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[26770] 【ネタ】IS~漢達の空~ 第9話投稿
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/19 13:45
 「オレ達にとって、空は何よりも代え難いものだ。」





 祖国の空軍でもエースパイロットで知られる父は、何時も僕にそう言って誇らしげに勲章やアルバムを見せてくれた。

 時には友人達との笑い話や、実戦であった本当に危なかった時の話。
 滅多に家にいない父は僕にせがまれるままに、何時も話をしてくれた。
 
 お隣の幼馴染もまた父達の話が好きで、よく僕とつるんでいたものだ。
 当時色々あって友人がいなかった僕にとって、その幼馴染と僕を繋げる父達はある種の絆とも言える、とても大事なものだった。

 
 父と、父の友人達は、僕にとって何よりも誇らしいものだった。








 だが、父と父の友人達はある日、唐突に「空」を奪われた。






 

 それ以来、飲んだくれになってしまった父を母は見捨て、僕だけが家に残った。
 

 父だけじゃなく、父の友人達もほぼ同じ有様だった。
 酒に溺れ、貯蓄を切り崩していく父達を、僕は見ていられなかった。




 だから、二度目の生を受けてから、僕は初めて確固たる目標を得た。


 「空」を取り戻す。


 不当に奪われた空を、もう一度漢達の手に。

 そのためなら何でもする、と。
 そう、決めた。
 


 それが、どんなに辛くとも、逃げ出さず。
 己の心身をすり減らしてでも、実現する事を誓った。







 






 IS~漢達の空~





 

 


 ジョ二ー・ドライデンは転生者である。
 

 決して宇宙世紀出身のちょっと軽めで不憫な赤い稲妻ではない。


 
 ジョニーが転生をする事となった理由は割愛する。
 というより、詳しくは彼も覚えていない。
 何か輝かしいものに気まぐれに「特典」を与えられた事くらいだ。

 「精々楽しませてよ。」

 そんな言葉だけが耳に残っている。

 その際、彼が願ったのは彼のお気に入りの娯楽作品の幾つかから、それに関連する知識だった。
 
 願ったのは、「機動戦艦ナデシコ」とその劇場版、そして「アップルシード」、「甲殻機動隊」に関する知識だった。



 そして、彼はその知識はあまり必要でないものだと一度は判断する事となる。
 何故なら、彼が転生した世界は彼にとって完全に未知の世界だったからだ。




 IS、インフィニット・ストラトス
 

 アメリカの空軍士官の夫婦の間に生まれたジョニーにとって、その最新鋭兵器の存在は彼の人生に大きな影響を及ぼした。
 それも、恐らくは悪い方向に。

 エースパイロットだった父は空軍のISの採用によって空を奪われ、多くの同僚達と同様にその誇りを奪われた。
 管制官だった母はその職務を続ける事にしたが、次第に父を見限っていった。

 そしてある日、母は家を出ていった。

 父もジョニーもそれを止めなかった。
 止める言葉を持たなかった。
 
 そしてジョニーは恐らく一生使うつもりの無かった知識を、世に出す事を決めた。
 
 
 父に、父の友人たちに、空を取り戻すために。


 そのためなら、彼はあらゆる努力と犠牲を厭わない。

 

 SIDE JOHNNY


 僕が最初に行ったのは、先ずは自身の知識の再確認だった。

 転生からこっち、全くそういう事をせず、肉体から来る精神の後退に合わせて生活していたため、忘れていないか心配だったためだ。
 結果、どれ一つとして忘れてはいなかった。
 同時に、自身が持つ知識がどれだけ危険なものかを再認識した。
 ナノマシンや重力兵器、義体やランドメイドに関する知識を総動員すれば、十分にISに対抗できる、とも判断した。

 

 現状、ジュニアハイスクールも卒業していない身ではどうしようもない。
 だから、先ずは大学まで行って信用できる仲間を作り、しかるべき所に名を売り、スポンサーを得る事が重要だ。

 ジョニーは勉強と父親の世話を怠る事なく、勤勉に暮らす事を決意した。





 SIDE NATASHA


 私、ナターシャ・ファイルスには幼馴染がいる。

 ジョニー・ドライデン
 学校に通う前からの知り合いで、私の家のお隣さんだ。
 
 彼の両親は2人とも軍人で、共に空軍にいた。
 出会いも職場でだったと言う。
 
 空軍きってのエースパイロットの父親とオペレーターの母親。
 そんな両親をいつも誇りに思っていたジョニー。

 私も、そんな仲の良い一家が好きで、尊敬していた。




 そう、あの「白騎士」事件までは。



 あの事件の後、既存兵器は悉く旧式と化した。
 あの事件で出撃し、そしてISと言われる兵器に敗れた父親ジョージおじさんは、空軍を追い出された。
 だが、彼だけじゃない。
 多くの空軍関係者が職を追われた。
 
 
 ジョージおじさんは毎日自棄酒ばかりで、おばさんは愛想を尽かして出て行ってしまった。
 ジョニーは残って、毎日おじさんのお世話と勉強に追われる毎日を送っている。

 そして私は、そんな彼を支える様にして生活を送っている。

 もう放っておけば?とは言わない・
 ジョージおじさんはジョニーにとって尊敬する父親、絶対に見捨てる事なんで無いだろうから。


 彼は私の幼馴染。

 おっちょこちょいで、内気で、鈍いけれど
 優しくて、賢くて、意地っ張りで

 彼は私の幼馴染で…とても大事な人です。






 SIDE NO


 2年後、2人は16歳になっていた。


 ジョニーはネットを通じて同志を集めつつハイスクールをすっ飛ばしてMIT、マサチューセッツ工科大学へ行く予定だ。
 既にスポンサーも付いており、大学に入った段階で小さい会社を経営する事になる。
 必要な人材や設備、費用も目途が付いており、彼の人生設計は今の所順調と言えた。


 そして、ナターシャの進路は…





 「……IS学園に、行くんだって?」


 自宅近くの喫茶店で、2人は深刻な表情で話し合っていた。


 「…えぇ。」


 ナターシャはつい最近、親の勧めでIS適正検査を受けた。
 ナターシャもダメで元々、しつこく言う両親に背を押されて受けた。
 結果、IS適正Aの判定を受けた。
 Bでも一般の中では相当高い。
 いわんやAでは滅多にいない希少な人材と言える。
 それを知った彼女の両親はすっかり乗り気になり、ナターシャをIS学園に入学するよう強制した。
 

 「…僕がISが嫌いだって事、知ってるよね?」
 「…えぇ。」


 ナターシャの両親も、悪気があって言っているのではない。
 寧ろ真剣に彼女の将来を考えての行動だ。
 女尊男卑が当たり前となり始めて既に2年。
 IS学園とは超エリート校という認識が当たり前だ。
 勿論筆記・実技双方で厳しい試験はあるが、それを補って有り余るメリットがある。


 「おめでとう。」
 「え?」


 ジョニーの言葉に、ナターシャは俯いていた顔を上げた。
 ぽかん、という言葉が似合うその表情にジョニーはくすりと安心させる様に微笑んだ。


 「少なくとも僕が知るIS学園のレベルなら、ナターシャなら十分に合格できる。」


 なんなら手伝おうか?とまで言うジョニーに、ナターシャは二の句が告げられずに口をパクパクと開閉させた。


 「……………いいの?あなたは」
 「勿論、僕はISが大っ嫌いだ。でも、君が自分の意志でIS学園を選ぶのなら、僕としては祝福するよ。」


 結局、ナターシャはそれ以上殆ど何も言えずに帰ってしまった。
 訝しげな、不完全燃焼といった表情であったが、それでもあまりの驚きから帰ってしまった。

 

 この時、もし彼女がもっとジョニーと本音を晒して会話していれば、この先に出会うだろう悲しみは避けられたのかもしれない。
 だが、歴史にIFが無い。
 彼女は胸中に疑問を抱きながらも、直ぐに別れてしまった。

 彼女がこの日の事を後悔する時、それは実に1年後の事だった。





 SIDE JOHNNY



 ズドンッ!!!!


 
 部屋の壁を力の限り殴りつけた。
 
 右腕が痺れ、拳から血が流れるが、この胸の痛みに比べたら、こんなものは有って無いようなものだ。


 「ナターシャ……。」


 彼女がIS学園に入学する。
 既に、控えめながら乗り気である事は顔を見れば解った。
 
 二度目の生を受けて既に16年。
 その間ずっと一緒にいた彼女の表情を、僕が見間違う筈は無い。
 
 
 「何故だ…ッ…。」


 彼女の将来を考えれば、あの場で笑顔を取り繕い、祝福し、応援する事は間違っていない。
 自身の胸中はどうあれ、彼女の花道を邪魔するつもりは毛頭ない。

 だが、だがだ。


 「……幼馴染まで、ISに取られたか……。」


 自嘲する。
 
 あの決意を固めた日から、自分はちっとも変っていなかった。
 何がどんな代償を払っても、だ。
 親しい人間一人取られた位で、こうまで動揺するとはお笑い草だ。


 「だけど……。」


 だが、この身の内の妄念を捨てるつもりは微塵も無い。 
ISを打倒する兵器を、そして漢達に再び翼を。
 それ実現せんとする意志だけが、彼を前へと突き動かす。

 優しい母と誇れる父。
 それを打ち砕いたIS。
 
 空を奪われ絶望した、父を始めとする多くの漢達。

 許せるものではない。
 許してはならない。
 
 その妄念こそが、彼の原動力だ。


 「絶対に、堕としてやる……ッ!!」


 
 この日、ジョニーは涙と共に改めて決意を固めた。

 代償は幼馴染。
 16年も一緒にいた、初恋だったかもしれない少女。

 
 この日、この時から、ジョニーは益々目的のみを見つめ続ける事となる。






 SIDE JOHNNY


 ナターシャはIS学園に合格した。


 筆記はやや厳しいかと思ったが、僕が付きっきりで手伝ったおかげで何とかなった。
 実技は教官を相手に辛うじて相討ちに持ち込む事もできたそうだ。
 素人である彼女がそこまでできたのなら、大金星も良い所だろう。

 


 翌日開かれたパーティーに、僕は他の皆よりも遅れて出席した。
 苦労して張った笑顔と言う名の仮面、それが危うく外れそうになったからだ。

 合格通知が来た時のナターシャの笑顔。
 彼女の本当に心底嬉しそうな笑顔。
 それは、僕の中の妄念を刺激するには十分なものだった。

 僕は何とか仮面を取り繕い、隣のナターシャの自宅で開かれているパーティーに出席した。
 学校の友人や近所の人達も参加しており、パーティーは結構大袈裟なものとなっていた。
 彼女の門出には相応しいだろうが、今の僕にとっては針のムシロに等しい。
 だが、それももう今夜ばかりだ。
 

 僕は今夜、この町を発ち、MITに向かう。
 

 大学の研究室の準備と立ち上げた小さな会社の事務所の確認。
 とは言っても、それは入学直前で済む事だ。
 だが、僕は最早一刻たりとも彼女の傍にいれない事を自覚していた。
 彼女には残酷かもしれないが、それでも僕は、ISの事で喜びを露わにする彼女を見たくは無かった。

 だからこそ、僕は今夜にでも発つ。


 「こんばんはジョニー。来てくれたのね。」
 「まぁね。…合格祝いだってね、良かったじゃないか。」


 吐きそうになる。
 彼女の如何にも幸福だという笑顔、それを祝う場の雰囲気。
 皆には悪いが、もうここから脱出したい気分になってきた。


 「実技ではちょっと心配だったって聞いて、大丈夫かなと思ったんだけどね。」
 「えぇ、私も。でも教官相手に相討ちなら上々なんですって!試験管に褒められたわ!」
 「父さんも、『素人が本職相手に相討ちなら上等だ』だってさ。」
 「あはは!その声おじさんそっくり!」
 

 だが、今となってはもう遅い。


 「これも貴方が手伝ってくれたおかげよ!ありがとうジョニー!」


 彼女の言葉は、確かに僕の仮面に罅を入れた。




 「……そっか。それは良かった。」


 どうにかして振り絞って出したその言葉。
渾身の努力を以てしても、それ以上の言葉が出る事は無かった。


 「…どうしたの?何か顔色が悪いけど?」
 「いや…ちょっと立ち眩みかな?悪いけど、やっぱり早めに帰るよ。」


 すまないね、と罅の入った仮面を被る。
 同時に、一刻も早くここを抜けだしたいとも。


 「大丈夫?送っていく?」
 「いやいや、心配には及ばないよ。君こそパーティーの主役がいなくなる訳にはいかないだろう?これ位は少し休めば問題無いさ。今日くらいは楽しみなよ。」
 「そう?あ、後で何か食べ物を取っておくから!何が良い?」
 「あはは、お気になさらず。好きなだけ楽しみなよ。」


 そして、僕はお隣の自宅へ帰っていった。
 何時の間にか白くなる程握りしめていた右手は、不思議と何も感じなかった。


 これが、僕と彼女の最後の会話だった。







 SIDE NATASHA


 パーティー翌日、私は彼の家に訪れた。
 昨夜のパーティーで少し残った食事をお裾分けしようと思ったのだ。

 だが、そこにいるのは父のジョージおじさんだけで、他には誰もいない。
 余りに、静かだった。

 何か嫌な予感を感じる私に、おじさんは訝しげな顔をした。
 
 「おじさん、ジョニーは?彼は何処に行ったの?」
 「ん?ナターシャ嬢ちゃん、もしかして聞いてないのか?」

 確実に何かあった。
 おじさんの態度は、私が確信するだけのものがあった。

 「ジョニーの奴は昨日遅くにMITに向かったぞ。何でも急に向こうで用事が出来たからだとよ。そんでそのままそっちの寮に引っ越すんだそうだ。」
 「…………え?」

 おじさんの言っている事が解らなかった。
 だが、最近のおじさんはすっかり酒も抜けて、以前の様なタフガイに戻っている。
 今の彼が間違った情報を言うとは思えなかった。


 「どういう事ですか!?」
 「本当に聞いてないみたいだな。…あいつ、最近知り合いと立ち上げた会社で色々やっててな。今じゃもう一国一城の主だぜ?多分、その関係で引っ越すのが早くなったんだと思うが…。」
 「じゃぁ、なんで私に一言も言わないんですか!?」

 必死の形相で言い募る私に、おじさんは眉を顰めて言い辛そうに口を開いた。

 「あー、多分だが、何でもIS壊す兵器作る奴がIS学園入学生と一緒にいちゃまずいって思ったんじゃねぇか?」
 「そんな……。」

 絶句。
 おじさんから告げられた言葉に、私はただただ絶句した。
 
 そして、理解した。
 彼は、本当は私にIS学園に行って欲しくは無かったんだと、今更ながらに。

 遅かった。
 余りにも、私の理解は遅かった。

 彼はISが登場してジョージおじさんがあんな事になってから、直接言う事は少なくても、あんなにも雄弁に私に語りかけてきたのに。

 私は、彼の唯一の幼馴染なのに、そんな事にも気付かなかった。


 「で、でも!今から追いかければ!」


 せめて追いかけて詫びの言葉くらい言いたい。
 だが、現実は無情だった。


 「もう空港から出発してから暫く経つ……それに、会社の方はでかい企業も一枚噛んでる。部外者は入れねぇし、IS関係者なんざ言語道断だ。」
 「そん、な………。」


 目の前が真っ暗になった。
 
 







 そして一カ月後、私はIS学園に来ていた。


 新しい暮らし、新しい学友、新しい人生。
 周囲から見れば羨ましいであろう私の現状だが………それでも、私の中にあるのはただ空虚だけだった。


 この学園に入学するにあたって、最も私に助力してくれただろう幼馴染。
 彼と出発の挨拶を交わす事無く、私は故郷アメリカを離れ、遠い極東の地へと来てしまった。


 「………なんで……。」


 ただ、空虚だった。







 SIDE JOHNNY


 「ようこそおいでくださいました、社長。」
 「よしてください。僕はまだ20にもならない小僧ですし、航空開発にその人あり言われたエイフマン教授に敬語を使われる程偉くはありません。」
 「ふぉふぉふぉ、ではいつも通りと行こうかの?」

 僕は恩師の1人と会社の一室で愉快そうに歓談していた。



 
 僕が社長役を務めるこの会社、名を「RE」と言う。

 REはRegeneration and Evolutionの略であり、漢達の空への復活と更なるステージである宇宙への進歩を意識したものだ。

 資金源は主に義体やLM関連の技術で取った特許、他にもそれに注目している企業や個人からの出資が元となっている。
 特に人工筋肉関連は既存のものよりもかなりものが良いのでウハウハである。
 まぁ、その使用先が医療だけでなくIS関連も多いというのは社員一同にとって非常にむかつく話だが、今は雌伏の時であるので目を瞑っておく。
 それに、あくまで特許に出したのは基礎の基礎であり、本当にヤバそうな重力兵器や相転移エンジンなどの技術は秘匿しているから問題は無い。

 他にも同志達個人の資産も少々だが入っている。
 …正直、ここまで彼らがISを憎んでいるというのは驚きだった。
 まぁ、最近は女尊男卑も甚だしい世間なので、色々とあるのだろう。



 会社としては早速最新型の精密作業用機器やスパコンなどを購入し、アメリカ国内に小さいながらも本社を建築した。
 完成までの間も有効に活用すべく、僕らは半年程本社予定地の近くのアパートを3階分まるまる借りて、社員(仮)全員で集まると、今後の予定やら何やらを話していった。

 
 
 今後するべき事は、先ずはLMの実用化だった。
 それに義体の方もできれば製作して工作技術のノウハウを蓄えるべきとの声も上がった。
 なるほど、確かにその通り。
 知っていればなんだってできるという訳でもない。
 理論や設計、研究はできるだろうが、実際に作るとなると腕の良い技術者も必要となってくる事だろう。

 幸いにも集まった社員(仮)の中には元航空機関連の人材も多く、そこら辺は全員直ぐに納得できた。
 それにしても女尊男卑の影響か、集まった者の中には高名な年配の航空宇宙関連の技術者も何人かいるのだが、世界は大丈夫なのだろうかと一抹の不安を覚える。



 そして2カ月後、全員が早速LMの実用化を目指して動き出した。
 
 人工筋肉に関するノウハウに関してはこの2カ月で皆結構習熟しているので良いが、搭載するFCSやバランサー、生命維持機能などは一から作り上げなければならない。
 如何に結果が見えているとしても、それまでの過程は険しく長いものなのだ。

 ましてや、敵は世界最強の兵器たるIS。
 手を抜く事などできず、僕達RE社の社員一同は寝食も忘れて開発に耽った。

 最初に目指したのは、作業用としてのLMだった。
 戦闘用にするには圧倒的にデータとノウハウが不足しているので、先ずは作業用機としての堅牢さと信頼性、整備性などを目指す事となった。
 勿論、試作一号機は多少割高だろうと許す限りの高性能機に仕上げる予定だ。
 開発というものに節制は毒にしかならない。


 作業用の汎用人型重機という事で、サイズは2~3m程度が目安とされ、全体の大まかな構造や搭載する人工筋肉や油圧系の量を決定していくと、そこからは分担して作業する事となった。

 そして、どんどん時間が流れていった。

 最初期のLMにとってどんな材質が理想かを検討し、現行存在するありとあらゆる材質を調べていった。

 人工筋肉だけではやや最大馬力に欠ける上にコストが高くなるため、試作機一号は全身人工筋肉、二号機は一部油圧系を採用した廉価版となった。
 前者は軍用、後者は民用という具合に分ける。
 反応性という点においてはやはり人工筋肉、衝撃吸収性も高いので防御力が優れる。
 対し、油圧系は最大馬力は高いし、整備性やコストも優れるが、それ程防御力は高くないし、何より反応性が高くないからだ。

 IS程高級な代物ではなくても良いが、やはりバランサーは重要だ。
これはなるだけ重心を下にする事で安定性を高め、脚部に電磁吸着機能を付加した上でオートバランサーを設置した。
お陰で震度5クラスの震動でも転倒する事は無い。

 ISの様な絶対防御とは行かずとも、搭乗員の安全確保は最重要項目だ。
 そこで、本来のLMとは異なりマスターアームを削除、どこぞの機動警察の様に手の動きを直接伝える直接操縦形式に変更して操縦性を高めつつ、乗員を守る正面装甲と生命保護機能の搭載スペースを設ける事に成功した。

 そして、動力源に関しては大容量の小型燃料電池を採用し、連続5時間程の稼働を実現してみせた。





 そして、実に1年の月日が経過した。





 遂にLMが完成した。

 一号機はまだ本命の飛行システムであるダミュソスシステムが未完成であるため、発表は控えたが、作業用として開発した二号機は量産を前提として既に4000時間近い稼働時間を無事に終えた。
 それに量産機には必要のない機能の削除や一部設計の見直しにより、コストの方も低くなっている。
 もう販売する分には問題は無いが、何分IS全盛のこのご時世に売れるかどうか不安が残る。

 既にアメリカ政府や一部の企業には作業用LMを採掘場や災害救助用としてそこそこの注文が来ているが、軍需としてはお寒い限りである。


 LM―01A ギュゲス
 汎用型作業用LM第一号にして、後のLM全ての始祖となる機体である。
 その外見は卵型の胴体にゴリラの様な長めの腕と短い足、胴に埋まった頭部という構成となっている。
 高い汎用性と操縦性、整備性に低コストであり、作業用の他に災害現場における救助活動も可能な性能を持つ。
 五指のマニュピレーターを削岩機や杭打ち機等に換装可能であり、背面に空中飛行・浮遊を可能とするダミュソスシステムという板状の重力推進機により高所での活動も可能となっている。
 ただ、あくまで作業用、救助用であり、戦闘は不可となっている。
 
 現在、宇宙空間や深海対応モデルを開発中である。


 予想以上の良い仕上がりとなったギュゲスだが、しかし、今一つ売り上げが芳しくない。
 だが、幸か不幸か、他の企業や政府と細いながらも繋がりを確保できたのは幸いと言うべきだろう。


 そのためか、遂に我らがRE社にもISコアとIS開発への参加許可が出た。

 正直言って腸が煮えくり返りそうだが、背に腹は代えられない。
 それに、敵の情報は万金に値する。

 早速最新型のフランス製のラファール・リヴァイブのフレームと装備一式を購入、戦闘用LM試作一号機との性能比較試験を行う事となった。





 三日後、RE社開発陣にはどんよりとした暗い空気が滞留していた。


 理由は簡単で、ラファール・リヴァイブとの性能比較試験でぼろ負けしたからである。
 試作一号機は未だ未完成とは言え、コストや整備性、操縦性以外ではほぼ全負けしたのだから無理もないと言える。
 
 ちなみに、ISの操縦はたまたま警備会社の女性職員に依頼した。
 …ISには不慣れらしいが、強かった。




 社員一同ちょっと折れそうになったが、ここで諦めるつもりは全員毛頭ない。

 
 早速全員で喧々囂々の話し合いがなされ、戦闘用LMの再設計が決定された。

 先ずは機体サイズそのものを5~6mクラスにサイズアップさせ、凡そ全ての性能を向上させる事を目指した。
 
 そして、遂にナデシコ系の重力兵器関連の技術を使用する事となった。

 とはいえ、いきなり小型相転移エンジンとか出してチートとかは不可能である。
 先ずは重力操作技術のノウハウの確保である。
 ダミュソスシステムの御蔭で推進関係は十分なので、今度は兵装面の開発が始まった。

 いきなりディスト―ションフィールドやグラヴィティブラスト等の重力兵器の理論を見せる僕に驚く社員達だが、既に僕の異常性に関しては全員スルー、気にせずに早速仕事に取り掛かった。
 
 
 機体を5~6mにサイズアップしたためか、エステバリス関係の技術をそのままスライドできるため、戦闘用LMの開発は思ったよりもスムーズに進んだ。
 


 だが、ここで問題となったのが機動性である。
 全方位に視界を持ち、全方位に加速できるISを捕えるには、一体どうしたら良いのだろうか?
 
 

 無論、現在開発中の戦闘用LMは既存兵器に対し、圧倒的なものではあるのだが、どうしてもIS]と比べると機動性の面で見劣りする。
 
そこで考案されたのが、重力波推進とジェットエンジンのハイブリット化である。
これはエステバリス空戦フレームにも採用された機構で、加速はジェットエンジンに、浮遊は重力場推進に頼っているのが特徴的だ。
 今回の場合、重力操作による慣性制御を機体だけではなくジェットエンジンによって得た大推力のベクトルを変更させる事に使用する。
 そのせいで重力場推進のエネルギー消費が8%程大きくなってしまったが、これにより第二世代IS相当の機動性、運動性の確保に成功した。

 また、操縦方式をIFSではなくLM―01Aと共通のEOS(イージーオペレーションシステム)を採用した。
 パイロットはコクピット内で専用スーツを装着し、スーツに装備されたハードポイントで機体内部に半ば固定される様に搭乗する。
 なお、この専用スーツはオークと呼ばれるパワーアシストプロテクターを元にしたものであり、人工筋肉の高い衝撃吸収性による搭乗員の保護、高機動戦の際のGの軽減、生命保護機能を備え、水中や宇宙空間でも数時間は生存可能となっている。
 これにより、パイロットに掛かる負担の軽減と安全性の向上を果たした。
 
 後はバグの発見と生産ラインの調整、そしてデモンストレーションが必要だった。




 そして、僕は両親の交友関係を辿り、米国全土で冷や飯どころか空軍から叩き出された漢達に声をかけていった。

 彼らの持つ空戦のノウハウや戦闘経験、操縦技術は戦闘用LM開発にとって必要不可欠なものなのだった。
 今後、実際に戦闘用LMに搭乗するだろう彼らの声はRE社にとって多大な恩恵を与える事だろう。






 そして、雛型が完成したのは半年後。
 各所に調整を繰り返し、遂に戦闘用LMは完成したのだった。


 名称はそのままにエステバリス。
 その性能は現行最新の第二世代ISにも劣らないものとなった。

 全長は約6m、ジェネレーターはやはり非搭載型となったが、コストと整備性、機体重量で優れている。
 その分の機体のエネルギーは要重力波ビームか長期活動用のENパック頼りとされた。
 基本兵装はディスト―ションフィールドとアーミーナイフ、アサルトライフルとなっており、このお陰で機動性、攻撃力と防御力全てにおいてISに劣らないものに仕上がった。
 
 そして何より、十分な訓練さえ積めば搭乗者を選ばないというISとはかけ離れた性質を持つ。



 今日この日、漢達は新たな翼を得て、再び空へと昇ったのだ。
 







[26770] IS~漢達の空~その2 大幅改訂
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/19 15:17
第二話


アメリカ合衆国には大きな不満があった。


 アメリカは世界の警察であり、国際社会のリーダーでなければならない。
 そう自負してきたアメリカにとって、現在の世界は甚だ不本意なものだった。


 ISという極東の小娘が作ったものに支配される世界


 軍事も宇宙開発も、最早IS一色になり始めている。
 圧倒的な軍事力と資源を背景として世界中に影響力を持っていた米国。
 それが今はどうだろうか?

 小娘一人が作った代物に、手も足も出ない。
 その上軍事力にも多大な制限ができてしまい、国内の治安は退職させられた軍人達のせいで治安の悪化や雇用問題が重なり、大きな社会問題となってしまった。

 多くの高級軍人達にしても多くの優れた空軍パイロット達を切り捨てるのは非常に辛い事でもあった。
 
 大企業にとって、今まで培ってきた多くの航空機開発のノウハウを否定したISは憎き敵だった。
 敵だったが、営利目的で動く企業はそれに従うしかない。

 そして、政治家にとっても小娘一人の掌の上という状況は非常に気に食わない。



 名誉ある合衆国を、世界を小娘一人の意のままにさせる訳にはいかない。

 そのために、名誉ある合衆国の復活を。
 ISからの脱却を。

 多くの政府要職にある者達がそう考えた。
 
 
 
 
 そして見つけた。
 あの大天災に匹敵する天才を。



 その少年は初めは誰にも注目されなかった。
 しかし、多くの最新科学技術の特許を持ち、冷や飯を食っていた多くの技術者達に声をかけ、ISに匹敵する兵器を開発中となると、途端に目端の効く者達は彼の情報を集め出した。

 解ったのは彼が元空軍のエースパイロットを父に持ち、その父を空から追いやったISを憎悪している事だった。




 使える。




 ISを憎悪し、漢達に空を取り戻そうと必死になっている少年は、大人達にとって正にうってつけの人材だった。

 そして、彼の情報を知った者達は一斉に彼とのパイプを繋ごうと蠢きだした。






 IS~漢達の空~






 遂に戦闘用LM、LM-02エステバリスの受注が来た。

 
 これはつい先日、アメリカ内の企業・政府・軍問わずの重鎮達を招き、大々的なプレゼンを行ったからだ。

 とは言うものの、本来ならIS関連の技術発表会等で改良したラファール・リヴァイブとエステバリスの模擬戦闘を披露する予定だったのだが、政府や財界筋から「プレゼンせんの?(意訳)」と何度も尋ねられたため、急遽行う事となったのだ。

 少々気にかかる事はあったが、事務や政治に詳しい社員達が揃って「好機を逃すな!!」というものだから、ジョニーを気にせずにプレゼンを行う事にした。






 SIDE GEORGE


 オレは、オレ達は一度空を奪われた。


 当時、ステイツの空軍パイロットの中でも腕っこきで知られていたオレは命令に従ってそいつ、ISとか言われる代物を落とそうとした。

 頼りになる仲間達、どいつもこいつも下品だが腕の良い、経験豊富な連中だ。
 乗ってる機体も当時の最新鋭機であるF-22。
 つい最近慣熟訓練も終了し、何の心配もなかった。

 例え新兵器だろうがなんだろうが、オレ達に負けはない、と。
 そう思っていたんだ。
 
 だが、現実って奴は何処までも残酷だった。



 オレの機に向かって白刃を振り下ろす白一色の人型の姿。



 気付いたのは2日後、空母の医務室だった。
 そこから、オレ達の凋落は始まった。

 空軍は再編成され、戦闘機は空から姿を消し、オレ達は翼と空を奪われ、追いやられた。
 ISと言われる女しか乗れない兵器に、オレ達が完膚無きまでに敗れたから。


 或いは、あの時オレ達がもっと奮闘していたら勝てたかもしれない。
 或いは、あの兵器が世界に広まらなかったらまだ空を飛べたかもしれない。
 或いは、オレ達がISに乗れたのなら話は違ったかもしてない。

 だが、全てはIFの話でしかない。

 後は、ただ貯蓄を食いつぶし、酒に逃げる情けない男だけが残った。
 妻には逃げられ、過去の栄光も消えた時、息子だけがオレを、オレ達を見捨てないでいた。


 頭の良い、自慢の息子だ。
 家に帰ると、何時もオレ達に話をせがみ、膝や肩に昇ってくる。
 やんちゃだが、頭も良く、女にも人気の、自慢の息子だ。
 息子は、オレ達を尊敬している。
 今もそれは変わらない。

 だからこそ、息子はオレ達にもう一度空を飛ばせようと動き出した。


 世情を見て、今のステイツにオレ達の居場所を作るには、空を取り戻すには何が必要かということは直ぐに理解した事だろう。

 作ったのは、ISに負けない性能を持ち、しかし、誰でも搭乗できる兵器。

 3年の年月をかけて、息子は天才である事を世界に証明してみせた。



 そして、オレは、オレ達は、もう一度空へと飛び立った。


 あの時の感動は筆舌に尽くし難い。
 強いて言えば、あれはあるべきものがあるべき場所へ収まったとでも言うべきか。
 
 あの日、実に10機近いLM-02が飛んだ。
 そして、通信から聞こえるのは始終漢達の嗚咽と歓声だった。


 『空が戻ってきた!』
 『空に帰ってこれた!』
 『また飛べる!まだ飛べる!』


 後はもう、言葉にできなかった。




 半年後、オレはISとの模擬戦を行う事となった。

 お偉方へのデモンストレーション。
 これに勝てば、オレ達は栄えあるステイツの盾と剣として、また空を飛ぶ事ができるのだ。

 負けられない。負けたくない。勝ちたい。 

 八百長などは一切無い。
 相手のIS操縦者は米空軍、自分もよく知る相手だったが、だからと言って手加減なんぞする訳が無い。
 それは無論相手の方にしても同じだろう。


 『まさか先輩とやる事になるとは思いもしませんでした。』
 『かっかっか!まだまだオレも現役って事だよ!』
 『おっきなお子さんいるんだから無茶しないでくださいよ!』
 『なにおう!?まだガキのてめぇに言われたかねな!…どうせまだボブとヤってねぇんだろ?』
 『セクハラ!?それセクハラですよ!』

 げらげらげら!

 昔の様に、出撃前に下品な冗談を交わす。
 既に身体から酒は抜け、鍛え直した身体は以前の様に強烈なGにも十分に耐えられるし、長時間の戦闘にも問題ない。

 顔見知りの後輩が相手と言えども、手は抜かない。
 寧ろ、それ位やんなきゃ意味が無い。
 いい女ってのは男の全力を受け止めてこそ、というのがジョージの「良い女」の基準だ。

 開始のブザーが鳴る。
 ここから先は模擬戦とは言えど死線が引かれる領域だ。


 『行くぜ、エリー!』
 『行きます、ジョージ大尉!』


 開始直後、両者は真っ向から衝突した。

 通常IS同士の戦闘では空戦が基本となり、セオリー通り上を取った者が有利となる。
 しかし、エステバリスとラファール・リヴァイブ・REカスタムは既存のISと比べると加速力が高いため、上下の取り合いをするよりも100m程度の距離では相手に突撃した方が隙が無いのだ。

 両者共に大振りで武骨なアーミーナイフで火花を散らして衝突、Dフィールドを軋ませ合う。
 次いで、エステバリスが空かさずREカスタムに蹴りを入れて距離を空け、ライフルで牽制しながら上昇を開始する。
 REカスタムも間をおかずに上昇を開始、ライフルを撃ちながらエステバリスに追いすがる。
 
 そこからは複雑な機動を描いたドッグファイト。
 お互いが常に有利な立ち位置を求めた複雑な機動は、空に白煙を残して複雑に絡み合っていく。
 既に本社施設は豆粒程度にしかなく、周辺空域には二機の機動兵器のみ。
 広い空域を、たった二機の機動兵器が自由に空を駆け巡っていく。

 両機は互いにジェットエンジンと重力場推進を搭載しており、その機動性は第二世代でも上位に入る。
 しかも搭乗者は元空軍エースパイロットに現役IS操縦者。
 目を見張る程高度な戦闘機動を以て、両者は相手の撃墜にかかった。


 ギシギシと、慣性制御でも御し切れないGが身体と機体を軋ませる。
 互いに相手の後ろに食らいつかんと動き、空を昇り、降りながら、円を描く様に飛び、銃火を交える。
 一昔前の戦闘機のそれに近い動きだが、どんなに機動性・運動性が上昇しても、武装や機体性能に圧倒的な差が無ければ、その機動は必然的に似てくるものだ。
 そして、そうした形の戦闘ならば、やはり経験が生きて来る。
 そうなると、俄然有利となってくるのは、やはりジェームズ。
 エースパイロットであり続けた彼を破るには、エリーは未熟だった。


 Dフィールドは減衰しても機体のエネルギーが続く限りは回復する。
 しかし、現在は要重力場ビームを停止しているため、被弾すればIS同様に機体のエネルギーを削られていく。
 かと言ってフィールドを解除すれば、機体への空気抵抗が増し、機動性の低下につながりアウトだ。
 如何に慣性制御をしていたとしても、できる事には限りがあるのだ。
 徐々に被弾を重ね、消耗していくREカスタム。

 だが、搭乗者であるエリーの目はまだ死んでいなかった。



 SIDE ELLIE

 手強い、とエリーは思う。
 流石はアメリカの英雄だ、とも。

 相手は一度は退役したとは言え、歴戦の兵士。
確かな経験に裏打ちされた彼の機動に自分は追い付いていない。
 武装は互いに同じものを使用し、機体性能自体もそう開きは無い。
 
 あるのは経験と、執念。
 絶対に負けない、負けたくないという執念だ。


 『それでも!!』

 私もまた負けられない。

 
 機体は最早限界に近い。
 仕掛けるのならこれが最後。

 未だ追い付けないあの人に、成長した自分を見てもらいたい。
 一度は消えた憧れを胸に、彼女は仕掛けた。


 『行きます!』


 ここぞとばかりに瞬間加速を使用する。
 今日は余り使ってこなかった技を、今ここで使う。

 REカスタムが音速の水蒸気を纏って、エステバリスへ向かって突撃した。




 SIDE GEORGE


 『空でオレに勝てると思うなッ!!』


 それは自負。
 空に生き、一度は追いやられ、それでも帰ってきた漢の執念。
 
 ナイフを引き抜き、音速で向かってくるREカスタムに、ジェームズは微塵も怖じる事なく、正面からブースターを吹かして挑んだ。
 音速状態の近接先頭の一撃は、互いに危険な諸刃の剣だ。
 威力は高くとも、それは自分にも言えるという状況で、正確無比に目標を攻撃し、自分自身は回避するのは至難の業だ。


 だが、漢は退かない。
 何故なら、退く理由が無い。


 『行くぜぇ……!』


 自分の両肩には、全米の、世界中の漢達の執念があるのだと。
 水蒸気のベールを纏い、ジェームズは「奥の手」を見せた。




 SIDE ELLIE


 「な…!?」


 エリーは見た。

 正面、自身と同じく音速で迫るエステバリスのDフィールドが目視可能なまでに密度を高めた事を。


 エリーは優秀なIS操縦者だ。
 適正はAを誇り、IS学園を上位の成績で卒業した才媛だ。
 その知識も技術者顔負けで、戦闘だけではなく将来的にはテストパイロットも務められるだけの能力は十分に備えている。

 だが、だからこそ彼女はエステバリスという兵器を、IS操縦者としての視点で見てしまっていた。
 
 通常、ISのシールドは全方位に常に展開し、それが尽きれば活動限界を迎える。
 消費は激しいが、それでも優秀な防御兵装であり、空力特性を維持するためには重要なものだ。
 必然、その形状は機体全体を覆う様な球状であり、原則として、その形状は変更しない。
 一応絶対防御はその適応範囲を広げる事はできるが、それでもあんな風に変形したりする事は絶対にできない。

 しかし、Dフィールドは違う。
 フィールドアタックの様に、フィールド出力を一時的に上昇させ、体当たりや打撃に利用する等、その形状は自在と行かずとも任意で変更する。
 IFS採用のオリジナル程ではないが、それでも正面に限定したり、拳や足に収束させる事は搭載したCPUに幾つかのパターンを登録してある。


 『おお……ッ』


 ジェームズは右拳を引きつつ、正面にフィールドを収束、フィールド出力を向上させる。
機体の正面が黒のヴェールに覆われた様に姿が隠れ、フィールドの収束が完了した。


 『負けない…!』


 エリーも見様見真似でフィールドを収束、機体が霞む程にDフィールドの密度が上昇する。
 しかし、その収束は明らかにジェームズに比べて甘く


 そして


 『おおお……ッ!!』


 音速を超えた拳と刃が正面からぶつかり合った。


 轟音と衝撃が青空に響き渡り


 『……!?』


 刃は、それを持つ右腕ごと砕かれた。
 

 そして、REカスタムは絶対防御を発動させつつ、弾かれた様に空から落ちていった。
 撃墜と同時に、即座に要重力場ビームが起動されたため、エネルギー不足になる事は無いだろう。
 そこまで考えて、漸くジェームズは長々と息を吐いた。


 『確かに筋は良いがなぁ…』


 降下しながら、将来娘となるであろう少女を思う。


 『オレを受け止めるにゃ、ちっとばかし未熟だったな?』


 10年後だったら解らねぇけどな!
 そう言ってジェームズは上機嫌に笑いながら、歓声の満ちる地上へと降りていった。







 SIDE NO


 響き渡るのは、歓声と嗚咽。

 地上で大型モニターを眺めていた多くの人達がただ喜びに満たされていた。
 泣き、笑い、叫び、それぞれの形で感情を外に表していく。


 そこにいた多くの人間達が、ISの搭乗により、空と宇宙から離れる事になってしまった人々だった。
 空軍パイロットは言うに及ばず、開発メーカーや航空宇宙関連の技術者、そして、そういった人々の家族。

 彼らが求めるのは、漢達の空と宇宙への復活。
 それを求めて努力し、それを求めてここまで来た。


 そして、今宵
 それが遂に成就への大きな前進を果たしたのだ。


 「やった!オレ達やったんだ!」
 「また空に戻れるんだ!」
 「RE社ばんざーい!もう一生出ていかねぇぞ!」
 「ぐぅ…うっ…あぁあ!」
 「もうISなんぞに負けねぇぞ!!」


 デモンストレーションに来ていた政治家や高級軍人、企業の重役達も、漢達の喜びに一緒になって騒ぎだした。
 やがて、悪乗りした若い技術者達を皮切りに、シャンペンやビールがけが始まり、会場は一瞬にして宴会場と成り果てた。

 立場を忘れ、踊り、叫び、飲み、喰う。
 何年も忘れていた、喜びの酒の味。
 翌日の二日酔いも忘れ、今夜だけは一人残らず酒乱に巻き込まれ、朝まで飲むのだった。
 

 「これが見たかったんだ!」


 ジョニーは本当に嬉しそうにそれを見上げた。
 その目からは他の者たち同様に光るものが零れており、それが彼の心情を如実に語っていた。

 
 「やっと、僕たちはここまで来れたんだ…!」


 あの「白騎士」事件からもう4年が経つ。
 あの日から、ジョージは真に幸福を感じる事がなかった。
 空を奪われ、誇りと翼を奪われた父。
 酒に溺れる父を見捨てた母。
 ISからの空の奪還を誓ったあの日々。
 そしてナターシャとの別れ。
 幾日も研究に研究を重ね、仲間を集め、特許を取り、今日という日を夢見てきた。


 「く、う…ぐぅぅぅぅぅぅッ!」


 ぼろぼろと涙をこぼす。
 我慢する事なんてできない。
 それ程、彼が感じた感動は大きい。

 
 「今は泣くと良い。それくらいは許されじゃろう。」
 「うぅうううぅぅううぅうううううッ!!」

 エイフマン教授の言葉に、ますます涙が零れてくる。
 
 その日、ジョニーはずっと泣き続けた。




 なお、ジョニーは翌日重度の脱水症状でダウンする事となる。 






 そして今日この日より、アメリカ合衆国は大きな転換期を迎える事となる。























 機体説明

 LM-02 エステバリス

 外観と性能はほぼ空戦エステバリス(頭はアカツキ機)。
 本家よりも運動性や衝撃吸収などが向上しているが、これはIS技術とLM系人工筋肉を一部に採用したため。
 また、アサルトピット機能は無い。
コクピット周辺は純粋な脱出ポッドになっており、搭乗員と機体のデータを脱出させる。

 今後、大口の注文が来て大量生産する事になれば、第二世代ISよりも低コストになる見込み。

 兵装は現在アサルトライフル、アーミーナイフ、ディスト―ションフィールド。
 オプションとして空対空ミサイル、ロケット砲、フィールドランサーが製作中。




 ラファール・リヴァイブ・REカスタム

 RE社の技術でラファールを改修した第2,5世代IS。
 本家より拡張領域が二割程少ないが、要重力場アンテナやLM-02同様の推進システムや人工筋肉、ディスト―ションフィールドを装備している。
 こと防御力なら現在では第二世代最高となっている。
 
 外見上の差異は背面に空戦フレームのバックパックを装備している事のみ。




 



[26770] IS~漢達の空~その3 大幅改訂
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/16 17:42
 第三話

 

 アメリカ合衆国空軍は今年、新たな軍備再編計画を立案した。

 戦闘用LMを主としたその計画には当初、多くの方面から反対が寄せられた。
 しかし、デモンストレーションの映像や実際にやってみせた模擬戦でもエステバリスの優秀性が証明されると、状況は一変した。

 元よりISによる女尊男卑があまり浸透していなかったアメリカでは、ISの最大の欠点である女性のみ搭乗可能という点が克服された兵器は多いに喜ばれた。

 また、作業用LMの存在も人々の多く知る所となり、発注が多く出た。
 丁度深海作業用モデルと災害救助用モデルが狙った様に発売が開始されると、こちらもまた大きな反響を呼び、全米で売れた。

 国外販売は国から制限が出て不可能であったが、それでも十二分な収益を得る事ができた。



 これにより、RE社は現在未曾有の黒字経営となっている。





IS~漢達の空~



 「遂に、ここまで来たなぁ…」

 『そうだねぇ』
 『苦労したのう』
 『これからが楽しみ♪』
 
 「お前ら、気楽だよなぁ」

 『そう作ったのは君じゃない』
 『そうそう』
 『何事もポジティブポジティブ♪』




 RE社 社長室


 そこでは現在社長であるジョ二ー・ドライデンが一人過ごしていた。

 より正確に言えば、一人と三基。
 彼ら・彼女らは会社のマザーコンピューターである三基のオモイカネ級AIだ。

 一号機はアリエス、牡羊座。
 陽気で子供っぽさがあるが、どこか似非熱血系。
 二号機はトーレス、牡牛座。
 爺むさい、慎重な性格。基本的にのんびり屋。
 三号機はキャンサー、蟹座。
 楽天的な女性人格。意外と抜け目が無い。
 以下順次作成中。

 黄道十二星座にそった名を持っており、現行ではISを除き最高峰の処理能力を持っている。
 ただ、その全スペックを発揮し、成長していくにはどうしても人の手がいる。
 そのため、専門のオペレーターをAI一基につき数名必要とするし、今後も順次建造されていく予定だ。
 
 
 
 「今週に入ってからの侵入者は?」
 『全部で47名だね』
 『警備用無人機が足りんようになってきたぞい。増産せんとな』
 『CIAの人達も頑張ってるけど、限界みたい』


 LM-02の採用からこっち、RE社には各国や他の企業からの密偵や工作員が大量に侵入を試みていた。
 
 そして、その度にCIA職員や社の警備隊が出て来るのだが、そのとて限界がある。
 そこで、警備用の無人機が開発された。

 とは言え、攻殻機動隊のタチコマ達のように個別のAIは搭載していない。
 オモイカネ級AI達が操作する外部端末の様なものであり、消耗品だ。
 一応自立稼働はできるが、その場合は予め設定された動きしかできない。
 それらは主に2種類あり、施設警備用と戦闘用に大別される。
 前者はタチコマから搭乗スペースをオミットしてサイズダウン、光学迷彩と脚部に電磁吸着機能を備えたものである。
 施設の外壁や天井などに張り付き、24時間体制で200近い機体が高精度の複合センサーでRE社関連施設を警護している。
 基本兵装は35mmチェーンガン×2、スタンガン×2のみだが、後部のアタッチメントに対空機銃やロケット砲、小型地対空ミサイルも装備できる。


 戦闘用は木連製虫型無人兵器であるバッタ、しかもDフィールドを装備した後期型である。
 飛行も可能であり、高い運動性を持っているが、その性能はエステバリスには遠く及ばない。
 兵装はチェーンガンと小型マルチミサイル、Dフィールドと自爆である。
 現在は50機程製作され、警備用無人機が対処できない敵性戦力を確認すると出撃する。
 現在は幸いにも出撃した事は無いが、それも最早時間の問題だろう。

 ちなみに二機種とも動力は要重力場アンテナを使用しており、小型ながら高出力を誇っている。

 
 「ともかく、何時どっかの連中が襲撃してくるか解らない状況だからね。無人機はは今後も増産していくよ。」
 『『『はーい』』』
 「じゃ、僕は会議に行って来るから。」


 結構アットホームな雰囲気のする社長室だった。




 「じゃぁ定期会議を始めます。先ずは市場の報告からお願いします。」
 「は、まずLM-01の方ですが……最近生産が開始かれたLM-01B・Cの深海作業仕様・災害救助仕様の売れ行きは順調です。既にそれぞれ200台以上の注文が来ており、生産ラインは3カ月先まで埋まってます。この状況は今後暫くは続きそうですが……これは先日議題に上ったLM-01のライセンス生産の開始で今月から徐々に解消されていく予定です。後は順次LM-02のラインを増やしていく予定です。」


 LM-01Aギュゲスは作業用機械としては結構高額ではあるが、搭乗員の保護機能が従来の重機に比べて遥かに高く安全性に優れ、多数のオプションによって汎用性が高い。
 そのため、大きな企業や会社では何処も多かれ少なかれ購入している。
 
 だが、購入の最大の理由はそれを解析し、その技術を自社のモノにするためだった。
 無論、この程度はRE社側でも予想していた。
 しかし、RE社はこれを黙認し、寧ろ好都合とライセンス生産の話が来た際にOKを出した。
 これは一企業の独占状態を避け、可能な限りアメリカ全体の技術レベルが向上する事を目的としたものであり、既に一部の政府高官には話がいっている。

 とはいえ、企業としては利益の元は独占していたいのが本音であるのだが、そう言う訳にもいかない理由があった。
 
原因はLM-02の存在だった。
 現在、アメリカ空軍の最新鋭機であるこの機体、ISと同等の性能で遥かに低いコストに高い汎用性が揃った名機なのだが、最新機であるが故に未だ配備が終わっていない。
 さっさと揃えたい、揃えてISから脱却したいというのが現政権の考えであり、予算獲得と戦力強化に燃える軍部とIS関連の利益に喰いつき損ねた企業群からも強烈な後押しがあり、断る事は不可能だった。

 かと言ってLM-02の生産は他社に任せるには時間が掛かり過ぎる。
 何せ重力兵器や人工筋肉など、ISにすら使われていない様な技術も多いので、何らかの事故が起きる可能性が大きい。
 そこで、比較的安心して任せられるLM-01の方をライセンス生産に出したのだった。
 そうやってLMに関するノウハウを蓄積させ、何れは出資してくれた企業から順にLM-02のパーツ生産を任せる事になるだろう。

 もしそれで他社がLMを開発しようとも、RE社としては別に構わない。
 それはその会社がIS主流のこの社会に対しての楔が増えるという事を意味する。
 RE社としては寧ろ歓迎すべき状況だ。
 それに競争を止めた企業が行きつく先は停滞しかない。
 他社と競合し、努力を怠らない。
 それが企業の繁栄のための秘訣にして原則だ。



 「肝心のLM-02の方ですが…こちらはやや遅れていますが、先程の報告と合わせ、年度内に配備を完了する予定になっています。また、ドライデン大尉率いる教導隊は順調の様ですが……機体の消耗が激しいので、現在は本社でオーバーホール中です。」


 まだまだ大量生産するには人手も施設も足りないRE社では、どうしても生産が遅い。
 現在、社内向けのLM-01や無人兵器で生産ライン絶賛増設中だが、作業完了にはもう少し時間がかかる予定だ。
 幸いにも量産効果でLM-02のコストは更に1割ほど低くなり、生産速度も向上したので、まぁ順調と言えなくもない。


 「次に現在稼働中のオモイカネ級AIですが、三基とも順調です。少々人格が個性的すぎますが…皆さんもそんな感じですしねぇ。現在生産中の子達も揃えば、ぶっちゃけ世界中の電子世界はわが社が掌握できるようになります。」
 「それよりも言うべき事があるでしょ」
 「は、すいません……LM-02の発表以来、クラッキングは毎日三桁近くきておりますが、未だに突破は許していません。相手側の方の情報を毎回奪取したり、膨大なウイルスを送り込んだりもしていますが、全く減りません。CIAやFBIの皆さんに協力してもらっていますが、焼け石に水状態です。」


 もうノイローゼになる位にRE社にはハッキングが多い。
 多いが、オモイカネ級AIならびオペレーター諸君の働きにより、一度も中枢への侵入は許した事が無い。
 寧ろ有益な情報を得た事も多々あり、それを政府筋に流している事もあり、感謝されている位だ。
 だが、こうも連日来ては業務に支障を来たす事も出て来る。
 そのため、一刻も早いオモイカネ級AIの増産が求められていた。
 また、オモイカネ級AIの存在は何時の間にかホワイトハウスも知る所となっており、何基か注文が来ていたりする。

 とは言え、ロールアウトしない限りは現状のままに運営していくしかなかった。


 「現在警備部門が逮捕した侵入者ならび侵入を試みた者は通算1000人を超えました。CIAの皆さんの協力もあって水際で止めていますが、正直人手が足りません。先のオモイカネ級AIと並行し、警備用・戦闘用無人兵器と警備部隊のLM-02配備の声が上がっています。」


 社長室での会話通り、本当に侵入者の数が多いのだ。
 もう最近では食傷気味で社員全員がうんざりする程だ。
 捕え次第CIAに引き渡しているのだが、プロである向こうの職員すらうんざり顔を見せる程に多い。
 警備用無人機もオモイカネ級AIも、数を増やさなければこれ以上は限界だった。

 しかし、IFS強化体質のオペレーターがいないとは言え、何故オモイカネ級AIが三基も揃っていて対応できないのか?
 
 これには仕方のない事情があった。
 そもそも、オモイカネ級AIは22世紀の技術で火星極冠遺跡の技術をデットコピーした代物であり、その性能はナデシコCが地球圏を電子的に掌握した事からも伺える。
 だが、現在RE社で製作されたオモイカネ級AI群は20世紀の技術で作り上げたマイナーチェンジ品であり、その性能は劣る。
 総合的に見れば、凡そ70%といった所だろうか。
兎も角、AI自体に問題は無いのだが、製作側の技術レベルがまだ足りないという現実を浮き彫りにしたのだ。
 ISの存在とLM-01の基礎研究の御蔭で最新鋭技術を得たと言えども、まだまだという事だった。
 ただ、AIの人格部分や電子戦に関しては、攻殻機動隊の技術を併用したため、本家よりも約20%劣るという出来になっている。


 「さて、現在開発中の試作機PLM-01並び02ですが、進捗状況は30%といった状態です。ご存知の通り両機とも出力・機動性強化型のテストヘッドですが……やはり01の方は量産機として採用するにはどうしてもコストが高くなってしまいます。」
 

 PLM-01は脚部を大型化、そこに二基のジェネレーターを搭載し、推進系の出力を向上した仕様だ。
 稼働時間の延長、機体出力の上昇、機動性の上昇はするものの、反面、整備性の低下、コストの上昇、その高機動故の操縦性の低下が問題となり、テスト用に少数生産される予定だ。
 現状許す限りの高性能機に仕上がる見込みであり、もったいないのでデータ収集完了後は一部のエースパイロットに支給される予定だ。

 PLM-02は推進系全てを高出力化、要重力場アンテナとバッテリーを高効率化した純粋な性能向上機だ。
 現行のLM-02の後継機に相応しい性能を保ちつつ、推進系と要重力場アンテナ、バッテリーを交換するだけで済む予定なので調達コストも低く済ませられるという優れものであるため、次世代機のLM-03はこちらで決定している。
 ただある程度改善されたとはいえ、稼働時間の短さとエネルギー消費の高い兵装の搭載が難しい等のLM-02同様の欠点を持っている。
 

 「今後は01で得たデータを02にフィードバックする予定です。データ取り終了後は教導隊と一部のエースパイロットに配備される予定です。製作完了はそれぞれ3カ月後、2ヶ月後を予定しています。正式なロールアウトは来年度以降になる予定ですが。」
 「開発部には全員ボーナスだね。皆もたまには家に帰るようにね。」


 へーい、という気の入っていない返事が各所から帰ってきた。
 後で強制的に自宅に強制送還させる必要があるだろうか?
 ジョニーはそう考えたが、今は会議に専念すべきと考えた。


 「次に相転移エンジンの試作一号機が完成しました。起動実験は危険ですので政府側から指定されたポイントで行う予定です。こちらは余裕を持って来週行います。」


 相転移エンジン。
 インフレーション理論を用い、真空の相転移を利用し、真空の空間をエネルギーの高い状態から低い状態へ相転移させる事でエネルギーを取り出す画期的なエンジンである。
 その最大の特徴は真空さえあれば幾らでもエネルギーを取り出せる事にあり、宇宙空間において最大限のスペックを発揮する。
 その起動には大きなエネルギーを必要とするが、それでも従来の発電方法よりも遥かに大きなエネルギーを取り出せる事に変わりは無い。
 これを用いれば、米国はエネルギー問題を一挙に解決可能であり、また、ISの登場で停滞していた宇宙開発分野において大きな前進となる。
 まさに、宇宙を目指す漢達にとって、夢の様な技術なのだ。
 そのため、この相転移エンジンの開発には開発者の中でも宇宙開発のプロフェッショナル達が多数所属しており、漢達の夢のため、日夜開発に勤しんでいる。

 とは言っても、ナデシコ級戦艦に搭載された程のものではなく、木連のジンシリーズに搭載されたやや小型で出力の小さなものを使用する予定だ。
 ナデシコ・Yユニットがただ二度だけ使用した相転移砲の威力、木連の大艦隊を一撃で消滅させる程の危険さを考えると、いきなり大出力のエンジンでの実験は避けたい。
 そこで、最悪暴走しても都市一つ消えるだけで済む小型相転移エンジンが最初の実験に選ばれたのだった。
 ただ、それにしたって既存の発電方法よりもかなり優秀なのだから十二分だろう。


 「また、相転移エンジン搭載型の大型航宙艦ならび大型兵器の設計も進んでいます。」
 
 
 その言葉に、その場にいた面々は色めきたった
 巨大兵器、それは漢の浪漫。
 宇宙戦艦、それは漢の夢。
 この会社には何時までも少年の夢を忘れない奴らしかいなかった。


 「前者のPRE-01は新技術のDブレードを採用した双胴艦であり、小型デブリ程度は問題ありません。また、デブリや小惑星破壊用に約12門の対空レーザー砲と正面に重力波砲であるグラビティ・ブラストを搭載しています。ですが、ものがものですから、ロールアウトは再来年以降になる予定です。」


 宇宙開発用にしては明らかに過剰な武装だが、もし近い将来アメリカだけが宇宙開発で進み過ぎれば、十中八九何れかの勢力の妨害行動が考えられる。
 その際、自衛用の武装があるのと無いのとでは大きく違う。
 正体不明のISに襲撃される、なんて笑えない事態も在り得るのが、今の彼らなのだ。

 しかし、大型艦の開発は今まで経験の無いものなので、やはり時間がかかる。
 再来年以降と言ったが、相転移エンジンの開発が成功してもロールアウトには4年後という試算が出ていた。
 ちなみに型番のPRE-01は試作のPに社名のRE、01は1号艦を指す。


 「後者のPLS-01方ですが、肝心の相転移エンジンの方が成功すれば、試作一号機は来年中に完成します。装備はグラビティブラストとDフィールド、要重力波ビーム発生器のみです。二号機以降は更にミサイルや対空迎撃機銃にレーザー砲、レールガン等を装備させる予定ですので、Gブラストの充填の隙も埋められる見込みです。」


 LM-02エステバリスが満足な戦闘を行うには、どうしても要重力波ビーム発生器が必要不可欠となる。
 現在は各地の空軍基地に発電機とセットになった発生器搭載型車両や大型輸送機による輸送がなされているが、ISに見つかった場合、ただの鴨にしかならない。
 現在は長期作戦行動を行う際には追加のエネルギーパックを装備して稼働時間を延長するのだが、根本的な問題解決にはなっていない。

 そこで、相転移エンジンと一緒に要重力波ビーム発振器を運用するための兵器が求められた。
 その結果、戦域でLM-02と作戦行動を取れて、十分な戦闘能力を持った兵器としてジンシリーズが選ばれた。
 相転移エンジンによる高い攻撃力と防御力を特徴とするジンシリーズは機体サイズが20m以上と大型で近接戦闘に難があるが、それはLM-02と作戦行動を取らせた場合には解消されるため採用された。
 
 とは言え、まだ肝心要のエンジンの方が完成していないし、いきなり大型兵器を作れる訳がないので、試作機を作ってノウハウの蓄積に努める必要がある。

 そのため、試作一号機はエンジンとの親和性と当初目的とする相転移エンジンと要重力波ビーム発生器の保護のためのDフィールド、LM-02の火力不足を補うGブラストという当初必要とされる最低限の機能が求められた。
 その結果、余計な両腕はオミットされ、胴体は正面のGブラストと操縦席兼脱出装置である頭部で構成され、下半身は重力場推進とランディングギアだけとなった。


 ぶっちゃけ、見た目だけならXG-70である。


 あるぇー?とジョニーは思ったが問題は無いので、まいっか、と流した。

 ちなみにPLSは試作ランドシップ、要は試作型移動要塞の事である。

 
 「じゃ、報告はここで終了。重要だと思う事は各部署ごとに纏めて提出して、皆仕事に戻るように。」


 そして素早く自身の職分に戻る面々。
 全員が本当は会議に出たくない程忙しいのだが、こうして顔を合わせて認識の擦り合わせをするのは集団作業では必須事項であり、自分達の目標の再確認にもなるため、決して欠席はできないのだ。









 漢達は、空を取り戻しただけで満足はしない。


 その先、宇宙をも目指して進み続ける。


 全ては、ISによって遠ざかってしまった空と宇宙を目指して。










 『しぃッ!!』


 敵ISが射撃を掻い潜り、ブレードの一撃を見舞わんと肉薄する。
 だが、そう簡単にはやらせない。
 

「させない!」


空かさず蹴りを見舞い、相手の姿勢を崩そうとする。
 だが、相手は人類最強と名高い女傑。
 その位は見きっていた。
 
 
 『ふっ!』


 くるり、と目の前のISが宙返りを打つ。
 普通なら回避不能であろう一撃を、敵はあっさりと回避する。
 蹴りは空振り、こちらの姿勢が僅かながら崩れている。
 しまった、と思うが、もう遅い。

 
 次の瞬間、相手のブレードが袈裟懸に振り抜かれ、私のシールドエネルギーは底を尽きた。




 
 「やっぱりだめね。あなたを懐に入れた時点で私の負けだったわ。」
 「とは言うがな。最近ではヒヤヒヤする事も多くなっているぞ。」
 「嘘おっしゃい。今日も派手に切り捨ててくれちゃって。」


 ナターシャ・ファイルスと織斑千冬。
 アメリカ代表候補生と日本代表。
 この二人は何かとよくつるんでいた。
 片や遠距離戦のエキスパート、片や近接戦のスペシャリスト。
 共に2年生の身でありながら生徒会に属し、得意・不得意が外れる2人は何かと模擬戦をしている。
 今は2:8で千冬の方が勝ち越しているが、それは千冬が専用機持ちである事にも起因する。
 もし2人が互角の機体に乗っているのなら、勝負はもっと白熱する事だろう。


 「まぁ良いさ。次は全弾回避する。」
 「その前に撃ち落としてあげる。」

 
 ふ、ふ、ふ、と笑う美少女2人の迫力に、アリーナで観戦していた周囲の者達はちょっと引いた。


 「あ、あのーお二人とも?お飲み物はいりませんかー?」


 そこに笑顔を引き攣らせながらも近づく者が一人。
 2人の後輩にして最近では雑用係が板に付いてきている山田麻耶だ。


 「あぁ、助かるよ山田君。」
 「あら、ありがとうマヤ。」


 麻耶からスポーツドリンクの入った缶を受け取り、直ぐに飲み始める2人。
 しかし、ナターシャは直ぐに口を離して首を傾げた。


 「これ、少し温い?」
 「その方が身体には良い。」
 「へぇ、そうなの?」
 「私も織斑先輩に言われて始めたんですよー。」


 模擬戦直後の少しほのぼのとした空気。
 こうした雰囲気をまた感じる事ができるのも、千冬のおかげね、とナターシャは思う。


 一年前の入学直後、ナターシャは荒れていた。
 幼馴染のジョニーを裏切ってしまった後悔と彼の気持ちに気付けなかった自身に対する怒り。
 その二つに苛まれ、彼女は自分の身体を顧みない様な訓練を繰り返していた。
 他の学生や教師が止めろと言っても聞かず、彼女は只管に己を虐め続けた。
模擬戦では相手のISを破壊しようとし、危うく大破させる程の損傷を与えた事もあった。
 
 そんなナターシャを正面から打ち破り、その頬をぶん殴って正気に戻したのが千冬だった。


 『筋は良いがな。不様過ぎるぞ、貴様。』
 『貴方には関係無いでしょう!』
 『あるさ。目の前で不快なものを見せられた。今後も続くようなら、幾らでも殴ってやる。』


 事実、千冬は何度もナターシャに勝利し、ぶん殴ってきた。
 やさぐれていたナターシャとそれに真正面から向かってくる千冬。
 2人は何時しか親友と言える程に友誼を結ぶ仲となっていた。


 「そう言えば、千冬。まだ弟さんに言ってないの?」
 「…それは、まぁ…。」
 「早くした方が良いわよ。…状況は待ってはくれないのだから。」


 そう言うナターシャの笑みには、いつも影が付いて回る。
 彼女が何に悩んでいるのかは誰も知らない。
 何人かが聞こうとしたが、千冬はそれを止めた。
 千冬は彼女が自分から話しだすまで待つつもりだ。
 それが友人というものだと、彼女は思っている。


 「善処する。」
 「早めにね。」


 千冬の弟、一夏は彼女がIS関係者である事を知らない。
 彼女は弟が何か厄介事に巻き込まれないか気が気でないのだ。
 千冬は世界初のIS搭乗者、狙われる理由には事欠かない。
 
だが、ナターシャは情報を遮断する事はいけないと言う。
 本人に自衛の意識を持たせ、必要な知識と技能を身に付けるべき。
 どんなに過去から逃げようと、過去は追ってくるのだと。
 彼女は千冬を諭した。
 そして、千冬はそれを了承したのだが、未だに弟に言えずにいたのだった。


 「…どう言い出せと?」
 「素直に事実を言えばいいんじゃないのかしら?」
 「あはは、姉が人類最強だなんて聞いたら弟さんびっくりし痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
 「私は、弟の事で、からかわれるのが、大っ嫌いだ!!」
 

 織斑千冬
 世界初にIS操縦者にして人類最強の少女。

 その実態は、ただのブラコン少女である。








[26770] IS~漢達の空~その4 大幅改訂
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/16 22:08
 第4話




 IS、インフィニット・ストラトス



 通称「白騎士事件」と言われるテロ事件を切っ掛けに世に出たそれは、既存の人類の常識を大きく覆し、大き過ぎる波紋を呼んだ。
 社会は女尊男卑一色に染まり、ブラックボックス化された467個のISコアを各国が保持し、それを軍事の最先端とした世界が生まれた。

 宇宙開発は停滞し、航空機パイロットの多くが空を追われ、高名な技術者や科学者はその座を追われ、窓際に追いやられた。
 その後釜に座ったのはIS操縦者である女性達と、今まで若さから評価されなかった女性科学者や技術者達。

 それでも、以前は男女平等が唱えられた影響からか、当初はそこまで酷くはなかった。
 しかし、それも時が流れるに連れ、より極端な思想が増え、それに異を唱える者も少なくなっていった。
 男性にはもう、女性を支える賢いペットという立ち位置しか残されていなかった。
 
 世界を変えた画期的な新兵器にして、女性しか搭乗できないという大きな欠点を持つソレは、しかし、現在その価値を大きく減じようとしていた。


 LM、ランドメイド
 
 米国のとある企業が開発したその兵器は、再び世界に男女平等の風を入れた。 
 現在、各国政府で採用されている第二世代ISに匹敵する機動性、攻撃力、防御力を持ち、低コストかつ高い整備性、汎用性を獲得した6m大の人型兵器。

 そして、ISと異なる最大の点は、誰にでも搭乗可能で、大量生産可能だという点

 その存在は嘗てのISと同様に、当初人に知られてはいなかった。
 しかし、米国政府は何処の勢力よりも速やかにその存在を察知し、正式採用を決定した。
 それに違和感を覚えた多くの勢力は、即座に調査の手を伸ばした。
そして、入手した。
 第2.5世代ISと件の新兵器の戦闘映像を
 
そこからは早かった。
 各国はあらゆる手段を厭わずにその新兵器の情報を得ようとした。

 しかし、アメリカ合衆国は全力を以て絶望的な防諜網を構築し、一切の情報をシャットアウトした。
 そして、開発した企業に直接乗り込もうとした者達は、誰一人として帰ってくる者はいなかった。
 その全てが捕えられ、闇へと葬られた。
 また、クラッキングにしても同様で、寧ろこちらの情報を奪われる事がしばしば。

 だからこそ、世界はアメリカとRE社に対し、その新兵器の情報の開示を迫った。




 時はISの登場から8年、RE社創設から5年が経った頃だった。





 
 IS~漢達の空~





 
 その日、国連総会は荒れに荒れた。



 議題は勿論LM-02の情報開示ならび輸出解禁に関するものだった。

 各国は挨拶や祝辞もそこそこに、早速会議を始めた。
そして、何処の国も唱えるのは揃って同じ。
米国に対するLM-02の情報開示と輸出解禁だった。
 
 しかし、何処も素直に米国が解禁するとは思っていない。
 先ずは吹っかけて様子を見よう、もらえれば儲けものという具合だった。
 それに対し、米国は余裕を持って対応する。
 
 曰く、「国防に関する情報は国家機密。それを話す事はできない。」

 そんな当たり前の返答を求めていない各国は、ふざけんなとばかりに要求を繰り返した。
 とは言っても、それはあくまで先進国、それも日本以外の国だけだった。
 これは日本が既に同盟国であるアメリカと話を付けており、将来的にLMシリーズの日本向けの機体を輸出する事で話がついていたからだ。
 しかし、他国はそれを知らないため、日本の沈黙をいつもの弱腰と判断して捨て置いた。
 …追求されて情報を公開した所で、痛くも痒くも無い機体を輸出する予定ではあるが。

 その後、国連総会はそっけない米国と沈黙する日本、米国に追求する他国という状態のまま推移した。
 それは他の議題を押しのけ、一カ月近く審議された。
 米国の口の堅さもそうだが、各国の粘りも凄まじいものだった。
 そして遂に、米国が折れた様に口を開いた。

 「現在議題となっている機動兵器に関し、我が国はある程度の譲歩をする用意がある。」

 米国の発言に、各国は新たに動きを見せた。











 米国がむっつりと沈黙を保っていた頃、現在絶賛各国の注目の的であるRE社であるが………現在戦闘中だった。


 マスコミに偽装した不明勢力が、なんとISを4機も使って正面から襲撃してきたのである。 
 そして、直後のRE社は戦闘態勢に移行、即座に迎撃に出撃した。

 相手は米国製第二世代ISの一つであるヘビーバレルとレッドブル、英国製第二世代ホークアイ、ロシア製2世代アルモス・ブラ(日本語でダイヤモンド2)だ。
 ヘビーバレルは重装甲・大火力による面制圧を、レッドブルは高い運動性と機動性、ホークアイが精密射撃を、アルモス・ブラは汎用性と稼働性を優先したモデルだ。

 どれもIFSは無いため、奪取されたか不正規活動用と思われるものであり、CIA職員からも撃破許可が出ため、RE社は心おきなく攻撃を開始した。



 まず最初に動いたのは常時展開している警備用無人機による濃密な対空砲火だった。

 光学迷彩を解除し、前腕に装備されたチェーンガンを迫り来る不明IS4機に発射する警備用無人機群。 
 その火力はISを撃墜するには遥かに脆弱なものだったが……如何せん全施設の外壁が見えなくなる程にみっちりと張り付いた大量の虫型無人機の姿は、どうしても生理的嫌悪感を催さずにはいられない光景だった。
 その数、実に450機。
 
それが一斉にカメラをISに向けて動くのは………………ぶっちゃけ、その様は台所のアレに似ていた。
 
そして、ISの登場者は全員女性である。


 結果、4機の不明機は引き攣った様な悲鳴と共に施設全体に対し攻撃を開始した。


 そして30秒後、警備用虫型無人兵器を掃討した彼女らが我に帰った時、既に反撃の準備は完了していた。



 格納庫からは本社防衛用に多数配備された戦闘用虫型無人機が100機、LM-01が150機、LM-02が20機、試験中のLM-02の陸戦仕様機であるLM-02Gが10機、雪崩を打った如く出撃した。
更にダメ押しとばかりに試作中だった対IS兵器を多数持ち出された。
 ……ちなみに、既に軍への完全配備は終了しており、この場にいるのは純粋にRE社の私設防衛部隊所属機である。


 IS4機が事態に気付いた時、丁度4機目掛けて12発の大型ミサイルが放たれた。
 シールドがあるとは言え命中すれば損傷は免れない。
 そう判断した4機は危なげなく8発の大型ミサイルを迎撃したのだが、これがいけなかった。
 RE社上空に突然に妙な粉末が広まった。
 途端、シールドに極僅かずつだが継続して負荷が掛かり続け、シールドエネルギーを削り始め、4機は顔を青褪めた。
 
 これは実は要重力場アンテナの製作過程で発生する廃材部分を粉末にしただけの代物だったりする。
 要重力場ビームが照射されてもそのエネルギーを受け止めきれずに自壊するのだが、その性質を兵器転用したのが、この対ISミサイル「アシッドレイン」である。
 その名の示す通り、酸性雨の様にゆっくりとISのシールドエネルギーを削っていく。
 これは稼働時間に問題を抱えるISにとっては天敵とも言える代物であり、廃材利用の品であるため、費用対効果も高いため、制式採用の話も出ている。
 ちなみに、LM-02クラスのDフィールドなら十分耐えられるし、発動には要重力場ビームが必要不可欠であるため常に補給がなされるため特に問題無い。

 そして混乱する4機に対し、LM-02部隊が一斉に飛翔した。
 兵装はアサルトライフル・アーミーナイフ・マルチミサイルの通常仕様だが、如何せん数が20と多い。
 単純にアサルトライフルをばら撒くだけで絶望的な弾幕と化した。

 しかし、迫り来る致死量の鉛玉に、4機のISは吶喊する事で答えを出した。

 回避が最早不可能で目的の達成がもはや不可能というのなら、ここに長居する訳にはいかない。
 最低限の被弾だけで4機はそれぞれ東西南北に散って、イグニッションブーストによる離脱を試みた。


 が、そうは問屋が卸さない。
 

 『がっ!?』
 『うあぁ!』
 『なんッ!?』
 『…馬鹿な。』


 施設上空から抜け出そうとした瞬間、4機のISはまるでゴムまりの様に施設内部に向けて弾き飛ばされた。 

 本社施設全てを覆う様に展開されたDフィールドは施設を守る盾であり……同時に、少々調節すれば内側から逃がさないための檻にもなる。
 電源は施設地下にある核融合炉と相転移エンジン一基から供給されているため、電源切れも有り得ない。
 4機のISは自分達が襲う側だと信じていたが……ここに来て袋のねずみであるのだと、漸く気が付いたのだ。

 そこから先は一方的なものとなった。
 LM-02部隊は一小隊につき5機編成を組み、連携を組んでIS1機をそれぞれ攻撃した。
不明ISは連携しようにも地上から来る精密な支援射撃に邪魔され、シールドエネルギーも順次発射されるアシッドレインにより減少が止まらない。
 低空飛行で施設を盾にしようにも物陰にびっしりといる戦闘用虫型無人兵器とLM-01部隊、LM-02Gの対空砲火にそれもままならない。


 LM-02Gは全長5mの奇妙な4脚のLMである。
 その外見は砲戦フレームの上半身に4脚の下半身で構成されている。
 操縦形式はは基本的に機体操縦と火器管制の複座型だが、一人でも操縦可能である。
 武装面は背面に2連装対空機関砲、肩と腕に汎用ラック、機体固定用アンカー、Dフィールドを装備する。
 性能自体はかのダイゴウジ・ガイが宇宙の塵にしてしまった重武装フレームに近いが、LMと言うのは名ばかりで、実質は多脚戦車ともいうべき性質を持つ。
これは攻殻機動隊の思考戦車や多脚戦車を参考とした事と大口径兵装を扱える上で機動性も確保するためにこの形態となった。
4脚化により搭載量が増えた人工筋肉により射撃時の衝撃吸収力が向上、射撃能力の強化を達成した。
 IS同様に慣性制御も射撃時の反動をキャンセルするのに使用する事もできるため、その精密射撃は狙撃仕様の第二世代ISにも勝る。
 米国陸軍からの注文で次世代の主力戦車として開発されたものであり、足には4個の追加バッテリーを装着可能、更にバッタ等の木連製無人兵器にも採用されていた小型ジェネレーターを搭載して活動時間を飛躍的に高めているので高出力兵装の使用も可能となっている。
 ラックと手腕に多数の兵装を装備可能で120mmカノン、90mmレールガン、ガトリングガン、スナイパーライフル、アサルトライフル、火炎放射機、荷電粒子法、三連ロケット砲、三連ミサイルランチャー、長期作戦用バッテリーなどがある。
 汎用性、機動性、火力、装甲の全てにおいて現行の陸戦兵器に勝るが、その分コストと整備性に関しては高くなってしまっている。


 対し、RE社側は限定された空間であるにも関わらず、先月末に遂に12基全てがロールアウトしたオモイカネ級AIの管制を受ける事で問題無い連携をこなす事に成功していた。
 しかも、唯でさえパイロットである漢達は年齢からもう空軍でやっていくには問題がある退役軍人達で構成されている。

 一対一の戦闘や圧倒的に格下との戦闘しか経験してこなかった彼女達IS操縦者に、勝ち目は無かった。
 
 


 一分後、RE社上空に4つの汚い花火が上がる事となった。






 所は戻って国連総会

 米国が先ず資料として提供したのは、戦闘映像だった。
 1対1から始まり部隊単位の模擬戦まで……凡そ各国が現在入手した映像よりも多くの映像が各国に渡され、議場でそのまま上映された。

 そして、ISに対し全く引けを取らないLM-02の姿に、各国は魅了された。

 一通り視聴して議場に落ち付き始めて会議が再開されると、各国は今度はLM-02の輸出解禁、一部の者は無償提供すら要求を開始した。
 それに対し、米国は落ち着いて対価の提示を要求すると共に……輸出向けの新型機であるのなら、輸出制限はしないと発表した。
 そして、これ以上の譲歩は我が国には難しい、と最後通告を付け加えた。
 
 
 結果、各国はそれぞれに資源やISコア、外貨を支払う事で、米国の取引に応じざるを得なかった。











 
 「へー、ほー、ふーん。」


 薄暗い研究室で、年若い女性がモニターを見ていた。

 睡眠不足から釣り上がった目、ぼさぼさに伸ばした黒髪、お伽噺にでも出てきそうなドレス、そのドレスを下からはち切れんばかりに押し上げる豊かな胸部。
 世界のカオスの中心、天才にして天災、ISの開発者。

 その名を篠ノ之束と言う。

 彼女が見ているのは、何の変哲もない、ニュース映像の一つだった。
 アメリカ空軍が配備した新兵器LM-02、それについてのものだった。
 彼女からすれば余り興味のないものであったが、それでも米国製の粗雑なものと言えどもISを撃破したのはちょっと驚きだった。

 彼女の予想では対IS兵器又はISに匹敵する兵器の登場は後20年は先だった。
 だと言うのに、それが覆された。
 僅かな驚きと……興味。
 篠ノ之束は愉快そうに唇を歪ませた。

 「ちょっと探ってみようかなー」

 そして、彼女はいつもの通り、自身の興味の赴くままに行動を開始した。 



 この行動が後のRE社と篠ノ之束の対立構造を本格化させる事になるのだが、それはまだ誰も知らなかった。
 








[26770] IS~漢達の空~その5 改訂
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/17 11:24
第5話




 米国が提案した輸出向けの新型機の輸出が本格化したのは、あの国連総会議から丁度2ヶ月後だった。



 ELM-01Aストーク
 
 コウノトリの名を持つ8mのこの機体はLMとは言うものの、その前身のLM-02とはかなり異なる機体である。
 この機体はIS技術のLM-02への流用を図ったPLM-01・03を参考にジェネレーターを搭載し、機体の凡そ3割の部品を第二世代型ISと共有している。
勿論男性も登場可能だが、量子通信システムもなければ量子格納機能もコアネットワークも絶対防御も無い。
 無いが、量産可能で訓練すれば誰でも搭乗可能でISも頑張れば撃墜できるという戦闘用LMとしての必須条件は達成している。
 人工筋肉の割合が低いため瞬発力は余り良いとは言えないが、その分装甲表面に対レーザーコーティングを採用、レーザー兵装には高い耐久性を持つ。
 その外観は鋭角的なLM-02に対し、全体的に重厚で迫力ある姿となっている。
 解り易く言えば、足がやや小さくなったステルンクーゲルといった所だろうか?
 
 LM-02との機能面での主な相違は要重力場アンテナとDフィールドのオミット、ジェネレーターの搭載にある。
 Dフィールド分の重力制御は全て慣性制御と操縦者の保護、射撃時の反動キャンセルに使用される。
 ジェネレーターの搭載による高出力の実現でレールキャノンやレーザー兵装の搭載、ISよりも長い稼働時間を実現した。
 LM-02と比較しても決して劣っている訳ではない。
寧ろ最大出力と稼働時間、火力においては上回っているため、別の良さを持った機体と言える。
 …まぁ、その分機動性や運動性、コストや整備性で劣るのだが。
 
 しかし、ISと部品の一部を共有と機体の大型化により調達コストと使用資源が増大、ジェネレーター搭載による整備性の悪化と重量増加など、大量生産には向いていない機体だった。
 どちらかと言うと大型機としての搭載能力を生かして長距離侵攻や爆撃でもした方が良い機体だ。
 
 ちなみに、米国と友好ないし同盟関係の国々には改良機であるELM-01Bシーガル(カモメの意)が輸出されている。
 外見上はELM-01Aとの差異は無いものの、Dフィールドを搭載、ISとのパーツ共有化をせず、駆動系の一部に人工筋肉を使用している点でLM-02に近しい。
 コストや整備性ではA・B型双方大差ないが、人工筋肉による運動性・操縦性の向上、Dフィールドによる防御力の向上と近接戦闘能力の大幅な強化を実現しているため、A型の方が性能は勝っている。
 
 ただ、やはりこちらも大量生産には向いていない。
 配備を完了するには予算も資源も足りず、国内のIS主兵論者の意見をどうにかできない内は大々的な購入もできないだろう。
 増してや、自国生産や国内開発は何年掛かるか解らない。

 ロシアや中国などの大陸国家なら可能かもしれないが、常に内側に火種を抱え込み続ける二国の内情を考えると、下手な増税は本当に革命を招きかねない。
 新型機を数年で完全に配備してしまう国力を持つアメリカが異常なのだ。
 
 
 
 何故こんな機体を輸出したのかと言うと、それは勿論RE社にアメリカ政府側の注文があったからだ。

 曰く、「量産し辛く、IS脱却が余り進まない様な機体は無いか?」

 現在、アメリカはISからの脱却が進んでいる。
 しかし、他国にはもっとISに惹かれて欲しい又は移行するまでの時間を稼ぎたい。
 そのため、ISと部品を共有化した機体を輸出したのだ。
 少なくとも、今暫くはISに繋いでおきたい。
 部品を共有化しているのならば、そう直ぐにISからの機種転換は行われないであろうし、ISモドキや出来そこないとでも批判されれば更に配備は遅れる事だろう。
 ISと共有化していなくとも、購入・生産の負担が多少あれば配備は遅れる事だろう。
 それが僅かなものだとしても、その僅かな時間が肝要だった。 
そして、各国が足踏みしている間に、アメリカは更に上を行く。

 既に準備は整っている。
 後はそれを実行に移すのみ。
 
 アメリカはただ誰よりも先を目指すのだった。
 




 
 IS~漢達の空~






 世界が輸出開始されたELM-01に湧きかえっていた頃、アラスカに存在するRE社秘密ドッグは静かに動き出した。
 そして、そのドッグからつい半月前に竣工した船が出港していった。
 しかし、その船が海水に着水する事は無かった。
 中に浮き、空を行く白亜の双胴艦。
 今までSFの中の存在だったそれが、遂に現実のものとなった瞬間だった。

 PRE-01 ナデシコ
 
 かの伝説的機動戦艦と同じ名を持つ、この世界初の相転移エンジン式戦艦だ。
 しかし、その姿は瞬時に周囲の風景と溶け込み、最初から何も無かった様に全てを押し隠した。
 光学迷彩、ナデシコフリートサポート級ユーチャリスの持つDフィールドを応用した可視光線を屈折させるものだ。
 湿度や温度など周辺環境に大きく影響される攻殻機動隊形式のそれは携行性に優れるが、大きなものを長時間隠蔽するにはこちらの方が都合が良い。

 そして、白亜の双胴艦はその原型となった艦と同じく、地球の自転を味方に付けて加速を開始した。

 
 目指すは空の先、宇宙。
 

 漢達の夢を乗せて、白亜の艦は人知れずに空を行く。







 アメリカ航空宇宙開発局中央管制室

 そこでは今、アメリカという超大国が注力している国家プロジェクトの最終段階が進行していた。
 

 「PRE-01離水成功。現在、予定されていた加速航路に乗りました。」
 「そのまま監視を続行。PRE-01からの報告は?」
 「『問題無し。航海は順調。』と。」
 「『貴艦の航海の無事を願う』と返せ。」


 RE社が建造した世界初の航宙戦艦であるPRE-01は予定よりも3カ月遅れで竣工、幾度かの慣熟航海を経て、今日その誕生の目的を果たすべく宇宙へ向けて加速を開始した。

 本来なら他のシリーズとセットで運用する事が想定されていたのだが、他のPREシリーズは未だ設計段階で影も形もない。
 後1年もあれば同型艦は完成だが、一年もせっかく建造した艦を遊ばせておくには勿体ないため、PRE-01はオリジナル同様の手法を以て宇宙へと旅立つ事が決定した。
 その搭乗員は誰もが熟練の者達、誰もがスペースシャトルや宇宙ステーションの搭乗経験が長期に渡る者達だ。
 しかし、ある者は年齢で、ある者はISの登場により閑職に追いやられた者達だ。
 そして、そんな彼らだからこそ、この船に乗るに相応しかった。
 

 PRE-01 ナデシコ
 全長400m、全高230m、全幅180mの大型航宙艦である。
 動力は相転移エンジン2基、核パルスエンジン4基を搭載。
 重力推進、慣性制御を採用した他、内部に浄水設備や最先端医療施設などが存在し、長期間の航海を可能としている。
 また、量産型オモイカネ級AIの存在によって搭乗員への負担が少なくなった他、電子戦にも優れる。
 また、艦載兵器として15機、予備3機のLM-02、艦外作業用LM-01を80機運用可能な母艦としての機能も有する。
 兵装としてDフィールド、Gブラスト、対空レーザー砲×12を持ち、スペースデブリや小惑星の破壊から戦闘まで行える。

 現在はその本来の特徴的な双胴艦からは逸脱した箱型のシルエットを取っているが、これは目的地である月面到達後の施設建造のために大量の資材を運ぶためにDブレードの間にでっちあげの装甲板を張り合わせて急遽大型格納庫を追加したためである。
 月面到着後はこの格納庫は解体され、そのまま施設建造のための資材となる予定だ。

 なお、オリジナルよりもサイズアップが図られたのは強度と信頼性を最優先した上で艦載スペースを大きく取ったである。
 これはISという兵器が宇宙開発を命題にしている事から、ISを主力とする勢力との戦闘行動を想定したものだ。

 
 今後はこのPRE-01の運用データを元に後続艦の開発を続けていく予定だ。
 また、建造中の航宙輸送艦が完成するまでは地球・月面間で人員や資源を運搬する役割を持っている。
 

 漢達の、人類の夢を乗せた白亜の船は、今はまだ人知れず空を行くのみだった。
 





 
 IS、インフィニット・ストラトス

 それが空の覇権を握っていたのは、一重にその圧倒的性能による。
 機動性、火力、装甲etcetera
またPIC、ハイパーセンサー、コアネットワーク、シールドバリアー等の数多くの新技術を搭載している事でも知られる。
 量産不可能で女性しか搭乗不可能という欠点はあるものの、その存在が既存のあらゆる兵器に取って代わったのも無理からぬ性能を持っていた。
 しかし、絶対的な武力の象徴であったISから空の覇権を奪われつつあるのは、国際情勢に少しでも詳しい者であれば簡単に解る事だった。

 LM、ランドメイド

 重力操作・慣性制御によるISに負けない機動性、類稀なる汎用性、誰にでも使えるという操縦性、そして大量生産可能というそれは、徐々に世界に浸透しつつあった。
 その存在はISが齎した女尊男卑の風潮が蔓延る中、それは鬱屈を貯め込んでいる世界中の男性に新たな希望を見せている。

 しかし、そのLMでも未だISを超えられない点が幾つかあった。
 量子コンピューターやコアネットワーク等は別にいい。
 それは前線で戦う兵器の役割ではなく、後方のものだ。
 ワンオフアビリティやパッケージ、形態移行もそう。
 武器と機体の開発、調整は技術者の仕事だ。
 
 問題は絶対防御だった。

 ISの持つエネルギーを大きく消耗するものの、核ミサイルの熱量すら防御する堅牢さは容易に模倣する事も、他の技術で代替する事も許さない。
 つい先日、RE社がたった4機のISの襲撃に本社の全戦力を投入しても手間取った理由がそれだった。
 
 圧倒的な火力、絶望的な物量、経験豊富で巧みな連携の敵機
 
 そんな絶望的な要素しかない状況で、IS4機を全機撃墜するのに1分以上も掛かったというのだから驚きだ。
 絶対防御を持ったIS相手だと、確実に直撃を当ててもエネルギーがある限り防がれてしまう。
 結局、撃墜するには3度も直撃を与える必要があった。
 これがLM相手だったら1分も掛からなかったというのに、だ。

 そして、RE社はLM-02の改修プランを立案した。

 元々その性能から既に米空軍ではISを抜いてパイロット達の憧れの的であるそれは、名機であるが故に現場の要望に応えた細やかな改修とバージョンアップが続けられている。
 今は全米に配備完了し、予備パーツを国内企業が担当、RE社は輸出向けのELM-01A・Bを主として生産している。
 しかし現状に満足する事なく、RE社はPRE-01建造やPLM01・02開発で新たに培ったノウハウを生かすべく動き出した。
 各国にELM-01A・Bが配備される事もあり、現状のLM-02では不足の可能性もありと判断した米国も、それを積極的に後押しした。

 現在考案されているプランはPLM-02由来の高効率の要重力場アンテナと大容量バッテリーへの換装、そしてPLM-01を参考にした状況に応じて換装できる追加ユニットの開発だった。
 新型の要重力場アンテナとバッテリーは従来の4割増の性能となっている。
 量産していないため、コストは若干高いが、採用されれば問題無い。
 問題は追加装備の方だった。

 

 ここで一度PLM-01に話を移す。
 PLM-01は脚部を大型化し、ジェネレーターを搭載、出力の向上を図った機体だ。
 その分、LM-01よりも高コストで整備性も悪く、高過ぎる機動性が災いして扱い難いが、その分高性能な機体だ。
 
 しかし一号機が完成した時、その機動性に機体の方が耐えられない事が判明した。
 これにより機体フレームの強度から設計し直し、PLMシリーズの中で最も遅く完成し、二号機・三号機が建造され、一号機は詳細な記録を取った後に予備パーツに分解された。
 だが、今度は高機動中に被弾した場合、相対速度もあって相当なダメージを受ける可能性が指摘され、その対策に二号機と三号機はそれぞれ独自の路線で開発された。

 二号機には専用の追加装甲が付加、単純に防御力を向上させるプランが採用された。
 更に追加装甲分の重量を背負っての高機動を実現するため、各部に各種推進機を設置し、更に増した機動性に対処するため、剛性の向上を目的とした装甲を追加した。
 また、増加された装甲が近接戦で挙動に干渉しない様に、追加された肩部装甲が格闘時にせり上がって後退する近接戦形態への変形機能を搭載した。
 そこにPLM-02の高効率要重力場アンテナと大容量バッテリーを採用したため、最早最初の面影が存在しない全く別物の機体と成り果てたのだ。
高出力兵装の搭載とDフィールドの強化により攻防共に高レベル、遠近どの距離でも対応可能な汎用性を持つ。
 更に両肩・腿・脚部のブースターによる圧倒的な加速力と機動性は、パイロットに専用の対Gスーツを装着させねば簡単な操作もままならない。
 他、幾つかの追加装備も考案されており、あらゆる作戦に対応できる適応性も持っている。

 対し、三号機が出した答えは、Dフィールドの強化による防御力の向上だった。
 ジェネレーターの搭載で増していた出力によりDフィールドは3割増しとなっていたが、それでも出力にはまだ大きく余裕があった。
そこで前腕に一基ずつ、コクピット周辺に三基の小型のDフィールド発生器を設置し、格闘性能とパイロットの生存性を高める事に成功した。
 だが、そこでは終わらず、二号機が度重なる改良で既存器とは次元が違う機動性を獲得したのに対抗し、三号機もまた更なる改良が成された。
 両肩に回転式ターレットノズル一基ずつ、腰部前方に可動式バインダーノズル二基、背部に新型の大型重力場推進機を搭載、結果的に二号機にも負けない機動性を獲得した。
 しかし、二号機と異なり、搭載されたバインダー全てを細かい挙動で制御する事はEOSでは不可能という問題が立ち上がった。
 そこで、RE社が近年輸入用LM-01を日本に輸入するにあたって提携した「とある日本企業」のIS関連技術を発展させた脳波コントロールシステムを搭載する事で完成を見た。
 高い近接戦能力と防御力を併せ持ち、その機動性は二号機にも劣らず、こと運動性に関しては上回ってすらいる。
 また、機動性も機体各部の回転式ターレットノズルやバインダーノズル、大型重力場推進機を一点に向けて加速すれば、瞬間的にだが二号機のそれを超える事ができる。
 おかげで対Gスーツはもう一着必要になった程だ。
 

 ぶっちゃけ、ブラックサレナと夜天光である。


 しかし、二機に共通して言える事なのだが、その圧倒的な性能を使いこなすパイロットが限られていた。
 性能ばかりに固執して操縦性が著しく低くなっていたのである。
 幸いにも予算は潤沢であったし、二機のデータやノウハウを生かした次世代機であるLM-03の開発も大きく進んだ事から出資の回収も見込めるものの、会計部門の者が見れば卒倒しそうな程のコストが消費されていた。
 そこまでして開発された二機が操縦不可能な欠陥品というのもアレなので、この二機は扱えるエースが存在する教導隊に引き渡される事となった。
 今頃は米国の空を馬鹿みたいな速度で飛びまわっている事だろう。
 


 さて、話は戻って追加装備の件である。
 PLM-01二号機・一号機で培われたノウハウを元に開発される事となった追加装備は主に3つに別れる。
 これを改修されたLM-02に装備し、あらゆる状況下で対応させるのがプランの概要だ。

 改修機にはLM-02C エステバリスカスタムの名が予定されている。
 高効率要重力場アンテナと大容量バッテリーを標準装備し、LM-02よりも倍近い活動時間と出力を持つ。
 強化された出力を生かし、LM-02では不可能だったレールガンが装備可能、Dフィールドも強化されている。
 コクピット周辺は装甲が分厚くされただけでなく、3基の小型Dフィールド発生器を備え、搭載されたCPUが状況に応じて個別・必要によっては一斉に発動、パイロットの生存性を向上させている。
 また、重力場推進機が小型化、出力はそのままに軽量化に成功している。
 
 そして追加ユニットを装備する事で、更に状況に応じて機体の性能を高める事ができる。

 1つ目は高機動ユニット、長距離侵攻や強襲作戦を主眼に置いて設計されている。
 背面に背負う様に装備する高機動ユニットは鋭角的な戦シルエットを持つ。
 これは大容量プロペラントとバッテリー、重力場推進機とジェットエンジンで構成されており、全ユニット中最高の機動性を持っている。
 このユニットは簡易変形機構を採用しており、背面に折りたたんだ状態から展開する事で巡航形態、戦闘機の姿に移行する。
 その際の最大速度は実にマッハ3弱、並のISでは追い付けもしない速度だ。
 翼下には4つのハードポイントがあり、作戦に応じた兵装や増槽を装備できる。
 元戦闘機パイロットが多いLM-02のパイロット達なら上手く運用できると期待されている。
 これにはRE社所属の元航空機開発者達の努力が詰まっている。
 
 2つ目は近接戦ユニット、主にLMやISとの近距離格闘戦を想定した追加ユニットだ。
 両肩・両足に反応装甲、前腕に小型Dフィールド発生器を一基ずつ装備している。
 前腕の発生器により格闘能力と防御力が向上、殴り合いを得意とする。
接近時の被弾を抑えるための反応装甲は防御の他に、鉄器に対する散弾地雷としても機能する。
 また、新型の対バリア兵器であるフィールドランサーを標準装備している(他のユニットでも問題は無いが)。
 これはISのシールドバリアやLMのDフィールドに瞬間的に高電圧による過負荷をかける事で減衰させるという特製を持つ。
 発電にはランサー基部のバッテリーを使用するため、バッテリー終了後はただの槍として使用する。
 予備のバッテリーは腰部横のハードポイントに計4個まで装備できる。

 3つ目は砲撃戦ユニット、遠距離からの火力支援や砲撃を想定したユニットだ。
 頭部両脇に複合センサーとレーダーマストを追加、両肩・脚部・前腕に汎用ラック付きの追加装甲を備え、腰部背面に射撃時の反動キャンセル用の慣性制御ユニットを搭載する。
 汎用ラックはLM-02Gと同じ構造を有しており、同様の装備を使用できる。
 高い索敵性能を生かしてアウトレンジからの攻撃を得意とし、あのアシッドレインの運用も可能となっている。
 しかし、火力で圧倒するのがコンセプトであるため、近接戦闘には難がある。
 僚機との連携を前提にした装備と言える。
 
 
 現在、この追加ユニット群は試作されたPLM-02で試験運用されており、LM-02の全面改修と同時に順次全米に配備される予定だ。





 
 ELMの輸出、PRE-01の航海開始、LM-02の全面改修。


 それらを行ってもRE社の、漢達の歩みは止まる事は無い。
 




 しかし、そんな漢達に興味を持ち、その技術を得ようとする者がいた。





 その日、RE社サーバに対し、大規模ハッキングが開始された。

 
 オモイカネ級AI12基の防衛網を以てしても、そのハッキングには辛うじて膠着状態を作る事しかできず、事態は一進一退を繰り返していた。



 
 





  
 






[26770] IS~漢達の空~その6 改訂
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/17 22:53
6話


「うーん、流石は新進気鋭のRE社。この束さんがこうまで抑え込まれるとはねー。」




 何処とも知れない秘密の場所

 そこに篠ノ之束はいた。

 
 「ちょちょいのちょっ…のわっと!?てりゃてりゃ!束さんを舐めるなー!」


 脱力しそうな声を出しつつも、この大天災がやっているのは彼女以外は誰も理解できない様な複雑怪奇な超精密機械群を使用した電子世界の一大戦争だった。
 それこそ史上最大、空前絶後と言っても過言ではない規模を誇るそれを始めた理由は、純粋に好奇心と興味からだった。
 仕掛けられたRE社からすればたまったものでは無いが、彼女にとってはそれ以上の意味は無かった。
 
 
 「んじゃ、そろそろ仕掛けようかな~。」


 子供がTVゲームで無邪気に気合いを入れる様に、篠ノ之束は電子の世界の攻防に集中していった。





 IS~漢達の空~





 RE社中央管理区画


 「メインサーバーに大規模攻勢を確認!大量の屑データがファイアウォールに来ます!」
 「『牡牛』と『双子』を回せ!ワームの排除は!?」
 「現在61%を排除!残りは潜伏中!」
 
 
 一方、RE社は大混乱に陥っていた。

 電子戦に関してはオモイカネ級AI12基の配備により、相当のものだと自負していたRE社だったが、篠ノ之束とのクラッキング合戦は一進一退の状況が続いていた。


 「逆探知はどうした!?」
 「やってます!でも、AIのリソースは殆ど防御に割り振ってますから…!」


 「大天災」を相手にして反撃できている時点で十二分に優秀なのだが、劣勢になりつつある現在、そんなものは慰めにもならない。


 「状況は!?」
 「あ、社長!」


 危急を知って社長のジョニーも来た。
 社長室から急いできたのだろう、息が上がっている。


 「今は何とか本社サーバーは死守していますが、支社の方は回線の物理切断しかできませんでした。オモイカネ級AI全基を回して何とか対処している状況ですが…。」
 「物理切断の準備は?」
 「既に。」


 ジョニーはちょっと考え込んだ。
 あの大天災が本気でこちらに仕掛けているのなら、電子戦だけで終わる筈は無い。


 「……オモイカネ級AIはそのまま。防衛部隊は第一級警戒配置へ。恐らく、周辺に敵戦力が布陣してる。」
 「まさか!?」
 「多分、こっちの勝敗如何に関わらず、こっちとやり合うつもりだよ。データだけじゃなく、実戦の情報も欲しいだろうからね。」


 それを聞いた社員はぞっとした。
 彼は篠ノ之束という人間は知らないが、それでも噂は多く聞いていた。
 
 世界のカオスの中心、天才にして天災、IS開発者 
 そして、とびっきりの社会不適合者

 「白騎士」事件では非公式ながら各国のミサイル基地に同時多発的にハッキング、2000を超えるミサイルを故郷である日本へ向けて発射させた。
 それがただ自身の発明を世に出すためのデモンストレーションだと言うのだから、彼女の人格破綻っぷりが垣間見える。


 だが、その思考を推測してみせた社長は一体何者なのだろうか?


 彼の優秀さは疑うべきもない。
 その人格も心優しい少年そのものだ。
 だが、米国の科学技術を数百年以上引き上げたこの少年は、本当に何者なのだろうか?

 そこまで考えて、社員はそんなものはどうでも良いと判断した。

 今重要なのは彼を拾い上げてくれたRE社が危機に瀕している事、それを解決するために全力で対処する事、ただそれだけだった。
 社長に関しては暗黙の了解であり、それ以上は問わない。
 社員全員はそれで納得している。
 今は目先の事態を優先すべきだ。
 
 そして、社員は己の職分たるオペレーター達の指揮へと戻った。
 




 第一級警戒配置は、数分で第一級戦闘配置へと移行した。
 オモイカネ級AIが電子戦でそのリソースの多くを割り振っている現在、本社防衛設備の多くがその精度を低下させている。
 普段から鉄壁の防御を強いているRE社を狙っている者達にとっても、この状況は絶好の機会だった。

 「レーダーに感!不明ISの反応…9!内8機は2時方向、1機は9時方向から!9時方向からの1機は他の機体の3倍の速度で接近中!」
 「防衛部隊の全LMはスクランブル発進!付近の米軍基地に救助要請を!戦闘用無人機は地上で迎撃に当たらせろ!」
 
 オモイカネ級AIが戦闘管制を行えない現在、無人機はプログラム通りに動く事しかできない。
 斜陽にあるとは言え、相手は世界最強の兵器たるIS。
 無人機程度では時間稼ぎにしかならない。

 「アシッドレインの展開ならび要重力場ビームの照射急げよ!」
 「各機出撃開始!施設防衛に当たります!」
 「地上職員の地下への退避完了!戦闘、開始します!」

 それでも、少ない戦力でどうにかしなくてはいけない。

 本来なら本社にいる戦力は戦闘用虫型無人兵器が120機、LM-01が150機、LM-02が20機、LM-02Gが12機で構成されている。
 しかし、現在はオモイカネ級AIが電子戦に掛かりきりであるため、無人兵器は大幅に性能を落とし、LM-02の射撃精度やセンサーも10%近く低下している。
 しかも、LM-02は20機の内ε(エプシロン)小隊の4機がLM-02Cへの改修作業中であったため、16機しか出撃できない状態だった。

 しかも、なお悪い事に9時方向から来た不明ISは現在確認されている各国や企業のISとは似ても似つかない姿をしており、あの大天災の作品の可能性があった。

 特徴的なのは全身装甲を採用している点だ。
 ISは主にシールドバリアーでの防御を主眼に置いているため、全身装甲は第一世代の一部でしか採用されていない。
 しかし、このISはそれを採用しただけでなく、各国では最先端技術の筈の非固定浮遊部位を機体の左右と好配の計3基を備え、頭部は胴体に半ばめり込み、右腕部全体が大型砲に、脚部が巨大な推進ユニットという異形の構成となっていた。
 明らかに普通じゃない敵機の姿に、防衛部隊は危機感を抱いたが、残りの8機、恐らく亡国機業所属と思われる各国の第二世代ISの方にも戦力を割かねばならない。
 

 『α・β・γ小隊は二時方向の敵を担当。第4小隊は9時方向の敵ISを担当。第4小隊は近隣の基地からの増援到達まで時間稼ぎに徹しろ!』
 『α1了解。敵撃破後、そちらの支援に回る。』
 『β1小隊了解。δ(デルタ)1、功を焦って撃たれるなよ?』
 『γ1小隊了解。地上からの支援もある。出過ぎないよう注意されたし。』

 『各機、今回は射撃精度が落ちる。無人機の援護も対空砲火のみだ。……死ぬなよ?勝ったらオレが奢ってやる!』
 ≪≪了解!!≫≫






 出撃したLM-02部隊は2方向に散った。
 2時方向には第1・2・3小隊が行き、4機ずつ見事な連携を組んで迫り来る8機のISへと向かった。

 『各機、連携は崩すなよ!アタック!』

 α1の声で、α小隊4機は8機の中で比較的他のISと距離があった一機に狙いを定めた。
 前衛の2機が接近を開始し、ライフルを牽制代わりに放つ。
 敵ISラファール・リヴァイブは後方に引きつつマシンガンをばら撒き、左腕にミサイルランチャーを展開、空かさず反撃を開始するが……
 
 『そこだ。』

 後衛のα4のスナイパーライフルに発射されたばかりのミサイルが撃ち抜かれる。
 後方に引いていたためか損傷は少ないが、動きが鈍った。
 前衛2機が空かさずフィールドランサーを構えて吶喊するが、それはさせじとばかりに僚機のISホークアイから牽制の射撃が来て接近を阻む。
 更に、牽制で動きが一瞬鈍ったα2に空かさず先のラファール・リヴァイブが反転、近接ブレードで斬りかかってくる。
 前衛のα2・3は協力して上手くいなし、ラファール・リヴァイブも直ぐに距離を置くが、その動きは明らかに連携に慣れた者達特有のものだった。
 
 『今までの連中よりも連携が上手い!注意しろ!』

 他の小隊からの声に、やはりか、と思う。
 同時に、厄介だな、とも。

 
 今までの連中は一人プレイというべきか、熟達した連携など持ってはいなかった。
 あくまで工作員としての潜入だったせいもあるのだろうが、僚機との連携など見る事も無かった。
 所が、敵は2機編成の最小単位ながら連携を使いこなす熟練兵だ。
 
 「これは……楽に勝たせてはくれんか。」

 そして、戦闘は加速していく。





 『っちぃ!化け物がぁ!!』


 9時方向の敵に向かったδ小隊だったが、他の小隊以上の苦戦を強いられていた。
 異形の敵IS、その性能は彼らが今まで相手にしてきた多くのISよりも明らかに格上だった。


 『またか!』


 敵ISの脚部が火を吹いた様にブースターで加速、一気にこちらを引き離す。
 と同時に置き土産とばかりに3基の非固定浮遊部位から大量のミサイルが発射される。


 『っ、散開!』


 一機辺り20発以上のミサイルがそれぞれに向かい、必死に回避又は迎撃する。

 
 「っんの!」


 スラスターを全開にして急上昇、直後に急降下して速度を稼ぎつつ上空から迫るミサイルをライフルで迎撃する。
 自機に迫るミサイルを迎撃し終えると、手近な僚機に迫るミサイルを破壊する。
 そして、各機が漸くミサイルを撃破し終えると、遠距離から高速で戻ってきた敵ISが右腕の砲を向け、その砲口から光が漏れ出すのが見えてぞっとする。
 向けられたのは自分だ。


 「っっ!!!」


 機体各部のスラスターを全て右方向に向け、左に身体が押し付けられるのも構わずに全力で回避を試みる。

 直後、機体の左側に極太の光が通り過ぎた。

 大口径かつ大出力のレールガンによる一撃だ。
 弾頭がプラズマ化する程の出力で放たれたそれは、LM-02のDフィールドを紙の様に簡単に突き破り機体を吹っ飛ばす事だろう。
 絶対に当たる訳にはいかない。


 『そう何度も!』

 
 δ4がライフルで狙うが同時に敵ISが再度加速を開始、あっと言う間に距離を離し、5秒とせずライフルの有効射程外に出る。
 あの距離では当てたとしてもダメージは見込めないだろう。
 
 先程からこんな状態が続いていた。
 敵ISはその圧倒的な加速力を生かし、一撃離脱に徹している。
 ある程度接近しては右腕のレールガンと非固定浮遊部位のミサイルで攻撃、反撃されそうになると途端に距離を取る。
 これが最新型のLM-02Cなら話も違ったのだろうが、生憎とこの場にいるのはどれもLM-02のみ。
 敵ISに追い付くには、圧倒的に出力が足りない。
 幸いにも要重力場の御蔭でエネルギー切れは無いが、推進剤と弾薬の方は刻一刻と減少している。
 増援が来る前にある程度消耗させようとしていたのが、状況はこちらが消耗する一方だ。

 敵機は明らかにこちらの装備や特性を把握している。
 光学兵器に強いDフィールド対策に実弾兵器を、物量差を生かせない様に一撃離脱特化に。
 
現行の第二世代機はLM-02と機動性に関しては大した差は無い。
 このISは、明らかに既存のISとは異なる技術が使用されている。
 そして、アメリカの軍事に深く喰いついているRE社に仕掛けるのは、亡国機業の様な正体不明の輩以外は誰もが躊躇う。
 水面下の活動なら兎も角、国や企業では先ず仕掛けてこない。

 そして、あんな技術力を持ち、後先考えない行動を取る者は、この世界に一人しか存在しない。


 「やはり貴様か、篠ノ之束…ッ!」


 また、オレ達から空を奪うのか。
 また、オレ達から誇りを奪うのか。
 また、オレ達から翼を奪うのか。


 「絶対にさせん…!」


 δ1は覚悟を決め、再度向かってくるミサイル群へ迎撃を開始した。





 『目的地まで後3分…!戦闘準備いいか…!』
 『問題ねぇ…!てめぇこそどうだよ…!』
 『吹かすな…!Gで余計不細工になってんぞ…!』
 『んだとぉ…!?』


 高機動故のGで喋り辛そうにしながらも、怒鳴る様にして2人は憎まれ口を叩き続けている。
 しかし、マッハ3で飛行中の2人が操作をミスする事は無い。
 それだけの経験と実力を2人は持っていた。
 
アメリカ空軍LM特別教導隊
 
 2人の所属はそこだ。
 全米のLM乗りの中から選りすぐった面々で構成されるその部隊は全員がエースないしベテランで構成されている。
 彼らは全米の空軍基地を巡り、錬度の向上や新戦術・新兵器の試験を行う事を生業としている。
 実に多忙で滅多に休暇を取れないが、LM乗りとなったパイロット達から尊敬の的となっている。

 
 『後一分で戦闘空域に到着…どっちをやる…!』
 『オレはでかい方!…お前は!?』
 『オレは残りだ!…落とされるなよ…!』
 『息子の前で…落ちるかよ…!』


 2人が乗るのはPLM-01の1号機・2号機。
 通称「ブラックサレナ」と「ナイトスカイ」(夜天)。
 余りに高性能過ぎた故に、欠陥機とされた二機だが、辛うじてそれを扱い切れるパイロットがこの2人だった。


 『では、一丁…!』
 『じゃじゃ馬娘どもにお灸を据えるか…!』


 1号機パイロット、ジェームズ・ドライデン少佐
 2号機パイロット、ダリル・エドワーズ大尉
 
 共に、全米最高クラスのエースパイロットであり


 『どっちが早く片付けたかで奢ろうや…!』
 『出費するだけだぞ…!』


 同時に腐れ縁の幼馴染だったりする。

 そして、2機はそれぞれが目指す戦域へと加速した。





 『うおおおおぉぉッ!!』
 『くぅ…!』

 
LM-02が吶喊し、打鉄と近接戦闘に入った。
 揉み合い、落下しながら2機は戦闘を止めはしない。
 LM-02がナイフを振るい、相手の右肩に突き刺し、打鉄の右腕から力が抜ける。

 
 『っふ!』
 『何!?』


 だが、相手は第2世代最高の近接戦闘能力を誇る打鉄である。
 汎用性の高い傑作機であるLM-02と言えど、至近距離での戦闘は分が悪い。
 残った左腕でブレードを瞬時に装備、眼前のLM-02へと降り降ろし、お返しとばかりにその右腕と右足を切断せしめた。

 
 『終わりだ老兵!』


 バランスを崩し、速度が大きく落ちたLM-02に打鉄は今度こそ両断せんとブレードを振り上げる。
 それを見た僚機は支援を試みるが、ヘビーバレルの弾幕に阻まれて近づけない。
当のLM-02はバランスを何とか立て直して離脱を試みるが、明らかに遅過ぎる。
努力の甲斐無く、一刀両断される未来が見えた。

だが


『やらせん…!』

 
 ヒーローとは何時も遅れてやってくる。
 そして、何時も最高のタイミングで駆けつけて来るものだ。

 上空、太陽の陰から真紅の影が高速で降下しながらレールガンを発射、打鉄に直撃する。
 絶対防御により搭乗者は無事だが、それでも右肩の物理装甲が完全に破壊され、吹き飛ばされる。


 『新手か!?』


 降下し、通り過ぎていった機影に、打鉄が素早くライフルで反撃する。
 だが、真紅の機影はそれを軽々と回避して反転、打鉄に高速で接近する。


 『馬鹿な!早過ぎ』


 最後まで言わせず、PLM-01-2「ナイトスカイ」が打鉄の反応速度を上回る速さでフィールドランサーを振り切った。
 直後、短時間に三回も絶対防御を発動させた打鉄はエネルギーが底を尽き、墜落していった。


 『増援か!?』
 『遅れてすまん。ティーチャー2、これより加勢する。』


 心強い増援の登場に劣勢に立たされていた防衛部隊が色めき立つ。
 何せ教導隊副隊長の加勢だ。
 全米最上級パイロットが最新鋭機に搭乗して現れたのだから、希望を抱くなと言うのは無理な話だ。
 対し、打鉄を一蹴した強敵のプレッシャーに押されてか、不明IS達の動きが押される。
 何しろ、自分達が漸く渡り合っていたLM-02よりも明らかに格上の相手なのだ。
 気圧されるのも仕方ないと言えた。


 『男なんかが…このぉ!』


 先程の打鉄と連携してヘビーバレルがその火力をナイトスカイに向ける。
 だが、平静を失って精密さだけになった射撃など、当たる訳が無い。
 ナイトスカイは機体を小刻みに動かし、弾丸と弾丸の間をすり抜ける様に接近、あっさりとヘビーバレルの懐に到達し、右腕の小型Dフィールドを起動する。

 
 『男に、男なんかにぃぃ!!』


 負けを認められないパイロットの声が響く。
 如何にも男尊女卑に染まった言葉だが、それはナイトスカイのパイロットにとって不快なだけだ。


 『寝ていろ。』


 それだけを言って、右拳をヘビーバレルの胴体に勢いよくぶん殴った。
 小型Dフィールドによって大幅に強化された右拳は、あっけなくシールドバリアーを突破、絶対防御を発動し搭乗者を守るが、胴体部に大破寸前の損傷を負ったISは小爆発を起こしながら墜落していった。


 『さて…好き勝手やってくれた礼をしようか!』


 ナイトスカイがその機動性を生かして、動きの悪くなった不明ISへ向かって吶喊した。





 『うわぁぁ……っ!?!』
 『ランド4大破!』

 
 地上部隊に展開していたLM-02Gがレールガンの一撃で破壊された。
 直撃を貰い機体は吹っ飛び、パイロットの生存は絶望的だろう。


 『クソがぁ!!』
 『馬鹿、前に出過ぎるな!』
 ドドドドドドドドドドドッ!


 一機、激昂したLM-02Gが異形のISに対空機関砲を集中させるが、圧倒的な機動性を前に掠りもしない。

 ズドンッ!

 そして、うっとおしいと言わんばかりに向けられた大口径レールガンによる反撃で、破壊されたLM-02Gは2機目となった。
 Dフィールドを貫き、上半身を木端微塵にされたLM-02Gは完全に大破、直後に爆発四散した。


 『ちっ、そろそろ弾薬が持たんぞ!』


 上空で牽制射撃を行うδ2の叫びに、δ小隊全体が焦りを覚え始める。
 既に戦闘が開始されて30分、いい加減に消耗が大きくなっている。
 このままの勢いで戦闘が続けば、後10分と持たないだろう。


 『……隊長、リミッターを解除しましょう。それなら、奴に追い付けます。』
 『正気か?δ2、カミカゼはもう古いぞ。』


 リミッター解除。
 LM-02にある裏コードの一つであり、機体の安全装置を全て解除、自壊覚悟で全スペックを強制的に引き出す事ができる。
 反面、機体の寿命を著しく削り、パイロットにも慣性制御によるG軽減を超えるGが掛かるため、下手をすると自滅する。
 文字通りの諸刃の剣である。
 米軍の制式採用機には搭載されていないが、本社防衛部隊の初期生産型LM-02には全機搭載されている。

 
 『このままではジリ貧です。隊長、分の悪い賭けですが…。』
 『…全機、リミッター解除を許可!次に奴が接近した時にアタックする!2度目は無い!1度で仕留めろ!!』
 ≪了解!!≫


 δ小隊のLM-02全4機は即座にリミッターを解除、機体が臨界稼働を開始した。
 全身が火を吹いた様に過剰に稼働し、機体のエネルギー消費が増大、されど要重力場エネルギーがエネルギー切れを解消し、機体が内側から軋み始める。


 『全機行くぞッ』
 『了解!』


 再度アタックを仕掛けてきた異形ISに、4機は一斉に突っかける。


 『…っぎ…!』


 予想以上のGに、意図せず呻きが漏れるが、無理矢理かみ殺す。

 
 『来るぞ!』


 来た、大口径レールガン。
 瞬時に砲身の角度と各機の配置から照準を推測、δ3が照準される。
 瞬間、轟音を置き去りに、プラズマ化した砲弾が発射。
 δ3は辛うじて直撃を避けるが、それでもDフィールドは消失、置いていかれた右前腕が砕かれ、大きくバランスを崩しながら連携から落伍する。
 直後、放たれた80を超えるミサイルに、各機は迎撃に掛かりきりとなり、落伍した一機を援護する余裕は消えた。


 『舐・め・ん・なぁーーーーー!!!』


 δ3が咆哮し機体を急下降、チャフを散布してミサイルの三分の一がそちらに引き寄せられる。
 それでも諦めないと、δ3はライフルで迎撃、大破した右腕をパージしてチャフ代わりにする。
 右腕に3発のミサイルが誘引され、4発のミサイルが空中に爆炎を描き


 『……!?』


 それでも追いすがってきた7発のミサイルは、狙い違わずδ3に直撃した。



 『…各機、外すなよ!』


 δ1はδ3の撃破を視界の隅で確認し………そして、異形ISの方を向く。
 死に行く味方と敵では……敵の方が重要だ。
 増してや、それが死に行く味方の仇なら当然の事。
 ミサイルは未だにこちらを追い縋ってきているが、リミッターを解除したこちらに追い付けないでいる。
 各機はチャフを散布しつつライフルで迎撃、大幅にミサイルを減らしながらその意識を怒りを込めて異形ISに向ける。


 『アタック!』


 そして、これまで殆ど使用していなかったミサイルが3機から一斉に放たれた。
 その加速力から発射しても当たらないと思われていたが、ほぼ同速となり接近している現在なら十分に有効打が見込める。
 売り尽くしとばかりに放たれたミサイルは一機当たり20発近く、計60発以上となって異形ISに襲い掛かった。

 だが、その程度で攻略されるような天才の作品ではない。

 長大な脚部を構成する推進ユニットからチャフを散布、次いで左腕に量子転送したライフルで追いすがるミサイルを的確に迎撃する。
 そのモーションは予め綿密に設定されていたのだろう、実に的確でδ小隊の者達が行ったよりも精密機械が如き正確さでミサイルを全滅させた。
 だが、姿勢を迎撃のために動かしたため、その姿勢は高機動を行うには安定に欠けた状態になっていた。
 δ1はそれを狙ったのだ。

 
 『おおお…ッ!』


 味方の仇を討つため、δ小隊で最も近接戦に優れるδ4がフィールドランサーを掲げて吶喊する。
 δ1・2が支援に回り、ライフルで牽制射撃を行う。
 異形ISは咄嗟にレールガンを向けようと旋回するが、δ4の方が一歩早い。
 
 そして、フィールドランサーが振るわれ……レールガンに食い込んだ。


 『な…!』


 反応されるとは思えず、δ4は一時挙動が鈍る。
 簡単な話、先程動き出したレールガンは最初から盾として動かされていたという事だ。
 大口径の砲身は盾として十分な強度と大きさを確保しており、ランサーの一撃を受け止めるには十分だった。
 そして、用済みになったレールガンをパージ、その中から通常の右腕が姿を現し、異形IS動きの鈍ったδ4に左腕のライフルを向ける。


 『やらせん!』


 次いでδ1・2の射撃。
 だが、異形ISは左脇の非固定浮遊部位を前面に移動、これまた盾代わりに使用し難を逃れる。
 それでも射撃を継続するδ1・2に、δ3も加勢し、異形ISは3機の火線に晒される。
 徐々にシールドバリアーと装甲を削られ、速度をゆっくりと低下させていく異形IS。
だが、δ小隊の活躍もそこまでだった。
 
 唐突に、3機の速度がガクンと落ちた。


 『何が…!?』
『隊長、機体が…!』


 計器を見て即座に気付く。
 機体はもはやスクラップ寸前、今にも空中分解しかねない状態だった。


 『馬鹿な!ここまで来てか!?』


 そして、狙い澄ました様に異形ISが被弾した非固定浮遊部位をパージ、両腕にライフルを構え、δ1に狙いを定める。
 既に弾薬も殆ど無く、回避機動もままならないδ小隊にそれを止める事はできない。
 

 『どおぅりゃぁぁぁぁぁっ!!』


 そう、彼らを救えるのは第3者だけ。
 圧倒的な運動エネルギーを伴って、黒い機影が異形ISに横からぶち当たった。

 PLM-01-2ブラックサレナ
PLMの中でも最大の出力を誇るこの機体のフィールドアタックは戦艦の主砲クラスの威力を発揮して、異形ISの右腕を押し潰し、弾き飛ばした。
 

 『…………。』


異形ISは悲鳴すら漏らさずに姿勢を制御、一瞬で体勢を整えると距離を取るべく再び加速していく。


 『遅れてすまん!ティーチャ―1、これより参戦する!』


 異形ISと同様、漆黒の装甲に身を包んだその姿は、最早何も奪わせぬという不退転の覚悟を持って異形ISへと再度吶喊、追跡を開始した。


 『…頼んだぞ、教導隊。』


 もっと早く来てくれれば

 δ1はそう思わない訳ではないが、それは言っても仕方のない事だ。
 寧ろ、あの化け物を相手にしてよくぞこれだけの被害に抑え込んだものだと言える。
 だが、それでもできれば犠牲は出したくなかった。
 長年共に過ごしてきた仲間であった事もあり、内に抱える怒りは相当なものがあった。
 それでも、今の彼にできる事は殆ど無い。
 それがまた彼の怒りを増させるのだ。

 
 『生き残った小隊各機は一度帰還し補給を受ける。』
  ≪了解≫

 (頼んだぞ、英雄)


 ボロボロとなった機体を引き摺る様に飛ばし、δ小隊は帰還していった。





 『こんの野郎がぁ…ッ!』


 ブラックサレナはその圧倒的機動力を生かし、異形ISと激戦を繰り広げていた。
 敵機は既にミサイルが無いのだろうか、距離を取って左手に保持したライフルのみで追ってくるブラックサレナを攻撃、ブラックサレナもまた追いすがり、両腕のライフルで射撃を加える。
 本来なら異形ISはその機動性を生かした一撃離脱をするのだろうが、しかし、ブラックサレナの機動性がそれをさせない。
 寧ろ、圧倒してすらいる。
 そうして追撃している中、ジョニー本人は強烈なGに全身を軋ませながらも違和感を覚えていた。
 
 このIS、どっかおかしい。
 
 動きが正確過ぎるのである。
 射撃も機動も、その全ての動きが正確過ぎる。
 そう、あたかもシミュレーターに出て来るドローンの様な…
 

 (無人機じゃあるめぇし……いや、オレが気にする事じゃねぇか…!)


 疑問を意識から追いやり、眼前の敵に集中する。
 少なくとも、そんなものは目の前のクソ野郎を撃墜してから考えるべきだろう。
 

 『っ……ぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 動きが鈍ったのか、異形ISは閉店セールとばかりにミサイルを放った。
 その数は16発だが、後方から追撃していたブラックサレナには堪らない。
 瞬時に追撃を取りやめ、ミサイルを回避するために大きく弧を描く機動を取り


 『ぉぉぉおおおお!!』


次いで、ミサイルを率いながら弧を描いて異形IS目掛けて突進した。
 しかし、自身の放ったミサイルと共に敵機が急速に接近するという常人なら噴き出す様な光景にも、異形ISはどうじる事は無かった。
 一切動きを減速する事無く、異形ISは両腕のライフルで接近するミサイルと敵機に対し弾幕を形成する。

 
 『効くかよぉ!』


 Dフィールド出力を上げ、突撃。
 見え透いたその機動は回避されるも、圧倒的な踏み込みの速さからか、シールドバリアーが大きく抉られる。
 次いで、そこに殺到するミサイル。


 『…………。』


 異形ISはそれに対し、急速上昇。
 ミサイルが自身に追従して上昇、減速した所を纏めて射撃し、ミサイルを全て破壊した。


 『貰ったぁぁぁぁぁぁッ!!!』


 だが、それを見越していたブラックサレナは、異形ISの頭上を取る事に成功した。
 次いで、圧倒的機動性を見せつける様に異形目掛けて急降下、これで終わらせると言わんばかりに最大出力の加速だ。

 
 『……。』


 その姿を見ても、やはり異形は迷わない。
 自身も脚部の推進ユニットを最大出力へ、重力を味方につけて急降下しながらも迫撃するブラックサレナに銃撃を加える。
 だが、現行機体では最高のDフィールドを持つブラックサレナに、その銃弾は届かない。
 だから、異形は別の手段で対抗する。


 『何ッ!?』


 異形ISが胸部中央装甲を展開、粒子砲を露出、ロックオン。
 照準警報に機体を動かそうにも、これだけの加速の中で回避機動を取るのは如何にブラックサレナでも難しい。
 やれない事は無いだろうが、それをやれば確実にパイロットは気絶又は圧死してしまう。
 それだけのGが既にジョニーの身体には掛かっている。


 そして、ブラックサレナの黒を塗り潰すべく、粒子砲から眩い光が放たれた。






 『さて、そろそろ反撃しようか?』
  ≪さんせーい≫
 
 
 0と1で構成された電子の世界。
 そこでは現在戦争真っただ中だった。

 そこでは12基のオモイカネ級AIとハッキングとの間でNASAが真っ青になる様な情報量がやり取りされていた。
 既存の電子戦の3桁上の情報量が当たり前と言えば、彼らの優秀さが解るだろうか。
 最早常人の理解できない所となったこの戦いだが、漸く決着が見えてきた。
 
 
 『逆探知は?』
 『現在91%。ダミーも多くて困ってる。』
 『ワーム撃破率80%突破。』
 『サーバー内データの吸い出し完了。何時でも放棄可能。』
 『スパイウェア掃除終了。』
『第4ファイアウォール再構築開始。』
 『ワクチンを支社サーバに注入開始。進捗31%。』
 『ゴミ情報はRFNSB(ロシア連邦保安庁)のサーバに直結したよ。』
 『第40964ワーム部隊出発。』
 『30秒後、貯蓄したワーム部隊は全部発信。』
 『ダメージ29%。まだ行ける。』
 『サーバー内に偽データ設置。後で見てね。』


 彼らは賢い。
 単純な処理能力では凡そ人類など足元に及ばない程だが、それと賢さは比例しない。
 彼らの賢さは学習し、推測し、実行する事が出来るが故のものだ。
 しかも個体毎に差異があり、まるで人間の様に人格すら保有している。
 ISコアも同様だが、人と積極的に触れずに同族間でしか意識や価値観を共有しない者達には彼ら程の柔軟性は得る事はできない。

 そして、彼らは自分達が何のために生み出され、何を期待されているのかを正確に理解していた。
 即ち、電子戦における篠ノ之束の撃退である。

 RE社の技術力は企業としてなら現在世界一である。
 これは一切の誇張の無いものであり、アメリカが国を上げて彼らと商売している事からその資本力も大きい。
 だからこそ、その技術を不当な手段で入手しようとする者達には容赦しない。
 空を奪われた者達で構成されるRE社が恐れるのは、再び空を奪われる事だ。
 故にRE社の根幹である技術情報は絶対に外に漏らす訳にはいかない。
 
 
 『じゃ、反撃開始。』
 『全ワーム部隊出撃。』
 『いけいけゴーゴー。』
 『アリエス達は残って守備に。残りは全部吶喊!』
 『ヒャッハー!ここからは地獄だぜー!』
 

 自分達の生みの親のため、存在意義のため、世話になった人達のため。
 12基のオモイカネ級AIはそのスペックを最大に生かした大攻勢を仕掛けた。



 


 『……………』


 異形ISは確かに敵が爆散するのを見た。
 IS特有のハイパーセンサーの多くがそう判断し、敵機の撃墜に成功したと確信した。
 異形ISに搭載された量子コンピューターは、だからこそ次の目標を目指すべくセンサーを遠距離に向けた。
 そう、異形ISは無人だった。
 これが有人機であったのならまた違ったのかもしれないが、しかし、歴史にIFは無い。
 この時、確かに異形ISは遠ざかっていくδ小隊に注意を向け、その優れたセンサーから来る情報の処理に集中した。
 それは、時間にすれば1秒にも満たないものだった。
 だが、それは確かに存在し、その一瞬だけ異形ISは確かに近接センサーへのリソースが少なくなった。

 だからこそ


 『おぅぅぅりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!』
 

 だからこそ、異形ISは突進してきた敵機への対処が遅れた。





 粒子砲の一撃に対し、ジョニーの対処は素早かった。

 
 『……!』


 全ての外装を前方に向けてパージ、その反動を生かして予測射線上から離脱する。
 直後、パージされた外装が光に飲み込まれ、爆発した。
 
パージされた外装には追加の要重力場アンテナと多数の推進系が装備されている。
そのため、センサー上は通常のLM-02と酷似した反応が返ってくる。
今までLM-02との戦闘しか経験していなかった異形ISの量子コンピューターは誤認してしまった。
他で補おうにもジェネレーターの稼働音も爆音で掻き消され、目視も爆炎と閃光で使えない。
故に最高の『目』であるハイパーセンサーで敵機の撃墜を判断した。
 判断してしまった。
 
 
 


 『おぅぅぅりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 ズズガン!

 外装を外し、本来のPLM-02本来の姿に戻ったブラックサレナが吶喊、両腕に握ったナイフを異形の左肩と粒子砲の発射口へと突き立てた。


 『………!!!』


 異形ISはノイズが走る思考で何とか敵機を振りほどこうともがいた。
 だが、右腕はスクラップ状態、左腕も肩から駆動系を破壊されて使えない。
 
 だから、敵に損害を与えるべく、異形ISはRE本社ビルに向かって自壊すら厭わぬ加速を開始した。
 破壊を免れないのなら、せめてより多くの損害を与えろ。
 創造主からの命令に、異形ISは忠実に従った。


 『させると思ってんのか、この野郎!!』

 
 ナイフを刺したまま喰らいついていたPLM-01が動いた。
 右手で発射口に刺さったナイフを更に深く抉り、それを支えに脚部の大出力スラスターを真上に向け、無理矢理2機とも下降を開始する。
 
 ギシギシ……

 機体にかかる圧倒的Gに、2機が不気味な軋みを上げる。

 
 『うぎぎぎぎぎぎぎ……!』
 『………。』


 地面がどんどん近付いていく。

 右腕のナイフに更なる力が込められ、コア周辺を出鱈目に抉る。

 地表激突まで15秒

 絶対防御は発動しているが、大破スレスレの機体では然したる出力も出せないのか、それともアシッドレインで地味に消耗していたためか、既に絶対防御を完全に展開する事もできていなかった。

 10秒

 それでも2機は止まる事は無い。
 相手を停止させ被害を抑えようとするジェームズと少しでも被害を広げようとする異形IS。
 両者の目的は一致せず、同じくその行動も一致する事は無い。
 
 5秒

 そして、ナイフがコアに到達、異形ISはその活動を停止した。


 
 『っぐぉぉ!!』


 ジョニーは全力で減衰ではなく真下から前方へと方向転換、消し切れなかったGが全身を圧迫し、遂に肋骨に罅が入るが、その叫びすら機体からの負荷に掻き消される。


 『止・ま・れェェェェ!』


 そして、2機は地面を大きく長く削った。

 スギャギャギャギャギャギャギャ!!!!

 異形ISを盾の様に構えたためか、異形ISは硬い物同士を擦り合わせる様な音と共に、下半身が大根おろしと同じく擦り潰されていく。
 爪先、脛、膝、腿、股間……。
 あっと言う間にすり減りながらも地面に大きな痕を残しつつ、2機は低空を滑空……と言うよりも地面の上を滑っていく。

 やがて十分に減速すると、2機は動きを止め、着陸した。
 ……とは言っても、1機は下半身が消え、スクラップ同然の状態だったが。
 きっとISコアは擦り潰される恐怖にガタガタ震えていた事だろう。


 『車もLMも直ぐには止まりませんってか?ま、運が無かったな、お前さんも。』


 肋骨が痛かろうに、ジェームズはそう言ってカッコつけた。




 
 『ヒャッハー!この世は地獄だぜー!』
 『おーい敵のデータ解析…聞こえてないね?』
 『ほっとけ。その内戻るから。』
 『私らも結構濃いよねー』
 『ねー』
 『もうちょっと真面目に働きません、皆さん?』



 同時刻

敵サーバー一歩手前まで追い込むも、物理切断によりそれ以上の情報収集は不可能。
 追撃の余力も無く、敵の再攻撃も無い事から状況終了。

 RE本社サーバーの死守に成功した。

 その成功の最大功労者は勿論オモイカネ級AI達だった事は言うまでもなかった。








 この1週間後、アメリカ合衆国は篠ノ之束を超悪質な国際テロリストとして正式に指名手配した。

 各国は米国のこの行動に驚きつつ、水面下で同女史の保護を図ったが、そもそも接触する手段が無いために断念された。
 
 そして、実際にアメリカが地球上で幾つか確認された篠ノ之束の拠点に攻撃を加えた事が確認されると、世界は本当にアメリカが篠ノ之束個人を完全に敵と認識した事を知った。

 同時に、既にアメリカがISを必要どころか、邪魔とすら思っている事も。



 歴史の歯車が、大きく回り始めていた。







[26770] IS~漢達の空~その7 大幅加筆
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/17 22:53
 第7話


 アメリカの動きは早かった。



 国益に多大な貢献を果たしている自国籍の企業が襲撃を受けた事に対し、アメリカ合衆国は正式に亡国機業の存在を公表・テロ組織として国際指名手配をし……次いで篠ノ之束を超A級テロリストとして国際指名手配とする事を公表した。


 次いで、国連を通じて各国政府に情報開示と捜査の協力勧告が行われた。

 これは国際IS委員会、IS学園にすら通達され、アメリカの本気ブリが伺えた。
 



 これに対し、各国の反応は大きく3つに別れた。

 1つ目、断固とした反対
 これは主にIS推進国が多く、「同博士の功績を考えれば罪を補って余りある」「実際に博士が行ったという証拠が不足」という事を理由に米国の勧告を突っぱねた。
 これは篠ノ之束を擁護する事で彼女の協力や亡命等を期待したものだと思われるが、彼女の人格から考えれば望み薄だろう。
 
 2つ目、全面的に協力
 これは米国からのLM購入が本格化している国々で、米国の同盟国・友好国が多かった。
 米国に協力する事で何らかの優遇を狙ったものだが、それ以上に下火になりつつあるIS開発をより下火にしてIS推進国の軍事力を削る事を目的としていた。

 3つ目、様子見
 LMを購入しつつもISの開発も止めていない国々で、状況によっては上記のどちらにも傾く。
 …時勢が傾けば何処の国も似た様なものだとは思うが。
 取り敢えず消極的な協力・拒否をする国もあり、一概に判別できない所でもある。



 各国が米国の動きに揺れ動く中、米国から名指しで協力を「要請」された国があった。
 そう、日本である。
 篠ノ之束の出身地であり、彼女が人間と認識している数少ない人間が住んでいる国である。
 米国大使館からのアメリカ政府の公式要請、その内容に日本政府は大きく揺れ動いた。
 曰く、「篠ノ之束の逮捕に全面的に協力されたし。また、犯人の家族・友人に対し捜査に協力を要請する。」
 オブラートに包んではいたが、かねがねこんな内容である。

 
 これに対し、日本は大きく揺れ動いた。
 自国民を擁護すべき、しかし米国の機嫌を損ねては…、これを機にLM購入は見送るべき、否逆にIS主流から脱却すべきだ……
 
 公民双方で意見が大きく割れ、日本は未だにその方針を決定する事が出来ないでいた。
 




 IS~漢達の空~





 「で?このアホみたな状況の当人が何の用だ?」
 『ちーちゃんたらそんな怒っちゃやー。』


 IS学園

 IS運用条約、通称「アラスカ条約」で設立された此処はIS操縦者育成用の学園で、あらゆる勢力からの介入を拒む事で知られている。
 多少の圧力は存在するものの、それでも外よりは遥かに国家や企業の権力が届きにくいのがこの場所だった。

 そんな場所で、嘗てここのOBだった織斑千冬は電話で長年の友人と会話していた。


 『いやー、束さんもちょっとびっくりでね?まさか束さんに匹敵する人類がいたなんて想定外だったよー。』
 「そのおかげで私は大事な弟を危うく政府公認で連行されそうになったんだがな?」
 

 織斑千冬
この女性が篠ノ之束と唯一の親友であり、初代IS搭乗者にして現在最強のIS操縦者である事は世界的に有名だった。
 現在はある事件を機に引退しているが、それでも未だに彼女を人類最強と呼ぶ声は大きい。

 そんな彼女の唯一の身内は、たった1人の弟だけ。
 織斑一夏
 未だ中学校を卒業しない、極平凡な日本人の少年だ。
 でも、たった一人の愛する家族だ。
 
 だから、彼女は弟にかかる万難を排する覚悟を決めている。
 一度は失ったと思ったが何とか救う事ができた命、絶対に失う訳にはいかない。
 否、失いたくない。
 弟の存在は、彼女の存在理由と言い換えても良い程に、彼女の価値観のウェイトを占めていた。

 しかし、それが親友の仕出かした真似で危うくなっている。
 

 「この大馬鹿者!!何処にアメリカの大企業に正面から喧嘩を売って挙句負けて来る者がいるんだ!」
 『いやー、今回ばかりは束さんの完敗だよ、うん。』


 十人中十人が射竦められそうな怒声は、しかし、篠ノ之束には通じない。
 何故なら彼女は大天災。
 媚びず退かず顧みず、今や世界すら手玉に取る国際テロリストなのだから。
 その彼女が負けを認めるというのだからRE社というのがどれだけの魔窟なのか千冬には想像すら付かなかった。
 ……実際は変態と漢と趣味人の寄り合い所帯だが。
 

 『まぁ、ちーちゃん達は暫くIS学園で大人しくしててよ。その間に束さんは束さんで何とかするから。』
 「まぁ、精々殺されないようにな。」
 『うっふっふー♪ちーちゃんてっばやーさしー♪』
 「きるぞ?」
 『ごめんなさい。』


きっと今の「きる」はKILLか斬るかのどちらかしかないのだと思うと、束はちょっと冷や汗かいた。
 織斑千冬は有言実行どころか無言実行の人。
 やると言ったら絶対にやる。


 『じゃ、またねーん♪』
 「ああ、またな。」


 それだけ言って、千冬は携帯の電源を切った。
 たった一分にも満たない会話で、随分と疲れたものだな…。
 重く疲労が圧し掛かる肩を解きほぐすと、千冬は携帯の電源を切って、部屋のベッドに身を横たえた。
 スーツ姿だが、とても着替える気になれない。

 
 (これから、どうすべきだろうか…。)
 

 千冬の胸中を占める悩みはそれだった。
前々から問題だらけの親友であったが、それでもそれを表に出す様なヘマはしなかった。
したとしてもそれを補って余りある利益を生み出し、絶対に尻尾を掴ませなかったが故に今日まで生き永らえてきた。
だが、今度は明らかに分が悪い。
相手はあの篠ノ之束を全力ではなかったとは言え正面から彼女を破るだけの能力があるRE社、そして長年超大国として世界のトップで通してきたアメリカ合衆国だ。
 分が悪い所ではない、控えめに言っても絶望的だ。
 だが、今日まで世界を相手に勝利し続けてきたのが篠ノ之束だ。
 
結論、両者がこのまま終わる訳が無い。

 確実にまた一波乱あるだろう。
 それも、今回よりも大規模な、それこそ世界大戦並に凄まじい事が。


 (一先ず、篠ノ之家をどうにかせんとな…。)

 
 一夏は良い。
 既にIS学園付近に急いで引っ越させた。
 友人と別れさせるのは忍びなかったが、背に腹は代えられない。
自分も現役時代同様に「暮桜」を装備しているから、いざという時は駆けつける事ができる。

 篠ノ之家に関しては今年から次女の箒がIS学園に入学する予定だから、また家族ごと引越しになる事だろう。
 元々要人護衛プログラムの一環で日本各地を転々としていた一家だが、今回の事で更に立場がひどくなった事を思うと、口中に苦いものが湧いてくる様だ。


 「人生ままならんものだな……。」


 疲労に押されてか、千冬はそのまま直ぐに眠りに落ちていった。
 

 



 
 
 「ねぇ、これ何の冗談?」


 復興中のRE本社会議室で、社長のジョニー・ドライデンは呟いた。


 「社長、現実逃避しないでください。」
 『そこに記載されてるのは全て事実だよ。』
 『僕らも何度か確かめたしね。』


 重役達とオモイカネ級AI一番機にしてリーダー格であるアリエスが揃うこの場で、ジョニーが何を見ていたかと言うと……今回の襲撃事件における被害報告だった。

 戦闘用無人兵器は200近くあったその全てが大破、警戒用無人兵器はそもそも高機動中のISを攻撃できる兵装が無かったために無視されたために損害は無い。
 LM-01部隊150機は半数以上が中破で修理中、壊滅状態だ。
 地上のLM-02G部隊12機は装甲が厚いためか小破・中破が無いものの、異形ISの攻撃で2機が撃破・パイロット2名が死亡した。
 そして主力のLM-02部隊で戦闘に参加した4個小隊の内、ほぼ全ての機体が小破又は中破で、最も損害の大きかったδ小隊の機体は1機が撃破・パイロット死亡、3機が大破した。

 はっきりと言おう、大損害だった。


 「また、また赤字が……。」
 「社長!しっかりしてください!」
 「ここでテロに屈しちゃいけません!」
 『まだ何とかやりくりできるってば。』


 膝をついて絶望するジョニーに重役達が必死に励ます。
 ここで彼に戦線離脱された書類仕事が大変なのだ。


 「さて、気を取り直して……他の報告は?」
 「はい。米国政府は全面的に篠ノ之束博士と敵対する道を選びました。」


 まぁ、我々が後押しした結果ですが…。
 その呟きを皮切りに、報告が始まった。




 「気になるのは日本だね、うん。」
 「我々もそう考えております。」


 日本、あの外圧に兎角弱い政府が今更どうこうできるとは思えないが、馬鹿な分何をするか解ったものではない。
 最悪、篠ノ之束の関係者全員を保護と言う名の監禁をして篠ノ之束を敵に回して、更に米国からのLM輸出を禁止しかねない。


 「防衛省と政府は未だにIS主兵論者が多いんだっけ?」
 『うん。LMを歓迎してるのは、寧ろ民間の方だね。』


 IS学園を擁する国故か、日本政府はLM導入には積極的ではなかった。
 それでも防衛組の一部勢力と現状の行き過ぎた女尊男卑を危惧する政治勢力の渾身の努力によって一個小隊分が納入、現在は試験運用中だ。
 とは言え、その実情はお寒いばかりで、予算と人員の殆どをIS関連の部署に奪われ、まともな運用どころか日本特有の魔改造もできないのが現状だった。
 ……それでも解析が9割方終了し、反応速度や稼働時間、近接戦闘力が本家ELM-01Bよりも5%向上している辺りは流石と言えよう。


 「軍需は無いけど民需はあるみたいだね?」
 『そうだね。輸出解禁にあたって、LM-01は結構売れてるし。』
 「別売りのダミュソスシステム採用の飛行用追加ユニットも売れ行きは徐々にですが伸びています。」


 軍需に対し、民需は売れ行きがゆっくりとだが伸びていた。
 LM-01は元々作業用でもあるが、その性能故に装備を変えれば深海作業、救助、戦闘もこなせる。
 更に別売りの飛行ユニットの存在もあって、今までIS先進国特有の女尊男卑の風潮で鬱憤が溜まっていた男性には売れ行き良好だ。
 なお、LM-01購入には一定時間の講習が必要であり、飛行ユニット購入の際も別途必要となる。
 最近では一緒に買うと飛行ユニットが3割引きになるお得サービス中だ。


 「他の国ではどう?」
 「現在は……各国とも初期納入分はELM-01を一括購入しました。LM-01に関してもゆっくりとですが売れ行きは増えています。」
 「そう……今は調査中って事かな?」
 『って言っても、全然進んでないみたいだけどね。』


 米国を世界最大の軍事力保有国に再度引き上げたLMの存在は、各国も知る所だった。
 そこで輸出解禁となったELM-01を解析し、それを自国に合わせて改造又は自国版LM開発をするつもりだろう。
 「他国が持った兵器は自国も持たなければならない。そうしなければ何れその兵器で攻撃される。」
 軍拡の理論はこの時代でも有効だ。
 現在は各国とも解析に掛かりきりで、自主生産はまだ数年はかかるだろう。
 それでも既存の兵器の延長線上で重力・慣性制御を可能とし、ISクラスの戦闘力を持ったLMは各国としても絶対にものにしたいのだろう。
 現にどの国もISへの出資を行いつつも、LMの解析を止めていない。
 しかし、自国内のIS主兵論者を抑えるのに四苦八苦しているらしく、初期納入分は何とか購入できたものの、問題もあるらしい。
イギリスやフランスと言ったIS先進国は運用費用が確保できていない状況が続いている。
対し、中国・ロシアは大量購入した費用を増税で乗り切った。
ただ、中国に関しては優秀な科学者が少ないためか解析は輸出開始から数カ月経過した今も遅々として進んでいない。
 
 だが、その分ロシアは解析状況が日本並に進んでいる。
 このまま行けば来年には自国で開発が始まるだろう。
 流石はアメリカと世界を二分した超大国、喰いつき具合が半端無かった。


 「で、我らが米国も対抗策くらいあるんでしょ?」
 『みたいだねー。今、米国ではNASAを中心に極秘裏に第二次スターウォーズ計画が進んでるよ。』
 「はい?」


 第二次スターウォーズ計画
 それは現在順調に進んでいる米国の月面開発計画を利用して月面に米国の一大軍事基地を設置する計画だ。



 少し戻って月面のPRE-01を筆頭とした月面開発計画の現状について説め…ゲフン!あーあー……解説する。
 
 現在、月の裏側にて順調に開発計画は進行している。
 今はPRE-01の相転移エンジンを発電所代わりにエネルギーを供給、それを元手に持ってきた大量の機材を使って月面に簡易コロニーを設置、地下資源の探索と都市開発を同時進行している。
 資源は取り放題、エネルギーは潤沢、娯楽にしてもPRE-01は福利施設も豊富なため、従来の宇宙開発に比べて遥かに人員への負担が軽かった。
 また、無重力空間特有の人体の弱体化も、工業区画や作業区画を除いたほぼ全域で重力操作、常に1Gをかけているため、人員の交代も必要最低限で済んでいる。
 現在は初代月面都市の名をルナ1にするかムーン1にするかで揉めている位に順調だ。



 「にしたって、人手が足りんでしょ。今はまだ開発で手一杯だと思うけど?」
 『先日PRE-02が竣工したからね。資源と人員の打ち上げ量が増えたんだよ。』


 今まではPRE-01が往復させて資源と人員を行き来させていた。
 その間は月面では何度目かの往復で持ってきた小型相転移エンジンで発電したり、大容量バッテリーを使用したりで代替した。
 未だ運用年数が短い相転移エンジンに詳しい技術者は少ないため、RE社もこの事業には積極的に協力する事で技術者の育成に努めている。
 しかし、月面開発及び防衛の要であるPRE-01を早々簡単に動かす訳にはいかない。
そこでPRE-01とは別に輸送艦としてPRE-02が必要となった。

 
 PRE-02 エンタープライズ
 
超有名な宇宙船の名前を借りた、RE社製の2隻目の相転移エンジン搭載航宙艦だ。
PRE-01の運用データを参考に設計され、その信頼性や整備性はPRE-01よりも向上している。
そして、エンジンの追加とエネルギー伝達系の最適化によって強化された出力を利用したDブロックシステムを採用する事で、凄まじいタフネスを身に付けた。
とは言っても、本来が輸送艦としての性能が求められていたためか、その戦闘能力はPRE-01よりも低い。
GブラストもLM-02の運用機能も無いため、あくまで輸送船でしかない。
ただ、その分コストが低下、生産性・整備性が向上している。
全長500m、全高320m、全幅200m。
 相転移エンジン3基、核パルスエンジン6基を搭載する。
 PRE-01同様重力推進・慣性制御を採用、福利厚生施設も充実している。
 兵装は対空レーザー砲×22門、大型レールガン×2、Dフィールドのみで、あくまで自衛用・デブリ破砕用である。
 その最大の特徴は積載能力にこそある。
 PRE-01で急拵えであったDブレードを利用した大型格納庫を再設計、艦の大型化と合わせて搭載能力が大幅に上昇した。
 これによってPRE-01は改めて月面開発及び防衛の要として機能し、PRE-02は今月から月面と地球間で定期便の役割をこなしている。
 
 …ちなみに社内では「今度こそスタート○ック!」「いや次もコスモスだろ」の二派に分かれて、投票を取る事になった。
しかし、アメリカ政府とNASAからの投票もあり、結果は見事スタート○ック派の勝利となった。
 
 
 
「是非ともコスモスにして多連装Gブラストを載せたかった…。」
「まだ言ってるんですか…。」
『輸送艦にそんなもの乗せたらオーバーキルだよ。』


 重役とアリエス達が呆れた視線を向けるが、ジョニーは気にしない。

 「で、結局どう動くの?」
 『うーんとLM-02の宇宙仕様があるだろ?あれの運用母艦の開発依頼とC型への換装、そんでPLS-01の制式仕様への改修と追加生産だって。』



 PLS-01
 見た目はXG-70のアレである。
 現在は3機が米国空軍に納入されており、重要基地に配備されている。
 とは言っても、試作一号機のデータを参考にして作ったため、完成度は高い。
 ただ、あくまで試験運用の名目で納入されたため、完成型として搭載する予定の兵装が無い。
 現在はGブラスト、Dフィールド、要重力場発生器しかない。
 
 LM-02B、宇宙仕様のLM-02である。
 とは言っても、ジェットエンジンを液体燃料式ロケットエンジンと交換し、機密性を上げただけの機体だ。
 性能面では特段変化は無い。
 そのためC型への換装も容易で、十分な資材と技術者がいれば、現地でも十分に改修可能だろう。

 LMの運用母艦は、丁度PREの3番艦を当てればいい。
 PRE-01もそれに近いが、月面の要をそうそう動かす訳にはいかない。
 だからこそ、LMにとっての空母に当たる艦の存在は必要不可欠だ。


 「うちとしては儲かるから良いんだけど……大丈夫なのかな?」
 『国益は十二分以上に出してるからOK。』
 「宇宙開発を100年は進めたのですから、これ位良い思いをしても罰は当たらないでしょう。」
 「…ま、いっか。」

 
 この時は軽く流したが、後に彼らの仕事は加速度的に増える事となる。
 何せ後から後から注文が来るので、必然的に上役に来る仕事も増えていってしまうのだ。


 「所で篠ノ之束については何か掴んだ?」
 「先日の騒ぎで幾つかのアジトは掴みましたが、既にもぬけの殻でした。IS関連の情報については一通り解析は終了しました。」


 先日の襲撃事件で、オモイカネ級AI達は逆ハッキングに成功、幾つかの拠点の情報とISの開発データを入手した。
 拠点の情報を入手したアメリカは即座にCIAを動員、虎の子のLM-02Cエステバリス・カスタムの特殊部隊仕様を判明した拠点全てに対し出撃させた。
 しかし、既に誰もおらずに爆破処理されていたため、結局は無駄足となってしまった。
 
 対し、ISの方は断片的であまり参考にできなかったが、それが新開発のISの開発概念とそれに使用される新技術の情報である事が判明した。
 開発されていたISは試作第4世代、新技術は展開装甲というものだった。
 展開装甲は全状況対応型とも言うべき装備で、常に攻撃・防御・機動等の動きに最適な状態へ機体が変化するというものだ。
机上の空論と無視しても問題無いかもしれないが、これを考えたのがあの大天災となると洒落にならない。
 米国政府はこの情報をRE社から知らされた時、本当に肝を冷やしたそうな。

 ちなみにLMに展開装甲を採用してはどうか?と言う意見もあったが、それ開発して作るよりも普通に換装システム使用した方が安くない?の一言で没案となった。


 「まーたやり合うんだろうねー。」
 「負けたまま引き下がる御仁ではないでしょうから…。」
 『また来る確立97,2%って所かな?』
 

 敵が厄介すぎるという陰鬱な状況に、会議室にはちょっとブルーになった。


 







 その頃の月面


 トンテンカン、トンテンカン……というのは冗談だが、ここでは日々作業が続いている。
 作業に使われるのは主にLM-01の宇宙仕様で、杭打ち機やドリル、バーナー等の様々なアタッチメントを使用して月面都市を発展に導いている。
 月面は地球に比べ大気はほぼ存在せず、また、重力も6分の1しかないため、重量物の移動がかなり容易に行う事ができた。
 しかし、ここまで月面都市を開発するには多くの課題が存在した。

 1つ目は宇宙から飛来する宇宙線や太陽風、デブリであった。
 これはPRE-01のDフィールドなら容易に防ぐ事ができるのだが、如何せん都市全体にDフィールドを展開するのは出力的に難しい。
 そこで建設資材の中にあった小型相転移エンジンや大容量バッテリーで動力源を確保、ゆっくりと展開範囲を広げていった。
 PRE-01が月面を離れる時もこれは役に立ち、今も増産や改良を繰り返しながら使用されている。

 2つ目はレゴリス。
 隕石などによって細かく砕かれた石で非常に細かい上、月面のほぼ全ての場所を数十cmから数十mの厚さで覆っている。
 この砂は少ない衝撃で舞い上がり、重力の関係上暫くの間落ちてこない。
 また、精密機械の間に入り込み、トラブルの原因ともなる。
 これは月面開発にあたってかなり邪魔だった。
 そこで、開発者達はレゴリスを巻き上げない様に注意しつつ、作業場一帯に微弱な人工重力を働かせて作業するしかなかった。
 しかしこのレゴリス、実はその大半が酸素で構成されており、加工すれば良質な酸素を抽出する事が可能だったため、現在は積極的に回収されている。
 そのため、厚さ数十m以上のレゴリスの集積地帯はもう宝の山扱いだったりする。

 
 3つ目は水だ。
 こればかりは補給するしかないが、真水は工業製品の加工にも大量に必要となる。
 作業員や技術者の生活用水は相転移エンジンの恩恵でリサイクルして使用できるが、流石に工業用水に使える程大量にある訳ではない。
という訳で、月面極冠にある巨大な氷、そして月面中に多量に分布するヒドロキシ基を利用する事となった。
 極冠は以前から巨大な氷が存在している可能性が高かったのだが……地下に地球の南極大陸並の氷が発見された時は皆驚いたものだった。
 ヒドロキシ基は水の原料となる物質で、月面に水と並んで多く存在する。
 これらを集積・加工して工業用水を確保すれば、大量の水を手に入れる事ができる。
 結果として言えば、氷を持ってきた方が加工するよりも早かったのだが、水は幾らあっても足りないのでヒドロキシ基の加工は今後も続けられる事となった。
 

 この様に、月面に行った開発団の面々は最新の装備を生かし、順調に月面を開発していった。


 月面は、実を言えば資源の宝庫とも言える。
 水は言うに及ばず、酸素もレゴリスから抽出でき、太陽風によって運ばれてきたヘリウム3、土壌にもチタン等が多く含まれている。
 そして何より、ここには競争する者がいない。
 自分達だけで一人占めができるのだ。
 もう政府はウハウハ状態だった。









 現在、米国は女尊男卑から来る治安の悪化と雇用問題、更にはエネルギー問題を解決し好景気に突入していた。
しかも、月面の資源を文字通り一人占めした状態で。
 そのおかげか、大統領は2選に成功し、経済状況はかなり良い。
 
未だ月面開発については公表していないが、それも時間の問題だろう。
 各国だって米国が何かしているのは掴んでいるのだ。
 だが、何処で何をしているのか、具体的な事は解っていない。
 何せ月面、スパイの類を送る事は不可能だ。

 米国政府は此処最近、各国が軍事力で追い付く事がなくなるようにIS開発者である篠ノ之束をどうにかしたいと考えていた。
 拘束か、殺害か、利用か。
 何れにせよ、米国に不利益な存在を容認する訳にはいかなかった。
しかし、相手はあの大天災。
こっちから仕掛けても勝てるかどうか不明であるし、居場所も不明だ。

だが、最近彼女自身が米国にとって「金の卵の鶏」であるRE社に敵対行動を取った。

棚からぼた餅。
 思わず笑ってしまった。
 それ程に好都合だった。
 そして、早速米国は動いた。
 
 結果として、以前以上に篠ノ之束は敵が多くなった。

 だが、それでも篠ノ之束は捕まらない。
 網の目を知り尽くしているかの如く、篠ノ之束は捕まらない。

 それこそが、彼女の異常性を立証する何よりの証明だった。
 
 




 


 何処とも知れない秘密の場所


 「ふんふふーん♪」


 そんな場所でその女性は調子はずれな鼻歌を歌っていた。


 「らんららーん♪」


 だが、それだけではない。
 彼女を包む様に、周辺には用途不明の大量の機械が群れを成し、終始蠢ていた。


 何をしているのか、他人には理解不能だ。
 できるとすれば、それは彼女本人か、彼女と同等の知識を有した者だけだろう。


 「たらっりらー♪」


 彼女は手を動かす事を止めない。
 異端の技術を編み続ける事を止めない。
 思考を止める事を良しとしない。
 

 思考し続け、おり続け、その果てに何を求めているのか。
 それは、彼女だけが知っている事だろう。
 だが、間違いない事がただ一つだけある。


 「さーて、ここから私の逆襲開始だよーん♪」


 世界は、更なるカオスに向かって突き進んでいく。

 それだけが、今後の世界に言える事だった。







 
 
 「私がテストパイロットですか?」
 「そうだ。」


 唐突に上官の部屋に呼び出され、私は素っ頓狂な声を上げた。

 
 「君の能力は米軍のIS乗りの中では確実に三指に入る。加えて知識も十二分だ。任務は十分に果たせると思うが?」
 「は、はぁ…。」


 上官の言っている事は何らおかしくはない。
 おかしくはないが、如何せん時期が悪い。
 
 今米国はブラックボックスが多く軍事兵器として欠陥品と言えるISよりも安価でありながら性能は同等であり、量産も可能であるLMが主流となっている。
 RE社、彼女にとって思い入れのある人がトップであるその会社は、またたく間に時流に乗り、この国から、世界からISを駆逐しつつある。

 その事を思うと、どうしても胸の内のどこかが軋む思いがする。
 未だに当時の事を振り切れていないという事だろう。
 それがどうにも表に出る時があるせいか、仲間内では「グレーウィドウ」、「灰色の未亡人」などと呼ばれる時もある。

 

 「我が国は現在LMが主流となりつつあるが、未だにISが世界最強の兵器であるという声も各所から出ている。そこで、来年RE社製のLMと他のメーカーが作った最新鋭第3世代ISとトライアルが行われる事となった。」
 「本当ですか!?」

 
 もしこれでISが勝利すれば、現在のLM主流に大きな罅を入れる事となる。
 私個人としては望まない結果だが、しかし、IS乗りとしては日々狭められる空に鬱屈していた所でもある。
 ある程度接戦し、今よりも扱いがよくなるのなら、私としてはまぁ満足だ。


 「開発中のISは2機種で、君にはイスラエルとの共同開発を予定されている機体が任せられる。もう一機もトライアルに参加し、協力して事に当たる事となる。そいつは来週到着予定だ。任せたぞ。」
 「は!」

 
 敬礼し、必要な資料を受け取って部屋を辞退する。
 任務への意気込みと、もしかしたら彼に会えるのでは?という期待を胸に、私は上官の部屋を後にした。




 「……すまんな。君も茶番に付き合ってくれ。」



 
 その上官の声は、誰も届かなかった。







[26770] IS~漢達の空~その8
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/19 13:45
第8話




 
 LS-01 スサノオ


サイズは20m程だが、本家ジンシリーズよりも重武装化している。
 兵装は胸部Gブラスト×1、Dフィールド、8連装多目的ミサイルランチャー×2、大型レールガン×2、対艦ミサイル×6、要重力場ビーム発生器となっている。
 兵装の増加により、外観は人型兵器のそれに近くなった。
腕にあたる部分は大型レールガンで、脚部はランディングギアと長大なブースターユニット、ミサイルランチャーで構成される。
 対艦ミサイルは脇の下に3発ずつ設置されている。

 その外観は本家本元のジンシリーズとは大きく異なっており
 ぶっちゃけると、原画版XG-70
 解る人には解るだろう。
 
 見た目よりも機動性は良いし馬力と出力は戦艦クラスであるため、マク○スアタック染みた格闘→ゼロ距離砲撃のコンボもできる。
 基本的に活動時間の短いLM-02との連携を前提とし、要重力場ビームによるかつド時間の延長と高火力による支援を目的とする。

 その性質故にどうしても高コストで操縦者もメイン・火器管制・レーダー管制と3人も必要とする。
しかもそのお値段、なんとLM-02一個中隊と同じ。
現用の戦闘用LMに比べ、コストパフォーマンスは劣悪と言ってもいい。
だがしかし、そのコストに見合った性能を持つ空中要塞な代物である。

 今後はPREシリーズ・PLS-01・LS-01のノウハウを生かして、小型化と低コストを視野に入れたLS-02が開発される事となる。



 「で、作ったは良いけど、デモンストレーションの場所に欠ける、と?」
 『みたいだねー。』
 「まぁ、LSを実戦運用する様な場面なんて早々来ないと思いますが…。」


 RE本社会議室
 いつもの重役会議である。
 
 
 「これに関しては何れ大々的なデモンストレーションをするとして…。」
 『だね。』
 「試作機の開発ノウハウはPREシリーズで元は取れていますが…。」
 「こちらはこちらで売りたい所ですな。」

 
 元々PREに使用する相転移エンジンのノウハウを得るために作ったという側面もあるため、技術的フィードバックは比較的容易だった。
 ただ、これ以上生産しようにも必要なドックを用意できていない。
PREシリーズは予備パーツからでっち上げで建造したPRE-02が竣工した後もまた更に戦術母艦であるPRE-03を建造している。
 現在全米に支社を持ち、海外展開も行っているRE社であるが、ドックそのものの建造は時間が掛かってしまう。
 現在保有するドッグは2つだけで、片方は稼働中のPREシリーズの整備・補給用で月面への物資集積所でもある。
 もう片方は整備・補給以上に建造用で、こちらは現在PRE-03の建造をしているため、空いていなかった。
 そのため、注文も来ていない現在、PREシリーズの方が優先となっている。


 「で、次のLM-02Cへの改修作業ですが……。」
 「あー、滞ってるんだっけ?」
 『まぁ、コストがねー。』


 LM-02C、ご存知LM-02の改修機である。
 高効率要重力場アンテナと大容量バッテリーを標準装備、LM-02よりも倍近い活動時間と出力を持つ。
 強化された出力を生かし、LM-02では不可能だったレールガンが装備可能、Dフィールドも強化されている。
 コクピット周辺は装甲が分厚くされただけでなく、3基の小型Dフィールド発生器を備え、搭載されたCPUが状況に応じて個別・必要によっては2基、3基が一斉に発動、パイロットの生存性を向上させている。
 また、重力場推進機が小型化、出力はそのままに軽量化に成功している。
 そこに高機動ユニット・近接戦ユニット・砲撃戦ユニットの三種のユニットを装備し、あらゆる戦況に対応する事ができる。

 しかし、当然ながらデメリットもある。
 
 大量配備するにはコストが高いのだ。
 一時は正式採用にまで行ったのだが、LM-02の最大の売りである整備性・低コスト・操縦性が悪化してしまうため、どうしても少数配備になってしまうのだ。
 そのため、カラーリングを暗色して排熱を抑えた特殊部隊仕様なんてものが売れているのが現状だった。
 こうした事情を踏まえて、換装ユニットそのものの再設計や改修が検討されている。

 
 『ってな訳で、現在は簡略化したLM-02C2を開発中だよ。』
 「開発とは言いますが、C型への改修の中からユニット換装システムをオミットして、一部兵装を固定化するだけですが。」
 「まぁ、それで売れるなら良しとしとこうか?」


 LM-02C2 エステバリスカスタムⅡ
 C型の簡易型とも言うべき機体であり、より生産性・コスト・整備性・操縦性を重視した機体となっている。
 コクピット周辺の装甲強化に小型Dフィールド発生器4基の設置・高効率要重力場アンテナと大容量バッテリーの採用による活動時間・出力の倍化・重力推進器のサイズダウンはそのままだが、C型一番の換装システムがオミットされている。
 その分、機体の一部に固定兵装や装備が追加された。
 左右の前腕部に本家エステバリスにもあったワイヤードフィストのナックルガードに小型Dフィールドを備えた腕部打撃装甲を追加、近接戦闘での攻撃力上昇と防御力の向上を図った。
 他にも左即頭部に複合センサーの追加・レールガンの使用・搭載ミサイルの弾数増加等、様々な面で強化されている。
 
 ちなみにこれの稼働試験をした教導隊からは「扱い易くて基礎能力の高い良い機体」であり、反面「素直過ぎて面白くない」との評価を頂いている。
 …じゃじゃ馬な試作機にばっかり乗っていた弊害だろうか、既に普通の機体では満足できないらしい。


 「で、PRE-03の進捗状況は?」
 『凡そ3割かな。』
 「基本的な構造は従来型と同じです。ただ、戦闘用LMの母艦としての機能を持たせますから、どうしても時間が…。」
 「凡そ来年の初夏といった所でしょうか。その頃には竣工します。」


 PRE-03、PREシリーズの最新艦である。
 その外観はPRE-02エンタープライズを踏襲してコンテナ船に近いが、列記とした戦闘空母であり、性能は従来のPREシリーズと比べても遜色ない。
 左右両舷にミサイル発射管をそれぞれ6基の計12基、各所に対空レーザー砲16基を備え、現存する全ての戦艦よりも高い火力を持つ。
 LM-02を始めとする戦闘用LMの運用母艦であり、甲板の重力カタパルトを利用し、素早く艦載LMを出撃・展開させる事ができる。
 また、艦橋付近にはLM-02G8機を半ば固定化した状態で配置、対空砲台としても運用できる。
 搭載機体数は30機、予備に8機、パーツにばらせば更に6機搭載する事ができる。
 他にもある程度搭載数を5機程制限する代わりにLS-01を一機搭載する事もできる。
 LM搭載数のみを見ればRE本社防衛隊よりも上であり、即ち一国家の首都を陥落させる事も十分可能な戦力を運用できるという事でもある。
 また、戦艦としては初のオモイカネ級AIを搭載、専門のオペレーター4名が付き、電子戦もこなす。
 また、少ないブリッジクルーで運用可能であり、艦長と副長、通信士に操舵手、オペレーター4人もいれば運用できる。
 そこにLMパイロットと整備班、生活班、医療班、歩兵部隊などを足した約500名程の人員で運用される予定だ。


 「とんでもなく高性能ですね、これ。」
 「…しかし、建造理由を考えますと、凄まじくコストパフォーマンスは悪いですな。」
 『仕方ないよ。次来られたら危ないし。』
 「それでも、出来れば技術的な面で決着をつけたかったよ。」


 その場の人間は誰しも深刻そうな表情を浮かべた。


 この艦が建造された最大の理由、それは誰あろう篠ノ之束の撃滅だった。


 RE社に、否、アメリカ合衆国に、世界中の男性にとっての敵である彼女の存在を、RE社は本気で殺したいと考えていた。
 そりゃ本社サーバーへの大規模ハッキング、多大な損害と少ないものの死者すら出したあの襲撃事件を忘れる者はいない。
 もし彼女が世界の何処かで確認されたらそのまま殲滅できる戦力を即座に派遣するための手段こそが、このPRE-03の建造理由だった。


 「次は無い。皆も、そう判断したでしょ?」
 『僕らとしても異論は無いよ。』
 「ですな。」


 RE社
 世界で初めてISに対抗できる兵器を開発・生産している軍事企業にして、アメリカの「金の卵を産む鶏」。
 
 彼らは本気で自らの手で怨敵の殲滅を願っていた。










 IS~漢達の空~








 
 ホワイトハウス

 大統領官邸にして、合衆国の中枢。
 そこには現在、現政権の重鎮達が密かに集まっていた。



 「やはりRE社一極集中は問題があると、そう言いたいのだな?」


  先程までの部下と腹心達からの報告を受け、この国で最も権力を持つ者、即ち大統領が口を開いた。


 「はい。軍需が元々寡占市場だったとは言え、現状に対し各メーカーは相当鬱憤が溜まっているようです。」
 「ライセンス生産で十分だと思ったが?」
 「それはLMの開発ノウハウを養うためのものでして。IS費用の削減もあって連中随分と焦っている様です。」
 「態々中東の連中と組んでまで、かね?」
 
 
 RE社のLMが入り、米国には活気が戻った。
 空は全ての人々に開放され、ISによる女尊男卑の風潮はほぼ完全に消え去った。
 世界の半分を占める生産力は月面開発によりフル稼働、経済は活発化して不景気は彼方へ消えた。
 現在は月面方面の防衛を空軍に委ねるか宇宙軍を創設するかで揉めているが、それも直に解決する事だろう。
 米国は順調に世界第一の超大国の座を直走っていた。


 だが、ISにより今まで大きな利権を得ていた者達は違う。
 LMの登場によりISは相対的に駆逐されていき、その勢いを失っていった。
 現在はLM導入に反対している諸処の勢力が手を結び、最新の第3世代ISの開発に望みをつないでいるのが現状だ。
 それでも喰いついていくためにRE社からLMのライセンス生産をしているのだから流石は米国企業、抜け目が無いと言うべきだろう。
 
 その連中が何を考えたのか、同盟国のイスラエルと合同開発を行う事を決定したのだった。


 「ISは一瞬で展開可能という特性から、今後は諜報活動に使用されるのではなかったのか?」
 「所が連中、普通に高性能な機体を作って巻き返しを図るつもりのようでして。」


 どう考えても無理である。
 数に限りがあるISと量産可能なLM。
 例えどんなに高性能だろうとも、数に限りがあるのでは物量に抗し切る事はできない。
 戦争は数、質を突き詰めても勝てない事は歴史が証明している。
 

 「…陸軍で開発中の潜入工作用ISはどうだ?」
 「順調に開発中です。一部にLMのパーツを利用し、ある程度のコストダウンもできているとの事です。」

 そして、今後の米国のIS活用法はアクセサリーサイズで格納でき、即座に展開できるという特性から不正規工作や非公式作戦への投入を前提としたISの開発が陸軍主導で進んでいる。
 幾つかのIS関連企業が参加しているが、少しでも良い結果を残してISの生き残りを図りたいのだろうか、開発はかなり力が入っている。 


 「まぁいい。やりたい様にさせておけ。既に趨勢は決まっている。」


 大統領の言葉の後に、議題はまた次に進んでいった。





 





 「ふむ……経過は順調だな。」
 

 ロシア大統領府

 そこはアメリカと世界を二分する超大国の中枢であり、世界で最も広大な国土を有する国の中枢でもある。

 現在、そこの主たるロシア大統領は腹心から報告を受けていた。


 「LMか……少々疑問もあったが、成程。アメリカが主力にするのも頷ける性能だな。」
 「えぇ、廉価版と言えど輸入できた事は幸いでした。」


 そこでは現在、ロシアで運用・開発が開始されたLMの事についての報告がなされていた。


 「国産型の開発は順調です。ISとの共有パーツをロシア産に切り替え、局地戦闘能力を向上、目視識別も可能なように頭部に複合センサーを内蔵させた上で形状を変更しました。」
 「性能の方も劇的な向上は無いが、良い機体だ。今回の担当者は優秀だな。」
 

 既に1度、IS関連技術の担当者がLM開発に携わったのだが、その人物は結果を出せずに更迭されてしまった。
 対し、2人目の担当者は優秀であったため、国産機開発を大幅に前進させた。
 上手くいけば、数年以内には純国産機が開発開始される事だろう。


 「これからはISからLM、か…。時代の移り変わりは早いな。あの異常な兵器が既に過去のものになり始めているとは…。」
 「IS自体はこれからも要人警護や潜入工作で生かされる事になるでしょうな。あの隠密性は有用です。」
 

 ロシア連邦

 この国は未だに超大国としての活動を止めてはいなかった。










 世界の超大国が蠢き出す中、日本では最近変化が起こっていた。

 RE社日本支社が公式にLM輸入開始にあたり、今一つLMが知られていない先進国の一つである日本でPRを始めたのだ。

 とは言ってもやる事は簡単なものでしかない。
 LM-02の動画や画像をネットにUPしたり、ゲームセンター等でLMのアクション・戦略シミュレーターゲームの発売、特集雑誌への掲載に作業LMの宣伝CMなどである。
軍需が冷え込んでいるのなら、民需を更に強化してしまえ。
 普段仕事があまりないRE社広告部の面々が珍しく奮起した結果だった。
 
 とは言え、画像も動画も機密や詳細スペックが知られるようなものでは無く、単なる火力演習や歩行訓練だったりする。
 ゲームは当初店頭にあるシミュレーター型大型筐体とP○3の戦略シミュレーターのみだったが。
 雑誌も軍事系のものだけで、当初は余り売れ行きが良くなかった。

 しかし、ジワジワと民需が出てきていた所にこの宣伝だったため、効果は間をおかずに高まった。
 これにより、IS先進国日本で漸くLMはその知名度を上げる事ができた。
 そして、その直後に否定される事となった。

 女尊男卑が進んでいる日本では、ISに対抗可能な兵器という謳い文句だけで眉唾物扱いされた。
 RE社日本支社にも連日クレームが届いた。
 中には担当者が本気で殺意を抱く様な代物もあったが、それでもRE社は販売を止めなかった。
 だって、売れてるし。
 今の今まで鬱屈として男性陣を中心に、LMは確かに広まり、そして確実に支持を集めていった。
 

 ジワリジワリとだが、確実に日本にもLMは周知されていった。














 各国、各勢力が次なる動きを出す前に、世界にある一つの知らせが入った。


 IS適正を持つ少年の発見


 世界は俄かにその情報を疑い、真実だと知れると、途端に動きを見せた。





 日本政府は急遽その少年の保護を名目にIS学園への進学を決定。
 少年の唯一の身内兼保護者の意向の元、専用ISを開発する事となる。


 他、IS先進国であるイギリス・フランス・ドイツ、LMを満足に運用できるパイロットがいない中国がIS学園へ自国の代表候補生の転入を決定、件の少年とほぼ同時期に転入する事を決定した。


 アメリカ・ロシアの2大超大国はそれを静観した。
 LM主兵に切り替えた両者には、寧ろ男性IS操縦者を自国側に抱え込むのは邪魔にしかならない。
 それに、もし男性が搭乗できる理由を解析できてもアラスカ条約で各国のISコア数は一定で、物量を生かす事は絶対にできない。
 毒にも薬にもならないとして、二国はその少年への行動は緩い監視に留めた。





 そして、たった一人の大天災はそれを実に楽しそうに眺めていた。




 「うっふっふー♪いっくんったらおもしろー♪」




 何処とも知れぬ秘密の場所で、大天災は笑う嘲笑う微笑う爆笑う。




 「でもでも、これじゃまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ足りないよ。もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと楽しく愉快しく痛快しく悦楽しくしなくちゃ!」




 
 「世界をもっと楽(おか)しくしよう。」




 
 誰も知らない秘密の空間



 童女の様な幼い笑い声が、女の喉から空間一杯に響き渡った。












 ついに原作スタート 
 でも早々にブレイクの予感







[26770] IS~漢達の空~その9 new
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/19 13:44
第9話




 「やっべ、どうしよう。」




 織斑一夏の心境を一言で表せばこうなる。








 彼自身は自分でも思っているが、本当に凡庸な人間でしかない。
 でしかないが、周囲の身内2人が異常であるため、彼は結構苦労していた。


 先ず、唯一の身内である姉。
彼女はISと言われる特殊な兵器の初のパイロットであり、国際大会(兵器なのに!)でも優勝した実績を持つ。
今はその兵器の専門学校で教員をやっているが、それでも出場すれば未だに優勝確実と言われる。
そんな経歴から一時は「人類最強」の称号を送られていた事もある。
 性格は基本的に恐ろしい程厳しいが、それ以上に人格者で情に深い。
 その経歴のためあちこちから勧誘やら何やらの声が後を絶たない。
 そして、嫉妬の声も、だ。
 
 現に一夏が小さい頃に誘拐騒ぎがあり、姉は引退した。
 今は復帰したようだが、それでも公式大会とかには一切出ていないのだから、姉自身にも結構こたえたのだろうと思う。
 身内の目から見ても、姉は優しい人だ。
そんな人が唯一の身内を危険に晒してしまったのだ。
どれ程の後悔と自責の念を抱いたのか、想像もできない。
今は職場に近い所に一夏が住んでいるから一安心だが、それでも絶対とは言えない。



 次は最大の問題点。
 姉の親友にして幼馴染の姉にあたる女性。
 ISの開発者にして自称大天災の社会不適合者、目下国際手配中の超A級テロリストな女性だったりする。
彼女が数少なく個別判定できる人間は姉と幼馴染と一夏だけという人格破綻ぶりは本物だが、同時にその能力も本物だ。
 ISが世に出て以来あの人には会っていないが、何処の国や企業にも捕捉されていない事だけは確かだ。
 文字通り世界中から狙われる身でありながら逃げ続ける。
 それがどれ程無茶な事かは言うまでも無い。
 言うまでも無いが、それをやってのけるだけの能力が彼女にあるという事だ。

 さて、そんな人がどうしてテロリスト認定される様になったかと言うと、なんでもISに代わる新兵器を開発したアメリカの企業がテロリストに襲撃された件で、最大の容疑者とされているらしい。
 その事件では死傷者も出たため、アメリカが本気になって探しているらしく、一夏と姉や幼馴染とその両親も一時は拘束されそうになった。
 いやほんとメン○ンブラックみたいな黒服が家に来た時はびっくりしたものである。

 

 そんな一夏だからこそ、ISとは距離を置きつつ、身を守れる場所に所属する必要があった。
 いくら恐竜並に鈍感で警戒心も薄い一夏でも、何時までも他人に人生を如何こうされたくはない。
 だからこそ、将来の職業は平和でIS等と言う兵器とは無縁なものを選ぼうと思っていた。

 思っていた所に自身にIS適正があるという事が発覚した。
 一夏が感じた驚愕と驚きは、筆舌に尽くし難かった。


 「…マジでどうすっかなー。」


 部屋でただ一人、一夏はもの思いに耽っていた。
 
 このままでは自分は姉の職場であるIS学園で生徒として通う事となるだろう。
 だがしかし、それは一生ISに関係して生きていくという事だ。
 それは、一夏としてはどうしても回避した選択であった。


 「一夏、入るぞ。」
 「千冬ねぇ、帰ってたんだ?」


 言葉と共に、ドアが開けられ、唯一の家族にして姉である織斑千冬が入ってきた。


 「仕事は?まだ週末じゃないけど…。」
 「こんな事態では仕事にならん。それよりも、だ。」


 千冬はそっとベッドに近づき、そこで転がる一夏に話を切り出した。


 「この件はお前も知っておくべきだと思ってな。いいか、落ち着いて聞けよ?」


 そして千冬は、本当に重要な、それこそ今までの世界の常識が吹っ飛ぶ様な話を始めた。






 「世界中でIS適正持ちの男性が?」


 ホワイトハウス
 皆様ご存知の、アメリカ合衆国の中枢であり、現在のその主である合衆国大統領は突然の報告に耳を疑っていた。
 

 「はい。日本だけではなく、我が国も含め、世界20カ国で同時多発的にCからB程度のIS適正を持った男性が確認されました。」
 「情報は確かなのか?」
 「は、間も無く裏付けは取れるでしょうが…恐らく、事実かと。」
 「ふむ……。」


 IS、この兵器の最大の欠陥は二つ。
 一つは量産が不可能である事。
 もう一つは女性しか搭乗できない事。
 これを改善できるのは世界でただ一人、あの大天災しかできないと言われている。


 「動いた、という事か?しかし、今更女尊男卑の払拭などして意味があるのか?」
 「解りません。目下調査中ではありますが……。」
 「一部の馬鹿どもが騒ぎそうなネタだな…。」
 「はい。既に一部のメディアを通じ、ISの地位向上を謳う者も出始めています。」


 現在はLMへの転換が著しい米国であるが、かと言って直ぐにIS至上主義者が消える事は無い。
寧ろ日陰に追いやられたせいで、逆恨み気味に悪知恵を働かせる者も多い。

 
 「博士の思惑は兎も角、奴らの狙いはトライアルによって再度のISへの転換か?」
 「恐らくは。しかし、既にLMが主流ですので、上手くいったとしても、精々一部の部隊で運用されるだけかと。」
 「ふん。目先の利益に釣られる辺りは我が国らしいと言えばそうだが、それでも不利益が多すぎるというのが解らんのかね?」


 大軍を万全の状態で運用する事を得意とする米軍にとって、ISという量産の効かない兵器は寧ろその長所を殺してしまう。
 だからこそ性能のほぼ同じLM-02に駆逐されてしまったと言える。
 今更トライアルで勝利した所で、一点特化もののISと量産前提のLMでは例え性能が多少劣っていてもLMの方が兵器として優秀な事に変わりはない。
 誰にでも使えて、誰でも同じ威力を出せ、量産が可能。
 良い兵器の条件とは、何時の時代も変わらないのだ。


 「馬鹿どもへの締め付けと切り崩しを急げ。罷り間違ってもRE社をキレさせるな。流石に財界の連中まで総入れ替えなどと言う事態は避けたい。」


 オモイカネ級AI、その能力を知るからこその言葉だった。








 「これ?トライアル向けの第三世代ISって?」
 「はい、スペックの方はこちらになります。」


 米国某所の空軍基地
 そこにはイスラエルとの合同試作型第三世代ISが漸く搬入された所だった。
 

 「高機動かつ全距離対応型、か…。」
 「名前はウィドウメーカー。一号機・二号機がありますから、大尉には一号機を担当してもらう事になりま「機体が届いたんだって!?」


 途端、格納庫に馬鹿でかい声が響き渡った。
 

 「イーリ?もう少し静かにしてもらえないかしら?」
 「いいじゃんそんなの!それよりもナタル、新型は?新型はどうしたさ!?」


 先程格納庫に入ってきたのはイーリス・コーリング少尉。
 ナターシャと2人で試作第三世代ISウィドウメーカー二号機を担当する優秀なIS操縦者である。
 少々荒っぽい性格が珠に傷だが、若いながらも近接戦闘能力は全米でも三指に入る実力を持つ。
 ナターシャことナタルとは先日赴任してから直ぐに気が合ったため、良好な関係を築いている。


 「これだけど…ウィドウメーカーという名だそうよ。」
 「なんだそりゃ?趣味が悪ぃな。」


 ウィドウメーカー、つまり未亡人製造機という意味だ。
 主に欠陥機に送られる忌名なのだが、いきなり試作機にそんな名前を付ける理由が何処にあるのだろうか?
 少なくとも、現在ではそんな目立った欠陥は見つかっていないとの事だが?


 「それですが、このISは対LM戦闘を主眼としているらしくって……。」
 「あぁ、成程ね。」


 つまり、主に男性が搭乗するLMを撃破する者、という意味が込められている訳だ。
 このご時世を考えるとなんとも豪気な事だが、乗る側としてはちょっとアレな名前は勘弁してほしかった。


 「それぞれ個別の兵装が用意されていますので、それぞれ試験して頂く事になります。最終的には次期主力機選定トライアルに参加する予定になっています。」
 「まぁ、いいけどさ。近接戦闘もできるんだろうな?」
 「勿論です。何せ全距離対応型ですので。」


 一号機は射撃より、二号機は近接よりであるが、それでも全距離対応できるというのがこのウィドウメーカーの長所である。


 「まぁ、大抵のじゃじゃ馬なら乗りこなす自信はあるけどね。」
 「よっしゃ!早速調整しようぜ!」


 



 
 「やっべ、どうしよ。」


 
 RE本社社長室
 …と隣接する社長のプライベートルーム(と言う名の個人用作業場兼研究室兼居住空間)
 そこでジョニーが冒頭の恐竜並鈍感少年の様に頭を抱えていた。
 

 「これはどう考えてもまずいでしょ、常識的に考えて。」
 『だねー。下手すると大三次世界大戦?』
 『宇宙大戦争でもOK。』
 『まさかこうなるとはのう…。』


 オモイカネ級AI達が好き勝手囀る中、ジョニーは問題を直視する事にした。
 その顔は本当に憂鬱そうで、今にも胃に穴が開きそうだった。


 「まさか、ISの一部にCC(チューリップクリスタル)と同じ材質が使われているとは…。」


 研究室の一角、世界最高峰の機密を誇るその場所で、ジョニーは遂にISコアの一部の解析に成功していた。
 成功していたが、それは同時に重大過ぎる問題が彼の前に現れる結果となった。

 あのブラックサレナの中身であるアキト用カスタムエステバリスのフレームや木連の次元跳躍門チューリップの構成材質であるアレがISコアの材料に使用されていたのである。
 ISの場合、それが量子格納機能と機体のエネルギー貯蓄に使用されているため、前者二つの特性を持っているとも言える。
 

 「となると、やっぱり存在するんだろうな……火星極冠遺跡と木星の遺跡。」
 『だろうね。』
 『そう考えるのが妥当じゃのう。』
 『ヒャッハー!戦争か!?戦争なのか!?汚ぇ花火を上『はいちょっと黙ってねー。』


 こいつら人格大丈夫か?とジョニーは思ったが、社員も似た様なものだからまぁいいかと捨て置いた。
 今はそんな事よりも、今後の事を考える方が重要だ。


 「絶対起こるよね、遺跡を巡った戦争が。」
 『可能性89%。十中八九ってとこだね。』
 『ほぼ確実に、ね。』
 『となると、あの天才も動いてる、か?』


 冷や汗が止まらない。
 ジョニーは思う、機動戦艦ナデシコ、その物語の結末を。
 人類が体験する最初の星間戦争、そしてその後に続く遺跡を巡った暗闘の歴史。
 数億の人類が死亡したであろう蜥蜴戦争と火星の後継者の乱。
 あれがこの世界で発生すると思うと、冷汗は止まる事が無かった。


 「止めるべきだが…どうしたもんかね?」
 『遺跡の破壊か何処かへ捨てるかだね。』
 『だが、それは物語でも問題となった。』
 『捨てる場所も問題だね。少なくとも、今後数世紀は人類が手を出せない所にしないと。』
 『でも、そんな所なんてあるの?』


 あーでもないこーでもないと超高速で演算するオモイカネ級AI達。
 どう考えても良い手段が浮かばない。
 月面開発が始まっている現在、そうそう良い所なぞ浮かばない。
 浮かばないが、それでも動かない訳にはいかない。
 
 
 『いっそ太陽にでも捨てちまえばいいんだお!』
  ≪…………。≫


 シーン……
 

 『???』
 「それ採用。」
  ≪異議無し!≫

 発言したオモイカネ級AI、魚座のピーシーズが疑問符を上げるが、それに気付かない程の他の面々は興奮していた。
 
 
 「過去現在未来に至るまで破壊されずに存在するのだとしたら、それはつまり現在のあらゆる手段を以てしても破壊できないという事だ。」
 『なら、誰も手を触れる事ができない、それこそ太陽という圧倒的熱量を持つ惑星に落としたとしても破壊される事はない。』
 『もし壊れたとしても、僕達にはそれを観測する手段は無い。タイムパラドックスは誰にも立証できないからね。』
 『単純に世界が分岐するだけかも知れんがの。そこはそれ、面倒な物が無くなったと喜ぶだけじゃしの。』
 『その場合、オレ達という存在も生まれていない世界になる。』
 『だが、それはジョニーの知識も同様。世界はISが主流であった頃と同じになる、か……。』
 「どの道、神ならぬ身としてはただ目の前の事態に対処するだけ、か……。」
 
 
 かくして、ジョニー達は社員一同に盛大な隠し事をしながらも、遺跡排除計画を遂行していく事となる。

 ちなみにこの部屋、超高密度のDフィールドブロックを展開しており、電波や音波は元より、量子通信すら遮断する程の空間の歪みが展開しており、ISのコアネットワークすら遮断してしまう最高の秘密空間として機能している。







 「で、これは一体どういう事なの?」


 RE本社会議室
 そこには非常に珍しく現在殺気立った雰囲気が漂っていた。


 「次期主力機の選定トライアルは良いけど……何でそれにIS、しかもイスラエルとの合同開発機が参加している?」


 怒りを滲ませたジョニーの声、常とは違う本気の怒りに報告する社員のみならず、その場にいた者が多かれ少なかれ震えた。


 「は、はい!どうやらアメリカのIS関係者と政財界の一部も動いたらしく……。」
 『新型機開発は掴んでたけど、流石に無理矢理トライアルを開始するとは思ってなかったよ。これは僕達の落ち度でもあるね。』


 怯える社員とすまなさそうにするアリエスを見て、ジョニーは一度深呼吸、落ち付いて話し始めた。


 「で、連中の機体の情報は?」
 『全距離対応型第三世代ISウィドウメーカーだよ。一号機は射撃向け、二号機は格闘向けの装備を持ってる。』
 「未だ試験中の機体ですが、性能自体はうちのPLMシリーズ並に高いかと。」
 

 PLMシリーズは試作機という枠組み上、高い性能を持つ。
 その分ほぼワンオフでコストが高いのだが、ISはその絶対数が限られているため、ほぼワンオフでも構わないのだ。
 そのため、近年開発された第三世代ISの中には一部だけであるがLMを超える性能を持つ機体も少なくない。
 …それでも整備性やコスト、生産性に関しては悲しいかな、LMが圧勝しているのが現状なのだが。


 「まぁ、そっちに関してはLM-02C2を当てる予定だから置いといて。」
 『問題は例のIS適性持ちの男性の事だね。』
 「そちらなのですが……やはり世界各地で確認されているようです。」


 当初、最初に見つかった織斑一夏だけなら「なんだ身内贔屓か」と無視しても良かったのだが、全世界で確認されるとなるとそうもいかない。
 これはつまりISの持つ女尊男卑の象徴としての立ち位置が大きく揺らぐ事であり、同時に対IS兵器としての立ち位置を持つLMにも多少ながら影響が出るという事だった。
 

 「これ、絶対『ISは女尊男卑の象徴ではない!』って喚く奴出るんだろうねぇ…。」
 「既に一部メディアが言ってます。」
 『何かIS業界が煽り立ててるみたいだね。』
 

 女尊男卑の象徴を捨て、単にスポーツと戦争で力を振るう兵器となり、今後の存続を狙う。
 大まかな目的はそんな所だろう。


 「F1みたいに単純に高級なスポーツ用品にでもなるんじゃないの、このまま行けば?」
 『だよねー。使い潰せず、量産できない兵器なんて使い辛いったらありゃしないよ。』
 「現に一部でスポーツ用ISの開発プランがあるようでして。」
 「末期だな。それにしたって国家予算を割り振ってまで使うか?」
 「企業が自社技術の宣伝に使うかも知れんのう。」


 各々の意見は結構辛辣だが、的を得ていると言える。
 それ程にISは兵器として見ると欠陥が多い。


 「兎も角、今は情報収集に徹して、どーんと構えていれば問題無いね。」
 『米国も月面開発があるから、僕らを切る事は無いからね。』


 そして議題は次に移る。


 「で、次世代向けのハイローミックス計画はどうなってるの?」
 「LM-02C2とLM-03の進捗ですが、こちらはかなり順調です。」


 ハイローミックス計画、LM-02に代わる次世代機の開発計画である。
傑作機LM-02は非常に高い評価を受けたが、その操縦系統は特殊なものであり、人型兵器に慣れないパイロットの存在、ジェネレーターを搭載していない事から来る稼働時間の低下と高出力兵装の使用不可能など、どうしても不安定な面があった。
それを改善しつつ性能を向上したのがLM-02Cなのだが、この機体は整備性やコストが悪化したために採用は少数に終わった。
そこで真の次世代機としてこの計画がスタートした。
 その名の通り、量産機とエース向けの高級機で構成されている。
 両機とも性能向上をしているが、より整備性とコストが優れるのが量産機、高性能であるのが高級機である。
 この計画に当たり、両機に共通する特徴は3つ。
① パイロットの生存性の向上
② 操縦性の向上
③ 第三世代IS相当の性能
 これらを満たす事を前提として、両機の開発は進んだ。
 両機の開発は性能は高くとも整備性・コスト面で問題となったLM-02CやLM-02とは別物であるELMシリーズで培ったノウハウを生かし、それぞれの要求仕様を満たす様に発展させるという方向となり、つい先日試験が開始される運びとなった。
 
 そして要求仕様に応えるべく、RE社は努力した。
 生存性の向上を目指し、パイロットが着るオークの性能向上と脱出システムの信頼性向上を行い、操縦系統を従来のEOSに加え、ヘルメット搭載式の簡易型脳波コントロールシステムを採用する事で要求仕様を満たした。
 機体性能に関しては元々LM-02Cの時点で大体満たしていたため、問題にはならない。
 そして、二機の新型LMが開発された。


 LM-02C2 エステバリスカスタムⅡ
 RE社製の最新鋭量産機であり、その名が示す通りにLM-02C エステバリスカスタムの改良型に当たる。
大容量バッテリや高効率要重力場アンテナ、コクピット周辺の装甲強化と小型Dフィールド発生器等は共通しているが、換装システムのオミットや両前腕部に追加された小型Dフィールド発生器付き打撃装甲などの違いもある。
基本的にLM-02、LM-02Cと同じような運用が想定されているが、活動時間が2,2倍、出力が8割増しであるため、より多様な作戦に対応する事ができる。
火力や特殊兵装は開発中の第三世代ISには劣るが、その分総合性能は勝っている。
数を揃え、戦術に従って運用する。
量産前提の機体として見た場合かなり優秀であり、生産性・コスト・整備性のどれもがLM-02Cよりも高い。
兵装はライフル、ハイマニューバミサイル、アーミーナイフ、Dフィールド、打撃装甲、レールガン、など。

 LM-03 アルストロメリア
より正確に言えばこの機体はLM-02Cの高機動ユニット装備型の発展機に当たる。
 全長8mとLMにしてはやや大きめだが、これはバックパックの簡易変形時の機首の長さも含むためである。
 バックパックの構成は大容量プロペラントタンクとバッテリー、重力場推進器とジェットエンジンと元型機とそう変わりはないが、ジェットエンジンが最新型に換装、飛行可能時間や最高速度などが向上している。
 また、機体本体のフレーム構造がより頑強となり、変形機構を搭載していながら格闘戦も問題無く行う事ができる。
 機体本体部分はLM-02C2とそう変わりないが、本体部分の最大の相違は脚部ユニットへの小型ジェネレーター搭載にある。
 PLM・ELMシリーズで培ったジェネレーター搭載機のノウハウを生かし、性能は維持しつつより小型かつ軽量のジェネレーターを搭載する事で出力と稼働時間の向上を狙ったのだ。
 これにより、レールガンを使用しつつ要重力場リンクを切った状態でも短時間なら戦闘行動が可能となる程の出力を得るに至った。
 最高速度はマッハ3,4とかなりのものがあるが、向上した出力を生かしてGキャンセルも向上しているため、しっかりと鍛えたパイロットなら十分に耐えられる。
 兵装はアーミーナイフ、ライフル、ハイマニューバミサイル、対艦ミサイル、Dフィールド、打撃装甲、レールガンなど。


 「この内LM-02C2は改修機として既に採用、現在生産ラインにのっています。」
 「だが、高級機であるLM-03は同じく高級機と言えるISと鎬を削る状態にある、と。」
 『まぁ、予算も無限にある訳じゃないからね。』

 
 こればかりは仕方が無い。
 国民の血税を使っている以上、軍事にばかり振り分ける訳にはいかない。


 「で、勝算は?」
 「我が国にあるISコアは30個。余程とんでもない限りはまず勝てます。」
 『問題は、妨害行動の方だね。』


 既に多方面に影響力を確保してあるRE社であるが、それでも政財界とIS関連メーカー全てを敵に回せる程の影響力は無い。
 無いが、オモイカネ級AIのお陰で情報はかなり筒抜けになっているので、対処を間違えなければ大丈夫だろう。


 「暗殺や破壊工作といった直接的手段も視野に入れて考えよう。」
 「連中は焦っているでしょうからな。十分あり得るでしょう。」
 『まぁ、IS一個大隊でもこない限りは十分対処できるさ。』


 一個大隊と言えば世界大戦クラスの戦力を動員する事であるので、まず無いだろうと思われる。


 「じゃ、今回の会議は解散。各自仕事に戻ってー。」
  ≪はーい!≫



 RE社

 全米に影響力を持ち、高い技術・資本力を持つ世界屈指の軍事企業だが、中身は結構アットホームな所であった。





[26770] 没案
Name: 凡夫◆773ede7b ID:b5aa4df9
Date: 2011/04/07 22:02




 「は、はははははは……まさか、こうなるとは、ねぇ。」




 アステロイド某所に浮かぶ旧木連所属の秘密生産工場。
 
 本来なら無人の筈のそこには、現在二つの生体反応が存在していた。



 『終わりだ、ヤマサキ。』


 ぞっとする様な殺意と憤怒、憎悪を言葉に乗せたらこうなるだろう。
 山崎と呼ばれた男の目の前のモニターからはそんな声が発せられた。
 

 声の主はテンカワ・アキト。
 かつて蜥蜴戦争と呼ばれる一大戦争の終結に一役買った戦艦において、所属機動兵器のパイロットを務めた男。
 そして、今では数少ない火星の生き残りの1人、世界で唯一のS級ボソンジャンパーである。
 
 ヤマサキとテンカワの関係は、端的に言うと研究対象とモルモットだった。
 ヤマサキの雇用主である元木連中将であるクサカベ・ハルキの元、ボソンャンプを軍事転用をするために、高確率で高いジャンパー適正を持つ火星の生き残りは文字通り「狩られた」。
 そして、モルモットとしてヤマサキ以下多くの科学者によって「研究材料」にされた。
 結果、生き残ったのはたった2人だけだった。
 テンカワ・アキトとテンカワ・ユリカ、2人は夫婦だった。
 新婚旅行に旅立った瞬間捕えられた2人はそのまま公式には死んだものとされ、約2年間、モルモットにされた。
 そして、妻であるユリカはクサカベらの部下に慰み者にもされながら、最後はボソンジャンプの演算装置、通称「遺跡」と融合させられ、アキトは料理人でありながら五感を奪われた。
 そして、死にかけたアキトだけが、彼の仲間達の中で彼らの生存を信じていた者達に助けられた。

 そこから、アキトは妻を取り戻すため、復讐のため、クサカベ率いる反政府組織「火星の後継者」との暗闘に身を投じた。
 
 ヤマサキ達のラボのある大型コロニーや秘密研究所は頻繁に襲撃を受けるようになった。
 黒装束に身を包んだテンカワ・アキトの仕業だった。
 勿論、「火星の後継者」の部隊は幾度となく彼を退けた。
 それでも、テンカワ・アキトは何度も現れた。
 ヤマサキが結果的に強化してしまったジャンパーとしての能力は彼にC.C、ボソンジャンプの媒体であるチューリップクリスタルさえあれば何処にでも行けるという、距離を無にする翼を与えてしまった。
 幾ら撃墜しても、彼はその度に脱出し、更に実力を上げて襲ってくる。
 その過程で、テンカワ・アキトは複数の大型コロニーを大破ないし中破に追いやった。
 犠牲者は数万に及んだ。
 それでも、双方とも止まる事は無かった。

 結果として、地球連合政府ならび木連政府は多大な被害を受けながら「火星の後継者」の乱を鎮圧、現在はその残党の掃討と復興活動と軍備再編、ボソンジャンプ関連技術の見直しを行っている。
「火星の後継者」残党軍は地下に潜伏し、テンカワ・アキトはそれを地獄の使いの如く追い続けた。
 



 そして今、最後の残党、ヤマサキ・ヨシオの潜伏地点を突き止め、テンカワ・アキトはそこを襲撃した。


 結果は最初から決まっていた。
 多数の虫型無人兵器が迎撃に出たものの、度重なるカスタマイズを受けた人型機動兵器エステバリス・カスタムの敵ではなかった。
 ものの数分で蹴散らされ、ヤマサキ・ヨシオのいる施設内にエステバリス・カスタムが侵入した。




 
 「まぁ、そうだろうね。君の勝ちだよ、テンカワ君。」
 
 疲れた様な、呆れた様な表情で、ヤマサキはモニターの中の死神と話す。
 既に施設自体が致命的な損傷を負った現在、普通の人間であるヤマサキにはこの状況で逃げ出す事はできない。
 彼は彼の知り合いである北辰の様な強者でもなく、テンカワ・アキトの様なジャンパーでもないのだ。

 「でも、悪あがきというか最後っ屁とでも言うべきか……取り敢えず、最後の手を打たせてもらうよ。」

 そして、ヤマサキは施設に対し、あるコマンドを入力した。
 瞬間、ヤマサキのいる施設中枢を包む様にボウソ粒子が散布された。

『何のつもりだ。お前は跳べない筈だろう。』
「では、悪役っぽく解説させてもらいましょう。」

ヤマサキは普段と変わらず、茶目っ気を交えた説ゲフン!……解説を始めた。

 
 「ボクは遺跡を研究していく内に、仮説ではあるが遺跡の法則性、というか習性かな?それに気付いたんだ。それは『自己保存』。まるで生物がその版図を広げていく様に、遺跡は自分に関する知識や技術をより広めていく。とは言っても、まだまだ仮説に仮説を重ねた検証段階だけどね?」
 『………。』

 たった一人の無言の観客を相手に、ヤマサキは解説を続けた。


 「木星の遺跡を研究して当時の木連は技術水準を引き上げた。火星の遺跡を研究して地球もまたその技術水準を大幅に引き上げた。今後も人類は多少のゴタゴタを起こしつつ、遺跡の技術を発掘し、応用して発展していくだろう。これは君の知り合いのフレサンジュ博士も提唱していたよ。」

 既にボウソ粒子はかなりの密度となり、特徴的な青い光が視認可能な状態となっている。


 「だけど、本来なら遺跡の持つ高度な技術は到底ボクら人間には解析できない程のものなんだ。それが解析できたのは……遺跡側から敢えて解析できる様に情報を小出しにしているんじゃないか、と思い当たったんだ。そして、解析できる者にはより多くの情報を提出する。」

 ヤマサキは徐々に震動が近づいてくるのを感じた。
 もう数十秒で閉鎖した隔壁は全て突破されるだろう。


 「何故か。それは遺跡が自己保存を求めているからだよ。破壊されれば、過去の歴史すらリセットし得る代物なら、絶対に破壊される訳にはいかない。なら、修理するための外部の存在と自身の予備を作れる存在は必須だよ。」
 
 盛大な爆音が響き、最後の隔壁が砕かれた。
 ワインレッドの6m大の巨人とヤマサキの間には、最早たった20m程度の距離しかなかった。


 「古代火星人が消えた現在、ボク達人類は『遺跡』のための道具に選ばれたんだ。」

 そんな、現在の人類を根底から覆す様な言葉と同時、ヤマサキの上に巨人の拳が降ってきた。




 『…………。』


 赤い花が咲いた場所を見やり、テンカワ・アキトはコクピット内で無言のままだった。
 
 彼の妻、ユリカは今は実家に戻り、父であるコウイチロウと義妹のルリと共にリハビリに専念している。
 だが、アキトはそんな彼女らの元には戻れなかった。
 戻れば軍人たる事を己に律しているコウイチロウは彼を捕縛せねばならず、そればかりか嘗ての仲間達に被害が出かねない。
 なにより、同郷の者達と自分自身の怨念のために、テンカワ・アキトは止まる訳にはいかなかった。
 

 そして、最後の仇を討った。

 心情は、ただ空虚だった。



 
 心を空にしている時、不意に先程まで使用されていたモニターが光を取り戻した。

 『これが誰かの目に映っているとしたら、ボクは既に死んでいる事だろう。』

 恐らく、生体反応に連動した自動再生なのだろう。
 ヤマサキが何事かを話していた。
 アキトは黙ってそれを見た。

 『ボクの仮説、遺跡の自己保存が本当ならこれから行う最後の実験は……きっと成功する事だろう。』

 『ボクは自分の持つ遺跡を根幹とする全ての知識を、ここではない異なる次元に送信する。』

 『周囲に展開しているだろうボウソ粒子はそのためのものだよ。遺跡は一端物質をボウソ粒子に分解し、受信した情報を元に指定された地点に再構成する事で時空跳躍を行う。これを利用すれば、理論上では情報を送信する事は可能さ。人間や電子機器だって簡単に跳躍させちゃうんだしね。』

 『もしボクの仮説が正しければ、情報は一つの欠けも無く送信される事だろう。遺跡は遍く次元全てに偏在し得るからね。例え異世界だろうとちゃんと送り届けてくれるさ。』

 『でも、ただ送るんじゃつまらない。ボクみたいに何かの箍が外れた、狂った人間に送られるようにした。きっと送られた所は大変な事になるだろうね?』

 『追いたければ好きにしなよ。ただ、こればかりは最低でもA級ジャンパーである必要があるよ。とは言ってもA級は2人、S級は一人だけだじゃねぇ。』

 『これははっきり言って嫌がらせさ。成功する可能性も一桁以下。天文学的と言ってもいい。でも、ボクが知り得た多くの知識を無に帰するよりは断然マシだと思ってね。』

 『できれば、誰かが追ってくるのを期待しているよ。その方が、きっと面白くなるからね。』




 テンカワ・アキトは沈黙を保った。
 だが、彼の胸元には未だにタールよりも黒く、粘性を持った感情がとぐろを巻き、理性が冷静に選択をする。
 

 残って、僅かに残された時間をどうにか平和に過ごすか。
 このまま跳躍し、ヤマサキが情報を送信した次元へ行くか。

 





 そして、テンカワ・アキトは選択し、その場にはボソンの輝きだけが残った。


















 没理由:黒い復讐者に対抗する主人公が想像できませんでした。

 追記:戦闘シーンは最近ハマってるマクロス・ゼロを参考にしております。
 


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