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[27133] (新話追加)僕の恋人はお兄ちゃん?(インフィニット・ストラトス オリキャラ転生系 R15)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2012/02/22 21:06
※オリキャラ×シャル注意。ついでに近親相姦系要注意。
※転生系ですが原作知識殆ど無し。
※オリキャラ強め、一夏がICHIKA化。テンプレっぽいかも。
※シャルが最初から僕っ娘。
※原作よりも漢臭?と火薬臭強め。そもそも主人公からしてアレ(ry
※ぶっちゃけエロ可愛いシャルと現代兵器っぽくしたISが書きたくて暴走した結果がこれだよ!
※突っ込み所が多々存在しますが、世界観やストーリーそのものが大きく矛盾・崩壊するようなのでもない限りは細かい事はry(AA略の寛大な精神でお読みください。イヤホントマジで。
※所々ネタレベルでマイナーなクロスオーバー含みます



以上に耐性がある方からどうぞ




11/27:にじファン様にも投稿させていただきました。



[27133] プロローグ(上):彼女が彼と出会うまで
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/11 09:53
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!

『30にもなってないのに病院のベッドで遂にお迎えが来たかと覚悟していたら次に目覚めた時には赤ん坊になっていた』

何を(ry、って最初はそんな感じだったけど数年もすればそんな境遇にも慣れる。適応力って大事だわ、うん。




・・・そりゃ何年かしてからラノベだったかアニメだったかの世界に転生した事に気付いた時にはまた驚いたけどさ。

インフィニット・ストラトスだっけ?流行り出した頃にはとっくにベッドの上から動けない状態だったからよく分からん。精々ネットで設定とか2次創作とか流し読みした程度。

個人的に生まれ変わって良かった事と言ったら、家が所謂武器商人だった事。他にも手広くやってはいるけど俺にとって重要なのはそこ。

ちょっとしたガンオタでミリオタだった俺にとっちゃ、銃とか兵器を見て触れる機会が多いのが嬉しかったのなんの。嬉し過ぎて常日頃から銃を携帯して毎日暇があったら射撃場に籠る日々。

・・・・・・生きた人間相手に撃つ羽目になった事もあるけれど、まあそれは今は関係ないな。






俺の名前はミシェル・デュノア。目下の悩みは友人と言える存在が殆ど居ない事。

――――ある日、俺は女神と出会った。






















シャルロット・デュノアが初めて彼と出会った時、まず抱いた感情は―――――恐怖心。

ジンジンと熱を発する頬を押さえたまま、半ば呆然自失の体(てい)でこの部屋に辿り着き、ベッドに腰を下ろしていると、部屋の扉が開く音がしたので我に返ってそちらの方を見て・・・・・・





『彼』が、そこに立っていた。




ノーネクタイの黒のスーツに灰色のシャツ。がっしりとした体格の割に顔そのものは細い・・・・・・が、顔の造形は彫りは深いものの岩から削り出して拵えたかのように厳めしく、目元は猛禽類よりも鋭い。

何より目を引くのは眉間と鼻の境目を横一文字に走る傷跡。それが一層彼の形相の迫力を増させている。

自分をこの家まで連れてきた父親より少し下か同年代ぐらいだろうが、今自分をまっすぐ睨んでいる(ようにシャルロットには見えた)彼の威圧感は、この家を訪れてから味わった予想外の仕打ちに打ちのめされていた少女を怯えさせるには十分だった。

彼は扉を開けたまま一歩も動かない。見知らぬ自分の存在を訝しんでいるのだろう。零していた涙を慌てて拭って立ち上がろうとする。


「す、すみません。今出ていきますから・・・」

「・・・・・・ちょっと待ってくれないか」


見かけに違わないこれまた威圧感と重みたっぷりの声色。決して大きくはないのだが、こんな声で言われて刃向かえるものか。

彼はまず上着を脱いだ。180cmは間違い無く超えている体躯が身に着けていた拳銃を修めたホルスターが露わになる。本物の銃を間近で見るのはシャルロットは初めてだったから尚更委縮してしまう。

思わず身を強張らせて固まってしまったシャルロットを余所に、男性はシャツの袖を捲くりあげると手近なクローゼットから中身の詰まったポーチらしき物を取り出した。

収められていたのは軍用の救急キット。


「ジッとしていてくれ・・・・・・今腫れてる所に塗り薬をつける」

「は、はい・・・」


これまた予想通りごつごつと固い指先がシャルロットの頬に触れた。ゆっくりと優しく、あまり刺激しないように気を配ってくれながら薄く軟膏を広げ、手慣れた風に湿布を小さくカットして張り付ける。

見ず知らずである筈の自分に此処までしてくれたのはありがたかったけど、その分あの顔が間近にあるのはやっぱり怖い。


「何があった・・・・・・誰にやられた?」

「それは、その・・・・・・・・・僕は、ここの愛人の子供なんです」




ついこの間、愛人だった母が亡くなった事。

今日、この家の主である父親の使いによって連れて来られた事。

父親の本妻に顔を合わせた途端思い切り頬を叩かれ、罵倒された事。

他に身寄りもない為出ていく訳にもいかず、たまたまこの部屋に入って泣いてしまっていた事。




そこまでの事情を一気に吐き出す。十代前半の少女が抱えるには重過ぎる内容であり、こうして言葉にしてぶちまけるだけでもちょっとだけ心の重荷が軽くなったような気がした。

一方。そこまで告白された男性の眉根はどんどん寄せられていき、最後には険しい表情で刈り込まれたダークブラウンの頭を乱暴に掻き毟った。

そしておもむろに頭を下げる。次に彼が放った言葉は、シャルロットにとってはある意味父親の本妻に拒絶された時よりも衝撃的な内容だった。


「・・・・・・ウチの親が、すまなかった」

「え?――――えっ?今何て?」






「・・・・・・俺は、あの2人の息子だ」






「・・・・・・ごめんなさい、もう1回、言ってくれないかな?」

「・・・・・・俺は、この家の、長男で、君の父親と、本妻の、息子だ」


細かく区切ってしっかりと告げられた言葉の意味をシャルロットが咀嚼し、理解するまで10秒ほどかかった。


「えええええええええええええっ!!?嘘、銃とか持ってるからてっきりこの家のボディガードの人か何かかと思ったよ!?」

「銃は護身用だ・・・・・・俺の趣味も混じっているがな。それに、俺はまだ今年で14だ」

「それこそ嘘でしょ!?お父さんと同じ位の年にしか見えないよ!!」

「・・・・・・言わないでくれ。気にしているんだ」


心なしか彼のまなじりが下がって肩が落ちる。一見鬼軍曹そのものな大男がorzと蹲るのは中々ミスマッチな光景だった。

まあそれは置いといて、と彼もシャルロットのすぐ隣に腰を下ろす。


「・・・・・・俺の母親が怒るのも仕方のない事だろうな。ただでさえ仕事ばっかりで滅多にこの家に戻ってこない癖に、よそで愛人作った上に娘まで居るとなったら、そりゃあな」

「それは僕もそう思う。僕だってその、貴方のお父さんと顔を合わせた事もないし、お母さんが死んだ時だって顔も出さなかったから」

「・・・・・・とどのつまり、怒られるべきは親父の方だという事だ。正直、俺も頭にきている」

「こ、殺しちゃダメだからね!?」

「・・・・・・流石に家族を殺したりはしないさ。精々、1発ぶん殴る程度で我慢する」


それだけでも普通に死なせちゃいそうで怖いなあ、とは思っちゃうけど口には出さない。

筋骨隆々で自分の倍ぐらい太い腕でぶん殴られたら熊でも一撃ノックアウトしてしまうに違いないだろう。


「・・・・・・まあ、本当は2人共それなりに優しい親なんだ。お袋は何時も俺の事を気にかけてくれているし、親父の方も俺がトラブって片足を失った時なんか、わざわざウチの会社総出で特注の義足を作ってくれたし」

「そうなの?」


男性は右足を持ち上げるとズボンの裾をまくりあげた。膝関節からすぐ下が生身のの肌色から金属質な灰色へと一変していた。

とは言うものの、ズボンを下ろして靴を履けば義足をつけている雰囲気や歩き方への違和感などちっとも感じさせないぐらい精巧な代物だ。


「ISの技術を応用した特別製だそうだ。装着感も生身と変わらないし、マラソンや徒競走もこなせる・・・・・・物を蹴ったりする時はむしろ昔より強くなったぐらいだ」


余談だが兵器関係が主だったデュノア社だが近年医療用の義肢業界にも参入し、ISの技術を転用した操作性を売りに瞬く間にシェアを独占してみせている。






「ところで、その、ご迷惑なのは分かってるんです。だけど―――――」


唐突にシャルロットは頭を深く下げた。


「こんな事を言い訳にするのは良くない事だと分かってます。だけど、他に行く当てもないんです。だから僕をここに居させて下さい!お願いします、どんな事でもしますから!」


身寄りもなく、母親が残してくれた遺産も決して多くはなく、食う為に働こうにも高々15にもならない少女が就ける職など思い浮かぶのはロクでもないものばかり。

母親が愛人だったが故、この家の人間に歓迎されてないのは身に沁みている。迷惑をかけたくないのも本心だ。

だがシャルロットは――――ただの少女なのだ。1人で生きていけるほど強くないのだ。

何より孤独が怖くて・・・・・・例え迫害されると分かっていても、1人ぼっちで生きていくぐらいなら―――――


「・・・・・・俺としては、別に幾らでもこの家に居てくれたって構わない。というか、その、えっとだな・・・・・・むしろずっと居てくれた方が俺にとっては、その・・・・・・」


受け入れてくれるのは嬉しいが、妙に歯切れが悪いのが気になる。何でどんどん顔が赤くなっているのだろう?


「熱でもあるんですか?顔が赤いみたいだし・・・・・・」

「い、いや・・・・・・大丈夫だ。別に熱が出てるとか、そういうのじゃないのは自分でも分かってる」


何度も大きく深呼吸。すーはーすーはすーすーはーすーすーすーすーすーすー


「げほぐほっ!!」

「息吸いっ放しじゃそうなるよね!?大丈夫!?」

「あ、ああ・・・・・・・・・」


喉が鳴るほどの勢いで唾を呑み込んでから、いきなり彼の大きな両手がシャルロットの方に乗せられた。

戸惑ってえ?え?と視線を左右に行き来させるシャルロットと対照的に、男性(違う、一応少年か)は真正面からシャルロットの瞳を覗き込む。


「・・・・・・出会ったばかりなのにいきなりこんな事をされたらきっと戸惑うのは分かってる。俺みたいな奴に告白されても迷惑なのは理解してる。だけど、抑えきれないんだ」

「えっと、何の事なのかさっぱり」

「・・・・・・落ち着いて、聞いて欲しい」



直後彼が取った行動。

それはシャルロットの足元に跪き、額を床に擦りつける、見紛う事無き見事な土下座だった。

生憎日本文化を知らないシャルロットは土下座なんて言葉ちっとも知らなかったのだけれど。









「俺と・・・・・・・・・結婚して下さい!」

「ふえっ?・・・・・・ふえ、ふええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!?」




多分、人生で1番驚いた瞬間だと思う。




















誰も知らない何処かにて。

かつて世界を震撼させた元少女、現美女が機関銃顔負けのブラインドタッチでキーボードを叩く。叩く。身体が揺れるにつられてカチューシャから生えたウサギの耳もぴょこぴょこ揺れる


「ふーん、こんな時期に適性検査?また新しい操縦者でも見つけたのかなー?どうでも良いけどさ」


それは『暇つぶし』に侵入したデュノア社のデータベース内に記載された予定表。勿論違法だが痕跡なんぞ残すヘマなんて『彼女』がする筈がないのだから。バレなきゃ無問題。

そこまで呟いた直後、不意に指が止まる。


「デュノアかぁ・・・・・・本当はどうでも良いんだけど、いっくんがあそこの子の事でずっと気に病んでるってちーちゃんが言ってたっけ」


うーん、と思考に耽る事数秒。


「ま、束さんは貸し借りはしっかり清算する人だからねー。結局は役立たずだったけど、いっくんを助けてくれようとしてくれたんだから特別に束さんからプレゼントなのだー」


機関銃からガトリング砲クラスへ、キーボードの連打が再開。それも数分足らずで終焉を迎える。


「これで良しっと!この栄光は本当はいっくんにあげたかったけど、これで少しは世界も面白くなるよね!」


女は笑う。

世界を変貌させた魔女が、常人には理解できない思考でもってまたも世界に変化をもたらそうとしている。
























そうして天才であり『大天災』により、これからの生涯が一変させられることを義務付けられてしまった張本人が1人がその時何をしていたかというと、


「あの、そろそろ顔を上げてもらえませんか・・・?」


未だに土下座しっぱなしだった。





[27133] プロローグ(下):彼がISを使える事に気づくまで
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/11 09:57
何故か俺にもISが起動出来ちゃったでござる。


「・・・・・・それ、何てテンプレ的展開?」















シャルロットは沈んだまま隠れてしまいそうな位柔らかい高級ベッドの上で目を覚ました。


「・・・・・・知らない天井だ」


何でそんなネタ知ってるんですか貴方。え、テレビで見た?

まどろみの中、ゆっくりと視線を巡らせて、今自分の居る場所がこれまで人生の大半を過ごしてきた我が家でない事を再確認する。


「やっぱり、夢じゃないのかぁ」


お母さんが死んで。どんな相手かずっと知らなかった父親に連れて来られて。本妻の人に叩かれ、罵倒されて。

そして、初めて会った全然同年代には見えない男の人に突然プロポーズされて。


「そういえばあの人は・・・?」


半ば強制的にシャルロットにベッドを譲って、本人はソファー(それでも普通にベッドに利用できそうなぐらいフカフカで巨大だった)で毛布にくるまっていた筈の彼の姿はない。

・・・・・・無駄に金をかけた分厚い扉が備えつけの浴室からの音をほぼ遮っていなければ、この後の喜劇は防げただろう。


「それにしても・・・・・・う~~~~~~~」


昨日の事を思い出しただけで顔が熱くなる。そりゃ出会って30分足らずの相手にプロポーズされれば多感な10代前半の女子には刺激が強いってもんである。

あの男性――――違った、少年の名はミシェルというそうだ。


「ミシェル・・・・・・似合わないなあ」


それは言ってやるな。本人も気にしてるから


「でもどうしよう。そりゃ顔は怖かったよ、うん。全然同い年には見えないし」


でも優しい。これまで片親故にシャルロットが知らなかった父性的な頼もしさを彼女はミシェルから感じた。会った事のない実の父親よりもよっぽどそれっぽい程だ。

それに告白の時。間違い無く本気で自分を好いているのだという想いがあの時の彼からひしひしと伝わってきていて、シャルロットは意識せざるをえない。


「これからどんな顔して接していけばいいんだろう?」


というか、父親が一緒なんだから自分と彼は腹違いの兄妹という事になる筈だ。その辺りをミシェルは理解しているのだろうか。

そもそも愛人の娘であるこの自分をデュノア家が受け入れてくれるのかも結論が出ていない。


「・・・・・・まずは着替えよっと」


うんしょよいしょとふわふわ過ぎて移動するのがちょっと一苦労なベッドから降りたシャルルは無造作に昨日から着っぱなしだったシャツを脱ぎ、ズボンのベルトにも手をかけた所で、




ガチャリ、と後方で扉の開く音。




「ふえっ?」


上半身だけ捻って後方を確認したシャルロットの目に飛び込んできたもの。

それは首にバスタオルを引っかけ他はトランクス1枚しか身に着けていないミシェルの姿。各々から逞しく隆起した筋肉は完全に拭いきれていない水滴によって輝いている風に見える。ナニとは言わないが平常時である筈のトランクスの膨らみも中々の物で・・・ゲフンゲフン

ミシェルの方からしてみれば、半ばズボンがずり落ちているせいで白い下着に包まれた小さなお尻とか、小ぶりながらもしっかりとお椀形を形成した胸の膨らみがブラによって下から支えられているのがしっかりくっきりはっきり目の前に晒されているわけで。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


5秒経過。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


30秒経過。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


1分経過。


「お、お願いだから何か言うなりそっぽ向くなりしてよ!?」


痺れを切らしたのはシャルロットの方だった。着崩れたまま慌てて下着の部分だけでも隠そうとするが、その方が逆にチラリズムに通じる扇情的なポーズをとっている事に気付いていない。

ミシェルは非常にばつが悪そうにしながらも少し紅くなった頬を掻きつつ、


「すまん・・・・・・可愛いくて色っぽかったから、つい見惚れてしまっていた」

「はうっ!?」


思わず奇声を上げてしまうぐらいの衝撃と共にミシェルの言葉がシャルロットの胸に突き刺さる。主に照れと羞恥的な意味で。


「・・・・・・ミシェルのえっち」

「・・・・・・否定はしない。だが、シャルロットぐらい可愛い女の子のそんな姿を見れば、男なら誰だって興奮する」


ミシェルって実は天然なのかなぁ、と思いながらシャルロットは更に顔を赤くした。













「ようやく来たか」


使いの者に車で連れて来られた先、デュノア社の研究所にて初めて顔を合わせた父親――――デュノア社の社長の第一声がそれだった。

ミシェルはシャルロットの容姿も性格もきっと母親譲りに違いないと、シャルロットはシャルロットでミシェルの顔は父親譲りなんだなと似たり寄ったりな感想を抱く。

シャルロットは緊張で乾く喉に無理矢理唾を呑み下すと、出来るだけ震えないように心掛けながら声を出そうと試みた。


「あの、初めまして、お父さ――――」

「こっちだ、さっさとついて来い」

「あっ・・・・・・」


シャルロットの言葉は届かない。反射的に家族から離れまいとする小さな子供の様に手を伸ばしたが、すぐさま2人に背を向けた父親はそれすら全く気付かない。




その瞬間――――父親だと思っていた存在からも高く分厚い壁によって自分は隔絶されているのだとシャルロットは悟る。




心の何処かで気付いてはいたのだ。だって、これまでだって父親らしい事をしていた覚えが全く無いし、そもそも娘である筈の自分の前に姿を現した事さえなかったのだから。

幾ら愛人の娘だといえど、本当にシャルロットの事を娘と認識しているのならば――――もっと早くから父親として姿を晒していただろうし、病気を患った母親を放置する事もなかっただろう。

急に目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとなる。いけない、我慢しないと。今ここで泣いたら迷惑が掛かっちゃう。


「何をしている。早く来―――――」


シャルロットに聞こえた父親の声はそこまで。しかしそれも仕方ない。






何故なら誰かが止めに入るよりも速く。

父親の肩を掴んで振り向かせた実の息子が、大の大人の身体が浮き拳が数cmはめり込むほどの威力でもって強烈に鳩尾へとボディブローを抉りこんだのだから。






「・・・・・・顔面じゃないだけマシだと思ってくれ。だがな、自分で撒いた種なら自分でけじめをつけたらどうだ、クソ親父」


父親からの返答は無し。そもそもまともに呼吸が出来ずに床をのた打ち回っているのだから当たり前だった。

慌てて駆け寄ってきた父親の部下達が自分の足で立ち上がる事すら出来ない上司を運んで医務室へと消えていく。場所が場所だけに研究所の警備員や社長専属の護衛も居たには居たのだが、実の所ただの親子喧嘩に過ぎない為止めに入れずじまいだったのが真相だ。

・・・・・・研究所の入口辺りで身元が確認されるまではミシェルの事をシャルロットの護衛と彼らが勘違いしていたのは秘密である。




どうして、とシャルロットは呆然と呟いた。

ミシェルは向き直ると、躊躇い無くこう口にした。




「・・・・・・幾ら家族だろうが、惚れてる女をあんなぞんざいに扱われて頭にこない程、俺は気が長くない」




我慢できず、美しい紫色の瞳から涙が一筋零れ落ちた。











さて、そもそも何故2人がデュノア社の心臓部であるISの研究所を訪れていたのか。

ミシェルの場合はデュノア社の跡継ぎとなるべく仕込まれている帝王学の一環として研究所を見て回る予定だったからであり、シャルロットの場合は彼女の利用価値を探るべくIS適性などがあるか調べる為だった。

元々それらには社長自らが立ち会う予定だったのだが、現在その社長は医務室のベッドで気絶中。しばらく目覚めまい。




とは言え来たからにはこのままとんぼ帰りするのもアレだし、大体どちらも社長が立ち合わなくても研究所の所員だけで事足りる内容だったので、数十分遅れで再開される並びとなった。


「凄い・・・ISが作られるのってこんな所でなんだ!」

「・・・・・・中々壮観、だな」


2人の目に飛び込んでくるのはどれも一般ではまずお目にかかれない最新鋭の機材ばかり。

シャルロットは単純に好奇心から目を輝かせているしミシェルもまたそうなのだが、彼の眼はしきりにはしゃいだ様子のシャルロットへと向いていた。

あんなに目を輝かせて子供みたいに笑ってああもう可愛いなコンチクショウ!としきりに目線を他へずらして気付かれないよう心掛けつつ、目を細めて彼女の姿を追いかける。

・・・・・・周りからしてみれば明らかにガン飛ばしまくっています本当にありがとうございました。


「ねえ、一体何者なのよ彼?あの子のボディガードか何か?幾らなんでも殺気振り撒き過ぎだと思わない!?」

「何言ってるんだ、ウチの社の社長の息子だよ!」

「あれが社長の息子!?嘘でしょ、明らかに軍人か傭兵上がりのプロか何かにしか見えないわよ!」

「軍との演習とかで見た事があるわああいうタイプって。あれが所謂歴戦の兵士ってヤツなのよね?」

「なんでも社長を思い切り殴りとばして、救急車で運ばれたらしいわよ」

「いや俺は殺気だけで社長だけじゃなく警備員や護衛まで気絶させてみせたって聞いたんだが」

「どれもあの迫力ならありえそうで怖いわ・・・・・・」


言われ放題だった。特に最後の方、彼を一体何だと思っているのだろう。


「・・・・・・憎い。この顔が憎い」

「き、気にする必要ないよ!僕ももうあんまり気にならないし映画の悪役みたいでカッコいいと思うよ!」


例えが悪役の時点でフォローしていると言えるのだろうか?

女性しか扱えないISの研究所なだけあってテストパイロットの事を考慮してか、研究者のうち女性の割合が男性よりもかなり多い。

これもISが有名になってから広まった女性の各方面への進出の一例と言える。今の世界の風潮は女尊男卑と化してはいるが、この程度ではまだそこまでいかないレベルだろう。

まあそのせいで一層ミシェルの凶相が引き立っている訳なのだが。血統書付きの猫の集団に槍を持った原始人が紛れ込んでるようなものだ。


「こ、こちらが現在研究の為各装備を取り外したISです」


仕事は出来るが性格は気弱な雰囲気の案内役の研究者が研究スペースの中心へと2人を誘った。

社長とはまた別の意味で腰を低く接したくなるような迫力の持ち主のミシェルが相手なせいでさっきから冷や汗ダラダラ胃がキリキリ。離れたいのに離れられないああ死にそう。

あと1時間も一緒なら医務室のベッドがまた1つ埋まる結果が待っているに違いない。


「これが、IS・・・・・・」


そのISはコアとフレームだけとされながらも、強大な性能と能力を秘めている事を感じさせる一種の威厳に満ちていた。

中身が剥き出しの腕部・肩部・脚部の各パーツには何百本ものコードが伸び、終着点である計測用の機材に絶え間なくデータを吐き出している。


「本物のISってこんな感じになってるんだ」

「しかしずっと疑問に思ってたんだが・・・・・・何でこう、バランスの配分が悪いのだろうな」


肩から先はまだ違和感を覚えないサイズだが腰から下の足回りのパーツは一気に肥大化し、装甲が外されている分まだそうでもないが、よりゴテゴテした感じを覚える。


「ISは起動すれば宙に浮き、飛行して移動するのが基本となっておりますから、その機動を行うのに必要なパーツは脚部に集中しているのです」

「へぇ~そうなんだ」


シャルロットは呑気に関心しているが、スタイリッシュなデザインよりももっと武骨だったりメカメカしい方が好みなミシェルはちょっと不満そうに唇を引き締めた。

使用者が女性ばかりなのでISの外観もそっち方面の受けを狙ったのが重視されがちなのだろう。そりゃ女性にはアーマードトルーパー辺りのデザインはダサ過ぎなんだろうけど。

ちなみにミシェルが好みのメカはPS2時代のACとブラストランナーである。どちらも重装甲・高火力アセンばっかりだったのが趣味が丸だしだ。もちろんガンダムも好きだしヴァルキリーも嫌いじゃない。アーマードパックなんか最高だ。ついでに言うとレーザーよりも実弾派である

仮にミシェルがISを使えたとしたら、きっと趣味を反映したバ火力機体を希望するだろうと1人ごちる。


「だが、ま、俺には関係ない事だがな・・・・・・」


そう、ミシェルには関係無い事。

ISは女にしか扱えない。それはISの存在を知っている人間であれば必ずセットで記憶される事実。

こうやってすぐ近くでみたり触ったりしても何かが起こる筈もない。自分達みたいな商売人や技術者でない限り、男にとっては単なる宝の持ち腐れ。






――――その筈だった。






そういえばISの素材って何を使っているのだろう、とふと気になったミシェルは自分で確かめるべく手を伸ばし。

触れた途端、硬質の金属を軽く叩いたような澄んだ金属音が脳内に響く。驚いて指先が離れるよりも速く意識へとダイレクトに大量のデータが送り込まれてきた。


「なん・・・・・・だと・・・・・・」

「こ、これは・・・・・・そんなまさか、コアが起動している!?」


爆発的に量を増したISからのデータが表示された機材に齧りついた技術者の絶叫が周囲に響く。一気に騒然となる空間。

その元凶であるミシェルはといえば、困惑し過ぎて無表情になった巌(いわお)を体現した顔立ちを一目惚れした愛しの少女へと向けた。


「・・・・・・こんな時、一体どんな顔をすればいいのだろうな」

「・・・・・・わ、笑えば良いんじゃないかな?」




結構そっちの素質もあるのかもしれない、と思いながらとりあえず言われた通り笑ってみた。

・・・・・・猛獣の笑みだった、と後にその場に居合わせた女性達は述懐している。























―――――同年代に全く見えない友人と最初に出会ったのは異国の地だった。


『・・・・・・日本人だろう?君も大会を見に来たのか?』


初めての海外旅行。姉の千冬が出場する第2回モンド・グロッソの観戦に招待されてやってきたドイツ。

浮かれて観光に飛び出したは良いけれど、ドイツ語どころか英語も満足に知らない自分が宿泊先のホテルの帰り道すら分からなくなって混乱していた所に話しかけてきたのが彼だった。

明らかに自分の倍以上は離れているに違いない顔立ちと体格。最初は軍人か何かだと思ったのはいい思い出。

全然日本人じゃないのに、その口から飛び出してきたのが流暢な日本語だったからびっくりしたのを良く覚えている。自分と同い年だと知ってもっと驚いた。




―――――その先の光景の終わりは何時も同じ。

その友人が、自らの血の中に倒れている。









「・・・・・・・っぁ!!?」


織斑一夏はソファーのベッドから跳び起きた。自分がリビングでテレビを見ていて居眠りしていた事に思い至る。

彼は剣道部との掛け持ちで他に複数の格闘技系道場に通ってほぼ毎日身体を苛め抜いていた。積み重なった疲れが自分を苛んでいるのは一夏も自覚はしている。


「またあの夢か・・・・・・」


だが改善する気にはなれない。あの夢を見る度思う。

もっと強くなりたい、と――――


「・・・・・・今日はもう寝よっと」


ずっと点けっぱなしだったテレビを消そうとリモコンに手を伸ばした時だ。バラエティが中断し、慌てた様子でスタッフから原稿用紙を手渡されるアナウンサーの姿が映し出される。

テロップには緊急放送の文字。


「何だ、また束さんが何かやらかしたのか?」


一夏は何気に現実味を帯びた事を勝手に言いながら、とりあえず特報が発表されるのを待つ。


『――――臨時ニュースをお伝えします。世界で初めての男性によるIS操縦者がフランスに現れたとの情報が、フランス政府により世界へと公表されました』

「マジかよ!?」


思わずテレビへと身を乗り出す。ご近所さんちからも驚きの絶叫が巻き起こっているのが外から聞こえてきた。それこそ日本中いや世界中が同じような反応をしているに違いない。

それほどまでに衝撃的なニュースだった。ISの操縦者467名中男が1人、という事実は数字以上に計り知れない意味を持つ。


「一体どんな奴なんだろ・・・」

『――――世界初の男性IS操縦者の名前はミシェル・デュノア―――――』


一夏の心臓が爆発的に大きく跳ね、銃弾を食らったかのように脳内が衝撃に襲われた。

顔写真と名前のテロップが映し出される。やはり名前は一夏が覚えていたのと全く同じであり、顔写真の方も傷跡が刻まれ顔つきがより厳めしさを増しているのを除けばこちらも一夏の記憶通りだった。

最初に一夏の胸中に広がったのは目覚めてくれていた事への安堵感―最後に見た時には膝から下を失った右足と頭部に幾重にも包帯を巻かれ、医療機器に囲まれて眠り続けていた―次いでそれを遥かに上回る罪悪感が胸を締め付ける。




自分のせいで死にかけ、なのに1度も謝る機会がないまま半ば強制的に離れ離れになった友人。

今の織斑一夏を形作ったのは、もう2度と自分を助けてくれた姉や自らを犠牲にした友人が傷つき、被害を被る事がないように強くなるという誓い。




「もっと、強くなりてぇなあ・・・・・・」


貪欲にそう願う。まだ足りない。大切なものを守るには、もっともっと強くならないといけない。

守れるだけの力を手に出来るのであれば、自分は悪魔とだって契約してみせよう。













この時の一夏は知らない。

それから2年のち、彼もまた異国の友人同様『男でありながらISを起動できる』という現実に直面する事を。

IS学園に入学するに辺り、フランスの代表候補生として来日した『彼』と再会する事を。




今の彼はまだ知る由もない。




[27133] 1-1:バカップルの来日と再会
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/11 10:00
あれから色々あってから今度は日本で学生生活を送る事になった。勿論シャルロットも一緒。

たゆまぬ努力と積極的なアプローチの結果、見事俺からシャルロットへの一方通行から相思相愛になりました。きっと一生分の運使い切ったろ絶対。

前の人生じゃ魔法使いになる前に死んだ分大ハッスルしとります。だってシャルロットが可愛過ぎるんだい!俺もそうだけどシャルロットの方もかなり積極的だし。何がって?ナニの事さ。




それにしても十数年ぶりの里帰りかぁ・・・・・・今の俺の生まれ故郷はフランスだけど、前世が日本人だっただけに日本の文化が恋しくて仕方なかったんだよね。

楽しみだ。本当に楽しみだ。シャルロットも一緒だから尚更だ。

―――――あと、一夏にも会えればいいけど。目覚めるのと入れ違いで日本に帰っちゃってからそれっきりだし。

そういえば一夏も何故かIS起動出来ちゃったせいで一緒の学校に入る事になってるんだっけ。また昔みたいに接してくれればいいんだが・・・・・・・























逞しい胸板の上で目を覚ました。


「ミシェルのにおいぃ・・・」


寝ぼけてしばらくの間悩ましげに鼻先を擦りつけ続けてから、やがて低く唸り続ける振動音が目覚ましとなってシャルロットの意識は完全に覚醒した。

下手なベッドよりも上質な心地良さを誇る特大サイズのリクライニングシート、限界まで後ろに倒した上でミシェルとシャルロットは同じシートに横たわっていた。

とはいえ、ミシェルの体躯が良過ぎるせいでシャルロットの方は横になったミシェルの更に上に乗っかる形となっているのだが、当人達はちっとも気にしていない。むしろお互い望む所だったりする。

ミシェルはまだ眠っているようだ。その様子は老いて尚野性味と逞しさを失わない老狼みたいで、シャルロットのお気に入りの光景でもある。

ミシェルの身体から離れないまま手元にあった備え付けの端末で現在地点をチェックしてみると、既に2人の乗ったVIP用の特別機(チャーターしたのはフランス政府)は日本領空内に入り、あと約30分で空港に到着する事を教えてくれた。

そろそろ彼も起こした方がいいだろう。


「起きてミシェル。そろそろ到着するみたいだよ」

「・・・・・・ん。そうか、分かった」


一声かけただけにすぐ覚醒。彼が過去にフランス軍で一定期間軍事演習を受けた時に習得したスキルだそうだ。

ミシェルは眠りに落ちた時同様自分の胸板に乗っかったままのシャルロットの頭に手を乗せ、ソフトボールぐらいなら簡単に握り潰せる巨大な手には不釣り合いなほど繊細に丁寧に、金色の髪を指先で梳く。

シャルロットはまた気持ちよさげに目を細めながら、今度は上半身全体を擦りつける事で彼に応える。


「楽しみだね、確か僕達みたいな子達が一杯居るんだよね、IS学園って」

「そうだろうな・・・・・・生憎、男子生徒は俺以外にはあと1人しか居ないらしいが」

「織斑一夏、っていう名前だっけ?それにしても驚いたなぁ。ミシェル以外にも男の人でISを使える人が居るなんて」

「・・・・・・俺は別の意味で驚いたがな」


日本で発見された2人目のIS操縦者―――――織斑一夏とミシェル・デュノアは、数日間という極短い期間ながら行動を共にした事がある。

それなりに仲の良い友人だったと胸を張って言いたい所だが、ある事件を最後に一言も別れの言葉を交わす事も出来ず一夏が日本へ帰国してしまってからは2人の繋がりはそれっきりだった。

しかしまさか『男でありながらISの起動に成功した』が為に再び関わり合いになるとは、世の中分からないものである。

・・・・・・というか、2ヶ月近く前に一夏がISを起動させた事を知らされた時になって、ようやく『織斑一夏』という人間が『IS/インフィニット・ストラトス』の主人公である事を思い出したのだが。

ついでにシャルロットが原作では薄幸のヒロインポジだった気もするが今は俺の嫁なんだからどうでもいい。

ミシェルと目線が同じ位置に来るまで移動してきたシャルロットがまじまじと覗きこんでくる。


「・・・・・・どうかしたのか?」

「あのね、初めて会った時の事、覚えてる?」

「・・・・・・忘れてたまるものか。何と言ってもその日に初めてシャルロットにプロポーズしたんだからな」

「あの時は驚いたなぁ、会ったばかりなのにいきなりプロポーズしてくるんだもん。ビックリしちゃったよ」

「・・・・・・言わないでくれ。後悔はしていないが、掘り返されるとかなり恥ずかしい」

「だけどね、あれだけインパクトがあったからこそどんどんミシェルの事を意識しちゃうようになったんだよ?最初からいっぱいいっぱい僕に好意を向けてくれたから、僕もミシェルの事がどんどん好きになっちゃったんだから」

「・・・・・・一目惚れって、恐ろしいな。勿論今もシャルロットにベタ惚れなのは否定できないが」


そう言ってミシェルの口元に苦笑が浮かび、それからふとその視線が下へと動く。

2人共上着を脱いでスラックスにワイシャツ姿なのだが、どちらも寝る時に上のボタンを外していた。

ミシェルからしてみれば、十分以上に実ったシャルロットの肉鞠が形成する谷間や白磁の肌がバッチリ見えて目に毒だった。


「・・・・・・こっちは昔と大分変わったな」

「ミシェルがエッチなのは昔から変わってないね」


頬に血の気を集めつつもシャルロットは胸元を隠そうとしない。それ以上に恥ずかしい所も彼には何度も自分から曝け出したのだから今更な話だ。

2年前と比べてミシェルの身長は更に伸びて今や190半ば。筋肉の量も眼光の鋭さも更に増してるもんだから全くもって今年で16には見えな――――え、元から?

シャルロットの方は肉体そのものの成長期とミシェルと共に積んできたIS操縦者としての訓練、更に女として磨こうと試みてきた本人の努力に加えミシェルから加えられるあれやこれやな肉体的・精神的刺激によって促された結果、同年代の少女達が揃って羨む肢体を手にしていた。

原作では一夏視点でCカップと評価されたバストサイズもこの世界では現時点でEカップ。しかも現在も成長中。

本人曰く下着がすぐ合わなくなるし訓練をしていても揺れて痛かったり戦うのに邪魔になる時もあるけどミシェルが喜んでるからまあいいや、との事。

・・・・・・中国の代表候補生辺りが聞けば2重の意味で激怒しそうな言い分ではある。


「うー、もう大きくなってきてる・・・・・・本当にミシェルってばエッチ過ぎだよぉ・・・・・・」

「・・・・・・面目ない」


ちょっとむくれた様子で唇を尖らせてから――――シャルロットの指が、スラックスのジッパーを下まで下げて、どんどん固さと大きさを増していく物体をそっと撫でた。




「着陸まで時間がないから、口だけで我慢してね?」
















一言で表すならば『む~ん』であった。

何が『む~ん』なのかと問われれば決まっている。IS学園1年1組の教室内に漂う空気の様子がまさしく『む~ん』といった感じなのだった。

その空気の気まずさと緊迫感が如何ほどのものかというと、副担任の山田真耶先生が教卓の前で涙目になってしまうほど。

1年1組の生徒30名中28名を占める少女達。1人を除いて彼女らの顔には乙女には似合わない冷や汗がダラダラと流れ、視線の向きも全く安定していない。

何故か?彼女達が注目したい相手と全力で注目していない存在が隣り合わせで、見ようとすると嫌でも両方視界に飛び込んで来てしまうからだ。

今の状況は少女達からしてみれば猛獣と一緒の檻に入れられてしまったウサギの群れ、立て篭もり犯に捕まった人質、怪物に囚われたお姫様と同じ気分――――とどのつまり、怯えて身体を縮こませる以外に選択肢がない。王子様助けてー!ってな気分である。




その元凶は、最前列真ん中に鎮座する初代男性IS操縦者。




「(・・・・・・女子ばかりで激しく落ち着かん)」


ミシェル・デュノア―――――世界で最初に発見された男性IS操縦者であり、現フランス代表候補生。大企業デュノア社の御曹司。

専用ISは<ラファール・レクイエム>――――デュノア社製の名作量産型IS<ラファール・リヴァイヴ>をベースにフランスを中心としたEU各国合同で開発された高火力・汎用性・継戦能力重視の第3世代機。

お年頃の少女達からしてみれば、IS学園に2人しか存在しない男子学生の中でも超有望株なのだが・・・・・・彼の容貌を一目見れば、少女達の期待は完膚なきまでに粉砕されてしまうのが定番だった。

とにかくゴツイ。前世紀後半に流行ったB級アクションに登場する筋肉モリモリマッチョなアクションスターと悪役を足して割ったような厳つさ。鼻を真横に横切る傷跡によってまた凄味を増している。

身体つきも負けてはおらず、白い制服がパンパンに今にも筋肉ではち切れんばかりだ。腰かけている椅子がとても小さく見える。

というか貴方絶対年齢のサバ読んでますよね20歳ぐらい、と言ってやりたくなるぐらい迫力をそこに居るだけで放っているのだ。

ともかくISを動かせる女性が持て囃されてばかりいるこの時代に先祖帰りしたかのような男臭さに満ち溢れたミシェルの存在は、女尊男卑が当たり前の世代である年頃の少女達には刺激が強過ぎる。

逆を言うと時代錯誤な男らしさを外見上体現したかのような存在であるミシェルは世界中の男性、特に一定以上の世代からは大人気だったりする。








それはともかく、教師の務めを果たすべく涙声になりながらもSHRを進めて自己紹介を必要以上に緊張気味の少女達に行わせる山田先生。


「つ、次は織斑一夏君ですねっ。それじゃあじ、自己紹介をお願いしますっ!」


上ずった声で告げられた内容に、今度こそ教室中の少女達の視線が一点へと集中した。その隣に居座る存在をなるべく認識しないよう心がけながら。

いやだって、マジ怖すぎるし。何処のヤーさん?それとも外国人だからマフィア?


「えー、えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」


織斑一夏。世界で2人目の男性IS操縦者。

ミシェルとは対照的に背丈は普通、顔はどちらかといえば女顔で中々美形の部類。男性は男性でも思春期真っ盛りの少女達にとっては、彼の方に大いに興味を惹かれざるをえない。

彼も多数の少女達に囲まれて非常に落ち着かなさそうだった。彼も隣の野獣にチラチラとしきりに気にした様子ではあったが、雰囲気が少女達とは少し違う。


「趣味は鍛練、得意な事は家事全般です・・・・・・・こんなもんで良いですか、先生」

「は、はいっ!結構なお手前でした!」


何か間違った評価であった。本当にこれから大丈夫なのかこの先生。

それからも粛々と―何かに怯えたかのように―覇気の感じられない自己紹介は続き。

遂に彼の出番がやってくる。


「・・・・・・ミシェル・デュノア。フランスから留学してきた。趣味は身体を動かす事と射撃訓練、それからアニメとゲームも少々・・・・・・あと、どうせ後々問われるであろう事があるのでこの場で言っておこうと思う」


一旦彼が言葉を区切り、西部劇の決闘シーンもかくやな緊迫感が教室を覆う。


「・・・・・・同じクラスのシャルロット・デュノアとの関係だが――――――」


ゴクリ、と誰かが息を呑んだ。場面で言えば今まさしく決闘の合図であるコインが弾かれて宙を舞っている瞬間だろう。

更に緊張感は高まり、固唾を呑んで見守る観客(クラスメイトの少女達+山田先生)が順番に映し出すという手法で引っ張って、引っ張って、引っ張って、引っ張って――――――







「―――――フランス政府公認の俺の嫁だ。ぜひとも妻と仲良くして欲しい。言いたい事は以上だ」

「アホか貴様ぁ!!」


どんがらがっしゃーん!!!と1人を除いてクラス内の人間全員が椅子ごとずっこける音と。

すぱぁん!!と何処からともなく現れては背後に回り込んでいた1年1組担任の織斑千冬が思いっきり振り下ろした携帯端末の打撃音が同時に響き渡った。

ちなみに唯一ずっこけていなかったのは「もうミシェルったらこんな場所で堂々宣言しなくても・・・・・・嬉しいけどさ」とだらしなく顔を緩めた彼の嫁だったりする。












混沌とした雰囲気のままSHRと1時間目の授業が終了した直後。


「あのさ・・・・・・ちょっと、一緒に来てくれないか?」

「・・・・・・ああ、分かった」


2人だけの男子生徒が共に教室から離れていってから、急激に室内はざわめきだす。


「ねえ、今の見た?織斑君からデュノア君に話しかけてたよ」

「もしかして2人って知り合いなのかな。まさか2人が男性なのにISが使えたのもそのせいだったりして」

「覗きに行っちゃおうか?」

「ううん、止めといた方がいいかも・・・・・・もしミシェル君が怒ったらどうするのよ」

「う゛っ」

「はっ!ま、まさか2人って実はそんな関係!?ダメよ織斑君、そんな非生産的な!」

「いやデュノア君ってもうお嫁さんも居るんじゃ・・・・・・まさかどっちもイケる人とかなのかな?奥さんの他に男の愛人を囲っちゃったり!?」

「ミシェル×一夏――――ううん、一夏×ミシェルもアリね!」

「腐女子乙ww」


本人達が居ないからって言いたい放題である。特に後半。妄想逞し過ぎにも程があるだろ、と突っ込む人間は居ない。ええいこのクラスはボケばかりかっ!


「でもさっきもミシェル君の紹介聞いた?あの年でもうフランス公認で奥さんが居るとか凄くない?」

「意外過ぎるけど何でだろうね、えらくしっくりくるのって・・・・・・見た目的に違和感が無いっていうのかな」

「シャルロットさんならミシェル君と一夏君の事も知ってるかも!聞いてみよ?」


しかし、シャルロットの姿も既に教室から消えていた―――――もう1人の少女と共に。







「あのさ、何で篠ノ之さんも付いてくるのかな?」

「そ、それは一夏は私の知り合いだからだ・・・・・・それよりも私の事は箒で良いぞ」

「じゃあ僕もシャルロットで良いよ。それよりもどこに向かってるのかな2人共」


ミシェルと一夏を追いかけるのはミシェルの嫁ことシャルロットと凛とした眼差しにポニーテールが特徴的なクラスメイトの篠ノ之箒。


「それにしても一夏め。せ、せっかく6年ぶりに遭ったというのに無視するつもりか・・・・・・」

「いや、ミシェルが言うにはあの織斑って人と知り合いだったらしいよ。何でも旅行先で短い間一緒に居たって聞いたんだけど」

「むう、そうなのか」

『・・・・・・久しぶり、だな』

「おっと」


わざわざ校舎の外に出てから最初に口を開いたのはやはり一夏から。その口調と表情は暗い。


『ああ・・・・・・3年ぶり、といったところか。元気そうで何よりだ。まさかこんな所で会えるとは思いもよらなかったが』

『俺・・・・・・・・・・・・ずっとミシェルに謝りたかったんだ』


そう言うなり一夏は跪くと石畳に額を擦りつけた。思わず目を見開き身を乗り出す覗き魔の2人。


『謝ったって許されないのは分かってる――――それでも、これだけは言わせてくれ。ゴメン、本当にゴメン!俺のせいで、あんな事・・・・・・!』

『・・・・・・謝るとしたら、むしろそれは俺の方だ。何せ友人が目の前で攫われそうになりながら、無様にやられて助けにもならなかったのだから』

「誘拐・・・だと!?聞いていないぞ、そんな話!」

『ミシェルが悪い筈無いだろ!俺のせいでミシェルは死にかけて、片足を失ってっ、それにっ・・・・・・!』

「まさかミシェルが片足を失ったのって、織斑君が関わってたの?」


最後の方は掠れて届いてこなかったが、聞こえてくる一夏の血を吐く様な告白を驚愕混じりで盗み聞きし続ける。

――――夢中になり過ぎて背後に忍び寄る存在に、2人は声をかけられるまで全く気付けずじまいだった。


「盗み聞きとは良い趣味だな。篠ノ之、デュノア」

「「うひゃあっ!!?」」


驚きに飛び上がると同時に回れ右。そこにはうろんげな眼差しで自分達を見下ろす担任の姿。


「何をコソコソしているかと思えば・・・・・・早くも仲良くなれた様で何よりだがな」

「「は、はぁ」」


嫌味たっぷりの御言葉を頂戴して2人揃って小さくなる。

しかしふと、箒がおずおずと一夏の実の姉である千冬に問いかけた。2人の話は一体どういう事なのかと。

千冬はまず溜息を吐いてからしばし黙考する。然程時間をかけず箒とシャルロットに事情を説明する事に決めた。

なんせシャルロットはフランス政府も認めたミシェルの伴侶であるし、箒はISの開発者で千冬の友人でもある束の妹である事に加え一夏の幼馴染でもある。この2人なら言いふらすまい。


「・・・・・・第2回モンド・グロッソ大会における私の顛末なら大まかには知っているな」

「はい、織斑先生が2連覇を目前にしながら決勝戦を棄権し不戦敗、その後すぐに引退を表明したって事ぐらいですけど」

「決勝戦当日、一夏は何者かの手によって誘拐されたのだ。そのとき偶々行動を共にしていたミシェル・デュノアが防ぎに入り――――結果、銃撃を受けて生死の境を彷徨った。特に右足は散弾が骨を直撃した為に損傷が酷く切り落とさねばならなかった」

「ミシェルが義足なのってそんな事があったからなんだ・・・・・・」


実の所、千冬は今の内容に虚偽を加えていた。いや正確には事実を全ては述べなかった、と言うべきか。

千冬が告げた部分だけで十分に衝撃を受けていた2人は、微妙に歯切れの悪そうな千冬の様子に気付かない。


「その後しばらくデュノアは昏睡状態に陥ったんだが、一夏の身を守る為に私がすぐに一夏を帰国させたせいで2人の関係はそれっきりになってしまってな。一夏が異常に鍛練を行うようになったのもそのせいだろう。どちらにしろ、全ての責任は私にある」

「そうだったのですか・・・」


事情を知る千冬と知らされた2人の表情が次第に沈鬱なものに変化していく中、当事者達の話何時の間にやら終わりにさしかかっていた。


『・・・・・・もうそれ以上気に止まないでくれ。こうして俺はまだ生きてる。生きてる限り、必ず次がある。こうして、また一夏と再会できたように』

『ミシェル・・・・・・』

『・・・・・・それに、俺は後悔していない。大切な(数少ない)友人を守るため命をかけた事に、後悔する点が見当たらない』

『そっか・・・・・・ははっ、俺って友達に恵まれてるなぁ・・・・・・』


一夏はそう言って笑った。笑いながら、泣いていた。土下座の姿勢から身体を起こしただけの体勢のまま涙を流す一夏の元に、ミシェルもまた跪くと肩を回し、そっと背中を叩く。

最初は友人達の和解の様子を感動の面持ちで眺めていた箒だったが、何気に柄になっているその光景から得体の知れない衝動に襲われた。

とにもかくにも男らしさの権化のような見かけのミシェルに対し、一夏は全体的に千冬とよく似た女顔である。おまけに涙を流すその様子がまたソッチ系の雰囲気を漂わせていて何ともかんとも。

というか顔が近い。顔が近いぞ2人共!


「いかん、いかんぞ・・・・・・!6年ぶりに再会できたと思ったのにまさか男に一夏を取られてしまうなど!」

「ねえ、ヒトの旦那様使って何妄想してるのかな君?」

「生身の人間に銃口を向けるなそもそも許可なく勝手にIS展開するな」


薔薇が舞う妄想に顔を真っ赤にして悶える箒へニッコリ笑ってIS用の突撃砲を構えるシャルロットの頭を遠慮なく叩く千冬。




キーンコーンカーンコーン




「「「あっ」」」

『・・・・・・教室に戻るとするか』

『ああ、これから一緒によろしくな、ミシェル!』

『それはこちらのセリフだ・・・・・・』

「・・・・・・お前らも早く教室に戻るぞ」

「「はい・・・・・・」」




友誼を交わし合う男2人に気付かれないようコソコソと立ち去る彼女達の姿はまるで不審者の様だった。






[27133] 1-2:決闘の経緯/刺激的過ぎる再会
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/11 10:04
「け、けけけ、決闘ですわー!!」


・・・・・・どうしてこうなった。














2時間目が終了時点で早くも一夏は死にそうになっていた。授業の内容の半分以上がチンプンカンプンなお陰で頭がパーン!となりそうな意味で。


「あーうーあー・・・・・・」

「(先程は話しかけそびれてしまったが、今度こそ!)」


机の上にへたばってる一夏とは対照的に1人決心して気合を入れているのは箒。その気合の入れっぷりは巌流島目指して決闘へ赴く宮本武蔵が如し。

いざ、と勢い良く席を立ち上がって幼馴染の元へ向かい、


「ちょっといい――――」

「なーミシェルー、お前さっきの授業理解出来た?」

「まあ、な・・・・・・ISが使えると判明してからすぐに叩き込まれた内容ばかりだったからな」


お目当ての人物当人から和解したばかりの友人とお喋りを開始したせいで思いっきり出鼻を挫かれた箒は勢い余って机に弁慶を強打。そして悶絶。

どうやら武蔵は巌流島に辿り着く前に船が転覆してしまったらしい。


「つーかマジあり得ないだろ。俺ん家に学校から参考書送られてきた来たんだけどさ、電話帳かっつーのあの厚さ。信じられるか?」


ちなみにそのせいで危うく古い電話帳と思って捨てそうになったのは一夏だけの秘密だったりする。


「あはははは、でも織斑君ってISが使えるようになったのはほんの1ヶ月ぐらい前なんだよね?それぐらいしか予習する時間が無かったんなら仕方ないよ。僕達の場合はもっと前から猛勉強してきたんだしね」

「そう言ってもらえるだけでもありがたいよ・・・・・・えっと、確かシャルロットだっけ?」

「うんそう、シャルロット・デュノアっていうんだ。よろしくね。シャルロット、って呼んでくれて構わないから」

「それじゃあ俺の事も一夏で構わないぞ。よろしくな」


そういってから、失礼だとは理解しつつもしばしシャルロットを上から下までじっくり眺め、


「・・・・・・にしてもミシェルのお嫁さんかぁ。とりあえずおめでとう、って言った方が良いのか?」


久しぶりに再会した友人は所帯持ちでした、と言うだけならどうという事ないが、高校生になったばかりでそうとなるとどう反応すればいいのやら。

・・・・・・そもそもミシェル自体高校生に全く見えないしなあ、とは口に出さないでおく。本人気にしてるし。

それにしても可愛いお嫁さんである。しかも普通に人前なのに「えへへー、ありがとう」とか言って旦那様に抱きついてみせた。身長の割にたわわに実った膨らみがハッキリとミシェルの腕に押し付けられている。うん、もげろ。

もしこの場に一夏の腐れ縁の友人である某赤毛の少年が居たら、一夏に同意しつつもこう言ったに違いない。

お前が言うなこのフラグブレイカ―。これまで異性(美女・美少女)と幾つフラグを立ててはそげぶしてきたよ、と。


「・・・・・・とりあえず籍はフランス政府が特例でとっくに公認してくれている」

「へー、結婚式とかは?もうやったのか?」

「そこら辺は卒業してからになるけど、どうしようかまだ考え中かな。僕もミシェルも盛大に目立ったりとかあまりそういう事には興味が無いけど、むしろ周りがね」

「あーほっとかないよなぁ。それ分かる。俺もIS動かしてから取材とかでてんやわんやでさ、おちおち買い物にも出れなくて・・・・・・」


和気藹藹とした雰囲気を振り撒く一方で、激痛に悶えたまま動けない箒の存在に3人は誰も気付かない。

正確には一夏が周囲を取り囲む女子生徒達の興味の視線から精神の平衡を保つべく、会話を続ける事で全力で無視し続ける方針を取った事によるとばっちりだった。箒よ、恨むならクラスメイト達を恨んでくれ。

流石の少女達も(主にミシェルの顔のせいで)そうそう近寄る気にはなれず、遠巻きにヒソヒソと交わすのみ。

・・・・・・内容は主にミシェルとシャルロットの関係について。耳年増な思春期の少女達にはイクとこまでイッてるバカップルの話だけでも十分なネタだったのは、然程話題にされずにすむ一夏にとっては幸いか。




――――そんな均衡を破る少女が1人。




「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」「えっ?」「むっ?」


声のした方に一斉に向く。途端にちょっと顔を引き攣らせる少女。正直、ミシェルの顔と真正面から直面しただけで微妙に逃げ腰だったリする。

そんな内心を必死におくびに出さず、その金髪立てロールの白人お嬢様は堂々と胸を張った。


「(この人、確かイギリスの・・・・・・)」

「(誰だコイツ?)」

「(・・・・・何というテンプレなお嬢様。実在してたのか)」

「き、訊いています?お返事は?」

「えーと、まさか俺に言ってるの?」

「まあ!なんですのそのお返事。わ、わたくしに話しかけられるだけでもこ、光栄なのですから、それ相応の態度というものをですね・・・・・・・」


キョドってる、もの凄いキョドってる。一夏には偉そうにしつつもチラチラとミシェルの方を見る度どんどんと言葉に勢いが無くなっていく。

さっさと話進めてさっさと終わらせるか、と一夏は決心し、少女の問いに答える。


「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして入試主席のこのわたくしを!?」

「・・・・・・代表候補生ってなんだっけ?」


がーんと効果音が鳴って聞き耳を立てていたクラスの女子達がどんがらがっしゃん。

聞かれたバカップルは困った顔を浮かべながら簡潔かつ分かりやすく説明してくれた。


「読んで字の如く、国家代表IS操縦者の候補生って事だよ。一応僕とミシェルもその代表候補生の一員なんだ」

「そう、エリートなのですわ!」


何故か一夏相手にふんぞり返る時だけは威勢が良い。


「・・・・・・シャルロットはともかく、俺の場合は国や会社の宣伝で祭り上げられた節もあるがな」

「そんな事ないよ。軍の人達はミシェルの事を高く評価してくれてたし、入試での山田先生との模擬戦で勝っちゃう位強いんだから」


シャルロットの場合は持久戦にもつれ込んだ結果時間切れによる引き分けである

言葉の内容にセシリアが目を見開いた。


「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「それってもしかして『女子では』、ってオチじゃないのか?大体それなら俺も倒したぞ、教官」

「一夏も勝っちゃったの!?やっぱり男の子でIS使えるだけあって一夏も凄いなあ」

「いや、倒したっていうかいきなり突っ込んでかわしながら足引っかけたらそのまま壁にぶつかって動かなくなっただけだったんだが」

「つ、つまりわたくしだけではないと・・・・・・それも男が2人も教官に勝っていたと・・・・・・」


俯き気味にフルフルと震えだしたセシリアの様子に(あ、これヤバくね?)と感じたのはデュノア夫婦だけで知らぬは一夏のみ。

そしてついに爆発か、と目を三角にしたセシリアが顔を上げたその瞬間、




キーンコーンカーンコーン




3時間目開始のチャイムという名の水をぶっかけられて不発に終わる。しかし未だ忌々しげな表情を浮かべたままのセシリアの様子からして先延ばしになったに過ぎなさそうだ。


「また後で来ますわ!逃げない事ね、よくって!?」

「・・・・・・厄介なのに目を付けられたな」


離れていくセシリアの背中を見ながらポツリと呟かれたミシェルの言葉を聞いて、更に余計な気苦労をしょい込んだと悟った一夏はガックリと机の上に脱力した。

――――その5秒後、強烈な姉の一撃で強制起動させられる未来を一夏はまだ知らない。









クラス代表戦とは、読んで字の如くクラスの中から選ばれた代表者同士間によるちょっとした模擬戦の事である。

クラス代表そのものは代表戦に出なければならない事を除けばよくあるクラスの委員長と変わらない。そんな感じかなと一夏が受け止めているとどういう訳か他の女子に一夏自身が推薦されてしまった。


「では候補者は織斑一夏――――他にいないか?自他推薦は問わないぞ?」

「(クラス代表戦か・・・・・・生徒会とかの仕事はめんどくさいけど、腕試しのつもりで代表戦はやってみたいな)」


自分1人で鍛えるよりも誰かを相手に鍛練を行った方が互いに高め合う事になる為に余程鍛えられる、というのは当たり前の考えだ。

腕っ節には自信があってもISに関してはまだまだ素人以下、と一夏は理解している。自分が覚え磨いてきた技術がIS戦にも通用するかを確かめる絶好の機会だし、負けたら負けたで何処が悪いのかチェックして潰していけばいい。自分の力量を図るには丁度良かった。

そう判断し、このまま立候補を取り下げない事にした。どっちにしたって千冬姉は厳しいし横暴だから『他薦された者に拒否権などない』とか言って―――――

スパァン!


「今余計な事を考えたな。それから『織斑先生』と呼べ」

「何でいつも俺の考え読めるんだよ・・・・・・」

「さて、他に立候補する奴は――――デュノアもか」




「待って下さい!納得がいきません―――――えっ?」




勢い良く甲高い声が上がったと思ったら即座に尻すぼみになった。

上半身を捻って声の出所を見ようとしたら、隣のミシェルと目が合う。彼の片手は掲げられていて、なんだミシェルも自分から立候補したのかと特に考えずに受け取る。

で。声を上げた本人であるセシリア・オルコットは、机を叩きながら立ち上がった姿勢のまま一夏とミシェルの間を目線を行ったり来たりさせていた。

なんだか鳩が豆鉄砲どころか戦車の主砲でもくらったかのような唖然呆然愕然とした表情。ミスりましたわー!という彼女の内心が聞こえてきそうだ。

一旦咳払いをしてから、セシリアは滔々と自分の意見を述べ始めた。なるべくミシェルを視界に捉えないよう必死に努力しながら。

曰く、そのような選出は認められません、だの。男がクラス代表などいい恥さらし、だの。このセシリア・オルコットにそんな屈辱を1年間味わえというのか、だの。

一夏とミシェルへの侮辱か喧嘩売ってるか以外の何物でもない。


「そ、それにですね、実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然!それを物珍しいからという理由で極東の猿に――――」




「今、何と言った?」




ミシェルが席を立った。その巨体が立ち上がるだけで周囲の女子からしてみれば十分な威圧感を覚えるが、彼が突如放ち始めた剣呑な気配によって、更に一回り大きくなったような錯覚を覚えた。


「・・・・・・幾ら女が相手でも、友人をそこまで侮辱されて我慢できるほどおおらかではないぞ」


ただでさえ鋭い眼差しが細まり、剣の切っ先もかくやな鋭利さとそのすぐ下で燃え盛る怒りを孕んだ視線に貫かれたセシリアはビクン!と、目に見えて震えだす。




セシリア・オルコットは男が嫌いだった。もっと言えば、情けない男が大嫌いだった。

そしてセシリアは情けない男しか知らなかった。父親は母親共々事故で死ぬまで母親の顔色ばかり伺ってへーこらしている様な人間だったし、両親の遺産を金の亡者から守る為IS操縦者となってからも立場ゆえか会う男会う男がほんの10代半ばのセシリアのご機嫌伺いばかり。

そこに現れたミシェル・デュノアという男。男でありながらISを動かせる少年・・・・・・どちらかといえば、歴戦の軍人が間違って10代扱いされてるといった方がまだしっくりくるけれど。

セシリアとミシェルには直接の面識はないが、セシリアの方はミシェルを知っていた。そもそもこのご時世今やISに関わる者なら彼の名を知らなければモグリ以下だ。

ともかくセシリアが何より苦手なのはミシェルのその顔だった。彼女が見てきた『弱い男』とは全く正反対の厳つ過ぎる顔立ちは、セシリアには特に刺激が強過ぎる。初めて顔写真を見た時は驚きの余り椅子の上でずっこけてから椅子の陰に逃げ込んでしまった位なのだ。




・・・・・・かといってここであっさり非を認めてしまっては(いや、どこからどう見ても彼女から喧嘩を売った以外の何物でもないが)彼女のプライドが許さない。

意地があるのだ、女にだって。発揮する場面を絶対間違えているが。


「ふ、ふんっ!何を仰ってますの?自分達だけで第3世代機も作る事が出来ず、私の祖国やドイツに泣きついた癖に!」

「それは事実だ、認めよう・・・・・・だがそれがどうした。今、ここで、俺の友人を侮辱した事と何のつながりがある」


日頃から低くドスの利いたバリトンに一際力が籠もり、額には既に怒張した血管がその怒りっぷりを現すかのように痙攣している。ヒッ、と誰かの押し殺した悲鳴がした。セシリア自身の喉が漏らした物だった。

とっくに彼の周囲のクラスメイト達は涙を浮かべながらも怖すぎて動けず逃げられないままガタブル状態。

ってその腰元で何気にぶら下がってるのは何ですかどうして段々そこに手が伸びてるんですかそのギラリと光るハンマーとグリップとトリガーの付いた代物は何ですかー!?


「落ち着かんかバカもん。教室内でクラスメイトに向かって物騒なもの向けようとするな」


背後まで接近していた千冬が端末をミシェルの頭に振り下ろす。『縦向き』で。面ではなく角の部分で。

ゴシャッ!!!と絶対めり込んだよなコレ的な打撃音が盛大に響く。叩かれた側は端末が突き刺さった部分をさすりながら申し訳なさそうな顔で振り向いた。

ミシェルの頭と携帯端末、どちらも無事だった事を喜ぶべきか驚くべきか、周囲には判断がつかない。


「・・・・・・すみません。頭に血が上りました」

「友人をけなされて怒るのは良いが今は授業中だ。それにこれまでの経験を考慮して特例で銃の携帯許可が与えられているとはいえ、下らない理由で生徒や教員に向けるのであれば即刻懲罰を加えた上で携帯許可を取り消す。いくら男のIS操縦者で代表候補生でも私は贔屓しないからな」

「・・・・・・了解」

「さて、オルコットも着席しろ」


だがセシリアは戻らない。彼女は怒っていた。男に睨まれただけで怯え、恐怖を感じてしまった自分に。そして自分にそうさせた男に対し。

気がつけば、こう口走っていた。




「け、けけけ、決闘ですわー!」
















「・・・・・・どうしてこうなったんだろ」

「すまない、俺のせいで・・・・・・」

「いや、別にミシェルに怒っちゃいないって。俺の為に怒ってくれたんだし、逆に嬉しかったさ」


本当に気まずそうに申し訳無くて仕方がないといった風情でうなだれるミシェルの背中を軽く叩く。


「それに代表戦だって腕試しのつもりで出る事にしてたんだし、それが少し早まった位にしか考えてないから、気にすんな」


簡潔に言うと―――――決闘する事になった。何故か一夏が。

元々はミシェルに対し申し込まれた決闘な筈なのに、千冬曰く『デュノアのISはこんな個人的な非公式な対戦に用いるには少し問題があるしそもそもの発端はコイツにある』とか何とか言われてそのまま一夏VSセシリアが決定してしまったのである。これには当のセシリアの方が驚いた様子だったのが印象深かった。

猶予は一週間。それまでに叩き込めるだけ対策を立てなければならない。


「とにかくその時までにやれるだけの事をやるだけだな。あのさ2人とも、俺にISの事を出来る限り教えてくれ。この通り、よろしく頼むっ!」


手を合わせて土下座までしかねない勢いで深く深く頭を下げる。


「当たり前だ・・・・・・俺が撒いてしまった種だからな。それに、友人の頼みだ。断る訳にいくまい」

「僕もお手伝いするね。オルコットさんの使う<ブルー・ティアーズ>に関する事なら僕達も良く知ってるし、もっと詳細なデータも実家から送って貰えば良いからすぐに対策を立てれるよ」

「そんなのまで持ってるのか?ありがとう、恩に着る!」


何度も一夏に頭を下げられながら3人は学生寮に辿り着いた。敷地内からして分かりきっていた事だが、学生寮もまた未来的なデザインで真新しい。


「にしても千冬姉が言ってたけど、ミシェルのISってそんなに凄かったりするのか?もしかして秘密兵器っぽいのが載っけてあったりとか」

「・・・・・・そういう訳じゃない。むしろ第2世代をベースに一部第3世代機としての機能を組み込んである以外は『枯れた』技術ばかり使ってあるから、別段隠す意味のある機能は搭載されていない」

「んじゃどうして千冬姉はあんな事言ったんだろ?」

「うーん、多分ミシェルが戦うと派手過ぎるからかなあ・・・・・・」

「?」


一夏に宛がわれた部屋は1025室。ミシェルとシャルロットは一夏の部屋よりもう少し奥の一室で、流石夫婦と言うべきか同室だそうだ。


「・・・・・・荷物の整理が一段落したら部屋を覗いてくれて構わない。シャルロットも、それで構わないか」

「うん、僕はそれで良いよ。別に一夏も慌てなくていいからね?僕達も色々とやらなきゃいけないから」

「ああ、余裕を持たせて行くから、また後でな」


2人と分かれて1025室へ。中はそこいらのホテルを遥かに超える充実っぷりで、一夏は目を輝かせる。

それから部屋に置かれた荷物の存在に気付く。


「同室の奴の荷物か?」


バッグの口から突きだしているのや竹刀や木刀。

竹刀といえば剣道、剣道といえば―――――


「(そういや箒も6年ぶりに一緒会えたのにちっとも話できなかったなあ。すぐ箒って分かったけど、ずっとミシェルと話してばっかりだったし・・・・・・・いや待て、まさかこの荷物って)」

「ああ同室の者か。これから1年間よろしく頼むぞ」


やっぱりかぁー!声に出さず絶叫しながらガチャリと音のした方へと反射的に振り向いた一夏の目の前に現れたのは。


「い、いち、か?」

「よ、よう箒。あは、あはははははははは」


その少女、篠ノ之箒はまさしくシャワー上がりですよといった風情で艶やかな黒髪を湿らせ、丈の短いバスタオルは扇情的な肢体を本当に最低限しか隠し切れていない。

とにかく胸、胸である。胸の質量が大き過ぎてその分バスタオルが上に持ちあがってしまうものだから太腿の部分などほぼ剥き出して白く張りに満ちた太腿が眩し過ぎる。そこよりも更に上、下手すれば叢の部分まで覗きかねないぐらいのギリギリっぷりである。

それ以外にも二の腕や下半身の筋肉の付き具合から彼女も良く鍛えてるんだなとか5%位は考えたが、残りの95%は幼馴染の成長し過ぎなサービスシーンを脳裏に焼きつけるのに総動員中されていた。健全な男子高校生にはなんと刺激的な事か。

最初に箒は呆けた顔を浮かべていた。きっかり3秒後、事態を悟り一気に顔を赤くするやいなや2本の腕だけで何とか身体を隠そうとするが、それがまた色っぽいのなんの。

勿論一夏も紳士としてすぐに背を向けたが、あの刺激的な姿はしっかり脳内のフォルダに記録されて何時でも閲覧可能である。


「ええええええっと、その、ひ、久しぶりだな、箒!」

「そ、そうだな6年ぶりだなって違う!な、ななな何で一夏がこの部屋に居る!?」

「いや、俺もこの部屋なんだけど――――」


そう事実を告げた途端。何をどう考えたのかはともかく、いきなり表情を険しくした箒は自分の荷物に飛びつくと木刀を抜き出し、一夏に相対してから電光石火の刺突を放つ。

あと1cm深ければ学生服の胸元辺りを引き裂いていただろう。紙一重で半身になって避けた一夏はそのままの流れで木刀を握る箒の手を掴み、疎かになっている彼女の足元を払い――――


「って危ねぇっ!!」


投げ飛ばす寸前で強制停止。しかし箒の動きは止まらない。彼女の手を掴んでいた自分の手に引っ張られた一夏は間抜けな悲鳴を上げて箒共々倒れ込んでしまう。

素肌に固い床は危険と判断した一夏は咄嗟に自分の身体が下になる様身体を滑り込ませた。後頭部に衝撃。そして真っ暗になる視界。


「ふむおっ!?」

「ふぁんっ!!?」


何かが顔を覆っている。湿り気があってちょっと熱めでむにゅむにゅしてぽよぽよして顔を動かす度「ひぁっ」とか「あぅん」とか甘い声を漏らす何かが。

・・・・・・『何か?』


「(も、もしかしてこれって)」


仰向けの体勢から顔面に押しつけられた物体を鷲掴みにしながら「きゃふうっ!?」ゆっくりと押し上げて顔面からどかした。

無意識の内に両手がワキワキと揉みしだいてしまうほど柔らかく弾力がある物体の正体は幼馴染の立派なおっぱいであった。

しかも倒れた拍子にバスタオルが肌蹴てしまい桃色でツンとやや上向きの先端とかトップからアンダーまでの芸術的に美しい曲線とかが目の前に曝け出されて揺れている。

思考が再度フリーズ。しかし両手は自動運転で規則的にもみもみもみもみ。止められない止まらない。

――――この時一夏は、おっぱいの素晴らしさを『心』ではなく『魂』で理解したと後に語る。







何かが切れる破滅的な音がした時になって、一夏はようやく我に返った。

マズい。これは絶対にマズい。千冬姉に赤髪の親友から譲って貰った男の秘宝を発見された時よりもヤバいかもしれない。

頭文字Gな台所の天敵もかくやな動きと速度で手足を動かし箒と距離を取る。絶対据わった眼で殺しにかかるに違いないと確信していた一夏は唯一の脱出口である木製のドアへと飛びつこうとし。






ふえ、と漏れた声に足を止めた。






「ふ、ふえっ、うえええええええええええっ・・・・・・・」

「ほ、箒?」


最早全裸に木刀片手という状態もお構いなしに、まるで子供のように泣き出した幼馴染の姿に戸惑うよりも先に心配になって駆け寄った。

一夏が抱き起こそうとすると、だだっ子宜しく箒はポカポカと彼の胸を叩く。


「せっかく、せっかく一夏にまた会えたと思ったのにっ、ずっと無視してっ、他の人と楽しそうにして、私だってもっと一夏と話したかったのに!」

「え、えと、とりあえずゴメン!本当にゴメン!」

「あられもない姿晒してっ、胸まで揉まれてしまって――――やだ、もうやだぁっ」


とどのつまり、箒も色々と限界だったのである。

6年間会えなかった幼馴染―そして初恋の相手でもある―とようやく再会できたと思ったら、本人は男友達に夢中(語弊と偏見あり)だし他に美少女とも仲良くなってるし(※売却済み)自分は授業が終わるまで無視されっぱなしだし。

そこへ来て裸を見られた上にコンプレックスである牛の様な乳をここぞとばかりに揉まれた事への羞恥心が限界突破した結果、理性の箍がすっ飛んでしまったのである。

これがもしただシャワー直後のセミヌードを見られただけで済んだならまだ怒りが勝って一夏の予想通り追撃に移っただろうが、異性間に関する価値観が若干良く言えば古風、悪く言えば古臭い箒には過激且つ刺激的過ぎる体験だった訳で。

・・・・・・心の底では自覚していないものの、一夏にそうされた事へのヨロコビ(二重の意味で)もあり、やっぱりショックもあり。


「ばか、ばかぁ、ばかばかばかばか、いちかのばかぁっ!!」

「ゴメン、悪かったから、お願いだからもう泣き止んでくれって!」

「・・・・・・ほんとうに、さびしかったんだからな?」

「う゛っ」


上目遣い+濡れた瞳+おっぱい丸見えのコンボは思春期の少年には強烈過ぎ、ツンと奥の方が熱くなった鼻を押さえながら一夏は顔を逸らした。

―――――そしてようやく箒も自分の今の状態を思い出す。


「きゃああっ!」


コイツもこんな女の子っぽい悲鳴上げるんだないやうんすっごい美少女なのは見りゃ分かるけど。そう心の端で考えつつ決して顔はそっぽを向いたまま。

・・・・・・だが堪え切れず、横目で箒のあられもない姿を何度もチラ見してしまう辺り、極めて唐変木であっても一夏は立派に健全な青少年なのである。

それに箒が気付かない筈もなく、涙目で睨みつけながら、両手で胸を抱えて隠そうとしながらも逆に強調されている事に気付かないまま。




「・・・・・・・・・一夏のえっち」

「ぐはぁっ!!?」


言葉の刃が一夏の罪悪感を一刀両断した。
























「んっ?」

「どうかしたのか・・・・・・?」

「何だろう、誰かに僕の事真似された様な気がされたんだけど」

「・・・・・・よく分からんが、シャルロットはシャルロットなんだから、気にしなくていいと思うぞ」

「そうだね、気にし過ぎかなぁ――――ふわっ、ちょ、ダメだよミシェル、この後一夏が来るのにっ」

「スマン・・・・・・だが我慢出来ん」

「も、もうっ、いっつもそれ何だから、はあぁん!ミシェルの、えっちぃ・・・・・・!」




しばらくの間、シャワールームからは水の音以外にも嬌声が聞こえ続けたとさ。





[27133] 1-3:決闘対策期間
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/11 10:10
「い、一夏、醤油を取ってくれないか?」

「あ、ああ・・・・・・ほら」

「ありがとう――――あっ」

「あっ」


2人揃ってなるべく互いと目を合わせないようにしておきながら、醤油の小瓶を手渡す際に指先が触れあっただけでそんな声を漏らして自分の、そして相手の指先に視線を向けてしまう。

顔を上げると一夏には箒の、箒には一夏の顔が目に入る。そのまま数瞬見つめ合ったかと思えばすぐさま逸らす。お互い頬を朱に染め合いながら。

そんな2人の様子をテーブルの反対側で眺めているのは秘密を抱えたバカップル、じゃなくて夫婦。どちらも2人の初々過ぎる有り様に呆れたご様子である。

いやだって、昨日2人して対策会議の為にミシェルとシャルロットの部屋を訪れた時からこんな感じなのだ。それからずっとこんなもんだから少しぐらい言ってやりたくもなる。


「・・・・・・ゆうべは おたのしみでしたね」

「「ぶほぉっ!?」」


噴き出すタイミングもそっくりな辺り流石幼馴染同士と言うべきか。幸いにも食事の最中のミシェル達目がけて唾を発射してこなかった。


「ななな何言ってんだよミシェル!べ、別に昨日は何もなかったっての!」

「そ、そうだぞ!特に一夏に私のはしたない姿を見られてあまつさえ胸を揉みしだかれて感じてしまったりなんて――――」

「箒ィィィッ!?」


押し倒しかねない勢いで一夏が箒の口を塞ぐ。幸運な事に、テンパった箒の告白は食堂の喧騒に上手い事掻き消され、目の前の夫婦以外には伝わらなかったらしい。

しかし、それだけでも十分恥ずかしくて居た堪れない。自分が口走ってしまった内容を理解した箒の顔色など、定食の野菜サラダのつけ合せのプチトマトより真っ赤だった。

慌てふためく一夏を余所に、聞かされた方のミシェルとシャルロットは胡散臭い位清々しい笑みを浮かべ、


「こういう時、日本じゃ赤飯を炊くんだよね?」

「・・・・・・ほんとうに さくばんは おたのしみでしたね」

「言うと思ったよチクショウ!つかミシェルも天丼しなくていいから!箒も何か言ってや――――いやいい、また自爆しそうだから」

「なっ、それは無礼というものだぞ一夏!」

「はいはい、夫婦喧嘩は犬も食べないし食事中なんだから静かにしよ?」

「「ぐうぅ・・・」」


何故か知らないが、シャルロットの笑顔にはどうも逆らい辛い。笑みはただの見惚れそうな位可愛い笑みなんだけれども、孕んでるオーラが大らかで(洒落に非ず)負の感情が逃げてしまうのだ。

・・・・・・これが既に伴侶を得た者の余裕ってヤツなんだろうか。それにもし反論したら反論したで嫁命な旦那が怖いし。

自分達に不利な空気を変えるべく別の話題を探した一夏は、ささっと素早く魚の切り身から小骨を取り除いていくミシェルの手元に着目する。

握ったら赤ん坊の頭より大きそうなサイズの手なだけにきちんとしたフォームで持たれた箸がまるでマッチ棒に思えてしまうが、その手つきはかなり器用だった。

ちなみにミシェルが食べているのはサバ味噌定食。濃いめの味付けがご飯に合い、既にミシェルはどんぶり1杯分平らげおかわりまでしている。


「ミシェルって箸使うの上手いんだな。言っちゃなんだけど意外だよ」

「・・・・・・まあ、昔取った杵柄というヤツだ」


30年近く日本人として生きて死ぬ寸前まで使ってきたお陰で、箸の扱い方は魂レベルまで刻まれているのだった。

それにフランスにだって日本食を出すレストランもあるし、向こうに居た間はそこに通ってリハビリを行ってきたと言っても過言ではない。

・・・・・・営業妨害扱いされなかったのだろうか?


「いいなあミシェル。僕ももっと箸を上手く扱えたらいいんだけど・・・・・・」

「あー、子供の時から慣れなきゃ結構難しいよな箸の使い方って。大人になってもまだ上手く持てない人とかも居るし」


海鮮パスタをつつくシャルロットが手慣れた様子で箸を扱うミシェルを羨ましそうに見つめている。

そしておもむろにこんな事を聞いた。


「ねえミシェル、それってどんな味なの?」

「・・・・・・ん」


ミシェルは至って無造作にほぐした身を箸で摘まむとすぐ隣のシャルロットに向け差し出し。


「はむっ」


シャルロットもまた至って当たり前のように箸の先端ごと身を口に含んだ。

何処からどう見てもまごう事無き間接キスである。


「うん、美味し。今度僕も頼んでみよっかな。でもお箸がなあ」

「・・・・・・その時は俺が食べさせてやるさ」

「えへへ、それじゃあ僕も代わりばんこでミシェルに食べさせてあげるね」


自分達の食事が一気に砂糖まみれの物を食べているような錯覚に襲われた一夏と箒はまたも同時に醤油の小瓶に手を伸ばし――――以下略。

結局2人共お茶派でありながら、食後の一杯はブラックコーヒーを頼んだそうな。














飛んで放課後。箒に誘われた一夏は剣道場を訪れていた。


「一夏はあの頃と変わらないな・・・・・・いや、昔以上に強くなっていて、私は嬉しいぞ」

「一応鍛えてますから」


手合わせを開始してから10分ほど経って一旦中断した際の2人の第一声がそれである。

面具を外して纏めた髪をタオルで覆った箒の激しい息遣いが実戦形式の手合わせがどれだけ激しかったのかを示している。

たかが10分。されど10分。だがしかし、一夏の方はケロッとした様子で少しも息を乱した様子を見せていない。

面・銅・籠手、各所に竹刀で打ち込まれた回数は箒の方が圧倒的に多かったのに対し、一夏は箒から有効打を殆どもらっていない。


「少しは腕に自信があったのだがな。まさかここまで一夏が腕を上げているとは思いもよらなかったぞ」

「そりゃ春夏冬と学校が長い休みになる度に武者修行の旅に出たりもしてたしな。俺としてはむしろこっちに来るまでに腕が鈍ってないか気になってたから、箒が誘ってくれて丁度よかったよ」

「武者修行とは具体的にはどのような事をしたんだ?」

「千冬姉の紹介で北海道の山奥にある道場でマンツーマンの特訓。前に行った時なんかはそこの兄弟子っていう人もそこに泊まってて、その人からも色々鍛えてもらったりしたんだ」

「ほう、もしやその道場主は稲葉という名前だったのではないか?」

「箒も知ってるのか」

「稲葉先生とは私も父の道場の関係で1度だけだが顔を合わせた事もある。古流剣術でも有数の使い手と伺っている方だ」


ちなみのその某兄弟子は仕込杖を持った盲目の剣鬼と呼ばれていたり予知能力を持った少女も一緒だったりしたのだが今は関係ない。


「それにさ、一応俺も去年の剣道の全国大会で優勝したんだぜ?同じ会場でやってたんだけと、気付かなかったのか?」

「そ、そうだったのか!?」


今明かされる驚愕の真実。実際の所は会場は同じ敷地でも女子と男子別々の建物に分かれて行われていたのが一夏の存在に気付かなかった原因なのだが、会おうと思えばあえていたのにその機を逃していた事へのショックで箒は膝を突く。


「し、知らなかった・・・!せっかく一夏の方は気付いてくれていたのにっ・・・・・・!」

「まあ俺も表彰式とかでごたごたして箒に会いに行けなかったのも悪いんだけどさ」

「いや、一夏は悪くないぞ!私だってあの頃からもずっと一夏に会いたかった―――――あっ」


そこまで言ってから周囲のギャラリーの注目が集まっているのを感じ取る。

案の定、一連のやり取りを見物していた少女達は良い事聞いたとばかりにヒソヒソヒソヒソと小声で雑談中。


「ねえねえ今の聞いた?『ずっと会いたかった』ですって!やっぱり篠ノ之さんも一夏君狙いなのね!」

「いいなあ、篠ノ之さん織斑君と同じ部屋なんでしょ?アピールし放題じゃん!」

「幼馴染だったら私達よりもよっぽど織斑君の事を知ってるんだろうなぁ、羨ましい」


声は抑えられてても端々はバッチリ聞こえてきたので、箒の頭の血の上りっぷりはまさに有頂天。


「も、もう1度だ一夏!」


恥ずかしさを振り払うかのように勢い良く立ち上がろうとした箒だが、その際自分の袴の裾をふんづけていた事に気付かなかった。

よって唐突にバランスを崩した箒は剣道場の床へととんぼ帰り。前のめりにズッコけ、周囲からは笑いが巻き起こった。


「ちょ、箒大丈夫か!?」

「う、うううううううううううう~~~~~~~~~~・・・・・・」


想い人と再会してからこの方、全くいい所を見せれてない気がした箒だった。

・・・・・・残念ながら、彼女の考えは間違っていない。











「はぁ~~~~~っつ・・・・・・」


剣道場での鍛錬を終えてからかれこれ19回目の溜息である。

あれからも一騎討ちを何度も行ったが結果は箒の惜敗。しかも箒は全力を出し切ったつもりだが一夏の方はちょっと汗をかかせた程度。防具の内側が汗だく状態の箒とは対照的だった。


「それにしても、本当に強くなってたな、一夏は」


元より才能はあったのだ。離れ離れになる前、箒の実家の道場に通っていた頃から一夏は箒に勝ち越し続けていた。それが今も変わっていない、それだけの事。

それでも、今も彼が剣道を続けていた事に『まだ自分は彼と繋がり続けているんだ』と感じてしまう半面、彼の圧倒的な強さにその背中が遠のいてしまった気分にも陥る。

ただ単に鬱憤晴らしのつもりで剣の鍛錬を続けてきた自分と、遠く離れた師に仰いでまで剣を極めるべく足掻き続けた一夏。

その差は、大きい。


「・・・・・・嬉しかったなぁ」


ふとそう漏れる。

寮での大騒ぎな邂逅の後、一応それなりに言葉を交わした結果、一夏は一目見た時から箒に気付いてくれていたらしい。

率直に嬉しかった。最後に別れた時から髪型を変えなかったかいがあるってもんだが、顔立ちや身体つきもあの頃からかなり変わっていただろうに。

そう、たとえば――――――


「うっ・・・・・・」


たぷりと、姿見に映る自分の肢体の中でも特徴的な胸の膨らみを少し持ち上げてみる。

箒からしてみれば分不相応に大きなこの膨らみは悩みの種以外の何物でもなく、重いわ注目の的だわ剣を振るのに邪魔だわと悪い事尽くめだった。




―――――これまでは。




「一夏・・・・・・一夏も、こういうのは大きい方が好きなのだろうか・・・・・・?」


あられもない姿を晒し出してしまった際、一夏の目が度々この胸に引き寄せられたのが印象に残っている。

つまり一夏もこの胸を気にしているのだろうか?そりゃあ一夏も男なのだから、その、そそそそういう事にも興味があるに違いないだろうし。

もしそうなのだとしたら、私はどうすればいいのだろう?一夏と何をどうしたいのだろう?

脳裏を過ぎるのは身近な男女交際の一例―――――一夏の友人の少年(?)とその恋人、というか実質奥さん。


「いいなあ・・・・・・・私も」


あんな風に、もっと一夏と触れ合いたい。

もっと素直に、一夏にありのままの感情をぶつけたい。




―――――あの2人みたいに、自分も一夏と結ばれたい。




その為ならば、きっと自分は・・・・・・


「嫌ではなかったし、な」




箒はもう1度己の膨らみをやわやわと触りながら、そう呟く。

その時の箒の表情は、まさしく恋する乙女以外の何物でもなかった














シャルロットの操作によりパソコンの画面に表示されたのは大まかなISの設計図。次いでその完成系の画像が表示される。


「これがオルコットさんが持つ専用IS、<ブルー・ティアーズ>だよ。イギリス製の第3世代ISで主に中遠距離での戦闘を軸に設計された射撃型ISさ」

「・・・・・・<ブルー・ティアーズ>の特徴は遠隔操作型の6機のビットだ。それぞれが操縦者の意思に従って自在に誘導可能な代物だが、まだ試作段階な代物で制御プログラムの問題から操縦者にその操作を一任しなければいけない点が現在の課題と言われている」

「つまりビットを操作している間は操作に気を取られて操縦者が無防備になりやすいって事か?」

「そういう事だね」


戦う前に相手の戦い方と弱点が分かるのはとてもありがたい。一夏は男としての意地はあっても騎士になったつもりは更々無いので、予め敵の弱点を探る事に躊躇いはなかった。

盲目の兄弟子からも『兵法は何でも利用して当然』と言ってたし。

一夏共々シャルロットの後ろから画面を覗き込んでいた箒が問うてきた。


「しかし、こういった新型機の情報という物は厳重に守られて外部に持ち出すのは禁止されている筈だが、よく入手できたものだな」

「シャルロットは『実家にもこの機体のデータがある』とか言ってなかったっけ?そもそもさ、何でフランスがイギリスの試作型ISの詳しい情報持ってんだ?」

「うーん、そこら辺はちょっと複雑な事情があってね」

「・・・・・・要は取引したのさ。『世界初の男性IS操縦者』の使用データと引き換えに、フランスでの開発が難航していた第3世代機の開発データをな」

「だからミシェルのISは実家のデュノア社が開発した<ラファール・リヴァイヴ>がベースで、フランス主導で開発された物であっても、EU各国で共同開発したISって事になってるんだよ」


セシリアの『イギリスやドイツに泣きついた』発言はそういった事情を揶揄った言葉であった。

言われた方のミシェルやシャルロットは別段気にしちゃいない。だって事実だし、似たような事例は幾らでも転がってるし。

その上で、オリジナルよりも技術を流用したこっちの方が完成度が高いと証明してみせれば良いだけの話だ。


「ともかくオルコットさんの<ブルー・ティアーズ>は1対1でやるとなるとだとかなり厳しい戦いになると思うよ。ビットからの攻撃に四方から襲われる事になるから、周囲に気を配り続ける事が重要じゃないかな」

「逆に言えばビットさえ捌ければどうにかできる可能性は高い、って事だよな。接近戦に持ち込めれば何とかできそうな気がするけど、やっぱ近づかれた時の備えもあるよなぁ・・・・・・」

「・・・・・・恐らく、な。間違いなく何らかの近接戦闘用の得物を呑んでる可能性があるだろう」

「一夏には専用機が送られる事になっているが、その前に<打鉄>でも使ってISに慣れておいた方がよかろう」


箒の提案も尤もだ。生身でなら一夏が強いかもしれないがISの搭乗時間はセシリアの方が圧倒的に積んでいる。

クラスメイトから聞いた所によると最低でも300時間。間違って受けてしまった試験の際に触れただけの一夏とは比べ物にならない。

そもそもISは地を足で蹴って動く代物ではないのだから、その機動の特異性をもっと身体に叩き込んでおくべきだろう。


「で、だな。そ、その、い、一夏がどうしてもと言うのであれば私がだな――――」

「なあミシェル、俺にISでの戦い方を教えてくれ!頼む!この通り!!」


一夏が頭を下げるのと箒が膝から崩れ落ちたのは同時だった。

そりゃあすぐ隣に決闘相手と同じ代表候補生で尚且つ頼もしい友人が居るのであればそっちを選ぶだろう。誰だってそーする。俺だってそーする。


「ん?具合でも悪いのか箒」

「何でもない、何でもないんだ・・・・・・」

「お、落ち込まないで箒さん!またチャンスはあるから、ね!?」

「・・・・・・友人に頼られるぐらい信頼されているのを喜ぶべきか、異性からのアピールに気付けない友人に呆れるべきか、どっちが正しいんだろうな」


遠い目を浮かべたミシェルの疑問に一夏は心底不思議そうに首を捻ってみせた。

その時、パソコンから少し離れたテーブルの上に置かれてあったホルスターの存在に気付く。授業時間内でも身に着けていたアレだ。


「ミシェル、『アレ』って」

「・・・・・・ん?ああ、銃か。触ってみるか?ちょっと待ってくれ」

「――――いや、いい。扱い方なら勉強したから」


銃がホルスターからすっぽ抜けない為の留め具を外し、銀色に鈍く光るそれを抜く。


「パラ・オーディナンスのP14カスタム、だったよな」


トリガーガードの根元にあるマガジンキャッチを押して.45ACP弾が装填されたマガジンを抜く。それからスライドを引いて薬室に装填されていた分の弾丸も抜き、スライドストップを操作。

スライドが元の位置に戻り、更に安全装置を解除してから、一夏は1回だけ引き金を引いた。ガチリ、と撃鉄が落ちる確かな手応え。

薬室に弾丸を送り込んだ状態で安全装置をかける事を『コック&ロック』という。実戦的なその技術はP14の原型であるコルト・ガバメントの大きな利点の1つだ。

ミシェルのP14には銃口の先に反動低下用のコンペンセイターが追加されたカスタムモデルだ。一夏の手には大口径・多弾装仕様のP14のグリップがかなり太く思える。

手の中の銃から視線を移すと、箒が驚いた表情で一夏を見つめていた。


「一体何処で扱い方を覚えたんだ?」

「最初はミシェルから教えてもらったんだけど、日本に戻ってからも武器の事とか調べる一環で覚えたんだよ。どんな構造でどんな風に扱う物なのか知ってれば、対処の仕方だって自然と分かるようになるしさ」


それはまるで当たり前のように銃を持った相手との敵対も想定しているかのような物言いだった。

手慣れたとは言えないが、1つ1つ何がどうなっているのかどうすればいいのか完全に理解してる手つきでさっきとは逆の順序で拳銃に弾を装填し直し、ホルスターに戻す。
















「――――――もう2度と、自分じゃ何も出来ないまま守られるのはまっぴら御免だ」




そう呟いた一夏の目は、箒が今まで見た事がない程に固く鋭い決意の光が宿っていた。









[27133] 1-4:サムライハート
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/11 10:13

1日そのものは長く感じても日が経つのはとても短く感じるものだ。

セシリア・オルコットとの決闘当日。一夏の姿は既にミシェルや箒ら仲間達と共にピットに在った。というか、予定の時間はとっくに過ぎていたりする。

一夏の専用機が当日になってもまだ運ばれてこなかったせいなのだが、ようやく山田先生と千冬姉が『それ』を持ってきてくれた。これがなければ話にならない。

そう、一夏の専用IS。その名は<白式>。

名が体を表すを地で往くかの如く、その機体色は白一色。眩し過ぎてかなり派手に思えてきてしまうぐらいだ。




搭載されている武装は―――――1振りの近接ブレードのみ。




清々しいまでにセシリアの<ブルー・ティアーズ>と対照的過ぎる機体であった。拡張領域も何故か一杯だから後付装備も追加できない。何かの嫌がらせか一体、と内心ごちる。

口に出したら千冬姉に『贅沢言うな』と絶対引っ叩かれただろう。


「・・・・・・散々待たされてフォーマットやフッティングもする時間も与えられない上にこのISの偏りっぷり。最早悪意的な何かを感じるのは俺だけか俺だけなのか」


スパァン!


あ、ミシェルが代弁してくれた。でもってやっぱり千冬姉に引っ叩かれた。

それにしても殆ど痛がる様子もないミシェルの頭はどんな素材で出来てるんだろうか。自分にも少し分けて欲しい。


「納入が遅れたのは認めるが今回はわざわざ別のクラスがアリーナを授業で使う予定だったにもかかわらず話を聞きつけた向こうの好意でねじ込ませてもらったんだ。これ以上アリーナを占領したら厚かまし過ぎるだろうが。この後もすぐに授業で使われる予定だというのに」


そうこうしている間にカタパルトへ。背中を向けていながら、ハイパーセンサーの恩恵でミシェルやシャルロット、箒達が不安と期待の入り混じった表情を浮かべているのが『見える』。ミシェルのは殆どしかめっ面同然だったけれど。ゴメン、やっぱりちょっと怖いその顔。

深く息を吸ってから、細く細く息を吐き出す。精神統一。身体はホットに思考はクールに。機体から流れ込んでくる<ブルー・ティアーズ>の情報。よく分かってるよ、それぐらい。


「一夏!・・・・・・勝ってこい!」

「箒―――ああ、当ったり前だ!」


振り向かず、左腕を横に伸ばして握り拳に親指を立てる。

頼もしい幼馴染の返事に箒は僅かに笑みを浮かべてから、少しどもり気味に言葉を続けた。


「一夏がか、勝ってくれたのならばその時はほ、褒美をやろう!楽しみにしておけ!」

「え?いや別にそこまでしてくれなくたって――――」

「さっさと行け!何時まで相手と観客を待たせるつもりだ!」

「うおっ!?分かったよ千冬姉!んじゃちょっと行ってくるわ皆!」

「頑張ってねー、一夏ー!」

「・・・・・・期待してる」


励ましの言葉を背にいざ決闘の場へ。空を飛ぶ、という感覚はこの数日間<打鉄>での特訓でそれなりに慣れたつもりだったが、心持ち<白式>の方が勢いが強い気がする。

初めて身に纏ったくせに、<打鉄>の時よりもよっぽどフィット感が強く身体にしっくりくる感触が少し気持ち悪い。

そうして始まる前から勝ち誇った笑みのセシリアと距離を置いて相対した。


「あら、逃げずに来ましたのね?」


試合開始の鐘はもう鳴っていた。セシリアは傲慢そうに見下した視線で見下ろすだけ。一夏は口を閉じて『敵』から目を離さないだけ。

互いの得物は既に握られている。セシリアの左手には2m超の特殊レーザーライフル<スターライトmkⅢ>。一夏の右手には大型ブレード。


「最後のチャンスをあげますわ。わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今日ここで謝るというのなら、許してあげなくもないですわ」

「・・・・・・」


自信満々、確定事項といわんばかりの自分の勝利を予言するセシリアの宣告に対し、一夏の答えは無言。

―――――いや、目を細め、しっかりとセシリアを見据えながら彼も口を開いた。


「言いたい事はそれだけか?」

「おや、そんな返事で良いのかしら?折角チャンスを与えてあげると言っていますのよわたくしは」

「・・・・・・下らねぇ、な」


そう吐き捨てる。セシリアの目の色が変わる。


「惨めな姿結構!これまで散々千冬姉に叩きのめされたり稲葉先生に扱かれたり土方さんに手も足も出ないままやられてきたんだ、ボロボロにされんのは慣れてんだよ」

「そんなのちっとも自慢になりませんわよ」

「だろうな。でも人間、そこまでボロボロにされたって―――――死なない限り足掻き続ける事が出来る。足掻き続ければ、万に1つの勝機を掴み取れるかもしれない。だから決めたんだ、俺は死ぬまで足掻き続けてやるって」


脳裏に浮かぶのは片足を失い顔を撃たれても自分を助けようと銃を撃ち続けた友人の姿。

もう2度とそんな姿は見たくなかった。けれど、そんな姿に憧れた。




そして少年(おとこ)が不敵に笑う。








「なのに足掻く前から勝手に勝ち負け決めてると――――――足元掬われるぜ?セシリア・オルコット」








「っ!!結構、それでは精々無様に足掻いて踊ってみせなさい。わたくし、セシリア・オルコットと<ブルー・ティアーズ>の奏でるワルツで!」


長大なライフルが一夏を照準。長刀を構え一直線に突貫。




一騎討ち、開始。














「・・・何見惚れて間抜け面晒しているんだ、篠ノ之」

「――――はっ!?」


千冬の一言で我に帰る。一夏のあの初めて見せる男らしさに満ち溢れた笑みは箒の乙女心直撃だったのだ。

最初はどうぶつかり合っていたのか記憶が定かではないが、画面の中で一夏とセシリアが付かず離れず距離を開けたままめまぐるしくアリーナ中を動き回っている。

距離を詰めなければ射撃武器を持たない一夏はジリ貧の筈だが、よくよく見てみると一夏の表情は引き締まってはいるが慌てた様はなく、逆に距離を置いて一方的にレーザーライフルやビットで射撃を加えているセシリアの方が焦りの感情が色濃い。


「凄いね一夏。ずっと撃たれっぱなしなのに全然被弾してないや」

「・・・・・・ハイパーセンサーで一応全方向からの動きを察知できるとはいえ、よくもまああそこまで避け続けれるものだ」

「完全にオルコットさんが射撃するタイミングを読み切っていますね。凄い、他の代表候補生でもあそこまで出来ませんよ」


どんな機動を行おうとも視線そのものはセシリアにピッタリと固定されて動かない。そうでありながら前後左右上下を飛び回るビットからの射撃を避け続け、セシリアがレーザーライフルでの精密射撃に切り替えると途端に距離を詰め、接近戦を試みる。

セシリアもさる者、放たれるレーザーは回避機動を織り交ぜながら接近する一夏の未来位置を正確に捉えてはいた。

だが当たらない。

光弾が放たれる度にセシリアが狙った未来位置へと悉く一夏が飛び込まない為だ。紙一重で見切って急角度で切り返しては足を止めず、シールドエネルギーも削られる事無くセシリアを射程内に捉える。


『はあっ!』

『甘いですわ!』


ブレードを大きく振りかぶる一夏。その構えが大振り過ぎてがら空きになった胴体にセシリアは腰だめに<スターライトmkⅢ>の銃口を向ける。この距離なら回避は出来まい。

50cmもない距離で発射―――――だが外れる。

構えはフェイク。刀剣を最上段に振りかぶったままぐるん!と身を捩って銃口の延長線上から外れるとセシリアの右側へと半円を描いて回り込む。脇腹を通り過ぎたレーザーが余りに近過ぎてシールドバリアーが作動したが消耗は微々たるもの。

逆に背後に回り込まれたセシリアの背中が一夏に斬りつけられる。一気に減少する数字。試合開始時と比べ、セシリアのシールドエネルギーは半分近く減っていた。


『くっ!このっ、<インターセプター>!』


顔を焦燥に歪ませたセシリアの左手に顕在するショートブレード。それを危なげなく刀身で受け止めてから、一夏はお返しとばかりに回し蹴りを放った。

肩部装甲に命中したセシリアは短い悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。一夏は大型刀を中段に構え直し、再び距離が空いたセシリアに視線を固定した。


「凄いですね織斑君、まさかあそこまでオルコットさんを追い詰めるなんて」

「・・・・・・あの馬鹿者は、ISの搭乗経験は少なくとも、対人戦の経験だけは豊富だからな」


山田先生の感嘆に、呆れ混じりの千冬の言葉が続いた。


「それ、どういう事ですか?」

「身内の恥を晒すようでアレなのだが・・・・・・中学の頃の一夏はああ見えて荒れていてな。いや、別に素行不良だったとかそういう訳ではない。断じてない。しかし、事ある毎に暴力沙汰に発展してしまう事が多々あってな」

「そ、そうだったのですか?」


箒としては初耳である。ミシェルやシャルロットも一夏のそんな姿を想像できなくて首を捻っていた。


「いや、揉め事の原因そのものは殆どは向こうに非がある場合ばっかりだったんだ。いじめを止めに入ったり他校の不良に絡まれたりする同じ学校の生徒を助けに入ったり、な」

「へ~っ、織斑君って正義感が強いんですね。やっぱり、ご姉弟なだけある気がします」

「そこまではまあいい。だがああ見えて一夏も喧嘩っ早い所があるものだから、向こうが退かなかった場合待っているのは決まって相手が一夏に病院送りにされるという結果だ。しかも一夏1人に複数が倒されるという形でな」


山田先生の表情が凍りつく。


「それにだ、一夏自身も意識的にか無意識的にか狙ってそっちに持っていっている節があってな。聞いた事があるだろう?『100回の訓練よりも1回の実戦』と。アイツはそうやって鍛練だけじゃ飽き足らず『実地』で経験を積んでいっていたのだ。対人戦の実戦経験を」


頭が痛そうに額に手を当てる千冬。箒も似たような様子だ。ちなみに一夏をそう煽った元凶は、自身も刀1本で戦場巡ってきた某兄弟子だったリする。

教師や警察から呼び出しを受けてあの3年間に一体何度足を運んだ事やら。当時の弟の友人曰く、中3になる頃には校内最強の称号を与えられていたそうだ。本人にその自覚は全く無かったらしいけど。

あと一夏に助けられた女子生徒で校内にファンクラブが設立されてたとかいないとか。果たして何人の女子のハートを射止めていたのやら、千冬は考えたくもない。

・・・・・・だって弟は絶対そんな少女達の存在にすら気付いていなかっただろうから。その少女達が不憫過ぎる。


「極めつけがクラスメイトを犯罪に巻き込もうとした不良グループの溜まり場に木刀1本で乗り込んで数十人を叩きのめすという大馬鹿っぷりだ。まったく、あの時は揉み消すのに苦労したぞ」


最後の方は聞かなかった事にしておこう。そう千冬以外の面々の内心が一致した瞬間だった。

つーか一夏さん、パネェ。姉も姉だが弟も弟である。


「ともかくだ。そうしてあの馬鹿者は対人戦での経験を積んでいった。相手が実力者ばかりでなくとも間合いの取り方、有効な立ち回りの仕方、複数方向からの攻撃の対処法は十分なほど積んでいる。IS戦も結局は人と人のぶつかり合いだ。そういった経験は幾らでも応用できる」


あとはそれが何処までセシリア相手に通用するかだが、結果はこの戦いを見ていれば嫌でも分かる。


「あとはあの馬鹿者が調子に乗って浮かれなければ、まあ及第点はくれてやろう。オルコットには悪いがな」












―――――重要なのは『仕掛け』と『動き』と『間』だ。




敵の虚を突くにはそれらを外すのが基本であり、そのどれかを読まれれば熟練者には通用しない――――それが兄弟子の教えの1つだ。

とにかくあの人は強かった。目が見えない事なんてハンデにもならない。それどころか、視力を失った代わりにISのハイパーセンサーでも身体に埋め込んだのかといいたくなるぐらい気配に敏感で、一夏は一太刀でも当てれた事が1度もない。それぐらい強い。

人間というのは事を起こす時多かれ少なかれ緊張する。それを事細かく悟れさえすればかなりの確率で行動を予想できる。これもあの人の教え。

セシリア・オルコットの技量は確かに凄いと一夏も思う。射撃は正確。位置取りも上手いしビットの動きも鋭く、本人が自慢するように代表候補生に相応しい実力はあると一夏は評価する。




けど、それだけじゃ足りない。




些細な挙動1つ見逃すな。目線、呼吸、表情、気配、全てが次の彼女の行動を教えてくれる。

死角―ISの全方位視界接続が完璧に作動している場合その概念は形骸化しているが―人間の視覚そのものからの範囲外、背後や真下、真上などからの情報は脳で整理するのに僅かなタイムラグが生じる。それをセシリアは突き、そこにビットを配置する事で一夏の反応を鈍らせようと試みていた。

故に読みやすい。幾つかパターンは変われど、隙さえ見せれば逆にその死角にビットの位置を誘導できるのだから回避も容易い。射撃のタイミングも、セシリアの僅かな反応を見逃さなければビットからであっても容易に読み取れた。

複数方向からの同時攻撃も、これまでの1対多での戦いの経験を応用すれば良い。上下方向からの攻撃には馴染みがなかったから最初は若干戸惑ったが今はもう慣れた。







・・・・・・ところで、セシリアからしてみると現在進行中の現実が余りにも自分の予想から掛け離れていて、溜まった物ではなかった。

よりにもよって自分が散々侮辱しこき下ろした男にここまで追い詰められるなんて!これでは道化以外の何物でもない。何と無様な。

しかしその実力は認めざるを得なかった。あの身のこなしあの戦いぶり、ISの扱い方そのものは素人同然だが、戦闘そのものに関しては明らかに場馴れしている。日頃あんな間抜け面を浮かべていた癖に、これがいわゆる『能ある鷹は爪を隠す』というものなのか。

鋭く、落ち着き払い、ずっと自分を射抜いて離れない、強い意思に満ちたあの瞳。まるで吸い込まれそうで、セシリアも一夏の顔から眼を離せない。

って何見惚れていますのわたくしったら!?顔に血の気が集まるのを自覚してブンブン首を振る。

そんな事をしていたら「隙有りっ!」遂にビットが1機ブレードに斬り飛ばされて破壊されてしまった。更にもう1機も。何という間抜けなミス。


「くっ、中々やりますわね!27分もわたくしと<ブルー・ティアーズ>から耐え切るなんて!」

「オイオイ何言ってんだ。よく耐えてんのはむしろそっちの方じゃないのかよ」

「ふん、生意気ですこと!」


だが目の前の男の言った事の方が正しい。彼の戦い方は主にヒット&アウェイ。もし接近されたまま食らいつかれて一気に斬りこまれ続けたのなら、もっと削られていたのは間違いない。

―――何故彼は今までそうしてこなかったのか。確実に近接戦のみなら彼の方が技量が上だ。そうでありながら何故攻撃の度一々距離を取って自身の有利な状況に持ち込まない?




まるで自分の動きを確かめているかのような――――――












一夏は<白式>のパラメータをチェックした。フォーマット・フィッティング共に99.6%完了。残り所要時間、あと15秒。

油断はしない。侮りもしない。必要以上に恐れない。今の彼女は手負いの狼。油断したら噛まれるぞ。

昔から千冬姉から言われ続けてきた。『お前は毎回肝心な所で浮かれてしまってミスをする』と。

兄弟子からはこう教えられた。『実戦で敵を完全に仕留める前から勝手に勝利を確信して気を抜けば、その代償は自分の命だ』と。

ああその通りだよ2人共。まだ戦いは終わってない。だから油断するな。気を抜くな。逆転負けなんてカッコ悪いにもほどがある。

・・・・・・だけど、これぐらいカッコつけたっていいよな?


「――――感謝するぜ、セシリア・オルコット」

「な、何をいきなりおっしゃいますの!?」


これは嘘偽りない一夏の本心であり、確信であり、決意でもある。


「お前とこうして戦って、1つ分かった事がある」

『フォーマット・フィッティング終了』


<白式>が爆発的に発光した。その姿が光に消えたのは僅か数瞬。だが光が止むとその姿は大きく変わっていた。

優雅で美しい純白の鎧。一夏の感覚がよりクリアに広がっていく。世界の事象全てをその身に感じ取れそうな全能感。

フォーマットとフィッティングが完了する前から初めて操る筈なのにしっくりきていた<白式>だったが、こうして本来の姿を得てからの一体感は想像以上だ。非常によく馴染む。最初からかなり反応が良い機体とは思っていたが、今の状態はそれを更に上回るに違いない。


「ま、まさか一次移行!?あ、あなた今まで初期設定だけの機体で戦っていたっていうの!?」


セシリアにとってはまさしく屈辱の極み。つまり自分は手加減されていたも同然という事だ。

そうでありながら、自分はここまで追い詰められていたというのか。


「もう1度言うぜ、セシリア・オルコット。俺はお前に感謝してる」


大型ブレード――――正式名称<雪片弐型>の具合を確かめるように目の前の空間を切り払う。




周りの人達を守りたいと思った。

自分にはそれだけの力が足りなかった。

もっと大切な人達を守れるだけの力が欲しかった。

そしてISという新しい力を手にして、分かった事がある。









「―――――どうやら俺は、まだまだ強くなれるらしい」









<雪片弐型>を低く構え直し、腰を落として身構える。

そして最初に宣戦布告した時の様に、一夏はまた男臭く笑った。


「それじゃあそろそろ決めるとしようぜ」

「・・・っ!ふざけるんじゃありませんわぁ!!」


2機まで減ったビットが舞う。一瞬でトップスピードに移行した一夏は最小限の起動で避ける。避け続ける。1機を真ん中から両断。もう1機を装甲に包まれた左腕を直接叩きつけ遠く弾き飛ばす。

見る見るうちに縮む距離。その時不意にセシリアが口元に笑みを浮かべるのを一夏はしっかりと感じ取った。


「かかりましたわね!」


腰部のパーツが展開。ピタリと向けられた方向を一夏は真っ直ぐ覗き込む形になる。


「<ブルー・ティアーズ>は6機ありましてよ!」


ミサイル発射。高速で飛来するミサイルは一夏が反転して回避機動を取ろうとブレーキをかけようものなら確実に直撃するタイミングだった。横方向へ回避しようにも一夏の身体はスピードが乗り過ぎている。

それを理解していても一夏は決して絶望しない。

何故ならセシリアのその行動は織り込み済みだったのだから。


「それも知ってるんだよおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」


ミシェル達の情報提供でミサイル搭載型ビットの存在も発覚していた。ここまで使おうとしなかったという事は、彼女がそれを使う機会を狙っていたという事だ。

すなわちこの決着をつけようとまっすぐ突っ込んでくるタイミング―――――!!


「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「瞬時加速<イグニッション・ブースト>!?嘘でしょう、貴方みたいな素人が!?」


一夏も狙ってやったつもりではない。ただ一瞬速度を落としてミサイルの起動を瞬時に把握すると即座に出力全開で急加速し、2発のミサイルの間をすり抜けようとしただけだ。

後部スラスターがエネルギーを放出、一旦取り込んでから圧縮して再放出。そのプロセスがコンマ数秒間に勝手に行われ、ミサイルは一夏の両横を通り過ぎてからぶつかり合い爆発。

意図してやった訳ではない予想以上の加速と背後からの爆風で一夏はバランスを崩しながらも、すぐさま機動を回復してセシリアへと突っ込む。

だが、その僅かな空白が運命を分ける。


「まだ終わってませんわ!」


一夏が気を逸らした1秒にも満たない時間。次にセシリアを目視で捉えた時には彼女はその時間を利用して<スターライトmkⅢ>を一夏に照準していた。腐っても代表候補生、最後の最後で限界以上の能力を発揮してみせた。

<雪片弐型>の間合いにはまだ届かない。さっきのミサイルとは違い、この一太刀に全てを注ぎ込んで一夏は理解した・・・・・・もう回避が間に合わない。




極限まで強化された感覚が、ライフルの引き金に掛けられたセシリアの指の動きまで伝えてくるような感覚に襲われる―――――引き金がゆっくりとかつ完全に絞られ、砲口から閃光が迸る様子まで一夏の目にはスローモーションに感じられた。

走馬灯宜しく脳裏を過ぎったのは山籠りでの教え。兄弟子に何となしに問いかけた質問の内容。

銃を持った相手にはどう対応すべきか。

兄弟子の答えで特に印象に残っているのは、世話になっていた稲葉先生の流派に伝えられていたという秘伝の技術。


「(口径の延長線上に―――――!)」

「これで墜ちなさい!!」


<雪片弐型>の鍔に当たる部分を左手で包み込み、納刀された刀をイメージ。居合抜きの構えを取る。

弾道を読み取れ。ここで成功してみせなければ恥をかくのは自分だけじゃない。千冬姉や、箒や、ミシェルや、シャルロットや、土方さんや稲葉先生や、自分を支えてくれた全ての人達の教えが無駄になる・・・!


「(刃を―――――置く!!)」


抜刀。放たれたエネルギー弾と、振り抜いた瞬間刀身の根元部分から構築されたエネルギー刃が激突。

拮抗すらしなかった。光弾が弾け飛び、一夏には全く届かない。


「弾丸を・・・・・・斬った!?」

「古流剣術舐めんなよぉ!!」


もう一夏とセシリアを遮る物は何も存在しない。振りきった体勢から刃を返し、左手に持ち替え切り返す。

不可視のシールドは横一文字に一刀両断――――一瞬でセシリアのエネルギーシールドがゼロを示す。

高らかにブザーが鳴り響き、勝者の名を轟かせた。


『勝者、織斑一夏!』


山田先生の拡大されたアナウンスを遥かに超える観客の歓声を余所に、一夏は残心を忘れずセシリアから距離を取ってからようやく刀を下げ、戦いが終われば興味無いと言わんばかりに背を向け、自身のピットへ戻っていく。

その雰囲気のなんとストイックな事よ。立ち去り際のその背中がピットの中に消えるまで、セシリアは呆然とその背中を追いかけ続けた。


「織斑一夏・・・・・」


名を呟いたセシリアの顔は赤い。











・・・・・・・どうやら一夏が手にしたのは勝者の栄光だけではなさそうだった。





[27133] 1-5:伝染?
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/11 10:18
興奮冷めやらぬ熱い空気に包まれたアリーナを、一夏・箒・ミシェル・シャルロットの4人は隠れるようにして離れた。

もし観客の女生徒達に見つかろうものなら間違いなく追っかけ回されるに決まってるから、千冬姉の指示で教員用の裏口から脱出したのである。


「凄かったなぁ、一夏ってあんなに強かったんだね!」

「・・・・・・俺も、驚きだ。まさか、暫く会わない内にあそこまで強くなっていたとは。一夏も成長したんだな・・・・・・」

「おいおい何だよそれ。それじゃまるで父親みたいな台詞みたいだぜ」

「・・・・・・・」

「ちょ、うおっ」


むんずと無造作に一夏の頭にミシェルの巨大な手が置かれると、わしゃわしゃ一夏の髪を掻き回す。

なんだよーやめろよーと言いながらも笑う一夏はどことなく嬉しそうだった。アリーナでの戦いぶりが嘘のように子供っぽく見える。


「あれ、どうかしたの箒?」

「うえっ!?なな何でもないぞ別に!」


シャルロットの言葉にブンブン首を高速旋回。一夏に見惚れていたのに気付かないのは、注目されていた本人のみ。


「と、ところで一夏のISの待機形態を見てから気になったのだが、2人も専用機を持っているのだろう?待機形態はどのような形をしているんだ?」


ISの待機形態は量産機でもない限り1機1機違ってくる。その場合基本パッと見でそれと分からないようなアクセサリーなどの小物の形を取る事が多い。

一夏の<白式>の場合は白のガントレット。セシリアの<ブルー・ティアーズ>は青いイヤリングだ。


「ちょっと待って、今出すから」


シャルロットが制服の胸元を緩めると、少し締めつけられていたたわわな胸がたゆんと揺れた。

一夏の視線がその胸の動きを追いかけた。彼の頭に置かれたままのミシェルの五指が一夏の頭部にめり込んだ。にぎゃあと悲鳴を漏らす一夏の鳩尾に箒の竹刀による胴への一撃が加わった。

コンビネーション攻撃でフルボッコにされる一夏を余所にうんしょよいしょと胸元を探っている。


「ゴメンね、ちょっと引っかかっちゃってて」


シャルロットのISが出てくるのが先か、それとも一夏の魂が出ていくのが先なのか。

服の下に窮屈そうに収まっている膨らみによって制服が突っ張ってしまい、そのせいで服の裏地に引っ掛かってしまっているらしい。


「はいこれ、これが僕のIS、<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>だよ」


シャルロットが取りだしたのは十字架型のオレンジ色のアクセサリー。待機状態時の彩色と機体色は同じなのでISそのものもオレンジがメインなのだろう。


「・・・・・・俺の方はこれだ」

「これは―――ドッグタグ(認識票)か?」


箒の言葉通り、ミシェルが取りだしたのは軍人が身に付けるドッグタグだった。ただし縁取りが炎の様な赤で中心部分が黒い。ミシェルのISは重装甲・高火力と聞いているから如何にもな彩色だ。


「あいてててて・・・・・・な、何でこんな目に」

「い、一夏が悪いのだろう!あろうことか乙女の胸を凝視するなど!・・・・・・・・・わ、私のだって見たくせに、それだけでは不服だと言うのか」

「・・・・・・幾ら友人だろうと、俺以外の男にシャルロットにいやらしい目を向けられるのは気に食わん」

「ゴメンナサイ」


お言葉が御尤もだったので素直に一夏は謝る事にした。

でもミシェルのは単なる嫉妬な気がする。それから箒の後半の台詞はそっちが本音か。それからとっくの昔にシャルロットは乙女じゃ―――(銃声)

いつの間にか微妙に顔を赤くしたシャルロットまで、胸元を隠そうとしながらも一夏を軽く睨みつけている。


「・・・・・・一夏のえっち」

「がふっ!?」


その一言がミシェルのアイアンクローよりも箒の竹刀乱舞よりもどれよりも一夏に大ダメージを与えたのだった。

主に精神的な意味で。








学生寮の前に辿り着くと箒が何故かシャルロットだけ誘って何処かへ行ってしまったので、先に男2人だけ部屋へと戻る事になる。

先に試合終了後のアリーナから戻ってきていた女子が居るらしく、寮の中では今回の決闘に関する話題がそこかしこで囁かれているのが当事者の一夏にも聞こえてきていた。

そんな訳で、話題に飢えている少女達は今日の勝者である一夏へと一斉に襲いかかろうと虎視眈々と構えていたのだが・・・・・・


「あ、織斑くんよ!」


誰が最初に言ったのやら。一斉に一夏の方を向く思春期の少女という名のハンター達。

ずどどどどど・・・・・・と地面を震わせ突進してくる少女達。その迫力、まるでバッファローの大群の如し。

しかし、そんな暴走特急な少女達の前に立ちはだかる影が1つ。


「・・・・・・・・・・・・」


ミシェルであった。彼が前に出た途端、少女達は急停止した。

道を塞ぐ大岩のような彼に見下ろされる女子達。数秒経ってからまず彼女達に現れた感情は―――――羞恥。

自室で寛いだりしていた少女達の大半はラフな格好で、下着の上に肌着同然のシャツしか羽織ってなかったりズボンもスカートも吐いてなかったり中には服に浮かんだラインから下着すら付けてないのが丸分かりな子も少なくない。

これがもし一夏だけであればまだ少女達は気にしなかっただろう。教職員の中にも男性が少ないIS学園内に於いて世界遺産クラスに希少な同年代の異性である一夏にならむしろアピール半分で見られても構わない、と考えるのが大半であった。

極端に言ってしまえば一夏はここの少女達にとっては珍獣扱いも同然であって、動物相手に裸同然の姿を見せても何が恥ずかしいのか、という事である。




だが、しかし。ミシェルの場合は違う。

そもそも顔立ちからして同年代には全く見えないミシェルの存在は少女達からしてみれば『年上の男』像そのものであり、異性としての存在感をこれ以上ないぐらい少女達に叩きつけてくるのである。

つーかぶっちゃけ迫力あり過ぎるのも考えものである。マフィアの用心棒か歴戦の傭兵そのものな風貌だけでも年頃の少女達には強烈過ぎた。女尊男卑な風潮によって周囲に『弱い男』の方が多い中育ってきた世代にとっては尚更だ。

故に、一夏に対しては平気でも、ミシェルに自分達のあられのない姿を見られてしまっては平気ではいられなくなる訳で。


「し、失礼しました~・・・・・・」


潮が引くように自分達の部屋へと引っ込む少女達。

ぱたん、と一気に人気のなくなった廊下に響く扉の閉じられる音が物悲しい。


「・・・・・・・・・(涙目)」

「ミシェル、お前は泣いていい。泣いていいんだ・・・・・・!」


まあ、顔を見せるやいなや一斉に逃げられた本人からしてみれば、少女達のそんな事情に気付ける筈もなく。

しくしくしくと、しばらく大の男が静かにすすり泣く声が続くのであった。












「・・・・・・ところで、篠ノ之と一体何の話をしてたんだ?」


シャルロットが部屋に戻ってきて部屋着に着替えるのを眺めながら、ふと気になったミシェルは先程の事について彼女に質問した。

彼もまた上下黒のカーゴパンツにTシャツの寝間着に着換えベッドに寝転がっている。


「んー、知りたい?」

「・・・・・・そう言われると逆に腰が引けてくるから不思議だな。だがまあ、教えてくれるのであれば聞きたいが」


着替え終えたシャルロットがミシェルと同じベッドに飛び乗ってくる。上は有名ブランド製のスポーツジャージなのだが、前を止めるチャックが半分ほどしか止めておらず豊かな双丘で構築された深い谷間と健康的な白い肌が際立って見える。

おまけに上に身に付けているのはそれ1枚だけな上に細めのデザインな物だからメリハリの効いた凹凸の激しいシルエットが浮かび上がっていた。双丘の頂点の突起までうっすらとシルエットが浮かんでいる始末。

ついでに言うと下に至っては布地が薄い白のとオレンジのストライプ柄の下着のみ。狙っているのかそれとも無意識なのかはともかく、すべすべむっちりとした太腿がミシェルの脇腹に擦りつけられている。

シャルロットはまるで小悪魔、もっと言えばサキュバスみたい妖艶でありながら無邪気な悪戯っ子の雰囲気も醸しだしつつ笑っていた。


「僕が箒さんと話してた事はね・・・・・・えいっ♪」

「むふっ・・・・・・?」


ミシェルに覆い被さったシャルロットは勢い良く彼の頭を抱き締め、顔の部分を谷間へと導いた。

むぎゅ~と軽く自分の肌に押しつけてから次に二の腕で胸を挟み込むようにしてもふもふぱふぱふ。リズミカルにミシェルの顔を挟む左右の膨らみが形を変え、心地良い弾力と温かさがミシェルを襲う。

最初は少し息苦しかったが、シャルロットが腕に力を込めたり緩めたりを繰り返すので窒息までは至らない。むしろ鼻で息を吸う度甘い体臭が、嗅覚を刺激して頭蓋を蕩けさせる。ミシェルにとっては薔薇やラベンダーなどよりもよっぽど高貴で幸せにしてくれる香りだ。

しばらく粗い呼吸音が部屋を満たした。シャルロットの方も胸の中の彼が呼吸する度、鼻息が谷間の奥底に当たるせいで甘いくすぐったさに襲われていた。

彼の頭がむにゅむにゅと彼女の胸に跳ね返されては押し潰す感触も微弱な快楽と化し、シャルロットの方も息が段々と速くなっていく。

唐突にミシェルの腕が持ち上がり、腹の上に乗ったシャルロットの尻肉を鷲掴みにした。


「うひゃぁ、ちょっと、ダメだよ。僕がシテる最中なのにぃ・・・・・・」

「・・・・・・人の事を散々『えっち』とか言うが、シャルロットも十分えっちだと俺は思うぞ」


自分の頭を抱き締める腕の力は抜けているにもかかわらず、鼻から下は胸の谷間に埋めさせながらミシェルは愛しい少女の顔を覗き込む。

言われたシャルロットの方は子供っぽく頬を膨らませ、ミシェルの頬を抓った。


「もう、誰のせいなのさ。それにミシェルの方がよっぽどえっちじゃない。エッチな画像一杯集めたりしてたしさ」

「・・・・・・それは、俺も男なんだし。それに、シャルロットだって見つけた俺のお宝を資料代わりにしてなかったか?」

「だ、だって、ミシェルはああいうのが好きなのかなって思ったんだもん!」

「・・・・・・俺にはその気持ちでだけで腹一杯だから、無理はしなくていい」


仮装や屋外ぐらいで十分満足だ。今の自分達には後ろの穴とか蝋燭とか縄とかは高度過ぎる。

・・・・・・大体、キスとかはミシェルの方からする場合が多いけどそういうプレイを誘うのは大概シャルロットの方からだった気がするのだが。


「・・・・・・僕がエッチになっちゃったのはミシェルのせいだもん。ミシェルに触ったり触られたりすると、もっと触って欲しくなっちゃうのが悪いんだもん」

「・・・・・・そうだな。みんな俺が悪いって事にしておこう」


顔の位置を調節してから、どちらともなく口付けする。舌が絡み合い、唾液のカクテルをお互い貪る。

しばらく相手の口腔を堪能した後、ミシェルの顔を横断する傷跡をそっと指先でなぞりながら、シャルロットはポツリとこう呟いた。







「本当に、えっちなお兄ちゃんなんだから」







「・・・・・・そう呼ばれるのも久しぶりだな」

「だって仕方ないよ。表向き僕はデュノア家の血を引いてない事になってるし、今じゃ僕達もう夫婦扱いなんだから人前じゃぜったい呼べないからね」


本来の2人は腹違いの兄妹。それがここまでねじ曲がったのは、父親が愛人の娘であるシャルロットの存在をそれまでずっと認知せずに居たからだ。

父親とシャルロットの母親自体は情を交わす程度の接点しかなかったので、愛人の存在そのものもシャルロットがデュノアの家にやってくる直前まで本妻や屋敷の人間が知る事もなかった。彼女ががISのパイロットになってからも愛人の娘である事そのものは秘匿され続けた。

もちろんフランスの一部の関係者はミシェルとシャルロットが兄妹である事を知っている。

だからこそ国そのものが隠蔽に積極的に関与した。世界初の男性IS操縦者が近親相姦者なんてスキャンダル、誰が好き好んで公表したがるものか。

もし2人の父親が早くからシャルロットの存在を認知し、デュノア家へと名を連ねる事を許していればちょっと複雑な背景を背負いながらも仲の良い兄妹として真っ当な関係を築けたのかもしれない。

それは結局『IF』でしかない。2人は出会い、『兄』は『男』としてシャルロットに惚れこみ、妹もまた『家族』としてではなく『男』としてミシェルを好きになってしまった。その結果はもう誰にも変えられない。






これからも嘘は隠され続けるだろう―――――誰もがそう、そして何より当事者達こそが、それを望んでいるのだから。






「・・・・・・こう言っては何だが、父親が道義よりも利益を優先する人間で本当に助かったと思ってる」


そんな性格だったからこそ自分が手に出来る利益を守るべく血縁関係を徹底的に隠蔽するのに一役買ってくれたし、息子が広告塔になって得られる様々な利益を守るべく政府にも色々と働きかけてくれた。

お陰でミシェルとシャルロットが夫婦である事はフランス政府公認になったし、不利益になる情報の改竄・抹消も国内の各諜報機関総出で行ってくれたから、ちょっとやそっとじゃ2人の本当の関係には辿り着けまい。

家族としての純粋な関係を望んでいたシャルロットにとっては少し酷かもしれないが、彼女の立場を守るには『シャルロット・デュノア』という妾の娘の存在を消すのが最良の手だったのだ。

故に今の彼女は『ミシェル・デュノアの妻、シャルロット・デュノア』として堂々と表舞台に立っていられるのである。

その点ではシャルロットも今やデュノア家の正式な一員と言って差し支えない。


「ミシェルのお母さんにはとことん嫌われちゃったけどね・・・・・・」

「お袋は色々と気難しい性格だったからなぁ・・・・・・」


それでもシャルロットの正体を暴露しないだけありがたい。


「・・・・・・で、結局篠ノ之とどんな話をしたのか全く見当がつかないのだが・・・・・・」

「うーん、まあミシェルなら言っても構わないよね」


シャルロットは着たばかりのジャージのチャックを下まで引き下ろすと中身をミシェルの鼻先に曝け出した。


「―――――箒はね、簡単な男の子の悦ばせ方を僕に聞いてきたんだ」

「・・・・・・やっぱり相手は一夏か?」

「やっぱり一夏が相手、だと思うよ?」


2人して胸板を擦れ合わさせながらも一夏と箒の部屋がある方角を向き、


「・・・・・・2人の健闘を祈るとしよう」

「そうだね。箒、上手くいくと良いなぁ」




友人達の健闘を祈って敬礼を送っておいた。
















『(どうしてこうなった?どうしてこうなった!?)』


今の一夏の心中――――蛇に睨まれた蛙、肉食動物に追い詰められた無力な小動物の如し。

逃げ出したいのに、逃げられない。動きたいのに動かない。

狩られる側が存在するなら狩る側も存在する。自分と同じベッドの上で、濡れた瞳で見つめてくる箒がその役回りだった。

別にそのままの意味で襲われている訳ではない。ただ一夏のベッドの上に座り込んでお互い向き合っているだけに過ぎない。箒に動きを封じられているのでもない。

ただただ一夏の身体中の筋肉が硬直していう事を聞いてくれないだけだ――――それを可能にするだけの魔力を、今の箒は放っている。

舌も上手く回ってくれない。言語障害にでもなったみたいに発音が途切れ途切れにしか出せなくなっていた。


「ほ、ほっ、ほっ、箒!?な、何、一体何なんだよそ、そそ、その格好?」

「だ、だから何度も言わせるな!―――――い、言っただろう?『勝ったら褒美をやろう』と。だ、だから・・・・・・」


そう彼女もどもり気味に、赤信号よりも赤く顔どころか首筋まで真っ赤になりながら。

しゅるりと首のリボンを解き、ボタンを外したワイシャツを肩元からはだけさせ、震える手つきでブラジャーを服の下から抜き取った。

極度の興奮による発汗のせいでシャツは半ば透けて箒の肢体に張り付いており、浮き上がる極端な凹凸のシルエットもさる事ながら、その下の薄い布地1枚越しに見える紅潮した肌の色がまた扇情的で――――


「おおう・・・・・・」


その色香は尋常じゃなかった。思わず一夏の鼻の奥と股間に急激に血の気が集まってしまうぐらいには。

もう1度問おう。どうしてこうなった。何で箒が自分からこんな恰好で俺に見せつけてくるんだ!?


「だから勝った褒美をお前にだな」

「あれ、普通に思考読まれてる!?」

「そ、それぐらい分かって当たり前だ!なんせお前と私は幼馴染だし・・・・それに・・・・・・・」

「ほ、箒さん?」

「ええい、とにかくだ!とっとと済ませるぞ!一夏!」

「は、ふぁいっ!」


幼馴染の剣幕に思わずベッドの上で正座。箒は一夏と更に距離を詰めると、


「むきゅうっ!!!?」


一夏の頭を抱き締めた。思いっきり。

皮膚表面の血流が盛んなせいで一夏の顔を挟み込んだ箒の双球は熱く、思わず息を呑むと今度はちょっと酸っぱい汗の臭いと砂糖をたっぷり使ったホイップクリームにも似た甘い芳香がブレンドされた箒の体臭が鼻腔を満たし、瞬時に一夏の意識が焼きついた。

シャルロットからの忠告も忘れて箒は一夏の頭部を力いっぱい抱え込み続ける。彼の鼻息以外にも息苦しさと箒の行動に半ばパニック状態でもがく一夏の顔が膨らみを刺激して、短い悲鳴が何度も漏れてしまう。

最早箒の意識も漂白されそうだった。篠ノ之箒は織斑一夏の事が好きだった。そんな彼にこんな事を自分の方から行っている事への背徳感が、より一層箒の感覚を過敏にさせていく。

もっとを酸素を求めて頭を振りながら一夏が大きく息を吸おうとした。それは箒の胸にたっぷり備えられた柔肌に阻まれ、思い切り彼女の胸へと吸いつく結果を生む。


「はあぁぁぁんっ!?」


強烈な電流に襲われた箒の身体が痙攣した。腕の力が緩み、ようやく一夏は解放されたが、呼吸困難のせいでしばらく動けない。

お互いの身体に寄りかかって支え合う格好のまま、2人分の荒い息遣いがしばらくの間部屋の中を支配した。

胸が上下する度バストの先端まで揺れる様子に知らず知らず一夏の目が勝手に追いかけていた。それを感じ取った箒は前回同様咄嗟にバストを両腕で抱える形で隠そうとしたが、やっぱりより扇情的なポーズを取っている事に気付かない。


「じ、じろじろ見るでない」


あれだけの事を自分からしといて今更な話だが、思わず一夏も「ご、ごめん」と謝りながら視線を箒から外す。

壁掛け時計の秒針を刻む音がハッキリ耳に届く位の静寂。

口を開くのは一夏の方が先だった。


「・・・・・・あ、あのさ。何であんな事をしたんだ?」

「い、言っただろう、勝った褒美だと――――嫌、だったか?」


捨てられた子犬みたいな顔でそう言われては、答えは1つしかない。


「そ、そんな訳ないって!存分に御堪能させて頂きました!」


勢いに駆られるままベッドの上で土下座。そう断言をする一夏も一夏だが、一転して嬉しそうに儚げな笑みを浮かべた箒も箒である。


「そうか、それは良かった。常日頃から邪魔だと思っていたものだが、一夏が喜んでくれたのならば幸いだ・・・・・・」


下から持ち上げただけでたゆんと震える箒の膨らみ。最早本能レベルで横目にその動きを追いかけてしまう一夏の目。

それを箒が気付かない筈もなく、




「・・・・・・やはり一夏もエッチなのだな」

「ひでぶっ!?








しばらくお待ち下さい







「で、決闘に勝った事への御褒美っていうのはどうにか納得出来たんだけど、だからって何でこんな事したんだよ」

「文句言いたげだな一夏・・・・・・やっぱり嫌だったのか」

「いやだから嫌とかそういうんじゃなくて箒があんな事するとは思わなくてびっくりしただけだって!」


何だかすっごくやりにくい。ここまでしおらしくされると調子が狂って仕方ないぞコンチクショウ。でもその分可愛いから許す!

・・・・・・そうか五反田よ。これがお前の言っていた『萌え』ってヤツなのか。俺は答えを得たぞここには居ない友人よ。


「その、だな。この間の事で一夏が破廉恥で助平だというのはよく理解出来たのだ」

「そんな事理解したくないけどああでも否定できねぇ!」

「それで、私のこの胸に対して興味を惹かれているのは既に分かっていたから、それで」

「それで?」

「・・・・・・シャルロットに教えてもらったのだ。この胸をどう使えば、男が喜んでくれるのかを」

「どうしてそうなった!!?」


これが近頃の子供の性の乱れってヤツなのか!?束さーん貴女の妹が間違った方向へ大人の階段を上ろうとしていますよー!!


「あのさ箒。シャルロットの所はもうれっきとした夫婦なんだしそういう事やっても問題ない・・・のか?とにかくそういう事に関してはあの2人の事は参考にしちゃいけないと思うぞ」


あの2人のイチャつき方は上級者向け過ぎる。そもそも自分と箒は2人みたいな関係じゃないんだし。

・・・・・・後半は口に出さなかった辺り、これまでの厳しい鍛練は一夏に地雷回避能力を与えたのかもしれない。

少なくとも竹刀で撲殺フラグは回避に成功。しかし1歩間違えれば即起爆な状況は未だ変わらず。


「・・・・・・それでも私には2人が羨ましかったのだ」

「まあ確かに、あんな風にベタベタ出来るような相手が居るって俺もちょっと羨ましいとは思うけど」

「――――私は、一夏なら構わないぞ」

「へ?」


豊満なバストを両手で支えながら、膝立ちになった箒はゆっくりと一夏との距離を縮めてきた。


「私も、ミシェルとシャルロットの様にお前と触れ合いたい。羨ましいんだ私は。あんな風に大胆に、好きな人と触れ合えて」

「ほう、き?」

「私は実はとても自分勝手な女なのだ。『男女七歳にして同衾せず』とは言うものの、この6年間ずっとお前に会いたくて仕方なかった。だからこうして同じ部屋で過ごせる事が、とても嬉しかったんだ」

「いや、そりゃ俺も箒と一緒の部屋は嬉しいぜ?何てったって幼馴染なんだし、この6年会えなかった分の親交を深めるにも丁度良いとは思ってるけど――――」

「でも、一夏とこうしてみて理解出来た――――私は我儘な女なのだと」


箒の無自覚の妖艶さに呑まれて動けない一夏の右手を優しく掴むと、箒は自ら一夏の視線を釘付けにしてしまう魔性の膨らみへと自ら導いた。

手にかなり余るサイズの柔肉に、一夏の指先がほんの少し沈んだだけで奔った甘い電流に箒の理性は焼け、小さく身体が震えてしまう。

ゴクリ、と大きく喉が鳴る。自分が喉を鳴らした事すら一夏には自覚できなかった。


「まだ足りない。もっともっと触ってくれ。胸だけでは足りぬというのであれば、もっと他の所を隅々まで私の身体を弄んでくれて構わない」

「箒」


彼女の顔は真剣そのものだった。その仮面の下では、『もし拒まれたらどうしよう』と考えただけで心が張り裂けそうになっていた。


「本当は勝負の勝ち負けなんて関係なかったんだ。堂々と愛し合って幸せそうにしているあの2人が羨ましかったから、私は一夏とこうしたかっただけなんだ。私が自分の衝動を抑えきれなかったから、こんな風に行動に移しているんだ。
なあ、一夏」


バストが一夏の胸元に当たって潰れては形を変える位近づき、両手で一夏の顔を挟んで固定すると、額を触れ合わせ鼻先を彼の顔に擦りつける。





















「―――――いちかは、わたしとしたくないか?」























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書き終わってからの作者の心情:どうしてこうなった



[27133] 1-6:School days(一部改定)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/11 10:23
※皆さんのご指摘を受け一部改定。あれから読み返してみて自分でも一夏の思考がおかしいと感じました。汗顔の極みです。
作者の推敲不足で読んで下さる皆さんに不快感を与えてしまい、誠に申し訳ありませんでした。











1日が経つのは遅く感じても、月日が経つのは早いもんである。

既にIS学園に入学してから1ヶ月近くが経とうとしていた。4月も終わる寸前、ISの基本的知識を座学でみっちり頭に叩き込み終えてからようやく初めて行われる事になった、実機を使った実習。

それを前にした俺と一夏の更衣室での1コマ。


「・・・・・・む?」

「ん?どーかしたかミシェル」


俺は口で言わず黙って首と肩の境目辺りを示す。

最初一夏は何のこっちゃといった顔をしてたが、ロッカーの扉の内側に備わった姿見に映った自分の姿を見てようやく気付く。

鎖骨の根元のちょい上辺りに出来たうっ血痕。虫さされ?いーや違う。


「・・・・・・きのうは おたのしみ でしたね」

「またそれか!それを言うならミシェルだって似たようなもんだし!」

「・・・・・・否定はしない」


一夏の言う通り俺の首筋とか胸元とかにも一夏と同じくキスマークが点々と付いている。まあこうして肌着まで脱がなきゃ分からないような位置だから大して気にはならん。

一夏の場合は、場所が下の方だからISスーツでも十分隠れる位置だからそこまで気にする必要はないと思う。タートルネックだから首元まで隠れるし。


「・・・・・・それにしてもやはりと言うべきか、篠ノ之とする事はしているのだな」

「う・・・・・・頼む、絶対千冬姉には内緒にしてくれ!バレたら絶対殺される!主に俺が!」

「・・・・・・全く否定できんな」


鬼と化した織斑先生が一夏をぶった切る想像余裕でした。うん、友人の頼み通り黙っておこう。

それにしてもどっちからなんだろうな。やはり篠ノ之からか?色々とアドバイスを聞きに来たり嗾けられたりもしてたらしいし。

あれ?それじゃあシャルロットも共犯になるのか?俺も連帯責任とかにならないだろうな。とりあえずシャルロットを庇うのは決定事項だが。


「・・・・・・一夏。これをやろう。シャルロットはピル派だから、俺の所では使い道がないし」

「って何食わぬ顔で家族計画差し出さなくていいから!つーかヤッてないからな?まだ本番まで行ってないから!」


マジか。案外そのまま勢いでサッサと卒業しちゃってるもんだと思ったけど。


「・・・・・・本番になると逆に緊張して勃たないタイプなのか?」

「そういう問題じゃねぇよ!しっかり勃つから!むしろ箒にあそこまでエロく迫られて勃たない方がおかしいって!」

「・・・・・・その様子だと、本番寸前まではシているんだろう?普通はそのまま流れで行きそうなものだが」


原作は結局どうだったのか知らないしストーリーも思いっきりうろ覚えだけどヒロインの1人には変わりないんだし、それだけやってるんならもう箒ルート確定なんじゃね?

でも改めて言うが今のシャルロットは名実ともに俺の嫁。異論は認めない。ぶっちゃけもう原作なんて知ったこっちゃない。もはやキーワードっぽいのしか覚えてないからな。


「そ、それにさ。そんな最後まで行かなくても俺は十分満足してるから。手とか口とか胸とかお尻とか、とにかく色々箒からヤッてくれるし―――――」


すわそのまま惚気話に突入か、と思ったが。

唐突に一夏が口を半開きのまま彫像の様に固まる。


「・・・・・・どうかしたのか?」





「―――――俺、箒の事どう思ってるのかちゃんと答えだしてねえや」


思いっきり拳骨を落としてやった俺の事を誰も責められやしまい。

どれだけ男女関係適当なんだよお前。











シャルロット・デュノアは衆目を集める事に慣れた人間だった。

ミシェルがIS操縦者になってこの方、最初の頃はともかく婚約者として彼とペアで扱われていたので、ファンやマスコミからの注目を浴びたりしたり迫られた時の応対の仕方にも、この2年ですっかり馴染んでしまってはいる。

・・・・・・・しかし、今この教室内において浴びせられる視線の数々は、有名人に向けられる類の賞賛や興味とはまた別種の思惑を含んでいて非常に落ち着かない。

はたして最初に呟いたのは誰だったのやら。


「・・・・・・スイカ」

「ヤシの実」

「グレープフルーツ」

「ソフトボール」

「皆どこ見て言ってるのかなねえ!?」

「どうしてなの、どうしてそこまで貴女のおっぱいは圧倒的戦力を誇っているというの!?」

「う・ら・や・ま・死・!!」

「やっぱり男なのね。自分の手以外にも揉んでくれる相手が居るのが肝心なのね!」


クラスメイト達は皆してシャルロットを、正確にはその体重の1~2割ぐらいはウェイトを占めてそうなぐらい巨大な胸部装甲を指さしながら絶叫した。

一気にカオスと化す教室内。飢えた目つきの少女達が幽鬼のような足取りでシャルロットを取り囲む。これ見よがしにワキワキと躍る手の動きが激しく卑猥だ。

ISスーツに着替える途中だったシャルロットは教卓の方へ緊急避難。しかしすぐに取り囲まれてしまい、背後には黒板代わりの液晶パネル。もはや逃げ場無し。

追いつめられたシャルロットはもはや涙目。余りの恐怖感に思わずISを発動しかけるが、それよりも早く、


『天誅!』

「らめぇぇぇぇ!そんな事していいのはミシェルだけなのおおおおおお!!」


モミモミグチュグチュグニグニプシャァッ!!って何をしているのか恐ろし過ぎて聞けない擬音が聞こえてくるけど、シャルロット襲撃に加わっていない他の女子達は聞こえてくる水っぽい音やシャルロットの甘さ混じりの悲鳴を出来る限りシャットアウトして着替えに励む。

人間やっぱり自分の身が1番大事なのである。藪蛇は勘弁な!


「ゴメンねミシェル、僕穢されちゃったよ・・・・・・」

「くっ、やはりあのとてつもない戦闘力は旦那様に育てられて結果ああなったと判断するしか!」

「でも相手が居ないし出会いもこの学校では期待できない私達にはまず無理な話!」

「ギギギ、妬ましいのう恨めしいのう」

「っていうかシャルロットさんの首とか胸とか背中とかについてるそれ!何かもう相手が居ない私達に喧嘩売ってるとしか思えないよ!」


着る途中だったISスーツを腰の辺りまで無理矢理肌蹴させられた姿のままシクシク蹲って泣いているシャルロットの身体には、パッと見だけでも数ヶ所にれっきとしたキスマークが刻まれていた。

それを見た少女達のテンションは更にヒートアップ。それからシャルロットの御相手の事を思い出して一気にトーンダウン。やり過ぎると後が怖い。主に旦那の報復的な意味で。

と、ずっと窓際でクラスメイト達に背を向ける形で黙々と着替えを進めていた箒の傍で同じく着替え途中の少女が、何かに気付いた。


「篠ノ之さん。首の後ろ、何か赤くなってるよ?」

「ふえっ!?」


声をかけられた箒の反応は極端で、首の後ろを手で押さえながら見られまいとするように勢い良く回れ右。

――――ブラから解放されていたシャルロットを上回るバストが、遠心力で前後左右に揺れる様を少女達は目の当たりにした。

キュピーンと目を発光させたクラスメイト達の姿に箒は悟る。マズい、次の標的は自分だ。


「そういえば篠ノ之さんのおっぱいも凄かったよねぇ。制服の上からでも分かるぐらいには」

「や、止めるんだお前達!それ以上近づくんじゃない!」


竹刀を振り回して追い払おうとするも効果無し。というかどっから出したその竹刀。


「「「「「「くふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ・・・・・・・・・・・」」」」」」

「来るなぁ、来ないでくれぇっ!」


篠ノ之箒、絶体絶命。

その時、教室の扉が勢い良く開け放たれ、スパパパパパーンと軽快な打撃音が響き渡った。


「貴様らまだ着替え終えていないのか!早くグラウンドに出て来い!遅れた者はグラウンド10周だ、急げ!!」

『い、イエスマム!』


鬼教師の乱入で事無きを得た箒は胸を庇っていた両腕を開放し。

――――腕の下に隠れていた胸や首周りのキスマークが晒される。

急いでISスーツを着込むのに忙しい少女達は気付かなかった。だがよりにもよって最も見られてはいけない相手が目ざとくも箒の身体に刻まれていたキスマークの存在に気付き。


「それから篠ノ之!放課後寮長室に来い!その『虫刺されの痕』について色々聞かせてもらうぞ!!」




箒は絶望した。


















「なあミシェル、俺前から思ってたんだけどさ」

「・・・・・・多分、俺と同じ事を考えてると思うぞ」

「「このISスーツのデザイン、絶対開発者の趣味だろ(だな)」」


スパァンスパァン!


「授業中だ。私語は慎め(その考えに対しては私も同意見だがな。全く、あの馬鹿もう少しマトモな格好には出来なかったのか)」


グラウンドに整列した少女達のISスーツ姿は、傍から見ればグラビアの撮影か何かだと勘違いされても仕方なかった。野郎2人の感想も尤もである。

何せISスーツは肌の露出が多いのである。遠目にはレオタードか柄無しの競泳水着に二―ソックスの組み合わせにしか見えず、ぴっちりと肌に張り付いている為身体のラインは丸分かり。

おまけに下着すら全部脱いでから着なければならないので、胸の先端の突起や下手すれば股間の割れ目(一夏とミシェルの場合は膨らみ)のシルエットすらクッキリハッキリ浮かんでしまうのだ。

異性からしてみれば眼福か目の毒か、意味は似たようなものだが、初めて着る側からしてみれば羞恥プレイの何物でもあるまい。

現にミシェルやシャルロット、セシリアといったIS学園以前から実機を扱ってこの格好に慣れてしまった代表候補生以外の少女達は揃って顔が紅い。それぐらい初めて着て人前に立つ分には恥ずかしい格好なのだ。


「(でも皆チラチラこっち見てきてんだけど、何でだろうな。やっぱ男が着ると変に思われてるのか?)」

「(・・・・・・さあな。もしくは俺の脚のせいかもしれん)」


また『織斑先生』に怒られないよう会話は小声である。

一夏とミシェルのISスーツは男性用の競泳水着を肘から先と膝から下、そして腹周りの布地を切り取ったようなデザインだ。

ミシェルは言わずもがな、一夏も細身でありながら制服を着た姿からは想像も出来ない程引き締まった筋肉の持ち主なので2人の腹筋には最低限の脂肪しか備わっていない。年頃の少女からしてみれば中々刺激的な格好だった。

それ以外にも目を引く要素がある。

ミシェルの片足は義足だ。生身の左足とは違い、右膝から下は生身に似せたカモフラージュが何も施されていない軽量合金の外装に覆われているので丸分かりである。

しかし金属的な外見を除けば、ミシェルの義足は生身とかなり近い突起の少ないデザインと構造になっている。足関節の部分も生身同様に動くし爪先周りだって曲げ伸ばし可能。感覚が無いのを除けば本物の足と変わりない使用感を味わえる、極めて高性能な義足だ。


「(・・・・・・格好そのものは1ヶ月も過ごせば慣れる。それまでの辛抱だ)」

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、それからデュノア夫妻。試しに飛んでみせろ」


専用機持ちが揃って前に出て各々のISを展開。

こういった事にはやはり入学前からISを扱ってきたミシェル達の方に一日の長がある。一夏だけが出遅れ、まだ<白式>を展開できていない。


「(来い、白式)」


要はイメージの問題だ。ISが展開される様子を自分が1番しっくりくるイメージに置き換えた方が成功しやすい、とミシェル達からは教えられていた。

ミシェルの場合は防弾ベストとかプロテクターとかヘルメットとかを身に付ける、いわば戦闘準備を行うイメージでやってるらしい。それを真似して、一夏は剣道用の防具を身に付けるイメージを思い描く。実際身体に身に沁みついている動作のせいか、そうした方が<白式>も展開しやすい気がしていた。

光の粒子が全身に纏わりつく様な感覚の後、IS本体が形成される。足元からふわりと浮きあがり各種センサーの接続確認。<白式>展開完了。




セシリアの<ブルー・ティアーズ>も展開完了済み。その1つ向こうには更に2機のISが空中に静止して一夏が展開を終えるのを待っていた。

オレンジ色のISと黒と赤のIS。オレンジ色のIS<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>は操縦者がシャルロットだとすぐに分かったので、消去法で黒と赤のISはミシェルなのだろうが・・・・・・


「全身装甲<フル・スキン>とは珍しい機体ですわね」


セシリアの呟きが示す通り、ミシェルのIS<ラファール・レクイエム>は本来剥き出しな筈の顔から首周り、両腕両足まで肌の露出が存在しない完全なる全身装甲型のISだった。

原形はシャルロットの<リヴァイヴ・カスタムⅡ>と同じ実家のデュノア社で開発された<ラファール・リヴァイヴ>の筈だが、見た目からして彼女のISとは正反対のベクトルの機体に思える。

スマートさより無骨さ。機動力よりも防御力。

特に目を引くのは両肩近くに浮遊している1対のアンロック・ユニットだ。厚みが減った棺桶の様なそれはミシェルの体躯でさえすっぽり隠してしまいそうなほど大きい。

他に<リヴァイヴ・カスタムⅡ>と比較するならば左腕に在る筈のシールドが右腕に備えられていて、顔面部分は幾つもスリットの入った鋼鉄の仮面に覆われている点だ。そのスリットの向こうで1対のカメラアイが青白く光っている。バイザーのてっぺん部分には一角獣みたいなアンテナパーツ。

背中のスラスターも従来のISに多いデザインである1対の翼型ではなく、ロボットアニメに出てくるような人型兵器の物によく似た2対4つの噴射口を備えた箱型スラスターだ。よく見れば、腰回りのアーマーにもスラスター以外に折り畳み式の砲塔を備えている。

最早根本的にオリジナルとは別種の機体にしか見えない。流線が多用された従来のISの優雅なデザインからは程遠い、無骨で実用性と耐久性を優先したデザイン。




並ぶ少女達の幾らかは微妙そうな視線を送ってきている。自分達の良く知るISからかけ離れていてどうにも受け入れづらいのだ。

だがミシェルはこの機体が気に入っていた。全身装甲は全身装甲なりに利点もあるし――――何よりそっちの方がカッコいいと思うから。

男の子なら誰だってロボットに憧れるに決まってるし、変身ヒーローだって変身したにもかかわらず顔はともかくとして下に着てる服が丸見えなままのヒーローが存在しただろうか?いいやない。

あとは精神的な問題か。絶対防御が存在するからって四肢以外が剥き出しのままというのはミシェル的にはイマイチ気に入らなかったりする。

さて、展開されたミシェルのISを目の当たりにした一夏の反応はというと、


「なんていうか・・・・・・凄くゴツイな。カッコいいけど」

「よし、4人とも飛べ」


きわめて簡潔に鬼教官モードの千冬が指示。一夏を残して3人はすぐさま急上昇。遅れて一夏も飛ぶ。

速度的には3人よりやや遅い程度。決闘前の<打鉄>での機動訓練が無ければもっとまごついていただろう。


『まあまあだがもっと速く飛べる筈だ。スペックでは<白式>の方が出力は上なのだからな』

「上手い上手い、そんな感じだよ一夏」

「決闘の際の動きで分かってはいましたが中々読み込みがよろしいですわ。流石わたくしを正々堂々倒しただけありますわね」


千冬姉の辛い評価とは対照的に、シャルロットとセシリアからはそんなお褒めの言葉を頂いた。2人の優しさが身に沁みる。千冬姉はそうやって厳しいから相手が――――ゲフンゲフン。

一夏としては、これもやっぱりミシェルから教えてもらっていたお陰である。


『・・・・・・フライトシミュレーションとかをやった事はあるか?エス○ンとかああいうゲームで構わない』

『それなら中学の頃はよく友達と対戦とかやって遊んだりはしたけど』

『ならそのゲームの操作をISを動かす時のイメージに使えば良い・・・・・・上昇する時はコントローラーのどのスティックをどっちに倒すのか、加速する時はどのボタンを押すのか、そんな感じにな』


学校で教えられた『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』なんてのよりよっぽど分かりやすい。

それにしても決闘が終わってからのセシリアの変わりっぷりは一体どういう事なのだろう?クラス代表の座も快く譲ってくれたし(それは同じく立候補してた筈のミシェルにも当て嵌まる)、休み時間や昼食時、放課後にもしょっちゅう話しかけてくるようになったし。

当たり所が悪かったのか?もしそうだとしたら責任重大だ。嫌でもシールドや絶対防御のお陰で一夏の攻撃が直接セシリアに当たっては居ない筈だし。なら何でだ?

というか、セシリアが構ってくる事への1番の問題はセシリアが寄ってくる度箒が禍々しい殺気を一夏に送ってくる事だ。最初に殺気を向けられた時は思わず兄弟子にアドバイスされて以来持ち歩く暗器を抜きそうになった程だ。

お願いだからそんな目で睨まないで下さいお願いします。決して浮気とかそういうのじゃないんです。

あれ、でも俺箒とはまだちゃんとハッキリとした恋人関係になった訳でもないんだから浮気とは違うのか?どうしたものやら。




・・・・・・というかぶっちゃけ自分は箒の事をどう思ってるのだろう?。

最初は単なる幼馴染で、ちょっかいを出される度自分が守ってあげていた女の子。6年という歳月はしょっちゅう泣きそうになっていた女の子を立派な女侍に変貌させていたけど、やっぱり箒は箒な訳で。

あの頃よりもとても強くなったしとても綺麗になった。うん、それは紛れもない事実だ。五反田辺りきっと同意するだろう。アイツは昔の箒を知らないけど。

でも本当の彼女は寂しがり屋だった。ずっとこんな自分に会いたかったと告白してくれた。その姿を見て、自分はどう思った?

――――――はたして織斑一夏が篠ノ之箒に抱いている感情は一体何なのか。友情?慕情?恋心?少なくともとても魅力的な異性として考えてるのは間違いない。

このまま自分の気持ちをはっきり示さないまま肉体関係をずるずる続けていく訳にもいかない。それは何というか、ズルいと一夏は思う。

自惚れでなければ、きっと箒は自分の事を好いてくれてるんだろう。そもそも好意を持たない相手にあんな過激な迫り方をする程彼女は器用じゃない、筈。

なら後は自分が箒に向ける想いの区分を明確にするだけ――――しかしそれが1番難しい。

なにせ織斑一夏は恋という物をした覚えが無いのだから。いや、そもそも仮に恋心を抱いていても、それを恋心だと自覚出来ていなかったのかもしれない。

物心ついた時の記憶を遡って行く内に思い当たる節がちらほらと出てきて、セシリア達の存在も忘れ頭を抱えてしまう。




―――――俺は一体どうすればいいのだろう?




そんな感じに雑念塗れなせいで千冬姉に急降下・急停止を命じられた結果、一夏がグラウンドにクレーターを形成するまであと15秒。









続きましては武装展開訓練。

一夏が<雪片弐型>を展開する際に思い描くのは、真剣を鞘から抜くというイメージだ。

練習の結果今では1秒前後で展開可能。でも千冬姉からは『遅い。0.5秒で出せるようになれ』との評価。

実際セシリアとかそれぐらいで出してみせた。ただし、呼び出したライフルを真横に向ける形で。注意されるのを横目で見ながらもっと精進しないとな、と内心誓う。


「次、デュノア夫。やってみろ」

「・・・・・・了解」


そんな呼び方で良いのか千冬姉よ。ミシェルも普通に返事ってそれで良いのかそれで。

ミシェルは両手を垂らしてぶらつかせた状態になったかと思うと、両手を勢い良く持ち上げた次の瞬間には強烈なフラッシュが瞬くと共に奇妙な形状のアサルトライフルを構えていた。

機関部とマガジン挿入口が銃杷よりも後ろにあるブルパップ式で、トリガーガードのすぐ前により大型の別のマガジン挿入口と砲身が一体化している。銃口と砲口が上下に並んでいる。もっと変わっているのは砲口の更に下に銃剣の切っ先が伸びている点だ。

――――デュノア社製複合型多目的大口径アサルトカノン<ケルベロス>。後で一夏が本人から聞いた話だが、ミシェルが設計した銃らしい。

両手で身体に引きつける様にしてしっかりと構えられた<ケルベロス>の銃口は全く微動だにしない。千冬姉も満足そうに頷いていた。


「良いだろう。次、デュノア妻」

「はいっ!」


だからそんな呼び方で(ry

シャルロットの武装展開速度はもはやマジックのレベルだった。パッと構えてパッと光った次の瞬間にはライフルを構えていて、まさしく目にも止まらぬとはこの事だ。


「そのまま連続して別の兵装に切り替え続けてみろ」


シャルロットの手の中でライフルが光って一旦集束。直後別の銃器が展開。精々1秒足らずの間に何丁もの銃器が姿を現しては他の兵装に形を変える。


「これはいわゆる高速切り替え(ラピッド・スイッチ)と呼ばれる戦闘技術の1つだ。こういった技術1つを身に付けておくだけでも戦闘では自分の優位に持っていく事が出来る。貴様らもこういった技術を習得する為にも、今から己を鍛えあげて腕を磨いておけ。いいな!」

『はいっ!!』











えんやこらさ、と土を掬っては穴を埋める。


「これでいいだろ。ありがとなミシェル、わざわざ手伝ってくれて」

「・・・・・・別に構わん。一応、軍事訓練でもやらされてたから慣れている」


ミシェルの助けも借りたお陰で一夏が生んだクレーターは結構早く埋め終える事が出来たが、それでも日は暮れ空はかなり暗い。

用務員さんから借りてきたシャベルを運びながらグラウンドを離れると、2人がクレーターの後始末を終わるまで待ってくれていたシャルロットが近づいてきた。


「お疲れ様2人とも。はいこれタオルとジュース」

「おっ、サンキュー」

「・・・・・・ありがとう」


4月も終盤、やはり日が落ちるとまだ少し肌寒く海沿いで風が強くても、力仕事を長く続けていればやはり汗はかく。汗を拭き取ってくれるタオルと水分補給は何よりありがたい。

いいよなぁこんな風に気が利いてくれる女の子って。シャルロットの優しさが身に沁みる。

特に一夏の周りには千冬姉とか箒とか千冬姉とか箒とか千冬姉とか、かなり我が強くて厳しい女性ばっかりだったから尚更際立って思える。とっくにお相手が居るけど。


「うおっ!?」

「どうかしたの一夏?」

「いやなんか急に悪寒に襲われて・・・・・・あ」


後者の陰でひょっこり揺れてるポニーテール発見。


「あ、ようやく気付いたんだ。箒さんね、先に着替え終わってから僕もグラウンドに戻って来た時からずっとあそこで待ってたみたいだよ」

「本当か?おーい箒ー!」


一夏が声をかけるとポニーテールはびくっと震えてから引っ込んでしまう。傍まで近づいてみるとシャルロットの言った通り箒がそこに居たが、その顔は何故か赤い。


「ゴメンな、待たせちまって。箒も俺らが終わるまで待ってくれてたんだろ?」

「べ、別にそういう訳では・・・・・・と、とにかく終わったのならさっさと部屋に戻るぞ。ほら行くぞ!」

「ちょ、引っぱんなって」


無理矢理箒が腕を組んできて引き寄せてきたものだから、肘に当たる柔らかいそれ―――豊かな乳房が制服越しに一夏の肘に当たる心拍数10上昇。尚も上昇中。

すらりと高い箒の鼻が不意にひくつく。


「・・・・・・一夏の汗の臭いがする」

「そりゃ結構汗かいたし。だから箒さん離れて下さいお願いしますこのままだともっと汗かきますからたのんます」

「・・・・・・・・・・」

「だから何でもっとくっつくんだよ!?」


恥ずかしいやら居心地悪いやらでも嬉しいやらで一杯一杯な様子の一夏の耳元に、箒が口を寄せる。






「―――――な、なら、一緒にシャワーを浴びないか?」






「・・・・・・はい?」


間抜け以外の何物でもない呆けた顔でそう漏らした直後、猛加速した箒に引きずられてそのまま学生寮の方へと消える一夏の姿。

その場に忘れ去られた某夫婦はというと、


「やっぱり幼馴染だけあって仲良いね、あの2人」

「・・・・・・そうだな」






遠い目で見送ってから、一夏が放置したシャベルを回収するのであった。






[27133] 1-7:再会TAKE2
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/06 23:51

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 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄

       ↑箒






「・・・・・・どうしたんだ一体?」

「さ、さあ、僕にもさっぱり・・・・・・」


教室で刑執行目前の死刑囚みたいな風情を漂わせた箒の様子に誰も近づく事が出来ないでいる。

同室の一夏も似たようなもので、ミシェルの隣で頭を抱えながら悶々とした様子であった。近づきがたい雰囲気を発している箒よりは一夏に聞いた方が手っ取り早そうなのでそうする事にする。


「・・・・・・何かあったのか?」

「それがさ、昨日あの後箒と部屋に戻ってからなんだけど――――――」









2人分の呼吸音をシャワーの水音が掻き消す。大雑把に汗を洗い流し終えると、箒の細い指がシャワーのカランを捻り、お湯が止まる。


「わ、私が一夏の身体を洗ってやろう。一夏はそのままじっとしていてくれ」

「いや、箒がそこまでしてくれなくても――――」

「やらせてくれ。私が、そうしたいだけだから・・・・・・」


両方の肌が紅潮しているのは決してお湯を浴び続けていただけではあるまい。

箒はボディソープを手に取ると、それを自らの身体に塗りつけ始めた。瑞々しく張った肌が特徴的な光沢に包まれ、只でさえ艶めかしい姿がより一層色っぽさを増す。


「ほ、箒?」

「い、いくぞ」


箒は一夏の背中に抱きついた。ぬるりと肌と肌が滑り、擦れ合う度に白い泡が接触面の間に生じ始める。

箒が身体を動かす度、背中で潰れてぐにゅぐにゅ形を変える乳房の感触に一夏の本能が昂ぶる。箒も箒で一夏に直接自分の身体を擦りつけているという事への背徳感と、鍛えられた一夏の背中の筋肉の隆起に固くなった先端の突起が僅かに引っ掛かる度に伝わる刺激に、否応無しに下腹部が熱くなるのを自覚していた。

擦れ、ぶつかり合う度に泡のベールが互いの身体を包んでいく。胸だけでなく、同じように塗りたくった下腹部や太もも、自らの叢までも駆使して箒自らの肢体で一夏の垢を洗い落とす。

ぬちゅぬちゅと卑猥な音を立てて一夏の胸板をまさぐっていた箒の両手が、段々と下の方へと移動していった。とっくの昔に屹立していた男の証に触れた途端、素っ頓狂な声がシャワールームに木霊した。


「ちょ、箒、そこまではしなくていいから!」

「なあ一夏。私は、お前を満足させられているか?私は、ちゃんとお前を悦ばす事が出来ているのか?」

「あ、当たり前だろ。俺だって箒にこんな事してもらって嬉しいけど・・・・・・・・無理、しなくていいんだぞ」

「む、無理などしていない!私が一夏にこうしてあげたいんだ!もっと一夏に悦んでもらいたくて、もっと一夏と触れ合いたくて、もっと、一夏と―――――」


唐突だが、一夏は自分が箒の事を愛おしく思っている事にこの時ようやく思い至った。

凛々しく、強く、美しく。そんな彼女がここまでこんな自分に健気に、ここまで大胆に接してくれる。そう改めて理解した瞬間、無性にこの少女を抱き締めたくなって、迷わず実行に移した。

彼女の中で激しく脈打つ鼓動が伝わってくる。きっと彼女もとても恥ずかしかっただろうに、それを抑え込んでここまでしてくれてきた事をとても嬉しく感じた。


「いち、か?」

「ゴメンな、箒。ここまでしてくれるぐらい箒が俺をどう思ってくれてるのかとっくに気付いてたってのに、ハッキリ答えを出さないままで」


この気持ちが明確な恋心なのかはまだ分からない。

敢えて言うならこの感情は『独占欲』と呼ぶべきか。こうして身を捧げてくれる幼馴染を自分の物にしたい。彼女の気持ちが他の男に向かないようにしたい、そんな衝動。

――――それとも、この独占欲もまた恋心の一片なのかもしれない。


「い、一夏が謝る必要はない。これも、私の我儘だから――――」

「それでもさ、ここまで大胆な事してくれる可愛い女の子に答えを出さないままじゃ男としちゃ最低だろ?・・・・・・いや、とっくに最低かもな」


今なら五反田の気持ちが分かる。女の子と話をしたりする度しょっちゅう呆れられたりしてたけど、きっとそれはその女の子達がこんな自分に好意を向けてきていた事に気付いていたからだと思う。

事ある毎に「殴って良い?つか殴らせろ」とか言われてたのも懐かしい。ゴメン五反田、今ならお前に殴られても仕方なかったんだって理解出来たよ。


『――――上達したら、毎日あたしの―――――――』


思考にノイズ。何だか昔の記憶の断片が蘇ったが、今はそれどころじゃない。


「せめてこれだけは、俺の口から言わせてくれ」

「いちか・・・・・・」


ああもう、こんなに可愛かったって箒って?無性に抱き締めたくなったけど我慢。もし今実行に移したら告白する前に襲いかかりそうだから。耐えろ俺。

唐突に度々シャルロットの事でミシェルが脅しをかけてくる気持ちがよ~く理解出来た。

大事な大事な自分の伴侶に他の男が色目使って、そりゃあ怒髪天突くってもんよ。


「箒・・・・・・・俺は、お前の事が――――――」









一夏が言い切る前に。

シャワールームを隔てる扉が勢い良く開け放たれた。




「――――――教師からの呼び出しを無視して乳繰り合うとは、いい度胸だな。貴様ら」

















「あ、ありのまま起こった事を話すぜ!
『俺から箒に告白しようと思ったら、気が付くといつの間にか千冬姉の部屋で正座させられていた』
な、何を(ry 」

「ポルポル乙・・・・・・で、告白のタイミングを潰されたせいで篠ノ之があんな風に燃え尽きている訳か」

「朝まで床に直接正座させられたよ・・・・・・今でも足の感覚がおかしいっての。結局言えずじまいになっちゃったしさあ」


椅子の上で足を揉みほぐしつつ溜息。ダウナーな箒とミシェルの顔から滲み出る無意識の威圧感により、周囲が遠巻きにしているせいで聞こえていないのは幸いだった。

一夏が箒に告白しようとしてた事を聞きつけたら最後、これまで以上の大騒動が勃発していたに違いない。


「しばらく箒は千冬姉の部屋で寝泊まりして俺1人であの部屋使えってさ。元々人数調節の問題で俺が1人部屋になるのは決定してたらしいんだけど」


箒があそこまで凹んでいるのは一夏と部屋を引き離された上に鬼教師の部屋で寝食を過ごさなければならない事への恐れもあるのかもしれない。


「本当、何でよりにもよってあのタイミングで千冬姉が来るんだよ・・・・・・」

「・・・・・・とりあえずは、ご愁傷様という他ないな」


机に突っ伏していた一夏が何処か恨めしげにミシェルを見上げる。


「あのさ、ふと気になったんだけど、ミシェルがシャルロットに告白した時はどんな感じだったんだ?今後の参考の為にも切実に聞かせてほしいんだけど」

「ふえっ?えっと、それは、言わなきゃダメかな?」


何故かシャルロットの方が照れている。問われた張本人は対して動揺した様子もなく肩を竦めてみせてから、


「参考にならんと思うぞ・・・・・・何せ、初めて出会って1時間足らずで即プロポーズしたからな」


そりゃ参考にならねぇや、と再度机にへばりつく一夏であった。






「ところで一夏は転校生の噂聞いた?」

「転校生?今の時期に?」

「ああ・・・・・・何でも、中国の代表候補生だそうだが・・・・・・」

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」


話題転換したシャルロットとミシェルの言葉に首を捻っていると、話を聞きつけたセシリアが会話に加わった。

他のクラスメイト達が相変わらず彼らの周りに近付けていないことを踏まえれば中々の度胸と言える。

一夏の元にセシリア―間違いなく自分の恋敵の1人―に気付いた箒もorzモードからようやく復活して友人の輪に乱入。


「このクラスに転入してくる訳ではないのだろう?騒ぐほどの事でもあるまい」

「もしそうだったら幾らなんでも偏り過ぎだもんね」

「確かに、な・・・・・・」


ミシェルにシャルロット、セシリアという代表候補生が3人、専用機持ちなら一夏も加え4人。

一夏達の学年で専用機持ちが他に4組に1人しか居ない点を踏まえると、抗議が出てきてもおかしくない偏り具合だ。

まあそれはともかくとして。


「にしてもようやく復活したな箒―――――それでさ、昨日の事なんだけど」

「あ、あ、ああ、ああああああっ!?」


上ずっている。箒の声が激しく上ずっている。

身悶えしそうなのを必死に堪えているみたいにプルプル震えつつ真っ赤な顔の箒の様子に、ハイパーセンサーよりもより限定的かつ鋭敏なセシリアの恋する乙女センサーが緊急警報。

こ、この反応は一体何がありましたのっ!?とガクブルしながら今は展開を見守る事しか出来ない。


「・・・・・・ああクソっ、こういうのって時間が経つと決意が薄れるんだよな」


そう吐き捨て頭を掻き毟る一夏。セシリアの警戒レベル一段階上昇。


「必ず、俺の方から答えてみせるから。ちゃんと、俺から告げてみせるから―――それだけの決心がつくまで、待ってもらえないか?」

「も、勿論だ―――――これまで6年間も待ったんだ。もうちょっと位なら、待ってやらなくもないぞ」

「ホントごめんな、待たせてばかりで」


ミシェル達が見守る前で箒は口ではそう言いつつも、待ち遠しさと喜びで弾けるギリギリ手前な雰囲気を漂わせながらはにかんだ。

遠巻きに眺めていた同性のクラスメイト達さえ魅了しそうなくらい美しい笑み。セシリアの警戒レベルデフコン1.既に敵は警戒ラインを突破済み!

やはり同棲していると此処まで一気に差がついてしまうものなのか。いや、まだセシリアの戦いは終わっていない、筈!!


「そ、そうですわ一夏さん。クラス対抗戦に向けてより実戦的な訓練をわたくしと行いませんか?何せわたくしも専用機持ちですし、現在専用機を持っているクラス代表は1組代表の一夏さんと4組のみ――――」







「―――――その情報、古いよ」







一夏にはとても聞き覚えのある声がした。彼以外の人間は初めて聞く少女の声だった。

一夏達のみならずクラス中の千人が声の主へと振り向くと、小柄でツインテールで強気そうな少女が教室の入り口に王立ちしている。


「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

「鈴(リン)?お前、鈴か?」

「そうよ、中国代表候補生、鳳鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」


胸を張って(女性的に『胸』の範疇に入るかはともかく)そう堂々と言い放つ少女―――鳳鈴音に対し、


「何格好つけてるんだ?すっげぇ似合わないぞ。それからそこに立ってると通る人の邪魔だから」

「んなっ!?・・・・・・・あ、アンタってヤツは相変わらず人の上げ足を取って・・・・・・!」

「いやでも本当の事じゃん。ほら後ろ」

「おい」

「何よ!?」


ズベシッ!!

見事な出席簿による一撃が入った所で鬼教師、織斑千冬の登場である。

中学時代から苦手だった千冬に自分の教室に戻るように指図されて、結局その後は良い所を全く見せる暇もなくすごすごと退散した鈴であった。













一夏の説明曰く、鈴は箒と入れ違いになる形で転校してきた友人との事。

鈴も中2の終わりぐらいに中国に戻ってしまったので、再会するのは1年ぶりなんだとか。

昼休み、食堂で昼食を取りながら簡単に自己紹介をし合う。


「僕はシャルロット・デュノアっていうんだ。一応フランスの代表候補生なんだけど、よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いね。で、こっちが・・・・・・」


含みの混ざった眼差しをシャルロットの隣に座るミシェルへと向ける。

仏頂面と勝気な瞳がぶつかり合い、ミシェルの方から大きな手がズイッと差し出された。


「・・・・・・ミシェル・デュノアだ。よろしく頼む」

「鳳鈴音よ。話はテレビ以外にも一夏からも色々と聞いてるわ。一夏の命の恩人なんだっけ?」

「ええっ、そうなんですの!?」


自己紹介の場で1人鈴からぞんざいな扱いをされたセシリアだったが、鈴はそっちは気にせずミシェルの額に深い皺が刻まれるのを見て取った。


「・・・・・・そんな大層なものじゃない。ただ友人を助けに入ろうとしただけだし、結局俺は何も出来なかったのだからな」

「でもさ、あたしも昔はよく一夏助けてもらったりしてたんだけど、しょっちゅうアンタや千冬さんみたいに誰かを守れるように強くなりたいって――――」

「すとーっぷ!もう言わないでくれ鈴後生だからお願いだから本人の前でそんな事言われるとスゲェ恥ずかしいから!」

「あっ、え、ええゴメン一夏。つい口が滑っちゃって」


必死にテーブルにひれ伏す勢いで頭を下げる一夏と咳払いで誤魔化す鈴。


「とにかくそっちも前からの一夏の友達みたいだし、仲良くしましょ」

「あ、ああ・・・・・・・」


手の平を叩きつけるような勢いで、躊躇い無く鈴はミシェルの手を握った。サイズが違い過ぎるせいで完全にミシェルの手を握れてないが、お構い無しに手をブンブン上下させる。

それから先に握手を求めてきた相手の方が、虚を突かれたような様子なので、首を捻った。


「何驚いた顔してるのよ?」

「・・・・・・・・・いや、な・・・・・・初対面の女性にこうして普通に接してもらえたのがもう何年ぶりな気がして・・・・・・」


くぅっ、と熱くなった目頭を押さえてミシェルは天を仰ぐ。鋭く細い眼の端が僅かに光っている。

泣くほどの事なんだろうか、と一夏やセシリア辺りはそんな考えを抱いたが、ミシェルの身なりを考えると嫌でも納得出来てしまった。自分達だってミシェルと発遭遇した時はやや腰が引け気味だったし。

シャルロットはあわあわとハンカチを取り出そうとしている。箒は箒で見た目超強面な同級生の中身のギャップに呆れ半分驚き半分。

鈴だけが、ふーんと興味なさげにラーメンを啜る。彼女の場合、国に居た頃は軍関係者ともよく顔を合わせていて彼の様な厳めしいタイプの人間にも慣れていた、というのが平然とミシェルに接せれる彼女の事の真相だったりする。

ちなみにミシェルもラーメンを注文していた。鈴は普通盛りの醤油ラーメンだがミシェルの方は大盛り豚骨ラーメンである。


「・・・・・・西洋人にしては箸の使い方上手いじゃない。麺も上手く啜って食べれてるし」

「確かに、外国の人って麺類とか啜って食べるのが苦手っていうよな。セシリアとかシャルロットとかもスパゲティとか食べる時凄く丁寧っていうかさ」

「それは当り前ですわ。淑女として礼儀作法をきっちり叩き込まれていますもの!何処かの誰かさんとは違いますのよ!」

「へーそれって誰の事言ってるのかしらねぇ?」


さっきまで豪快にラーメンを食べていた鈴の額に井桁マークが浮かぶ。


「むしろ僕らの方じゃあんまり音を立てて食べる事自体マナー違反って感じだからね。音を立てて食べるって文化は日本限定なんじゃないかな?」


某カップヌー○ルも西洋版では麺が短めに加工されているとか。

日本食の流行でそういった日本独自の食べ方も広まってはいるがそれはその店の中だけの話であって、それ以外の場では周囲の顰蹙を買うので海外旅行の際にはご注意を。

話題は再び変わり、


「一夏、アンタクラス代表なんだって?」

「まあな、半分成り行きだけど」

「でも何となく、一夏なら仕方ないって思えるわ。アンタ昔っから強かったもんね」

「そうそう、セシリアさんと戦ってた時の一夏、凄かったったんだよ」

「うむ、あれぞまさに武士と呼ぶに相応しい勇猛果敢かつ見事な戦いぶりだったな」


最早噛ませ犬状態で敗れた張本人であるセシリアが呻いていたが無視。


「ふーん・・・・・・あ、あのさぁ、ISの操縦、見てあげても良いけど?」

「いや、そっちはミシェルとかに見てもらってるから別にいいぞ」


快活な雰囲気からは珍しく歯切れが悪そうに、言ってしまえば恥ずかしそうにしながらも申し出た鈴の提案を一夏は一蹴してしまった。

椅子の上でこけそうになる鈴と、その反対側で彼女の考えに気付いた箒とセシリアが密かに邪笑。対照的な少女達の様子にシャルロットは苦笑し、ミシェルは黙って麺を啜る。


「そ、そう。それは仕方ないわね、残念だけど・・・・・・」


本当に、残念そうだった。


その後は鈴の実家が前は中華料理屋をやっていた事など、取りとめの無い話を交わしてから鈴と分かれる事になった



















そして放課後の訓練タイム。

今日使用する第3アリーナには『5人分』の巨大な人影が存在した。


「ちょっと待てぇ!どうして貴様がここに居る、セシリア・オルコット」


訓練用の日本製第2世代型量産IS<打鉄>を身にまとった箒が、激昂しながら招かれざる客であるセシリアに巨大な刀を突きつけた。

向けられた側はしれっとした顔で、


「いえいえ、わたくしは一夏さんに直々に対遠距離射撃戦での手解きを行おうかとはせ参じただけですわよ?」

「その射撃戦で刀1本の一夏に負けた張本人が何を言う!」

「な、ぬぁんですってぇ!?」

「ええい此処から立ち去れ!一夏との訓練は私以外はあの2人だけで十分だ!ただでさえ千冬さんにいい所で邪魔された上に同じ部屋で共に過ごす事も出来なくなったばかりだと言うのに!」

「絶対後半部分の方が本音でしょうそれ!こちらこそ貴女ばかりに良い思いをさせる訳にはいきませんのよー!」


近接装備を展開したセシリアと箒がチャンチャンバラバラガチンコファイトをおっぱじめてしまった。ついでに2人共思いっきり一夏目当てである事を本人の前でぶっちゃけてしまっている。

あ、セシリアのライフルまで火を噴いた。流れ弾には注意してもらいたい。


「やっぱりモテてるねー一夏って」

「・・・・・・だが同じ男からしてみれば余り羨ましく思えないがな」

「スマン箒、あと1秒早く俺が決心して告白していれば・・・・・・」


そりゃ嫉妬とかに駆られて一々IS引っ張り出すような女子は冷静に考えなくても迷惑千万でしかなかろう。

一夏が女性関係で白黒つけてしまえば手っ取り早そうなのだが、箒はもうちょっと待たされる事になりそうだ。ゴメン箒、でも一旦告白するタイミング外すと告白し直すのってすっごい度胸が要るんだって!

――――人それを『ヘタレ』という。

と、ぶつかり合っている箒とセシリアを見たシャルロットが名案を想いついたとばかりに手を打った。


「ねえ皆、ペアを組んで2対2の模擬戦しない?丁度射撃型と格闘型が2機づつ居るんだし。僕が審判やるね!」

「「なら私(わたくし)が一夏(さん)と!」」


取っ組み合いながら立候補する雌豹2匹。互いの発言を耳にすると、お前が言うなと再度睨み合う。

肉体言語も交えた議論は平行線で、譲り合う気配は全く無い。これはしばらくかかりそうだ。





















「なあミシェル、一緒に組んでくれね?」

「・・・・・・それは構わないが、お前が原因なんだからあの2人を止めに入るぐらいはしてくれ、色男」


一方一夏はミシェルを選んだ。







[27133] 1-8:Fire in the hole!/友情
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/11 10:14
俺が自分を鍛える事が好きなのは、間違い無く前世の『俺』の死に方が関係している。

神経を侵す原因不明の奇病。四肢が少しずつ少しずつ動かなくなり、やがて呼吸器も機能を停止してしまう病。

何も感じなくなる事こそが何よりも苦痛だった。触覚や痛みが日に日に感じなくなり、身体が動かなくなっていく事への恐怖は筆舌に尽くしがたい。実際俺がベッドの上から動けなくなる頃には髪が100歳の年寄りみたいに真っ白になっていた。

死の闇に引きずり込まれる間際に感じたのは、このまま死んでしまう事への恐怖と・・・・・・これでようやく真綿で絞められるような地獄から解放される事への安堵感。




『ミシェル・デュノア』として転生した事を理解し、受け入れ、そして思ったのは――――こうやって自由に自分の手足を動かせるのがなんて素晴らしいんだ、って事だった。

だから俺は身体を動かし続けた。疲労も苦痛も『俺』に心地良い生への実感を感じさせてくれた。

初めて握った本物の銃の感触。初めて引き金を絞った時のあの反動。それもまた俺には甘美な体験で、とにかく撃ちまくった。腕も磨いた。

単なる銃の扱いだけじゃなく、家の伝手でPMC(民間軍事会社)のインストラクターに戦闘テクニックを叩き込んでもらった。

正確には親父の同業者の武器商人の私兵集団だったんだけど、皆気の良い人達ばっかりだったし(年齢的には)俺と同じ位の少年兵まで居たのが印象深い。今もココさんはヨナ達を引き連れて武器を売りに世界中を回っているに決まってる。




そして、今度は銃片手に本物の『闘争』を体験して、その代償に生死の境まで彷徨ってしまった俺は、理解した。

―――――闘争もまた、今の『俺』に生を感じさせてくれる存在なんだと。

・・・・・・シャルロットには負けるがな。






つまり、何が言いたいのかというと。

自分を本気で殺しにかかる敵との殺し合いよりは少しばかり劣るが・・・・・・実戦ほど命の危険性は限りなく低いとはいえISによる戦いも、それなりに悪くないという事だ。
























十数mの間隔を空けて一夏とミシェル、箒とセシリアが各々ISを身に纏ってアリーナの中央で向き合っていた。

女性チームの方はお互いにガンを飛ばしまくっていて、2人仲良く(?)気分最悪殺気満点といった感じである。その様子に一夏は冷や汗を流し、ミシェルは無表情で何を考えているのか読み取れない。何故か頭部全体を守るヘルメットと赤いバイザーだけ展開していなかった。


「早く構えたらいかがです?」


一夏の<白式>は<雪片弐型>、箒の<打鉄>は近接ブレード、セシリアの<ブルー・ティアーズ>は<スターライトmkⅢ>を展開済み。

1人武装を展開していなかったミシェルだが、セシリアに言われ遂に戦闘態勢に入る。その姿を見た瞬間、一夏は驚き箒は呻きセシリアは機体色並みに顔色が青くなった。

一瞬の内に人間武器庫が出現していた。右手には銃口の横側から銃剣が生えた細長いショットガン。左腕には菱形の盾と一体化して腕部装甲に装着された3連銃身のガトリング砲。

両肩の上からは砲身が伸び、しかも左右で形状が違う。根元の機関部は背中の箱型スラスターの両横に取り付けられ、更にその下にはそれぞれ大きな半球形のパーツ。

盾の様な棺桶の様な1対のアンロックユニットも加わって、とにかく不沈戦艦みたいな威圧感がミシェルから放たれ始めている。

マズい、アレの相手は危険過ぎる――――箒とセシリアの本能が一致した瞬間だった。一夏は味方で良かったと心から安堵した。

ミシェルは首をボキボキと鳴らしながらゆっくりと大きく回し、それからまっすぐ箒とセシリアを見つめた。

まるで獲物を捉えた猛禽の様な目で。


「・・・・・・それではそろそろ始めるとしよう」


1人ピットに入ったシャルロットが試合開始のブザーを鳴らした。

ミシェルの顔がバイザーに隠れる間際・・・・・・その顔が獰猛な笑みを浮かべているのをセシリアの目が捉え、背筋を震わせた。







「――――戦争の時間だ」








彼の言葉が、彼自身の手によって現実の物となる。

ブザーが鳴り終わった瞬間、箒とセシリアに同時にロックオン警報が宣告された。

一夏は射撃兵装を持たない―そもそも射撃用のFCSすら搭載されていない―のでミシェルがロックオンしたに違いないが、次いで放たれたのはショットガンでもガトリング砲でも両肩の砲塔でもなく。

――――半球形のパーツが左右に割れ、円を描くように配置された大量のマイクロミサイルが姿を晒す。


「か、回避ですわー!」

「言われなくとも!」


ロックオンされた2人がそれぞれ別々の方向へ跳躍すると同時に左右のミサイルポッド、<ホーネット・ネスト>から大量のミサイルが解き放たれた。

左右大外から挟み込む軌道で降り注ぐミサイル。セシリアはレーザーライフルで数発撃墜し箒は回避機動で振り払おうと試みるが、捌き切れず周囲に着弾。一気にシールドエネルギーを失ってしまう。

そこへ加わる左腕のシールドガトリング<グリムリーパー>の掃射。

<グリムリーパー>は武装ヘリや巡視艇向けのGAU-19ガトリングガンをIS用に改良した物だ。12.7mmライフル弾を分速1500発という速さ(IS向けに連射速度を調節済み)ばら撒く。

大きく薙ぎ払われた弾丸の鎌は箒とセシリアに十数発ずつ命中した。シールドに激突した途端、小さな爆発が起こったのに気づいたセシリアは悲鳴を上げた。


「爆裂弾を使用しているの!?」


シールドが存在する限り50口径弾程度では貫通はしない。

が、対IS用爆裂弾は命中する度に発生する爆発により、普通の弾丸よりもシールドエネルギーを多く消費させる事が目的の弾丸だ。もちろん直接ISに当たっても効果的である。

これはマズい。防御じゃなく回避に専念し続けなければならない。

と、低い姿勢でミシェルへと迫る影。箒だ。


「それだけの装備なら動きは遅かろう!」


素早く踏み込み飛び上がると近接ブレードを振りかぶる箒。ミシェルは回避しようともせず、その代わりアンロックユニットの片方がその大きさには似合わない機敏な動きでミシェルと箒の間に割り込んだ。

箒の一撃が浮遊する盾、<シールド・オブ・アイギス>に触れる事はなかった。刃がぶつかる寸前で、箒の動きそのものが固定されていた。


「な、何っ!?」

「俺の存在を忘れんな!」


停止した箒の頭上を覆う影。一夏が後ろからミシェルを飛び越え、箒に襲いかからんと<雪片弐式>を構える。


「させませんわ!」


セシリアの援護射撃が一夏を掠める。そこからビットによる包囲攻撃。一夏とミシェルが揃ってそこから離れて回避すると、また箒は動けるようになった。


「今のは一体何だと言うのだ・・・・・・?」

『あれはAIC、アクティブ・イナーシャル・キャンセラーだよ。ドイツで研究されていた物で、元々はISにも搭載されているPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を発展させたものなんだ。物理的な攻撃をほぼ無効化しちゃう機能なんだけど、それを<ブルー・ティアーズ>のビット機能と組み合わせて攻防両方の性能を持たせた装備なんだ』

「何と面妖かつ厄介な・・・!」


わざわざピットから繋いでくれたシャルロットの解説に感謝しつつも思わずそう吐き捨ててしまう。つまり下手に近づけないという事ではないか!

箒が歯噛みした所で急に<シールド・オブ・アイギス>の先端が向けられたかと思った次の瞬間、光弾がシールドに命中してその衝撃によろめいた。

成程、オリジナルと同じくレーザー砲も搭載している訳か。涙が出てきそうだ。しかもセシリアと違いビット単体のみならず、ミシェルまで攻撃に加わっている始末。

その代わり1対の大型ビットはミシェルから数m程度の距離しか動こうとしない。<ブルー・ティアーズ>と違ってオールレンジ攻撃ではなく防御・迎撃を優先した結果なのだろう。

攻撃が止み、入れ替わりに一夏の<白式>が箒に向かう。


「俺が相手だ、箒!」

「望む所!」


刃と刃が激突する衝撃音。

一方ミシェルの<ラファール・レクイエム>は<ブルー・ティアーズ>との1対1に移る。透き通るような蒼い機体と凶暴さを感じさせる全身の黒と赤が対照的だった。

多方向から畳みかけようとビットを飛ばす。するとミシェルの左肩上部に突き出た砲塔が動きを見せた。対空砲の様に長い砲身が2つ横に並んでいて、砲身の直径そのものはやや太い。

専用のFCSからの命令により砲塔が旋回し、2本の砲身が根元から上下に動いてから双門機関砲が火を噴いた。やや遅めの連射速度だが初速そのものは高速で吐き出された砲弾は、セシリアが展開したビットへと突き進み。

空中で砲弾が次々と爆発し、撒き散らされた破片にビットが巻き込まれた。


「空中炸裂弾!?」

「・・・・・・駆逐艦にも採用されてる機関砲の改良型だ。空を飛ぶ物を撃ち落とすのは得意だぞ」


<レインストーム>も艦艇や装甲車に搭載されていた既存の兵器をIS用に転用・改修を加え、砲身を単式から連装に変更した代物である。

<ブルー・ティアーズ>のレーザー射撃主体の攻撃とは違い、放たれ続ける実弾と炸薬の着弾は直撃せずとも撃たれている側に影響を与えていく。

周囲で鳴り響き続ける着弾と爆発音の連打。シールドと絶対防御の存在を理解していても晒され続けるのはセシリアの感覚を、何より精神を蝕んでいった。


「これはっ・・・・・・堪りませんわね・・・・・・!」


誰が好き好んでこんな目に晒され続けたいものか。成程、確かにこれは『派手』で、まるで『戦争』でもしているかのような激しさだ。山田先生がトラウマになったというのも嫌という程理解出来た。

連装機関砲の砲弾はセシリア自身にも襲いかかり、大きい部類とはいえ『銃弾』に分類される50口径弾を遥かに超える爆発が周囲を揺さぶる。

セシリアの身動きが封じられている間に、ミシェルは自由な右手に握るショットガンで他のビットも撃墜していった。セシリアが機関砲の銃撃に嬲られ続けるが為に、殆ど操作を放棄されたビットを散弾で撃ち落とすのは容易かった。

いつの間にかセシリアはアリーナの壁際に追い詰められていた事に気付く。ビットも4機失った。シールドエネルギーも今や半分以下。まさにジリ貧。

せめて一矢報いるべく、連射の僅かな切れ目を狙って腰部に残されていたミサイルを発射した。反射的に<レインストーム>はミシェル目がけ飛来するミサイルの方に向けられ、見事撃墜してみせる。

それで十分だった。アリーナの壁に沿って瞬時加速。<レインストーム>並びに右肩の固定式大口径砲の射界から逃れ、ミシェルから見て右方向へ回り込むよう横滑りしながらレーザーライフルを構える。


「このタイミングなら―――――っ!?」


セシリアにとって不運だったのは、砲撃の射界から出来るだけ遠ざかるべくミシェルの真横まで移動した事で、彼のすぐ横に浮かぶ<シールド・オブ・アイギス>にミシェルの姿がすっぽり隠れてしまう位置取りをしてしまった事だ。盾に隠れで何処も狙い撃てない。


「(ならば早くこちらを向きなさい!私に再度狙いをつけようとしたその時こそ、わたくしの射撃が貴方を貫きますわ!)」


セシリアにはそれだけの技量がある。無理に瞬時加速を使ってしまった為に、これ以上高速機動を行うエネルギーも残っていない。

幾ら頭まで装甲に守られていても、<スターライトmkⅢ>の威力ならば直撃さえできれば絶対防御を発動させれる筈。この一弾に、全てを賭ける。




―――――ミシェルの攻勢が余りに驚異的過ぎ、容赦ない砲火を浴びせられ続け追い詰められていたセシリアは忘れていた。




「だから俺を忘れんなって」

「そちらに行ったぞ、オルコット!」

「えっ?」


振り向けば、アリーナの反対側で箒と戦っていた筈の一夏の姿。

背中を<雪片弐型>で斬りつけられ絶対防御発動。<ブルー・ティアーズ>のシールドエネルギー残量0。

セシリア・オルコット、撃破。


「・・・・・・フォロー、助かった」

「へへっ、良いって事よ」


箒と鍔迫り合いを繰り広げていた最中、一際大きな爆発が起きてからハイパーセンサーでセシリアがミシェルの横に回り込んだ事を察知した一夏も瞬時加速を起動し、セシリアの背後を取ったのである。

箒が一夏との戦いに夢中でセシリアへのフォローがその瞬間まで頭に無かった事と、瞬発力に優れた<白式>だからこそ成功した奇襲だった。


「これで残るは・・・・・・」

「箒だけ、だな」

「くっ!」


箒も矢継ぎ早に銃撃砲撃を撃ち込んでくるミシェルと、と自分を上回る剣技の持ち主である一夏相手にたった1人で凌ぎ続けれる訳もなく。

あっという間に箒の<打鉄>もシールドエネルギーを枯渇させられ、黒星をつけられるのであった。












「いやー、前に聞いてて何となく分かってたつもりだけど、本当に派手だったなミシェルのIS」

「・・・・・・否定はしない。俺がトリガーハッピーなケがあるせいもあるが、ああいう戦い方もそれなりに有効だからな」


模擬戦が終わってから涙目でセシリアに詰め寄られた。「し、死ぬかと思いましたわ!」とは本人の言い分。

一夏もこればかりはセシリアの気持ちがよく分かった。そりゃあんな弾幕誰が相手にしたがるもんか。

今度はミシェルが<ブルー・ティアーズ>のビットを撃墜してしまったので再度修理に出さなければならないという。その辺りがミシェルはちょっと申し訳ない。


「はい2人共お疲れ様」

「・・・・・・ありがとう、シャルロット」


2人と同じピットの方に居たシャルロットがタオルとスポーツドリンクを手渡してくれた。


「サンキューシャルロット。でも動いた後だったらキンキンに冷たいと身体に悪いから、こういう時はむしろぬるめの方がずっと身体に良いんだぞ」

「えっ、そうなんだ。じゃあ今度からそうした方が良いかな?」

「・・・・・・気遣ってくれるのは嬉しいが、不健康な物ほど気持ちいいのがジレンマでもある」


歩きながら談笑する。3人分の足音にミシェルの義足が床にぶつかるゴツン、ゴツンという音が加わった。


「何となく思ったんだけどさ」

「えっと、何の事?」

「ミシェルのIS。実習で最初に見た時からそんな気がしてたんだけど、ミシェルのISって他の機体とずいぶん感じが違うんだよ。武装とかもそうだし」

「・・・・・・より兵器的で実戦的、という事か」

「そうそれだよそれ、そんな感じ。一応剣の修行してた時にそういう心構えとかも千冬姉や兄弟子の人から叩き込まれたりしたせいかもしんないけど、ISも一応立派な『兵器』だろ?他の人達はそこら辺どう考えてるのかよく分からないんだけど」

「そうかもね、確かにISにそこまで詳しくない人達からしてみれば、むしろファッションの1つぐらいにしか考えてない人も結構多いもんね」


その辺りには女性しか扱えない、というISの特性が深く関わっているのだろう。

最近ではIS絡みの本といえば軍事的・兵器的な観点を含めた物ではなく、IS(並びに水着同然のISスーツ)を身に纏った見麗しい美女・美少女達のグラビアをまとめた写真集などの方が評判だとか。

そういった流行がより世間が持つISに対する概念を歪めていっている、のかもしれない。


「でもミシェルのISとか使ってる武器とか、それこそ兵器っぽかったからさ。おかしな話かもしれないけど、ISが無い実際の戦場とかあんな感じなんだろうな、って思ったんだよ」


一夏もまた『実戦』の空気を知っている。目の前で人が傷つき、死んでいく光景を目の当たりにした事がある。敵意を持った相手に囲まれ、自らの命を守る為にその手で敵を打ち倒す感触を一夏は知っている。

ミシェルの義足を目にする度、その記憶が蘇るのだ。剣を振る度、その感触を思い出すのだ


「やっぱり忘れちゃダメなんだろうな。ISってのはさ、武器で、力なんだよ。誰かを傷つけ、殺せる兵器なんだって事を」


右腕の待機形態の<白式>に目を向ける。

そう、『コイツ』も竹刀や木刀や真剣や銃と何ら変わりない。扱い方1つで守る事にも殺す事にも使える手段の1つでしかないのだ。

かつてミシェルが銃を使って一夏を助けに入った時の様に。そしてまた別の人間の銃によってミシェルが撃たれ、片足を失った時の様に。









―――けれど。

このISを作った『あの人』は―――――本当は何を考え、こんな『力』を生み出したのだろう?










「・・・・・・だが結局、人を傷つけ、殺すのは、人そのものだ」

「それも分かってる。だけど、そうならない為にもこの力がどういう存在なのか、理解しとかなきゃダメなんだと俺は思う」


『コイツ』に振り回されて自分や他人を傷つけない為にも、大切な物を守る為にも―――――もっと『コイツ』を理解し、そして自分自身もまた高めていかなきゃならない。

だがそれを自分1人でやってみせるなんて啖呵をあっさり言い切れるほど、一夏は自信家ではない。


「出来たらで良いんだけどさ、これからも偶にで良いから、訓練に付き合ってくれないか?ずっと俺1人だけで続けるだけじゃ限界があるだろうし」

「・・・・・・何を今更。俺自身こうやって鍛え合うのは嫌いじゃない。幾らでも付き合おう」

「僕も一夏がそうしたいんだったら幾らでも手伝うよ?だって友達だもん」


ミシェルは、ほんの僅かに唇の端を持ち上げただけだが間違いなく笑みを浮かべ。

シャルロットは太陽の様に温かく、見る者を安堵させる優しい笑顔で。

『友人』からの頼みに即答してくれた。

そして一夏も笑った。目の端を、ちょっとだけ光らせながら。


「・・・・・・ようやく本気で、この学校に来て良かったって思った気がするよ」






―――――――こんな友人達に出会えて、本当に良かった。














=====================================================

ミシェルのISのイメージは赤以外の部分が黒に変わったヴェルデバスターでどうぞ。武装は殆ど違いますが。


あとこのままその他板で続行します。だってこの先えっちいシーン挟むスペースが思いつかないんだもん!
とりあえず2巻終了まで続けます。というか、2巻からが本番です。



[27133] 1-9:約束の行方/恋は戦争?
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/22 15:49

「あ、あのさ、一夏―――――約束、覚えてる?」

「えーっと、あれか?鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――――」

「そ、そう、それ!」

「――――奢ってくれるってやつか?」




「最っ低!!死ねっ、この馬鹿っ!!!」


ぶぁっちーん!!!!















「――――てな感じで、その場に居た箒からも『馬に蹴られて死ね』ってお言葉を頂いたんだが」

「・・・・・・で、その理由が分からなくて俺達に聞きに来たと?」

「そう、そんな感じ」


ベッドに腰掛けたミシェルは、顔に刻まれた紅葉の痕が痛々しい一夏の言葉に頭を抱えてしまった。

そーいやそういうイベントもあったようなあったような。2次創作でも大概出てきたイベントだから一応記憶には残っているけど、改めて当事者の口から聞くとうん、頭痛を覚えてしまう。


「うーん、約束の意味はよく分からないけどとりあえず僕も一夏はライオンに噛まれて死んじゃえばいいと思うよ?」

「よく分かってないのに笑顔で女の子がそんな怖い事言わないでくれよ!?」


ちなみに何故ライオンなのかはプジョーというフランスの有名な自動車メーカーの企業ロゴがライオンだからだったり他にも理由があったりなかったり。とりあえず乙女(但し非処じウボァー)的に鈴と箒側だ。これで3対1。尚も情勢は悪化の一途。

シャルロットはミシェルと同じベッドの上に女の子座りの姿勢でミシェルに寄り掛かっていた。彼の腹辺りに両腕を廻し、時々猫みたく顔を擦りつけている。

むしろシャルロットは子犬属性じゃなかろうか、などと益体もない感想を一夏は抱いてしまった。ほら、ミシェルに頭撫でられた途端高速回転するゴールデンレトリバーの尻尾が容易に幻視出来たし。

というかシャルロットの格好は地味なようでシンプルかつスタイリッシュなデザインのスポーツジャージなのだが、身体のラインがよく分かるのでキュッと引き締まった腰のくびれからお尻の曲線とか身長に不釣り合いなぐらい豊かな胸元とかについつい目が行ってしまい。


「・・・・・・・・・(ピキピキ)」

「ゴメンナサイ俺が悪うございましたなのでどうかその安全装置を外した銃をぜひともホルスターの中に御戻し下さい」

「やっぱり一夏も男の子だねぇ。でもそうがっつき過ぎると女の子に嫌われるよ?」

「・・・・・・・・(´・ω・`)ショボーン」

「ごめんごめん、ミシェルは例外だから!むしろ、えっと・・・・・・ミシェルならもっと激しくても構わないかなぁって。ああでも優しくしてくれるのも好きだよ僕」

「いや、何の話だよ


ナニの話ですが何か?






閑話休題


「はあ、わけ分かんねぇ。そこまで怒る約束なのかっつーの」

「でもきっと、鳳さんにとっては大事な約束だったんだと思うよ。彼女、泣いてたんでしょ?」

「うっ・・・・・・ならやっぱり俺の方が間違ってるって事になるのかな」

「本当にその約束をした時の事、ちゃんと思い出せないの?」

「多分小学校卒業する直前ぐらいだろ?そん時は全然余裕無かったからなぁ俺」

「何かあったの?」

「・・・・・・その頃はドイツから戻って来たばかりでさ。ミシェルの事で凹みまくってて、それから絶対強くなってやるって我武者羅だった時期だから」


寝食も忘れ、血豆が潰れても竹刀を振っていたのをよく覚えている。なにせ千冬姉から雷を落とされるまで止めなかったのだから。

そういえば遮二無二自分を鍛えるのに夢中になり過ぎて、鈴や彼女の親御さんからも心配されたっけ。


「・・・・・・スマン」

「いや別にミシェルのせいじゃないって!どっちにしたって俺の責任なんだし」

「もしかして『酢豚を奢ってくれる』って意味合いは似てるんだけど別の言い方だったとか」

「あー、かもしんないな。そんな気がしてきた」


しばし黙考。えーっと確か、あれは放課後の教室で、えっと、え~~~~~~~~~っと・・・・・・・・・


「ああそうだ思い出した!『料理が上達したら、毎日私の酢豚を食べてくれる?』だ!」

「良かったね思い出せて・・・・・・で、それってどういう意味なの?」

「え?えっとそれはだな」


再度首を捻って見解を絞り出す。


「俺は鈴がただ飯を食わせてくれるんだとばかり思ってたんだけど、ならそれぐらいであそこまで怒る訳ないだろうし」

「どうなんだろう、僕もそういう日本語独特の言い回しってあんまり詳しくないし。ミシェルは意味分かる」


シャルロットに話を振られたミシェルは何処か言い辛そうに口を引き締め、頭を掻く。

それから溜息をついてからようやく口を開いた。


「・・・・・・もしかしてそれは、『毎日俺の味噌汁を作って下さい』的な意味合いだったのではないか?」

「それってどういう意味なの?」

「・・・・・・要は日本流の遠回しなプロポーズだ。普通なら男の方から言う言葉の筈だがな」

「へーっ、そうなんだ。日本って変わった言い方するんだね―――――って、あれ、それって?」


少し遅れて言葉の意味が脳に沁み込んだシャルロットは、ゆっくりと一夏の方を見る。

一夏は、固まっていた。顔中冷や汗ダラダラ、落ち着かなさげにミシェルとシャルロットに視線を行ったり来たり。


「い、いや、冗談だろ?そんなの深読みし過ぎだって、あ、あはははははは・・・・・・」


しかし、激昂した鈴が別れ際に見せたあの涙。あれは多分本当にショックの余り浮かんだ涙だったと今更ながら思う。

まさか、鈴は、本気でその約束を?それを自分はすっかり忘れてて、そのせいで彼女を泣かせた?


「・・・・・・・・・・・・最低だ、俺」


呻きながら文字通りの意味で一夏は頭を抱えた。その姿は神に懺悔する敬虔な信徒にも似ていた。

彼は本気で、鈴との約束を忘却していた事を悔いている。当たり前だ、自分は幼馴染の少女の心を深く傷つけてしまったのだから。それを悔わず、何を悔う。


「どうすりゃいいんだ一体・・・・・・」


脳裏を過ぎるのは鈴と、そして彼女同様自分に想いを向けてくれていた箒の顔。

既に自分は箒の事が愛しくて愛しくてしょうがない。だけど鈴もこれ以上傷つけたくない。泣かせたくない。だけど2人の顔を上手く両立させる手立てなんて全く思い浮かばない。

いや、そもそもそんな2人の顔を立ててお咎め無し、なんて打算的な事を考える事自体間違っている。


「とにかく今日はもう遅いからさ、一晩じっくりどう答えるのか考えてから、明日になったら真っ先に謝りに行った方がいいと思うよ」

「・・・・・・そうするわ。押しかけてゴメン」


ノロノロとした足取りで部屋から出ていく一夏の表情は、まるで幽鬼の様だった。

一夏が経ち去ってしばらくしてから、心配そうな表情でシャルロットは呟く。


「これ以上ややこしくならなきゃいいんだけど・・・・・・」

「・・・・・・こればっかりは、どうにもならん。当事者同士でケリをつけるべき事柄だからな」












1025室には最早一夏1人しか居ない。

全ての電気を消し、窓から射す月明かりしかない部屋の中、ベッドに横たわった一夏の眼差しはぼんやりとしか見えない天井を向いているが、彼の精神は1つ1つ過去を見つめ返していた。

中学時代、もう1人の友人と一緒に騒いでいた頃。あの約束を交わしてからのその日々を、鈴は一体何を考えて過ごしていたのだろうか。一夏にはまったく分からない。


「・・・・・・・・・・」


ふと、無性に声が聞きたくなった。中学の入学式に知り合ってから、鈴が転校してからも卒業するまで一緒だった、定食屋の息子。恐らくは自分と鈴両方相手に最も長く接してきた赤髪の悪友。

勿論携帯に向こうの電話番号は登録してある。この時間なら、今頃バラエティ番組でも見てまだ起きてる筈。


「もしもし、弾か?」

『いよう一夏!何日ぶりの電話だよテメェ!女だらけの学校の感想はどうだ!?』


五反田弾の能天気な大声が耳に突き刺さる。


『羨ましいよなぁ。あれだろ、IS学園の女の子って可愛い子揃いってもっぱらの噂だぞ?つか替われ、今すぐ替われ。にしてもいきなり何で電話してきたんだよ。いや声聞けて嬉しいけど』

「あー、俺も久々に他の男の声が聞きたくなってさ。ほら、この学校って俺以外に1人しか男子がいないから」

『ああ例のファースト男性操縦者な。伝説の傭兵が年誤魔化して入ったんだっけ?』

「・・・・・・本人聞いたら多分泣くからそういう言い方は止めてやってくれ」


割と本気でそう思う。


『それともアレか、また揉め事に首を突っ込んじゃ暴れたりフラグ立てたりしたんだろ?』

「なわけねーよ!相手女の子ばかりなんだぞ!千冬姉に殺されるわ!」

『え、千冬さんも一緒なのか?』

「俺の担任。IS学園でいつの間にか教師やってたんだと」

『納得納得。なんつっても千冬さん『無敗の戦乙女』だもんな』

「それからさ、ついこないだなんだけど鈴も転校してきて―――――」


そこまで言ってから黙り込んでしまう。鈴の泣き顔がフラッシュバックし、電話の向こうで弾が言っている内容も素通りしてしまう。

弾も急に無言になった友人に向けてしばらくは呼びかけていたが、その沈黙の長さに相手がただ言葉を区切った訳ではない事を悟り、軽さの抜けた声に切り替える。


『・・・・・・何かあったのか?』

「―――なあ、弾。俺と一緒に馬鹿をやってた時さ、弾から見て鈴ってどんな様子だったんだ?」

『鈴がどうしたんだ?』

「分からなくなってきたんだ。鈴が俺と一緒に遊んだりした時、本当に鈴は楽しんでくれてたのか・・・・・・実は俺が気付かない所で、鈴を傷つけてたんじゃないかって」

『・・・・・・話してみろよ。アイツと何かあったんだろ』


弾と知り合う以前に鈴と交わした約束。自分はそれを勘違いしてて、そのせいで鈴を泣かせてしまった事。他の友人に指摘されるまで約束の本当の意味すら気付いてやれてなかった事。既に自分は別の少女と情を交わし、告白しようと決めていた事。

今度は弾が絶句する番だった。


『まさか唐変木の極みみたいな一夏が女に惚れた、だと!?オイオイオイオイまさか宇宙滅亡の前触れじゃないよな?』

「・・・・・・弾が本当は俺の事なんて思ってたのか今のでよーく解ったよ」


電話の向こうで咳払いの音。


『とにかくだ。一夏は他の奴から見て鈴が自分と居た時はどんな感じだったのか教えて欲しいんだな?』

「・・・・・・ああ」

『率直に言って、俺の目から見ても鈴がお前と一緒に遊んだりしてる時は本当に心から楽しんでたと思うぞ。鈴が自分なりに一夏にアピールしてたにもかかわらずお前がちっとも気付いてやれなくて、むしろ頓珍漢な答え返されたせいでお前をぶっ飛ばした時も含めてな』

「何だよそれ。でも今思い返すだけでも心当たりあり過ぎて胃が痛くなってきそうだ・・・・・・」

『そう気付いてやれなかった事に今ようやく気付いてやっただけでも十分成長してるって。お父さんは嬉しいぞうんうん』

「お前みたいな父親を持った覚えはない。そもそも親の顔なんて知らねーっての」

『・・・・・・すまん。ともかくだな、鈴が一夏の事が好きたっつーのはアイツの振る舞いからしてあの頃から丸分かりだったな。アピールされてる本人しかその事にさっぱり気付かないんだから、見てるこっちがぶん殴りたくなったぐらいだぜ?』

「ゴメンナサイハンセイシテイマス」


というかそれってもしかして箒と一緒だった頃もそんな感じだったリしたんだろうか。無性に箒にも土下座して謝りたくなってきた一夏であった。


『その癖クラス中の女子どころか他の学年だったり別の学校の女子にもフラグ立ててるし!覚えてるか、お前が剣道の大会に出た時学校中の女子がお前の応援に行ってたの』

「悪い、割と本気で腹切りたくなってきた・・・・・・」


つまりその分鈴をヤキモキさせ振り回してきたという事だ。ずっとあの約束を心に秘めていた彼女を。


「―――――っ」


知らず知らず唇を噛み締めていた。自分の事ばかりにかまけていた自分に、鈴へ何を言えるというのだ。

一夏が強くなろうと思ったのはただ守られるだけでなく、自分の力で大切な人達を守ってみせると決心したからだ。なのに、何という体たらく。




ただ力を手に擦るだけでは、大切な人達の心までは守れない。

鈴の想いに気付けなかった事自体が結果鈴を傷つけたのだとしたら、それは。





「ロクでもないにも程があるぞ俺・・・・・・」

『オイ、一夏、ナニ1人鬱ってんだ』

「俺はさ、これ以上鈴を泣かせたくないんだ。だからって鈴との約束を受け入れると、今度は他の、俺から気持ちを伝えるって約束したもう1人の女の子を泣かせる事になっちまう」

『お前なんてNice boatされちまえ――――と言いたい所だが、一応親友だから許してやろう。で、俺としてやはり長い付き合いの鈴を応援したい所だが、結局決めるのは一夏だ。だからお前が決めて、お前自身で決着をつけろ。当事者じゃないし恋人も居ない俺には、それぐらいしか言えねーや』


口調はいつも通りの段だった。けれど声そのものはとても真剣で、なのにとても温かかった。

友人の言葉に針金で絞めつけられていたように締めつけられ、鬱屈しかけていた一夏の心が緩み、腹の底のしこりが僅かだが軽くなる。

こんな風に胸の内をぶちまけて意見を求めるのは、ある意味逃げの1つでしかないと一夏も分かってはいる。それでもこればかりは毛色が違い過ぎて、黙って抱え続けるには一夏には難し過ぎた。

鈴、そして箒もこんな扱いかねる感情をずっと孕んで過ごしていたのだとすれば、それは尊敬に値すると切実に思う。

まったく、恋愛なんて自分には縁遠いものだと思っていたのに。


「とりあえず明日になったら鈴に真っ先に謝って――――箒との事を、伝えようと思う」

『お前が殺されない事を祈ってるよ』

「まだ死ぬ予定はねーよ。だけど、箒とそれだけの事をしてきた以上、責任を取らなきゃ、さ。勿論それ以外にも理由はあるけど」

『・・・・・・やれやれ、今度は鈴が俺に愚痴りに電話かけてくるんじゃないかこれ?』


弾の愚痴を最後に、通話は切れた。















―――――鳳鈴音にとって、織斑一夏とは何なのか。




小5の始めに転校してきてからの付き合いで同級生で幼馴染で家で経営してた中華料理屋の常連で一緒によく遊んだ男友達でからかわれたりした時は何時も止めに入ってくれた頼りになる男の子で結構強い剣道少年でだけど中学に入る前後からちょっと人が変わってもっと強くなる事に夢中になって人が困ってたりしてるとすぐに首を突っ込んでそのせいで意味無くトラブルに巻き込まれたり危険な目に合う上にその度に女の子にフラグ立てたりするもんだからそれが気に入らなくてそのくせその女の子達(鈴も含む)からのアプローチにはめっぽう鈍くて一体何人の女の子の枕を涙で濡らさせた事やらエトセトラエトセトラ。




だけどまあ、こういうのは先に惚れちゃった方の負けだというのは鈴もよーく分かってる訳で。

そもそも彼女にとって教室でのあの『腕上げて毎日一夏の為に酢豚作ってあげる』宣言は、元々はお遊び半分―でも本気も半分―で一方的に結んだ約束に過ぎなかった。

その時の一夏はとにかく見ていられなかったのだ。日頃の能天気っぽさはなりを潜め続け、いつもいつも泣きそうな顔をしてたのだから。断片的に聞き出せた話によると、旅行先で知り合った友達を自分のせいで死なせかけたのに一言も謝らないまま日本に戻って来てしまったとか。それを当時の一夏はずっと後悔し続けていた。

そんな彼の姿を見たくなかったから――――初恋の少年の笑顔が曇る所なんて見たくなかったから。

だから鈴は一夏にあの告白をしたのだ。今考えればもっとマシなやり方はなかったのかと言いたくなったりもしたけれど、後悔はしていない。少しでも彼の心労が誤魔化せればと、その時はそう思ったのだ。




その約束が鈴にとってかけがえのない誓いに変わっていったのは中学になってから。

そりゃあ一夏は小学生の頃からカッコ良かったし優しかったしスポーツも万能な方だから女子からの人気は高かったけど、一夏の人気が輪をかけて少女達の間に広まっていくのにそう時間はかからなかった。

とにかくこの年頃にもなると男女共々異性への興味が強くなり出す年代なだけに一夏の評判が元他校の少女達に伝わるのも速かったし、一夏本人の男前っぷりがその頃からより強くなっていった点も否定できない。

更に一夏の持ち前の正義感から同じ学校の生徒が不良に絡まれてたりすれば即座に助けに入っちゃうお陰で評判は鰻登り。おまけに助けられる相手はほぼ毎回女の子だったりするもんだから一夏争奪戦参加者が更に追加。

水面下では少女達の熾烈な激戦が繰り広げられていたのであった。それに鈴や弾が何度巻き込まれた事やら。いやま、鈴の方から参加する事もしょっちゅうだったけど。




そんな一夏に群がる少女達の姿を見ている内に、小学生の頃の半ば友情と混合した淡い恋心は急速に1人の女としての感情に変化していった。




それはある意味独占欲の塊でもあった。顔や評判みたいな上っ面しか一夏を知らない癖にすり寄ってくる連中に私の一夏を渡してやるもんか、という怒り。

アンタ達は本当を一夏を知ってるの?何で一夏が剣を振ってるのか知ってるの?友達に謝罪の一言も言えないままでいる事をどれだけ一夏が悔やんできたのか知ってるの?アンタ達はそれを知った上でアイツを支えてやる気はあるの?

ドロドロとしたそんな淀みを抱えながらも、鈴は一夏の前では笑顔であり続けた。別にそれは演技でもなんでもなく、心から浮かぶ笑顔だった。それと並行して、上辺しか一夏を見ないで近づいてくる輩をずっと遠ざけるのに身を削ってきた。彼には気付かれない様。

別れは唐突だった。いきなり両親が離婚する事になって、母親に引き取られた鈴は中国へと渡る事になった――――最後まで一夏への慕情を言葉にしないまま。

何故ならあの夕陽の教室での約束は鈴の魂に刻まれ続けていたから。その記憶だけで、鈴は頑張れるから。




だけど分かっていた筈だ。織斑一夏という少年が肝心な所でとんでもないポカをやらかすような相手である事は。特に女絡みでは尚更に。

本当、何都合のいい考えばかり思い浮かべてたんだろう?私がその約束を覚えてたって、相手が覚えてるとは限らないのに。

頭でそう理解は出来ても納得できないのが人間という物で、約束に秘めた乙女の想いを完膚なきまでに踏みにじってくれた一夏からは詫びの一言ぐらい向こうから言ってもらうまで許してやるもんかと鈴は心に決めた。

その一方で、これが長期戦になりそうな気配も鈴は何となくだが予感していた。だって一夏だし。

納得いかない事にはとことん頭を下げない性格な上に朴念仁なんだから鈴が怒っている本当の理由も・・・・・・約束に込めた意味も理解していない可能性が高い。非常に高い。






だから、


「本っっっっっっ当に俺が悪かった!!!!」


引っ叩いた翌日、鈴が教室に来て早々2組の教室に乗り込んできた一夏が鈴の机に頭を叩きつける位の勢いで頭を下げてきたものだから、思わず鈴は椅子ごとひっくり返りそうになったのであった。

















「あー、本当にビックリした。一夏アンタねぇ、あたしに頭下げに来たのかそれとも驚かせて心臓止めに来たのかどっちなのよ」

「驚かせたんなら悪かったけど、とにかく『鈴に謝ろう』って気持ちで一杯だったからなぁ・・・・・・」

「ならもう良いわよ・・・・・・・(ま、まったく、本当に昨日の今日で謝りに来るなんて。まさか誰かに吹き込まれたんじゃ)」

「ん?何か言った?」

「別に!」


自分達に集中する教室中からの視線から逃れるため、一夏を引き摺って辿り着いたのは校舎の屋上だった。授業直前なので人気は全く無い。

彼の手を引いて屋上に飛び込んだ時の配置から、入口に背を向ける形の一夏に鈴が向き直ると、彼は真面目な表情で真正面から視線で鈴を射抜く物だから、鈴の胸の下で刻まれる鼓動が一気に激しさを増してしまう。

それから一夏は、小柄な鈴からでも彼のうなじが見えてしまうぐらい深く深く頭を下げた。


「もう1回言わせてくれ。本当に、悪かった。ずっと鈴は約束を覚えてくれてたのに」

「も、もう良いわよそれは。そこまで神妙な顔で謝られたら、これ以上文句のつけようが無いわよ」


そうか、と一夏は頭を上げ、今度も真面目な顔ではあるがどこか瞳を揺らがせ、言いだし辛そうにしばし口籠った後。


「あ、あのさ鈴―――――あの約束ってもしかして、『そういう意味』のつもりで鈴は言ったのか?」


破裂音すら聞こえそうな勢いで鈴の顔が瞬時に紅潮した。


「そ、それは、え、えええと、そのね、あたっあたしは違っ、いやいやいや違うくはないんだけど!!」


あ゛ーだの、う゛ーだの、うにゃああああああああっ!?だのしばらく喚き散らし。


「だ、だったらどうなのよ・・・・・・・・・?」


消え入りそうな声で、落ち着かなさげに自分の手を弄びながらも肯定の意を示した。

対して一夏は本当に、本当に辛そうな表情を浮かべ、一旦唾を呑みこみ息を大きく吐き出してから。

鈴との約束への答えを、告げる。











「―――――――――――ゴメン」












えっ、と鈴は目を見開いた。一夏の言葉の意味が理解できないと表情が如実に今の鈴の内心を現していた。

一夏は爪が肉に食い込むほど拳を固く握りながら、何とか用意しておいた答えを吐き出していく。


「鈴があの頃からずっと俺の事をそう思ってくれてた事は嬉しかったし、俺だって鈴の事は大切な相手だと思ってる――――でもゴメン。悪いけど、鈴の想いには応えられない」

「なん、な・・・・・・何で・・・・・・?」

「――――鈴以外にも応えてあげなきゃいけない子が居るんだ。変に固い癖に本当は甘えん坊で健気でさ、最初の頃が信じられないぐらいどんどんどんどんどんどんどんどん大胆になってくるし」


初めて2人きりで再会した時、涙交じりに本心を吐露してくれた箒の泣き顔。肌と肌を合わせた時の妖しい淫魔と無垢で従順な子犬が同居したような濡れた瞳。

結ばれる事への約束は鈴の方が先だったのかもしれない。だが先に抱いていた一夏への恋心を明確に、彼にも理解出来る形で示したのは箒が先だった。


「こんな言い方はおかしいかもしれないけど、あそこまでされちゃ責任取らないとな。俺も自分の方からアイツに応えようって、決めてたんだ。アイツも俺にとって大切な人だから」




だから鈴の気持ちには応えられないと、一夏は言った。




「勿論鈴の事は大切な―――――!?」


突然鈴が一夏の襟元に手を伸ばしてきた。余りにも唐突かつ予想外の行動に一夏は反応できず、更に鈴の細い足が一夏の足を刈る。

足元は石畳。下手に抵抗すると自分も鈴も危険であり事を悟り、敢えてそのまま地面に叩きつけられた。受け身は取ったので頭は打ってないし背中のダメージは軽減されたが若干呼吸が苦しい。


「鈴、何を」

「・・・・・・ざけないで」


仰向けになった一夏にマウントポジションを取った鈴が、掴んだままの彼の胸倉を引き寄せ、額同士がぶつかるのも気にせずキス一歩手前の近さまで顔を近づけた。

一夏の視界一杯に広がる鈴の顔に浮かんでいるのは、絶望。悲痛、憤怒、そして涙。

―――――ああクソ、また鈴を泣かせちまった。


「ふざけないで!あたしが、あたしがどれだけ、どんな思いでっ、アンタと一緒に居たと思ってるのよ!アンタが居るから此処まで来たのに!アンタが居たから、ここまでこれたのに!」

「鈴・・・」

「こんなの、こんな、これじゃああたしがば、ば、ば、馬鹿みたいじゃないの!忘れられて、ずっと気付いてもらえなくて、ようやく、ようやく気付いてもらえたと思ったのに・・・・・・!」


熱い滴が一夏の頬に落ちた。その熱から一夏は目の前の少女の抱えていた激情がどれほどの物なのか、改めて理解し直す。

今この瞬間自分がどれだけ彼女を傷つけ、苦しめているのかも。


「・・・・・・本当、俺って最低だな」

「ええそうね。アンタは男の中でも最低の大馬鹿野郎よ。今ここで殺した方が世の中の為みたいな気がしてきたわ」


一転、極寒の空気すら感じさせる無表情を顔に張り付けた鈴は身体を起こした時、第3者の存在に気付いた。

屋上の入口に黒のポニーテールが僅かに見え隠れしている。一夏の言っていたその相手が誰なのか、不意に鈴は悟った。


「そう、そうなの。彼女がそうなんだ」

「鈴?」

「ねえ一夏。確かに今のアンタは殺してやりたいぐらい憎い存在だけどね――――――それでもまだ未練もあるの。あたしは、かなり諦めが悪い性質だから」


またも放つ気配は変わり、次に浮かんだのは強烈な負の感情が入り混じった泣き顔でも、極まり過ぎて冷え切ってしまった激情を覆い隠す無表情の仮面でもなく。


「あたしはね、代表候補生の地位もクラス代表の地位も自分の力でここまで奪い取ってきたの。だから、アンタの事も自分の力で奪い取ってやるわ」


一夏のよく知る、強気で勝気な猫みたいな笑顔だった。












「今度のクラス対抗戦、あたしと勝負してあたしが勝ったらアンタはアタシの恋人になってもらうわ!!」

















==========================================================

恋愛描写マジムズい。




呼んで下さった方々、様々なご意見ありがとうございます。
厳しいご意見も多々ありますが、最初の前書きの通り細かい事は(AA略的な寛大な気持ちでゲテモノ的な何かのつもりで呼んでもらえると非常にありがたいです。

にしても指摘される前から自分で理解してたつもりですが、やっぱり自分の妄想というか書く作品書く作品がどうにも捻くれてるというか反社会的というか。
これで筆力があれば、またそれはそれでもっと読んでくれる人達を楽しませれるんでしょうけどねえ・・・・・・鬱だ。




[27133] 1-10:決闘者×乱入者×突入者
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/22 15:49
≪1組代表:織斑一夏VS2組代表:鳳鈴音≫

―――――クラス代表戦の第1試合は、まるで誂えたかのような因縁の組み合わせだった。











「ようやくこの時が来たわ・・・・・・今度は、約束忘れてないでしょうね一夏」

「ああ、今度はちゃんと覚えてるさ」


鈴の専用機<甲龍>は黒と紫というカラーリングの機体で、ミシェルのISとはまた別の意味で物々しいというか――――悪役っぽい機体だな、などと口に出したら間違いなく鈴が怒るであろう感想を一夏は抱く。

彼女の得物は1対の巨大な刀身の青龍刀―刀身部分だけで鈴の上半身よりも大きい―それ以外にはそれらしい得物は見当たらないが油断は出来ない。スパイク付きのアンロックユニットに仕込みがありそうな予感。


「女だからって手加減は無しよ。こっちも本気の本気でやらせてもらうからね!」

「分かってるよ、それに手加減なんて出来そうにないしな」


屋上での約束から数週間、それからも度々鈴とは顔を合わせたり見かけたりしている内に分かった事がある。

鈴は強い。普段の立ち振る舞いからも感じ取れる。転校するまで鈴は特に格闘技と化していなかったのは間違いないから、中国に渡ってからの1年余りでそれだけの技量を身に付けた事になる。

青龍刀を振り回す手さばきからもかなりの技量の持ち主だと読み取れた。幾らISの筋力補助があるとはいえ、あれだけ巨大な得物を片手ずつ淀みなく扱うのは難しい筈だ。


「(だからって―――――ここで負けちゃカッコつかねぇもんな)」


箒に自分から言ってしまったのだ。流石に此処で違えてしまえば、一夏としては男が廃る・・・・・・ああそこ、今更だろとか言ってやらない。

だから悪い、鈴。最後にそう詫びてから、<雪片弐型>を握り直し中段に構えた。


「へぇ、良い顔するじゃない」


言葉通り一夏が本気をだして自分と戦うつもりである事を鈴は感じ取った。

あんな顔をした一夏を鈴は何度か見た事がある。例えば剣道の試合の時。例えば鈴が中国人である事をからかいのネタにしようとしたクラスメイトから庇ってくれた時。例えば中学時代トラブルに巻き込まれた友達を助ける為にたった1人で十数人の不良グループを叩きのめした時。

そんな、彼に本気を出させるぐらい思われているあの少女・・・・・・篠ノ之箒の事が、鈴は無性に羨ましくて、憎たらしくて。

自分だって彼女に負けないぐらい一夏の事が好きで堪らないのに、一夏は――――――


「(ああもう、今は戦いに集中集中!!)」


とにかくこの戦いに勝っていまえば一夏は自分の物・・・・・・本当はそんな景品みたいな扱いしたくないけれど、それは一夏の自業自得。うん、そういう事にしておこう。


『それでは両者、試合を開始して下さい』


試合開始のブザーが鳴り響いた瞬間、2人は同時に飛び出していた。


「くっ!」


両者とも接近戦を挑んだは良いが、鈴の方は一夏の動きが予想以上に速い事と一夏の取った構えに気付いて、咄嗟に青龍刀をかざす。

十中八九鈴は何か隠し玉を持っている。ならそれを出す前に倒せばいい、と一夏は考えた。彼女には悪いがこれもまた兵法の1つであり、『本気』である以上出し惜しみする必要もない。

身を低くし、左手は峰に添え刀を握る右手は弓引くように構え、上半身を大きく右へと捻り、そして吶喊。

裂帛の気合と共に思い切り<雪片弐型>を突き出した。

切っ先は鈴が盾代わりにした青龍刀の『面』の部分に突き刺さる。両方の手が衝撃で痺れ、しかしそれでも一夏は後部スラスター翼を噴かして切っ先を押し込み、鈴は青龍刀を傾けてベクトルを斜め上へと方向転換させた。

結果、2人は交差し合ってからそれぞれ相手に向き直り、開始前とは位置が入れ替わる形になる。

一夏の全力の突きを受け止めた青龍刀の刀身には、ハッキリと見て取れる大きさの亀裂が刻まれていた。


「剣持つと馬鹿みたいに強いのは相変わらずみたいね!」

「まだまだ、こんなもんじゃねぇさ!」

「今度はこっちの番よ!」


両肩のアンロックユニット展開―――――<龍咆>という名の不可視の砲撃が連続で放たれる。














「一夏・・・・・・」


ピットでミシェルや千冬達と共に試合をモニターで見ていた箒は心配そうにそう呟く。

画面の中では一夏が何度も回避機動を取り続けていた。鈴のISから放たれる謎の攻撃が度々一夏の近くで炸裂している。

勿論箒は一夏を応援していた。授業前にもかかわらず注目を浴びながら教室から逃げ出した2人を追いかけた彼女もまた、あの屋上での会話をきいていたのだ。

鈴は自分と一緒だ。ずっと一夏を見ていて、ずっと一夏の傍に居て、ずっと一夏を想い続けて、そして一夏と望まぬ別れに引き裂かれて。

本来一夏が勝負に負けたら鈴の物になる、という賭けは箒は断固拒否し鈴に詰め寄ってもおかしくない事柄である筈なのだが、何故か今日この日まで箒はそうしなかった。

だって、彼女は自分なのだ。もし自分が鈴の立場で、今の箒の立場に鈴が居たのなら、箒も彼女と同じ事をしたのかもしれない。

いや、もっと酷い事になっていたかもしれないなと自分でそう思ってしまう。愛しさ余って憎さ百倍、もしかして鈴のみならず一夏に危害を加えようとしたかも・・・・・・


「(それに彼女もまた、一夏の鈍さに散々振り回されてきたみたいだからな・・・・・・)」


一種の連帯感?というか、同じ苦労を分かち合ってきた者同士、話も合いそうな気がする。

そう、例えば初対面の時は散々一夏を罵倒して馬鹿にしていたくせに、いつの間にか何食わぬ顔で自分の隣で虎視眈々と一夏を狙いつつ応援に加わっているイギリスの代表候補生とか。




「しかし何だあの攻撃は・・・?」

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す、<ブルー・ティアーズ>と同じ第3世代型兵器ですわ」

「『衝撃砲』で一番厄介な所は砲弾も砲身も肉眼で見えないから、事前に弾道や軌跡が把握しづらい点だね。どうも射角事態もほぼ制限がなさそうだし」


シャルロットの言葉通り、モニターの中では鈴の背後を取ったにもかかわらず、刃が届く前に吹き飛ばされる一夏の姿が。


「やっぱり一夏の<白式>の最大の弱点は射撃兵装が存在しない事だね。拡張領域も一杯だから後付武装でも補えないし、一夏自身の技量が凄くても限界があるよ」

「何を世迷い事を言っているデュノア妻。ならば刀1本で十分なほどの技量を身に付ければ良いまでの事。それが出来ないという事は一夏がまだまだ未熟な証だ」

「さ、流石文字通り刀1本で世界最強になった人の言う事は違いますね、あはははは・・・・・・」


引き攣り笑いを貼りつけた山田先生の声はとても乾いていた。そういえばそうでしたね貴女、とこの場に居る全員同じ感想を浮かべる。実際にそこまで上り詰めた最強の乙女の言葉はやはり桁が違った。




―――――それに最初に気付いたのはミシェルだった。


「む?・・・・・・・どうやら衝撃砲の攻撃を見切り始めたみたいだぞ」

「ええっ、本当ですか!?」


右へ左へ上へ下へ前へ後ろへ。傍目にはひょいひょいと動いているだけにも見えるが、その度に一夏の後方で起こる爆発が確かに衝撃砲の攻撃を悉く回避しだしたのを示している。

着実に見えない砲撃を避けて避けて避けて鈴の懐に接近。打ち込まれる<雪片弐型>の連撃。それを鈴は両手の青龍刀で弾く、受け流す、受け止める。

しかし技量と経験が違った。ISに触れて1ヶ月程度しか経験が無い一夏だが、それを補って余る古流剣術の技術と不良相手の対人戦の経験がその身に刻まれているのだ。

対して鈴は1年で代表候補生にまで上り詰めるだけの才能とそれに比例するISの操縦経験はあっても、対人戦の経験と密度は一夏に及ばない。

故に、少しずつだが鈴は押されていく。得物の関係で手数が多い分シールド無効化攻撃を行わせる余裕は与えずに済んでいるが、このままでは時間の問題だ。


『ああもう、うっとおしい!』


斬撃を受け止めた衝撃で後退してみせた鈴が再度<龍咆>を展開した。一夏は鈴を見据えたまま真っ直ぐ突っ込み、そこへ鈴が砲撃を撃ち込む。

―――その瞬間、一夏はほぼ直角に真横へと方向転換。一夏が直前まで居た軌道を通り過ぎていく衝撃波。

これで確信出来た。一夏は完全に『龍咆』の弾道と発射のタイミングすら見切っている。


「凄い、一体どうやって見えない攻撃を見切っているんでしょう?」

「大体はオルコットと戦った時と同じ要領だろうな。相手の些細な仕草まで決して見逃さず、攻撃の際僅かに緊張するその瞬間の気配を読み取っているんだ」

「では見えない攻撃の軌道まで把握出来ているのはどういう原理なのですか?」

「一夏の機動をよく見てみろ」


砲撃をかいくぐっては一夏が斬りつけ、何とか猛攻を凌いだ鈴が距離を置いて仕切り直す。

時折、一夏の攻撃を完全に受け流せなかった鈴がバランスを崩し、一夏が鈴の横や背後に回り込む形になる。一見チャンスの様に思えるが、一夏は敢えて見逃がすかのように精々一撃二撃加えては彼の方から距離を取って鈴の反撃から逃れてから、再度鈴と正面から相対し直す。

よく見てみれば、度々その一連の展開が繰り返されているのが分かった。


「常に鳳さんの視認範囲内に敢えて位置どる様にしている?」

「そういう事だ。恐らく鳳の<龍咆>は網膜の動きを読み取って照準を行う代物の様だが、ISの全方位視覚接続を用いれば一々目を向けずとも背後だろうが攻撃を行う事が可能だ。
――――だが織斑はその照準システムを逆手に取って、逆に鳳が何処を狙っているのかを先読みしている。相手の『目』を見て、な」

「・・・・・・つまり相手の肉眼の視界内に身を置き続ける事でワザと自分を目で追い続けるように仕向けて、尚且つ相手の目の動きを追い続ける事で衝撃砲の照準を先読みしていると?」

「正解だデュノア夫。照準の方法目の動きと照準が一致するからな――――どうやら鳳には攻撃を見切る以外にも別の効果を与えているように思えるが」


よくよく見てみると、鈴の顔には不利な状況への焦り以外にも照れてるような様子が浮かんでいる気がする。


『ど、どんだけ乙女の顔をジロジロ見つめるつもりよ!この馬鹿!朴念仁!女ったらし!こっち見んな!!』

『悪いがそいつは聞けないね!つか悪かったな馬鹿で!』

『うっさい!そ、そんな見つめられると落ち着かないじゃない!』

「ああなるほど、そういう事ですか」


目に見える位鈴の顔に血の気が集まっている理由をセシリアは悟る。だって自分も似たような事があったし。

ぶっちゃけ見惚れそうになってしまっているのだ。想い人に凛々しい顔で穴が空く位熱い視線(セシリア&鈴視点)を送られてはそりゃ落ち着かないに決まっている。


「・・・・・・う、羨ましい」

「何か言った箒さん?」

「べ、別に何でもない!」


話している内容はどうにも甘酸っぱいが、試合の内容そのものはまさしく激戦と呼ぶに相応しい。

第2アリーナを割れるような歓声が包んでいた。観客の生徒達からしてみれば不可視の攻撃を悉く避けては刀1本で優位に攻め立てる一夏の技量も凄まじいし、それを凌ぎ続ける鈴の腕前も代表候補生に相応しいと認めざるを得なかった。

会場のテンションもたけなわ、鈴は一夏の動きに大分慣れてきたし、一夏の方も鈴の戦い方や癖をかなりのレベルで読めるようになってきている。


『――――そろそろ、決めるぞ』

『上等!』


一夏は<雪片弐型>を下段に構え、鈴は連結した青龍刀を手元で優雅に廻し続けて機動や間合いを読ませない。

急にアリーナを静寂が包んだ。遂に決着の時、一騎打ちの時。無粋な雑音は不要。会場内に居る全ての観客が息を呑む。ミシェル達の居るピットにもまた重苦しい沈黙が漂う。

――――誰かの手から、売店で売られていた飲み物の紙コップが滑り落ちた。

普通なら、少し離れれば殆ど聞こえない程度の軽い音。にもかかわらずそれは西部劇で決闘の合図に放り投げられたコインと同じ役割を果たす。

ステージの中央で相対していた一夏と鈴が同時に動く。<零落白夜>起動。


『りぃぃぃぃぃいいいいいんっ!!!』

『いいいいいぃぃぃぃぃちかぁぁぁぁあああああああああああっ!!!』








一太刀の元に決着が約束された果たし合いは。

―――――突如アリーナの遮断シールドを貫きステージに爆炎を生み出した一条の光弾によって中断の憂き目となった。








<白式>のハイパーセンサーが警告するよりも早く、一夏の感覚は煙の中から放たれる冷たく無機質で、しかしどこか薄い殺気を鋭敏に感じ取っていた。

ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。


「一夏、早くピットに戻って!すぐに学園の先生達がやって来て事態の収拾に当たるわ!私達は邪魔になるだけだから速くこの場から離れるのよ!」


敵の正体は不明。異常事態につき不確定要素多数。闇雲に侵入者に立ち向かうよりは、鈴の意見がこの場合は正しいだろう。


「分かった、早く戻ろ――――危ねぇ!!」


さっきから感じる人間味の薄いさっきの矛先が鈴に向いたと感じるや否や一夏は鈴に飛びついた。直後、鈴が浮かんでいた空間を熱線が通り過ぎる。

一夏の腕の中に収められた鈴はIS越し故悲しい事に彼の鍛えられた肉体の感触やら体温やらは味わえなかったものの、本気モードの一夏の横顔を吐息がかかるぐらいの近さで拝む事になって胸の鼓動急上昇。

すぐに持ち前の負けん気が頭をもたげて、弱弱しくも抗議の声を上げる。


「ちょ、ちょっと馬鹿、離しなさいよ!」

「緊急事態だ!我慢しろ!」

「あうぅ」


一喝されて即座に沈黙。一夏の言う通りだしまあ嫌ではないし。うん、我慢しなきゃ我慢。

とりあえず離れないよう鈴からも自分の身体を一夏の胸に押し付けておいた。ISスーツ越しにピッタリ浮き上がる厚くはないが逞しさを感じさせる胸の隆起が顔に当たる。これも不可抗力。不可抗力ったら不可抗力。


「あのビーム兵器、セシリアのISよりも出力は上だな」


解析結果を独りごちる一夏――――――『敵』が姿を現す。

ミシェルのISと同じ全身装甲型ではあったが、まさしく兵器然とした武骨さ満点のミシェルのISとはまだ別方向に異形の機体であった。

全身にスラスターが搭載され、腕はまるでテナガザル宜しく不釣り合いなほど長い。頭部と両腕部に複数のセンサーレンズ並びにビーム砲口。


「お前、何者だよ―――――つっても答えてくれるわけねぇよな」


一夏の中では乱入してきた機体はとっくの昔に『敵』と認定されていた。アリーナの遮断シールドを突破してビームをこちら目がけて問答無用でぶっ放してくる相手が友好的な存在な訳あるか。


『織斑君!鳳さん!今すぐアリーナから脱出して下さい!すぐに先生達がISで制圧に行きます』

「そうは言いますけどね山田先生。どうやら逃げ場は塞がれたみたいなんですけど。ほらアレ」

『――――って、ええ!?遮断シールドがレベル4に設定!?しかも扉が全てロックされてる!?』

「いつの間にかピットの隔壁も閉じてるじゃない!」

「こうなったら先生達が来るまで俺達で食い止めます。いいな、鈴」

「え、ええ。それからさ、動けないからそろそろ話して欲しいんだけど・・・・・・」

「ああ、悪い」


ようやく鈴を開放する一夏だったが、当の鈴の方は自分で言っておきながらどこか名残惜しそうに一夏の胸から離れた。


『織斑君!?だ、ダメですよ!生徒さんにもしもの事があったら――――』

「こんな事になってる時点で今更ですって!それよりも、来るぞ鈴!」

「分かってる!向こうはやる気満々ね!」


突進してくる敵IS。闘牛士の様にそれを鮮やかに回避する一夏と鈴。

専用機コンビと侵入者の戦いが始まった。


















精鋭揃いの3年生達が遮断シールドの解除を試みていると千冬から教えられても、そう簡単に落ち着ける人間はこの場には居なかった。


「あの、先生。僕とミシェルだったらここからアリーナに突入できると思います」

「ほ、本当ですの!?」

「・・・・・・隔壁相手でも効果的な装備を俺もシャルロットもISに載せてある。それを使えば、恐らくはカタパルトを封鎖してる隔壁も突破可能だ」

「――――よし、なら行け」


千冬の決断は速かった。少しでも情報を集めようと機材に齧りついていた山田先生が驚くほどだ。


「織斑先生!?」

「知っての通り緊急事態だ。アリーナの遮断シールドを突破できるだけの火力を持った敵の矛先が観客席に向いてみろ。事態の即時収拾を行う為にも、少しでも人手が必要だ。専用機持ちならば尚更な」

「ではお2人共、すぐに参りましょう」

「ちょっと待てオルコット。何勝手にお前が指揮を取っている。デュノア夫、教師としての私の権限で3年の精鋭が突入してくるまではお前が2人の指揮を取れ。軍隊経験もあるお前なら少しは指揮官としての教育も受けているだろう?」

「了解・・・・・・行こう、時間が惜しい」

「分かってる!」

「い、言われなくとも!」


ふと、ミシェルはピットを離れる前にある事に気がついて眉を顰めたが、今は悠著な事をしてられないのですぐにシャルロットとセシリアの後を追いかけた。

全速力でカタパルトの元まで辿り着く。相変わらず固く閉ざされたままで、微かに分厚い隔壁越しにステージで繰り広げられる戦闘音が届いてきていた。

カタパルトについた時点で3人とも各々のISを展開してある。


「で、お2人の策というのは?」

「これの事だよ」


ミシェルの右腕、シャルロットの左腕のシールドの表面装甲がパージされ、その下に隠されていたのはとびきり物騒な近接用兵装。

シャルロットが装備しているのは第二世代型最強と名高い69口径パイルバンカー<灰色の鱗殻(グレー・スケール)>。

またの名を『盾殺し(シールド・ピアース)』とも呼ばれる一撃必殺を体現してみせ、リボルバー機構の搭載で連続打撃も可能という近接戦用兵装の極北。

ミシェルの右腕の装備も一応パイルバンカーらしい。らしい、とハッキリしないのは、ミシェルのそれが<灰色の鱗殻>からかなりかけ離れたデザインの得物だったからだ。

大砲の様に太い砲口から僅かに鋭利な先端が覗く鉄杭は<灰色の鱗殻>のそれより一回り太く、パイルバンカーというよりもむしろ寸詰まりな大口径の腕部装着型射撃兵装に思えてくる。それにリボルバー機構と対を成すオートマチック機構を搭載しており、砲身に沿う形でそれだけで十分鈍器に使える巨大な長方形のマガジンが取り付けてあった。

新型の100口径電磁加速型徹甲爆裂射突型ブレード<ウルティマラティオ>。

その意は――――――『最後の切り札』。


「・・・・・・突入後は装甲の堅い俺が先頭、シャルロットが制圧射撃、セシリアは最後尾から支援射撃を頼む」

「「了解(ですわ)!」」

「・・・・・・シャルロット。打ち込む時は微妙にポイントをずらしながら撃ち込んで欲しい。一点に集中し過ぎると、突入できるだけの穴が開かない可能性がある」

「分かった。それじゃあ行くよ!」

「ああ・・・・・・まずは夫婦の協同作業といこう」


実は意外とミシェルさんは冗談好きなのかしら?とセシリアはそう思った。


「そおぉっ、れっ!!!」


一旦隔壁から距離を取ってから、一気に機体を加速させつつ大きく身体の捻りを最大限生かして見事な左ストレートをシャルロットが放つ。

拳が直撃する寸前、薬室内で火薬が撃発。砲声と呼ぶに相応しい炸裂音とほぼ同時、それを更に上回る衝撃音が空間に響き渡った。


「まだまだ行くよぉっ!!!」


更に2発、3発。弾装内の弾を全弾使い切るまで殴る。殴る。殴る。建物の壁の繋ぎ目などが歪み緩むかと思えるほどの振動。一撃ごとに隔壁が削れ、罅が走り、脆くなっていく。

装填分が弾切れを起こしシャルロットが離れる。細いながらもかなりの範囲で亀裂が生じ、叩き込まれた部分部分がハッキリとひしゃげていた。

さあ、次はミシェルの番だ。砲身内エネルギーチャージ完了。安全装置解除。信管作動確認。


「俺から離れていろ・・・・・・!」


ミシェルの警告に従い慌ててセシリアは数mほどミシェルと破壊されかけの隔壁から距離を取った。シャルロットの方は言わずもがなさっさと離脱済みである。

先程のシャルロット同様、加速をつけて叩き込まれる拳。ミシェルの場合は低い姿勢から振り被った拳を上から下へ打ち下ろすロシアンフックスタイルで、複数刻まれた打撃痕の中心部、最も亀裂の線が集束した部分へと躊躇い無くブチ込んだ。

<灰色の鱗殻>の衝撃が乗用車の衝突なら<ウルティマラティオ>のそれは10トントラックの特攻だった。

反動の大部分をISが自動的に相殺してもハッキリと右腕に伝わる隔壁を砕く感触。杭そのものは隔壁を貫いても、ステージに突入できるような穴はまだ空かない。




―――――ここからが本番だ。




「――――かっ飛べ」


次の瞬間、鉄杭内部の指向性爆薬が、隔壁内部へとその威力を一点集中されて解放する。

脆くなっていた隔壁がステージ側目がけ文字通り爆発した。エネルギーの一部はピット側へも向かい、そちら側へも破片混じりの爆風が駆け抜ける。その瞬間思わずセシリアが悲鳴を漏らしてしまった程だ。

秒速キロメートルクラスに加速された巨大な鉄杭と、装甲やシールドバリアーを突破してから炸裂する指向性爆薬のコンボ。それはIS相手ならば、食らえば間違いなく一撃で絶対防御発動どころか強制解除にすら追いこむ威力を誇る。

使用済みの前半分が消失した鉄杭が機関部の後ろから弾き出され、マガジンから次弾が装填された。

再装填に縮めようの無い数秒がかかるが、実質弾の数だけ敵ISを撃破出来る、とまで言われているその威力こそ、『最後の切り札』の呼び名に相応しい。



「・・・・・・空いたぞ」

「こ、ここまで派手だと分かってるのでしたらもう一言注意してくれても良かったのではなくて!?」

「今はそれよりも!」


最初のミシェルの指示通り、隔壁に生じた直径数mの大穴からステージに飛び出す。

<シールド・オブ・アイギス>を2枚とも前面に展開したミシェルが先頭、両腕にアサルトライフルを構えたシャルロットが続き、その後ろに<スターライトmkⅢ>を両手で保持したセシリアが遅れて突入。

3人の視界に飛び込んできた光景は、























「―――――――――鈴・・・!!」


鈴に敵のビーム砲撃が直撃する、その瞬間だった。






[27133] 1-11:決着/少女達の答え
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/22 23:32




――――敵と数合やりあって気付いた事がある




「なぁ鈴。もしかしてアイツ、機械なんじゃないか?」

「何言ってんの、ISは機械じゃないの」

「そういうんじゃなくてさ、あれってもしかして人が乗ってないんじゃないか?」


何となくだが確信秘めつつ一夏は告げた。


「・・・・・・どうしてそう思うの?」

「殺気っつーか、気配が薄過ぎる。自慢じゃねーけどそれなりに気配とかには敏感なんだよ俺」

「・・・・・・その割には屋上じゃ気付いてなかったみたいだけど(ボソ)」

「何か言ったか?」

「いーえ別に。でも――――無人機なんてありえない。ISは人が乗らないと絶対に動かないそういう物だもの」

「それでも考慮はしておいた方がいいと思うぞ。あらゆる可能性を考慮すべきだし、それに・・・・・・」

「それに?」

「・・・・・・人が乗ってないなら容赦無く斬れる」


一夏の気配がより張りつめ、鋭く研ぎ澄まされるのをハイパーセンサーが無くとも鈴は感じ取れた。

今の一夏はまさに本気の本気モードだ。好きな異性だと分かっていても、一夏の放つ険呑な空気は鈴の喉を乾かせ、背筋に冷や汗を流させるほど冷たく重い。

それでも意見の1つは言えてしまえる鈴の胆力も中々であった。


「で、でも容赦無くやれてもその攻撃が当たらなきゃ意味無いじゃない」


遠距離では腕部のビーム砲。接近すれば風車宜しく装甲に覆われた長い腕を振り回して体当たり。おまけにその状態からもビームを放ってくるのだから厄介極まりない。流石の一夏もそんな出鱈目な機動から放たれるビームは斬り払えないでいる。

全身にスラスターを備えた見かけどおり、図体の割に機動力も高く鈴の<龍咆>も殆ど当たらずじまい。仮に当たっても強固なシールドバリアーに阻まれ本体には届かずと踏んだり蹴ったりだ。

だが逆に言えばそれだけだった。反応速度は高いが、攻撃パターンが単調過ぎるのである。

千冬姉や兄弟子には遠く及ばない。慣れてきた今ならば、何とかなりそうな相手に思えてきた。

シールドエネルギーもちょっとだけだが余裕はある。一夏は<零落白夜>の使用を最低限に抑えていたし、鈴の<甲龍>は燃費重視だ。それでも2人のシールドエネルギーの残量は今や半分前後。


「手はある。成功すれば、最低でも腕1本は持ってけると思う」

「そう、ならやりましょう。どうしたらいい?」


こういうのを『以心伝心』と呼ぶに違いない。鈴は一々議論もしないまま一夏の策に乗ってくれた。

ありがたくて、頼もしくて・・・・・・こんな少女を自分は泣かせたのかと胸中に沸いた自己嫌悪の感情を今は押さえ込む。


「衝撃砲を撃ちまくってアイツの注意を引いて欲しい。その間に俺が突っ込む。アイツが機械なんだったら、またワンパターンに突っ込んでくる筈だ。そこを狙う」

「OK。それじゃあ早速いくわよ!」


鈴が衝撃砲を乱射。大雑把な照準だったが、回避行動を取らせればそれで構わない。注意が鈴からの攻撃に逸れたと見るや一夏は突撃する。

その行動を探知した敵は身体ごとセンサーレンズを一夏の方に向けると、スラスターの出力を上げて自らも一夏目指して加速した。

敵の右腕が大きく引かれ、一夏の頭部めがけ解き放たれた瞬間。

<零落白夜>を起動した一夏は、その刃を真っ直ぐ天へ向けて立てながら<雪片弐型>を握る右手により一層力を込め、左手も鍔の部分をしっかりと押さえ固定した。

まず感じたのはシールドバリアーを切り裂く独特の感触。次いで試し切りで刃が骨に食い込んだ瞬間に似た硬質の手応え。


「(しまった!)」


手応えの意味を悟った瞬間、一夏は即座に自分の技量不足を悟った。

一夏が狙ったのは敵の前腕部からすぐ上の関節部分。シールドバリアーさえ無効化できれば後は<雪片弐型>の切れ味と敵の攻撃の遠心力で、比較的装甲が薄いであろう関節部を両断できると一夏は考えていた。

失敗した要因は、振り回される鉄拳の勢いが想像以上だった点と、押し当てる刃の角度が浅かったせいで両断する前に弾かれてしまった事。

<雪片弐型>が一夏の手から離れ、一夏自身もまた別方向へ撥ね飛ばされる。背中から後方の壁に激突し衝撃で広がる煙に姿が見えなくなった。そこからやや離れた地面に弾かれた<雪片弐型>が突き立つ。

鈴にはまるで地面に突き刺さった<雪片弐型>が、一夏の墓標にも見えてしまった。


「一夏ぁっ!?」

「生きてっぜ、何とかな・・・・・・」


開放回線で返ってきた一夏の口調はハッキリしていたが苦痛に歪んでいた。

敵の方はというと、一夏の目論みそのものは成功していた。右腕の関節部の半ば以上まで刃が食い込んだ上にそのまま腕を振り回したせいで、傷ついた部分が遠心力に耐え切れずそのまま裂けてダランとぶら下がっている。断面からは火花が飛び散り、あれではもう使い物になるまい。

だがまだ片腕が残っている。剣を拾いに行くまで、間に合うか?




「―――――っ、一夏ぁ!!!」


その時、アリーナ中に響き渡る大声。

衝撃で動きが鈍くよたつく身体を押して土煙の中から抜け出る一夏・・・・・・・・・現在の状況を理解した瞬間、その背筋が凍った。

ピットに居た筈の箒が息を切らせ、一夏が吹き飛ばされた側とは反対にある中継室でマイク片手で居る。その箒に、敵はセンサーレンズを向けてジッと見つめていたのだ。


「馬鹿野郎!!今すぐ逃げろ、箒!!!」

「えっ?」


呆けたのは一瞬――――その一瞬が命取り。

敵に残る左腕に備えられた砲口が、ゆっくりと中継室へと向けられる。一夏は身体の痛みも忘れて地面に刺さった<雪片弐型>に飛びついてから瞬時加速発動。


「間に合ってくれええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」


『一夏』は間に合わない。

無情にもビームが放たれる。驚愕の表情のまま凍りついていた箒へと真っ直ぐ向かう光条の様子が、何故かとてもとても遅く見えた。それでも、もう一夏には止められない。







だから、鈴が止める事にした。







「きゃあっ!!」


覚悟を決めるよりも先に身体が勝手に動いていた。遮断シールドの向こうの箒に背を向け、シールドバリアーに注ぐエネルギーを最大出力。

爆発。衝撃。絶対防御発動。鈴が覚えているのは目前で弾ける閃光が最後だった。一旦背中から遮断シールドに叩きつけられ、アンロックユニットがガリガリと壁に擦れる音を立てながら鈴の身体は落下した。

鈴、と思わず敵の手前で動きを止めてさえしてしまった一夏が絶叫するのを阻止するかのように、またも爆発がアリーナに轟く。ただし今度はピットからだ。ステージとピットを隔てる隔壁が内側から爆砕されていた。

硝煙の中から飛び出してきたのは黒と赤、次いでオレンジ、最後に蒼の機体。

敵は新たな乱入者達にセンサーレンズを向け、最も近くに居る一夏を何故か無視して突入してきたミシェル達へと攻撃を仕掛ける。


「・・・・・・っ!バリアーは破壊した!今ならどんな攻撃も通る!やっちまえ、皆!!」

「心得た・・・・・・!」


答えるミシェルの重々しい声が何とも頼もしい。

瞬時に距離を詰めた敵は戦闘に立つミシェルへと突き進み、爆発的な加速を乗せた左腕を振り回す。直撃すれば装甲車すらも粉砕しかねない一撃。

――――その剛腕がミシェルに触れる事はありえない。<ラファール・レクイエム>が誇る全身装甲のはるか手前で、敵は空中に縫い止められていた。ミシェルと敵の間には宙に浮かぶ重厚な1対の盾。

<シールド・オブ・アイギス>のAICに動きを封じられた敵はまさしく良い的であった。2枚の盾の間から砲身が突き出される。

それは<ラファール・レクイエム>の腰部に搭載された折り畳み式ビーム砲<アグニ>の砲口だ。


「・・・・・・食らえ」


2条の光線が敵の両腕を根元から消滅させた。遮断シールドを貫く敵程ではなくても機体から直接エネルギーを供給される<アグニ>の威力もかなりの物だ。

今度こそ両肩ごと吹き飛ばされた腕部がビームの余波で爆発を起こす。まるでその爆風を逆に利用するかのように爆風に流される事で、AICの効果範囲から敵は逃れ、距離を置こうとする。


「逃がしませんわよ!」


そこへセシリアが動く。<ブルー・ティアーズ>からビットを射出。両腕をもがれた胴体や両脚部を同時にレーザーが撃ち抜き、更に破壊する。

それでも敵はまだ活動し続けていた。攻撃的な勢いでセンサーレンズを明滅させて生き残っているスラスターを使って、この場から逃げ出そうとしている風にも見えた。

よろしい。ならそれすらも出来なくなるぐらい破壊するまでだ。


「これで終わりだよ!」


盾役のミシェルの頭上を飛び越え、得物に飛びかかる豹の如くシャルロット。

その左手には新たに炸薬の装填を完了した<灰色の鱗殻>。




反対側から先端が飛び出すほどの勢いで胴体中心部に鉄杭をぶち込まれる段になって、ようやく敵は活動を停止する。


「鈴・・・りいぃぃぃん!」


揃いも揃って撃墜された鈴の元へ駆けつける中、ミシェルはハイパーセンサーを広域索敵に設定して敵の増援が無いか警戒していた。


「・・・・・・む?」


雲の中に隠れていないか探っていると、ハイパーセンサーに補正された視力が雲の中に見え隠れする物体を発見・・・・・・だがレーダーそのものには引っ掛かっていない。ステルスか?

やがて未確認飛行物体は遠く彼方へ飛び去ってしまった。それを黙って見送るミシェルの方は、今自分が発見した物体の正体が理解できなくて、空を見上げたまま固まっていた。

何故なら彼が目撃したのは、




「・・・・・・・・・・・・人参?」






















唐突に目を覚ました鈴は弾かれるようにベッドの上で身体を起こした。

それから全身に走った筋肉痛にひとしきり苦しんでから、自分が敵の放ったビームに自ら突っ込んだ事を思い出す。よく生きてたわね私。


「良かった、目が覚めたか」


女の声がすぐ隣でした。例の一夏のファースト幼馴染、篠ノ之箒がベッドの傍らでパイプ椅子に腰を下ろしている事に今更ながら気付く。

――――まず最初に顔を見たかった相手ではなかった。


「一夏もついさっきまで此処に居たが、今は織斑教諭に呼び出されてこの場を離れている。すぐに戻ってくるだろう」

「・・・・・・顔に出てた?」

「何となくだがな。多分、私も同じ立場なら同じ事を考えたかもしれん」


そこまで言ってからおもむろに箒は立ち上がると、つむじが見える位深く頭を下げた。


「すまなかった。私の短慮な行動のせいであのような危険な真似をさせてしまった事を、詫びさせてほしい」

「あー、もう終わった事なんだし、別にそこまで気にしなくていいわよ。あたしだって身体が勝手に動いただけだし、絶対防御のお陰でこうして無事なんだから」

「それでも、すまなかったっ・・・・・・・!」


このまま土下座まで敢行しかねない位恥じ入った様子の箒の姿に、鈴は溜息を漏らしてしまう。

そりゃのこのこ自分から危険な場所に飛び込んできた事にはもう一言二言言ってやりたいけれど、必要以上にネチネチ攻め立てるような陰湿な真似は鈴は嫌いなのだ。

それに・・・・・・もしあの時ああして庇わず彼女に何かあったのなら、一夏はとてもとても嘆き悲しむだろうから。

彼のそんな姿は見たくなかった。それが箒を庇った本当の理由。


「もう、頭上げたらどう?当事者であるあたしが言ってるんだからそれで話は終わり!良いわね?」

「・・・・・・分かった」


口ではそう言いつつも顔は罪悪感で一杯一杯な様子である。

何時までも箒にそんな辛気臭い顔をされてもつまらなかった鈴は、ふと目の前の少女がどういう立場の人間なのか思い出す。

今保健室には鈴と箒以外誰も居ない。いい機会だ。これまで箒と2人きりになった事はなかった。


「あのさあ、篠ノ之さん」

「箒で構わない」

「んじゃ私の事も鈴って呼んで。でさ、アンタも一夏が好きって事で良いのよね?」


返答は湯気まで漂う勢いでの顔の紅潮。


「な、な、なななななななっ!?」

「そこまで慌てなくてもいいじゃない。傍から見てるとバレバレなんだから」

「あうあうあうあうあう・・・・・・」


どうやら灰色の脳細胞が熱暴走を起こして緊急停止状態の様だ。復旧までしばし待つ。


「ゴホン、んっ――――そうだ、私は一夏の事が好きだ。愛している、と言い換えてもよい」


夕日を浴びてもそれと分かる規模の頬の赤みと熱は取れないままだったが、それでも箒はしっかりと自分の本心を鈴に表明してみせた。

鈴がどれだけ一夏に強い想いを抱いていたのかを屋上で覗き見てしまった以上、こうして本音で向き合わなければそれは鈴への侮辱も同然だ。

箒の告白に鈴は一瞬腰から下に掛けられた毛布を強く握りしめたが、すぐに手を緩めて乾いた笑みを浮かべる。


「あーあ、やっぱり一夏が言ってたのはアンタの事だったのね」

「一夏が?」

「あれ、屋上で聞いてたんじゃないの?」

「あの時は鈴の声が大きかったからそっちは殆ど聞き取れたが、一夏の声の方は距離があって大して聞き取れなくて、それで・・・・・・」

「ふーん。あの時ね、一夏こう言ってたのよ。『自分の方からアイツに応えようって決めたんだ』って」

「そうか」


目尻が下がって唇が緩むのを堪え切れない。それからすぐに鈴の事を思い出して「す、すまん」と謝罪した。

鈴は頭を振る。


「この事でもう謝ったりしないで――――情けなくなっちゃうから」

「鈴・・・・・・」

「こういうのって一夏はとことん鈍いし鍛練バカだから、まだ大丈夫だと思ったんだけどなぁ。これならもっとさっさとストレートに告白しておけば・・・・・・でもそれでもあの馬鹿だったら気付かなかったかもしれないわね」


後半の呟きには箒も同意せざるえない。一夏なら本当にやらかしかねなかった。


「試合も中断になっちゃったし、これで約束も無効よね――――」

「・・・・・・なあ、鈴」


俯いていた鈴が顔を上げると、とても真面目な表情の箒と目が合った。




「――――――――提案があるのだが」










箒の申し出に鈴の頭にも怒りと羞恥以外の理由で血の気が集まった。鈴からしてみれば本当に突拍子も無い内容だったからだ。


「あ、アンタはそれでいいの?それで満足なの!?」

「これで良いのだ。一夏の事だ、鈴の自身への想いを分かっていながらこれまでと同じ通り振る舞えるほど一夏は器用ではない。アイツもまた罪悪感に苦しむだろう、そのような姿は見たくない。鈴には借りがあるし、それに」

「それに?」

「・・・・・・もし立場が違えば、私が鈴の立場だったかもしれないから、鈴の気持ちは痛い程理解出来る。そちらからしてみれば向けて欲しくない同情でしかないかもしれないが、それでも放っておけないんだ。鈴は、もう1人の私なのだから」


そこまで言ってから、箒は今度は疲れが滲み出る表情に切り替えた。


「それにだ。一夏の事だ、私とつ、つ、付き合う事になっても所構わず他の女を引き寄せるに違いないだろう」

「・・・・・・全くもって否定できないわね」


溜息がシンクロ。何せ2人共腐るほどそんな展開を見てきたのだから。有り得過ぎて困る。非常に困る。

ちなみに最近では一夏を一方的に侮辱していた筈のイギリスの某代表候補生が良い例だ。


「鈴も一夏をずっと見ていたのだから分かるだろう?恐らくは私1人だけでは全てのそのような女狐達を追い払えないだろう。だから――――」

「だから私も巻き込もうってワケ?」

「・・・・・・正直に言ってしまうとそういう事だ。そちらも本気で心の底から一夏の事を好いているのをこの目で確かめたからこそ、頼みたい。この通りだ」


再び箒に頭を下げられ、しばし黙考する。打算塗れなのは提案した箒自身よく理解している。

実の所、箒の申し出た取引は鈴からしてみれば大歓迎も良い所だった。箒の言ってる事も痛いほど理解出来、同意も出来るし、自分だってポッと出に一夏が誘惑されるなんて真っ平御免であった。

それに―――――自分も一夏の寵愛を受けれると言われてしまえば、突っぱねれる筈もない。


「でもアンタが良くたって一夏がそんなの認めてくれるかしら?」

「私達の愛する男がその程度の器量だと思うか?」


質問に質問で返し、2人の少女が睨み合う。






―――――そしてどちらともなくニヤリと笑った。






「乗ったわ、その提案!でも手加減はしないからね!」

「望む所だ!」


掌と掌を軽く叩きつけ合うパァン!という音が保健室に響く。

そのタイミングを見計らっていたかのように保健室の扉が開いた。噂すれば影、たった今まで話題にされていた一夏当人の登場である。


「鈴!目が覚めたのか?大丈夫か?」

「へーきへーき。<甲龍>が絶対防御を発動させてくれたし、ピンピンしてるわよ」

「そっか・・・・・・本当に、鈴が無事で良かった」


安堵した様子で嬉しさと儚さが同居した心からの微笑は、恋する乙女には刺激的過ぎた。さっきまであれやこれやとそっち方面の会話を繰り広げていたから尚更に。

口籠りながらまた顔を赤くした鈴とは対照的に、そんな眩しい笑顔を向けられた鈴に箒は自分の立場を忘れて嫉妬してしまう。羨ましいのう妬ましいのう。


「箒、お願いだから次からあんな真似しないでくれよ。鈴まで危険に晒したんだし、俺だって心臓が止まるかと思ったんだぞ」

「う、わ、分かっている。先程も自分の浅はかな行動について鈴に謝罪していたところだ」

「そーそー、箒も謝ってくれたし、もう気にしてないわよ」

「・・・・・・お前ら、そんなに仲良かったっけ?」


何かあからさまに2人の距離が思いっきり近づいてる気がする。まあ女の子ってそういうもんなのかもな、と特に深く考えない辺りが一夏が一夏である所以であった。

つまり女絡みにはとことん鈍い。最近は主に伴侶持ちの男友達のアドバイスによって改善の兆しがあれど、それで簡単に治ってりゃここまで箒も鈴も苦労しちゃいないのである。


「ところで一夏、あの時の約束についてなんだけど」

「お、おう」


チラリと箒の方を見た。一夏視点では箒は屋上での鈴との賭けの事を知らない筈だ。彼女の居る前でその話題を口に出したら拙い。

しかし箒は一夏の視線に気づくと、


「安心しろ一夏。屋上での事については私も知っている」

「そうなのか!?でも、俺は・・・・・・」

「それでだな、試合も無効になってしまった事だし、私も鈴と共にお前との関係について相談したのだ。その結果――――」


いきなり立ち上がった箒が一夏をベッドの方へ突き飛ばした。不意を突かれて一夏はベッドの上に倒れ込む。鈴が寝ているの事に気付いて慌てて両手で身体を支えた。

結果、鈴に覆い被さる一歩手前で何とか身体を支える事が出来た。何故か悪戯っぽく笑っている鈴の顔との距離は10cmもない。


「何すんだよほうむぐっ」


一夏の抗議は鈴の方から押し当てられた唇に呑みこまれた。

唇を押しつけるだけのキスだが、いつの間にか鈴の両手が一夏の首に廻されていて中々離せない。そもそもセカンド幼馴染の突然の行動に、一夏の思考はフリーズ状態だ。そのくせに少女の唇の柔らかさと甘い匂いはとても強く感じてしまう

たっぷり10秒ほどかけてようやく鈴は唇を離した。息を止めていたのか少しだけ呼吸は荒く、顔の赤みが一層濃くなっている。


「・・・・・・り、りんむぅっ!?」


今度は箒にも唇を奪われた。

単なる唇だけのキスではなく、濃厚に舌を絡め合う過激なキス。箒の腕もしっかり一夏の身体に廻してあって、口腔内を蹂躙する箒の舌以外にも強く胸元に押し付けられる膨らみのお陰で一夏の脳はオーバーヒート。最早気絶しかねない勢いだ。

舌と舌にかかる銀色の橋を夕日に染めながら、鈴の横で一夏を押し倒す体勢から箒も離れる。その様子を一部始終見ていた鈴は何処か不満そうというか、羨ましげだった。


「あ、あたしもそうすれば良かった」

「ふふ、コツは要るが、1度したら癖になるぞ?」

「お、お、お前らいきなり何するんだよ!?」

「これが我らの答えだ。相談の結果、一夏には私と鈴、両方と付き合ってもらうぞ。もちろん男女の関係としてな」


どうしてそうなった。2人の顔を信じられない思いで交互に見るが、箒も鈴も微笑んでいても冗談のつもりではなさそうだ。


「それともあたし達じゃ不満?」

「そんな訳ねぇだろ!そりゃ2人共スッゲー可愛いし、俺の事をとても大事に想ってくれてるのは分かってるけど・・・・・・2人は、それで良いのか?」

「良いのだ、それで。私も、鈴も、お前の事を本気で何年間も想い続けてきたのは紛れもない事実なのだからな。こうすれば私も鈴もどちらかが泣かずに済む」

「それとも何?アタシ達2人じゃ不満ってワケ?」

「そ、そういう訳じゃ・・・・・・」

「ええい、それでも男か一夏!この私達が選んだ男なのだからずっとお前への想いを抱き続けてくれた女子(おなご)の2人ぐらい受け入れてみせろ!」

「む、無茶苦茶だろそれ!」

「ならかくなる上は!」


箒がズボンに手をかけたので一夏は我に返って抵抗する。


「手伝え鈴!こうなれば私達の良さをコイツの身体に刻みこんでやるぞ!」

「い、いきなりそこまでやっちゃうの?」

「コイツも健全な男子である事はとっくに確認済みだ!これまでの私との睦み事を忘れたとは言わせんぞ一夏!」

「ちょ、ま、待て箒!鈴も手を離せ、場所考えろ場所を!」

「わ、私が居ない間にそんな事までしてたのアンタ達!」

「人の話を聞けー!」


わーわーぎゃーぎゃー






「―――――楽しそうですわねえ?わたくしも混ぜて頂けますこと?」






ピタリ、と3人は凍りついた。

なんだか扉の方から不穏な気配が。見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ(ry


「うふ、うふふふふふふふふふ」


笑うという行為は本来攻撃的な以下略。

激しく不吉なジャキッ!という音が聞こえたので仕方なく3人は扉の方を見る。

案の定、そこにはハイライトの消えた目で乾いた笑い声を漏らし続けるセシリアの姿。右腕には部分展開されたIS&愛用のレーザーライフルが。あ、こっち向いた。


「ホワイトサンダーですわー!」

「いやそれはキャラが違うだろう・・・・・・」


廊下側で隠れるように様子を窺っていたミシェルの呟きも届かない。

修羅場に一変した保険室内の様子を傍目にしつつ、シャルロットはミシェルにこう聞いた。


「つまり、箒と鳳さんで一夏を半分こって事?」

「・・・・・・そういう事なんだろうな」

「――――――うん、一夏死んじゃえばいいと思うよ?」




満面の笑みでそう言いきった妻の姿に、ミシェルは決して浮気はすまいと固く誓うのであった。

――――浮気する気もなければ出来るような顔じゃない、と思いつつ。











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もう一度言おう。どうしてこうなった?
という訳で幼馴染丼ルート突入。でも他のヒロイン(シャル除く)も積極的に絡ませたい所存です。


さて、ようやく書きたい話に入れる・・・



[27133] 2-1:ボーイズトーク/銀の嵐・序章
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/25 11:54


「――――で?」

「『で?』って、何がだよ?」

「とぼけるなって。鈴とファースト幼馴染の事だよ。人にわざわざ相談の電話までよこしときながら、ほったらかしか?」


中学時代からの友人である五反田弾の自室にお邪魔していた一夏は、アーケード仕様のコントローラーに手を置いたまま固まった。

画面の中で一夏の操るキャラが動きを止め、対照的にここぞとばかりに必殺コンボ発動の弾。一気に体力ゲージが底を尽いて弾の勝利。

勝ち誇った様子で隣の友人の方を向いた弾であったが、何故かさっきまでとは打って変わって冷や汗ダラダラ顔色も悪くして彫像と化した一夏の様子に彼もまた動きを止めた。


「い、一夏?すみません、コイツ向こう(学園)の方で何かあったんですか?」


赤い長髪にヘッドバンドと軽い見た目に似合わないかしこまった様子で振り向いた先には、2人の対戦を観戦しながらゲームの順番待ちをしていたミシェルの姿。

学園内唯一の男友達である一夏に日本の庶民の料理を御馳走云々と誘われてホイホイここまで付いてきたのである。


「・・・・・・別に同い年なんだ、敬語とかは必要ない」

「いやあでもやっぱミシェルさん有名人ですし。それにこう、丁寧に対応しなきゃオーラをひしひしと感じがしましてねハイ」


それって遠回しに頭文字にヤの付く自営業辺りの危険な人間に見えるって事じゃなかろうか。

本人には悪気は無さそうなので何も言わないでおくが、内心ちょっと傷つきつつ、


「・・・・・・本人達の話し合いの結果、2人同時に一夏と付き合う事になったそうだ」

「・・・・・・もう1回お願いします」

「・・・・・・篠ノ之と鳳の方から2人同時に一夏の恋人にしてもらう事で決着が付いた、と言った」

「マジですか」

「・・・・・・本気と書いてマジだ」


意外とネタの分かる人らしいがそれはともかく、今思いっきり聞き捨てならない事を聞かされましたよ?


「えーっと、ちなみにそのファースト幼馴染はどういった女の子で?」


引き攣った笑みでの弾の問いかけに、ミシェルはズボンのポケットから折り畳み式の携帯を取り出した。しかしミシェルの手が大きいものだから、まるでマッチ箱か100円ライター並みに小さく見えてくるから不思議である。

ポチポチとボタンを操作して画像データを表示。親指も手のサイズに比例して太いせいで他のボタンまで押しそうになるのはご愛嬌。

ミシェルが見せた携帯の画面には、弾の記憶より少しだけ成長した鈴以外にも金髪の少女、そして黒髪のポニーテールにキリッとした美貌の少女の画像が。


「・・・・・・この真ん中のが俺の嫁で、その右隣がその篠ノ之箒だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


錆ついたカラクリ人形の様にゆっくりと再び一夏の方を向く弾。

そして以前固まったままの一夏に飛びついてその首を掴みあげた。


「ええいこのモテスリムが!言うに事かいて二股かよ二股!それもスッゲェ美少女でおまけにその子も公認!?ふざけんのも大概にしろ!」

「うげっ、ちょ、テメェ弾そっちがふざけんな!いきなり何しやがる!?」

「うるさい!今は黙ってブッ飛ばさせろ!散々事ある毎に女子にフラグ立てちゃ悉くスルーどころかブッた斬ってたくせに、自分がモテてる事に気付いた途端二股だぁ!?鈴や篠ノ之って子が許しても俺が許さん!罰として俺にも学園の女の子紹介しろ!」

「最後のが本音だろ絶対!仕方ないだろ2人だけで勝手に決めちゃってたし!いや嬉しかったけどさぁ!!」

「やっぱり死ねお前!気付かずにへし折って来た女の子のフラグの分だけ刺されりゃいいんだ!ってストップストップ本気で間接極めるのは反則!」


どうやらすぐに決着がつきそうだ。強さの追求に余念が無い分地力が違い過ぎる。


「・・・・・・トイレを借りさせてもらっても構わないか?」

「この家のトイレなら確か階段降りて右の奥にあった筈だけど」

「ギブギブギブギブマジで痛いって、アッー!」


コキャっと聞こえた気がしたけどミシェルのログには何も無い。そう何も無い。パタッ、って助けを求めて伸ばされた手があえなく落ちたような音も気のせいだきっと。

ベッドからのっそりと立ち上がったミシェルがドアノブを掴む。

――――――よりも早く、反対側から勢いよく蹴り開けられた。蹴り開けたと分かったのは、開けた本人が細く健康的な裸足を上げた体勢で立っていたからだ。

弾と同じ色合いの紅い髪のラフな格好の少女が1人。


「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに――――」


ようやく少女は気付く。目の前に立ち塞がる、とても恐ろしげな風貌の男の存在に。

見上げなければならない程の背丈に服の上からでも分かる筋骨隆々とした肉体。とても険しい顔立ちを一層際立たせる顔を横切る巨大な傷。どっかで見た様な気もするけれど、それよりも兄の部屋から突如現れた取っても怖い見た目の外人の姿にそんな記憶など少女の脳裏からすっ飛んでしまい――――




出した結論:殺し屋か殺人犯。




「い、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?殺される犯される!!?誰か―――――っ!!!」

「うおおおおおおいっ!?お客さんに何言ってんだ妹よおおおおおっ!?」


反射的に絶叫しながら元来た道を逃げようとする少女。

だがパニックになっていたせいか足を絡ませてしまい、バランスを崩しながら進む先は階段。このままでは危ない。

咄嗟にミシェルは大きく踏み出しながら少女の腕を掴むと自分と位置を入れ替わった。少女の身体は弾の部屋の方へ逆戻りし、ミシェルの方はというと。

階段から足を踏み外し、そのまま前のめりの体勢で一瞬宙に浮く。


「え?」

「あ・・・・・・・」




どすっ ばきっ がたっ がっ どすんっ ばきゃっ!!













「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!」

「気にするな、身体が頑丈な事ぐらいしか取り柄が無いのでな・・・・・・むしろ 家の壁に穴を空けてしまって本当に申し訳ない」

「いえいえ元はといえば私が悪いんですし!」


弾の妹である五反田蘭のうろたえっぷりは被害者であるミシェルからして哀れになってくるぐらい酷かった。

ちなみに壁に穴が開いたというのはミシェルが階段から転げ落ちた際、義足の方の足が壁に当たって突き破ってしまったのである。


「もう、お兄の馬鹿!何でお客さんが来てる事言ってくれなかったのよ!」

「い、言ってなかったか?そりゃ悪かった、あはははは・・・・・・」


場所は移って現在地は弾の実家が経営する食堂の店内である。3人の前には出来たてほやほやの弾の祖父手製の定食。


「一夏さん達は先食べてて下さいね。私、ちょっと着替えてきますから」

「・・・・・・ああ」


あからさまに元気の無い様子の一夏に心配と疑問を半々に抱きつつも蘭は足早に立ち去る。

「「「いただきます」」」と手を合わせて唱和しつつ食事開始。一夏と弾は店の売れ残りのカボチャ煮定食だが、ミシェルは外国のお客様という事で五反田食堂名物業火野菜炒め定食だ。

濃いめの味付けながら野菜のシャキシャキ感と自然本来の甘みがバランスよく調和し、ご飯が進む。

相変わらず一夏が漂わせる空気は重く、せっかくの料理も箸が進んでないのを見かねた弾が口の中の物を呑みこんでから問いかけた。


「何でそこまでしょぼくれてんだよ、ええ?本当に学園で何かあったのかよ?話してみろよ。何か?付き合いだして早々2人と喧嘩でもしたのかよ」

「喧嘩とかしてないさ。むしろ前以上に仲良くやってるぐらいだって。朝はよく一緒に食事も取るし、2人して手作り弁当とかも作って来てくれるし、放課後も剣やISの特訓も付き合ってくれるし、夜だって――――ゲフンゲフン」

「お兄さんちょっと夜の所具体的に教えてもらいたいなー?」

「誰が言うか!とにかくさ、箒も鈴も積極的で俺も嬉しいよ?2人もお互い仲良くなれてるみたいだし、2人に不満なんてちっとも無いんだよ」


だけどさ、そう呟いて一夏は箸を置く。


「何ていうのか、アレなんだよな。散々覚悟してまで告白しようと思ったらいつの間にか自分の知らない間に解決してました、って実際になったらさ――――割り切れないんだよ。置いてけぼりにされた感じで」

「・・・・・・つまり肩透かしを食らったせいで決心した分の感情の行き場が無い、という事か」

「そうなんだよ。そりゃ俺が皆に言われた通り鈍いせいでずっと2人の気持ちに気付かないままだったのが元々の原因なのは分かってるし、サッサと自分の気持ちにケジメをつけて告白しなかったのも悪いんだけど・・・・・・だからって2人に文句付ける訳にもいかないだろ?だってあんなに幸せそうにしてくれるんだからさ」

「・・・・・・確かにな」


学園での様子をよく知るミシェルだけに同意せざるを得ない。クラス対抗戦以降、あの2人の笑顔を見る機会が大幅に増えていた。

どちらも本当に、心から幸せそうな笑顔を浮かべていた。


「他にもさ、ずっと2人をヤキモキさせて、泣かせまでした俺なんかが2人と付き合っていいのかって想いもあるんだよな。『本当に俺は2人に相応しい男なのかな』って、最近よく思うんだよ」

「あーそれ分かる。つか絶対その2人以外にも山ほど女泣かせてるって絶対。どんだけ向こうからの告白とかアプローチに気付かないまま大ボケかましてきたのか、分かってんのかお前?」

「だから今は反省してるって!」


弾の発言に勢い良く立ち上がった一夏の側頭部にお玉直撃。弾の祖父、厳は食事のマナーには厳しいのだ。

一夏復活までしばし待ってから会話再開。


「・・・・・・恋愛事には大層な口を聞ける立場にないし、最後はやはり当事者同士で話し合って解決すべき事柄だとは思うが・・・・・・もうしばらくこのまま様子を見たらどうだ?下手に自分の感情に決着をつけようとして、藪蛇を出す訳にもいかないだろう」

「・・・・・・そうするよ。どっちにしたって箒や鈴と付き合うのに不満なんてこれっぽっちもないし、むしろ俺にはどっちかだけでも勿体なさ過ぎる位だもんな」

「問題はな一夏。お前の事だ、二股かけてるにもかかわらず更に他の女の子達を無意識の内にホイホイ引き寄せかねないって点だな。またどれだけ自覚なしに惚れさせちまう事やら」

「只でさえ恋人が2人も居るのに他に女作るとかどれだけ鬼畜なんだよ俺!?俺は箒と鈴だけで満足してるっての!」

「「あ゛」」

「へ?どうかし―――――」


振り向いた一夏は、わなわなと震える蘭と目が合う。胸の内を吐き出すのに夢中で接近に気付かなかったらしい。

先程までのラフな格好から年頃の少女らしい可愛さあふれるフリルの多いワンピース姿に変貌していた蘭だったが、その瞳に浮かぶ涙が似つかわしくない。


「嘘、ですよね?・・・・・・まさか鈴さんと、しかも他の女の人とも二股で恋人同士・・・・・・?」

「ら、蘭?」

「一夏さんの、一夏さんの――――――馬鹿ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「へぶはっ!?」


右手一閃。思いっきり張り飛ばされて顔が変な角度を向いた一夏の首から不吉な音が鳴り響くのも気にせず、蘭は食堂から飛び出してしまった。


「な、何故に?」

「やっぱりお前は変わっちゃいねえよ、このキングオブニブチン」

「テメェ一夏この野郎!よくも可愛い孫を泣かせやがったな!?」

「ちょ、待って厳さんそれ焼けた鉄鍋ー!」


弾の溜息厨房からの怒声。

調理器具飛び交う危険地帯と化した食堂の中、ミシェルはといえば。




「・・・・・・・美味い」


テーブルの下にその大きな身体を押し込んで緊急避難しつつ、しっかり確保しておいた自分の分の業火野菜炒めを噛み締めるのであった。



















あれからなんやかんやあって、ミシェルが妻の待つ自室へ戻って来たのは6時過ぎであった。


「お帰りミシェル。日本のビストロってどんな感じだった?」

「・・・・・・風情があったし料理も中々だった。今度はシャルロットも一緒に行くか?」

「うん、行く!楽しみだなぁ、ミシェルと外でお食事」

「その前にまずは箸の使い方を覚えないと・・・・・・な?」

「いざって時はミシェルに食べさせて貰うからね?」

「・・・・・・それも悪くないな」


などと談笑していると、不意にミシェルの携帯が鳴った。画面を見てみると意外な相手だったのでほんの少し眉を顰める。


「誰からなの?」

「・・・・・・クラリッサからだ」


クラリッサ・ハルフォーフ――――ドイツ軍所属の国家IS操縦者であり特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の副隊長を務めている女性だ。

ミシェルも一応フランス軍属でもある。IS学園に入学する1年ほど前からフランス軍からの要請とミシェル本人の希望もあって特例で入隊し、訓練を受け、専用ISの開発の関係からドイツ軍とも数回合同で軍事演習を行ったりもした。

クラリッサとはそれ以来の個人的な知り合いだ。お互い日本の文化に詳しい―ミシェルは元日本人だし、クラリッサの方は少女漫画から知った偏った知識ではあったが―事から馬が合ったのである。

シャルロットの方も軍には入隊はしていないものの、デュノア社側からの参加者としてミシェルと共に演習に参加していたのでクラリッサとも面識があった。

もちろんミシェルとクラリッサはそういう関係には至っていない。単に性別と国境を越えた純然たる友人関係である。これ重要。


『ミシェル・デュノア大尉ですね』


ミシェルのフランス軍での階級は大尉。入隊して1年余りでこの階級はありえないレベルだが、軍がミシェルを引き留めておくために破格の待遇を提示してきた為にこうなった。


「・・・・・・シャルロットも居る。聞かせて構わないか?」

『構いません。いえ、むしろ彼女にもお聞かせ願いませんか?彼女のお力も借りる事になりますので』


専用回線を通じて、記憶と変わらぬ透き通った水晶の様に冷たくも凛とした声がスピーカーから発せられる。


「クラリッサさん、どうかしたんですか?」

『――――明日にでも分かる事ですが、我らが黒ウサギ部隊の隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐がIS学園1年1組に転校してきます。そう、貴方がたお2人のクラスにです』

「ラウラがここに転校してくるの!?」


2人の脳裏に蘇るは銀の少女の姿。部隊内で最も幼い見た目でありながら黒ウサギ部隊指揮官に君臨するに相応しい強さを誇る、眼帯姿の猛者だ。


『そうです。ひいては今回このように隊長に無断でお2人に連絡したのは――――お願いがあるのです』

「お願い、ですか?」

『お2人もご存じの通り隊長は気難しい方で、出発前もIS学園の事を『ISをファッションか何かと勘違いした素人の集まり以下』などと断じておられました。それ故現地ではIS学園の生徒達との衝突は必然と考えられます』

「・・・・・・確かに、な」


ラウラ・ボーディッヒという少女を現すならば孤高の狼少女、もしくは人慣れしない血統書付きの猫、と言った感じか。

少しでも打ち解けれさえ出来ればちょっと天然気味の可愛い少女なのだけれど。


『本国がIS学園への派遣に許可を出したのは隊長1人のみ。我々には非常お~~~~~~~~~~に残念な事に、通信での情報提供もしくは要請された物資の提供などでしか隊長への手助けを行えません。
なのでミシェル大尉と奥方には、主に隊長の学生生活におけるサポートをお願いしたいのです!もちろん、我々部隊員からの要請である事は伏せて、ですが・・・・・・』


なんかもう血を吐きそうな位苦渋の決断といった感じの声であった。

そういえば副隊長含めた黒ウサギ部隊の人間って全員隊長溺愛してたっけなぁ、と思い出す2人。


「・・・・・・分かった。出来る限りのフォローはしよう」

『是非ともお願いします!それからもう1つ頼みがあるのですが』

「何ですか?」

『日本の学校といえば臨海学校!体育祭!文化祭!修学旅行!その他諸々様々な学校行事が行われる!そうでしたね、ミシェル大尉!?』

「あ、ああ・・・・・・」


いきなりテンション急上昇なクラリッサの声に流石のミシェルもちょっと声が退ける。


『我ら黒ウサギ部隊にはそれら隊長の晴れ舞台の全記録を未来永劫伝えるという義務があるのです!しかし我々が出向けない以上現地の協力者であるお2人に頼むほかありません!』

「えっと、つまりラウラの学園での生活とか行事とかの様子を撮影して送って欲しいって事?」

『その通り!値段はそちらの言い値で構いません!流石に機密情報までは取引できませんが、何なら夫婦生活をより満たす為の精力剤といった品々もお送り致します』

「そんな物必要ありませんよ!今だけでも十分激しい位なのにもっと凄くなったら僕壊れちゃうよぉ!!」

「・・・・・・すまん。次からはもう少し抑えよう」

『変わらず円満なご様子で何よりです』


シャルロット自爆。真っ赤な顔から湯気を立ち上らせる彼女は置いといて、


「・・・・・・写真の方も出来る限りの事はしよう」

『ありがとうございます!それでは<シュヴァルツェア・ツヴァイク>のプライベート・チャネルの番号をお教えしますのでそちらをご利用下さい!』


ISのコア・ネットワークは音声のみならず画像のやり取りやリアルタイムでの映像通信も可能である。元が宇宙空間での作業に用いる事が前提の代物だっただけあり、機外などでの作業状況を逐一仲間に報告する為だ。

でも軍におけるISのプライベート・チャネルって緊急通信暗号用の回線だった筈だからコレも一応機密事項だった気が。いいのかそれ。


『日本ではそういう時こう言うそうです。『こまケぇ事は良いんだよ』と』

「そうか・・・・・・」

『それでは失礼。交信、アウト』


切れた電話片手にミシェルはすぐ隣のシャルロットと顔を見合わせた。


「・・・・・・どうしたものか」

「ラウラが転校してくるのかぁ・・・・・・クラリッサさんも言ってたけど大丈夫かな?あの子って中々人を寄せ付けない所があるもんね」

「そうだな・・・・・・とにかく本人がこの学校に慣れてくれるまで支えよう。幸い織斑先生も居るからいざという時のストッパーになってくれるだろう」

「確か織斑先生ってドイツ軍でもしばらく教えてたんだっけ?」

「・・・・・・ああ。ラウラはその時の教え子だったらしい。恩人、とも言っていたな。その割に一夏の事は大分嫌っていたが」


この時期にラウラが転校してくる理由を推測するとすれば幾つか予想は出来る。

ドイツ製第3世代型ISの稼働データ取りと宣伝、ラウラの目を通して分析される他国のISの評価データ、世界に2人しか居ない男性IS操縦者の調査、そして―――――


「・・・・・・どちらにしても、しばらくは忙しくなりそうだ」




何より。

思い込んだら一直線なあの少女が、恩師の偉業を台無しにした存在を放っておく筈が無い。





















――――――ミシェルの懸念は的中する。


「・・・・・・いきなり何しやがる」


翌日の月曜日。ラウラの転校初日。

クラス中が唖然として見守る中、一瞬の内に3つの出来事が起こった。


「フン、良い目をしているな」


一夏の元まで近づいた銀の少女が一夏に平手打ちを見舞い、それを一夏が受け止め、同時にミシェルが少女の振るった腕を掴む。

左目を眼帯で覆われているにもかかわらず、片方だけのラウラの眼光は誰の双眼よりも鋭くギラついていた。


「だが私は認めない。今ここで宣言しよう。教官の栄光を奪った貴様を、必ず完膚なきまでに叩きのめしてやろう」

「・・・・・・言いたい事は分かるけどな。だからってハイそうですかってアッサリやられてみせると思うなよ?」


交わされ合う宣戦布告。






こりゃ予想以上に面倒な事になりそうだと、ミシェルは頭を抱えた。



















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感想で皆さんに様々なご意見を言われましたが、自分も書いてから(ノ∀`)アチャーと思ってしまいました。学習しろよ自分。
でも一応これまでのとは違う路線のつもりです。ハーレムじゃないよ!幼馴染丼だよ!男の方は喜ぶ以前に思いっきり戸惑ってます。
いやまあ似たようなもんだろゴラァと言われてしまえばそれまでですが。



[27133] 2-2:結構気にしてるんです/ランチタイム
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/05/28 11:12
―――――人は見た目によらないものである。

第2グラウンドから見える空を見上げながら一夏はしみじみとそう思った。


「強いな、山田先生」

「・・・・・・こう言っては何だが、本当に、意外だった」


元代表候補生とは千冬姉の談だがなるほど、単独で現役代表候補生であるセシリアと鈴を追い詰めている辺り、千冬姉が言うだけあった。

――――勝手に壁に突っ込んで気絶したり生徒にからかわれて振り回されたりISの操縦をミスって生徒達に突っ込んできたり(ミシェルが発動させたAICのお陰で双方被害なし)してきた人と同一人物とは思えない、冷静沈着な戦いぶりである。


「あ、終わったみたい」


シャルロットが声に出した通り、山田先生の牽制射撃に2人が誘導させられて固まった所でグレネードが炸裂しジ・エンド。

教師の面目躍如といった見事な戦いぶりであった。自分もアレぐらい落ち着いて戦えるようにならなきゃな、と一夏は決心を新たにする。

対するセシリアと鈴の方はそっちが悪いだのいいやアンタが下手くそわーわーぎゃーぎゃーと互いに責任をなすりつけ合いながら下りてくる。

いやまあぶっちゃけ一夏以外にも観戦してた皆からしてみればどっちもどっちじゃね?ってな感想なのだが。

と思ってたら地面に着地するなり情けない顔で鈴が一夏の元へ駆け寄ってきた。


「いちかぁ、負けちゃった~・・・・・・・」

「いやそんな泣きそうにならんでも。相手は皆に教える先生なだけあるんだし、山田先生もそれ相応の実力を持ってたって事なんだろ。見た目によらないけど」

「最後のは余計ですよ織斑君!」


抗議の声を上げる山田先生を無視して、何と鈴は一夏に抱きついた。というか、<甲龍>を展開したまんまなので体格と自重差のせいで一夏は押し倒される格好になる。

周囲で上がる歓声。目を剥く箒。目の光が消えるセシリア。苦笑するシャルロット。ちょっとだけ眦(まなじり)を持ち上げるミシェル。相変わらず冷たい視線のラウラ。眉間を押さえる千冬。

一番驚いたのは一夏である。


「な、何すんだいきなり!?」

「なによ、傷心の彼女を慰めるだけの甲斐性ぐらい発揮したらどう?」

「だからって押し倒す意味がわかんねーって!つか場所考えろ場所!今授業中!でもって皆見てるから!」

「だからよ。こういう時こそ出来る限りアンタはアタシの物なんだってアピールしとかないとねー♪」

「ええいそれぐらいで十分だろう鈴!ISを展開したままでは一夏が苦しいだろうが!というか羨ましいぞ!それにお前だけではなくて『私達』だ私達!」

「いい加減にせんかこのトライアングラーども!!」


一夏にのしかかる鈴を引き剥がそうとしている箒にもまとめて出席簿一閃。周囲の女生徒+αには腕の残像しか見えない程速く鋭い、見事な3連打であった。

ちなみにそのすぐ近くでは、


「許せませんは許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ妬ましいですわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ許せませんわ(ry」

「いけませんオルコットさん!安全装置解除して向けちゃダーメーでーすー!」

「うん、やっぱり一夏死んだ方が良いと思うよ?」

「本人達の問題なんだからシャルロットも<灰色の鱗殻>はしまっておいてくれ・・・・・・」

「ふ、鳳さんなんて羨ましい・・・・・・」

「なんて大胆な。っていうかやっぱりあの噂本当だったんだ」

「2股で三角関係で篠ノ之さんと鳳さんで織斑君を共有・・・・・・」

「毎夜3人でお楽しみとか?」

「とにかくハッキリしてるのは―――――」

「「「「「「「2人に先越されたorz」」」」」」」


天誅ですわー殿中ですよー落ち着け話せば分かるお兄ちゃんそこどいて殺せない2人がオッケーなら私もーええいどいつもこいつもいい加減にせんか!!!!




そんな感じでしょっぱなからカオスな授業風景に、1人ラウラはやはりこの学園は生温いにも程があると再確認するのであった。

・・・・・・生温いというよりは無茶苦茶である、といった方が正しい気がしないでもない。








事態の収拾までしばしかかり、時間が無駄になった分テキパキと授業再開。

今日は実機を使った実戦訓練である。専用機持ちをリーダーにグループを作り、1つの班につき1機のISが宛がわれる事になった。

各自専用機持ちの指示に従い実習を開始し始めたのだが―――――2つのグループだけ重苦しい沈黙の空気を漂わせていた。ミシェルとラウラの班である。

ラウラの場合は本人の放つ冷たく人を寄せ付けないオーラのせいで、ミシェルの方は単に彼の顔が怖くて班員になった少女達が勝手に怯えてしまっている為である。

彼が歩き回る度に聞こえてくる合金製の義足のたてる特徴的な足音がまた拍車をかけていた。


「・・・・・・ならまずは」

「「「「「ひぃっ!!?」」」」


普通に指示された通りに進めようとしただけなのにそれだけで悲鳴を漏らされた。もう慣れたけど、ちょっとだけ泣きたくなった。

別に取って食うつもりなんてこれっっっっっっっぽっちもないのに。やはり世の中顔で世界は回るのだ。何という格差社会。恨むぞこんな顔に生まれ変わらせた神様。シャルロットに出会わせてくれたのには感謝するけど。


「・・・・・・順番に装着と起動、歩行まで進めていく事にする。誰か、最初にやってみたい人は居るか・・・・・・?」

「ね、ねえ、美紀から最初にやってみない?」

「いやいやここは里子からどうかしら?」

「いえいえここはアリサから」

「いやいやここは――――」

「どうせなら先に――――」


思いっきり最初の犠牲者(?)の役目を押しつけ合う少女達。見事な友情に今度こそ涙が出そうになった。だから君達は俺の事どう思ってるんだ一体。もうこれいじめのレベルじゃね?

そんな感じでミシェルの内心は涙がちょちょぎれそうな、その時だった。




「なら私が行ってみるよ~」

「「「「「「どうぞどうぞ――――――え?」」」」」」




自ら生贄に進み出たのはとても小柄なでゆるゆるとした雰囲気の少女。ミシェルとの身長差は何と50cmオーバー。近づかれると顎を引かなければ視界にも入らない。

前に一夏とかと話してるのを見た覚えがある。名前は、確か。


「のほほんさん、で、良かったか・・・・・・?」

「おー、デュノア君にも呼ばれちゃったー。じゃあ名字だとシャルシャルと被っちゃうからミー君って呼ぶねー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あれれー?どうしてミー君泣いてるのー?」

「・・・・・・気にしないでくれ・・・・・・これは、ただの嬉し涙だから・・・・・・」


苦節15年、これまで散々人間核弾頭だの伝説の傭兵だの歴戦の戦士だの扱いされてきたミシェルにとって、のほほんさん(仮)の純粋無垢な雰囲気と接し方は彼に琴線に強く触れたのである。

感動し過ぎて先にシャルロットと出会ってなければプロポーズしてたかも、と考えちゃった辺り、これまでのミシェルの追い詰められっぷりが伺えるだろう。


「泣かなくても大丈夫だよ~?ほらいいこいいこ~」


自分よりも遥かに小柄な少女に慰められながら頭を撫でられる、というのはとても新鮮な体験だった。

人懐っこい子犬にじゃれつかれているような錯覚を思えて、ミシェルも反射的にのほほんさんの頭を撫でてみる。あははーくすぐったいーとのほほんさんが笑う。周囲は彼女の頭が握り潰されないかとヒヤヒヤしていたが。

うん、激しく癒される。出来る事ならもっとこうしていたいが今は授業中である。先生に怒られる前に進めようと思っていたら、


「むー・・・・・・」

「あー、しゃるしゃるだー」


別の所で教えてた筈の妻が脹れっ面ですぐ隣に居ました。明らかに怒っている。というよりも、拗ねている。

黙って旦那を睨むシャルロット。よく見てみると微妙に頭を傾けて頭頂部をミシェルの方に向けているような姿勢をしており、ミシェルは彼女が何をして欲しいのかすぐに悟った。


ぽんっ


「・・・・・・すまない。別に浮気とかそういうつもりじゃなくてだな・・・・・・」

「もう、それぐらい分かってるよ。だけど僕だって嫉妬ぐらいするんだからね?」

「・・・・・・心得ておく」

「わははー、ミー君としゃるしゃるらぶらぶだ~」


シャルロットもまたミシェルに頭を撫でられながら、彼女の方から彼の胸板に顔を埋めた。

その様子を見ていた少女達の抱いた感想は『美女と野獣』で統一されていた。ついでにミシェルの逞しい身体に挟まれて大きく形を変えているシャルロットの双丘にも目が行ってしまう。

何アレ私の頭よりおっきくない?ISスーツ着てて何で揺れるのよ。箒さんクラスいやいや山田先生レベル!?ええいフランスの乳は化物かっ!?

自分の胸元を見下ろした。何人かは世の中の不平等を呪った。やっぱり男か男のお陰なのか。グギギ。


「だから貴様らも早く進めんか!デュノア妻、お前は別の班の人間だろうが、さっさと戻れ!」




すぱしこーん
















「いきなり転校生に引っ叩かれそうになったぁ!?」


鈴の素っ頓狂な声が屋上に響き渡った。

現在昼休み。昼食を取るべく一夏とミシェル、箒と鈴とおまけにセシリア(ひどいですわー!)は各々弁当を持って屋上にやってきていた。

なお、毎日ミシェルと昼食を共にしている筈のシャルロットだが、今日は珍しく一緒ではない。


「そうですの。まあ流石一夏さんというべきですか、あっさり防いでみせてはいましたが」

「向こうは一夏を知っているような口ぶりだったが・・・・・・一夏の方は彼女と初対面なのだろう?」

「ああ。でも何となくだけど、見当はついてる。それより早く飯にしようぜ?俺腹へっちゃってさ」

「む、それもそうだな。では食べるとしようか。ほら一夏、お前の分だ」

「しっかり味わって食べなきゃ許さないんだから!」

「分かってるって。サンキューな、2人共」


箒が差し出した弁当箱と鈴が取りだしたタッパーを普通に受け取る一夏。

それを見ていたセシリアの頬が引き攣った。


「・・・・・・箒さん、鳳さん。今渡した物は何でしょうか?」

「何って、今日の一夏の昼食だが?」


箒の弁当箱の中身は鮭の塩焼きに鳥の空揚げ、こんにゃくとゴボウのトウガラシ炒め、ほうれん草の胡麻和えといった色とりどりの見事な手作り弁当であった。

鈴の方はタッパーいっぱいの酢豚。中々のインパクトである。


「ミシェルとセシリアは何食うんだ?2人も自分で作って持ってきたみたいだけど」

「・・・・・・俺のはこれだ」


ミシェルが取りだしたのは全長30cmはあろうかという太いフランスパンを使ったサンドイッチ。レタス・スモークハム・キュウリ・スライスチーズを挟んで粒マスタード入りマヨネーズを塗った豪快な一品だ。

それを強面なミシェルが大口上げて齧り付く姿がまたよく似合う。彼を皮切りに一夏達も食べ始める。


「おおんまいんまい!特にこの唐揚げが良いな!生姜に醤油に後は・・・・・・何だろこの隠し味。覚えはあるんだけどなー」

「ふふっ、答えはおろしニンニクだ。それと予めコショウも少しだけ混ぜてある。そんなに喜んでもらえて嬉しいぞ一夏」

「私の酢豚も忘れないでよね?」

「分かってるって。どれどれ――――お、こっちも美味い!いやー、2人共腕上げたなぁ。こりゃ俺もうかうかしてらんないな」


バクバクと勢い良く2人分の昼食を食べ進める一夏を如何にも幸せそうに見つめる少女2人。

その片割れの視線がふと弁当箱の唐揚げを捉えた。


「ねぇ一夏。私も唐揚げ味見させてもらっていい?」

「ん?構わないぞ。ほらあーん」


一夏は唐揚げを一口大に箸で切ると、左手を添えて鈴に差し出した。

鈴の方はほんの一瞬固まりはしたものの、すぐに再起動して唐揚げを箸の先端ごと口に含む。その顔はちょっとだけ赤い。


「うん、美味しっ♪」

「だろ?」


満面の笑みを鈴も浮かべた。一夏もそれに同意するが、褒められている箒の方はほんのちょっとだけ不機嫌そうだった。

ちなみにそうなったのは一夏が鳥の餌付けよろしく手ずから唐揚げを鈴の口に運んでからである。

セシリア?とっくの昔に黒いオーラを放ちだしていますが何か。

箒のそんな様子を見て取った鈴はおもむろに小悪魔的な笑みを浮かべ、一夏に提案する。


「一夏、アンタん所からで良いから箒にも私の作った酢豚、試食してもらってくれない?」

「んなぁっ!?べ、別にそこまでしてもらわなくても私は構わ――――」

「それもそうだな。ほらお前も食ってみろよ箒。美味いぞー」


即座に次の展開が読めてしまった箒は急激に顔に血の気を集めつつ止めようとしたが、時すでに遅し。

気が付けば、鈴の時同様一夏の差し出した箸がすぐ目の前にあった。違いは摘ままれてあるのが唐揚げではなく衣に甘辛いあんがしっかり絡まった酢豚である事ぐらいである。

しばらく迷う箒であったが、やがて覚悟を決め、そっと唇を近づけ・・・・・・

酢豚を口に含む。噛みしめた途端沁み出る肉汁と火の通った身の適度な歯応え、衣の感触とあんの風味が混然しつつも調和していて成程、確かに美味い。


「うむ、中々のお手前で」

「あったりまえよー、えへへ」


和気藹藹と食事を進める正三角形な一夏達、すぐ横でセシリアが無言でレーザーライフルを展開しようとしていた。それをミシェルが必死になって止めていた。






そんな感じで局所的な嵐が発生しつつもそれぞれの腹は膨らんでいき、次第に食事中の雑談が増え始める。

今日の話題は主に銀の転校生について。


「あら、ボーデヴィッヒさんとミシェルさんはお知り合いですの?」

「ああ、最初にあったのは半年ほど前か・・・・・・フランス軍とドイツ軍の合同演習の際にな」

「ミシェルは軍隊にも所属していたとは初耳だ。もしやシャルロットもそうなのか?」

「・・・・・・いや、シャルロットは単に実家の会社の所属だ。俺の場合は、会社と軍の両方に所属という扱いになっている」

「そもそも専用機持ってるような人間って大概ISを開発してる企業か軍の所属だしね。ちなみに私の場合は軍だけど」


鈴の場合一夏がIS学園に入学したと知ったや否や軍の責任者を脅して無理やり手続きさせたのはいい思い出である。

セシリアの場合は<ブルー・ティアーズ>を開発した企業の所属で、むしろ一夏の様に所属がハッキリしていない人間の方が珍しいのだ。


「・・・・・・誤解の内容に言っておくが、ラウラはただ単に軍隊以外の世界を知らないせいで身内以外の人間になれていないだけであって、本当は少し抜けているが良い奴なんだ」

「いきなり人の顔を張り飛ばそうとするのにか?」


それを言われてはフォローのしようが無い。そこへ一夏が話を逸らそうと試みる。


「で、でもミシェルが軍人って確かに似合ってるよなうん!」

「似合ってるどころかドツボ過ぎて学生だって忘れちゃいそうよ」

「・・・・・・悪かったな」

「軍隊の方からはあちらからスカウトされましたの?」

「・・・・・・きっかけはそんな所だ。元々は広告塔を頼まれたんだが、専門の訓練に関しては自分から希望した」

「なるほど、IS操縦者はいざという時どんな状況に置いてもISが使えない場合であっても状況を打破できるよう、専門の訓練を受けなければなりませんものね。軍に教えを請うのは理に適った事ですわ」


これはISが広まって以後の世界各国で言える話なのだが、先進国における軍隊の兵員は急減の一途を歩んでいた。

戦闘機や戦車などが一気に時代遅れになったが為にそれらを運用する為の人員を大幅に軍が削減したのが主な理由の1つだが、女尊男卑一気に広まったという背景もまた理由の1つである。将来の軍隊を担う若者達の入隊が一気に減少してしまったのだ。

近年女性への門戸も格段に広くなったとはいえ、基本軍隊は男性社会――――にもかかわらず『男より女の方が強い』という風潮故か、入隊する男の数は減少の一途を辿り、女の入隊数の方は少しづつ増加しつつあり、軍隊内の男女比が逆転するのも遠い話ではないと言われていた。

そこで慌てたのは古株の軍人達。彼らは軍まで女性に乗っ取られるのを防ぎたい。だけど入ってくる男の数は年々減ってゆくばかり。




――――そこに世界初の男性IS操縦者となったミシェルの登場である。

10代半ばの若さでありながら男臭さに満ち溢れ、尚且つ流星の如く現れた男性の希望の星たる彼を軍が放っておく筈もなく。


「・・・・・・入隊して1年ちょっとで15歳の若造が大尉というのもおかしな話だが、少しお願いしたらGIGNにまで体験入隊出来たのは予想外だったな」


GIGNとはフランス国家憲兵隊治安介入部隊、つまり対テロ特殊部隊である。

そこまで軍隊に詳しくない一夏達は首を捻っていたが、一応軍属である鈴も同じような反応してちゃダメな気がするのだが・・・・・・


「そういう事は彼女も軍人なのか。確かにそれっぽい感じだったけど」

「階級は少佐・・・・・・立派な部隊の指揮官だ」

「上に立つ者がいきなり人の顔を張り飛ばしていいとは思えんがな」


だからそれは言わないでって!


「そういえばミシェルのISってドイツやイギリスからの技術協力もあって完成したって前に言ってたっけ。その関係もあるのか?」

「・・・・・・その通りだ。俺のISに組み込まれている技術の内、イギリスからはBT兵器のデータ、ドイツからはAICのデータが用いられてある」

「そう考えると贅沢な機体よね。数機分の第3世代機の技術が組み込んである訳なんだから」

「・・・・・・それはともかく、ラウラの友人としても、一夏の友人としても、2人共仲良くしてもらいたいとは思っているのだが・・・・・・」

「いや、俺は別に構わないんだけど向こうにあそこまで喧嘩腰にされちゃあさ―――って何で睨むんだよ2人共」


何故か箒と鈴から冷たい目を向けられて戸惑う一夏。


「別に。ただ私達は憂慮しているだけだ」

「そうそう。一夏の事だから例え最初は仲が悪くったって相手が女の子なら最終的には惚れさせちゃいそうだもの」

「な訳ねぇって!」

「「どうだか!」」


だってすぐそこにセシリアという先例が居るではないか。まったく、せっかく晴れて恋人同士になれたというのにこの男はまだ自分のフラグ立て能力に自覚が足りないのか。


「こうなったら私達の仲をそのラウラってのに見せつけて入る余地が無いって事を今の内にしっかり覚えさせときましょ!」

「うむ、良い案だ!彼女以外にも他の女子達にも一夏が誰の物なのか思い知らせるのにも丁度良い。ぜひそうしよう」

「頼むから俺を置いて勝手に決めないでくれそういうの・・・・・・」


むぎゅーと左右から2人の恋人に抱きつかれながら、一夏は嬉しいやら悲しいやら疲れるやらと悲喜こもごもな表情で力無くそう呟く事しか出来なかった。




だってこうなった時の彼女達に敵わない事は、嫌というほど身に沁みていたから。















「むきー!何で一々わたくしの前でそんな事をなさいますの!?当てつけなのね当てつけなのですわね!?」

「だからって事あるごとに嫉妬に駆られてISを展開するのは勘弁してくれ・・・・・・」


ストッパー役お疲れ様です。












==================================================================

ミシェルの出番とイチャイチャが足りないと言われた気がしたので書いてみた。
これでもミシェルは常識人なんです。



[27133] 2-3:銃声の記憶
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/03 00:46

銃声と共に鮮血が肉片と共に飛び散った。

人が目の前で死ぬその光景に、一夏の思考は停止する。高々10代始めの子供が、人の命を奪われる様を見せられて思考を維持できる筈が無い。




――――それがたとえ相手が自分を誘拐しようとした者であっても。




「走れ一夏!走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


自分の呼ぶ声が聞こえる。このドイツに来てから出来た異国の友達の声。同じホテルに泊っていたのがきっかけ。

ミシェル・デュノア、同い年には全然思えない、千冬姉以上に老けた顔の子。そんな彼が、拳銃を構えて必死な形相でこっちに向かって叫んでいる。

彼が何を言いたいのかは一夏は頭では理解していた。ミシェルは一夏に今すぐ逃げろと言っている。

なのに身体が言う事を聞いてくれない。まるで全身を石膏で塗り固められたみたいに腕も足も動かないまま。

誘拐犯の仲間が一夏のすぐ傍のワゴン車から出てきて一夏を車内に引きずり込もうと手を伸ばす。ミシェルは銃口をずらし車に向けて撃ち込む。

鉄柱をハンマーで殴りつけた様な銃声は、一夏がテレビで聞いた事のある映画やドラマの銃声から遠くかけ離れていた。その銃声と3mと離れていない車体に撃ち込まれる銃弾の着弾音が、一夏の身体を精神との乖離から復帰させた。


「あ、あわ、うわわわわわわわ!!?」


友人の元へ、駆け出す。

己の手足がまともに動いてくれているのかもその時の一夏には覚えが無かった。ただ必死に手足を動かして、誘拐犯の元から逃げ出そうとした。

一夏がミシェルの元へ近づいてくる。男達の魔の手から逃れてきた友人が横を通り過ぎるのを確認してから、ミシェルは弾の切れた拳銃を持ったまま後を追おうと背を向ける。

一際強烈な銃声。

後ろで聞こえたまるで爆発音みたいな銃声に、本能的に一夏は足を止めてしまう。撃たれたのは、一夏ではない。

ミシェルのが撃たれたのだった。地面に倒れる音に振り向くと、友人が倒れていた。彼の右足、膝から下がズタズタに引き裂かれ、骨の破片まで見え隠れしている。今にも千切れてしまいそうな有り様だ。

車から降りた誘拐犯の仲間が、銃口から硝煙たなびくショットガンを構えながら一夏の元へ近づいてくる。街中での凶行に、既に周囲の人々は悲鳴を上げながら散り散りに何処かへ逃げ去ってしまっている。助けてくれそうな人はいない。そもそも誰が銃を持った相手にそう簡単に立ち向かえる気になるものか。


「うっ・・・ひっ、ううううう・・・・・」


悲鳴を押し殺しながら、最早2度と歩けるかも怪しいミシェルの身体を一夏は引っ張っていこうと試みた。

見た目通り、彼は一夏よりずっと重い。本格的に鍛練というものから遠のいていた一夏の腕力では持ち上げるどころか、脇の下に入れた手がすっぽ抜けない様にするだけでも一杯一杯だった。

それでも見捨てられられない―――――自分を助けに来てくれた友達を、誰が見捨てられるものか。

だけど今の一夏に出来たのは、手近な街路樹の陰に怪我した友人を引っ張り込む事だけ。焦りと恐怖心に支配された子供の一夏にはそれだけで限界だった。

その間にも足からの出血は一向に収まる気配が無い。剣道をやっていた頃簡単な応急処置の仕方は習ったけれど、誘拐されかけ人が殺され友人が撃たれるという異常な状況下が一夏からそれすらも行えるだけの冷静さを奪っていた。

ざり、とすぐ目の前で足音がする。

顔を上げると、あのショットガンを持った誘拐犯の仲間がミシェルの足元に立っていて、またも恐怖で動けなくなった一夏を捉えようと手を伸ばし・・・・・・無防備な胴体に45口径弾が突き刺さる。


「にげ・・・・・・・ろ・・・・・・」


今やミシェルの顔色は酷く蒼ざめ顔中を冷や汗が覆い、呼吸も非常に荒い。大量出血のせいでショック症状すら呈しながらも――――彼は一夏を逃がそうとしていた。

引き摺られている間に震える手で再装填は出来ても最早拳銃を持ち上げる事すら出来ず、それでも地面に横たわりながらも銃口を未だ動かない誘拐犯の車へと向ける。

その時、3人目の男が車内から姿を見せた。ミシェルは撃とうとするも、最早重い引き金を引き絞るだけの力も血と共に喪失してしまっていたのだ。




男は所持していたライフルの引き金を躊躇い無く引いた。




今度はミシェルの顔面が真っ赤に染まった。一夏は全く気付かなかったが、別にライフル弾がミシェルの顔面に直撃した訳ではなく、ミシェルの手前の固い地面で跳ね返った跳弾が鼻先を掠めただけだった。

それでも威力は十分で、銃弾はミシェルの顔の肉を一直線に抉り、掠めた衝撃でとっくに限界寸前だったミシェルの意識は容易く刈り取られる。

その時の一夏には、今度こそミシェルが殺されたようにしか見えなかった。もうピクリとも微動だにしない。

そんなミシェルの姿に今度こそ思考を放棄して凍りついてしまった一夏を、3人目の誘拐犯が穀物の詰まった袋でも運ぶかのようにあっさり抱え上げて車の元へ運んでしまう。

その間中、一夏の目はずっと動かないミシェルを捉えて続けていた。

車の中に放り込まれる。周囲から聞こえる一夏には理解できないドイツ語の悲鳴。誘拐犯もドイツ語で運転手に指示を出す。

遠ざかってしまった血塗れの友人へと、一夏は手を伸ばした。

縋るかのように。許しを請うかのように。




―――――扉が閉まり、もうその手は決して届かないまま、一夏の視界は暗転する。


















そして一夏は目を覚ます。

何度も見てきた過去の悪夢。それはIS学園に入学してから初めて見る、久々の物だった。


「・・・・・・やっぱ、アイツのせいかな」


ラウラ・ボーデヴィッヒ。かつての姉の教え子。彼女の存在が3年前のドイツでの事件を呼び起こさせた。

勿論あの時の事を忘れた事なんて片時たりともない。あの事件があったからこそ、今の一夏が居る。

もしただ自分が誘拐されただけで他に傷ついた人間が居なかったら、きっと自分は今も安穏と過ごす事だけを考える、無気力な人間で居ただろう。

一夏の身体は寝汗でベタベタだった。シャワーでさっぱりしたい所だが、どうせ朝の鍛練でまた汗をかくんだしそれを終えるまでグッと我慢。

ベッドから降りようと後ろ手を突いたその時である。


ふにっ


「あれ?」


とても柔らかいものに指先が触れた。すべすべしっとりとした指触り、幾ら触っても飽きがこなさそうな弾力と柔らかさを兼ね備えたその感触には何だか覚えがあるような、無いような。

とりあえず、シーツや毛布の類ではないのは確定的である。

無言で一夏はゆっくりと首を回してその物体の正体を見た。その物体は肌色だった。その物体は呼吸をしていた。その物体は、貧乳だった。


「だれがひんにゅうにゃのよー・・・・・・むにゃむにゃ」


凄ぇ、むにゃむにゃなんて寝言初めて聞いたとどうでもいい感想をまず抱いてしまう。

ツインテールを解き、裸身を晒して幸せそうに眠る鈴の姿に昨夜の事を一夏はすぐに思いだした。というか、こればっかりは忘れちゃいけない。忘れたら本当に鈴と、それから箒にも殺されかねない。

ちなみに先程一夏が無造作に手を置いてしまったのは鈴の胸元である。ゴメン、想わず箒と比べちゃいました。揉み応えは箒の方がよっぽど上です。

これまた鈴に言ったら消滅させられそうな感想であった。


「でも鈴も・・・・・・凄かったな」


こうして肉体関係を持って分かった事が1つ。

それは女の子の身体というのはいわば楽器みたいなものである、という事だ。

触る場所、そして触り方によって彼女達の漏らす艶やかな音色は千差万別に奏でられる。鈴のそれはまるで甘えてくる小猫みたいで、ついつい夢中になってしまった。箒の場合は子犬だった。


「これで本当に逃げられなくなっちまったなー」


今度こそ名実ともに一夏は同時に箒と鈴の恋人となった。

此処まで来てしまってはもう四の五のは言ってられない。誰が何と言おうと周囲から何と言われようと、2人分の責任を取ってみせると一夏は固く決めた。そもそも2人の方から、先にそう望んでくれたのだ。これでいい加減応えてみせなければ、それこそ男じゃない。

それにしても一昨夜は箒で昨夜は鈴。入学した頃はこんな関係になるなんてこれっぽっちも想像していなかった。弾辺りに言ったら嫉妬と妬みで殺されるかも。

千冬姉は・・・・・・どうしよう。今から遺書でも書いとくべきか?割と洒落にならないから悩む。

でもどちらも泣かせたくないからといって両方を選ぶ事自体おかしいんだから殺されても仕方ないか。


「とにかくトレーニング終わってから片付けっか」


汚れたシーツの後始末に散乱する使用済みティッシュの処理。今日のトレーニングは早めに終わらせた方が良さそうだ。

まだ夢の中の鈴をそのままに、一夏は部屋を出た。時刻は6時前。廊下はまだ無人だ。あと1時間もすれば目覚めた女生徒達で寮内はそれはそれは賑やかになるのだ。

向かった先はグラウンド。空を見るからに、今日も今日とてカラッと晴れた1日になりそうな気配。風に乗って僅かに潮の香りが鼻をくすぐる。

その日は、先客が居た。それも2人。


「む、貴様か」

「・・・・・・おはよう一夏」


トレーニングウェア姿のミシェルに軍人らしい黒のアーミーパンツにオリーブドラブのランニングシャツといった格好のラウラだった。

途端に形成されだす張りつめた空気。1人早くも溜息を吐きたくなったミシェルを余所に、一夏とラウラは無言で睨み合いながらも準備運動を始める。

全身の筋肉をほぐし終えると、これまた同じタイミングでグラウンドを走り始める。1周5kmという長さを誇るIS学園のグラウンドは、ジョギングのコースに最適だ。流石に学園の敷地1周は距離が長過ぎる。

『最初』は黙々と3人一塊りになって、程々の速さで走り続けていた。そう、『最初は』、である。

その状態が変化したのは1km程走った頃か。身体が十分に温まってきた一夏はほんの少し走るスピードを上げた。必然、少しだけ一夏が2人の前に出る事になる。

それに気付いたラウラの眉根が僅かに寄せられ、片目が細められる。まるでうっとおしい蚊か蠅が鼻先を飛び回っているかのような不快な視線を一夏の背中に向けた。

ラウラもスピードを上げた。一夏よりも更にほんの少しだけ上の速さで、今度はラウラが一夏の前に出る。

一夏の横を通り過ぎる際、それと分かるぐらいの大きさで鼻を鳴らしながら。


「フン」

「(ムカッ)」


こう見えて結構喧嘩っ早い一夏の導火線に点火させるにはそれだけで十分だった。

一夏がラウラを追い抜く。それをまたラウラが追い抜く。一夏が追い抜く。ラウラが抜いて一夏が抜き返す。

そんなこんなを繰り返してる内に2人が全力疾走に移行するのはあっという間だった。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!」

「はあああああああああああああああ!」


瞬く間に遠ざかっていく大小の背中。

それを見送る事しか出来ないミシェルは、今度こそ溜息を大きく吐き出しながらも1人変わらぬ速度でジョギングを続行するのであった。






で、どうなったかというと。


「か、勝ったのは、はぁ、私の、ふぅ、方だ!」

「ぜぇ、いいや、ひぃ、絶対、はあっ、俺の方が速かった、ふうう」

「・・・・・・とりあえず歩かないと余計に疲れるぞ」


残り4kmを徒競走で走破した代償に2人揃って激しく息を切らして動けずに居る。流石に体力に自信があっても、それだけの距離を100m走ばりの速度で走り通すのは少々無茶だったらしい。

まぁ自業自得である。息が整うまで待つ事しばし、


「貴様、『刃物』の扱いに覚えがあるそうだな」

「・・・・・・だったらなんだよ」

「丁度良い。これで私の相手をしろ」


ラウラが一夏に放りあげたのは訓練に使われる硬質ゴム製の切れないナイフだ。つまりナイフ戦の相手をしろという事か。

どちらかといえば一夏が得意なのは『刀』の扱いなのだが、剣術を嗜む一貫で短刀や小太刀の扱いもそれなり以上に鍛えこんである。


「貴様に素人相手にしか通じないような単なる子供騙しの小手先の技などではなく、本物の刃物の扱い方というものを教えてやろう」

「上等だ。1000年かけて鍛えられてきた日本剣術がどんなもんか、身体で教えてやんよ」

「・・・・・・怪我はさせるなよ怪我は」


この分だと単なるナイフファイトどころか何でもありのガチンコ格闘戦が勃発しそうで激しく不安だった。でもってミシェルの予想は正しい。




最早頭痛に襲われだしたミシェルを横目に、どちらからともなく2人は相手に飛びかかった。


















「・・・・・・そんな感じで青タン打撲痕蚯蚓腫れだらけな訳だ」

「まったく、何事かと心配させたかと思えばそんな事とは」

「にゃー」

「・・・・・・2人を止めるのも大変だったぞ。朝連に運動部の人間がやってくる時間になっても続けようとしていたからな。引き剥がすのに、苦労した」

「ふにゃー」

相当『いい』のを何発も食らった一夏の口元や目元は赤黒く腫れ、僅かに血すら滲ませていた。ISスーツに着替えて箒達もようやく気付いたのだが、腕や脇腹などにも幾条の細長い蚯蚓腫れが走っていた。

しかし本人はケロッとした顔で、


「心配しなくても大丈夫だって。千冬姉や土方さんの扱きに比べりゃ軽い軽い」

「うみゃー」


今挙げた2人は一夏にとって色んな意味で容赦無い2大筆頭である。前者はよく知っているからともかく後者がどういった人物か知らない箒は首を捻っていたが。

現在午後の自由時間。毎週土曜日は午後から自由時間とされる上アリーナが完全解放される為、他の生徒達に漏れずいつもの面子でISの特訓にやって来たのだった。


「・・・・・・関節は大丈夫なのか?途中からナイフ放り投げてサブミッション合戦になっていた気がするんだが」

「ちょっとだけ痛むけど平気だよ。一応これが終わったら湿布とかも貼っとくつもりだし」

「はにゃー」

「――――――で、先程から一夏さんに纏わりついてにゃんにゃん盛っているその雌猫は何でしょうか?」


誰もが見惚れそうな美しい微笑でセシリアが聞いた・・・・・・その額にブッとい青筋が浮かんでいなければ、の話だが。


「と、とりあえずお願いだから離れてくれな鈴!ISが展開できないしな!な!?」

「ふにゃー?」

「一夏の言う通りだぞ鈴・・・・・・気持ちは分かるがな、うん」

「にゃにゃー」

「・・・・・・落ち着けセシリア。落ち着いて、そのライフルを、下ろすんだ。オーケイ?」

「あら何を仰いますのミシェルさん。私は落ち着いていますわよええこれ以上無い位。一夏さんに傷1つつける事無く雌猫だけを撃ち抜ける程度には!」

「ダメだよセシリアさん、狙うなら一夏の方を狙って!」

「うおい何でシャルロットも変な方向に煽るかな!?」

「2股とか男の風上にも置けないと思うなあ。何それ、僕への当てつけ?」

「いや何かもうごめんなさい」






全員が落ち着くまでしばらくお待ち下さい。






「一夏も分かってると思うけど、<白式>の最大の弱点は射撃武器が存在しない事だね」

「やっぱそうだよなあ、はあ」


冷静になったシャルロットの指摘に一夏は肩を落とす。


「一夏と<白式>の相性が良いのも大きいが、一夏の類稀なる技量のお陰で補われてはいるもののやはりその点が大きいか」

「そうですわね、そもそも刀1本であそこまで戦える事の方がおかしいですわ。それだけ一夏さんの技量が並外れている証拠ですけれど」

「でもやっぱり限界はあるんだよな。ミシェルやシャルロットみたいにバカスカ撃たれ続けると守るか逃げるしか出来なくなるし」


仲間内で模擬戦を重ねた結果、現在の勝率トップはミシェルですぐ下にシャルロットと一夏が続く。一夏は2人に黒星をつけられていた。

それ以降は鈴とセシリアがどっこいどっこいで最下位は箒だが、これは彼女がただ1人専用機を持たないのが大きな原因である。

ミシェルとシャルロットのISは、その膨大な拡張領域に収められた多数の兵装を生かした柔軟な戦術と継続火力が特徴だ。特にミシェルの場合はシャルロットのIS以上に過激な物が揃っているし、接近されてもAICという最強の盾がある。シールド無効化という最強の『矛』もこればかりは敵わない。

次々武器を交換しての絶え間無い射撃が可能な為、弾丸を弾ける一夏といえどその処理能力を上回れては遠距離から一方的に嬲られるのが落ちだった。一夏が捌ける弾幕の量はいいとこセシリアレベルが限界である(普通ならそれさえもかなり驚異的なのだが)。


「せめて投げナイフ的な武器が欲しいんだよな。あれなら土方さんにも教わったから。でも武器追加したくても俺のISだと拡張領域がもう一杯だし」

「やっぱりそれが最大のネックよね・・・・・・」

「・・・・・・どうせならその場で仲間の銃を借りて使ってみるのはどうだ?」


所有者が使用許可を出せば他の人間でも使えるようになる。非効率なので最後の手段とも言えるが、他に手段は思い浮かばない。


「とにかくまずは実際に使ってみて身体で覚えるのが1番手っ取り早い・・・・・・」


そう言ってミシェルが展開したのは複合型アサルトライフル<ケルベロス>。ブルパップ型のライフルの銃身下部にマガジン装填式のセミオートカノンを装着し、更に2つ並んだ砲口の下から銃剣を生やした、『3つ首犬』の名の通り3種類の武器としての機能を持つ兵装だ。


「・・・・・・まずはこれを撃ってみろ。モードはライフルでセミオートに設定してある」

「分かった。でも<白式>ってFCS(射撃管制装置)も積んでないんだよな」

「ならとにかく撃って弾道の癖を読み取りながら自分の勘で修正していくしかないな・・・・・・」

「じゃあ行くぞ」


やや離れた位置に表示されたターゲットに向け、一夏はライフルを構えた。


「もっと脇を締めて、左手はカノン砲のマガジンに添える感じで引きつけるしたようにした方が安定しやすい・・・・・・片目じゃなく、両目でサイトを覗きこめ。片目では遠近感が偏って逆に照準がずれる。引き金はゆっくりと、切れそうな紐をそっと引っ張るような感じで絞るんだ」


言われた通りに構えを修正しながら、こんな感じかなと考えた一夏は少しづつ心無し慎重に指を曲げた。

耳元で響いた火薬の炸裂音は、記憶の中の銃声よりも強烈だった。IS用の銃器は歩兵の持つ拳銃や長物よりもより大口径で、炸薬量も多いからだ。

ターゲットには一夏が狙った中心部よりも斜め上に着弾した事を知らせていた。続けざまにマガジンに装填されている分が切れるまで射撃を続ける。


「うん、良い感じだね。FCSの補助も無しに初めて撃った割にはまあまあ纏まったと思うよ」

「・・・・・・音の割に意外と反動が無いんだな。ちょっとビックリしたよ」

「射撃の反動は大体はISが自動的に相殺してくれるからね。サイズの割に意外と狙いやすいもんよ」

「・・・・・・ま、何事も慣れだがな。正しい構えを身体で覚えて、数をこなしてけばもっと速く、もっと正確に撃てるようになる」

「そうそう、『本物』を撃ち慣れてるだけあってミシェルなんて凄いんだから!」

「そう聞かされてはこの目で確かめさせてもらわなくては気が済みませんわね」


セシリアに煽られ、今度はミシェルが装填し直した<ケルベロス>を構えて前に出る。

横並びに複数のターゲットが展開された。と同時にフルオートかと思えるような単発連射で端から端に薙ぎ払う。

ターゲット1つにつき撃ち込んだのは1発。全弾、ほぼ真ん中に命中していた。おー、と一夏達の感嘆の声が上がる。


「・・・・・・ターゲット毎に狙うよりも、標的を順番になぞって照準が重なった瞬間に撃つのがコツだ」


最初に銃器の扱いを仕込んでくれた某武器商人の護衛のリーダーで元デルタフォース(アメリカ陸軍特殊部隊)上がりな傭兵のありがたい教えである。




その時、急にアリーナがざわめきだした。視線を感じる。敵意と戦意を孕んだ視線が。

ドイツの第3世代機、<シュヴァルツェア・レーゲン>を身に纏ったラウラ・ボーデヴィッヒ。

片方だけの赤い瞳が一夏を射抜いて離さない。よく見てみると、新雪のように真っ白な二の腕に幾条かの蚯蚓腫れや青い痣が残っているのに気づいただろう。


「――――おい」

「・・・・・・なんだよ」

「貴様も専用機持ちだそうだな。なら話は早い。今朝の続きだ」












「―――――――私と、戦え」












一夏の答えは、


「・・・・・・いいぜ。今度こそ決着をつけてやる」





===============================================================
さあいよいよ一夏が後戻りできなくなりました(女性関係的な意味で
千冬さんの反応は次回にでも。

<ケルベロス>のイメージはYF-23の兵装と聞けば分かる人は分かるでしょう。ラプターよりもブラックウィドウ派の人はきっと多い筈!



[27133] 2-4:ガールズトーク
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/06 00:20

いいぜ、決着をつけてやる――――――




その瞬間。一夏とラウラ、双方が浮かべる表情はとても似通ったものに変貌していた。

すなわち、獲物を前にした獣の浮かべる凶暴な笑み。


「お、おい一夏!?」

「皆は下がっててくれ。巻き込まれないようにな」


一夏の右手には既に展開された<雪片弐型>が握られている。ラウラも似たようなもので、身の丈ほどもある大型のレールカノンを右肩に載せ、真っ直ぐ一夏に向けていた。

周囲に広がる緊迫した雰囲気に、他にアリーナに居る生徒達が睨み合う2人の方を一斉に見た。明らかに危険な空気にどうすればいいのか分からず、顔を見合わせて不安げに立ち尽くしている。

・・・・・・そんな周囲の様子を見て、溜息を吐きつつ動く存在が1人だけ居た。


「・・・・・・ストップだ、2人共」

「ミシェル?」

「何のつもりだ、ミシェル・デュノア」

「・・・・・・時と場所を考えろ。この場に居る全員がISを持っている訳じゃないんだ。巻き添えを食って何かあったらどうする。ラウラも軍人なら、コラテラル・ダメージ(付随的被害)を考慮したらどうだ」

「む・・・・・・」


一瞬だけ自分達の間に割り込んできたミシェルを強く睨んだラウラだったが、ふんと鼻を鳴らすとISの装着を解除する。


「ふん、今日は退こう。また次の機会に決着をつけさせてもらうぞ」

「俺は何時でも良いぜ」


言い返した一夏に何処か満足げな猟犬の笑みを向けて、ラウラは立ち去る。

バトる気満々な友人の様子に、2度目の溜息を漏らしながらミシェルは振り向くとおもむろに一夏の額にデコピンをお見舞いした。

バチィン!という空気が破裂したような炸裂音は最早デコピンのレベルじゃない気がするが。いきなりの友人の暴挙に不意を突かれた一夏は悶絶中。


「・・・・・・一夏も、あっさり挑発に乗るんじゃない。周囲の事も考えて行動するべきだ」

「め、面目ない。それにしてもあー痛ぇ」

「当たり前だ・・・・・・痛くしたんだから、な」


男同士のやり取りを見ている内に調子を取り戻した少女達も口々に喋り出す。


「何を考えているのだまったく。そう簡単に刀を抜いてやり合おうとしてどうするのだ」

「そーよ一夏。アンタってばしばらく見ない内にまた喧嘩っ早くなってない?」

「しかし相手も相手ですわ。転校してからこの方一夏さんを敵視してばっかりで、何を考えていますのやら」

「うーん、やっぱりそう簡単には直らないかぁ・・・・・・」


1人シャルロットだけが、ラウラの事を心配そうに気遣うのだった。




















アリーナでの訓練が終わった後。

箒と鈴は千冬に呼び出しを受けて寮長室に引きずり込まれていた。早くも険呑な気配を放って仁王立ちしている千冬の姿に箒の額には冷や汗が浮かび、鈴に至ってはカチンコチンに固まってしまっている。

それだけ2人にとって今の千冬は恐ろしいのだ。なにせ目の前にあらせられるは世界最強の乙女である。

それ以前に一夏の姉というだけで本能レベルで頭が上がらない。というか、2人にとってはそっちの方が重要だった。


「貴様ら2人を呼びだした理由は理解できているな?」

「・・・・・・一夏との事、ですね」


重々しい雰囲気を纏って千冬は頷きを返す。

四角いテーブルを挟んで向かい合い、千冬はそのテーブルに両肘を突いて組んだ手で口元を隠す格好の一方彼女に真正面から見据えられる箒と鈴はとても肩身が狭そうだ。

何だか雰囲気が往年の刑事ドラマの取り調べっぽくなってきた。一夏がこの場に居れば後は古いスタンドライトとカツ丼さえあれば完璧だな、などと考えたに違いない。でもって姉に内心を読み取られて引っ叩かれる所までが容易に箒と鈴には想像出来た。


「何か余計な事を考えてないか?」

「「いいいいいえ別に!?」」


何時の間に読心術スキルなんて身に付けたんだろうこの人。『千冬さんなら仕方ない』の一言で片づけれそうな辺りがまた恐ろしい。


「単刀直入に聞くぞ―――――貴様ら2人、既に一夏とは肉体関係に至っていると見て間違いないな?」

「ち、ちちちちちちふゆひゃん!?」

「にゃにゃにゃにゃにゃ、はにゃー!?」


直球ド真ん中な発言に箒と鈴の言語機能がエラーを起こす。

何を今更、と言いたげに首を振りながら千冬は椅子の背に身体を預けた。


「2日連続で一夏の部屋から出されたシーツに残された血痕・精液その他諸々の痕跡を見れば誰でも理解できるに決まっているだろうが」

「「あうあうあうあうあうあうあうあう」」


熱病患者の様に真っ赤な顔でうわ言を繰り返すようになってしまった2人の様子に千冬は大きく息を吐き出した。

千冬の顔からは不純異性交遊に対する怒りなどは感じられず、むしろ安堵の念さえ見え隠れしているのだが、パニクった2人はまだ気付いていない。


「落ち着かんか2人共。別に取って食おうなどとは考えていない。ただお前達の口から直接確認したいだけだ」


落ち着いた物腰の千冬の言葉に、少しづつ箒と鈴の思考能力が回復していく。

やがてチラチラとお互いを見交わしてから、どもりつつも口を開いた。


「そ、その通りです・・・・・・我々2人共、一夏とは恋人同士です」

「あ、あの、あのですね千冬さん、一夏が悪いんじゃないんですよ?一夏は本当は箒の方を選ぼうとしてたのに私が割り込んじゃったというか、ととにかく一夏と箒は悪くないんです!」

「何を言う鈴。そちらも一緒で構わないと決めたのは私の方だ。鈴も一夏も悪くはないぞ」

「私が聞きたいのは別にそういう事ではない。さっきも言っただろう、私はただ『確認がしたいだけ』だと。勿論、教師として色々と風紀を乱している事にも注意しなければならない立場なのも分かっているがな」


千冬は何処からともなく急須と人数分の湯呑みを取り出すと、順繰りに緑茶を注いでいった。

緊張の余り喉が渇いていた箒と鈴は、差し出された熱いお茶をありがたく頂く事にした。渋みの中に隠れるほのかな甘みが硬化しかけていた心を解してくれる。

2人がホッと安堵の吐息を漏らした所で千冬は続ける。


「どちらかといえば、今回お前達を呼んだのは教師としてではなくあの鈍いにもほどがあるあの馬鹿の姉として話を聞きたかったからだ。箒は実際にその現場に出くわしたからまだ分かっていたとはいえ、まさか鈴まであの朴念仁が捕まえてしまったのを信じかねてな」


IS学園で再会する以前から既に箒と鈴が一夏に抱いていた想いはとっくの昔に千冬も気付いていた。正確には気付いていないのは想いを向けられていた一夏本人だけであり周囲には丸分かりだったりしたのだが。

当初の学生寮の部屋の組み合わせで弟と箒が同室になったのに関しては、完全に単なる偶然だった。

本来もう1人の男性であるミシェルと同じ部屋にしてしかるべき筈だったのだが、その辺りは出来る限り自国の代表候補生兼男性IS操縦者に対し他の女子からの干渉を押さえたいフランス政府(&当人達)の強い要請を受け、夫婦揃って同じ部屋にされた経緯がある。

千冬が組み合わせに反対しなかったのは弟の相手が自分の友人の妹で幼馴染同士だったから、というのもある。弟への悪戯心も少しはあったし、弟を好いてくれている友人の妹への餞別、なんて考えもあったのは否定できない。

元よりその組み合わせは一夏の入学によって色々と学園の運営が混乱してしまい、一夏と箒の同居はそれが収束し学生寮の部屋の調整が完了するまでの一時的なものだというのはその時点で判明していた。

だから千冬はこうも考えてしまっていたのだ――――それが自分の最大の誤算と気付かないまま。






あの弟の事だ、たかが数週間同居したって箒には悪いが、彼女の気持ちに気付く事はないだろう、と。

箒自身、千冬から見るからに中々自分の感情を表に出さず怒って誤魔化すタイプのままだと思い込んでいたせいもある。






・・・・・・・・・・まさか1週間ぐらいで色々段階をすっとばす関係に至るとは思いもよらなかった。

げに恐ろしきは思春期の性のへ目覚めである。弟か、それとも幼馴染の方からなのかは千冬には分からなかったが、この分だとどうやらきっかけは箒の方かららしい。

そもそもの発端がどこぞのバカップル通り越した熱々夫婦のイチャイチャに当てられたと知ったら頭を抱えるだろう。

実際そうなった。


「きっかけは、ですね―――――――」


一夏と再会した初っ端から胸を揉まれ、それからも日頃デュノア夫妻のアレなスキンシップとか夫婦漫才とか見ている内に羨ましくてムクムクと衝動に駆られて結果自分から一夏に迫ったという一連の経緯を聞いて、千冬は頭痛に襲われた。

これは果たして誰の責任なのやら。ラッキースケベに定評のある弟なのか、場を弁えずベッタリしているデュノア夫婦なのか、暴走して肉体関係を迫った箒なのか、そもそも一夏と箒を同室になったのを放置した自分が悪いのか。

多分全てが原因だな、などと責任感に肩を落としつつ今度は鈴の方を見る。次は貴様の番だ、と目が口ほどに言っていた。


「わ、私の方は――――――」


一夏との再会から約束に関するやり取り、一夏の告白と賭けとその結果までを順番に説明する鈴。時折箒も加わって2人纏めて一夏の恋人になるまでの経緯を説明し終える。


「で、ずっと傍に居ながら自分達の気持ちに気付こうとしなかったその代償の代わりに2人纏めて自分達の面倒を見ろと弟に迫ったと、そういう事だな」

「「は、はい」」

「・・・・・・何と言えば良いのやら。半ば無理やり責任を取らされた弟を哀れむべきなのか、無理やり責任を取らせた貴様らに怒ればいいのか、そんな手段を取らせるまで女を追い詰めておきながら言われるまで気付こうとしなかったあの馬鹿をぶん殴るべきなのか、よく分からんぞ」

「で、ですから私が!」

「ううん私が!」

「やかましい。経緯は分かった。それがどうあれ、3人で上手くやっているのも見ていれば分かる。だが周囲からの目を考えろ。今はまだ落ち着いているし学園内での問題で済んでいるが、今後はどうするつもりだ?特に凰、お前は中国の代表候補生だろうが。もし国に戻される事になった場合はどうするつもりだ貴様は?」


一夏と鈴の関係が世界に広まれば、下手をすると国際問題に発展しかねない。

本人達にそんな思惑は無くとも、中国以外の国からしてみれば状況だけなら『世界に2人しか存在しない男性IS操縦者の片割れを中国が女を使って誘惑した』ように見えてもおかしくないのだ。

既に同じ所属国の相手と結婚しているミシェルと違い所属国があやふやな一夏は、最悪彼を巡って第3次世界大戦も勃発しかねない立場にある。今の一夏はそれだけの重要人物なのだ。

ちなみに箒の場合は、本人は嫌がるだろうが今度ばかりは『あの』篠ノ之束の実の妹である事が大きなメリットだ。織斑一夏の恋人(の1人)が彼女となると世界認定の『天災』たる箒の姉を刺激しかねないのだから、下手に手を出す訳にもいかなくなる(逆に束の反応を見ようと敢えて手を出してくる可能性も無くはないが)。


「その時は、その」

「・・・・・・まあ無理に答えなくても今は構わない。お前の場合はその可能性がある事だけでも肝に銘じておけ。弟が原因で戦争が始められても迷惑だからな」

「はい、分かりました・・・・・・」


鋭い眼差しで告げられた千冬の指摘に、哀れになるぐらい鈴の雰囲気が暗くなってしまった。ツインテールもいつもよりしょんぼりと元気が無く、隣の箒が心配そうにそんな鈴の様子を見ている。


「・・・・・・そもそも私も責められてしかるべきなのです。せっかく一夏が自分から決心してくれたというのに、それを踏みにじるような決定を下したのはこの私なのですから」


こちらも肩を落として申し訳なさ一杯の表情を見せたが、それを千冬は鼻で笑ってみせた。


「ふん、アイツがもっとしっかりと女からの好意を自覚しないからこういう事になったんだ。いい薬になっただろうし、本気で嫌がってる訳でもないんだから気にするな」

「しかし!」

「だから一夏は箒の事を選ぶって心に決めてたのに、そこに割り込んできた私が悪いんだってば!」

「お前もだ、凰。揃いも揃って自分の責任にしようとするんじゃない。限度を超えると茶番にしか見えなくなるぞ」


千冬は自分の分の湯呑みから一口啜ってから表情を切り替えた。大人の顔から1人の姉へ。鋭利な雰囲気と顔立ちが緩み、僅かだが千冬の口元には笑みが浮かぶ。


「だが2人一緒にというのは斜め上の展開だったが、私としてはお前達が一夏と結ばれて嬉しいと思っているよ」


いきなりコロッと変わった千冬の様子に2人はついていけず戸惑う。むしろ千冬の方が心外そうに眉を動かした。


「何だその顔は?祝福したのがそんなに意外か?」

「えっとその、もう少しアレコレ怒られるかなーなんて思っちゃったりしてたんですけど・・・・・・」

「確かに言いたい事は他にも色々あったが、お前達2人が一夏と結ばれてくれて喜んでいるのは紛れもない事実だぞ?昔からお前達2人があの馬鹿相手にやきもきしているのをずっと見てきたからな。それがついに実ったとなれば祝福したくもなるさ」

「しかし、流石に2人一緒となると認められないのも覚悟していましたが・・・・・・」

「私がそんなに小さい器の人間だとでも思っていたのか?それは心外だな」

「そ、そんなつもりはありません!」

「あのなあ、こう見えても私はお前達を応援していたんだぞ?教師からの呼び出しも忘れてシケこまれては流石に看過できないが、節度を弁えさえすれば見逃してやっても構わないと考えているし」


悪戯っぽい微笑みに気を取られ、箒と鈴は空返事しか返せない。

何というか、2人にとっての織斑千冬像は鬼軍曹並みに厳しいけど実はシスコンな姉御肌な存在だというイメージが強いせいで、こんな風に恋愛話を楽しむ姿はとても意外だった。


「さっきも言ったかもしれないが、一夏の相手がお前達であって私は安心しているんだ。お前達なら安心してアイツを任せられるし、お前達も一夏の事をきっと守ってくれると信じられるからな」

「それはやはり、一夏がISを動かせる事と関係が?」

「その通りだ。知っての通りこの学園には世界中から留学生がやって来ている。こんな事は言いたくないが、もし国の命令を受けた他の生徒共が一夏目当てに色仕掛けを仕掛けてきた場合の対処に頭を悩ませていた所だ」


教師の仕事がある以上四六時中弟を見張っておく訳にもいかないのである。

例えば転校してきたばかりのラウラだってドイツ製第3世代型ISのデータ取り以外にも軍の上層部から一夏の籠絡を命ぜられている可能性だってあるのだ。幸いにもラウラの性格からしてそちらを実行する可能性はかなり低そうだが、油断は出来ない。

その点で言えば箒と鈴、2人の場合はまず間違いなくその可能性は無い――――2人が本気で一夏を愛しているのを、千冬はずっと前から知っていたから。

誰かからの命令で一夏を籠絡しようと振る舞える程、2人が器用な性格の持ち主でない事もよく分かっている。

そして一夏に打算を抱えてすり寄ってくるような他の女を、この2人が一夏に近づかせる筈が無い。彼女達なら一夏を裏切らない。そういった意味で、千冬は2人が信頼できると言ったのだ。

どこぞの馬の骨とも分からないポッと出の女が相手だったら『弟はやらん』などと言ってやる所なのだが、この2人なら任せてもいい。千冬はそう思う。

それにもう2人は一夏とイく所まで行ってしまったんだし、そこまで深い関係になっているのに妨害するなんて野暮な真似をする気はなく。


「一夏の事を頼むぞ。女に対してはまだまだ鈍いままだろうからな。お前達が睨みを効かせておいてくれれば大いに助かる」

「勿論です!そのような矢から、一夏には指1本触れさせません!」

「それぐらい当ったり前よ!いざって時はぶった切ってからたんまり衝撃砲をお見舞いしてやるわ!」

「殺すなよ?どの手の者か尋問しなければならないんだからな」


もし他にこの光景を見ている人間が居れば背筋に寒気の1つでも感じた事だろう。それぐらい怖い笑みを3人は浮かべている。

・・・・・・今後一夏に近づく女は命がけになりそうだ。


「で、1つ聞きたいんだが」

「何でしょうか千冬さん」


箒と鈴はもう1口お茶を口に含む。


「一夏に抱かれた時はどんな感じだったんだ?」


そして同時に噴いた。予めその反応を予期していた千冬はひょいとお茶の毒霧攻撃を回避。


「な、ななななな!?」

「にゃにゃにゃにゃうにゃー!?」

「そこまで慌てなくてもいいだろう?弟の夜の『性』活を気にして何が悪い」

「だ、だ、だ、だからってですねぇ!?」

「にゃ、にゃ、にゃにをいきなり聞くんですにゃー!?」

「何ってナニだが?それに私もまだ処女なんでな、後学の為に『経験者』に体験談を聞いておこうと思っただけさ」


そんな事あっさりカミングアウトしちゃって良いんですかと突っ込みたいけど、更にカオスになりそうで突っ込めない。

やっぱり一夏の姉なだけあるわこの人、と今更ながら感じてしまう。どうしてこうあっさり言いにくい事を素で聞いてくるかなぁ!?

ここまでサバサバ振る舞われるといっそ清々しい。


「それでやはり痛いのか?最後に一夏と風呂に入ったのは小学生ぐらいの頃に一緒に入ったきりなんだが、アイツの×××はどれくらい成長して――――」

「そ、それは、普段はこれぐらいなんですが、おっきくなった時はコレぐらいの大きさまで・・・・・・」

「で、でですね、一夏のが入っちゃった時はこう、(ぴー)で(ぴー)で(ぴーぴーぴー)な感じで―――――」

「・・・・・・成長したなアイツも。おっとそうだ、篠ノ之には渡す物があったんだった」


千冬がテーブルに置いて箒の方に差し出したのはファンシーなウサギの模様が縫いこまれた風呂敷包み。


「束からだ。お前にぜひ受け取って欲しいそうだ」

「姉さんから、ですか・・・・・・」


行方不明の姉からの贈り物と聞かされて嫌な予感に開けたくない思いが半分、怖いもの見たさが半分。

しばし悩んだ後、中身を見てみる事にする。入っていたのは何だかメカメカしい四角い箱。ゴクリと唾を呑みこんでから、意を決して蓋を開けてみる。


「これは・・・・・」

「・・・・・あの馬鹿め」

「えーっと、これって」




「「「赤飯、だな(よね)」」」




何で知ってるんだ、と箒は世界の何処かに居る姉をぶん殴りたくなった。





















ここ最近のシャルロットの日課は、食事の時間に食堂に居るであろうラウラの姿を探す事だった。

彼女が転校してきてからは最低でも1日に1回、ラウラと食事を共にするようにしている。

大概彼女は食事を1人で取っている。食堂が混雑している時は逆に人で埋まっていない空間を探すのがコツだ。未だ彼女に自分とミシェル以外の友人が出来ていない証左なので少し悲しくなるが。


「今日も来たのか。ミシェルの事は放っておいていいのか?」

「そのミシェル方頼まれてるんだよ。ずっと1人だけで食べる食事なんてつまらないでしょ?」


今日のラウラの夕食はハンバーグステーキセット。付け合わせのロールパンにバターを塗りつけるラウラを見ながら、昼間の事を思い出してシャルロットは言った。


「―――――ねえラウラ。何時まで一夏の事を目の敵にし続けるの?織斑先生との事を気にしてるんだったら、あの原因は一夏を誘拐しようとした人達が悪いんであって一夏自身が悪いんじゃないんだよ?」


第2回モンド・グロッソにおける一夏誘拐事件に関しては当事者の1人であるミシェルから聞かされた程度の事しかシャルロットは知らない。

しかしそれを抜きにしても、ラウラと知り合った当初から彼女が孕んでいた一夏への憎悪は何処からどう見ても逆恨み以外にしか思えなかった。

だからそれを何とかしたい。ラウラも一夏や彼を取り巻く少女達と仲良くして欲しい。だって、どちらもシャルロットとミシェルにとってかけがえの無い友人だから。




だが、ラウラの返答は意外な物だった。


「何を言っている。これまではともかく、今の私は織斑一夏に対しそのような敵愾心など持ってはいないぞ?」

「へっ?」


予想外の言葉にしばし思考が停止する。それに気付いた風もなくラウラは続ける。


「確かにあの男は教官の偉業を阻んでくれた許されざる存在だ。そのような教官の手を煩わせるような軟弱者を認めるつもりは無かった―――――実際に会うまではな」

「そ、そう」

「奴はこの学園に居るこれまでの日々をぬくぬくと過ごしてきたISをファッションか何かかと勘違いしているような程度の低い連中とは違う。自分達の学んでいる事が『暴力』と『戦争』に関わる物事であると理解し、尚且つひたすら自分の力を磨く事に余念の無い男だ。強いて言えば、ミシェルに近い人間だな」


ラウラの言う通り、一夏もミシェルも日々トレーニングを怠らず戦いに必要なら自分でやれる範囲で何だってする人間だとシャルロットも思ってしまう。


「そして何より戦いの技術を『実戦』に用いるのに躊躇いが無い。拳を交えて分かったが、あの男は習得した戦闘技術を実際に『暴力』として用いた事が多々あるのだろう。そうやって実戦に自らの身を置いてより己を研ぎ澄ませてきたに違いない」


ドンピシャである。そこまで言ってパンを噛み千切りながら、アリーナで一夏と交わしたのと同じ獲物を前にした獣のように凶暴な笑みをラウラは浮かべる。


「このような平和ボケした国で教官以外にそのような人間に出会えるとは思っていなかったが・・・・・・上の命令でこんな所に編入されたかいもあるというものだ」


ここまで来ると、シャルロットにもラウラの内心が分かってきた。

つまり彼女は自分と同じだけの力量を持つ強者に出会えて嬉しいのである。まるでミシェルが教えてくれた漫画に出てくる強さを極める為に誰彼構わず戦いを吹っ掛ける武闘家だ。

こう言うのを何て言うんだっけ?ああそうだ、バトルジャンキーだ。

どっちかっていうとミシェルも似たり寄ったりな気がする。一夏も決闘申し込まれた時あっさりと売られた喧嘩買っちゃってたしなぁ。
















「ああ、楽しみだなぁ。早くあの男と戦ってみたいものだ」


恍惚と、まるで遊園地に行くのを楽しみにしている子供みたいに楽しそうな声で呟いたラウラに、シャルロットは冷や汗を流した。

果たしてこれで良いのか、悪いのやら。










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反応が怖ひ・・・こういう女同士のトークは難しいです。野郎の馬鹿話は書き易いんですけどね。

次回、1度目の一夏VSラウラ戦の予定



[27133] 2-5:Black vs White:1st Round
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/11 00:06


ようやくこの時が来た。

長かった、と思う。意外と早かった、気もする。

アリーナの中心部、10m程の距離を置いて睨み合う白と黒の機影。外気に曝け出される互いの瞳は、相手を捉えて離さない。動かない。


「遂にこの時が来たな」

「ああ・・・・・・待ち侘びたぜ」

「ふん、それはこちらのセリフだ」


決闘の立会人として集められたのは常に一夏と行動を共にしているミシェル達に加え、織斑千冬と山田先生もまた相対し合う2人を静かに見つめている。

一夏は<雪片弐型>を下段に構え俊足の踏み込みを何時でも発動できるよう足に力を溜めこむ。それだけで一夏の放つ気配はその手に握る刃もかくやな鋭さを孕んでいた。

ラウラは両腕からプラズマ手刀を展開。飛び道具を有しながら敢えて一夏の得意―というよりもISの都合上それしか出来ない―である接近戦で相手をしてやろう、という無言の挑発が滲み出ている。


「――――織斑一夏、参るぜ」

「何処からでもかかってこい。このラウラ・ボーデヴィッヒ、逃げも隠れもしないぞ」


それだけで十分。同時、2人の口元を微笑みが過ぎった。




――――笑みとは本来攻撃的なものであり、獣が牙を剥く行為が原点である。




「いざ!」

「尋常に!」

「「勝負!!」」


白と黒の弾丸が激突した。






――――――観客達の会話:


「えらいノリノリですわねあのお2人は・・・・・・」

「っていうか一夏はともかく、相手の方もあんな口上何処で知ったのかしら?」

「・・・・・・・・・・(多分クラリッサさんだろうなぁ)」←心当たりがあるけど実は間違ってる人

「・・・・・・・・・・」←教官の生まれ故郷について詳しいからとしょっちゅう話を聞かれた&海外独特の日本の勘違いっぷりに耐えかねて知ってる範囲で侍とか武士道とか色々語ってしまった奴










一瞬の交錯。それだけで2人は相手の技量を悟り直す。


「(いっぺん生身で戦って分かってたけど!)」

「(1度拳を交えて理解していたつもりだが)」

「「(やっぱりコイツ(この男)、できる!)」」


擦れ違ってからすぐさま反転し、互いに相手へと斬り込む。

ラウラのプラズマ手刀は超高音で主力戦車の装甲すら溶断するが、代わりに<雪片弐型>の様な実体刀を受け止めて防御する事は出来ない。それは一夏の方も同じ条件なの弾いたり受け止めたりしようとしてもそのまますり抜けてしまうのだ。

そもそも普通は大抵の金属相手だと触れた途端に蒸発させられるのだが、<雪片弐型>に限ってはどんな素材に出来ているのか焦げ跡1つつかないのである。

なので2人は相手の攻撃を受けるのではなく避ける事に専念する。

一夏の剣捌きが緩急織り交ぜた一陣の風なら、ラウラの2刀流は竜巻の如く激しさ。プラズマ手刀そのものに重さはほぼ存在しない為身体の動きが鈍る事はない。それを生かした連続攻撃。

負けじと一夏も怒涛の斬撃を繰り出す。突き、そこから刀を傾け斬り払い、決して大振りにせずコンパクトな斬撃で隙を作らない。攻撃の手を緩めない。

ラウラがバックステップで距離を取ろうとした。そうはさせまいと一夏は大きく踏み込み、シールドごとラウラも貫かんとする勢いで裂帛の突きを――――


「っ、ヤベェっ!」


逆に自分からラウラから距離を取った。まだ完全に重心を前に載せる直前だったから間に合ったが、もしあのまま突っ込んでいたら、


「フン、やはり停止結界に気付いていたか」

「ああ、しっかりとミシェルから話は聞いてたからな」


ラウラは右手を突き出して悠然と仁王立ちしていた。

AIC、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。ラウラは『停止結界』と呼んでいるらしいそれは、対象を任意に停止させられるという無敵の盾。

ミシェルのISには<シールド・オブ・アイギス>としてビットに搭載されている存在だが、ラウラの場合は<シュヴァルツェア・レーゲン>の腕部に内蔵されている。

まずは敵を知る事が戦いの基本中の基本。この日の為にラウラをよく知るミシェルから話を聞いておいた。


「お前の停止結界の弱点も聞いてるぜ?エネルギー兵器や操縦者が反応し切れない攻撃には効果が無いんだってな」

「それがどうした?こちらも貴様のISの弱点は聞かせてもらっているぞ。貴様のISには、その刀1本しか武装が無い事だとな!」


アリーナで宣戦布告されたあの日、一夏に向けてきたのと同じ大型のレールカノンがラウラの右肩に展開される。


「吹き飛べ!」


チャージ、発射、着弾。避けた一夏の背後から衝撃波が砂交じりの追いかけてきた。連射速度は遅いが、その見た目に相応しい威力を持っているようだ。


「逃げ回るだけか?ならば精々無様に這いずり回れ!」

「ご生憎様、やられっ放しは嫌いなんだよ!」


弾幕を張るタイプでなければなんとかなる。

アリーナの壁沿いに砲撃から逃げ続けていた一夏は方向転換し、真正面からラウラへの元へ飛んだ。

それを逃すラウラではない。真っ直ぐ一夏へレールカノンを照準し――――発射。直撃コースだとラウラは確信する。

だが当たらなかった。砲口から大口径の砲弾が飛び出すと同時に、斜め前へと軌道変更。瞬きする間よりも速く飛来した砲弾がすぐ横を通過し、衝撃波に<白式>装甲が震えた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「小癪な!」


ラウラは更に砲弾を連射。機動予測に加え照準を微妙に下へ向け、直撃狙いから地面への着弾による破片効果と衝撃波で一夏の足を止めようと試みる。

一夏は止まらない。しっかりと砲口の向きと発射のタイミングを見定めた一夏は、踏み込みを加速させる事で着弾の効果範囲外へと逃れ続ける。

既にラウラとの相対距離は<雪片弐型>の射程までISを用いた踏み込み3回分。瞬時加速を使えば最早零に等しい近さ。これならきっと、一太刀は入れれる筈。

ちょっと待て、と一夏の本能が囁いた。ラウラの顔を見ろ、ここまで近づかれて慌てている相手が浮かべる表情か?

思い出せ、ラウラの<シュヴァルツェア・レーゲン>の基本兵装はAICにプラズマ手刀、レールカノンに――――――


「甘いな」


両肩部と腰部パーツにも搭載された3対6個の誘導式ワイヤーブレードが広がるように飛び出した。包み込むような軌道を描いて一夏に襲いかかる。

横は塞がれた。後退すればレールカノンの餌食。逆に前に突撃?向こうは迎撃する気満々だ。


「舐めんなぁっ!」


一夏は今度こそ跳んだ。扇状に広がるワイヤーブレードの間、ラウラの頭上を空中で一回転しながら飛び越える。直後、一夏の立っていた地点に6個のワイヤーブレードが次々突き刺さった。

ラウラの背後に着地。気配を頼りに<雪片弐型>の切っ先を反転させると左脇から通して強引に後方へと突き出した。更に並行して大きく身を屈め頭の位置を低くする。

振り返りざまに一夏の首を撥ねる勢いで振り抜かれたプラズマ手刀が一夏の頭部から数cm上を通り過ぎ、実体刀の刃はラウラのISの肩部パーツに一筋の浅い傷跡を刻むに止まった。

すぐさま構えを戻しながら敵と向き合い直す。2人の顔に張り付いているのは、やはり不敵かつ愉しげでさえある獰猛な微笑だった。


「期待通りの強さで嬉しいぞ、織斑一夏」

「そっちも思った通り結構強いじゃねぇか」




「「だが――――勝つのは俺/私だ!!」」




再び接近戦に持ち込む。一夏の振るう刃はより鋭さを増し、ラウラの攻勢はより激しさを増す。生半可な者ではもはや目で追いきれない程の攻撃が交錯し合い、徐々に徐々に相手のシールドをに被害を与え出していた。

一夏の一撃の威力の差をラウラは手数の多さで補う。今の状況はどちらかといえば一夏にとってありがたい状況であった。これだけ激しくやり合っていれば停止結界を発動させる余裕もないからだ。

しかしここでラウラはプラズマ手刀以外にもワイヤーブレードも接近戦に用い始める。途端に一夏の攻撃の激しさよりもラウラの手数の方が上回るようになった。攻勢に出るよりも回避に専念せざるを得なくなる。


「だーっ、うっとおしいなそれ!そんな武器あるんなら俺にも1つよこせ!」

「欲しいのならばくれてやろう。1つだけと言わず全部貰っていけ!」

「そいつは勘弁!」


ワイヤーブレードは個々がまるで空中でのたうち回る蛇のように複雑な機動で一夏に食らいつかんとしてくる。とにかく厄介なのは一旦弾いてもラウラの命を受けてすぐに別の方向から襲いかかってくる点だ。

チクショウ、よくもまあ1度にこれだけの数をこんなに上手く操作できるもんだ。こっちは刀しか得物が無いってのによ!本当に羨ましいぞ!

しかもこうして距離を取れば、


「ほら撃ってきやがった!」


回避先を塞ぐように先回りしてくるワイヤーブレード達に足止めされた所で、今度はレールカノンの砲弾が一夏に牙を剥いた。目前に着弾、砲弾が爆発を起こし衝撃波に一夏は吹き飛ばされ、シールドエネルギーを一気に消費する。

両手足を使った四つん這いの体勢で着地する一夏。動きを止めたその瞬間をラウラが見逃す訳もなく、次弾に対ISアーマー用特殊徹甲弾を装填。今の状態なら直撃すれば一撃で勝敗は決する。

針で突き刺されるような一点に集中されたラウラの殺気を感じる。それが風船のように膨れ上がった。回避は間に合わない。だが、唯一の武器で魂でもある刀はこの手に握ったまま。




なら選ぶ手段は決まっている。




レールカノンの砲口から噴き出す強烈なマズルフラッシュ。

不安定な体勢から一夏は刀を下から上へ振り抜いた。その瞬間、両手を強烈な衝撃が襲う。一瞬後一夏の斜め後ろで砲弾が地面にめり込む。

セシリア戦で見せた弾丸切りを一夏は見事に成功してみせたのだ。正確には<雪片弐型>に当てて弾いたのだが結果は変わらない。直撃を免れた一夏は体勢を立て直す。

しかし代償もあった。


「(マズイ、衝撃で腕が―――)」


セシリアの時のレーザーとは違い、今回受け止めたのは超音速の大口径砲弾。比較的重い砲弾を超音速で撃ち出されて生じるその威力は戦車すらも正面から撃破出来てしまうのである。

そんな砲撃をISの手助けがあるとはいえ刀1本腕2本で受け止める方が無茶なのだ。砂の上に立てた木の棒と同じで、物が当たれば棒は折れなくても土台が破壊されてしまうのと同じ原理だった。

電撃でも浴びた様な腕の痺れと鈍痛が一夏の両手から肘までを支配している。大して徹甲弾を受け止めた筈の<雪片弐型>には刃こぼれの1つも見受けられない。本気で何で作られているのか気になってきた。


「(あんな砲撃もう1回か2回弾くので精一杯だ。せめて腕が回復するまで時間を稼がねぇと!)」

「どうした、もう1度その曲芸を見せてみろ!」


ワイヤーブレードと砲撃の多重奏はより激しさを増す。ラウラの攻撃は巧みで、ワイヤーブレードで逃げ道を塞ぎ気を取られればレールカノンが飛んでくる。着弾の衝撃波に動きが鈍ればワイヤーブレードが絡みつこうとしてくる。

動きを止めるな。動け。動け。動け。動け。動いて足掻いて逃げ続けろ。

・・・・・・いや、それだけじゃダメだ。このままずっと逃げたら追い込まれて負ける。攻めろ!


「(相手の空気を読み取れ。虚を突くんだ)」


狙い目は砲撃の瞬間だ。威力は高いが連射は利かないのは身を以って知った。1発目を避ければ勝機はある。

狙いは砲撃の引き金を引くその瞬間。それは気配で分かる。何度か回避していく内に砲撃する瞬間のタイミングも覚えた。このまま近づけずにジリ貧のままよりは短期決戦に持ち込んだ方が良いだろう。

降り注ぐ雨の様に飛んできたワイヤーブレードを回避。地面に着地し、一瞬動きが止まる。

――――そうだラウラ、お前ならこれで十分だろ?

鋭さを増す気配。それが最高潮に達した瞬間、一夏は前方へ身を投げた。予想通り放たれた砲弾は僅かに一夏から外れ遥か後方へ消える。瞬時加速発動。世界が遅くなる。

身体を僅かに捻じり、半身になって居合いの型を取ると峰側の刀身の根元に左手を添えて鞘に見立てる。

握力が完全に戻っていないが、<零落白夜>を展開した状態で高速抜刀による切れ味に瞬時加速の速度を上乗せして刃を押しつけるようにして斬れば、間違い無く絶対防御を発動させれる―――それが一夏の狙いだ。

勝負は一瞬。絶対に外せない。




「――――見えているぞ」




『金色』の瞳と目が合った。

いつの間にか外されていたラウラの左目を覆う眼帯の下、そこに隠れていた月の様に黄金色の光を秘めた瞳がしっかりと一夏を見据えていたのだ。

そう、特別なのはISだけじゃない。ラウラ本人も特別なのを一夏は失念していたのである。

<ヴォーダン・オージェ>。ナノマシンを用いた疑似的なハイパーセンサー。ミシェルの話では常日頃から着けているあの黒い眼帯はリミッター代わりだという。

超高速で真っ直ぐ向かってくる白の弾丸と化した一夏の動きをラウラは完全に把握し、余裕すら漂わせる緩慢な動作―そう一夏からは見えた―で右腕をゆっくりと持ち上げる。不可視の筈の停止結界、そのありとあらゆる物体を空中に縫い止めてしまうエネルギーが右の掌に集まっていく様子が、何故か一夏には感じ取れた。

もう方向転換は間に合わない。左右どちらへ方向を転じても加速が付き過ぎて停止結界の範囲内に飛び込んでしまうだろう。さっきみたいに上に跳んでも、しっかり動きを読まれているんだから絶対に捕まる。

どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする・・・・・・・・・・・!!


「はあああああああああああああっ!!!」


一夏は投げた。

匙ではなく、<雪片弐型>を。鞘から刀を抜くまでを居合い同様に、ただし握る手を途中で離す。

結果、全長が1m半を超える<雪片弐型>は切っ先の方をラウラの方に向けて一直線に突き進む。


「小癪なぁッ!」


投じられた刀は停止結界に絡め取られラウラには届かなかった。すぐに無手となった一夏の姿を探す。

停止結界を完璧に発動させる為に刀に意識を集中させたのが仇となった。一夏は投擲するとすぐ身を低くしたまま足を止めず、ラウラの意識が<雪片弐型>に奪われたその隙を突いて彼女の背後に回り込んでいた。

ラウラが気が付いた時には一夏の両腕は彼女の臍の下をガッシリ捉えていた。腰を出来る限り落としながら後ろから抱きついたので一夏の顔はISスーツの食い込み激しいラウラの小さなお尻に埋める格好になっているのだが、その時一夏の顔に浮かんだ笑みはその感触を楽しんでの物ではない。

ようやくラウラに一矢報いれる事への、歓喜の笑みだ。

箒の道場に通っていた頃は剣術以外にも無手でも対応出来る様古武術も仕込まれてきたし、誘拐されてからは千冬姉から、加えて山籠りでは稲葉先生や兄弟子からも一緒に習いに訪れていた少女と共に鍛えてもらいもした。

更に戦い方の幅を広めようと他の格闘技にも手を出し、不良相手に『テスト』を繰り返す事で実戦に足るレベルまで技を磨いた。この組み技もその1つ。


「どぅおりゃああああああ!!!」


そのまま豪快に後方へとぶっこ抜く。ラウラの視界が一瞬で反転、そして後頭部から背中へ突き抜ける衝撃。鍛えられたラウラが反応できない程の高速バックドロップである。

まさかIS同士の戦闘でこんなプロレスの大技が見られるとは思わず唖然となる観客を余所に、ホールドを解くと高々天に伸ばされたラウラの足が地面に落ちるよりも速く今度は右腕を取り、手首と肘を捻じり上げる。

おまけとばかりに関節を極められた腕の根元、右肩を一夏は思い切り踏みつけた。元より腕の3倍の力を持つとされる脚力をISで強化した上に、踵という人体でも特に硬い骨をそれだけの力で叩きつけるのだ。まともに入れば絶対防御すら発動してもおかしくない。

右肩を踏みつけられる直前、ラウラは自由だった左腕で右肩を庇った。足と肩の間に左腕を割り込ませ、前腕の装甲で踏みつけを防ぐ。装甲が小さくひしゃげ左肘から先が軋み、吸収しきれなかった衝撃が身体を揺さぶった事でねじ曲げられた右腕が悲鳴を上げた。

だが耐える。この程度、訓練で散々してきた痛みだ。肉体の痛みよりも精神の痛みの方が1万倍強烈で苦しい事をラウラは身を以って味わってきた。だから耐えられる。


「私の上から、どけぇ!!」


荒々しく足を振り上げ、無防備な一夏の背中を蹴った。思わずバランスを崩してどいてしまう。足を下ろす反動と腹筋を生かして地面から跳ね起きる。

一夏が後ろ回し蹴りを放つ。それをラウラは地面に這いつくばるようにして避けると同時に、その体勢から前後反転して一夏の軸足を払う。足払いというよりは草を刈り取る鎌の様に鋭い変則的な下段回し蹴りだった。

今度は一夏の方が背中から倒れ、ラウラが馬乗りになった。マウントポジションから殴る。殴りまくる。一夏も両腕でガード。金属の拳と装甲が何度もぶつかり合って耳障りな音色を奏でる。


「貴様は、いい加減、私に、やられろっ!」

「誰が、あっさりっ、負けを、認められっか!」

「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」

「んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!」


ラウラの拳を一夏が両方とも受け止め、また殴られまいとそのまま離さない。ラウラが一夏にのしかかる体勢のまま、2人はアリーナの中心で睨み合う。

拳はお互い封じられた。しかし武器を失おうとも、拳を封じられようともまだ手段はある。

―――――人間の頭も、十分鈍器に相応しい固さを誇っているのである。


「一夏あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ラウラあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


2人は大きくのけ反って、ほぼ同時に額を相手に叩き込んだ。

ぐわあぁ~~~~ん・・・・・・と、誰も聞いた事もない奇妙な打撃音が空間に響き渡り。




観客が目の当たりにした光景は、額同士が激突した体勢のまま固まった2人の姿だった。















「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」


5秒経過。動かない。10秒経過。未だ硬直したまま。

やがてどういう事なのか最初に思い至った千冬は、やれやれと額に手を当てながらこう宣言した。


「――――終了だ。山田先生、グラウンドに入れるようにして下さい」

「えっと、どういう事ですか・・・・・・?」

「あの馬鹿ども、2人揃って気絶しています」

「えええええっ!?あっ、本当です!」


ISから送られてくる2人のバイタルが表示された手元の端末を見ながら素っ頓狂な声を上げた山田先生を放って、観客の一部は額をぶつけ合った体勢のまま気絶している2人を黙って見つめ続ける。具体的には箒と鈴とセシリア。

何故かといえば、仲良く意識を失っている一夏とラウラの姿勢が理由である。


「何をしている!早く目覚めんか一夏!」

「近過ぎよバカー!さっさと起きろー!」


近い。近過ぎる。額と額が完全に密着状態のまま器用に固まっているせいで一夏とラウラの顔は鼻と鼻がしっかり触れ合う位の近さなのである。

顔と顔の距離が近過ぎて、少し離れてしまえば何かもうラウラが一夏を押し倒して唇を奪っているようにしか見えない。マジでキスする5秒前通り越して5mm前ってなもんである。どちらかが少しでも身じろぎすれば確実に唇が触れ合うだろう。

そしてこんな時に限ってそれが現実になるのがお約束ってもんである。


「んっ・・・・・・・」


ラウラが、目を閉じたまま悩ましげな声を漏らした。意識が覚醒しかけなのかほんの僅かに無意識に身体を揺らし。

絶妙なバランスで触れ合っていた額の位置がずれ、化粧っ気が無いにもかかわらず桃のように瑞々しい小さな唇が一夏の口元に触れた。


「な」

「え」

「あ」

「む?」


時が凍る。少女達も凍る。ラウラの意識が完全に覚醒する。ぶちぶちぶっちん、と何かが切れる音をミシェルとシャルロットは確かに聞いた。

文字通り人間兵器として育ってきた少女の視界にまず飛び込んできたのは目を閉じたにっくき男の顔のどアップであった。


「な、何をするだあー!?」

「はぼっく!?」


顔面にめり込む手加減なしの右ストレート。面白いように地面と平行に飛んでいく一夏の身体。

強制覚醒させられた0.1秒後に今度は永眠させられそうになった一夏は状況が掴めないまま、拳を振り抜いた体勢からして頬の激痛の下手人であろうラウラに抗議をしようとして、


「のわあ!!?」


横合いから飛んできた衝撃砲とレーザーをかろうじて回避。そっちの方を見たら鬼神が3名ばかし居られましたよ?

約1名は自前の機体が無い代わりに真剣を構えている。一体何処から出した。


「分かっている、分かっているのだ。今のは単なる事故なのだと・・・!」

「でもねえ、だからって納得いかないのよ。目の前でそういう事されちゃうとさあ!」

「恨めしいですわ妬めしいですわどうしてわたくしばっかりあんなポッと出にまで唇を許しているのにどうして私だけ(ry」

「何だかよく分からないけど、不幸だ―!」


砲撃爆発悲痛な悲鳴。


「―――――ねえ、どうする?」

「・・・・・・とりあえず、止めに入るぞ」

「やっぱり。だと思ったよ、はあ」




大きな溜息を吐きながら専用のISを展開するデュノア夫婦の背中は、諦観と心労が滲み出ていたという。
















――――――織斑一夏VSラウラ・ボーデヴィッヒ・第1回対戦成績:両者ノックアウトによる引き分け







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後半が格闘戦になっちゃったのは某映画の影響大です。
ドニー・イェンは神。



[27133] 2-6:家庭の事情/タッグマッチに向けての一幕
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/14 11:47


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


翌朝の食堂。朝食を取りに来た一夏とラウラは丁度鉢合わせした。

結局昨日の戦いは両者痛み分けという事になったらしいが、その瞬間の記憶が無い2人からしてみれば納得いかないやら気が済まないやら。

・・・・・・だったのだが、ラウラは一夏とキス(?)をしてしまった事から、一夏は(当人には)身に覚えの無い事で箒と鈴とおまけにセシリアに追っかけ回されたお陰でその場ではうやむやになってしまった。

無言で見つめ合う。どう声をかけるべきかどう反応すべきか、今の一夏には思い浮かばない。食堂まで一緒に行動を共にしていたミシェルが『早くどうにかしろ』と目で言っている気がした。

先に動いたのはラウラの方だ。おもむろに距離を詰めると、そっと一夏の制服の端を掴む。小さな手だな、などと一夏は考えてしまう。

彼女は片方だけの紅い瞳でたっぷり一夏を見つめてからこう言った。




「私の『初めて』を奪った責任・・・・・・・・・取ってくれるんだろうな?」




その瞬間。周囲の音が消えたと後にミシェルは述懐している。

一夏にその記憶は無い。何故ならラウラの言葉の意味を理解した瞬間、意識が飛んでしまっていたからである。

たっぷり十数秒後、背筋に浴びせられる禍々しい気配の集中砲火によってようやく一夏は我に帰る。とてもぎこちない動きで気配の先を見る。すぐに見なきゃよかったと後悔。

手の中の強化プラスチック製の箸と粉砕している箒と鈴に鉄製のフォークをグニャグニャにへし曲げているセシリアがそこには居た。3人をシャルロットが慌てて収めようとしているが効果無し。一夏としては箒と鈴なら分かるけどセシリアまでそこまで怒る辺りが理解できない―――やっぱり一夏は女性関係に関してはまだまだ問題点が多そうだ。

さて、ここで動いたのは朝っぱらから面倒は御免なミシェルである。このままじゃ埒が明かないし食堂で暴れられては朝食が取れなくなってしまいかねない。


「・・・・・・なあラウラ。その言い方、誰から教えてもらった?」

「クラリッサからだ。日本では男に唇を奪われたらこう言うのだと教えてもらったのだ」




やっぱりあの人が原因か、とミシェルは文字通り頭を抱えた。


















「・・・・・・だからなラウラ、そういった事はもう少し、こう、上手い表現が思いつかないが・・・とにかく少し重過ぎる意味合いに取られかねないから、別の言い方にした方が良いぞ」

「そうなのか?だがクラリッサが嘘を言うとは思えんのだが」

「意味は間違ってないんだよね意味は。だからもう少し言うタイミングを考えようねって事なんじゃないかな」

「とりあえず俺はそのクラリッサって人に文句を言ってやりたいよ・・・・・・」


局地的混乱も収まり朝食タイム。フランス人のシャルロットはクロワッサン、ラウラはドイツ人らしくソーセージにライ麦入りパンとお国柄のハッキリした献立である。

その点で言えば大盛りご飯に味噌汁、生卵に塩鮭に焼海苔と純和風な朝定食セットを頼んだミシェルは少し変わっているのかもしれないが、まあ好みは人それぞれである。これで納豆があれば完璧なのだがキスの時シャルロットに不快な思いをさせたくないので泣く泣く外してもらった。贅沢な悩みである。

今日の朝食は上のやり取りから分かる通り、いつもの面子にラウラが追加されていた。最初に比べ一夏達に向けられていた敵意混じりのラウラの気配が少し緩んでいる。1度ぶつかり合って心境が変化したのだろうか。

一夏も何となくラウラをもう受け入れてしまっている感じだが、ラウラが同席していて面白くないのは一夏の恋人達+1だ。鈴と箒とセシリアはしきりに色々言いたげな視線を一夏とラウラに送っている。

それに気付きながらもあえて無視してラウラは続けた。


「昨日はあ・・・・・・あのような不本意な決着となったが、今度こそ私が勝つ。首を洗って待っていろ」

「それはこっちのセリフ。次こそ絶対勝ってやる。学年別トーナメントも近いし、いい機会だから決着はそれでつけようぜ」

「そういえば一夏、その事なのだが――――」


丁度良いとばかりに箒が話に加わり、昨日の決闘後知らされた内容を告げる。

簡単に説明すると、今回の学年別トーナメントはルールを変更してタッグマッチにするのでサッサと組む相手を見つけておけとの事。最後まで決まらない時は抽選で決めるそうな。

一夏は決闘と3人に追いかけ回されたのに疲れてぶっ倒れていたので知りそびれていたのだった。


「1対1でやれないのは残念だがまあいい。貴様が組んだ相手もろとも叩きのめすまでだ」


コップになみなみと注がれていた牛乳を一飲みしてから自信満々に言い放つラウラであったが、


「そんな事言うのは構わないけど、口の周り牛乳まみれじゃカッコつかないぞ」

「むう、う、うるさい!」

「ダメだよラウラ、制服で牛乳拭いたら染みになっちゃうよ」


顔を赤くして制服の袖で拭い取ろうとしたラウラを隣に座っていたシャルロットが止めると、テーブルのスタンドに重ねて置いてある紙ナプキンを抜き取るとラウラの口元に手を伸ばした。

甲斐甲斐しく優しい手つきで口の周りの汚れを取っていくその様子は何処か手慣れていた。それに釣られたかのように妻とは反対側に収まっていたミシェルも、


「・・・・・・寝癖も付いているな。ラウラも女の子ならば、もう少し髪型に気を使うべきだ」

「寝癖程度で死にはせん。私としてはいい加減お前(ミシェル)位の長さまで刈り落としたいのだが、クラリッサ達に強く止められていてな」


ミシェルの髪型はクルーカットより若干長い程度。髪型もまたミシェルが軍人か傭兵か何かに間違えられやすい一因なのかもしれない。


「それはちょっとやり過ぎではないか・・・・・・?」

「いやあ、流石に女の子でその髪型は問題あると思うわよ?」


これには一夏絡みでラウラを良く思わない箒や鈴も同じ女としては止めざるをえない。もったいないではないか、自分達でも羨ましいと思ってしまう位綺麗な髪なのに。


「・・・・・・ほら、動くな」

「むう、くすぐったいぞ。だがやはりミシェルに髪を梳いてもらうのは気持ちが良いな」


ミシェルの手櫛がラウラの髪を丁寧に整えていく。何度も擦りむけて固く太くなった指でありながら手つきはとても繊細で、指の間から銀そのもの糸にしたような美しい髪がこぼれ落ちる。

目を細めてミシェルに触られるがままで居るラウラの様子は、まるで猫の様だ。思わず一夏達まで口元を緩めてしまう。


「ミシェルさん、何だか手慣れていらっしゃいますわね」

「・・・・・・シャルロット相手にこうしてやる時も多いからな」

「合同演習の時にラウラ達と一緒にご飯とか食べる時もよくしてあげたりしてたしね。ラウラってば髪とかオシャレとか無頓着過ぎるんだもん」


演習時の高速機動の際に髪型が乱れても指摘されるまでほったらかしなんだとか。その度に部隊の部下達だったリミシェルやシャルロットに整えてもらっていたりする。


「それにしても、そうしてるのを見るとなんか親子みたいね。ちっとも似てないけど」

「あー確かにそれっぽいな。シャルロットもどっちかって言うと母性溢れてるし、ミシェルも頑固親父って雰囲気だし」


そう言われてきょとんとした表情を浮かべたのはラウラ。


「・・・・・・本物の親子というのはこんな事をするのか?私は優秀な遺伝子を元に人工子宮から生み出されてからこの方、教官達に育てられてきたからそういった『家族』についてはよく知らないのだが」


一気に空気が凍りついた。食事の場であっさりとそんな過去を何でもない様に―実際ラウラは特に考えて言ったつもりではない―告白されて、「へぇそれで」と流せるような一夏達ではなく、揃いも揃って非常に気まずそうな顔で視線を巡らせている。

ラウラの出生を大体は本人から聞かされていたデュノア夫妻はいきなり爆発した地雷にどうしようといった様子でこちらも互いの顔を見合わせてから、話題転換を試みる。


「そ、そういえば一夏のお父さんはお母さんはどんな人?一夏や織斑先生ってどっち似なのかな?」

「――――――俺と千冬姉、捨て子だから」


どうやら逃げた先もトラップ地帯だったようだ。更に重苦しさをが増す空気。今度は聞かれた一夏の方が空気の入れ替えを行おうと、


「り、鈴の家の中華料理屋にはいつも世話になったっけな!また鈴の親御さん、店とか再開するのか?楽しみなんだけど俺」

「・・・・・・ウチ、離婚したから」


踏み込んだ先は脱出不可能な底無し沼だったらしい。どんどん場の空気がダウナー的な方向に悪化していっている。

次に裏返った声で発言を試みたのは箒である。


「ま、前から気になっていたのだが、セシリアの御実家は名のある名家だと聞き及んでいるがどの程度のものなのだ?」

「え、ええ箒さんの仰る通り、オルコット家はイギリスに数多く存在する貴族の中でも名門中の名門ですわ!特に私の母は殿方の権力が大きかった時代から自ら企業などを運営しオルコット家の発展に尽力した偉大な方でしたのよ」

「そうか、1度お会いしてみたいものだな」

「ええわたくしもそう思いますわ・・・・・・数年前の列車事故で、母も父も亡くなってしまいましたから」


残念、後半が余計だった。更にドツボに嵌っていく場の空気。今やその重さはマリアナ海溝の水圧並みの圧力である。幾らなんでも家族問題が1ヶ所に集中し過ぎじゃなかろうか。

ミシェルはふと思う。

類は友を呼ぶとか言うけれど、もしかしてこういうのもそういうのに含まれるんだろうか。エスプリが利き過ぎだろう、と突っ込む他無い。







結局、いっそ質量さえも得てしまいそうな位重苦しい雰囲気が払拭されるには再度一夏が話題転換にチャレンジして成功するまでかかった。その時の一夏の声もどこか、引き攣ってはいたのだが。


「箒や鈴はもう組む相手決まったのか?」

「ああ、昨日の内にな。特に別のクラスの相手と組むのも禁止されていなかったので私は鈴と組む事にしたぞ」


剣道で全国制覇の経験ありの箒と代表候補生で専用機持ちの鈴。接近戦にやや偏ってはいるが中々良い組み合わせだと一夏は分析する。


「今度は負けないんだから、覚悟しときなさいよ一夏!」

「鈴の言う通りだ。全く最近ときたらボーデヴィッヒばかりに夢中になりおって、今度のトーナメントでその性根を叩きのめしてやるぞ!」

「そうだそうだー!そんなに他の女が気になるかー!!」

「別にそんなつもりはないんだけどなあ・・・・・・」


恋人達は恋人を他の女に盗られたと思ってご立腹の様です。

勿論一夏にそんな感情は毛ほど持っちゃいない。ラウラに対して抱いているのは云わば実力者同士のシンパシーとライバル心であり、高みを目指す者同士性別なんて関係無いと考えている。多分ラウラも似たようなものだろう。

さて、実はもし箒と鈴がまだ組んでないようだったらどっちかと組むつもりだった(その点で2人は大きなチャンスを逃したと言えなくもない)一夏は他に誰と組もうかと頭を悩ませる。やはり気心が知れてどんな戦い方なのかお互いよく知っていて、尚且つ実力者であればもっと良い。

そんな相手は他にも目の前にいてくれていた。


「でしたら一夏さん、このわたくしなどは肩に並べて共に戦うに相応しい相手だと思いますg」

「ミシェルとシャルロットは?やっぱり夫婦だから一緒に出るのか?何ならどっちか俺と一緒に組まね?」


すぐ隣で盛大にずっこける音が響いたが、こっちの方が気になるので質問を優先する事にする。


「それなんだけどね――――――今回、僕はラウラと組もうと思ってるんだ」

「それはありがたい。私もこの学園内で組むに足る人間が居るとしたらミシェルかシャルロットのどちらかだと考えていた所だ」

「(むしろ僕達以外ラウラと組んでくれそうな人が居なさそうからなんだけどね・・・・・・)」


多分ミシェルかシャルロットが居なければ最後まで取り残されて抽選に廻されてたと思う。だって授業とかで必要な時以外ラウラと接してる相手は自分達ぐらいだし。

せめてもっとラウラが丸くなってくれれば友達が出来そうなのに、とシャルロットは痛切に願う。


「んじゃミシェルは俺と一緒に組もうぜ。模擬戦とかでもしょっちゅう一緒だから丁度良いし」

「・・・・・・俺は構わないが、良いのか?」

「何が?」

「ま、またわたくしだけこんな目に・・・・・・」


1人テーブルを涙で濡らすセシリアであった。
















「―――――でも結局皆で特訓とかやるのは変わらないんだよなあ」

「・・・・・・別に良いんじゃないか?お互いの手の内をよく知っているのに変わりはないからな」


放課後のアリーナである。ミシェルの言ってる事も尤もなので一夏はその事に関して深くは考えない事にしたのだが、


「で、どうしてアンタも何食わぬ顔して加わってんのよ!?」

「私はシャルロットと組むのだ。仲間と共に訓練をして何が悪い?」


鈴の抗議に対し至極まっとうなラウラの返事であったが、だからといってあっさり納得できないのが人情ってもんである。


「一夏もなんか言ってやりなさいよ!」

「いや別に?ミシェルも言ってたけど手の内が分かるのはお互いさまなんだし」

「それとも陰でコソコソやらなくては勝てないのか?数しか能の無い国なだけある、器が知れるな」

「にゃんですってぇー!?」

「はいはい鈴落ち着いて。ラウラも煽っちゃダメだよー」


ふとアリーナを見回した一夏は金色が1つしかない事に気付く。


「あれ、セシリアは?」

「セシリアならば共にペアを組んでくれる相手を探す為に今日の特訓は休むとの事だ。申し込みの締め切りも近いからな」

「あちゃあ、セシリアだけハブらせるとか、悪い事しちまったな」


今更過ぎる言葉である。

とにかく、今日は学年ベーつトーナメントでのペアごとに分かれて特訓を行う事にする


「でさ、単刀直入に言ってこん中じゃどっちが強いと思う?」

「・・・・・・やはりシャルロットとラウラだろうな」

「やっぱり?ラウラが強いのは身に沁みてるけどシャルロットもかなり巧いもんな」

「・・・・・・当たり前だ。俺の嫁だぞ」

「はいはい分かってるって」


遠・中・近、どの距離でもそれぞれ対応出来る兵装を手足の様に使いこなす上に停止結界という切り札を持つラウラもさる事ながら、シャルロットもまたかなりの実力者である事は周知の事実である。

特筆すべきなのはその器用さだ。専用機<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>の特徴である大容量の拡張領域に収めた大量の武器を高速切替(ラピッド・スイッチ)でもって最大限生かし切ってみせるその器用さは驚異的で、ミシェルほど圧倒的かつ暴虐ではないものの攻撃密度も高い。

攻めは退き、退いては攻める戦い方は本人曰く『砂漠の逃げ水』という攻防一体の手堅くもいやらしい戦法であり、一夏も得意の接近戦に持ち込めれなかったり、時にはその接近戦で押されたりと翻弄されっ放しにされたものだ。

一夏としては『砂漠の逃げ水』は相手のリズムをずらして攻め手を崩す『打ち拍子』と、逆にリズムを合わせて相手を自分の意に誘導する『当て拍子』を彼女なりに組み合わせた技術だと読んでいる。流石代表候補生の看板は伊達じゃない。


「武装が<雪片弐型>しかない<白式>ではシャルロットの戦い方には対応し難いからな・・・・・・やはり主に俺がシャルロットの相手をすべきだろう」

「俺もそう思う。流石にショットガンとか連射されると散弾は全部斬り落とせないし」

「・・・・・・避けるんじゃなくて斬り落とすのが前提なのか」


最近はセシリアのビット一斉射撃も回避するよりも全弾刀で迎撃してしまうし、そろそろ一夏も常人からかけ離れて行ってる気がしないでもない。


「・・・・・・だが、いい加減ラウラも一夏の動きや戦い方に慣れている筈だ。昨日は意表を突いて格闘戦に持ち込んだお陰で良い所までいっていたが、流石に次も通じるかは分からないぞ」

「そっちは考えてあるんだよ。ミシェルかシャルロットと一緒じゃなきゃやれない手だけどな」




そして一夏はミシェルに耳打ちした。













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今回は切りの良い所で終わらせたつもりなのでちょい短め。

ラウラは主人公とシャルの娘ポジと当初から決めてたり。2人の影響で性格も原作よりちょっと丸いです。だって黒猫だし見た目も1番幼いs(ギャー

そろそろセシリアも少しは良い目を見せた方が良いのか・・・でもこれ以上くっつけるのもあれだしなぁ・・・・・・

匙加減が難しいですハイ。



[27133] 2-7:八者四様
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/19 11:57

試合の組み合わせを行うシステムが不具合を起こし、当日になって昔ながらの手作りくじで決められた結果。

一夏とミシェルのコンビ、そしてラウラとシャルロットのペアは2回戦にぶつかる事になった。

箒と鈴、セシリアはBブロック。セシリアがペアを組んだ相手は―――のほほんさんこと布仏本音。でものほほんさんの方がしっくりくるのでそれで通す事にする。


「最初に戦う人達には悪いけど、意外と早く決着をつける事になりそうだな」

「・・・・・・油断するなよ?」

「勿論分かってるって。相手が誰だろうと手加減はしないさ」


お願いだから手加減してー!?と誰かが悲鳴を上げた気がした。最初の対戦相手の少女達かもしれない。

向こうからしてみればあの織斑千冬の弟であり銃弾を撃ち落とすような剣鬼の弟弟子(おとうとでし)と人間火薬庫のタッグが相手となれば泣きたくもなる。すみません、不戦敗していいですか?


「でもセシリアがのほほんさんとかあ・・・・・・意外っちゃ意外だな。何時の間に仲良くなったんだろ」

「・・・・・・まあのほほんさんならしかたないな。誰からも好かれてそうだ」

「そうだよな。なんてったってのほほんさんだもんな」

「・・・・・・で、彼女の強さは如何ほどだと思う?」

「――――俺にも予想つかねーや」

「・・・・・・同感だ。ただ、一緒の班で実習を行った時は中々良い筋だったから意外とやるかもしれないぞ」

「っと、丁度セシリアとのほほんさんが戦うみたいだぞ」


モニターにアリーナの様子が映し出され、セシリアとのほほんさんが名前も顔も知らない別のクラスの少女達との試合が今開始された。

のほほんさんは<ラファール・リヴァイヴ>、相手の女子は2人共<打鉄>を装着。量産機ばかりの中に1人専用機を纏ったセシリアの姿はよく目立つ。

やはりというか代表候補生として操縦経験の長いセシリアと違って、相手の機動は落ち着きが無く無駄も多い。セシリアのビットにいいように追いかけ回されている。

それよりも一夏とミシェルの目を引いているのは残る1人、のほほんさんの動きだ。


「なんつーか、あの動きは――――」

「・・・・・・猫、だな」


昔のSF映画に出てくるUFOにも似た独特の空中機動能力がISの特徴なのだが、のほほんさんのそれはまさしく猫宜しく飛んだり跳ねたり、野生の獣みたいな動きだと2人は同じ思いを抱いた。

日本刀に似た実体刀の斬撃も、のほほんさんは「うわ~こわいよ~」と叫びながらするりとかわしてみせた。悲鳴は何とも気が抜けるが斬撃の軌道を見切った上での必要最低限の回避である。

反撃も的確で、装備したショットガンを至近距離で叩き込むと相手が反撃に移る前に素早く離脱。離れて行ったのほほんさんに気を取られた所をセシリアのビットが追撃。

着実に、確実に。対戦相手のシールドエネルギーを削っていく。


「のほほんさんが囮役でセシリアが止めって感じだな。チームワークも即興だろけどしっかりしてるし、結構相性良さそうだなあの2人って」

「・・・・・・多分、のほほんさんのあの戦い方は天然だな。本格的に磨けばシャルロット達ともタメを張れるかもしれないな」


それから一瞬ミシェルは考え込み、


「・・・・・・だが失礼に当たるのは分かっているんだが、どうしてものほほんさんが必死に自分を鍛える姿が思い浮かばないのは何故だ」


汗水たらして自分の身体を苛め抜いてる絵面よりもあの猫のきぐるみを着てこたつで丸くなってる姿がよっぽどお似合いだと思ってしまう。

しかしのほほんさんの実力は本物だ。相手の攻撃に対し、直撃は殆ど食らっていない。

押されれば引き、引けば押す。<ブルー・ティアーズ>のビットの回避に必死になれば「それ~」と力の抜ける声を上げながら突撃して相手の足を止めさせ、そこに放たれたセシリアのレーザーライフルによる一撃が少女達の1人に絶対防御を発動させた。

こうなればセシリアのビットの十字砲火にレーザーライフル、加えてのほほんさんの猛攻を一身に浴びる事になったもう片方のシールドエネルギーが底を突くのも時間の問題である。

片方が墜とされてから1分も経たず、セシリアとのほほんさんの勝利が決定した。

2人しか居ない男子更衣室にまで届いてくるアリーナを包むどよめきは、代表候補生の一角の見事な戦い方のみならず意外なダークホースの登場に驚いてのものかもしれない。


「・・・・・・次は俺達の番か」

「よっしゃ、それじゃあ早く行こうぜミシェル」














「・・・・・・相変わらず派手ねー、ミシェルの戦い方って」

「まったくだ。お陰で一夏が目立たなかったではないか」

「いや充分一夏も注目浴びてた気がするんだけど」


そりゃ悉く自分に当たる射撃だけ見切って刀1本だけで叩き落とし続ければ観客の度肝を抜くに決まっている。


「言われてみればそうかもしれないが、やはりもう片方のミシェルの戦いの方が人目を引いていたからな」

「あー、それは否定できないわね」


箒と鈴からしてみれば分かりきっていた事ではあるが、一夏・ミシェルペアは至極順当に1回戦を勝ち抜いてみせた。

結果は大方の予想通りではあったものの、問題はその内容である。

クラス代表決定戦などでその実力を見せつけた一夏と違い、学園に入学してから公の場で試合を行っていなかったミシェルの戦いぶりは、やはり観客の度肝を抜いた訳で。

さっきまで試合の様子を映していたモニターに目を向けてみると、『しばらくお待ち下さい』のテロップとアリーナの整備にいそしむ職員達の姿が。


「――――――なんてったってミシェルが使う武器って爆発系ばっかりだし」


鈴が思い出すは試合開始直後にミシェルが言い放ったこの一言。




『正面から行かせてもらおう。それしか能が無い―――――全てを焼き尽くすだけだ』




その発言に凍りつく対戦相手――――それが命取り。

次の瞬間一斉に放たれるミサイル、砲弾、銃弾の嵐。爆炎に2人の少女が呑み込まれた瞬間、思わず『あああの2人死んだな』と考えてしまった人間は一体どれほどのものだろう。

その結果が現在職員達が補修中のアリーナの地面である。一体どんな弾頭使ったんだと小一時間問い詰めたい。実際試合後千冬にお説教されているミシェルの姿が目撃されたとかしないとか。

ちなみにミシェルが使用したミサイルや砲弾に使用されていたのはサーモバリック弾頭。燃料気化爆弾の発展型としてより高威力を誇る弾頭である。


「正直、一夏よりもミシェルの方が厄介かもしれないな。あの弾幕と火力は脅威にも程がありすぎる。斬りかかろうにも弾幕が激し過ぎて近づけないし、仮に近づけても」

「AICの盾に捉まればジ・エンドよね。私の衝撃砲も防がれちゃうし、何より一夏の存在も忘れちゃいけないし」

「少しでも気が取られようものなら躊躇い無く一夏は斬り込んでくるからな。味方の射撃が当たるのも恐れないと来ている」


実際先程の試合もミシェルの開幕一斉射撃によって片方はその弾幕に一気に押し潰されて戦闘不能に陥っていたが、もう片方は何とか回避に成功し生き延びてみせた(それでも半分以上シールドエネルギーを失っていたが)。

そこに襲いかかったのが一夏である。

その時の少女の反応も中々の物で、一夏の接近に気付くとライフルを数発発射しただけだが見事に反撃を見せ・・・・・・そしてそれをあっさり<雪片弐型>に受け取められてバッサリと一刀両断された。

その間、僅か15秒。ちなみにミシェルが撃って撃って撃ちまくっていた時間は10秒程。その間撃ったミサイル・銃弾・砲弾は合わせて数百発。

絶対トリガーハッピーだろあの野郎。きっと撃ってる最中あのバイザーの下で邪悪且つ獰猛な笑みを浮かべてたに違いない。

逃げられなかった少女?勿論医務室送りである。ISの防御機構のお陰で無傷ではあるがむしろ精神的ショックによるものが理由だ。

遺言は『炎の壁が・・・』であった。


「いや死んでないってば」

「何処を見て言っているんだ鈴」

「細かい事は気にしないで。でも本当あの弾幕は反則よ。何アレ、本当にIS?まるで戦艦よ!」

「むしろ要塞だろう。狙うとすればアレだけの弾幕だ、弾切れの瞬間を見計らって攻撃を集中すれば良いかもしれぬが、やはり問題はAICか・・・・・・」

「でもリロードや武器交換の隙も高速切替をミシェルも使ってくるから殆ど無いわ。シャルロット程の速さじゃないからまだマシだけど」

「そして何より一夏がそれを許す訳無いだろうし、ミシェル本人も分かっている筈・・・・・・」

「厄介ね」


唱和する溜息。鈴など猫みたいな呻き声を漏らしながら頭を掻き毟っている。


「しかし気になっていたのだが、あれだけの数の兵装をどういった原理で同時に扱っているのだ?」

「簡単な話よ。ISのマン・インターフェイスを使って両肩の兵装とかを操作してるの。BT兵器と似たような要領よ」


言うなれば2丁拳銃の更に規模拡大版だ。両手に加え両肩の兵装はハイパーセンサーによる補助を受けた思考によって操作しているのである。


「ビットの方も数を減らして数種類の自立機動プログラムを搭載した事でほぼ自立して動くようにしてあるから、セシリアみたいにビットの操作に集中しなくていい分他の事に意識を回せるのよ」


ミシェルは幾つか存在するビットの制御プログラムを目的に応じて切り替えるだけでいい。AICの発動も自動なのでラウラの停止結界の様に意識を集中させる必要も無い。


「その代わり自立機動する為の機構以外にもAICなんての積んだせいでビットがアレだけ大きくなっちゃったんだろうし、防御か迎撃しか行わないのもそこまで遠くまで離れたら操作できなくなるか、そこまで柔軟な機動プログラムが組まれてないのかも―――っていうのが予想ね」


それ以外にもAICによる防御とレーザー砲による迎撃を同時に行えない、という弱点もある。


「どっちにしても十分厄介な事に変わりはないな」

「そうよねえ。ただでさえ一夏1人だけでもヤバいのに」


だけど、と2人は決意を新たに握り拳を作って見つめ合う。


「確かに2人の実力は絶大だ!だがだからといってここで挫ける訳にはいかん!」

「その通り!あっさり負けを認める訳に似はいかないわ!絶対一夏に思い知らせてやるのよ!!そう」

「「一夏の妻としての、本当の実力を!」」


それなりに学園内に自分達と一夏の関係は広まりつつあるが、それでも2人にはまだ足りない。

ならばこの学年別トーナメントを勝ち上がり、実力を学園内の女子中に知らしめてやれば、箒と鈴達を乗り越えて一夏を奪い取ろうと企んでいる者達も諦めるに違いないだろう。

ぶっちゃけた話、一夏に対して言った『まだ他の女の子に色目使ってる(箒&鈴視点)からお仕置きしてやる』云々は然程本気で言ったつもりではなく、まあ精々・・・・・・半分ぐらいしか考えちゃいない。ないったらない。


「そろそろ出番だな。行くぞ鈴!」

「オッケー箒!存分に暴れてやるんだから!!」













「・・・・・・フッ、やはりコイツらは恐れるに足りんな」


箒と鈴の試合を見たラウラの第一声がこれである。


「いや、でも油断とかしちゃダメだからね?っていうか2人共普通に強かったと思うけど」

「だがあの程度なら私1人でも十分だろう。そもそも私の<シュヴァルツェア・レーゲン>との相性も悪過ぎる」


それに関してはシャルロットも同意見だ。鈴の<甲龍>の武装は連結式の青龍刀と衝撃砲。どちらも容易に停止結界で防げるし、<打鉄>を纏う箒も実体験を用いた接近戦に偏っている。

先程の試合もそれを証明するかのように、箒は積極的に斬り合いに持ち込もうと突撃を繰り返していた。<白式>と違って一応<打鉄>も射撃兵装が使えるだろうに、何かこだわりでもあるのだろうか?

コンビネーションそのものは箒が斬り込み役で鈴が衝撃砲で援護という役割分担ではあったが鈴も接近戦に持ち込む事が多い。実際さっきも衝撃砲で壁際まで追い込んでから青龍刀の連撃を叩き込んで決着をつけている。


「――――だがあの男には及ばない」


だが一夏程の技量と速さはない。普通の生徒相手なら十分圧倒出来るかもしれないが、逆に両手とプラズマ手刀と6個のワイヤーブレードを自在に操るラウラなら比較的簡単に押し切れるだろう。

その辺りはやはり生まれてからずっと軍隊で鍛えられてきたラウラと1年余りしか訓練を積んでいない鈴の地力の差か。そもそも何も知らない一般人から、僅か1年で代表候補生の座を奪い取った鈴の方が異常なのである。才能や潜在能力は鈴の方が上なのかもしれない。

勿論自力以外にも機体性能の差も大きい。ラウラからしてみれば、<甲龍>は安定性と燃費を重視し過ぎて『大人し過ぎる』機体だった。


「だがまさかこんなに早くあの男との決着をつけれるとはな」

「1回戦勝てばいきなりミシェルと対戦かあ。うーん、なんかいきなりというか中途半端なタイミングな気が」


ラウラは日頃浮かべている氷のように冷たい無表情か不機嫌そうなムッツリ顔が嘘みたいな満面の笑みを浮かべているが、年頃の少女らしいというよりも得物を前にした獣じみた凶暴な笑いである辺りちょっとシャルロットには悲しい。

どうすればもっとラウラが女の子らしくなってくれるんだろうか、と内心肩を落とすシャルロットはまるで子供の将来に悩む母親の様だった。

まあ、ラウラの保護者(クラリッサ他黒ウサギ部隊の人達)から彼女の事頼まれているし、似たようなもんである。




ラウラとシャルロットの試合が次に迫り、アナウンスが2人の名を呼んだ。


「こうしてはいられん!行くぞシャルロット、出撃だ!!」

「わ、わわわ、引っ張らないでよー!」














「正直、意外でしたわね」

「せしりー、何のこと~?」

「いえ、こちらの事ですわ」


考えていた事が口に出てしまい、思わず取り繕ってしまう。

セシリアの脳裏を占めていたのは、隣にいるこのペアを組んだ少女についてであった。『意外』というのはこの少女が思わぬ実力者だった事について。

誰にするか悩んでいる内にペアの申し込みが締め切りになってしまい、抽選の結果こちらはのんびりしている内に申し込みを忘れてしまっていた彼女とペアを組む事に相成ったのだが、


「のほほんさんは学園に入る以前にもISの操縦経験が御有りなので?」

「ん~ん~、お友達の整備のお手伝いとかで触った事はあるけど、自分で動かしたりはぜんぜん~」

「ならやはり才能・・・・・・というよりも天然と仰るべきなのでしょうね」

「?」


奇しくもミシェル達が抱いた感想と同じ考えを口に漏らしながら、思考はつい数分前に繰り広げられていた戦いを脳裏で再現する。

ラウラとは直接相見えた事が無くても一夏との決闘は間近で観戦したから、その実力は痛い程理解している。

あのドイツの代表候補生は、強い。誰かに自分と彼女。どちらが強いか聞かれたら素直に認めないだろうけど、同じ代表候補生として上りつめてきた中で鍛えられてきた射手としての観察眼は、冷静に自分との実力差を見抜いていた。

加えて彼女と手を組んでいるのはシャルロット・デュノア。器用貧乏というなかれ、その全距離に対応した戦闘能力と敵に自分のペースに持ち込ませない戦い方はまさに驚異的。

何よりそんな戦い方のせいか、チーム戦になると仲間に合わせるのがとても上手い。その視野の広さと的確な援護はセシリアも羨ましくなる。

そんな2人が手を組めば、どうなるか。


「しゃるしゃるもラウっちも強いよね~」

「シャルロットさんの援護射撃で相手からの接近を許さず、動きが止まればラウラさんの猛攻。堅実ですが、その強さは生半可な物ではありませんわ」


ラウラが前衛でシャルロットが後衛。シャルロットの高速切替での絶え間無い射撃はあのミシェルの伴侶なだけあると思わせる密度の濃さで相手を縫い付ける。

防御に移って足を止めた途端ラウラが襲いかかり、プラズマ手刀とワイヤーブレードで切り刻む。対戦相手の片割れが助けに入ろうにもシャルロットの弾幕が許さない。

弾幕といえどシャルロットの射撃は正確だ。命中弾も多く、撃たれる側は仲間の助けも反撃も出来ないままシールドエネルギーを削られる。

片方を仕留め終えたラウラが加わればもう勝敗は決まったも同然。

停止結界すら使われる事無く、ラウラとシャルロットは2回戦へと勝ち進んだ。


「次の対戦は一夏とミシェルさんが相手、ですか」

「どっちが勝つんだろうね~?どっちも勝てたらいいよね~」

「それはちょっと無理な相談だと思いますわよ?」


友人としては、組んでる相手が気に入らない相手でもシャルロットに勝って欲しいと思う。直に接するようになってからは大分マシになったけれど、今でもちょっとだけミシェルの事は苦手なままだ。

恋する乙女としては、一夏が勝利して欲しいと願う。恋愛感情というのは難儀な物で、もう彼には相手が居て―しかも2人―日頃仲睦ましくされるのを見せつけられても、そう簡単に恋の炎は鎮火してくれない。






・・・・・・2人娶ったのなら、もう1人ぐらい仲間に入れさせてくれないのでしょうか?











望む答えが返ってきそうにない願望に肩を落としながら、セシリアはのほほんさんと一緒に他の試合の観戦に集中する事にした。












=========================================================
A:既に2人だけで(色んな意味で)いっぱいいっぱいだから無理です。



うーん、中途半端というかなんというか。一気にラウラ戦を始めるべきだっただろうか。
ちょろいさんのタッグはのほほんさんに。あとミシェルとラウラでちょっとネタに走ってみた。

最近分掌書いていると自分に語彙が不足している気がする件。



感想・批評、何時でもお待ちしています。



[27133] 2-8:Black vs White:Bullet & Blade
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/24 00:03

Aブロック・2回戦。

アリーナの中心で一夏とミシェル、ラウラとシャルロットが向かい合っている。


「思ったより早いが、一々雑魚の相手をする手間が省けたというものだ」

「今度こそ、決着をつけてやる」

「ミシェル。分かってると思うけど、お互い手加減無しだからね」

「・・・・・・了解している」


ミシェルはメカニカルな兜に包まれた頭部を大きく回して首を鳴らす。それを合図に、男の中でスイッチが切り替わる。


「それでは諸君――――――楽しい愉しい戦争を始めよう」


ミシェルの言葉が試合開始の合図。

まず真っ先に突貫したのは一夏だった。一目散に一振りの刀だけ握って突っ込む先はやはりラウラ。その行動にラウラは獰猛な笑顔で一夏を出迎える。


「ラウラあああああああああああああああッ!!!」

「そうだ来い、織斑一夏!今こそ貴様も私も我らが大好きな闘争の時間だ!!」

「僕はそこまで好きじゃないけどね!」


ラウラは左手だけプラズマ手刀を展開し、右手の停止結界で一夏を迎え撃つ気満々だ。

けれど忘れてはいけない。これは、『タッグマッチ』なのだ。


「・・・・・・全弾、持っていけ」


<ホーネット・ネスト>のミサイルカバーが展開、纏めて飛び出すマイクロミサイルは一夏を避け、左右から大きく横から回り込むコースを描いてラウラとシャルロットへ襲いかかる。

シャルロットが両手にショットガンを装備して迎撃。散弾が命中したマイクロミサイルは他の弾頭を巻き込んで爆発を起こす。

次の瞬間、爆炎の代わりに広がった白い煙が一夏とラウラを呑みこみ、アリーナの中心部を包み込んだ。シャルロットは咄嗟に煙から逃れアリーナの外周近くまで飛びのく。

余りの煙の濃さと範囲にラウラと一夏の姿を全く見つけられないでいる。空中に上がって見下ろした煙の塊はまるでわたあめみたいに中心部に居座っていて、しばらく消える気配は無い。


「ジャムスモークなんて、やってくれるじゃんミシェル!ラウラ、大丈夫!?」

『話しかけるな!今手が離せん!』


プライベート・チャネルで話しかけてみたが激しい剣戟の金属音混じりのラウラの声に余裕は無かった。

このジャムスモークは特殊な金属粒子を含んだ煙幕を散布する事によりISの索敵レーダーを無効化にする代物で、煙幕の中心部なら索敵やロックオンはほぼ不可能にされてしまう。

五感を強化するハイパーセンサーは無事だが、アレだけの濃度だと視界がどれだけあるかも怪しい。それは一夏も同じ筈だろうけど――――


「こうやって分断して各個撃破が狙い、って事かな?」

「・・・・・・一応はな」


視線を前に戻すと、同じ位の高度まで浮上してきた夫の姿。全身が装甲に覆われているせいでどんな顔をしているのかは分からないのがシャルロットには不満だ。彼の顔を見ていると安心するのに。

1対の大型ビット、<シールド・オブ・アイギス>をミシェルは身体の前に配置している。ハイパーセンサーと連動したビットは自動的に動くので、ミシェルは機動と攻撃に集中できる。

しかし、ずっとミシェルの傍に居たシャルロットは無敵の盾の弱点も理解している。


「でもそう簡単には思い通りに行かせないよ?」


小悪魔の笑みでシャルロットはショットガンを格納すると新たに武装を選択し直す。


「AICの弱点はエネルギー兵器には効果が薄い事。これなら簡単にミシェルの盾も撃ち抜く事が出来る」


そして現れたのは、全体的に四角い長大なライフル。<スターライトmk3>の対抗馬として有名なミラージュ社製ハイレーザーライフル、その名も<唐沢>。

何故和名なのかは企業秘密である。

ミシェルはバイザー越しに呻いた。


「ビームは・・・・・・マズイ」

「ビームじゃなくてレーザーだよ♪」


バジュッ!という独特の砲声と光弾が空を切り裂く。躊躇うまでも無くミシェルはレーザーを回避した。

シャルロットの言った通り、AICでエネルギー兵器は防げないし直接弾を受け止める目的の盾じゃないからアレだけ高出力のレーザーも防げない。それなりに固いから1発ぐらいは耐えられるかもしれないが代わりに膨大な熱量に中身が損傷しかねなかった。

だから逃げる。機動力で照準を振りきるのではなく、連射のタイミングを呼んで別方向に切り返す避け方。それでもシャルロットには何時まで通じるのやら。


「撃ち負けはしない・・・・・・当たるのならな」


ミシェルも反撃する。左腕の<グリムリーパー>で牽制射撃。青白いレーザーと5発に1発装填されている曵光弾の赤い光が交差する。左肩の<レインストーム>も加わりシャルロットの周囲で紅蓮の花が咲く。彼女は愛機のその高い機動力で直撃を回避。その間も射撃の手を緩めない。

更に右肩のレールガンも起動される。武装名は<ネイルシューター>、長距離射撃用レールガンランチャーだが使用弾頭を切り替える事で様々な局面にも対応できる。

今回選択したのは空中炸裂弾。電磁加速され秒速km単位で発射された砲弾はシャルロットの数m手前で炸裂し、数百の破片が飛来したそのままの速度で彼女に襲いかかった。

1つ1つが装甲車すら貫通しかねない位の超高速の破片が複数シャルロットに食らいついた事により、<リヴァイヴ・カスタムⅡ>のシールドエネルギーがごっそりと減る。

やはり手数と攻撃範囲の広さはミシェルの方が上だ。代わりに<唐沢>のレーザーも1発命中しており、それなりのダメージを被ってはいたがまだ彼の方に分がある。

だがシャルロットには他にも手がある。


「ならこれはどうかな?」


次にシャルロットが展開したのは肩に背負うタイプの大型兵装だ。長方形型で大きさだけでもシャルロットを超えるだろう巨大なそれが、<リヴァイヴ・カスタムⅡ>の両肩近くに固定された。

それの正体もミシェルは知っていた。だからこそ、今度は隠れている顔に一筋の汗を浮かべてしまった。

だってそれ、個人に向けて撃つような代物じゃないだろ!?


「・・・・・・そんなの持ってたっけ?」

「今日に備えて実家に頼んで送ってもらったんだ。ミシェルが相手だとこんなの使わない限り勝てそうにないからさ。てなわけで行くよ!!」


両肩のランチャーから飛び出す大型ミサイル。それは通常ISに搭載されるような小型ミサイルとは大きく違う、大型の戦闘機か爆撃機に搭載されるべき規模の代物だ。それがまっしぐらに予想外の事態に凍りついていたミシェルへ突っ込む。

<シールド・オブ・アイギス>防御モード。ミサイルを停止させるのではなく、純粋に物理的な盾代わりにしながらミサイルの迎撃に移る。<グリムリーパー>と右手のフルオートショットガンをミサイルの進路上にとにかくばら撒いて――――1発が誘導装置周辺を破壊されあらぬ方向へ。




もう1発は―――――航空機用から転用された燃料気化爆弾の制御装置が作動し、効果を発揮する。

弾頭から燃料が爆発的に放出され空気と撹拌、コンマ数秒遅れで信管が作動し、空気と最適な混合率に達した散布された燃料に着火。




アリーナ上空に、紅蓮の太陽が誕生した。














視界を奪われた状態での戦闘経験は滅多に無い。

だが『滅多に無い』と『全く無い』は意味合いが大きく違う。ラウラには同じような経験をした事が数回ある。


「(山中でのサバイバル訓練を思い出せ)」


着の身着のまま、他にはナイフ1本だけ与えられて険しい山の中に置き去りにされた状態でのフォックスハンティング。

文明の手が全く届いていない大自然において、星の光すら届かない山中が生み出す闇はラウラにとって大きな敵でもあり、また味方でもあった。

闇が黒から白に変わっただけ、要はそれだけの話。要領は変わらない。


「(余計な音は切り捨てろ。空気の動きを感じ取れ、あの男の気配を、臭いを、呼吸を探すのだ)」


ハイパーセンサーの感度を上げる。観客の歓声やミシェルとシャルロットの戦闘音は思考からカット。周辺の空気の揺らぎを解析し、一夏の気配を探り・・・・・・


「――――!」


振り向きざまにプラズマ手刀が閃く。超高熱の刃の根元の手首の装甲が<雪片弐型>の側面にぶつかり合い、双方の攻撃は弾かれた。

すぐに一夏は後退し、再び白い闇の中へ消えた。ラウラの想像以上の隠行だ。ラウラの額に汗の珠が滲む。


「貴様は私の予想を超えてくるな、織斑一夏。まさかここまで無音暗殺術(サイレントキリング)にも長けているとは思いもよらなかったぞ」

「闇稽古、って知ってるか?俺以上に気配も掴ませない人は何人も居るさ」

「日本の剣術という物は思ったよりも奥が深いのだな。だが私とてこの程度の事はこなせるぞ!」


今度はラウラから動く。空気のイレギュラーな動きと僅かに感じ取れる一夏の気配から位置を推測、そこへプラズマ手刀を振るう。

見つけた。向こうもラウラの攻撃を感じ取って迎撃態勢に移っていた。一瞬の交錯でお互いのアンロックユニットを浅く削り、すぐに反転し相手へ斬り込む。

下手に守りに入ったら負けだ。また気配を見失う前に食らいつかなくてはならない。僅かな隙も見せれないから射撃武器も停止結界も使えない。何度も何度も擦れ違いながら近接戦を繰り広げる。

濃い煙のせいで一夏とラウラの戦いぶりが見られない一部の観客からは不満のざわめきが聞こえてきているが、2人の思考からは見世物になっている自覚はとっくの昔に忘れ去っていた。今はただ、目の前の強者とぶつかり合う事だけに全力を傾けるだけ。それ以外など知った事か。

ミシェルがお膳立てしてくれたこの状況、無駄に過ごす訳にはいかない。


「っと!」

「逃げるなあ!」


またも退く一夏。逃がすまいと追撃を試みるラウラだが残念ながら外してしまう。


「シッ!」

「甘い!」


素早く側面へ回り込んだ一夏が突きを放つ。それを半身になって流すと、逆にラウラがプラズマ手刀を一夏の腹に突き立てようとする。一夏は身を捩ってどうにか回避に成功。その体勢から向きを前後反転してラウラに向き直す。

上段に振り被った一夏の構えに、振り下ろされるだろう刀を受け止めるべくラウラも一瞬両腕を持ち上げかけ――――それはフェイクだ。刀を傾け両手を腰の所まで下ろし、横薙ぎの斬撃が放たれた。


「小癪なぁ!」


上げられていた手を鋭く<雪片弐型>に叩きつけ、強制的に軌道変更を余儀なくされた斬撃は<シュヴァルツェア・レーゲン>の脚部装甲と腰部パーツを斜めに傷つけるに留まった。

特に深い傷を負った腰部パーツが脱落し、内蔵されていたワイヤーブレードの1つが地面に転がる。

それを見て一夏はこれ見よがしにニヤリと顔を歪める。


「その程度かよ?」

「なんの、まだまだこれからだ!」


その時である。頭上で膨大な熱波と衝撃が生じたのは。

アリーナ上空で生じた巨大な火球は、正体不明機の襲撃により更に強固にされた遮断シールド越しでさえビリビリとアリーナ中を震わせ真夏の日差しを更に酷くしたような熱感を観客達に浴びせた。すわまた緊急事態か何かか、と勘違いしそうなほどの衝撃である。

地上まで到達した衝撃波は突風として2人の元にも届き、反射的に顔を庇って踏ん張らなければそのまま吹き飛ばされそうな位強烈だった。アリーナ中心に止まっていたジャムスモークの塊も呆気無く霧散し風に流されていく。




白一色の世界から解放された一夏とラウラの目にまず映ったのは・・・・・・血の様に真っ赤な太陽だった。

正確には太陽ではなく、燃料気化爆弾の起爆によって発生した炎の塊である。まるで遠雷の様に低く腹に響く音が学園に敷地中に広がっていく。

2人の後方で物々しい衝撃音が生じた。思わず今度は何事か、と2人一緒に振り向けば、全身から煙を立ち上らせながらも着地したミシェルの姿が。


「大丈夫かよミシェル!?」

「・・・・・・あー、死ぬかと思った」


意外と余裕がありそうな返答であった。ラウラはラウラで、非常に何か言いたげにむっつりしながら近くに下りてきたシャルロットの方を見る。突如生じた燃料気化爆弾による膨大な気圧の変化のせいで耳鳴りが酷い。


「FAEBを用いるのならばせめて警告ぐらいは発したらどうだ。それにあんな物まで持ってきているとは聞いてないぞ」

「ごめんごめん、中途半端な物じゃミシェルに通用しそうにないからね」


シャルロットが浮かべているのは天使の笑みなのだがやらかした事は非常に過激であった。

というか規定自体に使用禁止と書かれてはいないとはいえ実戦などではなく試合、それも学生同士の対戦で航空機用の燃料気化爆弾を引っ張ってくるなど前例がなかったりする。普通そんな発想すらしない方が当たり前なのだが。

・・・・・・実の所、予想以上に強力だったせいでシャルロット自身も巻き込まれかけて自爆しかけたりしたのだが、直撃を食らったミシェルよりはよっぽどマシだろう。


「・・・・・・シャルロット。聞きたい事があるんだが」

「なあにミシェル?」

「・・・・・・俺、シャルロットを怒らせるような事したのか?それならすぐにでも謝るが・・・・・・」

「ううんそんな事無いよ!何時もミシェルは優しくしてくれて僕は幸せだよ?―――――た、たまーに意地悪で強引な時もあるけどね。べ、ベッドの上とか」

「おーい、皆見てるんだからなー?」


一夏の言う通りである。早くも耳年増な少女達の耳がダンボと化していた。


「でも僕だってこういう時ぐらい勝ってみたいもん。ラウラも仲間だから勝たせてあげたいし、ミシェルと一夏相手じゃ真正面からだと生半可なやり方じゃ勝てそうにないからね」


言い分は解った。まあ納得しておくとしよう。ミシェルも一応まだ動けそうだ。


「まだやれそうか?」

「・・・・・・寸前でAICを全力で機動させたお陰で衝撃波の大部分は無効化できた。冷却が完了するまでしばらくビットは使えないが、まだまだ戦える」


爆発による超高熱もシールドバリアーと全身装甲の2段構えで何とか凌ぐ事が出来た。両方が無ければ絶対防御が発動してもう動けなくなっていただろう。

武装の方は機体の一部である両腰の<アグニ>以外は機体とは違ってそこまでの熱には耐えられなかったのか、どれも表面が軽く溶解してしまっている。誘爆を起こさなかったのは幸運だった。

暴発しないようまずマガジンを切り離し、次に武器本体を捨てて予備の兵装を展開。2丁目のオートマチックショットガン<ドラゴンブレス>と複合アサルトライフル<ケルベロス>を両手に装備。


「よし、次はプランBでいこう」

「あぁん?ねえよんなもん」

「うぉい!?」

「・・・・・・すまん。何故かこう言わなきゃならない気がしてつい」

「頼むぜ全く」

「・・・・・・それじゃあ仕切り直しといこう」

「また来るよラウラ、気をつけて」

「誰に言っている?戦いはこれからだ!」


戦闘再開。










「(さっきのでかなりシールドエネルギーは削れた筈。このまま一気に畳みかけてミシェルに自分のペースに戻らせないようにしなきゃ!)」


今のシャルロットに残されている攻撃手段は意外と少ない。先程の大型ミサイルだけでその拡張領域の半分以上を占めていた為だ。

AICが使えない以上今の<ラファール・レクイエム>には実弾兵器も効果が出る。シャルロットはエネルギーの消費が激しい<唐沢>から愛用のショットガン<レイン・オブ・サタデイ>の2丁持ちに切り替え、距離を詰める。

第2世代機である<リヴァイヴ・カスタムⅡ>が第3世代機の<ラファール・レクイエム>に勝る点は、あちらが火力・防御力と引き換えにしたその機動力だ。高速かつ鋭角な方向転換を織り交ぜた機動で攪乱しつつ攻撃を加えていく。


「(・・・・・・AICが使えない間にケリをつける算段か。退けばそのまま追いまわされるだけ、ならば・・・・・・)」


ミシェルは右腕の実体盾を掲げながら自らシャルロットへと接近を試みた。多少の被弾は無視してこちらからも左手の<ドラゴンブレス>を連射。

2丁同時に放たれるシャルロットの砲火よりもフルオートで放たれるミシェルの弾幕の方が倍近く激しかった。相対距離が近づくにつれ被弾の量も増し、先に攻勢に出たシャルロットの方の被害が大きかった。

地を駆ける猛牛の如き迫力で突き進んできたミシェルに対しシャルロットは飛び、頭越しに交錯する。空中で一回転しながら眼下のミシェルに散弾の一斉射。それを受け止めながらもミシェルは右手の<ケルベロス>で頭上を薙ぎ払い、銃剣で片方のショットガンを真ん中から切り裂く。

相手の方に向き直るのはミシェルの方が早かった。<ラファール・レクイエム>はトップスピードこそ他の機体に劣りがちだが、PICの改良によって瞬発力と旋回能力が高められている。

未だ背中を向けたままのシャルロットの背中に<ケルベロス>のセミオートカノンが放たれた。弾種は対IS用榴弾。


「きゃあっ!」


着弾し爆発が起こる。ミシェルと比べやや上回っていたシールドエネルギーの残量が早くも逆転。

負けじと破壊されたショットガンを捨て、矢継ぎ早に高速切替を用いてシャルロットも<ケルベロス>を展開した。同じく榴弾を装填したセミオートカノンを連射、ミシェルの周囲に着弾して揺さぶりをかけていく。




――――その爆煙に隠れてミシェルの手元が一瞬閃いた事にシャルロットは気付けない。

ミシェルが着地した丁度足元には先程捨てられた<グリムリーパー>の弾装が転がっていた。

顔を動かさずハイパーセンサーで周囲の状態を確認。向こうは向こうで激戦中の相棒たる一夏はラウラと共にミシェルの少し後方だ。

一夏にプライベート・チャネルを繋ぐ。こんな時、余計な素振りも声も必要ないこのやり方はありがたい。


『・・・・・・少々眩しいぞ。タイミング、合わせられるか?』

『オッケーだ、何時でも良いぞ!』


ミシェルは再びセミオートカノンを放った。今度は十分余裕があったので、危なげなく距離を取って榴弾の爆発から逃げようとシャルロットが動く。

発射されたのは榴弾ではなかった。

またもアリーナで閃光が迸る。今度は紅蓮の業火ではなく、白熱電球の光を100万倍強くしたような白く眩い光に観客の目まで眩む。


「(これは閃光弾!?高速装填(ラピッド・リロード)か!!)」


高速装填――――高速切替の応用で、武器本体ではなくマガジンのみを拡張領域に収められた予備マガジンと交換する技術である。

<ケルベロス>のセミオートカノンに用いられる砲弾には榴弾のみならず様々な種類がある。ミシェルは高速装填によって榴弾用のマガジンと閃光弾が装填されていたマガジンを一瞬で交換していたのだ。

予想外の出来事にシャルロットのみならず、一夏と戦っていたラウラも思わず動きを止めてしまう。

一夏はミシェルに背を向けている形だったので直接閃光を見ていないから無事で、ミシェルは顔全体が装甲に覆われバイザーが必要以上の光をシャットアウトしているから平然としていられた。

もちろんハイパーセンサーがすぐさま保護機能(原形が宇宙用なだけに太陽などの光からを目を保護するよう設定されている)を発動させてシャルロットの視力を回復させたが――――時既に遅し。


「・・・・・・少し痛いぞ」


瞬時加速を発動させたミシェルがもはやシャルロットの目前に居た。

両手の銃を捨て、右腕の実体盾を切り離して、100口径電磁加速型徹甲爆裂射突型ブレード<ウルティマラティオ>を構えて。


「まだまだぁぁっ!!」


それでも簡単にやらせるものかと、自爆覚悟でシャルロットは榴弾を放ち。

・・・・・・グルン!と身体を低くしながら勢い良く右回りに身体を捻ったミシェルの動きによって、榴弾は彼の左肩が在った所を空しく通り過ぎる。

放たれるミシェルの一撃。アッパーとフックの中間、斜めに突き上げられた拳がレールガンの応用で加速した鉄杭もろともシャルロットの腹部を直撃した。


「きゃあああああああああ!!!」


シャルロットの身体が真上へと舞う。右拳を高々と天へ突き出した体勢で固まったミシェルが指向性爆薬起爆させる必要も無く、その時点でシャルロットのシールドエネルギーは底を突いた。

たっぷり数秒間、高々と吹き飛んだシャルロットの身体は限界点まで到達すると、やがて重力に引かれ落下。

そのまま地面に激突、なんてのはミシェルが許す筈も無く、真下に回り込んでしっかりと落ちてきた妻をキャッチしてみせた。

完全無欠のお姫様だっこの体勢である。顔の部分を、ミシェルはほんの少しだけ唇の端を持ち上げた。


「・・・・・・俺の勝ちだ」

「むー・・・・・・あーあ、やっぱり負けちゃった。やっぱりミシェルには敵わないなあ」

「・・・・・・それはむしろ俺のセリフなんだが」

「え?そう?」

「ああ・・・・・・・よく言うだろう?先に惚れた方が負け、とな。だから俺はシャルロットに負けっぱなしだ」

「もう、人前で恥ずかしい事言うの禁止ー!」


とか言いつつえへへーとか満面の笑みでミシェルの首元に顔を擦りつけるシャルロットであった。

・・・・・・若干名、やさぐれ気味にブラックコーヒーを求める少女達が居たとか居ないとか。










こちらは甘ったるい空気謎一片の入る余地も無い一夏とラウラ。

閃光弾が炸裂した瞬間、一夏もまた行動を起こしていた。このミシェルがラウラから引き出させてくれた一瞬の隙は自分の体重分の金よりも価値がある。

シャルロッと同様、ラウラもすぐさま視力を取り戻し一夏の姿を捉えようとして――――――目前に迫る影。直撃コースで回避は間に合わない。

咄嗟に停止結界で受け止める。何かと思えばそれはミシェルが切り離した<グリムリーパー>の大型マガジン。供給口に見え隠れする鈍色の光から、全弾撃ちきられていない事が分かる。


「(あの男は何処に―――――)」


ようやく気付く。一夏がラウラから離れ、先程までミシェルの居た場所に立っている事に。

そして<グリムリーパー>のマガジンを蹴り飛ばした一夏が彼の捨てた―まだ弾の残っている―<ドラゴンブレス>フルオートショットガンを構えている事に。




『・・・・・・どうせならその場で仲間の銃を借りて使ってみるのはどうだ?』




訓練時にミシェルの言ったあの言葉。それが可能になる様、ミシェルは自分が装備する銃器類全てに使用許可を出し、一夏でも使用できるようにしておいたのだ。

彼の他のアドバイスも踏まえ、この日の為に射撃訓練もそれなりに積んできた。銃の癖も大体覚えている。それに散弾だから、大雑把な狙いでも当たりやすい。

散弾のフルオート連射。シュートされたマガジンに意識を集中していたラウラは対応できない。中身の残るマガジンに次々着弾。高熱を浴びて脆くなっていたマガジンは耐え切れなかった。

小さくない爆発が怒った。予想外の事態に集中が途切れ、爆風と破片がラウラを襲った。


「こ・・・・・・んの、猪口才なぁぁぁぁぁぁ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


マガジンの爆発で姿勢が崩れた所に一夏は突貫をかけた。<雪片弐型>を逆手に握った左手で銃身を押さえながら連射を続行。ラウラもワイヤーブレードで迎撃。凶刃と銃弾の雨が交差し、ぶつかり合い、互いのシールドエネルギーを削る。

一夏の右手の中でカチリと銃が音を奏でた。弾切れだ。ならばと一夏は<ドラゴンブレス>を槍に見立て思い切り投げつける。助走の加速を加えられた銃は銃剣を先にラウラ目指して飛んでいく。

ラウラは身を捩るだけでそれを回避した。停止結界を一々使っていてはさっきの二の舞。今真に集中すべきは刀を構えて突き進んでくるあの男だけ――――!!!

<雪片弐型>の刀身が光り輝いている。<零落白夜>、この男もこれで決着をつける気だ。

ならば私もこの瞬間に全てを賭ける。両手に展開したプラズマ手刀にありったけのエネルギーを動員しより強力な刃を生み出し、






「一夏ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「ラウラああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」






まるで最初の決闘の焼き直しの様に絶叫しながら、2人は己の刃を振り抜いた。




















一瞬の静寂の後。

ゆっくりと崩れ落ちたのは、ラウラの方だった。









=========================================================


最近思い浮かんだネタ:

①オリジナルでFPSプレイヤーがゲームの装備とスキルを持ってファンタジー世界に転移。装備がチート気味、経験値を積むとスキル強化、何故かキルストリークまで使用可能。

②リリなので『燃える男』的な復讐譚。無印以前から開始でプレシアヒロイン。

③同じくリリなのでエロ。ISが触手使いな転生系オリ戦闘機人が主人公。メインヒロインは主にクアットロ。



ここの読者の方々のニーズって主にどれなんだろうか。後もっと可愛いプレシアやクアットロ増えないだろうか。どっちもエロいのが少な(ry
というかその前に某所で連載してる分もサッサと再開しろって話ですよね、ハァ・・・



[27133] 2-9:Black vs White:Fake & Real/掌
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/06/27 00:24


視界の端で、シールドエネルギーの残量を示す数字が急速に減少していく。


(負けるのか・・・・・・私は!?)


最初は嫉妬からだった。

戦う為だけに生み出された存在の頂点から転がり落ち、『欠陥品』の烙印を押された自分を鍛えあげ、より高みに押し上げてくれた教官――――織斑千冬。

極限まで研ぎ澄まされた名匠のナイフの様な最強の乙女たる彼女を、話題に出す度ただの人間へと音締めてしまう存在こそが――――彼女の弟、織斑一夏。

そんな姿をこれ以上見たくなかったから、その織斑一夏を叩き潰すと誓った。

彼さえ居なくなればきっと自分が望む彼女になってくれると、憧れの教官だった頃に戻ってくれると・・・・・・その考えは多分見当外れの妄執に過ぎなかったと、今更になって思い返す。

今も教官に憧れている事に変わりは無い。彼女みたいに強くなりたいと、凛々しくありたいと、現在進行形で切に願っている。


(もっと・・・・・・力を・・・・・・)


最初はそこいらの少女達と大して変わらない、ISをファッションの一部しか考えていない腑抜けた男と思っていた。その昔ミシェルからも話を聞いていていたけれど、その時も無様に彼に助けられたそうだから装に違いないと一層強く感じていた。

それは違った。最強の乙女の弟もまた、立派な『戦士』だった。

あの眼光。あの気配。あの身のこなし。端端から感じ取れる教官と同じ匂いを感じ取れた。直接相対する度に、その感覚が強くなっていく。

憎悪すらしていた筈なのに、今となっては食事すら共にしても不快とは思わない。ミシェルとシャルロットも共に居てくれたせいかもしれないけれど、むしろ居心地の良さすら感じてしまって。

今の織斑一夏と自分の関係を端的に表すとすれば、まさしく『ライバル』と呼ぶに相応しいかもしれない。あの嫌悪感も、最初の決闘以降何処へやら。


(勝ちたい――――私は、勝ちたいんだ・・・・・・・・・・!!)




だからこそ、織斑一夏には負けたくない。

戦う為の兵器として生み出された存在としてではなく、織斑千冬の背中を追いかける教え子としてでもなく。

1人の人間として、ラウラ・ボーデヴィッヒとして―――――――織斑一夏に勝ちたいと、強く願った。




・・・・・・その願いを聞き入れたのが、彼女の愛機に密かに仕込まれていた邪なる存在とは、なんたる皮肉。


『力が欲しいか』

「(力が・・・・・・欲しい)」


そしてラウラは自ら悪魔との契約を結んでしまう。




『力が欲しいのならば――――――くれてやる!!!』


VTシステム――――起動。















届いた、と一夏は確信していた。

だからこそ、背後からの衝撃にまるで対応し切れず、成すすべなく吹き飛ばされてしまった。 落雷でも炸裂したかのような痺れの伴うそれに、一夏の身体は痙攣し軽く地面の上でのたうち回ってしまう。


「一夏・・・・・・!」

「ラウラ!?」


ミシェルとシャルロットの驚きの叫び。何事かと痛む身体を押して振り向けば、ラウラのISが黒い泥か粘土と化していく姿が目に飛び込んでくる。

外気に露出していたISスーツを纏ったラウラの人形の様な肢体、そして顔の部分までやがてその泥に覆われてしまった。


「何だよ一体!?」


それは観客達も同じ感想である。困惑に包まれる観客を余所に、早くも異常事態と判断されたのか、避難を促す警報と共に観客席が隔壁によってアリーナと遮断されていく。

残るは一夏とミシェル、エネルギー切れでISの展開が解除されたシャルロットのみ。


「ねえミシェル。『アレ』、何だと思う?」

「・・・・・・どちらにせよ、ロクな物ではないのは確かだろう」


はたしてラウラは大丈夫なのか。そう思っている内に黒い泥―と呼ぶには金属的な光沢が強かったが―はやがて形を成し、変化が止まる。

その姿はまさにISを纏った女性の姿に酷似していた。人形というよりは粘土の塊から作り上げた像の様で、手には実体刀。もっと正確に言えば<雪片弐型>とよく似ている。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・千冬、姉?」


無意識の内にそう呟きながら、一夏は自然と<雪片弐型>を中段に構えていた。

刹那、変化を止めた黒いISが動く。こちらは居合いの構えを取りつつ一夏の懐へ飛び込み、間合いに到達するや否や黒い日本刀を一閃させる。


「ふっ―――――――ざけんなあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」


一夏が上げた雄叫びは、ミシェル達が初めて聞くほど怒りの籠もった荒々しい叫び声だった。

振り抜かれた逆袈裟をいなす。すると黒いISは刀を最上段に持ち上げギロチン宜しく垂直に落とす。それを一夏は受け止めてみせたが、パワーが違うのか頭上に掲げられた<雪片弐型>はジリジリと沈んでいく。


「ちぃ・・・・・・シャルロット、離れておけ」


身を守るものが無いシャルロットが巻き込まれないよう黒いISの背後に移動しながら、ミシェルはこれまた予備の<ケルベロス>アサルトライフルを展開し構える。

すると黒いISの動きが止まり、ゆっくりとミシェルの方を向いた――――かと思った次の瞬間、黒いISはミシェルに刃の矛先を変えて斬りかかってきた。速い・・・・・・!


「くうっ・・・・・・!」


咄嗟にミシェルもライフルを持ち上げて盾代わりにするので精一杯だ。セミオートカノンの砲身を両断してライフル部分に半分近く食い込む程度で止まってはいたが、下手すれば<ケルベロス>ごと一刀両断されていた所である。

両腕は塞がれてれる。が、両手が塞がっていてもまだ使える武器がミシェルにはあった。


「すまんラウラ・・・・・・!」


<アグニ>展開。出力は出来る限り抑えて黒いISが弾き飛ばされる程度に留めるつもりだったが、黒いISはその動きに反応したのか刀身をライフルから引き抜くと次は横薙ぎに振り回した。肩部装甲に当たり、逆にミシェルの方が後方へ吹っ飛ばされる。ライフルも何処かへ飛んでいってしまった。


「ミシェル!」

「大丈夫だシャルロット、平気だ!・・・・・・それよりも早く安全な所に隠れてくれ!」


駆け寄ろうとするシャルロットを抑えるミシェルの元に代わりに一夏が近づいてきた。表情はやはり獰猛に変貌していたが、瞳には燃えるような怒りと共に冷徹な履正も同居していた事に安堵する。


「ミシェル――――悪いけど、コイツには手を出さないでくれ」

「一夏・・・・・・あれは何だと思う」

「アイツは・・・・・・・間違いない、アレは千冬姉のデータだ。詳しい事はわかんねーけどそれだけは分かる。アレは千冬姉を真似した存在なんだ!」

「・・・・・・そうか、VTシステムか」

「知ってるのかミシェル?」

「ヴァルキリー・トレース・システム・・・・・・過去のモンド・グロッソの戦闘データをトレースするシステムだが・・・・・・IS条約でどの国も企業も研究が禁止されている代物だ」

「それがラウラのISに積まれてたってか?―――――ふざけんな!!」

「ああ確かに・・・・・・俺も腹が立つ」


言葉を交わす内に2人の顔が更に険しく歪んでいく。


「気に入らねえ。そりゃ強くなりたくて力を求める気持ちは俺だって嫌ってほど分かるけど・・・・・・アレは違うだろうが!自分の努力で手にした物じゃないだろうが!ただの千冬姉の猿真似、それ以下だ!!」

「・・・・・・早く止めた方が良いだろう。教師達が駆けつけたらどうなるか分からん。ケリをつけるなら今の内だ」

「言われなくても分かってる。コイツの相手は、俺の仕事だ」


一夏が<雪片弐型>を構え直しながら前に出ると、再度黒いISが襲いかかってきた。斬撃を敢えて一夏は受け止める。

やっぱりだ。確かに散々受け、払い、叩き込まれてきた千冬姉の剣筋によく似てはいるし、反応も早く一撃一撃は激しく重い、剛の剣。

でも違う。やはり姉の猿真似以上のそれではない。技も無ければ意思も無い、感情無き機械が振るうその剣は棍棒を振り回しているのと大差が無かった。

千冬姉の剣はもっと疾く、もっと鋭く、一片の無駄も無く刀を振るう姿は優雅ですらあった。

兄弟子の剣はもっと激しく、もっと苛烈で、触れずともその身から放たれる剣気だけでも身が切れてしまいそうなほど研ぎ澄まされていた。






2人がそこまでの技量を手にする事が出来たのは才能と努力と――――『強くなる』、その確固たる意志を持った人間だからこそ。

故に織斑一夏はこの手で真似事しか出来ない木偶人形を倒さなければならない。ただ組み込まれた動きしか出来ない機械に討ち勝たなくてはならない。






「人間を、無礼るなああああああああああっ!!!」


黒いISの刀を受け留めていた<雪片弐型>の刀身を傾け、黒い刃がその側面を滑る。大きく<白式>を身に付けた一夏よりも大きな図体が斜めに傾ぎ、胸元がガラ空きとなる。

その機を逃さず一夏は<零落白夜>を起動。必要以上に大きく光り輝く刃なんて必要ない。ただ目の前の相手を斬り倒せる刃を求める一夏の意識に呼応したかのように<雪片>弐型の刀身が変化。小ぶりな日本刀の形に形成された純白のエネルギー刃が柄から先に構築される。

躊躇い無くそれを横一文字に振り抜いた。胸元を横断し、ぱっくりと黒い泥製の身体が割れる。止めとばかりに純白の刀を天目指して高々と掲げ、正中線沿いに唐竹割りを放った。




――――十字に切り裂かれた黒いISの身体から、まるで蛹から孵化した蝶の様にするりと姿を現した一夏はその手にしっかりと抱きとめた。














――――私は、教官の様になりたかった。

『俺だって、千冬姉みたいに強くなりたいさ』

――――あの人は私の憧れだった。

『それも同じだよ。カッコいいもんな千冬姉って』

――――私は作られた存在だ。鋼鉄の子宮の中から生まれ、父親と母親などただの遺伝子提供者の俗名に過ぎない。

『・・・・・・俺だって、親の顔も名前も全然知らないさ』

――――私はただ強くあろうとした。兵器として生み出された私にとって、それが生きる理由だと信じていたからだ。

『ラウラは兵器なんかじゃない。立派な人間・・・・・・ただの可愛い女の子だよ』

――――ミシェル達と最初に出会った時にも同じ事を言われた覚えがあるが、本当にそう感じているのか?

『こんな事で嘘つく必要が何処にあるんだよ?』

――――そ、そうか・・・・・・・

『でも本当良かったよ、平気そうで。いきなりISが変なのに変わって取りこまれてたからさ、俺もミシェルもみんなも心配したんだぜ?』

――――貴様も心配してくれたのか?

『当たり前だろ。今じゃラウラも俺にとって大切な人間なんだからさ』

――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『・・・・・・おーい?』

――――今なら教官の言っていた事の意味が分かる気がするな。

『何の話だよ』

――――貴様には秘密だ。絶対に教えてやらん。

『ひっでぇ!』

――――1つだけ、教えてくれないか。

『何だよ』

――――貴様はどうしてそこまで強い。どうしてそこまで強くなれたのだ?何故そこまで強くなろうと思ったのだ?

『・・・・・・やりたい事があるんだ』

――――それは一体・・・・・・?

『誰かを守る事。これまで俺は守られてばかりだった。ミシェルが俺を守ろうとしたせいで死にかけて、千冬姉に助けてもらって、俺は自分が守られてばかりの甘ったれたガキだって事にようやく気付いたんだ』

――――・・・・・・

『自分の身を守れる力も持ってない事がどうしようもなく悔しかった。自分を犠牲にしてでも俺を守る為に行動してくれたミシェルや千冬姉の姿が、どうしようもなく眩しかった。だから強くなりたかった。自分のためだけじゃない、周りの誰かを守れる為に、ただ誰かの為に戦えるだけの力が欲しかった』

――――私も同じだ。教官のあの強さが眩しくて、だからあの人に憧れた。

『憧れるのは別に良いさ。誰だって誰かには憧れる―――――でもこう言っちゃなんだけど、ラウラのISに仕込まれてあったアレ、アレは違う。アレは単なる千冬姉の猿真似以下だ』

――――存在そのものには気付いていなかったとはいえ、その力を使う事を選んでしまった私には耳が痛いな・・・・・・

『だってそうだろ?俺もお前も、千冬姉みたいになりたいとは思っても――――――千冬姉『そのもの』には決してなれやしないんだから』

――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『俺は俺で、ラウラはラウラ。俺達は千冬姉じゃない。千冬姉そのものにはなれないし、千冬姉そのものになる必要は何処にも無い。俺達は皆、別々の存在なんだから。だから、ラウラ』

――――何だ?

『一緒に強くなろうぜ?一緒に強くなって―――――千冬姉を見返して、もう心配しなくても大丈夫だって、認めさせてるんだ』

――――私に出来るだろうか?もしかして今回の事で教官に見捨てられたりは・・・・・・・


『そんな事ある訳無いって。だって――――千冬姉だぞ?俺の姉だぞ?それに・・・・・・』

――――それに?




『――――言っただろ?ラウラは1人じゃないんだ。俺も、ミシェルも、シャルロットも、ずっとお前と一緒に居るさ』




――――貴様も、私と共に居てくれるのか?

『当たり前だろ?だって、俺達は―――――――――』




そう言いながらあの男は微笑みながら、私に掌を伸ばして――――――・・・・・・・・

















目を覚ました場所は医務室前の廊下だった。


「・・・・・・寝ちまってたのか俺」

「流石に一夏も疲れたんじゃない?一夏とミシェルだけ2回戦ったんだし」

「それならシャルロットもじゃない。そっちも大丈夫なの?」

「僕は大丈夫」

「・・・・・・見ての通りだ。そこまで心配する必要はない」


教師達からアリーナでの出来事について事情聴取をされた後一夏達はラウラを見舞いに医務室へとやってきたのだが、先客としてやってきていた千冬が先にラウラと話がしたいという事で待っていて、ラウラが目覚めてからは2人だけでの話し合いという事で医務室から追い出されたのである。

ちなみに学年別トーナメントは生徒達の安全を考え強制終了。今後の試合も中止し今回の優勝者は無しという事になった。

千冬の面会が終わるまで待っている間にいつの間にか意識が飛んでいたのだが、目覚めてからの一夏の目はまだ何処か遠くを見ている。


「どうかしたのか一夏?」

「・・・・・・何か、ラウラと2人っきりで話した様な気がする」


うすらぼんやりとした様子の一夏の耳にはデュノア夫婦以外の面子から発せられたビキッ!ってひび割れた感じの音は不幸にも届かない。

ちなみに一夏以外に医務室前でたむろしているのはミシェル・シャルロット・箒・セシリア・鈴といったいつもの顔ぶれである。


「んー、えらくリアルな夢だったな。プライベート・チャネルで話するのに似てたけど違うような・・・・・・うーん」

「そういえば聞いた事がありますわね。IS同士の情報交換ネットワークの影響により、操縦者同士の波長が合うと特殊な相互意識干渉が発生するそうですわ。実際に起こる例は稀だそうですけれど」

「ふーん、そうなんだ――――って何で箒と鈴が不機嫌そうな顔するんだよ」

「操縦者同士の波長が合うという事は・・・・・・」

「一夏とあの女の仲が良くなってるって事よねぇ・・・・・・?」

「いやいやそれはちょっとおかしいというか飛躍し過ぎなんじゃないかな?」

「・・・・・・2人共落ち着いてくれ。騒ぐと織斑先生に怒られかない」


扉一枚向こうに居る鬼の存在を思い出して意気消沈する箒と鈴。

2人は、特に箒の方は強く恨めしげというか、複雑な感情なこもった視線を一夏に投げかけながら拗ねた口調で呟く。


「・・・・・・私も、専用機が欲しい。専用機があれば、もっと一夏との関係が深まるかもしれないのに」

「なら専用機貰える位頑張ってお偉いさんの目に留まる事ね。代表候補生ぐらいになれたら専用機も支給されると思うわよ?」

「代表候補生といえば日本の代表候補生も同じ学年に所属していますわね。クラスは4組で、確かお名前は―――――」


医務室の扉が開いた。千冬の姿に手近なベンチに腰かけていた一同は一斉に腰を上げる。


「ラウラの具合はどうなんだ千冬姉!」

「織斑先生だ。全身に負担がかかったせいでしばらく安静にしてなければならないが命に別条はない。だが一応怪我人なんだから騒ぎ過ぎるな――――」


千冬が言い終わるよりも早くまず一夏とミシェルとシャルロット、出遅れて箒と鈴とセシリアが後を追って医務室へ飛びこむ。

やれやれまだまだ青いな、と首を振りながらもそのまま離れて行く千冬の口元には薄く苦笑が浮かんでいた。


「「「ラウラ!!」」」

「お前達・・・・・・」

「・・・・・・無事で何よりだ」

「心配したんだよ。本当に大丈夫なんだね?」

「あ、ああ。教官からはしばらく安静にしていろとは言われたが、深刻な異常は特に無さそうだ」

「やれやれ心配掛けさせないでよ全く。いきなりISが思いっきり変わって呑み込まれたかと思って見てたのに途中で締め出されたから気になって仕方なかったわよ」

「でも鈴もラウラの事心配してくれてたんだろ?もっとそういうのは素直に言ってあげればいいのに」

「う、うるさいうるさいうるさーい!」


照れ隠しに暴れようとした鈴を止めてから、ラウラの方に向き直すとふと赤と金の瞳と目が合う。

じ~~~~~~っと、少女の視線は一夏に固定されていて向けられている側は無性に落ち着かなくなる。


「・・・・・・一夏」

「な、何だ、ラウラ」


こうやってハッキリと下の名前を呼ばれたのは初めてな気がする。


「もう一度聞かせて欲しい―――――お前は、お前達は私の傍に、一緒に居てくれるのか?」


そう言って少女は少年達に手を伸ばす。まるで縋るように、温もりを求めるかのように。






当たり前だろ、と少年はその手を握った。

強く、強く。













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この後ラブコメとかも書き足したかったけど晩飯に食った弁当に当たって胃痛がマッハなので断念。
こっちは甲信ちょっとお休みして別所様での連載をそろそろ再開したいと考えています。
お暇があれば暇つぶし代わりに探して読んで頂ければ幸いです。



今後の展開に関わるアンケートなんですが―――――盾と弾丸、オリ主にはどっちが似合ってると思います?
あとリクエスト的な物があれば適当にどうぞ。現実に書けるかどうかは微妙ですが。



[27133] 3-1:とある朝の風景/一夏にまつわるエトセトラ
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/08/09 00:38

『この泥棒猫の娘が!』

『お前はただ言われた事だけをしていればいい』。文句があるならサッサと何処へなりとも消えろ。役立たずに用は無い』




――――ドウシテ『ワタシ』ヲミテクレナイノ?

――――『ワタシ』ハアナタタチノカゾクニナッテハイケナインデスカ?















早朝とはいえ、早い時間から太陽が地平線から顔を覗かせる夏の季節ともなるとそれなりの熱さを感じる今日この頃。それは四方を海に囲まれたIS学園といえど例外ではない。

それでも日々鍛錬は怠らない、強さへの追及に余念の無い者達はとっくの昔に活動を開始していた。学生の時間は有限なのである。


「うぅぅぅむ、やはりまだまだ一夏には及ばないか。それにしてもまた強くなっているのではないか?」

「そうか?箒も前より断然剣筋が鋭くなってると思うけどなぁ」

「だがISに乗り始めてからというもの、一夏の踏み込みと見切りの良さは凄まじいものがあるぞ。近づかれる度背筋が冷えるほどだ」

「あー、まあISでの戦いだと嫌でも動体視力が底上げされてくからな。<白式>なんか機動力もピーキーだし武装も刀1本だから嫌でも近づかなきゃいけないし――――でも、箒にそこまで褒めてもらえるんなら、それだけでもこの学校に入れた甲斐があるかな」


汗を光らせつつ面の下から曝け出された一夏の笑顔と口説き文句(言った本人にその自覚無し)に、同じく面と胴を外した箒の顔は不自然なほど瞬時に赤く染まった。

そう、それこそ箒の赤い顔が目に入った一夏が心配になるぐらいには。


「お、おい箒、大丈夫か?顔真っ赤だぞ?防具つけて動き回ったせいで逆上せたんじゃないのか?」

「だ、大丈夫だ!私は何ともないからその、す、少し離れてくれないか・・・?」


一夏が汗まみれなら同じ位激しく動き回り、尚且つ一夏の猛烈な攻勢に精神的にも中々追い詰められたりした箒は一夏以上に剣道着とその下の下着、髪を纏めて頭ごと覆うタオルもかなり湿ってしまうぐらい汗をかいてしまっていた。女心としてはそんな有様を恋人には間近で見られたくなかったのである。

もっとも自分が逆の立場だったなら大歓迎なのだけれど。特にうなじの辺りから鎖骨までの引き締まった筋肉と筋肉の間の隆起したラインなんか鼻先を埋めて擦りつけたくて仕方が無い位で・・・・・・


「箒ストップ、ストーップ!!」

「――――はっ!?」


どうやら無意識の内に実行してしまったらしい。


「はいはい、気持ちは分かるけど朝っぱらから盛ってんじゃないわよ」

「なぁっ!?さ、盛ってなどいないぞ!」

「どこがよ?一夏に詰め寄る時の姿なんかすっごいハァハァしてて怪しい事この上なかったわ」

「ち、違う、違うんだ!一夏も言ってやってくれ!」


だがしかし、一夏は無言で目を逸らしてしまった。箒はその場で膝から崩れ落ちてしまう。


「ううう、違うんだ。私は変質者などでは・・・・・・」

「いや箒がそういう人間じゃないってのは俺も十分分かってるからな。流石にこれだけ汗かいてる時にそんな風に嗅ぎ回られるのはちょっと困るけど、俺は気にしてないから箒も気にすんなって」

「・・・・・・嫌いになったりしないか」

「それこそありえないって」

「一夏ぁ・・・・・・」


再度頬を朱に染める箒だったが、今度は周知からではなく歓喜からである。

しかしここで更なる問題が発生。今度は箒ではなく一夏にとって重大な事態の存在に彼は気付いた。気付いてしまった。


「――――でさ、箒」

「何だ?」

「お、怒らないで聞いて欲しいんだけど」

「どうした、遠慮無く言ってくれ」

「・・・・・・・・・・下着が」


そっぽを向いたまま囁かれた内容に箒は自身の胸元を見下ろし、何時の間にやら白い剣道着の胸元がそれなりに大きく肌蹴ている事に気付く。

チェック柄のスポーツブラがハッキリと曝け出され、形成された深い谷間へと塩味の滴が流れ落ちていく様子がまた艶めかしい。

その上よく見てみればほら、汗を吸って通常以上に肌に密着した下着の先端には無意識の内に固くなった突起がハッキリと―――――

即座に自信を抱き締める様にして両腕で胸元を隠した箒は大きく後ろへと飛びずさってから、またも恥ずかしさに顔を真っ赤にしつつ声を漏らす。


「・・・・・・見たのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


沈黙は肯定と受け取った箒は、反射的に足元に転がっていた竹刀を拾い上げた。

それを見て一夏は慌てた。再会初日の惨劇が脳裏に高画質で再現される。綺麗だったなぁ箒の裸ってどの場面思い出してるか俺。


「落ち着いてくれ箒、せめて防具つけ直すまでは待ってくれ!」

「何を言っているのだ一夏!べ、別に斬るつもりとかそんな気は全然・・・・・・」

「・・・・・・(ゴメン、私も一瞬一夏と同じ事考えちゃった)」


鈴にまで危険人物扱いされている事などつゆ知らず、箒は己の竹刀を竹刀袋に収めながら溜息を吐いた。


「今更一夏に下着を見られたからといって叩きのめしたりするつもりは無い。な、何故ならもっと、その・・・・・・あられのない姿を散々一夏に見せているのだしな」

「そ、そうよね、ヤる事ヤッちゃってるんだから、今更恋人に下着姿見られるぐらい何ともないわよね」

「いやいや、それでも色々と慌てたり恥ずかしかったりするんだけどー・・・・・・」


一夏の呟きは乾いた笑いを上げ始めた恋人達の耳には届いていない。






・・・・・・が、第3者の言葉は流石に反応せざるを得なかった。


「・・・・・・人の事はいえないと重々自覚してはいるが、そういう事はもう少し周りを確認してから言った方が良いと思うぞ」

「「んなぁ(んにゃぁっ)!!?」」


ジャージに汗に濡れた無地のTシャツ姿のミシェルが非常に居心地悪そうに三角カップルを眺めていた。彼も道場の端の方で朝のトレーニングを行っていたのである。

そしてこの場にはもう1人、


「そうだぞ一夏。私の嫁でありながら私を放ってそんな会話をするのは許さんぞ」

「「だから誰が貴様(アンタ)の嫁なのだ(なのよ)!!」」


ぱたたたたー、と防具を外して片付けの準備に入ろうとしていた一夏に向けて、ミシェルと格闘訓練を行っていたラウラが無造作に飛び付いた。思わずラウラを受けとめようと一夏も反射的に両手を広げてしまったお陰で、自然小さな彼女の身体が一夏の懐にすっぽり収まる形になってしまう。

箒と鈴の米神辺りに浮かぶぶっとい青筋。怒りで頭に血が上る2人とは対照的に、音が聞こえてきそうな勢いで血の気が引いていく一夏は懐のラウラを引き剥がそうとするも動議をしっかりと掴まれて離れてくれない。

ちなみにラウラの格好は礼によってアーミーパンツにタンクトップである。というかこっちもよくよく見てみるとこれまた身体に張り付いた服のラインといい薄布越しに存在を主張する2つのぽっちといい、


「ラウラ下着付けてないのかよ!?」

「特に着ける必要性は私には感じられないからな。軍では訓練時は皆こうだ」


ISの登場で女尊男卑の風潮が広まったとはいえ軍はまだまだ男社会。時と場合によっては男女が同じ場所でシャワーや着替えをするのも当たり前なのである。


「それとクラリッサも『男は濡れ透けに興奮するものなんです!』とか言っていたから嫁もこういうのは好きなのだろう?それとも嫁は裸の方が好みなのか?」


何て事教えてんだそのクラリッサって人は、と一夏は顔も知らない相手に小一時間説教してやりたくなった。その横でミシェルはプライベート・チャネルで今度変な事ラウラに吹きこんだらそっちが頼んでいた夏の祭典の代理購入の話無しにしますよ、と現在進行形で釘を刺しておいた。箒と鈴の額に浮かぶ井桁の数が1つ増えた。


ガタン


その時剣道場の入口の方で物音がした。些細な音ではあるが、その場に居た全員が揃って発生元に視線を向ける。

でもってやはり全員揃って驚いた。入口に立っていたのはシャルロッと出会った。それだけなら別に大した事ではない。ミシェルの早朝トレーニングにシャルロットが付き合ったり終わる頃にタオルやスポーツドリンクを持って現れたりするのが殆どだ。

問題はそう、シャルロットの格好、明らかにサイズの合っていない大きなYシャツ枚羽織っただけで他は上も下も靴も何も身に付けていない全裸、ついでに首筋とか胸元についた赤い鬱血痕とか薄めの金色の叢も丸分かりという姿が色んな意味でおかしく、しかもその顔に浮かんでいるのはクシャクシャの泣き顔ときている。

あんまりにもあんまりなシャルロットの姿に凍りつく一同。そんな彼らを余所に、シャルロットは他同様固まって自分の方を見ている伴侶の姿を見つけると。

既に涙で汚れ、辛そうに歪めた顔の皺をより一層深くさせた。


「みしぇるぅ・・・・・・」


まるで迷子の小さな子供みたいに、とてもとても心細そうな声。






それを聞いて、瞬時に再起動を果たしたミシェルがまず行った事はというと。


「ばなーじっ!!?」


自分以外にこの場、正確にはこの学園唯一の男子生徒である一夏を問答無用手加減無用の右ストレートで昏倒させてから、瞬時加速もかくやな勢いで泣きじゃくる妻を抱え上げて自分達の部屋に戻る事だった。

昏倒した一夏は何故か巨大なロボットに乗って宇宙で戦う夢を見たとか見なかったとか、真偽のほどは定かではない。














「・・・・・・正直、本当にすまなかった」

「いやもう良いから、そこまで謝ってもらわなくても大丈夫だから」


時間はやや過ぎ場所も変わって寮の食堂。テーブルに頭を擦りつける勢いで謝るミシェルを前に一夏は苦笑を漏らすだけで流す事にした。

しかしほっとかなかったのは周りの方で、


「見事なパンチだったとは思うが、骨も脳も無事だったとはいえ嫁に手を出されては幾らミシェルといえど許せんな」

「いや、だからアンタはその一夏を『嫁』って呼ぶの止めてくんないかしら。一夏は私達のなんだからね?」


朝食の席にもちゃっかり加わっているラウラに険呑な視線を向ける鈴だが軽く流されてしまう。そこに箒も参戦。


「まったくだ。そもそも『嫁』という言葉の使い方自体間違ってるではないか。嫁というのはだな、その、えーっと・・・・・・そう、一夏にとっての私と鈴の事を云うのだ!」


言った途端脳裏に白無垢に身を包んで一夏と結納を挙げる自分の姿を妄想してしまった箒の思考が即座にオーバーヒート。その隣では鈴もまたウェディングドレスに身を包んだ自分が一夏と誓いのキスを交わす光景を思い描いてしまい、同じように赤くなりつつ固まっていた。この2人、意外と似た者同士なのかもしれない。

ラウラは箒の発言にほんの少し考え込む素振りを見せてから、


「ふむ、2人の言う事も一理あるが別に問題は無いな」

「それってどういう意味?」


早朝の痴態からとっくの昔にいつもの調子を取り戻してミシェルの隣に収まっているシャルロットが聞いた。


「つまりこの2人は一夏の嫁だが、一夏自身は私の嫁だ。特に問題はあるまい」

「「大有りだ(よ)!!!!!!」


即座に入る箒と鈴の突っ込み。


「一夏さん、食後の紅茶はいかがでしょう?」

「いや、お茶淹れてくれるのはありがたいんだけど、流石に和食に紅茶は少し合わないんじゃ・・・・・・」


そしてちゃっかり一夏との好感度を上げようと試みて失敗している英国淑女であった。





「そういえばシャルロット、あの時のシャルロットは一体どうしたというのだ?何かあったのか?」


食後の一服中、早朝トレーニング終了間際のシャルロットの様子を思い出した箒がふと問いかける。

シャルロットは恥ずかしそうに「う・・・」と呻き声を漏らすと、ミルク多めのカフェオレが入ったティーカップを置いた。ちなみに各自が飲んでいる食後の一杯は箒と一夏とミシェルが緑茶でセシリアが紅茶、ラウラがコーヒーという内訳だ。

どう見てもあの時のシャルロットの様子は尋常ではなかった。格好から察するに昨晩も励みに励んでから(その光景を思い浮かべそうになって思わず箒は頭をブンブン振った)そのまま寝入ってしまったのだろう。

だが日頃から落ち着いた物腰で柔和な笑みを振り撒き、ミシェルと渋い緑茶が抹茶アイスに感じられそうな甘い雰囲気を見せつける普段の様子からは想像も出来ないぐらい、あの時のシャルロットは弱り果てていた――――そんな風に箒は感じた。それは鈴やラウラ、一夏も同感である。


「・・・・・・ちょっと、夢見が悪くてね」

「どのような夢だったのだ?」

「誰も僕の事を『シャルロット』として見てくれない夢。厄介者とか単なる道具扱いばっかりされて、ミシェルも傍に居なくて・・・・・・寝ぼけてたのもあるけど、起きたら起きたでミシェルの姿が部屋の何処にもなかったから、気が付いたらあんな恰好のまま外に出ちゃってんだよ」

「そ、そう・・・・・・」

「僕さ、実はある人の愛人の娘だったんだ。母さんが死んだ後その人の家に引き取られたんだけど、本妻の人から泥棒猫扱いされたり、お父さんとの関係も良いとは言えないし・・・・・・だから偶にあんな夢を見ちゃう時があるんだ」


どうやらシャルロットも中々複雑な人生経験の持ち主らしい。嫌な事を思い出させたみたいで、一夏達の顔も暗くなってしまった。

ミシェルも一見動じてない様子だが、よく見てみれば眉間の皺が5mmばかり深くなっていて目も鋭さが増している。特に彼からしてみれば思う事が山ほどあるのだ。


「すまない、嫌な事を思い出させてしまって」

「そんな顔しないで。皆が気にする必要はないよ。昔はともかく、今はこうして皆やミシェルがちゃんと居てくれるお陰で、僕はすっごく幸せなんだよ」


シャルロットの指先がミシェルの手に絡みつく。伝わる体温から改めて今ここに居る事が現実なんだと噛みしめながら、シャルロットは友人達を安心させようとはにかんでみせた。

まるで向日葵か、それとも太陽みたいに温かみに溢れた幸せそうな笑顔だった。あまりにも美しいものだから一夏だけでなく同性の箒達までときめいてしまうぐらいの破壊力である。


「そっか、それは良かったな」

「うん!」


ここで何事もなければちょっと良い話でまとめれた余韻に浸る事が出来ただろう。

しかし現実は無情であった。


キーンコーンカーンコーン


「・・・・・・これ、予鈴のチャイムじゃ」

「う、うわあ!?急ぐぞ皆、今日のSHRは千冬姉の日だ!」


食後早々教室までの短距離走を強制させられる一同。















更に時間は飛びついでに日付も変わり。


「臨海学校の準備の為の買い物に出向く事になって、現在待ち合わせ中の俺とミシェルである」

「・・・・・・何だその独り言は」

「どっかの誰かへの状況説明?」

「・・・・・・まあ別に良いがな」

「それにしても皆まだなのかな。もうそろそろ待ち合わせの時間なんだけど」


IS学園最寄りのモノレール駅にて女性陣の到着を待つ野郎2人。女の準備は時間がかかるのである。

とはいえ今回のお出かけは男女とも学園の制服で固定なので着飾ったりするのに時間がかかる筈もないのだが。


「・・・・・・む、来たようだな」

「お、本当だ。おーい皆ー、こっちこっちー」


一夏が声を挙げると何時もの女性陣が2人の元までやってきた。揃って顔には喜びと期待に満ち溢れている。

そして7人が目指すは駅前のショッピングモール『レゾナンス』。地元民&元地元民だった一夏と鈴を除けば初めて訪れる大手の商業施設なので今回は海外勢と箒の観光も兼ねている。


「昔はよく鈴や弾と一緒に学校帰りに寄ったもんだよな」

「そーね、私が転校してから無くなったり増えたりした店もあるみたいだけど、こうしてみると懐かしいもんねぇ」

「ほらあそこのカフェとかしょっちゅう通ったよな。いっつも鈴にパフェとか奢らされた覚えがあるけど」

「わ、悪かったわね!あそこのパフェが美味しいのが悪いのよ!」

「それは俺も同意するけどな」


思い出話に花を咲かす一夏と鈴。その一方で箒とセシリアとラウラの顔はどんどん不機嫌そうになっていく。自分達の知らない楽しい記憶の共有は色々と思う所があるのだ。

特に箒としてはこうした一夏とのデート(?)じみた記憶なんてこれっぽっちも覚えが無いので尚更である。


「・・・・・・なら今度は私もパフェを御馳走させてもらおうか」

「おいおい箒もかよ?まあ確かにあそこのパフェ人気だもんな。でもやっぱり箒も女の子なだけあって甘いものが好きなのか?」

「・・・・・・あのねぇ、相変わらず女心の分からない奴なんだから一夏ってば」

「で、でしたらわたくしも!その時は是非ご一緒させて頂きますわ」

「ふむ、嫁の奢りとは中々豪気だな。私も楽しみにさせてもらうぞ」

「アンタらもちゃっかり混ざろうとしない!」


鈴が御同伴にあずかろうと企むセシリアとラウラに威嚇する最中、フランスの夫婦組は「今度は2人だけで来てみるか」「楽しみだねー」と早くも次回のデートコースの相談をしていたとか。

騒いでいると反対方向からこっちに向かって歩いてくる一団、その中の1人が一夏の姿に気付いた途端表情を変えた。


「お、織斑さんちぃーッス!!」

「あっ、ああえーっと、久しぶり?」

「いえいえこっちこそご無沙汰してます!」


あからさまに染められた中途半端な色合いの金髪にジャラジャラとぶら下げたアクセサリーやピアスの類を身に付けた少年は明らかに真面目な学生とは程遠い外見だったが、えらくかしこまった様子で何度も何度も頭を下げている。

彼の背後では似たような格好の不良少年達が「まさかあれが伝説の100人斬りの・・・」とか「中学で地元最強って呼ばれた・・・」などとヒソヒソ声で密談中。

唖然としているのは箒とセシリアとシャルロット。鈴はやれやれと言いたげな様子でミシェルとラウラは何故か感心している風だった。


「あの鈴さん?この個性的な格好の方々は一夏さんのお知り合いなので・・・・・・?」

「一応ね。前に言わなかったっけ、中学の時に一夏が地元の不良を片っ端から叩きのめしちゃったって話。コイツらも私達と同じ学校だったんだけどクラスの人間にカツアゲとかしてたせいで何度も一夏にボッコボコにされて、そのせいで今じゃ頭が上がらなくなってるってワケ」

「成程、対人戦におけるあの嫁の落ち着きようはそうやって育まれていたのだな」

「一夏って、実は結構怖い人だったりするのかな?」

「・・・・・・別に今更気にするような事柄でもないがな」


とにかく一夏が地元の一部ではかなりの有名人である事はよく理解出来た。


「周りに迷惑とかかけないようにな。カツアゲとかもっての外だからなー」

「はいぃっ、肝に銘じておきますぅぅぅ!!」


最後までへこへこしながらその場を立ち去る不良少年達。そこへ入れ替わる様にしてまた一夏の知り合いがやってきた。

今度は一夏と鈴だけでなくミシェルにも面識のある相手である。


「よう弾。蘭も一緒に買い物か。凄い量だな」

「そっちこそ今日は大所帯じゃないか。どうもミシェルさんもこんちゃーッス。鈴も久しぶりだな、帰ってきたんなら連絡ぐらい入れてくれよ」

「ごめんごめん、一夏経由で話は言ってると思ってたし、すっかり忘れてたわ」

「ひっでぇ、友達がいの無い奴だな」


弾の視線が箒達をぐるりと巡り、表情を少し険しいものに一変させると、


「・・・・・・つーか一夏。お前まさか鈴以外にもファースト幼馴染と2股かけてるにもかかわらず更に女増やしたんじゃないだろうな!?」

「そんな訳あるか!俺は箒と鈴だけでもう十分だから―――――あいでっ!!?」


言い終える前に一夏は悲鳴を上げた。セシリアとラウラにそれぞれ尻の左右を抓り上げられた為である。


「い・ち・か・さん・ん?まだまだわたくしは諦めておりませんことよ?」こうなれば2人も3人も変わりない事。第1夫人の座は諦めますが一夏さんの御寵愛を受けるまではこのセシリア・オルコット、決して退きませんので」

「だから一夏は私の嫁だろうが。私の事を放置するとは何事だ」

「いやだからあの、気持ちはありがたいしこんな事は言いたくないんだけどさ。俺には箒と鈴が居るから・・・・・・」

「「だが断る(りますわ)」」


もはや情愛と言うより執念と言った方が良いレベルかもしれない。友人としていい加減止めに入るべきか否か、ミシェルは悩む。






ハッキリと周囲の女性から向けられる感情を自覚しだしてから色々と苦労をしょい込み始めてる様子の親友に何とも言えない視線を送る弾。そんな彼に初対面であるシャルロットがにこやかに話しかける。


「初めまして、シャルロット・デュノアっていいます。よろしくね」

「こりゃご丁寧にどうも。俺は五反田弾っていいます。そっちの事は前にミシェルさんから聞かせてもらってますよ」


それなりに畏まって接する弾だったが、好奇心を抑えきれず前々から気になっていた事をこの際なので聞いてみる事にした。

シャルロットに出来るだけ気付かれない様、自身が接してきた女性の中ではトップ3に入るだろう彼女の豊満な胸に注目しない為に全理性を総動員しつつ、


「・・・・・・つかぬ事をお聞きしますが、ミシェルさんとの関係は・・・・・?」

「えっ?え、えーっとね・・・・・・・・・・・・・・・・・お嫁さん、だよ」


恥ずかしさの中に隠れた溢れんばかりのピンク色の感情を読み取った弾はガックリとうなだれてしまった。

話を聞いていたとはいえ外見マフィアか伝説の傭兵なミシェルとの関係に本人が認めた事への失意が半分、残りの半分は背後から蘭に思いっきり引っ叩かれたのが理由である。


「何て事聞いてんのよこの馬鹿兄!この前ミシェルさんが来た時に教えてもらったんでしょ!何でわざわざ聞き直すのよ!?気持ちは何となく分かるけどさ!」

「妹よ、お前の言ってる事も結構失礼じゃないのか。つかどんだけ強くぶったたいたんだよ、痛てててて・・・・・・」


兄の抗議を無視して蘭が険呑な視線を向けた先は、先程から一夏の腕に抱きつきながらセシリアやラウラと舌戦を繰り広げている鈴だった。ちなみに反対側の腕は箒で埋まっている。

―――――距離が近い。肉体的な意味でも、そして心の距離も。

まさしくピンポイントに睨みつけてくる蘭の気配に流石に気付いたのか、再会に喜ぶ様子どころではない友人の妹の姿に鈴はバツが悪そうに表情を歪めるしか出来なかった。

かつて鈴と蘭は一夏を巡る恋のライバルであり、また苦労を分かち合う同志でもあった。主にどんなにアプローチしても気付いてくれない一夏の被害者的な意味で。

しかし次に再会した時には鈴の方は本懐を果たして一夏と結ばれていた。しかも自分の知らない他の女子共々――――と知っては心中穏やかでいられる筈もなく。

鈴も鈴で蘭の気持ちも知っているので負い目もあって非常に気まずい。急に心細さを感じて拠り所を求めた鈴の身体は自然、一夏の腕に廻した両手の力を一層強めて密着させるように動いてしまった。

それが尚更蘭の嫉妬心を煽ってしまう。とはいえその場であらん限りの罵詈雑言を鈴や箒に対して吐けるほど蘭の理性の糸は細くはない。

怒りに変わって湧き上がったのは、涙であった。


「う、ううううう、うううううううううう~~~~~~~~っ!!!!」

「ちょ、うおっ、蘭!?」

「取られちゃった・・・・・・一夏さん・・・・・・・・うわ~~~~ん、鈴さんの裏切り者~!一夏さんの節操無し~~~~~~!!!!」

「まて、待つんだマイシスタ―――――っ!!!」


涙を振り撒いて脱兎の如く走り去る蘭。大荷物を抱えたまま追いかける弾。

そして取り残される一夏達。天井を仰いで目元を手で押さえながら一夏は呻いた。


「・・・・・・また蘭を泣かせちまったよ。どうしよう」

「また2人の店に出向いて謝った方が良いだろうな・・・・・・」

「あの子もやはり、そうなのか?」

「私も腹を割って話に行くべきよね・・・・・・ええその通り、蘭も『同類』よ。本当に、この分だとまたどれだけの女を泣かす事になるのか分かったもんじゃないわ」

「言わないでくれ、自分でも不安なんだからな・・・・・・」








「前から思ってた事ではあったんだけど・・・・・・・・・・一夏って、実は女たらし?」

「はうっ!!?」


シャルロットの言葉が最も深く心に突き刺さった一夏であった。












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2股かけても開き直ってハーレムまでは作れないのがウチの一夏です。何て中途半端な。
また来週から中国に1週間なので更新が送れます。向こうの食べ物に当たったらさらに遅れます。現実味があり過ぎて恐ろしい件。
今週中に小ネタなり何なり書ければいいんですが・・・リクエスト的な物があればどうぞ。



[27133] 3-2:イントゥ・ザ・ブルー
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/08/13 18:44

―――――トンネルを抜けるとそこは海でした。




「どっかで似た様なフレーズを聞いた覚えがあるんだけど、なんだったっけな?」

「海か・・・・・・軍の上陸訓練以来だな」


臨海学校初日である。宿泊する旅館に到着して女将さんの挨拶と千冬先生からの注意と訓示が終わるやいなや、少女達は一目散に荷物を置きに行ってしまった。

初日は自由時間。なので皆してさっさと着替えて海に出たいに違いない。気持ちは取り残された一夏とミシェルにもよく分かる。


「分かってるとは思うが、男子はお前達2人だけだが他の生徒達と同じ間取りの部屋を使ってもらう。2人では広いからといって騒ぐんじゃないぞ・・・・・・それから女を連れ込むのも無しだからな」


釘をしっかり刺されつつ2人も宛がわれた部屋に荷物を置いて更衣室へ。その途中で箒に出くわしたのはまあいいとして。

問題は、だ。

何故か道端に『耳』が生えていた。ナマモノではなく仮装などでよくあるバニーガールのアレ、白のウサミミである。しかも『引っ張ってください』の張り紙付き。

それを発見するなり箒の機嫌が大恐慌の株価並みに急降下を辿っている。やがて彼女はミシェルと顔を見合わせて「どうすりゃいいかなこれ?」「どうしたものやら・・・」と悩んでいた一夏と腕を強引に組むと、


「行くぞ、さっさと着替えて海に行くぞ一夏」

「えっ、でもアレほっといていいのか?多分アレ――――」

「い・い・の・だ!!」


強制連行されて当座勝っていく一夏の声。1人残されたミシェルもしばらくウサミミを見つめて迷ってはいたものの。


「・・・・・・よからぬ気配がするな」


何というか、このウサミミからは悪質なブービートラップにも似た気配を敏感に感じ取れてくる。

触らぬ神に祟りなし。自分の勘と、早く水着姿の嫁と一緒に海を楽しみたいという願望から見なかった事にした。足早にその場から立ち去る。

・・・・・・しかし5秒後、ミシェルはUターンしてきた。右見て、左見て、ついでに上も見てから周囲を確認すると、ウサミミが下手に動かないように丁寧に張り紙を引っぺがしてから足元の土をウサミミにかぶせて土で覆い隠す。


「他の人間が触りでもしたら危ないからな・・・・・・」


そうして謎のウサミミは誰の目にも触れる事無く地中に放置されるのであった。









そこはまさに男の楽園であった。

各国から集められた美少女達が海で戯れているのである。弾や御手洗といった一夏の男友達ならば、この場にカメラ持参で居合わせなかった事を心底後悔するだろう。でもってただ2人だけその場に居た男の片割れである一夏が責められるのだ。


「でもミシェル、その足で海とか大丈夫なのか?」

「大丈夫だ、問題無い・・・・・・素材もISの装甲と同じだから熱くもならないし錆びる事も殆ど無い。精々泳ぐ時に少し重たい程度だ」


元が宇宙活動用のパワードスーツなだけあって装甲もかなり特殊な素材なのだ。装着者の無事はともかく、装甲自体は理論上はバリアー無しでも大気圏突入を凌げる強度と耐熱性を併せ持っている。その分費用もかなりの額になるが。

とはいってもサイズもたかが知れているので、1機数百億円もする最新鋭の戦闘機と比べればISにかかるコストはまだマシだ。その辺りはISコアの数が限定されている=余分な機体を作る必要が無い(作れない)事も関わっているが、その辺りの話は今は置いておこう。

さて、一方の女子達であるが一夏の姿を捉えるや一斉に駆け寄ろうとしたものの、その隣のミシェルの存在に急遽断念せざるを得なかった。年頃の少女達にはミシェルの顔は未だに迫力過剰なのである。むしろ話しかけるどころか真正面から近づけれる者さえ未だに少ないという有り様だったリ。

しかし話しかけられなくとも遠くから一夏の姿を眺めるだけでもそれなりに満足ではあった。日々鍛えられて豹の様に引き絞られた一夏の肉体を見て、キュンと女の本能を刺激されている者多数である。

中にはミシェルの一夏と比べ一層厚い筋肉に覆われた、男臭さ一杯のミシェルの逞しい身体に目を惹かれている女子も少数だが存在している。他に男が居ないせいで2人の存在がより目立っていた。ただし首から上に視線をあげようとしないのはご愛嬌。

ちなみに2人の水着は買い物に出向いた時に共に買い込んだ黒のトランクスである。

そこへ躊躇い無く2人の元へ飛びこむ影が1つ。


「い~~~ち~~~~か~~~~っ!」

「ん?――ってのわっ!?危ないな、昔から変わらないなその癖」


鈴であった。そのままひょいひょいと一夏の身体をよじ登って肩車の体勢に。

下の一夏の事などお構いなしに普通より高い視点からの眺めを楽しむ中国の代表候補生。一夏も一夏で仕方ないと言わんばかりに、むしろ鈴がバランスを崩さない様にしっかりと頭を挟み込む彼女の太腿に手を当てさえした。

そして何だか難しい顔をしてこっちを見てくるミシェルに気付く。子供が見たら泣き出しそうな位凄まじい形相になっていた事は触れないで置いてやる。


「どーかしたか?」

「・・・・・・いや。恋人同士とはいえ、中々大胆だなと思ってな」

「「へっ?」」


ミシェルに指摘されて間抜けな声を漏らす一夏と鈴。一夏は見上げ、鈴は見下ろし、しばし見つめ合ってからようやくミシェルの言葉の意味を悟る。

一夏の両手は鈴を支えるべく、細くはあるが健康的な肉付きの鈴の太腿にしっかり添えられ、鈴の方はと言うとこちらもしっかりと一夏の身体に自分を固定させようと両足を一夏の肩周りに絡ませつつ下腹部を一夏の後頭部に押しつけるようにすらしていた。

つまり一夏は不可抗力とはいえ時と場合とポジションによってはセクハラ間違い無しの場所を無造作に触り、鈴に至っては男の頭を自分から股間に埋めさせている訳で―――――


「にゃ、にゃにゃにゃにゃわにゃー!!?」

「ちょ、うぉ、待て待て鈴人の上で暴れんな髪引っ張るな痛いから!」


大混乱である。人に指摘されてようやく自分のしている事の大胆さに気付いた鈴であった、

鈴に引っ張られバランスを崩した一夏はそのまま波打ち際へと突っ込み、波に足を取られ鈴諸共海へドボン。

のっそりと起き上がり、全身から海水を滴らせながら一夏と鈴はどんよりとした視線をミシェルへ向けた。


「「み~しぇ~る~・・・・・・」:

「・・・・・・すまなかった」


そうこうしている内に残りのメンバーも海岸へとやってきた。白色人種と黄色人種の差はあれど、眩い日差しに照らされしっとりと汗が滲んだ少女達の肌はそれだけで中々の色気を放っている

特に金髪のセシリアとシャルロット、銀髪のラウラに至っては日光を浴びて透けた髪が芸術品の様な美しさを感じさせた。

そんな中で、何より一夏の視線を捉えて離さなかったのは、


「ど、どうだ、一夏?自分でも少し、大胆だとは思うが・・・・・・」

「ほ、箒」


箒の水着は白のビキニ。布地の面積は少々少なめ、といった程度だが箒の胸周りの肉付きが良過ぎるせいで乳房のそれなりの部分もまた衆目に晒されてしまっている辺りが、一夏にとっては目の毒だった。

一緒に買い物をしたとはいえ水着に関しては当日のお楽しみ、という事でその時はお披露目されなかったのだがいやはや、中々の破壊力であった。

おまけに箒が恥ずかしげに身をくねらせるせいでそんな2つの肉メロンが右に左に微妙に揺れる。それに釣られて一夏の両目も追いかける。

もちろん、そんな恋人の真正面からの注目っぷりに箒が気付かぬ筈もなく、


「ど、どこを見ているのだ一夏!」

「ご、ゴメン。つい、箒が可愛くて」

「か、かわっ!?――――ふ、ふふん、そ、そりぇくらいでは騙されんからな!・・・・・・だ、だがありがとう」


熟したリンゴ並みに真っ赤な顔を一夏から背けつつ、この水着にして良かったと箒の内心は狂喜乱舞。

だがその喜びのつかの間。箒の背後から伸ばされた手が、彼女の双丘を思い切り鷲掴みにするまでの事であった。箒は驚かされた猫の如くその場で飛び上がる。


「な、ぬぁにをするか鈴!!」

「う~、ホント何を食べたらこんな胸になれるのよ。少しで良いからアンタ分けなさい!」

「無茶を言うんじゃない、それに私も好きでこんな胸になった訳じゃ―――――」


箒の反論は不幸な事に、鈴にとって核地雷クラスの爆弾発言であった。一気に眦(まなじり)がつり上がる。


「そんなの最初からそんだけの物を持ってるから言えるのよー!男ってのはね、まず胸なのよ!単に顔が良いだけじゃダメなのよ!分かる?ナンパとかされた時胸の方見られたと思ったら次の瞬間溜息つかれた時の気持ちが!」


鈴の絶叫は子を理不尽にも奪われた母親もかくやな痛切さに満ち溢れていた。周囲で騒ぎを見守っていた女子達の中には重々しくうんうんと頷いている者も居る。その全員が局地的に平坦であるという共通点を持っていた。

うがーっと吠えながら更に荒々しく揉みしだく鈴によって半ば腰砕けになってきた箒の様子を見かねて、ようやくこちらも水着姿(当たり前だが)のシャルロットが止めに入る。


「落ち着いて鈴、皆が見てるから、ね?」


暴走モードな鈴の得物を前にした野生の肉食獣宜しくギラつく眼光がシャルロットを捉える。その視線はゆっくりと下へ移り、一点で止まる。

・・・・・・箒以上の質量と体積を誇る膨らみ。戦力レベルは最低でも山田先生クラス。今現在も成長段階・・・・・・だと!?


「アンタも敵よー!」

「えー!?何で僕までー!?」


逃げる巨乳シャルロット襲いかかる貧乳鈴。砂浜を舞台に開始されるある意味命がけの追いかけっこ。


「・・・・・・で。結局一夏はどちらのサイズが好みなんだ?」

「聞かないでくれ、どっちを答えてもヤバそうだから・・・・・・」


セシリアとラウラ?豹変した友人達の姿を呆然と眺めて忘れられていましたが何か。













最終的にミシェルの『貧乳はステータスであり希少価値である』という説得により鈴の暴走は終わりを迎えた。

そのせいで疲労困憊になったシャルロットと執拗な胸への刺激に腰が抜けたままの箒は自由時間終了間際まで動けなくなったりしていたが、代わりにずっとそれぞれの伴侶に膝枕をしてもらったり頭を撫でてもらったりした分、殆ど泳げなかった元は取れたと言っていい。自分達の相手をずっとしてもらったせいで一夏とミシェルも殆ど泳げずじまいになってしまったのは心苦しかったが。

旅館に戻って夕食の時間。海の幸と山の幸がバランスよく纏まった献立に少女達は舌鼓を打つ。


「――――美味い」

「おっ、やっぱミシェルも分かるかこの味。いやーカワハギの肝の刺身って最高だよな。わさびも本わさの高級品だし、こんなに美味い刺身って初めてだよ俺」

「土地にもよるが、フランスでも魚を生で食べるのは日常的だからな・・・・・・流石にワサビ醤油で食べれる機会は中々ないが、フランスのも中々だぞ」

「カルパッチョとかそういうのだろ?いっぺん自分でも作ってみようかな・・・・・・」


ミシェルは一口サイズに丁寧に切られたカワハギの肝の端をほんの少しだけワサビ醤油に浸してから口に運び、そのまろやかで濃厚かつ繊細な味を丁寧に味わった。料理を噛み締める度、その口元が僅かに緩む。

―――それにしても浴衣がよく似合うなぁと左隣の一夏はミシェルを見て思った。サイズが合っていないせいで袖が微妙に合っていない気がするが、顔の彫りの深さといいその老け顔っぷりといい大昔の任侠映画に出てくる大親分みたいだ。誰かドスとサラシ持ってこい。

箸の使い方も堂に入ってるし正座も平気そうだし着物は似合うし、今時の若い子よりも日本人っぽい。あ、俺も今時の日本人だっけ。




とその時、不意に鞭のようにしなったミシェルの右手に握られた箸が一夏とは反対側、彼の右隣に座るシャルロットの箸とぶつかった。

明らかなマナー違反以前の好意ではあったが、ミシェルの箸に抑え込まれたシャルロットの箸が摘まんでいる物体に気付いてしまえばしょうがないとしか言い様がない。

何故ならば、


「・・・・・・シャルロット。ワサビは、そのまま食べる物じゃないからな?」

「え、そうなの?」


それはもう罰ゲームのレベルである。


「・・・・・・足は大丈夫か?無理をしなくても、辛ければすぐに言っていいんだぞ?」

「そっちは大丈夫。まだそこまで辛いって感じじゃないから」

「こっちはかなり追いつめられてるっぽいけどな」


一夏のもう片方の隣に陣取っているセシリアは何かもうイッパイイッパイな顔色だった。足の痺れに耐え忍んではいるがもはや箸が殆ど進んでいない。明らかに限界ギリギリである。


「だ、大丈夫ですわ・・・・・・」

「いや全然大丈夫に見えないからな。そこまで無理しないでも向こうのテーブルで食べれば――――」

「だい・じ・じょ・お・ぶで・すぴぎぃ!?」


英国淑女にあるまじき悲鳴を上げて遂に崩れ落ちるセシリア。無理に叫んで身動ぎした瞬間、御膳に足がぶつかっだのが止めとなったのである。

慌てて一夏はセシリアの身体を支えようとしたがそれは他でもないセシリア自身に止められてしまった。他人に触られただけでも大ダメージが全身に伝わるんだそうな。

結局痺れが抜けるまで料理はお預けになってしまったセシリア。まるっきり食べれていないのを見かねた一夏はこんな提案をしようとする。


「どうせなら俺が食べさせてやろ――――」

「いや待て・・・・・・その役は俺が引き受けよう」

「え?いいっていいって、俺もう大体食べ終わってるし」

「そういう問題じゃない・・・・・・そんな事をしたら一夏の身が危険そうだからな」


クイクイとミシェルが親指で示した先。

――――般若が2人、冷たくも熱いおどろおどろしい視線をこちらめがけ照射してきていた。


「・・・・・・一夏もいい加減女心をコントロールする術を身に付けた方が良いぞ」

「き、肝に銘じとくよ・・・・・・」


セシリアは非常に残念そうだったが、それでもしっかりミシェルには礼を告げる辺りが淑女たる所以である。

ちなみにシャルロットはというと、こちらもちょっぴり嫉妬はしていたものの事情は理解しているので箒と鈴のような過剰反応まではする事無く、自分もセシリア同様ミシェルに食べさせてもらうという条件を出す程度に収めるのだった。

それをミシェルが嬉々として実行したのは、言うまでもない。










夕食後、何故か箒と鈴とシャルロットだけが千冬先生に部屋まで呼び出さされた。


「お前達、自分の男とは最近どんな感じなんだ?」

「いきなり呼び出した理由がそれですか千冬さん!?」

「織斑先生と呼べ。遠慮無く話していいぞ、山田先生には仕事を押し付けてしばらく戻ってこない様にしてあるからな」


哀れ、山田先生。


「で、どうなんだ?一緒に買い物に行った事は知っているが他に甘い青春の1ページみたいなのはないのか?ん?」

「先生、酔ってません?」

「たかが缶ビール1本空ける前から酔う筈なかろう。とりあえず誰からでも良いからさっさと話せ。こちとら姉としても弟の男女関係が気になって仕方ないのだからな」

「は、はぁ。ですがさっき千冬さんがおっしゃった通り先日一緒に買い物に行った事ぐらいは特に何も変わった出来事などはありませんでしたが」

「変わった出来事など無い、ねェ」


煽った缶ビール越しに人の悪い笑みを浮かべた千冬は箒の方をじろりと睨むと、


「なら早朝の鍛錬が終わる度に一夏と『一緒に』シャワーを浴びる事は何時もの事なのか?」


箒は千冬から渡されたジュースの中身を噴いた。顔が一気に瞬間湯沸かしモードへと変貌を遂げている。

彼女だけでなく鈴まで一緒に顔を赤くしているのは何故だろう。それに気付いた千冬の顔にはまさに得物を前にした狼の笑みが浮かぶ。


「しかも直接鍛練には参加せず見学しているだけの凰も加わっているのはどういう事なのだろうな」

「に゛や゛ーっ!!?にゃにゃにゃにゃにゃんで千冬さんがその事をー!?」

「この前飲みに行った時榊原先生が楽しそうに教えてくれたぞ。しかし我が弟ながら殆ど毎日の癖して中々精力的ではあるな。年頃の思春期ならこんなものか?」


色々と知られちゃいけなさそうな存在筆頭の千冬にアレやコレやを知られていた事に顔が蒼褪める少女2人。榊原先生の裏切り者ー!


「デュノア妻のの方はどうなんだ。倦怠期にはまだまだ早い気もするが」

「えーっと、僕の方も特に変わった事は無いですよ。ちょっと夢見が悪かった時にミシェルに慰めてもらった事はありますけど」

「そうか、それは結構だが避妊だけはきっちりしておけよ。幾ら籍は入れていてもIS学園の在校生が妊娠など前代未聞だからな、少なくとも卒業までは我慢してもらえればありがたい」

「大丈夫ですよ。ちゃんとピルは欠かさず飲んでいますから」


まるで現役の教師と生徒の会話とは思えない内容の会話である。下腹部を愛おしげにさすりながらえへへーと笑うシャルロットもシャルロットだが酒片手になら良いがと納得してしまう千冬も千冬だった。

そこまで話してから、2人は気付く。




・・・・・・固まったままの箒と鈴ではあるが、交互に赤くなったり青くなったりしている顔の色合いが更に濃くなっている事に。




「・・・・・・まさか、貴様らその辺りの事を全く考えずにヤッていたんじゃあるまいな?」


――――――沈黙は肯定。












数秒後。生徒達には最早聞きなれた強烈な打撃音が2回、旅館中に響き渡った。











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中国に行く前にもう1回更新しようと必死だったのでかなりやっつけ気味。手抜きっぽくてサーセン。
一応学校の解剖実習でホテル泊まりなんで食べもんはまだいいんですが、屋台ではなるべく食うなとはとは先生から注意されてますwww
そんな訳で、次回の更新はまた遅れます。ご了承ください。



[27133] 3-3:疑わしきは/イントゥ・ザ・スカイ
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/08/27 10:42
※ちょっとアンチっぽい・・・かな?









・・・・・・こういう出だしも久しぶりな気がするな。具体的には数週間ぐらい。

只今の状況。大広間に俺を含めた1年の専用機持ち連中―鈴を除けば全員1組な訳だが―が呼び出されて千冬先生から事情説明中。

内容は――――ハワイ沖で試験稼働中の軍用第3世代IS<銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)>が原因不明の暴走。近々この旅館近くの海域を通過予定との事。俺達が集められたのはこの暴走機を強制停止させる為。

<銀の福音>は元々アメリカとイスラエルが合同開発した機体で、実家と軍の知り合いの伝手で噂程度には聞いていた機体だ。織斑先生の説明にもあったが新開発の特殊エネルギー兵器による広域殲滅を目的とした性能だという。

フランス軍所属の俺や(言い方がアレだが)生まれも育ちもドイツ軍謹製なラウラ―本来制作元の国が行うべき事柄に余所者の俺達が出張るのも問題な気もするが―はともかく、専用機持ちとはいえ一応学生で民間人である筈の一夏達まで動員される理由は、ありきたりだが現場に暴走機を止めれるような人間は俺達しか居ないから、である。




さて、此処で話を変えさせてもらうが。

自分でも半分以上忘れかけだしもはやどうでもいい事なんだが、一応俺は『インフィニット・ストラトス』という物語が存在する世界からの転生者だったりする。

とはいえその知識は存在を知った時期がベッドから殆ど動けなくなった頃だった為原作本を手にする機会が無く携帯でネットの二次創作を呼んで知った程度の内容でしかない。だから在って無いも同然だしそもそも生まれ変わってからこの世界が『創作が元になっている世界』と気付くまでウン何年もかかった。

しかし徳川の埋蔵金や宇宙人の存在並みにあやふやな知識とはいえ、俺が読んだ幾つかの『インフィニット・ストラトス』の二次創作において、大体が共通していたが故に印象に残っている内容も僅かにだがある。

そう、例えば。






「待った待ーった、その作戦はちょっと待ったなんだよー!」


――――学園の襲撃事件やこの<銀の福音>暴走事件における黒幕が篠ノ之束なる人物である事、とか。






2日目の実習直後から姿を現した彼女、篠ノ之束は妹の箒とは似ても似つかない・・・・・・いや、所々顔立ちなどは似ているがやはり雰囲気が違い過ぎるな。

無理に似ている部分を挙げてみるとしたら、思い浮かぶとしたらやっぱり胸―――すまんこれも男の性なんだから口に出してもいないのに殺気を放たないでくれシャルロット。やっぱりお前のおっぱいが俺は1番好きなんだからさ。

俺とシャルロットの事はさておき、束博士は彼女謹製の最新鋭機であるIS<紅椿>を携えて俺達の前に現れた。妹に直接機体を手渡すべく。

どうも箒自身が博士に頼んで作ってもらったらしい。周囲は不平等どうのこうのとか言っていたが、俺はその点に関して別にどうとも思わない。コネがあるなら最大限利用してナンボだろうに。俺だって実家がISを開発して企業なのをいい事に趣味に溢れた機体と武装を作ってもらったりしたんだから文句も言えない。

にしても噂には聞いていたが、束博士が『身近な人物以外他人の存在をまったく受け入れない』ってのは本当だったのか。傍目に見て居る限り彼女が『身内』として認識しているのは一夏と箒、そして千冬先生だけか。セシリアが話しかけたらけんもほろろに罵倒されて涙目になっていたし。

・・・・・・というか博士が最初に登場した時人参型のロケットに乗って現れたんだが、そのロケットには大いに見覚えがあった。

クラス対抗戦に乱入してきた謎の無人機。それが撃破された直後、上空を警戒した時に偶然発見した謎の飛行物体――――思いっきりアレにそっくりだった。

そして束博士が現れて妹に新型気を手渡したその矢先に今回の事態ときたもんだ。でもって思いだしたのが束博士に関する前述の二次創作知識。




率直に言わせてもらおう。そういう『原作(?)』の前知識があろうがなかろうが、間違い無く俺は篠ノ之束を疑っていた。




マッチポンプにも程がある。妹へのプレゼントのお披露目を更に派手にする為の当て馬によりにもよって演習中の軍用ISを暴走させてわざわざご丁寧に自分達の近くを通る様設定した、ってか?

間違いない。決めつけが過ぎるが、篠ノ之束は間違いなく愉快犯だ。それも自分の思い通りの結果の為ならどんな事態だろうがどんな犠牲だろうがお構い無しの、最悪の部類に違いない。

そうでなければ何故、自分の家族が出撃しなければならないかもしれないのにこうも楽しげに自分の作った作品を嬉々として自画自賛できる?そもそも触れて数時間も経たない機体なのにいきなり『実戦』に放り出そうってか?

その昔、銃の扱いその他諸々を最初に教えてくれた人達であるレームさん達に、雇い主の命令で使っていた武器を新型に変更する事になった件(くだり)の話をしてもらった時がある。

レームさん達は普通にその事を受け入れたけど、それに対して逆に雇い主の方が驚いたという話。『彼女』は武器商人であり、つまり本物の兵器に関するプロであるが故にそれなりの批判を受けると考えていた。

つまり、試験と経験を積み重ねていない新技術てんこ盛りの最新兵器を崇め奉るのはスペックシートしか見みようとしない、とどのつまり現実を知ろうとしない馬鹿でしかないという事。結局使ってみなければ何処まで行っても机上の空論でしかないからだ。

<白式>も新型機ではあるものの、何度も模擬戦とかやってそれなりの実績は積まれてきているからまだいい。実弾兵器メインの俺やシャルルが使う兵装も大半は既存の銃器/兵器をIS用に転用した物ばかりで信頼性は高い。

なら<紅椿>はどうだ?試運転の様子を見た限りでは確かに高性能ではありそうだが、現実的な耐久性は?エネルギー消費速度は?戦闘機動でどれだけの時間稼働出来るのか?

どのデータもない、ない、ない、ないない尽くし。おまけに第4世代?展開装甲?スペック上では最強?




――――それがどうしただ、馬鹿野郎が。与えられたばかりの兵器をまだ完全に使いこなせるかも怪しい新兵、それも自分の家族をいきなり修羅場に放り込むつもりか。




何より最悪なのは、<紅椿>を与えられた箒と一夏が主軸となって<銀の福音>迎撃作戦が行われる流れになりそうな事だ。

誰が好き好んで、こんなロクでもないトラブルに友人が放り込まれるのを喜ぶものか。これ以上無い位眉間に皺が寄るのを自覚したが、抑えるつもりはない。


「――――――尚、迎撃時の援護とバックアップ役としてデュノア夫を加える事にする。この決定に対し異論は聞かん」

「・・・・・・何?」「へっ?」


イラついた思考に没頭していた時にいきなり俺の事が出てきたので驚いたが、俺も一夏達と出撃する事になったらしい。

この決定は意外だったのか、束博士も驚いた様子だ。


「何言ってるのさちーちゃん、あんなただ全身に装甲つけただけのダサい機体じゃ役に立つ筈無いよ?」

「<ラファール・レクイエム>の基本兵装の幾つかは対空砲として用いられていた代物の改良型だ。元は超音速で飛来するミサイルや戦闘機を迎撃する為に使われてきたんだ、撃破とまではいかなくとも<銀の福音>相手でも牽制や足止めには期待できる。それなら例え<白式>による初撃が失敗してもまだチャンスはあるだろう」

「でもでも!あのドンガメじゃいっくんと箒ちゃんには追いつけないし!」

「追いつく必要はない。<白式>同様作戦空域まで運ばれてからは<白式>と<紅椿>よりも低い高度から対空射撃を行ってもらうだけだからな。お前が見せた<紅椿>のデータならばもう1機増えても大丈夫だろうし、あの機体ならFCSなどの調整にも然程時間もかからんだろう」

「う~仕方ないなぁ。でもでも、あくまで主役はいっくんと箒ちゃんなんだし、ちーちゃんがそう言うなら構わないけど・・・・・・」


明らかに間違った部分で拗ねるその様子が、束博士の感覚の子供っぽさを引き立たせている気がする。

戦う事は好きだ。自分の『生』を痛いほど実感できるからな。

だが今回ばかりは全くもって楽しむ気にはなれそうにない―――――明らかに選考の判断基準がおかしい上に、自分1人の命をかけるだけならまだしも、友人達の命がかかってるとなれば尚更だった。




―――――――この2人は、いや、この部屋に居る人間のうちどれだけが、その事に気付いているのだろうか?













何だかミシェルの様子がおかしい・・・・・気がする。

ハッキリそう表現し難いのは既にISを展開し終えて顔がフルフェイスのヘルメット部分に隠れているから。その代わり気配は案外分かりやすい。

最初はやっぱりミシェルでも作戦を前にして緊張しているのかとでも思っていたけれど・・・・・・・・・それにしては刺々しいというか、重苦しいというか。


「(様子がおかしいのは箒もだけどな)」

「どうした一夏、心配そうな顔をして?安心しろ、お前は私がしっかりと運んでやるからな」


こっちはこっちで専用機、それも束さん謹製の超最新型を送られたお陰でかなり浮かれてるっぽい。不安だ。箒には悪いがかなり不安だ。浮かれ過ぎて暴走しなきゃいいけど。

一夏が抱く不安をミシェルも感じ取っていたのか、いつも以上に重々しい声が耳朶を打つ。


「・・・・・・感情が昂ぶっているようだが、もう少し落ち着いた方が良い。興奮の余りいざという時事を仕損じかねないし・・・・・・そのせいでもし女の箒が傷物になってしまっては大事だからな」


本物のスカーフェイスたるミシェルが言うとこれ以上無い位説得力に溢れている。これには流石の箒も気圧されたように「う、うむ、そうだな、自省せねば」と表情を引き締める。


「(サンキューミシェル。助かったぜ)」

「(何、純然たる本音だ・・・・・・)」


プライベート・チャネル越しに礼を言う。けれどやっぱりミシェルの様子に違和感を覚えてしまって、一夏の方が落ち着かなくなってしまう。


「(でもミシェルも大丈夫なのか?何だか何時もと違うっぽい気がするんだけど。やっぱミシェルも緊張してるのか?)」

「(・・・・・・否定はしない。一応『実戦』だからな、それなりに気も引き締まる)」

「(まあ確かにそうだよなぁ――――だけど何ていうか、別の事で悩んでる感じがするんだけど)」

「(・・・・・・その鋭さをもうちょっと女性関係で発揮していれば箒と鈴の事もややこしくならずに済んだのではないか?)」

「(へ?)」

「(ただの独り言だ・・・・・・)」

「(とにかくさ、もうすぐ作戦も始まるし、悩み事があるんなら今の内にさっさと吐き出した方が楽だと思うぞ。言ってくれよ、友達じゃんか)」


気配が揺らぐ。強いて言えば、胸中がモヤモヤする余り頭を掻き毟り出しかねない雰囲気を放った後、チャネル越しに深く深く息を吐き出すのが伝わってきた。


「(・・・・・・こんなタイミングでこんな事を言い出すのは拙い事は重々承知している。これには一夏だけではなく箒にも関わる事だが、彼女には是隊に言わないと誓えるか・・・・・・?)」

「(あ、ああ、分かった)」


ミシェルの只ならぬ気配の重さに半ば反射的に安請け合いしてしまう一夏。悩んだ様子でしばし呻きを漏らしてからミシェルは躊躇いがちながらも自身の考えを友人に告げる。




「(・・・・・・俺は、今回の軍用機暴走の犯人は束博士だと考えている)」




すぐ隣の箒に悟られないようにするのに苦労した。彼女が諌められながらもそれでも内心浮ついていなければ一夏の驚愕を悟られていただろう。

――――確かにあの人ならやりかねない、と理性の一部分が納得の声を挙げていた。それでもミシェルに迫り寄ろうと動きそうになる肉体を必死に自制しつつ通信で抗議を送る。


「(な、何でそんな事になるんだよ。幾ら束さんでもこんな大事件を起こすなんて事・・・・・・やりかねないけどさ!でもだからって――――)」

「(タイミングが良過ぎる・・・・・・この状況がお膳立てされ過ぎていると思わないか?まるで白騎士事件の再来だ)」


白騎士事件―――――日本に飛来した2千発以上のミサイル、そして各国が送り込んだ戦闘機・巡洋艦・空母・衛星までをたった1機のISによって迎撃された事件。

この事件により発表当初は全く注目されていなかった―それどころか開発者の幼い少女の戯言としか認識されていなかった―ISの性能と価値が世界中に知らしめられた、『極一部』にはあまりにも都合が良過ぎた事件。


「(ミサイルは暴走機、そのミサイルを迎撃する白騎士が――――)」

「(箒の、<紅椿>だって言うのかよ!?)」

[(・・・・・・友人の家族を疑いたくはない。此処まではただの俺の勝手な推論にしか過ぎないかもしれないが・・・・・・これならどうだ?)]


プライベート・チャネルで画像データが送られてきた。束さんが人参型ロケットで現れた時の写真と、もう1枚は。


「(クラス対抗戦で襲撃を受けた直後、アリーナ上空を映した画像だ・・・・・・これはどう説明すれば良い?)」


あの日、謎の無人機に襲われた。鈴と一緒に襲われ、アリーナは大パニックになって、箒が撃たれそうになって、代わりに鈴がやられた。

そんな時に何故、“束さんのロケットが同じ場所を飛んでいた?”

喉が干上がり、声が出なくなる。それで良かったのかもしれない、もし何か言っていたら、今度こそ箒に悟られてしまっていたかもしれないから。

まさか、そんな、とは思う。何で、とも思う。それでも頭脳の片隅はミシェルが提示した内容が指し示す結論を冷静かつ冷徹に、一夏の精神に叩きつける。






無人機で学園を襲わせ、箒や鈴を手にかけようとしたのも束さんなのか?






『織斑、篠ノ之、デュノア、聞こえるか?今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間の決着を――――織斑、バイタルに異常が見られるぞ。どうかしたのか』

「・・・・・・・・・・・」

『おい織斑、聞こえているのか?』

「一夏、どうしたというのだ一体」

「―――――――えっ?な、何でもない!やっぱり俺も緊張してるのかな、ははっ・・・・・・」

「驚かせるなまったく。何なら一夏はここで休んで私1人でも構わないぞ?」

『調子に乗るな篠ノ之。本当に大丈夫なんだな、織斑』


大丈夫なんかじゃない。だけど、このまま退けない理由がある。


「俺も大丈夫だよ、千冬姉。選ばれてここまで来ちゃってるんだ。箒やミシェルだけに任せてちゃ意味無いって」

『・・・・・・織斑先生と呼べ、まったく。それでは作戦を開始するぞ』


一夏だけなら箒の背中にしがみつくだけで済んだが、ミシェルも途中まで一緒の為<紅椿>の腰の後ろの装甲に2本のワイヤーが追加されていた。これに掴まって2人は牽引されるのである。

少しでも重量を減らす為ミシェルの武装は展開されていない。彼が戦闘態勢に移るのは切り離されてからだ。


「(・・・・・・すまない。よりにもよってこんな時に動揺させるような事を言ってしまって)」

「(いや、ミシェルが謝る必要はないんだ。教えてくれてありがとうな)」


今俺はちゃんと箒や千冬姉を誤魔化せてるか?顔は見えなくてもミシェルは本当に申し訳なさそうに項垂れている。

よりにもよってこんな事教えてもらいたくなかった、とも言いたい。でもそもそも教えて欲しいと頼んだのは一夏からだし、今は作戦に集中しなければ。


「束さん、一体アンタは何を考えてるんだ・・・・・・」

「何か言ったか一夏?」

「・・・・・・何でもない、さ」






一夏の動揺をよそに作戦は始まる。

<銀の福音>をハイパーセンサーで捉えてすぐにミシェルの<ラファール・レクイエム>がワイヤーごと<紅椿>から切り離される。1機分の重しを減らした第4世代機は未だ一夏を引っ張ったまま猛然と加速。

見えた。資料にあった通り、スラスターと兵装を組み合わせた複合ユニットを頭部に備えた特徴的な形状の白銀色の機体。あれが目標。

<銀の福音>は急接近する一夏と箒の存在に気付き、一旦前後反転したかと思うとそのままの体勢で2人を振り切ろうと急上昇・急加速を試みる。


「箒、このまま押し切る!」

『頭を押さえる。射撃開始』


ミシェルからの通信の直後、超音速で上昇していた暴走機の鼻先で爆発の花が連続して咲いた。<レインストーム>の空中炸裂弾だ。暴走機の動きが鈍る。

一夏は箒の背を蹴り、同時に瞬時加速を発動。元々の<紅椿>の推進力に加え負けず劣らず高出力な<白式>のブースターが吠え、瞬きする間に<銀の福音>との距離が縮む。


「うおおおおおおおおおおおっ!!!」


裂帛の気合と共に放たれた一振りは――――――あと1cm、いや僅か5mmの差で届かない。

それだけ暴走機の機動が誰の手にも操られていないにもかかわらず髪が勝っていたのか、今まで身を置いた事のない超音速の世界に呑まれたか。それとも直前のミシェルとの会話に心乱され微かに刃が鈍ったか、どれが原因かは分からない。どっちにしろ貴重なチャンスを失ってしまった事に変わりは無く、一夏は自分の未熟を罵る。

その代償をすぐさま払うかの如く、<銀の福音>の特殊兵装<シルバー・ベル>が起動・展開。誰が目標かなど考えるまでもない。


「一夏っ!」


そこへ箒のカバーが入る。<紅椿>の刀剣型兵装の1つ<空裂>が振るわれ、そこから放出された光波が<銀の福音>の攻撃を中断させる。ミシェルの対空砲火も加わり、暴走機は回避に専念する事を選んだ。


「すまん箒、ミシェル!」

「礼は己の失敗を挽回してからだ!」

『動きを止めるな、食らいつき続けろ・・・・・・!』


更に大きな、今度は単発の爆発が花開く。こちらは<ネイルシューター>による大口径砲弾の炸裂だ。足が止まった所へ<零落白夜>で再度斬りかかる。が、駄目。


「(機械だからか?反応が速い!)」

「La―――――――!」


<銀の福音>が歌った。少なくとも一夏にはそう聞こえるような音と共に、<シルバー・ベル>が発動される。

それは<ラファール・レクイエム>の全兵装一斉射撃とは趣の違う弾幕だった。向こうが数個の砲門からの継続連射なら、<銀の福音>のそれは数『十』の砲門の一斉発射。

おまけにエネルギー兵器でありながら誘導機能付きときたもので、回避しようとした一夏と箒の後に食らいついてきた。

逃げに移る2人を逃すまいと迎撃から追撃に転じる<銀の福音>・・・・・・だがそれはもう1人が許さない。


『これならどうだ?』


暴走機の戦術システムがロックオン警報を鳴らした。自動的に自らを捉えている元凶の現在地を探り出し、拡大する。

自分達より数百m下の高度に浮いているフルスキン型のISを発見。その右手には腕部装着型の長大なミサイルポッドが取り付けられ、こちらに向けられていた。中身は携行型地対空ミサイルを対IS用に転用した<ISスティンガー>であると判断を下す。

シュパパパパッ!と連続して直径7cm、全長1mオーバーの対空ミサイルが発射された。一気にマッハ2オーバーに達した鉄の杭が<銀の福音>へと牙を剥く。

高性能爆薬の炸裂による煙と爆炎に暴走機の姿が包みこまれた。爆発音が青空に響き渡る。


「やったか!?」

『箒、それはフラグだ・・・・・・』

「La――――」


まだまだ撃破には至らなかったようだ。まあミサイル自体が信頼性と命中率は高いものの肝心かなめの威力が低いので、あの程度の数では従来よりもよりハードな運用に耐えうるだけの軍用ISのシールドバリアーを貫いて一度に行動不能に陥らせるには威力不足だったのだろう。

ミシェルは全弾撃ち尽くした手持ちのミサイルポッドを無造作に眼下の海へ投棄する。今は一々量子化して拡張領域に戻す手間も惜しい。

その時ミシェルはある物体の存在に気付く。その正体に悟るまで数秒費やし、認識するのと同時気付かなきゃよかった、とも考えてしまった。


『Merde(クソッタレ)!!』

「ど、どうしたんだよミシェル?」

『あれは・・・・・・船か?見た目の割に船足が早い・・・・・・おそらく密漁船の類だ。封鎖してる教師達は何をしていたんだ!!』

「構うなミシェル、巻き込まれても自業自得だ、放っておいて暴走機に集中――――――」


気がつくと一夏は箒の言葉に被せて言い放ってしまっていた。


「こっちが押さえてる間に船をこの海域から離れる様何とか誘導してくれ!頼む!」

「一夏!奴らは犯罪者だぞ!」

「ああ、かもな」


一夏の言葉に従い離れていくミシェルと密漁船の反応を見送りながら、呆れ混じりの苦笑を一夏は浮かべる。その呆れは自分に対し向けられたもの。

箒の気持ちも理解出来る。土方さんがこれを知ったら「甘い」とでも言いそうだ。千冬姉ならどうだろう?だが一夏は後悔はしていない。

これがもし、自分や箒やミシェルに危害を加えようとしていたのなら一夏だって容赦はしない。でも彼らはそんなつもりでやってきた訳じゃないんだと思う。


「だからって、死なせて良い理由にはならないさ!」


その決断に箒の動きが止まる。彼女の動揺を見逃してやるほど<銀の福音>は甘くもなく、そもそも感情という人間的な判断基準も持ち合わせていない。

ただ自分を阻む『敵』を殲滅するのみ。複数の砲口が発射態勢に移行。


「・・・・・・・っ!!」


光弾が雨となって一夏と箒に降り注いだ。回避、回避、着弾、爆発。エネルギー量が一気に2桁吹っ飛ぶ。

特に箒の<紅椿>の方がエネルギーの消費が激しいのを一夏はデータリンク経由で見て取れた。あれだけの高性能と機動力を考えれば合点がいく。<紅椿>の燃費は<白式>以上の大飯食らいに違いない。予想以上に速過ぎる。


「逃げろ箒!このままじゃエネルギーが持たない!あんだけの数、纏めて食らったら危険だ!」

「何を言う、私はまだやれ――――」


<紅椿>の肩部に着弾。エネルギー量がレッドゾーンを示し、その衝撃で飛んでいった刀が光の粒子となって消えたのを目の当たりにしてより事態が切迫している事を悟る。兵装を維持しておく事すら限界に達してきているという証拠だからだ。このままの<紅椿>ではまともな防御機構も働いてくれるかどうか怪しくなってくる。


「頼む箒、俺が持ち堪えている間に退いてくれ!箒に何かあったら、俺はっ・・・・・・!」

「――――分かった一夏、すまない」


箒にとっては苦渋かつ無念の決断ではあるが、一夏に泣きそうな顔をされてまで懇願されては従うしかない。高度を下げ、作戦空域外を目指す。

その判断も遅かったと言いたげに、<銀の福音>は離脱の途につこうとしていた箒の背中を追いかける。そうはさせまいと一夏も瞬時加速で後を追うが、速度を維持したまま最初同様機体を前後反転させた<銀の福音>は、バック飛行を行いながら光弾をばら撒く。斬り払って直撃は免れるが足が止まり、距離は縮まらない。


「避けろ、箒ィィィィィ!!」

「しまった!」


箒が気付いた時にはもう遅く、彼女に向き直った<銀の福音>の頭部に集束したエネルギーが大量の光弾を解き放った。

連射した機関銃みたいな爆発音が連続した。幾重にも重なった衝撃波が青空を震わせ、遥か下の海面にまで波紋を生じさせる。一夏の顔色が蒼褪める。


「・・・・・・ギリギリで間に合ったか」

「ミシェル!」


潮風に掻き消されていく煙のベールの中から現れたのは、箒ではなくミシェルであった。密漁船を追いやってからまた戻ってきた後、彼もまた瞬時加速を発動させて<銀の福音>と箒の間に割り込んだのだ。

その代償は大きく、直撃を避ける為実体盾として用いた<シールド・オブ・アイギス>の表面が両方とも大きく亀裂が生じている。AICはエネルギー兵器に効果が薄いので直接受けとめるしかなかったのだ。もうAICは使えまい。それでも<ラファール・レクイエム>のシールドエネルギーはハッキリと目減りしてしまっている。


「こちら以上の弾幕、しかもエネルギー兵器だからAICも通用しない、か・・・・・・もしかするとこちらの天敵かもしれないな」


<白式>や<紅椿>のように機動力で回避し続けるなんて真似など、この機体には到底無理な相談だ。最強の盾も使い物にならない以上ミシェルのアドバンテージは格段に低い。

残るこちらの切り札は一夏の<零落白夜>だが・・・・・・


「・・・・・・あとどれだけやれそうだ?」

「何回も外したのと、さっき瞬時加速を使ったせいでエネルギーがかなりヤバい事になってる」

「・・・・・・なら俺達も退散するか?殿は受け持とう」

「冗談、仲間にそんな事させてたまるかって。箒だってまだちゃんと逃げ切れたか分からないんだしさ。人手は多い方が良いだろ?」


男2人、顔を見交わす。

これ以上言葉にしなくても2人の結論は決まりきっていた。両者の顔に浮かぶのはある種の悲壮な覚悟を決めた者にしか浮かべる事の出来ないであろうシニカルな笑み。

分が悪い賭けになるだろうが―――――生憎、そういうのも嫌いじゃない。友人を、自分の女を逃がせるだけの時間を稼ぐ為とでも考えれば、幾らでも賭けに出てやろう。




手負いの、それでも戦意の衰えない男達に機械仕掛けの天使が牙を剥く。















箒は涙が溢れるのを抑え込む事が出来なかった。滴は風圧に飛ばされ青空と大海に消えていく。

ごめんなさい、ごめんなさい一夏。何てザマだ、ようやく手にした自分の機体に浮かれて、結局一夏に重荷を押しつけて、自分は無様にこうして逃げ帰る事しか出来ないでいる。

一夏は、一夏は無事なのか。ミシェルにも庇われてしまった。彼も大丈夫なのか。2人共無事に、生きて帰って来て――――――

轟く爆発音。自分が先程間近で受けた物よりも一層盛大で、一層恐ろしくて。

居ても立ってもいられず、足を止めて一夏とミシェルに通信を繋ぐ。







―――――聞こえてくるのは雑音のみ。悲痛な声で名を呼び掛けても、返事は返ってこなかった。













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何とか中国から帰還しました。ええ案の定向こうで腹が痛くなりましたとも。
でも原因はどちらかというと向こうのホテルのレストランで毎日食べさせられた韓国料理っぽい気が。食べ物の半分以上が紅くて紅くなくても激辛ってどういうこっちゃ!



[27133] 3-4:許されざる者/理由
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/09/01 23:59
旅館の1室に、2人の男と3人の少女が集まっている。

2人の男は一夏とミシェル。敷かれた布団に並んで横たわり、全身に包帯を巻かれた上顔には酸素マスク、医療機器にに繋がれた彼らの意識は数時間前から戻らない。

3人の少女は、箒と鈴とシャルロット。学生服姿の少女達は眠る2人のすぐ傍らで、彼らが運び込まれた当初からずっとここに居る。

少女達の表情は一様に暗く、その中でも特に箒の憔悴した顔つきは死を目前にした病人を連想させるほど生気を感じさせない。




胸中で膨れ上がった不安感に駆られ、千冬からの通信も無視して戦闘が行われていた空域に戻った箒が目にしたのは、飛び去る<銀の福音>の後ろ姿と今にも海中へ沈みゆこうとしていた一夏とミシェルだった。

絶望と混乱に張り裂けそうな自分の精神を必死に押さえ込みながら、エネルギー切れ寸前の<紅椿>で余計なダメージを2人に与えないように、尚且つ最大限の速さで千冬達教師陣が待機していた海岸へ辿り着いたのが3時間以上前の事。

<白式>と<ラファール・レクイエム>はダメージレベルがC―――下手に再起動すればエネルギーバイパスが異常を起しかねない程の損傷と認定され、装着者の一夏とミシェルに至っては、最早言わずもがな。

特に酷いのは一夏の傷だ。防御機能を貫くほどの熱波により主にISの装甲に守られていない部分に火傷を負い、皮膚・筋肉のみならず脳や内臓まで損傷している可能性があるという。

ミシェルの方は全身装甲という特殊なISの構造から熱波が装甲に阻まれたお陰で火傷は負わずに済んだものの、連続した着弾による衝撃までは防ぎきれず伝わった強烈な振動によって全身にダメージが、特に頭部への衝撃で脳震盪を起こしていると診断された。こちらも予断は許されないでいる。

2人が死にそうになっているにもかかわらず、結局<銀の福音>は悠々逃げおおせたまま。




それは何故か?




「・・・・・・私のせいだ」


一夏とミシェルが生物学的には生きている事を示す心臓の鼓動、それを感知している心電図の電子音のみしか響いていなかった室内に、箒の力無い声が加わる。

箒の左右に陣取り、寄り添うようにして膝を抱えていた鈴とシャルロットもその声に顔を上げる。


「私が、不甲斐無かったから。私が自分の機体に浮かれて、その力に溺れてしまったから・・・・・・」


ふざけんじゃないわよ、と鈴は言ってやりたかった。彼女の胸倉を掴みあげて、その通りだと、アンタのせいだと喚き散らしてやりたかった。

だけどそうしなかった。出来なかった。もっと箒との関係がそこまで深くなかったら、まだ一夏を巡る恋のライバルで、彼を共有する間柄になっていない状態だったなら、形振り構わず箒に言ってやっていたかもしれない。

既に箒共々一夏と深い仲になってしまっていたからこそ、箒に負けず劣らず一夏が傷つき目覚めない事に対する心のダメージも比例して大きく。鈴の精神を傷つけている。

故に鈴の口から漏れたのは叱責ではなく、箒を庇う言葉だった。責めたい気持ちはあれど、単に箒の責任だけではない思いもまた持ち合わせていたのだ。


「箒の気持ちは、私だって分かるわよ。私だって最初に専用機を与えてもらった時は散々抜かれたりしたもの」

「だが私があのような時にも関わらず浮かれてしまっていたからこそ、一夏はこうなってしまったんだ!私を逃がす為に一夏も、ミシェルまでボロボロになって目覚めない!私が足を引っ張ったからこんな事に・・・・・・」

「箒、そこまで自分ばっかり責めちゃダメだよ」


シャルロットの声が加わる。3人は互いの体温を求めあう様に、互いの心の傷を舐め合おうとするかのように身を寄せ合いながら会話を続ける。


「箒が出撃した事が悪いっていうんなら、それを止めなかった僕達や先生達にも責任があると僕は思う。慣れない機体で箒の調子もちゃんと考慮しないまま、作戦を組んで出撃させたのは皆なんだから」

「違う、そんな事!」

「でもまあこんな文句も結局は結果論でしかないけどね。でも、2人の事で気に病んでるんだったら、少なくとも箒を逃がす為に2人がこうなった事に関しては箒の責任じゃないよ」

「何故そう言える!?2人は、私を庇って逃がす為にこうして死の淵を彷徨ってしまっているんだぞ!それが私の責任でなくて、何だと言うんだ!」


激情がら生じた涙を振り撒きながら箒は勢い良く立ち上がった。結構な音量の叫びが間近でしても一夏とミシェルはピクリとも反応が無く、シャルロットもまた目覚めぬ伴侶の顔に視線を固定したままだ。


「殿とか、そういう味方の撤退を援護する為に留まって敵を足止めする役っていうのは分かりきってるけどとっても危険なモノなんだよ。1人取り残されて敵に立ち向かわなきゃならないんだから当たり前だよね。
でもミシェルも一夏も箒を逃がす為にその場に残って<銀の福音>に立ち向かう事を選んだ。相手がどれだけ強大な敵なのかはその時も2人もよく理解していた筈だよ。それでも2人はその選択を選んだ。他ならぬ箒の為にね」

「・・・・・・」

「それだけさ、一夏も、ミシェルだって箒の事を大切に思ってくれてたって証拠なんじゃないかな。だって本当はどうでもいいなんて考えてる人を逃がす為に、躊躇い無く殿を受け持とうなんて考え普通は出来ないと思うよ?」

「あはは、どーかしらね。一夏っていつもはトーヘンボクにも程がある癖して呆れるぐらいお節介焼きだから、知らない奴でもそうやって助けに入りそうよ」

「もう、茶化さないでよ鈴」

「ゴメンゴメン。でも一理あるわね」


苦笑を浮かべながら、鈴も立ち上がる。


「ねえ箒。一夏も、ミシェルもアンタを逃がす為に留まったのは2人がその選択をしたからよ。そうやって逃げ延びれたアンタがそんな事を言ってちゃ、それは2人の選択を穢すって事なのよ。それでもアンタはそうやって自分を責めて、悲劇のヒロイン気取るわけ?」

「そんなつもりは!」

「それじゃあ箒にこれ以上責任は無いって事で、この話はもう終わりにしましょ・・・・・・・・・・・・こんな話続けてたって2人は目覚めそうにないんだし、ね」


そう言われては箒も黙り込むしかない。だが鈴とシャルロットのお陰で心身に圧し掛かっていた重荷が和らいでいたのは否定できない事実だった。

ありがとう、と小さく呟く。感謝の言葉は傍らの2人の耳にしっかり届き、儚げながらも薄い笑みを鈴とシャルロットは確かに浮かべる。

その時勢い良く背後の襖が開け放たれ、3人揃って顔をそちらに向けるとラウラが決然と仁王立ちしていた。その手には携帯端末。彼女の後ろにはセシリアの姿もある。


「見つけたぞ。ここから30km離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていたがどうも光学迷彩は持っていないようだ。衛星による目視で発見したぞ」

「流石だね。ありがとうラウラ。それじゃあ皆行こうか」

「ま、待て、何処に行こうと言うのだ?」


会話の内容についていけない箒に対し、他の専用機持ちはキョトンとした顔になった。ごくごく当たり前のように今後の予定を告げたのはシャルロットである。


「何って、<銀の福音>が見つかったから叩き潰しに行くんだけど」


いともあっさりそう言ってのけるシャルロット。

彼女が浮かべている表情は、一見箒も見慣れた向日葵を思い浮かばせる温かくも眩しい笑顔だ。だがその時その場でシャルロットのその顔を見た少女達は、それは笑顔には全く思えなかった。

だって、どうだろう?あれが笑顔であるならば、あんな目を浮かべる筈ないじゃないか。


「『僕』の大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な旦那様をこんな目にあわせたデク人形なんかを、『私』が許すわけないに決まってるじゃない」




そう告げるシャルロットの瞳が宿す光は、凍りついた心を溶かしてくれる太陽の様な暖かさなど微塵持ってはおらず。

例えるならばそれは、氷の刃の如く冷えきり、鋭く、そしてそれ以上に禍々しく渦巻く憎悪を孕んだ、背筋を凍らせる狂気の光。




その瞬間、よく知る友人たる少女が別の何かへと変貌を遂げていた、としか形容のしようが無い。

少女達はその思いを数十分後、標的たる<銀の福音>を肉眼で目視できる距離でもって包囲した段になって再度抱く事になる











海上で捕捉した<銀の福音>を取り囲む5人の少女達。

ラウラの<シュヴァツェア・レーゲン>には砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』、セシリアの<ブルー・ティアーズ>には強襲用高軌道パッケージ『ストライク・ガンナー』、鈴の<甲龍>には機能増幅パッケージ『崩山』と、それぞれの機体には今回の臨海学校に於いて試験予定だった特殊パッケージが装備されている。

シャルロットの<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>も例外ではなく、実体シールドとエネルギーシールドを追加搭載する専用防御用パッケージ『ガーデン・カーテン』を装備して参戦していた。

箒もまた、膨大なエネルギー消費の原因たる展開装甲の一部を封印した<紅椿>を身に纏っている。

ラウラが先制の砲撃を行い、シャルロットが彼女の盾役となり、セシリアが牽制して箒と鈴が追撃するという作戦。

海中に潜んでいた箒と鈴の連携攻撃を食らった<銀の福音>は、機能停止にまでは追い込まれなかったものの白銀の機体のあちこちに傷を拵えていた。

そうして一旦連携攻撃が一段落し、空中で5人と1機が空中で睨み合う格好となった時。

不意に聞こえ出したのは、押し殺したような低い笑い声。


「ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

「シャルロット?」


怪訝そうにラウラが声をかけても笑い声は止まる気配が見られない。

それはあまりに平坦で、あまりにも空虚で、あまりにも感情が感じられないからこそ、それを耳にした箒達の背鈴を震わせる。


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」


何時までも起伏の感じられない笑い声を繰り返すシャルロットの表情は笑ってなどいなかった。紫色の瞳はブラックホール並みに底無しの冥(くら)さを湛え、幾ら表情筋が顔の皮膚を笑みを形作っていても、傍から見れば能面の方がよっぽど愛嬌を感じさせるほどに感情というものが含まれていなかった。

そして。

唐突に仮面が引き裂かれ、口の箸が一気に吊り上がる。

自らに手傷を負わせた憎き敵を飽くなき執念で何処までも何処までも追いかけ、ようやく追い詰めた野生の狼そっくりの凶暴な、血に飢えた笑み。

・・・・・・箒達は悟る。自分達の中で最も穏やかな気性で惜しみない優しさを周囲に振り撒いてきた少女が、実際には最も苛烈な暴力性を秘めていたという現実を。




「Allez au diable,pauvre con!」


――――――くたばれ、クソ野郎。




その一言に今までの笑い声が嘘に思えるほどの強烈な感情を込めて吐き捨てて、シャルロットは“シールドを装備した両腕”に1丁ずつショットガンを構え、夫と友人を殺そうとした自動人形に襲いかかる。


















意識を取り戻して最初に目に入ったのは、何処までも広がる夕焼けよりも濃い紅蓮色の空。

何処か屋外の地べたに直接寝っ転がっているんだと理解出来たのは、背中から不規則にザラザラゴツゴツした地面と小石の感触が伝わってきたからだった。

すぐに立ち上が――――ろうとはしないで、まずゆっくりと首を回して視線を左右に巡らせる。両手を肩の高さまで伸ばし、掌で地面を撫でて指先からの感覚がしっかりと健在であることを確認してから、ようやく俺は身体を起こした。

自分の身体を見下ろしてみると、今の自分は学園の制服姿。何時の間に着替えた俺。


「(・・・・・・何処だ此処は)」


俺が居たのはまあ、有体にいえば『戦場』と呼ぶのが最も相応しいだろう。周辺は瓦礫の山。壊れ具合から砲弾かミサイルの類で吹き飛ばされたものと分かる、

何処からともなく砲声や爆発音が遠くで鳴っているし、地平線の向こうに立ち上るのは炎と黒煙。空が紅いのも多分そのせいだ。

だけど、思考能力が覚醒していくにつれその『戦場』に違和感を覚え出した俺は、不審げに鼻をヒクつかせてみた。


「(・・・・・・“綺麗過ぎる”、な)」


市街地を模した演習場での実弾演習を経験した事がある俺は、砲弾やミサイルによって建物がどんな風に破壊されるものなのかを知っている。

人を殺した事がある俺は、命を奪われたばかりの死体から流れ出る鉄錆の臭いがどれだけ鮮烈かを知っている。

けれど、本物の悲惨な戦場そのものに立った事はまだない。爆発した高性能爆薬の残り香と臓物の臭いがブレンドされた死臭のカクテルを直接嗅いだ事も1度もない。知らない癖に何をぬかしてるんだと自分でも思うが、これだけ荒れ果てた戦場ならそんな空気に満ちていてしかるべきなんじゃないだろうか。

だから、俺は今自分が居る戦場に違和感を感じていた。それぞれ見て感じた光景や感覚を組み合わせただけの、何処までもリアルだけどやっぱり作り物臭さが拭えない合成映像を見ているような気分になってくる。


「(・・・・・・でも本当、ここは一体何処なんだ?)」

「――――貴方は何故、戦いを求める?」


自分1人しかこの場に居ないと思い込んでいたから、いきなり後ろから声をかけられた途端勢い良く振り向いてしまった。

女性――――だろう。多分。声は女性の物だが顔や彼女(?)の遥か後方から煌々照りつける炎が浮かび上がらせるシルエットは、頭全体を覆う中世風の兜や全身に施されたプレートアーマーに阻まれて確認する事が出来ない。

何より特徴的なのは彼女の肩幅程もある巨大な盾の存在。盾の高さも彼女の肩ぐらいまであり、その上端に右手を乗せてその場に佇んでいる。

もう1度問いかけられる同じ質問。

ふと、他にも誰かの声がした気がした。遠くの爆発音に掻き消されてどういう内容なのかは分からない。


「貴方は何故、戦いを求める?」

「・・・・・・俺自身という存在が本当に生きているのだという実感をより強く感じる為」


俺は1度死んだ人間だ。日に日に身体が動かなくなり、大量の天敵や医療機器に繋がれ、最早自殺すら出来ないで早く『死』という救いをベッドの上で待つ事しか出来なかった哀れな男。仮に地獄があるならば、あれこそが俺にとっての最悪の地獄だと断言できる。

だからこそ『ミシェル・デュノア』となってから与えられ、感じてきた全ての感覚が愛おしい。どんな痛みもどんな辛さもそれをしっかりと感じれる事こそ生きている証。

偶に本当の俺は実はベッドの上で死にかけていて、今の『ミシェル・デュノア』の人生は単なる妄想なんじゃないかと感じて悩んだりした事も多々あるが、今はあまり関係ない話だろう。

ともかく実際の殺し合いも経験して死にかけてから、自分が生きている実感をもっともっと求めるようになった。銃という人殺しの道具を愛好するのもそんな感じだ。そういう点を踏まえると、ISの存在もまたその一環な気もしないでもない。

撃って撃たれて斬って斬られて、互いのすぐ傍を防御機能さえなければ1発で人間をグシャグシャのミンチに変えてしまう砲弾が通り過ぎる瞬間に感じるあの恐怖、あのスリル―――――堪らない。

また声が聞こえる。さっきより、ほんの少しボリュームが大きくなっている。


「本当に、それだけなのか?」


そんな感じで突っ込まれてしまうと、他にも言った方が良いんだろうけど中々言葉が思いつかなくてその、何だ、困る。

また声が聞こえる。更にハッキリと。あれは・・・・・・・・・・・俺を呼んでいるのだろうか?

今頃になってそれが誰の声なのかようやく気付いた。それは怨嗟の声でもあり、悲痛の声でもあった。

―――――それはシャルロットの声だった。




『よくも、『私』から彼を奪おうとしたな』

『よくも、彼を殺そうとしたな』

『絶対に許さない。叩き潰してやる。擂り潰してやる。完膚なきまでに粉砕してやる』

『だからミシェル、早く目覚めて待っていて。君を傷つけ、苦しめたこのデク人形のコアを抉り出して戻って来て見せるから』

『・・・・・・お願いだから、目覚めててよ、ミシェル。『私』は、ミシェルが居てくれないとダメなんだよぉ』




「・・・・・・・・・・・・・・・」


言い訳するつもりはないが、すぐにそれがシャルロットの声だと理解できなかったのも無理は無い。

それだけ俺に伝わってくるシャルロットの声は負の感情に満ちた、凄まじい怒りと憎悪を孕んでいた。こんなシャルロットの声も初めて聞くし、こんな声をシャルロットも出せる事も知らなかった俺は。






――――そんな負の感情まみれの彼女の声ですら、愛おしく感じた。






シャルロットは聖女もかくやなぐらい優しい。だけど決して聖女なんかじゃない、れっきとしたただの人間だとも、俺は理解している。

だから焼餅も焼くし怒ったりもするし失敗もする。そんな部分もひっくるめて俺はシャルロットが大好きなのであり、あんな風な呪いの言葉を叫んでいるのを初めて聞かされても、それは俺が知らなかったシャルロットの新たな一面に過ぎないのであって、それすらも俺にとっては十分に許容の範囲内でしかない。

それにだ。シャルロットは俺が<銀の福音>にやられた事にこれ以上無い位怒ってくれているからこそあんな言葉を言っているんだ。それぐらい彼女もまた俺を愛してくれてるって事なんだからそれを喜びこそすれ、忌避する気は更々無い。




多分シャルロットは<銀の福音>と相対し、戦闘状態にあるんだろう。理由や原理は分からないが、声と一緒に何となくそんな感覚も伝わってくる。

シャルロットだけじゃない、箒や鈴達も恐らく一緒な気がした。理由も大体見当がつく。


「・・・・・・戦う理由なら他にもあるぞ」


盾の女性に向き直る。見栄を張る気もカッコつけるつもりもなく、ごく自然に俺は自分の答えを口にする事が出来た。


「女の為、友の為・・・・・・こればかりは例え退けと言われようが決して退けない理由だし、退くつもりも全く無い」


此処が何処なのかもどうやって連れてこられたのかももうどうだっていい。早くシャルロット達の元に向かわなければならない。漠然とだが強く、俺はそう感じた。

そう言い放つと少女は―――――笑ったんだろうか。口元も影になって良く分からない。


「ならば行きましょう。貴方の御仲間と共に」


波の音が聞こえた、と思った次の瞬間には世界が一変していた。戦場から白い砂浜へ。驚いて見回してみると、向こうも驚きの表情を浮かべた一夏と目が合った。一夏も制服姿だ。

・・・・・・ところで、すぐ後ろに居る白い幼女はどちら様だろうか。


「ミシェル?お前も何で、こんな所に?」

「それはこっちのセリフだし理由もよく分からんが・・・・・・とにかく一緒にさっさと行くとしよう」

「行くって何処にだよ」

「・・・・・・聞こえないか?」


俺がそう問いかけてみると、不意に頭痛か眩暈に襲われたみたいに一夏が頭に手を当てて俯く。

しばらくして顔を上げた一夏は――――理解と決心の光を瞳に宿らせていた。


「――――ああ、そうだな。行かないと、な」




また世界が形を変えて、白い光に覆われていく―――――――――









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少し短めで内容が荒い分早めに投稿。
いっそシャルにL5でも発病させてやろうかと思いましたがあれだけの病みっぷりを文章にする技量が無いので断念しました。無念。
2巻でコアネットワーク使った異次元対話出来てたんだから似非固有結界を繋ぐのも出来るんじゃね?って感じです。



再度読者の皆様にアンケート。
3巻終了後は普通に4巻単独ルートか、それとも7巻の内容を織り交ぜた複合ルートに行くか、どちらがお望みですか?



[27133] 3-5:バースデイ
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:caf7395d
Date: 2011/09/10 00:25
それはあまりにも唐突で、あまりにも不可解で、あまりにも理不尽な展開。




連携と連続攻撃で<銀の福音>を撃破した――――と思った矢先に起きたのは、<銀の福音>の第2形態移行。それはつまり、暴走機が新たに強大な力を手に入れたという証。

破壊された筈の特殊兵装、<シルバー・ベル>の断面から巨大な光翼が姿を現す。明らかに本来の燃費など度外視された高出力のエネルギーで構築されたその翼そのものが強力な兵器である。

それを証明するかの如く、異変の意味を理解し再度戦闘態勢を取ろうとした次の瞬間にはラウラが撃破され。

友人が撃破され、それ以前に夫を意識不明の重体に追いやられていた時点でこれ以上無く頭に血が上っていた・・・・・・のを通り越して絶対零度の殺意を漲らせていたシャルロットは、一片も躊躇わず2丁ショットガンを構えて迎撃に移る。

ショットガン、それも日頃使っていたセミオートタイプではなく、この時に備えてミシェルが愛用している物と同じフルオートショットガン<ドラゴンブレス>を2丁分、マガジンに残っていた分を全弾纏めて零距離射撃。

一瞬で叩き込まれた数百発の弾丸。瞬時にシールドエネルギーを食らいつくすであろう散弾の雨はしかし、<銀の福音>を繭の如く包み込んだ光の翼に阻まれ、1発たりとも届かない。

いや、それだけでは収まらなかった。光翼がまた広がったかと思うと、そこからお返しとばかりに光弾の雨が放たれたのだ。


「La―――――!!」

「がっ、ぎっ・・・・・・!」


自慢の盾も近過ぎて間に合わない。全身を叩く爆発と衝撃。持ったまま破壊された両手のショットガンが弾切れのお陰で暴発しなかっただけまだマシ、とは全く言えまい。


「シャルロット!」


全身を煙に包まれながら空中機動の制御も出来ず、重力に退かれて落下していくシャルロットの耳に届いた声の主は誰だったのか。

最早声を判別する努力すらも放棄しながらも、シャルロットの視線は<銀の福音>に固定されたままだった。世界よりも大事な愛する者を自分から奪おうとした存在に。

掠れゆくのは視界か意識か両方か。


「(ミシェル―――――)」


口には出さず、心の中だけで愛しい者の名を呟く。

刹那、意識共々消えかかっていたシャルロットの瞳が光を取り戻す。<銀の福音>を見つけ、ひたすら追い立て続ける最中ずっと宿していた、凶暴にギラつく獣じみた眼光を。


「(許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!!!)」


意識を繋ぎとめるのは復讐心という名の執念。身体中を軋むような苦痛が包んでいるが、それすらも糧にしてシャルロットは足掻くのを止めない。

それこそ手負いの獣そっくりの雄叫びを腹の底から絞り出しながら、右手を振り上げ<銀の福音>に向ける。

<銀の福音>の方に反応は見受けられない。シールドエネルギーをほぼ失い、墜落していくだけのシャルロットにもう興味は無いという事か。その視線は既に箒達へ移っている。


「油断大敵、だよ」


痛みでも隠し切れない憎悪と不敵さを孕んだ呟きと共に“右腕のシールド”の装甲がパージ。

姿を現したのは100口径電磁加速型徹甲爆裂射突型ブレード<ウルティマラティオ>。

幾らシャルロットの機体が文字通りのカスタム機とはいえ原形である<ラファール・リヴァイヴ>とのパーツの互換性は勿論存在し、それは世代差から一部のパーツに限定されても第3世代機でもある<レクイエム>でも言える事。故に<リヴァイヴ・カスタムⅡ>もまたこの兵装を装備できる。そもそもこれはミシェルの機体から借りてきた分だ。




そして、この兵装には裏技がある。




本来パイルバンカーという兵器は殴りつけると同時、大型の鉄杭を一気に加速・射出させて装甲を打ち抜くと接近戦用兵装である。その原理と特性、ISでも用いられている剣や槍といった武具よりも短い射程からむしろ格闘戦用兵装、と呼称した方が近いかもしれない。

複数回使用出来る様鉄杭はピストンのように前後はするがそのまま飛び出したりはしない仕組みで、その鉄杭を射出する為の動力源はもっぱら炸薬がポピュラーだ。射程が極端に短い大砲、とも言える。

接近戦の切り札――――だが、<ウルティマラティオ>はそんなイメージを逆手に取った、ある機能が加えられていた。

敵機に叩き込む使い捨ての鉄杭をレールガンの要領で放つこの兵装だからこその真の切り札。それをシャルロットは切る。決して許せない存在を討つ為に。

砲身内エネルギーチャージ完了。安全装置解除。信管作動確認――――ロック機構解放。

激発。

電磁力により一瞬で音速の数倍まで加速された鉄杭がソニックブームすら引き起こして射出口から飛び出す。その射程はせいぜい数十cmにも過ぎず、シャルロットの身体はとっくに何mも下に落下しているのだからどんなに手を伸ばしたって届く訳が無い。




ただし。

それは鉄杭全体が飛んでいかない様にする為の強制停止機構が働いていれば、の話だが。




全長数十cmに及ぶ鉄杭は文字通り砲弾と化した。前半分のみならず後ろ半分も一緒に射出口から放たれ、標的に触れた瞬間信管が作動し起爆。一点集中された衝撃波を解き放つ。

やった事は片腕1本で大砲をぶっ放したのと同然故、その反動に右腕が大きく跳ね上がるどころか右半身に急激な衝撃が加わったせいで錐もみしながら海面へ向け落下していく。

それでも、身体ごと視界が回転しようと視線は標的を捉え続ける。

手応えあり。<銀の福音>は爆薬の煙に包まれてどれだけの被害を与えられたのは確認できないが、直撃したのは間違いない。出鱈目な構えで無理矢理射出したものだから<灰色の鱗殻>以上の反動を受けとめた右腕が言う事を聞かなくなっているが・・・・・・敵の首1つと引き換えと考えれば安いものだ。

口元を捻くれた満足感に歪めながら、姿勢を回復させる気配もなく落下していくシャルロット。海面まで100mを切った辺りで落下先に滑り込んだ鈴の<甲龍>がようやくその身体を受け止める。鈴もまたあちこちの装甲を失いかなりのダメージを負っていた。


「今の何よあれ、あんな機能付いてるなんて全然聞いてないんだけど」

「言ってない・・・・・・からね」


鈴の腕の中でようやく、シャルロットは苦痛の呻きを吐き出した。右腕が特に酷く痛み以外にも骨の髄まで浸透した痺れのせいで、指先を動かすのも一苦労な状態だ。

煙が潮風に流されていく。<銀の福音>の姿が露わになる。

光翼の片側半分が消し飛び、頭部装甲も失った側の根元周辺に細かな罅が蜘蛛の巣状に走っている―――――“だがそれだけだった“。




次の瞬間。4人が見ている前で再生される光翼。

形を失おうともエネルギーが残っている限り何度でも生やし直せるのは容易い事なのだろう。

生き残りの少女達はその一部始終に目を見開き、そして歯を食いしばる。得にシャルロットに至っては彼女を支える鈴の耳に奥歯の軋む音が届く程強く、強く歯を噛み締め、顔を強張らせた

まだだ、まだ終わらない。終わってたまるか。コイツに、報いを受けさせるまでは。

<銀の福音>が動く。次の撃破対象に選ばれたのはセシリア。複数のスラスターを同時に用いた瞬時加速で瞬きする間に距離を詰められ、取り回しの悪いレーザーライフルでは対応し切れず光翼で袋叩きにされてしまった。

残るはシャルロットと鈴と箒。体力・エネルギー共に尤も余裕があるのは箒と<紅椿>だが、経験の差と燃費の悪さから長くは持つまい。

ゆっくりと顔面部分を覆うバイザーがシャルロットと鈴を捉える――――否応なく、次の標的が誰なのか教えられる。急加速、そして光翼を広げる<銀の福音>。


「鈴、僕が盾になるから下がって!」

「馬鹿言わないで、それだけの損傷にあんな出鱈目な攻撃受けたらもう持たないわよ!置いてける訳無いでしょうが!」


口論している間にチャージを終え、攻撃が放たれる。光弾が7に空が3という視界を埋め尽くす凶弾が、仲間を支え支えられているせいで動きの鈍い2人へとまっしぐらに降り注いだ。

そこへ割り込む影。箒だ。<紅椿>の展開装甲へと半ば無意識に残りのエネルギーを注ぎ込み弾雨を受け止めた。

今まで受けてきた光弾が握り拳大の投石ならこれは頭部大の岩の濁流だ。着弾する度連続する爆発。装甲とエネルギーシールド越しですら防ぎきれない衝撃が箒の全身を苛む。防御機構が防ぎきれなかった熱波が箒の髪を纏めるリボンを焦がし、艶やかな黒髪がバサリと広がった事にも箒は気付けない。

火砕流にでも呑まれたかのように叩きつけられる暴虐の苦痛―――――――一夏やミシェルも同じ体験をしたのだろうか?

遂に<紅椿>のエネルギーも果てた。丁度エネルギー切れと同時に攻撃の手が止んだのは幸運ではあったが、最早身を守る盾が存在しないも同然であるだけにエネルギー弾の餌食になる瞬間がほんの僅か先延ばしになったに過ぎない。




それでも。

少女達は間もなく自分達の命を刈りうるであろう白銀の死神を睨み続ける。

最早この先の運命が死なのだと確定していても、コイツだけには―例え相手が狂気や殺意を持ち合せた人間などではなく、狂ったプログラム通りに動く機械でしかないと理解していても―決して情けない姿を見せてなんかやるものかと、そう己を奮い立たせて。

だって、きっと、間違い無く。自分達が愛した男達も絶対に死神の鎌を目の前にしたって絶対に泣き喚いたりなんて醜態を晒す筈、しないだろうから。




だけど、やっぱり。彼女達は死にたくはなかったし、表面は取り繕ったって死ぬのがどうしても怖くて怖くて仕方なくて。

一夏、一夏ぁ、ミシェル、と。気がつくと名前を呼んでいた。

ほぼ無意識に漏らしたその声は蚊が鳴くよりも小さい音量で、それに応えたのは大きく広げられた光翼から3人まとめて押し潰す勢いで解き放たれたエネルギー弾の濁流―――――――
















「・・・・・・呼んだか?」


そして、名を呼ばれた少年の片割れ。















自分達目がけて放たれた死の砲撃から反射的に目を叛け、瞼をきつく閉じてしまっていた少女達は、その声を聞いてゆっくりと目を開く。

直前まで瞼の上からでも焼きつきそうなほど眩かった光の濁流は何処へと消え去っていて、代わりに視線の先に現れたのは黒と赤に彩られた全身装甲の巨体。その後ろで背負う様にして浮遊しているのは2枚1組の大の大人も簡単に隠れられるぐらい巨大な盾。

少女達はこの声を知っている。この機体を知っている。この男を知っている!


「みしぇる?」

「ああ、俺だ」


シャルロットの名を呼ぶ声に男は・・・・・・ミシェル・デュノアは簡潔に、しかしこれは現実だとしっかり理性が理解できるだけの音量で返事をした。

思惑通り愛しの夫の声が脳に沁み渡り、目の前に居る彼の機体の存在が現実そのものだと数秒かけて理解出来たシャルロットは、一気に顔をクシャクシャに歪め早くも瞳から雫を溢れさせながらからミシェルに抱きつこうとする。

しかしそれを許さない存在が1機。幾度目か分からぬ光翼の羽ばたきと共に砲火を放とうとする<銀の福音>。


「ミシェル、後ろ!」

「・・・・・・大丈夫だ。問題無い」


特大の死亡フラグっぽい言い方ではあったがしかし、ミシェルの言葉は正しかった。

砲撃が放たれるよりも速く、迅く。宵闇へと沈みかけた空を駆け抜けた白の閃光が<銀の福音>の片翼を斬り飛ばしたのだから。

集束されていたエネルギーが暴発し<銀の福音>自体が大きく弾き飛ばされていく。その間にミシェルの隣に降り立つ白い機体。

今度は箒と鈴が涙を浮かべる番だ。嬉しいやら驚いたやらでとんでもなく奇妙な泣き笑いの顔になっている事が分かっていても整える事が出来ない。

これは決して、今わの際の幻想なんかじゃない―――――こんな頼もしい背中が幻であってたまるものか。


「ギリギリだったけど、間に合って良かった」

「一夏っ・・・・・・!」

「いぢがぁ・・・・・・!」

「皆に心配かけてゴメンとか、こんな見ちゃしやがってとか、色々言いたい事はあるけど・・・・・・」

「・・・・・・まずは、だ」


箒と鈴に向けていた愛おしげな眼差しを掻き消し、煮えたぎる怒りと殺気を露わに一夏は右手に握る<雪片弐型>、その切っ先を自分達を睥睨している<銀の福音>へと突きつける。

ミシェルも一夏と背中合わせになりながら、左腕の<グリムリーパー>の連装砲身を<雪片弐型>と平行になる様に持ち上げた。


「「よお、クソッタレ」」


とりあえずまずは、今やムカついてムカついてしょうがなさすぎるあのコンチクショウにこれだけは言ってやりたい。






「「――――――人の女に、手ぇ出すな!!」」






それは逆襲の宣戦布告。

それを耳にした者達の反応は2種類に分かれた。彼らのすぐ後ろに固まった少女達は一斉にとっくに沈んだ夕陽以上に顔を赤くし、その反対側5人を見下ろす操り手に手から離れて暴れ狂う機械人形は。


「La――――――!!」


超高音の咆哮を上げた。身体中から生えた光翼から数えるのも馬鹿らしくなる量のエネルギー弾を生み出し掃射。


「盾役は俺に任せろ・・・・・・遠慮無く首を刈ってこい!!」

「皆を頼んだぜミシェル!」


一夏は垂直に高度を上げ、濁流を通り越してもはや津波同然の掃射を飛び越す形で<銀の福音>へと急接近する。

大して背後にシャルロット達を背負ったミシェルはその場から1歩も動かない。3人ともほぼエネルギー切れでまともに動けるかも怪しい以上、これだけの規模の弾幕を回避するなどまず不可能。それが分かっている少女達はこれだけの光弾をミシェル1人で防げるとは思えなくて身を強張らせてしまう。

それも無理は無い。が、彼女達は知らなかった・・・・・・防ぐ術が存在すると言う事を。そしてまだ気付いてもいなかった。つい先程もエネルギー弾の奔流をミシェルが相殺してみせていた事を。


「・・・・・・レクイエム」


ミシェルはそう呟いただけ。両肩近くを漂っていたアンロックユニットの2枚の大型の盾がミシェルの前へと移動。光の津波に立ち塞がる。その盾の表面部分には血の様に赤い紅玉が中心に追加されていて、押し寄せる壁の光を受けてギラリと妖しい輝きを返す。

津波と2枚の盾が正面から激突した。その規模からしてみれば、幾ら2mを超す盾が2枚並べどあまりにもちっぽけな筈だ。

にもかかわらず、横並びの2枚の盾は光の津波と拮抗している――――いや、言葉に語弊がある。何かがおかしい。ただ単にぶつかり合っているのではないらしい。


「エネルギー攻撃を、吸収してる?」


よくよく見てみれば、盾の表面には紅色の薄い光の膜らしきものが。本来<ラファール・レクイエム>の最もたる特徴であるAICを備えた攻防一体型複合防壁ビット<シールド・オブ・アイギス>は物理攻撃をほぼ無効化する代わりにエネルギー兵器に対しては防御できないという弱点を持っていた。

そう、『持っていた』。過去形だ。

これが第2形態移行を果たした<ラファール・レクイエム・ガーディアン>が手にした新たな力、<イージスの鏡>。物理攻撃のみならずエネルギー兵器に対する圧倒的な守りの力。

そして攻撃を防ぎきってからが<イージスの鏡>の本領発揮である。


「・・・・・・お返しだ」


盾の表面の紅色の膜。その厚みが増し、かと思えば宝玉部分へ一点に集中し紅く光る光球と化し・・・・・・解放される。

それは原子爆弾の起爆にも似ていた。一気に膨張した光球を中心とした高エネルギーの衝撃波が、紅い津波となって空中に広がった。光翼を機体の全身を包み<銀の福音>を守るが、咄嗟とはいえ万全の態勢で受け止めたにもかかわらず、遥か後方へと弾き飛ばされてしまう。

これが『鏡』たる所以。受け止めたエネルギーを吸収し、己の糧としてからエネルギー波として放出する。その規模と量は取り込んだエネルギー量が多ければ多い程、より強力となる。

そして<銀の福音>には備えられていない。つまり――――ミシェルが、<イージスの鏡>がこの場に存在する限り、もう後ろの少女達にはもう攻撃は届かない。

分析不能。計測不能。<銀の福音>のコアが理解できない未知の存在を前にして最大級の警鐘をかき鳴らす。


「よそ見してんじゃねぇ!!」


接近警報。<シルバー・ベル>の攻撃を飛び越えた一夏が斜め上上空から強襲。ザザン!と今度は左右の両翼が同時に半ばから両断される。

一夏の<白式>もまた第2形態移行を果たしていた。<白式・雪羅>。アンロックユニットの1対の盾以外に大した変化をしていない<レクイエム・ガーディアン>とは違って大型4機のウイングスラスターが増設されただけでなく左腕にも新兵器の多用途武装腕<雪羅>が加えられて大きく変化を遂げた<白式>の新たな姿。


「La――――――!!!」


戸惑いパニックになったみたいに、他の部分の光翼を使って<銀の福音>は大きく一夏と距離を取りながら再び破損した本来の<シルバー・ベル>から光翼を生やしつつ、エネルギー弾で反撃してきた。

<雪羅>の形態をエネルギークローからシールドモードに切り替え。一瞬で掻き消される光弾。<白式>もまたエネルギー兵器を無効化する新たな防御機能を手にしていた。

その代わりこの防御機能も<零落白夜>の様に<白式>本体のエネルギーを激しく消耗させるので多用は出来ない。ミシェルを機体ごと引っ張って来て全速力でここまでやってきたばかりなので悠著に戦う余裕もない。




次だ―――――次の一太刀で、決める。




一夏の気配が変化した。鋭く、更に鋭く、極限まで研ぎ澄まされた日本刀の如く、冷たく、鋭く、美しく。それにつれ一夏の意識を読み取った様に<雪片弐型>へとエネルギーが流れ込む。

<銀の福音>のコアが自身に発していた警告がより一層激しさを増した。あれは脅威だ、危険過ぎる。相対するな、下手に立ち向かうな、現空域からの離脱を最優先に。逃げろ逃げろ逃げろにげろにげろにげろにげろニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ!!!

大きく羽ばたき、つい先程ミシェル達に放たれたのと同じ規模のエネルギーの大波が一夏へと放たれる。その反動を逆に用い後ろ向きに全速力という運動性能を生かした特徴的な飛び方で離脱を試みる<銀の福音>。

誰が逃がしてやるか。


「お前だけは・・・・・・斬る!!」


<雪片弐型>を握り締め直した瞬間―――――音が消えた。

風の音も、後ろから聞こえていた箒と鈴の自分を呼ぶ声も、一斉に聞こえなくなった。ただ自分の中で刻まれ続ける心臓の鼓動だけはすぐ耳元で鳴っていたが、1回心臓が収縮するまでの時間も鼓動の間隔も、えらく長く引き伸ばされて聞こえてくる。

どこまでも間延びしていたのは音の感覚だけではなかった。凄まじい勢いで押し寄せようとしていた光の津波も、飛び去ろうとする<銀の福音>の動きもまた極端に遅くなっていた。何より一夏自身の動きも、だ。とんでもなく比重の重い水の中でもがいているような感覚。

そのくせ一夏の思考そのものは何時も通りの速さで回転しているのがまた奇妙な話で・・・・・・違う。これは、思考速度そのものが加速している?

よくよく比べてみれば、一夏の身体の動く速度とそれ以外、世界そのものが動く速度もそれぞれ違う。一夏の思考速度が1倍速なら身体の動きはその半分。更にそれ以外が動くスピードは何分の1も遅い。

密度の余り巨大な光波にしか見えなくなっていた<シルバー・ベル>の攻撃も、今の一夏には1発1発の光弾の輪郭やそれから放散されているエネルギーの残滓の1粒すら識別できた。

濡れた薄い和紙の壁を突き破ったような感覚。ぶれず、迷わず、一夏は<銀の福音>への最短距離を選び、突き進む。感覚が引き延ばされているせいで<銀の福音>までの距離が中々縮まらないように思えてじれったかった。

行く手を阻む光弾の壁。邪魔だ。そこをどけ。

<零落白夜>を発動させた<雪片弐型>を振るう。

1発だけでも強力なエネルギー弾が<零落白夜>の白い刃に触れた途端に掻き消えた。手応えは感じなくとも刃の軌道に存在するエネルギー弾が次々と消えていく。

もう1回振るう。横薙ぎから今度は振り下ろし。更に光の壁に空白が生じる。更に2回、3回と行うとぽっかりと一夏が通り抜けれるだけの空間が出来上がった。そこへと―一夏視点では―やけにのたのたした動きで飛び込む。

闇へと転じかけた空へ消え去ろうとする<銀の福音>の姿をもう1度捉え直す。もう逃がさない。今までの動きが信じられない位、銀の福音の飛ぶスピードは一夏からしてみれば遅かった。

あっという間に追いつき、手にした刀を最上段に構える。その瞬間、世界が本来の時の流れを取り戻す。音が戻る。強烈な風の音が耳へと飛び込んでくる。

一夏が彼の得物の殺傷領域まで近づいた段になって、ようやく<銀の福音>は目前の一夏の存在に気付いた様子であった。もう光翼による防御は間に合わないし、そもそも<零落白夜>には通用しない。

刃が振り下ろされる寸前、バイザーを過ぎったコードの羅列は暴走プログラムがあげた最後の断末魔か。


「っっっっっらあぁぁっ!!!」


裂帛の唐竹割り。

結果は、わざわざ言うまでもない。














「・・・・・・・・・・・・えーっと、今の一夏の動き、見えた?」

「い、いや全然・・・・・・」

「消えたと思ったら<シルバー・ベル>の攻撃を突き破って<銀の福音>の目の前に居てて・・・・・・」


半ば傍観者と化していた箒達からしてみれば先程の一夏の動きは瞬間移動したようにしか見えなかった。実際、あの一夏と<白式>の機動はハイパーセンサーで強化されていた筈の彼女達の認識速度を超えていたのである。

それはともかくとして、一刀両断された<銀の福音>の中から遥か海面へと放り出させそうになった操縦者らしき女性を抱えて一夏が箒達の元へ戻ってくる。

不意にミシェルの身体がぐらりと傾いた。慌てて支えに入るシャルロット。頭部装甲の中身が露わになるとデフォルト状態の時点で仏頂面な顔が青い。

というか、そもそも一夏もミシェルも本来は意識不明になるほどの重体ではなかったか?


「ミシェル!?だだだ大丈夫!?」

「・・・・・・すまん、少しふらついただけだ。身体中痛み過ぎて気絶も出来なさそうだから安心してくれ・・・・・・」

「それ絶対大丈夫じゃないよ!誰か今すぐ衛生兵呼んでー!」


パニックなシャルロットの様子にさっさとセシリアとラウラを回収して旅館に戻るべきなのは確かだな、とは思いつつ。


「一夏・・・・・・本当に一夏なのだな・・・・・・?」

「ああ俺だよ。幽霊じゃないぜ?ほらこうやって足だってちゃんとあるだろ」

「馬鹿っ!」


鈴に飛びつかれた。箒に泣かれた。<銀の福音>の操縦者を抱き抱えてるせいで上手く鈴を受け止めきれなくて女性を落としそうになった。

と、拾いに行くまでもなくダメージから回復したらしいセシリアとラウラが飛んでくるのが見えた。潮風に弄られ大きくたなびく箒の黒髪が目に入る。


「悪い鈴、ちょっとこの人の事頼む」

「あ、うん」


一夏が差し出した手に握られていたのは、


「リボン・・・・・・?」

「確か今日が、誕生日だろ箒。丁度良い、ってのもアレだけどさ――――――」




ハッピーバースデイ、箒。












今度の涙は、決して失意と怒りの涙じゃない。









=======================================================
はい、という訳でオリキャラ機も進化しちゃいました。
アンケート以前からセカンドシフトの進化方向は考えてあったんですが、皆さまの御意見の結果防御方面に強化と相成りました。更にバ火力化とか期待してた方サーセン。
ちなみにアンケートで弾丸が選ばれてたら体当たり上等な機動力の強化になる予定でした。
ついでに白式も何気に原作以上に強化されていたり。そして更に人間離れしていく原作主人公。どうしてこうなった。



[27133] 3-6:アナタノオト/覚悟完了
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:3f7ac6f3
Date: 2011/09/18 18:36

さて、どうにかこうにか<銀の福音>を撃破した一同だったが、今更ながら待機命令を命ぜられていながら勝手に出撃したのはれっきとした命令違反である。一夏とミシェルに至っては約1時間前まで昏睡状態に陥っていた程の重傷人だ。

なので無事とはいかないものの<銀の福音>の操縦者を保護して旅館に戻ってきた一夏達に、待ち構えていた千冬達教師陣が雷を落としたかと思えばそうではなく。


「へえ、元はといえば先生達だって作戦海域にあっさり密漁船に侵入される程度の仕事しかしてなかったせいで最初の作戦に支障をきたしてそのせいでミシェルも一夏も殺されかけたのに自分達の責任は無視して僕達を処罰するんですかへえそうですか都合が良いですね他国の代表候補生を自分達のミスで死なせかけたのに無視ですかそうですか出るとこ出たって僕は十分に構わないんですよ(以下略」


と怒涛の勢いかつ抑揚の全く無い声でのシャルロット(ハイライト無し)による責任追及により有耶無耶と相成った。

なおミシェルのフォローによりようやくシャルロットの口撃が止んだ頃にはどん引きの箒達に涙目の山田先生、疲れた様子の千冬が居たが、前の2者はともかく千冬に対してはミシェルも同情はしない。無茶な作戦のGOサイン出したのは彼女自身なのだから自業自得だろうに。






で、今現在の状況。

旅館の部屋に戻った途端、一夏は後から付いてきていた箒と鈴に飛びつかれた。背中から押し倒された形になって、敷いたままだった布団の上に倒れ込む。

何すんだ、と口から飛び出しかけたが、俯きながら顔を押し付けてくる2人の身体の震えとISスーツ越しの熱い滴の感触に慌てて飲み込む。加えて、


「本当に・・・夢ではないのだな?」

「一夏・・・・・・良かったよぉ、一夏ぁ・・・・・・!」


絞り出すような涙声でそう言われては文句が言えるものか。散々ニブチンとか朴念仁扱いされるぐらい鈍い一夏でも、苦情を言わないだけの自制心はある。

それにだ。2人は自分を心配してくれて、心細いからこそこんな行動を取ってくれたんだから、その振る舞いが愛おしい以外の何だというのだ。


「そ、そうだ傷!傷はもう大丈夫なのか一夏!?」

「そう、そうよ。一夏が来てくれたのが嬉しくてすっかり忘れてたわ!怪我はどうしたの、何でそんなピンピンしてるのよ!」


そういうのはフラフラになったミシェルがシャルロットに心配されてた時点で聞くべきな気もしたがこれも口には出さないでおく。今度は彼女達の手で怪我させられかねない。

ちなみにそのミシェルは教師達に情け無用の死神の様に詰め寄っていたのが嘘みたいな如何にも心配そうな涙目を浮かべた妻に引きずられる様にして医務室に連行されていったのでこの場には居ない。他の6人の中でもダメージが大きかったラウラとセシリアも医務室行きだ。

一夏は寝そべったまま、肩をグルグル回したり首を左右に動かしたりしてみて特に異常が無い事をアピールしてみせる。


「それがさ、最初に目覚めた時は急いで箒達の所に行くのに夢中で全然気づいてなかったんだけど、怪我とか痛い所も全然なんだよ。ほら」


ISスーツの短い袖をめくってみたり、鳩尾辺りまでしかない上部分の裾をまくりあげてみたりする。記憶の限りでは包帯なりガーゼなりで処置が施されていた部分に負傷の痕跡は残っていなかった。


「だがミシェルは怪我や肉体へのダメージもそのままだったというのに、何故一夏だけ怪我が治っているというのだ?」

「それは俺にもよくわかんねーけど」


と言いつつ一夏の視線は<白式>の待機形態である右腕の重厚な腕輪に向く。

何となくだが、<白式>のお陰な気がした。夢らしきあの砂浜で出会った少女と白い騎士の姿が思い浮かぶ。

ISが操縦者の怪我を治療した、なんて機能は初めて聞くしそんな考え信じてくれる人も全く居なさそうだけど、本能的に一夏は確信出来た。二次形態移行を遂げてくれたお陰で皆を守る為に駆けつけて<銀の福音>を倒す事も出来たし、<白式>には感謝してもしきれない。


「とにかく一夏が無事で何よりよ。ミシェルも命には別状がなさそうだったし」

「それは俺も安心したよ。また昔みたいなのは・・・・・・嫌だからな」


ミシェルが昏睡状態に陥ったのはこれで2度目。恩人であり友人のそんな姿を誰が好き好んで見たがるか。

おもむろに一夏の腕の中の箒が身じろぎして身体の位置を調節した。箒の頭が一夏の胸元に来る形になる。一夏がプレゼントした新しいリボンで束ねられたポニーテールが一夏の鼻先で揺れ、甘い匂いが鼻孔をくすぐる。


「な、なあ一夏――――しばらく、こうさせてくれないか」

「お、おう」


一夏の背中に廻された箒の両腕の力が強まり、きつく箒の頭が一夏の胸元に押し付けられる形になる。

そのままうっすら汗をかいた一夏が放つオスの香りを胸一杯心ゆくまで堪能したい衝動を全理性で押さえ込みつつ、瞼を閉じて感覚を耳へと集中させていった。




――――聞こえる。一夏の心臓の鼓動。彼が生きている証。




聞き取れた瞬間、無意識の内に強張っていた箒の身体がようやく解放されて脱力する。

夢じゃない。本当に、夢じゃないんだ。


「聞こえる・・・・・・一夏の鼓動が」

「そりゃあ生きてますから」

「・・・・・・冗談にしては、あまり洒落になっていないぞ、馬鹿」

「そうだな、ゴメン」

「心配を掛けさせないでくれ・・・・・・私は、絶対に、お前を失いたくないんだ・・・・・・」

「・・・・・・俺だってそうだよ」


箒の顔が当たっている辺りにまた温もりと湿り気が生じるのを感じはしたが、それを無視して一夏もまた箒の身体を強く抱きしめる。密着のあまり、一夏もまた箒の心臓が脈打つ音を肌で感じる事が出来た。

太鼓を叩いてるみたいにドッキンドッキン大きくなっている。多分、自分も似たようなものだ。


「箒の心臓の音スゲーデカいな」

「う、うるさい!一夏だって似たようなものではないか!」

「しょうがないって。箒みたいに綺麗で可愛い子をここまでくっついてれば誰だって興奮するぞ?」

「――――私は“お前“が相手だからこんな事になってるんだ!」


・・・・・・ヤバい。今のは完全にツボに入った。

あーもう箒ってホントにこんなに可愛かったなんてこのヤロこのヤロこのヤロこのヤロ!」


「こ、こら!そんなに女の髪を引っ掻き廻すんじゃない!」

「仕方ないだろ、箒の反応が可愛過ぎるのが悪いっ!」


断言した。嘘偽り無い本音だった。魂の叫びでもある。

直球ド真ん中ストレートな恋人からの言葉にサムライ少女の顔色が専用機のカラーリング以上に濃い赤となる。

密着し過ぎて恋人の変化に気付けない一夏の手の位置が上へとずれ、箒の髪に触れた。潮風に結構な時間弄られていた上に戦闘の余波で傷んでいてもおかしくないにもかかわらず変わらぬ絹のような手触り。

なでなでなでなで。熱のこもった吐息が胸板に当たってくすぐったい。このままずっとこうしていようか―――――


「・・・・・・私の存在、忘れてない?」

「「にょわぁっ!!?」」


思いっきり一本釣りされたカツオかマグロ宜しく抱き合った姿勢で一夏も箒も飛び上がった。ほったらかしにされていた鈴が唇を尖らせてそっぽを向いていた。

鈴よりも体格の良い箒がほぼ無意識に一夏ともっと密着しようと積極的に身動ぎしたお陰で彼の元から弾き出される形になっていたのである。


「ふんだ、良いわよもう。私なんてお邪魔虫に決まってるわよね。そもそもこっちは割り込んできた側なんだし」

「い、いやゴメン。別に鈴の事を本気で忘れてたとかそうじゃなくてだな!」

「いーわよいーわよ。どうせ世間一般じゃ『2組だから居ない』って言われてるんだし2股でも気持ちが伝わってるだけまだマシ――――」


それいじょう いっては いけない!

ぐちぐち文句を言いながらもどんどん沈んでいく背中としんなりしていくツインテールの様子が、怒られて傷ついた猫そっくりだった。まあ元々猫っぽいキャラなんだから当たり前な気もするけど勿論ほったらかしには出来ない。


「というか箒、そろそろ代わりなさい!ずっと一夏の胸の中独り占めなんてズッコいわよ!」

「そっちが本音か!?だ、だがもうちょっとだけ待ってくれないか。もう少しだけ一夏の胸の音を聞いていたいんだ」

「・・・・・・私だってそうよ」


小さく呟かれただけだったがその声は2人には十分届いた。ほんの少し考える素振りを見せた箒がこんな提案をする。


「・・・・・・一夏の背中なら空いているぞ」


しばし沈黙。腕の中の恋人その1の提案に戸惑う一夏の顔とその後方に視線を行ったり来たりさせる恋人その2。今の一夏は柔軟体操のように股を開き足を伸ばした状態で座っており、箒は開いた股の間に収まっているという塩梅だ。

たっぷり10秒間は見比べた後、「じゃ、じゃあそうさせてもらうわ」と一夏の後ろに回ると、躊躇いがちながらもベッタリと一夏の背中に張り付いてみせた。

一夏の心臓が急速フル回転。幾ら大人の階段を3段飛ばしで上ってしまった関係とはいえ、改めて大胆なスキンシップをされて興奮したりしてしまう程度には一夏は青かった。

それに着ている物がお互い超薄手のISスーツなので、箒に比べればかなり慎ましくも女性的な曲線をハッキリ描くほどの起伏を持った鈴の膨らみ、のみならずその先端の感触までしっかり分かってしまったものだから一夏の興奮の度合いは倍プッシュである。

太鼓というよりはもはや巨大なドラレベルの凄まじさで脈打つ鼓動。もちろん筋肉越しにしっかりはっきり鈴の元にも伝わって来て。


「・・・・・・本当だ。一夏、本当に、生きてて、無事だったんだぁ・・・・・・!」


――――急速に理性を焼き尽くそうとしていた熱気が退いていく。

鈴の声がさっきみたいにまた、感極まった感じの鼻声になりかけていた。それだけ鈴も箒も、皆と一緒に心配してくれていたんだと再度理解できて、一夏は。


「――――心配かけてゴメンな、2人とも」


もう1度謝る。そしてここまで2人を心配させて、悲しませて、千冬姉達にも無断で<銀の福音>に戦いを挑ませるほど箒と鈴や他の皆を追い詰めさせた自分自身を不甲斐なく思う。

後ろから脇腹の辺りに廻されてきた鈴の手に、一夏は己の手を重ねた。更にその上から箒も2人の手にまとめて指を絡めてきて、3人ひっそりとくっつき合いながらそれぞれの体温と鼓動を、身体全体で感じ取り合った。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。実際の所一夏に負けず劣らず派手に鳴らされていた箒と鈴の鼓動が、次第に落ち着きを取り戻す。

確実に血液を全身へ送り出している証明の音が2つ、一夏を挟んで静かに、そして次第にそのテンポが近づいていく。一夏の心臓もまた二重の鼓動に更に重ね合おうとばかりにゆっくりしたリズムになっていった。




トクン、トクン、トクン。3つの鼓動が重なる。3人が1つになる。




「(うわぁ、スゲェ落ち着く)」

「(何だか一夏と1つになったみたいだ・・・・・・)」

「(落ち着き過ぎてすっごく眠くなってきたわね・・・・・・)」


一塊になってまどろむ3人は思考能力も揃って急速低下させながら眠りへと引きずり込まれ――――――


「せめて別の格好に着替えてから寝たらどうだ?」


る前に耳朶を打った千冬の声にもう1回飛び起きた。


「ち、ちちちち千冬さん!?何時からそこに!」

「たった今だ。なあ織斑。女を連れ込むなと来た時にしっかりと通達しておいた筈だが」

「・・・・・・一応、俺も同室なんだが」


くんずほぐれつ3(ぴー)をされてるよりはよっぽどマシだろうがそれでも甘い空間を振り撒かれては流石のミシェルもあっさり踏み込めなかったようである。

ミシェルだけでなくシャルロットも包帯を巻かれた右腕を三角巾で吊るしていた。


「シャルロットも怪我したのか?ミシェルも大丈夫なのかよ」

「僕はちょっと変な体勢から派手な事をしたせいで腕を痛めただけだから心配しなくても大丈夫だよ」

「・・・・・・鎮痛剤は貰ったし、しばらくは無理な運動や戦闘訓練はしないで学校の保健室に通えと言われたが、もう平気だ」

「当たり前だ。そもそも鎮痛剤が投与されたからといって今からそうやって平気な顔で立ち歩いている方がおかしいんだ」

「・・・・・・丈夫なのが取り柄なので」

「まったく」


呆れ顔で首を振る千冬。まあ一夏達からしてみれば千冬の出席簿アタックの直撃を食らってもケロッとしているぐらいなんだから納得っちゃ納得だ。

セシリアとラウラの姿が見えないが、2人は不意を突かれてもろに攻撃を食らった為ダメージが大きく千冬命令でしばらく医務室で寝ているとの事。2人はミシェルほど頑丈じゃないだろうから仕方あるまい。

本人はピンピンしていたがやっぱり気になって(決して口にも顔には出さないようにしつつ)一夏の様子を見に来た姉だったが、まあやっぱり大丈夫そうなので安堵の念を周囲に気付かれまいと厳重に押さえ込みつつ、教員室へ戻ろうと踵を返す。

だがそれは、他ならぬ彼女の弟の声に呼び止められて断念する事になった。


「千冬姉―――――2人だけで、話したい事があるんだ」


振り向いて弟の顔を真っ直ぐ見つめる。極めて真面目な表情を浮かべる一夏。

――――だが何故だろう?何度か見た事がある筈なのに、微妙に千冬の記憶と食い違って見えるのは。


「・・・・・・良いだろう。付いて来い」















千冬が向かった先は別館の更衣室の裏手である。<銀の福音>暴走に関する緊急任務の関係で実習も中断したせいで他の生徒達は旅館の部屋にカンヅメにされており、別館周辺に人の気配は全く感じられない。

千冬は背広姿、一夏はISスーツと着の身着のままの格好で、真正面から向かい合う。


「それで、私に話とは何だ?」

「・・・・・・千冬姉はさ、一体何処まで知ってるんだ?」


―――我が弟は思ったよりも鋭かったらしい。しかしあっさりと馬鹿正直に答えてやるつもりも無い。


「さて、何の事だ?」

「分かってるんじゃないか、千冬姉なら」

「本当に聞きたいのならばもっとしっかりと簡潔に物事を纏めてから率直に聞いたらどうだ?」

「・・・・・・今回の事件は全て、束さんが仕組んだ事なんじゃないか?」


千冬は答えず表情も変わらない。一夏は続ける。


「考えてみたらさ、都合が良過ぎるんだよ。束さんが箒の専用機、それも<紅椿>なんてとんでもない高性能な新型機を持ってきた矢先に暴走事件が起きて、しかもその暴走機が『たまたま』合宿中の俺達の近くを通って、それを止める作戦に箒と<紅椿>が参加する――――専用機を手に入れたばかりの箒に箔をつけさせてやろうって魂胆が見え見えじゃないか」


尤もその推測は作戦前にミシェルに言われるまできっかけすら出てこなかった内容だ。それとも無意識の内に『いや、そんな訳ある筈無い』と考えまいとしていただけか。


「ふむ。確かに“そう考えれなくもない”な。だが仮にそうだとしても証拠が無ければ証明は出来ないぞ」

「そうだよな。単に俺の考え過ぎってだけかもしれないし証拠だって持ってないさ」


それでもこう思えて仕方ないのだ――――『束さんならやりかねない』、と。

ISコアの開発者は彼女であり、彼女しか作れない。自分の作った代物なのだから暴走させて自立機動させるのだってお手の物な筈だ。何せ“無人ISすら開発できる”のだから。

そしてきっと、千冬姉もその事を一夏以上に遥かに深いレベルで踏まえているのだろう。

何故なら彼女は篠ノ之束の親友であり、人類の中で篠ノ之束を除けば最も早くからISに触れてきた操縦者であり――――2000発以上のミサイルと戦争規模の軍隊を単騎で完全勝利してみせた『白騎士』である彼女ならば。

でも。

だからこそ言いたい事がある。


「・・・・・・でもさ、千冬姉」

「何だ」

「何も思わなかったのかよ?いきなり過ぎるだろ、触れたばかりの機体なのに、箒をいきなりあんな危険な任務に送り込むなんて、考えてみたら無茶苦茶にも程があるじゃないか」

「私は<銀の福音>との相性を考慮して決定したまでだ。あの機体の機動力についていける機体は専用機といえど数は限られている上、<紅椿>と<白式>以外についていけそうな機体であるオルコットの<ブルー・ティアーズ>もパッケージを換装するのに時間が必要で、その時間が無かった。だからお前と篠ノ之、そして援護役のデュノアを送り込むほか無かった。“それだけ”だ」

「ああ、それは分かるさ。でも結果俺とミシェルは危うく死にかける羽目になった」

「つまり危険を知っていながらお前達を作戦に駆りだして挙句生死の境を彷徨わせた事に怒っているのか?裏切られたと感じているのか?」


姉の言葉がとても白々しく聞こえてきて、知らず知らずの内に手が持ち上がって胸元を押さえていた。こんな感覚は初めてだ。


「違うよ千冬姉。俺も、ミシェルも、あれが実戦で危険な内容だっていうのはちゃんと理解してたさ」


なら自分は一体何が言いたいんだ?






「――――でも、もしかしたら、箒もああなっていたかもしれないんだ」






今、織斑一夏という男の胸の奥底で静かに煮え滾って思考を焦がそうとしているのはそれに対する怒り。自分の女が危険に晒された事への雄としての激情。

もしかしたら箒か、それとも鈴か、もしくはセシリアやラウラ、シャルロットの中の誰かが自分とミシェルみたいになっていたかもしれない。下手したら死んでいた。実際自分達が駆けつけた時、皆傷ついててあと少しで止めを刺されそうになってたじゃないか。

それだけじゃない。ミシェルの情報が正しければ、IS学園を襲った無人ISを送り込んできた犯人も束さんである可能性が高い。あの時だって鈴がかばってくれなきゃ箒はどうなっていたか。鈴だって危なかった。

どの出来事も一夏の力が及ばなかったからそんな結果になったからか。だが突き詰めれば無人ISを襲撃させるという手段を取らせた存在こそが元凶であり。

篠ノ之束が黒幕なのだとしたら。


「なあ、教えてくれよ千冬姉。束さんは一体何がしたいんだ。何でこんな事を、どうしてここまでする必要があったんだ。千冬姉なら、分かるんじゃないのか」


織斑一夏は篠ノ之束という人間を知っていた。その筈、だった。

篠ノ之箒の姉で、千冬姉の親友で、ISの開発者で、凄まじい天才で、とんでもなくエキセントリックで、俺と千冬姉と箒以外の全ての人を受け入れようとはしない、世界に対応するのではなく世界が自分に対応する方を選んで実行するような、ちょっとどころではない変わり者。の、筈。

今の一夏には束の事が理解できない。<銀の福音>の事だけでもどれだけの人間が被害を被り恐怖と混乱に陥ったのか、男でありながらISが動かせる特性さえなければただの高校生に過ぎなかったであろう一夏には想像がつかない。

それでも、天才的な頭脳やひらめきの持ち主ではない一夏でも理解できている事柄が存在する。




この事件のせいで恩人であり親友であるミシェルが自分共々死の淵を彷徨い、それによって箒も鈴もシャルロットもセシリアもラウラも嘆き悲しんで、報復を望んだ挙句彼女達もまた一夏達の二の舞になりかけた。

その現実が、一夏には我慢ならない。




あの人は自分の妹を晴れ舞台に上げたかったわけではない。彼女に与えた自分の作った新しい機体の派手なお披露目をしたかっただけだ。

一夏にはもはやそうとしか思えない。そんな極端に偏った考えが思い浮かぶような思考状態だから、今の一夏からしてみれば束が箒を本当に家族として大切に思っているのかも怪しくなってくる。

世界を引っ掻き廻すだけ引っ掻き廻してさっさと姿を消すような無責任な人間だ、束本人が自分のそんな思考を自覚しているのかも怪しいものだが。

そして自分の姉はその片棒を担いだ唯一の共犯者でもある。簡単に認めたくない現実が迫りつつあって、一夏の中で千冬の立ち位置がグラグラと揺らぐ。


「どうして自分の妹まで危険な事に巻き込めるんだ。あの人にとっては箒もその程度の存在なのかよ。どうして関係無い皆まであっさり巻き込んでこんな事が出来るんだよあの人は!千冬姉も何で見てるだけなんだ!」


己にとっての大切な存在の立ち位置に対する揺らぎが千冬の中でも起きている事に、激情に駆りたてられて吠え散らす事に夢中な一夏は気付けない。

織斑千冬にとっての織斑一夏は自分に残されたただ1人の血縁者であり、見どころはあるがまだまだ目の離せない鈍感な弟である。何時かは自分の傍から旅立つ事はあれど今までも、そしてこれからもその評価は変わらないだろうと―――――そう思っていたのに。

なら今自分の目の前に居る弟は、一体何なのか。


「(―――――お前も、そんな顔が出来るようになったんだな)」


千冬が抱いたのは、ずっと自分を追いかけ同時に支えてもくれた小生意気な小僧が、僅かな間にここまで激烈な人間としては大いに正しい生々しい激情を纏って自分へ叩きつけるようになった現実に対する感慨の念。

例えるなら、手塩にかけて育てた娘を他人の嫁に送り出す頑固親父にも似た感覚。

それが自分の親友への、ましてや千冬本人に対する疑念が原因というのがとてもとても悲しい事だけれど。

嬉しくも思う。しょうがない、と諦めも混じる。

自分が一夏に嫌われる心当たりもない事もない。そもそも最近まで自分の仕事も明かさず家の事を一夏1人にほったらかしにした挙句、止むにやまれぬ事情からとはいえ弟を置いてドイツに旅立ったりもしたのだから、ずっと良好な関係を維持できていた事の方が奇跡的とも言える。


「・・・・・・仮にだ。仮にもしお前の考えた推測が全て現実だったとしたら、お前はどうするつもりだ?」


俺は、と顔に手を当てながら一夏は俯く。

流石にこの事柄に関してはどれだけ悩み苦しんでも仕方あるまい。千冬はすぐに弟から答えが返ってくるとは考えていなかった。根本的にまだまだ甘い弟の事だ、自分の女の姉に対してあっさりと敵対するなりなんなり、そんな明確な立場を選べないだろうと。

千冬はこれ以上自分がこの場に居ても仕方ないだろうと、じっと考え込んでいる弟に背を向けて立ち去ろうとする。


「俺は―――――」


一夏の右手が自然と顔から己の胸元、心臓辺りに下がっていく。

――――――――未だ掌に残る少女達の確かな温もり。重なる鼓動のリズムと流された涙の熱さ。






ああ、なんだ。

答えなんか、とっくにその手の中にあるじゃないか。






「・・・・・・・・・俺は、守るって誓ったんだ」


千冬の足が止まる。振り返ると弟と目が合う。日本刀の如く研ぎ澄まされた決意の眼差し。


「自分がどれだけちっぽけで、幾ら頑張ったって限界があるのは俺だって痛いぐらい分かってる。それでも今の自分の世界だけはどんな事をしてでも守り通したい。俺にとって大切な人達だけは絶対に」


情を交わし合い、愛し愛される事の温もりを身を以って知った。

不誠実な関係であっても決して失いたくないと、強く思った。


「これ以上箒や鈴達には誰にも手出しさせるつもりもない。だからってその為に俺自身が犠牲になるつもりもないけどさ」


だって自分が傷ついたら少女達が泣いてしまうから。そんな事で皆を泣かせて心配させたくないから。

だから一夏はもう自分の身を犠牲にするつもりは更々無い。必ず五体満足で生き延びて皆の元へ帰るんだと、固く誓う。


「せめて身の回りの近くに居る皆を守れれば俺はもうそれで良い。俺は千冬姉や束さんほど凄くないんだから―――――だから、それ以外の他の誰かを切り捨てる日がいつかは来るのかもしれない」


要は優先順位の問題だ。今や一夏の中では博愛主義的な一面は鳴りを潜め、愛する女や信頼できる友人達の身を優先する考え方が強さを増している。

度々彼らの身が危険に晒され、一夏の手から零れ落ちそうになったからこその、ヒトとして当たり前の変化。


「俺も千冬姉や束さんの事をそんな風にしたくはないさ。2人の事だって俺にも大切なんだから」


それでも、限度がある。

もし、もし最悪の想像が現実になるのだとしたら、2人を止めるのは一夏でなければならない。こればかりは誰にも譲れない。


「・・・・・・だけど、もし、もしそっちの都合で他の皆にこれ以上危害が及ぶっていうんなら・・・・・・!」


―――――極限まで研ぎ澄まされた名刀の様にギラリと煌めく一夏の瞳。

目が口以上に一夏の決意を雄弁に千冬へと教えてくれる。

それで良いさ、と千冬は堪らず微笑を漏らした。


「ふっ、いつの間にか一端の男の顔が出来るようになったのだな、お前も」


嬉しそうでもあり、寂しそうでもあり。


「お前の選んだ答えだ。私はそれで良いさ。お前はお前の大切な物をどんな事があっても手放さない様、精々足掻き続けろ・・・・・・だが、これだけは覚えておいて欲しい」


声に込められた感情が色を変える。微かに浮かべた笑みと同じ親愛の念。




「私はずっと、お前の味方だよ――――――なにせ私は、お前の姉なのだからな」














「・・・・・・もー、ちーちゃんってば束さんの話を聞いてるのー?」

「ああすまない。少し考え事を、な」


そして今、千冬の目の前に篠ノ之束が居る。

本人の口から聞いた訳ではないが一夏の語った事はほぼ全て的を得ていると、千冬はそう確信している。全てを引き起こした彼女はきっと、一夏の決心をまったく知りはすまい。

もし一夏が、自分の行いが原因で敵として立ち塞がりかねないと知ったならば束はどんな反応を見せるのやら。


「ねえちーちゃん――――今の世界は楽しい?」

「そこそこにな」

「そうなんだ」

「・・・・・・だが束、1つだけ忠告しておくぞ」

「?」


心底不思議そうな顔で振り向いた親友に織斑千冬は警告する。






「お前にとっては今この世界がつまらなく映っているのだとしても、中には今の世界を十分気に入ってる人間も居るんだ―――――下手に引っ掻き廻そうとすると、足元を掬われるぞ?」












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家のPCがネットに繋がらなくなったのでネカフェから更新。実技試験で大ポカやらかして微妙に傷心状態ですorz
そして原作主人公、もう性格変わりすぎてね?シリアスぶらせすぎた気がします・・・

夏休みに入る前にオリジナルの展開をやる予定です。最近人気の妹キャラが参戦?
でもそろそろ設定集も追加すべきかと思う今日この頃。



[27133] 原作3巻終了時までの設定
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:3f7ac6f3
Date: 2011/12/13 10:26

=登場人物=


ミシェル・デュノア:

オリキャラ。主人公。一応転生者。劇中設定15歳。
当初はオリ主だった筈が書いてる内に原作主人公があまりにも強化されすぎてオリ主(笑)な立場になってしまっている。どうしてこうなったその1。
容貌のイメージはソリッド・ス○ークとアンデ○セン神父を足して÷2したような感じ。とどのつまり実年齢から遠くかけ離れた泣く子も気絶する凶悪な中年面。でも面と向かって言われると傷つく。
体格も原作開始時には身長が既に2m近い上に日々のトレーニングの成果で筋肉モリモリの変態マッチョにしか見えない。ちなみに声は某ガチタン社長ボイス。
護身用に常日頃から拳銃を携帯。愛用はパラ・オーディナンスのP14カスタムモデル。
生まれ変わる前は浅く広いタイプのただのオタクなサラリーマンだったが、30前に長年の闘病生活の果てに死んだ為より強く『生』を実感するべく戦いやトレーニング、そして嫁や友人との生活に時間を費やす日々を送る。
その辺り、ISとの出会いは色んな名目で模擬戦をやれたり撃ちまくったりできるのでそれなりに幸運に思っている。最初の頃は銃器の扱いや戦闘法は家の関係で知り合ったとある武器商人の私兵の皆さんに教えてもらった。
レーザーよりも実弾派。弾幕はパワーです。

数年前に遭遇した事件により右足は義足、顔面に横文字に走る大きな傷跡を負っている。その際に人も2人射殺しているので色んな意味で非童貞。
妻のシャルロットとは異母兄妹。しかし戸籍上血の繋がりはない事にされ実家と国が総力を挙げて隠蔽に当たっている為世間には殆ど知られていない。その関係で実家とは不仲だが双方持ちつ持たれつの関係なので表面には出していない。
シャルロットに一目惚れして出会って1時間足らずなのにもかかわらずプロポーズを敢行したある意味猛者。結婚してからは場カップルとして周囲に砂糖を吐かせる傍迷惑な日々を送っている。もげろ1号。
とある人物の策略(?)により世界で最初にISを動かせてしまった男性。結果専用機も与えられフランスの代表候補生兼軍の広告塔として有名人にされてしまった。軍における階級は大尉。
彼の存在によりデュノア社は第3世代機の開発に成功し、苦境から一転業界トップへのカムバックに成功した。
前世で生きた分を含め人生経験豊富なのでかなりの常識人。ただし嫁が関わらない場合に限る。あとソッチ方面も旺盛なむっつりスケベ。
一応転生者とはいえ<インフィニット・ストラトス>を知ったのが入院してからだったのでネット上での二次創作でしか内容を把握できなかった事から、設定や原作が開始されてからの展開をほんの一部しか把握していない。

専用ISは<ラファール・レクイエム>。


織斑一夏:

原作主人公。ICHIKA。
第2回モンド・グロッソの際ミシェルと知り合い、結果誘拐事件の時に助けに入ろうとした彼が銃撃戦の末右足を失った上生死の境をさまよう羽目に陥った事がトラウマに。
それにより一旦捨てていた剣の道に再び復帰し、今度こそ周りを自分の力で守って見せようと硬く決心する。
姉の知り合いの師範代に稽古をつけてもらうために各地に武者修行へ旅立ったり実戦で鍛えようと地元の不良グループに戦いを挑んだりと、力を求めてとことん突っ走った結果、地元最強の称号を与えられる羽目に。
武者修行の時に出会った兄弟子の影響か結構容赦ない。IS学園に入学してからは『飛んできた弾丸を切り落とす』という荒行を習得してしまったりと更に強くなってしまって手がつけられなくなっている。どうしてこうなったその2。

デュノア夫婦のバカップル振りに中てられたファースト幼馴染の暴走をきっかけに紆余曲折を経て幼馴染丼ルートに突入してしまった。でも本人は然程後悔していない。もげろ2号。
今じゃ色んな意味で大人です。でも1度に2人と付き合う事になった以上もう女を増やしてたまるかと固く誓い、セシリア達の攻勢に押し切られまいと日々奮闘中。

専用ISは<白式>


シャルロット・デュノア:

原作ヒロインの1人。ミシェルの嫁。ミシェルの父親の愛人の娘。色々な都合(作者の検証不足)から最初から僕っ子設定。
原作開始2年前に母親が亡くなった後父親の実家に連れてこられたが本妻(ミシェルの母親)に叩かれた上に泥棒猫となじられ、傷心のところをミシェルに始めて遭遇する。
それから会ったばかりのミシェルにプロポーズされて戸惑ったものの、自分を娘扱いしてくれない実の父親にミシェルが肉体言語で対応して見せたのがきっかけで良い仲に。ミシェルの猛プッシュのかいあって見事ゴールイン。
当初は異母兄妹である事を気にしていたが出会ったばかりで兄妹という感覚をあまり抱けなかったのもあって今はもう気にしていない。

夫婦なだけあってイロイロしてきたお陰で原作よりも遥かにプロポーションがいい(バストだけでも山田先生並み。尚も成長中)。
旦那を深く愛してる分ヤンデレったりもするがやっぱりバカップル。その惚気が箒の暴走を引き起こし・・・・・・
あと原作とは違い相性のシャルでは呼ばれていない。今はまだ。

専用ISは、<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>。


篠ノ之箒:

原作ヒロインの1人にして一夏の嫁1号。ファースト幼馴染。
再会した幼馴染が鍛錬を怠らず凛々しくなってたせいで乙女心がキュンキュン来てた所にデュノア夫妻の惚気っぷりに中てられたお陰で結果第暴走。
同室になったのにかこつけて過激な色仕掛けを実行し、見事一夏を陥落寸前まで追い詰める。
千冬の乱入と鈴の参戦に窮地に立たされるものの、クラス代表対抗戦と無人ISの襲撃を経て恋敵の鈴と和解。
一夏を自分達の女の手から守る為に鈴との共同戦線を張るべく一夏の共有を提案した結果、鈴共々一夏の恋人になった。
性格の割に結構過激なスキンシップを好むエロ娘。一旦スイッチが入るとナイスバディなだけあってその破壊力は凄まじい。ただし一夏限定。

書いてる内にエロ方面に第暴走してしまったキャラ。どうしてこうなったその3。

専用ISは<紅椿>。


鳳鈴音:

原作ヒロインの1人にして一夏の嫁その2。セカンド幼馴染。
再会した初恋の幼馴染が別の女に盗られそうになってる事を知り激昂し、クラス対抗戦で『私が勝ったら私の恋人になりなさい』と賭けを行う。
結局無人ISの乱入でうやむやになったが、箒の提案を受けて2人同時に一夏の恋人になる事を受け入れた。
彼女も一夏に対しては自分から抱きついたりと肉体的なスキンシップを行うものの、箒と違って性的なレベルまで行かなくてもそれなりに満足できるタイプ。

作者的にはぶっちゃけマスコット的存在。結構お気に入り。

専用ISは<甲龍>


セシリア・オルコット:

原作ヒロインの1人だけど作中では報われないヒロインその1。
経緯は基本的に原作と一緒。でも当の一夏が幼馴染丼ルートに突入してしまった為決して異性の友人以上になれない事が確定済み。残念!

専用ISは<ブルー・ティアーズ>。


ラウラ・ボーデヴィッヒ:

報われないヒロインその2。でもセシリアよりは距離が近い。
原作と違って一夏が力に対して貪欲なせいか、早い段階で一夏と決闘。ダブルKOになったものの事故でファーストキスを奪われる。ノーカウントだ!ノーカウント!!
それ以後は大体原作と大差無し。転入以前にミシェルとシャルロットと面識があり、2人から微妙に小さな子供扱いされている事に対して自覚無し。
学園内での彼女の様子は撮影(カメラマン:デュノア夫婦)されてしっかりドイツの部下達の元に届けられています。

専用ISは<シュヴァルツェア・レーゲン>。


織斑千冬:

基本原作と大差ないが、最近急上昇中の弟の漢前っぷりを見て嬉しいやら寂しいやらな感情を抱きつつある。
箒と鈴の事に関しては知らない仲ではないし人柄もしっかり理解できているので受け入れて入る。
でも学生出産は簡便な!


山田真耶:

入学試験の際、受験生であるミシェルの放った弾幕によってトラウマを持ってしまった。


篠ノ之束:

全ての元凶。ミシェルの記憶と一夏の心境の変化に気付かないせいで墓穴を掘りつつある。


クラリッサ・ハルフォーフ:

ラウラの副官。ザ・OTAKU。隊長バカ。
(他の部隊員も含め)デュノア夫婦から送られてくる隊長の写真観賞が生き甲斐です。








=登場機体=


<ラファール・レクイエム>

オリジナルIS。ミシェルの専用機。
実家であるデュノア社製第2世代IS<ラファール・リヴァイヴ>をベースにミシェルの個人データと引き換えに手に入れたイギリス・ドイツの第3世代機のデータを用い更にミシェル本人の要望を取り入れて開発された第3世代機。
ベースとなった機体の汎用性を中心に操縦者の意見(リクエスト)取り入れた結果、重装甲・高火力・重武装・低めの高速性と近年のISのコンセプトと正反対に仕上がっている。しかし注文した本人は後悔していないしそれなりに強い。
<銀の福音>戦を経て2次形態<ラファール・レクイエム・ガーディアン>へと移行した。操縦者の嗜好から実弾兵器、特にこれまでの紛争などで用いられてきた信頼性の高い兵器の改修型を多く使用している。
待機形態はドッグタグ。展開状態の見た目は種死OVAのヴェルデバスター。

使用兵装:

<ドラゴンブレス>

フルオートマチックショットガン。呼んで字の如くの代物で散弾をフルオート連射可能。
散弾以外にも対障壁/装甲用スラッグ弾、小口径グレネード弾も発射可能。

<ケルベロス>

アサルトライフル・セミオートカノン・バヨネットの3種類の武器が一体化した複合兵装。セミオートカノンは複数の弾頭を使用可能。
元ネタ兵器はマブラヴオルタの戦術機、YF-23が使用する複合突撃砲。作者は機体共々お気に入りです。

<グリムリーパー>

機体左腕部に装着される12.7mmシールドガトリング。専用のドラムマガジンは実体盾の裏側に搭載される。
元ネタ兵器はGAU-19ガトリング砲。作中で使用されている爆裂弾にもRaufoss Mk 211という元ネタがある。

<レインストーム>

機体左肩部分に搭載される双門機関砲。空中炸裂弾の連射により主に対空迎撃時に効果を発揮するため基本低空を飛び回って戦う事が多いISとも効果が良い。
元ネタ兵器はフランスの駆逐艦などに搭載されているマウザーMK 30 30mm機関砲。ただしこちらは単砲身。空中炸裂弾以外も撃てます。

<ネイルシューター>

機体右肩部分に搭載される大口径レールカノン。ぶっちゃけ<シュヴァルツェア・レーゲン>と同じような物。

<ホーネット・ネスト>

機体背部、腰の後ろ辺りに搭載されるマイクロミサイルランチャー。配置の都合上左右から挟みこむような軌道で発射される。弾頭には様々な種類がある。
元ネタ兵器はマクロスシリーズのクァドラン・ローのミサイルポッド。場所以外はほぼアレと同じ構造です。

<アグニ>

機体腰部両横に搭載された固定式ビーム砲。
影は薄いけど結構強力だったりします。イメージ的にはまんまヴェルデバスターのと同じですがバヨネットはついてません。

<ウルティマラティオ>

100口径電磁加速型徹甲爆裂射突型ブレード。ぶっちゃけとっつきの1種。
レールガンと同じ原理で打ち出すため初速が高い分、威力も従来のとっつきより遥かに高い。加えて打ち出される鉄杭そのものが成形炸薬弾と同じ構造をしているため、1撃目でバリアーを貫いてから鉄杭を起爆させて追撃するという2段構えのトンデモ兵器となっている。
鉄杭そのものはマガジン方式の使い捨て式。ただし炸薬を起爆させなければ何発でも使用可能。『弾(杭)の数だけISを撃破できる』ともっぱらの評判。

<ISスティンガー>

携帯型対空ミサイルランチャー。元は装甲の薄い航空機に対して用いられてきた代物なので対ISに於いては威力不足。
しかし信頼性と命中率に優れている。元ネタ兵器はFIM92・スティンガーミサイル。歩兵が使う以外にも車両に乗っけたりもします。

<シールド・オブ・アイギス>

取引で手に入れたイギリスのBT兵器とドイツのAICに関するデータを組み合わせて開発された特殊兵器。
1対2枚の巨大の盾形ビットであり、表面部分にはAIC発生装置が組み込まれているので実体兵器・物理攻撃を停止・無効化する事ができる。
ラウラの機体の停止結界とは違いビット内に搭載されている制御装置が自動的に停止対象を認識・ビットの制御・AIC発動を行うので操縦者自身が意識を集中させる必要がないのが大きなアドバンテージとなっている。
ただし停止結界同様エネルギー兵器には効果が薄くまたAICも切り裂ける<零落白夜>には通用しない。またAICの効果範囲はビットと同程度の大きさにしか及ばない。
本来のBT兵器同様レーザー砲も搭載しているがレーザーとAICの切り替えは操縦者の意思で行わねばならず、切り替えにも僅かにタイムラグが生じるのも弱点の1つ。

<イージスの鏡>

第2形態に移行して新たに備わった機能。<シールド・オブ・アイギス>で受け止めたエネルギー兵器による攻撃を全て吸収、衝撃波として逆に放出する事が可能。
しかしこれも発動や機能の切り替えは操縦者が任意で行わなければならないのとやはり<零落白夜>には効果が無いのが弱点。


<白式>

一夏の専用機。原作と大差ないが一夏がICHIKA化してしまってるせいで全ての性能が原作以上に遥かに引き出されている。

<白式・雪羅>

<銀の福音>戦で2次形態に移行したのは原作通り。
しかしミシェルとタッグを組んで特訓した際に<ドラゴンブレス>や<ケルベロス>を撃った事があるせいで荷電粒子砲が収束モードと拡散モードに使い分ける事が可能になっている。今後登場予定。
あと一夏が原作より強化されている影響で固有時制御もしくはゼロシフトもどきまで発動可能になってしまった。どれだけ強化されるのかは作者にも不明。


<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>

シャルロットの専用機。機体そのものは原作と変化なし。
ミシェルの影響で<ドラゴンブレス>や<ケルベロス>も使用している。<ウルティマラティオ>も装備可能。

作中でのオリジナル仕様兵装:

<唐沢>

タッグマッチでシャルロットが使用した、イギリスの<ムーンライトmk3>と双璧を成すハイレーザーライフルのベストセラー。
その威力は直撃すれば<ラファール・レクイエム>の盾形ビットも一撃でぶち抜く。連射性能も悪くないがやはり消費エネルギーは大きい。

<ビッグシェル>

航空機用を転用した大型燃料気化弾頭ミサイル。タッグマッチで使用。
主にアリーナ内で試合を行うIS向けに改良されているので効果範囲を押さえ、代わりに大きなダメージを与えるべく爆発の威力が増大されているという仕様。
でもやっぱり個人に対して使用するような代物ではないので一部の大会では使用が制限されているとか。


<ブルー・ティアーズ>

セシリアの専用機。原作と変化なし。
・・・実は<白式>を除けば最も<ラファール・レクイエム>と相性が良かった筈の機体。
この機体のレーザーライフルならAICも効かないのでBT兵器で足止めしつつロングレンジから狙撃し続ければ十分以上に対抗出来たのに弾幕に押されて本来の性能を発揮できないという不遇の展開に。
<イージスの鏡>というビーム無効化能力も手に入れてしまった今、<ラファール・レクイエム>に対し有効な手段をほぼ失ってしまった不遇の機体。
彼女に活躍の場はやってくるのか?


<甲龍>

鈴の専用機。原作と変化なし。


<シュヴァルツェア・レーゲン>

ラウラの専用機。原作と変化なし。


<紅椿>

箒の専用機。何気に<絢爛舞踏>が未発動のままだったりする。






[27133] 4-1:Summer Time・序
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:3f7ac6f3
Date: 2011/12/25 17:22
台風の目、という言葉がある。

暴風雨を撒き散らす台風もその中心部は凪の海のように穏やかな天候であり、雨風の影響を殆ど受けない現象からつけられた名だ。

篠ノ之束博士直々に開発された第4世代機<紅椿>の登場、そして<白式>と<ラファール・レクイエム>の2次形態移行というニュースはまさしく旋風を引き起こした。

IS委員会は早くも束博士の血縁であっても代表候補生でも何でもない立場上はただの学生である<紅椿>の操縦者である篠ノ之箒の立場に日々喧々諤々の議論を繰り返し、2次形態移行を果たした2機の開発元である倉持技研やデュノア社の株価は軒並み高騰。世界の経済バランスをも左右しかねない影響を与えていた。

IS学園にも世界中のマスコミ各社から織斑一夏とミシェル・デュノアへの取材依頼の申し込みが殺到。特に両者は世界に2人しか存在しない男性IS操縦者だけあって、幸か不幸か話題性は十分過ぎる。

それに関しては学校側が悲鳴を上げながら何とか突っぱねる事に成功しているが、下手をすれば勝手に学校の敷地内へ強行突破を試みかねない勢いだった。しかしその時は元世界最強の乙女である某教師が撃退して海に叩き込んでやる気満々だったので、マスコミ側は逆に運が良かったのかもしれない。

それからこちらは余談だが、友人として両者と接点がある赤毛の少年の家族が経営するとある食堂に取材を試みた者も存在したものの、こちらはあえなく飛んできた鉄鍋を食らって追い払われたという。







さて。

とどのつまり何が言いたいのかというと。


「・・・・・・暇だ」


己が一因として騒動が外界で巻き起こっているのもあまり気にする事もなく、当事者の片割れであるミシェルは1人学園の敷地内を歩き回っていた。

現在放課後。授業が終わってからの毎度恒例仲間内での自主訓練の時間なのだが、一応怪我人であるミシェルは激しい運動は厳禁と宣告されているせいで1人暇を持て余していたのだ。

最初はシャルロットや一夏達がISを使って動きまわっているのを見学したりイメージトレーニングでもしようかと考えはしたのだが、ミシェルは見かけどおりの体育会系である。ジッと見学しているだと身体が疼いて落ち着かず、渋々分かれて今に至る。

IS学園そのものが島1つ丸ごと使っているだけあって散歩する場所にも事欠かないが、ミシェルとしては飛んだり跳ねたり撃ちまくったり出来ないのがやっぱり不満だったリ。


「部屋に戻ってアニメの新作をチェックするか・・・・・・」


今まで自分が通って着た石畳の遊歩道を逆に辿り、アリーナの傍を通って学生寮へと向かうミシェル。その時、視界の端に入ってきたある存在があった。

それは各アリーナに隣接している建物の大きめの搬入口。電光表示の案内板には『IS整備室』。


「・・・・・・・・・そういえば戻って来てからキッチリとした点検整備をしてやっていなかったな」


2次形態移行を遂げたとはいえ、撃墜された当初はかなりの損傷を負っていたと聞いている。自己修復機能によるものか<銀の福音>に一夏共々再度立ち向かった際は問題無しだったものの、常識的に考えればしっかりとオーバーホールを行っておくべきだ。

ミシェルは扉をくぐって設備室へ足を踏み入れた。人気は無いがしっかりと冷房が利いていて空気がひんやりしている。薄暗い空間中に並ぶ機材の山、山、山。

デフォルトなのに常日頃から不機嫌そうな仏頂面に周囲から見えてしまうという難儀な顔立ちだが、内心ミシェルの感情はちょっと興奮気味だったりする。こういう工作機械とかが並んでいると無性にワクワクしてくる性質なのだ。だって男の子だもん。

こうしたいかにもな空間でいかにもな設備を使ってメカの塊であるISを1つ1つ丁寧にばらしていく。うん、中々ロマン溢れる光景だ。男ならメカ弄りに燃えなくてどうする。萌えでも許す。

ともかく、これだけの設備ならミシェル1人だけでもどうにかなるだろう。デュノア家の跡取りでありIS操縦者、何より個人的な趣味の観点からIS自体の機構などに関してもそれなりに詳しかったりする。実家の研究所で技術者に混じって中身を弄った事も度々ある。

まずはISを展開しなければ始まらない。専用のブース入ろうとしたその時、軽い何かを蹴っ飛ばす感触がした。

地面に視線を向ければ、空のペットボトル。

まったく自分のゴミは自分で始末するものだろうが、とゴミ箱を求めて視線を左右に巡らせたミシェルは何かに気付く。隣のブースの作業台の上に倒れ込んでいる人影。

どうやら先客が居たようだ。背中と後頭部しか見えないが制服からして同じ1年生。勿論女。当たり前か。

空のペットボトルを蹴り飛ばした際に結構な音量が響いた筈なのだが、少女はピクリとも動かない。寝ているのか、それとも――――


「・・・・・・もしもし」


近づいて声をかけてみる。反応無し。少女の髪の色は水色。それにしても水色の髪ってかなり珍しいというか地毛なのかそれとも染めているのか。前者なら流石2次元の世界と言わざるをえないいやいやそんな事考えてないで。

彼女の周りには購買で売っている菓子パンの空き袋が幾つも転がっていた。不意に少女の背中が震え、まず聞こえてきたのは呻き声。微妙に苦しそうだ。

すわ病人か。思わず人を呼ぶかそれよりも自分で運んだ方が速いか、などと判断し行動に移ろうとしたミシェルの前で、おもむろに作業台に突っ伏したまま少女が震える手を虚空に伸ばす。



くきゅう



「お・・・・・・・・・・・おなかすいたぁ・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


ミシェルの通信を受けたシャルロットが食べ物を持ってくるまであと3分。









「購買にはアンパンぐらいしか甘いのは残ってなかったけどこれで大丈夫かな?」

「・・・・・・十分だ、むしろ丁度良い。すまなかった、皆と訓練中に呼び出して」

「むしろ丁度良かったよ、解散して部屋に戻る所だったから」


とりあえず伸ばされたままの手にアンパンを持たせてみた。すると水色の少女はのっそりと上半身を起こすと、持たされたアンパンを少しづつ齧り出した。まるでリスかハムスターみたいな小動物っぽい食べ方だ。

しばらく手入れしていなかったのか、髪型が乱れ若干癖毛っぽい前髪が顔の上半分を隠してしまっている。ちゃんと前は見えているのだろうか。

はむはむもぐもぐもっきゅもっきゅ。思わず頭を撫でてやりたい衝動に駆られるシャルロット。初対面なんだから我慢しよう僕。

アンパンを半分近く食べ終えた頃、餡の糖分がようやく脳に巡って思考能力が戻ってきたらしい少女がまず手元のアンパンに目を落とし、次に周囲を見回し前髪を揺らしてから、


「はいこれ、飲み物もあるよ」

「・・・・・・ありがとう」


新たに手渡されたパック入り牛乳をチューゴクゴク。やっぱりアンパンには牛乳だよね。じゃなくて。


「・・・・・誰?」

「えっと、お腹が空いて倒れてるみたいだからってミシェルに呼ばれたんだ。あ、僕は1年1組のシャルロット・デュノアっていうんだ、よろしくね」

「よろしく・・・・・・」


顔はシャルロットの方を向いたが、本当に視界は確保できてるんだろうか不安だ。

ついでに彼女にはこの少女がミシェルに似ている気がした。主に喋り方が。『・・・』多用してるし。

少女がアンパンを食べ終えるまで更にしばし、紙パック入り牛乳も飲み乾してごちそうさまの挨拶までしてから。


「・・・・・・・・・?」


ようやく思考能力が完全に復旧したようだ。目元を隠す前髪を左右に整え視界を確保。顔を上げてみると、金髪の白人の少女がニコニコと笑っていた。更に視線を動かす。

金髪の少女の隣に立っている相手は頭が見えなかった。更に視線を上に埋め、胸板を通り過ぎて首、そして。


「・・・・・・・・??!?!??!?!?!????」


腰かけていた椅子ごと後ろへひっくり返った。声にならない悲鳴を漏らそうとして失敗しながら後ろへと逃れようとし、両手がまともに動かなくて更に失敗する。

まあ、いきなりそんな反応をされた理由も大体は見当がついていた。だって曲がり角とかで見知らぬ女性と鉢合わせしたりするとしょっちゅうされてる反応だし。


「お、犯される・・・・・・!」


でも流石に面と向かって言われるとちょっと泣きたくなる。どこぞの正義の味方みたいに血潮は鉄みたいに頑丈でも心はガラス並みなのだ。しくしく。




少女が落ち着くまで少々お待ち下さい。




「ご、ごめんなさい!・・・・・・心配してわざわざ食べ物まで持ってきてもらったのに・・・・・・!」

「いや、もう気にしていないさ・・・・・・慣れてるからな」

「そんな哀愁の籠った目で言われても説得力無いよミシェル」


それは言わないでやってくれシャルロット。

水色の行き倒れ少女(違)は更識簪(さらしき・かんざし)というそうな。2人にはなんとなく聞き覚えのある名だ。ちなみに眼鏡っ娘である。


「違う・・・・・・眼鏡じゃなくて携帯用ディスプレイ」


さいで。


「更識さんって確か、日本の代表候補生だよね」

「・・・・・・うん。専用機を持たない代表候補生だけど」


どことなく暗い感情の混じった声だった。代表候補生は国か企業のバックアップを受けれるという点から個人の専用機が与えられるのが当たり前だ。その辺りに含む物があるのだろう。

彼女が倒れていたブースには中身―操縦者が居ない状態で跪いている機体が鎮座している。


「それじゃあこれは?更識さんの機体じゃないの?」

「ううん、それは確かに私の機体・・・・・・だけどまだ未完成。だから持ってないのと変わらない」

「そうなんだ・・・・・・あ、ゴメン紹介が遅れたね。僕は1年1組のシャルロット・デュノアっていうんだ。それでこっちが――――」

「知ってる・・・・・・有名人だから」


確かにISに関わる者ならば世界で最初に発見された男性IS操縦者の事を知らなければモグリ以下であろう。


「・・・・・・それで、どうしてこんな所で死んでいたん」


ミシェルが口を開いて向き直った途端簪に小さく悲鳴を漏らされた。やっぱり泣いていい?


「ご、ごめんなさい!・・・・・・テレビや雑誌で顔は何度も見た事あるけど、直接近くで見てみるとやっぱり迫力が違うから・・・・・・」

「・・・・・・傷が無ければ、まだマシなんだろうか・・・・・・?」

「そんなに思い詰めなくていいんだよ!?僕はそのままでも全然気にしてないよ!むしろ似合ってると思うし!」


主に迫力の二乗的な意味で。あと空腹で死んでいた所にやって来てくれた上食べ物まで恵んでくれた人達にいい加減無礼な気がしないでもない。


「だけど・・・・・・ありがとう。わざわざ食べ物まで買って来てくれて。代金は、ちゃんと払うから」

「良いよ良いよ気にしないで。懐には余裕がある方だから」


これでも一応大企業の跡取り息子とその嫁なのである。実家の資産そのものを勝手に運用したりは出来ないが一応軍に所属しているので自前の口座に給料が月々振り込まれているし、軍や国の広告塔としての報酬も結構な額がミシェル個人にも支払われているので実は学校の教師陣よりも羽振りが良かったりする。

とはいえあまり知られていないが、この学園の教師達も大半がISに関わる極めて特殊な専門職の中でも実力者揃い―世界大会優勝者である千冬や元代表候補生だった山田先生が良い例だ―なのでかなりの高給取りだ。


「改めて聞くが・・・・・・空腹で倒れるまで何をしていたんだ?この様子だとかなり長い間ここに籠っていたように思えるんだが・・・・・・」

「・・・・・・だから、機体がまだ完成していないから自分で組み立ててた・・・・・・元々開発してた企業が別の機体の開発とかに人手が欲しいからって、私の機体の開発を勝手に凍結されたから・・・・・・」

「・・・・・・何という無責任」

「それはかなり酷いね・・・・・・それで、これがその機体なんだ。もしかしてこれって<打鉄>の発展型だったりするのかな?」

「うん、<打鉄弐式>・・・・・・堅実性と接近戦を重視した<打鉄>の汎用性を上げるってコンセプトで開発されてたんだけど・・・・・・」


装甲の形状やスラスターの配置に数など、原形の<打鉄>とはかなり違うデザインではあるがシャルロットは鋭く<打鉄>の後継機である事を見抜いてみせた。

シャルロットも<打鉄>と双璧を成す傑作量産機<ラファール・リヴァイヴ>の改良型を愛機とする人間だ。話を聞いている内にこの少女にシンパシーらしきものを抱き始めていた。

次第にあったばかりのこの少女を応援したい気持ちに駆られてくる。そうでなくとも心優しい彼女の事だ、こう提案するのも遅いか早いかの違いに過ぎなかっただろう。


「機体の組み立てをずっと1人でやってたの?」

「・・・・・・うん」

「そっかあ。だったら、僕に手伝わせてもらっても良いかな」

「えっ・・・・・・?」

「ずっと1人じゃ大変でしょ。実際お腹が減って倒れちゃう位根を詰めてたら更識さんの身体にも悪そうだし、誰かが手伝った方がもっと捗ると思うよ?」

「・・・・・・いい」


答えはNO。

2人から視線を外すと、空中投影ディスプレイを複数投影して作業を再開する。複数の画面に表示されたデータの内容を驚異的な処理速度で把握して修正を加えていく。

簪には『自分の機体を自分1人で実用レベルまで持っていく』という目的があった。猛烈な勢いでキーボードを叩く彼女の様子は2人からしてみれば執念すら漂わせていて、迂闊に近づく気にはなれない。

それでもシャルロットは尚も何か言おうとしたが、ミシェルの方が妻を止めた。黙って首を横に振って出入り口を指さす。

今は1人で集中させてやった方が良さそうだ。自分の用事は今日は断念する事にした。整備室を出てからシャルロットが口を開く。


「あの子、大丈夫なのかな」

「・・・・・・時々様子を見に行った方が良さそうだな」


見かけてしまった以上放っておく訳にもいかない。その辺りの思考は似ている夫婦だった。


「・・・・・・む?」

「どうかしたの?」

「いや・・・・・・誰かの視線を感じた気がしたんだが」
















それから数日間、放課後になる度整備室を覗いては鬼気迫る様子で作業を行っている簪の様子を観察するのが日課になり出した夏休み間近なある日の昼休み


「皆は夏休みは何か予定あったりするのか?」


唐突に一夏にそんな話題を振られる一同。

「私はイギリスに戻ってオルコット家としての職務や代表候補生として本国での様々な催しや仕事を行わなくてはなりませんの。個人的な用事も幾つかありますが」というのがセシリア。

「特にこれといった予定などは無いな。精々本国の部隊への定期連絡程度だ」はラウラ。鈴も似たようなものらしい。


「私は・・・・・・実家のお盆祭りの手伝いに出向こうかと思っているぐらいだな」

「そっか、そういえば箒の実家って神社だっけ」

「うむ、今は雪子叔母さんに管理をお願いしている」

「ジンジャとは確かキリスト教でいう教会的な位置づけの宗教施設と記憶していますが、もしかして箒さんはシスターだったのですか?」

「いやそれはちょっと違うと思うけど、でも箒って巫女とかもやった事ある筈だからシスターっていうのはあながち間違ってないのか?」

「そ、その辺りの事は説明し難いのだが、篠ノ之神社は神道ではなく土地神を奉る場所なのだから、キリスト教の様に唯一神を奉る教会とはまた別物というべきだろう。神聖な場所という点では大差無いだろうが」

「そうなのか。辺境の地ならともかく、このような先進国そういった風習は中々珍しいのではないか?」

「そうかもね、八百万って定義も日本以外じゃ全然知られてない定義だし」

「ヤオヨロズ?それってどういう意味なの?」

「・・・・・・簡単にいえば日本には沢山の神様が存在しているという考え方だ。長く大切に使われてきた物には魂が宿るという言い伝えから広まった考え方が日本には広まっているから、日本には唯一神を信仰している宗教は逆に広まりにくいらしい・・・・・・」


それほど熱心な信仰者ではないにせよ、ジーザスな大工の息子を唯一神と崇める某超巨大宗教の本場とも呼べる方面の生まれであるセシリアやシャルロット達にとっては目からウロコな話だった。


「逆に言えばいっぱい神様が居るんだからどの神様を信じたって良いんだよ、って話でもあるんだけどな」


もしくはどんな存在でも信仰する宗教であっても受け入れられやすい土台なのだとも言える。クリスマスを祝い年始めには神社へ初詣に行くのが当たり前、というのは日本人独特の風習なのだ。

極端な話、キリスト教とイスラム教に同時に入信したって日本じゃ然程気にされないかもしれない。

人種の違いだって似たようなものだ。日本ではユダヤ教徒のイスラエル人とイスラム教徒のパレスチナ人が同じ店で一緒に豚骨ラーメンを啜ってたって当人達が気にしない限り何時でもOKなのである。

その辺り、深読みかもしれないが世界中から多種多様な少女達を集めて育てる為のIS学園を日本に作ったのもそういった土台が根付いていたからかもしれない。海外の人種差別運動と比べれば日本国内でのそれなど可愛いものだ。


「うむむ、嫁の生まれ故郷というのは奥が深いのだな。流石織斑教官の故郷でもある」

「だからいい加減一夏を嫁って呼ぶの止めなさい。一夏はラウラの嫁じゃなくて『私』と『箒』の『旦那様』なのよ、分かる!?」

「ふっ、問題あるまい。あくまでそれはお前達2人が一夏の嫁であるのであって一夏が私の嫁となる事に支障はない!」

「「あるわっ!!」」

「ちょっとお待ちになって、私もまだまだ諦めておりませんわよ!?ここまでくれば本妻の座はいい加減諦めましたが、愛人の座はまだまだ譲れませんわ!」

「「愛人もダメ!というか愛人の座も与えてないし譲ってもいない!」」

「4人とも落ち着けって、ここ食堂だから!ほら皆も見てるし何人か怖い顔してるし先生とかも混じってるし大体何度も言ってるけど俺は箒と鈴以外もうそんな気は無いんだからいい加減諦めてくれよ!?」

「「 だ が 断 る 」」

「「断るなっ!!」」

「ISまで起動するなー!!!」



ジャキッ!←炸薬を装填する音



「ねえ皆、食事中なんだしこれ以上周りの迷惑にならない様静かに食べようね?

「「「「「は、はひ・・・・・・」」」」」


安全装置解除済みの<灰色の鱗殻>を左手に掲げながら笑ってる筈なのに全然笑ってないシャルロットの一言に、一斉に消沈してISを待機状態に戻す少女達。

――――――シャルロット・デュノア、スキル『コロす笑み』所有。






「そ、そういえばミシェルとシャルロットもやっぱり夏休みは用事あるのか?」

「・・・・・・一応な。セシリアと似たようなもので、学園に戻って来るまでスケジュールは満杯だ。機体のデータ取りだの実家や軍の広報だの・・・・・・」

「臨海学校でミシェルの機体が第2形態になったからね。まだ試作段階の機体が多い第3世代機の中でも特に2次形態移行した機体ってかなり珍しいから、とにかく取れるだけのデータを取り直したいだろうし、開発した企業や所属してる国への評価もかなり違ってくるからそういった事情もあると思うよ」

「なんといってもミシェルさんも代表候補生として国を背負う立場にありますもの、当たり前の事ですわ」

「私だってモデルとして写真撮影やらされた時もあったしね」

「へー、代表候補生って大変なんだな」


能天気に感想を漏らした一夏だったが、じろりとミシェルが鋭い目つきが一夏に向く。


「・・・・・・それを言うなら一夏もそういった仕事をやらされてもおかしくなさそうなんだが」

「え?俺も?」

「そうだな、嫁の機体も第2形態に移行してみせたのだ。開発企業辺りが休み中にデータ取りに押し掛けてきてもおかしくないのではないか?」

「げ、マジか。今年も稲葉先生の所に修行に行ったり家の掃除したりって予定立ててたんだけど」

「一応千冬さんや山田先生にそのような予定が入っていないか確認をとっておいたらどうだ?」

「そうだな、一応千冬姉に聞いとく」

「「(それに空いてる日が分かったらこちらも予定を合わせるまでだしな/ね)」」

「今不埒な考えが過ぎった気がしたのですけれど・・・・・・」


まあ休みを恋人と共に過ごしたいというのは当たり前の考えだろうから、箒と鈴の思考は然程間違ってはいまい。


「まあ日本でも用事があるからさっさと向こうでの仕事は済ませて月の半ばには戻りたいとは考えているが・・・・・・む?」

「あ、更識さんだ」


カウンターの方から昼食の載ったトレイを持ってこっちの方に近づいてくる簪の姿に気付いたミシェルとシャルロットは言葉を漏らした。

簪を知らない他の少女達と一夏を余所に、シャルロットが立ち上がりながら一緒に食べないかと声をかける。

シャルロットの存在に気付いた簪は僅かに嬉しそうな笑みを浮かべた。が、シャルロットを視界に収めると同時に捉えてしまった存在―――――皆と同じように簪の方に顔を向けた一夏に気付いた途端、すぐさま顔を強張らせてUターン。シャルロット達とは反対方向へ去ってしまう。

少女達は簪の反応に対ししばし顔を見合わせてから、白い視線を一夏へと注ぐ。

浮気した夫を見るかのような視線に思わずたじろぐ一夏。特に箒と鈴の視線が実際に針で突かれてるみたいに痛いのなんの。


「吐け一夏。またぞろ私達の見ていない所であの少女に不埒な振る舞いでもしたのだろう!」

「してねぇよ!?つかあの子が誰なのかも知らないし!」

「一夏が気付いてないだけでまた性懲りもなくフラグ立てた子なんじゃないの!」

「いやなんだよフラグって!?」


止めて真剣首に押し当てないで青龍刀展開しないで俺は無実だー!とNice Boat.2歩手前ぐらいに追い詰められた一夏に差し伸べられる救いの手。


「落ち着け2人共・・・・・・彼女は『別口』だ。いや、一夏が原因なのはある意味間違ってはいないが・・・・・・」


どっちやねん、と切実に叫びたい一夏だがもはや叫ぶ時の喉の動きだけで切れちゃいそうな位刃が押しつけられているので代わりに目で抗議。


「そういえば<白式>も<打鉄弐型>もどっちも倉持技研製だっけ・・・・・・」


シャルロットも重い声で合点がいったと呟くが、周りは状況を掴めないまま。


「何の話ですの?」

「あのね、さっきの子は更識簪さんっていうんだけど――――一夏の<白式>を作る為に、先に開発される筈だった彼女の専用機の方が後回しにされて、結局ほったらかしにされちゃったらしいんだ」

「――――――え?」








様々な思いや火種を孕んだまま、IS学園の夏休みが始まる。
















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早く書く事はできたんですがネットが出来ない分十分に調べながら書けないのが困りものですorz
根暗妹登場。姉はまだ出ません。だってああいう天邪鬼キャラ書くの苦手なので(殴

どんな感想・批評でもお待ちしております。



[27133] 4-2:Summer Time・ある夫婦+αの場合
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:3f7ac6f3
Date: 2011/09/26 17:44
※前半、別作品のキャラが登場しますので苦手な方は要注意


















<帰郷>




広々と冴え渡る青空と、その中に程々に漂う白い雲。その下に広がるのは広大な農地。色とりどりの作物や花が鮮やかに地上を彩っている。

実家から借りてきた車―――国産車、つまりフランスの大手車会社が発売しているSUVの最高級モデルの車体に寄りかかりながら宙を見上げていたミシェルは、思わず煙草が欲しくなってしまった。

彼自身煙草は吸わないが、人を待ちながら絵画から切り取ったような風景を眺めているというシチュエーションに酔ってしまったのだろう。生まれ変わってからあまり欲しいとは思わなくなっていたのだが。

フランスの夏は海に囲まれた島国である日本のそれよりもかなり爽やかで、体感温度もそれほど暑く感じない。時折風が吹けば逆にひんやりと感じてしまうほどでとても過ごしやすい気候だ。

視線を上から本来の目線と同じ高さに戻して首を巡らせてみると、丁度建物の裏手から待ち人が現れる所だった。

自分の妻、シャルロット・デュノアが年老いたシスターに別れの挨拶のキス(もちろん頬)を交わし、ハグもしてから修道院から離れてミシェルの元へやってくる。

透き通るような紫の目が今は赤く充血しているのを見逃す筈もない。

それでもシャルロットはミシェルに笑いかけながら「待たせてゴメンね。それじゃあ行こうか」と助手席に乗り込む。敢えてミシェルも何も言わずに運転席へ。




都市部からそれなりに離れた距離に位置する農業地帯のとある田舎町。

ここがシャルロットの生まれ故郷であり―――――2年前に病死した彼女の母親が眠る土地だ。











「・・・・・・大丈夫か?せっかくシャルロットの故郷に戻ってきたんだ、他にも知り合いの所に回っても構わないんだが・・・・・・」

「ううん、ミシェルが気を遣ってくれなくても大丈夫。お母さんのお墓参りは済んだし、明日には日本に戻るんだから早めに帰った方が良いと思うよ」


これでもIS学園から戻ってからのフランス本国での用事―2次形態移行したミシェルの機体のデータ取りや2人の専用機のオーバーホール、デュノア社の跡取りとしての仕事や国と会社と軍の広告塔としての取材や代表候補生としての報告etc―を大急ぎで済ませて、無理矢理時間を空けてわざわざ遠く離れたシャルロットの故郷まではるばるやって来たのだ。

自家用ヘリでも使えばもっと速く行き来出来たに違いないが、それはシャルロットの『近所迷惑』とのお言葉で却下。尚、この地域では民家1軒につき隣の家まで数kmは離れている。

ちなみにミシェルはフランス代表候補生兼世界で最初の男性IS操縦者としての特権により、全世界で有効な乗り物の操縦免許を与えられていた。なので日本でも車は運転出来るし軍での訓練も積んでいるので戦闘ヘリだって操縦できる。流石にラウラの様に戦闘機までは無理だが。

地平線の彼方まで広がる農地を貫くハイウェイをそれなりの速度で突っ走る2人のSUV。


「でもまさか、この年で旦那様を連れて故郷に帰るなんて昔は全然想像してなかったなぁ」


車の窓(防弾ガラス)越しに延々と続く似たり寄ったりな風景を懐かしさの混じった眼で眺めていたシャルロットがふとそんな言葉を漏らした。


「・・・・・・実を言うと、俺もこの年で出会ったその日にプロポーズする事になるなんて全く思っていなかった」

「お互いさま、かな?本当は兄妹なのに、どんどんお互いに夢中になっちゃったもんね」


お母さんが生きてたら、何て思ったかな?

一様に沈黙してしまう2人。


「・・・・・・後悔しているか?」

「それはむしろ僕が聞きたいくらいだよ・・・・・・愛人の娘なのに、こんなに幸せで、大事にしてもらっていいのかなって今でもたまに、不安になるんだ」

「・・・・・・今更だな」

「やっぱりそう思う?」

「ああ・・・・・・先に惚れたのは俺の方なんだ。その時から俺は、どんな事をしてでも俺はシャルロットを幸せにすると誓ったし、どんな事を言われようともシャルロットを愛し続けるとも決めた・・・・・・1人の男として、な」

「そんな恥ずかしい事をあっさり真面目に言ってくるのは反則だよぉ・・・・・・」


不機嫌そうに口を尖らせるシャルロットではあるが、顔は赤いし声色も心底嬉しそうでちっとも不機嫌そうには見えない。


「・・・・・・まあ、紛う事無き本心だからな。シャルロットにしかこんな事は言えん」

「へにゅう」


そして更に赤くなる。






土地柄真っ直ぐな直線ばかりの道のりとはいえ、片道を100km単位を走破してきた事で疲れと空腹を感じてきた2人は、少し離れた国道沿いにあるガソリンスタンドに立ち寄る事にした。

海外のこういった地域のガソリンスタンドは、地続きの国境を越えて長距離を運転するドライバーやトラック運転手向けに飲食店や雑貨屋も兼任しているのが珍しくない。

特に田舎町のこの地域ではやって来る客が顔見知りなのも珍しくないらしい。

つまり何が言いたいのかといえば、2人が立ち寄ったガソリンスタンドの店主はシャルロットの顔見知りだった。何でも彼女が母親と暮らしていた頃は時折纏めて注文された品物を家まで運んできてもらっていたのだとか。小さい頃からお世話になっていたそうな。

食堂と雑貨屋を兼ねたガソリンスタンドを経営している老夫婦はシャルロットに気付くなり強烈なハグで出迎えた。でもってミシェルも自己紹介。

元から傭兵かマフィアにしか見えない位険呑な顔立ちな上大きな傷跡が走っているにもかかわらず、老夫婦は実に友好的にミシェルにも接してきた。ちょっと泣きそうになった。

既に籍まで入れていると聞かされては驚きはしたものの、背中を強烈に叩かれながら「是非この子を幸せにしてくれ」とミシェルは頼まれた。言われるまでもない。


「にしても驚いたな、シャルロットほど可愛い娘なら同年代の男子もほっとかないだろうに」

「えーっと、ミシェルは僕と同い年ですよ?」


信じてもらえなかった。別の意味でまた泣きそうになった。




「やあやあ、今年もお世話になりに来ました!」


どもーおひさー。あー腹減ったー。お前何食う?

急に何人ものお客が入って来てワイワイガヤガヤ騒がしくなる店内。彼らもやはりここの常連なようなのだが、何だか声に聞き覚えが。


「ああいらっしゃい。今年も来たのかい?そろそろだと思って新しい商品も仕入れて――――」

「・・・・・・ココさん?」

「んっ?おおっ、何とミシェル君ではないか!久しぶりだねーいま日本に居るんじゃなかったのかい?」


ミシェルが声をかけるなり、銀というよりは白金色の長髪に白のビジネススタイルの格好に身を包んだ女性が近づいてきてミシェルの方を何度も叩く。2人のやり取りを聞きつけた女性のお仲間達もゾロゾロとやってくるなり驚きと喜びの声を上げ始めた。

ココと呼ばれた女性を入れて8人。白人も居れば黒人も居るしアジア系も居る。アジア系は東南アジア系の中年男性と最早身慣れた日本人らしき眼鏡をかけた青年。ミシェル並みに体格が良い坊主頭の男性も居ればおかっぱ頭の驚くほど巨乳の女性まで混じっていた。

しかし、白い女性も含め全員シャルロットの知らない相手である。気がつくと話から押し出され1人取り残されていた。少し気まずい。と、着ていたワンピースの裾を引っ張られる感触。

何時の間にか彼女の隣に幾分シャルロットよりかは低い背丈の少年の姿。ラウラよりもややくすんだ銀の短髪に浅黒い肌。その顔は無表情なように見えて興味深そうにシャルロットを見つめている。


「・・・・・・ミシェルの知り合い?」

「う、うん。一応そうだけど、君は?」

「僕はヨナ。僕は君を知らない」


そんな会話をしていると白の女性がシャルロットにも話しかける。もっと年下の様な明るく無邪気な笑顔。


「おやおや、そちらは既に親交を深めているみたいだね。初めまして、というべきかな?ココ・ヘクマティアルというものだ。貴女がミシェルの細君であるシャルロット・デュノアでよろしいかな?」

「は、はいその通りです」


年上で初対面とあって礼儀正しく頭を下げる。ココの後ろから次々顔を覗かせてくる彼女の仲間達。


「おおっ、テレビで見るよりも可愛い子じゃん。何処で捕まえたんだよ」

「ルツ!初対面の女の子に失礼ですよ!それに彼女はとっくに彼のお嫁さんなんですから不埒な真似は許しませんからね!トージョにアールも肝に命じておいてください!」

「姉御、俺まだ何も話しかけてすらいないのに酷くね?」

「そうそう、人妻なんだから弁えてますって」

「にしても前にも増して厳めしいツラしてんなあミシェル君。どうにかならんのかね?」

「・・・・・・努力はしているんですが」

「初めましてだねシャルロットさん。私はマオ、こちらの彼はワイリで、この部隊一大きいのがウゴという名前だ。よろしく頼むよ」

「よろしく!」

「よろしく」

「あ、はい、シャルロット・デュノアっていいます。よろしくお願いしますね」


なし崩し的に皆で食事を取る事になりました。

ココは所謂武器商人。デュノア社のような生産側ではなく世界中を回って『商品』を売り歩くタイプで、ヨナ達はそんな彼女の護衛。

なんでも何年か前に仕事関係の催しにて父親と共に出席していたミシェルと知り合い、彼からの頼みでココの護衛の皆さんがミシェルに銃の扱い方などをトレーニングしたそうな。

今回この店にやって来たのは年に1~2度この先にある私有地に設けた訓練場を利用する度、この店で食事や物資の補充を行っていたかららしい。


「フフーフ、もしかすると彼女とも知らない間にこの店で会っていたかもしれないね」




人生、どんな時に道が交差しているか分からないものである。














<子連れデート?>




それは日本に戻って来てすぐの、とある土曜日。

買い物に行こう、と急にシャルロットに提案された。


「・・・・・・いきなりだな」

「だってラウラってば着る物とか全然持ってないんだよ?精々制服か軍服ぐらいしかなかったし、パジャマだって持ってないから寝る時は何時も裸だし」

「・・・・・・確かにそれは流石に、な」


クラリッサ辺りが隊長の持ち物の準備にかこつけてゴスロリドレスでも忍ばせていてもおかしくなさそうだったんだが。

これはいけない、という訳でラウラを連れて街へ向かう。その際ラウラが軍服で部屋から出てきたので慌てて制服に着換えさせたがそれはともかく。

本来3人がけのバスの座席もミシェルのあまりの巨体に3人並んで座るのは無理そうだったので最後尾の席へ。すると周辺の座席から乗客が居なくなってしまい、ミシェル達と他の乗客との間に数列分の空白地帯が形成される。

これって最早いじめのレベルじゃなかろうか。心に傷を負いシャルロットに慰められて癒やされるミシェル。そして周辺に乗客が近づかない事に頭を傾げるのはラウラ。

ちなみに今日のシャルロットは白と水色を基調とした薄手のワンピースで着飾っており、大きく盛り上がった胸元の布地と白く深い谷間は健全な男子学生には目の毒な事極まりないに違いない。

ミシェルはというと、カーゴパンツに黒のポロシャツと落ち着いた服装。顔の造形と体格のせいで今時の若者の格好が似合わないので私服では大体こんな感じだ。腰元には大型のウエストポーチに偽装したホルスターに拳銃と予備弾倉。

加えて夏休みでオフなんだし目立つ傷跡を隠そうと色付きのシューティンググラスをかけて目元を隠しているのだが――――ぶっちゃけ効果無し。いい所休暇で街に出てきた在日米軍の鬼軍曹にしか見えないし、周囲からもそう見られている事に気付いていないのは本人のみ。

そのくせ同行しているのが見た目麗しき金と銀の美少女なのだから、事情を知らない周りからしてみれば・・・・・・親子にしか見えない。ミシェルが父親でシャルロットとラウラが娘。母親はどうした。

ラウラが大きくカスタムされているとはいえIS学園の制服を着ているせいで、周囲は尚更混乱してしまっているのに3人は誰も気付かない。




ともかくバスに揺られて目的地の駅前に到着し、2m近い図体には小さ過ぎるバスの乗降口で頭をぶつけつつ駅前のデパートの中へ。

この中で最もファッションに詳しい年頃の少女代表であるシャルロットの意見を受け、上から順に服を見て回る事になった。


「・・・・・・人が多いな」

「他の学校も夏休みだしね。皆も遊びに来てるんだと思うよ」

「ううむ。ここはこれだけ人の出入りが激しいにもかかわらず警備の数が少な過ぎるのではないか?無差別テロでも起きようものなら混乱した民衆の流れを到底制御できないぞ」

「・・・・・・まあ日本だから仕方ない」


バッグが放置されていたって不審物ではなく置き引きもせず、落し物だと考えて届け出るのが日本人クオリティ。


「あのさ、はぐれないように手を繋いでいこっか」


この人ごみだ。ミシェルは全く問題ないだろうが、一旦ラウラが呑まれてしまえば目立つ頭をしていても背丈の問題で探すのは困難になるだろう。シャルロットも小柄な方だから下手すれば彼女もそうなる可能性がある。

ラウラがミシェルとシャルロットに挟まれる形で手を繋ぐ。鬼軍曹とグラビアアイドル顔負けの美少女に挟まれるより小柄な少女。正直目立つ。


「・・・・・・そういえば、こういう風に手を繋ぐのって何だか親子みたいだね」

「そうなのか?一般家庭の親子というのはこんな風に手を繋いだりするものなのか?」


ラウラが不思議そうに聞いた。

母親が亡くなるまではフランスの片田舎で2人暮らしだったので実際にシャルロットがそんな経験をした事は無い。ミシェルも家族で揃って買い物や遊園地に行くような家庭でもなかったから、こちらもそんな覚えは無いし、ラウラは試験管ベイビーでそもそも家族のふれあいそのものすら知らない。

様々な意味で目立つ容姿も相まって周りからはそう想像し難いかもしれないが・・・・・・シャルロットの言う通り、全く似てはいないが一応親子連れに見えなくは無い、のかもしれない。

そう考えてみた瞬間、無性に嬉しくなってシャルロットは思わず笑み崩れた。如何にも幸せいっぱいですといった感じにふにゃふにゃした笑顔である。


「んーふふー♪親子、ミシェルとラウラで親子かぁ。えへへー♪」

「よく分からないがやけに嬉しそうだなシャルロットは」

「・・・・・・だが悪い気はしないな・・・・・・ラウラが娘というのも決して悪くはない」


やっぱり良く分からないといった様子で首を捻っているラウラの小さな頭に手を置きながら、ミシェルも唇を薄く笑みの形に歪めるのだった。ラウラもそうされても満更そうではない。

まずは7階は『サード・サーフィス』という名の店を訪れた。店中お客はやはり女子ばかり。早くも帰りたくなってきたのはミシェル。

何故ならば、ミシェルの存在に気付くなり揃いも揃って顔を引き攣らせて、中にはミシェルを見るや否や小さく悲鳴を上げて逃げ出す少女も居るのだ。思いっきり失礼ではあるが今の風潮は女尊男卑、悪いのはミシェルの方と思われやすいのが何とも世知辛い。

だが中には彼と共に手を繋ぐラウラやシャルロットの方に強く興味を惹かれて見惚れている女性客も多く居た。同性を魅了するぐらい2人の少女は美しいのだ。

現に店長らしきパンツスーツ姿の女性が夢遊病みたいな顔と足取りで3人の元までやってきた。彼女の視線はシャルロットとラウラに固定されていてその後ろにミシェルに気付いているのかいないのか。


「ど、どっ、どんな服をお探しで?」

「・・・・・・とりあえず彼女に似合いそうな服を見繕って欲しい」

「こ、こちらの銀髪の方ですね!はい喜んで!」


注文通りラウラに似合いそうな服をあれこれ持ってくる店長に対し、シャルロットがあーだこーだと意見を挟む。

2人が降ってくる感想などを適当に受け流そうとしてシャルロットに封じ込められるラウラをぼんやり眺めつつ、ミシェルは所在なさげにぐるりと店内を見回した。店内の女性描くと目が合った途端勢い良く目を逸らされるのは傷つくのでご遠慮願います。

ハイテンションなシャルロットと店長、その2人から矢継ぎ早に意見を聞かれたり着せ替え人形にされていくラウラ。スマンが俺は役に立てそうもない。密かに合掌。

それにしてもやはり、若い女子―そういえば俺も実年齢は立派なオヤジか、とちょっとしみじみ―が主な客層の専門店なだけあって、様々なカジュアルな服が所狭しと並んでいる。落ち着いたデザインのものから派手派手な羽を広げた孔雀みたいな奇抜な服まで取り揃えられていた。

シャルロットはラウラに夢中になってるけど自分の服も買うつもりは無いんだろうか?あの服も結構似合いそうなんだが・・・・・・等と考えていると。

『それ』が目に留まった。


「ん?どうかしたのミシェル」


肩を叩かれたシャルロットと、ついでに彼女に釣られて振り向いた店の店長の前に差し出された物。

それは黒いドレスだった。もっと正確に言えば、フリルとか羽根とかいっぱい付いたゴスロリ服だった。黒のフリル付きカチューシャのおまけつき。

シャルロットと店長、しばし顔を見合わせ。


「「ナイス!」」b


満面の笑顔で同時に親指を立てた。仲良いなオイ。

何故ミシェルがこの服を選んだかといえば、単純に彼なりにラウラに似合うと思ったからだ。

ラウラといえば黒である。銀色の髪も特徴的だが、軍服も黒、ISも黒、眼帯も黒、ついでに言えば部隊名まで黒が入ってるとくればラウラのパーソナルカラーとくれば黒しかあるまい。

それに長い銀髪に黒のゴスロリドレスときたら先駆者が居るではないか。アニメで胸が特盛りに描写されてしまったせいで姉妹達の中でただ1人巨乳キャラとして世間に定着されてしまった某薔薇人形が。

微妙にキャラが被っている以上ラウラには似合わないなんて道理がある筈無い。


「ねえねえこれ着てみてよラウラ!絶対似合うから!きっとすっごく可愛いよ!」

「か、可愛い?本当にこれを着れば、かっ、可愛くなるのか?」


手渡されたラウラも満更ではなさそうなご様子。彼女の脳内ではフリフリのゴスロリ服を着飾った自分に「可愛いよラウラ」と愛でてくれる一夏の妄想が繰り広げられた。

数分後、そこには指示された通り黒のゴスロリドレスに身を包んだラウラの姿が。

黒と銀。黒の布地が銀そのものをより合わせたかのような美しい長髪を引き立たせ、ラウラそのものの造形が人形の様に整っているお陰でもはやその美しさは神秘的ですらある。なにせ他の女性客までゴスロリ姿のラウラを一目見ようと集まって来ている程だ。携帯のカメラで記録に収めている者も多数あり。


「か~~~~~わ~~~~~い~~~~~い~~~~~~!お、お持ち帰りぃ~~~~~~!」

「・・・・・・落ち着いてくれシャルロット。どっちにしたって帰る先は同じ学生寮だぞ」

「あーもー!ねえねえラウラ、本当にこのまま僕らの所の家に来ない?この可愛さは反則だよ!!」


ダメだこりゃ話全然聞いてねえ。このシャルロットの反応は流石のラウラも白磁の肌を赤く染めて、恥ずかしいやら嬉しいやらが入り混じった微妙な表情を浮かべてしまっている。

もはや一緒に写真を撮らせて欲しいだなんてお願いをしてくる女性客の群れにより、ミシェルは人だかりの外へと弾き出されてしまった。

彼はもう1回小さく溜息を吐き出したものの、慌てず騒がず傍に居た店員にクレジットカードを渡す。


「・・・・・・あの服、お幾らで」


お買い上げありがとうございます。











「うーん、かなり時間を取られちゃったけどまだ大丈夫そうだね。他の店にも行こっか」

「服はあの店でもう充分な量を買ったと思うのだが」

「あれだけじゃまだ足りないよー。それにラウラも女の子なんだからもっと大事なのも買わなきゃいけないでしょ」

「大事な物?」

「・・・・・・おい、この店は、まさか―――――」

「ほら、下着だって軍の官給品だけじゃなくてちゃんとした予備も多めに有った方が良いよ。僕もまたブラのサイズが小さくなってきた所だし、ねえミシェル、ミシェルはどんなデザインのブラが好き?」




――――みしぇる は にげだした!

しかし よめからは にげられない!









==============================================

やっつけ感漂っててさーせん。
やっぱりネットで逐一調べながらでないと色々間違ってそうで怖い・・・・・・早くパソコン元通りにならんだろうか。



[27133] 4-3:Summer Time・トライアングラー+αの場合(???追加)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:3f7ac6f3
Date: 2011/12/25 17:24
<ニコイチでGO!>









夏休みに入ってめっきりと使用者が減少したIS学園の剣道場に鋭い風斬り音が唱和する。

発生源である2人の男女、一夏と箒の剣道着は既に大量の汗を擦って重く湿り、額にはどちらも大粒の汗が浮かんでいる姿が今までどれだけの鍛錬を続けてきたのかを証明している。

だが振られる木刀の軌道には寸分のブレも生じていない。お互い何年も同じ事を続けてきたのだ、この程度は文字通り朝飯前なのである。


「「・・・・・・196、197、198、199、にひゃくっ!!」」


素振りを終えた2人はようやく木刀を置いて、壁際に置いてあるタオルで汗を拭いスポーツドリンクで喉を潤す2人。

スポーツドリンクは早朝から剣道場に籠もる暑さのせいで生温くなっていて丁度一夏好みだった。適度な疲労感が心地良い。

ついでに言うと、タオルとスポーツドリンクの傍にはぴょんぴょんとツインテールを備えた物体が転がっていたりする。


「やっと終わったの~・・・・・・?」

「悪いな鈴、待たせちまって。でも暑いんなら無理しないで自分の部屋で待ってても良かったんだぞ?」


朝から暑さでグロッキーな鈴にそう突っ込む一夏だが、暇さえあれば恋人の傍に居たいという女心にゃこれっぽっちも気付いていなかったりするのが一夏たる所以。


「あーもーっ!どうして毎度毎度この国の夏はこんなにクソ暑いのよー!」

「やはり中国の夏はこことは大きく違うものなのか?」

「少なくとも日本ほどジメジメムシムシしてないわね。地方や場所によっては砂埃とかスモッグとかで凄い所があるけど」

「場所の問題もあるんじゃないか?ここって周りが海だからその分空気が湿気てる感じだし」


なにせ距離的には本土からそれほど離れていないしモノレールで繋がっているとはいえ、実質的に海の孤島なのである。意外と海や気象の変化の影響も受けやすい。


「とにかく2人のトレーニングも終わったんだし、さっさと着替えて出かけるわよ。せっかく高い金出してチケットを買ったんだから、早く行って楽しまなきゃ損ってもんよ!」


そう、今日は3人で遊びに行く予定なのだ。その為に鈴は毎日行っている2人の朝の鍛錬をわざわざ見物してまで待っていたのである。


「名前は確か・・・・・・ウォーターワールドという地名だったな」

「そ、今月出来たばっかりなんだけどすっごい人気で、前売り券手に入れるのも苦労したんだから。感謝しなさいよね、一夏」

「って俺なのかよ。いや、わざわざ誘ってチケットまで買ってくれたのは嬉しいけどさ・・・・・・」

「大体ね、こういうのは男の方から普通誘うものなのよ?他のカップルとかだったら彼女から愛想尽かされたってもおかしくないんだから、恋人同士っていうのはこうやって絆を深めていくもんなの。分かる?」

「うむ、鈴の言っている事は正しいと私も思うぞ。一夏にはそこの所の心配りがイマイチ足りん」

「肝に命じておきます・・・・・・」


甲斐性無しと遠回しに言われて一夏はガックリ肩を落とす。どーせ俺はトーヘンボクで朴念仁ですよーだ。


「でも良かったよな、予定されてた<白式>のデータ取りが変更になって。でなきゃ今日のチケットが無駄になってた所だもんな」

「(・・・・・・そういえば千冬さんにその日一夏と一緒に遊びに行くって伝えに行った時)」

「(急に何処かに電話をかけ出したのだったな・・・・・・)」


真相は闇の中だ。








さてやってきましたウォーターワールド。

当日チケットも2時間待ちというだけあって中々の盛況ぶりである。男の特権としてぱぱっと水着に着替え終えた一夏は更衣室の出口で出てこない恋人達の登場を待っている所だ。

一夏の水着は臨海学校の時と同じ黒のトランクスタイプ。ミシェルの様な分かりやすい筋骨隆々といった身体つきではないが、その分可能な限り引き締められた密度の高い筋肉が全身を形作り、古代ギリシャの彫像の様な芸術的な美しさを感じさせるプロポーションである。勿論一夏にそんな自覚は無い。

女子更衣室から出てくる10代20代の女性の注目を悉く集めている事にこれっぽっちも気付かないまま、暇を持て余した一夏がぼんやりしていると。


「いーちかっ♪」

「うおっ。危ねーなぁ鈴。でも相変わらず水着になると飛びついてくるのな」


むにむにぷにぷに、身体中に当たる鈴のこれぞ餅肌といった風情の感触に最近めっきり暴走しがちな男としての衝動を抑え込みつつ、ひっついてくる鈴の身体を支える。


「んー、どっちかっていえばこうやって一夏とくっつくのが私は好きなんだけど」

「・・・・・・そんな風に正直に言われるとむしろ凄っげー恥ずかしいんだけど」

「―――――一夏は嫌?」

「いいや俺も大好きだ」


即答である。ついでに言えば捨てられた子猫のような瞳でそんな事を聞くのは反則だと思う。


「あれ?その水着、臨海学校の時と違うくないか?」

「そ、新しいヤツ。ご感想は?」

「うん、鈴によく似合ってて可愛いと思うぞ」

「えへへー♪」


とっくに周囲から送られてくる視線には険呑な気配が多数含まれていた。主に男性陣。

そこへ更に燃える男(一部女性含む)の嫉妬心にガソリンタンクが投じられた。もしくはダイナマイトか。


「ま、待たせたな2人共」

「ほう――――――」


沈黙。口を半開きにして固まっているのは一夏だけでなく、鈴もであった。

いきなり固まった2人に原因が分からず戸惑う箒。


「どうかしたのか?」


三角ビキニである。色は臨海学校の時の物とは正反対の黒。余計な装飾の無いごくごくシンプルなデザイン。分かりやすくいうならば原作4巻でセシリアが身に付けていた水着とほぼ相違無い。

駄菓子菓子。ではなくだがしかし。

とにかく布地の面積が少ないのだ。大体鈴の掌よりも一回りぐらい小さい面積。大事な頂点周辺を隠せているぐらいで、一夏の恋人になってから急成長の度合い激しい真っ白な乳房の大部分が露わになっている程。今にも紐が限界を迎えて水着が落ちやしないか心配になってくる。

下は下で布面積は似たようなものだし、何より股間部分への食い込みが半端ない。こちらも後ろに回れば桃の様な尻肉がまんべんなく一夏の前に曝け出されるに違いない。

前から見ても後ろから見ても横から見ても、あまりに刺激が強過ぎる。ある意味、裸よりも過激な格好だ。

あまりにもあんまりすぎて、野郎どもの嫉妬心が爆発を通り越して一気に鎮火してしまう。これを爆破消火という。






箒の水着姿を目撃した男性達は一様にこう思う―――――あれって、もしかして露出プレイじゃね?






「その、だな、前よりも『少し』大胆な物を選んでみたのだが、似合っているか?」


もはや似合うとかそういうレベルの問題ではない。

怖い位に無表情になった一夏と鈴は無言でアイコンタクト。重々しく頷き合うと、箒の両腕を左右からがっちりホールドし、箒ごとプールへと猛ダッシュ。一夏の方は股間が微妙に突っ張っていたが完全に無視。


「「時と場所を考えろ~~~~~~!!!!」」

「そこの人達ー、危険ですので走ってプールに飛び込まないで下さーい!」


監視員の警告を背中に受けながら、一夏と鈴は水中に潜る事で箒の過激な水着姿を目立たなくする事に成功したのであった。




「だからさ、男としちゃそれは嬉しいぞ?でもさ、こんな人前でそんな格好されたら箒だって恥ずかしいし、俺だって俺以外の男に箒のエロい姿見られるのも嫌なんだからな」

「め、面目ない。というか、今になって私も恥ずかしくなってきた。一夏以外の男達の前でこのような破廉恥な姿を晒してしまうなんて・・・・・・」

「暑さに頭をやられた事にしておきましょ・・・・・・でも一体何時の間にそんな過激なの買ってたのよ」

「姉さんに今度一夏達とまた泳ぎに行くと話をしたら送られてきたんだ」


何考えてはるんですか束さん。妹が間違った道に進みそうになってますよ。

天災って考えてる事が分からないわ、と鈴は頭を抱え、一夏は姉妹の仲がそんな会話を交わすぐらい良くなっている事を純粋に喜びつつ、箒の姉がこれまでの事件の黒幕である推測を思い出し心が淀むのを感じる。

今は2人と一緒に遊びに来ているんだ、そんな考えは今は忘れて共に楽しもう。ウジウジ悩みっぱなしでは2人にも気取られかねない。今はまだ、ミシェルと千冬姉以外の周囲に自分の考えを言うつもりはなかった。

なるべく箒の前後に位置どってエロ水着が周囲に晒されないようにしつつ、3人で園内を回っていると施設中に園内放送が響き渡った。


『本日のメインイベント!水上ペアタッグ障害物レースは午後1時より開始いたします!参加希望の方は12時までにフロントへとお届けください!優勝賞品はなんと沖縄5泊6日の旅をペアでご招待!』


こういったレジャー施設では定番の催しだ。優勝賞品も中々豪華ではあるが、


「へえ、やっぱりデカイ場所なだけあって豪勢だな。どうする、2人は出てみるか?」


しかし、箒も鈴も気乗りではなさそうだ。


「私はあまり興味は無いし、流石にこの格好でこれ以上注目を浴びるというのもな」

「私も出ないでおくわ。どうせ素人ばっかりで私が出ちゃったら優勝は間違いないだろうし」


――――オリンピックのレスリングと柔道のメダリストコンビが出場する事をこの時の鈴は知らない。


「それにさ、沖縄旅行っていってもペアなんでしょ。それじゃあ意味無いじゃない」

「何でだ?箒と鈴の2人で行けば良いだろ」


女2人、盛大な溜息。


「・・・・・・『3人』でなければ意味が無いんだ。私も鈴も行くなら一夏と共に行きたいし、それでは優勝したって私か鈴のどちらかが留守番になってしまう」

「私達は“一夏と一緒に3人で楽しみたい”の。分かる?だから一夏はニブチンなのよ」


そこまでハッキリ言われてしまってはこれ以上一夏が意見する訳にもいかない。

2人がそれだけ自分を愛してくれてる事、そしてそれに負けない位2人がお互いの事も考えている事が無性に嬉しくなって、一夏は2人纏めて抱きしめてしまった。


「・・・・・・俺って、幸せ者だな」


少なくとも、そう呟けるぐらいには。
























<珍客万来>




「何だその格好?」


巷で話題の冥土、じゃなくてメイド&執事カフェ『@クルーズ』にやってくるなり一夏が発したのはそんな間の抜けた言葉であった

どんな反応をしていいのか分からない意味で固まっているのは箒と鈴、友人と意外な所で出くわして営業スマイルを浮かべたまま固まっているのはシャルロット。何故か仁王立ちになってふんぞり返っているのはラウラ。そして無言のミシェル。

シャルロットとラウラはどこからどう見ても見紛う事無き完全無欠のメイド服姿である。そりゃメイド&執事喫茶なのだから店内にメイドが居たって全くおかしくないのだが、問題は店員でも何でもない筈の2人がどうしてこんな所でメイド姿で接客を行っているのか、という点だ。


「ど、ど、ど、どうして一夏達がここに居るの!?」

「それはこっちのセリフじゃない。何でシャルロット達がそんな格好して働いてるのよ?」

「・・・・・・主にかくかくしかじかという理由だ」

「実際に『かくかくしかじか』なんて説明の仕方初めて聞いたぞ!?」

「なるほど、まるまるうまうまって事なのか」

「しかも一夏には通じてるし!ねえ本当にどういう事なのか分かったの!?」

「いや全然」


しばらくお待ち下さい。

要約すれば、昼食に寄った先で悩んでいる女性と出会って話を聞いてみた所この店での臨時アルバイトをお願いされて以下略という経緯だそうな。

成程、シャルロットもラウラもタイプは違えど立派な美少女、この店の店長だという女性が2人を見るなり即勧誘したのも無理は無いと3人は同じ感想を抱いた。

・・・・・・でも接客業に向いてなさそうな人物も1人混じっているのはどういう事だろう。

主に性格が接客に向いていないという意味ではなく、顔を見るなりお客が回れ右して逃走する事請け合い的な意味で。

というか、本人がとりあえず了承してくれてるとはいえ、一応世界規模の有名人にこんな事やらせちゃって本当にいいのだろうか。


「・・・・・・似合わないのは分かっている。だが一応、この服だけでも着てくれと店長に頼まれてな・・・・・・」


強面世界トップクラスのミシェルに執事服は微妙に似合っていない。燕尾服よりももっとシンプルな黒服とかだったら大層似合っただろう。SPとかボディガード的な意味で。

しかしミシェルの存在を差し引いても店内はかなり賑わっていた。よくよく観察してみると、電話やメールでシャルロットとラウラの2大美少女メイドに関する口コミがリアルタイムに拡散されていっているようだ。

男性客に営業スマイルを見せるだけでも嫉妬して無意識のうちに親の敵を見るような威圧感を放ってしまっているミシェルの存在を差し引いても、知り合いをこの店に誘うだけの価値はあるという事だろう。

一夏達にも彼らの気持ちが分かる気がした。口コミが広まる分だけ実際に働いている友人達の仕事が増える事になるが、一時的にとはいえこの店で働いている以上それも仕方あるまい。


「と、とりあえず3名様、こちらの席へどうぞ~・・・・・・」

「分かった。それにしてもシャルロットもラウラも、その服似合ってて可愛いぞ」

「そう、かな?えへへ、ありがとうね一夏。ミシェルも可愛いって言ってくれたんだー」

「う、うむ、そうか。似合っていて可愛いのか・・・・・・・・・この際交渉してこの服を譲ってもらうか?」


シャルロットは愛らしくはにかみながらもしっかりと旦那にも褒められた事をしっかりとのろけ、ラウラはラウラで少し恥じらい気味に顔を染めつついっその事この服も手に入れようかと企てる。




とりあえず期間限定の特製パフェ(1つ2500円也。一夏のおごり)を人数分注文しつつ、即席メイド&執事な3人の働きぶりを見学する事にした一夏達。

春の日向の様に温かく柔らかな美貌と丁寧な振る舞いで異性のみならず同性まで虜にしてしまうシャルロット。魅了の魔眼でも持っているのかと言いたくなるぐらい、彼女が接客した後の客(女性多数)は顔を赤らめ陶然としていた程。

一方氷混じりの極寒の北風みたいに強烈な応対をしているのはラウラ。そもそも接客のイロハすらなっていないし言動から態度までとことん高圧的・・・・・・なのだが、西洋人形を体現したかのような造形を誇るメイド服姿のラウラに冷たい目で見られるあまり、目覚めてはいけない世界に目覚めた男性からはむしろ「ご褒美です!」との歓喜の声が。

そして黒一点たるミシェルはどんな仕事をしているのかといえば――――――


「ねえねえこの後暇?だったら俺達と一緒に遊びに行こうぜ。何なら今すぐでも良いからさ」

「申し訳ありませんお客様、他のお客様の迷惑となりますのでそういった真似はご遠慮頂きたいんですけれど・・・・・・」

「いーじゃんいーじゃん気にすんなって」

「すいませんメイドさん、メイドさんの御奉仕は注文出来ないんですかー?」


女尊男卑な世の中とはいえ、自分が周囲からどんな風に見られているのかも気にせず絡む馬鹿というものは絶滅しないものらしい。

そして決定的に相手が悪かった。セクハラ紛いの言葉を投げられかけても営業スマイルのまま穏便に捌こうとしたシャルロットを逃がすまいと、どっからどうみても外見と中身が同じ位チャラチャラした若者達が彼女のメイド服に手を伸ばし。




―――――――逆にその手を掴まれた。本気になれば軽くビール瓶でも握り潰せるほどの握力で。




「あだだだだだだだだだだっ!!?」

「・・・・・・お客さん、ここでは店員に余計なちょっかいをかけるのは御法度だ」


渋谷のセンター街でまとめ売りされてそうな身なりの男達が、腕を捻じり上げながら片腕1本で大の男を吊り上げれるヤクザよりも凶悪な面構えのグラサン執事(しかも自分の嫁に手を出そうとした事への怒りの余り青筋までくっきり浮かばんでいる)に刃向かえるだけの器量を持ち合せている筈もなく。

転げるようにして若者達は店から出ていった。取り残されたミシェルに捕まっていた若者からは有り金全部迷惑料として徴収した。




――――ミシェルの役目はトラブルシューター。マナーのなっていないお客様を『丁重』に店から出ていかせるのが彼の仕事。

言いかえればどこぞの酒場の用心棒(バウンサー)と大差ないが、それが尤もミシェルの能力が発揮できる仕事なのだからしょうがない。本人からしてみれば非常に複雑だが。


「いや、絶対執事の仕事とかじゃないよな。執事とかも関係無いよな」

「言わないでくれ・・・・・・」


チクショウ、やはり顔なのか。こんな顔だから悪いのかっ・・・・・・!







そうこうしている内に、ようやく入口に1番近い席の3人の元へたまたま手の空いていたミシェルの手によって注文した品が運ばれてきた。


「・・・・・・ご注文の期間限定特製最上級パフェです」


専用の一夏の顔ぐらいの全長の専用の容器の中には自家製アイスクリーム、渦巻状に絞り出された生クリームの山には季節のフルーツが大量に彩られていて、更に何色ものフルーツソースが格子状にトッピングされている。

構造そのものはシンプルだが厳選された素材で構成されたこの夏の『@クルーズ』の看板メニューが今、ここに!

鈴の目は輝き今にも涎を垂らしかねない勢いで口元が緩んでいるし、箒まで特製パフェが運ばれてきた途端うずうずと早く手を付けたそうにスプーンを握り締めている。どちらかといえば和菓子派の箒だがやはり女の子、どんなスイーツでもやっぱり大好物なのだ。

財布には痛いが、この時点で2人がこんなに嬉しそうな顔を見せてくれただけでも十分元が取れたと、一夏は思った。財布の都合により彼だけアイスコーヒーである。

2人の様子はまるでお子様ランチを前にした子供みたいだ。でもよくよく考えるとお子様ランチって色んな料理が盛り沢山で、世間一般のイメージよりも中々豪華な食べ物に入るんじゃなかろうか?




ともかく期待に満ち溢れた表情でスプーンを握る2人の少女が前人未到の1口目を掬おうとした――――――その時。


「全員動くんじゃねえ!」


一夏のすぐ背後の入口が蹴り破られたかのように勢い良く開けられ、3人の男達が怒号共々店内に飛び込んできた。

男達の格好は揃ってジャンパーにジーパンに覆面。背負ったバッグには札束、構えているのは拳銃にサブマシンガンにショットガン。






どこからどう見ても逃亡途中の強盗です。本当にありがとうございました。







突然の物騒な珍客の固まってしまっていると、追っていた途中なのかわんさかやってきた警察隊があっという間に店の周囲を防弾装備にライオットシールド、パトカーのバリケードで取り囲む。


『あー、犯人一味に告ぐ。君達はーすでに包囲されている!大人しく投降しなさい。繰り返す!――――』

「昔再放送してた刑事ドラマでこんなシーンあったよなー・・・・・・」

「・・・・・・なんという80年代臭」

「うるせえ、喋るんじゃねえ!」


すぐ近くの一夏とミシェルの呟きが耳に入ったのか、ショットガンを持った男が一夏の頭上に向けて威嚇射撃を放つ。戦闘訓練で銃声には慣れていたのでそれほど驚きはしないが、他の客達は揃って悲鳴を上げた。

しかしここで思わぬ被害が。


「あ・・・・・・」


背後の呆然とした声に振り向く。そして一夏はそれに気づいた。

全く手をつけていなかった筈のパフェが、全て無残な姿を晒していた。散弾に砕かれた天井の破片や粉塵が一夏達のテーブルに降り注いでいたのだ。椅子に座り込んだままパフェの変わり果てた姿に呆然としている箒と鈴。まるで腹を痛めて生んだ赤子をその手から奪われたような自失具合である。

――――たかがパフェと言うなかれ。2人の乙女(ただし非処女)にとってこのパフェはデートで一夏が奢ってくれた物なのである。あまつさえ彼氏にあーんって食べさせてあげたり逆に自分も彼の手で食べさせてもらったりなんてバカップルなイベントも一緒にやっちゃおうととっても期待していたのに・・・・・・

その機会を一瞬で不意にされた衝撃は、気が短い部類に入る2人の少女から怒りの反応を抑え込んでしまうほど強く、悲劇的で。


「・・・・・・・・・っく!」

「ふえぇ・・・・・・」


一夏は見た。見てしまった。

箒と鈴の瞳に間違いなく、確実に、絶対に、光る物が浮かんだ瞬間を。




――――――よし、潰す。




「大人しくしてな!俺達の言う事を聞けば―――――」


一夏は立ち上がるや否や、人質となった客達に警告していた男達の懐に踏み込んでいた。剣術の歩法を生かしたその動きは客にも男達にも見切れないほど素早い。

彼の手にはパフェ用のスプーンが前後逆に逆手で握られている。持ち手の部分が握りやすいよう樹脂で太く厚くなっていて、拳の中から短く覗く先端部分は鋭利とまではいかないがそれなりに硬く、突くには十分だ。

まずは1番近くて1番憎い、パフェを台無しにしてくれたショットガンの男から。左手で銃身を横合いから叩きながら、スプーンを右手首へ強烈に叩きつけた。突然走った激痛にショットガンを取り落す男。

続けて狙うは顔面と首。眉間、鼻の下の人中、喉仏を連続で突く。人体の中心線を走る急所を一瞬で突かれたショットガンの男が白目を剥いて昏倒してしまう。

2人目のサブマシンガンを持った男は仲間がやられた事をようやく理解し、銃口を一夏に向けようとした。殴れる間合いにおいてその選択は悪手である現実を男は知らない。狙って引き金を引くよりも殴るか蹴った方がよっぽど速い。

サブマシンガンの男に対し、一夏はスプーンを手放さないままアッパー気味の掌底を放つ。掌のもっとも固い手首の付け根部分が男の顎を掠めた。頭蓋が中身ごと揺らされ脳震盪を引き起こす。

崩れ落ちて膝を突いた姿勢になったもののまだ意識は残っていたので、突き上げていた腕を遠慮も容赦もなく男の顔面に振り下ろして手刀を叩きつけた。鼻っ柱を砕かれ鼻血を噴き出しながら2人目も昏倒した。

男達の身のこなしや振る舞い方から、武装犯が全員素人であるのは一夏からしても丸わかりだった。千冬姉や兄弟子ほどの怖さも感じないし、武器を除けば一夏がこれまで叩きのめしてきた不良達となんら変わらない。この間合いなら楽勝だ。

残るは拳銃を持った男ただ1人。


「ふ、ふざけんじゃねぇぞこのガキが!」


仲間があっという間に倒されて反応が遅れた男も一夏にオートマチックの拳銃を向けようとしたが、それは横合いから伸ばされた巨大な手によって阻まれる。

一夏が動いた際に男達の視界外に回り込んでいたミシェルの手だ。オートマチックはスライドを強制的に後退させられると弾が出なくなる。ミシェルの手はしっかりとスライドを後退させて押さえ込んでいた。


「ひ、ひぃっ!?」


ようやくミシェルの存在に気付いた男がその凶相に驚く。それに構わず握った拳銃を男の手もろとも男の手の甲側に向けて強引に捻った。トリガーガードに引っかかった男の人差し指がてこの原理により簡単に折れてしまう。苦痛の悲鳴を上げる男。

今度は左のボディブロー。肝臓を狙ったのだが男の腹に当たった感触から、相手がジャンパーの下にベストの類を着込んでいる事に気付いて狙いを変える。男の後頭部を両手で固定し首相撲の体制へ。そして膝の連打。腹から上、胸部や顔面を狙う。

軍隊仕込みの格闘術によってあっという間に男の顔面が血に染まった。顎にひびが入り、歯が折れ、鼻の骨が粉砕される。おまけとばかりに抱え込んだ態勢から後頭部に肘打ちも加えて、男の意識はとっくに朦朧としていた。気絶したくても激痛と出血による呼吸困難で逆に気絶できない。

そしてとどめの大技、右後ろ回し蹴りが男の腹部に直撃。ミシェルの右膝から下は頑丈な義足だ。鋼鉄製のハンマーを打ち込まれたに等しい。ベスト越しでも強烈な衝撃が内蔵を貫き、なんと男の体はワイヤーアクション張りに入口の扉を突き破って外へと吹き飛んで行った。店を取り囲んでいた警官隊の元まで数回バウンドした果てにようやく止まる。




男のジャンパーが肌蹴て中に着込んでいたプラスチック爆弾たっぷりの自爆用ベストが露わになっていたのだが、起爆スイッチを押す男はようやく意識を失う事が出来ていたので男には自爆なんて真似は当面出来る筈もない。














「・・・・・・店内に危険物の持ち込みはご法度だ」


完膚なきまでに叩きのめされた爆弾男を見ながら、ミシェルはそう言い放った。























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相変わらず東医と経穴が鬼門だ・・・<前期試験赤点
総合で40点台と100点満点同時に取るとか極端すぎだろ自分と思う今日この頃。


・・・妄想が爆発するか皆様のリクエストがあれば最終的に削ったプールでのエロい一コマが追加されるかもしれませんがどうしましょ?(何



家のPCが今まで通り使えるか微妙なので更新が不規則になるかもしれません。














































<未公開シーン:波間にて>






流れるプールというコースは大規模な屋内プール施設においては定番である。主に浮き輪に乗って波に漂うままコースを巡ったり泳いだりするのが一般的な楽しみ方だ。

楽しむがままにあちこちの特徴的なプールやアトラクションを巡り巡ってこのコースに辿り着いた3人。もちろんこのコースも楽しむ事にする。

係りの人に定番のドーナッツ型浮き輪を借りていざ波に流されだした3人だったが――――問題発生。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


浮き輪の中心部の穴に一夏が仰向けに腰を下ろし、その上に同じように仰向けで箒が横たわって折り重なる――――カップルか家族か、親しい者同士にしか出来ない浮き輪の正しいタンデムの仕方である。

そして一夏の上に重なる箒は極端に露出が激しい過激な水着姿。そんな恋人が浮き輪から落ちないように、そして少しでも露出を隠すべく一夏はしっかりと彼女に両手を回していて、それ故に・・・・・・



ふにっ むにゅ ぽよん ふよっ たゆん



触れちゃうのである。当たっちゃうのである。

波が来る度揺れる胸。そしてその都度布地に覆われていない大迫力の胸部装甲の下半分が箒の腹に回された一夏の腕に当たって震えて潰れるのである。


「悪い、また触っちまって」

「い、いや、いい!一向に構わないから、もっとしっかり支えてくれ」


むっちりしっとり形を変えるその様子、その感触に一夏の理性が斧を叩きつけられる大木のように削られて折れてしまいそうになる。併走して隣を泳ぐ鈴からの白い目も助けにはならない。

今の2人の体勢も問題だった。前方を見ようと思うと一夏の視界には箒の膨らみが形作る深いにも程がある肌色の谷間が、文字通りその鼻先に飛び込んでくるのだ。ごくりと一夏の喉が鳴る。鈴の拳の骨も鳴る。




問題は胸だけではない。むしろ上よりも下の方が一夏にとっては非常に問題があった。

何故ならば・・・・・・当たってるのである。当ててんのよである。ちょっと違うか。

とにかく、上に負けず劣らず三角形の布地の面積が小さいお陰で大部分がはみ出ている尻肉が股間に押し付けられているのが危険だった。ピンポイントかつダイレクトに急所へ当たっているので、視覚と両手の感触よりも一層直接的に一夏の理性に襲い掛かる。

こちらも波に合わせてお尻が右に左に交互に潰れたり擦れたり。とっくの昔に一夏の相棒はガチガチに強度を増していた。棒だけに。

そりゃあ箒とも鈴とも高校1年生にもかかわらず18禁な行為を何度も交わしてきた仲である。しかしだからといって異性の肉体同士の触れ合いに慣れたのかと聞かれれば、そういう訳でもない。

むしろアレである。高校1年生という多感な思春期に恋を知り女を知った一夏の理性は、中学時代と比べると逆に退化し、箍が緩んできてしまっていたのだ。今までが朴念仁ゆえに無駄に強固だったとも言えるが。

言うなれば、今の一夏は青少年ならぬ『性』少年。理性はともかく身体は過剰なほどに正直になってきている。

もちろん男としてまったくもって正しい生理反応を起こしている具合は密着状態にある箒にも丸分かりで、彼女も一夏と同じぐらい赤面し、加えて興奮もしていた。

彼は自分の身体のせいでここまで反応してくれているのだ。今更ながらこんな格好をしてきて恥ずかしく思うが、それ以上に一夏からこんな反応を引き出せた事が嬉しくもあり。

それが更なる事態の悪化を引き起こす。


「ほ、箒サン?」

「もっと・・・・・・しっかり一夏が私を支えてくれ」


引っくり返った一夏の声を無視して、自らの手を一夏の手に重ねた箒は一緒に両手の位置を上へとずらした。

勝手に一夏の両手は箒の双丘を下から持ち上げる形になった。今度こそ強烈な柔らかさがしっかりと一夏の両手に襲い掛かった。


「くぁwせdrftgyふじこlp」

「ほら、もっと、足りない。んっ」


膨らみ諸共箒の身体に両手を回すとかそういうレベルじゃなく、何かもう入っちゃいけないスイッチが入ったのか、上から重ねた恋人の手ごと己の胸を自分から揉み始めてしまう箒。

一夏の思考はオーバーヒート。でも感触だけは余す事無く脳内に記録中。鈴は箒の暴挙に突っ込みも忘れてフリーズ状態。誰か止めろ。


「はっ、んっ、いちかのっ、てぇ、ごつごつして、こすれるっ」


おまけとばかりに腰まで揺らしだしてしまった。薄手の水着2枚だけという隔たりを挟んで一夏の股間と箒の尻肉、果てには尻の谷間の底が擦れ合う。この濡れた感触はプールの水なのかそれとも箒自身の分泌物なのかどっちなんだろ、と漠然と一夏は考える。

浮き輪に乗って波に揺られて漂っているだけなのに何故かお互い呼吸が荒い1組の男女。かなり不審だった。

箒は止まらない。日頃の凛とした日本刀のような雰囲気はどこへやら、一夏の手を操って胸と水着の間に滑り込ませて揉ませては小さく鳴き、器用に浮き輪の上で身をよじって熱い吐息で一夏の首筋をくすぐり、常夏設定の暑さ以外の理由で噴出してきた一夏の鎖骨の窪み辺りに溜まる汗を舐め取る。

箒が一夏の方を向いたせいで、水着に押さえつけられて微妙に横方向への面積を増した乳房が一夏の胸板に当たって潰れる。

覗き込んでくるその瞳は、彼女の叢同様限りない情欲で濡れていた。


「一夏もここまで硬くして、辛いだろう?」

「あ、ああ・・・・・・」


まったく頭が回らないままから返事を返してしまった一夏の答えに、頬を一夏に擦り付けるようにして聞いた箒は妖艶な笑みを浮かべ―――――




























「うん、じゃあ今楽にして―――――」

「いー加減にしなさいよこんのバカども!!」


一夏のトランクスの中にもぐりこんだ箒の指先が触れる寸前、ようやく再起動を果たした鈴が放った海中からの昇○拳に下から突き上げられ、引っくり返った浮き輪から放り出された2人は仲良く頭を冷やす事になった。




・・・・・・正直、今まで客や従業員の誰にも気づかれないまま済んだのは奇跡に等しかった。
















余談だが、スタート兼ゴール地点まで1周を終えてからもしばらくの間一夏はプールから出てこれなかった。











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最初に載せなかった理由:別の人がすでに似たようなネタを書いていたから



[27133] 4-4:Summer Time・そして仲間達の場合
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/12/25 17:25
※シモ関係で暴走注意

















<夏祭り>









「おーい箒、こっちこっち」

「すまない皆、待たせてしまったな」


8月のお盆週、一夏の地元であり箒の生家である篠ノ之神社のお盆祭りがある事を思い出した一夏の提案によって、いつもの面々は篠ノ之神社へとやって来ていた。

見事巫女として神楽舞を舞ったりといった役目を果たして暇をもらった箒と合流しいざ屋台巡りへ。


「箒さんが来ていらっしゃるのがいわゆるジャパニーズユカタという服なのですわね。元は1枚の布のようですが、何てエキゾチックなんでしょうか」

「うんうん、柄も可愛いし、涼やかだよね~。箒によく似合ってるよ」

「そ、そうか?」


箒一家がこの地を離れてから神社を管理してくれていた親戚の叔母さんのチョイスなのだが、外国人の友人達には中々好評である。

だが箒にとって最も感想を教えて欲しい相手はただ1人。その相手である一夏はどこかぼうっとした様子で箒を見つめていた。それに気づいて箒は、彼からの視線をむず痒く感じてしまう。


「ほら一夏ってば、アンタの感想を聞きたがってるんだからさっさと言ってあげなさいよ」

「――――――箒、似合ってる。すっげぇ可愛い」

「か、可愛っ!?」


直球ど真ん中。箒の顔が専用機そっくりの色合いを帯びた。巾着を持ったまま顔の前で指をもじもじさせつつ、つい堪えきれずはにかむ箒の姿を見てしまった一夏の顔も負けないぐらい赤くなる。

そして両サイドからセシリアとラウラに足を踏み抜かれて悶絶。


「だけど巫女さんの格好で舞ってた時も思ったんだけど、やっぱり箒って和服がよく似合うって僕思うんだ。胴着とかさ」

「胴着も和服・・・・・なのか?まあ似合うのは同意するがな・・・・・・」


元の見た目や性格からして女剣士そのものなのである。そんな箒に似合わぬ和装など逆にあるのだろうか、と一夏は思う。

逆にセシリアやシャルロット、ラウラが巫女服や浴衣をきたらどんな感じだろう?紅白の巫女服に金髪。うん、悪くない。元が美少女なんだからよほどみすぼらしいのでもない限りどんな服でも似合うかも。

鈴の場合は中国系なの基本同じ黄色人種である箒と似たり寄ったりだろうから除外。でも彼女の場合だと『和服は動きづらそうでイヤ』とか言いそうな気が。


「何よその目は?」

「いや別に。鈴だったらやっぱりチャイナドレスの方が似合いそうだと思ってさ」

「あ、あ、当たり前よっ!」


ミシェル?着流しに日本刀で確定。本格的な鍔や装飾が施されてるのじゃなくヤクザ映画で定番のアレでファイナルアンサー。タマとったらあと吠えながらドスを構えて斬り込んでいくのだ。うんピッタリ。


「・・・・・・個人的には振り回しやすい匕首の方で頼む。あれ位の長さの方が扱いなれているからな」

「何か考え読まれてた!?」








出店が並ぶ一角はやはり人で賑わい、7人という大所帯の一夏達では一塊に移動するのは一見困難に思われた。

しかし実際には、モーゼが海を割って道を作った再現のように、人々の流れが勝手に向こうから一夏達の前に道を飽けていくという光景に、当人達は微妙な苦笑を浮かべざるを得ない。

一夏と箒を除いた残りがミシェルを除き明らかに外国人の、それも滅多にお目にかかれない美少女ばかりだからという理由もあるが、しかしやっぱり1番の原因はミシェルにあった。

そう、ミシェルの凶相に怯えた客達が関わり合いになるまいと勝手に彼から離れようとして、結果的に道を開けているに過ぎないのである。


「うむ、通りやすくなったな。これではぐれる心配はあるまい」


ラウラの感心した呟きが既に傷ついていたミシェルの心を更に抉る。

ナイフで刺したら捻って止めを刺せと教え込まれてきたのが関係しているのかもしれない。とにかくミシェルの心の傷を広げる事には成功していた。ラウラにはそんな自覚まったくなかったのだが。

そんな傷心を少しでも癒そうと、一夏達はともかく屋台を覗いて見る事にした。


「この魚は何という種類ですの?」

「それは金魚だな。これは金魚すくいって言って、ポイって小さな紙の網みたいなので何匹すくえるか競ったりするんだ。すくえた金魚は自分で持って帰って育ててもいいし」


そして数日もすると興味を失って母親に世話を押し付けるまでが定番の流れである。


「なるほど、丸ごと揚げるぐらいしか調理法はなさそうだが観賞用には最適な魚だな」

「食用前提で見てんじゃないわよ!」

「お嬢ちゃん、これは食べる為の魚じゃないからね」


鈴と店主のおっちゃんからのダブル突込みが入る。

続いて外人勢の興味を引いたのは焼きそばの屋台だった。鉄板にぶちまけられた具材とソースの匂いが食欲をそそる。


「それにしても焼きそばに焼とうもろこしにお好み焼きまで揃ってるなんて、流石篠ノ之神社だな。定番の屋台が揃ってる」

「・・・・・・鉄板料理なだけにな」

「「HAHAHAHAHA」」

「はいはい漫才やってないで、とりあえず腹ごしらえしましょ。皆も注文する?」

「そうだな、私も頂こうとしよう」

「それじゃあ僕はこのオムそばってのを頼んでみようかな」


1人1つずつ注文して食べ始めた一同だったが、箸に慣れていないセシリアとラウラは麺同士がくっつきやすい焼きそばを食べるのに四苦八苦する。シャルロットはミシェルの手ほどきを受けているのでそれなりに手馴れていた。

不器用ながら小さな子供のように箸を握りしめ、スプーンかフォークのような持ち方でラウラは焼きそばを口の中に押し込むようにして食べてみせた。その代償に、小さな口の周りはソースまみれになってしまい、


「ほらラウラってば、口の周り汚れちゃってるよ?」

「むう、意外と食べるのが難しいなこれは・・・・・・」


例によってシャルロットの手によりお口ふきふき。セシリアの方は焼きそばの上に青のりと鰹節と一緒に散らされた物体に興味を示す。


「この赤い千切りはショウガですのね。しかし何でこんなものが一緒に載せられているのでしょうか」

「ショウガって臭い消しとかに使うからな。ソースの濃い味を紅ショウガで消して口の中をサッパリさせる為でもあるし、歯ごたえがあるからアクセントをつけるのに丁度良いんだよ」

「・・・・・・だからといって牛丼などで肉が見えなくなるぐらい紅ショウガを盛るのは間違っている気がするがな」

「あーいるよなそういう紅ショウガ丼作っちゃう人って。あれ絶対紅ショウガの味しかしないだろ」


焼きそばを食しつつ駄弁っていると、唐突に声をかけられた。IS操縦者の集団にではなく、一夏1人に。


「あれっ、一夏、さん?」

「おっ?――――あ゛」


声の方に振り向いた一夏は、話しかけてきた相手を捉えた瞬間思わずそんな声を漏らしてしまった。

立っていたのは浴衣姿の蘭であった。仲間達の中でこの赤毛の少女と面識があるのは転校前までよく顔を合わせていた鈴と先日五反田食堂に一夏と出向いたミシェルのみ。

故に、蘭を知らない少女達は怪訝そうな表情を浮かべた。特に自分の知らない恋人の知り合いの少女(ここが特に重要)の登場に、箒の顔はかなり険しい。

一方で一夏と鈴の顔はかなり気まずそうだ。一夏は前回の事で(未だ理由に気付いていないが)蘭を泣かせてしまった負い目があるし、何より鈴の方も年下の友人である蘭もまた一夏に想いを寄せていた事を知っていたにもかかわらず、一夏と恋人同士になったのを今まで言わずじまいだったのである。

蘭も蘭で、明らかに肉体的にも精神的にも昔より急激に接近している一夏と鈴(そして同じぐらい彼と密接している自分の知らないもう1人の黒髪巨乳の少女)を見て、食堂での彼の言葉が現実であると思い知り。


「ら、蘭・・・・・・」

「っ!!!」


浮気現場を妻に待ち伏せされた夫のような狼狽した声が一夏から漏れたのが止めになったのか。

ぶわっと涙を浮かべた蘭は、浴衣とは思えない速さでその場から逃げ出してしまった。事態を見守っていた彼女の友人らしい少女達が慌てて蘭の背中を追いかける。

一夏の顔に大量の脂汗が浮かぶ。ヤバい、今度こそ弾や巌さん達に殺されるかも。


「あのさ一夏・・・・・・今度一緒に、蘭に謝りに行こ?ずっと私の方からもあの子に伝えなかったのも悪いんだしさ・・・・・・」

「そ、そうだな。俺も前に行った時も結局有耶無耶になって蘭とちゃんと話できなかったからなあ、はあ」

「な、なあ一夏。鈴も、もしやあの少女も一夏の事を?」

「そーいう事よ。中学の時の同級生の妹なんだけど、あの子も一夏の毒牙にかけられたってワケ」

「毒牙とか酷くね?」

「何言ってんの、知恵も明美も良子もアンタの事好きだったのよ?なのにアンタってばあの子達からのアピールに全然気づかないどころか大ボケかますわ、バレンタインだって皆から貰った手作りの本気チョコを食べ切れないからってクラスの男子にあげちゃうし!」

「それは流石にその彼女達が不憫でならないな・・・・・・」


今明かされる一夏の許されざる大罪。鈴の暴露を聞きつけた人々が一斉に一夏に敵意と嫉妬の視線を送りだす。


「・・・・・・なあ、そろそろ河岸を変えないか?かなり目立ち始めているんだが・・・・・・」

「仕方ありませんわね、私も色々と一夏さんに詳しいお話を聞かせていただきたかったのですが」

「お、俺は無実だ!そんなの全然知らなかったんだー!」

「ねえ一夏、無知は罪なんだよ?」


帰ってから一夏へのお仕置きが確定された所で次の屋台へ。祭りの喧騒の中から聞こえてきた木槌を叩いたような特徴的な音に興味を持ったヨーロッパ勢は音の出所に吸い寄せられていった。

これもまた、昔ながらの射的屋であった。日本ではコルクをエアガンで撃ち出すのが主流だが、規制の緩い海外では弓矢を用いた射的屋も存在する。

ゾロゾロと射的屋の屋台に向かう一同だが、何だか祭りの喧騒とは別の意味で店の前が騒がしい。

鈴と同じ中国系だが明らかに西洋の血も混じた顔立ちとしなやかかつメリハリの利いた女性が、サラリーマンルックの男性に引きずられていく所だった。喧嘩腰の射的屋の店主と激しく言い合っているが、女性が発しているのはかなり強烈なスラング交じりの英語である。


『この(ぴー)の(ぴー)の業突野郎が!こんなショボイ店でクソ高い金毟ってんじゃねぇ!』

『落ち着けレヴィ!ロアナプラじゃないんだからここで暴れたら拙い事になるって言ってるじゃないか!』


同じく英語で女性を宥めるどこにでもいそうな省エネルックのサラリーマン男性。店主に掴みかかろうとして彼に抑え込まれる女性の格好は、お尻が覗きそうな位切りつめられたジーンズに黒のランニングシャツ。

申し訳程度に薄手のパーカーを羽織っていたが、彼女が暴れるたびに右の首筋から二の腕に刻まれたトライバルのタトゥーが見え隠れ。明らかに堅気ではない東洋系の美女はそのまま男性の手によって消えていく。





・・・・・・何故だろう。千冬姉を思い出してしまったのは。






「何を言う、いくら嫁でも思っていい事と悪い事があるぞ。教官が気高い野生の狼だとすれば、さっきの女などどこからどう見ても凶暴な野良犬程度ではないか」

「それは流石に言い過ぎな気もするけど・・・・・・」

「一夏もそう思った?私も何故かそう思っちゃったのよね」


う~んと首を捻って考え込む一同。

しばらくして、ぼそりとミシェルがこう呟いた。




「・・・・・・声が似てたんじゃないか?」

「「「「「「 そ れ だ ! ! 」」」」」」











元の喧騒を取り戻したので、改めて射的屋に近づく一同。

倒れた標的を立て直したりしていた店主はやってきた一夏達の姿を捉えた途端、慌てたような表情を浮かべた。


「み、みかじめはきっちり払ってますぜ!?」

「・・・・・・客だ。第一、俺はその手の職業人ではない」


世界最強の兵器の操縦者なのだから、実の所ヤクザよりよっぽど物騒な人間だったりする。


「嘘だっ!」


そして即答で断言。何故にL5発症?当たり前だが日焼けした筋骨隆々の親父がそんな事しても全く萌えない。そもそも萌えるようなネタでもないのだが。


「あの、パッと見信じられませんけど彼も一応同い年の学生なので」

「ほ、本当かい?いやーにしてもよく見てみればカワイ子ちゃんばかりたぁ羨ましいねぇ。誰がやるんだい?」

「とりあえず全員分お願いします」


横1列に並んでコルク銃を構える。揃いも揃って教科書のお手本のような射撃姿勢だ。

ミシェルとラウラは軍人だし、他の代表候補生勢もそれぞれ必須の技能として生身の戦闘術の一環として重火器の扱いも習得している。一夏もミシェルなどから射撃について薫陶を受けているのでそれなりに様になっていた。

なので狙いも正確、店主が見ている前で次々的が倒れていく。特に凸凹軍人コンビは撃ってから再装填の間隔も短く、あっという間に全弾撃ち切ってしまった。もちろん的は外していない。

他の面々も似たようなもので、皆よりも射撃経験の少ない一夏でさえ半分以上当てていた。このままこの一同だけで全ての景品をかっさらいそうな勢いである、

・・・・・・ただ1人、全弾外している箒が居なければ。


「箒、相変わらず下手だよな」

「う、うるさい!弓なら必中だ!」

「箒は変に強張り過ぎで構え方が不安定なんだよ。ほら、腕の角度はこうで銃と腕で三角形を作ってから射線に対してまっすぐ視線を置いてだな――――」


一夏は後ろから覆いかぶさるようにして箒に正しい射撃姿勢を取らせようとする。それを羨ましそうに見つめる少女が2人。


「くっ、あんなに一夏さんに密着されてっ!」

「むう、嫁に良い所を見せようとしたのが裏目に出たか」

「だーかーらー、もう一夏は私と箒のものなんだから諦めなさいってばー」

「「 だ が 断 る 」」

「ううう、ちくしょー、今日は大損じゃねぇか・・・・・・」

「あははは、ご、ゴメンナサイ」




その後面々は一夏に案内された穴場で花火が作り出す絶景を心ゆくまで堪能したとさ。















<どっちの料理ショー?>






珍しく、箒の方が先に目を覚ました。

昨日一夏と夜を共にしたにしては珍しい事――――箒もしくは鈴、またその両者がまとめて限界を迎えるか気絶させられて一夏が起こしてくれるまで泥のように眠るのが最近の常だったからだ。時計を見てみるとかなり陽が高くなっている時間帯ではあるが、未だ一夏は眠りの中。まだしばらく目覚めそうにない。

女としては悔しいやら嬉しいやら、2人同時を相手にしてもいい様に翻弄される程一夏がオスとしての逞しさを持っていた事を満足に思いつつも、初めて抱かれた時から連敗を重ねている現状をどうにかしてやりたいとも思いつつ。


「(精進が足りないという事なのだろうか。しかし下手な真似をして一夏を退かせてしまっては元も子もないし、また鈴と相談してみるか?シャルロットにアドバイスしてもらうのもいいな)」


・・・・・・己のキャラがどんどん性的な方面で変貌してしまっている事を自覚できていないというのは、ある意味悲劇的である。

抗議を上げる腰とか内太腿とかの筋肉痛を宥めすかしながらのそりと3人では狭いベッドから身を起こし、頭を覚醒させるべく酸素を取り込もうと深呼吸を試みて。


「げほっ!?」


咽た。閉め切った部屋に篭っていた3人分の色々な体液の臭いを胸一杯に吸い込んでしまったのだから当たり前である。

慌てて部屋の扉を、続けて窓を全開にして換気を試み、それから自分が一糸まとっていない事を思い出してすぐさま脱ぎ捨てられたシャツを羽織る。解かれていた髪もポニーテールにまとめた。

外から流れ込んでくる空気は既に熱せられていて、早くもじっとりと箒の皮膚に汗が滲む。もっとも気絶する瞬間まで汗だくだった筈だから今更な話、2人も起こして汗を流さなくては。

そう考えてベッドの方に視線を戻した箒は気づく。


「ま、まだ満足していないのか・・・・・・」


昨晩あれだけ酷使されておきながらきっちり朝の生理反応を見せつける一夏自身に驚きと畏怖と照れを抱いて、箒は喉を鳴らして生唾を飲み込む。

それからしばし思い悩むそぶりを見せてから、顔を赤くしながら箒はベッドに近寄り――――――・・・・・・




≪しばらく音声のみが続きますのでご了承ください≫




「んっあ~~~~~よく寝た・・・・・・ってぇ!な、にゃにゃにやってんの箒っ!?」

「ちゅっ、んっ。み、見ての通りだ。仕方ないだろう、寝てても元気なままだし、ここだけでも『綺麗』にしてやろうと・・・・・・ゴニョゴニョ」

「へえ?『掃除』してあげるだけなのに『胸』まで使う必要あるのかしら」

「それは・・・・・・ううう」

「一夏も大概だけど箒もアレよね。イチャイチャしようと思うとすぐにエロい方向に自分から持ってっちゃうし」

「ほっといてくれ、むしろ悪いのは安易にふしだらな方向に持っていこうとする作者が悪いのだ!」

「そういうネタは禁止!ともかくね、えーっと(一夏の股間に固定される視線)」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」




「ん・・・・・うっ、な、何だこの温かい感触・・・・・・?」

「「おひゃよう、いひか(おはよう、一夏)」」

「ちょっ、な、うおおおおっ!!?」

「あはっ、いっぱい・・・・・・♪」

「もう、どこまで絶倫なのよ・・・・・・」










ぴーんぽーん



「はーい今開けまーす――――ってミシェルじゃんか。皆も一緒でどうしたんだよ」

「・・・・・・暇だったので寄らせてもらった。とりあえずこれはお土産だ」

「最近評判の専門店のケーキでね、すっごく美味しいんだよ。良かったら織村先生と食べたらいいよ」

「丁度いいや、千冬姉も少ししたら帰ってくる筈だし、箒と鈴も来てるから一緒に食べさせてもらうわ」

「箒と鈴さんもいらっしゃっているのですか?」

「ああ、2人共昨日泊まってったから―――――」


慌てて口を噤むも時すでに遅し。セシリアのはニッコリ、その額には青筋がクッキリ。ラウラもセシリアほど恐ろしげではないが一気に不機嫌そうな気配を放ちだす。


「・・・・・・ここで騒いだら近所迷惑だから中に入らせてもらえないか?」


御尤もなのでなのでさっさと織村宅へ。居間まで移動してみると丁度箒と鈴が2人して昼食の準備に取り掛かろうとしている所だった。


「何で皆してここに居てるワケ?」

「揃って暇なんだから来たんだってさ。そういえば皆は昼飯はまだなのか?」

「まだだ。ケーキを買う為にずっと並んでいたからな」

「んじゃ丁度良いな、皆もここで食ってけよ。買い置きのそばが沢山余ってた所だし。箒も鈴もそれで良いか?」

「・・・・・・まあ仕方あるまい。一夏がそう言うのならば」

「ま、私もOKって事にしときましょ。せっかくケーキまで買ってきてもらっちゃんたんだし、お土産持ってきてくれた友達をさっさと追い出す気にもなれないしね」


その日の昼食は一夏の宣言通りざるそばとなった。さっさと食べ終え洗い物も片付け、ミシェルが持ってきた家庭用ゲーム機で同時対戦をする事に。


「あれ、ミシェルってヨッ○ー派?何か意外だな」

「く、くぬっ、結構難しいなこれはっ・・・!」

「箒ってばずっとアクセル踏みっぱじゃダメだってば!曲がる時ぐらいアクセルを一瞬だけでも離さなきゃ!」

「シャルロット私のピー○姫ばかり狙わないでくれませんか!?」

「た、たまたまだからしかたないよ」

「馬鹿な、私の<ヴォーダン・オージェ>をもってしても反応しきれないだと!?」

「・・・・・・マ○オカートでハイパーセンサーまで発動させてどうする」


そうして熱中していると時間が過ぎるのは早いもので、いつの間にか夕方になっていた。

今日の晩飯はどうすっかなーなどと時計を見て一夏がぼんやりと思いを巡らしだしたその時、おもむろに新たな人影が一夏達の元に現れる。

織村邸のもう1人の主である千冬である。普段のスーツ姿からは想像できないかなりラフな格好だ。特に張り付くような薄手のタンクトップのせいで平均をかなり上回る胸の輪郭が丸分かりであった。


「・・・・・・やっぱりデカいな」


少なくとも、ミシェルをそう呟かせる位には。そしてその一言はこの場ではあまりに不用心っ・・・・・・!


「「ミシェル?」」

「ゴメンナサイ悪気ハナカッタンデスオ願イデスカラISハカンベンシテクダサイ・・・・・・」


ハイライトを失った目で首筋に<雪片弐型>と<灰色の鱗殻>を押し付けられては流石のミシェルも平謝りせざるを得ない。

そしてこの反応っぷりからして一夏もまたシスコンである事はまさに確定的。


「生憎だが私は浮気に興味は無いし、寝取る趣味も無ければ生徒と淫行するつもりも全く無いから安心しろ。だから家の中でISなんぞ展開するんじゃない」


姉からの注意に渋々展開状態に戻す2人。これには一見無愛想の塊みたいな見かけのミシェルもホッと胸を撫で下ろす。

しかし千冬の胸から目を離さない者は他にも居た。この場における貧乳2トップたる鈴とラウラである。複雑そうな表情で、自分の胸元をぺたぺた触っている。

『ぺたぺた』―――――その擬音が全てを表していた。何度も視線が自分のそれと千冬との間を行ったり来たり。


「そんなにジロジロ見ても分けてはやれんぞ」

「くっ!流石千冬さんなだけあるわね、戦力差は甚大だわ・・・・・・!」

「やはり教官殿を超えるにはまだまだ未熟・・・・・・」

「在るからといってそう役立つものでもないがな。剣を振るには邪魔だし少し薄着になったぐらいで無駄に人目を集めて鬱陶しいしぞ」

「その通り、私も千冬さんと同じ意見です。私なんかすぐに下着のサイズが合わなくなって何度買い替えなければならなくなったか・・・・・・」

「そうだよねー、ある程度大きくなっちゃうと普通の下着屋じゃピッタリのサイズが見つからなくなって、特別に注文しなきゃいけないから割高になっちゃうんだよ」

「ですわよね。何故かサイズが大きくなるにつれて過激なデザインも多くなっていきますし」

「しかもだ!一夏以外の男がいやらしい視線を送ってくるのも我慢ならないが、何故同じ女子までジロジロ胸ばかり見てくるんだぞ!微妙に怪しい視線で!」

「仕方ないじゃない!持たざる者が持つ者を羨んで何が悪いのよ!私だってねぇ、『あー胸が重くて肩が凝っちゃうなー』とか言ってみたいわよ!こちとら万年肩凝りとは無縁なんだから!分かる!?中学時代から1度もブラジャー買い替えずに済んじゃってる私の気持ちが!」

「良いじゃん節約できて」

「そういう問題じゃないのよバカーっ!!」


涙のアッパーカットを食らい一夏撃沈。そしてすぐさま復活。鍛えてるおかげで原作以上にタフなのである。


「いててて・・・・・・でも本当、胸のサイズも人それぞれなんだし、それだけ問題もそれぞれ持ち合わせちゃうんだからあまり気にしない方が良いんじゃないか?」

「それでも気にしちゃうのよ・・・・・・だって・・・・・・」

「だって?」

「・・・・・・昨日の夜だって一緒に抱いてもらった時、しょっちゅう箒の胸に手伸ばしてたし・・・・・・」

「そろそろ自重しろお前ら。またそっち方面で読者の受け狙うつもりか。あざと過ぎて逆に批判を受けるぞ」


千冬の忠告も色々と拙い気がするが、詳しく突っ込むのもめんどくさいのでこの話題は強制終了に決定。

結局千冬はまた用があるとかでさっさと出て行ってしまった。何人かは彼女が自分たちに気を使ってくれた事に気付いていたが、敢えて何も言わない。

3時ならぬ夕方のおやつを食べてから買い出しに出て、女性陣がそれぞれ手料理をふるまう流れになった。一夏とミシェルは2人だけ居間にて夕食の完成を待つ事に。

テレビを見ながら時間を潰しつつ、キッチンから聞こえてくる派手な物音や絶叫に思わず腰が浮き上がるのを何とか堪えつつ。

ふと一夏はある事に気付いた。


「そういえば、さ」

「・・・・・・何だ?」

「自分ちで千冬姉以外の誰かと一緒に食べるのって、今日が初めてだった気がする」

「・・・・・・良い事だな、それは」

「――――――そうだな。出来たらまた、今日みたいな日が来るといいな」


そう言って少年は本当に、本当に嬉しそうに笑う。

―――――少女達がこの場に居合わせなかったのを後悔しそうな位、とても清々しい笑顔だった。

























「赤が足りませんわね。ではこれでどうでしょうか?」

「ちょっとそれセシリアタバスコ!ああっ、そんな丸丸一瓶入れちゃあっ!」

「痛っ!?何よこれ、目に染みるんだけど!!」

「よし、あとは串に刺して焼くだけだな」

「おでんに焼きは必要無い!」






「・・・・・・その前に、まずは今日という日を生き延びれたらの話になりそうだがな・・・・・・」

「胃腸薬の予備、どこに置いてたっけなあ・・・・・・」


















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【発臭ドビーフ】女友達の飯がマズいスレ【串焼きおでん】



[27133] 5-1:Friends
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/10/23 23:28

時分が過ぎるのは遅く感じても日月が流れるのは早いもので、IS学園も翌日には2学期の始業式を控えていた。


「それじゃあ更識さんは夏休み中もずっと整備室に篭ってたの?」

「うん、2学期の行事には参加したかったから・・・・・・」


そう言いながらも簪の顔色は優れない。この様子では予想通りの結果を得られなかったと見える。

せっかくミシェルと共に様子を見に来てくれたシャルロットの持ってきてくれたクッキーの甘さも、何だか味気ない。


「あのさ、やっぱり僕らも手伝おうか?自分1人でやるよりはずっと楽だと思うし、僕らの機体のデータも役立つかもしれないよ」

「・・・・・・良い。これは私の問題だから」

「・・・・・・だからと言って、知り合った以上放っておけない性分なんでな・・・・・・それに心配でもある」

「更識さんってば夢中になり過ぎて自分の事よくほったらかしにしちゃうしね。最初も最初だもん」

「それは言わないで・・・・・・」


顔を赤くしてもじもじする簪の様子を微笑ましく眺めつつも、シャルロットは追及の手を緩めずに立てた人差し指をメトロノームの様に揺らして続ける


「1人だけじゃどうにも出来なくても、他の誰かと一緒に相談しながら進めたら解決策が出てくるかもしれないでしょ?えっとほら、日本語でそんな諺もあったよね、んーっと」

「……『3人寄れば文殊の知恵』」

「そうそれ。流石ミシェルだね、日本の事に本当詳しいや」


元日本人ですから。口元を緩めながらミシェルも簪に視線を固定し。


「・・・・・・それとも、1人だけの力で作りたい理由でもあるのか?」

「っ!!」


反応は劇的だった。日頃から強い感情の表現を見せないだけあって、目を見開き、口を固く結んで見せただけでもかなり分かり易い。

半ば当て推量のつもりだったのだがドンピシャだったようだ。そういえば、と簪の代表候補生のデータの内容を思い出して1人納得する。

――――これはひょっとしてひょっとするのかもしれない。


「更識さんにはお姉さんが居るんだったな・・・・・・それも関係しているのか?」


沈黙。しかしそれは肯定に等しく。


「へーっ、更識さんってお姉さんが居るんだ。どんな人なの?」

「更識楯無・・・・・・この学園の2年生ながら既にロシア代表に選ばれている実力者で、自分1人で専用機を組み立てたという逸話の持ち主、と聞いている・・・・・・」

「1人でISを完成させたの!?更識さんのお姉さんってそんな凄い人なんだね」


そこまで言ってから、シャルロットも気づく。

姉妹が褒められているにもかかわらず、更に陰りを見せていく簪の顔に。やや間を開けて彼女が漏らした声も、表情に負けず劣らず暗い。


「・・・・・・そう。何でも出来ちゃう、凄い人。妹の私なんかじゃ、全然敵わないくらい・・・・・・」


更識簪という少女が抱えるコンプレックスをミシェルとシャルロットが理解するにはそれだけで十分だった。

彼女は姉に対する劣等感を抱いている。シャルロット達の申し出も突っぱねて独力で専用機を完成させようとしているのもその表れ、姉に負けてたまるものかと足掻いているのだ。彼女は。

新たに加わった簪の事情を齧ったクッキーと一緒に噛み締め、ミシェルはしばし再考してから。






「・・・・・・まあそれはどうでもいいとして」


『更識楯無』という要素を放り捨てた。






「・・・・・・・・・・・・・・・へっ?」

ミシェルのリアクションに逆に簪の方が戸惑った様子でミシェルの顔をまじまじと見つめ・・・・・・すぐに逸らす。少々対人関係に問題がある彼女には、ミシェルの顔はまだまだ刺激が強いのである。


「え、えっと・・・・・・どうでもいいの?お姉ちゃんの事」

「・・・・・・いや、公表されている経歴などを知ってはいても、君のお姉さんと直接話したりした事がない以上現実にはどのような人間なのかも俺は知らんし・・・・・・大体、更識さんを手伝うのに何で更識さんのお姉さんの話題が出てくるのかが俺には分からん」


その簪のお姉さんがミシェル達と関わり合いになるなとか言ってきてるというのならばともかくとして。

ポカンと驚いた顔の簪を見ながら、ミシェルは肩を竦めつつ続けた。


「・・・・・別に俺は更識さんが『更識楯無の妹』だから手伝うとか、そういうのを全く考えてなかったつもりだったんだが・・・・・・やはりダメか?まあ、こんな人相の人間に纏わりつかれてもやっぱり迷惑だろうしな・・・・・・」


自嘲気味にそう締めたミシェルに続きシャルロットも加わる。


「自分の事をそこまで言わなくても・・・・・・でも僕もミシェルと同じだよ。更識さんのお姉さんが凄い人だって知ったのはたった今なんだし、どっちにしてもお姉さんの事を抜きにして更識さんの助けになりたいのは変わらないよ」

「・・・・・・どうして?」

「だって、友達の事を手助けしたいと思うのは当たり前の事でしょ?・・・・・・・えっと、僕はもう更識さんの事を友達だと思ってたんだけど、イヤだったかな?」


シャルロットがそう問うた途端、風が起きそうな位の速さで簪の首が横に振られた。それから強張っていた簪の表情が、一気にふにゃりと崩れる。

泣いてるような、笑ってるような――――彼女の眼鏡型ディスプレイの向こうで雫が浮かんでいる。やっぱり泣いてしまった。この涙は喜びの涙だと思いたい。抑えようと思っても勝手に涙が少しずつ、だけど確実に涙腺から漏れてしまう。

ずっと長い付き合いの幼馴染以外の誰かが、この学校にやってきてから知り合った相手が、『更識楯無の妹』としてではなく、『更識簪』という一個人にこうして素直に臆面もなく『友達になろう』と言ってくれた事が。






――――どうしようもなく嬉しくて、昂揚する心を抑えきれない。






簪は涙を拭い、それでもまた大粒の雫を零しそうになりながらも椅子の上に座り直すと、ペコペコと何度も頭を下げた。


「・・・・・・・これから、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくねっ!」

「・・・・・・改めてよろしく頼む」


デュノア夫婦、交友関係に女友達1名追加。


「でも更識さん――――」

「・・・・・・簪で、良い」

「――――簪さん、無理したらダメだよ?前も言ったかもしれないけど夢中になり過ぎて倒れちゃったりしたら大事だもん。今日も早くからずっと篭ってたんでしょ?」


そう言いながらシャルロットは立ち上がると簪の背後に回り込んだ。両手が彼女の肩に置かれる。

案の定、ちょっと撫でてみただけでも柔らかな皮膚の下で固く筋張った感触が指先に感じ取れた。これは中々重度の肩凝りと診た。


「ほらこんなに肩がカチカチになっちゃって。力加減はどう?痛くない?」

「んん、少し痛いけど・・・・・・くんっ、気持ちいい・・・そことか、んっ、んんっ」


程良い力加減と的確にコリを捉えて優しく解きほぐすシャルロットの指技にあっさりと簪は抵抗の意思を捨て去り、シャルロットのマッサージに身を任せる事にした。

滞っていた血流が円滑に巡るようになったお陰で少しずつ身体が火照りだして、思考に霞がかかる。睡眠時間を削ってまで組み立てに専念していた事も重なって眠気の誘惑は耐え難く、数分もしないうちに簪は作業台を枕代わりに突っ伏してしまう。

胸の大きさは慎ましやかな方なので、簪の真正面に陣取っていたミシェルにとっては大した目の毒にもなりはしない。代わりに揉まれてる合間合間に簪の漏らす呻き声が微妙に熱っぽくなっていっているのは気のせいか?


「ひゃっ・・・・・そこ、グリグリされたら、うにっ、ふぅん、あん、そこ、強く押されると、気持ちいいっ」

「えっへっへー、よくミシェルと揉み合いっこしてるからマッサージには自信があるんだー」

「んん、ほんと、上手・・・・・・そこ、コリコリされちゃうと、おかしくなっちゃいそうなぐらい・・・・・・」


うん、気のせいだ。そういう事にしておこう。マッサージされて悶えてるだけなのに変に色っぽく感じちゃったりする自分の方が邪なんだから、とミシェルはそう思う事にした。

だってそれを妻に気付かれたら後が怖いし。


「・・・・・・お楽しみ中すまないが、機体のデータを見せてもらっても構わないか?」

「んー・・・・・・」


半ば以上目を閉じて眠そうな声を漏らしながら簪は突っ伏したままディスプレイを投影させた。この分だと間違いなく数分もすれば意識が落ちるだろう。

機体の全体像が表示され、勝手にサブウィンドウが幾つも展開されては詳細なデータが流れていく。その中から要の部分を取捨選択して大雑把な問題点を読み取っていく。


「(<打鉄弐式>・・・・・・量産機の改良型なのはシャルロットのリヴァイヴに似ているな・・・・・・主な武装は荷電粒子砲と多連装ミサイルポッド・・・・・・肝心要のFCSが未完成だが、俺の機体のものを流用すれば何とかなるか・・・・・・?)」


マルチロックオンシステムならミシェルの<ラファール・レクイエム>にも備えられている。マイクロミサイルポッドは愛用兵器の1つだし、それ以外にも複数兵装の個別照準・同時使用には欠かせないシステムだ。

問題はISの自己最適化によってマルチロックオンシステムに今まで扱ってきたミシェルの『癖』がついてしまっている可能性が高い事だがそこはそれ、時間をかけてすり合わせを重ねて彼女の機体に合わせていけば解決する問題に過ぎない。

荷電粒子砲は・・・・・・2次形態移行した一夏の<白式>にも追加されていたからそのデータを使えれば調整も早く済みそうだ。一夏に頼めば快くデータ提供してくれるとは思うが、それは簪にお伺いを立ててからになるだろう。

オリジナルの<打鉄>は防御力に重きを置いているが、<打鉄・弐型>は機動性と機体固定型の射撃兵装を生かした万能型の機体なので機体制御プログラムも新しいのをでっち上げた方が良い気がする。大分出力が増しているこの機体に下手に<打鉄>の制御プログラムを流用してしまうと、エネルギーの供給系辺りで不具合が起きかねないなとミシェルは感じた。

飛んでる最中に過供給でスラスターが吹っ飛ぼうなら目も当てられない。






もっとも、それらの課題に取り組むのは。


「あ・・・・・・寝ちゃった」

「・・・・・・・・すー・・・・・・・」


彼女がぐっすり寝て、そして起きた後にしっかり話を通してからになりそうだ。
















「へー、アリーナにはこんな施設もあったんだ。ずっと使ってたけど全然気づかなかったぜ」

「授業以外では模擬戦や他の訓練ばかりに夢中で、建物を詳しく見て回ったりしていなかったからな」


翌日、9月1日。午前中が終わる前に始業式を終えた一同は、ミシェルとシャルロットに誘われるがまま整備室を訪れていた。

先にやってきていた簪が既に準備を終えて皆を待ち構えていた。ミシェルとシャルロットの説得の甲斐あって個人的感情よりも実利を選び、一夏達も組み立てに協力するのを簪が認めたのである。


「こうして顔を合わせるのは初めてになりますわね更識さん。国は違えど同じ代表候補生同士、私も力ながらお手伝いさせて頂きますわね」

「そーそー、私達の事はこき使ってくれても別に構わないから。何てったって“誰かさん”のせいで割り食っちゃってるんだし」


約1名、罪悪感に胸が痛む。その自分のせいで割を食った当人が目の前にいるのだから尚更である。

じーっとひたすらまっすぐに自分ばかり見つめてくる―睨むと呼ぶには迫力が足りない―ものだから、凄まじく居心地が悪かった。


「・・・・・・・・・」

「え、えーと、とりあえずよろしくな更識さん」


戸惑いながらも一夏が何とかそう言ってみると、一瞬だけ目の前の少女の肩が震える。


「・・・・・・私には、貴方を殴る権利がある」

「・・・・・・ご尤もですハイ」

「・・・・・・だけど、やらない・・・・・・面倒臭いし、貴方の機体のデータを使わせてもらうから、それでチャラにしてあげる・・・・・・・・・」

「まあその程度で許してもらえるなら良いんだけど――――本当にゴメンな。俺のせいで簪さんの機体が未完成のままになっちゃって。とりあえず俺に出来る事なら何でもするから」

「・・・・・・ならデータを見せて・・・・・・後は、邪魔しないで。データをくれたら後は何処にでも行ってくれていいから・・・・・・・」


前途は多難だ、とミシェルは一夏を蔑ろにされて皆して不満そうな顔を浮かべている友人達を横目に天井を仰いだ。

やはり一応手を借りる事を受け入れてくれたとはいえ、一夏への悪感情はあっさり解消されるようなものでも無さそうだった。






一夏は簪に言われた通りに<白式>のデータを渡すと何処かへ消えてしまった。

そんな訳で整備室に存在する男手はミシェル1人となり、整備室の機材を用いながら<打鉄弐式>の外部装甲を外したりといった力仕事を一手に担って作業を続ける。

強面ながら鼻歌混じりに作業を行うその姿にちょっと引き気味のシャルロットを除く一同。しかしその手まで止めていないのは流石厳選されて選ばれた国家代表の卵達と言えた。


「ミシェルさんって案外こういった事もお好きなんですの?」

「・・・・・・意外とな。専用機を開発してもらっていた頃も、頻繁に組み立ての様子を見学させてもらったりしていた」

「それは良い事だな。己の機体の構造を余す事無く把握しておくのは正しい。兵器を操る兵士ならば己が扱う武器の構造まで隅々精通しておかねばな」

「・・・・・・それも間違ってはいないが、今のはそういう意味で言ったつもりではなかったんだがな」


装甲の内側の複雑極まりないパーツや配線の中へと首を突っ込みながらの会話である。

公式な軍人であり軍所属のIS操縦者としてとしてセシリアや鈴以上にISという兵器の整備法を叩きこまれた2人が<打鉄弐式>に直接触れて調整を行い、残りの面子は機体制御用ソフトウェアの完全構築に挑んでいる簪の助手として、ディスプレイと睨めっこを繰り広げていた。

軍人組ほどハードウェアに精通してもいなければ他の海外勢ほどソフトウェアにも詳しくない箒は、細々とした雑用役と相成った。機体を置くスペースとコンソール間を行ったり来たりして彼女なりに仕事をこなしている。


「・・・・・・それにしても凄まじいわね」


己の受け持ちのディスプレイから視線を引き剥がした鈴が注目しているのは、簪が用いている入力機器。

どこからどう見ても市販品どころか特注品にも思えないぐらい特異な形状と扱われ方で、何と両手両足で各部を挟み込むかのように上下に配置された計8枚の球形状空間投影キーボード、そして音声認識・網膜認識・動作認識諸々までも同時にことごとく操ってみせているのだ。

簪の処理能力だけでシャルロットとセシリアと鈴のそれを遥かに上回っている。まるで人の手で入力されているのではなく、勝手にプログラムが作り上げられていっているかのような錯覚さえ抱いてしまう。

これには簪以外の一同、その姿に思わず手を止めて見入ってしまう程。ミシェルとシャルロットも初めて簪の本気を見せつけられた気がした。

猛烈な作業光景に声すら出せずに見惚れてしまっていると、ようやく周囲からの熱視線に気づいた簪が手を止める。そして注目を一身に集めている事を自覚して顔を赤くして俯く。


「すっごいなあ。更識さんってこんな特技がを持ってたんだ・・・・・・」

「どうって事はない・・・・・・こんな事ぐらいしか取り得ないし・・・・・・」

「いやいやもはや取り柄ってレベルじゃないでしょそれ。どんな頭してたらそんなやり方でここまでやれちゃうのか訳分かんないわよ!あとさ、もしかしてそのデバイスって全部自作?」

「うん、普通の配置じゃそれほど効率が良くないから・・・・・・」

「もはや効率の良さとかそういうレベルじゃありませんわ、そこまで来ると」

「姉さんも昔同じような事を言っていたな、そういえば」


揃いも揃って驚嘆しっぱなしである。当の本人はとあるコンプレックスからそこまで自己評価は高くない辺り、色々と問題かもしれない。

それを解決するにはまだ幾許かの時間か、それとも何らかのきっかけが必要となるだろう。

少女達+黒一点の中でも、特に簪のその才能に興味を退かれたのは意外にもラウラだった。


「それほどまでの情報処理スキル、気に入った。貴様、私の部隊に来ないか?そこまでの技能をこのような場所で腐らせるには惜しいからな」

「え・・・・・えっ?」

「・・・・・・ラウラはドイツの特殊部隊の指揮官だ。こう見えて、な」

「抜け駆けは許しませんわよラウラさん!どうでしょうか更識さん、我がオルコット家の専属秘書になりませんこと?本国のチェルシーだけでは負担が大きすぎると最近感じていた所でしたの」

「我が部隊に入った暁にはその能力を十分に生かせるだけの恩給を約束しよう」

「こちらこそ、それ相応の報酬を約束しますわ!」

「私の部隊に来い!」

「是非とも我が家に!」


ヘッドハンティングを試みているだけにセシリアとラウラの頭もヒートアップ。

だが現実は非常である。


「あの私・・・・・・一応、日本の代表候補生だから」

「む、そうか、ならば仕方あるまい」

「むむむ、それならば流石に無理ですわね。しかし惜しい才能ですわ・・・・・・」


意気消沈する部隊指揮官と名家の当主。誘われた側はいかにも恐縮そうに何度も頭を下げている。別に彼女が悪い訳ではないのだけれど。

その時、姿を消していた一夏が再び整備室に姿を現した。その手には大きめの風呂敷包みが抱えられている。肩には保温用の大きな金属製の水筒。


「ちょっとどこ行ってたのよ一夏」

「皆しばらくここ(整備室)に篭りっぱなしになりそうだったからさ、部屋に戻って皆の分の昼飯作って来たんだよ。もう昼だしさ、メシにしようぜ」

「そうだな、丁度腹も空いていた所だ。更識さんは構わないか?」

「・・・・・・う、うん。そう言われてみれば私も――――――」



く~~~~~~~~



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(顔真っ赤)」

「じゃあ、お昼にしよっか」


苦笑交じりのシャルロットの意見を締めに、使っていた工具や機材を隅に纏めたりして場所を空けてから一夏の持ってきた荷物、3段重ねの重箱を広げた。

中に詰まっていたのは海苔に巻かれた俵型のおにぎりである。それからウインナーの炒め物に卵焼き、一口大の茹でたブロッコリーやミニトマトといった簡単なおかず。

生徒が汚れた時も考え部屋の隅に手洗い場も設けてあったからしっかり手洗いも忘れない。


「あとこれ、出汁はインスタントのやつだけど、味噌汁も作ってから遠慮なく飲んでくれ。熱いから気をつけてな」

「ありがとう一夏」


これまた一夏が持ってきた紙コップが配られる。もちろん、簪の分も。


「え、あの、私も・・・・・・?」

「いや、当たり前だろ?更識さんだけのけ者にするわけないじゃん。ちゃんと簪さんの分まで作ってきたから、遠慮なく食べてくれよな」

「・・・・・・・・・・・・ありがと」


蚊の鳴くような声。しっかりと一夏の耳に届き、爽やかな笑顔を一夏は浮かべる。


「だけどすぐに作れるような簡単なおかずばっかりでゴメンな。おにぎりも急いで作ったから具の種類とか個数とかまちまちだし、皆の口に合えば良いんだけど」

「わざわざ作って持って来てくれただけでも十分だ・・・・・・ありがたくいただこう」

「んじゃ箸も味噌汁も皆の分が行き渡ったみたいだし――――いただきます!」

『いただきます』


多国籍な面子でもここは日本。なので郷に入っては郷に従い、両手を合わせて『いただきます』の声を唱和してからようやく食事が始まった。

さっそくおにぎりを素手で掴んではかぶりつく一夏と箒と鈴、それからラウラとミシェル。初めて見る食べ物に不思議そうな顔を浮かべつつおにぎりを両手で持ち上品に一口齧るのはセシリアとシャルロット。

薄い塩味がまぶされた米のほのかな甘みとふんわりもっちりとした感触は、ただ単に器に盛っただけのご飯とは別種の美味しさを秘めていた。更に一口食べると中に埋め込まれていた具が顔を覗かせ、舌を飽きさせずなおかつ一層米の味を引き立たせる。

1個食べ終わる頃にはセシリアもシャルロットも顔を輝かせていた。ラウラに至っては早くも2個目に手を伸ばしている。どうやらお気に召してくれたようだ。


「シンプルではありますがとても美味しいですわ一夏さん!」

「うん、僕も一口で好物になっちゃった!今度僕も作ってみようかな」

「そっか、口に合って良かったよ。でも単純に思えるけどご飯と具のバランスや握り方にもコツがあるから、美味しく握るには練習した方が良いと思うぞ」

「そうなんだ。じゃあクラブの部長に部室でも貸してもらおうかな」

「んきゅっ!?」


奇妙な押し殺された悲鳴がしたのでそちらに目を向けてみれば、ラウラがおにぎりを詰め込んで頬を膨らませたまま固まっていた。

彼女にとっては何と珍しい事に、じんわりと片方だけの目に涙さえ浮かべさせている。手にしていた紙コップ入りの味噌汁を未だ淹れたてのお茶程度には熱を持っているにもかかわらず一気に煽り、口の中身をそのまま胃へ流し込む。

それから涙目のまま一夏に掴みかかった。


「い、い、一夏ぁ!わ、私はお前に何か嫌われるような事をしたのか!?あ、あああああっ、あのような得体のしれない物など仕込んで、何だ、あの強烈に酸っぱくてしょっぱいペーストは!!?」

「ありゃ、ラウラ梅干しに当たっちまったのか。蓮さんから分けてもらった自家製の年代物なんだけど」


一応ドイツにもピクルスやザウアークラフトのような酸味の利いた漬物が一般的に存在するが、化学調味料などで味付けされた市販品とは一味違う自家製の梅干しは欧米人の舌にはあまりに強力過ぎたようだ。

ちなみに昔ながらの技法で作られた梅干しと大量生産された市販品の梅干しでは塩分濃度が約3倍も差があるので塩分の取り過ぎには注意。


「・・・・・・そりゃ、慣れてなければきついな」

「そういえば昔弾も蘭も運動会で蓮さんが持ってきたお弁当のおにぎり食べてて梅干しが当たった時悶絶してたわね」

「今時自家製の梅干しとは珍しいな。私も貰うぞ一夏」


箒も手を伸ばして3分の1ほど齧る。食べる側の事を考えてしっかり種が取り除かれた梅干しの果肉の、そのラウラの反応に違わぬ馥郁たる酸味と塩味を丹念に味わい。


「――――良い梅だ。今度私にも分けてもらえないか?」


大人っぽい箒の反応に無性に悔しさを覚えたラウラは彼女を睨みつけるが、見た目の幼さ+涙目+上目使いなのでむしろ子供っぽさとか微笑ましさの方が強く感じられてちっとも怖くない。むしろ可愛い。


「う~~~~~~~~」

「はいはい膨れない膨れない。ほっぺにご飯くっついたままだよ」

「・・・・・・・」


猫のように唸るラウラをひょいと持ち上げて自分の膝の上に載せるミシェル。夫の膝の上に収まった少女の口の周りをハンカチで拭きながら、微笑ましく笑うシャルロット。

そのコンビネーションが放つ雰囲気は、何処からどう見ても親子にしか見えなかった。少なくとも、一夏達が同じ思いを共有するぐらいには。










そしてそれを見ていた1人である、青い髪の少女は。


「――――――ふふっ」


小さく、本当に小さくだが、ほんの僅かにクスリと笑い声を漏らして。

だけどそれはしっかりと耳聡い目の前の少年少女達も聞き取っていて、彼らの目が自分に集まっている事に気付いた簪は真っ赤になりながら下を向いて顔を隠してしまった。

そんな少女の姿にミシェルはおにぎりの収まる重箱を持ち上げると、簪の前に差し出し。


「・・・・・・もう1個食べるか?」

「・・・・・・・・・貰う・・・・・・」


ゆっくりと彼女も、その手を伸ばした。














================================================
そういえば最近梅干し食べてないなあと書いてて思ったり。
おにぎりの具は辛子明太子がジャスティス。少し前までは駅の中のコンビニのたらこマヨネーズ焼きおにぎりにハマってました。



[27133] 5-2:影の軍隊/青猫と白猫
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/10/28 19:04

斬撃と弾丸が交差し、ぶつかり合い、火花を散らす。

9月3日、場所は第3アリーナに於いて開始した新学期最初の実戦訓練である1組と2組の合同授業は、ミシェル対一夏という男性IS操縦者同士の模擬戦の場と化していた。

世界に2人しか存在しないISを操縦できる男子、それに加えて両者ともつい先日2次形態移行を果たしたばかりの機体の操り手である事も相まって、その戦いを見物するクラスメイト達の熱い視線は虫眼鏡で集束した日光もかくやな集中っぷりだ。

少女達、そして監督役である教師陣のそんな期待っぷりに違わぬ激戦を2人は繰り広げる。


「くっ、その弾幕は反則だろ!?」

「抜かせ・・・・・・!砲弾斬り飛ばすそっちよりはマシだ・・・・・・!」


一夏はより一層機動力が強化された<白式・雪羅>の緩急をつけた機動で的を絞らせず、それでもたまに飛んできた命中弾も<雪片弐型>で叩き落として機体を傷つけさせず。

ミシェルは豊富な兵装と火力を生かして一夏の接近を封じ相手の得意な接近戦に持ち込ませず、開始早々距離を取って常にアリーナの壁を背にする事で相手が接近してくる方向を制限して機動力の無さをカバーする。

己の、そして相手の技量と機体特性に精通しているが故に、開始当初から同じような攻防をずっと繰り返す2人。




だがその結果、不利な状況に追い込まれているのは一夏の方である。

何故ならば、スラスターの増設と共に出力も増大した代償として当初から酷かった<白式>のエネルギー消費速度が更に悪化しているのだから。それはミシェルだってよく知っている。

対してミシェルの<ラファール・レクイエム・ガーディアン>は火力と防御、そして燃費を重視した信頼性と安定性の高いモデル。実弾メインの兵装と拡張領域の広さも相まって長期戦にも向いている。

これ以上逃げ回っていてもエネルギー切れで負けが決まっているのならば、イチかバチかの捨身しか今の一夏には残されていない。が、それもまた相手はお見通しだろう。

逆転の目はそれぐらい。ならば無謀な選択は出来る限りの技術でカバーしろ。


「(せめて<銀の福音>の時みたいな事が出来れば・・・・・・!)」

「・・・・・・そろそろ終わらせるとしよう」

「っ!!」


ミシェルの腰の後ろ当たりの半円型ミサイルポッド<ホーネット・ネスト>から大量のマイクロミサイルが発射。顔がヘルメットに隠れているせいで他の誰かを相手にしている時よりも発射のタイミングを読み取り辛いのが、ミシェルと戦う時に不利な要素の1つだ。

くそっ!と吐き捨てながら奥の手である左腕の多機能武装腕部<雪羅>に内蔵された荷電粒子砲で迎撃。<雪羅>の荷電粒子砲は過去にライフル以外にもショットガンを一夏が用いた事もあったせいか、遠距離用の集束モードだけでなく射程は短いが面単位で被害を与える拡散モードに切り替えが可能となっていた。

最後の攻勢を仕掛けるまで温存しておきたかったが、ミサイルから逃げ回るよりは荷電粒子砲で迎撃した方がむしろエネルギーの消費が少ない。

拡散モードで発射すると、効果範囲内のマイクロミサイルが着弾前に一斉に爆発して炎と煙が広がる。それを目晦ましに一夏は斜め上へと飛翔し、瞬時加速でミシェルへと急接近を試みた。

その加速力は一夏の予想を大分上回っていて、PICが一夏にのしかかるGを相殺しきれず全身が軋む。それを爆炎諸共振り払ってミシェルへと斬りかかった。


「はあああああああああああっ!!!」

「そう来ると思ったっ・・・・・・!」


一夏の突貫を読んでいたミシェルは<シールド・オブ・アイギス>で<雪片弐型>による斬撃を受け止め制止させる。

本命は別の方だった。AICが一夏の全身を絡め捕るよりも早く<雪羅>をブレードモードに切り替え、横一文字に一閃。盾形ビットの表面に亀裂が入りAICが展開できなくなる。それに従い一夏の身体も自由を取り戻した。

もうエネルギーも無くなる寸前。これで決める!


「これで、終わりだあ!!」


<零落白夜>起動。なけなしのエネルギーを注ぎ込んだ光刃で袈裟切りにすべく、右腕を振り上げ―――――




腹部に強烈な衝撃。




「ぐぶへっ!?」

「・・・・・・こういう時は蹴った方が速い」


前蹴りを食らって後ろへ弾き飛ばされた瞬間、エネルギー切れを宣告されて一夏の敗北が決定された。











「だー、もう少しだったのになー」


午前の授業を終え、例によって仲間達と食堂で昼食を取りながら模擬戦の内容を検討し合っていた一夏が漏らした一言である。

やや悔しそうながらも一夏は大体の敗因の検討はつけていた。それは他の一同も同じであり、食事の手を止めないまま合間合間に意見を述べていく。


「せっかくパワーアップしたっていっても、やっぱり使いこなせなきゃ意味が無いよなあ・・・・・・」

「燃費は悪い、性能はピーキー。ただでさえ展開しただけでシールドエネルギーを削る仕様の武器が2つに増えたのに移動するにもエネルギーをガンガン食うなんて何それ、燃費重視の<甲龍>にケンカ売ってんのその機体」

「言うなよ、これでも更識さんの機体組み立てるついでに<白式>も調整してもらったおかげでマシになった方なんだし」

「その分機動性も最初より更に向上してはいますが・・・・・・今度は一夏さんの方が<白式>の加速に反応し切れなくなっていますものね。むしろ一夏さんはよくやっている方と思いますわ。並の操縦者なら何度壁や地面に突っ込んでしまっている事やら」

「セシリアの言う通りだ、一夏はうまくやっている・・・・・・それに、どちらかと言えば場所もこちらに有利だったからな」

「そうだね。ミシェルはずっと壁を背にして一夏の動きを制限してたから対応しやすかったし、これがもっと広くて何もない空の上とか平原とかだったらその機動力を最大限引き出せるだろうから、逆にミシェルが負けてた可能性が高いと思う」


臨海学校での海上における対<銀の福音>戦が良い例だ。


「つまりここのアリーナ程度ではもはや一夏や<白式>にとっては狭すぎるという事か?」

「そうとも言えるが、その時はこちらも戦い方もその場に応じたものに変えれば良いだけの話だ。ルールに縛られる『試合』では勝てなくとも『実戦』ならば私でも十分嫁に対抗できる」

「例えばどんなやり方なのですか?」

「視認外からの超長距離狙撃」

「・・・・・・一夏はともかく、千冬さん辺りならそれでも飛んできた弾切り落としちゃいそうね」


沈黙。それから、一斉にこう思う。

――――――――――あの人ならやりかねん!!




なお、一夏の兄弟子も刀で受け止める真似はしなかったものの、純然たる勘のみで数百m先からの狙撃を回避しきった経験がある事を一夏は知らない。









あれこれ論議している内に予冷のチャイムが鳴り響く。午後も実技授業なので急いで着替えなければ。

とはいえISスーツに着替え直す事そのものには慣れたので大した時間はかからないが、宛がわれたロッカールームまでの距離が遠い。だから食堂からロッカールームまで辿り着いた頃には、授業開始までの残り時間にはあまり猶予が残っていなかった。

一夏とミシェル、2人だけの男子の独占されたロッカールームは逆に広すぎ、静かで落ち着かない。どちらかが存在しなければもっと居心地悪く感じただろう。


「やっぱり<雪羅>にエネルギーの配分を裂き過ぎなんだよな。でもそっちに回す分を減らすと今度は荷電粒子砲のチャージが更に延びる事になるし・・・・・・うーん」

「・・・・・・いっその事荷電粒子砲を封印して近接オンリーに戻ってみるというのは?」

「でもやっぱり飛び道具もあったらあったで便利なんだよ。ほら、午前の時みたいにミサイル撃ち落す時とか―――――」


唐突に2人は勢いよく振り向いた。ミシェルの右手はまだ外していなかった腰元のホルスターめがけ閃き、背後を向く一瞬の間にP14カスタムの安全装置を外して両手で構えてすらいた。一瞬の早業だ。ミシェルの銃は薬室に弾薬を装填してある状態でも安全装置をかけられるタイプなので、既に引き金を引けば発射される状態だ。

一夏の手にはこれといった武器を持っていないが、一夏は格闘技もそれなり以上にこなせるのでいわば一夏の肉体そのものが武器である。人間、素手でも人は殺せるのだ。

そんな攻撃的な気配すら漂わせた2人のすぐ手の届く近さに居ながら、悠然と扇子片手に微笑む女子が新たにロッカールームの中に存在していた。

一夏とミシェルの背中を冷たい汗が流れる。気配には敏感なつもりだったが、ここまで接近されてようやくこの少女の存在に気付いたのだ。それとも敢えて、彼女が2人に気付かせたのか。

どちらにしろこの少女、かなりの実力者である事は疑いようがない。


「あらあら、初対面の女の子にそんな態度は嫌われちゃうよ?」

「誰なんだ、アンタ」


リボンの色からしてどうやらこの学校の2年生のようだが、と少女の姿を見据えていた一夏だったが、彼女が自分の知り合いによく似ている事に気付いた。

気弱そうで少し根暗な雰囲気の『彼女』と比べて纏う空気はかけ離れているが、顔立ちそのものは似通っている部分がかなり多いし、特徴的な髪の色に至ってはそっくりな色合いだ。双子と言われたって納得出来そうなほどである。

先に構えを解いたのはミシェルの方だった。溜息一つと共に愛銃の安全装置をかけ直す。


「・・・・・・生徒会長殿が何の用だ」

「あら、私の事知ってたんだ。お姉さん嬉しいな」

「えっと、ミシェルは知ってるのかこの人?」

「更識楯無・・・・・・この学校の生徒会長で、簪さんのお姉さんだ」


成程、と納得。どおりでよく似てるわけだ――――性格はあまり似てなさそうだけど。

それからふと思う。


「あのー、今俺達着替えてますんで・・・・・・」


只今の格好:一夏(Tシャツにズボン脱ぎ掛け)・ミシェル(制服の上着を脱いだばかり)


「うん、だから?」


ニコニコと猫っぽい満面の笑みと共に流された。別の汗が一夏の額に浮かぶ。

こんな時どんな顔をすればいいんだ?笑えばいいのか!?予想外の展開にテンパった一夏は日本人特有ともいわれる曖昧な笑みを浮かべた。帰ってきたのは可憐かつ小悪魔的なな笑顔。だけ。

綺麗だとは思うけど反応に困るんでお願いです察してくださいこっちの事情!

そんな困惑しきりの一夏を救ったのは、ミシェルが取った行動だった。

普通に着替えを再開したのである。ささっと上を脱ぎ捨てて上半身裸になると、ベルトに引っ掛けていたホルスターも外してズボンにすら手をかける。


「ちょ、ミシェルストップ!まだ更識さんのお姉さんが居るから!」

「・・・・・・勝手に忍び込んできたのは向こうの方だし、授業開始までもう時間がない。一々相手にしている余裕なんてないぞ」

「でもなあ」


楯無に背を向け顔を寄せ合う野郎2人(片方全裸)。そんな状態だからか自然と声も抑え気味になる。


「(・・・・・・大体こういう手合いは自分のペースに持ち込んで引っ掻き回すのが狙いだ。相手の思惑に付き合ってやる暇は今はない)」

「(でも女子の前で裸になるのは流石に恥ずかしくね?)」

「(・・・・・・ISスーツも似たような物だと思うがな。軍では男も女も一緒の場所で着替えるのは珍しくはなかったし・・・・・・それにだ)」


ミシェルは極めて真剣な表情でこう締めくくる。






「(・・・・・・女子1人に裸を見られるのと織村先生の雷、どちらがマシだと思う?)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」






ガバッ!と一夏は勢いよくTシャツを脱ぎ捨てた。


「よーしさっさと着替えちまうぜミシェルー!」

「・・・・・・気持ちはよく分かるが分かり易過ぎだろ常考」


吹っ切ったというよりも半ばやけっぱちな感じの馬鹿笑いを上げながら一夏はパンツごとズボンに手をかけ、躊躇いなく引き下ろす。さっさと両足も引き抜き、ISスーツの下を手に取る。

顔を上げた時、ロッカーの扉の内側に備え付けてある鏡が目に入った。全てが反転する鏡の中に映し出されているのは未だ背後に佇む少女の姿。ただし、さっきよりも顔に血の気が集まっているような。ええい無視だ無視!

上の分も着てミシェル共々着替え終えて再度振り返った時にはもう、楯無の姿は綺麗さっぱり無くなっていた。

その後2人は無事(?)、授業開始5秒前にアリーナに辿り着けたそうな。








陽もとうに地平線の彼方に沈み、夕食を終えたミシェルはシャルロットが浴びるシャワーの水音をBGMに携帯電話を弄っていた。正確に分類するならば世界で最も有名なタッチパネル方式の某スマートフォン、その最新機種である。

メールが届いたのは、触るのを止めて充電器に繋ごうとした時だ。送信者の名前と番号を一目見た途端、怪訝そうに眉根が寄せられる。

メールを送ってきたのはDGSE(対外治安総局)――――フランスの諜報機関の知り合いからだった。立場の特殊性とフランス軍所属という経歴から軍関係の機関の人間とも面識がある。相手はDGSEが送り込んできた橋渡し役の1人だった。

内容は簡潔にまとめると、見張り役として日本に派遣されていたDGSEの工作員がIS学園の敷地近郊に於いて未確認勢力の存在を察知したという報告だった。

男性IS操縦者がIS学園に入学して以来、日本にあの手この手の手段で渡来してきた工作員の数はかつての冷戦時代に並ぶ勢いで増加し、特にIS学園周辺の土地に集中しているとミシェルは聞いた事がある。数十億人中現在2人しか存在しない『ISを使える男』とはそれだけの重大性を誇る存在なのだ。

フランスだけではない。アメリカのCIA・NSA・DIA、イギリスのSIS(別名某映画シリーズで有名なMI6)・GCHQ、ロシアのFSB・SVR、イスラエルのモサド(<銀の福音>暴走の際にはアメリカ共々大わらわだったとか)、他にも中国やドイツやイタリアやカナダ等々、両手の指でも足りない数の国の情報機関から派遣された工作員が多数犇めいている。

もちろん日本からも主にDAIS(防衛『庁』情報局)や警視庁公安部の人間が送り込まれ、各国の工作員と睨みあったり時に協力し合ったり暗闘を繰り広げたりしているとか。




それはともかく、DGSEのみならず各国の工作員も活動を活発化させている辺りから察するに未確認勢力が実在する可能性は高いとの事。但し勢力の規模・構成・目的は一切不明。

思い出すのは更識楯無の唐突な接触。


「(・・・・・・彼女はロシアの代表操縦者だった筈。そして更識は元々は裏工作に対するカウンター役としてその方面では有名だ)」


つまり今回の未確認勢力の登場に絡んでいる可能性は高い。対暗部用暗部という立場からかそれとも所属先のロシアからの命令なのかは知らないが、彼女が動くような事態が水面下で蠢いているという証。

そして彼女が自分と一夏に接触してきたという事実が示すのは。






「(未確認勢力が狙っているのは俺か一夏のどちらか・・・・・・それとも両方か)」






どちらにしてもきな臭くなってきたのに変わりはない。まさかどっかの天『災』みたいにISで殴り込んできやしないだろうな、と嫌な予感が脳裏をよぎる。

こうなってくると手持ちの武器だけで備えは十分か不安になってしまう。いや、愛用の拳銃だけでなく世界最強の兵器と目される自前のISも持っているのだから十分だと周りは思うかもしれないが、それでも『備えあれば憂いなし』の格言に肖りたくなるのが人の性ってもんだろう。

それに幾ら小国すら容易く攻略できる兵器を持っていたってあくまで自分は『個人』であり、複数の場所で複数の企みを同時進行可能な『組織』に対し基本自分だけでは1ヵ所で1つの事しか行う事が出来ないという不利が理解できないほどミシェルは愚かではない。

どうする?本国から装備を取り寄せてもらうか?そうだ、ラウラも故郷の部隊から色々と『過激な代物』を送られてきているらしいから彼女から借りるのも良いかもしれない。明日ラウラに話を通しておくか。


「お風呂お先~」


部屋のシャワーを浴び終えたシャルロットがパジャマ姿で現れた。その姿を見やって、すぐにミシェルの唇が緩む。


「・・・・・・最近お気に入りだな、その服」

「だって可愛いでしょ?ミシェルも似合ってるって言ってくれたし」


パタパタと駆け寄ってきたシャルロットはベッドに寝転がっていたミシェルめがけ飛びついてきた。ミシェルの胸板に顔を埋めると、気の抜けた唸り声を漏らしながら愛する旦那様に乗っかる格好で丸くなる。

まるで猫のようだ。というか、今のシャルロットはまさに猫そのものだった―――――着ているパジャマが猫を模したデザインなのだから。

布地は白くふわふわしていて、頭をすっぽり覆うフードには三角形の猫耳付き。袖の先には肉球装備、全体的には幾分大きめのパーカーに似たデザインなのでズボン部分は存在せず、代わりに付属の分厚い靴下にも肉球が。もちろん背中側の裾には尻尾も完備。夏休みの夫婦デート+1の際に購入した代物である。

今のシャルロットはシャルロット・デュノア白猫モードなのである。中の人的にはむしろ黒猫の方が適任なのかもしれないが、ご生憎さまこの作品の場合黒猫はラウラ担当なので悪しからず。

これは余談だが、黒猫バージョンなパジャマ姿で猫っぽいポーズまで取らせて撮影したラウラの画像は、彼女の部下達の手により永久保存版として部隊内のデータベースへ厳重に保管されている。部隊長のコスプレ画像を軍事機密として保管しちゃっていいんだろうかドイツ軍。

湯上りでちょっとのぼせ気味なのか、今のシャルロットは何だかいつも以上にフニャフニャした蕩け顔を浮かべている。動く筈のない尻尾がご機嫌そうに振れているのを一瞬幻視してしまったぐらいだ。

それだけならまだともかく、格好のまんまな子猫的可愛らしさもさる事ながら女としての色気も叩きつけてくるものだから困る。主にひとっ風呂浴びたばかりなせいで彼女が放つ焼きたてのケーキのような熱感混じりの体臭の甘さとか、身体に当たって潰れる布越しの乳房の質量感と柔らかさとか、無意識なのか身動ぎするせいで裾が捲くれ上がっているにもかかわらず擦りつけてくる下半身の感触とか。

付け加えるなら今のシャルロットは風呂上り、なので下着は一切付けていない。なので下半身に至っては裾がずり上がってるせいでダイレクトに触れ合っている事になり、湿気を帯びて平常よりやちゃむっちりしっとり感の増した太腿とかやや薄い叢とか小さな突起のすぐ下に存在する割れ目とかも―――――(以下検閲)

いかん、いかんぞ俺。もしかすると今の嫁はそういう意味じゃないつもりで甘えてきてるのかもしれないんだ。居間襲い掛かったらがっつき過ぎと思われるかもしれない。今は耐えよう。




・・・・・・そういえば、今度更識さんのお姉さんに合ったら今日の事謝っておかなければ。




「みーしぇーるー?」

「・・・・・・なんひゃ?(何だ?)」

「今別の女の人の事考えてたでしょ」


恐るべし女性の勘。まさか読心術にさえ発展してしまうとは・・・!頬を両手で引っ張られているのに関しては別に痛くはないのだけれど戦慄してしまう。


「子猫はね、旦那様が構ってくれないと寂しくて死んじゃうんだよ?」

「・・・・・・それは兎だろうという野暮な突っ込みは置いとくとして、それは一大事だな」

「――――だったら後は分かるよね?」


シャルロットはミシェルの腰に跨る格好で膝立ちになると、パジャマの襟元を引っ張った、火照っていつもより赤みの増した肉の谷間がより強調される。




「たっぷり可愛がってね、ご主人様♪」












ぶっちゃけ眠い。でもってちょっと腰も痛い。


「・・・・・・また昨日はお楽しみだったんでせうか」

「・・・・・・Yesと言っておこう・・・・・・っふぅ」


全校集会の場で欠伸を噛み殺すという強面な友人の珍しい姿に一夏は苦笑を漏らした。ちょっと視線を動かせば彼の嫁も眠たそうである。。その割に肌艶とか腰元はかなり充実しているというのが何ともかんとも。

・・・・・・まあ、自分も人の事言えないか。

すると昨日会ったばかりのあの生徒会長の姿が。あの時と同じ底が見えず、内心の読み取れない魔性の笑みを浮かべながら壇上に上がる。


「何かこっち見つめてねあの人」

「知らん・・・・・・」

『今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったわね。私の名前は更識楯無。君達生徒の長よ。今後ともよろしく』


知っていますんでさっさと話の続きをどうぞ。眠いので。


『では今月の1大イベント学園祭だけど、、今回に限って特別ルールを導入するわ―――――』


――――――何だろう。俺嫌な予感でゾクゾクしてきたんですけど?

背筋に冷たい物が流れて顔を引きつらせる一夏の気配を敏感に感じ取ったのか、眠そうに俯いていたミシェルも顔を壇上の方に向けた。

そんな2人を放置して、更識楯無は盛大に宣言する。






『―――――名付けて、各部対抗織斑一夏争奪戦!!!』






とりあえずミシェルは昨日の事を絶対に謝罪してやらない事にした。















===============================================
原作じゃ触れられてませんけど、ぶっちゃけあの世界の日本ってスパイの見本市になっててもおかしくない気がします。
どっかの国が実際に主人公手を出そうもんなら、残り全部が敵に回るので逆に膠着状態になってる事間違いなしでしょうけど。

・・・・・・そうなるとIS学園何度も襲撃かましちゃう亡国企業ってマジパネェっす。



[27133] 5-3:代表候補生と男性IS操縦者に関する部活動についての一幕
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/11/01 10:57

「―――――どうしてこうなった」


全校集会と午前の授業を終えた後の昼休み、一夏はせっかく頼んだ昼食に手をつけないまま文字通りの意味で頭を抱えていた。


「どうしてこうなった!?どうしてこうなった!!」

「大事な事だから3回言ったのね、分かり(ry」


憔悴のあまり無意識に一夏が口走ったネタに対する鈴の反応は置いとくとして、そんな彼の様子に非常に申し訳なさそうな顔をしたのは簪だった。

<打鉄弐式>の組み立てを経て男性操縦者コンビ&代表候補生グループとの距離が縮まった事により、今日から彼女も一夏達と一緒に昼食を取る事になったのだ。


「ご、ごめんね・・・・・・私のお姉ちゃんのせいで・・・・・・」

「いや、簪さんを責めたつもりはないから簪さんは気にしなくていいって・・・・・・でもまさか景品にされる日が来るなんてなぁ」

「ううう・・・・・・」

「何かいつも以上に皆が俺の事注目してくるから落ち着かないし」

「あうあうあうあう」


安心させるつもりで浮かべた笑いも微妙に煤けていて、それが尚更簪の無用の罪悪感を与えてしまう。早くも涙目になりながら更に謝罪とか慰めの言葉を絞り出そうとする簪だったが、悲しい事に対人スキルが低い彼女はそれ以上言葉をかけられず思考停止して固まってしまった。

なお周囲が今まで以上に熱い視線を一夏に注ぐ理由はというと、例の『各部対抗織村一夏争奪戦』において学園祭の催しで最も評価を得た部活に織村一夏を『強制』(←これ重要)入部させるという発表が大々的になされたからだ。今の一夏は馬の前にぶら下げられた人参も同然なのである。

ぶっちゃけ今一夏に浴びせられる視線は飢えた猟犬が獲物に送るような、集中通り越して剣呑な気配を大いに孕んでいた。そんなのを四方八方から浴びせられて平静で居られるものかと叫びたい。

それは恋人もしくは思い人または友人にそんな目を向けられる仲間達にも言えた。


「まったく一夏の事も考えずに勝手にあんな事を行うとは、本当にあれで生徒会長なのか?無責任ではないか!」

「そーよそーよ、勝手に人の恋人景品にしてんじゃないってのよ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(ry」

「2人とも更識さんを責めてる訳じゃないからねしっかりして!目が虚ろだよ!?」

「・・・・・・落ち着け。そっちは、何も悪くない」

「・・・・・・もしや更識さんのお姉さんはいつもこういった事をしているのか?」

「うん・・・・・・お姉ちゃん、人をからかったりするの、好きだから・・・・・・」

「・・・・・・苦労しているのだな。気持ちは私もよく分かるぞ」


苦々しさと諦観の入り混じった表情で何度もうんうんと頷いてしまう箒。彼女もまた出来の良すぎる突飛な姉に散々振り回される側の人間なのである。


「篠ノ之さん・・・・・・」

「箒で構わない。更識さんとは仲良くなれそうだ」

「・・・・・・なら、私も・・・・・・簪って呼んでくれて構わない」


心労が嵩んだり怒りを露わにしたり罪悪感に押し潰されたりそれのフォローに回ったり慰めるために頭を撫でたり―簪の頭を撫でていたミシェルにもどこからともなく怨念の篭った視線が突き刺さる―友情を深めたりと混沌とし始めた場の空気をしかし、ラウラが言い放った一言が一刀両断してみせた。


「しかしその学園祭で最も評価を集めたクラブが嫁を入部させられるという事は、そもそも嫁はどの部活にも所属していないという事なのだろう?一夏は部活動に所属しようと考えなかったのか?」

「へ?いやだってさ、どの部も皆女子ばっかりだろ?そんな中に入ったら男は俺1人だけって事になるから絶対気まずいっていうか居心地悪そうだし、どうせなら出来るだけ自分を鍛えるのに時間を使いたかったから」

「・・・・・・気持ちは分かる」

「だったら仕方がない――――の、かな?」

「まあ仮に一夏さんがどこかのクラブに所属しようものなら今度はそのクラブそのものが他のクラブの方々から怨嗟の念を送られる事になる可能性は高そうですわね」


そう考えると、これまで一夏がどの部活にも無所属だった事は逆に良かったのかもしれない。


「そーいや皆も何か部活とか入ったりしてるのか?」

「私は最初から剣道部だ」


胸を張る箒。突き出される学園トップクラスのサイズを誇る胸部に胡乱げな視線を送りつつラウラがボソリと突っ込む。


「その割には嫁との訓練に付き合っているばかりで部活動に参加している様子を全く目にした事がないがな」

「うっ!!?」

「箒、毎度付き合ってくれるのはありがたいけど、一応入部してるんなら少しでも顔だした方が良いと思うぜ。せっかくずっと剣道続けてきてるんだし」


幽霊部員である事実が発覚し、恋人の止めの一言で箒が撃沈してしまったのはさておき。


「私もまだ決めてないわね。今度の学園祭で学校中のクラブも出し物をするからそれを見て決めようかとは思ってるけど」

「わたくしもそのつもりですわ」

「んー、僕も皆と一緒に学園祭で見て回ってからにするよ。実を言うとどんなクラブがあるのかまだ把握し切れてないしね」

「私は・・・・・・自分の機体の事で頭がいっぱいだったから・・・・・・」

「そっか、皆も今の所部活に入ったりはしてないんだな。ラウラもそうなのか?」

「いや、私は既にあるクラブに所属しているぞ」


それは初耳である。


「どこのクラブに入ったんだ?」

「茶道部だ。何と言っても顧問が教官――――織村先生だったからな」

『ああ納得』


落ちがついた所で仲間達の目は最後に残ったミシェル達に向けられた・・・・・・のだが。

何故かミシェルはどこか遠い目というか、虚ろな眼差しで斜め上を見上げていた。見つめているのは天井ではなくここではない遥か向こう側であるのは間違いない。


「み、ミシェル?」

「・・・・・・ああすまない。ちょっと思い出してしまった事があってな」

「何かあったの・・・・・・?」

「・・・・・・実はな、入学した当初どんな部活があるのか放課後に学校中見て回ろうとした事があったんだが・・・・・・・」


よくよく見てみれば目元とかこめかみとか口元とかがしきりに引きつりかけている。その時点でろくでもない内容だと悟ってはいたのだが、怖いもの聞きたさを優先させてしまった一同は無言でミシェルに続きを促す。


「でだ・・・・・・『2次元研究会』という張り紙がされた教室があったんだ。こういうのもなんだが俺もそういったものが好きな方だから、興味を惹かれてその教室に入ってみた訳だが・・・・・・何人かの女子が俺が入ってきた事にも気づかず机に向って何かを書き続けていたんだ・・・・・・」

「それって、まさか・・・・・」


ヒーロー物のアニメ鑑賞が趣味であるというミシェルと似通った接点を持つ簪がいち早く結末を悟ったのか、恐れ戦く様に漏らす。それに対し、ミシェルは非常に重々しい頷きを返した。


「・・・・・・彼女達が書いていたのはやおい物の同人誌だった・・・・・・・しかも俺と一夏をネタにした」

「何・・・・・・だと・・・・・・・・・・・・!?」


凍りつく一夏達。ミシェルは非常にほろ苦い笑みを口元に張り付けながらこう付け加える。


「知ってるか?その業界じゃ俺が鬼畜攻めで一夏はヘタレ受けがトレンドらしいぞ・・・・・・」

「そんな事聞かされたってちっとも嬉しくねぇ!!?」


げに恐ろしきは腐女子の妄想力。普通現実に存在する身近な相手同士でそんな妄想を思い描くのはむしろ困難な気がするのだが。


「へ、ヘタレ受け・・・・・・」

「な、何だか納得出来ちゃったよ僕!」

「鬼畜攻め?ヘタレ受け?どういう意味なのだそれは?」

「納得しないでくれよシャルロット!セシリアも何でそんな顔真っ赤になってるんだ!?ラウラはそのまま純粋でいてくれ!」

「・・・・・・むしろデュノア君はクーデレだと思う」

「更識さんまでそんな事言わないでくれよ!!?」


椅子から立ち上がってまで絶叫してしまった一夏は助けを求めるかのように2人の恋人を見る。


「ほら箒も鈴も皆に言ってやってくれよ!」

「い、一夏はヘタレじゃないわよ!すっごい鈍いけど!」


微妙にフォローになっていない鈴の言葉に続いて箒も口を開く。食堂中に響き渡る大音量で。






「そ、その通りだ!寝所に関してはむしろ一夏は鬼畜な方だぞ!!」






時が凍った。食堂中に居る全ての人間が固まった。

―――――そして数秒後、校舎どころか敷地中に響き渡る大絶叫が響き渡り結果、別の場所に散らばっていたその他の生徒や教員達を驚かせる事になる。












「ねえ聞いた?」「実は織斑君ってベッドの上だとドSなんでしょ?」「マッチョを押し倒して強気に攻める美少年―――新ネタキター!」


さっさと食事を済ませて逃げ出すように食堂を出た一同だが、近所のおばちゃん達の如き生徒間ネットワークを通じて食堂での一幕に関する噂は学園中に広まってしまっていた。

ヒソヒソ話をしている集団の近くを通りがかるたび聞こえてくる内容がとっても耳に痛いわ心も痛いわで、自分達の教室に向かっているだけなのにどんどん疲労が嵩む。主に精神的に。


「あはははは・・・・・・死にたくなってきた」

「寄せ早まるな一夏!私が悪かったから!」

「いやもう良いんだよ、別に箒に対して怒ってる訳でもないんだし――――次からはもっと出来るだけ優しくするように心がけようとは思うけど」

「そ、そうか、それは楽しみだな!」

「声大きいよ!?一夏もこんな所でそんな事言っちゃダメー!」


実際シャルロットもたまに―しょっちゅう?―ミシェルと似たような会話を所構わず繰り広げているので、彼女の突っ込みも酷いブーメランでしかない。

と、ある意味この事態の元凶であるミシェルが一夏に話しかけた。


「・・・・・・なあ一夏。あの生徒会長の提案、一夏はどう対処するつもりだ?」」

「どう、って言われてもな。そりゃ勝手に景品扱いされてるんだから少しは腹が立つけど」

「だろう?・・・・・・こちらも友人が勝手な思惑で振り回されるのを見るのは好かん」

「何か策がおありで?」

「簡単な話だ――――学園祭が行われる前に一夏がいずれかの部活に所属してしまえばいい」


言い放たれた提案に、皆の足が廊下のど真ん中で止まる。

なるほど、そもそもの発端は『一夏がどの部活にも所属していない』という一点に尽きるのだから、その前提が崩れてしまえば今回の争奪戦も意味を無くしてしまう。生徒会長の思惑を引っくり返すには手っ取り早い。

もっともそうなると前にも挙げた様に一夏が選んだクラブに羨望やら嫉妬やらの注目が集中する訳だが、そこはそのクラブの部員達には我慢してもらう他あるまい。それにそんなデメリットと比較しても男子IS操縦者の片割れ(それも美少年)が所属するという事実と比べれば、入部を認める可能性は大だ。

周囲の期待?身の平穏が優先です。


「とはいえ、一夏が部活に入っても構わないという前提だが・・・・・・別に無理して決めなくても、一夏の好きにすれば良い」


この展開に食いついたのは剣道部所属の箒と茶道部所属のラウラだ。口には出さないものの落ち着かなさそうに身動ぎしつつ、互いに熱い視線を一夏へと送る。

そんな2人の無言の圧力に若干たじろぎつつ、むむむと腕組みして頭を捻り、しばし脳内で吟味を重ね。


「―――――んじゃ、剣道部に入ってみっかな」


ガックリと敗者のラウラは肩を落とし、勝者である箒は恋人が自分を選んでくれたと思って笑み崩れる。


「そうか、うむ!それでこそ日本男児というものだ!」

「よく鍛錬するのに剣道場使わせてもらってるし、剣道部に入ったらまた使わせてもらうのにも融通が利きそうだからな」

「やっぱりそんな理由かぁ!そこに直れ一夏!」

「うおっ、な、何でそんな怒るんだよ!?」


どこからともなく愛刀を取り出して斬りかかる箒に寸での所で真剣白羽取りで見事受け止める一夏。

恋人を得ても、まだまだ女心に対する理解力は不足の傾向にあるようだ。




ちなみに睨みあう2人と崩れ落ちたラウラの後方では。


「わたくしも剣道部に入部しまえば一夏さんと・・・・・・!」

「はいはい、友人だからってそんな不埒な真似は許さないわよー」

「でも何で一夏だけ景品扱いでミシェルはそうじゃないんだろうね?」

「・・・・・・やはり顔の問題だろうな。好都合ではあるからあまり気にはしていないが」

「わ、私は・・・・・・もうデュノア君の顔の事、気にしてないからね・・・・・・」






その日の放課後の特別HR。議題は学園祭のクラスの出し物の相談。

現在出ている案は『織斑一夏のホストクラブ』織斑一夏とツイスター』『織斑一夏とポッキーゲーム』『織斑一夏と王様ゲーム』以下略。

・・・・・・どうやらIS学園に入学してからというもの、一夏が見世物にされるのは定番になっているようだ。本人&恋人達や彼の仲間からしてみれば大いに迷惑な話だった。彼ら以外の周囲から一夏の都合を考慮するという考えがすっぽり抜け落ちてしまっている辺り、余計に性質が悪い。

あと1組には一夏だけでなくミシェルという世界最初の男性IS操縦者も存在しているのだから、そちらも広告塔として押し出すには十分なインパクトがあるだろうに――――え?年頃の女性にはインパクトがあり過ぎる?ごもっとも。

そのような経緯から、当事者である一夏の抗議も大多数の女子の反論に封殺されてこのまま延々と迷走しかねない勢いだったのだが。


「メイド喫茶はどうだ?衣装の調達にも当てがあるぞ」


というラウラの意外な鶴の一言で1組は喫茶店に決定。担任でありながら山田先生にHRを押し付けてさっさと職員室に引っ込んでしまった千冬の元へ向かう。


「でも千冬姉への報告ぐらい俺だけでも十分だから。ミシェルも一緒に来なくたって大丈夫だと思うんだけど」


付いてきた学園内唯一の男友達に一夏はそう告げる。


「いや、2人だけで話しておきたい事があってな・・・・・・」

「そうなのか、それで話って?」


ミシェルは本国の諜報機関の人間から送られてきたメールについてと、それに対する自分なりの意見を一夏に伝えた。

本当なら機密事項だが、友人に黙っておくよりは狙われている可能性をしっかりと理解させて協力を仰いだ方がやり易かろうという判断からだ。

自分を巡る暗闘について教えられた一夏は複雑そうに表情を歪める。自分が狙われかねない立場にある、というのはかつての誘拐事件でそれなりに理解していたが、ISを動かせるようになってから尚更その傾向が酷くなっていると分かったのだから喜べる筈もない。

―――――ところで生徒会長こと更識楯無に関する事柄については説明を省いた。こちらは状況証拠もまともに存在しないし十分な確証を抱くだけの情報もないのに加え、彼女の妹である簪には悪いがどうにもミシェルからしてみれば楯無は苦手な類の相手だった。というよりも嫌悪の対象と言うべきか。




人をからかい振り回し、困惑し迷惑している姿を見て楽しむ愉快犯。それが楯無を見てミシェルが持った印象。

どことなく篠ノ之束とも似通った雰囲気をミシェルは楯無から感じとっていて、それが殊更に彼の中で生徒会長に対する悪印象を加速させる。




「・・・・・・特に外部からも客が招かれる学園祭はそういった連中が潜り込むには絶好の機会だ。どの組織がどういった方針で動くかは定かではないが、それなりのやり取りが学園祭の間に繰り広げられるのは間違いないだろう・・・・・・」

「下手すればまたあの時みたいに誘拐される可能性もあるって事か・・・・・・!」

「いや、もっと悪い。ここはIS学園だ、専用機持ち以外にも緊急時には教員達もISで出撃する事になる・・・・・・という事は」

「―――――まさか、それに対抗する為に相手もISを持ち出してくるって事か!?」


弾き出された結論に一夏は思わず声を荒げてしまった。たまたま近くには誰も居ないタイミングだったので注目を集めずには済んだが、一夏の心のさざめきは収まらない。


「・・・・・・可能性は、なくはない」


ミシェルの方も首肯する他なかった。


「とにかく四六時中警戒し続けろとは言わない。気張り過ぎれば負担がかかるだけだからな・・・・・・だがもしもの時に備えてそれなりの心構えはしておいた方が良いだろう・・・・・・」

「分かってるさ。もう好き勝手やられるつもりはないし、今度こそこの手で大切なものを守り切ってやるさ」


そう、少年は固く誓う。






いつの間にか職員室の前に辿り着いていたので、さっさと用件を済ませるべく中へ踏み込む。

千冬にクラス会議の結果を告げ―――――メイド喫茶の案を出したのがあのラウラだと告げられるや否や、千冬は腹を抱えて大爆笑。校内では厳しく凛々しい振る舞いが一般的な彼女からしてみればかなり珍しい光景である。

とはいえ実の所、ミシェルも今の千冬と似たような感想を抱いていたりする。そのせいか岩石から削り出したようなイメージを抱かせる彼の凶相もどことなく緩みがちで、瞳にはかなり生暖かい物が宿っていたりする。


「ふふふふふっ、あの仏頂面で冷淡一直線だったアイツがコスプレ喫茶とはな!アイツも中々可愛らしくなったじゃないか!」

「・・・・・・織斑先生。実はこんな写真があるんですが」

「何だ、見せてみろ――――――っっっ!!!ぶぷっはははははは!!!これはまた傑作だ!」


携帯電話の画面を見せられた千冬、更に爆笑。呼吸困難にならないいか心配になってしまうレベルの笑いっぷりだ。

何だ何だと一夏も画面を覗きこむ。映っていたのは例の着ぐるみ風パジャマ(黒猫バージョン)を着て顔を赤くしつつしっかりポーズをとっているラウラの画像だった。

ちなみにポーズを撮らせたのはシャルロットである。それから後日ミシェルは勝手にこの画像を千冬や一夏にも見せた事がバレて涙目でナイフを振り回してくるラウラに追い掛け回されたとか。

閑話休題。


「あー笑った笑った。おいデュノア、後でその画像を私にもよこしてくれ。携帯のアドレスは一夏にでも聞けばいい。話はこれだけか?」

「あともう1つだけ。考えたんだけどさ千冬姉、俺剣道部に入る事にしたから部長か顧問の先生と話がしたいんだけど」


弟の突然の入部宣言にきょとんと目を見開く世界最強の乙女。何だか今日は千冬姉の意外な顔をよく見る日だな、などと一夏は思ってしまった。

すぐに表情を切り替えた千冬は口元に手を当て若干考え込んでから、弟とその友人兼恩人をジロリと射抜く。


「分かった、お前の入部については私から顧問の教師に伝えておこう。
それから学園祭には各国軍事関係者やIS関連企業など多くの人が来場する一般人の参加は基本的には不可だが、生徒1人につき1枚配られるチケットで入場できるようになっているから渡す相手は考えておけよ」

「あ、はい」

「話は以上だ。2人とも下がっていいぞ」


揃って教師達に一礼してから職員室を出る。













「――――――やあ」


IS学園生徒会長、更識楯無が職員室のすぐ外で待ち構えていた。







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短めですがきりのいい所なので投稿。

今から言っておきますが、ここの会長さんはフルボッコにされる予定です。
・・・いやまあ、作者の好みじゃありませんのでwww
どうにもああいう天邪鬼キャラは書くのが苦手ですし。



[27133] 5-4:リアルバウトハイスクール
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/11/07 00:31


「ねむねむ~・・・・・・でもケーキあむあむ~・・・・・・」

「・・・・・・ほら」

「ミー君ありがと~・・・・・・はむっ・・・・・・えへへ~、おいひ~」

「あらあらデュノア君、本音とは仲が良いのね」

「むふふ~、その通り~。私はミー君ともシャルシャルとも仲良しなのだ~」

「・・・・・・まあ、この顔で普通に接してくれる相手というのは貴重ですから」

「ねーミー君、もう一口ちょーだい」

「こら本音、仲が良いからって甘えすぎたらダメよ」

「・・・・・・あーん」

「あーむっ♪ケーキおいしっ♪」

「まったくもう・・・・・・はいデュノア君、紅茶のおかわりをどうぞ」

「ありがとうございます・・・・・・」






「(こうしてみると、のほほんさんって生まれたばかりの子猫っぽいよなぁ)」




ケーキを一口サイズにカットして口に運んでくれるミシェルの手によって日頃の6割増しで眠そうにしつつも餌付けされているのほほんさんの姿(一夏はついさっき知ったのだが本名は布仏本音。どっちにしたってのほほんさんだ)にそんな感想を抱く。

いつも以上にほにゃほにゃにゃふにゃふした雰囲気を放ちつつ、ケーキを口にするたび満面の笑みを浮かべるその姿に心が癒される。

だってほら、さっきからケーキをあげ続けてるミシェルを見てみればハッキリ分かるぐらい目元も口元も緩みきっているではないか。見た目からは決して想像できないが可愛い物も好きなのだこの男。子猫とかも大好きである。

ついには我慢できなくなったのか、フォークを置くとその手をのほほんさんの頭に乗せてナデナデさえし始める。ごつごつとした指先が見かけに反して繊細なタッチで梳かれていく、やんちゃな子猫の毛並みたいにちょっと癖っ毛なのほほんさんの長髪。

のほほんさんの顔が更にふにゃふにゃになった。ミシェルの内心はこのまま持ち帰ってシャルロット共々思う存分じゃれ合って可愛がりたいぐらい萌え狂っていた。

ミシェルの反対側に座るのほほんさんのお姉さんである布仏虚(うつろ)さんも穏やかに笑っている。のほほんさんとは対照的にかなりきちりとした印象の委員長タイプの先輩だ。






「そろそろ本題に入っちゃってもいいかしらー?」


―――――少なくとも、一夏の目の前に居るIS学園の生徒会長様よりは、虚さんの方がよっぽど生徒会長っぽい気がする。






「ひっどーい、これでも正真正銘この学園の生徒会長なんだから、敬意を払わなきゃダメだぞっ?」

「サラッと人の考えた事読まないで下さいよ・・・・・・」


今一夏とミシェルが居るのは生徒会室。職員室から出た所でこの部屋の主である楯無に連行されてきたのだ。ここに辿り着くまでに数度会長狙いの襲撃に遭ったのだがそれは置いておこう。

あと同じくここに居るクラスメイトののほほんさんとそのお姉さんが生徒会役員だと知って驚いたりもした。主にクラス1ぽやぽやしたのほほんさんがちゃんと生徒会の仕事をこなせるのか、そんな意味で。

多分その場に居るだけで癒しのオーラを振りまく生徒会のマスコット担当なんだろう、とさりげなく酷い評価を下す野郎2人。でも実際可愛くて癒されるから許す。


「一応最初から説明するわね。一夏君が部活動に入らない事で色々と苦情が寄せられていてね。生徒会は君をどこかに入部させないと拙い事になっちゃったのよ」

「それで学園祭の投票決戦ですか・・・・・・あれ?でもミシェルはどうなんですか?一応ミシェルもどの部活に入ってないみたいなんですけど」

「・・・・・・あー、うん。彼は良いのよ、うん」

「・・・・・・見当はつきますよ」


やっぱりこの顔は多感な思春期の少女達の好みでない、という事だろう。やっぱり世の中顔なのである。もはや納得する以外にないので、これにはミシェルも苦笑い。会長も一夏も苦笑い。

しかし微妙にミシェルの肩が落ちているし一夏の口元も引きつり気味だった。


「いいこいいこー♪私はちゃんとミー君がいいこだって分かってるからしょんぼりしないの~」

「・・・・・・ありがとうのほほんさん・・・・・・」


小動物系の少女に慰められる、見た目歴戦の兵士な学生服姿の男。

――――――目の前で繰り広げられるとかなりシュールだ。


「でね、交換条件としてこれから学園祭の間まで――――――」

「あ、でも俺剣道部に入部する事にしたんで、もう投票とかする必要とかはないと思いますよ。どうもご迷惑をおかけしたみたいで、すみませんでした」

「えっ」


ニコニコ笑って続きを言おうとした楯無の声は、一夏の告白によって途切れる事になった。それと同時に美しくはあるが掴み所のない笑顔が一瞬消える。


「えーと、聞き間違いかな?今一夏君が入るクラブを自分で決めちゃったって聞こえたんだけど」

「はい。だから剣道部に入部する事にしたんですけど。もう千冬ね・・・・・・じゃなくて織斑先生にもついさっきその事は伝えておきましたし」

「そ、そう。ふーん、そうなんだ」


笑顔を張り付け直してそう取り繕いはしたが、楯無の内心は芳しくない。

学園祭の終了まで自分がマンツーマンで彼を鍛え上げる計画だったのだが、そもそもそれは彼がどの部活にも所属していないのが前提だ。

今彼が入部してしまえば放課後の空き時間が部活動で潰れてしまい、楯無が一夏を鍛える時間が大きく削れてしまう。そうなれば彼のレベルをより一層高みへ引き上げるという楯無の思惑が無駄になってしまう。

これは予想外の展開だ。あわよくば一夏を生徒会に所属させる為の企みも張り巡らせていたというのに――――『織斑一夏争奪戦』も実はその一環だったのだが、もしやそれが逆に自分から彼が部活動に関わるきっかけになってしまうとは。

織斑先生にも剣道部への入部を決めたと伝えてしまったとなれば、幾ら生徒会長の楯無でもなかった事には出来まい。

自分は“IS学園最強の生徒会長”だが、向こうは“世界最強の乙女”なのだから。


「(それに彼のお姉さん以外にも噛みついてきそうな人がいるしね)」


楯無は一夏と一緒についてくる事になったミシェルが、自分の方を冷めた目で見ている事に気付いていた。どうやら彼は私の事をあまり快く思ってくれてないみたいね、と漠然と悟る。

織斑千冬の弟が誘拐され、その際にデュノア社の御曹司が死にかけるという事件は『裏』の世界ではかなり有名な事件だ。IS学園で再会してからは親友であり戦友として友情で固く結ばれた上、各国の代表候補生と友好を結び、果てにその中の1人と更に篠ノ之束の実妹と恋仲になったと聞かされれば注目しない方が難しい。

男性IS操縦者でありフランスの代表候補生であり世界トップクラスの大企業の御曹司である彼の機嫌を損ねれば、IS学園の枠を飛び出す国際問題に発展しかねないのだ。第3次世界大戦の発端になど御免こうむる。


「(だけどまさか2人揃って簪ちゃんとも仲良くなっちゃうなんてなあ)」


初対面で簪ちゃんを泣かせておきながら一緒に妹の機体を組み立てたり一緒にご飯を食べたり楽しそうにお喋りしたり!!

自分なんか簪ちゃんが学園に入学してきてからも避けられたり逃げられたりで全くと言っていいほど会話の1つも出来ていないのに、ああ妬ましいああ羨ましい妬ましい・・・・・・・・・・・・ゲフンゲフン。


「(でもこの子達に下手な対応をしたらそれこそ簪ちゃんに嫌われちゃうかもしれないし、せめてそれだけは避けないと!)」


『織斑一夏争奪戦』なんて発表した時点で、本人とその友人達への申し訳なさのあまり姉への好感度が更に下落している事を楯無は未だ気づいていない。

さて、と思考を仕切り直す。

――――一夏が入学以前から強さを求めて鍛錬を続け、専用機を手に入れてからも日々鍛錬を積み重ねているのは周知の事実。その辺り織斑一夏という少年はかなりストイックだ。

ならば遠まわしに気取った言い方で煽ったりするよりも、単刀直入に申し出て自分の力を見せつけた方が彼が申し出を受け入れてくれる可能性は高い。そう楯無は読んだ。


「ねえ織斑君」

「は、はい」

「――――私が鍛えてあげよっか?」











井の中の蛙、大海を知らず。

胴着に袴姿と身なりを変えて、畳道場にて年上の少女が放つ機関銃の如き連打を受け続ける一夏の脳裏にその一文が過ぎる。


「ほらほら、受けてばっかりじゃジリ貧だぞっと」


――――生徒会長は最強であれ。

最初に聞いた時はどういう意味だと言いたくなったが、少なくとも生徒会長である楯無がかなりの猛者であるというのは紛れもない事実だと、今一夏は身を持って味わっていた。

『鍛えてあげる』という彼女からの申し出。自分の実力を知らしめる為に楯無から手合わせを願われた一夏。会長を1度でも床に倒せば一夏の勝ち。一夏が行動不能になったら彼女の勝ち。酷過ぎて怒る気にもなれないハンデ。

最初は腕を取ろうと試みて・・・・・・すぐに大きく後ろに飛びのいた。あれ以上不用意に踏み込んでいたら即座に投げ飛ばされていただろうと一夏は確信していた。僅か1度の接触で、一夏の全身には汗が噴き出していた。

一夏の背筋を震えさせたのは、楯無の纏う雰囲気が曖昧だという事実。この一点に尽きる。

隙が存在するのかそれとも存在しないのか。どんな攻めを警戒しているのかしていないのか。悪戯な猫を連想させる不思議な笑顔の下に全てが隠れていて、相手の気配を感じ取る事で弾丸の両断すら可能な一夏ですら楯無の気配は殆ど読み取れない。

そんな現実に自らを縛ってしまって身構えたまま動かなくなってしまった一夏に対し、今度は楯一瞬で彼の懐に飛び込みんだ楯無が竜巻のような攻勢を開始した。

掌打、貫手、手刀の雨あられ。ガードの隙間をぬって的確に急所に突き刺さる。蓄積されていくダメージ。


「このっ!」

「甘~い」


苦し紛れの反撃に爪先を伸ばした前蹴りを繰り出す。が、あえなく避けられ、それどころか伸ばした足を楯無が肩に背負ったかと思った次の瞬間には軸足を刈られ、喉に掌を当てた状態で背中から畳に倒される。


「がっ、はっ、くっ・・・・・・!」


追撃の掌打が鳩尾に打ち込まれる寸前、押さえ込まれていない軸足を振り上げる事で身体を後転させ楯無の下から何とか逃れる。立ち上がりながら押し込まれた気管のダメージが回復するまでの時間を稼ごうと試みつつ、楯無からは視線を離さない。


「そんなに熱い視線で見つめられるとお姉さん照れちゃうぞ♪」


落ち着け。軽い言動に乗せられるな。何がまやかしで何が本物か見極めろ。

これまでの彼女が繰り出した技や身のこなしからして複数の格闘技に精通しているのは確実だ。前蹴りに対する返し技は空手で序盤の猛烈なラッシュは多分詠春拳辺りの中国拳法。他にも色々隠していそうな予感。

徒手における一夏の戦闘スタイルは昔篠ノ之道場で仕込まれた古武術を数年の間を空けて路上での喧嘩という『実戦』を経て変化させつつ磨き上げたものだ。学校の格闘技系クラブや近所のジムなどでさわり程度に教えてもらったボクシング・キックボクシング・レスリング・柔道・空手等の技術に加え、最近ではミシェルやラウラから特殊部隊流の軍隊格闘術もミックスされつつあるから、もはや『織斑一夏流』という独自の体術を構築していると表現しても過言ではない。

だが技術そのものの洗練され具合は楯無の方がかなり上だ。これまで受けた攻撃の数々から分析するに、彼女の戦い方は速度のある攻撃で急所を正確にかつ矢継ぎ早に叩く事で一方的に叩きのめしてしまうという戦法。回避スキルも高く、尚且つカウンターの打ち方も巧妙。

一夏が彼女に対して上回っているのは体格と純粋な筋力、後は打たれ強さぐらいか。だが一撃の威力が有利でも昔の偉い人が『当たらなければどうという事はない!』と言い放ったように、そもそも当たらない攻撃に意味は無い。無駄な体力を消耗するだけだ。

他にも分かっている事は・・・・・・彼女は間違いなく手を抜いている。少なくともこれだけ正確に急所に当てれるのであればもっとダメージが蓄積し、何度もダウンさせられていてもおかしくない。つまりは本気の威力を込めて殴ってはいないという事だ。舐めやがって。


「最初は中々信じられませんでしたけど、本当に強かったんですね会長って」

「あら、ようやく分かってくれたのかしら」


彼女は汗1つかかないでにこやかに笑う。あまりににこやか過ぎて背中を悪寒が這い登ったぐらいだ。






千冬姉や兄弟子とは全く違う強者。あの2人を業物の刀と例えるならこの先輩は暗器。笑みという一見人畜無害な皮に命を奪う為の牙を隠す存在。

もしくは深く濃い霧。全てを包み隠し見えるものの姿を曖昧し、振り払おうとしてもまとわりついて衣服を湿らせて動きを鈍らせ、やがて疲れ果てさせて体の自由を奪ってしまう。






――――一夏の口元が獣が浮かべる類の笑みの形に歪んだ。


「(だからって、あっさり白旗挙げられるかよ)」


例え霧のようだと思ってしまったって、正体はこうして目の前に立つ2本の足を持った人間だ。

ならば必ず触れる。追いつける。捉える事だって出来る。

彼女に勝てたのならば、それはまた1つ己が強くなれた事の証。大切なモノを守る為の力を求め続けている一夏にとってそれは無上の喜びの1つだ。

大体、1回畳に倒すだけで自分の勝ちだなんて信じられないハンデをつけられときながら、散々フルボッコにされた挙句KO負けなんて無様にも程があるじゃないか。

意表を突け。自分のペースを貫け。彼女のペースに引きずり込まれるな。向こうの思惑を上回れ。己を鞘に収まった刀とし、居合のイメージを脳裏に思い描き精神集中。

一夏の気配の変化を感じ取った楯無が面白そうに口を開く。


「む、本気だ――――」


彼女が言い終わる前に一夏は動いた。相手が己のリズムで動きだすよりも更に早く先手を取る事で隙を突くという篠ノ之流古武術ガ裏奥義、『零拍子』。それを用いて一気に距離を詰める。

自分が喋っている最中に一夏が行動を起こした為に、楯無は驚いた風に目を僅かに見開く。それでもしっかり反応して後方へ飛ぶが、小さなものであってもそこには確かに一夏が付け入れるだけの隙が生じていた。

彼女が着地する前に一夏は楯無の腕を取ろうと手を伸ばすが―――それはフェイク。更に踏み込んでから素早く低空タックルに切り替え。1度押し倒せばそれで勝ちと言ったのは向こうの方だ。それに乗らない手はない。

だが、しかし。


「あっまーい」


あっさりとタックルを捌かれ、危うく顔から畳に強烈なキスをする所だった。咄嗟に手を突いて身体を支えるも、今度は自分が致命的な隙を晒す羽目になる。

顔を上げた瞬間、目の前で火花が散った。額に叩き込まれたのは楯無の膝。ワザとずらされていなければ鼻が潰れていただろう。

でもまだ動ける!


「まだまだぁ!」

「あら」


手を伸ばし、楯無の袴の裾を引っ掴むとそのまま思いきり引っ張り上げた。楯無が大きく後ろにのけぞった所で立ち上がった一夏は追撃を試みる。

が、何と楯無はそのまま体勢を立て直さず逆に自分から後ろに倒れ込んだかと思うと、両手を突いて逆立ちの態勢から足をしならせて側頭部めがけ蹴りを放ってきた。


「か、カポエラぁ!?」

「引き出しは多く持っておくものよ」

「くっ!」


ガードが間に合わないと瞬時に判断し、反射的に顎を引き頭を傾けて頭部を出来るだけ固定する。バットで殴られたような衝撃に視界が一瞬横へぶれる。

それでも一夏の体勢は左程崩れない。一夏の咄嗟の反応にほんの少しだけ驚いたような感心したような表情を楯無は浮かべた。

先程の考察の通り、彼女は筋力差から生じる打撃技の威力の弱さを技の速度と的確に急所へ撃ち込む事で補っている。逆に言えばどれかが欠ければ威力は大きく減じてしまうのだ。

一夏が顎を引いて頭を傾けた事で彼女が狙っていた打点がズレ、頭部を固定した事で脳への衝撃も最小限に抑える事に成功したのだった。

逆立ちという不安定な体勢のままの生徒会長の両腕狙いのローキック。上下反転しているのだから下手すれば顔面直撃コースにもかかわらず手加減無しの一撃。ぶっちゃけもう相手が(一応)女である事もお構いなしだ。

ローキックをバネよろしく両腕の力だけの跳躍により回避して日本の足で立ち直す彼女の元へ、再度全脚力を注ぎ込んだ踏み込みでもって掴みかかる一夏。






――――予想外の展開はここからだった。






唐突に、踏み込んだ足から力が抜けた。威力は減じたといってもやはり脳はそれなりに揺らされていたらしい。手を突きだしたまま前のめりに傾ぐ。

その指先が楯無の胴着・・・・・・ではなく、更にその奥に隠れていた物を引っかけていた。

ぶっちゃけると、高級なシルクとレースで構成されたそれなりに露出激しいブラジャーに。色は薄紫色。

それを指先に引っ掛けたまま、更に一夏の身体は前のめりに崩れ落ちた。




結果は言うまでもない。

あっさりとホック部分どころか肩紐の部分まで引きちぎられて、楯無のブラは彼女の身体から分離した。




「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・へっ?」」


奇しくも重なる2人の間抜けな声。

手には無残に破壊された残り香どころか温もりすらしっかり残る下着・・・・・・の残骸。目の前にはブラを剥ぎ取られた拍子に大きく胴着も肌蹴てしまった先輩。

乱暴に下着を奪われたせいで大きく震えていた双丘の先端、色鮮やかな桜色の動きをしっかり追いかける一夏の目。つんと重力に逆らうようにやや上を向いていて視覚だけでもその信じられない柔らかさを容易く想像できた。

うん、最低でも箒クラスこれから更に成長したらシャルロットクラスにも到達するかもってそんな事考えてる場合じゃねぇ!?

長い間未点検で放置されたからくり人形よりもぎこちない動きで視線を上にずらすと会長と目が合った。彼女は黙って胸元を正して外界に晒された乳房をしっかり胴着の下にしっかり押し込んでから、清々しい笑顔を顔に張り付けた。

但し頬は僅かながら朱色に染まっていたし、目元なんか猫っぽい雰囲気から猛禽類のそれに変貌していたが。


「うん、下着を見られるぐらいのハプニングは想定してたけど、下着を奪われた挙句直接おっぱい丸出しにまでされちゃうのは予想外だったわ」

「一応言っときますけどワザとじゃないんですホントウニモウシワケアリマセン」


途中から合成音声じみたぎこちない喋り方で平謝りし始める一夏。その手には未だ無残な屍を晒す下着。

楯無の笑みが更に深まる。


「ダ・メ♪おねーさんの裸体は高額すぎて鑑定不能なんだから、勝手に見ちゃった不届き者にはお仕置きだよ」

「ですよねー!!!」




残像すら見えそうなぐらい最初を遥かに上回る速度で繰り出される生徒会長のオラオララッシュを、一夏はもはや涙目になりながら必死に捌く。










「ぜえ、ひぃ、ぶはぁ~・・・・・・・・・・・・」


太陽がその輝く球体を半分以上地平線の向こうに隠れてしまった頃、道場の畳に大の字になってぶっ倒れている一夏の姿があった。

長きに渡って繰り出され続けた楯無の猛攻を受け続けたために両腕は青痣まみれ。顔の所々にも打撲の跡や擦り傷を拵えていて、呼吸は熱中症寸前の犬よりも荒い。

楯無の方はと言えば、一夏と比べれば断然に落ち着いているが若干息が乱れてはいる。彼女からしてみればむしろここまで本気になっておきながら一夏をKOに持ち込めなかった事に驚いていた。

いくら自己流のトレーニングを数年間続けていたといっても、それは軍などの専門機関における過酷な訓練からはかけ離れた素人の趣味の延長線に位置する類だった筈だ。

『実戦』と呼べる経験だって精々不良相手の喧嘩程度。頻度そのものは異常なぐらい多くはあるが左程手こずるまい――――そう楯無は考えていた。

だが彼は、対暗部用暗部の大家の跡取りとして物心ついた頃から毎日過酷な鍛錬を続け、決して日の当たらない『裏』の実戦にて更に磨き上げてきた戦闘技術の持ち主である楯無の攻勢を受けてかわして耐え凌いで、見事ここまで意識も失わず耐え切った。殺す気で襲いかかった訳ではないとはいえ、だ。

ブラジャーを剥ぎ取られてしまったのだってそれは予想以上に一夏の戦いぶりが巧みかつ反応速度も踏み込みも速かったからだ。おまけに、


「あー・・・・・・大分マシになってきたな」


あまつさえそう言いながら呼吸を整え終え、あっさりダメージから回復して起き上がる始末。予想以上にタフ過ぎる。


「いやー、ここまで頑丈だとはお姉さんちょっと予想外だったかな」

「そうですか?いやまあ千冬姉とか護さんに稽古つけてもらった時は毎回大怪我しない一歩手前まで散々叩きのめされたりしてましたから、ボッコボコにされるのは慣れっこだったりするんですよね」


どことなく虚ろな笑いを漏らす一夏。彼の発言に何気に聞き捨てならない人物名が含まれていた事に気付いた楯無の額に、一筋の冷や汗が垂れた。

土方護。織斑一夏の兄弟子と目される人物であり、その正体は裏社会でも史上最高の懸賞金をかけられた盲目の剣鬼。懸賞首となった最初の頃に夜中の新宿御苑に懸賞金狙いの悪党共を誘き寄せて一網打尽に退けたという逸話は、少し裏世界に詳しい者達の間では語り草である。

その背後で彼を秘密裏に支援しているといわれる組織――――通称エレメンタル・ネットワークについての情報は、名称以外は更識家でも大まかな概略程度しか手に入っていない。それほどまでに秘匿性の高い組織、という事か。

少なくとも対犯罪者用非合法組織という話らしいので、学園に害を及ぼす可能性は低いと読んではいる。


「(学園の近くに国家機関以外の未確認勢力が紛れ込んだって情報が伝わって来てるけど、まさか一夏君の知り合いとかじゃないわよね)」


とにかく一夏の実力の程が実際に知れただけでも十分意味のある時間だったのは間違いない。


「どうしよっか?一夏君もまだまだやれそうだからお姉さんももっと相手してあげてもいいけど」

「だけどもう日が暮れちゃってますし・・・・・・あ!そういや皆の事ほったらかしのまんまじゃんか!?」


大慌てな様子で畳道場から飛び出しかけた一夏はしかし、壁際からかけられた声にその足を止める。


「・・・・・・皆には連絡して俺達抜きで訓練しといてくれと伝えておいた」

「あれっ、そういえば居たんだデュノア君」

「・・・・・・ああ。一応最初からずっとな。一夏、これ」

「ああサンキュ」


上手そうに手渡されたスポーツドリンクをあおる一夏から視線を外すと、ペ○ちゃんよろしく舌を出しながら笑いかけてくる生徒会長と目が合った。


「おねーさんも欲しいなっ」

「・・・・・・悪いけどこのスポーツドリンクは1人分なんだ」


どこぞの前衛的な髪形のお坊ちゃんみたいなセリフである。


「ああそれだったら俺の分飲みます先輩?」

「・・・・・・止めておけ一夏。ああいう類はな、1度甘い顔を見せると骨までしゃぶりつくすようになるぞ」

「あれー?どーしておねーさんそんなに嫌われちゃってるのかな?出来たら教えて欲しいんだけど」


返答はとても簡潔かつ辛辣だった。


「・・・・・・・ぶっちゃけ、胡散臭さばっかり鼻について気に食わないし・・・・・・それに、アンタみたいな愉快犯は俺が最も嫌う類の人間だ」

「うん、思いっきり直球な答えだね。おねーさん傷つくなあ」

「知った事か。自業自得だ」


それに中身はこっちが遥かに年上だしな、と声に出さず心中で付け足すミシェル。彼からしてみれば楯無の事が迷惑ばかりかけてまともに責任を取ろうとしない筆頭―――――篠ノ之束と同じ人種にしか思えず、臨海学校での事も相まってムカムカしたものがこみ上げてきている真っ最中なのである。

むしろ友人の妙に刺々しい雰囲気に一夏の方が慌ててしまい、何とかこの場をフォローしようと名案を捻り出そうと試みる。

が、その前に一夏を引きずるようにしてミシェルは道場から立ち去ってしまう。










「・・・・・・もうちょっと一夏君と友好を深めたかった所だけど、これは思わぬ障害の登場って感じねぇ」


これは意外と一筋縄に行きそうにないわねと、楯無は彼女には珍しい重い溜息を吐いた。











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うーん、やっぱり会長を書くのは難しい。
最近普通のエロばっかりだったので、久々に一夏にはラノベ主人公らしいラッキースケベな目に遭ってもらいました。むしろ悪化してます。

会長フルボッコ計画はまだまだ続きます



[27133] 5-5:アフタースクール/ブレイクスルー
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/11/13 23:49

「――――それじゃあこれからよろしくお願いします」


生徒会長との素手での決闘から翌日、剣道着姿の一夏は剣道部への入部の申し込みの為に放課後の剣道場を訪れていた。

剣道場には剣道部所属の生徒達のみならず、一夏が剣道部に入部する事を聞きつけた他の部活の少女達で犇めいている。その大半は『織斑一夏争奪戦』が本人が自ら剣道部に入部した事によるショックから、殆どが滝のような涙を流して恨めし気な気配を漂わせていたが。


「うん、これで一夏君目当てで幽霊部員の篠ノ之君もきちんと顔を出してくれるようになるだろうね?」

「うっ・・・・・・・も、申し訳ありません」


部長のお言葉に肩を落とすのはこれまた剣道着姿の箒。何気に部長が昨日生徒会長に襲い掛かってあえなく撃退された1人である事に一夏は気づく。

手刀1発で気絶させられた人物ではあるが確かに中々キレのある動きだったと思い返す。流石世界中から集められた(一応)エリートなだけあるなぁ。


「とりあえずまずは織斑君のお手並み拝見といかせてもらおうか?他の子達も皆織斑君と手合わせしたがってるみたいだしね?」

「ならばまずは私が!」

「ああ篠ノ之君は却下だからね?今まで散々部活をサボっておきながら織斑君と熱い時間を過ごしていたんだしね?」


にべもないが図星だったので反論のしようが全く無い。

部長はどの部員を最初に選ぼうかと見回してみたが・・・・・・少女達の目が口ほどに『私を選べ!私を選べ!』の大合唱。もはや殺気に思えるぐらい鋭い視線を一身に浴びる羽目に陥る。

しばし部長は首を捻って考え込んでから、やがて部長はポンと手を打つ。


「それじゃあこの際だから皆同時に織斑君に相手してもらおうか?」

「ちょっと待てえぇぇぇぇぇぇぇ!?それ何て袋叩きってもう皆構えちゃってるし待った待ったまだ俺防具着けてな・・・・・・アッー!!」

「い、一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」






1分後、そこには死屍累々を前に1人仁王立ちする一夏の姿が!


「早っ!」

「やっぱり織斑君強っ!」

「今更だけど織斑先生の弟で男子でIS動かせるだけあるよねー」

「うむ、流石一夏だな!」

「もう織斑君が部長で良いんじゃないかな?譲っても構わないよ?」


口々に驚きと称賛の言葉を漏らしあう野次馬の少女達。襲い掛かる剣道少女達相手に無双を繰り広げた一夏の姿に惚れ直しつつうんうんと何度も頷く箒。

半ば呆れるようにどこかのライダーみたいな事を口走ったのは現剣道部部長である。彼女の言葉ももっともで、四方を取り囲まれて防具も無しに打ち込まれたにもかかわらず、それらを全て紙一重で交わした上で次々一太刀浴びせていくその姿はまるで時代劇のラスト5分の見せ場の如し。


「どうも織斑君は1対1だけじゃなく1対多の戦いにも慣れてるみたいだね?どこで覚えたのか興味があるよ?」

「え、えーと、大きな声では言えないんですけど・・・・・・路上での喧嘩とかで鍛えられたといいますか」


思えばあの頃はよく無茶ばっかりして千冬姉にも迷惑かけたなあと遠い目。

とはいえそれは今の一夏の実力を形作った重要な経験である事に間違いなく、特に乱戦時の回避能力と見切り、そして視界外からの攻撃に反応する為の勘の鋭さを養うには絶好の機会だったと言えよう。


「よし、ならば次こそ私が――――」

「そいつら程度では物足りんだろう?今度は私が相手をしてやろう」


その凛々しい声が剣道場に響き渡った瞬間、一斉に野次馬の人垣がモーゼの十戒よろしく割れた。

一瞬でざわめき声が消えた場内に新たな人物が姿を現した。誰も言葉を発する事が出来ないでいる。皆その人物の登場に恐れ戦き、黙って剣道場の中央まで彼女が進み出るのを見送る他無い。

史上最強の乙女、織斑千冬の登場である。格好は一夏達同様剣道着。肩には竹刀。


「剣道着ファッションの織斑姉弟ツーショットキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!」

「写真、ありったけの写真を撮るのよ!こんなチャンス今を逃せばもう一生訪れないわよ!?」

「千冬様抱いて!是非その竹刀で私の(ピー)をお奪いになってー!!」


凄まじい反響である。静寂から一転して大歓声が剣道場を震わせ、近くを通りがかった他の生徒や教員が何の騒ぎかと思ったほどだ。

これには相変わらず千冬姉は凄い人気だなと苦笑い。本人は非常に鬱陶しそうに顔をしかめ、五月蠅そうに耳にほっそりとした指を突っ込んだ。

最後の方で聞こえてきた女生徒の誰かの完成に関しては聞かなかった事にした。指摘したらしたで色々と事態が悪化しそうだった。千冬の方は後程その生徒を探し出して教育的制裁をお見舞う事を固く誓ったが。

・・・・・・むしろ叩かれて喜んだりしないだろうな?と一抹の不安も思いつつ。


「あの、だから次は私が・・・・・・」

「丁度良い機会だ。見世物扱いは好かんが、最近お前の相手もしてやれていなかったし久しぶりに稽古をつけてやろう。そうだな、最低でも1度に20合位は受け切ってみせろ」

「冗談。今度こそぜってー1発は入れてみせるさ!」

「おい、聞いているのか!?」

「ふん、さっさと防具をつけろ」

「千冬姉こそ危ないからいい加減防具着けなってば」

「だから一夏も千冬さんも――――」

「準備はできたな?ならどこからでも好きなように打ち込んで来い」

「いくぜ!うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


最強の姉を前に決してひるむ事無くまっすぐ彼女を見つめたまま、一夏は裂帛の気合いと共に竹刀を振りかぶって素早く踏み込んでいく。




「ううう、一夏に無視してくるなんて・・・・・・」

「さっさと諦めて場所を空けるべきだったね?」











「――――とまあ、こんな事が昨日あったんだが・・・・・・だから別に簪さん自身が悪い訳じゃないんだからそこまで落ち込む事はないぞ」


一方その頃整備室。例によって簪の専用機完成の手伝いにやって来ていたミシェルが友人達に昨日の放課後の顛末を話し終えてからまず行ったのは、リアルorz状態になった簪の肩を叩いて慰める事であった。

姉に関わるロクでもないアレコレにいい加減慣れてしまっている簪はすぐに立ち直るとペコペコと頭を下げつつ、しかし同時に驚きの念も抱いていた。


「だけど、織斑君は凄いと思う。そこまでお姉ちゃんに通用する人って滅多に居ないから・・・・・・」

「そりゃ一夏だもの、アイツの頑丈さは中学の頃から折り紙つきだったしね。マラソン大会でもブッチギリで陸上部に勝っちゃうような奴だもの」

「うむ、この私よりも強いのだから当たり前だな。それでこそ私の嫁に相応しいというものだ」

「はいはいテンプレ乙。だけど私達との訓練に来ないと思ったら他の女と一緒だったっていうのは聞き捨てならないわね。普通アイツの方から説明してしかるべきでしょうが。一夏らしいっちゃ一夏らしいけどさ」

「(・・・・・・会長の下着を壊した事は言わないでおこう)」


もちろんその場で見張り役―会長に対しての―として2人に付いていたミシェルも楯無の上半身ヌードはバッチリ目撃していたが、あれはあくまで偶然なのであり望まぬ目撃者となってしまった自分に責任はない・・・・・・筈。

だからといってそこまで解説するのもはばかられるのでその辺りは話していない。雉も鳴かずば撃たれないだろうから。

・・・・・・でも何故だろう、自分が言わなくても結局皆に知れ渡りそうな嫌な予感がするのは。


「ですけど中々進みませんわね。まさか新しい機体を組み立てる事がここまで難しい事だとは、思ってもいませんでしたわ」

「・・・・・・だけど、私だけの時よりは断然進み具合の早さが違う・・・・・・ありがとう、皆」


もう1度簪は頭を下げた。今度は謝罪ではなく、感謝の気持ちを込めて。

誰かと一緒に協力し合いながら目標に向かって努力する事の楽しさと大切さを、彼らは自分に思い出させてくれたから。


「気にしないで良いよ。困った時はお互い様なんだしね」

「そーそー、こんな風に人の機体を弄るのも滅多にない機会だろうし、これもこれでいい勉強になるわ」


専用機持ちともなればこうして専用の施設で自ら点検するのは珍しくないのだが、他人の専用機の点検を行うのはかなり珍しいと言って良いだろう。そう考えると中々新鮮な体験だ。

現在<打鉄弐型>は武装や装甲の取り付けといったハードウェア関連はほぼ完了しているが、それらを正常に作動させるソフトウェアが未だ未完成である。制御プログラムが完成しても実際に機体を操って問題点を洗い出すという肝心要の作業が待ち構えているので、正式稼働に持っていくにはまだまだ時間が必要だ。

特にスラスターなどの動力関係になると熟練の職人並の繊細な調整が必要と言っても過言ではない。いざという時は整備課の先輩方の力も借りるのも手か。


「しかし、ここまで大変な事をあの更識さんのお姉さんは自分お1人の力で達成したのですわね・・・・・・こう言っては失礼ですが、人は見かけによりませんわ。流石更識さんのお姉さんと言いましょうか」

「そうだな、上手く隠しているがあの身のこなしからして生身の戦闘もかなりやるだろう。あれはかなりの曲者に違いないな」


セシリアが疲れた溜息交じりに漏らした呟きにラウラも賛同する。またも一転して簪の顔色が澱んだ物に変わるが、未だ組立途中の<打鉄弐型>の方に顔を向けている2人は気づかない。


「・・・・・・たった1人で全部作り上げたというのは語弊がありそうだがな」


だがミシェルの反論に、俯きかけだった顔がパッと持ち上がった。


「・・・・・・何でそう言えるの?」

「どちらかと言えば政治的な問題だ・・・・・・ISコアの個数は極少数に限られている以上、いくら国家代表だからといって貴重なそれを個人で用いる事を国が許すと思うか?」

「あっ・・・・・・」


ISとはつまりそれ1機で国家規模のそれ以外の軍事力と拮抗以上の性能を有する強力な兵器だ。それはかつての核兵器にも匹敵する程の抑止力を誇っているのである。

だからこそその管理は核以上に厳重であり、易々と個人の手で好き勝手組み立てられる事が認められる筈もない。むしろ実力で阻止しようとしても可笑しくないのだ。

・・・・・・それこそそんな事が認められる相手が居るとすれば、唯一ISコアを作成できる篠ノ之束博士と世界最強の乙女の称号を持つ織斑千冬以外には考えられまい。

裏世界に関わる家の出とはいえ、更識楯無という女はそれほどの力を持っているとでもいうのか。


「所属がロシア代表というのもその辺りが関わっているのかもしれない・・・・・・おそらくコアそのものはロシアから提供されたものだろう。その時点でまず1人で機体を組み上げる事はまず許されない」

「ISコアは国もしくは企業の所有とされるのが義務付けられていますものね。専用の設備や場所も不可欠ですし、複雑な手続きも必要となる以上本当に何から何まで1人で行うというのは困難ですわ」

「そういえばここだって機体借りて自分で練習しようと思ったら嫌になるぐらい手続きの書類書かなきゃいけないらしいし、ISの管理ってかなり厳重なんだっけ、本当は」

「それだけISというのは厳しい取り扱いが求められる兵器という事だな。ファッション感覚で気軽に素人が扱う代物ではないというのに、この学校の一体どれだけの人間がそれを理解しているのやら・・・・・・」


それぞれ補足を加えていく代表候補生組。専用機を与えられる立場として耳にタコが出来るほどその辺りの事柄を所属先から言い含められているのだろう。

――――にも関わらずよく嫉妬に駆られたり痴話喧嘩の度にISを展開する辺り、本当に理解しているのか少し不安になったりならなかったり。


「ともかく、簪さんのお姉さんが1人だけの力でISを完成させた訳じゃないのは間違いないって事で良いのかな?」

「ある程度は自分1人で組み立てたのかもしれないが・・・・・・確実に他の人間の手も入ってると見て間違いないだろうな」

「・・・・・・そうなの、かな」


何処か戸惑った様子の簪の表情。これまでずっと姉と同じように自分1人の力で機体を組み立てようと努力し続けていたというのに、いきなりその目標を論理的に否定されて複雑な心境であるのが容易に読み取れた。


「ま、つまりこういう事じゃない?いくら凄いお姉ちゃんでも人の力を借りて機体を組み立てたんだから、更識さんだって普通に他の人の力を借りて作っても問題ないわよきっと」

「・・・・・・良いの?本当に?」

「ええ遠慮なく仰って下さいな。この不肖セシリア・オルコット、微力ながらお力にならせて頂きますわ」

「乗りかかった船だ。可能な範囲で力になってやろう」

「友達なんだから当たり前だよ」

「・・・・・・力になりたいから力になるまでだ。簪さんが気に病む必要はない」


飾らない言葉。だからこそ皆の言葉が本心からだと魂で理解できる。出来の良い姉といつも比較され、姉に劣る妹としか見られてこなかった簪にとってそれは、とても大きな救いだった。

だから簪もまた、ごくシンプルかつ万感の想いを込めて感謝の言葉を吐き出した。

一筋の熱い雫と共に。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう、みんな」






先ほどと同じ言葉――――だがそこに込められた想いの量は桁が違う。





















「あれ、あそこに居るのって一夏と箒じゃない?」

「おー皆、皆も今戻ってきたところなのか」

「はい、今日も更識さんのお手伝いをしていましたの」


寮の入り口でミシェル達は部活を終えた一夏と箒に鉢合わせした。シャワーを浴びた後なのか2人の髪は湿っていて首にはタオル。

水気を帯びた箒の黒髪は何時もよりも艶やかな光沢を放っていて、和風美人らしい色気を強く感じさせる。

一塊になって各々の部屋に向かっていると、自然に他愛もないお喋りが始まった。


「で、最初の部活はどんな感じだったの?」

「それが最初は他の部員が一斉に皆襲い掛かって来てさ。何とか勝てあのは良かったけど今度は千冬姉まで乱入してきて、後はずっと千冬姉相手に乱取り稽古してた」

「何っ、教官がいらしていたのか!?くっ、せっかく直接教官殿の教導を受けれる絶好の機会だったというのに!」

「あれは凄まじい戦いだったな。一夏が千冬さんとあそこまでやりあえるようになっていたとは私も驚いたぞ」

「そりゃ中学の時も千冬さんが休みの時は必ず手合わせ頼んでたしね一夏って」

「一夏さんの強さの理由が分かった気がしますわ・・・・・・」

「ま、何てったって千冬姉は俺の目標だし、まだまだ今の俺の腕じゃ千冬姉には全然敵わないさ。諦めるつもりもサラサラ無いけど」


苦笑を浮かべつつも固い決意に満ちた一夏の横顔は男らしさに満ちていた。

そんな恋人のカッコよさ増し増しの横顔を間近で見せつけられた箒と鈴は瞬時に顔を赤らめつつも見入ってしまい、他にもセシリアとラウラどころか簪の頬までも朱を帯びてしまった。

そんな乙女達の様子に微笑ましさすら覚えているのはデュノア夫婦。青春してるなあと年上っぽい感想を抱いてしまうのは男女経験の差からか。


「・・・・・・そういえば、一夏と簪さんは似ているのかもしれないな」


おもむろにそんな事をミシェルは口走った。

一夏達は僅かな間一様にキョトンとした顔になったが、すぐに当事者の2人以外の少女達は納得の頷きを示す。戸惑うのは簪。


「え、そ、そう・・・・・・かな?」

「そういえばそんな感じだね。2人ともお姉さんを目標にいっぱい頑張ってるし」

「才能に違いはあれどあれど一夏さんも更識さんもどちらもとても優秀ですし、確かに似ていなくもありませんわね」


姉に抱いている想いに違いはあれど―一夏は千冬に対する憧れと深い親愛の情、簪は楯無と比較されて生きてきた事に対する劣等感―そう言われてみれば、確かに共通点が多い。


「だ、だけど私のお姉ちゃんと織斑君のお姉さんは全然似てないと思う・・・・・・」

「千冬さんかなり厳しい性格だけど、あの会長は人で遊ぶのに全力を注ぎそうなタイプよね絶対」


鈴の感想に全く反論できない更識妹。今まで何度あの人の所業の犠牲者達にどうにかしてくれと泣きつかれた事やら。勝手に遠い目になってしまうのも仕方のない事だった。

この場にもその犠牲者が居る事を思い出してさらに億劫になる。いい加減、あの悪癖どうにかならないだろうか。


「でも千冬姉って外じゃ信じられないぐらいきっちり振る舞ってるけど、家の中だとすっげーだらしないんだぜ」

「そうなの・・・・・・?」

「脱いだ物はそのままほったらかしだし、部屋の掃除はしないし、料理は作れないし、休みの時はビール片手に下着姿で寝っ転がって野球中継見てるし」

「・・・・・・どうみてもオヤジです本当に(ry」


一夏が年頃の女性としては明らかに問題のある自宅での姉の過ごし方を暴露したところで、自分の部屋の前に辿り着いた。


「んじゃまた晩飯の時に」

「ああそうだ一夏、今日は私が腕を振るうから一緒に夕食を取らないか?鈴もどうだ?」

「良いアイディアね、丁度今日は和食を食べたい気分だったのよ。いつも通り一夏の部屋で構わないわよね」


最近、一夏と箒と鈴の間では自室で作った手料理を持ち寄って一夏の部屋に集まって食事を取るというのを時々行っていた。

その際毎度の如くお互いに食べさせ合いっこしたりむしろ食べ辛くなる位密着し合ったり、そのまま箒か鈴のどちらかあるいは両方が翌朝になるまで部屋に戻ってこなかったりするのは定番となってたりする。

そして腰を抑えつつ、しかしとてつもなく幸せそうな雰囲気を漂わせながらこっそり一夏の部屋から出てくる2人を部活の朝練や早起きな名も知らぬ同級生が目撃するたびハンカチを噛み締めるのももはや毎度の事。

時折ミシェル達も食事会に加わっているが、馬に蹴られる前にさっさと食べ終えて嫉妬に駆られて暴走しそうになるセシリアやラウラを引きずって逃げ出すので、恋人達の暴走は誰も止められやしないのが現状だ。


「ミシェル達はどうする?簡単なので良ければ色々御馳走するけど」

「・・・・・・今日は遠慮しておこう」

「そっか。んじゃぁな」


一夏の部屋の前から通り過ぎようとする友人と恋人達の方に顔を向けながら、一夏は自室の扉のドアノブに手をかける。

そこで一夏の動きはピタリと止まった。ミシェル達もそれに気づいて足を止める。


「どうしたんだ一夏」

「・・・・・・・・・・・・部屋の中に気配がする」


その言葉にすぐさま皆の表情が鋭いものに切り替わった。特に学園周辺での各諜報組織の活動の異変について知っているミシェル、そして一夏の表情は一際固く鋭い。


「不審者か。一応聞くが、施錠はちゃんと行っていたのか?」

「部屋の鍵はしっかりかけておいてたさ」


IS学園の学生寮では、誰も部屋に残らない時は絶対に施錠しなくてはならないと規則が定められている。世界中から集められたエリート中のエリート達の身の安全とプライバシーを守る為には当たり前の決まりだ。

部屋の鍵は部屋の主の生徒本人以外では、寮長である千冬が厳重に保管している合鍵以外に予備は存在していない。その千冬もつい先程まで剣道場で一夏や箒と共に居て着替えた後は職員室に
戻ったので寮内に居る筈がない。

故に一夏が鍵を紛失していない以上、扉の内側に居る人物は無断で侵入してきた好ましからざる相手であると判断するのは自明の理。

過剰反応というなかれ、誘拐事件や無人機襲撃といった事件によって実際に他者の手により身の危険に晒される体験を味わってきた以上、一夏達がISを展開していないのを除いて臨戦態勢で身構えるのも仕方のない事と言えた。


「・・・・・・シャルロット、誰でもいいから教員を呼んできてくれ」

「分かった、すぐ連れてくるね」


いつも以上に重苦しい声色でミシェルが指示を出す。代表候補生組の中でもこういった事態に対する正式な訓練を積んでいるのは軍属のミシェルとラウラぐらいだ。


「一夏、部屋の中に何人ぐらい潜んでいるのか分かるか・・・・・・?」

「正確には分からない。でも間違いなく1人分の気配は間違いなく感じ取れた」

「・・・・・・ラウラ、本国の部隊から送られてきた装備の中に使える物はあるか」

「あるにはあるが、賊の1人程度素手で貴様や私、それに嫁も含めれば十分だろう」

「念の為だ・・・・・・外部犯ならば、ここまで潜入してきている以上それなりの装備をしているだろう、油断は禁物だ・・・・・・箒達は少しの間、一夏の部屋から誰も出てこないよう見張っておいてくれ」

「心得た、任せておけ」


部屋の前の見張りを箒達に任せ、ミシェルはラウラの部屋へ向かった。

ラウラの先導の元部屋の中へ。同室の女子はまだ戻ってきていないらしい。ラウラは自分のベッドの元によると、枠の部分とマットレスの間に手を突っ込んで思いっきり持ち上げた。


「これで十分か?」

「・・・・・・上等だ」


マットレスの下には大小様々な銃器が隠されてあった。サブマシンガンからアサルトライフル、拳銃にショットガン。中には手榴弾らしき物体まで。

・・・・・・ベッドは学園の備品の代物だった筈だから勝手にこんな物騒な物隠して良いんだろうか?


「うわ、すげぇ・・・・・・」

「一夏、多分いくらか部屋の物を壊す事になるだろうが、構わないか・・・・・・?」

「ああ、ま、まあこんな時だし仕方ないし、別に構わないけど・・・・・・まさか部屋ごと吹き飛ばすとかじゃないよな?」

「・・・・・・まあそこまで派手にするつもりはないが」


隠し武器庫からミシェルが選び取ったのはレミントン・M870ショットガン。アメリカ製だがドイツなど世界各国で採用されている信頼性の高い銃だ。

ラウラが手にしたのはH&K・G36C。ドイツ軍でも採用されている高性能アサルトライフルであるG36のコンパクトモデル――――なのだが、同年代と比べてもかなり小柄なラウラが持つとアンバランスさが目立ってしかたない。


「賊は生け捕りにしてどこの者か吐かせるという方針で良いな」

「・・・・・・そのつもりだ。鎮圧用のゴム弾はあるのか?」

「ああ」

「スタングレネード(閃光音響手榴弾)は?」

「勿論あるぞ」

「・・・・・・完璧(パーフェクト)だラウラ」

「感謝の極み」


どこの執事と吸血鬼だこの2人。吸血鬼役はともかく執事役は眼帯じゃなくてモノクルだろうに。

ラウラがネタを知っていた事自体驚きだが、おそらくワールドワイドOTAKUな副官の影響かもしれない。

部屋から非致死性のゴム弾を装填した銃とスタングレネードを持って現れたミシェルとラウラに驚きを覚えつつ、一夏の部屋の前を見張っていた少女達は銃を持った2人と入れ替わりにその場から離れた。

その頃には何人かの知り合いだったり名も知らなかったりする少女達が何事かを感じ取って集まりだしていた。口には出さず、ジェスチャーだけで出来るだけ離れるように指示を出す。ミシェルの容貌に加え明らかに本物の銃を構えて緊迫した気配を漂わせる彼らの姿に、日頃姦しい少女達も素直に従ってくれた。

ミシェルとラウラは一夏の部屋の扉の両側に張り付く。所属は違えど何度も同じコンセプトの訓練を身体に叩き込んできた2人は、一々言葉を交わさずとも自然とどういう役割分担なのかを理解し、即席のコンビネーションを実行に移す事が出来た。


「(突入方法は?)」

「(・・・・・・ドアの厚さや強度はたかが知れてる。俺に任せろ)」


ラウラが何時でもスタングレネードの安全ピンを引き抜いて投げ込めるように身構え、ミシェルに首肯で合図を送る。


「ふっ・・・・・・!」


鋭い呼気と共にミシェルが繰り出したのは右後ろ回し蹴り。鋼鉄製の義足がドアノブの少し上に叩き込まれ、大きく鍵がひしゃげた木製の扉は破片を撒き散らしながら勢いよく内側に開いた。

間髪入れずラウラが蹴りが放たれた瞬間からピンの抜かれていたスタングレネードを放り込む。すぐさまポッカリ開いた入口に背を向け、手で両耳を塞いだ。

1.5秒後、日光よりも強烈な閃光が部屋から溢れ、戦車砲の砲声よりも更に凄まじい轟音が部屋のみならず寮中を震わせた。野次馬の女生徒達の中から悲鳴が漏れる。

度重なる訓練でスタングレネードへの耐性がついていた2人も軽く耳鳴りに襲われていたが構わず室内へ突入。ミシェルがポイントマンでラウラが援護役のバックアップ。


「・・・・・・クリア!」

「クリア!」


――――――室内には誰の姿も無かった。

一夏の部屋はお世辞にも無事な状態とは言い難い有様と化していた。敷き詰められた絨毯はスタングレネードの炸裂で円心上に焦げ跡が刻まれているし、音という名の瞬間的な衝撃波によって置かれていた小物などが倒れたり砕けて床に散乱していたり―――――

・・・・・・ちょっと待て。


「何だこれは・・・・・・?」


散乱している壊れた小物の数が。以前一夏の部屋を訪れた時よりも明らかに増えている。それに女物が複数含まれていて見覚えのない物ばかり。

少なくともこの部屋に侵入した者が居るのは間違いないが、その姿は何処にもない。だが窓から逃げ出した形跡はないし、隠れる場所はそれなりにある。完全に室内をチェックしていないのでもう室内に居ないという保証は何処にもない。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・(こくり)」


まず2人が目を向けたのはシャワールーム。袋小路ではあるが身を潜めるにはうってつけの場所。

全周囲に気を配りながら、ミシェルは右手だけでショットガンを構えつつシャワールームの扉に空けた左手を伸ばす。

・・・・・・その手が扉にかかる前に、勝手にシャワー室が開かれた。


「いやああははははは、ど、どもー」

「「・・・・・・・・・・・・」」

「無言で銃口向けるのはちょっとおねーさん勘弁して欲しいかな」


敵以外の人間に銃口を向けてはいけません。これ基本。つまりこの裸エプロンで現れた生徒会長は敵であるはい決めた今決めた。

どうも突入の気配を察して予めシャワールームに避難していたらしい。彼女なら学生寮の部屋の鍵を開けるのもお手の物だろうが、対暗部用暗部出身スキルを無駄に発揮しているとしか思えない。


「・・・・・・何で一夏の部屋に不法侵入していたのか理由をお聞かせ願えますか」

「うん、今日からしばらくの間織斑君と一緒に住む事に決めたから♪」

「・・・・・・・・・・」

「無言で実弾に装填し直さないでくれる!?」


薬室から弾を抜いて新しい弾丸を服から取り出そうとしたミシェルをラウラが止めた。


「待てミシェル、散弾では必要以上にダメージを与える事になるぞ。ここは5.56mmの徹甲弾の方が効果的だ」

「ラウラちゃんも撃ち込む事前提で言わないで欲しいな!?」

「黙れ不審者。さっさと嫁の部屋から出ていけ」

「というか部屋のセッティングも完了済みか・・・・・・」


どおりで見覚えのない小物類が多い訳である。でもだからって何故に裸エプロン姿なんだろうか?新妻ごっこのつもりで『お風呂にする?ご飯にする?それともわ・た・し?』なんて言って出迎えるつもりだったのか。

恋人持ちの男相手に何考えてんだ一体。


「何々今の大きな音?」

「ば、爆発音とか一体何の騒ぎなんですかー!?」


部屋のすぐ外のざわめきは一層大きさを増し始めていて、それに比例して集まった野次馬の数も倍増していた。爆発音を寮中に響かせれば当たり前である。今聞こえてきた叫び声は山田先生か。

この事態にさしもの楯無も僅かに焦りの汗を浮かばせざるを得ない。まさかここまでの大騒動になるとは思いもよらなかったのだ。

スタングレネードまで用いられたのはミシェルとラウラにも責任があれど、ぶっちゃけどこからどうみても彼女の自業自得である。


「な、何やってんですか楯無さん・・・・・・」

「お邪魔してるわね一夏く――――――」


それでも人を惑わす笑顔を張り付けたまま、本来の部屋の主の声に蹴り破られた入口の方を向いた楯無。だがその笑顔のまま彼女の身体は凍りついた。

何故ならば、






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何してるの、お姉ちゃん」


一夏やその友人の代表候補生共々、最愛の妹も部屋の中を覗き込みながら自分に絶対零度に冷え切った瞳を向けていたのだから。






「か、か、か、簪ちゃん?」


何とかそこまで言葉を絞り出すものの、不法侵入をかました上に恋人持ちの友達を誘惑する気満々の格好をしている今の楯無に反論の余地などどこにもなく。

ずっと妹の前では良い所を見せ続けようと努力してきたのに(にもかかわらず逆にそのせいで更に姉妹間の溝が広がりつつある)、その一切合財の労力が灰燼に化すに違いないこのようなアレな姿をまさか妹に見られた事へのショックから、常日頃から相手を煙に巻くのも説得するのも変幻自在な魔法の舌も今回ばかりは効果を発揮せず。

簪からしてみれば、学園で2大トップを張るぐらいラブラブな友人達―男1人に女2人という組み合わせにはもの申したくはあるが―に姉が邪魔をしようとしているのは明々白々であり。

せっかく出来たばかりの優しく頼りがいのある友人達相手にこんな真似をされては、さしもの気弱な簪も姉に怒りの感情を抱かざるを得ない。






「―――――――最っ低!!」






至極簡潔に、尚且つ憎悪すら混じっていそうな声色でそれだけ言うと、簪はその場から立ち去ってしまった。

数秒後、妹と入れ違いに現れたドジっ子巨乳メガネっ娘系教師こと山田麻耶先生が一夏の部屋にようやく駆け付けてきた。


「何があったんですかこの騒動は!?デュノア君もボーデヴィッヒさんもその銃は一体どこから―――――って更識さーん!?」


息を切らせて部屋に飛び込んできた山田先生が目撃したもの。

それは凍りついた時と全く同じ姿勢のまま、真っ白な白い灰の彫像と化した生徒会長の姿。






「ちょ、何か頭のてっぺんから段々崩れていってますよ!?だ、誰か止めて、このままじゃ更識さんが消えてなくなっちゃいます~!!!?」

「・・・・・・むしろその方が俺達の精神衛生的にありがたいかもしれないな」


やっぱり楯無相手には辛辣なミシェルであった。


















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どうも最近上手く書けてる気がいたしません。感想減ってるのもそのせいなんだろうか・・・
強行突入ネタは5巻を読んでからずっと書いてみたかったネタだったり。会長明らかに不法侵入だろって突っ込みは何故かあまり聞かない気がします。
あと妹からしてみれば姉のこんな奇行見せられてまともに受け止めれるわけないと思われ。



最近思いついたネタ:

①Fate/ZeroとエスコンZeroのクロス。某最終鬼畜円卓ネタを見て思いついたネタ。
円卓の王VS円卓の鬼神なんてのが思い浮かんだだけです。英霊が集まった所で港を爆撃し、ホテルも爆撃し、王の軍勢に燃料気化爆弾を投下し、王の財宝をECMPで全て弾き、暴走した聖杯もTLSで一掃。
・・・どっかで英霊1人だけで戦闘機並みの戦力とか聞いたんですが、その戦闘機をたった1人で何十機も撃墜できる円卓の鬼神はどんだけって話になりますよね。

②正義の味方の父親はエンジニアのようです
題名まんま、最強のエンジニアが第4次聖杯戦争終了直後の冬木に転移して衛宮家に居候というネタ。
自分の命を顧みない士郎に過去の経験から生きる為に足掻く事の大切さを教えつつ、黄金の右と工具とスーツの力で英霊に立ち向かう展開。
最終的に士郎が26世紀製スーツと工具を受け継いで生存性に特化した正義の味方になるとこまで妄想。少なくともアーチャーとは別人になっちゃいます。

③鬼作さんinリリなの
海鳴にやって来た鬼作さんが偶然ジュエルシードを拾っちゃったり、何故か制御できちゃったり、その関係でテスタロッサ家に狙われてアルフを食ったりプレシアを食ったりフェイトに懐かれたり高町家と知り合って美由紀や桃子を食っちゃったりなのはに懐かれたりアースラに連れてかれてリンディやエイミィを食っちゃったり以下略。
最終的には六課関係者全員肉壺化&数の子達も攻略。死亡キャラも生存(女限定)。
営業で何十件も契約を取ったり最終的には社長になっちゃったりもする鬼作さんなら、死亡キャラの救済とか管理局の改革だって出来ちゃうと思います。もちろんあのジャージとタオル姿で。
ちなみに自分はゲーム版よりもアニメ版の鬼作さんの声が好きだったりします。


でもネタ思い浮かんでも今書いてる分で精いっぱいっていうね・・・・・・(溜息



[27133] 5-6:ロングキス・グッドナイト
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/11/19 00:31


「―――――され、この部屋に連れてこられた理由はとっくに理解しているな」


現在の状況・・・・・・場所は寮監室。目の前には仁王立ちの千冬。

彼女に見下ろされる形で床に正座しているのはスタングレネードまで使って部屋に突入したミシェルとラウラ、そもそもの元凶の楯無、そして部屋の主の一夏。


「貴様らには反省文の提出が確定されているが今はどうでもいい」

「ちょっと待ってくれよ千冬姉、それって俺も含まれてるのか!?」



ズドムッ!



「『織斑先生』と呼べ。今は教師兼寮長としての指導の時間だ・・・・・・で、そこの馬鹿は何時になったら現世に復帰するんだ」


千冬の言葉に出席簿アタックを叩き込まれた頭を摩りながら、一夏も視線を真横に動かす。

一夏の隣に居るのは楯無であるのだが、裸エプロン(実際には下に水着着用)で正座という状況のシュールさもさる事ながら本人の精神状態がいささかアレな感じであり、


「彗星かなぁ?いや、違う、違うわねえ。彗星はもっとバァーッて動くものねぇ・・・・・・」

「・・・・・・くっ、更識先輩、酸素欠乏症にかかって・・・・・・」


・・・・・・精神崩壊真っ最中です本当にありがとうございました。これはもしやアニメ次回作完結まで回復を待たなければならない展開なのだろうか?妹の拒絶がかなり堪えたらしいが誰がどう見ても自業自得だろうに。

あとミシェル、そのセリフだと楯無が階段から落ちて死んでしまうフラグなので止めておけ。


「ええい!更識、お前も当事者なのだから寝言をほざいてないでさっさと元に戻れ!」

「ううううう、見られちゃった見られちゃったよりにもよって簪ちゃんに見られちゃったし嫌われちゃった鬱だ死のう」

「貴様なんぞ100万回死んでも生き返るだろうが下らない事言ってないでさっさと話を終わらせるぞ」

「酷いです織斑先生!簪ちゃんに嫌われるのはどんな拷問にも勝る苦行なんですよ!?」

「貴様の都合など知った事か。大体譲歩に譲歩を重ねて護衛として学園祭終了までの間一夏の部屋で寝食を共にする事は一応認めてやりはしたが、そんな恰好で接しろとは一言も言っとらんわ!」

「ちょっとしたお茶目だったんです!」

「それで余計な大騒動引き起こして寮中を騒がせたら世話が無いと言っている!」


喧々諤々あーだこーだと口論を開始し出した姉と生徒会長に、呼び出された残りの一夏やミシェル達は置いてけぼりである。

しかし2人の発言の中に混じっていた幾つかの聞き捨てならない単語はしっかりと聞き取っていた。


「ちょっと待ってくれ千冬姉。護衛ってどういう事なんだ?それってその、世界中からここの周りに集まって来てるスパイみたいな奴らの動きがおかしい事と何か関係があるのか?」

「何でお前がそれを――――デュノア夫、ボーデヴィッヒ、どちらが話した?」


ジロリと剣呑な視線を2人に送る千冬。諜報機関とも関係が深い特殊部隊所属の両者ならば、本国からそういった情報を手にしていてもおかしくなかった。


「・・・・・・話したのは自分です」

「余計な事を・・・・・・だがこれでややこしい隠し事をする必要も無くなったな。織斑の問いへの答えはYesだ」

「どういう事でしょうか教官?」

「デュノア夫と織斑目当てIS学園周辺に集まって睨み合っていた各国諜報部の連中が未確認勢力の存在を探知した。目的は不明だが世界で2人しかいない男性IS操縦者であり先頃セカンドシフトを遂げたばかりの専用機を持つデュノア夫と織斑が主な標的だとこちらは読んでいる」

「で、それに備えて対暗部用暗部でIS学園最強の生徒であるこの更識おねーさんが、着かず離れず一夏君を警護するついでに鍛えてあげよう・・・・・・って予定だったんだけど」

「護衛ならば嫁と同室というのも理解できなくはないが、警護用の装備も身に着けずそのような格好をしていた意味はあったのか?」

「それはもう突っ込まないでくれるとお姉さん嬉しいかなぁ。今はもうすっごく後悔してるからね・・・・・・」

「どこからどう見ても貴様の自業自得だ大馬鹿者」

「あの、全然親しくない相手にそんな恰好で出迎えられたらドン引きしますよ普通」

「・・・・・・ぶっちゃけ痴女の類かと思ったぞ」


口々に指摘されて会長フルボッコである。特に話術と勢いと露出の多さで一気に畳み掛けて陥落してやろうという企みの標的だった一夏にまで冷静に突っ込まれたのが痛い。

千冬が心底疲れの篭った溜息を吐く。それなりに弟の為を思っての決断がこんな無駄な大騒動に発展してしまい、余計に無駄な苦労を背負い込む羽目に陥っているのだから当たり前か。


「こうなった以上仕方あるまい。学園祭まで織斑への特別訓練はそのままだが同室での生活は取消だ。あれだけの生徒にこの騒動を目撃された以上このまま寮内でも一緒にしていては馬鹿どもが暴走しかねん」

「ですよねー。いやー残念残念」

「誰のせいだ誰の!」


あー何だか楯無さん見てると束さん思い出すなーと2人のやり取りをボーっと見つめる一夏。あの人もしょっちゅう騒動起こしては千冬姉に怒鳴られてたっけ。でも一々こっちまで巻き込んで振り回す所まで似なくても良いのに・・・・・・

ラウラも懲りた様子もなく飄々としている会長のその姿に微妙そうな顔をしているし、ミシェルに至っては頭が痛いと言いたげに眉間を揉んでいた。

すると今やトレードマークっぽい猫みたいな微笑みを浮かべた楯無が半分開いた扇子で口元を隠しつつ一夏の方を向いた。裸エプロンのどこに隠し持っていたんだろう。


「おねーさんの胸の谷間はね、魔法の谷間なのよ」

「心読まないで下さいよ。あとラウラ何で俺を睨むんだ」

「・・・・・・知っているぞ。嫁のような奴の事を『おっぱい星人』だと呼ぶのだろう」

「そんな訳あるか!どこで教えてもらったんだよそんな言葉!?」

「すまん、心当たりがあるから後で俺の方から苦情を伝えておこう・・・・・・」

「だから余計な事を言って引っ掻き回すな更識。言っておくが織斑の女の1人は貴様よりも更に大きな胸の持ち主だから然程効果はないぞ。それとボーデヴィッヒ、こんな物有っても邪魔なだけだからむしろ持たない自分の事を誇りに思え」

「最初から持っている教官殿には・・・・・・持たざる私の気持ちなど理解できません・・・・・・!」


自分のスタイルを気にするぐらい女の子らしい情緒が育まれている事を喜ぶべきか、それとも自分の胸の無さに血涙を流すほど悔しがるぐらいキャラが変貌してしまっている点を嘆くべきか、ミシェルと千冬は切実に悩む。

とりあえず良い事にしておこう、うん。生まれと育ちを考えれば立派に女の子しているというのはとても喜ばしい事に違いない。


「更識はその恰好をどうにかしてから持ち込んだ荷物を持ってさっさと自分の部屋に戻れ。ボーデヴィッヒと、ついでにデュノア夫は未許可の銃器を持ち込んで使用した事の反省文を書いてもらうぞ。事情もあるしデュノア夫という特例がある分外に漏らすつもりはないが、一応違反は違反だ」


IS学園内は駐留軍基地や大使館同様治外法権扱いで独自の法が適用されるのでその程度の罰で済む事になる。

無人機襲撃やVTシステム暴走といった大事件も、そういった事情や政治的軍事的国際的影響を鑑みて緘口令が敷かれ、実際にはあまり一般に伝わっていない。

もちろんその裏側ではIS委員会や各国関係者の間で大騒動が繰り広げられたが。特にドイツでは10人単位で責任者の首が飛んだとされている。

それに公には明言されていないが、実の所IS学園には非常用の隠し武器庫が敷地内のあちらこちらに存在しているのである。

教師陣は千冬や山田先生のような元国家代表・元代表候補生と教育する側としてふさわしい訓練を受けてきた実力者ばかり集められているので勿論銃火器の扱いもお手の物だし、何より量産機とはいえISも揃っているので実際の戦力は下手な軍事基地よりも遥かに充実しているのだ。


「えーっと千冬姉。つかぬ事を聞くけど、今日は俺何処で寝ればいいんだ?」


カーペットが大きく焼け焦げ、衝撃波で物の破片が散らばりしまいには天井の一部が崩れかけてすらいる一夏の部屋をそのままにしておく訳にもいくまい。

しばし顎に手を当てて思案した千冬はミシェルに目を向けた。


「仕方あるまい、部屋の修繕が終わるまでデュノアの部屋に泊めてもらえ。こいつらの部屋なら気をつければ特に問題は起きまい。それから織斑先生と呼べと何度言わせる」

「教官殿!私の部屋も人1人泊めるには十分な余裕があるので嫁をこちらの部屋で止める事を具申いたします!」

「却下だ。貴様の同室の相手も女だろうが。それに貴様の考えも丸分かりだ。いい加減諦めたらどうだ?無理矢理関係を結ぼうというのならこちらも考えがあるぞ?」

「そ、そういう訳では、別に・・・・・・」


冷や汗交じりに目を逸らした時点で丸分かりである。


「モテモテねー一夏君。いよっ、この色男」

「いや、嬉しいといえば嬉しいですけど、俺にはもう相手が2人も居ちゃってますし、これ以上増やそうって気は本当にありませんからね?」

「まったまた、君の立場と影響力を考えればやろうと思えばハーレムだって作れちゃうわよ。作りたくないの?男の夢なんでしょ?」

「まったくもって興味ありません!」

「・・・・・・友人をロクでもない道に引きずり込もうとしないでくれませんか」


調子を取り戻してまたも一夏をからかいだした楯無にミシェルが苦言を呈した。懲りるという言葉をこの人は知ってるのだろうか。もしくは知ってても敢えて無視しそうではある。

また妹に密告してやろうかこの野郎。











「悪いな、わざわざベッドまで空けてもらって。別に床で雑魚寝とかでも十分なんだけど本当に良いのか?」

「別に構わない・・・・・・シャルロットと1つのベッドで寝るのは日頃している事だからな」

「ははっ、相変わらず仲良いよな2人は」


千冬からの呼び出しとお説教の後、言われた通り一夏は数日分の着替えと私物と他諸々を持ってミシェルとシャルロットの部屋を訪れていた。

話し合い、というより譲り合いの結果、ミシェルのベッドを一夏が使いミシェルはシャルロットのベッドで2人で寝る事に。2人とも制服から寝間着姿に着替えている。


「2人ともホットミルク入れてきたよ。それからお腹が空いてると思って軽く食べる物も作っておいたから、良かったら食べて」

「おっ、サンキューシャルロット。いやー助かったぜ、あのゴタゴタのせいで晩飯食べ損ねたしな。恩に着るぜ」

「・・・・・・ありがとうシャルロット」

「ううん、気にしないで」


騒動や説教や部屋の片付けや荷物の準備などで既に数時間が過ぎていた。とっくに学生食堂は閉まっているし消灯時刻も近く、何気に文句をまくし立てる腹を宥めすかすのに苦労していた2人にはシャルロットの優しさが身に染みた。

湯気の立つホットミルク入りのマグカップと共に彼女が持って来てくれたのは、スライスしたバゲットに載せて食べる為の具材に色とりどりな何種類かのクリーム。いかにもフランス人らしい。

料理が得意な一夏としては自家製らしいクリームに興味を惹かれた。クリームチーズをベースに様々な食材を混ぜて作るものだと一夏は聞きかじり程度には知っていたが、どちらかというと和食はなのでこういうオシャレな感じの物を自分で作った経験はあまりない。


「これは普通のサワークリームで、この赤いのは明太子だよな。黄色っぽいのはかぼちゃか?このパセリが混ざってるクリームは何なんだろ。普通のとはちょっと違うみたいだし」

「これはね、クリームチーズに茹でて潰したじゃがいもと牛乳とかを混ぜて作ったクリームポテトなんだ。作り置きしておいた分なんだけど、他に茹でた野菜を混ぜてポテトサラダっぽくしても美味しいんだよ」

「へーっ、良いなそれ。今度俺も作ってみようかな」

「なら後でレシピ分けてあげるね。きっと箒や鈴に作ってあげると喜んでくれると思うよ」

「・・・・・・それでは食べるとしよう」


さっそくバゲットを1枚つまむと思い思いの具やクリームを載せて口に運ぶ。多種多様な組み合わせによって様々な味の調和が楽しめ、軽食にしてはかなりの満足感を得る事が出来た。


「それにしてもそのパジャマ可愛いなシャルロット。よく似合ってるぞ」


そう、今のシャルロットの格好は例の猫耳白猫パジャマであった。そのままベッドの上で胡坐をかくミシェルの組まれた足の上に腰を下ろし、後ろから抱きしめられている。

フード越しに夫の胸板へ後頭部を擦りつけたり、顎の下をくすぐられてこそばがりつつも気持ち良さそうに目を細めたりしている今の彼女の様子は、まさに飼い主に可愛がられる人懐っこい子猫そっくりだった。

―――――いやむしろ、ミシェルの見た目からして美女と野獣?

それにしても裾からバッチリ覗く眩しい太腿とか、ミシェルの腕に潰されてむにゅりと形を変えている膨らみとかが目の毒以外の何物でもない。


「えへへ~、ミシェルも気に入ってくれてるんだー。可愛いでしょー」

「もしかしてそれってラウラのと一緒に買ったやつなのか?こないだミシェルにもそれと色違いのをラウラが着てる写真を見せてもらったんだけど」

「・・・・・・その通りだ。ラウラが殆ど私服を持っていなくてな。これはいかんと思って夏休みの間に共に買い物に行った時に買った物だ」

「あれも中々似合ってたよな。千冬姉もかなり気に入ってたし。ラウラは黒猫でシャルロットは白猫か、ピッタリじゃん」

「布地ももふもふしててすっごく着心地が良いんだよー。他にも色々な種類の動物のデザインのも置いてあったし、また買いに行こうかな」


シャルロットもかなり着ぐるみ風パジャマがお気に入りのご様子だ。のほほんさんがこの場に居たら仲間が増えたと無邪気に喜んでいたに違いない。


「だったらさ、シャルロットなら犬耳が似合うんじゃないか?ほら、ゴールデンレトリバーっぽい感じのやつ」

「だったら一夏は黒い犬耳かな。織斑先生はむしろオオカミっぽいね。山田先生は――――」

「「牛だな」」

「・・・・・・ナニから連想して言ったのかな?」


野郎2人即土下座。


「ミシェルは――――熊だな、うん。グリズリーとかツキノワグマとかその辺り」

「ライオンでもいいんじゃない?だって凛々しいし、威厳だって感じるし」

「・・・・・・現実には狩りも嫁任せなんだがな雄ライオンは」


嫁に働かせて自分はグータラ眺めるだけ。その癖ハーレムを形成しているのだから人間の立場からしてみれば理不尽っちゃ理不尽である。

その代わり他の群れのボスとタイマンで戦う義務などがあるので仕事がない訳ではないのだが。


「それじゃあセシリアは?」

「・・・・・・キツネ辺りが似合いそうではある。あとは簪さん辺りは・・・・・・何となく子犬っぽいな」

「箒もやっぱりの犬っぽいな。で、鈴はもちろん猫耳で鉄板だろ」


一夏は犬と猫っぽい例の着ぐるみパジャマを着た2人の恋人の姿を脳内に創造してみる。

獣耳付きフードをかぶるとなるとポニーテールだと邪魔になるから、髪形は自然のままの黒髪ロングストレートの箒。視線を少し下に動かせば毛皮越しでも大迫力の胸部が突き出されていて、更に下に動かせば薄皮1枚に覆われた剣道で鍛えられた筋肉を秘めた真っ白な太腿がまた色っぽい。

一夏の視線がそれらを彷徨う度、「そ、そんなにジロジロ見るんじゃない・・・」なんて言いながら顔を赤くして、動かない筈の犬耳や尻尾までピコピコ震わせて身をよじる姿まで無駄に詳細に思い描いてしまった一夏の頬も勝手に朱を帯びる。

鈴も多分両サイドに纏めている髪を解いている筈。箒と比べると悲しいぐらい起伏がない鈴の体つき―おっと鈴の部屋の方から殺気―だが描くラインそのものは女らしさをはっきり示していて、長めの裾から覗く生足は健康的に引き締まっていてまさにネコ科っぽいしなやかな躍動感を感じさせてくれるだろう。きっとそうだろう。実際そんな感じだし。

彼女はこういう時結構ノリノリな性質だから、いかにもそれっぽく指先を丸めて持ち上げたようなポーズになって『ニャン♪』とひと鳴きするぐらいの事はやりそうだ。でもって喉を鳴らしながら人懐っこく体を擦り付けてくれたら一夏の獣性も倍プッシュになる事うけあいだ。

そんな他愛もない妄想が現実になるかもしれないとしたら、実は彼女達に負けず劣らず色ボケが進みつつある一夏の選ぶ道は1つしかあるまい。


「よし、今度絶対一緒に買いに行こう」

「・・・・・・・それは別に構わないんだが、そこまで真面目な顔になる必要があるのか・・・・・・?」


そんな感じでグダグダ駄弁っていたが、そろそろおやすみの頃合いである。


「それじゃあベッド借りさせてもらうな」

「・・・・・・遠慮なく寝てくれ」


そう言いながら義足を外したミシェルはシャルロットと抱きしめ合うような体勢で(でもサイズの違い上ミシェルの身体にシャルロットの全身が包まれてるように見える)ベッドに横たわった。

まあ一夏もしょっちゅう箒と一緒のベッドで寝たり鈴と一緒に寝たりはたまた3人で1つのベッドに寝たりしているので、2人は夫婦同士なんだし別におかしくとも何ともない事なのだが――――実際こう、目の前で仲睦まじく密着し合っている姿を見せつけられると無性に落ち着かなくなってしまう。

というか自分もこんな感じなんだろうけど、傍から見てみると結構恥ずかしく思えてきてしまった。千冬姉辺りが聞いたら「まだまだ青いな」とか言われたりして。


「えへへへへ、ミシェルの匂いでいっぱい・・・・・・♪

「・・・・・・くすぐったいぞシャルロット」


すぐ隣から聞こえてきたそんなやり取りに、無性に人肌の恋しくなる一夏だった。













<<(ラノベ主人公にとってありがちな)蛇足>>




初めてデュノア夫婦の部屋に泊まった翌日早朝。

日課の早朝の鍛錬を終えたミシェルと一夏は、更衣室のシャワーで汗を流し終えてから部屋に戻る道を歩いていた。シャルロットは2人が起きた頃にはまだ夢の中だった。


「む、靴紐が・・・・・・先に部屋に入っておいてくれ」


部屋のすぐ手前で屈みこんだミシェルに鍵を手渡された一夏は、無造作に鍵を開けて部屋の中へ。

するともう目覚めていたシャルロットの声に迎えられた。


「あっ、おはようミシェ――――――る?」

「おうおはようだな、シャルロ・・・・・・と?」


間抜けな感じで互いの言葉が途切れた。

日課を終えて愛する夫が戻ってきたと思っていたシャルロットの視線の先には、ポカンと口を開けたまま固まる一夏が。

シャルロットの存在に特に何も考えずさっさと部屋の中に踏み込んでしまった一夏の視線の先には、着ぐるみパジャマを首元まで引き上げてその下に隠していた一糸纏わぬ裸体を晒そうとしていたシャルロットが。

――――やっぱり下の毛も金色なんだな、と思い浮かんだ時点で停止していた2人の時間が再び動き出す。

シャルロットは残像が見えそうなぐらいの速さでパジャマを着直すと真っ赤な顔でベッドの陰にしゃがみ込んでしまった。見られた見られたミシェル以外の男の人に裸見られちゃった死んじゃいそうだよと寝起きの脳内は大混乱と化している。

一夏は思い浮かべてしまった内容を口に出さずに済んだ事を幸運に思うべきだろう。何故ならば彼の背後には修羅が迫っていたのだから!


「・・・・・・・・・・・・」

「みぃ、ミシェルぅ!?ご、ゴメン、全然そんなつもり俺は!!」


謝罪の言葉を言い終わる前に、一夏の腰を丸太のように太い両腕ががっちりホールド。






「・・・・・・記憶を失えええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


昨日のスタングレネードの炸裂もかくやなバックドロップによる衝撃音が、未だ夢の中に留まっていた少女達を叩き起こした。



















「ど、どうしたのよその頭?」

「・・・・・・聞かないでくれ」


一夏の後頭部に拵えられた巨大なたんこぶはその日1日中周囲の注目を浴びたとか浴びなかったとか。







==============================================
注:ご家庭でのバックドロップは非常に危険です。柔らかい床でも決して行わないようにして下さい



またも少し短めですがきりが良いのでここまで。
それにしても原作での壊された一夏の扉の修理とか誰がやってるんだろうか。



[27133] 5-7:千客万来(上)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/11/26 11:26
※クロスキャラ登場につき注意!!














原作では会長との訓練とかドタバタとかあった気がするけどそんな事なかったぜ!


「酷い!?ただでさえお姉ねーさんのお色気シーンとか同棲シーンとか跡形もなく破壊されちゃったのに、これじゃあ謎の悪の組織の構成員とのバトルシーンぐらいしか見せ場がないじゃない!」

「・・・・・・そっちも(多分)おめーの出番ねーから!」

「ガーン!!!」











日が立つのは早いもので、あっという間に学園祭当日である。

一般公開はされてないが生徒1人に付き1枚の特別招待券が配布されているので、学園の生徒数とほぼ同規模の一般招待客が訪れるのは確定事項と言えた。

それに加え各国の関係者やIS関連企業の人間もそれ以上の規模で招待されていたので、IS学園はかなりの人出で賑わっていた。唯一学園と本土を結ぶ交通機関であるモノレールは臨時便を増やし、混雑の対処に当たっている。

更に裏側では学園周辺に配置されている各国諜報機関の規模も一時的に強化されており、外部から招待客が集まるという絶好の潜入機会に対する他勢力の抜け駆けを許すまいと日頃以上に目を光らせている状況だ。

銃火器の充実のみならず先進国から送り込まれた一部勢力に至っては偽装した装甲車両・戦闘ヘリ、挙句の果てにISまで極秘配備しているという有様で、今やご近所が1日限定で極東で最も危険な火薬庫と化しているという現実を知る者は決して多くない。






そんな中、一般客関係者のみならず校内の生徒達の目すら惹きつける一角があった。

そう、世界で2人しか居ないISを操縦できる男が所属する1年1組のメイド&執事喫茶である。

一般参加者と生徒達からは織斑君(&デュノア君)の執事姿が見られるという欲望から。それ以外の業界人からは世界でもトップクラスの重要人物になんつー恰好させてるんだという怒りとか呆れとか主に突っ込み方面で注目が集まっている。


「うわ、スゲー並んでる。これ本当にこの店のお客、だよな?」

「・・・・・・まず間違いなく一夏目当てだろうな。中にはサイン用紙まで持ってる女の子も見えるぞ」

「の割に男のお客も多いな。そっちは一般招待の人じゃなくて企業の人達っぽいな」

「・・・・・・軍人も混じってるぞ。というか、俺の知り合いも混じっている」

「マジか」


開店間際、既に準備を整えられた店内(教室)には3人の執事がスタンバイ済みである。

――――そう、『3人』の執事である。


「何で僕まで執事役になっちゃってるんだろ・・・・・・」

「で、でも結構似合ってるからそこまで気にする必要無いと思うぜ。こう、金髪の貴公子って感じであんまり違和感もないし」

「男の子の格好して似合うって言われるのも複雑だよぅ。うう、胸元が苦しい・・・・・・」


一夏とミシェルのみならず、執事服姿のシャルロットがそこに居た。彼女もメイド服姿で接客する筈が当日になって無理矢理この格好に着替えさせられたのである。

元々中世的な美貌だったし、年を考えると凶暴に過ぎるスタイルも今は執事服の下に封印されていてパッと見では確かに美少年にしか見えない。


「ふふふ、やっぱり見立て通り・・・・・・!デュノアさんなら男の子の格好も似合うと思ってたのよ!」

「やーん、宝塚の役者みたいでカッコいい!まさに貴公子って感じだわー!」


反省はしているが後悔はこれっぽっちもしていない、とは彼女達の言。中には「 計 画 通 り 」と新世界の神志望だった主人公兼ラスボスな天才高校生みたいな邪笑を浮かべる少女すら居てちょっと怖い。

これまで散々衆目を集めてきた豊満な胸は、現在さらしとサポーターで押さえつけられてちょっと背丈の割に胸板が厚い程度にまで押し込められている。どこから調達してきたのだろう?

肝心の夫の方はと言えば、そういえば原作でも初登場の頃は男装していたんだったな等とうろ覚えの原作意識をボンヤリと今更思い出してて、シャルロットを援護してくれる気配はない。それどころか、


「・・・・・・まあ、確かにその姿も凛々しくて悪くはないな」

「うわーんミシェルにまで裏切られたー!」

「俺は褒めたつもりだったんだが・・・・・・」


目の幅涙を流して崩れ落ちるシャルロットであった。

もっとも<ラピッド・スイッチ>の使い手なだけあって――――いや多分それは関係無い気もするが、すぐさま気を取り直して接客の練習をしだすシャルロット。


「ゴホン――――いらっしゃいませ、お嬢様。こんな感じで良いのかな?」


それらしく心持ち低めの声色であのミシェルも大好きな太陽の微笑みを浮かべた彼(?)にそう言われた途端、クラスメイト達が一斉に崩れ落ちる結果になった。


「まさかここまでお似合いになるとは思いもよりませんでしたわ・・・・・・」

「そ、そうかな?それが良いのか悪いのかよく分からないけど」

「むしろその格好で違和感を殆ど感じない事の方が驚きだな。とりあえずインパクトは十分だな」

「こういうのはよく分からないが、皆がそう言うのならば似合っているという事だろう。それで良いと思うぞ」

「あははははは・・・・・・」


ここまで言われてはもう笑うしかない。

まあ実際、夏休みの飛び入りアルバイトの時同様にこちらも執事服を着込んでいるミシェルと比べれば、周囲からしてみればシャルロットの執事服姿の方がよっぽど違和感を感じないのであった。













さて、開店の時間である。

分かり切っていたので一夏達も覚悟はしていたのだが、1年1組の執事&メイド喫茶は大繁盛のあまり店内は誰もがてんてこまいの様子を呈していた。

特に一夏は物珍しさに加え、元より整った顔立ちと滅多に見られない執事のコスプレをしているとあって指名率はダントツだった。しかも単に同年代の女子のみならず、喫茶店の客にかこつけてIS操縦者としての『織斑一夏』に自社の装備を使用してもらおうと勧誘してくる企業の人間に顔を覚えてもらおうと目論む各国の関係者も一夏を指名してくるものだから、一夏はほとほと対応に困る羽目に陥った。

時点はシャルロット(男装ver)。彼女を指名した相手はまず男装の執事という設定に驚き、それから想像以上に似合うその振る舞いに心をざわめかせ、どこに出しても恥ずかしくない男装故の凛々しさの増した美貌に見惚れる事になる。彼女を指名する客層は大半が女性ばかりだった。

意外にもミシェルを指名する客も多い。もっとも彼を指名するのは大体がミシェルの顔見知り、それも主にヨーロッパ方面IS関連企業の人間という学園側が招待した者ばかりである。

一夏と違い初代男性IS操縦者として活動してきた期間が長く、またデュノア社の跡取り候補としても度々公の場に顔を出してきたが為にミシェルとその実家が持つ業界内のコネクションはそれなりの規模を誇り、招待客もその方面の人間ばかりに偏っているので、必然的に顔見知りが多くなるのも致し方ない。

更には直接面識が無くともミシェルと直接一目会いたいとの事で彼を指名する客が居た。各国の軍部関係者である。

女尊男卑の蔓延で急速に追い詰められつつあった男性軍人の救世主であり、ミシェル本人も特殊部隊の訓練も経験してきた立派な軍人の端くれという経歴から同業者意識も働いて各国の軍隊にはミシェルのファンはかなり多い。

そんな訳で、学園祭への招待にかこつけて今や世界中の男達のヒーローとも呼べるミシェル・デュノアに礼を言いに来たという軍人は意外な程多かった。


「Hey,ツーショットを撮らせて貰っても構わないか?息子も君のファンなんだ。お土産に1枚頼むよ」

「・・・・・・構いませんが」


軍人というのも意外とミーハーなようである。しかしスーツに身を包んだ企業関係者はまだしも、少女ばかりの行列の中にちらほらと混じる屈強な軍服姿の男達という構図は、ミスマッチ以外の何物でもない。

それ以外では男性のタイプが年上好き・・・・・・ぶっちゃけてしまえばオヤジ好きの極一部の女生徒に好評なミシェルの執事姿であった。






ともかく客の人種にバラつきはあれど大繁盛には変わりない。1年1組を訪れた客達の長蛇の列は、他の店にも影響を及ぼすほどだった。

有体に言ってしまえば、1年1組に客を取られたお蔭で他の店は閑古鳥が鳴いている訳で。


「ちょっとそこの執事、テーブルに案内して頂戴」

「何だ鈴も来てくれたの――――か?」

「仕方ないじゃない、この店に全部お客が行っちゃって暇なんだもの・・・・・・何固まってんの?」


営業時間中にもかかわらず暇を持て余した鈴が来客してきた。

しかし一夏が動きも思考もフリーズさせた理由は単にそれだけではなく、鈴の服装にあった。

――――――真紅のチャイナドレスに身を包んだ鈴がそこに居た。髪はいつものツインテールではなくシニョンに纏めて東洋風らしいエキゾチックな雰囲気に仕立てられている。

スリットの深さも中々の物で、鈴が少し身動ぎしただけで健康的な白さが眩しい太腿が白日の下に晒される上に、背中も菱形に布地がくり抜かれていてお尻の割れ目近くまで達しそうな位に大胆な仕様。おまけに脇の部分も広めにくり抜かれているせいで細やかながらしっかりと隆起している膨らみが横からちらちら見え隠れする始末。

うん、ぶっちゃけ中々にエロい。敢えて言うならチラリズムに特化した色気を感じさせる衣装である。


「も、もしかしてそれノーブラ?」

「五月蠅い!せっかく見惚れてくれてると思ったら最初の感想がそれって何よ!?あと一応専用の下着もつけてるわよ!」

「あ、いや、その、そんなつもりで聞いたつもりじゃなくてああもう、鈴!」

「な、何よ」


お怒りの恋人になじられ、ついでに不意打ちで叩きつけられたチラリズム効果によって少々暴走気味の一夏は顔を赤くしたまま、鈴の両肩に手を置いてまっすぐ彼女を見つめ。


「か、可愛いぞ!似合ってる!!」


直球ど真ん中剛速球に叫んだ。


「・・・・・・あ、ありがとう」


そしてストレートな言葉に弱い鈴の顔はチャイナドレス以上に真っ赤になった。

しかしここはクラスメイトのみならずお客も犇めく店内である。数十対の熱視線が注がれているのに気づくや否や、すぐにお互い目を逸らしてとても恥ずかしそうに小さくなってしまった。


「・・・・・・・・・・・・」

「だから無言でISを展開するな、外から来てるお客さんも多いのだからな・・・・・・」


そして嫉妬に駆られたセシリアをミシェルが止めるまでがテンプレである。あとその隣ではチャイナドレス姿を褒められた鈴を羨ましそうに見つめる箒の姿があったとか。

結局その流れで鈴の相手は一夏がする事になった。執事スタイルの恋人が相手してくれるとなって、早くも鈴の口元は綻びつつある。

そんな鈴が注文したのは『執事にご褒美セット』。それをオーダーした瞬間一夏の顔が引きつった気がしたのだが、どうも一夏絡みのメニューのようだ。


「で、このポッキーでどうしろと?」

「・・・・・・執事に食べさせてあげるんだよ」

「何それ、お客が金払って店員に食べさせてあげるって本末転倒でしょ」

「反論のしようもございません」


一夏だけでなくミシェル達もまったくの同意見だったりする。

しかし何故か女性のお客様には好評で、時間が経つにつれこのメニューの注文が数を増やしつつある。お陰で一夏とシャルロットは早くも一生分のポッキーを食わされた気分になっていたりする。

ミシェルが含まれていない理由は言わずもがな。


「ま、キャンセルは出来ないけど一応任意だから、したくなかったら別にしなくていいぞ」

「んー、でももったいないし、せっかくだから食べさせてあげるわよ」


すると鈴はおもむろに椅子から立ち上がり、たった今まで自分が座っていた椅子を指差した。


「それじゃあそこに座りなさい」

「え?あ、ああ。座ったぞ」


一応席は他にもあるのだがとりあえず鈴の指示通り、さっきまで彼女が座っていた椅子に一夏は腰かけた。




――――そして躊躇いなく、鈴は一夏の膝の上に腰を下ろした。




「ちょwwwおまwwwwww」


ネットスラングっぽい発音をしてしまうぐらい混乱状態に陥った一夏へ更なる鈴の攻撃!


「んー」


再び一夏の思考が強制停止。

単に手に取ったポッキーを差し出すのではなく、端の方を口に銜えて強請るように突き出してくるその姿は破壊力満点。

90度横を向いて一夏の膝の上に乗った状態で、鈴は一夏の首に両腕を回してまでアピールしてみせる。


「な、な、な、何ばしよっとですかお嬢さん!!?」

「はっへ、べふにあげはたにしへいはないんでひょ?(だって、別にあげ方に指定はないんでしょ?)」

「そういう問題じゃないだろこれ・・・・・・」


恥ずかしい。でも可愛い恋人がこんな感じで甘えてくるのは嬉しいし可愛いしああよく見たらまつ毛長くて綺麗だな、と後半はやや現実逃避気味にそんな感想を抱きつつ、覚悟を決める。

ここで逃げたら鈴に泣かれそうな気がしたのもあるが、チャイナドレスによっていつもと違った美しさと色気を感じさせる鈴の攻勢に追い詰められつつあったのだろう。

状況に流されるがまま、一夏は鈴が銜えるポッキーの先端へ口を近づけた。


「ん・・・・・・」


今や静まり返った教室内にポッキーを両端から咀嚼する音だけが小さく響く。どんどんと接近していく一夏と鈴の唇に、周囲の視線は太陽の光を虫眼鏡に通した時以上に熱く集束していた。

2人の唇を結ぶポッキーが残り1㎝足らずになった所で僅かに両者の動きが止まる。が、すぐに鈴の方からその距離をゼロにしてしまった。


「んんんんっ!?」


一夏の目が見開かれた。そりゃいきなり舌が侵入してきたら驚きもするだろう。

チョコの甘さとか砕けたプリッツェルのざらついた感触なんかよりも、鈴の舌の熱さと柔らかく滑らかな感触の方がよっぽど官能的で素晴らしい味わいだった。

そうしていたのは果たしてどれだけの時間だろうか。次々流し込まれてきた唾液にポッキーの残骸が全て流し込まれた段になってようやく鈴が身体を離す。


「どう、だった?私からのご褒美は?」

「・・・・・・えっと、十分に堪能させていただきましたですハイ」

「ならよろしい♪」


鈴の視線がポッキーの刺さったグラスの方へと泳ぐ。


「それじゃあ、もっと『ご褒美』をあげるわね」


ともう1度ポッキーを口に銜える鈴だったが、唐突にその身体が浮き上がって一夏の膝の上から離れた。

そこいらの筋者も道を開けそうな厳つい顔に呆れの感情を滲ませたミシェルが片手1本で鈴の首根っこを釣り上げていた。


「・・・・・・せめてそういう事は2人きりの時にしてくれないか?」

「それってそっちが言える立場じゃないと思うんだけど」

「・・・・・・否定はしないし自覚はあるが、今は他の『お客さん』が居る前だからな」

「・・・・・・あっ」


たった今その事に思い至ったみたいに鈴が間抜けな声を漏らす。

見渡してみればこっちをじっと見つめたまま固まったままのクラスメイトに客である他のクラスの生徒に上級生に一般招待の人々。ニヤニヤと面白そうだったり興味深げな表情を浮かべているのは人生経験豊富な業界関係者に軍人勢。教室の外で並ぶ順番待ちの人々も以下同文。

今度は鈴がカチンコチンに凍りつく番だった。何やってんの私何やってんの私何やってんの私皆の前で皆の前で一夏にちゅーしてちゅーしてあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあう・・・・・・


「お、おーい、りーん」

「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあう(ry」

「・・・・・・とりあえず、気の迷いだったという事にしといてやろう」


これ以上下手に指摘して鈴を刺激したら、余計に面倒になりそうだった。


「おい、一夏!」

「何だよ箒」

「・・・・・・ん!」


そして何負けじと真似してポッキー銜えて顔突き出してやがりますかそこのモップ。

そこの女性客も私も私もと真似するな!








お客の波はまだまだ収まらず、接客担当も調理担当も雑務担当も悲鳴を漏らしながら仕事を続けていると、様々な種類の人種・国籍が入り混じったお客の中でも一際異彩を放つ団体客が入店してきた。

プラチナブロンドの若い女性に銀髪褐色の少年、目の覚めるような美貌を誇る中年女性と背広にサングラスの屈強な男性にどこにでも居そうな日本人男性といまいち繋がりの読めない組み合わせなのだが、実は全員ミシェルとシャルロットの知り合いだった。


「フフーフ、招待ついでに顔を出させてもらったけど中々繁盛しているみたいじゃないか」

「お久しぶりねミシェル君もシャルロットちゃんも。あらあら、中々似合ってるじゃない」

「来てくれたんですかココさん。それにアマーリアさんも、お久しぶりです!」


IS関連企業関係者として招待されたココ・ヘクマティアルにアマーリア・トロホブスキー、そしてその護衛達である。

無用な騒動を防ぐ為に護衛の数も最低限に制限されているので、ココの護衛は通訳担当も兼ねたトージョに少年兵なので一見護衛には見えないヨナ、アマーリアの方は日頃から秘書としても働いてくれているサングラスの男性を引きつれていた。

店内に大きなざわめきが走る。特にヨーロッパからやって来た留学生はあからさまに動揺している様子だ。セシリアに至ってはアマーリアを指差し、あんぐりと大口を開けて淑女にあるまじき形相を浮かべている。


「しゃ、しゃしゃしゃしゃシャルロットさん?もしやこの方とお知り合いですの!?」

「うん。ミシェルと一緒になってから、よく実家と同じ業界の人達が集まるパーティでお話をしたり色んな事を教えてもらったりしてね。僕も最初に会った時は驚いたよ」

「ミシェル君がこんなに綺麗な女の子をお嫁さんにしたって聞いた時はふふっ、とっても驚いたものだったわ。シャルロットちゃんもとても良い子だしついつい気に入っちゃって色々とおせっかいをかけちゃった間柄なのよ」

「いやー最初にミシェルが15にもならないのに結婚するって聞いた時は驚いたぜ。まさかココさんが先を越される事なんてへぶぁ!?」


余計な事を言い終わる前に繰り出されたボディブローによってトージョの発言は中断された。入れ違いにまるで恋する乙女の如く顔を赤くし、目を輝かせたセシリアが一団へ接触を試みる。


「は、初めまして!わたくしはイギリスの代表候補生を務めております、セシリア・オルコットと申しますわ!」

「初めまして、こちらこそ貴女のような優雅なお嬢さんに会えて光栄だわ」

「じ、実はわたくし、ミス・トロホブスキーのだだだ大ファンですの!特に最後に出演なされた『ハムレット』の最終公演にはわたくし両親と共に観賞させていただきましたわ!」

「あらあら、最後に舞台に上がったのももうずっと前なのに覚えていてくれたなんて、おばさん感激だわ」


文字通り大ファンのアイドルと直接対面したようなテンションのセシリアに一夏は面食らう。


「あのさ、あの女の人ってもしかして有名な役者さんだったりするのか?セシリアなんか凄いハイテンションになってるし」

「・・・・・・正確には元舞台女優だ」

「アマーリア・トロホブスキーさんっていってね、アマーリアさんは昔はすっごく有名な舞台女優だったんだ。何年か前に結婚して引退したんだけどすぐに旦那さんが亡くなってね。今は兵器ディーラーをしてるんだって」

「そして彼女も私もそこの彼とは個人的にも仲良くしているという事さ」

「そうなんですか。やっぱ実家が大企業の社長さんなだけあるよな――――あ、初めまして。織斑一夏っていいます。えっと・・・・・・」

「ココ・ヘクマティアル、HCLIの兵器運搬部門に従事している者だ。武器商人、っていえば分かり易いだろうね。ミシェルの実家みたいな作る側じゃなくて売って運ぶ側だけど」


狐みたいな笑みと共に自己紹介。しかし武器商人、と名乗られてもいまいちピンとこないのは一夏もまた平和ボケに浸りきった日本人の一因だからかもしれない。

ココのような千冬姉とさほど変わらなさそうな女性やアマーリアのような華美な雰囲気を纏った人間が、危険な戦場を巡って兵器を売り歩くという武器商人のイメージと一致しないのもある。

あとそんな物騒な職業な人が子供引きつれて仕事する訳ないよな普通、とヨナの素性を知らないせいでそんな考えまで思い浮かぶ。


「フフーフ、あまりピンときていない様子だね?」

「う゛、す、すいません・・・・・・」

「何、謝る事はないよ。いくらISという世界を引っくり返す兵器を生み出した国とはいえ、まだまだ日本は平和だからね。君みたいな感想を抱く人間も珍しくはないさ」

「グッ、それにしても、プッ―――――ぶははははは!やっぱり我慢できね!話にゃ聞いてたけどマジでそんな恰好して働いてんのかよミシェル!!ぎゃはははは!!」

「・・・・・・似合ってないのは自覚してる」


大爆笑のトージョに怒る気配も見せずほんの数mmだけ唇を歪めて諦めの笑みを形作るミシェル。

こっちもこっちで単なる顔見知り以上の親密さを漂わせていた。思い当たる節を思い出して思わず一夏は問いかける。


「もしかして、ミシェルに最初に銃の撃ち方とかを教えたのが貴方達なんですか?」

「ぶひゃひゃひゃひゃ・・・・・・あー面白ぇ、こりゃ絶対皆にも教えてやらないと。ん?ああそうそう、もう何年も前になるかな。ココさん繋がりで俺と仲間達が少しの間ミシェルにトレーニングしてやったんだ」

「そうだったんですか」

「いやー来た甲斐があったよ!まさかこんな面白い物が見れるなんて!似合ってるじゃないか2人とも」

「アハハ、恐縮です」


いつの間にやら相手のファンだったり知り合い同士が対面したりで自然とそれぞれの空間が構築されていく中、1人所在無さげに運ばれてきた紅茶を啜っていた少年兵ことヨナだったが。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・何をジロジロ見ている」


その紅茶を運んできた無愛想なメイド、ラウラにあまり感情を感じさせない透明な視線を固定した。

ロリ系銀髪眼帯無愛想メイドという人種はヨナにとって初めて接する相手なのである。背丈も同じぐらい小柄でミシェルと同い年には見えないし(そもそも比較対象が間違っている)、眼帯をしている辺り何だかバルメに似ている。でもって不機嫌そうに文句を言われた時にも気づいた事があった。


「・・・・・・ココと同じ声だ」

「何の話だ一体」


中の人の話です。

ラウラと睨めっこを始めたヨナに気づいたミシェルが声をかけた。今度もまた年下の少年兵は上から下までミシェルと、そして同じ格好をしたシャルロットを興味深そうに眺めまわす。


「何でそんな恰好をしているの?」

「・・・・・・そういうコンセプトのお店だからな」

「・・・・・・変なの。男の人の服装の筈なのにシャルロットまで同じ格好をしてるなんて」


ストレートにそう指摘されては、半ば男装を受け入れだしてきていたシャルロットは乾いた笑いで誤魔化すしかない。

もう言わないで、クラスの皆に無理矢理着させられて突っぱねられなかっただけなんだから。













そして更なる闖入者登場。


「お邪魔するわねー♪」

「邪魔するんなら帰ってください・・・・・・シャルロット、塩」

「外人なのに吉本ネタで返すなんて意外と日本通よねデュノア君ってば」


猫座の生徒会長こと更識楯無の登場である。とりあえず何故1年1組のと同じメイド服を着ているのかは突っ込まないでおこう。面倒だし。

こうして見ると、つい数分前までここに居たココと楯無の笑顔の差がミシェルにはよく理解できる。笑顔の仮面という点においてはここの方が数段上手く演じているとミシェルには感じた。経験の差か過ごしてきた世界の差かはたまた人間的な本質の差かはさておき。

それに日頃の行動の違いによる印象も大きい。事ある毎に他人をからかい倒して振り回す姿しか見せようとしない以上、楯無の笑みに胡散臭さのバイアスがかかるのは当たり前の事。


「・・・・・・他のお客様のご迷惑になりますし割り込みは厳禁ですので並び直してくれませんか」

「もう、デュノア君ってば融通が利かないんだから。それにおねーさんは客としてではなくて店のお手伝いにやって来たのよ?しばらくの間抜ける一夏君の為にね」

「何かスケジュール把握されてる!?」

「ま、それはそうとして、ちょっと2人ともお耳を拝借できないかしら?」


一見笑顔、だがこの時ばかりはいつもと違い、楯無の目は笑っていなかった。初めて感じる楯無の真面目な気配に、半ば渋々ミシェルも一夏も耳を貸す。


「もっと耳を近づけて」


そう言われるがまま更に身を乗り出す2人。

そして、


「ふっ♪」

「のっひょあ!?」


耳に吹きかけられた生温かい吐息のくすぐったさに一夏は奇声と共に飛び上がった。


「・・・・・・・・・・・・」

「わーっ!?タンマミシェル、流石に銃抜くのはやり過ぎだって!!」

「安心して、ここからはちゃんと真面目なお話をするから」


楯無の手に魔法の様にPDAが現れた。今一体どこから出した、と不思議そうな顔をした一夏の鼻先に突き付けられた扇子には『企業秘密』の文字。

楯無は2人にしか聞こえないギリギリの音量で話し出す。


「約30分前の事よ。未確認勢力の一員と思われる人間が身分を偽ってIS学園内に潜入しているのが確認されたわ。複数の可能性もある」

「「―――――!!!」」


基本(見た目は)無愛想で固定されているミシェルはともかく、一夏は周囲に動揺を悟られないようになるべく表情を変えないようにするので必死になった。

瞳だけ真剣な光を放って表情を1mmたりとも変えない楯無の姿に、やっぱり対暗部用暗部の出は伊達じゃないんだなと今更ながら感心する。

楯無のPDAには若いロングヘアーの女性が映し出されていた。画像の様子と角度からして監視カメラの画像であるのは間違いない。


「1人は学園直通のモノレールに乗って学園前駅に到着した所までは足取りは終えたけどそこから見失っちゃったわ。校内に設置してあるどの監視カメラにも引っかかってないし、多分敷地中の監視カメラの場所も把握してるんじゃないかしら」

「だったら今すぐ他の人達を避難させなきゃ・・・・・・!」

「・・・・・・いや、それは無理だろう。本土とを結ぶ脱出路がモノレールしかない以上、無理に避難させようとすれば人の流れが1ヵ所に集中する・・・・・・無用な混乱を引き起こすだけだ」

「デュノア君の言う通り。そうやってパニックになったら無駄な被害が出ちゃうかもしれないし、それが向こうの狙いなのかもしれないわよ?他の場所の警備を手薄にするにはうってつけの搖動だしね。こんな事態だからおねーさんの出番なわけだけど」


楯無の笑みの質が変わる。霧のように掴み所を感じさせない雰囲気から獲物を見定めた豹のような獰猛さを含んだ微笑へ。


「単刀直入に言うわ。この招かれざるお客さんを捕まえるのに協力して頂戴」

「分かりました。俺に出来る事なら出来るだけ協力します」

「・・・・・・俺達は何をすれば?」

「女の子のお願いに即答してくれるなんて流石男の子♪」


その時が来たらまた連絡するから今はそう気負わずに学園祭を楽しんできなさい。相手を見かけるような事があっても私の仕込みが終わるまで手出しはしないでおいてね。

そう生徒会長に言い含められた一夏とミシェルは、当初の予定通り行動を別にする。
















・・・・・・・・・・・・・・・・・・30秒後、画像に映っていた侵入者の女性ににこやかに話しかけられる事になるとは、一夏は予想だにしていなかった。






==============================================
ぶっちゃけ鈴の部分で燃え尽きたせいで後の部分おざなりだよ!
箒ばっかり一夏とイチャイチャしてる気がしたから鈴の分も補おうと思ったらご覧の有様です。どうしてこうなった。


ドラマCD版のココの中の人がラウラと同じである事を知る人ってどれだけいるんだろ?



[27133] 5-8:千客万来(下)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/12/04 11:39

侵入者の女性はIS装備開発企業<みつるぎ>所属の『巻紙礼子』と名乗り、一夏をどこかへ引きずっていきそうな勢いで強引な勧誘を仕掛けてきたそうな。


「・・・・・・下手をすればそのまま拉致されていたのかもしれないな」

「やっぱりそうだよな。振り払ってきて正解だったぜ・・・・・・」


『巻紙礼子』から逃げ切った後―しかし今も人混みに紛れてどこかから監視してきている可能性もあるが―すぐさま携帯でミシェルに連絡を入れると、忙しい中を抜け出してこうして一夏の元にすぐさま駆けつけてきてくれた。今はなるべく目立たないよう廊下の端で密談を交わしている。

ミシェルは周囲を見回し、行き交う人々の目がこちらに向いていない・・・・・・にはやや遠く、何人かが「ねえ、もしかしてあの2人が例の?」などとヒソヒソ漏らしている事で一瞬躊躇いつつも、結局ズボンの右裾を捲りあげて銀色に鈍く光る義足を曝け出した。

膝下から伸びる合金製の外側にほんの少し突き出ていた突起を押すと、隠しスペースに収められていた折り畳みナイフが姿を現し、ミシェルはそれを一夏に差し出す。

刃渡り10cm前後で刃が厚め。薄い鉄板すら易々と切り裂けそうな鋭さと頑強さを放つ、明らかに特注品らしき逸物。


「・・・・・・一応護身用に持っておけ」

「良いのか?」

「刃物の扱いに関しては一夏の方が上だからな・・・・・・手元に武器が無いからといって、いざという時こんな人混みの中でISを展開する訳にもいかん」

「確かにその通りだな。そりゃあありがたく借りとくな」

「だが気をつけろ・・・・・・相手が女で強硬手段も辞さないともなると、最悪ISまで持ち出してきかねないぞ」


ミシェルの警告に一夏は目を剥く。


「そんな!こんな人が一杯居るってのにもしそれで戦闘になったら!」

「・・・・・・それを防ぐ為にも、会長の策に乗るしか俺達には道は無い、という事だろうな。不本意ながら」

「何でだよ。楯無さんってそういう裏の仕事専門の人なんだから俺らよりよっぽどこういう事には頼りになるんじゃないか?」

「・・・・・・警護するのにわざわざ裸エプロン姿になるような人だぞ?」

「いや・・・・・・流石にこういう時ぐらい真面目にやって――――くれるよな?」

「聞くな・・・・・・」


ヤバい、早まったかも。がっくり肩を落として顔を見合わせる男2人。


「とにかく忙しい時に呼んでゴメンな。俺が抜けちゃって余計に大変なんだろ」

「いや、実はそうでもない。半分以上は一夏目当ての客ばかりだったからな・・・・・・そっちが居なくなったと知った途端、一気に客が減ったぐらいだ・・・・・それはともかく、良ければ俺もついて言って構わないか?」

「へ、あ、あああ。ちょっと人迎えに行くだけだし別に構わないけど、店の方は良いのかよ」

「・・・・・・ああ、大分暇になったから、シフトを入れ替えて今は休憩時間だ。後でシャルロットとも合流する手筈になっている」

「そっか、なら一緒に回ろうぜ。午後は午後で剣道部の方の出店に出なきゃいけないからあまり時間にゆとりないしさ。丁度良いから一緒に廻ろうぜ」


制服に着替えて女子としての姿に戻ったシャルロットと合流し、3人は一夏が人を待たせているという場所に向かう。やがて辿り着いた先は、IS学園の正面ゲート前。

待っていたのは五反田兄妹。一夏と鈴の分のチケットによって招待されたのだ。だがそこには弾と蘭以外にもにも一夏とミシェルの知り合いが居た。


「あれっ、のほほんさんのお姉さん?何でこんな所に」

「一般の来客者のチェックをしていた所なんですよ。もしや、彼らは織斑君のお知り合いで?」

「はい、中学からの友達なんですけど、って何だよ弾」


何故かいきなり弾が一夏に掴みかかるようにして顔を近づけてきた。しきりに虚の方に視線を向けつつ早口且つ小声で一夏に詰問する。


「(おい!あの人お前の知り合いなのか!?まさかまた性懲りもなくフラグ立てた相手じゃねーだろうな!?)」

「(いや、だからクラスメイトのお姉さんなんだって。あの人生徒会にも入ってて、前にここの生徒会長に呼び出された時に少し話をした事があるぐらいだっつーの)」

「(信用できるか!今まで何度会う女性会う女性にちょっと話しただけもフラグ立ててきたと思ってんだお前はええ!?)」

「(だあっ、苦しいから締めんじゃねえよ!)」


頭を小脇に抱えてヘッドロックまでかけだした弾。親友からの理不尽な行いに一夏もついむきになって技を返し、こちらはチョークスリーパーで反撃する。

見事に頸動脈を決められ、危うく意識を失う所だった弾だったが、それは呆気にとられて兄と思い人のぶつかり合いを呆然と眺めていた蘭の存在が一夏の目に入った事で未然に防がれた。

双方、気まずそうに口を閉ざしながら目を逸らす。何年も傍に居ながら恋心を抱き続けていた少女と、それに気づかないまま別の少女達と結ばれてしまった少年。


「ゲホッ、あぁ死ぬかと思った。とりあえず蘭、一夏と話したい事があるんだろ。待っててやるから、今の内に2人だけで話し合って来いよ」


どちらからともなく頷き合うと、2人は人気の無い物陰の方へと向かう。

立ち去る間際、ミシェルに何かあったらプライベート・チャネルを使ってすぐに呼んでくれと耳打ちされて、一夏は目線だけで首肯してみせた。本来は違法だが事情が事情である。

弾はやれやれと首を振りながらやれやれと溜息を洩らした。この場で唯一大まかな事情を知らない虚が、興味深そうな表情を浮かべる。


「どうやら織斑君と妹さんはただならぬ関係のご様子ですね」

「どんな結論が出るのか、大体の結果は予想はついてるんですけどね。兄貴としちゃ複雑ですよ。妹が朴念仁な親友に惚れたせいでずっと空回りしてただけでも面倒臭いのに、いつのまにかこっちが知らない間に他の女の子と付き合いだしちゃったんすから。しかも2人同時に」

「複雑だよねぇ。お互いよく知ってる相手なだけに尚更だよ」


シャルロットの言葉に弾は同意の苦笑を漏らす。


「とりあえず蘭を泣かせた分1発ぶん殴ってチャラにしてやるつもりではありますけどね。経緯はどうあれ、アイツの性格考えるとそもそも相手からの告白とか好意をちゃんと正しい意味で受け止めて答えを出した事自体奇跡的っすもん。むしろ褒めてやりたいぐらいと言いますか」

「・・・・・・そんなに織斑君って鈍い人だったんですか?」

「ええ、『付き合って下さい』って告白を単に買い物とかに付き合ってくれって意味なんだと当たり前のように考えて、告白した女の子達を悉く絶望させてきた程度には」

「・・・・・・それは酷い」

「おかげでこっちはそれの尻拭いに振り回されっぷりでしたよ」


あっはっはっはっは、という笑いの乾きっぷりが弾のこれまでの苦労を如実に示していた。それから弾はポツリと付け足す。


「ま、それでも良いヤツには変わりないからこれまで散々バカやってつるんできたんですけどね」

「それだけ仲がよろしいという事ですね」

「ええ、コイツになら可愛い妹を任せても構わない、って思ってた程度には」


弾がにやりと浮かべた男臭い笑顔を真正面から見つめてしまった虚は何だか気恥ずかしくなってしまい、思わず顔を背けてしまった。心なしか頬は赤い。

実は彼女、これまで同年代の少年と過ごしてきた時期が殆ど無いのである。

更識家に仕える家系として楯無や簪に幼い頃から付き従ってきてはいたが、更識家そのものが普通の家庭から遠くかけ離れていた為に常日頃から接する相手は年上の人間ばかり。男に慣れていない、という訳ではないものの、同じ年頃の異性のこのような凛々しさと野性味溢れた笑み(それも弾の顔立ちは平均以上に整っている)を間近で見せられては、胸が高鳴っても仕方のない事だった。

でもって弾も弾で顔色を主に染めながら恥じらう一見堅物そうな年上眼鏡美少女の姿に思春期の少年らしく興奮を抱いてしまい、彼も顔を赤くしてそっぽを向きつつも目は虚の姿を追いかける。

あ、目が合ったと思ったらお互いまたすぐに逸らしてしまった。


「ねぇねぇ、何だか2人とも良い雰囲気だね」

「・・・・・・これは是非とも応援しなければ」


出会ってすぐだが中々お似合いそうな2人である。既にゴールイン済みのミシェルとシャルロットからしてみれば、恋愛の先輩としてこれぞ青春の香り漂う甘酸っぱさを振りまく男女を応援したくなるのは仕方のない事なのだ。

そんな訳で助け舟を出してみる。


「・・・・・・もしよければ、俺達と一緒に見て回りませんか?」

「あらごめんなさい、申し出はありがたいんだけど、まだ一般のお客様のチェックをしなきゃならないから」

「だったらせめて携帯の番号を好感させてもらってもいいですか?」

「それなら大丈夫ですよ」


こうしてミシェルとシャルロット、そして弾も虚の携帯番号を手に入れる事が出来た。後はどちらかが勇気を出して相手に電話をかけさえすれば勝手に関係も発展していくだろう。そう思いたい。

「よろしければ貴方も・・・」「こ、光栄です!」などとやり取りしながら赤外線通信を行っていた弾と虚の姿にお見合いの場で照れ合う光景を連想してしまって微笑ましく思ってしまった事は内緒だ。

そんなやり取りの後、おもむろに弾が真面目な顔になってからミシェル達に向けて深く頭を下げた。


「アイツの事、よろしくお願いします。妹が振られても、やっぱり一夏は俺のダチなんです。俺が傍に居てやれない分も一夏を、そして鈴の事もどうかこれからも助けてやって下さい」


弾の言葉に自然と3人の口元が綻んでしまう。

本人がこの場に居ない時だからこそ、こうして友人の事を思って頭を下げられる誠実さを持つ少年に悪感情を持てる筈が無い。






仕事に戻る虚が立ち去るのと入れ違いになるように、こちらに戻ってくる一夏と蘭の姿が見えた。

離れていった時の違いを敢えて挙げるとすれば、蘭の目の周りが赤く充血しているのと一夏の頬に見事な紅葉マークが刻まれている点。


「話し合いは終わったんだな?」

「・・・・・・ああ、ちゃんとキッパリとけじめはつけたよ」

「よし、それじゃあ今度は俺の番な」


弾の拳が平手打ちの痕とは反対側の頬にねじ込まれた。弾は特に格闘技はしていないのだが、しっかりと肩と腰の捻りの利いた骨まで響く見事なストレートだった。

そのまま倒れる事もなくしっかりとその場に踏み止まる。目撃した周囲から悲鳴が漏れたが、彼らの関係を知る者達は誰も止めない。

これは彼らなりのけじめのつけ方なのだ。余計な口出しは必要ない。


「大切な妹を泣かせた罰だ。お前じゃなかったらそれこそ病院送りになるまでぶん殴ってただろうから感謝しろよ。もう2度と、蘭を泣かすんじゃねぇ」

「・・・・・・分かってるよ」

「ならよし。んじゃ、可愛い子でいっぱいのIS学園をさっそく案内してもらおうか。もちろん店とかの代金は全部お前持ちな」

「ちょっと待て、それは勘弁してくれ!」

「やなこった。大事な大事な人の妹を泣かした奴の言う事なんか知りまっせーん!」


先程までの事が嘘のようなバカ騒ぎを再び始める親友達のやや後方では、シャルロットが蘭にハンカチを差し出していた。


「言いたい事が言えてスッキリしたみたいだね」

「はい・・・・・・散々泣いて、散々言いたかった事を全部言っちゃいました。正直、もう頭の中が滅茶苦茶で自分が具体的にどんな事を言ったのかはあまり覚えてないんですけど」

「・・・・・・新しい恋を見つけられそう?」

「それは分かりません。出来ればこの際だから一夏さんよりもカッコいい人を捕まえてみせようとは思ってますけど、一夏さんよりもカッコいい男の人っていうのも具体的には思いつかないんですよ」

「実際男からしてもかなりポイントが高い方だからな・・・・・・・・・・・・鈍いのが珠に傷だが」

「そうだね、鈍いのが1番の問題だよね」

「今度からは女の子の気持ちがよく理解できそうな人を探してみます・・・・・・!」


顔が良くて家庭的で逞しくて優しくたって、露骨なアピールにすら全く気付けないほど女心が理解出来ないのが唯一にして最大の一夏の弱点と言える。

・・・・・・それこそ箒も鈴もなりふり構わぬ体面も何もかなぐり捨てた過激で直球な手段で告白していなければ、今のような関係にはなれていなかったかもしれない。


「ところで、1つ聞いても良いですか?」

「構わないよ。あ、でもミシェルをくださいっていうのは絶対ダメだからね?ミシェルは僕の旦那様なんだから」

「いえいえ、そんなつもりは全然!えっと、出来ればで良いんですけどお2人の馴れ初めを聞かせて貰えたら、その、参考になるといいますか」


失恋したばかりとはいえ蘭も多感な思春期の女の子。人の恋路にはかなり興味を持つ性質なのだ。

彼女の質問に対するデュノア夫婦の反応は、顔を見合わせながらの苦笑。


「・・・・・・多分参考にならないと思うぞ」

「いいえ構いません!お願いですから教えてください!」

「・・・・・・出会ったその日に俺からプロポーズした」

「えっ」


言われた通り、どうやら蘭の参考にはなりそうにない告白だった。












「何であそこでいきなり青を切るんだよ!」

「だって弾が金髪が好みって言うから」

「・・・・・・金髪と言えばシャルロットだろ常考」

「いやまあシャルロットの機体もオレンジだから赤っぽいっちゃ赤っぽいけど」


美術部で行われていた爆弾解体ゲームに失敗してやいのやいのと口論を繰り広げつつ幾つかの出し物を巡った後、思い出したかのように一夏が「あっ」と声を上げた。


「悪い、そろそろクラブの方の出し物に行かなきゃならないから俺行くな」

「そういや一夏って部活何処に入ったんだよ。やっぱ剣道部?」

「そうだよ。最初に一夏が部活をやった日なんか織斑先生も特別に参加して凄い盛り上がったんだって」

「相変わらず千冬さんバカみてーに強いんだろーな。なんつっても世界最強の称号を与えられちゃってるんだし」

「強いままだよ本当。結局その時も最後まで1発もまともに入れれずじまいだったからな。まだまだ千冬姉に俺の剣は届きそうにないや」


そう自己評価を披露しながら剣道部が出し物をしている教室に向かっていた一同だったが、彼らを出迎えたのは1年1組の時と負けず劣らずに長く続く行列だった。信じられないが、どうもこの行列は彼らの目的地まで続いているらしい。

無駄に注目を集めないように―図体の大きいミシェルで行列から一夏の姿を隠すようにして教室に入る。中には部長以外にも同じ剣道部である箒の姿。


「む、遅いぞ一夏」

「悪い悪い。でも何なんだよあの行列。そういえば剣道部が何の店やるのか教えられてないんですけど」

「・・・・・・それならちゃんと確認しておけ」


何で箒は微妙に不機嫌そうなんだ?と思いながら部長の方を見る。


「最初はね、剣道体験コーナーとか占いの館にでもしようかと思ったんだけどね?せっかく織斑君が入部してくれたんだからもっとそれを前面に押し出してみようと思ってね?」

「は、はあ」


見回してみると、教室にはいくつかのテーブルが配置してあって、その1つにはサイン色紙が山積みになっていたりブロマイドが何枚も飾られていたりって何じゃこりゃあ!


「お、俺の写真?」

「うん。だから有名人の君と先着限定の握手会と部活中の君の姿を撮影した生写真の特別販売をする事にしたんだよ?」

「だ、だから箒が不機嫌なんですね」

「大体それは盗撮なのでは・・・・・・」

「それを言うなら校内で密かに取引されている織斑君の写真もどれも盗撮だから今更な気もするね?」

「そういう問題じゃないのでは・・・・・・?」

「いーじゃねえの、女の子と沢山握手できて。あー羨ましいねえこの色男」


弾に羨ましがられつつも、当の一夏はと言えば非常にダルそうな気配を漂わせて肩をガックリ落としていた。

一夏からしてみればISを動かしてこのかた散々見世物扱いされてきてほとほと嫌気もさしていたし、自分のクラスの喫茶店で慣れない仕事をしたせいで予想以上に疲れが溜まっていたのだ。主に精神面で。

というか、しょっちゅう見られているのには気づいてたけど盗撮までされていたとは。俺ってそんなに人気者だったのかーなんて能天気に喜ぶような性格の持ち主ではない。

これには幾ら一夏でも箒が怒っている様子なのも納得できた。とはいえその理由が恋人が見世物にされる事に対してか大勢の女の子と接する羽目になる事への嫉妬なのかは分からない。

ここまでお膳立てされてしまっている以上突っぱねる訳にもいかなさそうだ。下手すれば暴動が起きる。


「すいません、このブロマイド今買ってもOKですか!」

「君は織斑君の知り合いみたいだから特別に安くしておくね?」


新しい恋に生きるんじゃなかったのかそこの中学生。

途方に暮れる一夏の肩に大きな手が置かれる。


「ミシェル・・・・・・」

「・・・・・・『有名人』の先輩として言っておこう」


ミシェルの目に浮かぶのは連帯感と同情。


「・・・・・・諦めろ。下手に有名になれば見世物にされるのが当たり前なんだ」

「ですよねー」












「なるほどねー、どおりでそんなにお疲れなわけなんだ」

「サインと握手のし過ぎで手首が痛いです・・・・・・」

「うふふふふ、たかが100人200人分ぐらいで根を上げるなんてまだまだ未熟ね」


会長の扇子には『修行不足』の文字。たかがサインと握手と侮るなかれ、興奮した女子と握手するたび手を握られた状態で激しくシェイクされるのを100回以上繰り返せば負担が蓄積するし、書き物のし過ぎは言わずもがなだ。

木刀の素振りなら1000回でもこなせるのだが。


「・・・・・・それで生徒会の出し物に偽装して侵入者をおびき出すと聞かされたのだが」

「うんそうよ。とりあえず2人ともこれに着替えて頂戴」


それぞれ衣装の入ったケースの中身を覗きながらミシェルと一夏は作戦内容を楯無に告げられる。

説明終了後、2人の顔は更に疲れがのしかかったかのように生気が失われていた。

内容は簡単、演劇中のハプニングを装ってワザと舞台裏で一夏に単独行動を取らせ侵入者を誘き寄せるという物・・・・・・なのだが、偉そうに胸を張る(そのせいで日頃からかなり目立つ大きく膨れ上がった胸元がより強調されている)楯無に2人が向ける視線は非常に疑わしげだった。


「それってかなり見え見えの罠に思えるんですけど」

「それはどうかしら?招かれざるお客さんからしてみれば、そんな絶好のチャンスを逃す訳にはいかないとおねーさんは読んでるわ。この機会を逃せば他に密かに一夏君を攫うなり、一夏君のISを奪うなりする機会が学園祭が終わるまでにまた訪れるかわからないもの」

「・・・・・・何故俺ではなく一夏を狙うと分かる」

「機体の開発元の問題よ。何せ一夏君の機体はあの篠ノ之束博士本人が直接手を加えて完成させた機体だもの。ミシェル君の機体もヨーロッパの第3世代機に使われている特殊技術の集大成だけれど、技術力の程度で言えば一夏君の<白式>の方がよっぽど上なの。IS先進国各国が未だ机上の空論状態の第4世代、その技術が取り入れられてるんだから」


楯無の推察を聞かされた一夏の顔が自然に苦々しく歪む――――――また束さんか。あの人はどれだけ周りを巻き込めば気が済むんだ。

一夏の顔色の変化にはもちろん楯無も気づいていたが敢えて気づかないふりをし、もちろんミシェル君が狙われる可能性も無きにしも非ずだけど、と続けてから唐突に一夏に向けて手を差し出す。


「ちょっと一夏君が向こうから渡された名刺を私に見せてくれない?」

「あれ、俺その事言いましたっけ」

「おねーさんは何でも知ってるのよ」


扇子を閉じてまた開いて、そこに書かれていた文字が『修行不足』から『千里眼』に一瞬で変わっていた。断じて手品なんてちゃちなレベルじゃぁない。どういう原理だ一体。

表面に指を滑らし明かりに透かしたりと少しの間どこにでもありそうなちょっと硬めの材質な名刺を調べてから「ありがとう」の言葉と共に名刺を返してから、楯無は一言。


「その名刺、発信機が仕込んであるみたいだからやっぱり一夏君が狙いみたいね」

「はい!?」


予想外の言葉に一夏は白黒。ミシェルの表情筋は無愛想に固定されたまま。

紙幣にもICチップが仕込まれるご時世だ、そこまで驚くような事でもない。むしろちょっと調べただけで発信機が仕込まれている事に気付く楯無の洞察力こそ驚くべきレベルだ。


「一夏君はその名刺を劇の間も肌身離さず持っておいてね。盗聴器までは仕込まれてないみたいだから一夏君が発信機の存在に気付いている事に向こうは知らないままだからね」

「は、はぁ分かりました」


開演の時間も迫ってきているので衣装に着替える事にする2人。

・・・・・・今度はどちらかが指摘するよりも早く、何時の間にか楯無は出て行っていた。












『観客参加型演劇』と銘打たれた生徒会公演による演目は『シンデレラ』――――なのだが、侵入者を釣る為の別の意味でのお芝居の筈なのに『あの』楯無が立案した演目なだけあって、その内容も設定も突っ込み所満載な内容と化していた。

そもそもアマゾネス化したシンデレラ達が王子の王冠に隠された軍事機密を巡って大争奪戦とか、グリム童話じゃなくてスパイ小説とかB級アクション映画との設定と勘違いしてるんじゃないだろうかと小一時間問い詰めたい。


「つかさ、何で皆も参加してんだよ!?楯無さんに何か吹き込まれたのか!」

「あの女と取引してな!嫁の王冠を奪えば生徒会長権限で1週間同居だそうだ!」

「だーれーがー許すと思うかそんな事!」

「箒の言う通りよ、そんな事していいのは私と箒だけなんだから!」

「ああもうやっぱりロクな事しないなあの人!わ、ちっ、この狙撃はセシリアか!」

『何という事でしょう、王冠を狙う立場でありながら王子との愛に目覚めたシンデレラがかつての仲間と敵対するとはまさに悲劇!そしてロマンス以外の何物でもありません!』


足元を跳ねる弾丸に脅威を感じた一夏は手近な遮蔽物―宮殿風の舞台のセット―に飛び込む。

少し離れた地点ではラウラが恋人達2人を相手取って激戦を繰り広げていた。流石特殊部隊の指揮官を務め、仲間内でもトップクラスの実力を誇るラウラである。IS無しでも数のハンデを背負っていながら、箒と鈴を相手取って一方的な攻勢を続けている。

勿論それには舞台上には居ない、だが間違いなく体育館の何処かに潜んでいるセシリアの援護射撃の影響も大きい。IS戦もロングレンジの狙撃が得意なだけあって一夏に箒、鈴の動きを先読みした狙撃が否応無しに標的となった3人の行動を制限してきて、とても厄介だ。

というかまさか実弾使ってんじゃないだろうな。セットに穴開いてるぞ穴。

一夏の身体がある辺りを狙って遮蔽物越しにも撃って来るものだから、さっきからしょっちゅう物陰から追い出されてはスポットライトと観客の歓声を浴びる羽目になった。

あ、シャルロット達見っけ。弾に蘭にいつの間にか合流していたのか簪にのほほんさんに虚さんまで一緒だった。笑ってないで助けて欲しい。


「うわっ!?」


すぐ近くで箒の悲鳴が聞こえた。振り向けば一夏に向かって倒れ込んでくる箒の背中があった。律儀にも役柄通りガラスの靴(強化ガラス製)を履いたまま激しい格闘戦を繰り広げていたせいで、ラウラの攻勢を捌いていた際バランスを崩してしまったのだ。

反射的に箒の身体を受け止める一夏。片手で背中を、もう片方を腰下辺りに伸ばして自然と横抱きになる形でドレス姿の箒の身体を受け止めた。

――――どこからどう見ても完全無欠のお姫様抱っこである。

たちまち鳴り響く『えんだあああああああああああああああ!!』とのシャウト。今時の若い世代にボディガードネタが通用するのか甚だ疑問である。

次の瞬間、狙撃の規模が単発から弾雨へと変貌した。周囲を通り過ぎていく弾丸の多さに泡を食った一夏は再度手近な物陰へ滑り込む・・・・・・箒を抱き上げたまま。


「だ、大丈夫か箒?」

「う、うむ。平気だぞ・・・・・・」


未だ一夏の胸の中に居る箒はここぞとばかりに一夏の胸板の感触を堪能する事にして、心なしか強く顔を胸板に押し付けた。

そんな箒にとっては甘い一時も狙撃がセットに着弾する心臓の悪い音にたちまち霧散する。一夏は一夏で連射間隔とフルオート連射可能な辺りボルトアクションじゃなくてオートマチックタイプかな、とセシリアの得物について冷静に分析中。


『さあどうする王子様。このままあえなく愛を選んだシンデレラ共々凶弾に倒れてしまうのでしょうか?』


その時またもBGMが大音量で流れ出した。今度は歌手のシャウトではなく、腹に響く重低音が一定のリズムで作り出す威圧感溢れるメロディーだ。

ダダッダンダダン!と特徴なテンポを1小節も耳にすれば自然と答えが思い浮かぶ位知られている名作SF映画のテーマ曲。




そして『彼』が姿を現す。

屈強な筋骨隆々な肉体を覆うのはバイカー風の黒いレザージャケット。目元にはこれまた威圧感たっぷりの分厚いサングラスに両手にはアサルトライフルにショットガンの2丁持ち。背中には中折れ式グレネードランチャーまで背負っている






『何と、王子様を守る衛兵の正体は未来から送り込まれた殺人マシーンだったのです!』

「「「「「「な、何だってー!!?」」」」」」






というか全く違和感感じねぇ!?と観客のほぼ全員の内心が一致した瞬間であった。元ネタよりもよっぽどしっくりくるってどういう訳さ。

ターミ○ーターに扮したミシェルはまずはショットガンをラウラに向け、片手撃ちで威嚇射撃。散弾の連射に脅威を覚えたラウラは鈴との戦闘を中断するとした内と共に後ろへ飛び、一夏達と大きく距離を取る。

すぐさまミシェルは弾切れになったショットガンを捨てると背中のグレネードランチャーを抜き、またも片手1本で狙いを定めるとミシェルの登場によって狙撃ポイントからの移動を失念していたセシリア目がけ発射した。

白煙をたなびかせた40mm擲弾は観客達の頭上を飛び越えまっすぐセシリアの元へ。爆発と共にセシリアの悲鳴が聞こえたが人体に無害な(?)砲弾を使用しているのでセシリアの身体そのものは全くの無傷だからご安心を。


『さあここからはフリーエントリー戦!果たして強靭な衛兵の守りを突破して王冠を手にするのは誰になるのでしょう!!』


地響きを伴って舞台袖から乱入してきたのは、セシリアとラウラ同様一夏との同居権を求めてエントリーしてきた少女達である。

もはや一夏と箒と鈴の関係は学園中にしれ渡っている筈なのだが、2人纏めて恋人になったが為に自分達も加われるかもしれないと往生際の悪い者がまだこれだけ残っていたのだ。


「「「「「「織斑く~~~~~~~~~・・・・・・」」」」」」


バッファローの群れの如き足音と迫力を伴って一夏に襲い掛かろうとする女子達。その声はしかし、あっという間に尻すぼみになって途切れた。

何故ならば1人ミシェルが立ちふさがったから。だが重要なのは今彼が構えている代物の存在であった。

彼が両手で腰だめに抱えているのは本体重量18kg、電動駆動と6連銃身により毎秒100発を吐き出す怪物銃。

――――ゼネラル・エレクトロニック・M134ガトリング。通称『ミニガン』。

本来は軍用車両やヘリコプターに搭載して運用するものであり、個人で携行するには大き過ぎ重過ぎ剣呑過ぎるその6つの銃口が凍りつく少女達にピタリと向けられていた。


「・・・・・・死ぬほど痛いぞ」


回れ右して脱兎のごとく逃げ出そうとした少女達だがもう遅い。




少女達の悲鳴は超巨大なチェーンソーのような銃声に掻き消された。















――――――同時に誰にも気づかれる事無く、一夏の姿は舞台から消えていた。








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劇場版リリなのAsのHPを見て最初に思った事:はやてがメインなのになんでなのフェイがトップなんだよ!?(はやて好き
戦闘シーンは原作からかなり変わる予定。



[27133] 5-9:ダブルチーム(上)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/12/11 12:18


それにしても、と一夏は思う。

まさか本当に楯無さんの思った通りに事が進むなんて正直思ってもみなかった。もちろん喜ぶべき事なんだろうけど、出来ればこのまま大した波乱もなくさっさと終わる事を願う。

巻上礼子に手を引かれるがまま走り続けた一夏がやがて辿り着いた先は更衣室だった。今日このアリーナの更衣室を使っているのは現在公演真っ最中の生徒会のみなので人気は全く感じられない。

ずっと一夏の手を握りしめていた巻上礼子の手がようやく離れた。手入れはよくされているものの、妙齢の美女にしてはどことなく所々の指の皮が厚く固い。

特に人差し指の胼胝らしき感触は銃火器のトリガーを数え切れないほど引いてきた証なのか。人の手は驚くほどの情報を示してくれる。


「あ、ありがとうございました巻上さん。わざわざ皇室まで逃がしてもらって」

「いえいえ、それにしても女の子にモテモテなんですね」

『・・・・・・了解。30秒で到着予定。それまで引き延ばしてくれ』


美女の笑顔をこんな間近で見せられれば普通の青少年ならば鼻の下を伸ばしていてもおかしくないのだろうが、今の一夏は巻上礼子の笑顔の仮面の下に隠された毒蜘蛛のように危険な気配を敏感に感じ取っていた。

追っかけから解放されて一安心、と油断している体を演じようとして非常に苦労しつつ、必死に取り繕って疲れた笑みを見せながら、この演技が通じてくれる事を密かに祈る。


「ところで1つお願いがあるのですが」

「ああはい、何ですか?」

『・・・・・・入口まで15m』


チリチリと火で炙られてるような錯覚。目の前の女性からほんの少しだけ漏れ出した威圧感に毛穴が開く。


『・・・・・・今扉のすぐ前に着いた』

「はい、<白式>をこちらに渡してくれませんか?」

「・・・・・・それってどういう意味ですか」


すぐその場から跳躍できるように、かつ巻上礼子と名乗る侵入者に気取られないように少しずつ少しずつ親指の付け根に重心を加えていく。

笑顔はそのままに、しかし目に見えて空間が歪みそうなぐらいに、巻上礼子の気配が禍々しく一変した。まるで猛毒を持つ爬虫類のように強烈でドス黒い。


『ステンバーイ・・・・・・』

「いいからさっさとよこしやがれよガキ」

「冗談とかじゃなさそうですね」


極限まで力を溜め込んだ太腿が服の下で膨れ上がったのに気付いた女もまた、いつでも一夏の動きに追従できるように身構えた。よく見てみれば女性の履いているパンプスは踵が低く、素早く動くのにも向いてそうだ。

更衣室には一夏が先に入って来たので、出入り口は巻上礼子の後ろにある。ドアの所まで行くには彼女を突破しなくてはならない。


「さっさと言った通りに出すもん出したらどうだクソガキがっ!」

「そんな事言われても――――――」

『―――――GO!!』


女にとっては唐突に――――一夏にとってはまさに合図と同時に、いきなり更衣室の自動ドアが開いた。

鳴り響く銃声。ミシェルのパラ・オーディナンス・P14カスタムから放たれた都合2発の銃弾が巻上礼子の背中―正確には両肩後ろに1発ずつ―へと命中。

キンキンと、拳銃から吐き出された45口径の空薬莢が床に落ちて硬質な音を立てた。耳に突っ込まれた超小型の無線機が耳栓代わりになったので昔聞いた時よりも銃声がかなりくぐもって鼓膜に届く。

撃たれてよろめいた彼女のすぐ横を一夏が通り過ぎようとすると、驚くべき事に巻上礼子は姿勢を立て直して己の手元から逃げ出していく一夏を捉えようと手を伸ばす。

ミシェルが再度発砲。今度は手加減無し、フルオートもかくやな高速連射が次々と巻上礼子の胴体に着弾していく。それでも侵入者は吠える。

スーツに幾つもの穴が開くが出血は見られない。案の定下に防弾義、もしくはISスーツでも着込んでいるのだろう。ISスーツは下手な防弾ベストよりも性能が良い。


「こんのクソ野郎どもっ・・・・・・!!」


あのかなり荒っぽい口調こそが巻上礼子の地らしい。衝撃に何度も打ち据えられて数歩たたらを踏みはしたが倒れない。

彼女のスーツが裂け、背中から幾つも折れ曲がった『足』が何本も飛び出してきた。正確に表現するとそれは鋼鉄製の機械仕掛けの足で、先端は車でも易々と引き裂けそうなほど鋭く尖っている。

そんな真の姿を晒した女の鼻先目がけ、ある物が投げつけられる。それが彼女の目の前に落ちて跳ねるのととっくに更衣室から脱出した一夏とミシェルの姿が自動ドアによって遮られるのは同時。




かっきり1.5秒後、麻酔ガス弾の煙が爆発的に更衣室を覆い尽くした。








「・・・・・・これで後は会長達が駆け付けるまで見張るぐらいだ」

「あー寿命が縮むかと思った・・・・・・」


ミシェルは愛銃のマガジンを交換しながら呟き、壁にもたれかかりながら一夏が安堵の溜息を漏らす。。

火事などの際に自動もしくは手動でも作動できる非常用ロックを発動させたので自動ドアは完全に密閉され、向こうで充満している麻酔ガスが2人の元に流れないようになっているので心配はしなくていい。

ミシェルの足元には舞台でも持っていたG36Cアサルトライフルが壁に立てかけてあった。あの時は模擬弾が装填されていたが、現在は正真正銘の実弾に交換してある。


「それにしても・・・・・・幾らISスーツを着込んでいたらしいとはいえ、45口径弾を1マガジン撃ち込まれてもまだ動けるとは予想以上のタフさだったな・・・・・・」


弾が貫通しなくても衝撃が通る事で人体の内部にダメージを与える。45口径(弾丸直径11.5mm)ともなれば防弾着越しでもヘビー級ボクサーのパンチを食らったも同然だ。1発だけでもまともに動けれる人間はそうそういまい。

しかも最後にあの女が展開しようとしていたのは間違いなくIS。あんな物まで持たせるなんて一体どこの組織だ?そもそもどこから持ってきたのやら。


「・・・・・・そういえば強奪された機体があると聞いた事があるな」

「それ本当かよ?でもそんなのニュースとかじゃ全然やってなかったぜ」

「・・・・・・史上最強の兵器であるISをどこかの誰かに奪われました、なんて恥を国がわざわざ自分から晒すと筈が無い。最低限の情報が関係者に流れる程度だろう」

「それだけ危険な連中が<白式>を狙ってたって事か・・・・・・それにしても何者なんだろうな一体。何が目的でこんな事――――」

「金か思想か・・・・・・とにかく、ISを運用できるほど巨大な組織である事は間違いない」


高価な兵器ほど運用に必要な設備の規模も比例するのは、かつてのステルス戦闘機や戦艦の数々が良い例と言える。途上国では膨れ上がった軍事費によって国が傾く事も珍しくはない。

つまりISを運用できるという事は下手な国家以上の基盤を持つ事の証明であり、それほどまでに強大な組織に狙われるなどぞっとしない話だ。

それよりもまず今言うべき事は、


「ありがとうなミシェル、ちゃんと助けに駆け付けてくれて」

「むしろ舞台から引っ込むのに時間がかかって遅れたぐらいなんだが・・・・・・一夏に何事も無く済んだみたいで良かっ」


ミシェルの身体が唐突に震えた。背中をまるでハンマーで殴りつけられたような感覚。肺から空気が叩き出され、喉から漏れたのは言葉ではなくカハッ!という強制的な呼気。

前のめりに倒れ込みながら、まるで何でこうなったのか自分の目で確認しなければ気が済まないとでもいうようにミシェルは身体を反転させた。2m近い巨体を平均的ではあるがミシェルと比べれば頼りないぐらい小柄に見える一夏がしかし、しっかりと受け止めてみせた。

苦痛と驚愕を浮かべながらも何が起きたのかと2人は通路の先を見やる。




―――――未だ硝煙をたなびかせてまっすぐサイレンサー付の拳銃を構えた女性が立っていた。




烏の濡れ羽色の美しい黒髪の持ち主だが分厚いサングラスに阻まれ顔立ちはよく分からない。

少なくとも彼女が放つ殺気は本物だ。でなければ警告も無しに背中から鉛玉をブチ込めるものか。巻上礼子以外にも侵入者が居たのだ。彼女の仲間である可能性も高い。

一夏の中で過去の映像がフラッシュバック。自分を助ける為に片足を失い、出血によって腕の中で服を真っ赤に染めながらも顔色だけはどんどん蒼褪めていくミシェル。

今度に限っては出血も無ければショックを起こした様子もなかった。それどころかミシェルは倒れ込みながらも立てかけていたG36Cを掴み取る事すら行っていた。

一夏に背中から支えられて仰向けの態勢のままミシェルは発砲する。通路をライフル弾の連射が切り裂き、女は通路の曲がり角に滑り込んで身を隠す。


「ミシェル!おい大丈夫なのかよなあ!?」

「大丈夫だ!・・・・・・俺も下にISスーツを着込んである・・・・・・!」


衣装の下にISスーツを着込むのはは楯無の案だった。防弾着替わりになるのもさる事ながら、IS戦が勃発しても―もちろんそれは最悪の展開だ―最低限の再構築だけで緊急展開できるのでエネルギーの消費が抑えられる。

ミシェルは一夏に引きずられながら数発ごとの短連射を繰り返す。すぐに弾切れ。冷静に残弾数を数えていたのか射撃が途切れると同時に女が拳銃を構えて姿を晒す。

背中を掴む一夏の手を振り払うようにして立ち上がりながらミシェルはP14カスタムを抜くと、ロクに構えず女に背を向けながら後ろの方へ乱射した。当たらなくても良い、すぐそこの角に一夏共々滑り込む為の時間稼ぎさえできれば。

そう思ったのだが、次に2人を襲ったのは銃弾ではなかった。

すぐ後方、ミシェル達と女の間で爆発が起きた。より正確に言えば、非常用ロックによって完全に密閉状態で封鎖されていた筈の更衣室のドアが、向こう側から吹き飛ばされたのだ。


「舐めてんじゃねぇぞガキどもが!あの程度のガスぐらい耐性を付けてあんだよ!!」


あっさりお寝んねとはいってくれなかったようである。それどころか逆上して先程よりも更に凶悪な殺気を振りまいて一夏達を、より具体的には彼女に散々鉛玉を撃ち込んだミシェルを血走った目で睨みつけている。

アレはヤバい。本気で殺す目だ。


「男のくせしやがって、よくも、よくもこの私を撃ちやがったなあ!お返しに千兆万倍分の鉛玉で体重を増やしてやんよ!」

「邪魔だどけオータム・・・・・・!!」

「うるせえんだよ、私に指図すんじゃねぇ!」


頭に血が上り過ぎて仲間割れさえ始めた女達の間に一瞬の隙が生じ、ようやく再び自分の足で立ち上がったミシェルは一夏共々駆け出した。

待ちやがれ!の怒号と同時に急接近する気配。生身の人間の足程度でISが振り切れる筈がないのは重々理解しているが、こうも追いかけられてはこちらもISを展開する余裕もない。それに狭い。それなりに広くてもISなんかを2人並んで緊急展開したら通路に引っかかってしまいそうだ。

2人のすぐ横の壁をオータムの放った弾丸が抉った。歩兵が運用するそれより数倍の口径を持つIS用マシンガンだげあって威力は比べ物にならない。壁を抉り足元に小さなクレーターを生み出し、着弾の余波だけで足元を掬われそうになり破片が衣装やむき出しの手や頬を裂く。

今ならホラー映画で殺人鬼に追いかけられる主人公やヒロインの気持ちが嫌なくらい理解できた。


「た、楯無さん!援軍はまだなんですか!」

『もうすぐそちらに到着する――――これは何!?』


突然2人の行く手をギロチンの刃よろしく落下してきた防火シャッターが遮った。危うく真正面からぶつかって跳ね返されそうになる。

IS学園の防火シャッターは場所が場所なだけに1枚1枚が核シェルター並みの強度を誇る。火事などの延焼防止はもちろんの事、ISを強奪した侵入者を閉じ込めるという状況も想定されて設計されているからだ。ISの武装であっても生半可な物じゃ精々傷をつけれる程度。

咄嗟に今度こそISを展開して突破しようと考えても手遅れだった。

後方で殺気が膨れ上がる。咄嗟に目についた扉に体当たりする形で2人がなだれ込むと同時、だった今まで一夏とミシェルが立っていた場所に弾丸が降り注ぐ。


『ゴメン、警備システムにハッキングされてシャッターを下ろされちゃったみたい。こっちも閉じ込められちゃった!』

「・・・・・・だと思った」


2人が飛び込んだ先は、アリーナ用の整備道具を置いておく倉庫だった。面積は更衣室と同程度、きちんと種類ごとにラックに収められて奥まで何列も並んでいる。

今くぐった扉以外に脱出口が存在しないと理解しながらもミシェルと一夏は奥に逃げ込み物陰に潜める。そこでようやくISを展開した。但し一際目立つアンロックユニットといったISのパーツの中でも大型の物までは展開しないでおく。あれまで展開したら間違いなくラックの陰からはみ出てしまう。

ある程度部分展開すればシールドバリアーも作動するから、少なくとも流れ弾の1発程度で命を落とす事も無くなる。

数秒と立たずISを完全展開したオータムが用具倉庫に踏み込んできた。もう1人の女性は生身のままだが油断は出来ない。


「鬼ごっこの次はかくれんぼかなーん?遊んでんじゃねぇぞコラァ!」


オータムのISから生えた装甲脚の先端に備えられた8つの銃口が一斉に火を噴いた。乱射された大口径弾が大きなラックを瞬く間にハチの巣に変え、2人が隠れている傍らを何発も通り過ぎていった。悲鳴は漏らさなかったが心臓に悪い。


「オータム、弾の無駄だ。これで織斑一夏が死んだらどうする」

「うるせえんだよエム!テメエが私の名前を呼び捨てにすんじゃねえよ!今更獲物の心配かよ、えぇ?」

「違うな。織斑一夏は私が殺す。貴様などの殺されて欲しくないだけだ」


もう1人の女の名前はエム。明らかに本名ではなさそうだ。

ミシェルは両手に<ケルベロス>複合ライフルに<ドラゴンブレス>ショットガンを、一夏は<雪片弐型>を握り締め息をひそめ続ける。


「そうだ、良い事を教えてやるよ。織斑一夏君よぉ!」


オータムの声に嘲りが混じる。







「第2回モンド・グロッソの時にテメエを誘拐して、そこのデカブツを殺しかけたのは俺達『亡国機業』だ!感動のご対面ってヤツだな、ギャハハハハッ!!」






その声が耳に届き、内容を咀嚼し、意味を理解した瞬間。

一夏の中から全ての音が消え去った。

それは正しい表現ではない。正確には、一夏の耳に誰の声も届かなくなっただけだ。

ミシェルが押し殺した声で出てくるなというのを無視し、幽鬼のような足取りで一夏は整備用具の陰から姿を現した。

俯き気味なのと前髪に隠れているせいで、ミシェルにも入口の傍で立ち塞がるオータム達にも一夏が今どんな表情を浮かべているのかは分からない。

<雪片弐型>を握る右手もダラリと下げられ、完全に脱力している。


「ククッ、やっぱりガキだなオイ!この程度の挑発でノコノコ出てきやがって!」

「・・・・・・・・・」


オータムは虫でも見下すような嫌らしい笑みをまざまざと見せつけるように浮かべて挑発的な言葉を吐くが、一夏は何も言わない。

しばらくは暴虐的な笑顔を張り付けていたオータムだったが、ずっと俯いたまま動く気配を見せない『主目標』の様子を捉え続けている内に、ただの素人に過ぎないガキをいたぶって楽しもうと抱いていた嗜虐心が、次第に警戒心へと移り変わっていった。

いや、何を考えてるんだ私は。相手は男だぞ?偶然ISを動かせただけの運の良いガキに過ぎないじゃないか―――そう己に言い聞かせる。

だけど何だ、この胸のざわめきは。背筋を撫でる冷たい気配は。

己の機体、第2世代型IS<アラクネ>のハイパーセンサーは隣に立つ仲間―オータムとしては認めたくはないが、上司兼恋人から仰せつかっている以上認めざるをえない―エムもあのガキに最大級の警戒を抱いているのを敏感に感じ取り、オータムに知らしめる。

・・・・・・この私が、『亡国機業』のオータムが、こんな男にビビッているとでもいうのか。

ISの登場をきっかけに一斉に広まった女尊男卑の思想の中でも極北に位置する価値観の持ち主であるオータムからしてみれば、それだけは認める訳にはいかなかった。

故に吠える。裏世界で研ぎ澄ましてきた本能が鳴らす警鐘という名の恐怖心を認めたくないからこそ、意味のない罵詈雑言で覆い隠そうとする。


「聞こえてないのかよテメェ、今更ビビッて声も出ねぇってのかよクソガキ!」


荒々しい罵声を伴って1歩を踏み出したその瞬間。






オータムの視線の先から一夏の姿が唐突に消えた。






「何――――――」


次に一夏の姿を捉えた時・・・・・・地を這うように身を低くし、ハイパーセンサーで強化されたオータムの動体視力でさえも残像すら捉えられない程の神速の踏み込みでもって、一夏は彼女を<雪片弐型>の射程圏内へと補足していた。

瞬きの躊躇いもなく、逆袈裟に刀が閃く。

反応出来たのはまさに僥倖だった。眼が一夏の行動を理解し脳が把握し手から動いたのではなく、曲がりなりにも裏世界で積み上げてきた経験により培われた生死の臭いを敏感に感じ取る第6感が本能的に身体の主導権を奪い取り無理矢理に後ろに下がらせたのだ。

その刃には<零落白夜>の白い輝きは纏われていない。だが今の一撃は当たれば間違いなく絶対防御を発動させ、それどころかオータムの肉体すら容易く両断していたに違いない。理論も理屈も抜きに本能的にそんな感想を抱いてしまった。

こんな黄色い雄猿なんかに自分の死のイメージを抱かされた――――?


「・・・・・・フン、これは面白い」


隣から聞こえてきた気に食わない相手の声に僅かに意識をそちらに裂いてみると、エムもまた数秒前まで居た地点よりもやや後ろに位置していた。彼女もあの神速の踏み込みと一閃に、しかもこちらはISも発動しないまま反応していたようだった。あのままぶった切られてりゃ良かったのにと、密かに思う。

直後、エムの前髪から1房の髪が、次いで目元を隠すサングラスが真ん中からパックリと2つに割れた。文字通り薄皮1枚の差での回避だったのだ。よく見てみれば、エムの額にはうっすらと冷や汗が浮かぶ。

エムの顔立ちの全体像が衆目に晒されるようになった。


「なっ・・・・・・!?」


一夏の目が見開かれる。ミシェルが呆然と無意識に声を漏らす。


「織斑先生と同じ顔・・・・・・だと?」


いや、正確には彼女を一夏と同じぐらいまで若返らせたような風体、と表現した方が良い。

それでもエムの顔立ちが若い頃の織斑千冬と全く同じ顔立ちであるのは紛れもない現実だった。敢えて違いを述べるならば一夏の姉である彼女と比べエムの方はかなり荒んだ目つきだったが、年齢差を除けば一卵性双生児と言われても納得できてしまいそうなほど、顔のデザインはそっくりそのまま千冬と変わらない。

エムの顔が、織斑千冬と同じ顔が歪む。オータムよりも更に濃い憎悪から浮かぶ凶笑と共に、エムもISを展開。セシリアの<ブルー・ティアーズ>と似通った部分が多いデザインの機体が構築される。

一瞬で構築された長大なライフルの砲口が立ち竦む一夏へと向けられ、間髪置かず発射された。発射されたのはレーザーで、我に返った一夏が斜め後ろに跳んだ事で容易く回避されたが、そこまで至るまで過ぎた時間は1秒にも満たない。


「誰なんだ、お前は。何で千冬姉と同じ顔をしてるんだ」

「いいや違う、私はあの人じゃない」


一夏は顔を強張らせ、エムは背筋も凍る歪な薄ら笑いを張り付けながら相対する。


「私はお前だ、織斑一夏。そして私の名は――――――」








――――織斑マドカ、だ。









そう告げられた瞬間、己がどんな表情を浮かべていたのか一夏はまったく覚えていない。

もう1度エム・・・・・・織斑マドカが握るライフルの銃口から閃光が迸った。マドカの告白に意識が半ば真っ白になりながらも一夏の身体は回避行動を取る。レーザーは彼の背後へと通り過ぎていった。

マドカは次弾を発射しようとしなかった。そもそも彼女の攻撃はここからが本番なのだ。

次に背後で起こった事は一夏もハイパーセンサーによる全方位視認能力によって気づいてはいた。いたのだが、あまりにも予想外の事態過ぎて反応が遅れてしまった。

鏡やプリズムなども介する事無く、超高熱のレーザーが壁に当たる前に反転してまた自分目がけて飛んでくるなど、誰が予想できるものか。


「・・・・・・っ!」

「ミシェル!?」


反転したレーザーは一夏ではなく、咄嗟に間に割り込んできたミシェルの右腕部シールドに阻まれて霧散した

ミシェルも千冬と同じ顔をしたマドカの存在や曲がるレーザーに一瞬驚きはしたものの、後者に対しては種が分かっているので動く事が出来たのだ。


「偏向射撃(フレキシブル)・・・・・・ブルー・ティアーズの同型機か」

「試作機の稼働データを元に性能を底上げした改良型だ。ありがたく使わせてもらっているぞ」


ミシェルから<白式>へとデータが転送されてきた。機体名<サイレント・ゼフィルス>。BT兵器搭載IS2号機であり、攻撃と防御の両方に運用できるシールドビットを搭載。現在、未確認勢力に強奪され行方不明。

BT兵器の性能をより高く引き出す事によって可能とされる偏向射撃を事もなげに行使してみせた辺り、セシリア以上にBT兵器に精通した実力者である事は疑いようがない。

姉と同じ顔をした敵に、仲間の機体データを改良して開発された強奪機。だが一夏は―彼自身でも驚くほど―毛程ほどの動揺も見せず、一方ミシェルは全身を覆い隠す鋼鉄の鎧の下で知らず知らず獰猛な笑みを僅かに形作っていた。

何故ならば。


「・・・・・・何で千冬姉と同じ顔をしてるのかは知らない」


<雪片弐型>を両手で構え直す。


「だけどそれは後回しだ。聞けるだけの口さえ残ってりゃ、後で幾らでも聞けるんだからな」

「フン、貴様にそれが出来るかな?」


これまで一夏は、明確な殺意を持って剣を振るった事は1度も無い。

無人機襲撃や<銀の福音>の時だってその時一夏の思考を支配していたのは大切な者達を襲い、傷つけた存在への怒りに過ぎなかった。

だが今、一夏の胸の奥底から間欠泉の様に噴き出しつつある、この飢えた獣の如く目前の獲物(敵)に飛び掛かる瞬間を今か今かと待ちわびている激情。そして液体窒素よりも冷え冷えとした氷の刃宜しく鋭い敵意という、矛盾しつつも一体化した衝動を殺意と呼ぶのならば。

――――姉の名誉を穢し、友の命を奪いかけたコイツらが相手ならば、殺す気で剣を振るうのに何の躊躇いも持たないで済む。

こうして暴力的なまでに沸き立つ殺意を抑えらて立っていられるのは、一振りの剣だけでどんな障害や困難もぶれず曇らず斬り伏せてきた姉の背中をずっと見つめ、追いかけてきたせいかもしれない。


「・・・・・・とりあえず、片足の借りをこの場で返させてもらおうか」


ミシェルが戦いを好むのは、刃と銃弾と爆発に敢えて身を晒す事によって『生の実感』という物をより強く実感できるからだ。

特に、このような本気の殺気がぶつかり合う真の意味での殺し合いの場ともなれば、それを潜り抜けた先に感じ取れるであろう『生の実感』はどれほど甘美なのだろう?今からゾクゾクする。

・・・・・・今この場にシャルロットが居なくて良かった、とも思う。血が流れる場に彼女を置いておきたくはないし、殺し合いすら楽しむ姿を愛する女に見せたくもない。


「ハッ、だったら今度はもう片方の足以外にも両腕も直接もいでやんよ。どこからが良い、右手か?左手か?残ってる方の足か?何なら残りを全部まとめて一気に引き抜いてやっても良いぜぇ!」

「・・・・・・皮算用だな。獲物を前に舌なめずりは3流の証だ」

「テメェ・・・・・・!だったらどっちが3流なのか身体に直接刻み込んでやるよ!」






手には剣(銃)、隣には仲間、目の前には打ち倒すべき敵の存在。

ならば、すべき事はたった1つ。






「「――――――斬る(Kill)!!」」










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という訳で2対2のタッグマッチとなりました。フライング気味にマドカさん登場です。
・・・カッコいい一夏はサクサクかける割にミシェルの方になると筆が止まるってどういう事なんだろ。



[27133] 5-10:ダブルチーム(中)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/12/17 00:01


「ミシェルはオータムって方の相手を頼む。マドカって奴の相手は俺が!」

「心得た・・・・・・!」

「オータム、貴様は全身装甲型の方の相手をしろ。織斑一夏は私の獲物だ!」

「だからテメェが指図するんじゃねぇ!」


<白式・雪羅>を纏った一夏は<サイレント・ゼフィルス>のマドカと。ひたすら重厚感溢れる<ラファール・レクイエム>姿のミシェルは<アラクネ>のオータムとぶつかり合う。






まず先手を打ったのはミシェルだ。両手のアサルトライフルとフルオートショットガンを同時に発射。ライフル弾と散弾が入り混じった嵐がマドカとオータムを分断する。一夏はラックの陰に飛び込んだマドカを反対側から回り込んで追いかけ、反対方向で同じように動いたオータムに対し障害物もお構いなしにミシェルは撃ち込んだ。

ラックと整備道具が一緒くたに粉砕されて弾丸ごとオータムへ襲い掛かる。オータムは背中から直接生えているかのように展開されている8つの装甲脚のうち2つに実体盾を一瞬で装備させて防御。土砂降りの雨が当たったような音が何十も重なって響く。

反撃に残りの6つの装甲脚の先端を展開し、内蔵していた銃口を露わにすると一斉発射。PICのマニュアル操作によってアイススケートみたいに身体の向きを変えないまま横へ滑るように移動しつつ、遮蔽物もお構いなしにぶっ放す。

ミシェルもまた同じようにオータムの動きを追従しながら、両手の銃を撃って撃って撃ちまくる。互いに並走しながら撃っている上にラックや整備道具に当たって微妙に弾道が変化する為か、数発有効弾を食らいつつもどちらも戦闘不能に追い込まれる事はなかった。シールドエネルギーの消費も微々たるものだ

整備道具の壁が途切れる。列の終点に飛び出したのも同時ならば、今度こそ何の壁も無しに直接銃口を突き付けあうのも同時。

――――そして発砲も同時。

互いにトリガーを引いた瞬間、またも同じタイミングでその場から飛びずさって器用に身を捻る事により、相手の射線上からの回避に両者とも成功していた。弾が切れる。向こうも同じ。


「中々やるじゃねぇかクソガキィ!」


ミシェルは回避行動を取りながら弾切れの武器を捨てて新しい武器を展開しようとした。オータムは、短距離走者のスタートダッシュなど目じゃない瞬発力でもってミシェルとの距離を詰める。

閉じられた装甲脚の鋭利な先端が、ギラリと不気味且つ恐ろしさ溢れる鈍い輝きを放った気がした。


「・・・・・・っ!」

「ハッハァ!串刺しになんなぁ!」


装甲脚がバラバラのタイミングで突き出される。最初の2本は<ケルベロス>のバヨネットで弾いた。次の2本も<ケルベロス>で受け止めた代わりに手から弾き飛ばされてしまった。次の2本は盾代わりにした<ドラゴンブレス>の銃身を貫いた。1本は身を捩って逃れたが最後の1本は避けきれなかった。

鏃のような先端がこめかみ辺りを掠める。これが普通のISなら顔面への直撃として絶対防御が発動していてもおかしくない攻撃だが、<レクイエム>が顔まで装甲が包む全身装甲型だったのが幸いして装甲脚の軌道が逸れて直撃は免れた。代わりに少なくない衝撃がミシェルの頭部をシェイクする。

一瞬乱れたのは機体のHUDかそれともミシェルの視界そのものなのか。


「どうしたどうした、自慢の楯は使わないのかよ。ええ?」

「余計なお世話だ・・・・・・!」


<ラファール・レクイエム>の最大の特徴であり最強の兵装でもある大型シールドビット<シールド・オブ・アイギス>。

だが今ミシェルはそれを使えない。使わないのではなく、使えない。

アレを使うには場所が悪すぎる。<ブルーティアーズ>や<サイレント・ゼフィルス>のビット程度ならまだしも、用具倉庫という障害物が所狭しと並ぶ屋内空間では、あの大型のビットを運用するには向いてない。こんな状況ならむしろ通常の実体盾の方がよっぽどマシだ。

ついでに言えば、<レクイエム>が運用を得意とする大型の長物―双門機関砲やレールキャノンといった肩部搭載型兵装―もここではまともに扱えまい。長い砲身が障害物に引っかかって振り回せない。

<レクイエム>が得意とするのは屋外における中~遠距離における射撃戦。このような密閉空間での近距離戦には向いていないのだ。こんな場所では爆発物も下手に使う事も出来ない。

日頃用いてきた装備と戦術の大半が封じられているも同然だ。8つの装甲脚による大火力を有し兵装の切り替え無しで接近戦にも瞬時に対応できる<アラクネ>を相手にするには些か以上に不利な状況。


「(・・・・・・だからといって戦えない訳ではない)」


得物の大半は封じられても戦意は十分、それにただ相手がくたばるまで撃つだけが戦いの仕方でもない。

自分に残された手札を最高のタイミングで最高のやり方で発動させる事に成功できるかが鍵だ。


「(最悪でも会長達援軍がシャッターを突破して駆けつけるまで堪えなければな・・・・・・)」


ミシェルは新たな兵装を装備する。右手には2丁目の<ケルベロス>、ただしアサルトライフルのマガジン部分が大容量のドラムマガジンに変更されてより大量の弾幕が張れるようになっている。

左手には銃ではなく近接戦用装備。あのシャルロットも使ったハイレーザーライフル<唐沢>と同じ企業が開発した名作として名高い高出力レーザーブレード、その名も<月光>。

多少の弾幕はその類稀なる防御力で弾き返しながら弾をばら撒きつつ接近、光刃の一閃で一気に決着・・・・・・そんな企みが透ける組み合わせ。

勿論それはオータムも容易に読み取り、モデル顔負けの美貌が台無しになる位の嘲笑を更に深くする。


「バカが、見え見えなんだよ!」

「それはどうかな・・・・・・!」


言い返しながらも、オータムの予想通り<ケルベロス>のアサルトライフルをフルオートで撃ちながらミシェルは瞬時加速を発動。オータムは実体盾で敢えて弾雨を受け止める。

ライフル弾が悉く盾に弾かれた直後、続けざまに<月光>の射程圏内まで接近を果たしたミシェルが左腕を振るった。

瞬間的に展開されたのは1mを超す超高熱のレーザーブレード。攻撃時以外は必ず光刃を消しておかなければ数秒でオーバーヒートかエネルギー切れ間違いなしと持て囃される程のエネルギー消費と引き換えにトップクラスの攻撃力を得た<月光>の出力は、<シュヴァルツェア・レーゲン>のプラズマ手刀とは比べ物にならない。

その明らかに限度を超えたスペックを証明するかのように、レーザーブレードが触れた実体盾の表面に無残な痕が深く刻み込まれた。抉れた部分はその周囲まで赤熱化しており、光刃の軌跡を物語っている。

返す刀で斜め上に切り上げる。耐え切れず溶断される盾。だが肝心のオータム本体には届かず。

放棄されバラバラに落下する盾の向こう側でオータムが浮かべていたのは、まさに獲物が網にかかった瞬間の蜘蛛のような禍々しい笑みだった。


「かかりやがったな!」

「・・・・・・っ!!」


さっきから空手だった筈のオータムの手の中から白い何かが飛び出したかと思うと、まさしく蜘蛛の糸のような白い網と化してミシェルの身体を絡め取った。とりもちの類ではなくエネルギーワイヤーで構成された代物だ。

あっという間に両腕を拘束されてしまう。パワーに定評のある<レクイエム>でも中々引きちぎれず、もがく事しか出来ない。オータムの嗜虐心に満ちた笑みが一層強まる。


「ハハハ、楽勝だぜ!蜘蛛の糸をなめんじゃ――――」


途中でオータムの笑いが凍りつく。拘束が解けないと悟るや否や、完全に身動きが取れなくなるよりも早くミシェルが新たな行動に映っていた。

腰部両横に備えられたビーム砲、<アグニ>の砲口を真正面から覗きこむ格好にもなれば当然か。


「こんっ・・・・・・!」


ミシェルを蹴り飛ばすと同時にオータムが大きく身を後ろへ倒した直後、鼻先を2本の光条が通り過ぎた。レーザーライフルクラスの威力を誇る光の弾丸が天井へと着弾し威力を解放、熱波や破壊された天井の破片をばら撒いた。

損害は天井だけではない。<アラクネ>の装甲脚のうち2本が今のビームで先端が破壊されていた。操り手が目を剥き、次いでもはや周囲の空気すら凍りつかせそうなレベルの殺気を放ちだす。


「テメェ殺す!殺して殺して殺して殺してやる!!」

「・・・・・・吠え過ぎだ。逆に弱く見える」

「こんの、ドグサレがあああぁぁぁぁっ!!」


挑発も立派な戦術であり、どうやらオータムという人間は煽り耐性を殆ど持ち合わせていない類のようだ。微妙に残りの装甲脚から放たれる射撃の精度が低くなっている。

だがそれもほんの短い間の話だった。すぐにオータムは戦い方を、それもよりミシェルに対し効果的な戦法へと切り替える。


「なら今度はこれはどうだぁ!」


罵声と共に装甲脚の先端部とオータムの両手に新たな武器が装備される。残った装甲脚6本のうち4本にはIS用軽機関銃。残りの2本とオータムの両手にはレーザーライフルが。

それらが一斉に放たれ、先程よりも更に強力な飛び道具の嵐が用具倉庫を蹂躙していく。高い連射力を持つ軽機関銃の曳光弾と直撃すれば絶対防御が発動してもおかしくない威力のレーザーライフル、2色の光弾がバラバラのリズムでミシェルに降り注いだ。

ミシェルはIS戦としての回避法ではなく、PMCのインストラクターや軍隊内で習得した屋内戦闘における場所取りの仕方によって弾幕を凌ぐ。身は低く、絶えず動き回り的を絞らせない。遮蔽物の陰から片目と銃口だけ出して牽制射撃。

それでも歩兵対歩兵の戦闘であれば十分有効的だろうが、加えられる攻撃そのものの規模と1発1発の威力が大きく違い過ぎた。大口径の弾丸が容易く整備道具やラックを粉砕し、レーザーに至っては濡れた指で障子紙を突いたも同然の脆さであっさり装甲も何も施されていない遮蔽物を貫通する。

既にまともな遮蔽物になりそうな場所は残っていない。今ミシェルが潜んでいる場所も数秒持つかどうか。


「どうしたどうした、ええ!デカい図体ばかりの腰抜けかよテメェ!ご自慢の盾とやらを見せてみやがれってんだ!」


向こうの言う通り、こうなったらミシェルも切り札である<シールド・オブ・アイギス>を展開したいのはやまやまだったが――――恐らくはそれこそが向こうの狙いだろう。

何故わざわざ実弾とレーザー、両方織り交ぜて攻撃を行ってきているのか。


「(・・・・・・盾対策だなやはり)」


<シールド・オブ・アイギス>のAICは実体攻撃には非常に効果的だが、エネルギー兵器には殆ど効果が無い。

<レクイエム>の単一仕様能力である<アイギスの鏡>は全てのエネルギー攻撃を吸収・攻撃に転化できるが、実体攻撃を防ぐ事は出来ない。

前者を発動させればレーザーに撃ち抜かれ、後者を発動させれば大口径弾によって盾ごとハチの巣にされる。どちらも御免こうむりたい所ではあるが・・・・・・

視線を動かさずハイパーセンサーだけで一夏の様子を探る。一夏も一夏で苦戦しているようだ。相手がビット使いなだけあって擬似的に多対1の状況が構築されているのに加え偏向射撃を織り交ぜる事で包囲網が形成され、本体に攻めきれていない。

一夏本人は自分だけで決着をつけたがってはいたが、仲間としてはあのまま放っとく訳にもいくまい。

だが助けに加わりたくても今は己が受け持った敵を退けなくては。

その為に自分はどうするべきなのか。


「・・・・・・・・・・・・」


ミシェルが選んだ選択は―――――――――――


















「潔く私に撃ち抜かれて殺されろ、織斑一夏ぁ!」

「誰がそんなの認めるかってーの!」


姉の顔で殺意を向けてくる。

姉の声で俺を殺すと宣言してくる。






―――――それがどうした!






「余計な事なんて考えるな・・・・・・!」


彼女は『織斑千冬』じゃない。それは向こう自身別人だと認めたじゃないか。

『私はお前だ』だの『私の名は織斑マドカ』だの、そんな事は今はどうだっていい。余計な考えなんてボーリングマシンで掘った穴に埋めてからコンクリートで塞いでしまえ。

ただ、斬る。

雑念は刃を鈍らし、曇らせる。それではどんな名刀も鈍らに貶める事になる。故に、考える事を止める。

思うがままに、ただ『斬る』という意志のままに動け――――


「疾っ!!」


<雪片弐型>を両手で握り締め、左の腰元に構えながら一夏は摺り足を用いた歩法でもって接近を試みる。一夏のイメージを反映した<白式>が独自にトレースを行い、清流のような滑らかさと素早さで瞬く間にマドカとの距離が詰まる。


「ふん」


対してマドカの方は避ける事すらしようとせず、拡張領域からIS用格闘ナイフを召喚し左手に握ると脇を狙って打ち込まれた斬撃をあっさりと受け止めた。

すかさず切り替えし上段から首筋めがけ振り下ろす。それも左手のナイフで受け止められ、がら空きになった胴体へ右手に握られたライフル<スターブレイカー>の先端に備えられた銃剣による刺突が繰り出される。<雪羅>の手の甲の部分で弾いて防御。

するとマドカは<雪片弐型>を受け止めているナイフを傾けて刃を滑らせ、一夏のバランスを崩すと同時に左手を自由にすると長大なライフルを両手で構え直し、切り上げを放ってきた。大きく後ろへ身体を逸らし躱す。

今度は振り上げたライフルの銃床を側頭部に振り下ろしてきたので、たまらず一夏の方からマドカと距離を取らざるをえなかった。間違いない、今のは軍隊流の銃剣術だ。IS操縦者でこんな技術を用いそうな人間は他にミシェルぐらいしか思いつかない。

冷たい悪寒が背筋を撫でる。咄嗟に横っ飛び。肩を掠める閃光。

いつの間にか背後に<サイレント・ゼフィルス>のビットが回り込んでおり、危うく無防備にレーザーを背中に受ける所だった。だがマドカは一夏が自分の前から離れた事でビットの砲口が己に向いたままにもかかわらずそのまま発射する。

発射した本人に直撃する寸前、ほぼ直角にレーザーが曲がった。その先には一夏の姿。


「くそっ!」


身を捩る。回避成功。最初見たく背後に飛んで行ってからまたUターンしてこないかと警戒していたが、1発につき1回曲げるのが限度なのか。


「これならどうだ?」


ビットの展開数が倍どころか4つに増えた。ミシェルから提供されたデータによれば<サイレント・ゼフィルス>のビット搭載数は6つ。残りの2つは予備なのか、もしくはこの障害物が多い屋内空間で6つ全て駆使するには向いてないと判断した可能性もある。

ふとセシリアと最初に戦った時の事を思い出す。あの時は比較的余裕を持って躱し続ける事が出来たがはてさて――――

ビットから熱戦が同時発射。それぞれがてんでバラバラの方に向けられて放たれたかと思った次の瞬間、おもむろに急カーブして上下左右から一夏に襲い掛かった。

訂正。やっぱりセシリアの時とはてんで比べ物にならないぐらいヤバい。カーブする光線という初めて相対する攻撃に一夏の反応が遅れてしまう。


「こなくそっ!」


PICで天井スレスレまで浮き上がる事で4つの熱線を回避した一夏はラックと天井との間に身体を滑り込ます。PICのマニュアル操作による細やかな制御が必要な機動を、一夏はそう考えずとも反射的に行えるほどの能力をいつの間にか手にしていた。

マドカの姿は障害物に阻まれるがそれは向こうも同じ。左腕の<雪羅>を荷電粒子砲・集束モードに選択すると、マドカが居るであろう位置へ障害物ごと撃ち込んだ。

手ごたえ――――無し!やはり一夏が遮蔽物の反対側に移った時点で向こうも移動していた。最初の時点で奇襲時に1回瞬時加速を発動させた―もっともその時の一夏は感情のままに動いたので発動させた自覚は無かった―せいでエネルギーを消費しているからこれ以上無駄弾は撃てないどこだ、どこに居る。

・・・・・・・・・・・・殺気!


「うおおっ!!」


身を前方に投げ出した瞬間、ラックと整備道具を貫通した数発のレーザーが、たった今一夏の上半身が在った地点を貫いた。右手を床に突いての前回り受け身を取ったその瞬間、背中を刃物で突かれたような鋭い錯覚に襲われた。

本能に従い振り向きざまに<雪片弐型>を振り回す。刀身に光弾がぶつかり閃光を散らした。延々と並ぶ整備道具を収めたラックの壁の端にマドカの姿。


「(さっき撃って来たビットは囮か!)」


マドカはおそらく瞬時加速を使って一瞬で回り込んだに違いない。本命のレーザーライフルによる狙撃を切り払えたのは偶然に過ぎなかった。

壁の向こうからまた多数のレーザーが飛び出してきた。まるで昔の冒険映画に出てくる古代遺跡のトラップみたいだ。壁の穴から次々矢が放たれるアレである。もちろん危険性は容易く複数の金属製の障害物を貫通するレーザーの方がよっぽど危険なのは言うまでもない。

セシリアと違い、マドカはビットの操作と己の戦闘機動を同時にこなせている。お陰で複数の相手を同時に戦っている錯覚に陥ってきた。厄介にも程がある。それが改良型BT兵器として当初の欠点を潰した為か、マドカ自身の技量によるものか―――――今はどうでもいい事。

遮蔽物越しのレーザーの連射に加えマドカ本体からの攻撃も苛烈になってきた。<スターブレイカー>の射撃は偏向射撃のによって照準そのものは微妙にズレているせいで切り払いで対応できない。たまらず雪羅のシールドで防御一辺倒に追い込まれざるを得ない。




――――それがマドカの策。




何発目だっただろうか。レーザーの連射に耐え続けて反抗のタイミングを窺っていた一夏の身体が、唐突に大きく後方へ弾き飛ばされた。

膨大な熱量を有しはしても、質量はほぼ持たないため着弾時の衝撃は左程感じない筈のレーザーの弾幕。今一夏の身体を貫き体勢を崩させた衝撃はレーザーとは全く違う。


「(実弾・・・・・・!?)」


思い出す。ミシェルから渡された<サイレント・ゼフィルス>のデータ――――<スターブレイカー>。エネルギー弾と実弾の両方を発射可能な特異な性能を持つ。

衝撃に押された一夏の背後にはいつの間にか壁が立ち塞がっていた。前には敵、背後は壁、他に逃げ道は。


「なっ・・・・・・!!?」


そして、ようやく気付く。

残る退路、左右はどちらも先回りして配置されていたビットによって塞がれていた。一夏が驚愕と焦燥に顔を歪ませ、動揺によって一瞬硬直してからビットを切り捨てて脱出を試みようとしたが、もう遅い。

左右からレーザーの連打を浴びた。


「がっ、ぐっ、ぐああああああああああああっ!!!?」


全身がレーザーに叩かれる。赤熱した杭で身体中を突き刺されるような苦痛。

シールドバリアーの許容限度を超えた威力が一夏の全身を痛めつけ、獣のように一夏は絶叫した。シールドエネルギーが瞬く間に奪われていく。


「これで終わりだ、織斑一夏!!」


勝利を確信したマドカが邪悪な喜悦に満ちた宣言と共に、銃剣の切っ先を一夏に向けながら瞬時加速を発動。

直撃を食らえば絶対防御が発動するどころか、ライフルごと串刺しになる事請け合いの致死の突撃――――――

避けられない、と一夏は苦痛で朦朧とした意識の中で漠然と悟る。








そして――――――――――











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思ったより戦闘シーンが長くなったので区切ってみたら短くなってしまったという。

感想・批評・ご意見・リクエスト、いつでもお待ちしております。



[27133] 5-11:ダブルチーム(下)/ネバー・セイ・ダイ
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2011/12/24 15:42

「出てきやがったな、クソ野郎!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ミシェルは答えず、障害物の多い屋内である事を考え1枚だけ前面に展開したアンロックユニットを文字通りの盾代わりに用いながら射撃による反撃を開始した。

よく見れば盾の表面には血の色をした半透明の光の幕。<ラファール・レクイエム・ガーディアン>の単一仕様能力<アイギスの鏡>が発動している証左だ。

オータムの口元が一層の凶暴さを孕む。


「無駄無駄無駄無駄ァ!!」


砲口と共に<アラクネ>が放つ弾幕が一際激しくなった。4対8本の装甲脚のうち既に2本を失っておきながら更に厚くなった弾幕にミシェルは内心呆れすら覚えてしまう。

残り6本中2本の装甲脚と両手に抱えられたレーザーライフルの光弾は盾、正確には表面の膜に接触する度スポンジに吸い取られる水の如く跡形もなく消え去る。

4門の軽機関銃から放たれる銃弾は違う。悉くが盾にぶつかり、最低限の厚みしか持たない装甲を傷つけ、凹ませ、抉り、亀裂を生み出していく。だが辛うじてミシェルの元までは届かない。

これがミシェルの選択だった。実体弾ならば、AICを用いなくてもある程度までなら受け止めるか当たった時に弾丸の軌道が変わるかしてミシェル自身には届かないで済む可能性はかなり高いものの、レーザー相手では<アイギスの鏡>無しではあの盾ごと撃ち貫かれてもおかしくなかった。

ならば敢えてアンロックユニットが破壊されるのも承知の上でレーザー限定の防御措置を取る事にしたのだ。案の定有効弾は届いてこない・・・・・・今の所は。


「(盾が何時まで持つか分からん・・・・・・さっさとケリをつける!)」


ドラムマガジン装備の<ケルベロス>を捨て新たな<ドラゴンブレス>に切り替え。片手だけで構え散弾を撃ちまくる。何発もの散弾が<アラクネ>の装甲を叩く。1度に発射する量が多いのでミシェル側の弾幕も負けず劣らず派手だ。


「上等だテメェ!マッハでハチの巣にしてやんよ!」


軽機関銃を装備した装甲脚が量子変換の発光を伴って形を変える。そして現れた物を見て思わずミシェルは「ゲッ」と珍しく短い悲鳴を漏らした。

特徴的な十字架の形状。用途を考えると明らかに世界最大規模の宗教にケンカを売っていそうなデザインであるそれは、軽機関銃よりも更に大口径の弾丸を高速で吐き出すトップクラスに凶悪な兵装である。

重機関銃とミサイルランチャーを内蔵したその武器の名はその名も<パニッシャー>。もっとも長い足の部分に組み込まれた大の大人の握り拳ほどもありそうな大きさの砲口、がピタリとミシェルに向いている。

雷の絨毯爆撃みたいな連打が用具倉庫中を震わせた。そこら中に散らばった破片や天井板すら大きく震えるほどの轟音だった。


「ぎゃはははははははははは!!!」

「ぐううううううううううぅっ・・・・・・!!」


軽機関銃弾よりも強烈な衝撃が盾を襲う。あっという間にボコボコと表面に大穴が空き端の部分を抉り取る。もはや貫通しないでミシェルに届いていないのが不思議なぐらいの威力だ。

表面の大部分が損傷した事により内部構造まで破損が及び、遂に<アイギスの鏡>も発動しなくなった。紅色のの膜が消える。

これ以上実体盾としての役割も務められず浮いた状態も維持する事が出来なくなってしまったアンロックユニットを左手で掴むと、それを掲げてオータムに突撃を試みる。その姿は全身の装甲と相まって中世の勇猛な重装騎士の如き光景。


「バカが!」


真っ向から突っ込んできたミシェルへオータムはレーザーライフルを向ける。盾が役立たずになった以上今なら紙のように盾ごとミシェルを引き裂けるだろう。

だが次のミシェルの行動には不意を突かれた。


「ふぅん・・・・・・!」


ボロボロの盾が投げつけられた。予想外の行動にほんの一瞬、されど一瞬オータムの思考が停止し動きもまた止まる。寸での所で装甲脚で受け止めるのが精一杯の反応だった。

ミシェルにはそれで十分だった。

<ドラゴンブレス>も捨て、切り札を解き放つ。

右腕のシールド、その表面装甲が脱落し中身が露わになる。<ウルティマラティオ>、『最後の切り札』の意味を冠すまさに一撃必殺の最終兵器。

投げつけたアンロックユニットが視界を覆い隠している隙に懐へ飛び込めさえすれば、この一撃で終わらせる事が出来る!


「かっとべ・・・・・・!」


狙うは左の脇腹。斜め下からのフックでもって叩き込むべく拳を突き上げ――――




――――白刃が煌めく。

とても嫌な雰囲気の軽めの衝撃と共に右腕が僅かに軽くなる感覚。




「・・・・・・っ!?」

「やっぱりテメェは大間抜けだな!そんなの見え見えなんだよ!」


<ウルティマラティオ>の肝心要である金属杭が本体諸共半ばから両断されていた。それどころか<ウルティマラティオ>が装着されていた腕部装甲部分にまで刃物らしき傷跡が深々と刻まれていて、その断面はとても鋭い。

それからレーザーライフルを装備していた装甲脚の1本の先端がまた別の、大型のナイフに変化しているのにようやく気付く。シャルロットの高速切替も真っ青の早業。


「新型の超振動ブレードだ!コア以外は機体ごとなます切りにしてやる!!」


超振動ブレードを備えた装甲脚が動いたかと思った次の瞬間には左手の<月光>、両腰の<アグニ>も半ばから切断されて使用不能と化す。これで今のミシェルは実質素手も同然。この間合いでは新たな武器の呼び出しも間に合うまい。それはミシェル本人が痛いくらいに理解できてしまった。






――――失敗を悟る事と、諦めて敗北を受け入れる事は断じて別物である。






まだだ、まだ終わっていない。よく思い出せ、これまで仕込まれてきた厳しい訓練の数々を。

弾も矢も底を尽き刃も折れ果てたのならば、この肉体そのものを武器にするまでの事。

その技術を自分は自ら選んで習得したのではなかったのか。


「くたばりやが―――――」


オータムが超振動ブレードをミシェルの身体に突き立てるよりも早く、腰を落としお手本のようなタックルの構えから瞬時加速を発動。全身装甲に覆われたミシェルは人間大の鋼鉄製砲弾と化し、オータムの腹部へとぶち当たった。

手を伸ばせば届くほどの近さから亜音速クラスまで加速したミシェルと機体を、予想外の行動で不意を突かれたオータムが受け止めきれる筈もなく。

オータムの肺から空気が強制排出されたかと思えば、そのままの速度で押し倒されて床に激突した事によって、シールドバリアーでも相殺しきれなかった衝撃のサンドイッチがオータムの内臓がシェイクする。なけなしの空気と一緒に胃液までが口から逆流を果たす。

それでも反撃の意思を忘れないのはプロに相応しいのかもしれないが、ミシェルのターンはこれで終わりではなかった。

素早くタックルの姿勢から身体を起こすミシェル。ここからマウントポジションを取って動きを抑え込む気か、と先読みして身構えるオータムだったが、実際には全く違う。

オータムの片足を掴んで肩に背負ったかと思うや否や、そのまま変則的な一本背負いをミシェルは放ったのだ。


「なっ、へぶばっ!!?」


顔面・胸部・腹部へ床が叩きつけられオータムの視界に火花が散る。シールドバリアーが無ければ鼻と前歯が折れていたに違いない。

まだ続く。うつ伏せの体勢にさせられたオータムの両足を脚部パーツごと両脇に抱え込んだミシェルはその場で回転を開始。

その技の名はジャイアントスイング。数多く存在するプロレス技の中でもトップクラスの知名度を誇るまさに代表格でありながら、今ではほぼ使い手が存在しないという幻の大技である。

現実的な観点で言えば見栄えだけの殆ど実戦的ではない技ではあるが、敵の意表を突くのならばこういった大技はとても有効的だ。第一ISを用いてこの技を行えば、従来を遥かに超える加速度で相手を振り回せるので平衡器官への被害は桁違いとなる事うけあいだ。そもそもIS戦でプロレス技をかけるなんて状況そのものが聞いた事無いだろうが。

PICのマニュアル操作まで使っての超高速回転。10回。20回。30回。まだまだ回る。残像すら見えそうな速度でオータムを振り回す。加えて障害物や壁に何度を叩きつけておきながら、それでも回転は止まらない。

ミシェルは赤と黒の竜巻と化した。

正確な回転数なんて数えちゃいない。多分100回を越えたぐらいで、加速に加速した遠心力でもって思い切り壁へと激突させる。凄まじい轟音。装甲脚の殆どが破壊される程の衝撃。絶対防御が発動してたっておかしくないだろう。

最初は悪態混じりに聞こえていたオータムの悲鳴も、今や沈黙している。


「・・・・・・回り過ぎたな」


独りごち、自分もまた少し以上にめまいと吐き気を覚えつつもグッと堪えて手は休めない。もはや動かないオータムを掴む手を足から腰元に移動させるとしっかり保持し、とどめの大技を放った。


「ふぅん!!」



どごむっ!!!!



・・・・・・完全無欠のジャーマン・スープレックス。バックドロップ、ジャイアントスイングに並ぶプロレス技の大御所は、ブリッジをしたまま相手のクラッチを解く事無くそのままフォールすし終えるまでが肝心なのだ。

PICによって微妙に足先は地面から離れて浮き、尚且つ最新鋭の甲冑を全身に纏った格好でいながら見事なブリッジを形作ってオータムの後頭部を床に叩きつけたまま抑え込んでいるミシェルのその姿は、往年のプロレスファンならば感涙物だろう。

1、2、3、と心の中でカウントし終えてからようやくオータムから離れる。フォールされた状態のまま彼女は白目を剥いて失神していた。もしかするとジャイアントスイングの時点で気絶していた可能性もある。

ちなみにオータムも例に漏れず女物のスーツ姿から競泳水着とレオタードを足して割ったような極薄かつ面積の少ないISスーツ姿に変わっていた訳なのだが・・・・・・中身はともかく外見だけ見ればかなりの美女が大股開いてでんぐり返った体勢で白目で気絶している姿は女としてかなり致命的じゃなかろうか?

まあ良いか。殺そうとしてきた敵なんだし、やりあった相手の精神衛生なんてミシェルの知った事ではない。

それよりも、今は。


「一夏・・・・・・!」




その時、部屋の反対側で爆発が起きた。





















―――――本当に、ギリギリだった。

灼熱の激痛まみれの身体で銃剣突撃を受け止めれたのは半分偶然に近い。


「往生際の悪い奴め・・・・・・大人しく私に殺されろ!」

「誰が・・・・・・あっさり殺されてやるもんか・・・・・・!!」


確かに刺突は受け止めれた。だからといって窮地を脱せているのかと問われればそれには程遠いと評価せざるを得ない。

咄嗟に<雪片弐型>の刀身、その腹の部分を銃剣が突き刺さる寸前に割り込ませた所までは良かった。だが右手1本では瞬時加速まで用いたその突撃力までは到底受け止めきれず、<雪片弐型>の横っ腹が一夏の腹をグイグイめり込む結果となっている。内臓が口から飛び出さなかったのが不思議なぐらいの圧迫力。

右手で刀ごと、左手でライフルの銃身を握って押し返そうと思っても、マドカはライフルに加える力を巧みに操る事でそれを許してくれない。スラスターを吹かしてまで更に押し込んでくる。全身を苦痛に苛まれる一夏にはかなり酷な情勢だ。


「離れ・・・・・・ろっ!」


マドカを蹴り飛ばそうと悪足掻きの前蹴りを放とうと試みるも、そんな抵抗も織り込み済みのマドカは容易く受け止め、更に圧迫力を強めていく。

唇の端をつり上げて、マドカが引き裂いたような笑みの色を強めながら押す力を全く緩めず、少しずつライフルの先端の角度を変えていった。やがて一夏の顔を真っ直ぐ覗き込む銃口。






そしてマドカの唇から決定的な処刑宣告が紡がれる。






「―――――死ね」


死の直前、何もかも全ての動きが非常に遅く見えるという。

一夏の場合も例外ではなかった。<銀の福音>の復讐戦や最初の一太刀の瞬間に発動できた瞬時加速の際に垣間見たそれよりも低速に感じるほどの世界に、今一夏は置かれていた。

<スターブレイカー>の引鉄にかけられたマドカの人差し指がゆっくりと、本当にゆっくりと絞られていくのがハッキリと目に見えてしまう。それがまた一夏の焦りと恐怖心を余計に駆り立てさせる。にもかかわらず、一夏の身体もまた超スローモーションでしか動いてくれようとしないのでどうにもならない。無駄に思考だけが加速し続ける。

どうする、どうすればいい。絶対防御が発動してもエネルギー切れで<白式>が使えなくなれば一貫の終わり。

そうなれば、俺は死ぬ。間違いなく殺される。

せめて首だけでも動かせばこの超至近距離からのレーザーを避けられるかも。いや、どっちにしたってこの状態で撃ちまくられれば逃れようなんてない。『死』からは決して逃げられない。

引鉄が遊びを無くし、撃鉄が落ちる。ブラックホールのような暗黒が広がる銃口の中で火が灯る。一夏の頭蓋を撃ち抜く超高熱の弾丸の光。


「(俺は―――――ここで死ぬのか?)」


<銀の福音>の時とは全く違う、生の殺意に満ちた人の手によって与えられようとしている『死』。

思考も本能も文字通り鼻先に突き付けられた『死』によって凍りつきそうになった、その時だった。停止しかけた一夏の脳裏にその情報が伝えられたのは。


『<雪羅>荷電粒子砲、チャージ完了』


藁にも縋る思いというのはまさにその時の一夏の事を指し示していた。

脊髄反射で以って後先もその選択に待ち受ける結果も全く考えず、意識の中だけで荷電粒子砲のトリガーを引いた。

大出力の荷電粒子砲によって左手の中にあった<スターブレイカー>の銃身はいとも容易く溶解し、発射寸前だった膨大なエネルギーは行き場を無くすどころかそれ以上の高エネルギーの直撃を受け、その結果。




一夏とマドカの間で大爆発が起きた。















いつの間に自分は倒れていたのだろう。

顔の半分と右の平に床と細かい破片の冷たくざらついた固い感触が伝わってきて、じんわりと冷たさが染み込んでくるのが実感できた。いつの間にか<雪片弐型>を手放してしまったらしい。

自分が倒れているのに気付いて一夏は身を起こそうとしたが、激痛に襲われて断念。全身がトラックか解体用の鉄球と正面衝突したかのように悲鳴を上げている。出来る事なら一夏だって悲鳴を上げたい所だ。

視界が歪んで、いや違う、ぼやけているのか。煙によって世界が白くおぼろげに見える。すると少し間を置いて天井から水が降り注ぎ始めた。スプリンクラーでも作動したのかそれとも天井を通っていた水道管が破裂したのか、一夏には判別がつかない。

室内の雨によって煙が収まっていく。全身が濡れて冷えた為か、ほんのちょっぴり痛みがマシになった。代わりに左手だけ何も感じていない事にも気づいた。首だけ動かしてみてみると肘から先より構築されていた<雪羅>が丸々消失していた。荷電粒子砲の暴発で根こそぎ吹き飛んでしまったのだ。

シールドエネルギーの残量は2桁を大きく割り込み、<白式>そのものが未だ展開した状態を保っているのが不思議だった。

世界が明確さを取り戻し始めたその時、マドカの姿が見えた。

一夏と違って、彼女は倒れ伏していない。機体の右半身が手酷く損傷し、マドカ自身にもかなりのダメージが通っている様子だが、無傷の左手にIS用ハンドガンを構えてしっかりと一夏に照準している。

一夏は気づいていなかったが、荷電粒子砲が発射される寸前にマドカは咄嗟にライフルを手放していたのだ。故に爆発圏内からは逃れられず右半身に大きな被害を負いながらも、しかし一夏ほどの手傷は負っていない。


「・・・・・・今度こそ、死ね」


絶対零度の殺意と決意に満ちた言葉。2度目の死刑宣告。

身体は動かない。動いてくれない。今度こそ逃げられない。




銃声。




だが火を噴いたのはマドカの手の中でなく別方向からの銃撃だった。数発が着弾し衝撃にマドカの身体が捻れる。


「織斑マドカ・・・・・・っ!」

「この、邪魔をするなあああああああっ!!」


ミシェルが駆け付けて来てくれたのだ。<ケルベロス>の連射。吠えるライフル片手にミシェルが一夏の元へ向かってくる姿を捉える。

マドカは温存していた残り2つのシールドビットを展開し、残りの銃撃を受け止めた。一夏に対して使用していたビットは爆発の余波に巻き込まれ瓦礫に埋もれてもう使い物にならない。

ハンドガンの銃撃を受けてミシェルの足が止まった所に、シールドビットがミシェルへと矢の如く突っ込んだ。次の瞬間爆発が起きる。巻き込まれるミシェル。

それでもミシェルは爆炎の残滓を纏わりつかせながら抵抗を止めない。身体の各所に着弾する毎に火花が散るのもお構いなしでマドカと激しい銃火を交わす。


「ミシェル・・・・・・・・・」


横たわったまま、一夏の喉から掠れた声が漏れた。屋内の雨に晒されどんどん身体が冷えていくにもかかわらず、胸の中に熱が宿るのを自覚した。

殺されそうになった時、ミシェルはまた自分を助けに来てくれた。本当にミシェルには感謝してもし足りないと心の底からそう思う。

誘拐された時と全く同じように、ミシェルは自分がボロボロになるのもお構いなしに戦っている。一夏を守る為に。






―――――なのに今、自分は何をしているんだ?






「ぐうぅぅううううぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・」


傷ついた獣みたいな弱々しい呻きを漏らしながらも一夏は自分の身体を持ち上げようと試みる。

動け、動け、動いてくれ俺の身体。痛みのせいで気絶しそうな自分の意識を痛みで以って繋ぎ止める。痛みを感じるという事は、まだ自分が生きているという何よりの証。

何故立ち上がろうとするのか。それは動かなければならないからだ。何故動くのか。少なくとも逃げ出す為では断じてない。仲間を置き去りにして逃げてたまるか。

『死』からは逃れる事は誰にも出来ない。

だが、『死』と戦う事は誰にだって出来る筈だ。例えば一夏に『死』を与えようとしたマドカを阻む為に、彼女と戦いを繰り広げているミシェルのように。


「動け・・・・・・」


錆びて朽ちかけたブリキ人形のようにぎこちなく、生まれたての小鹿以上に震える足で、それでも一夏は立ち上がってみせた。


「死んでたまるか・・・・・・殺られてたまるか・・・・・・」


一夏の人生はずっと守られたばかりだった。千冬に守られ、ミシェルにも守られ、だからこそ今度は自分の力で大切な誰かを守れるようになりたいと誓った。

だけど現実はそう甘くない。<銀の福音>の時だって箒と鈴を泣かせて他に皆にも心配をかける羽目になったし、今だって自分の力が及ばなかったせいでミシェルに迷惑をかける形になってしまっている。






でも、だからと言って。

そのまま他の誰かの手にあっさりと委ねる訳にはいかない。

相手が例え最愛の姉と同じ顔の持ち主なのだとしても、守りたい相手に仇為す『敵』である以上。






「守るって誓ったんだ。戦うって決めたんだ!・・・・・・どんな奴だろうが、誰が相手だろうが・・・・・・・・・!!」


動け。

足掻け。

戦え。

戦え。

戦え。


「戦ええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇっ!!!!」


雄叫びと共になけなしの体力をかき集め、勢いよく身体を持ち上げてからそのまま獲物へ飛び掛かるネコ科の肉食獣の如き低い姿勢を取り、一夏は一気に跳躍を果たした。

もはや執念レベルで一夏を殺す事を望んでいながらも、ミシェルの対処に意識の大半を裂いていたマドカは反応しきれない。


「らああああああああああああああっ!!!」

「ぐぅっ!!?」


空中でバランスを崩しかけるぐらいに全身を大きく捻じって繰り出された回し蹴りがマドカの側頭部を直撃した。クリーンヒットを証明するかのようにマドカの黒髪を濡らしていた水気が爆発でも起きたみたいに、頭の表面から弾け飛ぶ。

その威力にマドカが吹き飛ばされた先は、ついさっきまで一夏が追い込まれていた壁際。一夏と入れ替わる形で背中から激突し、彼女を中心に壁に蜘蛛の巣のような亀裂が放射状に広がる。

視界の端に瓦礫に埋もれた<雪片弐型>の柄がチラリと、だがしっかりと見えた。拾いに行くか?――――そんな暇はない。実際渾身の飛び回し蹴りをまともに食らって壁に叩きつけられながらもマドカは顔を苦痛に歪ませつつ、ハンドガンを一夏に照準し直そうと腕を持ち上げようとしている。

それに・・・・・・まだ『武器』なら残されているではないか。

そう、<雪片弐型>という『刀』を手放し<雪羅>という『矢』(荷電粒子砲)を失ったのであっても。




ならばこの拳で戦えばいいだけの話・・・・・・!!




僅かな躊躇もしなかった。一瞬でも迷えばマドカの弾丸が己を貫くと一夏は確認していた。

もはや瞬時加速を使う余裕もない。最速の1歩でもってマドカの懐へ飛び込む。間に合え、間に合え、間に合え、間に合え―――――

マドカの方が速かった。肩から先をまっすぐに伸ばし、一夏の頭部にポイント。マドカの口元に会心の笑みが張り付く。

発射。

放たれた弾丸は的を外す。極度のダメージを負った身体に無理をさせて動いたが為に急加速に対し身体が付いて行かず、前のめりにバランスを崩してしまったからだ。的の小さい頭を正確に狙ったせいで、弾丸は一瞬前まで一夏の頭が在った位置を通り過ぎるに留まった。

左腕を持ち上げて伸ばしたままのマドカは、もう一夏を撃つ事が出来ない。一夏を止める事は出来ない。

姿勢を崩しながらも一夏は岩よりも金剛石よりも硬く握りしめた右手を振り上げた。




ゴギィ!!!と凄まじい打撃音が鳴り響く。




確かな手ごたえ。だけどまだだ。この一撃だけじゃ、まだ足りない。現に顔面を強打されたダメージに加え、すぐ背後にある壁に再度叩きつけられて二重の衝撃に頭蓋を揺さぶられながらもマドカの瞳には光がまだ宿っている。

そこに浮かんでいるのはもはや余裕も嘲笑も捨て去り、混じりっ気無しの殺意と憎悪が混沌と融合した負のブレンド。

終わらせるな。手を休めるな。打ち砕け。叩きのめせ。粉砕しろ。2度と立ち上がれなくなるまで殴って殴って殴りまくれ。


「おお、おおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


未だ感覚の無いボロボロの左腕が、意志の力だけで復活を果たし上段の順突きを放つ。マドカの顔面を殴り飛ばした瞬間、左腕の感覚もまた復活したと同時に他の四肢よりも更に酷い激痛の大合唱を歌いだしたが、それでも一夏の動きは止まらない。

続いて右の掌底。バリアー越しでも強烈な衝撃が横隔膜を叩く。突き出された右手が真上へ跳ね上がって顎を強打。弧拳と呼ばれる動きだ。

右下段回し蹴り。マドカの左膝がくの字に曲がり傾く。左側へ崩れた分がら空きになった右脇腹へ左の中段膝蹴り。

まだ終わらない。返す刀で右中段回し蹴りを右の脇腹へ。右足を振り回した遠心力でマドカに背中を向けてから左上段後ろ回し蹴り。側頭部を蹴り飛ばされ大きくのけ反った所に左中段猿臂。相手の内臓を痛打した代償に、肘先から突き抜ける痛みもお構いなしに右下段熊手。

本来は金的狙いの一撃だが女相手でも威力は十分だ。恥骨が粉砕されれば男女問わず再起不能は間違いない。前かがみになった所で渾身の頭突きを顔面へ。一撃一撃が叩き込まれる度にマドカの身体は壁に叩きつけられ、次第に亀裂は広がり崩壊の兆しが露わになっていく。

裏拳。裏打ち。鉄槌。肘打ち。手刀。鉤打ち。肘打ち。両手突き。手刀。貫手。

そして渾身の右上段正拳。ある空手家が生み出したとされる、全身の関節を増やすイメージと極度の脱力が作り出す究極の一撃。


「らあああああああああああああああああああっっっ!!!!」


放たれた一夏の拳は衝撃波さえ纏い、音すらも置き去りにした速度でマドカの顔面へと突き刺さった。






連打の始まりとなった一撃を遥かに上回る激突音が、衝撃波混じりに水浸しの装具倉庫に轟いた。






今度こそ一夏は限界だった。右拳を突き出した姿勢で前へ倒れ込む一夏の視界が、急に光に包まれた。度重なる解体用の鉄球もかくやな衝撃に何度となく打ちのめされたせいで、遂に壁が限界を迎えたのだ。

一夏が地面とキスする寸前、その身体を背後から近寄ってきたミシェルが慌てて抱える。礼の一言でも言いたい一夏だったが、何故か口が上手く動いてくれない。またも視界がボンヤリと歪んで段々暗くなってきている。

背後の方でバタバタと騒々しい足音が聞こえてくる。身体ごとそちらの方を向いたミシェルの動きそのままに移動した一夏の視線の先には、完全武装の教職員勢とその先頭に立って駆け込んできた生徒会長の姿。




もう目を動かすだけでも億劫な気分だったが、それでも外の世界につながる壁の穴の方に目を向け直す。

織斑マドカは倒れ伏し、ピクリとも動こうとしない。起き上がる気配も無い。




「遅いですよ全く・・・・・・」


最後まで言い終える事が出来たのか、気絶してしてしまった一夏にはもう分からなかった。














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メカバトルなのにプロレス技や格闘戦で決まったって良いじゃない。対人戦だもの。
真マッハ突きは有名だけど、その前のコンボの元ネタが分かる人はいるかな?

原作5巻分はこれで終了。今年の更新は後は小ネタか絶賛放置中な他の作品の再開で最後になるかと思います。
コミケ&2ちゃん風小ネタでも書いてみたい所なんですが・・・コミケに参加した事の無い自分が書いても大丈夫なんだろうか。


批評・感想の他、こんなネタが読んでみたいなんてリクエストも一緒にどうぞお待ちしています。



[27133] 6-1:水面下の憂鬱
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:3f7ac6f3
Date: 2012/02/22 21:05


世界が揺れる感覚によってマドカは現実に覚醒を果たした。


「・・・・・・・・・・・・」


最初に見えたのは全く知らない天井。天井の高さに内装、耳と全身が感じ取ったエンジンの響き方や揺れ具合から車に乗せられて運ばれているのだとすぐさま理解する。

受動系なのは、目覚めてすぐに自分が四肢を手錠と分厚い革製ベルトによってストレッチャーに縛り付けられている事に気付いたから。点滴が天井から吊り下げられ底部から伸びるチューブがマドカの腕まで伸びている。

自分は今拘束され、どこかに輸送されているのだ。


「・・・・・・っ!!」


身体に思うように力が入らず―恐らく筋弛緩剤の類でも打たれたのだ―全身をベッドに縛り付けられていなかったら、マドカは自分自身を強烈に殴り飛ばしていたに違いない。


「何て――――無様な」


ずっと殺してやりたいと憎み続けた相手・・・・・・多少武術を嗜んでいても所詮血で血を洗う命のやり取りも知らないような軟弱な男に苦戦した挙句、武器すら持っていなかった存在相手に叩きのめされ、今こうして敵の手の中に捕らえられているこの現状。自分で自分の頭をレーザーライフルで撃ち抜いてやりたいぐらいだ。

ずっと自分はその為だけに生きてきたというのに。

革製ベルトが額の辺りを押さえつける形で固定しているので、頭部すらも自由に動かす事が出来ない。

僅かな角度ではあるが無理矢理顔を横に動かすと、視界の端に僅かだが自分と同じようにストレッチャーに縛り付けられているオータムの姿があった。やはり向こうも向こうでもう1人の男性IS操縦者に倒されたのだろう。

彼女の方はまだ目覚めていない。彼女の腕にも点滴のチューブが。中身は両方とも空だ。恐らく点滴の中身は意識を失わせておく薬品で、マドカが先に目覚めたのは体内のナノマシンの影響と推測する。

彼女のナノマシンは主にマドカを見張る為の『首輪』だが、エンドルフィンやアドレナリンなどを分泌させるよう身体に働きかけたり自白剤の投与に備え薬品の分解を促進する機能も有している。点滴で持続的に薬を投与されていたがそれが無くなり、ナノマシンを持っている分マドカの方が早く覚醒できたのだろう。

男とみれば好き勝手に罵詈雑言大言を吐き散らしていたくせに無様な、という思いが一瞬浮かんだが、自分もこの同僚と大差ない事にすぐに気づき唇を噛み締めた。




――――彼女もまた自分と同じ敗者。

裏世界の敗者の行く末は決まっている。遅かれ早かれ待っているのは死だ。時間の違いも拷問をされるか否かの違いでしかない。




「(回収に来る可能性は・・・・・・半々といった所か)」


使えない人間はトカゲのしっぽ切りが鉄則の裏世界だが、自分やオータムともなれば『亡国機業』も流石に見捨てられはしまい。そうマドカは判断する。

何せ自分達は組織の中でも貴重なIS操縦者。おまけにマドカ自身はあの織斑千冬のクローン。


「(私を切り捨てるならばとっくにナノマシンを遠隔操作して心臓を止めている筈だ。その上で私の死体を強行的にでも奪うなり手がかりが残らないように灰にするに決まっている)」


そうなっていないという事は、組織がまだマドカを生かしておきたいと考えているの証。

遅かれ早かれ『亡国機業』の手の者が――――そこまで考えた矢先、盛大なスキール音を響かせてマドカとオータムを乗せた車が急停止した。

次の瞬間、分厚い車体を突き抜けた爆発音によってズシンと細かく車体が震えた。それが30秒ほど続き、合間合間に銃声や悲鳴が外であがったかと思えば不意に止む。

その原因が『誰』なのか、マドカは本能的にその正体を悟った。オータムの恋人であるあの金髪の女。今のマドカの『首輪』の手綱を握る人物。

足元の方から金属が無理矢理分断させられる破砕音が響いてくる。マドカ自身の意思でそちらの方を見る事は出来ない。

やがて一際耳障りなやかましさと共にオレンジ色の光が車内のマドカとオータムの姿を照らした。光の正体は外の道路一帯で炎上している車両だ。

乗員ごと燃え盛る車をバックに背負った人物が2人の乗せられた車両の中へ乗り込んでくる。その正体は案の定、


「スコールか・・・・・・」

「元気そうね、エム。オータムの方はまだ眠り姫のままみたいだけれど」


金髪の女、スコールが蠱惑的な微笑を浮かべてマドカを見下ろしていた。マドカとオータムを輸送する車両には重武装の警備部隊が張り付いていただろうに、彼女が纏っている赤色の高級スーツは汚れ1つ付いていない。

唐突にマドカを拘束していた革製ベルトが一斉に切断された。それどころかスコールはマドカに指1本触れていないにもかかわらず鋼鉄製の手錠まで切断される。その切断面は信じられないほど鋭利で、角に触れただけでも切れてしまいそうなぐらいだ。

スコールがオータムの方を向く。彼女を雁字搦めにストレッチャーへ押さえつけていた革製ベルトと手錠から解放されても、オータムは目を空けなかった。


「本当お寝坊さんね――――――んんっ」


するとスコールはマドカの見ている前でオータムの唇を奪った。肉感的な唇同士が触れ合い、かと思えば次の瞬間にはスコールの下が蛇のようにオータムの唇を割って侵入を果たす。

反応は劇的で、何度も周りで爆音が轟いていたにもかかわらず全く身動ぎしなかったオータムの肢体が何度も震えたかと思うとやがてゆっくりと目を開けた。ようやくスコールの頭が離れ、2人の美女の唇にかけられた唾液の橋が炎の光を浴びて紅色を帯びる。


「スコー・・・ル・・・ここは一体・・・・・・」

「ようやく目覚めたわねオータム。驚いたわよ2人とも、まさか自信満々で任務に出た貴方達が揃って敵の手に落ちちゃうなんて、まったく想像してなかったわ」


色っぽく笑ったままの恋人にそう説明されたオータムはようやく今の自分の状況に気付き、顔が怒りと羞恥で赤く染まってから次いで赤から青に顔色を転じて申し訳なさそうな表情になる。

マドカの知る限り、オータムがこんな姿を見せる相手はスコール以外に全く存在しない。

炎の爆ぜる音とアイドリング状態のエンジンの振動、3人の声以外しか存在しないこの場に新たな音が加わり、マドカの元に届く。エンジン音だが車の者ではない。これはヘリの音だ。それも中型から大型の輸送ヘリ。強烈な風が車内にも吹き込みスコールの服と髪を揺らす。


「丁度良かったわ。貴方達とISがまとめて同じルートで輸送されていたお陰で余計な戦力を裂かずに済んだもの」


着陸した輸送ヘリから戦闘服に身を包んだ『亡国機業』のメンバーが次々降りてきて素早く散開。一部がマドカとオータムをストレッチャーごと車から降ろしてヘリへと運びスコールがそれに付き従う。

マドカ達が乗せられていた車両とは別にもう1台無傷のまま残された大型のトレーラーがあった。それに別のグループが取りつき電子ロックを解除して中身――――起動状態のまま機材にロックされているマドカとオータムのISを運び出していた。

オータムの<アラクネ>はその特徴である装甲脚が何か所か失われていたが<サイレント・ゼフィルス>の方はもっと酷い。装甲の大半が破損、または高熱で焦げ明らかに交換が必要な有様だ。内部へのダメージも少なくないであろう事も一目で判る。


「酷いダメージね。せっかく強奪したばかりの最新鋭機なのに、これじゃ次に予定されていたアメリカでの作戦も中止せざるをえなさそうね。ここまでの損害が出たとなると責任を追及しなきゃいけないかもしれないんだけど」

「・・・・・・・・・・」

「お、オータムそれは・・・」

「ふふ、そんな顔しないで。少なくともあの男性IS操縦者の戦闘データが2人分手に入っただけでも収穫だもの」


スコールのからかい混じりの慰めの言葉ももうマドカには届いていない。




次こそは必ずあの男、織斑一夏を――――――
















「――――・・・とまあ、こんな感じで件の2人とISを奪った『亡国機業』のヘリはその後自衛隊と在日米軍の防空網からもすり抜けて、結局足取りは今も不明です」

「だからせめて犯人とISだけでも別々に護送した方が良いと言ったんだ・・・」

「あはは、だけど日本政府に引き渡した時点で我々(IS学園)の手から離れてますから、こっちに責任追及が回ってこないだけマシだと思いますよ?」

「開発元であるイギリスとアメリカに引き渡すついでに機体データをさっさと手に入れようと焦るからそうなるんだ。だが2人を捕らえてから数時間足らずで護送が行われたというのに即座に奪還してみせるとは、連中の情報網や組織力は得体が知れないな」


IS学園の寮長室にてそんな会話をしているのは、部屋の主である織斑千冬とIS学園最強の生徒会長こと更識楯無。

学園祭に侵入してきたオータムとマドカ、並びに2人の機体がまとめて『亡国機業』によって輸送中に再奪取された事件は非公式ながら2人の耳に届いている。


「<アラクネ>と<サイレント・ゼフィルス>、どちらの機体も一夏君とミシェル君との戦闘によってそれなりに破損してましたし、強奪した機体ではあっても予備パーツそのものは数が少ない筈なのでまたすぐに2人にリベンジしてこないとは思いますけど油断は出来ないでしょうね」


兵器を強奪した上で運用しようと目論んでも、予備パーツが無ければすぐ使えなくなってしまう。最新鋭機なら尚更だ。

しかも機体数そのものが制限されているISともなれば、予備パーツの流通も極限られている。ISの強奪すらも実行可能な組織力を誇る『亡国機業』といえど機体を完全に修復できるまでには時間がかかるだろう。


「だがこうなった以上あの連中が持っていた『小道具』を渡さないで置いたのは正解だったな」

「その通りですね。対IS用強制解除装置<リムーバー>、あれがもし使われていたら一夏君もミシェル君もどうなっていた事やら。一旦使用すると同じISには耐性がついてしまうという欠点がありますけど、使われずに済んで本当に良かったですね」

「問題は未だどの国も実用化に至っていない筈のこんな代物を、何で高々犯罪者連中が完成品を持っているのか、だな」


<リムーバー>をマドカとオータムが所持していた事を報告・提出しなかったのはこれ以上各国を刺激させない為である。

下手に報告していれば今度は<リムーバー>争奪戦が世界の表裏問わず勃発しかねない。『亡国機業』という厄介な謎の組織がもはや実体を伴って脅威を広げつつあるというのに、無駄な争いを繰り広げて『亡国機業』の正体追及に手を抜かれては堪らなかったのだ。

眉根を寄せて眉間を押さえる千冬。しかし彼女にとって何より頭が痛くなる問題がまだ残されていた。


「だが私が特に気にしている事はといえばだ――――やはり『アイツ』はそうなのか?」

「・・・・・・ええ。採取した細胞を遺伝子検査にかけた結果、100%一致しました。ほぼ間違いありません」


目上の相手にしか見せた事が無い神妙な表情を浮かべて、楯無は千冬に向けて頷いて見せる。




「侵入者の1人・・・・・・織斑マドカは織斑先生の遺伝子によって生み出された先生のクローンです」



















「(よくよく考えてみれば、ラウラみたいな生まれの人間だっているんだから千冬姉のクローンも生み出せる事も可能なのかもしれないよな多分)」


ご飯茶碗片手に一夏はそんな実は正解である推論を立てながら真正面に座るラウラの顔をじっと見つめる。

それに気づき、ふむと漏らしてからラウラは丁寧にマスタが巻きつけられたフォークを一夏に突き出した。


「私のパスタが食べたいのか?ならば私が直接嫁に食べさせてやろう」

「いや別にそういうつもりで見てたんじゃないからな」

「むう、そうか。それは残念だ」

「「残念がらんでも(なくても)いい!」」


残念そうなラウラの言葉に突っ込む箒と鈴。席は一夏の両サイド。

ラウラの両隣りにはセシリアと簪、更に簪の横にはミシェルが座り長方形のテーブルを挟んでシャルロットと向かい合うという構図。

これが食事を取る時の最近の並び方。いつもと変わらず美味しい食事―――――だけど一夏は楽しんで味わえないでいる。

一夏もミシェルも『襲撃を受けて撃退した』程度の内容しか少女達には告げていない――――襲撃者が自分を誘拐した犯人の仲間でしかも1人は敬愛する姉と同じ顔、同じ姓を名乗っていたという話題は一夏個人に深く関わり過ぎる問題であって、幾ら恋人や友人であろうともおいそれと白状する気には流石の一夏もなれずにいた。


「どうしたのだ一夏。最近しょっちゅうボーっとしていて、お前らしくないぞ」

「悪い悪い、ちょっと考え事をさ」

「・・・・・・やっぱり例の襲撃の事に関してなんじゃないの、アンタの悩み事って」

「ギクッ」

「・・・・・・本当に『ギクッ』って自分で言っちゃう人初めて見た」

「気持ちは分かるが今は触れないでおいてやってくれないか簪・・・・・・」


バレバレな一夏の反応にヒロインズ一斉に溜息。


「緘口令が敷かれていますので私達にも殆ど情報が回って来ていませんが、一夏さん、1つだけ教えていただけませんか?」

「えっと、内容によるけど」

「・・・・・・賊の1人が用いた機体はもしや<ブルー・ティアーズ>2番機である<サイレント・ゼフィルス>ではありませんでしたか?」


一夏の視線が一瞬だけミシェルの方を向く。彼が頷くと一夏は肯定してみせた。


「何で分かったんだ?」

「学園祭が終わった直後、本国から緊急の通信が入りましたの。直接的に教えて頂いた訳ではありませんが<サイレント・ゼフィルス>が本国から強奪されたことについてはわたくしも知っていましたし、何よりチラリとですが偶然教員達が件の更衣室から残骸などを運び出しておられたの目撃しまして、その中に<ブルー・ティアーズ>に用いられているのと同型のパーツが混じっていたのがたまたま目に留まりましたの。それでピンときましたわ」


それなら合点がいく。<打鉄>や<ラファ―ル・リヴァイヴ>のような量産型でもない限り基本ISのパーツはオーダーメイド。同系統の機体を与えられているセシリアだからこそ一目で察せたのだ。


「無人ISの次は侵入者、しかも強奪された機体持ちとか出鱈目にも程があるわね。それに学園のセキュリティって本当に大丈夫なのか不安になるわ」

「・・・・・・実を言うと一応その侵入者が学園周辺に潜伏していた事までは織斑先生達も掴んでいたみたいだがな。侵入されてからもすぐ気づいていたし」

「そうだったの!?だったら何で僕達にも教えてくれなかったのさ!」

「・・・・・・自分の女をこちらから危険に巻き込む気にはなれない」


ハッキリと臆面もなくそんな宣言を愛しの旦那様に言われてしまってシャルロット赤面。

箒と鈴の方はジト目でもって無言の抗議を恋人に送り、一夏は居心地の悪い視線に挟まれて椅子の上でたじろぐ。


「ま、まあ俺もミシェルと同じ意見というか、狙われてるのは俺とミシェルなんだから関係無い皆を危ない目に巻き込む訳にもいかなかったし・・・・・・」

「「・・・・・・・・・」」

「あだっ、つっ、ちょ、無言で足踏んでくんなよ!」


机の下でどったんばったんと騒ぐ事しばし。

胡乱げに細められた箒と鈴の視線がラウラに移る。銀髪眼帯の軍人少女は優雅に食後のエスプレッソを啜っていた。


「ラウラも何で黙ってたのよ?」

「聞かれなかったからな。それにこういった事態においては機密保護の為関係者以外に情報を流さないのが鉄則だ」


しれっと正論で返されてはぐうの音も出ない。猫っぽい唸り声を上げながら鈴は消沈してしまう。

すると今度は簪が口を開いた。どこか呆然と複雑な感情が入り混じったような表情と声色だった。彼女は箸を置きながら、


「じゃあお姉ちゃんが織斑君の部屋に居たのもその為・・・・・・?」

「ああ会長が言うには護衛の為だったらしいぞ。でもやっぱり裸エプロンはやり過ぎだって千冬姉に怒られてたけど」

「そうだったんだ・・・・・・」


真実を聞かされて色々と思所があるようだ。

あの時感情に任せて『お姉ちゃん大嫌い』発言を簪が放った事により、しばらくの間会長が使い物にならなかったと本音や虚から教えてもらった。

今となっては謝りたくもあり、だがコンプレックスの対象である姉に対し素直に頭を下げる気になれなくもあり、簪は黙って悩み込みだしてしまう。楯無に対して簪が気に病んでいるようなのは傍から見ているだけの一夏達にも感じ取れた。

場の空気が微妙になってきてしまったので、ミシェルは換気をすべく話題の転換を図る。


「・・・・・・ところで、そろそろキャノンボール・ファストが近づいてきているな」


キャノンボール・ファストーーー――要はISを用いた妨害ありのレースの事だ。

元は国際試合として行われるのだが、IS操縦者を育てている場だけあって学園行事の一環として市の主催でIS学園も毎年学年別対抗に開催している。本来の国際試合ほどの規模ではないが、市の特設競技場にて各国の関係者のみならず一般客も招待されて行われる位には大きなイベントだ。

公衆の面前で行うので必然当日の緊張感はクラス対抗戦や学年別トーナメントよりもより大きいものになるだろう。何せ失敗すれば即一般に知れ渡る事になるのだ。実際一夏と箒を除いた代表候補生の面々は本国から色々とせっつかれている。

幾ら業界内で幅を利かせていても、世間の声が一気に傾いてしまえば小さな優位など軽く吹き飛んでしまうのだから。


「そうだな、明日からはキャノンボール・ファストに向けての高機動調整も授業でやるらしいし。でもあれって具体的には何やるんだ?」

「基本的には高機動パッケージのインストールだが、お前の<白式>には無いだろう」

「・・・・・・その場合は駆動エネルギーの分配調節、それに各スラスターの出力調整になる」


ラウラの説明を簪が補足。なるほどと一夏は頷く。


「セシリアの高機動パッケージってアレだよね、臨海学校の時にも使ってた<ストライク・ガンナー>だっけ?」

「・・・・・・その通りですわ。臨海学校では十全の能力を出せたとは到底言いがたい内容ではありましたが、今度は高機動戦闘用パッケージとしての能力を完全に引き出して見せますわ!」

「そっか、そりゃ楽しみだ」

「高機動パッケージといえば、僕の方は増設ブースターを取り付ける程度で済んじゃうけど、ミシェルの法は専用パッケージが開発されてるんだよね?この間実家の技術者の人から僕のと一緒に高機動パッケージも送りますってメールが届いてたけど」


そりゃ重装甲と豊富な火力と引き換えに機動性を犠牲にした<ラファール・レクイエム>ならば動力系や足回りの調節程度ではキャノンボール・ファストで勝利する事はかなり難しいだろう。


「それは興味深いな」

「私も気になる・・・・・・どんなパッケージなの?」

「・・・・・・企業秘密、と言いたい所だが別に構わないか。基本高火力と<レクイエム>に足りない機動力・・・・・・特に最高速度の引き上げを両立させたパッケージになる」

「火力の高さを維持したまま機動力を向上させるのか。それは中々厄介になりそうだ」

「良いわね、アンタらん所は高機動パッケージが完成してて。うちの国なんか何やってんだか。結局<甲龍>用高機動パッケージ間に合いそうにないし」

「・・・・・・それを言うなら私の機体なんかほったらかしにされてた」

「う゛っ゛、ご、ゴメン」

「・・・・・・今のは冗談。皆のお陰で今度の行事には出られると思う」


流石に専用のパッケージや増設ブースターも追加できる余裕はなさそうだが、<打鉄弐式>はミシェル達の助けを借りてほぼ完成している。後は実機テストを重ねて各部の細かいすり合わせを行っていく程度だ。

ようやく自分も専用機関連の行事に参加できるとあってか、心なし簪も上機嫌そうである。


「だがしかし、今更こんな指摘しても手遅れなのは分かっているが、他国の代表候補生である我々が日本の代表候補生の専用機の開発に手を貸して良かったのか?」

「・・・・・・元々<打鉄弐式>完成のネックになっていたのはFCSなどの各火器の運用データや稼動データの部分だ。機体そのものに他の専用機の武装やパーツをそっくり流用した訳でもなし、ソフトに関してはこちらからわざわざ申告しなければ幾らでも誤魔化せるだろう。
 ――――それに新たな男性操縦者が現れたとはいえ、自国の代表候補生の専用機の開発を凍結したのははあちら側だ。そこまで図々しく文句は言えまい・・・・・・多分だがな」

「そうなる事を祈ろう、せっかく皆の力で完成させる事が出来たのだからな。良かったな簪。だがだからといって手は抜かないぞ?」

「望む所・・・・・・ようやく皆と同じ舞台に立てるけど、手加減はいらない」


この中で特に簪と仲が良い箒の不敵な宣言に、しかし簪も決して退く事無く強気に言い返す。

仲間との会話はよく騒がしくなってしまうけれど、楽しくもあり、嬉しくもあり、毎日の楽しみでもあり。










――――――けれどやっぱり。


「ゴメン、俺もうこれぐらいで良いや」

「もう戻りますの一夏さん?」

「ああ、何だかちょっと食欲が無くてさ」


皆の心配するような視線から逃げるように一夏は席から立つ。

彼女達はその背中を痛ましさすら漂う目つきでもって見送る事しか出来なかった。

それから一斉にミシェルへと顔を向ける。『亡国機業』による学園祭襲撃の際、一夏と同じくもう1人の当事者である見た目はオヤジ中身もオヤジ(精神年齢的な意味で)な少年へと、お願いだから白状してと言いたげな目で。

丼に残っていたご飯をかっ込んでいたミシェルは口の中を空にするまでたっぷり周囲を焦らせてから首を横に振った。


「・・・・・・大体の見当はついているが、こればっかりは一夏に勝手に言う訳にはいかない。すまないが俺に言えるのはこれだけだ」

「私達にも言えない事って何なのよ一体!」

「落ち着いて下さいな鈴さん。今この場で騒いでも意味はありませんことよ?」

「ううううう~~~~~・・・でもアイツ、この分だともうすぐ自分の誕生日なのも忘れてんじゃないかしら」






―――――少女達の悩みも、しばらくは尽きそうに無い。










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追試&国試の気晴らしに書いてますがどうにもこうにもテンションがいまいちです。勉強的にも小説書き的にも(早いペースで書いといてなんですが)こりゃヤバイ。
原作に沿っているのか沿ってないのか微妙によく分からない内容ですが、これからも読んで頂ければありがたいです。

・・・これとチラ裏のオリジナルと皆さんが続き期待してるのはどっちなんだろ?



[27133] 6-2:Holiday -School side-
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2012/04/27 10:25

「あのさあ箒、今度の週末一緒に一夏への誕生日プレゼントを探しに行かない?」

「それは良いアイディアだな。共に一夏へのプレゼントを選ぶとしよう」


そんな約束を交わしたのがつい月曜日の事。

あっという間にやってきた約束当日、カップアイスが好物なルームメイトを尻目に意気揚々と鼻歌混じりに部屋を出ていった鈴の出鼻は、扉の前に仁王立ちしていた人物によってあっさりと挫かれる羽目となった。

傍を通りがかった女子生徒達は寮内に現れた見慣れぬ人物に対し不審そうな様子で遠巻きに件の人物を見やっていたが、鈴にとってはしっかりと見覚えのある人物である。


「や、楊(ヤン)候補生管理官!?何でこんな所に居るんですか!?」

「本国よりキャノンボール・ファスト用高機動パッケージ『風(フェン)』を輸送してきました。さっそく実装と量子変換を行った後試運転を開始します。すぐに準備に始めなさい」

「え~っと、今日はちょっと用事が……」

「――――2度同じ事は言いません」

「す、すぐに取り掛かりま~す……」


にべも無く楊に冷たい目線を向けられた鈴はガックリと肩を落としつつ、現地で合流予定だった箒に短く断りのメール。

こんな事で友人兼同じ男の寵愛を受けている仲間との予定を中止するのは残念だったが、何せ相手は候補生管理官――――つまり中国政府が送り込んできたお目付け役なのだ。下手に歯向かったり彼女の前でトラブルを起こせば最悪『国家の代表とするには問題有り』とされて代表候補生としての地位も剥奪されかねない。

大体つい先日キャノンボール・ファスト用高機動パッケージが未だに届かないだのなんだのと文句をつけたのは鈴の方だ。さっさと思考を切り替えて中国代表候補生としての責務を済ませてしまう方が鈴の精神衛生的にも良いに違いない。

まず鈴が向かう先は、<甲龍>にパッケージを実装する為の工作室である。










諸々の作業を終えた鈴と楊が向かった先は第3アリーナ。元は第6アリーナを使う予定だったが予想以上に勤勉な先客が多く満員だったのだ。

第3アリーナも例外ではなく、第6アリーナほどではないもののそこかしこで練習用ISの申請が取れた生徒達が自主訓練を行っていた。

彼女達がやる気を漲らせている理由の一端は近く開催されるキャノンボール・ファストであろう。鍛錬中の女生徒の中にはレースの訓練機部門に出場予定のクラスメイトも混じっていて、その熱の入りようは候補生監督官の存在を差し引いても安易に声をかけられない位である。クラスメイト以外にもつい先程までこちらも特訓を行っていたと思しきセシリアとすれ違ったばっかりだったし、6番アリーナの先客の中には遂に組み上がった<打鉄・弐式>を試運転中だった簪の姿も見かけていた。

そんなアリーナの一画に比較的人の密集度合いが薄い地帯があったのでそこに向かってみると、そこで1人鍛錬していたのは。


「なぁんだ、一夏も訓練しに来てたんだ」

「あれ、鈴じゃんか。今日は箒と一緒に買い物に行くとかこないだ言ってなかったっけ?」

「残念ながら見ての通り予定変更になっちゃったのよ。今からキャノンボール・ファスト用の新しいパッケージの慣らし運転をしなきゃいけないワケ。でもどうしたのよその恰好」


鈴や他の生徒達と比べて一夏が異彩を放っていたのは、<雪片弐型>と最低限の腕部パーツのみ部分展開しているのを除いて<白式>を展開しないまま延々と素振りを行っているという点だ。PICも作動させていないので刀剣分の重量を肉体のみで受け止めている。

ISスーツ越しに浮き出た肩から先の筋肉の膨らみ様と素振りの僅かなブレ具合から、筋力補助も必要最低限の出力に絞っている事が窺える。何十分続けているのかは知らないがお陰で一夏の全身に大粒の汗が浮いていた。

反射的に後で自分が使おうと思って持ってきていたタオルを甲斐甲斐しく一夏に差し出してしまう鈴。大太刀をも遥かに超えるIS用実体刀を振るのを止めた一夏が当たり前のようにそれを受け取って額の汗を拭った。

そこまでのやり取りが醸し出す熟年夫婦のそれ的な気配に何とも言えない表情を浮かべる女生徒が少なからず発生。間近で目の当たりにした楊も感心するような観察するような戸惑うような微妙に入り混じった表情を過ぎらせたが、彼女に対し背中を向けていた鈴は気づかない。


「いや~、木刀の素振りだけじゃ物足りなくなってさ。それに浮いたまんまじゃ足腰が鍛えられないからこうしてやった方が鍛えるには丁度良いんだよ」

「…相変わらずの鍛錬バカね。そりゃIS用の武装なんて普通の人間用の武器よりも何倍も重いけど、実際に生身で扱うなんてバカやるのは一夏ぐらいのもんでしょうね」

「いや、千冬姉もやろうと思えば出来そうじゃね?」

「……否定できないけど本人の前では言わないどいた方が良いわよ」

「分かってるさ、俺も命が惜しいし。それにしても皆も張り切ってるよな。さっきまではセシリアもここでもう特訓してたし――――ところで、その女の人は誰なんだ?学園の職員じゃないっぽいけど」

「織斑一夏君、ですね。申し遅れました、私中華人民共和国より派遣されました代表候補生管理官、楊・麗々(レイレイ)と申します」

「あ、これはご丁寧にどうも」


握手を交わしながら自分の顔をジッと見つけてくる楊に、一夏は何処か千冬姉に似ているなとは思いつつも居心地の悪さを覚える。何だか観察されているみたいだった。


「申し訳ありませんが、凰鈴音候補生には今日中に全ての試験項目をこなして貰わなくてはなりませんのでここで失礼させて頂きます」

「そんな訳だから、また夕食の時にでも会いましょ。でも無理して身体壊すような真似したら私と箒が怖いわよ!」

「……分かってるって。2人ともおっかないからな。それにオーバーワークで身体壊すなんて未熟な真似したら、千冬姉にも怒られちまうよ。そっちだって無理すんなよ」

「誰に言ってるのよ全く。でもありがと。それじゃあ楊管理官、さっさと始めましょ」


だが楊は促してくる鈴を無視して一夏をしばらく見つめ、それから鈴の方に顔を戻しておもむろに口を開く。


「……凰候補生。先程今日は用事があるとの事でしたが、それは篠ノ之箒と外出する予定だった、という事でしょうか?」

「え、ええそうですけど」

「そうでしたか………(ならむしろそちらの方を優先させた方が得策だった可能性も)」

「楊管理官?」


後半は呟きではなく唇を動き動かしただけだったので、その内容は鈴には届かなかった。

彼女はPICで浮いている鈴の手を引いて一夏から距離を取ると、鋭利なデザインの眼鏡の向こうに計算高い冷徹な光を宿しながら押し殺し気味に声を紡ぎ出した。


「凰候補生。本国は貴女と織斑一夏との関係について、貴女が日本に再来日してIS学園に編入以降、篠ノ之束博士の実妹である篠ノ之箒と共に彼と肉体関係を持っているという事実は既に理解しています」

「んにゃっ!な、何ですかいきなり!?」


管理官からの予想だにしていなかった言葉に鈴の頬が瞬時に紅潮する。お構いなしに楊は続けた。


「正直に言いますと凰候補生、世界で2名しか存在しない男性IS操縦者の内の一方と『非常に親密』な関係を築き、またIS開発者の妹であり本国を含め世界各国が具体的な概念の構築にすら至っていない第4世代機、それも篠ノ之束博士謹製の機体<紅椿>の操縦者でもある篠ノ之箒ともとても友好な関係を持ち。
 あまつさえ、もう1人の男性IS操縦者ミシェル・デュノアを筆頭とした各国の専用機を有する代表候補生とも見事友人関係を構築してみせた貴女に本国指導部は最大級の賞賛を与えつつ――――ある危惧を抱いてもいます」

「どういう意味ですか、それは」


言葉の内容に不穏なものを感じて鈴の声色も緊張を帯びる。

人差し指で眼鏡のズレを修正し、たっぷり間を取ってから楊は続きを告白した。


「――――凰鈴音代表候補生、貴方が織斑一夏との関係にのめり込み過ぎた結果、日本へ亡命してしまうのではないか、という危惧を指導部の一部が少なからず抱いているのです」

「んなっ、なっ…!」


しばらく二の句が告げなくなった。

中国のお偉いさん方が自分に対して抱いている危機感の内容が余りに突飛だったからか――――あるいは意識の端でその選択肢をほんの僅かに思い浮かべたかもしれないような覚えがあったからか。

愛国心とやらにとんと興味の無い鈴からしてみれば、国という存在自体は彼女を縛り付ける鎖になりはしない。が、そんな鈴の内心など知る筈もなければ直接の面識すら持たない指導者達にはどうでもいい事である。

彼らが危ぶんでいるのは鈴という中国の『顔』が他国の手に渡ってしまうのではないか、という可能性。国が選び出した世界最強クラスの兵器の操縦者が裏切るなど悪夢に等しい。

下手をすれば<甲龍>という中国が独自開発した最新鋭第3世代機そのものがパイロットと他国の手に渡ってしまう……ともなれば、どんな手を使ってでも阻止に走るに違いない。


「そっ、なっ、な、何バカな事言ってんのよ!誰が言ってたのよそれ!<龍咆>で泣いて謝るまでぶっ飛ばしてやるわ!」

「落ち着いて下さい凰候補生。そのような発言は司令部への反抗とみなします」


楊の指摘にう゛っと潰されたカエルみたいな声を漏らす鈴。

鈴には本国に残されている家族が存在している。彼女にとっての鎖がまさにそれだ。本国の家族には確実に軍情報部辺りの見張りが四六時中付いているだろう。

もし鈴の反抗ぶりが本国に害を与えるような真似をすれば、家族の身柄を楯に服従を迫ってくる事は丸分かりである。これ以上下手な言動は慎まねばならないが――――


「ていうかアレ?もしかして一夏の事を逆ハニートラップの類とかと勘違いしてるとかじゃないですよね」

「可能性は低いと見ていますが完全に否定はできません。機密情報を入手する為に女性を籠絡する事は古来より繰り返されてきた事です」

「そんな器用な真似、あの朴念仁で唐変木の極みみたいな奴だった一夏が出来る筈ないっての……」


実は一夏を日本辺りの情報機関の回し者とでも勘違いしてるんだろうかと呆れてしまう。

逆にそんな意識的に女を誑かすような奴だったら、鈴も箒も蘭だってそこまで苦労していない。


「ですが、そのような人物だと貴女が評する織斑一夏が、貴女と篠ノ之箒と同時に交際するという事を行っているのは事実です。ならば」

「それは私と箒が相談して決めた事よ!ていうか、それこそ一夏に余計な女が近づいてこないよう追っ払う為に決めたの!文句ある!?」


掴みかからん勢いで捲し立てた鈴の剣幕にも楊は決して怯む事無く、逆に刃を向けられていると錯覚しそうなぐらい鋭い視線で鈴を受け止める。しばらくの間張りつめた空気が2人の間を覆い、何事かと練習中だった一部の生徒達が注目する。

先に気配を和らげたのは楊の方だった。再びズレた眼鏡を指先で微調整しながら肩の力を抜く。


「場所を弁えるべきでしたね。最初に話を振った私のミスです。今の所祖国に不利益を与えている訳でもありませんし、織斑一夏が他国の手中に収まらないようにするための対策の一環も鈴候補生なりに講じているのも理解はしましたが、今の話については留意しておくように。司令部が貴方の事情を額面通りに受け止めるとは限りません」

「りょーかーい……」

「目下の目標はキャノンボール・ファストにおいて我らが中華人民共和国の威信を知らしめて見せる事です。その為の専用パッケージなのですから最低でも他国の代表候補生に後れを取る事の無いよう万全を期して下さい。本国司令部は貴女に期待しています」

「はいはい頑張りますよー」


新パッケージの試運転前から疲労感に襲われる鈴だったが、これ以上お偉いさんたちの不評を買わないようにする為にもしっかりとすべき仕事は達成しなくてはならない。

一夏と箒、そして仲間達との日々をこの先も出来る限り長く続けていく為にも。




「さて、それじゃあ1つカッ飛ばすとしましょ」














貸し切り状態の更衣室は今日はミシェルが一緒ではないせいか、いつもよりも広いように一夏には感じられた。

部屋に戻ったらひとっ風呂浴びるかと全身に纏わりついた汗を洗い流す熱湯に想いを馳せながら更衣室を出ると、一夏が出てくるのを待っていた人物が1人廊下に立ち尽くしていた。

女子の更衣室は校内に2人しかいない男子生徒用のこの更衣室とは競技場スペースを挟んで反対側に位置しているので他の生徒が通り掛かる気配は全く感じられない。今この場に居るのは一夏とセシリアだけだった。


「セシリア?どうしたんだこんな所で」

「申し訳ありませんわ一夏さん。お聞きしたい事があるのですが、少し時間を御取り頂いてもよろしいでしょうか」

「別に構わないけど……」

「――――文化祭のあの日、一夏さんがミシェルさんと共に戦ったという<サイレント・ゼフィルス>について教えて頂きたいのです」


一夏の胸が1度だけ、セシリアにも聞こえるんじゃないかと不安になってしまうほど大きく跳ねた。マドカの事を思い出し、顔が強張るのを抑えきれない。

彼の変化を間近で見ていたセシリアは、もしや一夏の逆鱗だとは知らず不用意に触れてしまったのかと勘違いして大いに慌ててしまった。すぐさまパタパタと両手を勢いよく振りながら弁解を行う。


「も、申し訳ありません!そこまでお気になさっていたとは気づかずについ!」

「いや、別にセシリアに怒ってるとかそういうんじゃないから安心してくれ。まだちょっと引っかかってる事が色々とあってさ」

「それでも謝罪させて下さいな。それにそこまで立ち入った事を聞こうとは思っておりません。ただその襲撃者が私の<ブルー・ティアーズ>と同系統の機体を使用していたという話を聞かされましては、同型機を与えられている私としても襲撃者がどのような戦いぶりだったのかやはり気になってしまいまして」

「確かにそりゃそうだよな」

「もちろん襲撃者自身についての詳細な情報までは今は必要ありません。<サイレント・ゼフィルス>をどれだけ扱いこなしていたのか、どのような戦いぶりだったのか、それだけで良いので直接会いまみえた一夏さんに教えて頂きたいのです」


セシリアがこのような頼みを申しこんできたのはぶっちゃけた話、彼女は壁にぶち当たってしまったからだった。

一夏相手には<白式>が2次形態移行を遂げる以前から負け越していたし、ミシェルも同じくあの大火力に始終押されてばかりだった上彼の<ラファール・レクイエム>も2次形態移行以後<アイギスの鏡>というエネルギー兵器の天敵を手に入れてからはほぼ全敗状態。

近接用格闘兵装以外は全てエネルギー兵器で統一されているセシリアの機体では相性は最悪なのだから仕方あるまいが、負けず嫌いであるセシリア自身受け入れられる筈もなく、男性陣相手の戦績を除いても専用機持ちの仲間達を相手にしても黒星をつける割合の方が多い有様だ。唯一勝ち越している相手も専用機を耐えられてほんの1ヶ月程度しか経っていない箒なので自慢にもならない。

実弾兵器の1つでも本国(イギリス)から送ってもらおうと頼み込んでも、むこうからの返答は梨の礫。全く当てには出来ない。むしろ最近は通信を繋ぐたびお小言の連打である。ああ、専属メイド兼親友の入れてくれる紅茶が恋しくて堪らない。

そこへ奪われた<ブルー・ティアーズ>の同型機を持った侵入者達と一夏達が戦ったという情報である。藁にも縋る気持ちでセシリアはこうして一夏に話を聞かせて貰いに訪れたのである。


「――――強かったよ。多分、千冬姉や俺の兄弟子さん並みに強かったと思ってる」


一夏は目を細めて、あの刃と光弾のぶつかり合いの1合1合を脳裏に再現しながら告白した。


「そこまでの実力者だったのですの……?」

「ああ。それもこれまでこの格好でやってきた試合とかとは空気が全く違ったよ。何せ向こうは本気で俺を殺しに来てたからさ」

「ほ、本当ですの!?」


セシリアが目を見開いて甲高い叫び声を上げた。余計な事を言っちゃったかなと一夏は反省し、肝心の相手(マドカ)の戦いぶりの説明に移る。


「更衣室の中で戦ったからアリーナみたいに遠距離での射撃戦みたいなのは全然無かったんだけど、とにかく照準から射撃までの間隔とかビットを使った射撃とかがスゲェ速くて正確だったな。狭くてロッカーとか荷物とかで入り組んでる部屋の中を素早く動き回りながら撃ちまくってきたし、いつの間にかビットに背後を取られたりしたお陰で何度も危ない目に遭ったりしたし」

「そ、そうですか……」

「接近戦もかなりの腕前でさ。銃剣付きのライフルを軽々扱いこなしてたし。そういえばセシリアのレーザーライフルもあんな風に使えたりしないのか?」

「それは難しいですわね。<サイレント・ゼフィルス>の<スターブレイカー>とは違って<スターライトmkⅢ>は遠距離射撃向けのレーザーライフルですから、荒々しい格闘戦に耐えきれるだけの強度は重視されていませんの」


そこまで聞かされただけでその同型機を用いていた襲撃者の技量が自分より遥か高みにある事をセシリアは自覚させられた。

彼女にとっては接近戦はむしろ不得手な部類に入る。何せ格闘兵装を展開するだけでも一々呼び出さなくては素早く展開できないという体たらくなのだから。

一夏の説明は続く。


「1番厄介だったのはさ、撃ってくるビームがグネグネ曲がってくるんだよ。お陰で切り払おうにも中々射線が読めなくて」

「――――――っ……」


今度こそ。

セシリアの表情が能面そっくりに生気を失い、凍りついた。

――――BT兵器による偏光射撃<フレキシブル>。最高クラスにBT兵器を扱いこなせる者にしか行えない、発射した光学エネルギー弾を捻じ曲げるという荒業。

BT兵器に対し最も高い適正値を叩き出し、見事イギリス製BT兵器搭載型第3世代IS1号機<ブルー・ティアーズ>を与えられたセシリアでも成功させた事が無い高み。

それを本国から機体を強奪した賊がいとも容易く行ってみせたという一夏の言葉に、セシリアは足元から崩れ落ちていくような感覚を覚える――――


「お、おい大丈夫かよセシリア?顔色が悪いぞ」

「……え、ええ大丈夫ですわ。もう充分です。聞かせて頂きありがとうございました」




どこか覚束無い足取り。心配そうな一夏の眼差しを振り払うかのように、セシリアは立ち去ってしまった。








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久々で短めですが更新。
まだ中途半端ですしせめて6巻終了まで進めるかどうか思案中です。ミシェルの専用パッケージも書いてみたいしなぁ……オリジナルの方もこれ以上叩かれないようしっかりプロット練り直したいし。

鈴と管理官のやり取りに関しては前々から気になっていた点に触れてみました。
原作や余所様のSSを読んだり自分で書いてたりしながら思ってたんですけど、ある意味一夏以上に立場が曖昧な箒とかはともかくハーレムにしろヒロイン個人と結ばれるにしろお国絡みのゴタゴタは確実に発生しそうだと思ってます。今回は然程深く突っ込まず書きましたが。



あとリリなの短編紳士多過ぎワロタw
でも1番トチ狂ってるのはあんなネタ書いた自分かwww

それから『6課勢の裸は変身バンクで見れるだろjk』と書いた方に一言。
あんな無駄なエフェクトかかってちゃ全然エロくないじゃないですかー!



[27133] 6-3:Holiday -Public side-
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2012/04/30 13:17

IS学園と本土を結ぶモノレール。学園方面から滑り込んできた車両より乗客達が降り立つ中、一際衆目を集める2人組がホームに降り立った。

誰を隠そうサマーセーターとミニスカートを今時の女の子らしくオシャレに着こなすシャルロット、そしてカーゴパンツにアーミーベスト、礼によって目元の傷を隠す為にかけたはいいが余計に威圧感を倍増させている原因であるシャープなデザインのサングラスという、似合ってはいるがどこからどう見ても休暇中の兵隊にしか見えない有様のミシェルというデュノア夫妻である。


「うーん、今日も日差しがキツイねー」

「日本は残暑が厳しい事で有名だからな……暑いのなら別に無理して引っ付かなくても構わないが」

「大丈夫。そこまでじゃないし、僕がミシェルとくっつきたいから腕を組んでるだけだもーん♪」


腕を組む、というよりはミシェルの腕を抱き抱えるようにしてシャルロットは顔を擦りつける。

今日の2人と同じようにモノレールに乗って学園から出てきたIS学園の女生徒らしき少女達はいい加減この夫婦のやり取りに見慣れた様子で苦笑を交わしつつ通り過ぎていくが、それ以外の客達は異様な組み合わせの男女―いいとこどこぞの令嬢とそのボディガード辺りに見える―がイチャつく姿にギョッと目を剥くものが少なからず居た。

2人が今回休日に本土までやってきた理由は一夏の誕生日プレゼントを購入する為である。聞けば鈴と箒も同じように一夏への誕生日プレゼント探しに出向いているそうなのでもしかしたら鉢合わせする可能性もある。その時は一緒に廻るまでだ。

必要以上に密着し合いながら2人は駅施設を出て併設してるショッピングモールへ向かう。

サマーセーターを大きく突き上げるほどのスタイルの持ち主である金髪美少女が男とイチャついている光景に嫉妬の念を懐いた独り身の若者(ただし男女問わず)の憎悪を受けつつ、相手が超強面で人を殺していても可笑しくなさそうな(実際2人ほど殺した経験あり)凶相の持ち主であるミシェルと気づいた途端慌てて顔を逸らすという出来事を数回ほど繰り返しながら歩いていると。


「あれ、もしかしてあそこに居るのって箒だよね?」

「……そのようだ」


友人を発見。但し見慣れぬ男達と一緒。2人が見ている前で口論を繰り広げている。どうやら性質の悪いナンパに引っかかってしまっているようだ。

詳しいやり取りの内容は聞こえていないが、箒の表情が危険な感じに苛立ちで歪んでいる。友人内でも特に沸点が低い箒だ、このままでは―――――


「む、やってしまったか……」


呟いたミシェルの視線の先では腹を押さえて真っ青な顔で屈みこむ男の片割れの姿。耐えかねた箒が貫手を男の鳩尾に突き刺したのである。

実家が古武術の道場主だっただけあって中々の鋭さだったが、素人相手には過剰過ぎやしないだろうかとミシェルは不安を覚えてしまう。もう1人の男は突然叩きのめされた相棒の姿に意識が追い付いていない風に立ち尽くしていた。


「とにかく助けに入らないと!(箒を)」

「……そうだな。その方が良さそうだ(男の方を)」


以心伝心なようで微妙に意見を食い違いさせつつ、2人は友人の元へと向かう。









「まったくもって嘆かわしい!立派な武士(もののふ)の心を持った男は何処に行ってしまったというのだまったく!」


原因の半分ぐらいはそっちの姉に原因があるんじゃなかろうか、という指摘は口には出さないでおく。

憤懣やるかたないといった様子の箒から話を聞くに、鈴と待ち合わせをしていた折あの2人に声をかけられたのだそうだ。ちなみに箒による被害者はこれ以上増える事無く、男達は無事にあの場から離れる事が出来た。

しつこく箒に絡んできたせいで公衆の場で騒ぎを起こした元凶として、駆け付けた警官に連行されていったのが『無事』の分類に入るのならば、だが。

成程、箒もまたどこに出しても恥ずかしくない位の美少女―顔もスタイルも十把一絡げなグラビアアイドルとは一線を画している―なので、あの男達がナンパしたくなる気持ちも分かるという物である。


「だが、本当に私が加わっても構わなかったのか?その、2人もせっかくのデートなのだろう?私が居ては邪魔なのでは……」

「鈴は用事が入らなくて来れなくなっちゃったんでしょ?せっかくバッタリ会えたんだし、僕達も一夏の誕生日プレゼントを探しに来たんだから皆で相談しながら廻った方がきっと良いプレゼントが贈れると思うんだ。ミシェルも良いよね?」

「……シャルロットがそう言うのなら俺は構わない」

「だったらありがたく加わらせて貰おう」


箒を加えて移動再開。どう見ても同い年には見えない凸凹外人夫婦にまさに美貌の女剣士という表現がしっくりくる箒という組み合わせは先程以上に目立っているのだがいい加減慣れっこなので、彼らは敢えて無視する方針でショッピングを開始した。


「あっ、そうだ。一夏へのプレゼントを探す前に少し寄りたい所があるんだけど構わないかな」

「私は一向に構わないぞ」


シャルロットに手を引かれながら日頃の実機訓練で銃器類をガンガン撃ちまくっても白魚のような柔らかさを保っている小さな手の感触を堪能していたミシェルだったが、辿り着いた店を見た途端凍り付く羽目になった。

鉄面皮のお陰で同様自体は顔に出なかったものの、こめかみにデッカイ汗の玉が浮かぶのは禁じえない。

3人がやってきた先、それは女性用下着の売り場であった。この時点で完全に場違いな雰囲気を醸し出しているミシェルに対し売り場中から注目が集まっていた。

流石にこの雰囲気は居心地が悪すぎる。なのでミシェルは後方に向かって前進(または退却とも言う)を試みる。


「……シャルロット。俺は店の外で待っているとしよう」


ミシェルは逃げ出した!

しかし回り込まれてしまった!


「ミシェルに新しい下着を見て欲しいんだけど……ダメ、かな?」


胸元に縋り付かれる+押し当てられる胸の感触+上目使い+子犬みたいな瞳+嫁補正=嫁からは逃げられない。

反則だ、と天井で見えない天を仰ぎつつそのまま下着売り場に引きずり込まれていくミシェルの背中に、箒の生温かい視線が突き刺さるのであった。






中に入ると当たり前の事ではあるが、店内中に並ぶ女性物の下着の山がミシェル達を出迎えた。

覚悟はしていたので顔には出ないが、何とも言えない落ち着かなさに駆られてしまう。あと周りのお客様、場違いなのは分かっていますから携帯を取り出して警察に通報は勘弁して下さい。


「ねえねえミシェル、これなんかどうかな」

「そ、それはまた少々過激すぎやしないか?」


ミシェルではなく箒がシャルロットが見せてきた下着に対し評価を下す。

その上下一組の下着は色は明るめで一見落ち着いたデザインのようではあるが、多くが地肌を透けて見せるタイプの布地で構成されている中々に過激な代物だった。

脳内でその下着を身に着けたシャルロットを再現し――――思わず親指を立ててしまう。夫のGOサインを受けてシャルロットはうっすらと頬を赤くしつつ買い物籠に投下。後程専用の更衣室で着け心地を確かめてから最終的に購入するかどうかを決める予定だ。

箒も箒で口では言いつつも時折並んでいる下着を手にとっては視線を虚空に投げかけて想いを馳せ、その度に真っ赤になるという行為を何度か繰り返していた。妄想の内容はもちろん下着『のみ』を身に着けた状態で一夏に姿を晒してそのまま押し倒されてしまう、という都合の良い物。

粗方選び終えたシャルロットは更衣室へ向かう。すると視界の端に見覚えのある顔と赤茶色の頭を発見したので反射的に声をかけてしまった。


「ねえ、もしかして弾さんの妹さんだよね」

「へっ?あ、ああっ、確かミシェルさんの奥さんのシャルロットさんでしたよね。お久しぶりです」


声をかけてみると案の定蘭であった。蘭の手には商品入れ替えセール中の白黒ストライプパンツ。3枚千円也。


「奇遇だね、蘭ちゃんも買い物に?」

「ええ、ちょっと1人でぶらっと。シャルロットさんもお1人、で……」

「ううん、ミシェルと箒も一緒だよ。もうすぐ一夏の誕生日だからプレゼントを探しに来たんだけど――――どうかしたの?」


不思議そうにな表情を浮かべて首を傾げるシャルロットが全く目に入っていないかのように、蘭はパンツ片手に凍り付いてしまっていた。

視線はシャルロットの手の中に注がれている。正確にはアルファベットで表すならFとかGとかその辺りのクラスに分類されるブラジャーに。それからサマーセーターを大きく持ち上げているシャルロット山脈へ向く。

箒の目からハイライトが失われているのに気付いて、シャルロットの背筋は悪寒に襲われる。何故だろう、とっても嫌な予感が……


「………それ、買うんですか」

「試着してから決めようかと思ってるけど、着心地が良さそうなのがあったら買おうかなって。最近またサイズがきつくなってきたみたいでさ、これ以上サイズが変わったらISスーツも新しいのを注文しなきゃいけなくなるかもしれないし――――」


蘭から放たれる瘴気の規模が一層増した。彼女の背景にはどす黒い暗黒空間が構築されつつあるしこれ以上悪化すれば邪神の類でも召喚されそうな勢いである。流石のシャルロットも思わずたじろがざるをえない。


「どうかしたのかシャルロット」


そこへダメ押しするかのごとく様子を見に来た箒も追加。箒の手にもやっぱりシャルロット同様選ばれた存在にした身に着ける事が出来ない類のブラジャーの姿が。

勿論今の蘭には到底手の出せない存在である。彼女がそれを装着しようとすれば、待っているのは絶望と敗北感以外存在しまい。

それからシャルロットの時同様視線は動き、蘭の小さな手程度では大きく持て余す位巨大な双丘によって形成された箒海溝を捉えた。

蘭は自分の胸元を見下ろす。山脈も無ければ海溝も作られず、しっかりばっちり足元が見えた。あの2人なんか絶対自分の足元なんて見えてない筈なのに。


「う、ううううぅぅぅぅううううう~~~~~……!」

「だ、大丈夫?お腹でも痛いの?」

「違います!不平等過ぎますよ!シャルロットさんといい箒さんといい夏祭りの時一緒だったもう1人の金髪の人といい…鈴さんや銀髪の子はそうでもなかったけど…どうしてISパイロットの人達ってスタイル良過ぎる人ばかりなんですかー!!」




――――自ら敗者であると悟った蘭が出来る事と言えば、涙目で世の中の不条理を嘆く事のみであった。











「ほ、本当にごめんなさい!人前であんな大声出して、とんでもない事叫んじゃって……!」

「いいよ、もうそんなに恐縮しないで」

「シャルロットの言う通りだ。私達も気にしていないから謝らないでくれないか?」


下着売り場を離れ、蘭を加えてショッピングモールを練り歩く一同。すごすごと逃げ出すように出ていく元凶である蘭は、我に返るやコメツキバッタみたいにさっきからペコペコ頭を下げっぱなしである。


「あ、あの、貴女は篠ノ之箒さんでしたよね!一夏さんのファースト幼馴染で、ISを作った篠ノ之束博士の妹さん!私は五反田蘭っていいます!」

「ああ、ちゃんとした自己紹介はまだしていなかったな。篠ノ之箒という。蘭の事は一夏や鈴からもよく聞いているぞ。よろしく頼む」

「はいっ、よろしくお願いします!」


改めて自己紹介を交わしながらの握手。

ちょっと千冬さんに似ているなぁ、というのが蘭が箒に抱いた最初の印象だった。日本刀の刃のような鋭さを帯びた美しさを感じさせる顔立ち。ピシリと背筋も真っ直ぐだし女剣士を連想させる雰囲気や立ち振る舞いも何だか堂に入っていて、成程一夏の心を射止めたのも無理は無いとまたも敗北感に襲われてしまう。


「(というか、そもそも一夏さんはこの人と鈴さんと同時にお付き合いしてるんだよね……?)」


こうして直に接してみると2股みたいなふしだらな真似は許さなさそうな印象なのだけれど。


「時間を食ってしまったな。そろそろ一夏への誕生日プレゼントを探すとしたいが――――そもそも、一夏は何を贈られたら喜んでくれるのだろうか」


根本的な内容であるが、それ故難解な疑問である。

一夏が喜びそうなもの―――――――………


「……トレーニング道具?」

「それはちょっと誕生日プレゼントに贈るには微妙なんじゃないかな…」

「なら着物などはどうだ?」

「悪くは無いが専門の店に行く必要があるな……」

「だ、だったら手作りの料理でパーティとか!」

「しかし皆が皆で料理というのも不味かろう」

「……なら妥当な所で腕時計か財布ならどうだろう」

「だったらあそこに時計屋さんがあるよ。行ってみよう」


そんなやり取りを経てゾロゾロと時計店へ来店。

店員は案の定一見明らかに堅気に見えないミシェルと彼に伴って入ってきた美少女3人という組み合わせに目を剥いたがすぐさま接客モードの顔で動揺を抑え込む。でも正直相手にしたくない。だって顔が怖すぎる。

ショーウィンドウ越しに商品を眺めながら顎に手を当てつつミシェルは思案する。どんな腕時計が一夏に似合うだろうか。そもそも彼はどういった腕時計が好みなんだろうか?


「ふむ、これはどうだろう?」

「うーん、一夏にはちょっと派手過ぎないかな。一夏の<白式>の待機状態は白い腕輪なんだから、それに合わせて白メインの腕時計とかどう?」

「それは悪くなさそうだが、どのメーカーを選ぶのが最も良いのだろうか。申し訳ないがそういった事には疎くてな……」

「気にしないで良いと思いますよ。私なんか携帯で十分だと思って持ってませんから」

「2人ともそれじゃあダメだよー。せっかく女の子なんだからそういう小物にもオシャレに気を配らないと。でも一夏は男の子だし、どっちかっていえば頑丈なタイプの方が向いてるかもしれないなぁ。よく特訓とか荒っぽい事してるんだし」

「そういえばミシェルさんの時計もかなり頑丈そうというか、ゴツイ時計ですよね……」

「軍の特殊部隊でも使われているタイプだからな……信頼性を第一に考えたタイプだ」


ミシェルが愛用している腕時計は『SASも採用!』との触れ込みで評判のモデルで、過剰なまでの防水機能と闇夜でもしっかり自国が確認できるように文字盤にトリチウムが組み込まれたまさに実質剛健を体現したアナログタイプの代物だ。

実際購入して以降過酷な山中演習などをこなしてきたが、故障の気配すら見せた事も無いとても信頼性の高い逸品だとミシェル自身大いに評価している。


「あのすいません、これと同じモデルの時計はありますか。色は出来ればゴールドホワイトが良いんですけど」

「はい、すぐにお持ち致します」


一旦店の奥に引っ込んだ店員がすぐさま商品を恭しく持って戻ってくる。

ベルト部分に付けられた値札を見た瞬間箒と蘭は目を剥いた。予想以上に値が張る。到底2人の手持ちでは買えないような値段だった。

対照的なのはデュノア夫婦の方であ、さっきと変わらず落ち着いた様子で戻ってきた店員と会話を続ける。


「申し訳ありませんお客様。このモデルの時計は黒かシルバーしか当店には置いてないのですが」

「うーん、<白式>も白だから出来ればもっと白いタイプの方が合いそうなんだけどなぁ……」

「でしたらこちらの時計などいかがでしょう」

「うう、こっちも高い……」


新たに店員が示した腕時計の値札を見て顔を引き攣らせる蘭。そんな彼女の様子などお構いなしに、


「どうしよっかミシェル、こっちにする?」

「……そちらも悪くは無いと思うぞ。それで構わないだろう」

「だったら決まりだね。すみません、これを包んでもらえますか。それから出来たら誕生日カードも付けて下さい」


時計代はミシェルが支払う事になった。


「別に僕の払いでも大丈夫なのに」

「……男の甲斐性だ。選んだのはシャルロットなんだ、支払い位はさせてくれ」

「そっか、それじゃあありがとうね、僕の旦那様」

「それにしてもあの時計、私のお小遣い何ヶ月分なんだろ……」

「それは私の台詞だ。高級なものはそれなりに値が張るとは知っていたが、私には手に届かない物ばかりだったな……」

「……代表候補生ともなれば公務員扱いで国から給付金が出るが……箒の場合は事情が複雑だからな……」


ちなみにミシェルの場合は実家の会社の所属パイロットとフランス代表候補生の二足の草鞋を履いて給料を二重取りしている上、男性IS操縦者としてメディアに露出した時など各方面から臨時の収入も得ていたので実家の財力を除いてもかなりの額を溜め込んでいたりする。

なので高級時計の1つや2つぐらい買ってもちっとも懐は痛まないので安心してもらいたい。

箒の立場については国際IS機関での審議が未だ定まっていないのが主な原因だが、それは一夏に対しても当て嵌まる事だった。一夏の所属も保留されたまま決定されずじまいとなっているが、本人は全く気にしていない。

最初の男性IS操縦者であるミシェルが登場した時と違って2人の立場が決まらないのは、ミシェルの実家がIS関連企業の中でも最大手でありフランス政府とも結びつきが強いデュノア社であった点が大きい。実家と国が結託してすぐさまミシェルを囲い込む事に成功した為、全世界に公表された段階で他国が干渉する余地が残されていなかったのだ。

一方一夏と箒の場合。男性IS操縦者や未だ各国の研究機関でも机上の空論でしか存在していない筈の第4世代ISの実物を手中に収める事が出来たのならばその利益は計り知れまい。故に各国は他国に出し抜かれないように睨み合いを続けている。というのも理由の1つ。




だがもう1つ、各国が安易に手を出せない理由が存在する。




平たく言えば、恐れているのだ。

『世界最高最悪の天災(マッドサイエンティスト)』篠ノ之束と、『世界最強の戦乙女(ブリュンヒルデ)』織斑千冬という名の爆弾を。

織斑一夏と篠ノ之箒。

どちらか一方だけでも手中に収めるという事は、必然的に一国どころか世界も敵に回した上で勝利しかねない存在の怒りに触れるのと同義なのである。








時計店を出た4人は丁度お昼時だったので昼食を取る事にした。近くのオープンカフェに入り本日のランチを人数分注文。

丸テーブルを4人で囲んで料理を待っていると、歯切れ悪そうにしながらも箒の方を向いた蘭がおもむろに口を開いた。


「あ、あの!箒さんにお聞きしたい事があるんですけど」

「構わないが、何を聞きたいんだ?」

「箒さんは、一夏さんのどこが好きになったんですか!?」

「ぶぐぅっ!?」


丁度お冷を口に運んだ所だった箒は盛大に噎せた。その反応に慌てる蘭。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ゲホッ……あ、ああ平気だ。そうか、鈴からも聞いていたが蘭も一夏の事が好きだったのだな……」


蘭が思いを寄せていた彼の恋人自身の口から言葉にされた途端、蘭の胸中が刃でなぞられた様な痛みに襲われたが表に出さないようグッと抑え込む。

今の蘭は敗者なのだ。けど敗者は敗者なりに意地があるし、せめて自分の敗因や一夏に選ばれた相手がどういった人物でどういった理由で彼が好きになったのか、その辺りをハッキリ教えてもらわなければ気が済まないのだ。

……敗因については顔とか胸とか性格とか思い当たる節は山ほどあるけどそれは置いといて。


「……(わくわくどきどき)」

「な、何だシャルロットその目は!?どうしてそんなに身を乗り出してくる!」

「えー、だって僕も気になるんだもん。僕も聞きたいなー、箒は一夏のどこが好きになったのか」


そういえばシャルロットもこういう話題にはかなり食いつくタイプだったなと箒は戦く。

ストッパー役を期待してミシェルにアイコンタクトを送るが返ってきた答えは『かまわん、やれ』。どこの吸血鬼だ貴様。お前もこういうのが実は好きなのか顔に全く似合ってないぞ!

蘭は蘭で冗談っ気は感じられず、本気で知りたいからこそこうして直接問いかけてきたのだろう。ここで誤魔化しては礼儀に欠ける。

1つ溜息を吐いて心を落ち着けてから、告白を始める。


「一夏が好きになったきっかけは――――私が幼い頃、唯一ちゃんと私に接してくれた異性だった事がそもそもの発端と言えるな」

「そうだったの?」

「ああ、昔からこんな言葉遣いと性格だったせいで男子にからかわれてばかりでな。そんな時はいつも一夏が私の助けに入ってくれたのだ。それに一夏も千冬さんと一緒に私の父が開いていた道場に通っていてな、いつも3人で切磋琢磨していたものだ」

「そうだったんですか。でも千冬さんも箒さんの道場に通っていたって事は、箒さんのお父さんもとっても強かったんですよね」

「その通りだ。幼かった私の身内贔屓もあるが、その頃は父に並ぶ者はないと思うほど強い方だった。厳しい人物だったが今も私は父、それに一夏や千冬さんに並ぶ位強くなりたいと思っている。云わば憧れの存在だな」

「……俺も1度会ってみたいものだ」

「そうだね、僕も箒のお父さんがどんな人か会ってみたいなぁ。


友人達からのそんな言葉に箒は満足そうに頷く。


「とにかくきっかけはそんなところだが、本格的にもっと密接な関係を望むようになったのはやはりIS学園で再会してからになるな」

「あの時の箒の反応は面白かったよね。ミシェルと一夏が話しに教室から出ていったらこっそり後を追いかけてたりしてたもんね」

「そ、それはシャルロットも同じではないか!」

「『一夏をミシェルに取られちゃう!』って変な妄想してたのは箒の方でしょ?」

「当人が目の前にいる時にそういった話はどうかと思うぞ……というか尾行していたのか2人とも」


咳払いで誤魔化す箒。その顔は微妙に赤い。蘭はといえば箒にジト目を送っている。


「ともかく、再会した一夏は最後に会った時から私の知る一夏と全く変わっていなかった。それどころか剣の腕は私よりも遥か高みに達していたし、弱きを助け強きを挫く性格もそのまま、その上、その、昔よりもか、カッコよく逞しい男になっていてだな……」







「……で、ムラムラしてつい一夏に襲いかかったと」







「まさかの痴女!?」

「誰が痴女だ誰が!」


戦慄の蘭吠える箒。そしてミシェルはむっつり顔のまま更に引っ掻き回す。


「しかし『箒の方から迫って来て我慢の限界だった』と一夏から聞いているが……」

「一夏ぁー!?」

「ふ、不潔です箒さん!見損ないました!」

「ち、違うのだ!年頃の男ならこうすれば悦んでくれるとシャルロットから教えてもらったから私は!」

「まさかの共犯!?」

「い、いやぁ、ミシェルにも同じ事をしてあげたら凄く嬉しそうにしてくれるから、箒も一夏の事が本気で好きなのは見れば分かってたし、一夏も箒の事は悪く思ってないみたいだったから大丈夫かな~って……えへ」

「『えへ♪』じゃありませんよ!スッゴイ綺麗だし貴公子みたいな感じだしで良い人だなって思ってたのに、まさかシャルロットさんがそんな人だったなんて!」

「……やはり蘭はツッコミ属性か」

「ミシェルさんも真面目な顔して変な事言わないで下さい!っていうかもしかしてその顔でムッツリスケベなんですか?そうですねそうなんですね見損ないましたよ!」

「……シャルロットが可愛過ぎるのが悪い、とだけ言わせてもらおう」

「もう、ミシェルってば」

「普通にのろけられました!」

「すいません、ご注文の品をお持ちしたのですが……」




終われ。










=======================================================
気が付けばこんなノリに。全ては空腹が悪いんや…
いまからチャーハン作って食ってきます。



[27133] 6-4:ACE COMBAT(1)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2012/05/05 10:18


キャノンボール・ファスト会場であるアリーナは、一般用の客席だけでも軽く2万人以上を収める事が出来るほどの面積を誇る。

早朝から既に客席の大部分が埋め尽くされ、その熱気は湯気となって可視化出来そうな程のテンションにまで膨れ上がっていた。そんな一般の観客とは対照的に、遅れて係員直々の案内を受けながら悠々とVIP用のボックス席に着くは各国から集められたIS関連機関または企業からの招待客。

見渡す限り人、人、人。そんな中、先日ミシェル・シャルロット・箒と偶然遭遇して行動を共にした結果、今大会の特別指定席をミシェルから譲ってもらった五反田蘭は自分の席を探して右往左往していた。


「ううう、人多過ぎだよう……」


愚痴を漏らしながら案内マップに視線を落とす。だがこのような人が密集している場で―それもレース開始間近という事で席を離れ、観戦用のグッズや軽食を求めたりトイレを済ませようと何人も通路を行きかっている―人の流れに気を配らないのはまさに悪手だ。

案の定、気が付いた時には座席間の通路に入ろうとしていた人物との衝突が回避しきれない距離まで接近していた。


「きゃっ!?」


弾き返され尻餅を突く蘭。相手は自分と同じ女性で背丈もやや高いぐらいだったが、まるで電柱にでもぶつかったかと思う勢いで跳ね返されてしまった。見た目からは信じられないぐらいしっかりとした重心と肉体の持ち主だ。目元はサングラスで完全に覆われていて表情は窺い知れないが多分蘭より少し年上程度だろう、濃紺のスーツに包まれた全身からは『寄らば斬るぞ、もしくはKillぞ』的な剣呑な気配がプンプンと漂っていた。

ぶっちゃけ怖い。


「ご、ごめんなさい!」

「……ふんっ」


踵を返して蘭の前から女性は立ち去る。代わりに一緒に居た女性が苦笑を浮かべながらへたり込んだままの蘭に手を差し伸べる。


「同僚がごめんなさいね、せっかく可愛らしい女の子なのに怖がらせちゃって」

「いえいえ、私の責任ですから!」


それにしても今目の前に居る女性は、同性の蘭も思わず見惚れてしまいそうになるほどの絶世の美女であった。金髪に赤いスーツ姿が壮絶なぐらい似合っている。

これまた彼女の目元にもシャープなデザインのサングラス。耳にはゴールドのイヤリング・


「それじゃあ気を付けてね」


どんな絵画に描かれた女性も敵わないだろう可憐な微笑と共に、金髪の美女も少女の後に続く。

背中を他の観客の間に消えるまで見送ってから、蘭はふと気づいた。


「(そういえばあの女の子、誰かに似てたような……?)」

「ごめんなさいね、ちょっとそこを通っても構わないかしら」

「ああすいません、すぐどきますから!」


背後からかけられた声に蘭は飛び上がる。慌てて場所を開けながら声のした方を振り向くと、これまた見知らぬ少女が立っていた。

手には扇子、恰好は見覚えのあるIS学園の制服。珍しい水色の髪をショートカットで揃えていた。どこか悪戯猫を連想させる顔立ちだが美少女であるのは間違いない。

この短時間で2人もタイプの違う絶世の美女美少女と遭遇した蘭のテンションは更に低下中。恋に破れるのも仕方ないかなぁ、と思わず自虐。


「あらあら、せっかくの綺麗な顔なのにそんな暗い顔しちゃもったいないぞ?」

「は、はぁ……」

「もうすぐレースが始まるけど、ぜひ楽しんでいって頂戴ね。実はおねーさんの大事な妹も今回の大会に参加してるの。すぐ分かると思うからぜひ応援してあげてね?」


蘭の内心を見透かしたかのような余裕に満ち溢れた笑みを浮かべつつ、制服の少女が口元を隠す為に広げた扇子には『必勝祈願』の文字。

やがてIS学園の制服を纏った少女もまた、先程の2人組を追うようにして客席へと消えていった。















「あっという間に当日になっちまったなー」

「……同感だ」


会場中を埋め尽くす観客達の歓声が唸りとなって一夏とミシェルを、そして建物全体をビリビリと震わせている。

現在2年生達がレースを行っており、一夏達1年生の専用機持ち組の出番はこの後。既にISも展開済みだ。ミシェルだけは腕部と脚部パーツのみの部分展開だったが。


「ミシェルもこの時の為に専用パッケージ送ってもらってるんだよな。まだ展開しないのか?」

「……パッケージそのものは既にインストール済みだし、微調整も昨日の時点で終えている……出番が回ってきた時にちゃんと装備するさ」

「ふーん。何か楽しみだな、ミシェルのパッケージ」

「後は見てのお楽しみだ……その時になったら、きっと驚くだろう……」


今回ミシェルにしては珍しくパッケージについてこれ以上は秘密主義を貫いてきたので、ミシェルのパッケージについては一夏も詳細を知らない。

シャルロットによると、どうやら彼女にも秘密にしていたようだ。なので分かっているのは<レクイエム>の弱点である機動力の穴を埋めて尚且つ火力も維持できる仕様だという事ぐらいか。

どっちにしたっていざレースが始まればかなりの難敵として立ちはだかるのは想像に難くない事だ。特にミシェルは実弾派だから<白式・雪羅>とも相性は悪い。

冷静に戦力分析をしつつ、同じく出番を待っている仲間達へも視線を向ける。

この中で最も目を引くのはやはりキャノンボール・ファスト用の専用パッケージ<風(ファン)>を装備した鈴だ。4基の増設スラスターに、新たに追加された胸部装甲は生身の鈴とは対照的な大きさで――――


「今なんか余計な事考えなかった!?」

「ギクッ!」


一夏が只今詰め寄られて激しく揺さぶられております。少々お待ちください……


「視界が、世界が回るぅ~……」

「余計な事考えるからよ!一応これでも編入した時と比べると大きくなってるんだからね!」

「あ~、そういえばそうだよな。最初はちょっとしか摘まめない位の大きさだったけど最近摘まめる量が増えてきたっていうか」

「お、大きな事でそんな事言わないでよ!?」

「……鈴も似たようなものだと思うのだが」


ミシェルの突っ込みは放置し、三半規管のダメージから回復した一夏の注目は<甲龍>のアンロックユニット部分、衝撃砲へと移る。


「何だか衝撃砲も真横向いてる感じだよな。やっぱそれもレース対策なんだろうけど」

「その通り、主に妨害用よ。でも射角がほぼ無制限な分本体自体の向きもあんま意味は無いんだけどね。これ以上は企業秘密だから教えてやんないわよ」

「ふん、だが戦いは武器で決まるものではないと教えてやろう」


そこへ箒も加わってきた。一夏同様箒の<紅椿>もレース用にスラスター出力を調整した仕様だが、エネルギーを馬鹿食いする展開装甲の一部を封印して燃費の向上が図られている。

本来<紅椿>には<絢爛舞踏>と呼ばれる単一仕様能力――――エネルギー増幅機能が実装されているのだが、未だ安定して箒は<絢爛舞踏>を発動できていない。それ故の処置。


「分かってるって。でも絶対負けないからな?」

「上等!」

「もちろんだ!」


恋人同士で奮闘を誓い合っていると2人の背後、皆から微妙に離れた辺りでポツンと佇んでいるセシリアの姿が目に入った。

その表情は暗く、日頃の華やかなオーラも薄れ代わりに物憂げな雰囲気を振りまいている。透き通るような色合いの美しい金髪までも幾分くすんで色艶を失っているかのように思えた。


「大丈夫かよセシリア。どこか具合でも悪いんだったら無理しないで棄権した方が良くないか?」

「お構いなく、大丈夫ですから心配は無用ですわ。ただ少し悩み事で困っているだけですので……」

「悩み事って――――やっぱり前のアレか?」

「いえ、もっとごく個人的な事ですので安心してくださいませ」


口ではそう言われても、陰りと憂いしか浮かんでいない顔をされては額面通りに受け取れる訳が無い。

一夏は腰を落とし、俯き気味のセシリアの肩に両手を置きながら視線を合わせて真正面から彼女と見つめ合う体勢を取る。唐突に一夏の凛々しい表情が目前に在る事を理解したセシリアの顔色が、ぼひゅんと音を立てて真っ赤に染まった。


「セシリア、自分だけで抱え込むような事はしないで、出来る事なら俺達にも相談してくれよ。頼りないかもしれないけど、俺達は友達なんだからさ」

「――――――ぁっ………」


セシリアの碧眼が大きく見開かれ、1回だけ大きく身体を震わせてから強く身体を強張らせた。

その反応に彼女に両手を乗せたまま、一夏も内心たじろぐ。もしかして俺失敗したんじゃないだろうか。もしかして藪蛇だったか――――


「……そう、ですわね。私達は、『友人』ですものね」


声がほんの微かに震えているような気がした。それともセシリア自身が必死に声が震えそうになるのを堪えているのかもしれない。

溜息を吐いてから、セシリアはまた笑みを浮かべる。重荷を全て捨て去ったような清々しい笑顔のようでもあり、大事な物を諦めてしまった哀しい笑顔のようでもあり。

ただ一夏に分かった事は、自分が大きな失敗を仕出かしてしまったという事のみ。己を鍛える最中手にした分析眼からではなく、相手の気配の揺らぎを感じ取る本能によってそれが理解できてしまった。


「ありがとうございます。お陰で私の中である事について区切りをつける事が出来ましたわ」


感謝の言葉を口にされても、一夏に喜ぶ事は到底出来ない。







一方ミシェルは一夏から離れ簪の方へ近付いていた。

今回、とうとう完成した<打鉄弐式>の初お披露目となるので緊張しているのか、今も空中にディスプレイを投影しギリギリまで微調整や確認を行っている簪の頬は引き攣り気味だ。

ミシェルも簪が専用機を完成させる為に、どれだけの時間と努力を費やしてきたのか身をもって理解しているのでそれなりに感慨深いものがある。だから直前になってもこうして画面と睨めっこしている気持ちも良く分かる。

……が、流石に少し心配になってきた。表情といい額に浮かべた汗といい、過剰な緊張や焦りが微妙に滲み出ていた。


「……大丈夫か」

「……流石に、ちょっと緊張気味。それに慣らし運転を重ねて潰せる問題点は全部潰したけど、やっぱり本番になるとまた不安になって来て……」

「……気持ちは分かるが、ここまで来たからには覚悟を決めるべきだ。分かる限りの問題点は、簪が自分の手で改善したんだろう?」

「うん……」

「……だったら簪は、そこまで<打鉄弐式>に思いを込めた自分を、そして自分が信じる<打鉄弐型を信じるんだ……そうすればきっと、最高の能力を発揮できる。簪も、<打鉄弐式>も」


ずっと画面に集中していた簪が顔を上げ、僅かに口元だけで笑みを浮かべた。

まだ若干強張りは抜けていないけれど、少しは落ち着いてくれたようだ。


「……ありがとう。少し、落ち着いたかも」

「それは良かった……」


簪の<打鉄弐式>は<打鉄>の後継機なだけあって<打鉄>用の追加パーツも装備可能となっているので、今回簪も<打鉄>用の増設スラスターを装備しての参戦である。

<打鉄>と比較すると背部に2門の荷電粒子砲<春雷>、アンロックユニットに独立稼動型誘導ミサイルポッド<山嵐>といった固定武装が追加されているせいで<打鉄>よりも大型に思える。

しかし機動力工場を求めスラスターも追加されている分機体そのものの装甲は薄くなっており、出力系統もスラスターや武装に割かれているので、防御力については余計な固定武装が存在せず装甲に容量を取っている<打鉄>の方が上だ。

そこへ簪と同じく増設スラスターを追加した<リヴァイヴ・カスタムⅡ>を展開したシャルロットが寄って来た。


「もうミシェルってば、お嫁さんをほっといて他の女の子に構うのは酷いと思うなー」

「むう、すまん……」

「あの、ミシェルは私を落ち着かせるために声をかけてくれただけだから、怒らないであげて……」

「ふふっ、冗談だから安心して。でもいざレースが始まったらお互い手加減は抜きで全力で戦おうね」

「う、うん、そのつもり……」


一際大きな歓声が地鳴りのように施設全体を震わせた。2年生のレースが終了し、今度は専用機持ちの出番。


「……そろそろ出番だな」


呟きと共にミシェルも残りのパーツと新たにインストールしていた専用パッケージを展開。

―――第1印象は赤。正確には赤と白のツートンだ。まるで双発のジェットエンジンを搭載した戦闘機の機首部分をぶった切って背負ったような外観だ。特に目立つのはエンジン部分の両横から突き出す前進翼で、何と前進翼の中心部分にもエンジンポッドが搭載されていた。計4発のエンジンを備えているのである。

皆が注目している前で具合を確かめるかのように可動式の前進翼とスラスターの推力偏向ノズルが前後に振れる。翼端部には従来の戦闘機同様兵装架が備えられ、六角形の円柱状の物体がぶら下げられていた。

両肩上からは可動式のビーム砲。よくよく見てみれば脚部パーツもいつもと微妙に形状が違い色も背部の大型ブースター同様紅白の機体色に統一されていて、腰部も両横に装備されていた折り畳み式の<アグニ>ビーム砲が長方形型のスラスターに交換されていた。こちらにも推力偏向ノズルが備えられている上腰部の接続部から180度以上前後に可動可能な仕組みだ。100-0への急減速で特に効果を発揮するに違いない。そしてトレードマークの大型盾型ビット。

頭部も、何本もスリットの入った西洋の兜風のバイザーからサングラス型の半透明な高速機動用補助バイザーへ変貌している。左右のこめかみからは斜めに突き出た2本のアンテナ。唯一変わりないのは腕部回りのみで例の如く右手にはフルオートショットガン<ドラゴンブレス>、左腕にはシールドガトリング<グリムリーパー>。

外見のインパクトでいえばその色調も相まって、増設ブースターを背負ったりビットを機体本体に固定した程度の変化などよりもよっぽど目立つ姿であった。


「……これが今回初お披露目の新型パッケージ。シリアルナンバーYF-29、開発コード名<デュランダル>だ」

「デュランダルといいますと、『ローランの歌』に出てくる英雄が持つ聖剣の名ですわね。フランスらしい名前だと思いますわ」

「小さい時に母さんに呼んで貰ったなぁ。敵に渡されないように岩に叩き付けようとしても逆に岩を切っちゃうぐらい頑丈な剣なんだよね確か」

「……むしろ愛の告白を言い切る前に遥か彼方に旅立っちゃうフラグな気がするんだけど」


セシリアはともかく不吉な突っ込みを入れないで下さい簪さん。


「山田教諭が合図しているぞ。さっさと所定の位置に整列せねばなるまい」

「ラウラの言う通りだな。それじゃあ行こうぜ皆」


ラウラの言葉を受け一同スタート位置へ。この日の為に増設スラスターや新型パッケージを装備して日頃とは違う陣容の専用機乗り達が一斉に衆目へと晒されていく。

一際増す観客達の興奮。特に世界で2人しか存在しない男性IS操縦者が並び立つという光景に、レース開始前からもはや客席のテンションは最高潮だ。観客席を見回してみれば一夏やミシェルの応援旗すら持ち込まれているといった具合である。

学園でのクラス対抗戦や学年別トーナメントのそれとは桁違いの熱気が会場中を埋め尽くし、その中心に立つ一夏達へと集中していく。2万人分の熱気に当てられた一夏達もこれには興奮の疼きを抑えきれず、自然と口元に笑みが浮かぶ。獲物を見つけた肉食獣の群れのような笑み。

――――千冬姉もモンド・グロッソに出場していた時、同じような気分を味わっていたのかな?

内心そんな疑問を呈しながら一夏は仲間達と共にスタートライン前で一直線に並んだ――――スラスター点火。急加速の瞬間襲い掛かるGに備え全身に力が篭ると、自然に陸上選手のクラウチングスタートに似た姿勢を取ってしまう。それは他の仲間達も同様だ。


「ステンバーイ……ステンバーイ……」


すぐ隣からミシェルの呟き。だが誰も彼には全く注意を払おうとせず、それどころか歓声も熱気も選手達の世界から完全に切り離されスタートラインに並ぶ一同の全神経をシグナルランプへ注ぎ込まれていた。




3、2、1――――そして灯るレッドランプ。

レース開始。




スタートダッシュはほぼ同時。背中を思い切り蹴飛ばされたような衝撃、直後に相撲取りにのしかかられたような重圧感と共に前方へと飛び出していく。

コースはストックカーレースのサーキットとよく似たオーバル状をしている。至ってシンプルなコースだが武器を使った妨害の存在がレースを否応無しに盛り上げてくれる事請け合いだ。シールドエネルギーが尽きれば失格となるので完走前にリタイアしてしまう事も珍しくは無い。

ISの一団は早くも大きくUの字を描くコーナーへ。先頭はセシリア、次いで鈴・ラウラ・シャル・一夏・簪・箒の順で突入し、最後尾にミシェルが続く。それぞれの差は僅かだ。順位は変わらぬままコーナーを抜け直線地帯へ飛び出す。すると他の面々よりも一足早く加速をかけた鈴が急速にセシリアとの距離を詰めていく。


「(いきなりセシリアに仕掛ける気なのか―――――)」


唐突に。

一夏の背筋を冷たい電流が流れた。

ハイパーセンサーの恩恵で視線を正面に据えたまま背後の様子も把握出来る事も忘れ、衝動のままに顔を後方へと向ける。注目したのは一夏のすぐ後続に付いている簪と箒ではない、更にその後方……最後にコーナーを抜けてきたばかりのミシェルだ。

一夏の勘は正しかった。

高速機動用にセッティングされてより鮮明に風景を映し出してくれるハイパーセンサーが、一夏の意を汲んでミシェルの姿を拡大し――――4基のエンジンポッド前面と脚部外装が展開される様子を映し出す。そこから覗かせたのは大量のミサイルだ。

最後尾のミシェルからだと、高熱を放つ誘導対象(ターゲット)……各機のスラスターの噴出口をしっかりと捕捉する事が出来た。マルチロックオンシステムが全機捕捉を終えてから一拍遅れて全機にロックオン警報。


「マジか!」

「何っ!?」

「そんな気はしてたよ……!」

「だよねー!」

「ちぃっ!」

「嘘でしょ!」

「何ですって!?」




「……最悪の強襲『殲滅』用兵装<デュランダル>のお披露目だ。諸君、派手にいかせてもらおう……!!!」


マイクロミサイル、全弾発射。









=====================================================
どうにもヤマもオチも無い自分的にはつまらない文章しか書けませぬ…
自分を鍛え直す為にもそろそろオリジナルの方を再開する予定です。

それにしてもアニメでキャノンボール・ファスト仕様の各機を見てみたかったなぁ。特に増設ブースター背負ったシャルとラウラ機。
個人的にはAC用の追加ブースターをイメージしてます。



[27133] 6-5:ACE COMBAT(2)
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:27a72cf3
Date: 2012/05/08 10:25


一斉に放たれた火を噴く矢――――その数は100を超える。

それらが1人につき10発以上の割合で次々と一夏達に喰らいつくべく煙の尾を引きながら襲い掛かっていく。高速機動用のハイパーセンサーがミサイルの形状や噴射煙の細かい特徴をクッキリハッキリと教えてくれる事が余計に恐怖心を煽る。

まず真っ先にマイクロミサイルの餌食になりかけたのはミシェルに最も近い位置、最後尾から2番手に付いていた箒だった。


「くぅっ、こんな所であっさりと墜ちてたまるかぁ!」


高速飛行を維持したまま前後反転し、身体を回転させた際の遠心力を乗せて<紅椿>が備える2刀流の刀剣型兵装の内、エネルギー刃を放出できる<空裂(からわれ)>を振るった。『飛ぶ』斬撃がミサイルに触れ途端に爆発、更に周囲のミサイルを巻き込んで誘爆を引き起こす。直撃は喰らわなかったが距離の問題上衝撃波からは逃れられず、シールドエネルギーを削られた上減速も避けられない。

続いて箒の先を行っていた一夏と簪は荷電粒子砲で迎撃。ロックオン警報より早くミシェルの行動に反応していた一夏は即座に対応に移れたが簪は出遅れてしまった。大半は迎撃できたが1発だけ命中してしまう。衝撃波に叩かれコースラインから大きく弾き飛ばされる簪。

シャルロット・ラウラ・鈴は突然ミサイルをぶっ放された事に対し若干焦りはしたものの、後続の一夏達と比べれば僅かながら余裕があったので素早く迎撃に移る事が出来た。2丁持ちのショットガン、近接信管内蔵型榴弾装填済みのレールカノン、範囲重視の拡散型衝撃砲が火を噴き、大量の点(マイクロミサイル)を弾雨の面で迎撃してみせる。若干速度を落とす程度で難を逃れてみせる。

尤も対処に窮したのは先頭を進んでいたセシリアの方だった。ビットを固定スラスターとして用いている為彼女が持つ飛び道具は長大な<ブルー・ピアス>レーザーライフルのみ。キャノンボール・ファスト向けに連射能力を重視したモデルだが、大量のミサイルを全弾迎撃できるほどの弾幕を張るには不十分だ。それでも大部分を正確に射抜いてみせたが、残りがセシリアの間近で次々と炸裂した。


「くぅぅぅぅ~っ……!」


簪同様爆風に弄ばれたセシリアの身体がコース外壁近くまで外れてしまう。しかも丁度第2コーナーの入り口での出来事だったのでまともに曲がる事も出来ず、一団から脱落してしまった。彼女が見ている前で難を逃れた者達が次々通り過ぎていく。

開始早々見事にレースを引っ掻き回してみせたミシェルがここで動く。背部のブースターが4基、雄叫びの合唱を上げた。全身装甲の機体が信じられない位の猛加速であっという間に箒を、そして一夏と簪もぶっちぎってカーブに突入した先頭集団との距離を見る見るうちに詰めていく。余りの突っ込み具合に一夏が驚きの声をあげたほどだ。


「何だよあの加速!けどあのまま曲がり切れるのか!?」

「多分可能なんだと思う……私の予想が正しければ、きっと……!」


先頭集団に続きミシェルも第2コーナーに突入。すると背部の主翼部分本体が可動して急旋回に最適な角度をとり、更に各スラスターに備えられた推力偏向ノズルが噴流の向きを斜め方向へと転じ、それらの効果によってミシェルが描くカーブの軌道はまるでコース内側に張り付くようなベタインのラインを見事に作り上げてみせた。気が付けばコーナーの出口で遠心力によりやや膨らんでしまった3人よりも更に内側でミシェルが並走していたので彼女達は驚く。

ミシェルを除けば1番内側のラインに位置していたのは鈴だった。ミサイルのお返しとばかりに衝撃砲を側面へ向ける。


「そう簡単に行かせますか!」

「……そう簡単にやられるとでも?」


鈴が発射、よりも早くミシェルが斜め上方向へロールを打つ。次の瞬間には鈴の頭上でミシェルは背面飛行を行っていた。肩部から突き出た可動式連装ビーム砲が90度立ち上がり、砲口がまっすぐ真下の鈴を睨みつけた。


「やばっ!?」


咄嗟に鈴は急減速をかけた。目前を2本のビームが通り過ぎていき、直撃を回避した代償に鈴は一気に先頭集団から後退してしまった。鈴が今まで居たポジションに入れ替わりでミシェルが収まる。

すると今度はラウラが幅寄せしてきてプラズマ手刀を展開、格闘戦を仕掛けてきた。ミシェルは距離を取って回避しようとスピードを上げる。ラウラはレールカノンに切り替えミシェルの無防備な背中を照準。


「甘い」

「それはこっちの台詞!僕の事を忘れたの?」

「――――ちぃ!」


ラウラがミシェルに気を取られた隙にもっとも外側に居たシャルロットが両手のショットガンをラウラに向けていた。そのままシャルロットが発砲。舌打ち1つを漏らしながらラウラは回避行動を取り、片方のショットガンでラウラに対し牽制射撃を行いがらシャルロットは高速切替を行う。もう1つのショットガンをサブマシンガンに切り替え。

先程までのラウラ同様ミシェルの背中に狙いを合わせた。


「悪いけど僕だって勝ちたいからね」


確かな振動と共に空薬莢が、そして銃弾がサブマシンガンから大量に吐き出された。


「――――……俺もだ」

「えっ」


ミシェルの身体が急に持ち上がり、空中で一瞬直立するような態勢を取ると同時に腰部スラスターが反転。噴出口が前方へ向いた状態のまま逆噴射。

シャルロットが放った弾丸が空を切った。身体を逸らした姿勢のまま急減速したミシェルがすぐ傍らを通り過ぎていく。正しく言えばシャルロットがミシェルを追い抜いてしまったのだ。ラウラにも抜かれた段階ですぐさまミシェルは飛行体勢に戻る。

その機動はISの登場によって旧兵器の座に追いやられたかつての空の覇者――――戦闘機の空戦機動の1つ、ブガチョフ・コブラそのものだった。

歓声が爆発した。一般客の中に混じった航空ファンや特別招待された関係者の内で元戦闘機パイロットの経歴を持つ軍関係者に至っては、トップクラスの機体と技量が両立されなければ成功しないと言われた大技をISに乗った男が目前で再現してくれた事への感涙の涙を流す者さえ居た程だ。


「くっ、パトルイユ・ド・フランス(フランス空軍のアクロバット・チーム)でも気取ったつもりか!」

「ケツを取ったぞ……!」


後ろを取られたラウラが呻く。ミシェルが左手を突き出し、装着された<グリムリーパー>が火を噴いた。12.7mmという大口径弾が秒間20発以上で放たれる際の発砲炎(マズルフラッシュ)はまさに魔獣が放つ火炎を連想させる。直線区域上で巧みに上下左右に機体を動かして回避行動を取るラウラだが、何発かがシールドとぶつかり大きな火花を散らした。着弾の衝撃で機動が不自然に揺らぐ。差が縮まり、彼女の表情が苦いもので歪む。

レースは2週目へ突入。


「うおおおおおおおっ!!」

「まだ勝負はこれからよ!!」


今度は一夏と鈴が猛然と追い上げを開始した。彼に続くのはほぼ一固まりになって飛び続ける箒・簪・セシリアの下位集団。

ミシェルに追いついた一夏と鈴が左右から挟み込む。


「一夏!」

「おう!」


2人が同時にミシェルへと襲い掛かった。開始早々のミサイル一斉射撃とブガチョフ・コブラからこのままミシェルを参加させておくのはマズイと判断した2人は、言葉も交わさず即興で手を組んだのだ。

鈴が拡散衝撃砲を連射し、ミシェルは高度を上げてそれを回避。すると鈴が攻撃した時点でミシェルの上を取っていた一夏が左腕の<雪羅>から荷電粒子砲を発射。<イージスの鏡>を発動させて受け止める――――ここまでは一夏の読み通り。


「うぉおおおおりゃぁぁぁぁ!」

「っ!」


<雪片弐型>とビームクローの2刀流を掲げた一夏がまるで獲物に襲い掛かる鷹のようにミシェルめがけ急降下した。吸収した荷電粒子砲のエネルギーを赤色の衝撃波に変えて迎撃を試みるミシェル。それを一夏は横方向へロールして回避。<イージスの鏡>からAICに切り替えて発動させるまでにはタイムラグがある、そこが勝負だ。

結局AICの発動は間に合わず、ミシェルは<グリムリーパー>のシールド部分で一夏の斬撃を受け止めた。防御されるやすぐさま刃を引いて一夏は連続攻撃を仕掛ける。長丁場に備え<零落白夜>は発動させない。高速機動中にここまで密着すればAICも使えまい。

ミシェルの気が取られた所でまたも鈴が攻撃を仕掛けた。バトルロイヤル形式のレースとはいえ一時的に手を組んでいる一夏を巻き込まないよう、<双天牙月>を展開して斬りかかる。

――――またもロックオン警報に襲われたのはその瞬間だった。続けざまにミサイル接近の警告表示が一夏、鈴、そしてミシェルの視界内に映し出される。

ミサイルを搭載した専用機勢の内、セシリアは<ストライク・ガンナー>装備の為ミサイルビットは封印している。ならば残るはあと1人――――


「簪か!」

「まとめて墜とさせてもらう……!」


<山嵐>、全弾発射。

数自体はミシェルのマイクロミサイルの半数以下、計48発。しかし標的にされたのは3人だけなので1人当たり飛んでくるミサイルの数はミシェルの時と大差なかった。

予想外な攻撃に一夏も鈴もたじろぐ。ミシェルを挟んでアイコンタクトを交わした2人が取った対応は、


「すまんミシェル!」

「これはさっきのお返し!後はまかせたわ!」


飛んでくるミサイルに向けてミシェルを蹴り飛ばす事であった。

とどのつまりミシェルを囮(デコイ)にしてミサイルの相手を彼1人に押し付けたのである。


「何・・…だと……!」


これには流石のミシェルもバイザーの下で某死神漫画っぽく愕然とせざるを得ない。

折りしも第1コーナーに差し掛かったタイミングでの出来事だ。2人してミシェルを足蹴にした一夏と鈴はそのまま急角度でコーナーに突入、ミサイルの探知範囲から一旦外れてしまい、2人に対して放たれていたミサイルが手近な目標……ミシェルを新たに捉え直し、結果簪が放ったミサイルは全弾ミシェルに襲い掛かる事態と相成った。

あるいはしょっぱなから板○サーカスばりのマイクロミサイル一斉発射をやらかした事への意趣返し、とも言える。妙に入り乱れるような軌道で飛んできてるしあれか、妙にミサイルの弾道プログラム熱心に改良してたのは簪も納豆ミサイル再現してみたかったのかやっぱり。

元より音速レベルの高速機動中に蹴り飛ばされた状態だ。腰部スラスターの根元部分に内蔵した対ミサイル用フレアをばら撒きつつも錐もみ状態からできる限り素早く復帰したものの、とっくにコーナーから外れてアリーナの内壁にまっしぐらなコースを取ってしまっている。

コースと観客席を隔てるシールドバリアーはコースと同じオーバル状に広がっており、透明なバリアーが絶壁のようにそそり立っている構造だ。ミサイルの3分の1はフレアに誤魔化されててんでバラバラの方向へ外れていったが、残りはしっかりミシェル目がけまっしぐらに追いかけてきた。

このまま突っ込んでしまえばかなりの大ダメージは避けられず、下手すれば絶対防御まで発動しかねない。かといってブレーキをかければミサイルの餌食。全弾撃墜する余裕も無い。

思考を巡らせている間にも壁との距離はみるみる縮まり、観客の中には突っ込んでくるミシェルの姿にバリアーの存在も忘れて早くも席から逃げ出そうとしている者がちらほらと。

不意に、何故か勝手に視線が盾形のアンロックユニットを捉えた。遠目から見れば1枚の鋼鉄の板に見えるだろうそれ。思い浮かぶとんでもないアイデア。

――――ええい、ままよ。誰にも見えない笑みを浮かべて策を実行する。

元よりこんな使い方なんて全く想定していないだろうし、そもそもぶっつけ本番でするような事でもないが……分の悪い賭けは嫌いじゃない。

片方のアンロックユニットを自動操作からマニュアル操作に切り替え。拡張領域に収めるのもじれったい、右手の<ドラゴンブレス>を手放すと盾形ビットを引っ掴む。曲線を描く壁面まではもう目前。




ミシェルが、<ラファール・レクイエム>がシールドバリアーの壁面と接触する。




まず足先から、それから膝・越・背骨の順に一直線にミシェルの身体を衝撃が貫いた。骨が軋み関節が悲鳴を上げ、下半身の筋肉が細かく千切れていくような錯覚が痛みと共に生じる。喉の奥から漏れそうになった手負いの獣にも似た呻き声を、ぐっと飲み込んで耐えた。

推力偏向ノズルをマニュアルで操作。スラスターが爆発的に吐き出す噴流の向きを微妙に斜め上に向ける事でバリアーに対し自身を押し付けるような力を加え、そそり立つ壁に張り付きながら膨大な推力がそのまま彼の巨体を前方へと急速に押し出す。

驚きの声が客席中から上がる。撃った簪も、ミシェルの末路をそれぞれ別の位置から見送っていた箒やセシリア、一夏や鈴達も今度ばかりは一様にミシェルが突っ込んだ先へと視線を向け、それから呆気に取られてしまった。それほどの光景だった。

ミシェルはシールドバリアーの壁面を滑っていた。背中のスラスターはどれも全開、盾形ビットをサーフボードかスノーボードに見立てて壁面に接している部分から火花を散らしながら、開いた口がふさがらない観客達の目の前を滑り抜けていく。ハイパーセンサーが観客1人1人が浮かべている驚きの顔を鮮明に映し出してくれる。

そこへ飛来するミサイル。不安定で且つ壁面上と垂直の角度で滑っている真っ最中とはいえ、足場を手に入れたミシェルは『ボード』を重心移動とスラスターの吹かし具合で操りながら<グリムリーパー>で迎撃した。壁面上を雷のイメージ宜しくジグザグに動く事で回避機動も行い、ミサイルの半数は命中前に撃ち落され残りのミサイルも悉くミシェルの動きについていけずにバリアーに当たって炎の花を咲かせた。シールド越しでの目前の爆発に思わず仰け反る観客達。

ギャリギャリギャリと火花の尾を散らしながらUの字型のカーブを突破。一夏達よりも遥かに大外のコースを取ってしまったせいでまたも最後尾に逆戻りしてしまったが、差はそれほどでもない。

ミサイルを振り切ってからもそのままミシェルは壁面を滑り続ける。体重移動とスラスターの推力制御のみを使ってボード代わりの盾形ビットの矛先を更に上へ向け、一夏達が位置する高度よりも更に高みへと駆け上る。今や観客の大部分がそんじょそこいらのプロスケーターなんて目じゃないミシェルのパフォーマンスに釘付けだ。

シールドバリアーの天井ギリギリまで上り詰めた所でミシェルは<イージスの鏡>を作動させる。すると完全に放出されなかった荷電粒子砲を吸収した分のエネルギーが衝撃波に転換されて吐き出される。その反動と衝撃波によって遂にミシェルと盾形ビットは壁面から離れ、赤色の粒子を振り撒きながら自由落下しつつボードごと空中で一回転。


「カットバックドロップターン……」


簪の恍惚とした呟きは歓声の大爆発に呑まれて掻き消された。

レース中の仲間達の頭上目がけ急転直下の軌道を取った。盾形ビットを自動制御に戻してから背中に加え腰部両横、計6基のスラスターにケリを入れる。甲高い咆哮をあげる鋼鉄の野獣。急激な加速にブラックアウトすら起こしかねないGがのしかかるが、決してスラスターの出力は緩めない。

仲間内では当に分かり切った事なのだが、こう見えてミシェルはかなりの負けず嫌いなのである。

それどころか全身を押し潰す苦しさを楽しむかのように獰猛な笑みを浮かべる余裕すらあった――――まだまだこの程度で死にはしない、と分かっていたから。

猛追撃してくる自分に焦った様子で振り向いてくる簪や箒にセシリアの顔がクッキリと目に焼き付いた。悪いがもっと遠慮なくやらせてもらおう。


「――――倍返しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


どこぞのMS小隊長みたいな雄叫びを上げつつ急降下しながら全兵装一斉射撃。<グリムリーパー>に可動式連装ビーム砲、両翼端兵装架にぶら下げた六角注型のミサイルランチャーから大型ミサイルが切り離されロケットモーターに点火、3人の頭上から襲い掛かった。

鼻先を通り過ぎるコースで12.7mm爆裂弾が降り注ぎ、それに動きを鈍らせた所で2本の拳大はありそうな直径の光条が3人をまるで分断するかのような軌道で貫いて彼女達の体勢が崩れる。そこへ本命のミサイルが。


「その程度!」

「たかが2発程度、今度こそ撃ち落してみせますわ!」


だが帰ってきた答えは無常なものだった。


「……誰が『2発』だけだと言った?」


セシリアがライフルを向けた途端、円柱形をした2発の大型ミサイルの外装が勝手に分解してしまった。不良品で空中分解でも起こしたのかと発射を躊躇ってしまうセシリア、彼女が見ている前で外装の内側が衆目に晒される。

ミサイルは不良品ではなかった。

大型ミサイルの正式名称は<061ANRM>、新開発の対IS用分裂型高速ミサイルだ。1発の弾頭に付き6発の小型ミサイルに分裂する。


「そんなの聞いてませんわー!」


ミサイルが急に分裂して数を増やすという光景に動揺したセシリアと箒が晒した隙は致命的だった。元より高速で飛翔していた分に小型ミサイルのロケットモーターによる2段加速。瞬く間に距離はゼロへ近づく。

直撃。計12回分の爆発が箒とセシリアを呑み込んだ。2人の姿が爆炎に消える中やや2人より先んじていた簪だけはまともに巻き込まれずに済んだものの、爆風に振り回されて機動が不安定に。

それを逃さぬミシェルではない。頭上から彼女を追い抜く。またも先頭集団へ喰らいつく。

シャルロット、ラウラ、一夏、鈴の背中がグングンと大きくなる。ミシェルの接近に気付いた鈴がゲェッと美少女が浮かべちゃいけなさそうな感じに顔を歪めた。

鈴の変顔なぞお構いなしに先頭集団に対し<グリムリーパー>を撃ち込む。四散して回避する一夏達、4人の間を曳光弾の描く線が貫く。


「ああもう!ちょっとミシェル、幾らなんでもバカスカ撃ち過ぎ!もっとまっとうにレースしなさいよ!」

「……生憎だが、元よりまっとうな『レース』をやろうとは考えちゃいない……!こんな乱戦は滅多に楽しめないのだからな……!」


ミサイルランチャー、次弾装填。ターゲットロックオン。




「格闘戦(ドッグファイト)だ、刺激的にやろう……!」








=====================================================
気が付けばオリジナルじゃなくてこっちの続きを書いていた件。
私のゴーストがミサイルカーニバルを書けと囁いたんですハイ。

偶然通り掛かった本屋のポスターに『IS打ち切りでレア度急上昇中!?』って書いてあってワロタwwwワロタ……



[27133] 番外編:Year’s End
Name: ゼミル◆d3473b94 ID:3f7ac6f3
Date: 2011/12/31 18:38


【第xx回】コミケ初体験の参加者が実況してみるスレ【冬コミ】


1:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 07:05:41 ID:XXXXXXXX

何となく立ててみました
一応コミケカタログは何回も読み返して頭に叩き込んだり情報集めたりして覚悟はしてましたけど、会場3時間前にしてこの人の海に早くも心が折れそうな件について

2:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 07:11:32 ID:XXXXXXXX

>>1乙
でも早いよwせめて1時間ぐらい行列に耐えてからにしろよw

3:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 07:26:13 ID:XXXXXXXX

 先輩(4回目)としては後輩にアドバイスなりなんなりしなきゃな
 とりあえず防寒対策と温かい食い物は準備してあるんだろうな?

4: 1 :20XX/12/31(土) 07:31:02 ID:XXXXXXXX

 >>3
 一応ありったけの防寒装備(ダウンジャケットに手袋にホッカイロ)と温かいカフェオレを持ってきてます
 トイレもかなり混んでましたが駅のトイレで済ましてきました

5:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 07:45:19 ID:XXXXXXXX

 それにしてもまた増えたよな参加者
 しかも年々国際色豊かになって来てる件について

6:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 07:48:22 ID:XXXXXXXX

 >>5
 あと女の比率もかなり増えてきてるしな
 まあ女尊男卑なこのご時世だし

7: 1 :20XX/12/31(土) 07:53:31 ID:XXXXXXXX

 >>5>>6
 そうなんですか?確かに外人や女性の参加者が結構多い気がしてましたけど

8:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:00:53 ID:XXXXXXXX

 >>7
 海外からはともかく女の参加者が一気に増えたのはISが登場してから
 世の中が女尊男卑になってからやおい以外にも百合物の比率が段々と大きくなったし

9:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:09:18 ID:XXXXXXXX

 >>8
 最近の百合は下手な凌辱物より過激だからな
 息子がお世話になってます

10:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:11:00 ID:XXXXXXXX

  >>9
  よう俺

11:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:13:52 ID:XXXXXXXX

  >>9
  同志よ

12:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:15:36 ID:XXXXXXXX

  >>9
  ナカーマ

13:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:16:09 ID:XXXXXXXX

  >>9
  あれ?俺いつ書き込んだんだっけ?

14:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:20:23 ID:XXXXXXXX

 >>9
  ・・・ふう

15:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:21:53 ID:XXXXXXXX

 >>14
 何で賢者モードw

16: 1 :20XX/12/31(土) 08:22:49 ID:XXXXXXXX

  >>14
  ちょw何やってるんですかww
  俺ですか?もちろん夜のお供に使わせて頂いてますが何か

17:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:34:45 ID:XXXXXXXX

 でも実際問題女の地位が上がった影響がこの界隈にもかなり浸透してきてるんだよな
 一昔前のラノベとかにありがちだったハーレム物とかの人気が落ち込んだ代わりに強い女が主人公の作品が乱立してるし

18:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:39:57 ID:XXXXXXXX

 >>17
 確かに
 まあ主人公を女に変えただけでそれ以外は典型的なハーレム物と大して変わらない安直な設定のも出回ってる訳だが

19: 1 :20XX/12/31(土) 08:41:43 ID:XXXXXXXX

  それにしても人の密集率が高い
  むしろあまりの人波の凄まじさに良いそうです・・・

20:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:43:48 ID:XXXXXXXX

 >>19
 >>1無理すんな。
 よくある事だし無理に耐えようとしない方が良いぞ。限界の時はすぐにスタッフを呼ぶんだ

21:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:45:07 ID:XXXXXXXX

 >>19
 まああまりの熱気に湯気が見えるぐらいだもんな・・・

22:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:49:13 ID:XXXXXXXX

 >>19
 下手に我慢してぶっ倒れたらスタッフや他の参加者にも迷惑がかかるから気をつけろ

23:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:49:44 ID:XXXXXXXX

 >>19
 夏よりはマシだろ。10万人単位で通勤ラッシュ以上にデブオタ共と押し合いへし合いするんだぞ
 異臭とむさ苦しさでマジ死ねる

24:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:51:29 ID:XXXXXXXX

 >>23
 夏はなぁ・・・毎年熱中症で何人医務室行きになる事やら・・・
 過去には1000人以上出たって話だし・・・

25:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:52:37 ID:XXXXXXXX

 >>25
 mjsk?

26:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:52:56 ID:XXXXXXXX

 >>24
 晴海時代な。あの頃は俺も若かった・・・

27:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:54:03 ID:XXXXXXXX

 >>26
 ちょwww今幾つなんだよwww

28:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:56:19 ID:XXXXXXXX

 まー今じゃ夏冬問わず1日20万人動員がザラな上に今日は3日目だもんなー
 コミケの大規模化のせいで遂に国がビッグサイトの拡張工事に踏み切ったぐらいだしw

29: 1 :20XX/12/31(土) 08:57:37 ID:XXXXXXXX

 >>1ですが一気に気分の悪さが吹き飛びました



 ・・・・・・前に並んでた人にぶつかったら相手がターミネーターだった件
 思わず殺されるかと漏らしそうになりました(((;゜Д゜)))ガクブルガクブル

30:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:58:35 ID:XXXXXXXX

 >>29
 だから無理すんなと忠告したのに・・・

31:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:59:01 ID:XXXXXXXX

 >>29
 その後>>1の姿を見た者はいない

32:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 08:59:26 ID:XXXXXXXX

 >>29
 >>1のご冥福を祈ろう

33:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:02:13 ID:XXXXXXXX

 >>29
 散って行った英霊に敬礼!(`・ω・´)ゞ

34:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:03:07 ID:XXXXXXXX

 >>29
 また1人コミケの犠牲者が・・・

35:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:03:37 ID:XXXXXXXX

 >>29
 >>1ェ・・・ヤムチャしやがって

36:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:04:25 ID:XXXXXXXX

 それにしてもターミネーターとかテラ懐かしス
 1作目とかもう何十年前だよ

37: 1 :20XX/12/31(土) 09:05:28 ID:XXXXXXXX

 勝 手 に 殺 す な w
 いやあの殺されるかと思ったのは9割5分7厘本気だったんですけどね
 見た目とは大違いの良い人でした。同行してきたリアル金髪美少女共々しきりに心配そうにお世話を焼いてくれましたともええ

38:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:06:29 ID:XXXXXXXX

 >>37
 >>1復活!>>1復活!>>1復活!
 でもリア充死ね

39:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:07:05 ID:XXXXXXXX

 >>37
 無理すんなー
 あとリア充死ね

40:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:07:22 ID:XXXXXXXX

 >>37
 また具合悪くなったら素直にリタイアした方がまだダメージ少ないからな
 それからリア充もげろ

41:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:07:53 ID:XXXXXXXX

 >>37
 リア充爆発しろ

42:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:07:59 ID:XXXXXXXX

 >>37
 もげろ

43:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:08:02 ID:XXXXXXXX

 >>37
 モゲロ

44:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:08:13 ID:XXXXXXXX

 >>37
 MOGERO

45:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:08:47 ID:XXXXXXXX

 >>1の恩人に酷いなおまいらw



 でもリア充もげろ

46: 1 :20XX/12/31(土) 09:09:31 ID:XXXXXXXX

 ・2mぐらいありそうなガチムチの外人
 ・ス○ークとア○デ○セン神父を足して割らなかったような顔
 ・サングラスの向こう側に見え隠れしてる大きな傷
 ・明らかに軍用のバックパック
 ・履いてるのはえらくゴツいブーツ


 どう見ても戦場帰りの傭兵か軍人です本当にありがとうございました
 幾ら金髪美少女とラブラブオーラ振りまいてても>>1にはもげろと言う度胸はありません(涙目

47:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:10:29 ID:XXXXXXXX

 >>46
 そんな事より金髪美少女の方の詳細キボンヌ

48:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:10:53 ID:XXXXXXXX

 >>46
 待て落ち着け、もしかして未来から金髪美少女を守る為に送り込まれてきたサイボーグかもしれないじゃないか

49:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:11:28 ID:XXXXXXXX

 >>46
 リアル軍人がコミケに参加するのはよくある事だな

50:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:11:57 ID:XXXXXXXX

 >>49
 なにせ世界で最も過酷な戦場だもんな
 俺も金髪美少女の詳細希望
 ほんとおにゃのこの比率増えたよなー

51: 1 :20XX/12/31(土) 09:13:15 ID:XXXXXXXX

 >>47
 >>50
 女の子は白人で長めの金髪を後ろでくくってた
 帽子かぶってて厚手のコートとか着込んでたから露出は殆どないんだけど胸元の様子から間違いなく巨乳
 日本語はペラペラで男性の方も同じ。でもって僕っ娘

52:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:15:09 ID:XXXXXXXX

 >>51
 金髪巨乳僕っ娘・・・だと

53:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:15:42 ID:XXXXXXXX

 >>51
 ええいどこだ!見回しても俺の周りにはキモオタしか見つからないぞ!?

54:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:16:35 ID:XXXXXXXX

 >>51
 何という美女と野獣

55:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:25:13 ID:XXXXXXXX

 意外と反応薄いな
 ところで何か、列の前の方騒がしくないか?

56:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:27:18 ID:XXXXXXXX

 >>55
 徹夜組らしきデブオタがスタッフと何か揉めてるっぽい

57:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:28:00 ID:XXXXXXXX

 >>56
 徹夜組氏ね。死ねじゃなくて死ね

58:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:28:11 ID:XXXXXXXX

 >>56
 ま た 徹 夜 組 か

59:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:28:32 ID:XXXXXXXX

 >>56
 ただでさえ人様に迷惑かけてるんだからさっさと消えりゃいいのに・・・

60: 1 :20XX/12/31(土) 09:31:14 ID:XXXXXXXX

 スタッフに最後尾へ連れてかれそうになってたデブが暴れ出したと思ったら、前に並んでた例のガチムチ外人さんがアイアンクローで沈めちゃった件
 ・・・人が片手で持ち上げられるのって初めて見ました

61:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:32:02 ID:XXXXXXXX

 >>60
 ちょwwwガチムチスゲェwww

62:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:32:21 ID:XXXXXXXX

 >>60
 ここまで拍手が聞こえてくるぞw

63:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:33:06 ID:XXXXXXXX

 >>60
 よくやった!感動した!

64:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:33:31 ID:XXXXXXXX

 >>60
 マジか。あのキモデブ明らかに100キロオーバーっぽかったぞ

65:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:35:42 ID:XXXXXXXX

 >>60
 流石ガチムチ、俺達に出来ない事を平然とやってのける!
 そこにシビれるあこがれるゥ!

67: 1 :20XX/12/31(土) 09:40:34 ID:XXXXXXXX

 周りからの拍手喝采にガチムチ外人さん照れてるっぽいですw
 でも金髪美少女からも褒められた途端何人か凄い目で睨みつけてるw

 でもこのガチムチ外人さんどこかで見たような気が・・・?

68:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:47:29 ID:XXXXXXXX

 >>67
 ガチムチと金髪美少女の組み合わせって俺もどこかで聞いた事あるようなないような

69:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:48:07 ID:XXXXXXXX

 相手がリア充なら殺意を抱くのも仕方ない
 それよりもそろそろ列が動き出す頃合いだから気をつけろよー

70:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:48:50 ID:XXXXXXXX

 言っとくけど移動中に携帯弄ったりするのは止めとけよ?
 よそ見して誰かにぶつかったりするとあの人出だと簡単に連鎖反応で被害が大きくなりかねないからな
 あと会場内で走ったり赤枠内で立ち止まるのもダメな。お兄さんとの約束だ!

71:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 09:53:27 ID:XXXXXXXX

 >>1
 今更だけど細かいの十分な量用意してあるんだろうな?
 5千円とか1万円とか出したら売り子さん泣くぞ

72:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:21:19 ID:XXXXXXXX

 思 い だ し た

 あのガチムチ外人さん、男性IS操縦者のミシェル・デュノアだ!!

73:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:22:08 ID:XXXXXXXX

 >>72
 ちょwwwおまwwwマジかwww

74:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:23:11 ID:XXXXXXXX

 >>72
 何やってんだ有名人www

75:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:23:43 ID:XXXXXXXX

 >>72
 何・・・だと・・・

76:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:25:39 ID:XXXXXXXX

 >>72
 まあコミケなら仕方ないな
 あの人見た目の割にアニメや漫画好きらしいからコミケに参加しててもおかしくない


 んなわけあるかバカヤローwwwお茶返せwww

77:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:27:21 ID:XXXXXXXX

 >>72
 ターミネーター納得www確かにあの人ターミネーターそっくりだもんなwww

 という事は一緒にいる金髪美少女は新妻のシャルロットちゃんか
 あの2人IS学園じゃ同級生なんだよな

78:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:30:04 ID:XXXXXXXX

 >>77
 奥さまは女子高生ですね分かります

 ・・・・・・ちょっと待て。あの顔で同級生?冗談だよな?

79:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:33:57 ID:XXXXXXXX

 >>78
 注:あの2人は同い年です(現在16歳)

80:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:35:01 ID:XXXXXXXX

 >>79
 嘘だっ!!!

81:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:38:35 ID:XXXXXXXX

 >>80
 ところがどっこい・・・これが現実・・・!

82:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:39:51 ID:XXXXXXXX

 >>79
 あの顔とガタイで学生とかふざけんなwww

83: 1 :20XX/12/31(土) 10:45:19 ID:XXXXXXXX

 只今デュノア夫婦を追跡中。出来ればこのまま追跡しながら実況をしたい所
 何気に運良く2人が向かう先とお目当てのサークルが被ってる件

84:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:49:38 ID:XXXXXXXX

 >>84
 人多いから見失わないようにするのと他の参加者の迷惑にならないよう気をつけろよー

85:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:53:17 ID:XXXXXXXX

 嫁連れでコミケグギギ・・・

86:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:55:26 ID:XXXXXXXX

 あの顔で俺より年下なのに美少女の嫁持ちとか・・・
 ちくしょうもげろ

87:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 10:56:52 ID:XXXXXXXX

 リア充死ね

88:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:00:04 ID:XXXXXXXX

 憎しみで人が殺せたらっ・・・!

89:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:03:47 ID:XXXXXXXX

 >>86
 >>87
 >>88

 言っとくけどIS操縦者って生身での戦闘訓練とかもバリバリで仕込まれるからヒッキーのお前らじゃちっとも歯が立たないと思うぞ
 大体あの人IS学園入る前は軍の特殊部隊でも訓練受けてたらしいし

90:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:09:34 ID:XXXXXXXX

 >>89
 ソースキボンヌ

91:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:14:18 ID:XXXXXXXX

 >>90
 IS関係の情報まとめサイトとかにふつーに載ってる
 フランス軍なんかの広報ポスターなんかにも採用されてた

92:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:15:59 ID:XXXXXXXX

 という事は>>1の存在がバレたらヤバくね?

93:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:18:27 ID:XXXXXXXX

 >>1のご冥福をお祈りします

94:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:19:52 ID:XXXXXXXX

 香典には昨日手に入れたばかりの新刊を入れといてやるか

95: 1 :20XX/12/31(土) 11:23:06 ID:XXXXXXXX

 だから勝手に殺さないでwww

 18禁物試し読みした嫁さんが顔真っ赤にwww
 売り子の人ビビりまくって泣きそうな顔になってるwww

 あと購入後、こんなやり取りが聞こえてきた
 「ううう、こんなの過激なの買うなんて。ミシェルのえっち」
 「・・・・・・一応俺は頼まれただけだからな?」
 「でも興味はあるんでしょ?」
 「・・・・・・否定はしない」
 「・・・・・・そ、そのね。ミシェルがそういうのしてみたいっていうんだったらその、僕は、良いよ?」

 あれ?MAXコーヒー持ってきた覚えはないんだけどなあ・・・

96:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:26:34 ID:XXXXXXXX

 >>95
 売り子さんカワイソスwでもあの顔なら仕方ない

 夫婦円満そうで何よりですねグギギ・・・

97:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:29:11 ID:XXXXXXXX

 >>95
 お前らまだ16だろうがwww学生がエロ同人買うなwww
 そして紳士たちの戦場でイチャついてんじゃねぇwww

98:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:36:39 ID:XXXXXXXX

 >>97
 そもそもあの顔が学生に見えるか?

 シャルロットたん何気にえっちぃよハァハァ

99:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:38:43 ID:XXXXXXXX

 >>98
 彼女をそんな目で見てると旦那に殺されるぞ。マジで

 >>95
 旦那羨ましいなぁ
俺なんて彼女にコスプレH迫ってみたらビンタ食らったのに(´・ω・`)

100:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:42:56 ID:XXXXXXXX

 >>99
 彼女持ちモゲロ

101: 1 :20XX/12/31(土) 11:49:33 ID:XXXXXXXX

 現在追跡中
 頭1つ分周りより高いお蔭で何とか見失わずに済んでます

102:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:52:05 ID:XXXXXXXX

 >>101
 そりゃタッパが2m近くあれば目立つよなw

103:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:53:49 ID:XXXXXXXX

 >>101
 ちくしょう5cmでもいいから俺に分けてくれよそのデカさ

104:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 11:57:13 ID:XXXXXXXX

 >>103
 っ シークレットブーツ

105: 103 :20XX/12/31(土) 12:01:26 ID:XXXXXXXX

 >>104
 うるせえ!それぐらいとっくの昔に通販で購入済みなんだよ!(泣)

106:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:03:09 ID:XXXXXXXX

 >>105
 まあ落ち着けこれで涙拭けよ っハンカチ
 でもだからって2mも身長あったらそれはそれで困りそうだけどな
 電車乗る時とか絶対頭ぶつかるだろ

107: 1 :20XX/12/31(土) 12:04:53 ID:XXXXXXXX

 何やら知り合いらしき女の子と遭遇したらしいのを発見
 気弱そうな眼鏡っ娘だったけど2人に気付いた途端回れ右して逃げ出そうとしたけどずっこけて失敗してた

108:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:07:47 ID:XXXXXXXX

 >>107
 ま た 女 の 子 か
 もしかしてIS学園生?エリートもコミケに来るもんなんだな

109:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:08:26 ID:XXXXXXXX

 >>107
 会場内では走らないでくださーい

110:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:10:11 ID:XXXXXXXX

 >>107
 ちくしょー!!何だかとってもこんちくしょー!!!

111:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:14:34 ID:XXXXXXXX

 >>108
 意外とIS学園って腐女子多いらしいぞ?
 日々ミシェル×一夏か一夏×ミシェルかを議論しているらしい

112:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:19:27 ID:XXXXXXXX

 >>111
 誰もそこまで聞いてねーよwww聞きたくもねーよwww
 でもリアルでその2人が友人だっていう話は俺も聞いた事がある

113:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:26:00 ID:XXXXXXXX

 >>112
 噂では彼の顔の傷と片足が義足なのはあの織斑千冬の弟が原因なんだとか・・・

114:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:30:19 ID:XXXXXXXX

 >>113
 マジか
 どんな修羅場くぐってんだよあの人

115:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:33:28 ID:XXXXXXXX

 >>114
 あの顔からしてまともな人生送ってるように見えねーだろ常考

116: 1 :20XX/12/31(土) 12:39:46 ID:XXXXXXXX

 合流した女の子も一緒にコスプレやってるエリアに到着
 ライダーのコスプレ見つけた眼鏡っ娘がスゲー食いついてるw
 夫婦はISのコスプレしてる人達を興味深そうに見物中

117:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:39:50 ID:XXXXXXXX

 >>115
 でもあの顔で何気に良いとこの坊ちゃんなんだよな

118:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:42:36 ID:XXXXXXXX

 >>116
 眼鏡っ娘はライダー好きなのかw
その子とはいい酒が飲めそうだ
 
 >>117
 デュノアってIS関係企業でも最大手の会社だろ

119:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:46:18 ID:XXXXXXXX

 >>116
 もちろんコスプレしてるのはおんにゃのこだよな?
でもあのコスプレするのって結構度胸いるだろ。ISスーツって水着みたいなもんだから体型モロに浮き出るし

120:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:50:01 ID:XXXXXXXX

 >>119
 美少女が着てくれたら最高
 顔は微妙でもスタイルが良ければ許せる
 どっちもダメなら論外
 オッサンが着たら処刑

121:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:52:44 ID:XXXXXXXX

 ISのコスプレが登場するようになってから異様にカメコが増えた件

122:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 12:54:39 ID:XXXXXXXX

 >>121
 そういう連中の目的はコスプレの出来そのものじゃなく中の人狙いだからな
 同じカメコとして恥ずかしいわああいう連中

123:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:01:20 ID:XXXXXXXX

 >>122
 そういう連中に限ってマナーがなってないのが多いしな
 好き勝手にコスプレイヤーに注文してくるわ先に撮ってる人押しのけようとするわ最悪だろ

124:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:06:52 ID:XXXXXXXX

 でもISの中の人のグラビアで抜いた事がある奴は俺だけじゃないと思う

125:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:08:31 ID:XXXXXXXX

 >>124
 サ、サアナンノコトヤラ

126:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:12:44 ID:XXXXXXXX

 >>124
 黙秘権を行使する!

127:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:18:17 ID:XXXXXXXX

 >>124
 中の人が美人ばかりなんだから仕方ない

128:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:26:02 ID:XXXXXXXX

 >>124
 いつもオカズにしてますが何か?

129:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:28:35 ID:XXXXXXXX

 >>124
 俺は主にアメリカやイギリスの子にお世話になってるな
 金髪美少女(;´Д`)ハァハァ

130:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:33:18 ID:XXXXXXXX

 >>129
 俺は中国の子だな
 特に今年の代表候補生の子なんかは良いと思う
 あのちっぱい子は絶対ツンデレに間違いないだろ

131:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:36:28 ID:XXXXXXXX

 >>129
 俺はシャルロットたん一筋だ!
 だから俺の天使を寝取りやがったあの老け顔が憎い。マジ憎い

132:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:40:42 ID:XXXXXXXX

 >>131
 寝取る以前にお前の存在すらあの子は知らねーだろwww
 大体そんな事言ってると旦那にぶっ飛ばされるぞ?嫁バカらしいからなあの人

 それと>>130、その中国の代表候補生の子って確か今じゃ一夏君の恋人って話なんじゃ・・・

133:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:44:51 ID:XXXXXXXX

 >>132
 チクショウやっぱり男は顔なのか顔なんだな!?

134:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:52:33 ID:XXXXXXXX

 >>132
 しかもIS作った篠ノ之博士の妹と2股かけてるって噂も・・・

 織斑一夏爆発しろ

135:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:53:59 ID:XXXXXXXX

 モゲロ

136:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 13:59:23 ID:XXXXXXXX

 女の子ばかりなのを良い事に食いまくってんだろーよきっと

 織斑一夏もげろ

137:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 14:07:16 ID:XXXXXXXX

 爆ぜろ

138:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 14:11:27 ID:XXXXXXXX

 >>134
 ちょっと一夏君の息子ちょん切ってくる

139:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 14:18:36 ID:XXXXXXXX

 >>138
 幸運を!

140:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 14:39:20 ID:XXXXXXXX

 >>1の書き込みが遅いな

141:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 14:52:18 ID:XXXXXXXX

 >>140
 基本会場の回線は混雑してるからしょうがない

142:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 15:15:15 ID:XXXXXXXX

 >>1マダー?

143: 1 :20XX/12/31(土) 15:34:08 ID:XXXXXXXX

 >>1です
 彼 ら に 見 つ か っ ち ゃ い ま し た

 途中から尾行されてるのに気付いちゃってたみたいです。あの大混雑で気づくとかIS乗りマジぱない
 見つかった時は本気でガクブルしてましたが、正直に白状したら普通に許してもらえました
3人ともかなり礼儀正しくて本当に良かったです。それから人を見かけで判断するものじゃない事もよく理解できました(苦笑)

 まだ閉会まで時間はあるけれどこれで実況は終了とさせて下さい
 お付き合い頂きありがとうございました




 それから>>131さん、ミシェルさんが2人きりで直接話し合いたいそうなので住所を教えて欲しいそうです


144:名無しの参加者:20XX/12/31(土) 15:37:46 ID:XXXXXXXX

 >>131オワタ \(^o^)/wwwwww





























「・・・うん、味はこんなもんかな。これで仕込みは完了っと。後は皆が来てからだな」

「あの、本当にお1人で大丈夫なのですか?やはりわたくしもお手伝いを―――」

「セシリアは気にしないでくれ!頼むから!お願いだから!後生だから!」

「涙目になってまで拒否しないでいただけますか!?」

「いちかー、ミカンが無くなっちゃったから持ってきてちょーだい」

「お前はお前でたまにはコタツから出てきたらどうだ。家に来てから1度も出てきてないんじゃないか?」

「だってコタツから出たら寒いじゃない・ほら早く頂戴よー」

「やれやれ・・・ほら鈴。持ってきてやったぞ」

「皮むいてー」

「甘え過ぎ。それぐらい自分でやれよ」

「と言いつつ嫁も剥いているではないか」

「まー鈴がコタツに入るとふやけてたれるのは毎度の事だったしな。そうなった途端凄い物臭になるし。ほれ剥いてやったぞ」

「あーん・・・・・・」

「鈴さんそれは流石に甘え過ぎではありませ―――」

「やれやれ。ほらあーん」←ミカンを1切れ鈴の口の中へ投入

「「!?(ぴきーん!)」」←固まる音×2

「あみゅあみゅ・・・・・・もういっこー」

「世話がやけるよまったく・・・」←と言いつつもう1切れ投入

「・・・・・・・・・はむっ」←一夏の指ごと口に含む

「「!!!?(ぱきーん!!)」」←凍りつく音

「おいおい、俺の指食べたって美味しくないぞ?」

「んーん・・・・・・一夏の味がするぅ・・・・・・」

「「何・・・だと・・・」」

「やれやれ、まあ鈴だし仕方ない――――何で口開けてんだ2人とも?」

「見て分からんとはそれでも私の嫁か。私にもミカンをくれ。『嫁の手』でな」

「いえいえ私の方が先ですわ。さぁさぁ一夏さん遠慮無くどうぞ!」

「いや遠慮無くって言われても」



\ぴんぽーん/



「おっと、お客さんみたいだな。はーい、今行きまーす」

「「・・・・・・はぁ(ガッカリ)」」







「みんなー、ミシェル達が来たぞー」

「久しぶりだね皆。ハイこれフランスでも大人気のお菓子屋さんの詰め合わせセット。とっても美味しいよ」

「・・・・・・何だか不機嫌そうだなラウラにセシリア。どうかしたのか」

「「いいえ(いいや)何も!」」

「簪も一緒みたいだったけど今日は簪は用事があって遅れるんじゃなかったっけ」

「う、うんっ・・・・・・たまたま2人と鉢合わせしたから、そのまま一緒に来た」

「ねーむーいー」

「あはは、鈴ってば本当に溶けちゃいそうになってるや」

「・・・・・・鈴、何だか本音みたいになってる」

「・・・・・・まあコタツなら仕方ない」

「コタツの魔力には逆らえないよな。セシリアとラウラも殆ど出てこようとしないし」

「申し訳ありません、居心地が良くてつい」

「クラリッサが言うには日本の冬におけるコタツとミカンの組み合わせはどのような誘惑よりも強力だそうだが、今まさにそれを実感している最中だ。確かにこれは中々抗えんぞ」







\ぴんぽんぱんぽーん/



「すまん、遅くなったな」

「いや、むしろ思ってたより早かったな。神社の方の手伝いでもっと遅くなるかなって思ってたんだけど」

「雪子叔母さんが気を利かせてくれてな、もう抜けて良いといってくれたんだ。それからこれは叔母様からだ。自家製の御節だそうだ」

「おっ、サンキュー。初詣行った時には礼言っとかなきゃ」

「そういえば今日は織斑先生はどうしたの?」

「『今年は教師仲間と年越す』って山田先生とかと一緒に出かけてるんだよ。ところで箒は腹減ってるか?年越し蕎麦まだ残ってるぞ」

「なら頂こう。時に鈴は酒でも飲んだのか?」

「・・・・・・いや、コタツに入るとこうなってしまうらしい」

「そ、そうなのか」

「うーにゃー」

「・・・・・・猫みたい」

「リスかハムスターも連想させますわね今の鈴さんは」

「面白いぞ、口元に持っていくと何でも食べる」

「それそれ~」←鈴のほっぺをぷにぷに

「にゃ~~~~」

「うふふ、鈴のほっぺ柔らかいなー。それそれ」←鈴のほっぺむにむに

「うにゅ~~~~」

「えへへへへー♪」

「あらあら、シャルロットさんたらよほど鈴さんのほっぺが気に入りましたのね。子供みたいなあどけない笑顔を浮かべていますわ」

「意外と動物好きだからな・・・・・・昔は猫も実家で飼っていたらしい」

「鈴のほっぺ、よく伸びるね・・・・・・」

「たってたってよっこよっこまーるかいてちょん♪」






「何だかほっぺが痛いわね・・・・・・」

「ごめんね、鈴のほっぺが気持ち良くてついついやり過ぎちゃった」

「年越し蕎麦出来たぞー」

「いい匂い・・・・・・」

「この香りは・・・成程、もしや汁のダシは一夏のオリジナルか?」

「おっ、箒正解。よく分かったな。カツオだしの割合が大目の方が千冬姉の好みでさ、あったかいうどんとか蕎麦とか作る時は大体このダシ使ってるんだよ」

「織斑教官の好みはカツオだしが大目、と」

「それじゃあ皆食べようぜ」

「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」





「それにしても、さ。やっぱり良いな、こういうのって」

「・・・・・・何がだ?」

「ほら、俺って親がいないし、特にこういう年末とか千冬姉以外で誰かと一緒に過ごすのって、本当に初めてなんだよ。代わりに今年は千冬姉が居ないのが残念だけど、でもやっぱり新鮮なんだよ」

「・・・・・・そうか。なら来年も皆揃って祝うとするか」

「―――――!!!ああ、そうだな!」

「あっ皆、そろそろ時間みたいだよ」

「あと15秒だ」

「・・・・・・5,4,3,2,1、ゼロっ!」

「Happy New Yearですわー!!!」

「いいや、ここは日本式に挨拶といこうぜ。せーのっ」






『明けまして、おめでとうございます!!!!!』




皆様良いお年を








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コミケに行った事無い癖にこんなネタ書いて非常にガクブルしております(なら書くなよ

来年も拙作にお付き合いいただければとても幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします。
それでは画面の向こうの皆様も、どうか良いお年をお過ごしくださいませ。


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