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[27221] 魔戒騎士リリカルなのは【習作 リリカルなのは×牙狼】
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2011/04/15 23:02
*この作品はリリカルなのはと牙狼のクロスです。

*この作品の主役はユーノ君です。

*作者は初心者ですので駄文になると思います。

*投稿は不定期になると思います。

誤って削除してしまいました。申し訳ありません。m(__)m



[27221] プロローグ
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 14:12
プロローグ


光あるところに、漆黒の闇ありき

古の時代より、人類は闇を恐れた

しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって

人類は希望の光を得る

長き戦いの末、魔獣は封印された

だが、騎士たちが剣を置くことはなかった

守りし者として、彼らは戦い続ける

そんな彼らを、人類はこう呼んだ


魔戒騎士と・・・


そして今、その剣を受け継ぐ少年と

一人の少女が、出会うのだった。


**********


「物語とは突如として始まるものだ。
この広い世界で小さな二人の少年と少女が出会っただけでも。
そしてどんな物語を紡ぐかは誰にもわからない。
だからこそ見届けろ、新しい魔戒騎士の物語を。

次回・不思議な出会い

俺が誰だって? それは次回までの秘密だ。」



[27221] 第一話 不思議な出会い
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 14:13
第一話 不思議な出会い


朝の清々しい空気が溢れるある日、とあるバス停に一人の少女がいた。
少女の名は高町なのは。
この海鳴市では主婦や女子中高生に人気な喫茶翠屋を営む高町家の次女である。
なのははいつものように自身が通う私立聖祥大付属小学校のバスが来るのを待っていた。
いつもなら親友であるアリサ・バニングスと月村すずかとどんな話をするかなどを考えているなのはであるが今日は別のことを考えていた。
彼女が思案していた事、それは・・・

「不思議な夢だったなぁ…」

ふと、口から出た言葉はなのはが思案していた事であった。
それは今朝見た夢。
妙にリアルだったそれは白いコートを羽織る自分と同じぐらいの少年が剣をふるい、灰色の塊に妖しく光る赫い目をした怪物と戦う夢。
ただの夢と切って捨てるにはリアルであり場所も親友の二人と帰り道によく通る公園でもあったため朝からずっと頭に引っ掛かっていた。
しかしそこでなのはの思考を遮るかのようにバスが到着する。
なのはは一旦考えるのをやめるとバスに乗り込み一番後にいた二人の親友のもとに歩いていくのだった。

・・・・・・・・・・

なのはがそんな事を考えていた頃、白いコートの少年・ユーノ・スクライアは昨晩戦った場所から少し離れた木の根元で目を覚ました。

「朝か・・・」

「ああ、よく眠れたか?」

ユーノの言葉に答えたのは彼の左手中指にはめられた人の頭蓋に近い形をした指輪・魔導輪ザルバ。
ユーノはザルバの言葉に頷きで返した。
本音を言えばもう少し休んでしたいし食事だってしたい。
しかし今は一刻を争う状況だ。
被害が出る前に事態を収拾したい。
そのことを分かっているからかザルバもなにも言わず今後の事について話あった。

「とにかく、ますはあのジュエルシードの暴走体を何とかしないとな。他のジュエルシードが発動する前にかたずけないとこの世界のやつらに被害がでるぞ。」

「わかってる。」

ザルバの言葉にもう一度頷き、立ち上がると昨晩相手とした暴走体が逃げて行った方角に走りだしていった。

・・・・・・・・・・

「何なんだろうこれ?ガラス玉じゃないみたいだけど」

その日の夜、なのはは自分の部屋で夕方通った公園で拾った赤い玉を手のひらに乗せてそれをながめたいた。
その公園も今日の夢で見たようにボートや艀が壊れていたり地面がえぐれていたりしていた。
そしてこの赤い玉もその近くで拾ったのだった。

「やっぱり、あの夢は何かあるよね。でもなんで私そんな夢を見たんだろう?」

本能的になにかを感じたなのはであったがそこから先がわからなかった。
とにかく気分を変えるためにお風呂に入ろうと赤い玉をポケットにしまうと下に降りて行った。

「っ!? 何、今声が聞こえた?」

下に降りたと同時にどこからか夢で見た怪物と同じ声が聞こえてきた。
いてもたってもいられなくなったなのはは家族に見つからないように家を出てその声がする方に走って行った。
もうすぐ運命の出会いがあるとも知らずに。

・・・・・・・・・・

十数分後、なのはは近くの動物病院に来ていた。
ここはすずか達と何度か訪れたことがある病院だったがなのはは乱れた呼吸を整えながら声の主を探すために辺りを見渡す。

「何処にもいない?」

しかしいくら見渡してもそんな怪物は見当たらない。
やっぱり夢だったのかと思い家に帰ろうと振り向く。
その瞬間いきなり背後からドスン!と大きなものが落ちる音がする。
なのはが後を向くと息をのんだ。
そこには夢で見たあの怪物がこちらに向かってその妖しく光る眼と夢では見えなかった口を歪めてなのはのことを睨んでいた。
なのははここにきて自分に戦う力がないことに気づく。

「ああっ・・・い、いやぁ・・・」

すぐに逃げないといけない状況であるが恐怖で足が動かない。
遂にはその場に座り込んでしまう。
そしてそれを待っていたかのように怪物が襲い掛かる。

「キャァァァァァァ!?」

なのはは固く瞼を閉じ顔の前で腕を組む。
そして自分の体に来るだろう衝撃に備える。
しかし、いくら待っても衝撃は訪れない。
不思議に思いゆっくりと瞼を開くと・・・・

(あっ…)

その瞬間なのはの視界は白一色に染まる。
それが自分と同じぐらいの少年の背中である事に気付くと同時に不思議と今までの恐怖がやわらいでいくことを感じた。

これが小さな魔戒騎士と白き魔導師のその物語の始まりの出会いであった。


**********


「超常の力って言ったらお前たちは何を思い浮かべる?
たとえば気やマナ、あと波動っていうふうに色々とあると思う。
だが一番最初に浮かぶのは多分これだろう。

次回・魔法の力

しかし最近の魔法ってのは色々とハイテクなんだな。」



[27221] 第二話 魔法の力
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 14:15
第二話 魔法の力


なのはがジュエルシードの暴走体と遭遇する数分前。
なのは同様に気配を感じたユーノは動物病院近くの電柱の上にいた。

「しかし、お前も馬鹿だなあ。大切なレイジングハートをなくすなんて。あれがないとジュエルシードを保管できないぞ。」

「もう、良いだろうそのことは。」

今朝から捜索を再開したユーノとザルバだったがほどなくしてレイジングハートをなくしていることに気が付き、すぐさま昨日の公園に探しに行った。
だがその時にはすでに警察や公園の管理者などが現場を調べていたため仕方なくレイジングハートの捜索を保留にして暴走体の捜索を行っていたのだった。

「いや、よくないぞ。あれ一つで一体いくらすると思ってんだ。」

「うっ・・・」

暴走体の捜索中、ザルバが事あるごとにそのことを言ってくる。
これがただのストレージデバイスならここまで言われる事はなかっただろう。
しかし、レイジングハートはデバイスの中でも高価なインテリジェントデバイス。
さらに大量の魔力を運用できる高性能機であるためその価値は大人でもそうそう出せる金額ではなかった。
ユーノとしてもできることならレイジングハートを探したいが暴走体をほっておくこともできない。
そのためここまで耳が痛くなるのを我慢して捜索を続けていたのだ。

「とにかく、レイジングハートのことは暴走体を封印してから何とかする。まずは暴走体を何とかするのが最優先だ。」

「そうだが、封印できるのか今のお前に。」

「・・・・・・」

とにかく話題を変えようとするユーノだったがさきほどのからかうような口調から真剣な声音に変わったザルバの言葉にユーノは黙り込んでしまった。
ユーノがもつ魔戒騎士以外の力で今回のジュエルシードの封印には不可欠な魔法は今ほとんど使用する事が出来ないでいた。
元々この世界に来るまでにも無茶をした上にこの世界は魔力結合が難しい大気のためか回復も思うように出来ずにいたのだ。
だからといって諦める訳にはいかない。
ジュエルシードを発掘したのは自分であり、この責任は自分にあると考えるユーノ。
何より自分は人々を守る魔戒騎士なのだから逃げる訳にはいかない。
そう思いながら左手に握る赤い鞘に納められた剣・魔戒剣を強く握り締める。

「・・・・・・」

それを感じながらザルバは口ごもる。
ユーノと出会って九年。
互いのことはよくわかっているつもりだ。
優しく、責任感がつよくそして同年代の子供に比べてはるかに聡明で時には大人達でさえ目を見張る事がある。
だからこそ発掘責任者に選ばれたのだろうが、それがユーノの孤独を生んでいることをザルバは感じていた。
たとえどれだけ才能がありそれを伸ばす努力を惜しまず今使える力を十二分に発揮することができてもまだ9歳の子供だ。

(望むならこいつの心を照らす存在が現れることを俺は願うね。)

そんなふうにユーノの事を考えていたザルバだったがようやく探し求めた存在の気配を見つけた。

「っ、見つけた!」

「ああ、あと厄介なことに人間が近くにいるな。急げ、ユーノ!」

「わかった。」

ザルバの言葉に答えるよりも早く電柱から飛び降りると颯爽と静かな住宅街の道を駆け抜けていくユーノ。
程なくしてなのはがいる動物病院につくユーノの目に映るのは今まさになのはに襲い掛かる暴走体であった。
ユーノは両足に力を込めると地面が陥没するほどの力で踏み込みなのはと暴走体の間に立ち塞がると暴走体めがけて右足のローキックを打ち込み暴走体を蹴り飛ばすのだった。

・・・・・・・・・・

なのはは突如として現れた少年から目が離せないでいた。
颯爽と自分の危機を救ったこの少年になのははこの一連の事態が自分の見ている夢ではないのかと感じていた。

「君、怪我はない?」

しかしその考えは少年の言葉で遮られる。
振り向き自分を見つめる少年をあらためて見るなのは。
歳は自分と同じぐらい、髪は金髪で翠の瞳は彼の優しさを表しているかのようである。
革製の服に一番目を引く白いコートをはためかせ左手には赤い鞘が握られていた。

「あっ、大丈夫です・・・。」

「そう、良かった。」

自分が無事である事を告げるとその少年も微笑を浮かべる。
その笑みになのはは頬が熱くなるのを感じた。
互いに見つめあい穏やかな空気が二人の間に流れるが事態は決して好転したわけではない。

「ユーノ、のんびりしている暇はないぞ。結界を張ってこれ以上の被害を出させるな。」

その声になのはは驚く。
いきなり彼の左手にはめられた指輪が喋ったのだから。
しかしユーノはなのはの驚きを気にかけることなく左手に持った剣を地面に突き刺し両手で印を結ぶとなりやら呪文のようなもの呟く。
すると辺りの雰囲気が一変し、今まで聞こえていた家からの音や虫達の鳴き声が消え静まり返る。
なのはが困惑するなかユーノに蹴り飛ばされた暴走体が再びユーノ達に襲い掛かる。

「っ、ラウンドシールド!」

それに気づいたユーノが右手を突きだすと二重の正方形を中心にした真円形の翡翠色に輝く魔法陣が生まれ暴走体と激突すると僅かな均衡の後にもう一度暴走体は魔法陣に弾き飛ばされる。

「いったんここから離れたほうがいいな。ユーノまだ魔法は使えるか?」

「あと少しだけね・・・。いくよ、チェーンバインド!」

わずかに息を乱すユーノであったがザルバの言葉にさきほどと同じように右手を暴走体に向けるとさっきと同じ魔法陣が暴走体の下に発生しそこから同じく翡翠色に輝く鎖が数本生まれ暴走体に絡みついていく。

「ちょっと、ごめんね。」

「えっ、ふぇぇぇ!?」

もう一度なのはに振り返ったユーノは膝を折り先に謝るとなのはの背中と膝の裏に腕を差し込むとそのまま立ち上がる。
俗にいうお姫様だっこであるがいきなりそんなことをされたなのはは今までの事態の事を含めてか顔を真っ赤にする。

「安全な場所まで離れるから、しっかり摑まってて。」

ユーノの言葉にただ頷くだけのなのははユーノの言ったととおりにユーノのコートをしっかり握る。
それを確認するとユーノは足早にその場所を離れるのだった。

・・・・・・・・・・

先ほどの動物病院から十数メートル離れた電柱の陰にユーノ達は身をひそめ暴走体について思案していた。

「さて、どうやって奴を封印するかな?」

「もちろん、僕が封印するに決まっているだろ。」

「馬鹿かユーノ。今のお前にそれだけの魔力があるのか?」

本来であればユーノが担当するものだがさきほどの魔法で封印するのに必要な魔力がユーノにはなかった。
それでも自分が行おうとするユーノにザルバが一喝する。
そんな二人の会話を身を縮めて聞いているなのは。

「でも、それ以外に方法がないだろう!」

《私に一つ、案があります。》

わずかに声を荒げるユーノの言葉に答えたのはここにいる三人以外の声。
大人の女性でありながらどこか機械的なその声はなのはのポケットから響いていた。
その声に驚くなのはだがユーノとザルバはその声に覚えがあった。

「レイジングハートか!何処にいるんだ!」

《この子のポケットの中です。私を落として何をしているかと思えばくだらないケンカなら余所でしてください。》

少し棘がある言い方だがユーノにとっては大切な仲間である。
なのはがポケットから出した淡く光る赤い玉-レイジングハート-に先ほど答えた内容に対してザルバが問いかけた。

「それでさっき言った方法って一体何なんだ?」

《このお嬢さんに協力してもらうのです。このお嬢さんの魔力はユーノ以上ですから問題はないでしょう。》

確かになのはからは魔力を感じる。
ザルバはそれしか方法がないかと考えるが・・・。

「ダメだ!そんな危険なことをこの子にさせられないよ!」

ユーノがその方法に反対の意見を出した。
これは自分の責任であり一般人を巻き込みたくないという考えからでる。
それがわかるザルバであったが今の現状でそれ以外に有効な方法が思いつかない。
ユーノとザルバが言い合っていると。

「あの!」

なのはが大きな声を出した。
その声でなのはに振り向くユーノになのはが何かを決意した目で見つめた。

「あの、私に出来ることならお手伝いさせて下さい!」

「ダメだ、こんな危ないことはさせられないよ。」

「でも、このまま放っておいたら大変なことになるんでしょ。私、あなたのお手伝いがしたいの。」

なのは自身どうしてそんなことを言ったのか分からないが自分の気持ちをそのまま言ったつもりだった。

「ユーノ。これ以上言ってもこの嬢ちゃんは折れないぞ、きっと。」

なのはの言葉にまだなにか言いたそうだったユーノだったがザルバの言葉となのはの真剣な表情をみてしばらく思案すると首を縦にふった。

「わかった。君の力を貸して欲しい。」

「うん!」

ユーノの言葉になのは嬉しそうに頷くのだった。

・・・・・・・・・・

「まずはレイジングハートに君の事を登録する必要がある。僕の言うとおりに言って。」

「はい。」

さっそく、なのはが魔法を使えるようにデバイス登録を行うユーノとなのは。
なのはがレイジングハートを手に持って互いに向かい合う。

「風は空に、星は天に。」
「風は空に・・・星は天に・・・」

レイジングハートを起動するためのパスワードをユーノに続いてなのはが口にしていく。

「不屈の心は、この胸に」
「不屈の・・・心は・・・この胸に・・・」

それにともないなのはの足元にユーノと同じ、しかし淡い桜色の魔法陣が形成されていく。

「この手に魔法を」
「この手に・・・魔法を・・・」

なのははゆっくりとレイジングハートをもった左手を前に構える。

「「レイジングハート、セェェェット アップ!!」」

最後の言葉を二人が同時に叫ぶと眩い桜色の光が辺りを照らす。

《Stand by ready set up》

その瞬間、なのはの体内に眠っていた膨大な魔力が雲を突き向けて天に桜色の光の柱をつくっていく。

「す、すごい、なんて魔力なんだ・・・。」

その魔力に圧倒されるユーノだったがすぐに気を引き締める。

《はじめまして、新しい使用者さん。さっそくですがあなたの魔力素質を確認しました。デバイス・防護服共に最適な形状を自動選択しますがよろしいでしょうか?》

「あ、はい。よろしくお願いします。」

《All right》

次の瞬間、なのはの着ていた服が消えると全身が白を基調としたロングスカートの服に胸には金色のプロテクターがある防護服-バリアジャケット-を身にまとった姿になった。
同じくレイジングハートも先端に三日月ようなパーツの中に赤い玉がつきそのパーツの根元には白く細長い三角形の突起物がついた杖に変わる。

「こ、これでいいのかな?」

「ああ。それじゃ作戦を伝える。まずユーノが暴走体に接近して隙をつくる。そこをお前が封印するんだが、こいつは射撃魔法が使えるか?」

《ええ、それどころか彼女の魔力なら砲撃魔法も使用可能です。》

「よし。それは好都合だ。」

ザルバとレイジングハートがなにやら作戦を話しているがなのはには何を言っているのか全く解らずユーノに目線をやる。
それに気づいたユーノがあらためて作戦を伝える。

「君はただあの暴走体を打ち抜くことだけを考えれば良いんだ。攻撃するタイミングは僕が合図するから。」

「でもどうやって攻撃したらいいの?」

《それなら問題ありません。Mode change Canon mode 》

なのはの疑問にこたえるかのようにレイジングハートはその姿を変える。
先端が鳥のくちばしのようになりその根元から三方向に桜色の羽が生え、さらにトリガーが飛び出してきた。

《あとは魔力をこめて引き金を引くだけです。》

その姿に一瞬唖然とするなのはだが気を引き締めユーノに目を向ける。
その目を見たユーノもその決意を感じ力強く頷く。
そのとき、暴走体の咆哮が辺りに響く。

「それじゃ行くよ。」

「うん!」

そう言うとユーノは暴走体に向かって走り出していった。

・・・・・・・・・・

再び暴走体に対峙したユーノは体を半身にし魔戒剣を鞘から抜き放ち前に構えた左手にあてるとゆっくりと剣を引く。
わずかに響く金属音が辺りの緊張を高めていく。
動かないユーノと暴走体であったが痺れをきらしたかのように暴走体が飛びかかる。
それをバックステップでかわすユーノは魔戒剣を上段から振り下ろす。
その剣先が暴走体をかすめるが決定打にはならない。
再び互いににらみ合うがその時ユーノの脳になのはの声が響く。
レイジングハートから教わった念話である。

『準備できたよ。』

『わかった。今から奴を切り上げるからそこを狙うんだ。』

『うん。』

なのはの念話に答えたユーノは魔戒剣を逆手に持ち構える。
再び襲い掛かる暴走体に今度はユーノも暴走体に向かって走り出す。
両者が激突する寸前、ユーノは強く踏み込みそのまま魔戒剣を切り上げる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

僅かに重さを感じるがそれを無視してユーノは振り抜く。

『今だ!』

・・・・・・・・・・

『今だ!』

ユーノの念話になのははレイジングハートを空に向けて構え直す。
すでにレイジングハートには十分の魔力が蓄えられている。

《直射砲形態で発射します。ロックオンの瞬間にトリガーを》

「でも私に出来るかな?」

《大丈夫、あなたはただ願えばいいだけです。あれを打ち抜きたいと。》

なのはの弱気な発言にレイジングハートが優しく声をかける。
機械であるはずなのにその声には人間のような温かみがありなのはの不安をとかしていった。

《来ました!》

レイジングハートの言葉になのはは空を見る。
するとさきほどの暴走体が空高く吹き飛ばされている。
なのははそれに向けてレイジングハートを構えるとカーソルがあらわれ暴走体に標準がつけられる。
そしてロックの瞬間、なのははレイジングハートの言った通りに強くつよく願いトリガーを引く。
瞬間、桜色の光条が暴走体に直撃しその体を吹き飛ばしていった・・・。

・・・・・・・・・・

砲撃の衝撃に尻持ちをついたなのはにユーノが近づき手を差し伸ばす。
その手につかまり立ち上がると頭上から菱形の空色に光る宝石が降りてきた。

「なのは、レイジングハートでジュエルシードに触れて。」

「こ、こう?」

ゆっくりとジュエルシードにレイジングハートを向けるとジュエルシードがレイジングハートの中に入っていく。

《internalize No,21》

ようやくジュエルシードを封印することが出来たユーノとなのは。
互いにほめるように見つめあうが突然、なのはの足から力が抜けていく。

「あっ・・・・。」

「おっと、大丈夫?」

なのはが倒れかけるがそのまえにユーノがなのはを受け止める。
ユーノが問いかけるがなのはは答えるかわり安らかな寝息をもらしていた。

「こんな騒動に巻き込まれた上に初めて魔法を使ったんだ、疲れたんだろう。どこか休める場所を探すぞユーノ。」

「うん、わかった。」

ザルバの言葉に答えるとユーノは結界を解き、再びなのはをお姫様だっこすると歩き出す。
レイジングハートもバリアジャケットを解き、自身も待機状態に戻るとなのは胸の上に乗る。
そうして歩を進めるユーノたちを夜空に輝く星達がただ見つめているのだった。

戦いの後のわずかな平穏。今はただ白き魔道師は眠る。小さな魔戒騎士の腕の中で・・・


**********


「人間は生きていく上で必ず集団をつくる。
それは一人では出来ないことを誰かに求めるからだ。
そしてその中で一番小さく、身近な集団はお前達がよく知るものだ。

次回・新しい家族

これはユーノにとって願ってもないことだな。」



[27221] 第三話 新しい家族
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 23:03
第三話 新しい家族


「うっ・・・うん・・・・。」

春先のまだ冷たい夜風に頬をなでられ浅い眠りから目覚めたなのははゆっくりと起き上がる。
寝ぼけ眼で辺りを見回すとそこは自分が知る池のほとりであり今自分が横になっていたのはその近くにあるベンチであった。

「あれ?私どうしたんだろう?それにこのコート・・・」

少しずつ覚醒していく頭が現状を確認していく中で自分にかけられていた白いコートを手にとるなのは。
それはあの少年が着ていたものである。
そんなことを思っていたなのはの耳に地面を踏み締める音が届く。

「あっ・・・・。」

そちらの方へ目線をやるとなのはは感嘆の息を零した。
そこには先ほどの少年が直刀の剣を振るっていた。
その洗練された動きを照らす月明かりと相まってまるで舞を踊っているような印象を受ける。

「君、大丈夫?」

どれだけ見ていただろうか、剣を鞘に納めた少年が声をかけるまでその美しさに呆けていたなのはその声に慌てた。

「は、はい!大丈夫です!」

「そう、よかった。」

なのはの慌てた声を聞き少し苦笑しながら返事をするユーノの声になのはは羞恥で頬が熱くなるのを感じた。

・・・・・・・・・・

「それじゃ、あらためて自己紹介。僕はユーノ・スクライア。それとこれは魔導輪のザルザだ。」

「よろしくな、嬢ちゃん。」

「あっ、私は高町なのはです!」

なのはの頬の火照りがおさまるのを待ってからユーノは今まで出来なかった自己紹介をおこなった。
それに続くようにザルバをなのはに見せるとザルバ自身もなのはに声をかけなのはも自分の名前を少々大きくではあるが答えた。

「なのはか・・・良い名前だな。」

「そうだね。それと今回は本当にありがとう。君のおかげで無事にジュエルシードを封印することが出来たよ。」

自身の名前をザルバに褒められまたユーノからも感謝の言葉を言われ照れるなのはであったがそこで今回の事をユーノに訪ねた。

「そんなことないよ。お手伝いしたいと思っただけだから。それはそうとさっきの怪物、あれってなんだったの?」

なのはの質問にユーノは少し思案するとゆっくりと今回の出来ごとの成り行きを語り始めた。

・・・・・・・・・・

「まず初めに僕はこの世界の人間じゃない。こことは違う次元世界・・つまり異世界から来たんだ。」

ユーノの言葉に驚くなのはだが不思議とそのことに納得することが出来た。
おそらく今回経験した不可思議な体験がそうさせたのだろう。
なのはが驚くのを横目で見ながらユーノは続けた。

「ジュエルシードは僕達の世界では古代に作られたもので願いを叶える魔法の石なんだ。でもとても不安定で今回みたいに暴走することもある。」

「でもなんでそんな危険なものが私のご近所にあるの?」

そうなのはが首をかしげるとユーノの顔に陰りがさす。

「僕の所為なんだ・・・」

「えっ・・・」

「僕は今回、ジュエルシードを発掘したスクライア一族の一人で発掘責任者なんだけどジュエルシードを調査団に頼んで運んでもらったんだ。けど事故か何らかの人為的災害で時空間船が・・・。そして21個のジュエルシードがこの世界に散らばってしまったんだ・・・。」

「そうなんだ・・・。あれ、でもユーノくんの話を聞く限りだとユーノくんは何にも悪くないんじゃない?」

そう、確かにジュエルシードを発掘したのユーノであるが散らばってしまった原因は全くの別。
そう思うなのはであるがユーノの顔から影が消えることはなかった。

「でもあれを見つけたの僕だから。全部回収してあるべき場所に返さないと。それに僕は・・・・。」

「・・・・」

そこで言葉をきるユーノの心中をザルバが察する。

(魔戒騎士として人々を守る。その気持ちは分かるがユーノの場合それが一種の強迫観念になりかけてる。このままじゃ・・・)

ユーノとザルバが互いに思考の海に沈んでいるときなのはがユーノに優しく語りかける。

「なんとなく分かるよユーノくんの気持ち。真面目なんだね、ユーノくんは。」

「えっ。」

その言葉になのはに振り向くユーノをむかえたのはなのはの優しい微笑えみだった。
しばらくの間互いに見つめあうユーノとなのは。
それを眺めるザルバは心の中でこのなのはとの出会いがユーノにとって大きな意味をもつだろうと感じていた。
しかしいつまでも見つめあっていては話が進まない。
そう考えたザルバは仕方なく咳払いをして二人を呼び戻す。

「あ、あと聞きたいことはあるかななのはさんっ!?」

「えっ!えーっと、そ、それじゃユーノくんはこれからどうするの?それと私のことはなのはでいいよ。」

ザルバの咳払いで現実に戻った二人は互いに頬を赤らめ顔をそむけるとなのはが今後の事を聞いてきた。
なのはの言葉で呼び方を改めたユーノは真剣な顔でなのはを見る。

「僕の力が戻るまでの間、一週間・・・いや五日もあれば僕の力も回復する。そうしたらまた一人でジュエルシードを探しに行く。」

その言葉に驚くなのはだがすぐに優しい眼差しいをユーノに向けると自分の気持ちを打ち明けた。

「だーめ。私もお手伝いするから。」

「だーめって、なのは、ジュエルシードの封印は危険だ。今回みたいな目にだって合うかもしれないだよ。」

「でも私、お話を聞いちゃったしそれに私に力があるならユーノくんのお手伝いしたいもん。」

「でも・・・。」

「諦めろ、ユーノ」

確かになのはの力があれば回収作業もスムーズにいくだろうが女の子であるなのはを危険な目に合わせたくないユーノは渋る。
しかしそれをさえぎったのはザルバだった。

「なのはの決意は本物だ。いまさら何を言っても聞きやしないぞ。」

「・・・・」

ザルバの言葉を聞いたユーノは押し黙ると瞼を閉じしばらく考える。
その様子を心配そうに見つめるなのはであったがユーノが目を開くとなのはを見つめる。

「それじゃなのは、お願いして良いかな?君の事は僕が必ず守るから。」

「う、うん!!」

ユーノの言葉になのはは満面の笑みを浮かべ頷く。
そんな二人の様子をザルバも嬉しそうに見つめる。

「じゃ、行こっか。」

するとなのははいきよいよく立ち上がるとユーノに手を差し出す。

「行くってどこに?」

いきなりのことで今度はユーノが困惑する。
しかしなのははそんなユーノの困惑を無視するように先ほどと同じような満面の笑みを浮かべ今から向かう場所をユーノに言った。

「私の家!」

・・・・・・・・・・

夜の静かな住宅街をなのはのあとをついていくユーノであるがその顔は心配な色が色濃く表れていた。

「大丈夫かな?ザルバ。」

「さあ、俺には分からんがなのはがあんないに自信満々なんだから大丈夫なんだろう。」

「そうかな?」

なのはに聞こえないように話をするユーノとザルバ。
実を言えばなのはの申し出はユーノにとって非常に嬉しかった。
封印の協力はもちろんのことだがユーノはこの世界の通貨を持っていない。
つまり食べ物などを買うことは出来ないしどこかに泊まることも出来ない。
もちろんスクライア一族で生活していたため野宿をすることはできるがもしそんなところをこの世界の警察に見つかれば捜索どころの騒ぎではない。
本音をいえばすでにユーノの体力も限界でありすぐにでも眠ってしまいたい衝動に駆られるのを必死に抑えているのだ。
しかし・・・・

「でね、お父さんはサッカークラブのオーナーで・・・・」

道すがらから聞く家族の話からなのはが家族にとても愛されていることが見て取れる。
だからこそなのはが危険な事に協力しようとすることをそしてそれの原因である自分の事を受け入れてくれるか心配なのだったのだ。
それに・・・

(父親か・・・)

今なのはが話す父親のことを聞きながらユーノは自分の父親のことを思い出していた。
実はユーノは生まれた頃からスクライア一族で暮らしていた訳ではない。
ユーノの生まれ故郷はホラーによって滅ぼされ自身もホラーに食われそうになったところを後の父になるガロを継ぐ黄金騎士に助けられたのだ。
その父もユーノが4歳の時にユーノを守りホラーと相打ち、死んだ。
その後父と親交があったスクライア一族の族長がユーノを引き取りスクライア一族の一員となったのだ。
ユーノが自分の父のことを思い出していたら突然なのはが立ち止まる。
危うくぶつかりそうになるが持ち前の運動神経でそれを回避するユーノ。

「到着!ここが私の家です!」

「ここが・・・。」

なのはが紹介した家の大きさにユーノは若干驚いていた。
家自体は普通の一軒家より多少大きいだけだがその敷地は他の家より優に3倍はある。
それもそのはず、なのはの家には道場があるのがその理由だ。
それはともかくなのはは門の前でユーノに振り返る。

「じゃユーノくん。私がお父さん達に行ってくるからここで待っててね。」

「うん。あっ、なのはちょっと待って。」

「えっ、なにユーノ「何やってるんだなのは。」くん・・・・」

なのはが門を押し中に入ろうとするときその向こうに気配を感じたユーノがなのはを止めるがそれより先に中に入ってしまったなのはに向かって男性の声が響く。
その声にゆっくりと振り向くなのはの目に映るのは男女の姿。

「お兄ちゃん・・・お姉ちゃん・・・」

その二人こそなのはの兄と姉である高町恭也と高町美由紀であった。

「こんな時間に何処に行っていたんだ。それと後にいる子は?」

「まあまあ恭ちゃん。無事帰ってきたんだし良いじゃない。」

少しきつい眼差しをなのはに向ける恭也とそれをおさめようとする美由紀。
その二人に対してどう話していいのか分からないなのははあたふたしている様子を見守るユーノであったがこのままではダメだと思いなのはの前に出て恭也・美由紀に対して一礼する。

「ユーノ・スクライアと言います。このたびは妹さんを夜更けに連れ出し申し訳ありませんでした。」

その様子に恭也は毒気を抜かれ美由紀もそのしっかりした様子に感心しなのははというとそのユーノの姿に呆けていた。

・・・・・・・・・・

その日高町士郎は今まで生きてきた人生の中で5本の指には入るだろう出来ごとに直面していた。
高町家の末っ子であるなのはが家を抜け出し戻ってくれば見知らぬ少年を連れ帰ってきた。それだけでも驚きだがさらに少年の口から語られた話にはさらに驚愕した。

「魔法ね・・・」

妻である桃子の口から零れるのは先程ユーノから聞いた話に出てきた単語でありその桃子や自分の子供である恭也・美由紀も自分と同じように驚いているようだった。

「そうなの。それでお父さん、お母さんお願いユーノくんのお手伝いするのを許して欲しいの。」

自分の気持ちを打ち明けるなのはの言葉に士郎は押し黙る。
幼い頃自分の所為で甘えさせられなかったため自分の気持ちを押し留める節があるなのはが自分の気持ちを素直に打ち明けてくれるのは嬉しかった。
しかしユーノの話を聞く限りではそれは決して安全とは言い難いことである。
親としては危険なことをさせる訳にはいかない。
そう悩んで桃子に目を向けると向こうも自分と同じような事を考えているようだった。

「あのよろしいでしょうか?」

そんなふうに士郎達が思案しているなかユーノが静かにであるが声を上げる。
その声に士郎と桃子が目を向けるとおそらくここに来てから考えていた事を口に出した。

「いきなりこのような事をお願いすれば困惑するのも分かります。皆さんがなのはを事を愛しているのは道すがら聞いた話からも分かりますから。ですのでなのはの申し出はやはり遠慮させていただきます。」

その言葉になのはが振り向きなにか言うおうとするがユーノの鋭い目線に押され黙る。
再び士郎達に向いたユーノはもう一度口を開く。

「そのかわりという訳ではありませんが僕がジュエルシードを回収し終わるまででいいのでこの家に泊めてもらえないでしょうか?お願いします。」

そう言って頭を下げるユーノの姿に恭也達は何と言っていいのか分からず黙ってしまう。
そして恭也達と同じようにそれを見た士郎はその姿にどこか懐かしさを覚える。
そして思い出すのは重傷を負うまで多くの要人を守っていた頃の自分。
誰かを守ることに誇りをもちしかし本当に守らなければならないものを知らずその所為で家族に迷惑をかけ末っ子のなのはには寂しい思いをさせてしまったこと。
そう自分の過去を思い出していた士郎だったがユーノとなのは会話が耳に届きそちらに目をやる。

「ユーノくん。お願いだから私にお手伝いさせて。」

「やっぱり駄目だよなのは。士郎さん達の気持ちを考えたら手伝わせられないよ。」

二人の会話を聞きながらなのはの決意の固さとユーノの危ういながらも優しいその心に士郎は決意を決める。

「でも!「なのは」・・・お父さん。」

「お前の気持ちはよく分かった。本当ならやめさせるべきなんだろうがユーノくんの手伝い、しても良いよ。」

「父さんそれは・・・」

士郎の言葉に恭也が声を上げるが士郎の優しい顔を見てそれ以上何も言わなかった。

「ユーノくん」

ユーノに向き直る士郎はユーノに対してなのはに向けるのと同じ優しい眼差しを向ける。

「魔法に関しては私たちでは何も手伝うことは出来なしなのはのこともまかせっきりになると思うがそれ以外のことなら私達に出来る事はなんでもするつもりだ。なんでも言ってくれ。」

(あっ・・・)

士郎のその優しい眼差しにユーノは今は亡き父の姿を思い出していた。
父との思い出はそんなに多くない。
その別れもホラーの手による凄惨なものであったが今でも思い出すのは楽しかった日々。
魔戒騎士として人々を守るそんな父の姿に憧れその父に追い付きたくて必死に魔戒騎士の修業をおこなった。
そしてそんな自分を見守ってくれていたのは士郎と同じ優しく温かい眼差し。
だからこそユーノの思い出の箱が開いてしまったのだろう。

「ユーノくん!どうしたの急に泣き出して!?」

なのはの言葉でユーノは自分が泣いていることに気づく。
いきなり泣きだした事に士郎達も慌てるがユーノも涙を止めようとするがなかなか止まらない。

「すいません。士郎さんを見ていたら父を思い出して・・・」

「失礼だがご両親は・・・」

ユーノの台詞でなんとなくだが事情を察する士郎であるが念のため確認をとると予想どうりユーノは首を横に振る。
その様子に高町家の面々、特に女性陣は息をのむ。
そして士郎の中である決意が出来る。
それは・・・

「ユーノくん。」

士郎の言葉にユーノは未だに涙が流れる顔を士郎に向ける。

「ここにいる間はこの家を、私達を家族だと思ってくれて構わない。」

士郎の台詞にそこにいる全員が驚く。
特にユーノは突然の事で一番驚いていた。

「でも、いきなり・・・」

「確かに突然だが君を見ていると昔の自分を思いだして放っておけないんだ。」

「そうね。それに家族が増えるのは良いことだわ。」

士郎の言葉で夫の考えを理解した桃子もその意見に賛成する。
それに続くように恭也・美由紀も賛成の声を上げる。

「あの本当に良いですか?」

「良いんだよユーノくん!私もユーノくんと一緒に居れてすっごく嬉しいよ!!」

まだ、状況が理解できないユーノであるが嬉しそうに腕に抱きついてくるなのはの体温を感じながら士郎の言葉が本当であると実感する。
その言葉によって今まで父を失ってから開いていた穴が埋まっていくような感覚を感じながらユーノは士郎に向かいあう。

「では、その、よ、よろしくお願いします。」

ユーノが感謝の言葉を発するとそれに呼応するようにユーノのお腹から盛大な音が鳴りユーノの顔に羞恥の赤がさす。
その音を聞き笑い声上げるなのは達。

「それじゃご飯の準備をするからちょっと待っててね。」

「あっ私も手伝う!」

徐に立ち上がり御飯の準備をする桃子とそれを手伝おうとするなのはは一緒にキッチンに向かう。

「じゃ私は部屋の準備をしてくるね。」

「替えの服もいるな。俺のお古がまだあると思うから探してくるよ。」

それにならうように恭也・美由紀も席を立ちあがる。

「あ・・・・」

それぞれが行動を始めるとその姿に呆気にとられるユーノであるが肩を軽く叩かれそちらに目をやると笑みを浮かべる士郎がいた。

「今日は俺と一緒に風呂に入るか?」

「っ、は、はい!!」

その士郎の言葉にユーノは涙を流し少し腫らした目を嬉しそうにゆがめると大きな声で返事をする。
その声にその場にいた士郎・桃子・なのはが再び笑い声をあげる。

(こういうのを怪我の功名って言うのかな・・・)

その場の雰囲気を感じながら一言も喋らなかったザルバが心中を吐露する。
父を失いスクライア一族に預けられてからのユーノは一言でいうなら孤独だった。
決して一族から疎外されていた訳ではない。
しかしあの日父を失った悲しさを紛らわすように発掘の勉強を、そして父の墓前に誓った魔戒騎士になるための厳しい修業にと打ちこんでいった。
だからこそ同年代の友人がおらず心中がわかる大人達もどこかユーノと接することを遠慮していた。
しかしジュエルシードの回収で訪れたこの世界でユーノの悲しみを癒してく存在があらわれた。

(ようやくお前の心配事が一つ減ったな・・・)

もしも今ザルバに肉体があったらきっと夜空を眺めていた事だろう。
そのむこうにユーノの父であり先代ガロの戦友の顔を見つめながら。

(なあそうだろう・・・・・バラゴ・・・・・)

小さな魔戒騎士は新たなる居場所を得る。そしてそれが魔戒騎士にとってもっとも重要なことと知ることになるがそれはまだ少し先のお話・・・


**********


「闇を切り裂き光を導く者、それが魔戒騎士だ。
だがその秘密を知るものはそう多くない。
だからこそ特別に教えてやる魔戒騎士の秘密をな。

次回・番犬所

俺はここがあんまり好きじゃないんだがな。」



[27221] 第四話 番犬所
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 23:06
第四話 番犬所


第一管理世界ミッドチルダの首都クラナガン。
次元世界の中心と言われるこの町も自然の摂理には逆らうことはなく命ある者たちが眠りにつく夜の時間を迎えていた。
しかしその街の一角にはその安らかな夜の風景とは全く違う人に知られる事は無い人類と魔獣との死闘が繰り広げられていた。
闇よりも禍々しい黒い体と歪な四肢、捻じれ曲がった角に蝙蝠のような翅をもった人を食らう魔獣・ホラー。
それと相対するは重厚な紺碧の鎧と狼を模した牙が露出していない仮面を纏った人類の守護者たる魔戒騎士。

「―――――!?」

この世のものとは思えない咆哮をあげ魔戒騎士に飛びかかるホラー。
しかし相手をする紺碧の騎士は慌てる事は無く右手に握った身の丈はある大剣・廻界絶無刀をゆっくり構えると上段から目にも止まらぬ速さで振り下ろすとホラーの体を一刀両断にする。
それによりホラーの体は四散しあたりに血肉をぶちまける。
だがそれも瞬く間に消えていく。

「ふう・・・・」

頭上に光が溢れると魔戒騎士が纏っていた鎧が一瞬に消えそこに残ったのは四十代程の男性だった。
白髪が交じり始めた髪と額から左目を縦断し頬にまで伸びた傷をもつ精悍な顔つき。
身に纏う服装は袴に足にまで伸びた非常に濃い蒼色をした陣羽織を羽織った和装。
そして胸にはとぐろを巻いた龍のペンダント。
魔戒騎士の一人であり次元世界を渡りホラーを狩る廻界騎士・絶無(ゼム)の称号を継ぐ存在ムメイが立っていた。

「ミッドに戻って早々にホラーを狩ることになるとはなぁ。」

「しゃあねえって。ここは次元世界の中心なんだから陰我も集まってくるんだからよぉ。」

「わかっているドラゴ。」

カタカタと音を立てながら口を動かす魔道具・ドラゴに少々疲れが滲む口調で答えるムメイは今回の報告を行うため足早にその場所を離れるのだった。

・・・・・・・・・・

魔戒騎士。
その存在は公には知られてはいない。
しかしその姿は各次元世界に神話や伝説、伝承として伝わっている。
そしてそれらに共通するのは魔獣を倒し人々に称賛されることなくその姿を消したということ。
だが魔獣との戦いは終わってはいない。
それは森羅万象あらゆるものにある陰我と呼ばれる闇が原因であるからである。
陰我に寄生しその陰我の集まったオブジェをゲートに魔界からあらわれるからであり人が存在する限りその戦いに終わりはない。
そして人々に無用の混乱を与えないためにある時を境に魔戒騎士はその姿を闇に隠していった。
だが極僅かに伝わるその伝承に人々は希望を見出すのだった。

・・・・・・・・・・

ミッドチルダの何処かにあり何処にもない場所に魔戒騎士たちが集う所がある。

番犬所。

武器の支給や修繕・ホラーに関する情報の提供、出現を感知し魔戒騎士に伝える他に掟を破った魔戒騎士に対する制裁を行う魔戒騎士を束ねる存在である。
そして今その場所に一組の男女がいた。
男性の方であるムメイは自身が使う魔戒剣を狼を模した彫像の口に差し込もうとしていた。
それを眺めているのはムメイの腰ぐらいまである舞台のような場所にシックなロッキングチェアに座った十歳ぐらいの薄紅のウェーブかかったロングヘヤーの少女。
この番犬所を、ひいては次元世界にある全ての番犬所を統べる神官・アリスである。

「ムーくん、御苦労さま。」

「あぁ。」

アリスの労いの言葉に返事をすると彫像から剣を引き抜く。
するとその口から白い煙が噴き出しそれが消えるとそこには少々歪な短剣であった。
それは魔戒騎士に倒されたホラーが封印されたものである。
これが十二本(十二が魔を縛める数字であり二度と現世に迷い出ないようにとの意味を込めて十二本セットにされる)集まると番犬所を通じて魔界に強制送還される。
それを手にするムメイは反対側に歩きながらアリスに向かって放り投げる。
自分に向かってくる短剣にアリスは微塵も動揺することなく両手で優しく包み込むようにキャッチする。
それに目をくれることなくムメイは反対側にあった竜の彫像、こちらは西洋のものを模したものの口を開くと懐からアンティークのライターを取り出し内部の部品を引き抜くとそれを竜の口に咥えさ台座にあるハンドルを回すとそこから炎が噴き出る。

魔界火。

魔界の業火とも呼ばれるもので人間に憑依したホラーの識別や傷の治療といった多岐にわたる使用法があるものである。
魔戒騎士はその炎をライターに蓄え使用し番犬所にある種火で補給する。
ムメイは補給された魔界火を確認するようにライターをひねるとそこから白い炎が高く立ち上る。
それを確認し一通りの作業を終えたムメイは懐から情報蓄積型の簡易デバイスをアリスに放り投げる。
自分に向かってくるデバイスにアリスは右手を伸ばす。
するとデバイスは空中で停止し起動すると中に記録されていたムメイのここ数年間のホラーとの戦いの記録を表示していく。

「そう言えば、あの子はどうしてる?」

「あの子?」

アリスが記録に目を通しはじめてしばらくするとムメイがアリスに語りかける。
その言葉にアリスは思考の一部を使い考えるがすぐに心当たりに辿りつく。
今、この男が気にしているのは戦友の一人息子でありおそらくガロの称号を受け継ぐはずの少年のことだろう。

「ユーくんのこと?確かスクライアで発掘したロストロギアが事故で散らばってその回収に出向いているはずだけど?」

「ロストロギアが散らばっただと。詳しく話してくれるか?」

「私も詳しくは知らないんだけど・・・」

そういってアリスは自身が知るジュエルシードに関する事を話す。
もちろんその間記録に目を通すことは忘れない。
それから事の顛末を聞いたムメイは深いため息とともに言葉を発する。

「全く、それではユーノには非がないではないか。」

「ホントにあの小僧は。」

「まあそれがユーくんの良いところでもあるんだけどね。」

ムメイ・ドラゴが少々呆れた声をあげる中アリスはユーノの肩をもつ。
しかし心の中では二人と同じ事を考えているアリスはそれ以上強くは言えなかった。

ユーノ・スクライア

先代ガロであるバラゴがホラーによって滅ぼされた村から助け出した子供。
それだけなら魔戒騎士であるムメイや神官のアリスも気にはかけなかっただろう。
だがこの子はその亡きバラゴが次代のガロとして選んだ子なのだ。
ガロとは魔戒騎士の中でも最高位の称号であり数多いる魔戒騎士のなかでただ一人名乗ることが許されたものなのだ。
だからこそ本来であればすぐにでも後継者を決めなければならないのだがバラゴの最後の遺志をくみアリスが他の神官達を諫めてユーノを後継者候補に選定したのだった。
だがこれも永遠という訳ではない。

「ユーくんの性格も分かるけどこのままだったら鎧を召喚できずに別の人がガロを継いじゃうかも。」

「でもよう、今ユーノは九歳だろ?だったら後六年もあるんだし大丈夫じゃねぇ?」

そうドラゴの言うとおりユーノが後継者候補でいられるのは十五歳まで。
それはその昔魔戒騎士に選ばれるようになるのが十五歳からでありそれを一つの区切りにしようと反対していた神官達からの最大限の譲歩だったのだ。
そんなふうに二人の会話を聞きながらムメイはユーノのことを考えていた。
確かにユーノの素質は高いし順当に修業を積めば魔戒騎士になるだろうと思う。
だが魔戒騎士にとってもっとも大事なことを今のユーノは気づいていない。
ユーノの強すぎる責任感、そして父の遺志と継ごうと必死になるあまり一番単純で重要なこと。
そう守りし者の意味を・・・

「どちらにせよ。」

その言葉に二人はムメイに注目する。

「ユーノが魔戒騎士になれるかどうかの最後のピースを見つけられるかどうかだ。」

そう断言するムメイの言葉に無言で同意する二人。
それを見とめたムメイは外に向かって歩き出した。

「もう行くの?もう少しのんびりしていけばいいのに。」

「そうしたいが阿門法師の所に顔を出したいからな。」

アリスの言葉で一度は立ち止まるムメイだがこれから向かう先を告げると再び歩き出す。
ムメイの姿が見えなくなるまでその背を見つめていたアリスは顔を上に上げる。

「バーくんの願いかなうといいね・・・」

そこに親しい旧友であった黄金騎士の顔を思い浮かべながら見つめるのであった。

・・・・・・・・・・

クラナガンから離れた森の中。
その森の中を歩いていたムメイの前に目当ての小屋があらわれた。
人目に付かない場所にあるその小屋の前に一人の老人が佇んでいた。

「久しいなムメイよ。」

「お久しぶりです、阿門法師。」

ムメイに挨拶したこの老人の名は阿門。
魔戒騎士を影から支える存在である魔戒法師の一人でありザルバやドラゴといった魔導具の製作に関しては神業とも称される人物であり調合が難しい顔を変容させる秘薬の数少ない製造者でもある人である。

「まぁ、積もる話もある赤酒も用意してあるしバルチャスでもしながら話そうか。」

「そうですな、法師の赤酒は美味ですからね。」

その言葉に笑い声を上げる阿門に導かれ小屋の中に入っていくムメイであった。

・・・・・・・・・・

バルチャスとはチェスに似た魔戒のゲームの一種であり盤の上の駒を自らの気を込めて動かし相手の駒を全て破壊すると勝利になるゲームである。
バルチャスを制する者は最強の魔戒騎士の資質ありという格言まである遊びである。
そのバルチャスの駒を動かす音が響く小屋の中、ムメイと阿門は酒を片手に互いの事を話し合っていた。

「あの邪美が遂に弟子を持ちましたか。あいつも人を教える立場になるとは。」

「あぁ、サクヤいう子だがきっと将来は良い魔戒法師になるだろう。魔導具の製作に関しては儂以上の才をもっておる。」

「あなたが認めるのだから相当なのでしょうね。」

話の流れで話題に上がった阿門の弟子であった一人の女性が一人前となりさらには弟子まで持つようになったことはその女性の小さい頃を知るムメイにとっては嬉しい驚きであった。
そんなことを話していた二人であるが徐々にその口数が減っていき響くのは駒を動かす音だけ。
だがその沈黙を阿門が破った。

「ときにムメイよ。」

「何です?」

「何か不穏な噂でもあったか。」

阿門の言葉に一瞬駒を持つ手が止まるがすぐさま阿門の駒に重ねるとそれを立たせる。
互いに気を込め思念による戦闘を行う。
それにより敗北したムメイの駒が弾き飛ばされ霧散する。
そこで手を止めた阿門はムメイに目を向ける。
それを真正面から受け止めたムメイは自身が感じたことを打ち明けた。

「特にこれといった噂などはありません。しかし、ある世界の番犬所を訪れた時にその番犬所からは他とは違う空気を感じました。」

「他とは違う空気か、してそれは何処の世界の番犬所だ?」

そして思い出すのは、とある管理外世界にある三人の少女の神官と一人の従者が仕切る番犬所。
今でもあそこの空気は覚えている。
確かに番犬所の空気はどこも似通ったものだがあそこの空気は全く違っていた。
例えるなら深い闇の淵に立っているような体に不気味に纏わり付くようなそんな空気であった。
そしてその番犬所がある管理外世界の名前、それは・・・・・

「第97管理外世界・地球にある番犬所です。」

・・・・・・・・・・

それから数刻後、ついにバルチャスの勝敗が決した。

「どうやら儂の負けのようだ。」

「いえ、あそこで別の一手を打っていれば小生が負けていました。」

そう言いながらすでに髪がなくなったあたまをかく阿門。
だがその言葉にムメイが反論するがあくまでも遊戯であるためか互いにそれほど悔しい顔をしていなかった。

「そう言えばこれからお主はどうするつもりだ。」

「そうですね、久しぶりにミッドに戻ってきましたか2,3日体を休めたら再び旅に出るつもりです。」

「お主も仕事人間だなぁ少しは余裕を持たねば倒れるぞ。」

その言葉に自身でもわかっているのか苦笑を零すムメイ。
すると阿門が一つの提案を出す。

「ではここに居る間は儂の小屋を使うが良い。部屋なら余っておるからな。」

「ありがとうございます、阿門法師。」

「何、ただという訳ではない。一つ頼み事を聞いて欲しい。」

「なんだ頼み事って?」

今まで黙っていたドラゴが阿門の頼み事を聞く。
ムメイ自身はよほどのことではない限りその頼み事は聞くつもりだった。

「なに、難しいことではない。法術の心得があるお主なら簡単な事だ。」

「なんですかそれは。」

その先を促すムメイに阿門は口を開く。

「儂が顔を変容させる秘薬を作れることは知っているな。実はその秘薬の在庫が底を付こうとしておってなその材料をとってきて欲しいのだ。」

「それは構いませんがなぜ小生に?」

「さっきも言ったがお主が法術の心得があることも関係するがその薬草が明日一日しか咲かないものでな。そして明日は別の材料を受け取る約束をしておってこの小屋から動けん。明日を逃すと半年近く採れんようになるからな。採ってきてくれるか?」

その阿門の言葉にムメイは心得たと言わんばかりに頷く。
それを見た阿門も嬉しそうに顔を崩すと立ち上がり近くの机の上にある洋紙を手に取りそれをムメイに渡す。

「そこに薬草の特徴と自生している場所を記してある。では頼むぞ。」

「承知しました、阿門法師。」

そうして明日の予定を立てたムメイは阿門が準備した寝床に横になるのだった。

・・・・・・・・・・

アルトセイム地方。
ミッドチルダの南部にある辺境の地でありそのため自然が溢れる風光明媚な土地である。
そこにムメイは薬草を取りに来るために訪れていた。

「うーん、良い空気だなムメイ。」

「あぁそうだなドラゴ。」

ドラゴの言葉にムメイは心の底から同意の言葉を出した。
こんな静かな自然ばかりであったらホラーも滅多に現れないだろう。
ホラーが現れる原因は森羅万象に宿る陰我と呼ばれる闇である。
だがその陰我を一番生み出すのは人の邪心でありそのため人が集まる場所には多くの陰我が集まる。
逆にこのような自然豊かな場所ではその陰我も集まりにくい。
このような場所が増えれば良いのだがとムメイは心の底から思うのだった。
だがここを訪れたのは阿門法師の頼みである。
そう思いなおすと薬草を集めるために足を踏み出すのムメイであった。

・・・・・・・・・・

「そういえば、ちょっと前まで人が住んでいたんだよな?」

「あぁ、確か何処かの企業に勤めていた魔導師だったと思うが詳しくはな。」

薬草を取り始めてすぐにドラゴが口を開く。
それにムメイは以前ミッドに居た時に聞いたニュースの事を思い出す。
自身の記憶が正しければある企業で次元航行エネルギーの開発に携わっていた女性魔導師がその開発で事故を起こし会社を辞職。その後小さな雑誌の片隅にこの地に住み始めたと書かれていた。
そしてその女性も自身が起こした事故で一人娘を亡くしていると伝えられていたはずだ。
だがこの事故もおそらく裏があるとムメイは感じていた。
それは長らく人外の魔獣と戦い続け人の闇を見続けていたものから経験したカンだった。
もっとも今は関係ないと考え思考を薬草の捜索に向けるムメイ。
だがその時ムメイは自分がその魔導師に関わっていくとは思いもしなかった。

・・・・・・・・・・

それから数時間後、昼前にここを訪れたムメイは籠いっぱいに集めた薬草を抱えながら沈みゆく夕陽を眺めていた。

「だいぶ遅くなってしまったな。」

「早く帰ってめしにしようぜ。」

「お前は食えんだろ、ドラゴ。」

ドラゴの言葉に呆れるムメイだが確かに昼食もなく薬草を集めていたムメイは空腹であることを自覚していた。
早く戻ろうと足を進めようとする。

「うん?」

その時、ムメイの耳に何処からか声が聞こえた。

「どうした、ムメイ?」

「声が聞こえた気がしてな。」

「声?俺にはなにも聞こえなかったぞ。」

いきなり足をとめたムメイにドラゴが問いかける。
それに答えるムメイはもう一度今度は集中して辺りの気配を探る。
気の所為かと思うムメイだったがもう一度自身の耳に声が届く。

「っ!こっちだ!」

「お、おいムメイ!」

いきなり走り始めるムメイに声を上げるドラゴ。
だがそれを気にかけることなく森の中をまるで平地を走るかのように疾走していくムメイ。
ムメイの耳に届いた声は何かを切実に願う悲痛な叫び。
だからこそムメイは必死に足を動かしその声の元に走っていく。
数分後、ムメイの前に現れたのは小さな山小屋。
その中に入ると長らく使われていなかったのか埃が舞う。
だがムメイはそれを気にすることなく辺りを見渡すと一つの机の正確にはその上にあった一冊のおそらく日記と思われる本があった。
それを手に取りゆっくりと開く。

「っ!」

そこに書かれていたのはある使い魔の葛藤と悲痛な思い。
それと主とその娘、そして自分と同じ存在である娘の使い魔に対する深い愛情。

「ムメイこれは・・・」

ドラゴの声が響くがムメイには届かなかった。
この会ったこともない使い魔の想いを知りムメイは胸が熱くなった。
そしてこれが自分の運命なのかと思ったムメイはドラゴに対し口を開いていた。

「ドラゴ、小生はこの者の想いを汲んでやりたい。力を貸してくれるか?」

「おい、それはっ!」

「分かっている。魔戒騎士は必要以上に人々の問題に関わってはならない。だが小生は知ってしまった。この者の想いを。だからこそこの者の願いを叶えてやりたいのだ。」

ドラゴの諫めようとする言葉にムメイは自身の気持ちを打ち明けた。
魔戒騎士は必要以上に人々の問題に関わってはならない。
その掟を破る訳にはいかない。
だがこの男と契約して二十年以上。
こいつが一度決めたことを覆すことをしないのも知っている。
それにドラゴもムメイと同じ気持ちだった。

「しゃーないか。分かったよ、お前に付き合ってやる。」

「すまん、ドラゴ。」

戦友の言葉に感謝の念の抱いた時、窓の隙間から風が吹き込み僅かにかかっていたカーテンが揺れる音が届く。
そちらに目をやるとムメイは瞠目した。
そこには18歳程の女性が立っていた。
そしてそれがこの日記を書いた使い魔であるとムメイは直感で気づくとその女性に向き直る。
そしてその彼女に対しムメイは誓いを立てた。

「そなたの願い、この魔戒騎士・ムメイが引き受けた。必ずやそなたの願いを叶えてみせる。この剣に誓って。」

そうムメイが愛用の魔戒剣を構えると使い魔-リニス-は笑みを浮かべると深く頭を下げる。
するとリニスは光の粒子になって消えて行った。

「どうなんだ、ムメイ?」

「逝ったよ。笑みを浮かべてな。」

「そうか。」

ドラゴの言葉に答えたムメイはリニスが逝った場所をしばし眺めると足早にその小屋を去っていった。

・・・・・・・・・・

数日後、阿門法師の小屋の前にムメイと阿門が向き合っていた。

「あの日帰ってきてそうそう旅支度を始めた時は驚いたぞ。それに厄介な事に首を突っ込んで罰を受けても知らんぞ。」

「分かっていますがこれが小生の性分ですから。」

阿門の言葉に苦笑を浮かべるムメイであったがその目には決意が漲っていた。
それを認めた阿門は軽くため息をつくと体の後ろにあった布に包まれた物を手渡した。

「お主の話を聞いて使えそうな魔導具を見繕っといた。お主なら使い方も分かるじゃろう。」

「感謝します、阿門法師。」

「達者でな。また赤酒でも飲み合おうぞ。」

「分かりました。では。」

そういって去っていくムメイの背中を眺めながら阿門もムメイから聞いた使い魔の願いが叶うことを祈った。

使い魔の願いは紺碧の魔戒騎士に託された。彼の者の刃は使い魔の哀しみを断ち切ることが出来るのか。それは神のみぞ知る。


**********


「この手の作品だと必ずライバルキャラが登場する。
そしてその手の輩は初っ端は主人公より強いもんだ。
そういうのをお決まりっていうんだよな。

次回・黒衣の魔導師

だけどこいつの格好、少し際どくないか?」



[27221] 第五話 黒衣の魔導士
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 23:08
第五話 黒衣の魔導師


海鳴市を一望できるビルの屋上に一人の少女とオレンジ色した体毛の狼によく似た獣が月明かりに照らされていた。

「ここに母さんの探し物があるんだよね。」

ユーノのそれよりも鮮やかな金髪に赤い瞳。
右手には戦斧のような形状の杖に漆黒のマントをはためかせその身はレオタードにミニスカートというこの歳の少女にしては少々セクシーな姿だが当の本人は全く気にしていない。
そしてその口から紡ぐ言葉は疑問形であるがその口調からは確信の念がにじんでいた。

「そうだよ、フェイト。ジュエルシードっていうロストロギア。」

確認として放った言葉にオレンジ色の獣が女性の声で答えた。
その言葉にフェイトと呼ばれた少女は頷くとまっすぐと前を見つめる。

「母さんのために、必ず集めてみせる。行くよアルフ。」

静かだが強い決意を含んだ言葉を残し飛び立つフェイトにオレンジ色の獣-アルフ-は一つ遠吠えをするとフェイトの後を付いていく。
それを確認したフェイトは夜空を照らす満月に目をやる。
その赤い瞳は本来なら子供が持つべき無邪気さがなく、かわりに寂しさが溢れていた。

・・・・・・・・・・

その日の朝、高町家の道場では恭也、美由紀が見守るなかユーノと士郎が向き合っていた。ユーノが家族として迎え入れられた日に士郎と一緒にお風呂に入ったユーノは話の中で自分が剣を使うことを告げた。
それを聞いた士郎は早速その腕を見たいと思い風呂を出た後、家族全員を道場に集めユーノの腕を披露させた。
剣を振るう姿に武術の心得などない桃子は感嘆の息を吐き、一度その姿を見ているなのははあらためてその美しい姿に見惚れていた。
対して剣を振るっている士郎達三人は逆にその腕の高さに感心していた
身体的の部分の加味すれば違ってくるが単純に剣の腕だけを評価するなら美由紀と恭也の間といったところだ。
だからこそ士郎はユーノの演舞を評価すると自然に鍛錬に誘っていた。
最初ユーノはそのことを断ろうとしたが士郎達の強い誘いに半ば折れる形で承諾した。
それからすでに二週間が経ち士郎、恭也、美由紀そしてユーノの四人が鍛錬を一緒にしていることは近所の人たちには新しい日常の一幕となっていた。
さてユーノが加わったことで新たに鍛錬の最後にユーノとの模擬試合が行われる事になった。
そして今日は士郎との試合である。

「では、行くぞユーノくん。」

「はい。」

士郎の言葉に答えたユーノは左手を前に出してその上に木刀の切っ先を乗せた独特の構えを、対する士郎は両手に小太刀ほどの長さの木刀を持ち自然体の状態で立つ。
緊張の空気が二人の間に流れる。
最初に動いたのはユーノ。
一足のうちに距離を縮めたユーノは士郎の胸に向かって突きを放つ。
その鋭い突きを士郎は左に避けながら同じく左手に持った小太刀でユーノの木刀を右に弾く。

「っ!」

それにより背中を完全に士郎に見せてしまったユーノの動揺など関係なく小太刀を逆手にもった右手をその背に叩きこもうとする士郎だがユーノも諦めずに前のめりになりながら前転し士郎の木刀をかわす。
ユーノはそのまま膝を付いた状態から振り向きながら横薙ぎに木刀を振るうが士郎もそれをバックステップでその木刀を避けるがユーノは勢いよく立ちあがるとそのまま左右からの連続の斬撃を士郎に浴びせる。

「くっ!」

その斬撃を両手に持った小太刀で防ぎながら後に後退する士郎。
しかしユーノは間を作らせまいと前進するがその所為で斬撃が僅かに荒くなる。
その隙を見逃さないほど士郎も衰えてはいない。
何度目かの斬撃の時士郎は自分に向かってくるユーノの木刀を強く上に弾く。

「あっ!」

それによりユーノの木刀は強く弾かれ一瞬意識がそちらにとぶがそれを見定めるように士郎は両腕の小太刀を普通の持ち手に変えるとそのままユーノに振り下ろす。

「くっ!!」

すぐさまそれに反応したユーノは弾かれた木刀を頭上に横一文字に構えると士郎の小太刀を受け止めるが無理をしたためか苦しい表情を浮かべる。
しばしの均衡の後突如士郎の力が緩みユーノの体勢が崩れるがそこを狙った士郎はユーノの腹部に右の膝を打ち込む。
それを受けたユーノは道場の壁際まで蹴り飛ばされる。

「父さん!やり過ぎだよ!」

「いや、あれはわざと跳んだんだ。」

その行いに美由紀が声を上げるが恭也はユーノの行為を冷静に見抜いていた。
そうあれは士郎の膝蹴りのダメージを逃がすためにユーノがわざと後に跳んだことを。
現にユーノは士郎の膝蹴りのダメージをほとんど受けていなかった。
しかしその事に気づいている士郎は追撃のためにすでに距離を縮めていた。
そして再び膝をついていたユーノが顔を上げるとユーノの首に小太刀を突きつけていた士郎の姿があった。

「ここまでのようだな。」

ザルバの判定を聞くまでもなく今回の試合はユーノの敗北である。
だがザルバの声により道場を満たしていた緊張の空気が消えていく。

「やっぱり、士郎さんは強いですね。」

「いや、ユーノくんも十分強いさ。ただ剣に余裕がない。少し肩の力を抜くことだな。」

「・・・善処します。」

互いに木刀を納める二人。
ここ二週間、士郎達三人と試合をするようになってユーノの剣は格段に上昇したと言える。
それは今まで一人で修業に打ち込んでいたことで自分では発見できない欠点を指摘されることと他人の戦いから技を盗むことが出来たことが良かったのだろう。
今も士郎からの指摘を受けながらユーノは改めて自身の中にある焦りを自覚していた。

(やっぱり士郎さんには分かるのかな?でも士郎さん達と修業するようになって強くなったはずなのにまだ鎧を召喚できない。一体なにが足りなんだ!)

「ユーノくん。」

「っ!は、はい!」

ユーノが思考の海に沈みそうになった時、士郎がユーノに声をかけた。
その声に知らず知らずのうちに俯いていた顔を上げるとそこには笑顔を浮かべた士郎の顔があった。

「何か悩み事かい?もし俺達に相談できることだったら話してくれ。」

「ありがとうございます。でも自分で答えを見つけないといけない事なので・・・」

そう答えるユーノに士郎は笑顔から真剣な顔つきになりユーノに語りかけた。

「そうだな、確かにユーノくんはまだ若い。沢山悩んで答えを出すといい。だが一言良いかな?」

「何ですか?」

「君も剣士ならなぜその剣を振るうかその答えが君にあるかな?」

その言葉にユーノは目を見開いた。
改めてそれを問われると明確な答えが自分に無い事に気づく。
父の遺志を継ぐ、魔戒騎士の使命を全うする。
確かに答えらしきものはあるがなにかが違うと自分の心が訴えていた。
再び俯き思考の海に沈むユーノ。

(まだ早かったかな。)

そう思い僅かに嘆息すると士郎はユーノに声をかけようとした時ここに居なかった者の声が響いた。

「ユーノくん!!」

道場に響く元気な声。
この家の末っ子であるなのはである。

「おはよう、ユーノくん!お父さんにお兄ちゃんにお姉ちゃんも!」

「おはよう、なのは。朝から元気だね。」

朝の挨拶をするユーノになのは。
その光景を士郎は挨拶しながら微笑ましく眺めていた。

「うわぁユーノくん汗だくだよ。」

「あっ、ホントだ。シャワーでも浴びようかな?」

「そうだなそれが良い。先に浴びてきなさいユーノくん。」

二人の話を聞き、先にシャワーを浴びるように勧める士郎の気使いに素直に頷くとユーノとなのはは道場を出て行った。
その姿を見つめる士郎に美由紀が声をかける。

「お父さん良いの?」

「何がだ美由紀?」

「このままユーノになのは、取られちゃうかもよ。」

「なに言ってるんだ美由紀。」

士郎に対し若干ニヤケ顔をする美由紀の頭を軽く小突く恭也。
そんな子供たちの遣り取りに士郎は笑いながら眺めていた。

・・・・・・・・・・

「そういえばこの辺りはまだ見たことなかったな。」

朝食の後、ジュエルシードを探すため出かけたユーノとなのは。
二人で歩く姿は幼いカップルに見えなくもないが本人たちにそんな意識は今のところない。
さてどうして二人が一緒に歩いているかというとジュエルシードを探すのと平行に海鳴市の案内をしていたのだ。

「この辺りは普段、来ることはないからね。」

今、ユーノ達がいるのは街から少し離れた森の中。
青々と茂る木々の中は優しい草の匂いで溢れ森林浴にはうってつけの場所だ。
実際、隠れた穴場として知られている。
その森の中を二人は半ば森林浴を楽しみながらジュエルシードを探していた。

「うーん、気持ちいいね、ユーノくん。」

「・・・・そうだね、なのは。」

なのはは深く深呼吸をしながら森の空気を楽しんでいるが対するユーノは眉間に小さく皺をよせながらただ相槌を打つだけだった。
ユーノが考えていた事、それは今朝、士郎に言われた剣を振るう理由。
今まで理由だと思っていたことが違っていた事に不思議と驚きはなかった。
だがだからといって明確な答えがある訳でもない。
そのモヤモヤがユーノの心に小さな影を落としていた。

(僕が剣を振るう理由・・・)

「・・・・ーノくん・・・・」

(父さんの遺志を継ぐのでもなく、魔戒騎士の使命を全うするのでもない。)

「ね・・・ユー・・・」

(一体、何が僕の理由なんだ!!)

「ねぇ、ユーノくん!聞いてる!!」

「わぁっ!!」

突然、なのはがユーノに呼びかける。
その声に思考の海から浮かんだユーノはなのはに向く。

「ど、どうしたの、なのは?」

「私の話、聞いてなかったでしょう?」

「そ、そんなことは・・・・」

普段のなのはとは違う若干相手を問い詰める聞き方にユーノは咄嗟に言い訳を言おうとするがなのはの目を見て素直に謝る。
その姿を見てなのはは納得すると改めてユーノに自分がユーノに話しかけた理由を語った。

「あれ見て、ユーノくん。」

「わぁ、すごい綺麗だ。なんて花何だろう?」

なのはの指さす方向に目を向けるユーノの目に映るのは辺り一面に広がる黄色の風景。
そこから漂う優しい花の香り。
その花に近づくユーノは膝を折るとその一つに手を伸ばす。
萌黄色の茎に小さな黄色の花を咲かせた可愛らしい花。

「可愛い花だな。」

「その花の名前ね私の名前と同じで菜の花っていうの。」

「へぇー。」

そうなのはの言葉を聞きながらユーノは手の取った一つの菜の花に今日初めての笑みを向けていた。

「やっと笑った。」

「えっ。」

その言葉でユーノはようやく自分が笑っていることに気づく。
そのままなのはに顔を向けるとユーノを迎えたのはなのはの微笑みであった。

「ユーノくん、朝から難しい顔をしていたから心配していたんだよ?私に話せることだったら聞くよ?」

「ありがとう、なのは。でもこれは僕自身が答えを見つけることだから。」

その言葉になのはは頷くとユーノの隣に同じように膝を折るなのは。
しばらく二人で菜の花畑を眺めているが徐になのはが口を開く。

「でもあんまり考え過ぎちゃだめだよ。ユーノくんは、難しい顔よりその、なんていうか、わ、笑ってる顔の方が私は好きだよ。」

少し照れながら笑みを浮かべるなのはの顔を見るユーノは頬が赤くなるのを感じた。

(あれ?何で僕、照れてるんだろ?)

そんなふうに互いに見つめ合っているのをザルバは二人に気づかれないように嘆息する。
そんな時だった。

「ユーノくん、これって!」

「間違いない、ジュエルシードの気配だ!」

突如として感じるジュエルシードの気配。
その気配に二人はほぼ同時に立ちあがる。
さらに感じるのはその気配が二つあること。

「まずいな、発動間近のが二つだ。ここは二手に分かれたほうがいいな。」

「それじゃ、ユーノくん。私はあっちのほうに行くね。」

「わかった。気をつけてねなのは。」

「うんっ!」

ザルバの言葉に頷くユーノとなのはは互いの持ち場に駆けだしていった。

・・・・・・・・・・

菜の花畑を離れたユーノは参道を離れ森の中を疾走する。
それほど時間もかからず目的の場所につく。
そこには僅かに辺りを照らすジュエルシード。
ゆっくりそれに近づくユーノは右手を伸ばすとそこに魔法陣を展開する。

「妙なる響き光となれ、許されざる者を封印の輪に・・・」

ユーノの言葉に反応するように魔法陣の輝きが増す。

「ジュエルシード、封印!」

最後の呪文を唱えると先程まで光っていたジュエルシードはその輝きをなくしユーノの手に収まる。

「ふっ、完全に発動する前だったから簡単に封印することが出来たね。」

「ああ、問題はなのはの方だな。あっちの反応だが完全に覚醒しているな。」

「そうだね、急ごう。」

そう言って再び駆けだそうとするユーノだったが突然全く違う魔力の反応を感じる。

「これって・・・」

「まさかジュエルシードを狙う魔導師か!まずいユーノ急げ!!」

ザルバの言葉に叱咤されるようにユーノは飛行魔法を展開しすぐさま空へと飛び立つのだった。

・・・・・・・・・・

ユーノが新たな魔導師の気配を感じる数分前。
なのははジュエルシードが寄生し巨大化した豹のような生物と対峙していた。

「レイジングハート、この子にジュエルシードが付いているんだよね?」

《そうです、マスター。以前と同じように魔力砲撃でジュエルシードを封印してください。》

レイジングハートの言葉に頷くなのはにその様子を注意深く見ていた豹は四肢に力をためるとなのはに飛びかかる。

「っ!」

《Flier Fin》

いきなりの事で驚くなのはだがレイジングハートは冷静に飛行魔法を発動しなのはを上空に飛ばす。

「ありがとう、レイジングハート。」

《いいえ、マスター。それよりも早く封印してしまいましょう。》

「うん。」

飛行魔法と展開してくれたレイジングハートにお礼を述べるなのはに少々機械的に答えるレイジングハート。
それよりも封印を進めるレイジングハートの言葉に頷くなのははカノンモードになったレイジングハートを構える。

「一気に行くよ、レイジングハート!」

《All right》

「ディバイン・・・」

レイジングハートを周りに環状魔法陣が展開し先端に魔力が集まっていく。
なのはは目の前にいる豹に目線を定めるとトリガーにかけた指にゆっくりと力をかける。
そしてついに引き金を引こうとした瞬間、豹にむかって一筋の雷撃が走った。

「えっ?」

突然の出来事に呆気にとられるなのは。
だが事態はそんななのはに構わず推移していく。
最初の雷撃を皮切りに無数の金色の矢じり状の魔力弾が豹に降り注ぐ。

「ガアアアアアア!!」

悲鳴を上げる豹だが怒りで顔を歪ませると背中がボコボコと音を立てると蝙蝠のような羽を生やし空へと飛び立つ。
その様子に息をのむなのはだがその隣を黒い影が通りすぎる。
その影は金色の刃をもった鎌を握り締めいきよいよく羽に向かって振り下ろし羽を切り落とす。

「ギャアアアアアッ!!」

痛みの悲鳴を上げ大地に叩き落ちる豹。
その側に悠然と降り立つ少女の姿をなのははしっかりとその瞳に映していた。

「誰だろう?あの子?」

なのはの瞳に映るのはユーノの髪より鮮やかな金髪をツインテールにし、黒いマントを羽織った少女。
その少女は手に持った金色の刃の鎌をそのまま豹に向ける。

「・・・グレイブフォーム。」

《Yes Sir Glaive Form》

少女の言葉に応えるようにその鎌は形を変え槍のような形状になり槍の根元から三方向に金色の光が伸びる。
その槍の先になのはの砲撃のように同じく金色の光が集まる。

「・・・・撃ち抜け轟雷・・・」

《Thunder Smasher》

デバイスの合成音を合図に金色に電気を纏わせた砲撃が豹に向かって放たれる。
その光を浴びる豹は姿を消すとそこに倒れていたのは小さな子猫だった。
そして封印されたジュエルシードがゆっくりと降りてくる。
それを手にした少女はなのはに一目もくれず歩き出す。

「ちょっと待って。」

今まで呆気にとられていたなのはだがさすがにジュエルシードを持っていかれるとまずいと思い少女に声をかける。
その声に数歩、歩いた少女はなのはの言葉に立ち止まるを振り返る。
真正面から少女を見据えるなのははその少女の赤い瞳が何処となく哀しみに溢れていることに気づいたがそれよりもジュエルシードのことを気にし、その少女にゆっくりと歩み寄りながら話しかける。

「あのそれは、ユーノくんの探し物なの。だから返して欲しいんだけど・・・」

そう言って歩くなのはにその少女はいつの間にか戦斧に姿を変えた杖をなのはに向けその先に金色の光の弾を形成する
それになのはは息をのみ立ち止まる。

「それ以上来ないでください。」

「でも、それは・・・」

そう言って再び少女に歩き出すなのはに少女は一度目を伏せると薄く開く。

「・・・ごめんなさい。」

そう小さく口を開くとその魔力弾-フォトンランサー-をなのはに放つ。
凄まじい速さで飛来するその魔力弾に強く目と瞑るなのはだがその魔力弾がなのはに当たることはなかった。

「なのはぁぁぁぁ!!」

横から飛び出してきたユーノが魔戒剣でその魔力弾を切り落とす。

「ユーノくん!」

嬉しそうにユーノの後ろ姿を見つめるなのは。
だがユーノはそんななのはに気をかけることはなく目の前の少女を睨みつける。
その眼差しに臆することなく正面から見つめ返す少女。
しばらくの間その辺りの空気は緊張で張り詰めるが少女は振り返るとその勢いのまま空へと飛び立つ。

「あっ!!」

「待って!」

「落ち着けユーノ、なのは。追っても無駄だ。仕方ない、ここは帰るぞ。」

少女を追おうとする二人にザルバが制止の声をかける。
その声に無言で同意する二人は少女が消えて行った空を眺めていた。

小さな魔戒騎士と白き魔導師が出会ったのは哀しい瞳をもった黒き魔導師。その出会いが物語に新たな波紋を生むことになるのだった。


**********


「戦士だからといって戦い続けることはできない。
時には休息を取ることが必要だ。
そんな時、俺はここをオススメするね。

次回・ここは湯の町、海鳴温泉

あー極楽、極楽。」



[27221] 第六話 ここは湯の町、海鳴温泉
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 23:21
第六話 ここは湯の町、海鳴温泉


黒き魔導師、フェイトとの邂逅から一週間ほど過ぎた週末。
全国的に連休で喫茶店を営む高町家も本来なら書き入れ時のはずなのだが今、高町家の面々に加えなのはの親友であるアリサ、すずか。
すずかの姉にあり恭也の恋人である月村忍と月村家に仕えるメイドの姉妹、ノエルとファリン。
そして高町家に現在居候中のユーノ達は海鳴市から山中に入った温泉宿に一泊二日の小旅行を敢行していた。
そして今なのは達はというと・・・・

・・・・・・・・・・

カポーンと軽い音が響く中温泉には恭也とユーノが浸かっていた。
士郎、桃子は近くの川まで散歩に出かけなのは達女性陣も女湯で今頃温泉に浸かっていることだろう。

「いいお湯ですね・・・」

「あぁ。たまにはこんなもの良いだろう。」

「はい。」

恭也の言葉に応えるユーノは温泉の物理的な温かさだけではなく気持ち的にも温まっていた。

「そういえばユーノは温泉に来たことはないのか?」

「こういうところには。公衆浴場になら何度か行ったことがあります。あとは川なんかで水浴びするぐらいですね。」

「なるほどな。」

そんなふうにのんびり湯に浸かりながら軽い談笑をする二人。
同じ頃女湯でもなのは達も温泉を楽しんでいた。
さて子供達が温泉を楽しんでいた頃、高町夫婦は川のほとりにいた。
ただ静かに景色を眺めるだけだがそこには優しい空気が二人を包んでいた。

「だいぶかかったな・・・」

「そうね・・・」

そう言葉をかわすと再び辺りには川の流れる音だけが響く。
ほんの数年前まで士郎はこんな平和な空気とは無縁の殺伐とした場所で人を守っていた。だが桃子と結婚したのを機に静かに暮らしていくために喫茶店を開いたが開店の矢先に自分は大怪我を負いその所為で桃子に恭也に美由紀にそしてまだ幼稚園児だったなのはには寂しい思いをさせてしまった。
怪我が治り以前の仕事を引いてからは必死に喫茶店の経営を頑張った。
そしてようやく家族サービスが出来るようになった。

「これからは桃子や子供達に心配を懸けせないからな。これからはずっと翠屋のオーナーだ。」

「ええ。」

嬉しそうに答える桃子にそれにっと士郎は続ける。

「今はユーノくんもいるからな。あの子ももう俺達の子供だからな。」

「そうね!」

そのまま桃子の肩を抱く士郎は優しい顔で再び景色を眺めはじめた。

・・・・・・・・・・

「すっごく気持ちよかったよね、温泉。」

「やっぱり日本文化は最高よ!」

「もうアリサちゃんたら。」

温泉を堪能したなのは達は今連れだって旅館の廊下を歩きながら今後のことを話し合っていた。
三人とも旅館の浴衣に着替えなのはは普段はツインテールにしている髪をおろしていた。

「ねぇこれからどうしよっか?」

「温泉で汗も流したし卓球でもしない?」

「えー私はお土産を見に行きたかったんだけど?」

女三人寄れば姦しいというがなのは達は楽しく話をしていた。
その時。

「はぁぁぁい。おチビちゃん達。」

いきなり話しかけられた三人は立ち止まると声の方に顔を向ける。
そこに居たのはオレンジの髪に豊満な胸をした一人の女性。

「君かね。うちの子をアレしてくれちゃったっていう子は?」

そう言いながら三人の、その中のなのはに目をやりながらゆっくりと近づくと軽く膝を折り顔を近づける。

「あんまり賢そうでも強そうでもなさそうだしただのガキンチョにしか見えるんだけどね・・・」

「えっ、あの。」

いきなりのことで困惑するなのはだが突然なのはと女性の間に割って入る影があった。

「なのはに何か用ですか?」

その影はなのは達とは色違いの浴衣を着たユーノであった。
なのはと同じように温泉を出たユーノはなのは達を迎えに来て今の場面に遭遇したのだ。
そのまま女性の顔を睨むユーノに女性は涼しい顔で相対していた。
その場が緊張で張り詰める。

「あの・・・」

「あっははははは!」

その空気を打開しようと声を上げようとするユーノをさえぎるように突然女性が笑い声を上げる。
その姿に呆気にとられるなのは達。
ひとしきり笑った女性は笑顔を浮かべると先程とは違う優しい声で話す。

「ごめん、ごめん。知ってる子に似てたからついね!」

「なんだ、そうだったんですか・・・」

「いやぁゴメンね。」

そういいながらなのはの頭なでる女性。
その温かな手にホッとするなのはだが突然頭に声が響く。

『今日のところは挨拶だけね。』

その念話で顔を固くするユーノとなのは。

『忠告しとくよ。子供は良い子でお家で遊んでなさいね。これ以上ジュエルシードに関わるとカブっといくよ。』

その言葉になのはは瞳を揺らし、ユーノは先よりもさらに鋭く女性を睨む。
その目線に一切恐怖を感じていない女性はなのはの隣を通って女湯の方に歩いて行った。
その後姿を見つめることしか出来ないユーノとなのは。
だがアリサは単純に女性の態度が気に食わなかったのか癇癪を起していた。

「何よあれ!昼間っから酔っぱらってんじゃないの!気分悪!!」

そう言いながら酒を飲む真似をするアリサをなだめるすずか。

「ああもう!行くわよ!」

そのままずんずんと進んでいくアリサに慌ててついていくすずか。

「行こっかなのは。ここにいても何も始まらない。」

「・・・うん。」

アリサとすずかの後に続くユーノとなのは。
だがその足取りは重かった。

・・・・・・・・・・

先までなのは達が浸かっていた温泉に先程の女性がいた。

『あーこちらアルフ。フェイト聞こえるかい?』

『うん。聞こえるよアルフ。』

女性-アルフ-に答えるのは先日なのはと戦った金髪の少女、フェイトであった。
フェイトは旅館から少し離れた木の上に腰かけてその手には愛杖たるバルデッシュを展開していた。
ただしその服は黒のワンピースで胸に赤いリボンが結ばれた服であった。

『先、例の子たちに会ってきたよ。まぁフェイトの敵じゃないよ。私も居るんだし大丈夫だよ。』

『そう。それなら良いかな?あとこっちも進展。次のジュエルシードの場所も大まかだけど分かってきたから今夜には捕獲出来ると思うよ。』

『さすが私のご主人様!』

『ありがとう、アルフ。じゃ今夜には落ち合おう。』

『はーい!』

こちらの進展を嬉しく思うアルフは満面の笑みを浮かべる。
そのまま念話を切ると大きな胸を揺らして温泉に身を委ねる。

「あーくつろぎ、くつろぎ。」

そんなふうにリラックスすると耳の部分から獣の耳が起き上がる。
それを慌てて隠すアルフ。
なのは達とは違いこちらは穏やかな空気が流れていった。

・・・・・・・・・・

その日の夜、ユーノとなのはは旅館の外にいた。
表向きは剣の振るうユーノについてきたなのはということだが実際は昼間にあった女性の事について話すために来ていた。

「昼間の女の人ってやっぱりあの子の知り合いなのかな?」

「たぶん間違いなくね・・・」

「また戦うのかな?」

「・・・・」

二人の間に重い空気が流れる。
その空気を破ったのはユーノだった。

「なのは、僕あれから考えたたんだけどやっぱりこれからは僕が・・・」

「ストップ!」

ユーノが何を言おうとしているのか気付いたなのははユーノの唇に自分の人さし指で塞ぎ喋らせないようにした。

「そこから先言ったら怒るよ。」

「でも・・・」

「確かに最初はユーノくんのお手伝いだけだったけど今は違う。私がしたいって思っていることだから。」

「なのは・・・」

「それにユーノくんが一緒だから全然怖くないよ。」

そういうなのはの顔は穏やかな笑みを浮かべていた。
その笑顔にユーノも優しく頷くと二人は空を見上げた。
そこにあるのは満月と街ではあまり見られない多くの星たちだった。
しばらく夜空を見上げていた二人だったが部屋に戻ろうと向きを変えようとした瞬間、背後から大きな魔力の反応がした。
ユーノとなのはは急いでその方角に向かって走り出した。

・・・・・・・・・・

「これで二つ目・・・」

宿から少し離れた川にかかった橋の手すりに黒衣の魔導師と昼間、なのは達と会った女性がいた。
封印されたジュエルシードを大事そうに握るフェイトの耳に届いたのは地面を蹴る音。
そちらに目をやるとそこにいたのはバリアジャケットに身を包みレイジングハートを起動したなのはといつものロングコートをはためかせるユーノの姿であった。

「あらあらあらっと子供は良い子でって言わなかったけか?」

「あっ!」

ユーノ達に声をかける女性の姿になのはは驚きの声を上げる。
おそらくは例の子の関係者だと思っていたがこんなにも早く会うとは思っていなかった。

「それを、ジュエルシードをどうする気だ!それは危険なものなんだ!」

「それに答える理由が見当たらないね~。」

驚くなのはより僅かに前にでるユーノは何故ジュエルシードを集めているのか問いただすが女性の方は拍拍として取り合わない。
逆に口調を強め喋り続ける。

「それにさ、私親切で言ったんだけど。良い子でないとガブッといくよって。」

そのまま二人を睨む。
それを見て身構えるユーノとなのはの前で女性はカッと見開くとその姿を変える。
髪が意思をもったように伸びその細い指が荒々しい獣のものに変わる。
そこにいたのはオレンジの体毛をもった大型の狼に似た獣だった。

「やっぱりあいつあの子の使い魔だ!」

「使い魔?」

ユーノの口から聞きなれない言葉を聞いたなのはは聞き返すがそれに答えたのはユーノではなくその使い魔だった。

「そうさ、私はこの子に作ってもらった魔法生命。製作者の魔力で生きるかわりに命と力の全てを使い守ってあげるんだ。先に帰っていて、すぐに追いつくから。」

「無茶しないでね。」

「オーケー!」

なのはの言葉に答えた使い魔-アルフ-は主たる魔導師-フェイト-の言葉を背に受けなのは目がけて跳びかかる。
しかしなのはの前に飛び出たユーノが半円の障壁を展開しそれを防ぐ。

「ちっ!」

「ユーノ、このままこいつをどっかに連れていくぞ。なのはお前はあの嬢ちゃんのことを頼むぜ。」

ユーノにかわりザルバが指示を出すがアルフもそのままという訳ではなかった。

「させると思うかい!」

自分の爪をさえぎる障壁を突き破ろうと一層力を込める。
だがユーノもただ耐えているだけではなかった。
障壁の術式は展開しながら別の魔法の術式も展開する。

「させてみせるさ!」

ユーノの大声とともに魔法陣が広がる。

「っ!転移魔法、まずい!」

展開された魔法陣の術式を見てなんの魔法か察知したアルフは離れようとするがそれよりも早く翡翠の光が溢れその光が消えるとユーノとアルフの姿はなかった。
姿を消したユーノとアルフを探すように辺りを見渡すなのはにフェイトが声をかける。

「結界に強制転移魔法。そうそうできる魔導師はいない。君の協力者は優秀だ。」

「ありがとう。でも協力者じゃなくて私の大切な、大切な友達だよ。」

そこで会話は切れ、互いに見つめ合う。
そう沈黙を破ったのはフェイトだった。

「それでどうする?」

「話し合いで何とかならないかな?」

「私はロストロギア・・ジュエルシードを集めないといけない。そしてあなたも同じ目的ならジュエルシードをかけて戦う敵同士ってことになる。」

「だからそういうことを決めつけないために話し合いは必要なんだと思う!」

フェイトの一方的ともとれる言葉になのはは自分の気持ちを込めて語りかえるがフェイトはそれを聞き流しながらなのはを見つめる。

「話し合うだけじゃ言葉だけじゃきっと何も変わらない。・・・伝わらない!」

そういったフェイトはバルディッシュをなのはに向ける。

「賭けて、互いにもつジュエルシードを一つずつ。」

なのははそのことに一瞬驚くが真剣な顔つきでまだ名前を知らないフェイトに聞く。

「どうしても戦わないとダメ?」

「・・・・・・」

なのはの言葉に無言で返すフェイトを見て戦いを避けられないと感じたなのははレイジングハートを握り直す。
次の瞬間両者は飛びあがった。

・・・・・・・・・・

なのはとフェイトがぶつかる少し前、橋から離れた場所でユーノと獣状態のアルフが向き合っていた。

「してやられたよ。まさか魔法の同時使用なんて、一目見たところデバイスは持ってないようだし。」

「並列処理は得意なんだ。それよりどうして使い魔を作れるほどの魔導師がこの世界にきている。それにジュエルシードを・・・ロストロギアについて何を知っている!」

「ごちゃごちゃ五月蝿い!あんたをとっとと倒してフェイトのところに戻らないといけないんだ。」

「フェイト・・・それがあの子の名前か・・・」

会話の中で少女の名前を知ったユーノだがこちらもそうそう行かせるわけにはいかない。
そう思いながらコートに隠れていた愛用の魔戒剣を取り出す。
それに警戒心を強めるアルフだがユーノは魔戒剣を自分の側に突き立てると体を半身にして構える。

「あんた、私を舐めてんのかい。素手でやり合おうなんて、剣でもなんでも使いな!」

自分のことを甘く見ていると思ったアルフが叫ぶがユーノは意に反さず構えを解かず喋る。

「戦い方なんていくらでもある。それにこの剣は異形の魔獣を狩るためのものだ。例え敵でも人々には決して向ける気はない。

「?何訳のわからないことを。まぁ良いや、とにかくいくよ!」

ユーノの言葉の意味を理解できないアルフであったが気を取り直して四肢に力を込めるとユーノに飛びかかる。
それに対してユーノも右足の蹴りを叩きこむ。
今、もうひとつの戦いが開幕した。

・・・・・・・・・・

「くっ!」

フライヤーフィンで空を飛ぶなのははフェイトの動きに翻弄されていた。
元々なのはとフェイトとではその戦闘スタイルが違う。
なのはは中・遠距離を主体とした砲撃魔導師と呼ばれるカテゴリーに分けられ対するフェイトは中・近距離を得意としつつ全距離に対応出来る魔導師でありまた高速戦闘をそのスタイルの根底に置いている。
また魔法の訓練もなのはとフェイトとでは大きな差がある。
そしてそれが今のなのはの苦戦を招いていた。

「レイジングハート、お願い!」

《All right Mode change Canon mode》

レイジングハートをカノンモードしたなのは。
今のなのはは使える魔法の数もそう多くはない。
そしてその数少ない手札の中で一番信頼している魔法を展開する。
形を変えたレイジングハートの周りを環状魔法陣が浮かびその先端に魔力が集まっていく。
飛びだしたトリガーをしっかり掴むと動きまわるフェイトに何とか標準をつける。

「っ!」

それに気づいたフェイトも左手に魔法陣を展開しそこに魔力を集める。

《Thunder Smasher》

バルディッシュの成人男性の声に似た電子音が響くとフェイトはバルディッシュをその魔法陣に叩きつけると電撃を纏った直射砲が放たれる。

《Divine Buster》

同じくなのはも引き金を引き桜色の砲撃を放つ。
互いにぶつかり合う金色と桜色の光。
均衡するもそれはすぐに破られた。

「レイジングハート!」

《All right》

なのはの言葉に心得たとばかりに応えるレイジングハートは砲撃の威力を上げる。
その威力に今まで無表情だったフェイトの顔が僅かに驚きの色が浮かぶ。
そのままフェイトの砲撃を飲み込み桜色の光はフェイトに迫っていった。

・・・・・・・・・・

なのはとフェイトが戦っている所から少し離れた場所でぶつかっていたユーノとアルフ。

「中々、やるねあんた。」

「・・・・」

アルフの称賛の言葉にユーノは無言で返す。
返事がないことに些かも怒りを覚えないアルフだが心中ではユーノの実力を高く評価していた。
元々アルフは高い身体能力をもった動物が元になっている。
それに加え今は魔法の力もある。
だからこそ単純な格闘戦ならこれぐらいの子供に後れを取ることなどある訳がなかった。
だが実際にはこちらの動きの先を読まれ繰り出される拳や蹴りはこちらがひやりとするものばかり。
もしも今人の姿だったらその顔は冷や汗で濡れていた事だろう。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

体勢を立て直すため互いににらみ合う二人だがその時なのは達がいるところから桜色の光が上がる。

「なのは、すごい・・・」

互いにそちらに目をやるユーノとアルフ。
その圧倒的な魔力に驚嘆の言葉をユーノだがアルフは冷静に言った。

「でも甘いね。」

その言葉にアルフの方に向こうとするユーノだがその時あの黒衣の魔導師の魔力を感じた。

「なのは!」

ユーノが大声を上げなのはに警戒を促すがそれよりもはやく空高くから降下してきたフェイトはバルディッシュを鎌状の魔力刃を展開し振り下ろした。

「あ!」

その光景に声を上げると固く瞼を閉じるなのは。
恐る恐る瞼を開くとそこには首元に魔力刃を突きつけるフェイトの姿。

《put out》

僅かに時間がながれたときレイジングハートが収納していたジュエルシードの一つを出した。

「レイジングハート、何を!」

「きっと主人思いの良い子なんだ。」

突然の事に声を上げるなのはにフェイトが答えそのまま降りてくるジュエルシードを掴む。
そのまま地面に降りたフェイトはアルフに声をかけそのままその場を後にしようとする。

「待って!」

フェイトの後に降りてきたなのはが帰ろうとするフェイトに声をかける。

「もう私たちの前に現れない方がいい。今度は止められないかもしれないから。」

「名前!あなたの名前は!」

そのまま去ろうとするフェイトになのはが想いを込めて言葉を紡ぐ。

「・・・フェイト、フェイト・テッサロッサ。」

「わ、私の名前は・・・」

なのはの問いかけに答えたフェイトだがなのはが自分の名前を言う前にその場を去ってしまう。
そのままフェイトが消えていった場所をなのははユーノが声をかけるまで見つめていた。

・・・・・・・・・・

次の日の朝早く、ユーノは露天風呂に来ていた。
朝早くだったため他には誰もいない温泉に浸かりながらユーノは昨晩のことを考えていた。

「あのフェイトとかいう子のことを考えているのか?」

「うん・・・」

温泉の中央にある岩に置かれたザルバがユーノに声をかける。
考えることはジュエルシードを集める理由。

「ザルバはどう思う?」

「そうだな、単純な興味本位、次元犯罪者の仲間、何処かの研究機関の一員・・・色々と候補はあるがどれも違うと思う。」

「そうだよね・・・」

そのまま温泉に浮かぶ自分の顔を見つめるユーノにザルバは嘆息する。

「だがまぁどんな事情があれ俺達がすることは一つだろう。その過程で分かると思うぞ。」

「そうだね、今はただ前に進むだけだ。」

ザルバの言葉に幾分か安心したユーノはホッとした顔を見せる。

「そういうことだ。あっ、そろそろ出たほうがいいんじゃないか?」

「そうだね。」

ザルバの言葉に温泉を出ようとするユーノだがその時露天風呂に続く引き戸が開く音がした。
誰か来たのかと思いそちらに目をやるとユーノは固まった。
そこにいたのは共にジュエルシードを集める仲間である高町なのはであった。
同じくユーノの姿を見たなのはも固まってしまった。

「わぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇ!」

しばらく固まった二人は同時に大声を上げた。

・・・・・・・・・・

再び湯に浸かるユーノと背中合わせに座るなのは。
二人の間には気まずい空気が流れる。
その空気を破ったのはユーノであった。

「な、なのは、なのははどうして露天風呂に来たの?」

「昨日のことを考えててよく眠れなかったから気分転換に。そういうユーノくんは?」

「僕も同じ理由。でもここは男湯だろ。」

「え?女湯じゃないの?」

二人とも同じ理由で温泉に来たことは分かったが今度はこの露天風呂が男湯か女湯かという問題が立ちあがった。
その問題を解決したのは意外にもザルバだった。

「そういえば美由紀が言っていたな。この旅館には混浴の露天風呂があるって。ここがそうじゃないのか?」

その言葉で疑問は解決したが今度はこの状況に二人は緊張していた。
ユーノもなのはも同年代に比べ早熟のため異性については二次性徴を迎えた子たちとそんなに変わらない。
だからこそ今の状況は緊張しか生まなかった。
あまりにも張り詰めた空気にザルバが打開しようと声を上げようとするとそれよりもなのはが声を上げた。

「ねぇユーノくん。ユーノくんはこれからどうするの?」

「どうって。今までどうりジュエルシードを集めるよ。そういうなのはは?」

「よくわからない。」

なのはの言葉に答えたユーノは逆になのはに問いかけるがなのはの方はそのまま顔を伏せる。
しばらく静寂が続く中声を上げたのはザルバだった。

「なぁなのは。こういう言葉を知ってるか?」

その声でザルバの方を向くなのはにザルバが語りかける。

「あるハードボイルドな探偵が言った言葉だ。『男の仕事の8割は決断だ。あとの2割はおまけみたいなもんだ』ってな。そこまで極端じゃないがお前はもう答えをもっているんじゃないか?あとはそれを選ぶかどうか決断するだけだ。」

「ザルバさん・・・」

その言葉になのはは顔を上げる。
それに重ねるようにユーノもなのはに向き直りその肩に両手を優しく置くとユーノも言葉を紡ぐ。

「なのは、フェイトと戦う前に言ったよね?ジュエルシードを集めるのは自分の意思だって。だったらフェイトとのこともなのはのやりたいようにやれば良い。僕も協力するよ。」

「ユーノくん・・・うん!私頑張ってみる!」

ユーノの言葉に何か決意したなのは笑顔を浮かべて頷く。
そのまま見つめ合う二人。
良い雰囲気ではあるがザルバは嘆息しながら二人に声をかける。

「あー二人とも良い雰囲気と所悪いが見えてるぞ。」

「「えっ」」

ザルバの言葉に改めて自分の状況を見るユーノとなのははみるみると顔を真っ赤にする。
それもそのはず、なぜなら二人ともタオルなど巻かずに生まれたままの姿をしているのだから。
先程と同じようにしばしの沈黙のあと先程よりも大きな二人の悲鳴が轟くのだった。

白き魔導師と黒き魔導師、二人の道は交わらず互いにぶつかり合う。小さな魔戒騎士と優しい使い魔はただその二人を支えるのみ。


**********


「決意を胸に再びフェイトと対峙するなのは。
互いの想いを杖にのせ、魔法の力を解き放つ。
その時、願いを叶える輝石がその輝きを増す。

次回・ぶつかる想い

おいおい少しヤバくないか!?」



[27221] 第七話 ぶつかる想い
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 23:25
第七話 ぶつかる想い


「ふぅー。」

深いため息を吐きロッキングチェアに体重をかけ天井を見つめるのはミッドにある番犬所の神官・アリス。
彼女がこんなため息を吐くのには理由がある。
つい数時間前にここを訪れた廻界騎士の一人で親しい友人であるムメイの口から語られた一人の使い魔の悲痛な願い。
それを聞きアリス自身確かに手を貸したいと思った。
だが魔戒騎士、ひいては番犬所や魔戒法師は必要以上に人々に関わってはいけない。
それが掟であり破れば厳しい罰が、自分の寿命を差し出さなくてはならないこともある。
だがそれを熟知しているはずのムメイの口から出たのは決意の言葉。

「小生はその者に誓ったのだ己が魔戒剣に。」

魔戒剣

それは魔戒騎士とってまさに魂そのもの。
ソウルメタルと呼ばれる特殊な超重量金属で出来ておりその持ち主の心の在りようでその重さを変える物質である。
だからこそそれを自在に使うことは魔戒騎士の証とも言える。
それに誓うと言ったムメイの決意は本物、何より一度決めたことを覆さないのがムメイである。

「まったく、ムーちゃんは。」

それがわかるからこそその口調は何処か慈悲がにじみ出ていた。
しばらく天井を見つめていたアリスはロッキングチェア揺らしながら正面を向くと腕を振るい空中にディスプレイを展開する。
魔戒騎士を補佐するのが番犬所の役目。
たとえそれが本来の使命から外れることになっても。
そう思いながら連絡を取るのはおそらく次元世界に住む者たちが知れば腰を抜かすほどの人物。
次元世界の治安維持を行う、いわば表の世界の守りし者たち。
その組織の黎明期を支えた三人の内の一人。

「起きてるかな?」

そんなことを口にしながら連絡をした人物が出るのを待つ。
ほんの僅かな時間待ったアリスの見つめるディスプレイに映ったのは一人の老女。
常なら人当たりのいい笑みを浮かべているだろうその顔に軽く驚きの色が浮かぶ。
確かにこちらから連絡を取ることなどほとんどなく、以前連絡したのはもう何年も前の話でその時は闇に落ちてしまったある魔戒騎士のことを伝えるためだった。

「・・・お久しぶりです、アリスさん。今回は一体どのような件で?」

はたから見たら見た目十歳程のアリスにディスプレイに映る老女-ミゼット・クローベルが丁寧な言葉で話すのは違和感があるがアリスの年齢はすでに千年単位で数えるほどもある。
そこには自分達よりも遥かに苛酷な運命とそれを背負い千年単位で生きるアリスに対する尊敬の念もあった。

「ちょっと、頼みたいことがあってね。あっ、そんなに固くならなくても大丈夫よ。ある人を探して欲しいの。あなた達なら簡単でしょ?」

アリスの言葉に以前のことを思い出し身を固くするミゼットにアリスが手を軽く振りながら話すとミゼットは体の力を抜く。

「アリスさんの頼みですから断る気はありませんが、一体どなたを探せば良いのでしょうか?」

「今からデータを送るわ。それとその子なんだけどちょっと危ない橋を渡っているみたいなの。だからあんまり手荒くしないでね、ミーちゃん♪」

アリスの軽い口調に完全にリラックスしてしまったミゼットは二つ返事で了承するとアリスから送られたデータを確認しアリスに向かって頭を下げるとディスプレイから消える。
それを見たアリスはディスプレイを消しロッキングチェアを前後に軽く揺らしながら思うのはムメイから聞いた使い魔のこと。

「死してなおその心に刻むは主への忠誠か。はたまた教え子たる無垢な少女に対する愛情か。」

普段の彼女からは絶対に聞かない固く古めかしい言葉。
その顔も先程とは違う真剣のごときものになっていた。

「何にしても、魔戒騎士が関わるのなら断ち切って見せわ。あなたの、あなたの主とその少女を縛る悲しみの陰我を。」

・・・・・・・・・・

ジュエルシード捜索のためなのはと待ち合わせしていたユーノはいつものロングコートを夕焼けに染め右手には桃子がもたせた、たいやきの入った袋を提げて目的地を目指して歩いていた。
学校や職場から帰ってきた人たちを横目に見ながら目的地の公園の入り口を曲がって入ったところユーノはすぐになのはを見つけた。

「あっ、なの・・は・・・」

なのはに声をかけようとするユーノであったが茜色に染まるなのはの横顔がいつもと違って沈んでいる様子であった。
その事に疑問をもったユーノはゆっくりとなのはの傍まで近づくともう一度、今度は優しくなのはに声をかけた。
それ声でユーノの事に気付いたなのはが顔を向けるがその表情は沈んでおり大きな瞳は悲しみで揺れていた。

「何かあったの、なのは?」

「・・・・・」

事情を聞こうと隣に座りなのはに目を向けるユーノ。
その視線を受けながら再び顔を伏せるなのは。

「実はね・・・・」

しばらく沈黙が流れた後少しずつなのはは事の顛末を話した。
事件が起こったのは今朝早く、まだ授業が始まる前のひと時。
その日もなのはは親友のアリサ、すずかと談笑していたが心中ではあの黒衣の魔導師・フェイトのことを考えていた。
そのせいでただ単に相槌を返すだけだったのだがそのことがアリサの逆鱗に触れた。
なのはに向かってとぶ怒りの声、それに満足答えられないなのはを見たアリサはさらに怒りを増し教室から出ていった。
そんなこともありその日はアリサと眼も合わせることもできず、すずかともぎくしゃくした感じであった。

「そうか友達とケンカしたのか・・・」

「うんん、私がボーとしてただけでそれをアリサちゃんに叱られただけだよ。」

「でも親友なんだよね。」

「うん。入学してすぐの頃からね。」

アリサとすずか。
以前の温泉旅行と時に紹介された二人。
同年代の友人がいないユーノからでも三人の仲が良好であることははっきりとわかった。
だがその親友たちとこんなふうにケンカをさせてしまった原因は自分にあると考えてしまいなのはと同じように顔を伏せてしまうユーノ。

(まったくこいつらは、もっとガキらしい顔をしろよな。)

二人して暗い表情してしまうことに若干憤りを感じるザルバは大声を出す。

「お前ら!いつまでも暗い顔してんじゃねえぞ!桃子からもらったたいやきでも食って元気出せ!」

その大声に驚くユーノとなのは。
驚いたことに互いに軽く笑みを浮かべる二人は気を取り直してたいやきが入った袋をあけそれぞれたいやきを手にとって口へと運ぶのだった。

・・・・・・・・・・

同じ頃、フェイトがアジトにしているマンションの一室でアルフはソファーに胡坐をかきながら缶詰を鳴らしながら中のドッグフードをかき込んでいた。

「いやーこっちの世界の食べ物も悪くないね!」

尻尾を揺らしながら満面の笑みを浮かべるアルフ。

「さてと、それじゃウチのお姫様にでも会いにいきますか。」

缶詰の中を食べ終えたアルフは立ちあがるとフェイトの部屋に向かう。
階段を上り部屋に入ったアルフの目に入るのは自分に背を向けベッドに横になるフェイト。
その枕元にある台の上にはアルフが昼過ぎに持ってきた昼食がほとんど手つかずのままあった。

「あっ、また食べてない。ちゃんと食べないと体に悪いよ。」

「少しだけど食べたから大丈夫。」

ベッドに腰掛けるアルフと変わるように起き上がるフェイト。
その時アルフの目に映るのはおそらく鞭などで叩かれたときに出来る細長い赤い蚯蚓腫れ。

「そろそろ行こうか。次のジュエルシードの場所も大まかに分かってるから。それにあまり母さんを待たせたくないから。」

「それはそうだけどさぁ・・・・」

言いながらベッドから降りたフェイトは右手を伸ばすとマントを形成し纏う。

「フェイト・・・」

マントを纏ったフェイトはそのまま外へと歩いていた。
その後姿を哀しそうに見つめるアルフ。
フェイトがあの母親のために懸命に働いているのは使い魔たる自分が一番知っていると自負できる。
だが必死になって働くフェイトに対してあの母親は褒めたりするどころか逆に叱りつけ暴力を振るうこともある。
現に背中の傷はその時出来たものだ。

(やっぱりおかしいよ。あいつどうしてそこまでフェイトにきつくあたるんだ!)

一切娘を褒めない母親。
それでも懸命に母のために働く娘。
そのどこか歪んでいる母子の関係に疑問をもちながらアルフはただフェイトの後をついていった。
例えどんな関係でも自分は主に従うだけ。
そう心に誓うアルフであった。

・・・・・・・・・・

なのはとフェイトがそれぞれ行動を開始して数時間。
完全に夜の帳が落ちた街中にユーノとなのははいた。

「あー今日はここまでかな?」

「そうだね、あんまり遅くなると桃子さんが心配するから帰ろうか。」

街頭テレビに映る時間を見て帰路につく二人。
その道すがらなのははポケットから携帯を取り出すと何度かボタンを押しメールのチェックをするがアリサとすずかからのメールはなかった。

「・・・・・」

「どうかしたなのは?」

携帯の画面を見つめるなのはに声をかけるユーノに何でもないと答えたなのはは携帯をしまうと再び歩き出す。
その姿を見つめるユーノ。

「やっぱりさびしいのかな?」

「そうだろうな、親友とケンカしたんだ、寂しくもあるさ。」

「・・・・・」

「ユーノ、これはお前の所為じゃない。なのはとアリサ達の問題だ。」

寂そうななのはの後姿に責任を感じるユーノにザルバが声をかけ励ます。
ザルバの言葉に軽く頷くユーノに先を歩いていたなのはが早く来るように急かす。
手を振るなのはのもとに駆け寄るユーノ。
その二人がいる場所から少し離れたビルの屋上にフェイトと獣姿のアルフがいた。

「この近くにあると思うんだけど大まかな位置しか分からないんだ。」

「確かにこうごみごみしていると見つけるのは一苦労だね。」

アルフの言葉どうり辺りには乱立するビルに多くの人々。
この中からジュエルシードのような小さな宝石を見つけるのは苦労することだろう。
だからこそフェイトは一つの手を打つべくバルディッシュを掲げる。

「少し乱暴だけど周辺に魔力流を打ち込んで強制発動させるよ。」

「ちょっとまった。それあたしがやるよ。」

「大丈夫?結構疲れるよ。」

「このあたしを誰の使い魔だと思ってるんだい。」

フェイトの心配する言葉に元気よく答えるアルフ。
そんなアルフの姿に優しく微笑むと任せるフェイト。
早速アルフは足元にオレンジ色の魔法陣を展開するとそれにむかって魔力流を放つ。
光が消えて僅かな静粛のあと辺りの雰囲気が一変する。
空の浮かぶ雲は荒々しく動き、至る所で雷が落ち、海は大きな波を幾つも生んでいた。
その状況に街にいた人々は何事かと空を見上げる。
その中をユーノとなのはは人込みをかき分けて走る。

「ユーノくんこれって?」

「間違いない、フェイト達だ。だけどこんな街中で強制発動なんて危険すぎる!」

走りながら言葉をかわす二人は人目を避け路地裏にかけ込む。

「ユーノ急いで結界を!」

「分かってる!広域結界、発動!!」

息を整える暇もなくザルバの言葉に答えたユーノは翡翠色の魔法陣を展開し被害の発生を抑えようとする。

「なのは、お前もレイジングハートを起動しておけ!」

「うん。レイジングハートお願い。」

すかさずザルバが指示を出しなのはもバリアジャケットを展開しレイジングハートも杖の姿に変わる。
その時空に向かって青い光が空に伸びる。

「見つけた、ジュエルシードだ。」

「けどあっちも近くにいるみたいだね。」

ジュエルシードの発動を確認したフェイトにアルフがなのは達がいることを伝える。
その言葉が終ると同時にユーノの広域結界が辺りを包む。

「なのは、発動したジュエルシードが見えるね。」

「うん。すぐ近くだよ。」

「フェイト達が近くに居るんだ。彼女たちより早く封印を!」

「わかった!」

ユーノの言葉に頷くなのははすぐさまレイジングハートをカノンモードに変えると先端に魔力を集中していく。
同じようにフェイトもバルディッシュをグレイブフォームに変え砲撃魔法を展開する。

「いくよレイジングハート!」

《All right》

「バルディッシュ。」

《Yes sir》

互いに魔力を高めなのは引き金に指を置き、フェイトも目標をしっかりと見据える。

「ディバイン・・・・」

「サンダー・・・・」

そのまま発動キーである魔法名を紡ぐ。
そして・・・

「バスター!!」

《Divine Buster》

「スマッシャー!!」

《Thunder Smasher》

放たれる桜色と金色の砲撃。
そのまま空気を切り裂きながら今まさに暴走しようとするジュエルシードに殺到する。
そしてぶつかり合う二つの大きな魔力によって封印されるジュエルシード。
辺りが再び沈黙が訪れた時響くのはなのはの足音。

「・・・・・」

今なのはの目の前には中空に浮かぶ封印されたジュエルシード。
その時なのはの心に浮かぶのは今はケンカ中の二人の親友との出会い。
魔法の有無の違いはあるがあの時と同じような状況だとなのはは思った。
だからこそあの時と同じように自分の想いを伝えるだけ。

「なのは、ジュエルシードの確保を・・・」

「そうはさせるかい!」

なのはの後についてきたユーノが確保を促そうとするとそれを阻むようにアルフが襲い掛かる。
しかしすかさずなのはの前に出たユーノ障壁によってアルフは阻まれ弾かれる。

「あいつは僕が抑えるからなのははフェイトと話を。」

「ユーノくん・・・ありがとう。」

そう言い残すとアルフに対峙するユーノ。
ユーノに感謝の言葉を言ったなのはは街灯の上に佇むフェイトに目線を向ける。
互いに譲れないものがある。
だからこそ戦うことは避けられないかもしれない。
それでもなのはは自分の気持ちを込めてフェイトに語りかける。

「この前は自己紹介も出来なかったけど私、なのは。高町なのは。私立聖祥大付属小学校三年生・・・」

《Scythe Form》

しかしなのはの言葉をさえぎるようにフェイトはバルディッシュをサイズフォームに変えるとなのはを見据える。
そしてマントをはためかせるとそのまま街灯から飛び立ちなのはに金色に鎌を振り下ろす。
それを避けるようになのはもフライヤーフィンを展開し空へと飛び立つ。
そのまま立ち並ぶビルの合間を互いに駆け抜ける。
だが速度ではなのははフェイトには及ばず背後を取られる。

《Flash Move》

しかしレイジングハートの合成音と共にフライヤーフィンに魔力を追加し逆にフェイトの背後を取るとカノンモードのレイジングハートを向ける。

《Divine Shooter》

《Defensor》

そのまま誘導弾を放つなのはだが振り返ったフェイトは冷静にバルディッシュを向け防御する。
だが誘導弾の威力の方が高かったのか弾き飛ばされるフェイトだが姿勢を崩すことはなかった。

「フェイトちゃん!」

互いにデバイスを向け合う二人だがその時なのはの叫びが響く。

「話し合うだけじゃ言葉だけじゃなにも変わらないって言ってたけど、言葉にしないと伝わらないこともきっとあると思うよ。それで戦うことになるのは仕方ないことかもしれないけど、何も分からないまま戦うことになるのは私、絶対に嫌だ!!」

なのはの言葉にフェイトはただ静かに聞き、辺りではユーノとアルフが拳や牙をぶつけ合っていた。

「ジュエルシードを集めるのはそれを見つけたユーノくんのお手伝いをしたいと思ったから。でも最初は偶然だったかもしれないけど今は自分の意思でジュエルシードを集めてる。それは私の住む町や周りにいる大切な人たちに危険が降りかかるのが嫌だから!」

そこで言葉を切ったなのははありったけの気持ちを込めて叫ぶ。

「これが私の理由!!!」

その言葉にフェイトは哀しそうに目をつぶると自分の理由を言おうとする。
だがそれはアルフによって遮られる。

「フェイト!答えなくていい!自分に優しくしてくれる人がいる所でぬくぬくしているような奴に言わなくていい!あたし達の最優先事項はジュエルシードの捕獲だよ!!」

アルフの台詞で再び決意したフェイトは鋭い目線をなのはに向ける

「なのは!」

「大丈夫!」

なのはに声をかけるユーノになのはも決意を込めて答える。
そのまま互いに向け合うなのはとフェイトだが一瞬の隙を突きフェイトがジュエルシードに向かう。
それを追うようになのはもジュエルシードに向かう。
互いにスピード上げジュエルシードに近づくなのはとフェイト。
そのままジュエルシードを確保しようとデバイスを伸ばす二人だが次の瞬間レイジングハートとバルディッシュがジュエルシードを挟むようにぶつかり合う

「あっ。」

「えっ。」

その光景を見ていたユーノとアルフの小さな言葉がやけに大きく響く。
一瞬の静粛。
次の瞬間、なのはとフェイトの耳に届くのは大切なパートナーに罅がはいる嫌な音。
そして辺りを覆うのはジュエルシードから溢れる膨大な魔力の奔流。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

「くっ!あぁぁぁ!」

その魔力に巻き込まれるなのはとフェイトは必死に耐えるがジュエルシードから溢れる光にかき消されてしまった。

・・・・・・・・・・

アリサと共にヴァイオリンの習いごとから帰ろうとしたすずかは何かの力の気配を感じた。
しばらく空を眺めていたすずかだがアリサの言葉に振り返ると車に向かう。
そのまま車に乗り込んだすずかはなんとなく携帯を取り出すとメールをチェックする。
だがなのはからのメールはなかった。

「なのはちゃん・・・・」

車の外を眺めながらすずかの口から零れた言葉は誰にも耳に届くことなく車内の空気に溶けていった。

白き魔導師は黒き魔導師にその心を伝える。だが黒き魔導師は答えることはなく二人の魔導師を裂くように願いを叶える輝石はその輝きを解き放つ。


**********


「再びあいまみえる、なのはとフェイト。
譲れぬ想いがあるからこそぶつかり合う二人。
その時、虚空を裂いて現れる新たなる介入者。

次回・三人目の魔導師

うん?でもユーノを入れれば四人目だよな。」



[27221] 第八話 三人目の魔導師
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 23:27
第八話 三人目の魔導師


「・・・ごめんね、ユーノくん・・・私の我儘の所為で・・・・」

「気にしないでなのは。大事にはならなかったんだから。」

なのはの悲痛な声にユーノは優しく答える。
今、二人がいるのは高町家でユーノが寝室として使っている和室である。
ひいた布団に座るユーノと向き合うなのはだが顔を伏せるなのはの目線が行くのは包帯の巻かれた右腕。
その原因は昨日起きたジュエルシードの暴走である。
魔力の暴走を起こしたジュエルシードはそのまま放置しておけば次元世界に大きな影響を与える。
実際あの場では小規模ながら次元震が起きていた。
それに気付いたユーノは事態を把握しきれていないなのはや暴走しているジュエルシードに近づこうとするフェイトよりも早く近づき封印しようと右手を伸ばしユーノはジュエルシードを掴み封印したのだ。
もちろん溢れだす魔力によってユーノの右手は火傷と無数の切り傷を負ってしまったのだ。

「ユーノの言う通りだ。それにあのフェイトって子には何か裏がある。お前の言葉がフェイトを救うことが出来るかもしれない。お前だってあの子と友達になりたいんだろ?」

ザルバの言葉に伏せたまま頷くなのはにユーノは傷ついていない左手をゆっくりと上げるとそっとなのはの頭に乗せると優しく撫でる。

「あっ・・・」

「前にも言っただろう?なのはのしたいようにすればいいって。それに人々を守るのは僕達の使命だし・・・」

ユーノの言葉で幾分か元気を取り戻したなのはだがユーノの最後の一言に首をかしげるとその意味を聞こうと口を開くがその時なのはを呼ぶ桃子の声が響く。
その声に二人は揃って時計を見るとすでになのはが学校に出る時間を回っていた。
それを確認したなのはは立ちあがると襖を開け出ようとするが何かを思い出すとユーノに振り向く。

「そうだ、ユーノくん。レイジングハートは大丈夫かな?」

「大丈夫だよなのは。レイジングハートは高性能なデバイスだから。今は自己修復を全開でかけてるから今日の夕方頃には治ってると思うよ。」

ユーノの言葉にわかったと言うように頷くとなのははそのまま和室を出ていくのであった。

・・・・・・・・・・

同時刻、フェイトが根城にしているビルの屋上に黒のワンピース姿にケーキの入った箱を持ったフェイトに人間姿のアルフがいた。

「お土産も用意したし行こうか、アルフ。」

「行くのは良いけど・・・甘いものって喜ぶかい、あの人は。」

「分からないけどこういうのは気持ちだから。」

怪訝そうなアルフに答えるフェイトだが突然暗い顔になるとなのはと同じように顔を伏せてしまう。
その様子にあたふたするアルフの耳に届いたのは一人の少年の事であった。

「あの・・・白いコートの人は大丈夫かな?」

その言葉でアルフも思い出したのは私たちにかわりジュエルシードを封印し傷ついた少年のこと。
自分の主が心優しく傷つきやすいことも熟知している。
だからこそ主を励まそうと顔を近づける。

「大丈夫だってあいつ、ああ見えて魔法を使うの上手いし何よりこのフェイトの使い魔たる私と不本意ながら互角に戦う事が出来るほどの奴なんだ。大丈夫だって。」

優しい使い魔の言葉に微笑を浮かべ頷くと前を見据えてゆっくりと自分たちの本拠地である時の庭園に向かうために次元座標を紡ぎながら魔法陣を展開する。
その様子を見守るアルフであるがその心中では今から向かう場所で待つフェイトの母親の事を考えていた。

(だけど何のためにあいつはフェイトにジュエルシードを集め集めさせるんだい?それにジュエルシードのことを教えてくれたあの女の目的は一体?)

転移魔法が起動し徐々に姿が薄れていく中アルフの頭にあったのはフェイトの母親、そして約半月ほど前に突然現れたある女性のことであった。
だがその考えがまとまる前に二人の姿はその世界から消えていた。

・・・・・・・・・・

なのはとフェイトがそれぞれの目的地に向かっていた頃、数多の次元世界が浮かぶ次元空間に次元世界の平和を守る表の世界の守りし者たち、時空管理局に所属する船であるL級次元航行艦・アースラが悠然と次元の海を進んでいた。
そのブリッジでは複数の局員が各々の持ち場で働いていた。
そのブリッジに通じる通路を長い緑の髪を持つ一人の女性・時空管理局提督でありこの船・アースラの艦長であるリンディ・ハラオウンが歩を進めていた。
ブリッジに通じる扉を通って中に入ったリンディはそのまま現状の様子を聞いた。

「みんなどう?今度の旅は順調?」

「はい。現在第三船速で航行中です。目的の次元世界には今より160ベクサ後に到着の予定です。」

「前回の小規模次元震以降、目立った動きはないようですが、二組の捜索者が再度、衝突する可能性は非常に高いですね。」

リンディの問いかけに眼鏡の男性・アレックスと青髪のショートヘアの男性・ランディはそれぞれのモニターを見つめながら答えるとリンディはそれを聞きながら席に座る。

「失礼します、リンディ艦長。」

するとリンディが座るのを見計らったように紅茶の入ったティーカップを運んできた少女・エイミィ・リミエッタがティーカップをテーブルの上に置く。
それに礼を言ったリンディはティーカップを口に運び一口飲むとカップを離し鋭い目をし口を開く。

「でも小規模とはいえ次元震が発生するのはちょっと厄介だものね。危なくなったら急いで現場に向かって貰わないと。」

そこで言葉を切ったリンディは先程とは違う優しい目を傍らの黒いバリアジャケットを着た少年に向ける。

「ね、クロノ。」

「大丈夫わかってますよ、艦長。僕はそのために居るんですから。」

クロノと呼ばれたこの少年は次元航行船であるアースラに所属する執務官でありリンディ・ハラオウンの実の息子であるクロノ・ハラオウンである。
しっかりとした口調で返答する姿は同年代の少年少女に比べると遥かに大人びていた。
だがそんなクロノにちょっかいを出す存在が居た。

「もうクロノくんはかたいなぁ。今は非戦闘時なんだから艦長のこと母さんって呼んでも良いと思うよ。」

「エイミィ、僕は公私を分けているだけだ。それに何時、非常事態になるか分からないんだぞ。」

「それは分かるけどさ、そんな風に頭が固いから身長が伸びないんだと思いよ。」

「エイミィ!!」

エイミィのちょっかいに年相応の返答をするクロノ。
二人の姿にブリッジに居るアレックスとランディを含む局員は全員微笑ましそうに見つめる。
中には忍び笑いをする者もいる。
その様子を母親としての顔で見守るリンディであるがすぐにその顔を艦長としての顔に変えると手元のコンソールを操作しディスプレイに今回の関係者であるジュエルシード捜索者の今現在の情報を提示していく。
もっとも今分かるのは先日の戦闘で取れた各々の姿と戦闘時の戦い方だけである。
そこから現在アースラが注意しているのは白いバリアジャケットを纏った少女と黒いバリアジャケットを纏った少女である。
またオレンジ色の髪の女性が黒いバリアジャケットの少女の使い魔であるのは明白であった。
だがリンディが気になったのは白いバリアジャケットの少女に協力している白いコートの少年。
クロノを初めとするクルーは少女たちの方を気にしているがリンディはなぜか少年のほうが気になったのだ。

(魔法の力をほとんど使わずにあの使い魔と互角に戦った身体能力。それにこの子の格好はあの人に似ている。もしかして彼は・・・)

リンディは周りで起きているクロノとエイミィの騒動をなかば無視しながらこの白いコートの少年の姿から思い出した一つの思い出を記憶の引き出しから取り出していた。
それは夫・クライドと共に遭遇したこの世界の裏で日夜起きている人と魔獣との終ることとない戦い。
だからこそリンディは今回の案件がタダでは済まないと感じていた。

・・・・・・・・・・

荒々しく雷鳴が轟く高次空間に佇む巨大な建造物。
時の庭園と呼ばれるそれはしかし庭園としての面影は全くと言っていいほど残ってはいなかった。
そのほぼ中心にある広間。
今そこには三人の人影があった。
膝をつき頭を下げているアルフになぜか怯えているフェイト。
そして二人の前に数段高くなった場所にある椅子に座った妙齢の女性、彼女こそフェイトが母と呼ぶプレシア・テスタロッサである。

「フェイト、これだけの時間がありながらたった四つのジュエルシードしか集められなかったのは、何故?母さんの研究にはどうしてもジュエルシードが必要なのはあなたも知っているはずでしょ?」

「は、はい母さん。すぐに残りのジュエルシードも集めてきます。」

母子であるはずの二人。
だが今の状況をみて誰が母子と分かるだろうか?
今の二人の関係を端的に言えば傲慢な王に扱き使われる奴隷といったところか。
それは近くで見守っているアルフも同様な事を感じていた。

(どうして、頼まれた物を集めてきたのに「良くやった。」の一言も無いんだい!?あんたはフェイトの母親だろう!!!)

アルフは心中で烈火のごとき怒りの炎を燃やしていたがフェイトの手前必死に我慢していた。
母親の厳しい言葉を受け、ここに来る前以上に元気をなくしたフェイトはプレシアの言いつけどうり残りのジュエルシードの捜索に向かおうとするがそこであることを思い出し再びプレシアに振り向く。
その姿に怪訝そうな顔をするプレシアだがフェイトはぎこちなく笑顔を作ると買ってきたケーキの入った箱を掲げる。

「あの、最近仕事で疲れていると思ったので甘いケーキを買ってきました。良かったら後で食べて下さい。母さんの好きなチョコレートケーキもありますから。」

「!?」

フェイトの言葉を聞いた瞬間プレシアは大きく目を見開く。
その時プレシアには一つの情景が写っていた。
今のフェイトよりも幾分か幼いフェイトと同じ容姿の女の子とプレシアが楽しそうにチョコレートケーキを食べている風景。
それを思い出したプレシアは一瞬呆けた後、怒りで顔を歪め荒々しく立ちあがる。

「そんなものを買う暇があったら・・・」

「あの、母さん?・・・」

立ちあがったプレシアは大きな足音を立てながらフェイトに近づく。
そのプレシアの姿に訳が分からないフェイトはただ成り行きを見ることしかできなかった。

「とっととジュエルシードを・・・・」

「えっ。」

フェイトの前に立ちはだかったプレシアはゆっくりと右手を上げる。
そんな状況になってもまだ理解できないフェイトの様子にさらにプレシアは顔を歪める。

「探してきなさい!!!!」

「!?」

怒りの咆哮を上げ腕を振り下ろすプレシア。
そしてフェイトもようやく自分の行動の中に母を怒らせてしまった原因があることに気付くがどうする事も出来ずただ庇うように腕を上げかたく瞳を閉じる。
二人の様子を見ていたアルフもフェイトを庇おうと駆けだすがおそらく間に合わないだろう。
そのままプレシアがフェイトを打つ音が響くと思われたが何時まで経っても静寂が辺りを包んでいた。
その様子を不審に思ったフェイトはゆっくりと瞼をひらくとそこにはプレシアの腕を止める者が居た。

「エルダさん・・・」

フェイトにエルダと呼ばれた女性は同性のフェイトから見ても美しいと感嘆の息をもらす程の美貌を有した女性であるがその美しさにはどこか死の様相を見せていた。
スカートの端がやぶれた闇色のドレスに痛みが目立つセミロングの漆黒の髪、それらの色とは対照的な白い肌。
しかしその肌も血の通った温かみがあるピンク色をしておらず死人のような青白いものであった。
そしてフェイト達を見つめる瞳は虚ろに風景を写していた。

「・・・なんの真似?エルダ・・・」

「この子にはジュエルシードを集める役目がある。下手に怪我させない方がいい。」

腕を止めるエルダにプレシアは怒りの眼差しを向けるがエルダは何か感じた様子もなくその場に佇む。
そのまま互いに目を合わせるプレシアとエルダにおろおろとその様子を見つめるフェイト。
しばらく時が流れるが場の空気に嫌気が差したのか乱暴に腕を振るいエルダの拘束を解くとプレシアはフェイトに背を向ける。

「何をしているのフェイト!とっととジュエルシードを探しに行きなさい!!」

「は、はい・・・母さん・・・」

プレシアの怒鳴り声にビクリしたフェイトは近くにあったテーブルにケーキの入った箱を置くとアルフを引き連れ急いで広間を出ていく。
その様子を背後に感じるプレシアはエルダが居たところに目を向けるがそこにエルダはいなかった。
一人になったプレシアはゆっくりとフェイトが置いた箱を見つめるがそこには今までとは違うとても悲しい瞳をしていた。

「----」

口を開き誰かの名前を紡ぐがそれは響くことなく虚空に消えていった。

・・・・・・・・・・

その日の夕方、一人で自宅の帰路についていたなのはは自宅近くのバス停に降り発進するバスを見送っていた。
そのまま自宅に足を向けようとするなのはの視界に入ったのは今日自分が学校に登校する間際まで布団に横になっていたはずのユーノがそこにいた。

「ユーノくん!起きて大丈夫なの?」

「まぁね。今日一日ゆっくり休めたしそれになのはに渡す物があるからね。」

「渡す物?」

自分を迎えに来たであろうユーノの元に駆け寄るなのはにユーノはポケットからある物を取り出す。
それを見たなのはは喜びの声を上げる。

「レイジングハート!良かった、治ったんだね。」

《Condition green》

「また、一緒に頑張ってくれる?」

《Yes my master》

レイジングハートの言葉に優しく微笑むと慈しむようにレイジングハートに胸に抱きしめる。
その様子をユーノとザルバが優しく見守るのであった。

・・・・・・・・・・

さてされぞれが再びジュエルシードの捜索を開始しようとしていた時、海鳴市の臨海公園に今まさに発動しようとするジュエルシードが一つあった。
そのジュエルシードは強く光を放ちながら浮き上がると近くにあった一本の樹にとりつく。
その魔力によって巨大化する樹は膨大な魔力を辺りに撒き散らしながら怪物に変貌していく。

「ユーノくん、あれ!」

「遅かったか!?ユーノ、結界だ!」

「わかってる。封時結界、展開!!」

偶然、近くを捜索していたユーノ達はいち早くジュエルシードの気配を察知し現場に駆け付けすぐさまユーノが結界を張り周りに被害が出ないようにする。
その横でなのはもバリアジャケットを纏い治ったばかりのレイジングハートを起動させる。
起動したレイジングハートを怪物に向けるなのはだが彼女よりも先に怪物に向かってここ最近で見慣れた金色の閃光が襲い掛かる。
しかしそれは怪物にぶつかる前に障壁によって防がれる。

「あいつ生意気にバリアーを張れるのかい。」

「うん。今までのより強いね。それにあの子もいる。」

冷静に相手を分析するフェイトはそのまま怪物の近くにいるなのはに目線を送る。
対するなのはもフェイトの事を視界に捉えていた。

「フェイトちゃん・・・」

「なのは、危ない!!」

フェイトに目線を向けていたなのはに怪物の攻撃が伸びるがユーノの言葉とレイジングハートの咄嗟の飛行魔法の展開により難を逃れたなのはは空中から怪物に向かってカノンモードにしたレイジングハートを向ける。

「行くよ、レイジングハート!」

《All right, my master》

トリガーを握り占めしっかりと怪物に狙いを定めるなのは。
同じくフェイトもバルディッシュをサイズフォームにし金色の魔力刃を生成する。
しかし相手もただではやられないと言わんばかりに同じく巨大化した根を伸ばしなのは・フェイトを初めとする四人に攻撃を加える。
その攻撃をなのははさらに上空に逃げる事でかわしフェイトはサイズフォームの魔力刃で切り裂きアルフは獣姿のまま爪と牙で応戦する。
そしてユーノも魔戒剣を鞘から抜き放ち鋭い剣戟を打ち込むが根を断ち切ってもすぐさま再生してしまう。

「まずいな・・・」

しばらく攻防が続く中ザルバが言葉を発する。
それに頷くことで返事をするユーノにザルバは現状を打破する作戦を提案する。

「ユーノ、少し無茶をするが良いか?」

「この状況のならそれが一番良いと思うよ。なのは、フェイト!今から奴のバリアーを僕が破壊する。そこをねらって攻撃するんだ!!」

ザルバの提案にすぐさま乗ったユーノは大声でなのは、フェイトに端的に作戦を告げるといつもの構えをし相手を見定める。

「うん!!」

「・・・うん」

ユーノの作戦になのはは元気よくフェイトは少し戸惑いながら頷く。
二人の言葉を背に受けたユーノは力強く一歩を踏み締めると生き良いよく駆け出す。
自分に迫るユーノに向かって怪物は幾つもの根を殺到させるがユーノは左右のステップでそれらをかわす。
僅かに頬を掠るもののそれに気を留めることなく怪物に接近したユーノは疾走で得た力を両手で握った魔戒剣に乗せ振り下ろす。
しかしその剣は怪物が張った障壁に防がれる。

「くっ!」

何とか障壁を破壊しようとするユーノはさらに力を魔戒剣に込める。
すると障壁に罅が入り始める。
あと一歩で破壊できるとそこに居たメンバーは思ったが怪物はそれを阻止しようとユーノに向かって根を嗾ける。
その様子に息を飲むなのはとどうするべきか考えを巡らせるがその間にもユーノの貫こうとする根であるがその攻撃にユーノはすぐさま対処する。

「っ!チェーンバインド!!」

ユーノの掛け声と共に根を拘束する翡翠の鎖。
それに動きを封じられた根にユーノは一度障壁から魔戒剣を離すとその場で一回転し拘束した根を切り裂くとその回転力を維持しながら罅が入った障壁を今度は切り上げる。
すると今まで怪物を守っていた障壁は跡形もなく粉々になる。

「今だ!」

ユーノの掛け声になのはとフェイトはそれぞれの魔法を発動する。

「ディバインバスター!」

「サンダースマッシャー!」

怪物に迫る桜色の砲撃と金色の砲撃。
怪物はそれに対抗できるものはなくただ無抵抗にその攻撃を受け入れるしかなくその魔法に込められた膨大な魔力が怪物の内部にあるジュエルシードを封印していく。

・・・・・・・・・・

先程まで辺りを支配していた砲撃の轟音が消えると先とは打って変わっての静寂が辺りを包み込む。
そして空中に浮いた封印されたジュエルシードを挟むようになのはとフェイトが対峙する。

「ジュエルシードには衝撃を与えない方が良いみたいだ。」

「うん、昨夜みたいな事になったら私のレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュも可哀そうだもんね。」

バルディッシュの事を気遣うなのはの言葉に一瞬驚くがすぐに昨夜の事を思う出し顔を伏せる。
その様子に戸惑うなのはにフェイトがゆっくりと語りかける。

「昨夜、ジュエルシードを封印したあの白いコートの人。今日も出てきたけど大丈夫だったの?」

ユーノを気遣うフェイトの言葉になのはは優しい微笑みを浮かべると答える。

「大丈夫だよフェイトちゃん。今日一日しっかり休んだから大丈夫だってユーノ君は言ってた。」

「そう。」

なのはの答えに安心したフェイト。
先程戦う姿を見ているがやはりちゃんと無事であった事を知るまでは安心できなかったフェイト。
その事を納得するように小さく頷くとなのはに真剣な眼差しを向けデバイスを構える。

「でも、譲れないから。」

《Device Form》

戦斧の形状をしたデバイスフォームに変わる。

「私はただフェイトちゃんと話がしたいだけなんだけど。」

《Device Mode》

同じくレイジングハートも赤い宝玉を中心にもつ金色の輪をデザインした杖に変わる。

「でも戦って勝たないと話を聞いてくれないなら私は・・・」

そこで言葉を切るなのはは真剣な眼差しをフェイトに向ける。
その眼差しをしっかりと受け止めたフェイトも同じくなのはに鋭い目を向け見つめる。
互いに自身の愛機を両手でしっかり握るとタイミングを計るように全身に力を漲らせると空中で停止した状態から前方に飛びだしながらデバイスをぶつけるように振り下ろす。
そのままぶつかろうとするデバイス、だがその時なのはとフェイトの間に閃光が走る。

「ストップだ!!」

閃光と共に響く大声と同時にしっかりと止まるなのはとフェイトのデバイス。
徐々に閃光が消えるとそこに居たのは二人のデバイスをしっかりと受け止める14~5歳ぐらいの黒衣の少年だった。

「ここでの戦闘は危険すぎる!」

そこで言葉を切ったクロノはその場にいたメンバーを見渡すとしっかりとした口調で言い放つ。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!詳しい事情を聞かせてもらおうか!」

クロノの毅然な態度に呆気にとられるユーノ達だがその様子を封印されたジュエルシードだけがただ静かに見守っていた

新たに現れる黒衣の魔導師。そして裏で舞い踊る死を纏った美女。数多の人々の思惑の中願いを叶える輝石はただ静かに煌めくのであった。


**********


「遂に姿を現した管理局。
そして下される非情ともとれる決定。
その時、ユーノとなのはは何を求めるのか?

次回・選ぶ道

ユーノ、その道は魔戒騎士としちゃ失格だぜ。」



[27221] 第九話 選ぶ道
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 23:30
第九話 選ぶ道


なのはとフェイトがぶつかり合おうとする少し前。
次元空間を進む次元航行船・アースラのブリッジでは所定の位置に座る局員が忙しなく行動していた。
そんな中、艦長であるリンディは前方の大型モニターに映されたユーノ達と怪物との戦闘をしっかりと見つめていた。

「現地ではすでに捜索者達によって戦闘が行われているようです。」

「中心となっているロストロギアはA+。動作不安定ですが無差別攻撃の特性を見せています。」

モニター確認するアレックスとランディはすぐさま状況をリンディに報告する。

「次元干渉型の禁忌物品。回収を急がないといけないわね。」

報告される情報からすぐさま状況を判断したリンディは徐に立ち上がると傍らに佇むクロノに目を向ける。

「クロノ・ハラオウン執務官、出られる?」

「転移座標の特定は出来ています。命令があれば何時でも。」

「ではクロノ。これより現地での戦闘行為の停止とロストロギアの回収。ならびに両名からの事情聴取を。」

「了解です、艦長。」

親子である二人だが公の場であるためか互いに艦長・執務官として受け答えをする。
クロノからの返事を聞いたリンディは頷きクロノは転移装置に歩を進めると装置の中で向きを変えリンディに振り向く。

「気をつけてね~♪」

「は、はい。行ってきます・・・」

今まさに出動しようとするクロノに向き直ったリンディは先程までの艦長としての顔ではなく一人の母親としてのんびりとした口調にハンカチを振る動作を加えてクロノを送り出す。
その若々しい仕草に息子であるクロノは一瞬呆気にとられるがすぐに気を取り直すと真剣な顔つきで現場へと向かう。
それを見送ったリンディは再び艦長としての表情で前方のモニターを見る。
モニターにはユーノが怪物のバリアーを破ろうとしている所がアップで映されていた。
その様子に周りのクルーは感嘆の声を上げるがリンディだけは別のところに目がいっていた。
それはユーノの左手中指に嵌った頭蓋を模した指輪。

(やっぱり間違いないわ。あの子はあの人に関係しているのね。)

その指輪を見つめながらリンディは昔の事を思い出しながら戦闘の様子を見つめていた。

・・・・・・・・・・

突然現れた少年にユーノを初めとする四人は茫然としているが少年・クロノは毅然とした態度で言い放つ。

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ!詳しい事情を聞かせて貰おうか!!」

「・・・やっと来たか。さてこれからどうなるかな?」

クロノの言葉にユーノ達が黙る中、ザルバのみがユーノに聞かれないような小さな声でこれからの事を思案する言葉が漏れる。

「まずは二人とも武器を引くんだ。このまま戦闘行為を続けるなら・・・」

ザルバの言葉が漏れる中なのは、フェイトと共にゆっくりと降りたクロノはそのまま言葉を続けようとするが突然言葉を切り空に振り返る。
クロノの視線の先には自分に向かうオレンジ色の魔力弾が数発目に入った。
クロノは素早く自身の魔力光である青白いラウンドシールドを展開し魔力弾を防ぐ。
それによりそこに居たユーノ達は魔力弾が放たれた所に目をやる。
そこには獣姿のアルフが空中に停止した状態で体の周りにオレンジ色の次弾の魔力弾を形成していたのが目に入った。

「フェイト!一旦退くよ、離れて!!」

アルフの言葉にどうするべきか僅かに悩むフェイトだが空中に浮いたままのジュエルシードに目を向けるとその瞬間飛びあがる。
フェイトが飛び上がるのとほぼ同時に降り注ぐアルフの魔力弾は地面を穿ち土煙上げる。
だがその土煙から素早く離れるクロノと最初の攻撃で警戒しなのはに近づいていたユーノはそのままなのはの腰に腕を廻し後方に飛ぶ。
ユーノ達三人が近くの木の根元に退避する間封印されたジュエルシードに手を伸ばすフェイトだがそれを阻むように土煙を貫いて青白い魔力弾がフェイトを襲う。

「フェイト!」

「フェイトちゃん!」

幸いにしてその魔力弾がフェイトに当たることはなかったが魔力弾が掠った際の衝撃によって吹き飛ばされるフェイトは地面に叩き落とされる。
その様子に声を上げるアルフとなのは。
その間にも地面に向かうフェイトだが間一髪の所で駆け付けたアルフがクッションとなりフェイトはほとんど傷を負う事はなかった。
だが土煙が晴れる中二人を狙うように空中に浮いたクロノが自身のデバイスであるS2Uの先に魔力を込める。

「やめてぇぇぇ!!」

「なのは!」

今まさにその魔力を解放しようとするクロノにフェイトの危機を抱いたなのははユーノの制止の声も聞かずにフェイトに駆け寄る。

「ダメ!!お願い撃たないで!!」

「っ!」

そのままフェイトとアルフの前に立ち両手を広げるなのはにクロノは息をのむ。
魔法には殺傷設定と非殺傷設定というものがある。
前者は相手を傷付け、時にはその命を奪うものだがクロノが放とうとしていたのは後者でありこれは相手に対して魔力ダメージによる昏倒を目的としたものである。
もちろんなのはも魔法にふれてすぐの頃にユーノから聞かされていたし通常、魔法を使う時は非殺傷設定が基本である。
だがなのはにはそれが頭でわかっていてもフェイトが傷つくのが許せずその攻撃を庇おうとしたのだ。

「逃げるよフェイト。しっかり摑まって。」

それによって生じた逃亡のチャンスを見逃す程アルフはバカではない。
背に寄り掛かるフェイトに声をかけると一瞬のうちに加速し茜色に染まった空に消えていった。
その後ろ姿を悲しく見つめるなのはとその側に歩み寄るユーノ。
そしてゆっくりと降りるクロノ。
辺りが静寂に包まれる様子をブリッジに映しだされた大型モニターを見つめるリンディに局員の声が届く。

「戦闘行動は停止。捜索者の一方は逃走。」

「追跡は?」

「多重転移で逃走。追いきれませんね。」

局員の報告にすぐさま追跡の指示を下すリンディだが追跡を担当する局員からは僅かな称賛の響きを含んだ追跡が出来ない報告を受ける。
転移魔法はミッドチルダを初めとする魔法文化をもつ世界ではかなりポピュラーなものだが機械の手助けを受けずに連続した転移はかなりの腕を要する。
その報告を受けたリンディは特にその局員を咎める事はなく前方のモニター目をやる。
そこにはクロノが封印されたジュエルシードを回収するところが映されていた。

「まあ戦闘行動は迅速に停止。ロストロギアも確保終了。良しとしましょ。色々と事情も聞きたいし。」

そう言い終わると手元のコンソールを操作し映像通信を現場のクロノに繋げる。

「御苦労さま。クロノ。」

「すいません。片方を逃しました。」

リンディの労いの言葉に申し訳なさそうに答えるクロノだがリンディは軽い口調で慰める。その二人の様子を見つめるユーノとなのはだがザルバは中空に映された女性の姿に見覚えがあった。

(この女は確かあの時の・・・。広いような次元世界も案外小さいんだな。)

リンディの姿に昔のことを思い出していたザルバを余所に話は進んでいた。

「でねクロノ。ちょっとお話を聞きたいから、そちらの二人をアースラまで案内してくれるかしら?」

「了解しました艦長。すぐに戻ります。」

そうクロノが言い終わるとリンディが写っていたモニターが消えクロノはユーノ達に向き直る。
その様子に呆気にとられるなのはであった。

・・・・・・・・・・

フェイトとの戦闘から数分後、クロノに案内されたユーノとなのはは管理局の次元航行船アースラの転移装置の前に居た。
クロノの後を付いていくなのはは近未来的な辺りの様子に僅かな不安を持ち傍らを歩くユーノに念話を送る

『ねぇユーノくん。ここって一体?』

『管理局の次元航行船の中でね。ええっと分かりやすく言うと幾つもある世界を自由に移動するための船。』

『あ、あんまり簡単じゃないかも。』

『つまり、なのはが暮らしている世界の他にも幾つもの世界があって、僕が居た世界もその一つで、その狭間を渡るのがこの船で。それぞれの世界に干渉し合う出来事を管理しているのが彼ら時空管理局なんだ。』

『そうなんだ・・・』

なのはの疑問に分かりやすく答えるユーノの言葉を聞きながら歩く二人の前に扉が現れそれが開くとほぼ同時に二人の念話が終る。
そのまま扉を超えるユーノとなのはにクロノは振り向く。

「そうだ、何時までもその格好というのも窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは解除しても良いよ。」

「あ、はい。」

クロノの言葉に従うなのははすぐさまバリアジャケットを解き聖祥大の制服姿になりレイジングハートも待機状態の赤い宝玉になる。
それを確認したクロノはユーノの方にも目をやる。

「君も解除すると良い。」

そう勧めるクロノにユーノは苦笑しながら答える。

「そう言ってもらえるのは嬉しいけどこれは普通の服だし、この剣もデバイスじゃないんだ。」

そう答えるユーノに今度はクロノが表情を変える。
この世界でデバイスやバリアジャケット無しでロストロギアの暴走体と戦うなどとはまさに自殺行為だ。
確かに彼は魔法を使っていたがそれでも驚きの色は濃い。
だがそこは執務官として少ないながらも経験を持つクロノは気を取り直すとデバイスを持っていない左手を伸ばす。

「そうか。なら艦長と話をする間その剣は僕が預かっておくよ。」

「え、いやでも危ないから・・・」

「大丈夫。そうゆう物の扱いには職業上慣れてるから。」

クロノの提案に難色を示すユーノにクロノが説得を重ねると仕方なく剣を差しだすユーノ。
それを受け取る瞬間ユーノがクロノを労わるような目線を送るがそれに気付かないクロノは剣を受け取る。
その瞬間クロノは自身の肩が外れるのではないかという衝撃を受け膝を付く。
それは彼が受け取った剣-魔戒剣-に使われているソウルメタルと呼ばれる超重量の金属が原因である。
厳しい修行を積んだ魔戒騎士のみが操る事が出来るその剣を一介の魔導師が持つことが出来るはずがない。
驚愕するクロノとなのはにユーノは膝を折りクロノと目線を合わせる。

「だから言ったんだ。危ないって。剣は僕がもつけど抜くような事はしないから持ってて良いよね?」

そのユーノの言葉にただ頷くだけのクロノから剣を軽々と持ち上げると左腰に差し込む。
その一連の動作にクロノは呆気にとられなのははいつものように見惚れるのだった。

・・・・・・・・・・

先程の騒動からなんとか気を取り直したクロノに案内されたユーノとなのはは艦長が待つ部屋に案内された。

「艦長、来てもらいました。」

「あっ」

扉が開きまずなのはの目に入ったものは幾つもある盆栽に日本の茶道の為の道具が準備された場所がありさらには鹿威し(ししおどし)まである。
その鹿威しの音が小気味よく響く部屋で艦長であるリンディは綺麗に正座しながら笑顔でユーノ達を迎えた。

「お疲れ様クロノ♪まぁお二人ともどうぞどうぞ楽にして♪」

満面の笑みを浮かべユーノとなのはを迎えるリンディの姿にユーノとなのはは互いに顔を合わせると僅かに苦笑する。
そのままリンディの勧めを受け茶道の道具が置かれた畳の上に腰を下ろす。

「どうぞ。」

「あっは、はい・・・」

自分の前に運ばれたお茶と羊羹をクロノから勧められたなのははそれに返事をするが緊張からか声が小さくなる。

「ではユーノ君。早速だけど事情を説明してもらえるかしら?」

緊張するなのはを優しく見つめながら艦長として事の事情を聴くためにユーノに声をかける。
それに答えるユーノはジュエルシードの発掘から今回のなのはとフェイトとの衝突までの経緯を語り出す。
その話を聞きながらなのはは出されたお茶をゆっくりと飲みながらユーノの声に耳をかたむける。
ほとんどが自身も経験したことの為特に問題はなく発掘の事も聞いていた為真新しさはなかった。
強いて上げるならユーノとリンディの会話が専門的用語を含んだ会話であることぐらいだろう。

「なるほど、そうですか。あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したのは貴方だったんですね。」

「はい。それで僕が回収しようと・・・」

「立派だわ。」

「だが同時に無謀でもある!!」

ユーノから聞かされた事情にリンディは称賛しクロノは執務官として声を上げる。
クロノの言葉に唇を噛み俯くユーノを横目に見ながらこれまでユーノ達の会話に出てきたある単語についてなのはは質問する。

「あのロストロギアって何なんですか?」

「あぁ、遺失世界の遺産って言っても分からないわね。えっと・・・」

なのはの質問に答えるリンディであるが魔法文化を知らない彼女にミッドで一般的なロストロギアの定義を話しても分かる訳がない。
そう考えたリンディはなのはにも分かるように噛み砕いて改めて話をする。
その話を聞くなのはをしりめにユーノはクロノに言われた事も含めて改めて自分のした行動が間違っていないかを考え始める。

(やっぱり僕のしたことは間違いだったのか?でも僕は魔戒騎士として、それに今はまだスクライア一族の人間として自分が起こしたこの事件だけは・・・)

なのはがリンディ、クロノからの説明を受け、ユーノが自分の行いを見つめ直していた時この場に居るザルバはただ静かに嘆息する。

「では説明も済んだ所で。ユーノ君、なのはさん。今回のジュエルシードの件については私たち管理局が全権を持ちます。」

「君たちは今回の事は忘れてそれぞれの世界に戻って元の生活に戻ると良い。」

「でも、そんな・・・」

「次元干渉に関わる事件だ。一般人が関わるレベルを超えている。」

「でも!?」

説明によって事の大きさを認識したなのはにリンディはこの事件から手を引くようにと言われるがなのははそれでも引かないような態度を示す。
それに対しリンディも一日猶予を与えることになり今回の事情聴取はお開きとなるのであった。

「それじゃ送っていこう。元の場所で良いね?」

「はい・・・」

「あっ、ちょっと待って頂戴クロノ。」

そのままユーノ達を連れていこうとするクロノを呼びとめたリンディは腰を上げていたユーノに目をやる。

「少しユーノ君と話がしたいの。ユーノ君いいかしら?」

「は、はい。」

再び腰を下ろしたユーノを残してクロノとなのははその部屋を出ていく。

「あの、リンディさん。僕に何の用があるんですか。」

正座姿でリンディに向くユーノの目線を受けながらリンディは優雅に用意したお茶を飲むと真摯な目をユーノの左手に向ける。

「その前にお久しぶりです、ザルバさん。あの節は本当にありがとうございます。」

「気にすることはねぇ。俺たちはただ自分の使命に従ったまでだ。」

まるで旧友と再会したように話をするザルバとリンディにユーノはただ呆気にとられる。
そのまま話をする二人だが話に区切りがついたところでリンディがユーノに声をかける。

「ごめんなさいユーノ君。まさかこんな所で再会できるとは思ってなかったから。」

「いえ。でもザルバを知っているということはリンディさんって魔戒騎士のことを・・・」

そのユーノの言葉に静かに頷くと再びお茶を一口飲みゆっくりと記憶の扉を開けながら語り始める。

「ええ、魔戒騎士の事は知っているわ。昔助けてもらった事があるの。そうねあれはクロノが生まれる少し前、夫のクライドと一緒に久しぶりの休暇を楽しんだその夜だったは・・・」

・・・・・・・・・・

それは今から14年前、ミットチルダの郊外の静かな住宅地での出来事だった。

「楽しかったわね、クライド。また遊びに行きたいわ。」

「それは良いがあまり無茶をするなよ。もう何時生まれても可笑しくないんだからな。」

「わかってます♪」

管理局の提督を務めるクライド・ハラオウンは数日前にようやく長期の任務を終え我が子を身籠る妻であるリンディの元に帰っていた。
久しぶりの夫婦の逢瀬は妻の発案でデートという事になりその日一日を恋人の頃のように楽しんだ。
頬を撫でる夜風は肌には少々冷たかったが二人にはその冷たさも心地よく二人は寄り添いながら歩いていた。
ゆっくりと歩を進める中クライドは時折妻であるリンディを労わるように気にかけそれを感じながらリンディもすっかり大きくなった自分のお腹を優しく撫でる。
二人の間には確かな愛情があり世界で最も平和な時間が流れていたが突如としてその時間は破られる事になる。

「うん?」

「どうかしたのクライド?」

「いや、空気が変わったような気がして・・・」

最初に気付いたのはクライドだった。
先程まで自分達の頬を撫でていた冷たくも心地よい風がいきなり肌を裂こうとする刃のような風に変わったのだ。
その変化を敏感に感じたクライドはリンディと共に歩を止める。
そのまま辺りの気配を探る二人を次に襲ったのは轟音と地響きだった。

「なんだあれは!?」

「化け物・・・」

音のなった方向に目をやった二人が見たのは全長3mを超える異形の化け物だった。
全身を堅い装甲を持ち細く長い四本の右手に鋭くとがった巨大な突起を持つ左手、爛々と妖しく輝く隻眼に胸にも不気味に照り輝く球体がある。

大型ホラー・ハンプティ。

ホラーを狩る魔戒騎士でも腕に覚えがある手錬でなければ倒すことが出来ない程のホラーである。
だがそんな事を知るはずもないクライドはリンディを守るために懐から愛用のデバイスを取り出すとすぐさま展開し数発の魔力弾を形成し放つ。
凄まじい速さでハンプティに迫る魔力弾は寸分の狂いもなく頭部に着弾し煙を上げる。

「やったか?」

魔法を放ったクライドの呟きが嫌に響く。
もしもこれが今までクライドが対峙してきた魔導師や魔導兵器なら問題はなかっただろうが相手はホラーである。
次の瞬間地響きと共に煙の中から現れたハンプティは全くの無傷でそこに立っていた。
この時になって二人は今目の前にいる存在が自分たちでは勝てない別次元のものであることを理解した。

「あ、いや・・・・」

あまりの事態にリンディは数歩後ずさるとその場にへたり込む。
対するクライドも何とかデバイスを構えようとするが体は彼の命令を無視して指一本動かす事が出来なかった。
そんな二人にただ悠然と近づくハンプティは首を不気味に傾けると胸の球体の部分からまるで弾丸を放つように弾を吐きだす。
その球はまるで意識があるようにへたり込んでいたリンディに向かっていった。

「!?リンディ!!!」

ようやく妻の危機に体の支配権を取り戻したクライドはリンディを守るように前から強く抱きしめる。
そのまま自分たちの最後を覚悟したクライドの耳に届いたのは強烈な炸裂音。
だがその音を聞いた時クライドは不思議と体の痛みを感じなった。

(死ぬ時は痛みを感じないのか?)

そんな場違いな事を考えたクライドの耳に次の瞬間凛々しい声が響いた。

「早く逃げろ。」

「え?」

その言葉にゆっくりと瞳を開くクライドの目に映ったのは同じように安堵からくる呆けた顔をする妻の顔。
そのまま後ろを振り向くクライドの前には白いコートをはためかせる一人の男性が立っていた。

「あ、あなたは一体?」

「そんなことは如何でも良い。早くこの場を離れるんだ。」

その男性の言葉に震えるリンディを抱きかかえその場を離れるクライド。
その気配を背後で感じながら魔戒騎士・バラゴは正面のハンプティから目を離さずにいた。

「ぎりぎりだったなバラゴ。」

「ああ。」

相棒たるザルザの言葉に短く答えたバラゴは改めて左手を前に出す独特の構えをする。
その様子を離れた場所から眺めるクライドとリンディ。

「一体彼は何者なんだ?」

クライドの言葉が響く中バラゴは剣を高らかに掲げると頭上に円を描く。
その円からまるで誇り高き騎士を祝福するように夜の闇を裂いて白い光が溢れる。
その光の中バラゴは悠然と剣を振り下ろす。
すると一際強い光がバラゴを包み唐突に光が消えるとそこにいたのは・・・

「黄金の狼?」

リンディの口から漏れた言葉は的確にバラゴの姿を言い当てていた。
全身に黄金の鎧を身に纏いその貌は荒々しい狼を模したものになっていた。
これこそ魔戒騎士でもたった一人の人物しか纏うことも名乗ることも許されない黄金騎士・ガロの鎧であった。
その様子を見つめる二人の視線を感じながらバラゴは変化した魔戒剣・牙狼剣を握り締める。
互いににらみ合うように目線を絡めるガロとハンプティであったが先にハンプティが仕掛けた。
大きく左手を振り上げると生き良いよくガロに向かって振り下ろすがガロはそれをかわし高く飛ぶと落下の加速を合わせて剣を振るいダメ押しとばかりに数発の蹴りを食らわせる。
その蹴りによって後ろに倒れるハンプティと悠然と着地するガロ。
だがガロの激しい攻撃でもハンプティの装甲は破れなかった。
再び立ちあがったハンプティはガロに向かって歩み始める。
それに対してガロも次の一手を打つべく前方に何かの文様を描くと迫りくるハンプティごと袈裟切りを放つ。
その瞬間強力な斬撃を放ちハンプティを吹き飛ばす。
そしてガロの方も大きな変化があった。
雄々しい嘶きを上げる魔導馬・轟天に跨っていた。

「僕達は夢を見ているのか・・・」

あまりの変化にクライドの口から漏れる言葉にリンディは答える事は出来ず事態を把握出来ない二人を余所に事態はそのまま推移していった。
再び放たれるハンプティの炸裂弾を牙狼剣で防いだガロは轟天の腹を蹴り轟天を走らせる。
瞬く間に風のように駆ける轟天の上で牙狼剣を構えるガロはそのままハンプティに襲い掛かる。
それを迎え撃とうとハンプティは左手を振り下ろす。
だが轟天ごと高らかに飛び上がりそれを回避すると蹄を滑らせながら牙狼剣を振るい剣戟を食らわせる。
しかしその攻撃は装甲によって防がれる。
足の止まった轟天に向かって右手を振るうが先程と同じように飛んで回避すると今度はその右手の上に降りると轟天は後ろ脚の強烈な蹴りを食らわせ再びハンプティを倒すとその反動で距離を取り蹄を滑らせアスファルトに轍を刻みながらハンプティに向き直る。

「相変わらず固い奴だぜ。」

「だが手はある。」

ザルバの愚痴に凛々しく答えるバラゴはゆっくりと剣を右横に伸ばす。
すると轟天が前足を大きく上がると生き良いよく振り下ろす。

「きゃ!!」

響き渡る蹄音と共に放たれる強い衝撃波に身を震わせるリンディの悲鳴が出るもクライドの目にはまた新たな変化が写っていた。
右横に伸ばした牙狼剣が蹄音の響きを受けるように輝くとガロの身の丈はある巨大な剣・牙狼斬馬剣に変化する。
その剣を肩に担ぐように持つと轟天の腹を蹴る。
それ答えるように轟天は立ちあがりかけているハンプティに襲い掛かるとその馬上でガロは担いだ牙狼斬馬剣を振り下ろす。
その剣はハンプティ自慢の強固な装甲をまるでバターのように易々を切り裂く。
それによって消滅するハンプティを背後に悠然と轟天は先程と同じように轍を刻みながらそこに剣の轍を加えてドリフトしながら止まる。
一瞬の静寂の後にガロの鎧と轟天を光が包みそこには白いコートをはためかせる男性が立っていた。

「あの、その・・・た、助かりました。」

「いえ、自分はただ使命を果しただけですよ。」

事態が終息したのを見届けたクライドとリンディは白いコートの男性・バラゴに近づき礼を述べる。
それに対してバラゴは二人を安心させるような優しげな笑みを向けるのだった。
これがバラゴとハラオウン夫婦との初めての邂逅だった。

・・・・・・・・・・

「夫はある事件で亡くなりましたが、今こうしてクロノと生きていられるのはバラゴさんのおかげなんです。」

「そうだったんですか。あれ、でもそれだけの出会いなら魔戒騎士の事については・・・」

リンディから語られたユーノの父バラゴの魔戒騎士としての戦いの話。
その事に改めて父の偉大さを感じていたユーノであったここで疑問に思う事があった。
魔戒騎士はホラー狩る者でありその姿を人目に見せる事はない。
基本的にはホラーを狩るとき一般人はいなし例え居たとしてもその人物の記憶を消したり戦闘が始まる前に逃がしたり最悪の場合は命を奪うこともある。
だからこそ魔戒騎士の事を知っている人間は限られる。
その事を聞こうとしたユーノにザルバはカタカタと笑いリンディは照れ笑いとも苦笑ともとれる顔で答えた。

「実は・・・私その時に産気づいたんですよ。」

「えっ!?」

そうその時バラゴはいつものように何も言わずに去るつもりだった。
だがバラゴが去ろうとする瞬間いきなりリンディが産気づいたのだ。
元々臨月であった上にホラーとの遭遇によるストレスが陣痛を誘発したのだろうが痛みで動くことが出来ないリンディにあまりの事態に思考が追いつかないクライドだけを残してはさすがにバラゴも去る事は出来なかった。

「だからバラゴは動揺するクライドを落ち着かせ動けなったリンディを病院に連れていったという訳だ。あの時のクライドの顔は今思い出しても笑えるぜ。」

「もうザルバさん!いい加減に忘れて下さい!」

再び思い出話に浸る二人を見つめながらユーノは納得した。
おそらくそれが縁で交流を持つようになったのだろう。

「じゃあそれが縁で・・・」

「ええ。頻繁には会わなかったんですが折を見ては何度か。覚えてないと思いますがクロノも会ったことがありますし夫の方はもう少し会っていたと思います。」

会話が切れた所を見計らい質問するユーノにリンディは肯定で返しその事を思い出しながら話すが「でも」と言った瞬間暗い顔をする。
その様子に戸惑うユーノにリンディはゆっくりと語り始める。

「でも、あるロストロギアの事件で夫が亡くなってからは疎遠になりクロノが5歳になる頃には会わなくなっていました。」

「・・・そうですか・・・」

部屋の中に重い空気が流れるがそれを破ったのは意外にもユーノであった。

「それで僕を呼びとめた理由は?単に思い出話をする為ではないんですよね?」

そのユーノの言葉に頷きで返したリンディはすっかり冷めてしまったお茶を飲む。
その苦味に顔を顰めるがそこには苦味以外の感情も含んでいた。

「単刀直入に言います。ユーノ君、この件から手を引きなさい。」

リンディは真剣な表情でそう切り出す。
その言葉に驚きの表情を浮かべるユーノであるがリンディはそれに構うことなく言葉を続ける。

「魔戒騎士の使命は知っています。本来なら子供であるあなたには重すぎる使命だと思いますがそれがあなたの選んだ道なら止めません。だからこそ魔戒騎士の道を歩んで行きなさい。なのはさんのことは私が悪いようにはしませんから。」

「ユーノ、リンディの言う通りだ。ここいらで俺たちは闇の中に戻るべきだと思うぞ。」

「うん・・・」

二人の説得に押し黙るユーノ。
さすがに二人の意見はユーノにとっては渡りに船だ。
魔戒騎士の事を知るリンディが協力してくれるなら自分の事を記録から消すこともできるだろうしなのはの事も任せる事ができる。
しかしどれだけ頭では納得できてもなぜかユーノはそれを承諾できなかった。

「・・・明日まで待ってもらえますか?」

ユーノの口から出たのは保留の言葉。
その言葉にリンディは頷くとそのままユーノを連れて部屋を出るのであった。

・・・・・・・・・・

その日の夜ユーノは高町家の道場で剣を振るっていた。
考えるのはこれからの身の振り方。

「僕は如何したら良いんだ?」

力なく垂れる腕と共に出る言葉。
すでになのははフェイトと話をする為に管理局に協力することを決めており夕食の後桃子に話をすると言っていた。
だが対するユーノは全く考えがまとまっていなかった。
普段ならここでザルバが声をかける所だが今はユーノの部屋に居る。
一人で考えをまとめたいと離れてみたが一向に思考が答えにたどりつくことはなかった。

「クソ!!」

「荒れているなユーノ君。」

珍しく悪態をつくユーノに声をかけたのは士郎だった。
突然現れた士郎に驚きの表情をするユーノに士郎はゆっくりと近づく。

「何か悩みごとかい?俺に相談できることなら乗るが?」

「・・・・・・実は・・・・・」

士郎の言葉にしばらく考えたユーノはポツポツと今回の事を話始めた。
もちろん魔戒騎士のことは伏せ一族の使命としたが。

「そうか。それは悩むことだな。」

「・・・はい。」

共に道場の床に座りユーノの相談を聞く士郎。
語り終えたユーノに士郎は父親として眼差しを向けて自分の考えを語り始めた。

「だがもしかしたらもう答えは出ているのかもしれないぞ。」

「えっ・・・」

士郎の言葉に再び驚きの表情をするユーノにゆっくりと話を続ける。

「確かにユーノ君の言う使命も大事だろう。でもねそんなことはロボットにでも出来ることだ。だけど俺たちは人間だ。そして人間は頭で考えるよりも心で感じたままに行動することもある。それがたとえ使命や義務からかけ離れたことでも。」

「でもそんなことってあるんですか?」

士郎の言葉にユーノは率直な疑問をぶつける。
そんなユーノの言葉に笑みを浮かべ士郎は答えた。

「あるさ。現に俺も経験したことだ。」

「それって・・・」

ユーノに答えるように士郎は正面を向いてその時の事を語り始める。

「俺が昔SPのような事をしていたことは知ってるね。」

士郎の言葉に頷きで返すユーノを横目で見ながら士郎は続ける。

「あれは俺がSPとして働き始めてまだ日が浅かった頃だ。その日俺は先輩達と一緒にある要人の警護をしていた。特に問題はなく警護を終えるはずだった。しかし最後の最後で要人に恨みを持つ人物が現れ銃を乱射したんだ。俺はすぐに要人を守ろうとしたんだがその時一人の女性が目に入った。その瞬間俺は要人ではなくその女性を守ったんだ。幾つか銃弾を食らったけど。その後先輩達から怒られたけど今でもその判断は間違っていないと思っているよ。」

その士郎の話にユーノは言葉を失う。
もしもこれが自分だったらどうしただろうか?
やはり要人を守ったと思うがその時ユーノの脳裏ではその女性がなのはに思えてしまった。
そんな自分の考えを振りほどくように頭を振るうと士郎に目を向ける。

「でもそれは・・・」

「そう、使命に反する事だ。でもさっきも言っただろう人はロボットじゃない。人は心で動くんだ。だからこそ時には心で感じたままに行動してみると案外うまくいくものだよ。」

その士郎の言葉を聞いた時ユーノは目の前に立ち込めた霧が晴れていくような感覚を感じていた。
そんなユーノの様子を見つめていた士郎はおもむろに立ち上がるとそのまま出入り口に向かっていった。

「ユーノ君そろそろ行こうか。桃子特製のハンバーグが出来る頃だしな。」

「あ、あの!」

一度出入り口の前で振り返りユーノを呼んだ士郎にユーノが声を上げる。
先程の士郎の言葉で悩みは晴れたが少し気になることがあった。

「さっき話した女性ってどうなったんですか!?」

そう士郎が守った女性の事だ。
先程の士郎の話の中で自分が銃弾を受けたと言っていた。
そうしたらその女性も銃弾を受けた可能性もある。
たった一発の銃弾でも命を奪う事が出来るのだからもしかしたらと思ったのだ。
そんなユーノの言葉に士郎は優しい微笑みを浮かべて答えた。

「そうだな、きっと特製のハンバーグを作って俺達を待っていると思うぞ。」

そのまま出ていく士郎の言葉を聞きながらユーノはここしばらくみせる事がなかった笑顔を浮かべていた。
ユーノは生き良いよく立ち上がると父から譲り受けた魔戒剣を抜き放つと意識することなくいつもの構えを取る。
その構えには今までよりも強い何かが秘められていた。

・・・・・・・・・・

翌日、なのはとフェイトが戦った臨海公園にクロノは居た。
昨日の約束どうりこの件についての答えを聞く為にユーノとなのはを待っているのだ。
その様子をアースラのモニターで見守るリンディ達。
その時腕を組み目を閉じていたクロノの耳に足音が届く。
そちらの方に目を向けるクロノの目に映ったのは私服姿にリュックを背負ったなのはの姿であった。

「その姿から察するに君はこの件から手を引く気はないんだな?」

僅かに息を切らせクロノの傍まで来たなのはにクロノは執務官としての厳しい目を向けるがそれを正面から受け止めたなのはは昨日考えて出した答えを口に出す。

「私、やっぱりフェイトちゃんとちゃんと話がしたいんです。だからどうかお手伝いさせて下さい!」

「分かった。ただしこちらの指示には必ず従う事。それと無茶はしない事。この二つのことを約束できるね?」

「はい!!」

なのはの申し出を受けたクロノはなのはの協力を認める決定をしそれをなのはに告げる。
それに満面の笑みを浮かべるなのはにモニターから見守るリンディはクロノ共々アースラに帰還するように指示する。
それに応じるクロノであったがそれをなのはが遮った。

「あのユーノくんはもう来てますか?朝、家を出る時には居なかったんですけど?」

「いや、彼は来てないが?」

「えっ?」

ユーノの行方を尋ねるなのはにクロノは正直に答えた。
予定の時間より早めにここで待っていたがなのは以外来ていない。
そのことで困惑するなのはにリンディは語りかける。

「たぶんユーノ君は他にやるべき事があるのよ。だから件から手を引いたんだと思うわ。でも彼も分まであなたの事はしっかりとサポートするから安心して。」

「はい・・・」

リンディの優しい言葉を聞き少しの寂しさを感じながらもクロノと共にアースラに転移しようとするなのはだがその時一つの足音が響く。

「あっ・・・」

振り向いたなのはの瞳に映ったのは朝焼けの光を浴びながら白いコートを颯爽と揺らしながら歩くユーノの姿。
何時も見ている姿であるはずなのに昨日とは違う力強さを秘めた彼の姿になのはは今までユーノに感じた以上に胸が高鳴るのを感じた。

(あれ、何で私、ユーノくんにこんなにドキドキしてるんだろう?もしかして私、ユーノくんに恋してるのかな?)

そう思った瞬間なのはは顔が真っ赤になるほど赤面していた。

「なのは、顔赤いけど大丈夫?」

「ふぇ!!な、なな何でもないよユーノくん!!全っ然、大丈夫だよ!!!」

呆けている間に近くにまで来ていたユーノに顔を覗きこまれて慌てふためくなのはに怪訝そうな表情をするユーノ。
なのはが自分の気持ちに気付き始めていた頃クロノを初めとするアースラのブリッジクルーは昨日とは違うユーノの姿に驚いていた。
昨日見たときも普通の少年とは違うと感じてたがなのははフェイトといった魔導師の影に隠れていた彼の存在にこの時全員が気付く事になる。
そんな中ただ一人彼の正体を知るリンディはモニターを繋げユーノと話をしようとしていた。

「ユーノ君、これがあなたの答えなの?」

突然現れたモニターに僅かに驚くユーノであるがモニター越しに映るリンディの真剣な眼差しを受け止めたユーノは毅然とした態度で答える。

「はい。これが僕の答えです。」

「使命に反する事になるわよ。もしかしたら罰を受ける事も・・・」

「分かっています。でも今は使命ではなく僕自身の心に従います。」

ユーノの堂々とした姿になのはは再び見惚れクロノを初めとするアースラのクルーもこの少年の姿に感嘆の息を飲む。
そして彼の覚悟を見届けたリンディは一度目を瞑り息を吐く。

(まったく魔戒騎士っていうのは私達の想像を遥かに超えているわね。)

心中でそんな風に吐露したリンディは艦長としてユーノに向き直る。

「わかりました。ではユーノ・スクライア君の本案件への協力の申請を承諾します。」

「ありがとうございます!」

リンディの形式張った言葉に答えるユーノ。
そのユーノの毅然とした言葉を朝の公園の清涼な空気に溶けていくのだった。

使命と心。眼前に並んだ二つの道。小さな魔戒騎士は心を選んだ。その決断が彼の者に一体何を齎すのか。それは剣のみが知っている。


**********


「実を言うと俺はあんまり海が好きじゃないんだ錆びちまうからな。
だが多くの人間は海が好きなはずだ。
でもこれだけ荒れているとよほどの馬鹿でもためらうはずだ。

次回・海上決戦

しかし、本当に無茶なことばかりするな、フェイトは。」



[27221] 第十話 海上決戦
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 23:44
第十話 海上決戦


「行け~疾風のごとく~宿命の剣士よ~闇にまぎれて~」

ミッドチルダの番犬所に響く歌声。
まるで鈴のような澄んだその声の主はこの番犬所の神官であるアリスであった。
ムメイがこの地を去って数日が経つが特に変わった事はなかった。
強いて上げるなら魔戒騎士の昼間の活動のお陰でホラーの出現数が少なかったぐらいだろう。

「わ~ずかな~安らぎさえうち捨てた~誓いだけど~立て!修羅の「アリスさん、なにしてるんですか?」ってわぁ!!」

気持ちよく歌っていたアリスの目の前に突然現れるモニターに映るのは三提督の一人であるミゼット。
突然現れたミゼットに驚いたアリスはロッキングチェアから無様にも滑り落ちてしまう。

「い、いきなり何よ!!私をショック死させる気!!!」

普段はのほほんとしたアリスだがたまには声を荒げる事もあるが今はどちらかといえば照れ隠しに近い。
そんなアリスの姿にミゼットは怖がる事も無く僅かに嘆息しながら話を続ける。

「以前頼まれた事の報告をと思いまして・・・。その前に隠さなくてもいいんでしょうか
・・・」

「えっ、あ、あああ・・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

そのミゼットの言葉にアリスはようやく自分の今の姿を冷静に見る事ができた。
滑り落ちたことでワンピース状の神官の服がアリスのお腹の半ばまで捲り上がったことで白い神官の服に隠されたアリスのシミのない瑞々しい肌が番犬所の中を照らす月光のような淡い光に映し出される。
さらにまだ十歳程の少女の姿であるアリスには不釣り合いな程の黒いレースをあしらった過激なショーツがミゼットの目に飛び込んできた。
慌てて服を直すアリスを見つめながらミゼットは今日の報告が自分で良かったと思った。
これがラルゴやレオーネならおそらくアリスが回復するまでに数日はかかっただろう。
遥か古の時代から人外の化け物であるホラーとの戦いに身を投じ多くの魔戒騎士を統率し外部との交渉を行ってきたアリスの指揮能力や政治的手腕は同様の存在と比べるとはるかに上である。
しかしその外見から分かるように十歳の時から終ることのない戦いをしてきたアリスにとって色恋といったものに対しては無垢を通り越して無知であるためその手の免疫が全くない。

(自分の幸せを捨て闇を切り裂く存在。それが魔戒騎士。頭では分かっていてもやはり心苦しいわね。)

「ではミゼット、報告を聞かせてくれるかしら?」

アリスが服を整える間、魔戒騎士の事を考えていたミゼットはアリスの声で思考をアリスに向ける。
まだ若干顔が赤いものの普段の状態に戻ったアリスに以前頼まれたプレシアについての事を報告する。
もっともアリスもムメイとの話である程度のことは知っていたし何よりも使い魔リニスの日記からプレシアが最後に行っていた研究も分かっているため調査よりも確認に近かった。

「アリスさんから頂いた情報の裏が取れました。やはり実験を行っていたようです。」

「そう。じゃやっぱり・・・」

「はい。プレシア・テスタロッサが最後に行っていた研究は記憶転写型特殊クローン技術。プロジェクトF.A.T.Eでした。やはり事故で亡くなった娘を生き返らせたかったのでしょうね。」

「死んだ者は生き返らない。それが万物の摂理であり真理。そして残された者はその者を思いながら前に進んでいくしかなっていうのにね。」

ミゼットの報告を聞く二人の間に重い空気が流れる。
互いにプレシアに対して思う事はあるのだろう。
だがその沈黙をアリスが破る。

「まぁその事については後々考えるとして、行方の方は分かったかしら?もし
分かったのなら早速ムー君に連絡したいんだけど?」

「あ、はい。調べてみると幾つか目撃情報がありました。もっとも目撃されているのは少女の方でプレシア自体の目撃情報は皆無ですね。その少女の目撃情報もここしばらくはないようです。」

「あっちゃー、それはまずいかな。早いとこ居場所見つけないと手遅れになっちゃうよ。」

焦っているように見えないアリスにミゼットは報告する寸前に届いた件(くだん)の少女・フェイトの現在の居場所を告げる。

「その事なんですが。実はアリスさんに連絡する直前にある次元航行部隊からの定期連絡に情報と合致する少女の事がありました。

「それは本当~?でどこの部隊?どの世界?」

ミゼットの言葉に特に驚いた風もなくに答えるアリスであるが次の瞬間、アリスはモニターにかぶりつく事になる。

「ロストロギア・ジュエルシード回収の任務に就いている次元航行船アースラの部隊です。目的世界は第97管理外世界・地球。確か艦長はリンディ・ハラウオンだったと思いますが・・・ってアリスさん顔が近いです!」

モニターいっぱいに映るアリスの顔に今度はミゼットが腰を引くがそれに構わず真剣な目線をアリスはミゼットに向ける。

「本当に間違いないのね?」

「は、はい・・・」

何時にも無く真剣なアリスの表情に押し黙るミゼットを余所にアリスはミゼットの答えを聞くと腕を組み口元に指をもっていくと深くロッキングチェアに腰掛ける。

(まさか此処まで関係者が集まるなんてね・・・本当に厄介だわ。・・・・・・よしここはひとつ手を打っておきましょうか。)

「あのアリスさんいっ「ミーちゃん少し頼まれてくれるかいしら?」あ、はい・・・」

ミゼットの言葉を遮ったアリスは構わず頼み事をミゼットに行う。
それをどこか疲れた様子で受けるミゼットにアリスは考えた案を告げた。

「ねえミーちゃん。悪いんだけどあなたの権限で私がいう人物を特別民間協力者として登録してくれるかしら?」

「それは構いませんが一体なぜ?」

「ちょっとね。 “こっち側”にも関係することが起きているみたいだから手を打っておこうと思ったの。」

「こっち側って・・・」

アリスの言葉にミゼットは気が抜けていた体に力が入る。
アリスが言うこっち側とは詰まるところ魔戒騎士に関係することになる。
一体なにが起きているのか分かないミゼットが顔を固くするがそれに気付いたアリスが優しく微笑みながら語りかける。

「大丈夫。下手をすると管理局の局員と鉢合わせする可能性があるからその時にあなたが任命した特別民間協力者だったら無用な混乱を避けられるでしょう?承認して欲しいのはムメイっていう魔戒騎士よ。」

アリスの言葉に納得し息を吐くミゼット。
確かに定期報告を聞く限りだとすでにフェイトと呼ばれる少女はアースラのメンバーから重要参考人として認識されている。
そこに少女に会いに来たという人物が現れれば警戒するに違いないがその人物が三提督から特別民間協力者としての権限を持っていれば特に混乱は起きないだろう。
早速ミゼットは書類と証明用のデバイスの準備を始める。
アリスが見守る中ものの数分で用意できたデバイスが転送魔法でアリスの元に届く。

「では諸々のことはこちらでしておきますのでそのデバイスをムメイさんに渡してもらえますか?」

「OK!じゃまた連絡するからそれまで元気でいなさいね♪」

アリスの言葉に頷きで返したミゼットがモニターを消す。
再び一人だけになったアリスは転送されたデバイスに目をやる。
一般的なカード状のデバイスに管理局のシンボルマークが施されたものである。
そのデバイスを手に握りながらロッキングチェアのすぐそばにあるテーブルに置いてある鈴を鳴らす。
するとそれを聞きつけたメイド服の女性が現れる。

「それをすぐにムメイの所へ。」

「・・・・・・・。」

女性はアリスから無言でデバイスを受け取ると音もなく後ろに下がる。
それを見送ったアリスはただこの事件が無事に終わることを祈りながらゆっくりと瞼を閉じるのだった。

・・・・・・・・・・

辺りを結界で封鎖した林の中に一匹の鳥が居た。
だがその大きさは尋常ではなかった。
五m以上ある巨大な翼を広げ動かすたびに辺りは暴風のごとき風が襲う。
だがその風の波を超え巨大な怪鳥に向かって桜色の光弾が迫るが怪鳥は素早く上空に舞い上がる。

「ユーノくん、行ったよ!!」

「分かった!!」

地上から桜色の光弾を操っていたなのはは上空で待機していたパートナーであるユーノに合図を送る。
それに返事をしたユーノは飛行魔法で浮き飛んできた怪鳥を見つめながらゆっくりと右手を上げるとそこには今までなかった透明な五角形の石が嵌め込まれた銀のブレスレットがあった。

「行くよ、シリウス。」

《Yes master》

ユーノの声に答えたのはザルバではなく落ち着いた男性の声。
その声こそユーノが管理局に協力を申し出た際にリンディが渡したインテリジェントデバイス・シリウスである。
ユーノの魔力光である翡翠色の輝きがデバイスを包む。
次の瞬間、ユーノが腕を振り下ろすとユーノの手には一本の刀剣があった。
真っ直ぐで細長い両刃に鋭い刃先、全体的に十字架を模した姿。
唯一刀身の根元に機械的な部分があるがこの世界で日本の日本刀と並ぶほどの知名度がある西洋のロングソードとほとんど同じデザインをした剣があった。
ユーノは展開した新たな刃であるシリウスを普段通りの構えで構えるとすでに目と鼻の先にまで飛翔してきた怪鳥に向かって一気に近づく。
それに気付いた怪鳥は再び翼を広げるとユーノに向かって翼を振るう。
すると無数の羽根がまるで的を射る鏃の雨のごとく降り注ぐがユーノは冷静にシリウスを振るい自分に刺さるであろう羽根のみを弾き飛ばす。
そのまま怪鳥の懐まで進んだユーノはそのままのスピードを落とさずに居合抜きのような姿で剣を構えると生き良いよく怪鳥の左首を切る。

「ギャアアアアアっ!!!」

悲鳴を上げる怪鳥だがそれに目もくれることなくユーノは右廻れのように向きながらポケットから一つの弾丸を取り出す。

「シリウス。」

《Yes master》

互いに一言だけであるが何をしたいのか理解している一人と一機は流れる動作で作業を行う。
シリウスの唯一の機械部分が刃先に向かって小さくスライドするとそこに現れた空洞部にユーノは取り出した弾丸を装填する。
装填されると再び機械部分がスライドし弾丸を取り込む。
一連の動作を終えたユーノは怪鳥に向き直るとシリウスを掲げる。

「カートリッジロード!!」

《Explosion》

ユーノの命にすぐさま答えるシリウスは弾丸-カートリッジ-に込められた魔力を解放する。
すると翡翠の輝きが刀身を覆っていく。
まるでエメラルドで出来ているのではないかと錯覚するほどの輝きを持った刀身が出来あがるとユーノはいつもと同じ構えをとり間髪入れず怪鳥に迫るとその刀身を深々と突き刺す。

「ジュエルシード封印!!」

《Ceiling》

迸る魔力が怪鳥の中心部で暴走していたジュエルシードを封印していく。
なのはやフェイトよりも緻密な魔法陣はまるで悪夢でうなされた幼子を慰める母の子守唄のように優しく包み込んでいく。
瞬く間に封印が完了すると辺りには静寂が訪れた。
ユーノは封印されたジュエルシードを左手に掴むとゆっくりと地上に降りる。

「お疲れ様、シリウス。」

《Thank you master》

シリウスに向かって労いの声をかけるユーノに短く答えるシリウス。
その時ユーノの耳に草を踏み締める音が響く。

「ユーノくん、お疲れ様!すっごくかっこよかった!!」

僅かに頬を上気させて駆け寄ってきたなのはがユーノと同じように労いの声をかけるとユーノも微笑を浮かべ返事をする。
するとなのははさらに頬を赤くした。
その様子に疑問を持ったユーノがなのはに問いかけようとするがそれを遮るようにモニターが現れる。

「お疲れ様、ユーノ君、なのはちゃん。今、ゲートを開くからそこで待っててね。」

ランディの言葉に返事をする二人をブリッジのモニターで見守るクルー。
その中で艦長であるリンディが声を上がる。

「それにしても二人とも凄いわね、このまま管理局に欲しいぐらいだわ。・・・まぁなのはさんはともかくユーノ君は有り得ないでしょうけど・・・」

「そうですね艦長。あの時は驚きましたけど試作機とはいえカートリッジシステムを積んだデバイスを此処まで使いこなせるユーノの実力となのはの魔導師としての才能は素晴らしいと思います。」

リンディが告げた言葉に同意するクロノであるが小さく告げた後半の部分には気付いていないようであった。
その事を特に気に留めることなくリンディはモニターに注目する。
そのモニターの中ではランディが開いたゲートの中に二人が消えていく瞬間であった。

・・・・・・・・・・

ユーノとなのはがアースラに移ってからしばらく経った頃、ある湖の畔にバリアジャケットを展開したフェイトと獣姿のアルフが居た。
アースラの協力で順調にジュエルシードを集めているユーノ達とは対照的にあれから一つしか手に入れていないフェイト達は焦っていた。

「ここも空振りみたいだねフェイト。やっぱり向こうに気付かれないように探すのは無理だよ。」

「でももう少し頑張ろうアルフ。」

「分かってるけどさ、でもやっぱり「逃げた方が良いっていうのかしら・・・」あんた・・・。」

フェイトを何とか説得しようとするアルフの言葉を遮ったのは謎の美女・エルダであった。

「・・・何の用でしょうかエルダさん・・・。」

まさかこの世界で会うとは思っていなかったエルダの登場に狼狽するフェイトにプレシアと同等の敵対意識をもつアルフは眉間に皺をよせ何時でも飛びかかれるように四肢に力を込める。
そんな二人の目線を受けながらも何も感じていないかのようにエルダは湖に近づく。

「たまには外の空気を吸いたいと思って来ただけだけど・・・ついに管理局が動き出したのね。・・・そしてアルフは逃げた方が良いと思っていると・・・」

「そ、そうだよ。」

ゆっくりと湖の傍で膝を折り右手を水の中に入れ水の感触を楽しむように軽く手を動かしながらアルフに問いかける。
その言葉に若干身構えながら答えるアルフ。
今、目の前にいる人物はプレシアに協力している者だ。
もし自分達が逃げ出そうとしていると思われそれをプレシアに知らせればフェイトに厳しい折檻が待っているはずだ。
それを阻止するために今ここでこの女性を倒さなければいけないと考えたアルフは飛びかかろうとするがそれを止めるようにエルダの声が響く。

「確かに管理局という巨大な組織が動き出した場合素直に自首するか逃げるしかないわね・・・」

「えっ?」

その言葉にアルフは疑問の声を漏らす。
言った言葉ではなくそれを言った人物がそれを言うはずがないと思っていたからだ。
現にフェイトも驚きの表情をしている。
そのまま掌で水をすくうとそれを口元に持っていき喉を鳴らしながら飲む。

「ふっ・・・。あなた達二人なら無事に逃げる事は出来るでしょう。私も捕まるようなヘマはしないわ・・・。」

そこで言葉を切るエルダに二人の注目が集まる。
それ感じながら僅かに微笑を浮かべながら言葉を紡ぐ。
氷のような微笑を浮かべて・・・

「でも・・・プレシアはどうかしら?・・・」

「!?」

その言葉にフェイトははっと息を飲むがそれに反論したのはアルフであった。

「何言ってんだい!あいつは大魔導師って呼ばれてたんだろう!!だったら何とかできるはずだ!!?」

「確かに以前の彼女ならね・・・」

アルフの激昂とも呼べる反論にエルダが答えるがそこに何か不吉な含みがあった。

「・・・以前はって?あの何があったんですか?」

その言葉にフェイトの意識が集中する。
それに答えるようにいつの間にか立ち上がっていたエルダはフェイトに近づくと優しくフェイトの両肩に手を置く。
その手の冷たさに鳥肌が立つフェイトであるが次の瞬間、心が凍りつく感覚をフェイトは感じた。

「プレシアは不治の病なの・・・現代の医学では治せないね・・・。でも、ロストロギアの力を借りればもしかしたら・・・・」

「治るんですか!?」

普段のフェイトからは想像出来ない程の大声。
それを悠然と受け止めたエルダは軽く頷く。

「だからこそ・・・残りのジュエルシードを見つけないとね・・・・。」

「でも・・・残りが何処にあるか分からなくて・・・。」

「私に一つ案があるわ・・・。乗ってみる?・・・・」

「・・・はい!」

僅かな躊躇いの後強く頷くフェイトにエルダは深く笑みを作る。
しかしその笑みは作りもののようであった。
その様子を見つめるアルフはなぜか背中が冷えていくような感触を感じていた。
それは彼女の元になった狼の部分である野生の本能が感じていたのかもしれない。
何か不吉な事が起こることを・・・・

・・・・・・・・・・

フェイト達が湖で話をしていた頃、ユーノは一人でアースラのデバイスルームに来ていた。

「失礼します・・・・」

恐るおそるデバイスルームの扉を開け中に入るユーノ。
辺りは薄暗く機器から漏れる明かりだけが部屋の中を照らしていた。

「セシルさん、いないのかな?」

「本人が呼んだんだ、どっかに居るはずだろう。」

目当ての人物が見当たらず困惑するユーノに答えるザルバの言葉が終わると同時に何かが崩れ落ちる音が響く。
慌てて音の元に駆けつけるユーノが見たのは小高いガラクタの山からお尻だけを付き出しうめき声を上げる女性の姿だった。

「セシルさん!」

急いで女性を山から引きずり出すユーノ。
その様子をただ見つめることしかできないザルバはただ呆れるだけだった。

・・・・・・・・・・

「ゴメンね、ユーノ君。」

数分後、山から引きずり出された女性は照れながらユーノに感謝の言葉を述べる。
セシル・シャトーブリアン。
このアースラ所属のデバイスマスターである。
デバイスに関しては超一流の才能を持ちクロノを含むアースラ所属の魔導師達のデバイス調整を一手に引き受けアースラに来てすぐの整備の際に複雑な機構をもつインテリジェントデバイスであるレイジングハートのシステムをものの一時間程で把握し完璧に整備してみせた。
それだけの才能を持つ彼女であるがそのかわり私生活は壊滅的で現に今の格好は皺だらけの白衣と管理局の制服にそれだけで自慢出来るであろう銀髪もボサボサの上に枝毛が目立ち眼鏡の奥に輝く蒼い目の周りには目ヤニが幾つもある。
また作業に集中すると食事を抜きがちのため細く華奢な肢体は年頃の少女達から見ても羨ましいとは思われないだろう。

「それで僕を呼んだ理由は何ですか?」

普通なら目を背けるであろうセシルの格好であるがここ数日の間で人柄を知ったユーノには特に問題はなかった。
それよりもこの後なのはと一緒におやつを食べると約束しているユーノには早く用事を済ましてしまいたいと思っているのであった。
そんなユーノにセシルは「ゴメンね」と言って謝ると作業台の上をガサガサと探すとゆっくりとユーノに振り向く。

「はい。整備が終わったからあなたに返そうと思って。」

そう言ってユーノに向かって伸ばしたセシルの掌には先のジュエルシードの暴走体との戦闘でユーノが使用したデバイスであった。

試作式カートリッジシステム搭載型インテリジェントデバイス・シリウス

天才・セシルが研究しているカートリッジシステムの実験機であるこの機体は彼女が今までに制作したインテリジェントデバイスの中で最も強度があるアームドタイプであったシリウスを使用しているのだが戦闘スタイルの違いから長らく実践データが取れずにいた。
そんな時に近接戦闘主体と魔戒騎士としての事情を鑑みてリンディの提案からユーノが使用することになったのだ。
そんな経緯があり以降の戦闘ではユーノの刃として使われているのだが試作式でありなおかつ情報収集を主軸にしているため安全性を考慮して一発ずつの手動による装填と整備兼戦闘データの収集のため戦闘毎に整備が必要なのであった。

「でもこのデバイスは元々管理局の物で何ですから厳密には・・・」

《いえ、我が主は貴方様ただ一人です。》

セシルの自分に返すという言葉を聞きそれを訂正しようとするユーノの言葉を遮ったのはセシルの掌にあるデバイス・シリウスだった。

《確かに私は管理局の技術者によって開発されましたが私の能力を十二分に発揮できる魔導師はいませんでした。しかし貴方様は初めて私を起動させてすぐにその性能の全てを使いこなした・・・》

そこで一旦言葉を切ったシリウスは万感の思いを込めて言葉を放つ。

《ですから貴方様が私の主なのです。My master!》

「・・・・」

シリウスの思いに言葉を失うユーノ。
確かにユーノの魔導師として部分はシリウスを自分のデバイスにしたいと思っている。
一介の魔導師が使うデバイスは安価な簡易タイプのストレージデバイスである。
だが今手を伸ばせば自分のデバイスになりたいと言っているデバイスがそれもテストタイプとはいえカートリッジシステムを搭載したインテリジェントデバイスがあるのである。
普通なら即OKの話だがユーノにはその件を承諾出来ない事情があった。
そう魔戒騎士のことである。
魔戒騎士が戦うホラーは万物すべての物に憑依する。
もしも自分を慕ってくれるこのデバイスがホラーとの戦いの最中に陰我を纏う事があったらと思いとユーノは首を縦に振ることが出来ずにいたのだ。

「ユーノ君。」

その声にシリウスに向いていた目線をセシルに向けるユーノを迎えたのはセシルの笑顔だった。

「ねぇユーノ君。あなたが何かの事情でこの子を受け取ることを拒んでいるのはなんとなくだけど分かるわ。でもね道具ってのは作られた目的の為に使われることが一番の幸福なの。この子はずっと待っていたわ。自分の使いこなせてくれる人が現れることを。」

まるで優しく子供に語りかける母親のようなセシルの声音がデバイスルームに響く。

「だからこそこの子の思いを汲んでくれないかしら?」

セシルの言葉を聞き一人と一機の思いを感じるユーノであるがやはりすぐに答えを出す事は出来なかった。

「・・・この事件が解決するまで待ってくれませんか?やっぱりすぐには。」

「分かったわ。でも今はこの子の力は必要でしょう?」

ユーノの言葉に落胆する風もなく笑顔で頷くセシルはあらためてユーノにシリウスを差し出す。
対するユーノも少し躊躇いながらシリウスを受け取ると右手首にはめる。
その時二人の間にモニターが表示される。

「ユーノ君、今すぐブリッジに来てくれる!?フェイトちゃん達が無茶な事をはじめたの!!」

いきなりの言葉に一瞬驚くユーノだがすぐさま足を踏み出す。

「ちょっと待ってユーノ君!?」

セシルの声を無視しながらユーノは瞬く間に白い疾風になって駆けていくのであった。

・・・・・・・・・・

アースラブリッジ。
そこにある大型モニターに映るのは海鳴市近くの海の上。
普段なら穏やかな風景が広がるそこは今、正しく嵐の様相を呈していた。
幾つも空に向かって立つ竜巻に辺りに荒々しく照らす稲妻。
それがユーノがブリッジにかけ込んで目に飛び込んできた映像である。

「なんちゅう無茶を・・・。あのフェイトってガキ死ぬ気か!」

同じくその光景を見たザルバが的確に状況を言い表す。
その嵐の中をまるで木の葉ように弄ばれるフェイト。
海が近い海鳴市でジュエルシードの幾つかは海にあると予想しておそらく大量の魔力を消費する儀式魔法を使用しジュエルシードを強制発動し発動したジュエルシードを封印しようとする腹積もりなのだろうがそんなことすでに一人の魔力の限界を超えている。

「私すぐに現場に・・・!」

「その必要はないよ。」

先に来ていたなのはが弄ばれるフェイトを見てすぐに助けに行こうとするがそれをクロノが止める。
クロノのいや今その場にいるクルーの全員がフェイトの自滅をもしくは容易に捕獲することを考えていたのだ。

「私達は常に最善の選択をしなければいけないわ。残酷に見えるでしょうけどこれが現実よ。」

「・・・・」

リンディの台詞に言葉を失うなのはをユーノはただ見つめることしかできなかった。
確かにクロノの言葉は正しい。
しかしなのはの心情も理解できる。
どうしようかとユーノが悩み辺りにモニターからの音が流れるブリッジに明確にクロノの意見に反対する声が響く。

「本当にそれが最善でしょうか?」

その言葉に一同が振り向くとそこにいたのは肩で息をする白衣の少女。

「セシル!」

エイミィが代表でその少女の名を口にする。
セシルは呼吸を整えながらゆっくりとリンディに近づく。

「どうゆう意味かしら?セシル・シャトーブリアン。」

セシルに対して艦長としての問いかけるリンディに同じくセシルも局員として答える。

「確かに一般的な観点から見た場合クロノ執務官の案が最善だと思われますが今回、回収の対象になっているロストロギアは次元干渉型です。以前高町なのは民間協力者と重要参考人であるフェイト氏の魔力がぶつかった際に小規模の次元震が発生しました。今回はその時よりも多くの魔力が近くに存在し尚且つ複数個のジュエルシードがあると思われます。もし暴走でも起きたら次元震どころか次元断層すら起きる可能性があります。」

セシルの言葉に辺りの緊張が一気に高まる。
対象の確保を優先するあまり一番重要な事を失念していた。
そう考えるリンディはクロノに目を向ける。
同じく失念していた事を悔やむクロノが悔しそうに顔を歪めるがすぐさま執務官としての顔を取り戻すとリンディに顔を向ける。
その目から意思を汲み取るとリンディはなのは、ユーノに目線を向ける。

「セシル技術官の言う通りですね。分かりました。なのはさん、ユーノ君。すぐに現場に向かってくれるかしら?」

「はい!」

「わかりました。」

リンディの言葉に笑顔で答えるなのはと真剣な表情で頷くユーノはそのままブリッジある転送装置から現場へと飛ぶ。
それを見送るリンディは再び正面に向き直る。
不測の事態に備えて。

・・・・・・・・・・

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

荒い息を吐くフェイトの姿を見守りながらアルフはエルダが提案したこの作戦の事を考えていた。
確かにジュエルシードはあると思うがその捜索方法は無茶無謀と呼ぶしかなかった。
だがフェイトはその作戦をすぐに承諾したのだ。

(やっぱりフェイトでもこの作戦は無茶だ!でもそれがフェイトの選んだ道なら私は全力でサポートするだけだ!!)

その時アルフとフェイトは雲の向こうに巨大な魔力が現れるのを感じた。
その魔力は二人が良く知るあの白い魔導師のものであった。
そこを注視する二人の視界に雲の切れ間から漏れる光に照らされてゆっくりと降りてくるなのはの姿が映った。

「この、邪魔をするなぁぁぁぁ!!」

邪魔をしにきたと思ったアルフがなのはに襲い掛かるがその間に展開される翡翠の魔法陣がアルフの足を止める。

「違う。僕達は戦いに来たんじゃない!」

「ユーノくん!」

「なのははフェイトの所に。急いでジュエルシードの封印を。」

アルフに戦闘の意思がない事を手短に話すユーノはなのはにフェイトの所に行くように促すと大きく頷き両足に煌めく桜色の羽根を羽ばたかせフェイトの傍に近寄る。

「フェイトちゃん力を貸して。一緒にジュエルシードの封印を。」

「・・・・」

敵だと認識しているなのはからの共闘に戸惑うフェイトだがなのははフェイトの戸惑いを無視して自身の魔力の一部を渡す。

「二人できっちり半分個だよ。」

デバイスをしっかりと構えるなのはの姿にさらに戸惑うフェイトだがすでに使い魔とデバイスは彼女の答えを理解していた。

「ユーノくんとアルフさんが止めてくれている。今のうちに。」

その言葉でフェイトは辺りに目をやると荒れ狂う竜巻に翡翠とオレンジ色の鎖が絡みつく。

「二人で一緒にせーので封印!」

《canon mode》

なのはの言葉に形を変えるレイジングハート。
その様子にまだどうすべきか悩むフェイトに最後のひと押しを閃光の戦斧たるバルディッシュが押す。

《Glaive Form》

「バルディッシュ・・・」

自分の命なく形を変えるバルディッシュに僅かに驚くがただ無言でそれに答えるバルディッシュ。
その姿に自分の気持ちを確かめるようにフェイトがなのはに顔を向けるとなのはは可愛らしくウインクして答える。
その姿に気持ちを決めたフェイトが飛び上がるのを視界に入れながら足元に魔法陣を展開するなのは。

「ディバインバスターのフルパワーいけるね?」

《All light my master》

なのはの問いかけに静かに答えるレイジングハート。
そのままレイジングハートと振り下ろしさらに魔法陣を広げるなのは。
同じく金色の魔法陣を展開するフェイトとともに強力な砲撃魔法を起動させる。
二人の元に集まる桜と金の輝きが最大限に高まった時なのはの声が響く。

「せーのっ!!」

「サンダー・・・・」

なのはの声にデバイスを振るいトリガーボイスを口にするフェイト。

「ディバイン・・・」

同じくトリガーボイスを言うなのは。
そして運命の時を迎える。

「レイジィィィィッ!!」

「バスターァァァァァッ!!

共に放たれる言葉と共に放たれる桜と金の閃光は荒れ狂う竜巻にぶつかりその内に秘めた力を解き放つ。
膨大な魔力が暴れまわるジュエルシードを強制的に封印しそのエネルギーの余波が爆風となり辺りを襲う。
暫くしてようやく余波が納まった頃状況を観測していたエイミィが表示される情報を読み上げる。

「ジュエルシード、六個すべて封印確認しました。」

「な、なんちゅう出鱈目な・・・」

「でも凄いわ・・・」

「ほんとですね・・・」

その情報となのは、フェイトの魔力に呆気にとられるクロノ、リンディ、セシルがそれぞれ自身の感想を口にする。
そんなことがアースラで話されているとは知らない現場ではようやく普段の静けさを取り戻した海の上でなのはとフェイトが向き合っていた。
その二人の間に封印されたジュエルシードが現れる。
本来ならそのままジュエルシードを持ち去るであろうフェイトは何故かそうせずなのはの顔を見つめていた。
そのまま僅かな時間が流れる。
辺りにはただ優しく波音が響くだけ。
その静けさを破ったのはなのはだった。

「私、やっと分かったの・・・」

そこで一旦言葉を切るなのはを応援するように雲の切れ目から光が溢れる。
その光を感じながらなのはは真摯な眼差しをフェイトに向け胸に溢れる思いを口にする。

「友達に、なりたいんだ。」

その言葉に目を見開き驚くフェイト。
そしてその様子を見守るユーノとアルフ。
心穏やかな空気が流れるその場を突然切り裂く者が現れた。

「なのは、フェイト、逃げろ!!」

逸早く気付いたザルバがこれでもかという程の大声で二人に忠告するが突然のことで対処出来ない二人を突然現れた黒い影が蹴り飛ばす。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「くっ!!」

そのまま蹴り飛ばされるなのはと辛うじて防御したフェイトだがそれぞれジュエルシードから遠く離されてしまう。

「なのは!!」

「フェイト!!」

飛ばされるなのはを急いで受け止めるユーノと遠く離された場所で踏みとどまるフェイトの元に駆けつけるアルフ。

「大丈夫?なのは。」

「うん。でも一体何が起きたの?」

状況を把握しきれないユーノとなのはの耳に届く声があった。

「どうゆうつもりだい、エルダ!」

怒号ともとれる声に身を震わせるなのはを優しく抱きしめるユーノが見たのは死の雰囲気を纏った美女であった。
アルフからの怒りの声を聞きながらも特に感じたふうもなく冷たい笑みを浮かべるエルダは何も映していないようなガラスのような瞳をユーノ達に向けながらゆっくりと言葉を放つ。

「どうもこうもないわ。作戦通りでしょう?フェイト、あなたのお母さんはこれで救われるわ。あとは私に、任せておきなさい。」

「エルダさん・・・」

エルダの言葉に戸惑いながら答える二人の会話から気になる言葉を聞くユーノであるが今はそれよりもジュエルシードの奪還が最優先だ。
そう思い抱きとめたなのはを静かに離すと一歩出るようにエルダに近づく。

「そのロストロギアを渡して貰えますか?」

静かなしかし有無を言わせない威圧感が籠ったユーノの言葉をやはり何ともないように受け流すエルダはユーノの問いに恭しく答える。

「私としてはお返ししても宜しいのですがそちらにいるフェイトの母親がどうしても欲しておりまして。ですが時が来たら必ずやお返ししますわ・・・」

そう言うとエルダは懐から数枚の不可思議な文字のようなものが書かれた紙を取り出す。
その札を見た瞬間ザルバをこの女の正体に気付く。

「!?お前、魔戒導師か!?」

その言葉にユーノがザルバに目をやるがエルダはただ冷たい微笑を浮かべたまま取り出した紙を辺りにばら撒く。
次の瞬間、そのばら撒かれた紙が光るとそこには黒い頭巾に黒い服の一般的な忍装束を身に纏った集団がいた。
その様子に驚くユーノ達だがそれに目をくれずエルダは腕を振るい集団に命を下す。
すると集団はどこからともなく小太刀を抜き放つと一斉にユーノ達に襲い掛かる。

「っ!」

すぐさまシリウスを起動させ忍装束の一人を切り結ぶと背後にいるなのはに声をかける。

「なのは、シールドを張るんだ!!」

「う、うん!!」

ユーノの言葉にすぐさま従いシールドを張るなのは。
同じくフェイト達もシールドを張り忍装束からの攻撃を防ぐ。
それを確認したユーノは切り結んだ相手の小太刀を弾き逆袈裟切りで倒すとエルダに向かおうとするがそれよりも早く再び数名の忍装束がその行く手を塞ぐ。
その相手に手こずるユーノを尻目にエルダは悠々と何処かへ飛んでいく。

「待て!」

大声を出すユーノであるがエルダはそれを無視してそのままその姿を消す。
なんとかその後を追おうとするユーノだが依然として忍装束の者たちが行く手を塞ぐ。
彼らの力は弱くユーノの振るうシリウスの刃の一撃で沈んでいくが如何せん数が多くユーノは攻めあぐねていた。

「このままじゃジリ貧だ!」

「ユーノ!!」

忍装束からの攻撃に対して苛立ちの声を上げた時ユーノの名前を呼ぶ声が耳に届くと共に青白い魔力弾がユーノの周りにいた者たちを貫き倒す。
そのままユーノの背後に舞い降りるのはバリアジャケットを纏ったクロノであった。

「クロノ!?どうして?」

「状況から見て人手がいると思ってね。それとセシルからの伝言がある。」

「伝言?」

突然のクロノの登場に驚くユーノだがクロノはその驚きを無視し周辺に居る忍装束の輩に魔力弾を放ちながら優秀な技術者からの伝言を伝える。

「あぁ、君の戦闘データから今のモードとは違う二つのモードを試験的に組み込んだらしい。起動と魔法使用に二つのカートリッジが必要だがこの現状を打破するにはそれしか手がない。それと奴らは魔力が高い者や近くに居る者に反応して攻撃をするそうだ。その特性を使って戦ってくれ。」

そこで言葉を切り襲い掛かってきた忍装束の攻撃を左手に展開したラウンドシールドで受け止め右手のS2Uで叩き伏せる。

「時間は僕が稼ぐ。君は起動を!」

「わかった!」

クロノの言葉に答えたユーノは懐から二発の弾丸を取り出すとすでに展開されているシリウスに目線を送る。

「いくよ、シリウス。」

《Yes master》

ユーノの言葉に即座に返事を返すシリウスの声を聞きながら弾丸を鍔元に持っていく。
スライドした部分にまず一発目の弾丸を装填するとすぐさまシリウスが取り込み再び機械部分がスライドする。
その際に排出される薬莢に目もくれず二発目を装填するとユーノはシリウスを前方に持ってきて水平にすると命を下した。

「シリウス、モード2」

《All light Mode2 set up》

その瞬間シリウスは翡翠の輝きに包まれその光が晴れるとそこには姿の変わったシリウスを握るユーノの姿があった。
単純に二つのロングソードを繋げただけのシリウスの姿だがユーノの身の丈を優に超えるその姿はそれだけで周りに威圧感を与えるがユーノは悠然とシリウスを肩に担ぐ。

「クロノ、なのは達を頼む。」

「ああ、君も気をつけろよ。」

短く言葉を交わすと二人はそれぞれの役割を果たす為飛び立つ。
クロノを見送ったユーノは目を瞑りカートリッジによって増幅された魔力の流れを感じていた。
その魔力を感じながら頭の中でゆっくりと術式を組み上げると閉じていた目を開き左手を振り下ろす。
その瞬間ユーノの足元に緻密で繊細なしかし今まで以上の輝きを放つ魔法陣が展開される。

「くっ!」

「大丈夫か?ユーノ。」

自身の許容以上の魔力の行使に顔を歪めるユーノに声をかけるザルバの問いに小さく頷く事で返すとその魔力に反応し殺到する忍装束を鋭く睨みつける。
そしてゆっくりと呪文を唱える。

「妙なる響き光となれ。双剣が奏でるは戦いの旋律。」

その呪文に従うように鈍い鋼色だった刀身が前回の時よりもより鮮やかにより強く翡翠色に輝く。
そしてその輝きが頂点に達して時、最後の言葉を静かに紡いだ。

「ストライクワルツ。」

その言葉と同時に肩に担いだシリウスを一度、背面に振るうと生き良いよく回転させながら頭上に持ってくる。
そしてその回転を維持しながら迫りくる忍装束の者たちその刃を振り下ろす。
その剣戟は翡翠色の半月状の刃となって縦横無尽に飛び交う。
その刃で次々と落とされる忍装束の者達。
この刃の正体はユーノが使用できる魔法の中で唯一の射撃魔法であるシュートバレットであるが本来は誘導弾の一種であるものの申し訳程度の曲がるほどで威力も弾速も低く貫通力もないがカートリッジで増幅した魔力と剣戟の速度が加わることで必殺の一撃へと昇華したのだ。

「す、すごい・・・」

その様子を見つめるなのはの口から感嘆の息が漏れる。
それはそこに居たすべての者の心情を言い表していた。
いままで自分達を襲っていた忍装束の者をまるで羽虫を払うかのような光景は確かに称賛に値するだろう。
そしてその翡翠の刃達の円舞曲は静かな余韻を残して幕を閉じた。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

「ユーノくん、大丈夫?」

荒い息を吐くユーノにシールドを解除して近づくなのはだが突如悲痛な声を上げる。

「ユーノくん、後ろ!!」

なのはの目に映ったのはユーノの背後から斬りかからんとする最後の忍装束の姿。
日光に煌めく禍々し白刃がユーノの背中に吸い込まれる様子をなのはは見る事が出来ず強く目と閉じる。
なのはの頭の中には背中を切られたユーノの光景が想像されていたがその想像を破るように声が響く。

「安心しろ、なのは。」

ザルバの声にゆっくりと目を開くなのはが見たのはその襲撃を予知していたように背後を振り向かず悠然とシリウスで敵を刺し貫いていたユーノの姿があった。

「僕を倒したかったらもっとうまく気配を消すんだね。」

その言葉と共にシリウスを引き抜き優雅に振ると背後で消えていく忍装束の者の事を無視しながらシリウスを待機状態に戻すユーノ。
一連の動作にただ見惚れていたなのはだが彼女の前でユーノの膝が折れた。

「っ!ユーノくん!!」

そのまま墜ちそうになるユーノを正面から抱きとめたなのはの耳にユーノの声が聞こえた。

「ゴメンねなのは・・・暫くこのままでも・・いいかな・・・・?」

「う、うん。」

ユーノの申し出に顔を赤くしながらも答えるなのは。
その様子を眺めていたフェイトとアルフに問いかける声が響いた。

「以前も自己紹介したがアースラ所属管理局執務官・クロノ・ハラオウンだ。今度はちゃんと付いてきてもらうよ。」

クロノの姿に身構えるフェイトとアルフだがすでに周りには青白い魔力弾が二人を取り囲んでいた。
その様子に諦めたのだろうかバルディッシュを待機状態に戻すフェイトにそれにならって拳を下ろすアルフ。
その姿に小さく息を吐くクロノ。
その吐息の音がこの海原を舞台に繰り広げられた戦いの終幕の鐘となった。

小さな魔戒騎士が新たに手にするは天狼の名を冠した剣。その剣が放つ輝きは強く優しく小さな魔戒騎士を照らし続けん。


**********


「全ての始まりはたった一つの悲劇。
取り戻したいと思うは小さな幸せ。
深い愛に身を削る愚かな母親が見る世界とは。

次回・想い出

だったら思い出してやれよ、娘との最後の約束を。」



[27221] 第十一話 想い出
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/03/09 14:07
第十一話 想い出


ユーノ達がエルダからの攻撃にさらされていた時、プレシア達を探していたムメイはとある次元世界を訪れていた。
眼下に街並みを望む高台に佇むムメイ。
懐から魔導火を蓄えたライターと取り出すと蓋を開き火を燈す。
揺らめく白い炎にムメイが小さく息を吹きかけると数個の小さな火の玉になり街に飛んでいく。
その様子を見送りながらライターの蓋を閉じ魔導火を消す。

「ここで見つかると良いな、ムメイ。」

ドラゴの言葉通り見つかれば良いがおそらく此処には居ないだろうとムメイは考えていた。
リニスの日記から最大の手掛かりは時の庭園だと考えたムメイ。
その理由はあれだけ大規模なものを運営・維持するためには大なり小なり物資がいる。
現に隠蔽をされていたがその痕跡はすぐに見つける事が出来た。
その流れを辿り幾つもの場所を回って最後に辿りついたのがこの世界なのだがここでプレシア達、正確にはフェイトが目撃されたのは二カ月ほど前でありいない確率の方が高かった。
暫く時間だけが流れる。
その間ムメイは火の玉が飛んでいった街を眺めていたがその視界に小さく火の玉が映ると懐から丸い掌サイズの鏡を取り出す。

魔導鏡

魔導具の一種で法術によって様々な情景を映しだす事が出来、術者によっては魔界や冥界といった全く異なる世界をも見る事が出来る魔導具である。
その魔導鏡の面の上で戻ってきた火の玉が弾ける。
するとその火の玉が映してきたであろう景色が鏡に映し出された。
綺麗に整えられた街並みは歴史を感じるもので地球でいうならイギリスやフランスの田舎町といった雰囲気を醸し出している。
そこで生活しているであろう人々の顔にも笑顔が溢れ笑い声が絶えないでいた。
その様子は長年魔戒騎士をしてきたムメイにとって心温かくなるものであるが目当ての少女がいなければ意味がない。
その後も戻ってくる火の玉を同様の方法で見ていくがフェイトの姿を捉える事は出来ないでいた。
そして最後の火の玉を見終わるとムメイは落胆の溜息を零した。

「どうすんだムメイ。これで手掛かりがなくなったぞ。」

「・・・・」

ドラゴの言葉通り此処で手掛かりは途絶える事になる。
こうなると次元世界を手当たり次第に探すくらいしか方法がないがそれはあまりにも非効率である。
そんなことを考えていたムメイだが何かを感じると口元を綻ばせる。

「感謝するアリス。」

ムメイが言葉を紡いだ瞬間突風が吹く。
その突風の中勢いよく右手を横に真っ直ぐ伸ばす。
唐突に起きた風は同じように一瞬でやむ。
そんな中真っ直ぐに伸ばした右手の人差指と中指に挟まれるように赤い封筒があった。
それを目の前に持ってくるムメイ。

「指令か?」

「いやアリスからの情報だ。」

赤い封筒、正確には番犬所からの指令が書かれ魔導火で燃やす事で魔導文字が現れるのだが今回はそのような術は施されていなかった。
普通の手紙と同じように封を解き中身を取り出すと出てきたのは表面に管理局のマークが施されたカード状の簡易デバイスであった。
早速起動させるムメイの正面に空中のディスプレイにアリスの姿が現れた。

『ヤッホー!ムー君。元気でやってる?多分行き詰ってると思ったからミーちゃんに頼んでこっちでも調べてみたの。そしたら居場所がわかったからムー君に伝えるね。場所は第97管理外世界・地球。今ユー君がいる世界であの子たちもジュエルシードを探しているみたいなの。早速だけど行ってくれる?良い知らせが届くのを待ってるね。
PS 念の為にミーちゃんの権限で特別民間協力者にしといたからうまく使ってね。じゃバイバーイ!」

「・・・あのばーさん、元気だね。」

おそらくは記録した映像情報が再生されただけなのであろうがアリスの早口ながらしっかりと耳に届く声に呆れるドラゴ。
そんな長年の相棒の様子を見ながらムメイは踵を返し歩き始める。
居場所が分かったのらここに居続ける理由はない。
それにここから地球までは通常の次元船では一週間から十日ほど。
転移魔法でもやはりそれぐらいかかってしまう。
だが魔戒騎士のみが使える方法を使えば三日ほどで行くことが出来る。

「やっぱり魔戒道を通っていくのか?」

ドラゴの言葉に頷きで返すムメイ。

魔戒道

各次元世界を結ぶ道で法術によって特殊な異界を作りだしその距離を縮め僅かな時間で行ききするための道である。
現に地球・ミッドチルダ間にある魔戒道ならものの数分で行くことが出来るのだ。
そのまま歩を進めるムメイの前に大樹が現れる。
人間よりも遥かな時間を刻んできたであろうその大樹にムメイは止まることなく歩を進める。
そのままぶつかると思った瞬間、空間が揺らめきムメイの姿が消える。
そうこの大樹は魔戒道の出入り口になっているのだ。
上下左右を古めかしい石で造られその石を照らす松明が等間隔で並んだ大人三人が並んで歩ける程の大きさをした道。
各次元世界を繋ぐ魔戒道をムメイは悠然と歩く。
だがその歩調は徐々に早くなっていき最終的には全力で走っていった。

・・・・・・・・・

上空に展開された二重結界の中、訓練用レイヤーによって作られた高層ビル群。
その谷間を駆けるのは桜と金の輝き。
その様子をロングコートをはためかせながらユーノは静かに見守る。
傍らにはフェイトの使い魔であるアルフが心配そうに二色の軌跡を目で追う。
そしてその様子はモニター越しにアースラにいるクロノ、リンディ、エイミィ達クルーの面々が見つめる。
それらの視線を感じながらなのははフェイトと戦う経緯を思い出していた。

・・・・・・・・・・

海上での戦いから一夜明けたアースラの廊下を私服姿のなのはがある場所を目指して歩いていた。

「今からあのフェイトってガキに会いに行くんだよな?」

「そうだよザルバさん。」

質問に答えるなのはだが質問したザルバの声は何故かなのはの右手から聞こえた。
そしていつもならなのはの傍に居るはずのユーノの姿も見えない。
代わりになのはの肩には一匹のフェレットがいた。
優しげな蜂蜜色の体毛に翠の瞳。
どこかユーノを思わせるフェレットから何故か声が聞こえた。

「それでなのははフェイトに会ってどうするの?」

その声の響きはユーノのそれ。
何故このフェレットからユーノの声が聞こえてきたかというと理由は簡単、このフェレットがユーノだからである。
元々ユーノの魔力量はなのはやフェイトはもちろんクロノよりも低い。
さらにはこの地球の大気中の魔力素の量が低いことやユーノがこの世界の大気との相性が悪い所為で回復することが難しい。
それがどうしてフェレットの姿をしている事に関係するのかというと単純にこの姿の方が回復しやすいのである。
そのため先の戦いから戻ってすぐにこの姿に変身したのである。
余談であるが初めてこの姿のユーノを見たなのはは想いをよせる相手の愛らしい姿に興奮し強く抱きしめ頬擦りした結果ユーノを気絶させてしまったという恥ずかしいエピソードがあったりするのだった。
だがそれから数時間もしないうちに現状に慣れた二人は今のスタイルに落ち着いたのだった。
それはともかくユーノの言葉に歩を止めたなのはは静かに自分の考えを口にした。

「・・・ちゃんとお話して友達になりたい。」

「・・・・・」

その言葉に込められた強い意思を感じたユーノはただ静かになのはの頬に小さな前足を優しく添える。
その微かな温もりを感じて知らず緊張していたなのはは優しい笑みを浮かべる。
そのまま足を進めていたなのはの目に現在フェイトが拘束されている部屋の扉とその前に佇むクロノの姿が映る。
クロノの方もなのはが来た事をみとめると執務官としてなのはを見る。

「君の頼み通りフェイトと話は出来るが時間は十分だ。悪いがそれ以上は艦長も許可できないそうだ。それでもかな?」

「うん。ありがとうクロノ君。」

クロノの言葉に礼を述べたなのははザルバ、フェレット姿のユーノと共にフェイトのいる部屋に入る。
そのなのは達を迎えたのは手錠をかけられ白い質素な服、一般的な囚人服に身を包みベットに腰掛けるフェイト。
その側にはそのフェイトの肩を優しく抱くアルフの姿もあった。

「・・・・・」

「・・・・・」

互いに見つめ合うも言葉を発することなく沈黙がその部屋を支配する。
このまま時間だけが経つのかと思われた時ザルバがその沈黙を破った。

「本来ならここで自己紹介でもするんだろうが、まぁお互い知らない仲じゃないから省略しよう。」

そこで言葉切ったザルバはゆっくりとだが有無言わせない響きを込めて口を開く。

「単刀直入に言おう。何故ジュエルシードを探していた?」

ザルバの言葉に顔を伏せ答えようとしないフェイトにザルバの後を継ぐようになのはが言葉を紡ぐ。

「お願いフェイトちゃん。私達に出来ることだったら教えて。友達が困ってたら助けてあげたいの!だから・・・」

そのまま小さくなるなのはの言葉だがフェイトは逆に軽く目を見開く。
今、目の前にいるこの少女は自分のことを友達だと言ってくれた。
その言葉に心が揺れたのであろうフェイトは静かに理由を話始めた。

「私には母さんがいる・・・私にとって一番大切な人・・・でも今・・不治の病で・・・・それを治すにはもう・・・ロストロギア・・・・・・ジュエルシードの力がいる・・・だから。」

フェイトが話した理由になのは、ユーノは息を飲む。
だが逆にザルバはその事について考えを巡らせる。
確かにジュエルシードは願いを叶える輝石であると言われてきたが実際は次元干渉型のロストロギアでありかなり不安定な物質である。
そうザルバが思考しているなかフェイトがなのはの目をしっかりと見て喋る。
心中の事を吐露した事で気か軽くなったのであろう。

「君から友達になりたいと言われた時、正直自分の気持ちよくわからなかった。でもゆっくり考える時間があったから、今はなんとなくだけど分かる。」

そう言うとゆっくりと立ち上がりなのはを見つめる。

「嬉しかったんだと思う。」

「じゃあ!!」

「でも・・・」

その言葉に笑みを浮かべるなのはを毅然とした様子で遮るフェイト。
見つめる目線にさらに力がくわえる。

「私は母さんの娘だから。母さんを助けるまでは・・・」

言い切ったフェイトの目には依然あった哀しみの色よりも確固たる決意の炎があった。
それを感じ取ったなのはは自分の気持ちと向き合おうように瞼を閉じる。
そしてゆっくりと目を開くとなのはの目にもフェイトと同じような決意の色が見て取れた。

「そうだね。きっかけはジュエルシード。だから賭けよう互いのジュエルシード全部。」

なのはの言葉にユーノ・ザルバ・アルフもこの二人の決意を感じ取る。

「それからだね、それから。私達の全てはまだ始まってもいないから。本当の自分を始める為の最初で最後の本気の勝負を。」

なのはの言葉にただ頷きだけで返すフェイト。
こうして本当の自分の始めるための二人の戦いの火ぶたが切って落とされるのであった。

・・・・・・・・・・

時は戻りその二日後、ビルの谷間を高速で飛びまわりながらドッグフェイトを繰り返すなのはとフェイト。
時にはぶつかり合い、時には離れ互いの魔法を打ち合うその姿は僅か9歳の少女には見えない。
だがその内に秘める想いの強さは本物。
譲れる想いが届けたい気持ちがあるからなのはとフェイトは今こうしてぶつかっているのだろう。
その二人の様子を見つめながら元の姿に戻ったユーノがザルバと話をしていた。

「しかし凄いな。フェイトはともかく、なのはは魔法を知って一カ月も経ってないだろうに。」

「それだけフェイトに伝えたい事があるんだよ。」

近くでなのはの魔法の練習を見守ってきたユーノの言葉に何処となく喜びの響きが加わっていたがそれもすぐになりをひそめ別の事に頭が切り替わる。

「でも本当にザルバの言う通りなのかな?」

「分からん。フェイトが嘘を言っているようには思えない。だがどうも引っかかってな。」

ザルバの言った事それはジュエルシードを集める本当の理由が別にあると言う事である。
二日前フェイトと対面した後なのはには内緒で語ったことであるのだがユーノはその内容に半信半疑であった。

「でもどうしてザルバはそう思ったの?」

「まぁとどのつまり、勘だ。」

「何それ。」

ザルバの答えに肩を落とすユーノ。
対するザルバも勘と言いながら実のところそう思った理由はいくつかある。
その最大の理由はフェイトに対する母・プレシアの態度だ。
現代医学では治る見込みのない不治の病をロストロギアを使って治療するというのは魔法文化の世界で育った者ならすぐに思い付くだろう。
だとしても危険なロストロギア捜索を十歳にも満たない娘に捜索させるだろうか?
それなら残された僅かな時間をその娘の為に使おうとするのが母親の性(さが)ではないだろうか?
そう思うザルバだからこそプレシアとフェイトの関係が母子ではなく主従というよりも物を扱うように見えてしまうのだ。
そしてそうまでしてジュエルシードを集めているプレシアが全てのジュエルシードが手に入るこの最大のチャンスを見逃すとも思えない。

「ユーノ、クロノにはちゃんと伝えてくれたか?」

「うん、しっかりとね・・・」

そう考えたザルバはユーノを通じてクロノにこの戦いを注意して見てほしいと頼んでいたのであった。
クロノの方も思うところがあったらしくその申し出をすぐに受け入れてくれた。

(そういえばどこぞの魔女が言ってたな。「この世に偶然などない。在るのは必然だけ」ってな。もしかしたらこのなのはとフェイトの戦いも起きるべくして起きたのかな?)

「フェイト、それは・・!?」

柄にもなく思考の海に沈むザルバであるがアルフの声で現実に引き戻される。

「おいおい、やり過ぎだろう・・・」

そんな言葉と共にザルバが見たのはフェイトの設置型バインドに拘束されたなのはと高密度に圧縮した貫通射撃弾を自身の周囲に多数展開したフェイトの姿であった。

・・・・・・・・・・

《Lightning Bind complete》

「ありがとう、バルディッシュ。」

愛機に短く礼を述べるたフェイトは真っ直ぐになのはを見つめる。
そのままバルディッシュをゆっくりと持ち上げる。
今から放つこの魔法は今だ未完成であるがフェイトはなのはに勝つ為にこの切り札をきった。
そんなフェイトの心中には母親の為という考えはなかった。
あるのはただ純粋に目の前にいる白い魔導師に勝ちたい思いという事だけ。
だからこそ今まで実践で使った事がない、だが大切な先生から教えられた最強の魔法を何の躊躇いもなく使用したのだ。

「いくよリニス。」

小さく響くその声は同じくその先生によって作られた閃光の戦斧だけが聞いていた。

「撃ち・・・・砕けぇぇぇぇぇぇ!!!!」

今まで出したこともないような大声を上げると勢いよくバルディッシュを振り下ろす。

「フォトンランサーファランクスシフト!!」

トリガーボイスと共になのはに殺到する無数の雷撃の鏃は寸分違わずなのはの身に突きささる。

「くっ!レイジングハート!?」

《All light master》

対するなのはも愛杖と共に桜色の障壁を幾つか生み出すと正しく槍の雨と呼ぶに相応しいその魔法に耐える。
そのまま約4秒間、計1064発の射撃を受け煙に覆われるなのはに向かってフェイトは最後の一撃を与える為に右手を掲げるとそこに金色の光が集う。
集った光はフェイトの身の丈の数倍はある槍が形成される。

「・・・スパーク・・・」

形成されたその槍をフェイトは全身の力をかき集めて投擲する。

「・・・エンド・・・」

投擲された槍を追うようにビルの下に広がる偽物の海が割れ巨大な波を生む。
その波を引き連れた雷電の神槍はフェイトの言葉通りなのはに終焉を与えるべく射線上のものを粉砕しながら突き進む。
そしてついに運命の時を迎える。
煙の中に吸い込まれたその槍は巨大な爆発を起こし辺りにあった海を陥没させビルを粉砕し轟音を撒き散らせた。
その轟音が止むと辺りには雷電の残り香たる僅かな音が響く。
そこに新たに加わるのはフェイトの荒い息遣い。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

その音をバックにグレイブフォームであったバルディッシュも基本形態であるアックスフォームに戻る。

「これはなのはの負けか」

疑問形でありながら確定の色を含んだザルバの言葉がユーノの耳に届く。
おそらく今この光景を見ている者はフェイトの勝利を確信しているのであろう。
同様にフェイトも残心しながら心中では自身の勝利を確信していた。
だがそれを覆すようにユーノが口を開く。

「そうだね、この勝負・・・」

ユーノの言葉と共に晴れていく煙。
その煙の中から一つの人影が現れる。

「なのはの勝ちだ!」

その言葉が示す通り現れた人影はなのはであった。
所々焼け焦げ破けているバリアジャケットを身に纏っているがその瞳にはまだ闘志が燃え盛っていた。

「いけるね、レイジングハート。」

《All light canon mode 》

なのははゆっくりとフェイトにカノンモードに変更したレイジングハートを向ける。
対するフェイトも黙ってはいない。
今まで出したこともないような戦う意思を込めた雄叫びを上げなのはを襲撃しようとするが突如フェイトの四肢の内左手を残して自分の意思に反して止まる。

「っ!?バインド!!」

それに一瞬疑問に思うもすぐ正体に気付く。
思った通りそこには桜色に輝く輪が絡みついていた。
何時されたのかと考えを巡らせ使用された瞬間に行きつくがその思考を断ち切るように膨大な魔力が集まっていくのをフェイトは感じた。
そちらに目をやるとバインドよりもさらに鮮やかな桜色の光があった。
フェイトの視線を感じながらなのはもレイジングハートから展開されたトリガーを力強く握り言葉と共にその引き金を引く。

「ディバイン・・・・バスターァァァァァァァァァ!!」

放たれる閃光はフェイトが投擲した洗練された槍とは違い太く大きな大砲であった。
瞬時にラウンドシールド展開しその閃光の奔流に耐えるフェイト。
グローブは破けマントの端も所々千切れていく。
それでもフェイトは耐えた。
ただ純粋にあの子に勝つ為に。
永遠とも思える一瞬が終わるとフェイトは安堵の息をつく。
僅かに感じた背中の異変に背後を見ると先程の砲撃で飛ばされた自身のマントが魔力素に戻りながら水面へと落ちていった。
その時もう一つの異変に気付く。
辺りに散っていた魔力素が上空へと上っているのだ。
それに頭をひねろうとしたフェイトだがその答えはすぐに出た。
自分を照らす眩い桜色の煌めき。
恐るおそる上を見ると新しい星の輝きがそこにあった。
近くにいるアルフやモニター越しにその光景を見ていたクロノが驚くなかその切り札をしるユーノは小さく微笑む。

《starlight breaker》

口火を切るようにレイジングハートがその魔法名を口にする。
その正体は砲撃魔導師の最上級技能である魔力集束を使用した集束砲撃魔法である。
この戦闘で周辺にはなのはとフェイトの魔力が散っている。
それら全てをかき集めたこの一撃はまさしくなのはの最後の切り札であった。

「レイジングハートと一緒に考えた戦術の全て。最後の切り札。」

その言葉に従うように成長していく桜色の光球。

「受けてみて、これが私の全力全開!」

限界まで膨れ上がったその光はまるで超新星のようにも見てた。
その様子を見つめていたフェイトもただではやられない。
キッとその輝きを睨みつけると咽がつぶれるのではないかと錯覚するほどの雄叫びを上げる。

「ウァァァァァァァァァァ!!!!??」

雄叫びを叩きつけるように展開される複数のラウンドシールド。
そこにむかってなのはも切り札を切った。

「スターライト・・・・ブレイカーァァァァァァァァァァァ!!」

主の命を受け放たれたそれはもはや砲撃と呼べる代物ではなった。
例えるなら桜色の流星。
辺りに存在しているビルもその余波によって破壊されていく。
そしてその中心に居るフェイトもまた展開したシールドを薄紙のように破壊され桜色の流星に吹き飛ばされる。
だがその奔流は止まることなく突き進み海中に突き刺さると隕石が衝突したような衝撃を辺りに撒き散らし周辺を桜色に染めていった。
その様子を落ちながら見ていたフェイトだがその意識は朦朧をしていた。
あれだけの魔力を非殺傷とはいえ浴びれば意識が刈り取られるのは自明の理。
そんな朦朧とする意識の中でフェイトが見たのは幼い頃母と一緒に行ったピクニックの光景だった。

・・・・・・・・・・

優しい日の光に生命達が歓喜していると思うほど穏やかな日。
とある草原に一組の母子がいた。
シートを敷きその上に広げられたランチボックスには見るからに食欲をそそる料理が所狭しと詰められていた。
手作りであろうサンドウィッチに瑞々しい果物の数々。
他にも子供が喜びそうなものが沢山あった。
それを取り分けるのは黒髪の美しい女性。
向かい合うのは金髪をツインテールにした赤い目の幼子。
顔を綻ばせ口いっぱいに料理を頬張る幼子を愛情が込められた眼差しで見つめる女性。
そんな静かな時間が流れるなかふと女性が口を開く。

「そうだわ。今度の誕生日何か欲しいものは在るかしら?母さん頑張って用意するから。」

突然の母の言葉に一瞬きょとんとした幼子は次の瞬間には一生懸命考え始めた。
その様子を先程ほどと同じように見つめる女性。
ここ暫く仕事が忙しくまともに娘との時間が取れずにいた女性はせめて今度の誕生日にはうんと奮発したプレゼントを考えていたのだ。
そんな母の考えなど分かるはずもない幼子はしばらく考えた後満面の笑みを浮かべて答えを口にした。

「あのねママ。私・・・・・」

その瞬間風が吹き幼子の声をかき消すが母の耳にはしっかりと届いていた。
しかしその答えは母にとって驚くものであった。
頬に朱が差しどう答えようかと戸惑う母に構わず幼子は母にお願いする。

「ね?お願いママ?」

そんな娘の姿に先程の戸惑いは綺麗に消え去り優しい微笑みを浮かべ小指を出す。

「分かったわ。約束ね?」

「うん!約束!!」

そうして母子は小指を絡める。
その約束が果たされるようにと強く優しく結ばれるのであった。

・・・・・・・・・・

「約束・・・ってなんだったかしら?」

弱々しく口にするのは時の庭園の主であるプレシア。
もたれるように椅子に座るプレシアの前には一つのモニターがあった。
そこに映るのは倒壊したビルの壁面に座るなのはとその側に寝かされたフェイトの姿であった。
だがその光景までの様子がプレシアの記憶にはなかった。

「私は如何したのかしら?」

その疑問に答えるように端からエルダが現れる。

「戦闘が始まってすぐに意識を失ったのよ。あなた此処の所碌に寝てないでしょ?」

「関係ないわ。それで結果は?」

「見たままよ。」

「そう。」

僅かにプレシアを案じる言葉を放つエルダだがそこには一片の情など込められてはいなかった。
そんなことを気にせず事務的に会話する二人。
そして欲しかった答えを得たプレシアは深い落胆の息を零すと愛用の杖を握り席を立ち部屋を出ていこうとする。

「何処に行くの?」

歩を進めるプレシアに言葉をかけたエルダに顔をだけを向けて答える。

「ジュエルシードの回収と役立たずの処分よ。」

前者の言葉をともかく後者の言葉には強い負の感情が込められていた。
さらにエルダを見つめる目線は氷河のような冷たさがあった。
しばらくエルダを見つめたプレシアは興味を失くしたように止まっていた足を動かし部屋を出ていった。
そのさまをガラスのような瞳で見つめていたエルダに突如として声がかかる。

「首尾はどうだエルダ?」

低い男性の声。
その声にエルダは本当に僅かであるが喜びの感情を滲ませる。

「予定通りあの子の魔力波長に合うジュエルシードは確保したしちゃんと偽物を紛れ込ませてあるわ。」

エルダの言葉に今度は男性の方が小さく笑みを浮かべる。

「さすがはエルダ、俺の女だ。それじゃ最後の仕上げだ。」

言葉が終わると物陰からすうっと腕が現れエルダに向かって掌を開く。
そこには歪な短剣があった。
その短剣をエルダはまるで熱に浮かされた少女のように見つめ壊れものを扱うように優しく持ち上げ口元に持ってくる。

「これがホラーが封印された短剣。なんて禍々しいの。」

うっとりとその短剣を見つめたエルダは舌でその短剣を舐める。
妖艶で淫媚なその姿を見つめるものは物陰に居る男性のみ。
しばらく不気味な静寂が部屋を支配するがそれを男性の靴音によって終わりを迎える。

「念の為に俺は隠れておく。“あの方”の為にも失敗するなよ?」

「分かっているわよ。あなたの出番がないように頑張るわ。」

そこで言葉を切ったエルダは妖艶な瞳を男性が居る物陰に向け言葉を紡ぐ。

「・・・シンジ・・・」

シンジと呼ばれた男性は僅かに靴音を響かせその部屋から気配を消した。
その様子をエルダはただ静かに見つめていた。

・・・・・・・・・・

さて裏でそのような事が起きていた時、表の方でも動きがあった。
なのはとフェイトが戦闘を繰り広げられていた二重結界の上空に突如として暗雲が立ち込めその雲の間を紫電が走る。
その場にいたなのは・ユーノ・ザルバは状況が把握できずその紫電に覚えがあるフェイト・アルフは身を固くする。
そして唯一状況を把握していたのはその様子をモニター越しに観戦しながらユーノの言葉通り不測の事態に備えていたクロノとエイミィだけであった。

「高次魔力確認!魔力波長は・・・プレシア・テスタロッサ!戦闘空間に次元跳躍攻撃!!」

表示される情報に息を飲むエイミィとは対照的に冷静なクロノ。
事前にユーノから話を聞いていたのが幸いしたのかすぐさまエイミィに指示を出す。

「エイミィ、発射ポイントの特定を!」

「OK!クロノ君!」

クロノの言葉に軽く返すエイミィだがその指は滞ることなく動く。
その様子を横目で見ながら雷鳴が鳴り響く戦闘空間に意識を向ける。
本来ならすぐにでも急行しなければならないのだろうがそんな時間はない。
だからこそクロノは心中である者に後のことを託した。

(ユーノ、頼むぞ!)

そんなクロノの声が聞こえたのかは分からないがその場にいたユーノは行動を開始していた。
すぐさまなのは達の元に飛び立つユーノの周りで事態は足早に推移していく。
さらに数を増す紫電を背景になのは達を上回る魔力が迫っているのを体全体で感じていた。
その目標が一人空中に浮かぶフェイトである事に気付いたユーノは大声を上げる。

「なのは!フェイトを連れて早く逃げるんだ!!」

ユーノの言葉で身動きが取れずにいたなのはも今の状況が危険なものであることだと気付き言葉通りフェイトに向かって飛び立つ。
だが無情にも轟音を従えた紫電はフェイトに向かって落ちた。

「フェイトちゃん!!!」

閃光に掻き消されそうになるフェイトに向かって右手を伸ばし悲鳴にも似た声を上げるなのは。
なのはの脳裏には紫電に吹き飛ばさたフェイトの姿が想像されたが次の瞬間なのはが感じたの柔らかな感触と心地よい人間の温もりだった。

「っ!?フェイトちゃん大丈夫!?」

「私は大丈夫。でもどうして?」

フェイトに抱きつくような状態で浮かぶなのはとフェイト。
その状態でフェイトの身を案じるなのはに特に問題がない事を告げたフェイトだがその次に出たのは疑問の声であった。
あの紫電の光に照らされた時、フェイトは母の魔法で吹き飛ばされるのだと思った。
だが今は自分に真摯に向き合う白い魔導師の腕の中に居る。
不思議に思い上空に目をやるとそこには眩い翡翠の輝きを湛えた聖盾で無慈悲に自身を貫こうとする紫電を防ぐ白いロングコートの少年が居た。

「ユーノくん!」

自分を抱き締める白い魔導師が喜びの声を上げる。
おそらく今、口にしたのがあの少年の名前なんだと場違いにも思ったフェイト。
そんな静かな時間が流れるフェイトとは異なりユーノの方ではまさしく限界ギリギリの状態であった。

「ユーノ!何とかしないとまずいぞ!!」

「わかってる!!」

咄嗟に紫電の射線上に入りラウンドシールドを展開することでなのは達の直撃を防いだのは良かったがそのあまりの威力にラウンドシールドに罅が入り吹き飛ばされそうになる。

(このままじゃ・・・!)

懸命に次の手を考えるがシールドの維持に意識を割いているためその手が浮かばない。
悩むユーノに救いの手を差し伸べたのは自分を慕う天狼の名を持つ剣であった。

《Master》

その声に右手首に光るブレスレットに目をやるユーノ。
その目線を受けながらシリウスが一つの案を提示した。

《私の三番目の形態を使えばあの攻撃を切り裂く事が出来るかと》

「本当かい?」

《はい。マスターと私の力があれば・・・》

シリウスの言葉に僅かに考えるユーノであるがすぐに決断するとカートリッジを二本取り出し一本ずつ装填していく。

「くっ!!」

その間も突き破ろうとする紫電の圧力に膝を折りそうになるが奥歯を噛みしめる事で耐える。
響き渡る二発の炸裂音の後、前回と同じように翡翠の輝きに包まれるシリウス。
その輝きが晴れるとユーノの右手に無骨な大剣が陽光を煌めかせながら存在していた。
両手でも握れる柄にロングソードの時よりも二周りもあり長くなった刃をもつ大剣。
一般的なバスタードソードと呼ばれる種類のその剣をユーノはその細い腕で軽々と持っていた。
その悠然とした姿になのははいつものように胸をときめかせながら見つめ、フェイトの方もユーノから感じる力強さに紫電への恐怖が薄れていくのを感じていた。
そんな二人の魔導師の視線を背に受けながら自ら張ったラウンドシールドからシールド維持の為に流していた魔力を切りながら距離を取るユーノ。
支えをなくした翡翠の聖盾は瞬く間に全身に罅が廻り次の瞬間には粉砕された。
そのまま再びなのは達を食らい尽くそうとする紫電にユーノは両手で握った大剣を上段に構える。

「ハアァァァァァァァァァッ!!」

気合いの咆哮と共に振り下ろす大剣は紫電にぶつかるとその刃の歩みを止めるがさらに轟くユーノの咆哮に従うようにゆっくりと進む。
永遠に続くのでは思った紫電と大剣の戦いは突如として力を失った紫電を見事に両断した大剣に軍配が上がるのであった。

・・・・・・・・・・

「グッ!・・・ゴホ、ゴホ・・・・・」

時の庭園の主であり先程の紫電の奏者であったプレシアだがすでに全身を病魔に侵された上に大量の魔力を消費する次元跳躍砲撃を使用したその身は遂に越えてはならない一線を越えてしまった。
その代償として夥しい量の血を吐き咳き込んでいた。

「やってくれるわね・・・あの少年・・・」

せっかく目障りな人形を排除出来ると思ったのにそれを寸前で塞いだユーノにプレシアは素直に称賛の言葉を送った。
大魔導師とまで呼ばれた自分の砲撃を防ぎあまつさえ切り裂くなんていかに自分が最後に魔法の維持が出来なくなったとはいえあの歳の魔導師に出来るとは想像し難かった。
だからこそプレシアは本人が気付かぬうちに何時以来かの笑みを浮かべていた。
だがその笑みも次の瞬間には消えていた。

「でも・・・まだ・・・終わる訳にはいかないのよ・・・あの子との約束を・・・果たすまでは・・・」

そう言いながら扉へと歩を進めるプレシアだが彼女は大事な事を忘れていた。
愛する愛娘との本当の約束を。
その約束がすでに叶えられていることを・・・・

・・・・・・・・・・

「転送座標セット。」

「突入部隊、転送ポートから出動!任務はプレシア・テスタロッサの確保!!」

今まで以上の緊張感が辺りを支配し幾つもの指示が飛び交う。
そんな喧騒の中、深く椅子に身を沈めるリンディとクロノのかわりに居るセシルの背後で扉が開く音が響く。
二人が目をやると再び囚人服と手枷を嵌められたフェイトとその後ろで主を悲しそうに見つめるアルフとフェイトの左右から彼女を支えるようにいるなのはとユーノの姿が目に入った。
疲れ切ったフェイトの姿を見たリンディは優しくフェイトを見つめながら念話でなのはに語りかけていた。

『なのはさん、母親が逮捕される瞬間を見せるのは忍びないわ。どこか別の場所に。』

『あ、はい。』

リンディの指示に従いなのははフェイトに声をかける。

「フェイトちゃん。良かったら、私の部屋に・・・」

優しく語りかえるなのはの言葉を遮りフェイトは数歩足を進めブリッジの表示されたモニターをしっかりと見つめる。
その姿に何も言っても無駄と感じたリンディ達も同じくモニターを注視する。
全員の視線が集まるのを待っていたように映しだされたのは局員が玉座の間と呼ばれる場所に踏み込んだ瞬間だった。

「プレシア・テスタロッサ。時空管理局法違反の容疑で身柄を拘束します。」

モニターから響くのはおそらくこの隊の隊長と思われる男性局員の声。
その静かだが凛とした声と十名以上の局員のデバイスを向けながらも対するプレシアは何処か舞台でも見ているかのように緊張感もなく優美に肩肘をつき冷たい微笑を浮かべていた。
だがその微笑は数名の局員が玉座の後ろに消えた瞬間怒りに歪んだ。
後ろに足を運んだ局員たちと一緒にモニターも移動する。
だがそれはフェイトにとって死刑宣告とも取れるものだった。

「えっ」

モニターを注視していたフェイトの目に映ったのは生体ポッドと呼ばれるガラスの容器の中に浮かぶ自分そっくりな、だが自分よりも幼い生まれた姿のままの少女であった。
映しだされた情報に呆然とするフェイトと唖然とするなのは。
ユーノもまた驚きを感情を表に出していた。

「これは!?」

「私のアリシアに・・・」

現場の局員の一人が言葉を発するがそこに居るはずのないプレシアの怒りの色がありありと滲む声が響く。
その言葉に一斉に振り向く局員達が見たのは自分達に襲い掛かるプレシアの姿だった。

「近寄らないで!!」

その言葉と共に局員の一人の頭を片手で掴み、その体のどこにあるのかと思うような力で持ち上げるとポッドから引き剥がすように投げ飛ばす。
その様子に警戒しプレシアから距離を取る局員達に向かってゆっくりと右手を上げたプレシアはその右手に魔力を集め解き放つ。
玉座を走る紫電はその牙にかかった局員達の意識を刈り取る。
数瞬の紫電の光の後、そこには統一のバリアジャケットの所々焦がし煙を上げて倒れる局員達がいた。
他のメンバーがその様子に息をのむなかフェイトだけは別の事で呆然としていた。

「・・・アリシア・・・?」

今、モニターに映る母の後ろに鎮座する容器の中に浮かぶ自分と同じ容姿の少女。
口にしたのは母がその少女を呼んだ時の名前。
初めて聞くはずの名前なのにフェイトには覚えがあった。
それはフェイトの記憶のなかで幼かった自分に対して母が口にしたものであった。
以前は特に不思議と思わなかったそのことに今はそれ以上知ることに恐怖を感じていた。
そんなフェイトの心情など分かるはずもないプレシアはふらつきながらも容器に近づき慈しむように頬をすりよせる。

「たった九個のジュエルシードで、辿りつけるかどうか分からないけど。もう、終わりする・・・」

そう言いながらすりよせていた頬を離し優しく少女を見つめるプレシアだがその後ろ姿からは不吉な気配しか漂ってこなかった。

「この子を亡くしてからの時間も。この子の身代りの人形を娘扱いするのも・・・!」

「っ!?」

その言葉にフェイトは息をのむ。
今、母が言った“人形”というのが誰を差しているのかフェイトにはなんとなくだが分かってしまった。
だがそんなことは嘘だと信じたいフェイトの幻想を打ち破るようにプレシアが非常にも言葉を紡ぎ続ける。

「聞いていて、あなたの事よフェイト。せっかくアリシアの記憶を上げたのにそっくりなのは見て目だけ。役立たずで使えない、私のお人形。」

その様子に別室に居たクロノは怒りで眉を上げ傍らに座るエイミィが肘をついた両手で顔を隠しながらプレシアが言った真相を口にした。

「最初の事故のときにね、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。安全管理不良で起きた魔導炉の暴走事故。アリシアはそれに巻き込まれて・・・。その後プレシアが行っていた研究は使い魔を超えた人造生命の生成・・・。そして死者蘇生の秘術・・・」

「・・・記憶転写型特殊クローン技術・プロジェクトFATE・・・」

エイミィの言葉を引き継ぎクロノが一番言い難い事であろう事柄を述べる。
その言葉にプレシアは短く肯定の言葉を口にその続きを語る。

「でも亡くしたものの代わりにはならなかった。作り物の命は所詮、作り物・・・」

そう言いながらまるでアリシアを撫でているように容器のガラスを撫でる。

「アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。我儘も言ったけど私の言う事はちゃんと聞いてくれた。アリシアはいつでも私に優しかった・・・!」

そこで言葉を切ったプレシアは振り向くと憎しみを込めた目線でフェイトを突き刺す。

「フェイト。あなたは私の娘じゃない。ただの失敗作。だからあなたはもういらないわ。何処なりとも消えなさい!!」

「っ!!」

体全体を使って憎しみを表すプレシアの様子を見ないように顔を伏せるフェイト。
だがプレシアの憎しみはそれだけでは納まる筈もなかった。

「良い事教えてあげるわフェイト。あなたを作りだしてからずっと・・・あなたが・・・」

「・・・やめて・・・」

紡ぐプレシアの言葉に不吉な響きを感じたなのはが遮ろうとするがあまりにも小さいその言葉ではその不吉を留める事など出来なかった。

「大嫌いだったのよ。」

非情にも紡がれてしまったその言の葉はフェイトのボロボロの心を完全に砕くには十分過ぎるほどであった。
目を見開き全身から力が抜ける。
弱々しく握られていたバルディッシュが手のひらから滑り落ち床にぶつかると脆い氷のように中心の宝石部が粉々に砕け散ってしまう。
そしてフェイトも固く冷たい床にその儚げな体を打ち付けるように倒れる。

「フェイトちゃん!!」

倒れそうになるフェイトに気付き駆け寄ろうとするなのはとユーノだがおそらく間に合わない。
その時二人の間を蒼い影が駆け抜けフェイトを優しく抱き止める。

(温かい・・・)

それが心を砕かれてしまったフェイトが意識を失う寸前に感じたものであった。
安らぎの中におちていったフェイトとは異なり突然の乱入者にアースラブリッジは混乱していた。
管理局の船舶、それも作戦行動中のブリッジに何の警報もなく部外者が入って来るなど前代未聞だ。
そう辺りが騒ぐ中、渦中の人である蒼い影の人物・ムメイは抱き抱えるフェイトを申し訳なさそうに見つめる。

「すまない。小生がもっと早く来ていれば・・・」

「全く、これが母親のすることか!?」

カタカタと音を鳴らしながら喋るドラゴの言葉に耳を傾けながらムメイはフェイトで塞がった左手に変わり右手で懐から例の簡易デバイスを取り出す。

「突然の乱入、申し訳ない。自分はミゼット・クローベルの特別民間協力者のムメイだ。確認を頼みたい。」

「え、えぇ・・・」

そう言われながらムメイからデバイスを受け取ったリンディはすぐに確認し目を見開く。
そこには明確にミゼットの特別民間協力者であることが記されていた。

特別民間協力者。

一般的に民間協力者は本人から管理局に協力したいと申し出てその事件の責任者が任命することでなれる。
そのためあくまでも管理局からの指示に従わなければならない。
だが特別民間協力者は管理局から特定の人物に協力を頼みその人物が了承することで任命される。
そのため前者とは異なり特別民間協力者は管理局から指示に従う必要性がなくまた逆に局員に対しての命令権もある。
だがその行動の自由は任命した局員の位で大きく変わりまたその人物が問題を起こせば任命した局員が責任を負わなければならない。
だからこそ特別民間協力者に任命されること自体が少ない。
だが今、目の前に居るムメイと名乗る人物は管理局でもトップに入る三提督の一人、ミゼット・クローベルから任命された特別民間協力者だ。
その行動には自分でも口を出すことは出来ないかもしれない。
そう感じたリンディの様子を感じ取ったムメイが軽く口元を上げて話す。

「ご安心くだされ。小生は貴方達の指示に従うつもりであり無用の混乱は望みません。」

「とか言いながらもう混乱を起こしてるだろう。」

安心させるように言ったムメイの言葉をザルバが否定する。
その声にムメイはザルバの方に目をやる。

「久しぶりだなザルバ。元気だったか?」

「よう。おっひさ~!」

ザルバに対してムメイ、ドラゴがそれぞれ声をかける。
その言葉にザルバも返事をする。

「まぁ、元気でやってるよ。それよりもムメイ。一体どうしてお前が此処に居るんだ?」

「・・・・」

「いつものお節介だ。」

ザルバの切り返しにムメイは無言で通すがドラゴが諦めたような口調で返す。
その答えにザルバも深くため息をつく。
そうして短いながらも旧交を温めていた三人にユーノが声をかける。

「お久しぶりです。ムメイさん。」

「ユーノも元気そうで何よりだ。だが今は思い出話をする時間はなさそうだな。」

ザルバと同様に少ないながらムメイと親交のあったユーノも声をかけるがそれに短く返したムメイは周りに目をやる。
ムメイの言葉を肯定するようにランディとアレックスの悲鳴のような声が響く。

「屋敷内に魔力反応多数!いずれもAクラス!!」

「総数60・・・8、80・・・まだ増えます!!」

「プレシア・テスタロッサ。一体何をするつもりなの!?」

彼らの報告を聞きながら真意を確かめるべくプレシアに問いかけるリンディにプレシアは狂気にかられたように答える。

「私たちは旅立つの。永遠の都・アルハザードへ!!」

その答えに魔法文化で育った面々は一様に愕然とする。
その騒ぎから離れているのはムメイに抱き抱えられたフェイトの手を握るなのはだけ。
そんな彼らの事など眼中にないプレシアは魔法で移動させたアリシアが眠るポッドと共に広間に出ると確保していたジュエルシードを発動させる。

「この力で旅立って、取り戻すのよ。全てを!!!」

その命に従うようにジュエルシードがその輝きを増す。
溢れだす膨大すぎる魔力は時の庭園に納まりきらず周辺の次元空間に影響を及ぼし始めすぐにそれは現れた。

「次元震です!」

ランディの報告を皮切りに次々と影響が現れる。

「振動防御!!」

「ジュエルシード九個発動を確認。さらに強くなります!」

「波動係数拡大!このままでは次元断層が!!」

すぐに指示を出すリンディだがそれを上回る速さで事態が推移する。
周りがその対処に追われる中それらを嘲笑うかのようにプレシアの狂気に狂った笑い声が響くのだった。

優しく儚い小さな約束。それがすでに叶ったことも知らず狂気に魅入られた愚かな母親と心が砕けた黒き魔導師。二人を縛る哀しみの鎖を紺碧の魔戒騎士は断ち切ることが出来るのか?


**********


「光あるところに漆黒の闇あり。
古の時代より人々は闇を恐れた。
そして今、絶望の魔爪が魔導師達を襲う!

次回・魔獣の咆哮

此処から先は俺たちの領分だ。」



[27221] 第十二話 魔獣の咆哮
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/06/06 00:37
第十二話 魔獣の咆哮


けたたましく鳴り響くアラートと廊下を染め上げる赤い光を背景にクロノは転送ポートへと走っていた。
その顔には普段のかれらしからぬ険しい表情があった。
原因はプレシアが言ったある一言であった。

アルハザード

それは魔法文化に住まう者たち、特に魔法を使う魔導師たちなら必ず聞いたことがある単語であった。
あらゆる魔法がその究極の形に辿りつき如何なる望みも叶えることが出来るとされる秘術が眠る地。
その中でも死者蘇生や時間移動といった不可能とされる事柄さえも成し得てしまうアルハザードの秘術は魔法を越え奇蹟とさえ呼ばれるものであった。
だが一般的にその存在はなかったとされている。

(忘却の都、アルハザード。禁断の秘術が眠る土地。その秘術で死んだ者を呼び戻そうと云うのか!?)

心中でプレシアの行動を推測しながらS2Uを起動させるクロノ。
彼が此処まで感情的になっているのには理由がある。
彼もまた大切な存在である父親を亡くしている。
まだ幼かった彼にはそこまで父親の記憶はないがそれでも父を亡くした哀しみはしっかりと心に焼き付いていた。
だからこそプレシアの行いに納得しながらも父の遺志を継いでなった管理局員としての自分がその行いを否定する。

「どんな魔法を使ったって、過去を取り戻すことなんて・・・出来るもんか!!」

局員よりもクロノ個人の考えを口にしながらさらに足を速めるクロノの目に向かいからこちらに迫ってくる数名の人影があった。
見知らぬ人影があるがほとんどは見知ったものであった。

「クロノ君!」

集団の一人、聖祥大の制服に身を包んだなのはがクロノの名前を呼び、足を止める。
それに応じるようにクロノも足を止める。

「クロノ君、一体何処へ?」

「現地に向かう。元凶を叩かないと!」

「私も行く!」

「僕も。」

バリアジャケット姿に疑問を抱いたなのはの問いに簡潔に答えるクロノ。
その答えを聞いたなのははすぐに同行することを願い出、ユーノもそれに続く。
二人の様子から拒否しても無駄だと感じたクロノはその申し出を受けるように頷くと止まっていた足を再び動かし転送ポートに向かう。
それに続く二人であるがユーノは走りながら後ろを振り返りフェイトを抱きかかえるムメイに声をかける。

「ムメイさん、フェイトの事をお願いします!」

「承知した。無茶はするなよ!」

「はい!」

ムメイの言葉を聞き、前に向き直ると離れていたなのは達に追い付こうとスピードを上げるユーノ。
その後ろ姿を見送りながらムメイは傍らにいるアルフに目を向ける。

「では我らも行くか。」

「ああ。」

返事をしたアルフを連れムメイはフェイトを寝かせる為に医務室へと進んでいった。

・・・・・・・・・・

それから数分後、ユーノ達三人は時の庭園に到着していた。
そんな彼らを出迎えたのは4~5m程の無骨な鎧に剣や斧などを装備した命なき傀儡兵の群れであった。

「沢山いるね・・・」

そう言いながらシリウスを起動するユーノ。
同じくクロノもS2Uを握り直すと身構える。
そんななかなのはが行く手を遮る傀儡兵の事をクロノに聞く。

「ねぇクロノ君。この子たちって?」

「近くに居るものを攻撃するただの機械だよ。」

「そっか、それなら良かった。」

クロノの答えに安心したなのははレイジングハートを傀儡兵に向け一掃しようするがそれをクロノが止めた。

「こいつらに無駄弾は必要ないよ。」

そう言いながら掲げたデバイスからクロノの魔力光である青白の光が輝く。

《stinger snipe》

デバイスからリンディに酷似した合成音が鳴り一つの光弾が尾を引きながらクロノに向かって来た傀儡兵を貫く。

「は、速い!」

弾丸の速さに驚くなのはだがその光弾はそのまま霧散することなく空中に螺旋を描きながら登っていく。

「スナイプショット!!」

クロノの言葉に一旦とどまっていた光弾は再び加速すると緩慢な動きしか見せない傀儡兵の胸を貫く。
光弾に貫かれた傀儡兵の爆発を背後に最後に残った傀儡兵に迫るがぶつかる前に弾けて消滅する。
だがそれは効力を失ったのではなくクロノが接近するための囮として使ったためであった。
弾けた瞬間の閃光で一瞬、目標を失った傀儡兵の足元にクロノが降り立つ。
そのクロノに傀儡兵は装備した巨大な斧を勢いよく振り下ろすが跳躍することで回避したクロノはそのまま悠然と傀儡兵の頭上に降り立つとS2Uを押し当てる。

《break impulse》

再び響く合成音の後、傀儡兵は呆気なく粉砕され爆発音を上げた。
その流れるようなクロノの戦いぶりにユーノもなのはも感心していたがこんな事当たり前だというように爆発から回避したクロノがユーノ達の近くに戻る。

「ボケっとしない!行くよ!!」

クロノの一喝に慌てて先を急ぐユーノとなのは。
そのままクロノを先頭に通路を走り抜ける三人。
走る中ふとなのはは所々、通路に開いている穴に目をやる。
不気味に開くその穴はまるで獲物を待ち受ける罠にも見える。

「なのは、その穴には気をつけろ。」

なのはがその穴に意識がいっている事を気配で察したクロノが忠告するとその説明をユーノが簡潔に述べる。

「虚数空間。あらゆる魔法が発動しなくなる場所だ。飛行魔法もデリートされる。落ちたら重力の底まで真っ逆さまだ。」

「き、気をつけるね。」

忠告を真摯に受けたなのはは穴-虚数空間-に気をつけながらさらに先を急ぐと前に扉が現れる。
その扉をクロノが勢いよく蹴り破り三人は部屋に突入すると先程と同じように複数の傀儡兵が待ち受けていた。
僅かな静寂が辺りを支配する。
互いに牽制し合うなか執務官たるクロノは冷静に状況を観察していた。
そして傀儡兵の奥に上へと続く階段を見つけると背後にいる二人に指示を出す。

「ユーノ、なのは。此処から二手に分かれる。君たちは最上階にある動力部の封印を頼む。プレシアはジュエルシードだけでは足りない出力を動力部のロストロギアを暴走させて足りない出力を補おうとしてるんだ。」

「なるほどな。つまり動力部を封印することで次元震の進行を抑えようってことか。」

「分かった。すぐに向かうよ。」

「クロノ君は?」

クロノの説明を聞き自分の役目を理解したユーノとザルバが答えるなか、なのははクロノ自身のことを聞いた。

「僕はプレシアを止めに行く!」

なのはの言葉に短く答えたクロノはデバイスを傀儡兵に向け叫ぶ。

「今、道をつくる!!」

《blaze cannon》

放たれる青白の閃光はその身に熱を帯びて傀儡兵の群れに風穴を穿つ。

「今だ!」

「分かった。行くよなのは。」

クロノの掛け声に返事をしながらユーノはなのはの腰に左手を廻し軽く抱き抱えると起動していたシリウスを正面に真っ直ぐ構える。

「シリウス。」

《Yes master》

互いに一言しか言っていないが成すべきことは分かっている。
シリウスはすぐさま登録されたある魔法を起動させる。
ユーノとなのはの正面に翡翠色の聖盾を構築する。
構築されるのを見計らったようにユーノは力の限り地面を蹴る。
翡翠色の聖盾を纏い進む姿はまるでエメラルドの弾丸だ。

「プロテクションスマッシュ!」

ユーノが魔法名を口にする。
理屈としては単純にシールドを展開したまま進むだけなのだが本来足を止めて使用する防御魔法は移動しながら使用することは難しい。
だがユーノの場合、彼の高い並行処理能力があって移動しながらの防御魔法使用が可能なのだ。
さらに今は優れたデバイスのお陰でさらに強固なシールドと強化されたスピードを手にしていた。
その堅牢な盾はもはや身を守る防具ではなく相手を叩きつぶす武器と呼んで問題なかった。
現に今も風穴を塞ごうとした傀儡兵、数体を吹き飛ばしていた。
そのまま突き進んだユーノは目的の階段に辿りつくと背後を見やる。
そこには迫りくる傀儡兵に一歩も引かないクロノの姿あった。
その時、ユーノとクロノの目線が絡む。
僅かに見つめ合う二人だが次の瞬間互いに笑みを浮かべると頷く。
それは互いに成すべき事を任せあった戦友に送るものであった。

「行こう、なのは。」

クロノに傀儡兵を任せ先に行こうとするユーノであるがその時なのはの異変に気付く。
一歩も動かず顔を伏せているのだ。

「なのは、どうかした?」

「っ!?な、何でもない!行こう!!」

様子を伺おうと覗きこむユーノであるがそれを感じたなのはが勢いよく走りだす。
それを慌て追うユーノであるが先を行くなのはの顔をトマトのような真っ赤であった。
原因は先程のユーノの行動。
緊急事態という非常に緊迫した状況で意中の人にいきなり抱き抱えられたら赤面ぐらいするだろう。
ユーノに真っ赤な顔を見られないように先を走るなのはと訳が分からずとにかく後を追うユーノ。
そんな二人の事情を察したザルバは人知れずため息を漏らしていたのだった。

・・・・・・・・・・

そんなラブコメのような状況が起きているとも思わないアースラではさらに動きがあった。

「私も現地に向かいます。時の庭園内部から次元震の進行を抑えます!」

さらに進む次元震の進行を抑える為にリンディ自身が出る事をクルーに伝える。
それを聞いたクルーも状況が状況なだけに異論など出さず静かに従う。
後の事をエイミィに任せ転送ポートに向かうリンディ。
そんなことがブリッジで起きていることなど分かる筈もない医務室ではベットに寝かされたフェイトが瞼を閉じる事もなく光を失った瞳で虚空を見つめていた。
その様子を見つめていたアルフは此処までフェイトを運んでくれたムメイに目をやる。

「今更だけど、ありがとう。フェイトを運んでくれて・・・」

「気にするな。結局は間に合わなかった。」

アルフの言葉に向き直って答えるムメイ。
モニターから流れる時の庭園での戦いの音が響く医務室。
しばらく時間だけが流れる。
互いに無言を通すムメイとアルフだが先に動いたのはアルフだった。
ゆっくりとフェイトの方を向き軽く膝を折ると優しくフェイトの頭を撫でる。

「フェイト、あの子たちの事が心配だからちょっと手伝いに行ってくるね。大丈夫、すぐに帰ってくるからね。」

言い終えると同時に撫でるのをやめたアルフはゆっくりと扉に向かって歩く。
その時ムメイの隣を通り過ぎようとした時アルフはムメイに声とかけた。

「そう言えば、なんであんたは私達をこんなに気にかけてくれるの?」

「小生はただ頼まれただけだ。この日記帳の持ち主にな。」

アルフの問いかけにムメイは簡単に答えながら懐から一冊の日記帳をアルフに見せる。
最初、それを見たアルフは頭を捻ったがすぐにそれが誰の日記帳か気付いた。

「これって、リニスの!あんたこれをどこで?」

「森の中にあった小屋で見つけた。その時、リニス殿の残留思念からお前たちの事を頼まれたんだ。」

先程と同じように簡潔に答えるムメイ。
そのムメイの言葉の中に聞きなれない単語があったもののそこに込められた想いは本物だと感じたアルフは何処か安心した様子で笑みを浮かべたアルフはそのまま扉まで近づくと一旦止まり背中を見せたままムメイに声をかける。

「悪いけどフェイトの事、頼むよ。」

「承知した。」

短いながらも強い響きを含んだその言葉を背に受けたアルフはそのまま部屋を出ていく。
開閉の際に独特の空気圧の音が響いたあと再び医務室は静寂が支配する。
アルフを見送るために扉の方を向いていたムメイだが突然フェイトの方に振り返ると聞こえていないはずのフェイトに声をかける。

「いつまでそうしているつもりだ、フェイト・テスタロッサ?」

そのムメイの言葉に答えるように医務室に響くのは衣擦れの音。
その音とともに身を起こしたフェイトだがその瞳には今だ光はなかった。

「どうかしたか、フェイト?」

「・・・・・・」

優しく声をかけるムメイだがそれを無視してフェイトはただ虚空を見つめ続けていた。
沈黙が支配する中モニターからの光だけが二人を照らしていた。

「おい、何時まで黙ってる気だ!」

少々短気であるドラゴの声がフェイトに浴びせられるがそれに反応しないフェイト。
再び沈黙が支配するがさすがにムメイもこのまま時間が無為に流れるのは良しとしたくなかった。
リニスに託されたもう一人、悲しみの鎖に囚われた憐れな女性をまだ救っていない。
だがそのためにはこの少女が必要だとムメイは考えていた。
言葉をかけようとフェイトの方へ歩み寄ろうとした時、ムメイの耳に弱々しいフェイトの声が届いた。

「・・・・私、生まれてきちゃいけなかったのかな?・・・・」

「・・・どうしてそう思う?」

あまりにも生気のない悲痛なフェイトの言葉に出来る限り優しく問いかけるムメイ。
その言葉にフェイトもゆっくりとだが語り出した。

「母さんは・・・私の事を・・一度も見てくれなかった・・・。母さんが・・会いたかったのは・・・アリシアで・・・・私はただの・・・・失敗作・・・」

ただ自分の感情を垂れ流しているフェイトの言の葉を静かに聴くムメイ。
そこで一旦フェイトの言葉が途切れる。
再び戦いの音が響く医務室。
それをバックにフェイトは生気の宿っていない瞳をムメイに向け言葉を紡ぐ。

「・・・私・・・・・死んだ方が・・・良いのかな?・・・・」

あまりにも悲痛なその言葉にさすがのドラゴも口を閉じる。
だが対するムメイはフェイトの視線をしっかりと受け止めると膝をおり目線をフェイトと同じ高さに持ってくると真剣な眼差しをフェイトに返す。

「もしそれがお前の本当の願いなら小生がこの手で、その命を断ってやろう。」

相手は十歳に満たない少女。
魔戒騎士がその気になればその細い首をへし折ることなど造作もないだろう。
緊迫した空気が場を支配するなかムメイが言葉を続けた。

「だがお前が死んで哀しむ者が近くにいるのではないのか?」

そう言いながら背後にあるモニターに目を向けるムメイ。
それにつられ同じようにモニターを見たフェイトの瞳に映ったのは動力部を目指し必死に戦うユーノとなのは、そしてその二人に合流したアルフの姿であった。
互いに言葉を交わす三人の様子が映されるなかフェイトの目線はちょうど真ん中いる白い服の魔導師・なのはに注がれていた。
彼女を見つめながらフェイトは彼女と出会ってからの日々を思い出していた。
何度もぶつかりそれでも諦めず必死に自分の名前を呼んでくれた女の子。
そこに込められた真摯な気持ちにあらためて触れたフェイトは気持ちが高まるのを感じていた。
ゆっくりと光が戻る赤い瞳とその目元から溢れ出た涙。
その光景を優しく見守るムメイ。
その時部屋の隅の一角に設けられた小さなテーブルの上に光が生まれる。
それに気付いたフェイトがベットから降り近づく。
優しく両手で持ったのは母の罵倒を受けた時に砕けた自分の愛機であった。

「バルディッシュ。・・・私の・・私たちの全ては・・・まだ・・・・始まってもいないのかな?」

フェイトの問いかけにバルディッシュは静かに展開するとサイズフォームであったその姿をギシギシと軋みを上げながら基本形態のアックスフォームに変わっていく。

《Get set》

フェイトが固唾をのんで見守る中無事にアックスフォームに変わるバルディッシュ。
その姿にフェイトも背中を押されるような印象を受けた。
バルディッシュに頬をすり寄せ涙を流すフェイト。

「そうだよねバルディッシュ。お前もこのまま終わるのなんて、いやだよね。」

《Yes sir》

その言葉を聞いたフェイトはあらためてバルディッシュを構え直す。
その姿には先程までの儚さは無く凛とした空気を纏っていた。

「上手く出来るか分からないけど、一緒に頑張ろう。」

静かに紡がれる言葉と共にバルディッシュにフェイトの魔力が流れ込んでいく。
その金色の光はバルディッシュを包むとそこに刻まれた罅を修復していく。

《Recovery complete》

バルディッシュの合成音声が修復を完了した事を告げるとフェイトの頭上にマントが現れそれを纏うとバリアジャケットを展開する。

「私たちの全てはまだ始まってもいない。だから・・・」

一瞬の間が空きフェイトは眼前を見据える。
その瞳に決意の炎を燈して。

「本当の自分を始める為に・・・!」

毅然とした姿で立つフェイトをムメイはしっかりと見つめる。
その様子から立ち直った事を感じながらムメイはフェイトの頭を撫でる。
突然の事で驚くフェイトにムメイは声をかける。

「では行こうか。お前自身を始める為に。そして、お前の母を救うために。」

その言葉にただ頷く事で返したフェイトに背を向け転移するために魔導筆を腰から抜き法術を組み上げるムメイ。
二人の足元には文字とも模様ともとれる幾何学的な魔法陣が現れる。
その様子を視界の端に置きながらフェイトはただムメイの背中を見つめていた。

(父さんってこんな人の事を言うのかな?)

フェイト自身、正確にはアリシアの記憶には父親の事はない。
それはアリシアが物心つく前にプレシアが離婚したのが原因だ。
だが今目の前にいるこの人物からはアリシアの記憶に合ったプレシアの持つ母性とは違う、だが非常に近い父性というものをフェイトは感じていた。
しかしそれを確かめる前に二人は時の庭園へと飛ぶのだった。

・・・・・・・・・・

時の庭園の上層部に続く回廊でユーノ達は迫りくる傀儡兵を迎撃していた。
なのはがアクセルシューターで瞬時に四機破壊しアルフも拳に魔力を乗せ一体の傀儡兵を打ち砕く。
同じようにユーノもモード2状態のシリウスで傀儡兵を斬り伏せていく。
三人の戦闘力は迫りくる傀儡兵を軽く凌駕し問題なく撃破していくがあまりにも相手の数が多く全く前進出来ていない状態に陥っていた。

「くそ!後から後から!!」

アルフが二人の心情を代弁するように愚痴をこぼす。

(どうする?何か方法は!?)

事態を好転させるべくユーノは思考を巡らせるがその瞬間辺りへの警戒を僅かではあるが緩めてしまった。
その隙をついて傀儡兵の一体がユーノの攻撃を掻い潜り空中で次の一手を打とうとしていたなのはに向かって手にした斧を投擲しようとしていた。
それに気付き急いで傀儡兵を潰すユーノであるがタッチの差でなのはへの攻撃を許してしまった。

「っ!?なのはぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ありったけの声でなのはに注意を促すユーノだがこのままではなのはの体は無残に砕かれてしまうだろう。
何とか阻止しようとするが行く手を無数の傀儡兵が阻む。
ただ斧の軌跡を追う事しか出来なかったユーノの視界に突如として眩い閃光が走った。

「サンダー・・・・レイジィィィィィィ!!」

響き渡る雷光にも負けないフェイトの声が三人の耳に届く。
強い決意を秘めたその声に従うように電光が辺りにいた傀儡兵を粉砕していく。

「フェイト・・・」

いまだ辺りに電光の余韻を残す中アルフが自分の主がこの場所に居る事に僅かばかりの驚きの色をにじませる。
同じくユーノも唖然としながら空中にいるフェイトに目線をやる。
そんななかフェイトは静かになのはの目の前まで降りてきた。
見つめ合うなのはとフェイト。
何とかフェイトに声をかけようとするなのはを遮るように回廊を壊して今までよりも大きな傀儡兵が姿を現した。

「大型だ。バリアも固い。」

その傀儡兵の姿に言葉を失くすなのはにフェイトが静かに語りかける。
その間も新たに現れた傀儡兵は装備された剣のような砲身に魔力をチャージしていく。
どうしようかと悩むなのはにフェイトが声をかける。
その言葉には今までとは違う優しい響きが込められていた。

「でも、二人でなら・・・」

その言葉を聞きフェイトに振り向いたなのはの顔に喜びの色が溢れ出る。

「うん、うん!うん!!」

何度も頷くなのは。
そんな二人にただの鉄の塊である傀儡兵が射砲撃を放つが二人は示し合わせたように左右に回避する。
そうして辺りを飛び回る二人に無駄な行為であることも気付かない傀儡兵は射砲撃を続けていく。
その攻撃を回避し続ける二人だが僅かな隙をつき反撃に転じる。

「ハァァァァァァ!!」

反撃の口火を切ったのはフェイトの放ったブーメランのような光刃が傀儡兵の右腕に食い込む。
間髪入れずになのはが左腕の砲身にアクセルシューターを数発撃ちこむ。
桜色の光弾は相手の装甲を打ち破り爆発させる。
その爆発によりバランスを崩す傀儡兵だが無様にも残された砲身に魔力をチャージする。
だが対する二人の少女は肩を並べると同時に魔法陣を展開する。
眩い桜と金の輝きは傀儡兵の砲撃の光を上回りさらに輝く。
そしてその輝きが頂点に達した時なのはとフェイトは同時に魔法を放った。

「サンダー・・・スマッシャーァァァァァァァッ!!」

「ディバイン・・・バスターァァァァァァァッ!!」

共に進む桜と金の光は傀儡兵の目前で突如止まる。
最後の足掻きのようにバリアを展開し耐える傀儡兵だがこの二人の白と黒の少女達の前ではその行為は全くの無意味であった。

「「せーの!!」」

互いに掛け声をかけさらに魔力を込める。
主である二人の少女に答えるように二つの光芒はその輝きを増しさらに巨大なものへ変化する。
そしてその桜と金の激流は遂にバリアを破り傀儡兵を呑み込むと止まることなく突き進み最終的には時の庭園に風穴を開けるのだった。
砲撃の後の静寂の中土煙から現れるのはデバイスを構えた二人の姿。
その土煙が辺りに霧散していく中、なのはがゆっくりとフェイトに向き直る。

「フェイトちゃん・・・」

優しく名前を呼ぶなのはにフェイトは今までとは違う柔らかい微笑で答える。

「フェイト!・・・フェイト!!」

そこに加わるのはフェイトの使い魔であるアルフ。
名前を叫びながらフェイトに抱きつくアルフの頭をフェイトは優しく撫でる。
その光景を見ていたユーノに声がかけられる。

「何とか間に合ったか?」

「ムメイさん。」

その声で背後を見たユーノの目に映ったのは回廊に佇むムメイ。
そのムメイにユーノは声をかける。

「フェイトのお陰で助かりました。ムメイさんがフェイトを連れてきてくれたんですか?」

「何、こちらにも事情があったのだが間に合って良かった。小生達はこのままプレシアの元に向かう。ユーノ達も早く動力部へ。」

「はい。」

ムメイの言葉に頷くユーノ。
それを見たムメイは視線をフェイトに向け声をかける。

「フェイト・テスタロッサ!小生らもプレシアの元に急ぐぞ!!」

「はい!!」

同じくムメイの言葉に返事をしたフェイトはなのはと二、三言葉を交わしプレシアが居る下層に向かってアルフを引き連れ飛んでいく。
それに続くムメイを見送った二人は動力部に向かって急ぐのだった。

・・・・・・・・・・

時の庭園での戦いが続く中、次元震の影響は確実に地球を襲っていた。
不気味な地響きが支配する海鳴市。
なのはの友達であるアリサ、すずかを含む多くの住人が原因不明の地震に身を固くしている頃唯一事情を知る高町家の面々は末っ子と少年の身を案じていた。
同じ頃、海鳴市から少し離れたとある街の郊外に佇む一軒の洋館。
その一室に一組の夫婦がいた。
スーツ姿の茶色い髪の男性が白いワンピースを纏い腕に生まれたばかりの赤ん坊を抱く女性を抱きよせていた。

「大丈夫だよね?」

不安からくる言葉を女性が吐く。
その言葉を聞いた男性が抱く力を強めながら女性に言葉をかける。

「どんな事があってもお前達は俺が必ず守る。だから安心しろ・・・・カオル・・・・」

男性の凛とした言葉を聞き不安が霧散するのを感じる女性-カオル-。
その感情が現れるように優しい笑みを浮かべながら男性の顔を見つめるカオルも絶対の信頼を込めて男性の名を呼ぶ。

「うん。ありがとう・・・・鋼牙・・・・」

冴島鋼牙、その妻カオル。
後にこの二人がユーノ達と深くかかわる事になるのだが今それを知るのは神のみであった。

・・・・・・・・・・

動力部についたユーノとなのはだがその行く手を多くの傀儡兵が塞ぐ。
その傀儡兵に向かってレイジングハートを構えようとするなのはだがそれをユーノが制する。

「なのはは封印に集中して。雑魚は僕が一掃する。」

そう言いながら一歩出るユーノの背中を見つめるなのは。
同い年であるはずなのに大きく絶対の安心感を感じるその姿。

「・・・だから私、ユーノくんこと好きになったんだ・・・」

改めて自分の感情を理解したなのはを尻目にユーノは眼前に迫る傀儡兵に向かってストライクワルツを放つ。
次々と傀儡兵を切り裂く翠刃だがその刃を越えてくる者いた。
通常のものより二回り以上大きく堅牢な鎧とハルバートを携えた傀儡兵。
まだ距離があるものの装甲の強度は先程潰した傀儡兵よりも上だろう。
あれを潰す魔法をユーノは一つだけ持っている。
だがそれはシリウスに多大な負担を強いる事になる。
その事に悩むユーノの頭に声が響いた。

(やりましょう、主)

その声の主はシリウスだった。
ユーノの考えを理解しそれを推奨する言葉を述べるシリウスに対しユーノは懸念の言葉を返す。

(でもこの魔法を使えば君に大きな負担をかける事になる。下手をしたら壊れるかもしれないんだよ?)

(大丈夫です。私を信じて下さい主よ。)

ユーノの言葉に静かに返すシリウス。
その言葉に決意を感じたユーノは一度シリウスを通常形態に戻すとポケットからカートリッジを取り出しシリウスに装入する。
カートリッジの魔力を吸収しモード3の大剣に姿を変えるシリウス。
そのシリウスに再びカートリッジを装入するユーノだがその数は一発ではなかった。
動作音が響く事その数6回。
その全ての魔力を飲み込むシリウスだが許容量を遥かに超える魔力に機体に小さな罅が入る。
だがシリウスの思いを受け止めたユーノはそれに構わず呪文を唱える。

「清廉なる蒼穹を翔るは紅蓮の炎を纏う気高き鳳凰。彼の者の双翼は万象全てを切裂く金色の刃なり・・・!」

言の葉を告げると共に全身のバネを使い飛び上がるユーノ。
それを視認した傀儡兵はハルバートを構えユーノを迎え撃つ。
なのはが見守る中上段に構えたユーノのシリウスの刃が金色に光り始める。
デバイス内の回路が許容量以上の魔力によって発熱したのが原因だがそれを見つめるなのはにとっては幻想的な光景にしか見えなかった。
機械的ながら猛スピードで振り下ろされるハルバートを体を捻る事でかわしたユーノは無防備な本体に黄金にまで輝いたシリウスを振り下ろす。

「シャイニングソードブレイカーァァァァァァァァァァァァッ!!」

まさしく光の刃と呼ぶに相応しいシリウスをその身に受ける傀儡兵は何の抵抗も出来ず縦一文字に切り裂かれ爆発する。
その爆発に一瞬息をのむなのはだが爆発の中からユーノが現れる安堵の息をつく。

「なのは、動力部の封印を。」

「う、うん。」

ユーノの言葉に動力部に近づくなのは。
それを見送ったユーノは徐にシリウスに目をやる。
そこに在ったのは刀身が半ばで折れたシリウスの姿だった

「・・・・ゴメンねシリウス・・・」

《何を謝るのですか主。こうなったのは自分の未熟さであり主には何の落ち度もありません。》

「・・・・ありがとう・・・」

シリウスの姿に後悔の念が溢れるユーノであるがそれを諭すシリウス。
自分を思う健気さに感謝の言葉を述べるユーノは辺りに響いていた不気味な振動が納まるのを感じた。
背後に目をやったユーノの視界に大きく手を振るなのはの姿。
無事に動力部を封印出来たらしい。
さらに僅かに感じる魔力の波動からリンディがこの場で次元震を押さえている事感じ取ったユーノ。

「どうやら最悪の事態は避けられそうだな。」

ザルバの言葉に頷きで返したユーノは近くまで来ていたなのはに声をかける。

「なのは、僕達もフェイト達の所へ行こう。」

その言葉に笑みを浮かべ頷くなのはと共にフェイト達が居る最下層に足を向けるのだった。

・・・・・・・・・・

時の庭園の最下層。
そこにプレシアは居た。
目の前にアリシアの入った生体ポッドを見つめながらアルハザードへの道が開くのを今か今かと待っていた。

「あと、もう少し・・・」

切実な思いが込められた台詞がプレシアの口から零れるが突如、それを遮るように辺りに響いていた振動が止まる。
それに気付いたプレシアに何処からか言葉が浴びせられる。

「終わりですよ、プレシア・テスタロッサ。次元震は私が抑えています。駆動炉も間もなく封印。あなたの元には執務官が向かっています。」

声の主はリンディ。
足元に魔法陣を展開し背中からは余剰魔力の蓄積用である四枚の羽根を広げているその姿はさながら妖精のようにも見える。
だがその口から語られるのは妖精のような優しい言葉ではなく現実的で辛辣なものであった。

「忘却の都・アルハザード。彼の地に眠る秘術。そんなものはとっくの昔に失われているはずよ。」

リンディの現実的な言葉に対しプレシアはあくまでも自身の考えを口にする。

「違うわ。アルハザードは今もある。失われた道も次元の狭間に存在する・・・!」

「仮にその道が存在してあなたはそこで何をするつもりなの?」

プレシアの言葉を聞き説得が無理だと判断したリンディはせめて何をするつもりなのかと疑問の声を紡ぐ。
それにプレシアは力の限り答える。

「取り返すわ。私とアリシアの過去と未来を。取り戻すの、こんなはずじゃなかった・・・世界の全てを・・・!!」

辺りに響き渡るプレシアの声。
だがそれを遮るように爆音が轟く。
そちらに目をやったプレシアの瞳に映ったのは黒いバリアジャケットを着た少年、クロノであった。
頭から血を流しながらも毅然とした態度でデバイスをプレシアに向ける。

「知らないはずがないだろう!どんな魔法でも過去を取り戻すことなんて出来はしない!!」

クロノの凛とした言葉に続くようにプレシアの耳に幾つかの足音が届く。
同じようにそちらに目をやると見慣れたアリシアの人形とその使い魔さらに見た事もない男性がこちらに駆け寄ってくる所であった。
プレシアから少し離れた処で止まった三人に向き直るプレシア。
両者の間には緊迫した空気が流れる。
プレシアを見つめながらも僅かに怯えを見せるフェイトと眉間にしわを寄せながらフェイトを睨むプレシア。
永遠に続くと思われた沈黙はプレシアによって破られた。

「ッ!?ゴホ!ゲホ!!・・・」

「っ!?母さん!!」

苦しそうに何度も咳き込むプレシアの姿に駆け寄ろうとするフェイトをプレシアの言葉が止める。

「何を、しにきたの?」

その言葉によって足を止めたフェイトに続けて辛辣な言葉が飛ぶ。

「消えなさい。もうあなたに用は無いわ。」

明確な拒絶の色がありあり込められた言葉を聞きながらもフェイトは凛とした様子でその言葉を受け止める。
強い決意の色が見える瞳をプレシアに向けながらゆっくりと口を開く。

「あなたに言いたい事があって来ました。」

アルフ、クロノ、そしてムメイが見守る中フェイトが言葉を紡ぐ。

「私はただの失敗作で偽物なのかもしれません。アリシアになれなくて、期待に応えられなくて。居なくなれっていうなら遠くへ行きます。だけど生みだしてもらってからずっと。今もきっと母さんに笑ってほしい。幸せになって欲しいって気持ちだけは本物です。」

それをただ見つめていたプレシアだが次のフェイトの行動に息をのんだ。
ゆっくりと右手を差し出したのだ。
そのままフェイトは言葉を続ける。

「それが私の、フェイト・テスタロッサの本当の気持ちです。」

「・・・ふん。くだらないわ・・・」

フェイトの精一杯の気持ちが込められた言葉をそう言って切り捨てるプレシアだが先程まで含まれていた狂気的な感情はなくどこか穏やかな空気を含んでいた。
だがその些細な変化に気付いたのはムメイだけであった。
フェイトの瞳が哀しく揺れる中プレシアは杖で床を叩く。
展開される紫の魔法陣。
それに反応するようにジュエルシードが輝きを増す。
すると止まっていた次元震がその活動を再開した。
本格的に崩れ始める時の庭園。
アースラからその状況をモニタリングしていたエイミィの声が時の庭園にいた人間に届く。

「艦長!ダメです!庭園が崩れます!!クロノ君達も脱出して!崩壊までもう時間がないよ!!」

「了解した!」

エイミィの言葉にすぐさま反応したクロノはフェイト達に目を向けて声をかける。

「フェイト・テスタロッサ。フェイト!!」

脱出を促すように大声を上げるクロノだがフェイトは微動だにせずプレシアの事を見つめていた。
フェイトの目線を受けながらプレシアは傍らに在った生体ポッドに身を寄せるとフェイトに目線を向ける。

「私は行くわ。アリシアと一緒に。」

「母さん・・・・」

悲しみで顔をそめるフェイトにプレシアは言葉を紡ぐ。
拒絶の言葉でありながらどこか優しげな響きを含んで・・・

「言ったでしょ、私はあなたが・・・・大嫌いだって・・・」

その言葉が言い終わるのを待っていたかのように床が崩れプレシアとアリシアは虚数区間へをその身を投げ出される。

「母さん!アリシア!」

その光景をみたフェイトが駆け寄ろうとするが崩れた柱に邪魔をされ足を止める。
その間にもプレシアは虚数空間の重力に引かれ落下していく。
自由落下独特の浮遊感を味わいながらプレシアは傍らのポッドの中に居るアリシアを見つめる。
その時ふと、ある記憶が目覚めた。
それは以前みたあのピクニックの思い出だ。
その時アリシアが言った欲しいもの
それは・・・・

「妹が欲しい!!」

そうアリシアが欲しかったもの、それは妹。
そしてその願いはすでに叶っていた。
自分が人形といった、失敗作と言ったあの子。
アリシアではない、でもアリシアが願った存在。

(何時もそうね・・・いつも私は・・・・・気付くのが・・・遅すぎる・・・・)

自嘲的な笑みを小さく口元に作りながら重力に絡め取られさらに落下していくプレシア。
そのプレシアに届かないと分かりながらも必死に手を伸ばすフェイト。

「母さん!アリシア!!」

「フェイト!」

そのまま落ちそうになるフェイトに覆いかぶさるアルフ。
それでもなお必死に手を伸ばすフェイトの耳にあの白い少女の声が届く。

「フェイトちゃん!!」

桜色の光芒と共に現れたなのはとユーノはすぐさまフェイトのそばに舞い降りる。
舞い降りた二人は涙を零すフェイトの姿に痛ましげに見つめる。
その時ムメイがユーノに声をかける。

「ユーノ、この子達を頼むぞ!」

ユーノにそう言い放ったムメイは何の躊躇いもなく虚数空間へとその身を投げ出す。
その光景にユーノ以外のメンバーが息をのむ。
だが魔法がデリートされる虚数空間に落ちていったムメイを救う方法など持ち合わせてる筈がなかった。

「なんてバカなことを!!」

「ユーノくん、どうしよう!?」

同じく近くまで来ていたクロノがそうムメイの行いを判断しなのはも傍にいるユーノに心配そうな表情を向けフェイトは目を見開いて今見た光景が嘘であるように顔を左右にふる。
だがそんな彼らにユーノは毅然と言った。

「大丈夫。ムメイさんなら大丈夫だから。」

その言葉に疑問しか浮かばないなのは達にユーノは信頼の籠った笑みを浮かべて頷いた。

・・・・・・・・・・

虚数空間の只中を落下していくプレシアは静かに瞳を閉じただ自分の行いを悔いていた。
いつも失敗ばかりの自分。
優れた才能と知性を持ちながら何時も自分は子供を悲しませる。
アリシアには孤独な日々を送らせ、そして今では不器用ながら娘と認めたフェイトには取り返しのつかない言葉まで叩きつけてしまった。

「もし、やり直せるなら今度こそ・・・」

切実な思いが口から溢れる。
だがその言葉をプレシアは自ら断じた。
今更自分にそんな台詞を言える資格はない。
それに例えこの虚数空間から出られても自分の命はそう長くない。
結局悲しみしか与えられないのならこのまま死んだ方がマシかもしれない。
そう思ったプレシアだがふと何か温かいものに支えられているのを感じた。
ゆっくりと瞳を開けるとそこには精悍な顔つきの男性が居たのだ。
そして今自分がどのような体制なのかを感じる温もりから理解した。

「あ、あなた一体何をしているの。離しなさい・・・!」

歳柄にもなく頬を赤らめ離すように言うが男性-ムメイ-は意に介さずお姫様だっこのままプレシアに言葉をかける。

「お前を放す訳にはいかないな。お前を連れて帰らなければリニス殿との約束を破る事になるからな。それに・・・」

気になる台詞があったがそれよりも彼が不自然に切った言葉の先を知りたいとプレシアは思った。
そんなプレシアの心を察するかのようにムメイは言葉を紡いだ。

「フェイトが哀しむ。」

しっかりと紡がれた言葉。
その言葉にプレシアは涙を零しながら反論した。

「私があの子にした行いは絶対に許されない事だわ!?今更どの面下げて会えっていうの?」

プレシアの反論を聞きながらムメイはさも当たり前であるように答えた。

「母親として会えば良い。お前達家族は他の家庭よりも少々込み入った事情があるだけで良い家族になれると思うぞ?」

ムメイの答えにプレシアは怒りではなく消沈した表情を浮かべ返事をした。

「あなたの言葉を嬉しいわ。でも虚数空間からは出られない。あなたも馬鹿な事をしたわね。」

「さてそれはどうかな?」

プレシアの言葉にムメイは含みを持たせた言葉を放つ。
その言葉に疑問の色を浮かべるプレシアにムメイはこう言った。

「無事に虚数空間から脱出出来たらフェイトと仲直りしてくれるか?」

「無事に脱出出来たらね。」

プレシアの諦めたような言葉を聞きながらムメイは笑みを浮かべる。

「では仲直りしてもらおうか。」

そう言いながら腰に差していた魔導筆を抜き足元に向ける。
すると法術独特の魔法陣が生まれその光の中にムメイ、プレシア、そして生体ポッドのアリシアが虚数空間から消えるのだった。

・・・・・・・・・・

永遠ともいえる数分がユーノ達の間に流れる。
本来ならすぐにでも脱出しなければならないのだがムメイが戻ってくるというユーノの言葉を信じユーノ達は此処で待っていたのだ。
事情を聴いたリンディも駆け付けその数分を待っていたのだ。

『クロノ君!もう限界だよ!!早く脱出して!!』

しかし時間は無情にも過ぎていった。
エイミィの悲痛な叫びが響く。
限界を悟ったクロノがユーノに声をかけようとした時ユーノが笑みを浮かべてある一点を見つめた。
その目線にならい他の者たちもそこを見つめる。
するとそこに魔法の光とは違う輝きが溢れる。
その輝きが晴れた時そこに居たのは・・・

「母さん・・・・」

フェイトの声が響く。
その言葉通りそこに居たのはムメイに抱かれたプレシアの姿であった。
駆け寄るフェイトを見たムメイはゆっくりとプレシアを下ろす。
そのままプレシアの目の前まで来たフェイトだがその足が突如止まる。
対するプレシアも目線を逸らし微動だにしない。
緊張が辺りを支配し誰も動けずにいた中ムメイがそっとプレシアの背を押す。
ムメイに押されフェイトに手が届くところまで来たプレシアだがどうしても最後の一歩が踏み出せずにいた。
その時業を煮やしたようにエイミィの大声が轟く。

『皆、早くして!!もう限界なんですよ!!!』

その声に反応して動き出したユーノ達のなかフェイトの耳に小さくだが声が届いた。

「まずは・・・此処から出ましょう・・・・フェイト・・・・」

優しい母親としての響きを含んだプレシアの声。
それを聞いたフェイトは嬉し涙を流しながら何度も頷く。
ようやく母子としての一歩を踏み出したフェイト達を尻目にクロノが指示を出す。

「了解したエイミィ。早速ルートを開いてくれ!」

『了解!!もう一体何時まで・・・またせ・・・・だった・・・』

「?おい!エイミィ!!」

エイミィの愚痴を聞いていたクロノだが突如その愚痴が途切れる。
それに疑問を浮かべるクロノだったが事態はさらに変化していく。

「振動が・・・収まった?」

なのはの言う通り今まで辺りを支配していた振動がぱったりと止まったのだ。
それは事態を観察していたアースラでも確認出来た。
突然の通信途絶に加え先程まで続いていた次元震が止まったのだ。
再び緊張感が辺りを支配する。
その時、時の庭園に居たユーノ達の耳に靴が届いた。
一斉に視線を集めたのは謎の美女・エルダであった。

「エルダ?あなたがどうしてここに居るの?」

皆を代表するようにプレシアが問いかけるがエルダはただ氷のような微笑を浮かべるだけ。
皆が困惑する中エルダの正体を知っているユーノとエルダの纏う気配から何かを感じたムメイが戦闘態勢に入った。
その様子についていけないなのは達を無視してユーノが一歩出る。

「あなたには色々と聞きたい事があります。来て貰いますよ。」

そう言いながらシリウスを受け取って以降、鍛錬以外では抜かなかった魔戒剣に手をやる。
その様子を見つめるエルダがゆっくりと口を開く。

「申し訳ありませんが我が主が帰りを待っておりますので失礼させていただきます。」

「それで、はいそうですかって行かせると思う?」

そう言いながらさらに全身に力を入れ何時でも飛びかかれるようにするユーノ。
同じくムメイも愛用の魔戒剣に手をかける。
その時エルダが笑い声を上げる。

「ふっははははははははは!ここに居るのが私だけとお思いで?」

「何?」

エルダの言葉に何かを感じたムメイが背後を振り向く。
するとそこには眼前まで迫ったフードかぶった人物が今まさに自身に凶刃を振り下ろすところであった。
何とか防ごうとするムメイだがその凶刃は目にも止まらぬ速さでムメイの左肩から右腰までを切り裂いた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

悲鳴を上げるムメイに全員の目線がいく。
鮮血を辺りに飛び散らせるその光景はまだ少女であるなのはやフェイトにはあまりにもショッキングすぎた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

なのはの悲鳴が轟く中フードの人物はムメイの傍らに在った生体ポッドを叩き割ると中に入っていたアリシアを乱暴に掴むと跳躍してエルダの傍に音もなく舞い降りる。

「アリシア!!」

プレシアの悲鳴が響く中エルダはフードの人物からアリシアの遺体を受け取ると懐から禍々しい短剣を取り出す。
その時今まで黙っていたザルバが声を上げる。

「ユーノ!!今すぐ奴らを止めろ!!」

ザルバの言葉に反応して飛びかかろうとしたユーノだがそれよりも早くエルダが動いた。

「それでは我々はこれで失礼します。あとこの子が相手をしますので。」

そう言いきった瞬間エルダは勢いよくその短剣をアリシアの胸に突き立てると目の前に投げ捨てる。
再び静寂が辺りに満ちるがそれを意外な存在が破った。
そうそれは・・・・

「アリシア?」

プレシアの声が嫌に響くなかそれに応えるように動くはずのないアリシアの遺体が動き始めた。
その光景を見つめるユーノ達を無視してエルダとフードの人物が音もなく去っていく。

「っ!?待て!!」

それに気付いたユーノが二人を追おうとするがそれを遮るようにアリシアが立ち上がった。
有り得ない事態に他のメンバーが動けずにいた時突如アリシアが声を上げる。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

その声は歓喜の声のようにも聞こえるがそれを聞いたなのは達には鳥肌が立つ不気味な声であった。
息をのむメンバーのなかその正体に気付いたザルバが小さくだがしっかりとした口調でユーノにその正体を告げた。

「ユーノ、あれはホラーだ。」

ようやく結ばれた母子の絆。だが新たに立ちはだかるのは闇からの魔獣。今、小さな魔戒騎士に最大の試練が訪れる。


**********


「振り下ろされるは勇気の剣!
その身に刻むは希望という名!
今、若き天狼が大地を駆ける!

次回・黄金騎士

悲しみの陰我、断ち切れガロォォォォォォォォォォォ!!!」





[27221] 第十三話 黄金騎士
Name: コノハナ◆7f1086f7 ID:69af7201
Date: 2012/11/18 23:37
光あるところに、漆黒の闇ありき


古の時代より、人類は闇を恐れた


しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって


人類は希望の光を得たのだ・・・・・・


第十三話 黄金騎士


この世に存在する命あるモノ全てが等しく持つ根源的な恐怖。
それは死の恐怖だ。
だからこそ死の気配を放つ存在から動物達は本能的に遠ざかり、理性や知恵を獲得した人類でさえその恐怖を完全になくすことは出来なかった。

「う~ん!!」

無邪気に伸びをするアリシア。
普通であれば心和む光景であるが今その場に居る全員はそう思わなかった。
エルダが行った行為や死んでいるはずのアリシアが動く事への疑問など多々あるがそれらを上回って感じるある感情がなのは達の足を止めていた。
それは恐怖。
何故だか分からないがこの幼子からは恐怖以外感じる事が出来なかった。

「アリシアなの・・・・・」

徐に口を開いたのはプレシア。
今、目の前にいるのは自分が人としての道を踏み外してまで取り戻そうとした愛しい存在。だがプレシアには目の前にいる存在をアリシアとは何故か認める事が出来なかった。
だからこそ口から零れたのは疑問の言葉。
そしてそれはユーノ、ムメイを除くメンバーの心を代弁していた。
だがそんなことを感じていないようにアリシアがユーノ達に言葉をかける。

「ねぇ、お兄ちゃんたち誰?それになんでアリシアは裸なの?」

可愛らしく首を傾げ無邪気に言葉をかけるアリシアであるが見ているなのは達にはまるで愛らしさを感じられなかった。
面々が困惑している中真っ先に動く者がいた。

「ぐっ!?」

ぱっくりと開いた傷を押さえ痛みに耐えながら立ち上がろうとするムメイ。
なのは達の視線を受け一度は立ち上がったものの膝から力が抜け再び崩れ落ちる。

「おい!大丈夫か!?」

クロノの案ずる声が響くがそれを遮るようにムメイが口を開く。

「小生の・・事は良い・・・。お前達は早く逃げろ・・・!!」

絞り出すような言葉にすかさずクロノが反論する。

「何を言っているだ!局員が一般人をそれも怪我人を置いて「待ちなさいクロノ。」・・・母さん・・・」

声を荒げ反論したクロノだがその言葉は母・リンディによって止められた。
怪訝な表情を浮かべるクロノを余所にリンディが僅かな怯えを含んだ瞳をムメイに向ける。

「あれは、ホラー・・・ですか?」

躊躇うように口にしたその単語は闇と関わりがないなのは達にはただ頭を捻るだけだがムメイは微かに目を見開き驚きの色を表す。

「提督殿は・・・我らのことを・・知っているのですか?」

「昔、父さんが助けた事があって・・・」

ムメイの言葉に頷きで返したリンディとそれを補足するように簡単に説明したユーノ。
その様子で事情を察したムメイは徐に目の前のホラーについて語り出した。

「なら話は早い。奴の名はホラー・リリス。子供の死体をゲートに現れその死体に憑依する上級ホラーだ。」

上級ホラー。
それを聞いた瞬間辛うじて冷静さを保っていたユーノとリンディも鼓動が速くなるのを感じた。
上級ホラーになれば魔導師はいうに及ばず並みの魔戒騎士でも歯が立たないだろう。
この中で唯一対抗出来るのはムメイだけだがこの傷ではまともに戦うことなど出来ない。
だがユーノ達を逃がすことは出来る。
ここにいる命を守る事、それは守りし者の使命でもある。
だからこそムメイは自分の命を盾にすることを瞬時に決めたのだ。

「ねぇ、何お話してるの。アリシアつまんな~い!」

その場でジャンプしながら苛立ちを募らせるアリシアの姿を見たムメイが急かすように声を上げる。

「早くしろ!今はまだあの体にホラーが馴染んでいないが後数分もすればお前達を襲いに来る。ここは小生が引き受ける!」

ムメイの決意を含んだ凛とした声が響く。
その声は有無を言わせない響きを伴ってユーノ達の耳朶を振るわせる。
その言葉に背を押されるようにリンディが立ち上がり面々を見渡す。

「分かりました。クロノ、皆、行くわよ!」

「でも母さん!彼を置いては「いいからいう通りにしなさい!!」!?」

リンディの決定に異論を唱えるクロノに対してリンディは恐らく今まで出した事のないような声でクロノの言葉を封殺する。
母の見た事もない姿に驚くクロノにリンディは一度大きく息を吐くと努めて優しく言葉をかける。

「お願いクロノ、今は私の言う通りにして。後でちゃんと説明するから。」

「母さん・・」

母の優しい、聞き様によっては弱々しい声がクロノの耳を震わす。
その様子にクロノは何も言えずただ頷く事しかできなかった。
それは他のメンバーも同じで徐に立ち上がるとムメイの元から離れていく。
先頭はクロノその後ろをなのは、フェイトと続きまともに歩けないプレシアの両脇をアルフ、リンディが支え続く。
最後はユーノであるがなかなか離れようとしない。
そんなユーノにムメイが声をかける。

「どうしたユーノ。早く行け。」

「でも僕も魔戒騎士の一人です。なら・・・」

思い詰めた様子のユーノの姿にムメイはホラーから目を離さずに言葉をかける。

「ユーノ。お前はいずれガロを継ぐ。そして多くの人を救うだろう。だからこそ此処で死なせる訳にはいかない!」

毅然としたムメイの姿にどう答えたら良いのか悩むユーノの耳の緊迫した声が届く。

「なんだこれは!!」

その声で振り返ったユーノの目に映ったのは見えない壁に行く手を阻まれたなのは達の姿だった。

「法術による結界だと!?これでは此処から逃げられない!」

「ムメイ、お前の術で何んとかならないのか!?」

すぐさま状況を把握したムメイにザルバが打開策を聞くがムメイは首を横に振って答えた。

「無理だ。小生の法術はあくまでも廻界騎士の使命に関係するものだけ。本職の魔戒法師ならあるいは。」

状況が悪い方へと流れていく。
特に状況を全く理解できないなのはとフェイトは互いに手を握り合い瞳に涙を溜めながら懸命に自分を保っていた。
しかしその努力を無に帰す者がいた。

「アリシアつまんない。だから・・・・」

嘲笑うかのようにホラーはアリシアの貌を不気味に歪ませ嗤うと人間では考えられないような脚力で地面を滑るように跳んだ。

「遊んでぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

雄叫びを上げながらなのは達に迫る姿はまさしく化け物と呼んで問題なかった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

悲鳴を上げ瞼をしっかり閉じるなのは。
その際に瞳から涙が零れる。
どれだけ時間が経っただろう?
永遠ともとれる一瞬が過ぎ恐るおそる目を開いたなのはが見たのは何時も自分を守ってくれる大好きな人の後ろ姿だった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

魔戒剣でアリシアの攻撃を防いだユーノは咆哮と共にアリシアを弾き飛ばすと今まで数え切れないほど構えてきた構えを取る。
ユーノの後ろにはうずくまるなのはとフェイト。
クロノ達も集まってくるとユーノはクロノに声をかけた。

「クロノは治癒魔法が使えたよね?僕が時間を稼ぐからムメイさんの治療をお願い。」

そう言い終えるとクロノの返事を聞かずアリシアへ跳ぶと魔戒剣を振り下ろし戦いへと突入していく。
対するクロノもこの状況を打開するにはムメイの力がいるとなんとなく感じたのか素直にユーノの指示に従いムメイに治癒魔法をかけていく。
残されたなのは達はただユーノとアリシアの戦いを見つめることしか出来なかった。

・・・・・・・・・・

「あは、お兄ちゃんが遊んでくれるの?」

「・・・・・・・・」

無邪気に声をかけるアリシアだがユーノはそれを無視して構えをとる。
一瞬の静寂はアリシアによって破られた。

「はぁ!」

可愛らしい声をあげユーノに襲い掛かったアリシアは右手の手刀を振り下ろす。
それを魔戒剣で受けたユーノはそのまま受け流し手首のスナップで逆にアリシアに切りかかる。
だがアリシアも半歩後ろに下がってその剣を交わすと今度は左手に拳を作りユーノの顔面に向かって放つ。

「っ!?」

予想よりも鋭いアリシアの拳をユーノも辛うじて首を傾けてかわす。
しかし一歩先に動いていたアリシアは左足で軽く跳ぶと再びユーノの顔面を今度は右足の痛烈な蹴りが襲う。
全裸であるアリシアがそんな事をすれば少女の聖域まで丸見えであるがそんな事をユーノは気にしていられなかった。
何とか左腕を捻じ込んで顔面への直撃は防いだものの蹴り飛ばされるユーノ。
すぐさま立ち上がるユーノであるが全身を強く打った痛みとそれを数倍上回る左腕の痛みに苛まれる。

「つ、強い・・・」

左腕を押さえながらユーノはアリシアを射抜くような鋭い視線を向けるが当のアリシアは笑みを浮かべたままユーノに声をかける。

「お兄ちゃん凄いね。アリシア驚いちゃった!」

本当にそう思っているかのような無邪気な表情。
だが次に彼女が口にしたのはさらなる地獄への幕開けの言葉であった。

「だからアリシア。本気出しちゃうよ!」

そう言った途端、アリシアは目を見開く。
白く濁ったその目に魔界文字が浮かび鮮やかな金髪がまるで意思があるようにアリシアの体を覆う。
次の瞬間、金糸のような髪は全て弾け飛んだ。
その中から現れたのは一人の女性だった。
成熟したその体を包むのは漆黒のドレス。
指先から肘までを硬質的な輝き持った手袋で覆っている。
見える肌は青白く服装と相まって幻想的な雰囲気を纏っているがそれよりも不気味さが際立っていた。
その最大の要因はその貌。
本来なら美しい容姿が見えるはずのその貌をくすんだ金髪が蔽い右目だけが髪の切れ目から不気味に光る。

「不味いな・・・・」

ザルバの声が嫌に響く。
彼の言葉通りホラーとしての力を完全に解放した今の状態で討滅させることが出来るのはムメイだけだ。
そう思ったユーノは目線をムメイに向ける。
しかしムメイの様子を見るにまだ戦う事はおろか動く事さえ出来そうにない。
だからこそユーノは決断した、自身がこのホラーを討滅する事を。
再び相手を射抜くほどの鋭い眼差しを向けると徐に愛用の魔戒剣を頭上に持っていく。

「やめろユーノ!今のお前じゃ鎧は呼べない!冷静になれ!!」

怒鳴り声ともとれるザルバの言葉にユーノは淡々と返事をする。

「でも今ホラーを討滅出来るのは僕だけなんだ。だから・・・・」

真っ直ぐと頭上に構えられた魔戒剣を改めて握り締める。

(だから、今度こそ、使命を果たすために、ホラーを討つ為に・・・・・力を・・・・・・!!)

心の内で願うは闇を打ち砕く力。
使命を果たす為の力。
今までユーノが鎧を呼ぶ度に幾度となく願い想った事。
そして今、想いの全てをこれでもかという程に絞り切って魔戒剣を振るい頭上に真円を描き腕を振り下ろす。
本来なら剣の軌跡と共に光の輪が生まれ闇を切り裂いて溢れる眩い光の中、騎士は鎧を纏う事が出来る。
だがユーノの行いは何の事象を起こさなかった。

「・・・なんで・・・」

零れるのはユーノの苛立ちの色を含んだ言葉。

「どうして召喚出来ない!!何が足りないんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

怒号が響く。
あまりの感情の昂りを肌で感じたなのは達は何も出来なかった。
唯一人ムメイだけが絞り出すように言葉を発する。

「・・・それではダメだユーノ・・・思い出せ・・・魔戒騎士の在り方を・・・・守りし者の・・・・・・・意味を・・・・」

だがその言葉は弱々しくユーノの耳には届かなかった。
悔しさで唇を噛むユーノに対して悠然と見下すような態度を保っていたホラー・リリスは妖しく輝く右目を笑みをつくったかのように歪める。
それに応じるように身の丈を優に超えた髪が蠢きながら空中に浮いた。
数瞬空中を漂った髪はリリスが右手を振ったのに答え鋭い剣先を作り呆然と立ち尽くすユーノに殺到する。

「ユーノォォォォォォォォォォォッ!!」

その光景を見たクロノの絶叫が響く中無慈悲な剣の群れがユーノを襲った。

・・・・・・・・・・

淡い月光のような光の中ロッキングチェアを揺らすアリスは古めかしい革張りの大きな本を膝に置きゆっくりと開いた。
そのページを一枚、一枚優しく丁寧に捲るアリスの瞳に映るのは無数の写真。
最新の印刷機で刷られた鮮明なものから色あせ始めた印画紙のもの、白黒の時代を感じさせるもの。
さらには写真ではなく木の板や紙の描かれた絵まである。
そこに映るのは主に男性であるが中には女性や子供が交じったものもある。
そしてそれらすべてに共通するのは皆が笑顔である事だ。
しばらく時が経ったときふとアリスの捲る手が止まった。
そのページに在ったのは金髪と翡翠の瞳を持った赤ん坊を抱くアリスとその傍らに立つ白いロングコートの男性が映った写真であった。

「あれからもう九年になるんだね・・・」

懐かしむように零れるアリスの鈴のような声。
その声を皮切りにアリスは九年前の事を思い出していた。
何時ものように指令を果したバラゴを笑顔で迎えたアリスはバラゴの腕に抱かれ心地よく眠っている赤ん坊を見て素っ頓狂な声が溢れるのを他人事のように感じるほど驚いた。
それもそうだろう魔戒騎士最強と呼ばれる牙狼の称号を持つ歴戦の戦士がまだ生まれたばかりの赤ん坊を抱いて現れたら何百年何千年と生きた神官だろうと驚く事確実だ。
確かに彼の性格を知っている者ならその判断も頷けなくもないが先ずは使命や掟を優先する魔戒騎士ならホラーによって孤児となってしまった子供は然るべき所に預けてホラーからの無用の干渉を避けようとするはずだ。
実際アリスもその事を進言したが対するバラゴの答えを彼女は今でも鮮明に覚えていた。

「確かにお前の言う通りかもしれない。だがこの子を抱いて、この子の手を握った時、この子は笑ったんだ。その笑顔を見て私は思った。この子を守りたいとこの子と一緒に生きていきたいと・・・」

普段の彼よりもさらに優しく慈悲に溢れた声音。
それを聞いたアリスはもうその事を口にはしなかった。
そしてそれからの彼はさらに強くなった。
元々牙狼の称号を継ぐだけの騎士だ、その実力は圧倒的とも言えるだろう。
何より守りし者の意味を確りと理解している騎士もそうはいなかった。
だが例え頭で理解していても心がそれを受け止めていなければ真の守りし者とは呼べないだろう。
そして本当の意味で守りし者を理解したバラゴの剣はまさしく時空すら断ち切るほどだった。

「ユーくん・・・・貴方なら絶対に答えを見つけられる。だから思い出して。なぜ魔戒騎士がホラーと戦うのかを・・・」

閉じたアルバムを強く抱きしめながらアリスの声が零れる。
切実な願いが籠った視線が月光の中を進む、その先にユーノがいるかのように。
そしてその願いは今まさに叶おうとしていた。
一人の少女の笑顔によって・・・

・・・・・・・・・・

自分に迫りくる刃を見つめながらユーノは死を覚悟した。
しかしユーノの体が受けた衝撃は刃が骨肉を貫く痛みではなく優しい温もりに抱き締められる心地よい息苦しさであった。

「・・・なのは・・・」

自分に覆いかぶさる少女の名を口にしたユーノはその温もりで一瞬冷静になるが再び感情が爆発した。

「!?何をしてるんだなのは!!下手をしたら死んでいたんだぞ!!!」

ユーノの言葉通りあんな攻撃の中を何の策もなしに飛び込めば死んでしまうだろう。
実際なのはの右腕は無残にもバリジャケットが破けその下に隠された肌は大きく裂け鮮血が止め処なく流れていた。

「!?どうしてこんな無茶を「・・・わか・・よ・・・」へ?」

その光景を見てさらに感情が昂るのを感じたユーノはさらに言葉を綴るがその言葉をなのはのか細い声が遮った。
その言葉でようやく冷静さを取り戻したユーノはあらためてなのはを見る。
なのはの小さな体は小刻みに震え今まさに恐怖に耐えているのがよく分かった。
その時になって自分以上になのはの精神が限界である事に気付いたユーノは自分を心中で叱咤しながら努めて優しくなのはに言葉をかけた。

「ゴメンなのは。でもどうしてこんな無茶な事を?」

「・・・分かんない。気付いたら勝手に体が動いてたから・・・」

ユーノの問いに答えるなのはだがその答えは曖昧なものであった。
その答えに困惑するユーノであるが対照的になのははゆっくりとではあるが言葉を紡いでいった。

「でも・・・理由は簡単だと・・・思うよ・・・」

「その理由って?・・・・」

近くにホラーがいる危機的状況で一刻を争うはずなのになぜかユーノはなのはがいう理由が気になって仕方なかった。
そんなユーノの心を理解したようになのはが伏せていた顔をあげその理由を口にした。

「好きだから。私がユーノくんのことが好きでユーノくんが傷つく所を見たくなかったから・・・・」

「!?」

告白としかとれない台詞が桜色の唇から零れ愛らしい微笑がユーノの瞳と耳に届く。
その笑みと言葉を聞いた瞬間ユーノは自身の鼓動が今まで感じこともないように速くなるのを感じた。
そしてその笑みはユーノの記憶ある父・バラゴのものと同じ温もりがあった。
だからこそユーノは忘れていた父の言葉を思い出す事が出来たのかもしれない。
その言葉、それは・・・・

“守りし者になれ”

あの温もりに満ちた微笑みと共に語った言葉。
その瞬間ユーノの心の中でバラバラだったパズルが組み上がったような感触を感じた。

「そうか・・・そうだったんだ・・・・」

「どうしたのユー!?」

独り言を口にするユーノの様子に首をかしげたなのはだがその言葉を途中で途切れる事になる。
なぜならユーノに抱き締められたからだ。
熟したトマトのように真っ赤になるなのはの耳元でユーノがそっと語りかける。

「ありがとうなのは。君のおかげで僕は大事な事を思い出す事が出来た。」

「ユーノくん・・・」

自分の名を呼ぶなのはに微笑を送ったユーノは立ち上がると悠然と佇むホラーへと向き直る。
その姿には今までなかった風格とも言える空気を纏っていた。
対するホラーもその空気を敏感に感じ取ったのか再び闇色の剣である無数の髪をユーノへと振り下ろす。
その光景を目の当たりしたクロノ達が息をのむ中ユーノは舞を踊るように自在に魔戒剣を振るいその剣の雨を防ぎきった。
だがそれはホラーに対して危機感を与える形となった。
目の前の敵を即刻排除する。
ホラーの本能がそう決断しその肉体はすぐさまその決断に従った。
再び髪を振るったホラーだが今度はそのまま襲いかからずに辺りに転がる瓦礫の群れに突き立てると何の苦もなく持ち上げた。

「!?いけない!!」

リンディがホラーのしようとしている事に気付くが一歩早くホラーユーノ達に向かって無数の瓦礫を放り投げた。

「逃げろユーノ!!」

「お願い!やめてぇぇぇぇぇっ!!」

クロノとフェイトの悲鳴が響くなかユーノはただ静かに魔戒剣を見つめる。

(牙狼の称号を継いだ数多の英霊達よ・・・・)

白刃の向こうに偉大な先達たちが居るかのようにユーノは心中で言葉を紡ぐ。

(僕に力を貸して下さい。ホラーを討つためではなく・・・・)

ほんの一瞬なのはを見たユーノは切実な願いを込めて最後の言葉を紡いだ。

(大切な人を守るために!!)

再び魔戒剣を頭上に掲げ円を描く。
だがその円が描き終えるかという刹那、ユーノとなのはに無数の瓦礫が降り注いだ。
響き渡る轟音が辺りを支配する。

「あ、ああ・・・」

その光景を見てしまったフェイトは瞳から止め処なく涙があふれ今見た光景が嘘であって欲しいを願うかのように首を振る。
クロノ達も一様に悔しさを滲ませている。
だがその時ムメイの耳に届くものがあった。

「これは・・・唸り声・・・・?」

そう微かに聞こえるそれは紛れもなく狼の唸り声。
徐々に大きくなる唸り声はフェイト達はもちろんホラーにも届いた。
そしてその唸り声が頂点に達した時瓦礫が吹き飛びそこから一つの影が飛び出た。
悠然と降り立ったその者の姿は・・・・

「黄金の・・・狼・・・・」

フェイトの口から零れた言葉を的確にその姿を言い表していた。
重厚な鎧は穢れを知らないかのように燦然と輝く黄金。
後光のようにその者の背に現れた紋章が弾けると紅蓮の焔が辺りに燃え盛りその鎧を鮮やかに照らす。
極めつけはその仮面だ。
荒々しく牙を剥き出しにした狼を模した仮面がその猛々しさを表していながらその眸はまるで慈悲のかたまりかのような澄んだ翡翠の如き碧の眼差しが狂いなくホラーを射抜いていた。

黄金騎士 牙狼

それがこの鎧の銘であり魔戒騎士最強の称号である。
そこに居た者たちが牙狼の神々しい姿に言葉を失う中狩る側から狩られる側に取って代わられたホラーがその事実に抗うかのように髪を振るう。
先程よりも数段早くなった剣の雨が牙狼を襲うが対する牙狼は悠然と牙狼剣となった剣を構えその雨に向かって駆け出した。
一見自殺行為に見える行動だがその選択は正しいと言えるだろう。
鎧を構成する素材は特殊な金属であるソウルメタルだ。
その強度はいかに上級ホラーと言えど簡単に突破することは難しい。
だがそれよりも重要なのは鎧の召喚時間だ。
魔戒騎士が使う鎧はホラーが生まれた魔界の力を使っている。
だからこそこの世界で鎧を纏えるのは99.9秒とごく短い時間ありユーノの実力では生半可な小細工は時間の無駄と言える。
それが誰よりも分かっているユーノは真正面からぶつかる事を選んだのだ。
歩みを止め様とする剣の雨をユーノは牙狼剣の一閃で弾き飛ばしそれでも襲い掛かるものは鎧の防御力に任せ受け止めながら駆ける。
黄金の風と呼ぶべき牙狼の姿にようやく恐怖というものを感じたホラーはその恐怖を払うべく次の一手を打った。
無数の髪を絡め合わせ一つの巨大な螺旋状の槍を造り出すと勢いよく振り下ろす。
寸分違わず牙狼に振り下ろされた螺旋の槍は土煙を生む。
しかしその一撃は無駄に終わった。
それに気付いたのは誰でもないホラー自身であった。
全く手応えがないことに一瞬疑問を持つがその答えはすぐに分かった。
突如自分を覆う影。
それにつれられて上を見たホラーの瞳に映ったのは牙狼剣を上段に構え今まさに自分に振り下ろそうとしている金色の狼だった。
迎撃しようとするホラーだがそれよりも早く振り下ろされた牙狼剣は縦一文字にホラーを断ち切る。
そして止めを刺すように振り向きざま牙狼は横一文字に剣を振るった。
内部から爆発するように消滅したホラーの返り血が牙狼の金色の鎧を汚すも瞬く間に消え失せ本来の輝きを取り戻す。
ゆっくりと剣を下ろし佇まいを直す牙狼。
次の瞬間頭上に光が溢れ鎧が送還されるとそこには荒い息を吐き汗を滝のように流すユーノの姿があった。
静寂が辺りを満たす中ユーノが崩れ落ちた。

「っ!?ユーノくん!」

それに気付き駆け寄ろうとするなのはだがそれよりも早くユーノを受け止めるものが居た。

「まったくこの子には驚かされるな。」

それは傷口を塞いだばかりのムメイであった。
そのままムメイに近づいたなのはは徐にユーノの顔を見た。
そこには疲れ切った表情を浮かべながらも穏やかな寝顔があった。
寝顔を見ながら微笑みを浮かべるなのはだが突如辺りに地響きが轟いた。

「これは次元震!?」

すぐに原因に行き当たったクロノに不通になっていた通信が繋がりエイミィの切羽詰まった声が響いた。

『クロノ君!艦長!誰か返事をして!!』

「エイミィ!落ちつけ!僕達は無事だ!」

涙声になりかけていたエイミィだがようやく帰って来たクロノの言葉に一瞬息をのむが直ぐに緊迫した状況を告げた。

『良かったクロノ君。急に通信が出来なくなって心配したんだよ。それよりも早く脱出して、止まってた次元震も再開してもう時間がないんだよ!』

「了解した!すぐにゲートを開いてくれ!」

エイミィの言葉に時間がない事を改めて知ったクロノはそこに居た面々に大きく指示を出した。

「もうすぐ此処は崩壊する!近くに脱出用のゲートが開くから急いでくれ!!」

クロノの指示に足早に移動を始めるメンバーのまさしく目の前にゲートが開き雪崩れ込むように各々が入っていく。
一番最後にクロノが入ると光の粒子となってゲートを構築していた魔法陣が消滅する。
だがこの時クロノ達は自分達を見つめている者たちが居る事に気付かなかった。
その者たちこそムメイを襲いアリシアの亡骸にホラーを憑依させた人物。
エルダとシンジであった。

「まさか本当に主の言う通りなるとわね。」

轟音の中不思議と響くエルダの声にシンジが答える。

「これぐらい出来なければ牙狼の称号は継げないだろう。我らが主の為にももっと強くなってもらわないとな。」

口角を上げニヤリと嗤うシンジとは対照的にエルダは今回の主の命令に疑問を持っていた。
あの少年をまるで鍛えるかのような行動。
主の計画を考えるなら障害となりうる可能性は極力排除すべきなのに主はあの少年が成長する事を望んでいる。

「エルダ、俺達もそろそろ脱出するぞ。」

思考の海に沈んでいたエルダだがシンジの言葉で意識を現実に向けると界符を取り出し辺りにばら撒く。
空中を舞っていた界符はまるで意思があるようにエルダとシンジの周りを廻り始める。
その光景を見つめながらエルダは先程の思考にピリオドを打った。
例え主が何を望んでいても関係ない。
自分達はただあの方に従うだけなのだからと・・・・

今、新たなる黄金騎士の伝説が幕を開けた。その伝説の往きつく先が何なのかそれは神すら知り得ぬ事。だが今は祝福しよう、小さな魔戒騎士の大いなる飛躍を。


**********


「女性が願ったのはありふれた幸せ。
使い魔が望んだのは主の未来。
少女が想ったのは母の笑顔。

次回・アリシア

そして幼子が夢見たものとは。」




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