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[27002] 習作:ヴァルハラの乙女たち   (ストライクウィッチーズ憑依もの TSのつもり)
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/05/30 19:30
注意事項

・試作品です
・よって更新は不定期
・意味のないTSにならないようできるだけ努力はします
・原作キャラへの憑依がイヤ、という人は見ない方がいいかも。

2011年 4月5日 序章更新
      4月13日 1話更新
      4月21日 2話更新
      4月45日 序章修正(坂本大尉→坂本少佐 クソなんて単純ミス)
      5月1日  3話更新
      5月10日 4話更新
      5月30日 5話更新



[27002] 序章
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/04/25 00:34
ずっと昔。
ボクは遥か彼方の世界からここに来た。

ボクは私になり、私はボクになった。

私は得た。
死を司る眼とすべき義務を。

好奇心、恐怖、不安

私はオリジナルの劣化。
ゲルトルート・バルクホルンの皮を被ったニセモノ。

けど努力すれば私はオリジナルなれる。
そう信じて月日は流れた。


でも―――


こんなはずじゃなかったのに。
こんな結果が出るなんて。


どうして?


私のせい。
私がニセモノにすぎないから。


私のせいだ――――。




※ ※ ※




『きゃあぁぁぁ~~!!』
『旋回が遅ーい!』

1944年、夏。
ブリタニアに拠点を置く第501統合戦闘航空団基地上空で悲鳴と罵声が響いていた。

阻止気球と呼ばれ、本来の用途ならば爆撃機の侵入を防ぐバリケードだが。
この日は設置された気球の間を飛ぶのが訓練として利用している。

「ねえ、トゥルーデ。宮藤さんは初飛行にも拘らずネウロイと戦えたと坂本少佐が言ってたわよね。」

「ミーナ、現実逃避は良くないぞ。
 我々の眼に映るものは軍曹がクソ高い気球につっ込み、次々と壊してしているシーンだ。」

『きゃあああ!!』
『宮藤ぃ~!!』


あ、爆発した。


「・・・宮藤さん、坂本少佐と一緒に飛んでいるから理解しているはずよね。」
「それより気球一基あたり、30~40ポンド。それが全滅、予算を考えなければ。」
「・・・・はぁ」

年上の哀愁と色っぽさが合わさったため息をつく。
そんな風にしているとただでさえ年上な雰囲気がヘタをすると20代以上に見えてしま・・・。

「バルクホルン大尉、何か変な事を想像したのでは?」
「いや、別に。ミーナがきれいだな―と思っただけだ。」


ベツニ、ホントウニオモッテマセンヨ―。


『宮藤ィ~』
『あうう、坂本さんごめんなさい』


・・・・・・。


『まあいい飛べただけでも上出来だ、明日からびしばし行くから覚悟しておけ。』
『は、はーい』


欧州から見て遥か極東から来た新人、宮藤芳佳軍曹。
栗毛の髪に、女らしさよりも可愛らしい容姿で思わず抱きしめたくなりそうだ。


そして似ている。


『さっさと風呂にでも入ってこーい。』
「わかりました坂本さん」
『うむ、行って来い。』
「はい!」


クリスに


「ま、こんなものだろう。
 請求の件についてはミーナ中佐殿に任せた。うまくごまかしてくれ。」

そう言い滑走路を後にする。
後ろから「貴女も少しは捻りなさい、トゥルーデ!」と聞こえたが無視する。

「にしし・・逆の意味で撃墜王だね。ねえねえ大尉あれ使えるの?」

格納庫へ戻る途中で、
同じく滑走路で宮藤芳佳の飛行を見ていたルッキーニが話しかけてきた。

「使い物にするのが私らの仕事だ。そうだろ、ルッキーニ少尉?」

そうだよね、
にゃはは。とルッキーニは笑う。
いつもと変わらない子供らしい笑顔。
心が汚れた私にはまぶしいな、なんて思ってしまいそうな。

「あーそうそうバルクホルン大尉――。」
「何か?」

一体何を言い出すつもりだこのお子様は。



「あんまり過去を気にしたら死んじゃうよ?」



・・・どういうことだ?

「大尉の顔、
 はじめて来た時の表情をしていたから。」

・・・・・。

「あの顔、あたしでも分るよ。
 死に急いでいる人だってことぐらいは。」

じゃあね~と言って彼女は去って行った。

「はは・・・。」

なるほど、ここの居心地が良すぎたわけか
どうやら私は少しばかりぬるま湯に浸かっていたらしい。

忘れていた。
あの戦場を、あの最前線を。

そうさ、記憶から消そうとしていた。
私がオリジナルでないからあの子を死なせた。

あの子だけじゃない。
オレより年下の子たちもたくさん死なせた。

そして言われた。

「子供を返して」
「人殺し、無能指揮官。」

ああそうさ。
私は本来のゲルトルート・バルクホルンではないからな。

だから預かっていた中隊を自分を除き全滅させた。





※ ※ ※





1939年末。

わが軍は東欧から始まったネウロイの攻勢でついに東プロイセンまで『転進』した。
かつて『中央軍集団』と名乗っていた組織は壊滅して『北方軍集団』へと改名を余儀なくされた。

そして守るべき国民。
未だ避難民も完全に逃げ切れておらず、
様々な困難の中、陸海空軍が総力を挙げて避難支援を行っている。

もっとも、それでも戦線は押され気味で10日も持たないだろう。
ただ、強いて逆に良い点といえば。

「戦線から本土に近付いてきたから補給が楽になったか。」
「トゥルーデ、最近それを敗北主義者の言葉。と言うらしいわよ。」

ついブラックジョークを呟いたら隣にいたミーナに注意された。

「いくらウィッチでも小うるさい番犬(憲兵)に睨まれるわよ。」
「大丈夫だ、問題ない。ここにはミーナを除けば二人っきりだからな。」
「あら?貴女もしかして伯爵の同類・・。」
「アレと一緒にするな」

ちょっと席を離れたミーナ。
正直、いや本当にアレと一緒にされたくないね。
新人に訓練するとか言ってセクハラし放題で百合百合な奴なんて特に。

「ま、それより私と何人かが撤退命令が来たわ。」

急に戦場でもいるような雰囲気を出すミーナ。
これは・・・よくない命令でも来たんだな。

「どこへ?」
「ガリア国境よ」

ガリアだと?

「先に撤退するのか。」

「正確には再編成、エーリカも含めて。
 ここ数日は私たちの活躍でだいぶ余裕があるから今のうちに、というわけらしいわ。」

たしか<原作>では
ミーナ、エーリカ、私、バルクホルンは大戦前半からずっと一緒だったとか。
まあ、統合戦闘団結成前の過去については不明確だからなんともいえないな。

しかし、妙だ。
普通こういうのは部隊単位で行うものだが。

「私は後方で再編成した部隊を率いるためよ、ほら、私の固有魔法は指揮官向けだから。
 あと、エーリカも後方で再編成した部隊の教官役としてのよ。ああ見えてもこの部隊一のエースだから。」

苦笑するミーナ。
うん、気持ちはわかる。
何時もはぐうたらなロリ娘が「教官殿!」なんて呼ばれる身分は似合わないにも程がある。

けどさあ、

「問題は前線の戦力が大きく下がることなんだが。」
「ええ、その点については上層部を信じるしかないわ。」

大丈夫か?
自分は不安で不安でしかたないが。
それにミーナが抜けると今この第52戦闘航空団第2飛行隊の指揮官は・・・。

「そして私が抜けた後の指揮官は貴女しかいない。」
「・・・・・・・・・。」

だろうな。
現在この部隊で一番偉いのは大尉のミーナ。
んで次に偉いのは中尉の階級持ちである私ことバルクホルンだ。

「ふふ、不安そうね。」
「当たり前だろ、ミーナ。」

指揮官とは部下の命を文字通り預かる立場にある。
果たして私に10代そこらの少女たちの命を10人以上も預かることができるだろうか。

その責任を全うできるだろうか。

「だ~め」
「あう?」

鼻を抓まれた。
てか、顔が近い近い!?
生温かい息やらなにやらかかって心臓が色々まずい。

「貴女って人はそうやってすぐマイナスの思考に走るのはよくないクセよ。」

人の気持ちを読んですぐさまフォローする。
ほんと、この娘さんにはかなわないなぁ・・。

「善処いたします。」
「それでよろしい。」

うんうんと納得するミーナ先生。
やっぱこの子は年の割に大人びいていて、

「何か言ったかしらん?」
「ナンデモゴザイマセンヨー。」

やめよう。
歳の事を指摘するのは色々マズイ。

「でもね、貴女ならできるはずよ。
 これまで50機近くのネウロイを撃墜したのは貴女の才能によるもの。
 そして小隊長として実戦を過ごしてきたトゥルーデならそろそろ中隊長を任せてもいいころよ。」

ギュ、と私の両手を握る。
例えるならば我が子に言いかけるように。
 
「だから自信を持ちなさい、トゥルーデならできる。」

前世も合わせればおじさんと言われて可笑しくない精神年齢だけど、
10代半ばの少女にこうして励まされるとはなぁ、ほんとかなわないよ。

でも分ったよ。
そして、

「・・・ありがとう。」
「そう、それでよろしい。任せたわよ。」

その責任をきっかり果たしてみせるよ。
そうでないと『元』男がすたるしな。



「明日の昼には転進するからそれ以降は指揮権は貴女に譲ります。」
「おい、さっき撤退とか言ってなかったか?」
「うふふ、正確には『転進命令』よ。」
「ミーナ、嘘ついたな」
「別に嘘はついてないわ。」




※ ※ ※



視点:ミーナ 1939年

東プロイセンの朝は遅い。
地理的にバルト海にめんして北極圏に近いためである。

季節は冬、ゆえにいつもよりさらに朝日は遅い。
仮設飛行場には白い靄がかかり視界は極めて悪かったが、そんな場所に10名ほどの少女たちが並んでいた。

「頑張ってねトゥ・・いえバルクホルン中尉。」
「ああ、まかせろ。」

ミーナはついプライベートでの呼び名を口にしてしまうが、すぐに直す。

「補給の請求書の書き方は?戦闘報告書の書き方もちゃんとメモしたわよね?」
「ヴィルケ少佐殿、そここまで言われるとまるでお母さんですね。」
「私はまだ10代ですッ!」

対する戦友ことトゥルーデは冗談を口にできるほどリラックスしているらしい。
これは良い傾向だ、こうして余裕を持てる精神状況は指揮官として相応しいあり方だ。
突然、飛行隊の指揮を任されて(本来2~3個中隊だが実態は1個中隊のみ)
なおいつもと変わらぬのは、この子やっぱり器が大きい人なのかしらとミーナは思った。

「失礼いたしました。
 しかし、実際少佐殿は将来いい奥さんになると思いますよ。」

「・・・・・・ッ!!」

からかいが混ざった笑みをトゥルーデは浮かべる。
この場合相手の旦那はあの幼馴染を暗に指している。

感情の抑制は身に付けた交渉術として基本中の基本だがいかせん又動揺してしまった。
自分とあの人との関係が「おでこにキス」する程度の初な関係を知られているせいだ。
それもなぜか「初めから知っていた」ようで過去に眼の前の人物に何度からかわれたことやら。

「いい加減にしないと上官侮辱罪で軍法会議にかけますよ、中尉。」
「おお、怖い怖い」

でも、こうして冗談を言い、からかい合ったりできる関係はすばらしいと思う。
軍隊という組織はどうも冗談が通じない人間が特にわが軍、カールスラント軍には多すぎる。
それを考慮すると彼女は一般的なユーモア精神があって悪くない。

「ねーねー
 その百合の花が咲きそうな会話劇はいいからさ~早く出発しようよ~。」

誰がどこぞの伯爵か!
と突っ込みを心の中でしつつミーナはその声に我にかえる。

「ごほん、ハルトマン少尉
 そうでしたね、そろそろ離陸時刻でしたね、感謝します。」

「あ、そっか。
 ミーナは整備士の『あの人』が好きだから健全だっけ。」

「別に   が・・・あ。」

ユーモア精神があって悪くない、と言ったが前言撤回。
どうして周りの人物はこうも人様を弄ることに情熱をあげる人物が多いのか。

他の子たちはニヤニヤと生温かく見守っている。
離れの格納庫でも今までの会話が聞こえたのか整備士たちが若い整備師をタネに盛り上がっている。

「ハルトマン少尉・・・。」
「ひっ!!?」

ああ、もう今日は朝から厄日だ。




※ ※ ※





視点:バルクホルン 1944年


ああくそ
昼間にあんな事を思い出したから懐かしい夢を見た。

厳しくも楽しかった戦地での思い出。
多くの仲間たちと一緒に人類の敵に立ち向かっていた希望に溢れた日々の欠片を。
ミーナがまだ初でからかうと赤くなったり、エーリカが相変わらず茶化しては怒られたり。
初めて部隊を任されて不安ながらも実は興奮して、皆に祝福されたこと。

そして気付かなかった。
ずっと殺し合いをネウロイとしていたのに
死なんてものは意外と速く来るものということを。

「首がいてぇ・・・。」

戦闘待機所のソファーで寝てしまったようだ。
おかげで首が痛いし背中やらが痛い。
後、喉が渇いたから紅茶かコーヒーはないだろうか。

「はい、よく寝ていたわねどうぞ。」
「んん、どうも」

ミーナか、気がきくな。
熱すぎずほどほどの温度を保つ紅茶。
いいね、喉が渇いた時は温めに限るよ。

「さっきまで同じく寝ていた自分が
 人の事を言えないけど、珍しいわね。貴女、昼過ぎからずっと寝ていたのいよ。」

「そうか?」

マグカップに入った紅茶をグビグビ飲みながら答える。
うむ、だとすると宮藤の訓練を見た後待機所に入ってからずっと寝ていたことになる。
まずった、ネウロイの襲撃に備えて即応体制がモットーなのに寝てしまうとは。

「ミーナすまん、どうやら最近私はたるんでいるようだ。」
「はいはい、次からは気を付けてくださいね大尉。」

ニコニコと応答するミーナ。
相変わらずのお母さん気質である。
姉御肌、ではないな。しつけられる子供の気分と言い。

「でもね、」
「ふが」

ぎゅっ、と頭ごと抱きしめられた。
同性でも脳内物質を刺激する香りがダイレクトに伝わり顔いっぱいに広がる。
今こそ同性だからよかったが、これがもし男性のままなら下半身がエラいことになっただろう。

・・・すこーし、ぱんt、ズボンが湿ってる気がするのは気のせいだろう。

「貴女は優しすぎるし、
 頑張りすぎるからこうして休んでしまうのは無理もないことよ。」

「いやいや、私はちゃんと睡眠を取っているのに寝てしまったのは不注意によるものだ。」

そうだ
三食全てが温食で屋根つきの部屋で寝れるここブリタニア。
1940年代の最前線と比較すれば天国のようなものである。

「違うわ、そういう意味じゃない。」

何が言いたいのか?
肉体的疲労以外のことだろうか?

「忘れることも生き残るための技能。
 『アレ』は貴女のせいじゃない、戦力の移動を判断した上層部よ。」

・・・鋭すぎるぞこの娘。
自分があの事を再度気にしていているのに感づくとは。

「宮藤さん、似ていたわよね。」
「あ、ああ」

ミーナの指摘に頷くほかなかった。
私は妹、今は亡きクリスティアーネ・バルクホルンを宮藤に重ねて見ていた。

一度「忘れる」ことで今日まで生きながらえてきたが
ここでクリスに良く似た宮藤が来たことでクリスを連想させて
部隊壊滅と身内を死なせたのを思い出した私にミーナは危機感を覚えているらしい。

「絶対に、自暴自棄になっては、駄目。」
「そんなの、わかっている」

理性は理解できている、しかたがないと。
けど感情は許さない、お前の責任だと攻め立てる。

あの当時私は感情にゆだね、懲罰的処置を黙って受け入れた。
空から下ろされ、慣れない地上戦では進んで幾度も命を投げ捨てるような真似をしてきた。

「そう、覚えておいて
 もう二度と私の目の前で戦友や知り合いが消えるのはいやだから。」

僅か10センチそこらの距離からミーナは見下ろす。
慈愛に満ちた眼と表情、体が密着して心臓の鼓動が聞こえる。

満たされる感覚、人に飢えていたのかもしれない。
ああ、くそ。この後どういえばいいのかわからない。
苦手だ、こういうのは。

「保証はできないが努力する。」

最低な返事だ。
この馬鹿野郎、いや女郎。
ここは大ボラを噴いてでも安心させるべきなのに。

「まったく、本当に最低な返事ね。」

言葉こそ予想通りだが、
ミーナは何故か先ほどまでの暗い雰囲気がなくなる。

「貴女って人は・・・っと、そろそろ夕食の時間ね。」

壁に掛けられた時計に視線が向く。
釣られて見るとたしかにその時間帯で、外もだいぶ暗くなった。

「暗い話はここで終わり!
 さあ、気分を変えていきましょ。」

スッ、と立ち上がり手を差し出す。
ああ、そうかそういうことね。
食事で間を置き、一度気分を変えろと。

はは、そうだな暗い話や思考はここで区切ろう。
私が抱える物は解決したわけではないけど皆に見せるわけにはいかないし。

「ああ、そうしよう。」
「ええ、そうしましょう。」

彼女の手を握り立ち上がる。

「ミーナ」
「何?」

まだ言ってなかった。

「ありがとう」
「どういたしまして」

ちょっとだけ楽になった、ありがとう。








[27002] 1話 最前線
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/04/21 17:33
視点:バルクホルン

1944年、夏
本日晴天なれども波高し。

今は概要しか覚えていないアニメ版では2期にて料理長と化した主人公、
宮藤がこの基地に来てから僅か一日にしてネウロイが襲撃、これをリネットと共同で撃破するはずだったと思う。

が、どうも来ない。私の思い違いなのだろうか?
だとしたら一分一秒でも休めることは万々歳でむしろ一生来なくてもいいと思う。
こっちから攻め込むのを除いて。

話が逸れた。
む、おいそこ

「そこ!走れ走れ!私のペース以下ならもう一周だ!」
「「は、はい」」

だがここは戦地、所属する組織はローティーンの女の子だらけでも軍隊という暴力装置。
現在太陽の熱をたっぷり直に反射してくる滑走路で楽しい楽しいランニングを行っている。

魔法を操る魔女が体力増強訓練をする。
一見意味のないように見えるが実の所精神力と体力はかなり関係している。

体力があれば戦闘時のスタミナがあり、戦意が長く続く。
戦意、すなわち魔法の源とも言える精神そのものでこうした訓練は理論上合っている。

まあ、蛇足ながら魔法自体現在でも正確には分らない所だらけで、
あの現在私の上官の熱血サムライが抱く根性論でも通用してしまう場合があるが。

「ひゃん!!」

リネットがこけたか、
何時もの私なら優しく手を差し出すが生憎今は鬼軍曹ならぬ‘鬼大尉”だ。
恨みたければ恨めばいいさ。

「さあ、立て!立つんだ!ビショップ軍曹!
 この程度で根を上げてネウロイが許しても私が許さん!走れ!走れー!!」

「ひゃ、ひゃい・・・。」

腕を掴み無理やり立たせる。
口から出る言葉は息も絶えだえで、呂律が回らない。
合わさった視線、彼女の眼は「この鬼が、」とかなり恨みがこもった眼で訴えている。
懐かしい、自分の生徒時代もきっとこんな感じであったのだろう。

ああ、くそ。
にしても暑い、暑すぎるぞ今日は。
魔法繊維でできた制服は、汗を発汗させるというが背中に張り付いて気持ちが悪い。
パン・・ズボンはスパッツを履いているからこちらも少々蒸れて変な気分だ。
パンツじゃなくても恥ずかしいものは恥ずかしいのでこうしてるが・・・いっそ原作通りパンモロの方がいいか?
そっちの方がスースーして涼しそうだしな。

「ぶ―――。」

前言撤回。
リネットが転んだせいで汗を吸ったズボンが肌に張り付きエライことになっとる。
後ろから見ると、うっすら白人系の健康そうな十代半ばの乙女の肌が見える。
・・・見てないフリをしておこう、指摘するとかえって注目を浴びる。

「さあ、ラストだラスト!もう一息だぞ!!」



※ ※ ※



視点:エイラ

少々暑いが、いい天気だ。
故郷ならこんなに晴れた日はめったにないからいいものだ。

エイラ・イルマタル・ユーティライネンは滑走路の脇に座り込みそう思った。
彼女の故郷、スオムスは北極圏に近く、こうした太陽の恵みは他国の人間以上にありがたみを感じている。

「ア~~~。」

だらしなく青空に口を開けて声を出す。
顔が上に向いたから自慢の長い銀髪が泳ぎ、風に揺られ太陽の光に反射する。
『黙っていれば』美人と、どこぞの大尉が評したが今の彼女はそれ以上に美しく見え、一枚の絵となっていた。

が、エイラは思う、暇だ。
この時間帯の予定は戦闘待機だから部屋に戻ることもできない。
などなどと酷く現実的な問題に思考を働かせ、ただぼんやりとしているだけであった。

「・・・!!!・・・!!?」

目線を滑走路の先の方に動かす。
今日の教官は坂本少佐でなくカールスラントの大尉の方のようでヒヨッ子たちはコッテリ絞られている。
あの大尉は少佐といいずいぶん張り切っていると見える、掛け声が僅かながらここまで聞こえる。

「張り切りすぎなんだよな~。もうちょっとゆっくりすればいいの。」

常にマイペースなスオムスのエースは呟く、
通常新兵を使い物にするには最低3カ月は掛ると言われている。
対して宮藤芳佳やリネット・ビショップが受ける訓練は明らかにすぐにでも実戦に出す勢いだ。

まあ、ここは最前線、一刻も早く一人前にしなければ即座に
ヴァルハラへと昇天することになってしまうからしょうがないかもしれない。

「・・・・・・。」

することもなく、ぼうっと訓練の様子を観察する。
周回が終わりそうで白いセーラー服、サマーセーター、そして灰色の制服がこちらへ接近する。
ふと、もし彼女たちがサーニャの立ち位置だったらどうなのかエイラは考えた。

最初に新入り、宮藤。
サーニャとまた違う形で小さくまとまっている。
ただ、まだあまり話したことがないからサーニャとの立ち位置を変換するにどうも想像しにくい。
よくわからない、なんだか趣味で話が合いそうなシンパシーを感じはするが。

次にリーネ。
歳の割に素晴らしいボディ、そして弄りの対象として最高だが、
彼女をサーニャの立ち位置には変換しても違和感が残る、うん、ムリダナ。
けど、姉貴分として世話を見るのも悪くないかなとエイラは思った。

最後に大尉。
上官、ということもありそんな守られる立場にいるのが全く想像できない。
しかも年上で、ましてや顔を赤らめて「エイラ・・・」なんて甘えるシーンなんて起こり得ない。
あっちは容赦なく弄ってくるわ自分を妹みたいに扱って来るし。

「・・・うん、やっぱムリダナ。」

結局サーニャ以外サーニャとなり得ないわけだ。

「何が、だ?」
「おわ!お、終わったのかよ!」

上から覗くバルクホルンにエイラが驚く。
思考の海にせいで彼女たちの訓練が終わったことに気づいていなかったらしい。
首を傾げる上官をよそにへたれな北欧少女は無駄に心臓を鼓動させる。

「大方サーニャ―サーニャ―と、
 にゃーにゃーと考えていたのだろ、このヘタレ百合が。」

「何だよ!猫かよわたしは!ヘタレってなんだよ!!」

「安心しろ、皆知っている。
 おまえがサーニャが大好きで、百合なのは承知しているからさっさと告白しろ。」

エイラの白い肌がちょっとだけ赤らめてきたのが分る。
告白、という単語に反応していしまい反論する言葉がでず、言葉が詰まる。

「おおう、
 そうなんだーそうなんだー。
 いいねーわかい子はー。青春だねー。」

くそう、苦手だ。
カールスラント軍人のクセに人を弄るのを楽しみやがって。
そうエイラはそう思い、なんとかこれ以上弄られるのを避けるべく単語を選択してたがどうもその必要はなくなった。


警報


「ちっ・・・今日は来ないかと思っていたがそうでもない、か。」

忌々しげに赤く光る警報ランプを睨みバルクホルンは愚痴をこぼした。



※ ※ ※



視点:ミーナ

欧州大陸よりネウロイ襲来、この報告は別に珍しくもなんともない。
欧州が陥落して以来、欧州圏では島国であるブリタニアが最後の防波堤としての役割を担っている。

ネウロイは海や河といった地形に弱く、空を飛ぶタイプを除けば進行は限られる。
だから大抵わざわざ海を渡ってでも来るのは単騎で大型の奴か、少数の編隊を組んだ小型と相場は決まっている。
最短距離を目指すならドーバー海峡を渡らざるを得ず、その時は自分たちの出番だ。

だが、だ

「ネウロイハ2機ノミ・・・。」

ロンドンの防空司令所から送られた電文を淡々と読み上げる。

「機影ハキワメテ人型ニ似テイルト思ワレル、注意サレタシ。」

人型
その単語にミーナは悪い予感にとらわれる。
だいぶ前、スオムスにてウィッチを模したネウロイが出現したことはロンドンに行った際、
その現場に居合わせ、交戦したというビューリング大尉から直接聞いた。

だからただ人の形をしたネウロイには驚きはしない。
問題はなぜでノコノコとブリタニアに来るその意図が読めないということ。

さらに―――。

「ミーナ!敵の情報を教えてくれ!」

指揮卓に置いてある隊内電話が鳴り響き、受話器を取るとトゥルーデの声が聞こえた。
声のほかに爆音が鳴り響き、どうやらすでに格納庫でユニットを吹かしているようだ。

「人員は?」
『私、イェーガ、フランチェスカ、ユーティライネンが今ユニットを履いている。』
「坂本少佐は?」
『どうも、離れで鍛錬していたらしく、遅れるとか。』

舌打ちをしたくなる衝動を抑える。
かわりにミーナは指で指揮卓を軽く鳴らし思考を展開する。
トゥルーデは大戦初期から、しかも扶桑海事変にも参加している超ベテラン、遅れを取ることはない。
加えて彼女の固有魔法は「バロールの眼」と称される神話クラスの最強の魔眼を保有している。

そう、問題はない。
ないのだが、

「ブリック東114地区、高度は約6000、2機よ。」
「種類は?」
「極めて人型に似ている、と司令部は連絡してきたわ。」

人型、それで息を飲んだ気配をミーナは感じとった。

『誤報、ということはないよな?』
「続報はないから、今はそうだと認識して。」


―――さらにはもしやあの時、戦友にして友である人が破滅するに一役を買った奴だとすると。


『了解した、これより
 イェーガ、フランチェスカ、ユーティライネンの4名で当該戦区へ出撃、敵対勢力を撃破する。』

「よろしい、出撃しないさい。」

命令を下し受話器を置く。
後は彼女たちの働きようを信じるしかない。

ミーナは思う、
人型ネウロイはトゥルーデにとってトラウマそのもの、部下、肉親を殺した存在。メンタル面で不安が残る。
彼女を外し美緒、あるいはシャーリーに任せてしまう、という手もなくはないがそんな時間はない。
指揮官として一分一秒を争うこの場面でそういうことはできないのだ。

「・・・ほんと、ままならないものね。」

窓の外の青空にのびる4本の飛行機雲を見て呟く。
どうにもならない現状にミーナは現実への達観といらだちを覚えた。



※ ※ ※



視点:バルクホルン

人型ネウロイ
<原作>の小説版でいらん子中隊のメンバーに化けて人類に牙を剥いた。
アニメ版では1期、2期に登場して一体何をしたかったのか分らぬまま2期の最初でネウロイに攻撃されて消滅。
結局人型の姿をとった上で宮藤にネウロイの巣に案内した核心的理由が終ぞ判明しなかった。

なぜこの時期に現れたかは不明、
確実に言えることは私にとっては仇打ちの機会かもしれない、ということだ。
故郷、カイザーベルク(ケーニヒスベルク)で絶望的数のネウロイと共に奴は私の前に現れ、妹を殺した。

「・・・・・・。」

手に持つMGの感触がいつもと違う。
少し発汗、重量感もいやに重く感じる。
元の世界では描写されなかったが、弾を詰め込んだ肩掛けバック、首に掛けた望遠鏡も一段と肩に食い込む。
足に履いたストライカーユニットだけは変わらず空気中のエーテルをかき回し、轟音を空にに響かせる。

『バルクホルン大尉!』
「み・・中佐?」

耳にさしたインカムからミーナの声。

『追加命令と追加情報です。
 まず司令部より可能なら捕獲せよ、次に新たな人型ネウロイが2機同じ地区に出現とのことです。』

「は・・・?」

増えただと、それだけはいい。
だがだ、捕まえろなんてむちゃ言うな。
時速数百キロの速度で三次元機動する物体を捕まえろとか。

『あくまで「可能なら」という条件なのでバルクホルン大尉の好きにしてもかまいません。』

あ、なるほど。
「そのまま撃墜してもかまわない。」という選択の猶予が存在するのか。
ならば遠慮する必要性はなくなった。

「了解しました、中佐殿。」
『無茶はしないでね。』

そう言って通信が切れた。

ミーナとのやり取りをしている間に目的地に随分近付いたハズ。
無意識に、私の魔力の鼓動とエンジンの鼓動が上がったのを感覚的に捉える、我ながら緊張しているようだ。

「大尉ー!」

爆音ゆえにインカムで捉えた音声であるが反応的に顔を正面に向ける。
声の主は、ルッキーニか。

「る、フランチェスカ少尉、何か見つけたか?」
「うん!11時方向の下に一瞬キラッ、て赤く光ったよ。」

前衛に位置するルッキーニからの報告に見えない緊張感が私たちにに走る。
魔力がもたらすいくつかの加護の中でも、視力強化でずば抜けて高い成績を誇るルッキーニが言った内容はただ一つ。
敵がいると思われる、それだけだ。

「数は?」
「わからない・・・うーん、たぶん2つぐらい。」

曖昧な答えを聞き流しつつ指揮官用の望遠鏡をおもむろに覗く。
雲に阻まれたが、映ったのは米粒ほどの大きさの、人の形をした黒い物体が4つ。

情報が正しければ人型ネウロイだと、思う。
片手で収まる程度の望遠鏡だから何とも言えない。
基地のデーターで識別してもらおう。

「こちら、バルクホルン。聞こえますか?
 ただいまネウロイと思しき勢力に接触、識別をお願いします。」

『こちら501司令、
 こちらからの確認では敵だと思われます、ただちに攻撃を。』

「了解、識別感謝する」

『こちらも・・・ザ、・・あ、z――t、けい―――。』

くそ、こういうことか!?
無線妨害自体は珍しくないがこのタイミングで来るのが明らかに変だ。
となると、眼前の人型ネウロイは囮で、本命は原作と同じ基地。
畜生、朝来なかったから来ないと思い込んでいた自分が憎い。

「大尉!」

今度はシャーリーから余裕がなさそうな通信。
やられたのは長距離無線の周波なので近距離のはまだ通じる。

「言わなくても分っている。
 全機、安全装置解除。命令は見敵必殺!繰り返す、見敵必殺。突撃せよ!」

各自がMGの安全装置を解除し、
巡航速度から最大戦速へ切り替え眼下の敵にめがけて一斉に突撃。
シャーリーとルッキーニ、私とエイラで組んだペアごとに一刻も早くネウロイを倒さんと競う。

小型の奴に魔眼を使うのは負担的に躊躇したいが
基地が襲撃されているのを考慮すると時間がない、やるしかないのだ。

「ッ・・・!!」

脳内でチャンネルを変換するイメージを組み立てる。
幻想という歯車が現実とかみ合い連動、瞳に映る視界が徐々に変化してゆく。
魔法で強化された視力以外の能力、点と線でできた死の世界が具現化。

『固有魔法、バロールの眼、』

あるいは直死の魔眼といった方が分りやすいだろう。
通常の輪廻から外れ異世界転生という例外中の例外の事例ゆえに得た私だけの能力。

最初、一度は中2的にあこがれた能力を得て年相応に喜び興奮したのはもう10年以上前だ。
が、途中でなぜ元となった創作上の人物たちがこの眼を潰そうとした気持ちが理解してしまった。
なぜか?単純に人の器には合わない、合ってはならないのだ。

幾分人の常識から外れる魔女でも『死を認識できる』能力は精神的負担が大きすぎる。
ましてや私は物語の主人公たちのように頑丈な精神構造はない。あるのはSAN値直葬。
結果無邪気に喜んだのはほんの10秒で後は醜くもがき苦しみ、無様に自滅しそうだった。

顔は分らない老人に助けられなければ。

「う、ぐ・・・。」

回想に浸っていた所でシャーリーのうめき声に意識は現実へ。
原因は大方標的が人の形をしてるので擬似的に人間を殺すと思い込んでしまっだろう。

「おい、なんだよアレ。」

地上ではヘタレでも戦闘ではクールなエイラの戸惑い。
妙だ、シャーリーはともかくこの北欧のエースは冬戦争からの超ベテランが戸惑うとは。

私は改めて目標を視界に入れる。
米粒ほどの大きさだったネウロイは今や細部まではっきり見える大きさだ。
4つ、人の形をした人類の敵。どれも全体的に黒く、金属質のボディと蠢動する赤い肉質・・・・・は?

「ねえ・・・シャーリー、アレはもしかして。」
「言うな、ルッキーニ!!」

人型ネウロイが4体、それはそれで予想外だがまだいい。
問題は明らかにブリタニアのウィッチ所属のカーキ色の制服と蠢く赤い肉片がネウロイの黒と混ざっている点。

「ウィッチの、死体を・・・利用している。」

エイラが代表して皆の考えを言った。
考えてみれば<原作>でも洗脳なんて手段で人を乗っ取るの芸当ができたならば、死体を利用するのも可笑しくない。
命名はネウロイならぬネクロモーフとつけるべきか?

「・・・こちらバルクホルンだ。
 皆、アレを見て言いたいは私も全力で同意だ。」

アレらは39年に出会ったのではない。
能力も未知、どんなことをしてくるか不明。
断定できるのはともかく厳しい戦いになるということ。

「だが、ここは最前線。ウィッチとして、軍人として義務を果たせ!!」

彼女たちに呼びかけるが実のとこ、自分自身に言いかける。
私でも正気を保つに限界がある。

「奴らを殺せ!!」

ここは最前線。
殺さねば殺される、それが真実。



※※※※

作者です
急に寒くなって風邪ひいた作者です。

さて、本編を再構成するのに唯のネウロイじゃ物足りないので弄りました。
小説版で洗脳したからこのくらいできなくね?そう考えて死体再利用のオリジナルネウロイを投下。
突っ込みどころ満載なのは承知でシリアス度を本編より高めにしたいと思います。

さすがに501で死人は出す気はないけど・・・。



[27002] 2話 501統合戦闘航空団の戦い
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/05/01 21:16
視点:バルクホルン

照準にたっぷり収まる距離まで詰めてから一斉に射撃開始。
ネウロイは直前になってようやくこちらの攻撃に気付いたが、遅い。

4人の魔女と4人のネウロイが交差する寸前。
何度も何度も繰り返してきた動作、MG42の引き金を引く。
マズルフラッシュに肩に強い反動、発射音の爆音が耳に聞こえる。

人型ネウロイ、いやこの場合ウィッチ・ネウロイ。
それとも前世で鑑賞した某ゲームと同じくNecro(人間の死体)を Morph(変質)させたからネクロモーフと命名すべきか。
7.92ミリ弾が当たる瞬間、彼女は血どろみな顔を私に向けていた。

驚きも恐怖も喜びもない表情、感情がまったくない。
あれは正確にいえば実験動物のモルモットに対する眼で私を見ていたのだろう。
興味深い観察対象として。

彼女の上から降り注いだ私の7.92ミリ弾が背中に斜めから突き刺さる。
『直死の魔眼』が捉えた寿命そのもの、生命の根源を示す『点』に着弾。
生命の存在を壊されたかつて祖国を守る使命感に燃えていただろう少女は灰となってその場で消えた。

撃墜記録更新。
交差してから再度攻撃態勢に映るべく緩やかに旋回しつつ上昇。
首を後ろに回して戦果確認。予想なら教本通りの理想的奇襲を受けて無傷で済まない。
まして501は各国から集められた精鋭、瞬時にケリがつく。

「大尉、あいつら落とせてないぞ」

インカムからエイラの音声。
馬鹿な、と問う前に確認。たしかにそうだった。
敵は4機中半分が生存、エイラの口ぶりから私とエイラしか当たらなかったようだ。
しかも、シャーリー、ルッキーニペアは追われている側になっている。
くそ、撃ったが見た目が人だからハズしてしまった口か。

「何をしている!早く離脱して次の攻撃を実行しろ!」
「わ、わかっている、わかってるって」

叱責するが反応はよろしくない。
マズイ、シャーリーが心理的に追い込まれている。

「ひ、こ、来ないで!」
「落ち着け、落ち着くんだルッキーニ!」

エイラも呼びかけるが駄目だ、ルッキーニも恐怖に飲み込まれている。
あの高速コンビが普通なら問題ないがあんなもん相手だからッ・・・ええい!

「私についてこいエイラ!」
「了解!」

やるべき事は簡単、こっちが撃ち落とすだけだ。

「ほろほら、こっちこっち~。」
「さあ、こいこい。」

エイラ、私が挑発するようにネウロイの後ろから当たるか当たらないかの距離で発砲。
追いかけている自分が逆に狩られる側に転落したのを分りすぐに乗ってくれた。

縦回転で方位転換、私たちの正面に。
ははん、ヘッドオンで仕留めたいのか。
お互い正面から撃ちあい衝突に相打ちも起こりうる危険な戦闘。
訓練学校なら零点確実、まともな魔女は自分がやられる可能性にわざわざ賭けない。
 
でも残念。唯の魔女ならば、だ。
こういうのにも慣れた私に、未来予知で弾を避けるエイラ。
相性が悪いことこの上ないのだ。

「・・・・・・!」

グングン接近する。
先手を打たれ何発か前面に張ったシールドに着弾して火花が散る。
しかし大丈夫、撃つのが早すぎるからシールドを張る余裕があり脅威でない。
死体の元の人物をコピーした戦闘力とすると新兵だったと判断できる。

「終わりだ」

コンマ数秒、絶対当たる最高の距離。
足を強引に動かし真横に機動、視界はネウロイの横で上下逆さまに変化。
横から撃ち放題ということになった。

「――――――。」

ネウロイはそんな私に表情がない面で視線で追っていただけだった。
見られる、否視姦される気分。じっと不気味に興味深いモルモットとして観察する死んだ魚のような眼。
グロテスクな肉塊とメタリックボディ、生前の制服が混ざり人間に嫌悪感しか湧かない姿。

気持ち悪い、不気味だ、不愉快だ、今すぐ殺したい。
魔眼が捉えた映像情報から分析もしたくない。

発砲

吐き出された弾丸は無慈悲に上半身をミンチにし、慣性と重力にしたがい落下してゆく。
本日2体、人の形をしたのを殺したけど何の感情も浮かばなかった。

「状況報告」
「こちらエイラ、こっちも撃ち落とした。」
「シャーリーだ、その、あの・・・。」
「・・・大尉のおかげで助かったよ。」

エイラは変わらぬが凸凹コンビの弱弱しい対応。
刺激が強すぎたよな、あれは・・・。

おっと、周囲を確認。
敵影確認できず、つまりは戦闘終了。
ジャッキーニコンビも合流しつつある、後は送りオオカミを警戒しつつ基地の戦闘に参加するだけ。

「言いたいことは帰ってからだ、
 基地の戦闘に参加する。全員、最大戦速で行くぞ。」

返事を待たずに基地の方角に向けて魔道エンジンを吹かす。
後から残りの3人も色んな返事を返しつつ、ついてゆく。

「うん?」

ふと見られている気配を探知。
警戒心を最大に。視線をあちこち回すが見当たらない、襲ってこない。
さっきまで戦闘ゆえに気が立っていたのかもしれん。

さて、行こう。
501の皆のために。



※※※



視点:ミーナ

バルクホルンの部隊が敵と接触した直後レーダーが使用不能に。
続けて管制塔(時に501では司令塔とも呼ぶ)に設置してある固定電話にロンドンの司令部からの通報が入る。

曰く、哨戒艇が超低空でこの基地に向かっているネウロイを発見。ただちに迎撃せよ。

バルクホルンが向かったのは囮、本命はこの基地とは!
ミーナはネウロイの狡猾さに舌を巻くと同時に自分の判断ミスを責める。

しかし、そう落ちこむ暇はない。
格納庫にいるだろう美緒に連絡しなくては。

「美緒、いいえ。
 坂本少佐、わたしもでますから基地に残った全員を率いてただちに出撃しなさい。」

『了解した!
 ところで宮藤とリーネはどうする?』

「それは・・・。」

リーネは精神的に不安定な所が残り初陣でいきなりニ階級特進(要は戦死)になるだろう。
宮藤に至っては飛行時間は10時間も達していないヒヨ子のヒヨ子、戦力としてカウントするわけにはいかない。
ゆえに結論は決まっている。

「2人は出しません、基地で待機してもらいます。」

『いや、それが。なんだ。
 2人ともユニットを履いて一緒に出ようとしているんだが。』

「・・・・・・。」

ミーナは考える。
宮藤は分る、戦意の面では歴戦のウィッチ並みで初飛行にも関わらずネウロイと戦えた。
だが、リーネは違う。ここ501に来てからずっと委縮したままで、こうして進んで出撃するのは今日までなかった。
どういうことだ?

『実はな、宮藤が
「私たちが半人前なら2人合わせて一人前です!」というわけだ。はっはっはっは!』

こっちの心境でも読んだのか原因を言ってくれた。
なんか色々省力されてるがまあ、いい。主題のリーネがいい方向へ成長したのはたしかであるし。
予備兵力として運営できて戦術の幅が広がる。もしかすると使えるのかもしれない。
新たな結論をミーナは回答する。

「宮藤さん、リーネさんは予備兵力として運営します。
 攻撃は私、坂本少佐、エーリカ、ペリーヌさんでします・・・サーニャさんは魔力切れだから以上の4人ね。」

大型ネウロイに4人は少しばかりきつい。
トゥルーデが居ればそれだけで済むがいない時はせめて攻撃で6人は欲しい。
でもどんなに要求しようが、ないものはない。現場の創意工夫で何とかするしかないのだ。

『ミーナ、安心しろ。
 宮藤たちに頼らざる場面を作り出す毛頭はない。
 ミーナがいればきっとうまくいく、今日もさっさと終わらせて見せるさ。』

ネガティブな方へ思考がそれた所で美緒のフォロー。
毎度はこんな気の利いたことはできない、鈍感ジゴロ侍の突然のフォローでミーナの胸の鼓動が早まる。

「美緒・・・。」

『む、回転数が離陸可能まで上がったか。
 じゃあ先に行ってくる、ミーナも遅れるなよ!』

「え、あの、ちょ。」

やはり鈍感ジゴロ侍のままであった。
返事を聞かずに行こうとする。

『兎も角、
 最近はデスクワークが多くてあれか?体重が増えて・・・。』

「馬鹿!知りませんッ!!!」

ブチッ!と力強く無線のスイッチを消す。
静けさが部屋を支配し、ミーナは今すぐ行かなくてならないのは知ってはいるが。
ため息と愚痴を零さずにはいられなかった。

「これだから、扶桑の魔女は・・・。」

叶わぬ想いと振り回される自分にミーナはため息をついた。



※ ※ ※


視点:リーネ

いつだろうか、姉にあこがれて魔女として軍に志願したのは。
そうだ、バトル・オブ・ブリタニア。欧州最後の防波堤としてブリタニア連邦の孤独な戦いが始まった時だ。
欧州大陸と同じくネウロイに明日にでも蹂躙されると日々不安な生活、空襲警報に怯え防空壕に隠れる日常。

灯火統制のため街は光を失い、物資は配給制へと移行。
身の回りの鉄は軍に供給され、歩けど歩けどカーキー色の兵士ばかり行きかう首都ロンドン。

そんな中、自分はただじっとしていることしかできなかった。
爆弾がが近所に落ちたら学校で反復練習した動作で隠れるほかしない。
いつも周りの人間はリネット・ビショップを優しいとか、いい子とか評価するが知っている。
臆病で引っ込み思案、常に自信が持てないちっぽけな存在だと。

嫌いだった、リネット・ビショップという己が嫌いだった。

自己嫌悪、けど変わろうとせず。
周囲に『いい子』として評価されていることに甘え、変わることを拒んだ。
ただ、当たり前に良家の子女らしく大人しい子として一生を終える以外見ようともしなかった。

変化したのは姉が天空を自由に飛ぶ姿を見てからだ。

家族は魔女の一族としてそこそこ有名で、
母親は第一次ネウロイ大戦で活躍した有名な魔女であったのは知っていた。
しかし空を飛ぶ所は見たことがなく、どんなものか知らなかった。

姉のあの姿は羨ましかった。

まるで天使。
まるで鳥のごとく空を駆ける。
どこまでも、どこまでも高く舞い上がる。

あれになりたい。

初めてだった。
大人の言う事にただ従っているのでなく、成りたい自分に成りたい、と願ったことが。

それからだ、
ほどなくして進学を断りウィッチの訓練学校に進んだのは。
学校生活は軍人になることが前提だったから規律と祖国の忠誠が特に叩きこまれた。
厳しい罰則に厳しい訓練、辛い日々であったが心は満たされていた。

自分から選んだ選択なら何だって耐えて見せる。

何かに変われる自分を信じた。
何かに変わろうとしていた。

訓練学校を卒業して、すぐにここ第501統合戦闘航空団へと配属が決定。
ブリタニアの戦いが火蓋を切った当初から各国のエースを集めた精鋭部隊として有名で聞いた時はしばし驚愕。
顔見知りから祝いの言葉と案ずる声、どれも聞こえない。
自分の実力が認められた嬉しさのあまり何も聞こえなかった。


自惚れだと理解したのはそう時間は掛らなかった。


圧倒的な実力、存在。
比べるのも馬鹿らしいほど両者には溝があるとしか言わざるを得ない。
何より致命的だったのは実戦でまったく訓練で習ったのができなかった。

何度かの捜敵任務で一度もネウロイに遭遇することなく終わったが。
飛行中幾度も緊張、委縮、プレッシャーでバランスを崩し掩機の足を引っ張り。
何もない場所にライフルを誤って撃つ。

「当分、リーネさんは基地で訓練ね。」

帰還後ミーナ中佐にそう述べられる。
瞳は優しさと『しかたがない』という達観が混ざったもの。

悔しかった。
けど、どうしようもない。
所詮自分はこの程度なのだという諦めが心を支配。
鬱屈した感情が溜まり続けて、

宮藤芳佳が現れた。



※ ※ ※



視点:ミーナ

あれから約10分、
最後にレーダーが捉えた情報と哨戒艇、
監視塔等から得た追加情報を元にネウロイを捜索していたがついに見つける。

「見えた、真正面だ!」

先頭を飛ぶ魔眼を発動した坂本少佐が叫ぶ。
彼女が捉えた視界情報は遥か彼方の水平線で水しぶきを上げつつ突き進む<原作>と同じネウロイ。

「坂本少佐、ハルトマン中尉、ペリーヌさんはわたしと共に直ちに攻撃にうつりなさい。」

了解、と短く3つ了承の声。

「リネットさん、宮藤さんはここでバックアップをお願いね。」
「はい」「はい!」

新人2人はその場で空中待機に移る。
自然、攻撃組は彼女たちを引き離してゆく。ミーナは首を後ろに回し、遠くに離れてゆく年下たちを見る。

幼さが目立つまだ14歳、それとも一人前の乙女ですでに14歳か。
自分もかつてその年に実戦に参加したが願わくは、彼女たちが引き金を指にする事態にならないことを。

「ミーナ、奴は早いぞ、射程距離にすぐ入る!」

美緒の声に反応、視線を前に戻す。
たしかに速い、しかも低すぎて下からという攻撃の選択肢が阻まれる。
素人的には一見上から打ち放題と解釈可能だがネウロイからすれば攻撃される範囲が事前に知られる。

おまけに超低空、被弾して墜落するさいに仲間に助けられる前に海面に叩きつけられるだろう。
保護魔法があるので衝撃は緩和するがそれでも御免こうむりたい。

「わかってるわ・・・今よ、攻撃開始!」

ミーナの命令一言で4丁のMGから出た鉄の雨をネウロイに降らせる。
例え命中率が全員低くても理論上数撃てば当たる。そして彼女たちはエース、ただのネウロイならば瞬殺されるだろう。

「速いっ・・・速すぎる・・・!!」

美緒、いや坂本少佐の歯ぎしり混じりの通信。
やや遠めとはいえ相対速度が今まで以上に速くてなかなか当たらないのだ。

ミーナは基本戦術である一撃離脱は速度差で無理と判断。
代案を考える。結論、相対速度を零にして張りつく他ない。

「後方に張り付きます、わたしに速度を合わせてください!」
『了解!』『わかりましたわ!』『わかった!』

4つの飛行機雲が海面に向かってカーブする。
超低空での急降下に近いカーブ。さすがベテラン、新人なら海面へぶつけていただろう。
ネウロイからの攻撃はない。毎度の嫌になる量の光線は見なくてすむそうだ。

「当たりなさい・・・!!」

ペリーヌの叫びが合図となって7.92ミリ弾×3と12.7ミリ弾×1で構成された鉄の暴風が再度出現。
海面に無数の水柱が立ち、ネウロイはたまらず回避機動をしようとして速度が僅かに下がる。
そんな絶好の機会をストライクウィッチーズのメンバーは見逃すはずもなく、たちまち命中弾を与える。

後部の推進機関と思しき場所とコアがあった場所に着弾してコアが露出。
明らかに速度が低下して駄目押しとばかりにコアに再び着弾、動きが鈍る。
残り一歩だ、いける。そう誰もが勝利の女神を確信したが。

「分離した!?」

エーリカが驚きの声を上げる。
経験したことがない、まさかトカゲの尻尾切りをネウロイがするなど誰もが想像できなかった。

ネウロイは急激に加速、離脱にうつる。
ウィッチーズは逃がしてたまるかと、切り離した後部を避けてから食らいつくが徐々に離されてゆく。
最大戦速を以てとしてもだ。

「っ・・・なんて速さですの!?」

目測で時速700キロは超えると思われる。
スピード狂のシャーリーでなければ到底追いつけない。
けど彼女はここにはいない。

「くそ・・・宮藤!」

美緒の焦りと自己への叱咤。
ネウロイを防げる物はもう宮藤とリネットのみ。
2人に任せる事態を招くつもりはなかったのも関わらずこのザマにやるせない怒りをぶちまける。

「宮藤さん、リーネさん、お願い。ネウロイがそちらに向かっているわ・・・。」

その怒りについてはミーナも同様で密かに唇を噛み、己の不甲斐なさを攻め立てる。
いっそ連れて来なければ予備がある、と心のたるみができずこの手でネウロイを落としていたのかもしれない。

そう思ったがすぐにミーナは頭を振る。
既に戻りようもない過去に執着して状況が変わるのか?
違うだろ、ミーナ・ディートリンゲ・ヴィルケ。

「いつだって、『こんなはずではなかったのに。』ってばかり、ね。」

ミーナは一人自虐のセリフを吐いた。




※※※※

何とか今週中に投稿できた。
けどエーリカの誕生日には間に合わなかったという・・・。

ちくしょうめぇぇぇぇえ(総統閣下ふうに)

さて、みなさんン。話の流れは分りますよね?
よく自分は伝えたい内容がわかるけど人にはわからんという事がリアルであるので聞きます。

お願いします。


追伸;今日は眠いので感想返し、修正は後でします。



[27002] 3話 501統合戦闘航空団の戦い-Ⅱ
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/05/01 21:13

視点:リーネ ネウロイ襲撃直後

訓練が終わった直後警報が響いた。
けたたましく鳴るサイレン、赤く光る警報ランプが格納庫を支配する。
バルクホルン大尉の怒鳴り声共に真っ先にユニットを履き、すぐに整備員が駆け寄り出撃準備に取り掛かる。
近くにいたシャーリー、ルッキーニ、エイラも真剣な表情でストライカーユニットに走り寄る。

人間の声、機械が作り出す音。
格納庫の色彩に変化を与え続けるランプの色。
それらは全てストライクウィッチーズが人類のために出撃しようとしている証しだ。

怖い、怖くてたまらない。

頭を押さえて縮こまりたくなる。
じっとその場で眼をつむり嵐が過ぎ去るのを待ち続けたい。
その光景を見てリネットはそう思った。

『了解した、これより
 イェーガ、フランチェスカ、ユーティライネンの4名で当該戦区へ出撃、敵対勢力を撃破する。』

射出台で肩耳を押さえ勇ましく言葉を述べるバルクホルン大尉。
自分よりずっとずっと強く、勇ましく、揺るがない人。

妬ましくて羨ましい。
対して自分はと言えばこの体たらく。

泣きたくなる、怖くて怖くて。
泣きたくなる、自分の不甲斐なさと変わろうとしないのに。

「リーネさん!」

後ろから声をかけられる。
リネットは反射的に体を半分回して声の主の人物を眼に入れる。

宮藤芳佳だ。

「あのね、リーネさん。
 わたしたちも何かできる事があるかもしれないから一緒にここにいようよ。」

初めて体験するスクランブルでやや戸惑いを感じられる。
しかしその中身は、心にには戸惑いが存在しない。
何故か?それは彼女は真っすぐ純粋な、迷いのない瞳をしていたからだ。

嫉妬

「どうせ、自分なんて足手まといだから何もできませんし・・・。」

「そんなことないよ!
 わたしやリーネさんだってもしかしたら必要とされる時が来るって!」

毎度の決め台詞を言うが反論された。

「初めから、諦めたら何もかも終わりだよリーネさん!」

リーネは思う。
ああ、なんでこの子はそうなのだろうか。
昨日の夜も思ったががなんで諦めないで頑張れるのだろうか。

妬ましい

「さすが宮藤さんですね、訓練もなしにいきなり飛べた人は言う事が違うよね。」

自然と嫌味がリネットの口から出た。
もし言われた相手が普通の人なら相手を気遣い。適当にその場の話題を逸らし、分れただろう。

「そんなこと・・・。」

「ほんとっ!!宮藤さんは羨ましいよね!!!
 わたしが何日も何カ月も訓練をしてやっと飛べたのに宮藤さんはそれを無視する。
 おまけにネウロイと戦えたなんて宮藤さんはすごいよね、尊敬しちゃうし羨ましく妬ましいよッ!!!」

嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬。

同じ新人にも関わらず自分の眼前でできないことをやってのけた。
他の隊員なら「ベテランだから仕方がない」と諦めがつくが宮藤は同じどころかむしろ自分よりも後輩。

唯でさえ、劣等感に悩まされていた時に、
彼女が来てから溜まりに溜まった鬱憤が一挙に爆発した。
その気迫は同年代の少女たちなら怯んでしまうだろう。

だがだ、相手である宮藤芳佳はその程度で怯まない。
彼女はとても頑固で真っすぐで、自分が信ずる道を往く子だから。

「・・・そうだよ、わたしは皆と違ってすぐに飛べた。」

一拍

「でも、ちゃんと飛べないし魔法はヘタッぴで叱られてばっかりで、銃だって碌に使えない。」

何を言う。
リーネは反感の感情を覚える。
噴きだした鬱憤のせいで今日は口が軽く、また言葉を綴ろうとしたが。

「ネウロイとは本当は戦いたくない。
 赤城を守るために飛んだ時はすっごく怖かった。でも、わたしはウッィチーズにいたい。」

「・・・・・・。」

不思議と徐々に腹に溜まった黒い感情が抜けてゆく感触をリーネは感じる。
引きこまれてゆく、宮藤芳佳の言葉に引きこまれてゆく。

「わたしが持つ魔法で誰かを救えるのなら、
 何か出来る事があるならやりたいの・・・。」

宮藤はリーネの手を握る。
さながら慈母あるいは聖女、優しく温かい体温が伝わる。

「みんなを守れたら、って。」

「まも、る・・・。」

守る、その単語にリーネは思い出す。

かつて何故ウィッチに志願したか?ブリタニア本土では訓練期間が長い、という理由で、
期間が短いファラウェイランド(カナダ)に単独渡航した経験を持つ行動力の塊な姉にそう聞いた。

『そりゃ、みんなを守りたいからさ。』

あっけらかんにのたまう姉。
怖くないのか?そしてどうして自ら戦場に身を置いたか問う。

『うん、怖いね。
 でも後悔していないよ、だってあたしだけができることを出来るんだから。』

笑顔を浮かべる姉。
とても迷いがなく、眩しくて、美しいものだった。

『人は一人では生きてゆけない、ゆえに人は人を守る。
 その範囲が例え身近な人だけにしろ、祖国にしろ尊さは変わらない。』

硝子細工でも触れる仕草でリーネの頭をなでる。

『そうでしょ、リーネ?』

ああ、そうか。
どうして忘れてしまったのか。
姉が羨ましく堪らなかったのはそれだったのだ。
空を飛ぶ姿だけでなく誇りに満ちた姉が眩しくて、自分はウィッチを目指したのだ。

「宮藤さん・・・。」

手を握り返す。

「私は・・・。」

緊張と震え、
喉から言葉を絞り出さんと欲し。


警報


「ネウロイ!」

本日二度目の警報音が基地全体に木霊する。
整備員は脱兎のごとくユニットに取りつきウィッチのために準備を施す。
まもなく基地に残った隊員たちが駆けてくるだろう。

「あ・・・・・・。」
まただ、また怖くて何もできない。
今先ほど変わろうとしていたにも関わらずにもだ。

「大丈夫」

そんなリーネを察した宮藤が言葉を発する。

「お互いまだ半人前だけど、わたしたち2人なら一人前だよ。」

あの時、姉に問いただした時と同じく。
迷いがなく、眩しく、美しい笑顔を宮藤は浮かべている。

本当に、かなわない。
宮藤芳佳は本当に強い子なのだ。
しかし、だからっと言ってそれを理由にイジイジ落ち込むわけにはいかない。
彼女はこちらから手を差し伸べて来て断わらることはできない。期待に答えなければいけない。

「宮藤さん」

前を向く。
もう何も怖くないとまでは言えない、けど今度こそ初心を貫くのだ。
改めてリネット・ビショップの決意を胸に彼女に知らせるのだ。


「私も、飛びます!」


その後、呆気にとられる坂本少佐にあきれ果てるペリーヌ。
面白げに観察するエーリカと反応はそれぞれであったが、共に出撃する許可が下り、今に至る。



※ ※ ※



視点:バルクホルン

「にしても、あれは何だったんだろうな・・・。」

人型ネウロイと交戦からおおよそ15分、
最大戦速で移動中の沈黙に耐えられずシャーリーが言葉を零す。
言葉に人物名詞がない。つまり抱えた不安をこの場の全員と共有したがっているのだろう。

「さあ?スオムスで出たって噂は本当だったんだな~。」

シャーリーの言葉に真っ先に反応したのはエイラあった。
私の隣を飛ぶ彼女は毎度のクセになる棒読みとマイペースな表情をしている。
そういえば、この子はスオムスに居たからいらんこ中隊が遭遇した人型の噂は直に聞いたことがあっただろう。

「あれ、会いたくない。」

この拒絶反応はルッキーニ。
まあ、12歳そこらの子供にあれはグロすぎたしな。
もし私が同じ年頃に3Dでなくあのリアルホラーに遭遇したら確実に漏らしたかもしれん。
その点、ルッキーニはエライと思う。

「でもさあ、またあんなのを相手にしなきゃならないのかな?」
「んなコト私に聞くなよな~。」

シャーリーとエイラがああでもない、こうでもないと会話のキャッチボールをする。
内容こそ軍事上の敵に関するもので十代の少女に相応しくないもの。
けれど、イントネーションや口調はやっぱり年頃の少女らしい。

しかし、人型ネウロイ、か。


1939年、東プロイセン
「敵は攻めてこない」そう言われて決定された戦力移動。
元を正せば我々が一度ネウロイの集結地をルーデル隊と共に襲撃、これをせん滅したことに尽きる。
大抵人類は防衛する一方ゆえにネウロイもまさか仕掛けてくるとは思っていなかったのか完璧な奇襲となった。

結果、最低2週間は散発的なのを除き、大規模攻勢はありえないと司令部は判断。
これを機に52戦闘航空団の一部は(実際はミーナをはじめとして原隊バラバラで混ぜ混ぜ、定員割れだったが)今一度戦力の回復のため後方へ移動。
ミーナ、エーリカは離れ残った私が残存部隊の指揮を取ることに。

飛行隊長を務めることになった。
空軍で飛行隊長の職務は航空団司令の次に偉く、最もやりがいのある仕事ゆえに大変興奮した。
明日やっと避難できるから今のうちに会いたい。という理由で会った妹のクリスも私を祝福してくれた。

故郷を巻きこんだ末期戦だったが希望はあった。
何せ6年後、最終的には人類の勝利が約束されていたし、
前世では考えたこともなかったが、まさかの私は当時50機撃墜のエースであり自信に満ち溢れていた状態。

怖いことや死にそうなめにあったことはなくはない。
名誉の戦死を遂げた同僚を見たこともあったが、それでも私は何とかなると思っていた。

驕り、そして到来した破局。

3日も経たずに突然の大規模戦爆連合(ラロス改、爆撃機)の夜間攻撃。
39年当時の夜、今のようなレーダーがなく聴音器と目視頼りの防空設備では先手を打てず、先を取られる。
戦力差は約10対300と話にならない差で、死闘を演じた。

次々と落ちる部下たち。
投下された爆弾が故郷をオレンジ色と赤い色に染め上げてゆき、熱風が舞い上がる。
己の無能を突き付けられ、もはや残ったの自分とロスマン軍曹のみ。

弾が切れて降りて補給する事もできず、お互い必死に逃げ回るのに専念。
そんな中、クリスが炎の街に居るのを見つけて助けようとしたその瞬間。

<原作>の人型ネウロイが現れ。
友好的態度もなく迷わず奴の光線がクリスティアーネ・バルクホルンの心臓を貫いた。
それが私と人型ネウロイとのファーストコンタクトであった。


「なあなあ、大尉はどう思う?」

人型ネウロイの目的は何か?
<原作>では描かれなかったが<ファンブック>では結局ウィッチをまねた「兵器」にすぎないと定義してたような。
だとすると、ネウロイと人間は永久に分りあえない存在で生存を賭けて戦い続ける以外ないわけだ。

「大尉ー?」

私のような転生憑依者は大抵事前知識を生かして良い方向へと行動するものだが、
たった一人で、数十万人いる軍人の内の新米将校かつ10代そこらの小娘で一体全体何ができる?何もできない。
精々空戦戦法を小細工程度に工夫、進言するほかない。

「バルクホルン大尉ー?」

所詮現実はこんなものさ。
憑依や転生して大活躍しても中世ならいざ知らず近代の時代、
100万単位の軍人が動員される戦いでは個人の武勇が戦局をひっくり返すなど夢のまた夢。

<原作>の501によるガリア解放は軍事上、本当に本当に奇跡の代物なのだ。
なぜなら、そうホイホイネウロイの巣を11人で破壊できるなら戦争など、39年の内に終わっていた。

「大丈夫か・・・大尉?」
「・・・っと、スマン。気が抜けていた。」

怪訝そうな顔をするシャーリーに謝罪する。
いかんな、例え敵がいなくても基地に着陸するまで戦闘が続くのに指揮官である私が抜けていては。

「んじゃ、あらためて聞くけど大尉はあのネウロイをどう思う?」

あの死体利用型ネウロイ、ね。
そうだな、視聴的に会いたくない相手だが。

「興味がある、可能ならもう一度接触したい。」

「うへぇ、マジかよ。
 あれか?新型ネウロイについて報告する義務がある~とか。」

「おおむね」

バルクホルンもやっぱりカールスラント軍人だなー、とシャーリーは続けて言う。
あのな・・・ウィッチである以前に軍人として当然の責務だろうが。
大尉クラスになると普通にこういう事は嫌でもやらなきゃならない物だと分らんのか。
まあ、シャーリーも16其処らの少女(胸部装甲除く)だからしかたがないかも知れん。

「大尉ー!基地が見えたよ。」

緩んでいた空気が再び緊張したものに変化。
基地が襲撃されたと思っているからいよいよ再びネウロイと交戦するかもしれないからだ。

「周囲に警戒しろ」

そこで私が下すのは至極単純明確。
その一言だけでガールズト―クは止み、全員戦士へと切り替える。

「いくぞ」

4本の飛行機雲が真っすぐ基地へと延びていった。


※ ※ ※


 視点:リーネ

『宮藤さん、リーネさん、お願い。ネウロイがそちらに向かっているわ・・・。』

海面の反射と混ざって銃器のマズルフラッシュを眼目に捉え戦闘を観戦していたが、
先行していた隊員の驚愕と焦りの声がインカムから聞こえ、ミーナの通信が入る。

「こっちにくるよ!」

宮藤の叫び。
ネウロイは米粒大の大きさから徐々に大きくなる。
リネットはミーナの通信と宮藤の叫びに釣られてトリガーをロクに照準に定めぬまま、引く。

対戦車ライフル独特のひと際大きな発砲音。

「・・・っ!!」

リネットはボルトハンドルを上げ、手元に引き。火薬が延焼した熱を保つ薬莢を排出。
硝煙の臭さが鼻につくがそれを意識する間もなく今度はハンドルを押して薬室を閉鎖。
薬室には新たな13.9ミリ弾がライフルの上部にあるマガジンから薬室へ装填される。

発砲、二度目の外れ

今度はボバリングの揺れでライフルの先がブレて弾を外した。
訓練の動かぬ的と違い、実戦の動く的に独自の緊張感が飛行の集中力を乱す。
三度目の正直とばかりに体にしみ込んだ装填の動作を実行。

先の2回よりも集中力を高めて、弾道を計算。
飛行魔法と射撃制御の魔法のコントロールがぶつかり、脳内修正を繰り返す。
訓練通りの理想的なコントロールができていなかったけど慌てず焦らずゆっくりトリガーを引く。

発砲、外れる。

「だめ、全然当てられない!!」

時間はない、ここで逃せば後がない。
逃せばネウロイは慈悲も情けも容赦もなく基地を蹂躙するだろう。
着任して短いとはいえ愛着はあるし、なによりも基地にいる戦えない人間を見殺すことはできない。
焦燥感が精神を侵攻し、絶望がリネットの心を暗く閉ざしかけ、

「大丈夫、訓練ではあんなに上手だったんだから。」

宮藤からの励ましの声。
けれどもリネットは励まされる事実が己の不甲斐なさを強調された気をした。

「わたし、飛ぶのに精一杯で、射撃を魔法でコントロールできないです・・・。」

リネットの言葉は後半に入ってからさらに小さく弱弱しく変化する。
やはり自分にはできない、そう諦めのマイナス思考が脳に染み込み。出撃のさいにあった自信が萎縮されてゆく。
しかし、宮藤芳佳はまだ諦めていないかった。

「じゃあ、私が支えてあげる。だったら撃つのに集中できるでしょ?」

リネットが返事をする前に宮藤は行動に移る。
高度を下げてリネットの足の下に回る込む。
戦闘中の突然の奇行にリネットは呆然としたが何をしたかったかすぐに悟る。

「ん・・・。」

股間に宮藤のこげ茶色の柔らかな感触を感じた。
布越しのくすぐったさにリネットはつい色っぽい声を小さく挙げる。

「どう、これで安定する?」
「あ、あ・・・はぃ」

股間の感触のもどかしさで顔が赤く染まる。
困ったように太い眉が下がるが、宮藤が支えてくれるおかげでボバリングは比べものにならないほど安定。
それに気づいたリネットは希望を確かに捉え、冷静さを確保し思考がクリアなものへと移行。

いける
これなら絶対いける!

「西北西の風、風力3。敵速、位置――-。」

しっかりとライフルを敵に向けて構える。
狙撃に必要な要素を声に出して思考をより狙撃に適したのへと暗示させ、銃と一体化する。
だが、足りない。正確無慈悲にその数値を叩きだしてもまだまだ外してしまう。

一体何がたりない?
一体何が足りない?

空戦の基本を思い出すんだ。
思い出せ、リネット・ビショップ!!

「そうだ、敵の避ける未来位置を予測して・・・。」

空戦の基本。
それは未来位置を予測してそこに弾を一度に叩きこむ。
言う事は簡単だがやるとなると経験則に依存する技術ゆえに非常に難しい。

大概人間は的を見て的に合わせて狙いを定める癖がある。
的が低速で二次元での移動なら簡単に予測できてしまうが三次元空間である空中はそうはいかない。
上下左右、のみならず広大な空間は無限にも等しい選択の自由を秘めている。

そんな高等技術を習得した者だけが5機撃墜から始まるエースにやっと成れて、
250機撃墜記録を保持し、今も更新を続けるスーパーエースのエーリカ・ハルトマンの後を追いかける権利を得られるのだ。

「宮藤さん!」

マガジン装填。
弾道修正、ライフルを持ち上げる。
リネット・ビショップの固有魔法は『弾道の安定と魔力付加』
念動力で放った弾丸をコントロールして、魔法力付加で威力と射程を底上げするという正に狙撃手向けの才能だ。
高い集中力を有するゆえに今の今まで訓練以外はまったく才能を生かせなかったけど、宮藤が支えてくれている。

「うん!」

リネットは心の中で叫ぶ。わたし、否。
わたしたちは一人じゃない。
2人合わせれば一人前で何があっても怖くなんてない。

「わたしと一緒に撃って!!」
「わかった!」

下の宮藤に機銃を撃たせて行動の範囲を限定させる。
この場合、予測して算出される機動は下は海面なので左右か上にネウロイは逃げる以外ありえない。
さらに、リネットはネウロイが100パーセントそれ以外逃げようがないタイミングを図り、一撃必殺を狙う。
ネウロイは先行したミーナ達に攻撃されたのとリネットに撃たれたのでリーネから見て微妙に十字軌道をとっている。

狙うは腹を見せることになる、体を斜め上に傾ける上昇機動。
だからリネットは視界の遥か先でネウロイが微妙に上に傾けた瞬間を逃さなかった。

「今です!」

口に出すと同時にライフルと機関銃が光を放つ。
重量60グラム、13.9ミリ徹甲弾の秒速747メートルの矢。
重量52グラム、12.7ミリ曳光弾の秒速780メートルの矢。
ちっぽけな金属の塊は光の軌道を青い空に曳き、人類の敵ネウロイに襲い―――。

リネットは見事に初戦果を挙げた。
ネウロイは宮藤の機銃弾を避けるため上昇した瞬間、大きく腹を見せる。
標的の面積が拡大した上にあらかじめ計算してリネットが放った対戦車ライフルの弾が黒いボディを貫く。
唯でさえ高威力だった上に固有魔法で威力が挙げられたため回復する余裕もなく、ネウロイは白く散り始めた。

「当たったぁ!!」

歓喜に解放感、達成感がリネットに満ちる。
彼女はようやく弱い自分という名の敵に打ち勝ったのだ。

「すごーい!」
「やった、やったよ。宮藤さんわたし初めて―――。」

喜びのあまり宮藤に抱きつく、
傍に他の隊員がいたら注意していたが、今この場にはいない。
こうしてはしゃいでしまうのは止む負えない。

けど。


『宮藤、リーネ、避けろォォォぉ!!』


けど帰るまでが戦闘というルールを分っていない。
油断大敵、戦場では僅かな隙を作ったとたん簡単に命を落とす。
ネウロイが崩壊しつつも海面を水切り遊びの石ころと同じく彼女たちに襲って来たのを見ていなかった。

「――――――!」

リネットは坂本少佐の声でやっと気づくが遅い。
瞬時に絶望へと叩き落とされ、悲鳴を挙げ―――。

「大丈夫」

リネットの視界に宮藤が現れ、ネウロイに立ちはだかる。

「私が友達を、リーネちゃんを守るんだから。」

それが数分間の連続した緊張の糸が途切れ、
リネットの薄れゆく意識が見届けた最後の光景だった。






※ ※ ※ ※

これにて原作3話終了。
まあ、1話、2話を飛ばして書いたからまだまだ始まったばかりかと。

次は憑依主人公バルクホルン回です。
過去に何が起き、何になったより明らかに。

ではまた。


追伸:焼き肉で腹壊して投稿遅れた、スマン。




[27002] 4話 幕間 
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/05/10 22:50
視点:バルクホルン 1939年 東プロイセン カイザーベルク

本日曇りなれども風弱し。
我が故郷、東プロイセンはバルト海に面してカールスラントでも最北端の街である。
古くはゲルマニア騎士団(チュートン騎士団)が本拠地を置いた場所であり皇帝家のホーエンツォレルン家ゆかりの地でもある。
それはこの街の名前から分るようにカイザーベルク、漢字と平仮名で直すと『皇帝の城』と一発で判明する。

前世は日本人であったが、今の私のアイデンティティーはカールスラント人。
ここで過ごした日々は故郷として親しみを感じている。だからこの街を守りたい気持ちに嘘偽りはない。

さて、話は変わるが。将校たるもの部下に対し常に厳格な態度で臨まなければならぬ。
そう士官学校でライフポイントが零になるまで叩きこまれたは今や昔。
卒業した直後同期の連中と「もう二度と久留米!」とはしゃいだのも懐かしい。

「にしても、」

こうやってその懐かしい場所に足を踏み入れるとは、
ウィッチ用の滑走路に機材、施設がそろっているという理由で基地として使うなんてね。
戦場に送りだすための魔女の学び舎が、戦場そのものに鎮座するなんて末期戦もいいところだ。
50年後あたりに学研で読むならともく実際に体験するのは正直嫌だな。

「失礼します。」

グルグル脳みそで思考を回転させていた所でドアがノックされ、人が部屋に入室する。

エディ―タ・ロスマン軍曹。

灰色の髪、背はとても小さくまさか自分より一歳年上だとは思えないほどで。
さらには、知らない人は多くのエースたちの『先生』だとは誰も想像できないだろう。
私もエーリカも、この人に随分お世話になったのも懐かしい。

「本日の訓練成果について報告書です、どうぞ。」
「ん・・・。」

手渡された書類に眼を通す。
指揮官とはただ戦場で武をかざすよりも、こうした事務仕事が多い。
所詮軍隊も官僚組織と分っていても面倒なのには変わらない。

何々、射撃訓練は場所が場所だから弾が腐るほどあるからよし。
次に基礎体力訓練、さらなる改善に努める、か。まあ、すぐにできるものでないから、しょうがない。
で、問題はやっぱりこれか。

「飛行時間か」
「はい、こればっかりはどうも。」

パイロットは一定の錬度を保つためには年100時間程の飛行が要求される。
しかもただ100時間ピッタリ飛んだだけではまだまだ足りない。数年継続して訓練してようやく戦力としてカウント可能に。

同じことは航空歩兵である我々にも言えて。
現在部隊の大半を占める私と同じ地元の新人隊員の飛行時間は合計平均80時間ほど。年90時間の旧東側諸国以下と来た。
通常、経験が深い隊員が一定数部隊内にいれば部隊全体の戦力はカバーされるが、現在ミーナと共に再編成か、別の部隊の中核として引き抜かれた。
10人中3人、私、ロスマン、オブレザーしか使いものにならない現状でもしネウロイが襲来したら。

「ベテラン組以外は出さない方針はどうか?」
「・・・それは、状況が許さないでしょう。」

まあ、だよな。
通常兵器では無理で、ネウロイに対抗できるのは唯一空飛ぶ魔女の我々のみ。
無断撤退は論外、妹が否、まだ大勢の避難民がこの街にいるのに逃げることはできない。
選択肢は来たら戦うのみ、それだけだ。

「司令部の予想とわたしたちの努力をを信じるしかありませんね。」
「そうだな。」

結局、駒である自分たちがあーだーこーだと考えてもどうにもならないわけだ。
努力しても根本的解決にはつながらない。再編成された部隊の到着まで来襲しないのを祈るしかない。

・・・ああ、いかんいかん。思考がマイナスへ傾いていた。
ロスマンの方も気持ち深刻そうな、いや実際深刻だから空気が微妙に重い。
ここは一つ、軽く何か言おう。

「何事も、起こらなければいいのだが。何とかなるだろう。」
「そうですか・・・?」

疑問を口にするロスマン。

「私がいれば大丈夫だ。愛しの妹達(新人隊員)はこのエース様に任せろ。」

言った途端、我ながら大した自信だと恥ずかしくなった。
重たい空気を払うため、つい調子に乗ったのは分っていたから、それが顔に出さないよう必死でこらえる。
何が私がいれば大丈夫だキリッだ。しかも新人を妹たちと比喩するなんてシスコン自重しろだ。
くそう、そういうキャラじゃないから余計に恥ずい。

「なるほど、それは頼もしいですね。」

口ぶりこそ普通だが、
このロリ軍曹、実にイタイ人を見るような眼で見てやがる。
ええ、分ってますよ。分ってますとも、そーいうのはエセ伯爵の領域ですから。
キャラが合わないのは分ってますよーだ。

「ぷくく・・・期待していますよ、中尉・・・。」

今度は生温かく見守る目線に変化してるし。
・・・ちくしょう、いいぜもっと笑え。笑いたければ笑いやがれ―――!!

「しかし、妹たちですか、
 みんなに中尉がいかに大切に思っているか教えてあげませんと。」

「え、ちょ、おま。」

えええ!?
あれか、私を羞恥心で悶え死ねと言うんかい。

「では、要件は済んだので失礼します。」
「まてやコラ―――!!」

私の叫びも虚しく、ロスマンは一撃離脱戦法を極めた者に相応しく素早く離脱。
この後、「姉ちゃん」やら「お姉さん」「お姉ちゃん」とか散々からかわれる羽目に陥る。
けど、こうして馬鹿ができる日々が如何に尊いものか。まだよくわかっていなかった。



※ ※ ※ ※



「なんだあれは!?」

基地から信号で敵の位置情報を受けて、ミーナたちがいるだろう地点へ移動する。
その最中、遥か水平線の向こうで大きな水柱が昇り、シャーリーが声を挙げる。

ふむ、たぶん<原作>のネウロイが墜落でもしたのか?
にしても、あの水柱はでかい。かなり距離があるはずなんだが。
無線は、通じるか?

「バルクホルンだ、繰り返す。バルクホルンだ。」
『こち―――z---り―――み――。』

相変わらず雑音しか聞こえない。
通信妨害型のネウロイがまだ近くでウロウロしているのか?
基地からはそういった報告はなかったけど。

「うっわ、何あれ。」
「おっきい。」

声につられてよくよく水柱が立った場所を凝視。
大質量の物体が墜落したため海面は水煙が視界を占拠しているが、収まりつつある。
白く薄い蒸気のカーテンの中から青白く輝く巨大な円形。ああ、メイン盾のシールドだな。

・・・改めて見ると本気ででかいな、おい。
Ⅰ期の時点で10メートルクラスのシールドを展開できるなんて、これなんてチート。
おまけに大質量かつ高速度で威力が上がった衝撃に耐えきれるとは。
さすが主人公といった場面か。

『リーネさん!!』
『おちつけ、ミーナ。宮藤が今リーネを拾った。』

ミーナと少佐の通信が入る。通信妨害から回復したようだ。
にしても、拾ったねえ。墜落したのか?<原作>と展開がまるで違う。
私が本物でないが故のバタフライ効果というやつなのかやっぱり、こうした誤差はどうして応じてしまうもだろう。

『む、バルクホルンか少し遅かったな。』
「ああ、すまない少佐。」
『気にするな、めったに陽動なんてして来ないから釣られた我々が悪い。』」

合流しつつもっさんこと、坂本少佐と軽く会話を交わす。
やはりこの人はいい人だ、もう終わったとはいえ部下に八つ当たりしないのは一見簡単でもなかなかできないものだ。
豪快で前向きな点は書類仕事が全然だめな所を除けば上司として理想的。ミーナが頼りにするのも分る気がする。

『リーネちゃん!リーネちゃん!!』
『宮藤さん・・・耳元でうるさいよ・・・。』
『私たちやったね!!やったんだよリーネちゃん!!』

続けて宮藤とリネットの声。宮藤がやけにテンションが高いです。
はて、この子も前向きな性格だったがここまで熱血だった・・・まあ師匠がもっさんだからそうか。
そして宮藤の方からちゃん付けで呼び合うことを提案して、リネットが遠慮がちに芳佳ちゃん、と呼ぶ。
嬉しいのか宮藤は尻尾を振りつつリネットの胸の中に顔を埋めるなどスキンシップをかます。
んで、リネット色っぽい声が聞こえる。自重しろ淫獣。

『あらあら、宮藤さん。』
『まったく、あいつは』

帰るまでが戦闘なのに注意散漫だが、誰も注意しない。
なざなら、こうしてじゃれ合うことができるのは今日生き残れた証しなのだから。
軍規を振りかざして止めるような無粋な真似はできない。

さて、と。
ほほえましい光景をいつまでも鑑賞しているわけにはいかないな。
いいかげん、大人だけの話をしようか。

「中佐、少佐。話があります。」

先に無線で呼びかけて2人に見えるようインカムを外す。
決めてはいないが、これだけで3人だけの、秘密の話し合いをする合図とわかる。

「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」

保護者の顔から神妙な顔つきでこちらに寄る。
位置も最前列の更に前に移動して、3人だけに。
他の幾人かが何事かと騒いだが、この様子から察してくれたのか距離を置く。

「トゥルーデ、一体なにかしら?」
「ミーナ、単刀直入にいうと。人型ネウロイはウィッチの死体を利用していた。」

回りくどいのは苦手だから、もったいぶらずにストレートに述べた。
反応はそれぞれだった。ミーナを眼を大きく開き、坂本少佐は「馬鹿な・・・。」と呟く。

しばし、沈黙。
ただ潮の香りがする風と夏に近い太陽がその場の空気を支配する。

「・・・たしかスオムスではウィッチを洗脳して利用したという話を聞いたけど。」
「ああ、考えてみれば脳を弄ることができるなら、肉体を弄ることもできるはずだしな。」

やっと口を開くが出るのは重たい話。
ああくそ、出した自分が言うのもあれだが、
10代後半の女の子にこんなことばかり言わせる状況には慣れたが、もやもやする。

「聞くがバルクホルン、そのネウロイはどんな感じだった?」
「ああ・・・。」

ふと、坂本少佐に話を振られてあの状況を思い出す。
肉塊とネウロイの黒いボディが混ざりあったリアルホラー、見てる側の精神を削るデザイン。
ゾンビものならいいがあれはそんなのではなく狂気じみた代物、クトゥルフ世界に出ても可笑しくないもの。

だって、

「・・・生きていた、」
「?」

固有魔法『バロールの眼』は『直死の魔眼』とほぼ同じ機能を持つ。
視界的に生命の根源が表示され、いつでも絶つことができる『点』と『線』で表現された世界。
触れれば何もかも壊してしまえるという中2的能力だが、その分の代償も払わねばならない。

『点』と『線』で表示されただけでも膨大な生命の情報を覗くことと変わりない。
それに対して脳が理解できなければたちまち暴走、ショートしてしまう。事実、転生直後に死にかけた。
が、対ネウロイ戦では『点』に当ててしまえばどんなに撃墜困難な相手でも落としてしまえるので最強の切り札となりえる。
何せ、装甲に覆われたコアを直接攻撃するようなものだから。

さて、この能力を持つオリジナルの1人は数えきれないほどの『点』を視認。
これにより相手が命のストックを保有する不死身に近い敵だということが分かった。
同じことは私にもできて、あのネウロイも複数の命が視認できた。つまり。

「生きていたんだ・・・ウィッチはまだ生きていた、ネウロイと一緒に。」
「待て、そんな・・・ッ。そうか、スオムスのは生きたまま操っていたから・・・ありうるか。」

瞳に映ったネウロイは極端に死にやすいのと、そうでないのと雑居状態。
本当に人かどうか確信が得られないが、素体が人間のものだから状況証拠的に片方は少女だったとしか言えない。
胸糞が悪い、生命の尊厳を踏みいじり兵器として利用する態度が。改めて思うとネウロイに殺意しかわかない。

「バルクホルン大尉」
「はっ」
「坂本少佐」
「うむ」

それまで沈黙していたミーナが軍人としての態度を見せる。
めったに聞かない重々しい口ぶりに私と少佐は緊張する。

「この件については緘口令を敷きます、
 バルクホルン隊は後に全員その旨を徹底させます。それと2人とも、軽々しく口にしないように。」

黙ってうなずく、こんな事実を隊員に公表すれば10割がた士気が下がる。
ローティーンの少女には刺激が強すぎる、しかもネウロイに利用され、生きたまま味方を攻撃するなんて事実は残酷すぎる。
いつかは公表せざるを得ないがしばらく黙っておいて、対策と情報収集に努めるが吉だ。

「・・・さて、これでこの話は終わり。今は帰りましょ。」

緊張感が消えてついほっと、ため息をつく。
今日一日で随分と精神が消費した気がする。帰ったらエーリカよろしくベットでいつまでもゴロゴロしていたい。
魔眼も使用して脳も疲れたから糖分を補給せねば。取られていなければ(犯人はいつも天使)チョコが部屋にあったはず。

「うむ、これで暗い話は終わりだ!
 ミーナ、バルクホルン、帰ったら風呂に入るぞ。嫌なことは全部忘れるんだ!」

「あら、わたしはちょっと・・・。」

「なんだ、体重のことやっぱり気にしているのか?
 別にミーナは年相応だから気にしなくて「バカ!この馬鹿馬鹿馬鹿―――!!!」おわっ!!?どうしたいきなり。」

やれやれまた痴話喧嘩か、夫婦ですね。
んで、もっさんの鈍感っぷりは流石というべきか。見てるほうは面白いからいいけど。
はは、ほほえましいな。こんな日がいつまでも続くといいな、本当に。



※ ※ ※



ウィッチーズから見て死角である後方、距離はキロにして5キロも離れた場所にそれはいる。
海面ギリギリに浮かぶそれはウィッチーズの感覚では、魔導針持ちのサーニャ以外探知しえないだろう。
もっとも、超低空ゆえにレーダーに引っかからない可能性があるが。


―――任務完了。


その『人間らしき』者から音声が発生で来たらそう言っていただろう。
全身は黒く、金属質に近く青い空の中で異彩を放っており、瞳はガラス玉のようで。
顔は表情もなく無機質極まりないが、その人間らしき者はじっとストライクウィッチーズを見ていた。

姿かたちは<原作>の人型ネウロイに近い。
唯一の違いは『無機質な顔がある』ということ。変わらないのは同じネウロイである点。

ネウロイは常に学習する。
1939年、新しい人類の切り札、宮藤理論を備えた空飛ぶ魔女の出現に合わせてネウロイはそれらを模した。
出現場所はスオムス、その時は情報収集も兼ねたものも合わせてウィッチに対抗。結果は失敗。
最終的には人類側に露見した上に一部の領土を奪還されてしまう。

が、ネウロイは問題視しなかった。
簡単だ、人類側の名称でカールスラント、ガリア、オラーシャ西部を40年までに制圧したからだ。
彼らの計算では少々の誤差で済み、残りはブリタニアという名の島国を半年以内に消耗戦ですり潰し、対処不能の所で一挙に上陸。
人類基準の日付で3か月以内に完全制圧可能とみていた。

しかし、失敗する。
人類の奮闘、幾多の幸運は赤いコアから導き出された計算式には存在していなかった。
気がつけば、バルト海から追い出した人類が逆襲し、西のオラーシャからも攻勢を仕掛けてきた。
そしていつの間にか自身が狩られる側に陥ったことに気付いた。

―――どうするべきか?

ネウロイは常に思考する。
最適な手段で最終目標である―――――をたっせいするために。


妙なヒトを捕獲した。


あくる日ネウロイはあるウィッチを捕獲した。
その事実だけは別段珍しくもなんともなく、そのウィッチの情報細胞に割り込む。


1944年                  転生
       ストライクウィッチーズ           ブリタニア

  EMT           21世紀      原作知識           オレ


記憶回路に保存された情報の異質さ、当初は理解不能であった。
情報についてはいくつかの仮説を並列思考を展開、解析を試みる。加えてサンプルには肉体的な刺激を与えるなどで観察を続行。
途中、煩わしい絶叫を挙げて生命活動を完全停止したが結果は得られた。


それは――――。 





※※※※※※


どうもどうも、作者です。
前に焼き肉で腹壊したと書いたけど、別にあのユッケを食べたのでなく。
単純に肉の油に腹が拒絶反応を起こしただけだから心配ご無用。

で、前回憑依バルクホルン回突入を宣言したが、すまん。
やっぱ幕間が必要だと思い、今回の話を書きました。

では


PS;更新頻度が今後さらに下がるかも知れないことをここに記します。



[27002] 5話 過去と現在
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/05/31 23:16
1939年 東プロイセン カイザーベルク

「戦闘配置にっ・・。避けろォ!!!」

警報音に合わせたように低空から侵入してきたラロス改の機銃掃射が始まる。
人類の航空機と良く似た姿形は識別が困難なことに加えて、レーダーなしのこの時期ゆえに奇襲が許されてしまったのだ、

地面に伏せてすぐに熱風と生温かい代物が私の体に襲う。

「くそが、被害状況・・・・・・。」

訓練生時代と実戦で体に染み付くほど覚え込まれた反射動作。
爆風から守るために『その場に伏せて口をあける』行動から将校としての義務を果たそうとする。

「ちっ・・・。」

ここでやっと体に降りかかった生温かい代物が分った。
爆風で人がパーツへとなり果てて私に降り注いで来たのでなく、唯の赤いペンキだ。
平和な日ならば間違えて腰を抜かしただろうが、脳が最高に興奮しているためか何の感傷も浮かばない。
まあ幸い、人体のパーツはなく普通のペンキだし。だから心は制服が汚れたとかそういったのしかない。

「中尉!ウィッチは全員無事です、行けます!!」

炎上する管制塔を背景に指揮所からオフレザー少尉が飛び出る。
かつて、そして<史実>でもスーパーエースとして成長しつつあったエーリカの戦果に、
疑いの感情を嫉妬交じりに抱いていたが、実際に彼女あるいは<彼>の戦いぶりを目撃して以来素直に評価するようになった。
何せエーリカはこの6年後に、世界中から崇拝と尊敬を集める人類最強の航空歩兵として歴史に名を残すことになるほどだからだ。

「ユニットは?」
「こちらも全機問題なし、対空砲座へと攻撃が集中しているようですし。」

空を見上げればさっきのラロス改以外いない。
代わりに都市外延部の対空砲座にイナゴの大群よろしく群がっている。
離陸と着陸が一番無防備で<史実>ではそのせいでエースが戦死した例があるから敵前離陸は推奨できないが、今しかないか。
だまってやり過ごすのは私たちの柄じゃないし。

「よし、全員私に続け!飛ぶぞ!」

格納庫は爆撃が逸れて、銃撃のみの被害しか受けていない。
私の声に反応した娘っ子たちが駆け寄り整備員もあわただしく準備に邁進する。

「ん・・・。」

靴を脱ぎ捨て、用意してあったストライカーユニットに足を入れて使い魔の『カラス』を出現。
ええい、なんか体がムズムズするから変な声を挙げてしまうのは不可抗力だが整備士どもの視線が気に食わん。
おまけに『男』の気配が濃厚なもの、元男だから痛いほどそこらへんよくわかってしまう。
くそ、見てる側なら最高だったのに。

「出力よし、回転数よし、全機発進準備完了。」
「MGよし、安全装置よし、装具よし」
「整備班はこの後、可能な限り退避してください。」

部下から次から次へと報告が入る。
見た感じスクランブルマニュアル通りに事を進めている。
いいぞ、ルーキーばかりだが案外期待できるかもしれん、ここまでは。
ふと、横にいるロスマン軍曹に行けるかと意味合いのアイコンタクトする。

「・・・・・・。」

黙って軽く頷き返した。
つまり、全員出撃以外なしだ。

「よし、52戦闘航空団第2飛行隊、全員出撃せよ!!」

刹那、浮遊感。射出台から発射されたのだ。
五感が前へと押し出される感覚を掴み、何千時間目かの飛行がカウントされる。

「・・・・・・ッ」

やがて滑走路から浮かび上がり重力に逆らう。
空に飛べる嬉しさと楽しさを堪能せず、今はひたすら高度を稼ぐことに専念。
この時間帯は夜で真っ暗なはずだが、嫌に赤く明るい。原因は知っている、すでに爆撃されたのだ。

「よく聞け、高度をできるだけ稼いで一撃離脱を繰りかす・・『警報!上からラロス!!!』なっ!!?」

インカムで戦術行動を示し、行動に移る前にネウロイが襲いかかる。
まだ離陸したばかりなのに、と叫ぶ前に視界に入れたネウロイが容赦なく発砲。
狙いは先頭の私でなくヨタヨタと飛ぶルーキー共。

「逃げろ―――――!!!」

私と幾人かが叫んだらしい。
が、その願いはかなわず、いくつかの血吹雪を赤い空に咲かせた



※※※※



ネウロイ襲撃よりしばらく経った。
あの後、バルクホルン隊が来る前にネウロイは宮藤、リネットのペアが撃墜した。
隊員に祝福される宮藤とリネット。2人の間には距離が存在していたが、これを機に徐々に縮まることになる。

「ねえ、知っている?宮ふ・・・芳佳ちゃん聞いた?」
 カウハバ基地で迷子になった子供のために出動したんだって。」

リネットが朝食のポテトを潰しながら宮藤と話をふる。
話題は今朝の新聞で確認したニュースで、ウィッチに関するものだ。

「へぇーそんな活動もするんだ。すごいねー。」

それを聞き宮藤は、
自ら現在進行形で軍事組織という型にはめられているウィッチがそうした活動に従事していることに素直に驚く。

「うん、たった1人のためにね。」

リネットの言葉にどんな想いが籠っていたのだろう。
それは恐らくそれを実行した人物達に対する英雄視、たった1人のために動いたという事実は。
精神が未だ未熟で、軍人という型にはまり切っていないリネットに素直に共感を感じさせた。
これがもし、プロの軍人か精神が大人な者たちなら話題にすら挙げなかったかもしれない。

「でも、そうやって1人1人助けられないと、みんなを助けるなんて無理だもんね。」

理想論、酷い人は空想と切って捨ててしまいそうな、青い発言。
けど、しかたがない。何せ彼女はほんの一か月程まえはただの女学生だったから。
そして宮藤が述べたことは『正しい』が『正しすぎる』がゆえに甘く、温いと思われることが分らない。

「・・・・・・・・・ああ、‘クリス”水をたのむ。」
「あ、はい・・・って、クリスって誰ですか?」
「っ・・・気にするな、宮藤。雰囲気が知り合いに似ていたから間違えただけだ。」

バルクホルンは宮藤からお冷を受け取りすぐさま引き下がる。
全身からあからさまに拒絶の空気を醸し出していた。それは何かに怯え、逃げているようだ。

「なんなんだろう・・・?」

これまでにない反応に宮藤は首を傾げる。
彼女のバルクホルンに対する印象は『厳しい鬼教官』か『典型的カールスラント人』である。
まあ、たまに笑ったり、ノリがいい所もあったりするが。基本はフリーダムな隊員が多い中、真面目な軍人をしている。

「おはよう宮藤さん。」
「おはよ~。」
「あ、はい、おはようございます。」

隊長のミーナに未だに人物像が掴めないエーリカがやって来た。

「今日の朝食はお米に味噌汁ね、美緒が喜ぶわ。」
「ふーん、わたしは美味しければ何でもいいけど。」

2人でわいわい、雑談を交わしつつトレイに朝食を載せてゆく。
同じカールスラント人だから仲がいいのかなと思った時。
ふと、宮藤はこの2人なら先ほどのバルクホルンの反応について何か分るかもしれないと思いつく。

「あの、ミーナさん、ハルトマンさん。聞きたいことがあるのですけど、いいですか?」

食卓に座っているバルクホルンに聞こえないように小声で尋ねる。

「あら、どうしたの?」
「うん?何々宮藤。このスーパーエースー様に何か用?」

2人は何故小声で尋ねたか注意せず、
ごく普通の悩みを相談されたのだと思っているみたいだ。
方や母親的態度で、もう片方は面白い話を聞いたと言わんばかりにわくわくしている。

「バルクホルンさんが、私のことを『クリス』って間違えたのですけど・・・。」

質問は最後までしっかり言い切り宮藤は気づく。
ミーナは俯き口に手を当てる仕草、エーリカは毎度の明るい表情が消えていることに。
明らかに動揺してる、バルクホルンに何か深刻な理由があるのは間違いない。
このまま聞いてもよいものか、一瞬宮藤は迷ったがやはり聞くことにする。
もしかした何かバルクホルンの役に立てるかもしれないという純朴な発想ゆえに。

「あの、ミーナさん。」
「宮藤さん、この話はなしね。」

完全なる拒絶、交渉の余地なし。

「でも!」
「宮藤さん」

威圧感。
包括力ある大人の女性でなく、中佐という階級の軍人としての。
至近距離でそれを受けた宮藤は無意識に足を一歩後ろにずらしてしまう。
喉から音声はでず、ただ意味不明の音しか小さく発するほかないほどに。

「宮藤さんは優しい子ね、
 そうやって他人を思いやる気持ちは本当にすばらしいわ。」

「はい・・・ありがとうございます。」

声こそ優しいが威圧感はまだある。受け手は自然と頭は下がり、視線が下へ行く。
なんだか母親に叱られた時のと似ているなと諭される宮藤は感じた。

「でもね、
 この問題は他人がいくら言おうとも解決できないの。
 あの子は自分が許せない、自分のせいだと捉えているから。」

一拍。

「もちろん、私たちはだからと言って手をこまねいているわけにはいかない。
 できることはする、だってあの子は501の11人の仲間だから。
 でも、その役割は私たちに任せて。あの子は・・・私とエーリカの大切な戦友で最高の友達だから。」

「ミーナさん・・・。」

ミーナの言葉にどんな想いがこもっていたか宮藤には理解できた。
顔を上げて見えたミーナの瞳は決意に覚悟に満ちて、これは自分の出番でないと悟った。
バルクホルンの問題は彼女たちに任せるのが当然の権利なのだ、赤の他人が入り込む余地はない。

「そそ、だから大丈夫。
 トゥルーデはわたしたちが何とかするからさ。
 宮藤、ありがとう。わざわざトゥルーデのこと心配してくれて。」

「ハルトマンさん・・・。」

そうだ、自分は人として、ウィッチとしてまだまだ未熟。
だから任せよう。

「・・・・・・はい、お願いします!」


※ ※ ※



調理場でミーナ、エーリカ、宮藤が何やら話している。
何かは知らないが、雰囲気的にあまりいい話ではないことは確かだ。
意味ありげに私の方に視線を飛ばしたミーナからしてどうやら私に関することのようだ。

いや、誤魔化すのはやめよう。
本当は知っている、私が宮藤のことを『クリス』と呼んだ事が原因だと。

「はぁ・・・・・・。」

眼を閉じてため息を吐く。
宮藤をクリスと重ね合わせて見たのはここ最近見る夢のせいだ。
あの子を死なせることになった故郷での防衛線の情景が再び私に付きつける。

おまえのせいだと。

かつては忘れることで私は空へと戻り戦い続けた。
忘れてしまえば楽なのだ、罪悪感も何もかも抱えなくすむから。
人間、いちいち過去へ拘っていたら未来へと進めないからそれが普通で、それが最善なのだ。

けど、あの子。
宮藤芳佳が来てから思い出し始めた。

容姿はやや似ている程度だが、纏っている空気というものがすごく似ている。
前向きで、めげずに、優しく、人のために一生懸命な所が特にだ。
けど、そんなあの子はもういない。遺体になり、それはネウロイ占領下の故郷とともにある。

「おはよう、諸君。
 むぅ、どうしたバルクホルン、覇気がないぞ?」

「・・・おはようございます、坂本少佐。」

いきなり声をかけてきた坂本少佐に応じる。
この人とは随分、長い付き合いだが元気な所に変化がないな。
普通、こうした体育会系は無駄に熱く、うざったいがこの人にはそういった所がなく、見てる側も元気になりそうだ。
私と違い、すごい人だよ。

「なんだ、バルクホルン。さてはミーナと同じく便秘か?」

色々と台無しなこの鈍感を除けばな。
女の子ばかりの場所でも食事前に言う所なんてさすがもっさんと褒めるべきか。

さらに、さりげなく私の隣に座る。
気のせいかな、横から殺意じみた視線が突き刺さっているのは。うん、放置しておこう。
見えないけどなんか黒い瘴気が漂っている感じが調理場からするのも、気のせいだ!

「いや、少佐。私は至って健康ですから。」
「そうか、そうか、だが私には肉体でなく、心が疲労しているように見えるが?」
「・・・・・・そうですか?」

・・・鋭いのか鈍感なのか図り切れんな。
いや、最初のセリフはあれか?坂本流のジョークなのか?最初からわかっていたのか?

「別にバルクホルンを軟弱だと責めているわけではないのだぞ。
 そうやって悩んでいると部下を放置するのは、私の信条に反しているからな。」

ほれ、言ってみろと催促する。
うーむ、気持ちはすごくありがたいけど。今は、その。

「今は少し、自分でも気持ちの整理をつけたいので。」

「そうか・・・バルクホルンがそう言うなら今はそうしておこう。
 だが、話す気がでたらいつでも私の方へ話すがいい。上官ではなく戦友として、な。」

「はい・・・。」

こういう話が分る人は非常にありがたい。
ただの熱血馬鹿でない所が坂本少佐の素晴らしさの一つだと言える。
根性で何とかしろとか、ずかずかと土足で入り込むような真似をせず、人の気持ちに配慮できるのは貴重な人材だ。
前世は・・・思い出せない、いや思い出したくないな。

「だが、バルクホルン。一つだけ言わせてもらおう。」

改めて真面目な表情で坂本少佐が私に語る。
一体、何を言うつもりだろうか。

「バルクホルン、総力戦という定義は分るか?」

「ええ、まあ。
 それまで軍事と民間とはハッキリと区別されており、
 軍事行動に民間は干渉を受けなかった。が、生産性の向上は戦争に必要な物量の増加を招き、
 ありとあらゆる資源が国家によって統制をうけ、戦争は民間人にまで影響をうけるようになった―――これが総力戦の定義ですね。」

「うむ、上出来だ。宮藤もこのくらい頭が良ければいいのだが。」

ジト眼で台所へと視線をずらし、
釣られて見ると宮藤が恥ずかしげに苦笑していた。
いや、気にしなくてもいいんだよ、ついこの間まで民間人だったし。

「おっと、話がずれたな。
 次に聞くが数百万の軍人が動員され、
 同じく万単位のネウロイと戦う戦場において個人が果たす役割はどうだと思う?」

坂本少佐、まさか貴女が言いたいことは。
だとすると、そんなの知っている。
私はすでに知っている。けど、どうしても納得できないのだ。

「少佐、つまりどうしようもなかった言いたいのですか?
 総力戦において個人が戦争を左右することなど不可能だから、
 祖国を失ったのは仕方がない、どうしようもなかったから諦めろと、クリスは――――。」

「よく聞け、バルクホルン。」

静かに、私をなだめる。

「そうではない、私が言いたいのは人は一人では戦ってゆけない。
 総力戦とは言うなればチーム戦、個人プレーではない。
 どんな異才があっても一人では意味がなく、チームで初めて戦力を発揮する。
 だから、バルクホルン。一人で抱え込むな、おもえはもっとチームを頼ってくれ、甘えてくれ、そう言いたいだけなのだ。」

・・・前向きな発想だった。
で、自分は「どうしようもない」という後ろ向きな発想から始まっているのを比べて恥ずかしくなってきた。
自分、心理テストでコップの水は「もう半分しかない」と答えてしまう人間だからな。

「その、努力。します。」
「むう、微妙な返事だがわかればよろしい、ほめてやるぞ。」

そう言って私の頭に手を伸ばし―――ええ!?

「よしよし、偉いぞ。」
「・・・・・・・・・。」

2名ほど驚きの絶叫が聞こえたが気の(ry
な・・・何を言っているのかわからないが、私も何をされているのかわからなかったぜ。
ゴホン、それより現状を報告しよう。端的に言うと坂本少佐に頭をなでられている。

えらい、えらいとなでられている。
この人、癒し系も含むキャラだったかと思わず混乱してしまった。
にしても、なんか本当に甘えたくなってきそう。
それに坂本少佐の笑顔が凄く眩しい、同性だけど惚れてしまいそう―――。

「ば、バルクホルン大尉。
 そのなんて羨ましい・・・いえ、
 大尉とあろう方が将校の威厳をそこなう行動をするなんて・・・見損ないましたわよ!!」

妙な沈黙を初めに破ったのはペリーヌだった。

「そ、そうね。
 わたしも宮藤さんやリーネさんの前でそうやって威厳を損なう行為はどうかと思うわ。」

「あれー?ミーナさん、
 なんか『わたしもされたことがないのに』とか言ってませんでしたか?」

「宮藤さん、駄目。
 声に出しちゃだめだって。」

続けてミーナの意見が出るがすぐに宮藤に突っ込まれる。
やがて当事者2人を置いてけぼりにし、ワイワイ、ガヤガヤと食堂は喧騒に包まれる。

「変だな、頭をなでたくらいでそう騒ぐのはおかしいと思わないか、バルクホルン?」

不思議そうに、
本気で不思議そうに首を傾げ少佐は私に意見を求める。
まったく、これだから。

「これだから少佐は少佐というわけだ、結局。」
「・・・何を言っているのだ?」

でも、そうした所が坂本少佐の個性で美点かもしれない。
少なくとも、貴女のおかげで少しだけ気分が晴れた。

夜が来て、再び悪夢を見るまでは。





※※※※※※


レポート、試験・・・宿題・・・フゥーハッハッハッ、リアルは地獄だぜ!

ごほん、どうも。
20日ぶりの投稿です、今後もこんなペースになってしまう悪寒がががが。
加えて、こんなペースだから感想が伸びないのは分っているんだが(ため息)

ともかく、次のレポート書こうか(涙眼)


では




[27002] 6話 昼下がり
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/06/25 09:17
夢を見ている。
私のトラウマである過去のできごとを。


1939年 東プロイセン カイザーベルク


「みんな、応答してくれ・・・たのむ、応答してくれ・・・。」

あれからどれだけ時間が経過したのだろうか。
時間を確認しようも腕に付けた時計は流れ弾に当たって以来その用途が発揮できていない。
感覚的にこの時間帯は本来暗闇と月が支配するはずだが、今日はまだ夕日のような赤い情景が映っている。

もっともその夕日とは故郷が燃えている炎である。

「・・・・・・・あ、ああ。」

現在高度はメートルで3000程。
保護魔法越しでも地上から出される熱風が熱い。
灰に煙の臭いが鼻につき、嗅覚がおかしくなってしまいそうだ。

「・・・だれか・・・お願いだから、返事をしてくれ。」

インカムの調子はいいが返事が返ってこない。
この事実から導きされる答案は辛うじて離脱できたロスマン以外は戦死したとしか言えない。
わかっているくせに私は現実逃避を続けているのだ。

あの奇襲攻撃を受けて、たちまち乱戦になってから。
状況を把握できずにま一人、一人堕ちていったのを目撃したのを忘れようとしている。
少女とは思えぬ断末魔を挙げて死んでいったのを覚えているクセに。

「・・・状況確認、基地は使用不能と見られ、
 隊員は私以外おらず、ネウロイは見られず・・・これより、救助に向かう。」

部下がいなければ帰るべき基地も燃えている。
見方を変えれば、軍人の果たすべき義務と責務からから解放されていると言っていい。
が、私だけの一人ぼっちの空でそのなものに意義はないし、解放などお断りだ。

だから、救助活動をという手段で己の意義を見出そうとする。
無能ゆえに招いた失敗を覆い隠すために。

「ん?」

高度を下げた時。
街中に見覚えのある顔が一瞬映った。

いや、まさか。
あの子、クリスは。
時間帯的には客船<ヴィルヘルム・グストロフ>に乗って脱出しているはずだ。
親戚に頼み込んでおいたから一人で出歩くなどありえないはず。
そんな、馬鹿なことがあって。

「・・・・!?・・・!!」

高度300まで下がった自分をふと見上げる子供。
視力が強化された瞳には涙で顔がぐちゃぐちゃになり、熱風で服がよれよれになったこげ茶色の髪をした少女がいた。
一見、どこにでもいる十代になったあたりの少女だったが、私はその子を肉親として知っている。

「クリス!!」

驚きのあまり、心臓が鷲掴みにされた気がした。
この時、我を忘れ。軍人という型から外れてクリスティアーネ・バルクホルンの姉となった。

「お姉ちゃん・・・おねーちゃーん!!」

むこうもこっちに気付いて手を振る。
先ほまでの絶望から生への希望を確かに掴んだ顔へと変わっていた。

「まってろ、お姉ちゃんが今助けて出すから。」

高度は5メートル。
まだ手を伸ばしても届かぬ距離でも手を伸ばす。
クリスも届かぬと分っていても背伸びしてもでも手を伸ばす。

「本当に、わたしのお姉ちゃんだ。」
「ああ、お姉ちゃんだよ。」

顔がはっきりと見える。正真正銘、私の妹だ。
たとえ、前世があっても肉親としての感情はある。
だから、こうして生きて会えたことが嬉しくて嬉しくて視界が涙でゆがむ。

届かぬ手がもどかしい。
はやくとどけ―――――。

「えっ」

正面。
クリスから後ろに別の人間が宙に浮いていた。
シェルエットこそ人だが、金属質な黒い表面はどう見ても人ではない。

私はそれに見覚えがある。
前世では<ストライクウィッチーズ>における物語のカギとして登場し、視聴者からネウ子という愛称で呼ばれたのを。
そして登場するのは1944年であるのを知っており、どうして奴がと考え。

「あ、」

赤い光線がクリスの心臓を貫いた。

「あ、」

これは私の声。
間抜けな声であるが、それしか言えなかった。
なぜならぐったりと倒れ込むクリスの姿を認めたくなかったから。
認めたくなかった、眼の前でクリスが死んだことを。

「あ、ああああああああ。」

視線を奴に向ける。
が、人型ネウロイはいずこへと消えていた。

「うぁああああああああ。」

訳の分らぬ音声。
目元が熱く、潮の味がする液体が流れる。
わけがわからない、唐突だった。あまりにあっさりとクリスが死んだ。

「うわぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁ!!!」

忘れたかったから獣ごとく叫ぶ。
こんな悲劇など見たくないから叫ぶことで現実から逃げようとする。
理性は無駄な努力だと囁いていたとしてもだ。

「あぁぁあああっぁぁああああ!!!」


1939年のとある日。
東プロイセンの中心地であったカイザーベルクは一夜で壊滅。
死傷者は残っていた住民の約半分である10万。市街地の60パーセントが破壊された。
私の親戚、フェリラ・ノルティング・フォン・バルクホルンは客船<ヴィルヘルム・グストロフ>で避難していたが、死亡の確認がとれた。
たまたま海へ出ていた大型ネウロイに客船ごと沈められ、漂流物となり果てたの一万体の遺体とともにいた。
後に、<前世>で最大の海難事件として記録された客船と同じであることに気付いたが、それも後の祭りであった。



※※※



「はぁ・・・。」

普段では見られない光景。
面倒臭い人間に出会い、自分と合わないと感じて吐くため息ではない。
もっと深刻な、暗い憂鬱を伴った深い、深いため息をエーリカはしたのだ。

「何を考えているのかわからない。」

とは、おえが言うなと言いたくなる煩悩まみれなミステリアス少女エイラの言だが、本当は超がつくほどのズボラ人間である。
それを知らない赤の他人はエーリカ・ハルトマンという人間に対する評価は大体『最強のウィッチ』としてのみで語る。

曰く、史上初の300機に届くかもしれない。
曰く、史上最強のウィッチ。
曰く、マルセイユと共に祖国が誇るウィッチ。

等などと彼女を直接知っている人間は皆、大爆笑間違いなしの評価が下されている。
ズボラなだけでなく軍隊の命令に幾度も背いた『悪い子』でそんな模範的な人間でないのを熟知していたからだ。

けど、その『悪い子』である原因は、
軍隊でありがちな効率を優先した命令である、仲間を見捨てて目標を達成する事。
それに反発して、強引に仲間を助けたがゆえに下された判定であるのも皆知っている。

地上ではぼんやりと気が抜けた態度を貫くが、一たび空へと駆ければ優秀な戦士。
それも仲間想いで、僚機を一度も失わせたことがないという伝説があるほどになる。
そんな彼女が深い憂慮がこもったため息をつくなど、深刻な事態である。

「・・・・・・馬鹿。」

エーリカの眼にはリビングのソファーで眠るバルクホルンが映っている。
こげ茶色の髪、長いまつげ、凛々しいという意味で整った顔は起きている時と変わらないが、今は少女らしい魅力を放っていた。
灰色の軍服ではなくピンクのヒラヒラの服なんて着せたらさらに魅力が上がっただろう。

その顔が苦痛に耐えるように歪んでいなければ。

「ごめん・・・なさい・・・・」
「ッ!!!」

刹那、寝ているはずのバルクホルンから言語が発せられる。
エーリカは驚いたがすぐにこれは寝言だと思った。

だが、誰に対する謝罪か?そんなの初めから知っている。
理由は話でしか知らないが、よく話してくれた妹のクリスに対するものだろう。
自分は決して姉馬鹿ではない。ただ手間のかかる子だと話していたが、実に嬉しそうに話していたのをよく覚えている。

けど、その子はもうこの世に存在しない。
その子がいたという記憶と記録だけしか存在しない。
バルクホルンの故郷で空襲に巻き込まれて死んでしまったのである。

そしてバルクホルンはその時、彼女を守れなかった。
挙句部下を殺した上におめおめと生き延びたと思い込んでいるのだ。

「トゥルーデさ、諦めてしまえば、楽なのに。」

諦める。
それはズボラな性格だから述べたのではない。
経験から導き出された生き残るために秘術である。

エーリカは辛い思い出に囚われて自暴自棄になった人たちを何人も見てきた。
知り合いではミーナなども一時期悲しみに暮れてそのフォローに追われたことがある。

ゆえに、この経験から出された結論は、
戦争とは人智に及ばぬ災害みたく『しかたがなかった』と思い込むこと、自分にはできないと諦めてしまうこと。
これで、未来に向かって前進する自信がつけるのだ。

しかし、バルクホルンは違う。
エーリカが考えるに一度忘れるころで楽になったが、結局根本は頑固までに諦めようとしない性格。
だからこそ、現在こうして悩んでいるのだ。もし、自分がもっと・・・という風に。

なお、<前世>で<原作知識>があったにも関わらず、
何もできなかったから余計にそうなっているのをエーリカは知らない。

「ん・・・んあ?」

エーリカが思考を巡らしていた最中。
バルクホルンが眼を薄く開けてもぞもぞと動き出す。

「んん・・・エーリカか?何をそんなに私の顔をじろじろ見てるんだ。」

トゥルーデが心配で、とは言わない。
過去を思い出させるような言動はせず、『いつもの日常』を演じ続けるのがリハビリにつながるからだ。

「とりゃー。」
「むが」

と、いうわけで手始めにバルクホルンに抱きつくことから始めた。
胸にバルクホルンの顔を押しつけてわしゃわしゃと髪をなでる。

「胸あたっているぞ。というか骨が固い」
「へへ、当てているだからー。」

これでも成長しているんだから、と続けて言うがバルクホルンは呆れた表情を作る。

「成長?成長というのはせめてペリーヌぐらいなければ話にもならん。」
「ぶぅー横暴だー。女の子のプライドを傷つけたー。」

エーリカはそう言うとバルクホルンを強く抱きしめる。
抱きつかれる側は頬に胸の柔らかみよりもさらにアバラ骨が押し付けられた感覚しかなかった。

「・・・いいかげん、離れてくれないか?」
「ちえ、トゥルーデは冷たいな。」

すくりと立ち上がり、バルクホルンを拘束から解放する。

「冷たいもなにも、おまえがな・・・。」

クドクドと始まる愚痴。
今の出来事だけでなく、これを機に言いたいことを纏めて言うつもりだ。
やれ、書類はしっかり書け。やれ、上層部にはストレートに文句を言わない。あと、ちゃんと起きろ・・・。

「ふふ、」

変わらぬ、日常。
それで、そのまま『現在の日常』に埋もれて『過去』を振りかえらなくなるまで、
この日常を作り続けよう、そうエーリカは思った。

「エーリカ、なんで笑っている?」
「なんでもないよー。」

この戦友が二度と離れるのを止めるために。
再び苦しみを味わらせぬためにも。



※※※



ロンドン。

西の海を支配する海洋帝国の首都で、そのせいかミーナの祖国と違い海に近い。
古くは大国ヒスパニアの無敵艦隊を打ち破って以来、オランダ、ポルトガル等の欧州のライバルを打ち破ってきた。

海洋を支配することはすなわち貿易の富を独占するに等しい。
海上貿易がもたらす富は自給自足の経済よりも大きく、また陸上の貿易よりも規模が大きく見返りが大きく。
市場である植民地を世界各地に建設することで、経済の優位性を築き、世界帝国としての地位を実現させた。

無論、西洋文明の走りである偉大なる帝国、ローマと同じく衰退は免れなかった。
現在こそかつての植民地人であるリベリオンの追い上げが激しく、帝国としての地位が揺らいでいる。

だが、無邪気な大衆は未だに扶桑皇国とならぶ世界帝国としての誇りを抱いている。
それは現在という時間軸なら正しいが、将来と現状を予測できる人間、選ばれたエリート達の見解は違った。
ことに、部隊長のミーナだけでなく、ロンドンのカールスラント大使館で論ずる眼の前の男も同じだった。

「知ってるかね?ヴィルケ君。
 今この机に並んでいる菓子の原料の大半はリベリオンのレンドリリースで賄われていることを。」

部下が街角で購入した油っぽい菓子を掴みながらアイカシア大佐が言う。

「それは兵器にもいえて我が祖国も同じだ。
 正面装備こそ国産だが、トラックなどの補助は全部リベリオン産だ。」

「ええ、そのくらい。
 39年の時点で私も嫌という程、実体験しましたから。
 世界に冠だる偉大な祖国といえども植民地人の助けがなければ、今頃私自身もここに存在してなかったでしょう。」

苦々しい思い出とともにミーナが言葉を綴る。
頭脳に映像と共に映し出されるのはリベリオン製品が溢れかえっていた戦場での日常。
特にスパムの缶詰などもう見たくもないほど大量にあった。

ここで一つ<史実>の話をしよう。
電撃戦を初めとして対ソ連での戦争で戦史に名を残す機動戦を繰り広げてきたドイツは機械化された軍という印象がある。
しかし、以外かもしれないが、その実<史実>のドイツ軍は完全な機械化ができていなかった。

装甲師団に装甲擲弾兵師団(機械化歩兵師団)こそトラックは充足していたが、
通常の擲弾兵師団は何かと非難の的にされる旧日本陸軍と同じく、人の足と馬匹による移動力しかなかった。

なお、五カ年計画で軽工業を犠牲に達成された重工業国家のソ連も、
終戦までトラックはアメリカ頼りであり、当時自前で完全な機械化を達成できたのはアメリカだけであった。

「で、大佐。
 私はこの間出現した『特殊ネウロイ』に、
 ついて情報をもらえると聞いてここまでやって来たのでありますが。」

「おお、そうだった。
 すまない、自分はどうしてもこういった話が好きでね。つい、無駄話をしてしまった。」

にこやかに答えるアイカシア大佐。
が、その本心はミーナを試していたことは試された側は熟知していた。
ただの前線指揮官か、それとも大局から判断できる司令官かどうか。今後の昇進を左右するだろう。

「では、説明しよう。
 結論から述べれば人間が作り出した可能性がある。」

「な・・・っっっ!!!」

驚愕に声を挙げそうになったが、何とか耐える。
幾らブリタニアにある唯一のカールスラント領内でも、誰かが聞いているかもしれないから。
特にウィッチ隊に対してあまり友好的でない司令官、マロニー空軍大将などが。

「正直、我々も困惑している。
 冗談かと思ったが、様々な情報を整理した結果だ。
 信じたくないかもしれないが、『特殊ネウロイ』はブリタニアの手で誕生した可能性がある。」

淡々と大佐は語る。

「なんて、ことを。」

ミーナは頭がクラクラする感覚を覚える。
超えてはいけない倫理をついに人類は超えてしまった事実に衝撃を受けたのだ。
何せ、バルクホルンが言うには『生きたまま』怪物へ変化させていたと言う。

「本来、この件については、」

ミーナが衝撃から立ち直るのを見計らってやや間を置き、アイカシア大佐は口を開く。

「本来、
 君のは知らせないつもりだった。この件はあまりに危険すぎるから。」

続けて言葉をつなげる。

「だが、君が指揮する501はあまりにも政治的な位置にある。
 もし、501に何かあれば我が国の損害になるゆえ、君は知る義務がある。」

統合戦闘航空団は各国精鋭を集めた部隊。
その分、本来前線部隊にありえないはずの政治的争いの渦中に巻き込まれる危険が高い。
その気になれば、わざと特定のウィッチを使い潰し、特定国の発言権を削るよう裏から手をまわししかねない。
最近動きがあやしいマロニーなどは警戒するに越したことはない。

「味覚障害どもが考えることは、まだ完全に把握していない。」

部下が購入した油っぽい菓子をかじる。

「が、覚えておきたまえ、ヴィルケ君。
 君が愛する501は常に狙われていることに。」





※※※※※

やっと更新できたぜ、けどスランプ気味。
というか、リアルがきつい。来月テストだし、くそ。

うむむ、このペースだと1期の時点で映画始まってしまいそう。
いや、その方が映画効果でSS見てくれる人が増えるか・・・?

では、次回に。


追伸:バルクホルンつながりのネタを投下しました。



[27002] 7話 襲来
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/06/25 09:15
「大丈夫か、サーニャ。辛くないか?」
「大丈夫よ、エイラ。」

エイラにとって、そして
501メンバーから見てエイラがサーニャの世話をするのは当たり前となっている。

どうしてそうなったかは誰もよくわからない。
気付いた時には『自称』いつもクールでカッコいいエイラ少尉が妙に初々しい態度でサーニャに挑んでいる事実。
サーニャをネタにジャッキー(シャーリー、ルッキーニ)にエ―ゲル(エーリカ、トゥルーデ)のコンビにからかわれてようになっていた。

「んあ?」
「あら」

廊下で眠たげなサーニャと一緒にテラスに向かっていたエイラは、
同じくテラスに向かっていたペリーヌと鉢合わせた。

「なんだよー。ツンツンメガネかー。」
「なんですの、その残念そうなセリフは。」

むすっと答えるペリーヌ。
金色の瞳に同じ色の眉が釣り上がり「怒ってます」と顔が言う。
さらに、両手を腰を当ててないむすっと胸を張る。張ってもやはりナイムはナイムネであった。
それを見て、そんなのだからツンツンメガネはツンツンメガネなんだよなー等とエイラは思った。

「いい加減ちゃんと、わたくしの事をペリーヌと呼んでくださいませんこと?」
「あーはいはい、ペリーヌペリーヌ。」
「むっきぃ――。言っているそばからなんですの!?その含みのある言い方は。」

そうすぐ反応する奴にそう簡単に素直に言うわけないだろ。
と、エイラの考えは決して表にださない。

「ん、少佐だ。」
「え、ええ!!?どこです?どこですの?」

ひょいと、背を伸ばしペリーヌの後ろに人を見つけた動作をした。
無論、釣りである。ペリーヌの後ろどころか、この廊下では坂本少佐の影も形も存在しない。

「やーい。騙されてやんの。」
「エ・イ・ラ・さ・ん。」

肩を振わせこの侮辱にどうしようか、等とペリーヌは考えていそうだ。
まあ、騙したエイラも一体どこの小学生のレベルの悪戯なんだか。

「ペリーヌさん・・・シャンプーの香りがする・・・。」

それまで部外者だったサーニャが会話に介入する。
寝ぼけたまま、スンスンと小さな鼻を動かす。エイラに寝ざめの一言がそれかと突っ込む余裕はない。
代わりに、内心自分はどんなニオイがするのか。いやいや、サーニャに嫌われないだろうか、
ああ、風呂に入ればよかった。とヘタレな思考を巡らす。

「まあ、サーニャさん。よく聞いてくださいましたわね。」

ペリーヌの表情が明るくなる。
まあ、どうせ宮藤あたりが何かしでかしたんだなとエイラは当たりをつける。

「聞いてくださいまし・・・。」

宮藤さん、いえ。
あの豆ダヌキ、わたくしの髪にモップを被せたのですよ。
おまけに、隙だらけで謝りつつさらにモップを被せてきまして。

まったく、ついこの間まで民間人だったとはいえウィッチとしての心構えがなってませんわ。
坂本少佐が見込んだとはいえ・・・きぃ―――。なんですの少佐と同郷というだけでも羨ましいのに。
少佐にベタベタベタベタとくっ付いて、わたくしだってもっと少佐に構ってもらいたい、いえむしろ振り向かせるつまりなのに。

ああ、坂本少佐のお美しいこと。
長く美しい黒い髪。何事も動じない凛々しい瞳。
少佐はわたくしのあこがれでしてよ。

(うわぁ、またはじまっているし。)

エイラはペリーヌの少佐信者っぷりにやや引き気味だ。
もっとも、自分のサーニャ至上主義者っぷりはまったく気づいていない。

「・・・ペリーヌさんは、宮藤さんの事。キライなの?」

ここで、黙って聞いていたサーニャが口を開く。

「え?いえ。
 別にキライというわけでなくて。ただ気に入らないだけですわ。」

突然の問いにペリーヌは戸惑う。
ペリーヌにとってサーニャは幽霊みたいな者でこうして聞かれるのは初めてだからだ。

「でも、ペリーヌさん。
 なんだか嬉しそうに話していた。」

「そそそそ、何を馬鹿な事を仰っているのですの!?」

サーニャの意外な言葉にペリーヌはうろたえる。
白い肌がほのかに赤く染まり言葉を濁す。
大変わかりやすくうろたえている。

「あやしいなーペリーヌ?
 坂本少佐だけでなく宮藤も好きなんじゃないか。」

「貴女は黙らっしゃい!!
 だいたいそんな馬鹿なことがあってたまるもんですか。」

「ほんとかなー?」

ニヤニヤ、そんな擬音が聞こえてきそうな顔をエイラは浮かべる。
元より、悪戯っ子な性格を持つエイラにとってこのいかにも弄ってください。
と、言わんばかりに隙だらけなペリーヌを逃すはずがない。

「いいですか!
 宮藤さんはこの誉れ高き統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズの一員でしてよ。
 ブリタニアの防衛を担う世界を代表するウィッチとしての自覚があの子のには足りないから、こう厳しく言っているだけです。」

流石はガリアのエースというべきか凄まじい気迫だ。
高貴な者だけが自然に得た高貴たるものカリスマが溢れている。
カールスラントのユンカー出身の厳格な将校団と渡り合えそうなくらいに。

ペリーヌの下にかつていた部下、アメリーなら泣きだしただろう。
もっとも今回は残念ながら、相手が悪すぎたが。

「ああ、つまりペリーヌの色に宮藤を染めてしまいたい、というわけか。」
「んな・・・染める・・・っ!?」

常にマイペースなエイラにその気迫は通用しなかった。
逆にさらなる弄りに邁進するのであった。

「いやー。
 ミーナ中佐に異性との恋愛は禁止されているから、同性に走るなんて思いもよらなかったよ。」

「同性っ!!は・・・破廉恥な~~~!!」

わざとらしく関心して。
これまたわざとらしくしきりにエイラは頷く。
無論、ニヤニヤと笑みを浮かべたままだ。

「大丈夫よ、ペリーヌさん。
 そんなペリーヌさんをわたしは応援しているから。」

「ち、違います。
 一体全体何を勘違いをしているのですかサーニャさんは!?」

一切の悪意のなく綴られた言葉にペリーヌは慌てる。
故意に煽るために言ったのではないのはペリーヌも知っているらしく。
怒鳴り散らすわけにはいかず、どう誤解を解けばいいのか悩み、しきりにうぬぬ、とかぐぬぬとか言葉を漏らす。

「知っています、大切なヒト。エイラのように坂本少佐を大事に思っているんですね。」
「はい!!?」
「うえっ、サーニャ!!?」

ここまで来てまさかの暴露というべきか。
サーニャが述べた発言に2人は混乱する。

「あらあら、愛されていますわねー。エイラさん。」

先に復活したのはペリーヌだった。
少佐を大切な人であると指摘されて心臓は鼓動するが、
勢いはペリーヌの方にある、散々弄った仕返しを実行する。

「うううう、うるさいな。そう言うペリーヌは少佐とどうなんだ。この前・・・」
「だぁーー黙りなさい。そのいらんことを口にする口を閉じなさい!!」

結論、おもえら2人ともヘタレ仲間。

「と・に・か・く。
 少佐についてはあくまで尊敬の対象です。
 決して、決して、決して恋愛対象と見てはおりません。いいですか!!」

ふーふーと鼻息を荒くし、ペリーヌは天然とヘタレを睨みつける。
これ以上いたらどんどんボロがでそうなのでなおさら強気に出ているのだろう。

(余計な事言ったけどツンツンメガネは一直線だから扱いやすいな。)

エイラはそんな追いつめられ気味なペリーヌを見て思う。
普段ペリーヌは努めて理性的に振舞おうとしている。
が、その根本は感情の塊でできている。だからこそ、こうしてからかうと直ぐに反応してくる。

とはいえ、さすがにやり過ぎたかもしれない。
現在は例えるならば威嚇する猫。ふーふー息を荒げ全身の毛を逆立てている危険な状態。
からかいはお互い笑い飛ばせる範囲で限定すべきだか、やり過ぎだ。

「わかったわかった、正直やり過ぎたのは謝るよ。」
「ふんだ・・・最初からそうしていればいいものを」

弄りやすいお前を無視できないから、ムリダナとエイラが発言しようとした時。


警報。


「な・・・ネウロイ。」
「早すぎますわ!!」
「・・・・・・うん。」

毎度の不愉快な音が基地に木霊する。
よりにもよって当分来ないとされた嘲笑うようにやって来た。
しかも、この後ティータイムがあったはずなのに全て台無しだ。

「行くぞ!!ツンツンメガネ。」
「だぁーそんな事分ってますわ。後、先ほどその呼び方はやめなさいと言ったばかりでしょうが!!」
「わたしも・・・行く。」

3人はただの少女から戦乙女として意識を変えて格納庫へと走り出した。



※※※



―――見たいと思えば視える、魔法の基本は願うことだと思うよ。


懐かしい夢だ。
ネウロイ大戦初期の戦い、自分が未だ未熟で悩み、挫け、それでも前へと進んでいた日々の。
たしか1937年だったか、自身の魔法で悩んでいた時にガランドというカールスラントのウィッチと共にいた少女が言った言葉だ。

その少女の特徴はこげ茶色の髪を2つ結んだ自分より1つ年下で、名をバルクホルンと名乗っていた。
なんでも、同じ魔眼でもかなり異彩な魔眼だったので、実験とついでにストライカーユニットの試験要員として極東まで送られてきたとか。


―――そうかなぁ、って本当にあの坂本なのか?


対して自分はやや自信がなさげに回答する。
バルクホルンの『あの』とまで強調している意図かまったくわからなかった。


―――まあ、いい。
   ボク・・・いや、私が言う事はあくまで私の経験に基づくアドバイスにすぎないからな。
   

苦笑まじりに口を開く。
どこか達観というか、妙に大人びたというか、男くさいような不思議な感じがした。
なんというか、自分は彼女を知らないはずなのに彼女は自分に対して既に一定の印象を持っていたように見受けられた。


―――結果とは結局本人が努力してから得られるものだから、他人が言うだけでは何もならない。
   だから、坂本さんが努力の方向性を間違わなければきっと結果は出ると思うよ。
   今は思考錯誤を重ねてゆけば将来ネウロイのビームを両断できるくらいになれるはずだとボクは思うよ。


どうしてそこまで断言できるのかやはり不思議に思った。
だって自分が努力する前提で彼女は話しており、自分が絶対結果を得られると分っているような気がしてならなかったからだ。

とにかく、不思議な少女だった。
その印象を抱えたまま欧州へと渡り、後の欧州戦線で頻繁に顔を合わせて、
ブリタニアでは501の初期メンバー以来ずっと一緒になるとは考えもしなかった。




「む?」

ぼやけた視界にぼやけた思考。
当初は何も理解できなかったが両者がクリアに成るにつれて原因が判明する。
何でもない、ただ自分は執務室で書類仕事の途中で寝てしまったのだ。

「ふぅ」

机に寄りかかる形で寝ていたせいで体のあちこちが痛い。
寝ていたことも加え、かなり長い時間書類と睨めっこしていたせいか目がショボショボする。

坂本美緒は眼帯を付けていない方の眼をこすり、米神を抑えて目の周囲の血行を良くしようとする。
本当なら、台所にいるだろう宮藤に温かいタオルでも準備してもらった方がいいが、そうはいかない。

「まったく、私は書類仕事が苦手なんだがな。」

山ほどに積まれた書類を見てつい呟く。
早めに手早く済まさなければ午後のティータイムに間に合わないだけでなく、宮藤、リーネの訓練に支障がでかねない。
が、こうも難儀している理由は単に使用している言語が母語以外の、連合軍の共通言語であるブリタニア語だからではない。

いくら下士官から佐官まで上り詰めた程実力があるとはいえ、
坂本美緒という人間は根本的に戦以外を知らぬ「もののふ」ゆえにとことん現場主義者で、こうした仕事には慣れていない。
ふと、ロンドンに行ったミーナはいつもこんな仕事をしていることを思い出し感謝の念を送った。

「ふぁぁぁ。」

今日は青海な空で降り注ぐ太陽がもたらす熱は温かい。
周囲に部下もいないことも加え、こうして欠伸をするくらい心地よい日だ。

「・・・・・・。」

いかんな、また寝てしまいそうだ。
等と隙だらけな思考を巡らせる程心地よい昼下がりだ。

(慣れない仕事はするものではないな―――いや、駄目だ給料分は働かなければ。)

兵卒ならそれが許されたが、残念ながら佐官。
多くの特権が与えられると同時に給料以上の責任と義務を要求される階級にいる。
血税で養われている身なので、あまり長く休むことは坂本美緒の形成されて来た精神と主義に反する。

(では、手早く済ませて見せるか。)

決意を新たにして再度書類の山との戦闘を開始する。
内容は様々だ、補給品関係でも食料、武器弾薬、被服、資金と体系でき、
ここからさらに細かく分岐してゆき、分岐した後でもさらにその先と分岐してゆく。

組織とは常に連絡、報告が義務づけられているからそれこそトイレットペーパー1つまで報告書が提出される。
馬鹿らしいと考えてしまうが、それこそが公平で一定の法則に従った組織の存続の避けられぬ運命。
まして軍も国家の官僚組織の一種類にすぎず、記録を残す事に情熱を掲げる官僚組織は民間以上に書類に執着する。
よって、大量の書類の過半数はどうでもいい日常的業務の報告書が占める。

そして本当にトイレットペーパーの消費量について注意を促す書類が出てきて、坂本少佐はゲンナリした。
いくつものサインがなされ、年頃の少女ばかりの部隊にそんな書類をよこした連中の顔を想像する。
すると、50代のおじ様と結婚したというウィルマの夫が脳に映し出された。

「却下」

人の趣味嗜好はそれぞれだというがあまりよろしくない。
リネットには悪いが流石の自分でもその年の差はマズイと思うな、と坂本少佐は考えた。
結婚式で見た感じ、本人たちは嬉しそうだったが・・・両親とその姉妹は・・・。

「失礼します、報告書を届けにきました。」
「おう、入れ。」

外から二度ノック。
部屋にいた彼女側は注目をドアへと向ける。
返答と共に開いたドアから人が滑るように入って来た。

「ちぃーす、こんにちわー。」
「む、シャーリーか。」

書類をぷらぷらと手で振りながら部隊一のナイスバディが入室した。

「戦闘報告書を提出しに来ました。」
「ああ、ごくろう。」

書類を机に置く際に少し前かがみになり、
たわわに実った2つの果実が坂本少佐にこれでもかと強調する。
ペリーヌにミーナが見たら嫉妬と女性としての羨望で狂いそうな光景だ。

もっとも、このもののふは、
あんだけでか過ぎると肩やら戦闘やらで面倒くさそうだな、とまったく女性の思考が欠けた感想を抱いた。
さらに、それよりバルクホルンに冠する懸念事項について聞いてみるか、と考えていた。

「んじゃ、これで失礼しますー。」
「おっと、シャーリー。少しいいか?」
「?」

坂本少佐に呼び止められてシャーリーは仮に上官にも関わらず、怪訝そうな顔を隠さずに振り返る。
規律を重んじるカールスラントの軍隊が目撃したらその場で厳重注意と長々しい説教が為されるだろう。

「少し話を・・・。」

少し話をしよう、何そんなに時間を取らない。
おまえから見てバルクホルンはどう見える?

そう言葉を綴るはずだった。


警報


「・・・くそ、ネウロイの襲撃は早くても明日か明後日あたりだと予測していたが。」

ロンドンの司令部に向けありったけの罵声を心の中で叫ぶ。
無駄でただの感情論だと知っていてもだ。

「さて・・・。」

シャーリーは真っ先に格納庫へと走ったようで姿はない。
坂本少佐も緊急スクランブルに対応すべく出撃すべきだが、
今日はミーナがいないので代わりに基地で指揮を執らねばなるまいな。


電話の鈴がけたたましく鳴る音。
管制室からの報告だろう。


「坂本だ、状況を報告」
『はッ、ブリット東07地域。大型ネウロイが一機。すでに内陸へ入り込まれています。』

すでに内陸へ入り込まれたこと。
早めに潰さねば面倒な事になることに坂本少佐は表情を顰める。

(ブリタニアに攻めるネウロイは半ばローテーション化した日程で攻撃しに来る。)

恐らく苦手な海をわたるがゆえにだろう。
お陰さまで41年のバトル・オブ・ブリタニアと呼ばれる大規模航空戦では、
扶桑、ブリタニアそれにカールスラントが手を合わせて共同開発した新技術のレーダーと合わさって人類の勝利に至る。
迎え撃つ側として幾度も奇襲攻撃を許した扶桑海事変と違い、効率的な追撃が可能となった。

(それが、ここ最近ブレが応じてきている。新たな攻勢が始まる前兆か?)

戦力の集中、攻撃前夜は妙な行動に出るのはネウロイも人類も変わらない。
妙に静かだったり、逆に妙に積極的と行動に不自然さを感じた時に後からより大胆な行動に出るのが常だ。
よって、行動の変化は防衛側として最大限の警戒を以て当たるべきなのだ。

(まあ、念のため意見具申はしておくが。そこらへんの判断はロンドンの連中に任せよう。)

できれば、何事も起こらなければいいがな。
そう頭の中で思考を巡らして電話のボタンを操作し、内線を格納庫に待機しているだろう隊員へと繋げ、命令を下す。

「坂本だ――――。」





※※※※


生存報告、生きてますよ。
まぁ、ブログ見てる人は知っているだろうけど。

ではでは


PS:10話ぐらいに俺、その他版に移るんだ、とフラグを立てる。


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