<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[27182] 【ネタ】攻強皇國機甲【AC】
Name: 武藤正ヤ◆d524ed78 ID:3059502c
Date: 2011/04/23 07:26
はじめまして、武藤正ヤです。

ニコニコ動画で一世を風靡した、『グレートありがとウサギ』。
そこから発展した『攻強皇國機甲』をSSにしてみました。
設定その他はニコニコ大百科を参考にしています。
ただ、あちらは更新が早いので生かし切れてませんが…。

まだまだ稚拙ではありますが、よろしければどうぞ。



【追記】第三話、非常にお待たせしました! 今回はほんの少し長いかもしれません。



[27182] 第一話 「あいさつの魔法。」
Name: 武藤正ヤ◆d524ed78 ID:3059502c
Date: 2011/04/15 13:32
攻強皇國機甲 第一話 「あいさつの魔法。」




 あいさつ――

 そう人は、なぜあいさつをするのだろうか。

 人が人にあいさつをするとき、我々は何を思ってあいさつをするのだろうか。

 あいさつとは、そこに込められた意味とは、そしてその存在意義とは――


 いったい何だろうか。





「ジリリリリ……」

 日々の朝は、けたたましく始まる。
 彼ら、日々を生きる人間にとって、朝の一分一秒は何よりも貴重だ。
 その貴重なはずの時間を浪費している少年が、一人。

「ジリリリリ……」

 まだまどろみの中を泳いでいるのか、目覚ましがむなしい悲鳴を上げ続けている。

「起きなさい、正太郎!」

 怒鳴りながら部屋に入ってきたのは、彼の母親だろう。正太郎と呼ばれた少年はようやくその目を開けた。

「一体何時だと思っているの、いいかげんにしなさい」
「う~ん、もう少し~」
「何言ってるの、もう8時15分よ!」
「えっ!?」

 数字を聞いて飛び起きる。

「うそー!? もうこんな時間!!」
「朝ごはんできてるから、早く着替えて降りてきなさい」

 そう言う母の姿はすでになかった。





「もう! どうしてもっと早く起こしてくれなかったの!」

 目玉焼きを飲み込んだ正太郎が叫んだ。

「ちゃんと起こしました。それも3回」
「僕が起きなかったら意味ないよ!」

 トーストを口いっぱいにほおばる。

「『あともう少し』って何回聞いたと思う?」
「それは……、ゲホゲホ」

 言葉に詰まる。そして喉も詰まった。

「慌てて食べるからよ」
 というあきれる声を聞いた。
 涙目の正太郎は二重の意味で言い返せない。
 ミルクでなんとかトーストを流し込んだ。サラダがまだ残っているが、時計はすでに25分を回っている。

「よし!」
「何が、よし! よ。サラダが残ってるじゃない」
「だって今日は時間ないもん」

 言うが早いか、ランドセルを背負って玄関へ駆けだした。

「待ちなさい、正太郎」

 怒られる、そう彼は思った。だが、母は白い袋を手渡した。

「はい、給食エプロン。ちゃんと洗濯しておいたからね」
「あ、……うん」

 拍子抜けした正太郎に、次の言葉は出なかった。ため息を聞いた気がする。

「じゃ、いってらっしゃい」
「……うん」いってきま――
 が、突然鳴りだした電話に彼の台詞は遮られた。
 母親はすでにそちらへ向かっている。

 正太郎はしばらくそこにたたずんだが、やがて、
「お母さんなんて勝手なんだから!」
 と吐き捨てたのち、ドアを開け、駆けた。





 教室のドアを開けると、同時にチャイムが鳴りだした。

「ふぅ~、なんとか間に合ったぁ」

 いそいそと正太郎は自分の席へ向かった。

「おそよう」

 座ろうとした正太郎に、ふいに隣の席の女の子が声をかけてきた。

「おそようってなんだよ!」
「おそようはおそようじゃない」

 満面の笑みで言ったのは、シア・タウスだ。席が隣ということもあって、正太郎とはよく話す仲だ。

「ふんっ! 今日は僕のせいじゃないもん」

 一人ですねてしまった正太郎に、シアは首をかしげた。
 だが、その理由を考えるよりも、ふとあるものに目が行った。

「正太郎君、それ……」
「なに?」

 彼女が指しているのは給食エプロンの袋。

「とってもキレイにたたんである」
「うん、今朝お母さんが”勝手に”わたしてくれたんだ」

 正太郎としてはまだ今朝のことを根に持っている。
 だが、シアは逆の意味で受け取った。

「いいなぁ」
「えっ?」
「だってお母さんがやってくれたんでしょ? シアのお母さんは自分でしなさいって言うから」

 言われて、正太郎は改めて袋を見た。純白の袋には、いつも通り丁寧にアイロンがけがされたエプロンが入っている。

「あ~あ、正太郎君がうらやましいなぁ」

 シアのつぶやきに、彼は返す言葉を見つけられなかった。





 攻強皇國機甲-Armored Chrysanthemum-、通称AC。

 それは来るべき大神祭の脅威に備えて、日本政府が秘密裏に設立した特務機関である。
 その総合指令室の一角に、観葉植物が並べられたスペースがある。
 そしてそのそばに、女性が一人。
 鼻歌を唄いながら水をかけている。

「やぁ、美乃里(みのり)君」

 後ろから声をかけられた。
 江石美乃里が振り向くと、そこには堂々たる体躯の男が立っていた。

「あっ長官」

 言いつつ美乃里は、その手に持った霧吹きを体の後ろに隠した。
 この男こそ、AC司令長官・絵多野幸太郎その人だ。

「水やりとはさすがは美野里君だ、細かいところによく気がつく」
「いえ、なかなか気遣う人がいないものですから」
「私は君のそういう点を、秘書として高く評価しているのだよ」

 とんでもない、と美乃里はかぶりを振った。
 絵多野長官は笑みを作った後、こう尋ねた。

「これは…芽生(めばえ)君が置いてくれたもの、だったかな?」
「はい、妹は――芽生は『指令室は殺風景すぎるの』だと」

 まったくだ、と長官は笑った。

「そういえば、芽生君、それに幾重(いくえ)君はどこにいるんだ?」
「今日は平日ですから、二人とも学校ですわ」
「そうか、彼らにはそちらの日常もあるのだったな」

 そう言って長官は指令室の前面にかかるメインモニターを見やった。つられて美乃里も顔を向ける。
 画面には単なる地図が映し出されてあるだけだ。それはつまり、平常であることを告げている。

「……現れませんね、大神祭」
「私はいっそ、このまま現れないことを願っているのだがね」
「ええ、その通りですわ。そして――」
「あいさつの魔法、その使い手も、だ」

 長官はうなずき、そして美乃里はその目を細めた。





 終わりの会を終えた教室から、三々五々と子供たちがあふれてくる。
 ある者は校庭に仲間と繰り出し、ある者は会話に花を咲かせ、またある者は目もくれず家路に着く。

 そんな中、正太郎は二人で帰路を進んでいた。
 相手は江石芽生、クラスメートでは唯一帰り道を共にしている存在だ。

「あ~あ、また今日も、幾重先生に怒られちゃったなぁ」

 正太郎はわざと明るい声で言った。クラスの担任である江石幾重は芽生の姉だからだ。
 言わずもがな、美乃里、幾重、芽生は三姉妹である。ただし、芽生は腹違いではあるが。

「また、そんなこと言って、正太郎君が悪いんだからね」
「僕が?」
「だって、またあいさつしなかったでしょ?」

 そう、彼らの担任である幾重は、特にあいさつの指導に厳しい。
 今日、正太郎が怒られたのも、それが原因だ。

「幾重先生はあいさつあいさつって、うるさすぎるよ。そんなにガミガミすることないじゃん」

「ほんとにそう思ってる?」

 芽生は立ち止まり、しっかりと彼の目を見据えていた。
 軽い気持ちで言った正太郎はただ困惑した。
 長い沈黙の後、ややあってから芽生は前に向き直り、再び歩き出した。

 軽い動悸から解放された正太郎は、ふと今朝のこと、母のことを思い出していた。
 三度も起こしてくれたこと、給食エプロンもちゃんと用意してくれていたこと。
 そのお礼も、食後にも、出かける時も。

「どうして僕はあいさつをしなかったんだろう……」
「すればいいじゃない」
「えっ?」

「あいさつをしたら、それでいいじゃない」

 芽生の言葉に正太郎は目が覚めた思いだった。

「うん、そうだよ、そうなんだ!」

 帰ったら一番にお母さんにあいさつしよう、そう心に決めたその時だ。

 突然、空が赤くなった。
 次いで、轟音、そして衝撃が来た。
 悲鳴があちこちで聞こえる。

「な、何が起こったの!?」

 正太郎の叫びに芽生が答えた。

「来た……!」

「来たって何が?」

「大神祭!!」





 攻強皇國機甲、その全域に緊急警報が鳴り響いた。

「長官!」
 と、美乃里が振り向くと、

「どうやら、私の願いは聞き届けられなかったようだな!」

 長官はすでにその身を指令座に置いていた。

「現在の状況は!」
「正体不明の巨大ロボットが、突然出現しました!」
「突然だと!」

 ふむ、と声を挙げたのは長官の前の席に座っている老人だ。

「会田博士?」
「間違いない。この空間転移魔法は、奴らにしか使えんものじゃ」

 博士は立派な禿頭をなでながら答えた。

「間違いないのだな?」
「ハッハッハ……、我々人類には百年かかっても会得できない技術じゃよ」
「よろしい、ならば!」

 長官はおもむろに机を叩いた。
 その音に機甲の構成員たちは動きを止め、そして仰いだ。

 長官は指令室内に響き渡る大声で、今こそ宣言する。

「現時刻をもって、正体不明のロボットは大神祭による災いと認定する」

 よって!

「我々、攻強皇國機甲はその本来の目的を果たす、すなわち全力を持って大神祭の災いを撃滅する!!」

 応!! と応えるは構成員。そしてすぐさま己の成すべきことに注力する。

 長官はうなずき、続けて博士に問うた。

「博士、ACナンバーズは――」
「AC-D01、AC-G02の二体が出動可能じゃ。後のナンバーズは調整中での…」
「今はその二体にかけるしかない! パイロットの犬埼君、宇佐見君に今すぐ出動準備を――」





 正太郎君、とおもむろに芽生は呼んだ。

「私、行かなきゃいけないから、行くね」
「行くってどこへ!?」
「……ごめん、言えない」

 そうして元来た道を戻ろうとした。が、
「正太郎君。……正太郎君は逃げて」
 そう言い残し、今度こそ駆けた。

 残された正太郎は、もう一度爆音の生じた方向を見やった。

「逃げろって言われたって……」

 刹那、今度は前よりも近いところで、新たな火の手が上がった。

 そしてそれは、
「ウチのほうだ! そんな――」
 お母さん!!

 その時、正太郎の周囲の空気が揺れた。





 待ってください、と右手から声が上がった。

「どうした!」
「別の反応があります! これは――魔法の波動!?」

 瞬間、長官と博士は見合わせた。

「どうやら、現れたようじゃの」
「これまで我々がいくら探し続けても、見つからなかったというのにか」
「この状況、このタイミング、まるで計ったかのようじゃの」

 二人は互いに苦笑を作った。

「この戦いの鍵は、魔法の使い手――彼が全てを握っている」

 博士はうなずいた。

「よし、波動の震源は?」
「はい、特定できます」
「よろしい。では、犬埼君はAC-D01・こんにちワンで敵ロボットの牽制を、宇佐見君はAC-G02・ありがとウサギで魔法の使い手との接触を」

 一呼吸置き、

「攻強皇國機甲、出動だ!!」






攻強皇國機甲 第一話 「あいさつの魔法。」 完



[27182] 第二話 「挨拶王誕生」
Name: 武藤正ヤ◆d524ed78 ID:3059502c
Date: 2011/04/17 23:15
攻強皇國機甲 第二話 「挨拶王誕生」





 ――時は、五年ほど遡る。

 長崎県は軍艦島、そのはるか地底の下から謎の古代遺跡が発掘された。
 我々人類とは異なる生命体によって創造されたその遺跡のために、日本政府は一大調査団を結成。
 大々的な発掘調査を行う中で、不思議な光を放つ結晶体を発見する。
 Acceleration Crystal――Aクリスタルと名付けられたそれは、排出物を出すことなく無尽蔵にエネルギーを供給することから、世紀の大発見として大いにもてはやされた。
 高揚した調査団はさらなる発見を求めて、遺跡の最深部へとその調査の範囲を広げた。

 しかし――





「――しかし、我々が見つけてしまったのは、トンデモナイものじゃった」

 目を閉じた会田博士がつぶやく。
 絵田野長官は黒いロボットが映し出されたメインモニターを見ながら答えた。

「……大神祭TK!」
「そうじゃ、おかげで調査団は壊滅。脱出できたのは、ワシらAクリスタルを調査しておったチームだけじゃった…」

 博士は拳を固く握りしめた。

「博士――」
「いや、長官。……何も言わんでいい」

 長官は何か言葉を発しようとしたが、すぐに口をつぐんだ。

「なぁに、長官。心配することはなかろう。ACナンバーズにはAクリスタルが埋め込まれておる。ワシらを生かしてくれたあの神秘の結晶じゃ、今度も我々を守ってくれるじゃろう」

 そう語る博士の目はとても優しかった。





 正太郎は家路を急いでいた。
 だが、いつもならすぐにつける距離が、今は果てしなく思えた。

「早く、早く――」早く!

 家が近付くにつれ、空はより一層その赤味を増した。
 そしてその空の下には、

「何、あれは!?」

 黒いロボットがたたずんでいた。この災害は彼の仕業であることは一目瞭然だった。

「待ってて、お母さん! すぐ行くから」

 彼は一心にそれだけを考え、走ろうとした。
 しかし、なにかとてつもなく大きな白いものに、正太郎の行く手は阻まれた。
 それは、

「ウ、ウサギ!?」

 頭に王冠を載せた、巨大なウサギだった。

 そう、これこそ攻強皇國機甲が誇る人型変形戦兎卯兵器・ありがとウサギだ。





 驚きのあまり、身じろぎもできずにいた正太郎だったが、見るとありがとウサギの口のあたりから人が出てくるではないか。
 そのまま、細い糸のようなものに支えられ、その人物は彼の目の前に降り立った。

「こんにちは」

 そう声をかけたのは、長い髪をたなびかせ、白いジャケットを羽織った美しい女性だった。

「私の名前は宇佐見美琴。君を迎えに来たの」
「僕を…迎えに…?」
「ええ、君の力が必要なの」
「僕の、力!?」

 その時、ありがとウサギの後ろで新たな爆音がした。
 宇佐見と名乗った女性はとっさに正太郎をかばった。
 女性からは、ふといい香りがした。

「お願い、私たちに力を貸して! 早くしないと――」
「そんな、いきなり言われたって!」

 正太郎は彼女から離れた。
 そして、今日の一日を反芻した。

「僕には、何が何だかわかんないよ! それに――」

『あ~あ、正太郎君がうらやましいなぁ』
『あいさつをしたら、それでいいじゃない』
『じゃ、いってらっしゃい』

「僕はまだ、いってきますも、ごちそうさまも、ありがとうも言ってないんだ!」





「うん、わかった。君はあいさつをとっても大切にしているんだね」

 そう言うと、宇佐見はありがとウサギへと戻っていった。

「どうするの!?」
「私はあのロボットと戦う。それが私たちの使命だから」
「私たち?」

 ロボットのほうを見やると、これまた巨大な犬が今まさに立ち向かおうとしていた。

「あの犬型ロボット――こんにちワンは私たちの仲間。早く行って援護しないと」
「待って!」
「安心して。君にはもう、関係のないことだから」

 ありがとウサギはその巨躯をうならせて飛び立った。





「僕は…」

 たたずむ正太郎。

「僕は…」

 家に向かえばいい、今の今までそう思っていたはずだった。

「僕は…」

『安心して。君にはもう、関係のないことだから』

「僕は…」

『君の力が必要なの』

「僕は…!」

 再び轟音。
 見ると、こんにちワンが吹っ飛ばされていた。その両腕はすでにない。

「僕は!」

 駆ける。





 あちこちで怒声が飛び交う、AC総合指令室。
 長官はその中でひときわ大きい声をあげた。

「こんにちワンの状況は!?」
「右腕、左腕共に大破! ACジェネレーターも損傷しています!」
「パイロットは!?」
「無事です!」

 安堵の声が指令室内に広がる。
 だが、長官はそのほおを緩めることはない。

「博士!」
「ああ、よもや奴らの力がこれほどまでとはのう」
「やはり、魔法の言葉がなければ太刀打ちできないというのか…!」

 Aクリスタル――それは確かに無尽蔵にエネルギーを供給する。
 しかし封印を解かなければ、その真の力を引き出すことはできない。
 そしてその封印を解く鍵こそ、あいさつの魔法、その使い手だけが使える魔法の言葉なのだ。

「宇佐見君はどうした!?」

 長官の問いに、オペレーターが戸惑いの声を返した。

「それが……敵ロボットへと向かっています」
「なんだと!?」





 先刻から、通信を知らせるランプが点滅している。
 だが、宇佐見はあらかじめ通信回路を切っていた。
 通信の内容は、魔法の使い手のこと、そして自分の不可解な行動についてだろう。

 そう、先ほど出会った少年は、計器類の反応から見て魔法の使い手に違いなかった。
 しかし、宇佐見は少年に強要することはできなかった。

『僕はまだ、いってきますも、ごちそうさまも、ありがとうも言ってないんだ!』

「だって、君には君の、あいさつがあるんだものね」

 宇佐見は隙を見せた。その僅かな一瞬を敵は逃さなかった。
 敵の大きくしなる右腕が視界の外から襲う。

「きゃぁぁぁぁ!!」

 全高20メートルを超えるありがとウサギが、軽々しく吹っ飛ばされた。





 住宅街に横たわるありがとウサギ。
 そのコクピット内で、宇佐見は操縦桿を握りしめていた。

「このままじゃ、やられる。だけど……」

 なんとかありがとウサギの身を起こす。
 敵のロボットはすでにこちらへ歩きだしていた。

「こんな…こんなところで…!」

 操縦桿を握りなおす。
 宇佐見が捨て身を覚悟した時だ。

「お姉ちゃん、ウサギのお姉ちゃん!」

 コクピット内、左手にあるサブモニターが先刻の少年の姿を捉えていた。

「どうしてここに来たの! 危ないから早く逃げ――」
「僕は――僕には、やっぱり何が何だかわからないよ」

 だけど!

「お姉ちゃんは僕が必要だって言った。だから僕も、一緒に戦うよ、ウサ姉ちゃん!」

「君…」

「――正太郎、僕は正太郎!」

「うん、いくよ、正太郎君!」

 敵が咆哮をあげながら突進してくる。もういくばくの余地もなかった。

「正太郎君、私がこれから言う言葉をくり返して!」
「わかった!」





「我が秘めたるはあいさつの魔法なり」

『我が秘めたるはあいさつの魔法なり』

「封印されし獣よ、真の姿を解き放て」

『封印されし獣よ、真の姿を解き放て』

「契約す主、正太郎が名のもとに!」

『契約す主、正太郎が名のもとに!』

「『ポポポポ~ン!!』」





 正太郎を囲む大気がざわめく。
 ざわめきはすぐに大きな波となり、大地を、空を震撼させる。
 そして目もくらむような輝きが正太郎を包み、次いでありがとウサギに光のシャワーを浴びせた。





「いっくぞ~!」

 宇佐美はすんでのところで敵の攻撃をかわした。

 そして、

「アニマルッ・チェーンジッ!!」

 コクピットの右手壁面にある、ガラスに覆われたボタンを叩き割る!





 ありがとウサギはまばゆい光に包まれつつ大空へ跳んだ。

 そして、脚が、腕が、顔が!

 額に輝くはAC!

 これが我々人類の希望。

 待ち望んだ真なる獣。

 誕生するは挨拶王!

 その名は――





「グレートッありがとウサギッッッ!!」






攻強皇國機甲 第二話 「挨拶王誕生」 完



[27182] 第三話 「その名はAC」
Name: 武藤正ヤ◆d524ed78 ID:3059502c
Date: 2011/04/23 07:23
攻強皇國機甲 第三話 「その名はAC」





「すごい…! ウサギが…変形した!?」

 正太郎は叫んだ。そびえ立つのはグレートありがとウサギだ。

 ありがとウサギを含む、彼らACナンバーズに埋め込まれているAクリスタルは、あいさつの魔法によってその封印が解かれるとき、理論上無限大のエネルギーを発する。
 グレートありがとウサギ――それはありがとウサギがアニマルチェンジすることで、Aクリスタルの力を最大限に発揮できる真の姿である。





 AC総合司令室、オペレーターの一人が声をあげた。

「やりました、ありがとウサギ、アニマルチェンジ成功です!」

 途端、司令室が歓声に包まれる。

「よくやった、宇佐見君」

 絵田野長官はうなずいた。

「ACジェネレーターも安定しておる、いけるぞ、長官!」

 会田博士の声も心なしか明るい。科学者冥利に尽きるといったところだろう。

「ああ。…あとは頼むぞ、挨拶王!」





 対する敵は突然頭身の上がったウサギを不審に思ったのか、しばらく手をこまねいていた。
 が、やがて咆哮をあげ、その右腕を大きくしならせた。

 そばで見ていた正太郎は、

「ああっ!」やられる――

 思わず目を覆った。

 しかし、しばらくたっても何の衝撃音も聞こえてこない。
 恐る恐る目を開けてみると、なんとグレートありがとウサギが、左手一つで敵のムチのような腕を捕らえているではないか。

「今度はこっちの番だよ!」

 宇佐見はそのまま敵を思いっきりたぐり寄せ、

「たぁぁぁぁっっ!!」

 腕ごと背負い投げにして地面にたたきつけた。
 あわれ、敵の右腕はあらぬ方向にひしゃげている。

「まだまだ、いくよっ!」

 Gありがとウサギは背部のスラスターを噴かせると、大空へ跳躍した。
 そのままの勢いで空中で大返りをうち、右脚を振り上げながら急直下する。

「脳天! カカト落としッ!!」

 ようやく身を起こした敵だが、時すでに遅し。
 撃音を伴って宇佐見は敵の頭部を砕いた。





「ホッホー! 素晴らしい、素晴らしいぞ!」 

 司令室では博士が一人、嬌声をあげていた。

「出力、安定制御、反応速度…、何もかもパーフェクトじゃ!」

 画面を見ながらはしゃぐ様子は、子どものそれとほとんど変わりない。
 長官は苦笑ついでに博士に問うた。

「しかし、このまま圧倒できれば、ありがとウサギだけでも撃退できそうだな?」
「いや、長官」

 博士はすぐに真顔に戻った。

「そうはいくまい。ヤツらのことだ、おそらくまだ何かしかけて――」

 そのとき、オペレーターが言葉を放った。

「敵ロボットの魔力反応が急激に上昇しています!」
「なんだと!」
「いかん!」

 長官と博士は同時に叫んだ。





「きゃっ!」

 宇佐見は虚を突かれた。
 沈黙したはずの敵が、今度は左腕でGありがとウサギを宙に放り投げたのだ。

「ううううん、でも!」

 宇佐見は空中で姿勢を制御し、再び敵の頭上に迫ろうとした。
 だが、敵の左腕がうなりをあげ、そしてつぶれたはずの右腕が反対側から迫り――





「博士、あれは!」

 長官が叫ぶ。
 メインモニターには、二本のムチで縛り上げられたGありがとウサギが映し出されている。

「再生魔法じゃ。しかし、なんというスピードだ…」
「それではキリがないではないか!」
「そうじゃ。もっと…もっと強い一撃を、再生できないほどのダメージを与えなければ、ヤツは倒せん!」

 途端、指令室内に悲鳴が響いた。
 見ると、敵のかつて頭部があったところにティラノサウルスのような顔が生えていた。

「クソッ、何か…何か方法はないのか!?」





 正太郎は、ずっと見ていた。
 先刻からその場を離れず、ずっと見続けていた。

「がんばれ、ウサ姉ちゃん!」

 だが、彼は何も出来なかった。
 せめてもと思い、声を振り絞って応援をしていたが、

「お姉ちゃん、ウサ姉ちゃん!」

 むなしさはただただ募るばかりだ。

『君の力が必要なの』

「僕の力なんて…、僕に出来ることなんて…」

 小さなこぶしをにぎりしめる。

「こんなに近くにいるのに、なんにもできないなんて…!」

 敵のロボットがその大きな口を広げた。

「僕だって!!」

 天が轟き、そして割れた。





 まさに敵がGありがとウサギを飲み込もうとしたときだ、雷光が彼らを直撃した。
 敵は悲痛な叫びをあげて崩れ、その両腕は焼ききれた。
 だが、Gありがとウサギは何の損傷も受けなかった。

 むしろ、

「なんだろう…、とても、暖かい…?」

 コクピットにいながら、宇佐見はつぶやいた。

 暖かい光に包まれながら、地にゆるやかに降り立つ。
 すると、目の前に一本の両刃剣が突き刺さっていた。

「これは…この剣は…?」
「ウサ姉ちゃん!」

 正太郎の声が頭の中に響く。

「正太郎君!? けど、どこに?」
「お姉ちゃん、はやく、その剣を取って!」
「これを…?」
「うん、僕にもよくわからないんだけど……」

 でも!

「きっと、それを使えばアイツを倒せるんだと思うんだ!」

 ふふ、と宇佐見は笑った。

「君が言うのなら間違いないよ!」

 柄を両手に持って引き抜く。

「正太郎君は私を信じて、応えてくれた。今度は、私が応える番だよ!」

 だから!

「そう…、だからこの剣は――」

 有牙刀!!





 すでに敵の再生が始まっていた。
 ヤツをしとめるには今を置いて他にはない。

 全ての思いをこめて、宇佐見は有牙刀を高々と掲げた。
 すると、先ほどの雷光とよく似た青い光が周囲に拡がった。
 そして敵はその光によって動けなくなっている。

「いっけぇぇぇぇ!」

 Gありがとウサギは天へ跳んだ。

 そう、高く、高く、――高く!

 そして、青の一閃となりて地へと翔ける!

「神武! 天命の稲妻切りッッッ!!」

 稲光が敵を貫き、次いで轟音とともに爆発した。





 ひときわ大きい歓声に包まれるAC総合司令室。

 長官、と声をかけたのは秘書の美乃里だ。

「やりましたね、長官」
「ああ、それも全員が全力を果たしたからだ」

 長官は司令室内全体を見渡しながらそう言った。

 拍手を送る者、隣席同士で抱き合う者、そして目頭を押さえている者――

「そう、これは我々全員の勝利だ」

 美乃里はそうつぶやく長官が何より誇らしかった。

「長官。……そろそろ」

 博士が促す。

「ああ、そうだな」

 美乃里君、と長官は振り向いた。

「…ヘリを一機、手配してくれないか?」





 正太郎は自宅の前にいた。

 あの後、ありがとウサギの手に乗り、ここまで送ってもらったのだ。
 敵の消滅とともに封印が発動したのか、ありがとウサギも今は通常形態に戻っている。

「お母さん、ウチにいるかなぁ」

 ひょっとしたら、避難しているかもしれない。
 そう思いつつドアを開けると、

「正太郎!」

 なぜか玄関にいた母に抱きしめられた。

「よかった、正太郎。本当によかった」

 母の声は涙ぐんでいる。

「あのね…、お母さん」

 何? とようやく母は彼を放した。
 正太郎は少しばかりためらったが、やがて意を決して言った。

「えっと…、お母さん。…ただいま、それから……ありがとう」

「ええ、お帰りなさい、正太郎」

 親子は再び抱き合った。





 ややあってから、正太郎は母を玄関の外へ引き連れた。

「あのね、お母さんに会いたいって人がいるんだ」

 そこには長髪の女性が待っていた。

「この人はね、ウサ姉ちゃん…じゃなくて――」
「宇佐見、私は宇佐見美琴です」

 母は彼女をいぶかしげに見た。
 それは、彼女の後ろに巨大なウサギがたたずんでいたからだ。

「正太郎君とお母さん、お二人にお話したいことがあります」

 宇佐見はジャケットの内ポケットから手帳を取り出し、両人に見せた。

「私はArmored Chrysanthemum――攻強皇國機甲に所属する者です」

 初めて聞く単語に、

「あーまーど…?」

 と口にした正太郎だが、母はただその身を硬直させた。





 ACとは――と言いかけた宇佐見だが、

「Armored Chrysanthemum――通称ACとは、大神祭の脅威からわが国を守るために設立された、日本政府直属の特務機関だ」

 背後から誰かに先を越されてしまった。
 その声の主とは、

「長官!?」
「やあ、宇佐見君。ご苦労だった」

 宇佐見に軽く会釈をしてから、正太郎のもとへと近寄った。

「君が…正太郎君だね?」
「はい…」

 そうか、といって長官はほほえんだ。

「私も、名前は幸太郎というのだよ。『太郎』同士、仲良くしてくれるかな?」

 長官は手を差し出した。

「うん!」

 正太郎は握り返した。長官の手は大きく、そして暖かかった。
 長官はもう一度正太郎に笑みを作ると、次いで少年の母に向き直った。

「あなたが正太郎君のお母さんですか。はじめまして、私は――」
「ええ、ですが、こちらはよく存じ上げています。AC長官・絵多野幸太郎さん……」

 長官が驚きの表情を作ったときだ、背後で声があがった。

「正太郎!」

 叫んだのは会田博士だ。

 そして、

「おじいちゃん!?」

 少年・会田正太郎も叫び返した。





攻強皇國機甲 第三話 「その名はAC」 完


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024121046066284