワシの趣味じゃ。楽しみを勝手に取り上げるな」

「あ、、あの・・・・・・  」

「おぉ 済みませんな。ご依頼の件の話を進めましょうかの」

 
 そう言うと親父は、自家発電のスイッチを入れ、ブレイカーを落とし、
外部からの電源を切り、ピンポイントジャマーの電源を入れると
携帯を取り出し、どこかにコールしてジャミングの確認を行った。

 
「さて、では紹介から始めましょうかな?
 ワシはご存知の通り、何でも取り扱う裏マーケットの主人をしておりまする。
 服から本から、武器やクスリ、はたまた人の運命まで扱わさせてもらっとります」

「そしてこちらの壮年の男性が、今回の依頼主じゃ。
 正確に言えば、依頼主の代理の方って事になるのじゃがな」

「そしてこの少年が、今回の仕事人じゃ。
 若いが、良い仕事をする」


 3人共がそれぞれ目を合わせ、会釈をしてテーブルに付いた。


「さて仕事の詳細を伺うとしましょうかの」


 仲介人と依頼人の交渉場に、仕事人を混ぜるのは異例だが、
この親父独特の交渉術らしい。
 
 仲介人からの口答だけでは、知り得る事の出来ない依頼主の状況を、
依頼人のその表情、口調からも仕事人に伝える為だ。


「は、、はい では現状から話させてもらいます。
 私の名前を含め、依頼主の名前は申し訳ありませんが、明かせません。
 これから依頼内容をお話する上で、出てくるので最初に申しておきますが、
 軍関係者という事だけはお伝えしておきます」

「ほぅ」
「へぇ~」

「自然休戦期に入る前の八代開戦において、日本自衛軍は対幻獣においての
 防衛戦に人類初の勝利を挙げました」


 そこまで話して男は言葉を止め、改めて周りを見渡し、親父を見る。


「大丈夫ですじゃ。 ピンスポットのジャミングを行っとりますから、
 遠隔カメラや盗聴器はもちろん、携帯電話の電波すらこの部屋から
 半径15メートルを無事に通り抜けることは不可能ですじゃ。
 壁は厚さ20センチのコンクリート2枚の間に防音材を挟み、
 直震での盗聴も無理。外部電源も全てシャットアウトしておるので、
 待機型の録音盗聴も不可能にしておりますのじゃ。
 安心して依頼を話されて、肩の重責を下ろされるがよかろう」

『流石に依頼主の、心理を読み尽くした設備と話術だな・・・』
 

男は、ふぅっと一息つくと続きを語りだした。


「今、お話した勝利というのは、巷では人類の大勝利という風になっていますが、
 実際は、【ギリギリのところで、休戦期に入った為に、持ち堪えれた】
 と言う表現が正確なのです」

「ここまでは評論家の間でも言われている事ですので、さして目新しい
 事ではないと思いますが、問題はここからです」

「陸自40万の兵力の内、30万が今回の開戦で死傷し、戦力外となりました。
 この内、来年の開戦期に復帰できる数が20万です。
 そこで現内閣が仮案として打ち出しているのが、14歳から17歳までの
 学生10万人の学徒徴兵案です」

「この学徒徴兵を来年1月に発表し、全国から募り3月の開戦に間に合う様に
 訓練して、この熊本に配置する方針です。
 当然、武器装備は自衛軍と変わらないでしょうが、錬度の違いが
 明白なのは上層部も理解しているらしく、肉の壁程度としか認識していません」

「それを踏まえた上で【熊本要塞】として防衛するのですが、万が一
 その熊本要塞を放棄する際、学兵を殿軍とする事を提案している者がいるのです。
 依頼はこの【学徒殿軍案】を推している人物の暗殺です」

『ほぅ・・・言葉を濁さずハッキリ【暗殺】と言い切ったな・・・』
「は~ぃ 質問いいかな?」

「どうぞ」

「提案者1人消して、無くなるもんなの?」

「今のところ、騒いでいるのは提案者と、その取り巻き達5人程です。
 取り巻き達もただの腰巾着ですので、担ぐ御輿がなければおとなしくなるでしょう。
 非人道的な発案なのは取り巻き達も心得ているようですが、
 一度声に出してしまった以上、立場上引けない様な感じですね」

「非人道的という言葉が聞こえたが、
 学徒徴収や熊本配属は、非人道的じゃないのか?」

「申し訳ありません。学徒徴収に関しては現状の軍の戦力を顧みると、
 若い第6世代に加勢して貰うしか方法が無いのです。
 熊本配属にしては、内地の安全な所にいる軍の上層部がデータ上からの
 攻勢に比べ、拠点防衛は比較的に錬度の差が出にくいと事から
 熊本要塞への配属が促されています。
 非常に言い難いのですが、軍とは兵の命の効率性を考える組織なのです」

「で、撤退時に置き去りは可愛そうだから、それはやめよう・・・と?」

「その通りです」

「気に入らないね・・・ あんた、今の本心じゃないだろ?」

「そ、、そんな・・・」

「いいよ、分かるよ。 今、話した情報の大概は真実だろうが、要は
 その提案者とやらが依頼主にとって、邪魔か気に食わないから、
 屁理屈こねての暗殺依頼だろ?」

「い、、いぇ・・・」

「どの道、徴収と配属は可決予定なんだろ?」

「・・・はい」

「殿軍の件はどうなんだ? 真実か?」

「はい・・・ 勿論それも真実です。 だから事が真実味を帯びて
 大きくなる前に潰しておきたいのです」

「・・・親父、どう見る?」

「・・・そうさな・・・ ま、本命はボウヤが言った通りだろうな。
 しかし、今回の件を片付けて置けば学生達が、無駄に命を散らす確立も
 下がるのは間違いないと思うがの・・・」
 
「ほぅ 孫の世代が急に可愛くなったか?似合わねぇぞ」

「商売相手は、孫世代が多いからのぅ」

「んじゃ受けていいんだな?」

「仕事人はボウヤなんだ。 納得できれば受ければいい」

「んじゃ、報酬次第だ。 いくらだ?」

「仲介料・仕事料、合わせて5000万円で受けて頂けませんか?」

「じゃ俺が1億5000、親父に5000、合わせて2億で手を打とう」

「そ、、そんな・・・」

「おぉ~どうした、ボウヤ? 随分と安売りしとるのぉ」

「まぁ全部が、他人事じゃないんでな。
 それに、先日初めて【大サービス】って言うもんを、誰かさんに
 施してもらって、受け取る側の嬉しさに気付いたのさ」

「ほぉ 少し大人になったと言う訳じゃな。 爺ィジは嬉しいぞ」

「あんたの孫にゃ、なりたくねぇ・・・」



「それで、どうしますかな?」

「2億は高すぎます。せめて合わせて1億では?」

「じゃ、依頼主に言っておきな。勘違いしてる様だが、同じネタなら
 今まで3億頂いていた。
 どんな極悪人か知らねぇが、自分の利権の為に人様の命を扱うんだ。
 5000からいきなり1億に許容範囲を上げれたのも、
 想定の限度額はもっと上なんだろ?
 ケチな小細工して、小遣い増やそうとか余計な知恵使うんじゃねぇよ!」

「・・・・・・ わ、、分かりました。ですが、2億は一存では無理です。
 1度、お時間を頂けませんか?」

「あー 無理だ。 俺、明日からガッコなんよ」

「し、、しかし・・・」

「この部屋から出る時に、依頼せずに出たと仮定しよう。
 内容を知った俺等は、あんた等から狙われる事になるだろう。
 それを踏まえた俺等は、どんな行動を取ると思う?」

「そ、、それは・・・」

「そう! おそらく今あんたが考えた中の、最悪のシナリオだ。
 この情報はあっという間に熊本中はおろか、中央にまで知れ渡るだろう。
 あんたは今、自分の素性は知れてないと思っている様だが、
 この店に来た時点で、そのリングは遠隔解析されて正体は分かってる」

「バ、、バカな!?」

「中央軍指令部所属・・・、この先も聞くかの?」

「い、、いや 結構だ・・・」

「さっき、あんた等が言った様に、軍では効率の良い命の使い方ってのを
 考えてるから、俺等の様に自分の命を常にどうやって護るか?って
 考えるてる感覚が分かんねぇんだろうな」

「俺等は臆病だぜ」

「だからこそ常に、最悪を想定して行動する。
 親父が俺をここに読んだ時点で、俺等に負けは無い」



「それで、どうしますかな?」

「さ、先程言った様に2億を一存では無理です」

「正直な想定額は、いくらだったんだい?」

「い、、1億5000でした・・・・・・」

「結果論だが、最初からその額を提示すれば、俺も折れてたかもなぁ
 仕方ないな・・・」

「えっ では?」

「甘えるんじゃねぇよ  残り5000はあんたが、自腹切れよ!
 嫌なら帰って、事後報告で飼い主を説得してみな。
 出来る出来ないは、俺の知った事じゃない!
 あんたに、その【覚悟】があるかどうか?だ。」




「・・・・・・・・・  分かりました。依頼します」



 
「では、指定の口座に前金で2億、振り込んで下され。
 確認出来次第、此方は仕事に移らせてもらいます。
 勿論仕事が失敗した際は、全額返金しますぞ」

「腹を括った以上、こちらも迅速に対応します」



 そう言葉を残すと男は、封筒を差し出した。
中にはターゲットとなる人物の名前、住所、スケジュールや
護衛情報が入っていた。
男は一礼をして、店を足早に後にした。
親父は便箋に目を通し、灰皿の上で火を付けて処分した。


「親父 この仕事、今日中に帰ってこれるのか?」

「納得して返事したのはボウヤじゃ。
 物理的には可能だから、ボウヤの頑張り次第じゃろ?」



『長い1日になりそうだ・・・』



 1時間後、熊本発成田の国内線に乗っていた。
11時に東京に着くと、親父の知り合いの同業者の店に向かった。
スケジュールと護衛状況から、実行は19:00
送迎車は防弾の可能性が高いが、その辺とかは何とかなる。
要は事後の逃走経路である。

 流石に親父が信頼しているだけあって、店の店主は
裏道はおろか、一方通行の時間帯、はたまた下水路への
侵入可能地点まで、詳細にアドバイスしてくれた。

 下見を終えて18:00に再度来店し、必要な装備を揃える。
18:50に襲撃点に向かう。
19:00ジャスト 目標確認。
護衛の数が予定より1人多い 計3人。
車のドアが開く瞬間を見計らい、スタスタと近づき


「お疲れさん、給料分仕事してる? 試してやろうか?」


 不意に護衛に話しかけ、口を塞ぎ喉を掻き切った。

 次手で運転席のドアを開けた瞬間、銃口が此方を向いた。
距離を詰め、左手のナイフで銃を持つ手首を払うと、
右手で車のキーを抜き、投げ捨てた。
 左手は、払った返しで頚動脈と喉を薙いだ。

 残ったもう一人の護衛は、慌てて逃げる目標の盾になる様に
立ちはだかってきたが、一瞬遅く俺の左手から放たれたナイフは
吸い込まれる様に目標の後頭部に突き立った。

 ドサリと崩れ倒れる目標から、目の前の護衛に視線を移す。
ナイフを取り出し右手に持ち、

「雇用主はもう居ないぜ」

「そっちもだろうが、こっちも信用商売なんだよ!」

「考え方は嫌いじゃないけど、見る目ないと長生きできないよ」


 そう言うと、左手を目の前に突き出しフェイントにして、
ナイフで右下から頚動脈を薙ぐと見せかけ、相手の左膝に
前蹴りを入れた。
 崩れ落ちる隙に、返しで左上から頚動脈を薙ぎ、喉を掻き切った。

 倒れている目標に近づき、死亡を確認した後、仰向けにして
肋骨を擦り抜ける様に、ナイフを横にして再度心臓に刃を立てた。

 
『ミッションコンプリート!』


 心の中で自分自身にそう告げると、闇に中に向かって走った。
中々サイレンが聞こえない。2km程距離を稼ぎ、駅のトイレで
着替えていた頃、ようやく救急車とパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 何事も無く装備を揃えた店まで帰り着くと店主が、


「首尾は?」

「上々!」

「もう帰るのかい?」

「明日ガッコなんで」

「そりゃ大変だ 遅刻しない様にな」

「んじゃ、請求書は親父に!」

「分かってるよ」


 9時の成田発熊本に乗り、タクシーで裏マーケットに向かった。
着いたのは11時過ぎだった。
律儀にも店を開けて親父は待っていてくれた。


「ただいま・・・」

「おぅ おかえり! ニュースでやってるぞ!」

「・・・そうか」

「報酬は明日、振り込んどくからな」

「んじゃ帰るわ・・・」

「もうか?何しに来たんじゃ?」

「顔出さないと、ずっと店開けていつも待ってるだろ?」

「そうだったかいの?」

「とうとう認知症か?」

「そうなったら楽なのかものぅ」

「頑張りすぎんなよ・・・」

「お互いにの」


 店を出て県営駐輪場に向かって歩き始めると、店の看板の光が落ちた。







『ほらな・・・ やっぱ待ってやがった』





 
 ・・・ふっと笑顔が零れた。 




   



[27357] 07話 初登校
Name: フミ◆2aa323cc ID:dc4a49f7
Date: 2015/01/27 23:34

 1998年5月14日





 AM6時半・・・ 誰からも起こされる事無くパチリと目が覚めた。


昨日のハードな1日の翌日だと言うのに、妙なウキウキ感でソワソワしている。
食パンを2枚、オーブントースターで焼く間に、コーヒーを炒れる。
 サクサクっと朝食を済ませると、言われた様にA3サイズのバッグに
ノートを詰め込む。
 
 
 クローゼットを開けて制服を取り出し、着替えてみる。
立ち鏡の前で、何度も自分の姿を確認して見る。
 

 
『ま、そこらにいる高校生だな・・・』



 違和感をあまり感じない事に少し安心して、1度上着を脱ぐ。
洗面台に向かうとジェルを少量手に取り、髪全体に伸ばす。
 手櫛で纏めると、ドライヤーでざっくりと乾かした。



『ん、いい感じ!』



 7時30分、バッグを手に取り学校へと歩いて向かった。
学校までは、距離にして大体1Kmくらいだろうか?
時間にして、10分ちょいで着けた。

 校門に知った顔の人間が立っていた。



「・・・お早うございます」

「おぅ! 今日が初登校だったな! 待っていたぞ!」

『ロックオン、解けてないのかよ・・・」
「そ、、それは気に掛けて貰ってすいません」

「気にするな! ささっ案内するぞ!」

「ど、、どうも・・・」



 かなりの無理矢理感を伴いながら、案内と言うよりも半ば連行と言う表現を、
周囲に漂わせながら職員室に向かった。



「あれから3日しか経っていないが、足の方は随分と良いみたいだな?」

「リハビリ、頑張りましたから・・・」

「ほぉ 是非ご教授願いたいものだな」

『無理無理! 教えても出来ないし、まず信じないでしょ!』
「ま、、まぁもう治り掛けでしたし、足は傷が綺麗でしたからね」

「他は何処に怪我してるんだ?」

「左前腕と頭です」

「まぁ無事で何よりだったな!  っと着いたぞ。ここが職員室だ。
 この隣が校長室になっている」

「わざわざ、ありがとうございました」

「さっきも言ったが、気にするな! 何かあったら言って来い」

「はい」

「では自分は正門にもどる。 遅刻者共を取り締まらんとな!」

「・・・・・・」




 職員室のドアを開けて、近くにいた教師に声を掛ける。


「お早うございます。今日から編入の橘ですが、八千代先生はいらっしゃいますか?」

「あら、私が八千代よ。 君が橘君ね?」

「はい、お世話になります。 この後どうすれば良いでしょう?」

「まずは貴方のクラスに、顔合わせの為にHRだけでも顔を出しましょう。
 その後、校長先生に挨拶に行って、最後に学年主任の先生と私から
 校則の説明や、校内の案内、教科書類の受け渡しをします」

「はい」

「大体の事は説明しますが、詳しい事はクラスメートにでも聞いて下さいね。
 事が終わり次第・・・、そうね4時限目の途中位からだけど、授業に
 参加して下さい。
 4時限目はちょうど日本史で、井上先生ですよ☆」

『マジかよっ!』
「知ってる先生ですので、ありがたいです」

「井上先生も職員室で、活きの良いのが来たっ!って仰ってましたよ」

「そ、、そうですか・・・」





 そんな他愛もない話をしながら、3階まで上ると1-Aの前で立ち止まった。


「失礼します。 本日より登校予定の【橘 勝輝】君を案内してきました。
 クラスの皆さんに紹介をお願いします」

「お待ちしてました。中へどうぞ」



 そう促されて、教室の中へ入る。
整然と並べられた机から、同年代の少年少女の痛い程の視線を感じる。
 ざっと見渡して、男女の割合は50:50くらいだ。
1クラス、35人程度か?



「橘君、挨拶をお願いします」


 黒板に、【 橘 勝輝 】と大きく書くと、



「タチバナ カツキです。 八工から転校して来ました。
 熊工に編入する予定が、口答での間違いから熊高(クマタカ)に
 滑り込む事が出来ました」

「何分、躾が行き届いてないので、ざっくばらんに付き合って貰えると
 ありがたいです。
 呼ぶ時は【橘】、もしくは【勝輝】の呼び捨てで宜しくです」


「はい、ありがとう。 私は担任の畠山です。理Ⅰを担当してます」

「畠山先生、説明等で午前中は授業に出られませんが、4時限目の途中にでも
 合流出来る様に取り計らいますので、HRではこの辺で・・・」

「そうですね・・・分かりました。5時限目がちょうど理Ⅰなので、その時間で
 今からの続きをやりたいと思います。
 案内の方、宜しくお願いします、八千代先生」

「はい、分かりました。 では一先ず失礼しましょう」






 教室を後にすると1-Aからザワッとした、どよめきが聞こえてきた。
そのまま校長室に向かい、教育理念とか小難しい話を聞かされた後、
校長室を出て、校内の施設を案内してもらい、教科書類を受け取ると
校則の話になった。


「我が校は公立校であるが故に、校則自体は非常に厳しいが
 校風は見て貰えれば分かる通り、非常に自由な雰囲気を持っている」

「そうですね 下見に来た時もそう感じました」

「あの井上先生すらも、君の・・・橘君の制服を見ても、何のお咎めも
 無しだったろう?
 我が校は、学力が高い事も勿論誇りとしているが、それよりも
 自己責任という信念に基づき生徒を指導している」

「自分で考え、自分の行動に責任を持つ。これを常にサポートするのが
 我々教師の職務だと思っている。
 故に髪型等の規制もないし、通学手段や恋愛においても束縛はしない」

「すなわち校則とはあくまで任意のものであり、義務ではないと言う事だ。
 簡単だが以上を理解してれば、我が校では恙無く暮らせる。
 分からない時には、校則に則って行動すれば保障される程度に考えてくれ」

「分かりました。 良い校風なのですぐに馴染めそうです」

「では時間も圧してきてるな・・・教室に戻ろうか」

「はい」




 4時限目が終わろうとする10分前に教室に戻った。
ガラリとドアを開け、学年主任は今から合流の旨を伝えて出て行った。


「4時限目も時間がないし、自己紹介は畠山先生が5時限目に
 やるといってたから、特別やる事はないな。
 ちなみに先生と橘は初対面じゃない。
 葉桜の有効利用について語り合った仲だ!」

『どんだけ、脳内変換率がアバウトなんだよ!』
「そ、、そうでしたっけ?」

「一人ずつ質問を聞くというのも、面倒くさいから先生が代表して
 良くあるQ&Aのクエスチョン係をやってやろう!」

『面倒くさがりが日本史、務まんのか!?」
「お手柔らかな奴をお願いします・・・」

「まず、そうだな・・・軽くジャブで・・・好きな女子のタイプは?」

 
 にわかに教室がざわめく!


『いきなり直球かよっ!』
「えっー! もうそこですか?」

「うむ! 男女共学の我が校にとっては、非常に重要なベクトルを
 占めとる。 おそらく気にしておる女子も何人か居るだろうしな」

「で、、では・・・ 性格は信念がシッカリしつつも、臨機応変の効く
 柔軟性のある娘がいいですね。 いわゆるツンデレって感じです。
 あんまり外観の方は気にしませんが、ロングよりもショートが
 好きです。でもロングを束ねた、いわゆるポニテとかツインテールも
 結構グッと来ますね。
 体型はあんまりスレンダーよりも普通の娘が好みです」

「ほぅ! 嫌がった割には良く喋ったな。 では、次にいくか!」


  キーンコーンカーンコーン!


「むっ!? 時間とは名残惜しいな! これからが本番だったのにな!」

『良くあるQ&Aって、好きなタイプだけしか聞いてねぇじゃねぇか!?』
「充分俺の人柄が伝わったし、良いクエスチョンだったと思います・・・」

「そうか! んむ、自分でもそう思っていたところだ。
 では失礼しよう。 ではみんな、セィーユゥーネクストウィーク!!!」

『なんで日本史の締めが英語なん!? おまけに妙にネイティヴだし・・・』 
「・・・・・・・・・ 」

 

 ピシャリとドアを閉め、去っていった・・・
ボー然と立ち尽くす俺・・・
『ちょ・・・待ってくれよ! 自分の机すらまだ分かってねぇよ!』


「橘? でいいか?俺、斉藤ってんだけど」

「あぁいいよ 俺も斉藤でいいか?」

「勿論!」

「声掛けてもらって助かったよ。 俺の席、知ってる?」

「いぁ~どうだろうな・・・まだ用意してないんじゃないのかね?
 結構、ハタケさんってまったりだからなぁ~」

「そか・・・」

「飯、どうすんだ? 持って来てないんだろ?」

「学食、あるらしいから今から行こうかと思ってるんだが・・・」

「初めては心細いだろ? 付き合ってやるよ」

「サンキュ 恩に着る」



 2人でスタスタと学食に向かって歩き出すと、男女数人ずつが
ストーカーの様に連れ立って席を立った。
 
 流石に学食だけあって、質より量と言った感じだ。
しかしカレーが200円、かけうどん・そばなら150円のプライスは
高校生にとっても嬉しい価格だ。

 5時限目が始まり全員の簡単な自己紹介の後、座談会に入る。
結構ノリ自体は軽いクラスらしく、一言二言だけでも
全員と喋る事が出来た。

 6時限目と7時限目は普通に授業を受けて、放課後になると
何人かの奴等から部活の勧誘を受けたが、家の事情を話し丁重に断った。

 帰り際に、斉藤が喋りかけてきて、


「帰る途中か、帰ってからでもいいから、ゲーセン行かね?」

『こいつなりの善意なんだろうな・・・』
「いいよ でも小銭しか持って来てないから、帰って着替えて来るよ」

「んじゃ、水前寺駅の前のゲーセンで!」

「OK」


 同年代と遊ぶ事自体初めての経験だ。 服を選ぶのにも緊張したくらいだ。 
散々迷って、無難にゆっくり目のジーンズと麻シャツで出掛ける事にした。

 
『待たせちゃ、悪いな・・・』


コヨーテに跨り、ゲーセンに急いだ。




「おぉ! 橘もスクーター持ってたんかよ!?」

「一人暮らしだからな、必須アイテムだ。誕生日が早くて良かったよ」

「俺も持ってるぜぇ! 誕生日が4月20日で、免許とスクーター
 GWに間に合う様に必死だったぜ!」

「俺もこいつ、手に入れたのはつい2~3日前さ」

「しかし、これ日本製か? なんかすげーな・・・ フロントなんか
 フォークタイプじゃなくて、プロアームか・・・ 前後ディスクとか
 ラジエターって事は水冷? なんて言う名前のスクーターだ!これ?」

「買った店主に言わせると、コヨーテって言うらしい・・・」

「聞いた事ねぇなぁ・・・フルカスタムっぽいな」

『これって耐久性とか云々、交換部品あるのか・・・?』
「あぁ、俗に言う魔改造って奴だろ? 店主が逝ってた・・・」

「こりゃすげぇなぁ・・・造り手の愛を感じるぜ!
 いい値段、したろ?」

「まぁ、、なんだ・・・ 色々話し込んでたら10万でくれた」

「ぐはっ! これが10万かよ!?
 見えてる部分だけの、部品代だけでも100万超えてるぞ」

「ま、いわゆる逆玉って言う奴だ」

「しかし、俺のも愛情じゃ負けちゃいないぜ!
 小遣い少ねーから、まだプーリーぐらいしか変えてないけど、
 2ストエンジンだから、75くらいはでるぜー!
 これから俺の手でチューンしてくぜ!」

『ほぅ・・・ こいつも末は、あの店主みたいなマッドエンジニアになりそうだな』
「自分で好みに仕上げていくってのも、いい感じだよな?」

「そうだろ!? そうだろ!? 分かってるねぇ!」

「とりあえず、ゲーセン入ろうぜ。 本末転倒になっちまう」

「だな!」




 1時間程、ゲームに興じていると不意にポケットベルが
バイブレーションを始めた。 セキュリティが異変を感知した!?


「おい 斉藤! バイクに戻るぞ! セキュリティーが鳴ってる!」

「えっ? セ、、セキュ・・リティ? そんなん付けてるの?」

「買った店主が付けてくれてたんだよ! とりあえず行くぞ!」



 まだプレイ中のゲームをほったらかし、筐体からダッシュで駐輪場へ向かった。
するとそこにはガラの悪そうな4人組が、ロックされたハンドルを
ガシャガシャしたり、キー穴を覗き込んだりしていた。


「おい、橘 あれ北校の制服だ。 最近ここ近辺でのさばってて、
うちの生徒も何人かカツアゲとか食らってる」

「ほぉ~ んで調子に乗って、俺の【嫁】にまで手を出していると?」

「ヨ、、嫁???」



 そんな会話をしながらサクサクと近づいていくと、4人と目が合った。



「ボウヤ達、良いスクーターに乗ってるねぇ」

「何か用かい?」

「俺等、ちょっとマチまで行きたいんだけど、足代が無くてねぇ
 んで相談なんだけど、このスクーターか電車代とお小遣い、貸してくんない?」


 斉藤のガチガチとした歯の音が微かに聞こえてくる。


『まぁ腐ってもクマタカ生だもんなぁ・・・ 場慣れしてる訳無いか・・・』
「俺はボランティア精神は、持ち合わせていないんだが?」

「はっ? 何訳ワカンネー事言ってんの? さっさと鍵か財布、だせや!」

「親は躾けてくれなかったの?」

「てめぇ! 俺を誰だと思ってる? 北校の竹田だぞ!!!」

「すまんね! 俺今日、クマタカに転入したばっかで、そんな啖呵切られても
 三流のゴミという事しか分からんのよ! わかる?」

「じゃあ身体に教えてやんよ!!」

「ボランティアって意味、ちったぁ考えたか? ゴミ拾いの事だよ!
 俺の主義じゃねぇんだがな・・・ 火の粉は払わんとね・・・」


 大振りのパンチをスイっと避けて、鳩尾に肘を入れる。
竹田とやらは悶絶しながらアスファルトの上をのたうち回っていた。
それを見て、他の3人も次々と殴り掛かって来たが、遠慮なく
吹っ飛ばしてやった。


『昨日の今日だから、アレに比べると緊張感の欠片もねぇな・・・』
「どうした? 北校の竹田君?だっけ?
 もうちょっと頑張らないと、卒業まで嘲笑の的だぞ!」

「ヴるぜぇ! 殺ってやんよ!!!」


 そう言うと、バタフライナイフを取り出し、こちらに向けてきた。


「おゃおゃ そんな物騒な物は持ってると、オマワリさんに捕まっちゃうぞ!」

「へへっ ビビッたんか!?」

「いゃいゃ そういう物を見ちゃうとボクちゃん、戦闘力が上がるタイプでね!
 よくMっ気がないか?って勘違いされちゃうんだよね☆」

「はぁ?」

「このまま、食べても美味しそうだけど・・・これから先の事を考えて
 ボランティアしてるんだから、竹田君にも同じ気持ちを教えてあげるね!」


 そう言うと、右足の裾を引き上げ、スラリと刃渡り250mmの
ソードブレイカーを取り出す。


「先に言っとくよ。 このナイフの名前はソードブレイカー。
 名前の通り、武器破壊に特化したナイフだ。
 材質はクロム・ハーヴェイ鋼を使用している。
 竹田君の持ってる、そのオモチャみたいなバタフライナイフの
 刃くらいは、バターを掬い取る様にこそぎ取れるよ。
 勿論、人はナイフよりも柔らかい訳だから、そこは推して知るべしだよね」


 竹田は武器としての、圧倒的な存在感を感じ取り、動けないでいる。
肉食動物に見下ろされ、走れなくなった草食動物・・・
捕食者の気まぐれか、食欲の喪失でも起こらない限り、自分の死は免れない。

 自分の生存の可能性を高める術を、一切持ち得ない状況に絶望する。


「どうだい? 竹田クン 少しは弱者の気持ちが理解ったかい?」


 そう言うとおもむろに、バタフライナイフを握っている手首を掴むと、
ソードブレイカーでその刃を折った。


「竹田クン、いいかい? 今後うちのガッコの者に手ぇだしたら、
 もっとすごいお仕置きしてあげるよ!
 
 大事な事だから2回言うね! 次見かけたら、マジ殺すよ☆」


 

 幸い、2台のスクーターには傷もなく無事の様だ。


「お~ぃ 斉藤、シラケたんで今日はもう帰ろうぜ~」

「お、、おぅ! しかし、ちょと待て! 話、色々聞かせろよ!」

「えぇ~メンドイしぃ~ 腹へったしぃ~」

「飯? 飯か!? ファミレスで奢ってやるから、食っていこうぜ!」

「ん~ 幾らまでだ?」

「800円で勘弁してくれっ!」

「OK のった!」



 いつものファミレスに行くと、いつものテーブルに座る。

しばらくすると、

 カラァ~ン!

「いらっっしゃいませ~ 何名様でしょう?」

「6人です。 あ、そこの連れです!」

「では、テーブルお付けしますね~」



 ウェイトレスがテーブルをくっつけて来る。



「んぁ?」

「お連れ様がいらっしゃいました」

「連れ???」



 振り向くとそこには、チラッと見掛けた顔の男女6人がいた。



「橘君、強いねー!
「マジ強ぇえよ!
「あんなの初めて!
「びっくりしたぜ! めっちゃ喧嘩強ぇのな!
「どこで鍛えたのー?
「ホント感激! 惚れちゃいそう!



「ど、、どっから見てた・・・?」 



「えーーーっと、・・・最初から☆」

「この面子で、ゲーセン行ったら斉藤君のスクーターに、あいつ等が
 群がってるのが見えてね。
 で、教えなきゃって思ってたら、2人が走って出てきて、やばくなったら
 警察呼ばなきゃ!って見張ってたの!」

「そしたらいきなり大立ち回りでしょ!? 
 おまけにビシッと締めちゃってさ! 超クールって感じ!!!?」

「ってか橘君、あんなナイフとかいつも持ち歩いてるの?

「前が八代に住んでたからな。おまけにこっちに来て襲われて
 37針だろ? そりゃ護身具の一つも持ちたくなるわ!」

「「「そうなんだ~」」」

「喧嘩も、めっちゃ慣れてる感じだよねー?」

「擁護施設って言っても、結構派閥とかあってさ、結構喧嘩はしてたからな」

「にしても、強いよねー! 4人だよ! 
 最後には、【次見かけたら、マジ殺すよ☆】だって!? マジカッコイーyo!」

「とりあえず、飯食いに来たわけだから、注文しようぜ。
 店員さんも困ってる・・・」

「そだな! 各自注文しようぜ! 言っとくが割り勘だからな!」

「えぇ~斉藤君の奢りじゃないの~?」

「んなわきゃ、ねぇだろ!」


 次々と料理が運ばれて来て、更に話が盛り上がった。


「ねね! 勝輝君、デザート食べない?奢ったげる!」

「ピィィー! はいそこー! トラベリング!! 勝輝君だぁ?
 猫ってるんじゃねーよーそーこー!」





「あーーみんな! 今日の事はあんまり言っちゃだめだぜ!」

「「「なんでー?」」」

「校内で余計な武勇伝とか広まると、先輩達に睨まれちゃうだろ?」

「「「そかなー?」」」

「ガッコくらいまったり暮らしたいんだよ!」

「「「そだねー!」」」




 
「じゃ、そう言う事で宜しく!」

 




 人生初の学校生活初日は、少々波乱に満ちながらも上々の滑り出しを見せた。




 







[27357] 08話 再開
Name: フミ◆2aa323cc ID:dc4a49f7
Date: 2011/05/03 07:21
 
 1998年5月下旬





 ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・



『朝飯前から、10キロは流石に効くなぁ・・・』


 
 起床6時、そこから江津湖の遊歩道で10キロを45分で走る。
6時45分から腹筋100、腕立て100をした後、栄養士に
カリキュラムを組んで貰ったメニューで、朝食を摂る。

 1月に学徒徴兵がほぼ確定している事を知っている身としては、
出来うる事はやっておきたいのだ。


『最近のプロテインって、中々美味いな・・・』


 それとなく侘しくなってくる気持ちを振り払う様に、ポジティブに考える。 

 7時50分に、コヨーテに乗り登校する。 転校初日から盗難未遂に
あった経験から、たった1kmの距離ではあるが、バイク通学にして
校内の駐輪場に置いといた方が安心できるのだ。

 授業自体の難易度としては、想定していた通りでそこまで問題では無かった。
同じ様な教育を、訓練と言う名目で過去に受けた経験があったからだ。






 学校生活を、毎日ヌル~く過ごしながらも充実感を得ていた。
因縁を吹っかけて来る上級生を講堂裏でフルボッコしたり、
食堂のおばちゃんが顔を覚えてくれ、たまにカレー大盛りにしてくれるとか、
 ゲーセンで転がした馬鹿が、またうちにちょっかい出したと聞いて、
北校に有志4人で殴り込んだりもした。 
 
 変り種では、交際を求める告白を受けるなんてのもあった。
 【原付ツーリング同好会】なる物を斉藤と立ち上げ、阿蘇・天草等に
ツーリングに出掛けたりもした。



 もう出来なくなると分かっているから、今やれる事は全てやっておこうと思った。











 そして1999年、1月5日


 徴兵年齢に達していなかった14歳から17歳までの少年少女達を学兵として
強制召集する旨が通達された。
 勿論、全ての学兵が熊本配属という訳ではない。

 戦争後の生活保障と去年の勝利を餌に、召集された者の中から希望を募り、
熊本に10万の戦力として配置するのだ。

 当然の様にうちの高校にも、お達しは来た。
ほぼ全ての生徒は熊本には残らないという事だ。


『ま、ちょっと考えれば分かる事だ。去年一番近くで見てれば尚の事だ』


 希望してやって来る者の大半は、去年の辛勝を政府のプロパガンダによって
戦局を曲解し、楽観視してくる者か、または真逆の者だ。
 

『俺もそろそろ、就職先決めるとするか・・・』


 コヨーテに乗り、トコトコと裏マーケットに出向いた。






「久しぶりじゃのう」 

「親父、ここのネットからで、どの変まで逆探されるもんなんだ?」

「どうしてじゃ?やぶからぼうに・・・」

「いゃ~昔の知り合いと話ししたくてさ、、、」

「そうか・・・」

「そろそろ、就活始めようかなと・・・ ちと早ぇけどな」

「逆探云々より、どこまで防御壁を突破できるが肝なんじゃろ?」

「ま、そう言うこったな」

「逆探に関しては、ここの割り出しは不可能じゃ。
 防御壁突破に関しては、マシン的には問題ない・・・ だろうが、
 後はハッカーの腕次第じゃ」

「1人、呼んでるんだがここに通して良いか?」

「奴か?」

「あぁ 親父のお墨付きだけあって腕は良かったぜ」

「よいじゃろう」


 
 携帯で外に待たせていた井田を呼び込む。



「待たせてすまなんだな」

「いえ とんでもない。 
 あ、、此方の方が、闇王ですね。 お初にお目にかかります。
 こんな近くに、いらっしゃったとは思いもよりませんでした」

「・・・仕事の話に入って良いか?」

「すいません! ・・・どうぞ」

「今回はちとハードルが高いぞ」

「と、言われますと?」

「多目的結晶同士での、直信での通話だ」

「それでしたら・・・」

「要はそこじゃない! 相手に辿り着くまで、およそ25の防御壁がある。その突破だ」

「25!? 首相クラスでも15程なのに・・・いったい相手は誰なんですか?」

「九州学生軍生徒会連合司令部参謀長 準竜師 芝村勝吏だ」

「な、、あの方とっ!?」
「ボウヤ、 奴と知り合いなのか!?」

「ほぅ 2人共、なにかしらの繋がりがある様なリアクションだな?」

「いゃ・・・特には・・・」
「ん、、むぅ・・・」

「その辺は敢えて突っ込まねぇよ 井田さんとやら、行けるのかい?行けないのかい?」

「マシンを診ていいですか?」

「構わんよ」



 井田がスペックを確認している間に、親父が茶を注いでくれた。



「やっぱ親父の茶が一番だなぁ ・・・って茶とか、ここでしか飲まないけどな」

「ボウヤ・・・ いや勝輝・・・熊本を出る気か・・・?」

「ん、なんで?」

「どう言う知り合いかは知らんが、熊本配属を回避する為のものじゃろ?」



 俯きながら・・・呟くように語り掛けてきた。



「・・・俺、結構熊本好きだぜ! ダベる奴等も出来たし、恋愛ゴッコってのもさせて貰った。
 幻獣とか居なかったらさ、ホント卒業してさ、仕事してさ、結婚とやらもして、
 家とかも建ててさ、んで子供も居るんだ」

「上が女の子な! 俺の一文字取って【 勝美 】とかね! 
 で、ちょっと間を空けて次が男の子なんだ! 
 こっちも一文字入れて【 優輝 】とかいいね!」

「でも残念な事に俺には親いないからさ、爺さん婆さんが居ないだろ? 
 で俺の人生計画が崩れそうになった時、適任のジジィが居る事に気付く訳だ。
 無愛想でよ! いっつもムスっとしてる訳よ。 でもそのジジィ、めっちゃ
 いい奴でさ。 何日ぶりに会っても、『久しぶり』なんだぜ!」

「昨日、会ったばっかじゃん!って突っ込み入れたくなるのを我慢してる位だぜ!
 だからさ、俺の今の目標はそのジジィが『久しぶり』って言わなくていい様に
 一緒に住んで爺さんの代わりをしてもらう事なんだ。」

「今回は、・・・その目標って言うか夢の為に、俺が何を出来るか考えたアクセスだ。
 つまり熊本を出て行く気は無い!」

「そうか・・・ありがとう・・・」

「だから今回は気合入ってるぜ! だがクールにいくぜ!」

「お前らしいのぉ」



「すいません チェック終了しました。行けます。
 お話、失礼とは承知で聞いてしまいました。
 必ず、全ての防御壁を貫通させて見せます! 絶対にお連れします!」

「おぉ、今日は井田さんがえらく男前に見えるよ。 宜しく頼む!」
 
「端末に結晶をベルトで完全固定して下さい。
 では簡単に説明します。
 まず完全固定の意味は突破中のラインアウトは非常に危険だからです。
 精神にものすごいバックラッシュが来ます。
 勿論、突破時にもある程度の衝撃はありますが、それはこちらの
 プログラムにより、クラッチスルーで避けます」

「また防御壁、10枚を越えた辺りからおそらく迎撃ウィルスが出てきます。
 以前、首相の所に潜り込もうとした時は、12枚目突破から出てきました。
 その時は逃げ切ってなんとか辿り着けましたが、今回は壁の枚数からして
 ウィルスの数も半端では無いと思いますので、こちらも反撃しながら
 進む予定です」

「私が想定している非定常作業数は412です。 大丈夫です行けます!」

「じゃ宜しく」





 パソコンを再起動し、プログラムをスタートさせる。
スゥっと闇に堕ちる様な感触。井田の声が聞こえてきた。





「リンクします。 
 すぐ1次きます・・・突破!
 2次・3次、二重壁です。 躊躇わずに!・・・突破!
 4次・5次・6次 三重壁です! 突破!
 7次・8次・9次・10次 4重壁。大丈夫!重ねただけなら、
 100枚まとめても突破できます。 突破!

「ウィルス確認、早目でしたね。 イージスモードオン
 後ろはイージスに任せ、進みましょう! 11次 12次 突破!
 疲れてませんか?」

「何もしてねぇから、疲れ様がねぇよ」

「大丈夫です。これから先は退屈出来ませんよ! 13次 14次 開けて15次
 15次の向こう側からウィルス感知。
 守りのイージスの裏を掻いた心算でしょうが、このテの輩は・・・」


 頭の中で周りが銀色の紙吹雪で覆われた。


「チャフに弱い! 今のうちに15次まで抜けましょう。
 16次、正面にウィルス1 大きいです。でも大きいだけじゃネ・・・」

『こいつ、この状況を楽しめているのか? 意外に太いな・・・』


 正面から突っ込んだ。プログラムが触れた瞬間にウィルスは塵散りなった。
 

「17、行きます。上下左右の待ち伏せですね。でも足を止めてたら意味がナイ!」


 イージスから4発のミサイルが出て行くイメージ。軌道を自己補正しながら命中。


「18 19 20 三重壁 1枚1枚がかなり厚いです。 ガチンコですよ!
 オーケー 突破!
 残り防御壁数索敵開始!・・・ 残7枚!
 次ウィルス感知、かなり速い動きです。私の腕の見せ所ですね。 除去!
 21 そのまま行けます!  突破!
 後方ウィルス殲滅 迎撃防護壁、起動します。 後からくるウィルスはこれで
 シャットアウトします」

「段々クルものがあるな・・・」

「初めてここまで来て、喋れるだけでもすごい事ですよ!」

「井田さんだって、初体験じゃないのかい?」

「私にとっては想定内の事ですし、あの時叱咤されて鍛えましたからね! プロですよ!」

「こりゃあ、お手当てはずまないとな!」

「期待してますよ!  22 23 来ます。 移動型の壁です」
 
「擦り抜けていったら駄目なん?」

「24との挟撃に遭います。 固定させます! 完了! 22 23 突破!」

「24見えました。ウィルス出ました。 遊撃型14感知 イージスを前面展開
 速いですね・・・ 少し手伝いましょうかね・・・ 殲滅 24 突破!」

「25来ます。 狭いですね。 ウィルス感知! 外からか!?
 ここは細くて長い壁を潜っている間に防御壁ごと潰してしまおうと言う腹ですね」

「そんなに悠長じゃ無理ですね。 そんなにゆっくり通る心算はないです」

「すまんね 1人喋らせちゃって・・・」

「いぇいぇ 雇用主に対しての説明義務とでも思って下さい」

「井田さんの有能さと、俺の先見性に感謝してるよ!」

「オチを付ける辺りは流石ですね。 26見えました。大きい!しかも厚くて重い!
 1枚目の277倍です! 超ガチンコですよ! ウィルス感知なし」

「行きます! 5%・・・10%・・・15%・・・  っ!? ウィルス感知!
 埋め込んでありました。ブービートラップが発動されたと思われます」

「特に何も見えないけど?」

「おそらく時間稼ぎです。 最後の27の前で待ち伏せを食らいます。
 95%・・・抜けます!100%」

「くっ・・・なんだありゃ!? 井田さん何あれ?」

「単純な迎撃ウィルスですよ。・・・ですが人間がずっと敗北してきたパターン。
 数による蹂躙です。 
 ウィルス数索敵開始 ・・・完了 24200感知」

「2、、24000!?」

「流石に辛いですね・・・でも私も何も考えて無い訳じゃないんですよ。
 イージスを6分割し、火力落として全方位警戒!
 ファンネル、24機出します! チャフ全方位! 
 行きますよ!」


2時間半が経った。


「ウィルス24200殲滅! 残ファンネル2 イージス防衛能力75%低下
 正直これから大物が出てきたら、抜ける自信はありません」

「いゃ 井田さん、もう大丈夫だ。壁のゲートが向こう側から開いた。
 ラスボスがこっちを見てニヤニヤしてるよ ・・・」

「確かに一番の大物そうですね・・・ 正直、喋るのも辛いので
 ここでアンカー打って休んでていいですか?

「あぁ ゆっくり休んでてくれ」
 






 27枚目の防御壁を抜けると、良く知った顔の男がいた。




「よお、4年振りか? 元気にしておったか? 【白ウサギ】」
 
「久しぶりだな、 勝吏」

「今はウサギではないのか?」

「御目溢しのお陰で、充実してるよ」

「ほぉ 自覚しておるのか? 今日は遠路はるばるどうした?」

「いゃいゃ 勝吏が九州学生軍生徒会連合司令部参謀長と
 準竜師に就任されたって聞いたんで、お祝いにネ」

「殊勝な事だな、だが嫌いではないぞ。で、今度は何をおねだりに来たのだ?」

「そんな風に言われると、俺が乞食みたいに聞こえるじゃないか?
 ちゃ~んとお返しはしてるでしょ?」

「言われて思い返して見れば、お前には貸しがないな」

「で、話先に進めよう。 暇じゃないんだろ?」

「そうだな。 で、何がほしい?」

「幾つか質問していいか?」

「よいぞ」

「あのオモチャ、俺等が使う事になんの?」

「当然だ」

「熊本だよな?」

「無論」

「んじゃ、お願いをいいか?」

「言ってみよ」

「アレに乗れる部隊に配属してくれ」

「どう言う心情の変化なのだ? あんなに気嫌いしていたではないか?」

「俺にとってはアレに乗ってれば、死ぬ確立が一番低いからネ」

「で、俺のメリットは何かあるのか?」

「またまたぁ~ 分かってるくせに! 俺が手駒になるんよ。
 そんなシラァ~って顔してるけど、内心笑いが止まらん!って顔だぜ」

「クククッ・・・ バレたか? 
 よかろう! 装備面でも優遇されるように実験小隊扱いにしてやる」

「またモルモットかよ?」

「どんな思惑でアレに乗るかは知らんが、経費分くらいは働いて貰わんとな」

「へぃへぃ・・・」

「勘違いするなよ。芝村の駒ではない。芝村勝史の駒だ。
 他芝村には名前はおろか、顔すら知れておらんのだからな」

「おk 辞令はクマタカに送ってくれ」

「分かった。3月配属で送る。 ではな」



 ピッと芝村勝吏の姿が闇に消える。



「相変わらず淡白な奴・・・」







 さて、帰るとするか!

 


「井田さぁ~ん! 起きて~! 帰るよ~!」

「あ~はぃ・・・  上手く行きましたか?」

「お陰様でね! とりあえず帰って飯でも食いましょ!」

「ですね・・・ かなり疲れました・・・」





 パチリと目を開ける。井田もパチリと、ほぼ同時に帰り着いた。






「おぉ~2人共無事帰ってきたのぅ! どうじゃった?」

「バッチリ!」

「そうか・・・ すまんな ワシ等が不甲斐ないばかりに苦労をかけるの・・・」

「その台詞を俺は言いたくないから、熊本に残るんだよ!」

「そうさな・・・!  お主等、腹が減ってるじゃろ? 今日はワシが奢っちゃる!」
 







 さて、3月って事はあと2ヶ月半か・・・

身体の方を仕上げとくか? あと勘も取戻しとかなきゃな・・・


 忙しくなりそうだ・・・
 

 





[27357] 09話 着任
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/06 00:37
 
 1999年3月上旬




 真新しい制服の袖に腕を通し、配属された部隊のある駐屯地へとコヨーテで向かう。

 仰々しく駐屯地などと言っているが、そんな大げさな物ではなく
座学用の教室と整備用の格納庫、そして訓練用のグラウンドを
熊本市内の女子高、尚絅高校に間借りしているのだ。

 通学距離?は今迄とほぼ変わらない。部屋から3分ほどで
尚絅高校に着くと、正門に手作り感満載の立て看板に、


【 5121戦車小隊 臨時第1教室へ 】


と、出ている。とりあえず駐輪場を探し、コヨーテを停める。

 今日が一斉の着任日と言う事もあって、同じ制服を着ている奴が
キョロキョロしながら彷徨っているのを幾度と無く見掛ける。

 尚絅の女子高生を何人か呼び止め、臨時第1教室とやらの
場所を聞き、向かうと2階建てのプレハブ小屋が見えてきた。


『・・・臨時ってもしかして、プレハブって事かよ・・・?』


 コツッコツッコツッ・・・と安っぽい縞鋼板の階段を上り、
1組と名札の掛けてある教室に入る。
 既に5~6人が教室内にいた。


「えっと、5121小隊のパイロット候補ってここでいいのかな?」

「は、、はいっ ここで良いと言う様に聞いております」


 ロングヘアーの巫女装束?を着た女子がドギマギと返答してくれた。
この問答が耳に入ったのか、全員の視線がこちらに向くのが分かった。
 両手をお手上げっぽい感じで挙げて、「まぁまぁまぁ~」と言う風な
ゼスチャーをしながら、教室内へと歩を進めた。

 今が7時50分、辞令の詳細には着任式は省略、8:00より
各部隊詰所にて説明とあったから、もうすぐ部隊長あたりが来て、
部隊説明と、とりあえず今日これからの予定の説明があるだろう。

 


 キーン コーン カーン コーン!



 ガラリと教室の扉が開くと、真っ赤な皮パンに皮ジャケの女が入って来て
教壇に立つ。 それに連れ添う様に、5121小隊の制服を着た
細身で丸眼鏡を掛けた、30前?くらいの男が入って来て教壇の横に立つと、


「全員!起立!!!」


 教室全員がビクリと反応して起立する。


「これより、部隊説明及び本日の日程を伝える。まずは本田先生・・・ 」


 コホンと咳払いをすると、本田先生と呼ばれた女は、


「まず座れ! 楽にしろ!」


 全員が座ると、おもむろに奇声とも言える声で、


「ようこそ!おめぇら! このヌルゥ~い学校へ! 歓迎するぜ!
 俺の名前は本田だ! おめぇらが戦場で1秒でも長く生きる為のスキルを
 教える、言わば神様だ! 絶対服従だ! 異論は認めねぇ! 分かったな!?」

「本田先生・・・」

「安心しろ善行、軽い挨拶だ」

「しかし・・・全員、引いてますが・・・?」

「ちっ・・・めんどくせぇな  善行、後頼むわ」

「はっ!」


 ピッと敬礼をすると、本田はズカズカと教室から出て行った。




「え~ では私から補足がてら、説明の続きをしましょう。
 まず今の本田先生ですが、本来の職務は私と一緒で軍人です。
 今回の学徒徴兵にあたり、教導部隊より来られました」

「次に私の自己紹介をします。名前は【善行 忠孝】、千翼長を
 やっています。分かり易くいえば中尉で、今現時点では
 私がここの、小隊長と言う事になります。」

「まずこの学校の正式名称は、第62高等戦車学校と言います。戦後の
 復学を考慮され、敢えて学校と言う文字を付けています」

「しかし、学兵とは言え紛れも無く軍に所属しています。先程、本田先生が
 言われた、絶対服従とは軍において大前提の鉄則事項なので、
 肝に銘じて措いてください」

「ではこの小隊の説明に移りましょう。 この5121小隊の正式名称は、
 【第5連隊第1大隊第2中隊旗下第1小隊】、略して5121小隊です」

「おそらくここに居る全員が知っているでしょうが、戦車学校とは名ばかりで
 実際運用する兵器は人型戦車・・・まぁ分かり易くいえばロボットです。
 今年3月よりここと同じ様な小隊が、ここを含め7小隊発足しています」

「基本で言うと中隊と言うのは、3~4の小隊をまとめて中隊と言うのが普通ですが、
 試験小隊ですので7つもの小隊で1つの中隊としている訳です。
 その中でも我が第1小隊は、装備等の開発テストも兼ねる実験小隊扱いに
 なります。個々の提案権限もかなり大きいので意見要望提案があれば、
 どんどん発言して下さい。 期間は一応、今年の休戦期迄となっています」

「それと掃討作戦においては、他人型戦車小隊との共同作戦という場面も
 多々あります。この時、小隊番号が近い事による聞き間違えを防ぐ為に、
 人型戦車小隊には部隊称と言う物があります。通称、【コールナンバー】です」

「それでは全ての小隊のコールネームを紹介しましょう。

 5121小隊が【 スキピオ 】
 5122小隊が【 ヴァルキリー 】
 5123小隊が【 バング 】
 5124小隊が【 ハウンド 】
 5125小隊が【 アリス 】
 5126小隊が【 ビジター 】
 5127小隊が【 インフィニティ 】

 このコールネームに部隊内番号が付いたものが、作戦中のコールナンバーです。
 5121小隊の3号機であれば、【スキピオ03】と言う訳です」

「あと、黄金剣突撃勲章を受章すれば渾名を受け取れます。横文字で書くと
 パーソナルネームと言うものですね。 ちなみに私は大陸時代、
 【軍神鬼善行】と呼ばれてました。源氏名と違い、自分で名付ける事は
 出来ませんが、自分の戦闘スタイルやイメージ、信念等に基づき名付けられる事が
 多いです。 戦車部隊は横文字の事も多いですよ。例えば、命中率の高い砲手には、
 その冷静沈着さを文字って、【クールランサー】とかですね」
 
「銀剣突撃勲章で、パーソナルカラーの指定も出来る様になります。つまり機体色の指定です。
 こちらは本人が指定出来る事になっていますので、頑張って下さい。
 このパーソナルカラーの拾得こそが俗に言う【エースパイロット】の証でもある訳です。
 実力と共に、運も強く必要な勲章です」


「以上が大まかなこの小隊と、それを取り巻く部隊の説明です。
 それでは、毎日の日程を説明します。
 基本、朝0800に教室集合した後、0830より1730まで
 各種座学もしくは訓練があります。出動は完全なランダムになります。
 要請は多目的結晶を通じて、スクランブルアラートを鳴らせます。
 その際は訓練中であろうと、食事中であろうと、例え睡眠中であろうと、
 600秒以内にここに集合です」

「次に本日のこれからの予定を言います。
 これより休憩をはさみ、1組内での自己紹介等を行います。 
 その後、ジャージに着替えてグラウンドの鉄棒前に集合して下さい。
 身体能力の測定、及び適正能力の検査測定をします」
  
「では、15分休憩をはさみます。0910にまたここに集合して下さい。 解散!」



 特に休憩中に何をする訳ではないので、全員がソワソワと9時10分を待っていた。
善行が時間になり現れると、



「全員、揃っていますね。では窓際から簡単な自己紹介をよろしくお願いします」



「えっと・・・速水厚志です。趣味はお菓子作りとかです。パイロット志望です」


「あ、、あの滝川陽平って言います。アニメとかフィギュアとかが好きです。
 あ、でもフィギュアって言ってもロボットとかです。お、、俺もパイロット志望です」


「瀬戸口隆之だ。お嬢さんはこんにちは、野郎はさようならだ。特に希望部署はないな。
 あ、1人じゃ寂しいから女性に囲まれた指揮車あたりがいいかな?」


「来栖銀河だ。スカウト志望だ」


「東原ののみだよ、、です。よろしくおねがいします」


「加藤祭や!銭さえ出せばなんでも取り寄せるで!ちなみにこう見えても熊本人や!」


「舞だ!芝村をやっている。パイロットになる」


「壬生屋未央と申します。不束者です宜しくお願いします」


「橘勝輝だ。パイロット志望だ。ざっくばらんに付き合ってくれ」


「最後に若宮康光だ。この隊の小隊付き下士官だ。つまり教官と言う事だ。
 訓練時は鍛えまくってやるから覚悟しておけ。部署はスカウトだ」



「ではジャージに着替えて、グラウンドの鉄棒前に集合して下さい。
 それと日直を決めておきましょう。今日は速水君、お願いします。
 明日からは今日やった自己紹介順で宜しくお願いします」
 では、解散!」


 
 更衣室で支給されたジャージに着替え、ゾロゾロとグラウンドに集まる。



「では今より、身体能力の測定を行います。 と言っても今日は1種目、
 トラックでの持久走20000Mです。 今日は初日ですから
 装備とかは無しで、純粋な持久力の測定だから楽なものです」

 
「「「20000M!? 20Km?」」」」

『まぁ最初はそんなもんだろうな』


 驚嘆と絶望の声を聞きながら、持久走はスタートした。
案の定、最初の脱落者は東原だった。500Mで顔を青くして突っ伏してしまった。
 加藤も4000Mで足を痙攣させて脱落。

 スタートの10時から12時半迄に完走できたのは、若宮・来栖・俺・速水の順で
4人だけだった。瀬戸口が18Km、滝川が15Km、壬生屋・芝村が14Km
迄で時間切れとなり、距離での測定結果となった。


「では午前はこれで終了します。昼休みで食事を済ませ、午後からは坂上先生による
 戦術理論の講義になります。
 以上、解散!」


 それぞれが見様見真似で敬礼を返す。
制服に着替えると、学校推奨の食堂【味のれん】に向かった。店内に入ると、


「らっしゃい!」


 50代くらいの店主っぽい親父が良く通る声で出迎えてくれた。


「お薦めはなんかある?」

「そうだな・・・コロッケ定食とか、腹いっぱいになるっぞ」

「んじゃ、それで・・・」

「あいよっ!」


 2分程すると、店内に速水・滝川・芝村が連れ立って入ってきた。


「よぉ・・・あ、、えと・・・橘さんでしたっけ?」


 滝川が声を掛けてきた。俺と瀬戸口と壬生屋は年上の16歳だと言う事を
どこかで知ったらしい。なんとなくな敬語で聞いてきた。


「そう、橘だ。だがさっきも言った様に畏まらんでくれよ。
 ざっくばらんに話してくれ。 確か、滝川って言ったよな?」

「は、、はい」

「そっちのカップルは速水と芝村だったよな?」

「はい」

「カ、、カップルなどではない!」

「冗談だよ  ほれ、さっさと注文しないと時間なくなっちまうぞ」

「ほぉ 制服からすると、新しい小隊さんかい?」

「えぇ 今日から着任で、午前中持久走だったんでみんな腹減ってるのよ」

「ほいじゃこれからお得意さんになってもらうのと、お祝がてらってことで
 今日の昼はワシの奢りにしてやろう」

「橘とやら そなた、何を注文したのだ?」

「ん? おやっさんお薦めのコロッケ定食だが?」

「店主、それを追加で3つだ」

「他の人達もそれでいいかい?」

「お薦なら、それが一番いいよね」

「だよな!」


 そんな会話してると、ガララッと音がして瀬戸口・壬生屋・東原・加藤が
入ってきた。


「こりゃ満員御礼やな! よかぞ!そこの4人もよかつば奢っちゃる!
 好きなんば注文せ!」

「店主、コロッケ定食追加で4つだ」

「瀬戸口さん、コロ定ここのお薦めらしいですよ!」

「親父さん、いいんですか?」

「なぁに! こっから何倍かにして返して貰うけん気にすんな!」

「お昼浮いた!ラッキーやわぁ!」

「お爺ちゃん、ありがとう!」

「初めてなのに、恐縮です。 ありがたく御馳走になります」


 10分後には全員がコロッケ定食に下鼓をうちながら、和気藹々と
会食を楽しんでいた。


「瀬戸口さんって結構体力あるのに、パイロット志望じゃないんすか?」

「あー俺は相に合わないなぁ  橘、速水は相に合う感じだろ?」


 含みを込めた言葉でこちらに話をふってきた。


「僕は生き残る可能性が高いかな?って感じで志望してるんで、なんとも・・・」

「俺も似た様な理由だな。 ま、好きっちゃ好きだな」

「士魂号、カッコイイっすよね! 俺、あれに乗る為に志願したくらいだから!」

「そういや・・・壬生屋の服ってそれ、巫女装束じゃないよな?」

「瀬戸口さんらしい発想ですね  これは実家が古武道の道場をやっておりまして、
 そこの道着なんです」

「よく許可が下りたな」

「加藤だって、髪の毛真っピンクだしな~」

「そう言う滝川君やて、ゴーグルとかしてるやん!」

「東原とか可愛い子もいるし、速水はポヤ~ンってしてるし、この小隊は
 あらゆる意味で規格外ってところかな?」

「瀬戸口よ、それは芝村の私がいると言う事も含めてか?」




「まぁまぁ、ネガティブに捉えるなよ。噂はどうあれ、これからは仲間だぜ」
 
「橘・・・」

「そうそう お兄さんも橘に1票だ。お姉さんもそう思うだろ?」

「わ、、わたくし・・・もそう思います」



 食事を終え、全員で店主に礼を言うと教室に戻る。
13時30分、午後からは講義だけである。午前中の疲れもあり、
すでにウトウトしている輩もいる。

 ガラリッ!


「起立っ!」


 速水が号令を掛ける先に佇む1人の教師。サングラスにパンチパーマ、少し小太りとも
表現できる体型だが、余計な脂肪は付いてない。間違いなく軍人上がりだろう。


「楽に・・・  私が戦術理論担当の坂上久臣です。
 最初に言っておきます。
 訓練にも当てはまる事ですが、1日8時間と言う短いこの時間を、より多く
 自分のモノに出来た人間が、当然の事ながら生存確率が高くなります」

「今迄の学校の様に、テストで赤点を取ったからと言って、これからは追試はありません。
 何故なら、これから先のテストとは戦場で受けるからです。
 戦場での赤点はすなわち、【死】です」

「だから赤点ギリギリでも良いから、生きて帰って来て下さい。
 その都度、私達が全力で足りないものの底上げをして、貴方達の生存能力を引き上げます。
 いやな表現ですが、貴方達の存在意義は自分の命を効率よく幻獣の殲滅に使う事です。
 その為に私は情などではなく、軍の歯車として貴方達の生存確率を上げる為の努力をします」


 その言葉を聞いた全員はゴクリと息を呑み、目を見張る。
そうなのだ。 今迄の様に守られる為に存在するのではなく、守る為にここに居るのだ。
それを再認識出来た事を確認できた坂上は講義に移った。


「それでは最初に貴方達が、命を預けるとも言うべき士魂号について説明しましょう。
 AMTT―519M ザ・スピリットオブサムライ 士魂号 全高9M 重量7.5t
 動力は人工筋肉を使用し、燃料はタンパク燃料を用います」

「簡単に言えば、人間と一緒です。しかしここからが、通常ロボットと揶揄される物との
 違いです。5121小隊にはこれの単座型が3機と、複座型が1機配備される予定ですが、
 これからの適正検査を経てパイロットが決定したら、各機ごとにシンクロ認証を行います」

「つまり、自分専用機となる訳です。これは神経を通じて操縦をする士魂号との
 シンクロ率を引き上げる為のものです。この後、各パイロットは士魂号と経験を
 共有して行く事で、より速い反応となめらかな動きを獲得して行きます」

「この経験をする上で士魂号自身も鍛えられていきます。自分を操るパイロットの
 欲する筋肉に変って行く訳です。人口筋肉が鍛えられ、締まって行けば、
 新たに装甲との間に余裕が出来る訳ですから、人口筋肉の継足しも出来ると言う訳です」

「この筋量に今のところ単位はありませんが、ロールアウト時、全身で1000です。
 各パイロットが鍛えて追加して行く内に、1100・1200と増えて行くことでしょう。
 筋量が多ければ強い!とは一存には言えませんが、そこまでの過程を考慮に踏まえれば
 おそらく、そのパイロットと士魂号は強い、と言って差し障りがないと言えます」

「逆に被弾等をして筋組織を交換したりすると、当然の事ながら初期状態の人工筋肉な訳ですから
 筋量は当然の如く減ります。おまけにそれまでと勝手が違う訳ですから、全体の筋量の
 バランスの変化から、使い難い機体になる事も多々あります」

「人間が怪我をするのと一緒な事です。足を怪我した後、普通に歩こうとしても思考に
 身体が着いて行かず歩けないのと同様で、この時破損個所を庇うクセを士魂号のAIに
 学習させない為に、もう片方の足も補足プログラムで筋出力を落とす訳です」

「つまり片足交換した場合は、両方交換したのと一緒になる訳です。しかし片足は
 そのままな訳ですから、破損前の元の数値に戻すのは、最初から鍛えるのに比べると
 格段に速くはなります」


 黒板に簡略図を描きながら、坂上は淡々と説明して行った。


「ここまでで何か質問はありますか?」


 シンと静まり返っている教室にあって、芝村が手を挙げた。


「芝村舞だ。良いか?」

「どうぞ、芝村さん」

「先程の説明の冒頭であった、単座型と複座型とはどう違う物だろう?」

「よろしいでしょう。 単座型とは読んで字のごとく、1人乗りで操縦者が戦闘を
 行う機体です。 対する複座型とは、2人乗りで操縦と火器管制を各々が受け持ちます。
 その最たる火器が背部に設置された、対地対空両用ジャベリンミサイルです」

「勿論重量増により、機動力は単座型に比べ落ちますが火力で言えば、単座型よりも
 上になります。 あと操縦者と火器管制者は、シンクロ率を高める為に搭乗時、
 多目的結晶を通じての意識同調を求められます。この為、複座型のパイロット同士は
 コミュニケーションが円滑に取れている事が重要になってきます」

「複座型のパイロットは同性同士が多いですが、稀に異性同士の方もいます。
 夫婦と言う方もおられました。大概が恋愛関係の2人が多いです。
 同性同士でも幼馴染や親友と言ったペアが多かったですね」
 
「例え親友でも三角関係に陥り、意識同調が出来なくなった例も報告を受けています。
 話が少々下卑た方向に反れた感はありますが、複座型が少ないのはこう言った理由なのです。
 これくらいでよろしいですか?」

「うむ 感謝を・・・」


 芝村が、腕組みをしながら考え込んでいる。複座型に興味があったのか・・・な?


「続いて、装甲の説明をします。 先程説明した複座型は標準型のみとなりますが、
 単座型は3種類の装甲形状があります。まずはロールアウト時の標準型、
 そして機動性を上げる為に装甲を薄くした軽装型、逆に接近戦時の被弾から
 筋組織の保護に特化した重装型があります」

「一長一短があり、最初は標準型で出動してもらう事になります。
 その内に自分のスタイルにあう、装甲形状を選んでもらう事になるでしょう」
 



 その後も、武器・装備・支援システム等、1時間に10分の休憩をはさみつつ、
5時半までみっちりと講義は続いた。









 さすがにキツかった・・・









 明日は、今日の残りの身体能力と適性の測定がある。




 




 今日はサックリ寝る事にしよう・・・










[27357] 10話 末姫
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/11 07:51
 

 1999年3月中旬






 とりあえず、全ての身体能力のテスト、適性能力の検査を終えた。
結果が出て、配属部署が決まる迄、1組全員は同じ訓練を
受ける訳だが、部署が決定した後は前線部隊と後方支援は別々の
訓練を受ける事になる。


「橘よ、時間を良いか?」

「どうした?芝村」

「そ、、そなた、この前食堂で私と速水をカップルだと申しておったな?」

「あぁ あれは冗談だって言っただろう?」

「そ、、その なんだ! その、、あれと・・・いゃ・・・

「なんだよぉ? ハッキリしろよ」

「で、、では、はっきりと申すぞ! しかと聞けい!」

「おぅ! しかと聞いてやるっ!」

「わ、、私と速水は似合っていると思うか!?」





「へっ・・・?」





「どうだ!? はっきりと質問を述べたぞ。今度はそなたが答える番だ!」


 目を伏せがちにしながら、うつむき加減に頬を赤らめながら、それでもなお
足を肩幅に開き、腕組みをしながら聞いてきた。


「どうって・・・」

「やはり・・・、客観的に見て似合ってないか・・・?」

「いゃいゃいゃ・・・、そういうのは客観的とか、そういう問題じゃないだろ?」

「しかし、周囲に認められていなければ、当人同士もそう言う雰囲気になるのは
 難しいのであろう? そう言うものだと私は聞いたぞ!」

『まぁ半分くらいは、間違っちゃいないが・・・』
「認められるって言う表現はおかしくないか? 一番大事なのは当人同士の
 気持ちであって、その強さが周りを認めさせられるか?って事だろ」

「その様なものか・・・」

「じゃあ、極論で例えてやる。 ある日、自分の父親から突然、
 [橘を婿に娶って、今日から毎晩夜伽に励み、早く孫の顔を見せろ]と言われたら、
 お前は、言われた通りに励むのか?」

「っ! なぜ、そなたを娶らねばならぬっ!?」

「じゃ、速水ならいいのか?」

「・・・・・・ それ、、なら・・・まぁ・・・」

「要は、芝村が納得できるか?が問題なんだろう?」

「そ、、そうか! それなら私は何も問題ないぞ!」

「ほぅ それはお兄さんにっても喜ばしい事だ。 しかし、肝心な事を忘れちゃいないか?」

「安心しろ! 私の父は、そんな無体な事は要求してこぬ!」

『さ、、さすが芝村のお姫様だけの事はあるな・・・』
「ちがうっ・・・ 速水の気持ちだよ! そこも芝村の気持ちと一緒くらい重要なとこだろ?」

「う、、むぅ・・・」

『ほ、、本気で考えてなかったのか・・・ 普通はそこが一番最初に相談するところだろう・・・』
「芝村の気持ちは分かったから、それを速水にも伝えて同意してもらえば、
 メデタシメデタシって言う事。 簡単な事だ」

「し、、しかし 拒否された場合はどの様に対処すれば良いのであろう?」

『俺の知った事か!』
「あのねぇ、今君がやろうと思ってる事は、同世代の女子ならみんな同じ事思ってるの!」 

「そ、、そんなものなのか?」

「そんなものよ! みんなそんな想いを胸に秘めてるからこそ、お洒落したり
 お化粧したりして綺麗にして、お目当ての男の子の気を引こうと頑張ってるの!」

「なる程・・・ あの様な行為の裏には、その様な思惑が秘められていようとは・・・」

「ま 何にせよ励めよ、恋する乙女! ・・・と言う事で、飯食ってきていいか?」

「ま、、待てっ! 今、恋と言ったのか!?」

『もう、恋でも変でもいいじゃねぇか! 俺に飯食わせろよ・・・』
「言ったが、どうした?」

「そなたには、この、こ、、恋を成就させる責任があるぞ!」

「なんでよっ!?」

「そなたの言葉の一端からから始まったのだ!当然の責務であろう!」

『何食ったら、そんな思考デキルノ・・・』
「だからあれは冗談だって!」

「冗談であろうとなかろうと、現状に至った責任は取るべきではないのか?」

『さすが芝村。正論語らせると強ぇな・・・』
「で、何させたい訳よ?」

「私の気持ちを伝えてきてくれ!」

「・・・・・・」 

「簡単であろう!?」

「いゃ・・・確かにやる事は簡単だけどサ・・・」

「何か問題でもあるのか?」

「多分、それじゃ成就は難しいかも・・・」

「なぜ故だ!?」

「じゃあ、俺が好きだと言ったとする。お前は受け入れるか?」

「なぜ、どこの馬の骨とも分からぬ、そなたを受け入れねばならん!?」

「そこだ!お前は速水を意識しだしてるから、速水の事をある程度知って
 今の気持ちにになっているんだろう? じゃあ速水はどうだ?
 今の芝村は速水にとって、お前流で言うと、どこかの馬の骨じゃないのか?」

「・・・・・・」

「んじゃ飯食ってくる」

「ま、、待てっ!」

『もう15分しかねぇ・・・ トホホ、昼抜きかよ・・・」
「どうすればいいか?くらいは自分で考えろ! 悩める姿も魅力のうちだ」

「で、、では最終決定は私がする!その結果の責任はそなたには問わぬ!
 じ、、実はここ2日、ろくに眠れておらぬのだ・・・」

「それよ!・・・その、なよぉ~ってしてる仕草を速水に見せてやれよ」

「この様な優柔不断な仕草に、男は魅かれると言うのか!?」

「あのねぇ、男は基本的に頼ってほしいって思ってるのよ。
 どうすれば良い?って頼られたら、それに応えて自分の男らしさを
 アピールしたいものなのよ」

「なるほど・・・そう言うものなのだな」

「今の俺だってそうだろ?もちろん俺が発端って言うのもあるが、
 基本、男って言う生き物は見栄っ張りなのよ」

「そ、、それで例えば、どう言う作戦で行けば良いのであろうな?」

「まずは、速水に芝村って言う存在を認知してもらう事からだろう」

「それはクラスも同じであろうし、顔も名前も知っているし、必要な事なのか?」

「違う! 速水にとって芝村が、皆より少し特別な存在だって意識下に刷り込む事だ。
 芝村が俺に、カップルって言われて意識しだした様にだ」

「速水は、あの時の言葉で意識しなかったのであろうか?」

「俺の言葉をきちんと、冗談と受け止めれたのさ。滝川すら突っ込んで
 こなかったろう? 芝村には、その方向の耐性がなかったのよ」

「具体的な事は何をすれば良いのだ?」

「そうだなぁ・・・ っておい、講義始まるぞ! 続きは定時後だ!」

「う、、うむっ」


 その日の午後からの講義は、空腹との戦いだった。
定時後、駐輪場へと向かうと物陰から芝村が現れた。


「定時後は、作戦会議ではなかったのか?」

「ソウデシタネ・・・」

「場所はどこで行う?」

「俺と芝村が喋ってるところを見られて、変な噂が立つのも面倒だな。
 芝村、部屋は近いのか?」

「芝村と睦まじく思われるのは、それほど周囲に嫌悪感を撒きちらすもなのか?」

「勘違いすんな。 誰かに見られりゃ、俺と芝村が良い仲って噂になる可能性が
 あるだろ?そんな噂が速水の耳に入ってみろ。作戦とやらのマイナス要因だろ?
 だから迷惑じゃなけりゃ、芝村の部屋じゃダメかな?とね。
 俺の部屋に来るよりは、まだ安心できるだろ?」

「そう言う事であれば・・・すぐそこだ。歩いて2分だ」


 コヨーテは敢えて、駐輪場に置いてストーカーの如く距離を空けて
芝村の後をついて行き、部屋に行った。
 アパート自体はどこにでもありそうな普通の物だった。
疎開者の物を軍が買い上げ、学兵に貸与している物件だ。


「お邪魔しまーす」


 室内は芝村らしくシンプルと言うか、あっさりというか・・・まぁ、らしいと言えば
それまでなのだが、唯一ベッドの枕元に猫のヌイグルミが女の子らしいところか・・・


「きょろきょろ、物色するでない! 誰も部屋に上げた事はおろか、ここの場所すら
 教えていないのだぞ! 今日は機密作戦会議ゆえ仕方なく場所を提供しているのだ!」


 そう言うと、紅茶とクッキーを持ってきた。おそらく誰かが来た時の為に、
常日頃から用意してあるのだろう。 


「芝村! まず先に言っとくぞ。俺が踏み込むのはここまでだ。
 これ以上、俺がお前の心の中に踏み込む事は、ここから先、お前の中で必ず棘となる」

「???」

『お嬢ちゃんには、難しい話か・・・』
「今は理解らなくていい」

「そ、、そうか」
 
「では、明日からの作戦の概容を説明する」

「うむ」

「まず、明日の午前の訓練は装備10Kを持っての20000Mだ。 スタート前に
 速水にペースを同じにして貰う様に話を付けとけ! 理由は何でもいい。
 [持久走が得意なそなたと走って、コツを掴みたい]とか、何でもいいから
 とにかく奴と20000M、完走しろ!」

「じ、、持久走にコツなどあるのか・・・」

「ほぅ・・・ 非芝村的な考えをするじゃないか? らしくないぞ」

「・・・くっ」

「それを、水・木・金の3日間ベッタリやれ! 一緒に完走が絶対条件だ!」

「そ、、その様な行為に意味はあるのか!?」

「ないなら、させない。黙ってやれ!」

「わ、、分かった・・・」

「で、次だ。金曜の定時後、今週の訓練に付き合ってくれたお礼と言う事で、
 ここに案内して、お茶とお菓子をを御馳走しろ。で、土曜の自主訓練のお誘いだ。
 訓練内容は・・・ ん~何がいいかな? 速水の得意なものは何がある?」

「シュミレーターは、かなりの腕前の様だが?」

「よし、それで行け!」 
 
「わ、、分かった」

「今週が勝負だ! かなりのエネルギーを使うから、栄養管理は徹底してやれ!
 睡眠もだ。2日、ろくに寝てないんじゃ明日は走れんぞ。
 たっぷり炭水化物を摂って、今日はガッツリ寝とけよ!」

「わ、、分かった」」

「んじゃ、明日からの武運を陰ながら祈る。 ウマくやれよ!」

「感謝する」


 





 翌日・・・





 くくくっ・・・  やってる、やってる
そこには、顔を真っ赤にしてあれやこれやと口実をつけて、一緒に走ってくれと
頼んでいる、芝村の姿があった。

 速水の方も、まんざらでない様子で、了承している様だ。
装備を背負い、スタートする。速水と呼吸を合わせながら、淡々と距離を
走って行く。


『どれ・・・一押ししてやるか!』
「速水!今日はゆっくりだな!」

「あ、カツキさん 今日は芝村さんが、ペース配分のコツを教えてくれ!って」

「そうかそうか! 俺も付き合ってやりたいところだが、自己新目指してるんで、
 今日は御無礼させてもらうよ。 それに、馬に蹴られて死ぬのは嫌だからな」

「カ、、カツキさんっ!」

「ウケケッ! じゃあな!」


 2人とも顔を真っ赤にしている。カワイイね~と思いながら、11時に完走する。
クールダウンしながら、2人を見てみる。 さすがに速水にはまだ余裕が
ありそうだが、芝村はギリギリと言ったところだろう。

 12時前、2人が完走する。倒れこむ様にゴールした芝村は、速水の肩をかりて
木陰に移動する。ぼそぼそと速水に語りかけている様だが、内容までは
聞こえない。おそらく明日の約束と、今日の礼だろう。

 木曜日、金曜日も同じ様に2人で走っていた。完走後の表情はいつも変わらないが、
完走タイムは少しずつ短縮されていた。


 金曜の定時後、部屋に帰ると晩飯の材料がない事に気付いた。
仕入れの為に、コヨーテに乗り食料品店で、3日分程の材料をレジで精算していると
ふと、芝村の事が頭をよぎった。


『ちゃんと部屋に、招待出来てるだろうな?』


 そう思うと、なぜか確認したくてたまらなくなった。
プロロ~と芝村のアパートの手前30mで止まって見ると、部屋に明かりが灯っている。
窓は開けているが、声までは聞こえてこない。


『速水、来てるのかねぇ?』


 と思っていると、窓を閉める速水が見えた。ちゃんと部屋まで誘えた様だな。と
安心して、帰ろうと思いエンジンに火を入れた。
Uターンしている時に、目の横脇に部屋の明かりが消えるのが見えた!?





『芝村の奴、ミッションコンプリートしやがった・・・』


 









 次の朝、早目に尚絅高校に出向き、シュミレーター2台に整備中の貼り紙を付ける。
しばらくして、速水と芝村がウォードレス姿で入ってきた。


「カツキさんも自主訓練、シュミレーターですか?」

「あぁ、でもご覧の通りさ。単座型用が1つと、複座型用が1つしか空いてねぇ!
 スマンが速水と芝村、複座型を使ってもらっていいか?」

「あ、、はぃ・・・ えっと、問題ないです」

「それは良かった! 訓練も励めよ!」

「ぇ? ・・・も?」

「じゃ、俺はウォードレスに着替えてくる」













「橘、感謝を・・・」


 すれ違い様に、芝村が小さな声で呟いた。


『励めよ・・・恋する乙女』











[27357] 11話 悪趣味
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/12 00:50
 
 1999年3月20日





「これより、それぞれの所属を発表する! 人型戦車担当、

 士魂号1号機パイロット、壬生屋未央

 士魂号2号機パイロット、滝川陽平

 騎魂号3号機パイロット、速水厚志 ファイアオペレーター、芝村舞

 士魂号4号機パイロット、橘勝輝」


「後方支援、及び指揮車担当、

 タクティカルオペレーター、瀬戸口隆之

 アクティブオペレーター、東原のぞみ

 コマンドムーブ、加藤祭

 スカウト、来栖銀河

 スカウト、若宮康光 


 以上、これより5121小隊の指揮を、善行忠孝が執る!」



ザッ!



 全員が一列に並び、敬礼をする。



「と一応形式的に、柄にもなく畏まってみましたが、
 皆さん気を貼り過ぎない様に。
 入れる時は入れる、抜く時は抜く。メリハリが大事ですよ」



 いつものゆったりとした雰囲気を感じさせなかった、その立ち振る舞いに
改めて委員長は軍人なのだ・・・と皆が再認識した。
ちなみに委員長と命名したのは、着任初日の東原だった。

 
「善行千翼長って、学校で言うと委員長さんみたいだよね~」

「それで結構です。言われてみれば学兵の皆さんの長であるのだから、
 委員長で間違いないですね。 今度から、是非そう呼んで下さい」

「うんっ!」


『怖いもの知らずと言うか、何と言うか・・・」




 そんなこんなで、所属が決まるとそれぞれの訓練項目が変わる旨を
伝えられ、それぞれ訓練内容の説明を受けている。


「コマンドムーブって、えろぅかっこえぇなぁと思たが、ようは指揮車の
 運転手やん! 詐欺やで!」

「そんな事はありませんよ。貴女の双肩には、私を含め4人の命が掛かっているのです。
 言えば、貴女もパイロットなのです。誇りを持って下さい」

「そう言われると、なんかカッコえぇな・・・」

「そうだよ! まつりちゃん、すごいよ! かっこいいよ!」

「ののみかて、アクティブオペレーターとか、むっちゃカッコ良さそうやん!」

「アクティブオペレーターとは、戦術外の管理・指揮をして貰います。
 簡単なところで言えば、幻獣撃破数のカウントや各機体の損耗状況のチェックです。
 一時たりとも気は抜けませんよ」

「うぁぁ~ ののみ、がんばるよっ!」

「そしてタクティカルオペレーターが、戦闘指揮になります。最初は私も指揮車に
 同乗して指揮の指示、及び攻勢や撤退のタイミングを指導します。
 瀬戸口君は空気を読めそうなので、適任かと思い任命しました」

「そんな過大評価ですよ。俺は女性との間の空気を読むのは得意ですが、
 幻獣相手だとどうでしょうね~?」

「それくらいの力の抜け具合が調度良いのです」









「さて、これくらいで本業へ戻りましょう。 本日1600から整備班が合流します。
 体育館の整備格納庫への改装作業が、昨日付けで完了したそうですので、
 今日の夕方にでも士魂号が搬入されるでしょう」

「では、訓練に入りましょう。若宮君、前衛の訓練監督を宜しくお願いします。
 後衛の皆さんは、私と今日1日かけて指揮車のオペレーションマニュアルを元に、
 予習しておきましょう。 では、解散!」


 


 前衛は相変わらず、ランニングから始まった。10km走った後、格闘訓練と続き
午後からはみっちりシュミレーションをこなし、実機搭乗に備えようと言うものだった。

 16時半、重々しいディーゼル音と共に、10数台のトレーラーが正門から
入ってきた。まるで生きている大蛇の様に、器用にその車体をくねらせながら、
バックで格納庫前に停車する。


「まずは冷凍庫用の電源から確保!生体部品を片っ端から再冷凍開始!」


 甲高いその女性の声を聞いて、周りの空気が赤く染まる感じがした。
シュミレータールームの窓から士魂号を乗せたトレーラーを探していると、
善行がその女性に近づいて行くのが見えた。
 なにやらえらい剣幕で、善行が文句を言われている・・・




 5時半の訓練終了を待ち、5人で格納庫へと向かう。
入口で善行と先程の高飛車な女が打ち合わせらしき口調で話している。
先程とは打って変わった柔和な表情と口調で、おまけに頬まで染めている。


『委員長、中々やるな・・・』
「お疲れ様です!善行指令!」

「あぁ、橘君 訓練ご苦労様でした。 呼び方はいつも通りの[委員長]で構いませんよ。
 その旨は、整備班全員にも告げてあります。
 彼方がいつも言う様な、ざっくばらんな雰囲気の方が馴染みやすいでしょう?」

「はい、分かりました委員長。 ・・・で、こちらの楊貴妃も真っ青な腰高の美女はどなたでしょう?
 御迷惑でなければ紹介してもらうと助かります」

「あら、ボウヤ 人に名前を訪ねる時は自分からって習わなかった?
 それと、楊貴妃と言うのは褒め言葉かしら?それとも皮肉?」

「過分なご配慮は有り難いですが、貴女に教授を乞うている訳ではありませんので・・・
 楊貴妃については、受け取り方の考え方次第かと」

「まぁまぁ・・・ 私への質問ですから、私が答えるのが筋でしょう。
 まず、こちらの美女は5121小隊整備班主任、原素子さんです。
 そしてこちらの好青年が、士魂号4号機パイロット、橘勝輝君です。

 それに、1番機の壬生屋さんに2番機の滝川くん、3号機の速水君と芝村さんです。
 これでよろしいですか?橘君」

「ありがとうございます」


 ニヤリと含みを込めた笑みで返事をした後、原の方に向きなおり


「先程は少々失礼な発言を致しました。何分にも躾が行き届いていない、
 ウサギの様な自分ではありますが機体共々、お世話になります!」 

「あら?上下関係がハッキリすると、こぢんまりしちゃうの? 小物ねぇ~」

「そう思い込んで頂けると、これからこちらも楽が出来そうで助かります」

「口が減らないわねぇ・・・」

「こう言うフラグの立て方もあるのですよ 原整備主任殿」

「良い度胸ね・・・」

「よく、Mっ気がないか?と聞かれますが?」

「・・・気が合いそうね! 私はよくSって断言されるわ!」


 そう言うなり、平手ではなく拳が飛んできた。右手の拳が左頬に炸裂する。
避けようと思えば簡単に避けれたし、いなしても良かったが、敢えて避けず
むしろ頬で拳を迎え撃った。

 拳の打撃力はカウンター効果を経て、そのまま彼女の手首に衝撃を加えた。
右の手首を掴み、うずくまる原を一瞥し、善行を見た。


「原さん、今日はこの辺で橘君を許してやってもらえないですか?
 彼も充分反省している様ですし・・・」

「・・・くっ!」


 スックと立ち上がると、大股で原は格納庫へ歩いて行った。
滝川と壬生屋はオロオロと見送り、対照的に速水と芝村は笑顔で見送っていた。


「橘、良い顔合わせであったな」

「うん、僕もそう思ったよ」

「ど、、どうしてですか!最悪の第一印象じゃないですか!?」

「そうっすよ! 睨まれたりしたら面倒ですよ!」

「したら?じゃねぇよ。 最初から睨まれてるんだよ。楊貴妃の答で分からなかったか?
 それに原さんにとっちゃ今の仕事は、ここでの自分と部下達の居場所の確立だろ? 
 そうですよね 委員長?」

「まさにその通りです。さっきはワザと殴られてくれてありがとうございました。
 あれで一応彼女の中では、[舐めるな!]と言う意思表示が出来たいと思います」

「戦闘部隊と整備部隊は同等なのだ、と言う事を原に主張させたのだな」

「代償は大きかったですけどね」

「あぁ 中々腰の入ったいいパンチだったぞ!倍返ししたけどな」

「・・・なんでもっと仲良くやれないんですか!?」

「そ、、そうですよ !話せば分かるかもじゃないっすか?」

「まぁまぁ・・・  じゃ士魂号、見学に行こうぜ!」

「そうだな!早く拝んでみたいものだ!」

「だよね~」

「今からっすか!? さっきの今で見学とかありえないっしょ!?」

「無茶・・・っと言うか、無理ですわっ!」



「「「何か問題でも?」」」








 ガックリと項垂れる2人を供に、俺・速水・芝村の3人は意気揚々と
格納庫に向かった。

 格納庫内では4基のリフトにそれぞれナンバーが打ってあり、それぞれの
機体に専属と思われる整備員が張り付いて、調整等を行っている最中だった。


「あらあら、これはパイロット様のお出ましですか? 先程の無礼は平にご容赦を」


 原が、皮肉たっぷりの笑顔で語りかけてきた。


「原主任、時間外での調整、感謝します。一つ我儘を許して頂ければ、各機体の
 専属整備士をこちらのパイロットに紹介して頂けませんか?」


 ピッ!と敬礼をしてまっすぐに原を見る。
原は意を解した様に真剣な表情になると、機体方向に向き直り、


「整備班、全員集合!!!」


 慌てて手を止め、各整備員がワラワラと集まってくる。


「それでは各機体の整備士を紹介します。呼ばれたら1歩前へ!
 自己紹介は空いた時間に各人でやる様に!

 1号機 森精華  小杉ヨーコ  
 2号機 狩谷夏樹 田辺真紀
 3号機 岩田裕  田代香織
 4号機 中村光弘 遠坂圭吾

 整備補佐 新井木勇美 茜大介

 以上! では、パイロットの紹介をよろしいかしら?」


「では俺が代表で、やらせてもらう!名を呼ばれたら1歩前へ!

 1号機 壬生屋未央
 2号機 滝川陽平
 3号機 速水厚志 芝村舞
 4号機 橘勝輝 

 以上! 貴重な時間を割いて頂いた事に感謝だ!」


「以上! 解散して、続きをはじめて! 
 最低でも今日中に、神経接続のチェックまでは終わらせるように!
 今日こそ、自分の部屋で寝たいでしょ!?」


 [また帰れんばい・・・][無理だよぉ・・・][お風呂・・・]
 [新しいバナナを・・・もう真っクロです・・・][モルヒネの準備でも・・・]


 様々な絶望の声が聞こえてくる。


「原さん?でいいですか?」

「よろしくてよ。 橘君は何て呼べばいいのかしら?」

「カツキで結構です」

「あらあら、ファーストネーム呼ばせるなんて、狙ったフラグは
 死亡だけじゃ足りないのかしら?」

「もう、勘弁して下さいよ」

「分かったわよ 今日ところは善行さんのお口添えもあるし、許したげるわ」

「ありがとうございます」

「他のパイロットさん達はなんて呼べばいいのかしら?」

「普通に速水で結構です」

「私も芝村で良い」

「あ、、あの壬生屋で、お願いします」

「滝川っす」 

「分かったわ。色んな部隊を見てきたけど、ここみたいな部隊は初めてね。
 私を含め、部下共々仲良くしてやってね」

「了解しました!
 では今から、邪魔しない程度に見学していいですか?」

「結構よ 夜食の買い出しくらいは、手伝って行ってね」
 
「了解です!」







 全員が自分の機体に向かってソロソロと近づいて行き、シゲシゲと見学する。
時折飛ぶ原の努号、整備員全員が真剣な表情で機器と向かい合っている。
 兵士とはまた違う、戦闘の為のプロフェッショナル達の姿がそこにはあった。


「滝川・・・ちと来い」

「なんすか カツキさん?」

「金、出すからパシってくれねぇか? 俺等のオゴリって事でいいから」

「いいすよ」


 財布から万札を2枚抜いて、滝川に渡す。


「これで駅前のピザ屋から、ピザ2L5枚買って来い。それとコーラ2Lペット
 5本と紙コップだ。 各機1枚と俺等の分な! 
 俺等の分のはジャーマンエッグな! 
 あとは、お前が美味そうだと思ったのを適等に選べ!」
 
「了解であります!」

「ゆけ! 2号機滝川!」 

「ダッシュで行くであります!」


 20分後、宅配バイクを従えて滝川は帰ってきた・・・
当然と言えば当然だ。コーラだけでも全部で10kgはあるのだ。 
それプラス2Lのピザ5枚は体力的には可能でも物理的に無理だろう・・・

 一応、原に差し入れの確認をとる。 快諾を受けた旨を滝川に言うと、


「整備班の皆さーん! 遅くまでご苦労様です! これ、俺等からの差し入れです!
 原主任にも許可貰えました! ぜひ食ってくださーい!!!」
  

 そう言うとテーブルの上に焼き立てのアツアツピザを5種類並べ、
コーラを紙コップについで置いた。 整備班の面々がワラワラと集まってくる。


 [久々の高カロリー食品ばい!][ニオイだけで倒れそう・・・][うっう・・・ゴハンだ・・・]
 [バナナにも負けず劣らずですなぁ~][頂きます!!!]


 ガツガツとかぶりつく整備員達と一緒になって、原や俺等もかぶりつく。
チラと原を見る。 うっ・・・とした表情同士で目が合った。
パチリとウインクしてみせると、ニヤリと返された。


『こりゃ、歴戦のツワモノだな・・・ 委員長も大変だ・・・』
「んじゃ、俺等ここらで上がりますね。明日もガチ訓練ですんで!
 すいませんけど、ピザガラの片付けお願いします」

「分かったわ ご馳走さまでした おいしかったわ」

「い~ぇ お粗末さまでした では!」









 時間を見ると10時を過ぎていた。
4人に寄る所がある旨を伝え、先に帰ってもらい、隊長室に行った。
パソコンの電源を入れ、【司令部】にアクセスをする。


「どうした? オモチャが届いて眠れぬか?」

「勝吏、あれは3年前からどれくらい変ってる?」

「変われるはずもなかろう」

「そうだよな」

「可動部分の耐久性くらいだ」

「その程度か」

「5年、生き残れ」

「そしたら?」

「中央で側に置く」

「行きたくねぇな~」

「10年あれば、熊本を中央にできるが?」

「勝吏の側がイヤだって言ってるんだよ」

「嫌われたものだな」

「嫌いって訳じゃねぇんだがな」

「ウサギは最近大人しいか?」

「ありゃもう起きねぇよ・・・多分」

「残念な事だ」

「俺としては嬉しい限りだがね」

「そう言えば感謝をせねばな」

「何をだ?」

「我が従兄妹の事だ」

『あいつ、喋ったのか?』
「何の事よ?」

「語らずとも分かる」

「そうか・・・」

「感謝しているのだぞ」

「速水にしてやってくれ」

「無論だ 奴もいずれは側に置く」

「そうか・・・」

「今は勝輝で良いのか?」

「あぁ」

「勝輝、我が一つサプライズをしてやろう」

「なんだ?気味悪ぃな」

「気に入るかはそなた次第だ」

「女あてがっても喜ばんぜ」

「どうであろうな?」

「期待せずに待ってるよ」

「では切るぞ」


 プツッ!






 相変わらず、淡白な奴だ。


 



 翌日は朝から、搭乗という流れになった。パイロットは5人全員共
格納庫に集合し、乗車・接続・起動・移動の訓練を受ける事になった。

 その場所には原はもちろん、整備班の面子が全員いる訳だが、
見知った顔がもう一人いた・・・


 『あの野郎・・・』


「それではここで、接続と起動の初期設定、及びシンクロ認証の為に
 システムエンジニアの方に来てもらっています。
 田上唯さんです」

 そう! 今、田上唯と紹介されたこのエンジニア。
俺が幻獣に襲撃された時、運び込まれた病院の看護婦だったあの女だ。


「は~ぃ 皆さん、初めまして~ 唯って言います。
 私に任しとけば、なんにも問題ありませんからね~」

『・・・と言う事は、こいつも芝村か? あの時点で俺は補足されてたって事か』

「では皆さ~ん、機体に乗り込んで下さ~い。
 ヘッドセットもしてて下さいね~ 神経接続はまだですよ~」

『確かにサプライズだな、勝吏! だがお前にしてはヌルくないか?』

「1号機から順にやって行きますからね~ 終わった人はそのまま待機ですよ~」
 
 
 1号機から順に接続、起動、シンクロ認証と行っているのが、アイカメラの
明滅から窺える。


「シンクロ認証には40分程掛かりますからね~ 士魂号の指示通りに
 行って下さいね~」


 最後に4号機の番になった。リフトに乗った田上唯がコクピットに入ってくる。
ハッチを閉じると、ウットリとした目で語りかけてきた。


「久しぶりね 勝輝君」

「あぁ まさかあんたが芝村とはね・・・」

「思いもよらなかったでしょう?」

「看護婦らしくはないって思っちゃいたがね」

「失礼ねぇ~ こう見えてもあの病院じゃ人気あった方なのよ」

「だろうね 俺も最後の方じゃいいかも?って勘違いしてたくらいだからね」

「うふふ・・・ ありがと」

「勝吏の奴も趣味が悪いな・・・」

「い~ぇ ホントのサプライズはこれからですよ」

「ほぅ・・・」

「では、接続と起動を・・・」

「続いて、シンクロ認証です。 始まったら私は外に出ます。
 ゆっくりご歓談してきて下さいね」

「なんの事だ・・・?」







 唯が外に出た後、ハッチの締まる音がした。







「君が、タチバナカツキかい?」

『誰だ?士魂号のAIか?』
「そうだが?」

「生き残ってくれて、ありがとう」

『何を言っている?』
「別に感謝される覚えはないが?」

「君のお陰で僕は存在できる」

『ちょっと待て・・・』
「まさか・・・」

「そう僕は、タチバナマサキだよ」

『馬鹿な!?』
「そ、、そんな!?」

「これから話してあげるよ」

「何をだ?」

「カツキの出生の秘密」

「大体は知ってる」

「そこじゃないよ」

「じゃ何だよ!?」




「君と僕は異父兄弟なんだよ」



「どう言う事だ?」

「君は僕の母親の身体を借りて、僕と一緒に育った」

「育った?」

「そう 僕の母親の子宮の中でね」

「な、、なんだと・・・?」

「少し長く喋って良い?」

「あぁ・・・」

「あの施設が芝村系列だった事はしってるね?」

「あぁ・・・」

「そこで育った女の子がいたんだ。
 やがて成人してその施設で働きはじめた。
 そして同じ施設の中で恋をした。
 その相手が僕の父親さ。

 同時期にある極秘案が、僕の両親に回ってきた。
 第5世代と第6世代のハイブリット計画。
 
 プロトタイプの第6世代でもあり、尚且つ機密が漏れない
 可能性を考慮して、僕の母親に白羽の矢が立った。
 その時すでに、僕は彼女のお腹の中にいた。
 
 第5世代のDNAを継承している精子を、彼女の卵子と
 人工授精させ、彼女の子宮に着床させた。
 それが君だ。
 
 僕と君は彼女の子宮で育ち、1982年の4月7日に
 君を兄、僕は弟として世界に生まれ出たんだ。
 

「つまり俺とマサキは、同じ血を分けた本当の兄弟って事なのか?」


「そうだよ・・・でなければ、このシンクロ認証は出来ない。
 他のパイロットも、今頃同様の話をしてるはずさ」

「そんな都合よく・・・」

「偶然じゃないよ。ここを含めた全ての士魂号小隊パイロットの
 選考基準は、多少の差異はあれど似た様なパーツを確保可能な
 者に限られるんだよ」

「パーツだと!?」

「そう 表向きはAIと言われているけど、実際はこの通り
 生体脳を使っているのさ。パイロットと馴染みやすい様な
 近親者の脳をね」

「だが、3年前は違ったぞ!」

「あの頃はまだ、実験段階だったからね」

「お前は兵器の部品となっても、ありがとうと言えるのか?」

「最初は悲しくて、辛かったよ。音も光もなく、真っ暗な世界。
 自分で死ぬ事も出来ない。 でもね、ある日質問されたんだ。
 兄弟の命を救わないか?とね」

「まさか・・・」

「だから感謝できる。だってカツキの・・・兄さんの命を守る事が
 出来るんだよ。 身体はもうないけど、兄さんが考えている事を
 僕が変換して士魂号に伝え、自由自在に動かす事で兄さんの
 生存率を上げる事が出来るんだ」

「マサキ・・・」

「だから後悔はしてないよ・・・

「マサキ・・・」

「うん そろそろかな?時間だよ」

「時間って・・・」

「シンクロ認証の完了と共に・・・

「おい、マサキ!」

「僕は・・・溶けちゃ・・・う

「マサキ!!!」

「最後に話せてよかっ・・・

「おいっ!」

「ありがとう、兄さん・・・

「待てっ!マサキ!」

「ずっと見て・・・る

「マサキっ!マサキーっ!!!」




 

 ハッと目が覚めた。
涙の乾いた跡がはっきりと感じ取れる。



 時間をみると40分が経過していた。
ハッチを開けると、壬生屋も滝川も、目を真っ赤にして泣き腫らしていた。
リフトで唯が上がってくる。


「いかがでしたか~サプライズは?」

「おい! あれは事実なのか!?」


 胸座を掴み、噛み付く様に迫る。


「事実って言ったら、殺されそうですね~」

「殺しゃしねぇよ ウソだったなら、今度勝吏をぶん殴る。
 しかし、事実なら絶対死ねねぇだろうが!」

「じゃ、勝吏様が殴られる事はありませんね~」

「そう言う事なんだな?」

「御意」















 サプライズも何あったもんじゃねぇ・・・




 久々に勝吏の本質を見た気がした。




 糞な気分だ!











[27357] 12話 個人適正
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/15 23:11
 
 1999年3月下旬





「おいっ・・・」


 茶色いショートカットの後ろ姿に話しかける。


「はい、なんでしょう?」

「なんでここにいる?」

「だって 私、士魂号のシステムエンジニアですよ。
 士魂号のAIの、こまめなお手入れから機密管理、監視まで
 お給料分は働きますよ」


 怪しげな台詞を織り交ぜつつ、サラリと田上唯は言い放った。
 
 
「だから、一般整備員には触らせられないし、触ったらヤドケじゃ済みませんよ。
 その辺の詮索は自重する様にって、みんなの前で昨日、説明したじゃないですか?」
 
「確かにそう聞いたが・・・」

「それに・・・」

「それに?」

「想いを寄せる殿方の顔を、毎日見たいって言うのは、乙女の特権じゃないですか~?」

「乙女ねぇ・・・」

「あぁー 今、小馬鹿にしましたね! 恋する女は、いくつになっても乙女ですよ!」

「どっかで聞いたフレーズだな・・・」

「真理ですよっ!」







 

 早朝から重めの話題に、少しグレーな気分になりつつも教室へ向かった。
教室では俺をのぞく4人のパイロット達が、密談するかの如くかたまっていた。


「おっす!」

「ざすっ!」「うむ!」「カツキさん、おはようございます」
「おはようございます、橘さん。 今日はゆっくりですね」 

「どうした、4人揃って? 今度の休みはWデートか?」

「何をおっしゃってるんですか!? 不潔です!」

「まぁまぁ、壬生屋。 で、パイロット4人と言うと、昨日の件かね?」

「はい・・・ 滝川も壬生屋さんも、橘さんまで同じ体験をしたのに、
 僕と舞は何も無かったから、ちゃんとシンクロ認証出来たのかな?って・・・」

「認証したから、あの後走ったり座ったり出来たんだろ?
 今日、改めて委員長に聞けばいいんじゃね?」

「でも機密が・・・ 善行委員長も、知らないかもじゃないですか?」

「あぁ、委員長と原さんは知ってるよ」

「そうなんですか!?」「そうであったのか?」「まじすか?」「・・・・・・」


 


「ま、それはさておき・・・速水クン 人前で「舞」とは、中々大胆じゃないかね?」

「あっ、、そ、、それは・・・つい!」

「つい、何時ものクセで・・・か?」

「か、、勘弁してくださいよー」

 
 慌てて弁明する速水と、そっぽを向き頬を染める芝村。


『こうじゃないと、複座型は動かないんだよねぇ~』
「スマンスマン、お兄ちゃんのヤキモチだと思って勘弁してくれ」

「橘・・・戦場に出たら、背後に気をつけろ・・・」

「ひゃ~ くわばらくわばら」




 ズゥーンと冷え切っていた空気が、ようやく温まってきた。
点呼を終え、パイロットとサポート(支援)が、それぞれの教場へと移動する。
パイロット達はウォードレスに着替え、隊長室に集合する。








 すでに隊長室には、善行・原、そして田上唯が待っていた。
5人が揃ったのを確認すると、神妙な面持ちで善行が口を開いた。


「最初に残念な事を皆さんに告げねばなりません。昨日、5126小隊【ビジター】の
 パイロット、及び整備員を含む全作業員が特別失踪しました」

「「「えっ!?」」」


 田上唯が1歩踏み出すと、笑顔で


「どう言う事だか分かりますよね~?」


 俺を除いた、他の4人は改めて自分の置かれた立場を、それぞれの思惑で再認識した。
5121小隊に配属されたのは運が悪かった? いや、違うだろう、むしろ、逆だ。

 遅かれ早かれ、どこかの小隊はかならず失踪する予定だったのだ。
たまたま、先走った輩が居なかったこの隊は、運が良いと見るべきだ。


 善行が静かに話を続ける。


「5126小隊は明日、【アルカナ】として再編成されます。
 特に問題はありません。貴方達は自分のやれる事を精一杯やるだけです。
 気を散らせては、なりませんよ」






「それでは気持ちを切り替えて、訓練に移りましょう。
 まず、原整備主任に昨日の起動データとシンクロデータから、現在の
 各機と推定戦闘出力を割り出して貰いました」

「あくまでも現時点では、動きの速さと機体追従速度からの数値なので
 他機の数字は気にしない様に。 各パイロット、ここが0だと思って下さい。
 では原主任、宜しくお願いします」


 原がファイルをペラリとめくる。


「それでは戦闘出力を、各機報告します。
 ・・・その前に一つ、よろしいかしら? 善行さん」


 1度開いたファイルを閉じ、ツィっとした表情で善行の方を向く。


「なんでしょう?」

「この隊は、ざっくばらんがウリなのよね? 私も名前でよんで下さらないかしら?」

「そうですね。 では改めて原さん、続きを宜しくお願いします」

「ありがと 善行さん」

 
 原はパイロットに目線を戻すと、改めてファイルを開く。


「それでは1号機からね。 出力、1080。まぁまぁね! そこそこシンクロも出来てるわ。
 データ見る限りでは、まだまだ、伸びしろが大きいから頑張んなさい」

「続いて2号機、1020。 安心して 初めての素人なら、1000切る輩が半分はいるわ。
 シンクロが不安定な感じだから、もっと信頼してあげなさい」

「3号機、1050。速水君とお姫様とのシンクロは、まぁまぁ上手くいっている様ね。  
 複座の初搭乗で、1050はかなり立派よ。通常は500以下、立てない輩もいるくらいよ」

「そして4号機、・・・・・・1780。 でも、初搭乗でこの数値はありえないのよね・・・
 エース級の機体とパイロットで、1800~2000なので、おそらく測定機器の故障だと思うわ。
 私の目測で申し訳ないけど、1200程度と思っててちょうだい」


 整備のプロフェッショナルとしての、誇りと自負がある原にとっては屈辱なのであろう。
あの原が苦い顔をしながらも、素直に謝罪してきた。 

 
「さて今、各々自分の目標が出来たと思います。
 田上さん、なにかシステムエンジニアとしての目線から、アドバイスは頂けませんか?」


 田上は、ふぅ~むと言いながら、顎に手をやりながら笑顔で、


「単座型3人のマッチングは平均以上ですね~。 複座型も、良い相性で組めたみたいですね。
 滝川君は一番楽しかった時の事を、思い出してあげてネ。まだまだ伸びますわよ。
 壬生屋さんと勝輝君は、そのまま自分のスキルを伸ばす方向でいいですよ~。
 士魂号側から見ても、パイロットに慣れる時間が要りますからね~」

「複座型の2人のマッチングも、全7小隊中の複座型では群を抜いていますわね~。
 これから戦場での時間を共有する訳ですから、お互いのスキルだけではなく
 コミュニケーションも大事にしてね。 いっそ同棲と言う最終手段も良いかも☆!」


 ケラケラと笑いながら、あっけらかんとアドバイス?を語る田上。
流石に善行は呆れ顔だったが、原と俺だけがニヤニヤしていた事は内緒だ。
アドバイスらしき話が終わると、善行は田上の方に向き直り敬礼をすると、


「田上さん、今日は貴重なお時間を割いて頂き感謝します。 これから他小隊ですか?」


 そう聞かれた田上は、笑顔のまま目の端を細く尖らせると、


「まずは5126小隊再編の、準備に行ってきます。あそこの士魂号、4台とも全部
 リセッティングですからねぇ~・・・  今日はお家に帰れないかも~?」

「益々、お忙しいところをすいませんでした。うちの者に送らせましょうか?」

「いぇいぇ~ 大丈夫ですよ。 車、またせてあるので」

「ではお気をつけて!」


 善行が敬礼をする。 それに倣い他の者も敬礼をする。


「いやぁだ~ 照れちゃいますわ。 それでは~」


 パタリと隊長室のドアを閉め、テッテッテ~と口ずさみながら、正門の方に小走りで走り去った。
とりあえず小隊の、別の意味での安全を確保出来たと認識した善行は、


「それでは訓練に移ります。本日より早速、実弾演習を行います。
 小隊に士魂号が配備された現在、いつ出動要請が掛かってもおかしくありませんからね」

「原さん 整備班は出動訓練を兼ねて、これより30秒後にスクランブルアラートを
 掛けてください! 整備班のお手並み拝見と行きましょう」

「わかったわ」


 原は箱状の端末接続機の前まで歩を進めると、善行の方に向き直り敬礼をしながら、


「それではただいまより、5121小隊テクノオフィサー スクランブル訓練を開始します!」


 善行は敬礼を返し、コクリと頷いた。
箱の中の端末に左手で触れ、神経接続を行うと卓上のマイクに向かい、


「201v1、201v1! 5121小隊整備班、緊急出動要請発令!
 士魂号は1号機から4番機までの全てをトレーラーに積載後、スクランブルモードのまま、
 格納庫にて待機!
 武装は各機、92mmライフルとジャイアントアサルト! 実弾携帯許可!」

「92mmライフルは各機HEAT1を装填済みの上、予備弾帯はHEAT3 APFSDS1
 ジャイアントアサルトの予備弾帯は4を装備」


 原はマイクのスイッチを切り、端末から手を引き抜くと、ほぅっと息を吐く。
原自身を含め整備班全員が、出動要請による実動は初めてなのだ。
日頃から訓練はしていたものの、原自身にも期待と不安はあった。

 
「見事な出動要請でしたね、原さん」

「こう見えても影で、結構練習していたのよ。 中々、様になっていたでしょ?」

「格好良かったですよ。改めて見直しました」

「あら?惚れ直したの間違いじゃなくて?」

「間違いではありませんよ。 惚れてるのは元々ですからね」





「・・・・・・っ!  ぜ、、善行の馬鹿!」
   

 


『さすが、委員長・・・ あの突っ込みを難なくカウンターとは・・・ やっぱタダ者じゃねぇな・・・』


 思い掛けない反撃に、顔を真っ赤に染めるも、皆に心情を悟られまいと
腕組みをしながら、時間をを気にするフリをしている。


「我等は、これより如何に?」


 助け舟を出そうとしたのか、それとも天然かは分からないが、芝村が善行に問いかけた。


「パイロットの方々は待機場所である格納庫で、整備班に合流して下さい。
 私はサポート部隊として、指揮車で合流します」

「うむ、分かった」


 パイロット達もその場の空気に習い、小走りで格納庫へと向かうと、そこでは
整備員達が声を大にしながら、出撃準備を整えていた。

 しばらくして到着した善行と原は、時計に目をやりながら出撃準備の完了を待っている。
ラインオフィサーが600秒以内に集合と言う事になっているので、
その後のブリーフィングを含めれば、テクノオフィサーは900秒くらいが目安なのであろうか? 

 整備班副主任の森精華が駆け寄って来て、原・善行に敬礼をする。


「現時刻、0952を以って出撃準備、完了しました!」

「ご苦労様です。 最初に、今日のは内密での突発の出動訓練と言う事を伝えておきます」

「あ、、はい・・・」


 作業を終えた整備員が次々と駆け寄って来て、1列に並んで行く。
作業員全員が揃ったのを確認すると善行が、


「本日の出動要請は、本番前の最後の出動訓練でした。
 ちなみに時間は16分、掛かっています。

 基本的に士魂号の装備はリアルタイムで済ませておくものなので、今回の様に
 出撃時の装備指定は無いと思うので、おそらく次回の本当の出撃の際は
 目標の15分を切れるとは思います。ですが各自、今日出来ていなかった反省点を
 本番に活かせる様にして下さい。

 本日はこのまま、緑川河川敷演習場まで移動して実弾演習を行います。
 整備員は全員随伴して、見学して下さい。
 
 では、解散!」
 

 整備班は、一斉に踵を揃え見事な敬礼を返した。

『流石、原さん・・・』







 士魂号を乗せた4台のトレーラーと装備搬送車が指揮車に伴われ、河川敷の射撃演習場に
到着すると、早速リフトロックを解除し始めた。

 4号機のトレーラーの傍らで作業を終え、一段落している専属作業員の中村光弘と
遠坂圭吾に近寄って話しかける。


「昨日はすまんかったな。整備ミスとかでこってり搾られなかったか?」

「なんの 謝られるこつぁ、にゃあですたい」

「そうですよ」


 2人とも快活に笑顔を返してくれた。

 
「実は俺、士魂号の開発プロジェクトに関わってた事があってね、ある程度慣れてんのよ」

「そぎゃんですかぁ」

「でしょうね、そんな気がしました」

「一応まだ機密事項って事になってるから、今回の件に関してはあんまり首突っ込むなよ」
  
「さわらぬ神に祟り無し、ちゅう訳ですな」

「そう言うこった。 ま、原さんには俺から言っとくよ」

「助かります」






 その後、無事に実弾演習を終えた。

 特に3号機のジャベリンミサイルの殲滅力は圧巻で、その場の全員が声を失っていた。
意外だったのは、2号機滝川の92mmライフルによる命中精度と集弾率の高さだった。
逆に1号機壬生屋の射撃は、当ったと思ったら隣の的だったとか・・・そう言うLvだった事である。

 その後、隊長室に戻ったパイロット5人と善行で、反省会なるものを行う事になった。


「さて、本日の実弾演習を終えて各自、思うところがあったともいます。
 これからのこの5121小隊の戦術面の事も踏まえて、意見を出していって下さい」


 善行がそう言うと、壬生屋が挙手した。


「はい 壬生屋さん、どうぞ」

「きょ、、今日の訓練では恥ずかしいところをお見せして、すいません・・・
 わたくし、人型戦車が銃で戦うと言ったイメージがなかったもので・・・」

「近接戦メインと思ってらっしゃったのですか?」

「はい・・・ 私が士魂号部隊の募集を受けた時の、パンフレットに載っていた写真が
 剣を二振り持った士魂号だったもので・・・」

「まぁ、そういう誤解も招くかもですね。 広報課には伝えておきましょう。
 それで、今日の自分を振り返ってどう言う事を思われたのですか?」

「あ、、あの わたくしもあの様に、剣のみで戦うと言う風には出来ませんでしょうか?
 剣の方なら少々心得があるものでして・・・ 
 すいません やっぱり、非常識ですよね・・・」

「いえ 決して非常識と言う訳ではありません。 あのパンフレットの機体もちゃんと実在する機体です。
 ちなみにあの機体とパイロットは【ミヤモト武蔵】と言うパーソナルネームを持ち、
 累積幻獣撃破数も172と言うレコードを持っています」

「それでは、そういう戦いも有り、だと言う事でしょうか?」

「彼・・・いえ彼女は、機体大破と共に、前線から退き教導部隊へと移られましたが、
 最初からそう言う戦い方と言う訳ではありませんでした。
 まずは銃による戦闘だったのですが、あまり上手くない方でしてね・・・
 命中率を上げる為にどんどん射程位置が前方になっていき、気付いたら近接距離だったので、
 仕方なくあの様な戦術になってしまったとボヤいてました」

「えっ? 面識のある方なのですか? それに女性なのですか?」

「まぁ、それは追々と・・・ 壬生屋さんが、ミヤモト武蔵の様に剣を振って戦うといった戦術は
 不可能ではありません。 戦場の士気にも良い影響あたえますしね。
 しかし、貴女の今の戦闘力で敵の近接からの攻撃を、全て回避する事が出来ますか?」

「そ、、それは・・・」

「ミヤモト武蔵ですら、あのスタイルを確立したのは撃破数50くらいの頃だと思います。
 まず壬生屋さん、あなたは自分の機体の動きを完全に把握して下さい。
 
  あなたの履歴からすると、生身の肉体での近接戦闘能力は、このクラスはおろか、
 熊本の学兵の中の5本の指に入るでしょうが、それに機体が応えてくれるか?と言えば
 現状ではまずあり得ません」

「は、、はい・・・」

 
 シュンと項垂れる壬生屋を見ながら善行は、


「何も、やるな!と言っている訳ではありませんよ。
 ただ、今それをやられると間違いなくあなたは初陣で戦死します。
 だから、まずはあなたのスタイルは比較的安全な距離から、ジャイアントアサルトでの遊撃戦です。
 
 とりあえず撃破数30で、再検討する事にしましょう。 それまでに戦闘力の向上に勤しんで下さい。
 ちなみにミヤモト武蔵の戦闘力は最終計測時で1840でしたよ。
 納得して頂けましたか?」

「はい、分かりました」


 壬生屋は憧れていた機体が実在した事と、そのパイロットが女性であった事。
それと、それに向けてのこれからの自分のスタイルを、見出せた事に満足している様だった。

 次に芝村が手を挙げる。


「どうぞ、芝村さん」

「我等も、遊撃と言う事で良いのか?」

「そうですが、ちょっとニュアンスが違ってきます。 3号機の火力は本日体験してみて
 分かられたと思いますが、3号機単機でその火点に辿り着くまでが肝要となります。」
 
「そうだな」

「陣形で言えばY型になります。3号機はそのYの字の楔から火点に突入し、この時だけ陣形は◇型になります。
 ミサイルでの攻撃終了後は、後方まで一旦下がってミサイルの補充を受けるか、Yの楔に戻り遊撃支援に
 回るかはその時の戦況次第で変ってくると思います」

「なるほど・・・分かった」


 速水も芝村も、たった今善行から説明された陣形を頭の中でイメージし、シュミレーションしている様だ。
それを見ていた滝川も手を挙げた。


「と言う事は・・・俺はどっちなんすかね?」


 どっちとは、Yの字のどの部分か?と言う事だろう。
壬生屋が二股に割れた矛の一端だと言う事と、速水・芝村が楔だと言う事は分かっている。
残りはもう一端の矛か、後方支援である。


「滝川君、2号機には後方支援に徹して貰いたいと思います。
 決して君の戦闘力が低いから、後方と言う訳ではないのですよ」

「あ、はい。 俺もそのポジションが相に合ってるって思うって言うか、俺・・・チキンだし・・・」

「滝川君、自分の評価を誤らない様に・・・ 戦場において臆病さは慎重さに繋がります。
 肝心なのは逃げない心です。
 滝川君にはその長所を最大に活かせる中距離狙撃と、戦闘支援を行ってもらいます」

「戦闘支援と言うと、どんな事があるんっすか?」

「煙幕弾の発射や、突出した中型幻獣の狙撃です。もちろん遊撃に参加してもらう事もあります。
 一番の仕事は、幻獣の空中要塞とも言うべき、スキュラをアウトレンジからの狙撃になります」

「わ、、分かりました」


 滝川を含めパイロットはスキュラの脅威は、座学でイヤと言う程叩きこまれている。
空中を浮遊する30M超の中型幻獣。 底面は強固な装甲で覆われ、ジャイアントアサルトの20mmでは
ダメージを与えにくい。

 そしてそのスキュラからの攻撃は2000Mを超える長射程のレーザー攻撃なのだ。
これを迎え撃つ為に軍は、地形凡用性の高い士魂号に戦車砲を改造した92mmライフルを
ラインナップしたのだ。

 ただ、その反動や装填数の少なさから、使うパイロットが居なかったのだ。
今日、滝川見せた命中精度と集弾率は上層部を驚愕させた事だろう。

 なんか言わないといけないかな?と、最後に俺が手を挙げる。


「橘君、どうぞ」

「と言う事は、俺は2トップのもう片方って事でいいんですかね?」

「そうなります」

「装備は各機、どうなります?」

「2番機以外は、近接用に超高度大太刀を1と、中近距離用にジャイアントアサルトを1装備し、
 予備弾帯は8携帯して下さい。

 2番機は中近距離用にアサルトを1と弾帯2、それに中距離狙撃様に92mmですね。
 92mmの弾帯は通常弾としてHEATを7、対スキュラ用にAPFSDSを2、携帯して下さい。
 初期装弾はHEATとします」

「なるほど、分かりました。 この事は整備班には通達済みですか?」

「いえ、まだです。 この後、その辺の伝達も兼ねて格納庫へ行きましょう。
 各自、各々の装備を担当整備員に伝え、装備変更してもらって下さい。
 確認も忘れてはいけませんよ」




 各機の戦術、装備が大まかに決まった所で、一旦休憩となった。
休憩後は15時から、担当整備員との打ち合わせとなる為、格納庫へと言う事だ。

 各自、自分担当者に装備変更の旨を伝える。それを終えるとパイロット達は定時まで、
自主訓練、及び待機と言う事になった。

 壬生屋と滝川が、シュミレーションルームの方向へ向かう姿が見えた。 

 速水と芝村はグラウンドあたりだろう。 









 『明日あたりが初出撃かなぁ?』





 


 勝吏のニヤついている顔が、フッと脳裏に浮かんだ・・・












[27357] 13話 初陣
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/17 17:46
 
 1999年3月22日







 朝の点呼の際、今日から常時待機状態となり、
各自で装備点検や、自主訓練と言う旨が伝えられた。

 パイロット達は、今迄普段嗅ぎ慣れた事のない
戦争と言う名の空気で、常に呼吸をしなければならなくなった。

 
「滝川、どうした? 今日は、ちぢんで見えるぞ」

「カツキさん・・・俺、ヤバイっすよ」

「何がだ?」

「な、、なんかこう、緊張してるって言うか・・・」

「出撃要請にビビってんのか?」

「カツキさんは、怖くないんすか?」

「怖ぇに決まってんだろ。でもまぁ、心配すんな」

「心配しなくていい理由が、分からないっすよ・・・」

「んー そうだな。 とりあえず、1発目から戦死する様な
 戦区には行かんでいいだろう」

「何で分かるんですか?」

「俺等と士魂号は貴重だからさ」

「どう言う事です?」

「単純に考えてみろ。士魂号1機で通常の戦車2個小隊が
 出来るコストが掛かってるんだ。
 初陣でそれがパァになる様な事を、あの委員長がやると思うか?」

「た、、確かにそれは・・・」

「それに士魂号のパイロットは貴重なんだ。整備員もな」

「でも、ビジターは・・・」

「見せしめだろ? 俺の勘だけどな。 芝村財閥が機密の高さを
 アピールしたかったんだろ?
 じゃなきゃ、次の日にアルカナとして再編なんか出来る訳ない」

「じゃあ・・・」

「そう、おそらく5126の真打ちは最初からアルカナだろう。
 ビジターはゴーストファイターだったって訳さ。
 ちゃんと説明されると納得いくだろ?」

「確かに・・・そうっすね」

「5126がロストナンバーってなら、納得もいくが
 俺等だって1月から募集で、3月の今でやっとこさ準備完了なのに、
 昨日今日で、1小隊揃えれるって方がおかしいからな」
  
「なるほど・・・」

「だから3~4戦目までは、テキ屋の的打ち気分でいいんじゃねぇか?
 滝川は92mmあるから、食い放題じゃねぇか!
 くっそ! 俺も92mm、持って行くかな!?」
 
「ですよねっ!」

「ですだ!」

「ありざすっ! だいぶ楽になりました! 俺、装備点検行ってきます!」

「あぁ あ、でも飯は食いすぎんなよ!初陣で自爆したくなきゃな!」

「へへっ! 心得てますって! じゃあ!」


 何とも単純と言うか、幸せと言うか・・・
格納庫へ走って行く滝川の姿を見送ると、グラウンドへ行ってみる。





 相変わらず芝村が、速水を従えてランニングをしている。
複座型を駆る以上、スキルよりも重要な事は、お互いを深く知り得る事と
無意識に自覚しているのであろう。

 好きとか信じてるとか内面的な事も重要だが、まずお互いがお互いの
限界を知る事なのだ。

 邪魔をするのも無粋だ、と踵を返す。




 さて、もう1人は何やってるのかね?と見渡すと、グラウンド脇の芝生で
壬生屋は淡々と木刀を振るっている。

 静かに目を閉じ、一振り一振り丹念に打ち込んでいる。
声を掛けまいかとも思ったが、時折みせる葛藤とも見える表情が
気に掛かった。


「よぅ 壬生屋、ヨロシクやってるか?」

「・・・ 橘さん」

「ん? どうした?」

「わたくし・・・ あの、何か変なのです・・・」

「変? 恋じゃないの?」

「茶化さないで下さい! 真剣なんです!」

「あぁ、、悪かったな。 で、どう変なんだ?」

「わたくし、やっぱり剣で戦いたいんです・・・」

「だろうなぁ~ 見え見えだもんな」

「わたくし、ここに赴任すると決まってから、父から免許皆伝を許されました」 

「良かったじゃないか?」

「良くありません! 壬生屋流を継ぐべきは、兄だったのです・・・」

「そうか・・・」

「兄は・・・・・・」

「士魂号で会ったんだな?」

「・・・・・・はい」

「だからお兄さんに見せたいと?」

「はい・・・」

「それでお兄さんが満足すると?」

「だって、そうではありませんか!? 己が身に付けた技も力も出す事なく
 果てた兄が、もう一度剣を振るえる機会を得たんです!
 きっと兄も望んでいます・・・」

「完全に自惚れだな・・・」

「どう言う事です!?」


 語気を強める壬生屋を、煽る様に言葉を繋げる。


「今の壬生屋は、お兄さんほど強くなれたの?」

「まだ、兄には及びません。 が、壬生屋の名を継げる程には強くなりました!」

「じゃあ俺が、壬生屋がお兄さんを越せるくらいまで、死なせない様にしようか?」

「どう言う事です!?」


 俄かに壬生屋は、赤いとも黒いとも形容し難い闘気を纏い始めた。


「木刀、もう1本あるか?」

「手合い用のがありますが、お使いになられますか?」


 意を得た壬生屋は、スルリと白樫の木刀を取り出し手渡してきた。


「壬生屋流は一刀流か?」

「何か問題でも?」


 おもむろに、受け取った白樫の木刀を真っ直ぐに立てた状態にし、6:4にナイフで薙ぐ。
ストリと別れて落ちた、小太刀と短刀程の長さの木刀を拾う。


「俺は我流だが、二刀流でネ・・・ 何か問題でも?」

「・・・・・・っく!」

「さて、試してやろうか?」

「いざっ 参ります!」
 

 壬生屋の切っ先が中段から上段へと移って行く。 
おそらく鉄刀木であろう壬生屋の木刀の先から、殺意すら伝わってくる様だ。

 息を吸った瞬間、切っ先がブレたのを感じた。右の小太刀で受けずに左へ流す。
間を詰めようとした瞬間、返しで胴を薙いできた。
 
 反射的に、左の短刀で受け止めた隙に間を取られる。


「免許皆伝は、伊達じゃない様だ」

「橘さんこそ・・・ 見縊っておりましたわ・・・」


 そう言うと壬生屋は、切っ先を中段に下げ正眼の構えを取る。


『やべぇな・・・ マジになりやがった・・・」


 壬生屋の剣から何時の間にか殺気は消えていた。
代わりに驚喜とも受け取れる、高揚感が伝わってくる。


『どう来る・・・か?』


 と思った瞬間、木刀の断面が見えた様な錯覚と共に、突きが来た!
左に避わしつつ、短刀で受け弾く。

 次手の小太刀で薙いだ瞬間、小太刀は壬生屋の木刀の柄頭で叩き落とされた。


『潮時か?』


 次の瞬間、左手を短刀から離すと、流れる様にスィっと壬生屋の木刀の柄、
つまり右手と左手の握りに拳を入れる。


「・・・ぅく!」


 小さく呻き声をあげると、木刀を取り落とした。


「なんの! まだ壬生屋流は終わっておりません!」


 そう言うと、中腰で半身を隠した構えを取った。


「オーケー、いい根性だね・・・ だが出撃の事もある。支障が出ない内に
 引き分けって事で、勘弁してもらえないかい?」
 
「勝負に引き分けはありません!」

「・・・そうか? そんなんだと、長生き出来ねぇぞ・・・」

「もとより、長生きな・・・ど・・・・・・

『・・・ならいっぺん 三途の川で、顔洗って来いや』


 壬生屋が、言葉半ばで崩れ落ちる。

 瞬きの瞬間を狙い、右の掌手で壬生屋の左顎をはたいた。
おそらく何をされたのかも分からず、壬生屋の脳は自身の頭蓋の中で
叩きつけられ、意識を無くした事だろう。




 このまま放置って言うのは、流石に気が引ける。


『くっそ! ホントは俺はこう言うキャラじゃないんだぜ!』


 心の中で毒付きながらも、よっこらしょ!っと壬生屋をお姫様だっこして、
影のある芝生まで抱えて行った。

 遠くで、速水がワタワタと指さし、芝村はビシィっと腕組みをしながら
こちらを見てる。


『さっさと2人の世界に、帰りやがれっ!』


 3分程すると、「うぅ~ん」と言う声と共に、壬生屋が目を覚ました。
まだ頭痛がするのだろうか、頭を押さえながらフルフルと首を振っている。
 やがて、目線を下げ口をひらく。


「申し訳ありませんでした・・・」

「んっ 気にすんな」 
 
「わたくし、まだまだ修行が足りませんね・・・」

「あぁ 全然足りてねぇよ!」

「何時か、リベンジに参ってもよろしいですか?」

「ん~ 引き分けだろ?」

「眠ってる時に、兄に叱られました・・・」

『マジで三途まで行ってきたのか!?』
「ほ、、ほぅ」

「この程度に負けるとは何事だ!と・・・ 未央が生きる事が、
 わたくしが、生きて語り継ぐ事が、俺の生きた証だと・・・」

「そうか・・・」

「はい! わたくし、強くなります!」

「そうしろ」

「今度からお時間が空いてる時は、手合わせお願いしても宜しいですか?」

「か、、勘弁してくれ・・・」

「うふふっ・・・」



『ふぅ なんとか体裁だけは保ったな・・・』



 
 強烈な格闘訓練を修了させた気分で、格納庫へ向かい歩きはじめる。
次の瞬間だ。

 左の手の平がざわめく感じがした。 振り向くと壬生屋も怪訝な表情で左手を見ている。
更に速水と芝村を見ると、同様のリアクションをしている。


『来たかっ!?』


 左手から実声ではなく、直接頭に響く声が聞こえてきた。


「201v1 201v1 阿蘇戦区に幻獣群の実体を確認。
 5121小隊、ラインオフィサーは600秒以内に教室に集合!
 これは訓練ではありません。繰り返します。これは訓練ではありません!」


 視界に入っている全員が全速力で更衣室に走った。 ウォードレスに着替え
教室に行くと、善行・坂上・本田がすでに待機していた。

 続いて続々とラインオフィサーが集合してくる。
全員が揃ったのを確認すると、坂上が教壇に立った。


「周知の事実ですが、これより出撃です。最初の授業で言った様に
 まず、この初陣を生きて帰って来て下さい。
 でないと私達の仕事が無くなりますからね。 以上!」

 
 坂上らしいと言えばらしい、軽口を織り交ぜた激励だった。
続いて本田が教壇に立つ。


「オメェ等、死んで俺の顔に泥塗りやがったら、殺してやるからな! 以上だ!」


 これもらしいと言えばらしい本田なりの激励なのだろう。
最後に善行が教壇に立つ。


「さて、これより初出撃となる訳ですが、あまり気難しく考えない様に。
 こんな私でも最初から、クラスAの戦場に放り込む様なマネはしません。
 今日は手始めに、クラスDからです」


 善行はチョークを手に取ると、大雑把な地図を描きはじめた。


「ではブリーフィングを始めましょう。まず、今日の目標は阿蘇戦区です。
 赤水と白水に同時に現れた幻獣群は、両群共に立野を目指してきています。
 おそらく阿蘇大橋で合流をして立野、大津と向かうはずです」

「そこで我々はこの合流地点の阿蘇大橋、通称赤橋で要撃します。
 すでに戦車2個中隊が向かって陣を布きはじめています。
 ここまでで、何か質問は?」 


 手を挙げる。


「橘君、どうぞ」

「ここには行った事がありますが、赤橋からの要撃と言う事であれば、
 武装はアサルトよりも、92mmがいいんじゃないですか?」

「先も言った様に、今回は生きて帰る事だけ考えて下さい。
 今回の5121小隊の任務は、要撃後の後始末です。
 残存幻獣の掃討戦と考えて下さい。
 でなければ、今頃のんびりブリーフィングとか、やってる暇はありませんよ」

「なるほど、分かりました」

「もう何かありませんか?
 では出動します。各自乗車して下さい」


 
 移動中に指揮車から、5121小隊の周波数で無線が入ってきた。


「あ~テステス、 こちら指揮車タクティカルオペレーターの瀬戸口だ。
 簡単にだが、オペレーションをおさらいしておこう。
 俺の指示通りやってりゃ簡単だから、リラックスしていこう」

「まずタクティカルマップの読み上げ方だ。左上を1-Aとして、
 後方に下がるほど、2-A・3-Aとなる。右に行けば1-B・1-Cだ。
 簡単だろ? 簡単に言えば、エクセルの並びと一緒だ」
 
「次に幻獣のマーカーは赤色で示される。5121小隊機は青色だ。
 友軍は緑色で示される。 この情報を元に、俺と東原から
 追加の情報を入れて行く」

「なお、士魂号の戦闘マップには中型幻獣のみが映し出される。
 士魂号は雑魚は相手にするなって事さ!
 でも、指揮車が纏わりつかれたら助けに来てくれよ」

「マーカーにポイントを合わせれば、個別幻獣が分かるようになっている。
 幻獣側の増援で索敵されていない物は、【unknown】と表示される。
 一応友軍と情報はリンクさせているから、識別出来次第表示するが、
 分からない内は、うかつに近づかない様にしてくれ」

「さて、そろそろ立野駅をすぎて、左手にお弁当屋さんだ。
 ここのラーメン、美味いんだよね? どうです、指令?
 全員無事に任務完了したら、ラーメン食べて帰りませんか?」

『瀬戸口の奴、わざと無駄口叩いてるな・・・
 ただのナンパ野郎かと思ったが、どうして空気も読めるじゃないか』


 この言葉に善行は当然の事ながら、


「よろしいでしょう! ただし、全員無事が条件ですよ!」

「おぉ やったぞ、みんな!ラーメン奢りだ!」

「被弾無しの機体のパイロットと、その専属整備員はチャーシュー大盛りを
 奢りますよ」


 おぉぉ~っと歓声が起こっていた。




 
 3分後、要撃地点後方に到着する。

 士魂号が各機リフトアップされる。ハッチを開け、コクピットに腰を下ろす。
シート位置を再調整し、ヘッドセットを被り、起動開始の合図を待つ。

 やがて無線から、瀬戸口の陽気な声が聞こえる。


「お待たせしたね パイロット諸君! 士魂号 全機、起動!」


 多目的結晶を手の平に隆起させ、接続を開始する。思考が左手から抜け、
士魂号に流れて行く感覚に襲われる。

 目を空けると、そこには9Mの高さから見た景色が映し出されている。
網膜投影された右上には、自機の損傷状況と稼働時間、その下に現在の武装と残弾数。

 左上に、戦闘マップが表示されている。 ざっと見ただけで、100を超える
赤いマーカー。表示されないだけで、小型幻獣を入れれば10000は超えているのだろう。

 友軍である緑色のマーカーは30程だろうか? 
おそらく歩兵も迫撃砲を打っているのであろう。 淀みなく聞こえる大砲の発射音は
30くらいの物ではない事はすぐに理解できる。

 
「こちら、スキピオ04よりスキピオ00へ。 出番は何時頃だい?」

「00から04、後2時間は掛かりそうだ。ゆったり構えててくれ。
 あ それと各機、補給の弾薬積載車が通る。道を空けててくれ」

「04、ラジャ―」「01、了解しました」「03、了解です」「02、了解っす!」
 

 
 今日出番はあるのか?と言う程、順調に赤いマーカーは消滅を繰り返している。
残りが10程になった所で、ガッと言うノイズと共に、


「スピキオ00より各機、これより掃討戦に突入する。白水方面の幻獣は
 完全に撤退した。赤水市街地に残存の幻獣がいる。増援が来る事も忘れずに!
 
 5121スキピオ小隊、全機出撃!」




 味方の榴弾によって散々に地形が変形している。確かにこの状態だと
戦車よりも、士魂号が有利だと言う事が納得できる。


「00より01、9-D  04、9-H  03、11-F  02、14-Fに配置せよ。
 各機、小型幻獣は目視で確認できるか?」

「03、ゴブリンが5~6だ」

「01です。ほとんど見えません」

「00より01、ほとんど、とはいくつだ? 10000を相手にした人間からすれば
 100でも、ほとんどになってしまうぞ」

「す、、すいません。01、5~6です・・・」

「00より01、すまん キツイ言い方をしたな。でもお前さんの情報一つで
 歩兵の生死が変ってくるんだ。理解ってくれると助かる」

「こちらこそ、すいません・・・」

『瀬戸口の奴、アメとムチが上手いな』

「04から00、ミノタウロス2を7-Fに補足した」

「00から04、遊撃戦に移行。03は遊撃支援」

「「了解!」」

「00から各機、知ってるとは思うが、ミノタウロスの生体ミサイルは爆発時強酸を撒き散らす。
 回避したからと言って油断しない様に!避けても真横で爆発するぞ!」

「04、ラジャ―」

 
 移動速度で言えば士魂号よりはるかに遅いミノタウロスに、半円を描く様に近づき、
20mm砲弾を叩きこむ。
 やがてグズグズとへたり込んで、消滅していく。


「04より、ミノ1撃破」

「03より、ミノタウロス1、補足」

「00より0304、挟撃して対応してくれ。油断しない様に!」

「「了解」」

「01より00、ミノタウロス1 ゴルゴーン2を6-Eに確認しました」

「00より01、牽制射撃を加えながらバラけさせろ!
 02へ92mmでバラけた奴の狙撃だ!」

「03より00、ミノタウロス1撃破だ」

「00より03、了解した。0304そのまま6-Eの支援、よろしく」

「「了解」」

「02より00、ゴルゴーン1撃破っす!」

「00から02、良くやった! 01はどうか?」

「ミノタウロスが単体で追ってきます!」

『コールナンバー、言えない程テンパってるのか?』

「00より01、全速力で引き離せ。9-Fまで走ったら振り向きざまに
 弾帯1本、全力射撃してやれ! 何、数打ちゃ当る!」

「04より00、1-Gにミノ4沸いたぞ」

「03より00、1-Fにもミノタウロス3確認した。
 増援が来ているのか?」

「00より0304、増援という程多くない。逃げていた残存幻獣が引き返して来たんだ」

「01より00、ミノタウロス1撃破」

「02より00、ゴルゴーン1撃破」

「00より各機、まず1-Fからやる。モタモタしてると7匹相手になってしまうぞ」

「0104、牽制射撃をしながら散らせろ! 02、1-Gを6-Eから狙撃しろ」

「00から03、虎の子を使うぞ! 3-Fで7匹全部ロックしろ!出来るか!?」

「03より00、無論だ!」

「04から00、ミノ1撃破だ」

「02から00、ミノタウロス1撃破っす」

「01から00、ミノタウロス1撃破です」

「00から03、残り4任せていいか?」

「03より00、打つぞ!」


 姿勢を低くした3号機から、24発の地対空ジャベリンミサイルが、生きている様に
その軌道を変えながら、4匹の幻獣に吸い込まれていく。

 轟音と共に跡方もなく4匹のミノタウロスは消し飛んだ。


『相変わらず、すごいな・・・』


「00から各機、戦闘区域を離脱する。全機、指揮車まで後退!」

「「「「 了解 」」」」


 ほどなく、4機全ての士魂号が指揮車横で片膝をついた状態で待機にはいる。
戦場では、小型幻獣の掃討の真っ最中であろう。

 この後、散発的に残存の掃討に2回ほど再出撃して、この日の任務を完了した。
戦果はと言うと、1号機6匹 2号機7匹 3号機7匹 4号機9匹 となった。

 加えて、全機被弾0である。楽な戦場とは言え、初戦にしては快挙と言っていいだろう。


「委員長~、全部で15人前ですよ~」


 整備補佐の新井木勇美がニコニコと笑顔で委員長に纏わりついている。
善行も苦笑を浮かべながら、




「こんな嬉しい時に、出し渋る上官はいませんよ。
 チャーシューどころか、ラーメンも大盛りで行きましょう!」   



 

 清貧中尉の背中に哀愁を感じたのは、きっと俺だけじゃないはずだ・・・










[27357] 14話 初めてのお使い
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/19 22:41

 1999年4月初旬  松橋戦区






 
「04から00!、どうなってるんだ?
 アリスとハウンドは、なぜ前に出ない?」

「01から04、両隊ともまだ2戦目だ。Cクラスの戦場の空気に
 慣れていない。スキピオは4戦目だから中央を任されたんだ。
 お手本って奴を見せてやったらどうだ?」

「何のお手本だ? 名誉の戦死か?俺も習って無ぇぞ!
 それに俺等だって、Cクラスは今日が初めてだろが!」


 
 この松橋戦区、初期の幻獣数は60と少なめだったが、
その代わりに戦場が平地であり、また城南方面と言う事で、
敵の増援を招きやすいと言う事で、Cクラス指定されている戦区であった。

 ここを軍上層部は、士魂号部隊が戦場に馴染む絶好の舞台と
判断したのか、5121スキピオ小隊を始め、アリス小隊とハウンド小隊の
3小隊の投入を決定した。

 戦車、4個小隊に最両翼に陣取ってもらいながらの、戦闘開始だったが
幻獣が半数に減った辺りで、大規模な増援があったのだ。
 
 これで幻獣数は一気に100へと膨れ上がり、瞬く間に戦車小隊は
その数を消耗し、戦線は押し下げられる形となっていた。

 これを目の当たりにしたアリス小隊とハウンド小隊が、
二の足を踏んでいるのだ。こちらの支援要請はとっくに終わっているが、
健軍基地よりの戦車2個中隊がこちらに到着するのにはもう少し掛かる。

 残った戦車小隊からの榴弾砲を、物ともする事もなく幻獣群が
ジリジリと、にじり寄って来るのが空気からでも伝わってくる。



「02から00、キメラ1撃破っす!」

「01より00、ミノタウロス1撃破です」

「04から00、ナーガ2タテ撃破!」

「00から04、文句が多い割に仕事はしてる様だな?」

「うっせぇ!、キメラ1撃破! 早く両翼に出る様に要請しろよ! 
 正直、キツイぞ」

「03から00、ジャベリンで正面の露払いをしてはどうか?」

「00から03、いいだろう。合わせて、両翼に挟んでもらおう」



 そう言うと瀬戸口は通信機のチャンネルを、オープンに切り替える。
本来であれば、小隊指揮の善行が行うべき事だが、今日明日と中央へ、
原と二人で出張なのだ。

 善行は出張先から、瀬戸口に指揮者代行を言い渡し、
出撃する様に命じたのだ。



「こちら、スキピオ00より各士魂号小隊、正面に穴をあける。
 両翼の密度が下がるはずだ。その期に鶴翼から敵を削ってくれ」

「こちらアリス00、了解した」

「ハウンド00、了解」



 緊張の色を隠せぬ声で、両小隊の指揮官が返事を返して来た。



「01より、ナーガ撃破! 両翼は何をやっているのですか!?」

「02から00、キメラ1・ナーガ1撃破、押されてるっす!やばいすよ」

「04から、ミノ1・キメラ1撃破! くそったれ!中央に穴が空かねぇ!」

「03より各機、2発ずつ12匹ロックした。これより突貫する。
 援護宜しく頼む!」

「「「 了解! 」」」

「00より02、03の楔へ入れ!0104は全力射撃!」



 アサルトに持ち替えた2号機が3号機のポジションに向かった瞬間、
3号機は全力で、幻獣の真っ只中へ跳躍し、着地と同時に発射煙と
ジャベリンミサイルを撒き散らす。

 弾帯の1本目を全力射撃した1号機と4号機は弾帯を入れ替え、
2号機と共に全力射撃を継続する。



「00より各機、03のミサイルは全弾命中。ミノタウロス4・キメラ6・ナーガ4の
 撃破を確認した。流れ弾でオマケが付いたようだな。
 03は全速で定位置まで後退! 02は場所取り、ちゃんとやっとかないと、
 03のこわ~いお姉さんに睨まれるぞ!」

「02から00、百も承知っすよ!」



 ジャベリンミサイルでポッカリと空間に、ドッと幻獣が詰め寄る。
当然、その時にはすでに3号機は跳躍しながら後退し、定位置に戻っている。

 それを見計らったかの様に、アリス小隊とハウンド小隊が両翼から挟みこんできた。
トタトタと走りながら射程も何もなく、ただアサルトの弾をバラ撒きながら、
素人丸出しで突っ込んでくる。



『今更かよ?』
「04から00、もう撃破報告しねぇぞ!そっちで数えてくれ!」

「00から04及び各機、もちろんこちらで東原が、カウントしてくれている。
 目の前の戦闘に集中してくれ!」

「03より00、我等は如何に?ジャベリンを補給するか?」

「時間が勿体無い! さっきのミサイルで03の撃破数は16匹になってるぞ!
 両脇のお子ちゃま達につまみ食いされない前に、あと4匹食って来い!
 過去最速のエース誕生記録を、おまけに持って帰るぞ」

「03より00、しかと了解した」 



 2号機がアサルトの弾を打ち尽くして後退し、陣形は元のY字型に戻る。
しかし、両翼の両小隊のなんと頼りない事か?

 足をベッタリ付けてのスタンデングショット、距離200から抜刀しての突撃・・・



『馬鹿か、あいつ等?』
「04から00、おぃおぃ両翼酷いぞ・・・ ちゃんと適正、あるんだろうな?」

「00から04、一応あるらしいが・・・資料によると、
 平均戦闘力700~900だそうだ」



 すでに目測だけでも、2機の士魂号が擱坐しているのが見える。



「なんで、そんなお子様がCクラスにいるんだよ!? 
 総合戦闘力3000も無ぇじゃねぇか!? 
 5000越えてる俺等でも一杯イッパイなんだぞ!」 

「俺にガナらないでくれ。 こっちも身内だけで、手一杯なんだ」

「たかちゃん、げんじゅーのぞうえんがくるよ! ちずの向こうに
 10匹くらいみえるよ!」 

「00から各機、だそうだ! まだ補足はしてないが、東原が言うんだ。
 間違いなく来るぞ!」

「っきしょー! 手が足りねぇ! 00、Lの支援はまだ来ねぇの!?」

「00から各機 今、宇土だ。あと10分で着く!」


『なげぇな・・・』


「10分か・・・ 04より各機、残弾いくつだ!? 俺は弾帯3!」

「02、92mm弾帯HE2 AP2」

「01、弾帯2! 足りないかもです」

「03、弾帯4だ」

「04から00、01から順に補給させたらどうだ?」 



 そう具申した瞬間に1号機の銃口から火が消えた。 ジャミングだ。


『オンボロが! こんな時に!』


「大丈夫です! まだ太刀があります!」


 そう言い放ち、1号機はアサルトを投げ捨てるとバックプットから、
超高度大太刀をスラリと取り出す。 ミノタウロスの突進を避わし
大太刀を振るうも、1号機の切っ先は幻獣に届かない。
 

「なぜ!?」

「04から01、間合いだ!遠すぎる!」


 そうなのだ・・・如何に長大な大太刀であろうと、士魂号が持てばそれは小太刀程度の
割寸しかないのだ。
 一刀流の壬生屋なら、尚更間合いは取り難いだろう。


『糞ったれが!』
「04から01、大太刀とアサルトを交換だ!そっちへ行く!
 03、前を横切るぞ! 3秒だけ止めてくれ」

「そ、、そんな 無茶です!」

「無茶だが、無理じゃねぇ!」


 1号機に接近し、予備弾帯の全てを1号機の腰に取り付ける。
アサルトを渡し、強引に大太刀を奪い去ると、所定の位置に取って返す。


「あ、、あの・・・」

「俺が二刀流が十八番なのは、壬生屋がよく知ってるだろぅ?」

「し、、しかし・・・」

「サクサク弾幕、張れよ!こっちの援軍が来るまで、あと5分だ!」



 そう言いつつ、自機のバックプットからもう一振り、大太刀を取り出す。
ギラリと鈍い輝きを放つ大太刀を両手に構え、幻獣の密集へ突っ込む。



『あそこでやらされてるときゃ、何の役に立つんだよ!?と思ったが・・・』



 ミノタウロスを右から袈裟懸けに切り下す。 が、刃は胸部の肉にガッチリと
挟まれて止まる。



「ちっ! ナマクラが!!」



 刹那、目の前のミノタウロスに銃弾が叩きこまれる。すぐに、大太刀を引き抜き
距離を取る。3号機からの支援射撃のお陰で、袋叩きにならずに済んだ。



「橘よ、背後には気をつけろと言わなかったか? 
 銀剣突撃勲章は今のミノタウロスで達成させてもらったぞ! クククッ」

「カツキさん、これで色々、チャラでいいですか?」

『ククク・・こいつ等、余裕だな・・・」
「あーあー チャラでも、なんでもいいさ! 
 しかし、お前等だけにいいカッコはさせねぇぞ!」

「00より各機、03が現時点を以って、銀剣突撃勲章授与の権利を獲得した。
 過去の授与最速記録が7戦だったの対し、4戦という快挙だ。
 もしかすると、残り3機も行けるかもだぞ!」



 到着した2個中隊は両翼から支援射撃を始めた。 
密度が薄くなりはじめた幻獣は、次第に散開して行く。



「04から00、各機の現時点での撃破数ヨロシク!」

「00から各機、撃破数を報告する。01、16匹 02、14匹 03、20匹 04、19匹だ」

「04から03、1人だけいいカッコさせないって言ったろ? で、これで終わりだ!」

 

 斬撃から突きに戦法を変えた二刀の4号機は、ヌルリヌルリとした動きを見せながら、
幻獣の脇をすり抜けながら、腕を落とし、足を薙ぎ払いながら、まるで迷路を彷徨う様に
幻獣の群れを、切り駆けて行く。



「00から各機、04も銀剣突撃勲章授与権利獲得! 0102もご相伴に与かれ!」

「0102、食い放題だ! 腹一杯食って、全機満腹凱旋と洒落込もうぜ!」

「01より04 少し悔しいですが、今日はお言葉に甘えさせて頂きます」

「02から04 ゴチっす!」



 そう言うと、2機の士魂号は次々と傷ついた幻獣にとどめを射していく。
次々に撃破20の報告が指揮車から入る。



「04から00、東原の事もあるし、一旦補給しないか?嫌な予感もする・・・
 腹八分目って言うだろ?」

「ののみからみんな、げんじゅーのぞうえんがもうすぐ来るよ!
 早くかえって来て!」

「00より各機、聞いての通りだ。至急、補給を開始する!」



 すでに勝敗は決しているかの様だった。パラパラと残存する中型幻獣の数は、10にも満たない。
そこに戦車2個中隊からの砲撃が続いている。

 1号機に大太刀を返し、弾薬の補給をしていると、指揮車のタクティカルマップに
新たな幻獣の群れが現れた。

 数は20程か?先手必勝とばかりに、今日良いところ見せれなかったハウンド小隊の
士魂号が2機、飛び出していく。

 次の瞬間、南の空から赤い一筋の光が走った。 その光は飛び出した1機の士魂号の胸部に
50cm弱の貫通痕を穿つ。

 瀬戸口はすぐにオープンチャンネルに切り替えた。 その向こうからは、



「ハウンド00より各部隊、ハウンド02がスキュラのレーザーと思われる攻撃を受けた!
 現在、パイロットの安否を確認中! 索敵完了まで警戒を厳にされたし!」

「スキピオ00より各部隊、現時点で斥候を出しているところはあるか?」

「こちら八景水谷0651戦車小隊、L2台が両翼から全速で回っている。
 40秒以内に情報を送る。以上」



 俄かに戦場が静かになる。散発的な発射音は、射程に入った中型幻獣を狙ったものだけだ。



「八景水谷0651小隊より各部隊、索敵を終えた。情報をリンクする」



 タクティカルマップに映し出された20程の幻獣の影、その中にオタマジャクシの様な影が
4つ確認する事ができた。残りは全てゴルゴーンである。

 瀬戸口は小隊チャンネルに切り替えると、



「00より02、補給弾帯はHEAT2 APFSDS5 初期装弾もAPFSDSだ!
 010304は大太刀は置いて行け!少しでも軽くして常に移動を心掛けろ!
 02は距離2000を取って、スキュラの狙撃に徹しろ!」

「02、了解っす!」

「010304は各機、煙幕弾を3ずつ持て。常に煙幕を切らさない様に注意しろ」



 説明を受けている最中に、戦車隊から長距離の煙幕弾が4射、繰り返された。



「煙幕の中にいる時はレーザーは気にしなくていい。しかし、ゴルゴーンは実弾系だ。
 上ばかりを見て、足元をすくわれるな!」


「「「 了解! 」」」


「01、F-10 02、G-20 03、G-13 04、H-10 以上に初期展開!
 絶対、止まるなよ!」



 数射の赤い光が、煙幕に掻き消されていくのが見える。
それを確認した各部隊が、前進を始める。



『なるほど・・・ 授与の権利か? 確かに権利は貰えても、生きて帰る事が条件だよな・・・』 
「04から00、G-5にゴルゴーン目視補足!」

「00より、各個遊撃に移ってくれ! 03のミサイル発射判断は任せる」

「03、了解した」



 やがて、煙幕の中に榴弾砲が吸い込まれていく。 爆発による榴弾片と爆風は確実に
ゴルゴーンの数を削って行く。

 しかし、その爆風は盾となる煙幕をも一緒に薙ぎ払う。
その隙間を、避ける様に潜り抜けた赤い光は、確実に戦車の1台1台を破壊していった。


 発射光点に狙いを定め、トリガーを絞る2号機。
放たれたAPFSDSは空気を切り裂き、2000M先のスキュラの腹部に命中する。

 HEATであれば、表面の装甲を1枚を剥がすのが精一杯であろうが、APFSDSは
何層もの装甲を貫通して、スキュラの内部で酸化燃焼を行う。

 彼方での着弾を確認すると、2射、3射と続けて発射する。
煙幕の薄曇りの中で、花火の様な非自然的な炎と、鈍い煙を吐き出しながら
落下していくスキュラの姿は、まさに要塞の陥落と言ったイメージだった。



「04より00、スキュラの真下に潜った。全力射撃する」



 周囲を警戒しながら、狙いは付けずに真上に弾帯2本分、180発の20mm弾を撃ち込んだ。
ゆっくりと、高度を下げながらその開口部からは内部爆発らしき光が漏れる。

 続いて2号機が、遂に煙幕を突破したスキュラに、APFSDSの全力射撃をする。
7発の貫通弾を正面に受けたスキュラは、距離1000まで浮遊し近づいたが、その内部破壊により
レーザーを発射出来ないでいる。

 戦車2個小隊が一斉に足を止め、仰角最大でHEAT弾を一斉放射する。   
ズブズブと煙に塗れ、高度を落としていく。



「03より00、一つ質問を良いか?」

「00より03、乱戦時に質問とは余裕だな?」

「かつて、ジャベリンでスキュラを狙った者はおるか?」

「聞いた事はないな」

「では我らが試してやろう!」



 そう言うと、煙幕の中に3号機は沈む様に消えて行った。



「24発、全弾ロック!打つぞ!」



 発射された24発のミサイルは、まるでタコかイカの肢の様に、その軌道を修正しながら、
腹部だけでなく、レーザー照射部、背部、側部とまんべんなく着弾した。

 やがて、背部から大爆発を起こし轟沈した。



「03より00、どうであった?今のを見ると、奴の弱点は背部かもしれぬぞ?」 

「そうかもしれないな。狙われるのは、下からばかりだからな」



 残ったのは、5匹にも満たないゴルゴーンのみであった。
それを戦車小隊が、丹念に駆逐していった。

 その後、何時もの様に掃討戦が行われていた。
流石にこの時は、弾薬の心配もあったし、何しろ全員が疲れていた。

 




 そこに1本の通信が入る。 声の主は原だった。


「あら? 瀬戸口君? もう、戦闘終わったの?」

「なんとか、一段落と言った感じです」

「なんか、こっちの噂で聞いたんだけど今日の戦闘で5121全機、
 銀剣ナントカ勲章ですって?」

「銀剣突撃勲章です・・・」

「あぁそれそれ! 滅多に取れる人いないから、こっちじゃすごい事になってるわよ。
 4戦目ってのも凄いし、4機全部だって言うじゃない!
 反芝村派で士魂号嫌ってる人達からは、幻獣に一列に並ばせてテキ屋の的みたいに
 倒したんじゃないのか?って揶揄されてるくらいよ」

「ぜひ、現地視察に来て頂きたいですね。歓迎しますと伝えて下さい・・・」
 
「それにしても、また整備班の仕事、増やしてくれちゃったわねぇ!」 


 言葉とは裏腹に、喜びの感情がどうしても声に移ってしまう様だ。


「と、いいますと?」

「やぁねぇー パーソナルカラーよ! 全塗装なんて私も初めて!
 パイロットさん達に、希望色聞いといてネ!」

「・・・・・・了解です」


 
 通信を切り、瀬戸口は片膝を着き、待機モードの士魂号4機を改めて見上げる。
全ての士魂号に、小破とも受け取れるダメージがあるのは隠せない。

 特に1号機は流れ弾により、左の手首が吹き飛ばされていた。
2号機を除く3機は、装甲全体が泥とススで汚れているくらいではなく、
所々、装甲が剥げ落ち人工筋肉が剥き出しになっている所もある。

 一息、大きな息をはくと、マイクに向かう。



「こちらスキピオ00よりスキピオ各機、現時刻を以って戦線を離脱。
 隊へ帰還する」



 

 隊へ帰ると、整備班は大わらわであった。士魂号の清掃から修理。
今回はそれプラス、全塗装もあるのだ。原からのお達しで、自分が帰るまでに
下地処理を済ませておく様にとの事らしい。きっと今日も帰れないのだろう・・・

 パイロット達の方はさすがに今日は、リフレクションミーティングつまり
反省会は明日と言う事で、解散と言う事になった。




 更衣室でウォードレスから制服に着替え出ると、そこには壬生屋が立っていた。



「あ、、あの」

「ん なに?」

「武器の件、ありがとうございました。 助かりました」

「ん 気にすんな」

「その事も含めて一つ、相談したい事があるのですが・・・」

「ここじゃなんだし、どっか座る?」

「あ、、はい・・・」


 グラウンドの芝生に腰を下ろすと、話の続きを催促をした。


「で、相談って?」

「実はわたくしの剣が、届かなかった事なのですが・・・」

「しょうがねぇだろ?壬生屋は一刀流なんだから、付け焼刃じゃ
 無理だったって事さ。 なに、すぐ慣れるよ」

「そこなんですけど・・・この小隊は実験小隊なのですよね?」

「そう言ってたな」

「自分のスタイルに合った、武器と言うものは造ってもらえる
 ものなのでしょうか?」

『そっか!その手があったな』
「おぅ、いいアイデアじゃないの! つまり士魂号サイズの
 日本刀を作ってもらおうって事だろ?」

「はい!その通りです。わたくしは二刀を扱う様な器用な真似は
 とても出来ませんが、通常の刀と同じ感覚で扱う事の出来る剣があれば
 なんとか使いこなせると思ったんです!」

「いいねいいね! 早速陳情しようぜ! 俺も一緒に相乗りすれば、
 気も楽だろ?」

「えっ? カツキさんも刀を?」

「俺の場合はサイズはあのままでいい。 が 俺は振り回すタイプだから、
 切れ味と強度がほしいな。 今使ってるのは、ヤスモンのナマクラだ」
 
「そうだったのですか!?」

「ウソだと思うんなら、帰り際に格納庫に寄って今日使った、俺の
 大太刀を見てみろ。あれだけの戦闘で、もう刃が反ってるぞ」

「では陳情する際は・・・」

「当然、そこら辺を押さえて陳情する。まかせとけって!」

「は、、はい・・・」

「んじゃ早速、隊長室に行くべ! 早い方が良いだろ?」

「は、、はい」



 隊長室に入り、パソコンの電源を入れる、九州学生軍生徒会連合司令部に
アクセスする。

 プンッという音と共に、モニターには見知った顔が映し出される。



「勝輝ではないか?」

「おぃおぃ 勝吏、まずは[おめでとう]くらいは言って、
 労ってもバチはあたんねぇぞ」

「おぉ、そうであったな。オメデトウ」

「気持ちがこもってねぇよ・・・」



「で、何用だ?」

「陳情だ!」

「我に直接か?」

「どの道、勝吏のハンコが無ぇと通らねぇんだろ?」

「カ、、カツキさん!」

「ん?」

 

 後ろでやり取りを見ていた壬生屋が声を掛けてくる。 当然だ。
仮にも相手は、九州学生軍生徒会連合司令部参謀長、準竜師の芝村勝吏なのだ。
直接陳情だけでも常識外れなのに、何時にも増しての、傍若無人な言葉遣いは
聞いてるだけで、冷や汗ものだろう。


 
「あぁ だいじょぶだ。勝吏とは幼馴染だ」

「確かにそうかもしれぬな」

「悪友だがな・・・」

「そんなに褒めるな」

「褒めてねぇよ」



「うむ、で陳情とは?」

「武器だ。長刀1振りと、今のサイズの良く切れる奴2振りだ」

「勝輝は、やはり二刀か?」

「それしか取り柄が無いからな」 

「では、そこの女が長刀だな」

「そうだ」

「わかった。試作品を送ろう」

「おぃ勝吏、今使ってるナマクラなんぞ送りつけるなよ」

「クククッ、やはりバレたか?」

「お前、俺等を殺す気か?あんな安物、掴ませやがって!」

「もう生産しとらぬのでな」



「長刀は刃渡り3500、手抜き無しの両手持ちの太刀だ。
 二刀の材質はそっちに任せる。軽くて強くて斬れる奴をくれ。
 デザインは、悪趣味なお前のセンスに任せてやるよ」

「注文が多いな」

「今日のご祝儀を、まだお前から貰ってないからな」

「よかろう」

「勝吏、楽しめてるか?」

「うむ、存分にな」

「俺もこの間のサプライズは、楽しませて貰ったよ」

「唯から聞いておる」

「悪趣味だな」

「では、ご祝儀とやらもくれてやる」

「期待してていいのか?」

「さぁ どうであろうな?」






 いつもの如くプンッと回線が落ちる。


『やれやれだ・・・』






 パソコンの電源を落とし、隊長室を出るとパタパタと
壬生屋が駆け寄ってくる。


「だ、、大丈夫なのですか!? 準竜師なのですよ!」

「だから馴染みって言ったろ」

「あの様な言葉遣いで良いのですか?」

「しょうがねぇだろ、ああいう風にしか話した事ないんだから」

「し、、しかし・・・」






「壬生屋はこっち側に片足突っ込んでるから見せたが、
 カタギには見せねぇから、安心しろ」






「こっち側・・・・・・」






「そうだ・・・こっち側だ・・・」
 










[27357] 15話 クライアント
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/26 00:59
 
 1999年4月   松橋戦翌日









 朝の点呼の後、パイロットと整備班は格納庫に合同で集合となった。
武装と装甲、それにパーソナルカラーの打ち合わせとの事だ。

 原が今日いっぱい中央に出張で不在の為、副主任の森が
代行で仕様変更を聞いてきた。


「それではパイロットの皆さん、改めて銀権突撃勲章と、
 それに伴うパーソナルカラーの獲得、おめでとうございます。
 早速ですが、希望仕様色をよろしいですか?

 一緒に装甲変更もあれば、そちらも一緒に教えて下さい。
 変更した装甲に、下地処理しますので・・・」


 当然と言えば、当然である。 せっかく下地処理を行っても、
その後で、装甲変更の申請があればそちらを再度、下地処理しなければ
ならないからだ。 


「4号機の橘だけど、森?でいいかな?」

「はい、森でいいですよ」

「パーソナルカラーって、基本的に使ったら駄目な色とかあるん?」

「色は今のところ、規制はありませんよ。過去にあった色で言うと、
 例えば、赤は赤でも【メタリックレッド】とか、【ワインレッド】とか
 指定された事もあるらしいですよ」

「結構融通、きくのね・・・」

「はい どの道最終的には、パイロットと直に色合わせするので
 結構、大雑把でいいですよ。例えば、[サファイアみたいな赤]とかですね」

「へぇ~ そなんだ・・・」

「機体色、何にします?」


 どうやらパーソナルカラーから、先に決める様だ。
話を聞いていた滝川が、おずおずと手を上げる。


「あ、、あの 蛍光イエローとかでも出来るのか?」

「もちろん、出来ますよ。2号機は、蛍光イエローでいいですか?」

「え、、あ はい・・・うん」



『滝川、意外と勇者だな・・・』



 それを聞いていた芝村が口を開く。


「我等の3号機は、昨夜厚志と協議した結果、
 青と言う事で決定している」
 
「舞が言うには、[海の色みたいな青]って言ってたから、
 [コバルトブルー]かな? 森さん、出来ます?」

「もちろん、出来ますよ。3号機、コバルトブルーですね」


 壬生屋もモジモジと手を挙げた。


「あ、、あの わたくしもよろしいでしょうか?」

「はい」

「こ、、黒鉄色・・・とか、ありませんよね・・・」


 黒鉄色とは、赤みを含んだ黒色と表現すれば良いだろうか? 
クロガネ色とも呼ばれ、重厚感があり戦国時代の甲冑等に
好んで用いられた色である。


「黒鉄色ですね? あの色は個人で結構イメージが違いますので、 
 しっかり色合わせしましょうね」


 古武術を得意とする壬生屋らしいと言えば、らしい選択である。


「4号機は決めてきてます?」

「んー 白って言うか、 パールホワイトって言う奴のかな?」

「パールホワイトですね?」

「んっ ちなみにミヤモト武蔵は何色だったん?」

「武蔵のは具体的じゃないんですけど、【ワイルドレッド】って
 言う色だったって聞いてます」

「あぁ・・・ 何となく戦いぶりが想像できるな それ・・・」


 サラサラと仕様変更書に書き留めて行く森が一拍おいて、

 
「さて、このカラー変更に合わせて、装甲変更もされたいと言う人は
 いますか?」


 この質問に、壬生屋 滝川 俺が手を挙げ、壬生屋は重装甲へ
俺と滝川は軽装甲への変更を申請した。


「それでは明日にも北九州の八幡より、装甲が届きますので、1号機・2号機
 4号機は届き次第、下地処理 カラーリングとなります。
 3号機は、今日から始めますね。

 それと、士魂号の修理現状を報告しておきますね。先日の撃戦を考慮されて、
 うちの小隊の出撃優先度は低いと思いますが、もし出動要請が掛かった場合は、
 一応出撃できる最低の修理は完了しています。

 武装はそのままですので、こちらの変更がある場合は担当整備員に
 言って下さいね」


 ここまで話し終えると、森は合同ミーティングの修了の旨を伝え、
持ち場へ帰って行った。

 パイロット達はこの後、通常の待機モードなった。












 夕方4時・・・



 共用パソコンで、発言力用の電子妖精を制作していると、善行と原が
中央からの出張から帰ってきたのが目に入った。     
 
 一応部下として出迎えながら、その二人の表情を見ると、
原のニコニコとした笑顔とは対極的に、善行の表情はゲンナリとしている。


「おや 橘君、出迎えですか? まずはおめでとう、と言っておきます。
 機体色の申請は終えましたか?」

「えぇ 合わせて装甲変更も申請してあります」

「そうですか。 しかし、すごかったらしいですね。 中央の反芝村派から
 やれ、[共生派と裏取引してるんじゃないか?]とか、
 [あれだけ予算を取れば・・・]とか 散々叩かれましたよ・・・」

「そんなもんなんですね・・・」

「安全な所にいると、数字しか見えませんからね。それが彼等の目に映る
 真実なのですよ。 瀬戸口君が言ってた様に、視察にでも
 来て頂けれれば、もう少し現場と言う空気を分かって頂けるのですが・・・」

「奴等も馬鹿じゃ、無いっしょ? わざわざ危険な所に赴くのは勿論、
 前線で命を狙われるのは、幻獣からだけじゃないでしょうからねぇ?」


 含みを込めた笑みを添えて、返答待つと、


「そうだ 時に橘君、陳情を行ったとか?」
 
 
 あっさりと話題を切り捨てられた。まんざらでも無かった様だ。


「あぁ ええ、松橋で超硬度大太刀を使ったのですが、造りが酷くて
 刃が反ってしまいました。 名前は超硬度とか着いてますけど、
 あれは鍛造ですら怪しい代物でしたよ」

「正直、大太刀は使うパイロットが少なすぎて、生産を打ち切られているのです。
 それで今回は、2機分発注されたとか聞きましたが、もう一振りは
 壬生屋さんのですか?」

「そうです。仕様は聞きました?」

「はい。 中々個性的な注文内容だと、開発部の人達が頭を抱えながら
 萌えていましたよ」


 苦笑いを浮かべながら、楽しそうに善行が事の途中経過を語ってくれた。


「で、何時頃納入予定なんですかね? 1ヶ月とか・・・ないですよね?」

「中央と違って、芝村はそこまで日和っていませんよ。 橘くんの方は
 大体の目処がついて、昨日にはもう制作に入っていました。

 壬生屋さんの方も、仕様自体は単純なので材料が集まり次第、
 製造に入ると言う事でしたから、今日にも鍛え始めてるんじゃないでしょうか?
 納入はおそらく二件分同時と言う事になるでしょうから、
 1週間程でこちらに着くと思いますよ」

「分かりました」


 ここまでの会話を一切淀みなく出来た善行と、全く驚く事なく聞き耳を
立てている原は、俺と勝吏との間柄を知っているのであろう。

 今回、無関係とも言える原を中央に連れて行ったのは、彼女の
警護も兼ねてと言う事が窺える。


「あ それと委員長、 しょ、、準竜師が俺にサプライズ的なプレゼントを
 くれるって言ってましたけど、何か聞いてます?」

「知りませんね。 知ってても教えたら、サプライズじゃなくなるじゃありませんか?」

「ま、ご尤もですね・・・」
『サプライズ宣誓してる時点で、大半の意味を無くしてる気もするが・・・』



「まぁとりあえず・・・その辺の装備が揃うまでは、5121は出動要請は受けない
 と言う方向で行きましょう。 昨日、他の小隊にかなり貸しを作っている様ですので
 多少の我儘は聞いてもらえるでしょう。
 それに、まだカラーリングも終わっていないんでしょう?」

「本格的なのは、明日3機分の装甲が届いてからですね。今日は3号機だけ
 下地処理やってるみたいですよ」


 それを聞いた原は、少し眉を吊り上げると


「昨日、整備班は何やってたのかしらね・・・」

「あ 原さん、それについては修理で手一杯みたいでしたよ。
 装甲変更の可能性の件もあるし、一応出撃可能まで出来ているそうです。
 さすが原さんが育てた、プロフェッショナル達ですね」

「へぇ~ カツキ君が褒めながら、庇ってくれるなんて気味悪いわね。
 森に惚れちゃった?」

「・・・・・・













 5日後・・・



 最初カラーリングを終えた3号機に小隊マークである、猫のマークをペイントし
1号機、2号機と順調にカラーリングを終了させていた。
 
 ちなみにこの猫のマークは、善行の家の実家で飼っている2匹の猫の1匹で
名前を[ハンニバル]と言うらしい。小隊コールネームの[スキピオ]は
残りの、もう1匹の名前と言う事だ。

 そんなどうでもいい事は置いといて、俺の装甲が届かない・・・
聞けば、ちょうど色が無かった為、直接八幡でカラーリングした装甲を
こちらに送ると言う事だ。


『色合わせ、どうなったんだよ・・・』


 3号機の色合わせの際、芝村が妙にハシャぎながら色の配合をしていたのが
印象に残っている。

 壬生屋も滝川も子供の様に目を輝かせながら、色を合わせていた。
そんな様子を見ていて、俺も少しワクワクしてたのに・・・











 午前10時



 地響きを伴い、3台のトレーラーが正門から侵入してきた。
善行が「時間、ぴったりですね」と言う様な顔で時計を見ている。

 更に先頭のトレーラーには、あまり見たくない顔の人物がいる。


「勝輝くーん、サプライズお届けにきましたよ~」


 トレーラーの助手席から、いわゆるハコ乗りというやつで手を振っている
田上唯の姿が確認できた。


『勝吏の奴、マジだ・・・』


 いきなりの訪問客に、訓練中のパイロットはもちろん、整備員まで
集まってきた。 トレーラーは前回と同じ様に、器用に身をくねらせ
格納庫にバックで停止する。
 

「橘、何事だ!?」


 芝村が真っ先に聞いてきた。


『俺に聞くな! 俺も聞きたいっていうか、むしろ聞きたくない・・・』
「シラネ、委員長にきけよ!」

「善行! あれは何だ!?」

「さて・・・ 私も詳しい事は聞いていませんが、生徒会連合参謀長から橘君へ
 プレゼントとか?」

「何!? 従兄妹殿からだと? 橘 そなた、従兄妹殿と馴染みなのか?」

『うぁ・・・ めんどくさい事になりそうだ』
「ま、、まぁ クサレ縁というか何と言うか、そんくらいだ・・・」

「何を運んで来たんでしょう? 大きいですね。士魂号?」


 素朴な自問自答を、壬生屋がボソリと呟く。

 その先で、助手席からポトリと田上が降り立つ。


「勝輝君、勝吏様からのプレゼント持ってきましたよ~。
 喜んでくれるかな~?」


 そう言うと、トレーラーの作業員がカバーを剥がす。


『やはりな・・・』


 そこには、まっさらなパールホワイトの機体が固定してあった。


『士翼号・・・』

「はーい、皆さんにも紹介しますね~ この機体は、士魂号F型と言いますぅ~
 通常のM型に比べて、強化された人工筋肉の試験機体です」

『ウソつけ・・・』

「これまでの4戦の戦闘データを元にして、橘勝輝君が被験パイロットに
 選ばれました~。 はい~、拍手はくしゅ~!」


 みんな勢いに呑まれたか、パラパラと拍手が聞こえる。
田上は手早く作業員に指示を出し、予備パーツ等の搬入を促した後、
担当整備士である中村と遠坂、それに原に説明をしている。


「おい 俺の4号機はどうなる?まさか廃棄とかじゃないだろうな?」

「大丈夫ですよぉ~ AIはそっくりF型に乗せ換えるし、機体やパーツは
 他の士魂号の予備パーツとしてストックします。
 今その辺を、原主任に引き継いでいたんですよぉ~」

「そ、、そうか・・・ 


 AIを乗せ換えると聞いて、少し胸を撫で下ろした。逆に考えれば、
マサキが居無ければ、俺は士魂号に接続すら出来ないのだ。
そんな単純な事にも考えが及ばない程、動揺していたのだ。

 その動揺の根幹となる、悪夢とも呼べる過去。
かつて、勝吏が俺に【白ウサギ】とアダ名を付けたのも、士翼号に乗っていた頃だ。

 視界が赤くなり・・・ いゃ、やめておこうと首を横に振る。

 
「カツキさん、F型スレンダーっすねー! それにテストパイロットとか
 凄いじゃないっすか!?」


 不意に喜色の声を上げて、滝川が声を掛けてくる。
壬生屋や芝村、速水も試験機体と称される士翼号に繁々と見入っている。


「まぁ 試験機体だから、良いか悪いかはこれからだろ?
 それに俺たちの場合は、ナンバー1じゃなくて、オンリー1だからな」

「ですね・・・」


 壬生屋が静かに同意する。


「あっ! 壬生屋さんでしたっけ? 勝輝君もですけど、注文の品
 出来たそうですよぉ~ 3台目に積んであるから、整備班の人達に
 手伝ってもらって、搬入しといて下さいね!」

「もう、出来たんか!」

「開発班の人達、8連勤したそうですよぉ~」
 
「そ、、そうか・・・
 

 3台目のシートをめくると、超硬度大太刀の長さ1.5倍、幅も若干広い
長刀が一振りと、長さは大太刀と同じくらいの両刃の直刀が、こちらは二振り固定してあった。

 テッテッテっと田上が近寄って来て、説明を始める。


「1号機用の太刀は、厳選した砂鉄からの純玉鋼を用いて造りました~ 
 もちろん鍛造です。 でっかい日本刀と思ってていいですよ~
 玉鋼は比重が重い為、この長さだと流石に人口筋力が重量に負けちゃうので、
 刀身に特殊なスリットを入れて対処してます。

 このスリット加工のお陰で、更に強度を上げる事にも成功してます。
 でも、結構って言うか、かなりお値段もするので投棄とかしちゃだめですよぉ~」


 確かにその長刀は、素人の俺が見ても価値が高い事が分かる。
流麗な弧を描く湾れの刃紋、反りの少ない井出達はデザインこそ超硬度大太刀だが
中身と雰囲気は、全く似て非なるものだと言う事を感じ取れる。


「続いて勝輝君の二刀だけど、こちらは軽さと切れ味って事だったので、
 緋緋色金合金製の刀身を使い、此方も軽量化の為にスリットを入れました。
 直刀両刃にしたのは、勝輝君の戦闘スタイルにこちらが合うだろうとの配慮です。

 それと高周波ブレード機能はそのままにして、刀身に耐熱処理を施し、
 高周波出力を250%程上げてますので、刀身表面温度は1200°くらいまで上がりますよ~

 一応、振動時には分かりやすい様に、融点じゃなくても赤く発光する様にしてますけど、
 整備班の人達は、ヤケドに気を付けて下さいね~」

『250%って・・・ 馬鹿か?ってヤケドで済むかよ!?』


 色々突っ込みたかったが、諦めた・・・

 一通りの説明をしている間にF型が格納庫に搬入され、4号機と並んで共に
リフトアップされる。中村と遠坂を助手に、田上がAIの移設を行い始めた。

 士魂号のブラックボックスとまで言われるAIを尻目に、さしもの
中村もいつもの軽口が出ない様だ。

 そんな緊張感に包まれながら、1時間ほどの移設の合間に、
他のパイロット達も手伝ってくれたお陰で、太刀の搬入も一緒くらいの
時間に終わらせる事が出来た。
 

「さぁ~て 私の今日のお仕事は、これで終わりです~ あでゅ~ですぅ~!」


 緊張感を全くと言っていいほど纏わず、田上がトレーラーに乗り込む。
善行が敬礼で送るのを見て、全員が一応それに倣った。



 その後、なんとなく全員が格納庫へ集まっていた。
リフトアップされた色とりどりの士魂号。 ここの人間にとっては、
にぎやかになった程度の空気の変化ではあるが、実際は成り行きとは言え
エース機が4機も並んで鎮座する事など初めての事なのだ。

 その様子を見ながら善行が溜息をつく。


「さて、これから皆さんは戦闘以外の仕事も増える事になりますよ。
 その一つが広報活動です。 士気向上の為のTV番組出演や、ポスター撮影等が
 あります。 心して下さい」


 出張から帰って来た時のゲンナリとした態度には、この様な諸事情も
含まれていたのだろう。

 それを見ていた原は、「心外」とばかりに含み笑いながら、


「あら? 量産性のカケラもない装備を実装させておいて、しらんぷりじゃ
 中央に顔が立ちませんわよ。 これに乗じて整備班の備品も、充実させるつもりだしネ
 実験小隊って言う看板を、思い切り使わせて頂くわ」


 それを聞いて更に表情に影を落とした善行は、胃のあたりをさすりながら
隊長室へと帰って行った・・・

『ム、、ムゴイな・・・』


「整備班!もしかしたら、今しかないかもしれないわよ!
 思う存分陳情しなさい! どうせ発言権なんて使った事ないでしょうから
 思い切り良い工具類を揃えなさい!
 なんか言われたら、「エース機が4機もある」って言えば、大抵は通るわ!」

『この人に借りを作ったらとんでもない事になるな・・・』


 既に現時点で何がしらの借りを作っているであろう、善行の心情は幾許だろうか・・・

 届いた太刀、二振りを眺めながら芝村と速水、それに滝川も陳情内容を
考えている様だった。

 

 この後の傍若無人な要求ぶりに、軍と生徒会連合が愕然となったのは言うまでもない。

 この事から、皮肉を込めて別名【クライアント(得意先)小隊】と
5121小隊が呼ばれる様になったのは、これからしばらく後の事である・・・







 しばらく善行は、胃薬が手放せないだろう・・・









[27357] 16話 告白
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/27 01:02
 1999年4月7日






「101v1 101v1、 1000 
 御船地区に幻獣出現を確認! 総員出撃準備!」


 お披露目の機会を得る前に、パーソナルカラーを纏った
4機の士魂号は、戦場へと赴く事になった。


「さて パイロット諸君! 本日も、お耳の恋人こと
 このプリンス瀬戸口が、エレガントに生まれ変わった
 士魂号を、優雅にエスコートしてあげよう!

 早速ブリーフィングからはじめよう。まず今日の戦場となる
 御船は、1週間前の松橋のお隣で、松橋ほど平野ではなく
 自然と田園の調和したCクラス戦区だ。

 初期幻獣数は、今のところ80。 ちなみに今回の戦闘では
 広報車も望遠で狙ってくるからな! クールに決めてくれよ」


『相変わらず、軽口が上手いな・・・』


「さて、今もっともパイロット諸君が気に掛けているのが
 本日のダンスのパートナーだと思うが、本日は士魂号部隊
 目下No2との呼び声高い、【ヴァルキリ―】小隊だ。

 今日が4戦目で、総合戦闘力4500と今後が楽しみな
 若い燕達だ。 充分堪能召しませ!」


『若い燕って・・・俺たちゃ、オバハンか?』


「その他に戦車2個中隊と、L1個中隊だ。中央が士魂号2小隊で
 脇にLを2小隊ずつ、さらに両翼を74式が1個中隊ずつ受け止める
 形となる。

 スキュラは確認されていないが、確認後は前回と同じ対処で!以上」




 戦場に着くと起動を済ませ、それぞれの機体が片膝を着き
待機モードで戦線投入の指示を待つ事になる。

 その間も、マスコミや広報のカメラマン達は、エース機の
少ない情報を自社に持ちかえろうと、必死で写真を撮っている。

 戦場となるであろう田園地帯には、まだ幻獣の姿は目視では
確認出来ない。・・・が



「たかちゃん! こっちにうごきはじめたよ!」


 東原の言葉を川切りに、その場の空気が一瞬で緊張に包まれる。


「士魂号全機、クールよりホット! そのまま指示あるまで待機だ!」


 瀬戸口がさっきまでの口調とは打って変わって、低い絞る様な声で指示をだす。
チャンネルを小隊からオープンに切り替えると、各部隊の動きが伝わってくる。


[健軍1022、準備よろし]
[同じく1023、完了]
[八景水谷6101、準備完了]
[山鹿1103、よろし」


 コチリ コチリ と秒針の進む様な音が、脳内に響き渡る。



 数秒後、両翼の戦車隊8両から遠距離の煙幕弾が一斉射された。
それを合図に中央の士魂号8機と、L16台が煙幕に向けて突撃する。

 
「00より02、今日は前線が少し前のめりだ。E-12に就け」

「続いて00より01、D-8へ 04はF-8 03はE-10だ」

「「「「了解!」」」」


 煙幕に突入すると、すかさずアサルトをバックハンガーに固定し、
かわりにバックプットから、高周波二刀を取り出す。
手に取った瞬間、ブゥンという微かな音と共に、刀身が紅みを帯びていく。

 壬生屋も同じくアサルトを仕舞い、背中に右から袈裟掛けに掛けた
超硬度長刀を取り出す。


「0104、お披露目だからってはしゃぎ過ぎるなよ。今日は
 ナラシ程度でいいからな」

「01より りょ、、了解です」

「04から ラジャーっと」


 今日に限った事ではないが、別にいつも特別な事をやっている
と言う訳ではないのだ。 ただ前回があまりにも熾烈な戦闘であった為、
自重を促したのであろう。

 士魂号とLが散々中央で引っ掻き回すのを、周りの戦車2個中隊が
榴弾で削って行く。 

 水を得た魚の様な動きで、喜々としてミノタウロスを一刀両断する、
黒鉄色の1号機。

 紅い刃とその機影だけが、煙幕の中で舞う様に見て取れる、純白の4号機。
 
 時折煙幕をすり抜け、戦車隊に近づく幻獣に、どこからともなく
HEAT弾を被せる、サンライトイエローの2号機。

 そして煙幕の中から、不意に噴水の先端の如く飛び出し、次の瞬間には
10数体の幻獣を絡め捕る様に薙ぎ払う、藍色の3号機。


 幻獣はおろか、味方やカメラの視線がこの戦場の中央に釘付けにされていた。 
それほどインパクトがあったのだ。

 もちろんエース機という先入観も、手伝ってくれたろうし、戦場自体にも
恵まれたと言ってもいい。

 なによりも前回の轍を踏まず、しっかりとした戦力投入がこの流れを
作ったのだ。


「あの黒いの凄いな・・・って言うか怖いな」

「黄色のも目立つはずなのに・・・まるでゴルゴだぜ」

「白いのは刃が踊ってる様だ・・・実際は凄い動きだぞ・・・」

「あの青のミサイル軌道みたか?一気に攫っていったぞ・・・」


 静かになりつつある戦場の何処かしこでその様な会話が繰り広げられていた。
広報やマスコミも、下手な絵よりこちらの方が遥かに視聴者に伝わると感じたのか、
一切の動きを漏らさず撮り続けていた。

 戦闘開始より30分後、オープンチャンネルの戦場指揮官より


「これより、掃討戦に移行する。スキピオ、ヴァルキリ―は後退、補給、待機!
 他部隊は総力を以って、山間部へ追い詰め殲滅せよ!」


 瀬戸口は、前回の幻獣増援を思い出し、具申しようとしたが、
東原が何も言わない以上・・・と、思いとどめた。

 待機である以上、機体から出る訳にはいかないので、小隊チャンネルで
壬生屋に問いかける。


「壬生屋 オーダーメイド品は、どうだった?」

「あ、カツキさん すごく良い感じでした。 これならずっと戦えます」

「そうか よかったな。 重装甲は重くないか?」

「少し足の速さは落ちる様ですが、装甲の重みを剣に乗せられるので
 むしろこれも、私には相性が良いみたいです」

「剣に乗せるか・・・ そんな考え方もあるのね」

「昔は甲冑を着ての戦闘が、当り前でしたからね」

「それよりカツキさん、動き凄かったっすね! スコープから覗いてましたけど、
 煙幕に溶けて刃しか見えませんでしたよ! その刃もブルンブルン、動いてたし!」


 やっと緊張がほぐれて来たのか、滝川が入り込んでくる。


「そういや、滝川はどこにいたんだ? ってくらい見えなかったな?
 時折92mmの発射光で、「あぁ今、あそこか?」ってくらいだったぞ」

「只でさえ色が目立つんで、なるべく稜線を利用してたんっすよ」

「ほぉ~ なんか暗殺者みたいだな」
『何気に色々、考えてんだな・・・』

「やだなぁ カツキさん、スナイパーって言って下さいよ~」

「そういや、厚舞コンビも今回は単独突貫だったな?」

「あ、、あつまい・・・だと?」


 芝村が震えた様な声で聞き返してくる。


「あぁ 厚志と舞で厚舞だろ? 名付け親としちゃ、秀逸なコンビネームだって思うが?」

「うん 僕も良い呼び名だと思います。ねぇ、舞もそう思うでしょ?」

「う、、うむ まぁ、良い呼び名だな・・・・・・」


「ま それはさて置き、大分ジャベリンのコツを掴んできたようだな?」

「うむ それに加えて現在陳情中のブツが来れば、我等の火力は更に向上するぞ」

「ほぉ~ 自信ありげだな」

「舞がですね、ミサイル発射直後の接近状態は、アサルトじゃ心許ないって・・・」

「ほぅ で、ショットガンでも発注したのか?」

「相変わらず勘が良いな、正解だ。散弾銃を陳情してある」

「ま、、マジか・・・? しかし装弾数が少ないだろう?」

「従兄妹殿は1弾帯で12発と言っていたな。弾帯を6持てば、事足りるであろう?
 どの道我等の3号機は、ミサイル発射後は補給と言うのがセオリーだからな」

「そう言われれば、そうだが・・・」
『こいつ等も、色々考えてんのね・・・』

「カツキさん、俺も陳情したっすよ!」

「おぉ 滝川もか! で、何をだ?」

「射程3000の125mmライフルです!」

「ひゃ、、125mmだと!?」
『た、、確か92mmの実装は、120mmのライフル使用に士魂号が発射の反動に
 耐えられずバラバラになり、やむなくスケールダウンしたんじゃ・・・?」

「そうっす! これだと戦車砲と同等の砲弾が使えるし、多少大きくなっても
 俺、基本的に動かないインドア派っすからね!」

「反動とか大丈夫なんか?」
『インドア派とか関係なく、バラバラにされて機体外に強制排出されるぞ・・・」

「それ言われましたけど、反動は何とかしてくれって、開発の人に
 お願いしてきましたから、何とかしてくれるんじゃないんすか?」

「そ、、そうか・・・うちの開発班は優秀だから・・・な」
『やべぇ・・・俺と壬生屋の鬼発注に、開発の神請負が、5121の常識になっちまった・・・』


 善行が勝吏からニヤニヤされながら、いぢられてる場面が脳裏をかすめる。



 そんな会話と妄想をしている内に、オープンチャンネルから戦闘終了の旨が伝わってきた。
帰りの車中で、小隊からの陳情内容の酷さに対する善行の嘆きを聞きながら、尚絅の道を
ゆっくりと帰った。

 帰り着くとすぐに機体は、格納庫で修理点検がはじまった。
入口から、善行と原が近づいてくる。


「橘君、お昼まだでしょう? たまには、味のれん以外でもどうですか?奢りますよ」

「委員長、よろしいんですか? 俺、原さんに既にフラグ立てちゃってるんで、
 これ以上自分の、寿命を縮める様な事はしたくないんですが?」

「あら? これは私からのお誘いよ。 善行さんは、カツキ君から私が襲われた時の
 ボディーガードよ」

「そですか・・・」

「まぁ 橘君相手に私がボディガードが務まるかは不安ですが・・・
 所謂、私はミツバチですので・・・」

「委員長・・・今、貴方は世のお父さん方、全てを味方につけましたよ・・・」
『あながち、嘘じゃないところが泣けるぜ!』

「では、海老の美味しいお店があるのでそちらへ・・・」


 そう言うと善行は携帯を取り出し、電話を掛ける。 3分後には黒のセダンが
隊長室前に停まった。

 ドアを開け俺と原を後席へ促し、最後に原を中央にする配置で善行も乗りこんだ。


「いつもの店へ」


 一言、善行は運転手に語りかけると、セダンはスイっと走り出した。


『昼飯、食いに行くだけで何処まで連れてく気だ!』


 30分は走ったであろうか?それとも空腹がそう感じさせたのであろうか?
車は天草方面に向かい走り続けていた。

 停車したのはこじんまりとした、料亭というのではなく、むしろ
食堂といった佇まいの定食屋だった。


「ここ天草の特産物は車エビでしてね、特にこの店の海老は飛びきり
 モノが良いんですよ。」

「カツキ君 このお店、かなり美味しいわよ~」

「へぇ 隠れた名店と言う奴ですね」
『もう、目の前の弁当屋の惣菜でいいから、早く飯を・・・!』


 自動ドアが開き、中からはおばちゃんが2人、


「「いらっしゃいませ~」」


 席というか、飯台を4つ、ドンとおいた8畳間に靴を脱いで上がる。
この飯台も、あの安っぽい足がキュアァって折り畳める、めっちゃ
チープな飯台だ。

 ある意味、本気でワクワクしていた。 ここでいったいどんな
料理が出てくるんだ?


「あ、すいません いつもの貝汁定食を3人前ですね。 単品で
 海老天1つと、エビチリ1つお願いします」

「はいな。 軍人さんなら、昼からビールは飲みなはらんな?」

「はい いつも売り上げに貢献できなくてすいません」

「あぃあぃ んな、ちょっと待っときなっせ!」


 そう言うと、おばちゃんは厨房へ行き、2分後


「ほぅ こら、うちのダンナからサービスたい! いつも眼鏡さんは
 来てくるっけんてな」

「これは・・・?」

「カレイたい。 今日はえらい上がったごたるけん、やーす卸して来たったい。
 そぎゃんな損はしとらんけん、遠慮せんと食べなっせ」

「有り難く頂戴します」


 3人で箸を取り、カレイをつつきだす。
美味い! 正直な感想だった。 煮付けとか唐上げのイメージが
強かったが、刺身でもこんなに美味しいとは・・・

 その後、5分ほどして全ての注文が目の前に揃い、3人で
他愛もない話を織り交ぜながらの会食となった。

 食後に出てきた玄米茶をすすりながら、原が静かに喋りはじめた。


『・・・本題か?』

「カツキ君、君は一体何者なの・・・?」

「えっ? 何者って、何処にでもいるチャラい元高校生ですよ」

「ウソおっしゃい。 何処にでもいる子が士翼号をプレゼントで
 貰えたりするものなの?」

「ですよね~? もう知ってるんでしょ?勝吏との仲も」

「準竜師は、昔からの古い付き合いだって言ってらっしゃったけど、 
 それ以上の物を感じるわ」

「どうしてです? こんな命の軽い時代ですから、幼馴染とかには
 良くしてあげたいって思うじゃないですか?」

「じゃあ聞くわ! 君の士翼号、貴方が今日戦闘を終えて帰還した時点で
 戦闘力、いくつあったと思う?」

「さぁ・・・?」

「すっとぼけないで! 士魂号に初搭乗した時の数値、1780も
 計測ミスではなく、本当の数値だったのね? 教えてあげるわ!
 貴方と士翼号の戦闘力は現在、2900!」

「へぇ~」

「ついでに言うとね、1号機が1400 2号機1220 3号機1380よ
 実戦5回でこの数値は、凄い数値なのよ! 貴方の2900って何?
 過去のエースの最高値でも2100程度なのよ!」

「まぁまぁ 原さん、落ち着いて・・・」


 取り乱す原を見兼ねたのか、善行が場の空気を取り繕う。
眼鏡のブリッジを右手の中指でツィと押し上げると、切る様な視線で
善行がこちらを窺っている。


『何がミツバチだ? 中身はスズメバチじゃねぇか!』

「橘君、再度お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「俺が答えて差し障りなければ?」

「ではまず・・・」

「ちょい待った、委員長! この先を知ってどうする?」

「どうもしません。ただ私は、護りたいだけです。貴方をどうこうしようと
 言うのではなく、護る為によく知りたいだけです」

「どうせ、原さんを護るついででしょ?」

「勘が鋭いですね」

「いいでしょ 答えましょ」

「では、貴方はラボ出身ですか?」

「そだよ」

「芝村系のですか?」

「じゃなきゃ、今頃あの世だ」

「士翼号に関しては?」

「昔、あれに乗ってた。試作時代だがね」

「試作ですか?」

「昔は生体脳じゃなく、AIだったんだよ」  

「では、士魂号もAIで動かせると?」

「さぁ?それは原さんの、頑張り次第なんじゃ?」

「AIの士翼号で、戦闘力はいくつくらいなんですか?」

「さぁ 当時は戦闘力とか無かったからね」

「大体でいいです。わかりませんか?」

「ん~500くらいかな?」

「士翼号でも、500しかないのですか?」

「動いて打つ、これくらいが精一杯だったよ」

「ちなみに士翼号は他には・・・」

「無いね・・・あれの量産機が士魂号って訳だ」

「では予備パーツとかは?」

「勝吏が都合付けてくれる。燃料もタンパク燃料じゃなく
 水素だったでしょ?」




「最後に・・・貴方の意図は?」


「熊本で家族作って、幸せな老後を送る事さ。
 その為に5121に入った」



「良かった・・・ どうやら橘君とは利害一致している様ですね」

「やだなぁ 1度だって委員長に、迷惑かけた覚えはありませんよ」

「陳情は、かなり効きましたよ・・・」

「あ、、あれは、成り行きですって・・・事故ですよ!」


「原さん、納得して頂けましたか?」

「そうね・・・腑に落ちない所はあるけど、とりあえず納得したわ。
 つまり、昔かっらあれに乗ってたから、あの数値なのね?」

「そう言う事です」


 善行が子供を諭すように、原に語りかける。

 場の空気が元に戻ったのを感じたのか、善行が


「そろそろ、お暇しましょうか?」

「ですね 定時前には装備点検しておかないと・・・」

「良い心掛けです。これからも模範となって下さい」

「無理ですよ。見ての通りチャラ男ですからね」

「あら、そうかしら? 結構な修羅場をくぐったイイ男よ」

「お褒めの言葉と受け取っておきます・・・」


 清算を済ませると、目の前の弁当屋に停まっていたセダンが迎えに来た。
帰路の中で、


「委員長、原さん 4号機は士翼号ではなく、F型って事でいいですよね?」

「もちろんよ」

「そうですね・・・これ以上の事をあの子達が知ってもメリットはありません」





 
 自分達の歩いた道を振り返り、同じ轍は踏ませまいと苦悩する2人がいた。





 久しぶりに『オトナ』と言う人種を見つけた様な気がした。





『俺はこんなに立派には、なれないだろうな・・・まだ全部話せてないし・・・な





 
 









[27357] 17話 広報活動
Name: フミ◆2aa323cc ID:dc4a49f7
Date: 2011/05/29 21:48
 
 1999年4月9日







 AM8:00


「さて本日は、昨日言った通り広報誌撮影の為の
 写真撮影となります。 各自、言い伝えた通り、
 私服1着は持ってきてますね?
 
 それでは、ウォードレスと、私服を持って0830に
 正門前に集合して下さい」


 朝からいつもとは違う朝礼の内容に、全員が戸惑いを
感じながらも、ゾロゾロと教室を後にして、更衣室へ
ウォードレスを取りに向かう。

 今日は、士気向上を促す為の広報活動の一環として、
今、注目の5121小隊を、雑誌【月間 自衛軍】の
増刊号を発刊して紹介するとの事らしい。


「わたくし、雑誌の写真撮影とか初めてです・・・」


 壬生屋はウォードレスと、私服を入れたバッグを両手に抱え、
かなり緊張している様子だ。
 
 迎えに来た出版社のマイクロバスに揺られながら、
本日の日程の説明を受ける。

 
「皆さ~ん 本日は慣れない任務、ご苦労様ですぅ~
 それでは、これからのスケジュールを発表しますね」


 なぜか・・・ 田上が引率役として、ちゃっかりとマイクロバスに
乗り込んでいる。


「一つ聞いても良いか?」


 芝村が、手を挙げながら質問する。


「はぃはぃ どうぞ~」

「まず、なぜそなたがここに居るのだ? 
 それと、なぜこの場を仕切っているのだ?」

『まぁ みんな思ってる事だろうなぁ・・・』

「実は私、システムエンジニアの他にも、【月間 自衛軍】の
 編集のお仕事もしてるんです~
 ぶっちゃけ、5121の特集案出したの私ですしぃ~」

『ま、、マジか!?』

「そうであったのか・・・? しかし、副業などして良いのか?」

「だって、【月間 自衛軍】の出版社って、[芝村文庫]ですよ。
 副業じゃなくて、転属ですよ~」

『なんか、違うだろ・・・』

「そなたも苦労しておるのだな・・・」

『芝村もなんか勘違いしてるな・・・』

「ではまず、9時に玉姫殿に到着予定です~」

『た、、玉姫殿って・・・』

「あ、、あの 玉姫殿って、結婚式場ではないのですか?」


 たまらず壬生屋が質問する。


「そうです~ まずは衣装合わせですぅ その後、撮影ですよ~」

「我等は軍の広報撮影ではないのか?」


 続けて芝村も質問をする。


「そうですよぉ~ でも、今話題の5121の特集ですから、 
 少し趣向を変えて行くんです~」

『そうだった・・・ こいつが編集者だったんだ・・・』

「髪の毛のカットやセット、女性陣はお化粧もありますからね~」

「そこまでするんすか?」

「でびゅーですよ!でびゅー  バシッと決めれば、ファンレターが
 どっさりかもしれませんよ~」

「え、、いゃ マジすか・・・」

「と言う事で、午前中は撮影で終わります。 昼食後は
 場所を変えて、一人ずつ軽めのインタビューをしま~す。 

 終了は3時を予定してます。 以上が今日の日程です~
 頑張りましょうね~」


 予定通り9時に到着すると、早速衣装合わせが始められた。


『でも、ここにある衣装って・・・』


 当然の事ながら、ドレスとタキシードしかない訳だ。
田上は大立鏡の前に全員を並ばせると、衣装の掛かったカートを
ゴロゴロと引っ張ってくる。


「5121小隊増刊号のテーマは、【平和へ誘う】と言う事で、
 男性陣は執事で、女性陣はメイドと言う設定で行きます~」

「それ・・・かなり無理がないか?」


 俺がボヤくと、


「男性陣が執事の時は、女性陣は淑女のお客様役で、
 女性陣がメイドの時は、男性陣は紳士のお客様役で、写ってもらいます~
 意外に着替え、多いですから覚悟しておいて下さいね~」

 
 軽くスルーされた後、男性陣がスーツとタキシード、女性陣が
ドレスを1着ずつ選び、メイド服2着は田上がどこからか仕入れて来た様だ。


「ではまず、1人ずつ制服姿とりますよ~ まずは壬生屋さんからね~」


 おずおずと胴着姿で、カメラの前に立つ壬生屋に、


「あぁ~笑顔、えがお~! 美人がだいなし~  は~ぃ いい感じ~!」

「次~滝川くん~ そー ニカっとね~ はーい オーケー!」


 なんと田上はカメラマンも兼ねてやっているのだ。 


「次は速水君と芝村さんね~ 2人、一緒に撮るよ~
 そぅそ~ いい感じ~ もっと寄って~ ん~ はぃ~
 芝村さん、前で手ぇ組んでふんぞり返ってみて~ 速水君、後ろで組んで、
 はぃモジモジして~」

『すげぇ・・・演出まで考えてんのか・・・』

「次~ 勝輝君ね~ そ~ ダラァ~っと立って~ ん~いいよ~ ぉけ~」


 どうやら機体分けで、厚舞はセット撮りらしい。
すばやく撮った写真をモニターで確認すると、


「じゃ次、皆さん私服に着替えてきて下さいね~」


 との沙汰を受け、誰一人として勢いに逆らえず何も言えずのまま、
田上の流れに飲まれていた。

 私服も同じ様な雰囲気で、無事に撮り終え、その次がウォードレスでの
撮影と続いた。


「じゃ次、男性陣の執事を行きますから、各自カットとセットを
 済ませて、燕尾服に着替えてきて下さいね~

 女性陣は、カットはいいですからヘアメイクとお化粧を済ませて、
 ドレスに着替えてきて下さい~

 あ~ 皆さん、すでにお店の人には、私から要望を入れてあるので、
 座って自分の名前を言えば、全部やってくれますよ~」

『全部1人で仕切るつもりなんだな・・・』


 メイク室に行き、名前を告げると、心得たとばかりに髪の毛に
ハサミを入れられていく。


『えっ、、えっ、、ちょ 待て!』


 スプレーで水を吹きかけられ、櫛でオールバックにされると、
スッスッと左右に、分け目を入れられる。
 その後、おもむろに分け目から下を、バリカンで刈り上げられた。


『ツーブロックのオールバックかよ!?』


 ホントにモノの5分の出来事だった・・・
セットも終わり、 


「よろしいですか?」

『よろしくも何も、最初から聞かなかったじゃねぇか!』
「・・・あぁ いい感じだ・・・」

 
 やっとの思いで返事を絞り出した。

 隣を見ると、滝川は全体的にカットされ、ツンツンのイガグリの
様な髪型になっていた。 速水は髪型は変わっていなかったが、
真っ青に染められていた・・・。

 3人とも無言で燕尾服に袖を通し、撮影場所であるテラスに
向かった。

 まだ、芝村と壬生屋の女性陣は支度が出来ていない様だ。
手持ち無沙汰な3人の前に田上は立つと、


「んん~ いい感じですね~ はぃ このトレイを持って下さい。
 勝輝君は壬生屋さんに、速水君は芝村さんに、左右から紅茶の
 ティーカップを置くシュチュエーションでよろしくです~
 滝川君は女性2人の中央後方から、ケーキを置く役ですよ~」


 そう言われて、ティーカップの乗ったシルバーのトレイを
渡される。 
 「こんな感じか?」と田上に演技指導を受けていると、
芝村と壬生屋が着替えを終えて、静々と歩いてきた。


「うぁ~ 綺麗だよ、舞!」

『速水は、ある意味すごいな・・・』

「厚志 そう言う事は思ってても、人前で言う物ではないぞ」

『お前も言ってる事は、速水と変わらんがな・・・』

「はぁ~い お惚気はその辺で~ チャチャっと撮りますよ~
 左右、散って~ 滝川君、真ん中ね~ は~い、全員目線こっち~
 はぁ~い オーケー! 

 そうだ! 速水君と芝村さん、ツーショットで撮ってあげましょうか~?
 タキシードとドレスだから、結婚式の前撮りって感じで~」

「記念に撮ってもらえよ。 中々ないぜ、こんな機会」


 本人達同士では中々素直に、「うん」とは言えないだろうと、
助け舟を出してやった。


「そ、、そうであるな。 着替えに時間も掛かった事だし
 つ、、ついでに撮っておくか、厚志?」

「そ、、そうだね! 中々こういうの無いもんね。
 お、、お言葉に甘えちゃおうか?」


 2人並んで、手を組んだり、向かい合ったり、見詰め合ったりと、
田上は色々なシュチュエーションを要求し、カメラに収めていった。


「では、最後のお色直しですよ~ 女性陣はメイド服、
 男性陣はスーツに着替えてきて下さいね~」


 相変わらず先に着替えが終わったのは、男性陣だった。
今度は、もてなされる方なので特にやる事も無く、椅子に掛けて女性陣を待つ。

 5分後に2人が出てきた。似合う、似合わないは、見る人間の趣向で
変わるであろうが、まぁ第3者的には似合っていると思うが、
どうも当の本人達は、そうは思っていないらしい。

 つまり似合っていないと思い込んでいるのだ。その表情は2人共
耳まで真っ赤に染め、俯きながら左右に目を逸らしている。


「ん~ そのモジモジ感、いい感じですよぉ~! 絶対、ツボっちゃいますぅ!」

「次はメニューを両手でぇ~、「ご注文は、お決まりになられましたか?」って
 表情、くださぁ~い! そぉ~ いい~ 萌えちゃう~」


 田上は、留まる事を忘れたかの様に、カメラのシャッターを切っていく。
男性陣はというと、只ボー然と成り行きを見守るばかりだ。

 20分後、ようやく平静を取り戻した田上は、


「写真撮影、ご苦労様でしたぁ~ 下のレストランに昼食の予約を
 入れてありますので、ランチにしちゃいましょう~」


 昼食後、予定通りに1人ずつインタビューを受け、無事にその日の
日程を完了した。

 帰りのマイクロバスの中で、田上に聞いてみた。


「おい、唯  もうこんなチャラけた任務とかないんんよな?」

「きゃあぁ 【ゆい】ですってー! 名前呼び捨てとか、もしかして
 勝輝くんに、私ロックオンされちゃった~?」

『田上じゃ無ぇって知ってるからだよ・・・』
「あぁ すまなんだな 誰でも呼び捨てが癖なんだよ。
 で、もう無いんだよな?」

「ゆい、でいいですよ~ 私もカツキって呼ぶ事にしますからぁ~」

「ぐっ・・・」

「で、お仕事の方はもう無いと思ってていいですよ~ 
 でも、他社の軽いインタビューとかには答えてやってくださいね~
 あんまりシカトすると、粘着してくる人もいますからね」

「へぇ~」

「そしたら、また余計なお仕事が増えちゃうかもですからねぇ~?」

 
 意味深な言葉を織り交ぜながら、その日は尚絅高校へと帰還した。
 









 4日後・・・




 広報撮影から2度の出撃はあったものの、特に問題も無く
いつもの様に、朝の点呼・朝礼と済ませ、隊長室に
パイロットが集まる。

 この時に、現時点での各機体の装備状況等の確認を行う。
各パイロットが、小隊の状況を知っておく事も重要な事なのだ。


「さて、それでは装備確認も終わったところで、4日前撮影した
 【月間 自衛軍】の増刊号が刷り上ってきましたよ」

「「「「 えぇ? もう? 」」」」

「あれから田上さん、2日徹夜で記事を書き上げたそうです。
 昨日、チェックと添削を済ませ早速出来上がったのを
 送って下さったそうです」

『あいつ、ホント何でも屋だな・・・』

「それと、あの時点では分かっていませんでしたが、昨日と
 3日前の戦闘で、全機に渾名を送られる事が決定しました。
 黄金突撃勲章が、もう後1戦ほどで獲得出来るだろうとの事から
 特別措置だそうです。 

 その渾名も掲載してあるので、是非確認して置いてください。
 渾名の由来とかも書いてありますよ」


 そう言うと、A4サイズの40ページ程の冊子を卓上に置いた。

 パッとみて思ったのは、まず金が掛かっているだろうと言う事だ。
おそらく全てのページがフルカラーであろう。 値段を見ると
[定価1200円]とある。


『高けぇ!』


 全員で机を囲み、まず表紙から見てみる。月間自衛軍という文字の
横にデカデカと、【永久保存版】と銘打たれてある。

 ペラリとめくると、見開きであの執事のシーンが出てきた・・・
[これからは私達が、平和という楽園へエスコートさせて頂きます]


『だれもこんな事言って無ぇよ!』


 男性陣が一様に、アワワという表情で次のページへの催促をする。
この次のページは当然の事ながら、壬生屋と芝村のメイドシーンだ。


「こ、、この様なものが販売されるのか・・・」


 芝村の苦しそうな台詞が聞こえる。
さらにページをめくる。 そこからは、機体の写真になっていた。

 格納庫のリフトで4機並んでいる写真や、戦場で膝を着いての待機状態、
武器等をクレーンを使っての整備の様子や、整備員達の休憩中、
パイロット達の訓練中の写真が4~5ページにわたって掲載されていた。

 そして、いよいよ[機体紹介]と言う項目に差し掛かった。
全員が妙な緊張感を共有しながら、ページをめくる。 
 そこには黒鉄色の1号機が、ドーンと貼り付けてあった。



[1号機 【グレイ バーサーカー】専属パイロット 壬生屋未央]

 黒鉄色の重装甲を身に纏い、刀身3500mmの超硬度長刀を持ち、
中型幻獣を一刀両断にするその姿は、まさに[クロガネの狂戦士]

 小隊内ポジションはレフトウィング、戦闘スタイルは上記にもある様に、
通常の1.5倍の長さを誇る長刀を用いての近接戦。

 1号機に限らず全機が、サブウェポンで20mmアサルトライフルを装備。



[2号機 【ルミナス アサシン】専属パイロット 滝川陽平]

 眩い光を発するサンライトイエローの軽装甲。この[陽気な暗殺者]
のターゲットサイトに捉えられた幻獣が、「死」以外の選択肢を
選べる事は出来るのであろうか?

 小隊内のポジションはスィーパー、戦闘スタイルは距離2000Mからの
スナイピング。 ちなみに距離2000Mでの命中率は、目標が5Mであれば
95%を誇る。



[3号機 【ラピス クラーケン】専属パイロット 速水厚志・芝村舞]

 コバルトブルーの複座型士魂号。 [深海の帝王]の逆鱗に触れた愚者は、
決して逃れられぬ鉄槌を、己の身に刻む事になるであろう。

 ポジションはセンター、戦闘スタイルは地対空ジャベリンミサイル
による、一撃離脱。 1度での最高撃破数レコードは14体



[4号機 【ブラッディ ダンサー】専属パイロット 橘勝輝]

 パールホワイトの軽装甲を纏う士魂号強化実験機。 幻獣の血液を
求めるかの様な、赤い剣を両手に乱舞する[吸血の舞踏士]

 小隊内のポジションはライトウィング、戦闘スタイルは1号機と同様に
近接戦だが、二刀の為に一刀両断ではなく、切り刻むスタイルを好む。



 この様な感じで見開き毎で、各機の紹介をしてあった。

パイロットはと言うと、初めて知る自分の渾名に、なんとも言えない感銘を受けていた。


「ルミナスってどういう意味っすか?」

「輝くって意味だよ。 陽気って解釈の仕方もすごいがな・・・」

「狂戦士って・・・ わたくし、そんなに酷かったですか・・・?」

「良い意味では、ないのか? そなたの戦いぶりで、確かに戦場の士気が
 向上していた様な気がするぞ」 

「ラピスって何の事なんですかね?」

「ラピスラズリの事だろ? 青色の宝石だ。その青を深海に文字ってある様だな」

「では、クラーケンとはなんだ?」

「あ、それは俺知ってるぜ! 大王イカだよ。結構メジャーなモンスターだぜ」

「だな 3号機のミサイルを大王イカの触手に見立てたんだな」

「ブラッディって血の事っしょ? 吸血って考え方もすごいっすね・・・」

「だよな・・・ でも、ちゃんと全機とも個性を渾名にしてるって言うか、
 よく見てるよな?」


 こんな会話をパイロット同士で交わしながら、ページをめくっていく。
[パイロット紹介]となり、各機体のパイロットのウォードレス姿や
制服姿、私服姿が紹介されていく。



「こ、、これでは[グレイバーサーカー]が、わたくしであると
 本を読んだ人にバレてしまします! 
 もぅお嫁に行けませんわ・・・」

『バレるって・・・ それを紹介する本だろ・・・』


「こ、、これはどう言う事だ!? この写真はついでに撮った写真ではないのか!?
 これでは私と厚志の、け、、け、、結婚式の様ではないか!?」

『ま、お約束だな・・・』



 田上の撒いた地雷を、裸足で踏んだ芝村がワナワナと震えている。
地雷のポイントを予測して、誘導した俺は笑いを堪えるのに必死だった。



「舞、いいじゃないの? いずれは撮る予定の写真なんだし。
 実は舞も嬉しいんでしょ?」


「む、、むぅ・・・ ま、、まぁ・・・厚志がそこまで言ってくれるのであれば・・・」

 
「芝村さんはいいです! わたくしなんて、まだ相手も決まってないのに!
 こんな凶暴な女、きっと一生娶ってくれる人など見つかりません・・・」


「瀬戸口なんかどうだ? あいつもまんざらじゃ無さそうだし、
 セッティングしてやろうか?」


「うむ、橘よ。 ぜひ、そうしてやってくれ」


「勝手に話を進めないで下さい!」


「じゃ、誰がいいのよ?」


「誰が良いとか、そう言う問題ではありません!」











『むずかしいお年頃だ・・・』


  









[27357] 18話 個性
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/05/31 19:09
 
 1999年4月中旬






 朝から2時間程、走り込んで一息つく。
休憩を兼ねて、テクテクと格納庫に顔を出して見る。

 するとそこには、整備員の岩田に食って掛かっている
芝村の姿があった。


「なぜ散弾ではなく、スラッグ弾なのだ!? 我等の
 戦闘映像は見た事があるであろう!?」

「モチロンでぇ~す」

「敵の渦中からの、ミサイル発射後の幻獣密度を考えた事は
 あるのか? 散弾で広範囲の敵の足を止め、その隙に
 脱出する為の陳情であったのだぞ!」

「そうなのですかぁ~」

「速射も効かぬスラッグ弾であれば、脱出路の確保も
 ままならぬではないか!?
 次回からは我等に、片道分の燃料しか渡さぬ気か!?」
 

『・・・例えが極端なんだよな このお姫様は・・・』


 芝村が激昂している理由は、陳情のショットガンが
散弾仕様ではなく、スラッグ弾仕様だった事によるものらしい。

 
「だからそれは開発部の判断によるものですので、ワタシには
 なんともいえませぇ~ん」

「その判断理由を聞くのは、整備の仕事ではないのか!?」

「整備の仕事は、士魂号の稼働率の向上で、パイロットの
 我儘を聞く事ではありませぇ~ん」


 この岩田という男、口調から分かる通り、一癖あるというか
全く掴めない男なのだ。ペアの田代という女もアクが強いが・・・
ま その辺は追々と語る事になるだろう・・・

 しかし、岩田の言っている事は正論なのだ。 整備にして
見れば、パイロットの陳情内容など聞かされてもいないし、
むしろそんな事に、首を突っ込んでいる余裕はないのだ。

 そこに原が近寄ってくる。


「この整備の忙しい時間に、芝村さんは自分の担当整備の
 足を引っ張って、何をしたいのかしら?」


『あちゃ~、芝村vs原かぁ・・・まだ原さんには、勝てねぇだろうなぁ』

 
「原、良い所に来た! 仕様の違う装備を渡されて、我等は戦場に
 赴かなければならぬと言うのか!?」

「仕様って? 3号機にキャタピラでも付いたのかしら?」

「誰が、そんな事を言った!?」

「誰も何も言ってないじゃない? 何が不満なの?」

「だから!武器だ!陳情した物の仕様が違うのだ!」

「だったら、最初っからそう言いなさい」

「岩田にはもう言ったのだ!」

「で?」

「整備には関係ないどと、のたまいているのだぞ!」

「でしょうね だって整備員は、士魂号の整備がお仕事だもの。
 武器の装備にしても、私等がサービスでやっていて上げてるのよ。
 感謝こそされても、職務範疇外の事で非難される覚えはないわ。

「ぅ、、ぐぅ・・・」

「陳情において、不満があるのであれば、開発部にクレームを入れるか、
 陳情する際の自分の言語能力の低さを認めて、心でも入れ替えなさい」
 
「・・・クッ」


『さすがに、自称Sと語るだけあるな・・・』


「それとおまけで、教えて上げるわ。アナタと速水君のシンクロ、大丈夫?
 この前の増刊号が、尚絅高校にも5部くらい送られてから、
 ファンレター結構来てるみたいよ」

「そ、、その様な・・・」

「ウソよ」

「そ、、そなた!その様に、人を辱めて面白いか!?」

「あらぁ~? 私はこういう人間よ~ 初日で、理解ってもらったと思ったけど?」

「・・・クッ」


『だから敵わねぇって・・・』


「そ、、それと職務は違うであろう!」

「だから~さっきから言ってる様に、それは整備のお仕事じゃないの。
 お寿司屋さんが、ネタを仕入れに海へ漁に出るかしら?
 私達は精々市場までよ。海に漁へ出るのは、パイロットではなくて?」

「・・・ぅ、良い!」

「ん~? 何が良いの? 主語がないと、日本語って理解出来にくいのよね~」

「もう、良い!と言ったのだ!」

「何が良いの? 整備の仕事を引っ掻きまわして邪魔した挙句、放置されても
 こちらの仕事上困るのよね! 今迄通り、武器の装備はやって上げるから、
 何を装備するのかくらいは言ってから、目の前から消えてちょうだい!」


『最後のトドメ文句まで容赦ねぇな・・・』


「私が陳情した、ショットガンで良い!」

「あらぁ? その言い方、なにか勘違いしてない? ここはショットガンを
 装備してくれ、ってお願いする所じゃないのかしら?」


『原さん、まだ引っぱるのかよ? もう芝村のライフは0だぜ・・・』


「ショットガンで頼む・・・・・・」

「はい、よく出来ました~」


 クルリと岩田の方を向くと、ズカズカと格納庫を後にする芝村に
ワザと聞こえる大きな声で、


「岩田!ショットガンを装備しときなさい! 予備弾倉は予定通り6で!」

「了解ですぅ~」

「・・・クッ」


『やっぱり全部承知でのカラミか・・・』


 今度はクルリとこちらを向く。


『次は俺か?』


「カツキ君、どうしたの? ボォーっと突っ立って? 
 今の会話が、そんなに楽しかったのかしら?」

「えぇ もう、ゾクゾクしてましたよ」

「アナタ、やっぱりMでしょ?」

「自覚はありませんけど、否定はしませんよ」

「あ~ぁ カツキ君はつまんないわねぇ」

「俺と原さんは、相性バッチリって初日で理解ってもらったと
 思ってたんですがね?」

「そうね、確かにバッチリだったわね? 確かめたいくらいだわ」

「今日はえらくトンがってますね? アノ日ですか?」
 
「ナメてるの!?」


 ノーモーションの平手が飛んできた・・・


「いったぁ~い」「痛ぇ~」


 士翼号の件もあったし、いらぬ心配を掛けた謝罪も込めて
今日も真正面から受け止めた。
 
 おそらく、原も当ると分かって手を振るったのであろう。
初日程の怒気は、その手に纏ってはいなかった。


「これくらいで、よろしいですか?」

「あ~ぁ やっぱカツキ君、つまんないわね~
 ゴメンね、演技に身体張らせちゃって・・・」


 スッキリとした顔をして原が謝ってきた。


「どうしたんです?あの毒っ気はタダ事じゃなかったですよ?
 委員長でも諌め切れなかったとなると・・・」

「あぁ善行さん、夜はからきしなのよ。で、オーバーフローしちゃって
 その余波を芝村さんが、モロに食っちゃったと言う訳。
 悪いことしちゃったわね・・・」


『誰も夜の事なんて聞いてねぇよ!』
「で、何事ですか?」

「戦況の事よ」

「では、俺は聞かない方がいいですね?」

「あら、イジワルなのね?アナタも引っ掻きまわして、放置するタイプ?」

「俺はちゃんと、均したじゃないですか?」

「均したら、ちゃんと種を植えて育てて、収穫までしなくちゃね」


『この人も、一杯いっぱいなんだな・・・』
「ふぅ、俺の命に差し障りの無い程度だったらいいですよ」

「うふふ・・・その台詞、お返ししたいくらいだわ」


 そう言うと、2人でトコトコと整備事務所まで歩いて行く。
テーブルに座っていると、原が緑茶と奈良漬けを出して来た。


「あ すんませんね 気が効かなくて」

「気にしなくていいわ。これから愚痴を聞いてもらうんだしね」


 パチリとウインクをしながら、お茶を薦めてきた。
それと一緒に奈良漬けを一つまみしてみる。


「美味いですね。手作り・・・ですか?」

「あら、分かる?ちょっとは自信あるのよ」


 原自身も本題に触れたくないのか、中々言葉が続かない。


「戦況ですよね?余所はともかく、うちはいい感じじゃないですか?」

「うちはね・・・ 全体的に見ても例年より勝率は高いし、幻獣の出現率は
 低めだわ。 でもねこのパターンって去年と一緒なのよ」

「八代会戦ですか?」

「そう・・・ 中央もある程度、予想しているみたい。過剰な程の
 戦力が、この熊本に極秘裏に集結されているわ」

「ソースは?」

「善行さんよ・・・だから、おそらく準竜師が情報元よ」

『勝吏か・・・俺がここにいると分かって漏らすか?』
「情報の信憑性は高いですが、原さんの機嫌が悪くなる事は無いでしょう?」

「なぜ、そう思うの?根拠は?」

「勝吏はね、勝てる喧嘩しかしないんですよ、昔っからね・・・
 去年、勝吏はヤケドが嫌で手を出さなかった。
 それは、偽りの勝利と言う事で、自分を汚すのを嫌ったからです」

「じゃ今年は・・・」

「勝吏は勝てると踏んでいるんですよ。おそらく九州から追い落とす事は
 無理でも、熊本は完全奪還出来ると考えてるんでしょう」

「でも熊本要塞での、拠点防衛という考え方は捨て切れないわ」

「あいつはそんな中途半端はしませんよ。拠点防衛で戦力を
 悪戯に削っても、来年・再来年には陥落するでしょう。
 そうなってからの戦力で、今の日本は幻獣に勝てる事が出来るでしょうか?」

「おそらく、そうなったら・・・」

「だから勝吏は今年、勝負してくると思いますよ」

「じゃ、今の戦力集結は・・・」

「会戦は起こり得るかもしれません。ですが内容は去年みたいな
 中途半端ではなく、完璧を求めてくると思います。 防御面において
 通常の戦車よりも、全てが劣る士魂号部隊を増設したのは何故です?」

「攻める為?」

「そうとしか考えられません。現在、試験小隊を合わせ、熊本には
 12の士魂号部隊があります。現役の渾名持ちも、俺等の他に
 4人程いると聞きました」

「確かに、4名いるわ。 A級戦区やB級戦区担当なので、逢えないし
 何より今年は高Lvクラスの戦区が少ないの」

「どうです? なんとなく俺の推理も、信憑性を帯びてきたでしょう?」

「信憑性云々よりも、捉え方が前向きって感じね」

「どの道片足突っ込んでるんですから、避わし様がないでしょ?
 ポジティブに行きましょうよ」

「気楽でいいわねぇ」

「歩く道が1本道なら、楽しく行きましょうって事ですよ」

「・・・確かにそうね」

「そうです」

「これからカツキ君は?」

「俺は何もしません。今迄通りです。俺の将来設計に、茶々入れないで下さいよ」

「そうだったわね」

「あ、芝村に「ゴメンゴメン」って言っといて下さいよ。
 今頃、速水が余波を食らってるはずですからね」

「優先順位から言うと?」

「もちろん、芝村です」

「やっぱり、そうよね?」

「そうです」


 最後に軽口をかぶせ合うと、原は事務所を後にした。

 一段落ついたなと事務所を後にして、再び格納庫へ戻る。
そこで滝川が担当整備員の狩谷夏樹から、陳情で送られてきた
120mmロングレンジライフルの取り扱い説明を受けていた。


「君は本当にこれをメインで装備していくつもりかい?」

「心配すんなって狩谷。注文通りでバッチリだぜ!」

「しかし、射撃体勢は伏射に限定されるぞ。それに重量も92mmの
 3倍以上はある。移動する分には良いけど、機動しながらの戦闘は
 想定されていないよ」


 確かにパッと見は92mmの2倍程の全長があり、明らかに大きく
長くなった銃身の存在感は、士魂号に不釣り合いなくらいだ。


「だいじょぶ、だいじょぶ! 俺、ほとんど高機動なんてしないの
 戦闘映像で見て知ってるだろ?」

「あぁ 君の狙撃特性がなければ、到底この陳情は通らなかったと思うよ。
 しかし、サブウェポンでアサルトは装備して貰えると助かるな」

「どうしてだよ?重くなるんじゃねぇの?」

「万が一、君を戦死させたくないからさ」

「狩谷・・・」

「勘違いしないでほしいな。君の機体は整備が楽なんだよ。動かないから
 脚部の負担も少ないし、戦闘区域に行く機会も少ないから、破損も汚れも
 少ない。もしかしたら、こんな僕の為に原さんは、君の整備担当にあてたのかもな?」

「・・・・・・」


 狩谷は事故により、下半身不随になり車椅子での生活を余儀なくされている。
そもそも整備の仕事など出来ないはずなのだが、その秀才ともいえる知識を
買われ、5121の整備班にスカウトされた経緯がある。

 その身上か元々かは分からないが、妙に自虐的なところがある。
担当ペアの田辺真紀は、天然な空気をまとっている為、この毒に当てられずに
毎日の業務をこなせている。 

 滝川はこの手の毒に慣れてないせいもあり、なんとも言えない表情に
なっている。 


「よぉ 2号機のセットアップは順調かね?」

「あ カツキさん、お疲れっす!」

「橘さん、何の用ですか?」

「おぃおぃ狩谷よ、用がなくちゃ来ちゃいけないのかね?」

「では、僕からは用事はないので失礼しますね」

「なんだよ、そんなんだと女子にモテないぞ。ま、加藤が居るからいいか?」

「アレは勝手に向こうが、ジャレついてくるだけです!それにプライベートにまで
 干渉されるのは心外ですね!」

「ふ~ん・・・ じゃ、仕事の話しようか?」

「悪しからず。 僕は2号機担当で、4号機の事は範疇にありません」

「んじゃ、2号機の事でいいや。 この120mm、特性教えてくれよ?
 2号機には、バックを任せてるんだ。 納品時に聞いているんだろ?
 滝川もまだ聞いてなかったみたいだから、一緒に御教授願いたいものだな?」

「・・・クッ 、この120mmロングレンジライフルの開発にあたって、
 一番の問題点が、その反動による命中精度の低下と、衝撃の増加です。
 これを解消する為に、当然の如く二脚支持と伏射が条件づけられました」

「ふむ 確かにそんな事をさっき言ってたな」

「後、砲身温度の冷却関係もあり、次弾発射までに6秒必要となります。
 6秒以内だと、着弾修正システムでも補正しきれず、射手の手動補正となります」

「ほぅほぅ」

「弾倉は5です。今のところ、予備弾倉は7を予定してます」

「1弾倉、5発かよ?少ねぇなー」


 蚊帳の外にいた滝川がようやく話に入ってきた。


「君はこの武器の本意が分かっているのか? もはや銃というレベルじゃ
 ないんだよ? 簡単に言えば、戦車砲を持ちながら撃つ様なものものだ」

「戦車は持てねぇだろ?」

「君の理解力に合わせて、例えたんだよ? 戦車は50トンの重量と、
 あの低重心があるから安定した射撃が出来るんだよ? 軽装甲になり
 7トンにも満たない士魂号が、何発の射撃を行うつもりなんだい?」

「そんなに衝撃、すごいんか?」

「士魂号に武器オプションが、過去いくつあったと思ってるんだい?
 100を超えていたんだよ。その中から淘汰されて生き残ったのが
 現在の主装備なんだよ」

「そんなにあったんか?」

「当然、君みたいな考え方のパイロットも居たから、この120mmも
 旧時代の遺作みたいな存在さ。ただ、前作よりも技術面でも素材面でも
 進歩しているから、また作ったって事さ」

「それって実験って事かよ?」

「おや、今更どうしたんだい? 5121は実験小隊だよ」

「で、、でも・・・」

「ここまでで怖気づいたんなら、この120mmは装備しない方が
 賢明だ。 僕もそれをお薦めするね」

「い、、いや! 俺なら出来る!」

「そうかい? なら引き止めはしないけど、さっき言った様に
 アサルトも持って行った方が良いよ。 僕としても担当が
 楽じゃなくなるのはキツイからね」
 
「狩谷って、結構毒あるよな。 原さんみたいだぜ」

「大いに結構だ」


 なんとなく滝川も狩谷の、毒の免疫を持てたらしい。
お互いの表情に、先程迄の遠慮っぽい雰囲気が消えたのが見て取れた。
 

「狩谷、サンキュな 大体2号機の状況は分かったわ。
 さしあたり、良好と言う事でいいな?」


 狩谷は、フッと笑みをこぼすと、


「えぇ お陰様でね・・・ 滝川も、お節介なお兄さんを持ったものだね」

「え? え?」

「んじゃ、ヨロシクやってくれ。 じゃな」

「お疲れ様です」


 狩谷に見送られると、4号機へ向かった。
中村と遠坂がこちらを見とめると、声を掛けてきた。


「カツキさん、今日は装備確認ですかい?」

「あぁ 優秀な整備士が担当なんで、心配はしちゃいけないが
 こう言うのもパイロットの仕事らしいんでな。
 建前上、足を運んだんだよ」

「橘さんが建前とか珍しいですね? 何か他意が感じられますが?」

「なぃなぃ サボりたかっただけさ」

「カツキさんらしかですな」

「ま、1機だけ他の士魂号と素材も燃料も違うから、補給の状況も含めてな」

「橘さんは被弾が少ないから、私と中村君は楽をさせてもらってますよ」

「そぎゃんですたい。 こん前の1号機の修理とか、森とヨーコは
 徹夜しよったけんですなぁ」

「あれはきつそうでしたね・・・1号機は重いし、それに伴う脚部負担も
 大きいのに加えて、あの戦闘スタイルですから、人工筋肉の疲労回復が
 追いつかないって嘆いてましたね」

「カツキさんも戦闘スタイルは近接ばってん、軽装甲の上に踏ん張らんけん
 疲労が少ないったいね」

「俺はチョロチョロしてるからな」

「いやいや、この前の増刊号見ましたよ。 ダンサーとは良い表現じゃ
 ないですか? ぴったりだと思いましたよ」

「そっかそっか、そう言ってもらえると嬉しいね」

「高周波二刀も安定しとるごたっけん、今のところなんも問題は
 ありまっせんばい」

「ん、わかった。安心した。後はヨロシク頼む」 


 そう残して、4号機をあとにして1号機へ向かう。
1号機の前では、ヨーコが長大な作業台の上に、超硬度長刀を抜き身で置き、
刀身の手入れをしていた。


「ヨーコさん、ヨロシクやってる?」

「あぁ タチバナさん、コンニチハ。 この剣はお手入れが、大変でコマリマス」

「ですね、まんま日本刀と一緒ですからね」

「モリさんも同じ事、イッテマシタ」


 1号機の担当であるヨーコ・小杉は、いわゆる帰国子女というやつで
まだ日本語もたどたどしいが、その誠実な性格と大柄な体格も手伝い
隊のお母さん的な存在感をかもし出してる。


「そういや森は?」

「今日は各小隊の主任打ち合わせに、ハラさんの代わりでイッテマス」

「今日、原さんすごかったですもんね?」

「えぇ モリさんも自分が行かなきゃマトマラナイって、自分から言ったソウデス」

「中々分かってるますね~」

「デスネ。ハラさんもモリさんも、頑張り屋サンです。ワタシもお手伝いシマス」

「すごいな ヨーコさんも、ちゃんと分かってるんですね」

「ハイ、ヨーコなんでも分かってマスヨ。だから頑張りマス」

「んじゃ、ヨロシクお願いします」

「ハイ お疲れ様デス」


 格納庫を後にして、グラウンドに向かっていると、午前の修了を告げる
チャイムが校内に鳴り響いた。


『原さん、ちゃんと謝れたかなぁ?』


 そうフッと思っていると、グラウンドの方から


「原!そなたのせいで私は、厚志にいらぬ謝罪をせねばならなくなったぞ!」

「そんな事、私の知った事ではないわ。私の事に関しては、
 ちゃんとお詫びしたでしょ?」

「元凶はそなたではないか!」

「それを貴女が、速水君に八つ当たりしたのよね? 立場的には私と
 一緒じゃなくて?」

「解せぬ!」

「喧嘩の後の仲直りした後って、すっごく燃えるのよ 知ってた?」

「ほ、、本当か!?」

「今夜、試してみなさい。 きっと私に感謝したくなるくらいよ」



『これはこれで、いいか・・・』









 案の定、次の日の芝村は満面の笑顔で原と話していた・・・











[27357] 19話 転入生
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/06/05 20:08
 
 1999年4月17日







「本日付けを持ち、我が5121スキピオ小隊及び、
 ヴァルキリー小隊とインフィニティ小隊がBクラス戦区
 昇格となります」


 朝礼時のいきなりの善行の報告に、ラインオフィサーの
一同が、全員息を飲んだ。


「スキピオ小隊の担当地区はより北上します、これは主装備が
 比較的に近接武器が多いと言う事から決定しました。
 城南地区に比べて、戦火の被害を免れている地域が多い為、
 国民の生命と財産を守るという観点ですね。

 もちろんスクランブルの際は、その限りではありませんが、
 一応胸に留めておいて下さい。

 それともう一つ、報告があります。Bクラス以上を
 担当する中隊には、衛生兵が1~2人付きますが、
 転戦が多い我々の中隊では、それも難しいのが現状です。

 この解決案として試験的ではありますが、衛生教導隊の
 戦闘支援兵科で衛生訓練の課程を修了した学兵を、今回昇格した
 士魂号3小隊に各1名ずつ配属される事になりました」


 芝村が手をあげる。


「要は我が小隊に衛生兵が1人、加わると言う事で良いのか?」

「先に紹介しておきましょうか? 石津さん、入って下さい」


 小柄な少女が俯き気味で入ってきた。教壇の横に立つと、
上目使いに教室を見渡し、


「・・・石津・・・萌 よろしく・・・」

「え~石津さんは衛生兵として、直接戦闘に関わる事はあまり
 ありませんが、加藤さんがロジスティックスサポートに
 部署変更する代わりに、コマンドムーブを兼任してもらいます」


 ロジスティックスとは言わば、補給や物資調達の事である。
加藤の相に合っているとみて、自分や原の負担を減らす為の
策であろう。


「後、勘違いしない様に補足しておきますが、あくまでも
 衛生兵です。軍医と混同しない様に気を付けて下さい」


 ここまでの説明を受けて、石津は空いてる席へと腰を下ろした。
どうも他人と、コミュニケーションを取るのが苦手なタイプらしい。

 朝礼が終わり、パイロットは隊長室へ集まると毎日の日課である
小隊状況確認を全員で行う。

 この席で芝村が、真っ先に口を開くと


「一言良いか、善行?」

「公的な場でも、相変わらずな上司への言葉使いですね」

「私は芝村だ、仕方があるまい」


 善行は形容し難い微笑を落とし、


「心得てますよ。 で、なんですか?」

「先日、受領したショットガンの件だ!なぜ、散弾ではなく
 スラッグ弾で開発されたのだ!?」

「よろしいでしょう。過去に、貴女程の補足速度・命中率・
 機動修正能力のファイアオペレーターは、見た事がありません。
 開発部では貴女の事を【電子の女王】と呼んでるそうですよ」

「・・・ふんっ」

「しかし、あくまでも3号機は遊撃支援という立場をお忘れですか?
 貴女の左右前方には、1号機と4号機が接近戦を行っているのですよ。
 そこに貴女は、散弾で支援をする事が可能なのですか?」

「う、、」

「散弾とは言え、80mmの口径の薬莢の中には、約40発の
 鉛玉が入っているのです。この40発を味方に当てずに発射する
 として、それで支援することが出来るのですか?」

「そ、、それは・・・」

「だからスラッグ弾に変更されたのですよ。スラッグ弾は射程も
 短く、貫通力も低い代わりに、打撃力がとても高い弾です。
 おそらくミノタウロス級でも、1発で戦闘不能にする事が出来ます」

「そ、、それでは突撃時には、アサルトに持ちかえろと言う事か!?」

「誰がそんな事を、言ったんですか? 今日、散弾が届くと思いますよ」

「な、、なんだと!?」

「昨日、貴女の話を聞いた岩田君が原さんに具申して、原さんから
 火の出る様な剣幕で開発部に陳情が行ったそうですよ・・・」


『委員長・・・胃はだいじょぶか?』


「そ、、その様な話は・・・」

「あはは~舞 原さんに、1本取られちゃったね~」


 速水がケラケラと笑顔で芝村を慰める。
芝村はこれまで何も知らずに、駄々をこねている子供の様な
自分を思い出し、頬を真っ赤に染めている。


『結局、原さんも同類か・・・ 事後報告っぽいとこが、いやらしいが・・・』


「わ、、分かった。感謝する。 も、、もちろん原と岩田にも、後で
 礼を述べておく・・・」

「礼などと畏まらずに・・・ 小隊と言えば、家族の中の兄弟とも
 言える訳ですから、妹の面倒をみるのは姉の務めでしょう?
 それくらいのざっくばらんさで行きましょう」


 善行はこれで話を締めると、引き続き小隊状況の確認を続きを行った。






 AM10時


 2トントラックに積まれ、80mmの散弾が届けられた。
トラックの運転手が、田上だったのは言うまでもない・・・


『こいつ、ホントなんでも出来るな・・・』


「こんにちは~ 芝村さぁ~ん! 特注散弾、お持ちしましたよ~」


 そのハイテンションさは、最近では尚絅高校の学兵の間では
名物となり、昨日の増刊号の編集後記で、編集者として長々とした
あとがきを残し、芝村と速水や、俺の入院時代の事まで暴露して、
意外な人気者となっていた。


「田上 なぜそなたは、一々我が小隊に来るのだ?」

「なぜも何も、お仕事だからですよ~」

「この前まで、編集者をしていたではないか!? 
 それになんだ、あの内容は!? 私は良い笑いものだ!」

「笑いもの~? これを見てもですかぁ~?」


 そう言うと、段ボールを助手席から持ってきて、フタを開けた。
中にはズッシリとファンレターらしき、色とりどりの便箋が
詰め込まれていた。


「一応軍事って事なので、ここの住所書かなかったら、雑誌社の
 方に全部きちゃって~
 だから、今日持ってきましたよ~」

「こ、、これは・・・?」

「見てお通り、ファンレターですよ~ 昨日あたりから、ネットで
マニアが士魂号のスレ立ててたから、次からはこっちに直で来るかもですね~!

スレ、炎上してたけどぉ~☆」


『どうせ火、つけたのお前だろ・・・』


 全部で2~300通は軽くあるだろうか? 個人別で袋分けにされている。
意外だったのは、この中で一番多かったのが芝村へのファンレターであった事だ。

 ウォードレスを纏った男性的な部分と、メイド服を着た時のギャップ。
ペアである速水との、結婚式然としたショットへの憧れの讃辞も
多く含まれていたらしい。

 そして意外に一番少なかったのが、速水であると言う事だ。
もはやコブ付きには興味が無いと言う事か・・・

 俺・滝川・壬生屋はトントンと言ったところだった。


「どうですかぁ~ あの写真をみて、私もこうなりたい!とか
 思ってくれた女子学兵もいっぱい、いるんですよ~」

「う、、うぅ・・・」

「あっ!ちゃんと全部に、お返事書いて下さいね~」

「「「「 ・・・・・・? 」」」」

「あったり前じゃないですかぁ~ 当然のお仕事ですよ~
 指令にもちゃんとお仕事って事で、許可はとってありますからね~」


『戦闘以外の仕事って、これも含まれるのか・・・』


 そんなパイロット達が、肩を落とす光景を尻目に、岩田と田代が
散弾の入ったケースを格納庫へ搬送していた。


「岩田よ、初期装弾はスラッグで! 予備弾倉はスラッグ6、
 散弾2だ。アサルトはいらぬ!」

「分かりましたでぇ~す」

「田上、これで良いのであろう?」

「バッチリだと思います~ 突撃時だけ、散弾を使う様に
 して下さいね~ じゃないと、1号機と4号機がハチの巣に
 なっちゃいますからね~」

「散弾とは言うが、どれくらいに拡散するものなのだ?」

「有効射程は200で10M程拡散しますから、至近距離専門ですよ~
 突撃時の足場作りと、脱出時の足止めくらいに考えて下さいね~」

「ふむ 想定通りのものだ」


 そう言い残すと、芝村と速水は装備確認の為に格納庫に
向かっていった。







 同日 PM2時


「101v1 101v1、1400
 植木地区に幻獣出現を確認! 総員出撃準備!」


 すでにこなれた口調で、スクランブルアラートを出す
かろやかな瀬戸口の声が、多目的結晶から響き渡る。


「さて パイロット諸君、本日の出撃は初の担当地区の
 出撃となる訳だが、戦場クラス自体はDなので緊張する
 必要は無いし、肩の力を抜いて楽に行こう」

「瀬戸口よ、我等はBクラス戦区担当ではなかったのか?」


 芝村がボソリと質問する。


「ん~言葉足らずだったな?Bクラスの戦区にも出れるって
 意味だったんだ」

「ではあくまでも、担当地区が優先と言う訳なのだな?」

「まぁ、そこは時と場合によりけりだな。例えば今、この時点で
 他のエリアにBクラスの戦場が確認されて、そこへの戦力が
 足りないと判断された時は、そちらに転戦させられるという訳さ」

「担当地区は、よそに任せると言う事になるのか?」

「その通りだ。ま そこ等辺りは帰ってからの、リフレクション
 ミーティングで追々と説明しよう。まずは目の前に集中だ」

「うむ」

「ではブリーフィングを始めようか? 幻獣群は上熊本駅方面から
 産業道路沿いに植木駅方面へ向かっている。おそらく田原坂駅へ
 抜け、玉名・荒尾方面への突破を図ってくるだろう」

「中型幻獣は30と少ないが、随伴する小型幻獣の数がかなり多い。
 ゴブリンとゴブリンリーダーを中心に10000の数を率いてる」

「戦闘は山間部の底を通る線路沿いで行われる事になる為、
 対中型幻獣は5121だけとなる。対小型幻獣は学兵のみの
 40からの小隊が、小隊機銃と迫撃砲、戦車で要撃をする」

「つまり、俺等士魂号がデカいのを露払いした比較的な安全な
 状態で、学兵達に掃除をさせるって感じか?」

「橘の言った通りだ。いつまでも学兵の歩兵が、定数揃える為だけの
 ゴクツブシと言うのも、軍の上層部としては頭が痛いんだろう?
 ここらで給料分くらいの仕事は、覚えてもらおうって寸法だな」

「正直なところ、戦力的に学兵はあてにして良いのか?」

「一応、各小隊には小隊付き下士官・・・つまりうちで言うと
 若宮みたいなのが、3月あたまから銃火器の取り扱いの訓練に
 付いているので、要撃や拠点防御では問題ないだろう」
 
「どの様な問題があるのだ?」

「撤退防御だな。こればかりは戦場の空気に慣れてない奴と、
 読めない奴には無理だ」

「つまり、今日の学兵達という訳なのだな?」

「そうだ」

「少しでも危険を減らす為に、我等が真っ先に飛び込むと言う訳か?」

「そうだ」

「他に注意する事ってなにかあるんっすか?」

「昨日今日で0203のメインウェポンが変わってるが、
 今までのデータで言えば、0104のダブルウイングだけでも
 事足りる相手だ。特に03、突撃時は慎重に・・・無理をするな。

 02は今まで通りでいいから、125mmのデータをなるだけ取ってくれ」
 修正プログラムのデータがほしいって狩谷からの伝言だ」


「「「「了解」」」」


 15分後、田原坂公園に到着し、各機リフトアップと起動を済ませる。
すでに歩兵は壕を掘り、配置を完了させている様だ。

 2号機はそのまま戦場を見下ろす公園に、伏射体勢で待機に入った。 
3機の士魂号は公園から斜面を下り、迎撃地点へと向かう。


「00より各機、目標が距離2000を切ったら突っ込んでくれ。
 正確な幻獣数は、ミノタウロス15、ゴルゴーン20だ。
 出来るならゴルゴーン優先で。長距離型を残すと歩兵が近寄れない」

「02から00 俺は片っ端からでいいですか?」

「00より02 正確な有効射程も知りたいそうだ。 適当にやってくれ」

「02から00 了解っす」

「04から01 俺は奥に入って、ゴルの足を切り刻んでくる」

「01より04 分かりました。ではわたくしは手前でミノタウロスを
 引き付けて置きます」

「03より00 我等は?」

「00より03 今日は馴らしだ。適当にやってくれ」

「03より00 分かった」

「00より各機 大事な事を言い忘れていた。 突撃時には
 オープンチャンネルで、コードナンバーとパーソナルネームを宣誓して
 出て行ってくれってさ。士気向上の一環だそうだ」

「では橘にお手本を見せて頂くとするか?ゴルゴーンの足を刻みに、
 真っ先に出て行くであろうからな・・・ククク」

「じゃあ先輩として、3号機は芝村にお願いしていいか?採点してやるよ」

「わ、、わたくしも言わなければならないのですか・・・」

「お、、俺って突撃ないんすけど・・・」

「しょうがないな・・・ じゃあタクティカルオペレーターとして、
 指示をだしてやろう。橘・壬生屋・芝村の順で出て行ってくれ。
 滝川は空気を読んでタイミングとってくれ」


「要はよくあるロボットアニメの、出撃シーンみたいな感じでいいんだろ?」

「そうそう、あれだ! 良く分かってるな、橘」

「まぁ、あれ見て子供ながらにワクワクしたもんさ」

「ひとつお兄さんとして、芝村と壬生屋にお手本を見せてやってくれ」

「りょーかーい」


 そんなくだらない会話を、5分ほど小隊チャンネルでやり取りしていると、


「全機、オープンチャンネル 突撃後もオープンと小隊、どちらも開けておいてくれ」


 オペレーターが交代したかの様に、低く絞った瀬戸口の声が聞こえてくる。

 さっきまでのどこにでもある様な空気が、今は低く重い空気になり、
まるでエンジンのシリンダー内で点火されるのを待つ、圧縮中の混合気の
様な空気だ。  

 

「曲射榴弾、全弾発射!!」



 この号令を皮切りに、戦車16台からの曲射榴弾が発射され、次々と
着弾しながら、目の前1500メートルを抉っていく。

 爆煙の中から、榴弾の被弾を逃れた小型幻獣の群影が現れた。


「くるぞ! 010304はマップの10以下にいないと、味方の支援砲撃に
 巻き込まれるから注意してくれ」


 なおも次々と曲射榴弾は着弾点を手前に引き下げながら、砲撃を
続けている。

 続いて各小隊の迫撃砲が火を噴き始めた。初めてであろう戦場の
空気に中てられたか、戦場自体の空気が異様な熱気を帯びている。


「04より00 あの弾幕を抜けて行かなきゃなんねぇのか?」

「00より各機 心配するな、中型幻獣の先頭が2000に入ったら
 60秒間、砲撃が止む。 その隙に弾幕の前に出てくれ。
 あと、120秒後だ」

「「「「了解」」」」


 そして戦場の各地で、小隊機銃の十字砲火の音が聞こえ始めた2分後、



「各砲撃、60秒停止! 士魂号、前へ!」



 オープンチャンネルの戦場指揮から全軍に指示が出る。
一斉に戦場から砲撃音が無くなる。



「スキピオ04 ブラッディダンサー、出るぞ!」

「スキピオ01 グレイバーサーカー、参ります!」

「スキピオ03 ラピスクラーケン、出る!」

「スキピオ02 ルミナスアサシン、行きます」



 オープンチャンネルに向かって叫ぶ様に言うと、それに呼応する様に
戦場の全ての陣地から、ウオォォォ!!!と言う雄叫びが聞こえてきた。

 全速で戦場を駆け抜ける3機の士魂号の纏う空気が上に吸い上げられ、
上昇気流をも感じる程の、士気の高揚をゾクゾクと感じる。
 

 距離1000を越えると、再び砲撃が再開された。


「00より各機 全機、グッジョブだ! 遊撃地点は各機任せるが
 無理はするな」

「「「「了解!」」」」

「04から0103 打ち合わせ通り、奥へいく。無理すんなよ」

「01より04 御武運を」

「03から04 そなたこそな」


 ここまで言うと、上空を砲弾が飛来していき、先頭のミノタウロスを
粉々に粉砕した。


「02から各機 へへっ! 先にゴチっす!」

「02へ やるじゃないか!?1800を修正なしで1発命中か?」

「反動はちとデカいっすが、弾道の安定感がすごいっす」

「ウケケ、味方を打つなよ」


 軽口を叩きながら3機の士魂号が、各々の迎撃ポイントを目指し突撃する。
おびただしいミサイル警報が鳴り響くのスルーしながら、高周波二刀を取り出し、
ミノタウロスの真正面へ突っ込む。

 出会いがしらのミノタウロスの腕を、スィっと切り落としながら
脇をすり抜け、ミノタウロスの後方300から来る、ゴルゴーンの
群れを目指す。

 更にミサイル警報の数が増える。警報数をカウントすると、20匹の内
15匹からロックオンされていた。4分の1の弧を描く様に駆けながら
ミサイルの着弾を避けながら近づく。


「04から ゴルに接敵した。駆除に入る」


 懐に入りこまれたゴルゴーンからの、ミサイル攻撃は同士討ちを
避けての為か、パッタリとなくなった。かわりに突進してくる
ゴルゴーンが数体いる。
 
 しかし相手にせず発射態勢に入り、背を向けているゴルゴーンの脚を
遠慮なく斬り落としていく。

 脚を斬り落とされたゴルゴーンに、もはや攻撃手段はなくジタバタと
もがくだけだった。


「03から04 無事か!?」

「04から03 問題ない。そっちは?」

「03から04 すこぶる順調だ。スラッグ弾の威力はすごいぞ。
 1発で目の前のミノタウロスが消し飛ぶ」

「今日は散弾のお披露目は無しか?」

「これでは使い様があるまい」


「00より各機、各小隊陣地が小型幻獣に浸透を受けている。
 手は空くか?」

「04から00 中型の掃除は0104に任せて、0203を支援に
 向かわせたらどうだ?」

「03から00 04に賛成だ」

「よし、00より0203 後方支援に向かってくれ」

「02より00 補給車にある03のアサルトを借りていいっすか?
 アサルト1丁じゃ手数が足りないっす」

「00より03 それでいいか? そのかわり散弾の弾倉、たらふく
 持っていっていいぞ」

「03から00 よかろう 一旦引く」

「04から01 ゴルは全部無力化した。今からミノ掃除の手伝いに行く」

「01より04 お1人で無力化したのですか?」

「脚を2~3本づつ斬って、マグロにしてある」

「是非、後で拝見させて頂きますね。 では、お待ちしております」

『余裕だな、バーサーカーの名は伊達じゃないってか?』


 そう言いつつ後方に下がると、もうミノタウロスの数は3~4体程まで
減っていた。 




 その頃、後方では2号機が2丁のアサルトを乱射しながら、小型幻獣の
蹂躙を行っていた。

 3号機も予備弾倉8を全て散弾に持ち替え、戦場を抉るように
散弾をバラ撒いていた。

 エース2機の士魂号の支援を得て、歩兵陣地は徐々に盛り返しを
見せてきている様だ。


「これより掃討戦に入る! 士魂号4機は後退、補給、待機。
 残存部隊は、上熊本からの掃討部隊との挟撃にて、1匹残らず殲滅せよ!」
 


 うらぁぁぁ!と言う雄叫びと共に、白兵戦に突入する学兵達の姿が見える。



『今日の戦争で、40の小隊からいくつの独立混合部隊が出来るんだろうな・・・』

 


 そんな事をふと思っていると、




「あれ? カツキさん、撃破数10も増えてないっすよ?」




「し、、しまった! マグロ、解凍放置のまま置いてきちまった。
 後で壬生屋と食いに行く予定だったのに!」
      



「マ、、マグロってなんすか・・・?」





「・・・・・・」










[27357] 20話 ベテラン
Name: フミ◆2aa323cc ID:bc1c495a
Date: 2011/06/07 21:53
 
 1999年4月25日






「士魂号全機、クールよりホット! 昨日今日の連戦で
 パイロット諸君には申し訳ないが、今日のパートナーは
 Aクラス担当の伊丹中尉と沢田少尉だ。挨拶くらいはしとけよ」


 確かにこの一週間と言うもの、出撃要請が多い。
城北地区ではそれ程でもないが、城南地区ではBクラス以上の
戦区指定される事が増えてきた。

 今日などは朝の6時半にスクランブルアラートが掛かり、
5121はバタバタしながら戦場に駆けつけた。

 
「瀬戸口よ、今日も一つ良いか?」


 芝村の、このブリーフィング時の「一つ良いか?」も定番に
なりつつあった。


「この戦場はAクラス戦区ではないのか?」

「ご名答だ」

「なぜだ?」

「そう言う時期なのさ」

「回答になっておらぬぞ」

「この前も言っただろう?臨機応変と言う訳さ」

「そうか・・・」


 瀬戸口の言葉足らずな回答に、芝村はなんとなく納得した様だ。
おそらくこの戦場にいる全員が、何がしらの理由をこじつけ、
ここに立っているのだ。

 
「さて諸君、清々しい朝の空気と共に、今日も1日のスタートだ。
 まだ眠いみんなの目をガツンと覚ましてくれる、痴話喧嘩の相手が
 八代方面より、笑顔でせまって来てるぞ」

「中型幻獣数だけでも400と、えらく相手も気合が入ってる。
 簡単に口説かれない様に、心の準備をばっちりしとけよ?
 各自、自分を安売りしない様に気を付ける様にな」


『ブリーフィングの内容じゃねぇな・・・』


「今日はさっきも言った様に、ダンスの講師としてベテランの
 先生を呼んである。壁の花決め込んでも引っぱりだされるから
 呼び出しを喰らわない様に注意しろよ」

「伊丹中尉は撃墜数140 戦闘力1890、沢田少尉が128
 戦闘力1840のウルトラエースだ。
 安心してエスコートされてこい」


 400メートル程左に、膝を着き待機状態にある赤色と深緑の
重装備士魂号が視界に入る。


「今のうちに挨拶とやらを、済ませた方が良いのか?」

「そうだな オープンで話しかけてくれ」

「士気向上の一環か?」

「そうだ」


 芝村も、これまで経験した事のない程の規模の戦場を前に、
緊張を隠せない様だ。 自然と口数が増えている。


「こちらスキピオ03 ラピスクラーケンの芝村だ。伊丹中尉、並びに
 沢田少尉、本日は轡を並べて戦場に立てる事を至極光栄に思う。
 若輩者ではあるが宜しく頼む」

「おなじく速水です。 勉強させて貰います」


「こちらドレイク01 ウォーロードの伊丹だ。複座型でエースを
 奪取した、電子の女王の腕前を拝見させてもらうよ」

「イーグル01 インペリアルロゼの沢田だ。見学は良いが
 俺の側に来て巻き込まれんなよ」


『巻き込まれる?』

「スキピオ04 ブラッディダンサーの橘だ。御二方とも
 パーソナルネームから察するに槍使いか?」

「ほぉ 若いのによく知ってるな?そう言うスキピオ04も槍かね?」

『槍とは、また懐かしいな・・・』

「いや、俺は二刀だ」

「[幻獣の血を求め、死へ誘う舞踏]ってやつだろ?いい評判を聞いてる」

「申し訳ないが俺は、インペリアルロゼの名は聞いた事が無いな」
 
「遠慮なくきつい事言うヒヨッコだな? いつもこの緑のおっさんが
 目立つもんだから、俺まで回ってこねえのさ」

「おっさんとは失敬なやつだな。まだ42だぞ」

『充分じゃねぇか・・・』

「うちにもそう言うのが1人いる。仲良くしてやってくれ。
 ともあれ紅いもの繋がり同士、宜しく頼む」

「こちらこそだ」
  
 
 
「あの・・・スキピオ01 グレイバーサーカーの壬生屋です。
 お邪魔にならない様にしますので、今日は宜しくお願いします」
 
「ほほぉ 増刊号の大和撫子の声は想像してたより、可愛い声を
 しているな。狂戦士への変貌ぶりが楽しみだ」

「そうそう、期待してきたんだぜ! 宜しく頼む」

「は、、、はぃ………」



「スキピオ02 ルミナスアサシンの滝川っす。 戦場では会えない
 かもですけど、ヨロシクっす!」

「戦車砲を使っているそうだな? 期待しているぞ」

「お前が橘の言ってた似た様な奴か?確かに俺と似た様な空気を
 持ってるな。お前の気持ちはよ~く分かるよ。でも俺等は
 質実剛健で行こうぜ。なっ?キョーダイ!」

「ありがとうございます」



 さすがにベテランのエースと言われるだけの事はある。もちろん
強さもそうだろうが、話術にも長けている。

 なにより、ちゃんとこちらの各々の戦術を、把握している事に驚いた。
あの軽いノリの沢田でさえ、こちらの傍若無人な態度にピクリとも
釣られないのだ。

 頭が固くて、自意識の塊の様な上層部とは違う、叩き上げの
現場の軍人なのだ。



 挨拶をすませた後、しばらくの静寂が戦場を包む。



 耳をすませば微かに、地鳴りとも唸りとも言える音が聞き取れる。



「最終索敵完了! ミノタウロス150 ゴルゴーン100
 キメラ70 ナーガ120 最後方にスキュラ22
 小型幻獣、およそ100000、各員戦闘配置に付け!」


 これがAクラスの戦区なのだ。その数を聞いていると今迄の
Cクラス、Dクラスは、保育園のお遊戯みたいなものだ。

 何度か経験したBクラスさえ、この3分の1にも満たなかった。


「各砲最大仰角、曲射榴弾、迫撃砲撃てぇぇ!!!」


 戦場指揮官、御手洗少将の号令と共に、射程5000メートルに
仰角を取った曲射榴弾と迫撃砲700門が、一斉に火を噴く。

 幻獣の先頭、小型幻獣群はもう1000メートル手前まで迫っている。
オープンチャンネルでは各隊に、小隊機銃による十字砲火開始の
指示や、すり抜けてきた小型幻獣への白兵戦の指示が飛び交っている。


「中型幻獣群、距離3000 士魂号、及び士魂号Lは突撃準備!
 2500で煙幕弾を発射する。支援砲撃は停止出来ぬ故、左右から
 抜けて行く様に」


 40秒後、一斉に煙幕弾が発射される。



「ドレイク01 ウォーロード、ゆくぞ!」

「イーグル01 インペリアルロゼ、出るぜ!」

「スキピオ01 グレイバーサーカー、参ります!」

「スキピオ02 ルミナスアサシン、いきます!」

「スキピオ03 ラピスクラーケン、出る!」

「スキピオ04 ブラッディダンサー、行くぜ!」



 背中から、後押しされる様な雄叫び。その雄叫びの渦は、幻獣の地響きをも
掻き消す程の唸りを上げて、戦場を突き抜ける。

 送り出された6機の士魂号と、60台の士魂号Lはひたすら全速力で、
スキュラに補足される前に煙幕を目指す。



 左翼から真っ先に煙幕に辿り着いたのは、沢田だった。
アサルトをバックハンガーにしまうと、壬生屋と同じ様に袈裟掛けに掛けた
ハルバート(斧付きの槍)を構える。

 すぐに伊丹も同じ様にバルディッシュ(三日月槍)を構えながら、煙幕に
突入する。

 右翼の壬生屋と俺も、すぐに超硬度長刀と高周波二刀に装備を切り替える。


「ダンサーより なんだ?2人とも和槍じゃないのか?十文字槍とか、
 期待してたのに・・・」

「ロゼよりダンサー 人のセンスにケチ、付けんなよ!」


 迫りくる幻獣群を薙ぎ払いながら、隣同士で茶々を入れ合う。


「クラーケンよりそこの2人 そなたら状況を分かっているのか?」

「ロゼよりクラーケン 一つ、例のお手並みを拝見したいな!」

「ロードよりクラーケン そうだな! 是非とも、帝王の辣腕ってのを
 見てみたいものだ」

「なぜ、士魂号乗りはこの様に、変わり者ばかりおるのだ!?」

「嬢ちゃん、それは自分もカウントに入ってるって自覚はあるか?」

「クククっ よかろう! 厚志、突っ込め!」

「うん、いくよ!」


 躊躇のない跳躍で、幻獣の群れの中に飛び込む。 跳躍と同時に弾倉を
スラッグから散弾に換装し、着地地点へ向けて散弾を数発撒き散らす。


「24匹、個別ロックした。 流れ弾に気をつけよ!」


 体液まみれのミノタウロス上にドシャリと着地した瞬間、24発のジャベリンは
一瞬の上昇軌道を描いた後、低く飛ぶ燕の様な弾道を残しながら、
まるで各々が意思を持っているかの様に、幻獣に喰らいつく。


「クラーケンより各機、 1発づつでは止めに至らぬ! 掃除を頼む!」

「ロゼよりクラーケン いい物を見せてもらったお礼だ。手伝おう」


 
 発射後に群がってくるミノタウロスに散弾を浴びせ、脱出路の
確保をしている3号機の目の前のミノタウロスがズルリと崩れ落ちた。

 
「どうぞ、女王様 露払いは済んでおりますゆえ、ごゆるりと・・・」

「フッ・・・ 良きに計らえ・・・」


 そんな芝居じみた会話を交わしていると、左右からLが次々と 
止めを刺してゆく。

 滝川の砲弾が飛んでこないところを見ると、おそらく煙幕を
潜り抜けた中型幻獣をスナイピングしているのであろう。


「こちらスキピオ00 そろそろ、スキュラの射程に入っているぞ。
 動きを止めるなよ!

 スキピオ02は、HE4 AP4で、1000メートル、前に出ろ。
 お出迎えの用意だ」

「02 了解っす!」


 やがてゴルゴーンの生体ミサイルとは別の着弾音が、周りの大地を
抉る頻度が多くなっていった。

 確実にスキュラが近づいている証拠だ。その距離は煙幕をもって
拡散してもなお、装甲を溶かす程の熱量を持っている。

 戦場内のLが、次々に追加の煙幕弾を打ち上げる。


「ロードよりロゼ 後続のゴルゴーンの実弾支援がやばいな?」

「ロゼよりロード 引っ掻きまわしに行きますか?」

「そうだな? ダンサー、バーサーカー、クラーケン、しばらく
 ミノタウロスを任せていいか?」


「もう向かってるんだろ? 任せな」

「無論だ!」

「承知しました!」


「00より02 ウォーロードとインペリアルロゼが飛び出した。
 支援してくれ」

「02より00 了解っす」


 そう言うと滝川は125mmロングレンジライフルを抱えると、
足元にいるゴブリンを踏み散らしながら狙撃地点を探した。

 鉄筋3階建てのビルを見つけ、屋上によじ登ると125mmを
二脚銃架し、弾倉をHEATからAPFSDSに換装する。

 目前はまだ濃い煙幕に包まれてはいるが、マップで一番近くに
銃口を向け、補足できるスキュラをターゲットサイトから探していく。

 チカリッとレーザーを照射する発射光を確認した瞬間、サイトの
ロックオンセンサーが赤から緑に変わり、目標を補足した旨を
滝川に伝える。


 距離2300 初弾は試射と割り切って切り捨て、トリガーを絞る。
発射されたAP弾は、2000メートル/秒の速度で、真っ直ぐに
煙幕を切り裂きスキュラを目指すも、腹部に直撃はならず
尾の部分をもぎ取るのみに終わった。

 すぐさま次弾を装填する。網膜投影された着弾修正データが
目の前を横切っていく。それに合わせ、ターゲットサイトが自動的に
デジタルチューニングを行う機械音が聞こえる。

 6秒後、サイトを覗くと同時にレーザー警報が鳴り響く。
尾を吹き飛ばされたスキュラが、ゆっくりとした回頭を終え、主砲の
レーザー口をこちらに向けている。

 発射口が光を集積しているのが分かる。逸る気持ちを抑え、静かに
トリガーを引く。 2射目のAP弾は狙い違わず、スキュラのレーザー口に
突き刺さり、腹部内で酸化燃焼を始める。

 すばやく自動補正を、手動補正に切り替え3射目を伺う。既に発射口から
煙を吐き、胴体左右側面の副砲6門も沈黙しているスキュラの頭部に
狙いを定めたところで、いきなりスキュラの背中から火柱が上がる。

 地面に向かい急降下したスキュラは、多くの同胞を道連れにして爆煙を
上げる。


 同じ要領で3体のスキュラを轟沈させている内に、味方の戦車砲と
迫撃砲の着弾点が、近づいている事に気付く。 前線が押し上がっているのだ。



「前線を押し上げる! 敵増援も考慮し、近接戦を行っている士魂号、
 及び士魂号Lは迂回しながらの後退、補給を!

 その間は戦車砲は距離3000から4000に、迫撃砲は1000から
 3000に榴弾を全力射撃!

 20秒後にこれを開始する。前線部隊は火急の後退を!」
 

 
 滝川の除く5機の士魂号が、補給車である各々のトレーラー目指し
一目散に後退を始める。 戦場から5機が撤退したのを確認する間もなく
その5秒後には、まさに榴弾の雨が降り注いでいた。

 さすがに滝川もこの状況下での狙撃は、スキュラからの集中砲火を
喰らうと考えたのか、稜線を選びながらの移動射撃を行っていた。

 5機の士魂号が各担当の整備士に、補給事項を伝える。


「アサルトは置いて行くぞ。いつも通り代わりに92mmと弾倉5だ」

「俺もドレイク01と一緒だ。スキピオ02がソロで頑張ってる!
 急いでくれ!」


 さすがに手慣れたものだと感心した。初期装備と補給装備の変更が
当り前だと言わんばかりに装備変更を行っている。
 
 後半でのスキュラ対策の為に、対空装備をしているのだ。


「わたくしはアサルトの弾倉を6下さい。2弾倉の全力射撃でなんとか
 スキュラを落とせます」

「00よりスキピオ01 重くなるぞ、いいのか?」

「接敵する前に2弾倉くらい使う予定ですから、調度良いですわ」

「了解だ。03はどうする?アサルトか92mmに変えるか?」


 3号機のショットガンは、散弾もスラッグ弾も近距離用なのだ。


「この状況では、それも致し方あるまい・・・」

「時に芝村、一ついいか?」

「何用だ!この様な時に?」

「原さんが趣味陳情した、そのショットガン用の徹甲榴弾が
 1ダース程あるが、どうする?」

「なんだと!?」

「あはは~ 舞、またやられちゃったね~」

「クッ・・・ あの女は、いつもいつも・・・」

「いくつ持って行く?」

「徹甲榴弾7 散弾1だ」


「橘はどうする? ・・・って何だそれは?」

「あ~気にすんな 中村と遠坂に頼んで、カスタムして貰った奴を
 持って行く」

「大丈夫なのか?」

「何、92mmの銃身を短くして、中短距離の1ハンドショット用に
 改造しただけだ。試射もしてある」

「92mmを片手で撃つのか? 機体はもつのか?」

「俺の機体なら、試射では問題無かった。 弾倉を6持って行く」




 全機が武器換装と補給を終えると、


「こちらドレイク01 伊丹です。 士魂号5機の補給換装が
 完了しました。これより戦場に赴きますが、戦線をこのまま
 押し上げる形で、前に出て良ろしいか?」

「戦場指揮を任されとる御手洗だ。よかろう 戦場の事は君等が
 一番よく分かっているだろう。戦車砲、迫撃砲はこのままの砲撃を
 続け、後方の補給をすり上げよう」

「はっ! 了解しました。それでは!」


 伊丹は器用に士魂号で敬礼を送ると、本部指揮車から御手洗少将が身体を
乗り出し、敬礼を返して来た。


「ウォーロード 出るぞ!」

「インペリアルロゼ おたまじゃくしを蹴散らしてくるぜ!」

「ブラッディダンサー 1匹残らずな!」

「ラピスクラーケン 見ておれ!」

「グレイバーサーカー 参りますわ!」


 別に打ち合わせをしていた訳ではないのだが、ついロゼの口上に
俺が釣られたのを、芝村が茶目っ気を入れて引き継いだ為、
壬生屋の口上まで繋がってしまったと言う、珍プレーを引き起こした。

 後方の無線からは、笑い声と共に大歓声が聞こえてくる。
弾ける様に飛び出す士魂号に追随して、続々とLも発車して行く。




 

『いい雰囲気だ』






 その頃滝川は、1人加われなかった事に地団駄を踏んでいた・・・










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