視界いっぱいに広がる草原、何処までも続く青い空。その下を駆け抜ける金髪の少女が居た、黒髪の女性はそんな少女が途中で転けないかハラハラしながら見守る。案の定、バランスを崩したのか少女の体がぐらりと揺れて。それを見た瞬間迷わず女性は魔法を行使する、遠い未来に大魔導師と呼ばれる力その一端を。

「チェーンバインド！」

女性の足元に光る魔法陣、手から放たれる紫色の鎖。それは転けようとした少女を拘束し、転倒は免れた。ほっと一息吐く女性、だが少女にしてみればたまったものじゃない。助けてくれた事は理解できる、できるが何故バインドで縛るの？

そこはあれだよ、なのはさんが新人を助けるために使ったネットを用意するべきじゃない？

少女は縛られながらも駆け寄ってきた女性に向けて、そう思った。そよ風が身に染みる。

女性の名は若き頃、まだ一介の研究者であるプレシア・テスタロッサ。少女は生まれた時から既に記憶がありこの世界で生きていくと決めた憑依者、アリシア・テスタロッサ。

これは運命に抗うアリシアさんのお話。


フラグを回避できなかったら即死亡

第０話「人生は何時だって生と死の隣り合わせ、なのです」


過保護なお母さん、大丈夫！？　何処か痛いところはない！？　そう聞いてくるんですが、じゃあ言うね？

「バインド外せ、縛り属性持ち」

「あ、ありしあ……」

しくしくと涙を流しバインドを解くお母さん、その優しさを何でフェイトにあげなかったんだろう。まだ生まれてないけどね、今日はお母さんも研究の休みが取れたからピクニック。それなのにちょっとはしゃいだ結果がこれだよ！　過保護ってレベルじゃない。

口が悪いのは前から、でも私は知ってる。娘に罵られて涙を流しながらも何処か幸せそうな顔を浮かべる母……うん人として終わってるね、元からフェイトをあれする母。違和感がない、むしろこんなプレシアもありだと思う。

そんなお母さんを授業参観に呼べるか？　いや呼べない。関係ないけど、まだ学校に通ってないけどもしもの話。

「お腹空いたなぁ」

ぽつりと呟くだけで泣いていた母は復活、いきいきと弁当を取り出した。にゃあと私が可愛がってる猫が鳴く、リニスもお腹空いたんだね。皆で食べよう。

青空の下、幸せな日常。こんな日々がいつまでも続いていけたら、まあ続くかは私次第。

あの事故から生き延びなければ即死亡、ある意味天国に一番近い少女だ。笑えない、泣きたい。せっかくの新たな人生、ここで終わりにしたくない。

だから決めた、魔力素質も少ない私が出来るたった一つの冴えたやり方。

「全く人生は何時だって生と死の隣り合わせだね」

「うん？　何か言ったアリシア……ま、まさか私が愛を込めて作った弁当が美味しくなかったの！？」

「このタコさんウィンナー、味が微妙」

「ありしあ……」

だーっと瞳から雫を零すお母さん、愛する娘からそう言われたら少し傷つくのだろう。でもね？　本当は罵られて喜んでいるでしょ？　その証拠に顔は恍惚しているし、うわぁキモい。

にゃあ、とリニスが鳴いた。そんな午後の出来事、運命の日は刻々と近づいてくる。